東京レイヴンズ~俺の名は土御門夜光~ (ぶるーちーづ)
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閑話
節分


節分ということで、1日遅れてしまいましたが、書いたので投稿いたします。


急に閑話を挟んで申し訳ございません。

さて、今回ですがはじめて心理描写 を書きました。おそらく、意味不明なてんや、文が変なところなどあるとおもいます。その都度、アドバイスしてくださると助かります。本当に下手くそで申し訳ない



毎度のことでございますが、誤字脱字等は、あらかじめ謝罪しておきます。申し訳ございません


 

 

 

 

 

節分、それは、2月3日に行われる年中行事である。その歴史は古く、奈良時代に中国から伝わったものがその起源とされている。日本では神道の大祓の儀式と結び付いて12月の大晦日に行われていたらしい。

 

多少の変化はありつつも、昔からの風習、災厄をもたらす鬼を退治して一年の無病息災と幸福を願う行事であるという認識に関してはあまり変化はない。

 

平安時代に移り、それは、陰陽道も関わってくることもあったため、ここ、陰陽塾でも毎年の儀式として節分には、ある儀式のようなものが行われていた。

 

そして、現在春虎たちのクラスでも節分についての説明を担任である、大友から受けていた。例によって、春虎はうとうとしていて、それを見る夏目もハラハライライラと気持ちを昂らせていた。

 

「そもそもの由来は、イザナギが死者の國の悪鬼を桃の実を使って退散させるというものなんや」

 

そこで一度区切ると、大友は春虎の方を向き、影で他人には見せられないような悪い顔でニヤリと笑うと声をあげた。

 

「じゃあ、春虎クン、何で桃の実なんか説明をしてくれへんか?」

 

クラスの生徒全員がその隠しきれていなかった悪い笑みを見て春虎を憐れむような視線を向ける。現に、春虎はまだ起きていない。すると、春虎の周りで少し霊気が乱れたかと思うと、すくりと顔をあげ、その場で立ち、なんにもなかったかのように喋りだした

 

「えー古来より、桃というのは、魔除けのおまじないにされるなど霊的に力があるものとされてきました。儀式等で用いられる弓、これ自体にも、除災など儀式で重要な意味は有りますが、それに桃を使った桃弓は、弓の霊力に桃の呪力さらに加えることで魔除けの呪力をさらに高めるなど。豆まきの伝わってきた古代中国では、桃は、悪霊や邪気、鬼などの嫌うものとされていました」

 

 

大友の思い通りとはいかず予想以上にスラスラとしかも質問に求めていないことまで話始める。無論、春虎の嫌がらせにたいする報復だった。見分けずらいが、僅かにいつもだるそうにしているその目を見開いているところを見るに、十分に乙種呪術といえるだろう。

 

春虎が、一区切りしたところで話が終わったと思ったのか、大友は割って入ろうとした。たが、ここで春虎の報復は、終わらなかった。

 

「ほなーーーー」

 

「ーーーーさらに、この豆まきの起源である、追難が行われるようになった理由には陰陽道の考えが関わってきます。ちなみに追難というのは、『鬼やらい』などと言われ災禍を追い払うことをいみしています」

 

さらに、邪魔され大友はさらに顔をにじませる。また、夏目や京子、天馬たちも知らなかったのか、驚いた顔をしている。それを確認した春虎は、心でクスリと笑うとさらに続けた。

 

「立春に豆まきが行われるようになったのは、室町時代の中期といわれています。立春に行うことには、理由があって、季節の変わり目には、陰と陽が対立して邪気を生じ災禍をもたらすということから、それを運んでくる悪霊、鬼などを払う儀式がひつようとされたのです。そこに桃の種をもちいていたのは、桃仁、桃の種の核の代理品として使われてたのではないかと言われています。漢方でもその薬効が認められている桃仁は、桃人とも呼ばれ、桃から誕生する人、つまり、桃太郎がイメージされます。桃太郎と言えば鬼退治が有名ですね」

 

ほら、話が繋がりましたよ?と言わんばかりの顔をして話を終える春虎。何も言わずに席に座ると、どこからともなく拍手があがる。それは、水面に落ちた滴によって作られた波のように広がり、瞬く間に教室が拍手の爆音に包まれた。

 

これは、春虎の知識に拍手というより、大友撃退おめでとうの拍手であり、そこからも、大友の扱われかたが見てとれるようである。実際に大友は、教壇でうなだれている 。

 

そこでチャイムがなり、授業は終わりや と呟くと大友は出ていってしまった。

 

 

さて、毎年恒例の節分の行事というのは、豆配りである。豆といっても食べる方ではなく、投げるほうである。陰陽塾の塾生は、各々で呪術によって作られた桃の種を型どったものを東京の人々に配りにいくのだ。その行動そのままに『配豆式』と呼ばれている。

 

東京にいったい何人いると思っている、 と考えるかもしれないが二三年生や、教師陣、卒業生であるプロたちの協力のもと達成される。塾生はそれぞれ二三人のペアを組んで配りにまわるのだがここで問題が生じていた。きっかけは冬児の台詞だった

 

「で、春虎。お前は誰と行くんだ?」

 

ピクリと動く影が3つ、黒髪と金髪と狐耳だ。春虎は少し考えたように見せると冬児にむかいあった

 

「んーー冬児は、決まったのか?」

「ああ、いや、俺は参加しないんだ。鬼は外ってのが、あんまりな……」

 

その一言で察する。冬児は、鬼の生成りだ。例え外にやるのが災厄をもたらす悪鬼でも、いい気分にはならないだろう

 

「じゃあ…………天馬は?」

 

「ん?ぼく?僕なら…………ひぃっ!」

 

天馬を突き刺す3つの矢。それ自体には実体がない、しかし、天馬は動けない。のしかかるのは恐怖、それは、すでに視線と表現するのは生ぬるく、呪術と言っても過言ではなかった。

 

「ん、どうしたんだ天馬、行けるのか?」

「ご、ごめん春虎くん、やっぱり無理みたい…………あはは」

 

席が離れている天馬の額に流れる滝のような汗を見られない春虎は、残念そうな顔をするとまた考え始める。窓の外をぼんやりと眺めながら顎に肘をつけるのは春虎の癖だった。

 

すると、何処からか不機嫌オーラがそれも真っ黒なオーラが溢れだす。その出所を見つけるのにさほど苦労はしなかった。

 

「……な、夏目」

「ヤア、春虎。春虎は僕のなんだい?」

 

その質問に、どこかで黄色い歓声があがる。だが、春虎にそれを気にする余裕はない。というか、ここまで怒らせる覚えがない

 

「…………式神です」

「ナンダ、分カってっるじゃナイカ」

 

なら何で自分を真っ先に誘わない?というのは、口には出さなかった。ただ春虎を真っ正面に見据えるその目が変わりに物語っていた。断れば、惨事が起こるとも。

 

仕方なしに受け入れようとすると、後ろから助けが入った。

 

 

「恐れながら春虎様、このような些末事、コン一人がいれば十分でございまする」

 

ただ、その助けはその場をもっと悪くするものだったが。

 

 

だいたい彼女らが、なぜここまで競いあっているのかというと、1日中二人っきりという状況に強制的になれるからである。歴代に、この行事でカップルになるものも少なくなく、配りに行ったまま帰ってこないなんて事もあるそうだ。陰陽塾では珍しい『そういう』行事としての認識が塾生にはあったのだ。

 

だからこそのこの戦い

 

「コン君は護法だろ?主の決定に口を出すんじゃないよ」

 

もう少しでオッケーだったのに、という心の声がその顔から漏れだしている。

 

「いえいえ、主の道しるべとなるべく意見を申すのも立派な護法の務めでございまする」

「そうかい、でも、春虎の主は僕なんだ、話に入ってこないでくれないかな?だいたい式神を一人に数えるなんて良いわけがないだろう!」

「おや、それでしたら夏目殿の式神である春虎様も数えられないことになってしまいますが……いかがいたしましょう?」

 

最後のはコンが春虎に向けて言った言葉だ。文字だけ辿れば意見を求めているようにしか聞こえないが、その右手が名刀搗割の柄に手をかけている現状では、物騒な意味としか取りようがなかった。

 

自分が男のふりをしていということを忘れている夏目は、このあと、男色の疑いがかけられるのだが、それはまた別のお話。

 

あからさまにヒートアップしていく中で、ただ一人京子だけが、漁夫の利を狙っていた。

 

つまり、今回の戦いにおいては、春虎にうんと言わせたものが勝ちなのだ。それにどんな手段を用いようとも。

 

わざわざ隠形まで使って周りの目を騙しながら春虎に近づき、耳元でそっと呟く

 

 

「なんでも言うこと聞くって言ったよね?」

 

春虎は、ビクッと体を揺らす。この約束は、リボンの事と京子のことに気づけなかったということで謝罪のために春虎が約束したものだった。

 

「こんなことでいいのか?」

 

だが、春虎は、今回の事の重要さをわかっていなかった。故に、こんなことに……と思ってしまうのは当然だった

 

「いいから、私と行くって宣言しなさい」

「……はいはい、わかりましたよーっと」

 

 

 

未だにガヤガヤと言葉という呪術を用いて、呪術戦を繰り広げている二人に向かってそーっと声をかける

 

「あのぉ~」

「何?」

「何でごさいまするか?」

 

「俺、京子と行くから」

 

 

二人の時が止まる。自然と視線は春虎の後ろ、満足そうにその大きな胸を張っている京子のもとへ向かう。

 

夏目はさらに「胸……胸なのか……フフフ」

などと検討違いなことを呟いてさらに負のオーラをにじませる。それは、もはや障気といっても差し支えないだろう。その影響か、天馬はいつの間にか気を失っている。

コンに至っては、実体化を解き隠形をし始めたので、春虎にすらその感情も居場所も分からなくなったが、正体不明の悪寒が止むことはなかった。

 

目が次元の彼方へ行ってしまっている夏目に事情を、大事なところは省いて、説明し、なんとか納得させると、京子が春虎の手を引っ張りどこかへ行ってしまった。

 

夏目も追いかけんとするが、大量の女の子に阻まれる。夏目は、正体が何であれ塾内では、天才美少年の人気者なのだ。ラブレターが毎日届くレベルでモテモテなのだ。その人物に相手がいないと分かって女子勢が止まる理由はなかった。意図して邪魔して居るわけではない分、夏目も強引に退ける事ができず潔く、とはいっても、手に爪が食い込み、歯をギシギシ言わせ、唇から血をだしながら、諦めたのだった。

 

 

 

 

一方、春虎たちは、すでに先生に報告を済ませ、担当地域を聞くと、そこまでの交通費と地図を受けとるとさっさと町へ繰り出していた。電車を何本か乗り継ぎ降り立ったのは、西東京市のある町だった。ここが春虎たちの担当であり、徒歩で周りながら種を配っていくことになる。

 

塾でも目標は東京全土であり、そのせいでそれぞれの担当区画もかなり広くなっている。故に、時間も多くとられていて、二三年生は、現場に直行し、一年生のみが、説明を受けてから行動開始なのだったが、そのなかでも二人の担当は、飛び抜けて広かった。

それは、ひとえに、京子がこっそり「広くて遠いとこおねがいします」と頼んだせいであった。こういう人は毎年いるらしい。

 

 

一般人が呪術と関わることはほとんどない、が豆まきを知らない人というのはあまりいないと思われる。

 

この行事の目的として、掲げられるのは、呪術的な意味合いだけではなく、こういった企画を通じて陰陽塾との関わりを、さらには、呪術に対するただしい認識を求めることにもあった。

 

そのため、家を一つ一つまわる。交流をする。サボるような人間は、塾にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

倉橋京子は浮かれていた。

 

思いの外作戦が上手くいき、あっという間に二人っきりだ。平日の午前中ということもあり町は人が少ない。さっきから、残念ながら二人の間に会話はなかったが、並んで二人で歩ける事だけで喜べるくらい京子は乙女で春虎にホの字だった。

(やった♪んふふっ)

 

歩行者用の歩道のない細い道を歩く。車道側をさりげなく歩く春虎の気遣いが嬉しい。自動車一台がギリギリ通れるくらいの道だ。こんなところに車が来たら…………。

 

こういう時に限って車はやってくる。

 

それもファミリー用の大きなタイプだ。必然的に春虎が京子の方によってくる。既に、いっぱいいっぱいの京子は動けない。

 

 

…………………………ピト ビクッ

 

 

互いの指先が触れる。二人してビクッとなる。人気のない道で指が触れるというのは、手を繋ぐという行為に等しいのだ。

「い、今のはあれだ、不可抗力ってやつだ」

「そそそそ、そうよね、不可抗力よね、仕方ないわ、道が狭いのが悪いのよ」

再び訪れる沈黙。隣を見ると自分とおんなじように顔を真っ赤にした春虎がいる。それを見て、自分と同じだと分かってまた嬉しくなる。だから、一歩頑張ってしまった。

 

そう、自分の小指をわざと春虎の小指に絡ませた。

 

(……少しは気付け…バカとら)

 

 

また跳ねる春虎のからだ。その歩みは止まっており、顔はこちらを向いてる。

 

(うぅ~恥ずかしくて見れない)

 

京子は顔を伏せて、それでも小指を繋いだまま隣に立っていた。

 

「き、京子?ど、どうしたんだ急に」

 

どもっている上に、声が裏返っている。おそらく、その顔も真っ赤にしていることだろう。

 

 

「………………手……」

「え……なに?」

「………………手…………つなぎたい」

「……は?」

 

言ってしまった。言ってしまった。言ってしまった。え、何言ってるの私!?ほら、春虎も変な声出してるじゃん。変に思われない?なんか、慣れてるとか思われない?

 

「手を繋ぎたいって言ってるの!」

「え?なんで…………」

「え、えっとそれは…………いいじゃない、なんでも」

 

まわりから見たらしおらしく見えたろうその声としぐさは、最近ずっと近くにいて、その気の強いところを目の当たりにしてきた春虎にとっては、その、何倍も弱々しく、そして、可愛く女らしく見えた。保護したくなるようなそんな愛らしさを春虎は、感じてしまった。

 

 

「ま、まぁそうだな、手を……つなぐだけだしな」

「そ、そうよ!つなぐだけよ」

 

そう言って、顔を上げた京子と春虎の、目が合いまたお互い顔を赤くする。

 

「……ん」

 

口を開けずそっぽを向いたまま京子が春虎に向けて手を出す。少しは悩んだそぶりを見せつつも、その手を京子のものへと向けていく。

 

30センチ、15センチ、10センチ、5センチ、ああ、重なっちゃうーーーーー

 

 

 

……………………………………コホン

 

 

 

可愛らしいこえ、いや、咳だ。だが、そこはなとなく、わざとらしさを感じる。感電したように体を震わせ瞬間移動したかのような早さで道の両脇に別れた二人は、、その声の感じから思い出す。彼らが二人っきりでなかったことを。

 

春虎は、忘れていた。コンが、実体化を解き隠形までしていたのを

 

京子も浮かれて、失念していた。春虎には、ライバルが四六時中張り付いていることを

 

そんな中、春虎が辛うじて声をあげる

 

「……こ、コンさん?」

「えぇ、私め、土御門春虎様の忠実なるち護法たるコンめでございます」

 

宙に浮いたまま正座の姿勢を保ち、目蓋を閉じ、やけに白々しく答えるコン。そこには、わずかながら怒気が含まれているのを春虎は、感じ取っていた。かれこれ、長いつきあいだったのだ。

 

「お、おどかすなよ、急に!」

「……それは大変失礼いたしました。時間の方が随分と遅くなっていましたのでつたえておいたほうがよいかとおもいまして。……それとも」

 

そこで一度口を閉ざして間を開ける。今まで閉じていた目をギロリと開けると半眼になる

 

「春虎様といたしましては、このまま最後まで黙っていた方がよろしゅうございましたでしょうか?」

「えっ?い、いや、その……」

「コンは常にお側に居るわけですが、そのこと、あとになってから思い起こされた方がよろしゅうございましたでしょうか?」

「い、いや、そんなことは……てか、なんか、雰囲気……」

 

飛車丸じゃね?と思いつつ声に出すのは避ける。まだ、道の隅っこで顔を赤くしている京子に聞かれるのは不味い。しかし、今のコンのその圧力は飛車丸の状態での圧力となんら変わらないものを発していた。

 

今も、恥ずかしさで限界を迎えている京子に「常に私が仕えておりますゆえ、絶対に二人っきりになどさせませんので、以後お忘れにないように」などと追い討ちをかけている。狐が肉食の動物で有ることを再認識させられた。

 

そして、一通り京子を言葉で叩くと春虎のもとに来て

 

「以前のように、常に実体化しているわけではございませぬ。ですが、常にお側に居るということは変わりませぬので。そういうことをしたいのでしたら、一声掛けてからなさいませ」

 

掛けられるものなら、と雰囲気で伝えてくるコン、というより、もはや飛車丸。夜光に使えていたときは、その姿常に表しており、存在を感じられていた。故に、見落としてしまったのだ 。

 

ある程度物心をつけてから、記憶を取り戻したため、春虎の中には夜光としての感情と年相応の春虎としての思春期の感情が両方とも遍在している。今回はそれが、裏目に出て、春虎が強く現れ過ぎてしまった。

 

 

「とはいえ……」

 

二人に忠告を終え、二人に聞こえるように大きく声をはってコンが話し出した。

 

「時間が迫っております。妙な疑いをかけられたいのなら構いませんが、そうでないなら急いだ方がよろしいかと」

 

ふたりして時計と確認する。そして、その経過時間に圧倒される二人

 

「う、うそ、こんなに?」

「いや、5分ぐらいにしか感じなかったぜ」

 

「それは、お楽しみだったようで……ところで春虎様、今夜は、星が綺麗になりますでしょうね」

 

「え、コンさん?それ、どういうこと……」

「さぁ?」

「え、なにそれ、こわいんだけど、え

、まって、待ってくださ~い!」

という、春虎の叫びもむなしく、走り出す二人。

 

辛うじて、集合時間に間に合うものの、全学年において最後のペアであり、お互いに顔を赤くして帰ってきた様子に全体がざわめきだつ。

 

「ヤァ、春虎。オソカッタネ?」

「な、夏目?こんな遅い時間までどうしたんだ?」

「うん?イイヨ春虎は気にしないで、それより、コン報告を」

「え、なにお前らグルだったのか?てか、お前らあんなに仲悪かったじゃん、なんでそんなに意気投合してんの?なんでそんな黒いオーラだしてんの?コン、お前俺の護法だろ?」

 

春虎の声は届かない

 

「春虎」

 

そんな中でも春虎の聞き覚えのある声が後ろからした。特徴的なヘアバンドを着けた強面の青年、冬児だ。いつもは、その目をギラギラと輝かせ元ヤン根性丸出しの彼がなぜか、菩薩もビックリの悟り顔をしていた。そして、一言

 

 

 

「…………骨が……残るといいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、男子寮のある部屋から、一晩中叫び声が聞こえ、怨霊がいるとの噂がされたらしい。

 

 

 

翌日、春虎は、学校に来なかった。

 

 

 

 

 

 

 




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Transmigration
始まり


「ぼく、なつめちゃんのシキガミになる。それでずっと一緒にいて、ずっとなつめちゃんを護ってあげるよ」

 

それはもう、十数年も前の話、まだ春虎がもう一人の自分を思い出す、ずっと前の話。

 

 

 

 

 

 

「あっちーなぁ」

「夏だからな」

 

真夏の日差しのもといつものうどん屋を出た春虎と冬児は二人揃って歩いていた。

 

「まだ口の中がカレー」

「唐辛子かけすぎだ」

「わざとじゃない蓋が外れたんだ」

「相変わらずだな」

 

春虎は驚くほど運が悪い

 

強盗、交通事故、等々巻き込まれること数知れず、それで生きているのだから、はて運が良いのか悪いのか

 

「これ絶対先祖から続く祟りだと思うんだよな」

「お前の血筋だとあながち間違いでもないかもな」

 

悪友はさほど興味はないらしい

 

と、そのタイミングで携帯が鳴った

 

「……北斗か?」

「……あぁ」

 

「出なくていいのか」

「この場合逃げるに限る」

 

そう言ってスタンバイしたところを何故か冬至が裾をつかむ

 

「おい冬至、それじゃうごけない」

「…………悪く思うな」

 

こっそりの呟きがきこえたところで

 

「この、バカ虎ぁ!」

 

叫び声と同時に背中に何やら柔らかいものが

 

「見てたぞ、なんで携帯でないんだよ、バカ虎!」

 

 

 

そんなまるで青春の一ページのような光景を目にしつつ、春虎はすでに周りの秘密を知っていた。

 

まず、悪友、こいつが鬼の生成りなのは、まずとして、そのもとになっているのが、誰であるか、ということ。

 

そして、今まさに背中にいるこいつが、夏目のシキガミであること。しかし、はじめから知っていたわけではない、

 

 

 

それは、ある日交通事故に巻き込まれたときだった。

 

 

 

 

いつものように補習を終わらせ学校から帰っていたとき、道路にうずくまっている猫を発見。しかし、すぐそこまで車が迫っていた。そこで春虎は身を呈して猫を守り、その代わり体に致命的なダメージを負った。

 

 

本当に危ない状態だったらしい、がしかし、それが引き金となり烏羽織が必要であるはずの「夜光」としての記憶を取り戻したのだ。世間を見るに面倒になりそうなので誰にも言っていないが。

 

春虎は既に高校生であり、陰陽塾、というか、自分の作った機関に入るのはすこし忍びなく、必要性を感じなかったのでここにとどまっていると言うわけだ。

 

 

 

「バカ虎!いい加減、陰陽師になる覚悟は出来た?」

 

北斗、もとい夏目は寂しがっているのだろうか?と疑いたくなる程会うたびに言ってくる。だから、決まってこう返す

 

「いく必要を感じない」

「それは、才能ないってことー?春虎には才能あると思うけどなー」

 

こんな風に誤解してくれるからだ、我ながらなかなかの乙種だと思う。

 

「うわーキーーんってきたー」

 

かき氷食べる姿は今の夏目とは程遠い、何故こんなにも性格が変わるのか気になる。

 

何故かおごらされた、かき氷を食べると嵐のように去っていった

 

「まさに謎の女だな」

「まったくだ」

 

そういって、いつもの位置で冬児と別れると、春虎も帰路を歩み出した。

 

 

 

いつもの道、いつもの風景、この町の景色が春虎は嫌いではなかった。

 

「なんかいいなこういうの」

 

思わず呟きがもれる、そして向かいから来る人物がいることに気付きそっと顔をしたに向けた

 

「っふふ、変わりませんね春虎君は」

 

聞き覚えのある声、ききなれたこえ、でもなんで?東京にいるはずじゃ

 

「お久しぶりです、春虎君」

 

そこにいたのは、北斗、もとい土御門夏目本人であった。

 

 

 



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夏祭り

次が呪術絡んでくるんです。変だったらどんどんいってください


 

 

 

 

久しぶりの二人、家は同じ方向なので並んで歩く。いつも一緒なはずなのに、本人が来るとどうしても緊張してしまうのは、記憶が戻ったところで変わらなかった。

 

「どうしたんだ?陰陽塾通ってるんだろ?」

「あ。はい。実は今夏期休暇でこっちに戻ってきてるんです」

「そうか」

 

「楽しくやってんのか?」

「ええ、まぁそれなりには」

「友達は、できたんだな、それなら」

「それは……」

 

 

夏目の毒舌をいなしつつ会話は続いた。所々気にくわないところはあったが、とうとう分かれ道までやって来た。

 

「ここでお別れだな 」

「はい、そうですね、それじゃあ」

「ああ、お休み 」

「……あ、はい、お休みなさい」……ウソツキ,バカトラ

 

 

春虎は、自らの背中に投げ掛けられたその言葉を聞き逃さなかった

 

「シキガミか…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次、綿菓子!綿菓子食べる!」

 

ところは変わって、夏祭り。春虎は、北斗と冬児がをつれて近所の夏祭りに来ていた。

 

「落ち着け、お前はガキか」

「うぅーバカ虎のくせに!ガキってゆーなぁー」

 

「あ、あれ何初めてみる!!」

「お、射的か、懐かしいな」

 

春虎がそう言い終わる頃には北斗は射的屋の前にすっ飛んでいった。

 

「うぅー当たらないぃ~春虎ぁ」

 

既に二回目の挑戦となっている北斗は未だに景品を落とすどころかかすりもしていなかった

 

「春虎あれとってよ」

 

北斗がピンク色のリボンで可愛らしく包装された小箱を指して言った

 

「無理言うな」

「冬至は?こういうのとくいそうじゃない」

「専門外だ」

「春虎ぁ」

「ったく、分かったよ。一回だけだぞ」

 

何で俺がと呟きながら、屋台のおっちゃんに300円を渡す。

 

「俺こういうの苦手なんだけど」

 

5発あった弾はあっという間に消え、最後のひとつを込め、身を乗り出した。

 

北斗はハラハラしながら春虎の後ろ姿を見守っていたが、急に何かを思い付いた様子で顔面を真っ赤にした。

 

少し躊躇する

 

しかし、集中力を研ぎ澄まし、狙いを定めている春虎の耳元にそっと顔を寄せ

 

「ね、ねぇ春虎?」

「…………今話しかけんな」

「あれ取ってくれたら……」

「だから、話しかけるなって」

「キス、してあげる」

 

思わず引き金を引いてしまったが、絶妙なコース、どんぴしゃでリボンの箱にあたり、棚から落下した。

 

「おぉーやったぁ!」

「ほ、北斗、お前ぇ!?」

「ん?なーに?」

「いや、いま、とったらって……」

 

すると、顔を赤くしてそっとうつむき、また春虎の耳元に顔を寄せるとギリギリの声量で呟いた

 

 

「バカ虎のえっち」

「俺は悪くねぇ!」

 

 

そんなこんなで楽しい時間が過ぎていた。

 

 

「何て書いたんだ?」

 

春虎は、境内にいる北斗にそう訪ねた、

 

「うーん、内緒」

「なんだよ、教えて「失礼します」くれよ?」

 

答えを聞こうとして、何者かに妨げられる。みると、黒いスーツを着たガッチリとした男がいる。

 

「失礼ですが、土御門家のお方で間違いはないですか?」

 

「ええ、まぁ」

 

春虎は、一発でシキガミと見抜き、いつでも逃げられるよう呪力を練りながら答える

 

 

「実は主の指示で、土御門家のお方を探しておりました。失礼ですが、お時間をいただけないでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 



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邂逅

 

「実は主の指示で、土御門家のお方を探しておりました。失礼ですが、お時間をいただけないでしょうか」

 

 

黒服のシキガミにそう伝えられ、3人はその後ろに着いていった。

 

「春虎、だいじょうぶなの?ほんとに」

「まぁ、土御門って言うぐらいだからな、呪術関連なんだろ、なら大丈夫だ。俺が役立たずだってわかったら帰るだろ」

 

北斗は心配そうな顔をする。対照的に冬児は、とてつもなく悪い笑みを浮かべていた。

 

「おい、ヤンキーがその顔すんな、凄み増してんぞ」

 

その言葉の通り、3人+1人の周りは綺麗にコースが出来上がっていた。

 

 

「これは面白くなりそうだ」

 

春虎の忠告にたいしての返答だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連れてこられたのは、フランクフルトの屋台だった。正確にはその脇にいた少女のもと。プラチナブロンドに染めた髪にツインテール、そして、ゴスロリファッション。一回引いて、その顔を見、陰陽師としての実力が分かると、思い出したように言った

 

 

「あぁ、十二神将の!」

 

のは、北斗の方だった。

 

(ほう、この子が主か、呪的に大分いじられてるな、それゆえのこの実力といったところか)

 

春虎は冷静に『視て』十二神将足る所以を看破する

 

「そうよ、私は、大連寺鈴鹿、それで、土御門は?」

 

そういいながら、冬児を見る。見かけの男らしさは、よほど冬至の方が雰囲気がある。ということだろう

 

「生憎、俺はただの一般人。土御門は、こっちの方だ」

「え、あんた?」

 

鈴鹿が、ぱちくりと瞬きをする。呪力を押さえてるから、分からないんです。決して見た目弱そうとかじゃありません

 

 

「それで、なんのようなんだ?」

「簡単よ、実験に付き合ってもらいたいの」

「なんのだ?」

「魂の呪術、こう言えばわかる?土御門で天才陰陽師なら、わかるかもね」

「うーん」

 

わざとわからないふりをする春虎、おおよそ検討はついていた

(泰山府君祭か、なつかしいな)

 

「私は、土御門夜光の…………」

 

 

すると、いきなり自分の話がされ始めたので、そっと、耳を閉じた。

 

(おれは、そんな大したことねぇよ)

 

その間、鈴鹿の話を右から左へ受け流していた春虎は、霊気の把握を怠ってしまっていた。

 

 

「ソコマデダ!大連寺鈴鹿。陰陽法に基ヅキ、貴様ノ身柄ヲ拘束スル」

 

だから、その唐突な機械の声を聞き逃してしまった。

 

(しまった、反応がおくれーーーー)

 

 

 

「なめんなぁ!!」

 

春虎よりも鈴鹿の対応が先だった。水行符を投じたと思うと、そこから大量の水が発生。呪捜官の作っていた結界を破壊し外に流れ込んできた

 

 

春虎は、これを好機と思い、すぐさま隠行を開始、前世から得たその類いまれなる呪力操作を用いて、北斗と冬児に近づき、二人の首根っこを掴むと全力で走り出した。

 

二人は、春虎の隠行の上手さ故に、どうやって自分が動いてるのかわからず、冬児までもが困惑の表情をしていた。

 

 

 

 

 

「はぁはぁはぁはぁ」

 

禹歩を使いたいところだったが流石に怪しまれるので、走るしかなく、流石に疲れたようすだった。

 

「それで、どうするんだ?春虎」

「まず、夏目に報告するしかないな、生憎親たちは一人もいないし」

「そうだな、ならそれはまかせる」

「冬児たちも今日は帰った方がいい」

 

 

 

 

 

 

そうして、別れた後、春虎は鈴鹿から漏れ出る微かな霊気を辿っていた。無論、予め止めるためだ。彼女は、泰山府君祭を成功させるためには、土御門の呪力が必要と勘違いしている。その時点で成功する見込みは少ないだろう。止めなければ、色々無駄にしてしまう。そうして、探り当てると、奇妙なステップを踏み始める。すると、次の瞬間、春虎の姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

鈴鹿は、追ってくる呪捜官たちを払っていた、十二神将たる自分にとって物足りない存在であった。だが、今は時間が惜しい、ので、かくし球を一つ切ることにした

 

「術式解放!こいっ土蜘蛛!」

 

現れたのは、大きな金属の塊、それがみるみるうちに姿を変え、多きな蜘蛛を形作った。みるみるうちに、呪捜官たちを凪ぎ払った。

 

「さて、私たち土御門のほうにーーー」

 

「まぁ待て」

 

動こうとして何者かに遮られた。

 

 

 

 

 



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戦闘

ようやく呪術戦闘になります。変なところあったらどしどし言ってください


 

 

 

 

 

春虎は実は楽しみにしていた。おもいっきり呪術が使えることに。なぜなら、今は、大連寺にとっておれは、夏目だからだ。呪術が使えたところで怪しまれない

 

「あ、あんたいつの間に?」

「ずっといたぜ、見抜けなかったか?」

「っち、まぁいい、あんたの呪力もらうからっ」

 

そういって、土蜘蛛を動かす

 

「やれっ!土蜘蛛!!」

 

主の命令通り、春虎目掛けて一直線に進み始める土蜘蛛。もしあの巨体が春虎にぶつかったら只じゃ済まないだろう、そう、もしぶつかったなら

 

 

『伏せ』

 

 

春虎がそう一言紡ぐと、土蜘蛛がまるで何かに押し潰されているように伏せる

 

「そ、それって、甲種言霊。仮にも夜光の遺産よ?それを一言でって何者よ」

 

甲種言霊は、元々人に対して用いるもので、帝国式で、さらに、それを用いるのは、十二神将クラスしか鈴鹿は、知らなかった。しかも、人以外、霊災と言っても差し支えない土蜘蛛を御することができるのに驚いたのだ。

 

「夜光の遺産か。笑えるな。あれは、この程度で屈っせはしないし、ラグもはしらねーよ、模造品なんかに負けてたまるかってんだ」

 

それを驚愕した目で見る鈴鹿

「やっぱりあんた、転生して……」

 

「まぁ、それはおいといて、まだやるか?」

「え、ええ、あたしはおにいちゃんを生き返らせるまで止めない」

「そうか、なら、やるか」

 

そういって、春虎は先ほど鈴鹿が倒した呪捜官のたちから貰った(決して奪ったわけではない、うん)呪符を構える。そして、三枚の呪符を取り、口許で構える

 

(符に呪文を吹き込んでる。こんなの素人にできる芸当じゃない)

 

口許を隠すのは、呪捜官としては、基本であるが学生レベルの話しでできるものではない

 

「どうしたんだ?大連寺焦ってるよーにみえるけど」

「あ、あんたやっぱり、素人じゃないわね」

「それよりいいのか?そんなボーとしてて、いくぞっ急々如律令(オーダー)!」

 

そう叫ぶのと同時に手元にあった呪符を投擲する。

 

二枚の呪符が鈴鹿に向かって行く

木行符と火行符、五行相生、木相火。それによって呪術の炎が勢いを増して燃え盛る。近くにいた土蜘蛛も巻き込んでいる。鈴鹿は、それに対し水行符を取り出した

 

「急急如律令!」

 

前と同じように大量の水が生じる。しかし、今回はそれで終わらなかった。

 

「こいっ!阿修羅」

 

そして、黒服の簡易式も取り出して、呪文を唱え始めた。すると、吹き出す呪力に耐えきれず黒服がグニャリと歪み阿修羅に吸収された。

それを見た春虎も目を細める

 

「ほぅ、やるな」

 

羽が生えた阿修羅を見ながら言う。

 

「けど残念だったな」

 

「網となりて捕らえろ、急急如律令!」

 

先ほどは、呪符の投擲と一緒にしたそれを春虎は、今回は唱えるだけだった。

何も持っていない春虎がそう唱えたのに鈴鹿は一瞬たじろぐ、が、ハッタリと考えるとすぐさま応戦しようとする。

阿修羅を動かそうにも何故か動かない、

 

(なんでっ!?)

 

見れば呪術の網のようなものに押さえられていた

 

そう、春虎の呪文に反応したのは、鈴鹿の足元にあった 呪符だった

 

呪符自体に隠行をかけるのと、火行符での派手な演出により、はじめの段階で春虎が仕込んでいたものだ。もともとは、鈴鹿に使うつもりだったが。

 

「っな!?」

 

これには、鈴鹿も驚く。仮にも十二神将である自分が出し抜かれたのだ。

が、春虎の呪術はこれでは終わらなかった。動けない阿修羅に向かって更に呪術を流す。鈴鹿は、危険を察知し距離をとると、符を地面に叩きつけた

 

「急急如律令!!」

 

瞬間地面が割れていく、捉えられていた阿修羅がその隙間を通って脱出する。

 

「やれ、阿修羅」

 

そう唱えたのにのは、鈴鹿ーーーではなく、春虎の方だった。ハッとした顔をして、すぐさま大量の紙からシキガミを生成、鳥のかたちをかたどると上空に逃げる。

 

先ほどまで自分がいたところに、阿修羅が突っ込んできていた。

 

 

 




今回までは、年末&お正月スペシャルということで毎日の更新となりましたが、これからは、遅くなります。申し訳ございません。

楽しみにしてくださる方々本当にありがとうございます。これからもよろしくおねがいします


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新たな契り

 

 

 

 

 

 

 

春虎がさっきまでやっていたのは、阿修羅に術式を巻き込ませて、騙すということだ。即席なので、支配権を奪うまでとはいかないが、突進させるくらいなら可能だ。

 

(あいつがホントに夜光の生まれ代わりなら、いや、そうじゃなくても実力が違いすぎる)

 

もともと鈴鹿の専門は研究、そこらのその他大勢の呪捜官のならなんともないが春虎レベルとなると話が変わってくる

 

(祭壇の位置は、分かってる、こうなったら先回りして強引にやるしか……)

 

「どうしたんだ?さっきまでの威勢は」

 

春虎が見上げるようにして言う。

 

「ふんっあたしが空を飛んでる限りあんたは近づけないんだから 」

 

このまま祭壇に行く、と隠された意味を理解する春虎。

 

念のため奇妙なステップを踏み始める。

 

「行けると思ってんのか?」

 

言葉を無視してシキガミを動かし向かおうとする

 

「まぁ待て、そう急ぐなって。ゆっくり話そうぜ」

 

優しい声色、甲種言霊のように押さえつける言葉ではない、なのに

 

(ーーーーうごけないっ!?なんで?)

 

空中で止まった鈴鹿見て、ニヤリと笑い話を続けた。

 

「言ったろ、大連寺が呪捜官たちとやりあってる間、ずっと見てたって、その間なんもしてねぇとおもったのか?」

 

(ーーやられたっ)

 

あのとき、春虎がここまでの実力者とは、見抜けなかったが故の油断。

 

「ほれ、こっち来て話そうぜ」

 

鈴鹿がゆっくりとシキガミを下ろし、春虎のもとに降り立った。その行動を起こしたと気づいたのは、春虎の隣にたってからだった。

 

そして、自分の肩を掴まれたかと思うと、一気に景色が変わり、何故か森の中にいた

 

 

 

 

 

 

 

 

春虎は、鈴鹿に対して、あともうひとつ手段を用意していたが、それを使うことなく終わらせてしまった。

 

鈴鹿に用いていたのは、他ならず甲種言霊である。しかし、使い方が違った。薄く薄く呪力を伸ばし、使われたと本人が気づかないレベルまで薄めるとそれを継続的に、しかし、徐々に濃くしながら。そのため、鈴鹿でさえ気づかないで操られていたのだ。

 

 

 

 

 

「こ、ここは?」

 

目をぱちくりさせながら、鈴鹿が突然変化した景色に疑問を唱えた。

 

「土御門家本家の裏山だ、ここなら誰ともかち合わないで話せるからな」

「そんな、いきなりどうやって……まさか」

「まぁな」

 

夜光の研究第一人者であった鈴鹿はしっていた。その呪術、禹歩のことを。

春虎がもともと自分の言霊から逃れられた時のために用意していたものだったが、ちょうどよかったのでそのまま使ったのだ。ここは、ちょうど霊脈の通り道であるということもすでに確認していた。

 

「あんたがつかってるのって、さっきから帝国式ばっかり、やっぱりか」

「まぁ、その辺は秘密にな?」

 

さらっと潜在意識下に暗示を潜り込ませて言う。

 

現在使用されている、いわゆる『汎用式』は、もともと夜光が作った『帝国式』をもとにして作られたものでも、それは土御門夜光、その死後だ。彼の転生である春虎が知るよしもなかった。

 

「お兄ちゃんを生き返らせるんだったな」

「…………うん」

「そうか、お兄ちゃんは耐えられなかったか」

「耐えられなかったかって、なんのこと?」

「なんのことって、からだのことだよ。誰かに弄られたんだろ?」

「はぁ流石ね、見破られたのははじめてだわ。そうよ、私たち兄妹は親に呪的に弄り回された。お兄ちゃんは、親が殺したようなもんなんだから!」

 

春虎は考えた。自分のこととこの少女のこと。これから言おうとしてることを彼女に伝えれば、確実に自分がそうであるとバレる。もうばれてるかもしれないがまだ、呪術が上手い人ってだけだ。

 

自分より年下かも知れない少女、この先、ここで止めてなかったら……

 

春虎は腹をくくった

 

 

 

 

「残念ながら、お兄ちゃんは生き返らない」

 

彼女は呪術者だ、それも権威と言われるほどの。それならば、下手に感情に訴えるより、呪術者として諭してあげるほうがいい。今、大連寺は、生き返らせられると疑ってない。その間違いを正すだけでいい、一人の陰陽師として

 

「それはっ!」

「まて、はやとちるな。俺が話すの全部聞いてからにしろ」

 

気持ちの高ぶる鈴鹿を抑えて、話を続けた

 

「別に、俺が止めるから生き返らないって訳じゃない。ただ純粋に術として成功しないっていってるんだ」

 

「泰山府君祭と言っても、その儀式の行いかたは、多岐にわたる。大連寺の様子を見るに、自分の命と引き換えにするものだろう?」

 

「……うん」

 

鈴鹿の顔が暗くなっているのを確認して春虎は続けた。

 

「確かにそれも泰山府君祭のひとつだ。でも、それが全てではない。むしろまだ序の口。その真髄には程遠い。言ってしまえば、命の対価なしに儀式を執り行うことだってできる」

 

「ならっ!」

 

それをあんたがやってよ、その言葉は春虎発する事実によって遮られる

 

 

「でも、そのすべてにおいて共通して必要になるものがある」

 

「泰山府君祭を用いるためには、亡くなってすぐに儀式を行うか、そうでなければ特別な処置をしなければならない。見たところ、特に特別なことはしてないだろ?」

 

「そういうことだ。どれだけ正しい手順でも、呪文でも、例えお前の命を犠牲にしたって、お兄ちゃんは甦らない」

 

「この言葉を信じるかどうか、真実かどうかは、分かるよな?」

 

「………………うん」

 

とうとう俯く。その顔から光る滴が滴り落ちるのを見て春虎はそっと背中を向けた。

 

「ちゃんと埋葬してやろうな」

 

「……うん」

 

春虎に抱きついて、堪えきれずに声をあげて泣き出した。春虎はそっと鈴鹿の方を向き、優しくその背中を抱きしめた。

 

 

「あんた名前は、どーせ夏目じゃないんでしょ」

 

ひたすら泣いて、目元を真っ赤にした鈴鹿が聞いた。

 

「ん、そういや自己紹介まだだったな」

 

「俺の名は、土御門春虎。分家の方だ。嘘ついててごめんな、夏目じゃないんだ」

「ふんっ、そんなことだろーと思った」

 

「はるとら、はるとら………………うん、よしっ」

 

何かを確認したようにうん、と頷くと、夏祭りの時のようなテンションで言った

 

「春虎、あんた、あたしのおにぃちゃんになりなさい!」

「………………」

「はぁ~~~!?」

「そして、あたしのことは鈴鹿って呼びなさい」

「はぁ~!?」

春虎は斜めうえすぎる発言に奇声をあげる。

 

「なんでそうなんだよ、お前みたいなタイプは、あたしのおにーちゃんは、おにーちゃんだけだ、とか言うタイプだろ?ブラコン」

「はぁ?なにいってんの、ブラコンじゃないし、それに、あんたのせいでおにーちゃんにあえなくなったんだから、とーぜんの責任でしょ?」

 

あくまでも当然としてある事実のように、いや、半分悪い顔をして言う。もう、すっかり元気になったようだ

 

「にひひー、よろしくね、おにぃちゃん?」

 

今度は隠そうともせず、黒い部分を全面に出して言う。これに対しては春虎も応戦して

 

「ったく、しょうがねーな」

「あぁ、これからよろしくな、我が愛しの義妹さん」

 

「っな!!」

 

鈴鹿は、顔を真っ赤にして言い返そうとした所で、そのまま気絶してしまった。過度な霊力の使用によってギリギリのところだったのだ。緊張感が緩められたせいでそのまま気絶してしまったのだ。

 

その後、眠ってしまった鈴鹿を土御門家に連れていき、そこで寝かせていた。もし、夏目に見られたらとひやひやしたが、大丈夫だったようだ。

 

携帯を見ると北斗からの着信がずらりと並んでいる、かけ返して土御門本家にいると伝えると、そのすぐあとに、夏目があらわれた。

 

隣に寝ている、女の子を見て一瞬ギロリとひどい目付きになったが、鈴鹿だとわかると、キョトンとして、驚愕の顔をした。

 

「どどどどどどどど、どうして彼女が?」

「うーん、まぁ説得した」

 

嘘はついてない、正確には呪術を用いてだが。これは乙種だと心で言い訳をする

 

「な、何でそんな危険なことを!」

「まぁ、そんなことはいいだろ」

「そんなことって……心配したんですよ!」

 

「聞いてくれ、夏目」

 

ガヤガヤ騒いでた夏目も、突然真剣な声と眼差しになった春虎に静かになった

 

「おれをシキガミにしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春虎が何て言ったか初め分からなかった

 

「今なんて?」

 

「だから、おれをシキガミにしてくれ、なつめちゃん」

 

何年ぶりか分からないその呼び方に、それより、ずっと夢見てたことが現実になったことにより、自分の顔が真っ赤になっているのが分かる

 

「な、なんでいまさら!約束わすれてたんじゃないんですか!」

「忘れるわけないだろ、ただ……」

 

そこから先は聞いてなかった。あまりの嬉しさに話なんてきこえるわけありません

 

(ふふふ、これでやっと春虎君と一緒ですやっと、やっと)

 

「それじゃ、見鬼にならなくちゃダメですね」

 

話の最後にそう言った

 

「それなんだけどさ、なんか見えるんだよね」

「え?」

「綺麗だよな」

「え、え~~!!?」

「霊気って」

「あ、そ、そうですね」

 

興奮したり落ち込んだり、そのせいで春虎の意味が分からない言い訳に気づかない夏目。そこに追い討ちをかけるように春虎が言った

 

 

「これからよろくしくな、夏目」

 

「はい、こちらこそ、春虎君」

 

 

 

 

新たな烏が陰陽の道を歩き始めた。

 

 

 

 

その後、起きた鈴鹿が、春虎の隣にいる夏目を確認して、急に悪い顔をして

「おはよ、おにぃちゃん」という爆弾をおとし、夏目が誘爆を引き起こすということがあったがそれはまた別のはなし

 

 

目が覚めたときそばにいた冬児に

「俺が来たとき、お前の心肺は止まってた」

と言ってたが…………嘘だよね?

