帝都の休日 短編連作群保管庫 (休日)
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未完成話 嶋田さん×モニカSS 楽隠居?と円卓の少女
楽隠居?と円卓の少女 第1話


418 :休日:2012/12/11(火) 15:52:12

SS投下
提督たちの憂鬱とギアスクロス
嶋田さん独身で嶋田さんロマンス。
平和その物。
性格改変注意。

完全な未完成品ですがモニカとユフィのアンケートが多いので投稿いたします。

蒼の混沌様でのお話の転載となります。

こちらは設定を保管しておりましたHDDが壊れ設定も何もかもを失ってしまった不完全で2012年に書いた作品です。

11年経った今となっては不完全なお話だと感じますが、保管する意味でも残しておきたいと思います。



 

 

 嶋田は人生を終えるとまた嶋田繁太郎となっていた。

 

 同じく友人の山本や辻を筆頭に、かつての世界で日本を率いてきた者達も共に。

 

 彼自身は知らなかったが夢幻会の仲間達によると、此処はギアス世界ということらしかった。

 

 北米にあるブリタニアという国名から間違いないとのことで、そのブリタニアは将来日本を占領し植民地にするというから大変だ。

 

 彼らはその時に備えて最先端の科学技術の研究開発、ギアス日本以上の国力を持つための政策など多岐にわたり手を加えていった。

 

 結果、勝てはしないが負けはしないくらい、例えブリタニアであっても迂闊に手は出せないというくらいの国力と戦争遂行能力を持つに至る。

 

 しかし、この世界やブリタニアについて調べていく上で、戦争になる可能性がかなり低いということもわかったので原作を知る者達からすればホッとする反面拍子抜けになったのも確かだ。

 

 何せブリタニアの基本方針が多国間協調路線なのだから。

 

 更には将来侵略戦争を起こすはずのシャルル・ジ・ブリタニアが家族思いの気の良い人物であることも判明。

 

 兄のV.V.共々嘘のない世界など欠片ほども望んでいないらしい。

 

「綺麗なシャルル……ですか」

 

 苦笑いする夢幻会の面々は、この調査結果にブリタニアとの友好を深めていく方針をとり、世界が戦火に包まれるなど全く無いまま平穏に時は過ぎていった。

 

 

 

 *

 

 

 

 前世での激動の時代に比べてぬるま湯のような人生を送っていた嶋田は後進の指導を終え、漸くのことで政界を引退。日々平穏に過ごしていた。

 

 そんなある日のこと。彼は行き付けの飲み屋で一人の酔っぱらいの話を聞いていた。

 

「なぜだっ! ぬわァぜなのだァァぁぁっ!!」

 

「ああもう、他のお客さんの迷惑になりますからもう少し静かにしてくださいっ」

 

 一息に大ジョッキを煽り、ビールを一気飲みした身体のごつい初老の男は大声で叫ぶ。これでもう三回目だ。

 

 周囲の客が一斉に振り向くが「またあの人か」と、何事もなかったようにそれぞれの談笑に戻っていく。

 

 世界的に有名な彼の男もこの店の常連達にとってはさほど気にならなくなっていた。

 

 この男、それくらいこの店を訪れているのだ。それに一応申し訳程度に変装もしていた。

 

 静かにしろと注意する嶋田も有名人ではあったが政界を引退して暫く経っているし、男の強烈な存在の前には霞んでしまっている。

 

「こ、これが、これが叫ばずに居られる物かっっ! あやつは遙々日本にまで会いに来た儂に向かって鬱陶しいと言いおったのだぞっっ!!」

 

「それはまあ……堪えるとは思いますけどね……」

 

「あやつは、ルルーシュはそんな子ではなかった……昔は“大好きなお父さん”という作文を書くような、父思いの優しい子だったのだ……それがっ、それがなぜこうなったのだァァぁぁ…………」

 

 日本ではまず見ない豪奢な白髪を幾つものロール状に巻いた髪型の男の名はシャルル・ジ・ブリタニア。

 

 何を隠そう、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝その人である。

 

 とても家族思いな彼は数居る子ども達の中でも、日本に留学中の第11皇子ルルーシュと、その妹ナナリー皇女を殊の外溺愛している。

 

 それは子煩悩を通り越して鬱陶しいほどに。

 

 ルルーシュが日本行きを決めたのもそれが原因と言っていい。とにかくウザイ父親から距離を置きたかったのだ。

 

 当然心配してお忍びで様子を見に来たりするのだが、そのたびに邪険にされてはショックを受けて、

 

 友人である嶋田と、日本に赴任中の一人の人物を連れてやけ酒を飲むというお決まりのパターンになっていた。

 

(ああ、もうこんな時間か……それじゃそろそろ来るな……)

 

 息子に冷たくされて悲しむシャルルを慰めていた嶋田がそう思って時計を見ていると、それを待っていたかのように簡素な作りの店の扉がガラッと開いた。

 

 噂をすればというか、毎度のことなので大体この時間と分かってしまう辺り、この個性の強い皇帝陛下との付き合いも長いのだなと思う。

 

「シャルル、迎えにきたよ」

 

 そう言って店に入ってきたのは、足首まで届くほどの長さの薄い金髪と、表が黒で内側が紫のマントを着用した10歳前後に見える少年。

 

「こんばんはV.V.さん」

 

「こんばんはシゲタロウ。いつも弟に付き合ってくれて悪いね」

 

「いやまあ、友達ですからね」

 

 この子どもにしか見えないV.V.はシャルルの双子の兄であり、これでも御年63になる歴とした大人だ。

 

 幼い頃に不老不死となっているため肉体が年を取らないらしく、いつまでも経っても見た目が変わらないという不思議な人である。

 

 そんな彼は現在ルルーシュの後見人として日本に住んでいたりする。

 

 甥っ子から日本留学の相談と後見を頼まれた際、彼も共に移り住んだのだ。

 

「まったく、いい加減子離れしないと、その内家族の縁切られちゃうよ?」

 

「オール・ハイルぅぅぅぅゥ、ルルーシュぅぅぅぅぅぅゥ…………」

 

 既に半分寝ているような状態のシャルルには兄の言葉が聞こえていない。

 

「ルルーシュ君、そんなに嫌がってるんですか?」

 

「本人は大切にされてるからこそ構ってくるんだって分かってるみたいだけど、17,8にもなってやることなすこと口出しされたら嫌にもなると思うよ

 

 いつだったかな? 三者面談のとき『叔父上、明日の三者面談なのですが、叔父上が来て頂けませんか』って僕に頼んできたからね。

 

 僕も叔父であの子の後見人だし、可愛い甥っ子の頼みでもあるから行ってきたけど、本来シャルルかマリアンヌが行くべき物なのに」

 

「それは……シャルルさんがそのこと聞いたら……」

 

「ショックで引き籠もっちゃったりするかも」

 

「は、はは……」

 

(ブリタニアの皇帝が親子喧嘩で引き籠もりになんてなったら、マスコミにとって格好の餌だろうな)

 

「それじゃ僕はシャルル連れてこのまま領事館に向かうよ。家に連れて帰ってもいいけどルルーシュが嫌がりそうだからね」

 

「わかりました。それじゃ私は彼女を連れて帰ります」

 

「うん。その娘にも宜しく言って置いて。それじゃ君も気を付けて帰りなよ」

 

「ええ、V.V.さんもお気を付けて」

 

 

 

 *

 

 

 

「さてと、こちらも帰りますか」

 

 シャルルとV.V.を見送った嶋田は席を立つと自分の隣に座っていた人物を見る。

 

 年の頃なら二十歳前、表の生地が黄緑色、裏側が紫色のマントを着た、腰の下まである真っ直ぐな長い金髪の少女。

 

 日本に赴任中のブリタニア駐在武官で、現在宿舎として嶋田の家に同居中である、ブリタニア皇帝シャルル専属の騎士ナイトオブラウンズの末席、ナイトオブトゥエルブ。

 

 そのブリタニア最強の騎士の称号を持つ彼女の名はモニカ・クルシェフスキー

 

「君も大変だなモニカさん」

 

 碌に酒も飲めない彼女だが、皇帝に付き合えと言われれば飲むしかない。

 

 それもまた皇帝に忠誠を誓う騎士の務めである。

 

「よっこらせっと」

 

 すっかり酔いが回って泥酔状態で眠っているモニカを背負う嶋田。

 

 身体の前に流して赤いリボンで束ねた彼女の長い髪の房が嶋田の肩を跨いで流れ落ちる。

 

 頬や首筋をさらさらと擽る髪から香る甘い芳香は酔っていても分かるほどいい匂いがした。

 

「ん……」

 

「ん? 起こしてしまったかな?」

 

 嶋田の首筋から肩に顔を埋める格好のモニカは歩く振動で目を覚ましてしまったようだ。

 

「ん、んう……? …………嶋田……さん……?」

 

「寝てていいよ。かなり酔いが回ってるんだから無理に起きなくてもいい」

 

「あの……陛下は?」

 

「お兄さんが連れて帰ったよ、君にも宜しくってさ」

 

「そう、ですか……。その、いつも……すみません」

 

「大した事じゃないさ。お酒飲めない君に飲ましてるんだからこれくらいはさせて貰わないとね」

 

「…………嶋田さんは……優しい方ですね……」

 

「どうしたんだね急に」

 

「いえ……なんでも……ありません…………」

 

 モニカが日本に赴任した際、シャルルの友人として紹介された嶋田繁太郎。

 

 現在ブリタニアの最友好国である大日本帝国を率いていた人物。

 

 今はもう引退して隠居生活を送る彼はとても優しかった。

 

 モニカの周りには厳しい人しか居ない。

 

 帝国最強の騎士ナイトオブラウンズ。ナイトオブトゥエルブとして誰もが強さを求めてくる。

 

 名家であり有力貴族であるクルシェフスキー家の一人娘として、将来は当主となることを求められる立場に在る彼女には家族ですら厳しい。

 

 それは彼女が最強の騎士の一人であり貴族である以上仕方のない事なのだろう。

 

 そんな彼女にとって彼は初めて出会った甘えさせてくれる人。

 

 彼は貴族や騎士としてではなく、一人の少女として見て接してくれる。

 

 それが彼女には嬉しかった。

 

 甘えの許されない彼女が唯一甘えられて、年相応の顔を見せられる人なのだ。

 

 背負われている彼女はぎゅっと彼にしがみつき、その首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。

 

(嶋田さんの匂い……)

 

 還暦を迎える男性の匂い。

 

 嫌がる人の方が多いだろうその匂いがモニカは大好きだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「おやじ臭でもしてるかな?」

 

「……いいえ、いい匂い……です」

 

「そ、そうか……君の髪も、その、いい匂いがするね……」

 

 嶋田の肩口から彼の身体に沿って流れ落ちている、赤いリボンの巻き付けられたモニカの長い金色の髪の房が右に左に揺れていた。

 

 匂いを付けようとするかのように嶋田の服の上を撫でて揺れる束ねられた金糸。

 

 そこから漂う香りに鼻腔を擽られながら彼は年甲斐もなく高鳴ってしまう鼓動を抑える。

 

 最初は丁寧ながらも硬い物腰だったモニカ。

 

 貴族としての、騎士としての自分を全面に出し、事務的な遣り取りとしか思えない雰囲気で接してきていた。

 

 しかし、それは日を追うごとに少しずつ変化していき、最近になって漸く年相応の顔や反応を示すようになった。

 

 同居人としてその方が接しやすいし、なにより嬉しい。

 

 目に見える形で親しくなり、仲良く慣れたのだから。

 

 だが同時にこれは少々行き過ぎでは? と思うことも多々見られるようになったのだ。

 

 今のような状況の時に身体を匂ってきたり、休日などに二人で歩いていると腕を絡めて、更には身体を押しつけてきたり。

 

 それに基本的には穏やかで物腰丁寧な彼女は最近不機嫌になることが多くなったように感じられた。

 

(怒らせるようなことはしていないのになぁ……)

 

 その都度そんなことを考える彼だったが、そこにはある共通点があった。

 

 それは彼が女性と会っているときである。

 

 付き合いの上での関係であり、特別な関係を持つ相手はいない物の、相手の年齢素性に関係なくとにかく機嫌が悪くなるのだ。

 

 飲み会などで夢幻会の仲間達に相談したことはあったが

 

『死ねっ! 氏ねじゃなくて死ねぇっ!!』

 

 と罵倒されたり、

 

『モブに近いからってファンがいないと思わないように。せいぜい夜道には気を付けることですね……』

 

 などとよく分からないことを言われたりとまるで意味をなさなかった。

 

「寒くないかい?」

 

「マントを着ているので大丈夫です……。それに……」

 

「ん?」

 

「それに嶋田さんのお身体……とても、温かいですから……」

 

「ははっ、ちょっと照れるな。でも、モニカさんの身体も温かいよ」

 

「…………恥ずかしい、ですね」

 

「だろう?」

 

 軽口を言い合いながら家路を急ぐ。

 

 師走の風は冷たいが、二人の心はほっこりと温かい物に満たされていた。

 

 




未完成。


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楽隠居?と円卓の少女 第2話

131 :楽隠居?と円卓の少女 第2話:2012/12/24(月) 20:25:04
では投下


提督たちの憂鬱とギアスクロス
嶋田さん独身設定で嶋田さんロマンス
平和そのもの
性格改変注意
クルシェフスキー家の爵位想像


 

 

 楽隠居? と円卓の少女 第2話

 

 

 

『みんな~、今日は何の日か知ってる~?』

 

『は~いっ!』

 

『じゃあ何の日かな~?』

 

『クリスマス~! サンタさ~ん!』

 

 テレビから聞こえる無邪気な子ども達の声。

 

 みんな笑顔でサンタクロースの話をしている。

 

 夕方に放送されている子ども向けの教育番組の一コマだ。

 

「サンタさん……か」

 

 自分以外誰もいない居間でぽつりと呟いたのは長い金色の髪の女性。

 

 目の上辺りで切り揃えられた前髪のせいか少し幼げな印象も受けるしとやかな風貌。

 

 テレビの画面に向けられた空の色を思わせる碧く澄んだ瞳。

 

 真っ直ぐに腰の下まで伸びた髪の一部は顔の両側から身体の前に流されて赤いリボンで束ねられていた。

 

 彼女はその髪の房を指で弄びながら愁いを帯びた表情を浮かべている。

 

 一見すると深窓の令嬢を思わせる彼女。いや、深窓の令嬢である事に違いはない。

 

 但し、それでいて鋭い切れ味を持った剣でもあるのだが。

 

 神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニア直属の騎士にして最強の12騎士の末席に座する貴族の少女ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキー。

 

 それが彼女だった。

 

 モニカは現在ブリタニアと並ぶ大国であり同盟国でもある大日本帝国に駐在武官として滞在している。

 

 下宿先としてシャルルの友人であり日本の元総理、嶋田繁太郎宅に住んでいる彼女だったがいまその大家たる嶋田の姿はない。

 

 なんでも急な用事で遅くなるとのことで先に寝ててと電話があったのだ。

 

「あの人の居ないクリスマス……」

 

 彼女は今日という日を嶋田と共に過ごしたかった。

 

 由緒正しい厳格な貴族の家に生まれたモニカは幼少期を除いて厳しく育てられてきた。

 

 その為、物心ついた頃からクリスマスの祝い事などしていない。

 

 パーティーなどは幾度となく行われていたが、それは所詮貴族の社交パーティーでしかなく心から楽しんだ記憶が殆ど無いのだ。

 

 かといって両親が彼女に愛情を抱いていないという訳ではない。

 

 一般的な家庭と同じように娘を愛していたし大事に思っている。

 

 しかし一人娘であり、いずれはクルシェフスキー侯爵家の当主となる娘を甘やかせる事はできない。

 

 自分でも分かっているのだが理解することと納得することは違う。

 

(お父様もお母様も私のことが嫌いなんだ)

 

 幾度となくそう考えたし今でもたまに思うことがある。

 

 そんな彼女に惜しみない優しさと思いやりを与えてくれ、貴族の令嬢ではなく一人の少女として接してくれたのが嶋田繁太郎だった。

 

 別に彼とクリスマスを祝う約束をしていた訳ではない。

 

 ただこの日を共にして欲しかった。それだけだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 やがて夕食時を過ぎ時計の針が次の日に移行する時間になっても彼は帰ってこなかった。

 

 彼女にはそれでも待つという選択肢があったし、そうしたかった。しかし明日もまた公務が待っている以上それはできない。

 

 人の上に立つべき自分が周囲に迷惑を掛けるようなことがあってはならないのだ。

 

「………………寝よう」

 

 彼女は心にぽっかりと穴が開いたような錯覚を覚えながら突っ伏していたこたつを出るとそのまま寝室へ向かいパジャマへと着替える。

 

『今日は何の日か知ってる~?』

 

『クリスマス~! サンタさ~ん!』

 

「……」

 

 パジャマに着替えたモニカがそのまま畳に敷いた布団に入って寝ようとしたとき、ふと夕方に流れていた教育番組の内容が思い出された。

 

『みんな良く聞いてね~? 今日はサンタさんがみんなにプレゼントを持ってきてくれるから、寝るときには窓のところに靴下をぶら下げておかなきゃダメだぞ~?』

 

『は~いっ!!』

 

 実に子供だましの馬鹿馬鹿しい内容ではあったがあの子ども達はみんな信じているのだろう。

 

 笑顔であれが欲しいこれが欲しいと自分が欲しい物を叫んでいた。

 

 そのときの子ども達の笑顔を思い出したモニカは自分でも(何をしているのでしょうね)と思いつつ自分の靴下を部屋の窓にぶら下げていた。

 

 黒い靴下は夜の闇よりも尚暗く見える為、もしサンタさんが来てもそこに靴下があるとは気付かないかも知れない。

 

 入ってなかったら見えなかったのだと思えばちょっぴりクリスマス気分を味わえるだろう。

 

 そんなことを考えながら今度こそ寝ようと布団に入って目を瞑った。

 

「おやすみなさい……」

 

 

 

 *

 

 

 

 眠りについてからどれくらい経っただろうか? 

 

 部屋に人の気配を感じたモニカは深い眠りから一気に覚め、布団から飛び起きて身構えた。

 

「何者ですか!」

 

 伊達に円卓の騎士の末席に名を連ねてはいない。周囲で気配があればすぐに分かるし対処も出来る。

 

 剣術は勿論のこと体術その他の格闘技でも常人では計り知れない実力を持つのが彼女達ナイトオブラウンズなのだから。

 

「あ、あわわ……」

 

 そんな超人の域に達している騎士の殺気を浴びせられる方は堪ったものではない。単なる泥棒や不審者には対処のしようがないのだ。

 

 そしてこの時モニカの部屋に居た人物もまた戦闘的な部分に於いては普通の人。

 

 モニカは相手がそれなりの訓練を積んでいた人間であると判断した物の、純粋な戦闘能力では自身よりも遥かに劣ることが分かった。

 

 彼女はそれが分かっても構えを解かないし油断もしない。どんな相手であれ一瞬の油断が命取りになることを知っているから。

 

(え……? この、感じ……)

 

 だが感じ取った相手の気配と目が慣れてくるにつれ見え始めたその姿に、彼女は自然と構えを解いた。

 

「や、やあメリークリスマス」

 

「……」

 

 それは赤い服と赤いズボン、更に赤い帽子をかぶって口の周りに真っ白なヒゲを蓄えた老人──サンタクロースだったのだ。

 

「よ、よい子のモニカちゃんにプレゼントを持ってきたんだけど……驚かせちゃったかな?」

 

 無論それがサンタクロースなどではないことなど彼女にはハッキリ分かっている。

 

 何せよぉ~く知っている気配と声なのだから多少の変装など簡単に見破れるというものだ。

 

 それに変装が完璧であって気配も違ったとしても恋慕う相手を間違えたりなどしない。

 

「こ、こんばんはサンタさん」

 

 嬉しいと同時にプレゼントと言われた瞬間モニカの最強の騎士の仮面はあっさりと剥がれ落ち、変わって年頃の乙女の姿になってしまった。

 

 姿形は違っても、恋慕い待ち望んでいたあの人が自分へのプレゼント片手に目の前にいるのだから。

 

 彼女は高鳴る鼓動を抑えながらちらりと時計に目を遣る。時刻は午前二時。完全なる遅刻であった。

 

「ほら、これが君へのプレゼントだ」

 

 差し出されたのは赤い包装用紙に包まれた二つの箱。

 

 それほど大きな物ではない。

 

「あ、ありがとうございます……あの、靴下を用意したのでそちらに入れてくださると……」

 

「おお、そうだったそうだった! いや、まさか君が目を開けちゃうとは思わなかったもので」

 

 おどけたように言うサンタにモニカは「くすり」と笑った。

 

「さあさあプレゼントは入れたし、よい子は寝る時間だよ」

 

「貴方とお話していられるのなら悪い子でもいいですよ」

 

「困ったなぁ~」

 

 サンタに扮するこの人と話をしていられるのなら別に悪い子でも構わないというモニカ。

 

 サンタはそんなモニカに「でも──」と続ける。

 

「でもそれじゃプレゼントあげないよ? 悪い子のモニカちゃんはプレゼント要らないんだね?」

 

 いい子は寝るもの。

 

 いい子じゃないモニカにはプレゼントあげない。

 

 そんなことを言い出したサンタにモニカは慌てて彼を引き留める。

 

「だ、ダメェっ!! ダメです!! いい子にしてますからくださいっっ!!」

 

 プレゼントを取り上げようとする自分を必死になって止める彼女がかわいらしくてもう少しいじわるをしてやろうかと思うサンタだったが、彼女が泣き出しそうになったのを見てやめにした。

 

 やめにして泣きそうになってしまったモニカの頭をよしよしと撫でてやる。

 

「よしよしわかった。モニカちゃんはいい子だ、いい子だから泣いちゃダメだよ~」

 

「な、泣いてませんっ……!」

 

 抗議の視線で睨み付けてくるモニカにサンタはひたすら頭をなで続けて宥めてから手を離した。

 

「さあモニカちゃん……もう寝ようね」

 

「はい……寝ます」

 

 ちょっぴり名残惜しかったがこれ以上は本当にプレゼントを取り上げられるかも知れないと布団に入るモニカ。

 

 だがふと思い出す。今はもうクリスマスの日を2時間も過ぎていることを。

 

「サンタさん……寝る前に一ついいですか?」

 

「ん~なにかなぁ?」

 

「遅刻……してますよ」

 

 時計を指さす彼女。

 

「ああ~、ちょっと遅れちゃったみたいだねぇ」

 

「サンタさんは遅れたらダメなんですよ? 遅れたらプレゼントを待ついい子が悪い子になってしまいますから」

 

「そ、そうだね~」

 

「私、サンタさんのせいで悪い子になっちゃいそうです」

 

「え、い、いや、ちょっと待って」

 

 事実を指摘されたサンタは焦り出す。

 

 じゃあどうすればいいのかと。

 

「プレゼントもう一つください」

 

「い、いや持ってないよ」

 

 プレゼントを要求されてももう無い。

 

 飽くまでもモニカへのプレゼントは今渡した二つだけなのだから。

 

「では私がプレゼントと判断する物を頂きますけど……いいですよね?」

 

 なら代わりに彼女がこれだと判断する物でいいというのだ。

 

「う、うう~ん……わかった」

 

 彼女の事だから無茶な要求はしてこないだろうと考えたサンタが了解すると、彼女は「顔を近づけてくれ」と言い出す。

 

「こ、これでいいかい?」

 

「はい、いいですよ……そのままじっとしててくださいね」

 

 ヒゲもじゃのサンタに顔を近づけて貰ったモニカは布団から少し身体を起こすと──

 

「んっ」

 

 遅れた分のプレゼントを頂くのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「おはようございます嶋田さん」

 

「あ、ああおはようモニカさんっ」

 

 爽やかに挨拶するモニカに対し嶋田の方はぎこちない。

 

「どうしたのですか? 奥歯に何か詰まったような感じですが」

 

「い、いやなんでも」

 

「うふふ、おかしな嶋田さん」

 

 そんな遣り取りの後モニカは身体の前に流した自分の髪を触り始めた。

 

 彼女がいじる髪を束ねるのはいつもの赤いリボン…………ではなく真っ白なリボン。

 

「ん? その白いリボンはどうしたんだい?」

 

 髪を触りながらちらちらと嶋田の方に視線を飛ばすいじらしいモニカに、彼はいま気付いたとでもいうようにいつもとは違う部分を指摘した。

 

「これですか? 実は昨日の夜サンタクロースが来て私にくれたんです……触ってみますか?」

 

「い、いいのかい?」

 

「はい……」

 

 モニカは白いリボンで束ねた自分の髪の房を嶋田に差し出す。

 

 差し出された彼はその長い金糸を束ねて出来た房を手に取ると優しい手つきで撫でながら話を続けた。

 

「金色の髪に白いリボン……なにか神秘的な感じもするね」

 

 指を絡めて撫でたり梳いたりしながらモニカの髪を優しく愛撫し続ける嶋田。

 

 そんな彼の手に触れながらモニカは幸せを感じ取る。

 

「サンタさんが幸せを運んでくれたんです……。嶋田さんのこの手のように、温かい手で……」

 

「ほ、ほぉ~? それにしてもサンタクロース?? ホントに居たんだ……」

 

「ええ、この白のリボンともう一組、青いリボンをもらいました」

 

「そ、そうか、それは良かったね。……いいクリスマスの思い出になったじゃないか」

 

「はい♪ でも、実はもう一つプレゼントを頂いたんです……」

 

 そう言いながら自分の唇を指でなぞるモニカ。

 

 彼女の頬には赤みが差していて、目も少し潤んでいるように見える。

 

「へ、へぇ~、三つも貰ったのか……っ、そ、それは太っ腹なサンタだね」

 

「はい……最高の、プレゼントでした……」

 

 俯き加減で細められた目と紅潮した頬。

 

 唇に当てられたままの指。

 

 そんな彼女の視線は最終的に嶋田に向けて注がれるのだった。

 

「来年こそは……一緒に過ごしましょうね」

 

 



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楽隠居?と円卓の少女 第3話

96 :休日:2013/01/02(水) 17:42:38
新年一つ目投下
レスにあったネタをお借りした短いネタです

提督たちの憂鬱キャラがギアス世界に転生
嶋田さんロマンス
嶋田さん独身設定
平和だが少しきな臭く
性格改変注意


 

 

 

「大清連邦正式に独立か」

 

 新年を自宅で過ごしていた嶋田は開いた新聞を見てやっぱりなと思った。

 

 前年、正確には何年も前から大宦官と呼ばれる中華連邦の高官達と国家元首である天子を支える派閥とがいがみ合っており、

 

 宦官派が中国北東部に資産や住居などを随時移転していたが、遂に独立と相成ったようだ。

 

「でも一方的に近い独立ですから後々揉めそうですよ」

 

 そう言って煎れてくれた緑茶をこちらへ差し出す前髪を目の上で切り揃えた長い金髪の女性。

 

 彼の家に同居しているブリタニアの日本駐在武官で皇帝直属の騎士ナイトオブラウンズの末席に座する女性モニカ・クルシェフスキーだ。

 

「巻き込まれるのだけは勘弁願いたいよ。日本には一切関係ないんだから」

 

 中華のことは中華内で何とかして欲しい。

 

 心から願ってはいるが地理的関係で多少巻き込まれるのは覚悟しなければならないだろう。

 

 唯でさえ高麗共和国という厄介な国がお隣に存在しているのに、彼の国に負けず劣らずの国が誕生したのだから。

 

「清は中華に対抗するため軍拡を始めるだろうし新年早々暗いニュースだ」

 

 件の記事の下には『高麗共和国、大清連邦独立を歓迎』とも書かれていて、それを見た嶋田は深い溜息を付いた。

 

「次はブリタニアのニュースか」

 

 新聞を捲ると今度はブリタニア関係の記事。

 

 そこには大きく書かれていたのは『不正を働いていた貴族を逮捕』

 

 更にはこの貴族は清の宦官と繋がりがあるようで度々援助をしていたことまで発覚している。

 

「同じ貴族として恥ずかしい限りです……」

 

 モニカはとても悔しそうな顔でその記事に見入っている。

 

 貴族は私欲を捨てて領民と国を守るべきである。その見返りとして裕福な生活をしているのだから。

 

 戦時には皇帝や民の盾となって戦い弱き者を助ける存在。

 

 そういう立派な貴族を目指し常に心がけている彼女に取って腐敗した貴族の話は聞くに堪えない。

 

「長い間権力を握り続けていると何処かで腐ってしまう。そんな物だよ。みんながモニカさんみたいな人じゃないから」

 

「…………」

 

「残念ながら日本も同じだ。金、地位、名誉、それが当たり前になると目が曇る人が出てくるのはね」

 

 関連した記事には日本でも清に買収された会社が摘発というニュースが掲載されていた。

 

 

 

 *

 

 

 

 そんな暗いニュースを見ていた嶋田の携帯に着信が入った。

 

 相手は辻だ。

 

「もしもし」

 

『新年あけましておめでとうございます』

 

「おめでとうございます。今年も厄介ごとに巻き込まない範囲で宜しくお願いします」

 

『善処致しましょう。ところでモニカさんはご在宅ですか?』

 

「ええ居ますよ。代わりますか?」

 

『お願いします』

 

 嶋田は辻が代わって欲しいと言っていることをモニカに伝えて携帯を渡す。

 

「モニカです。あけましておめでとうございます」

 

『おめでとうございます。嶋田さんと二人で過ごす正月は如何ですか?』

 

「えッ、あ……そのッ、は、初日の出を見て初詣に行きましたッ」

 

『それだけですか? 姫始めとかは?』

 

「ひッ、姫……ッッ」

 

 モニカの顔がボンッ! と音を立てて煙が出そうなくらい真っ赤になった。

 

 日本に赴任してそこそこになる彼女は日本の文化もそれなりに知っている。

 

 当然辻の言ったことが何を意味するのかも。

 

「そんなふしだらな事はしてませんッッ!」

 

『そうですかそれは残念ですね。一つ屋根の下に住んでおいてまだとは……』

 

 勘のいい彼にはとうにバレている。モニカが嶋田に好意を抱いていることが。

 

 だが鈍い嶋田相手に遠慮がちで恋に臆病なモニカでは分が悪いと時々テコ入れの意味も込めて彼女を挑発しているのだ。

 

「~~~~ッッ」

 

『まあそれは今夜にでもしていただくとして』

 

「しませんッッ!」

 

 尚も煽ってくる辻に抗議の応酬を繰り返すモニカ。

 

 そんな二人に一体どんな話をしているのかと気になる嶋田ではあったが、電話の向こうの声が聞こえないので意味不明だった。

 

 それが幸いなのか不幸なのかは分からないが。

 

『実はモニカさんに我が国の新型量産KMFウィンダムの模擬戦相手をお頼みしたいという話がありまして』

 

「模擬戦……ですか?」

 

『ええ、ラウンズのモニカさん相手にどれくらい闘えるか見たいのだそうです。如何でしょうか?』

 

「私はいいのですが……国が」

 

 模擬戦くらいいつ受けても構わないが国の許可も無くというのはマズいというモニカに、ブリタニア側には既に許可を取っており、

 

『クルシェフスキー卿の判断で』となったらしいことを伝える辻。

 

「それならばお受けしましょう」

 

『ありがとうございます。それでは後日連絡しますので嶋田さんも連れてきてください』

 

「なぜ嶋田さんも?」

 

『その方が気合い出ると思われますので……ということで、今夜はお楽しみください』

 

「しないと言っているじゃないですかッッ!!」

 

 

 

 その夜、辻に散々煽られたせいか勇気を出して一緒の布団で寝たいと言ったモニカに驚く嶋田が、引かない彼女と一緒に寝ることになったのは言うまでもなかった。

 

 惚れた相手と一つの枕で寝たモニカが見た初夢は、何処かの神社で行われた紋付き袴姿の嶋田と白無垢姿の自分の結婚式の夢だった……。

 

 

 

 



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楽隠居?と円卓の少女 第4話



349 :楽隠居?と円卓の少女 第4話:2013/01/10(木) 18:56:27

それでは投下

楽隠居?と円卓の少女 第4話

提督たちの憂鬱キャラがギアス世界に転生
ちょっとだけSEEDデスティニークロス
嶋田さんロマンス
嶋田さん独身設定
平和だが少しきな臭く
性格改変注意
甘めなので注意
人物、政党はフィクションです



 

 

 

 楽隠居? と円卓の少女 第4話

 

 

 

「これが……日本の新量産KMF」

 

 在日ブリタニア駐在武官ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーは、眼前に立つ2機の白銀の人型兵器を見上げて呟いた。

 

 頭部より突き出た二本の突起物。筋肉がついているように盛り上がった肩。生物的な印象を受ける二股に分かれた踵。

 

 現在自身を含めたナイトオブラウンズの専用機となっている第七世代KMFを元にし開発中である、ヴィンセントを思わせるスマートな体躯。

 

 ブリタニア製KMFに似通っているようで全く違う設計思想だろうその機体。

 

「大日本帝国、倉崎重工開発タイプGAT-04ウィンダムです」

 

 そう自慢気に語るのは倉崎重工の開発主任である。

 

 どうだカッコイイだろうとでも言い出しそうな彼にモニカの同行者である大日本帝国の元総理、嶋田繁太郎は思いきり突っ込みを入れた。

 

「趣味に走っただろ!!」

 

 大きさ重量は実物に比べてかなりの小型だが、型番名前そして何よりその見た目からこれが純粋なオリジナルでないことは一目でわかった。

 

 そう、前々世の世界にあったアニメで登場したロボット兵器をそのまま小型化した物だったのである。

 

「嶋田さん、いつの世も遊び心を忘れてはダメなんですよ」

 

「あんたらはネタに走りすぎだ!」

 

 此処は普段実験機のテストで使用されている演習場。

 

 嶋田とモニカが今日ここに来ているのは、正月休みの時に辻から依頼された新型量産機との模擬戦を行う為。

 

 正確に言えば辻ではなく、倉崎側の開発主任からの依頼だったのだが。

 

 この開発主任というのが大のガン○ム好きで、趣味が高じてデザインがこうなったというわけである。

 

「ですが性能の方は保証します。デザインは趣味ですが中身は紛う事なき第七世代機ですから」

 

「第七世代!? 第七世代の量産型ですか!?」

 

 主任の説明に驚いたのはモニカだ。

 

 それもそのはず、ブリタニアではまだ開発中の第七世代量産機を日本は既に完成させていたのだから。

 

 ブリタニアの第七世代機はラウンズ専用機を除けば実験機のみであり、それほど数があるわけではない。

 

 それを日本が先駆けて実用化させた。

 

 これは日本の持つ技術力の高さを表している。

 

 この世界の超大国。世界第二位の大日本帝国と第一位の神聖ブリタニア帝国を表現する言葉に以下のようなものがある。

 

 “技術の日本に力のブリタニア”

 

 日本は常に世界を1歩リードする技術力を持ち、ブリタニアは他を圧倒する巨大な物量を持つ。

 

 これは二国以外の国が勝手に作り出した造語なのだが、それだけ二国が突出しているのだから正鵠に的を射ていると言えた。

 

 この二国の後を追う形で中華連邦・EUが続いている。

 

 尤も確固たる技術協力体制を敷く日本とブリタニアの間だから、日本が完成させたなら直ぐにその技術はブリタニア側にも伝わりヴィンセントの開発も加速される。

 

 そして新たな先進技術に必要な資源などはブリタニアが日本に提供。

 

 こうして互いを保管し合っているのだ。

 

「データなどは追ってそちらにも公開されますから、お国の量産機開発に役立ててください」

 

「国を代表して礼を言わせてください。ご協力感謝いたします」

 

「いえいえ、こちらも色々とご協力頂いてますからお互い様ですよ」

 

 互いの検討を湛える開発主任とモニカ。

 

 だがこの光景は嶋田に取って頭痛の種でもあった。

 

(くれぐれもネタ的な処だけは伝えるんじゃないぞ)

 

 なにせ説明書や資料に変なイラストが混じっていたのを現役時代に見ているのだ。

 

 そのうちブリタニア製痛い子中隊が出来たりしないか心配でならない。

 

 もしもそんなのが出来てしまうような事態になれば日本の恥だ。

 

 例えブリタニアがそれを受け入れたとしても嶋田としては認められない。というか認めたくなかった。

 

「さて、お話はここまでにして準備に入ってください」

 

「わかりました。嶋田さん、私着替えてきますね」

 

「ああ行っておいで、俺はここで待ってるよ」

 

 

 

 *

 

 

 

 それから十分ぐらいして戻ってきたモニカの格好を見て嶋田は目のやり場に困ってしまった。

 

 彼女が着ていたのは家で普段着ている服でも、腰までスリットの入ったタイトスカートの白い騎士服という仕事上の服装でもない。

 

「モ、モニカさん、その格好は……」

 

 白を基調としたパイロットスーツは胸の部分が黒で金色のブリタニアの紋章がデザインされていた。

 

 袖の部分は緑で胸から足の先まで金色のラインが入っており、全身にフィットした服はしっかりと身体の線が出ている。

 

 胸はまだ良い。そこそこ大きな膨らみがくっきりした形で浮かび上がってはいた物の、そういう服なんだなで片付く範囲だ。

 

 問題は下腹部から膝にかけての部分。露出部が多すぎて太股どころかお尻が少し見えてしまっている。

 

「どうしたんですか?」

 

 が、そんな服装にも拘わらずモニカは全くと言っていいほど気にしていないようだ。

 

「い、いやあ、なんでもないっ」

 

(この格好で恥ずかしくないのか……)

 

 感覚の違いという物だろうがこれは慣れるまでは大変だし目の毒だと、極力目線を上に向けて際どい部分を見ないようにする。

 

 すると目に止まるのは普段と違う部分。

 

「ん? その髪型……初めて見るね」

 

 いつもは下ろしているお尻の辺りまで伸びた真っ直ぐな金色の髪。

 

 だが今は頭の左右で二つ括りに、俗に言うツインテールにしていた。

 

 髪を纏めて出来た二つの髪の束。その毛先に向かって螺旋状に巻き付けているリボンの色は青。

 

 去年のクリスマスに嶋田扮するサンタクロースがプレゼントした物だ。

 

 モニカは他に白と赤の2色のリボンを持っていてその日の気分で使い分けていた。

 

 このうち白いリボンも彼がプレゼントした物である。

 

「KMFの操縦をするときは邪魔にならないよう、いつもこんな感じに纏めているんです」

 

「モニカさんは髪の毛長いからなあ」

 

 KMFは言ってみれば戦闘機のような物だ。

 

 これだけ長いと操縦の邪魔にもなるだろう。

 

「嶋田さんは長い髪……嫌いなんですか……?」

 

 その言葉を勘違いしたモニカは悲しそうな顔で嶋田を見つめた。

 

 騎士でありながらも女らしくあろうと思って伸ばした髪。

 

 騎士服がスカートなのもやはりそれを意識しての物。

 

 彼女は何気ない嶋田の言葉に女としての自分を否定されたような気がしたのだ。

 

 無論そんなつもりで言った訳ではない彼は慌てて彼女の側に駆け寄ると、リボンが巻き付く髪の束を優しく撫でながら言った。

 

「そ、そんなことはない、君の髪の毛、凄く綺麗だし…… 好きだよ……」

 

 すると一転モニカの頬が紅く染まる。

 

「嶋田さん……」

 

 目まぐるしく変わる彼女の表情だがこればかりは仕方がない。

 

 同じく自分でやっておいて気障ったらしいと思う嶋田も恥ずかしさに頬が上気している。

 

 照れくさそうに見つめ合う二人。

 

 嶋田はモニカの髪を撫で続け、モニカはそれを受け入れる。

 

 二人だけの時間が流れる……訳にはいかなかった。

 

 

 

 *

 

 

 

「ええ~っ、いい加減ラブるのは止めてください!」

 

 いきなり目の前でラブり始めた還暦越えの男とうら若い女性を注意する開発主任(独身)

 

 オッサンと美少女の甘い関係など見たくもない。というか羨ましい! 

 

 彼は辻からある程度二人の関係(一つ屋根の下で暮らす大家と下宿人)を聞いていたが、同居人以上恋人未満とは知らなかったようだ。

 

 そもそも60の男と19の少女がそんな関係になりつつあるとは誰が想像できるだろうか? 

 

「「ひゃあっっ!!」」

 

 注意された二人は素早く身体を離すが声までハモってるのを聞いた彼は(コイツらどついたろか?)と半ば本気で考えていた。

 

 しかし本当に殴る訳にもいかないので口頭注意で済ませたあと、気を取り直して説明を始める。

 

 

 

「まずモニカさんにはこのウィンダムに搭乗して模擬戦をやってもらいます」

 

「え? いいんですか新型機なのに私を乗せても」

 

「ええ構いませんよ。上から許可も下りていますし」

 

 辻から話があった時点でもう許可は下りていたのだ。

 

 その辺りの根回しは早い。

 

「わかりました。ところで……」

 

 模擬戦というのは対戦である。

 

 対戦は相手が居ないことには始まらない。

 

「お相手の方は?」

 

 そう考えたモニカが彼に聞いたところ。

 

「ああ、もう来ますよ」

 

 なんでも渋滞に巻き込まれて遅れたらしく、いま服を着替えに行っているとのことだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「遅くなってしまい申し訳ありません!」

 

 待つこと数分、やってきた模擬戦相手はモニカと同年代か少し下に見える少年だった。

 

 幼さの残る顔立ちに柔らかそうな栗色の髪。

 

 一見すらっとした細身の身体に見えるも、騎士である彼女には意外に筋肉質であることがわかった。

 

 少なくとも完全な素人という訳ではない。

 

 何らかの格闘技、武術を学んでいると思われる。

 

「あれ? スザクくんじゃないか」

 

 そんな分析をしていた彼女を余所に嶋田が声を上げた。

 

 彼はこの少年を知っているのである。

 

 見掛け子供の友人宅でたまに顔を合わせるし、自分の後輩である現首相、枢木ゲンブの家でも会うことがある。

 

「お知り合いですか?」

 

「ああ、友達の息子さんなんだよ」

 

「こんにちは嶋田さん」

 

「こんにちはっていうか模擬戦相手って君なのか?」

 

「ええそうです」

 

 嶋田の質問に答えた少年スザクは、続いてモニカに向き直ると自己紹介をする。

 

「初めましてクルシェフスキー卿。枢木スザクといいます。今日は宜しくお願いします!」

 

 爽やかな挨拶をするスザク。

 

 温かい家庭で育ってきたことを伺わせる真っ直ぐな目をしていた。

 

 厳しい貴族の家で生まれ育ってきた彼女にはそれが少しばかり羨ましく感じる。

 

「こちらこそ宜しく。私のこと知ってるんですか?」

 

「勿論です。高名なナイトオブラウンズの方を知らない人なんて居ませんよ」

 

 ある種の憧れの人を見るような眼差しで見てくるスザクにモニカは少し照れてしまう。

 

 ラウンズという地位に就いている関係でそういう風に見られるのは多々あるのだが、やはり慣れる物ではない。

 

 しかし相手が名乗った以上自分も名乗らないとと切り替え彼女も同じように自己紹介した。

 

「改めまして。神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニア陛下の剣、ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーです」

 

 堂々とした騎士らしい名乗りだが、それに続いて小さく呟く。

 

 “それと……嶋田繁太郎の剣でもあります……”

 

 その呟きは誰にも聞こえることはなかったが、それでもいいと彼女は微笑んだ。

 

 宣言することが大事なのだ。

 

 彼に伝わらなくてもいい。

 

 自分が自覚していればいいのだ。

 

 モニカ・クルシェフスキーは嶋田繁太郎の騎士であると。

 

 

 

 *

 

 

 

 モニカとスザク。

 

 互いに顔を合わせて自己紹介を終えた二人はそれぞれ機体に乗り込む。

 

「これがウィンダム……」

 

 コックピットに乗り込みウィンダムを起動させた彼女がまず最初に驚いたのは、全天を見渡せるのではないかと思うほどの広範囲を映し出すモニター。

 

 側面モニターとか前面モニターという複数の画面ではなく、一つの画面で全て完結している。

 

 今まで騎乗したどのKMFにもこのような広い視界を確保できる物は無かった。

 

 視界が広がればそれだけ敵の攻撃に対処する選択が増える。

 

 それ一つ取っても戦術の幅が広がるのだ。

 

『聞こえますか?』

 

 無線から聞こえる開発主任の声。

 

「はい聞こえます」

 

『これからルール説明させて頂きます。双方の機体に装備されている武装は実戦の物とは違って弾は出ません。

 

 代わりに耐衝撃コートが施された模擬弾が発射され、相手にクリーンヒット、または一定以上のダメージ判定があったときにモニターに映し出されているゲージが減ります』

 

 モニカは説明された画面のゲージを見る。

 

 ライフポイントと書かれているそれはまるでテレビゲームのようにも見えた。

 

 現在の数値は100。

 

 要するに100のダメージを与えるか受ければ勝敗は決するということだ。

 

 武装は自身の愛機と同じようなMVSに似た高周波ブレード。

 

 そして実弾式ライフルヴァリス。ただブリタニア製のと違って連射速度が速いようだ。

 

 装備は正に第七世代機の純正品と言える物。

 

 それに機体設計からしてどうやらこれら以外にも別の装備があるように思える。

 

 おそらくは専用の武器が他にあるのだろう。模擬戦には必要ない物として外されているのかも知れないが。

 

『…………以上で説明を終わります。それでは始めてください』

 

 開始の合図が告げられる。

 

 と同時にモニカは自分から相手機に飛び込んでいった。

 

 先手必勝──。

 

 一見無謀な突撃に見えるがそこは天下のナイトオブラウンズ。

 

 機体の勢いを利用してブレードを抜き放ち素早い刺突を繰り出す。

 

 その動きはKMFというよりは人間の動きに近い。

 

 つまりモニカ・クルシェフスキーという戦闘のプロフェッショナルが生身で戦う動きそのままを再現しているのだ。

 

(凄い……私の愛機と同じ世代とは思えない)

 

 まるで自分の手足のように動くウィンダムに驚きと興奮を隠せない。

 

 尤も並のパイロットにここまでの動きが出来るかと言えばそれは無理な話だ。

 

 飽くまでも彼女だからこそ自分の身体のように動かせるのであって、普通の訓練を受けた者には不可能。

 

 それだけ規格外という訳である。

 

 一方攻撃を受けるスザクも紙一重で躱していた。

 

 素人や並のKMF乗りならば最初の一撃で撃墜判定を受けているところを、見事なまでに避けている。

 

 だが流石にノーダメージとはいかないようで少しずつライフが削られていた。

 

「くっ、なんて速さなんだっ!」

 

 彼から見ればモニカ機はとても同じKMFの動きとは思えなかった。

 

 まるで子供と大人。こうして直撃を避けられているだけでも奇跡だ。

 

 僅かな隙を見計らって打ち込むも悉く弾かれ、逆に連続した攻撃の嵐に晒される。

 

 元より自分は民間人。本職の人間には叶わない。

 

 だからといって諦める訳にはいかないのだ。

 

 親友の妹であるブリタニアの皇女、ナナリー・ヴィ・ブリタニアの騎士になるため自身で身体を鍛え、

 

 訳を話して協力して貰った藤堂鏡志朗に剣技を教わり、更には父の友人の辻正信の紹介で倉崎重工のテストパイロットをさせてもらえるようになった。

 

 努力に努力を重ねてここまで頑張ってきたがまだ足りない。

 

(これではナナリーの騎士になれない!)

 

 そう思った彼が強い人と戦いたいと言うと。

 

「強い人ですか……私から見ればスザク君は十二分に努力してます。その志と決意、そしてナナリーさんに対する一途な想い。どれ一つ取っても騎士になるには十分すぎる資格をお持ちです。

 

 それなのに、まだ強さを求めますか。そこまでの強さを求めてどうしようというのですか?」

 

「ただ、守る……ただ騎士になるだけじゃダメなんです……。世界中のどんな強い相手にも勝てるくらい、どんな強い敵にも負けないくらい強くならなきゃ、ナナリーの騎士になる資格はないッッ!!」

 

 彼の強い決意。ぶれない想いと眼差し。

 

 暫しの間言葉もなく見つめていた辻は深い溜息を付いて言った。

 

「はぁ、どこの熱血主人公君ですか貴方は………………いいでしょう。それだけの覚悟がお有りなら知り合いに一人居ますのでご紹介しましょう」

 

 “世界最強の一角に名を連ねる方をね”

 

 辻は紹介してくれた。

 

 神聖ブリタニア帝国最強の騎士の一人を。

 

 ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキー。

 

「つよ……すぎる……!!」

 

 防御から攻勢へと姿勢を変えることすら出来ない。

 

 圧倒的な実力差。そこには今までの努力では越えられない壁が存在していた。

 

(あと半分……)

 

 模擬戦が始まって五分。

 

 唯速いだけの突き込みと、一度離れてはまた加速して突っ込むという単調な攻撃を繰り返しているだけのモニカ。

 

 それだけでスザク機の体力ゲージは半分まで削られているのだ。

 

 逆の言い方をすれば、ラウンズの彼女を相手に軍属ですらないスザクが五分も持ち堪えている。

 

 これは間違いなく天性の才能。

 

(この子……すごい……)

 

 モニカは上からの言葉ではなく心からの賞賛を送る。

 

 時折来る一撃一撃の突き込みはブリタニアの剣術ではないが、ある一定の法則と形を持っている。

 

 おそらくは日本に伝わる剣術。

 

 本来なら日本刀という剣を用いた剣技であろうそれは、ほんの少しではあったが彼女のライフを削っていたのだ。

 

(完璧に避けたと思っていたのに……私に一撃どころか何撃も入れてくるなんて……!)

 

 感心している間にもまた一撃、機体をかすめた。

 

 間髪入れずにもう一撃繰り出されたそれを返す刀で弾く。

 

 弾いただけでは終わらない、そこから更に脚部を動かして強烈な蹴りをお見舞いしてスザク機を吹っ飛ばす。

 

 開いた間合いでどうするのか? それを試す為に。

 

 この真っ直ぐな少年なら今の状況でアレを使ったりしない。

 

 もし使えばそこまでの覚悟だったということだし、ここで止まることになる。

 

 そしてその予想は──。

 

「やはり真正面からきたわね」

 

 当たった。

 

 そう、彼女はこれを期待していたのだ。

 

 間合いが開けば飛び道具を使う絶好のチャンス。

 

 高周波ブレードだけではなく、ヴァリスという飛び道具があるのだからこれを活用しない手はない。

 

 だが彼は敢えてそれを使わなかった。

 

 剣のみの戦いで決着を付けようとしてくれた。

 

「ならばこちらも全力の一撃で答える!」

 

 瞬間、機体の出力を最大にして急加速するモニカ。

 

 そのスピードはスザクに捉えられる限界を超えていた。

 

 周りの景色がゆっくり流れ、まるで時間が遅くなったかのような錯覚さえ覚える視界。

 

 ウィンダムのモニターに捉えるのは前方のスザク。

 

 彼女が操るウィンダムはこの瞬間明らかに性能限界を突破していた。

 

「速いッッ!!」

 

 正面からぶつかる2機。

 

「これがナイトオブトゥエルブの……!」

 

 叫ぶスザク。

 

 そして──。

 

「モニカ・クルシェフスキー……ッ!」

 

 振り抜かれた剣撃は、その速度に対処することが出来なかったスザクの残り三分の一のライフを全て奪い取っていた……。

 

 

 

 *

 

 

 

「モニカさん貴女ねえ……」

 

 終了後、コックピットから出てきたモニカは開発主任の前で縮こまっていた。

 

 何故なら主任がお怒りだったから。

 

「模擬戦つってるでしょうがぁぁ!! 決闘やってどうすんですかぁぁ!!」

 

 ラウンズが剣の達人みたいな化け物的な強さを持ってる。

 

 ウィンダムの性能を目一杯引き出してくれた。

 

 そういうデータが取れたのは良かったのだが。

 

「ヴァリスは1発も撃たないわ終始剣の打ち込みをやってるわ剣道の試合じゃないんですよ!!」

 

「ご、ごめんなさい……でも騎士の試合というのは「アアッ!!?」ひッ!」

 

(こ、こいつ凄いな……モニカさんをびびらせてる。ブリタニア最強の騎士の一人だぞ……)

 

 嶋田はそんな主任の様子に感心していた。

 

 何事があっても動じないモニカを竦み上がらせているのだ。

 

 気迫だけはラウンズを越えているだろう。

 

「はああ、これなら最初からジェットストライカー付けて空戦やって貰った方が良かったか……」

 

「あ、あの、クルシェフスキー卿を責めないでください、僕も悪いんです……」

 

「当たり前のこと言わないでねスザク君? あんまり舐めたこと言ってるとタコ殴りにしちゃうからね?」

 

「は、はい……」

 

 途端、気さくな口調で物騒なことを言い出す主任。

 

 何だかこのままだと彼が切れてしまいそうだと考えた嶋田は話を切り替えようと口を開く。

 

「し、しかし、スザク君がKMFに乗れるとは知らなかったよ」

 

「あ、それは…………最近なんです。好きな女の子を守れるようになりたくて、辻さんに相談したんです」

 

(あ、あの人に恋愛相談??)

 

 辻と恋愛相談がどう考えても結びつかない彼は頭を悩ませながらも話を続けた。

 

「好きな女の子ってひょっとしてナナリーさん?」

 

 スザクの好きな相手については知っていた。

 

 ナナリー・ヴィ・ブリタニア。言わずと知れたブリタニアの皇女様だ。

 

「はい。僕はナナリーの剣になりたいんです。そのためにはKMFにも乗れなくちゃいけない。それで……」

 

「そうか……でも大変だよ? ブリタニアの皇女殿下の騎士になるのは」

 

 一国の、それも世界最大の国ブリタニアの皇女殿下の騎士になるというのは生半可なことではない。

 

 厳しい訓練をしなくてはならないし、自由な生活も出来なくなる。

 

 少なくとも自分はゴメンだ。自由でのんびり、静かで平和な日常を遅れなくなってしまうのだから。

 

 まあナナリー皇女がこのまま日本に永住するとなれば話は別だが。

 

「でも決めたんです!」

 

 そんな二人の話を聞いていたモニカは内心驚いていた。

 

 無論スザクがナナリー皇女の騎士候補だと聞いて。

 

 だが同時に納得する。あの気迫。自分を打ち負かそうと挑み掛かってくる闘争心の源はそこにあったのだと。

 

「頑張ってください枢木さん。簡単な道ではありませんが貴方ならきっとなれるでしょう。ナナリー殿下の騎士に」

 

 だからエールを送る。自分とて他人事ではない。

 

(大切な人を守りたいという意味では)

 

 ちらりと嶋田を見るモニカ。

 

 彼女の蒼い瞳に優しげで平凡な彼の姿が映し出される。

 

(私も同じですから)

 

「教えるのは苦手なのですが、私で良ければいつでもお相手しますよ」

 

「クルシェフスキー卿……ありがとうございます」

 

 想い人を守りたいという似た者同士な二人は、まるで誓いを立てているかのように固い握手を交わした。

 

 

 

「あの、丸く収まってるところ悪いんですけど、次は決闘なしでお願いしますよ?」

 

「「はい……」」

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「膝枕ですか」

 

「勘弁してください……」

 

 帰りの車中にて言葉を交わす嶋田と辻。

 

 用があって来れなかった彼は態々車を回してくれたのだ。

 

 いま車中に居るのは嶋田と辻、運転手、そしてモニカの四人。

 

 内モニカは疲れているからか車に乗ってすぐに眠ってしまった。

 

 隣に居る嶋田にもたれ掛かる形で寝ていた彼女は車の揺れでずるずる身体が倒れていき、現在彼の膝を枕代わりにして「すぅ すぅ」と小さな寝息を立てていた。

 

「しかし恐ろしいお嬢さんですね。寝ているというのにまるで隙を見いだせない」

 

 そう言ったのはこの車の運転手。

 

 ふとミラーを見た嶋田はその運転手がよく知った相手であることに気付いた。

 

「村中さん」

 

「お久しぶりです嶋田閣下」

 

 村中孝次。

 

 前世で夢幻会の掲げる政策によって助けられ、親夢幻会派の重鎮となった男。

 

 狂信的な夢幻会信奉者で『夢幻会による賢人政治こそが唯一絶対』と信じて疑わない故に些か暴走気味のところはあるものの、影から支え続けた実績を持つ信頼できる男だ。

 

 彼もまたこの世界へと転生した者の一人で、前世と同じく夢幻会に仕えていた。

 

「もう引退した身ですから閣下じゃありませんよ」

 

「いいえ、私にとって貴方はいつまでも閣下ですよ」

 

 まいったなと頭を掻く嶋田に村中はニヒルな笑みを浮かべた。

 

「それにしても彼女、本当に寝ているのですか?」

 

「ええ、ぐっすり寝てますよ」

 

 ほらと言いながら膝を枕にして寝ているモニカの柔らかいほっぺを指でぷにぷに突いてみる。

 

「にゅうう……」

 

 すると彼女は変な寝言を呟き子供がむずがるように顔をしかめた。

 

 だが反応したのはそれだけで一向に起きる気配はない。

 

「なるほど。しかし私が嶋田さんと同じ事をしようとすれば即座に切り捨てられそうですね」

 

「はは、まさかそんなこと」

 

「丁度良い。モニカさんにはこのまま寝ていてもらいましょう」

 

「どういうことですか?」

 

「言ったままですよ。あまり良くない話を態々聞かせる必要は無いということです」

 

 どうやら真面目な話があるようだ。

 

 それも悪いとは言わないまでも明るくはないニュース。

 

 口火を切ったのは村中だった。

 

「清が独自のKMFを開発していたようです」

 

 彼はそう言って一枚の写真を後部座席にいた嶋田に手渡した。

 

「これは……サザーランドですか?」

 

 写っていたのは細部こそ違うがブリタニアの第五世代機サザーランドにそっくりなKMF。

 

「正確にはサザーランドの劣化コピーでしょうね。ジェンシーとかいうらしいですが性能的には第四世代機の少し上といったところでしょう。試作段階でそんなに数は無いでしょうが」

 

「しかしなぜ清がこれを?」

 

「少し前、ブリタニアで清と繋がっていた汚職貴族が逮捕されたでしょう? その中に旧型機ということで監視の緩くなっていたKMFの設計図や工作機械などを清、正確には宦官派に売却していた者が居たようです」

 

 おまけにそれらの売国行為を行っていた貴族の幾人かは当局の動きを察知していたらしく、資産をEU経由で持ち出し国外に逃亡したとのことだった。

 

「なんともまあ」

 

「ブリタニアは『旧世代機を更に劣化させた物など奴らに似合いではないか』と清に関しては気にも留めていないようですが、

 

 これをやらかして逃亡した貴族に付いては身柄が確保され次第極刑でしょうね」

 

 あの親バカだが苛烈なシャルルが相手では、捕まり次第処刑されるだろうことをやっていたことには思わず大した度胸だと感心してしまった。

 

 人間お金の魔力に取り付かれるとここまで欲望に忠実になれるのか。

 

 これは確かにモニカが聞いたら悲しむだろうなと思った嶋田は膝で寝息を立てている彼女の髪を優しく撫でた。

 

「我が国にとっては今すぐ驚異になるような事はないでしょう。所詮は技術者の手抜きとなるだろう劣化品ですから。ですが、数が揃えば要らぬ冒険心を抱くやも」

 

「日本に喧嘩を売ると?」

 

「まさか。あの小心者の宦官達にそんな度胸はありませんよ。懸念されるのは高麗や脱落しそうになっているEU内部の劣等生辺りと組んで妙なこと、

 

 例えばこれを独自改良した物を開発して第三国経由で紛争地域に売りさばいたりとか、中華連邦を相手に無茶な要求を始めるのではないかと心配してるんです。

 

 まあ清が中華連邦相手に勝てるとは思いませんが、地理的関係で我が国も完全な無関係では居られませんからね」

 

「難民とかですか?」

 

「第一にはそれです。それ以外にも色々出てきますよ……こういう連中も居ますしね」

 

 車載テレビを付ける村中。

 

 丁度夕方のニュースの時間だった。

 

 

 

『総理! 国際協調、平和主義を広めるためにも我が国と、そしてブリタニアにも呼び掛けて清国との国交と友好条約を!!』

 

 画面の中では威勢良く吠える剣尚人 日本公民党代表の姿と、彼を睨み付ける大日本帝国首相枢木ゲンブの姿。

 

「枢木さんも大変だ。あの男の相手をしてると疲れるんですよね」

 

『口から男』剣尚人。

 

 嶋田自身も現役時代、野党の若手ホープと言われていた剣尚人に噛みつかれたことがあったので、枢木の思いはよくわかっていた。

 

「嶋田さんはあの剣さんがネット上でなんて呼ばれてるか知ってますか?」

 

 辻は少し笑いを堪えるように言った。

 

「『三下駄剣』ですよ。まあよく考えた物ですが……あれを駄剣と侮るのは少々危ない」

 

「危機を察知する感は我々も舌を巻くレベルですからね」

 

 剣尚人は何があっても自分にだけは辿り着けないようにしているのだ。

 

 明確な証拠を掴んでもその度に神業のように無関係な位置に立っている。

 

 全ての売国議員、汚職政治家を逮捕、または抹殺してもこの男だけは生き残るとまで言われている程だ。

 

「不思議な男です。私としては清や高麗より剣の方が危険で厄介な気がしますよ」

 

 嶋田と辻に割り込む村中。

 

 彼がそう言うのも無理はない。

 

 ここまで真っ黒でありながらも逃げ切り、果ては並み居る幹部を蹴落として公民党の党首にまで上り詰めた男なのだから。

 

 こんな輩が日本の憲政に関わっているなど危険極まりない。

 

 その上で清、高麗と繋がっているのだから始末に負えない。

 

「お前やるなって奴ですか。私は剣さんと友誼を結ぶなどゴメンですが」

 

 辻が言うとそれに続く嶋田と村中。

 

「右に同じ」

 

「左に同じです」

 

「すぅ すぅ」

 

 ただひとり、モニカだけは嶋田の膝枕で夢の中。

 

 そんなモニカを(かわいいなぁ)と思う嶋田はほっぺをぷにぷに突ついたり、髪を撫でてあげたりと忙しなく手を動かしている。

 

「ま、とにかく油断は禁物と言うことです」

 

 そう言って場を締めくくる辻。

 

 

 

 どうやら自宅前に着いたようだ。

 

「送って頂いてありがとうございました」

 

 嶋田はまだ起きそうにないモニカをお姫様抱っこする。

 

 白い騎士服を着た少女はまだ夢の中だ。

 

 遠ざかる車を見送った彼は──。

 

「さあモニカさん。我が家に帰ろうか」

 

 返事をしない騎士を抱いたまま自宅の扉を開いた。

 

 



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楽隠居?と円卓の少女 第5話

 

 

 楽隠居? と円卓の少女 第5話

 

 

 

 

 

 

 

 麺を解きほぐすのはお湯、心を解きほぐすのはあの人

 

 

 

 

 

 ある一定以上のお金持ちなどは豪華な食事や高級食材を口にする事が多い。

 

 どれもこれもが庶民には口に出来ないような料理ばかりで、見聞きしている方としては実に羨ましい限りだ。

 

 だがその反面、庶民が口にする物を食べてみたいと思っても、機会を奪われるのが彼らの世界。特に皇族や貴族などの身分にある者は生涯口に出来ない者も数多く居ることだろう。

 

 そして普段食べないそれらに人一倍興味を抱いたりするのが人間というもの。

 

 神聖ブリタニア帝国クルシェフスキー侯爵家の令嬢、ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーもまたその一人であった。

 

 彼女が気を引かれたのは庶民の味方カップラーメン。

 

 ブリタニアの同盟国である大日本帝国で開発された物で、食品が入っている容器にお湯を注いでふたをし、

 

 わずか三分ほど待つだけで出来上がるという簡単でお手軽、それでいて値段も安いという正に庶民の為に開発されたような食品である。

 

 幼い頃、彼女の屋敷で仕事をしていたメイドさんが「小腹が空いた」と食べていたのを見たのがそれを知った初めての事だ。

 

 その時、美味しそうに食べていたメイドさんを見て自分も食べたいと思った彼女が「それはなんですか?」と聞いた処「カップラーメンですよ」と教えられた。

 

 名称を知った彼女は続いて「わたしも食べたいです」と強請ったのだが「モニカお嬢様がお口になさるような物ではございません」と断られてしまったのだ。

 

 両親に言って食べさせて貰おうとも考えたのだが、メイドさんの言葉を聞く限りあの厳格な貴族である父や母が了承してくれるとも思えず諦めるしかなかった。

 

 それに所詮は子供の好奇心。食べたいと思ったのも一時的な物で、気が付けばすっかり忘れていたのである。

 

 モニカがそれを思い出したのはナイトオブラウンズ就任から暫くのち、在日ブリタニア駐在武官として日本に派遣された時だった。

 

 訪れた日本の地で下宿先となった嶋田繁太郎宅。そこで幼い頃見たあの白いポリスチレン製の容器を見つけたのだ。

 

「これは……」

 

 赤い文字で大きく書かれた商品名。

 

 多少デザインの差は見て取れた物の、あの時メイドさんが食べていた物と同じだ。

 

「どうかした?」

 

 その白い容器をジッと見ていたら大家さんである嶋田に声を掛けられた。

 

 嶋田繁太郎──このブリタニアの同盟国であり祖国と双璧を成す大国として知られる大日本帝国の元総理。

 

 彼女はその嶋田と友人であるという自身が仕える主、ブリタニア皇帝シャルルの紹介で彼の家に下宿していた。

 

 まだここに来て間もない彼女は丁寧ながらも一歩引いたような物腰で彼と接し、必要以上に言葉を交わさず硬い表情を崩したことがない。

 

 そんな彼女が何かをぼーっと見ているのは珍しいと思われたのだ。

 

「いえ……なんでもありません」

 

 だがそれも束の間、一瞬後にはまた感情を感じさせない表情に戻る。

 

 少し心苦しい処はあった。彼は自分が巡り会った初めての優しい人なのだから。

 

 だからこそ彼女は嶋田と普通に話をしたいと思ってはいた。

 

 ただ貴族の家に生まれ、騎士としてまた跡継ぎとして必要以上に厳しく育てられたせいか、どう接したらいいのか分からない。

 

 モニカは普通に接するというのがどういう物か知らないのだ。

 

 それ故、いつもこのまま無言になって、ただ過ぎ行く時に身を任せるだけとなりやがて就寝時間を迎える。

 

 此処に来て以来毎日ずっとその繰り返しだった。来る日も来る日も優しい彼に冷たい態度ばかり取って。

 

 嶋田もそんな彼女の態度に話す切っ掛けを掴めず困っている様子だった。

 

 だが……だが、このときばかりは違った。

 

 彼が先ほど見ていたモニカの視線の先にある物に気付いてそれを手に取り、封を破ってポットのお湯を注ぎ始めたのだ。

 

(食事の時間も過ぎたというのに……)

 

 彼の行動に彼女が思ったのは行儀が悪いという物。

 

 既に食事を終えた上で別の何かを食すなどと自分の家なら考えられない。

 

 由緒正しい貴族の生まれである彼女には嶋田のやっている事が酷く不作法に感じられた。

 

 こんな不作法な人が本当にこの国の頂点に立つ人物だったのか? そう思わせるほどに。

 

 彼の優しさは好意的に見ているのだが、こういった処は直して欲しい考えている。

 

 だが同時に羨ましいとも思うのだ。

 

 彼は一国の、それも超大国と称される国を率いるような立場でありながらもこういう事を普通としていた人生を歩んできたのだから。

 

 もしかしたらそれは自分の勘違いで、本当はとても苦しい道だったのかも知れないが、それでも彼は普通という時間を己が力で生きてきたのは間違いない。

 

 それは彼女から見ると凄く自由で楽しい人生に思えた。

 

 箱入りだった幼少期を過ごし、物心ついてからは甘えなど許されない毎日を送っていた自分には、自由など無かった。

 

 今はもう両親とも、クルシェフスキーの家とも離れて過ごしてはいるが、今更生き方や考え方を変えるのは簡単な事ではない。

 

 あの白いポリスチレンの容器を見たせいか次々思い出される幼少期からの記憶。

 

 それらの記憶には心から楽しめている時期は殆ど無かった。

 

 彼のように人生を楽しみたい。そう考えながらも一歩を踏み出せないのは自分が弱いから……。

 

 彼女はそんな自分が嫌いだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「どうぞ」

 

 そんな暗い思い出に浸っていたモニカの前にあの白い容器が差し出された。

 

 苦い思い出の中に残っていた白いポリスチレン製の容器が。

 

「あ、あの……」

 

 意味が分からない。どうしてこれを自分に差し出すのか? 

 

 彼が自分で食べる為にお湯を注いだのではなかったのか? 

 

 疑問に思う彼女は差し出した彼を見る。すると彼は「食べてごらん」と言って箸まで渡してきた。

 

 ここまでされて断るのも非礼に当たると思い箸を受け取った彼女は、封のされた紙のふたを開けてみる。

 

「いい匂い……」

 

 容器の中には小さく千切られたような黄色い卵と四角い肉。そして細かいネギが所狭しと散りばめられていた。

 

 それらの下には主役である麺が顔を覗かせていて、湯気と共に食欲をそそる香ばしい匂いを漂わせている。

 

 その匂いにモニカが思い出したのは幼少期に見たメイドさんの姿。これと同じ物を美味しそうに食べていたその様子を。

 

 彼女は折角だから食べてみようとスカートのポケットに入れていたハンカチを取り出し、ブラウスの首のところに掛けた。

 

 たかがカップラーメンに大袈裟なと思われるが、食事をするときはいつもの事なので嶋田も気にしていない。

 

 こういうのを見ると彼女の育ちの良さを伺わせる。

 

「それでは、御馳走になります」

 

「たかがカップ麺に大袈裟だよ」

 

「ですが」

 

「いいから食べて」

 

「はい……」

 

 これを御馳走だと言われたら困ると苦笑いする彼に勧められるまま、モニカは箸を入れて麺を掴み口に運ぶ。

 

 彼女は普通に食べようとしていたのだが変わった食べ方になってしまった。口から垂れ下がる形の長い麺を一々掴み直して口に入れるというそんな食べ方。

 

 要するにどうやって食べればいいのか分からないのだ。

 

 日本に来てから箸の使い方を覚えたのだが、それ以前はナイフとフォークを使っていた。

 

 それでも麺料理を食べたことがあればまだしも実の処これが初めてとなる。故に食べ方という物が分からない。

 

 見かねた嶋田に「そのまますすって食べればいいんだよ」と言われ、彼女は驚いた。

 

 麺をすするという事は音が出る。音を立てて食べて良いという事。

 

 軍に於いての食事なら音を立てて食べるのも吝かではないのだが、家でする食事で音を立てるなどしたことがない。

 

 モニカの家はそのような不作法が許される家ではなかったから。

 

 しかし彼が良いという以上そういう物なのだろう。そう判断した彼女はそのまま一息にすすって残りの麺を口の中に入れてしまう。

 

 すると口の中に醤油の味がじわっと広がり、味蕾全体が刺激された。

 

「おいしい……」

 

 初めて味わうカップ麺の味。初めての食感。子供の頃に食べてみたいと思ったカップラーメンの味。

 

「こんなにおいしい物を食べたのは生まれて初めてかも知れません……!」

 

 それを十数年越しに食べることが出来たモニカは満面の笑みを浮かべてこれをくれた嶋田を見た。

 

「初めてだね」

 

 すると彼は何かが成功した。やっとか。

 

 そんな感じを思わせる優しい声色で呟くように言った。

 

「え?」

 

「初めてみたよ、モニカさんの笑顔」

 

 

 

 “初めて見た笑顔”そう言われて今更ながらに気付く。自分が此処に来て笑ったのはこれが初めてなのだと。

 

 いつもいつも冷たい表情を張り付かせていた事に今更ながら気付かされた。

 

「そっちの方が良い。ずっと無表情だったけどモニカさんには笑顔の方が似合うと思う」

 

 そんな自分に気を悪くすることなく、彼は変わらぬ優しさを与えてくれていた。

 

 いつも仮面を被ったように無表情な自分に、暖かく接し続けてくれていた。

 

 もし自分が皇帝陛下の紹介でなければ今頃叩き出されていてもおかしくはないというのに。

 

「貴族だとか騎士だとか、そんな堅苦しく考えないでありのままの君で居ればいいじゃないか」

 

 甘えてもいいしわがままも言っていい。

 

 冷たい態度をとり続けていた自分に彼はそんな言葉を投げかけてくる。

 

「此処には厳しい人なんて居ないし強さを要求する人も居ない。それが必要な環境でもない。

 

 生憎と俺は君がどういう人生を歩んできたのかは知らないが、そうやって仮面をかぶってばかり居ると身体に良くないよ。

 

 この国で、少なくともこの家では仮面なんて外して、ありのままのモニカさんで居て欲しい」

 

 堅く考えなくて良い。強さも要らない。

 

 貴族としての自分でもなければ騎士としての自分でもないただのモニカでいい。

 

 ありのままの君で、モニカ・クルシェフスキーという一人の女性で居れば。

 

 心の中にすとんと落ちるその言葉。

 

(どうしてこの人は自分に何も求めようとしないのだろう)

 

 求められる環境の中で、ただ一人何も求めなかった彼。

 

 その答えがここにあった。

 

 彼が唯一求めていたのは自分という一人の人間と仲良くなりたい、それだけだった。

 

 それを知ったモニカの碧い瞳は潤みを帯び、涙が溜まっていく。

 

「おっと」

 

 しかし溜まった涙がこぼれ落ちることはなかった。そうなる前に彼の手で拭われてしまったから。

 

 彼の手が顔に触れている。暖かいその手には自分の涙がある。流れそうで流れなかった涙が。

 

「泣いちゃダメだとは言わないけど泣くのはラーメンの残りを食べてからにしよう。冷めてしまうからね」

 

 直後、モニカの胸の奥底に灯火がついた。

 

 やがて小さなその火は燃え上がり彼女の胸を熱くする。

 

(なに、これ……?)

 

 この時はまだそれを理解できなかった彼女は、自分の胸を押さえて燃え上がりそうになる火を無理とに消した。

 

 今はまだ早い。その時じゃない。無意識にその感情を押し込めながらもう一度箸を握り直すと、言われるがままにラーメンをすすり込んだ。

 

 本来の味は醤油味のそのカップ麺は、いつの間にか甘酸っぱく感じられる何とも言えない味へと変化していた……。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「…………」

 

 こたつの台に置かれた青い砂の入った砂時計。

 

 その砂が落ちるのをじっと見ている長い金色の髪の女性は、砂が落ちきったところで目の前にあった白い容器のふたを開けた。

 

「いただきます」

 

 箸を親指の間に挟んで手を合わせた彼女は湯気の立ち上る容器の中身──ラーメンを掴んで口に入れると一気にすすり込む。

 

 食べ物をすするのがはしたないとか、音を立てて食べるのは行儀が悪いとか一切考えていない。

 

 これはそういう食べ物であるし、自分はこうして音を立ててすすりながら食べるのが好きだから。

 

「ん~っ、おいしい~っ」

 

 寒い時期に食べるラーメンは格別に美味しい。

 

 これは殆どの日本人なら分かるだろうが、実家の両親には分からないだろう。

 

 それはなんて勿体ない事なのだろうかと、彼女モニカ・クルシェフスキーは本気で考えていた。

 

 貴族と言っても自由度の高い大らかな家庭ならば食べる機会もあるだろうこの食べ物を、昔ながらの厳格な貴族は食べられないのだから。

 

 インスタント食品が身体に良い物とは言わないが、全く食す機会がないのはやはり不幸な事ではないのだろうか? 

 

「君は本当にラーメンが好きだなぁ」

 

 感心したように言ったのは向かい合わせで座るこの家の主、嶋田繁太郎。

 

「ラーメン嫌いな人なんて居るんですか?」

 

「そういえば本気で嫌いって人には会ったことがないな、でも君は輪を掛けて好きなような気がする」

 

「別にラーメンだけが好きなのではありませんよ? カレーも好きですし牛丼も好きですし、お寿司は大好きですし」

 

「あんまり食べ過ぎると太るし身体にも良くないからほどほどにね……」

 

「自己管理は徹底しておりますので大丈夫です♪」

 

 モニカはこの一年と少しの間で自分はずいぶん変わったなと思っていた。

 

 素直な自分を出せるようになった。それが一番大きな変化だ。

 

 もう以前のような無表情な仮面など被っておらず、冷たい空気もなくなっている。

 

 “ありのままの君で良い”

 

 嶋田に言われ心を揺り動かされたその言葉の通り、ありのままの自分を出すようになった。

 

 少なくとも、この人の前でだけはそうあろうと心がけている。

 

 あの時はまだだと無理矢理押さえ込んだ自分の気持ち。

 

 彼が好きだという気持ちと共に新しい一歩を踏み出せたのだ。

 

 だからこそ、こうして彼と楽しい毎日を過ごせている。

 

 普通の生活という物を、普通という物を知ることができた。

 

 この事はいつの日か父の爵位を受け継ぎクルシェフスキー侯爵家当主となったその時にもきっと生かされる──そんな気がするのだ。

 

(その時、自分の隣にこの人が居てくれたら)

 

 自分を変えてくれ、自分の全てを受け止めてくれる優しいこの人とずっと一緒に居たい。そう思わずにはいられない。

 

「ん? どうかした?」

 

「いえ……」

 

 モニカは嶋田と結婚し、彼の子を生みたいと本気で思っている。

 

 本気だからこそ嶋田を誰にも渡すつもりはないし、それが故に独占欲が強くなっていた。

 

 彼に近付く女には自然と攻撃的になるし、女の匂いがすれば機嫌が悪くなってしまう。

 

 恋する女の悪い面ではあったがこればかりは自分でもどうにもならない。

 

(私は必ず貴方を討ち取ってみせます。ラウンズの戦場に敗北はないのですから……)

 

 攻撃目標をその碧い双眸に映すモニカ。

 

 そう、戦いはまだ、始まったばかり……。

 

 

 

 



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楽隠居?と円卓の少女 第6話

色々ありえないです。
モニカはこんなことで怯えもひるみもしませんので完全にキャラが違っております。


 

 

 楽隠居? と円卓の少女 第6話

 

 

 

 

 

 第一種接近遭遇? 

 

 

 

 

 

 深い眠りに就いていたナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーは、何かの気配を感じて飛び起きていた。

 

「嶋田さん……?」

 

 飛び起きたモニカが直ぐに気付いたのは隣に寝ている筈の嶋田の姿がないこと。

 

 正月に床を共にして以降、彼女は嶋田と一緒に寝るようになった。

 

 最初の間は渋る彼だったが、毎日ねだり続けた結果今では当たり前のように一つの枕で頭を並べ、一つの布団で寝ている。

 

 別に変な事はしていない。そんなことを口にする勇気もなければ、そこまでの関係になった訳でもないから。せいぜい“おやすみのキス”を求めるくらい。

 

 それですらありったけの勇気を振り絞っての物で、「し、仕方ないなあ」と恥ずかしげに応じてくれる彼に甘えて何とか掴み取った物だ。

 

『いくらでも甘えてくれたらいい』という彼の言葉を思い切り活用していた訳である。

 

 仮にもし、何かの間違いで彼が自分を抱こうとしてくれたら大人しく受け入れるつもりではあったが、生憎とそのような事は起こってなかった。

 

 胸は平均以上に大きいし身体ももう成熟した大人の身体。

 

 それなのに何もしてくれないのは自分に女としての魅力がないからなのかと落ち込みはしたが、実際は相当意識してくれているようで、耳が真っ赤になっているのを見たときはとても嬉しかった。

 

 眠っている彼の胸に触れてみたときなど早鐘を打つ鼓動を感じて逆に自分が恥ずかしくなったくらいだ。

 

 だがそんな彼の様子を知り、態と身体を寄せくっついて眠るようになった辺り(私も思い切ったことが出来るようになったな)と自分で自分を褒めるモニカだったが、その身体に感じるはずの暖かい温もりが何処にも無い。

 

「どこ、ですか?」

 

 夜中に用を足す為に起きているのかもと考えたが、それにしては布団も枕も冷たく、まるで最初から誰もいなかったように感じられた。

 

 そんな筈はない。今夜も一緒に寝ていた。ちゃんと一つの枕で頭を並べていたのに。

 

 そして先ほどから感じる何かの気配。それは部屋の外から感じられた。

 

 そこに何かが有るのかも知れない。普段の冷静な彼女ならそんな不用意な行動は取らなかったのかも知れないが、嶋田が居ないという事実が彼女から冷静さを奪っていた。

 

 

 

 *

 

 

 

 閉め切っていた部屋の戸をモニカは恐る恐る開けてみる。

 

 すると──

 

「なッ!?」

 

 廊下になっている筈の部屋の外が眩い光に包まれた妙な空間に変貌を遂げていた。

 

「ど、どうなっているの!?」

 

 光の空間に踏み込んでしまった彼女は思わず叫んでしまうがその疑問に答えてくれる者はいない。

 

 ふと後ろを振り返ると今出てきた自身と嶋田の寝室になっている部屋まで無くなっているではないか。

 

 代わりに広がっているのはどこまでも続く光の世界。

 

(ここは何処?)

 

 モニカは不安になった。

 

 危機的状況に於いて誰よりも冷静な対処が出来る筈のナイトオブラウンズである彼女と言えど、流石にこのような未知の体験、不思議な事象というのは専門外。

 

 これでもしモニカの隣に嶋田が居れば、彼を守る騎士だと自認する彼女は己を鼓舞出来ていたであろうが、居ない今はこの現象に不安を覚えるだけだった。

 

 そして、そんな不安いっぱいな彼女の視界に何かが映り込んだ。

 

「え? なに?」

 

 それは前方5m程の場所に滲み出てくるような感じで現れる。

 

「ひ、と?」

 

 現れたのは人影。一瞬嶋田かと思ったが体格が違う全くの別人のようで、後光が差しているせいか人間の筈なのに別の何かにしか見えないそれ。

 

 完全に姿を現したそれは、ゆらゆら動きながら彼女の方へと近付いてきた。

 

「何者!?」

 

 身構える彼女の質問に答えないその人影はすぐ前までやってくると──

 

 

 

 “アセンションッッッ!!! ”

 

「キャアッッ!!」

 

 

 

 人に出せるとは思えない大きな声で叫んだ。

 

 

 

 *

 

 

 

『君……君は、地球人かね?』

 

 影しか見えないその人物だったが、シルエットから頭がもじゃもじゃパーマになっているのが分かった。

 

 更に異様に大きな光り輝く目だけハッキリと見える。

 

(う、宇宙人……?)

 

 その外見と質問から連想できるのはそれしかない。というよりそれ以外には思い付かないだろう。

 

『君は、地球人かね?』

 

 全く同じ質問を同じ声の高さで聞いてくる相手に不気味な物を感じた。

 

『君は、地球人かね?』

 

 これは答えないとマズイかも知れないと考えた彼女は、当たり前の答えを返す。

 

「は、はい、地球人です」

 

 この問いに対して地球人以外の何を答えろと言うのか? 

 

 ブリタニア人だろうが日本人だろうが、高麗人や清国人もみな同じ地球人である。

 

 人種や国、敵味方という違いこそあっても地球人かと聞かれれば地球に住んでいるのだから地球人。

 

 そう考えて答えたモニカだったが……

 

 

 

『ウソをつくんじゃないッッ!!!』

 

 

 

 何故か相手を怒らせてしまった。

 

『君のような金色頭の人間が地球人な訳がない!! 君は金星人だッッ!!』

 

「エエエエッッ??!」

 

 髪の色が金色だからといって地球人じゃないと言われたら億単位の人間が地球人ではなくなってしまう。

 

 実は地球は金星人の植民地だった!! なんてふざけたことになりかねない。

 

 だがそう考えるモニカを無視して話を進める宇宙人。元々通じ合える筈がないのだ。

 

『君は金星人でありながらウソをついた。これはトモダチとして友愛しなければならん』

 

「わ、わたしは地球人です! ウソなんかついてません!」

 

『まだ言い張るか! こうなったらボク自らの手でキャトルミューティレーションを行うしかないようだな』

 

 よくわからない事を口にして一人で納得した宇宙人はぬっと手を伸ばしてモニカの腕を掴んだ。

 

「は、離してッ、離してくださいッッ!」

 

 必死になって抵抗するも生温かいその手は凄い力を持っているようでビクともしない。

 

『怖がる事はないぞボクのトモダチ。さあ行こうか母なる大地金星へ!!』

 

「いやッ、いやァァァァッ! 助けてッ、助けて嶋田さんッッ!!」

 

 想い人の名を叫び助けを求めるモニカではあったが、その声は光の空間に虚しく響くだけで彼が姿を現すことはなかった。

 

 そして強い光に包まれたかと思うと身体が消滅するように消えていき、同時に意識も薄れ、彼女という存在は溶けるように霧散していった……。

 

 

 

 *

 

 

 

「いやァァァァァァ────―ッッ!!」

 

 意識を失った筈のモニカは悲鳴と共に飛び起きた。

 

「あ……あれ……?」

 

 光に飲み込まれて消滅した筈なのに。そう思った彼女の視界に映るのは薄暗い寝室の景色。

 

 もう日が少し昇ってきているのか、カーテンの隙間からは光が零れていた。

 

「大丈夫かいッ!?」

 

「え……?」

 

 直ぐ隣から聞こえてきた声。自分の肩を掴む手の温もり。

 

 横を振り向くとそこには心配そうに自分を覗き込む嶋田の姿があった。

 

「嶋田さんッッ!」

 

「わッ! い、いきなりどうしたの?!」

 

 彼の姿を見て迷わず抱き着くモニカ。

 

「ぅぅぅぅ~~~ッッ」

 

 抱き着いたまま彼の首筋に顔を埋めて温もりを求めた。

 

 怖かったのだ。自分が宇宙人に浚われて消滅してしまったのではないかと。

 

 そんなモニカに嶋田は「よほど怖い夢を見たんだな」と抱き着いてくる彼女を受け止め、背中や髪を優しく撫でてあげる。

 

「よしよし、怖くない怖くない」

 

 幼い子供ならまだしも二十歳前の女性をあやすのは何か妙な感じがすると思いながら、嶋田は暫くの間彼女と抱き合ったままでいた。

 

 

 

 *

 

 

 

 後日、日本の要人と会談があり、都内某所の政党本部に訪問する在日ブリタニア大使コーネリア皇女の護衛を頼まれたモニカは、そこである男と顔を合わせた。

 

「やあ、ボクのトモダチ」

 

 顔を見るなりそう言って握手を求めてきたフレンドリーな日本公民党幹事長を前にして、口から泡を吹いて盛大に気絶してしまった彼女にその場は騒然となる。

 

「なんだテロか!?」

 

「しっかりしてくださいクルシェフスキー卿ッッ!!」

 

「救急車ッ! 119番だ早くしろッッ!!」

 

 病院に運ばれて意識を取り戻したモニカは心配で駆け付けていた嶋田に抱き着いて「金星人ッ 金星人がッッ」とひたすら怯えていたとか。

 

 尚余談ではあるが、あのブリタニア最強の騎士ナイトオブラウンズの一人、ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーを笑顔で瞬殺した鳩川雪夫は、

 

『何を考えているのか分からないけど凄い奴』『大日本帝国最強の政治家』『ナイトオブポッポ』

 

 と囁かれるようになり、党内や公民党サポーター内での株が大きく上がったらしい。

 

 その一方、インターネット掲示板弐ちゃんねるなどでは

 

『モニカたんに酷い事するなッ!!』『鳩川ァァ! よくも俺の嫁をォォォォ!!』『ちょっと抗議の電凸してくる』

 

 などと叩きまくられたらしいのだが

 

 



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楽隠居?と円卓の少女 第7話 前編

932 :楽隠居?と円卓の少女 第7話 前編:2013/02/27(水) 22:58:35

提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生
嶋田さん独身
嶋田さんロマンス
性格改変注意
レイバーネタ
結構甘いお話さん
色々性格とか変わっております。


 

 

 

 

 楽隠居? と円卓の少女 第7話 前編

 

 

 

 

 

 バレンタイン

 

 

 

 

 

 

 

「さ、寒いなぁ~」

 

 渋谷のハチ公像前。多くの若者たちに紛れる形で立っているのは、防寒着を着込んでマフラーを巻いた中年の男。男は身を切るような寒さに手揉みをしながら震えていた。

 

 彼の名は嶋田繁太郎。嘗てこの大日本帝国を率い、世界に冠たる超大国へと押し上げた彼も、今時の若者達に紛れてしまうと意外に気付かれることはないようで、見事なまでに風景の一部と化している。

 

 尤も、普段から平凡という名の空気の塊でもある彼の場合は元々気付かれにくい訳だが、騒がしいよりは静かな方が好きなので助かっていると言えば助かっている。まあ季節柄寒さだけはどうしようもない。

 

「コタツが恋しい……」

 

 氷点下とまでは行かない物の、気温一ケタなこんな日は自宅でコタツにでも入ってのんびりと過ごしているのが隠居生活を送る彼の日常。にも拘わらず、態々縁もゆかりもない若者の街に居る理由は待ち合わせの約束をしていたから。

 

「しかし山本の奴、待ち合わせには此処がいいとか言ってたが、アイツと渋谷の組み合わせが何となく思い付かないな」

 

 前世から合わせて百年近くの付き合いを持つ友人──山本五十六は、最近交際を始めた女性と度々デートしているらしく、『渋谷で待ち合わせするならハチ公前だ』とこの場所を勧められたのだ。

 

 だが同い年で堅物な山本と、若者で賑わう渋谷がどうしても結びつかない。

 

(世界が変われば考え方も変わるか)

 

 因みに今日待ち合わせしている相手は山本ではなく、嶋田の家で一緒に暮らしている同居人、ブリタニアのクルシェフスキー侯爵令嬢である。

 

「モニカさんと渋谷というのもまた微妙だ」

 

 ブリタニアの日本駐在武官ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー。

 

 普通であれば渋谷とは一生縁が無いであろう彼女は、豪奢なドレスでも着て上流階級が交流の場として使う舞踏会にでも出ている方がまだ想像できるという物。というか本来それが正しい姿なのだろう。

 

 まあ日本に来てから、正確には嶋田と打ち解けてからは随分と庶民的生活を送るようになった為、彼女が生まれも育ちも貴族のお嬢様で、本来ならば社交界に居るのが普通というのも想像しにくくなってはいたが。

 

「好物がカップ麺で、おまけに全銘柄を制覇するような侯爵令嬢なんて聞いた事がない」

 

 世界中の王侯貴族を捜してもそんなのは見つからない。その世にも珍しい貴族のお嬢様ときたら、朝に味噌汁と納豆を食べて時々持って行く弁当にはおにぎりと梅干しを詰めている。

 

 弁当持参ではない日も昼食にラーメン屋さんに行っただの、牛丼カツ丼親子丼を食べただの、立ち食いそばを食っただの、庶民街道まっしぐらなのだ。

 

 初対面の人が現在の彼女の生活実態を見れば、仕草と言葉遣いを除き、とても大貴族の娘であるとは思えないしそう考えるには無理があり過ぎた。

 

「何を聞いた事がないんですか?」

 

 急速に庶民化していく同居人の事を考えていると、不意に声を掛けられた。

 

「いや、モニカさんがラーメンの──」

 

 掛けられた声に条件反射で答えてしまった嶋田が後ろを振り向くと、そこには茶色のダッフルコートにミトンの手袋をした二十歳前後の女性が立っていた。

 

 碧く澄んだ瞳に目の上辺り、形の良い眉が隠れるくらいの位置で切り揃えられた前髪と、少し幼げな印象を受けるしとやかな風貌。

 

 腰の下まである癖のない真っ直ぐな長い髪の毛は金色で、その髪の一部を身体の前に流し、肩の辺りから白いリボンで束ね、あまった部分を髪を束ねて出来た房に螺旋を描くような感じで巻き付けていた。

 

「って、モニカさん」

 

「少し遅くなってしまいました」

 

 彼の待ち人モニカ・クルシェフスキー。人混みの中でも見間違えることはない美人さんに周囲の男が振り返っていた。

 

「アーニャ──交代の人なんですけど、その人が風邪を引いてしまいまして引き継ぎが遅れたんです」

 

「ああ別に良いよ、仕事が忙しいならそっちを優先するべきだし、待ち合わせなんてのは男が先に待っているのが普通だ」

 

 ちょっとかっこ付けてみるも真っ赤になった両頬と身体の震えは隠せない。一ケタ代の寒空の下でジッとしていたのだから無理もないが、それに目敏く気付いた彼女が手を伸ばしてきた。

 

「ん?」

 

 伸ばされた手の平は嶋田の両頬をキャッチするように添えられ、肌に感じるミトンの毛糸と、それが包む彼女の手の温もりが彼の冷たくなった頬を暖め癒しをもたらす。

 

「どうですか?」

 

「う、うん、温かいよ」

 

 頬に添えられたままの手に自分の手を重ねてみる。こんな公衆の面前で何をしているのだろうと思いつつ、この温もりを手放すのは余りにも惜しい。寒空の下で漸く見つけた温もりなのだから、ずっとこのままでも構わないんじゃないのか? 