 

 

 

 

 

 




原作第1巻終了です。細かいところまで真似してると長くなるのでどんどんはしょって行きます。流れはおおよそ原作通りですが、展開はオリジナルに、俺色に染めてやります。これからもよろしくお願いします。


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The nest of ravens
再会


お待たせしました。第二巻の文が始まります。感想のなかに、バッチリ先をよまれたものが……。


 

 

「ひ、久しぶり夏目くん。…………あたしのこと、覚えてる?」

 

「あたし、倉橋の、倉橋京子よ」

 

「あ、ああ、あなたがーーー」

 

「き、君は倉橋家の人、なのか?それで?わた、ぼくになにかようか?」

 

「い、いえ、仮にも土御門。挨拶しておこうと思っただけよ」

 

「そうか、用がないならもういいかい?一人にしてくれないか?」

 

 

 

入塾前から夢見ていた少女と

 

なにも知らない少女の初めての出会い

 

これから始まる青春の一ページ目だった。

 

 

 

 

 

 

(こんな風になったのかぁ)

 

 

春虎は都会にそびえ立つ一つのビルを見上げていた。陰陽塾ーーーまたの名を夜光塾。何を隠そう、夜光が作った組織の1つである。同じ陰陽の道を志すものたちの育成。それが作った目的だった。

 

「ずいぶんと変わったな」

「……変わった?」

「あーいやいや、陰陽塾って名前だから、こう、古くさいのを想像してたんだ」

 

思わず出てしまった春虎の言葉に冬児が目敏く反応するがなんとかごまかす

 

「この見た目でも、中には、最新設備がぎっしり。まぁ、他のものと同じように陰陽師も陰陽術も進化してるってことだな」

 

冬児が細かい説明を終えたあと二人して門へ歩き始める。陰陽の名前に似合わない自動ドアが開くと、どこからともなく声がかかる。

 

「汝ら、土御門春虎、阿刀冬児で間違いはないな」

 

そこにいたのは、二匹の狛犬ーーーアルファとオメガだった。

 

「汝らのことは、主より既に聞き及んでいる。が、決まりである。まずは名乗るがいい」

 

「俺は土御門春虎」

 

「俺は阿刀冬児だ、そんで、お前たちは?」

 

冬児が、自己紹介と同時にした質問に、狛犬たちも話し出す

 

「我がアルファ」

 

「そして、我がオメガなり」

 

「汝らの声紋と霊気のを確認し、登録した 」

「我らは汝らを歓迎する。学友と切磋琢磨し、よき陰陽師となるべく精進するがよい」

 

アルファとオメガが厳かに告げた。

 

「汝の式神も共に登録した。次からはそちらから申告せよ」

 

さらに、追加された言葉に春虎が謝る

 

「あーごめんごめん、式の方も必要だったか」

「なんだ、お前式神もってたのか?」

「ん?あぁまぁな、こっち来るとき親父に貰ったんだ」

 

春虎の思わぬステータスに冬児が一瞬驚くが、狛犬たちの声に追加の質問は遮られた

 

「我らが主よりお呼びがかかった。まずは、塾長室に向かうがいい」

 

 

 

 

 

 

 

「ここか?」

「ここだな」

 

二人は、ある部屋の前に立っていた。看板には『塾長室』の名前。

 

冬児に代わり春虎がドアノブをつかむ。

 

「ーーーー失礼します」

 

入ってすぐ、春虎は懐かしい感じを覚えた。どこか見たことがあるような

そして、正面に座る老女の姿を確認すると納得した。

 

(あぁ倉橋の…… )

 

「ようこそ、お待ちしていましたよ」

 

「土御門春虎さん、それに、阿刀冬児さんですね。お二人を歓迎します」

 

「初めまして、この陰陽塾の塾長をしています。倉橋美代です」

 

(やっぱりか)

 

春虎は、彼女に、彼女の幼き日の面影を感じていた。まだ小さかった彼女がこんなになっているのを見ると、時代の移り変わりをひどく感じた。

 

「いきなりですが、春虎さん。あなたは以前から陰陽術に携わっていたのかしら?」

「え?それは……」

 

なぜ?と美代に問いかける春虎に、被せるように答えた

 

「いえ、試験官の方々が驚いていたのものであなた、過去最高の実績で入学なんですよ?そのお陰でこの途中入学という異例の事態がみとめられたんですよ 」

 

「まぁ、大連寺さんの件もありますが」

 

その台詞に二人は、ぎょっとするが、どことなく、この老女には、人を安心させる雰囲気があるのを感じていた。

 

「ところで……あなたたちは夜光についてどんなイメージがあるのかしら?」

「あはは、どんなかんじですかねぇ?」

 

自分が春虎の姿であると一瞬忘れてしまう夜光さん。対して冬児は外面に似合わず真面目だった

 

「戦時中、全国の呪術をまとめあげ、帝国式を作り出した、その反面呪術の儀式に失敗。そうは言ってもまぁ、天才……ですかね」

 

「うふふ、まぁそんなものですかね。みなさん同じようなことを言いますよ」

「彼はね、将棋が好きだったんですよ」

「……え?」

「塾長もしかして」

「ええ、まだ幼い頃ですが。なのに弱くてね、負けてももう一回もう一回と」

「なかなか人間味のある1面でしょ?」

 

ははは、と笑うしかない。そんな風に見られていたと知っては、恥ずかしくて仕方がない。

 

 

一通り話が終わったそのタイミングで一人の男が部屋の中に入ってきた

 

「すんません、塾長、いい加減時間も押してますけど、まだかかりそうですか?」

「あら、お待たせしてごめんなさい。ちょうどよかったわ」

 

「こちら、大友陣先生、あなたたちの担任の先生よ 」

 

振り返った春虎は、彼を『視て』理解する。彼が相当な手練れだと。以前の大連寺鈴鹿が、十二神将と呼ばれるのであれば、彼も間違いなくそれであろうことを確信した。

 



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再界

「すんません、塾長、いい加減時間も押してますけど、まだかかりそうですか?」

「あら、お待たせしてごめんなさい。ちょうどよかったわ」

 

「こちら、大友陣先生、あなたたちの担任の先生よ 」

 

振り返った春虎は、彼を『視て』理解する。彼が相当な手練れだと。以前の大連寺鈴鹿が、十二神将と呼ばれるのであれば、彼も間違いなくそれであろうことを確信した。

 

「取り敢えずいこか、教室でみんな待っとるし」

 

その一声で、春虎たちは、教室に向かった

 

 

 

 

「おっかないやろ、あの塾長」

 

「この中は、ぎょうさん塾長の式神がおるさかいな、サボるんなら気つけや。隠行でも使わんと無理やけど」

 

 

塾長室をでたあと 、春虎たちは、塾長の陰口と、サボりかたを教わっていた。式神がいっぱいるなら、その言葉も聞かれてるんじゃという疑問は抱いたが無視しておいた。そんなこんなであっという間に教室へ

 

「ここや」

 

ドアの向こうから騒々しい気配が伝わってきた。

 

「いやーお待たせお待たせ。皆さんお待ちかね、転入生をつれてきたで~」

 

 

 

 

 

 

「はい、注目。今日からこのクラスに加わる、土御門春虎クンと阿刀冬児クンや。はい二人とも挨拶」

 

「土御門春虎です」

「阿刀冬児です」

 

 

簡単な挨拶から始まった自己紹介は、つつがなくおわり、いつの間にか授業が始まっていた

 

 

 

 

 

 

「それにしてもお前のその姿は見慣れないよな」

 

春虎が夏目の服装を見てそう言った。

 

彼女は土御門家のしきたりだと言ったが、彼の知るしきたりにそんなものは、存在していない。まぁ、彼が死んでから加わったというのも考えられるが、

 

竜の陰の気と、女性の持つ陰の気を組み合わせて、男性のもつ陽の気にする、というこの技は、確実に度を越えている。ごまかす相手は、そこらの有象無象でないことが容易に分かった。

 

「まぁいいだろ、これから、慣れてくれ」

 

言葉まで男っぽくしている。さすがは夏目だと、春虎も笑って答える。

 

「そんなことより、春虎、彼女のことは気にしないでいいからね」

 

夏目のいう、彼女とは、同じクラスの少女、倉橋京子のことだ。自己紹介のときも、授業や合間の時間やけにからんできまのだ。

 

「倉橋か……」

「そう、彼女は、塾長のお孫さんであり、現陰陽庁庁官の娘でもある」

「そして、倉橋は土御門の派生にある。僕たちの親戚にも当たるわけだ」

「あいつ、前からそうなのか?」

「うん、以前から僕のことを目の敵にしてるようだけど……ここまで頻繁なのははじめてかな」

 

 

そう二人が話す横では、冬児がクラスの連中に話しかけていた。さすがは、冬児、取り入るのはすごくうまい

 

すると、「夏目くーん」と夏目を呼ぶ声がかかった

見れば教室の入り口に男の人がたっている

 

「ごめん、今ぼく特別なカリキュラムを受けてるんだ」

 

そう言って、立ち上がると、颯爽と教室を出ていった。

 

「夏目くん、呪捜官の取り調べをうけてるんだって」

 

一人になった春虎に、話しかけてきたのは、冬児と彼に捕まっていた少年ーーー百枝天馬だった。

 

 

 

 

 

 

「ちょうど二日前くらいだったかな、夜行信者たちが夏目くんを襲うっていう事件があってね」

 

それを聞いて春虎は思った

 

(相変わらず誰にも頼らないんだな)

 

それをきっかけに春虎と冬児は、クラスの様子を知ることができた。

 

 

 

陰陽塾には、全国から集まる塾生のために、寄宿寮が用意されている。

 

転入生である春虎と冬児も、そこの部屋を借りていた。夏目は事情が事情なので、違うところに部屋を借りているらしい。トイレはどうしてるんだろうか

 

 

既に知ってることをひたすら聞かされることの苦痛を知った春虎は、その疲労に任せて、自らの部屋のベッドにたおれこんだ。

 

「つかれたぁ」

 

 

暫くボーッとしてると、父親にもらった式符のことを思い出した。土御門に仕える式神なら自分が知っている可能性もあるが、取り敢えず確認しておかないといざというとき不味いから、とバッグの中をまさぐり出した

 

 

そして、一枚の式符を探しあて、手に持つと唱えた

 

「出てきてくれ」

 

 

そう唱えた瞬間、隠れていた霊気が、ボンッという音と煙と一緒にあらわになる。

 

後ろだ。

 

春虎が振り替えるとそこにいた

 

小さな子どもが正座して、両手を畳について平伏していた。

 

「…………は?」

 

 

いや、それだけではない。それには、尻尾と耳がついていた。それも、どこか見覚えのある

 

(これは、犬……か?)

 

そして、顔を伏せていた子どもが顔をあげた

女の子だった。

綺麗に揃えられた前髪に、白粉でも塗ったような白い肌。顔立ちは年相応ながら、まるで命を吹き込まれた一抹人形のように細部まで精緻に整っている。

 

それを見た瞬間、春虎の、いや、夜光としての記憶が巡る。遠い過去の話、本家の自分が、暗い部屋に閉じ込められていた、彼女を外に連れ出した時のこと、そして、自分がつけたなまえのこと。

 

 

「混………………なのか?」

 

 




少しこれから先、更新ができなくなりそうなので、これから連続投稿しまくって、かきためてる文は全部放出します。

とりあえず、二章、原作二巻まではかんけつさせるつもりです


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懐柔

いよいよ、コンちゃんでーす。感想はものすごく嬉しいんですが、先をよまないで~泣泣


 

 

「混………………なのか?」

 

 

 

 

 

 

 

そして、呼んでしまった。彼女の名。後に、夜光の双璧と言える、護法のかたわれ、飛車丸となる土御門混の名前を。

 

「おおお、お初にお目もじ致しまする」

 

「わわ、わたくしこのたび、祖孤葛の葉が御末裔、つつ、土御門春虎様の護法たるを仰せつかりました、コンともうします。ふふ、ふつ、不束者では御座いますが、なにとぞよしなに」

 

そう言って、額を擦り付けるように叩頭した。それを聞いて、春虎は、思案し一つの可能性を導く

 

「混、お前もしかして、記憶がないのか?」

それを聞いて、コンは体をビクッとさせると、頭を下げたまま答えた

 

「おお、おっしゃる通りでございまする。わわわ、わたくし、コンめは、いい、以前にも土御門におお、お仕えしていたことが、あるのですが、きき、記憶の方は……」

 

よし、混、顔をあげてくれ。と言った春虎は、真正面からその綺麗な顔を『視る』

 

(これは…………4つ、いや5つか)

 

コンに施された封印を見つけた。

 

 

 

 

 

 

コンの封印は、土御門の秘術によってなされていた。しかも、それを作ったのは、自分ーーー土御門夜光だった。その封印の特徴としては、封印された人が自力でこじ開けるのは大変であるが、外から開けるのは大変容易である、というものだ。

 

しかし、天才と名高い夜光、それで終わるはずもなく、特別なものが一つ存在していた

 

それは、その封印のことを知らないとただ、ぐちゃぐちゃに漠然と何かされてるとしか分からないというものだ。それゆえに、構造は全く読み取れず、どうやって、解呪すればいいか分からないのである。

 

 

「そうか、やっぱりか……」

「ああ、あのー春虎様、やっぱりとは」

 

「ああ、コン、お前は気づいてないかもしれないんだけど、封印が施されている」

「それは、まことですかっ!?」

「うん、それで、もしよかったらなんだけど……解かないか?」

 

「可能なのですか?」

 

封印ときいて、涙目になっていたコンは、上目遣いで聞いてくる

 

「できる……といっても、時間は少しかかるけどな、あとは、服を脱いでもらったりとか色々必要だけど」

 

外部から解呪するためには、背中の肌に直接触れなければならないのだ。これは、封印の原点がコンの場合、背中にあるためである。

 

「よよよ、よろしくお願いいたしまする」

 

そう言って、コンは、上に来ていた狩衣のような服を脱ぐと、春虎に、背中を向けてちょこんと座った。春虎は、その背中に手を当て解呪を開始した。

 

 

 

一つ目は、封印自体を偽装する封印、コンが封印されていると思わせないためのものだ。これは、コンが自覚した時点でほぼ溶けているに等しい。それを起点に、二つ目三つ目と、どんどん解いていく。その度に、コンには異変が起こっていた。

 

 

まずは、そのからだ、小学生にも見えたその小さな体は、春虎と同じぐらいの背丈に、顔も、幼くも綺麗な顔立ち立ったものが、美しいと形容したくなる美女へ。そして、記憶、幼き日、夜光にであったときのこと、

 

コンもその変化を実感していた。コンとしての記憶、そして、飛車丸としての記憶。封印が解かれるごとに、それらがもとに戻っていく。過去身に付けていた呪術、呪力操作のコツ、小さな少女からかつて夜光のかたわらを守った護法としての存在が戻って行く

 

 

そして、解呪が終わり、背中から手を離したときそこにいたのは、上半身素っ裸の美女だった。そこへ、春虎は、一言

 

「久し振りだな、飛車丸」

 

美女は、その台詞に体を震わせる。この瞬間をいく年も待った。その嬉しさに体は、勝手に動いた

 

「夜光様ッ!!」

 

座っていたベッドから飛びはね、春虎に、抱きつく。裸のままで

 

春虎は、困惑するしかなかった。夜行としての記憶は当然あるが、春虎として、現役男子高校生としての、感情もある。その、素晴らしいプロポーションで、しかも、裸のまま。美女が抱きついてきているのだ。

 

「ちょま、ちょょょょょと、まって」

 

その言葉にハッとしたような顔をした飛車丸は、無論裸のままで春虎の前に片膝をついた

 

「申し訳ございません、私は主にたいして何てことを」

「いや、構わないよ。それぐらい、悪いのは待たせた俺の方だしな」

「それに、今の俺は春虎だ。そうよんでくれ」

「はい!かしこまりました」

 

部屋に元気な声が響く、するとどこからともなく、というか部屋の入り口から、どす黒い障気とも言えるような圧力がかかる。封印のとき結界を張らずにやったせいで、悪いのがよってきたかとすぐさま構えて、入り口をみる。

 

 

そこにはいた。

 

鬼が。

 

フェーズ3、いや、フェーズ4動的霊災とも言えるようなものが。

 

「なな、夏目さん?なんで生成りでもないのにそんな、半端ない鬼気を放ってるんですか?」

 

そんな春虎の台詞も夏目には届かない

 

「変態成敗変態成敗変態成敗変態成敗変態成敗変態成敗変態成敗変態成敗変態成敗」

 

「いや、まて、誤解だ。誤解だ!」

 

「変態成敗!急急如律令!」

 

 

そのすさまじい霊力に空間が歪み始める。主の危機と感じた、飛車丸が、すぐさま印を結ぶ。春虎と飛車丸のまわりに円状の結界が生まれる。

 

飛車丸は、伝説の護法のと呼ばれた式神、夏目との実力差は明らかだった、はず、なのに、飛車丸は、その霊力をほとんどつぎ込み、主を守った

 

すると、春虎から、「コン」状態に戻れといわれたので、呪術の爆煙に紛れて、コンにもどり、服を着る

 

 

「これは、俺の式神なんだ!」

 

で始まった、春虎の弁解は、一時間以上続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弁解が終わり、やっとのことでゆっくりし始めた春虎は、飛車丸と話していた。

まさか、室内でも片膝をついていた飛車丸を楽にしろという命令でようやく正座までこぎつけていた

 

「お前に頼みがある」

「主命とあらば」

 

打てば響く、まさにそんな関係。この感じは久し振りだった。その懐かしさに、春虎も飛車丸も思わず微笑む。

 

「烏が陰陽塾においてある」

「それは…………真ですか?」

「ああ、確認はしてある。アイツをいつまでも封印させとくとは悪いし、取ってきてほしいんだ。生憎俺は授業があって出られない、頼めるかな」

「お任せください」

 

「あぁ、それなら、頼む」

 

そう言って春虎は、飛車丸に一枚の符を渡した

 

「これは?」

「烏羽織のダミーだ。それで、取りに行くときなんだが、結界が何枚か張られてるみたいなんだ、陰陽塾には、すぐ入れるが、それからだな」

「それがどうかいたしましたか?」

「うん、それは、壊さないでほしいんだ。出来るだろ?今のお前なら結界をすり抜けるぐらい」

「はい!!」

 

普通なら難題を押し付けられると、嫌なものだが、飛車丸は違った。自分の力を頼ってくれることが、信頼してくれることが何より嬉しかった。そうして、普段の何倍も気合いをいれたのだった

 

「追加に追加でわるいんだけどさ、塾にいる間は、コンの姿でいてほしいんだ。実はまだ、俺が夜光だってことはいってない。まぁ叔父さんには、バレてるかもだけど」

「はい、この飛車丸、何人たりとも春虎様に害を加えるものは、許しませぬ」

「はは、任せたよ」

 

飛車丸のこの忠誠はずっと前からだ。これから寝るまで、二人は昔話に勤しむのであった

 

 

 

 

 

 

 




もう少ししたら京子くんとの……。


書くの難しいなぁ。京子ってどれぐらい呪術使えるのぉ泣泣


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再開

すみません、どうしてもこの下りだけはやりたかった。京子との術比べは、実はまだかいてません。その先の……はかいてるんですけど。なんか京子を天才にしたい

このままだと、一瞬でおわってしまう。泣


 

「はい、この飛車丸、何人たりとも春虎様に害を加えるものは、許しませぬ」

「はは、任せたよ」

 

飛車丸のこの忠誠はずっと前からだ。これから寝るまで、二人は昔話に勤しむのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、春虎は、ある呪術の構成に取り掛かっていた。頭のなかで、しかも、授業中。初日こそ、もしかしたら、時代が移り変わるにつれ進歩していると思ったが、所詮は、帝国式の真似事だった。自分の作った土台をもとに、稀に嘘を教えているーーーそれも、教師が気づかずにーーーことがあり、授業を受けるということを放棄したのだった。

 

唯一、大友陣、彼からは、やはり呪術の真髄に少なからず近づいている気配がした。

 

 

そして、他人から見たら、ただボーッとしてるようにしか見えない春虎が構成しているのは、とある結界だった。

 

それがいかにすごいものであろうと、他人から人間の脳のなかがわかるはずもなく

 

「なにボーッとしてんねん、ほら転校生!!春のつく方!!」

 

大友からの怒号か飛ぶ、が……

 

「……………………」

 

ついつい熱中してしまっている春虎は、気づかない。後ろで隠行している飛車丸ーーー姿はコン、が春虎様。春虎様とドモリながら呼び掛けるが、それでも気づかない。

 

 

 

この時点で、怒りが押さえられなくなったものが一人

 

「先生、授業を、すすめてください!」

 

倉橋家ご令嬢。倉橋京子その人だ。

 

「そーはゆーてもなぁ、一応ぼくの授業やし、ぼく先生やし」

 

大友は、あくまでも春虎を擁護する立場にいる、その事がさらに京子を、イライラさせる。

 

「なんで、大友先生は、この転校生を庇うんですか。てゆーか、なんなんですか、この転校生は。時期違いに入ってきたと思ったら、授業は真面目に受けないし、やる気がないんでしょ。それに、話聞いてないのだってどうせ、ここの授業についていけないからでしょうし、わざわざそんなのに構ってもしかないですよ!」

 

はぁはぁ、と長セリフを終えた京子が、息をきらせながら春虎をにらむ。大友とその他の生徒は、京子のキレっぷりに圧倒され、声が出せなかった。

その静かになった教室だからこそ、その声はよく響いた

 

「あはははははは」

 

声の源は、京子の目線の先、春虎だった。

 

京子の話の途中で結界の構成を終えた春虎は、今にも飛び出しそうなコンを抑え、その言葉を聞き入っていた。立場としては、春虎出はなく、陰陽術の先輩夜光として、そのせいで言動まで影響が出る

 

「いいねいいね、その陰陽術にたいする熱意。そういうの好きだよ、俺は」

 

その言葉を聞いた京子は、羞恥と憤怒で顔を真っ赤にする。陰陽術初心者のはずの春虎から、上から目線で物を言われたのだ。

 

「なによその言いぐさ!言っとくけどね、あんたよりあたしの方が先輩なのよ?それなのに、なんで、実力も才能も低い貴方からそんなこと言われなきゃいけないのよ!!」

 

こんなことを言われてしまっては、我慢できるはずがない、

 

「コン!!」

 

式神の方が。それなので、やらかすまえにその、名前を呼んで動きを止めた。

 

果たして、飛車丸の方は、京子の首もとに、刀を添えていた。

 

「春虎様っ!この者はこの者は!!」

 

感情が昂りすぎて、全身の毛を立たせたコンが春虎の方すら向かずに、已然として刀を向けたまま言った。

 

「いいんだよ、ほら、こっち戻ってきな」

 

その優しい声音に、懐柔され、ゆらゆらと弱々しい姿で春虎のところまで飛んでいき、その膝元にちょこんと座った。春虎は、その頭をなでなでする。飛車丸の顔が優しく、そして、ふにょ~んとしていく。

 

少し和やかな空気になったところで、大友が口を挟んだ

 

「こら驚いたな。持っとるかもしれんとは疑っとったけど、まさか、ほんまに持っとるとはなぁ」

 

思ったよりも好印象。そもそも、護法を持っていると言うのは陰陽師としてのひとつのステータスであるのだ。

だが、これには、すぐに反発が起きる

 

「先生、その言い方だと、春虎がもともと実力者のように聞こえますが」

「ん?だから、そーゆうてんや」

「は?そんなわけないじゃないですか、授業にもついてこれてないんですよ?」

「いんや、そんなこともないで、実はな、春虎クン、入試の成績、ごっつええねん。もしかしたら、君らより上かもな」

「そんなことが…………」

 

大友の発する言葉に呆気に取られる京子だが、何か思い出したようにハッとすると続けた

 

「それは、夏目くんに、試験の内容でも教えてもらったんじゃないですか?」

 

京子が勝ち誇ったように言う。が、それを聞いても大友の顔が変わらなかったことに疑問を抱く

 

「残念やったな。京子クン。問題は変えとるんや、むしろ、難しくしとる。当然やな、編入試験なんやから。それでも、君らより点数高いんや、つまりは、そーゆーこっちゃ」

 

 

聞いて俯いた京子は、何かを呟いていた。隣の席の女子生徒は聞いていた

「認めない認めない認めない認めない認めない認めない」

呪詛かとも思えるような、呟きの果てにとうとう叫んだ

 

「あたしは、認めません!」

 

大友がそのボサボサの頭をかきながら、めんどくさそうにする

 

「せやかてなぁ、まぁ、確かに異例の編入てゆー建前疑問があるんは確かなことやけど」

「したら、京子クン。どしたら、春虎クンのこと認めてくれるんや?」

 

大友の問いに、もともと考えてたとものだとも言わんばかりの早さで答える

 

「術比べよ!術比べをしましょう!」

 

 

大友は、術比べかぁと言うと、

 

「ほな、呪練場を放課後とっとくさかい、そこでええな」

「ええ機会や.興味ある生徒も、見にきてくれ」

 

と、そこで授業終わりのチャイムがなる。ほな、今日はこれでおわり、と大友が教室から出ていくと、春虎の目の前に京子がやって来て、言った。

 

「今日の放課後、逃げるんじゃないわよ!」

 

「約束なんだからっ!」

 

 

 

おう、と答えた春虎は、既に記憶の旅に出ていた。

 

京子の、最後のセリフを聞いてからどんどん遡っていく。その先に、あるひとつの記憶。幼い頃、土御門本家の屋敷、その庭での、約束。

 

 

『約束なんだからねっ』

 

 

 

春虎は、唐突に思い出す。

 

次にあったらリボンを渡す。

 

次に会ったら

 

次に会ったら

 

次って、今じゃね?もしかして、それでこいつは、こんな怒ってるのか?

 

春虎は、勝手にそう結論付け、慌てて教室を飛び出す

 

「悪い、倉橋、夏目、冬児。大事な用事を思い出した。放課後には、戻るから安心してくれ」

 

 

その行動の早さに誰も追い付けない。

春虎が教室を出て、廊下の曲がり角を曲がり、その姿が見えなくなった頃にやっと「はぁー?」という声が教室に響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春虎は、焦っていた。リボンはあのあと探しだし、自分の部屋に大切に保管してあったはず。その場所も覚えている。あとは、時間との戦いだ。

 

走りながら、陰陽塾を出ると、隠行を開始、そして、土御門の家が、ある方へ繋がる霊脈を探す。が

 

(くそっ近くにない!)

 

残念ながら、走って行ける範囲に土御門家のある方に繋がる霊脈はなかった。霊脈は、流動的なものであり、常に同じところに存在しているわけではない。故に、わざわざ探す必要があるのだ。

 

少し行った先に一つだけ見つける、走っていっていては、時間がかかりすぎる。そのため、まず、自らの護法の名前をよんだ

 

「飛車丸!」

「ここにっ」

 

走っている春虎の右側の虚空から突然と姿を現す

 

「烏羽織は、どうした?」

「はっ今朝のうちにとってきております」

「そうか、良かった、いまどこに?」

「春虎様のお部屋に厳重に封印しております」

「ならまず、寮にいこう」

 

二人は隠行したまま、走り出した。

 

 

都会のなかをダッシュしながら、隠行のお陰で、誰もが無意識に道を開けてくれるので誰にもぶつかることなく進んでいく。

 

そして、部屋につくとすぐさまコンが飛車丸の姿となり封をとく。

 

現れた大きな三本足の烏に、懐かしい感じを覚えるが、そんな暇はない。羽織ると同時に隠行を開始、誰にも認識されない烏が、部屋から飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

空が若干赤くなり始めた頃

 

 

土御門夏目は唸っていた

 

「あのバカ虎ぁ!行きなり出ていったと思ったら、主になにも伝えずにぃ」

 

授業をサボったことより、自分になにも伝えずに行ったことが。そして、何より、授業ごとに聞かれる「春虎クンはどうした?」という質問が、自分ではなく冬児にされるというのがなおのこと夏目を不機嫌にした。それは、彼女一人ではなく

 

「なんなのよ!あいつ。約束っていったじゃない!!」

 

京子も同様であった。既に本日の授業は終わり、放課後を迎えている。呪練場には、噂を聞き付け面白半分できた、学年問わずの生徒たちが、周りの見物席に、準備を終え、呪符を携えた京子と、審判を勤める大友が、その中心に立っていた。

 

二人がここに出てきて、約15分が経過していた。先程の二人だけでなく、他の生徒たちも「なんだ?」「怖じ気づいたのか?」などと、野次を飛ばしはじめていた。それに反発して「春虎はくる!」と夏目がまたさらに機嫌を悪くしていた。

 

 

 

「もう、なんなのよ、あいつは!?」

 

 

京子が、そう叫んだ瞬間だった。ドタンっと音をたてて呪練場の扉が開いた。入ってきたのは、少年だった。彼は肩で息をしながらこういった

 

 

 

 

「すまん、待たせた」

 

 

春虎だった。

 

 

 

 

 

見物席から、呪練場におりた春虎を確認すると、大友が問うた。

 

「ほな、準備ええな、閉じるでぇ~」

 

なんともやる気のない声を発しながら、呪文を唱える。その後、呪練場と見物席を、隔てるように結界が展開される。

 

春虎の見る限り十二神将クラスが作ったものだ、春虎も安心できる。

 

 

 

春虎は、傍らで誰にも見えないように隠行している飛車丸と烏羽織に、絶対に姿を現すな、と厳命すると、京子に向き合った。

 

 

兎歩と隠行、烏羽織での飛行による高速移動という無駄な呪術の使用により、長遠距離をとんでもないスピードでいどうしたのだ。お陰で目的のものは取ってこれた。しかし、時間がなかったので、烏羽織を寮においていく時間がなかったのだ。バレたら色々不味い。

 

 

「悪いな、少し遅れたみたいだな」

「そうよ!なに考えてるの、いきなり出ていったと思ったら……まぁいいわ。早く始めましょう、大友先生」

「はいはい、じゃ注意事項だけ確認しとくで」

 

「あとに残るような呪詛、および死につながるような呪術は禁止、でも、ハッタリとかにはつこうてええで、ぼくもそーゆうん好きやし」

「気絶、等動かなくなったらその時点で僕が止める」

 

「ほんで、最後に、こんだけたくさんの人が見てんねんからすぐに終わるようなことにはならんよう」

 

そういって、大友はニヤリ

 

京子もニヤリ

 

春虎は、変化なし。そして、追加注文

 

「せんせー、護法は許可していいですよ」

 

その言葉にギョッとしたのは、大友と京子

 

「あ、いや、俺は使いませんよ、まぁ、使いたくないなら使わなくていい。まぁ、結局はつかうことになるだろうがな」

 

「っ!!バカにしてぇ!!」

 

京子のボルテージも限界、見かねた大友が間にはいる

 

「待ち待ち、そーゆうんは、術比べでな。護法は認めたるわ。ほな、始めるで 」

 

 

「開始っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




感想お待ちしております

異論反論抗議質問その他すべての意見を許可しよう笑


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復縁

京子との術比べです。なんか、呪術が絡むと毎回同じような展開になってしまいます。もうやだ……。

たぶん夜光さん、もっと多彩だろうに


まぁ次の……との戦いは展開に違うとおもいます…………たぶん


 

 

 

大友の合図と共に二人が一斉に行動を起こす。

 

京子は、まだ一年生とは思えないほどの手つきで呪符を抜き構える。対して春虎は、しゃがんで靴紐を結び直していた

 

(ばかにしてぇ!!)

 

京子も憤怒、符を使おうと思っていたが作戦変更、相手側動けない状況ならあれが使える。咄嗟に印を結び呪文を唱える

 

「オン、ビシビシ、カラカラ、シバリ、ソワカ!」

 

不動金縛りの術、対人で最も使われる呪術をまだがっこうでは教えてもらっていないが、予習してこれだけは学んでいたのだ。

 

対して春虎は、いまだに靴紐を結ぶ振りをしながら片手を呪符ケースに入れていた。これも、もしかしたら、乙種なのか?と思いながら、目の前で呪符を展開

 

「急急如律令(オーダー)!」

 

人形の簡易式が春虎の前に出現、京子の不動金縛りは、それが身代わりとなる

 

「甘いぜ、倉橋」

「ちっ」

 

お嬢様らしくない舌打ちが聞こえる。京子もこんなに簡単には終わると思ってない。呪符の束を右手に持ち掲げる

 

「式神生成、急急如律令!」

 

束の一枚一枚がヒラリと宙をまい、その姿を白鳥に変え、春虎へ向かう。春虎も同じことをする

 

「式神生成。急急如律令」

 

春虎からは、烏が現れる。

 

京子の白鳥も主の敵を倒さんと、乱戦状態になる。式神を操るのに手一杯な京子に対し。春虎は余裕の笑みを浮かべながら京子を見ていた

 

「ずいぶんと、余裕じゃない」

「まぁな、でも、このままじゃつまらないな」

 

そうして、ニヤリと笑うと、素早く呪符を、投げる

 

「燃えろ、急急如律令」

 

火行符が燃える。いや、それだけでない、春虎の式神たちが誘爆されているかのようにどんどん燃えていく。

 

実際に誘爆されている。春虎は、式神を生成する際、そのなかに木行符を仕込んでいた、それが火行符によって、燃えたのだ。

 

驚く京子、咄嗟に水行符をなげ、自らは、護符による、結界で守る

 

そこから出る水は鈴鹿に比べると随分と可愛らしいものだったが直接火が当たる範囲のは消せたようだ。

 

辺りの湿度が水が蒸発し、爆発的に上がる。そして、春虎は、立ったまま、右足を一度踏みつけ唱えた

 

「水気は木気を生ず」

 

途端。春虎の足元から木の蔓が伸びる。それが火をやり過ごし、ちょうど護符をといた京子の元へと迫ると足元から全身へとどんどん縛っていく。

 

安心していた京子は、対応できない。だって京子からみて、なにもしてなかったのだから。手ぶらで、ただ立っているようにしか見えていなかった。

 

 

 

いつの間にか目の前に呪符を構えた春虎がいる、そこで大友の合図がかかった

 

 

「そこまでっ!!」

 

「今回、春虎クンの勝利や」

 

 

 

 

 

 

 

 

木の蔓を、解かれ体が自由になった京子は、春虎に詰め寄った。

 

「あんたなにしたのっ!?」

 

すると、春虎は、左手の親指だけをたて、自分の後ろ、さっきまで春虎がいたところを指した。

 

京子が驚く。そこにはあった。呪符が、床に

 

そして、気づく

 

「あんた、あの時に!?」

「まぁな、ハッタリは呪術と相性いいんだ」

 

春虎は、靴紐を結ぶ振りをして、あの時に足元に呪符を忍ばせていたのだ。

 

その言いに呆れる京子、この話が終わったと春虎は感じると、コンを呼んだ。コンは、何かの箱を持っていた。リボンで可愛らしく包装されているーーー何てことはない。ただの箱だ。それをひょいと受けとると、京子に差し出してきた

 

「ほらよ」

「は?」

「約束してたろ?てか、それで、怒ってるんじゃなかったのか?」

 

ポカーンとする京子、まぁ開けてみろよと催促する春虎に、とりあえず受け取り箱を開けながら何か考える

 

(告白……かしら、それでも約束って何?)

 

 

箱を開ける。

 

そこにはリボンが入っていた。

 

懐かしいリボン、それでいて、とてもとても大切なーーーー

 

 

その瞬間、あの記憶がより鮮明になってよみがえる

 

男の子は、黒髪じゃなかった……

 

その子の面影が、春虎と重なる

 

「あんた………まさか…」

「え、気づいてなかったのか?俺はてっきりそれで、怒ってたんだと……」

「でも!なんで、あそこは、本家だったはずよ」

「ああ、あの日は、あそこに遊びに行ってたんだ、あの頃はしょっちゅう行ってたしな」

 

じゃあ、やっぱり、春虎なんだ

 

手元にあるリボンが何よりの証拠だ。夏目君は、忘れてた訳じゃなかったんだ。知らなかったんだ。謝罪の気持ちと同時にあの子と会えた嬉しさが込み上げてくる。

 

「バカ虎っ!」

「お、おう、なんだいきなり。それにその呼び方」

「………………ありがとう」

 

 

とても大人びて見える京子がそのときは、すごく可愛らしく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

大友も驚いていた。春虎に。優秀や優秀やと聞いてはいたが、まさかここまでとは思っていなかった。あの実力なら、おそらく、この塾内の先生じゃかなわないだろう。そこでなるほどとうなずく

 

 

(春虎クンは、わからんやのうて、つまらんかったんか)

 

(全く、面白い子が集まりよる、あの婆さんの差し金かいな)

 

(教職も捨てたもんやないわな)

 

春虎と京子を静かに見つめ、気づかれないようにそっとその場を去った。

 

 

 

 

 

大勢に見つめられた、二人の術比べは、春虎の勝利で幕を閉じた。

 

しかし、京子の噂は悪い方向へとは向かわなかった

 

「天才が二人も現れた」

 

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




面白くない、もっと凝れ、など罵倒もお待ちしております。微力をつくしますので


(あくまでも微力なので変化はみこめませんが汗)


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逃争

……え?

って思いました。なんかありがとうございます。日間に載ってるみたいです。ほんと驚きました。

感想ありがとうございます
ポジティブな感想は支えに、ダメ出しは、糧にさせてもらいます。

そのなかで、参考にと、逃奏劇リアクターズというのを勧められたんですが、一輝くんと小鳩ちゃんがコラボっててビックリしました。

気になるなら確認してください笑笑




 

 

 

 

術比べが行われた翌日、教室では、春虎の周りに人だかりができていた。

 

無論、話題は昨日の術比べ。クラス、もしくは、学年でもトップレベルを誇る倉橋京子をつい先日まで素人だった人間が勝利、しかも、鮮やかな呪術戦においてだ。

 

ともに、呪術を極めんとする生徒にとってそれは、格好の獲物であり、多大なる興味の対象者になるのは、避けられるものではなかった。

 

よくみると、他のクラス、おそらく、術比べを見ていたであろう生徒すら混じっている。さらに、その割合を、白い色が大半を閉めていることに、彼の主である、土御門夏目は、イライラしていた。

 

いや、それだけじゃない。何も言えない自分にもイライラしているのだ。

 

本当なら言いたい。僕たちは代々続く陰陽道の名家土御門家の人間だ。そんなことやってる暇があったら、少しでも呪術を学んだらどうか、と。

 

でも、言えない。あの呪術戦を見た後では何も言えなくなってしまった。

 

春虎は、初心者だったはずだ。北斗の時だって呪術を学んだ跡はなかった。

 

なのに、あの呪術戦は、素人じゃない。

確実に私より上だ。北斗を使えばどうにかなるかもしれないけど……。

 

鈴鹿も話し合いで納得させたとかいってたけど、たぶんそれも…………。

 

うぅーイライラする。バカ虎のくせにバカ虎のくせに

 

 

 

 

 

 

「ちょっといいかしら」

 

夏目が心中穏やかでない時、春虎に、一際聞こえる声がかかった。周りの生徒たちも、その声の主が誰だかわかると、道を開けるように、避けた。

 

「倉橋、どうした?」

「ちょっと来て」

「夏目くんも」

 

そう言って京子は、夏目の方に目配せして、春虎の手を掴むと教室を出ていった。

 

 

 

 

陰陽塾非常階段踊り場、そこに3人の姿はあった。

 

「ごめんなさい、夏目くん」

 

唐突に頭を下げる夏目。状況がよくわからない夏目は、春虎を見やり、ポカーンとしている。春虎は、肩をすくめただけだった。

 

「あたしは昔、ある男の子と約束したの、それも土御門家の庭で。仮にも倉橋なんだから、土御門家に行っててもふしぎじゃないでしょ?」

 

「あたしは、この塾にはいって、夏目くんのことを知って、その相手が夏目くんだとおもった。だから、聞いてみた。でも、夏目くんは、覚えてなかった」

 

「そのせいで、夏目くんにきつく当たったり、いちゃもんつけたりしちゃったの、ホントにごめんなさい」

 

そう言ってもう一度頭を下げる京子。ようやく事情を察した夏目が続いて口を開いた。

 

「そ、そうなんだ。わた、僕も不思議に思ってたんだ。そう言うことならきにしないでくれ」

 

頭を上げた京子の顔がパァと明るくなる。そして、春虎を見る。その視線に気づいた春虎は、二人してむかいあうようになると

 

「な、大丈夫だったろ?」

「うん」

 

と、笑顔で会話する。

 

チクり、夏目の胸に何か刺さったような感触がする。仲良さそうに話す二人を見ると、自分でも制御できない感情が動き出しそうになる。

 

堪えきれなくなって、走り出す。去り際に見た春虎の顔は困惑していた。当然だ。急に走り出したんだから。

 

背中ごしに、夏目!と、呼ぶ声がする。でも、追いかけて来てくれない、式神のくせに………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つ……みか……ん

 

土御門君!!

 

その問いかけにハッとする。いつの間にか、来たこともないようなところに走ってきていた。声の先を探るように後ろを見ると、灰色のスーツを着た男の人が息を切らせながら走ってきていた。

 

「なんですか」

 

今まで聞いたことがないくらい暗い声が響く。その状態に男は顔をくらませる

 

「何って、時間ですよ?」

 

無理して何もないような顔をつくって言った。夏目も男の顔をちゃんと認識すると、呪捜部の人、先日の襲撃の件で話をしている人だと分かり。謝罪した。

 

「ごめんなさい、もうそんな時間ですか。すぐにいきます」

 

そう言って、今まで走ってきた道を戻るために振り返り、歩き出そうとすると目の前をその男が塞いできた。

 

「いえ、もうその必要はありません。御身のためです。時期が早いのは重々承知しておりますが、もう始めてしまいましょう」

 

「あ、あなた、何をいっ……」

 

夏目は、覚えがあった。そのしゃべり方その雰囲気に。自分を崇めるようなそんな態度を取る人たちに。先日襲われたばかりだ。

 

「まさか、あなたもーーーー」

 

「眩め、封、閉ざせ。急急如律令(オーダー)」

男が素早く呪符を抜き、呪文を唱える。

ギリギリで正体を掴んだ夏目の呟きが終わる前に、かのじょの意識は、即座に沈んでいった。

 

「そうです、もう時間です。御身が甦る、時間です」

 

うっすらと冷笑を浮かべながら彼はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

春虎はたちは、別に、追いかけたくなくて追いかけていない訳ではなかった。追いかけられなかったのだ。

 

「夏目!」

 

春虎がそう叫んだあと突如として、階段の壁が爆発した。

 

「なっ、なんなの!?」

 

突然のことに 京子は、動揺を隠せない。かく言う春虎も、内心穏やかではなかった。

 

走り去った夏目の表情と、今自分に向けられている禍々しい敵意によって。

 

京子がそれに目を向け、ひぃっと声を漏らす。

 

そこには、大きく蠢くものがあった。勤勉な京子は、その正体を知っていた。春虎も、感じる霊力とその見た目から、それがなんなのか既に見極めていた。

 

「……蠱毒」

 

その呟きは京子からだった。古代から禁呪とされてきた呪詛だ。無論、現代もその危険性から禁呪指定されている。分類では、『呪詛式』と呼ばれるなかの、式神に当たる。

 

使用可能になるのは、陰陽Ⅰ種の資格でも持っていないといけないだろう。

 

二人の脳裏にいろいろな疑問が生じる。陰陽塾は、結界に守られているはずだ、なんで?そして、だれが?

 

 

「白桜!黒楓!」

 

京子が自ら専用にカスタマイズされた護法を呼び出し自らも護符で防御を固める。疑問より先に冷静になり手を打てるやはり、優秀な陰陽師の卵に他ならなかった。

 

春虎は、護符を一枚取りだし、状況を確認していた。すぐさま消し飛ばすこともできるが、それでは、咄嗟に作ったせいで、薄くなっている京子の結界が耐えられない

 

春虎は、自らの護法を呼んだ。

 

「コン!倉橋を任せていいか!?」

「し、しかし、私めは、春虎様をお守りすると言う使命が……」

「悪い、命令だ。倉橋を守れ!」

 

しぶしぶと言った顔で頷くと、春虎の投げた火行符によって、出来た道を伝って京子の元に行き、素早く印を結ぶと護符の結界にの内側にさらに、結界が張られた。

 

この時、さらりとコンは結界をすり抜けるという妙技を使ったのだが乱戦状態故に京子が気づくことはなかった。

 

京子の安全と、蠱毒に覆われているせいで、視界が悪いことが確認できたところで春虎も、呪力を体に巡らせる。そして、唱える。

 

「ノウマク・サラバ・タタギャテイビャク・サラバ・ボッケイビャク・サラバタ・タラタ・センダ・マカロシャダ・ケン・ギャキギャキ・サラバ・ビギンナン・ウンタラタ・カンマン!」

 

途端に、蠱毒から火が燃え盛り。そのまま燃やし尽くした。

 

不動明王の火界咒で、金剛手最勝根本大陀羅尼である。

 

迸る呪力に思わず目を覆っていた京子には、急に終わったようにしかみえなかった。回りを見ると、そこには、ほぉと一息ついた、春虎がいた。

 

「ねえ、やっぱりこれって」

「夜光信者だな、間違いない。そして、夏目が危ない」

「じゃあ、早くいかなきゃ!」

「ダメだ。倉橋は、この事を先生に伝えてくれ」

「春虎は?」

「俺は、勿論夏目のところに向かう。なんたって、俺はアイツのシキガミだからな」

 

言い終わると童子に走り出す春虎。その背中を少し羨ましそうに眺めると、自分の仕事をするために京子は、職員室へ向かった。

 

 

 

 

 

春虎は、走っていた。夏目のもとへ、迷わず、最短距離で、まるで、位置がわかっているように。

 

いや、実際に春虎には、わかっていた。これは、ひとえに、授業中仕組んでいた結界のお陰である。

 

 

シキガミとその主は少なからず霊的なパスで繋がっている。それは、霊力を込めればシキガミがそれだけ大きな呪を操れることからも理解はできる。

 

それは、仮にも契約をした、春虎と夏目も例外ではない。春虎とコンほどの繋がりではないものの、わずかではあるが存在はしているのだ。春虎が作っていたのはそれを利用するものだった。

 

理論は簡単で、夏目が攻撃的な呪術を受けると、その霊的なパスを通じて春虎に伝えると言うもの。何かあったとき、まさに今のような状況のために朝登校中に忍ばせておいたのだ。

 

そして、蠱毒を始末しているとき、その反応があった。つまり、春虎は、蠱毒がきたから、夏目が危ないと推測したのではなく。夏目が襲われているから夜光信者の仕業だと断定したのだ。

 

そして、いまは、その信号を逆手に逆から送られてきている方をたどり、夏目のもとへ、向かっているのである。本当は、夏目へ向けられた呪術を弾いたりする結界を展開する、ぐらいにしたかったのだが、いかんせん時間が足りなかった。

 

走っているうちに、見覚えがある道を辿っていることに気づく

 

(この道は…………呪練場か!)

 

 

そして、呪練場につき、一秒の躊躇いもなしに、その扉を開けた。

 

その先は

 

 

身体中に呪符を張られ、意識を失って寝転がっている夏目と隣に佇む一人の男がいた。

 





飛車丸角行鬼(笑)との戦いは、楽しみです。

そのあとの展開、また、感想で先読みされてました。

読者の中に優秀な星詠みがいらっしゃる……。


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狂謀

遅くなりまして、申し訳ございません。

たくさん感想にもいただきました。

(笑)と(本物)の邂逅です。


今回、一つ下手な掛詞を入れてみました。分かってくれると、大変嬉しいです。(謙遜なしに下手です、てか、恥ずかしい)


 

まるで、狙いすましたかのようなタイミングで、夏目が目を冷ます。ただ、身体中に張られた呪符のせいで身動きは取れないようだ。だから、出せるのは大声で叫ぶことぐらいだった

 

 

「避けて!春虎くん!」

 

 

普段は一応おしとやかにしている彼女が、さらに、昔の呼び方に戻ってまで、叫んだのは、春虎が入ってきた瞬間その上から飛び降りてきた、大きな鬼を見たせいだった。隣の男はニヤリ

 

 

「もう遅い、やってしまえ角行鬼!」

 

 

男は、しっかりと鬼がその男を潰したのを確認すると、高笑いした

 

「あははは、所詮、天才などといってもそれは、学生レベル、プロに叶うわけないでしょう!」

 

男が見たということは、それ以上に注視していた夏目も見たわけで、それゆえに、ダメージは大きかった。

 

 

自分を助けに来てくれたのに、自分のせいで、またまきこんでしまった

 

私のせいで、私が夜光の生まれ変わりなんかになるからっ

 

春虎くん、春虎くん、やだよぉ、置いてかないでよぉ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「置いてなんか行くかよ、ばーか」

 

 

瞬間、青い炎が辺りを包む、さらに、突然の浮遊感、まるで、空を飛んでるような感覚に陥る。

 

あの声……そして、ハッとする。

 

 

「は、春虎くんっ!?」

 

 

でもなんでっ?という叫びは押さえつけられた手によって遮られた。そのせいで逆に冷静になった夏目はいつの間にか自由になったからだを捻って、自分のこしを抱いて運んでいる主を見る。

 

そこには、懐かしい顔、何年も何年も隣で見てきた、大好きな顔

 

 

「春虎くん」

 

今度のは、叫び声ではなく、涙声だった。それに、気づいた春虎は、ニカッと笑って動かしていた、足を止めると体の向きを走ってきていたほうに向けた。

 

 

「でも、どうして、確かに私は…… 」

 

そう、私は、見た。という夏目。対する春虎は、うーん、とほんの少し唸ると、視線を前に向けたまま答えた

 

 

「マジシャンとかがよく使う視線誘導って、隠行と相性いいんだ」

 

 

夏目はよくわからずポカーンとするが、春虎は、またあとで、と付け加えた。

 

 

 

春虎がやったのは、実に単純なことだった。

 

 

部屋に入る直前自らの前に自分そっくりの簡易式を作り出す。そうして、部屋に入ると、当然そちらに自然と注意が向く、その後ろに隠れ、しかも、隠行を使うというのは、絶妙に相性がよく。さらに、敵のいるかもしれない部屋に入るとき、夜光に取っては、定石のようなものだった。

 

そこからはもっと簡単。悦に入った男の無意識に隠行で入り込み夏目の元に到着。コンの狐火を撒き散らして走って逃げた。ただそれだけだ。だから、春虎が、

 

「プロなんてこんなものか」

 

と呟くのも、それを聞いた男がさらに、狂乱状態に陥るのも仕方のないことだろう。

 

 

突如として炎が襲ってきて、夏目がいなくなったことで、混乱していた男も春虎の台詞を聞いて、逆に冷静さを取り戻した。

 

「改めまして、北辰王、自己紹介させていただきます。私、あなた様にお仕えするために生まれ変わりました」

 

そこで春虎は、妙な悪寒を覚える。そして、思い出す、あの男があの鬼を角行鬼とよんだのを。そして、生まれ変わった、お仕えるする………………

 

 

 

瞬間、背後から怒気、霊気でなく怒気がそこらの鬼の鬼気を悠々と押さえつけられるほどに溢れ出す。主と同様、その男がなんと言おうとしているのか察したからだ。

 

飛車丸にとって、その名と夜光に、今は春虎に仕えるというのは、使命であり、誇りであり、生きる意味である。それを、穢されたのだ。春虎もそれは分かっていたが、ここでは、情報を得るためにと無理矢理押さえつける。

 

飛車丸は、怒気をそのままに春虎の斜め後ろに控えた。だが、男は、怒気に気づかない。

格上の剣客のその力量に気付けないのと同じように、次元を越えた怒気ということなのだろうか。

はたまた、男が興奮しているせいなのか。

真実を知るのは、春虎のみである。

 

 

「私が、飛車丸。そして、彼が角行鬼です。はじめまして、いえ、こう言うのが正しいですね。お久しぶりです、北辰王」

 

強まる怒気、気づかずに続ける飛車丸(笑)

 

「ああ、そんな怯えた顔をして、いかがなされたのですか。やはりまだ、記憶を取り戻してはいないのですね」

 

(とりもどしてるよ)

 

春虎の心の声は、誰にも聞こえない

 

 

「そして、その男が邪魔なのですね、そうです、ええ、そうにきまっています。あなた様がそんな男を式神、式神などとっ!あなた様に相応しいのはなかったこの飛車丸の生まれ変わりたる、わたくしと、彼だけです。ですが、言葉だけでは、足りないでしょう。ただ今、そこの男を消して差し上げます。北辰王、しばしばお待ちを」

 

 

その物言いに僅かながら違和感を覚える。夏目は、その男のイカれた目と語りに気圧されてなにも言えなくなっている。おそらくは春虎が入ってきたと同時に閉じられた扉が結界で管理されていて、逃げることが出来ないということもその原因のひとつである。

春虎にとって、それは、全透性をもつ膜に等しいとしても、だ。

 

そして春虎は、その理由にいたる

 

(……操られている?しかも、かなり巧妙に。何日何時間とかけてゆっくりと )

 

アイコンタクトで後ろの式に確認すると、相手からも似たような返事がかえってきた。二人はこういうことが好きそうな人を、というか

 

人のような人でなし

 

を知っていた。

 

そのせいで、これから始まることにさらにうんざりしてきた春虎だが、しっかりと気を引き締め直した。

 

 

男が動き出す。

 

駄々をこねる子供のように呪符を投げまくる。春虎の目は、ちゃんと、その術式ぐちゃぐちゃであることを見抜いていた。が、しかし、逆に今回はそれが功を奏す。

 

ぐちゃぐちゃな呪術がそれぞれ暴発しあい、まるで、粉塵爆発のように、瞬く間にそこらじゅうで 爆発がおきる。自らは、角行鬼(笑)の頑丈な体を盾にして、凌いでいた。

 

これは角行鬼だから可能なのであって、人間なら、たとえ護符を使っても簡単は凌げるものではない。そう思っていた、この男は。

 

 

果たして、爆発の煙が晴れたところを角行鬼影から体を出し、見ると、五体満足、全く無傷の二人が現れた。少年のほう、春虎は、その口を大きく歪ませながら

 

 

 

「コン、夏目を連れて離れろ」

「ですが、先程も申し上げましたように」

 

なぜか、戦闘中はどもりがなくなるコンは、先程も主の役に立てなかったことに不満を持っており、今回こそと意気込んでいた、さらに、不愉快なことが有りすぎてどうしても手伝いたかった。

 

 

それを見越していた春虎は、コンが全て言い終わる前にその耳元に顔を近づけ何事か呟いた。

直後、その真っ白な雪化粧のような肌が真っ赤に染まる。恥ずかしいのか嬉しいのか、はたまた、全く違う感情なのか。それは、その喜色満面、押さえつけられない喜びが表に出てきてしまっている顔を見れば一目瞭然だった。

 

 

そこからのコンの動きは早い。

 

 

夏目の男子用制服の首根っこを掴んだかと思うと、宙を飛び、春虎から、離れていった。

 




読んでいただいてありがとうございます。

評価、感想。その他もろもろ、どうぞよしなに




次で、二章、原作二巻の文は終わりです。これは、真実です。呪術の真髄ではありません


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烏剛の終

二章完結です。


前回の伏線分かっていただけましたか?

ちゃんと回収します。


あと、タイトルに関してですが、これは、間違いではなく意図的にやってます。一応意味を込めてるんですが…………自分で説明って恥ずかしいですね。知りたい方がいたら、お教えしますが、おすすめはしません(恥)


コンが夏目をつれて離れたのを確認すると、春虎は、偽物角行鬼、飛車丸コンビを覆うように結界を展開する

 

「ほほう、一瞬でこれだけの結界を作り出すとは結び姫ともいい勝負をしそうだ。式としての行動なら良いでしょう、しかし、あなたは今2対1になってしまいましたよ?」

 

偽物飛車丸は、ニタァと笑いながら春虎に言う

 

「それに、なぜ地面まで張る必要があるのです?」

「それは、そのデカブツが床ぶち壊してあいつを襲いにいくかもしれないだろ?」

「ほうほう、確かにそうです、ですが心配ご無用、こんな結界、私の壺毒でっ!」

 

そういって、結界に向かって壺毒を放った瞬間、結界は、壺毒を弾き飛ばした

 

「なっ!!」

 

これには、驚きを隠せない様子、そこへ春虎が説明を加える

 

「この結界は俺のアレンジ版でな、呪術を不規則に弾き返すんだ、気を付けたほうがいいぜ」

「くっ!癪な真似を。ふふ、ですが、数の利は、まだこちらが上です。やってしまいなさい角行鬼!」

 

その巨体に似合わず、本物には及ばないが、それなりの鬼気を発しながら、しかし、凄まじいスピードで春虎へ走る。もしかしたら、ベースは結構長い間生きた鬼のなのかもしれない

 

それを見た春虎は、人差し指をクイッと上にむける。すると、狙い済ましたように角行鬼の足元の結界が膨らみ、それに引っ掛かった角行鬼は、派手に転ぶ。飛車丸の方は、そのために地面まで結界を張ったのか、という顔をしている

 

(まぁ、違うけど)

 

心で春虎は、否定するとすぐさま呪文を唱える。

 

「東方、阿迦陀(あかだ)、西方、須多光(しゅたこう)、南方、刹帝魯(さつていろ)、北方、蘇陀摩尼(そだまに)、ソワカっ!!」

 

ただし唱えたのは、呪詛でも攻撃でもなく、雷除けの呪文

 

夜光の作った『帝国式陰陽術』にはあるが、その汎用性の低さから『汎式』には取り入れられなかったものだ。

 

しかし、相手は仮にも呪捜官、それがどんな呪文であるくらいは分かった

 

「なぜこのタイミングで雷除けを?あはは、とちくるいましたか?バカですか、やはりあなたは北辰王の式たる資格はない!」

 

既に、角行鬼が起き上がってきている。そして、体制が整うのと同時に飛車丸も符を構える

 

「あなたは、これで終わりでーーー」

 

そういって、呪符を投擲するよりはやく春虎が動いた

 

「弾けろっ!急急如律令!!」

 

投げたのは木行符、しかし、かなりアレンジされている。呪符から飛び出したのは、雷、春虎の呪力を有らん限り溜め込んだ木行符は、周りに雷を撒き散らしながら、角行鬼へと向かっていく。

 

しかし、それだけではない。

 

撒き散らされた、雷は、春虎が仕掛けた特殊な結界によって、勢いを殺されることなく、乱反射する。春虎が地面にも結界を張ったのはこのため、雷を止めないためであった。

 

呪符が二人に近づく頃には、まわりすべてを雷によって、覆われていた。

 

ここで、偽丸は気づく

 

(そうか、そのための雷除けかっ!!)

 

 

実際に春虎は、一歩も動いていなかった。まるで雷が自ら避けているように、春虎には、雷が当たっていない

 

 

「なめぇるなぁーーー!!!」

 

 

 

偽物飛車丸は、最後のあがきに、護符をとりだし、今ある全呪力を注ぎ、後ろを囲うよう展開する。そして、自らは、角行鬼の後ろに回り込み、それを盾とする。護符による結界の範囲を狭めることで、その強度を高めたのだ。

 

「はははは、どうだ、飛車丸のちからはぁ!!」

 

叫ぶと同時に、雷が当たり、その衝撃で辺りがとんでもない光に包まれる。思わず目をふさいだが、その後、すぐに目を開け、意識があることを確認すると、偽物飛車丸は、自分の勝利を確信した

 

 

「あはははは、これで、わたしのかち…………」

 

そこで言葉が途切れる、いない、いないのだ。恐らく雷の影響で消し飛んだであろう角行鬼はともかく、あの呪術を放った張本人、春虎がいないのだ。

 

 

「貴様、どこにいーーーー」

 

 

 

 

 

「残念だったな。敵を見失うのは、三流の証だ」

 

 

彼は、後ろから聞こえたその言葉を最後に、意識がプツンと途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

春虎がやったのは単純なことだ。鈴鹿のとき使ったのと同じ。

 

雷による派手な閃光に紛れて、隠行を開始、すぐさま、相手の後ろに回り込むと、不動金縛りを唱えて終了。実にあっけないものだった。

 

 

 

 

 

 

「春虎くんっ」

 

 

 

結界の外で隔離していた夏目が駆け寄ってくる。目を輝かせて、一応、陰陽塾の生徒だ、今行われていたのが、外から見ていて、そのレベルの高さを理解していた。

 

 

 

「は、はるとら、い、今のは……?」

 

「んーーまぁ、なんだ。説明しづらいんだけどぉ……………………」

「誤魔化すなっ」

「あーわりわりー、お袋におしてえもらったんだよ、知ってるだろ?」

「え…………たしか、プロの時のあだ名は、陰陽庁のマドンナ?だっけ?」

「はぁ、そっちしか教えてもらってないのか、ちなみにそれは嘘だからな、本当のあだ名は、人間発電機、だ」

「発電機…………あ」

 

秘密に気づいたらしい夏目は、騙されているとも知らずに、春虎の話を聞きつづけていた。

 

 

そんなふうに言い訳をしていると春虎の感覚に、そこはかとなく懐かしい感覚がとどいてくる。

 

 

夏目の質問そっちのけで、いつの間にか傍らに侍っているコンにこっそりと、話しかける

 

「おい、コンこの感じって……」

「え、ええ、あやつめであります」

「あやつって、連絡とってなかったのか」

「はい」

「まぁ、とりあえずお話にいきましょうか、久しぶりだし」

「ええ、あやつなら構いはしません」

 

「ってことなんで、行ってくるわ。あ、もう少ししたら京子が先生を連れてくると思うからそっちに任せといてくれ」

 

またまたいつぞやのように、ピゅ~と効果音が聞こえるようなスピードで走っていく

 

なにがどうで、そういうことなのかさっぱり分からない夏目は、ポカーンとしたまま、呆けていた。

 

 

 

 

 

 

 

塾舎ビルの近くに止めている車に乗っていた老人は対戦の結果を見届けると退屈そうな顔をして言った

 

「なんともはや、期待はずれじゃな。いや、もう片方が期待以上ということかの」

 

うってかわり、おもちゃを見つけた子供のようにニヤッとして、笑う

その、死人のような佇まいで笑う様子は、果てしなくゾッとさせるものだった。すると、突然後部座席のドアが翳った。

 

「よお」

 

窓のすぐ上から野太い声がかかる

 

実に二メートル近いその巨漢の男は、また、その身長にふさわしい服の上からでもわかるほど筋骨隆々たる体躯を誇っていた。短めの金髪に南欧の血を感じさせる堀のふかさ。

 

その体な本物の鬼が発する鬼気を少し漏れさせながら言った

 

「他人の名前を無断で使うのはやめてほしいな」

 

「じゃが、お主も気になるだろう?」

「別に」

そう答えた、男は、どこか嬉しそうだった

 

「冷たいの、もうかれこれ六十年以上たつんじゃぞ」

「たかが六十年だ」

「たかがか、儂は、この六十年で大いに鬱憤がたまっとるよ?」

「あんたはいい加減おちついたらどうだ?」

「いい加減と言われても、ずっとこんなだったからな」

「まったく、あんたがでてくると、面倒ごとが増える」

 

男の文句にふふっと小気味悪く笑った

 

「それはそうと、お主は自分の鬼気に無頓着過ぎるぞ。前にも言ったと思うが、もう少しまともに隠行できんのか」

 

「悪いな、昔から、その辺は雑でね」

 

 

「全く、ホントにそうだよな、お前は」

 

突然入ってきた、その言葉に二人は否応なく臨戦体制にはいる。

 

男は、自らが隠れるのは苦手でも、見つけるのはそうじゃない、さらに、老人の方も、かなりの手練れだ。二人を欺き声が聞こえるほど近くにこれるものなどどれだけいるものか

 

 

「だから、少しは押さえろ、その鬼気」

 

その言葉と共に姿を現したのは、先ほど戦っていた少年だった

 

 

 

「久しぶりだな、角行鬼」

 

その言葉に、珍しくギョッとし、しかし、すぐにすかしたように、男は、笑った

 

「なんだ、もう戻ってたのか」

 

その言葉に、車にいた老人も目を細める

 

「おう、じいさんも相変わらず元気みたいだな」

 

「よぉほっほ、これは愉快愉快」

 

やがて真実にたどり着いた老人は、本当に楽しそうに笑う

 

「しかし、お主がおるということは……」

「ああ、もういる。飛車丸っ」

 

春虎が呼ぶと、その傍らにスッと現れたのは、先ほどの小さな狐憑きの子供でなく、美女だった。

 

「全く、お前は忠義ものだな 」

 

立ったまま、そう呟く男ーーー角行鬼を片膝をつき、春虎に頭を垂れている飛車丸が睨むと渋々と言った感じで角行鬼も膝をつく

 

「ほっほっほ、これまた、懐かしい景色よの」

 

二人の護法が、頭を垂れ、さらに、その主の肩に三本足の烏が乗っているのをみると、老人は、年甲斐もなくワクワクしてしまっていた

 

「じいさん、今はおれは、ただの学生だ」

「つまらんのう」

「これは、忠告だ、もし、陰陽塾に手を出したら……」

「ほぅ、やりあえるんか?」

 

思わず楽しい反応をした老人に自分の悪手をみとめ、方法をかえる

 

「まだ、術比べの借り、残っていたよな」

「ほっほ、それを出されると儂は、よわいのぉ」

「それならよかった。これでちゃらにしてやるから、手を出すな」

「ほ、りょーかいじゃ」

「全く、相変わらず食えないじいさんだ」

「全くだ」

 

返事をした角行鬼と顔を合わせて苦笑いする。

 

「それでは、この辺で儂は、おいとまさせていただくかのう」

 

そう言うと、乗っていた車が突然虚空にうき、抵抗を感じさせないように、フゥーと消えていった。

 

それを見届けると、角行鬼が、口をひらく

 

「ところで夜光 」

「今は、春虎だ、そう呼んでくれ」

「そうか、なら、春虎。様子を見る限り、隠しているようだが」

「あぁ、周りには、俺が夜光の転生であることは、隠してある。面倒になりそうだからな」

 

「まぁ……そうだな、それなら」

 

納得したように角行鬼が呟く、そして、それに、続くように口を開いたのは、春虎のほうだった

 

「ああ、飛車丸みたいに、姿を変えられるならまだしも、お前の場合は鬼気もある。しばらくは、一緒に行動できない」

「まぁそうだろうな」

「だから、お前に頼みたいことがある 」

 

このどこに、だから、とつなげられるところがあるのかわからない、無理難題を押し付けてくる感じは懐かしいものだった

 

「月輪を探してくれないか」

「全く、相変わらず無茶を言う」

「はは、そうだな、でもまぁ、こういうことは、顔が広いお前の方が得意かなって」

 

春虎は、飛車丸の方を見ながら言う

角行鬼もつられて見る。すると今まで黙って聞いていた飛車丸も我慢の限界だった。

 

「なんだその態度は!!」

「まあまぁ落ち着け」

 

飛車丸が喧嘩を売って、角行鬼が、それをさらっと流す。これもまた。懐かしい光景のひとつ

 

「それで、春虎は、これからどうするんだ」

 

そう、男が聞きたかったのは始めからひとつだった。此れからどうするのか、自分が仕えると決めた主が此れからどうするのか、とういことだ。これに対し春虎は、既に、決まっていると言わんばかりにはっきりと答えた

 

「夜光信者の過激な奴等を、狩っていくつもりだ」

「おいおい、いいのか、仮にもお前の信者だろ」

 

角行鬼の浮かべる表情には苦笑いと少しの自嘲。春虎は、100%の自嘲だった

 

「残念だが、俺はいま一応、夏目の式なんだ。あいつらを放(ほう)っておいたら、危害が及ぶのは間違いない」

 

それに……続ける春虎

 

 

「新たな陰陽を行く雛たちに危害が及ぶのは、俺としても看過できるものではないからな」

 

それを聞いて、角行鬼はフッと笑う。それは、嘲笑ではなく、呆れに近いものだった

 

「相変わらずだな、お前たちは」

 

「まぁな」

「貴様っ春虎様に対しお前とはなんだお前とは!!」

 

そして、相変わらずの飛車丸の空気の読まなささに二人してクスクスと笑う

 

「まぁなんだ、あの兎については、俺でできることをやっておく。ああ、それと、これ俺の番号」

 

途端に起こる沈黙とそれに続く笑い声、角行鬼は、ふたりの大爆笑に少しの戸惑う

 

「な、なんだ……」

 

「いや、何百年も生きた伝説の鬼が携帯を出して番号を教えてきていると思うと、面白くってな」

「っふふ」

 

飛車丸にいたっては、まだ止まっていない。流石に恥ずかしくなったのか、意外に可愛らしい一面を見せた角行鬼は、そっぽを向き、歩きはじめた

 

 

 

「また、な」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

男の振り返った顔は、とても嬉しそうな顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




これから、どうしようかと迷っています。

原作通りだらだら行くか。それとも、オリジナルストーリーにいくか

原作がいいなぁ、とはおもってますが、こんな話がみたいっ!というのがあったら、いってください

出来るならやります。出来ないなら出来ません笑笑





個人的には鏡くんを初手でぶっとばしたいです笑笑


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Dance with chimaira
大祓


予告では、2章までといったのですが、もう少しやります。

少なくとも、鏡くんには会います。とうとつに終了すると思うので、悪しからず。


 

その病室は外から厳重に鍵がかけられていた。

 

呪的処理のなされた扉に、真横に渡された注連縄、左右に飾られた榊の枝。

 

その真ん中で一人佇む一人の男。自分と同じくらいの男。

 

 

それが彼との初めての出会い。『縁』の始まり

 

 

 

 

 

 

終了を告げるチャイムがなる。同時に、塾生たちのため息が溢れて、教室の空気がだらしなく弛緩した。

 

早くも私語が飛び交うなか試験官の講師は試験用紙を回収して回った。

 

背筋を伸ばして座る土御門夏目の前から、そして、気だるげに寝落ちしている春虎の前からも。

 

春虎にとって、今回のテストで努力したのはただ一点のみ。いかに満点を取らないかということだ。

 

これには、カンニングの疑いと周りの塾生のモチベーションを考慮しての行動である。そのせいで、あっという間に終わってしまい時間をもて余したところ、睡眠を選んだというわけだ。

 

それをどう解釈してか夏目は矢のように飛び出す

 

「春虎っ、今の試験ーーー」

「ん?あぁ今のな。簡単すぎてビックリしたわ…………あ」

「やっぱりわかんなかった…………え?」

 

(や、やらかした。簡単なんて言ったら……飛車丸助けて)

 

まぁここの声など届くはずもなく、しかし、夏から続く、例の事件を境に、半年の間に夏目も春虎の実力に疑問は覚えている。

 

「か、簡単か。そそそ、そうだね簡単だったね」

 

無論、土御門としての名を重んじる夏目も勉学を怠っているわけでもないので、決して悪い点数ではないと確信している。でも…………

 

(か、かんたんかぁ)

 

気を抜いた春虎からの一言に呆気にとられるのは仕方のないことだった。

 

「そういえば、たしか、実技?とかもあるんだよな試験って」

「ええ、そうよ。内容はまだ伝えられてないけど。まぁ、あんたなら、大丈夫っぽいけど」

 

返答は京子からだった。あれ以来、春虎の席の周りに、冬児、夏目、京子、天馬が集まるのがこのメンバーの習慣のとなっていた。

 

「それいつわかるんだ?」

「んーあたしたちも初めてだからわからないけどもうすぐ教えてくれるんじゃないかしら」

「それならいいが、あの教師、忘れてたりしないよな」

 

春虎のその台詞を誰も否定できない辺り大友の人望の浅さがしかと窺えた。

 

「そういえば、冬児は?」

「あぁそれなら、おばあさま、じゃなかった、塾長に呼ばれたそうよ」

「おいおい、あのばか何やらかしたんだ」

 

 

 

 

 

 

「霊災の修祓?」

「ええ。それが今年の一年生に課せられる実技試験の内容です」

 

ヘアバンドをつけた強面の男に、塾長と書かれたデスクに座った老女は言った。

 

「それ、どういった魂胆で俺にだけリークするんすか?」

「それは、あなたの体質よ。一応担当医の方には確認は取ったけど、あなたにも一応話しておいたほうがいいと思ってね」

「ご親切にどーも」

「事情が事情ですから、今回は免除しても構いませんが」

「いいえ、大丈夫です」

「あら、案外軽いのね」

「そんなこと言って逃げてたら始まらないでしょう」

「そうですか、貴方のその勇気ある決断私は尊重します。大いに頑張って来てください」

「はい、それでは失礼します」

 

 

 

そう言って塾長室の扉をあけた瞬間ポケットの携帯が振動した

 

『塾長に呼び出されたって? なにやらかしたんだ?』

 

春虎からだ。あの返答が自分の力だけでは出来ないことを思いながら、返信をうち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

男は、焦っていた。

 

かつて、上司がある儀式を行って、丁度二年。さる御方のご助力をいただきながら、計画を進めてきた。

 

それが最近、仲間たちが次々やられている。

 

呪捜部内の仲間でさえその存在を掴めていないらしく、正体をばらさずに標的をちゃくちゃくと仕留めていくその所業と、闇に紛れる黒い服装から『死神』との愛称までつき始めた。

 

さらには、そのさるお方の言葉

 

「ほっほ、すまぬな。釘を刺されてしもうた。儂ができるのはここまでじゃ」

 

かの存在なしにここまでこれなかった故にそれを引き留めるなど出来はしなかったが、やはり痛手だった。それでも、どうにか、その日までに準備を終わらせなければならない。

 

王よ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、陰陽庁祓魔局の第一オペレーションルームは慌ただしかった。午後にはいってから、各地で霊災が相次いだのだ。いずれも、フェーズ1の弱いものであったが、それでも、霊災である、見逃せるはずもなく、忙しくなるのは仕方のないことだった。

 

そのなかで、一人の、いや、次々と職員たちが鋭い声で叫び始めた

 

「霊災発生! 上野です」

「品川にも霊災発生! フェーズ2への移行を確認、直ちに応援要請を!」

 

ほとんど間を置かずに報告をあげてくる。室長は驚きつつもそれぞれに指示をだし、修祓指令室に連絡を入れようとした寸前、彼のデスクの電話が先に鳴った。オペレーターたちとは違う回線、霊視官との直接回線である。

 

そこから聞こえる台詞に「なんだとっ!?」と声を荒らげると受話器をおき、言った。

 

「れ、霊脈に乱れがあるそうです。それも尋常でないみだれが」

「どこに?」

「それが……」

「どうした、どこなんだ?」

「……と、都内全域で少なくとも感知できる範囲では全ての霊脈に異常が発生しているそうです」

 

愕然とするなかさらに追い討ちをかけるように報告がかかる

 

 

「こ、こちら、第6小隊、ダメです、我々だけでは結界の維持が出来ません! 霊災、フェーズ3に移行します!」

 

 

 

 

その後、『上巳の再祓』と呼ばれる事件の始まりであった。

 

 

 

 

 




たくさんのご意見お待ちしております


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修祓

青春シーンはやりたい!いや、是非やりたい、ただ…………上手く描写する自信が……


この調子なら三巻なら……鈴かに会いたいな
ということで、もうそろそろ鏡くんが来るかな?


たくさんの感想ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。


 

 

進級試験前夜

 

 

 

あの事件の後、夏目が「式神は、主のそばにいるべきだ、それを再認識した!」などと騒ぎ立て突然男子寮しかも春虎の隣の部屋に住まいを移すことになって以来、春虎、冬児、夏目の三人は夜に春虎の部屋で集まるのが日課となっていた。

 

それは、試験を明日に控える今夜も変わることがなかった。

 

「冬児どうしたんだ?」

 

いつもと様子が少し違う冬児――とはいってもほんのわずかではあったが――に気づいた春虎が冬児に尋ねることから今回は始まった。

 

「いや、話そうか話すまいか迷ってたことがあったんだが、まぁどーせわかることだしいいか」

「ん? なんだい急に改まって」

「実はな、俺だけ明日の実技の内容を教えてもらったんだ」

 

「「はぁ?」」

 

春虎と夏目が同じタイミングで同じように白い目を向けて言った。冬児も言葉足らずだったことを分かっていたのか、気にせずに続ける。

 

「まぁ俺の体質に関わることだったんだが」

「体質……? 確か霊災がなんたらとか?」

「そういえば、詳しくは夏目には教えてなかったな」

「で、それが、なんで関係してくるんだ?」

「そりゃ明日は、霊災の修祓をするらしいからよ、疑似だけどな」

 

 

「それは……大丈夫なのか?」

「あぁおまえのおやっさんからも許可は得たらしい」

「そうか、なら――――」

「ちょっとまって、ぼ、僕を置いていかないでくれるか!?」

 

あまりにもスラスラと二人が話していくのでなかなか入り込めなかったが、気を取り直してようやく夏目が割って入ってきた。

 

「あーすまん夏目」

「全くですよ、春虎君はいつもそうなんですから」

「地が出てるぞ」

「春虎君の部屋の中はいいんですっ」

「いいのかよ」

 

 

呆れたような二人に何処か誇らしげにない胸を張る夏目の、で結局なんなんですか?という質問に、二人は顔を合わせると冬児の体について説明し始めた。

 

 

明日を迎えればちょうど2年前、『上巳の大祓』と呼ばれる大規模な呪術テロが起こった。いや、起こされたが正しい。

 

御霊部部長『導師《プロフェッサー》』の異名を持つ大連寺至道が自らになにかを降ろしたことによりなされた、史上初の呪術テロリズムだった。

 

たまたまそこの近くに居合わせた冬児がたまたまその霊災に巻き込まれ、そして、憑かれた。

 

夏目も既知であろうが、説明しやすかったので始めから説明し、終わったところで、それまで堅かった雰囲気も

 

「いやぁ鬼に成りたいとは思ってたが、まさか、マジもんの鬼に会うとは思わなかった」

 

という一言で和んでしまった。土御門の末裔である夏目だからこそ驚かなかったのであって、他の人なら生成りしかも、鬼の、生成りとあれば、怖がられるに違いない。

 

そういう思惑があってこれまで黙っていたが、夏目ならあるいは……とのことで案の定大丈夫だったというわけだ。

 

冬児は、大丈夫だ。と言うが、春虎だけが隠れて鋭い目付きをしていた。

 

冬児を、「視て」気づいたからだ。冬児は、今でも定期的に検診をしているが、前回の検査を終えて真面目に「視た」のは、今日が初めてだった。

 

それ故に、封印が緩くなっていることにたった今気づいたのだ。

 

仮にフェーズ2、ましてや、フェーズ3に移行したなら間違いなく冬児は耐えられない、過去の経験と天才的な呪的センスによって春虎はそれを見抜いていた。

 

その日はそれから少し雑談した後、各々の部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼下には、東京の町が広がっている。別段懐かしくも思い入れもない。ましてや、戻ってくるとすら思っていなかった。あの日――すでに12時を回っているためちょうど2年前となる――俺は初めて本能的な恐怖を感じた。

 

霊災となると、たとえそれが小さなものだとしても、脳裏にあの映像がフラッシュバックされる。明日のことを考えるとなかなか眠れないのであった。

 

夕刻なら、黄昏ていると言って良いような格好で外を眺めていた冬児に、突然後ろから声がかかる。それと同時に黒い物体が飛んできた。

 

「眠れないのか?」

 

春虎だった。黒いのは缶コーヒーだった。無論あったかぁ~いだ。

 

「お前こそ、緊張してんのか?」

「バカも休み休み言えっての」

「っふ、素人が大きく出たもんだ」

「お前が言うなっての」

 

そこから、たったの二言三言交わして春虎は出ていってしまった。おおよそ明日の件でフォローしにでも来たのだろう。ついさっき、親父の方にも同じことをされた。思わず冬児は苦笑いする。

 

「全く、フォローするタイミングがそっくりだぜ」

 

そういった冬児の顔は、何処か嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっいいわ。その調子よ」

 

京子の声が響く。たった今、生徒による修祓が行われている。

 

そもそも、霊災修祓には、二通りの手段がある。

 

一つは、今まさに彼らがやっていることだ。霊災を、結界で隔離し、その上で霊気の偏向を分析、それを是正するように働きかける。

 

そして、もう一つは、偏った霊気を丸ごとより強い呪力で散らしてしまうことだ。

 

春虎のクラスでは生徒を二手に分けることで片方が結界を、もう片方が霊気の偏向を是正すべく呪術を行使していた。

 

春虎は後者に属していたが、片手間に、結界を、手伝っていたのは言うまでもなく、そうでなければここまでスムーズに修祓がおこなわれることはなかっただろう。現に現在ほとんど修祓が、完了している。

 

事情により先生側にいる夏目を含め、教師陣はその手際のよさに感心していた。京子の手腕であることを誰もが信じており、春虎の力にはだれも気づいていなかった。

 

「冬児は大丈夫なの? あんた霊災に被災したことあるんでしょ?」

 

「ああ、完璧に制御できてる」

 

修祓中でも回りに気を配り、全体をリードしていることが、それの一因であると言わざるを得ないが、先程の冬児と京子のやり取りは、噛み合っているようで噛み合ってはいなかった。

 

陰陽塾の塾生といえど、濃密な瘴気の前では無防備にも等しい。天馬を含め、少なくない人数が吐き気を我慢したり、立ちくらみをこらえながら術を使っていた。実際に倒れたものもいる。

 

いくら、フェーズ1の擬似霊災といえども簡単ではないということだ。

 

そして、ある程度大丈夫だと、見切り、春虎が補助をやめたその瞬間だった。

 

「……あれ? おい、なんかへんじゃないか」

「お、おかしいわよ、これ…………霊気が強くなってる?」

 

生徒の中から、そんな言葉が飛んできた。

 

(見誤ったか…………いや、これは……霊脈か!)

 

一度は、間違えたものの、その尋常でない変化に春虎はすぐに気づく。それを裏付けるように、地面のタイルから、先程よりもより強く霊気が吹き出し始めた。

 

 

そのせいで、一部の生徒が気を失ったりして、身動きがとれない状態にある。

 

「先生!!」

 

叫んだのは京子だった。それに応えるように、教員、藤原も指示を飛ばす

 

「教師は結界の強化を、生徒の安全を第一に。倉橋、君は祓魔局の緊急コールセンターに連絡してくれ」

 

それからは、さすが陰陽塾の教師陣。素早い動きで、霊災を囲み生徒を救出した。しかし、更なる問題が発生する。

 

「冬児!? しっかりしろ!」

 

教師陣と共に遠くにいた夏目が一人うずくまっている生徒を見つけ叫んだ。

 

春虎も思わず舌打ちして、冬児のもとに向かう。

 

「冬児……どうだ?」

「まだ……保つ……が、余裕はねぇ」

 

春虎も「視て」確認する。確かに余裕は無さそうだ。ここでどうにかする手段はある……が、ここまで大勢だと少し渋られた。それに春虎は、こっちに向かってくるより大きな気配をつかんでいた。

 

 

教師陣と、彼らに協力を仰がれ、北斗を召喚し手伝った夏目たちが修祓を、終えると、今まであった緊張感が、糸が切れたように緩くなった。ただ、3人を一人を除いて。

 

「みんな、離れろっ! いますぐにだ!」

 

声は下を向いてる冬児からだった。春虎のもとには、危険を察知したコンがすでにその姿を現している。

 

その直後、彼らの足元に影が落ち、通りすぎた。

 

次の瞬間、北斗による修祓で大きく削れた霊災跡に、ドシャリと音をたてて『それ』は着地した。

 

「フェ、フェーズ3……なぜ?」

 

その声は誰のものだったか、そんなことを聞く余裕すらみんなにはなかった。それは、急に口を裂けんばかりに開くと凄まじい雄叫びを放つ。

 

ギュワァーーーーーー!

 

 

それに乗せられた霊気に、ほとんどの塾生が耐えられず吹き飛ばされる。優秀なはずの教師陣でさえ立っているのがやっとだった。そんな中でも、春虎の頭は冷静だった。

 

「春虎様、こやつもしや……」

「あぁ、何か恐れてるな。手負いか?」

 

隣で囁く式に返事をする。

 

フェーズ3『タイプキマイラ』――陰陽師たちの間では「鵺」とよばれる動的霊災だ。

 

そこでやっと気を取り戻した藤原が叫ぶ。

 

「くっ!? 急急如律令」

 

 

瞬間、投げた呪符から、目映い光が飛び出す。それと同じくして、鵺も絶叫をあげる、が、それは、痛みに対してではなく、怒りからくるものだった。

 

「私が囮になる、教師は、生徒を!」

「しかし―――!?」

「愚か者! 全滅するぞ!」

 

そう言いながらも、連続で呪符を投げ自らに注意を引き付ける。さすがに教師陣も生徒の避難誘導に向かう。

 

夏目が簡易式で気を失った生徒の避難を手伝っているため、春虎は、直接竜の方を呼んだ。

 

「北斗!」

 

すると、まるで主に命令されたごとく鵺に向かう。北斗には、すべてわかっているのかもしれない、が、今はそれどころではなかった。全員の意識が他に向いている間に冬児を押さえる。

 

「オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカ」

 

不動金縛り、これは、霊を縛り付ける術である。それを使って春虎は、冬児の中の霊を無理やり冬児の中に押さえつける。しかし、これも一時しのぎ、少しでも刺激が加われば途端に瓦解するのが見えている。

 

 

そして、藤原が必死の思いで食い止めているなか突如として鵺の動きが鈍る。そして、何処かを警戒するように唸り声を上げた。

 

鵺が怯えるのは、藤原ではなく、北斗でもなかった。

 

 

 

 

「なんだぁ~」

 

 

ザッとエンジニアブーツがタイルを踏む。その声は、怒声でも大声ですらもないのに、その場の全員に届いた。

 

「ガキどもが俺の獲物囲んで何やってやがる。おまけになんだマジもんの竜までいんじゃねぇか、どうなってやがる」

銀髪を刈り上げ、ミラーコーティングのサングラスをかけた、若い男、ファーつきのコートにだらけた姿勢で、しかし、恐ろしく堂々と霊災現場を眺めている。額には×印のタトゥー。

 

男の登場で、恐ろしく騒がしかった現場が、あの鵺でさえも静かになった。

 

藤原も思わずその名を口にする。

 

「お、鬼喰い。オーガ・イーター……」

 

それに対して、男は睨み付け言い返した。

「おいじじい、その名で俺を呼ぶんじゃねぇ。俺の名前は鏡伶路だ。十二神将相手にチョーしくれてっと、ぶっ殺すぞ」

 

 

 

 




ありがとうございます

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出現



すみません、鏡ボコボコに至りませんでした。誠に申し訳ない。


でも、またすぐに次話を上げます。ええ、それは、もう直ぐに。多分、27時ぐらいですかね?


お楽しみいただければ幸いです。






 

 

 

「独立祓魔官!我々は陰陽塾のものだ」

 

初老の男、藤原が鏡に向かって話しかける、というより、その声は、叫び声に近い。

 

理由なら簡単だ。先程から、鏡が鵺を挑発するようにその霊気を放っているのだ。

 

(あれが現代の天才たちか)

 

春虎は心で呟く。十二神将は、見たことがある、が、それはまだ20才に満たない体を呪的に改造された少女だった。自らの実力でのしあがってきた者に春虎は興味があった。

 

鵺がいるという非常事態であるがここは見守ることにしたのだ

 

とはいってもなにもしないわけにはいかない。おそらく、冬児はもうそろそろ限界だ。このまま鏡の霊気を浴び続けていたら怒り狂った鵺がまた、あの雄叫びをあげるかもしれない。そうなれば、冬児は終わりだ。そして、春虎は呪力を練ると、そっと人差し指を地面につけた。

 

 

この行動が幸いした。

 

 

ーーーヒィィョオォォォォォォォォ!!

 

 

はち切れたように鵺が大量の霊気と共に雄叫びを上げたのだ。

 

 

「降魔印」と呼ばれる印がある。邪を退けるとされるそれは、その人差し指を地面につけるという動作から「触地印」とも呼ばれる。春虎がやったのはまさにこれだった。

 

鵺から雄叫びは、春虎を中心に冬至を囲むようにして作られた結界によって阻まれる。

 

春虎は印をその結びながら、周りを確認していた。

 

鏡は、その実力故全く動じずに立ったまま鵺を睨んでいた。そんなことは、春虎も「視て」理解していた。しかし、塾生たちは違った。

 

なんとか張れたのは藤原を含む何人かによる簡易結界で、とっさのことだったのだろうが流石に脆く、抑えきれなかった部分で天馬などの塾生が気を失って倒れていた。

 

 

ここで、鏡が、ようやく動く。

 

 

 

「うるせぇ『黙れ』」

 

その一言で途端に静かになる鵺。後ろでは、夏目が一人叫んでいる

 

「甲種言霊だ!……でも霊災相手に……」

 

帝式に名を連ねるそれは、相手の精神に働きかける強制力をもった言葉だ。その習得難度に加え、人相手ならまだしも、霊災相手にそれを使うことは、いや、使えることは、規格外と言えよう。ただ春虎が抱いた感想は全く異なるものだった。

 

(……不粋な。力任せな呪術だ)

 

 

すると、声を失った鵺が一気に前に飛び出す。その巨体を恐るべき速度で踊らせながら鏡に襲いかかった。春虎は攻防によってもたらされるであろう呪力に備え、触地印に注ぐ呪力を増やしながら見た。

 

 

「ウン」

 

 

種子。それも外敵を排除する軍荼利明王を表す真言だ。そのわずか一言の種子真言が、鵺の巨体を弾き飛ばした。そして、まるで電気を流されたように痙攣する鵺、その姿に、激しいラグが走る。溜まらずに鵺は、身を翻した。

 

空中を歩くように突き進むそれは、 物質的に曖昧な霊災ならではと言えよう。

 

「おいおい、今日は手持ちがねぇんだ。あんま面倒かけさせんなよ」

 

鏡は、ダルそうに言うと、両手をジャケットに突っ込んだまま鵺を見上げ一息に呪文を唱える

 

「ノウマク・サラバ・タタギャテイビャク・サラバ……」

 

不動明王の最も主たる調伏法である、火界咒だ。

 

爆発的な呪力が迸り、鵺を追うようにして、炎が上へ伸び上がる。鵺は、空中を蹴って避けようとするが鏡操る火は、追尾し易々とそれを捉えた。

 

「ギョェェアァァァァァァ!」

 

威嚇するように発していた先程とは異なる本物の叫び、そして、鵺は、そのまま落下した。

 

真下には、他の塾生を逃がすために尽力していたせいで、逃げ遅れた京子がいた。

 

「京子!!」

 

春虎は叫ぶ。京子は、苦しみを表すように声を滲ませると、とっさに二体の護法を操作し、その場から脱出した。

 

 

鵺が静まったお陰で辺りにほっとした空気が流れるなか、春虎が鏡に向かって怒鳴る

 

「おい!周りをよく見ろ!仮にも、倉橋の令嬢だぞ」

 

すると、鏡は、

 

「倉橋ぃ~?」

 

と京子の家の名前の方に反応した。

 

「倉橋って……いや、そうか陰陽塾っ。ってことは、その女。局長の娘か。ああ、まてよ、とするとその竜も……そいつ土御門の竜だな」

 

何処か楽しんでいるように続ける鏡。

 

「つまり、この中にいるんだな?土御門の次期当主のガキが。嘘かほんとかしらねぇが、例の、夜光の転生ってのがよ?」

 

そう言って辺りを見渡す鏡。春虎はそっと顔を伏せた。

 

(や、やっぱり、恥ずかしい)

 

虚勢を張ったものの、鈴鹿に継ぎ、自分が夜光としての、認識を持ちながら、他者を、夜光の転生と言われるとどうにも落ち着かない気分になる。

 

その間にも、鏡は、見るではなく、『視て』いた。十二神将クラスに、北斗と呪的に繋がっているのが誰か判断できないわけはなかった。そして、夏目の前で固まる

 

「…………お前か」

 

そのまま、夏目に向かって歩き出す。

 

「か、鏡!生徒に手を出すな」

 

藤原が叫び声をあげるが、甲種言霊で一蹴。

 

「へぇ、こりゃまた、随分と行儀の良さそうなガキじゃん。お前だろ?土御門」

 

夏目の前に立ちはだかり、愉快そうに笑っている。先程放った火界咒の炎が未だに鵺を焼き続けるなか、夏目は辛うじて声を上げた

 

「…………そ、そう……です」

「名前は?」

「つ、土御門夏目」

「ケッ、んな怯えんなよ。別に取って食いやしねぇよ。聞いてるぜ、お前大連寺のゴスロリ娘を泣かしたそうじゃねーか。あんなのでも、一応十二神将だ。そいつを負かしたんだから、もっと胸をはっててもいいんだぜ?」

 

ニヤリと笑いながら続ける。

だか、次に声を上げたのは、鏡ではなく、夏目の方だった。

 

「い、いえ、わた、僕はあのときなにもしていません。彼女を負かしたのは彼です」

 

そう言って、指差す夏目。その先には勿論、春虎の姿があった。

 

「なに者だ?」

 

鏡から、霊気と共に威圧をしながら春虎の方を向く。それに対して、春虎は飄々と、しかし、しっかりと鏡を見つめて、言った。

 

 

「土御門春虎、土御門の分家の息子だ」

 

 

 

 

 

 




今回、種子を、用いました。というか、鏡くんあれ愛用しているので出さざるを得ません。


しかし!


あんなの書けるわけがない。ということで、カタカナで書きました。

こういうの疎いので、もしかしたらできるのかもしれませんが、私にはわかりません。もし、可能なら是非ともお教えくださいっ!!