 

 すると、此方の意図を汲んでくれたようで、モニカの方からも身体を寄せてきた。もちろんそれで終わりではなく、頬を暖めてくれていた手を離すと今度は身体ごと抱き着いてくる。

 

「こうすれば、もっと温かいと思うんです」

 

「そ、それはまあ、そうだろうね……」

 

 今度頬を暖めてくれるのはミトンに包まれた手の平ではなく彼女の柔らかい頬。左肩に顎を乗せて頬をくっつけ擦り寄せてくるのだ。

 

 背中に回された手にも多少の力が込められており、まるで放さないとでも言わんばかりの抱き着きようである。

 

(こ、これはちょっと恥ずかしいぞ)

 

 こうされたら自分も彼女を抱き締めてあげるのがマナーという物だが、生憎と周りには大勢の人が居て実行できそうもない。

 

 大体こんな事してるモニカの方も恥ずかしいに決まってるのだから、此処は早めに離れて貰うのが吉だろう。

 

 などと考えながらも気が付けば自分から彼女の背中に手を回していた。慣れというのは怖い。一つ屋根の下で暮らして、一緒に寝たり身体を寄せ合ったりを日常的にしているせいか習慣付いてしまったようだ。

 

 抱擁を交わせば体温の相乗効果で身体が温まる。冷たかった頬もモニカの頬の温もりで暖められてきた。

 

 もう少しこのままで居たかったのだが、いつまでもという訳にはいかない。

 

「あの、モニカさん……もう十分温まったよ?」

 

 しかし自分からは離れがたいのでモニカの方から離れて貰おうと伝えるも、彼女は離れずにくっついたまま。

 

 どうやらまだ離れたくないのは彼女も同じらしい。

 

「私の充電がまだです」

 

「嶋田さん分が足りません」と触れ合わせた頬を擦り付けてくる。さらさらの髪の毛が頬を擽りこそばゆい。

 

 今年に入ってからモニカはこうして一度くっついたら暫く離れずに頬を擦り寄せてくるようになった。これが彼女なりの親愛の情であると理解しているので大抵は好きにさせているのだが、時と場所くらいは選んで欲しいと思う。

 

 さっきから周囲の視線が気になって仕方がないのだ。「あれ見てよ、頬ずりしてる」「あの女スゲー」「なんであんな美人と中年おやじが抱きあってんだよクソがっ!」公衆の面前で抱き合ってるのだからこうなって当然。

 

 しかも、モニカが「嶋田さん分の充電」を言い出したときは、大体周りの声が耳に入っていないため終わるまで離れてくれないのである。その癖に後で恥ずかしがっているのだから立ちが悪いと言うか、かわいいというか。

 

「溜まったかい?」

 

「あと20%」

 

 手持ち無沙汰なのと恥ずかしいのを誤魔化す為、モニカの背中に流れる金糸の髪を撫でていた嶋田は(早く早く)と念じながらも彼女の温もりを満喫していた。

 

 しかし、注目された状態で長居しすぎると正体がばれて騒がれてしまう。自分は元よりモニカの事も知ってる人は知っているのだから。

 

「5・4・3・2・1…………。充電完了♪」

 

 嶋田がやきもきしていた処、カウントダウンを始めたモニカは最後に充電完了と耳元で囁いて頬を強く押し付けると、漸く離れてくれた。

 

 嶋田さん分というのが溜まったのだろう。

 

「もう、いいかな?」

 

「は、はい、その、嶋田さん分は……満タンになりました」

 

 今まで抱き着いて頬ずりしていた大胆さが嘘のように消え、途端に耳まで真っ赤にしてもじもじと恥ずかしがる。

 

 どうやら周囲のざわめきにも気付いたらしく「あぅぅ……」と情けない声を上げて俯いてしまった。

 

(こっちの方がモニカさんらしいな)

 

「俺も十分温まったよ、とにかく此処から離れようか」

 

 

 

 *

 

 

 

 そのあと手を繋いで歩きながらウィンドウショッピングを楽しみ、恋愛映画を見て食事をするというデートの定番コースを辿る。そんな二人が続いて入ったのはゲームセンター。

 

 嶋田はもちろんモニカもこういった場所を訪れる事はまず無いと言ってもいいだろう此処は、渋谷の一等地という立地条件の良さからか、大勢の客が入り賑わっていた。

 

「う~ん、俺はこういう所は苦手だなぁ~」

 

 友人のV.V.や富永辺りは偶に入ることもあるのだろうが、自分には向いていない。

 

 それでも入ったのは、外から見えたあるゲームを見たモニカが「一度やってみたい」と言い出したから。

 

「すみません、無理に付き合わせてしまって」

 

「いいよいいよ、俺も気を引かれたからね」

 

 彼らの前にあるのは見掛けが白い箱で、箱の中に入れるよう扉が一つ付いたゲーム機。ゲーム機に書いてある文字は『ランスロット』。ランスロットという名のアクションシューティングゲームだ。

 

「でも、こんなゲームがあったんだね」

 

 ランスロットというのはブリタニア帝国が開発した第七世代のKMFで、技術実証機としての先行試作機でもあった。

 

 それを元にしたゲームという事で興味を引かれたモニカがプレイしてみたくなったのである。

 

「一回三百円か」

 

 この手のゲームとしては標準料金なのだが、ゲームセンターに来ることがない嶋田から見ればやけに高く感じた。これは庶民代表状態なモニカも同じ。

 

 二人して超の付く大金持ちな癖に金銭感覚は完全に庶民な処もまた似た者同士である。

 

「一回で充分です」

 

 モニカは意気揚々と扉を開けて中に入り、シートに座ると三百円投入。

 

「パイロットスーツ無しで髪も下ろしたままコックピットに座るのは変な感じがします」

 

「まあゲームだから、それより説明書き読んでからやった方が良いよ」

 

「大丈夫です、私はプロなんですから」

 

 ウィンダムのような全天モニターではない標準的なKMFのモニターを模した画面に作戦内容が映し出される。

 

『都市部を占拠したテロリスト部隊を制圧せよ』

 

 同時にゲームが開始され、モニカ騎乗のランスロットが動かせるようになった。

 

「えっと、このレバーで前進と後進」

 

 左手前にある前後にだけ動かせるレバー。それを前に倒してみると画面の景色が前に進んだ。

 

 今度は手前にレバーを引く、すると景色が逆方向に流れる。

 

「照準はこのレバーで合わせる……」

 

 シートの右側にあるレバーには人差し指で引けるトリガーと、親指で操作する照準ボタンが付いていた。

 

「このレバーを左右に倒せば方向も変わると……本物とは違うんですね」

 

「ランスロットに乗ったことあるのかい?」

 

「ええ、第七世代の先行試作機でしたので、ラウンズは皆一度は試乗しています」

 

 だからある程度の操作方法は知っていたのだが。

 

「ここまで違うと初めて乗ったのと同じですね」

 

 自分が知るランスロットの計器類やレバーと配置が異なっている。それどころか本物の戦闘用KMFとは全くの別物。

 

 これではKMFという兵器に初めて騎乗したのと同じような物だ。

 

「本物と同じだったら大変だよ」

 

 尤も、本物と同じ作りだとすれば、このゲームメーカーはランスロットの構造を全て知っているという事になる。機密漏洩どころの騒ぎではない。

 

 制作会社への強制捜査はもちろん、このゲーム機自体世に出ることなく回収処分されていた筈だ。

 

「モニカさんっ、前見て前っっ!」

 

「へ!?」

 

 余所見をしていたモニカが画面を振り返ると、中華連邦や清、高麗などが保有しているガン・ルゥと類似したKMFがこちらに砲を向けていた。

 

「え……か、回避っ」

 

 たかがこの程度で混乱して操縦ミスするようなモニカではない。そんな反応をしているようではラウンズなど勤まらないのだから。

 

 但し、彼女が今乗っているのは本物ではなくゲームのKMFであり、事ゲームに関しては素人同然。

 

 彼女が普段騎乗する専用機のユーウェインやウィンダムと同じ感覚でとった回避行動。当然ゲーム用の機体が本物みたいに動く訳がなく、一瞬遅れて光ったモニターに『ランスロットは直撃を受けた! ダメージ70!』と表示されていた。

 

「く、この程度のダメージでっ!」

 

 体勢を立て直そうとレバーを動かすも、感覚の違いから上手く操作できない。

 

「敵は何処にっ!?」

 

 衝撃で機体が倒れている間にガン・ルゥ擬きは姿を消していた。

 

「全体マップをモニターに映すんだ!」

 

 的確な指示を出す嶋田、一応筐体の外にも説明書はあるのでその操作方法を読んでいたのだ。

 

「マップ!? マップってどうやったら出せるんですか!?」

 

 ただ、モニカは説明書を読んでいない。ラウンズである以前にKMF操縦のプロである為、説明されるまでもないと考えていたから。

 

 これは致命的だった。子供の頃からテレビゲームに触れたことがない彼女にはゲーム知識が無い。マップが出せるゲームなど幾らでもあるが、出し方も使い方も分からないのである。

 

「説明に書いてあっただろ!」

 

「読んでないんですっ!」

 

「なんで読まないのっ!」

 

 筐体の中と外で繰り広げられるみっともない遣り取り。

 

 それは直後に現れたガン・ルゥ擬きの砲撃で終わりを告げた。

 

 

 

『ゲームオーバー。この街はテロリストに支配されました』

 

 

 

 *

 

 

 

「ま、負けた……ラウンズの私がランスロットに騎乗してガン・ルゥ擬きに負けた……」

 

 ゲーム機から出てきたモニカはガン・ルゥ擬きに瞬殺された事実にショックを受けている様子。

 

(まあ気持ちは分からなくもないけど、“素人”のモニカさんが説明書読んでないのが悪いんだし)

 

 テレビゲーム、ビデオゲームに分類されるだろうこの体感ゲームマシン。である以上は如何にラウンズのモニカであっても熟練した小学生に劣る素人だ。

 

 それが説明書も読まないでぶっつけ本番なのだから弁解の余地はない。

 

「ま、本物とゲームは違うんだからそう気を落とさなくても」

 

「あぅぅ」

 

 碧い瞳を潤ませて泣きそうになっているモニカの頭をよしよしと撫でてあげる。

 

(最近モニカさんによしよしってやってばかりな気がするなあ……)

 

 しかし、このかわいい生き物には大変庇護欲をそそられてしまうので、ついつい頭を撫でてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~いかん! いかんなぁ~、いけませんよー?」

 

 そんな二人に声を掛けてきたのは。

 

「見ちゃあおられませんな~まったく!」

 

 七三分けの髪型にビジネススーツを着た、如何にもサラリーマン風の男。

 

 思わず注視する嶋田に男は人の良さそうな笑みを浮かべて言った。

 

「ここは一つ、私の出番ではないかと思われる訳ですが…………どうでしょうかねェ?」

 

 にこにこと笑う男に嶋田とモニカは一度顔を見合わせてから、再び向き直り尋ねる。

 

「「ど、どちら様ですか?」」

 

 男は二人の質問に──「白の騎士とでも呼んでもらいましょうかぁ」とランスロット体感ゲームの扉を開けた。

 

 

 

 



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楽隠居?と円卓の少女 第7話後編

269 :楽隠居?と円卓の少女 第7話後編:2013/04/14(日) 22:05:44

提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生
嶋田さん独身
嶋田さんロマンス
性格改変注意
激甘系等に属する甘い話なので注意
レイバーネタ

モニカの性格が変わりすぎております。
昔に書いたものなのでオリキャラ化しております


 

 

 

 

 楽隠居? と円卓の少女 第7話後編

 

 

 

 

 

 コックピットのモニターには迫り来る敵KMFの姿があった。見た感じ中華連邦や大清連邦、その属国である高麗共和国が使用する主力機ガン・ルゥと似ているそれは三騎でグループを組んでいる。

 

 迎え撃つのはただ一騎、純白の騎士ランスロット。

 

「それっ」

 

 パイロットの掛け声と共に振るわれる高周波振動剣。切り裂かれたガン・ルゥ擬きは一瞬の後に爆発撃破された。

 

 三対一という数的には不利な状況にも拘わらず、画面一杯に映るKMFが発砲した機銃弾やバズーカを巧みに躱しながら、コックピットに座るパイロットはにこにこ笑顔で一騎ずつ仕留めていく。

 

 まるで出てくる位置が分かっているかのように敵の進行方向を読み一撃で仕留める操縦技術は、並のデヴァイサーとは思えない領域にあった。それこそラウンズ級と称されてもおかしくはない程のレベルだ。

 

「すっげェ、また一騎撃墜したぞ!」

 

「おいおい冗談だろ、ここまでノーダメージかよ」

 

 戦場には似つかわしくない喧噪に包まれてもコックピットの男は気を取られず戦いに集中している。

 

 レーダー横にある戦場の地図には青い光点が一つと、複数の赤い光点が明滅していた。

 

「よっと」

 

 また一騎現れたKMFを見た男は操縦桿を倒して機銃の発射ボタンを押す。轟音と共に爆砕される敵KMF、同時に地図にある赤い点が一つ消えた。

 

 白の騎士が敵を討ち取るたびに消えていく赤い点。それはやがて最後の一つとなった。

 

「これで最後だ」

 

 男の操る白の騎士は、最後の一騎の為にと取って置いたヴァリスを構え、躊躇することなく引き金を引いた。しかし必殺の弾丸は敵機を討ち取ることなく掠めただけに留まる。

 

 危うく難を逃れた敵機は外装こそ損傷しているものの、直ぐさま体勢を立て直すとビルの影に隠れて逃げていった。

 

 意外に素早い動きで彼を翻弄する敵機は流石大将機といったところであろう、逃げながらもこちらに攻撃しつつ徐々に徐々に地図の枠内から『場外』へと移動しているではないか。

 

 このままでは遠からず舞台の上から消えてミッションコンプリートは不可能になってしまう。

 

「ああっ、逃げる逃げちゃうよっ」

 

「あと一騎で全クリなのに勿体ねェ!」

 

「頼むっ、このゲームのエンディングまだ見たこと無いんだ、エンディングを見せてくれっ」

 

 コックピットの外から聞こえる喧噪は更に大きなものとなった。まるで戦闘を高みの見物でもしながら楽しんでいるかのようだ。

 

 戦闘中の男に向けての催促の嵐は大きくなる一方で、やはり戦場からはほど遠い場所に彼らが居るという事実を指し示していた

 

「はいはいわかってますよ」

 

 外から聞こえる声に余裕の表情を浮かべて余所見までする男は『観客』の期待に応えようと特定のポイントまで自機を移動させると、物陰から現れた敵機目掛けてとどめの一撃を放つ。

 

「ラ~ストッ!」

 

 白の騎士より放たれたヴァリスの弾丸は今度こそ狙い違わず敵機に命中。一撃の下で粉砕した。

 

 余裕、鎧袖一触、様々な言葉で彩られるであろう圧倒的な成果を残した彼の表情が、いつも以上ににやけているのはおそらく気のせいではないだろう。

 

 その直後、戦場を映し出していたモニターが切り替わり『君の活躍によって街の平和は守られた』の文字がデカデカと表示され、夕日を背景にした自機ランスロットの姿が映しだされた。

 

 外側、第三者の視点からでしか有り得ないその場面だが、驚く者は一人としていない。それもその筈、この戦闘はランスロットの体感ゲームによるものなのだから。

 

「ええっと……。SHI・RA・KA・WAっと」

 

 男は慣れた様子でプレイヤーの名前を入力して席を立つ。全機撃墜のオールクリアを果たした以上最早このシートに座っている意味はない。

 

 結果は当然ながらのハイスコアだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「いや~どうも、どうもどうも、御声援ありがとう」

 

 コックピットハッチを模した扉を開けて出てきた男は、いつの間にか集まっていたギャラリーに手を振り得意満面に笑っていた。

 

 彼はこれが俺の実力だとでも言い出しそうなほど御機嫌ではあったが、そこは手を振るだけに留めている辺り調子に乗ってミスをするような人間ではないようだ。

 

「マジでノーミスどころかノーダメージで全面クリアしやがった」

 

「このおっさんスゲーっ」

 

 おそらくこのゲームをクリアした初めての例となるであろう彼のプレイに皆一様に驚いている。それほど難易度の高いゲームであり、たったいま彼が制覇するまでエンディングが流れたことはなかったのだ。

 

 先ほど挑戦してガン・ルゥ擬きに瞬殺されていた、正真正銘のナイトオブラウンズであるモニカもまたあんぐりと口を開けたまま立ち尽くしている。

 

 まあ一瞬でやられた自分の直ぐ後にここまで見事なプレイをされて、ノーミスノーダメージのオールクリアなんてかまされたのだから心穏やかでいられないのも無理はない。

 

「あのゲームをダメージ無しでクリアなんて」

 

 モニカは世界最強の騎士の一人であり一流のKMF乗りだ。

 

 その自分があっさり撃墜されて、どう見ても普通のサラリーマンにしか見えない男が敵からの攻撃を掠りもさせずにオールクリアしてしまった事実にショックを受けていた。

 

「あまり気にしない方がいいよ。所詮はゲームなんだから」

 

「でも……」

 

 嶋田の慰めにも、彼女の落ち込んだ気分は中々晴れそうにない。それもそうだ、ラウンズが素人に負けたのだから。嶋田から見ればただのゲームであったとしても彼女に取ってはそうではなかった。

 

 それが例えゲームであってもKMFをモデルとしている以上、素人に劣るなどあってはならない。彼女がこう考えてしまうのはナイトオブトゥエルブという立場から来る一種の強迫観念。そして一人の騎士であるモニカの強き想い故だ。

 

(もしこれがゲームでなく実戦であったなら、今頃自分は機体と共に爆死、そして守護する者がいなくなった彼もまた……)

 

 たかがゲーム相手に考えすぎではあったが、側にいる大切な者の存在がそれほどまでに大きいのである。

 

 命に代えても守りたい人を守れなかったら死んでも死にきれない。それは偽らざる彼女の想いでもあった。

 

「やあ、さっきはどーも」

 

 そんな気分が晴れないモニカの元へやってきた男は何事もなかったかのように話し掛けてきた。こういう時はどうするか? 普通に応対すればいいだけ。

 

 実際問題なにもないのだから友好的に話し掛けられればこちらも普通に応じるのが自然であり、最低限の礼儀というものだ。

 

「……」

 

 だがそれを理解していながらもモニカは言葉に詰まってしまう。仇敵に話し掛けられたような錯覚を覚えて返事が出来ないのだ。

 

 たったいま自分が瞬殺されたゲームを全面クリアするという圧倒的強者を前にして、変なライバル心でも芽生えてしまったのかも知れない。

 

 同時に、これが嶋田を狙う刺客だったらと考えて、要らぬ警戒心を持ってしまったのである。要はただ考えすぎだ。

 

 話し掛けられても返事が出来ないモニカを見て、気まずい空気になりそうな予感がした嶋田が彼女の代わりに返事をした。ナイスフォローである。

 

「いやぁ大したものですね。一撃も貰わずに全面クリアされるとは」

 

「あはは、照れますね~」

 

 嶋田から褒められた男はポリポリ頭を掻きながらの照れ笑い。モニカ一人がムスッとした仏頂面。

 

 それはあれか? 1面の最初の敵に瞬殺された自分に対する当て付けですか? 

 

 彼にはそんなつもりはないのだが、モニカとしてはそう聞こえた。

 

「なんでもあの体感ゲームは本物に乗る感覚を追求したものらしくて、本職のKMF乗り向けらしいんですよ」

 

 そのとき本物・本職を強調する男とモニカの視線が交差した。これもまた偶然目があっただけだというのに、彼女にだけはまるで挑発しているかのように聞こえてしまう。

 

 例え男にその気が無くとも本職中の本職である彼女には『プロなら乗れて当然』と嘲笑されているように感じてしまうのだ。男はそんなこと口にもしてなければ思いもしてないというのに……。

 

「嶋田さんちょっといいですか?」

 

「えっ、なに、どうしたんだい?」

 

 誰もが何も言っていないというのにこんな感じでネガティブなことばかり考えてしまう彼女には、男の「私は乗ったことありませんけどねKMF」の一言が決定打となってしまったのも頷けるというもの。

 

「私、あのゲームもう一度挑戦したいです」

 

 要するに素人なんかに負けたくない。負けたままでは終われないという子供染みた意地である。

 

「それはまあ、モニカさんがやりたいというなら付き合うけど……どうしたの急に」

 

「……嶋田さん」

 

「なに?」

 

「嶋田さんは私が守ります!」

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

 貴方は私が守る宣言をしてコックピット(ゲーム機)に入っていったモニカは、コイン投入口にお金を入れると、再度一からプレイを始めた。

 

 気合い十分な彼女の動きは先ほどよりかは幾分ましではあったが、とても男のようには操縦できていない。あれではせいぜい3面行けるかどうかといったところだ。

 

 ゲームの素人なのだからあれで充分上出来だとは思うが、彼女の様子からしてそれでは納得しないのだろう。

 

「やれやれ、まるで子供だな」

 

 そんなモニカの様子を見て聞こえないように小さく呟いた彼は、置いてけぼりとなった形で二人のやりとりを眺めていた男との話を再開させた。

 

「すみませんね、いつもはああじゃないんですが、なんか意地になってるようでして」

 

「いいんじゃありません? 下手に抱え込むよりストレス発散した方が余程健全というものですよ。ところで彼女本職さんですか?」

 

「ええまあ、実は彼女ブリタニアの騎士なんですよ」

 

「ありゃ~、でしたら失礼な事を言ってしまいましたね。いやはや申し訳ありません」

 

 本職のKMF乗りであるとは知らず、挑発するような真似をしてしまったことを詫びる男。本職の騎士にあんな言い方したんじゃ怒りますよねと苦笑いだ。

 

 誰にだってプライドというものはある、特にブリタニアの騎士はことKMF関連では人一倍高い傾向にあった。

 

 それを考えれば彼女が怒ったのは当然のことと言えるのではないだろうか? もっとも初対面の彼にそこを注意して発言してくれなどとは誰にも言うことなど出来ないのであるが。

 

「しかしブリタニアの騎士ということは、大使館か総領事館の警備の方ですか?」

 

「いえ、ああ見えて彼女上級管理職なんです」

 

「上級管理職!?」

 

 少々大袈裟に驚く男だったが、モニカの若さを考えればこれが普通の反応とも言えた。普通の感覚では二十歳前後の女性を見て高位の管理職に就いているとは考えたりしないだろう。

 

 ましたやその若さで在外公館の上級管理職に就いているというのは、それだけ想像しにくい事なのだ。

 

 調べれば直ぐに分かる事だが、もし彼女がブリタニア軍の頂点に立つナイトオブラウンズだと聞けば最初は疑いから入ること確実である。

 

 若くして管理職に、それも軍や騎士の頂点に上り詰めるのは世界広しと言えどブリタニアくらいなもの。

 

 良い意味でも、また逆に悪い意味でも徹底した実力主義社会であるブリタニアならではの特別な人事だ。

 

 特にモニカのような高位貴族の出身者は本人が望む望まないに拘わらず、その実力主義社会の真っ直中に放り込まれる運命にあった。

 

「家柄と実力ですか? 一般庶民の私なんかには、貴族は飲んで食って贅沢してるイメージしか沸いてきませんがねェ」

 

 嶋田に聞いた話がいまいち想像できないのか、男は首を捻って難しい顔をしている。

 

 確かに貴族と聞けば豪勢な料理をたらふく食べて、ドレスで着飾ったり乗馬をしたり舞踏会で踊ったりと優雅な生活を送る姿しか想像できない。大概の人はそう考え、羨んでいるだろう。

 

「まあそうでしょうね、実際良い物食べて良い服着て、豪邸に住んでいるのは確かですから」

 

 しかし、ブリタニアの皇族貴族に知り合いがいる者たちはみな口を揃えてこう言うのだ、いくら華やかでも自由を制限されるのはゴメンだと。

 

 なぜなら貴族は生まれながらにして裕福であり、支配者階級が約束される訳だが、そこには貴族としての義務と責任が付いてくるのだ。

 

「しかしそのぶん幼少期からの厳しい英才教育があるので一概に『いい』とは言えませんよ。彼女のご両親も相当厳しい方のようですし。

 

 自由も制限されて好きに遊ぶことも出来ない、あれはダメこれはダメを強制される。古い伝統を持つ厳格な貴族や、大貴族であればあるほど、親の敷いたレール以外の道や選択は最初から在りませんし、別の道を歩む自由も権利も無いんです。

 

 我々のように“普通”に慣れた人間には息苦しいだけの社会だと思いますよ。なにせ貴族の家に生まれた瞬間からほぼ一本道ですからね。そこへ向けての強制的な英才教育なんて考えただけでもゾッとしますよ。

 

 だからといってブリタニアの貴族社会で甘いゆとり教育なんかされたら大惨事です。そんなことをすれば、将来背負って立つ領地の経営が行き詰まって、領民家臣が路頭に迷うのは目に見えてますから」

 

 無論、馬鹿で実力もなく、己の贅沢しか考えて無いボンクラが領地経営、政治行政を担うことになれば、ブリタニア経済と密接に繋がっている日本経済にも大きな影響が出てくるので、日本としても他人事ではないのだ。

 

「それに、いざ有事ともなれば国民領民を守るために嫌でも矢面に立たなければなりませんしね。貴族なんてのはその実態を知らない人が考えるほど楽なものではないのですよ」

 

「なるほど、生まれつき自由が制限されて厳しい教育環境で育てられる、更に嫌でも大勢の領民の命を預かる立場に立たされるという訳ですか……。はは、普通の家に生まれて良かった」

 

 嶋田と男のブリタニア談義はモニカのゲームが終わるまで延々と続く、因みにモニカは3面の雑魚敵に撃墜されて終わりという散々な結果であった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「ハァァ、結局ダメでした……」

 

 男と別れ、ゲームセンターを後にした二人は都心から離れた海沿いの通りを歩いていた。

 

 特に何処かへ行こうという予定はない。これがまだ日の光が差す日中ならともかく、既に日は落ちているうえ寒さも増してきているのだからあとは適当に歩いて帰るだけだ。

 

「さっきも言ったけどあれはKMFといってもゲームだ。そんなに気にすることないじゃないか」

 

 モニカはゲームセンターを出てからこっち、ずっと落ち込んだままなのである。

 

「こんなことではダメなんです……負けがあっては……」

 

 ラウンズの戦場に敗北は無い。騎士の誇りとも揺るぎない決意とも言えるその言葉は嶋田もよく耳にする。しかし、いくら最強の騎士でも無敗などというのは有り得ない話だ。

 

 確かにモニカはブリタニア軍の頂点に立つナイトオブラウンズの末席に座しているもっとも無敗に近い存在。

 

 しかし、その最強であるラウンズの頂点に立つナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインでさえ、かつて皇妃マリアンヌとの真剣勝負の末に地に伏したことがあった。

 

 ビスマルクはモニカよりも強い。第1席の称号を持つ真なる皇帝の騎士というのがそれを示している。そんな彼でさえ負けたことがあるのだ。

 

 つまりはそれが答え。無敵無敗というものは幻想であり、現実には存在しないということ。

 

 それに今日負けたのはお金を入れて遊ぶだけのゲーム。にも拘わらずあまりに落ち込みすぎである。

 

「モニカさん、もうちょっと楽に考えられないかな? ラウンズがブリタニアの力の象徴であり、皇帝を守護する12の剣である以上敗北が許されないのは知ってる。でもね、あれはたかが遊びだし、シャルルさんの守護には関係ない。

 

 そりゃあシャルルさんの御前だったら気にするのもわかるけど、ここにはシャルルさんはいないしさ」

 

 もう何度目になるか分からない励ましの言葉。皇帝の御前や、ラウンズとして公式な場に立っているときならばともかく、プライベートの場で戦場も何もあったものではない。

 

 普段から公私をしっかりと分けて考える彼女にしてはたかがゲームの結果をいつまでも引き摺りすぎであった。普通に考えても至極まともな彼の言葉。

 

 しかし、彼は、致命的な見落としをしていることに気付いていなかった。

 

 モニカがシャルルの騎士であり、シャルルの御前で無様な醜態を晒すのは許されないことであるのは当然だ。

 

 皇帝の剣であり、時には皇帝に代わって軍の指揮や他国との会議に臨んだり、必要とあらば皇族にすら皇帝代理として何かを要請することができる強力な権限を持ったラウンズが無様な姿を見せるというのは、

 

 神聖ブリタニア帝国という国その物に泥を塗る行為と同義なのだから。

 

 ではなぜ彼女がシャルルの前でもなければ公式の場でもない、プライベートな場でこれほどまでに負けたことを気にして勝利に拘っているのか? 

 

 実のところ難しい話ではなかった。理由などたったひとつ、プライベートな場であれ彼女が騎士であることに変わりはないのだということだ。

 

 要するにもう一人いるわけである。無様な姿を見せることが許されない剣を捧げた相手が。

 

 それは公式でもなければ本人に対しても宣言していない、私人モニカ・クルシェフスキーが騎士として剣を捧げると誓った相手。言葉にするとしたら『貴方の前で敗北は許されない』といったところか。

 

「……」

 

 ラウンズとしてではない騎士モニカは、剣を捧げた相手を見る。彼女の決意も、想いも、何一つ察してくれない自分が守ると決めた人、嶋田繁太郎を。

 

 たった1年と少しの間しか共に時間を過ごしてはいないが、それでもこれだけ側にいてアプローチをしているのだからわかってほしかった。

 

 あなたの前で負けを喫するのは身を切るよりも辛いということを。あなたの前で負けることは決して許されないのだということを。

 

「バカ……」

 

「……へ?」

 

 モニカがじっと見つめる彼に対し、口を突いて出たのはそんな暴言であった。

 

「お、おいおい、バカはないだろバカは。俺は気にしすぎだからもう少し肩の力を抜けと言っただけだぞ」

 

 当然ながら嶋田は反論する。気にするなと励ましているのにどうして馬鹿と罵られなければならないのだと。

 

 無論彼の言うように、モニカとてこんなことを言うつもりはなかった。しかしずっと恋慕い、この人の為にと剣を捧げる自分の想いにいつまで経っても気付いてくれない彼に、理不尽な感情を爆発させてしまったのだ。

 

 口で伝えなければわからないほど鈍いのは嫌というほど経験してきた。だからこそ、この様に当たり散らすのは間違いである。彼女も子供ではないのでわかっていたが、どうにも止まらない。

 

「バカだからバカと言ったんですこのバカッ!」

 

「モ、モニカさ」

 

「なにも知らないくせにッッ!!」

 

 モニカは嶋田の反論に癇癪を起こして怒鳴り散らす。

 

 知らないくせにと罵声を浴びせながらも心の何処かで叫んでいる。言葉にしていないのだから知らなくて当たり前なのだと。

 

「あなたが大切だからッ! 何よりもあなたを守りたいから誰にも負けるわけにはいかないのにッ……どうしてッ、どうしてあなたはそれを分かってくれないのですかッッ!!」

 

 それでも、彼女の口は彼を罵ることを止めようとしない。嶋田のことを守りたいから、守ると誓っているからこそ、どのようなことに於いても負けるわけにはいかないと。

 

 ラウンズの戦場に敗北は無い、敗北は許されない、それとはまた別問題なのだ。

 

 嶋田繁太郎の前で、モニカ・クルシェフスキーに負けがあってはならない。それを彼は楽に考えられないかと言った。

 

 彼女に取っては決して許されないそのひと言。それは彼女の心の奥底にある大切な誓いを深く抉り、傷付けるようなひと言だったのである。

 

 溜め込んでいたもの全てを吐き出すかのように怒鳴り散らした彼女は、懐に入れていた箱を取り出し彼に思い切り投げつけ走り去ってしまった。

 

 

 

 *

 

 

 

 いきなり馬鹿と言ったかと思えば、癇癪を起こしたように怒鳴り散らし、走り去ってしまったモニカの背中を呆然と見送った嶋田は、訳が分からずその場で立ち尽くしていた。

 

「な、なんなんだいったい……」

 

 俺は何か気に障るようなことでも言ったのか? そう考えても彼女の中での問題であったが故に答えを導き出すことが出来ない。

 

 なにも知らない彼はモニカに投げつけられて地面に転がった箱を拾い上げる。赤い包装用紙に包まれた手の平サイズの箱を。

 

「俺宛、か?」

 

 その箱にはご丁寧にも『嶋田さんへ』などと書かれていた。察するに彼女が自分宛に用意してくれた何かなのだろう。

 

「開けても……いいのか?」

 

 何となく気になり開けてみたくなったが、勝手に開けても良い物かと悩んでしまう。

 

 一応自分宛の名前が書かれているので開けても問題無さそうではあったが、知らずに怒らせてしまったせいか気が引けるのだ。

 

 ここに彼女が居れば否応なく開けているところなのだが……。

 

「悪いことしたな」

 

 本当は手渡しでくれるはずだったのだろう。それが少しばかりの行き違いのせいでこんなことになってしまった。

 

 この後はもう何も予定がなかったので、本当なら彼女と二人仲良く歩いて談笑しながら帰宅の途に就いているはずだった。

 

 嶋田は少しの逡巡の後、意を決して箱を包む包装用紙を丁寧に剥がしていった。いつもなら適当に剥がすところだが、彼女が愛用している赤いリボンと同じ色の包装用紙なので乱暴に剥がしたくなかったのだ。

 

 包装用紙を剥がして現れたのは、何の変哲もない白い箱。徐にそれを開けてみる。すると中から出てきたのは、黒や茶色の歪な物体。数は大体10個ぐらいか。

 

「なんだこれは?」

 

 見掛けからはなにかわからないのでちょっと匂いを嗅いでみた。ほんのり甘い匂いがする。

 

 この色でこんな包装用紙に包まれて、甘い匂いのするなにかと言えば、大体思い当たるのは一つしかない。

 

「ひょっとして──チョコレートか?」

 

 そう、カカオから作られる甘いお菓子の代表──チョコレートだ。よくよく考えてみれば、今日は2月14日、俗に言うバレンタインデーであった。

 

 思い出されるのは数日前、家の台所で籠城したモニカが悪戦苦闘しながらなにかを作っていた姿。

 

「これを作っていたのか……」

 

 モニカは貧乏貴族でも一代限りの騎士侯でもない、大貴族クルシェフスキー侯爵家の跡取り娘だ。

 

 身の回りのことや料理などは全てクルシェフスキー家の奉公人や、世話係のメイドがやっていた筈である。つまり貴族のお嬢様宜しくまともな料理など何一つとしてできない。

 

 一緒に暮らしてわかっていたことだが、普通の家庭では当たり前にしている家事全般が恐ろしく不得手なのだ。

 

 特に料理は強烈で、以前彼の誕生日に作ってくれた料理は口にするのも憚られる物体Xと化していた。せっかく作ってくれたからと根性で食べたが高熱を出して三日三晩寝込んでしまったほどである。

 

 唯一まともに作れるのはインスタントの袋麺だけという有様。士官学校にも通っていたはずだから戦場料理みたいなものなら作れそうではあったが、凡そまともな料理とはほど遠いものが出来上がることだろう。

 

 そんな彼女が必死に作ってくれたであろうチョコレート。おそらく深い意味はない、義理とかお世話になってるお礼とかそんなところだと思う。

 

 彼はそう考えながらも、彼女の自分に対する接し方がどんどん変化している、率直に言えば密接になってきていることを肌で感じていた。そして自分の方にもなにかもやもやした物が生まれていることも……。

 

 自分の考えを慌てて消し去った彼は、改めて手の中にあるチョコレートに目を移す。

 

 なるほど、彼女の料理下手を表しているかのようにチョコレートは歪な形であった。ハート型に作ろうとして失敗したのだろう、その名残を感じさせる形をしていた。

 

「食う、か」

 

 少し怖いが見た目が悪いくらいで食えなくはなさそうだ。なにより自分のために作ってくれたものを食べない訳にはいかなかった。少々怖くはあったが嶋田は意を決して口の中に放り込む。

 

「か、硬い」

 

 チョコレートもどきは硬かった。奥歯で噛んだのだが“ガリっ”という音が響いて、石でも噛んだかのような錯覚を覚えた。

 

 とにかく硬い、歯が弱い老人であったなら折れてしまいそうな程に。

 

 とてもチョコレートの範囲に収まる硬さではないがそれでも噛み砕いて味わう。瞬間、口の中に広がったのはチョコとは思えない苦さと辛さ。

 

「うえッ、まっず~~~ッ! どうやったらこんなもの作れるんだッッ!!」

 

 甘いお菓子を作ろうとして正反対の物が完成するなど、彼の知り合いではモニカくらいしかいないだろう。

 

 よくもまあこんな物が作れるなと思う。作ろうとして作れる物ではないこのチョコレートを作った彼女は、ある意味料理の天才ではなかろうか? 

 

「不味い、なんて不味さだ」

 

 どうやったらこんなものを作れるのかというほどの不味さ。これと比較したら腐りかけの食べ物の方がまだましであるというくらいに有り得ない味。

 

 歪な形でへったくそ。苦くて辛い激烈な味。不味い物コンテストでも開けば上位入賞を果たすこと確実なモニカの手作りチョコを、嶋田は不味い不味いと言いながらも平らげていく。

 

 不味い物を食べている癖に実に美味しそうに、満たされた表情を浮かべて食べているのだ。

 

 人生で一番不味い物を食べている。自信を持って言えるその感想。だが、同時に思うのだ──―

 

 

 

 

 

 “うまい”

 

 

 

 

 

 

 

 吐き気を催すほどの不味さだというのに美味しいとも思えるのである。

 

 それだけ心のこもったチョコであるという証しだ。モニカの想いが詰まったチョコレート。それがただ不味いだけで終わりのはずがなかったのだ。

 

 いままで彼が食してきたどんな高級チョコよりも、たったいま食べたゲロまずのチョコの方が何百倍も美味しい。

 

 もしこれと、世界的に有名なパティシエが作ったチョコのどちらが美味しいかと問われれば、彼は間違いなくこう答えるだろう──『モニカさんのチョコより美味いチョコはない』と。

 

 それほどまでに不味く、そして美味しかった。

 

「こんな、こんな美味しい、素晴らしいプレゼントを貰ったのに、怒らせてしまったな……」

 

 こうなると罪悪感が一層強くなる。相変わらずどうして彼女が怒ってしまったのかわからない嶋田ではあったが、自分が発した何気ないひと言に怒っているのは理解していた。

 

 であるならば、ここでぼーっとしている訳にはいかないだろう。

 

「早く家に帰ろう」

 

 おそらくモニカは家に帰っているはず。彼女が帰る場所は嶋田の家しかないのだから。

 

 早く帰って謝ろう。思い当たる節は無くとも怒る原因は自分にある。ならば自分から謝った方が良い。その上で何について怒ったのかを聞きだそう。

 

 吹き荒ぶ冬の風にその身を晒しながらも、家族と呼べる大切な女性がくれた温かい贈り物に、初春の空気を感じた彼は、彼女が走り去ったのと同じ方角へ歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「どうしよう」

 

 嶋田を置き去りにして逃げるように帰ってきたモニカは寝室に飛び込むと布団を引きずり出し、ひっかぶって隠れてしまった。

 

 布団をひっかぶってダンゴ虫のように丸まり蹲る彼女の姿は、まるで叱られた子供のようである。

 

「あんなことを言うつもりは……なかったのに……」

 

 後悔先に立たず。自分の気持ちをわかってくれない、気付いてくれないというのは今に始まった事じゃない。自分が彼に恋をしたあの時から今の今までずっとではないか。

 

 それなのに思うようにならないからと癇癪を起こして暴言を吐いてしまった。

 

 それだけではない。彼女は彼の騎士を自称しておきながら、よりにもよって自分の都合で目の前が見えなくなり、彼を置き去りにしてしまったのだ。

 

(こんなッ、こんなことではッ、あの人の騎士を名乗る資格なんて無い……ッ!)

 

 ラウンズだとか以前の問題である、守るべき人を置き去りにするなど、騎士失格。

 

 それを理解していながらも、未だ聞き分けのない子供のように布団をひっかぶったまま蹲っている。

 

 そもそも自分が騎士としての誓いを立てているのを彼は知らない。直接彼に誓いを立てる宣言をしたわけではないのだから。

 

 飽くまでも自身の中で立てた誓いでしかなく、それを何も知らない彼に分かれという方が無茶苦茶なのだ。

 

 楽に考えられないかと言われてついカッとなってしまったが、自分のしていることは独りよがりで最低なこと。

 

(私、なにをしてるんだろう……)

 

 モニカは自分でも何をしているのかよくわからなかった。今日はバレンタインデーで、彼と楽しいデートをしたかっただけなのに。

 

 ランスロットゲームをやりたいと言いだしたのは自分。説明も読まずにプレイして瞬殺されたのも自分。知り合ったサラリーマン風の男に挑発されたと思い込んで張り合ったのも自分。

 

 そして、勝手に怒って彼を置き去りにして逃げてきたのも自分だ。全部自分が悪い。こんなことになったのはただの自業自得ではないか。

 

 きっと呆れている。嫌われた。めんどくさくて鬱陶しい女だと思われた。

 

(バカみたい……)

 

 彼を馬鹿と罵ったが、馬鹿なのは自分だった。そんな自分が心底嫌になってしまう。

 

 モニカの目から涙が滲み溢れ出す。もう何も考えられない、考えたくない彼女は現実逃避するかの如く唯ひたすらに布団の中で蹲っていた。

 

 そして、どれくらい時間が経った頃だろうか。ふいに誰かの足音が聞こえた。この家には何人かの家政婦さんと庭師、それと入り口には警備員が立っていたが、彼らは皆二人の寝室には入ってこない。

 

 だから必然的にこの足音はその人達以外の誰かということになる。誰か? というのは、足の運びと感覚で直ぐにわかった。いまもっとも顔を合わせたくない人、嶋田である。

 

 嶋田の足音は徐々に寝室へと近付いてきて、閉め切っていた襖を開け、部屋の中に入ってくる。彼女は被ったままの布団を思い切り掴んで力の限り身体を丸めて彼と顔を合わせないような体勢をとった。

 

 癇癪を起こして怒鳴り散らしたことを謝らなければならないというのに、なんて馬鹿なことをしているのかと思ったが出たくないのだ。

 

「ただいま」

 

「……」

 

 布団の外から聞こえる帰宅時の挨拶。だがモニカは返事をしない。

 

 なんか話し辛いのである。自分が誘っておいて勝手に怒って放りだして……合わせる顔がなかった。

 

 だが、彼女の態度を気にもしていない彼はある感想を言葉にする。

 

「チョコ、美味しかったよ」

 

「……ッ!」

 

 その言葉が意味するのは、今日という日の最大の目的が達成されたということ。

 

 自分が怒って投げ付けたあのチョコレートを彼は食べてくれていたのだ。それはとても嬉しくて、思わず布団から出そうになったが堪える。

 

 いま布団から出たところでいつものように喋る自信が無いから。そんな彼女に気を悪くした様子もなく、彼の言葉は続く。

 

「今まで食べてきたどのチョコよりも……最高に美味しかった。君のチョコに比べれば、高級ブランドのチョコなんて何の価値もないな、こう言っちゃあ悪いけど多分不味い。それくらい君のチョコは美味しすぎたよ」

 

 絶賛、正にそのひと言に尽きる、作った方としては嬉しい以外の何物でもない最高の感想。

 

「ありがとう」

 

 だが、それが口から出任せのお世辞であることはわかっている。食べて貰えたことは嬉しいが、自分のチョコレートは絶賛されるほど美味しくなんかない。

 

 だってそうだろう? 生まれてこの方まともな料理などしたことがない自分が、そんなに美味しいものを作れるわけがないのだから。

 

 自分の料理の腕ではブランドチョコに太刀打ちなんか出来ないし、十円の駄菓子チョコにすら勝てない。

 

 自身の力量が分からないほど料理音痴ではないつもりだ、いや、ある意味この一点に限ってだけ言えば、身の程を弁えている分ましなのかも。

 

 少なくとも誰かと張り合ったりして無様な姿を見られないで済むのだから。

 

「嘘……」

 

 だからモニカは言ってしまった。それは嘘だと。

 

 喋らないように努力していたのにあっさりと破ってしまったのである。

 

「嘘じゃない」

 

 彼に否定されても頑ななまでに認めない彼女。

 

「嘘です……私の料理は壊滅的です。そんなの、わかってますから……」

 

 どうして分かりきった嘘をつくのか? 不味いなら不味いとはっきり言って欲しい。食べてくれただけで充分なのに、お世辞なんか言われたら余計惨めになってしまうではないか。

 

 彼女にはそれ以上を求めるつもりなど最初から無かったのだ。

 

「まあ壊滅的だな、君の料理は。だから家の朝昼晩の料理は全て俺や家政婦さんが作ってるわけだしね」

 

 すると、合わせてくれたのか? それとも取り繕う必要が無くなったのか? 自分で言ったことをあっさりと肯定されてしまった。

 

 今度は胸が痛む、これでは美味しいと言って欲しいのか不味いと言って欲しいのか分からないではないか。

 

 矛盾しまくりな彼女の耳は、それでも彼の言葉を一言一句聞き逃さないでいた。

 

「でも、俺はモニカさんが作ってくれた物ならなんでも食べるよ。それは不味いとは思うけど、君が作ってくれただけで美味しいんだよ」

 

 だが、やはり彼は最終的には美味しいと言ってくれる。不味いと肯定しても美味しいというのを否定しない。

 

 不味くても美味しい、それがモニカの作った物ならば。はずかしげもなくそんな事を言う嶋田に、モニカは「訳が分かりません」とだけ返事をした。

 

 訳が分からないのは自分も同じなのだが。

 

「それと、済まなかった」

 

 続いて嶋田の口から飛び出したのは謝罪の言葉。

 

「正直言うと、今もまだ何が原因で君を怒らせてしまったのか、わからないんだ。だけど、俺が気に障るようなことを言ったのはわかってるつもりだ」

 

 だから謝らせてくれと言う彼に、モニカはとうとう布団から顔を出した。

 

「嶋田さん……」

 

「俺の配慮のなさが、君を傷付けてしまった。本当に、申し訳ない」

 

 彼は深く頭を下げていた。下げる必要も謝ることもないというのに、深々と頭を下げて謝罪しているのだ。

 

 いったい、自分は彼に何をさせている? 頭を下げるべきは彼ではなく、自分の方だというのに。守るべき人を放りだし、剰え必要のない謝罪までさせてしまっている。

 

「やめて……ください……」

 

 もう、限界だった──これ以上、この人の優しさに甘えてはいけない。これより先は、自分で自分を許せなくなる。

 

 モニカは布団から出ると彼の前で正座し頭を下げた。

 

「嶋田さんは何も悪くない、私が……私が自分勝手なだけなんですっ!」

 

「モニカさん……」

 

 彼が行う必要のない謝罪を止めたモニカは、勇気を振り絞って告白する。

 

「私は嶋田さんを守りたいっ!」

 

 愛の告白とかそういうものではなく、己が立てた騎士としての誓いを彼に伝えるために。

 

「俺を、守る?」

 

「はい、私はシャルル皇帝陛下の騎士、ナイトオブトゥエルブです」

 

 今更なことではあったが言いたいのがそれではないと察した彼は次の言葉を待っている。

 

 ここで言わなければダメ、もし言えなければ、次に勇気を出せる機会がいつになるか分からないのだから。

 

「ですが、私は嶋田さんの騎士でもある……いえ、嶋田繁太郎さま──」

 

 そう決意した彼女は、自分の中だけで留めていた言葉を、もう一人の主と仰ぐ彼の前で明らかにした。

 

「私は、私個人として、あなたの騎士であるとの誓いを立て──」

 

 

 

 “ここに剣を捧げます”

 

 

 

 ブリタニア皇帝専任騎士の一人、ナイトオブトゥエルブではなく、嶋田を守護する一騎士となる。

 

 本来ならばこれは背信行為と取られてもおかしくはない行為であり宣言であった。

 

 何故ならば、ナイトオブラウンズというのはその実力と、ブリタニア皇帝への忠誠心を問われる存在であり、そこに二心があってはならないのだから。

 

 つまりモニカが忠誠を誓うはシャルル一人であり、誰の騎士かと問われれば、シャルルの騎士と答えなければならないのである。

 

 にも拘わらず、彼女はシャルルの騎士であると同時に、嶋田の騎士でもあると言った。

 

 無論あのシャルルのこと、これくらいでどうこう言うような器の小さな人間ではないが、騎士がこの手の宣言をするのは普通個々人の矜持に於いて出来ないもの。

 

 それを宣言するというのは並大抵のことではない。

 

 そんな誓いを自分の中に隠し持っていたとすれば成程、彼女が癇癪を起こしたのも頷ける。

 

(そうか、それであんなに怒ったのか……)

 

 嶋田の騎士モニカが、嶋田の御前で無様な姿をさらすのは、楽に考えていいとは言えないことになるからだ。

 

「君はまた、とんでもないことを言い出すなあ……」

 

 そう、これはとんでもないこと。絶対にあってはならないイレギュラー的サプライズ。

 

「わかっているんだろう? いま口にしたのが、どれだけ大変な事なのかを」

 

「わかっています。ラウンズである私が陛下以外の方に騎士の誓いを立てるのは、許されざる事であるのは」

 

「それがわかっていてなぜ、俺の騎士だなんて言うんだ……。言っちゃ悪いが、俺は君に忠誠を誓われるようなことは何一つした覚えはない。勘違い、見当外れもいいところだぞ?」

 

 もちろん、嶋田にはモニカに剣を捧げられるようなことをした覚えはない。

 

 ただ自宅を下宿先として提供しているだけだし、シャルルとは親友と呼べるほどの友人関係ではあるが、逆に言えばそれだけだ。

 

「いいえ、あなたは私にもう一つの生き方を、もう一つの人生を与えてくださいました」

 

「もう一つの人生?」

 

「はい……クルシェフスキーの家に生まれた私は、幼少期より温かい家庭という物を、普通という物を何一つ知らない環境で育ちました」

 

 だが、嶋田には無くともモニカにはあった。

 

 彼女の人生観や、生き方その物を変えてしまうような体験が、彼と過ごした僅かな時間の中に溢れんばかりに存在していたのだ。

 

「クルシェフスキーという冷たいレールを無理矢理歩かせる父と母、教育係や家臣に至るまでが『強く在れ』『甘えるな』『侯爵家次期当主がそれでどうする』と言い、私を私として見てくれなかった……」

 

 物心付いてからは優しかった両親も、家臣達も、皆別人のように変わってしまった。

 

 そして始まったのは、クルシェフスキーを背負うための英才教育という名の地獄。

 

『この程度のことが出来ないのかッ! それでもお前は私の娘かッ!』

 

『モニカ様は大勢の領民の命を預かる身となられるのですぞッ!』

 

 十歳にも満たない彼女には耐え難い苦痛の毎日であった。

 

 時々屋敷を抜け出して訪れた領内の大都市ポートランド。家族連れの平民の子供達は皆優しい両親と手を繋いで買い物をしたり、遊園地に遊びに行ったりと楽しそうにしている。

 

 なのに、どうして自分だけが叱られ罵られるの? そんなにクルシェフスキーが大事なら、貴族をやりたい人にやらせればいいのに、どうして私じゃないとダメなの? 

 

 街を見て感じた事を家臣や両親に伝えたこともあった。すると決まって長時間の説教をされ、食事を抜きにされる。

 

 そんな余計な事を考えたり出来るなら勉強の量を倍に増やしても問題は無いと、深夜になっても休ませて貰えないなど当たり前のようにあった。

 

 後々、騎士を目指して士官学校に入ったのは、いま思えばある種の逃避行動だったのかも知れない。

 

「気が付けば私は仮面を被るようになっていました。仮面を被り、自分を殺し、求めに応じてそれをこなす……そんな人間に……」

 

 無論、成長してからはあの厳しい教育も自分に対する愛情の一つであったのだと理解していたし、クルシェフスキーという大貴族の家に生まれた以上、あの厳しい教育と鍛錬の数々は、自身の責務であり義務であったのだと納得していた。

 

 いつの日か、父から受け継がなければならない侯爵家の経営を行うのに必要な、学びの期間。

 

 両親がモニカを甘やかせて育てたりすれば、将来数多の人の生活を破壊してしまう事になる。それを阻止するためには、厳しく接して行かなければならなかったのである。

 

 だが、モニカはその代償として、何を考えているのか分からないと言われるほど無表情になってしまう仮面を外せなくなってしまった。

 

 呪いのようになって顔に張り付く無表情な仮面。家族を愛する温かい人物であるシャルル皇帝陛下の騎士、ナイトオブラウンズの末席に就いても、その仮面は消えなかったのだ。

 

「それを、あなたは叩き割ってくださいました」

 

 その呪いの仮面を木っ端微塵に叩き割って、ただのモニカで居ればいいと言ってくれたのが、嶋田繁太郎という人だった。

 

 貴族だ騎士だと堅苦しく考えないで、ありのままの自分で居なさい。強くなくていい。弱くていい。ただ、君は君らしくあれ。

 

 それがどれほどの救いとなったのか、きっと彼には分からないだろう。

 

 それから先の彼との生活は“普通”に満ちた物であった。

 

 ラーメンを食べた、遊園地に行った、映画を見たりお花見をしたり海水浴に行ったりクリスマスを楽しんだり、彼と自分、互いの誕生日を祝ったりと、ずっと憧れていた普通の時を過ごすことが出来たのだ。

 

「だから今度は私の番。私に普通の時を与えてくれたあなたを私が守る……そう、誓ったのです」

 

「……」

 

「お願いします、どうか私があなたに剣を捧げることを、お許しください」

 

 独白を終えたモニカは、そこで片膝を立てもう一方の膝を突き頭を垂れるという、臣下の礼をとった。

 

 中世の世から現代へ脈々と受け継がれているブリタニアの伝統的な場面が嶋田家の寝室で再現されたのだ。

 

「……」

 

 沈黙の時が過ぎる。これは重大なことであった。唯でさえ侯爵家の令嬢であるモニカが、同盟国とはいえ他国の人間に騎士の誓いを立て臣下の礼をとっているのだから。

 

 それも、彼女はナイトオブトゥエルブの称号を持つ騎士の中の騎士。それが皇帝以外の人間の騎士になろうという、正に前代未聞のことであった。

 

「……はぁ」

 

 小さな溜息を付いたのは嶋田である。自分の前で膝を突く同居人がどういう人間であるかを考えれば溜息も付きたくなるという物だ。

 

「モニカさん……。いや……モニカ・クルシェフスキー」

 

 そんな彼が紡ぎ出した言葉は。

 

「汝、ここに騎士の誓約を立て」

 

 かつて現役時代に幾度も耳にしたブリタニアに於いての騎士叙任式での言葉。

 

「我、嶋田繁太郎の騎士として闘うことを願うか?」

 

 うろ覚えではあったが不思議と間違うことなく言えている。

 

 自分で何を言っているのか理解しながらも嶋田は言葉を止めたりはしなかった。

 

 こうでもしなければ彼女が納得しないというのもあるし、彼女の思いの強さを知った以上無碍には出来ないと思ったからだ。

 

「Yes, My Lord」

 

 モニカは一瞬身体を震わせると、定められた儀式の言葉を返す。

 

「汝、我欲を捨て、大いなる正義のために剣となり、盾となることを望むか?」

 

「Yes, My Lord」

 

 モニカは本来ならばここで捧げるべき剣を嶋田の手に渡さなければならないのだが、生憎と彼女の剣は職場である公館に置いている為できない。

 

 代わりに嶋田は彼女の右肩、続いて左肩に剣に見立てた自身の手をかざす。

 

「我、嶋田繁太郎は、汝、モニカ・クルシェフスキーを我が騎士として認める……ふぅ、これで満足かな?」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 “イエス……っ、マイ……ロードっっ”

 

 

 

 

 

 満面の笑みを浮かべた彼女は悦びの余り立ち上がると、自身の剣を受け取ってくれた嶋田に抱き着いた。

 

「おおっと!」

 

 受け止めてくれた彼の胸で涙を流すモニカ。

 

「うっ……、ひっくっ」

 

「こらこら泣くんじゃない」

 

「だ、だっで、うれしっ」

 

 彼の胸に押し付けられた彼女の顔は涙と鼻水でぐしょぐしょだ。

 

「まったく、なんて泣き虫な騎士なんだ……」

 

「ひっぐ、ひっぐ」

 

 感極まって泣き出してしまった彼女の嗚咽は止まりそうもない。

 

「あとな、一応言っておくけど俺とモニカさんは主従関係じゃないぞ。君の誓いを受け入れただけであって俺と君の関係は、あくまでも今までと変わらない」

 

「わ、わがっでま゛ずっ」

 

 ずずーっと鼻水をすすりながら返事をするモニカ。可愛い顔が台無しである。

 

 序でに彼女が顔を埋めていた嶋田の服の胸元には、彼女の鼻水がベットリくっついていた。

 

(きったないなぁ~)

 

 なんともまあ頼りない最強の騎士だとモニカを抱き締めてあげた嶋田は、なんどとなく彼女の頭と髪の毛を撫でて落ち着かせると布団を敷き直し、いつものように二人仲良く眠りに就くのであった……。

 

 

 

 



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楽隠居?と円卓の少女 第8話

287 :楽隠居?と円卓の少女 第8話:2013/04/14(日) 22:21:35


 

 

 楽隠居? と円卓の少女 第8話

 

 

 

 

 

 怪しい男たち

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰った僕は白河でございまーすッ!!」

 

 あるホテルの一室にて軽い感じの男の声が響き渡る。眼鏡を掛けた七三分けの、如何にも私サラリーマンですという感じの四十代に見える男だ。

 

 彼の眼鏡の向こうには備え付けのソファに身体を沈めて休む、赤いメッシュの入ったボサボサ頭の若い男が映っていた。

 

 サラリーマンみたいな男、白河は純日本人という風体だが、赤メッシュの男は見るからにヨーロッパやブリタニア系の白人。

 

 部屋の中だというのにサングラスを掛けたその男は、一見して細身に見えるが、無駄な肉のない引き締まった身体から察するに軍人や騎士、戦士といったところであろう。

 

「ずいぶん遅いお帰りだな。どこへいっていた?」

 

 その赤メッシュの男はノックもせずに入って来た軽い男、白河を振り返らず、窓の外に広がる大都会の夜景を眺めながら興味なさげに聞いていた。

 

 別に何処へいっていたとしても正直な話どうでもいいのだ。白河をよく知る彼としては彼の自由な行動はもう今更な話なので一々注意する気にもならないのである。

 

「いや~ッ、ちょっとゲーセンにね」

 

 あっけらかんと答える白河。ゲームセンターに行っていたのは事実であるから嘘は言ってない。それにしても見掛け通りの軽い男だ。

 

「相変わらず暢気な奴だ」

 

「いつでも心に余裕をってね。そういえばそのゲーセンですごいのに会ったよ」

 

「すごいのだと?」

 

「一見平凡かつ人の良さそうなおじさんで大物オーラを感じさせなかったけど、確かにあれはこの国の元総理大臣、嶋田繁太郎閣下だったな」

 

 どうだすごいだろ? 自慢気に語る白河。

 

 確かに昼間彼が会ったのは嶋田繁太郎で間違いなかったが、聞かされた赤メッシュの男としては「わかってたなら接触するな」と言いたいところである。

 

 そんな大物と接触して何かトラブルでも起これば後々面倒なことになるだけで何のメリットもないのだから。

 

「そうそう、その嶋田さん、誰か知らないけど金髪美女と一緒にいたなあ」

 

「金髪美女?」

 

「モニカさんとかいう名前だったよ。ひょっとして愛人だったりしてね」

 

 あっはっはと笑う白河であったが赤メッシュの男にはその金髪美女とやらに心当たりがあったので、笑い事では済まされない。

 

「モニカ、だと?」

 

 日本とブリタニアの関係、そして日本の事情をある程度知っている者なら、嶋田繁太郎元総理の近くにいる金髪美女で“モニカ”と言えば一人しか思い浮かばないのが常識。

 

 にも拘わらず本気で知らない様子の白河に、赤メッシュの男は呆れて物も言えなかった。

 

「それは“嶋田の騎士”と呼ばれている女だ。有名だぞ」

 

「騎士? 日本には騎士の制度なんて無いはずだけど」

 

「通称に決まっているだろう。正確にはブリタニア皇帝シャルルの専任騎士ナイトオブラウンズ第12席の称号を持つ、駐在武官のモニカ・クルシェフスキーだ。本当に知らなかったのか?」

 

 もし知らなかったとすれば日本出身を疑うぞと念を押す彼に、白河は態とらしく手を打った。

 

「ああ~ナイトオブトゥエルブね、それなら知ってるよ。嶋田元総理最強のSPとか言われてる人だろう? ぼかぁ、てっきり筋肉ムキムキのアマゾネスみたいな女性だと思ってたよ。

 

 いやぁ、あ~んな可愛らしいお嬢さんだとは思わなかった、まいったまいった!」

 

「ふん、綺麗な外面に騙されるなよ。あれでも最強の一角だ」

 

「おや? 君はモニカさんのことずいぶんと嫌ってるみたいだね」

 

 知らずに嫌悪するような口調になっていた彼に目敏く気付いた白河。

 

「ひょっとして彼女と知り合いだったり?」

 

「何を期待しているかは知らんが面識はない。あれの父親は知っているがな」

 

「へェ~、色々聞いてみたいとこだけどまあいいや。で、ファング、君の方はどうだった?」

 

 ファングと呼ばれた赤メッシュの男は苦虫を噛み潰したような表情のまま、手にしたファイルを投げ渡す。

 

「見ての通りだ。先方と話はついたし、物もキ印博士自らが持って行った」

 

「あちゃあ、あのイカレポンチが直々にか~」

 

 ファイルには“ガイスト”という名前と、ブリタニアの第五世代KMFサザーランドによく似たKMFの写真が記載されている。

 

 見た感じ細部が違うサザーランドのコピーである清国製のジェンシーに見えなくもないが、確かに“ガイスト”と書かれていた。

 

「なんでも『ワシの頭脳がどれだけ素晴らしいか見せつけてやるんじゃ』だそうだ。大方実績作りでもして国内の足場固め、序でに空席のプリースト(神官)の座でも狙っているのだろう」

 

「それにしたってじいさん自ら行く必要はないだろ?」

 

「ガイストの実験とは別に、つい先日開発したばかりの新型機の性能テストも兼ねてるようだな。自分で操縦して確かめないと気が済まんらしい。あのジジイ、シベリアで起こるだろう戦争を実験場か何かと勘違いしているのではないか?」

 

「ああ、アレかあ。アレは正直趣味悪いと思うけど」

 

「そんなことを俺に言われても知らん。まったく“総裁”も何を考えてあんなキ印を抱え込んだんだ」

 

「政治的な力じゃないかな、それと腐っても天才だからねあのじいさんは。こっちのニーズには応えてくれる」

 

 じいさんの話はしているだけでも反吐が出そうだとファングは嫌悪感を隠さず、端正な表情をゆがめていた。

 

「だが、なぜ高麗なんだ? もうすぐ戦争を起こしそうなのは高麗ではなく清だろう?」

 

 ファングはガイストのファイルに書かれた『納入先高麗』の欄に理解できんと言い、キ印独自の判断ではないかと疑いを持っていた。

 

「一応聞いてるけど、なんでも高麗にはラウンズ級と見られる腕を持ったKMFのパイロットが居るらしいよ?」

 

「ラウンズ級のデヴァイサーだと?」

 

 心当たりのない彼の頭にふと過ぎったのは、少し前にある雑誌を賑わしていた記事の内容。

 

 ただその雑誌はデマ記事で有名な信用のない週刊誌なので、一顧だにする価値は無いと思われる。

 

「まさかそれは、減退とかいう週刊誌の記事に出てきた奴じゃないだろうな?」

 

「ああ、あの嘘つき週刊誌か。いや、あれじゃないよ。あの週刊誌に紹介されてた男も対象者ではあるらしいけど、ラウンズ級なんてとても言えやしない」

 

「だろうな、あんな馬鹿がラウンズ級なら、世の中世界最強だらけになる」

 

 では誰かとなる訳だが、ファイルには首都防衛隊少佐の名前しか記載されていない。

 

 つまりこの一少佐とやらがガイストのデヴァイサーに相応しいらしいが。

 

「ほう、真面目一徹で部下の信頼も厚く、高麗思想改革を推し進めている中心人物……か。絵に描いたような好人物だな」

 

 プロフィールには生い立ちや、彼の思想信条が簡潔に書かれていた。

 

「キ印ジジイが嫌いそうな奴じゃないか」

 

「ま、あのじいさんなら嫌いだろうけどね。僕は好きだよこういう人物は」

 

「俺もだ。しかし、会ってみなければ分からんがこのプロフィール通りの人物だとすれば、高麗人であるという事実の方を疑ってしまう」

 

「はは、違いない」

 

 彼らがそう言うのも無理はない、なぜなら高麗民族というのは統計上世界一の嘘つき民族として認知されていたからだ。

 

 息を吸うように嘘をつくと聞けばどれだけ酷いか大体察しは付くだろう。

 

「しかし、あのガイスト一騎で戦闘機10機分の金が使われているらしいが、量産は出来るのか?」

 

 戦闘機10機分となればとんでもない高額品だ。そんな物はとても量産できないし、何より戦闘機を10機作った方がましである。

 

 そんな彼の疑問に答えるのはやはり白河。

 

「ああ、聞いてなかったの? 高麗に売りつけた二騎は向こうが取り扱う部品と設備で整備が出来るようにした完全特注品だ。それで馬鹿みたいに値段が高騰してるんだよ」

 

「なるほど、ではあれは量産不可能な欠陥品という訳か」

 

「けど性能はいいよ性能は。なにせデータ上では日・ブが開発してる第七世代機の量産型と張り合えるからね。もっとも高麗に持ち込んだ二騎は特注品だからってのもあるけど」

 

「だが、あのキ印もよくそんな金を工面できた物だ。合衆国議会の主導権を握っているという噂は本当なのだな」

 

「まあね、じゃないと総裁が幹部待遇与えたりすると思う?」

 

「違いない」

 

 そこで一旦話を切ると、白河の方は何やらゴソゴソと鞄をあさりだした。

 

「なにをしているんだ?」

 

「ん~? 今日の上がり」

 

 彼が出したのは白い箱。

 

 真っ白に見えた箱の中央にクリオネという生物に似た何かが描かれたその箱には、小銭からお札まで結構なお金が入っていた。

 

「マメだな……そっちのは精々知れてるだろ」

 

「いんや~、これが以外と馬鹿には出来ないのだよファングくん。塵も積もれば何とやらさ」

 

「ご苦労なことだ」

 

 

 

 こうして怪しい二人の話は夜遅くまで続くのだった……。

 

 

 

 

 



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楽隠居?と円卓の少女 第9話

提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生
嶋田さん独身
嶋田さんロマンス



 

 

 

 

 楽隠居? と円卓の少女 第9話

 

 

 

 

 

「来た」

 

 祖国ブリタニアの力や大きさを物語るかの如き重厚な執務室の扉が開かれると同時に飛び出したのは、とても短い一語。

 

 来た──それだけで何を言っているのか分かるのは、彼女との付き合いがそれなりに長いという証明なのだろう。

 

「おはようございますアーニャ」

 

 アーニャ・アールストレイム。

 

 並み居る神聖ブリタニア帝国軍の騎士たちの頂点に立つ12の剣。

 

 ナイトオブラウンズ第6席の称号を持つピンク色のマントを纏った小柄な少女は、此方の挨拶に対し再び短い返答を返してきた。

 

「おはよう」

 

 抑揚のない棒読みな挨拶。

 

 聞き取り方によっては酷く無愛想で素っ気ない対応ながら、よくよく観察してみると、その表情と声色に隠された小さな違いに気付く。

 

 一見無口無表情に見えて彼女はとても表情豊かであり喜怒哀楽がはっきりしている。

 

 それを読み取れるようにまでには時間が掛かるけれど、一度理解すると彼女ほど話しやすい人もいないのではないか? 

 

 自身が大人であるのに対して彼女はまだ少女と呼べる年齢であったが、よく悩みを打ち明けたり相談に乗って貰ったりと度々世話になっている。

 

 であるが故に自然と好意的に解釈してしまうだけなのかも知れなかったが、しかしいざ何かをお願いするときには自身の親衛隊と同様信頼が置ける相手なのは間違いない。

 

 私の一方通行な片思いや勘違いでないのなら、お互いに背を預け合えるくらいの関係は築いてきたつもりだとの思いもある。

 

 だからこそ、今日こうして彼女にお願いごとを聞いて貰ったのだが、それは彼女に与えられた任務にも影響を及ぼすと同義であり

 

 本来ならば越権行為に該当している為にどうしようかと随分悩んだ。

 

 けれど、自身の代役を務められるのは同格の地位にある彼女をおいて他にはおらず、結局は予定の調整をして貰うことになってしまった。

 

「急にお呼び立てして申し訳ありません。貴女には私とは違い駐日武官以外にも別の任務があるというのに私の私情で」

 

「いい」

 

 皇帝陛下よりの勅命として彼女に与えられていた任務は二つ。一つは自身と同じ駐日ブリタニア大使館付き駐在官。

 

 そしてもう一つは此処日本に留学中の第11皇子ルルーシュ殿下とその妹様ナナリー殿下の警護任務。

 

 此方については勅命ではある物の陛下御自身の私情も入っている為にある程度自由が利く。

 

 元々ヴィ家の方々の警護任務はお二方の渡日に併せて日本へ渡り来た同家の親衛隊が担う物であり、

 

 陛下の騎士であるラウンズが就かなくとも十二分以上の警護体勢が構築されている。

 

 しかし御令息、御息女を大切になされている陛下は、更に自らの騎士を一人日本へと派遣されたのだ。

 

 勿論私情をお入れになられた事柄である上に、両殿下にはヴィ家の親衛隊が警護に就かれている関係上

 

 専任として宛がいになるわけにも行かず、私一人で任務は全う出来るとご承知の上でアーニャを第二の駐在官として任命なされたのだが。

 

 今日私はその警護任務に穴を開けてしまった。勿論ルルーシュ殿下とナナリー殿下。

 

 ヴィ家親衛隊隊長とも言うべきルルーシュ殿下の騎士ジェレミア・ゴットバルト卿の御三方には事前確認で了承を頂いていたけれど、

 

 アーニャの任務の重要性を考えると私情を持ち出してしまったことに罪悪感が沸いてくる。

 

「大丈夫。ルル殿下とナナ殿下にはジェレミア、キューエル、ヴィレッタ、咲世子に私の親衛隊も付いているから」

 

 ヴィ家とナイトオブシックス。二つの親衛隊を丸ごと警護に就かせているから布陣は完璧であると言い此方へと差し出してきた拳に親指を立てるアーニャ。

 

「それにモニカには大切な挨拶がある」

 

「……」

 

 此方の手を引き椅子から立ち上がらせたアーニャは入れ替わりで私の椅子に腰を下ろした。

 

「完全な私用なのですけれど……」

 

「私用でも大切なものは大切」

 

 椅子に座ったアーニャはいつもよく触っている自身の携帯を此方へと向けてきた。

 

「あの人が好き?」

 

「っ……!」

 

 彼女は私が秘めた心の内と、それが故に行ってしまったことの本質を知る数少ない人間だ。

 

 自身の親衛隊と彼女にだけは打ち明けているそれは、シャルル陛下に選ばれ陛下にのみ忠誠を誓うべき騎士である私が、

 

 陛下以外にもう一人忠誠を誓った相手が居るという、ラウンズとして本来有ってはならないこと。

 

 “カシャ”

 

 室内に鳴り響く機械的な音。

 

 それは此方へと向けられた彼女の携帯が発するカメラのシャッター音。

 

「い、いきなり人の顔を撮らないでくださいっ」

 

「でもモニカとてもいい顔。あの人を守る騎士の顔」

 

 撮ったばかりの写真を私に見せてくる。

 

 写っているのはアーニャの不意な一言に頬を赤くしている自分の顔。

 

「好き?」

 

「……」

 

 こくり──追求ではない質問に私は頷かざるを得ない。あの人を想う気持ちに嘘をつくことは出来ないから。

 

「陛下に仕えるのはナイトオブトゥエルブ。あの人に仕えるのはただのモニカ。……二心じゃない」

 

「アーニャ……」

 

 一人で抱えていられなかった悩み。

 

 騎士として矛盾する二人の主君に捧げた忠誠。

 

 信頼の置ける人達は皆同じ言葉で励ましてくれる。

 

 私という個を形成する人間に二心はないと。

 

「行って」

 

 滅多に見せない微笑みはやはり付き合いが長くないと分かりにくい微かなもの。

 

「……ありがとうございます……アーニャ」

 

 気心の知れた友人が浮かべる小さな笑みに見送られながら、私は一人執務室を後にした。

 

 *

 

 執務室の扉を閉め、広い廊下に敷かれた赤い絨毯を踏みしめながら大使館の外へ出る。

 

 目に付いたのは、暑い夏の空気を更に高める日の光が降り注ぐ正面玄関に停車していた一台の車。

 

 自身の専属運転手付きの車。これから向かう場所への水先案内人。

 

「お待ちしておりましたモニカ様」

 

 いつもの運転手は今年度より自身の親衛隊への配属と成ったばかりの騎士候だが今日は違う。

 

 今日この日は、アーニャと並び全幅の信頼が置ける私自身の従者。

 

 クルシェフスキー家に仕える家臣であり伯爵位を持つ壮齢の騎士。

 

 私の副官である彼が運転手を務めることになっていた。

 

「私情にお付き合いをさせてしまい本当に申し訳ありません」

 

 自身も免許くらい持っているから当初は一人で車を運転して目的地へと向かえばいいと考えていた。

 

 しかし私の立場がそれを許さない。

 

「何を仰います。主君であるモニカ様が大切なご挨拶へと向かわれる今日この日に付き従うことができるのは臣下の誉れにございますよ」

 

 心からの言葉らしい彼の好意に甘えざるを得ないのがなんとも言えずもどかしい。

 

 日本での自由な生活を満喫していると、時々クルシェフスキー侯爵家息女という身分が邪魔に感じるときさえある。

 

 何処へ出掛けるのも誰かに迷惑を掛けなければならないのはそれだけで億劫だ。

 

 けれどこの人も。そして私の直属である親衛隊の方々も皆それが仕事。

 

 私という主君に仕える人間は、特別な任を与えられていないときは常に私に付き従い行動しなければならない。

 

「私情で臣下に迷惑を掛ける主君は私の嫌いな腐敗貴族と変わらないようにも思えるのですが……」

 

「それはモニカ様がお気になさることでは御座いません。それにモニカ様ほどの御方が腐敗貴族ならばブリタニアの内政はガタガタになり、疾の昔に国が崩壊しておりますよ」

 

「ん……」

 

 自虐的な物言いを軽いジョークで返してきた彼は、後部座席を開いて乗車を促す。

 

「本当は自身で運転するつもりだったのですよ?」

 

 迷惑をかけることになるから。

 

「私共へのお心遣い真に痛み入ります。ですが、その様な事をモニカ様にさせるわけには参りません。私情であるからと勝手なことをなされては返って迷惑というものです」

 

 けれど私が運転をすることの方が彼等にとっては余計に迷惑。

 

「御身が我らの仕える主君であることを努々お忘れ無きように願います」

 

 私がそういう立場に在るということは今更指摘されるまでもなきこと。

 

 誰よりも自身が理解している。ラウンズとして、ロイヤルガード指揮官として、そしてクルシェフスキーとして当たり前のこと。それこそが私の普通。

 

「…………わかっております」

 

 それでもやはり私情にまで付き合わせるのはと考えてしまうものだ。

 

 マントの裾を引っ掛けないよう乗り込むと、間もなく静かなモーター音と共に車が動き出す。

 

 見送りに出て来た兵や職員に会釈をした私は目的地を告げた。

 

 

 

 *

 

 

 

 時計の針が午後一時を刻んだ頃に到着したのはとある墓地。

 

 多くの大日本帝国陸海軍将兵達が眠るそこに私の目的地はあった。

 

 周囲の墓標の中でも一際広い土地。

 

 左右に建てられた大きな石灯籠。

 

 石柵で囲まれたその中心に、自身が挨拶をすべき人物が一人静かに立っていた。

 

 

 

【元帥海軍大将従一位大勲位功一級伯爵嶋田──】

 

 

 

 偉大なる太平洋戦争の英雄。

 

 大日本帝国を守り抜いた歴史に名を残す大提督。

 

 彼は此処で静かに眠っている。

 

「お久しゅう御座います嶋田閣下。神聖ブリタニア帝国ナイトオブトゥエルブ、クルシェフスキー家が息女モニカに御座います」

 

 一年振りとなる大提督との再会。

 

 跪き見上げる先に立つは、あの人のお祖父さま。

 

 これで三度目の顔見せとなる。

 

 初めて此処を訪れたのは駐日武官として来日した年の翌年。

 

 心の奥底に宿してしまったあの人への想いに気付いた年だ。

 

 以来去年そして今年と、お盆に入る前には必ず訪れている。

 

 本当はお盆の期間中に訪れたいのだけれど、もしもあの人と出会してしまったらなんと言えばいいのか分からない故に毎年態と日をずらしていた。

 

 嶋田家の人間ではない処か、縁もゆかりもない赤の他人がお祖父さまへの墓参りをしている。これを知られて何故かと聞かれても答えられないから。

 

 尤も、赤の他人である私に参られた嶋田提督の方こそお困りなのかも知れない。

 

 しかし私は毎年此処を訪れる。あの人の御家族に私という人間を覚えて頂きたい。

 

 旧敵国の上位に居る私が、あの人の傍に居ることの許しを得たいからと。

 

 そして今日この日は、一つのご報告をさせて頂きたいからというのもあった。

 

「本日は例年のご挨拶とは別に、一つのご報告と附随する事柄をお聞きして頂きたく参上致しました」

 

 堂々とした佇まいの嶋田提督を見上げながら、私は今日訪れた目的を、大切なご報告を伝えていく。

 

「わたくしモニカ・クルシェフスキーは、一身上の都合により、本年2月14日、御令孫、

 

 嶋田繁太郎様に我が身と剣を捧げ、その御身を守護する任に就かせて頂きました」

 

 遡ること半年前。私はあの方。嶋田提督の御令孫……嶋田繁太郎の騎士となった。

 

 選ばれたのではなく、自ら志願し差し出したこの身という抜き身の剣をあの方に受け取って頂いた。

 

「嶋田提督におかれましては旧敵国の人間が御令孫の騎士となるなど到底看過なされないことでありましょう。

 

 しかし、あの方の御身をお守りしたいという我が心と差し出したる我が剣に、嘘偽りなど御座いません。

 

 騎士としての誇りにかけてお誓い申し上げます。我が心我が身は永劫にあの方を守護せし剣とならんことを!」

 

 勝手な言い分だと思う。

 

 勝手に訪れ、勝手に挨拶し、勝手に報告へと参上する。

 

 自己本位の塊が如き我が行動のいずこに騎士道精神ありや? 

 

 まして旧敵国の上位に位置する人間の勝手な言い分などお聞き入れ下さらないかもしれない。

 

 それでも私は伝えたかった。

 

 あの方を、嶋田さんをお守りしたいというこの心に一点の曇りもないということを。

 

 嶋田さんのお祖父さま。大日本帝国海軍元帥嶋田提督がどの様な人物であったのか? 

 

 それは伝聞とブリタニア年代記、世界史や歴史の中に出て来る人物像としてしか知らない。

 

 太平洋戦争はもう80年も昔の話。当時を知る人は既にその多くが鬼籍へと入っており、時の流れと共に歴史の一出来事として記録に残るだけの話になりつつあった。

 

 あと20年もすれば戦後世代以降の人間ばかりになるだろう。

 

 嶋田さんですら戦後世代、私に至っては戦後第3第4世代に当たり、当時のことなど想像でしか物を言えない立場だ。

 

 私に分かることがあるとすれば、嶋田提督が大日本帝国公爵の初叙に相当する従一位という位階と、大勲位という最高位の勲等を

 

 生前に帝(みかど)より親授されるほどの人物であったということくらい。

 

 無限とも言えるブリタニアの物量を相手にして一歩も引かず、多大なる戦果を上げて日ブ講和への道筋を付けた昭和の大提督。

 

 嶋田さんのお祖父さま。

 

 その英雄を前に私は誓う。

 

 この身は永劫嶋田繁太郎を守護する剣となると。

 

 この身が朽ち、死することあっても嶋田さんの剣で有り続けると。

 

 生まれ変わってもなお未来永劫に。

 

 

 

 *

 

 

 

「モニカさん?」

 

 へ……? 

 

 嶋田提督への祈りに集中していた私の背後に一つの気配が現れる。

 

 声を掛けられるほどに接近するまで気が付かなかったとは何たる失態か。

 

 これが敵であったのならば初撃を許していたはず。

 

 でも違う。

 

 この気配とこの声。

 

 それは私が剣を捧げたあの人だけが持つ物。

 

「嶋田……さん」

 

 振り返った肩越しにはやはり思った通りの人物。

 

 黒一色の服装で整えたあの人が居た。

 

「君の親衛隊の騎士らしい人を見掛けたからもしやと思ったが、やっぱりモニカさんだったか」

 

「っ……」

 

 何か言おうとして何も言えない。

 

 バッティングしないよう日をずらしてのお参りだというのにどうして嶋田さんが……。

 

「今年は少しお盆期間が忙しくなってしまったから今日墓参りに来たんだよ」

 

 まるで此方の心の中を読んだかの如き彼の言葉に身がすくむ。

 

 見られてはいけないところを見られたような、そんな気が……。

 

「申し訳、ありません……」

 

 やっとの思いで口に出せたのが謝罪の言葉とは格好が付かない……。

 

「御親族でもない赤の他人である私が……勝手に……」

 

「……」

 

 何も言わない嶋田さんはお祖父さまの前で跪いていた私の隣に立ち、静かにしゃがみ込んできた。

 

 何か言って欲しいとも、何も言わないで欲しいとも。そのどちらとも言えない気まずさが私の心を支配する。

 

 少しの間墓標に手を合わせながら黙祷していた彼がふっと目を見開く。

 

 そして。

 

「え……?」

 

 不意に私の肩に手を回されて身体ごと引き寄せられてしまった。

 

「嶋田、さん……?」

 

 彼が纏う汗ばんだ空気が私の鼻腔を擽る。

 

 私がいつもしている“充電”ではない、彼からの一方的な接触。

 

 それも、お祖父さまが見ている目の前での。

 

「御紹介致します」

 

 けれど、そのことを考える暇さえなかった。

 

 彼の口より紡がれた一言に私の心が釘付けにされてしまったから。

 

 

 

 我が騎士──“ナイトオブゼロ”モニカです

 

「え──?」

 

 ナイトオブゼロ。

 

 嶋田さんの口から飛び出したのは聞いた事のない称号。

 

「とても強く勇ましい、心強い私の騎士です」

 

「……」

 

 それだけを伝えた彼が此方へと振り向く。

 

「君は他人じゃない。君が来日して俺の家で住むようになって今年で4年。俺はその間君のことを他人だなんて思った事は一度もない。

 

 そんな君がこうして祖父への墓参りに来てくれたのにどうして謝る必要がある。むしろありがとうと言わせて貰うよ」

 

「……っっ」

 

「それに、今年からは俺の秘密の騎士になってくれた君をのことを、どうすれば他人だなどと言える?」

 

 ああ、ダメだ……。そんなことを言われたらまた泣いてしまう。

 

 私はこの人と出会ってから自分が泣き虫になってしまったような錯覚を覚えている。

 

 ラーメンを食べたときに泣いた。

 

 彼と訪れた遊園地のお化け屋敷で泣いた。

 

 彼の帰りが遅くて心細くなり泣いた。

 

 彼に剣を捧げて泣いた。

 

 ただ嬉しくて泣いた。

 

 本当に泣いてばかり。

 

 他の誰の前でも涙一つ見せたことがない、泣くという回路が壊れてしまったのではないかと思えるくらい冷静でいられる私が、

 

 この人の前でだけは本当に涙もろく弱い。

 

 何が起ころうとも取り乱すことなき完璧な騎士である自分が、この人が絡むとすぐに取り乱してしまう。

 

 嶋田さんだけの騎士になるというただのモニカが立てた誓いの日に、彼から『なんて泣き虫な騎士だ』と呆れられたというのに……。

 

 どうしてこの人の前でだけはこんなポンコツ騎士になってしまうのだろう? 

 

「ぅ……、ナ、ナイトオブゼロって、な……なんですか……?」

 

 震える声で自分を誤魔化し問い掛けた。

 

 嶋田さんの手が私の髪と頭を優しく撫でてくる。

 

 嬉しいのに今は止めて欲しいと思う。

 

 そんな動作の一つ一つが私の心を乱してしまうから。

 

「君はラウンズだ。ラウンズの忠誠は本来ブリタニア皇帝ただ一人に向けられていなければならない。

 

 幾ら君が一個人モニカとして俺へ剣を捧げてくれたとしても、ラウンズであることには変わらないからね」

 

 

 

 言葉の通りだと思う。

 

 愛を捧げるのならばまだしも、剣を捧げてはならない。

 

 でも、と彼はその先を口にした。

 

「存在しない騎士としてならば良いんじゃないかと思ったわけだ。ナイトオブゼロ。ゼロは無いとも言えるだろう? 無いとでナイトとか」

 

 私の様子を見て投げ掛けてくれたのだろうつまらないシャレを聞いて、目に堪っていた涙が引いていく。

 

「…………つまらない、です」

 

 私は彼のこういうさり気ない優しさが大好きだ。

 

 いつも私だけを、ラウンズでもクルシェフスキーでもない私だけを観てくれている彼の優しさが。

 

「まあ冗談はさておき。存在しない筈の騎士の称号だから“ゼロ”。どうかな?」

 

 ナイトオブゼロ。

 

 存在し得ない騎士の称号。

 

 嶋田繁太郎の騎士である私だけに与えられた秘密の称号。

 

 大昔の日本の戦闘機の名前にも用いられていたゼロ。

 

「……嬉しい、です」

 

 嬉しくない筈がない。

 

 彼と私の間を繋ぐ主と騎士の関係にまた新しい彩りが添えられたのだから。

 

 それも与えてくれたのは我が愛しき主御自身。

 

「気に入って頂けたようでなによりだ」

 

 まだ頭を撫でられていたけれど、もう涙が流れる事はない。

 

「でも、ゼロという名はワンよりも、既存のラウンズよりも更に上位の称号……。

 

 適うことならばラウンズを超えるラウンズとして、いつの日かその名に恥じぬ騎士となってみせます」

 

「ビスマルクさんを超える騎士か……。まだまだ若い君ならばなれるかも知れないな。いつの日かそんな最強の騎士に」

 

 肩を離した彼は私の手を引き立ち上がらせる。

 

「柄にもないことをしてしまったが、赤の他人などと言われて悲しかったからつい、な」

 

「いえ、そんな……」

 

「君はもしかして毎年来てくれていたのかい?」

 

「……一昨年、去年、今年で三回目です」

 

「そうか。騎士服にマント、ラウンズの正装で訪れてくれているとは」

 

 嶋田さんの黒い服に対し私はラウンズの正装たる白の騎士服に黄緑色のマント。

 

 およそこういう場には相応しく無さそうな色だけど、これが私の持つ最高位の礼装。

 

 流石にいつも髪の一部を纏めている赤いリボンだけは解いていた。

 

「嶋田家としても鼻が高い」

 

「そんなこと……」

 

 彼は再び墓標を見遣る、私も彼と並んでもう一度お祈りをした。

 

「きっと祖父も喜んでいるよ。戦った国との和平が成り、こうして君のような立場の人間が自由に日本で暮らせる今という平和な時代を迎えられたことをね」

 

「……」

 

 短い戦乱の時代。1930年代から50年代までの日ブ関係が冷え込んでいた時期。

 

 一度大きな激突は有ったけれど、それ以上の長き友情は壊れたりする物ではない。

 

 クレア陛下の御世より連綿と築かれてきた関係は、たった一度の全面戦争で無かったことになるほど浅い物ではなかった。

 

 だから私が此処に訪れることをお祖父さまが歓迎しない筈はない。

 

 そういって私を励ます嶋田さん。

 

「さ、そろそろ行こうか。あまり長居をしていては祖父もゆっくり休めないだろうから」

 

「はい」

 

(また来年もご挨拶に伺います)

 

 心の中で呟いた私は、私が守るべき人に手を引かれて提督の墓前を後にした。

 

 *

 

「モニカさんはこれからまた仕事かい?」

 

「いいえ。今日は午後からお休みです」

 

 お祖父さまに挨拶をするためという私情なので、個人的には今からでも大使館へ戻り公務に就きたいところだけど、

 

 アーニャとの引き継ぎを終えている関係上またややこしくなってしまい方々へご迷惑を掛けてしまうので、午後から全休とさせて頂いた。

 

 そんな私に丁度いいという嶋田さんが出してきたのは、思わず飛び付かずには居られない魅力的な提案。

 

「新規開店したラーメン屋さんを見つけたんだが、特に予定が無く昼食がまだなら一緒にどうかと思ってね」

 

「行きますっ!!」

 

 何も考えずに即答してしまったが別に構わない。

 

 昼食を食べていたとしても嶋田さんと一緒に食べるラーメンの味は別格だから。

 

「それじゃあ君の親衛隊の騎士さんも誘って三人で行くか」

 

 

 

 しかし事情を聞いた私の副官は昼食を済ませたと言って辞退してしまう。

 

 彼も私と同じで昼食はまだなのに。

 

 結局は二人きりでの食事となったわけで、なんだかデートをしているように思えてならない。

 

 勿論嶋田さんと私の護衛はそのまま付いては居たが、私たち二人の世界であることには変わらないだろう。

 

 そうして食べた醤油ラーメンの味は本当に美味しかった。

 

 これなら幾らでもお代わりが出来そうなくらいに。

 

 ラーメンは啜って食べる物。

 

 貴族である私が初めてマナー違反を犯してしまったその出汁の絡まる麺料理。

 

 カップヌー○ルから始まった私の一番好きな料理の味。

 

 そのラーメンの一番新しい味を心行くまで堪能していた私に嶋田さんは言った。

 

 来年のお盆は一緒に墓参りしよう

 

 祖父の所だけではなく父や嶋田家の所にも

 

 “君は俺の家族だから”

 

 耳に入る彼からの温かい言葉に、引いていた筈の涙が一筋、頬を伝い落ちていった。

 

 




終わりです。
時系列的にモニカが少女と呼べない時期(二十歳)がやってきそうですので、
いずれタイトルが『引退選手と円卓の騎士』『楽隠居?と円卓の騎士』。
シンプルに『嶋田とモニカ』『嶋田繁太郎と円卓の騎士』になるかもしれません。

発想が貧困なために良いタイトルが出てきませんね。
何かこの二人の物語に相応しいタイトルがないものでしょうか……。



この続きを書いていたのですが6,7年ほど前に保存しておりましたHDDが壊れてしまい、設定も何もかもが消し飛んでしまいました……ラスボスである南天条約機構とその傘下組織などの、キャラも所々で出ております。


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未完成話 嶋田さん×ユフィSS 帝都の休日
帝都の休日 第1話


こちらは設定を保管しておりましたHDDが壊れ設定も何もかもを失ってしまった不完全で2012年に書いた作品です。

11年経った今となっては不完全なお話だと感じますが、保管する意味でも残しておきたいと思います。

モニカSS同様平和その物
ブリタニアはお友達
嶋田さんロマンス及び独身設定
性格改変注意
Yさん独身設定
Yさんロマンス
提督たちの憂鬱とコードギアスクロス


 

 

 

 

 帝都の休日 第1話

 

 

 

「はぁ」

 

 休日の公園にて溜息を付く男。

 

 彼の名は嶋田繁太郎。

 

 現在は一線を退いているが世界に冠たる2大超大国の一国、大日本帝国の宰相を務めていた男だ。

 

 但しそれは表の役職を降りただけで、裏の役職たる夢幻会の重鎮としては未だ絶大な影響力を保持していた。

 

 尤もその仕事といったら以前と変わらぬ山のような書類を処理するという物であり、彼自身は(早くやめて静かな老後を送りたい)などと考えていたのだが。

 

「貴重な休みをこんなところで費やすのは勿体ないとは思うが、仕事のしすぎでやりたいことを考える暇もないからな……」

 

 我ながら充実した人生なのか。

 

 損ばかりの人生なのか。

 

 よく分からないまま忙しい毎日を過ごす彼はたまには纏まった休みが欲しいと願い、周りに目を遣る。

 

 家族連れ、恋人、友人同士、皆が皆楽しそうに過ごしている。

 

(本来、休日というのはこういうものなんだよなぁ……)

 

 羨ましそうに眺める彼に気付く者は一人もいない。

 

 今の彼はせいぜい公園で休んでいる近所のおじさんといった感じで、到底元帝国宰相には見えなかった。

 

 そもそも彼は夢幻会の役職を除けば現在唯の一般人でしかないのだから、気付かれないというのが普通なのかもしれない。

 

(ん……?)

 

 そんな影が薄くなった彼の目に何やら不穏な空気を醸し出す一団が止まった。

 

『なあいいだろ? 俺たちと遊ぼうよ』

 

『や、やめてください、離してっ』

 

 十代後半と見える鮮やかな桃色の長い髪の少女が、二人組の見るからに不良といった感じの柄の悪そうな男達に絡まれている。

 

(ナンパ……か)

 

 どこにでもある日常の光景だが、桃色の髪の少女は明らかに嫌がっていた。

 

 にも拘わらず男達は強引に誘って、腕を掴んだまま放さない。

 

(しかし無理矢理というのは、な)

 

 見てしまった以上黙っている訳にもいかんだろうと歩み寄った彼は、「君たち、ちょっといいかね」とナンパ男達に声を掛けるのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「痛たたたっ」

 

「大丈夫ですかおじ様……?」

 

「はは、大したことはないよ。君こそ大丈夫か?」

 

「はい、お陰様で助かりました」

 

 桃色の髪の少女を助けに入った嶋田は海軍時代に身体を鍛えていたお陰でナンパ男達を撃退できたが、久しぶりの無茶な動きに少し腰を痛めてしまった。

 

(昔ならどうということも無かったが……やはり歳には勝てんな)

 

「本当に大丈夫ですか……?」

 

「ああ、本当に大丈夫だよ」

 

 心配そうな少女を安心させようと身体を大きく動かす嶋田。

 

 助けに入って置いて心配されていたら世話はない。

 

 そして身体を動かしながら少女を見る。

 

 肌の色は白人特有の白。

 

 膝裏まで届く艶やかな長い髪は桃色。

 

 白のワンピースにオレンジのスカート。

 

(ブリタニアの人かな?)