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説法

はい、宣言通り27時投稿でございます。


量はそれなりにあると思ったんですが、予約とかにするのも、あとがきの方で語る理由もあったので、全部とうこうしちゃいましたぁあはは

こんなに長いの、私史上初でございます。


24時頃1つ投稿しております。最初問題もありましたが、解決しておりますので安心してください。


毎度のことですが、本当に誤字が多いです。どうか慣用な心と叱責する強い心で私を、説教してください。誤字がある前提で話してすみません。


「あぁ?分家のガキだぁ?それに、何だ、そのとなりのガキは?あぁ?」

 

春虎は、心で舌打ちする。バレるに決まっているのだ。自分のは誤魔化せる。ただ、自分を誤魔化しながら他者をも、誤魔化せるほど、陰陽術は、万能ではない。

 

冬児をみて、ものすごく楽しそうに口をゆがめ、続いて罵詈雑言を並べたかったのであろうが、それは、後ろで、力を取り戻した鵺によって阻まれる。

 

奇襲だ。鵺は、狙っていたのだ、が、足りない、十二神将は伊達ではない。鏡は、まったくといっていいほど慌てなかった。強いて言えば、それまで、ポケットに突っ込んでいた手を出したことぐらいだろうか

 

 

すぐさま、空中を爪で引っ掻くように振るう。描くのは、早九字の格子紋(ドーマン)だ。

 

普通なら、九つの漢字を詠唱し、さらに、印を結ぶことで発動するはずのそれは、鏡によって一瞬で発動させれれる。

結果、鵺は、奇襲に失敗した。

 

これには、近くにいた夏目も大きく目を見開いている。春虎でさえ目を細めた。

 

「ったく……先にこっちを始末しておくか。いい加減、品川に向かったやつらまでこっちに来やがるかも知れねぇ」

 

面倒そうに呟いた。当然、声を小さくすることなく。無論、春虎にもきこえた。

 

まだ、春虎の変化に気づかない鏡は、なにか思い付いたように顔をあげ夏目に向かって喋りだした

 

「夏目だったよな、お前、あの竜使って、修祓してみろ」

「……え?」

「んだよ。今なら大分弱ってる。つか、本物の竜もってんだろーが。鵺ぐらいでビビって………………あ?」

 

鏡が言い終わることはなかった。後ろで、とてつもない呪力が爆発したからだ。それは、十二神将たる自分にとっても容認できないレベルのもの。振り替えって確認する。いや、確認するまでもなかった。「そいつ」は、真っ正面に鏡を見ていた。

 

思わず背中がぞくりとする

 

(おいおい、マジでなに者だよ、こいつ)

 

心の声に反して、鏡の顔は、新しいおもちゃを見つけたようにキラキラしていた。

 

「おい、バッテン野郎」

「あぁん?ガキがチョーしのってんじゃねぇぞ」

 

確かに、この呪力の奔流は凄まじい、それは、鏡も、認めていた、が、これだけなら、鏡はもっと凄まじいものを経験したことがある。そのせいで春虎の第一声によって高揚感が、おさえられた。

 

「貴様、先に始末、と言ったな」

「あぁ、だが、それがどうしたぁ?!」

「鵺以外何を始末すると言うんだ?」

 

クックッくと笑い始める鏡。春虎の話し方ががらりと変わったこと気がつかない。それは、呪力の流れに気を配っていたからであった。

 

「分かってるくせにわざわざ言わせんのか?いいぜ、教えてやるよ。お前のその足元に転がってるの、何かついてんだろ?」

「……」

「いや、なにかじゃねぇ。この臭いは鬼だ。鬼の臭いがする。おもしれぇ、はは、案外そいつが憑いたのは、二年前じゃねえのか?あぁ?」

「……」

「おいおい、どうしたよ?何かいわなーーー」

「すこし『黙れ』」

 

 

甲種言霊、鏡も先ほど使ったものだ。が、その威力使うタイミング、すべてにおいて、鏡を勝っていた。鏡は、柄にもなく困惑した表情を浮かべ、何かもがくように春虎をにらんでいた

 

 

(言霊……だと?俺が?たかが学生に?)

 

 

内心穏やかではなかった、しゃべれないままではまずいので、というか、黙らせられたのが、腹にたったのだろう、少しうつむいたままその場を動かない春虎に向かって走り始めた。

 

 

言霊を解くには、莫大な呪力で散らすか、術者の呪力を不安定にしなくてはならない。前者は、試したがまったくといっていいほど叶わなかった。それを感じて、 鏡の表情に高揚感が戻り始める。

 

そして、3歩歩いたところだった

 

「『動くな』」

 

(な……に?動かねぇ……だと?)

 

 

見ると言霊の主、つまりは、春虎がゆっくりと鏡にむかって歩いてきていた。ゆっくりとゆっくりと。鏡は、その光景に少しの不気味さを覚える。

 

そして、春虎が、顔をあげる、が、その顔は、鏡を、見ていなかった。その後ろ、鵺のいる位置だ。

 

 

その瞬間、大地が沸騰した。

 

 

いや、そう感じただけだ。正確には霊脈が暴走したのだ。動けない体で、しゃべれない口で鏡も、状況を把握していた。しかし、霊脈を乱した術者は気に かかっていた。十二神将といえど霊脈を、いじるのは容易いことではないのだ。残念ながら、春虎がいなかったらのはなしなのだった。

 

その場には、すでに、他の生徒は居なかった。いたのは、今にも鬼化しそうな冬児と夏目、春虎に鏡だけだった。鏡が夏目に絡んでる間、コンに頼んで藤原たちに軽いと暗示をかけその場を離れてもらったのだ。 冬児に至っては、触地印をやめ、より強力な結界に変えていたのが功を奏した。

 

春虎の配慮への気配りが出来たのは、そこまでだった。

 

 

 

 

 

鏡は、霊脈がこれほどまでに歪んだにも関わらず少しも自分を押さえつける呪力に変わりがないことにさらに、興奮していた。目の前にいるのは強者なのだと。

 

 

暴走した霊脈からわきでる障気を吸収し、今までの傷を癒すどころか、以前より格段と強い霊格を手に入れている。そして、一端離脱しようとしているところで、春虎は、自らの式をよんだ。

 

「コン」

「ここに」

 

目の前に膝まずいた状態で煙と共に現れる狐憑きの幼女、そこへ、春虎は三枚の呪符を手渡す

 

「俺は、あのバッテンを潰す。鵺を任せる」

 

とたん、コンの尻尾が千切れんばかりに揺れる。頼られると言うのは、コンに、飛車丸にとって、大変喜ばしいことであった。

 

そして、その特殊な呪符の三枚を受けとると、足元に複雑な呪文が描かれる。

 

呪術による歩行法。鵺が空を飛ぶということもあるが、飛車丸は、コンの状態において、空を飛べる。が、それは、もはや宙に浮いているというレベルであって鵺との戦闘について行けるものではないのだ。

 

三枚の呪符を渡された時点で、自分が飛車丸になることは許可されていないと理解できる。なぜなら、この呪符は、『コン』のために作られたものだから。

 

 

そして、呪文が終わると、いつもとは比べ物にならないくらいの早さで鵺を追いかけていった。その光景を見ていたのは夏目と鏡。冬児はうつ伏せになったままだ。

 

 

 

 

とりあえず諸々を終えた春虎はようやく鏡に、向かい合った。未だに動けていない。その顔は、言霊に、逆らえない悔しさと、強者と戦うという悦びで、酷いものとなっていた。

 

「待たせたな……といっても、返事もできないか。口だけは自由にしてやる」

 

口調からどちらの立場が上か入れ替わっていた。春虎の予想に反して、鏡は静かだった。もっと騒ぐとおもっていたのだ。

 

「ひとつ聞きたい」

 

春虎が鏡に尋ねる。鏡が黙っているのは、おそらく、呪力を練っているのだろうという春虎予想は、まさにその通りだ。しかし、バレないようにと行動するのが、人間の心理である。当然、鏡もそうした。

 

「………………なんだ?」

 

「貴様にとって、陰陽術とは?陰陽とはなんだ?」

 

「……っふ、下らねぇ。が、そうだな。強いて言えば、力を誇示するための道具だ」

 

「そうか」

 

どこか納得するように、しかし、力強い声でそう言い、さらに、続けた。

 

 

「ならば、俺が示すとしよう。俺が正すとしよう。俺がその腐った性根を叩き潰してやろう…………

 

決して陰陽の、新たな光を消させはしない」

 

 

実のところ、春虎は、憤怒していたのだ。夏目を脅されたからでも、京子を危険にさらしたからでもない。冬児という、陰陽師の新たな卵を消すといったことにだ。

 

 

そういったあとで、鏡も準備が終わったようだ。ッハ!と力強く叫んだあと、その体が動き始めていた

 

「今日は、生憎手持ちがなくてな、だが、そんことは関係ねぇ。ぶっ潰してやる」

 

鏡のいう手持ちとは、すなはち、呪符のことだ。その不利すら気にならなくなるほど鏡の気持ちは高ぶっているらしい。春虎が今からするのは、相手をこけにすることだ。バカにして、貶して、ボロボロにして、その自負を、慢心を、強みを粉々に砕いて叩き直すことだ。

 

もしかしたら、優秀な陰陽師を失うかもしれない、が、春虎の脳裏にそのビィジョンは存在していなかった。

 

鏡が動き始める前に、春虎が、行動を開始する。体のなかで丁寧に呪力を循環させ綺麗に練り上げ呪文がを唱える

 

「オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ」

 

ヒンドゥー教の軍神たるスカンダを前身にもつ、その足の早さで有名な増長天の一角である韋駄天の真言だ。

 

唱え終わったとたんに春虎はからだがものすごく軽く感じる。すぐさま、後ろを向き冬児を抱えると高速で夏目の元に向かった。

 

この時大切なのは、簡易な結界を張っておくことだ。詠唱者には韋駄天の加護により高速移動に伴う諸々の外的要因は排除されるが、持ち上げたり運ぶものはその例に当てはまらないのだ。以前、つまりは、転生前のかわいい思い出だ。

 

突然目の前に現れた春虎に夏目は、頭が追い付かない、何が起こっているのか混乱している。そういう状態の人間の意識を刈るのは、いとも容易いことだった。

 

背中に呪符を張ったとたん糸が切れたように倒れる夏目。そして、すぐさま、次の行動に移る。

 

「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」

 

慈悲の心を現すといわれている、薬師如来、または、薬師瑠璃光如来の真言。その力は、病や怪我を癒したと言う、が、その根底にあるのは、人間の自己治癒力を、高めるというものだ。

 

体の中の鬼との戦いによって高熱を発している冬児には、うってつけのものだった。

 

 

しかし、春虎が行ってるのは、それだけではなかった。春虎が韋駄天の恩恵を受けて依然として片指で数えられる程の時間しか経っていない。

 

人間の脳は、複数のことを同時にやる。いわゆる、マルチタスクを行うと、脳の処理速度は70%程落ちると言われている。では、効率よく仕事をする人はどうやっているのか、彼らはマルチタスクをしているように見えるだけで、効率よく順々にこなしているだけだ。

 

 

春虎がやっているのは、これの超高速版

 

 

高速行動によってまるで複数のことを同時に行っているように見える。効率よくやるを、めちゃめちゃ高速でやるに変えただけのことだ。

 

言うは易し行うは難し。

 

が似合うものだ。

 

 

冬児に治癒の呪術をかけるとほぼ同時に、禹歩が完了。そして、相手を挑発するのも忘れない。それも、今回の目的、自負を壊すことのひとつなのだから。

 

「ほらよ、使え」

 

そういって、腰に着いていた、呪符ホルダーのほとんどを無造作に鏡に向かってばらまく。鏡からしたら、間違えようのない侮辱。が、それを頼らなければ無勢にも程があるのも事実。小馬鹿にして慢心を汚すのに多分に効果的と言えた。

 

鏡の顔が怒りに歪むのを確認して、普段よりも多くの呪力を使用して荒らされた霊脈を、強引に捻り通る。そして、安全地帯、今回は陰陽塾へ届けるとすぐさま、鏡の元へと戻った。

 

 

霊脈を抜け地上に顔を出した瞬間、呪力で出来たサメが襲いかかる。

 

術者は、確認するまでもない。そう来るであろうと予想していた春虎は、未だ残っている韋駄天の恩恵でスルリと避け………………ることはせず、真正面から受けてたった。

 

「『散れ』」

 

途端に霧散するサメ、その先には、恐ろしいほど口を裂き、ニヤリと笑っている鏡の顔があった。

 

「待ってたぜぇ、春虎っつったよな。あんなことして、逃げるわけないもんなぁ。これだけ馬鹿にしてくれたんだ。すぐに終わんじゃねぇぞ!クソガァ」

 

「来いよ、バッテン野郎」

 

 

こらから、説法の始まりだ。

 

 




言うほど長くなかったですね。すみません。



前書きでいった理由は、まぁ、鏡との戦闘に入らなかったってだけなんですよ。読者としたら、イライラするんですよね、入る入るとか言いながら入らないの。経験したことあるので。

そんなことになるならと、一気に送った次第です。


以前にもあったような、意味のわからない頭の悪い文があったらいってくださいね。



今回は、原作にない真言を、用いました。

その恩恵と真言が、正しいものなのか私大変自信がありません。専門の知識があり、叱責すべきことがあるのなら、ご遠慮なくお申し付けください。

謝ったことを書くのはいけないことです。しっかり調べろと言われたらそれまでです。言い訳はしません。なので、先に謝ります。申し訳ございません


これからもお手伝い等どうかよろしくお願いいたします 読者の皆様とより良い作品にしていきたいと思います。


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衝突

ようやく、鏡戦とつにゅうです。

やはり、戦闘シーンは描写が大変苦手です。意味わからないところがありましたらお気軽にご質問ください。可能な限り説明いたします。


出来るだけ鏡のすごさを残したいと思いながら頑張ろうとしてると思います。

ど、努力はしましたよ?ほんとですよ?




予約投稿ですが、節分回の前につまり18話に入ってると思います。お間違えのないように



 

外から見える鏡とは異なり、彼の頭の中は極めて冷静だった。先程までは、格下にバカにされたと思い込んでいたのだ、だがそれは、もうやめた。春虎を同等、もしくはそれ以上の存在だと認めたのだ。

 

普通なら、ここで弱気になるところだが、彼の場合は違った。強いやつと戦う、一流と呼ばれる奴と戦う。その信念が彼の行動の根底にはあった。

 

既に、なりふり構っていられなかった。プライドより万全に戦うこと優先にばらまかれた呪符を数枚拾う。かなり広範囲に渡って落ちているのでたくさん拾っている暇はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

春虎が戻ってきたとき襲ったのも、鏡の仕業のひとつだった。ただそれだけでどうにかなるなどはなから思っていない。

 

「こいよ、バッテン野郎」

 

こっちを見る春虎の顔に少しイライラするが、そういった雑念は呪術戦においては、邪魔にしかならない。乙種と呼ばれるわけだ。

 

落ち着いて精神を集中し呪力を練り、印を結ぶ。

大日印。

 

春虎は、禹歩で戻ってきたばかりで、準備ができていない。容赦なく一息に鏡は唱える。

 

「ナマサンダ・ボダナン・カロン・ビギラナハン・ソ・ウシュニシャ・ソワカ」

 

数ある陀羅尼の中にあって、最強のひとつとされる尊勝仏頂点の尊勝陀羅尼。『帝国式』にある、尊勝仏頂陀羅尼法だ。鏡の編んだ密呪が怒濤のごとく春虎に肉薄する。

 

 

難度の高い帝国式であり、かつ最強の一つとされる呪術、さらには、鏡の呪力が相まって凄まじいものとなっていた。準備不足の春虎には、止める手立てはない、

 

そう鏡も思っていた。

 

 

春虎を見た鏡の目が驚愕に開かれる。大規模な呪術を前にして春虎は、印を結んでいた。

 

それも、大日印。

 

まさかっ!?そう口に出そうになったのを寸でのところでこらえ、呪術に集中する。

 

鏡の懸念は当たっていた。

 

春虎が流れるように唱える。

 

「 ナマサンダ・ボダナン・カロン・ビギラナハン・ソ・ウシュニシャ・ソワカ 」

 

全く同じ印を結び全く同じ陀羅尼を唱える。春虎の前にも、呪力の奔流が生まれる。今にもぶつかりそうだった鏡の呪術と衝突したのは、春虎本人ではなく、春虎の尊勝陀羅尼だった。

 

巨大呪術が衝突する、互いに大日印を維持したまま、その身から呪力を練り迸らせる。

 

 

鬩ぎ合うこと、数十秒。弾けるように互いの呪術が霧散する。

 

互角。

 

 

周りから見たらそうかもしれない。だが、鏡本人の認識はそんなに甘くなかった。

 

(咄嗟に同じ術を発して、互角か…………これはいよいよ一流だな……)

 

 

鏡は、事前に呪力をたっぷり練ってからの発動、それに対し春虎は、咄嗟の発動。それで、互角。背後関係を考慮すればその実力差は明らかだった。

 

それでも、鏡は止まらない。ここで止めるわけにはいかない。拾った呪符を全てを投げ捨てる勢いで乱打。自らの術式を仕込んでおいたそれらはその一つ一つが鏡の呪力を受けて猛獣を象り、春虎に襲いかかる。

 

対する春虎も呪符を構えていた。

 

鏡の顔が歪む。そこからの行動が予測できたからであろう。その通りに春虎が投擲した呪符は、蛇を象る。

 

猛獣たちは蛇に噛みつき、蛇は巻きつき互いに殺しあう。またもや、それらの呪術の動物たちは、一斉に霧散した。

 

ここで、戦闘開始後初めて春虎たちの会話が挟まる。

 

「テメェ、マジでなに者だよ、クソ」

「言ったろ?土御門の分家の息子。陰陽塾の一塾生だよ」

「カッ、テメェみたいな塾生がいてたまるか」

「まぁな」

 

「まぁいい、明かさねえってんならそれまでだ。既に、そんなことどうでもいいしな。ハハッこの高揚感、久しぶりだぜ。そこら辺のやつじゃこうはいかねぇからな!」

 

そう叫んでまたもや、戦闘に入る。話しながらも呪力を練っていたのだ。

 

「ノウマク・サンマンダ・バサラダン・カン」

 

唱えたのは鏡。不動明王の小咒だ。

長い呪文だと発動まで遅く、今までの二の舞になってしまう。それゆえ、呪文が短いのと、自分が使いなれているということで、鏡は採用した。

 

 

だが、苦しくも春虎が用意した呪術も不動明王の真言だった。

 

「ノウマク・サンマンダ・バサラダン・センダマカロシャダ・ソハタヤ・ウンタラタ・カンマン」

 

結んだ印は剣印、不動明王の慈救咒だ。

 

鏡にとって相性は最悪。じわじわと春虎の呪力の奔流が鏡のを押し始める。なんとか耐えようとするも、相性の悪さでその差は拭えなかった。ますます勢いの強くなる春虎の呪術に、とうとう鏡の姿が飲み込まれた。

 

 

が、春虎は、気を抜かなかった。

 

突如として、さっきいた位置のほぼ隣に現れる鏡。多少の疲れは見えるものの、先程の呪術のダメージがあるようには見えない。目線をずらすとその足元に濃密な呪力が集まっていた。

 

 

「禹歩を使ってギリギリ避けたのか。なかなか面白いことすんじゃん」

 

「ガキに言われちゃ世話ねぇぜ」

 

「いや、実際に大したものだぜ。十二神将とはいっても鈴鹿とは、大違いだ」

 

「ケッあんなガキと一緒にすんじゃねぇ。現場に出てねぇで引きこもってる奴がそうじゃねぇ奴に実戦で敵うわけがねぇんだよ」

 

春虎の発言に心底嫌そうに鏡も答える。誉められたことに対しても大して嬉しそうにない、というか、むしろ怒りすら抱いていた。年下に褒められると言うのは、嫌なものなのだろう。実際には夜光のほうが圧倒的に年上なのだが……。

 

「でも…………」

「あん?なんだ?」

 

「でも、これでお遊びは終わりにしよう。なるほど、お前は確かに凄い術師かもしれん。だが、まだ足りん」

 

春虎の話し方が変わる。人格が夜光よりになってきている、つまり、本気になってきている証拠だ。

 

陰陽塾の制服の前ボタンを全て開きその胸元をさらけ出す。鏡には、その行動の理由がつかめない。

 

そして、一枚の呪符を取り出すとその胸に張り付けた。鏡は、なんなのか理解するとその口を裂き、言った、

 

「なんだぁ?お疲れなのか春虎」

「まぁな」

 

短く返す春虎。鏡の言葉からも分かるように、その呪符は、治癒符だった。

 

「戦いの最中に……警戒してみればこの様かよ、クソが」

 

急に見下すような口調になる鏡。そして

 

「まぁまぁ安心してくれ。これから、考えている暇もなく、苦しみのどん底に落としてやるから」

 

それから懐から四枚の符を取りだし、鏡から見て口元を隠すように構える。

 

(あの裏でなにかしら呪文を唱えてんのか?)

 

陰陽師が口元を隠すのは珍しくない。故に、こういうときの対処法を鏡も心得ていた

 

(術を構成させる前に潰すっ!)

 

拾った呪符は、先程の乱打で本当に全てを使ってしまった。故に、邪魔するなら何かしらの呪術を用いるしかない。

そのために、体を動かそうとした。

 

そしてやっと、鏡は、異変に気付いた。

 

 

(体が…………動かねぇ!)

 

 

見ると木が体を縛り付けるようにして、鏡の体を覆っている。出所を追っていくと、回りの地面、そこにある春虎がばらまいた呪符からだった。春虎がただばらまいただけでなかったことにもここでやっと気づく。

一枚ならまだしも、ばらまかれたのは、かなりの量だ。それらほぼすべてによる拘束。依然として春虎が何らかの呪術を構成しているなかで、鏡も最善と思える行動を始めた。

 

「ノウマク・サラバ・タタギャーーーー」

 

 

不動明王の火界咒。

 

木は、木気からなるもの。ゆえに木生火。

一歩間違えれば自分も危険にさらされる行為だが、そこは十二神将。天才的な呪力コントロールで春虎の作った木気を起点に、自分の拘束を解き、勢いを更に増したそれをそのまま春虎への攻撃にした。

 

これ以上ない機転。ただ拘束を解くだけでは遅いし、そのまま拘束されたままだと後々苦労するのは想像に難くない。

そこでの、拘束を解くのと攻撃をほぼ同時に行う、鏡自身も最適な行動だと思っていた。実際、それに間違いはなかった。

 

 

だが、時既に遅し。それからの現象に愕然としたのは、鏡の方だった。

 

 

 

 

 




ありがとうございます


感想、評価等おまちしております。


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実力

大分説明回になってしまいました。


前回春虎が使用した呪術を解明?みたいな感じです。一応今回で鏡戦は終わりとなりますね。一応自分でも調べたりはしましたが、間違っていることがありましたら、お気軽にかつ性急にお伝えしてくれると幸いです。


次回は鵺vsコンになるとおもいます。




誤字脱字が多くて申し訳ございませぬ



 

鏡が頑張っている一方、春虎はひたすらにある真言を呪符に唱え続けていた。それは、例え隣にいたとしても、聞こえるかどうかという小さな声で、何度も何度も。

 

 

実は、真言と言うのはより小さな声で、数多く唱えた方がその威力は高まるといわれている。

時代が移り変わり、声に出すのが一般的となった現代でも、その法則に変化はなかった。

 

(…………そろそろいいかな?)

 

春虎が、この程度でいいか、と見切りをつけるとほぼ同時に、鏡も自らの拘束を焼き尽くしたようだ。同様に春虎も仕上げに入る。

 

「オン・マリシエイ・ソワカ」

 

唱えると同時に、呪符を投げる。そして、その姿を消した。

 

陽炎の神格化たる摩利支天の真言。それの恩恵を受けて呪符が隠形をかけられたのだ。

 

そのせいで鏡には感知できなかったのであろう、その4枚が陰陽術において重要とされる方角、東西南北に向かい、まるで春虎たちを囲むように配置されたことを。

 

 

鏡には、呪符を投擲した春虎は、無防備。その炎を春虎の元へと向かわせる。

 

「クソがぁ、十二神将なめんじゃねぇ」

 

雄叫びように叫び、呪力を迸らせ、爆弾のような炎の蛇を春虎に向ける。それの顔は、もらったとばかりに大きく歪んでいる。そして、蛇が襲おうとした瞬間…………

 

 

「なめてるのはそっちだ、十二神将」

 

 

蛇がその姿を消した。

 

 

 

 

再び鏡に驚愕の顔が浮かぶ。まったくの理解不能……というわけではなかった。直前に春虎の投げた符、あれに何かあるのは間違いはなかった。でも、それがなんなのか理解するほど余裕も知識もなかった。

 

 

「なんだぁ?なにをした、春虎ぁ!!」

 

 

返答は、ニヤリとした笑みだけ。そのしぐさが鏡の怒りを更に誘い、鏡が叫ぼうとした瞬間……

 

 

「消えっ……ぐぅぁ!!」

 

 

春虎の姿が消え、何かに衝突されたように吹っ飛ばされた。

 

(な……にが…………起こったんだ?)

 

奇妙な現象に続く奇妙な現象。

吹っ飛ばされたところで辛うじて首を動かし見渡すと、さっきまで自分がいたところには、春虎がいる。

 

それも、足を振り切った状態で

 

(蹴飛ばされた……のか?でも、全然見えなかったぞ)

 

既に、鏡に体を動かす体力は残っていない。そもそも、全身が痛すぎて動かす気力もない。陰陽師は、基本呪術で戦うものだ、体をストイックに鍛えているものなど、物好きくらいしかいない。

 

『鬼喰い』と呼ばれる鏡は、体を鍛えている方だったが、それでも、今の衝撃は耐えられるものではなかった。気絶しないのがやっとだ。鍛えてなかったら、体が残っているかも怪しい。

 

 

さらに畳み掛けるような異変

 

(呪術が……発動しない?)

 

呪力は練れる、しかし、発動はしない。術式が間違っているわけではない。それなのに、呪術が使えないというのは、鏡にさらなる混乱を生じさせた。

 

 

(……クソが、全くわからねぇ)

 

「…………おい、春虎。テメェなにしたんだ?」

 

「わざわざ教えてやる義理はないな。しっかし、ホントに丈夫だな、流石に驚いたぞ」

 

「ケッ」

 

「まぁ呪術が使えないだの、俺の姿が見えないだの困惑してるのかもしれんが、ほれ、これやるよ」

 

 

そう言ってスゥーと一枚の呪符を鏡に向かって投げる。治癒符だ。ここで少し違和感を覚える。具体的な理由はない、強いて言うなら、長年の勘というものだろうか。故に、自然と春虎の胸元、そこにある治癒符に目を向けるのはごく自然のことだったと言えよう

 

(これは…………木気……か?あいつ、偽装してやがったのか)

 

そう、春虎の胸元に貼ってある治癒符は木気に帯びていた。だが、それがわかったところで、鏡の脳では何が起こったのか理解する事はできなかった。

 

実際、鏡の『視た』結果は間違っていなかった。だが、少しだけ異なっていた。春虎は、決して治癒符に偽装していた訳ではなかった。あの胸元にあった呪符は確かに治癒符としての効果を発揮していたのだ。

 

故に、あの呪符の説明をするならば、治癒符の効果が付随された木行符と言うのが正しいものとなる。

 

木行符によって発生させられた電気によって強制的に体を動かす。故に、限界を越えた速さで動くことができる。ここで大切なのが、このとき使うのが純粋な呪力のみであるということと、治癒符が付随しているということだ。

 

呪力のみ、つまり完成した呪術ではないため、自らの構築した呪術を構成できない結界に阻まれない。

 

いくら早く動けたところで、体を壊しながらでは意味がない。しかも、これを使っているときは、緻密を越えたレベルで緻密に呪力をコントロールする必要がある。つまり、他の呪術を使う余裕はないのだ。相手が呪術を用いれる状況では不足の事態に対応できなくなる危険が出てくる。

 

ここで春虎の使った結界が光る。

 

この二つを併用するのは、まさにパーフェクトカップリングというやつだ。

 

かねてより夜光の用いた技のひとつである。

 

 

「もうすぐこの結界も消える。俺がお前を助ける義理はないから、助けてはやらんが、これだけは言っておく」

 

ここで、少し間を開けて、そして、語気を強めて言った。

 

 

「俺の身の回りに手を出すな。次やったら…………覚悟しておけよ」

 

 

そして、おまけとばかりに回し蹴りを鏡の頭に決め込むとそそくさとその場を去っていった。鏡も心で悪態をつきながら、春虎の背中を睨み付け、そのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度離れたところで、そっとその場に腰を下ろす春虎。

 

事実、鏡が思っていたほど春虎に余裕はなかった。ただ、ああいった自負心満々のクソ野郎には、圧倒的実力差を見せつけてボコボコするのが最適なのだ。言ってしまえば、やせ我慢していただけだ。

 

「結構やばかったな……」

 

そういった呟きが、無意識に漏れるほどには疲弊していた。いくら夜光の知識や経験があろうと、膨大な呪力があろうと、実力者に対して実力者ぶるのは楽なことではなかった。

そう思えるほど鏡は十二神将たる実力を兼ね備えていた。

 

 

 

春虎が決め手に使った、呪符に吹き込み結界として作用させた真言。

それは、 一字金輪仏頂の真言だった。

 

仏様のトップグループを仏頂尊

といい、そのトップグループの頂点に立つのが一字金輪仏頂。

その力は、あまりに強力ゆえ、周りの呪術をかき消してしまうと言われていた。そのため、唱えることが出来るのも限られた人しか許されなかったと言う。

 

一応『帝国式』の陰陽術だが、その知名度は、圧倒的に低い、それも、元々は夜光が意図的にそう仕向けたのだが。

この真言は呪術を極めた者ほど絶大な効力を発揮する。

 

 

夜光も初めから天才であった訳ではなかった。努力し考え苦悩し、様々なことに取り組んだ。そのなかには、無論呪術関連のこともあれば、がむしゃらに体を鍛えたりもした。

そんな経緯もあって、術者と体術で戦うなんていう策がうまれたのだ。

 

 

 

 

ある程度休憩をすると、皆が集まっているであろう陰陽塾に向かって歩きだそうとしたとき、タイミングを見計らったように、側にコンがあわられた。

 

「も、も申し訳ございませぬ、春虎様」

 

いつぞやのように平伏した状態で

 

「どうしたんだ?」

 

「鵺のやつを逃がしてしまいました」

 

「お前があの程度を逃がすなんて、珍しいな」

 

「そ、それが…………」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「邪魔が入りまして、また霊脈をいじり、それで奴が息を吹き返しまして……」

 

「なんだ、コンはなんにも悪くないじゃないか」

 

「で、ですがっ!!」

 

「それに、コンが無事に帰ってきているだけで、俺は嬉しいよ」

 

長い問答を終え、そう言いながら艶々とした真っ白い毛の頭を撫でる春虎。涙目だった目もいつの間にか笑みを取り戻し、それを体現するように尻尾が振られていた。

 

「よくやったな、コン。帰るぞ」

 

「はい!!」

 

 

春虎に褒められ、とびっきりの笑顔になったコンと春虎は、陰陽塾へと歩き始めた。

 

 

 

 




ありがとうございました。

感想、評価等おまちしております。


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新手

さて、コンちゃんの戦いです。


鏡と戦うために春虎に鵺を任されるという話でした。

飛車丸さんになれば楽なんでしょうけど、なんか、コンのまま頑張ってほしいなということで、変なものを作りました。変なので変と言ってくれ……構いませぬぞ笑


誤字脱字はすみません



 

 

 

春虎が鏡と対戦している最中、コンはひとりで鵺を追っていた。

 

それは実力という面もあるが、鵺が空を走って移動するため、空を飛べるコンが適役だったともいえる。実体を解き隠形を重ねることでどんな熟練者でも気付けない程の隠密行動が可能になる。

 

 

それは春虎も例外でなく、気付かれぬままいろんなところ――夜光のときはついていけなかった場所など――まで行ったりしているのだがそれは、別のお話(本人は主の安全のためと自らに言い訳している)

 

 

何者かによる霊脈の暴走によって、鏡に負わされた傷を癒しただけでなく、霊体としても強くなった鵺を見つけるのは簡単でも、コンのまま倒すのは容易ではないことは分かりきっていることだ。

 

そのための、春虎からもらった三枚の呪符なのだが…………。

 

 

霊気の乱れを探りながら飛んでいると、遂に鵺を見つける。それほど離れなかったのが幸いした。霊災慣れした陰陽庁と東京都民は対応が早く、鵺がいる近辺には一般人は居なかった。

 

 

今の自分のアドバンテージ、つまり、隠密性を生かしつつ、背後にギリギリまで近づき、狐火をぶち当てる。鏡の火界咒には遠く及ばないが鵺を牽制するには十分だった。

 

 

突如として襲いかかる衝撃に後ろを振り向くが、既にそこにコンの姿はなかった。コンはその上空。既に実体化、隠形を解き、春虎からもらったうちの一枚に呪力を流し込んでいた。

 

 

鏡に挑発されイライラしっぱなしの鵺は、考えなしにコンに向かって突っ込んでいく。

 

コンは、冷静にその呪符を投げた。

 

 

瞬間、溢れる炎。

 

ただの火行符ではここまでの規模の炎はでない。その勢いは明らかに鏡の火界咒を上回っていた。

 

 

 

無論、秘密は呪符にある。

 

『即時発動型術式封印専用符』

 

性質を表すならそんな名前になる、とコンに説明するとき春虎は言った。だが、二人ともそうは呼ばず、その手軽さと危険性から『インスタント』と読んでいる。

 

 

漢字の方を読めばだいたい意味は分かるだろう。

 

あらかじめ術式を呪符に封印しておいて、それを呪力を流し込み解放。込められていた呪術を使用することができる。

 

当然、春虎のオリジナルだ。転校早々の事件以来半年なにもしなかったわけではない。これはコンのために作ったものだ。

 

コンの状態では、もろもろの封印がかけられているせいで思い通りに術を行使出来ない。そのため、気軽に使えるようにこれを作りだしたのだ。

 

 

だが、まだ完成ではなかった。

 

問題点は2つ。

 

一つは、本当に誰でも使える点

もう一つは、一つ作るのに莫大な呪力を使うということだ。

 

後者は改善可能だが、前者は言ってしまえばメリットとデメリットが表裏一体になっているということだ。

 

善良な祓魔官たちに渡れば、それは正義の武器として民を守るために使われ、過激派夜光信者が持てば、テロの道具として危険物扱いになる。

 

いわば認証の要らない核兵器みたいなものなのだ。ここを改善するまで、春虎は誰にも教えるつもりはないらしい。

 

 

 

まぁコンにはそんなことはどうでもよかった。重要なことはただ一つ。コンのために作ったものである、という点だ。それを考えただけでヒクヒクしてしまっていた。

 

「はぁっ!」

 

気持ちのこもった声と共に

最初にコンが投げた呪符に込められていたのは火界咒。吹き込んだのは春虎だ。化け物とされた鏡さえ凌ぐその呪力で練られた火界咒は、生には劣るものの、術が切れてもなお鵺を焼き続けるほどの威力を持っていた。

 

 

「ヴォォォォォォォ!!」

 

悲鳴と共に爆弾のような霊気を撒き散らす。フェーズ3に近いのは間違いなかった。

 

 

悶えた鵺が地面に落下している。コンは、依然として消えない炎を自らの狐火で煽りながら二枚目に呪力を通す。

 

試験会場のようにクレーターを作った鵺は、炎で動けないため絶好の的だった。呪力の注入が終わった呪符を鵺に投げつける。

 

今度は電流が溢れ出す。義母が得意とする雷の呪術。帝釈天、またはインドラと呼ばれる神様の真言が込められた呪符だった。

 

 

「キュェェェェェェェッ!!」

 

 

火炙りに電流流し、まるで拷問のような攻撃を受けながら心底苦しそうに鳴く、それを体現するかのように身体中にラグが走っていた。

 

コンは既に行動していた。インドラの呪符を投げたとほぼ同時に最後の一枚を取り出す。

 

 

しかし、追い詰められたところで一番力を発揮するのは霊災も同じだった。まとわりついていた呪術による火と電気を莫大な呪力の放出によって弾き飛ばす。

 

当然、影響はそれだけには留まらず周りのビルのガラスをバリバリと割っていく。また、近くにいたコンも呪力を通していた隙をつかれ吹き飛ばされる。

 

辛うじて、空中で姿勢を正せたものの、まだ最後の一枚を完成させていない。鵺には尚もラグが走っている。

 

 

コンがそう確認した瞬間には、鵺は、すでにコンに向かって走り始めていた。

 

やられる前にやる。

 

鵺の魂胆はそういったものだろう。

 

 

しかしコンは、いや、飛車丸は場数を踏んでいる最強の護法であり、一流の呪術師でもある。その判断の切り替えは早かった。

 

 

流していた呪力を止め、最後の一枚を待機させる。それと同時に空いた片方のその小さな手で九字を切る。

 

詠唱も、印すら用いない高速の九字切り。呪力の勢いは違えど、その早さは鏡以上だったかもしれない。

 

陰陽術において魔除けとして扱われるそれは、鵺とコンの間に入り込み、主を守護する壁のようにコンに近づけさせない。

 

しかし、それも一瞬。力を封印され、十分な呪力の込められていない無詠唱の九字では、もはやフェーズ3の鵺を止められるのは一瞬。

 

 

 

 

それも予想のうち。コンにはそれで十分だった。

 

反対の手に持った最後の一枚に呪力を流す。それも、一瞬で終わる。同時に投擲

 

転不動明王が持つ羂索を体現したかのように呪術によって可視化された紐が鵺を押さえていく。

 

最後の一枚に込められていたのは、不動金縛り。コンの状態でも行使は可能だが、呪力の量がものを言う修祓においては、適切ではなかった。

 

 

既に、瀕死だった鵺が春虎の不動金縛りに押さえつけられ、修祓されるのも時間の問題。

そう思われたし、実際、コンもそう感じていた。だが思わぬ誤算が入り込む

 

 

『グゥルァァァァァァァ!』

 

 

コンの体験するうち本日三度目の霊脈の暴走。意図的としか考えられないが、その術の性質上明らかに、熟練の術師によるものであるコレは、二度瀕死に陥った鵺をまたもや元気にさせ、とうとう完璧にフェーズ3への移行が確定された。

 

 

元気と力を取り戻した鵺は、暴れ放題。

 

春虎お手製の呪符を使い果たし、霊脈の暴走のタイミングから考えて監視されているであろうことから、おいそれと飛車丸に戻れないこともあり、霊体化と隠形を施しとぼとぼと主の元へ帰るのだった

 

 

(この私を春虎様の命令に背かせた罰必ず受けさせてやる。

これでもし、春虎様に嫌われるようなことになったら…………覚悟しておけ、下郎ども)

 

とぼとぼと?帰るのであった。

 

 

 

 




読んでくださってありがとうございます。


感想評価等お待ちしております。



早く鈴鹿に会いたいよo(^o^)o


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信頼

お久しぶりです。遅くなって申し訳ございませぬ。



お詫びを兼ねまして、本日は、もうおひとつお送りするつもりでございます。お間違えのないよう。


楽しんで頂けると幸いです。


青春はさせます。






ちなみに、次は、今日の午後いちあたりですぉ


 

 

 

「黙っててすまなかった」

 

春虎は今、クラスメイトたちに謝罪していた。そのこととは、無論冬児が生成りであったことについてである。

となりには、春虎に追随するように頭を下げている夏目の姿もある。

 

春虎が自分一人で謝ると主張したものの夏目は、主人だから、という理由で突き通したのだ。

 

 

たいして、クラスメイトたちには微妙な空気が流れている。

 

老講師と春虎の活躍により、奇跡的に被害者をゼロに抑えることが出来たものの、ついさっきまでクラスメイトだった人物が生成りだったと知っては、動揺を隠せないのも無理はない話である。

 

「…………………………………………」

「まぁ、なかなか言い出せるようなことでもないし………………」

 

京子が助けを試みるものの、その顔も衝撃で染まっているので、あまり説得力がない。

 

ただ、これは、全員が陰陽塾の塾生で、正しい知識を持ち合わせているためであり、そうでなかったなら、既に、混乱の最中にあったであろうというのは、想像に難くない。

 

そこへ、ひとりの講師が駆け寄ってくる。そして、言った

 

「倉橋塾長が、君をお呼びだ。今すぐ塾長室へ向かってくれ」

 

 

終には、弁明も出来ぬまま、虚しい空気を持ち越しとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな、夏目くんは学生なのよっ!どうして祓魔局の作戦に無理矢理駆り出されなきゃならないのよ!」

 

「これは、強制ではありませんよ。夏目さんが嫌だと言うなら、私はその旨を祓魔局に伝えます。それと……塾内では、敬語を使いなさい京子さん」

 

 

倉橋塾長から、言い渡されたことにたいし、京子は、自らの祖母に非を上げ、祖母もそれに反論するように、しかし、諭すように話しかける。

 

講師が呼んだのは、夏目一人のつもりだったろうが、室内には、春虎の姿もあった。

 

一番最初に声を上げたりするところを見るに、京子には、夏目たちに対して何か思うところがあるようだ。いや、もしかしたら、春虎に対してかもしれないが真実は不明のままだ。

 

 

塾長の話というのは、鵺を誘き出すのに、良質な陰の気、つまり、土御門の竜を使うというものだった。

祓魔局からは、既に迎えが来ているらしい

 

夏目の顔が、一学生のものから、土御門家次期当主のものへとかわっている。

 

「…………父は。父は、許可を出したんですか?」

 

「祓魔局は、そう言ってるわ」

 

「そう…………ですか。……はい、決めました、祓魔局に出頭します」

 

 

その決定に対して、依然として京子からは反対の声が上がるが、夏目の目は、意志が既に決まっていることを示していた。

 

春虎はそれを察し、短く呟く

 

「夏目」

 

そして、夏目の方を向いてから

 

「分かってるよな?」

 

とだけ。対して、夏目の返答もまた、簡素なものだった。

 

「もちろん。主を守るのは式神の役目だもんね」

 

それで十分。その会話に第三者が入る余地はなかった。

 

そのタイミングで、狙い済ましたかのように塾長の電話が鳴り、受話器を下ろしてから、3人に向けて言った。

 

「冬児さんの意識が戻ったようです」

 

 

「ですが、そのあとすぐ、目を離した隙に居なくなったらしいわ。今何人かで捜しているそうですが…………」

 

 

一瞬沸き立つ3人だったが、あとに続いたセリフを聞いて、その勢いも落ちてしまった。春虎は、あのバカ、などと呟いている。

 

「でも、どうして冬児はそんなことを……」

 

夏目が押さえられなかったのか、呟きを漏らす。その疑問には、塾長の口からすぐに答えが出てきた。

 

 

「実は……彼の封印を弱めました。これまで押さえられていた、鬼の力が出てきているのかもしてません」

 

 

「そんなっ」「なんでっ」という当然の反応が春虎を除いた二人からでる。ただでさえ、危険な状態だったのに、更に危なくするなど凶器の沙汰に思えるのだろう。だが、春虎は、その理由を正確に把握していた。

 

「これは、必要なことなのです。彼、冬児さんがこれから、鬼と戦っていくための」

 

 

有無を言わせぬ、年寄り?の呟きに、二人も名にも言い返せず、ここでもまた、空白の時間が流れる。

それを破ったのは、なんと春虎だった。

 

「…………な、夏目」

 

珍しく、苦しそうなこえ。物理的にではなく、心理的に、言いづらそうな声でその名前を呼んだ。

 

 

 

「分かってる。行ってあげなよ」

 

 

 

 

「悪い」

 

 

 

またもやそれだけ、彼らが交わしたのはそれだけの会話。しかし、それでお互いに全てが伝わっていた。

 

春虎は、夏目が答える前に既に、走り始めていた。

 

友を救うために。

 

 

 

 

その後ろ姿を見て、夏目もまた自らを鼓舞するように呟いた

 

「春虎君は、やっぱり春虎君ですね。私も、頑張ります。任せてください」

 

 

 

 

主と式神、目に見えない強い信頼関係がそこにはあった。

 

 

 

 

 




感想評価文句雑談等なんでもおまちしております。



お気軽にぃー


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対峙

本日二話目となります。


まだ、ひとつ前を読んでない人はお間違えのないように。


と、とうとう、冬児と…………。




あーでも、十二神将たちのキメラ討伐は書くのたのしそうじゃないな、春虎くんでないし、やめよっかなぁーチラチラ


 

 

 

 

春虎は、その霊的知覚を最大限に引き延ばしながら走り回っていた。

 

 

鬼気というのは、例外なく特徴的である。ましてや、冬児に限り、春虎は、その存在を時間さえ掛ければどれだけ離れていても見つけられる術を用意していた。

 

なにも聞かずに飛び出したのも、自分の方が早く見つけることになんの疑いももっていなかったためだ。

 

 

(もっと、もっとだ。もっと広く………………居たっ!ここは…………そうか)

 

事実、誰よりも早く、冬児の存在を見つけ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前は鬼だ。

 

最初にそう言ったのは、教師か喧嘩の相手か。あとありそうなのは、母親だろうか。

いづれにせよ、冬児は、小さい頃からそういわれることがあった。

 

いわゆる、妾の子として、生を受け、経済的に困難に陥ることはなかったが、両親からの愛情を知らずに育ってきた。

そのため、自分の境遇に傷つき、恨み、暴れて、荒れて。

 

しかし、一方でうっすらと気づいていた。自分は多分、そういう自分をただ演じているだけなのだと。

 

退屈だったのだ。

 

故に刹那的で受動的な快楽でしか楽しみを見いだせなかった。

 

 

 

お前は鬼だ。情のない鬼だ。

 

そういわれて否定したことはない。

 

 

なんかねぇかな、ヤバイこと。

いつもそんな風に思っていた。でも……

 

 

 

鬼に襲われるとは、流石におもっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

春虎は、全く迷いのない足取りで、ある場所へ向かっていた。

 

犯人は現場に戻る、何て言うが、今回冬児は別に罪を犯したわけではない。

まぁつまりは、実技試験の会場に向かっていた。

そこに冬児から発せられる禍々しい鬼気を感じたから。

 

夜、暗くなった渋谷を、その人混みの中を爆走しているのは、流石に目立つのだろう。たくさんの人から変なものを見る目されている。

だが、そんなことをいちいち気にしていられるようなものでもなかった。

 

途中、酔っぱらいにぶつかって絡まれたが、言霊で黙らせた。それくらいに春虎には余裕がなかった。

 

 

そして、その場所にたどり着いて、その後ろ姿を見た途端、隠形を開始。

 

ばれないように冬児の正面から5メートルくらい離れたところまで歩き、突然姿を現して、面と向かって言った。

 

 

「冬児」

 

 

「………… お前か」

 

いきなり現れたのに対して、冬児は大した反応を見せなかった。そこから発せられたのはひどく冷たい声。

それをトリガーに過去の記憶が甦る。懐かしい思い出。

 

この冬児に相対するのは、これが初めてではない。故に、春虎は、ニヤリと笑った。

 

(大丈夫、こうなったときのために色々手は打ってきた。準備もしてきた)

 

 

「何の用だ」

 

と、冬児。

 

「分からねぇか?」

 

そして、さらに春虎は、こう続けた。

 

 

「説教しに来たんだよ、バカ冬児」

 

 

 

 

 

 

 

 

冬児のひたいにはいつものヘアバンドはない。鬼化しかけて、生えていた双角もその姿を消している。

 

「まったく、ざまねえよな」

 

そう言った顔には自嘲が浮かんでいた。

さらには、熱に浮かされたように、瞳の焦点も合っていない。

 

「前もって塾長にまで釘刺されてたってのに、ふたを開けてみりゃこのザマだ」

 

はるとらを睨みながら、顔をひきつらせる。既に、抑えられない鬼気が漏れ出し始めていることを春虎は「視て」理解していた。

 

 

「らしくねぇな、冬児」

 

 

だが、春虎は、敢えてそこで挑発した。さらに続く

 

「鬼になりたいだの喚いてたくせに、実際そうなっちまったら弱気な少年に逆戻りか?てめぇ自分が何て言ってたのか覚えてねぇのか?」

 

その台詞に冬児の眉がピクリと動く。春虎は、まだとまらない

 

「親父が、鬼は人の昏い情念に棲むって。で、お前はこう返したんだ。自分には情熱とかないから棲みようがないってな。……全く、笑わせる話だ 」

 

春虎は、視線を逸らさない。確かに呪術で無理矢理どうにかすることはできる。しかし、それでは意味がない。出来ることなら、それ以外の方法で……冬児が自ら鬼を押さえつけられるようになる方法で……。

 

人気のない渋谷の一角。二人は真っ正面から対峙している

 

「俺の本音はいまだって変わっちゃいない。鬼になりたいとは思わないまま、なっても構わないとはいつだって感じてる」

 

再び現れる自嘲の笑み。

 

「おいおい、なんだ?とうとう頭のなかまで鬼に喰われちまったのか?」

 

「さぁな、だがもうそんなことはどうでもいいことだ。これが俺であろうがなかろうが、関係のないことだ」

 

 

その嘆きにも聞こえる冬児のセリフを春虎は、鼻で笑った。

 

「さっきから遠回しにぐちぐちと、冬児、てめぇはどうしたいんだ?」

 

「俺がどうしたいか、だって?ッは、そんなこと知らねぇよ、これから先どうすればいいかなんて、わからねぇよ」

 

威嚇口調だった冬児のそれが、だんだんと悲しみを帯はじめる。

 

「俺は、いつまでこれに付き合えばいい?こんなもの勝手に取り付けられて、これから先だって?そんな苦しみしかない未来をどうやって目指せばいいんだよ!」

 

 

冬児の額に、角が現れる。それと同時に、叫んで開いた口から、鋭い牙が覗けた。既に、鬼化が抑えられていない。いや、もしかしたら、抑えていないのかもしれない。

 

 

「苦しい未来か、元ヤンのお前からそんな可愛い言葉が聞けるなんて思って無かったぜ。まぁんなことは、どうでもいいが、お前、苦しみしかないって言ったな?」

 

冬児は、返事をすることも頷くこともせずにただ黙っている。春虎は、気にせずに続ける

 

 

「楽になれる道が1つだけある」

 

 

一瞬驚きが浮かぶ冬児、ただそれも一瞬だった。おそらく、冬児にも、わかっているのだろう、それがなんなのか。

 

「ああ、違いない。だが、俺もその提案をお前の口から聞けるとは思ってなかったな、春虎」

 

冬児が、驚いたのはまさにその点、春虎がそう言った、ということだった。

 

肩口に鎧が現れる。鬼化が、さらに進んでいる証拠だ。それ伴い、あふれでる鬼気も莫大なものとなっていく。

 

 

「ああそうだよ、いっそ祓われちまえばいいんだ、完全に鬼になっちまえばいいんだよ、そうだろ春虎!」

 

「ああ、そうだよ。まぁてめえには、そんなこと絶対に出来ないがな」

 

「あ?」

 

冬児の雰囲気が変わる。目に宿る闘争心は、まさに鬼のそれだ。

 

 

「ハッハッハッ、そりゃ傑作だ。今の俺が殴ったら、肉片になってその辺に飛び散るような分際でーーー」

 

「やってみるか?」

 

「ーーーなんだと?」

 

 

春虎は、冬児のセリフを遮った。春虎も雰囲気が違うことに冬児はやっと気づく。そして、その目が嘘やハッタリで言っているわけではないことにも。

 

「なら、やってみろと言ったんだ。てめえが殴ったら、俺は肉片になるんだろ?やってみろよ、ほらっ」

 

ほらっ、と同時に手をこまねく。冬児の我慢はそれで限界を超えた。

 

 

「うらぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

全身から禍々しい鬼気を迸らせて、猛然と春虎に殴りかかる。ある程度空いていた二人の距離は、鬼の力で強化されている冬児にとって微々たるものだった。一瞬で春虎の目の前に姿を現す。

 

全身の力と鬼気によって上乗せされた力とが混ざりあい、確かに一発貰っただけでも命に関わる、というより、確実に死ぬパンチが放たれる。

 

 

それに対して、春虎は………………避ける、避ける、避ける。まるで未来予知をしているように、見えるはずのない速度で放たれる力の奔流を一変の狂いもなく避け続ける。

 

 

そして、春虎は、その一撃一撃に、少しの迷いがあるのを見逃さなかった。

 

 

 

ある程度避けなれて来ると、反撃を始める。無論、呪力は使わない。避けることにすら使っていない。すべて身体的な技術だ。

 

ボディに顔面にアゴに、それぞれ、春虎の拳だけがぶつかっていく。依然として冬児の拳は当たらない。業を煮やしたのか、一端、冬児は距離を取った

 

「どうした?肉片にするんじゃなかったのか?余りにも無防備なもんだから、思わず反撃しちまったよ」

 

これは、嘘である。春虎に余裕はなかった。しかし、半ば鬼と化している冬児にそれを見抜く力は残ってなかった

 

「はっ、それがどうした、春虎。お前の拳なんざ、痛くも痒くもねぇ」

 

事実だった。鬼化にともない、強化された冬児に春虎のなんの呪的強化のなされていない拳はダメージになり得ないものだった。むしろ、春虎の方がダメージを負っている。

それを証明するかのように、殴っていた春虎の右拳は血にまみれていた。もしかしたら、骨にも異常をきたしているかもしれない。

 

 

「だから、どうした。ほら、肉片にするんだろ?来いよ」

 

 

だが、痛んでいる様子は全く見せない。治癒符すら、張ろうとしない。

 

誘っている。何かを企んでいる。

 

そんなことが一瞬頭をよぎる。しかし、

 

 

挑発している。バカにしている。

 

 

半ば鬼と化した冬児の本能は、そっちを優先して捉えてしまった。理性という枷が外れる。先程よりも濃密な鬼気を纏ったそれには、もうわずかしか冬児は残っていなかった。

 

 

故に、そこに躊躇いは存在しない。

 

 

 

自らでとった距離を、はたまた一瞬で踏破する。全力で振り絞った拳を春虎の顔面に目掛けて思いっきり振る。

 

もう少し、もう少しで当たる。刻々と近づく友の死を、冬児はまるで第三者であるかのようにその光景を眺めていた。

 

そして、まさに春虎の頭をかち割ろうとした瞬間

 

 

『動くな!!!』

 

 

春虎が吠えた。

 

 

 

途端、言葉の通り冬児は動かない。どころか、指先ひとつ動かせず、話すことも出来ない。

 

「どうした、動かないだろう」

 

不敵な笑みをその口に携え、まさに殴りかかろうとしているところで、停止ボタンを押されたようにその身を止めている冬児を下から見上げて言った。

 

見上げたところにある顔には、僅かだが冬児が、戻ってきている。春虎は、そこから一歩、二歩と下がって、こう切り出した。

 

 

「お前に、秘密を教えてやろう」

 

 

その言葉に、初めて冬児の顔に困惑が浮かぶ。そして、次の言葉でそれは、驚愕に染まった。

 

 

「俺の名前は、土御門春虎。そして、もうひとつの名を」

 

 

一時の間、周囲の時間が止まったように静がになる。だから、その声はよく聞こえた

 

 

 

 

「……………………土御門 夜光」

 

 

 

 

 

 

 






感想評価文句雑談等なんでも、ほんとうになんでもおまちしております。笑笑


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友情



誤字脱字は、いつも通りよろしくお願いしますテヘペロ



書きまみま!失礼、かみました。

書きました、友情編です。


正直に言いましょう。



へったくそだなぁ、文書くの。なら、投稿すんなと言われればそれまでです(なにも言い返せません)

頭のなかでは綺麗になってるんですが上手く書き下ろせません、いったりきたりで読みづらいものになっていると思います。


批判は覚悟の上!!!!

どうぞ、お厳しいお言葉をっ!


 

 

 

 

「土御門 夜光」

 

 

 

 

それを聞いて、冬児は驚愕した。だが、それを疑うということはなかった。

 

それには、春虎がその台詞に呪力を紛れさせていたと言うのも一因ではあるのだが、大元を占めていたのは、納得だった。

 

ただの分家にしては、多すぎる呪力。普通の高校生だったはずなのに、豊富な呪術知識。そして、いままさに、行使されている恐らく鏡が使っていたであろう高等術、甲種言霊 、それも自分を押さえつける程の。

 

そして…………

 

「…………どうした?飛車丸」

 

 

春虎の名乗りと同時に片膝をつけ、額を下げた状態で現れた恐らく護法と思われる白髪の顔は見えないがおそらく女性。さらにはその名前

 

 

(飛車丸……か)

 

土御門夜光に仕えたとされる双璧をなす護法の片割れ。陰陽塾にはいってすぐに、塾長から聞かされた話にそんなのがあったのを思い出した。

 

全てが繋がった気がした。事実そう理解した瞬間頭がスゥーっとスッキリした。

 

 

「はは、そうか、そうだったんだな」

 

「ああ」

 

「いまのお前は、どっちなんだ?」

 

「その問自体が間違ってるぜ。俺は春虎であり、夜光だ。あるのはその事実だけだ…………これ内緒だぜ?」

 

 

 

しんみりとした雰囲気から一転、和やかな口調、夜光よりだったものが、春虎よりになったのだろう。この感じは今までつるんできたアイツのそれだ。

 

「…………あぁ。お前が何で夏目に隠してるのか、とか色々聞きたいことはあるが、俺には知りえないことがあるんだろうな」

 

「まぁ、な」

 

途端に力が抜けてくる。溢れんばかりに垂れ流していた鬼気さえどこかへいってしまったように薄くなり、生えていた角、牙、鎧すらも消えてしまっていた。

、牙、鎧すらも消えてしまっていた。

その反動のせいで、上手く立てずそのまま倒れ伏すように寝込む……

 

 

「因みに、今お前に憑いている鬼は俺が憑けたものだ」

 

「はぁ!?」

 

 

…………つもりが、衝撃的事実に邪魔をされる。

 

でも、あれは…………

 

「そうだ、あれは、二年前。ははっホントに二年前だな。大連寺至道がナニカを自らに下ろし、それによって憑かれたものだった」

 

 

春虎の言うことに全く間違いはない、その通りだ。だが、それだと今のおれの状態が説明できない。

 

 

「…………まぁそんなのはとっくに俺が祓ったが」

 

 

「…………」

 

 

「ははっ、冬児でもそんな顔するんだな」

 

 

開いた口が塞がらない、とはこの事だ。

 

祓ったんなら、なんでわざわざ憑けたのかとか、いつの間に祓ったのかとか、もし平常時に言われていたら怒り狂って完全に鬼化していてもおかしくはない。鬼にはそれほど苦しまされた。

 

それは、動かしようのない事実だ。

 

それなのに、春虎は、笑っている。悪夢だ。頭がこんがらがっている時で心底良かったと思った。そこで、春虎がボソリと呟いた。

 

「…………酒呑童子って知ってるか?」

 

「いや、知らない」

 

訳も分からないまま春虎が説明を始める。歴史のある鬼だとか、あの角行鬼、茨城童子の相棒だとか、色々聞かされた。だが、耳に入って記憶に残ったのは最後の話だけだった。

 

 

「実は、そいつが訳あって弱っててな、依代をさがしてたんだよ、そこでお前だよ、冬児」

 

「お、おい、まさか…………」

 

「そうだよ、祓って憑けたのが、それだ、ってこれ何回も言ってんな 」

 

 

弱ってたから?依代が必要?そんな理由で?そんな理由でおれに鬼を押し付けたのか……

 

スッキリしたりぐちゃぐちゃにされたり怒り狂わせられたり、頭が忙しかったのは、次に続いた春虎の言葉で終わりを告げた。

 

 

「特別に説明してやろう、俺がお前に鬼を憑けたのは……」

 

そこで一呼吸おいて、コホンとわざとらしく咳をすると、思いっきりニヤリと笑って言った。

 

 

「お前は多分鬼と相性がいい、将来陰陽の道を歩むとき、必ず役に立つと思った。憑かれるってのは、必ずしも害を及ぼす訳じゃない。それに………………元ヤンに鬼、いいコンビじゃねぇか」

 

 

「…………全くだ、春虎。ちがいない」

 

 

不敵に笑う冬児。いつも見せるあの冬児の笑い、なにか面白いことが大好きで、人一倍仲間思いなあの冬児の笑顔がその顔に戻ってきていた。

 

そこには、既に鬼に憑かれたことを気にしている様子はまったくなかった。むしろその逆。

 

鬼を使いこなせ

 

春虎は、暗にそう言ったのだ。そんなロマンに溢れた言葉に冬児が奮い立たない訳はなかった。

 

 

 

 

「俺を信じろ、冬児。その封印を施したのは俺だ。お前が暴走しようが、鬼に喰われようが、俺がなんとでもできる。それこそ、封印なぞなくても、楽勝だ。負ける謂れすらない、お前一人ごとき俺だけで十分だ」

 

 

「春虎?」

 

 

「だから、だから死ぬなんて言うなよ。そんな寂しいこと言わないでくれよ。確かに、怖いかもしれない辛いかもしれない、それを押し付ける俺の行動は全く意味がわからないかもしれない、ただ、必ず役に立つ時が来るから、どういう意味でもいい、俺を、夏目を、みんなを信じてくれ………………頼む」

 

 

冬児は座り込んだまま、春虎は立ったまま、静かに頭を下げた。下から見上げた春虎の顔は、うっすらと水気を帯びていたかもしれない。だが言う通りだ、全く意味がわからない、それでも…………

 

 

「春虎…………お前は一つ勘違いをしている」

 

突然の冬児の台詞に春虎が顔を上げる

 

「え?」

 

 

「別に、俺はアイツらを信じてない訳じゃない。今さら、俺だけの問題だからって一人で抱え込むつもりもない。お前にはとことん助けさせてやるし、手伝わせてやる。それに……な」

 

冬児もまた、春虎と同じように一呼吸おいて、しかし、春虎ではなく、そっぽを向いて言った。

 

 

 

「それになにより、俺はお前を信じてる、あのとき、初めて会ってボコボコにしたその翌日から」

 

 

そして、恥ずかしそうに、しかしながら、どこか嬉しそうにまとめた。

 

 

「だから、これからもよろしくな、悪友」

 

 

「あぁ、こちらこそだ。親友」

 

 

 

 






評価意見文句批判罵倒雑談等何でも請け負います。


お気軽にお申し付け下さい。




そして最後に一言、青春ラリアットのssをみたい、もしくは、書きたい。


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終結



後半はおまけみたいな感じです。
独立官たちは面白くないので書きません




すみません、感想はかえせたらかえします


 

 

閑散とした、夜の渋谷の町に突如として携帯の音が鳴り響いた。持ち主は、春虎、相手は京子だ。一度驚いたように声を荒げ、通話が終わると冬児に向かって言った。

 

「夏目が木暮って人と一緒に鵺を追ってるらしい」

 

どこか苦しそうに言う様子に長年付き合ってきた悪友は、春虎の考えていることがよくわかった。要するに、さっきまで霊力の安定していなかった冬児をここに置いていくのが忍びないのだ。どこまでもお人好しなやつ。こういうところは、素直に彼が「春虎」であると言い切れるところだ。そして、冬児が気に入っているところでもある。

だから、冬児は次に春虎が言うであろう言葉を先読みして言った。

 

「行ってこいよ。どーせここに来るときも、夏目に同じようなこと言われたんだろ?俺はもう大丈夫だ。それになりより、お前は誰の式神だよ」

 

 

「…………冬児、お前」

 

 

そう言うと、徐に携帯を弄り始めた春虎。ある程度時間が経ち、携帯を懐に仕舞った。片手間で東京中の霊力を探っていたのは、言うまでもない。一つ大きな反応が明治神宮の当たりに、そして、それに群がるようにしている何人もの反応、その中の何人かは特別強い霊力を持っている。おそらく、彼らが十二神将と呼ばれるものであり、最初に感じた大きな反応が霊災で間違いない。

と、まぁこちらは正直どうでもよかった。もう一つ、青山の方に向かっていく霊災と、それを追う二人の人間に、覚えのある上質な陰の気、もっと言えば龍の反応だ。これが間違いなく北斗であり、高速で移動する二人の人間は、何らかの方法で移動する木暮と夏目に違いない。

 

「天馬にここの場所を伝えておいた」

 

 

突然、春虎が口を開く。その足は、忙しなく動いているが、知識のない冬児はそれが何をしているのか分からなかった。

 

 

「今回のこと責任があるのはやっぱり俺だ。それを誤魔化す気はない。詳しくは、またちゃんと説明する。絶対にだ」

 

「……あぁ」

 

「じゃあ、行ってくる」

 

春虎が奇妙なステップを止めた。傍らに、コンが寄り添うように春虎に捕まっていた。

 

「…あぁ……………行ってこい!!」

 

 

その叱咤と春虎の姿が消えるのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人一人いない街灯に照らされた薄暗い道路を一人バイクに跨がって夏目は走っていた。影から見慣れない男が出てきたかと思うと、木暮が彼のもとへ向かっていってしまったのだ。そうして、私だけでもと思い一人で鵺を追いかけて来てしまっていた。バイクの免許は大丈夫なのだろうか、法律違反ではないのだろうか、といういかにも優等生らしい疑問が浮かんでこないほど、鵺のことで頭が一杯になっていた。だからだろう、突如として目の前に現れたその存在に即座に対応することはできなかった

 

「……うぇ?」

 

「な、夏目か!?」

 

「へ?春虎くん!?ダメ、止まって!と、止まらない!?はっ春虎くんど、退いてぇ~~~~~っ」

 

春虎は、動かなかった。動けなかったではなく、動かなかったで正しい。禹歩で霊脈から出た途端バイクに引かれそうになることは流石に予想外だったが、一目で見抜いた機甲式であるその存在が人間を引かないよう自ら止まることぐらいは容易に予想できた。実際、バイクは春虎からおよそ二歩ほど空間を開けたところで止まっている。しかし、その上に乗っていた少女、いや、今は少年の口は止まらなかった。

 

「は、春虎くん!?何で避けないんですか?」

 

「いや、まぁそれはーーーー」

 

「ーーーそれに、何で行き成り出てくるんですか!?」

 

 

どうやら、答えを聞く気すら無いらしい。問答を無駄と悟った春虎はその存在は捉えているものの、本題に入った。

 

「で、夏目。鵺は?」

 

「あ、それならあっちに」

 

と、指を指す夏目。表情が引き締まっている。鵺の話と言うことで土御門家の次期当主としての振る舞いにスイッチが変わったのだろう、春虎が捉えているものと同じ方向であった。

 

「春虎くん、乗ってください。バイクの方が早いはずです!」

 

「お、おう」

 

夏目の勢いに押され、さらには、カーカーと鳴かないうるさいカラスたちに催促され夏目の後ろに跨がった。その際、どこにつかまればいいのか手がさまようのは仕方がないことであろう。一部の人が知るように、男子として振る舞っている目の前の美少年は、実は、美少女なのだから。

 

しかし、“早く鵺のもとに”という考えしか頭にない夏目の脳に後ろの春虎を気にする、待つという策は採用されなかった。

 

「行きますよ!」

 

「へ?ちょちょちょ、待ってぇぇぇ!」

 

夏目の掛け声に合わせたように、いや、実際合わせて走り出したバイク型機甲式。その勢いに押され、空中で漂っていた春虎の手は、夏目の男装するためにさらしを巻く必要のない胸へと飛び込まされてしまった。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

叫び声をあげてバイクの上で暴れだす夏目、春虎は振り落とされまいとよりしっかりと力をいれ抱きつく。

 

「春虎くん!?どどどどどとこ触ってるんですか!?」

 

「は?どこっておなかじゃねぇのか!?」

 

 

風を切る音がうるさいため大きな声で叫んだ春虎、しかし、年頃の少女にはそれを、意図的に大きな声で叫んだとしか解釈できなかった。「イラッ」という音が聞こえるほど夏目の雰囲気が変わる。残念なことに長年過ごしてきた幼馴染みゆえ、春虎はその変化に気づけてしまった。理由が分からないまま。

 

 

「…………春虎くん」

 

「は、はいっ!!」

 

地獄の深淵から出てきたような暗い低い声。そんな声で名前を呼ばれては、バイクの上で背筋を伸ばすのも不思議ではなかった。手は離すとより早く命に関わるので、そこは配慮した夏目が既に本当のお腹に移させている(無理矢理)

 

 

 

「………………帰ったら、覚えておいて下さいね」

 

 

 

「はい」

 

 

なんでっ!とは聞ける雰囲気ではなかった。なぜ鵺の前に動的霊災よりも大きいプレッシャーを浴びせられなければならないのか、そんなそことは頭のすみに追いやった。そもそもなぜかわからないが声を発するのさえ難しいのだ。彼に出来たのは「はい」と一言だけ言うことのみだった。

 

 

 

そうこうしているうちに、莫大な呪力の塊が近づいている。カラスたちは先行してそこに向かっているようだ

 

 

「バカ虎なにしてる!」

「遊んでる場合じゃないぞバカ」

「先行ってるからナ」

「早くしろヨ」

 

 

などと不愉快なことを言って去っていったのをよく覚えている。

 

 

 

今回の敵は鵺。フェーズ4を迎えた動的霊災であり、その動きはますます重力、この世の物理法則を無視したものになっている。つまりは、空にたっているのだ。味方で滞空できるのは、土御門家の守護竜たる北斗とコンくらいのものである。無論、春虎は地面から空への攻撃方法を所持していないことはないが、地面にいる二次元での動きが主な人間と、三次元空間を使って戦える化物の闘いなどどちらが有利であるか語るまでもない。

 

 

「春虎くん、どうしますか?」

 

 

焦って悲観的になっている声というよりも、本気でどうしようか尋ねている声で夏目は春虎へ顔を向けた。それに対する返答は、行動によって示された。

 

数枚の呪符をケースから取り出したかと思うと、それに呪力を術式へ注ぎ込む。春虎自らによって作られたそれは、木気を帯びていた。ある程度呪力が入ると、春虎は、それを辺りにーーーつまりは、鵺の真下から同心円上に撒き散らした。途端、それぞれの呪符から呪術の木々が生え始める。一本一本ならそれほど太くないそれらも、大量に集まっていると雑木林程度には見えてくる。しかし、春虎がただこの光景を見ているだけでなにもしない訳はなかった。呪符を撒き散らしてすぐ、彼は別の呪符を取り出していた。すぐさま呪力を流し込み、生え始めた木々に投擲する。当然、そこからは大量の水気が溢れる。水気をふんだんに吸った木々は、通常ではあり得ないほど成長していく。5メートル、10メートル、どんどん伸びていく。遂には、鵺がいる高さまで。

 

 

鵺がそれに気づき、行動を起こしたのと、呪術の木々の動きに異変が生じたのは同時だった。

 

それまで鵺の回りを囲っていくように真っ直ぐに伸びていた木々は、鵺の高さを少し越えた辺りで、突然中心ーーー鵺のいる方に向かって角度を変えた。まるで誰かに操られているように。しゃべるカラスや本物の龍、狐の娘によって注意をそらされていた鵺が上空に逃げようとしたときは既に遅かった。それは木による「籠」。周りは幾本もの木に囲まれ、内側はそれから生じた枝葉によってぐちゃぐちゃになっている。触れると絡み付いてくるというおまけ付き。カラスたちをもって賢いと言わせたその鵺は、一度巻き込まれかけただけで、その危険を見抜いていた。その中で自由に動き得るのは、春虎が味方と認識するものたちのみ。敵は動けず此方から総攻撃を仕掛けるまるで無敵の技…………に見えるこの術も戦闘背景が深く関わってくる使いどころの難しいものだった。

 

まるで操られたように動く呪術の木、それらは実際に操られていた。既にその規模を大木以上へと成長させているそれらの根元、呪術によるもののため根っこは存在しないが、言ってみれば根っこである呪符の元に春虎は印を結んでいた。

 

 そう、この呪術は春虎が常に操る必要があるのだ。それに加え木を大きくさせる過程や曲げる過程で莫大な呪力を消費する。さらには、その派手な演出にも思える様子は籠が完成するまでに敵にバレて事前に避けられる可能性が高すぎる、まぁ大量の呪力を消費しながら隠形も併用するという超絶技巧を使えるなら話は変わってくるが。

 

まとめると、この術は、規格外の呪力を持ち、敵一体に対し、味方が敵を撹乱しうる人数がいるという状況のみで使えるのだ。

 

だだ、決まると強いのは言うまでもない。「籠」を小さくしていきながら、敵をからめとって一斉攻撃するのもいい。木相火、火を放ってしまえば温厚そうに見える木の囲いは、突然火の檻へと変貌する。

 

そう、それはまさに春虎が今そうしたように。加えて、小さくなっていくというサービスつき。

 

 

「ギュワァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 小さくなっていく檻から逃げるようにしかし、十分に動くことすらままならないという歯痒さを表したような叫び声を上げる鵺。それは、籠だけでなく、そのほかにもう一つ呪力の高まりを感じたからでもあった。

 

 

 

「ーーーー奇一奇一たちまち雲霞を結ぶ、宇内八方ごほうちょうなんーーーー」

 

 

 

 見れば春虎の作った『籠』ごと囲うようにして光り輝く呪符が鵺を中心に円を描くようにして並んでいる。虹色の光跡が美しい環をなす。

 

夏目だ。

 

 バイクから腰を下ろし、『籠』を操るために集中しているそのまさに隣、そこで、春虎と同じように両目を閉ざし、全神経を集中させて呪文を唱えている。

 

 

「ーーーたちまちきゅうせんを貫き、玄都に達し、太一真言に感ず、奇一奇一たちまち感通ーーー!!」

 

 

 夏目の発する霊気が神々しく可視化して、彩るように夏目を囲う。右手に持った呪符の束から一枚、また一枚と光の環の中に加わっていく。その光景の美しさにカラスたちだけでなく、世界までもが驚嘆しているように静かになり、辺りに夏目の呪文がよく響いていく。

 

 そして、最後の1枚の呪符が飛び立ち光環に加わるとほぼ同時に閉ざしていた目を見開き、刀印を結んで頭上高くに掲げた。

 

 

 

「天御中主神の威を以て、これなる邪気、瘴気を一掃せん!急々如律令!」

 

 

 掲げていた刀印を勢いよく振り下ろす。

夏目の習得している呪術の中で最も強力な修祓呪術「太一真言の呪法」

 

 環を作る一枚一枚がより輝きを増したと思うと直後、一斉に内側に向けて迸った。

 

 

光の爆発。

 

春虎もカラスたちーーー木暮の式神たる烏天狗たちも、さらには、コンや北斗でさえその光量に目を閉ざした。夏目の呪力が呪術となって辺りを浄化していく。春虎も隣で僅か10代でこれほどの技を習得している少女に感心する。故に、その努力が詰まったこの術の美しさに見惚れていた。

 

一時の空白。

 

 術が発動してどれくらい経っただろうか。

辺りが爽やかな呪力に覆われている中、それぞれがゆっくりと閉じていた目を開け始める。

 

「………うぅ…」

 

 そこには、春虎の作った「籠」はおろか鵺の姿さえも見当たらなかった。春虎は一応視覚以外の方法でも、周りを探知してみる。あまりにも綺麗に消えているため、また双角会の仕業か何かと少し疑ったのだ。結果は白。紛れもなく自分たちの勝利で、夏目の呪術の勝利だ。ここはむしろ、呪術が凄すぎて跡形もなく消し飛んだ、というような認識をすべきなのだろう。学生の身による、鵺の修祓が行われたのだ。

 

 

「……うぅ、春虎ぁ?」

 

 

 最後の呪術に全てをかけたのか、夏目は、半ば意識が飛んでいる状態で隣にいた春虎に寄りかかっている。その証拠に、いつの間にか北斗の実体化がとけていて、姿が見えない。未だに修祓したという実感がないらしい。こっそりと治癒の術をかけてあげながら、夏目の背中から手を通し、肩を組むようにして起こしながら聞こえるように囁いた。

 

 

「……夏目、お前が修祓したんだぞ」

 

「ほぇ?」

 

「カァ!お見事!」

「鵺、討ち取ったり!」

 

 

夏目とは、正反対に烏天狗たちのテンションはうなぎ上りであった。その辺りをカァカァとうるさく鳴きながら飛び回っている。

 

 

「うぅ……あれ?春虎くん?」

 

「おう、夏目」

 

「……あ!!そういえば、鵺、鵺はどうなりましたが!?」

 

 

さっきは本当に気を失っているも同然だったらしい。ちゃんと聞こえるようにいったはずが全く覚えてないとは。

 

 

「お前が修祓したんだよ、夏目」

 

 

一端は、目を丸くしたものの、状況と春虎の声で真実だと判断したようだった。体力も限界だったのか、またふらっと体が揺らぐ。春虎は、上手く拾うように優しく受け止めた。だが、そこで夏目は気づいた。

 

 

(うぅ、顔が近い…抱きしめられてるし……はっ!!)

 

 

 

抱きしめる、という単語に反応して、脳裏に少し前の記憶が蘇る。それは、もう鮮明に。突然に夏目の顔が真っ赤に染まる。それは、恥ずかしさ故か、はたまた、怒り故か。春虎が不思議そうにその様子をのぞいている。

 

 

「だ、大丈夫なのか?夏目」

 

 

「………」

 

 

 夏目からの返答はない。さらには、ゆっくりとその両手を胸筋のあたりにへと伸ばし、何かを確かめるように指の筋肉を動かしている。ますます、春虎の顔が不思議色に染まっていく。

 

 

(……………あるもん、おなかじゃないもん)

 

 

 心の中でそうつぶやいているとは春虎でさえ分からず、表に出てきた、うんうん、とうなずく様子からしかなにも判断できない。いや、判断できないことはないのだが、状況的に外している。そして、急に、春虎の方に顔を向けた。そこにあったのは、聖女の微笑みとしか言いようのないほどの暖かな笑顔。それは、全てを和やかにしてしまいそうなほどの

 

 

「…………春虎くん」

 

 

 

しかし、そこから発せられる声は、顔とは全くもって結びつかないものだった。殺気、邪気、怒気などありとあらゆる悪い気をごちゃ混ぜにして無理やり一つにしたものをトッピングしたような声。

 

 

 

「はははははは、はい!!」

 

 

 

意図してではなく、無意識に声が震えてしまっている。さっきまでは、立っているのもやっとだったはずなのに、いつの間にか両足で踏みしめ、というか、踏み割り、その背後に鬼を侍らせている。鬼気が体力を回復させたのだろうか?などとアホみたいなことを考える春虎だが、夏目を回復させたのが自分の術だということなど、とっくに忘れているらしい。

 

 

 

「私は、怒っています」

 

 

「は、はい。存じております」

 

 

「なぜか、分かりますか?」

 

 

「い、いえ…………」

 

 

「では、時間を上げます。思い出して下さい」

 

…………

 

 

「すみません、分かりません」

 

 

「だろうと思いました。なので構いません」

 

「は、はい!!」(よ、よかったぁ)

 

 

「今、春虎くんが自分にかけているあらゆる呪的防御を全て解いて、何にも無い状態にしてくれたら許します」

 

 

 

 

 拒否権なしの無条件降伏。さらには、処刑を受けろというかの、死刑宣告。呪術師が無意識に己の体に敷いている呪的防御に加え、春虎は、他にも色々とかけているが、それは今あまり関係が無い。いや、なかったらめちゃめちゃ痛いし苦しいし………訂正。それも無かったらしヤバいが、気になる点がもう一つ。「あらゆる」という言葉。今、春虎は陰陽塾の制服を着ているが、学生といえども陰陽師の端くれ。当然ながらその服には、少なからず呪術がかけられている。脱げということなのだ、つまりは。

が、とりあえず、春虎がかけているものだけを解いて夏目の顔を伺う。

 

 

「ん?どうしたんだい?春虎。早くしなよ」

 

 

 という始末。やはり脱げということらしい。加えて、その手には春虎のところからくすねたであろう呪符が握られていた。そのうち1枚を右手に持ち、木気から生じさせたのか、木のツルのようなものを持っていた。夏目から、抑えきれないほどの呪力が流れ込んでいるせいでとてつもなくラグっていたが。それで地面を叩いてべちんっとならしていたのは、見間違いに違いない。

 

 

 

「………はい。ただちに」

 

 

 

 

 都会の真ん中に、一人の少年の叫び声が響いた。鵺にやられているのかと勘違いして、陰陽師たちが駆けつけてしまったのは、笑い話に(夏目が無理やり)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 そんなやりとりを、そこからそう離れていない歩道橋に一人、額にバッテンのタトゥーを刻んだサングラスを掛けた男が見ていた。

 

 

「ケッ。間に合わなかったか」

 

 

 春虎にボコボコにされてから、直ちに体力の回復に努め、お陰で討伐に駆り出されなかったために、逃げ出したという鵺をこっそりと追いかけに来ていたのだ。悔しそうなその口調とは裏腹に、目は獰猛さの一言である。目線の先には春虎の姿が。握っている歩道橋の手すりがギシギシといいはじめている。

 

 

「春虎ぁ、テメェだけは……」

 

 

その後は、言えなかった。

 

後ろで音が聞こえたのだ。カツン、と。コンクリートと何かしら金属製のものがぶつかった音。そして、バッテンの男ーーー鏡に問いかけるように話し出した。

 

 

「春虎クンがなんやて?」

 

さらに、一呼吸置いて

 

 

「………ホンマ、君は相変わらずやなあ」

 

 

 独立祓魔官たる鏡ですら気づけない隠形に、このいかにも人を食ったような物言い。正直、話し掛けられる前に既に彼が誰であるか、気づいていた。

 

 

「いつ、どんなときであっても、常に周囲に気を配れ。初日におしえてやったろ?やっぱり君は、呪捜官には向かん。祓魔官に鞍替えしたんはせいかいやったなあ」

 

 

 

 大友陣がそこにいた。

右手に持った杖の先は、鏡の背中にくっつけられている。

 

 

「これはこれは、大友先輩じゃないっすか」

 

「ご無沙汰しとるな、鏡クン」

 

「どうしたんです?こんなところで、現役退いたって聞いてましたけど、霊災修祓を高みの見物ですか?」

 

「まさかーーーー」

 

 

 

まるで、仲の良い友人同士の会話のようにすらすらと言葉を交わしていく。しかし、場の緊張感は高まる一方であった。その、いつまでも続くかと思われた会話も大友のほうから終わりを切り出し、そのまますんなり終わるかに思われた。が、最後に大友が爆弾を落とした。

 

 

「全く、鏡クン、うかつやったなあ。今、この状態で、ボクがなんぼの呪詛送り込んだ思てんねん」

 

 

「…………ハッタリだ。そーゆーの、あんたの十八番だろ?大友先輩」

 

「せやな………でも、9割ハッタリやと確信していても、キミは最後の1割を放置でけへん」

 

「クッ……」

 

 

「ほなな、解呪がんばりやー」

 

 

 

 その言葉に対する返事は、返ってこなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 鵺討伐が行われた夜、春虎は、角行鬼に連絡を取っていた。メールはツカイカタガ分からないらしいので、方法は電話である。スマートフォンやSNSの話をしたら、鬼気全開で殴りかかってきたことがあった。鬼は鬼。歴史を感じさせるものであった。なにはともあれ、欲しかった情報は手に入った。角行鬼は、長い年月生きている分、その伝手は計り知れないほど多い。それこそ、呪捜部の上層部でも追いつかないほどに。夜光時代も随分と助けられていた側面がある。

 

 春虎は、宿舎の部屋にある封印を解いて、烏羽織を取り出し纏うと、飛車丸を伴って隠形しながら、窓から飛び出した。

 

 

 

 

 

 コツコツコツコツ、年季が入りすぎてボロボロになっているビルの廊下に足音が響く。意図的に、迷うように呪的に仕掛けられている廊下を三人は迷う様子なく歩き続けている。一人は、黒衣をまとった高校生くらいの少年。一人は、白髪の美女。一人はガタイのいい、少し彫りの深い強面の男性。どことなく只者でない雰囲気を醸し出す三人は、何を隠そう、春虎、飛車丸、角行鬼の三人である。そして、ある部屋の前で三人とも立ち止まる。ここが目的地らしい。すると、突然に中から声がかかる。

 

 

「ホッホ、そこにはないもないぞ。ここまで来るものなどほとんどおらんからのぉ」

 

 

 中にいたのは、白髪頭の老人、窓に背を向けて何かを書いている。

 

 

「道満、あれはお前の仕業だろう」

 

 

春虎がいきなりそう問うた。

 

「ホ、流石に誤魔化せんか。そうじゃ、あれは儂が用意したものじゃ」

 

 

「あれ」とは、双角会が用いたであろう何かしらである。それがなんなのかは、春虎も把握していない。だが、そうだとしても、言い切れることはあった。

 

 

「やっぱりか。霊脈に干渉するのは並の技量じゃままならない。ましてや、今回意図的に何回も同じような事が起こった。流石に辛かったよ」

 

 内容とは裏腹に少し戯けた様子で話す春虎。しかし、その目は全く異なり悠然と道満に問いかけている、約束はどうしたのか、と。

 

 

「ホッホッホ、恐ろしい目じゃ。じゃが、今回は、お主が思っているようなことはないぞ?」

 

「それは、なんでだ?」

 

「あれを渡したのが、お主と会う前だったからじゃ。流石の儂でも、お主ら3人を相手にしようなどとは………思わんでもないが」

 

 

 

否定の仕方も道満らしいものだった。それ以上春虎が道満に何かを問いかけるというのは無かった。それゆえ、話が終わったと思った道満が、今度は質問を持ちかけた。

 

 

「実は、主のことが気になって仕方がないという、自称弟子がおるんじゃが……」

 

 

「まだ、駄目だな。内緒にしておいてくれ」

 

 

「ホッホ、了解じゃ。ついでに言うと、また術比べをしてほしいんじゃが……」

 

 

「学生に挑んでどうするよ」

 

 

少し戯けた顔で春虎は答えた。しかし、それが拒否の言葉であることは道満にもきちんと伝わったらしい。

 

 

「あぁ、でも、将棋なら受けてやってもいいぜ」

 

 

 

春虎は、そう言い残して、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございます


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The girl return
襲来




と、とうとうこの章までやってきました。

私も待ちに待っていましたよー!!!


ここまでこれたのも、ひとえに読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。。



しかしながら、不幸?なお知らせです。筆者は、現在インフルエンザを患っております。いつも以上に、誤字脱字が多いと思われますのでご了承下さい。


あ、あと、新連載はじめてます。

私の好きなタイトルのひとつである魔法科高校の劣等生のssです。

気になる方はどうぞ


 

 

 

 深い緑の茂る山々に囲まれた、ぽっかりと空いた空間、そこに二人の男が向き合って立っていた。

 

 

 片方は、その体から角や牙をあらわにし、その身は立派な鎧で覆われている。さらには、その体から迸らせている鬼気からも彼が鬼に関する何かであることが容易に見受けられる。

 

 対して、もう片方の方は、特になにもない人間だ。しかしながら、その身に内包する呪力と異様な雰囲気は見る人が見れば卓越した実力者であることが分かるであろう。

 

 現状、鬼気を迸らせている鬼の子の殴り、蹴り、呪符、とありとあらゆる攻撃をかわし、いなし、反撃していた。

 

 

 

 

 既に、この特訓が密かに行われ始めて数ヶ月が経過している。その結果も如実に表れており、鬼の少年ーーー冬児は、春虎によって設けられた封印の1つ目を開放した状態での戦闘が可能となっていた。

 

 

「はぁはぁはぁ………」

 

 

対峙する少年ーーー春虎が、その正体を暴露してから早数ヶ月、その間毎日のように二人で訓練を重ねていた。冬児は息を切らした状態で初日春虎に言われた言葉を思い出していた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「悪かったな、こんなとこまで連れてきちまって」

 

 

冬児は、いつの間にか人気のない森の中に連れてこられ、その相手ーーー春虎から浴びせられた第一声がそれだった。

 

 

「まぁ気にするな……………で、こんな回りくどいことしたんだ、何か特別な話でもあるんだろう?」

 

 

「あぁ、あの時は話せなかったことについて……な」

 

 

 

あのとき、それはおそらく、冬児が鬼化しかけ

それを抑えに来た春虎と一悶着あった渋谷の一角でのことについてだろう。つまりは、冬児にに憑いている鬼についての話ということだ。

 

 

 

「これから、色々するに当たってこれだけはハッキリ言っておきたいと思う」

 

 

すこし迷いを見せながらも、そして、苦しい顔をしながら春虎は冬児に向かって言った。

 

 

「陰陽師には、才能が不可欠だ。最低限の見鬼の才を始めに、それには様々なものが存在する。が、しかしだ、冬児………お前には全くもってその才能がない。多岐にわたるそれのたった一つももっていないんだ。というよりも、ただの一般人で霊災に巻き込まれただけという奴に才能がある方が珍しい。だから、俺はお前に鬼を憑けたんだ。生成りになれば、少なからず見鬼の才は得られるからな」

 

 

「それは……つまり?」

 

 

「つまりは、お前の自己防衛のためだよ、冬児。一度憑かれたお前の体質は既にそういうものになってしまっている。たがら、例え俺が鬼を祓ったままにしたところで、またすぐに何かしらに憑かれてしまったであろうことは想像に難くない。それこそ、巻き込まれるのではなく、引き寄せても、だ」

 

 

 

「…………………」

 

 

 

「ま、これは、後付けのいいわけにしか聞こえないかもだけどな。だから、俺はお前に憑けたんだ。例え暴走しかけても俺が無理矢理にでもとめられるように、そして……………」

 

 

 

「……そして?」

 

 

 

「そして、いつか強大な敵に立ち向かう必要が出てきたとき、それを退けるほどの力が得られるように」

 

 

 

 はっと、息をのむ音が静かな森の中に響いた。それは、無論当時の口から発せられたものだ。春虎は、現段階で既に冬児にボコボコにされることを覚悟していたし、それに抵抗しないことを決めていた。いくら将来のためとはいえ生成りになったことで負った冬児の傷は苦しみは、春虎に計ることは出来ない。が、しかし、春虎の想像したような冬児の拳は残念ながら?飛んでこなかった。

 

 

 

「……………………はぁ」

 

 

春虎の表情から彼の考えを正確に読み取った冬児の口からため息が漏れる。一時はそういうつもりがあったことを否定するつもりはないが、あの渋谷の段階で既にそのつもりはなくなっていた。

 

 

「そんなことはしねぇよ、バカ虎」

 

 

 冬児の一声に、バッと顔を上げ、え、でも………という顔をする春虎。それを冬児は、笑顔一つで消しさり、本題に入るように催促した。

 

 

「そんなことより……だ、春虎。こんな人気のないところにわざわざ呼び出したんだ、そういうことでいいんだよな?」

 

 

さっきも同じような質問が成されたが、その意味が違っていることは、お互いに気づいている。無論、そっち系の話でもない。

 

 

「あぁ、お前の想像通りだ。俺がお前を鍛えてやる。望むなら自己防衛のため以上に陰陽師として、だ。ただし、かなりきつくするがな。あ、因みにこの場所は特殊な呪的な結界に囲まれてるからどんなに鬼気飛ばしても大丈夫だ。暴走しかけても俺なら抑えられるしな」

 

 

「はっ、かの有名な土御門夜光にマンツーマンで教鞭を執っていただけるなんざ夜光信者共に話したら、発狂して殺されかねんな」

 

 

「冗談はよしてくれ、俺は夜光じゃない。今は、土御門春虎だ」

 

 

「おう、分かってるよ」

 

 

 

 冬児は、いつものニヤリとした笑顔と共に発した。実際に思ってもない嬉しい申し出だった。しかも、その相手は土御門夜光の転生、条件が良すぎて詐欺を疑いたくなるほどだ。

 

 

「それは、OKということでいいんだな?」

 

 

「あぁ、頼まれても断ってやらねぇ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そんなこんなで、未だに未熟も未熟であるが、上達するにつれ、目の前の男の規格外の凄さを実感するようになっていた。

 それはまさに、知れば知るほど知らないことが増えていくように。

 

 

 

 

 そんな風に考え事をしながら戦っていたのも今日が特別な日であるからだ。

 因みに、春虎の訓練は、最初に少しの勉強をしたあと、その後のほとんどの時間を実践の中で教えて行くタイプである。当然、考え事をしながらなんてことをしてしまった冬児は、その隙をつかれ、大空を見ることになった。

 

 

 

「今日はここまでにしようか」

 

 

 

 冬児が大の字になって、仰向けで寝転がっている横で春虎がそう言った。いつもより、30分ほど早い。因みに、この特訓を行っているのは、登校前の早朝である。宿舎には、霊力もそっくりに作った簡易式を置いていくという徹底ぶり。

 ここまでの移動には、兎歩を使っているが、後になって冬児が調べたところ、とてつもない高等陰陽術だと知ったのはまた、別の話である。

 

 

とにかく、今日は特別な日なのである。

 

 

 

「今日は入学式かぁ。どんな子たちが来るんだろうな」

 

 

徐に、春虎が呟く。そう、本日は入学式、新入生とのはじめての出会いの日なのだ。

 

 

「最初が肝心だな。なめられたらそこで試合終了ですよってな」

 

 

「なんかそれちがくねーか?ってか、元ヤン魂巡らせんじゃねーぞ?」

 

 

「まぁ、それは、その時ってことだな」

 

 

 

 

二人の新たな日常が幕を開け始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは陰陽塾。まだ、春休みの最中ではあるが、明日に入学式を控えた日でもある。  

 

 少女が一人、そこに居た。

 

 綺麗な金髪をツインテールにまとめ、まだ制服を着る必要はないと感じたのか、ゴスロリと呼ばれる服をその身に纏っている。 

 

 以前は、大々的に、その存在を外に押し出し、陰陽師のイメージアップにまで使われたその少女も、ある事件の日以来、逆に秘匿扱いのようになっていた。

 その原因として、幼少時代の教育にあると判断されたため、ここ、陰陽塾に「陰陽術」のためではなく「対人関係」や「一般教養」を備えてもらうためという珍しい理由で入塾することとなったのだ。

 

 

 彼女は、その光景が珍しいのか、生徒の居ない校舎のあちこちをキョロキョロと見回している。

 

 

 

「ここが、アイツの通ってる陰陽塾ってとこか」

 

 

 独りでにそう呟く少女。前を歩く老婆もその「アイツ」が誰であるかを察したのか、それに対してなんらかの反応を示すことはなかった。

 しかし、次の言葉には、真の意味で反応できなかった。それは、少女が意図的に小さな声で言った為だ。

 

 

 

 

「会いに来たよ、お兄ちゃん♪」

 

 

 

 

 少女の顔は、まるで新しい玩具を見つけた子供のように、しかし、再会を喜ぶ一人の女のように、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

春虎たちの日常に、また新たな風が吹き始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 




ありがとうございます。



感想評価質問異論反論講義雑談等何でも受け付けております


お気軽にー


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紹介




はい、ども。アクセルワールドのメタトロンは絶対に能登ちゃんだろうと確信しています。

まぁなんでこんなことを言ったかというと、他作のほうでアクセルワールドネタを使ったからなのですが……。何でも無いです。


今回もこの言葉から入りましょう。

ごめんなさい


本当は、題を神童にしたかったんです。そうしていない理由はお察しの通りです。

早く喋らせるように頑張りたいです。



また、たくさんのご意見を待っています


 