 

 白人といえば真っ先に思い浮かぶのはブリタニア人。

 

 EUも白人国家だが、一般的日本人の意識としては白人=ブリタニア人のイメージが強い。

 

 大日本帝国と神聖ブリタニア帝国は共に超大国同士なのに最友好国、同盟国同士であるという奇妙な関係なのだ。

 

 これには嶋田たち前世代の指導者の影響が強かった。

 

『コードギアス』

 

 作品の概要しか知らない嶋田や山本五十六などこれが初めての転生となる者達を除く、二度目の転生となる夢幻会の面々はこの世界をよく熟知している。

 

 その熟知している面々の話では、今を生きるこの世界はギアス世界のパラレルワールドであるらしく、国の政策や考え方がまるで違うというのだ。

 

 彼らが知るブリタニアとこの世界のブリタニアは人物、帝政、貴族制、他の追随を許さない圧倒的国力、アメリカ大陸丸ごとが国という巨大国家であることこそ同じだが、

 

 かたや世界を混乱の坩堝に陥れる侵略国家。

 

 かたや国際社会と協調路線を取り、より良い人類社会を築いていこうとする平和主義国家という絶対的な違いが存在していた。

 

 ならば夢幻会のとる方針も一つ。彼の国との友好関係を築きながらも自国を発展させていくというものだった。

 

 そんな努力の甲斐もあり今やブリタニアに匹敵する国力と、一部では更に先を行く最先端技術を保持するに至ったのである。

 

 それでいて尤も仲の良い国同士というのだから、この世界にもやはり存在している一部の侵略性の高い独裁国家やテロ組織には堪ったものではない。

 

 下手に周辺国地域への侵略行動に出て、万が一日本人やブリタニア人、その友好国人に被害が出れば日ブ同盟軍に袋叩きにされるのだから。

 

 更にEUや中華連邦など日ブに次ぐ大国とも友好関係にあるので、世界は概ね平和であった。

 

 

 

 *

 

 

 

「あの、おじ様?」

 

「ん? ああ、すまないね。ちょっと考え事をしていたので」

 

 このブリタニア人と思わしき少女を見て、馴染みのある付き合いの長い友人を思い出していたのだ。

 

 先日日本に訪れた際、一番可愛がっている息子に冷たくされたとくだを巻いていた友人を。

 

(まあ、こんな美少女を見てあの強烈なシャルルさんを思い出すなんて失礼極まりないことだけどな……)

 

「まぁ、いくら帝都の治安がいいと言ってもああいう輩は居る物だから気を付けて歩きなさい」

 

「あ、はい。わかりました」

 

 少女に注意した嶋田は先ほどまで座っていたベンチに座るとまたぼんやりと空を見上げ始めた。

 

「…………」

 

 穏やかな風が吹く。

 

「…………」

 

 その風に煽られて靡く桃色。

 

「…………」

 

 それは未だ嶋田の視界に入ったまま。

 

「…………」

 

 風が吹き抜ける度に空を泳いでいる。

 

「…………なにか用かな?」

 

 ぼんやりしたままその桃色の長い髪の持ち主に問いかける嶋田。

 

「え、あ、あのっ」

 

 彼が助けた桃髪の少女は何故か嶋田の側から離れずに彼をジッと見ていたのだ。

 

「おじ様はこれからどうなさるのかと、思いましたので……」

 

「別に何もしないよ……また明日から始まる仕事漬けの日々を前に、黄昏れてるんだよ……」

 

 嶋田は言ってて悲しくなる。

 

 七十二時間働けますか? が待っているのだから。

 

「お、おじ様はお忙しい方なのですね」

 

「忙しい、か。それを認識できる内はまだ可愛い物だよ。そのうち時間の感覚が麻痺して来るんだ。いつ家に帰ったか、飯はいつ食べたのか、今は朝? それとも夕方? 

 

 そして仕事が終わると怖い魔王がやってきて言うんだ『貴方の闘いはこれからですよ』とね」

 

「それは…………大変なのですね」

 

 でも、と少女は続ける。

 

「わたくしも、おじ様のように頼りにされてみたいです……。誰かのお役に立ってみたいです……」

 

 お飾りの存在。

 

 居ても居なくてもいい存在。

 

 誰の役にも、何の役にも立てない存在。

 

 自分はそんな人間ですという彼女。

 

「わたくしは家族や国の人、困っている人の役に立てるお仕事をしたいと思い、姉に相談したのですが『お前には早い』と言われてしまいまして……今回も無理を言って姉に付いてきたのですが、

 

 重要なお話の場では一切発言させてくれないのです……」

 

 そう言って悔しげに唇を噛む少女を見て嶋田は一度溜息を付いて立ち上がる。

 

「君は、これから予定はあるのかな?」

 

「えっ? いいえ、予定はありません。その、わたくしこの国に訪れたのは初めてでして、どのような国なのか見たいと思い抜け出して来ましたから」

 

「なら丁度いい。おじさんの暇つぶしに付き合ってはくれないか?」

 

 

 

 *

 

 

 

 嶋田は少女を連れて帝都内の観光スポットや名所を巡った。

 

 お台場、東京タワー、皇居、雷門、秋葉原、思い付く限り、時間の許す限り歩き続け出会った公園の近くに戻ってきた頃にはもうすっかり日が暮れていた。

 

「お疲れ様。連れ回して済まなかったね」

 

「いえ、とても楽しい……有意義な一日でした」

 

「それはよかった。私も楽しい一日を過ごせたよ」

 

 空には満月が輝き、優しい光で二人を照らしている。

 

「さて、ここでお別れだが……一ついいかな」

 

「なんですか?」

 

「君は役に立たないと言ったがそんなことはない。今日、私は君と過ごせて楽しかった。君が居たからいつもと違う休日を過ごせたんだ」

 

「おじ様……」

 

「少なくとも今日、君は私の役に立ってくれた。つまりだ、気付いていないだけで君は沢山の人に必要とされているだろう、ということだよ」

 

「わたくしが、おじ様の役に立った……。わたくしは……必要とされている」

 

「そうだ。君が居て初めて回る何かもあるだろう。でもね、君はまだ若い。若いから経験値も低い。だからお姉さんも『まだ早い』と言ってるんだよ」

 

 嶋田は彼女の頭に手を置き、数回優しく髪を撫でながら続ける。

 

「きっとお姉さんも周りの人たちも君のことが大事で大好きだからこそ、たくさん勉強して一人前になってから本格的なお仕事を頼みたいと考えてるんだと思うよ」

 

「そう、でしょうか……?」

 

「ああ、おじさんは君よりずっと経験してきてるからわかる」

 

 言い終えた嶋田は彼女の桃色の髪の感触を楽しむように撫でていた手をそっと離した。

 

「あ……」

 

「ん?」

 

「い、いえ……」

 

 自分の髪を撫でていた嶋田の手が離されたことに少女は一瞬表情を曇らせた。

 

 彼の温かい手の温もりをもう少し感じていたかったのだ。

 

 年相応に皺のあるその手はとても温かく、まるで柔らかな日の光のような感じさえした。

 

 その日差しのような温もりが消えてしまったことが酷くもの悲しく感じてしまうのである。

 

 そうとは気付かない嶋田は「時間も遅いし送ろうか?」と訊ねる。

 

「大丈夫です。おじ様にいっぱい元気を貰いましたから」

 

「はははっ、君みたいな美少女にそう言われると嬉しいよ」

 

「そ、そんな、美少女だなんて」

 

 頬を赤らめて照れる少女にもう一度可愛いよと言った彼は「それじゃおじさんも行くから君も気を付けて」と別れを告げて背を向けた。

 

 彼女の笑顔を見てもう大丈夫だと確信したから。

 

 しかし。

 

「ま、待ってください」

 

 そんな嶋田を呼び止めた少女は彼の元に歩み寄る。

 

 自分を助けてくれた彼と、自分を元気付けてくれた彼と、まだお別れをしたくはないのだ。

 

 かといってこれ以上引き留めるのも彼に迷惑が掛かると考えた彼女は。

 

「んっ」

 

 振り向いた嶋田の唇を自らの唇で塞いだ。

 

 いきなりのことに目を見開く嶋田。

 

(な、なんで……こ、この湿った感触、は……く、くちびる……?)

 

 重なり合う唇。温かくしめった彼女の唇の感触は柔らかく、いい匂いと甘い味がする。

 

 そしてゆっくりと唇を離した彼女は言った。

 

「き、今日の……お礼です」

 

「き、君……」

 

「お嫌……でしたか?」

 

 自分から口付けを交わした彼女はそう言って不安げな表情で俯き、上目遣いで彼を見る。

 

「そ、そんなことない、嬉しいよ」

 

 彼女にそんな顔をされた嶋田は必死に弁解する。

 

 彼女のような美少女にキスをされて嬉しくない訳がない。

 

 思っても見なかったことをされて思考が付いていかなかっただけなのだ。

 

「よかった……そ、それでは、もう一度だけ……いいでしょうか?」

 

「あ、ああ……いいよ……」

 

 彼女はもう一度キスを求める。

 

 嶋田は(お礼としては貰いすぎだと思うけど)と考えたが、求められた以上拒否するのは悪い気がした。

 

 せっかく元気を取り戻してくれたのに、拒否して彼女の柔らかい微笑みを曇らせたくはない。

 

 そうして彼女の唇と嶋田の唇がもう一度重なった。

 

「んっ」

 

 今度は同意の上でのことだからか、お互いの腰と背に腕を回して、少しだけ顔を傾けての口付け。

 

 お礼として求められた物をいい加減にしてはプレゼントを突き返すような物。

 

 嶋田にそんなことは出来るはずもなかった。だからこそしっかりと身体を抱き締めて、感謝しながら彼女からの贈り物を受け取るのだ。

 

 そうして大切にするが故、意図せずして深い口付けになってしまった。

 

「んっ……あむっ、んっ」

 

 だがお互い納得ずくの口付けである。

 

 ここまでしてしまって今更止める訳にも行かず、二人は唇を重ねたまま甘いキスを続けた。

 

 触れ合う舌と舌。混ざり合う唾液。ゼロ距離での息遣いがお互いの顔に掛かる。

 

 甘酸っぱい味が口の中に広がり、背筋にぞくっとした物が走り抜けた。

 

 

 

 互いの唾液を少し飲んでしまった二人は一分ほど重ね合っていた唇をゆっくり離した。

 

「……」

 

 彼女の頬はもう目に見えてわかるくらい真っ赤に染まっている。

 

 それは彼も同じだ。

 

 しようと思ってこんなに深く口付けた訳ではないのだから。

 

「…………そ、それでは、わたくし行きます……」

 

「あ、ああ……その、気を付けて……」

 

 さっきとは逆に少女の方から別れを告げて背を向けると小走りで行ってしまった。

 

 桃色の長い髪を靡かせて走り去る彼女の後ろ姿を見ながら嶋田は一言呟いた。

 

「最近の子は、お礼でキスを交わすのか……」

 

 世も変わった物だと呆けたように呟いた彼は知らない。

 

 それが少女にとって初めての口付けであることを。

 

 大切な初めての接吻を、彼に捧げてくれたことを。

 

 何より年長者として行った善意が、彼女の心に小さな灯火を宿してしまったということを……。

 

 そしてその火を消す方法は存在しないというのを……この時の彼が気付くことはなかった。

 

 

 

 *

 

 

 

 翌日。

 

 夢幻会傘下のとあるビルの一室。

 

 執務室でもあるその部屋の机の上には堆く書類が積まれ、その部屋の主である夢幻会の重鎮、嶋田繁太郎が必死に書類を捌いていた。

 

「お、終わらない、やってもやってもキリがない」

 

 昨日の休日、見知らぬブリタニア人の少女と過ごした楽しく穏やかで、ちょっぴり甘かった時間は何処へ行ってしまったのか? 

 

 幻のように消え去った休日を振り返りながら、彼は書類と格闘する現実に悪戦苦闘していた。

 

 そんな彼の元にやってきた前世からの仲間であり友人で、同じく夢幻会の最高意思決定機関『会合』のメンバー辻は、差し入れとして持ってきたパンとお茶を彼に差し出す。

 

「嶋田さん、そろそろ休憩にしましょうか?」

 

「そ、そうしてくれると助かるよ。このままじゃ目と手がおかしくなる」

 

「ご苦労様です」

 

 差し出されたお茶を飲みながら今日の予定を確認した嶋田は、書類に埋もれていた朝刊を引っ張り出した。

 

「ふ~ん、カラレス大使に変わる新しい大使はコーネリア皇女か」

 

 その一面には不祥事続きで先頃更迭されたカラレス大使に変わって、新しく赴任してきた大使であるブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアが映っていた。

 

「嶋田さんはご存じなかったのですか?」

 

「そもそも引退してからこの五年、書類に追われて世間に目を向ける余裕が無かった物ですからね……」

 

「書類は友達さ」状態の嶋田はそれを持ってくる辻に不満を漏らす物の、彼は何処吹く風という感じで涼しげにお茶を飲んでいた。

 

「もう引退して五年ですか……早い物ですねぇ」

 

「早いです、早いですが……想像してた隠居生活との違いに落胆しています」

 

「今もバタバタしていますからね」

 

「誰のせいですか誰の…………ああ、せめてその日のニュースを見ながらのんびり出来る日が欲しい」

 

 そんな世間の誰もが謳歌している日常を羨ましいと思いつつ、見ていた新聞を捲った瞬間──。

 

「ぶうううううう──―ッッッッ!!!」

 

 と、口に含んだお茶を盛大に吹き出してしまった。

 

 そのまま新聞を落としてゴホゴホ咽せる嶋田に辻は「何をしてるんですか汚いですねぇ」と背中をさする。

 

「す、すみません辻さん、その新聞に映ってる人はっ!?」

 

「え、どれです?」

 

 辻がお茶まみれになった新聞を拾い上げるとそこには膝裏まで届く鮮やかな桃色の長い髪をポニーテールに纏め、白のタイトスカートを着用したブリタニア人の少女が映っていた。

 

 髪は下ろしていたし服装も普通のワンピースだったが、確かに昨日の休日を一緒に過ごしてキスまで交わしたあの少女と同一人物だ。

 

「ああこの方ですか? この方はブリタニア帝国第三皇女のユーフェミア・リ・ブリタニアさんですよ。コーネリアさんの妹さんですね。

 

 公務を行うために日本に来たのはこれが初めてじゃないでしょうか? それまでは向こうのアッシュフォード学園高等部に通っていたはずです」

 

 ギアスを知ってる人間なら知ってて当たり前の人物だという話しに(俺は知らねーよっ!)と心の中で突っ込む嶋田。

 

 彼が知っているのはコードギアスというタイトル名と、SF戦争物アニメであったということだけで、登場人物のことなど全く知らないのだ。

 

「で、ユーフェミア皇女がどうかしましたか?」

 

「い、いいえ、なんでもないですよ……と、ところでこのユーフェミア皇女とはどういった人物なんです?」

 

「一言で言うなら虫も殺せない心優しい少女……といったところですね」

 

「な、なるほど、見た目そのままですか……」

 

 昨日一日を過ごした印象は、とにかく心優しい少女という物。

 

 辻の説明に外見通りであるし中身もそうだったなと思い出した嶋田は辻の話しに再度耳を傾けた。

 

「ただ、こうと決めた事には一切引かない強さも持っています。差別が大嫌いで世界中の人がみんな仲良く暮らせたらと本気で思ってるはずですよ」

 

「聖女みたいな子ですねぇ」

 

「でも結構独占欲強いと思いますよ? 原作の世界線ではある男の子に『私を好きになりなさいっ!』なんて言ってるくらいですから」

 

「ほう、それは彼女と付き合うことになったり、結婚することになる男性は大変だ」

 

「まるで他人事ですね」

 

「事実、他人事でしょう」

 

(昨日彼女にキスされたことは黙っておこう。それに政界引退した以上会ったりすることもないだろうしな……)

 

 同じブリタニアの皇族と言ってもシャルルやV.V.は同年代であり、現役時代からの数十年に渡る友人である。

 

 それに対してユーフェミアは今年17になったばかりの年若い少女であり、会ったのも昨日が初めて。

 

 いくら友人の娘とは言ってもほぼ接点など無い。現役も退いているし二度と会わないだろうからと考えるのが普通だ。

 

 そう思う彼であったが昨日彼女と出会った時点で既に縁は出来ていた。

 

 そして辻の前で取った不自然な反応。

 

 彼がこれを見逃すはずがなかったのだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 皇族の大使就任ということで開かれた就任祝いの会場にて、出席者全員に対し順番に挨拶していくコーネリアとユーフェミア。

 

「ど、どうも初めまして嶋田繁太郎です」

 

 嶋田が何故ここに出席しているかというと、表向き政府関係者として出席する予定だった辻が急病で倒れ、代わりに出てくださいと頼まれたから。

 

(絶対仮病だろっ!!)と思った嶋田だったが出ないわけには行かず、こうして出席と相成ったのである。

 

 会ったりすることはないだろうという考えは僅か数日で木っ端微塵に粉砕されていた。

 

「初めまして、コーネリア・リ・ブリタニアです。貴方のことは父から色々と伺っております」

 

「そ、そうですか、シャルルさんはなんと?」

 

「シゲタロウは良い奴だ! 儂の心友だ! と」

 

「は、はは、心の友ね……」

 

(どこのタケシ君だよ!)

 

 苦笑いする嶋田にコーネリアの隣に居た少女が声を掛けてきた。

 

「あ、あの……」

 

 こういった場所ではパーティードレスが普通なのに今の彼女は新聞で見たのと同じ姿だった。

 

 長い髪はポニーテールに纏めて白のタイトスカートを着用した公務スタイル。

 

 それは仕事への意気込みを感じさせる物で、彼女の真剣さを伺うことができる。

 

「ああ失礼。これは私の妹でユーフェミアです。この度私の補佐官として日本に常駐することになりました」

 

「ユ、ユーフェミア・リ・ブリタニアです」

 

「し、嶋田繁太郎です」

 

 普通に挨拶を交わす二人。

 

 だがその挨拶が実にぎこちなく不自然になっている。

 

 それはそうだろう、つい数日前に熱い抱擁を交わしながら口付けをした相手なのだから。

 

 意識しない方がおかしい。

 

 幸いなことに変だなと思いつつ次の出席者に挨拶に向かったコーネリアは気付かなかった。

 

 二人が互いに「初めまして」と言っていないことに。

 

 嶋田は焦り気味で、ユーフェミアに至っては頬を赤らめていることに。

 

「そ、それではわたくしは他の方にも挨拶に向かわないといけないので……」

 

 ユーフェミアは名残惜しそうに嶋田の元を離れていく。

 

 彼の元に留まっていたいという様子が在り在りと伺えた。

 

 側に居て色々とお話がしたい。貴方のことが知りたい。

 

 そんな様子が見て取れた。

 

「はぁぁ~っ、焦った……」

 

 テーブルにあったグラスのワインを一気飲みするも、からからになった喉が癒されない。

 

 彼の中ではまだキスの一件が引っ掛かっているのだ。

 

「まずいな……これってひょっとして辻さんの差し金か? キスしたこと知られてるのか? でもどうやって……」

 

 それを知るのは辻本人だけであり誰にも分かることではない。

 

 大体辻の思惑を推理するのは非情に難しく、意図を知るのはほぼ不可能であった。

 

 

 

 *

 

 

 

「ビックリしました、おじ様が父が良く口にする心友のシゲタロウさんだったなんて」

 

 挨拶回りを終えたユーフェミアは他には目もくれず一目散に嶋田の側に来ていた。

 

 その様子は彼以外一切興味がないと言わんばかりだ。

 

 地元の名士やブリタニアの貴族、日本政界の重鎮達はコーネリア皇女は勿論のこと、見目麗しいもう一人の皇女ユーフェミアにもお近づきになろうと試みていたが、彼女の側に立つ嶋田の姿を見てすごすごと引き返していく。

 

 表の顔を知る者は『元総理が話し相手になっていては割り込み辛い』と考え、嶋田繁太郎という人物の真の姿『夢幻会の長老』という顔を知っている者は恐ろしくて声を掛けられない。

 

 お陰で彼は、いやこの場合彼女か? とにかく嶋田はユーフェミアが独占出来ていた。

 

 その分、更に話し相手をする人数が増えてしまったコーネリアはかなり大変そうだったが。

 

「それはこちらの台詞ですよ。まさか君がシャルルさんのお嬢さんだったとは……。シャルルさんには悪いですが全然似てませんよ。

 

 何をどうすればシャルルさんから君のような美人が生まれるのか……」

 

 ごつい身体でロール頭で、厳つい顔をしたあのシャルルからユーフェミアのような美人が生まれるのは七不思議だと半ば本気で考えている嶋田に。

 

 一方の彼女は美人だと言われて顔を赤らめる。

 

 普通に言われても嬉しいというのに、彼から言われると胸がきゅっとなるのだ。

 

 締め付けられるような苦しいような、それでいてとても温かい。

 

 この不思議な感じは悪い物ではない。そう思った彼女は自分がしたことを思い出して頭を下げた。

 

「この間はすみませんでした」

 

「ひょっとしてあの、き、キスの?」

 

「は、はい」

 

「い、いやいいんですよ」

 

 彼女はキスのことを思い出してまた赤くなる。

 

 湿った唇の感触と絡み合わせた舌の感触、それに甘酸っぱい唾の味を思い出したのだ。

 

 そのことを持ち出されると嶋田まで恥ずかしくなる。

 

 何せユーフェミアのような美少女にキスをされたのだから。

 

 特別な何かでは無いとはいえ男冥利に尽きるという物。

 

 尤も彼女の心が分かるでもない以上嶋田の勝手な決めつけなのだが、常識で考えて17,8の娘が60を越えた男に懸想する訳がない。

 

 そんなことを断言する嶋田は完全にユーフェミアの気持ちを無視している。

 

 彼がどう思おうがそれは所詮彼の考えであって、彼女の気持ちではないのだから。

 

「あれは君のお礼だったのでしょう? 私はそのお礼をありがたく頂いた……それでいいじゃないですか」

 

「おじ様……」

 

「名前で呼んでもらってもいいですよ。君のお父上も叔父さんも名前で呼んでますから」

 

「あの、じゃあ、シゲタロウ……」

 

(いきなり呼び捨て!?)

 

 と思うも下の名で呼ぶ人間にさん付けしてくる人はいないので別に良いかと思い直す。

 

 まあ彼を下の名前で呼ぶ人間は今世では今のところシャルルとV.V.ぐらいしかいないが。

 

 彼女が栄えある三人目。女性としては初めてであった。

 

「わたくしのこともユフィと……それに敬語をやめてください……」

 

 更に彼女は敬語を使われるのも嫌だという。

 

 ただ嶋田としては余程親しい前世からの友人達にさえ丁寧語で話す相手の方が多く、タメ口というのは違和感を感じてしまうのだ。

 

 出会ったときは普通の話し方だったと指摘されると受け入れざるを得ないが。

 

「わかった……じゃあユフィ。これでいいかな?」

 

「はい……シゲタロウ」

 

 こうして名前で呼び合うようになった二人は祝賀会が終わりを迎えるまで寄り添ったまま話を続けていた。

 

 嶋田が何の気無しにユーフェミアの髪を撫でたり。

 

 ユーフェミアが嶋田の口元に付いたケーキの食べかすを拭ったり。

 

『お前らどこのバカップルだ!』とでも罵られそうな行為を終始続けていたのだ。

 

 たちが悪いのは何処かで意識し始めたユーフェミアに対し、嶋田は彼女の髪を撫でその感触を楽しみながらも殆ど意識していないという部分。

 

 そんな彼がちょっぴり意識したのは終了の挨拶の時、帰り際に二人きりになった瞬間、ユーフェミアからされた口付けのときだけ。

 

 それでさえ深く口付けたお陰であって、触れ合わせるだけの物であったなら全く意識していなかっただろうと推察された。

 

 

 

 *

 

 

 

『ど、どうしてこんなキスを……』

 

『この間シゲタロウと口付けを交わしたとき……気持ち良かったんです……』

 

『なるほどそれでキスを……。う、うん、気持ちいいのはいいことだが……』

 

『で、でもっ! こんなことするのはシゲタロウにだけですよっ!!』

 

『そ、そう、まあ、あれだね……キスってのは軽はずみにする物じゃないしね……』

 

 魔王「ふふふっ、様子がおかしかったのでちょっと探ってみましたが嶋田さん中々やるじゃないですか」

 

 Y「まさかこんなことになっているとはな」

 

 魔王「ですが、あれですね。もう鈍いなんてレベルを通り越して最早馬鹿の領域ですよ」

 

 Y「いや、嶋田はもともとあんな感じの男だろう」

 

 帝都内の某所。

 

 その一室にて男達が会合を開いていた。

 

 そのテーマは。

 

【嶋田君の様子がおかしいよ? こっそり調べちゃお!】

 

 という物だった。

 

 尤もスピーカーから流れる甘い言葉の数々、止めに唇の粘膜が触れ合う音を聞いた瞬間怨嗟の声に包まれてしまったが。

 

 涼しげに、かつ楽しそうにしているのは某お金を司る魔王ぐらいのものだ。

 

 後は若干名「応援しよう」と言っている者も居た。

 

 某海軍大臣を務めていた男はその若干名の一人。

 

 親友の幸せを願う彼は「こいつらを止めんといかんな」と呟き魔王から「流石はYさんです」と賞賛されていた。

 

 どうやら魔王も応援する様子だ。

 

 そして……

 

 こいつら「こ、こ、殺す……殺してやるぞ嶋田ぁぁぁぁあぁぁあっっっ!!」

 

 こいつら「死ねっ! リア充死ねっっ!!」

 

 こいつら「交通事故っていつ起こるか分からないよね? ね?」

 

 こいつら「長らく核実験してないな……南太平洋のどこかで人一人ぐらい灰になっても気付かれないだろう」

 

 

 

 Y「やはり止めないとダメだな。嫉妬で核実験なんぞされたら大変だ」

 

 魔王「やれやれ困った人達です」

 

 そんな彼らを余所にスピーカーから聞こえる甘酸っぱい会話は続く。

 

『おっと、肝心なことを言うのを忘れていた。大使補佐官就任おめでとう』

 

『ありがとう……』

 

『でも凄いな君は。今年で17なんだろう? その歳でこんな公職に就くとは』

 

『まだお飾りです。でもいつかお飾りなんて言わせないように、お姉様や皆さんに認めて貰えるように頑張りますっ!』

 

『その意気だ。手伝えることがあったら力になるよ』

 

『ええ、そのときはお願いしますね』

 

 そして更にもう一度キスを強請るユーフェミアに嶋田が「いいよ」と了承して聞こえた息遣いと水音に

 

 とうとう『こいつら』の内の一人がスピーカーをたたき壊してしまった。

 

 こいつら「聞いたなおまいら?」

 

 こいつら「聞いた……」

 

 こいつら「聞いたとも……」

 

 こいつら指揮官「これよりオーバーSSS級リア充犯っ! 嶋田繁太郎に天誅を下すっ!! 各員第一級戦闘配置に付けェェェェェェ!!!」

 

 こいつら隊員「ラジャーっっっ!!!」

 

 魔王「心の狭い人達ですねぇ。何故仲間の幸せを喜んであげないのですか」

 

 Y「こいつらに言っても無駄だ。取りあえず止めるぞ?」

 

 魔王「はあ、仕方ない。お手伝いしますよ」

 

 

 

 気勢を上げるこいつら達は、一応のところ魔王とYに鎮圧された。

 

 で、一方の嶋田はというと、そんなことがあったとは露知らず次の休日を御一緒したいと申し出たユフィと二人で会う約束を交わし、

 

 携帯番号とメルアドの交換をして、別れ際にもう一度キスを交わしていたりするのだった。

 

 

 

 おまけ

 

「シゲタロウ、今日はどこへ連れて行ってくれるのですか?」

 

「そうだなぁ。ユフィはどこに行きたい?」

 

「わたくしは……」

 

 通りを歩く一組の男女の後を追う影があった。

 

 一つではなく幾つものその影は、数分の後には地面に昏倒していた。

 

 それを行ったのはコードネームYという人物。

 

「ふう、相も変わらず邪魔しようとするとは……別に現実が充実していてもいいと思うのだが……」

 

 そう呟いたYは彼らを駆逐し終えたところで新たな人影を発見した。

 

「またか……」

 

 うんざりしながらその人物に近付いていく。

 

 だが……

 

「ん? どうやら違うようだな……」

 

 その人物は男女の邪魔をしようとしている他の面々とはどうやら関係のない人物だったようだ。

 

 それもそのはず、邪魔をしようとしているのは全員男で、件の人物は女なのだから。

 

 その人物は腰まである長い金髪をしており、先を歩く男女の女の方とほぼ同年代の少女だ。

 

 身のこなしから見ると軍属と思われる。

 

「関係ないとは思うが……邪魔させるわけにもいかんからな」

 

 彼はその少女に声を掛ける。

 

「あの二人の邪魔はさせんぞ?」

 

「きゃっ……!」

 

 後ろから羽交い締めにされた少女はそのまま人気のないところに連れて行かれた。

 

 

 

 *

 

 

 

「な、なにをする気なのっ!?」

 

 こういう状況は大体が誘拐と相場が決まってはいる物の、彼女は気丈に振る舞う。

 

「何もせんよ。ただどうして人の後を付けるような真似をしていたのか聞こうと思ってな」

 

 こんな男に負けてなるものかと思う彼女だったが、それが全くの見当違いで逆に追い詰められる事になるのであった。

 

 そう、彼の目的は彼女自身が行っていた行為についての事だったのだ。

 

「つ、付けてなんかっ」

 

 指摘されたことに後ろめたいことがあるのか少女はYから目をそらす。

 

 そんな彼女に対し追及の手を緩めないY。

 

「いや、付けていた。しっかり見ていたからな」

 

「っ……!」

 

 全部見られていたのは彼女に取って大誤算。

 

 どういう言い訳も全く意味をなさないのだから。

 

 Yは元よりこうなることが分かっていた。そりゃあ一部始終を見ていればイカサマ博打のような物だ。

 

 結局、観念した少女は事情を話し始めた。

 

 自分はブリタニア大使官の警備をしているブリタニア軍の軍人で、街を歩いていたらあの二人を偶然見掛けたこと。

 

 二人がどういう関係か興味があって面白そうだから付けていたことなど。

 

 要するにYの取り越し苦労でしかなかったことが判明したのである。

 

「失礼だけど、貴方こそ何? ユーフェミア様の知り合い?」

 

「いや、男の方の友人だ」

 

「ああ、言われてみればあの人と歳近そう……」

 

 少女は納得がいったという具合に頷く。

 

「でも貴方こそどうして後を付けていたの?」

 

「いや、実はな……」

 

 大まかに事情を話すY。

 

 話を聞いた彼女は「そうなんだ……」と不思議そうな顔をしていた。

 

「これを聞いて君はどうするんだ」

 

「別にいいんじゃないかな? そういうのって他人がどうこう言うことじゃないし……」

 

「ふう、それを聞いて安心したよ。てっきり邪魔されるかと思ったからなぁ」

 

 お互い誤解が解け、事情が分かったことで一転和やかな感じになる。

 

「でも、それだと邪魔する人達追い払うのおじさん一人じゃ大変なんじゃないの?」

 

「まあ大変といえば大変だな」

 

「う~ん……」

 

 Yの口から大変だと聞いた少女は一瞬難しい顔をして考え込むと今度は顔を上げて自分の手を打つ。

 

 何か自己解決したようだ。

 

「私も手伝ってあげましょうか?」

 

「な、なに、君がかね?」

 

「ええ、だってそういうの女として許せないし、ちょっと面白そうだしね」

 

「だが、それでは君の休みが台無しじゃないか」

 

「ううん、特にやること無いから大丈夫! それにおじさん歳考えないと、一人でやってたら倒れちゃうわよ」

 

「年寄り扱いするな! 儂はまだ60過ぎだ!」

 

「そんなこというのがもう年取ってる証拠よ。で、どう?」

 

「う、うむ……そうだな…………」

 

 確かに一人ではしんどい。

 

 追い払っても追い払っても「リア充は犯罪なんだ!」と訳の分からない屁理屈を言って諦めないのが彼らだ。

 

 コードネーム魔王もいつも空いてる訳じゃない。

 

 他は「興味ない」といった感じだ。

 

(はあ、ここは猫の手も借りたい、か)

 

「それじゃあ、君の休みが合うときに頼む」

 

「了解♪ 毎日暇だったから丁度良かったわ」

 

「軍人や騎士が暇なのは結構なことだと思うが」

 

「うん、それはいいんだけど。私まだ日本に赴任して日が浅いから休みって言ってもやることなくて」

 

「そうか。まああまり暇だと碌な事せんからな」

 

「碌な事って?」

 

「若い奴は主に博打と女だ」

 

「おじさんも?」

 

「儂は博打だけだよ。これでも強いんだぞ?」

 

「へぇ~」

 

 生真面目そうな顔の割に結構遊んでるんだという少女。

 

 そして──。

 

「あ、まだお互い名乗ってなかったわね。私はリーライナ、リーライナ・ヴェルガモン。おじさんは?」

 

「リーライナか、いい名前だな。儂は、や──」

 

 当然ながら連絡を取り合うためYとリーライナは携帯とメールを交換。

 

 この日よりYの携帯には時折リーライナから電話が掛かってくるようになった。

 

 日本に来て日が浅いという彼女に日本の良さを知って貰おうとYとリーライナの二人で出かけることも……。

 

 そしてYは気付く。

 

 嶋田を邪魔しようとしていたメンバーが減っていることに。

 

 時々変なことを言われるようになったことに。

 

 そう、つい先日まで友人の嶋田にしか言われていなかったあの言葉を、彼もまた言われ始めたのだ。

 

 

 

 

 

 “リア充死ね”

 

 



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帝都の休日 第2話

 

 

 帝都の休日2

 

 

 

 

 

 雪降り積もる師走の午後。嶋田繁太郎は長年の友人宅を訪れていた。

 

「やぁいらっしゃい。雪大丈夫だった?」

 

 彼の訪問を出迎えてくれたのは足首まである長さの淡い金髪の少年。

 

 見た感じ10歳くらいにしか見えない少年だがその実年齢は63歳という嶋田と同年代のブリタニア人男性だ。

 

 少年の名はV.V.神聖ブリタニア帝国現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの実兄である。

 

 といってもとうの昔に皇籍を離脱している為いまは唯の一般人に過ぎないが。

 

「いやぁ~まさかこんなに降るとは思いませんでした」

 

「僕もびっくりしたよ寒い寒いと思って外見たら真っ白だったから。ナナリーなんかは綺麗だとか言ってたけど年寄りの僕らにはただ迷惑なだけだよね」

 

「ええまったくです。インフラも麻痺しますし寒いし冷たいし」

 

 V.V.と同居している姪のナナリー・ヴィ・ブリタニアは15歳。まだまだ雪を楽しいとだけ感じていられる年齢だ。

 

 これが嶋田やV.V.のような歳になると迷惑にしか感じなくなる。

 

 歳を取った証拠でもあって寂しく思う物のこれだけはどうしようもない。

 

「まあとにかく上がりなよ」

 

「では失礼させて頂きます」

 

 

 

 *

 

 

 

「はいお茶」

 

「あ、どうもすみません」

 

 差し出された温かい緑茶を一口飲んで身体を温める。

 

「温まりますねぇ。やはり冬はこたつに入ってみかん片手にお茶を飲むのが最高の贅沢というものです」

 

「皆が皆シゲタロウみたいだったら商売あがったりだと思うよ。君ってさ人並みの欲とか無いの?」

 

「ありますよ。のんびり静かな老後を過ごすっていう。今すぐって言うのでは普通に休みが欲しいってところですか……まあ休み取れたからこそV.V.さんちに遊びに来てるわけですが」

 

「ああ、そういえば珍しくのんびりしてるね。去年も一昨年も『書類が書類がぁぁ!!』って言ってたのに」

 

 V.V.が言うように嶋田がのんびりしているのは実に珍しい。

 

 政界を引退してから5年経って尚書類仕事に追われ続けているのが彼の日常なのだから。

 

「なぁに簡単です。辻さんから年末年始丸々の休みを勝ち取ったんですよ」

 

 自慢気に話す嶋田にV.V.は驚き目を見開く。

 

「マサノブから休みを勝ち取ったって……それホントかい?」

 

「ええホントにホントです」

 

「どうやってさ」

 

「話は単純ですよ。要は今年中の書類と年明け分の書類を纏めて終わらせてやったんです!」

 

 3徹4徹を連続で繰り返し、ぶっ倒れる寸前まで書類と格闘し続けてクリスマス前の今この時までにやるべき仕事を終わらせてしまったのである。

 

 こんなにも頑張った理由はやはり『年末年始の大型連休が欲しい』という強い思いからだった。

 

 その仕事っぷりといったらあの辻でさえ認めざるを得ない物で、結果として普段の頑張りも併せて休日日数に色を付けてくれた大型連休を勝ち取ったのだ。

 

「なんていうか……凄まじいね。シャルルは忙しいといってもまだマシな方かルルーシュやナナリーに会いに来られる余裕はあるから……追い返されてるけど」

 

「シャルルさんは過保護ですもんねぇ」

 

「過保護なのはいいんだけど近所迷惑なんだよ。あの大声で『ぬぅわぜだぁぁぁぁ!!』って叫ぶんだから。

 

 この間なんか隣の奥さんに『いい加減にしてくださいよV.V.さんっ!! お宅の弟さんこれで何度目ですかっっ!?』って僕が怒られたんだよ?」

 

「そのあと私のところに来て『シゲタロウ! 一杯付き合えぃぃっ!!』ですもんね……」

 

「「はぁぁぁぁ~~」」

 

 V.V.と二人して溜息を付いた嶋田はお茶を一口飲んで部屋を見渡す。

 

 いつも代わり映えしないV.V.の部屋には彼の趣味であるテレビゲームやパソコンなどが置いてあった。

 

 最近『魔物狩人』とかいうオンラインゲームに嵌っているらしく、夜遅くまでゲームをしてあまり睡眠を取っていないらしい。

 

 それでも体調を崩さない辺り流石は不老不死といったところか。

 

 

 

 *

 

 

 

「それでこの間キョウジにくぎみー主義の啓蒙に付き合えって言われてアキバに、って話聞いてる?」

 

 先週の日曜日にゲーム友達である夢幻会きっての邪気眼の使い手、富永恭次と秋葉原に行ってきたことを話すV.V.は、あさっての方を向いている嶋田に気付いて話を中断した。

 

 彼の視線を追ってみるとそこに有ったのは毛糸で編まれた何か? 

 

 何か? というのは何かよく分からない毛糸で出来た布きれでしかなかったからだ。

 

「なんです? このボロボロの靴下みたいな布きれは?」

 

「ああ~それね。それユーフェミアが編んでる物だよ」

 

「ユフィが?」

 

「うん。何かよく分からないけどここ暫く公務が終わったその脚で家に来てナナリーに教わりながら編んでるやつ」

 

 その赤い毛糸で編まれたボロボロの何かは嶋田が最近知り合い仲良くなったブリタニアの第三皇女ユーフェミアの物であるらしい。

 

「何だろうねそれ。凄く真剣に編んでるみたいだよ。ナナリーにも『叔父様は向こうに行っててください』って部屋から追い出されるくらいだからユーフェミアの大切な物みたいだけど」

 

(ユフィが真剣に編んでる物か)

 

 どう見ても何かに使えそうにはないボロボロな毛糸の何か。

 

 嶋田、V.V.共にそれが何か分からない二人が鍋敷きだのなんだのと好き勝手なことを言っていたところ──「ただいまV.V.叔父様」とウェーブのかかった栗色の髪の少女が姿を現した。

 

 ナナリー・ヴィ・ブリタニア。V.V.の姪である。

 

「ああお帰り。シゲタロウ来てるよ」

 

「シゲタロウさんですか?」

 

 そう言って彼の方を振り向くナナリーの後ろからもう一人、彼女より背が高い年上の少女が顔を覗かせた。

 

「こんにちは叔父様今日も……」

 

 ナナリーの後から入って来た鮮やかな長い桃色の髪の少女はV.V.と一緒にこたつに入っている嶋田を見て「あ!」っと小さな声を上げる。

 

「シ、シゲタロウっ!?」

 

「こんにちはユフィ」

 

「ど、どうしてここに?」

 

「今日は休みだからねV.V.さんちに遊びに来てたんだよ」

 

「そう、ですか……」

 

 挨拶をして理由を話すと何故か彼女は困ったといった雰囲気を醸し出した。

 

 会えて嬉しいという声とどうしてこのタイミングでという複雑さが入り混じったような声だ。

 

 それを察知したナナリーは「すみませんが叔父様もシゲタロウさんも出て行ってください」と言い出しこたつから出たくないと渋る二人を部屋から追い出してしまった。

 

 追い出された二人は「なんだろうね?」と言い合って別室に移動してストーブを焚く。

 

「いつもこんな感じなんですか?」

 

「いやいつもはこんなに問答無用じゃないんだけど……ユーフェミアの様子もおかしかったし」

 

(確かにユフィ変だったな)

 

 いつもなら顔を合わせると周りの空気も気にせず二人だけの世界に入ってしまう嶋田とユーフェミアだが、今日は彼女の方から拒絶しているように見えたのだ。

 

 それが少し寂しく。また悲しかった。

 

 尤もそれは彼女の方も同じだったりするのだが……。

 

 

 

 *

 

 

 

「シゲタロウに悪いことをしてしまいました……」

 

 そう言ってしゅんと項垂れるユーフェミア。

 

 本心では嶋田とお話をしたかったし側に居たかった。

 

 でも今日はダメなのだ。いま自分が作っている物を彼に知られたくないから。

 

「仕方ありませんよユフィ姉様。当日まで内緒にして喜んで貰うのでしょう?」

 

「ええ、でもその為にシゲタロウとお話しできないのは……辛いの……」

 

 ここ最近、嶋田と出会って以降のユーフェミアはとにかく彼のことばかり考えているのだ。

 

 今日は会えるか? 会ったらどんな話をしようか? 彼と話したい。彼と会いたい。

 

 息が詰まりそうになるほどきゅんとなる彼女の胸は、彼が側に居るときだけその苦しさから彼女を解放してくれる。

 

 それなのに今日は自分から拒絶するような態度を取ってしまった。

 

 嫌われてしまったら愛想を尽かされたら。

 

 不安が不安を呼び落ち込む彼女にナナリーは「その分いっぱいいっぱいお話しすればいいじゃないですか! その為にも頑張って編みましょう!!」と励ましの言葉を掛ける。

 

 彼女はその言葉を支えにして無理矢理自分を鼓舞して毛糸の切れ端を編み始めた。

 

 

 

 それから数日後。

 

 帝都の中心部にある繁華街にて寄り添い歩く壮年の男性と桃色の長い髪の少女の姿があった。

 

 少女に寄りかかられている男性の首にはボロボロでみっともない赤い毛糸の何か。

 

 通りを歩く誰もがそれを首に巻いた男性を不思議そうに思い振り返っている。どうして態々そんなボロ切れを首に巻いているのかと。

 

 しかし男性はそんな周囲の反応を一向に気にしてない様子で隣に居る少女と腕を組んで歩き続けていた。

 

 誰にどう思われようとこの赤い毛糸は自分に取っての宝物。そう思う彼には嬉しくはあっても恥ずかしいという気持ちはないのだから。

 

 彼はこんなに素敵なプレゼントをくれた少女に「ありがとう」と言って微笑んでいる。

 

 そして自分は何も用意できて無くて済まないとも……。

 

 無論少女にとってはこの聖なる夜を彼と二人で過ごせることが何よりのプレゼントであり、掛け替えのない物なのだから「もう貰っていますよ」と言うだけだったが。

 

 こうして柔らかい雪が降り積もる帝都の聖夜を歩む二人は、やがて人混みの中へと消えていった。

 

 

 

 尚、余談ではあるが壮年の男性と桃色髪の少女と同じようなカップルの姿が同時刻に目撃されている。

 

 そのカップル、コードネームYという生真面目そうな顔の坊主頭の男性とRという長い金髪のブリタニア人の少女はあるホテル街から出てきたらしい。

 

 彼らがそこで何をしていたのかは分からないものの、彼らもまた帝都東京に訪れた聖夜を共に楽しんでいたのであろう。

 

 メリークリスマス。

 

 



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帝都の休日 第3話

32 :帝都の休日 第3話:2012/12/29(土) 19:11:40
いつの間にかギアススレが出来てたようなのでこちらに投下します

提督たちの憂鬱とギアスクロス
嶋田さん独身設定
嶋田さんロマンス
平和その物
性格改変注意
改訂版2話の続き



 

 

 

 

 帝都の休日 第3話

 

 

 

「ここに来るのも久しぶりだな」

 

 かつて自身が仕事をしていた場所である総理官邸。

 

 もう5年以上も前にここで書類の山と死闘を演じていたのも今となっては良い思い出だと振り返る元総理の名は嶋田繁太郎。

 

「そうですねぇ。我々の青春の舞台でしたからねぇ」

 

「いいえ、それだけは断固違うと言っておきます!」

 

 辛いなりにいい思い出といっても決して青春とは言えない毎日だった。

 

 元より彼が目指していたのは前世、前々世と同じく平穏無事で静かな日々。

 

 望んでいるのと全く違う人生を青春とは言わない。というか言いたくない。

 

 それに減ったと言っても書類から完全に逃げられたわけでもないため、彼の青春はもう少し先になりそうであった。

 

「平穏で静かな老後が貴方にとっての青春ですか。前から思ってましたが何だか世捨て人みたいですねぇ」

 

「ほっといてくださいっ!」

 

 二度の人生を終え三度目になるというのに未だ叶えられぬ理想郷目指して今日も頑張るのだ。

 

「二度目がダメなら三度目もダメっていうでしょう。いい加減諦めたらどうですか?」

 

「三度目がダメなら四度目です! 私の夢に終わりはないんです!」

 

 これ以上この手の論議をしていても平行線を辿るだけ。

 

 それこそ前世で何度も遣り取りしてきて決着を見ないのだからもう無理だ。

 

「ま、要するに人は簡単には変わらないってことですか」

 

「そうです。次もそのまた次も平穏で静かな人生目指して歩きますよ」

 

 散々問答をしていた今や嶋田の相棒とでも言うべき存在、辻正信はそこで言葉を切り話題を変えることにした。

 

 同じく嶋田からも話題を変えようと口を開いた。

 

「しかし枢木さんも態々引退した私たちに旧年世話になりましたの挨拶もないでしょう? 別に何もお手伝いしてないんですから」

 

「つまりそれが次代の方々や我々の存在を知る人達の認識ということなのでしょう」

 

 巷で囁かれている噂があった。

 

 曰くこの大日本帝国には表の政治を司る為政者とは全く別の闇の支配者が存在する。

 

 その闇の支配者達こそが真なる絶対権力者であり、表にいる政治家達を動かしている。

 

 そんな荒唐無稽な噂だ。

 

「三流ゴシップ紙の読み過ぎですよ。我々は自分たちに出来る範囲でこの国を豊かにしようと頑張っただけなのですが」

 

「それでも急速な発展が奇跡みたいに思えたのでしょうね。そしてそんなことが出来るのは超越的な力を持った闇の権力みたいに感じたのでは?」

 

 それを成し遂げた前世代以前の政治家や技術者、経営者達こそがその闇の支配者で、表舞台から姿を消した今でも各界に絶大な影響力を持ち操っていると。

 

 そのせいか夢幻会の存在をある程度知っている現首相の枢木ゲンブですら自分たちとは違う存在みたいに見ているふしがある。

 

「転生者という意味では違うのかも知れませんが……」

 

「諦めましょう。前世でも散々言われてたじゃないですか」

 

「辻さんみたいに開き直れないんですよ。何せご存じの通り中身は小市民なんですから」

 

 とにかくそんな訳で挨拶に来るという枢木首相に「総理にそんなことはさせられない」と自分たちから出向いたわけである。

 

 

 

 *

 

 

 

 応接室に通された二人は備え付けのソファに座って待っていた。

 

 なんでもブリタニアの外交官の急な訪問に話が長引いているとのことだ。

 

 案内した人間にそちらを優先して欲しいからと伝えて待つことにした二人はまた先ほどの続きを話していた。

 

「山本のところにも来たようですよ軍関係者が」

 

「難儀な話ですねぇ。皆それぞれ隠居生活を始めているというのに」

 

「辻さん私の隠居生活は?」

 

「今暫くのお預けとさせて頂きます。とりあえずは年末年始の大型連休で我慢してください」

 

「はぁぁぁ、わかりましたよ……」

 

 待つこと十分。

 

「会談なら1時間くらい遅れるかも知れませんね」

 

「別に良いでしょう。どうせ御自宅に帰られてもこたつに入ってこたつむりなんですから」

 

「よく分かりますね」

 

「寒いですから。ああ、良ければこれ舐めます?」

 

 そう言って辻が差し出したのは四角く平べったい缶だった。

 

 表面には色とりどりのキャンデーの絵が描かれたそれは。

 

「トクマ式ドロップス……また懐かしい物を」

 

 昭和の子ども達がよく口にしていたカラフルな飴が詰まったお菓子。

 

 今でも普通に売られていて小さい子などが買って食べているそれは前世でもその前でも食べたことがある。

 

「どうせ辻さんの事だからただのドロップじゃないんでしょうけど」

 

 彼が出した以上ただの飴でないことは分かるという物。

 

 だが進めてくるぐらいだから悪い物ではないのだろう。

 

「ご明察。実はこのドロップ、激務に疲れている人達の要望で試験的に作った物です」

 

 なんでも仕事仕事で夢の内容まで仕事になるからせめて良い夢が見たいという声に応えて夢幻会メンバーの研究者が作った物らしい。

 

「例えば宝くじが当たったらいいなとか、こういう人生だったらよかったのにとか思う事ってありますよね? それら有り得たかも知れないことを夢という形で見せてくれるという素晴らしい飴なんです」

 

「怪しさ満点ですね……」

 

「まあ違う人生、それも願望や夢が叶ったという世界を垣間見られると考えてくれればいいんです」

 

「ということは、私が見る夢の場合は平穏で静かな老後を送っている夢ですか?」

 

「おそらく。持続時間はせいぜい五時間くらいでその間に睡眠を取ればいい夢を見られますよ。但し人によっては効果無しなのでご注意ください」

 

「人によってはただの飴か」

 

 怪しいさ抜群ではあった物の辻も試したというので食べてみる。

 

 彼が食べた飴の色はピンク色。何となく彼女の髪の色を思い出したのでそれを選んだのだ。

 

「ん~、甘いですね~」

 

「飴ですから。あっ、私はちょっと失礼しますよ」

 

「どうしました?」

 

「お手洗いです……寒くなると近くなって困ります」

 

 

 

 辻がトイレに行ってしまったことで話す相手が居なくなった嶋田は、うつらうつらと船をこぎ始めた。

 

 飴に睡眠効果は無いのだがこの部屋の室温が丁度いい具合に眠気を誘ってくるのだ。

 

「う~んダメだ……人を待ってて寝ては……」

 

 襲い来る眠気に抗うも暖かい部屋の空気は彼の意識を夢の世界へ導いていく。

 

 睡魔と闘うこと数分、やがて抗いきれなくなった彼はソファに座ったまま頭を垂れるようにして静かな寝息を立て始めた…………。

 

 

 

 *

 

 

 

(う、ぅぅ……なんだ、ここ……?)

 

 嶋田が気付くとそこはなにやら霞がかったもやの中だった。

 

 周りには何もないどこまでも続くもやもや。

 

 歩こうとしても脚が思うように動かず、ビデオのコマ送りのようにゆっくりとしたスピードになってしまう。

 

 当然ながら走れもしない。身体が全く言うことを聞かないのだ。

 

(どう……なってるんだ?)

 

 自分が何故此処に居るのか? ここが何処なのか彼は全く分からない。

 

 夢というのは基本見ている本人にはそれが夢だと分からないもの。

 

 例外的に気付くことはあれどこの時の彼は気付かなかった。

 

 そんな何も状況が分からない彼が自分では走っているつもりでも実際はスローモーションの動きで歩き続けていたところ、急に視界が開けた。

 

(なんだ?)

 

 上を見上げると青い空が広がり、周りを見渡せば西洋風の建物と屋台が見える。

 

 何かお祭りをしているようで庭らしき場所にはあちこちに飾り付けがされていた。

 

(これは……学校……学園祭か……)

 

 薄い黄色の制服を着た女子高生や上下黒一色の制服を着た男子高生が友達同士、また男女のカップルと連れだって楽しそうに歩いている。

 

(あの制服は)

 

 見たことのある制服だった。

 

 友人の息子さんや娘さん、その友人達が着ていた制服と同じ物だ。

 

(じゃあここはアッシュフォード学園か)

 

 彼らが通うブリタニアの名門アッシュフォード家が経営する私立校。

 

 どうやらその学園祭のようだった。

 

(しかしなんだって此処に自分が来てるんだろう?)

 

 もやの中にいたと思えばアッシュフォード学院に。

 

 訳が分からず戸惑う嶋田だったが周りの賑やかな風景にふと遠い昔、学生だった頃を思い出してお祭り気分に浸ろうと歩き始めた。

 

 不思議なことにもやの中を歩いていた時とは違い普通の速度で歩けている。

 

 これは助かる。色々見て回りたいのにあの速度ではとても全てを見られない。

 

 そう思った彼が立ち並んでいる模擬店の間を心躍らせながら歩き見て回っていると何処かで聞いたような柔らかく、それでいて強い決意を感じさせる大きな声が聞こえてきた。

 

 

 

 ──神聖ブリタニア帝国エリア11副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアです──

 

 それは最近になって彼の日常の一部となった心優しい少女の声。

 

 時々家に遊びに来たり、友人宅に言ったときに顔を合わせたり、はたまた二人きりで出掛けたりする歳の離れた仲良しの少女の声だった。

 

 ──今日はわたくしからこのエリアに住む皆様にお伝えしたいことがあります──

 

(はて? エリアとは何だろうか?)

 

 ──わたくしユーフェミア・リ・ブリタニアはフジ山周辺に行政特区日本を設立することをここに宣言致しますっ! ──

 

(行政特区日本? ひょっとしてこれは……コードギアス……?)

 

 先ほどから彼女の口より飛び出す聞き慣れない単語。

 

 それを聞いて漸く思い出したのは嶋田繁太郎が神崎博之として生きていた頃の原初の記憶の中にある物語の名前。

 

 三度目の人生を送る今の世界はその物語によく似た世界なのだ。

 

 だからこそ彼はユーフェミアを知っていた。

 

 だが同時に物語の名前とSF戦争物という部分しか知らない彼には内容までは分からない。

 

 どういう人物が出てきてどういう物語を紡いでいくのか。

 

 せいぜいが日本はブリタニアと戦争になって負けたらしいということを知っているくらいだ。

 

 ──この行政特区日本ではイレヴンは日本人という名前を取り戻すことが出来ます。イレヴンの規制、ならびにブリタニア人の特権は特区日本には存在しません! 

 

 ブリタニア人にとってもイレヴンにとっても平等な世界なのです!! ──

 

 これはまたとんでもないことを言いだした物だと彼は思った。

 

 聞いたところ占領された日本人はかなり不平等な環境に置かれているのだろう。

 

 それこそ前世界での元アメリカ人や大日本帝国とその勢力圏以外の有色人種達のように。

 

 これはそういう体制なのだから仕方がないし、これを聞いたところで思うこともない。

 

 世界とは、国とはそういう物なのだから。

 

 だが今ユーフェミアが言ったことはその世界、国への挑戦とも取れる言葉だ。

 

 下手をすれば国家反逆罪物の危険な一言。

 

 それをいとも容易く言ってのけたのだ。

 

(はは、凄いじゃないかユフィ)

 

 嶋田はそんな彼女に賞賛の言葉を贈る。

 

 誰もが口に出来るわけではない言葉を言ってくれた彼女の強さに……

 

(ん……? なんだ?)

 

 そんな彼女の勇姿を見てやろうと声のする方へと歩き出したとき、急に辺りがもやに包まれて何も聞こえなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 折角の彼女の勇姿を見られなかった嶋田が悔しそうにしていると、またもやが晴れて視界が明るくなった。

 

 視界に映るのは広い何処かの競技場を思わせる場所。

 

 おそらく普段は何らかのスポーツなどが行われているのだろうそこには大きな舞台と数多くの兵士、儀仗兵の姿。

 

 スタンドの観客席には明らかに日本人と思われる人達が所狭しと詰めており、空いている席を探すのが不可能と思われるほどの満席だった。

 

(ここは何かの式典会場か?)

 

 それらを一通り見渡した嶋田は舞台の中央、貴賓席と思わしき席に目を向ける。

 

 顔に傷のある強面の男や古くから政治を動かしていそうな老人など、高そうな地位にある人達が顔を連ねる中に彼女の姿はあった。

 

(ユフィ……ドレス姿か……。似合ってるなぁ)

 

 鳥の羽を連想させる薄いピンク色の生地と、その下にある純白の生地の二つの色で作られた社交界にでも出てきそうなドレスを着たユーフェミア。

 

 西洋文化を持つ帝国の皇族なのだから普段はこんな服を着ているのだろうか? 

 

 生憎と私服とタイトスカートの公務服姿しか見たことがない。

 

(初めて見るな。いや、馬子にも衣装と言うけど本当に綺麗だ)

 

 本人が聞いたら怒りそうな感想を抱く彼は、これこそがユーフェミアの提唱する行政特区日本の式典会場なのだなと思った。

 

 数多くのざわめきと雑音に一切の声は聞こえなかったが体制への挑戦第一歩にしては上出来だ。

 

(おめでとうユフィ……)

 

 そしてこれから始まる式典を特等席で見てやろうと舞台中央に向けて歩き出すと──

 

(おい! いいかげんにしろよ!!)

 

 再度もやが掛かって彼の歩みは邪魔されてしまった……。

 

 

 

 *

 

 

 

 そのもやもまた直ぐに晴れたが今度は今までと違いユーフェミアの顔がアップで映り、それ以外の全ては霞に包まれたままというおかしな光景だった。

 

(おいおい、ずいぶんと顔色が悪いじゃないか)

 

 アップになったユーフェミアの顔は心なしか青白くなっており、薄い紫の瞳の目の下にはうっすら隈が出来ている。

 

 これは彼自身何度も見たことがある顔だ。

 

(仕事のしすぎだよ……)

 

 そう三徹四徹をした日によく見る表情。

 

 自分の顔だけではなく何人も見てきたし、現在進行形で見ている死ぬんじゃないかと思うくらい生気のない顔。

 

 どうやら誰かと話をしているらしいが相手の声は全く聞こえない。

 

 彼女の声も良く聞き取れなかったが辛うじて聞こえた部分もあった。

 

 ……式典は……どうなりましたか……? 

 

 

 

 ……日本人の皆さんは……喜んでくれた……? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “私は……上手く出来た……? ”

 

 

 

 

 

 消え入りそうな小さな声で呟くように言う彼女はもう披露で限界なのだろう。

 

 頑張りすぎはよくない。早く寝た方が良い。そう考える彼だったがどういう訳かどの場面でも声が届かないし誰も自分の存在に気付かないのだ。

 

 だが辻の話ではこうと決めたその一点に於いてはどこまでも頑固だと聞いていたし、知り合ってからそんなに長くはなくとも(そうだろうな)と思う場面は何度か見ている。

 

 だからこの際聞こえなくてもいい。

 

 話をしている誰かが伝えてくれるだろう。

 

 そんなことを考えながらも呟いていた。

 

「行政特区日本は……君の夢の第一歩は大成功だったよ」

 

 式典に詰めかけた超満員の観客はみんな笑顔だった。

 

 多分それを見ることなく過労で倒れてしまったのだろう。

 

(みんなの笑顔、君も見れたら良かったのになぁ)

 

 その笑顔だけできっと元気になれるはずだ。

 

 人が幸せなのを心から喜べる優しい君ならばきっと。

 

 ……よかった…………

 

 安心したように小さく呟いた彼女はまだ何かを話しているようだったが生憎とここで声が聞こえなくなった。

 

 話をしている相手は相変わらず誰だか分からない物の、こんな疲労困憊な彼女の側に付いているくらいだから余程親しい人物なのだろう。

 

 お姉さんのコーネリア皇女かもしれない。または腹違いの兄妹であるルルーシュ君やナナリーさんかも知れない。

 

(ひょっとしたら恋人かな?)

 

 だとしたらこれから大変だぞ恋人君。

 

 姿の見えない恋人かも知れない人にエールを送る嶋田。

 

 ふと彼女を見るとこちらに、いや大切な誰かに向けて手を伸ばしている。

 

 その手を握るのは男らしい手だ。やはり恋人なのかも知れない。

 

 そしてほんのひととき手を握り、大切な人と言葉を交わした彼女は──行政特区の成功が余程嬉しかったのか。

 

 

 

 

 

 一筋の涙を流して……。

 

 

 

 

 

 ゆっくりと目を閉じた……。

 

 

 

 *

 

 

 

「ん……? んん~っ」

 

 もやに包まれて気が付くと思い切り頭を下げた体勢だった。

 

 自分の膝が視界一杯に映っているので間違いないだろう。

 

「うう~んっ、すっかり寝入ってたみたいだな……」

 

 嶋田は前屈みに折り曲げていた身体を背伸びをするように伸ばしてほぐす。

 

「おや? お目覚めですか?」

 

 ふと隣を見ると先ほどお手洗いに行くと言って出て行った辻が本を片手に座っていた。

 

 まあトイレに行ってただけなのでもう戻っていても不思議ではないが。

 

「すみません、寝るつもりは無かったんですがこの部屋丁度いい具合に寝やすい温度なので」

 

「別に寝ててもいいですよ。枢木総理が来たら起こしますから」

 

「いえ、もう目が冴えて逆に眠れそうにないです」

 

「それならいいのですが」

 

 時計を見るとこの部屋に入ってそろそろ四十分といったところだった。

 

「ところでどうでした? いい夢見れましたか?」

 

 辻は嶋田が食べたドロップの感想を求める。

 

「ええまあ。ただ自分の夢ではなく人の夢でしたが」

 

「人の夢? (そんな効果ないんですけどね……副作用でしょうか?)」

 

「ええ。ほらユフィ……ああ、ユーフェミア殿下の夢でした」

 

 愛称で呼びかけて慌てて言い直した彼だったが辻が自分たちがユフィ、シゲタロウと呼び合っているのを既に知っていることを思い出してバツの悪い顔になる。

 

「構いませんよ普段の呼び方で。大切な御友人なんですから(口付け交わして意識し合ってるのも知ってはいるのですが……馬に蹴られたくありませんからね)」

 

「は、はぁ」

 

「で、ユーフェミア殿下がどうされたのです?」

 

「え、ああ。それですが見た夢というのがおそらく『コードギアス』に極めて近い内容の夢でしてね」

 

「ギアスにですか」

 

「ええ。それでまあ体制に挑戦するようなこと、行政特区日本なんてものを完成させてしまったんですよ」

 

「行政特区日本……」

 

「彼女自身は式典の最中に多分過労で倒れたのでしょう。最後の場面では目の下に隈作って顔色悪くして必死に睡魔と闘ってる様子でしたが。いや、無茶しすぎです」

 

「……」

 

 嶋田がそこまで夢の内容を語ったとき辻は黙り込んでしまった。

 

 彼は何か自分は気に触ることでも言ったのだろうかと不安になる。

 

 だが思い当たるふしはない。ただユフィの“幸せな夢”の内容を語っただけなのだから。

 

 口を閉ざした後は何もしゃべらなくなってしまった辻に居心地の悪くなった嶋田は天にも祈るような気持ちで待ち人を呼んだ。

 

(な、なんか空気悪くなっちゃったよ、頼みます枢木さん早く来てくださいっ)

 

 そんな彼の思いが天に通じたのか応接室の重厚な扉が外側から開かれた。

 

 

 

 *

 

 

 

 入って来たのは大柄の厳つい雰囲気を持った男。

 

 現大日本帝国宰相、枢木ゲンブである。

 

「嶋田さん、辻さん、お待たせして申し訳ない」

 

「仕事の方が最優先ですからね。お忙しいようですからまた後日に伺おうかと思ってました」

 

「いや、もう終わりましたので大丈夫ですよ。実はブリタニアの外交担当者に大使補佐の皇族の方が同行されておりまして、それで話が長くなってしまったのです」

 

「大使補佐というと」

 

「ええ。ご存じかと思われますが第三皇女のユーフェミア殿下であらせられます」

 

(やっぱり。これはあれか、以前言っていた勉強の一環かな?)

 

 彼女は人の役に立つ仕事がしたい。国のお役に立ちたい。

 

 そう無理を言ってコーネリアの補佐に付いている。その勉強として今度もまた無理を言ったのだろう。

 

 そんな風に考えていた彼の耳に不意打ち気味に聞こえたのは

 

「あの、失礼します……」

 

 優しい印象を抱く穏やかな声だった。

 

(え……こ、この声は……)

 

「すみません……わたくしが無理を言って引き留めていたのです」

 

 枢木に続いて部屋に入ってきた人物は彼がよく知る相手。

 

 膝裏まである長い桃色の髪をポニーテールに纏めた、鳥の羽を思わせる薄いオレンジのフレアスカートに白のタイトスカート姿の少女。

 

 そして薄い紫の瞳にあどけなさの残る可憐な容姿。

 

 神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアその人だった。

 

「な、なぜユーフェミア殿下がここに?」

 

 今日は飽くまでも枢木に会いに来たのであってユーフェミアに会う予定はない。

 

 そもそも彼女が総理官邸に来ているとは思わなかったし、それにしてもここに来る理由はないのだから。

 

「いや、偶然にも嶋田さんの話題が出ましてな。殿下が親しくお付き合いをされているということでしたので今日嶋田さんがお越しになられている事をお話ししたところ……」

 

「付いてこられたと」

 

「ええ」

 

「はぁぁ~、ユーフェミア殿下、公私混同はお避けください。仮にも貴女はブリタニアの皇族なのですよ? プライベートと公式の場は違うのですから」

 

 注意する嶋田にしゅんと項垂れるユーフェミア。

 

 まさかこんな他人行儀な話し方をされるとは思わなかったのだ。

 

 嶋田は前世も含めると政治家人生は60年前後に及ぶ。

 

 公私混同は絶対的に避けるようにしているのだ。

 

 それを17の少女に求めるのも酷なことなのだがこればかりはしっかりして貰わなければ困る。

 

(全く持って困ったお姫様だ。ま、あの夢でも体制に挑戦するような破天荒ぶりを発揮していたからな)

 

 ふと思い出すあの夢の内容。

 

 日本人が普通に暮らせる行政特区を作り上げたユフィ。

 

 式典の最中に倒れただろうユフィ。

 

 特区成功に感極まって涙を流しながらゆっくりと目を閉じたユフィ。

 

 夢は直ぐに忘れる方なのにまるで現実のように思い出せてしまうその光景。

 

(君はどんな可能性の世界でも無茶をするんだろうな。俺が平穏を求めるように君は人の笑顔を求める……難儀な物だねお互いに)

 

 そう思い自然に笑みがこぼれる嶋田。

 

 だがその瞬間彼女はまた公私混同をしていたのだ。

 

「シゲ……タロウ……?」

 

 何故か自分を見つめたまま呆然としている彼女に嶋田は

 

「今申し上げたばかりでしょう? 公私混同は」

 

 そう再度彼女に注意しようとした。

 

 そんな彼にユーフェミアはまるで緊急事態が起こったとでも言わんばかりの心配そうな顔をして駆け寄ってくる。

 

 心から心配する彼女の表情を見て困惑してしまう。

 

 何故? どうして急にそんな顔をするのか? 

 

「ど、どうされましたっ?!」

 

 気付けば枢木までもが大変だと言わんばかりに狼狽して居るではないか? 

 

「……」

 

 ただ一人冷静なのは辻くらいな物だ。

 

 その彼でさえ嶋田の顔をジッと見つめていた。

 

「な、なんですかみんなしてっ」

 

 状況を飲み込めない。

 

 何が何だか分からなかった彼は戸惑いの声を上げる。

 

 自分一人が分かってないようなのだ。

 

 そんな彼に声を掛けたのはやはり彼女だった。

 

 

 

「なぜ…………泣いているのですか?」

 

 手を伸ばしたユーフェミアは嶋田の頬を触り、彼だけが分かっていなかった目からこぼれ落ちる雫を拭った。

 

(な、泣いてる? 俺が? 何で……?)

 

「どこか、痛いところでもあるのですか……?」

 

 止め処なく溢れる涙が彼女の手を塗らしていく。

 

「い、いや……どう、して……なみだが…………」

 

 分からない。全く持って分からない。

 

 どうして自分は泣いているのか? 

 

 どうしてユーフェミアの顔を見ると泣いてしまうのか? 

 

 痛くない。どこも痛くないのに涙が止まらない。

 

「シゲタロウ」

 

 ふいに暖かい温もりが困惑する彼を包んだ。

 

 目の前で彼の涙を拭っていたユーフェミアが彼の身体を優しく抱き締めたのだ。

 

 彼の身体をかき抱くようにしてその背に回した手で優しく撫でる。

 

「ユ、フィ」

 

「わたくしは……わたくしは此処に居ます」

 

 暖かい温もりに包まれた彼もまたそれを与えるユーフェミアを抱き締める。

 

 抱き締めた手で彼女の髪を何度も撫でる。

 

 その柔らかな身体の温もりを感じ続ける。

 

「シゲタロウの側に居ます」

 

 互いを抱き締め合ったまま動かなくなった嶋田とユーフェミアを眺めていた辻は音もなく立ち上がると枢木に目配せした。

 

 いまはお二人だけにしてあげましょう。目で語る彼に心得たと頷く枢木。

 

 未だ抱き合っている二人を残し彼らは静かに部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 ──わたくしは、ずっとシゲタロウの側に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暖かい…………お日様のように暖かく、花のような香りを持つ彼女は…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かにいま…………此処に居た。

 

 



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帝都の休日 第4話

提督たちの憂鬱のキャラがギアス並行世界に転生。
性格改変注意。
嶋田さんロマンスで独身設定のち・・・
平和だけど色々ある。
R15。
時系列的には枢木総理の悩みの少し前。
恋話率100%。



 

 

 

 帝都の休日 第4話

 

 

 

「…………」

 

 都内某所。とあるビルの一室。

 

 一体どれだけあるかも分からない書類の山。

 

 その一枚一枚に目を通してはサインと判を押していく男は、苛立たしげに頭を掻き毟りながら手を止めず作業に没頭していた。

 

「~~ッッ」

 

 だが、一向に仕事が捗らないのだ。

 

 いつものペースと比較すれば凡そ三分の、下手をすると四分の一近く遅れている。

 

 体調が悪い訳ではない。風邪も引いてないし熱もないのだから。

 

 ここしばらくは定時で終わっているため睡眠もしっかり取れているので寝不足でもない。

 

 それに、たとえ熱があったり、寝不足だったりしたところで、ここまで仕事が遅くなる事はないだろう。

 

 前世からずっとやっている仕事だ。書類整理に付いては職人だと思えるほど自信がある。

 

 そこらの経営者には負けないという自負も。

 

 つまり今の自分は一切疲労が無い体調万全の状態で、本来ならば余裕を持って書類を捌けている筈なのだ。

 

「ああ~~くそッッ!!!」

 

 ではなぜこんなにも仕事が遅れてしまうのか? 

 

 それは目を通した書類の内容が全く頭に入ってこないからだ。

 

(ダメだ……どうしても彼女の顔が……ッ)

 

 その原因となっているのはある一人の少女の存在。

 

 彼──嶋田繁太郎が都内の公園で出会い仲良くなった、歳の離れた友達である少女の事が頭から離れないのだ。

 

(ユフィ……)

 

 少女の名はユーフェミア。ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 

 日本の同盟国、神聖ブリタニア帝国の第三皇女。

 

 在日ブリタニア大使である姉のコーネリアの補佐をしている件の皇女の姿がずっと浮かんでいて、書類を読んでも頭に入らない。

 

 今まで何度も遊びに出掛けたり、彼女が家を訪ねてきたりして二人の時間を過ごしていたが、こんな事は初めてだった。

 

 こうなったそもそもの原因に付いては間違いなくあの時の事だろう。

 

(やっぱり、あの夢なんだろうな)

 

 夢。

 

 去年の末、現総理の枢木ゲンブに会うため首相官邸を訪れていた際。

 

 応接室で待っていたときに良い夢が見られると辻から貰ったドロップ。

 

 それを食べて見た夢。

 

 自分の知らないユフィが占領された日本に於いて、平等で差別のない、みんなが笑顔で暮らせる世界を作るという夢。

 

(どうしてあの時……俺は泣いたんだ?)

 

 その夢を見た後に顔を合わせたユフィの前で涙を流してしまった。

 

 あんなに幸せな夢を見たというのに。

 

 夢の中でイレヴンと呼ばれていた日本人達はみんな笑顔だったのに。

 

 その笑顔をを作り出し、一歩を踏み出したユフィの、優しくて幸せな夢だったというのに。

 

 夢の主人公である当のユフィを見て泣いてしまった。

 

 あの時、何故かとても悲しくなったのを、今でもはっきり覚えている。

 

 泣いた自分を抱き締める彼女の温もりを感じて更に涙が溢れ出し、漸く泣き止んだ後にはもう彼女の顔をまともに見れなくなっていた。

 

 それ以降、以前から感じていた彼女に対する何かが爆発的に大きくなっていて、その感情の正体に気付いたあの日以来、自分は彼女を避けている。

 

 極力会わないようにする為、辻に「もっと仕事をくれ」などと普段なら絶対に口にしないような事まで言ったり。

 

 携帯に掛かってくる彼女からの電話にも「仕事中だから」の一言で済ませた後は一日中取らなかったりと露骨なまでに……。

 

 そうやって避ければ避けるほどユフィの顔や姿がちらつき、(今何をしているのだろうか?)とか(俺の態度に怒っているだろうな)とか考えて仕事が手に付かなくなってしまう。

 

(あんなドロップ食べなければ良かった……)

 

 食べなければいつもと同じ毎日を過ごせていた筈だ。

 

 いつもと同じように過ごし、彼女と笑い合えていた筈だったのだ……。

 

 

 

 *

 

 

 

「嶋田さん、携帯鳴ってますよ」

 

 終わった書類を取りに来た辻がマナーモードにしていた自分の携帯が震えているのを指摘する。

 

 相手が誰かは分かっているから出るつもりはない。

 

「仕事中ですから」

 

「…………」

 

 随分と長い着信は凡そ60秒ほどで切れたが、間を置かずにまた着信を示すように携帯が震えた。

 

「嶋田さん携帯が──」

 

「仕事中だって言ってるじゃないですか!」

 

「…………」

 

 しつこい着信と、同じ事を繰り返して言う辻に思わず声を荒げる。

 

 そんなつもりはないというのに……。

 

 だが辻が怒った様子は無く、こちらを見た後、机に置いてあった携帯に目を移した。

 

「失礼」

 

 すると彼は何を思ったのか未だ震えていた携帯を取り上げて勝手に出てしまうではないか。

 

「ちょッ! 何を勝手にッ!」

 

 慌てて取り返そうとするも虚しく、彼は画面に映る着信相手の名前『ユーフェミア』というのを確認して通話ボタンを押してしまった。

 

「もしもし」

 

『あっ……え? あの、間違えまし──』

 

「間違えてませんよ。嶋田さんの携帯であってます」

 

 電話に出た辻の声にユフィは番号を間違えたと思ったようだ。

 

 辻はすぐに番号があっている事を伝えていたが。

 

「辻です。いま嶋田さんに代わります」

 

 勝手に電話に出た辻が携帯をこちらへと差し出してくる。

 

 彼女に通じている携帯を。

 

 いまの返事で彼女には自分が辻の側にいる事は分かっている為、電話に出ないという選択は取れない。

 

 

 

 受け取った携帯を耳に当てて渋々ながら口を開いた。

 

「もしもし」

 

 すると電話の向こうから彼女の悲しそうな声が聞こえた。

 

『シゲタロウ……』

 

 自分の名を呼ばれただけだというのに悲しい声のせいか胸がズキリと痛んだ。

 

 彼女にこんな声は似合わない。

 

 だけど。

 

「いま仕事中なんだ、悪いけどこれで」

 

 態と突き放す。

 

 もうダメなんだ。もう君とは……

 

『待ってください!』

 

 電話を切ろうとすると、それを止めるユフィの声が聞こえた。

 

『どうして……どうしてわたくしを避けるのですか! わたくしは、わたくしはシゲタロウのお気に障るような事をしてしまいましたか?』

 

 それなら言ってください。この場で謝らせてください。

 

 悲痛な声で訴えかけてくるユフィ。

 

 そんな彼女に嶋田が返した言葉は全く同じ物だった。

 

「もう一度言う……仕事中だ」

 

 それだけ言って電話に出た辻に携帯を渡す。

 

 切っても良かったのだが彼女からの電話を取ったのは辻なのだから、彼に渡すのが正しいと思ったのだ。

 

 ただそれだけ。

 

「すみませんユーフェミア殿下。そういう事ですので」

 

 自分の態度を見たからか辻も分かってくれたようで電話を切るような言葉を告げて、携帯を持っていた手を下に下げた。

 

 

 

 それを確認してからまた手を動かす。

 

 書類に向き合って少しでも彼女の事を考えないようにする為に。

 

「嶋田さん」

 

 だが。

 

「貴方……いつまでそうやって逃げるつもりですか?」

 

 それは辻によって制止された。

 

 

 

 *

 

 

 

「逃げる?」

 

 逃げるとはどういう事かと惚ける嶋田。

 

 無論惚けたところで意味はない。

 

 今更彼に言われなくともそんな事分かっているのだから。

 

 分かっているからこそ──

 

「やだなぁ辻さん。私は書類から逃げたりしませんよ? というか貴方が逃がしてくれないでしょう?」

 

 誤魔化す。

 

「…………」

 

「心配無用です ちょっとばかり遅れていますが四徹すればこれくらい──」

 

 誤魔化しながら普段使わない軽口を辻相手に使う。いや、使おうとした。

 

 だが最後まで言えなかった。

 

 言おうとしたら……辻に遮られたのだ。

 

 正確に言うなら強制的に止められてしまった。

 

「彼女……泣いてましたよ」

 

「っっ!」

 

 辻の言葉を聞いて息が詰まった。

 

 泣いていた? ユフィが? 

 

 あのいつも暖かい微笑みを浮かべている彼女が…………泣いた……? 

 

 誰が、誰が泣かせた? 誰が彼女を泣かせたんだ? 

 

 あの暖かく笑う少女を誰が……

 

 決まっている……自分だ。

 

 自分の突き放すような態度と言葉に泣いたのだ。

 

 その事実に気付いた事で呆然とする嶋田。

 

 だがそれを嶋田に伝えた辻は、彼が呆然とすることさえ許さなかった。

 

 グイッと身体が勢いよく引っ張られる。

 

 引っ張っているのは辻。思い切り胸ぐらを掴み上げてきたのだ。

 

 彼の性格上こういう事はしない。こういう実力行使的な事は。

 

 逆に言えば本気で怒っているという事だろう。

 

 腹に据えかねたという空気がひしひしと伝わってくる。

 

「貴方……なにやってるんですか?」

 

 いつも冷静なその瞳に怒りの色を浮かべながら、声を荒げたりせず冷静な口調で言う。

 

 だが彼は心の底から怒っていた。何についてかなど最早言うまでもない。

 

「ユーフェミア殿下を泣かせて何がしたいんですか?」

 

 ユフィを泣かせたことを怒っているのだ。

 

「御自分の愛する女性を泣かせて何をやっているんですか貴方は」

 

 

 

 *

 

 

 

 彼は言った。はっきりと。

 

 嶋田が愛している女性をと。

 

 最早言い逃れなど許されない。

 

 はっきりと口に出されてしまったから。

 

 言葉にされてしまったから。

 

 嶋田繁太郎はユーフェミアを愛していると。

 

「わかっているんでしょう御自分のお気持ちに。わかっていて逃げているのでしょう」

 

 そうだ彼は分かっていた。分かっていて誤魔化していたのだ。

 

 自分が彼女に抱く何か? などという表現の仕方で。

 

 分かっている。爆発的な勢いで燃え上がる自身の心にある何かの正体など。

 

 盟友に指摘された嶋田は自分の胸ぐらを掴む彼を睨み返す。

 

 睨み返しながらついにその心に秘めた想いをぶちまけた。

 

「ええわかってますよ……。わかっていますとも!! 私が……俺がユフィを愛している事など!!」

 

「…………」

 

「自分自身にさえ鈍い俺ですが気付きましたよ! 去年彼女の胸で泣いたときに彼女が好きだと!! ですが……!」

 

 とっくに分かっていた。分かっていて避けていた。

 

 分かっていたからこそ避け続けたのだ。

 

 こんな、こんな……

 

「こんな血に塗れた俺がっ! 日の光のように暖かく! 美しく咲いた春の花のように穢れのない彼女を! 愛して良いとでも思ってるんですか!!」

 

 そう、この両手は血に塗れている。

 

 何百万、何千万、億の単位の人間の血で。

 

「貴方だってわかっている筈だ……共にあの前世を生き抜いた貴方なら……」

 

 前世。

 

 こことは違う大日本帝国という国を率いて戦ったかつての世界。

 

 そこで彼は己が守るべき人達の、大日本帝国の為に大虐殺を行った。

 

 あの、未曾有の大災厄を引き起こした大西洋大津波。

 

 それを引き起こす為に行った『衝号作戦』

 

 結果、日本は仇敵となったアメリカ合衆国を滅ぼし、数多くの帝国臣民を守り通した。

 

 今でもそれが間違っていたとは思わない。あれをしなければ守るべき人達を死に追いやっていたかも知れないのだから。

 

 もう一度同じ状況に追い込まれればまたやる。

 

 そこに一切の躊躇いは無い。

 

「俺は納得してますよ。あの作戦は必要だったと……でも、この手が血にまみれているのは確かだ……」

 

 だがそれとこれとは別だ。

 

 自分の手は血にまみれている。

 

 そんな自分が彼女に触れてはいけない。

 

 想いに気付かなければ触れていられたが、気付いた以上はダメだ。

 

 前世で妻と一緒になった時はまだこの手は血まみれじゃなかった。

 

 だから一緒に居られたし、衝号の後も生涯添い遂げることが出来た。

 

 それはとても幸せな事で、自分と一緒に添い遂げてくれた前世の妻には感謝しても仕切れない。

 

 

 

 だが今は違う。

 

 前世を覚えている以上、今世では最初から血まみれの状態だと思っていた。

 

 別に誰に言われたわけでもなく自分自身でそうだと。

 

 だからこそ自ら出会いの場を避け続け、今まで独身を貫いていたのだ。

 

 それなのにここへ来てユーフェミアという少女に出会い、彼女を愛してしまった。

 

 四十以上も離れた年下の少女を、年甲斐もなく本気で好きになってしまったのだ。

 

「汚したくないんです。あの日の光のように暖かくて……穢れを知らない優しい少女を」

 

 

 

 *

 

 

 

 隠していた全ては語り終えた。

 

 自分の気持ちに気付いてしまったからこそユフィを避けるようになったその理由を。

 

 そんな彼の心の内を聞き終えた辻は掴んでいた胸ぐらを離す。

 

 そして言った。

 

「以上が、彼が貴女を避けていた理由ですユーフェミア殿下」

 

 辻の言葉にふと部屋の入り口に目を遣る。

 

 すると重い扉がゆっくりと開かれた。

 

(な……に……? ユフィ……?)

 

 姿を現したのは長い桃色の髪をポニーテールにして纏めた公務服姿のユフィ。

 

 彼女の手には携帯電話が握られていた。通話状態のままの携帯電話が。

 

「お仕事……抜け出して来ちゃいました……」

 

 微笑みを見せる彼女だったが、その顔に戸惑いの色が浮かんでいるのは隠せていない。

 

 それもその筈。前世の話や衝号の話を彼女は聞いていたのだから。

 

「ずっと電話切っていなかったんですよ」

 

 手に持った嶋田の携帯をすっと差し出す辻。

 

 ユフィの携帯と同じく通話状態だった。

 

「我々の話はユーフェミア殿下に全て聞こえていたのです」

 

 何でも数日前に『ユフィの元気が無い。原因は嶋田卿に会えないことらしい』そういう相談をコーネリアからされていた辻が、

 

 今日仕事中だった彼女に『今日中に解決しますからユーフェミア殿下を私共の仕事場へ寄越して欲しい』と連絡していたらしい。

 

 そして指定時間にこのビル内に来ていたユフィに嶋田の携帯へ電話を掛けさせ、今に至るという事だった。

 

「は……はは……なんだそれ……」

 

 もう何も言う気になれなかった。

 

 前世の事を知られてしまい一気に身体の力が抜けてしまったのだ。

 

 もうどうでもいい。こんな話を聞かれた以上彼女は自分を嫌いになるだろう。

 

 国のためとはいえ非情な決断を下し、億の命を奪ったような男など……。

 

 それならそれでいいじゃないか。懸念もなくなるし悩みも消える。

 

 後は彼女への想いを断ち切ってしまえばそれで終わりだ。

 

 

 

「聞いてたなら早い……ユフィ、俺はこういう男だ」

 

 ユフィを突き放す。

 

「この日本の為ならば、俺自身の守るべき者の為ならば億の人間をも殺す。そんな男だよ」

 

 それが彼女の為なのだから。

 

「もう、会わない方がいい」

 

(これでいい……これでいいんだ……)

 

 自分で突き放すような言葉を投げかけながら胸の痛みを我慢する。

 

 こんな物は一時的な物に過ぎない。喉元過ぎればまたいつものように過ごせる。

 

 ただそこにユフィが居なくなるだけだ。

 

 そうやって自分を納得させる嶋田。

 

 だが。

 

 彼が考えているほど、ユーフェミア・リ・ブリタニアという少女は弱くもなければ。

 

 その愛も軽い物ではなかった。

 

「言いたいことは……言いたいことはそれだけですか?」

 

「え?」

 

 嶋田を真っ直ぐ見つめるユーフェミア。

 

 彼女は念を押すようにもう終わりかと言うと、彼の真正面に立った。

 

 そして──。

 

 “パシッ”

 

 乾いた音が部屋に鳴り響いた。

 

 

 

 *

 

 

 

 右の頬に痛みが走る。

 

 振り抜かれたユフィの右手は開かれたままそこにあった。

 

「痛いですか?」

 

「……」

 

「わたくしはもっと痛かった。この胸が張り裂けてしまいそうなほどに……貴方に拒絶されたことが悲しかった……」

 

 彼女の藤色の瞳には涙が浮かんでいる。

 

 ぶたれた自分ではなく、ぶった彼女が泣いている。

 

「今のお話は全てお聞きしました。貴方には前世の記憶がある事も。前世で何をしたのかも。それがわたくしを避けている理由だという事も」

 

「……」

 

「正直に言うと、まだ信じられません」

 

 だろうな。と嶋田は思った。

 

 普通に考えれば前世の記憶があるなどと誰が信じるというのか。

 

「でも」

 

 そんな事を考えながらもユーフェミアの瞳を見つめたまま目を離さなかった嶋田に、彼女は言い放つ。

 

「だからなんだというのですか?」

 

 彼女の言葉に耳を疑う。

 

 全てを聞いていたはずだ。

 

 彼女はいま自分でそう言っていたではないか。

 

 それなのに。それなのにまるで気にしてないかのように言い放つ。

 

「き、君はッ、君は聞いてなかったのかッ!? 俺の手は──」

 

「血にまみれているのでしょう? だからどうしたというんです。過去は過去、今は今です」

 

「ユフィ……」

 

「わたくしは……わたしは今の貴方が好き」

 

 彼女は言う。

 

 過去と今は違うと。

 

「今の貴方の手は──」

 

 そっと手が握り締められる。

 

 暖かい。彼女の暖かい手の温もりが伝わってくる。

 

「こんなに綺麗です。わたしの大好きな手です。この綺麗な手でどうすればわたしを汚せるの?」

 

「……ッッ!」

 

 さあ汚してみせろ。

 

 こんな綺麗な手で自分を汚せるというのならやってみせろ。

 

 まるで挑発するように言うユーフェミアに嶋田は言葉が出なかった。

 

「それに……それにもし血にまみれた手であっても、わたしは気にしない」

 

 彼女は言い切ってしまう。

 

 血まみれでもいい。それが貴方の手だというならわたしはその手を好きになると。

 

「だからシマダシゲタロウ、えっと、えっと……」

 

 ユフィは言い淀む。

 

 どう言えばいいか分からないとでもいうように。

 

 しかしそれは僅かの間だった。

 

 一瞬の後、彼女は浮かんだ言葉を大きな声で叫んでいた。

 

「わたしを好きになりなさいっっ!!」

 

 目の前にいる彼に伝える。ただそれだけの為に。

 

「なっ! え、ええっ!?」

 

 唐突な一言だった。

 

 予想外とかどうとか、そんなレベルの話ではない。

 

 余りにも話をすっ飛ばして、且つど真ん中の直球だ。

 

「その代わり、その代わりわたしが貴方を好きになります! 貴方の非情なところも優しいところも全部、全部好きになります! 今までは好きでしたが、これからは大好きになります!」

 

 ユフィはそこで一度言葉を切ると握っていた手を離し、身体ごと抱き着いてきた。

 

 ふわっと香る花のような匂い。

 

「ですから、そのように御自分を貶めないで……」

 

 ユフィの髪から、身体から漂うその香りは嶋田の大好きな香りだった。

 

 彼女は言った好きになれと。

 

 彼女は言った好きになると。

 

 その言葉を聞いたとき、彼の心の中に暖かい風が吹き込んできた。

 

 春の花の匂いと共に。

 

 それは、頑なに彼女を拒もうとする嶋田の心を優しく包み、溶かしてしまった……。

 

 

 

 *

 

 

 

 暖かい彼女の温もりが身体に感じられる。

 

 この温もりに包まれていると、とても落ち着くのだ。

 

 春の匂い。穏やかな春の日差しの中で咲き誇る、美しい花の匂いだ。

 

「やれやれ、君という娘はなんて強引なんだ」

 

 そんな彼女の身体を自分からも抱き締める。

 

 心を溶かされてしまった彼に、最早彼女に抗う術は残されていないのだから。

 

「君を汚したくないだとか、君に愛される資格が無いだとか…………真面目に考えてた自分が馬鹿みたいだ……」

 

「そんなの真面目でもなんでもないわ。本当に真剣ならわたしを愛しなさい」

 

「強引すぎだユフィは。強引で強すぎる」

 

「そうです強引です、強引にいきます! だって気付いてしまったのですから、わたしはこんなにも貴方が好きなんだって」

 

「言っておくけど前世の話は本当だよ?」

 

「前世は前世です。何度でも言います。わたしが好きなのは今のシゲタロウだと」

 

 “んっ”

 

 今の嶋田が好きだという彼女は彼の唇を奪った。

 

 強引に行くというその宣言通りに。自分の唇に感じる温かくしめった感触を確かめながら、ただひたすらに唇を合わせる。

 

 彼の背中に手を回して離れないよう抱き締めたまま。

 

 左手は彼の背中に、右手は彼の頭に回して。

 

 逃がさない。もう絶対にこの手から逃がしたりはしない。

 

 そう決めた彼女は。とても深い口付けを続ける。

 

 “んっ あむっ……”

 

 互いの唇を押し付け合って、啄みながら舌を絡め合う。

 

 少し強めに顔を寄せると、互いの鼻が触れ合い顔に息が掛かる。

 

 うっすらと開いた彼女の目。潤んだ藤色の瞳と、嶋田の黒い瞳が交差するように見つめ合う。

 

 交わされる口付けと同じように視線を交差させた後、二人は静かに目を閉じた。

 

 目を閉じた方が、より感覚を研ぎ澄ませる事が出来るから。

 

 そうやってお互いの温もりを感じるのだ。

 

 強引なユーフェミアに引っ張られる形で、嶋田もまた彼女のペースに合わせる。

 

 いや、合わせるしかなかった。

 

 ユーフェミアの背中と頭に手を回し身体をしっかり抱き締めて、その身体の温もりと瑞々しい唇の感触を味わいながら、熱い抱擁を交わし続ける。

 

 自分に出来るのは素直にユフィを受け入れ、そしてユフィにも自分を受け入れて貰う。

 

 もう逃げない。彼女から逃げたりしない。

 

 彼もまた決意したのだ。もう決して、ユーフェミアの腕から逃げたりしないと。

 

 

 

 *

 

 

 

 互いの唇の味を堪能した二人はゆっくりと顔を離す。

 

「ん……」

 

 間には唾液で出来た銀色の糸が伸び、二人の唇を繋いでいる。

 

 まるでまだ離れたくないとでも言っているかのようだ。

 

 それもすぐに切れてしまったが……。

 

「ユフィ、もうこの辺りで止めておこう」

 

「どうしてですか?」

 

「自分の気持ちに正直になった今、こんなことしてたら君という美しい花を手折ってしまいそうで怖いんだ」

 

 そう、このまま彼女と触れ合っているのは非情にマズイ。

 

 今までもキスをしたことはあったが、自分の気持ちに気付いていなかったのもあって挨拶みたいな物と考えていた。

 

 意識していたのは確かなのだが、明確にユフィが好きというまでの自覚は無かったのだ。

 

 だが今は違う。

 

 今はもう明確にユフィが好きだと愛していると自覚しているし、彼女からも告白されてしまった。

 

 両想い。恋が実ってしまったという状態なのだ。

 

 だからこそ、ここまでにしておかなければ最後まで行ってしまいかねない。

 

 そんな心配をする彼に、彼女は頬を染めながら口にした。

 

 “手折ってください”

 

 手折れ。わたしが大切で、わたしを愛しているというのなら今この場で証明しろ。

 

 これはもう強引を通り越して脅迫だった。

 

「い、いや、いくらなんでもそれは……、ほら、辻さんも居ることだし」

 

 そんな愛という名の脅迫をしてくるユーフェミアの肩越しに辻を見る。

 

 彼は先ほどからずっとこの部屋に居た。当然一部始終見ているし聞いてもいた筈。

 

 そもそも彼女を連れてきて、こうなる原因を作ったのが彼なのだ。

 

 さっきは嵌められたと思ったが、結果的に彼女と結ばれた以上いまは感謝している。

 

 彼が居なければ、今頃ユフィを泣かせてしまった自分を許せなくなっていた筈だから。

 

 どんな理由を付けても彼女を突き放していい訳がなかったのだ。

 

 辻はそれに気付かせてくれ、こうして彼女との仲を取り持ってくれた。

 

 そんな彼はまた良い方に持って行ってくれると考えて話を振ったのだが。

 

「わかりました。私は退室しましょう」

 

 と言って踵を返して出て行こうとするではないか。

 

「ち、ちょっと辻さ──」

 

「嶋田さん……据え膳喰わぬは男の恥です。貴方も男なら覚悟を決めてください」

 

『休憩は1時間です』

 

 それだけ言うと彼は部屋から出て行ってしまった。

 

 

 

 *

 

 

 

「シゲタロウ……わたくしを手折ってくれますね?」

 

 今まで『わたし』だった一人称がまた『わたくし』に戻ったなあと現実逃避していた嶋田だったが返事をしない訳にはいかないだろう。

 

 それも辻が態々お膳立てをしてくれたのだから、『男なら覚悟を決めろ』辻の言葉が重く響く。それを無碍にする訳にもいかない。

 

 何よりユフィが望んでいる。自分もまたそうするべきだとの答えに辿り着いている。

 

 ここで逃げたらダメだ。それ以前に彼女が逃がしてくれないだろうけど。

 

「ああ、覚悟を決めたよ」

 

 “ユフィ、俺は君を手折る”

 

 覚悟を決めた嶋田はユーフェミアを抱き上げ、仮眠用に備え付けられているソファベッドへと寝かせた。

 

 纏めてはいても大きく広がる桃色の髪。

 

 ソファベッドの上に広がった髪の色がシーツの白と合わさり見事なコントラストを描き出す。

 

 見ようによっては何処かの宗教画にさえ見えるほど美しい。

 

「綺麗だよユフィ」

 

「シゲタロウ」

 

 そっと触れ合わされる唇。

 

 一瞬ではあったがその感触を確かめそっと離す。

 

「でも本当にいいのかい?」

 

 そして最後の確認をした。

 

 答えが変わらないのは分かりきっていたが、どうしても確認してしまう。

 

 念には念をというやつだ。

 

「ええ勿論です、それよりもここで止めたら怒りますから」

 

「流石にそんな恥知らずじゃない」

 

 覚悟を決めたばかりなのだから、ここで放り出すなどというみっともない真似は出来ない。

 

 それに、こんなにも美しい花をただ見ているだけというのは余りにも勿体ないから。

 

 

 

 ふわりと広がる甘い香り。

 

 鼻腔を擽り脳内へと達した甘い匂いは全ての感覚を麻痺させていく。

 

「あっ……」

 

 聞こえるのは互いの息遣いと甘い声。

 

 繰り返されるそれは心地好さを与えてくれる。

 

 そして感じるのは彼女の温もり。

 

 この腕の中に存在する花の香りを振りまく優しい少女の温もりだけだ。

 

 こうして始まった二人だけの時間。

 

 それは熱く切ない愛の語らい。

 

 辻に与えられた1時間というのは、嶋田とユーフェミアの二人で温もりを分かち合うには十分すぎる時間であった……。

 

 

 

 *

 

 

 

 全てが終わったとき、休憩時間は残り十分を切っていた。

 

 余韻という物に浸る間もなく居住まいを正した嶋田はユーフェミアの髪を手櫛で整えていく。

 

 指の間をすり抜けていく細く滑らかな桃色の髪の毛。

 

 それは幾度か引っ掛かった後にすっと通り抜けるという感触から、多少のほつれを感じさせた。

 

 纏めたまましていたのでましだが、やはり所々乱れているようだ。

 

 上気して紅く染まったままの頬は自然に治るまで放っておくしかないが、何があったのか知っている辻に見られても問題は無いだろう。

 

 後は辻が来るまでに荒くなった呼吸を整えればそれで終わり。

 

「ユフィ」

 

「なんですか?」

 

「今日聞いた俺の前世の事だけど黙っていて欲しい。まあ言ったところで何の関係もないこの世界では問題無いけどね」

 

「いいえ、シゲタロウがそう仰るのならわたくしは言いません。この胸にしまっておきます」

 

「ありがとう。でも今日の事お姉さんには言っておかないとダメだな。君を悲しませてしまった事も、仲直りできた事も、その……求め合った事も……」

 

「はい……」

 

 妹のユーフェミアをとかく大事にしている姉のコーネリアには、洗いざらい話しておく必要がある。

 

 それが彼女に取っての花でもあったユーフェミアを手折ってしまった嶋田のけじめだ。

 

 そして、もうひとつ。

 

「ユフィ」

 

「はい」

 

 尤も重要で、必ず取らなければならない責任があった。

 

「もうこの際だからはっきり言っておく」

 

「……」

 

 ここまでしておいて中途半端なままでいるのはダメだ。

 

 人間としても、一人の男としても。

 

「責任を取りたい」

 

「えっ?」

 

「君を手折ってしまった責任を取らせて欲しい」

 

 だから言った。

 

「今すぐって訳には行かないだろうけど……こんなおじさんで良ければ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “俺と……結婚してください”

 

 

 

 *

 

 

 

『俺と……結婚してください』

 

『はい…………わたくしは……喜んで貴方の妻となります……。 不束者ですが……よろしく、よろしく……おねが……い……』

 

 時間ですと告げに来た辻は扉を開き掛けて止めにした。

 

 嶋田に続くユーフェミアの言葉が途中で嗚咽に変わったのを聞いてそっと扉から離れる。

 

「おめでとうございます。お二人ならば……きっと、幸せになれますよ……」

 

 二人には幸せになって貰わなければ困る。

 

 ユーフェミアなら大丈夫。前世の事を聞かせたのも彼女ならばこそだ。

 

 彼女ならば、彼女の優しさと温もりならば嶋田の全てを受け止められる。

 

 そう考えての荒療治だった。

 

 結果は上々。この上ないほど深い愛で結ばれたのだから。

 

(ま、暫くの間は婚約者としての交際になるでしょうから恋人以上の夫婦未満というところですか)

 

 辻は幸せな恋人達のこれからに、心からのお祝いを述べる。

 

 彼女を幸せに出来るのは嶋田さんだけ。そう確信しながら。

 

 その為にもこの平和を長く続かせる。

 

 出来ることなら二人が天寿を全うするその日まで。

 

 間違っても彼が見た“幸せな夢”のようにはさせない。

 

「させてなるものですか」

 

 無論、それは唯の杞憂に過ぎないだろう。

 

 あの世界とこの世界は違うのだから。

 

 それにもし、何かの歯車が狂って、あの世界に似通った状況を生み出しかねない事態になったら。

 

 あの状況を引き起こそうとするような、不逞な輩が現れたなら。

 

 そのときは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「極めて遺憾ですが…………全力を持って叩き潰して差し上げますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓の外はもうすっかり日が暮れて、夜の様相を呈していた。

 

 その黒い空のキャンバスには大きな満月が浮かんでいる。

 

 煌々と光り輝く満月は、ただそこから柔らかな光を発し、誕生したばかりの恋人達を優しく照らし出していた……。

 

 



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帝都の休日 第5話

520 :帝都の休日 第5話:2013/01/15(火) 22:46:01

提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生
Y氏=いっくんロマンス
Y氏独身設定
甘い話
平和


 

 

 

 

 帝都の休日 第5話

 

 

 

 白い羽

 

 

 

 

 

 雪降る帝都は渋谷のハチ公像前。

 

 そこに厚手のコートを着た長い金髪の女性が立っていた。

 

 彼女の名はリーライナ・ヴェルガモン。

 

 在日ブリタニア大使館で警備の任に着いているブリタニア軍の騎士だ。

 

 可憐な容姿をした見掛けからは想像できないが、本国に於いてはナイトオブテン ルキアーノ・ブラッドリーの親衛隊に所属している程優秀なKMF乗りでもある。

 

 休日であるこの日、リーライナは此処で待ち合わせをしている歳の離れた恋人を待っていた。

 

「いっくん、今日は遅いな……」

 

 “いっくん”とは彼女が付けた恋人の愛称だ。因みに自分の事は“リーラ”と呼ばせている。

 

 付き合い始めた頃に「貴方の事は“いっくん”て呼ぶから、私の事は“リーラ”って呼んでね」と持ち掛けてこうなった訳だが、当初いっくんの方は嫌がっていた。

 

『60にもなって“いっくん”は無い!』というのが彼の主張だったのだが、結局は彼女が押し切るような形で愛称で呼び合うのを認めさせたのだ。

 

 彼との出会いは自身が警護しているブリタニア大使館の大使補佐、神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミアが、ある男性とデートをしているのを街で見掛けて後を付けていた時だった。

 

 その時に男性の友人だという彼に(二人の邪魔をしているのでは?)と勘違いされて、羽交い締めにされたところから付き合いが始まったのだ。

 

 初めの内は“二人の仲を邪魔しようとする人達の行動の阻止! ”という共通の目的の下、連絡を取り合って休みの日に会っていた。

 

 特に何かあるわけではなく二人で行動しながら、いっくんの友人である男性とユーフェミア皇女を影からサポートしていたのだ。

 

 それが会う回数を重ねるごとに次第に彼自身を意識するようになっていった。

 

 自分に対する何気ない気遣い。

 

 生真面目な顔に時折見せる子供のような笑顔。

 

 日本を守るという話をするときの強い意志と凛々しさ。

 

 リーライナはそんな彼の姿に惹かれていった。

 

 そしてあるとき、急な雨のなか雨宿りに入ったホテルで関係を持ってしまった。

 

 そういう場所である為二人して雰囲気に流されてしまったのかも知れないが、「嫌なら言ってほしい」という彼に彼女は首を横に振ったのだ。

 

「別に良い……貴方になら抱かれても」と。

 

 抱かれている間、ずっと自分の名を呼び続けてくれたいっくん。

 

 初めてである自分を、静かに、ゆっくりと、労るように抱いてくれた彼の優しさ。

 

 そうして最後の瞬間まで求め、溶け合い続けた。

 

 あの日を境に自分たちの関係は決定的に変わった。

 

 共通の目的を持つ同士から友人へとなっていた関係が。

 

 友人から恋人へと昇華したのだ。

 

「すみません」

 

 彼との事を振り返っていたリーライナは自分に掛けられた声にはっとなって振り返る。

 

 彼女は待ち人であるいっくんの姿を思い浮かべたのだが──生憎と立っていたのは見覚えのない男が一人。

 

(はぁ)

 

 思わず心の中で付いた小さな溜息。

 

 表に出していたら流石に失礼だったが、出ていたとしても仕方がない。

 

 まだかまだかと待っている恋人かと思えば、全く関係ない赤の他人だったのだから。

 

「何か用ですか?」

 

 多少棘のある言い方になったのはこの際大目に見て貰いたい。

 

「募金をお願いしたいのですが」

 

 そんな彼女に男がずいっと差し出してきたのは白い箱。

 

 真っ白に見えた箱の真ん中にはクリオネという生物に似た何かが描かれていた。

 

(募金団体のシンボルかしら?)