 

 

 

 

「どんな奴がいるんだろうなぁ」

 

 

「春虎!キョロキョロしないで」

 

 

 

 心底楽しそうにまわりを見渡す春虎を叱ったのは、夏目だ。しかし、その声をいつものように張り上げられていないのは周りにたくさんの人がいるためであろう。

 まあ、朝から既に怒った春虎をまた怒るということに、気が乗らないのも事実ではあろうが。

 

 

 春虎と冬児は、内緒の特訓のせいで他のみんなをまたせてしまったのだ。朝、春虎の部屋から二人で出てくる所を夏目に見られたときの目は、少し心を痛めた。

 

 

 

 ここは、陰陽塾の地下にある呪練場、そこで新入生の入学式は行われている。普段は、甲種呪術の実技に使用される場所であり、スタジアムのような作りでアリーナを囲むように観覧席が並んでいる。

 

 春虎と冬児は、途中入塾のため、入学式はこれが初めてであるが、塾生が一度に集まるのもこれが最初の行事だ。他の学年との交流がほとんど無く、顔を見るのが初めての人がほとんどであるので、興奮するのも仕方の無いことかもしれない。

 

 なにせ、春虎にとって、呪術界にとって、彼らは紛れもない金の卵だ。自分の作った夜光塾のなれの果てである、陰陽塾。それが、少なからず役割を果たしていることを確認できて嬉しかったのだ。

 

 アリーナには、前方に新入生が、後方右手に3年が左手に2年が並んでいる。春虎は夏目と冬児に挟まれたところで、入学式を眺めていた。いまも、丁度講師の一人が新入生へ訓示を垂れているところだ。

 

 

「今年の新入生、妙にそわそわしてるね。僕の時も自覚してないだけで、あんなだったのかな?」

 

 

 夏目がぼそりとこぼす。

 

春虎は改めて新入生を見渡してみる。すると確かに一部のーーー特に最前列付近の生徒たちが落ち着かない様子を見せている。

 ついでに霊力を感じるように知覚範囲を広げていく

 

 

(………ん?この感じ…どこかで…)

 

 

 すると、覚えのある霊力をつかんだ。一人一人毛色の違う霊力を持つ中で、なんとなく程度で感じられるものでは、さすがの春虎でも持ち主の特定には至らなかった。

 その、どこか懐かしい感じがした霊力は、すぐに頭から離れていった。対策をしていればと後悔することなど全く知らずに……。

 

 

 

 

「なぁ、夏目。なんか三年少なくねぇか?」

 

 

 春虎の興味はそちらにそれてしまった。しかし、見て分かる程度には、二年生と三年生の人数の違いがあるのだ。

 

 それには、既に構えていたかのように夏目がスラスラと答えた。

 

 

「前にも話した通り、二年生になると、実技が増えてくるんだ。そのせいで、資質の差が如実に出てくる。だから、二年生になると退学者が一気に増えてくるんだよ。才能が無い人はどんどん辞めていっちゃうみたいだね」

 

 

 それを聞いた春虎は困惑の表情を浮かべた。夏目はそれを危機感をもった、と解釈したが、そうではなかった。

 

 

(才能がない、ね。才能が無い生徒がここに入ってこれる訳はないんだけど………。)

 

 

 本人の意思以上に才能の有無が実力を決める。

 

故に排他的と言われる呪術業界だ。どの業界にも少なからず言えることだか、それらに比べても飛び抜けてその面が強い。なにせ、見鬼の才が無ければ、赤子同様の扱いになるのだ。

 

 

 

 

「ましてや、陰陽塾の実技のレベルは高い。そんな講義を受け脱落することなく残ってきたのが今の三年。進級したばかりの二年とは比べものにならないさ。まぁセミプロのようなものだと考えていいと思うよ」

 

 

 

 夏目はそういった。が、またしても、心の中で春虎は首を傾げた。 

 確かに、彼らはそれなりに実力を備えているのかもしれないが、全てに才能があった訳ではない、いや、それぞれに才能はあるが、それは統一したひとつのものではないというべきか。

 

 春虎はあの中には二つの人間が居ると考えている。

 

 

一つはそのまま、そもそも才能があったもの。

 

 

そして、もう一方は、自分にあった才能を見出した者。

 

 

 才能は多岐にわたる。陰陽師にとって忘れてはいけないことの一つである。

 

 

 

 

 と、突然拍手が起こる。春虎たちも話は聞いていなかったものの、周りが拍手をしていると自然と手が動く。アリーナを確認すると、どうやら講師の話が終わったらしい。

 

 祭壇の講師が下がると、今度は塾長の倉橋美代がその姿を現した。その風貌と同じような温和な声で話し始める。

 

 

「初めまして、皆さん。陰陽塾塾長の倉橋美代ですーーーー」

 

 

新入生に向けての言葉が送られる。

 

 

その上品でお淑やかな様子と同じようにはいかず、かなり茶目っ気の持ち主であることを春虎は昔から知っている。

 むしろ、久しぶりに出会って、あのやんちゃだった子がしっかりとしたお嬢様になっていて驚いたほどだ。

 

 

 

「ーーーー以上で、私からの挨拶は終わらせていただきます。新入生の皆さん。また、新たな学年を迎えた皆さん。自分を信じ、あなた方を信じる講師の皆さんを信じ、自らの力を伸ばすよう精進なさって下さい」

 

 

 そう締めくくって、一礼すると、再び会場が拍手の渦に飲まれる。

 

 

 

 

 苦しい式の硬い雰囲気が少し抜け、ところどころに私語が飛び始めたとき

 

 

「あら、いけない。一つ発表することがあったのを忘れていましたわ」

 

 

 後ろに下がろうとしていた美代がまたマイクの元まで歩いて戻ってきてそう言った。

 会場が一度緩んだ雰囲気を元に戻すのは難しい。困惑や疑問の私語によってなおのこと会場が暑くなっていく。特に新入生の最前列付近は、もはや半分叫び声のようになっている。

 

 

 

 ざわざわざわざわ、どんどん大きくなるそれらを気にせずに美代は、言葉を続けた。

 

 

 

「実は、今年度の新入生には、一人が変わった経歴を持った方を受け入れることとなりました。既に陰陽師の資格を取得されているのですが、幾つかの事情となにより、本人の強い希望もあったので、特待生として当塾への入塾を許可することになったんです」

 

 

 その、癖の強そうな事情臭のぷんぷんする話に盛り上がっていた会場が静まる。どの生徒もこれから話されるであろうその生徒のことが気になるのであろう。

 ただ、最前列付近の生徒たちはなおのこと興奮した様子を隠せていない。

 

 

うそっーーーーやっぱりーーーーほんものっ!?ーーー

 

 

などと言う声が飛び交っているのがかろうじて春虎の元まで聞こえた。もっとも、そこまで聞こえる時点で相当の声量で叫んでいる、ということに他ならないが。

 

 

 そして、壇上の塾長がにっこりと笑い、告げた。

 

 

 

 

「せっかくですので、ご本人からも一言挨拶をいただこうかしら。ここに居る皆さんなら多分彼女のことはご存じでしょうけどーーー」

 

 

 だんだんと、春虎の脳内でピースがはまり始める。思い出されるのは、先程感じた霊力。懐かしいと感じた自らの感覚。意識することなく春虎の頰がヒクヒクと動き始めている。

 

 

「ーーーーー一応ご紹介しますね。現在、最年少の国家一級陰陽師で神童と呼ばれているーーー」

 

 

それによって、春虎の脳内のピースは完成し、一つの絵を描いた。いや、彼だけでない夏目と冬児の脳内でも同じような絵が完成したことだろう

 

 

 

 

 

   「大蓮寺鈴鹿さんです」

 

 

 







ありがとうございます



感想評価意見文句雑談何でも待ってます!!


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悪女



やっと、やっと鈴鹿が喋りまする。


ここまで、本当に長かったでござる。


楽しんでくれたらうれしいのであります。




誤字脱字は、許して下さい……。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……は?』

 

 

 

夏目、春虎、冬児の声が揃った。

 

 そう、彼らにはその覚えがあった。『大連寺鈴鹿』という名前に覚えがあった。

 彼らの脳内に同時に再生される「あの」夏の光景。派手なゴシック・アンド・ロリータで身を包み、その幼い容貌からは想像できない汚い言葉を発する少女の光景。

 

 

 当然、混乱は彼らだけではない。いや、違った意味で彼らは、動揺しているのだが、他の塾生たちも無論動揺している。それは、一気にどよめき始めた会場の様子からも容易に想像することが出来た。

 

 そんななか、プラチナブロンドの髪をツインテールにまとめ、その身を狩衣を模した陰陽塾の純白の制服に包んだ少女が前に進み出る。

 

 

ーーー間違いない、あいつだ。

 

 

悲しいかな、間違いであって欲しいと、微かに心で願っていた春虎は、その顔をみて確信してしまった。さらには、先程までの違和感。懐かしいような…………と感じた「霊力」についても、確信してしまった。本物だと…………

 

 

「初めまして、皆さんっ。倉橋塾長からご紹介に預かりました、大連寺鈴鹿ですっ!」

 

 

 

 ……………本物だと!?

 

 

 思わず声が出そうになる。横を見れば、二人とも同じように開いた口が塞がらないという状態になっている。

 

 あの夏を経験した彼らでは想像も出来ない甘い声。そして…………

 

ニコッ

 

と天使のような微笑みを浮かべる。

 

一層盛り上がる会場。それは、まさにアイドルのライブのように……。

 

 

 

「あたし、今日はすっごく緊張しちゃって…………でも、とても嬉しいです!自分と同年代の人と陰陽術に取り組むことって、ずっと夢だったんです!今日、その夢が叶っちゃいましたっ!」

 

 

 

 「誰だ、アイツは」

 

 「はは、誰……なんだろうね」

 

 

 その声を上げたのは、春虎ではなく冬児だった。反応したのも春虎ではなく、夏目。 

 ふたりともどこかしら哀愁を漂わせている。

 

 

しかし、鈴鹿の進撃は、これでは終わらない

 

 

「クラスメイトの皆さん。それに諸先輩方。陰陽術のことならあたしでも皆さんに教えてあげられることがあるかもしれません。ですから、皆さんもどうか、あたしに色んなことを教えて下さいね」

 

 

 一度も止まることなく言い終わると同時に軽くウインクまでする。なぜかわからないが、その目尻からは星が出てきたような気が春虎達にはしていた。

 

 

 反響も過去最大。生徒たちにとって息苦しくなる講師達の話とは違って、万雷の拍手が鳴り響く。本当に拍手したがってしているため、その音量も比べものにならない。

 調子に乗った誰かが指笛を吹き始めることすらしていた。

 

 

 壇上の鈴鹿は、若干顔を赤らめながら、恥ずかしそうに右手を会場に向かって振っている。しかも、一つの方向だけでなく、色んな所に向けて。

 そのせいでさらに歓声が上がる

 

 

「完璧に計算し尽くされた角度、それに加えて、首を傾げ可愛さをアピール、只者じゃねえな」

 

 

 隣ではなぜか冬児が闘志をわかせながら、冷静に鈴鹿を観察していた。

 

ちなみに、闘志をみなぎらせつつ、頭を冷静に保つというのは、春虎の訓練の一つでもある。

 

 

「なん…なん…………なんなんだ!あれは!」

 

 

で、とうとう夏目がこらえられなくてもなったらしい。

 

「そんなの、俺も分からねぇよ」

 

 

まさに、春虎の本心だった。いや、その返答がかえってくるであろうことを予見している夏目であることから考えると、彼らの総意であるに違いない。

 

 それを最後に、彼らはただ黙って鈴鹿が手を振るのを眺めていた。微動だにせず。

 

 

 

 

 

 ただ、鈴鹿は違った。そのアピールのため様々に方向を変えている。

 

 そして、それは、突如として起こった。

 

 

 

 フリフリと動いていた手が、ニコニコと見渡していた顔が、ピタリと止まる。

 

 

 その目を春虎にとらえた状態で。

 

 

 

と、同時に春虎たちの時間も動き出す。

 

いや、春虎以外の二人の時間は動き出した。

 

春虎は、その目が鈴鹿を写したまま動かない、動けない。

 

間違いなく、鈴鹿は春虎を凝視している。

 

 

ひどく長く感じられたその交差の後、鈴鹿は

 

 

 

 

かぁっ、と顔を赤くした。

 

 

ーーーーーえっ!?

 

 

春虎の緊張がほぐれ、時間が動き出す。

 

だが、安堵するには早過ぎた。鈴鹿は、さっきの赤面が全くの嘘のようにーーー実際そうなのかもしれないーーーその表情を変えた。

 

 

笑顔。

 

 しかし、先程までのアイドルのような計算し尽くされた可愛らしいものではない。まるで蛇が蛙を見つけたときのような、口が裂けるように三日月を象ったニンマリとした笑顔。

 

 春虎にとって、正直その笑顔は、今までのものよりずっと鈴鹿らしいと感じ、そしてーーーひどく安心した。妙なことに。

 

 

 

ーーーーあぁ、あれは鈴鹿だ。

 

 

 

隣の二人も近場にいたことが幸いしてその笑顔が目に入ったのだろう。納得した顔をしていた。

 

ーーーよかった、本物で

 

 

胸中にそんなことを思いながら、これから起こるであろう悲劇から、逃避する。自分には無い、100%才能に由来する星読みの力がないことに憂う。

 

 

 こんなときは〈春虎〉の父が恨めしい。もしくは、美代でもいいだろうか。あぁ、羨ましい。

 

 

 

 

そんな春虎の嘆きを知ってか知らずか、鈴鹿は、おもむろにすぅーっと息を吸い込むと

 

 

 

「あっー!!春虎お兄ちゃんじゃないですか!」

 

 

 

 会場に爆弾を落とした。 

  

 既に春虎の目に生気は宿っていない。それに、反するよう夏目の目に鬼気が宿り始めているのを春虎は確認できない。

 

 なぜか?

 既に、意識の手綱を握っていないから。実に単純だ。

 

 

 

 グルン、とまるで首が360度回転するロボットのように会場中の顔という顔が春虎の方を向き、その視線を突き刺す。

 

 その居場所は鈴鹿の視線が伝えたに他ならない。

 

男子からは『なんだ貴様は』という、正にアイドルの秘密にされていた彼氏を見つめるような視線

 

女子からは主に『お兄ちゃんってなに、きゃー』といったところだろうか。

 

 まぁ既に春虎にそれを把握する力がないことが幸いして?意味を成してはいないが。

 

 

 

 百獣の王は、弱っている獲物にも手加減しない。

 

それを体現するかのように、わざとらしく瞳を潤ませて、よく聞こえる声で、しかし、どことなく、感極まっているような声で

 

 

「嬉しいっ。陰陽塾に来ればきっと会えるって、お兄ちゃんに会えるって、あたしずっとおもってたの!こんなに早く会えるなんてっ」

 

 

 止めろ、もう……………止めてくれ

 

 

離したはずの意識の残滓を漂っていた、辛うじて春虎と言えるものは、そう、悲痛を叫んでいた………誰にも聞こえない声で。

 

 

ーーーおい、春虎

 

 

 隣にいるはずの冬児がしっかりしろと言わんばかりに問いかけるが、ひどく遠くからの声に聞こえる。春虎は、既に手遅れだ。

 

 

 しかし、冬児が話しかけたのは春虎の身を案じてのためだ。春虎がいま陥っているような精神的なものではなく、もっと直接的に暴力的な物理的な危険を察知したから。

 

 その目線の先には、不機嫌オーラと鬼気擬きを混ぜ合わせる名状しがたいナニカを纏っている夏目の姿があった。

 

 事情を知らないコンはいまだ実体化してない。なんといっても、まだあの時は、春虎の傍にいなかったのだ。仕方が無いことだ。

 

 

 

そんな危機をよそに、会場のの興奮はピークに達しつつある。

 

ーーー春虎?

ーーーだれだ?

ーーー土御門の?

 

 

 春虎に関する様々な情報が飛び交う。凄まじい早さでそれらは、全員に共有されていく。

 当然、その中で中心となる疑問

 

 『お兄ちゃんってなんだ?どういうことなんだ?』

 

そして、その気持ちを代弁するかのように、まだ、壇上に留まっていた倉橋塾長が前に出て、マイクを握り、側にいた鈴鹿に尋ねた。

 

 

「あら?鈴鹿さん。彼とはお知り合いだったのかしら?」

 

 

いつのまにか喧騒がなくなり、まるで鈴鹿の報告を待つかのように場が整えられた。

 

鈴鹿は、その質問にはじけんばかりの笑顔ーーー今度は可愛らしい方のーーーで振り返り、

 

『はいっ!』

 

と応えた。

 

 

だが、待て、ここでこれで終わりではない。

 

 

むしろ、ここからだ。

 

 

 

『あたしのファーストキッスの相手です!!』

 

 

 先程までの「静寂」が「沈黙」に包まれる。

 

 そして、まるでそれを利用するかのように、鈴鹿は続けた。そう、続けてしまった。

 

 

『そして………………』

 

 

何故か、顔を赤くして

 

何故か、照れるように右手を頰に当て

 

何故か、はにかむようにそこで一呼吸置いて

 

 

 

 

 

『………あたしの…………は、はじめての……相手……です……………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが、壊れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 





あぁ、『………』が多いな。読みずらかったらすみませぬ。なんか、使いたくなる性質が私には、あるようです(泣)



はぁ?キスとかいつやったんだよ、という疑問をお持ちの方、はい、次回ちゃんと説明します。  

はじめてって何だよ、という方、はい、次回説明させて下さい


今は、想像を、いえ、妄想を膨らませておいてください笑


今回も、感想評価質問反論意見罵倒雑談等お待ちしております。

どうぞお気軽にお申し付けください。


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恐怖



忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい忙しい


と、いうことです。



話はそれますが……この書き方、ヤンデレみたいですねぇ





誤字脱字注意報が発令されております


 

 

 

カサカサカサカサ

 

と、生徒たちが黒板に書かれた講師の板書を書き写す音が教室に響く。

 

この授業が終わると昼休憩ということで、普段ならばどこか疲れた雰囲気が漂うものの、まして、その講師がどこか胡散臭い大友であるのにも関わらず、今日に限っては、そのような緩い空気は存在していなかった。

 

 

むしろ、緊張した空気が蔓延していた。

 

 

教室に特に変わったところはない。

 

 

ましてや、偉い人や凄い人が来ているわけでもない。

 

 

 

ただ少し女の子たちの視界の片隅に一人の少年が入っていたり、男の子たちの厳しい視線が注いでいるだけである。

 

そして、それも授業の終わりを告げるチャイムで一度霧散する

 

 

「ほな、ここまでにしよか」

 

 

手を止めて、大友が言った。生徒の反応はない。

 

それぞれ、机の上に出していた筆記用具等をしまっている。彼らのノートに黒いシミが出来ていないの言うまでも無いことだ。

 

 

カツカツカツカツ

 

 

今度の音は、大友が歩く音、義足が床と奏でる音楽だ。もう聞き慣れた音だと思っているし、実際そうであるはずなのだが、一人の少年ーーーー春虎には、自分に死の宣告をしに来た死神の足音のように聞こえる。

 

 

えもいえぬ、緊張感がまた教室を包む。

 

 

教室を出る寸前、扉に手をかけた状態で大友がふとその足を止めた。微かな呪力を感じたからだ。そして、なにげなく生徒の方を見るとこっそりとその手に呪符が握られているのを確認する。目線の先にはーーーまあ若干外してはいるがーーー春虎の姿が。

 

 

 

「あー春虎クン…………」

 

「は、はい!」

 

死の宣告が止まったことに少し安心していた春虎がどもりながら返答する………………が、それは、緊張しているように見えて、わざとだった。

 

 

(よし、これで自然に立てた!)

 

 

逃亡するとき、座っている状態と立っている状態では、明らかに対応できることに差が出来る。なにから逃げるのかと問われても、具体的なものはないが、強いて言うなら恐怖だろうか。本能的に逃亡を選択していた。

 

 

 

「なんや、ボクにはよー分からんけど………」

 

 

一度目を伏せ、一呼吸おく。顔を伏せたのは、悪い笑みを浮かべた顔を隠すためだ。しかも、それを春虎にだけ、つまり、立っている人間にだけ見えるように隠した。

 

 

(おい!おいおい……なんかやるつもりじゃないだろうな)

 

 

いい先生だということにわずかな願いを込めて、心の中で祈る。

 

顔を上げたあとの発言は衝撃的なものだった。

 

 

 

「昼休憩明けの授業、春虎クンいっつもぼーっとしとるやろ?今日はキミだけ自習でええわ」

 

 

 

 

 

(…………あぁ仕返しか)

 

 

春虎は分かってしまった。あの笑みの理由が。それと共に後悔した。いかにつまらなくても知っていても、真面目に授業を受けるべきだと。

 

 

後悔先に立たず。先人の言葉は本当に偉大だ

 

 

「後悔先に立たず……先人言葉は偉大だな」

 

 

後ろで冬児がなぜか去り際にそう残していった。気がつけば春虎の周りにはぽっかりと空間が出来ていた。

 

 

 

 

大友の扉を閉める音が合図だった。

 

 

「お「「「「「急々如律令!!」」」」」」

 

 

春虎が何か言いかける前に、クラスの大半が呪符を投擲。呪術の気配は感じ取っていたさすがにここまでの人数とは思ってたいなかった春虎が一瞬反応を遅らせる。

 

パッと「視て」呪符に込められたものが木気を帯びたの捕縛系だと理解する。

 

 

呪文を唱える暇も無いので、即座に印を結び周囲に結界を展開、かろうじて呪符の影響を防ぐ。

 

春虎にとってこの状況は難解だった。

 

無論、力業で押し通るのは容易い、がそうすれば少なくない被害が生徒にも建物にも及ぶだろう。それに、クラスのほぼ全員を相手にして逃げだせるほどの実力をもっているという証明にもなってしまう。

 

まだ、力を隠しておきたいーーー裏の意味は、暗躍していたいーーー春虎にとってそれは、最悪の選択だった。

 

ただ、逃げないという選択は選べそうになかった。

 

理由は簡単だ。

 

「恐いから」

 

 

 

 

「コン!焼き払ってくれ」

 

結界にまとわりついた呪符を焼き払うように自らの護法に頼む。こういうとき、護法の存在は本当に安心する……

 

 

「はっ!」

 

元気の良い返事が後ろから掛かる。

 

 

「はぁぁぁあ!!」

 

 

気合いを入れた声と共に、青白い炎が……

 

 

 

「どわぁぁぁあ!!」

 

 

…………春虎に襲いかかった。

 

 

 

「コンてめぇ!!何してんだ!」

 

 

「はて、私は焼き払え、との命令に従っただけですが」

 

 

「呪符に決まってるだろ!どこに自分を焼き払えっていうやつがいるんだよ」

 

 

と、ここで春虎は気づいた。

 

 

(コンの状態なのに、飛車丸がどもってねぇ)

 

 

見ればその目には、心なしか光が宿っていない。さらには、怪しげな雰囲気でふふふとか笑ってる。怖い。

 

 

「それは、年端もいかぬ少女に接吻をした誰かさんでございましょう、誰とは申しませんが」

 

 

年端もいかぬと言ったその幼女は、若干のラグをその体に起こしながら、呪力を、いや、もはや妖力と言っても良いほどの力を迸らせつつ春虎をその眼光で威嚇する。

 

 

「こ、コンさぁーん?もしかして……なんか怒ってるのでしょうか?」

 

 

「はて、何のことを仰ってるのでしょうか?コンは、全く怒ってなどおりませぬ。ええ、全く怒ってなどいません。それとも、春虎様には心当たりがおありなのですか?」

 

 

 

……お、怒ってらっしゃる……

 

 

 

「残念だったわね。今回に限ってはコンちゃんは、こっちの味方よ。既に話しはついてるわ」

 

 

そう言う京子の目にも光は宿っていなかった。

 

そして、いつの間に召喚したのかその後ろには白桜と黒風が佇んでいる。

 

 

 

春虎以外の完全優勢

 

 

周りの生徒がじりじりとその包囲を小さくしていく。唯一頼れるはずだった護法にさえ敵に回られた春虎に逃げ道はない

 

そして、その優劣が明確になっていけばいくほど人間の心には生まれていくものがある。意識していなければ、必ずや出てきてしまう

 

 

 

それは、余裕だ。

 

それすなわち、心の緩み。

 

 

そして、それは苦しくも、呪術を用いる際恰好の的になる。

 

 

 

だから、その声は突如として響いたように聞こえた。誰の耳にも入ってしまった。

 

 

 

「光閉ざせ、眩め眩め!急々如律令!!」

 

 

 

 

 

教室にいた生徒に呪術が襲いかかる。当代天才と言われ、さらに、心の隙を突くタイミング、それは絶大な効果を及ぼした。

 

 

「な、なんだこれ!?」

「見えねぇ」

「暗い!なんだよ、今やったのだれだ!」

 

 

優勢から一転、教室中が混乱に陥る。

 

さまざまながら叫び声が上がる中、他と同様隙を突かれた春虎は、しかしながら、他とは異なり冷静だった。

 

故に、その声がよく聞こえた。

 

 

「春虎君、こっちです!!」

 

 

呼び声と共に腕を引っ張られる感触。引かれるがままになり、駆ける。

 

情けなくも、今回は助けるべき主に助けられたのだった…………

 

    それが悪夢の始まりだと知らずに

 

 

 

 

 

 

しばらく走ると、

 

 

 

「ここまで来ればいいでしょう」

 

 

 

という声とともに足を止める。二人とも息を切らしている。どちらにしろそろそろ夏目は走るのが限界だったのだろう。

 

 

音から察するに廊下をひたすらに走った後どこかの空き教室に入ったようだ。

 

 

「助かったよ。ありがとな夏目」

 

 

「……………」

 

 

返事がない。何となく気配と呪力の高まりは感じるから、いるはずなのだが

 

 

 

(…………………呪力の高まり?)

 

 

 

咄嗟に、夏目によってかけられた呪術を解呪しにかかる。春虎の力を持ってすれば、落ち着いてやればすぐに終わる程度のものだ。

 

クラスの生徒は苦労するだろうが。なにせ、天才が隙を突いて放った渾身の呪術なのだ。

 

 

 

ものの三十秒で術を解き、網膜が刺激を受け取ることによって脳内に映った映像は…………

 

 

 

「……………は?」

 

 

 

 

 

教室のドアに呪符を貼る夏目の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、貼ってあるのはドアにだけではなかった。

 

周りを見渡せば、というか、見渡す必要もなくすべての壁に、むしろ隙間の方がないくらいに呪符が貼ってある

 

 

(い、いつの間に…………まさかっ)

 

 

「あ、春虎君解呪しちゃったんですか?流石ですね」

 

 

思わず漏れてしまった声に反応する、女の子モードになっている夏目。

 

 

「い、いつの間に……」

 

 

春虎が驚愕の声を上げると顔をドアに向けたまま手を止めずに、とても優しい声で言う。

 

 

「あぁこれですか?これは、朝のうちにやっておいたんです。入学式の後すぐに準備して…………まぁそのせいで少し授業に遅れちゃいましたが」

 

 

そう、今日は珍しく授業に遅れてきたのだ。あの夏目が。だが、春虎はそんなことに気を止めてはいなかった。

 

 

(や、やられた!)

 

 

「あとは、どうやって春虎くんをここまで連れてくるかでしたけど………ふふふっ丁度良いくらいに釣れて良かったですっ」

 

 

夏目は、誰に聞かれているわけでもないのに話し続ける

 

 

「大変だったんですよ?これやるの。春虎くん逃げるの上手ですから、逃げないように逃げないようにって」

 

 

しかも、それをずっと呪符を貼る作業を続けながら

 

 

「もしかしたら、それだけじゃ駄目かもしれないって、私の血を使って呪符を書いたりとかもしました。すごく痛かったんですけど……春虎くんのためだと思うと頑張れましたよ?」

 

 

 

まだ止まらない

 

 

 

「あー春虎くん、無駄ですよ?この空間は春虎くん専用ですから。春虎くんは何も出来ません。他の人には効果はないんですけど、春虎くん一人だけを封じ込めるものなら、なんとか作れたんです」

 

 

夏目が春虎の呪力を感じ取ったのかまだ振り返らずに答える。しかも、声色は優しいままで

 

 

「まぁ作り始めたのは今じゃないんですけどね?春虎くんは、いっつもどこかにふらふらっと行っちゃいますから……ずっと作っていたんですよ」

 

 

またもやふふふと妖しく笑う。そして、手に持っていた呪符がなくなって、準備が終わったのか、振り返ってにっこりして言った

 

 

 

「今回役に立って良かったです。まさか。こんなことのために使うとは思ってませんでしたが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ………………終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャア、オハナシをしましょうカ、春虎くん?」

 

 

 

 

 

 








あぁ太陽よ、なぜそなたは、そんなにも早く回るのか……………


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過去と猧子


お待たせいたしました、あれ、別に待っては無かったですか(´・ω・`)


忙しい。


この時期に自殺者が多くなると言うのも納得ですええ全く。

みなさんも頑張って下さい。作者は何もできませんけど笑


書いていると、ヤンデレの作品を書いているのかと錯覚をしてしまいます。そう言うのが嫌いな方すみませぬ。



遅くなって本当に申し訳ありません。居るかは分かりませぬが、楽しみに待っている方々には大変ご迷惑をおかけします。


誤字脱字は、いつも通りです。赤ペン先生(いつも誤字報告をして下さる方々を作者は敬意を込めてそう呼びます)宜しくお願いします笑




今回は、あの方の登場……………………………?




 

 

 

 

チリンチリーン

 

 

 

夏の風物詩たる風鈴が風に揺られて、軽やかな音を鳴らす。

 

そこからも分かるとおり、そこは夏を迎えていた。

 

 

風鈴がなったのは、一方を木々に覆われた一つの日本式豪邸ーーー土御門家本邸だった。

 

 

縁側に腰掛ける少年は、夏祭りで買ったのか、ラムネを傾けながらボーッと空を眺めていた。

 

 

「春虎くん」

 

 

それを呼びかける一つの声。

 

 

「どこに行ってたんですか?」

 

 

その声色には、非難が五割、心配が五割含まれていた。

 

土御門夏目、この土御門家本家の現当主によって育てられ、次期当主と見なされている『少女』

 普段なら、その外観に合わせて、家の中では、簡単な着物を着ていることが多い彼女は、今まで外にいたのか、白いワンピースを着て、息を荒げている。

 

少し急いでいたのだろうか

 

 

「まぁ、ちょっとな」

 

 

しかし、春虎は夏目の方を見向きもせず、夜空を見上げながらラムネを傾ける。

 

 

「なんですかその態度は、心配してたんですよ!」

 

 

プンスカと擬音が聞こえてきそうな顔で怒る夏目。その目は心なしか少し潤んできたように見える。

 

 

「大丈夫だって、ちょっとトイレ行ってくる」

 

 

それを察し、逃げるように理由を付けてその場を離れようとする

 

 

「……逃げるんですか?」

 

「お前こそ、おれにおもらしさせるつもりかっ!」

 

 

そう言われると何も言えなくなる夏目、それを尻目に春虎は駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ、危ねぇ)

 

 

 

夏目の姿が見えなくなると同時にほぉと深く息を吐く春虎。夏目の前では、いつも通りに接していたが、内心は穏やかではなかった。

 

 

鈴鹿の存在だ。

 

 

現在、この屋敷のある部屋に鈴鹿が寝ていた。

 

 

当然、春虎は何かをするわけでもなく、するために連れてきた訳でもない。ただ、それは春虎の主観であって、客観的に見ればそうはならないであろうことは、想像に難くない。

 

 

鈴鹿は、その態度こそ大人ぶっているものの、その服装はゴスロリであるし、そもそも大人“ぶって”いるわけだから、大人なわけがない。しかも、その容姿も悪くない。寧ろ、美少女と言える分類に易々と乗り込んでくるだろう。

 

 

 

見知らぬ美少女を連れ込み、部屋に寝かせている男子高校生

 

 

 

もはや、有り余る青春のリビドーを解放寸前にしているようにしか見えない。

 

相手が夏目ならなおのことだ。

 

 

 

緻密な呪力のコントロール。

 

それによって、呪術発動の際の余波さえもコントロールし、秘密裏に呪術を用いる。因みに、春虎も現在夏目の視野から外れた時点で隠形を始めている。

 

鈴鹿の寝る部屋を囲む二枚の結界

 

 

1枚は、それ自体を隠すための認識阻害の結界

 

もう1枚は、仮に認識阻害が破られたときのための侵入妨害のための結界だ。無論、春虎は破られることはないと思っているため、ほとんど保険のようなものだ。

 

 

 

これで、たとえ夏目が前を通ったとしても、気づくことはないだろう

 

 

春虎はそう考えていた。

 

確かに、夜光の転生たる春虎が作った結界、未だ陰陽塾にかよう学生なぞに見つかるはずはない。

 

 

そう“外からなら”

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、さすがね。でも……これなら…」

 

 

少女は、悪い笑みを浮かべて舌なめずりする。そして、両手を前に掲げながら大層不気味なことを呟くのだった。

 

 

悲しいかな、それを春虎が聞くことは不可能だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いです、何していたんですか?」

 

 

急いで戻ったつもりだったが、待っている側と待たせている側では時間の進み具合がちがうのだろう。

 

夏目はわずかに頬を膨らませ、私不機嫌です!と言うような雰囲気をぷんぷんさせながら、腕を組んでそう言った。残念ながら、女性としての“ある”部分が強調されることはなかったが。

 

 

「…………聞きたいのか?」

 

春虎がそう返すと、何を想像したのか顔を赤くして、俯いてしまった。

 

 

「それにしても、本当に何をしていたんですか?」

 

夏目が再び問う。今回は、今の話ではなく今日のことについてだ。それをわざわざ夏目は口に出すことはしなかったが、春虎にはちゃんと伝わっていた。

 

 

 

「そりゃまあ、冬児とさ……?」

 

 

呪術の真髄は嘘である

 

 

そんなことを言ったのは誰だったか

 

 

「嘘だね」

 

夏目は、息を挟まず即座に否定する。

 

 

信じる心。それなくして、いかなる嘘が輝きましょうか

 

 

そういったのは誰だったろうか……

 

 

 

「冬児には先に確認をとっておいた」

 

 

夏目は続けてそう言う。どうやら既に裏をとられていたらしい。

 

春虎からしてみれば今の発言は『墓穴を掘った』ことに他ならない。なにか後ろめたいことがあります、といったようなものだ。

 

 

「で?」

 

夏目の言葉はそういって締めくくられた。最も短く簡潔に、そしてど迫力に脅すように。

 

春虎は、数多の戦術や呪術を開拓してきたその脳力を絞り出して考える。

 

人間は、窮地に追い込まれたとき過去の記憶から次の発言を呼び起こすという。

 

今、春虎はまさにそんな状態だった。ただ、昔と言っても単なる『昔』ではなく『前世《むかし》』だったが。

 

そして、その脳裏にはある映像が浮かんでいる。

 

 

「夜光様?夜光様?なんで応えないんですか?

ふふ、夜光様?いかがなさいましたか?夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様夜光様…………」

 

 

ブルリ、と背筋が凍る。美女が死んだ目をして、何度も名前を呼ぶのは物凄い恐怖を覚えさせられる。この場合、美女は美女でも、狐耳狐尾付きだったが、そんなものは関係なかった。怖いものは怖い。

 

実際に頭のなかでしか今は起こっていないそれのせいで、春虎の背中は冷や汗でびっしょりとデコレーションされていた。

 

だが、そんなことは関係ない

 

 

(おれは、この時どうしたんだ、思い出せ!思い出せ!)

 

 

この程度で脳が悲鳴を上げるはずはないが、そんな気分になるくらい考える。そして……

 

 

(……思い……………出した!!)

 

 

春虎はその通りに行動する。

 

 

まずは、夏目との離れていた距離をなくす。およそ3メートル。歩いて一瞬だった。

 

 

「な、なんですか?」

 

 

その行動に夏目も少し慌てた様子を見せる、が不機嫌ですオーラはまだ消していない。

 

 

 

そして次、何も言わずに右手を差しだし、夏目の左手を掴む。そして、思いっきりひっぱる

 

 

必然。夏目はひっぱった方、つまり、春虎にむかって勢いよく引き寄せられる。

 

春虎は、それを優しく包み込むように受け止めた。

 

一言で言うなら、抱きしめた。

 

 

「はははは春虎君!?」

 

 

驚いたような、しかしながら、とこか好感が混じっている声を上げる夏目。

 

 

「は、離して下さい!!こんなことで誤魔化されません!」

 

 

そう言う彼女の手は、既に春虎の体をしっかりと抱きしめている。

 

夏目が本心から離れたくないことを理解すると、右手を上げて、彼女の頭を撫ではじめる春虎。夏目は現在、春虎の右肩甲骨に額をぶつけるようにしている。

 

撫でるのは難しいことではなかった。

 

 

「う、うにやぁ~~」

 

 

謎の声を上げる夏目。それを聞いて、そこに不機嫌さと疑いが無くなっていることを確認し、春虎は今回の作戦の成功を心で祝った。

 

 

これでダメ押しと言わんばかりに撫でるのを継続する。

 

 

「うにゅうぅぅ~~~」

 

 

またもや、変な声を上げながら、今度は顔を上げる。

 

 

顔を上げてしまった。

 

 

 

 

「春虎君?」

 

 

夏目が急におとなしくなって春虎の耳元で囁くように言う。

 

 

「なんだ?」

 

 

大丈夫だと、高をくくっている春虎は何の気なしにすぐに応える。

 

 

「春虎君」

 

 

「ん?だからなんだ?」

 

 

しかし、帰ってきたのはまたもや同じ問いかけだった。まだ一回目だからか、春虎はわずかな疑問を覚えつつも同じように答える。

 

 

「春虎くん」

 

 

しかし、夏目は変わらない

 

 

「春虎クン」

 

 

しかも、春虎の返事すらまたなくなった。心なしか『春虎君』という呼びかけも変化していように感じられる。

 

 

「ハルトラクン?」

 

 

 

 

 

 

 

「ナンデスカアレハ?」

 

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

そこでやっと気づく違和感。しかし、時既に遅し。

 

呪力の感知を広げれば一発だった。

 

 

ギギギギ、と長年油を差していない機械のようにゆっくりと後ろを振り返る春虎。

 

 

その先には……………

 

 

 

「おはよう、おにぃちゃん?」

 

 

金髪の美少女が物凄く悪い笑みを浮かべながら立っていた。

 

 

 

「あ、あぁ……………な、なんで」

 

 

ふとした隙に洩れてしまう本音。人間本気で驚いたとき隠し事はできない。幸運にもーーーまあバレた時点でそう言えるかはあやしいが、その声は大変小さいものだった。

 

 

「……ほう?」

 

 

耳元に人が居なければ良かったが

 

 

「ハッ!いや、な、何でだろうなぁ?ど、どちら様でしたっけー?」

 

 

春虎、渾身の演技。

 

しかし、義妹は、優しくなかった。義兄が女の子を抱きしめていて腹を立てているのか?それは分からないが

 

 

「え、何言ってるの?おにぃちゃん。さっきだってあんなに…………」

 

 

顔を赤く染めて、またに手を挟みながらモジモジといきなりしだすその少女ーーー鈴鹿。

 

 

 

「い、痛い痛い痛い痛い痛い痛いってか、締まってる夏目締まってる締まってる!」

 

 

背中に回されていた夏目の手はいつしか上に上り、首元に来たやいなや、万力のような力ーーー修羅場の馬鹿力とでも名づけようかーーーを込めていた。

 

 

「ふんっ」

 

 

ツンデレの女の子が好きな子にだけ見せるときの、アレのようなものではなく、それは、ただ単に鼻で笑ったようなものだった。ゴミを見るような目と、声と同時に投げ捨てられる春虎というのがよく証明していた。

 

 

「で?」

 

 

無論夏目のセリフ。しかし、何時ぞやの比ではない。思い返せば、夏目の“鬼”が発現したのはこの時ではなかったろうか。

 

 

「ヒッ!」

 

 

本物の鬼と対峙したことのある春虎さえもがそれに怯んだ。そこに駆け寄る天使が一人。ただ、春虎主観では悪魔。

 

 

「だ、大丈夫?おにぃちゃん?」

 

 

夏目に投げ捨てられ、尻餅をついたような恰好でいる春虎の元へ鈴鹿が駆け寄る。左手で頭を後頭部から支え、右手で体中をペタペタと触る。その時の声は甘える猫のように可愛らしい声なのは、言うまでも無い。

 

 

春虎に被さっているようになっているため、夏目からは顔が見えないが、春虎には、その顔がしっかりと確認できた。

 

 

ニタァ

 

 

そんな擬音語がピッタリの笑み。声とはおよそ真反対の代物だった。

 

 

 

「で?」

 

 

夏目の台詞は変わらない。春虎には、それに立ち向かう力は残されていなかった。しかし、彼女は違った

 

 

「おにぃちゃんをいじめないで!!」

 

 

そう叫んで、春虎の顔をつかんで自らの胸元に思いっ切り寄せる。年は明らかに鈴鹿の方が下であるはずなのに、僅かに鈴鹿の方が勝っているその部分の柔らかさに春虎の顔は一瞬緩む。男の性だ仕方ない。

 

そういって収められるのは、男だけだ。

 

 

そして、この行動がより状況を悪くすると知って鈴鹿はやっている。まさに悪女。

 

 

「ほう…………」

 

 

ふたりは座り込んでいるため、自然立っている夏目が上から見下ろすように二人を見る。その迫力は倍くらいに感じられるだろう。

 

 

鈴鹿は、“わざと”それに気圧されたような“ふり”をして、何を思ったのか、春虎の顔を離すとその頬に唇をくっつけた。

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

辺りが驚愕に包まれる。おかげで春虎も対処は叶わなかった

 

しかも、一瞬触れるような子どもっぽいものではない。ヂューーーーー、と下品な音がなっている。

 

いくら頬とはいえ、それだけ長くやるとなんだかいろいろと変わってくる。

 

 

止めたのは、鈴鹿が自分からだった。しかし、春虎の頬は内出血して青くなっている。

 

通称または別名キスマーク

 

 

「えへへ、初めてチューしちゃったっ」

 

 

それがとどめだった。

 

 

 

「春虎、ちょっと話死合おうか?」

 

 

 

 

これが、これから数多渡る春虎のお仕置きの記念すべき第一号。冬児をして、心臓が止まっていたというアレである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論を言えば、『ファーストキス』は、ほっぺにしたもので、『初めての人』は、寝ていた家が春虎の家であると勘違いした鈴鹿が『初めて男の人の家に入った』と言うのも都合良く意訳したものだった。

 

そんなオチだった。

 

 

 

 

 

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、入塾式が始まる少し前。

 

春虎は、一人で廊下を歩いていた。

 

 

 

冬児の朝練があるにもかかわらず、本日の準備をしておらず、誰も彼もが「今日は入塾式だから……」と言う理由で先に行ってしまったからだ。

 

因みに、冬児は、ちゃっかり準備を整えていたため、夏目や天馬、京子と一緒に陰陽塾に向かっている。

 

 

「っち、薄情者共め」

 

 

故に、自業自得にもかかわらず、春虎がそんなことを言うのは、お門違いというものだった。

 

 

簡単に言ってしまえば遅刻なので、春虎は、それなりに急いで校舎を歩いていた。校門?に居る二匹の小さな狛犬達にも若干窘められたほどだ。

 

だから、と言うわけではないが、“ソレ”に気づくのは、春虎よりも飛車丸の方が先だった。

 

 

「何者だっ!」

 

 

コンの姿で叫び声と共に突如として実体化する。

 

それによって、今までボーッとしていた春虎の頭も働き出した。そうしてようやく分かる霊気。

 

 

「すさまじい隠形だな」

 

 

 

その感想は、感じると一緒に言葉になっていた。事実、ふたりとも“そこまで近づかれるまで”全く気がつかなかった。

 

 

制服はダボダボだが、陰陽塾の女子用のものであることは間違いない

 

つまり、いま一人の童女?が二人の前に立っていた。

 

 

 

 

「………………幼女」

 

 

 

 

妙な呟きと共に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます



感想評価疑問反論抗議質問雑談何でも受け付けてます。


お気軽にぃ~


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受難



えーっと一ヶ月以上経ってますね。もし楽しみにしていらっしゃる方いらっしゃいましたら本当に申し訳ないです。

頑張りました。


作者の心情の変化や環境の変化が作風にも変わったものをもたらしているかもしれません。つまらなくなっていたら堂々と感想等で言って下さい。そういった意見も楽しみにしています。

今回は、“あのひと”との出会いをかいています。まぁ前回ちょろっと出ましたが、前回っていつの話だってなりますよね。すみません、戻って読んでみて下さい泣

会話文が多いのでそこはご愛嬌ということで汗


私はあの人との出会いとか掛け合いとかとても好きなのでそこにはあまり手をくわえていません。背景とかは結構違いますが……。


でもまぁ、面白いと思ってくださったら幸いです



さて、依然として不定期更新であるのは帰られませんが、頑張ってやっていきます。これからももどうぞよろしくお願いいたします。


 

 

 

 

 

 

 

「幼女」

 

 

 

 

童女が幼女という言葉を使うとそこはかとなくシュールだ、と世にも生活にも何にも役に立たない真実を知った春虎。

 

頭の隅でそんなくだらないことを考えつつ、しっかりと現状は把握していた。

 

「幼女だわ」

 

「………………………」

 

「……可愛い幼女」

 

「…………………………」

 

眠たそうな目をダボダボの裾でこすりながらその女の子は言う

 

「ひぃぃぃっ」

 

するとどうしたのかーー恐らく身の危険を感じたのだろうがーーコンが物凄い早さで春虎の背に隠れる。

 

そこからこっそりと覗くようにその童女を見るが、残念可愛い獣耳がその存在をより強調してしまった。

 

 

「………可愛い狐の幼女」

 

 

そろそろその女子生徒の暴走が危ぶまれると思ったところで、春虎は後ろに隠れたコンの頭に手を置き、言った

 

「こいつはコン。俺の護法式だよ。それよりーーー」

 

 

「可愛い狐の幼女の式神」

 

 

 

「いや、だからーーー」

 

 

「つまりあなたが土御門春虎」

 

 

突然名を呼ばれドキリとする春虎。

 

しかし、それほど驚くことではない。天才、土御門夏目の名は言うまでもなく、その式神として、さらには、自身も夏目と同じほどの天才だということで噂が流れている。

 

すなわち、彼、土御門春虎も陰陽塾内では相応に有名人なのだ。

 

「なんだ、俺のこと知ってんのか?」

 

 

「あなたは有名人」

 

 