 

 見ようによっては天使にも、そして悪魔にも見える箱に描かれた生物は何処かで見たような気がした。

 

 しかし幾ら思い出そうとしても出てこない。

 

「お願いできませんか?」

 

 考え込んでいたまま返事をしない自分にダメなのかと思ったようで、男は箱を手元に戻そうとする。

 

「あ、ごめんなさい」

 

 我に返った彼女はバッグから財布を取り出して千円札を出すと、箱の上部に開いた投入口に入れた。

 

 普通募金と聞いて入れるのは大抵十円や百円などの小銭だが、ブリタニアの貴族階級では寄付というのが半ば義務となっている為、自然に札を入れたのである。

 

 富める者である貴族は貧しき者を助ける義務がある。

 

 父や母などは良くそう言っていたし、自分もまたその通りだと思う。

 

 尤も、努力もしない怠け者だけは例外なのだが。

 

「ありがとうございます」

 

 七三分けの髪型にビジネススーツを着た、如何にもサラリーマン風の男は彼女の寄付に深々としたお辞儀をして、懐から一枚の羽を取り出した。

 

「どうぞ貰ってください」

 

「は、はぁ……」

 

 その羽は募金箱の色と同じくすみの無い真っ白な羽。

 

 箱に描かれているクリオネのようなシンボルを見たせいか、まるで天使の羽を連想させた。

 

 そして、その羽を彼女にくれた男は。

 

「良ければまた募金お願いします。美しき世界平和の為に」

 

 という言葉を残して踵を返すと人混みの中に消えていった。

 

 

 

 *

 

 

 

「遅くなってすまん」

 

 募金箱の男に貰った羽を見ていたリーライナに声を掛けてきたのは、今度こそ待ち人である彼だった。

 

「いっくん♪」

 

 短く刈り込んだ坊主頭。

 

 生真面目そうな印象を与える顔つき。

 

 六十前後に見える中年の男。

 

 リーライナの恋人いっくんだ。

 

「大分待たせてしまったかな」

 

「ううん、そんなに待ってないわ。でもいっくんはいつも私より早く来てるから何かあったんじゃないかって心配だったの」

 

「心配掛けてすまんなリーラ」

 

 何でもこの雪が原因で渋滞に巻き込まれたらしく、途中で乗っていたタクシーを降りて走ってきたらしい。

 

(もう、年なんだから無茶しないでよ)

 

 いくら身体を鍛えていて体力もそこらの若者よりあるといっても彼は御年六十なのだ。

 

 その為、こうやって無茶をするときいつも心配でならない。

 

 無論自分の事を想って無茶をしてくれるのは正直に言えば嬉しいのだが。

 

「ん……? リーラ、その羽はどうした?」

 

「え?」

 

 いっくんは彼女が持っている羽を見て怪訝な声で呟く。

 

 どうしてそんな声を出すのか気になったが、取りあえずこの羽を貰った経緯を話した。

 

「白い羽にクリオネに似た生物……ピースユニオンか」

 

 ピースユニオン。

 

 平和の連合という名の通り慈善事業や環境保護、平和主義を推進する思想団体。

 

 思想団体と呼ばれる理由は勧誘されて入り、脱退した人が口を揃えて言うからだ。

 

『宗教みたいだった』と。

 

 更に脱退しようとしたら『天使に呪われて不幸になる』『自分が大丈夫でも家族や親戚に不幸が』などと脅迫とも受け取れるような事を何人にも囲まれて言われるらしい。

 

 そこで怯めば丸め込まれて脱退できなくなるのだという。

 

 そしてこの団体は世界中で活動中というかなり広範囲に展開しているのも特徴だ。

 

 日本・ブリタニアを始め、中華やEUなどでも活動している。

 

 それぞれの国で“美しき世界平和の為に”を合い言葉に勧誘や募金、慈善事業にせいを出しているのだ。

 

「あ! 思い出したわ。新年に帰国したときブリタニアは二国間平和主義で良いのかなんて叫んでた人達ね」

 

「日本でもうるさいぞ。美しき世界平和の為に日本は大国としての役目を果たせとかな」

 

「ブリタニアと日本の役目って?」

 

「わからんよ。まさか紛争地域に武力介入して解決しろだとか言い出したりはせんと思うが」

 

「それ平和とは真逆じゃない……」

 

 日本とブリタニアは国際協調主義を取ってはいる物の二国間平和主義的性質が強い。

 

 同盟を結んでいる相手がお互いしかいないのがその最たる部分だ。

 

 そこに割り込もうとする何処ぞの小国などからは見向きもされない腹いせに“最強の自己平和主義者”などと揶揄されてもいた。

 

 はっきり言って大きなお世話だ。自分たちの力を利用しようと近付いてきて邪険にされればあること無いことデマを流す。そんな連中は最初から願い下げだ。

 

 それに互いが組んでいれば他に同盟相手など要らない。

 

 尤も何処ぞの国とピースユニオンは関係ないらしいのだが。

 

「私、寄付しちゃったけど拙かったかな?」

 

「慈善事業は本当にやっておるようだから大丈夫だ。それにリーラは善意で寄付したのだから気に病むな」

 

「いっくん……」

 

 そして、もうこの話は止めよう。

 

 せっかくの楽しいデートが台無しになる。

 

 という彼にリーライナも気持ちを切り替えた。

 

「そうね。じゃあいっくん、行こっか」

 

「ああ。まずは昼飯でも食べるか? 走ったから腹が減ってな」

 

 リーライナはいっくんの腕に自分の腕を絡めて、引っ付いたまま歩き始めた。

 

 彼は周りの目を気にして離れてくれというが、この方が暖かいからと拒否する。

 

 それに恋人同士なのだから腕を組んで歩くのは当たり前。文句は言わせない。

 

 こうしてリーライナはいっくんと二人仲良く腕を組みながら、渋谷のハチ公前を後にした。

 

 

 

 



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帝都の休日 第6話

136 :帝都の休日 第6話:2013/02/03(日) 20:14:34


提督たちの憂鬱のキャラがギアス平行世界に転生
性格改変注意
嶋田さんロマンスで独身設定
嶋田さんユフィと婚約してる
ユフィ未登場だけど甘い話
恋愛話100%
R15


 

 

 帝都の休日 第6話

 

 

 

 コゥ義姉さん

 

 

 

 

 

 都内某所にある在日神聖ブリタニア帝国大使館。

 

 日本が唯一同盟を結ぶ国であるブリタニアはその大使館も他国と比べて大きく、また豪奢な作りをしている。

 

 絶対君主制であり貴族制という封建主義体制も関係しているのかも知れないが、天井や壁などには多数の調度品や絵画などの美術品が飾られており、大使館というよりは王侯貴族の屋敷といったような風情が感じられた。

 

 まあ実際の処、この大使館の主である在日ブリタニア大使コーネリア・リ・ブリタニアと、その補佐官であるユーフェミア・リ・ブリタニアの二人は、

 

 その名が示すとおりブリタニアの皇族である為、王侯貴族の屋敷という表現は決して間違ってはいないのだが。

 

 そんなブリタニア大使館の応接室にて緊張した様子の男が一人、来客用のソファに腰掛けて人を待っていた。

 

 柔和で優しそうな印象の平凡な顔つき。痩せすぎでも太りすぎでもない健康的な体型。

 

 一言で言うなら中間管理職のサラリーマンという感じの中年男性。

 

 いや、中年よりは少し上、初老の手前といった処か? 

 

 男の名は嶋田繁太郎。世界で二番目の超大国であるここ大日本帝国で総理大臣を務めていた男だ。

 

 もう五年以上前に政界は引退したのだが、この国を陰から支える夢幻会という組織の最高幹部でもある彼は、表舞台から退いたとはいえ未だ忙しく、隠居生活にはほど遠い毎日を送っていた。

 

 そんな仕事に追われる日々のなか、彼がある休日に出会った一人の少女。

 

 膝裏まである艶やかな桃色の髪。

 

 慈愛に溢れた藤色の優しげな瞳。

 

 春の花のような香りと、暖かい空気。

 

 一緒に居るだけで心が癒されるその少女──神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミアと嶋田の付き合いは出会ったその時から始まった。

 

 ユーフェミアは満十七歳で今年漸く十八になるという花も恥じらう乙女。

 

 嶋田は今年で六十一になる還暦の男。

 

 年齢差は実に四十三と下手をすれば孫と祖父ほどに離れていたが、年齢など関係なく仲良くなった二人は友人という関係を得て互いに恋心を抱くようになる。

 

 ただ嶋田は頑なにそれを認めず、自分が抱くユーフェミアへの想いに気付いてしまった日から彼女を避け続けていた。

 

 しかし、穏やかで優しい春の空気を持つ少女は、それでいてこうと決めたその一点に於いては決して引かない強さを持って彼が作った壁を力尽くで打ち壊し、自分を拒否するその心を溶かしてしまったのだ。

 

 もう自分の気持ちを認めざるを得なくなった嶋田に『わたしを好きになりなさい! その代わりわたしが貴方を好きになります!』と迫るユーフェミア。まるで逃がさないとでも言うような強引極まりない彼女の告白。

 

 逃げ場を失い遂に折れた嶋田は彼女を好きというその気持ちに向き合った。

 

 疾に気付いていたその気持ち、ユーフェミアに抱いた恋という名の気持ちに。

 

 そして彼女の気持ちを素直に受け入れ、二人は恋人という関係になったのだ。

 

 ただそれだけでは終わらなかった。

 

 恋人になった証とでも言うべき口付けの後、彼はユーフェミアに『手折って欲しい』と迫られたのだ。

 

 手折れ──その言葉が意味しているのは言うまでもなく『抱いて欲しい』ということ。

 

 抱き締めるではない。ユーフェミアと男女の秘め事をするということだ。

 

 彼はそんなこと考えても居なければ、するつもりもなかった。

 

 恋人となった以上いつかは行う行為なのだが、よりにもよって今すぐこの場で抱けというのだ。

 

 どうすればいいかと思いその場にいた友人に助けを求めたところ『男なら覚悟を決めろ』と逆に諭される始末。

 

 友人──辻の言葉とユーフェミアの想い。それらを自分の中で噛み締めた彼は、暫しの逡巡と彼女への最後の確認をして…………抱いた。

 

 

 

 嶋田はユーフェミアを愛し、心と身体の両方で触れ合いながら、自身の想いを彼女の中へと解き放つ。

 

 それを受け入れるユーフェミアもまた、己が全てを持って嶋田を愛した。

 

 互いの温もりを感じながら、辻に与えられた時間の中、幾度となく求め合った。

 

 甘く切なく、そして燃え上がるような熱い時間。

 

 いつまでもこうしていたい…………そう思えるほどに心地良い至福のひととき。

 

 永遠とも思える熱い時を共に過ごした後、彼はユーフェミアに結婚を申し込んだ。

 

 合意の上とはいっても抱いてしまったのだ。中途半端なままでいるのは許されない。

 

『男としての責任を取る』

 

 それが嶋田の偽りのない気持ちであった。

 

 それに、求め合った事で改めて思い知らされたのだ。自分が抱くユーフェミアへの気持ちの大きさに。

 

 恋人という甘い関係で居るのもいい。それもまた大事なことなのだから。

 

 しかし、どうもそれでは収まりそうになかった。更に一歩進んだ関係になりたい。

 

 恋という気持ちを自覚したが故の我が儘であると言えた。

 

 だからこそのプロポーズ。

 

 そしてユーフェミアは……そのプロポーズを受け入れてくれた。

 

 

 

 結婚の約束をした二人は恋人という関係を飛び越え婚約者という間柄になった。

 

 だがそれは二人の間でだけ交わされた物。唯一嶋田の友人である辻が知っている訳だが、それはまた別の話だろう。

 

 彼は飽くまでも友人であって、家族ではない。

 

 そう、家族。家族である。家族、肉親、親兄弟。

 

 結婚する以上その人達に認めて貰わなければならない。

 

 無論、親類に黙って駆け落ち同然に一緒になる男女も居るには居るが、生憎二人の場合立場上それが出来ないのである。

 

 片や日本の元総理にして夢幻会の大幹部。

 

 片やブリタニアの皇女。

 

 そんな二人が駆け落ちなどと許されるわけがない。尤も、端から駆け落ちなど考えても居ないのだが。

 

 ならばどうするか? 決まっている。家族に報告。それ以外の何があるというのか。

 

 残念ながら嶋田の両親は既に鬼籍に入っている為、墓前への報告しか出来ない。

 

 となれば家族への報告、挨拶は、必然的にユーフェミアの方に搾られるわけだ。

 

 

 

 

 

 今までを振り返っていた嶋田の頭にユーフェミアとは別の人物の姿が浮かぶ。その人物こそ彼が今日会いに来た相手であり、ユーフェミアとの馴れ初めを報告しなければならない相手。

 

(ちゃんと伝えなければな)

 

 ユーフェミアを何よりも大切にし、彼女が生まれたときから彼女を溺愛している家族──そう、ユーフェミアの姉、コーネリア大使だ。

 

 無論ユーフェミアの父親であり自身の友人でもあるブリタニア皇帝シャルルや、彼女達の母親にも挨拶に行かなければならないが、一番に知らせなければならないのはコーネリアだろう。

 

 目に入れても痛くないほど溺愛している彼女の妹を奪ってしまったのだから……。

 

 

 

 *

 

 

 

「お待たせしました嶋田卿」

 

 彼が考えを巡らせていた処で、応接室の扉を開けて入って来たのは背中まで伸びた桃色に近い紫の髪の女性。

 

 意志の強さを感じさせる鋭い目。その瞳は妹のユーフェミアと同じ藤色。

 

 口には髪と同じ色の紫のルージュを引き、襟から腹部に掛けて金色の模様が入った赤い服に同色のパンツルックという、タイトスカートの公務服のユーフェミアとはまた違う雰囲気のスタイル。

 

 この女性こそが、在日ブリタニア大使を務めている神聖ブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアだ。

 

「いえ、こちらこそお忙しいなか失礼します」

 

 軽い挨拶を終えたあと、二人は対面する形でソファに座った。

 

「して、火急の用とは一体何なのでしょうか?」

 

 口火を切ったのはコーネリア。

 

 本来なら彼女の休日の日に会いに来るべきなのだが、どうもここ最近忙しいようで夜遅くまで仕事をしているらしく、こういった形でしか面会することが出来なかった。

 

 仕事で疲れている彼女のプライベートを邪魔する訳にも行かず、自分が休日の日である今日に合わせて予めアポを取っておいたのだ。

 

 その際『火急の用事がある』と言った為このような聞き方をされた訳である。

 

「ええ、実は」

 

 嶋田は隠すつもりも、遠回しに言うつもりもなかった。

 

 そんな事をしても意味が無いし、自分の中でケジメを付けると決めた以上、ハッキリと伝えるだけ。

 

 緊張する自分を奮い立たせながら大きく深呼吸をする。

 

 そして再度口を開いた。

 

 紡ぐ言葉、吐き出す言葉はただ一つ。

 

「コーネリア殿下……花を、暖かく咲き誇る春の花を、貴女の大切な春の香りを持つ花を…………手折りました」

 

 ジッと見つめていたコーネリアの瞳が大きく見開かれ、動揺の色を見せた。

 

 何を言われた? 自分の大切にしている花を折っただと? 心に浮かぶ疑問ではあったが花とは何だと口にはしない。

 

 だがざわめく心に支配され言葉が出なかったのは一瞬の事。

 

 次の瞬間には眼を細め、嶋田を睨み付けてきた。

 

「嶋田卿……」

 

 彼女とて今伝えた言葉の意味が分かっている筈。

 

『貴女の大切な春の花』

 

 そんな物はこの世に一つしかないのだから。

 

「私は……私は今からただのコーネリアとなります」

 

 ただのコーネリア。

 

 在日ブリタニア大使でも、神聖ブリタニア帝国第二皇女でもない。

 

 ただ一人の女。大切な妹を思う一人の姉となる。

 

 そんな心の声が聞こえた。

 

「わかりましたコーネリア殿下……いや、コーネリアさん」

 

 ならば自分も同じ立場に立つだけだ。

 

 この場には肩書きなど要らない。

 

「それなら私も大日本帝国元総理ではない、ただの嶋田繁太郎になります」

 

 彼女はユフィの姉で、自分はユフィを奪った唯の男。

 

 それだけで十分だ。

 

「それではただの嶋田繁太郎に聞く」

 

「はい」

 

「先ほどの言葉……もう一度、仰って頂こう」

 

 嘘偽りは許さない。私の目を見てハッキリと言え。

 

 伝わってくるのはそんな彼女の意思。

 

 ここまで来ればもうオブラートに包む必要もないだろう。

 

 これ以上はお姉さんに対して失礼だ。

 

「貴女の大切な春の花……ユフィを、抱きました」

 

「ッッ!!」

 

 驚愕に見開かれたコーネリアの藤色の瞳には激情の色が浮かんでいる。

 

「ユフィと、求め合いました」

 

 だが彼は言葉を止めずに続けた。

 

 ここで止めてどうなる? これは伝えなければならないこと。

 

 他でもないユフィを抱いた自分が、自らの口で彼女に伝えなければいけないことなのだ。

 

「ですが、私は軽はずみな気持ちでユフィを抱いたのではありません。彼女を真剣に愛しているからこそ抱いたのです」

 

 還暦の男が十七の少女相手に何を血迷ったことを。普通ならばそう思われても仕方がない。

 

 最近でこそ歳の差婚など珍しくなくなってはいるが、世間一般の常識で考えればやはり想像するのは難しい事。

 

 だが彼は真剣だった。ユーフェミアを想う気持ちに嘘偽りなど無いのだから。

 

 だからこそ事の次第を包み隠さず全て話す。

 

 ある日の休日の公園にてユーフェミアと出会い、共に帝都を見て回ったこと。

 

 コーネリアの大使就任祝いの席上での再会。その時から互いに愛称で呼び始めたこと。

 

 彼女を一人の女性として意識し始めたのはその時した別れ際のキスだということも。

 

「私は、私はユーフェミア・リ・ブリタニアという少女を──」

 

 その後、会う約束をしては休日の日に出掛けるようになった。

 

 ただ共に過ごす。それ以上のことは何もしていない。

 

 クリスマス、手編みのマフラーをプレゼントされた。

 

 編み物などしたことがないだろうボロボロのマフラー。それは今日も首に巻いている。

 

「愛しています」

 

 去年の末、首相官邸にて見た違う世界の彼女が夢への一歩を踏み出すという幸せな光景。

 

 優しく幸せな、笑顔一杯の夢だというのに、胸に去来した悲しい気持ち。

 

 その時、偶然にも官邸を訪れていた彼女の姿に涙を流し、縋り付いて泣いた。

 

「この気持ちに嘘偽りはございません」

 

 以後、自分が抱いた彼女へ向けられている感情に気付き、戸惑い、避けるようになった。

 

 今ではない過去に於いて大勢の人間を殺してきた自分が、日の光と春の暖かさを持つ一点の穢れも無い少女に懸想するなど有ってはならないと。

 

 だが『昔は昔、今は今! そんなこと関係ない! 私を好きになれ!』と、せっかく築いたその壁を叩き壊され、彼女に心を奪われてしまった。

 

 その果てに求め合った……。

 

 それら全てを一言一句違えず、コーネリアの前で明らかにした。

 

 無論前世がどうとは話してはいない。それは飽くまでも夢幻会や昭和の世界から共に渡り来た仲間達、そしてユーフェミアだけの秘密。

 

 それ以外の全てを洗い浚い話した。

 

 そして最後にこの一言を彼女に言わなければならない。

 

 これこそが今日尤も勇気の要る一言であり、口にするのが怖いことでもある。

 

 だからといって逃げたりはしない。それこそコーネリアへの……お姉さんへの侮辱だ。

 

「ユフィを、妹さんを……」

 

 

 

 “私にください”

 

 

 

 伝えたいのはこれだけ。これ以上は何もない。

 

 ユーフェミアとの馴れ初め。その全てを明かし、自分の気持ちを伝える為、コーネリアと対面したのだ。

 

 その目的はこれで果たした。後はただコーネリアの言葉を待つ。

 

 いきなり来て孫と祖父ほども歳の離れた男に『妹さんとの結婚を許してください』など言われて『はいそうですか』と納得できる物ではない。

 

 何を言われてもいい。罵倒されても侮辱されても。いや、殴られたって構わない。

 

 コーネリアが自分を殴るというなら甘んじて受けるつもりだ。彼女の拳を自身の身体で。

 

 それだけの事をしたのだから。

 

「……」

 

 沈黙が支配する室内。ただ時計の秒針が時を刻む音だけが聞こえている。

 

 大使館内には他にも大勢の職員が働いている。しかし、この部屋だけが世界から切り離されてしまったかのように静かだ。

 

 互いに言葉を発しはしない物の、視線だけは合わせたまま外さない。

 

 コーネリアの藤色の瞳には様々な感情の揺らぎが見えた。

 

 怒り、悲哀、喜び、安堵、あらゆる感情が混ざり合っているその様子から、今聞いた事を自分の中で整理しているのかも知れない。

 

 突然こんな事を聞かされたのだから彼女が混乱するのも当たり前だ。

 

 嶋田に出来るのはただ待つだけ。彼女が言葉を紡ぎ出すのを……。

 

 

 

 *

 

 

 

 永遠とも思える沈黙の時間。だがそれも漸く終わる時が来た。

 

 コーネリアは一度目を瞑りその場で立ち上がる。

 

 彼女に合わせて嶋田もソファから立った。

 

 そのままどちらともなくテーブルから離れ、遮る物の無い場所で二人は向き合う。

 

「全て……事実なのですね?」

 

「ええ、事実です」

 

「そう、か……」

 

 事実だというのを確認したコーネリアは顔を下に向け右手をグッと握り締めた。

 

 相当な力が入っているようで握り締めた拳が小刻みに震えている。

 

 その様子に嶋田も覚悟を決めて歯を食いしばった。

 

 殴られて当たり前なのだ。彼女の大切な妹を奪ったのだからその拳を受けるのは自分の義務。

 

 寧ろそれで彼女の気が済むなら何発食らってもいい。

 

 気が済むまで殴ってくれれば……。

 

「よく、言ってくださいました……」

 

 震える声で紡がれた言葉にはコーネリアの気持ちがそのまま乗せられている。

 

「覚悟は……。覚悟は出来ているのでしょうね?」

 

 こんな事をした以上覚悟は出来ているのか? 

 

 疾に出来ている。自分が手折った相手はユーフェミア。

 

 皇帝の、父であるシャルルが許したところで、妹を溺愛しているコーネリアが許す筈がない。

 

 だが、こちらも引くわけにはいかないのだ。

 

 他の誰に認められようが、コーネリアに認められなければ意味が無い。

 

 彼女に認めて貰わなければユフィを悲しませる事になる。

 

 もう二度と泣かせないと誓ったユーフェミアを、お姉さんと自分とが原因で泣かせる訳には。

 

「ふざけるなあァァァァッッ!!」

 

 振り上げられる拳。沈黙に支配されていた部屋に彼女の怒号が響き渡る。

 

 鬼や悪魔も裸足で逃げ出してしまいそうなその叫びにも嶋田は動じたりせず、ただコーネリアの目を見据えたまま。その場を動かない。

 

 視界の隅に捉えられた拳が勢いよくこちらに迫ってきた。

 

 

 

 *

 

 

 

 当然、物理的法則に従って振り抜かれたコーネリアの拳に嶋田の身体は後方へとぶっ飛ばされ、床に叩き付けられる──その筈だった。

 

 だが──。

 

「え……?」

 

 自分へと振り抜かれたコーネリアの拳は、頬に当たるその寸前で停止されたのだ。

 

「どう、して?」

 

 何故だ。どうして殴らない? 大切な妹を奪った俺を何故? 

 

 疑問に思い困惑する嶋田。そんな彼に寸止めされた拳を下ろしたコーネリアは答えた。

 

「貴方が、貴方がもう少し若ければ……この拳を振り抜いていた」

 

 彼女は自分を落ち着かせようと大きな深呼吸を数回繰り返して心を静める。

 

 そして一度心を落ち着かせてから再度口を開いた。

 

「尤も、それは自分の遣り場のない感情を貴方に叩き付けるだけで、何の意味も無い行為でしょうが……」

 

 激情に駆られて行き場のない感情を相手にぶつけたところで何も解決しない。

 

 寂しそうな声で呟くように言った彼女は、拳を開いてそっと差し出してくる。

 

「コーネリア……さん……?」

 

 それは手の平を大きく開いた握手を求める物。

 

 一転してコーネリアは穏やかな表情に変わった。

 

 まるで憑き物が落ちたかのように。

 

「貴方とはまだ短いお付き合いだが、信用の置ける方だというのはわかっている。貴方がユフィに非道な行いをする筈がない」

 

「……」

 

「それに、貴方は一瞬たりと私から目を逸らさなかった。その目から伝わる真剣な思い、覚悟を決めた者にしか持てない目だ。本音を言えば沢山言いたいことはある。あの子が生まれたときからずっと見守ってきたのですから……

 

 だがあの子が選び、自ら求めた貴方にこれ以上何を言えばいい? それに薄々気付いて居ました……ユフィが貴方に好意を抱いているというのは」

 

 嶋田の話をするときのユーフェミアの表情。

 

 友人の事を話す顔ではなく、女の顔の顔をしていた。

 

 その時のことを思い出しながら話を続けるコーネリア。

 

「ユフィが貴方と会う約束をしていた日はいつも嬉しそうでしたし、一時貴方がユフィを避けていたときの落ち込みようなど見るに堪えなかった……」

 

 嶋田に避けられていた僅かな時、彼女はユフィが泣いているのを何度も見ていた。

 

 繋がらない、繋がっても直ぐに切られる携帯を握り締めて悲しそうにしているユフィを見かね、辻に連絡を取り嶋田と会わせようとしたのは他ならぬコーネリアなのだから。

 

 ただの友人ならそこまで落ち込んだりしない。愛している人だからこそ悲しみ涙していたのだ。

 

 それ程までにユフィが思う相手は父シャルルが『心友』と呼ぶ程の男。そんな男がユフィに酷いことをしたりする筈がない。

 

 互いを想うが余りに求め合ってしまったのだろう。

 

「貴方にユフィの温もりが必要であるように、ユフィにも貴方の存在が必要だ」

 

 その証拠に自分がした行為。そこへと至るまでの馴れ初めを語り、男としての責任を取る為彼はこうして挨拶に来ている。

 

「コーネリアさん……」

 

「ユフィを、幸せにしてあげてください。私に言えるのはこれだけです」

 

 そんな彼ならばユフィを託せる。いや、彼だからこそか。

 

 もう何も言うことはない。ユフィが愛し求めた彼との仲を自分が認めぬ訳には行かない。

 

 祝福しよう。二人の門出を祝おう。二人を快く認め受け入れることが姉としてすべきこと。

 

 コーネリアは自分の仲で答えを出した上で、嶋田に妹を託した。

 

「お約束します。必ず……必ずやユフィを幸せにすると」

 

 ならば自分も責任を持ってユフィを幸せにする。

 

 今までユフィを護っていた彼女に変わってこれからは自分が護っていくと、ユーフェミアを託された嶋田は決意した。

 

「誓えますね?」

 

「ええ……ああ、違いました」

 

 そして彼は誓えるかというコーネリアに、ある言葉を思い出す。

 

 ブリタニアの皇族に対する了解の意味を込めた返事を。

 

「そう、確か──」

 

 “イエス・ユア・ハイネス”

 

「でしたか?」

 

「ええ、それで合っています。ただ、その言葉を私の前で口にされたということは、約束を違えること許されませんよ?」

 

「無論、約束を破ったりはしませんよ」

 

「ふふ、信じましょう」

 

 信用のおける男として妹を託してくれたコーネリア。

 

 差し出されたまま握り返していなかったその手を、嶋田はしっかりと握った。

 

 

 

 *

 

 

 

「しかし、そうなるとこれから嶋田卿は私の義弟(おとうと)になるのですね?」

 

「あ、言われてみればそうですね、コーネリアさんは私のお義姉さん(おねえさん)になるんでした」

 

 1月13日に29歳の誕生日を迎えたばかりのコーネリアが義姉で、今年の9月24日で61歳になる嶋田が義弟。

 

 何とも不思議な姉弟関係が出来上がってしまった。

 

「ユフィに合わせてコゥ義姉さんと呼んだ方が良いでしょうか?」

 

「姉さん、か……親子ほど歳の離れた嶋田卿──いや、シゲタロウにそう呼ばれると何か変な感じだな」

 

 コゥ姉さんと呼んだ嶋田に合わせてコーネリアもユーフェミアと同じように嶋田を下の名前で呼ぶ。

 

 更に口調も弟や妹、親しき仲にある者達に対するのと同じ物に切り替えた。

 

「ではプライベートの場では義姉さんと呼びますよ?」

 

「わかった。では私もプライベートの場では貴方のことを義弟としてシゲタロウと呼ばせて頂く」

 

 

 

 

 

 ユーフェミアとの結婚を認めてもらい、これより家族となる二人は互いの呼び方を決めた後、この場に居ないユーフェミアの話に移った。

 

「しかし、ユフィの行動力というか強引さには驚かされましたよ。私としては自分の気持ちに気付いた後も、生涯独身を貫くつもりだったのですが……」

 

「まあユフィに見初められた段階でそれは無理だな。シゲタロウ、貴方も知っているだろうがあの子は譲れない一点に於いてはとても強情で欲張りだ。人を好きになる気持ちというのは存外厄介な物で、譲れない一点の最たる物」

 

「確かにそうでしょうね。ユフィを好きという気持ちが否定できなかった私は身に滲みてわかってますよ。結果こうして捕まえられてしまいましたから」

 

 苦笑いする嶋田。

 

「それだけでは済まないぞ? あの子の貴方を思う気持ちはおそらく想像できないほどに大きな物だ。この先もし浮気でもしようものなら怖いことになるかも知れない……」

 

「ね、義姉さん、脅かさないでくださいよ、あんなに優しく穏やかな性格のユフィが怖いことするって……」

 

「他の女に奪われるくらいなら──とかな」

 

『シゲタロウを殺してわたくしも死にます』

 

 コーネリアの言葉に一瞬そんな声が聞こえた嶋田は「ないない!」と首を振って想像をかき消すのだった。

 

 



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帝都の休日 第7話

908 :帝都の休日 第7話:2013/07/11(木) 20:04:08

提督たちの憂鬱のキャラがギアス平行世界に転生
性格改変注意
嶋田さんとユフィは婚約済み
何にもない日常
ダダ甘話
ラブロマンス率100%



 

 

 帝都の休日 第7話

 

 

 

 

 

 七月七日

 

 

 

 

 

 

 

 蒸し蒸しとする梅雨の空気に包まれた東京の住宅街。

 

 如何にも高級住宅、豪邸、といった風情の家々が立ち並ぶこの一角に、瓦葺きの屋根を持つある一軒の日本家屋があった。

 

 周りに比べて比較的こじんまりとした感じの、豪邸とは呼べないながらも広く立派な作りをしたその家の前には、数名の屈強な男が立っており、周囲に目を光らせている。

 

「異常は無いか?」

 

「はっ! 異常無しでありますっ!」

 

 いつもと同じように屋敷の周りを巡回していた男が、まるで軍隊でする報告のような口調で以上が無い事を告げると、また持ち場に戻っていった。

 

「まぁ、この屋敷を襲撃してくるような命知らずな輩はそうそうおらんだろうが」

 

 ダークスーツに身を包んだ男の職業は警備員。先ほど巡回していた男も同じだ。

 

 彼らは日本軍の精鋭から引き抜かれたこの屋敷専属の警備員たちなのである。

 

 だが何故、軍に所属していた人間が、民間人の屋敷を警備しているのか? 

 

 その答えは、この屋敷に住む住人が、民間人とはいえ特別な存在であるからだ。

 

『嶋田繁太郎』

 

 それがこの屋敷の主人の名前。日本人であるならば。いや、世界中でまともな教育を受けてきた者ならば誰でも知っている名だ。

 

 大日本帝国を永年に渡って率い、同盟国である神聖ブリタニア帝国と共に、あらゆる分野での協力と文化交流を成し遂げ、両国を硬い絆で結びつけた人物。

 

 元より洗練された高い技術を持っていた日本を、更なる高みへと飛躍させた立役者たちの一人なのである。

 

 無論、次代を担う者たちに後を託した現在は、表向き隠居生活を送る一人の男に過ぎないのだが、今尚、有事の際には現首相の権限を越えて絶大な力を行使できる日本の最重要人物なのだ。

 

 そういう立場に在る以上、例え本人が望まずとも、生涯に渡り身辺警護が着くもので、彼の家の周囲や庭には、常に警備員が常駐して物々しい雰囲気を作り出していた。

 

 平穏で静かな余生を過ごしたいと望む彼としては、別に警護して貰わなくともという思いはあったのだが、当然ながらそのような個人の思いが受け入れられる筈も無く、

 

 減らされる処か、反対に増やされてしまうような状態になっている。

 

 その警備員を増加させられる原因となったのは、今年で18歳になる少女の存在であった。

 

 

 

 *

 

 

 

 深い深い闇の底に意識を沈めていた彼は、不意に感じた温もりと、鼻腔を擽る春の香りに揺り起こされようとしていた。

 

 この香りと温もりは知っている。無意識下でも間違うことはない。最近知り合って特別な関係を築いた少女特有の物だ。

 

 一度これを感じ取ってしまえば、望む望まずに拘わらず、意識を表層へと浮上させ、覚醒を促されてしまう。

 

 そのくらい、この少女の存在は大きいのだ。最初の『時』であった過去の過去と、次の『時』……前世であった過去。そして現在へと至る過程を知る、数少ない人物なのだから。

 

 夢と現実の境まで辿り着いた意識が、閉じていた彼の目を自然に開かせる。

 

 そのぼやけた視界に飛び込んできたのは、やはり予想通りの少女の姿であった。

 

「あ、起こしちゃいました?」

 

 小首をかしげる少女のポニーテールに纏められた桃色の髪の毛がさらりと揺れた。

 

「ん……。いや、いいよ……気にしないでくれ」

 

 少女は先ほどから頭に置いていただろう手で自分の頭や顔を撫でてくる。後頭部に感じる柔らかくて温かい感触は彼女の膝の温もりであろう。

 

 実はこの少女。何度も訪れている嶋田邸の警備の人間や、家政婦とは既に窺知の間柄であり、家主との関係も知っている為、この家の家人としての扱いを受けているのだ。

 

 その為、『こんにちは』の挨拶に『お帰りなさいませ奥様』と返されて、素通りで入れるという特別な扱いをされているのである。

 

 序でに言うならば『これからは強引に行く』と宣言し、少し前まであった心を隔てる壁を破壊してきた少女は、遠慮という物を忘れてしまったらしく

 

 こちらが休みの日にうたた寝をしていると勝手に上がり込んできて、目が覚めたら膝枕をしていたりするのが最早日常となっていた。

 

 その間、彼女の付き添いとして嶋田邸を訪れている者達は、嶋田邸の警護部隊に混ざってこの屋敷の警備に就くというのが決まり事となっている。

 

 これは彼女の姉が、正確に言えば彼女のお国が決めた事。言うならばそれは、彼女という人間の社会的地位の高さを表していた。

 

「こんにちはシゲタロウ」

 

「ああ、こんにちはユフィ」

 

 その自分の日常に根を下ろした少女の名はユーフェミア・リ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国の第3皇女であり、近い内に結婚しようと約束した大切な娘。

 

 世界最大の超大国の皇女殿下……所謂お姫様だ。それが彼女の身分である。

 

「それにしてもユフィ、君はまた公務服のまま家に来たのか」

 

 彼が目を向けたのは、そのお姫様の髪。中央に金色の模様が入った白い大きな髪留めで纏めたポニーテールだ。

 

 ただ、それだけを目にして私服ではなく仕事着──公務服であるとわかってしまうのは、

 

 彼女が公務服を着ている時は、髪の毛を下ろしたままにはしておらず、基本的にこの髪留めで髪を纏めていると知っているから。

 

 似合っている髪型であるというのは勿論の事、服装を見るまでもなく判別可能な特徴とも言えるので、これはこれで見分けが付きやすくて良いと思う。

 

 まあ膝枕されて上方しか見えていないとは言っても、横を向けば直ぐに服装などわかるものだが。

 

「公務服だといけませんか?」

 

「いや、いけないという事はないけどな。何か俺みたいになりそうで心配なんだよ」

 

「シゲタロウのように?」

 

「ああ、仕事に生きる……みたいな、ね」

 

 仕事着を着たままでいるというのが、常時仕事をしているように感じてしまい、まるで過去から現在に至る自分を見ているようで、彼女の身体が心配になる。

 

「俺が百何十年かの人生で仕事ばかりしているのは知っているね?」

 

「はい、主に書類仕事でしたか?」

 

 既に自分の前世を知っているユーフェミアには、仲間達の了承の元、一通りの過去の事を教えていた。

 

 といっても、最大の秘密である『衝号』を一番始めに知ってしまったというのもあって、最早隠しておくべき事など無かったのだが。

 

 何よりも彼女が前世、そして前々世について知りたがったから話していたのだが、その中にあるのだ、書類地獄についての話が。

 

「書類もだけど色々あるんだ。経験上言うと、生きている感についてはそれは凄まじい物があるけど、決して身体には良くない。君は女性だから美容と健康両方大切だ。俺みたいな仕事人間にだけはならないように気を付けてくれ」

 

 これについては結構切実な思いがある。

 

 世間一般で言うところの普通の仕事人間ならばまだいいと思われるのだが、自分の領域にある仕事人間はもう別の次元になっていて、こんな細い身体のユーフェミアが耐えられるような物ではない。

 

 勿論、彼の場合は日本の為、そして何より自分の為にも必要であったからこそ必死になって仕事に励んできたし、激務に耐え続けられたのだが。

 

 同じ事が彼女に必要か? といえば、必ずしも必要であるとは言えないだろう。

 

「それなら大丈夫です。わたくしは自分の限界を理解しているつもりですし、無理を押して仕事をしようとすればお姉様に止められちゃいますから」

 

 しかし、話を聞いた処どうやら大丈夫であるみたいだ。それもそうか、あの妹思いの姉コーネリア皇女が、そんな無茶な事をユーフェミアにさせるはずが無いのだから。

 

「羨ましい話だな。俺は止められるどころか次から次へと書類の山を渡されてたからなぁ」

 

 無茶をさせない姉が居るというユーフェミアと、無茶をして当然という自分との環境の違いにそうぼやきながら、彼は彼女の膝を枕にして横になっていた身体を起こそうとする。

 

「ダメです!」

 

 が、ユーフェミアに押さえ付けられてしまった。

 

「ユフィ?」

 

「もう少しこのままで──」

 

 自分の膝を枕にしたまま寝転んでいろというのだろう。

 

「わかったよ、もう少しだけ君の膝を借りておく。まったく、君は言い出したら聞かないから困る」

 

 優しげでふわふわした性格ながら言い出したら聞かない頑固な一面を持つ彼女には、何を言っても無駄だと知っているので、このまま大人しく寝させて貰おうか。

 

 投げやりな感じで決めた彼は彼女の膝を枕にしたまま、す~っと目を閉じた。

 

 

 

 *

 

 

 

 どれくらいの間そうしていたのだろうか? また長い時間寝入ってしまっていた彼は不意に目を覚し、自分の頭を撫で続けている温もりを感じて、この手の主であるユーフェミアに目を向けた。

 

「結構長く寝入ってしまっていたかな?」

 

「ええ、もうそれはぐっすりと。外はもう日が沈み掛けていますよ?」

 

「そうか……随分と長く寝ていたんだなぁ。君の膝は温かいから妙に眠気を誘うんだよ」

 

 まるで子どものようねと、くすくす笑うユーフェミアの藤色の瞳を見つめていると、その瞳に吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚える。

 

 不思議な色だ。空想の世界でしか見られない藤色の瞳と桃色の髪。しかし、今ここに居る彼女は現実で、何度も転生を繰り返している自分もまた現実で。

 

「不思議ですわね」

 

 そんな心の内を見透かされたのか、ユーフェミアはこちらが考えているのに沿った内容の話を始めた。

 

「何が不思議なんだ?」

 

「わたくしとシゲタロウがこうして出逢えた事がです。輪廻転生を繰り返す貴方──神崎博之が居てくれたからこそ、わたくし達は出逢えた」

 

「確かにな。何か一つでも歯車が噛み合っていなければ、俺と君はこうして出逢えなかっただろうからね」

 

 平凡な会社員の青年──神崎博之が、前世の嶋田繁太郎に憑依しなければ。

 

 憑依した時に、神崎博之という人生を覚えていなければ。

 

 同じ人間としての繰り返しの転生を記憶し続けるという特殊な能力を持っていなければ。

 

 そして架空の世界『コードギアス』の平行世界である現実世界の現世に転生しなければ。

 

 嶋田繁太郎とユーフェミア・リ・ブリタニアが出逢い、結ばれるという奇跡は起こらなかったであろう。

 

 だからこそ、その出逢いの先にあった『今』が尊い物であり、大切にしなければならない『時』その物だと思わずにはいられない。

 

 月並みな言い方をすれば『今』という時は『宝物』といった処であろうか? 

 

 大切に思う者同士がこうして寄り添っていられる『今』は、何物にも代え難い宝物なのだ。

 

「シゲタロウ、今日が何の日か御存じですか?」

 

 今日が何の日か? そう問い掛けるユーフェミアに彼は答えた。

 

「短冊に願い事を書いて笹に付ける日、星に願いを掛ける日、星が願いを叶えてくれる日…………七夕だ」

 

 そう。今日七月七日は七夕の日。

 

 短冊に願いを書いて笹に吊したり、星に願掛けをすれば叶うと言われている、クリスマスとはまた別の奇跡の日だ。

 

 そして──

 

「織姫と彦星が一年に一度の逢瀬を重ねる日でもある──さしずめユフィは織姫といったところか?」

 

「どうしてわたくしが織姫なのですか?」

 

「ほら、君はブリタニアの第3皇女……つまり、お姫様だろ?」

 

 織姫を投影するなら本物の姫であるユーフェミアが丁度いいだろう。

 

「うふふっ、わたくしが織姫ならシゲタロウは彦星ですね♪」

 

 織姫の相手は彦星。ユーフェミアが織姫であるのならば、そのお相手である彦星は嶋田以外にない。

 

「おいおい、還暦のおっさん捕まえて彦星はないだろう」

 

 しかしながら、彼としてはその例えには違和感を覚えてしまう。

 

 彦星というのは青年である。それに引き替え自分は還暦。初老と言われても決しておかしな年齢ではないのだ。

 

「年齢なんて関係ないわ。わたくしの彦星はシゲタロウ以外に有り得ませんもの」

 

 だが、ユーフェミアとしては自分が織姫である以上、彼が彦星でなければならないという意見を曲げたりするつもりはなかった。

 

 18歳と60歳。実に42歳差という歳の離れた二人であるが、その距離は織姫と彦星が霞んでしまうほどの近さ。

 

 ずっと一緒に居られるのだから、距離はゼロといった処であろうか? 

 

「しかし、七夕を例えに持ち出すとなると、不安な要素が一つ出てくる」

 

 七夕伝説に出てくる織姫と彦星が会えるのは年に一度だけ。ではその原因を作ったのは誰かとなる訳で。

 

 そこで浮かび上がってくるのは、豪奢な巻髪にした白髪と、身体の芯まで響いてきそうなくらいに大きな声が特徴的な男の姿。

 

「お父様ですね?」

 

「そう、シャルルさんだ……」

 

 織姫と彦星が一年に一度しか会えないようにした人物、織姫の父親、つまり二人にとってはシャルルがそれに該当する。

 

 といっても、別に自分たちは織姫・彦星のように一年に一度しか会えないという事はなく、毎日のように会っては二人だけの時間を過ごしていたが。

 

 それでもシャルルの返事如何によっては、本当に織姫と彦星の関係になってしまいかねないのも確かな事。

 

「シャルルさんには、正式に結婚の挨拶に伺わなきゃならないからな」

 

 シャルル・ジ・ブリタニア。

 

 神聖ブリタニア帝国第98代皇帝にしてユーフェミアの実父であり、近く彼の義父となる人物。そして、数十年来の友人でもあった。

 

 嶋田がユーフェミアと結婚する以上は避けて通れないのがシャルルへの挨拶。実の娘であるユーフェミアを嫁に貰うのだから挨拶に伺うのは当然の事だ。

 

 まさか彼女の姉であるコーネリアへ結婚させてくれと挨拶しておいて、父親たるシャルルには何の挨拶もなしなどという事が罷り通る筈もない。

 

「まさか、同年代の友人に娘さんをくださいと言うことになるとは……」

 

「でも、お父様なら必ずや認めて下さいます」

 

「やけに自信ありげだが、根拠は?」

 

「お父様はむさ苦しくて暑苦しくて、周りの迷惑も考えずに大声で喋る迷惑な方ですが、わたくし含め子ども達には優しいんです」

 

「酷い言われ様だな……」

 

 確かに、シャルルは子煩悩であり、本来ならば理想的な父親と言えるのであろう。

 

 但し、ユーフェミアとは腹違いの妹で、神聖ブリタニア帝国第87位皇位継承権を持つヴィ家のナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女と、

 

 現大日本帝国内閣総理大臣──枢木ゲンブの長男、枢木スザクの友達以上恋人未満の仄かな関係を知るやいなや、

 

『枢木の息子が娘を誑かしたッ』

 

 と激怒して、日ブ首脳会談をボイコットしかけたほど悪い意味での子煩悩なのだから、正直そう簡単に認められるような気がしないのだ。

 

 因みに、ブリタニアでは皇帝こそが法であり憲法なお国柄故、シャルルは他の皇族・貴族とは比較にならないほどの絶大な権力を保持している。

 

 例え白でも、シャルルが黒と言えばそれは黒なのだ。

 

 つまり、シャルルが結婚を認めないと言えば、絶対に結婚できない事を意味する。

 

 勿論、友人補正がある程度は利くかも知れない物の、完全に不安をぬぐい去ることはできそうにない。

 

 何せ、あの子煩悩なシャルルならば、友人に裏切られたと斜め上に捉えるかも知れないのだから……。

 

「シゲタロウならば大丈夫ですわ。それに今夜は七夕……不安なら二人で祈りましょう」

 

「さっき君と俺が出逢って結ばれたのは奇跡だと確認したばかりなのに、このうえ更に願い事をして叶うとも思えんのだがな」

 

「先ほどのとはまた別です。出逢い結ばれたのは運命、でも、今ここで祈るのは正式なお願いごと……。ですからきっとお星さまは願いを叶えてくださると思うんです」

 

「また都合の良いように考えた物だ」

 

「都合の良いようにも考えます。わたくしは織姫と彦星のように一年に一度しかシゲタロウと逢瀬を重ねられないなんて嫌ですからね」

 

 そう言って膝枕をしている彼に顔を近づけるユーフェミア。

 

 さらりと彼女の肩から流れ落ちた髪の毛が顔を撫で、甘い香りを擦りつける。

 

 “んっ”

 

 次いで塞がれた唇。湿り気を帯びた唇の感触が心地良く、自らも手を伸ばしてユーフェミアの両頬を捉え、押し返すように唇を押し付けた。

 

 しかし、強引なユーフェミアは押し返そうとする彼の口の中に舌を忍ばせてきた。甘酸っぱい味が口の中に広がり、唾液の交換を促進させる。

 

 “んんっ……んっ──”

 

 嶋田から送られる唾液はユーフェミアの喉に、ユーフェミアから送られる唾液は嶋田の喉の奥にそれぞれ入っていき、空いた胃が僅かに満たされた。

 

 水を飲んでいる訳ではない為、お腹が膨れたりする事はない物の、心の空腹は唾液の量に比例して大きく膨れていく。

 

 この感覚は、こうして愛を確かめる為に行う口付けでしか得られないのだろう。

 

 交わされた口付けは精々一分程度。その僅かな間に互いの唇の味と、深い愛情をしっかりと味わった二人は、暫し唇を重ねたまま見つめ合ったあと、静かに離れる。

 

 先に離れたのは彼を自身の膝の上から逃げられないようにしていたユーフェミアだ。

 

「んふふ……。今日も美味しかったわ」

 

 ユーフェミアが解放した嶋田の唇には、彼女の髪と同じ桃色のリップがたっぷり付けられている。

 

 見ようによっては彼が口紅を塗ったかのようにも見えるが、二人きりの部屋で誰かに見られる心配はないので気にならない。

 

 彼女は自分がリップを付けた彼の唇を、右手の人差し指でそっとなぞる。

 

 彼の唇にはまだユーフェミアからされたキスの感触が残っている。その感触の上に唇をなぞってくる彼女の指の感触が重なる。

 

「ユフィは相変わらず積極的というか、強引だ」

 

 公認されているとはいえ、勝手に家に上がってきては寝ている自分を膝枕した上、キスをしてくるのだから強引だと言わずにはいられない。

 

「前にも伝えた筈ですわ。シゲタロウに対しては強引に行きますと」

 

 だが、元よりそういう事を積極的にすると宣言しているユーフェミアに遠慮するなどといった考えはなかった。

 

 彼に何かをするさいに、誰に対して許可を求めなければならないというのか? 強いて言えば自分に対してくらいのもの。

 

「わたくしの物になりなさい! とも、言いました♪」

 

「そういえば、そんなこと言ってたな…… さて、強権的なユーフェミア皇女殿下。発言許可を」

 

『慈愛の皇女』という二つ名を付けられるほど慈悲深く、心優しい皇女殿下は、唯一彼に対してだけは強権的である。

 

 自分の物になれなどというくらい、こちらの意見などお構いなし。

 

 優しい慈愛の独裁者に皮肉を述べた彼は、精一杯の抵抗運動を試みた。

 

「いいでしょう」

 

 慈愛の独裁者は発言許可を与える。

 

「では僭越ながら意見させて頂きます」

 

 許可を貰った市民(嶋田)は早速己が意見を述べる。

 

「そろそろ起きても宜しいでしょうか? 殿下に膝枕は温かくて心地良いのですが、このままじゃまた眠ってしまう物でしてね」

 

 その陳情は慈愛の独裁者にとって実に受け入れがたい物であった。

 

 起きても良いかとは、膝枕を止めろと同義。『市民の分際で何を仰っているのかしら?』本来ならば重罪物であり、一日膝枕の刑に処するところ。

 

「ん~? そうね。もう少しと言いたいところですけど……あんまり拘束しているのも可哀想ですから、そろそろ自由にしてさしあげます」

 

 なれど、慈悲深い彼女は特別に恩赦を与え、彼を無罪放免にした。

 

「ありがたき幸せに御座います…… なんてな」

 

「うふふっ、今回限りですよ?」

 

 身体を起こした嶋田は、直ぐ側に座るユーフェミアの髪の毛に何と無しに指を通しながら窓の外を見遣る。

 

「……」

 

 彼女もまた黙って髪への愛撫を受け入れ、潤む瞳で嶋田の横顔を見つめた後、彼と同じように窓の外に目を向けた。

 

 外は大分暗くなっている。天気は快晴。これで此処が都会でさえなければ光り輝く綺麗な天の川を、

 

 ベガとアルタイルが星の川を挟んで会っているロマンチックな天体ショーを見ることが出来るのだが、生憎と都会の照明の明かりに掻き消されて、見えるのは件の一等星二つだけ。

 

 何とも寂しい光景だ。本来なら満点の星空にその存在を誇示する織姫と彦星が、夜空にポツンと佇んでいる姿を晒しているだけなのだから。

 

 あれでは、逢瀬を果たしているというより、ただぼーっと突っ立っているだけのようにしか見えない。

 

「見えませんね……天の川」

 

「東京のど真ん中じゃなぁ。見えてもベガとアルタイル。織姫と彦星だけだ……ペンドラゴンではどうだったんだい?」

 

「生憎とペンドラゴンも大都会ですから満天の星空なんて見えませんよ? 敷地が広く、人工的な明かりの少ない皇宮などでは多少見え方も変わってくるんですけど、それでも天体写真で見るような美しい星空なんてとても……」

 

 残念そうに呟くユーフェミアを気遣っていると、彼女は一度小さく目を閉じて彼に向き直って言った。

 

「では、その代わりにシゲタロウとわたくしが、今夜の逢瀬を重ねましょう」

 

「今夜の逢瀬って…………泊まっていくという事かな?」

 

「はい」

 

「しかし、明日は大丈夫なのか?」

 

 泊まっていくのは別に良い。婚約した以上、今後の事も考えてユーフェミア個人の部屋や二人の寝室も既に用意しているし、彼女の普段着も何着か部屋のクローゼットには入っている。

 

 思えばもう、この家はユーフェミアにとっての家であるとも言えるのだろう。

 

 だが、まだ全てが揃っているとも言えないので、翌日が仕事なら、彼女の家である駐日ブリタニア大使公邸に帰宅した方がいいと思う。

 

 そう考えたからこそ嶋田は大丈夫かと聞いた訳だが。

 

「ええ、明日は都合良く公休日ですから、お姉様にもお泊まりしてくると伝えてありますし」

 

「義姉さんにも?」

 

 どうやら始めから泊まっていく予定だったようで、コーネリアにも話を通して来ていたらしい。

 

 それならば一度公邸に戻って服を着替えてから来ればいいのにと思わないでもなかったが、普段着ならこの家にも置いているからここで着替えればいいとでも考えたのだろう。

 

「はぁ、手回しの良いことだな。さては、最初から泊まる計画でも立てていたんだろう?」

 

「ええまあ だって、シゲタロウはわたくしの夫ですもの。夫が住む家はわたくしの家……遠慮する必要なんてありますか?」

 

 夫。ユーフェミアはそう言い切った。

 

 まあ確かに結婚の約束をして、コーネリアへの挨拶も済ませたのだから一応は婚約者であり、彼女の言うように夫婦と呼べる間柄なのかも知れない。

 

 しかし、彼女の親族、特に父シャルルへの挨拶を済ませない以上、本当の意味での夫婦にはなれないのだ。

 

 それでも、自分自身の彼女への想いは本物であるからこそ、これだけは言っておく。

 

「そうだな……ユフィは俺の妻だ。自分の家に帰るのに遠慮する必要は何処にも無い」

 

「シゲタロウ……」

 

 “んンっ”

 

 互いの腰に手を回して強く抱き締め合い、再度の口付けを交わす。

 

 愛を確かめるのに何度キスをしようが、幾度身体を重ねようが、決して多すぎるなどという事はないのだから。

 

 “ン……あむっ……”

 

 いっそ、このまま勢いと空気に身を任せてしまっても構わなかったが、そこは一度冷静になって身体を離した。

 

「ふ、う……。危ない危ない、空気に流されてしまう処だった」

 

「ん……そう、ですわね」

 

 深く口づけてしまったせいか、ユーフェミアは火照ったような表情になっている。

 

「まあ、何はともあれ食事にしよう。丁度良い時間だしユフィもお腹空いただろう?」

 

「ええ思い切り……実を申し上げますと、わたくし今日は昼食を食べていないのでもうお腹ペコペコなんです」

 

「昼抜きだったのか?」

 

「今日は特別忙しかったので……。あ、いつもは食べていますよ」

 

 彼女は仕事人間にならないように気を付けてくれという先ほどの話を思い出したのか慌てて訂正した。

 

「それならいいんだが。どちらかと言うと君も無理するタイプだからな」

 

「シゲタロウにご心配をお掛けするような事は致しません。その代わりシゲタロウの方もわたくしに心配を掛けさせないでくださいね」

 

「俺が君に心配掛けさせるような事ってあるのか?」

 

「ええありますわ。夢幻会のお仕事とか……」

 

「ああっ、それを言われちゃ反論できないなぁ」

 

「ふふ、やっぱり自覚がお有りでは無かったようね」

 

 してやったり。そんなふうに微笑むユーフェミアであったが──。

 

 “ぐ~っ”

 

 昼食を食べていないせいか、腹の虫が悲鳴を上げた。

 

「あ……」

 

 二の句を告げなくなった彼女は恥ずかしくて下を向きながらお腹を押さえる。

 

 その仕草は中々可愛いものがあったが、放置してると機嫌を損ねてしまいそうだ。

 

「やれやれ、慈愛の独裁者さまのお腹がお食事をお求めのようだから、早速用意致しますか」

 

 

 

 

 

 天上を輝く星々が埋め尽くす七夕の夜。こうして地上で逢瀬を交わす織姫と彦星は、明け方を迎え空が白み始めるその頃まで、時に熱くも穏やかに、愛の語り合いを続けていた……。

 

 

 

 



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帝都の休日 第8話

嶋田さん×ユフィはここまでです。

この続きを書いていたのですが6,7年ほど前に保存しておりましたHDDが壊れてしまい、設定も何もかもが消し飛んでしまいました……ラスボスである南天条約機構とその傘下組織などの、キャラも所々で出ております。


 

 

 

 帝都の休日 第8話 七月の終わりに

 

 

 

「ですがこうも良いお天気の日にこうしてただ縁側で日向ぼっこをしているだけというのも勿体ないと思います」

 

「勿体ない……か。確かに勿体ないかも知れないが、と言ってもどこかへ出掛ける予定を立てていた訳じゃないんから、今この瞬間にどこへ行こうとも決められないだろ」

 

「むぅ~っ」

 

「膨れても何も出ないぞ」

 

 先とは異なり御機嫌取りなどするつもりもない嶋田の指が、むくれる彼女の髪の中へと通されている。

 

 桃色の川の中を泳ぐ指に絡みつくのは触り心地の良い艶やかな絹糸の如き繊維。

 

 もう何度梳いたか分からない髪の毛をそれでも撫で続けているのは、ただそれしかすることがないからだ。

 

 元々何をするでもなく始めた休日の日向ぼっこ。涼しい風を受けながらぼんやり過ごそうかとしていた夏の中休み。

 

 そこへ丁度休暇を貰っていたユーフェミアが訪ねてきて付き合う形になっていただけなのだから予定も何もあったものではない。

 

「本当に今日一日こうして日向ぼっこをするおつもりなのですか?」

 

 やはりどこかへとお出掛けがしたいのか、彼女は尚も未練がましく聞いてくる。

 

「何度も言うがいま急にどこかへ行こうと言われてもそれは無茶振りというものだよ。じゃあ聞くけどユフィはどうなんだ? どこか行きたい所でもあるのか?」

 

「えっ……!? わ、わたくし……ですか……?」

 

 言葉に詰まる独裁者。

 

「わたくしは…………」

 

 その先を続けようとする彼女であったが目を泳がせているだけで答えを出さない。

 

 まあそれが普通である。何も決めていない状態で行きたいと思う場所や目的地なんてのはそうそう頭に思い浮かぶ物ではないのだ。

 

「ほら君も出ないだろう? どこへ行こうかと言って直ぐ出て来るのは最初から行きたい所があるときくらいで今の今では出てこないのが普通だよ」

 

「う~っ」

 

「恨めしそうな目で視てくるな」

 

 髪に通していた手を彼女の膨れた頬に移動させてぺたぺた叩いてやると空気が抜けて頬が萎んだ。

 

(風船みたいだな)

 

「なにをなさるのですかっ!」

 

「空気を抜いてやっただけだよ。そんな膨れっ面をしていたらおたふくみたいになるからな」

 

 ユーフェミアがおたふくになっているのもそれはそれで可愛らしい。

 

「んなっ!?」

 

 他愛ない返しに激昂した様子の彼女は何か言いたげだったが、そのとき偶然にも吹いたそよ風が瞬間湯沸かし器みたいに沸騰した怒りを和らげてくれたようで

 

 険しくなりかけていた目尻と逆ハの字につり上がっていた眉が一瞬にして元に戻る。

 

「涼しい……」

 

 穏やかな表情でそよ風を受ける彼女の髪がさわさわと揺れた。

 

「だろう? というわけでだ、今日みたいな涼しく過ごしやすい日に無理して出掛けたりする必要は無いよ」

 

「むぅぅ~」

 

 風にそよぐ桃色の髪を抑えながらまた髪を撫でてあげるも、話をはぐらかされたと言わんばかりに不満色濃い表情を浮かべて彼女は唸る。

 

「普通は過ごしやすい日にこそお出かけをするものですわ」

 

 湿気に塗れた34,5℃の炎天下の中を目的地に向けて歩くよりは、当て所なくとも湿気のないカラッとした暑さの中を歩いている方がまだマシ。

 

 まあ至極真っ当な意見だ。極めて正論である。しかしだ。

 

「逆に言うなら過ごしやすい穏やかなときほど身体を癒すにもってこいな日もないだろう?」

 

 彼女が言う正論と嶋田が主張する対極の意見はそのどちらもが正論なのである。

 

 過ごしやすいから出掛ける。

 

 過ごしやすいからゆっくり休む。

 

 どちらの意見も穏やかなこの日にこそ当て嵌まる。

 

「それに君には明日からまた公務が待っているんだから身体を休めて英気を養った方が良い。どうせ出掛けようとしても行く当てはないことだしな」

 

 だが彼は敢えて自分の意見を推す。

 

 行く当てがないなら無理して外へ出る必要は無い。

 

 それなら二人でのんびりゆったり涼みながら家で休もうと。

 

「…………」

 

 納得したのかしていないのか先程のように機嫌を悪くすることなく此方を視てくる彼女と目を合わせたまま暫し沈黙の時を過ごす。

 

 気まずい空気はない。ただなんとなく見つめ合っているだけだ。

 

「シゲタロウもですか?」

 

「ん?」

 

「シゲタロウも夢幻会のお仕事で疲れた身体を休めたいと?」

 

(いや別にそういうわけでもないんだがな。ただ行き先もなく出掛けようというのが面倒なだけで……)

 

 心の声は表に出さず、ただユーフェミアの頬に添えたままでいた手の指を少しだけ動かしてみた。

 

 染み一つ無い白磁の肌の上を彼の指が滑り行く。

 

「……」

 

 気持ちが良いのか、少し目を細めて頬への愛撫を受け入れている彼女がかわいらしい。

 

「まあそんなところかな」

 

 予定もなく出掛けるのが億劫で多少の誤魔化しも入っていたが、全てが全て嘘というわけでもない。

 

「引退したといっても夢幻会の仕事が無くなることはないからそれなりに疲れもするさ」

 

 こちらを見つめ続けている藤色の瞳より目を逸らすことなく答える。

 

「昔はそれこそ外交に内政に夢幻会にと激務の毎日だったからその当時に比べれば『普通の』疲れだが、それでも疲れるには疲れるよ」

 

 現役時代と比較するなら今の仕事量など本当に大した事は無い。

 

 だがそれで身体が疲れないという訳でもないのだ。

 

 書類仕事をすれば目と頭が疲れる。会合の召集が掛かれば精神的な疲れも出る。

 

 結局多い少ないの差こそ有れど仕事による疲労は蓄積するものだ。

 

「だからこういう穏やかな日には、な」

 

 ゆっくり休みたい……そう述べる彼に、ユーフェミアは未だ未練がましく勿体ないとごねたが、彼の言うことにも一理あると渋々頷いた。

 

「真に自由な老後を迎えたそのときには精一杯のサービスをさせてもらうよ」

 

 実に妙なことを口走っていると思う。老後にサービスを受けるのは普通老人の方だ。

 

 その老後を迎える自分が年若いユーフェミアにサービスをするというのだから変なことこの上ない話となる。

 

 自分でもこれ如何にと思わないでもないその話しに、ユーフェミアも笑った。

 

「ふふっ、おかしい」

 

「何がおかしいんだい?」

 

「だってシゲタロウはまだ60歳ではありませんか。人生120年の折り返しに来たところで老後と申されるのは些か早すぎるというものですわ」

 

 太平洋戦争以後、遺伝子医術やサイバネティクス医術の発展を促進してきた日本とブリタニアの人間は、

 

 今や共に平均寿命が120年という、信じがたいほどの長寿となっていた。

 

 中には150歳という年齢の人も居るくらいで、両国人の平均寿命は年々延びる一方。

 

 故に60歳というのはまだまだ血気盛んで働き盛りな壮年期とも言えるのだ。

 

「まだ人生の半分か……。まあ確かにそうには違いないが、といって激しい運動をしすぎると腰が痛くなったりするのはもう老後が近いと言っても言い過ぎじゃない気もするんだがなあ。生まれたのがもう少し後の世代だったなら遺伝子医術の恩恵をもっと早期に受けられて、体力面での衰えを抑えることも出来たんだが」

 

 急速な長寿化は遺伝子・サイバネティクス分野の医術や技術の進化に伴うここ60~70年の話で、嶋田世代がギリギリ入ると言ったところ。

 

 遺伝子医術では肉体の老化を遅らせると共に悪性新生物の発生を抑え、サイバネティクス医術では病気や怪我による欠損部の補填、といった具合に戦後世代以降が最も多くの恩恵を享受している。

 

 現在研究中・試験的な実用段階に入った抗老化技術が完成・普及すれば、将来的には外見年齢二十代の実年齢四,五十代といった世代も現われてくるであろう。

 

 尤もブリタニアのマリアンヌ皇妃始め、実年齢と外見年齢が一致していない四十代が既にちらほら散見されているため一概に将来的と決めつけることも出来なかったが……。

 

 長寿化にギリギリ間に合った嶋田世代についても実年齢と外見年齢こそ一致していたが、現在の遺伝子医術によって体力的な老化現象が随分と遅くなっていた。

 

 もしかしたら百を越えてもある程度の激務に堪えられるくらいの体力を保つことが可能かもしれないと思えるほどに。

 

 まあ六十代前後の体力がこの先ずっと続いていくのならこれは大きな恩恵を受けていると言えようが、

 

 できれば激しい運動にも耐えられるほどの体力があった四十代までに恩恵を受けたかったと思わずには居られない。

 

「ああでも恩恵を享受し過ぎればし過ぎたで今度は引退が遠くなるし、旺盛な体力に見合うだけの仕事量になって家に帰る時間が……」

 

 但し、その場合は辻による拘束期間が延びてしまうであろうことは確実。

 

 長寿化に伴って現在の労働環境も世情に合わなくなってきており、定年の基準を八十代にという流れも生まれていたが、これは夢幻会にも当て嵌まるのではないか? 

 

 なので平穏な人生をこそ望む彼としては絶好のタイミングであったのかも知れないのだが、それはそれ、これはこれだ。

 

 同じ長生きをするのならば体力年齢の若い方が良いに決まっている。

 

 再び溢れ出た夢幻会という秘密の名前。

 

 その名を耳にしたユーフェミアが静かに口を開く。

 

「夢幻会。日本を陰から支える転生者の組織」

 

 その名が意味し、その組織が目指し続けてきた事の全てを彼女は知っている。

 

 夢幻会。その存在こそが日本を超大国へと飛躍させ、今日の日ブ関係を築き上げてきたことを。

 

 過去から現在まで、日本という国を守護し続けてきた者達の集団であることを。

 

 そして、その中核メンバーの正体が、生まれ出でたるこの世界とは異なる異世界より訪れし稀人達であるということを。

 

 日本を導く夢幻会という組織その物は日本の裏側を知る者達の間で広範に認知されていたが、

 

 その深い秘密までをも知り得ているこの世界の人間はユーフェミア・リ・ブリタニアというただ一人のみである。

 

 嶋田の転生と前世の記憶。

 

 彼と最も親交厚きこの世界の人間である父や叔父でさえ知り得ないその秘密を、ユーフェミアだけは知っていた。

 

「シゲタロウはその夢幻会でどの様な軌跡を辿ってきたのかしら」

 

「辿ってきた道も何も、大体は話したよ」

 

 最大の秘密である衝号のことすら知っているのだから、彼女に隠し立てすることは最早微塵たりとて残っていない。

 

 もちろん大雑把にではあったが殆どの道程を話してきた。ユーフェミアが最も知りたいと言った神崎博之……つまり自分という存在のことも。

 

『あなたのすべてを知りたい』

 

 他の何よりも請われたのは、もう遠い記憶の彼方へと封印されてしまった本当の自分について。

 

 会合メンバーですら殆ど知らない彼自身の、嶋田繁太郎という人間の全てだ。

 

 心より愛するユーフェミアにだけは自分の全てを話しておこうと、博之としての子どもの頃から辿ってきた第一の転生を迎えるまでの人生。

 

 前世から今現在へと至る嶋田繁太郎としての第二、第三の人生。

 

 三度の人生で経験した全てを包み隠さず伝えたのだから、今更彼女が知る以上の何かが出て来よう筈もなかった。

 

「日露戦争、世界大戦、ドイツ第三帝国、大英帝国、枢軸国、ソビエト連邦、アメリカ合衆国、中華民国、衝号、メキシコと原子爆弾、アメリカ風邪」

 

 知り得た幾多の秘密の単語を反芻するように口にしたユーフェミアは彼の手を静かに握る。

 

「あなたは幾多の苦難の中で常に自分を殺しながら辛い決断を選び続けて来られたのですね」

 

 自身が目指す答えとは異なる、辛く苦しい道を選ばざるを得ない現実。

 

 逃げる事が出来ないからこそ苦難の道を選び、多くの命を奪ってきた。それが嶋田繁太郎の歩んできた一つの人生。

 

 どれだけの悲劇が生じようともけして優しくないこの世という世界を生き抜いていく為には、時に非情な決断を下さねばならない事とて有る。

 

 神聖ブリタニア帝国第三皇女としての公務経験は浅くとも、四分五裂となる寸前であったブリタニアを救いし英雄帝──クレア・リ・ブリタニアを直系の祖先とする彼女にはそれを理解することが出来る。

 

 世界はいつの世も綺麗事のみではないのだと。

 

「きっと『昭和世界』の日本人の皆さんはあなたを……あなた方を誇りに思っているはずです。真なる日本の守護者として傷付き戦い、そして日本の平和を守ってきたあなた方のことを」

 

 きっとではなく、そうであると信じたい。

 

 犠牲になった命と守り抜いた命。そのどちらも“無駄”であってはならないのだ。

 

 傷付き摩耗し戦い抜いた彼等の道。

 

 正解であるとも謝りであるとも言える選択が、決して意味のないものであって欲しくない。

 

 彼の過去を知り彼等の戦いを知るユーフェミアは、この世界から貧困と争い、そして憎しみを無くしたいと考える慈愛の皇女。

 

 土台、人が人である以上不可能なその夢想は、彼等が歩んだ道のような硝煙の匂いこそないのであろうが、同時に彼等の道と答え以上に実現不可能な難題。

 

 天上に輝く太陽を掴もうとして翼を焼かれたイカロスに等しき愚行なのかも知れない。

 

 欧州革命、北南戦争、南方・太平洋・大西洋侵攻と併合、太平洋戦争、血の紋章。

 

 祖国ブリタニアが辿ってきた争いの歴史。

 

 先史時代以前、古代文明国家が起こしたと言われる世界大戦『ラグナロク』。

 

 二千年前のローマ帝国によるブリタニアへの侵攻。

 

 幾度も繰り返された戦いの世、戦国の乱世。

 

 フランス・ドイツ・スペインのマグレブ侵攻。

 

 中欧間の幾度に渡る紛争。

 

 オセアニアの暗躍とメリナ滅亡。

 

 東アフリカのオマーン帝国侵攻。

 

 イラクのサウジ・ヨルダン侵攻。

 

 南ブリタニア動乱、ニューギニア戦争、ラプラタ戦争。

 

 日中・日欧・日大戦争。

 

 世界の国々が辿ってきた戦いの歴史。

 

 

 

 滅んだ国があった。

 

 興された国があった。

 

 戦争を望まない者達が居た。

 

 戦争を望む者達が居た。

 

 民を殺戮の坩堝へと投じる為政者が居た。

 

 民を守ろうと命を投げ出す為政者が居た。

 

 他より奪い繁栄を享受する者達が居た。

 

 他と手を取り合い共に繁栄する道を選ぶ者達が居た。

 

 事細かく記録された世界史と、ブリタニア年代記が示す世界の光と闇。

 

 旧世界を滅ぼしたラグナロクより続く人類の負の系譜。

 

 欺き、信じ、愛し、殺され、また生まれ来る。数多の人が紡ぎ行く世界の物語。

 

 ただ甘やかされるだけで育っていたらきっと知り得なかった本当の世界がそこにあった。

 

「大切な臣民、守るべき家族、己が属する国。ブリタニア第三皇女としてのわたくしが第一に考えなければならないのは我が国の民の安寧……」

 

 皇族として政治に関わり始めたことで少しずつ知ることができたのは、優しいだけ、理想だけでは何も救えない、何も守ることが出来ないという非情な現実。

 

 彼女が望む世界平和。総ての人が平穏に幸福に暮らして行ける優しい世界。

 

 世界を対象とするその望みは、自国さえ守れぬ者が語るべきではない壮大な夢物語。

 

 優しい世界。それは自分の足下より創り始めなければならないもの。

 

 夢幻会と父や叔父達はその足下である日本とブリタニアから始め勢力圏内に優しい世界を築いてきた。

 

 他から攻めさせず、無為に他を攻めず。

 

 民を第一に考える政治の元、民と共に手を取り合って今を生きている日ブという国が実現した理想的な世界。

 

 

 

 しかしそれは自国を護るために他を犠牲にするという、犠牲になる者にとっては到底受け入れられない結果をも招く。

 

 それは戦争然り生活然り、生きていく上で必ず表面化してくる格差という名の魔物。

 

 一方が強く豊かになりすぎれば他方が弱く貧しくなるのが世界の法則。

 

 隆盛を極める日ブの環太平洋経済圏と、凋落の一途を辿るユーロピア経済圏。

 

 停滞する中華経済圏に、日ブによる封じ込めと監視を受けるオセアニア経済圏を見ればその差は歴然としていた。

 

 富も資源も技術も日ブへ集束しているのに比し、貧困と不況に喘ぐユーロピア経済圏の民の多くは日ブを毛嫌いしている。

 

 “黄色い悪魔”

 

 “中世の原始人”

 

 長く戦争はしていなくとも生まれる怨嗟の声。

 

 その地に住まう人々の憎しみ。

 

 己が目指そうという優しい世界からこぼれ落ちてしまう者が確かに存在しているという、選びたくない答えが突き付けられる。

 

 “どんなに望んでも全ての人間が満足する『完全なる優しい世界』というものは創り上げることが出来ない”

 

 ブリタニア国内より欧州帰還の機を窺うユーロブリタニアがその道を選ぶ以上、争いが、戦乱が巻き起こる。

 

 戦が起こればまた多くの血が流れユーフェミアの願う幸せとは反対の不幸が生まれてしまう。

 

 しかし、彼等が行動を起こさなければ亡くなる命と造り出される不幸もある。

 

 どちらへ進もうともやはり犠牲と不幸は生まれてしまうのだ。

 

 彼女が目指す道はそれこそ世界征服よりも難しい。

 

「そうだな。理想だけでは何も救えない」

 

 寂しい笑顔を浮かべた嶋田は語る。

 

「皇族も政治家も国も、時に己の手を汚し非情な決断をしなければならない物だ。

 

 みんなで仲良くしましょう。こちらが愛をもって接するから貴方たちも愛してください。

 

 それだけを唱え続けていれば世の中誰もが争わなくなるのならこれほど理想的な世界もないだろうが、生憎と人類はそこまで頭の良い生き物じゃない。

 

 今はこうして君の国と良好な関係を築けているけどほんの少し前、百年にも満たない過去には血で血を洗う『おおいくさ』をしていたんだ。

 

 君も知っているだろう俺の前世における難敵だったアメリカ。あの国とだって元々は戦争する気などなかった。しかし対米戦は起き、自分達を守る為にあらゆる手段を講じる必要性に迫られた。

 

 繁栄と平和を守るために行った衝号の結果、この身が死後決して光の届かぬ煉獄に落とされようとも“その程度”の代償で日本を守れるのならば……。そう考えたこともあったよ」

 

 彼の手に少し力が入る。ユーフェミアと触れ合っているその手に。

 

「ユフィが目指している世界というのは、ある意味俺が歩んできた道のりよりも険しく困難な道だ。

 

 全ての人を幸せに。まずこれは限りなく不可能処か、100%実現不可能だといっても過言ではない。

 

 自然界を見れば一目瞭然だが弱肉強食が是とされているだろう? 

 

 人間だって動物だから戦争が無くなっても他者との生存競争がある以上は社会的弱者をゼロに出来る訳じゃない。

 

 競争心や欲望を無くしてしまえば強者も弱者も居なくなるが、それはもう動物ですらなく生きてさえ居ない人の形をした物だ」

 

 生まれ出た弱者は強者を羨み妬む。

 

 追い付こうと努力する者もいれば、ただ暗い感情を抱いて成功者を憎悪する者も居る。

 

 それでも全てを平等にする為に競争心と欲望を無くして機械のように感情無く生きる“物”であるよりもずっとましだ。

 

「ユフィが目指すべき道は競争心を無くすことで不幸をゼロにする世界では無く、一人でも多くの人が幸せを享受できる世界が正解だろうな」

 

「一人でも多くの人が幸せを享受できる世界……」

 

 目指すべき優しい世界は一人でも多くの人を幸せにするという最大多数の幸福を追求していく、その先に在る世界。

 

 正しく生きようと頑張る弱きには国が手助けを。生きる事さえままならない者には今以上の福祉政策の充実をもって掬い上げる。

 

 他方では不正による利益享受や強き者の横暴を許さぬ社会を。

 

 強きを挫き弱きを助けるではなく、弱きを見捨て強気を助けるでもない。

 

 頑張り努力する両者を支え、その過程でこぼれ落ちた者には手厚い福祉で救う。

 

 戦争を回避するための対話を持つ機会があるのならば其処へ飛び込んで戦争勃発を防ぐ。

 

 圧政に苦しむ者あらば救いの手を差し伸べる。

 

 

 

 救える者は当然の如く救い、手の届かない範囲にすらも手を広げて救い上げるという難解極まりない世界の実現。

 

 いま日ブとその勢力圏下で行われている其れを世界へと広げて行けないか。

 

 一人でも多くの人と手を取り合い、共に歩んでいこうという難題中の難題を形にした世界。

 

 愚か極まりない理想論だ。人の血も不幸も見たくないという、世界中が笑顔で満たされていて欲しいからという、自分勝手で傲慢な思いを実現したいだけの独りよがり。

 

(でも……わたくしは)

 

 苦しみに喘ぐ人々を見過ごし日々を平穏に過ごせるほど行儀の良く、言われたことだけをしていられるような“良い子”ではない。

 

 手が汚れてでもお節介を焼きたい自分勝手な“悪い子”だから。

 

 積極的な福祉政策を推進する第一皇女ギネヴィア・ド・ブリタニアのように。

 

 戦災孤児と孤児院への積極的な支援に動く、リ家に仕えるアンドレアス・ダールトンのように。

 

 誰に言われるでもなく助けたいから助ける。自分がそうしたいからそうするだけ。

 

 敬愛する叔父からは『それは夢だよ』と諭された。世界平和なんて不可能だと。

 

 本当に見えない。どんなに見ようとしてもこれは無理だと否定される。

 

 すべての人を幸せに。それはいま愛する人から不可能であると否定された。

 

 それが人間なのだと。

 

 ギネヴィアお姉さまは言う。『一人でも多くを助ける』。

 

 ダールトン将軍は言う。『一人でも多くの面倒を見る』。

 

 そして繁太郎は言った。『一人でも多くの幸せを』。

 

(わたくしは)

 

 一人でも多くの幸せを目指しながら、すべての幸せを願い歩む。

 

 一人でも多くを実践し、すべてを目標とする。

 

 叶えられない目標であっても、目標とするのは自由だから。願うことは出来るから。

 

 そうして願うすべての中の一人、また一人と、少しずつだが着実に笑顔にしていってみせる。

 

 

 

 反芻するユーフェミアの手を嶋田がもう一度強く握ると、彼女もまた強く彼の手を握り返した。

 

「その幸せな世界の実現のために、一人でも多くの人を幸せにする為に、シゲタロウは力を貸してくださいますか?」

 

 まだまだ未熟者である自分一人では到底成し得ない難業に、彼女は誰よりも頼りになる己がパートナー。最愛の人、嶋田繁太郎を求める。

 

「ふぅ……仕方のない子だよ、君は」

 

 やれやれ。還暦に到達する年寄りを今更まだ酷使しようというかね? 

 

 自分を求め来る最愛の少女に彼は溜息と共に笑みをこぼした。

 

「この手で支えられるのは、どこまでも広く大きな“世界”という名の途方のないものではなく、“ユーフェミア”という一人の女性くらいなんだぞ?」

 

 彼女が視野に入れている世界全体など、己が手には大きすぎて支えること適わず、また進んで支えようとも思えなかった。

 

 見ず知らずの他人(他国)よりも、自分自身(日本)と、親しき家族(ブリタニア)を優先する。

 

 言葉に出して伝えずとも、彼が支えてきた範囲を見渡せば一目瞭然ではないか。

 

 彼が数多の人と共に支えてきたのは日本。そして後に歩むべきパートナーとしたブリタニア。夢幻会と、シャルルやV.V.達と、気心の知れた仲間達と共に、今日まで支え来た日ブとその勢力圏まで。

 

 他人と考えた地域、頼られもしない場所にまで手を広げようとしたことは一度たりとてない。

 

 そしてその手は個人となればより狭く小さな範囲しか支えられなくなる。

 

 己という個人、たった一人の人間に対し、世界はあまりに大きすぎるから。

 

 そう、個人で支えられるのは……、否、支えようと頑張れる範囲は、本当に限られてしまうのだ。

 

「どれだけ頑張っても君と、いつか生まれてくる子供を含めた親族……家族だけだ。俺の身体はそれ以上を支えられるほど頑丈に出来てないし、苦しみに喘ぐ見ず知らずの誰かよりも何よりも大切な君を優先するぞ」

 

 そうなのだ。大日本帝国宰相でも、大日本帝国海軍元帥でもない、嶋田繁太郎というたった一人の人間が支えられるのは、眼前にて手を握る彼女……ユーフェミア・リ・ブリタニアと、彼女との間にいつか生まれ来るだろう己が子。

 

 そして彼女の母や姉、父となるシャルルや新たに出来る大勢の兄弟達と、自らの家族のみである。

 

 それ以上は手に余る。

 

「大日本帝国伯爵。元宰相。色んな肩書きを持って居ようが所詮俺も一人の人間に過ぎない。肩書きも肩書きだけの話で現役ほどの力も無い」

 

 それでもいいのか? 

 

 聞いても意味のない問い。

 

 彼女の答えは知っている。

 

 次ぎに何を言うのか手に取るように分かろう。

 

 彼女とは──。

 

「それでも構いませんわ」

 

 ユーフェミア・リ・ブリタニアとはこういう女だと、もう知っているから。

 

「シゲタロウが傍に居て支えてくださるだけで。だってわたくしは、あなたさえ居て下さればどこまでも頑張れますもの」

 

 彼の言葉を受けたユーフェミアはブリタニアの皇女として、リ家の次女としてどれだけ大変な道が待っていたとしても嶋田が居れば頑張れると宣言して彼の黒き瞳を見つめた。

 

「シマダ・シゲタロウ。わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアに、あなたの力をお貸し下さいますか?」

 

 もう一度問う。愛するあなたにこそ力を貸して欲しいと。

 

 それは彼に、リ家へと婿入りしてくれという申し出。リ家への婿入り──即ち政治の世界への現役復帰。

 

 ブリタニア皇家の一員として日ブ、そして世界の安定のために、更なる時を現役で居てくれとも言える言葉。

 

 彼女の問いかけ……それは彼が先程口にした引退したらという話を真っ向から否定するものだ。

 

 夢幻会を引退しても今度はブリタニアの皇族リ家の一員として政務に戻って欲しいというものに他ならない。

 

 いや夢幻会に籍を置きながらリ家の一員として二足の草鞋を履く事となるからには、やもすれば政治家時代と同じくらいの激務が待っているかもしれない。

 

 彼女の手が嶋田の手より離れ、彼の頬へと向かう。

 

 頬に触れた手はそのまま肌の上にて滑らされた。上へ下へと、まるで陶磁器を撫でるが如く丁寧で、ただ静かに。

 

 血の通った手の平の温もりが実に心地良いが、これは辻から逃れたところをユーフェミアに捕まえられたようなものだと彼には思えてならない。

 

 引退がまた一歩、いいや何歩も先に遠のいてしまったような物なのだから。

 

「力を貸してではなく、貸せなのだろう?」

 

 万民には慈愛の皇女。しかし彼に対してだけは慈愛の独裁者。

 

 自分の物になりなさいという世にも不可思議な逆プロポーズを受けて悟った彼女の本質。

 

 即ち、優しさと穏やかさに見合わぬ頑固者という一側面。

 

「ふふっ、そうお受け取りくださっても結構ですわ」

 

 絶対に手伝って貰うのだと微笑むユーフェミアに、彼の口よりまた溜息が一つこぼれた。

 

「ハァ~。どこまでも強引で、こうと決めたら梃子でも引かない我が強く傲慢な慈愛の皇女様に捕まってしまったのが運の尽きか」

 

 いつもと変わらぬほんわかした微笑みが悪意に満ちているのは気のせいだろうか? 

 

「逃がしませんからね?」

 

「辻さんじゃあるまいし、その手の台詞は止めてくれ」

 

 頭の片隅に浮かび上がった疑問に考えた処で仕方が無いと思う嶋田は、完全引退をお預けにし、夢描く薔薇色の年金生活を御破算にしてくれようとしている強引極まりない皇女殿下へと顔を近付けて言った。

 

「Yes, Your Highness」

 

 

 

 互いの顔に息の掛かる距離で示された肯定の意を確かに受け取った彼女の透き通った藤色の双眸がゆっくり閉じていく。

 

 合図を受けた彼の唇が眼下にある瑞々しい唇へと近付いていき……そっと塞いだ。

 

「ん……」

 

 低気圧が引き寄せてきた北の乾いた空気の中でも、けして乾くことのない二人の唇は接触したまま音もなく啄み合う。

 

 重なり合った唇の隙間から漏れ出たのは彼女の声であろうか? 

 

 漂う甘い香りを嗅覚が捕らえ、香りが示唆している通りの甘美な唇の味に嶋田は酔いしれる。

 

「んっ、んん……」

 

 触れ合う唇が細かに動き擦れ、接触面に付着していた粘質を繊維のように伸ばす。

 

 混ざり合ったそれはもうどちらか一方のものではなく、口付けという愛の行為が生み出した真新しいブランデー。

 

「っ……」

 

 完全に一つとなった唇の中で終わることのない接触を通じて造り出された美酒を仲良く分け合いながら、

 

 まだまだ醸造されゆくワインを勧め合っては互いのグラスへと注ぎ、飲み下し耽る甘い時。

 

「んぅ……っ」

 

 嶋田の左手はユーフェミアの喉から頤のラインを、右手は頭部を抑え、膝の上で少し身を捩る彼女は右手だけを彼の頬に添えたまま、共に造り出した新酒の味わい深さを楽しみながら、二人はやがて静かに瞳を開く。

 

「……」

 

「……」

 

 交差する瞳は嶋田がしっかりしているのに対し、ユーフェミアは熱に浮かされ蕩けている。

 

 本来なら吐息の掛かるゼロ距離。

 

 しかしながら唇が重なり合っている為に吐息が零れることはない。

 

 その代りに鼻による呼吸の微風を互いに感じられていた。

 

 今が夜で此処が座敷に敷かれた布団の上や、備え付けられたソファの上ならば、恐らくはこのまま先へと進む。

 

 想いのままに愛を語り合って、望むままに熱い時を共有したい。

 

 幾らそうした処で尽きぬ程に大きな想いを互いの胸に抱えているのだから。

 

 だが、あいにく今は昼で、此処は外が見える縁側。

 

 時間も、場所も、共に二人がこれ以上の結びつきへ至らんとする事を由とはしていない。

 

 愛し合っているというのにもう離れなければならないのがなんとも言えない寂しさをもたらす。

 

「んっ、ふ……、むぅ……っ」

 

 押し付け合った唇を何度も啄ませてせめてこれくらいはという時間を送りつつ、二人の唇がゆっくり離れていった。

 

 唇の間を細く伸びては音もなく切れる銀色に輝く糸を引きながら……。

 

「胸がドキドキして、とても熱いですわ……」

 

「こっちも身体が熱くなったよ。まったくこれじゃあなんのために涼んでいるのか分からないな」

 

 彼女の頤を押さえていた手を再び頬に戻してやる。

 

 紅色に染まったその白磁の頬に。

 

「こんなにも火照らせてしまったのか」

 

「火照っちゃいました」

 

 アルコールなど入れてもいないというのに赤くなったユーフェミアの頬。

 

 赤く染まり火照ったその頬を手の平で数回擦ってみる。

 

「ほんとに熱い。まるで熱でもあるみたいに……」

 

 もちろん彼だけではなくユーフェミアの手も彼の頬を擦っている。

 

 お互いに何かをするときは一方が与えて終わるではなく、共に与え分かち合うのが二人の間で決められたルール。

 

 嶋田がユーフェミアにキスをするときは、ユーフェミアからも嶋田へキスを贈り、夜の帷が下ろされ熱いときを刻むそのときも、抱く、抱かれる、ではなく『愛し合う』。

 

 そんなルールだ。

 

 頬に触れ愛撫するのもお互いに仲良く。

 

「シゲタロウの頬も熱いですわ」

 

 互いに赤く染まったその頬には摩擦熱ではない熱さが感じられた。

 

 風邪を引いたときに抗体が活性化したような、そんな熱が。

 

「ユフィとキスをする様になってから随分と健康になった気がするよ」

 

 胸の鼓動は早鐘を打つかの如きスピードで大きく振動し、大量の血液を送り出していた。

 

 血の巡りが良くなるのは実に健康的であったが、それとは別にキスが身体に良いとも聞いた事があるなと思い出す。

 

 唇には沢山のツボがあってこれを刺激することで健康になれるとか、キスをすることで身体の免疫力が高まるとか色々言われている。

 

 ユーフェミアとのキスは老後の健康の為にもいっぱい行わなければならないだろう。

 

 彼女も愛する夫の健康の為にと精一杯の熱いベーゼを送る。

 

「わたくしもシゲタロウに口付けて頂けますと、とても元気になります」

 

 そしてやはり彼女にとっても嶋田との熱い口付けは元気の源となる。

 

 “んっ”

 

 互いに必要な相手を求めてもう一度軽く口付ける。二度目の口付けは触れ合わせて直ぐ終わりの味気ないものではあったが、つい今し方たっぷりと堪能したばかりなので物足りないということはなさそうだった。

 

 

 

 再度の口付けを終え離れた二人。

 

 嶋田は縁側に腰掛け、ユーフェミアは嶋田の膝を枕に仰向けといった日向ぼっこの最初へと逆戻り。

 

 二人が見上げる先には雲一つ浮かんでいない快晴の空が広がっていた。

 

「もう七月も終わりか」

 

 広い青空の下呟くのは七の月の終わりについて。

 

「七夕から今日まで本当に短かった」

 

「そうですわね。シゲタロウと二人で過ごす時間は楽しすぎてあっという間に過ぎ去ってしまいますから」

 

 とかく楽しい時間というのは流れ早く過ぎ行くもの。

 

 本来時の流れは常に一定であり早いも遅いもなく、早く感じるというのは所詮ただの錯覚。

 

 だが、楽しい時は楽しいからこそ時間の経過を気にしない。

 

 気にしないからこそ時の支配より一時的に解放され、それが時間感覚の麻痺を誘う。

 

 故に気が付けばその日はもう夕暮れというのが今まで幾らでもあった。

 

 夜も同じだ。時を忘れて愛し合う切なく心地良い時間は直ぐに終わる。

 

 どんなに永遠を願ったところで眠りに落ちるか、朝を迎えてしまうのだ。

 

 出逢ってより約一年。想いを通じ合わせてより約半年。今日までの時の流れが本当に早い。

 

 まだまだ長い人生には沢山の時があるにも拘わらずこの一秒一秒が実に惜しい。

 

 嶋田もユーフェミアも幾度となく考えた。このまま永遠に時が止まってしまえばいいと……。

 

 

 

「ふふ、そういえば七夕のときはわたくしが膝枕をする側でしたね」

 

「確かに七夕の時とは立場が逆だな」

 

 七夕のときは自分が彼女の膝を枕にして寝ていたが、今日は彼女が自分の膝を枕に寝ている。

 

 完全に立場が入れ替わっていた。

 

「あの時のシゲタロウの寝顔はとてもかわいいものでしたよ?」

 

「やめてくれ。男が寝顔かわいいとか言われてもちっとも嬉しくない」

 

「うふふ。でも本当にかわいい寝顔でしたもの。嘘はつけませんわ」

 

 にっこり微笑むその笑顔は変わらず嶋田へと向けられている。

 

「叔父様……お誕生日の前には時間が取れるそうですね」

 

 彼女の叔父とは嶋田の友人の一人であるV.V.のことだ。

 

「来週漸くな」

 

 コーネリア皇女への挨拶後、俄に騒がしくなってきた世界情勢に合わせて嶋田属する夢幻会の動きや、

 

 日ブの皇族貴族(華族)・政財界の動きが慌ただしくなり彼女の親族への挨拶がまだ碌に進んでいなかったのだ。

 

 最も重要なリ家への挨拶もコーネリアと彼女の家臣達に留まっており、彼女達の母への挨拶にも伺えていないのが現状。

 

 いやそれ以上に大切な相手である彼女の父、現ブリタニア皇帝シャルルへの挨拶がまだ残っている。

 

 彼への挨拶についてはそれこそリ家よりも前に行うべきであったのだが『時間が取れない』と先延ばしにされている。

 

 尤も、シャルルだけは別の事情で嶋田に会おうとしない様子が見受けられていたが、これは嶋田自身肌身に感じていた。

 

「V.V.さんも此処最近忙しかったようでまったく予定が空いてなかったらしいから仕方がないさ」

 

「ふふっ、予定が空いていないのはシゲタロウもでしょう?」

 

「まあ、な。だがそれを言うなら公務で忙しいユフィもだ。

 

 シャルルさんの予定も中々空かない、君のお母様の予定も空かない、俺自身の予定も空かないでまったく身動きが取れなくなっていたからな」

 

 嶋田は夢幻会最高意思決定機関【会合】の一員。

 

 ユーフェミアはブリタニア帝国第三皇女にして駐日大使補佐官。

 

 嚮主代行に権限の委譲を行っている半隠居状態とは言えV.V.もブリタニアの特務機関【ギアス嚮団】の嚮主。

 

 シャルルは現ブリタニア帝国皇帝。

 

 ユフィの母はブリタニア皇妃にして有力皇家であるリ家の現当主。

 

 休日の日が合えば、または予定の摺り合わせが出来れば良いのだが、皆が皆国家の重要人物ばかりでそうそう自由の利く身ではない。

 

 

 

 もう自分達の関係──二人の間で結婚の約束までしてしまった関係については先方、ブリタニア皇家全体に伝わっているのは確かだ。

 

 これはコーネリア皇女より伝えられている筈なのだから間違いない。

 

 ほぼ同時期に日本政府筋は元より国家に拘わる特別事項として皇家や夢幻会も動いてブリタニア政府関係者、ブリタニア皇家と連絡を密に取り合っていた。

 

 つまり現時点で日、ブ、ユーロ・ブリタニアの中枢と上層部には『嶋田繁太郎とユーフェミア・リ・ブリタニアが特別な関係を築いていること』が知れ渡っているのだ。

 

 にも拘わらず何も進まないどころか関係各所が沈黙して静かなのはまだお膳立てが整えられていない故である。

 

 話が進められない以上は情報を開示する訳にも行かず、当然のこと箝口令も敷かれていた。

 

 もし情報が漏れでもすれば日ブ勢力圏、東南アジア・南ブリタニア・シーランド・クウェートという広範な地域全体で大騒ぎとなることは想像に難くない。

 

 いや、そんな生やさしい物では無いか。二大超大国の元宰相と序列最上位に近い姫君が婚約したともなれば世界中の国でトップニュースとして流され、

 

 こんなのんびりと日向ぼっこなどしていられなくなるだろう。

 

 故に情報の解禁はブリタニア皇家への一通りの挨拶が終わってからとなるが、それが焦臭い世界情勢の所為で遅延している──―と、いうのが一応の建前。

 

 

 

 実の処、話が進まない最大の理由はたった一人の人物に原因がある。

 

 二人を含む関係者全員が超大国とその勢力圏を率いる立場に在る為、時間の調整が取りにくいというのは事実だ。

 

 しかしまったく取れないわけでもなく、幾度となく挨拶へ赴くチャンスはあった。

 

 だがまずリ家と並ぶ、いやそれ以上に重要な相手への挨拶を終わらせなければ他の皇家への挨拶にも行けないのだ。

 

 その重要な相手が『わしは忙しいのだッ!』と豪語して空いていた日まで強引なスケジュールを組み、この半年休み無しで働いている為会えないで居る。

 

 はっきり言おう。その相手とは他でもない現ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアその人である。

 

 彼の行動だけはどう好意的に見ても挨拶に伺いたいという嶋田から逃げ回っているとしか思えない程に空きがなかった。

 

 原因は分かっている。『嶋田と会えば娘を盗られる』からだ。

 

『慌ただしい世界情勢と……その、大変申し上げにくく、身内として恥ずかしいことこの上ない限りですが、嶋田卿も察している通り父上がアレなため、

 

 とりあえずの処はジ家、ウ家、エル家、リ家、ド家、ラ家、ヴィ家、メル家、ネ家、ルィ家、

 

 その他ブリタニア全皇家の当主と、次期皇帝である我が兄オデュッセウス、宰相シュナイゼル、

 

 有力諸侯当主に対し、事実関係のみをお伝えさせて頂くことになりますが宜しいか?』

 

 こうなる事態も見越してコーネリアの好意に甘えさせて貰ったが、結果としてこれは良い方向に進んだと言えるだろう。

 

 ユーフェミアの見初めた相手が『嶋田繁太郎』と聞いて反発する者が皆無であったのだ。

 

 嶋田自身はあまり深く考えていなかった物の、実はここで『大日本帝国元総理大臣』『伯爵位』といった肩書きが生きていたのである。

 

 それもその筈。幾ら心より好き合っているからといっても何処の馬の骨とも知れない身分不肖の相手であったり、

 

 身分ははっきりしていても民間人や位の低い下級貴族を、『神聖ブリタニア帝国第三皇女』の伴侶として迎えることなど許される筈もないのだから。

 

 しかし日本を世界第二位の超大国へと押し上げ、日ブの関係をより強固なものとし連合国家に近いくらいにまで持って行った大宰相が相手ならば誰も文句は言わない。

 

 反対に『よくやった!』とユーフェミアを賞賛する声で溢れかえったほど支持されているという話で、これ以上はない結婚相手と言えるのではないだろうか。

 

 年齢差に付いても皇族貴族間ではさほど珍しいことでもないようで、次期ブリタニア皇帝が内定しているオデュッセウスなどは年齢云々の話を聞いて笑い飛ばしていた。

 

『嶋田卿とユフィの年齢云々はそれほど重要でもないね。そこを言及するのならば父上などどうなるんだい?』

 

 シャルル皇帝は20も30も年下の妃を幾人と娶っている。

 

 年齢差で反対を唱える者あらば公然とした『皇帝批判』となり、投獄されるか身分剥奪の憂き目にあってしまうこと確実である。

 

 つまり、身分・出自・経歴・人柄・年齢に加え、ユーフェミアを大切に想う気持ち。

 

 総てにおいて嶋田繁太郎はブリタニア第三皇女の伴侶として問題無いと認められていたのだ。

 

 これはオデュッセウスやコーネリアの個人的な賛成という話ではなく、ブリタニア全皇家と有力諸侯達の総意。

 

 二人の間柄はあくまでも当主級の人間にのみ伝えられた機密事項である為、未だ日本に留学中であるヴィ家のルルーシュ皇子、ナナリー皇女始め、

 

 ブリタニアの大半の皇子皇女でさえ知り得ていない話であったが、概ね賛意を得られるであろうというのがコーネリアの見方であった。

 

(となれば結局は当初の予想通り、シャルルさんか……)

 

 これは元より予想していた。

 

 子ども達を溺愛……偏愛するシャルルが反対姿勢ならぬ『逃亡姿勢』に入り話を聞こうとしなくなる可能性について。

 

 コーネリアの話では──。

 

『御自身が人となりを知る心友の嶋田卿……シゲタロウだからこそ父は悩み最終的に逃げの姿勢に転じたが、父も決して反対ではないと思われる。

 

 反対ならばギネヴィア姉上の縁談を破談に持ち込んだ時のように、はっきり反対の意思を示されるはずなのだからな』

 

 とのことだが、逃げてくれた所為で話が進まなくなってしまった。

 

 本当ならば今頃、全皇家への挨拶回りの真っ最中か、挨拶を終わらせていた筈なのだ。

 

 嶋田とて前世では子を持つ親であった経験から、会えば娘を盗られるという彼の気持ちも分からないではない。

 

 それにこちらとて怖いのだ。シャルルと築き上げてきた友情がこれを切欠として壊れてしまわないかと。

 

 彼にとってシャルルは大切な存在である。飲み友達といった軽い物でも、上っ面の友達という『友達』ですらない関係でもなく、『親友』。

 

(シャルルさんは前世での山本と同じ様に、この世界での友達だからな……)

 

 シャルル流に直すなら心の友と書いて心友という、掛け替えのない友人であった。

 

 *

 

 嶋田繁太郎とシャルル・ジ・ブリタニアの付き合いは長く、その関係は実に半世紀にも及ぶ。

 

 まだ父、嶋田命周が存命であった頃、当時外交官であった父のお供として訪れたブリタニアはジ家の離宮。

 

 そこで出逢ったのはオドオドとした気弱な年上の少年と、気の強いその少年の兄。

 

 気が弱くていつも周りの目を気にしてばかりいた少年には友達が居ないという。

 

 はっきり物を言わない。年上なのに上目遣いでこちらの機嫌ばかり窺い自分の意見を出さない。

 

 聞けば次期帝位を巡る親族間の駆け引きや、周囲の者の嘘・裏切りを何度も目にした事もあって若干人間不信にも陥っているらしく、

 

 両親と兄以外に心を開かないのだ。皇家や貴族の友達だった者も、結局はジ家の名前のみを見ているため信用できないと殻に閉じこもっていた。

 

 その一方で気の強い兄は嶋田伯爵家──嶋田命周とジ家の付き合いから父の人となりを良く知っていたので、信用できる人として命周の事を覚えていた。

 

 命周の息子である自分にも積極的に話し掛けてきて、幾度もの交流を経『友達』となれたのだが、殻に閉じこもった弟だけは中々上手くいかない。

 

 父より『遊び相手』として紹介されたというのに、これでは何の為の遊び相手なのか分からなかった。兄皇子と仲良くなれただけでも僥倖であったが、

 

 引っ込み思案な弟皇子をどうにか出来ないかという意図が汲み取れるだけに何とも歯痒い気持ちであった。

 

 そんな引っ込み思案な弟皇子相手に、自分から積極的に友達になろうという性に合わないことをしたのは、

 

 遊び相手という与えられた使命だけではなく、きっと当時の自分にも腹を割って話せる相手が居なかったからだろう。

 

 幼少期より前世の記憶を持っていた所為で同年代の子ども達と話が合わないのだ。

 

 気弱なジ家の弟皇子の様に孤立していた訳では無かった物の、その気弱な彼が感じているのと同じもの。ある種の疎外感のようなものは感じていたと思う。

 

 今思えば、そんなとき巡り会った本当に孤立している弟皇子に自分を重ねていたのかも知れない。

 

 ブリタニアとの関係を立て直し、戦前のような友好関係をもう一度構築し直すという父の仕事の都合でジ家を訪れる機会は度々あった。

 

 彼はその都度ジ家の兄と弟。双子の兄弟皇子と交流を図り、兄と共に弟を引っ張り回しては友達になろうと試みる。

 

 日本から来た年下の子どもと兄に連れ回された彼は当初迷惑に感じていたことだろう。

 

 放っておいてと何度も言われた。『どうせ君もボクを裏切ったり嘘を吐いたりするんだろ?』そんな心無い言葉を投げ付けられたりもした。

 

 イライラする。どこまで内向的で偏屈な子どもなんだ。もうこんなやつ放置しておけばいい。何度そう考えたことか。

 

 それでも此処で見捨てたら本当に嘘吐きや裏切り者になるように思えて諦めずに遊んだ。

 

 ある時、あまりに卑屈なことばかり言う弟皇子と本気の掴み合いをした事があった。

 

 喧嘩など一体何時振りか? 

 

 それになぜ自分は手を出す喧嘩をするのだろうか? 

 

 精神は100歳を超えた大人であるというのに……。

 

 当時疑問に思っていたその答え。今ならば分かる。きっと精神を肉体に引っ張られていたのだ。

 

 心は大人でも身体はまだ6歳の幼児。理屈や対話ではなく身体で物を語ったりする事もあるだろう。

 

 弟皇子は当時9歳だったが、体力も腕力もなくひ弱。

 

 お陰で3歳差という年齢差が本来持つであろう体格の差と力の差が埋まり、互角の喧嘩を繰り広げられた。

 

(こんな引き籠もりには負けないっ!)

 

(くそ生意気な年下に負けて堪るかっ!)

 

 意地のぶつかり合い。

 

 くだらないガキの喧嘩。

 

 子どもとはそういう事を平気でしてしまう本能的な生き物。

 

 久しく忘れていたその感覚に身を任せた嶋田は弟皇子の顔を叩き、逆に弟皇子に顔を叩かれ。

 

 擦り傷を創り砂に塗れて転がり合いながら喧嘩をしていた。

 

 その直後に止めに入ってきた兄皇子とも喧嘩になって三人での掴み合いが始まったが、不思議とそのときは弟皇子と二人で共闘していた。

 

 兄皇子は弟皇子よりも強く一人では勝てない。ならば一緒に戦うしかないと共通の敵と見据えて向かっていったのだ。

 

 最後は青タンと擦り傷だらけになってジ家の中庭に三人揃って寝転がったまま笑っていた記憶がある。

 

『さあこれでもうボクら三人はずっと友達だよ。日本ではあるんだよね? 河原で喧嘩したライバル達が心友になるお話し』

 

『お兄さんはどこで知ったのですかそんなの』

 

『君の御父上が持参した本にあったよ。本当の友達の作り方って』

 

『なんですかそのインチキ臭い題名は……』

 

『ねえ兄さん……喧嘩したら……友達なの?』

 

『そうさ。シゲタロウと喧嘩をしたシャルルはもうシゲタロウと友達さ』

 

 兄皇子が披露した話は前世・前々世から知る日本のレトロチックな物語の内容そのままであったが、

 

 それをどう解釈したのか弟皇子は初めて友達になって欲しいと手を差し伸べてきた。

 

 こちらが散々友達になろうとしても嫌がっていたオドオドした少年が差し出してきたその手を、嶋田は静かに握り返す。

 

『こちらこそ宜しく。シャルル殿下……シャルル君』

 

 晴れて弟皇子と友達になったところで兄皇子が手を前に出し宣誓。

 

『ボクはシャルルとシゲタロウを信じる。君たちを信じるボクを信じる』

 

 さあ君たちも。

 

 傷だらけで微笑みながら急かす兄皇子に自分も手を出し宣誓。

 

『私は……ボクはシャルル君とお兄さんを信じる。二人を信じるボクを信じる』

 

 そして最後に弟皇子が誓う。

 

『ボクは、ボクは兄さんとシゲタロウを信じる。兄さんとシゲタロウを信じられるボクを信じる』

 

 締めに再び兄が言った。

 

『ボクらはこの先何があろうとお互いを信じる。ボクらはボクらに嘘を吐かない』

 

 最後に三人で復唱。

 

 “ボクらはボクらに嘘を吐かない”

 

 重ね合わされた三つの手、この時より始まった友情は今尚綻びることなく続いている。

 

 

 

 後に知った話だが、それはブリタニアの新大陸開祖リカルドが遺した最後の演説をアレンジしたもので、

 

 ブリタニアの皇族が真に信用できる相手とだけ取り交わす誓いの儀式であるらしかった。

 

 

 

 *

 

 

 

(ボクらはボクらに嘘を吐かない……友情という名の永久の盟約か)

 

 子どもの頃を思い出していた嶋田は、そう言った人物の顔を思い浮かべる。

 

 踵まで伸びた髪の毛以外、あの幼い頃と何ら変わらぬ背格好をした永遠の少年の姿を。

 

「思えば彼は幼少期の俺とシャルルさんにとってはリーダーみたいな人だったな」

 

 そのリーダーの提案でもある。シャルルのことは一先ず置いておき、動ける範囲で挨拶回りを先行させてみてはどうかというのは。

 

 シャルルの実兄であり、皇籍奉還した今尚ブリタニアの政財界に多大な影響力を持つ彼の提案に否と唱える者など居ない。

 

『どうせシャルルにも伝わっているんだ。それで何の反応もしない処か君から逃げ回ってる。誓いの日から逃げる事を止めたシャルルが逃げてるってことは

 

 本心では認めているってことだよ君とユーフェミアの仲をね。認めていながらユーフェミア……ううん、子ども達を側に置いておきたいっていう抑えきれない

 

 独占欲からあんな無意味な抵抗をしているだけさ。だから今はシャルルをそっとしておいてあげて。あの子ももう大人なんだし、自分の中の気持ちに決着を付けられる筈だからさ。

 

 その間シゲタロウは時間の合間を見て順に皇家への挨拶回りを済ませてしまえばいいと思うよ。まあ飽くまでもシャルルを第一にっていうならそれでもいいけど

 

 このままじゃ何にも進まないから手始めにボクの処へでも来てみたらどうかな。八月の頭から四日の誕生日までは家で暇してるから君の休みと合えば丁度いいと思うし。

 

 といってもボクは皇族じゃなくて唯の民間人だから、挨拶するのはボクっていうよりルルーシュとナナリーとまりヴィ家の皇子と皇女へっていうのが正しいんだけどね』

 

 その提案に乗る形で八月の頭、つまり来週ユーフェミアの叔父であるV.V.の家へ伺うのだ。

 

「シゲタロウ?」

 

「ん? ああ悪い。少し考え事をしていてね」

 

「ふふっ、おかしなシゲタロウ」

 

 不意に黙り込んでしまったので何事かと不安になったという彼女の頭を撫でながらなんでもないよと安心させた嶋田へ向けられたのは眩しい笑顔。

 

 夏の花向日葵にも負けない微笑みに自身もまた微笑み返しをした晴天の下で送る静かなとき。

 

「今日シゲタロウがお誓いになられた言葉。わたくしの胸に刻まれましたので必ず守って下さいね」

 

 ブリタニア皇家との話し合いで正式に入り婿となり、リ家入りが決まったらの話だがと前置きを付けた嶋田は溜息をつきながら言う。

 

「過労死したらユフィの所為だぞ」

 

 夢の年金生活がまた仕事生活に逆戻りであると。

 

「ご安心下さい。シゲタロウがわたくしに働きすぎないよう御注意くださったのと同じく、わたくしも無茶は申しませんもの。

 

 それに未亡人なんて嫌ですわ。わたくしはシゲタロウと添い遂げるつもりですもの」

 

「俺もユフィを残して死ぬのは御免だよ。老後ののんびりした年金生活だって楽しみたい。

 

 子供や孫の成長に曾孫の顔だって見たいからな。ここは一つ、本気で日本人の限界150歳を目指してみるか」

 

「いいえ駄目ですっ! あと140年。わたくしを看取ってからヴァルハラへとお越し下さいまし」

 

「いやそれは無理だ。幾ら何でも200歳は生きられ──」

 

 ユーフェミアの無理な注文にふと夫婦揃ってコード保持者となれば永遠に添い遂げるなんてのが出来るなと思う嶋田。

 

(永遠の命なんて欲しいとも思わないが、ユフィと二人でなら悪くはないか……)

 

 

 

 七の月の終わり。

 

 それはただ穏やかな空気に包まれた二人だけの世界がもたらす、甘く涼しく静かな一日であった。

 

 

 

 おまけ1

 

 

 

 終わる事なき永遠さえも二人でならば生きて行ける

 

 

 

 その日の夕刻。

 

「ユフィ。もし今のまま永遠に生きられるとしたら君はどうする?」

 

 永遠の命。

 

 人類の究極の命題の一つはこの世界では不可能ではない。

 

 コード保持者となれば可能であり、確認されているだけでも三つのコードが存在している。

 

 未確認の物まで含めれば幾つのコードが存在しているか分からないが、これを生み出す技術が遥か太古の文明にはあった。

 

 何らかの形で手に入れば彼とユーフェミアは揃って永遠に生きる事が可能となる。

 

 それ以前に技術解析を続けてコードを生み出す技術が復活すればいつの日か人類は寿命を克服してしまえるかも知れないのだ。

 

「嘘か本当か、叔父様がそうだとお聞きしたことはありますが、わたくしは特に欲しいとも思いません」

 

 だが、死の次があると知っている嶋田もユーフェミアも死んでしまった後を思い恐怖することはないので、永遠の命が欲しいか欲しくないかで言えば、決して欲しいとも思わないのが常であった。

 

「それに家族や友人、知っている方々を看取り、誰も知る者のいない世界でただ一人だけで生き続けるのは、生き地獄ですわ……」

 

 子供が死に、孫が死に、友達が死に、たった一人で年老いもせず行き続けていられるほど人間の精神は強くない。

 

 嶋田自身も以前V.V.より聞かされたことがある。

 

 歴代のコード保持者の大半はただ死にたいが為にコードを次代へと継承させたと。

 

 人は一人では生きられないという言葉がある。

 

 集団で生活する習性を持った生物である人は、徹底的な孤独に耐えて生きていけるほどに精神が強くない。

 

 コード保持者が死を望むのは、永遠という名の牢獄に耐えられなくなったが故の、人として在るべき当然の思いであった。

 

 ならば、親しい者と共生きる永遠はどうか? というのがふと抱いた疑問。

 

 そこで真っ先に思い浮かぶのは愛する人だ。

 

「じゃあ仮に俺と二人で永遠を生きるとなればユフィはどうする?」

 

「シゲタロウと二人……」

 

 最も身近にいる、居て欲しいと考える人物と共に送る永遠地獄ならば耐えられてしまうのではないか? 

 

 しかし彼女はそうと言い切ることなく曖昧に答える。

 

「分かりません……」

 

 至極標準的な回答である。人は想像できないことは答えられない。

 

 決して身近とは言えない技術であるコード──不老不死の技術は、実際に体験している者にしか分からないのだ。

 

 V.V.は両親や一部の兄妹を除いてまだ身近な人が大勢生きている為に実感できないらしいが、いずれ来るその時の覚悟はしているという話であった。

 

 両親や叔父、兄妹を失ったときの喪失感以上の物が遠い将来に押し寄せるだろうと。

 

 それでも日ブの行く末を見守るために死という安易な逃げ道を選んだリはしないと誓いを立てていた。

 

 では自分は? ユフィはどうなのか? 

 

 長生きを考えた時に思い当たった永遠という疑問を二人で考えてみようと思ったのだ。

 

 そしてユーフェミアの出した答えは「かも知れない」という曖昧な物。

 

「分かりませんが、シゲタロウが傍に居て下さるのでしたらわたくしは生きていく事が出来るかも知れません」

 

 予想は出来ていた。経験しなければ分からない事象に対する質問であるのだから明確なる答えなど存在しない。それは質問者の嶋田も同じくだ。

 

 二人は転生という現象。つまり擬似的な永遠が在ることを知ってはいるが、一から始めて百で終わる転生に対して不老不死は一から始まり∞となる現象。一が無くなってしまう現象だ。

 

 嶋田は現在進行形の転生体験者である為に転生については語れるし怖いとも思わない。

 

 誰に転生するかの恐怖こそ在っても、二度も経験すれば事象その物への恐怖は薄れる。

 

 その実体験を身近で聞かされたユーフェミアも体験者から聞かされることで転生という擬似的永遠については若干ながら恐怖感が薄れていた。

 

 しかし今が永遠に続いていく不老不死は根本的に違う物で、本当に未知の領域だと言えよう。

 

 だからこそ曖昧で漠然とした『予想』でしか物を言えない未知への恐怖が渦巻いている。

 

 ただ、そんな中にあっても「この人となら」というのはあった。

 

 それが嶋田にとってのユーフェミアであり、ユーフェミアにとっての嶋田であるということだ。

 

「決して不老不死の身になりたいとは思いませんが、もしなるのでしたらシゲタロウと共にでなければきっとわたくしの心は──」

 

「俺もだ。俺もユフィと一緒なら永遠に生きて行けそうな気もするが、ユフィが居ないと心が持たないだろうな」

 

 奇しくも同じ見解を同時に口にした二人は互いを見遣り微笑む。

 

「シゲタロウ。もしもわたくしが永遠の牢獄に囚われてしまったとき、あなたは傍に居てくれますか?」

 

「Yes, Your Highness.ユフィ。もしも俺が永遠の命なんてものを得てしまったときは、共に生きてくれるか?」

 

「Yes, Your Highness.…………うふふ」

 

 得てもいない永遠を語り、永遠に一緒に寄り添い歩み行く事を誓う。

 

「おかしな話だ」

 

「本当に。でも、もしもの時はわたくしと共に永遠に有り続けてくださいね」

 

「勿論だとも、ユフィ一人に孤独な生を送らせるなんてことを、この俺がさせると思うか?」

 

「いいえ、思いません。だって、シゲタロウはわたくしと生きる事を誓ってくださったもの」

 

 笑顔で思うところを口にしたユーフェミア。

 

 その通りなのだろう。永遠に生きていける相手とこうして一緒に居られる事は、二人の間だけという小さな話ながらも、二人にとっては大きな事なのだ。

 

 この人とならば。そんな人と居られるのならきっと孤独などという物は気にならなくなる。

 

「逆に俺達二人以外、人類全てが永遠なら寂しさ孤独も苦痛も消えるかも知れないが、皆が皆そうなったら今度は歩みの止まったつまらない世界になるかもな」

 

 ふと妙な質問から醸成されてしまった暗い空気は、されど二人の深い想いを再確認させる一つのスパイスでしかないようだった。

 

 

 

 

 

 おまけ2

 

 

 

 耳は誰しも高感度

 

 

 

 永遠の話の落としどころ、二人で一緒ならば千年でも万年でも、いやさ億年でさえも生きていけるだろうという解に、彼の膝を枕にして仰向けとなったユーフェミアがにこやかに微笑む。

 

 嶋田は解を得た話をそこで終わらせると、ユーフェミアの頬に添えた手を耳の後ろで纏まる彼女のお団子髪に差し入れてそっと解いてみた。

 

 しゅる……はらり。

 

 耳の後ろで纏まっていた右側のお団子が解けてさらりと流れ落ちる。

 

「勝手に解かないでください……」

 

「まあそう言うな」

 

 続き左側のお団子にも手を差し入れて、解いた。

 

「以外と簡単に解ける物だな」

 

 差し入れた手に絡まるのは解けたお団子。いや、元お団子だった側頭部の髪か。

 

 勝手に解かれてしまったお団子だった髪を絡める彼の手に視線だけを向け、また結い直すのに掛かる手間を思い不満な声を上げるユーフェミア。

 

「解くのは簡単でも結うのは手間取るんですから」

 

「後でお団子に結うの手伝ってやるから怒るないでくれ」

 

「もうっ」

 

 解けた髪を撫でながら指の間に入る絹糸の如き触感を楽しみつつ、彼女の額に口付けを一つ。

 

「……、額に口付けてくださるくらいなら、唇へくださいません?」

 

「さっき散々口付けあったろう」

 

 甘い香りを漂わせる桃色の前髪に鼻を擽られながら嶋田が静かに落としてあげた額への口付けはどうもお気に召さない様子で、彼女は唇を尖らせている。

 

 尖らせつつも、送られた物への返礼のために接近した嶋田の額へ、彼がしてくれたのと変わらない静かな口付けを送った。

 

「ん……」

 

 解かれた部位の髪を弄ぶ彼の手に耳を擽られて小さな声を上げながら、ユーフェミアは付けた額より唇を離す。

 

「ちょっとこそばゆいな」

 

 湿った唇の形がよくわかる額へのキスは少しこそばゆかった。

 

 尤も、彼女はもう一つ上のこそばゆさを感じていたようで。

 

「耳を触られるわたくしの方こそ、こそばゆいですわ」

 

「いや、耳じゃなく髪を触ってるんだが……。ああでも、手が耳に当たるか」

 

「当たってます、当たってとてもくすぐったいんですから」

 

 今度はユーフェミアの側から彼の耳の後ろへと手を当てて、側頭部を撫でゆく。

 

 嶋田の髪に触れる白魚の指は、成るほど、彼女の言うとおり耳へも接触して感度へと直接的な響きを与えてくる。

 

「う、これは……こそばゆいな」

 

 腋を擽られて笑い転げるときに煮た感触に、嶋田の腹筋が少し反応しかけた。

 

「や、やめてくれユフィっ、本当にこれは……こ、こばゆくて」

 

 そんな彼の様子に彼女の手は益々大胆に耳を擽るべく動きへと変わる。

 

「だったらシゲタロウもおやめください、でないとわたくしもこの手を緩めませんから」

 

「わ、わかった、わかったからもうやめっ」

 

「うふふふ」

 

 黒髪の老紳士と、桃色髪の麗しい少女。

 

 いつの間にやら暑さを忘れていた二人は、夏の太陽が掛かるか掛からないかの縁側にて、いつまでも仲睦まじくじゃれ合っていた

 

 

 

 



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博之と円卓の騎士
博之と円卓の騎士


CP:嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー


 

 

 

 

 一サラリーマン神崎博之──嶋田繁太郎は億の人間と動植物を殺し、繁太郎としては御国のためと納得しつつ、博之としては悔恨を残す。

 

 それもそのはず。ただの平凡な一サラリーマンがたとえ表で中層で、深層でさえ納得し、そのGOサインを出したとしても。

 

 深層心理では苦しんでいた。誰も気付かず、本人さえも気付かず。時の終わりと共に消えゆくだけの感情だとしても、苦しみは確かにあったのだ。

 

 そうして時を終えた彼。幸せなる老衰だった。優しく暖かい死の瞬間、黄金色と鮮やかな草原の色を視た気がした。死を前にした幻視だろうか? 

 

 先に行った仲間達が待っているというのに、自身はまだ生にしがみつこうというのか。この穏やかなる死を前にして。

 

 ああ、もしも生まれ変われるならば、今度こそ穏やかな世界で、穏やかなる日常を願いながら、命の灯火の尽きた嶋田繁太郎。享年○○才。

 

 人類史上最も多くの命を奪ったただ一人の男は、己自身もまた生涯を閉じた。それは、それはとても穏やかなる眠りであったという。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──タロウ。

 

 

 ん? 誰だ。

 

 

 ──ゲタロウ。

 

 

 俺は静かに眠ったはずなのに、また呼び起こすのは誰? 

 

 

 “僕”を呼び起こすのは誰。

 

 

 ──シゲタロウってばッ!! 

 

 

 うわッ!? 

 

 

 耳がキーンとする。

 

 

 がばっとその場に起きる。起きる? あれ、俺、神崎博之──嶋田繁太郎は、死んだはずなのに? 起きる? 

 

 

「うえッ、うええええん、おぎだおぎだよ兄さんンンッ!」

 

「分かってる分かってる。分かったから泣かないで。シャルル」

 

 シャルル。シャルルくん。シャルル・ジ・ブリタニアくん。──―ッ痛い!!! 

 

 頭の中に物凄い記憶量が流れ込んでくる。シャルルくん。V.V.くん。嶋田繁太郎。嶋田命周。前の嶋田繁太郎。夢幻会。衝号。……神崎ひ、ろ、ゆき。

 

 頭が壊れそうなくらいの記憶の流入。三人の記憶が入り交じっている。カンザキと、嶋田と、……嶋田繁太郎くんの。

 

 前の時には無かった物凄い激痛が頭を襲い。立っていられなくなってその場に尻餅をついた。

 

「し、しげ、シゲタロウまた死んじゃったよぉぉッ!!」

 

「馬鹿ッ! 死んでない! シャルルは右側持ち上げて、僕は左腕を抱え上げるから!」

 

「う゛うん」

 

 ぐいっと持ち上げられる身体。小さな体躯だ。幼い、幼い、俺の身体……。

 

 一度記憶が其処で途切れた。

 

 

 ※※※

 

 

 次に気が付いたとき。そこは荘厳な部屋の豪奢なベッドの上だった。

 

 部屋には女中さん? メイドさんらしき人が居て。僕が目を覚ましたの知ると。

 

「シゲタロウ様!!」

 

 叫んで部屋の外へと出ていった。

 

 おい、怪我人を一人にするなよ。

 

 それにしてもふと気が付いたけれど、一人称が“僕”になっている。なんで僕なんだ。俺だろうに。俺の筈なのに僕の方がしっくりくる。

 

 頭が痛いズキズキする。でも、さっきみたいに気絶するほどじゃない。

 

 流れ込んでくる記憶。僕はどうも貴族らしい。正確には華族。古くから続く家系で、辺地にだけど両地も持っている。っていうか僕んとこの両地、カムチャッカ州まるごとなんだけど。何考えてんの大日本帝国政府。

 

 史実で言うところのペトロパブロスク-カムチャツキーが入ってるんですけど。けど寒い領地だなあ台風が来ないことと夏がほぼ無い事は救いだけど……っていうかその前にまた嶋田繁太郎かぁ。

 

 どんどん記憶が流れ込んでくる。リーマン時代の博之の記憶から……億人殺した衝号の記憶まで……。どんどん流れ込んできて、現世に行き着く。

 

 アメリカ大陸に存在する広い広い国家。南“ブリタニア”大陸の一部までを領土とする強大なる国家“力のブリタニア”。書いて字の如く力、圧倒的な国力を誇るこの世界に存在する三つの超大国的国家勢力の一つ。順位は第一位。

 

 そして、僕は日本人。外交官も務める嶋田命周華族伯爵正確には上位伯爵の息子。嶋田繁太郎。実家はカムチャツカ州に領地を持つも東京。いや、大東京。おかしなくらいに発展した、耐震ブロック構造に600m700mの強化耐震設計ビルが林立する巨大都市。

 

 家系は神官系で、何十年か前の日本・ブリタニア太平洋戦争で多大な功績を挙げたことから陞爵し上位伯爵となったらしい。さらにカムチャツカ州を領地として拝領したとか。カムチャツカ州の発展もおかしい。カムチャツキーのビル、300m400mざらにあるんだけど。人口も10,000,000人て。

 

 嶋田領軍って独自の軍も持ってて50,000人ほどの兵力がある。陸海空三軍揃い踏み。どうなってるんだ。

 

 450年前の足利幕府では義輝の政権を支え、義輝も長生きして足利政権はそのまま大政奉還するまで450年もの長期軍事政権として北へ南へ領土を広げていった。台湾もこの頃だし、内南洋、外南洋もこの頃。

 

 樺太・千島列島・カムチャツカ・チュクチ、アリューシャン列島全島もこの頃に領土に編入している。120,30年前には日中戦争が起きていて日本が中華連邦とか言う国の海軍をまるごと潰し、海南島を正式領土としてぶんどった。

 

 50年前には日欧戦争が起きて現在の領土で一応の日欧戦争の戦後講和交渉という名の一方的要求の中では、サハ以東を日本に割譲する案をユーロユニバース側が提案してきたが『その地は本来の持ち主の元へ何れ帰る』といった予言めいた言葉を残し、日本は割譲を固辞。多額の賠償金と軍備制限に留めている。ただし国境線は画定させ二度とこちらへ来ないように、『次ぎ来たら国ごと潰す』と宣言、4発戦略爆撃機連山を20,000機用意していることを公表した。

 

 いやおかしいだろ、複葉機しか無い欧州相手に何で4発の連山を20,000機も用意してるんだよ! なんで複葉機相手に単葉機やら中戦車やら持ち出しちゃってんの?! ユーロユニバースに勝ち目ねーじゃん! 反則だろ! 

 

 50年前でこれだから日本の異常さもまた分かろうという物、いつしか日本は『技術の日本』と呼ばれ、超大国へと駆け上がっていた。なおサハ以東は日本に協力的で第二次日欧戦争の際には日本側に付くことを秘密協定に盛り込んでおり、土地はいくらでもある状態だった。

 

 日ブ太平洋戦争も完全におかしい。ジェット戦闘機橘花が普通に戦争開始当初に出てるんですけど? ブリタニアはプロペラ機よ? 80,000t空母? 80,000t戦艦? 頭おかしいの? ブリタニアもジェット出してくるし60,000t、40,000tクラスの空母両国で何隻つくっとるの? 一年間の戦争で。馬鹿じゃねーのか? で、なにブリタニア全土攻撃作戦85,000機の富嶽で? ブリタニア側も似たような作戦を立ててるしヤバいよコイツら。

 

 そして150年ほど前から南半球では大国合衆国オセアニアが動き出し、インド洋の島々を次々と併呑。マダガスカルを併合し、東アフリカまで併合していった。近年では事実定中央アフリカ以南のアフリカもオセアニアの領域、イラク社会主義共和国もまたオセアニアの。

 

 日ブ太平洋戦争の際には東南アジアの一部メラネシア全域、クック諸島、ポリネシアの大半を構成する大洋州連合に侵攻これを併合。南天条約機構を形成し、日本・ブリタニア率いる北側諸国同盟との間で対立関係を生み出し、第三の超大国的存在へと駆け上がった。

 

 日ブの歴史、南天の歴史は長い。遡れば超古代文明まで行き着き。超古代文明次代に三つに割れた。日ブは元さやに戻ろうとするも、南天は何者かが操っているようで独自路線を突っ走っている。

 

 僕が産まれる前には三国ともとても危険な兵器を生み出し──まてよ? 何でそんな機密まで知ってるんだ? 大気圏内爆発実験は幾度も行っているから知っててもおかしくないけど、いつ作られたなんてどうして……。伯爵家の息子である“僕”が識ったのか。

 

 そこまで考えたときだった。

 

 

 カチャ

 

 

 ドアノブを回して入って来たのは四人の子供。と、一人の大人──嶋田命周。外交官も務めている父だった。

 

「まったくだらしない。殿下方の遊び相手を務めるのがお前に課せられた役目だというのに、そのお前が貧血で倒れてどうする! 日本男児として恥ずかしくないのか!」

 

 僕に飛ぶ父の一喝。この瞬間、大日本帝国の父親らしいなという感想が頭を過ぎった。父は僕を怒るとこれから皇帝陛下とお話があると言って部屋を出て行った。

 

「シゲタロウ、大丈夫……?」

 

 大人しそうなおどおどとした、薄い栗色髪の挑発の少年が僕を心配する。

 

「大丈夫ですよシャルルくん……軽い貧血だから」

 

 シャルル・ジ・ブリタニア皇子。この国、神聖ブリタニア帝国の皇位継承者だ。そしてもう一人。

 

「君は周りの心配を考えてくれ。身体の調子が悪いって言うなら僕らに言ってくれれば大人を呼びに行くんだから」

 

 淡い金髪に気の強そうな表情。シャルルくんとまったく同じ顔をしているのに、まるで違う人物に映るその表情も僕の知る人物のもの。

 

「うん、気をつけるねV.V.くん」

 

 V.V.くん。シャルルくんの実兄で双子の兄だ。V.V.というのは僕らが付けた渾名で、以後彼は自身をV.V.と呼んでいる。

 

 シャルルくんとV.V.くん、二人は僕の幼なじみで、僕は二人の遊び相手。付き合いは長い。昔殴り合いをしたこともある。皇子様を殴る、そんなとんでもないことを僕はやらかしたんだなあとしみじみ思い出していると。

 

「どうやら大丈夫のようですね」

 

 もう二人居た僕と同じ年代の子供達の内の一人が話しかけてきた。

 

「なんでも脳震盪のような“記憶障害”のような倒れかたをなされたとか。本当に大丈夫なのですか?」

 

 丸い、丸い、戦前の人がしていたような、丸い眼鏡。これは、そう、博之としての記憶。戦後を知っている俺だけの記憶。僕でも、私でも無い、俺の。

 

 待てよ。丸眼鏡。丸い眼鏡。見たことがあるぞ。平穏に生きよう、この人生では平穏に生きれる、そう思っていたのにこの子があの人だったら。僕の平穏は総崩れになる可能性が。

 

「大丈夫だよマサノブ。本人も体調良さそうだし。無理をさせたら駄目だけどね」

 

 ぎゃあああ~~~~~ッ! ま、マサノブ~~~~~~ッ! い、いやまて、田中マサノブの可能性もある。佐藤マサノブの可能性だってある。

 

 そうだ。きっとマサノブ違いだ。書類を持ってくるあの魔王じゃ無い。やめろ、やめてくれッ。

 

「ああ、万が一お記憶に障害があっては成りませんのでご確認を。僕の名前は辻、辻政信です。嶋田お坊ちゃまのご友人の一人です。きちんと覚えてお出ででしょうか?」

 

 ……終わった。

 

「嶋田繁太郎様。夢幻の如くこの世に産まれ来た者達で。また集まりましょうか」

 

 確定だ“あの”辻さんだ……ははは、この世界でも。この人生でも僕は、俺は夢幻会なのか。

 

「ああ、外には護衛の村中さんもおりますのであとでごあいさつでも、ねえ山本くん」

 

「すまん嶋田。そういうことだ。今世でもよろしく頼む」

 

 坊主頭の少年。どこかで見たな~と思ってたら子供の頃の山本だったのか。あ、はは。村中さんもいるって話しだし、僕は最初からターゲッティングされていたのかなあ。

 

 そう言えば山本って何気に伯爵家なんだなあ。辻さんも華族っぽいし、貴族の大安売りだな。

 

「ねえ、シゲタロウも、イソロクも、マサノブも何の話をしてるんだい?」

 

 V.V.さんが紫色の瞳を僕らに向けてくる。何が何だか分からないと言った感じだ。そりゃ分からんよな。前世前々世からの転生者なんですとか言っても頭おかしい奴と思われるだけだ。

 

「シゲタロウたち……何の話し? 秘密の話し? 僕ら聴いちゃ行けない?」

 

 静かな感じでシャルルくんもこちらを窺う。気になるのだろう。

 

 そんな二人に。マサノブくん、否、辻さんはまさかよもやの暴露をした。

 

「お二人には特別にお教えしましょう。嘘の嫌いなお二人には特別に。私と繁太郎くん、嶋田さんと、こちらの五十六くん、山本さん。そして扉前で警護をしている村中くん、村中さんは転生者なんです。ふふ、コードもギアスも知っておりますよ」

 

 今度はV.V.くんとシャルルくんが固まる側だった。コードと、ギアス。秘密の力が知られている? 

 

「どういう、ことだ」

 

 絞り出すような、刺すような疑いの色を混ぜ込んだ声音がV.V.くんの口から迸る。

 

「識っているということですよ」

 

 トントンと指先で頭を叩きこの世界と、この世界の未来を。ですから場合によっては。物騒なことを言いかけて辻さんは止めた。その続きは場合によっては此処であなた方を始末しておしまいにするだろう。

 

 僕は、俺はこの世界のことを何も知らないから余計な口出しは出来ないけど、たぶん辻さんは全部識ってる。

 

「ただ、色々と大きく違うんですよね。日本もそうですし、南天なんて存在も無かった。ブリタニアが強大なことは変わりありませんが、領土が若干小さい分、100年以上国内開発に力を注ぎまくった結果史実のブリタニアよりも圧倒的に強大になるとか誤算で、あなたがたの御両親もご健在で先行きが見えない。ただし先行する技術によって日本は魔法が使えますが」

 

 V.V.くん、あ、お兄さんだからさんだった。V.V.さんはいぶかしげな表情を崩さないまま。

 

「話しの意図が見えない。結局君たちは何者で、何が目的で、僕とシャルルをどうしようというの?」

 

 シャルルくんを後ろにかばいながら辻さんを睨み付ける。辻さんと目と目を合わせて睨み付けられるだけでもV.V.さんの強さを感じられる。

 

「私と嶋田さん、山本さん、村中さんは、異邦人です。異邦人であればこの世界は夢幻の如くなり、そしてこの世界の住人であるあなた方から見ても私たちの存在は夢か幻のような存在……」

 

「夢幻なる……」

 

「存在……」

 

 ジ家の双子皇子に遂に告げた秘密の名を。

 

「夢幻会、それが我々の名です。日本の転生者にして日本のまあご大層ですが導き手。メンバーには伏見宮様もいらっしゃいますよ?」

 

「ふ、フシミノミヤ殿下が?!」

 

 驚くV.V.さん。驚きは終わらない。200年以上前から倉崎にもスメラギにも手は入っている。転生者は500年前から存在しており、文献に依れば足利義輝も転生者であったとか。

 

 コード保持者もいれば、ギアスユーザーもいる。特殊技能者もいれば自己研鑽者も多く居る。そんな大きな組織で有り、国家ぐるみの組織である。

 

 全ては日本の未来のために。これを合い言葉に皆が皆それぞれで動いてきた。

 

「信じがたいでしょう。嘘みたいに聞こえるでしょう。しかし、これは全て真実であり、お二人には信じて頂くしかありません」

 

「……」

 

 暫し見つめ合う瞳。逸れない目。本当に豪胆だと思う。あの細く小さな身体であんなにも豪胆であらねばならないなんて。宮廷闘争もほとんど無いと言うに。弟を、そして俺なんかを守る為に。日本のためと断じ、億を殺した俺なんかを……。

 

「シゲタロウも、そうなんだね」

 

 優しい問い掛け。弟シャルルさんと同じような優しい。

 

「はい、僕……俺も、もう百何十年と生きて日本の未来のために戦ってきました」

 

「そうか……、僕らの識らない日本でかい?」

 

「ええ、違う、世界の」

 

 一度押し黙るV.V.さん。シャルルさんは所在なさげに此方へ彼方へ目を動かしている。

 

 そしてV.V.さんは口を開いた。

 

「信じるよマサノブ。但し! ただし、僕が信じるのはシゲタロウがそうだと言うからだ。シゲタロウは僕らに嘘を吐かない。僕らもシゲタロウに嘘を吐かない。僕ら三人は何があっても嘘を吐かないと誓い合った仲だ。だからシゲタロウの肯定する夢幻を、僕も肯定する」

 

 そこまで言い切るとV.V.さんは辻さんに手を差し出した。

 

「よろしく頼む」

 

「よろしいのですか? 夢幻会は日本の──」

 

「ブリタニア支部があってもいいんじゃないか? 日本とブリタニアは背を預け合う家族じゃないか。それに、この世界にも君たちや僕らの敵となる存在がいる」

 

 窓の外を見遣るV.V.さん。方角は南方。

 

「僕とシャルルも、是非とも君たちの組織に入れて欲しい。日本とブリタニアの未来のために」

 

 一国制度、正確には日本との二国制度は終わりにしよう。僕らの代で多国間同盟を作ろう。

 

 

 

 

 

 博之と円卓の騎士

 

 

 

 

 

 

「そうして出来上がったのが北側諸国会議および北側諸国同盟。北南冷戦は1950年代から始まりましたが、北側諸国同盟の発足と共に本格的な冷戦構造が出来上がりました。南側は北側を攻められず北側も同じ。代理戦争は何度も起きましたし、南ブリタニアやニューギニアではオセアニアが直接出張ってきましたがはじき返せました。無論この平和もいつまで続くか分かりません。南側が野心を捨てない限り」

 

 茶色のスーツ姿の辻は呟きながらお酒を一杯飲む。

 

 その隣には表地が黒、裏地が紫色の高級そうなマントを着た白と金と青の色がちりばめられた司祭服姿の、年の頃10歳くらいの少年がおちょこに日本酒をつぐ。

 

「南側が野心を捨てるもんか。何度呼びかけてもオセアニア本体は開国すらしない。その上でアフリカ方面から北半球への浸食を始めようとしている。掴めている情報は?」

 

 少年がお酒を飲むが誰も何も言わない。少年の長い長い身長と同じくらいの髪が、着いた席の後ろでビロードの様に垂れ下がっている。実は彼が10つどころか63歳のおじさんだとこの店の店員も客も識っているからくちをださないのだ。

 

 それにおじさん同士の語りなど聞いても仕方が無いと誰も耳を貸していない。

 

「考えてみればさあ」

 

「はい。なんでしょうV.V.さん」

 

「いやね、こういう話しって会合でするべきじゃないの?」

 

 日本酒で酔いが回り赤くなった顔で指摘する少年姿のおじさん、日本に住んで10年と少し、日本国籍を取った元ブリタニア人の皇族、ジ家のV.V.はそう言って徳利の注ぎ口を小さな指で、チンと弾く。

 

「よろしいんですよV.V.殿下。どうせこの場には夢幻会のメンバーしかおりません」

 

 パタンと閉められるふすま。客の目も遮られる。

 

「これはッ、伏見宮博恭王殿下っ。お出ででしたか」

 

「あーあー、やめてください。同じ皇族同士では御座いませんか」

 

「いえ、私は既に皇籍奉還した身ですので一応は一般人」

 

 かしこまるV.V.にそれでもと食い下がる伏見宮殿下に根負けしたV.V.は。

 

「それじゃこれまでのままで行かせていただくよ。で、南天の情報は君たちの方が早いだろう。僕も嚮団側から調べているけどとんと出て来ない。ちょっと出てきた分は後で話すけど胸くそ悪いよ? まあ、僕も夢幻会の一員だし、会合のメンバーではあるけれどうちの身内のことも色々あって出席率悪いからね」

 

 謝るV.V.に立場が立場だから仕方が無いと諭す他のメンバー。実際V.V.はブリタニア皇室の外で色々と動いているのだ。普段は邸でアホの相手をしたり、娘の相手をしたり、弟から預かっている子供達の様子をみていたり。あと緑茶ばかり飲んでいるが。5,000円もするお茶を飲んでいると聞いてアホが呑み散らかしていったときは怒った。ハイパー・ジークフリードで奴の息の根を止めてやろうと思った。

 

 山本が実際の処はどうなのだと聞く。彼は彼で現在ヴェルガモン家のことで色々あり会合に出られないことが多い。ヴェルガモン家の婿に入ることが決定しているために。

 

「まあ、とりあえずわかっている範囲はこれくらいだ。荒削りなのは許して欲しい。正直白いカーテンの向こう側はほとんど見えなくてな。精々が現在の加盟国くらいしか調査できんのだ」

 

 

 

 南天条約機構軍

 

 

 集団安全保障機構

 

 集団攻勢機構体

 

 通称南天──南側諸国。正式名称を南天条約機構。

 

 加盟国。

 

 

 

 合衆国オセアニア:皇歴2019年

 

 政体:特定思想に基づく民主共和制原理主義

 

 首都:エリュシオン

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:1,820,000+予備役 (徴兵制で事実上の国民皆兵制度)

 

 陸地面積:8,614,526km2(マダガスカル自治州含む)

 

 総人口:334,000,000

 

 領土

 

 オーストラリア+周辺島嶼

 

 ニュージーランド

 

 フィジー

 

 ソロモン

 

 トンガ

 

 ツバル

 

 バヌアツ

 

 サモア

 

 米嶺サモア

 

 クック諸島

 

 南ポリネシア(史実フランス領ポリネシア+ヘンダーソン島・ピトケアン島)

 

 モーリシャス

 

 セーシェル

 

 チャゴス諸島

 

 コモロ

 

 イースター島

 

 サライゴメス島

 

 

 合衆国オセアニア・マダガスカル自治州

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 州都 メリナシティ

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:420,000+予備役

 

 総人口:52,417,000

 

 旧メリナ王国だったオセアニアのアフリカ方面の拠点。

 

 現在は自治政府が独自に行政を動かしている。

 

 

 オセアニアの人口変遷は少々無茶ですが、大昔から存在した国家と言う事で、徐々に徐々に増加していき、日本・ブリタニア・中華と同じく近代に入ってから爆発的に増加。

 

 現実と違いサクラダイトを除く殆どの資源を自国で賄っている。サクラダイトは採れるも日本やブリタニアのように豊穣ではない。

 

 更なる生存権の拡大を図りアフリカ・東南アジア・南ブリタニアを欲したが、東南アジアは日本に、南ブリタニアはブリタニアによって阻まれる。

 

 現在世界を舞台に暗躍しつつ、他の列強の隙を窺っている。

 

 

 

 旧大洋州連合

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:オセアニアの直轄地

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:適正年齢の成人

 

 陸地面積:ほぼ海

 

 総人口:100,000~200,000

 

 領土:南太平洋・赤道太平世の一部

 

 日ブ太平洋戦争の際に中立政策をとったことでオセアニアに侵攻され併合された、元中立国家。

 

 現在は民主共和制原理主義となっている。

 

 

 

 合衆国東アフリカ

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ダルエスサラーム

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:886,000+予備役 (徴兵制)

 

 陸地面積:2,165,394km2

 

 総人口:142,576,800人

 

 領土

 

 タンザニア

 

 ケニア

 

 ソマリア

 

 一応独立国家の体を成しているがオセアニアの属国でしかない。

 

 タンザニア州西部にはE.U.側植民地と跨る形でサクラダイト鉱山がある。

 

 

 

 

 

 イエメン民主共和国

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:アデン

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:125,000

 

 陸地面積:527,970km2

 

 総人口:25,690,000人

 

 領土

 

 イエメン

 

 東アフリカの属国。宗主国はオセアニア。

 

 共産イラクとの窓口? 

 

 

 

 

 ニューギニア民主共和国(南ニューギニア)

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ポートモレスビー

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:186,000+予備役(パプアニューギニアと睨み合い劣勢な為、人口比率に対して兵力が多い)

 

 陸地面積:350,934km2

 

 総人口:4,406,600

 

 領土

 

 ニューギニア島南部と周辺島嶼

 

 かつてニューギニア戦争の舞台となったニューギニア島南部に築かれたオセアニアの傀儡国家。

 

 パプアニューギニアと国境沿いでの睨み合いが続いている。

 

 

 

 イラク社会主義共和国。

 

 政体:共産主義

 

 首都:バグダッド

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:1,000,000

 

 陸地面積:102.8万㎢(中東戦争後の併合地域含む)

 

 総人口:66,000,000(中東戦争後の併合地域含む)

 

 領土:イラク・サウジアラビア北部・ヨルダン西部。

 

 

 カメルーン民主共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ヤウンデ

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:40,000

 

 陸地面積:47.6万㎢

 

 総人口:33,500,000

 

 領土:カメルーン

 

 

 

 

 民主主義中央アフリカ。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:バンギ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:25,000

 

 陸地面積:62.3万㎢

 

 総人口:5,590,000

 

 領土:中央アフリカ

 

 

 

 民主主義ガボン。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:リーブルビル

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:120,000

 

 陸地面積:26.8万㎢

 

 総人口:4,400,000

 

 領土:ガボン

 

 

 

 コンゴ原理主義共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:キンシャサ

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:620,000

 

 陸地面積:268.7万㎢

 

 総人口:92,500,000

 

 領土:コンゴ

 

 

 

 ルワンダ民主共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:キガリ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:120,000

 

 陸地面積:2.6万㎢

 

 総人口:18,130,000

 

 領土:ルワンダ

 

 

 

 

 ブルンジ民主共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ブジュンブラ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:100,000

 

 陸地面積:2.8万㎢

 

 総人口:18,760,000

 

 領土:ブルンジ

 

 

 

 

 アンゴラ原始民主制共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ルアンダ

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:312,000

 

 陸地面積:124.7万㎢

 

 総人口:43,260,000

 

 領土:アンゴラ

 

 

 

 

 民主原理性ザンビア。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ルサカ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:348,000

 

 陸地面積:75.3万㎢

 

 総人口:33,280,000

 

 領土:ザンビア

 

 

 

 

 ジンバブエ民主共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ハラレ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:175,000

 

 陸地面積:39.1万㎢

 

 総人口:25,400,000

 

 領土:ジンバブエ

 

 

 

 

 原理主義人民ナミビア国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ウィントフック

 

 陸空二軍

 

 総兵力:172,000

 

 陸地面積:82.4万㎢

 

 総人口:25,700,000

 

 領土:ナミビア

 

 

 

 

 

 ボツワナ原理主義人民共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ハボローネ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:112,000

 

 陸地面積:58.2万㎢

 

 総人口:15,600,000

 

 領土:ボツワナ

 

 

 

 

 

 

 南アフリカ原理主義人民共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:プレトリア

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:1,580,000

 

 陸地面積:122.1万㎢

 

 総人口:112,000,000

 

 領土:南アフリカ

 

 

 

 

 

 レソト原理性共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:マセル

 

 陸空二軍

 

 総兵力:65,000

 

 陸地面積:3.0万㎢

 

 総人口:3,200,000

 

 領土:レソト

 

 

 

 

 エスワティニ原理性共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ムババーネ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:80,000

 

 陸地面積:1.7万㎢

 

 総人口:1,700,000

 

 領土:エスワティニ

 

 

 総計二十一ヶ国地域が加盟。

 

 

 

「加盟国が一気に増えたね」

 

 V.V.が言う。その通りで、かつての六ヶ国地域から、イラクがオブザーバー加盟して七ヶ国地域へ。

 

 そして近年遂に中央アフリカ以南が動き出し、自らの意思で神に帰依するのだとして中央アフリカ以南全アフリカが加盟し、二十一ヶ国地域にまで膨れ上がった。

 

「南天はまだまだ膨れ上がりますよきっと。次は中東を狙いその次は」

 

「ジルクスタン。中華連邦かい? 全て遺跡のあるところばかりじゃ無いか。きっとトルコの遺跡も掠め取っていくだろうね。ユーロユニバースは南天には逆らえないから。情けない国だ。仮にも列強で有りながら相手国の顔色を窺いながらペコペコペコペコと。ちょっとは列強の意地でも見せて見ろってんだッ!」

 

「V.V.さん悪酔いしてますよ」

 

「V.V.殿、酒は飲んでも呑まれるな。ほどほどに」

 

 伏見宮王がやんわり注意すると。

 

「まあね、自覚はあるよ、ただ情勢は悪い方向に向かって動いてる。僕の掴んだ情報では、空母戦闘群を8個群一気に増やすらしいんだよ南天が、そして通常戦力50,000,000、最大戦力80,000,000の死兵と呼ばれる正規軍を持ち、世界中に南天の神の信徒が南天の支配エリアまで含めると1,700,000,000いるらしい」

 

「じゅう、なッ」

 

 倉崎翁が声を詰まらせた。

 

「正規軍の内訳で判明してるのは戦車などの戦闘車両200,000両。戦闘機などの航空機20,000機以上。主力水上艦艇が千数百隻だ。これが現時点」

 

「戦車200,000両だと?! KMFも合わせたらどんなことに?! それに戦闘機など20,000機以上とは?!」

 

「なッ、それは本当の?」

 

「本当の情報さ。情報を得てきた嚮団のその諜報員はその場で爆発して死んだって話しだった。良くやったとだけお悔やみの言葉と、ご遺族に見舞金として生涯分の賃金と退職金を渡したって。息子さんは立派に任務を成し遂げましたとね。僕がいたら直接謝罪したかった。僕が殺したようなもんだ」

 

 V.V.の悲しみに重い口を開く伏見宮王。

 

「我が子が殺されたも同然だな。日本とブリタニアは家族故に。だが貴重な情報だ。空母だけでは無いだろう護衛艦艇や潜水艦、浮遊航空艦にKMF、奴ら一気に大軍拡を始めるぞ」

 

 伏見宮王の言葉を受けこちらは猛烈な怒りを見せるV.V.

 

「だったらこちらも軍拡で対抗してやろうじゃないかくそったれの南天め!」

 

 辻は一人静かにおちょこを傾けるが、その闇よりも尚深い闇を湛えた瞳は南天からの挑戦状に、敢えて乗ろうという判断を下した目つきであった。

 

「倉崎・スメラギ・ランペルージの各重工業部門に一斉注文ですねえ。南天には誰に喧嘩を売っているのか一度知らしめる必要があります。それで我々の身が危険に陥ろうとも」

 

 分かっている。確実に狂信者は襲い来るだろう。昼に夜に夕暮れ時に。まるですれ違うようにあるいは超々射程からの狙撃。ギアスを使った方法など幾らでも考えられる。

 

 正攻法以外もあり得る。ギアスを掛けた人間に一般人を装わせて刃物でドンだ。

 

「僕は大丈夫だけれど、君たちは充分気をつけてね」

 

 V.V.はコード持ちだから不死身。頭を撃ち抜かれても心臓を刺されても死なないと安心するように伝えるが。これを辻は否定した。

 

「V.V.さんも大丈夫ではありませんよ。F号兵器の的にされないとも、それ以外の手段に出ないとも考えられます」

 

「例のニュージーランド北島付近の群発地震のこと? 僕には信じられないけどF号兵器以外でF号兵器に匹敵する強力な爆弾って具体的にはどんな物なの?」

 

 ここで富永が割って入ってくる。

 

「まあV.V.殿下。俺的に言うとこの手が疼く兵器さ」

 

 一連の流れを見ていた阿部が変わって説明する。

 

「V.V.殿下。単純に説明致しますと、中心核とその周辺を超高熱で焼き尽くし、周囲十㎞二十㎞。巨大な物なら50㎞は熱戦で服飛ばしてしまう爆弾ですよ。厄介なのはその後に人体に有害な猛烈な毒。放射能をまき散らすことでしてね。暫くその地を死の土地に変えてしまう。そんな爆弾です。この世界では原子配列が違うのか作れず。その代わりにF号兵器というクリーンな大量破壊兵器が出来たのですが」

 

「君たちも作ろうとしてたのか?」

 

「正確には太平洋戦争の戦中世代ですね。それだけの科学力はありましたので」

 

 それが完成してたらブリタニアは灰になってたろうねと引き気味に笑うV.V.に、伏見宮があんなもの使わずともブリタニア全土爆撃計画とその準備もしていたので、どちみちブリタニアは灰になってましたよ。もちろん貴国よりの報復爆撃で日本も。

 

 日本もブリタニアも灰になって金もなくなって国家崩壊していたでしょう。喜んでいたのはオセアニアだけ。私はね時々思うんですよ、客船沈没事故が両国の険悪化の遠因だった、あれ、オセアニアの仕掛けた罠だったのでは無いか、とね。

 

 伏見宮の陰謀論に場が静かになる。確かにあり得た。よく考えたらあったねそれ。ありえたかもしれませんねえ。考えられぬでは無いな。

 

 嶋田、V.V.辻、山本、言い出しっぺの伏見宮、あの富永まで陰謀論って言うか確実論じゃねえか。と言っている。倉崎翁は場の空気が悪くなるのを感じて。

 

「まあ、今回は南天の情報の一部もつまびらかにできたことだ。ここらでお開きにしよう。次はきちんとした会合で」

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 前世での激動の時代に比べ、結局そう変わらない時代。時も世界も変わりながらも、人はやはり変わらないということか。

 

 しかし、時折感じるこの悪意は何なのだろうか。言いも知れない憎悪を何処かから感じるのだ。自分に向けられているのだろうか。

 

 そう考えたこともあった。だが、それがどうも違うようだと気が付いたのは、富永やV.V.と一緒に呑んでいたとき。

 

 悪意、憎悪は二人に対しても向けられていたのだ。どこからむけられる気配なのか? 気配察知能力などという物に長けていない嶋田には何処から来る物か分からなかった。

 

 そんな不気味ながらも平穏な日々、嶋田は後進の指導を終え、漸くのことで政界を引退はした物の。結局裏方として、政治の実権を握るハメになってしまっていた。

 

 人生150年が下限年齢。平均200歳前後まで生きるのが普通である現代社会でいつまでも、60歳定年制はおかしいと定年を100歳に引き上げるべきだという声も上がっている。

 

 枢木政権という人形を使った人形師による世界相手の劇場。手を変え品を変え場所を変え。繰り返される演出には、山本も、辻も、杉山も、倉崎翁も、阿部も、近衛も、富永も、伏見宮王も、V.V.もみんな関わっている。

 

 正確にはV.V.だけは日本の政治家ではないので、会合でも夢幻会ブリタニア代表として出席していた。この人形劇はある意味では100歳定年に対する答えの一つかも知れなかった。60過ぎたら裏から操れば良いんだよという。

 

 最も夢幻会の仲でも現役復帰を果たしている者複数。村中孝次など普通に現役バリバリで定年が来ようが関係なく日本の為にと働く気満々だしだし、山本も奥さんに成る予定のリーライナ・ヴェルガモン卿というまさかのブリタニアの大貴族と、第8.5号機エナジーウィング機で二人乗りして、騎から降りたとき、丁度近くを飛行中だった斑鳩級浮遊航空艦『庵戸』に緊急着艦させてもらってえおったらしい。

 

 何をやっているのだろうか? 

 

 そんなある日のこと。彼は行き付けの飲み屋で一人の酔っぱらいの話を聞いていた。

 

「なぜだっ! なぜなのだァァぁぁっ!!」

 

「ああもう、他のお客さんの迷惑になりますからもう少し静かにしてくださいっ、正体がばれますって」

 

 一息に大ジョッキを煽り、ビールを一気飲みした身体のごつい初老に見えてまだ中年前。人生150年が下限寿命にして200年を超える長寿の種族となった日本人とブリタニア人。

 

 今年63歳の青年は大声で叫ぶ。これでもう三回目だ。

 

 周囲の客が一斉に振り向くが「またあの人か」と、何事もなかったようにそれぞれの談笑に戻っていく。

 

 世界的に有名な彼の男も、この店の常連達にとってはさほど気にならなくなっていた。表向きの名としてランペルージの名があるからだ。

 

 まさかそのランペルージグループの社長がこの人だとも誰も思わないので更に安心。ランペルージ姓だってそれほど珍しい姓でもないしね。

 

 この男、それくらいこの店を訪れているのだ。それに一応申し訳程度に変装もしていた。

 

 静かにしろと注意する俺自身も有名人ではあった、周りに其処と無くSPが溶け込んでいる。この男の周りにも当然としてSPは付いている。が政界を引退して暫く経っているし、男の強烈な存在の前には霞んでしまっているので、助かっていると言えば助かっていた。

 

「こ、これが、これが叫ばずに居られる物かっっ! あやつは遙々日本にまで会いに来た儂に向かって鬱陶しいと言いおったのだぞっっ!!」

 

「それはまあ堪えるとは思いますけど、日ブの距離ならブースター付けた最新型の高速浮遊航空艦ならそれほど時間も」

 

「あやつは、ルルーシュはそんな子ではなかった。昔は“大好きなお父さん”という作文を書くような、父思いの優しい子だったのだ……それがっ、それがなぜこうなったのだァァぁぁ」

 

 日本ではまず見ない、豪奢な白髪を幾つものロール状に巻いた髪型の男の名は、シャルル・ジ・ブリタニア。

 

 何を隠そう、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝その人である。

 

 とても家族思いな彼は、数居る子ども達の中でも、日本に留学中のアッシュフォード高等部三年間もなく卒業の第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと、その妹アッシュフォード学園中等部三年間もなく卒業ナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女を殊の外溺愛している。

 

 それは子煩悩を通り越して鬱陶しいほどに。

 

 ルルーシュ皇子が日本行きを決めたのもそれが原因と言っていい。とにかくウザイ父親から距離を置きたかったのだ。本人が盟邦日本で勉学に励んでみたいと言っていたから、それも嘘では無かろうが。

 

 ルルーシュ皇子とナナリー皇女は初来日のに挫折感を味わったのだという。ビルにしろタワーにしろ、日本は世界一ばかりで溢れていたからだ。ペンドラゴンこそが世界一だと考えていた二人にとって、東京は余程にショックだったらしい。

 

 まあ1,000m超えのビルとか、2,000m超えのタワーとか、700,800,900mが当たり前の高層ビル建築の町並みとか見たら、そりゃぶっ倒れるわ。

 

 当然そんな、息子、娘を心配してお忍びで様子を見に来たりするシャルルだが、そのたびに邪険にされてはショックを受けて、友人である嶋田と、日本に赴任中のラウンズの一人を連れてやけ酒を飲むという、これも致し方なしな、お決まりのパターンになっていた。

 

(ああ、もうこんな時間か……、それじゃそろそろ来るな……)

 

 息子に冷たくされて悲しむシャルルを慰めていた嶋田がそう思って時計を見ていると、それを待っていたかのように簡素な作りの店の扉がガラッと開いた。

 

 噂をすればというか、毎度のことなので大体この時間と分かってしまう辺り、この個性の強い皇帝陛下との付き合いも長いのだなと思う、幼なじみだもんな。もう半世紀は付き合ってきてるんだよなあ。

 

「シャルル、迎えにきたよ」

 

 そう言って店に入ってきたのは、足首まで届くほどの長さの薄い金髪と、表が黒で内側が紫のマントを着用し白を基調とした司祭服を着た、10歳前後に見える少年。

 

「こんばんはV.V.さん」

 

「こんばんは繁太郎。いつも弟に付き合ってもらって悪いね」

 

「いやまあ、友達ですからね」

 

 この子どもにしか見えないV.V.さんは、シャルルさんの双子の兄であり、これでも御年63になる歴とした大人だ。

 

 幼い頃に不老不死となっているため肉体が年を取らないらしく、いつまでも経っても見た目が変わらないという不思議な人である。

 

 当然、俺はこのV.V.さんとも幼なじみで、昔は良くブリタニアのジ家の離宮でよく遊んだ。うちの領地にも良く来てくれたけど。

 

『夏は涼しいけど、冬は猛烈に寒いよね繁太郎の領地』

 

 まあね、そりゃカムチャツカですから。日本名神坂。嶋田家の領地で領地面積は170,800㎢で、人口は10,000,000とちょっと。出稼ぎの人口とか合わせたら15,000,000~16,000,000にはなるんじゃないかな? 大きすぎだろ我が領地。

 

 で、そんなV.V.さん、彼は現在ルルーシュ皇子の後見人もしていたりする。

 

 甥っ子から日本留学の相談と後見を頼まれた際、承諾したらしい。伯父様、もう日本で10年以上住んでるベテランで、日本人ですから日本のことなら伯父様ですよルルーシュ皇子殿下。

 

「まったく、いい加減子離れしないと、その内家族の縁切られちゃうよ?」

 

「オール・ハイルぅぅぅぅゥ、ルルーシュぅぅぅぅぅぅゥ」

 

 既に半分寝ているような状態のシャルルには兄の言葉が聞こえていない。

 

「ルルーシュ皇子、そんなに嫌がってるんですか?」

 

「本人は大切にされてるからこそ構ってくるんだって分かってるみたいだけど、18にもなってやることなすこと口出しされたら嫌にもなると思うよ。いつだったかな。三者面談のとき『伯父上、明日の三者面談なのですが、伯父上が来て頂けませんか』って僕に頼んできたからね。僕も伯父であの子の後見人だし、可愛い甥っ子の頼みでもあるから行ってきたけど、本来シャルルかマリアンヌが行くべき物なのに」

 

 どれだけ嫌われてるんだブリタニア皇帝よ。

 

「それは……シャルルさんがそのこと聞いたら……」

 

「ショックで引き籠もっちゃったりするかも」

 

「は、はは……」

 

(ブリタニアの皇帝が親子喧嘩で引き籠もりになんてなったら、マスコミにとって格好の餌だろうな……シリアスには南天が食いつきそうなネタだ。どちらにせよ碌なものじゃないな)

 

「それじゃ僕はシャルル連れてこのままホテルに向かうよ。家に連れて帰ってもいいけどルルーシュが嫌がりそうだからね」

 

「わかりました。それじゃ私は彼女を連れて帰ります」

 

「うん。その娘にもよろしく言って置いて。それじゃ君も気を付けて帰りなよ」

 

「ええ、V.V.さんもお気を付けて」

 

 

 ※

 

 

「さてと、こちらも帰りますか」

 

 シャルルさんとV.V.さんを見送った俺は席を立つと自分の隣に座っていた人物を見る。

 

 年の頃なら二十歳前、正確には19歳。2019年の5月3日に二十歳を迎える。

 

 表の生地が黄緑色、裏地が紫色のマントを着た、腰の下まである真っ直ぐな長い金色の艶やかな髪が美しい少女。いや、もう女性と呼ぶべきだろう。

 

 日本に赴任中のブリタニア駐在武官で、現在宿舎として俺の家に同居中である。

 

 ブリタニア皇帝シャルル専属の騎士ナイトオブラウンズの末席、ナイトオブトゥエルブ。

 

 そのブリタニア最強の騎士の称号を持つ彼女の名は、モニカ・クルシェフスキー

 

 西海岸諸侯の盟主とも呼ばれる名高きクルシェフスキー侯爵家の娘でもある。

 

 正義は等しく平等に。騎士は常に強くあらねば成りません、平等なる正義を降り注がせるためにも。人種によって差別をするユーロユニバースを私は好きではありません。

 

 南天は、良く分かりません。南天は、平等なのでしょうか。

 

 平民も貧民も、貴族も皇族も関係ない、全てに等しき正義を。

 

 いつも真っ直ぐ純粋で。正義を貫き戦う純潔の騎士。術らしい生き方だと思う。美しい生き方だと思う。億を超える人間を殺してきた俺には眩しすぎるよ君の在り方は。

 

「ふふ、しかし、君も大変だなぁモニカさん」

 

 19歳と年齢的には日本の法律ではアウト。碌に酒も飲めない彼女だが、しかし、皇帝陛下に付き合えと言われれば飲むしかない。

 

 それもまた皇帝に忠誠を誓う騎士の務めである。

 

「よっこらせっと」

 

 すっかり酔いが回って、泥酔状態で眠っているモニカさんを背負う、俺。

 

 身体の前に流して赤いリボンで束ねられた彼女の長い髪の房が、俺の肩を跨いで流れ落ちる。

 

 頬や、首筋を、さらさらと擽る髪から香る甘い芳香は、酔っていても分かるほどに、いい匂いがした。

 

「ん……」

 

「ん? 起こしてしまったかな?」

 

 俺の首筋から肩に顔を埋める格好のモニカさんは、歩く振動で目を覚ましてしまったようだ。

 

「ん、んう……? ……嶋田……さん……?」

 

「ああ、ああ、そのまま寝てていいよ。かなり酔いが回ってるんだから無理に起きなくてもいい」

 

「あの……陛下は?」

 

「お兄さんが連れて帰ったよ、君にもよろしくってさ」

 

「そう、ですか、皇兄、殿下が……。その、いつも……すみません」

 

「別に大した事じゃないさ。19歳でお酒飲めない君に飲ましてるんだから、大人としてこれくらいはさせて貰わないとね」

 

 来年にはモニカさんも成人だがね。おじさん最後の孝行ってところかな。

 

「……嶋田さんは……優しい方、ですね……」

 

 俺は優しくないよ。君のように気高く美しい女性じゃない。どれだけの人間を殺してきたか。君が識ればその剣で立ち向かう前に、おぞましさで逃げ出してしまうだろう。

 

「どうしたんだね急に」

 

「いえ……なんでも……ありません……」

 

 ※

 

 私が日本へと赴任した際、シャルル陛下の友人として紹介された一人の男性、嶋田繁太郎さん。

 

 現在ブリタニアの最友好国であり、親族と呼べるほどに親しい関係を築く、大日本帝国を率いていた人物。

 

 今はもう引退して隠居生活を送る彼。人生200年時代なのに60で引退とはどうしてと気になり聞いてみると、65歳から年金が貰えるからねえ今の社会システムでは。

 

 それにおじさんが後進に道を譲らなかったら後が育ってくれない。就職したいときには再就職するさ。当時16歳の私の頭をぽんぽんと撫でててくれるその姿は、とても優しかった。

 

 私の周りには厳しい人しか居ない。

 

 帝国最強の騎士ナイトオブラウンズ。ナイトオブトゥエルブとして誰もが強さを求めてくる。

 

 名家であり、有力貴族であるクルシェフスキー家の一人娘として、将来は当主となることを求められる立場に在る私には、家族ですら厳しい。

 

 それは私が最強の騎士の一人であり、貴族である以上仕方のないことなのだろう。

 

 すべての人に年齢も性別も階級差も人種も関係ない、すべての人に等しき正義が降り注がれて欲しい。その思いで剣を持つ私には、甘えは許されないのでしょう。

 

 そんな私にとって、彼は、初めて出会った甘えさせてくれる人。

 

 彼は、貴族や騎士としてではなく、一人の少女として私を見て接してくれる。

 

 甘えだとも、ただの理想でしか無いとも揶揄される私の夢を、素晴らしい、素敵な夢だ。きっと叶えられるよモニカさんならきっと、そう応援してくださる。

 

 それが、私には嬉しかった。

 

 嶋田さんは、嶋田繁太郎さんは、甘えの許されない私が唯一甘えられて、年相応の顔を見せられる人なのだ。

 

 背負われている私は、ぎゅっと彼にしがみつき、その首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。

 

(嶋田さんの匂い)

 

 還暦を迎える男性の匂い。

 

 嫌がる人の方が多いだろうと聞く、その優しい匂いが、私は大好きだった。

 

 

 ※

 

 

「おやじ臭でもしてるかな?」

 

 それとも、吐き気をもよおしそうなほどのおぞましい血の匂いでもしてるかな。

 

 ナイトオブトゥエルブ、最強の騎士故に。血の臭いには敏感だろう。粘り着いた人の憎悪には。

 

「……いいえ、いい匂い……です」

 

 でも、彼女は。16歳の頃から俺が預かっている女性は。これを否定する、ただ、いい匂いだと。

 

 ふと、油断すると、涙が零れそうだった。俺の手はこんな純粋な騎士に触れて良い物じゃ無い。

 

 どれだけの血をこの手は吸い上げてきたのだろうか。この手で聖人の様な在り方の彼女に触れるとき、いつも自分で自分が許せなくなるんだ。

 

 でも、それを表に出すことは出来ない出しては成らない。V.V.さんを除いた仲間達と共に、永遠に背負っていかなければならない罪業なのだから。

 

「そ、そうか……君の髪も、その、いい匂いがするね……」

 

 俺の肩口から身体に沿って流れ落ちている、赤いリボンの巻き付けられたモニカさんの長い金色の髪の房が、右に左に揺れていた。

 

 俺に匂いを付けようとするかのように、俺の服の上を撫でて揺れる、束ねられた金糸。

 

 そこから漂う香りに鼻腔を擽られながら、俺は年甲斐もなく高鳴ってしまう鼓動を抑える。

 

 

 最初は丁寧ながらも硬い物腰だったモニカさん。

 

 貴族としての、騎士としての自分を全面に出し、事務的な遣り取りとしか思えない雰囲気で接してきていた。

 

 しかし、それは日を追うごとに少しずつ変化していき、最近になって漸く年相応の顔や反応を示すようになった。

 

 同居人としてその方が接しやすいし、なにより嬉しい。

 

 目に見える形で親しくなり、仲良く慣れたのだから。

 

 だが同時にこれは少々行き過ぎでは? と思うことも多々見られるようになったのだ。

 

 今のような状況の時に身体を匂ってきたり、休日などに二人で歩いていると腕を絡めて、更には身体を押しつけてきたり。

 

 それに基本的には穏やかで物腰丁寧な彼女は最近不機嫌になることが多くなったように感じられた。

 

(怒らせるようなことはしていないのになぁ)

 

 その都度そんなことを考える彼だったが、そこにはある共通点があった。

 

 それは彼が女性と会っているときである。

 

 付き合いの上での関係であり、特別な関係を持つ相手はいないものの、相手の年齢素性に関係なく、とにかく機嫌が悪くなるのだ。

 

 飲み会などで夢幻会の仲間達に相談したことはあったが

 

『死ねっ! 氏ねじゃなくて死ねぇっ!!』

 

 と、罵倒されたり。

 

『せいぜい夜道には気を付けることですね』

 

 などとよく分からないことを言われたりとまるで意味をなさなかった。

 

「寒くないかい?」

 

「マントを着ているので大丈夫です……。それに……こうすると」

 

 モニカさんは無理に身体を押し付けてきてマントを広げると、俺の身体の前に掛かるくらいにまで覆い被らさせてしまった。

 

「……ッ!!」

 

 彼女の頬が俺の左頬に擦り付けられ、彼女の長い金色の横髪もまた俺の頬を強く擦る……ふわああ、あ、甘い匂い……頬の温もりと、髪の感触が、気持ちいい……うう、いい……普通に、気持ちいい。

 

 それに、俺の身体を覆う黄緑色のマント。モニカさんの匂いの染み付いたマントがまた香しい匂い──って、俺変態か! い、いかん。本当に全身が気持ち良すぎて。

 

「あの、このまま少し、強く、引っ付いていてもよろしいでしょうか?」

 

「ん?」

 

「嶋田さんのお身体……とても、温かいですから……」

 

 ああ、そうだよな。人肌は確かに暖かいよな。その美女が相手だからってわけじゃないぞ。蒼い瞳マリンブルー? それともスカイブルー? 蒼い蒼い澄んだ瞳。

 

 宵闇の中のでもきらめき輝く、艶めかしく美しい金色の長い髪は臀部を隠し、その下へと伸びる真っ直ぐな髪。

 

 整った、整いすぎた目鼻立ちに、シミの一つ無い抜けるような白い肌。容姿が美しいだけじゃ無く、その掲げる理想と精神までもが美しい。

 

 たぶん、こんな美女、二目とお目にかかれないのだろうな、と、思う。それは、確かに思う素直な気持ちだ。

 

「ははっ、ちょっと照れるなこんな美女の着ているマントをお裾分けなんちゃってしてもらってさ、こんな美女とこんなに近づけるだなんて」

 

「び、美女じゃ無いですっ! わ、私なんて普通ですっ!」

 

 本気で言ってるんだろうなこの子、嘘付けないからなあ。そういう奥ゆかしいところもまた一つ、君の美しいところなんだよモニカさん。

 

「君が美しくないのならば世界の七割は美しくないよ。モニカさんはもう少し自分の美しさに気付いた方が良い」

 

「……もでしょうか?」

 

「え?」

 

「嶋田さんも、私のこと、美しいと思ってくれているのでしょうか?」

 

「え? あ? え?」

 

 ああ、いや、それは。

 

「美しいに決まってるでしょう」

 

 あ、声に出ちまった。

 

「モニカさんの身体も温かいし、モニカさんは美しいし、モニカさんのマントも暖かいし良い匂い。い、いや~、今夜は人生最良の日かなぁ~」

 

 俺の真横、頬にくっついているモニカさんの頬が、少し暖かくなったように感じた。

 

「でも、本当に暖かいよ。マントとモニカさんの身体と、ほっぺた」

 

「は、恥ずかしい、ですね。で、でも、心の中がほわほわします、これは何でしょう。暖かくて切なくて、胸の奥がきゅっと締まる感じ。でも、悪くない感覚なのです」

 

「も、モニカさん、それ俺もだ……なんだろうねこの切ない気持ち」

 

 軽口を言い合いながら家路を急ぐ。

 

 師走の風は冷たいが、二人の心はほっこりと温かい物に満たされていた。

 

 

 



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博之と円卓の騎士2

モニカ公式設定ネタばれアリです。
ネタバレがお嫌な方は読まないようにお願いします。


 

 

 

 

 大凡見当がついておりましたよ。彼女が彼の娘かどうかなんてのは。

 

 

 

 楽隠居? と円卓の少女 第2話

 

 

 

 辻がトレードマークの丸眼鏡をくいっと上げて答えた

 

「さすがは嶋田さんですね鋭さでは中々です慧眼です」

 

「なに言うんですか、鋭さで我々一なのはあなたでしょうに」

 

「いつ気付きました彼女が彼の子だと?」

 

「およそ最初からです。でなければ態々ブリタニア皇帝が日本の宰相とは言え、一政治家の下を訪ねて預かって欲しいと頭まで下げますか。あちらの方は育ての親でしょう。本人から伺いましたが厳しい教育を受けていたそうで。それこそ皇室の様な。そりゃそうでしょう。本来ならば皇室に入る方なのですから」

 

「ご本人は」

 

「気付いています幼い頃に家で血液検査をした時、両親とも違ったそうですから。母親はすでに亡くなっておりました。元は栄えていた貴族だそうですが、皇室に弓引いた上に南天と繋がっていた貴族グループの主犯格とされてしまった貴族の娘だったそうで、一族郎党処刑されたそうです……彼も苛まれたでしょう。自らの手で産みの親を殺すのですから。今の彼女が何を目的として動いているのかは分かりません。しかしその忠義は本物です。もしかすると自分と言う存在を知らしめたいのかも」

 

 阿部が言う。

 

「勘が鋭いのも危険ですね、大凡当たってますよ嶋田さんのそれ。まるで見て来たかのように。実際は観てたんじゃないんですかコードギアス」

 

「だから見てませんて。実際に皆さんの言った登場人物のほとんどを知らなかったでしょう

 

 山本が

 

「コードギアスコードギアスと皆は言うがそのコードギアスを俺は全く知らんのだが?」

 

【そのコードギアスの美少女キャラの一人と恋人になっとるいっくんは発言せんでよろしい!!!】

 

 このあたりは皆の意見が合う。それもそうだ。リーライナ・ヴェルガモンを恋人にして婚約まで交わしている山本五十六に発言権はないのだ。理不尽だがそういうことである。皆恋に飢えているのだ非リア充は。

 

 とまあ感がするどうと言う阿部の告白に嶋田は自嘲気味に返した。

 

「変なところで感が良いんですよ。彼が三年も彼女を俺のところに放置している意味。これは恐らく恐怖でしょうね。家族の争いに万が一巻き込ませたくない。南天の魔手より逃れさせたい。ギンツブルグ家の生き残りの人間だと知られる訳には行かないという。ですが南天の魔手から逃れさせたいというのならば我々に預けるのは悪手です。推測ですが南天が狙っているのは」

 

 これを継ぐ伏見宮王。話の流れを聞いていて合いの手を入れたのだ。本来これは嶋田と彼女の話なのだが。南天が絡むのならば話も変わる。

 

「我々だろうな。一連の動きの中で我々だけが意図的に外されてきた今日までは。明日がそうであるという保証はどこにもない。彼が彼女を逃がす最も適切な場所は、彼の侯爵家の地に帰してあげる事だ」

 

 ここで嶋田が口を挟む。

 

「本人が嫌がっているんですよ。厳しい貴族、本人は知らずのうちに皇室の訓練を受けさせられてきた場所だから、辛い思い出が多いのでしょう。まあ、最近は実家に顔を出したりしてご両親との蟠りも解消されてきたようですが」

 

 富永が面白くなさそうに続いた。彼もまたコードギアスを知っている一人だ、その後の話ももちろん知っている。

 

「最初に嶋田さんに伝えておくべきだったな。コードギアスのあらましを。彼女にとっちゃ父親であると同時に、母の仇でもあるんだよ。あのおやじはな。言っちゃなんだが原作では死んでも会えるから生き死にに特に意味は無い的な考え方持ってるクソの一人だ。この世界じゃまあ大分とましになってるどなあ。ただ原作にしろこっちの世界にしろ認知していなかったがためにな。こういった不幸が起きちまってやがるんだよ」

 

「いえ富永さん。知らない作品についてを聞かされてもたぶん覚えられません。精々が主要人物の名前くらいで。そのお気持ちだけ受け取っておきます。ありがとうございます」

 

 杉山が続いた。

 

「何にしろ、彼女がやんごとない身の上であるのは確か。扱いを間違えれば戦争に発展しかねんほどの。全く彼もまた厄介な人物をお押し付けてくれたものだ。辻、万が一の時は」

 