「いや、それほどでもねぇとーーー」

 

 

「幼女を連れた変…………天才」

 

 

「おいそれ、作り話だろーな!お前が幼女が好きなだけだろうな!」

 

 

いまだに春虎の顔を見ずただコンを見続ける女子生徒に戦慄をおぼえながら、幼女から自分が連想されていないことを密かに願った。

 

 

「だいたい、お前は誰なんだよ?なんかおれに用か?」

 

幼女幼女と内側からダメージを与えてくる女子生徒に耐えかねた春虎がとうとう沸騰してしまった。

 

そんな春虎の不躾な視線にも、女子生徒は動じず無表情なままだ。いや、春虎の後ろから覗かせるぴくぴくと動く獣耳をみて、どこか幸せそうだ。表情に全くの変化はないが

 

 

「私はあなたの先輩」

 

 

「え?さ、3年なの?」

 

春虎は驚く。

 

明らかに年下と思われる見た目に、ダボダボの制服。新入生だと信じ切っていた。

 

そして、勘違いに気付く。

 

彼女は明らかに先程隠形術を使っていたのだ。それも、春虎とコンが驚くレベルの。それを考慮すれば新入生より三年と言われた方が納得できる。

 

 

「ゴメン……じゃなくて、済みません。俺てっきり年下だと……」

 

 

「私が小さいからね」

 

 

春虎のタメ口には全く気にして無いように振る舞っている。実際に気にしてないのかもしれない。

 

 

 

「いや、その……………」

 

 

「私が幼女だからね」

 

 

「超ちげーよ!」

 

 

「いいのよ。よく間違われるから」

 

 

「どっちにだっ?1年にかっ?それとも幼女に間違われるとでも言うつもりかっ!?」

 

 

「私、すごく若く見られるの」

 

 

「安心しろ!少なくとも幼女には絶対見えねぇ!」

 

 

はぁはぁとツッコミに精を出しすぎた春虎が息を切らして睨む。

 

そんな状態でも飄々とした、というより、全く意に介してないような無表情を貫き通すので、さすがに諦めて、春虎は自棄になって

 

「あぁくそっ、もういいや。……とにかく、えーっと、あんた……」

 

 

「すずちゃん」

 

 

「呼ぶか!どこまで幼女らしさ求めてんだよ!」

 

「ちゃん付けただけで幼女……」

 

 

「いや、流れからそう考えるだろうが!」

 

 

「そう、でも私にそんなつもりはなかった」

 

 

「嘘つけっ!」

 

 

彼女はただで会話することが出来ないらしい。春虎が一般的に言われる意思の疎通を諦めた瞬間だった

 

 

「ああもう、で、その………すず…先輩?は何の用ですか?今結構焦ってるんですけど」

 

 

「別に、たまたま見つけただけ」

 

 

「なんかうっすらそんな気はしてましたけどね」

 

 

「幼女がいたから、つい」

 

 

「すきなの!?そんなに幼女が好きなの!?てか、コン隠形してたよな!!」

 

 

「私にかかれば、隠形なんてないも同然」

 

 

「式神の隠形だぞ!?」

 

 

「幼女だから?」

 

 

「なんでそこで疑問系!?不思議なのはこっちだよ!」

 

 

「幼女だから!」

 

 

「疑問じゃなくなったからって解決するわけじゃねぇ!!」

 

 

 

ここまで話していて凄いことは、彼女はどんなにはなしても全く表情に変化が訪れないことだ。

 

まぁそれと話している春虎も凄いのだが。

 

 

「落ち着いた?」

 

 

「誰のせいだとおもってる!?」

 

 

 

 

 

「あなたは誰?」

 

 

 

 

 

唐突な言葉。

 

さっきまでの会話の流れとそのままに現れたどこか確信を感じさせる台詞。

 

今までぼんやりしているように見えた目がどこかこちらを見通しているように感じさせる。

 

質問に答えるのに戸惑っていると、口を開いたのは、スズが先立った。

 

 

「またね」

 

 

そう一言。

 

それだけ言って、去っていった。

 

 

「何だったんだ……一体?」

 

 

 

 

最後に残ったのは、その春虎の呟きだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

これが入学式前に誰にも知られることなく起こった、今後大きく関わってくる彼女、早乙女涼との初めての邂逅だった。

 

 

 

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐

 

 

 

 

 

 

 

 

数人の女の子(+獣耳+男装)が、一人の少年を囲んでいた。

 

 

しかし、そこにピンク色の雰囲気は存在していない。

 

言うなれば、黒。

 

 

近づくだけで生物を怯えさせるような、そんな威圧感をたった一人の少年ーー逃げ道を塞ぐために円上に囲まれた春虎ーーに向けられていた。

 

かく言う春虎は、丁寧に正座をしている。無論、膝下に柔らかい座布団など存在していない。ギザギザと波打った板の上に座らされていた。

 

 

 

「………………で?」

 

 

男装少女夏目君はそれだけを述べた。

 

補うなら「で、何か弁解はあるのか?」といったところだろうか。

 

 

しかしながら、春虎は戸惑っていた。

 

なぜなら、夏目は全て知っているはずだ。なにしろ、その場にいた人物なのだ。そこが分からない。

 

そんな顔をしていたのだろうか、思考を察したのか夏目は依然冷たい目で一言。

 

 

「ムシャクシャしてやりました。後悔はしていません」

 

 

唖然……春虎は、口が塞がらなかった。

 

どうやら、女の嫉妬に理由は必要ないようだ。それに気付いていれば春虎の未来も明るかったかもしれない。

 

 

「そ、そんなのおかしいだろ!?」

 

 

「ほぉ……おかしい、ですか。この私が」

 

 

そんなことを言ってしまった。再来する夏目の『鬼化』

 

“ピンチはチャンスに”世の中にはそのような言葉がある。しかし残念、これはほとんどの場合において明確な勝ち負けの存在する中で適応される。

 

此度は、勝ち負けの存在しない。むしろ、負けしかないものだった。

 

「ちょっと待って夏目君」

 

 

そんなところに天使が舞い降りた。

 

「今回はそれはだめよ。一つ一つ残さず全て聞き尽くすんだから」

 

舞い降りてそして、悪魔になった…。

 

 

だが、おかげで夏目の『鬼化』は抑えられたようだ。

 

 

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐

 

 

 

ギザギザの板に正座し、尋問を受ける、という姿はさながら江戸時代の拷問のようだ。

 

膝元に忍ばせた治癒符がバレない限りどうにかなるが、その隠形のための集中力と答えるために頭を使うのとで、頭がいっぱいいっぱいになっている。

 

そんなことはつゆ知らず、彼女たちの尋問が始まった

 

 

「じゃあ、まず普通に不可解なんだけど、あのおにぃちゃんってのなに?」

 

 

初めの質問は、京子からだった。当然、その目は優しい光を放っていない。

 

ちなみに、嘘に関してはコンが目を光らせているので、当然つくことなどできない(事前に検証された)

 

 

しかしながら、その質問を聞いた春虎は、今までの緊張した面持ちが一転、急にポカーンとした顔になった。

 

 

「……なによ?その顔」

 

 

一層不機嫌さが増す京子。

 

このままでは危険だと思ったのか、急いで春虎が言葉を紡ぐ、

 

「京子、相馬家って知ってるか?」

 

「は?何言ってんの……とと、そういう魂胆ね」

 

なにやら、事情は分かったぞ、と言いたげな顔で続けた

 

「話を逸らそうったって、そうはいかないんだからっ!」

 

人差し指を春虎に向け、ビシッという効果音のなりそうな勢いでいう。

 

春虎は、全くの勘違いをされていることにあせったのか少しはどもりながら

 

 

「いいいいやいやいや、勘違いだから!そんなことは今さらーー」

 

「ーー今さら?」ギロ

 

「いいい今さらに謝罪を申し上げまする」

 

 

一字一句に気を付けなければならない状況、ちょっとした語句の選択ミスで彼女たちの機嫌が変化していく。

 

『今さら』という言葉を使っただけで、睨みを聞かされ、どこかコンの香りのする謝罪をしてしまう春虎。

 

「ホントに誤魔化す気はないのね?」

 

未だ疑わしいという目をした京子が問う。

 

「も、もちろんだ!」

 

ようやく納得“してやった”とでも言いたげな顔をして、はぁと溜息をつくと、何故かまた不機嫌な顔をして続けた

 

「な、なんで!?」

 

春虎が驚愕から声を上げてしまう

 

「当たり前だろう」

 

その答えを教えてくれたのは、京子ではなく夏目だった

 

「倉橋さんは、土御門の傍系たる『倉橋』だ。その質問は馬鹿にしてるとしかとらえようがないだろう」

 

「そ、そうか?ならいいんだ」

 

「で?なんなのよ、それが」

 

夏目の解答が終わり、しびれを切らした京子が追究する

 

 

「お前、本当に知らないのか?」

 

 

「はぁ?だからなんなのよ!」

 

 

「鈴鹿、フルネームで言うと大連寺鈴鹿。この『大連寺』ってのが、その『相馬』の血筋にある。つまりはーーーー」

 

 

一息置いて、言った。

 

 

「俺らは親戚なんだよ」

 

 

 

 

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐

 

 

 

 

 

春虎がソレに気付いたのは本当に偶然だった。

 

もともと、鈴鹿の家ーー大連寺家について調べようと思ったのは、鈴鹿に対するあの異常なまでの呪的処置だ。

 

あれは、ただ単に呪的に強化して、強い陰陽師を作る、と言った目的で行われたものではない。まあ少なからずその目的もあったのかもしれないが、真の目的は他にある。春虎は、それを確信していた。

 

 

 

調べるのは本当に苦労した。

 

 

あれをやったのが誰かまではすんなりと分かった。

 

『導師《プロフェッサー》』大連寺至道

 

鈴鹿の実父だ。

 

 

しかし、そこからが大変で仕方ない。

 

 

なにせ、彼は霊災テロを引き起こした張本人だったからだ。犯罪者である彼に関する資料は、陰陽庁に厳重に保管されていた。

 

呪的結界ならまだしも、夜光の知らない電子的な施錠は、正直どうにもなりそうに無かった。

 

まぁ職員を時間をかけてじわじわと操り、本人にも、はたまた回りにも分からないレベルで呪術を刷り込ませる、といったやり方でなんとかこぎつけた次第だ。

 

無論、その彼は依然、陰陽庁の職員として働いている。

 

 

 

手にした資料は、予想以上のものだった。それこそ、角行鬼を呼びつけて話し合う程に。

 

 

そんなこんなで色々あったのだ。それの副産物として大連寺が相馬家とかかわりがあるというのを掴んだ、ある意味幸運の出来事だった。

 

 

 

 

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐

 

 

 

春虎の宣言を聞いてもなお、皆疑わしい目を向けるのを辞めなかった。

 

だが、とりあえず『おにぃちゃん』に関しては

 

「しょ、証拠ならある!!」

 

と言い切った春虎の態度からして信用に足ると判断したようだ。

 

 

 

ここからが本番

 

誰ともなくそんな雰囲気を醸し出しているそんな時だった。

 

予想外の乱入者が現れたのは。

 

 

彼にとって、ソレは天使か悪魔か

 

 

その少女の高い声は、予想以上に響いた

 

 

 

「あぁ、おにぃちゃんみーけっ!探したんだからっ」

 

 

キャピキャピルンルン、そんな言葉を簡単に具体化したかのような声調だった。

 

 

「だ、大連寺…………」

 

 

春虎の声は、悲壮に染まっている。

 

そんな彼の心中を知ってか知らずかーー恐らく知っていてかつ知らないふりをしているのだろうがーー鈴鹿の顔が悲しさに彩られる。

 

 

「お、おにぃちゃん?何で大連寺なんて呼ぶの?いつも通り鈴鹿って呼んでよ、ねぇ」

 

 

涙声を用いるトッピング付き。お陰で春虎の涙腺も崩壊寸前である

 

 

「ほぉ……またですか、春虎クン」

 

 

素が出てしまっている夏目。

 

まわりには敵だらけ

 

 

春虎の受難は続いてゆく……………。

 

 

 

 

 

 





お久しぶりです……


異論反論抗議質問等なんでもお待ちしております。

お気軽にどうぞ!!


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旧痕



諸事情により執筆。


変な言い方ですが、ホントに執筆しなきゃ生きてられないような状態に陥るってユー珍しい状態でした。


おかけで文がへんなとこあると思いますが、その時は言って下さい






 

 

 

「はぁ」

 

 

少しのためらいも見られないため息が春虎の口から漏れる。

 

一応は、“彼女”たちの説教は落ち着いて皆各々の方向へ歩いて行ったが、なぜが鈴鹿だけがそこに留まっていた。

 

 

「なによ」

 

 

ため息が自分に向けられていたものだと察したのか少し不機嫌な声で鈴鹿が言う。

 

 

「お前なんでここに居るんだよ、クラスは?」

 

 

春虎がそう言うとなお機嫌が悪くなったようで、ツインテールにした綺麗な金髪を揺らしながら叫びだした

 

 

「はぁ??あたしがあんなのと仲良く出来るわけないじゃん、実力が違いすぎんのよ!」

 

 

「いや、そういうの関係ないだろ」

 

 

「あるし!それに、教室だとあんたの話を聞きたいってうるさいんだよね」

 

 

「お前それ、自業自得だろうが!」

 

 

さらっと述べられた鈴鹿の暴露を春虎は聞き逃すことなく反応した。対する鈴鹿は「ってへ」とでも言いたげに舌を出して誤魔化した。

 

 

「でも、なんでここに来たんだ?実力的には来る必要なんてないだろ?」

 

 

空気が変わり少しまじめな話になると二人の表情も変わる。

 

春虎がそう問いかけると、鈴鹿は心なしか表情が沈んでいるように見える。そして、少し俯いたままでポツリポツリと話し出した。

 

 

「罰則よ、罰則。あたしがあんな行動を取ったのは、家庭環境に問題があるーとか言って、屈辱だわ!アマチュアと一緒にされるなんて!」

 

 

「……………気の毒なこった」

 

 

「あんたには言われたくないわね?ほんとならあたしは今ごろ、この世にいないはずだったのよ!それが誰かさんのおかげで………惨めなもんよ」

 

自嘲の笑みを浮かべながらそう言う鈴鹿。それは、余裕から来るものではなくても、半ばやけっぱちで、ふとした本音がもれたもののようだった。

 

一瞬、春虎は真剣な声で

 

「よかったな、その誰かさんがいてくれて」

 

「…………っ………」

 

 

カァと紅潮する鈴鹿の頬。そのまま何も言えずに俯いてしまう

 

「………………ぁりがと」

 

 

「ん、なんか言ったか?」

 

 

「べ、別に何も言ってないわよ馬鹿!」

 

 

鬱蒼とした雰囲気が晴れて、また会話が斎戒する。

 

「それで、その罰則はいつまでなんだ?」

 

 

「……3年。卒業するまでよ」

 

 

「そうか、でもまぁ、それだけで済んでよかったじゃんか」

 

「……はぁ?アンタバカァ?それだけで済むわけないじゃない」

 

 

本気で馬鹿にしているような目を向けながら春虎を毒突く。

 

それから、

 

「どうせあんたの担任辺りがチクるに決まってるし、せっかくだから教えてあげるわ」

 

と言って、突然右手で自分の前髪を書き上げた。

 

鈴鹿の額が丸見えになる。そして、春虎はそのちょうど真ん中あたりに“印”を見つける。

 

長さ1センチほどの線分が交わったような×印。

 

そして、それを見た春虎は“納得したような”顔を浮かべた。

 

 

「…………なによ、その顔は」

 

不審に思った鈴鹿が思わず問いかける。

 

「いや、さっきからお前の霊気に違和感があってな。原因が分かってスッキリした顔だ」

 

と、春虎はなんともなしに答えた。

 

 

「で、これは?」

 

と、再び春虎は。誰がやったのかと聞いているのだろう。おそらくどんな呪術、封印なのかは「視て」分かっているに違いない。

 

 

「陰陽庁長官よ、これをやったのは」

 

 

「へー」

 

字面にするとバカにしているように聞こえるが、春虎は真に感心していた。

 

 

(よく出来た封印だ。これが今の最高峰の技か)

 

 

「もうちょっとよく見ていいか?」

 

 

「…………別に、いいケド」

 

 

気持ち顔を前に出しながら鈴鹿は言った。だが、ある意味その行動は無意味に終わる。

 

 

ズイッと春虎が顔を寄せてきたからだ。

 

額と額の距離、およそ10㎝

 

春虎からしてみれば封印を「視て」いるだけだが、鈴鹿からはそうはいかない。

 

彼の顔が目の前にあるのだ。それも相手から近づいてきて

 

 

(これじゃあまるでホントにキ、キキキキスされてるみたいじゃないっ!)

 

 

と、心の中は大変な乙女モードになっていた鈴鹿であった。

 

近年否定された物心二元論。そう、それはすなわち、心が身体に影響を及ぼすことがあるということだ。

 

つまりは、鈴鹿の顔は、赤いインクをぶちまけたように真っ赤になっていた。

 

 

それはもう耳まで。

 

しかし、春虎は気付かない。どこからか、ガコンっという音が響く。

 

それでも、春虎に反応はなかった。

 

 

 

だが、その鈴鹿の乙女モードは唐突に終わりを告げる。春虎の一言によって。

 

 

 

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐

 

 

 

「グギギギキガァァァア」

 

 

 

ある少年と少女を見守る影が一つ。

 

いや、その姿は見守ると形容するのが難しいほど荒ぶっていた。

 

 

 

 

彼の、いや、彼女の名前を土御門夏目という。

 

 

実は、彼女がこの状態になっているのは訳がある。先程の説教に夏目は参加していないのだ。いや、参加できなかった、と言うべきか。

 

 

あの夏、鈴鹿は、土御門の屋敷にやってきた。そして、自分はその時に姿を見られている。

 いつもの制服姿ならよかったが、あの時の服装は

 

(白のワンピースです。春虎君のタメにわざわざしたオシャレが裏目に………)

 

 

夏目は、男として振る舞わなければならない。しかし、鈴鹿は、女としての自分を見ている。

 

しきたりを重んじる夏目の真面目な性格は、夏目が女であるとバレるわけにはいかないという行動を選ばせたのだった。

 

 

最大限隠形をしながら、見守る。

 

が、抑えきれない右手が呪符ケースに伸びているのは言うまでもない。

 

 

ギリギリ聞こえた「封印」と言う言葉から、鈴鹿が何らかの形で呪術を制限されていると推測した夏目。

 

(いまなら、敵うかもしれない)

 

 

かたや封印をうけた神童。かたや天才。その実力差は、いかほどか。

 

不謹慎なことを考えつつ夏目はいざと言うときに備えて待っていた。

 

 

 

そして、最初に戻る。

 

今まさにその状態だった。

 

 

かろうじて声が届くという距離にいる夏目は、鈴鹿の叫び声や笑い声など大きい声なら聞こえるが、ふたりの表情がまじめになってからの声は全く聞こえなくなる。

 

まして、鈴鹿には、前科がある。今こそ耐えられるほどにはなったが、頭からへばりついて消えないイヤな映像。

 

 

 

春虎が鈴鹿に近づいていく。

 

 

プチン、そうなにかが切れ“かける”瞬間だった。

 

「っっっ!!」

 

 

ものすごい勢いで後ろに引っ張られる。いや、引っ張られ続けている。

 

ある程度それが続くと、そのまま手加減なしに壁に叩きつけられた。

 

 

それほどのスピードが出ているわけではなかったが、さすがに人がぶつかっただけはあって「ガコンっ」という音が響く。

 

 

「な、一体なにが……」

 

 

打ち所がよかったのか、はたまた、そうなるようにぶつけられたのか、奇跡的に体に怪我を負うことのなかった夏目は、まわりを見渡しながらそう言った。

 

 

「ふん、夏目殿が悪いのです」

 

 

どこからか聞こえる幼い声。

 

すこしフラフラした状態で漸く夏目の目に入ったのは、真っ白な狐耳に尻尾。

 

コンだった。

 

 

 

「な、コン!?何をするんだ!」

 

 

「それはこっちのセリフです。主を守るのは護法の役目ですので」

 

 

「でもコン。今春虎が、き、キスを………」

 

 

「それは、勘違いですので悪しからず。あれは、春虎様が鈴鹿殿の額に施された封印をみていただけでございまする」

 

 

「え…………」

 

 

途端に力が抜けたように座り込む夏目。

 

 

「全くいつもいつも、少しは確認してから叩けばよいものを」

 

 

夏目を諫めているようで、実際に他の女子に手を出したら暴力を振るうことを辞さないと発現するコン。

 

辛くも、他の連中と違うのは、護法であるといったことがあったからだ。

 

 

「うぅぅだってぇ、春虎くんが他のおん…………嫌なんだもんっ」

 

 

「それは、分かりますが。それでは春虎様の主としてあまりにも情けなさ過ぎるではありませんか」

 

 

幼女が高校生くらいの少女に説教するという謎の光景が広がっていた。

 

いや、実年齢で言えば[飛車丸により規制]であるが、他者からは見た目からしか判断出来ないため、ただのカオスだ。

 

 

 

それから、ちょっとの間コンによる説教は続いた。

 

 







鈴鹿との絡みが終わったら新章にいくかも


ちょっとオリジナルにしたいようなしたくないよぅな……


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企て




早め!!


なんか読者の皆さんの感想が先を読みすぎていて…………。ネタバレになってしまう笑笑

皆さん読むの凄いですね


まだ鈴鹿編終わってません。てか呪術戦が出てきてません。



誤字訂正いつも、ありがとうございます。




 

 

 

 

 

 

「これ、解いてやろうか?」

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 

それは、唐突な春虎の言葉だった。

 

 

今までりんごのように赤かった鈴鹿の顔がスゥーと引いていく。

 

あとに残っているのは疑問の表情だけだ。

 

 

急だったからという理由もある。

 

だが、それ以上に鈴鹿を混乱させたのは

 

そんなこと全く考えてなかった、と言う理由だ。

 

 

 

この術を施したのは陰陽庁の長官だ。

 

確かに、長官は「倉橋」ではあるが、名前だけでトップの座に収まれるほどその椅子は軽くはない。

 

それ相応の、つまりは、現代でもトップクラスの実力を兼ね備えていなければならない。

 

 

それを「解く?」

 

 

しっかりと確認しおえたのか、先程までの距離はなく少し後ろへ下がった春虎の顔を見る。

 

そこには全く冗談の色はない。

 

 

正真正銘、解除することができると思っていて、なお、鈴鹿からの返事を待っている。

 

 

 

 

そして、鈴鹿は思い出す。あまりにも、彼との距離が近いから忘れてしまっていた。

 

 

彼が何者であるかを。

 

 

 

「どうした?」

 

 

黙っている鈴鹿を不思議に思ったのか春虎が問いかけてくる。

 

 

「い、いや、何でもない…………ホントにできるの?」

 

「出来る」

 

 

その問いにもすぐに返答が返ってきた。

 

 

「でも、もし解呪したってばれたら…」

 

「俺を誰だと思ってる。その偽装するくらいはなんともない」

 

 

鈴鹿の表情が疑問から驚きへ変化していった。

そして、春虎が止めをさす。

 

 

「もし、鈴鹿が嫌ならいいんだ。俺は何もしない。たださ、もし霊災や呪術戦に巻き込まれたとき自衛の手段が限られてるのは危険すぎる」

 

 

またリンゴに逆戻り。

 

物凄く真剣な顔で直視されながら言われた鈴鹿は、しかし、顔を背けることができなかった。

 

 

「俺はお前が心配なんだよ、鈴鹿」

 

 

もともと拒否するつもりはなかった。

 

 

でも、ちょっと躊躇ってよかった、と心底思った。そう思いながら、今度は春虎から顔を逸らすように後ろを向く。

 

今のニヤニヤとした顔を見られたくないからだ。

 

 

「………じゃあ、お願い……します」

 

 

高鳴る心臓を押さえつけながら必死で紡いだ言葉を発する。

 

 

「いいのか?」

 

 

「うん……………心配するって……言われたから」

 

 

「心配するに決まってるだろ?」

 

 

春虎はそこで一呼吸おいて言った

 

 

「俺はお前のもう一人の兄なんだからな」

 

 

 

 

 

世界中どんな人が、聞いても同じような事を思うだろう。その言葉はいま絶対に求められていなかったと。

 

もっと違うものだったと。

 

 

かく言う、少女も例外ではなかった

 

 

 

 

「春虎のバーカーーーー!!!!」

 

 

 

 

怒ったように叫ぶ鈴鹿。それに訳も分からないといった顔で逃げ出す春虎。

 

いきなり、鬼ごっこが始まったがしかし、

 

 

 

追いかける「鬼」の表情は、それほど怒りには染まってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

解呪は、その後滞りなく終わった。

 

 

 

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐

 

 

 

 

 

 

「これは、重大な問題です!!」

 

 

バシン、と机を叩いて音を立てながら夏目は叫ぶ。

 

目の前にいるのは、二人の男たちだ。

 

言わずもがな春虎と冬児ではあるが。

 

 

場所は渋谷の某ファストフード店。陰陽塾では、出来ない話と言うので、結果ここで話すことになったのだ。

 

 

そして、ついさっき大きな音を立てた夏目は店内の人の視線を集めたことに気付いたのか顔を赤くしてそっと座り直した。

 

 

「で、問題ってなんだ?」

 

 

こういった時に流れを作ってくれるのはいつも冬児だ。彼自身その役目を担っていると自覚している。

 

 

「春虎くん忘れたんですか?あの夏休み、彼女ーー大連寺鈴鹿さんは、私の“女としての”姿をみているのですよ?」

 

 

 

「ん、だからなんなんだ?」

 

 

「だから、今の私は男で、しきたりが!!」

 

 

話の通じない春虎に少しイラッとしたのか、言葉があやふやになっている夏目。

 

そして、しきたりという言葉で漸く春虎は思い出した。

 

 

(別にそんなしきたりはないんだがなぁ)

 

 

そんなことを心の中で考えているとは表に出さずに。

だが、その思考の弊害は、言葉に乗り移ってしまった

 

「別にいいんじゃないか?鈴鹿にくらいはバレても」

 

 

「……鈴鹿?」

 

 

「あ、いや、あの大連寺さんにバラしても……アハハ」

 

 

思わぬ所に食いついた夏目に何とか誤魔化す春虎、いや、誤魔化せてはいないが、目下夏目にとってより重要度の高い問題があったお陰でそれには触れられずにすんだ。

 

 

「そうやって、春虎くんは昔から……しきたりですよ!土御門としての自覚がないんです!もう……」

 

 

「なぁ、俺も春虎の案に賛成だ」

 

 

と、ここで見守っていた冬児から春虎への救いの手が差し伸べられる。

 

「冬児まで……」

 

 

「まぁ聞け、俺は別に大連寺鈴鹿可愛さにいってるんじゃない、春虎と違ってな」

 

 

「」ギロ

 

 

「いやいやいや、そんなんじゃないから!」

 

 

冬児は、別に春虎の味方でもなかったようだ。

 

 

「まずは、リスクに対するリターンが小さすぎる。春虎の話じゃ三年まで通うんだろ?つまりは、あと二年、隠し続けなければいけないわけだ。これは、どう考えたって割に合わない」

 

 

聞いても夏目の不機嫌そうな顔は治らない

 

「それでも、彼女がバラさないとは限りませんよ、その時はどうするんですか?」

 

 

「あぁそれに関しては、俺に秘策がある」

 

 

春虎はこの時浮かべた冬児の笑みをよく知っていた。

 

悪巧み、何か良からぬ事を(春虎にとって)、何か面白いことを(冬児にとって)考えている顔だ。

 

失敗したかな、と心で思い、嫌な予感が止まらなかった春虎の胸中であったが……

 

 

悲しくもその予感は当たってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

春虎は渋谷の待ち、恋人たちの集うハチ公前に立っていた。

 

 

「先輩!今日は宜しくお願いしますね!」

 

 

右手に花ーーー花は花でも薔薇か食虫植物ーーーを持って。

 

 

 

 

「ぐギギギギギギギギギギギギギギギ」

 

 

………………背後に鬼の気配を背負って。

 

 

 

 

事態は冬児のひと言が原因だった。

 

 

 

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐

 

 

 

 

「春虎を生け贄に献げれば良い」

 

 

 

開いた口がふさがらない。

 

まさに春虎と夏目はそんな顔だった。

 

 

「そ、それはどういう…………」

 

 

かろうじて出せたようなそんな声を夏目は出しながら、聞いた。

 

「お前はまだ知らなくてい」

 

しかし、返ってきたのは不明瞭な答え。完全に誤魔化されている。そして、それを問いただそうとしたところで、それは冬児自身に邪魔された

 

 

「おい、春虎。お前どうせ大連寺の連絡先知ってるんだろ?」

 

「あ、あぁ、この前話したときな」

 

「ほぉ、それは聞いてませんね、私は。ねぇ?ハルトラクン?」

 

 

「今は抑えろ夏目、後で存分に時間やるから」

 

 

「お、おい冬児!?」

 

 

「うるさい黙れバカ虎。これはお前の運命だ。良いな?夏目」

 

 

「………………ハイ」

 

 

ここがファストフード店であることをさりげなく忘れかけている三人である。

 

 

「いま、連絡取れるか?」

 

そういったのは冬児だ。むろんそれは春虎に向けたもので、目線はいま春虎が取り出したばかりの携帯電話に向いている。

 

 

「いきなりか?まあ出来ないことはないだろうけど…………」

 

「よし、ならかけろ」

 

 

「え、えぇ?俺あいつと今から話す勇気無いぜ?」

 

「安心しろ、話すのは俺だ」

 

 

そういって春虎の携帯をひったくると一人外に出て行ってしまった。

 

「お、おい!勝手に持っていくなよ」

 

当然追いかけようとする春虎、しかしそれは叶わない

 

なぜか

 

 

「ハルトラクン?何処行くんですか?」

 

 

「な、夏目?」

 

 

「冬児がわざわざ時間を取ってくれました…………そうですね?」

 

 

「………は、ハイ」

 

「どうせ彼女だけじゃないんでしょう。今は携帯を冬児が持っていってしまいましたから、口頭で構いません。後でどうか確かめますから隠しても意味はありません。誤魔化すのも許しません」

 

「………………」

 

 

 

 

「ホカニダレガイルンデスカ??」

 

 

 

 

 

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐

 

 

 

 

 

 

ファストフード店前、冬児は、春虎の携帯を操り連絡先を開くと「鈴鹿」との2文字が書いてあるところを押した。

 

 

プルルルル

 

 

そんな呼び出し音は、一回しか流れなかった

 

 

 

『は、ひ!!もしもしゅ!!』

 

 

相手の第一声は、そんなものだった。

 

 

『あーーすまんが、多分俺はお前の期待してる相手じゃない』

 

 

『………………誰?』

 

 

『阿刀冬児、春虎のダチだ。急に悪いが話をしたくなってな』

 

 

『あーあのヘアバンドね。なに?告白とかなら受け付けて無いんですケド』

 

 

春虎ではないと分かったとたん人が変わった鈴鹿。本当に最初に出た人物と同一か大変疑わしいものだ。

 

 

『そんなんじゃない。お前さんも気になってるんだろ。土御門夏目のこと』

 

 

『は、別に』

 

 

『やっぱりか、さしずめアイツとの話のネタだの、近づくための理由だのってとこか』

 

 

『は、はぁ?べ、別にそんなんじゃないし。もちろん気になってるわよ!土御門………夏目?』

 

 

名前が疑問系になっているのですでに白状しているようなものだ。

 

 

『あぁそう言うと思ってな。実はな………………』

 

 

冬児の悪巧みが始まる

 

 

 

 

 

『……………ってことなんだ』

 

 

『へぇなんか面白そうなことしてんじゃん。なに、それを私に伝えてどうしたいワケ?』

 

 

『いや、黙っててほしいのは当然なんだが、ただでやってくれとは言わない』

 

 

『へぇ、気が利くじゃない。でもあたしお金は要らないわよ?一応十二神将だし?』

 

 

『そんなんじゃない。恐らくだがおまえがいま一番欲しいものだと思うぞ』

 

 

『……………………何よ』

 

 

『陰陽塾に来てみれば、春虎の回りにはいつも女女女。入塾式でハッパをかけてみたはいいものの、それほど効果はない』

 

 

『なに?いきなり。頭おかしくなっちゃったの?』

 

 

『まぁ聞け。周りの人間は春虎と半年も長く接していて、色んなことを知ってる。対して自分は春虎のことを何も知らない。それに焦りを感じていた』

 

 

『…………………』

 

 

『沈黙は是なり、だな。図星か』

 

 

『…………………』

 

 

『そこで、だ。お前が黙っていてくれるなら、春虎を一日好きに使って良い権限をやろう。無論、春虎の許可は先ほど取った』

 

 

最後の台詞は真っ赤な嘘である。

 

 

この質問の答えは言うまでも無かろう。こうして、春虎も夏目も事情を知らないままに段取りがたんたんと決まっていった。

 

どこかしら似たような所がある冬児と鈴鹿の手にかかれば、このような企ては赤子の手を捻るより楽というものだ。

 

 

 

 

そうして、日は過ぎ、冒頭にもどるのである。

 

 

 






異論反論抗議質問感想要望等々なんでもお待ちしております。


お気軽に!


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閉話



いやぁお久しぶりです。作者生きておりました。

いや、死にながら生きております。ほんとにお待たせしました。まぁ悲しいですがまたお待たせすることになると思いますが。



時間的にも感覚的にも全然書くことが出来ずにこんなことに…………おそらく下手になって面白くないとの感想が寄せられるのが目に見えているため今回の話は修正しまくると思われます。



鈴鹿編は最終話です。


 

 

 

 

 

 

 

 土御門春虎、旧土御門夜光は失念していた。

 

 何を?

 

 それは“女”と言う生き物の恐ろしさをである。脳みその構造が違うのではないかと思うほどにその頭は回り、顔を使い分ける。

 彼は前世で一度、女の本性を見破る、と言う呪術を作ることを試みたが、悲しいかなそれは失敗に終わった。

 

 これによって彼が得た教訓の一つが

 『女怖い飛車丸怖い』である。

 

 さて、なぜ今こういった話になっているのかというと、、、

 

 

 

 「はぁ~~~~」

 

 そこにはテーブルに突っ伏す春虎の姿があった。

 

 場所は都内の某ファストフード店。時間が微妙なため、お昼時なら満席の店も奇妙に空いている。

 

 「ったく、情け無いわねぇ。天下の土御門夜光がこんなんだってしったら、夜光信者どもも信仰なくすんじゃないの?」

 

 テーブル席の向かいでそう言ったのは、全身をゴスロリファッションで包んだ鈴鹿だった。

 

 そう、彼は冬児の策略にはまり、鈴鹿と買い物に来ていたのであった。

 

 既に労基法制定のギリギリの時間を付き合わされている。

 

 

 集合は、渋谷駅だった。そこで、23件回った後、予想通りも予想通り。その足で原宿へ向かうこととなった。

 

 ここで、大半の時間を過ごすこととなったのだが、春虎が一つ驚いたことは町中に防瘴戎衣を着て歩いているひとがいたことだろう。

 

 

 しかし、よく『視て』みれば、呪的な措置は全くされていなかったため、単なるファッションとして着られているということになる。

 春虎は、ファッションと言う言葉の恐ろしさに戦慄を覚えた。

 

 

鈴鹿の買い物は続いた。

 決してウィンドウショッピングで終わらないところが彼女のすごいところだろうか。

 

 春虎も負けじと式神に荷物を持たせ持ち帰らせつつ、自分も治癒符を乱用しながら荷物持ちを全うするという才能の無駄遣いをしながら付き合っていた。

 

 式を遠隔操作しながら、というのは大変高度なわざではあるのだが、彼の前では児戯にもひとしいようだ。

 

 

 その途中で純粋な疑問として

 

 「鈴鹿、お前金は大丈夫なのか?」

 

 というものが沸いてきた。春虎は、今回の買い物において鈴鹿のものには一銭も払っていなかった。無論、最初は出そうとしたのだか、彼女から直々に「いらない」をいただいたので、素直に言葉にあまえることにしたのだ。

 

 返答は

 

 「あたしを誰だと思ってるの?」

 

 だ。

 

 思い返せば彼女は、御霊部部長の娘、十二神将ととんでもない肩書をもっている。

 十二神将の給料はやはりそれなりだったようだが、それよりも、呪術界のイメージアップとして広告に出されていた時の収入が尋常ではなかったそうだ。

 

 「アンタが良ければあたしが養ってあげるよ?」

 

 と春虎にいっていたことからもまちがいはないだろう。

 

 

 

 「ところで」

 

 コホンと一つ咳払いをしてから、少し間をおいて鈴鹿がきりだした。

 

 春虎もぐでぇっとした体勢を少し戻し、鈴鹿と向き合った。

 

 

 「まさか、気付いてないわけじゃないでしょうね?」

 

 鈴鹿の言葉は意図的にあいまいにされているようだ。

 

 「あぁ、その……そっとしておいてあげられないか?」

 

 急に姿勢の低くなった春虎がそう言う。

 

 「はぁ、やっぱりアンタの関係者だったのね」

 

 「その、なんかごめん」

 

 そういって二人は、少し離れた所にある気を探る。

 

 

 今回の買い物、彼らにずっとついて回る存在があったのだ。それも隠形して。

 

 世間一般にみれば、その隠形はプロの陰陽師にも引けを取らないレベルのものであったが、相手が悪かった。元陰陽の頭、そして陰陽一種資格保有者は伊達ではない。

 

 

 「でも、却下」

 

 「え……」

 

 「そこ!隠形ぬるすぎっ!」

 

 

 鈴鹿が大きな柱に向かって指さし、それをクイッと横に曲げた。

 

 すると何かに引っ張られたように黒一色に身を包み、サングラスを掛けた長髪の男が現れた。

 

 

 

 

 

 春虎は“彼女”がついてきていることを知っていた。

 ちなみにどうしてかコンの霊気が近くに感じられないのは分からなかったが。

 

 

 「あわわわわわっ」

 

 予想外のことだったのだろうか、柱から姿を現した少年ーー夏目はただ慌てるばかりであった。

 

 「はぁ」

 

 そして、その春虎の溜息とともに、今回の企みは実を結ぶことなく幕を閉じたのだった。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 「ふぅ~~~~ん」

 

 

 妙に上機嫌な(ブラック)鈴鹿は、ニヤリと口を歪ませながら春虎の話を聞いていた。

 隣には一応夏目がいるものの今回のことに関しては全く使い物になっていない。

 

 こころここにあらず、と行った様子で放心したまま、ポテトを口に運んでいた。

 

 「……あ、ぽてとおいし」ポケー

 

 

 一通り春虎が話し終えると、鈴鹿が切り出した。

 

 「で、あたしにどうして欲しいの?」

 

 相変わらず口元をニヤリととさせたままそう言う。

 

 「そ、それは……」

 

 「それは?」

 

 「出来れば内緒にして頂けたら…嬉しいかなぁ…と、、」

 

 内心、というか、内服に冷や汗ダラダラの春虎は故意に目をそらしながらそう言った。

 

 

 彼の考えではこうだろう

 

 『却下。なんであたしがアンタなんかに従わなくちゃいけないワケ?』

 

 

 しかしながら、彼女の返答は彼の予想を覆すものだった。

 

 

 「良いわよ」

 

 「……え?」

 

 「だから、良いっていってんのよ。何度も言わせんなっつーの」

 

 

 ところが、だ。

 

 その先を聞いて彼は不覚にも“安心”した。やはり、大連寺鈴鹿である、と。

 

 

 

 

 

 「ただし、条件があるわ」

 

 

 「じょ、条件……?」

 

 

 恐る恐ると行った様子で春虎が聞く。

 

 

 「そう、条件」

 

 

 「それは一体……?」

 

 

 

 「アタシをあんたと同じ部屋に住まわせなさいっ」

 

 

 

    世界が凍った。

 

 

 

 「……………んんんん!!?」

 

 

 

 「なっなっなっなっなにをっ!?」

 

 余りの衝撃に夏目すらも目を覚ました。

 

 「待て待て待て!そんなん無理に決まってるだろ?」

 

 「はぁ?逆らうワケ」

 

 「いやいや、そう言うことじゃなくて!俺は寮、それも男子寮だぞ?ルールからして無理だろ!」

 

 言っていることは至極まっとうなのだが、いかんせん言うタイミングと状況が悪かった。

 

 

 「へぇ………ルールからして無理ねぇ」

 

 そう呟いて、鈴鹿は視線を夏目に向けた。

 

 ビクッと体を縮こませる夏目。そう“彼”は男子寮に住んでいる。

 

 春虎も自らがはめられたことに先程よりも口元の歪みが深くなった鈴鹿の顔を見て理解した。

 

 しかし、夏目の場合は特例だ。彼女は、竜の陰の気と女性としての陰の気を混ぜ合わせることで陽の気を帯びさせている。ある意味陰陽師にとってこれ以上ないほどの乙種呪術だ。

 

 対して、鈴鹿は呪術界に収まらないほどの有名人。全く状況が異なる。

 

 

 「な、夏目は……ほら!俺は夏目の式神だし、近くに居なきゃダメなんだよ!」

 

 

 「そ、そうです!式神と主が近くに居るのは当然のことなんですよ!」

 

 

 良い言い訳を思い付いたのか、2人して口数が増える。

 

 それを聞いた鈴鹿がさっきまでの黒い顔が嘘のようにポカーンとした顔を浮かべる。

 どうしてか、春虎はその顔が黒い顔よりも底知れなく恐ろしく感じた。

 

 果たしてその感覚は、正しかった。

 

 

 

鈴鹿は、首を傾げたまま目線を春虎に合わせて言った。

 

 

 「え?春虎先輩の式神はひーー」

 

 

 「ーーうわああああ、うおほん。す、鈴鹿さん、分かりました。分かりましたから俺もにできる最大限のことをしますから!」

 

 

 ニヤリ。

 

 そして、ニコリ。

 

 身を乗り出した春虎が姿勢を戻したあと、鈴鹿の表情はそんな風に変わっていった。

 

 そして徐に右手を上げるとそこには手に収まるくらいの長方形の機械と思われるものが握られていた。

 

 爪の綺麗に切りそろえられた親指がその機械の上の一つのボタンを押した。

 

 

 『うわああああ、うおほん。す、鈴鹿さん、分かりました。分かりましたから俺もにできる最大限のことをしますから!』

 

 

 そこから流れたのは、先程の春虎の発言。

 

 そして、それが終わると大切そうにその機械を懐にしまい、今日一番の笑顔でこう言った。

 

 

 「おにいちゃん、今日は本当にありがとうございましたっ!!」

 

 

 その“ありがとうございました”にどんな意味が含まれているのかは、言わずもがなだった。

 

 

 鈴鹿は、もう終わったとばかりに春虎たちに背を向け出口に歩いていった。

 

 しかし、10歩ほど歩いたところで、何かを思い出したか、もしくは、思い付いたかのような素振りを見せると、小走りで春虎の元に寄ってきた。

 

 

 そして、春虎にしか聞こえないように耳元に口を寄せ、止めをさした。

 

 

 

 

 

 

 

 「もし、約束破ったら…………

 

  

 

 

 

 ちんこもいじゃうからっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春虎の受難は終わらないようだった。

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 その日の晩、飛車丸(幼女)が細長い木箱を持って春虎の前に現れた。

 

 

 

 

 「はははは春虎様っ!ここ、これをっ」

 

 

 「ん?これは?」

 

 

 受け取ったはいいものの、ハテナマークを頭の上に浮かべる春虎。

 

 「角行鬼のやつめが置いていきました。おそらくアレかと」

 

 急にどもりのなくなった飛車丸がそう言う。

 

 どうやらそれだけで伝わったようで、春虎も目を輝かせ始めた。

 

 

 「おおお!アレか!あいつには礼を言わないとなあ」

 

 

 そうして、なんのためらいもなく箱開け中に入っていたものを取り出した。

 

 「おお、久し振りだなぁ」

 

 どこかうっとりとしたような目をしながら、それを見つめる春虎。

 

 その目線の先には一本の木刀があった。

 

 

 すると急に真面目な顔になって

 

 

 「思い……思い出したっ!!!目覚めろ、サラ○ィガ!!」

 

 

 と叫びだした。

 

 

 

 しばしの間を開けてじとぉーとした視線が諸……春虎を貫いていることに気付く。 

 

 

 「何をやってるのですか?」

 

 

 とは、飛車丸の談

 

 「あ、あのぉ、飛車丸さん?コン状態なのに、どもってませんよ?や、やめて、そんな目で見ないでっ」

 

 

 「一体、なにをされているのですか……」

 

 

 「い、いや、なんか前世を思い出した気がして……」

 

 「前世って、夜光様の時のことをですか?」

 

 「あ、あはは、そんな感じかなぁ」

 

 

 

 居づらくなった春虎が何とかにごそうとし始める。

 

 するとドッドッドッという音が響き、春虎の部屋の前で止まったかと思うと、乱雑な音と共に扉が開かれた。

 

 

 「春虎!!なにをおもいだしたんだいっ!!」

 

 

 出てきたのは夏目だ。その目は何かを期待するような、それでいて怖がっているような、そんな曖昧さを醸し出していた。

 

 

 「い、いや、なんでもないんです。ごめんなさいっ!」

 

 これ以上心を抉られるのが嫌だったのか華麗な土下座を決める春虎。

 

 それを見てどこか安心したような表情を見せると

 

 「そ、それなら良いんだけど………それはいったいなんだい?」

 

 と、春虎の右手に握られた木刀を指差していった。

 

 

 「あ、あぁこれか?ちょっとな。なんていうか、呪具?みたいものだ」

 

 

 「へぇ、そんなものが。まぁいいや。ここの壁薄いんだから叫ぶと聞こえるの忘れないでね?」

 

 

 

 

 “思い出した”と言うフレーズに惹かれたものの自分の早とちりだったと気付くとそそくさと逃げていくように帰った夏目。

 

 

そのため春虎が持っていた木刀には興味を示さなかった。

 

 

 もし、不思議がってよく『視て』いたならば気付いたであろう。

 

 

 

 春虎のもつ木刀が“木気”ではなく“金気”を帯びていたことに。

 

 

 

 その不可解な現象に。

 

 

 

 

 






伏線ですか?伏線なんですかねぇ。伏線だといいなぁ。




感想待ってます。リアビリで唐突に短編を書くかもしれませんが温かい目で見守って下さい。

書くなら空戦か青春ラリアットかアクセルワールドかなぁ……

次の話書き始めてはいますが、一応オリジナルです


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The spirit of wisteria
再月



新章開幕です。

短いのは申し訳ないです、、、。



見て分かると思われますが一応オリジナルです。

初の試み故至らないことが多いと思われます。そのため、気になったところ見てみたい話、アイデア等々どしどし送って下さい。

是非とも参考にさせて頂きます。(これは書き手として良いんだろうか……)


 

 

 

 

 

 

 