「ま、我々は連合国家的な形を目指しています。二国二制度性の日本ブリタニア連合帝国的な。ですから本来戦争になる相手ではないんですが、万が一の可能性を考えるなら勝てるように対策は練っています。万全の準備を整えて。その場合、彼女には永遠に故郷を失わせる事となり、その憎しみは我々に向くでしょう。嶋田さんには愛憎入り混じった感情が」

 

 そんなに簡単なのかねと近衛が言うと。

 

 嶋田がなんで俺が愛憎? というと、みんなが鈍いんだよあんたはと突っ込みを入れる。

 

「簡単ですよイエローストーンに穴を開けてやるだけでブリタニアは滅びます。その後のことは知りませんがね」

 

 おいおい世界が滅びるぞそれ。

 

「まあまあ皆さん大袈裟なんですよ。私は彼女の下宿先の大家に過ぎません。また彼女は我々の正体も知らない。辿り着く方法は無きに等しい。ま、孤独の中でずっと喘いでいた彼女に手を差し伸べるのが精々私にできる事でしょう。私は彼女の事を厄介者だともややこしいとも思ったことはありません。子は親を選べません、そして親も子を選べません。彼女ら親子は偶然にも分かたれてしまい、父自身によって引き起こされた悲劇によって父であることも子であることも言い出せない環境に置かれた。私がお聴きした原作の話よりかはずっと救いがあると思うんですけど、それもまた錯覚かもしれません」

 

 倉崎翁が締めにかかる。

 

「まあみんな、何もこんな日に、こんな議題で寂しく悲しく暗い気分になる事も無いではないか。今日は聖夜。何かが起きるかもしれんメリークリスマスという事で締めましょう」

 

『メリークリスマス』

 

「一杯飲みに行くか?」

 

「俺はリーライナと予定が」

 

『リア充死ね』

 

 がた、がたがた。

 

 一人また一人と席を立ち行きやがて円卓には誰も居なくなっていた。一人枢木ゲンブが皆に威圧感に充てられ心臓発作を起こしかけていた以外は。

 

 

 

 

 

『みんな~、今日は何の日か知ってる~?』

 

『は~いっ!』

 

『じゃあ何の日かな~?』

 

『クリスマス~! サンタさ~ん!』

 

 テレビから聞こえる無邪気な子ども達の声。私には、子供の頃に楽しい記憶はない。

 

 みんな笑顔でサンタクロースの話をしている。

 

 夕方に放送されている子ども向けの教育番組の一コマだ。

 

「サンタさん……か」

 

 自分以外誰もいない居間でぽつりと呟いたのは長い金色の髪の女性。

 

 目の上辺りで切り揃えられた前髪のせいか少し幼げな印象も受けるしとやかな風貌。

 

 テレビの画面に向けられた空の色を思わせる碧く澄んだ瞳。

 

 真っ直ぐに腰の下まで伸びた髪の一部は顔の両側から身体の前に流されて赤いリボンで束ねられていた。

 

 彼女はその髪の房を指で弄びながら愁いを帯びた表情を浮かべている。

 

 一見すると深窓の令嬢を思わせる彼女。いや、深窓の令嬢である事に違いはない。

 

 但し、それでいて鋭い切れ味を持った剣でもあるのだが。

 

 神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニア直属の騎士にして最強の12騎士の末席に座する貴族の少女ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキー。そう、あの人の騎士。

 

 それが彼女だった。

 

 モニカは現在ブリタニアと並ぶ大国であり同盟国でもある大日本帝国に駐在武官、正確には駐日大使館附き駐在官として滞在している。

 

 下宿先としてシャルルの友人であり日本の元総理、嶋田繁太郎宅に住んでいる彼女だったがいまその大家たる嶋田の姿はない。

 

 なんでも急な用事で遅くなるとのことで先に寝ててと電話があったのだ。

 

「あの人の居ないクリスマス……」

 

 彼女は今日という日を嶋田と共に過ごしたかった。

 

 由緒正しい厳格な貴族の家に生まれたモニカは幼少期を除いて厳しく育てられてきた。

 

 その為、物心ついた頃からクリスマスの祝い事などしていない。

 

 パーティーなどは幾度となく行われていたが、それは所詮貴族の社交パーティーでしかなく心から楽しんだ記憶が殆ど無いのだ。

 

 かといって両親が彼女に愛情を抱いていないという訳ではない。

 

 一般的な家庭と同じように娘を愛していたし大事に思っている。

 

 しかし一人娘であり、いずれはクルシェフスキー侯爵家の当主となる娘を甘やかせる事はできない。

 

 自分でも分かっているのだが理解することと納得することは違う。

 

(お父様もお母様も私のことが嫌いなんだ)

 

 幾度となくそう考えたし今でもたまに思うことがある。

 

 ただ、ある時知った。血液検査で。父と母、二人ともに合わない血液をしていた事を。

 

 では、私は誰か? 調べて行った、出生を辿っていったすると行き着いた先はギンツブルグ家と彼だった。母を殺した彼憎むべき存在のはずなのに、私は現状を受け入れている。母の仇である彼、でも彼をそうさせたのはギンツブルグ家に他ならない。何が悪くて、どうすればよかったのか。きっとあの当時誰にも答えは分からなかったのだろう。だから私の復讐は、いつか、いつの日か彼に私が彼の子であることを明かす事。ラウンズとなったいま彼の中で私の存在は大きくなっている、だから、故にいつ打ち明けるか。そのときどうするのか。私は決めなければならない。

 

 ただ、それとは別で、彼が紹介してくれた人には私は暖かさと優しさをいつも頂いている。彼が居るだけで楽しいと思える、彼が居るだけで優しい気持ちになれる、彼が居るだけで温かい。そんな彼女に惜しみない優しさと思いやりを与えてくれ、貴族の令嬢ではなく彼の子でもなくただの一人の少女としてこの三年間を接してくれた──嶋田繁太郎。彼だけが、きっと、彼だけが本当の意味での私の特別。私に惜しみない愛を注いでくださる方。

 

 彼のいないクリスマスは寂しかった。ろうそくの火のついていないケーキを私はただ一人見つめる、特別な彼とのクリスマス。別に彼とクリスマスを祝う約束をしていた訳ではない。

 

 ただこの日を共にして欲しかった。それだけだ。

 

 こうして一人で居ると思いだすから。両親が本当の両親ではない事。

 

 ※

 

 世界は争いに満ちている、それは私が生まれた時より変わらない。

 

 大日本帝国と神聖ブリタニア帝国が率いる北側諸国。

 

 合衆国オセアニアが率いる南側諸国通称南天。

 

 ユーロピア共和国連合は南天に媚を売り、中華連邦は100年前の日中戦争から旧敵国扱いのまま。

 

 世界は多岐に分かれながらも大きく北側南側へと集束し遂には世界を滅ぼすF号兵器まで生み出し、およそ世界で300,000発のF号兵器が生み出され北と南はにらみ合いを続けてきた。

 

 それは現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの体制となっても変わらなかった。彼が皇帝となった直後反乱がおき空白の三十分事件の時に何かがあった。彼自身も覚えていないなにか「さあ、選択の時だあ」と響いた声だけが頭にこびりついているという。

 

 絶妙なバランスで保たれていた世界情勢にも次第に南天の影がちらつくようになり、国内でも南天に通じる貴族や派閥が出始めた。

 

 南天はその勢力を東アフリカ、中東の一部から、中央アフリカ以南や南アフリカにまで広げ勢力を拡大し、世界のパワーバランスは大きく崩れようとしていた。

 

 不平等こそが悪である、平等もまた悪である、創造主に帰依し世界を新たに創造する事こそが正義であるのだ。

 

 唯一神を信じ、唯一神に心奪われるものは世界中で続出していく。その波はやがてブリタニアにも訪れる。

 

 だから私は欲したその唯一神にあらがえる力を。そして同時に全てはあの人への……。

 

「クルシェフスキー卿、着きました」

 

「ありがとうエレーナ、ではまた明朝ここに迎えに来てもらえる?」

 

「それはかまわないのですが……お一人で大丈夫なのですか?」

 

「ふふっ、副官のあなたにはお見通しなのね。でも大丈夫。ただ、報告に行くだけだから。しんぱいしてくれてありがとう」

 

「なにかあったら連絡をください飛んで来ますので。あなたになにかがあってはシマダ様がご心配なさいます」

 

「わかった。頼りにしているわ……嶋田さんには、彼にだけは心配をかけたくない」

 

 私はエレーナと別れ歩いた。人気のない道を。

 

「ここは変わらない。まるで時が止まっているかのよう……」

 

 すると老紳士が声をかけてきた。

 

「珍しい。こんなところに人がいるなんて」

 

「こんにちは。なんでも有名な貴族の屋敷があるとききましてね」

 

「有名かそれは悪い方に違いないな」

 

「ご老人は御存じで?」

 

「ああ、儂はこの屋敷の主……ギンツブルグ家に仕える使用人だったのさ」

 

「ギンツブルグ家」

 

「この辺り一帯を治める貴族だったんだ。領民に好かれるご一家だったんだ。十数年前まではな」

 

「十数年前まで……なにかあったのですか?」

 

「領主さまがな、皇族への反乱を企てたらしいんだ。かねてより皇族に対する不満があったらしい」

 

「その反乱が失敗し、お取りつぶしにあったのですね。皇族に立てついたばかりに……」

 

「なんとも愚かなことをされたものだ。娘さんが身籠られていたというのに……」

 

「そう……ですか」

 

「ああ。娘さんちょうどあんたくらいの歳の……うん? そういえば、あんた似ておるな」

 

「似ている? 私が誰に?」

 

「ギンツブルグ家の御令嬢にだ」

 

「ふふっ、御冗談を。私はモニカ・クルシェフスキーと申します」

 

「モニカ・クルシェフスキー……どこかで聞いたような……」

 

「私の名など知らないまま過ごす方が良いのですよ」

 

「それは、どういう……」

 

「ふふっ。言葉のままの意味です。それよりもご老人、こんな小娘のお相手をしていただいてありがとうございました。予定がありますので、そろそろ失礼させていただいます」

 

「そうだな。ここはあんたのような娘さんが一人で来るような場所じゃない。気を付けていきなされ」

 

「ありがとうざいます、では……」

 

 一人残った老人は呟く。

 

「モニカ・クルシェフスキーか、不思議な娘さんじゃったな……モニカ? 確か、この間あらたにナイトオブラウンズに選ばれた騎士様もそんな名前だったような……」

 

 渡すは老人との話を終え、墓地へとたどり着く。誰も参ることの無い墓地へ。

 

「お母様、報告に来ました 私、モニカ・クルシェフスキーが……ナイトオブラウンズと認められたことを」

 

 かつてこの辺り一帯はギンツブルグ家が治める領地だった。

 

 商才に恵まれた領主は、交易にも意欲的で港は良く栄えていたと聞く。

 

 十数年前までの話です。

 

「ノンナ……あなたも来たのね」

 

「はい。あなたさまが戻られたと街の者から聞いたもので……」

 

「耳が早いのね」

 

「今となっては小さな街ですから……」

 

「よそ者は目立つ、ということかしら。それもそうよね。この街には人がいないもの。それも、この街が人々から忌避されるようになったから。裏切者が治めていた土地だと……」

 

「すべては、あの反乱が原因です。領主さまが皇族に対して起こした反乱が……」

 

「イコニリストの乱ね。皇帝専制打破を訴えた……」

 

「そうです。その旗頭となったのがギンツブルグ家のご当主様だったのです……」

 

「どうしてそんな……ギンツブルグ家古くからブリタニア皇族に仕える名家だったのに」

 

「時代の風にあてられたとも。南天にそそのかされたとも言われております」

 

「あの頃は大貴族連合が皇族批判を強めていた時期、それを南天が操っていたとも言われていた時期です」

 

「もとよりご当主さまは、皇帝専制を疑問視されておられましたから……」

 

「そうして時代の風を読み違えてしまったのね」

 

「自分の愛娘がシャルル・ジ・ブリタニアの子を孕んでいたにも関わらず」

 

「……」

 

「ナターリャ様のことは不運でしたまさかシャルル様の子を身籠られようとは……」

 

「二人はどこで?」

 

「さあ。私たちにはわかりかねます。高貴な方々の集まりなのか、偶然出会ったからなのか。ナターリャ様はそれほど社交的な方ではなかったので、不思議に思った物です」

 

「では、ふたりが本当に愛し合っていたのかもわからないのですね」

 

「……はい、ナターリャ様の侍女であった私でさえ、おふたりが出会ったことを知りませんでした。しかしある日。ナターリャ様の体調がすぐれないことがあり、医者にかかりました。そこで妊娠していることがわかったのです。ナターリャ様はひどく動揺されていました。でも、それはすぐにご当主様の知るところとなります。医者がギンツブルグ家のかかりつけだったので、隠しようもありません。ご当主様は一人娘のナターリャ様の懐妊をひどく悲しんでおられました」

 

「……そう、悲しんでいたのね」

 

「今となって思えば、ご当主様が反乱を起こしたのは、ナターリャ様の懐妊が関係していたのかもしれません」

 

「ひどい話ね」

 

「ええ、本当にひどい話です。誰も授かった新しい命のことを想ってはいないのですから。そこからの凋落ぶりは話に聞く物語のようでした。仲間の貴族たちと共に反乱を起こしたご当主様でしたが、すぐにその動きを察知され……派遣されたナイトオブラウンズによって制圧されました」

 

「…………」

 

「頼りにしていた大貴族連合にも早々に見切りつけられて、関係性を絶たれ、梯子を外されてしまいます。ここにも南天の意思が介在していたという噂が後を絶ちません。ギンツブルグ家に待っていたのは、爵位はく奪だけではなく、一族郎党の処刑」

 

「血を根絶やしにする……。ブリタニアらしいわね。力を持つ者は、富も、名声も、地位も手に入れることが出来る。その逆もまた然り。力が無ければすべてを奪われる」

 

「はい。そこにきて、ようやくご当主様はナターリャ様のことを顧みられたのです。イコニストの乱が治められた頃には、すでにご出産され、ナターリャ様の腕には女の子が抱かれていたのですから。ご当主様は悔いました自分のとった行動が多くの人間の命を奪うことになる。せめて救える命はとできる限りの関係性を持ち、使用人たちを逃がしました。私もその内のひとりでした。他の者と違ったのはナターリャ様の御息女を預かったこと」

 

「…………」

 

「私はご息女とともに、ギンツブルグ家と交友関係にあったクルシェフスキー家に引き受けていただきました。そう。モニカお嬢様、あなたとともに」

 

 

 ※

 

 

 嫌な記憶であり思い出。良き思い出であり真実の記憶。知りたいこと。知りたくない事。あの場所にはたくさんの逃げだしたいが埋まっている。泣きたい気持ち悲しい気持ちが、そんなとき、嶋田さんは言う。

 

「泣きたければ泣けばいい。泣きたいときにはわんわん泣いて。涙をだしつくせばまた元気がやってくるから。女の子ってのはそんなもんだ。それに君みたいな子供が涙を我慢するものじゃないよ」

 

 そう言ってその胸で泣かせてくれたギンツブルグ家の悲劇の事もお母様のお墓の事も、ノンナのことも、彼の事も全部全部、泣きたい気持ちをその胸に受け止めさせてくれるのだ。嶋田さんあなたは、あなたはどうしてそんなにもやさしいのですか。

 

 やがて夕食時を過ぎ時計の針が次の日に移行する時間になっても、優しい彼は帰ってこなかった。

 

 彼女にはそれでも待つという選択肢があったし、そうしたかった。しかし明日もまた公務が待っている以上それはできない。

 

 人の上に立つべき自分が周囲に迷惑を掛けるようなことがあってはならないのだ。

 

「………………寝よう」

 

 心にぽっかりと穴が開いたような錯覚を覚えながら、突っ伏していたこたつを出ると、そのまま寝室へ向かいパジャマへと着替える。

 

『今日は何の日か知ってる~?』

 

『クリスマス~! サンタさ~ん!』

 

「……」

 

 パジャマに着替えたモニカが、そのまま畳に敷いた布団に入って寝ようとしたとき、ふと夕方に流れていた教育番組の内容が思い出された。

 

『みんな良く聞いてね~? 今日はサンタさんがみんなにプレゼントを持ってきてくれるから、寝るときには窓のところに靴下をぶら下げておかなきゃダメだぞ~?』

 

『は~いっ!!』

 

 実に子供だましの馬鹿馬鹿しい内容ではあったが、あの子ども達はみんな信じているのだろう。サンタさんがやってくることを

 

 笑顔で、あれが欲しい、これが欲しい、と、自分が欲しい物を叫んでいた。

 

 そのときの子ども達の笑顔を思い出したモニカは自分でも(何をしているのでしょうね)と思いつつ自分の靴下を部屋の窓にぶら下げていた。そして一言呟いた「……嶋田さんが、嶋田繁太郎さんが欲しい」なんて願いを願うのだろうか。ただ本当に欲しいものは、それだけだから。優しいあの人だけだから

 

 黒い靴下は夜の闇よりも尚暗く見える為、もしサンタさんが来てもそこに靴下があるとは気付かないかも知れない。でもいいの。あの人がこの部屋に来てくれるだけで私は何もいらないから。

 

 入ってなかったら見えなかったのだと思えばちょっぴりクリスマス気分を味わえるだろう。それでも、凄く寂しい。今は、彼の温もりが欲しい、彼に泣きつきたい。

 

 そんなことを考えながら今度こそ寝ようと布団に入って目を瞑った。

 

「おやすみなさい……」

 

 

 ※

 

 

 眠りについてからどれくらい経っただろうか? 

 

 部屋に人の気配を感じたモニカは、深い眠りから一気に覚め、布団から飛び起きて身構えた。

 

「何者ですか!」

 

 伊達に円卓の騎士の末席に名を連ねてはいない。周囲で気配があればすぐに分かるし対処も出来る。

 

 剣術は勿論のこと、体術その他の格闘技でも常人では計り知れない実力を持つのが彼女達、ナイトオブラウンズなのだから。

 

「あ、あわわ……」

 

 そんな超人の域に達している騎士の殺気を浴びせられる方は堪ったものではない。単なる泥棒や不審者には対処のしようがないのだ。

 

 そしてこの時、モニカの部屋に居た人物もまた、戦闘的な部分に於いては普通の人。たとえその両手は溢れてもなお余りある鮮血に濡れていても……。

 

 モニカは相手がそれなりの訓練を積んでいた人間であると判断した物の、純粋な戦闘能力では自身よりも遥かに劣ることが分かった。

 

 彼女はそれが分かっても構えを解かないし油断もしない。どんな相手であれ一瞬の油断が命取りになることを知っているから。

 

(え……? この、感じ……)

 

 だが感じ取った相手の気配と目が慣れてくるにつれ見え始めたその姿に、彼女は自然と構えを解いた。

 

「や、やあメリークリスマス」

 

「……」

 

 それは赤い服と赤いズボン、更に赤い帽子をかぶって口の周りに真っ白なヒゲを蓄えた老人──サンタクロースだったのだ。

 

「よ、よい子のモニカちゃんにプレゼントを持ってきたんだけど……おじさん驚かせちゃったかな?」

 

 無論それがサンタクロースなどではないことなど彼女にはハッキリ分かっている。どんなプレゼントよりも最も欲しかったプレゼントなのだと。

 

 何せよぉ~く知っている気配と声なのだから、多少の変装など簡単に見破れるというものだ。

 

 それに変装が完璧であって、気配も違ったとしても心優しい彼の相手を、誰かと間違えたりなどしない。

 

「こ、こんばんはサンタさん」

 

 嬉しいと同時にプレゼントと言われた瞬間モニカの最強の騎士の仮面はあっさりと剥がれ落ち、変わって年頃の乙女の姿になってしまった。

 

 姿形は違っても、恋慕い待ち望んでいたあの人が自分へのプレゼント片手に目の前にいるのだから。

 

 彼女は高鳴る鼓動を抑えながらちらりと時計に目を遣る。時刻は午前二時。完全なる遅刻であった。

 

「ほら、これが君へのプレゼントだ」

 

 差し出されたのは赤い包装用紙に包まれた二つの箱。

 

 それほど大きな物ではない。

 

「あ、ありがとうございます……あの、靴下を用意したのでそちらに入れてくださると……」

 

「おお、そうだったそうだった! いや、まさか君が目を開けちゃうとは思わなかったもので」

 

 おどけたように言うサンタにモニカは「くすり」と笑った。

 

「さあさあプレゼントは入れたし、よい子は寝る時間だよ」

 

「貴方とお話していられるのなら悪い子でもいいですよ」

 

「困ったなぁ~」

 

「それに……」

 

 モニカはサンタの胸に抱き着いた。今だけは、そういう彼女の頭をサンタは優しく撫でる。

 

「いいよ、いくらでも泣いていいんだ。女の子はそうやってつらいこと悲しいことがあった時はいくらでも、いつまでも、泣いていいんだよ。俺なんかの胸でよければね。また思い出していたんだね。毎年お墓参りに行くから思い出すんだろうね大切なお母さんのこと。俺はさ、モニカさんのお母さんの変わりにはなれない。でもこの胸で泣かせてあげることくらいはできるよ」

 

 何が厄介な女の子だ、何が厄介者だ。この子は産まれが特殊なだけの普通の女の子なんだ

 

 内に秘めたものが何かは分からない、何をやろうとしているのかは分からない。でも、それでも、この子は普通の女の子だ。厄介ものなんかじゃない。

 

「モニカさん、今日はクリスマスだ、少し遅れたけれど神様はきっと一つくらい奇跡を起こしてくれるよ」

 

「俺が優しく語り掛けると同時に一枚の便せんが懐から落ちる」

 

「名前は足長おじさん。モニカさんへ名も語れぬ臆病な足長おじさんだ。キミのことはいつも見ている。キミの活躍も、キミの強さも、キミが上り詰めた根源も、いつかキミと二人でお話がしたい。いつの日かキミが告白してくれる日を待っている。卑怯で臆病な足長おじさんより」

 

「うわ~~~~~~~っうう、うううう」

 

 モニカさんはまた泣いた俺の胸で泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けた。三十分近く泣いたのではないだろうか。やがてひっくひっくとしたしゃっくりに変わり彼女は静かに眠りに落ちた。

 

 泣きつかれた彼女を。サンタの胸で眠った少女をサンタはベッドへと寝かせる。

 

 いい子は寝るもの。ゆっくりお休み続きは夢の中で、優しい夢をね。

 

 無服のリボンは黒いリボン。なら君にはスカイブルーの瞳に合わせた青いリボンと。

 

 そして黒い喪服とは正反対の、白いリボンを贈ったよ。

 

 君に似合うか分からないけど、俺なりに選んだものだ。長さはいつものリボンと同じ長さだから丁度似合うと思う。

 

 良ければ使ってほしい。それとこんな真っ赤な血で汚れた腕でよければいつでも抱いてあげるから泣きつてくれたらいいよ。

 

 だが、だけどなあ。

 

「シャルル・ジ・ブリタニアよ。こういうのはなあもう引き返せない血まみれの俺なんかじゃなく、まだ引き返せる位置に居るお前がする事なんだぞ。自称臆病な足長おじさん」

 

 



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聖女

 

 

 

 夜の横須賀は三笠公園。

 

 たくさんの噴水はイルミネーションに彩られ、カップル達が集う中、一人おっさんが黄昏れている。奇妙な光景に移るだろう。

 

 絵にならん。実に絵にならんなあ。映画の一場面でこんな場面があっても良いかもしれないけれど。

 

 現実にしてみると本当に絵にならない。すれ違うカップル達の視線が痛い。

 

 あの人一人で何してるの? さあ、ただの酔っ払いだろうなんて声が聞こえるくらいだ。別に酔っても無ければ素面だ。ただ、彼女と落ち合う約束をした場所がここだっただけ。そう、偶然にもこの場所だったんだよ。

 

 この場所は、俺の二回目の始まりの地と言っても過言では無い場所。

 

 現代戦艦と比べればそのサイズは300mを優に切る小型戦艦がここにはある。これの一回目が稼働していたあの時に俺の二回目は始まったのさ。

 

 一回目のこれはもっともっと小さかった。こいつと比べると駆逐艦に感じてしまうくらいに。それくらいこいつがデカすぎるんだがそれでも100年前の日欧戦争時の戦艦だ。現代艦からしてみれば古臭い。

 

 コイツが古臭いとか、どれだけ異常な技術水準の世界なんだろうかここは。

 

 

 戦艦三笠

 

 排水量:74,000トン(基準)

 

    :79,000トン(公試)

 

    :84,809トン(満載)

 

 全長 :285.0m

 

 水線長:276.0m

 

 幅 :40.9m

 

 吃水 :11.3m

 

 倉崎式ブレイズルミナス:8基

 

 主機 スメラギ式エナジーフィラー:4本

 

 出力 183,553馬力

 

 最大速力 30.76ノット

 

 航続距離 16ノットで10,200海里

 

 乗員 竣工時:2,800名

 

 最終時:3,772名

 

 兵装

 

 新造時

 

 50口径00年式46cm3連装砲塔:3基9門

 

 60口径01年式15.5cm3連装砲塔:4基12門

 

 45口径12.7cm連装高角砲:12基

 

    25mm3連装機銃:10基

 

    13mm連装機銃:4基

 

 最終時

 

 50口径46cm3連超電磁砲塔:3基9門

 

 60口径15.5cm3連装砲塔:4基

 

 45口径12.7cm連装高角砲:12基

 

    25mm3連装機銃:60基

 

     25mm単装機銃:12基

 

     13mm連装機銃:4基

 

 装甲 舷側 450mm+15mm(傾斜20度)

 

 対水雷防御隔壁 245mm~105mm

 

 最上甲板 55mm~80mm

 

 主甲板 270mm〜300mm

 

 合計甲板装甲 300mm

 

 バルクヘッド 390mm~350mm

 

 主砲防盾 700mm

 

 主砲側面 300mm

 

 主砲後面 240mm

 

 主砲天板 320mm

 

 主砲バーベット 600mm~420mm

 

 司令塔 550mm~440mm

 

 搭載機 8機(カタパルト2基)

 

 

 

 聖女

 

 

 

 日露戦争。あの一回目の転生の時、巡洋艦和泉で俺は目が覚めたんだったよな。戦艦三笠。この艦もまた俺の運命の艦の一つなんだろうと思う。同じ日露戦争を戦っていたのだからな。こっちの世界じゃ日欧戦争で俺は関わっちゃいないが。

 

「運命の艦、か」

 

 俺の運命の始まり。

 

 この手を真っ赤にする運命の。

 

 今でもあの『衝号』は必要だったと思うしやるべきだったと思う。日本を、大日本帝国を完全勝利に導くために。

 

 ただ、それでも、もう一人の俺が人殺しと叫ぶのさ。現代社会をただのサラリーマンとして生きてきた一回目の俺には関係の無い戦争に口を出して大勢を殺し。

 

 最終的に億の人間を殺して見せた殺人鬼だと。覚悟した。覚悟を持って嶋田繁太郎はそれに望んだ。

 

 だが、神崎博之はどうか?サラリーマン神崎博之にその覚悟はあったのか? それを問われると無かったとしか言えないのかも知れない。

 

 だって仕方が無いだろう。現代で戦争とも人殺しとも無縁で生きてきた神崎博之に、その覚悟を求めるなんて、土台無理な話なんだ。

 

 だから俺は見える。神崎博之の方には見えてしまう。億の生命の真っ赤な鮮血が、この両手からドクドクと溢れ出てくる様が。

 

 何時いかなる時でも見えてしまう。戦いの中でも、政治の中でも、普通の生活の中でも、会合の中でも、そして彼女と居る時でも。

 

 だから俺は思うのさ、全ての人に平等なる正義をを信念とし、正義とは人種種族問わず全ての人に降り注ぐべきもの。

 

 そんな心情を持つ彼女といるのが辛いと思うときが俺にはあるんだ。彼女と俺は逆位置の人間。俺は必要であらば人種種族問わず全てを殺す人間。

 

 彼女は救う者、俺は壊す者、本来交わり逢えないものが交わり合っているこの異常な状態。ふと、嘔吐するような感じがして吐瀉物も出ないのに俺は嘔吐。

 

 出てくるのは、胃液ばかり、英霊達の眠る三笠記念公園でなんてことをしているのだろうか。

 

 億の血で穢し、嘔吐でも穢すのか。神崎博之、お前は嶋田繁太郎になりきれ。そうすれば軍人として行うべきを行ったという名目が立つ。

 

 それが逃げだとしても、覚悟をしたのは嶋田繁太郎なのだから。

 

 

 ――嶋田さん!!――

 

 

 ああ、来てしまったじゃ無いか彼女が。神崎博之のままな俺の前に彼女が。

 

 神崎博之とは、嶋田繁太郎とは逆位置に住む彼女が。

 

「大丈夫ですか嶋田さんっ!!」

 

 具合を悪くしうずくまっていた俺の目に、長い真っ直ぐな金色の髪と、白いリボンが見えた……白い、リボン、俺がプレゼントをしたリボンを、結んでくれているのか。

 

 いつものように、両の横髪を身体の前に流し、髪にリボンを結び、余ったリボンをくるくると髪に巻き付けて。俺と同じで辛い過去を持つ優しい彼女は其処にいた。

 

「あ、ああ、なんでもないんだ。ちょっと、嘔吐感がしてね」

 

 両手から溢れ出してきた血を見て。

 

「気にする必要は無いよ」

 

 そう、キミには関係の無いことだ。これは過去の俺の事、嶋田繁太郎の犯した大罪で有り、神崎博之の犯した大罪だから。キミには。

 

 ふと見上げたとき。俺の目は奪われた。真っ白い服を着た彼女が、モニカ・クルシェフスキーがそこにいたからだ。

 

 嘔吐感が消えていく……。その美しき彼女に触れられる……、それだけで。まるで何もなかったかのように胸のつかえも消えていった。

 

 いつもと同じで、いつもと違う彼女。髪はいつも通り背中に流され、白のファーのコートに身を包んだ天使が、噴水のイルミネーションを背後にして立っていた。

 

 聖女――一瞬そんな言葉が口から漏れていた。聖女はそこに佇み、俺の心配をしている。美しい白と金色にはとても似合わない暗い顔だ。ダメじゃ無いかそんな顔をしちゃ。キミの美しさが台無しになってしまう。

 

 ああ、違う。俺が、他でもないこの俺が聖女モニカの顔を曇らせているんだ。

 

 俺はその場に立ち上がる。

 

「大丈夫だよモニカさん」

 

「本当に、大丈夫なのですか。ご気分が優れないのでしたらお出かけはまた明日にでも」

 

「いや、本当に大丈夫だ」

 

 サラリーマン神崎博之、軍人嶋田繁太郎、モニカ・クルシェフスキー。せめて君の前では強い俺でいさせてくれ。衝号の覚悟を決め、実行したあの強き自分の時の俺で。

 

「モニカさん、リボンしてくれたんだね。白いリボンを」

 

「彼処へ行くときいつも喪服で行きます。ですから今日は白い自分であろうと思いました。似合って居るでしょうか?」

 

 キラキラ光る白い衣服。リボンも光っていて、髪は当然キラキラ。俺はついその美しく犯しがたい聖女の如き彼女に手を出していた。

 

「モニカさん……」

 

 綺麗な白い彼女。悲しい黒では無い、いつもの黄緑でも無い、汚れ無き白一色。

 

「し、しまだ、さ、」

 

 頭から触り。長い髪を五指に絡めて撫で梳く。滑らかな髪はするりと滑り抜けていき、指に髪の感触を残す。

 

 白い衣服、白いヘッドドレスから触れ、柔らかな手触りを楽しみながら。肩の衣服を止める白いリボンの胸元を触る。

 

 もちろんリボンを外したりはしない。そこから、白いドレスを身体の線に沿って触れていき。最後に身体の前に流されている金色の長い髪を何度も何度も撫でてて。彼女の両頬に手を当てた、

 

「冷たいね」

 

「ふ、冬、ですから、わ、たし、その、」

 

 両頬に触れたまま俺は何も言わず、何も聞かず、白い聖女の唇を奪っていた。

 

「ん、う……」

 

 聖女は抵抗をしなかった。ただただ、俺の唇を受け入れてくれた。聖女様、俺には罪があるのです。誰にも言えない大罪が。シャルル・ジ・ブリタニアの罪がかすれてしまうほどの、貴女と逆位置にあるほどの罪が。

 

 俺は唇を通じて彼女に告げた。もちろん彼女には言葉も思いも伝わらない。ただ口付けを交わしたという事実だけがある。

 

「ん、んん……」

 

 でも、そこからの口付けは普通で、俺はどうしてだろう。モニカ・クルシェフスキーを求めてしまった。美しくも儚く、儚くて悲しい。望まれて生まれてきたはずなのに、誰にも祝福されない彼女を。

 

 なら、俺が、嶋田繁太郎が祝福してあげよう。祝福させて欲しい。だって。

 

「ん……俺は、君と出会えて幸せだよモニカさん」

 

 そういって白い聖女を抱き締めた。

 

「し、まだ、さ、」

 

「生まれてきてくれて、ありがとう」

 

「ッッ……!!」

 

 俺は見なかった事にした。イルミネーションと噴水が照らし出した聖女の瞳から、一筋の涙が落ちたことを。

 

 

 しばらく、そのまま抱き締め合っていた。十分だろうか二十分だろうか。

 

 聖女が。

 

「買い物、行きましょう」

 

 嬉しくも恥ずかしく、はにかみながら言うまでの間。

 

 

 

 



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帝都の休日再改訂版(ある意味劇場版式の再構成)
帝都の休日再改訂版(ある意味劇場版式の再構成)


ユフィルート本編なのですがこちらは一話限りの読み切りとなる可能性が高い事を先にご了承くださいませ。

つまらないならつまらないといった感想が欲しいですね。
何も反応がないとどうしてよいのかわからないので。


 

 

 

 帝都の休日再改訂版(ある意味劇場版式の再構成)

 

 

 

 

「はぁ」

 

 休日の公園にて溜息を付く男。

 

 彼の名は嶋田繁太郎。

 

 現在は一線を退いているが世界に冠たる北側(北半球+赤道直下東南アジア諸国・南ブリタニア大陸諸国も含む)二大超大国の一国、大日本帝国の宰相を務めていた男だ。

 

 但しそれは表の役職を降りただけで、裏の役職たる夢幻会の重鎮としては未だ絶大な影響力を保持していた。

 

 尤もその仕事といったら、以前と変わらぬ山のような書類を処理するという物であり、彼自身は(早くやめて静かな老後を送りたい)などと考えていたのだが。

 

「貴重な休みをこんなところで費やすのは勿体ないとは思うが、仕事のしすぎでやりたいことを考える暇もないからな」

 

 我ながら充実した人生なのか。

 

 損ばかりの人生なのか。

 

 よく分からないまま忙しい毎日を過ごす彼は、たまには纏まった休みが欲しいと願い、周りに目を遣る。

 

 家族連れ、恋人、友人同士、皆が皆楽しそうに過ごしている。

 

(本来、休日というのはこういうものなんだよなぁ……)

 

 羨ましそうに眺める彼に気付く者は一人もいない。

 

 今の彼は、せいぜい公園で休んでいる近所のおじさんといった感じで、到底元帝国宰相には見えなかった。

 

 そもそも彼は夢幻会の役職を除けば、現在唯の一般人でしかないのだから、気付かれないというのが普通なのかもしれない。

 

(ん──?)

 

 そんな影が薄くなった彼の目に、何やら不穏な空気を醸し出す一団が止まった。

 

『なあいいだろ? 俺たちと遊ぼうよ』

 

『や、やめてください、離してっ』

 

 十代後半と見える、鮮やかな桃色の長い髪の少女が髪を振り乱しながら嫌がっている、二人組の、見るからに不良といった感じの、柄の悪そうな男達に絡まれて。

 

(ナンパ、か)

 

 どこにでもある日常の光景だが、桃色の髪の少女は明らかに嫌がっていた。

 

 にも拘わらず男達は強引に誘って、腕を掴んだまま放さない。

 

(しかし無理矢理というのは、な)

 

 見てしまった以上、黙っている訳にもいかんだろうと歩み寄った彼は、「君たち、ちょっといいかね」とナンパ男達に声を掛けるのだった。

 

 

 ◇

 

 

「痛たたたっ」

 

「だ、大丈夫ですかおじ様……?」

 

「はは、大したことはないよ。君こそ大丈夫か?」

 

「はい、お陰様で助かりました」

 

 桃色の髪の少女を助けに入った嶋田は、海軍時代に身体を鍛えていたお陰で、ナンパ男達を撃退できたが、久しぶりの無茶な動きに、少し腰を痛めてしまった。

 

(昔ならどうということも無かったが……やはり歳には勝てんな)

 

 平均寿命百二十、長い者なら百五十歳前後まで生きるのが今の日本人、ブリタニア人。

 

 長寿の民族ながら、やはり人生半分も来れば、衰えもしてこよう。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「ああ、本当に大丈夫だよ」

 

 心配そうな少女を安心させようと、身体を大きく動かす嶋田。

 

 助けに入って置いて心配されていたら世話はない。

 

 そして身体を動かしながら少女を見る。

 

 肌の色は白人特有の白。

 

 膝裏まで届く艶やかな長い髪は桃色。

 

 白のワンピースにオレンジのスカート。

 

(ブリタニアの人かな?)

 

 白人といえば真っ先に思い浮かぶのはブリタニア人。

 

 次にブリタニア系日本人。昔から五百年ほど前からブリタニアとは相互移民をしあっている為、日本にも白人は多かった。

 

 続いてE.U.ユーロピア共和国連合も白人の多い国。ながらユーロユニバースとは険悪な間柄にある(帝国主義と民主主義で)為に、ユーロピアからの移民は少ない以前に制限されていた。正確には日本は立憲君主制で帝(みかど)が国主ながら、国を動かしているのは帝国議会である。

 

 他にも大日本帝国・神聖ブリタニア帝国と相対する南側諸国、南天の盟主国である合衆国オセアニアも白人の多い国家だが、一般的日本人の意識としては、白人=ブリタニア人かブリタニア系日本人のイメージが強い。

 

 大日本帝国と神聖ブリタニア帝国は共に超大国同士なのに最友好国、同盟国同士であるという奇妙な関係なのだ。

 

 これには嶋田たち前世代、更にはそれ以前の、古くは五百年前からの指導者の影響が強かった。今では半ば連合国家化してきている。

 

『コードギアス』

 

 作品の概要しか知らない嶋田や、山本五十六などこれが初めての転生となる者達を除く、二度目の転生となる夢幻会の面々は、この世界をよく熟知している。

 

 その熟知している面々の話では、今を生きるこの世界はギアス世界のパラレルワールドであるらしく、国の政策や考え方がまるで違うというのだ。

 

 彼らが知るブリタニアと、この世界のブリタニアは、人物、絶対君主制、貴族制、他の追随を許さない圧倒的国力、アメリカ大陸丸ごとが国という巨大国家であることこそ同じだが。

 

 片や世界を混乱の坩堝に陥れる侵略国家。

 

 片や国際社会と協調路線を取りつつも、一国主義路線を貫く平和主義国家という、絶対的な違いが存在していた。

 

 

 ならば夢幻会のとる方針も一つであった。彼の国との友好関係を築きながらも、自国を発展させていくというものだった。

 

 そんな五百年という歳月の努力の甲斐もあり、今や大日本帝国は、ブリタニアに匹敵する国力と、一部では更に先を行く最先端技術を保持するに至ったのである。

 

 それでいて最も仲の良い国同士というのだから、この世界にもやはり存在している一部の侵略性の高い、独裁国家やテロ組織には堪ったものではない。

 

 下手に周辺国地域への侵略行動に出て、万が一日本人やブリタニア人、その友好国人に被害が出れば日ブ同盟軍に袋叩きにされるのだから。

 

 更に潜在的敵性国ユーロユニバースや、百年と少し前に大戦争を行った中華連邦など、日本に次ぐ大国とも表向きには敵対姿勢を示していない関係にあるので、世界は概ね平和であった。

 

 概ねというのは、日本と完全なる敵対関係にある、国家群勢力が存在しているからだ。

 

 日本の諜報網はブリタニアのソレよりも先んじており、情報収集力も高い。これから見えてきた事。

 

 全世界に十二億の信徒を持つ『光の嚮団』と、世界中に細胞を持つ一億人から構成される超巨大テロ組織でもある複合巨大企業『白い翼』を擁し、南半球で巨大な勢力を築く南天。

 

 SSTO(southern sky treaty organization)──南天条約機構の存在があるからである。

 

 漏れ聞こえてくる戦力も動員数50,000,000~80,000,000に達する巨大な軍と、十五個の空母戦闘群に懲罰艦隊・七天艦隊と呼ばれる別個の空母戦闘群七個群、計二十二個、建造中の物まで合わせるならば、近い将来には、三十個群に達し。

 

 戦車等KMFも含めた作戦車両200,000は下らず、作戦機も20,000機を超え、主力水上艦艇等も千数百隻に上る大戦力を持つ、軍事同盟機構。という事らしいのだ。

 

 勢力圏は広く、アフリカ大陸東部、中東の半分、インド洋、オセアニア、東南アジアの一部、南太平洋のほぼ全域。中部以南のアフリカ諸国にも多大な影響力を持ち既に組み込まれており、ユーロユニバースですら怖れを成し小間使いの様に扱われてきた。

 

 合衆国オセアニアを中核とするこの、南側とは、此処七十年近くに渡り“北南冷戦”という冷戦構造を、北側世界の日本及びブリタニアとの間で繰り広げてきている。

 

 時に、東南アジアで。時に南ブリタニアで。北と南は代理戦争の形でぶつかり続けていた。

 

 この南天の魔手が伸びている中東も、間もなく全域が白化するに至るだろう。

 

 かつて大洋州連合がそうであった様に、現在の中東諸国もクウェートを除き、自分たちで孤立する体制を取っている。

 

 といって、ユーロユニバースは事実上の内紛状態にあり、更に欧州奪還を目指す日ブの友好勢力である、欧州貴族連盟ユーロ・ブリタニアによる侵攻を控えており、他国に関わっている余裕はなく。そもそもにしてが元より南天寄りの国だ。南天の腰巾着と呼んでも良い程に。

 

 中華連邦に至っても国内は天子派と宦官派に割れ、それも巨大な南天を相手とするには戦力国力不足であり不可能な有様。

 

 此処に、既に中東諸国の命運は決したと言っても過言ではないだろう。

 

 中東の白化は、北南冷戦に大きな影響を与える事となるかも知れない。何せ南天による本格的な北半球侵略なのである。パワーバランスが崩れかねない。

 

 特に、南天は古代遺跡の確保を目指している、中華連邦にもあるのだ遺跡は。

 

 このまま放置しておけば、中東の白化と共に、南天は中華連邦に攻め寄せる可能性すら考えられよう。

 

 南天に対抗できるのは日ブ同盟を於いて存在しないのだ。

 

 

 ◇

 

 

「あの、おじ様?」

 

「ん? いや、ああ、すまないね。ちょっと考え事をしていたので」

 

 このブリタニア人と思わしき少女を見て、北南冷戦体制下の現在と共に、馴染みのある、付き合いの長い友人を思い出していたのだ。

 

 先日、日本を訪れた際、一番可愛がっている息子に冷たくされたとくだを巻いていた友人を。

 

(まあ、こんな美少女を見てあの強烈なシャルルさんを思い出すなんて失礼極まりないことだけどな。昔は美形だったんだがなあれでも)

 

「まぁ、いくら帝都の治安がいいと言ってもああいう輩は居る物だから、気を付けて歩きなさい」

 

「あ、はい。わかりました」

 

 少女に注意した嶋田は、先ほどまで座っていたベンチに座ると、またぼんやりと空を見上げ始めた。

 

「……」

 

 穏やかな風が吹く。

 

「……」

 

 その風に煽られて靡く桃色。

 

「……」

 

 それは未だ嶋田の視界に入ったまま。

 

「……」

 

 風が吹き抜ける度に空を泳いでいる。

 

「……なにか用かな?」

 

 ぼんやりしたままその桃色の長い髪の持ち主に問いかける嶋田。

 

「え、あ、あのっ」

 

 彼が助けた桃髪の少女は、何故か嶋田の側から離れずに、彼をジッと見ていたのだ。

 

「おじ様はこれからどうなさるのかと、思いましたので」

 

「別に何もしないよ……、また明日から始まる仕事漬けの日々を前に、黄昏れてるんだよ」

 

 嶋田は言ってて悲しくなる。

 

 七十二時間働けますか? が待っているのだから。

 

 

「お、おじ様はお忙しいお方なのですね」

 

「忙しい、か。それを認識できる内はまだ可愛い物だよ。そのうち時間の感覚が麻痺して来るんだ。いつ家に帰ったか、飯はいつ食べたのか、今は朝? それとも夕方? そして仕事が終わると怖い魔王がやってきて言うんだ『貴方の闘いはこれからですよ』とね」

 

「それは──大変なのですね」

 

 でも、と少女は続ける。

 

「わたくしも、おじ様のように頼りにされてみたいです……。誰かのお役に立ってみたいです……」

 

 お飾りの存在。

 

 居ても居なくてもいい存在。

 

 誰の役にも、何の役にも立てない存在。

 

 自分はそんな人間ですという彼女。

 

「わたくしは家族や国の人、困っている人の役に立てるお仕事をしたいと思い、姉に相談したのですが『お前には早い』と言われてしまいまして……今回も無理を言って姉に付いてきたのですが、 重要なお話の場では一切発言させてくれないのです」

 

 そう言って悔しげに唇を噛む少女を見て嶋田は一度溜息を付いて立ち上がる。

 

「君は、これから予定はあるのかな?」

 

「えっ? いいえ、予定はありません。その、わたくしこの国に訪れたのは初めてでして、どのような国なのか見たいと思い抜け出して来ましたから」

 

「なら丁度いい。しがない中年おじさんの暇つぶしに付き合ってはくれないか?」

 

 

 ◇

 

 

 嶋田は少女を連れて帝都内の観光スポットや名所を巡った。

 

 お台場、東京タワー、皇居、雷門、秋葉原、思い付く限り。

 

 少女は唯々驚いていた。彼女の国にもそれに近い都市群を持つ地域はあれども、この1000mを超えるビルを始め、800m、900mクラスのビル群をあちこちに持つ、今日か耐震ブロック性の巨大都市、大日本帝国帝都・大東京のあまりの巨大さに。

 

 技術の日本と呼ばれる超大国の技術力の一端を垣間見たのだ。驚かないはずも無し。

 

 そうして時間の許す限り歩き続け、出会った公園の近くに戻ってきた頃には、もうすっかり日が暮れていた。

 

「お疲れ様。連れ回して済まなかったね」

 

「いえ、とても楽しい、有意義な一日でした。グレータートーキョーは世界最大の都市だとお聞きした事がありましたが、本当だったのだなと驚愕致しました」

 

「それはよかった。私も楽しい一日を過ごせたよ。あとまあ、誇らしいね。そういって頂けると」

 

 空には満月が輝き、優しい光で二人を照らしている。

 

「さて、ここでお別れだが、一ついいかな」

 

「なんですか?」

 

「君は役に立たないと自らを卑下していたがね、そんなことはない。今日、私は君と過ごせて楽しかった。君が居たからいつもと違う休日を過ごせたんだ」

 

「おじ様……」

 

「少なくとも今日、君は私の役に立ってくれた。つまりだ、気付いていないだけで君は沢山の人に必要とされているだろう、ということだよ」

 

「わたくしが、おじ様の役に立った……。わたくしは、必要とされている」

 

「そうだ。君が居て初めて回る何かもあるだろう。でもね、君はまだ若い。若いから経験値も低い。だからお姉さんも『まだ早い』と言ってるんだよ」

 

 嶋田は彼女の頭に手を置き、数回優しく髪を撫でながら続ける。

 

「きっと、お姉さんも周りの人たちも、君のことが大事で大好きだからこそ、たくさん勉強して一人前になってから、本格的なお仕事を頼みたいと考えてるんだと思うよ」

 

「そう、でしょうか……?」

 

「ああ、おじさんは君よりずっと経験してきてるからわかる」

 

 言い終えた嶋田は、彼女の桃色の髪の感触を楽しむように撫でていた手を、そっと離した。

 

「あ……」

 

「ん?」

 

「い、いえ……」

 

 自分の髪を撫でていた嶋田の手が離されたことに、少女は一瞬表情を曇らせた。

 

 彼の温かい手の温もりをもう少し感じていたかったのだ。

 

 年相応に皺のあるその手はとても温かく、まるで柔らかな日の光のような感じさえした。

 

 その日差しのような温もりが消えてしまった事が、酷くもの悲しく感じてしまうのである。

 

 そうとは気付かない嶋田は『時間も遅いし送ろうか?』と尋ねる。

 

 

 

「大丈夫です。おじ様にいっぱい元気を貰いましたから」

 

「はははっ、君みたいな美少女にそう言われると嬉しいよ」

 

「そ、そんな、美少女だなんて」

 

 頬を赤らめて照れる少女にもう一度可愛いよと言った彼は。

 

「それじゃおじさんも行くから君も気を付けて」

 

 と別れを告げて背を向けた。

 

 彼女の笑顔を見てもう大丈夫だと確信したから。

 

 しかし。

 

「ま、待ってくださいっ」

 

 そんな嶋田を呼び止めた少女は彼の元に歩み寄る。

 

 自分を助けてくれた彼と、自分を元気付けてくれた彼と、まだお別れをしたくはないのだ。

 

 かといってこれ以上引き留めるのも彼に迷惑が掛かると考えた彼女は。

 

「んっ」

 

 振り向いた嶋田の唇を自らの唇で塞いだ。

 いきなりの事に目を見開く嶋田。

 

(な、なんで……こ、この湿った感触、は。く、くちびる……か?)

 

 重なり合う唇。温かくしめった彼女の唇の感触は柔らかく、いい匂いと甘い味がする。

 

 そしてゆっくりと唇を離した彼女は言った。

 

「き、今日の……、その、お礼です」

 

「き、君っ」

 

「お嫌……でしたか?」

 

 自分から口付けを交わした彼女は、そう言って不安げな表情で俯き、上目遣いで彼を見る。

 

「そ、そんなことない、嬉しい、よ、ただ、ね。あまりにも突然の事だったから、おじさんびっくりしちゃってね」

 

 彼女にそんな顔をされた嶋田は必死に弁解する。

 

 彼女のような美少女にキスをされて嬉しくない訳がない。

 

 思っても見なかった事をされて、思考が付いていかなかっただけなのだ。

 

 

 

「よ、よかった。そ、それでは、もう一度だけ……いいでしょうか?」

 

「あ、ああ……、いいよ……だが、ね、君こんな軽はずみにする事じゃ」

 

 彼女はもう一度キスを求める。

 

 嶋田は(お礼としては貰いすぎだと思うけど)と考えたが、求められた以上拒否するのは悪い気がした。

 

 せっかく元気を取り戻してくれたのに、拒否して彼女の柔らかい微笑みを曇らせたくはない。

 

 そうして彼女の唇と嶋田の唇がもう一度重なった。

 

「んっ」

 

 今度は同意の上でのことだからか、お互いの腰と背に腕を回して、少しだけ顔を傾けての口付け。

 

 お礼として求められた物をいい加減にしては、プレゼントを突き返すような物。

 

 嶋田にそんな事は出来るはずもなかった。だからこそしっかりと身体を抱き締めて、感謝しながら彼女からの贈り物を受け取るのだ。

 

 そうして大切にするが故、意図せずして深い口付けになってしまった。

 

「んっ……、あむっ、んっ」

 

 だがお互い納得ずくの口付けである。

 

 ここまでしてしまって今更止める訳にも行かず、止めるというのは互いに無礼だと理解しているからこそ、二人は唇を重ねたまま甘いキスを続けた。

 

 触れ合う舌と舌。混ざり合う唾液。ゼロ距離での息遣いがお互いの顔に掛かる。

 

 甘酸っぱい味が口の中に広がり、背筋にぞくっとした物が走り抜けた。

 

 舌の裏筋をなぞり合う程の深いキスは、想定の埒外だろう。だがなぞり合う事を止められない。

 

 互いの唾液を少し飲んでしまった二人は、およそ一分ほど、重ね合っていた唇をゆっくりと離した。

 

「……」

 

「……」

 

 彼女の頬は、もう目に見えてわかるくらい、真っ赤に染まっている。

 

 それは彼も同じだ。

 

 しようと思ってこんなに深く口付けた訳ではないのだから。

 

「そ、それでは、わたくし行きます……」

 

「あ、ああ……、その、気を付けて……」

 

 さっきとは逆に少女の方から別れを告げて背を向けると、彼女は小走りで行ってしまった。

 

 桃色の長い髪を靡かせて走り去る彼女の後ろ姿を見ながら、嶋田は一言呟いた。

 

「最近の子は、お礼でキスを交わすのか……」

 

 世も変わった物だと呆けたように呟いた彼は知らない。

 

 それが少女にとって初めての口付けである事を。

 

 大切な初めての接吻を、彼に捧げてくれた事を。

 

 何より年長者として行った善意が、彼女の心に小さな灯火を宿してしまったということを……。

 

 そしてその火を消す方法は、もう存在しないというのを、この時の彼が気付くことはなかった。

 

 

 ◇

 

 

 翌日。

 

 夢幻会傘下のとあるビルの一室。

 

 執務室でもあるその部屋の机の上には堆く書類が積まれ、その部屋の主である夢幻会の重鎮、嶋田繁太郎が必死に書類を捌いていた。

 

「お、終わらない、やってもやってもキリがない、何なんですかこの量はッ」

 

 昨日の休日、見知らぬブリタニア人の少女と過ごした楽しく穏やかで、ちょっぴり甘かった時間は何処へ行ってしまったのか? 

 

 幻のように消え去った休日を振り返りながら、彼は書類と格闘する現実に悪戦苦闘していた。

 

 そんな彼の元にやってきた、前世からの仲間であり友人で、同じく夢幻会の最高意思決定機関『会合』のメンバー辻は、差し入れとして持ってきたパンとお茶を彼に差し出す。

 

「嶋田さん、そろそろ休憩にしましょうか?」

 

「そ、そうしてくれると助かりますよ。このままじゃ目と手がおかしくなる。ついでに頭もパーになりそうですよ……」

 

「ご苦労様です」

 

 差し出されたお茶を飲みながら、今日の予定を確認した嶋田は、書類に埋もれていた朝刊を引っ張り出した。

 

「ふ~ん、カラレス大使に変わる新しい大使はブリタニア帝国第二皇女であるコーネリア皇女か」

 

 その一面には部下との関係が上手く行かずに結果、不祥事続きとなって、先頃ブリタニア本国より不名誉な更迭を言い渡されてしまったカラレス大使に変わって、新しく赴任してきた大使であるブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアが映っていた。

 

「嶋田さんはご存じなかったのですか?」

 

「そもそも引退してからこの五年、書類仕事に追われて世間に目を向ける余裕が無かった物ですからね。カラレスさんは結構いい人なんですけどねぇ。私たちの前ではガチガチになってましたが、慣れてくるとブリタニア皇室に忠誠を誓う武人で嘘はつかない仕事人って感じで」

 

「それはそれは、ご苦労様です。まあカラレスさんの事は残念でしたが、私はおじさんよりは見目麗しい第二皇女殿下の方が良いですけれどね」

 

(書類仕事は貴方の差し金でしょうに)

 

「書類は友達さ」状態の嶋田は、それを持ってくる辻に不満を漏らす物の、彼は何処吹く風という感じで涼しげにお茶を飲んでいた。

 

「もう引退して五年ですか。早い物ですねぇ」

 

「早いです、早いですが、想像してた隠居生活との違いに落胆しています」

 

「今もバタバタしていますからね」

 

「誰のせいですか誰の……。ああ、せめてその日のニュースを見ながらのんびり出来る日が欲しい」

 

 世は平和だが、同時に不穏な空気にも包まれている。

 

 南天が動員令を発令する可能性が高まっている為だ。

 

 部分動員となろうが、その部分動員でも10,000,000からの軍をあの国々は動かせる。

 

 目標が中東の攻略、アラビア半島の遺跡なのは明白。

 

 下限で合衆国東アフリカと、イエメン民主共和国に駐屯している軍の内5,000,000は動かし、素早く中東全域を白化させるだろう。南天の蒼天双翼光環旗の下に。

 

 その不穏な空気は今のところ日本周辺には無い。穏やかな物だ。

 

 そんな世間の誰もが謳歌している日常を羨ましいと思いつつ、見ていた新聞を捲った瞬間──。

 

「ぶうううううう──―ッッッッ!!!」

 

 嶋田は口に含んだお茶を盛大に吹き出してしまった。

 

 そのまま新聞を落としてゴホゴホ咽せる嶋田に辻は「何をしてるんですか汚いですねぇ」と背中をさする。

 

「す、すみません辻さん、その新聞に映ってる人はっ!?」

 

「え、どれです?」

 

 辻がお茶まみれになった新聞を拾い上げると、そこには、膝裏まで届く程の鮮やかな桃色の長い髪を、大きな白い色の髪留めで大きなポニーテールに纏め、白のタイトスカートを着用した、ブリタニア人の少女が映っていた。

 

 髪は下ろしていたし、服装も普通のワンピースだったが、確かに昨日の休日を一緒に過ごして、最後は熱いキスまで交わした、あの少女と同一人物だ。

 

「ああこの方ですか? この方はブリタニア帝国第三皇女のユーフェミア・リ・ブリタニアさん、失礼。殿下ですよ。コーネリア殿下の実の妹さんですね。公務を行うために日本を訪れたのはこれが初めてじゃないでしょうか? それまでは向こうのアッシュフォード学園高等部に通っていたはずです、いやコルチェスターでしたかね? まあ、先頃まで現役の女学生だった訳でして、嶋田さん?」

 

 ギアスを知ってる人間なら知ってて当たり前の人物だという話しに(俺はギアスを知らねーよっ!)と心の中で突っ込む嶋田。

 

 彼が知っているのはコードギアスというタイトル名と、SF戦争物アニメであったという事だけで、登場人物の事など全く知らないのだ。

 

「で、ユーフェミア皇女がどうかしましたか?」

 

「い、いいえ、なんでもないですよ……、と、ところで、この、ユーフェミア皇女とは、どういった人物なんです?」

 

「一言で言うなら虫も殺せない心優しい少女……、理想に理想を見過ぎている夢想家的なところもある、優しすぎる女性といったところですね」

 

「な、なるほど、見た目そのままですか」

 

 昨日一日を過ごした印象は、とにかく心優しい少女という物。

 

 辻の説明に外見通りであるし中身もそうだったなと思い出した嶋田は辻の話しに再度耳を傾けた。

 

「ただ、こうと決めた事には一切引かない強さも持っています。差別が大嫌いで、世界中の人がみんな仲良く暮らせたらと本気で思ってるはずですよ。まあ不可能ですがね。南天など思想が違い過ぎてまあ無理無理」

 

「夢想家ではあるのでしょうけど、何だか神聖で侵しがたい聖女みたいな子ですねぇ」

 

「聖女ですか、ふむ、あながち間違いでもないでしょう。夢想が過ぎますが、優しい方なのは確かなので。でも、あれで結構独占欲強いと思いますよ? 原作の世界線ではある男の子に『私を好きになりなさいっ!』なんて言ってるくらいですから」

 

「ほう、それは彼女と付き合う事になったり、結婚する事になる男性は大変だ」

 

「まるで他人事ですね」

 

「事実、他人事でしょう」

 

(昨日彼女にキスされたことは黙っておこう。それに、政界引退した以上、もう会ったりする事もないだろうしな)

 

 同じブリタニアの皇族と言っても、皇帝シャルルや、V.V.は同年代であり、現役時代よりも昔、幼い頃よりの数十年来に渡る友人である。

 

 それに対してユーフェミアは今年17になったばかりの年若い少女であり、会ったのも昨日が初めて。

 

 いくら友人の娘とは言ってもほぼ接点など無い。現役も退いているし、二度と会わないだろうからと考えるのが普通だ。

 

 そう思う彼であったが、昨日彼女と出会った時点で既に縁は出来ていた。

 

 そして辻の前で取った不自然な反応。

 

 彼がこれを見逃すはずがなかったのだ。

 

 

 ◇

 

 

 

 同盟国の皇族の大使就任という事で開かれた就任祝いの会場にて、出席者全員に対し順番に挨拶していく、コーネリア皇女とユーフェミア皇女。

 

 日本の政界、財界の重鎮が顔を並べているその中に、大日本帝国元内閣総理大臣、ニューギニア戦争でオセアニア軍を打ち破っただけに留まらず、数々の改革を成し遂げ、日本という国を更に二回り、三回りと大きく成長させた大宰相の姿も当然にしてあった。

 

「コーネリア皇女殿下、お初にお目に掛かります、嶋田繁太郎と申します」

 

 嶋田が何故ここに出席しているかというと、表向き政府関係者として出席する予定だった辻が急病で倒れ、代わりに出てくださいと頼まれたから。

 

(絶対仮病だろっ!!)と思った嶋田だったが、同盟国の皇族を迎えるパーティに出ないわけには行かず、こうして出席と相成ったのである。

 

 ユーフェミア第三皇女、もう彼女と会ったりする事はないだろうという考えは、僅か数日で木っ端微塵に粉砕されていたのだ。

 

「初めまして、コーネリア・リ・ブリタニアです。シマダ卿のことは父から色々と伺っております」

 

「そ、そうですか」

 

 コーネリアの言葉にふと、幼い頃は気弱であり、成長してよりは勇壮ながらも個性的な性格を持つに至った、幼馴染みの姿を思い浮かべた。彼とは時折会っている。首脳会談と言った大袈裟な行事でではなく、個人的なお付き合いの場でだ。

 

 日本に住まい日本に帰化している彼の兄、同じくして幼馴染みであるV.V.とであれば、それこそ絶えず顔を見せ合い、世界の情勢、特に、大日本とブリタニア、双方に取り宿敵とも言えよう、南半球や中東・E.U.ユーロピア共和国連合にまでその手を大きく広げている大国、合衆国オセアニアと南天に関する情報交換なども行っている間柄だ。

 

 と、そんなブリタニアはジ家の双子の兄弟の弟、現98代ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアなにを話していたのだろうかと気になる嶋田は、コーネリアに尋ねていた。

 

「シャルルさんは私の事をなんと?」

 

 言っているのか。それにコーネリアは。

 

「シゲタロウは良い奴だ! 心の友と書いてわしの心友だ! と」

 

「は、はは、心の友ね」

 

(どこのタケシ君だろうな)

 

 苦笑いする嶋田は、さりとて大切な友と思われている海の向こうの幼馴染みへ、心の中で「ありがとう」と言いふっと笑みを浮かべる。

 

 そんな友へ思いを馳せていた彼へ、コーネリアの隣に居た少女が声を掛けてきた。

 

 

「あ、あの……」

 

 声を掛けたくとも掛けづらい。といった雰囲気を醸し出していた少女の声に、嶋田はもまた注意を向けさせられた。

 

 これが本命、これが向き合わなければならない相手。先日、デートと口付けを行ってしまった件の少女は。

 

 こういった場所ではパーティードレスが基本だというにも拘わらず、なのに今の彼女は新聞で見たのと同じ姿をしていた。

 

 長い髪は白い大きめな髪留めでポニーテール風に纏めつつ背に流し、白のタイトなスカートを着用した公務用のスタイル。更にその外側を薄紅色の羽の意匠が施された腰から後ろ半分を覆うスカートを身に着けていた。清楚な彼女に実に相応しく似合っている。公務用の衣服と豪奢なドレスではこうも雰囲気に違いが出るのかと、ブリタニアを訪れた際の舞踏会に出席した時に見た、彼の国の皇族方の事を思い出していた。

 

 それは仕事への意気込みを感じさせる物で、彼女の、ユーフェミア皇女殿下の真剣さを伺える出で立ちであった。

 

「ああ失礼。こちらは私の妹で我が帝国の第三皇女ユーフェミアです。この度私の補佐官として日本に常駐することになりました。ユフィ、シマダ卿にご挨拶を」

 

「は、はい。大使閣下より御紹介にあずかりましたユ、ユーフェミア・リ・ブリタニアです。日本ではわたくしの姉、コーネリア・リ・ブリタニア駐日大使の補佐官を務めさせて戴く事となりました。い、以後お見知りおき下さいませ」

 

「こ、これは御丁寧にユーフェミア皇女殿下。私は大日本帝国に於きまして、前内閣総理大臣を務めさせて戴いておりました、し、嶋田繁太郎です、何卒よしなに」

 

 普通に挨拶を交わす二人。

 

 だがその挨拶が実にぎこちなく不自然になっている。

 

 それはそうだろう、つい数日前に熱い抱擁を交わしながら、熱く深く口付けをした相手同士なのだから、意識しない方がおかしい。

 

 幸いなことに変だなと思いつつも、次の出席者に挨拶へ向かったコーネリアは二人の不自然さに気付かなかった。

 

 二人が互いに「初めまして」と言っていない事に。

 

 嶋田は焦り気味で、ユーフェミアに至っては頬を赤らめている事に。

 

「そ、それではわたくしは他の方にも挨拶に向かわないといけないので」

 

 ユーフェミアは名残惜しそうに嶋田の元を離れていく。

 

 彼の元に留まっていたいという様子が在り在りと伺えた。

 

 側に居て色々とお話がしたい。貴方の事が知りたい。

 

 そんな様子が見て取れた。

 

「はぁぁ~っ、焦った」

 

 テーブルにあったグラスのワインを一気飲みするも、からからになった喉が癒されない。

 

 彼の中ではまだキスの一件が引っ掛かっているのだ。

 

「まずいな……、これもひょっとして辻さんの差し金なのだろうか? 彼女とキスをしたことが知られてるのか? でもどうやって……、しかし、あの人だと有り得てしまうのがまた怖いな……」

 

 それを知るのは辻本人だけであり誰にも分かることではない。

 

 大体辻の思惑を推理するのは非情に難しく、意図を知るのはほぼ不可能であった。

 

 

 ◇

 

 

「わ、わたくし驚いてしまいましたわ、おじ様が父が良く口になさる御心友のシゲタロウ様だったなんて」

 

 挨拶回りを終えたユーフェミアは他には目もくれず一目散に嶋田の側に来ていた。

 

 その様子は彼以外の一切に興味がないと言わんばかりだった。

 

 地元の名士やブリタニアの貴族、日本政界の重鎮達はコーネリア皇女は勿論のこと、見目麗しいもう一人の皇女ユーフェミアにもお近づきになろうと試みていたが、彼女の側に立つ嶋田の姿を見てすごすごと引き返していく。

 

 表の顔を知る者は『元総理が話し相手になっていては割り込み辛い』と考え、嶋田繁太郎という人物の真の姿、日本を裏から支配している『夢幻会の長老格』という顔を知っている者は恐ろしくて声を掛けられない。

 

 お陰で彼は、いやこの場合彼女か? とにかく嶋田はユーフェミアが独占出来ていた。

 

 その分、更に話し相手をする人数が増えてしまったコーネリアはかなり大変そうだったが。

 

「それはこちらの台詞ですよ。まさか君がシャルルさんのお嬢さんだったとは……。シャルルさんには悪いですが全然似てませんよ。 何をどうすればシャルルさんから君のような美人が生まれるのか」

 

 かつては美少年であったが、年を重ねる間にごつい身体でロール頭、厳つい顔へと変貌を遂げていったあのシャルルから、ユーフェミアを含む美男美女の子供ばかりが生まれるのは、ある意味で七不思議だと半ば本気で考えている嶋田に。

 

 一方の彼女は美人だと言われて顔を赤らめる。

 

「か、髪を纏められたり、その様なタイトなスカートの公務服姿になると、この間とは随分印象が変わりますね」

 

「その、似合っておりませんか。わたくしの公務服姿は?」

 

「い、いやいや、そちらも出来る女って感じでお似合いですよ……、この間の様に降ろしている、ストレートにしているだけの髪型も良かったけど、こうして大きなポニーテールっていうのかな? これも似合っていてとても綺麗です、とても……」

 

 綺麗、美人だ。公務服姿も似合っているよと言う嶋田の言葉に、ますますユーフェミアの頬が薔薇色へと染まっていく。

 

 普通に言われても嬉しいというのに、彼から言われると胸がきゅっとなるのだ。

 

 締め付けられるような苦しいような、それでいてとても温かい。嬉しい気持ち。

 

 この不思議な感じは悪い物ではない。そう思った彼女は自分がした事を思い出して頭を下げた。

 

「こ、この間は申し訳ありませんでした」

 

「ひょっとしてあの、あ、あの事……でしょうか?」

 

「は、はい」

 

「い、いやいいんですよ、それは、ははは、は……」

 

 彼女はキスのことを思い出してまた赤くなる。

 

 湿った唇の感触と絡み合わせた舌の感触、それに甘酸っぱい唾の味を思い出したのだ。

 

 そのことを持ち出されると嶋田まで恥ずかしくなる。

 

 何せユーフェミアのような美少女にキスをされたのだ。

 

 特別な何かでは無いとはいえ男冥利に尽きるという物。

 

 尤も、彼女の心が分かるでもない以上、嶋田の勝手な決めつけなのだが、常識で考えて17,8の娘が、60を迎えている男に懸想する訳がない。

 

 そんなことを断言する嶋田は完全にユーフェミアの気持ちを無視している。

 

 彼がどう思おうが、それは所詮彼の考えであって、彼女の気持ちではないのだから。

 

「あれは君のお礼だったのでしょう? 私はそのお礼をありがたく頂いた……、それでいいじゃないですか」

 

「おじ様……」

 

「名前で呼んでもらってもいいですよ。君のお父上も君の叔父さんも名前で呼んでますから。ああいや、皇女殿下に対してこれは不敬ですね」

 

「い、いいえそんなことはありません! あ、あの、ですからわたくし、シゲタロウ……と、お呼びさせて戴きます……」

 

(いきなり呼び捨てとは……)

 

 と、彼は思うも、下の名で呼ぶ人間にさん付けしてくる人はいないので、別に良いかと思い直す。

 

 まあ、彼を下の名前で呼ぶ人間は、今世では今のところ親族関係を除けば幼馴染みであるシャルルとV.V.ぐらいしかいないが。

 

 特に真名である神崎博之などは誰も知らない名前で。

 

 シゲタロウと呼ぶのは、親族を除けば彼女が栄えある三人目。女性としては初めてであった。

 

「わたくしのこともどうかユフィとお呼びください……、それに丁寧な言葉遣いではなく、普段通りでお願いします」

 

 更に彼女も自身の名を呼ぶときは愛称で呼び、敬語もやめて欲しい、嫌だという。

 

 ただ嶋田としては、余程親しい前世からの友人達にさえ丁寧語で話す相手の方が多く、タメ口というのは違和感を感じてしまうのだ。

 

 出会ったときは普通の話し方だったと彼女から指摘されると受け入れざるを得ないが。

 

「わかった。じゃあ……ユフィ。これで、いいかな?」

 

「はい……シゲタロウ」

 

 こうして名前で呼び合う様になった二人は、祝賀会が終わりを迎えるまで、寄り添ったまま話を続けていた。

 

 嶋田が何の気無く、白い大きな髪留めを用い、大きなポニーテールに結い上げているユーフェミアの髪を撫でたり。ユーフェミアが嶋田の口元に付いたケーキの食べかすを拭ったり。

 

 また、どちらともなく身を寄せて、頬を擦り合わせてみたり。何故か自然にそういう行為に及んでいた。そうせざるを得なかった。

 

 身を寄せ合わせ、髪を触り、頬を擦り合わせる。そうしたいのだ互いに。人目もはばからず。

 

『お前らどこのバカップルだ!』

 

 とでも罵られそうな行為を終始続けていたのだ。

 

 質が悪いのは、何処かで意識し始めたユーフェミアに対し、嶋田は彼女の髪を撫で、その感触を楽しみながらも、殆ど意識していないという部分。

 

 頬ずりも子供が大人に甘える様な物だと、内心のドキドキした気持ちを抑えて受け入れたりしていた。

 

 そんな彼がちょっぴり意識したのは、祝賀会終了の挨拶の時、帰り際に二人きりになった瞬間、ユーフェミアからされた再度となる口付けのときだけ。

 

 それでさえ深く口付けたお陰であって、触れ合わせるだけの物であったのなら、全く意識していなかっただろうと推察された。

 

 それは、嶋田とユーフェミアの。実に三度目となる口付けであった。

 

 

 ◇

 

 

『ど、どうしてこんなキスを』

 

『この間シゲタロウと口付けを交わしたとき……わたくし、幸せな気持ちになったのです……ですから、もう一度、あの幸せを感じたいと思いまして、いけませんか?』

 

『なるほどそれで……。う、うん、いや幸せなのはいいことだが……いけなくもないが、その、ね、こういった事を、女性が軽々しくするものではな』

 

『ち、違いますっ! こんな事をするのはシゲタロウにだけですよっ!! わたくしはそんなに身持ちの軽い女ではありませんっ!!』

 

『そ、そう、まあ、あれだね……その、あ、ありがとう……と、でも言うべきなのか? それと、すまない。君がユフィが、軽い女性だなんて思ってないよ、人生経験はそれなり以上に長くてね。人を見る目はあるつもりだ。君は優しいが誠実で嘘もつけず、虫も殺せない。そんな女性だと伺ってる。そんな女性が軽い女性だなんて考えたりしないさ。付き合いは短くても分かるよ』

 

 帝都内の某所。

 

 その一室にて男達が会合を開いていた。

 

「ふふふっ、様子がおかしかったのでちょっと探ってみましたが、なるほどこういう事になっていたとは──嶋田さん中々やるじゃないですか」

 

「まさかこんなことになっているとはな」

 

「ですが、あれですね。もう鈍いなんてレベルを通り越して最早馬鹿の領域ですよ。何がどうしてああなったのやら分かりませんが、あれ、ユーフェミア皇女、完全に嶋田さんに惚れちゃってるでしょう?」

 

「いや、嶋田はもともとあんな感じの男だろう。意識してないだけで嶋田もユーフェミア皇女に惹かれていると見た。でなければ、あんな熱いキスを交わすわけがない」

 

 そのテーマは。

 

【嶋田君の様子がおかしいよ? こっそり調べちゃお!】

 

 という物だった。

 

 尤も、スピーカーから流れる甘い言葉の数々、止めに唇の粘膜がくちゅくちゅと触れ合う音を聞いた瞬間、場は怨嗟の声に包まれてしまったが。

 

 涼しげに、かつ楽しそうにしているのは某お金を司る魔王ぐらいのものだ。

 

 後は若干名「応援しよう」と言っている者も居た。

 

 某海軍大臣を務めていた男はその若干名の一人。

 

 親友の幸せを願う彼は「こいつらを止めんといかんな」と呟き魔王から「流石はYさんです」と賞賛されていた。

 

 どうやら魔王も応援する様子だ。

 

 

 そして──

 

 

 

「こ、こ、殺す……、殺してやるぞ嶋田ぁぁぁぁあぁぁあっっっ!!」

 

「死ねっ! リア充死ねっっ!!」

 

「交通事故っていつ起こるか分からないよね? ね?」

 

「長らくフレイヤ実験してないな……、太平洋のどこかで人一人ぐらい消し飛んでも気付かれないだろう」

 

 何故か突発的に起きてしまった嶋田とユーフェミアの恋愛。縁はもう生まれていたのだが、それが今日この時形となって実を結んだ。

 

 恋とは意識して起きる物ではなく無意識にそうなる。恋に恋するではなく、正しく恋愛関係が始まった瞬間に。

 

 立ち会わせた幾人かは何故か祝福できないようであった。嶋田みたいなおっさんがユーフェミア皇女みたいな美少女と恋するだと? んなこと許せるかと。

 

「まあ、どうなるか分からんが嶋田とユーフェミア皇女がもし結婚ともなれば、帝国とブリタニアは更に深く結びつく事となろう。嶋田とユーフェミア皇女が結婚とならば個人の恋愛では済まん国益がもたらされる事にも繋がるというのに。この連中はそれを不意にするつもりか? やはり止めないとダメだな」

 

「やれやれ困った人達です。この唐突に過ぎる福音、恋模様は、帝国百年の計にも繋がるかも知れないというのに、つまらない嫉妬で潰されたら目も充てられませんね」

 

 そんな彼らを余所にスピーカーから聞こえる甘酸っぱい会話は続く。

 

『おっと、肝心なことを言うのを忘れていた。大使補佐官就任おめでとう』

 

『ありがとう』

 

『でも凄いな君は。今年で17、8かなんだろう? その歳でこんな公職に就くとは』

 

『まだお飾りです。でもいつかお飾りなんて言わせないように、お姉様や皆さんに認めて貰えるように頑張りますっ』

 

『その意気だ。手伝える事があったら力になるよ──こう見えて多方面に実力行使ができる立場なので、ね』

 

 一瞬怖くなった嶋田の雰囲気に呑まれてしまう事もなく、ユーフェミア皇女は笑顔で応じた。

 

『ええ、そのときはお願いしますね』

 

 そして更にもう一度キスを強請るユーフェミアに、嶋田が「いいよ」と了承して聞こえた息遣いと水音に、嶋田とユーフェミアの四度目となるキスに、完全に恋い慕う者同士のそれだと決定打となった事に、とうとう『こいつら』の内の一人がスピーカーをたたき壊してしまった。

 

「聞いたなおまいら?」

 

「聞いた」

 

「聞いたとも」

 

「これよりオーバーSSS級リア充犯っ! 嶋田繁太郎に天誅を下すっ!! 各員第一級戦闘配置に付けェェェェェェ!!!」

 

「ラジャーっっっ!!!」

 

「心の狭い人達ですねぇ。何故仲間の幸せを喜んであげられないのですか」

 

「こいつらに言っても無駄だ。取りあえず止めるぞ? 帝国の未来が掛かっている」

 

「はあ、仕方ない。お手伝いしますよ」

 

 気勢を上げる者達は、一応のところ財務の魔王と元海軍大臣に鎮圧された。

 

 一方の嶋田はというと、そんなことがあったとは露知らず、次の休日を御一緒したいと申し出たユフィと二人で会う約束を交わし、携帯番号とメルアドの交換をして、別れ際にもう一度、五度目の熱いキスを交わしていたりするのだった。

 

 

 ◇

 

 

「シゲタロウ、今日はどこへ連れて行ってくださるのですか?」

 

「そうだなぁ。ユフィはどこに行きたい?」

 

「わたくしは」

 

 通りを歩く一組の男女の後を追う影があった。

 

 一つではなく幾つものその影は、数分の後には地面に昏倒していた。

 

 それを行ったのは丸坊主にサングラス、山高帽を被った、一見して筋者にも見えようかといった壮年の男性である。正確にはその男性と昏倒している連中のSPもである。国家百年の大計が掛かっていると、なんと上帝、上皇陛下からの勅命でもあったのだ。

 

 彼は彼で本来ならこんな所で、こんな事を行うような身分ではなく、素顔を隠していなければ要らぬ騒ぎを起こしかねない立場に在る人物であった。

 

 彼の先を歩く男女も同じくして上手い具合に変装し、“護衛”を撒いて二人きりの一日を楽しんでいる。

 

 取りも直さずそれは、彼の男女も正体を知られれば、騒ぎを起こしてしまう人物である証明でもあった。

 

 彼の男女の邪魔をしている者達も同じなのだ。同様に正体を知られれば大騒ぎになろう。

 

 そんな者達が、この一角に集まっている。政治テロを計画している様な輩にしてみれば餌場状態となっていた。

 

 南天の連中の格好の的だ。

 

「ふう、相も変わらず邪魔しようとするとは……。別に年齢差の恋だろうが、真実愛し合っているならば、現実が充実していてもいいと思うのだがな。上皇陛下も全く同様の事を仰せであった」

 

 そう呟いた男性は、政財界に影響力を持つような身分でありながら、嫉妬心が故に男女の邪魔をしようとしていた者達を駆逐し終えたところで、新たな人影を発見する。

 

「またか」

 

 うんざりしながらその人物に近付いていく男性。

 

 だが。

 

「ん? どうやら違うようだな」

 

 その人物は男女の邪魔をしようとしている他の面々とはどうやら関係のない人物だったようだ。

 

 それもそのはず、邪魔をしようとしているのは全員男で、件の人物だけは女なのだから。

 

 その人物は腰まである長い金髪をしており、先を歩く男女の女の方よりも若干年上に見える女性であった。

 

 身のこなしから見ると軍属と思われる女性は、男女の内の女の方へと気を配っている様子が見て取れた。

 

「お邪魔虫共とは関係ないとは思うが、嶋田とユーフェミア殿下の邪魔をさせるわけにもいかんからな」

 

 彼はその女性に声を掛ける。

 

「あの二人の邪魔はさせんぞ?」

 

「きゃっ……!」

 

 後ろから羽交い締めにされた女性は、そのまま男性の手で、人気のないところに連れて行かれた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「な、なにをなさる気ですのっ!?」

 

 こういう状況は大体が誘拐と相場が決まってはいる物の、彼女は気丈に振る舞う。

 

 急なことに気が動転してしまい、あっさりと背後を取られてしまった女性だが。

 

 本当ならばそれなりに訓練をされた相手であっても、簡単にいなし、制圧できるだけの実力の持ち主なのだ。

 

 何せ彼女はブリタニアの軍の嚮導学校から選抜されていた、エリート騎士なのだから。

 

 戦闘力だけで言えば間違いなくこの男より上であるという自負もあった。

 

「何もせんよ。ただどうして人の後を付けるような真似をしていたのかを聞こうと思ってな」

 

 こんな男に負けてなるものかと思う彼女だったが、それが全くの見当違いで、逆に追い詰められる事になるのであった。

 

 そう、彼の目的は、彼女自身が行っていた行為についての事だったのだ。

 

「つ、付けてなどっ」

 

 指摘されたことに後ろめたいことがあるのか、女性は男から目をそらす。

 

 そんな彼女に対し追及の手を緩めない男。

 

「いや、付けていた。しっかり見ていたからな」

 

「──っ!」

 

 全部見られていたのは彼女に取って大誤算。

 

 どういう言い訳も全く意味をなさないのだから。

 

 男は元よりこうなることが分かっていた。一部始終を見ていればイカサマ博打のような物だ。

 

 結局、観念した女性は事情を話し始めた。

 

 自分はブリタニア大使官の警備をしているブリタニア軍の騎士で、街を歩いていたらあの二人を偶然見掛けたこと。

 

 二人がどういう関係か興味があって、はしたないとは思いながらも、気になったから付けていたことなど。

 

 要するに男の取り越し苦労でしかなかったことが判明したのである。

 

「失礼ですけれども、貴方こそ何処のどちら様ですの? ユーフェミア様のお知り合いですの?」

 

「いや、男の方の友人だ」

 

「ああ、仰られてみればあの男性の方とお歳が近そうですわね」

 

 女性は納得がいったという具合に頷く。

 

「でも、それならば貴方こそどうして後を付けてお出ででしたの?」

 

「いや、実はな」

 

 大まかに事情を話す男。まさか上皇陛下よりの勅命であるとは言えず、そこはぼかしたが。

 

 話を聞いた彼女は「そうなのですの」と不思議そうな顔をしていた。

 

「これを聞いて君はどうするんだ」

 

「別に宜しいのではありませんの? んんっ、少し言葉を崩すわね。そういうのって他人がどうこう言うことじゃないし、邪魔するのなんて野暮なだけよ」

 

「ふう、それを聞いて安心した。てっきり邪魔されるかと思ったからな」

 

 お互い誤解が解け、事情が分かったことで、一転和やかな感じになる。

 

「でも、それだと邪魔する人達を追い払うの、おじさん一人じゃ大変なんじゃないの?」

 

「まあ大変といえば大変だな。奴等の身分が身分なだけに、下手にSPを使い続けるわけにもいかんしなあ、騒ぎになるから応援も呼べんのだ」

 

「う~ん」

 

 男の口から大変だと聞いた女性は、一瞬難しい顔をして考え込むと、今度は顔を上げて自分の手を打つ。

 

 何か自己解決したようだ。

 

「私も手伝ってあげましょうか?」

 

「なに、君がかね?」

 

「ええ、だってそういうの女として許せないし、ちょっと面白そうだしね」

 

「だが、それでは君の休みが台無しではないか」

 

「ううん、特にやること無いから大丈夫よ。それにおじさん歳考えないと、一人でやってたら倒れちゃうわよ」

 

「年寄り扱いするな! これでもまだ60過ぎっ、人生曲がり角に来たばかりだ! 中年だっ!」

 

「中年って、そんな事言うのがもう年取ってる証拠よ。で、どう?」

 

「う、うむ……、そうだな」

 

 確かに一人では大変だ。

 

 追い払っても追い払っても「リア充は犯罪なんだ!」と訳の分からない屁理屈を言って諦めないのが彼らだ。

 

 財務の魔王もいつも時間が空いてる訳じゃない。上皇陛下に御出で頂くわけにもいかない。

 

 ただし、男女、男が大日本帝国元宰相にして帝国華族伯爵位を持ち。

 

 女、いや少女が、神聖ブリタニア帝国第三皇女である限り、興味がないでは済ませられない事態でもあった。

 

(ここは猫の手も借りたい、か)

 

「それでは、君の休みが合うときに頼む」

 

「了解しましたわ。毎日暇だったから丁度良かった」

 

「軍人や騎士が暇なのは結構な事だと思うが、君、貴族だろう」

 

 身のこなし。ブリタニア大使館で警備の任に就いている。そして、今はフランクながら先程までの上流階級を思わせる言葉遣い。

 

 間違いなくブリタニアの貴族だ。それも直感が告げる。かなりの大物だと。

 

「まあ、ね。それはいいんだけど。私まだ日本に赴任して日が浅いから休みって言ってもやる事なくて」

 

「そうか。まああまり暇だと碌な事せんからな」

 

「碌な事って?」

 

「若い奴は主に博打と女だ」

 

「おじさんも?」

 

「俺は博打だけだよ。これでも強いんだぞ?」

 

「へぇ、意外ですわねぇ」

 

『生真面目そうな顔の割に結構遊んでるんだ』という女性。

 

 そして──。

 

「あ、まだお互い名乗ってなかったわね。こほん、では改めまして。わたくしはリーライナ、リーライナ・ヴェルガモンと申しますわ。宜しくお願い致しますわね」

 

 とんでもない大物だった。

 

「なにっ? リーライナ・ヴェルガモンだと──!」

 

 男がサングラスの奥で驚きに目を見開く。

 

「あら、御存じですの?」

 

「知っているもなにも、ブリタニア帝国の名家にして大貴族のヴェルガモン伯爵家の息女の名ではないか」

 

 ヴェルガモン伯爵家。

 

 広大な北ブリタニア大陸の五大湖、ウィスコンシン=ヴェルガモン領を治める大貴族。五大湖経済圏に置きな影響力を持ち、宮中の発言力も強い。そこらの無色でも名前くらい知っている押しも押されぬ大貴族だった。

 

 リーライナ・ヴェルガモンとは、そのヴェルガモン伯爵家、伯爵は伯爵でも、ほぼ辺境伯と変わらない地位を持つ、上位伯爵家の次期当主の名であった。

 

「でしたら話は早いですわね。同姓同名の、本人ですわよ♪」 

 

 さらりと長い金髪を搔き上げる仕草を見せた美しき貴族の令嬢。

 

 吹き抜けた風が彼女、リーライナの長い髪を靡かせ、金色の軌跡を宙に残した。

 

 目鼻顔立ちの整った麗しの美女。何気ない仕草や言動には庶民的な物が見られない淑女。生まれついての上流階級の人間のソレだ。

 

 そんな彼女に、これは確かに間違いなさそうだと確信した。

 

 男はこれを知り、やはり態度を改める。

 

 相手が相手なのだ、ブリタニアの名家、上位貴族のヴェルガモン伯爵令嬢なのだ。当然の措置であった。

 

 歳と世代が離れているのもあり、顔立ちは知らなかったが、政治家として知っておくべき情報を知らないでいたのはミスだろう。

 

 日本との間柄は盟友・家族とも呼ぶべき、深い同盟関係にあるブリタニア帝国の、その上位貴族を知らない者など、日本の政治家には居ない。

 

 リーライナについては知らずとも、ヴェルガモン伯爵家は良く存じていた故に。

 

「尊顔を与り知らぬ事とは言え失礼した。リーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢殿。こちらも改めて名乗ろう。私は大日本帝国元海軍大臣やまも──」

 

 サングラスを外し、山高帽を脱ぎながら精悍な顔つきで居住まいを正しつつ、挨拶をした男に、今度はリーライナが驚きに目を見開く。

 

 何故ならば、その男もまた、ヴェルガモンという名と同様の、重き名の持ち主であったから。

 

 この後、当然ながら連絡を取り合うため、男とリーライナは携帯番号とメールを交換。

 

 この日より男の携帯には、時折リーライナから電話が掛かってくるようになった。

 

 日本に来て日が浅いという彼女に、日本の良さを知って貰おう、男がリーライナと二人で出かける事も。

 

 やがて二人は歳の差を超えて、恋い慕い合う間柄となっていく、それ程時を要する事も無く。

 

 

『ねえ、いっくん』

 

『なんだリーラ』

 

 肌を寄せ合い、触れ合わせるいっくんとリーライナ。

 

 深い触れ合いの最中にある、そんな場面での事。

 

 身体を一つに重ね、二人の肌には玉の汗が浮かんでいる。

 

 ベッドにはリーライナの長く美しい金色の髪が扇状に広がり、その扇情的な姿にいっくんは強く身体を重ねた。

 

『私、いっくんとの御子、二人は欲しいですわ──ああッ』

 

『お嬢様言葉が似合いすぎていて逆におかしく感じるぞ』

 

『そ、そう? んっ、ううッ』

 

 いっくんは男らしく微笑んで、リーライナの長い金髪を撫でる。

 

 指を差し入れて掬う絹の如き美しい髪。金の長い髪がいっくんの手、指からさらさらと流れて、彼女の身体や枕に流れ落ちていった。

 

 ベッドに寝たまま頬を寄せ合い、擦れ合わせながら。

 

『んっ』

 

 口付けるいっくんとリーライナの深い夜。

 

 リーライナの抜けるような白い肌には汗が浮いている。彼女の長い髪の一部はその汗を吸う様にして、肌にほつれて張り付き。

 

 いっくんのたくましく、男らしい肌に覆い隠され、二人の肌は一つに重なる。

 

 汗にも熱が灯っているのか、触れ合う汗その物からも冷たさより、暖かさを感じる。

 

 若しくは、共に火照った身体が、滲み出る汗すらを、熱いと感じさせているのだろうか。

 

『貴族が、肌を……、許したの、ですから、責任は、お取りくださいますわよ、ね?』

 

『勿論だとも。俺にはお前以外居ないよリーライナ』

 

『んんッ』

 

 重なる肌は離れない。更に深く結びついていく。

 

 幾時間とそうしていたのだろうか。

 

 本当に熱く深く火照る夜とは、こんなにも長く愛しく、心地の良い物なのかと、いっくんとリーライナ、二人は互いを分かち合う。

 

 一体、いつ頃からこうなってしまったのだろう。

 

 リーライナがいっくんを……山本五十六を恋い慕い。

 

 いっくん、山本五十六がリーライナ・ヴェルガモンを恋い慕う。

 

 恋慕の情を抱き合う関係に。

 

 恋人を飛び越えて婚約までしてしまって。

 

 山本家には報告が行っている。というより山本家の現当主がいっくんなのだからして問題も無し。

 

 ヴェルガモン家にも大凡は伝えてある。リーライナ自身が結婚する相手を見つけたと連絡した。ヴェルガモン伯爵は、リーライナの相手が彼の山本五十六だと聞いて、『よくやった大金星だッ!!』と飛び上がって喜んだとか。

 

 しかし、正式な挨拶がまだなのだ。それなのに関係ばかりが先に進んでいく。

 

 もしかしたら挨拶に行くときにはもしかしている可能性があり、これ以上はと思うも、お互いに止まらないのだ。

 

 日本男児として出来ちゃった婚は避けたいところだが、いっくんもリーライナも、愛という感情に制御が効かなくなってしまっていた。

 

 二人にもよく分からないままに、二人の関係は進みきっていた。完全に、先走りすぎていた。恐らく子が出来る。確実に。避妊も何もしていないからだ。お互いがそれを望んだ。愛を紡ぐのに余計な事をしたくない、自然のままに重なり、自然のままに果てたいと。

 

 出逢ったとき、その時にはもう、この運命は決定付けられていたのかも知れないと、二人は肌を合わせながら感じ合う。

 

 そう、もう、自分達はお互いに、離れられない関係になってしまったのだ。離れてはならない者同士なのだと魂が叫んでいた。

 

『ああッいっくん!!』

 

『リーラッ、リーライナッッ!!』

 

 二人は果てた。果てたまま身体を一つにして余韻に浸る。

 

『愛しておりますわ五十六様』

 

『俺も愛しているリーライナ嬢』

 

 身体は一つのまま。

 

『んんッ』

 

 重なる唇。深い深い口付けの中、いっくんこと山本五十六は思い出す。

 

『そういえば減ったな』

 

 嶋田を邪魔しようとしていたメンバーが減っている事に。

 

 時々『会合』で変な事を言われるようになった事に。

 

 そう、つい先日まで友人の嶋田にしか言われていなかったあの言葉を、彼もまた言われ始めたのだ。

 

 

 “リア充死ね”

 

 

 元海軍大臣兼国防相、山本五十六と、神聖ブリタニア帝国ヴェルガモン伯爵家が息女リーライナ・ヴェルガモン。

 

 また一つ、大日本帝国と神聖ブリタニア帝国の縁(えにし)と絆を深める恋の花が、此処に一輪咲くのであった。

 

 



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嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー 小ネタ
バレンタインネタ 嶋田さん×モニカさん


バレンタインネタ 嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー


 

 

 

 2月14日に悩む女と男

 

 

 

 まだ、出撃命令は下りない。南天が僅か二週間でサウジアラビア・オマーン・アラブ首長国連邦・カタール・バーレーン。

 

 中東諸国を次々と攻略し、盟邦大日本帝国と共に我が祖国神聖ブリタニア帝国の衛星国となる形で難を逃れたクウェートを横目に。

 

 ヨルダン・パレスチナ・シリアと、中東全土が南天の手に落ちてよりこの方。国際社会では南天の覇権主義に対して抗議の声が上がっては居るが。

 

 どの国も、南天と完全に国土を接することとなってしまった中華連邦さえも、大きな行動には出られない。

 

 声は上げてもその先、事を起こさない。それもそうだろう。南天に抗える国などほぼ無いのだから。

 

 南天に抗することが出来るは盟邦大日本帝国と、我が神聖ブリタニア帝国の二国のみ。

 

 力のブリタニア、技術の日本とはよくいったもの。これに追いついてきたのは南の大国、南半球の実質的な支配者たる数の南天。

 

 その名の通り、南天条約機構軍は絶大な数を傘下に持つ。最大80,000,000の正規軍、最大100,000,000のテロ組織、そして最大1,700,000,000という途方も無い数の唯一神・南天の現人神を信奉する狂信者。

 

 まさしく数の南天だ。その南天が進めようとしているのは中華侵攻。南天の小間使いなユーロピアでは無い。私には南天の求める物が分からない。

 

 一見彼らの侵略行動は無作為に見えるが、そこに作為を感じるのは何故だろうか? 考えすぎか?

 

 そして南天と高麗、彼の国々の関係性は? あのシベリア戦争で使われた驚異の兵器は一体なに? あんな代物を高麗如きが開発できるはずが無い。シベリア南部を焼き尽くすほどのあのような物を。

 

 何もかもが分からない。

 

 ただ、ただ一つだけ言えることは、彼らに正義など無いと言うこと。嘘で塗り固められた偽善しか彼らには無い。

 

 彼らが真に正義を語るならば、正義を行う者が居なければならない。私の――。

 

「はっ!ははっ、 ――なんとも傲慢、ですね……私の様になどと。所詮は国と国の正義。どちらも正義に違いありません。それを傲慢にも私の様になど……」

 

 招集が掛からない為か、情報が降りてこない為か。私は少しばかりいらだっているようです。

 

「まったく、らしくもありませんねナイトオブラウンズ第12席次。モニカ・クルシェフスキー。貴女には常に冷静さが求められます。時に陛下の御座艦であるグレートブリタニアの指揮も執らねばならぬ身だというのに」

 

 まるで冷静さに欠けている。自嘲する私。これでは駄目だ。この様なことではナイトオブトゥエルブ失格だ。そうして落ち込んでいるとき。

 

 そう、そうして落ち込んでいるときに必ず。必ず……。

 

「モニカさん――」

 

 彼は声を掛け、私に触れてくださるのです

 

 

 

 ※

 

 

 清国、大清連邦。正直彼の国はなんの問題も無いとしか考えて居なかった。よもや、よもやその属国でしか無い高麗があんな……。

 

 シベリア戦争、我が国では失笑を買う呼び名であるシベリア紛争は予想外の結末を迎えた。

 

 高麗が高麗海軍と高麗陸軍があれらを動かし、この世界には存在しないはずの猛毒をまき散らす火球兵器を使ったのだ。

 

 司令部で隣にモニカさんが(嶋田繁太郎の護衛)居る中で「バカなッッ!!あれが存在するはずがッッ!!」シベリア戦線の前線を映し出していた無人偵察機の捉えた映像に、夢幻会一同、幾人かの人を除いて驚いていた。

 

 モニカさんも「ど、どうしてあんなものが存在しているの?!」と隣で驚いていたが。

 

 辻さんと、伏見宮殿下は「やはりな」と仰っていた、すでに高麗が、いや高麗じゃ無い。高麗如きがあんなもの、この世界に存在しないはずの兵器を作れるわけが。

 

『南天、合衆国オセアニア』

 

 知っていたのだ。そう言えば何度も夢幻会の席で言っていた。オセアニア近海、ニュージーランド近海での群発地震について。

 

 これがその答えだと言うならば分かる。

 

「はぁ~」

 

 まさか高麗如きを警戒せにゃならん日が来ようとは。

 

 何発だ。何発持っている。

 

 中華牽制用として清・中華国境に一発、シベリア前線に二発これでユーロピア軍は総崩れとなった。

 

 まだあるだろう。まだ持っている。少なくとも防衛・挑発の為にあと一発はある

 

 そんなものを持ち込ませてしまった。ギアス能力の中には通称無貌と呼ばれるギアスがあるという。

 

 このギアスは恐らく南天の盟主と見られる男と、もう一人使える者、通称無貌が居る。

 

 効力は対象者・対象物の世界からの隔離。衛星にも映らなくしてしまえる完全なるジャミング。

 

 このギアスで持ち込まれた可能性が高い。高麗半島など完全に我が日本の警戒網の中だからな。

 

「はぁ、いかんな。あまり考え込むとろくな事にならない」

 

 戦争は終わった清国。高麗共和国軍の圧勝で。それが結果だ。推移はまた時間のあるときにでも振り返ろうか。

 

 廊下を歩き居間へと行き。今から見える縁側を見つめたとき。

 

 

 そこには見事な黄緑色をした足首まである丈の長いマントを床に大きく扇状に広げ、マントの上をさらりと滑る美しい金色の真っ直ぐな髪は長く、床にまで付いて渦を巻き。

 

 後ろ姿だけを見てもその美しさに魅了される我が家の同居人御年二十歳の――。

 

「モニカさん」

 

 モニカ・クルシェフスキーが縁側に座っていた。

 

 

 

 ああ、いつもだ。いつもだな。悩み、苦悩し、答えの出ない漆黒の坩堝にこの思考が落ち込んでいるとき。

 

 いつも彼女はこの目にその姿を映し出してくれる。鮮やかな黄緑色のマントと、美しい金色の長い髪を輝かせ、靡かせて。

 

 まるで、まるでそう。俺を、嶋田繁太郎を思考の渦から救い出してくれる天女のように。

 

 そっと、近づく。足音を立てずにそっと静かにだ。無論無駄だろう。ここはもう彼女の射程距離。

 

 疾うに気付かれているだろうに、悪戯心に押されて。六十超えたおっさんが何をやっているのか。

 

 だがこの美しい女性に、心の奥に住み着いた女性に、俺は俺を隠しきれないんだ。

 

「モニカさん」

 

 斯くして、悪戯は成功してしまった。後ろから抱き着くなどと言う昨今のカップルがやる「だーれだ」「俺でしたー・私でしたー」なんて悪戯が成功してしまった。

 

 しかも相手はあのナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーだぞオイ?! 成功しちゃってどうするんだよ?! この後なにも考えてないぞ!?

 

 俺の腕に圧されて皺を刻むマントは裾が少しめくれて、裏生地の紫色の生地を見せている。そう言えば表の生地は黄緑で、裏の生地は紫色だったな。

 

 このマントの色も彼女によく似合う。黄緑と紫、ナイトオブトゥエルブのマント。俺の大好きなマントの色だ。

 

「繁太郎さん……」

 

 モニカさんの黒い手袋が、俺の、彼女の身体を抱き締めている俺の手を捉えた。

 

 繁太郎さん……彼女が俺の名を下の名で呼ぶようになってまだそれほど経って居ないというのに、これ程しっくりくる感覚なんだな。

 

 運命で結ばれた人、きっとモニカさんは嶋田繁太郎の運命の人なのだろう。

 

「いま、少し考え込んでおりました」

 

「偶然だよ。俺も思考の坩堝にいた」

 

 考えることは違えども、思考の海に沈んでいたのは同じ。

 

 俺はふとモニカさんの首の後ろに左手を入れて、その長い金髪を一息に撫で梳いた。

 

 

 

 少しばかり指を入れての撫で梳く髪は長く流麗。手に擦れる触感はこの世に二つと無い麗しさ。

 

 長すぎる髪は腰下を越え、臀部へと下がり、床に広がる黄緑色のマントの上に渦を巻いていて。俺はその毛先までも綺麗に梳き通した。

 

「あ、あの」

 

 戸惑うモニカさん。その横顔は心なし赤い。確かに赤い。鬼灯の色。

 

「髪、長くて綺麗なモニカさんの金色の髪の手触りを楽しんでいたんだ。表地が黄緑色と裏地が紫色このマントもとても似合っていて、モニカさんは美しいね」

 

 歯の浮く台詞がこうもすらすらと出てくるのは、たぶん今日が世間的に盛り上がるあの日だからに違いない。

 

「せ、背中に当たる繁太郎さんの胸板も、とても、たくましいです……。腕も、枯れ枝のような腕では無く、太く逞しい……私の主君の腕です」

 

 

 ※

 

 

 背後から忍び寄る気配。いつもなら簡単に捉えられるのに、今の私には捉えることが出来なかった。

 

 そっと、首の両側より延ばされたのは、私の知る手で、私の安心できる両手で、私はその手の行方に身を任せました。

 

「繁太郎さん……」

 

 私の主君、私の大好きな方、私の、モニカ・クルシェフスキーの愛を捧げている男性。この愛は死しても変わらない。来世でも再来世でも、私は繁太郎さんを愛することとなるでしょう。

 

 その愛する方が私を抱き締めている。ああ、なんて愛おしいのでしょう。愛おしさが募り行きます。

 

 私の首の下に彼の右手が入れられる。そうするのかは分かります。いつも為されている事ですから。

 

 一息に私の髪を撫で梳いていくのです。指を入れて慈しみを込めてくださりながら。

 

 床に広がるマントの上で渦を巻く私の髪の毛先のその先まで、彼の手指は梳き通されます。

 

「あ、あの」

 

 

 少し照れくさいです。こうされることが分かっていても、それでも女としては照れくさい。

 

「髪、長くて綺麗なモニカさんの金色の髪の手触りを楽しんでいたんだ。表地が黄緑色と裏地が紫色このマントもとても似合っていて、モニカさんは美しいね」

 

 髪を褒め、マントを褒め、次に褒めるのはきっと。

 

 ですので、先に私から責めてみました。その心の思うままに。

 

「せ、背中に当たる繁太郎さんの胸板も、とても、たくましいです……。腕も、枯れ枝のような腕では無く、太く逞しい……私の主君の腕です」

 

 帝国海軍出身の繁太郎さんは、そこらのなよなよとした男性には無いたくましさがある。

 

 心技体、全てが揃っているご本人は否定なさいますけれど、彼の過去を知り、その過去を乗り越えた今に居る彼を知る私には、そうだと言えるのです。

 

「モニカさん、顔、見せてくれるかな」

 

 ああ、私に責めさせてはくださらないのですね。

 

「い、今はその」

 

 今はきっと私の顔は鬼灯の色に染まっていることでしょう。とてもこの様な顔を見せるのは恥ずかしい。

 

 ですが、繁太郎さんは少し強引に。

 

「ナイトオブゼロモニカに告ぐ私の方に向きなさい」

 

「せ、せこいです。ずるいです。それは命令ではありませんか!」

 

 命令をされてしまいました。ナイトオブゼロ、嶋田繁太郎の騎士としての命令を。

 

「そんな事は聞いてないよ。答えは?」

 

「い、yes・MyLoad」

 

 うう、恥ずかしいです。

 

「……やっぱりだ」

 

「え?」

 

「やっぱり君のスカイブルー、マリンブルー、二つの蒼に例えても良い蒼い瞳は美しいよ。眉が隠れるくらいで切り揃えられた前髪も。身体の前に流された二本の赤いリボンで纏められ巻き付けられた横髪も。モニカ・クルシェフスキーの全てが美しいよ、美貌の我が騎士――ん」

 

 褒め殺しのような予想できた言葉に続いたのは――続いたの、は、まさ、か、の接吻、でした。

 

 

 

「し、し、し、し、繁太郎さっ、く、口付けっっ」

 

「あ、あははっ、すまん。だが、その、モニカさんとは、最近、時々、キス、してるから、さ……いいかな~って、今日、バレンタインだし、ね……その、俺とモニカさんは、こ、こ、婚約者、だしね」

 

 ええ、はい、そうです。私ことモニカ・クルシェフスキーと、彼こと嶋田繁太郎さんは、一身上の都合により婚約関係にあります。

 

 も、もちろん、行為は口付けまでで、夜の、所謂、せ、せ、せ、性行為は、結納が済むまでは致しません。

 

 繁太郎さんの、大日本帝国側はともかくブリタニアの大貴族とも成れば格式もあり、そう簡単には。

 

 さ、昨今はその様な古い考え方よりも、新しき考え方や価値観をこそ取り入れていくべきだと考える派閥も増えてきておりますが。

 

 我がクルシェフスキー家は1000年を数える歴史と伝統を持つ格式高き侯爵家という上位貴族。そう簡単に事は運ばないのです。

 

 ど、ど、ど、同衾等と、いや、同衾一緒に寝るまでは毎夜しております。もしかすれば繁太郎さんは私を抱きたいとお、お、お、お、お想いなのかもし、知れません。

 

 わ、わ、わ、私にも、その様な邪な考えが、な、な、な、無いわけでも無いのです。

 

『嶋田さん、押しに弱いですからねえ、モニカさんが押せば簡単に事は成就を見ますよ?』

 

 はっ!? い、いけません、辻卿の悪しき言葉に惑わされては。私はモニカ・クルシェフスキーはナイトオブトゥエルブとしても、クルシェフスキー侯爵家次期当主としても、淑女たらんを第一義としなければならないのですから。

 

「し、繁太郎さんお退きをっ」

 

「うわっ」

 

 つい押し退けるようにして繁太郎さんを私は押しておりました。

 

 押して、押して、押し倒しておりました。

 

 そうです。男と女と言えども六十代の男性と、二十歳のラウンズとでは力の差があったのです。

 

 

「……」

 

「……」

 

 私のマントがバサリと広がり、私と繁太郎さんの身体を覆い隠します。

 

 マントの裏生地の紫色が濃い闇を私と繁太郎さんの間に創り出します。

 

 しゅるると音がしたのは私の髪の毛がマントの生地を滑り落ちた音でしょう。

 

 身体の左右に綺麗に分かれて髪の毛は滑り落ちたようです。マントの裾の間だより金色の髪が見えておりますからね。

 

 

 

 ※

 

 

 

 ええーっと、いやこれ。これは俺、モニカさんに襲われてるのかなと一瞬現実逃避。

 

 身体の位置的に少しずれたせいで、フェイスとフェイスはぴったんこな状態で、頬はくっつき合っている。

 

 広がるマントの視覚的には表地の黄緑よりも、裏地の紫色がよく見える。

 

 丁度そう、モニカさんのマントにモニカさんと俺が、掛け布団でも掛けられているような体勢と言ったところ。

 

 毎夜一緒に寝ている状態が、今この場で、この甘いことをしてしまっている場で、再現されてしまっている。

 

 山本は『リーライナとはもうその、寝た。日本男児、惚れた女を抱かずして何が男か』そんな事を言っていたが、こっちは単なるサラリーマンなんだよ。モニカさんといずれはそうなると分かってても、こんな覚悟も無いトラブル的な物で致すとかそれは違うだろ。

 

 俺は改めてモニカさんを、モニカ・クルシェフスキーを見る臀部を越える長い金髪は真っ直ぐでくせっ毛も無い。蒼い、碧いその双眸には一遍の曇りさえも無い。正義は全ての人に平等に降り注がれるべき。目鼻立ちに容姿と合わせてその信念さえもが美しいときた。

 

 ああ、ただしく。正しく。いい、女だ。このいい女と俺は……。

 

「繁太郎さん――あ、ン」

 

 二度目のキス。今度のキスは、キスと呼べる物を越えていた。

 

「あむっ、ん、ちゅっ」

 

 俺は自分の舌をモニカさんの口の中に入れてしまい。彼女の口内を荒らし回った。

 

 

 

「んっ、ンンっっ」

 

 歯茎から始まり、歯茎をなぞっていっては歯の溝も同じようになぞる。

 

 歯の裏に侵入しては下口内を舐め尽くし、上へと上がっていくときには序でとばかりに彼女の舌の裏側を優しく舐める。

 

 舐めて舐めて、舐めてやっては絡みつく。

 

「んんっっ、はっ、あんンうっっ」

 

 両手は彼女の背に回し。彼女の両側左右の身体に分けられるように垂れ下がっていた金の髪を手で手繰り寄せ集め。

 

 手の平で一本に掴んではその艶々でさらさらの、長く、長く、美しい金髪の触り心地を堪能する。

 

 手の指で梳き、何度も梳き、その髪先は長くこの指は届かなくても、俺の物なんだと俺自身を擦り付けるように、擦り込む。

 

 ああ、モニカ、モニカ・クルシェフスキー。俺の嶋田繁太郎の、神崎博之の女。ああ、モニカ、君は俺の女なんだ。俺の運命の人なんだっ!

 

「ん、あむぅ、い、いけ、っ、いけませんっ」

 

 必死に抗ったのだろう。彼女の抵抗が実を結んだのか、俺の舌を自身の口内に入れたまま器用に発されたその声音に、俺はハっ?!となってモニカさんの口内から舌を抜いた。

 

「こ、これ以上は、その」

 

 い、勢いに任せてやってしまった。女性相手に、モニカさんを、愛する彼女を相手に何をやってるんだ……!

 

「お、俺こそ、俺の方こそ君を傷つけるような事をして、ごめん」

 

「い、いえ、傷ついてはおりませんっ。ですが、その、歯止めが掛からなくなってしまいます、その、私、も……」

 

「き、君も……?」

 

「繁太郎さん、私は自制心の強き騎士です。誇り高き騎士です。ですが、ですが、一人の女……、なのですよ? 愛する繁太郎さんからの本気の求愛を、私は、モニカ・クルシェフスキーは、受け入れるでしょう」

 

 そうすれば婚前交渉となってしまう。それはクルシェフスキー侯爵家としては少々具合が悪い。絶対に駄目だとは言わないが。伝統貴族の中でもかなりの力を持つ貴族だけに立場という物があるのだ。

 

 そう告げるモニカさんは、俺の唇に静かに自身の柔らかい唇を落として、その場に立つ。

 

 マントを払い、少しだけ愛着深そうに俺の触っていた彼女自身の髪を、彼女は梳き払い。

 

「ほら、繁太郎さん」

 

 言って、俺に手を伸ばした。

 

「モニカさん……ありがとう」

 

 応じて手を取る。黒い手袋に包まれた彼女の手を。

 

 

 

「そう言えば縁側で何を?」

 

「南天の事と、高麗の手に入れた大量破壊兵器について考えていたのです」

 

「はは」

 

「如何なされました?」

 

「いやなに、考えることまで同じだなあと」

 

 少し静寂が二人を包む。

 

 開いた縁側の戸から風が吹き込み、モニカのマントと見事な金色の髪を揺らせる。

 

「綺麗だね」

 

「えっ?」

 

「え、ああいや、モニカさんは綺麗だねって」

 

「そ、その様なこと……私は、普通ですよ」

 

「いやいや、モニカさんを普通と言ったら世界の七割が残念なことになってしまうよ」

 

「そんな、大げさですっ」

 

 また静寂が訪れ風が吹く。

 

 切り出したのは嶋田だった。

 

「そういえば今日は」

 

「2月14月覚えておりますよバレンタインデー。忘れるわけが無いじゃ無いですか。恋する乙女として」

 

「ははっ、それは嬉しいな。モニカさんの独特な味を今年も楽しめるなんて」

 

 感性豊かで独特な味だ。うっかり昇天しそうになるくらいに美味しい。

 

 人は不味いなんて言う人も居るけれども、俺はモニカさんの味が好きなんだよ。

 

 俺を知ってくれた彼女のその味が。

 

「独特とは、不味いとでも言いたいわけですか?」

 

「そんなことないさ。君のチョコレートは心の底から美味しいから」

 

「……」

 

 静寂は続かない。

 

 モニカはバサッと金縁とブリタニアの紋章、そして黄緑色と紫色に彩られたマントを翻す。長い金髪と共に。

 

「それでは今から作ります」

 

「い、今からかい?」

 

「はい。作り置きよりも当日に愛を込めてお渡ししたいのです。私の、モニカ・クルシェフスキーの愛情を嶋田繁太郎――神崎博之さんへ」

 

 神崎博之さんへ。この言葉を、この名を告げるときのモニカが本気である事は嶋田も、いや博之も知っている。

 

 秘密の名前であるからこそ彼女と婚約したその日に全てを告げた。自分は最悪の殺戮者。億の人間を殺してきた殺人者であると。

 

 自嘲気味に、自分を責めるように告白する博之にモニカは、それは過去のあなたがあなた自身の御国を守ろうとして行ったのでしょう。

 

 そうして彼の身体を優しい黄緑色のマントで包み込み、繁太郎さんは、博之さんは一生懸命に生きてきた。あなたの正義に救われた方も必ず居ります。

 

 ありがとう。私に本当のあなたを教えてくださって。私は知りたかったずっと、愛するあなたの本当を。そして思った通り、愛するあなたは、博之さんは、私の愛したあなた通りの方でした。

 

 

 その言葉に嶋田繁太郎と神崎博之は救われた。心に抱え持ってきた物を受け止めてくれる女性に出逢えた幸せに歓喜した。

 

 

「モニカ様っ、騎士服にマント姿で台所にはお入りにならないでくださいっ!」

 

「大丈夫ですっ、髪は纏めておりますっ!」

 

 

 副官さんとモニカさんのやり取りが聞こえてきたけど。まあ些事だろうな些事。

 

 

 



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ある日の二人

 

 

 

「涼しいですね……」

 

 吹き抜ける夜風が、彼女、モニカ・クルシェフスキーの長い長い、腰の下、膝裏近くまで届くほどの長い金色の髪をさわめかせながら、靡かせる。

 

「……」

 

 その、身近を通り越して、家族の様にこの四年ほどを彼女という女性と付き合い来た嶋田。

 

 出逢った頃はまだ少女の面差しを残していた女性は、すっかり大人の女性へと成長していた。

 

「うつく、しい……な」

 

 口をついて漏れ出た、自然な言葉。

 

 思いついたのでも、言おうとしたのでもない。

 

 ただ、何かぼんやりと、夜風に当たる、黄緑色のマントと長い金色の髪を揺らめかせていた、女性モニカ・クルシェフスキーを見つめていると、自然に口から零れ出ていたのだ。

 

「え……?」

 

 マントと髪を揺らめかせ、風に靡かせながら、彼女は嶋田を見遣る。

 

「嶋田、さん?」

 

 嶋田は、縁側に立つ彼女に、そっと静かに歩み寄ると。

 

「え、あ……っ」

 

 彼女の身体を静かに抱きしめていた。

 

 抱き止めた彼女の身体、嶋田の、彼の手には表地が黄緑色、裏地が紫色をした、彼女の足首までほどあるマントの生地が、しわを刻み。

 

 彼女の流れる清流の様な金色の美しい長い髪が、彼の手の内に収まった。

 

 

「しま、だ、さ、」

 

「ごめん、悪いね……、夜風にマントと金色の髪を靡かせている美しい人を、俺の大切な騎士を、この手の内に入れてしまいたくなってしまったんだよ……、他意は無い、ただ、どうしても、ね」

 

 告げられたモニカ。ナイトオブトゥエルブとして剣を捧げる皇帝陛下とは違う、もう一人の主君。

 

 モニカ・クルシェフスキーとして剣を捧げた、嶋田繁太郎という主君の腕(かいな)に抱かれ、彼女の頬は、自然、朱色に染まる。

 

 肌の色が白いからこそ、その紅色の頬は良く目立ち、見られたら恥ずかしいという羞恥を伴いますますを以て、薔薇色に染まっていくのだ。

 

 モニカの鼓動早くなる。ただ主君の腕に抱かれているだけだというのに、ああ、そうだ、私は、モニカ・クルシェフスキーは、この男性に剣を捧げるこの男性に、心さえも。

 

「嶋田、さん……、し、繁太郎さん……うれしい、です……、ですが、恥ずかしい、です……」

 

 剣と想いを捧げる男性よりの静かな抱擁。

 

 そこに大人としての、男女としての何かは無いのかもしれない。

 

 しかし、確かに私と彼の心は一つなのだ。

 

 男女としての行為的な物はこの瞬間には無くとも、彼女と彼は、男女として互いに想いを寄せ合っているのだから。

 

「恥ずかしがる事は無いよ、むしろ俺もその、こんな事をして、恥ずかしくなってきた……、何をやってるんだろうな、大切な君に、俺は……」

 

 恥ずかしいのはこちらだと伝える嶋田は、だが彼は、そう述べながらも、モニカを放そうとはしない。

 

 むしろ放したくない。いつまでもこのままで居たい気持ちの方が強い。

 

「嫌なら、抜け出してくれてもいいよ。もと海軍兵の俺でも、現役のラウンズであるモニカさんの力には、適わないからね」

 

 元帝国海軍の軍人だった嶋田。現役を退いて久しいとはいえ、年齢以上にたくましい、男らしい胸板に、モニカの胸が押しつぶされる様にして押さえつけられている。

 

 この拘束から力ずくで逃れえるのは容易。ナイトオブラウンズとは、そこらの騎士や軍人、格闘家など比べるのも烏滸がましいほどの戦闘の達人なのだ。

 

 

 だが、しかしモニカはこの腕の拘束から逃げる事など、出来ないのだ。

 

「無理です……、私には、繁太郎さんの腕から逃れえるだけの技量(心)は無いのですから……、ああ、私は……、あなたに捕まってしまえばもう、無力な女に過ぎなくなってしまう……」

 

「モニカさん……、君は、俺の前では、弱くなってしまうのかい?」

 

「いいえ、逆です……、モニカ・クルシェフスキーは、モニカは、嶋田さんの……、繁太郎さんの前では、常に最強であり、そして、……そして、最弱でもあるのです」

 

 誰よりも強くなれる。この男性を守る為ならば、この世の誰よりも強くなる自信がある。

 

 モニカにはその強い想いがあり、それが彼女をどこまでも最強の高みへと自身を引き上げてくれるから。

 

 だが、同時に弱くもなる。彼にひとたび身を委ねてしまえば、誰よりも弱い女となろう。

 

 相反する二人のモニカ。最強と最弱は、そうであるからこそ愛する主君の身体だけではなく、その心も守れるのだ。

 

 強いモニカがその身を守り、弱いモニカは彼の傍にて寄り添い、彼の心を守る。

 

「最強であり、最弱、二つ揃えば無敵だな。強さを知り、弱さを知る事は、大切な事だからね」

 

 嶋田は告げて、モニカの背を膝裏へとかけて、マントの生地に流れ落ちている長い髪の毛に指を差し入れ、優しく掬う、掬い、撫で、彼女の金糸を指に絡めて愛撫し、彼女への想いを伝える。

 

「我が騎士モニカ、嶋田繁太郎が尋ねる。君の想いは何処にあるのか?」

 

 問われたモニカは、胸に抱く想いのままに言葉を告げた。

 

「我が心は、私の心は、常にあなたと、繁太郎さんと、共に」

 

 自身の髪を梳かれながら、モニカは彼に頬を差し出し、触れ合わせた。

 

 冷たい秋の風が、吹き抜ける縁側。二人の触れ合う頬は僅かに冷たかったが、刹那に熱を帯び暖かくなった。

 

「その言葉に偽りは無いかなモニカさん」

 

「はい、イエス、マイ・ロード。繁太郎さん……」

 

 触れ合った頬が強く擦り込まれる。互いの頬を、互いに擦り合う。

 

 それは、今まで何度も行ってきた二人だけの儀式。

 

 神聖で不可侵、余人が立ち入ってはならない空気を二人は出しながら、お互いにお互いの温もりを分かち合っていた。

 

 

 風が吹き抜ける。秋の夜風、少し冷たい夜風が二人の立つ縁側を吹く抜ける。

 

 しかし、この風はもう、先ほどの様にモニカのマントと金色に輝く美しい髪を靡かせさらう事は無い。

 

 何せ、そのモニカの黄緑色のマントも、長い金髪も、嶋田繁太郎という主君の手の内にあるのだから……。

 

 



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あなたの秘密

CP:嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー

甘くはないです。

苦いです。


 

 

 

 

 昼。昼食を早く終わらせた俺は駐日ブリタニア大使館に予定があって足を向けていた。

 

 この大使館、とにかく他国の大使館と比べて無駄に豪勢で広い。

 

 このあたり、ブリタニアの権威主義的なところが露骨に現れていると言えなくも無いが。他国は他国。うちはうちってって奴かな。

 

 ずらりと並ぶ豪勢な部屋達。

 

 その部屋の一つ一つの前を通っていくと、昼食時だからなのかメシの匂いがしてくる。

 

 本来なら彼らは貴族。外の一等地に建てられた貴族専門、金持ち専用のお店へと向かうべきだろう。

 

 いや、実際にそういう所で昼食を食べている者も居るし、日によってはそういう店で昼食を食べたりするだろう。

 

 ただ一人を除いて。

 

 ※

 

 そろそろ出来ましたね。

 

 

 立ち止まった部屋の中より聞こえる声。

 

 

 カップヌードルチリトマトソース味。一時は消えていたこのラーメンを食す機会を貰えたことを天に感謝し、本日も一日平等なる平和を目指して。

 

 

 君の平等なる平和とは変わったカップラーメンと交換に出来る物なのか。

 

 もちろんそれが冗談だと知ってはいても突っ込まずにはいられない。

 

 これ以上ナイトオブトゥエルブの失態を見るのも悪いと思った俺は、モニカさんに声を掛けた。

 

「失礼、こちら、ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー様のお部屋でしょうか?」

 

「はッ!?ひゃひゃ、ひゃい少しお待ち下さいね。」

 

 カップラーメンを見えないところへと片付け始めるモニカさん。無駄だって音も匂いも消せないんだから。俺、部屋の前にいたのだから。

 

「あー、モニカ・クルシェフスキー殿。遺憾ではありますが、わたくし全て見ていたのと。匂いの方も良く匂っておりましたよカップヌードルチリトマトソース味」

 

「はううううッ! し、嶋田さんに見られたのでしょうか」

 

「いや、俺、今日昼に大使館来るって行ってたよね君に会いに」

 

 そういうと。彼女はチリトマトの様に頬を赤くして俺を見た。

 

 黄緑のマントが風もないのに靡くのは彼女がぶんぶん手を振るっているから。タイトなスカートの白い騎士服。彼女がお仕事をしている時の姿。

 

 家でも時々見る姿で、騎士はいつでも強く有り平穏と平等なる正義の為にあらねばならないのですと呟いている。その心の在り方は素晴らしい。でも、少しくらい肩の力を抜いても良いと俺は思うよ。

 

 肩肘張った生き方は疲れるからね。

 

「はい、そうでした。新作の復活についつい忘れてしまっておりました。騎士として失格です…………」

 

「君ほど騎士らしい騎士もいないよ。少なくとも俺に取って騎士と言えば――」

 

 俺は歩いてモニカさんの執務机による。立とうとして失敗したのか彼女は尻餅をついていた。

 

「モニカ・クルシェフスキーキミ以外に居ない。なんてこと言ったら他の騎士さんに怒られちゃうね」

 

 俺はそんなモニカさんの頭を撫でて。頭から髪へと五指を入れて撫で梳いていく。ついでにマントの背中部位も撫でてあげて、すっかり慣れたなこういうの。二人で居る時のこういった行為。本当は良くないのだろう。お嫁に行く前の女性の身体を舐め回すように触るだなんて。

 

 それがたとえ、俺の所であったとしても。俺が入り婿として向江は居るとしても。俺はモニカさんの手を引いて立たせると。彼女を真正面に見据えて。

 

「し、しまださ――」

 

 ガバッと抱き締めた。彼女は最強の騎士だ。俺の腕の中から脱することなんて簡単なはず。でも彼女、モニカ・クルシェフスキーはそうしない。

 

 ただ、自分を抱き締める手にすりすりと頬擦りをするのだ。その頬擦りはやがて俺の頬にまで及び、俺たちは二人静かにこの部屋で頬擦りをする。

 

 お互いが大切だから。彼女の言う平等なる正義の中に存在する唯一の不平等たる俺に、彼女は愛撫という極上の返答を以て返してくれるのだ。

 

 家にいるときでも、外に居る時でも、任務の最中でも、この執務室でも、宮廷の舞踏会でも。何処に於いても彼女の、モニカ・クルシェフスキーの特別は、俺、嶋田繁太郎らしい。

 

 モニカさんの腕が俺の首に伸びる。これはそれの合図。あの行為の合図だ。書類が何枚か落ちたようだけれども、彼女は気にしない。

 

 眼前に迫るのは金髪の白人の顔。美麗で美しい女性の顔。今年二十歳を迎える女性の顔。金の眉は細く長く、金の前髪は眉が隠れるくらいで切り揃えられ。金の横髪は左右共に赤いリボンで縛り、くるくると髪の房に巻き付けている長い金の髪の房に。

 

 後ろ髪は腰よりも長くこちらも癖の無い真っ直ぐな金色に輝く髪の毛。両の瞳はスカイブルー? マリンブルー? 美しき蒼天の空の色、深き深海の蒼。その二つに例えられる美しさ。

 

 身体の線は恥ずかしながら胸はそこそこ大きく、腰はくびれ、無駄な肉の付いていない、騎士らしい鍛えられた身体をしている。この身体に抱き締められたこと。何度あったろう。

 

 艦所は俺の事をよく抱き締めてくる。そしていつも言うのだ「嶋田さん分が足らない」と。俺分ってなにと聞くと、嶋田さんのエネルギーですと帰される。

 

 嬉しくて、幸せだ。俺なんかから幸せのエネルギーを補充してくれるなんて・

 

 その時に感じる幸せは、他の全ての幸せと引き換えにしても良い物。だが、いつも思うんだ。あまねくひとに平等ある正義をと唱える彼女を前にしているから思うんだ。億の人間と動植物を殺し、血にまみれたこの手で、この美しい女性に触れてしまってもいいのかと、いつも悩む。

 

 彼女の知らない俺。神崎博之の犯した大罪。知られては成らない。知られたら軽蔑の眼差しと、恐怖の視線を受ける。

 

 ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー氏はいつも言う。あなた方は一体どれだけ殺せば、一体どれだけの人間を闇に送れば、そこまでの匂いをさせることが出来るんですか?

 

 そんなルキアーノ氏の前で屈み目線を合わせた辻さんがただ一言「知りたいですか?」と質問しただけで、ルキアーノ氏は震え上がったとナイトオブワン、ヴァルトシュタイン卿は言っていた。そして貴方たちは一体何者なのだとも。

 

 俺たちは一体。その答えは簡単だよ。大量殺戮者だ、歴史と世界を超えてやって来た稀人だよ。

 

 雑念に支配されていた俺は、せまるモニカさんの唇を、敢えて拒絶した。

 

「嶋田、さ――」

 

 いまのオレにモニカさんの美しい唇を受け入れる資格は無いと思ったから。

 

 ただそれだけ。

 

「モニカさん、カップヌードル冷めちゃうよ」

 

「あ…………」

 

 俺は誤魔化し、モニカさんに書類を押し付けて、彼女の執務室から逃げるように立ち去った。

 

 マントの裏生地の紫の色が、やけに悲しげに見えた。

 

 

「モニカさん。モニカ・クルシェフスキー……俺のこの両手は、億の人間の血で汚れているんだ。そして状況が合致すればまた億の人間を殺すだろう。そんな、殺戮マシーンなんだよ。君の手に、触れては成らない人間なんだよ……」

 

 いつも触れているけど今日は触れられない。それを思い出してしまったから。だから、今日はダメなんだ。聖女の如き在り方を持つ君に、大魔王が触れては成らない。君の光が損なわれてしまうから。

 

 雨が降ってきた。丁度良い気分だ。このまま雨に濡れて返ろう。

 

 

 

 あなたの秘密

 

 

 

 本日正午。嶋田さんが駐日ブリタニア大使館を訪ねてこられました。

 

 お約束していた書類の受け渡しにです。すっかり忘れていた私は売れ行き不振なのか消えていた、でも今はレギュラー化したようなカップヌードルチリトマトソース味を昼食として食べようと用意していました。

 

 そこを声を掛けられてしまったのです。急いで隠しましたが見つかってはいないでしょうか?

 

 ですが無情にも。

 

「あー、モニカ・クルシェフスキー殿。遺憾ではありますが、わたくし全て見ていたのと。匂いの方も良く匂っておりましたよカップヌードルチリトマトソース味」

 

 見られていたのとしられていました。

 

「はううううッ! し、嶋田さんに見られたのでしょうか」

 

「いや、俺、今日昼に大使館来るって行ってたよね君に会いに」

 

 そういわれると、顔が充血して真っ赤になってしまいました。肌が白いので赤みが差すと良く分かってしまうのです。

 

 

 嶋田さんの視線は私のマント。騎士服。へと自然と巡り、私を品定めしているかのようです。ああ私は騎士失格なのでしょうか。

 

 しかしでも、嶋田さんは時には肩の力を抜いて仕事をした方が良いよと言うに留めました。騎士失格では無いのでしょうか。

 

「はい、そうでした。新作の復活についつい忘れてしまっておりました。騎士として失格です…………」

 

「君ほど騎士らしい騎士もいないよ。少なくとも俺に取って騎士と言えば――」

 

 モニカだという彼。私はドキンと心臓が鳴ってその場に崩れ落ちました。

 

 そんな私のところへと嶋田さんは歩いてきて執務机に寄りかかって参ります。立とうとして失敗した私は完全に尻餅をついておりました。

 

 そんな私の頭を嶋田さんは撫でてこられて。頭から髪へと五指を入れられ、私は髪を撫で梳かれました。髪を撫で梳かれることはこれが初めての事ではありません。もう、家でも、部屋でも、縁側でも、外でだとて、何処ででも髪を撫で梳かれます。マント越しに背中も撫でて下さって、私はこの瞬間が好きです。嶋田さんが私に触れて下さる一瞬一瞬が。

 

 私と嶋田さんは今年に入り、婚約をしました。何れ嶋田さんはクルシェフスキー家に入り婿という形で入ることとなります。急に嶋田さんは私を立たせ、私を真正面から見据えます。いつ見ても精悍なお顔。

 

「し、しまださ――」

 

 そのままガバッと抱き締められました。こ、このようなところで、困惑する私。如何に最強の騎士を名乗ってはいても私も一人の女です。こうして急なる行為に出られてしまえば。この腕から脱すること、出来なくもありませんが、私は呪縛が掛かったかのように身体が硬くなってしまっておりました。

 

 ただ、一つ、出来た事。それは、私を抱き締める彼への手への頬擦り。頬擦りだけは身体が動かずとも出来ました。私はその頬擦りを次第に彼の頬にまで及ばせ、彼もまた私が擦り付ける頬に合わせるように頬擦りを成されて、私たちは二人静かにこの部屋で頬擦りをする。

 

「ん、ん、っんん」

 

 お互いが大切だから。でも、ですが、彼は時折彼を見せてくれなくなります。彼の心がいつも見えるのに、彼の心が闇に閉ざされ見えなくなることがあるのです。私にはそれがとても不安。彼がいつの日か何処かへと消えてしまいそうで。彼はいつも極上の愛撫をくださいます。

 

 家にいるときでも、外に居る時でも、任務の最中でも、この執務室でも、宮廷の舞踏会でも。何処に於いても私の、モニカ・クルシェフスキーの特別は、嶋田繁太郎なのです。

 

 私は腕を伸ばします。彼の首へと。これはそれの合図。あの行為の合図なのです。彼もお分かりくださっているはず。書類が何枚か落ちたようだけれども、私はは気にしない。

 

 眼前に迫るのは平たい日本人特有の顔。でも生還で勇ましい海軍軍人だった彼の顔が其処にあります。今年還暦を一つ超えるのでしょうか。そんな男性の勇敢でたくましく見える様。太く黒い眉、髪は短く刈り上げられ。髭を蓄えているお姿が格好いい、今は普通のスーツながら、海軍の制服なら、沢山の勲章で彩られ、彼の戦歴のすごさを物語る何よりの証明となっております。

 

 短く刈り上げられた髪はくせっ毛の無い直毛、彼が私の髪を触る時、私も彼の髪を触ります。お互いに触っていないところなどないでしょう。両の瞳は深い深い黒? どこまでも深く闇の其処深淵へと続いているかのような。この瞳が私を不安にさせるのです。嶋田さんを連れ去ってしまう深淵なのでは無いかと。

 

 たくましい胸板に、腰は太く、骨格筋が鍛えられてきた証。無駄な肉の付いていない、鍛えられた身体をしている。この身体に抱き締められたこと。何度あったろう。

 

 その時に感じる幸せは、他の全ての幸せと引き換えにしても良い物。でも、いつもこの手が私を抱くとき彼は必ず躊躇する。まるで触れてはいけない物に触れようとしているかのように……。どうして……?

 

 私の知らない彼。私の知らない彼の闇。知られては成らないのかも知れない。知ってはいけないのかもしれない、知られたら私と彼の関係が終わってしまうほどの秘密、恐怖の視線を受ける。

 

 ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリーはいつも言う。あなた方は一体どれだけ殺せば、一体どれだけの人間を闇に送れば、そこまでの匂いをさせることが出来るんですか?

 

 そんなルキアーノの前で屈み目線を合わせた辻卿が、ただ一言「知りたいですか?」と聞いただけで、ルキアーノは震え上がったとナイトオブワン、ヴァルトシュタイン卿は語っていた。そして貴方たちは一体とも。

 

 彼らの秘密、彼の秘密。その答えは簡単だよ。君とは決して相容れない、逆位置の存在なんだよ。本当はね。

 

 その言葉を思いだしていた私。せまる私の唇を、彼は、拒絶した。

 

「嶋田、さ――」

 

 君とは決して相容れない、逆位置の存在なんだよ。本当はね。

 

「モニカさん、カップヌードル冷めちゃうよ」

 

「あ…………」

 

 その言葉が頭にこびりつき、心に纏わり付いて離れない。

 

 嶋田繁太郎――私の愛するお人――貴方は一体、何者なのですか?

 

 



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満面の笑み

嶋田さん×モニカ


 

 

「本年度の国内総生産も二桁増の一京数百兆円ですか。安定しておりますね」

 

 丸眼鏡の奥の瞳が満面の笑みを受かベている。

 

 がくがくぶるぶる震えている枢木ゲンブは、自分は今日勝ったのだと心の中でガッツポーズをしていた。

 

「まあ、軍事費にも500兆以上回してもいいでしょう。これだけの収入があるのならば」

 

 すると倉崎翁が。

 

「うちの造船をフル稼働かね」

 

 と大笑い。

 

 伏見宮も嬉しそうだ。

 

「南天との張り合いで膨らんでばかりの軍事費も、これだけの異常な好景気ならば増やしても問題はなさそうだからな」

 

 阿部も笑顔でこれで内閣解散しても政友会の大勝は間違いないでしょうと報告書を読んでいた。

 

 

 みんなが笑顔。満面の笑顔。満面の笑顔なのだ。

 

 ふとこの会議室の扉の外。本来なら彼女も其処にさえも入れないが、本日は護衛が体調を崩していたために特別に外にてこの部屋を守っている。

 

 駐日武官としての仕事はリーライナ・ヴェルガモン卿に引き継ぐ形で。

 

 ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーは夢幻会の護衛に就いている騎士の事が気になった夢幻会元老の一人、大日本帝国影の支配者の一人嶋田繁太郎。

 

 

 

 満面の笑み

 

 

 

「少し失礼」

 

 嶋田繁太郎は自分の席を立つと、過去最高益を叩き出している数値に喜んでいる面々の間を縫い、一つの会議室の扉を開いた。

 

 扉の外。そこには、上下白、タイトなスカートな純白の騎士服に、表地が黄緑色で裏地が紫色の足首まで届くマント。黒いブーツを履き、隙無く立っていた女騎士の姿があった。

 

 腰下膝裏へと流れるくらいの美しく真っ直ぐな金色の髪に、蒼穹の、或いは深い海の蒼い瞳を持つ女性。

 

「モニカさんお疲れ様です」

 

 かっこいい騎士の体現者である彼女。優しい騎士の体現者、思い遣り深き女性。そんな彼女は静かな微笑を称えて嶋田を迎え入れた。

 

「まだ、会議中ではないのですか?」

 

 モニカは、彼女は凡そ感付いている。此処に居る人間は、本当の意味で日本を支配している者たちであることを。お飾りの枢木ゲンブや澤崎敦とは根本的に異なる存在達なのだと。

 

 そんな中に自分は呼ばれてかなり緊張していた。

 

 嶋田は、そんなモニカの傍に寄ると、家でしている様に、何も言わずに彼女の身体をそっと抱き締めた。

 

「あ、あの、し、まだ、さ……、」

 

 モニカは驚くももがかない。もがかずにその抱擁を受け入れる。

 

 抱き締められる身体。

 

 皺を刻むマント。

 

 金色の真っすぐな長い髪は幾度も幾度も繰り返し梳かれ、その手指の心地よさにモニカは蒼い瞳をふっと閉じる。

 

「モニカさん、今も微笑んでいたよね」

 

「え?」

 

 しゅ、しゅ、モニカの長い金色の髪を梳き撫でる音だけが響く。手櫛が無いから手指で救う。いつも行っている事だ。

 

 これはクルシェフスキー侯爵や、モニカの父であるシャルル・ジ・ブリタニアの前でさえ行った事がある。

 

 だから何です。私にこの子を預けているのは貴方方でしょうと。侯爵もシャルルも微笑ましく見つめているのが印象的だ。

 

 嶋田卿に、シゲタロウに託して良かったと二人はモニカの居ない場所で話していたのを覚えている。

 

 そんなモニカ・クルシェフスキー。彼女はいつも微笑む、たおやかで淑やかな静かな微笑を浮かべている。

 

 ただ、満面の笑みを中々浮かべない。

 

「一度ね、いや、また、かな? モニカさんの満面の笑みを見たいなと思ってね」

 

「それは……、難しい、注文ですね……私、微笑みはしますけれど」

 

 満面の笑みは中々浮かべられない。

 

 嶋田は周りを見渡す。見渡し、カメラの死角へとモニカを引っ張っていく。

 

 そして、唐突に振り返り、モニカを抱き寄せ。

 

「ちゅ──」

 

「んうっ?!」

 

 普段絶対にしない事をしていた。嶋田繁太郎という男らしくない事を。

 

 誰だろうこの人は? モニカも一瞬そう思ってしまう程に積極的。

 

 その理由は。

 

「ほら、モニカさん驚いた」

 

「そ、それは驚いてしまいます! い、いきなりの、その、く……口付け、なんて……」

 

 嶋田の顔は真っ赤。モニカの顔はなお真っ赤。二人ともこの様な行為は慣れていないのだ。

 

「あー、その、ね。百面相じゃないけれどさ。モニカさんもこうして唐突な何事かがあれば驚いたりする訳だよ。だからさ、その、満面の微笑を浮かべられる時だってあるはずなんだよ」

 

 嶋田はモニカの柔らかい微笑が好きだが、きっとクルシェフスキー侯爵や、実父であるシャルルさえ見たことがない満面の笑みを独占したいなと考えたのだ。

 

 夢幻会のメンバー皆が笑うこの嬉しい場所で。

 

 すると、モニカの口角の両端が持ち上がり、瞳がにっこりとした微笑みを形作っていく。

 

「いま、だけ……ですよ。繁太郎さん……」

 

 ニコニコ微笑む美しい騎士に見惚れた嶋田は、その騎士をそっと掻き抱くのであった。

 

 

 

 



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コードギアス 反逆のシマダ
コードギアス 反逆のシマダ



このお話しは蒼の混沌掲示板様にて創作されておりますスレッド【日本大陸スレ】の設定である国土が10倍に拡大、肥沃で資源豊かな日本列島となった日本を前提としたお話しとなっております。
カップリングは提督たちの憂鬱主人公、嶋田繁太郎とユーフェミアという形になっておりますので御注意ください。
拙作【帝都の休日・円卓の少女】系列とは異なり、年齢差の恋愛物ではありません。


オリジナル設定。
大陸ギアス・ルートその2短編。
角川スニーカー文庫コードギアス反逆のルルーシュ STAGE-0-ENTRANCEの背景有り。
漆黒の蓮夜の単語・人物背景を元にした要素有り。



 

 

 

 

 漆黒の髪。

 

 黒真珠のような輝きを持つ瞳。

 

 平凡な東洋人の容姿に、されど東洋人ではない。

 

 そんな一人の少年が目を覚ました。

 

 

 

 

 

 深い眠りから目覚めた少年は、どういう訳か混濁している記憶を少しずつ掘り起こしながら辺りを見回す。

 

(ここは、どこだ……?)

 

 知らない部屋だ。

 

 内装も、周囲の様子も、自身の家の屋内とまったく異なる造り。

 

(俺は、確か……)

 

 家にいた。

 

 静かな余生を送る終の棲家で眠りに就いた筈だった。

 

 睡眠とは異なる、長き眠りに……。

 

(じゃあここは)

 

 少年の思考に浮かんだ答えは、たったひとつ。

 

(黄泉の国?)

 

 辿り着いた答えは、“それ”に帰結する経過を辿りココへ来たが故のものだ。

 

 この身は数刻前に時の終わりを迎え、その役目を終えた筈だとして。

 

(そうだ。俺は確かに死んだ筈だ)

 

 自分の身体のことだ。誰に言われるでもなく分かっていた。

 

 身体が思うように動かなくなった頃より感じていた己の死期。

 

 それをここ数日の間は特に強く感じていた。

 

 悟りの境地とでもいうのだろうか? 

 

 人間、不思議といつ頃かというのが見えてくるものだ。

 

 その予期していた通りに訪れた。

 

 予定通りに迎えた『その日』。

 

 彼は薄れ行く意識のなかで騒がしかった日々の情景が思い出しながら。

 

 “その時”を待っていた。

 

 仕事をしていたとき、ふと気が付けば西暦1905年──日本帝国海軍巡洋艦和泉の艦内にいた。

 

 そこで会社員であった自分……神崎博之が、嶋田繁太郎というまったくの別人に憑依してしまった事を知る。

 

 自らの人生で学んだ歴史とは大いに異なる世界の流れ。

 

 流れを変えたであろう者達との出逢い。

 

 それに連なる幾多の戦争と世界経済への介入。

 

 手を出すことなく封じた地域に。

 

 手を出さざるを得なかった地域。

 

 内部の膿を出すためとして、時に同志であった身内でさえも切り捨てながら破滅の未来を回避する努力を積み重ねてきた。

 

 しかし。

 

 その努力の甲斐もなく迎えた最大の難事──対米戦。

 

 確実なる勝利をもぎ取る為として、自然を利用した大作戦すら実行に移した。

 

 その後に訪れた先の読めない世界情勢。

 

 本来の歴史より外れた世界の流れに苦慮しながらも仲間と共に日本を導いてきた年月。

 

 先に逝った友人達の顔を思い浮かべながら、次こそは安寧なる世界で静かな人生を送りたい。

 

 平凡な家庭に生まれ、そしてのんびりとした一生を送りたい。

 

 そんな己が願望を思い描きながら、睡魔に身を任せて目を閉じ。

 

 旅立った。

 

 

 

 そう、旅立ったのだ。

 

 

 

 しかし──。

 

(あの世にしてはこう、らしくないというか)

 

 閉ざされた視界は永遠だったのか? 

 

 それとも瞬きほどの一瞬であったのか? 

 

 再び目を覚ました時、彼がいたのは此処だった。

 

 光に満ちた草原や、懐かしい顔触れが迎えに来る花畑といった天国的な物でも。

 

 賽の河原に地獄の鬼といった、おどろおどろしい物でもない。

 

 至って普通の部屋。

 

 死後の世界にしては、あまりに現実的なこの風景。

 

 ともすれば、死後ではなく生前その物のような。

 

 つまりこれは、あの世なのではなくこの世なのではないのだろうか? 

 

 そう思えるほどに感じ取れる“死”よりも“生”の感覚。

 

「どうなってるんだろうな、これは」

 

 自分が死んだのは間違いない。

 

 四肢の感覚を失い、己が死を自覚しながら眠りに就いたのだから。

 

 気のせいなどではなく、本当に今までとは異質である眠りの感覚に身を任せて。

 

 ではなぜ、こんなにも生を感じられるような状況下にあるのだろう? 

 

 身体のことは分かっても、この事態については何一つ知り得ようもない彼は、袋小路に陥り導き出せなくなってしまった答えを誰かに求めたい。

 

 そんな気分だった。

 

 ──丁度その時である。

 

 そんな彼の疑問に、この空間。

 

 この世界は、己に代わって回答させようとでも考えたのか? 

 

 この殺風景な部屋と外部とを隔てている扉を、まるで新しい世界の住人を歓迎するかのように、勢いよく開放させたのは。

 

「っっ!!」

 

 開かれた扉の向こう側には扉を開けたであろう人物の、一人の少女の姿があった。

 

 誰だ? そう思う彼の目が少女の藤色の双眸と交差する。

 

 瞬間。

 

 ふわりと宙を舞ったのは、美しき桃色の──。

 

「うわっ!」

 

 身体に衝撃が走り、起こしていた上半身がよろりと揺らぐ。

 

 扉を開いた人物が己に向って勢いのままに飛び込んできたのだ。

 

「シゲタロウっ!」

 

 己へと飛び込んできた見知らぬ少女は名を呼び肩を揺すってくる。

 

「大丈夫なのっ?!」

 

 名を呼んだという事は自身を知る人物であることは間違いなかったが、いったい誰なのだろうか? 

 

 長く艶やかな桃色の髪。

 

 その髪に付けられたコサージュは白桃色で、まったく同じ物を胸元に四つ付けられた、袖のみが橙色の黄色いドレス姿をした外国人少女。

 

 一体誰か? 

 

 訪ねる間もなく此方の肩を揺さぶって心配する可愛らしい外国人の少女に、唯でさえ事態が飲み込めないでいた彼の混乱に拍車が掛かる。

 

「ねえ大丈夫ですのシゲタロウっ!」

 

 伝わり来るのは心よりの強き感情。

 

 彼女はその感情の赴くままに身体を揺さぶってくるのでぼーっとしていた頭が揺れて少し気持ちが悪い。

 

 だが、お陰で実感することが出来た。

 

(そうか……俺は、生きているんだな)

 

 身体には生の感覚があり、血の巡りを感じられる。

 

 揺さぶられると頭がぐらぐらして気持ち悪い。

 

 そして何より誰かと触れ合える肉体が自分にはあった。

 

 それは紛う事なき生その物な状態に無ければ味わえない感触だ。

 

 答えを運んできた少女を前にすんなりと我が身の状況を受け入れられたのは、それがかつて体験した巡洋艦和泉の出来事を思い起こせたが故。

 

 何事がありこの少女が心配しているのかその真偽の程は不明なるも、怪我をしていたと考えられる処まであの時と同じだ。

 

(──っ!)

 

 自らの身が“生”の状態にあると自覚し始めたとき、不意に彼の頭が疼きだす。

 

(……痛い)

 

 気になり手を当ててみると、なにやら布のような物が巻かれている事に気が付いた。

 

 どうも痛みはこの部位より感じるようだ。

 

(包帯……? じゃあやっぱり怪我をしていたのか)

 

 心配する少女の様子に自分の状態があまり良い物ではない。

 

 または良いとは言えない経過を辿って此処に居た事を推測できたのだが、どうも怪我をして気を失っていたらしい。

 

 本当に一度あること──前世と同じようなことは、二度目もまた同じような事象に見舞われる物なんだなと熟々思い知らされた。

 

「何か仰ってっ!」

 

 またも己を呼ぶ少女。

 

 今度はきつめで苛立たしさを感じさせる声音となっている。

 

「あのさぁ、こんな近くに居るんだから一々怒鳴らなくても聞こえているし大丈夫だよ。それにちょっと頭が痛いだけなのに大袈裟に騒ぎすぎだよ“ユフィ”」

 

 安心させるべく言葉を選び話した彼は知らないはずの彼女の名を口にしながらその藤色の瞳に自らの健康振りをアピールした。

 

 口調が子供のそれになっている事には多少の違和感も有ったれど、これが自然なのだと言い聞かせながら腕を上げ振るう。

 

「ほら普通に身体も動くし」

 

 数刻前には動かせなくなっていた身体が自由に動く。

 

(身体が動くというのはこんなにも素晴らしいことなのか)

 

 少女を安心させようとして腕を振り身体を動かしているというのに、身体の衰えた老年期を過ごしてきたからこそ理解できてしまうその開放感に少し舞い上がってしまった。

 

 そんな様子が気に入らないのか? 彼女は先程までの心配気な表情を180度転換させて急に怒り出した。

 

「もうっ! 反省の色が足らないわっ! ルルーシュもナナちゃんもみんな心配してるのにっ!」

 

(あ、怒った。ふむ、少しばかり軽率だったかな?)

 

 “あんなこと”があって気絶して、それで此処に居るわけで。

 

(あんなこと……、これは、記憶が……)

 

 頭の疼きが増す事に、経験した事のない、身に覚えのない記憶が洪水のように流れ込む。

 

 つい今し方まで何事があり此処に居るのか分からない筈だったというのに、今ははっきりと分かるのだ。

 

 此方を心配し気遣う彼女を前に余裕をアピールしてしまったのだから心配転じて怒りもする、その自分の身に起った何事かの理由が。

 

 しかしだ。

 

「反省の色って……別に俺が悪い訳じゃないだろうに」

 

 “自分が”悪い訳じゃない。

 

 気絶した理由も原因も全て外的要因によるもので、自身には何の落ち度もないのだからして。

 

 しいて悪い人間を上げるとするのならば……。

 

(“あいつだ”)

 

 そう、彼だ。

 

「まず怒るなら俺が怪我をする原因を作ってくれた“ルルーシュ”に向かって怒りをぶつけてくれると助かるんだがな、ユフィ。そこの処はどう考えてるんだい?」

 

 もう一度口にした彼女の名前は、頭の疼きが増す事に“しっくり来る”感じがした。

 

 ずっと昔からそう呼んでいる。知っていて当たり前で彼女の名を口にしない日はない。

 

 自分の生活に溶け込んでいる存在として“自分は”彼女を認識し始めているのだ。

 

「ルルーシュの事は後ですっ! いまはみんなを心配させたシゲタロウの反省の無さについて話してるのっ!」

 

「だからさぁ、反省も何もどうしろっていうのさ。不意に飛んできた空き缶をさっと避けられるような身体能力が俺にあるとでも思ってるのか君は。言っておくが俺は“スザク”みたいにあの年にしてはかなり高い身体能力を持つびっくり子供じゃなくて普通の“お子様”なんだから」

 

(ユフィ……ユーフェミア……。ユーフェミア・リ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国第三皇女にして、俺の親戚たる……少女)

 

 それは例え自分が知らずとも、自分が入ったこの身体が知っているという……それだけの話だ。

 

 それはいま、彼の身に起こっている現在進行形の事象。

 

 神崎博之=嶋田繁太郎が、そして今の“自分”という3つの存在が融合し定着を始めている『憑依現象の一端』。

 

(怪我をして意識を失ったらしい処からの回復に続き、これも同じというわけか)

 

『二つの記憶の存在』と『自分が何者かという知識』。

 

「でしたら身体を鍛えてくださいっ! シゲタロウが稽古を付けて欲しいと仰っていたとお姉さまに申し上げますのでっ!」

 

 己が置かれている状況に対しこれだけで納得してしまえる辺り所詮は二番煎じといったところなのか。

 

 それとも、経験は物を言うというやつなのか。

 

 この身体の人物が何者で、どういったことをしてきたのか。

 

 総てが手に取るように理解できてしまった。

 

「余計な事しないでくれ……。俺は稽古付けて貰いたいとは思ってないし、それに子供の馬鹿騒ぎに大人の“コゥ姉さん”を巻き込んだりしたら迷惑だろう」

 

 記憶から“自分の在り方”や“自分という人間がどういう人物なのか”を探り出し言葉遣いをトレースしつつ、怒る桃色髪の少女への受け答えをしながら更に記憶を掘り起こしていく。

 

 

 

(なにもかも同じだな。前世で嶋田繁太郎になった“あのとき”と)

 

 そしてどうやら一度体験済みの“憑依・融合現象如きに”驚いてばかりも居られない状況にあるようだということまでも。

 

(平穏を望んで眠りに就いたというのに、どうしてこうも厄介な立場に立たされてしまうのやら……。これは近いうちに一度本格的な厄払いでもしてみるか?)

 

 

 

 皇歴2010年5月12日。

 

 エリア11として国の名を奪われた絶望の日本が舞台の、あの反逆物語の根幹となる戦争が始まる年。

 

 彼が目を覚ましたのは。

 

 そんな物語としてのみ存在する筈の、架空である筈の世界。

 

(しかしなあ、何が何だか訳が分からなくて混乱してしまうぞ、これ)

 

 そして自身の記憶の中に僅かばかり残っていたあの反逆世界の知識とは多くの差違が見受けられる世界でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 コードギアス 反逆のシマダ

 

 

 

 

 

 

 

(さてと、まずは記憶の整理だ)

 

 あの後、二言三言の苦言を呈してくれた彼女は「みんなを呼びに行く」と言い残し部屋を出て行った。

 

 心配してくれた彼女には悪い事をしたと思う物の正直に言えば助かる。これで自分の記憶を辿り整理する時間が出来たのだから。

 

 世界の形を探り今までに何が起きたのか。

 

 これから何が起きるのかを把握する為にも一人になる時間が必要なのだ。

 

 まずこの身は前世において憑依した仮想戦記の悪役にして、史実では東条英機の腰巾着・小間使い・副官と、散々な評価を下されていた海軍軍人としての嶋田繁太郎ではない。

 

 子供だった。僅か12歳の、まだまだ親を必要とする子供であった。

 

 ただ一点、普通の出自でも普通の子供でもない事のみが、頭を抱えたくなる事実として立ち塞がってきたが。

 

(シゲタロウ・リ・シマダ、ね)

 

 

 

 何がどうなったのか? 

 

 今の自分は神聖ブリタニア帝国シマダ大公家嫡子シゲタロウ・リ・シマダという身の上であるらしい。

 

(平行世界の同一存在や同位体存在とかいうやつなんだろうが、まさかのブリタニア皇族分家筋の嫡子とは……想定外にもほどがあるぞ)

 

『リ』とは、その名が示す通りブリタニア皇家リ家の名を指している。

 

 コーネリア・リ・ブリタニア、ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 

 リ家の有名処と言えばこの二人だが、彼の中にはこの二人と根を同じくする祖先が居るようなのだ。

 

(この身体の祖先──クレア・リ・ブリタニア。確か反逆物語が始まる年よりかなり遡った時代の皇帝だったな)

 

 その祖先の名を──クレア・リ・ブリタニア。

 

 民族協和と一つのブリタニアを掲げながら、時のエル家や、クレアの弟であるニールス・リ・ブリタニア皇子等と共に、リシャール皇子擁するロレンツォ・イル・ソレイシィを打ち破り、国家が瓦解する寸前であったブリタニアの内戦を終結に導いた英雄皇帝。

 

 ブリタニア年代記に燦然と輝く彼女の功績は、今尚伝説として語り継がれていた。

 

(コードギアスで間違いなさそうだが、俺はあの作品についてそんなに詳しくはないからクレアがどういった人物なのかよく知らない。リ家の血が入っただけで公爵から大公へ昇爵するということから考えても、シマダ公も含めかなりの大人物であったのだろうが)

 

 その内戦の最中。一時日本へと逃れていた英雄帝クレアを支え続け、共にロレンツォ率いる当時の純潔派と戦ったクレアの最大支援貴族シマダ家は、後に次代当主がクレアの次女と結ばれており皇家分家筋としてリ家の家名を与えられている。

 

 更にクレア皇帝を支え続けた内戦終結の功労者として大公爵へと昇爵し、新たにバハ・カリフォルニアを与えられ、元々の直轄領であったカリフォルニア・アリゾナと共にペンドラゴン北方の要として繁栄を極めていたのだ。

 

(入り込んでしまった人物の出自その物がいきなりの相違点とは、イレギュラー過ぎるだろ)

 

 そのシマダ大公家なるものだが。

 

 当然彼の知識の中、コードギアスには存在していない。

 

 日系人のブリタニア貴族が居るらしいところまでは識っていたが、大公家でとなるとかなり限られてくる。

 

 日本皇族の血を引くブリタニアの皇帝も歴史上存在しているくらいなので「絶対にない」とは言い切れなかったが、嶋田繁太郎のブリタニア版など流石に考えられる範疇を逸脱し過ぎているだろう。

 

 それも恐るべき事にシマダ家の家系を辿っていくと、皇歴元年へと辿り着くのだからもう訳が分からなかった。

 

 シゲタロウの記憶にあるブリタニア年代記によれば、シマダ家の初代とされる人物はブリタニア皇家の始祖アルウィンと共に彼のローマ帝国ユリウス・カエサルのブリテン侵攻に立ち向かった皇家の盟友であると記されている。

 

(信じられんな……信じられんが、もし可能性があるとするなら超古代文明時代に何かあったんだろう)

 

 史実ではオカルト話しの域を出ない超古代文明。

 

 だが反逆物語には確かに存在していた。

 

 故にもしもあの時代にブリタニアへ渡った大和民族が居たとしたなら、或いは考えられなくもない。

 

 日本も、ブリタニアも、前身国家を辿っていけば出発点は同じ場所。超古代文明に起源を持つ国。

 

 コード、ギアス等、様々な超技術を生み出し、後に滅びたこの文明は元々一つの統一国家だったと思われるのだ。

 

 であるならば、当時の大和系の部族がブリタニアの地に移住していたとしても何ら不思議なことではない。

 

 それも“ある信じられない事象”から、大和系部族や民族。

 

 つまり日本民族の人口が多かったと考えられるだけに、当時一部の部族がブリテンの地に渡っていたというのは十二分に有り得る話しとなっていた。

 

 それに遺跡と両国の皇家。皇家を守護する存在など様々な共通点が示すその可能性は、反逆世界を“識っている身”としては、無いとは言い切れない部分がある。

 

(ま、考えられないことであろうと無かろうと、シマダ家の歴史はブリテン島が本土であった時代より続いている。それが事実な訳だが)

 

 だが、そのシマダ大公家の存在により日本とは……大日本帝国とはそれなりに上手く付き合えていたようだ。

 

(弱肉強食のブリタニアといっても、全部が全部そうじゃないからな)

 

 ブリタニアの歴史は元より血と侵略の歴史。

 

 しかし例外的に膨張主義を否定したり、非侵略へと舵を切ることも可能だったであろう歴史の転換点と成り得る幾つかの時代が存在している。

 

 その一つがクレア帝時代だ。

 

 クレアの時代には彼女の性格や方針を反映した対外融和路線。

 

 つまりは弱肉強食ではない協調主義の路線が採用されていた。

 

 時代と共に国は再び原点への回帰を図り弱肉強食を国是とする時代に突入していったが、少なくとも彼女の時代から暫くの間は外交問題の解決の為に武力を用いることはなかったようだ。

 

(シマダ家とクレア帝の影響色濃いリ家の存在が歴史を変えたことで1940年代に起きたとされる太平洋戦争も起こってはいない)

 

 クレア帝御世の記憶が薄れ次代・次々代へと時が移り変わる中、徐々に一国至上主義的な国家へと立ち返っていたブリタニアであったが、当時はまだ日本との友好路線が維持されていたらしい。

 

 但し、それも1997年5月に起きた『血の紋章事件』と呼ばれる大規模なクーデター事件によって激的なる変化を迎えてしまったが。

 

(あのクーデターを境に即位して間もない第98代帝シャルルが己の立場を盤石な物とし、全世界に向けて覇権主義政策を宣言。隣接する南ブリタニア諸国への侵略戦争を開始している。と同時に日ブ関係も徐々に悪化)

 

 血の紋章事件を契機としてシャルル治世のブリタニアは今まで以上の極端な軍拡に舵を切り、内外問わずより一層の強硬路線を取るようになっていった。

 

 国外に対しては同時侵攻した南ブリタニア北部の国々を瞬く間に飲み込み、南へ南へとその勢力を拡大。

 

 侵略戦争に否定的な見解を述べた日本との関係も悪化の一途を辿っている。

 

 国内においては反皇帝派を次々に粛清、または閑職へと追いやっていき、反戦意見の多かったリ家の勢力と皇帝派とで対立が始まっていた。

 

 そして大きな転換点となる二つの暗殺事件が起きた。

 

 一つはブリタニア皇家が一つ、ヴィ家のマリアンヌ皇妃暗殺事件。

 

(2009年のあの事件を機にルルーシュとナナリーが人質として日本へ──)

 

 自国の侵略戦争に対し、強力な海軍力を持つ日本からの不意打ちを警戒しての措置。

 

 知識の反逆物語の中でさえ同様の措置を採るくらい日本に対しては警戒心を抱いていたのだから、“ここの日本”相手だと尚更だろう。

 

 皇帝の個人的な事情も勿論あったわけだがそれはそれだ。

 

(流れその物は変わらずか。国を放り出されてしまったヴィ家の兄妹の心の内もおそらくは変わらずの父憎し……)

 

 ここは既知の流れであった。今更と言えようが、ルルーシュの心にシャルルとブリタニアへの憎悪が宿る切っ掛けとなった事件だ。

 

 それも、彼自身は何も知らぬうちに親のエゴに巻き込まれた挙げ句、自らも己のエゴによって数多の人々を殺戮することになる、その始まりの。

 

「壊れた大人たちの被害者にして自らも魔神となり壊れ加害者側となる悲劇の皇子。大切な人や何も知らずにただ戦っているだけの者、無関係な人々への殺戮を始めてしまう彼の物語の出発点。……なんとも業の深い一族だ」

 

 その業の深い一族と血が繋がる自分も気を付けなければいけない。

 

 なにが切っ掛けでその血の持つ業に囚われてしまうのか知れた物ではない故に。

 

(いや──)

 

 もう既にその血の影響は表れているやも知れない……。

 

 二つ目の事件。

 

(シマダ大公夫妻暗殺事件)

 

 マリアンヌ暗殺と同時期にこの身体の人物──シゲタロウの父と母の爆殺事件が起きていたのだ。

 

(やれやれ、これがもしブリタニア一族の業が成したものだとするのならば、もうこの身は既に呪われているな)

 

 未だ未解決となっている先のマリアンヌ暗殺事件とは違い、この事件については犯人が捕らえられていた。

 

 捕らえられた犯人は民主化を掲げる過激派であったとされているが。

 

(真相は不明)

 

 不明というのは、犯人であるとされる人物が犯行を行った事に確信が持てないからだ。

 

 誰でも思うし自分でもそう思った。

 

 帝国政府のみが独自見解を示して間違いないと豪語していたが、誰も信じてはいないだろう。

 

 たかが一過激派如きが、皇帝であっても配慮せざるを得ないブリタニア最古の名家の当主夫妻暗殺など可能なのかと。

 

 警備が厳重な大公家の宮殿に侵入し、且つ目的を遂げるのは容易なことではない。

 

 この一点が帝国政府の発表した「過激派によるテロ」の信憑性を損なわせている。

 

 しかしそのハードルを著しく下げてしまう手段については、方法があるということを彼は識っていた。

 

(ギアス?)

 

 古代文明が残した超常の力──ギアス。

 

 人の精神を操り、記憶を暴き、未来線を読み心の声を聴く。

 

 使い手ごとに保持している能力こそ違えど超能力とも言うべきこれらの能力は屡々歴史にその足跡を残していた。

 

 この能力を駆使すれば或いは、そう思わせるだけの力がある。

 

(可能性の問題だが、大公がギアス関係者に狙われたということも排除は出来ないな)

 

 シャルルの目的の為にはどうしても邪魔になるだろうシマダ大公とリ家が率いる勢力。

 

 これの排除にシャルルが動くとすれば、表からは勿論、裏側からも働きかけるであろうことは想像に難くない。

 

(他に考えられるのは身内か)

 

 また、記憶の融合によって得られたからこその別の可能性にも思い当たった。

 

 記憶を探り浮かんでくるその可能性を持った人物は、よりにもよって身内らしいのだから質が悪いとしか言えなかったが。

 

 この事実が、自らもブリタニア皇族の血の宿業を背負ってしまったのではないかと懸念した最大の理由である。

 

(シマダ大公の存在が邪魔であったと思われる輩の筆頭候補)

 

 記憶の中に浮かぶのは2m近い長身に、頑強に鍛え上げられた筋肉質の肉体を持つ、顎髭と口髭を蓄えた茶髪の巨漢。

 

 大公暗殺後、「幼いシゲタロウでは大公家を継ぐに力不足である」と、皇帝や皇帝派との共謀の末に継承順位を無視してシマダ家の実権を握ったブリタニア貴族の権化とも表すべき男。

 

 ヘンリー・リ・シマダ。

 

 ブリタニアの支配に抵抗を示す過激派など反体制的な人間を一族郎党断頭台に掛け、死の恐怖をもってエリア3ブラジルを平定した皇帝派の重鎮。

 

(その一方で媚を売る者、付き従い服従する意思を示した者へは寛容さを見せている)

 

 ただ恐怖のみで従わせるだけではなく、自らに従う者にはその働きや忠誠に応じて従来よりも多くの報奨や給金を取らせるという“飴”も大量に用意し配っているようだ。

 

 領民やエリア住民が彼に従うのはその恐怖と飴の相乗効果によるもので、平定後に彼が一時総督を務めていたエリア3の政策は一応の成功を収めていた。

 

(凶暴な野蛮人とはいえ馬鹿ではない、か。……あまりお近付きになりたい人種ではないな)

 

 シゲタロウの叔父にして、亡きシマダ大公の兄であるというこの人物は、貴族というよりも野人といった方がしっくり来る野性的な容貌をしていた。

 

 容貌通り、性格の方も野人と呼ぶべきであろうほどの凶暴な。

 

 亡き大公の先代、自身にとっては祖父に当たる二代前の当主がヘンリーを“不的確”として弟である先代、父に大公家を継がせたようだが、どうもその判断は間違いではなかったようだ。

 

(平民やナンバーズに対し区別という名の差別を行い積極的外征を唱えるブリタニアの癌の一人。ついでにシゲタロウ……、俺をブリタニアから追い出してくれた乗っ取り屋)

 

 シマダ大公夫妻暗殺後。

 

 皇帝の速やかにして無茶な介入によって大公家の全権を掌握したヘンリーが、シゲタロウを差し置き当代当主の名を名乗ってより直ぐにシゲタロウは日本へ送られていたらしい。

 

 要するにルルーシュやナナリーと同じく人質としての役目を負わされたわけだ。

 

 彼にとり、シマダ大公の意思を引き継ぐシゲタロウの存在はさぞや疎ましかったことだろう。

 

 本当ならシマダ家の長男である自分こそが家を継ぐべきだったというのに継承順を無視されて弟に家督を奪われた。

 

 その弟の息子なのだ。殺されなかったのが不思議なくらいであった。

 

 無論其処にはシゲタロウを殺害することによる“不利益”があったのは言うに及ばずだが。

 

(益々大公夫妻暗殺を実行したのは、捕縛された犯人とは別の人物であるという疑惑が深まるな。ともかく、大公家の実権が叔父に握られた事は大きなマイナスだ。奴がシャルル支持をシマダ家の名で宣言した為に、結果として外征を推し進めるシャルル体制を強固なものとしてしまった)

 

 ユーロ・ブリタニアのハイランド大公家と同等の権威を持つ救国の英雄にして最古の名家シマダ家が方針を変えれば共に変わらざるを得ない家は数多に上る。

 

 それほど大きな力を持つが故、シャルルも自らの地盤固めに利用するために彼を自陣営へと引き込んだのだ。

 

 その上で大公夫妻を暗殺し、彼に大公家を継承させて要職に据えれば、皇帝派はその力を一気に増す。

 

 暗殺の真相がどうであれ、結果としてシャルルを利する形となっているのは事実である。

 

 “弱肉強食こそブリタニアの理念として相応しく、世界はブリタニアによって統一され本来在るべき自然の姿へと立ち返るべきなのであるっ! ”

 

 力こそ正義。

 

 人間もまた自然の一部であって、強い者が勝者となり弱きは強者の糧となるか死すべきであると豪語する彼の野人と、嘘のない世界のためには身内の死ですら俗事に過ぎぬと考える皇帝シャルル。

 

 彼等の共闘は、国内の穏健派を一掃する意味でも大いに意義ある物であった。

 

(最悪の人間同士が最悪のタイミングで手を組み利用し合っている、そんなところか。追放、処刑、なんでもありとは……いやはや独善主義皇帝と野人の組み合わせには恐れ入る)

 

 弱いから死ぬ。

 

 弱者など必要ない。

 

(連中にはお似合いの台詞だが、しかしその結果がまさかのコーネリア・ユフィ、リ家姉妹までもを日本への自国に対する人質とさせてしまう流れを作り出すとは)

 

 強硬+強硬が掛け合わさった化学反応は恐るべき物で、皇帝に異を唱える者への容赦ない弾圧へと繋がっていった。

 

 爵位剥奪、領地没収、即決による死刑。憎しみを背負うために大虐殺をやったあの悪逆皇帝ルルーシュ程ではないが、血の紋章時の反皇帝派弾圧の再現くらいにはなっていただろう。

 

 あの事件を振り返れば分かる物だが、シャルルは時に身内の皇家の人間すらも処刑するほど、一度排除を決めれば徹底的にやる冷酷さを持ち合わせている。

 

 死んでも会えるという様に、人の死を軽く考えているからこそ可能なのかも知れない。

 

 これが外征に異を唱えていたリ家の派閥の力を削ぐことに繋がり、第二皇女コーネリア、第三皇女ユーフェミアのリ家姉妹の日本行きを決定付けてしまった。

 

 関係が険悪化していた日本に対して、コーネリア・ユーフェミア・ルルーシュ・ナナリー、そして自分シゲタロウと、5人もの皇族・皇家に連なる子供を人質として送り出したことが間違いであるとは言えないが、ブリタニア国内における反皇帝勢力排除の一環であることは周知の事実だ。

 

(もっともルルーシュやナナリーにしてみれば心強かったろうがな)

 

 本当ならたった二人で日本への人質として送られる筈であった彼等は孤独に苛まれ、人間不信に陥りながらの幼少期を過ごした挙げ句。最後の安住の地すら奪われる──

 

(筈だったからなぁ。それがコーネリア・ユーフェミアも共に送られたことで、少なからず彼等の救いにはなった)

 

 その中に自分が居るというのは不思議な感じだが。

 

 国から放り出されて望んでもいない“人質”という立場に追いやられた彼等は、互いに身を寄せ合い、助け合ってきたのだろう。

 

 5人が共に強い信頼と絆で結ばれている様子を、記憶や自身が感じる“想い”からは読み取ることが出来た。

 

(それに力を削がれたとはいえそこは皇位継承順最上位者に名を連ねるリ家の姉妹。身一つで放り出されることを避けられたのは不幸中の幸いだ)

 

 ダールトンやギルフォードなど、コーネリアの親衛隊を結成する家臣団が共に日本へ派遣され彼等の身辺を固めているのだ。

 

 お陰で国内の皇位継承争いに巻き込まれる危険性がその分だけ低下し、信頼できる人々に保護されるヴィ家の遺児の安全もより一層高まるというもの。

 

(そういえばリ家の重臣貴族の中にはヤマモト辺境伯なんて名前もあったが──)

 

 ギルフォード家、ヴェルガモン家といったリ家の重臣貴族の中にあったヤマモト辺境伯という名前には驚かされた。

 

 フルネームをイソロク・ド・ヤマモト辺境伯といって、クレア帝時代にシマダ家と共にブリタニア内戦を戦い抜き、クレア皇帝擁立に貢献した日本から渡り来た士族の一人を始祖とするだとのことだが、そのヤマモト家現当主の名を日本読みに直せばそのまま『山本五十六』だ。

 

 死ぬ前の世界での盟友と同じ名の。

 

(容姿も同じ)

 

 ふと頭を過ぎったのは、かつての時と似たこの状況下で自分と同じ様に“彼等”も来ているのではないかといった考え。

 

(まさか、な)

 

 シゲタロウの記憶の中にヤマモトという名と姿を見つけた瞬間、平行世界の同一人物なだけであると理解しながらも、彼はなんとなくそう思った。

 

(……そして日本)

 

 実はこれこそが隅に置いていた“この世界の日本”の事情にして、中身が日本人たる自らにとって最も喜ばしい差違であった。

 

(日本がこの様子では早々勢いのままに戦争を吹っかけられはしないだろう。シャルルの計画の為の世界侵略とは言え、“この日本に対してまで”同時侵攻を行えば失敗の危険性が出て来るからな)

 

 ブリタニアは強大だ。大国を相手取った世界同時侵攻を可能とするだけの圧倒的なる国力を備えている。

 

 それはあの作品を通してこの国を見知る自身も承知していることであった上に、自らの身がその国の貴族である故、身に滲みて理解させられてもいた。

 

 しかしそれでも尚、“この日本”の存在こそが知識にあるような同時侵攻を踏み止まらせるという一因になっていたのだ。

 

(しかしまあ何なんだろうか、この)

 

 

 

 

 

 

 

 ──この巨大な日本列島は。

 

 

 

 

 

 世界の形という物は物心付いた頃に大抵の者が覚える。

 

 多少の個人差こそあれ、世界地図を書いてくれと言われれば小学生低学年くらいの年少者にでも大雑把になら描けるだろう。

 

 当然嶋田にも、いやさこの身体シゲタロウの記憶にもしっかりと世界の形が焼き付いていた。

 

 もしも焼き付いていないとしたならばそれだけで周りの評価が怖い。大公家の嫡子が世界の形を知らないなどお笑い種だ。

 

(甘やかされた馬鹿貴族でないのは幸いだが……地図上における世界の形を知らなかったら頭を抱える処だった)

 

 もっとも、喜ばしいながらも頭を抱えたくなる意味不明な地図を“視ている”事はこの際無視させて貰おうかと思わずにはいられなかった。

 

 それほどおかしい。常識で考えて有り得ない地図なのだから。

 

 彼はまずは六つの大陸を数えていく。

 

 ユーラシア大陸。

 

 アフリカ大陸。

 

 オーストラリア大陸。

 

 北ブリタニア大陸。

 

 南ブリタニア大陸。

 

 そして南極大陸。

 

 子供に地図を描かせてみよう。

 

 国は無理でも大陸という巨大な陸地のみならば、形こそ不細工でも丸や三角や四角といった適当な感じで描いてみせてくれる筈である。

 

 そう、六つの大陸なら当然として、“七つ目の大陸”についても簡単に。

 

 

 

 

 

 陸地面積378万平方キロメートル。

 

 

 

 

 

(なんだ……この面積……)

 

 彼の常識を根底から覆してしまったのはその七つ目の大陸だ。

 

 陸地面積が凡そ10倍に拡大という、実に頼もしく太ましい日本の形をした北西太平洋に浮かぶ大陸であった。

 

 日本列島を形成する四の巨大な島から成る七つ目の大陸の姿が厳然として存在していたのだ。

 

(面積10倍の日本列島で日本大陸だ? これ、シゲタロウくんがエイプリルフールに見た嘘の地図の記憶とかじゃない……よな?)

 

 日本大陸。

 

 書いて字の如く、大陸のように巨大化した日本の事。

 

 否、紛う事なき大陸そのものだ。

 

(日本も日本国ではなく“大日本帝国”か。まあ帝国の名こそが相応しいだろう。これほど強大にして絶大なる力を持つ国が“日本国”というのも違和感があるからな。それに政体も皇家──帝“みかど”を頂点とする体制である事だし)

 

 分からない。

 

 なぜにこれほどまでに肥大化しているのか。

 

 自然の成せる不可思議な現象。

 

 大陸化する程の大地の隆起。

 

 果てはスーパーホットプルームの大噴火による大地形の変化まで考えてみたが、どれも真実コレだという答えには結びつかない。

 

 だが分からないなりにも分かることの一つに彼の国の歴史があった。

 

(始まりは太古の超古代文明より、か)

 

 先史文明ではない。先史を皇歴という紀元を基準とした『それ以前の全て』とするのならば先史として一括りにも出来ようが、一般的に考えられる先史文明とはエジプト文明やメソポタミア文明といった四大文明に、日本の縄文文化など数千年から一万年単位前の物を指す。

 

 しかし日本のルーツの先に在る超古代文明とは、それら先史文明よりも更なる昔。

 

 世界の常識としては眉唾物であり、信用しない人間の方が多かろうが、所謂創世記に該当する時代のもの。

 

 分裂した超古代文明の一国を前身とする大日本帝国の歴史は、失われた遥か太古の時の彼方より続く皇室(皇家)の権威と力によって、統一国家として出立した紀元前にまで遡ることになるのだ。

 

(超古代文明後から始まった歴史とか気が遠くなる……。しかし、そんな長い歴史を持つ割にはまったくと言っても良いほどに海外進出が行われていなかった)

 

 絶海の大陸国家であり、豊富な資源と肥沃な大地の恩恵を受けていることから一国での完結を可能としていた為か、日本として出立した当時より同じ超古代文明国を前身に持つブリタニアと並ぶ世界最古の国でありながらも海外進出は殆ど行われていなかった。

 

 長らく続く安定期はひたすら国内の開発と技術革命に時を費やしていたようだ。

 

(超古代の栄華を取り戻す為とかなら笑えないが、真面目な話では大陸の広さと種々の恩恵から態々外征しなくとも必要以上の物を国内で揃える事が出来るというのがその理由といったところかなのかねえ)

 

 本土がこれだけ広いと下手に手を広げるよりも国内の整備が最優先課題にもなる。

 

 唯でさえこの世界の日本といえば国土その物が資源の塊だ。

 

 他に手を出す必要などないとして外へ目を向けなかったのかも知れない。

 

(欧州でサクラダイト関連の技術が確立されたのは錬金術研究のさかんだった13世紀から15世紀頃、日本もまた同じ時期だが僅かばかり先行している。それも欧州では採掘量が少ないためサクラダイト関連技術の発展は遅れていたがその点日本では──)

 

 湯水の如く採れる。あの架空としての反逆世界の普通サイズの日本でさえだ。

 

 ならばこの大陸化した日本では想像を絶する埋蔵量と成っていよう。

 

(引き籠もって技術革新に時間を費やす意味もこの日本ならではだな。その成果は十二分以上に上がっていたらしいから国内に重きを置いたのは正解だったようだ)

 

 年代的に考えれば技術開発の技の字もまだであろうかと思われるのだが、そこは古代文明国より続く正統継承国家。

 

 一度滅びた文明より這い上がった日本は当時としての世界最高の技術水準には達していたようである。

 

 無論『当時としての』であり、超科学によって栄えた古代文明時代や、進化したエレクトロニクス文明の結晶である現代とは比べるべくもなかったが。

 

 そんな日本が海外と本格的に関わったのがクレア帝の日本逃亡時だった。

 

 皇一心や皇二葉等を始めとする当時の皇家に連なる者達が、ブリタニアのアルト・ヴァインベルグ子爵およびシマダ公爵よりのクレア帝亡命の請願書を帝に届け、正式に亡命が受け入れられている。

 

 この亡命劇は言うなれば大日本帝国としてクレア・リ・ブリタニアを支援する事の意を示した物であり、クレア帝擁立に日本が関与していたことの証明でもあった。

 

(後々日本とリ家の関係が盤石な物と成っていく始まりが此処だった)

 

 以後、ブリタニア内部に西海岸を中心とした親日勢力が生まれた事を考えれば、大きな外向的成果を上げたと言える出来事だろう。

 

 1940年代の太平洋戦争回避にはリ家とシマダ家含む西海岸諸侯等の親日派の影響があったのは間違いないのだから。

 

(そして長らくの鎖国体制下にあった日本は1853年、開国の時を迎える)

 

 しかしそれは地政学的に、そして日本大陸と隣接する国が世界三大国である以上は避けては通れない戦乱期の幕開けでもあった。

 

 太平洋進出を目指した中華連邦が開国間もない日本の南西諸島に目を付け、沖縄を起点とする自国防衛ラインである第一列島線の完成と太平洋進出の足場とする為に武力による南西諸島奪取に動いたのである。

 

 無論、中華側も当初から武力行使を前提としていたわけではなく、南西諸島の売却を日本に対し打診するという外交的解決を目指していた。

 

 既に殆ど過去の物となっていたが、当時はまだ国家間による土地の売買が行われる事例も存在しており中華側は慣例に則って交渉を持ち掛けてきたわけだが、日本としては自国領の売却など寸土たりとも行わない方針であった為に即答で断っている。

 

 だが中華側としてはそれでは困るのだ。既に中央アジアまで広がった中華連邦構成国内部での市場は頭打ちと成っており、東南アジア・オセアニア・太平洋と広く進出して新たな資源や領土の獲得を目指す段階に入っていた。

 

 当然其処には開国したばかりの大日本帝国も含まれており、右も左も分からぬ新参者相手に自国優位の条約や取引を迫るのは弱肉強食の国際社会で何ら間違ってはいなかった。

 

 絶海の大陸に引き籠もっていた田舎者。

 

 彼等にはそんな差別的意識もあった事だろう。

 

 結果として交渉進まずの状況が中華連邦内部。

 

 特に中華帝国において対日強硬派の台頭を赦し、1889年8月2日よりの日中戦争へと繋がっていった。

 

(中華側にとってはまさかの出来事だったろうなこの敗戦は)

 

 日中戦争(1889年8月2日-1894年7月25日)では、連邦構成国家=中華帝国・インド・モンゴルを相手にして陸海共に日本側がまさかの完勝を収めてしまったのだ。

 

 中華連邦としては神聖ブリタニア帝国、ユーロピア共和国連合と並ぶ世界三大国家の一国である自国が、開国直後の田舎者相手に敗れるとは想像だにせぬ出来事であったに違いない。

 

 それは世界中の中小国も同じくで、日本を自分達と変わらない『国土だけ広い鎖国主義の遅れた小国』と侮っていたのだから、当時の世界の常識「三大国には勝てない」を覆した衝撃的な国際デビューだったといえるのではないだろうか。

 

(戦勝国と成った日本は台湾・海南島に加え中華の防波堤として朝鮮半島──高麗半島および、領域内にサクラダイトの大鉱山外興安嶺南部を抱える外満州全域、更には占領状態に置いていた中華帝国東北部全域を割譲。高麗半島と中華帝国東北部には傀儡政権を立てそれぞれ『高麗帝国』『満州国』なる日本の従属国・衛星国として独立させ、その他の全域は自国領として併合……。国内の開発に全力を挙げてきたことで大幅に増した国力のお陰もあるだろうが、技術・物量、そのどちらもがブリタニア級の日本ならではの結果か。普通なら絶望的な相手だからな中華連邦は)

 

 いまさらの話だが、中華連邦は同時期の『アメリカ』とほぼ並び立てるだけの国力を誇っている。

 

 これを相手に打ち破る処か“大勝”してしまえる辺りがなにか間違っているのだが、事実としてある以上はそれ以上の力を日本が持っているという事で無理やり納得するしかなかった。

 

 中華側のミスは、日本大陸が如何に恵まれた土地、ありとあらゆる戦略資源の塊であるという事実を知らなかった事と、日本人がかつて英知を持って世界を支配していた超古代人の二大民族の末裔であるのを知らなかった事の二点だ。

 

 日本人は中華思想の蔓延る中華帝国人が見下せる様な『和猿』などではない。

 

 遥か太古に滅びたとはいえ、一度は世界を支配した超文明人の末裔なのだ。

 

 蓄積された歴史も知識も、たかだか『四千年程度』の中華帝国人の物差しで測れる様な相手ではなかった。

 

 

 

 そして、そんな中華の大敗北に学ばなかったのが、中華思想に負けないくらいの他に対して優越主義的な白人至上主義者たちだった。

 

 

 

 1902年2月8日

 

 東方拡大に次いで南進と太平洋進出を図った欧州圏の統一国。

 

 E.U.民主主義革命政権──ユーロピア共和国連合との間で衝突不可避となり勃発した日欧戦争(1902年2月8日-1908年9月5日)では、国力・技術力に物を言わせた物量戦にて、兵器の質・量共に劣るユーロピア相手に日本優位の戦いを展開。

 

 札幌講和会議にてカムチャツカ、樺太北部、アムール北部、ハバロフスク地方、マガダン地方をユーロピアより割譲させて日本領として編入している。

 

 二つの戦争共に共通している点は日本側の完勝であったということだ。

 

 それも講和に際する反論を許さずというほどの圧勝である。

 

(まあ無理もないか)

 

 日中戦争では黄海、東シナ海、南シナ海の三つの開戦を経て中華帝国とインドの海軍戦力が壊滅した上、高麗半島・外満州は疎か、満州全域にモンゴル軍区東部、一時は北京にまで展開を図っていた日本陸軍の猛攻を前に為す術のない中華連邦が、台湾・海南島に加えての大陸東北部全域の割譲を前提とした講和条件に意義を唱えられるはずもなく。

 

 日欧戦争に至っては、世界初の『戦闘機』や『戦車』という、国際社会を驚嘆させる新時代の兵器の開発・実戦投入まで行い一時極東の大部分を占領下に置いてしまったのだから。

 

(多少の違いはあっても史実の同時期に該当する日清日露戦争と比べて圧倒的な大勝利だな)

 

 開国から僅か55年、戦争に費やした時間は僅か12年足らずで外満州から、ハバロフスク・マガダン・カムチャツカとオホーツク海を内海にしてしまう程の急拡大を遂げてしまったのだからこれを圧倒的と言わずして何と呼ぶ。

 

 それも総動員体制ではないらしい事を鑑みるに、本気で獲りに行くつもりならばユーラシア東部を席巻する事も可能なのではないか? 

 

 クレア帝の時代まで殆ど謎に包まれていたこの大陸国家は、1853年の“自主的開国”までの間、長きに渡り一国主義の体制で歩んできた。

 

 古代文明を引き継ぐ永い歴史と高度な技術力によって達成した独力による産業革命。

 

 文明を動かす戦略資源である超伝導物質サクラダイトの異常な埋蔵量と採掘量。

 

 豊穣なる国土が育む余りある食糧資源と自給率。

 

 7億の人口に、最先端兵器で身を固めた総兵力500万+αの国軍と此を維持可能とする経済力。

 

(一国で完全完結を可能とするとは……まるでアメリカやブリタニアその物だ)

 

 現に日本が『人型自在戦闘装甲騎』、つまりKMFを世に送り出したのはブリタニアとほぼ同時期だ。

 

 この事実は言うなれば日本がブリタニアに対抗可能な国であることの証明である。

 

 それも本来の歴史にて第四世代機が実戦投入される2010年よりも早い段階で両国共に開発完成をさせている処からして、熾烈な開発競争があったものと伺い知ることが出来た。

 

(同規模の国家が存在した事による競争の激化が技術の進歩を加速させたのか?)