 全てのものに始まりがあるように、全ての教えにも始まりがある。

 

 

 そう、それは土御門夜光、現土御門春虎も例外ではない。彼にもかつて“師”と呼ぶ存在がいた。

 

 

 その名は…………。

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 五月、桃色の桜が姿を隠し、藤の花が顔を出し始める頃。

 

 新入生たちが新たな生活に慣れ初めだれ始める頃。

 

 

 その月の始まりにはゴールデンウィークなる自称最も過ごしやすい季節だぜ、という5日間が存在している。

 

 

 そんな素晴らしい天候の朝。

 

 

 

 「ふぁああぁ」

 

 

 カーテンの隙間から顔を覗かせる日差しに起こされた彼ーー土御門春虎は大きな欠伸と共にぐっと背筋を伸ばす。

 

 

 そして、するりと起き上がると洗面所へ向かい洗顔歯磨きをすませると、トボトボと歩き始めた。

 

 

 向かった先はキッチンだ。

 

 そして、皿に手を動かし始める。それまでの迷いのない動きから彼がその生活を経験するのが初めてではないことが想像できる。

 

 

 全ての作業を終えたのか出来た料理を皿に盛り付けると、キッチンの前にあったテーブルに運んだ。

 

 

 「よしっ」

 

 

 そうして、そう一言呟くとまたどこかへと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 そのテーブルには二人分の朝食が用意してあった。

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 あの『夏目変装バレ事件』から約一週間、授業が終わると春虎の携帯電話に一通のメールが届いていた。

 

 送り先は鈴鹿。

 

 内容は

 

 『放課後一人集合』

 

 

 とだけ。

 

 

 これは霊気を辿れとでも言うのだろうか

 

 「おいおい、流石におれでも………」

 

 

 そう春虎が言いかけた瞬間、ヒラヒラと一匹の蝶が目の前に現れた。

 

 

 いや、正確には蝶ではなかった。“蝶の式神”だった。その見覚えのある式に何かを感じ取ったのか、春虎はその蝶を追い掛けるように歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なかなかに粋な真似すんじゃねぇか」

 

 

 そう言うのは春虎だ。相手は無論蝶の送り主。

 

 

 「ふんっこちとら退屈なのよ、大体そこらの教職員よりもアタシの方がデキるっつーの」

 

 

 いかにも私不機嫌ですオーラを出しながら、不機嫌であると伝える相手は、初めて会ったときはゴスロリ・ファッションであった服装が陰陽塾の女子用制服に変わっている鈴鹿であった。

 

 

 贔屓目にみても美少女の枠を超えている彼女が着ると制服ではなく、一つのファッションのように見えてくる。

 

 美人は何でも似合うというのは全くの真実のようだ。

 

 

 

 

 「で、なんなんだ?わざわざ愚痴を言うためにこんな洒落た方法で呼び出したのか?」

 

 

 どこかからかうように言う春虎。しかし、次の鈴鹿のセリフを聞くとその表情は一転した。

 

 「あれー先輩。そんなこと言っちゃっていいんですかぁ?」

 

 先程までとは異なる、明らかに意識して出している甘ったるい声で言う鈴鹿。しかし、見逃してはならない。その口元は相も変わらずひどく歪んでいた。

 

 

 「何でも……してくれるんですよね?」

 

 「」

 

 「あれーどうしちゃったんですか?」

 

 

 黙っている春虎が怒っているのかと思った鈴鹿はさらに煽りをかける。

 

 しばしの空白の後、その脆弱を破ったのは鈴鹿の一言だった。

 

 

 

 「あたしに呪術を教えて下さい」

 

 

 衝撃だった。春虎が見たのは礼儀正しく腰を折った鈴鹿の姿だった。

 

 その声色は真剣さを帯びていた。これが嘘なら素晴らしい乙種だと思うほどに。

 

 

 「いいぜ、教えてやろう」

 

 

 だからこそ彼も真剣に答えた。

 

 

 「ほんと……?」

 

 「あぁ、構わないよ。卵を孵化させるのも俺の仕事の一つだ」

 

 

 現段階、鈴鹿しかしらない真実、土御門春虎こそが夜光の生まれ変わりであるということ。そして、その記憶を既に受け継いでいるということ。

 

 

だからこそ見せる顔、土御門夜光としての顔だ。

 

 顔は同じなのに声は同じなのに全く別人のように感じられる。

 鈴鹿はこれまで一度しか見てはいないないがこの春虎もすきだった。

 

 

 それからの流は自然なものだった。

 

 

 

 「よろしく、お願いします」

 

 

 そういって彼女はまた深く腰を折ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 とは言っても彼女も一筋縄ではいかなかった。

 

 

 学生という本分がある以上平日の放課後に教えると言うわけにもいかない。

 それは2,3時間で教えられるような内容を扱うわけではないといった意味でもそうであるし、夏目達に見られないようにといったの意味もある。

 

 

 

 

 そのため教えるのは土曜日となった。

 

 

 毎週土曜日。その一日を使って行われる。ゆえに、前日の夜に寮を出て鈴鹿の住むマンションで一夜を過ごす。

 

 つまりは、前述したような状況になるわけである。

 

 

 

 無論反抗は起こった。

 

 が、抑えられた。

 

 夏目にそもそも勝ち目はなかったのだが。

 

 

 

 そうして、禍根の残る鈴鹿への授業が始まったのだった。

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 かこんかこんかこん

 

 

 

 と木とアスファルトのぶつかり合う音が雑踏の中で奇妙に響く。

 

 

 

 その音源を辿ってみれば女が一人。

 

 

 藤色で麻模様の着物を着た大和撫子を体現したような美女だ。

 

 艶やかな黒髪に、それを引き立てるかという白い肌。そして、体型が隠れる着物でさえもよく分かってしまうようなプロポーション。それは町を歩けば10人が10人美しいと言うだろう。

 

 しかし、その雑踏の中で彼女に見とれるものはいなかった。

 いや、見ているものさえいなかった。

 

 道は人で溢れかえっている、しかし、群集は彼女を避けるようにして歩く、無意識に。

 

 これはあることをしたとき特有の現象だ。

 

 ーーー隠形術

 

 

 群集の中ではむしろ使わない方が霊気を紛らわすことができ、使わないことが多いとされるそれを、彼女は群集のなかでつかっていた。

 

 それはひとえに、彼女の目的が『逃げる』ことではなく『探す』ことにあるために他ならない

 

 また、霊視官に感づかれていないことからも相当の実力者と想像できる。

 

 

 

 「あらぁ、ここでもないみたいやなぁ」

 

 

 美女がつぶやく。

 

 やはり、誰かを探しているようだった。

 

 

 「まったく夜光ちゃんたら、どこにいるんやろか」 

 

 

 その“夜光”という存在を探しているらしい彼女は、人並みからすこし外れると奇妙なステップを踏み始めた。それも尋常ならざる早さで。明らかに人間に可能な早さではない。

 

 

 

 「今度はおるとええんやけど……」

 

 

 そう呟くと彼女は、まるで元からそこに居なかったかのように地面に吸い込まれるように姿を消した。

 

 

 

 ステップを踏み始めてから消えるまで、その早さは春虎が同じ現象を生みだすのに掛かる時間のほぼ半分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤の花開く五月。

 

 

 いまだ、春虎達の知らぬ所で新たな物語が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 





感想待ってます。


是非とも評価をお願いします。


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過去と猧子Ⅱ

あーーやっちまったなぁ、、、書いちまったなぁ、、、良いのかなぁ、、、。


と言うことです。いや、書きたかったのですけれども、書けているかどうか分からない。さらに、合っているかどうかもわかりません。不安です。なにかあったらなんでも、言って下さい。


書き直しもあり得ますので(・∀・)



ともあれ、簡易的な戦闘描写を書きました。久し振りですね。初ルビ振りもしましたね。



最後に一言


          闇来たれり。


 

 

 

 

 

 「どうしても……なのですか。清明様」

 

 

 和装のまだ大人になりきれていない、17,18ぐらいの少女が目の前の男に向かって問いかけている。

 

 男は少女に、背を向けたまま振り向こうとしない。

 

 

 「………………すまない」

 

 

 「そんなっ……」

 

 少女は、俯いたまま少しだけ肩を揺らしていた。

 

 

 「分かってくれ。人間と精霊とでは、違いが大きすぎる」

 

 

 「……………あぁ”?」

 

 

 「あぁいや、もちろん寿命だよ?寿命が人間にはあるからねあはは、そりゃ精霊と同じだけ生きるなんてちょっと厳しいかなぁなんて、、、、言ったりして……」

 

 少女の垣間見せた迫力にたじたじになりながらも、顔中に変な汗を垂れ流しながらもなんとか男は行き違いを修正した。

 

 「それは重々承知しております。ですが、清明様ならばそれを覆すことも可能ではないのですか?」

 

 

 「………私は陰陽を司るものの一人だ。その調和を正すことならば自ら進んでやろう。しかし、それを乱すことは……できないのだよ」

 

 男は途端に真面目な顔になり、さらにつづける。

 

 「人間は死ぬ。これは、覆せぬ事実だ。たとえ誰であろうな。正直に言うと其方の口からそれを覆すようなことは聞きたくなかった」

 

 

 「っっっ!!も、申し訳ございません!」

 

 

 「よい。それが其方の心故だということは分かっておる」

 

 

 「ありがとう……ございます」

 

 

 そういって少女は頭を垂れた。

 

 

 静けさがあたりを覆い、一時の間が開いた。

 

 そして、男は振り返り少女の元へ向かい頭を上げさせてから言った。

 

 

 「私からお願いがある。最期のお願いだ」

 

 

 「…………はい、何なりと」

 

 

 そう答えた少女の声はひどく霞んでいた。垂れていた頭の下には不自然に染めった所がポツポツと存在している。

 

 

 「其方の生涯を私の未来にくれはしまいか」

 

 

 「……え?」

 

 

 「私の未来にだ。私はもう長くない。故に私に仕えろとは言えない。だから………」

 

 

 一区切りして言った

 

 

 「そう、藤の花咲く季節だけでも良い。私の未来の子どもたちを護ってほしい」

 

 

 「喜んで!!」

 

 

 そう言った時の少女の顔は、涙やその他諸々によってぐしゃぐしゃでお世辞にも綺麗とは言いがたいものだったが。その笑顔だけは大変美しいものだった。

 

 

 「ありがとう」

 

 

 「あ、やっぱり私からも少しだけお願いしても良いですか?」

 

 

 「か、構わんが……私にできることか?」

 

 「はい!むしろ清明様にしかできないことです」

 

 「それならば良い、言ってみなさい」

 

 

 「清明様の髪の毛を数本とお召し物1着。血液を1L………は厳しいでしょうからここはできるだけ多く、と言っておきましょう。あ、あと清明様のお書きになられた呪符を数枚、これもできれば血で書かれていた方が嬉しいのですが、まぁそこまでは言いません。あとは…………」

 

 

 「ま、待ってくれ。色々言ってみたいことがあるが、それはこの際置いておいてひとつだけ」

 

 清明とよばれていた男は少しだけ躊躇いながら言った

 

 

 

 「それは………儀式に使うんだよね?」

 

 少女はにっこりとした、これ以上無いと言うほどにっこりとした笑顔で答えた

 

 

 「もちろん“儀式”に使うためですよ、清明様。どうしたんですか?」

 

 

 「い、いや、なんでもない。流石に私でも全てを覚えるのは厳しい。何かに書いて後で式に渡しておいてくれ。必ず用意しておく」

 

 男は必死で引きつった顔をしまいと努力したせいか、かえって変な顔になってしまった。

 

 

 「ふふふっ、清明様ったら、変なお顔になっていますよ?まぁそれでも、用意して下さるならありがとうございます」

 

 

 

 「いや、たいしたことは無い。むしろこれだけしかできなくてすまない」

 

 

 「いえ、十分でこざいます」

 

 

 

 「そう……か、それならばいいのだ。ではな、子孫をよろしく頼んだ」

 

 

 

 「あ、清明様!“最後”に一つよろしいですか?」

 

 それで終わりに見えたやり取りに、思い出した!というような素振りをしながら少女が言った。

 

 

 「あ、あぁ。かまわんよ」

 

 

 「藤の花の花言葉ーー」

 

 

 男の動きがその時点で止まる。話を終えたつもりであったため、歩き始めていたのが僥倖だった。つまりは、振り向いていたため表情が見られていないのが、だ。

 

 

 「ーーーくれぐれもお忘れにならないように」

 

 

 

 

 「もちろんだとも」

 

 

 

 一拍おき、そう言って男はどこかへ歩いて行ってしまった。

 

 

 一人残された少女は、どこへともなく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 「私の生涯をかけて清明様、あなたの子孫をお守りいたします。藤の花咲く季節に……ふふふっ」

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 「はぁはぁはぁはぁ」

 

 

 

 

 

 そこには一人の男がいた。

 

 

 

 ひどく息が切れている。まるで人類の限界に迫る速度で100メートルを全力疾走した後のように。顔は酸欠なのか真っ青になっていて、右手で胸を押さえつけている。

 

 左手には治癒符が握られており、異常な量の呪力が注ぎ込まれているのか、なぜか発光している。

 

 

 立っていることすら危うくなったのか膝立ちになる。依然として、治癒符と胸に添えられた右手が離れることはない。

 

 

 発光によって照らされた彼の頬は通常では考えられないほど反射している。よく見るとかなり汗をかいている。もはや、顔がびしょびしょだ。

 

 

 

 「あぶな………かった、、、はぁはぁ」

 

  

 男はそう呟く。彼の脳裏には先程話していた一人の少女の姿があった。

 

 一歩間違えれば死期を早められていたに違いない。もう自分が長くはないと分かってはいるが、彼女に殺されては上手く成仏できる気がしない、むしろさせてくれないかもしれない。

 

 陰陽師として成仏させてくれないなどと言うのは極めて遺憾なような気もするが、こと彼女に関することに置いて否定する力が無い。

 

 

 この状況を一言で表すなら『恋する乙女は強い』ということだ。

 

 

 

 「末代まで……なんだよな。大変申し訳ない我が子孫たちよ。私も身が可愛かったようだ。迷惑をかけるだろうが頑張ってくれ、期待している」

 

 

 

彼はそう呟きながら、全く同じ内容を紙に書き下ろした。

 

 

 『我が子孫たちへ』

 

 

 

 題はそう書かれていた。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 ゴールデンウィーク、学生にとっては憩いの一時である。

 

 

 しかし、土御門春虎にそれを休みとして謳歌しようという気は全くなかった。

 

 

 そのため、その日は朝から冬児の特訓に付き合っていた。

 

 

 

 

 第三封呪(サード・シール)解除(パージ)!!

 

 

 それまで抑えつけられていた鬼気が一気に溢れ出し、炎となって顕現する。

 

 それだけでなく、冬児の体も鎧が着いたり角が生えたりと少し変化が生まれてきている。

 

 

 「気分はどうだ、冬児」

 

 

 春虎がそう問いかける。

 

 

 「余裕だ」

 

 

 封印を解いたことによりより鋭くなった八重歯をちらつかせながらニヤリと笑う彼は、やはり鬼化したときが異様に似合う。

 

 だが、その発言とは打って変わり冬児の内心はそう穏やかではない。まるで暴走する暴れ馬を無理矢理力だけで抑えつけているようなものだ。

 

 

 「うらぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

 咽が張り裂けるような雄叫びを上げながら春虎に肉薄する。

 

 もはや鬼化しかけている冬児のそれは、人間に出せる早さではない。瞬く間に春虎の眼前に姿を表すと、右手を振り抜く。

 

 そこに手加減の色は全く見えない。

なぜなら、これまでの経験で彼は春虎にそう言ったものが不要であると知っているからだ。

 

 

 冬児にとっては幸か不幸か春虎は平然とそれらを捌く。

 

 

 ここまでほぼ毎日といえる特訓のなかで、鬼の力をほぼ限界まで引き出し、実践の基礎を叩き込まれ、春虎のお陰鬼化のリスクをほぼ無視するという無茶のおかげで「そこ」まで至った。

 

 

 流される殴る蹴る呪符を投擲、避けられる、、そう言った繰り返し。春虎は幻影を使いながら、または体術を用いながら躱してゆく。

 

 

 「照らせっ!急々如律令(オーダー)

 

 冬児が腕を振り抜いた一瞬の隙を突いて目眩ましの光。ほんの少し怯んだだけで、春虎は冬児の腕の届く範囲から抜け出してしまった。

 

 

 

 「言ってるだろ、気を配れって。人間の喧嘩じゃないんだ」

 

 

「あぁ、分かってるよ」

 

 

 果たして、第三封呪まで解いた生成りの猛攻を避けつつ、教えまで解くことの出来る陰陽師が何人ほどいるのか。その計算が出来ないほど冬児は愚かではなかった。

 

 春虎がやっているのは、自分の猛攻を防ぐのだけではない。一応山奥まできてやっているが、どんな被害が出るか分からないため結界を張りながらの修行だ。

 

 そして、それを維持しているのも春虎だ。冬児は十二神将についてそこまで詳しく知っているわけではないが、恐らく春虎ほどのことが出来るのはいないのではないかと思っている。

 

 

 「が、今日はお前の土俵に上がってみることにした」

 

 

 距離の開いた状態で春虎はそんなことを言い出した。

 冬児は、今にも崩れ落ちそうな理性をかき集めながら「冬児」として戦うため鬼を抑えつつ話を聞く。彼はただ封を解いているというだけで、一苦労なのだ。

 

 

 「そいつはどういうことだ?」

 

 

 鬼気を撒き散らせながら冬児はそう言った。

 

 

 「こういうことだよ」

 

 

 春虎がそう答えると、いつの間にかその右手には1本の木刀が握られている。

 

 

 ーーーーこいよ

 

 

 切っ先を向けられながら、冬児はそう言われた気がした。

 

 

 そしてそう思った時には既に体が動いていた。

 

 疾走ーー目にも止まらぬ早さで春虎へと走り抜く

 

 続く“衝撃”

 

 

 

 ーーー何が起こった

 

 

 まず冬児が思ったのはそれだった。春虎目がけて走ったら、いつの間にか横たわっていた。訳が分からなかった。

 

 ーーーあり得ない

 

 そして、自分の状態を確認して今度はそう思った。

 

 吹っ飛ばされたのだ。木刀を肩に担ぎこちらを見ている春虎が10メートルほど先に見える。

 

 

 仮にも“鬼”の生成りだ。力は強い自負があった。それこそ、人間には抗えないほどの。春虎にも今まで呪術で吹き飛ばされたことはあっても、力技で飛ばされたことなどなかった。

 

 

 

 「どうした、冬児。もう終わりか?」

 

 

 ニコニコと笑いながら、寝転がったままの冬児に向け春虎が言う。

 

 霞む意識のなかで冬児は『視た』それは何回にも及ぶ春虎の教えのお陰だったのかもしれない。そして、気付いた。

 

 『あれは……………金…気か?』

 

 春虎のもつ木刀が「金気」を帯びていることに。

 

 しかし、冬児にできたのはそれくらいだったようだ。

 

 

 「って、あぁそうか、忘れてた。もう動けない(・・・・)わな」

 

 

 ところがすぐに考えを改めたようでこちらへ駆けてきた。

 

 そう冬児とて好きで寝転がっているままなわけではない。動かない、のではなく動けない、のだ。

 

 「いや、わりい。久し振りだから忘れてたわ」

 

 冬児には全く訳の分からないことを春虎は呟いている。

 

 

 

 「再封印(リブート)

 

 

 春虎がそう唱えると同時に冬児の封印がかけ直される。またさらに冬児の意識も奪っていった。

 

 

 「呪力を奪い尽くされた中、無理やり鬼の力で意識を保ってたってとこか」

 

 

 その様子を見ながら、春虎は結界と警戒を解く。その顔には、危機的状況に置いても冬児が「冬児」で居られたと言うことに関しての関心の色が見える。

 

 

 「お疲れ様」

 

 

 最後にそう言い残すと、式神を作り出し彼を運び始めたのだった。

 

 

  

 




感想基本返すようにしていますので、じゃんじゃん送ってください!!


評価もして頂けると幸いです。



あの女の人とか少女が何者なのかは、、、いつかな、次?次の次?かな。章題とかにヒントを残してるのでいろいろ考えてみても…………。


ありがとございました


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妖声


みなさん、お久しぶりです。ええ、本当にお久しぶりでございます。何年もたっているのに待っていますと言って下さる方々、本当に申し訳ございません。



頑張ってリハビリします。
書いていきます。


厳しいコメント待っています。短くてごめんなさい。



その日の朝、春虎は鈴鹿とともに朝食をとることから始まった。

なんの代わり映えもない、ソーセージとスクランブルエッグ、ハッシュドポテトにサラダ白米といったものなのにもかかわらず、目の前に座る鈴鹿の表情は晴れやかであった。

古くから伝わる土御門家の直系であったとしても、日本の古風な食事を毎回摂っている訳ではない。無論、夜光としての記憶がある以上それが好みで慣れ親しんだものであり、それを食べたいと思うことがあるのも否定はしないが、現代の進歩した美味もまた、受け入れたいものであった。

 

「んふ~ん、驚きました!先輩が朝ごはんを作ってくれるなんて!」

 

「あの状態を見たら誰だってそうするだろ..」

 

声高に言う鈴鹿に、あきれ気味に春虎はそう言い返すが、実際鈴鹿の部屋はひどいものであった。正確には、その食生活が、である。一見、丁寧に掃除され、片付けされた部屋のように見えるが、その実、ごみ箱にはインスタントラーメンや弁当、冷蔵庫には、炭酸飲料を始めとするジュース類がしき詰まっており、冷凍庫はアイスクリームで溢れかえっていた。十二神将を始めとして、様々な広告として扱われていた鈴鹿はそれなりの対価をもらっており、設備と買い出しには全く困らなかったようだ。

 

 

「で、今日は何をするんですか?」

 

一通り食事を終え、温かい緑茶を傾けながら鈴鹿は春虎に問うた。

それに対して春虎も、緑茶をすすり、答えた。

 

 

「授業を行う。学校で行うようなもんじゃない。まずは、お前の固定観念をぶち壊す」

 

 

 

_______________________________

 

 

 

 

鈴鹿の場合、冬児のような実践よりも、まずは知識や考え方を教え込むべきだと春虎は考えた。

現在普及している陰陽術と思われている(・・・・・・・)ものは、自分が作ったものが根底になっているものだ。それもかなり無理やりに。それを一つ一つ夜光の知る限りを教えていく。それこそが、対人、対霊災を主とする陰陽師ではない、研究を主とする鈴鹿にとって必要なものだと春虎は判断したのだ。

 

 

春虎の講義は怒涛の勢いで進んだが、始まってからの、鈴鹿の変化は顕著だった。

 

不思議顔から始まり、納得顔、驚き顔、、、

その内容は、鈴鹿の固定観念どころか、今の陰陽術の観念を覆すものだった。

 

 

気づけば、昼を過ぎ、おやつの時間も近くなっていたころだ。

 

 

「いったん休憩にするか」

 

お昼を過ぎたあたりで、一度提案したが、キリが悪いということで延長になった休憩の提案を今度はキリが良くなったタイミングでした春虎だった。

 

 

「えぇ、そうね、休憩にしましょう」

 

 

未だ考え事をしながらうわ言のように鈴鹿も返事をした。

 

 

 

 

 

鈴鹿が正気に戻ったのは、ドーナツを口にして幾分か経った後であった。

 

 

 

 

「そういえば、あんたって師匠みたいな、呪術について教えてくれた人っていたわけ??」

 

 

 

それは、本当に何気ない一言だった。

鈴鹿にとっては。

 

まぁ気になるのも仕方がないだろう。あれだけ膨大な量の知識を目のあたりにして、そのルーツが気にならないわけがない。

しかし、それを聞いた春虎の様子は異常だった。

 

 

手に持っていた粉砂糖がまぶしてあったドーナツから、すべての粉砂糖が振り落とされるほどに手は震え

 

霊気があまりにも不安定になったために、コンの隠形が解け、ラグが起こるほどだった。なんなら、そのコンも震えていた。

ただ、そのセリフは、まさに力を持っていた。春虎を含め何人かの陰陽師が得意とする甲種言霊のように、春虎にだけダメージがある言霊であった。

 

「やばいやばいやばいやばいやばい..........」

 

歯をがたがたと言わせながら、そう春虎は呟く。

 

 

「コンっ!来い!」

 

「ははっ」

 

そして何を思ったのか、あまりの事態にキョトンとしている鈴鹿を置いて、自らの式を呼ぶとその場で不思議な足踏みを始めた。尋常ではない様子で

それを見ているコンも尋常ではない。

 

その表情から察するに、「は、早くしてくださいませ春虎様!!!」といった所だろうか。

 

 

 

兎歩の準備が終わると、鈴鹿に一言「すまん」と、でも、それでいて、なぜかものすごく重たい一言を浴びせると僅かな霊気を残して姿を消した。去り際に見た春虎の表情を言語化するとこうだ。

 

 

 

「より遠くへ...」

 

 

 

 

 

しかし、この後、鈴鹿は悔いることとなる。加えて言うなら、春虎たちの様子のワケを知ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________________________________________________________

 

 

 

カコン..................

 

 

 

綺麗なフローリングの床と下駄の触れ合う小気味のいい音が響く。

 

 

場所は鈴鹿の家。

 

 

まるで春虎と入れ替わるように、全く同じ場所に現れた”それ”に鈴鹿は、意識を奪われていた。

 

 

「あらあら、また逃げられたんかいな、、逃げ足の速いことでねぇ」

 

 

透き通るような声、それを聞いただけで癒されるような。

しかし、それを聞けたのは、その一言で最後だった。

次の声は、別の意味で鈴鹿の意識を鷲掴みにした。

 

 

 

「それでも、おかしいですね。なんで、夜光様とあと二人、一人はあの式神か」

 

 

 

鈴鹿の大動脈は悲鳴を上げていた。もうこれ以上血液を送り出さないでくれと。しかし、現実は非情。非呪術的である、『オーラ』というものの存在を思わず認めてしまいたくなるような、そんな状態にある鈴鹿の心臓を落ち着かせてくれるものはそばにはなかった。

 

 

”それ”は振り返る。鈴鹿の方に

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、だれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






書きたいことはたくさんありますが、




下手になっててごめんなさい。


頑張ります。


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終走

またもや、大変お待たせしました。

こんなにお待たせしたのに、前書きを読んでいただきありがとうございます。続いて同じことを言いますが、リハビリ中です。どしどし文句言ってください。




それと、たくさんのコメントありがとうございます。本当に励みになります。嬉しいですありがとうございます。全部目は通させていただいております。




 

 

 

 

春虎は走っていた。いや、もはや奔っていた。自らの危険信号が尋常ではないほどに反応している。それこそ前世からの因縁、ともいえるほど濃密な気配を感じていた。

 

木行符による身体能力の強制的な上昇に加え、治癒符、韋駄天のマントラまでを常時展開した過去最高といっても差し支えないほどの速さで走っていた。しかしながら、確かに感じていた。自らを追い詰めてくる。過去最高のスピードをもってしても突き放すどころか差を縮めてくる勢いで追ってきているのが、相手から迸る霊力から理解してしまっていた。

 

「ヤバいヤバいヤバいっ」

 

意識的か否か、心からの叫び声が思わず漏れてしまう。

 

 

「まぁ、ちょいと待ちなさいな」

 

 

甲種言霊。

 

それも、鏡が得意とするような力業の言霊ではなく、神扇と呼ばれる呪術師が用いるような上手い言霊にどちらかと言えば近いだろうか。言葉そのものの持つ意味ではなく、それを連想させるような効果を与える高度なものだ。

 

事実、その優しい声色とは正反対に、そこから放たれる呪力は途轍もないものであった。

 

結果、春虎の動きが一瞬止まる。一瞬で済んだのは春虎の実力ゆえだ。常人であれば全く動けなくなったであろう。しかし、現状この一瞬は大きな隙となる。

 

「まったく、なんで、、「急急如律令(オーダー)急急如律令!!」、、、」

 

負けじと春虎が相手のセリフを遮るように術式を展開。あたりを眩い光が覆う。

それと同時に、最大の隠形をはじめ、逃走を再開、、、、、、しようとしたが、最初の一歩を踏み出すことはできなかった。

 

右足に違和感を覚えた春虎は、そこに目線をやると植物の蔓のようなものが巻き付いていた。それから自分を追ってきている「モノ」がどういったものなのかを思い出し歯噛みした。

 

それからすぐスイッチを『逃走』からか『戦闘』に切り替える。

 

 

隠形は無意味だと分かったので解除、呪符を一気に5枚取り出し、それぞれに異なった術式を走らせるやいなや、4枚を頭上に1枚を足元に向かって投擲。

 

まず1枚目

足元に放ったのは火行符。足に巻き付いていた蔓を焼き殺すのと同時に、自らの周囲を炎で多い、今にも掴みかかろうとしていた追手を阻む。

 

2枚目

頭上から春虎と追手の間に簡易結界を展開。炎では心もとない上、時間稼ぎになるかどうかも怪しいが、無いよりはマシだ。

 

予想通り相手は、莫大な呪力でそれらを強引に弾き飛ばし、春虎に迫る。

 

3枚目

周囲から光を奪う。

これは特殊な方法。闇とは陰陽でいう「陰」である。春虎は、そもそも男性であるので帯びているのは「陽」の気である。それをうまく利用して光を強くさせることならできるかもしれないが、それを消すというのはまるで考えられない。

事実、春虎が行ったのは「陰」の気の利用ではなく、「陰陽のバランスの変化」である。陰陽五行説に乗っ取れば、現在人間の観察可能なこの世界は陰陽がバランスよく存在している状態であると言われている。つまり、そのバランスに歪みを加えることが出来るならばどちらかに偏らせるということも可能である。

 

 

あたりから光、具体的には太陽光が消えたことは、ただ視界が悪い、という現象以上の効果をこの場にもたらした。

 

追手のスピードが著しく落ちる。それどころか、その呪力までもが大幅に落ちていく。まるで、太陽光から力を得ていたかのように。

 

予想通りの効果が得られたことに春虎の口角があがった。

 

 

「ノウマク サンマンダバサラダン センダマカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン」

 

不動明王の慈救呪。

放たれたのは春虎の口、、、、、、、、ではなかった。

口角を上げていたのは、男だけではなかったということだ。

 

春虎は、即座に呪力を高め、霊的な抵抗力を上げるが、その呪は春虎にではなくその上空「闇」に向かって放たれていた。

 

途端に、3つ(・・)3つの呪符がはじける。

 

慈救呪とは、厄災を払う働きがある。陰陽を乱し、闇に覆われた空間など厄災そのものである。その効果は、術者にもよるが完璧に払われるといってもよいだろう。

 

 

「そろそろ堪忍したらどうや?夜光ちゃん」

 

「夜光ちゃんはやめてくれ、師匠」

 

 

カコン、カコンと土の上にも関わらず、美しい下駄の音を響かせながら、藤色の和服を着た人物が春虎に近づきながら話しかける。まるで、先程の戦闘は挨拶と言わんばかりに。

 

 

「あら、じゃあ、私も師匠なんで無粋な呼び方はやめてくださいな。確かに、私は夜光ちゃんを鍛えたかもしれないけど、もっといい呼び名を持っていますから」

 

まるで、一言一言が呪術のような妖艶な響きをしている。それは、奇襲の機会をこっそり狙うよう指示されていたコンが隠形を解いてしまうほどにだ。

もしかすると、これこそが乙種呪術なのかもしれない。

 

「だから、やめてくれって。どうせ、今の名前、知ってるんだろ?」

 

 

もはや敵わないということを痛感したのか、あきれたかのような声色で春虎は言う。

 

 

「ええ、知ってますとも。ことあなた様のことにおいて、私が知らないことなどありません」

 

 

目線はどちらかというと下の方に向けて。つまり、コンの方に向けて、どこか誇らしげに発された言葉はコンの邪気を生み出しかけた。

 

その様子を見て、やれやれといった風に首をすくめると、わかったよ、と呟き和装の女性に向かって、久しぶりだねという言葉に続けて、春虎は彼女のことをこう呼んだ。

 

 

 

 

「蜜虫」

 

 

 

 












そういえば、prime videoで東レが全話アニメ見放題みたいですね。みたいなぁ。新刊も読めてないんですよねぇ。それどころか、ラノベもよんでないんですよねぇ。劣等生なんて士族会議編(中)で止まってますし、、、、、、、、、、、。


はぁ、どうしよ。


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密虫

なによりもまず短くてすみません。


それでも、苦しんでいる方々のために駄作ではありますが、なんとか力になりたいと思いました。


もし、こんな話が見たい読みたいという要望があれば言ってください。可能な限り力になります。

もちろん、いつものとおり、今回の話の文句についてはバシバシ言ってください。



あ、まだ、続編は読んでませんごめんなさい。。


 

 

『密虫』

 

 

かつて、安倍清明に使えていた式神の一人に同じ名前を持つものが存在していた。その式は、諸説あるが、藤の花の精霊であるというのが一般的である。精霊に基本的に決まった姿形はないとされていたが、基本的に美しい女性の姿をしていたとされている。

 

そう、まさに春虎の目の前に存在している女性のような。

 

コンは、全身の毛を震わせるようにして、密虫へ敵意を飛ばしている。そこには、ただの『敵』以上の何かが含まれているように感じられるが、それはおそらく間違いではないだろう。

 

 

とはいえ、清明に使えた密虫と彼女は同一人物である。安倍晴明の子孫たる土御門家にそのまま仕えていても何ら不思議はないだろう。さらに言えば、春虎を、いや、土御門夜光が呪術師として成長するのには彼女の存在が必要不可欠であった。それ故、春虎は彼女のことを「師匠」と呼ぶのだ。彼が呪術戦において木行符を多用してしまうのにはそういったところにも理由がある。何を隠そう、藤の花を原点に持つである彼女は、植物の精、つまり、木行を制している。

 

 

「まだまだですね、夜光ちゃん。なにより、わたくしから逃げるのに森に向かうなど愚の骨頂、冷静さを欠いていては呪術師として未熟である証拠です」

 

 

まるで、先生のような(事実、先生ではあるが)諭す口調で春虎に語りかける。

 

気が付けば、春虎から闘争心は失われ、抵抗する気すら持っていなかった。

 

 

これも、彼女の特性である。まるで雄大な自然のように相手を包み込み、いつのまにか逃げられなくなっている。巧みな呪術で翻弄し、天使のような囁きで優しく口説き、逃げ場をなくし捉える。かつて夜光もこれに捉われ、逃げることを諦めた。

 

 

「そして、混ちゃん。なんですかその様は。わたくしの(・・・・)わたくしの夜光ちゃんの傍にずっといながら、その程度の実力とは」

 

 

こちらには、怒気すら孕んだ声で言った。やけに『わたくしの』が強調されていたような気もするが、、、これに関しては深く追求するべき内容ではないのだろう。

コンは、一瞬ビクっと体を震わせると、春虎の陰にそぼそぼと隠れていった。

 

 

二人とも気づいていたのだ、この季節、藤の花が咲き始める五月に彼女が戻ってくるということを。バレなければこういう事態にはならなかったということを。その言葉の通り、(春虎が前世の記憶を取り戻してから)これまでは、痕跡を消しながら上手くやっていた。呪術的な方法まで使って、意識の奥底に沈めていた。思い出す、口に出すというのは、その行為自体が呪術的な効果をもたらしてしまうことがある。過度な例にはなるが、言霊も“言葉”載せてという意味で捉えるのであれば、その一種と考えてもいいのかもしれない。しかし、それから発せられた一言には呪術的な力は何一つ込められていなかった。

 

 

「また 修行 したいですか?」

 

 

にも拘らず、その言葉は、まるで呪力が込められているかのような反応を彼らにさせた。彼女は呪力をこめなかったのではない。込める必要がなかったのだ。

二人の脳裏に拷問というには生ぬるい、暴力という暴力の嵐が浮かび上がっていた。

尋常ではない速度で視線を右往左往させる二人、それを見てにっこりと笑う美女。まさに混沌と形容されるであろう状況が雄大な大自然の中に広がっていた。

 

とりあえず、春虎は今の自分の状況とこれから見据えていることを簡潔に伝えた。それを聞いた密虫は一拍考えるように首をひねると(その様子は大変様になっていたが)、ぱぁとひらめき顔をしてこう言った。

 

 

 

 「それでは、私も春虎ちゃんについていきます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴鹿は震えていた。

 

一人で、なぜあいつがそばにいないのか、彼女はなにものなのか、彼とどういった関係なのか、おそらく疑問がたくさんあったであろうに、そんなことは記憶の彼方へ、ただひたすらに恐怖という名の暴力が自身の中で渦巻いていることを感じていた。それは、彼女のなかでは一瞬のように感じられていたが、かなりの時間を消費していた。

 

「ごめんな」

 

目の前に浮かぶ、春虎の顔は幻覚か。とうとうそこまでになってしまったかと思うと同時に、自分の中の霊力が共生に乱れるのを感じると抵抗できずにそのまま意識を手放した。

 

 

________________________________________________________________

 

「おっと」

 

 

あおむけに倒れようとする鈴鹿の背中に手を回してその体を受け止める。少し錯乱状態になっていたので、鈴鹿の霊力の流れを意図的に乱し、意識を奪ったのだ。こんなことはなかったことにするのが最も効率的だ。そう自身に言い聞かせ、そっと彼女をベッドへと寝かせた。

 

思い返せば、鈴鹿の授業の途中、休憩すると言って何気ない会話をしていた。

それが気づけば、こんな事態になっていた。

 

結局その日は、鈴鹿が起きるのを確認してから状況を簡単に説明して、解散した。悲しいかな、彼女は春虎が見たことのない紫色のブレスレットをしていることには気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




がんばろう


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講襲

そろーーーーり、そろーーーりと


流石に、翌日鈴鹿からの問い詰めがあった。「あれはなんだ?」と

 

正直にあれが師匠である、と説明することもできたが、その場合、今どこにいるのか、正体は、など説明するのが面倒になったので、呪術で胡麻化すことにした。呪術の神髄は嘘である。

 

それはそうと、紫のブレスレットをつけた春虎は、連日の通り鈴鹿への授業を再開した。学者肌の鈴鹿には、やはりデスクで行う「勉強」が合ってはいるが、それでも呪術を扱う上で実際に行使する必要があるのは疑いようもないことである。

 

ゴールデンウィークも残り3日に残したその日は、出来るだけの知識を鈴鹿に叩き込んだ後、翌日のために英気を養えと言葉を残し、授業は終わりを迎えた。

 

 

 

その場は木々に覆われていた。鈴鹿は、前を行くカラスの式神から目を離さないようにそこを歩いていた。あまりにも不自然すぎる。鈴鹿が抱いていたのはそういった思いだ。

朝起きて春虎の姿が見えないことに違和感を覚えたが、リビングの上に置いてあった手紙を読むと「ついてこい」との5文字がつづられていた。何もない状況でついてこいとは全く意味が分からない、と可愛らしく首をかしげていたところ、手に持っていた手紙が式に変わっていたのでそれを追ってきたという次第である。

 

そして話は戻るが、違和感があるのである。この森には、

 

それは、鈴鹿が優れた術士である上で、それを凌ぐほどに春虎が優れていたため感じられていた違和感であった。昨日の春虎の言葉を思い出す。

 

 

「モノを隠すということとモノから隠れるというのは、音は似ているが、その実やっていることは全く違う。鈴鹿、隠形はできるか?」

 

「馬鹿にしてるの?そんなの、頭の中からっぽにしたってできるだろう」

 

春虎の聞き方は、確認というよりも話を次に続けるためのものであったが、少しでも気に障ったのか、鈴鹿の返答はわずかに語気を強めたものであった。しかし、口を開きながらも鈴鹿の存在自体が希薄になっていくことー目の前にいるにもかかわらずーからもそれが口先だけではないことが分かった。

 

それには構わず、春虎は続けた。

 

「そう、隠形自体は、現在でも広く使われているし、その習熟度に差はあれど、大抵の人が会得している。でも、、、、」

 

そこで止めると春虎は先程鈴鹿がいた方とは逆の方を向き、刃印を向けた。すると、その場に真逆にいたはずの鈴鹿が現れた。

 

「この隠形を解くことも見破るのもあまり難しいことではない」

 

 

「嘘!?」

 

隠形が解かれたことに気づいた鈴鹿は驚きの声を上げる。

 

隠形を解くのが難しくない、というのは正確には誤りである。それこそ、人ごみに紛れるというような、いわゆる『乙種』であれば見つけるのは特殊な技能でもない限り不可能にちかい。春虎が容易に解けたのは、あくまでも、二人以外の人間の存在がいないことに加え、彼我の実力の差があるためである。

 

「どういうこと??」

 

鈴鹿はその場で、疑問を投げかける。

 

「見られない、というのはある種違和感が存在してしまう。慣れていない、実力差がある、才、とか、色んな要因はあるけど、そういったものによって、違和感すら感じられていない、つまり、分からない、見えていない、と思い込んでいるだけだ。」

 

鈴鹿の頭には?マークが浮かんでいる。

そこで春虎はアプローチの仕方を変えるとことにした。

 

「盲点、って知ってるか?」

 

「見えないとこのこと?」

「まぁ簡単に言えばそうなんだが、簡単に説明すると、網膜上には光刺激を受け取るための視細胞が存在しない部分があって、実際に視野の中に見えてない部分が存在しているんだ」

 

「でもあたしの視界に、見えてない部分なんてないわよ?」

 

「それこそが、思い込み、だ。盲点に存在しているものは、見えていない。その周囲に補われているだけだ」

 

つまりだ、、そう春虎は続けた

 

「見えていないことに気づくことさえできれば、気づけるし、それに気づかせなければ、気づかれない、ということだ」

 

当たり前のことを言っている。鈴鹿もそれは理解している。しかし意味が分からない。

 

「そして最初に戻るが、気づかせない、というのは、まず自分が違和感を抱くことが出来なければ始まらない。いうなれば、自分へ向けられる視線を理解するのと、他者へ向けられた視線を理解するのは難度が違うというこだ」

 

?????

 

「まぁいずれ分かるさ。隠形術は実際にやってみるのが早い」

 

春虎は、そういって少し微笑むとその授業はそこで終わった。

 

 

今、鈴鹿の前に広がるのは広大な自然だ。どこからか鳥の鳴き声が聞こえてくる、心が洗われるような錯覚を起こす。

 

違和感……….

 

少し口に出して考えてみる。

 

そして周りを見渡して気付いた。

 

「さっきから景色が変わってない…?」

 

そう景色が変わっていなかったのだ。いくら森とはいえ、木全てが同じように配置しているわけでも、同じような見た目をしていることがあるはずがない。鈴鹿は途中まで何も考えず、カラスの式神についてきただけであったが、それだからこそなんの疑いも抱くことが出来なかった。しかし、何らかの方法で同じところを歩かされている、というのは分かった。あとは、それに対する対処をするだけだ。

 

鈴鹿は、一度閉じ春虎の講義を思い出しながら集中する。周囲の霊力の流れを見る。

 

結界の扱いはいくつかあるが、こういった場合、核を見つけそれを破壊、もしくは、そこから崩壊させるのがセオリーだ、、、、、と現代では教わる。しかし、連日の春虎の講義では違った。

 

 

「結界ってのは、どこかしらに穴がある。それを見つけさえすれば、破壊するんじゃなくて、すり抜けることが出来るんだ」

 

まぁおれはそれも作らないような結界作れるけどな

 

そううざいくらいの笑顔で続けた彼だったが、どーせ先生基質のことだ。今回は私が見つけられる様な、それでいてめちゃくちゃ難しい穴をわざと作っているはずだ。

 

 

結界の大まかな位置は把握できた鈴鹿は、そこから『穴』を探していく。結界に、自分の霊力を流し込みながら、その霊的な構造を把握していき、、、、そして、見つけた。

 

「みつけた!!」

 

そう独り言ちた彼女の額には汗がにじんでいた。そして、その穴を使ってすり抜けた瞬間だった。

 

 

 

「うらああああああああああああ!!」

 

 

唸るような叫び声とともに、莫大な圧力が自身を襲う。そのあまりの大きさに、自分に向かってきているものではないと分かっていつつも、思わず、呪符を手に取ってしまう。そして、彼女の経験値がその正体を即座に見破った。

 

 

「これは、、、、、、鬼気??」

 

 

これほどの鬼気が抑え込まれていたこと、音や衝撃まで結界外には影響していないことな度に対する驚きは、その鬼気によって打ち消されてしまっていた。

 

結界の先には草原のようなものが広がっていた。そのさきで、青い炎を身にまとった鎧が春虎に向かって、突撃しているのが見えた。

 

 

「ちょっ、、、やばっ!!!」

 

 

その気迫はもはや訓練のそれではない、外から見れば明らかに殺しにかかっているようにしか見えなかった。しかし、その意に反して春虎はその突撃をひらりと躱した。

 

外から、突進に見えたそれは、冬児の右ストレートだ。それに加えて、横から鬼火を放ち逃げ道を塞ぐ徹底ぶり。

 

春虎は、それをさらに後退することで躱す。冬児は、その行動を見てさらに踏み込みを強くする。

 

「ううるあああああああ!!」

 

大きく振りかぶった冬児に対して、春虎が行ったのは単純な方法だった

 

「閉ざせ、喼急如律令(オーダー)

 

見えないように後ろ手で用意していた呪符で目つぶしをする。冬児は、一瞬視界を奪われたがもはや止まれる段階にない。自分の鬼気を高め、視界を回復させると、目に映った春虎に勢いままに右腕を振りかぶった。今度こそ完全にとらえたと思った。実際、その拳は春虎に当たった、、、、、

 

「!?!?!!?!」

 

、、、、、はずだった。

 

しかし、そのストレートは空を切り、その拳圧によって後ろの木々が揺れるにおさまった。

 

その理由は春虎の放った呪符にある。あれは単純な目つぶしではなかった。目つぶしはあくまでも副産物であり、本当の目的は、冬児の目に幻影を映し出すことだった。呪術において、『言葉』は非常に重要なキーではあるが、呪符に通した術式であれば、ある程度の工夫が効く。むしろ、春虎がそのようにアレンジしたのだ。

 

鈴鹿が春虎がすり抜けるように避けたように見えたのは、春虎が少し横に—冬児に違和感を抱かれない程度に—像をずらしたからだった。

 

 

 

当時は振りぬいた拳の勢いに一瞬隙が出来た。春虎によって鍛えられ続けた冬児は自分の攻撃によって行動が全くできなくなるようなことはない。実際、ほとんどの術者では対応できないほどの隙しか、今の冬児にはなかった。残念だったのは、相対しているのが、春虎であったということだ。

 

 

「ナウボウ タリ タボリ バラボリ シャンキメイ シャンキメイ タラサンラン オエンビ ソワカ」

 

 

そう耳元で聞こえた後、受け慣れた衝撃が体を襲った。

 

 

 

「再封印」

 




自粛頑張りましょう

要望あれば、自粛に効きそうなマントラ集めておきます。


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