 

 今年、2010年に第五世代機の量産型がロールアウトしている時点で知識にある世界よりも発達した文明を築き上げてきたと推測できたが。

 

(とにかく、日本侵攻は容易成らざると判断するのは当然だったというわけだ)

 

 国力比でみても一目瞭然だ。

 

 ブリタニアを10とした場合、日本は9とかなり接近している。

 

 技術力の面だけを見ればブリタニアに対し先行している面も多々見られた。

 

 尤も、ブリタニアには別に国家的集団としてユーロ・ブリタニアなる組織と軍が存在している為に、額面上の数値から戦争遂行能力その他を割り出せないといった不確定要素も存在していたが。

 

(何れにせよ高い技術力と国力があり、それに相応しい軍事力の整備もされている。容易な手出しはできない要素が揃っているというわけだ)

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 様々な事柄を思い出しながら思案を巡らせていた彼は、そこで一度記憶の探索を打ち切り息を付いた。

 

 多くの時間や、思いの詰め込まれた“人の記憶”を探るのは思いの外疲れる。

 

 まして元から持っていた100年以上の記憶の上に12年分の記憶を積み増しするとなれば記憶量の増加が尋常ではなく一種のショートに近い混乱が──。

 

「シゲタロウっ!」

 

「うわっ!」

 

 一息吐いて油断しているときに限って開かれる部屋の扉。

 

 大きな音と大きな声にびっくりしてしまったではないか。

 

 怪我人の寝ている部屋なのだからもう少し静かに開けて欲しい物だ。

 

「怪我は大丈夫なのかっ?!」

 

 

 

(ここでご登場ですか……)

 

 入って来たのは自分と同じ黒髪に、紫色の双眸を持った少年だ。

 

「その怪我人が寝ているんだから扉は静かに開けような? “ルルーシュ”」

 

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

 

「す、すまない、シゲタロウが意識を取り戻したってユフィに聞いたから、それで」

 

 ヴィ家の遺児にして神聖ブリタニア帝国第11皇子。

 

 そして。

 

(反逆物語の主人公にして、未来の悪逆皇帝か……)

 

 そんな未来へと至る道は是が非でも潰したいと思うが。

 

「入ってもいいのかな」

 

「みんなに心配を掛けたというのに反省の色が無いシゲタロウになんか遠慮する必要は無いわ」

 

「まあまあ、ユフィ姉さまもそう怒らないでください」

 

「だってシゲタロウが……」

 

 救いのない未来をどうにかしたいと考えながら、非礼を詫びるルルーシュの姿を視界に入れていた彼の耳に聞こえたのは、部屋の外よりの声三つ。

 

(ふう、続々と来たな)

 

 扉の外から入って来たのは三人の子供達だった。

 

 一人はルルーシュと同じくらいの少年。

 

 一人は桃色の髪の少女ユーフェミア。

 

 そのユーフェミアに車椅子を引かれた少女の三人だ。

 

「起きてても大丈夫なのかい? かなり強く打ったように見えたけど」

 

「シゲ兄さま、あまりご無理をなさらない方が……」

 

 此方を気遣う二人の内、少年の方は日本人にしては珍しい緑色の双眸と茶色がかった色の髪を持つ。

 

 コンタクトを嵌めているわけでも、染めているわけでもない一種日本人離れした容貌の少年は、先の二人、ユフィ、ルルーシュと同じ「大丈夫か」を投げ掛け。

 

 波打つ亜麻色の髪を頭の左右で二つ括りにして瞳を閉じたままで車椅子に座っている、この中で最も年少と思わしき少女は身体のことを心配してくれる。

 

「まあ気を失うくらい強く打ったのは確かだけど、そんな大袈裟に心配されるほどの怪我でもないから」

 

 少年の名は枢木スザク。

 

 反逆物語のもう一人の主人公にして、大日本帝国衆議院議員、枢木ゲンブの息子。

 

(首相ではなく、一衆院議員か)

 

 小さくも大きな違いが此処にあった。

 

 本当なら日本国総理大臣を務めている筈のスザクの父が、一国会議員でしかなかったのだ。

 

 碌でもない父親であることまでは知っていたが、その父親が総理ではない。

 

 現首相が誰かという知識は当然のこと、頭の中にある。

 

(近衛文麿……)

 

 近衛文麿。

 

 かつての盟友達の一人にして、まったくの同じ顔が記憶にあるのだ。

 

 この時代には居ない筈の、この世界には存在しない筈の。

 

 居たとしても別人である筈の“夢幻会重鎮”の姿が。

 

(う~んこれはどういうことなんだろう。やっぱり“彼等”が来ているのか? この近衛総理も俺の知っている“同じ人”なのだろうか?)

 

「シゲ兄さま?」

 

 スザクを見て難しい顔をしたまま考え込んでいた彼は、彼の様子に怪訝な声を上げた目を閉じた亜麻色の髪の少女によって思考の海から引き上げられる。

 

 

 

「あ、ああごめんごめん、“ナナリー”も心配してくれてありがとう」

 

 ナナリー・ヴィ・ブリタニア。

 

「でも、心配する前にこうなる原因を作ったルルーシュを叱ってやってくれると助かる」

 

 ルルーシュの直接的な妹であり、ブリタニアの皇女。

 

(主役陣の勢揃いだな)

 

 この場に居るルルーシュ、スザク、ユーフェミア、ナナリーの四人は、皆あの反逆物語の中心に居た人間だ。

 

 この世全ての憎しみを一身に集めて親友の手に掛かりその生涯を終えたルルーシュ。

 

 ルルーシュを手に掛け、人としての死を迎えたまま世界の歯車と、道具と成って生き続ける“地獄”へ身を投じたスザク。

 

 ルルーシュとギアスによって、夢と命と尊厳の全てを奪われ、ギアスの力に抗いながら永遠の眠りに就いたユーフェミア。

 

 たった一人の愛する兄の敵となり、自らが世界の憎しみを集めようとして適わず、多くの大切な人達を永遠に失ってしまったナナリー。

 

 誰一人、幸せになれなかった少年少女たち……。

 

「そうです、お兄さまです。お兄さまの釣り上げた空き缶がシゲ兄さまに当たって、それが原因で転倒なさったのですからお兄さまが悪いです」

 

「ま、まてナナリーっ、あれは偶然であって狙ってやったわけじゃないっ! 本当の本当に偶然だったんだっ! 偶然シゲタロウに当たって──」

 

「ボウズでイライラして掛かったと思ったら空き缶だった。腹が立って竿を振り回し、糸から外れた空き缶がシゲタロウへ。やっぱりルルーシュが悪いんじゃないか」

 

「ええい黙れっ! 釣りに誘ったスザクが悪いっ、この僕に釣られようとしない魚が悪いんだっ!」

 

 言い争いを始める彼等の姿を観ていると、自然に笑みがこぼれる。

 

 それぞれに事情があり辛い人生を歩み、誰一人幸せになれなかった彼等にも、こんな時代があったのか。

 

(子供だなみんな)

 

 子供だ。今年で10歳のルルーシュとスザク。9歳のユーフェミア。7歳のナナリー。この中で一番の年上である自分も僅か12歳に過ぎない子供。

 

(皆……、皆、自己中な大人の被害者だ。独善的で自分勝手な唾棄すべき大人達の……)

 

 自分の記憶を探ってみても、出て来るのは子供の自分が大人達の都合で翻弄されている場面ばかり。

 

 彼等もまた同様に大人の勝手な都合に振り回された末にこの静かな安住の地へと辿り着いたのだろう。

 

 シャルルの意図。

 

 世界の未来。

 

 知っているからこそ思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “糞ったれ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこの子達は誰一人として幸せになれなかった? 

 

 ルルーシュやユーフェミアはなぜ死ななければならなかった? 

 

 なぜスザクは親友を手に掛けゼロという世界の奴隷とならなければ、ナナリーは兄を始めとする大切な人達を失わなければならなかった? 

 

 全てが全て大人達の都合ではないか。

 

 ルルーシュのギアスの暴走によるユーフェミアの日本人虐殺も。

 

 悪逆皇帝となったルルーシュによる虐殺も。

 

 スザクの裏切りの連鎖とフレイヤ発射による東京消滅も。

 

 ナナリーの手によるペンドラゴン消滅も。

 

 元を辿れば“嘘のない世界”を目指して殺戮と闘争を始めた、その手に乗った、大人達の自分勝手から始まったのではないか。

 

 糞みたいな大人達が糞ったれで汚らわしい独善的かつ自己中心的な願いを叶えようとしたからではないか。

 

 彼等の笑顔を見れば見るほどに、彼等から“幸せになる権利”を奪った身勝手な大人達への怒りが込み上げてくる。

 

 この笑顔を、今日この時に感じている彼等の“楽しい”と思う幸せな気持ちを、護ってあげたい。

 

 彼等に幸せを掴んで貰いたい。

 

 

 

 ふと、そんなことを考えてしまった。

 

 

 

(はぁ、……俺らしくないな)

 

 平穏をこそ望む筈の自分が、こうも怒り心頭となるほどの汚物だとでもいうのだろうか“あの大人達”は。

 

 それとも、この身体の彼の、今の自分の感情が、元凶である大人達への怒りを伝えようとしているのか。

 

 子供の身体故の感情の暴走が一番有り得そうだと考えるも、しかし際限なくループする疑問はその答えへと辿り着く事は無い。

 

 そんな彼を怒りと疑問のループから救い上げたのは、不意に感じた頭への温もりだった。

 

(ん?)

 

 怪我をして疼きっぱなしの頭へ感じたそれに、ふと後ろを振り向いてみる。

 

「ユフィ……?」

 

 ナナリーの車椅子を引いていた直系の親戚である少女がいつの間にか自分の後ろに回って、にこにこと微笑みながら頭に手を置いていたのだ。

 

「なにやってるんだ君?」

 

 両手を頭に添えたまま此方を見ているユーフェミアに問い掛けると、彼女はまるで的外れな見当違いなことを言い出した。

 

「シゲタロウ、あなたさっきから何も言わないけれど本当は痛いのでしょう? 我慢してもね、分かっちゃうんだから」

 

 私は全てお見通し。

 

 そう言いたげなユーフェミアが、包帯の巻かれたところを手の平で擦りながら、子供の頃によく耳にしたおまじないの言葉を口にする。

 

「痛いの痛いの~っ、とんでけ~っ」

 

 呪文を唱えたユーフェミアは痛いのを追い払うような感じで頭の上にて両手を大きく広げた。

 

 何が楽しいのか可愛らしい笑顔を浮かべながらのその仕草に呆れてしまう。

 

 もちろん、痛い処は変わらず痛いままだ。

 

「…………飛ぶわけないだろ」

 

 それで痛みが取れるのならばこの世に医者は一人も居なくなるだろう。

 

 それに頭が痛いとか、そんなどうでもいいことを考えていた訳じゃない。

 

 彼女を含めたこの場に居る子供達の幸せを奪う大人達に対する、言い知れない怒りに思考を奪われていただけだ。

 

「痛いの痛いの~っ、とんでけ~っ」

 

「あの、さぁ……」

 

 何度も繰り返されるおまじない。

 

 効果はもちろん無かった。

 

「ねえ、痛いの取れた?」

 

「…………取れてない」

 

「じゃあ、もっとしてあげるわ。痛いの痛いの~」

 

 無意味な事を懸命に行う彼女が、少し可笑しかった。

 

 

 

 だが──。

 

 だが彼女の手は温かい。

 

 暖かくて心地良い。

 

 

 

 

 

 それだけは、良くわかった。

 

 

 

 

 

「痛いの痛いの~っ、とんでけ~っ」

 

 しかしながら、空き缶の直撃を頭に受け転けて、石に強打した部位の疼きは、まだまだ取れそうにない。

 

 

 

 

 

(痛いのは飛んでいかないが、取り敢えず識ったことを纏めよう)

 

 頭を撫でさするユーフェミアの手の感触に目を閉じながら分かったことを整理する。

 

 今は皇歴2010年5月12日。

 

 ブリタニアにはシマダ大公家なるイレギャラーが存在。

 

 この身はそのシマダ大公の忘れ形見にして、本来の立場を奪われた弱者たる子供。

 

 リ家はその力を削がれてしまい、姉妹揃って日本へ人質として送られている。

 

 シャルルはシマダ家を乗っ取った叔父と手を組み独裁体制を確立。

 

 日ブ関係は原作に近いほど悪化しつつある。

 

 国土を大きく失陥させた日本とさせられた中華連邦の関係、特に中華中央(中華帝国)とは現在大宦官の宮廷支配という状況も重なり良好とは言い難い関係。

 

 日欧戦争以前の問題として有色人種差別が横行するE.U.との関係は元より良好ではない。

 

(…………希望も何もあった物じゃない)

 

 

 

 …………いや。

 

 

 

 一つにして最大の希望があったか。

 

 

 

 

 

 “超大国大日本帝国”

 

 

 

 

 

 日本大陸をその国土とする、立憲君主制国家。

 

 実質、いまの自分やリ家、ヴィ家の皇子皇女を庇護してくれている国。

 

(……彼等は、彼等も居るのか?)

 

 心強いかつての仲間。

 

 共にあの世界で戦い抜いた同志たち──『夢幻会』。

 

 この身が一度経験した事と同じ現象を体験している以上可能性はある。

 

 もしも存在するのならば。

 

 接触することができるのならば。

 

 また共に戦うことができるのならば。

 

 この先を考える上で大きな力となるだろう。

 

 何もかもが分からないこの状況。

 

 記憶の整理もまだ途中であり、世界の全体像も未だ不明。

 

 だが、こうして再度の人生を送ることになった以上、やれるところまでやってみて。

 

 精々足掻いて見せようじゃないか。

 

(さて、これからどうなっていくのやら)

 

 

 

「はぁ、またいちゃつきはじめてるよあの二人」

 

「スザクさん、ユフィ姉様はシゲ兄様にぞっこんらぶなんですよ」

 

「それは前からだから知ってるけど……、その、ちょっと羨ましいな……、ナナリーも俺にしてくれたりしないかな……なんてさ……思っちゃったり……して……」

 

「え? 何か仰いましたか?」

 

「いいっ、いや、なんでも、なんでもないんだっ、気にしないでっ」

 

「くっ、ナナリーに責められる僕を横目に二人だけの甘い空気を作るんじゃないっ! スザクっ、君もナナリーに邪な思いを抱いてないでさっさと離れろっ!」

 

「よ、邪って! 俺はなにもそんなつもりじゃっ……!」

 

「ナナリーに近寄るなこのスザク菌めっ!」

 

「人をバイ菌みたいに言うなよっ!」

 

 子供達が騒ぐ。

 

「そんなんじゃないよ。痛いの飛んでけってのは日本のおまじないの一つで、痛いところに手を当てたり翳したりしながらいまユフィがやってるみたいにする物なんだよ」

 

 子供達はいつでも物事を単純に考えては結論付けたがるものだな、と思う。

 

「へ、へェ~、シゲタロウってずいぶん日本の風習に詳しいんだね」

 

 それが子供だ。

 

「家の領地内には日本の風習があったりするから、それで、ね。それに御先祖様と日本は関係が深いし」

 

 深く考えずに思い付いたままの行動を、無邪気で悪意のない言葉で話し、笑う。

 

「私とシゲタロウの御先祖様であるクレア陛下は国を救った英雄なんですからっ!」

 

 そんな子供達が。

 

「身内自慢は程々にしなよユフィ」

 

 大人の犠牲になるなんて。

 

「それを言うなら僕とナナリーの母上も『閃光のマリアンヌ』っていうとても強い騎士だったんだからなっ!」

 

 許せるものではない。

 

「だから身内自慢は──」

 

 

 

 

 

 自分の事だけを考え。

 

 子の心を知ろうともせず。

 

 世界を巻き込んでは自己満足に浸り続ける無責任な大人達に。

 

 敢えて俺は言いたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しっかりしろよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 備考

 

 

 

 大陸ギアス 反逆のシゲタロウの日本。

 

 2010年大日本帝国

 

 領土:日本大陸・樺太・カムチャツカ・台湾・海南島・沿海地方・アムール・ハバロフスク・マガダン+周辺島嶼。

 

 陸地面積:6,218,771km2

 

 総人口:7億680万

 

 総兵力:陸海空500万+予備役

 

 

 

 史実満州国の領域、朝鮮半島の両地域は日本の中国大陸への防波堤となる衛星国=満州国・高麗帝国として独立。

 

 



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帝都の休日&楽隠居?と円卓の少女 共通話 ラプラタ戦争(南ブリタニア紛争)
南ブリタニアと白い狂気


これは拙作帝都の休日・円卓の少女両シリーズ共通の過去話ネタとなります。
本編を投稿していないため意味不明かと存じますが、過去にこんな事があったのだなくらいの軽い気持ちでお読みくだされば幸いです。
恋愛も何もありませんので御注意ください。
蒼の混沌掲示板様投稿分より微少な修正が入っております。



 

 

 

 

 

 

 

 

 南ブリタニアと白い狂気

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇。

 

 

 

「遥か太古の地球。そこには1つの文明と統一された1つの勢力があった」

 

 

 

 深淵とでも言うべきとても暗い闇に内包された空間。

 

 

 

「争うことなく協力し合い、平和に静かに繁栄を謳歌していた彼らは様々な超常の力を生み出していった」

 

 

 

 その暗い闇の中に木霊する抑揚のない声。

 

 

 

「未来を見通す力。過去を読み取る力。意思を押し付ける力。生命から生命へと渡り行く力。そして──他を支配する力」

 

 

 

 声の主は語る。

 

 

 

「超常の力を生み出した彼らは、その力を自由に作り出し与えられる力も共に生み出していた」

 

 

 

 記録にさえ残っていない遙か遠き時代の昔話を。

 

 

 

「力を与える力を持つ者は、より重要な存在である。故に力を与える者は朽ちてはならないと永遠の生命がもたらされた」

 

 

 

 ともすれば自己陶酔に浸る為の独り言とも取られそうな話であったが、声の主にはその様な趣味はなかった。

 

 

 

「生物の限界を超えた身体能力。朽ちる事なき不老不死。ありとあらゆる超常の力を生み出していった彼らは、それらの力を用い更なる高みを目指していた」

 

 

 

 唯あるのは、自らが思い描く理想の世界への思い。

 

 

 

「だが、彼らは失敗した。1つの勢力として纏まっていた筈の彼らが3つの勢力に分たれた時、それこそが終わりの始まりでもあったのだ」

 

 

 

 誰しもが望んでいる筈の世界。

 

 

 

「分れた3つの勢力は互いに相争い、数多の血を流し、無限の憎しみを生み出した。争いに敗れた勢力はその地を追われ当て処の無い流浪の旅路へと付き、勝利を掴んだ2つの勢力も多くの仲間を失い超常の技術を維持出来なくなる。流れ喪われた夥しい血と生命は創世記より存在する集合体へと回帰していき、栄華を誇った文明は僅かな痕跡を残して地上より消え去っていった」

 

 

 

 生きとし生けるもの総てが望む世界。

 

 

 

「実に……実に愚かで嘆かわしい。そうは思わないかね? 地上の総てを1つの文明で統一し、高度に発展した現在の科学力を持ってしても実現困難な超常の技術を生み出していった叡智ある者達が、同族同士で争い築き上げてきた総てを失ったのだから、これを愚かと言わずして何を愚かと言えようか」

 

 

 

 楽園。

 

 

 

「彼らは何故争い滅びていったのか? その答えは恐ろしいほどに簡単なのだよ。そう、彼らには彼らを管理する者が居なかった。それ故に滅びるべくして滅びた。では何故叡智ある彼らが管理者を必要とするのか? それは──」

 

 

 

 傷付かず。

 

 

 

「それは彼らが不完全なる生命体だからだ」

 

 

 

 涙せず。

 

 

 

「不完全な生物という物はね、きちんと管理してやらねば共食いをする物なのだよ。時を振り返ってみてごらん。ほ~ら、共食いばかりしているだろう?」

 

 

 

 壊れず。

 

 

 

「やがてその共食いは神が与えた地上をも滅ぼしかねない大きな大きな火へと発展していく」

 

 

 

 喪わず。

 

 

 

「そうなる前に、誰かが管理し導いてやらねばならない」

 

 

 

 死することなく。

 

 

 

「現在この地上にはその愚かで不完全な生物が処狭しと蔓延っているわけだが、嘗ての超文明の頃とは比較するのも愚かしいほどに増殖してしまったこの不完全生物を管理するのは非常に困難を極める。何せこの生物は自らが持つ欲望をコントロールする事さえできないほど頭が悪いというのに、それでいて創世記より地上に現れた生物の中で最も凶暴で強い力を持っているのだからね」

 

 

 

 永久の平和を約束された世界。

 

 

 

「ならば放置しておくか? いいや、放置しておくことなどできないだろう。放置すれば地上を滅ぼしてしまうような危険生物を首輪も付けずに野放しにしてはおけん。だからこそ管理してやらねばならんのだ。我々が管理するのだ。自らを選ばれた特別な生命体であると思い込み、地上の支配者を僭称する不完全で始末に負えない下等生物には教えてやらねばなるまい。地上の総てを管理する権利を持つ真なる支配者は神だけなのだと。神によって管理された世界こそが真なる楽園であり正しき世界の姿なのだと」

 

 

 

 即ち。

 

 

 

「神と、代行者と、その使徒によって管理された争いのない美しき世界を建設するのだ。我々のこの手で作り上げるのだよ」

 

 

 

 完全なる管理の下に調和の取れた平和を謳歌する美しき楽園世界。

 

 

 

 そんな理想の世界が何時完成するのか? 

 

 その楽園を建設する為に動くのは何時になるのか? 

 

 否。それは本当に……本当に楽園なのか? 

 

 闇の中に居る声の主にも分からないその答えは、総ての存在の集合体にさえも分からない。

 

 過去と現在の記憶はあれど、無限に広がる未来を識る者は居ないのだから。

 

 例え未来を識る者が居たとしても、変わりゆく今の先を視る事などできはしないのだから。

 

 だがそれでも声の主は語る。昔も今も変わる事のない自身の願望と狂気の思想を。

 

 

 

「不完全な下等生物には必要なのだ。絶対なる管理者の下でこそ実現する『全天に秩序ある美しき世界』が」

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 皇歴2011年12月

 

 

 

 

 

 

 

『ギアナ公国陸軍大将ウゴ・チャベス卿狙撃』

 

 

 

『犯人は未だ特定されて居らず』

 

 

 

『国際テロ組織ペンタゴンが関与か?!』

 

 

 

『神聖ブリタニア帝国政府、ギアナ公国側の要請があればいつでも支援する体勢は整っていると発表』

 

 

 

『大日本帝国政府嶋田繁太郎首相、チャベス卿の回復を祈ると共に許されざるテロ行為に対しては断固とした措置を採ると明言』

 

 

 

 新聞や週刊誌の一面を飾る物騒な文字。それはアルガルヴェ連合帝国及びアラウカニア=パタゴニア王国と合同でテロ掃討作戦を展開している国の陸軍司令官が狙撃されたというもの。

 

 北をカリブ海、西をブリタニア、南をアルガルヴェに接した、南ブリタニア大陸北部にある王制国家ギアナ公国。

 

 主に大陸南部を活動拠点にしている民主共和制原理主義組織ペンタゴンには、広大なアルガルヴェを越えてこのギアナへのテロ攻撃を実行する力は無いと考えられていただけに南ブリタニア大陸の国々に衝撃を与えていた。

 

 もし、本当にペンタゴンが関与した暗殺事件であるのならば、これまで行ってきた掃討作戦や軍事行動は一体なんだったのかと疑問符が付けられてしまい、南ブリタニア各国の面目は丸つぶれとなる。

 

 テロリストに屈することはないと唱え続けたウゴ・チャベス大将がテロの凶弾に倒れたとあっては公国の威信にも関わってくる以上、このままで済ませる訳にはいかないと、陸軍と諜報機関を根こそぎ動員した徹底的な捜査が行われていたが、痕跡を残さず消えた暗殺者を特定するのは困難を極めていた。

 

 

 

 南ブリタニアに巣くう癌細胞──民主共和制原理主義組織ペンタゴン。

 

 大陸南部に根を下ろし、構成員数50万人は下らないとされるこの組織の始まりは、遡ること約200年前。混沌としていた南ブリタニア東部ラプラタ川周辺地域の武装勢力が結集して生まれたとされている。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 嘗て欧州で民主主義革命の嵐が吹き荒れ、ブリタニアへと亡命してきた欧州王侯貴族の一部が南ブリタニアの自国領を国家として独立させていった1800年代。

 

 その中で唯一波に乗り遅れたラプラタ地域は、北ブリタニアから渡り来た民主共和勢力USAと、現地政府・住民を巻き込んだ内戦へと突入し、後に入り込んできた思想に疲弊しきったその心の闇を突かれたのだ。

 

 その思想こそが、唯一の絶対者によって管理された秩序ある民主主義──民主共和制原理主義。

 

 

 

 “生来傲慢で欲望に塗れた凶暴性の高い人間という生き物は、力ある正しき者に管理されてこそ初めて秩序に満ちた平和な世界を築くことができる”

 

 

 

 争いに疲れていた民主勢力と、現地政府・住民の間へ瞬く間に浸透していったその思想は、やがてラプラタ地域を無政府状態へと陥れ、民主共和制原理主義組織ペンタゴンを誕生させてしまった。

 

 当時、独立国家が幾つか存在していたアフリカ東部、および中東南部へと浸透していく途上にあったこの思想は、欧州民主共和制とはまた性質の異なるものであり、その攻撃性が危険視されていたが、欧州革命の混乱が波及していた南ブリタニアは遂に堰き止めること叶わず侵入を許してしまったのだ。

 

 強い指導者の下で秩序ある平和を構築するという耳障りの良い思想を安易に求めてしまった住人達にも問題はあったが、王侯貴族も民主主義勢力も争いばかりを繰り返すという世界情勢を鑑みれば彼らを一方的に責める事もできなかったであろう。

 

 

 

 無論、欧州亡命貴族と現地勢力の合意の元で建国されていった他の南ブリタニア諸王国は、異質なその攻撃的思想を警戒してはいたが、

 

 同時に南ブリタニアの国々には欧州の革命と北ブリタニアの内戦の影響が色濃く、ラプラタのような小さな地域の事ばかりを気に掛けている余裕など無かったという理由もある。

 

 更に、他国への武力行使ができるような勢力が存在しない小さな地域の事など、慌ただしい国内情勢の対応に追われ黙殺してしまったのである。

 

 結果としてフリーハンドになったペンタゴンは、外部からの支援を受け着々とその力を蓄えていき、混乱に乗じて己が頂く思想の輸出を開始し始めた。

 

 秩序ある平和な世界を築こうという耳障りの良い言葉は、常に巻き込まれる側であった弱者や貧困層を中心にして静かに広まっていく。

 

 百が千に。千が万に。次第に各国へと影響を及ぼしかねない勢力に成長を遂げていった。

 

 そして大きく成長してきた主義者達は、欧州革命の影響から抜け出せないのは人民を管理できない力無き愚かな大陸の国々にあるとし、暴力という手段を用い出す。

 

 

 

 これを切っ掛けとして、真っ先に混乱期から抜け出そうとしていた南方の隣国アラウカニア=パタゴニアが自国へのこれ以上の思想流入阻止を計り、ペンタゴンとの間に散発的な武力衝突を引き起こす事となるのだが、

 

 ペンタゴンが狙っていた南ブリタニア全土を白く染め上げようとする民主共和制原理主義化の武装闘争は、盟主自らが動いていたアフリカ・中東地域のように大きな潮流へと発展することはなく、1900年代に入るとその活動を低下させ、大陸での紛争は事実上沈静化の方向へと向かっていく。

 

 やがて組織その物が崩壊したのか? 散り散りになってしまったペンタゴンはその姿を消し、紛争によって荒れ果てていたラプラタ周辺地域は、USAの流れを汲むラプラタ統一戦線という新たな勢力によって統一された。

 

 この背景には急速に発展していく北ブリタニア大陸全土と南ブリタニアの一部を支配下に収めている神聖ブリタニア帝国の影響があったものと推察されたが、同時期にペンタゴンと根を同じくする思想を持っているであろう合衆国東アフリカ等も歩調を合わせるように沈黙していた事を考えると、強ちブリタニアの影響のみで大人しくなったとは断定できなかった。

 

 

 

 こうして一度は消え去ったかに見えたペンタゴンの活動が再び活発化し始めたのは皇歴2005年に入ってから。

 

 南ブリタニア各地に散り、静かに息を潜めながら潜伏していた彼らは、100年の時を掛けて大陸中に根を伸ばしながら機会を伺っていたのだ。

 

 元より思想勢力・一種の宗教に近い存在である彼らには本来国家といった概念は無く、思想を広める為には自らの脚で世界中を移動することさえ苦としていない。

 

 だが、幾ら彼らが修験者のように一所に留まる事無く活動する存在であるとはいっても、拠点というものは必要だ。

 

 その拠点が大きければ大きい程、強ければ強い程により多くの人間を正しき世界へと導いて行ける。

 

 しかし、南ブリタニアで最も入り込みやすい不安定な地域というのがラプラタしか無い状況であったが故に、狭い同地を最大拠点としていたのである。

 

 

 

 そして2000年代に彼らが再び集結したのはまたもやラプラタ。

 

 この時既に同地域には国家が存在していたが、同国が皇歴2000年代に入っても尚不安定な国内情勢を抱えていたが故の必然であったと言えよう。

 

 

 

『無為無策な政治で民の安寧を奪い続ける堕落した現政権を打倒し、管理された秩序ある国を取り戻すのだッ!』

 

 

 

 まるで嘗ての南アフリカ対岸にあるマダガスカル島に存在していたメリナ王国のクーデターを再現しているかの如き素早い行動を見せたペンタゴン最高指導者ジェファーソン・デイビスを支持していたのは恐るべき事にラプラタ国民であったのだ。

 

 元を正せばこれには国民の大きな選択ミスが背景にある。何故なら、彼らラプラタ国民が国家統一時に民主主義を求めてしまった事に起因する今であったからだ。

 

 

 

 南ブリタニアで最後に独立した国ラプラタ東方共和国は、その名が示すとおり民主共和制国家として成立していた。

 

 

 

 民主共和制国家──欧州で革命を起こし、王侯貴族を追い出した民主主義。

 

 

 

 そんな政治体制の国を建国すれば、欧州を起源とする王制国家が乱立する南ブリタニアで孤立するのは必然で、細々と繋がっていた民主共和制の本場E.U.が凋落していくのと同様にラプラタの民主政権も汚職と金権政治の温床となり、衆愚政治の果てに斜陽の国へと転落していったのである。

 

 北の隣国アルガルヴェ連合帝国と、南側のアラウカニア=パタゴニア王国は、ラプラタ民主政権の負の連鎖を横目に、北大陸を平定した神聖ブリタニア帝国内で一定の発言力を持つ欧州王侯貴族であり、南ブリタニアの源流でもあるユーロブリタニアの協力によって国を発展させることに成功していたが、経済が行き詰まり始めて援助を願い出てきた同国へは一貫して無視の姿勢を貫いていた。

 

 無慈悲であるとも取れる非情な対応であったが、アルガルヴェは元々ポルトガル王家を出発点とする国。

 

 故に自らを追い出した民主共和主義には嫌悪こそ感じても親しみなど持つことはない為、当然の措置であったとも言える。

 

 仮に何かの間違いで援助しようなどとすれば、同じく起源が欧州である北隣の国ギアナ公国の反発を招き、余計な紛争を引き起こす切っ掛けとなるやも知れなかった。

 

 国家の規模で言えばアルガルヴェこそが南ブリタニアの盟主国であると言えたが、元より南ブリタニアの国々はその殆どが欧州の流れを汲んでいる。

 

 民主共和制国家への援助など行えば各国との関係悪化は避けられない上、露骨なまでにE.U.追従の姿勢を見せていたラプラタ支援を是とする者は国内においても皆無であった。

 

 

 

 一方フランス王家分家筋の血こそ入っていたとはいえ、アラウカニア=パタゴニアは初代国王オルリ・アントワーヌ1世が弁護士であったが為欧州王族とは縁が薄く、唯一ラプラタを支援できる立場に在ったと考えられるが、革命以後間もない時期からのE.U.の醜態を嫌と言う程観ている為、国民が幸せになれない民主主義に良い感情を抱いてはいなかった。

 

 王制であれ民主主義であれ、国というものは民が笑顔で幸せに暮らせるよう政を行わなければならないが、今のラプラタは民を二の次にし、自らの欲のみを追い求める政治家ばかりが実権を握り続けているのが実情である。

 

 そして自ら民主共和制を選んだラプラタ国民は国民主権という以上、自らの選んだ政体に対し責任を持たなければならないとし、国民が変わらなければ援助は総て無為のものになると考え、アラウカニア=パタゴニア王政府も支援を断ったのだ。

 

 

 

 北と南、2つの隣国から冷たい対応を取られたラプラタ国民は新たな変化を求め立ち上がるしかなかった。何処からも助けがない以上、自らが動き今の悪政を正す以外に道は無いのだと。

 

 無論、ラプラタ人達には王制という選択肢は無かった。王となれるようなカリスマ性を持つ人間が存在していないというのもあったが、何故周囲の冷たい国々と同じ体制に自らを変えなければならないのか。それならばまだ共産主義思想を取り入れた方がましだと誰しもが否を唱えていた。

 

 同じく民主共和制もない。このまま今の民主共和制が続いていけば、いずれはE.U.の様に落ちぶれていくだけ。現在進行形で貧困が広がっていく原因がその民主共和制なのだから。

 

 

 

 ではどうすればいい? 何をすれば、何を選べば自分達の幸せを掴める? 

 

 

 

 先行きの見えない不安と遣り場のない怒りがラプラタの地で渦巻き、負の心が国全体を覆い尽くそうとした時──―再び彼らは現れた。

 

 心の闇を嗅ぎ取り近付いてくる彼らは、不安に支配された人々へと語りかける。

 

 

 

『正しき力を持つ絶対者の下、秩序ある国を作り管理するのだ』

 

 

 

 嘗て豊かな隣国と戦い続けた歴史を持つ彼らの記憶が蘇ってきたのだ。それも強力な指導者と共に国民が管理することで間違いを犯さない、間違う事なき民主主義という必要以上に大きく美化されて。

 

 アラウカニア=パタゴニアと渡り合えていた力あるラプラタを取り戻そう。

 

 半端な力を持つ者を選んだことがそもそもの間違いである。

 

 選ぶべきは絶対的な力を持つ者の下で。

 

 力ある絶対者の下、自分達で管理する正しき平和な世界。

 

 

 

 民主共和制原理主義。

 

 

 

 こうして彼らは武装蜂起した民主共和制原理主義組織ペンタゴンを熱烈に支持し、3度目の過ちを犯した。

 

 国民の過半が反乱勢力となってしまったことで民主政権は北へ北へと追いやられ、やがてラプラタ全土がペンタゴンの手で制圧されてしまう。

 

 

 

 2010年2月18日。首都モンテビデオの大統領府に翻る白い羽の描かれた旗を前に、ペンタゴン最高指導者ジェファーソン・デイビスの副官を勤める男は高らかに宣言する。

 

 

 

 ラプラタ東方共和国改め、ラプラタ民主連合共和国の成立を。

 

 

 

 この動きに対し、ギアナ・アルガルヴェ・アラウカニア=パタゴニアの3国も黙っていたわけではない。

 

 民主共和制は忌むべき存在であったが、民主共和制原理主義は危険な存在であるが故に看過しては置けないと。

 

 

 

 南ブリタニアの歴史は常に侵略される側の歴史であった。

 

 古くは欧州からの南ブリタニア侵略に始まり、次いで大陸全土に欧州の文化が根付き漸く原住民に安息の時が訪れた頃には民主革命の混乱が。

 

 更に北ブリタニアで成立した神聖ブリタニア帝国の第二次拡張期の戦争では、大陸の国総てが併呑されるかも知れないという危機を経験していた。

 

 

 

 そして近代に入り、新たな侵略の可能性を予感させた太平洋対岸の閉鎖国家──民主共和制原理主義の盟主合衆国オセアニア。

 

 

 

 ブリタニアの侵略主義は1800年代後半には終息していたが、民主共和制原理主義は1995年に改めてその攻撃性が確認されている。そう、ニューギニア戦争だ。

 

 合衆国オセアニアが、北太平洋の西側全域に支配権を持つ超大国日本とぶつかることさえ厭わずに侵略的野心を持ってパプアニューギニアへと襲いかかったのは記憶に新しい。

 

 正確には南北ニューギニアの戦争にオセアニアが介入したというのが正しく、彼の国は決して主役という訳ではなかったのだが、自国が動けば日本も動く。

 

 列強同士のパワーゲームに発展することは目に見えていた筈であるにも拘わらずオセアニアは動いた。

 

 

 

 遡ってみれば、太平洋戦争の時もそうであった。

 

 当時、ある事件を切っ掛けに対立していた日ブの隙を突いて、南太平洋と東南アジアの一部を掠め取ってしまっている。

 

 それだけには飽きたらず、日ブ戦争の行方次第では、東南アジア全土に加えて南ブリタニアにまで狂気の食指を伸ばそうと画策していた。

 

 事実、太平洋戦争後に幾度かオセアニアと紛争になっていたアラウカニア=パタゴニアは、少ないながらもサクラダイトが採掘されていたイースター島を占領されている。

 

 元より鎖国体制下にあり国交が無い相手。返還交渉に応じようとしないばかりか、同島の徹底した要塞化で実効支配の強化を計るオセアニアに対し何もできない状況が続いていた。

 

 無論この世界の掟である弱肉強食に従い力を持っての対抗措置も考えたが、アラウカニア=パタゴニアに限らず、オセアニアと正面から渡り合える程の国力を持った国は南ブリタニアにはないのだ。

 

 確認されている14隻の大型空母(満載75,000t級12隻。85,000t級2隻)の内、6隻を中核とした機動部隊を差し向けられただけで最悪玉砕を覚悟しなければならない程力の差が大きく、南ブリタニア諸国にとって同国との全面戦争は滅びへの道でしかない。

 

 なにせ第5世代ステルス戦闘機の運用を始めているのだ。日本やブリタニアの同世代機よりは性能が劣っても、第4世代機が中心となる南ブリタニア側の勝機は薄く、片っ端から撃墜されるであろう事は容易に想像できる。

 

 海上戦力も同様に太刀打ちできそうもなかった。

 

 

 

 本格的な侵攻を行なっていないのが不思議なくらいに高い攻撃性を持つオセアニアが、これまで侵略の手を伸ばしてこなかったのには無論理由がある。

 

 

 

 それは世界最大の超大国──神聖ブリタニア帝国の存在。

 

 

 

 2010年現在において南ブリタニア大陸で明確に同国との関係が同盟乃至盟友と呼べる国は皆無であったが、自国の足下を揺るがされようとすれば否応なしに彼の国は反応する。

 

 直接的な介入となれば話は別だが牽制程度ならば行うであろう。

 

 しかし、イースター島紛争の際には動かなかったブリタニアが、オセアニアとの全面戦争を覚悟してまで介入して来るかといえば、疑問符が付けられるのもまた確かなこと。

 

 実際には反応し牽制まではしても、本格的な侵攻を開始したオセアニア相手に自ら血を流してまでの撃退には乗り出さないかもしれない。

 

 

 

 その最大の理由は南ブリタニアの国々と、神聖ブリタニア帝国の間には、強固な信頼関係が無いという処が往々にしてあった。どちらかと言えば、南ブリタニア諸国側が一定の距離を置いているわけで、良い悪いで片付けられる話ではなかった。

 

 嘗て侵略戦争を繰り返し、中央ブリタニアと南大陸の一部を併呑していった国が、あるときを境にして平和主義に方針転換したからといって諸手を挙げて受け入れられる訳がないのだ。

 

 勿論、ブリタニアの地に住まうユーロブリタニアへの感情は別物であり、彼の勢力には全面的な信頼を寄せている。

 

 義に厚い彼らはブリタニアに身を置いている国無き国で有りながらも列強と肩を並べられる程の力を持ち、南大陸の発展に付いては感謝しても仕切れない程の援助をしてくれたのだから。

 

 更に言えばユーロブリタニアの上層部に居る嘗ての欧州王族と大諸侯は南ブリタニアの王族にとっては血の繋がった親戚であり、寄せている信用の強さもその他と比較にならない。

 

 では、その一方でブリタニアはどうか? といえば、ブリタニアもまた同じで、貿易によって発展に欠かせない大きな恩恵を南大陸にもたらしてきた。

 

 インフラ整備。各種産業の支援。豊富な天然資源の友好国価格での取引。挙げれば幾らでも出て来る。しかし、1800年代の侵略の歴史がどうしても引っ掛かってしまうのだ。

 

 

 

 南北ブリタニアは複雑な関係にある。彼らにとって現在の神聖ブリタニア帝国は友好国ではあっても全面的な信頼を置くのは難しい。

 

 だがその一方で、ブリタニアに身を置くユーロブリタニアには全幅の信頼が置けるという。

 

 

 

 無論諸王国の王族内でも意見は割れている。

 

 

 

『この百有余年の間ブリタニアは対外的侵略戦争を一度たりとも起こしては居らず、ユーロブリタニア同様全幅の信頼が置ける国となった。故に万が一の時は頼るべきである』

 

『一度頼れば植民地化される危険性とてあり得るのではないか? 今は友好的な関係を築ける穏和な国となっているが過去は消せない。それに将来的にはどうなるか……』

 

『日本を見てみろ。彼の国もブリタニアと歴史上類を見ない程の大戦争を繰り広げてきたが、今や互いの背中を預け合う強固な関係を築けているではないか』

 

『日本と我々では比較にならない。日本は唯一ブリタニアに対抗できる可能性を持った超大国故に対等な関係を築けたのであって、我々南大陸の諸国家では力の差が有り過ぎ一方的な隷属関係を強いられる可能性とて考えられる』

 

『例えそうなっても民主共和制原理主義によって白く染め上げられるよりは遥かにましだッ! メリナの王室は脱出した王女1人を残して全員処刑されたのだぞッ! それに残された民はどうなるッ!』

 

『だが、我々に護るだけの価値や国益を見出していなければ救援要請をしたところで突っぱねてくるかも知れん。如何にブリタニアと言えどもあの原理主義者共が相手なら相応の血が流れること必至なのだからな』

 

 

 

 平行線を辿る彼らは、とにかく今はオセアニアへの警戒とペンタゴンへの対応を優先すべき時だとして、各々の対策を打ち出していく。

 

 このまま手を拱いていればペンタゴンは必ずや思想の輸出を始める。それが民主共和制原理主義というものだ。

 

 各国共に嘗てのような混乱期ではない自国に早々浸透していく筈がないと考えてはいたが、南ブリタニアの至る所に主義者が潜んでいるという可能性を考えると到底楽観視できる状況にはなかった。

 

 どういった形で入り込んでくるのか分からない。昨日までの友人が今日はテロリストなどという信じたくない状況が発生することも考えられるのだから。

 

 彼らは隙を見せれば総てを奪う。国も資源も人の心さえも白く染め上げてしまう。

 

 実際、1800年代の大陸混乱期には爆発的な勢いで原理主義者が増えていったという過去がある。

 

 それ故に南ブリタニア諸国は民主共和制原理主義を恐れ、その危険性についても良く理解していた。

 

 特にアラウカニア=パタゴニアは過去に一度ペンタゴンと武力紛争を起こしていた経緯もあり、このまま何もせずに放置しておくつもりなど更々なかった。

 

 時代が移り変わろうと、彼らの攻撃的な思想は何ら変わってはいないのだから。

 

 

 

 

 

 2010年3月。

 

 

 

 

 

 エクアドル公国とペルー王国を加えた南ブリタニア5ヶ国は、共同で『ラプラタは現在主権者不在の無政府状態であり、民主共和制原理主義組織ペンタゴンによるラプラタ民主連合共和国を国家として承認しない』との声名を発表。

 

 それも大陸南部に幾つかの拠点を持つテロ組織が、最大拠点のラプラタで無法な行いをしているだけであると断じ国境を封鎖し、ラプラタ民主連合共和国首班を名乗るペンタゴン最高指導者ジェファーソン・デイビスを無差別大量殺人等の罪で改めて国際手配。

 

 予想されうる嘗てのようなテロ攻撃と、一国家の基盤を乗っ取った事によって手に入れた軍事力の行使、および思想の輸出に最大限の警戒体勢を取った。

 

 

 

 そしてやはりというべきか。ペンタゴンは国境封鎖の報復として武装闘争の選択を採ってきた。

 

 ラプラタ空軍基地を飛び立ったEF2000ユーロファイターの編隊がラプラタ川を越え、アラウカニア=パタゴニア東部最大の都市ブエノスアイレスを急襲。スクランブル発進してきた同国空軍と戦闘になった処から戦いの火蓋は切られた。

 

 事ここに至り、戦争の道を選ぶペンタゴンを非難したラプラタ国民も居たが、時既に遅し。

 

 誤った選択をし続けた彼らは否応なしに巻き込まれていく。理性ある者も、そして白く染まった原理主義者も。

 

 

 

 このペンタゴン側の動きに対し、エクアドルとペルーを除く3国は同組織の最大拠点であるラプラタへの空爆、掃討作戦で応戦していた。

 

 戦車・戦闘機の数・性能。どれをとっても経済力が遥か上の3国の方が上回っている。開戦劈頭こそ宣戦布告無き先手であったが故に国境からほど近い都市への攻撃に成功していたペンタゴンであったが、それは僅かな期間でしか無く、自力の違いは時間を追う事に表れ、空陸を問わず次第に3国が圧倒していく形となる。

 

 

 

 この流れは誰しもが予想できたこと。

 

 ラプラタは最初から国力で負けているのだから1国と戦争しても勝てはしないというのに、3国を同時に相手取ってしまった時点で負けは決まっていた。

 

 

 

 無論のこと、ペンタゴンもそれが分からないほど猪突猛進な馬鹿ではない。

 

 彼らには劣勢なこの状況を必ずや引っくり返せるというある確信があった。

 

 

 

 

 

 2010年9月。

 

 

 

 

 

『合衆国東アフリカ。大西洋への遠洋航海と外洋での特別演習の為、新型空母エイシェトと護衛艦艇を大西洋へ廻航。E.U.南アフリカが寄港地を提供か?』

 

『合衆国オセアニア。大洋州艦隊のサンダルフォン、ラジエルを中核とした機動部隊2個群をイースター島周辺海域へ移動。外敵からの侵略を想定した離島防衛訓練であり第3国の紛争とは無関係である』

 

 

 

 合衆国東アフリカは40,000t級の航空母艦を最近になって手に入れていたが、それが嘗てオセアニアで使われていた中型空母であるのは誰でも知っている。

 

 新型とは謳っていても近代化改修しただけの話であり、それをしたのもマダガスカル自治州だ。つまり実質現在に至ってもオセアニア製の空母である。

 

 そして、オセアニアが機動部隊2個群をイースター島沖に展開して離島防衛訓練を行うというのも額面通りには受け止められない。

 

 まるで示し合わせたかのようなこの動きはペンタゴンへの側面支援に他ならず、南ブリタニアは東西大洋と大陸内部の3正面作戦を余儀なくされる状況に追いやられる。

 

 

 

 そう、ペンタゴンはこれを待っていた。

 

 大きな動きを見せれば必ずや盟主が動く筈だと見込んでいたのだ。あのニューギニア戦争の時のように。

 

 E.U.が寄港地を提供しているのも、南ブリタニアが大きく揺れれば欧州奪還を試みているユーロブリタニアのマイナスになるという、敵の敵は味方程度の考えであって、本腰入れての同盟関係ではない。

 

 だが、東西からの圧力で大陸諸国が動けなくなるのは間違いなく、ペンタゴンとしては思惑通りに事が運び首尾は上々といった処であった。

 

 何より盟主が動いた。これこそが重要なのだ。盟主の力を持ってすれば大陸諸国など物の数ではないのだから。

 

 繰り返される空爆の中で彼らは笑っていた。これで管理ができると。

 

 

 

 オセアニアと東アフリカのこの動きを観て、来るべき物が来たかと覚悟を決めたのは、ギアナ公国陸軍大将ウゴ・ラファエル・チャベス。

 

 ペンタゴン、いやジェファーソン・デイビスが無謀な戦争に踏み切った時から予想はできていたのだ。

 

 民主共和制原理主義組織の指導者はどれもこれも計算高い曲者が揃っている。盟主国であるオセアニアからしてそうであった。

 

 日ブは言うに及ばず、E.U.や中華とも正面からぶつかることを避けながら自らの生存権拡大と思想の拡散を計ってきた。

 

 現実にぶつかりそうになれば引き。ぶつからないのならば進む。1700年代後半の外征開始から延々変わらぬ強かさを保っている。

 

 メリナ王国も、アフリカ東部も、中東も、大洋州も、ニューギニアも、自らの被害を最小限に抑えつつ拡大していき力を付け、今では中華連邦を越える程の国力を身に付けて世界第3位の大国にのし上がっていた。

 

 彼らが初めて躓いたのは1995年。日本を甘く見すぎた結果、機動部隊2個群の喪失という大きな損害を出している。

 

 この時も無理強いはせず劣勢と判断して引いていたが、これが仮に中華連邦が相手であったなら多少の無茶はしていたであろう。

 

 海軍力では確実に勝っているのだからある程度の損害には目を瞑って自国の目的を優先していた筈だ。

 

 

 

「くそう……ッ、東アフリカだけならばどうとでもなるというものを……ッ」

 

 

 

 チャベスは、ペンタゴンに合衆国東アフリカが加わったくらいならば、ギアナ・アルガルヴェ・アラウカニア=パタゴニア3国の力を結集すれば勝てると確信していた。

 

 少なくとも戦争という戦いにおいては充分な勝算があった。

 

 如何に東アフリカがオセアニアの強力な支援の下国力を倍増させているとはいえ、所詮地域大国の域を越えてはいない。

 

 4大列強。鎖国しているオセアニアも加えて5大国の領域には達して居らず、その国力は大きく見積もってもアルガルヴェの6~7割といったところ。

 

 問題はオセアニアであった。彼の国だけは南ブリタニアが束になっても勝てない相手だ。

 

 なにせオセアニアは高い技術力もさることながら、実質的な国民皆兵制度を採用している軍事大国であり、専門的な技術が必要な兵器の取り扱いは別としても、単純な兵力だけなら4000万でも5000万でも動員が可能という異常な国。

 

 総動員体制に入ったときの兵力数だけなら中華と並んで頭1つ抜きんでている。

 

 無論絶海の大陸が本土である為、兵員輸送には手間取るであろう。それに人数が増えればマイナスの面も大いに出て来る。

 

 だが、倒しても倒しても雲霞の如く沸いてくる敵など悪夢としか言えない。

 

 現代戦で数の論理を持ち出すことは無意味ながらも、最新兵器と兵力数。何れに於いても対抗不可能な南ブリタニアにとっては由々しき事態であった。

 

 こんな異常な国に対し1国で対抗可能なのは大日本帝国・神聖ブリタニア帝国・中華連邦の3国のみ。

 

 列強の一角であるE.U.ユーロピア共和国連合でさえも分が悪く、長期戦となれば敗北は必至。

 

 国力が下であっても中華連邦ならば人口と、一部の突出した軍管区のお陰で辛うじて互角の戦いができるであろうが、生憎と自らが所属するギアナにその様な力は無い。

 

 兵器の質と数、兵力、何よりも国力。総ての面で圧倒されているのだ。

 

 もしもオセアニアとの開戦・全面戦争へと発展すれば、必死の抵抗も何処吹く風で国中を焼け野原にされる事は目に見えていた。

 

 ユーロブリタニアに支援を求めるという考えも過ぎったが、欧州奪還を計画しているらしい彼らが果たして兵力の提供をしてくれるかという不安が拭えない。

 

 なによりオセアニアは日本やブリタニアでさえ全面戦争となる事を回避するきらいがあるような国なのだ。

 

 この時点でその二国より劣るユーロブリタニアも二の足を踏むと想定できる。

 

 

 

 結果としてみれば正に四面楚歌。

 

 

 

「最悪の想定としてこうなることは予想できていたというのに……ッ」

 

 

 

 今更ながらに悔やまれる。ブリタニアへの救援要請を出さなかった事が。

 

『我が国も南大陸の混乱を見過ごす事はできない。協力できる事があればいつでも頼って欲しい』

 

 そう申し出てくれていた彼の国の言葉を聞き流してしまった事が。

 

 

 

「かつては侵略主義であったが今のブリタニアは違う──何度も進言していたというのに石頭の宰相達のお陰でこの様だッ!」

 

 

 

 ウゴ・ラファエル・チャベス。彼は南ブリタニア諸国に数多く居るライエル主義派と呼ばれる改革主義者の1人であった。

 

 賢帝ライエル──侵略主義を改めて国内改革に全力を注ぐという、それまでの方針からまったく違う方向へと舵を切った神聖ブリタニア帝国中興の祖。

 

 彼の真新しい政策の数々は、それまで力による拡大のみに終始していたブリタニアに新たな風を吹き込ませ、南ブリタニア諸国にも大きな恩恵をもたらした事で知られている。

 

 ブリタニアを変えた事で知られるのは何も彼だけではない。新大陸開祖リカルド大帝。英雄帝クレア。賢帝ライエル。そして現皇帝シャルル。

 

 歴史の転換点に現れ、大きな変化をもたらす皇帝達は、皆南北両大陸に新しい何かを産み落としていった。

 

 特に英雄帝クレアと賢帝ライエルの流れから一気にブリタニアの平和主義化が進んでいった為、侵略される側であった南側の国々にも両皇帝の信棒者は多いのだ。

 

 両皇帝の時代から百と数十年。以後彼の国は一度たりとも侵略主義に立ち戻ってはいない。信用を失うのは一瞬であるが、作るのは時間が掛かる。

 

 ブリタニアはその作る方に時間を掛けてチャベスのような心からの親ブリタニア派を生み出していた。

 

 しかしながら、未だ不審を抱いている者も多いという事実もまた存在し、今回それが最悪の形となって表れてしまったのである。

 

 

 

 南ブリタニア3国。

 

 民主共和制原理主義組織ペンタゴン。

 

 

 

 この時まさに双方の思惑は逆転していた。

 

 3国は敗北の予感を。ペンタゴンは自らの勝利と共に合衆国南ブリタニアの実現を思い描いていた。

 

 

 

 しかし、事態は双方の思惑を越えて動き出す。

 

 ニューギニア戦争の時、大日本帝国は友好的な付き合いをしていた東南アジアの危機に駆け付けた。

 

 ならば今のブリタニアはどうか? 日本と似通ってきた穏和なブリタニアは、南ブリタニア諸国と友好関係にあるのではないのか? 

 

 一度あれば二度あり、二度あることは三度ある。列強が動けばまた列強が動く。それが仮想敵国、それも最大の仮想敵であるならば。

 

 日本がそうであったように、友好関係にあり自国の勢力圏であると考えている国が危機に晒されているのならば、要請無くとも駆け付ける可能性は大いにあるのではないのだろうか。

 

 これは正しくなかった。動くといったその時には、もう動いているのが彼の国であるのだから。

 

 建国以来変わらぬ絶対なる君主の下行われるという他に類を見ない迅速なる対応は、永の平和な世が続こうとも健在であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『公海上での海賊に対する演習』

 

 

 

 

 

 

 

 滑稽とも取れる理由を付けて南ブリタニア大陸西海岸沖の“公海”に演習目的の艦隊が現れたのは、オセアニア大洋州艦隊が“演習”の為にイースター島周辺に向かった時より2月後。

 

 その陣容はオセアニア艦隊よりも更に大規模な100,000t超えの巨大空母と、戦艦までセットにした目を疑うものであり、彼らの言った“公海上”を埋め尽くし、大陸の防波堤となるような形で展開してきた。

 

 迅速なその動きに紛争当事者達は皆驚きの声を上げていた。最も彼の国が南ブリタニアの要請無くとも動く時は独自に動くと判断していたオセアニア艦隊だけは終始冷静な対応をとっていたが、本国では紛争介入を押し切った国防次官が激怒していたらしい。

 

 

 

『これは公海上においての自国船籍の船を護る為の防衛訓練であり第3国の紛争とは無関係である』

 

 

 

 まるでオセアニア側の発表をそのまま引用したかのように記者会見で述べたのは齢18歳の若き天才、神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニア。

 

 

 

『尚、防衛訓練に参加する艦隊の補給には盟友日本の補給艦隊も参加している。但し我が国は防衛訓練。日本は補給訓練での参加となり

 

 あくまでも訓練・演習であって“第3国の紛争介入に来たのではない”これを徹底しておきます。どうやら何処かの国も離島防衛の為の“演習”に訪れているようですが』

 

 

 

 彼は何度も繰り返す。第3国同士の紛争には介入しないと。

 

 彼は南ブリタニアの国々が潜在的に持っている不信感を考慮した上でこのように述べている。

 

 紛争介入を名目にして南ブリタニアへの進駐を計り、隷属を迫られる。この種の強迫観念が未だ存在していることを知っているのだ。

 

 だからこそいつでも助ける用意はできているとメッセージを送りつつ、救援要請がない以上無理とに介入するという手段は採らなかった。

 

 これは嘗て世界有数の侵略国家として恐れられていたブリタニアの業なのだ。拡大主義を改めてより100年以上の歳月が流れても尚その残滓を残している。

 

 それにブリタニアは戦争その物は否定して居らず、弱肉強食という考え方と基本路線も昔から何ら変わっては居ない。

 

 

 

 強き者が上に立つ──自然の摂理であり、この世界の不変の掟。

 

 

 

 こぼれ落ちてしまった弱者の救済も手厚いが、それは助けを求める弱者を見捨てないのもまた強者としての勤めであるからに過ぎず、努力をしようともしない弱者に対しては弱肉強食の国是の下容赦なく切り捨てる。

 

 あくまでも拡大主義を停止させただけであり、必要と在らば戦争という手段を用いてでも問題解決を図るというのが今のブリタニアにとっての基本方針。

 

 唯一変わったのは、協調できる他者とは共に歩むという部分であろうか。その結果手に入れたのが日本という得難いパートナーであるのだが。

 

 だが、オセアニア……いや、民主共和制原理主義は違う。あれは明確なる敵として見据えている。協調も何もない相容れぬ存在であり忌むべき敵。

 

 混乱ある処に必ず奴らは現れ、油断したその時には何かを奪い破壊していく。時には総てを白く染め上げ、人を人でなくしてしまう。

 

 その相容れぬ存在が、同じく相容れない思想を持って忍び寄ろうというのなら、力を持っての排除に乗り出すのみ。

 

 

 

(あの連中の好き勝手な振る舞いをこれ以上放置しておくつもりはない)

 

 

 

 シュナイゼルはイースター島に展開するオセアニア艦隊へも呼び掛ける。双方共に第3国の事は忘れて楽しい演習をしようじゃないかと。

 

 

 

 無論、南ブリタニア沖の大西洋公海上にもブリタニア艦隊は展開していた。

 

 旗艦である空母ハドリアヌスを指揮する顎ヒゲを蓄えた気性の激しさを感じさせる風貌の壮年男性は、眼前で相対する小さな艦隊を前にして、仁王立ちしながら自分の評価を気にし出す。

 

 

 

「訓練・演習といっても、なにやら血が騒ぐ。此処であの原理主義者共を叩けばニューギニア戦争の英雄のようになれるだろうか」

 

 

 

 ニューギニア戦争の英雄とは、現大日本帝国海軍大臣……いや、国防大臣の山本五十六の事である。

 

 15年前、共通の仮想敵国であるオセアニア相手に僅か2隻の巡洋艦大破・1隻の駆逐艦撃沈という損害と引き替える形で、2個空母群を壊滅させた大提督。

 

 言うまでもなく個艦性能など基本的な兵器の質の差に加えて数でも勝っていたのだから当然の結果とも言えたが、それでも2個空母群壊滅というのは大きな戦果だ。

 

 そして、その戦果を挙げたニューギニア戦争の英雄は壮年男性──南ブリタニア大陸東方派遣艦隊司令アプソン・トンプソン将軍の憧れの人。

 

 

 

「アプソン将軍、山本大臣のような英雄になられたいのでしたら東アフリカ艦隊ではなくオセアニア艦隊と戦ってください。東アフリカの弱小艦隊を叩いた処で大した評価にはなりませんよ」

 

 

 

 自らが憧れる山本提督のように大戦火を挙げたいとうずうずするアプソン将軍に、勝手な事をされては叶わないと釘を刺したのはハドリアヌスの艦長だ。

 

 優秀ではあるのだが、評価ばかりを気にするのがこの将軍の玉に瑕な処であった。

 

 それに40,000tの中型空母1隻に旧式の巡洋艦が2隻。駆逐艦6席。計9隻。

 

 補助艦艇等を入れても20隻行かない東アフリカ艦隊を、100,000t級空母ハドリアヌス以下50隻から成る主力艦艇で封鎖しているのだから、仮に戦闘となり勝利したとしてもアプソン将軍が山本提督と同じ名声を手に入れるのは不可能。

 

 せいぜい弱い者イジメのアプソンとか言われて陰口を叩かれるのがオチである。

 

 

 

「それと、これは一応“海賊行為に対処する為の演習”“訓練”であって我々は戦争しに来たのではありません。やっこさんの言う“外洋での特別演習”とやらと同じです」

 

「言われずとも分っておるわッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南ブリタニア西方太平洋上。

 

 

 

 

 

 

 

「敵……じゃなかった。オセアニア艦隊空母サンダルフォンから発艦したと思われるアンノウンが接近中」

 

「アンノウンだと? ニューギニア戦争の時の機体ではない新型か。ふん、引き籠もりの原理主義者共がよくもまあ第5世代に分類される機を開発できた物だ」

 

 

 

 南ブリタニア西方派遣艦隊旗艦イングルバラのブリッジで吐き捨てたのは、同艦隊司令を務める男。

 

 

 

「如何なさいますか?」

 

「そうだな……向こうが飛ばしたのなら此方も艦隊上空に航空部隊を展開してやれ。但し撃つなよ? これは第3国の紛争には関係のない“軍事演習”なのだからな。無論、原理主義者共が一発でも撃ってきたら遠慮することなく叩き落とせ」

 

「Yes, My Lord。唯ひとこと申し上げますカラレス閣下。ブリッジにどんぶり持ち込んで月見そばを食べないでください」

 

「ええいうるさいッ! 南雲卿より頂いた折角のお土産を見晴らしの良いブリッジで食したいという私の気持ちがわからんのかッ! それに日本の諺にもあるだろう、腹が減っては戦ができぬとッ!」

 

(だからって食い物をブリッジに持ってくんじゃねーよッ! 部屋で喰え部屋でッ!)

 

 

 

 オペレーターを務める青年は凶暴な性格の艦隊司令──カラレス将軍には直接言えないので心の中で悪態を付いた。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。南ブリタニアに存在感を示すためとはいえ、地球の裏側まで来る事になろうとは……」

 

 

 

 南ブリタニアへの側面支援……もとい。ブリタニアと共に対海賊合同演習に参加していた大日本帝国の補給艦隊を指揮する南雲忠一は、深い溜息を付きながらブリタニア空母イングルバラを発艦した菱形の戦闘機が似たような形状のオセアニア戦闘機を追い払うのをぼんやりと眺めていた。

 

 

 

「南雲司令。イングルバラより通信が入っておりますが」

 

「繋いでくれ」

 

「はッ」

 

 

 

 繋がったモニターに現れたのは濃いヒゲ面のむさい中年男。何故かその手にはどんぶりを持っている。

 

 

 

「何用ですかなカラレス将軍。もしやオセアニア側に新たな動きでも?」

 

 

 

 一応名目上の日ブ合同演習艦隊司令を任されているカラレスであった。

 

 

 

(態々通信を開いてきたのだからオセアニア軍に動きがあったのか? 此方はまだ何も掴んでは居ないが)

 

 

 

 気を引き締める南雲であったが違う違うと手を振ったカラレスの言葉に唖然とさせられた。

 

 

 

『南雲卿。卿に頂いたこの蕎麦を先ほど食して居ったのですが……いや、実に美味ですな』

 

「それは此方としても差し上げた甲斐があったというものですが……まさかそれだけなのですかな?」

 

『ええ、それだけですぞ』

 

 

 

(…………作戦行動中に何をやっとるんだこの男は)

 

 

 

 余裕の裏返しなのか、暢気に蕎麦を食っていたカラレスに呆れて物も言えない南雲は、通信が切れると再び空を舞うブリタニア軍機を眺めるのであった。

 

 余談だが、後に南ブリタニア大陸東西に壁のように張り付いて、弾丸1つ通さなかった事から呼ばれるようになったこの作戦、

 

 オペレーション『シールド・オブ・イージス』を切っ掛けとして、南雲忠一は駐ブリタニア日本大使館付き駐在官となり、ある不機嫌な淑女との出逢いを得て引退後の余生をブリタニアで過ごす事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イースター島沖公海上。

 

 

 

 

 

 

 

「不用意な挑発は避けるよう全艦に通達しろ」

 

 

 

 冷静な声で命令を下したオセアニア海軍大洋州艦隊司令。

 

 彼は旗艦サンダルフォンのレーダーに映る自軍の倍はあろうかという艦影を睨み付けていた。

 

 

 

「アラウカニア=パタゴニアとのイースター島紛争の際にはだんまりだったというのに今回は素早いお出ましだったな。流石に南ブリタニア本土への侵入は許さないという訳か」

 

 

 

 本国からの命令ではブリタニアが動く気配を見せなければ演習から“実戦”に切り替えろ。

 

 後続部隊の出撃準備も整えてある。との連絡を貰っていたが、動く気配処か実際に眼前へと立ちはだかられてしまうと打つ手がない。

 

 強行突破。開戦という選択もあったが、日本艦隊とぶつかったニューギニア戦争特の敗北を考えると、その時以上の戦力を目の前にして下手な手出しは出来なかった。

 

 

 

「国防次官殿はあわよくば大陸の半分くらいは分捕るつもりで居られたようだが……当てが外れたな」

 

 

 

 E.U.の協力を取り付け東アフリカの寄港地まで用意させて東西から南ブリタニアを攻撃する筈であった計画が総て水泡に帰した。

 

 サンダルフォン・ラジエルとその護衛艦群に加え、後続のサディケル・ヨフィエルを中核とした機動部隊4個群を持ってしても打ち破れるかどうかといえば比較劣勢。

 

 75,000tのメタトロン級空母4隻と250機以上の艦載機に、潜水艦も含めた戦闘艦艇50隻。そこらの小国など2.3国纏めて潰せる戦力だ。

 

 これに規模は小さいながらも東アフリカの艦隊が加わるのだから南ブリタニア攻略の第1陣としては申し分ない戦力の筈であった。

 

 

 

「相手がブリタニアや日本でさえなければ……」

 

 

 

 その一言に尽きるだろう。

 

 本国も馬鹿ではない。こうしてブリタニアが立ち塞がってきた以上撤退を指示するはずだ。

 

 でなければ、勢いに任せて突っ込んだニューギニア戦争の二の舞となる。

 

 あの時の損害は人名・金共に看過できる範囲を超えていたのだから、自らがその愚を犯すわけにも行かないし、無能のレッテルを貼られて更迭・軍法会議の途に付くなど御免被りたい。

 

 無論、軍人であるからにはやれと命令されればやる覚悟はできている。向こうから撃ってくれば当然応戦するし全力で行くつもりであった。

 

 唯、如何にブリタニアとはいえこれだけの正面戦力でぶつかればただでは済まない事が分っている故に、向こう側にも自ら開戦の引き金を引く意図はないだろう。

 

 奴らの狙いがオセアニアによるラプラタ紛争介入阻止にあるのは明らかだ。

 

 

 

「日ブのどちらかと本気でやるつもりならE.U.も引き込まなければならんが、両国の関係を考えるならどちらか一方と開戦した時点で両方を相手取ることになるか」

 

 

 

 現実的な事を考えながら本国よりの撤退命令を待つ彼の頭の中には、最早戦争の2文字など残ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 南ブリタニア東西海上に展開した4つの艦隊は演習という名目の下睨み合いを続け、東西で合わせて100隻を超える主力艦が展開しながらも双方が口にした第3国への軍事的介入ではないというその言葉の通り、終ぞ戦闘行為が行われる事はなく矛を収める方向に向かっていく。

 

 

 

 こうして思いも寄らない形で双方の友好国が行った自称“演習”は、結果的にペンタゴン側にとって大きく不利となった。期待していた盟主の介入は最早不可能であるというのは疑うべくも無く。

 

 

 

「忌々しいブリタニアの小僧めがッ」

 

 

 

 思惑を外され、戦いを根底から引っ繰り返されてしまったジェファーソン・デイビスは、隠れ潜む逃亡先でテレビに映った若く容姿端麗な帝国宰相に罵声を浴びせていた。

 

 

 

「だが、この程度で勝った気になるなよッ! 私が健在である限りペンタゴンは不滅……例え私が死のうとも『楽園』は不滅なのだッ! 同志達に告ぐッ! この聖戦に勝利し、南ブリタニアに我らが王道楽土をッ! 全天に秩序ある美しき世界を構築するのだッ!」

 

 

 

 不利になり追い込まれた筈のペンタゴン。だが、彼らは降伏しなかった。

 

 降伏する処か、至る所で自爆攻撃さえ敢行して激しい抵抗を見せ、不意の攻撃に晒された南ブリタニア各国軍の犠牲は良好な戦況とは真逆で日増しに増えていくばかり。

 

 それだけではない。彼らは非戦闘地域や民間人すらもターゲットにしてきたのだ。先日もアラウカニア=パタゴニア首都ペルケンコに侵入した戦闘員に自爆テロを実行され多数の死傷者を出したばかり。

 

 ペンタゴン……いや、民主共和制原理主義組織の何よりも厄介な処はその性質にある。

 

 拠点を墜とされても、地域を追われようとも崩壊することはなく、思想であるが故に知らず知らずの内に浸透しては自国民がテロリストに変えられてしまうという恐怖。

 

 これに打ち勝つ方法は2つ。1つは組織の人間を根絶やしにすること。構成員が存在しなければ闘争も何もない。

 

 もう1つは力ある正しき者──彼らが狂信するその存在の排除。

 

 狂信者達は力ある正しき者が居る限り負けることはない。負けてはいないのだから何度でもテロを繰り返す。

 

 ラプラタ内部の兵器工場を潰しても潰しても外部から兵器を手に入れ、戦車や民間船擬装の軍用船すら用いて時には自らの肉体を爆弾としながら武装闘争を続けるのだ。

 

 無論、ラプラタ東方共和国──民主政権時代の国軍が丸ごと消滅しようと彼らが降伏する事は無い。

 

 

 

 オセアニアは言った。訓練であると。

 

 東アフリカは言った。訓練であると。

 

 そしてブリタニアは言った。訓練であると。

 

 

 

 故に南ブリタニア各国は共に彼らにとっての力ある者──最高指導者ジェファーソン・デイビスの捕縛若しくは殺害を自力で行わなければならない。

 

 間接的な援助を行ってくれた嘗ての侵略国家よりの心強い援護を無駄にしない為にも。

 

 

 

 だが、最大目標にして行方を追っているジェファーソン・デイビス、その行方は様として掴めない。

 

 そんな中で起きたギアナ公国陸軍大将の狙撃事件は、一連のテロ掃討作戦の報復であると容易に想像ができた。

 

 同時に総てを台無しにしてくれたブリタニアへのメッセージであると……

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 2011年12月

 

 E.U.南アフリカ ヨハネスブルグ

 

 

 

 

 

 

 

「未来を作るのは今の人間……明日という未来が今日と同じであるとは限らない」

 

 

 

 オープンカフェのテーブルで白髪をオールバックにしたサングラスの男はコーヒー片手に新聞を読みながらぽつりと呟く。

 

 彼が読んでいる記事の内容は、一面に掲載されたギアナ公国陸軍ウゴ・チャベス大将狙撃事件のニュース。

 

 今日は各紙これが一面に出ている。最近の中華連邦内部の対立や中東情勢以外では最も大きな事件なのだから当然だ。

 

 下らない芸能ニュースや的外れな批判ばかりしている何処かの新聞などもあったが、大体各社共に共通した内容でトップニュースとなっていた。

 

 

 

「先日までのチャベス卿は、今日という未来に自分がこうなっているとは思いもしなかっただろう」

 

 

 

 昨日元気に演説していた彼は語っていた『我がギアナ公国軍の精鋭は大陸に巣くう癌細胞に痛烈な一撃を浴びせたッ!』と。

 

 

 

「さて、痛烈な一撃を浴びたのは果たしてどちらであったのか?」

 

 

 

 その言葉がそっくりそのまま自らの身へと返ってきたのだから、痛烈な一撃を浴びたのは寧ろギアナの方だったのではないのだろうか。

 

 彼らの空爆が、掃討作戦が、共にデイビスを追い詰めることができていないのを知っている彼からすれば、作戦指揮官のチャベスの演説は真に滑稽なものと思えた。

 

 

 

「ですが、仕留め切れなかったのは痛恨事では? あの猛将は復活すれば今以上の大攻勢に出て来る筈です」

 

 

 

 まるで質問するような口調の男に対し声を掛けたのは、向かい側の席に座っていた別の男。

 

 男は彼と同様に質問調の言を投げ掛けていたが、彼は気にする程のことでもないといった感じの軽い調子で答える。

 

 

 

「ふ、仕留めることこそ失敗したが1日2日で回復するような軽傷でもない。それに、ギアナも安全圏ではないのだと分からせろというのが依頼内容だ。である以上デイビスからの依頼は充分に果たせている。治安の良い首都の直中で多くの護衛に護られながらも陸軍司令官が狙撃されたのだからギアナ国民も周知しただろう。ペンタゴンと戦い続けている以上ギアナも安全ではないのだと。少しでも不安が広がればそれでいい。後は彼らが何処までやれるかだ。こちらとしては表立っての援助が難しい以上、東アフリカを通じて行う支援が限界なのだからな。まったくもって忌々しい限りだよあの2つの大帝国は。奴らの目さえ無ければ、東南アジアも南ブリタニアも、疾の昔に管理済みであったものを」

 

「確かに仰られる通りではありますが、あまりに楽観視し過ぎではありませんかヴァーチャーズ・キル。ギアナの秘密警察は血眼になって捜しています。場合によっては御自身にまで捜査の手が及びますよ」

 

「おやおや。私が捜査対象であるとは聞き捨てならないな。私が一体何をしたというのかね? こんな──」

 

 

 

 彼は男の忠言に読んでいた新聞をたたみサングラスを外す。

 

 

 

「こんな盲目のか弱い私に何が出来るのか聞いてみたいものだ」

 

 

 

 現れた素顔、サングラスの下にあったのは灰色に濁った色のない瞳。

 

 誰が見ても視力が無いであろうことは分かるその灰色の目で男の両目を射貫く。

 

 

 

「そういえばそうでしたね。これはとんだ失礼を申しましたキル・ワーカーさん」

 

 

 

 男は彼──キル・ワーカーという名の盲目の男に謝罪する。目の見えない者に何ができる。ましてや銃撃などという視力があること前提の行為などできませんねと。

 

 黒その物な話をして置きながら、まるで関係ないという態度に切り替わった2人の間で淡々とした会話の応酬が続く。

 

 

 

「分ったら早く犯罪者を捕まえてくれたまえよ。市民の安全を護るのが貴方がた警察のお役目だろう?」

 

「これは手厳しい。ヨハネスブルグは犯罪都市などという蔑称を付けられる程に治安が悪く、犯罪者はそこら中にウヨウヨしておりますので、その中から1人の暗殺者を見つけるのは困難を極めます。ましてや目の見えないスナイパーなど“常識的に考えて”存在する筈ありませんから」

 

 

 

 男、ヨハネスブルグ市警察の刑事が冗談交じりに言うと、キル・ワーカーは「確かに」と一言返し、再び手にしていた新聞の続きを読み始める。

 

 

 

「それならば尚更必要となるな。しっかりと管理された秩序ある美しき世界が」

 

「ええそうですね。犯罪も何もない綺麗で真っ白な、秩序ある美しき世界が」

 

 

 

 鳥が羽ばたくような赤い光がキル・ワーカーの灰色の瞳に浮かんでいる。

 

 光り続けるその目は盲目。だが、確かに写し出していた。

 

 手に持つ新聞一面に書き綴られた、見えない筈の小さな文字を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラプラタ戦争

 

 

 

 

 

 

 

 年月日:2010年3月30日~2011年8月21日。

 

 広義には2010年3月30日~2017年7月29日。

 

 

 

 場所:南ブリタニア大陸。南太平洋。南大西洋。

 

 

 

 指揮官

 

 アラウカニア=パタゴニア王国 アントワーヌ6世

 

 アルガルヴェ連合帝国 ジョアン13世・ペドロ7世

 

 ギアナ公国 カルロス8世

 

 ラプラタ民主連合共和国ペンタゴン政権 ジェファーソン・デイビス

 

 

 

 大日本帝国 平成帝(皇家当主)

 

 神聖ブリタニア帝国 シャルル・ジ・ブリタニア

 

 欧州貴族連盟ユーロブリタニア オーガスタ・ヘンリ・ハイランド

 

 合衆国オセアニア 大統領・最高指導者

 

 E.U.ユーロピア共和国連合 四十人委員会

 

 合衆国東アフリカ 大統領・最高指導者

 

 エクアドル公国 公王

 

 ペリー王国 国王

 

 

 

 交戦勢力:アラウカニア=パタゴニア王国。アルガルヴェ連合帝国。ギアナ公国。ラプラタ民主連合共和国。民主共和制原理主義組織ペンタゴン。

 

 大日本帝国。神聖ブリタニア帝国。欧州貴族連盟ユーロブリタニア。合衆国オセアニア。E.U.ユーロピア共和国連合。合衆国東アフリカ。エクアドル公国。ペルー王国。

 

 

 

 結果:南ブリタニア王国連合の勝利。

 

 アラウカニア=パタゴニア王国、アルガルヴェ連合帝国によるラプラタの国家解体。東西分割併合。

 

 ラプラタ民主連合共和国滅亡。

 

 

 

 戦力:アラウカニア=パタゴニア王国470,000。アルガルヴェ連合帝国350,000。ギアナ公国75,000。ラプラタ民主連合共和国+ペンタゴン1,200,000。

 

 

 

 損害

 

 死者:南ブリタニア王国連合62,000。ラプラタ民主連合共和国+ペンタゴン545,000。

 

 負傷:南ブリタニア王国連合86,000。ラプラタ民主連合共和国+ペンタゴン673,000。

 

 

 

 

 

 

 

 2010年2月18日。

 

 不況と混乱の果てに国民へと浸透していった民主共和制原理主義思想に端を発した革命によりラプラタ民主政権崩壊。ラプラタ東方共和国滅亡。

 

 民主共和制原理主義組織ペンタゴン。ラプラタ民主連合共和国樹立を宣言。

 

 

 

 南ブリタニア民主主義の為としてE.U.よりの援助で維持してきた人口2,700,000の小国に比して過大に過ぎる

 

 陸軍250,000の兵力の内8個師団100,000名をアラウカニア=パタゴニア王国との西部国境沿いに集結。

 

 

 

 

 

 2010年3月。

 

 アラウカニア=パタゴニア王国。アルガルヴェ連合帝国。ラプラタとの国境封鎖+1800年代の南ブリタニア動乱の際、

 

 大陸中に災厄を撒き散らした危険思想を持つペンタゴン政権を認めないと南ブリタニア五カ国による経済制裁発動。

 

 ペンタゴン最高指導者ジェファーソン・デイビスを無差別大量殺人容疑等で国際指名手配。

 

 

 

 同月末ラプラタ。自国への制裁に対する報復と事態打開+盟主と民主共和制原理主義諸国による南ブリタニア介入を企図して宣戦布告無き奇襲攻撃開始。

 

 空軍基地を飛び立ったユーロファイター80機がラプラタ川を挟み目と鼻の先にあるアラウカニア=パタゴニア東部最大の都市ブエノスアイレスを急襲。

 

 無差別攻撃により多数の建築物やビルディングが倒壊。その後の両国空軍による市街地上空戦の影響もあり民間人約一万人が犠牲。

 

 元より小国に過ぎず民主政権時代に凋落の一途を辿っていたラプラタに対し、北東部の脅威は低下していると戦力削減を行っていたアラウカニア=パタゴニアは大きな代償を支払うことに。

 

 

 

 民間人虐殺を平然と行うラプラタ・ペンタゴン政権の危険性が明らかにされたことで南ブリタニア諸国に衝撃が走る。

 

 

 

 一部のラプラタ国民。無差別攻撃と戦争を始めたペンタゴン政権を批難。国家反逆罪で投獄・粛清。

 

 

 

 ラプラタ。ペンタゴン政権報道官。盟主オセアニアが南ブリタニア侵攻を計り介入すると発表。

 

 思想の浸透によって教化し熱に浮かされた国民には安心して聖戦に臨むよう煽動し総動員体制へ移行させる。

 

 全予備役兵を召集。

 

 

 

 3月末。西部国境沿いに集結させたVTOL50機、戦車230両、装甲戦闘車両720両、歩兵100,000名+航空機120機をもってアラウカニア=パタゴニア領へ電撃侵攻。

 

 更に南ブリタニア広範に潜伏させていた500,000名にも上るペンタゴン戦闘員による都市部へのゲリラ攻撃や自爆攻撃を指示。

 

 

 

 

 

 2010年4月。

 

 アラウカニア=パタゴニア王国。ラプラタによるブエノスアイレス無差別攻撃と虐殺及び自国領土への侵攻を受け、同国に宣戦布告。

 

 同時にラプラタ側に対し現政権の即時退陣と武装解除及びペンタゴン主要幹部の引き渡しを要求。

 

 ラプラタこれを相手にせず、逆に制裁解除をしなければ『絶対者による無慈悲な鉄槌が振り下ろされる』と警告。

 

 

 

 アラウカニア=パタゴニア。侵攻してきたラプラタ軍とエントレ・リオス州にて地上戦・航空戦。

 

 

 

 アルガルヴェ連合帝国。ギアナ公国。エクアドル公国。ペルー王国。ラプラタによるブエノスアイレス無差別攻撃と民間人虐殺、アラウカニア=パタゴニア侵攻を批難。

 

 

 

 大日本帝国。神聖ブリタニア帝国。ラプラタによるブエノスアイレス無差別攻撃・民間人虐殺行為に批難声明。

 

 南ブリタニア側の要請があればいつでも支援を行う準備は出来ていると表明。

 

 

 

 E.U.ユーロピア共和国連合。都市部への無差別攻撃は容認できないとしながらも、

 

 200年前の話を持ち出しての制裁という対応を取った南ブリタニア王政国家にも問題があったとの談話を発表。

 

 

 

 高麗共和国。そもそもの発端は絶対王政の国々による不当な経済制裁に有りとしてラプラタへの支持を表明。のち撤回。

 

 中華連邦インド軍区。高麗を批難。

 

 

 

 アラウカニア=パタゴニア。エントレ・リオス州州都パラナ、サンタフェ州州都サンタフェで同時多発テロ発生。数百人の民間人が犠牲に。

 

 

 

 2010年5月。

 

 アルガルヴェ。ギアナ。ラプラタのペンタゴン政権を南ブリタニア諸国共通の敵として軍事制裁発動を決定。

 

 

 

 アルガルヴェ。ギアナ空軍による領空通過と国内の空軍基地・空港使用を許可。

 

 同時にラプラタとの国境沿いに陸軍主力を移動。

 

 

 

 エクアドル。ペルー。南ブリタニア三国を支持。参戦せず側面支援。

 

 

 

 同月末アルガルヴェ。ギアナ。ラプラタ・ペンタゴン政権へ宣戦布告。

 

 第一陣として230機の航空戦力を持ってラプラタへの攻勢開始。同国空軍と熾烈な空中戦を展開。

 

 ラプラタ160機の航空戦力で応戦。

 

 双方併せて約150機の航空機が未帰還に。

 

 

 

 

 

 2010年6月。

 

 アルガルヴェ連合帝国軍。数度の航空攻撃を経て20個師団280,000名の兵力をもって南部国境を突破。ラプラタ陸軍と激戦の末国境の街リベラ占領。

 

 

 

 アラウカニア=パタゴニア。エントレ・リオス州攻防戦激化。

 

 

 

 

 

 2010年7月。

 

 アルガルヴェ首都リオ・デ・ジャネイロで帝国政府庁舎とショッピングモール、国防相を狙った銃撃事件発生。

 

 アルガルヴェ国防相重体。数百名死傷。

 

 

 

 

 

 2010年8月。

 

 アルガルヴェ連合帝国軍。メロ占領。

 

 

 

 アラウカニア=パタゴニア。ラプラタ軍を国境線へと押し返しラプラタ側国境沿いの都市サルト占領。エントレ・リオス州攻防戦終結。

 

 

 

 

 

 2010年9月。

 

 オセアニア大洋州艦隊。東アフリカ艦隊。ラプラタ戦争介入準備+E.U.による東アフリカ、ラプラタ、側面支援開始。

 

 オセアニア大洋州艦隊。イースター島と周辺海域に展開。

 

 東アフリカ艦隊。E.U.支援の下ラプラタとラプラタ沖大西洋周辺に展開。

 

 

 

 ラプラタ。ラプラタ沖大西洋。

 

 東アフリカ艦隊。

 

 航空母艦:1

 

 巡洋艦:2

 

 駆逐艦:6

 

 フリゲート:3

 

 潜水艦:2

 

 補給艦・支援艦:5

 

 

 

 イースター島。アラウカニア=パタゴニア沖太平洋。

 

 オセアニア大洋州艦隊。(後続部隊合流後の戦力)

 

 航空母艦:2(4)

 

 巡洋艦:8(18)

 

 駆逐艦:21(40)

 

 潜水艦:4(10)

 

 強襲揚陸艦:2(4)

 

 補給艦・支援艦:15(32)

 

 

 

 合衆国オセアニア。機動部隊派遣を『特別演習』の為と発表。

 

 

 

 アラウカニア=パタゴニア。アルガルヴェ。ギアナ。オセアニア勢力圏の圧力によりラプラタ侵攻作戦停止。

 

 南ブリタニア対オセアニア勢力圏+ユーロピアの構図に恐慌状態。自国防衛の為ラプラタ領内より撤退。各国空・海軍対オセアニア勢力圏に備えて出撃準備命令。

 

 

 

 オセアニア大洋州艦隊。二大超大国よりの反応がなければ増派されてくる機動部隊2個群と合流し演習を実戦──南ブリタニア侵攻作戦に切り替え、

 

 大陸東西よりアラウカニア=パタゴニア挟撃へ。第一撃で同国海軍戦力と航空戦力の撃滅を狙う。

 

 その後、本国から更に機動部隊4個群+大規模な揚陸部隊を派遣予定。アラウカニア=パタゴニア制圧後アルガルヴェ、ギアナに宣戦布告予定。

 

 

 

 

 

 2010年11月初頭。

 

 ラプラタ。アラウカニア=パタゴニア王国エントレ・リオス州へ再侵攻。

 

 ラプラタ北部国境からアルガルヴェ領内への越境攻撃。

 

 

 

 南ブリタニア三大国。オセアニアの圧力により思う様に反撃できず被害拡大。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2010年11月末。

 

 大日本帝国。神聖ブリタニア帝国。『公海上での海賊に対する演習』のため南ブリタニア大陸へ両国併せて空母戦闘群12個から成る大艦隊を派遣。

 

『シールド・オブ・イージス』『イージスの盾』作戦発動。

 

 

 

 大日本帝国。最新鋭の新大鳳型航空母艦2隻を中核とした世界最大級の空母戦闘群+世界最大の戦艦大和型1番艦大和派遣。補給艦隊の一部と言い張る。

 

 

 

 

 

 日本遣南ブリタニア艦隊。

 

 航空母艦:2

 

 戦艦:1

 

 巡洋艦:16

 

 駆逐艦:32

 

 潜水艦:16

 

 強襲揚陸艦:4

 

 揚陸艦:4

 

 補給艦・支援艦:32

 

 

 

 ブリタニア太平洋艦隊(南ブリタニア西方派遣艦隊)。

 

 航空母艦:6

 

 戦艦:2

 

 巡洋艦:24

 

 駆逐艦:48

 

 潜水艦:12

 

 強襲揚陸艦:4

 

 揚陸艦:6

 

 補給艦・支援艦:30

 

 

 

 ブリタニア大西洋艦隊+バージニア方面艦隊(南ブリタニア東方派遣艦隊)。

 

 航空母艦:4

 

 戦艦:1

 

 巡洋艦:16

 

 駆逐艦:32

 

 潜水艦:8

 

 強襲揚陸艦:2

 

 補給艦・支援艦:20

 

 

 

 

 

 大日本帝国政府。ブリタニア帝国政府。『本作戦は公海上においての自国籍の船を護る為の合同訓練であり第3国の紛争とは無関係である』と発表。

 

 大陸を挟んだ両大洋にて4つの艦隊が睨み合い一触即発の事態に。

 

 

 

 

 

 

 

 2010年12月。

 

 オセアニア大洋州艦隊。東アフリカ艦隊。日本艦隊・ブリタニア艦隊の動きにより南ブリタニア攻略は不可能であるとして海域を離脱。

 

 

 

 南ブリタニア三国。オセアニアの圧力が消えたことでラプラタへの攻勢に転じる。

 

 

 

 日本。ブリタニア艦隊。両大洋にて演習を行いオセアニア側を牽制。

 

 戦艦大和の51cm電磁砲弾がオセアニア占領下のイースター島沖に着弾。

 

 常軌を逸した巨弾と初速を誇る600km超えの長射程先進電磁砲にオセアニア大洋州艦隊将兵沈黙。

 

 ブリタニア艦隊将兵と司令カラレス。同盟国の技術力が生み出した大和の砲に言葉を失う。

 

 日本艦隊司令南雲。あれは最大射程ではないと示唆。

 

 

 

 日本。ブリタニア艦隊。2011年1月までアラウカニア=パタゴニアの要請で同国に寄港。

 

 戦闘には参加せず2011年2月撤退。

 

 日本・ブリタニア両国政府。オセアニアへのメッセージとして『海賊が来たらまた演習を行う』と発言。

 

 

 

 日本艦隊。ブリタニア西海岸の海軍基地へ寄港。待機。

 

 

 

 

 

 2011年3月。

 

 アラウカニア=パタゴニア。エントレ・リオス州再奪還。ラプラタへ再侵攻。

 

 

 

 アルガルヴェ。ギアナ。空陸の攻勢を激化させつつラプラタ北部を制圧。

 

 南ブリタニア三国政府。改めてラプラタ側に対し現政権の即時退陣と武装解除・降伏勧告及びペンタゴン主要幹部の引き渡しを要求。

 

 

 

 ラプラタこれを拒否。三国に対し自爆攻撃も含めたあらゆる攻勢に打って出る。

 

 

 

 

 

 2011年5月。

 

 アラウカニア=パタゴニア首都ペルケンコで自爆テロ。死傷者多数。

 

 

 

 

 

 2011年7月。

 

 ラプラタ民主連合共和国ペンタゴン政権。国軍の7割にも上る戦力を失い事実上の崩壊。

 

 総力戦による民間徴用者からの犠牲大。

 

 

 

 南ブリタニア三国連合軍。自爆攻撃や国内のテロ攻撃に苦しめられながらもラプラタ首都モンテビデオ制圧。

 

 

 

 ペンタゴン構成員と国軍の生き残り。各地へと散っていくも武装解除はせずその後何年にも渡る武装闘争や紛争を起こすことに。

 

 

 

 

 

 2011年12月。

 

 ギアナ公国陸軍司令官狙撃事件発生。未だペンタゴンの組織力が健在であることが明らかとなる。

 

 

 

 

 

 2012年~2015年。

 

 南ブリタニア三国。延々と繰り返される元ラプラタ国軍やペンタゴンによる人質事件と都市部での大規模なテロ攻撃に対し日本・ブリタニアへ救援要請。

 

 

 

 日本。ブリタニア+ユーロ・ブリタニア。南ブリタニア諸国の救援要請により武装勢力制圧・ペンタゴン秘密基地破壊・山岳地帯戦などに史上初となるKMF投入。

 

 

 

 

 

 2017年7月末。

 

 大規模なテロ事件やゲリラ攻撃はほぼ終息。戦闘終結宣言。

 

 アラウカニア=パタゴニア。アルガルヴェ。ギアナ。ブリタニア帝国首都ペンドラゴンにて同国主導の下ラプラタ分割会議に出席。

 

 大日本帝国。オブザーバーとして出席。

 

 ギアナ。飛び地管理の問題から権利放棄。アラウカニア=パタゴニア、アルガルヴェによる2国間協議のちラプラタの東西二分割で合意。

 

 

 

 南ブリタニア諸国首脳。窮地を救ってくれた日本とブリタニア及びユーロ・ブリタニアへ最大限の敬意と感謝の言葉を述べる。

 

 

 

 新世代兵器であるKMFの性能に衝撃を受けた南ブリタニア諸国。日本・ブリタニア両国に売却・ライセンス生産を打診。

 

 日本。ブリタニア。両国とも返事は保留。

 

 

 

 

 

 2019年3月。

 

 南ブリタニア諸国の要請により出動したブリタニアの対テロ遊撃機甲師団グリンダ騎士団の活躍によりペンタゴン№2+主要幹部が討ち取られる。

 

 最高指導者ジェファーソン・デイビスの捕縛・殺害には至らず。

 

 以後グリンダ騎士団は勢力圏内に散った不穏分子の掃討任務へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギアナ公国

 

 

 

 政体  君主制・貴族制

 

 

 

 首都  カラカス

 

 

 

 総面積 1,378,219km2

 

 

 

 人口  45,125,450人

 

 

 

 領土

 

 

 

 ベネズエラ

 

 ガイアナ

 

 スリナム

 

 フランス領ギアナ

 

 

 

 

 

 

 

 アルガルヴェ連合帝国

 

 

 

 政体  君主制・貴族制

 

 

 

 首都  リオ・デ・ジャネイロ

 

 

 

 総面積 10,017,295km2

 

 

 

 人口  239,946,000人

 

 

 

 領土

 

 

 

 ブラジル

 

 ボリビア

 

 パラグアイ

 

 

 

 

 

 

 

 アラウカニア=パタゴニア王国

 

 

 

 政体  君主制・貴族制

 

 

 

 首都  ペルケンコ

 

 

 

 総面積 3,523,840km2

 

 

 

 人口  93,600,000人

 

 

 

 領土

 

 

 

 アルゼンチン

 

 チリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペルー王国

 

 

 

 政体  君主制・貴族制

 

 

 

 首都  リマ

 

 

 

 面積  1,285,220km2

 

 

 

 人口  34,914,500人

 

 

 

 領土

 

 

 

 ペルー

 

 

 

 

 

 

 

 エクアドル公国

 

 

 

 政体  君主制・貴族制

 

 

 

 首都  キト

 

 

 

 面積  283,560km2

 

 

 

 人口  17,712,500人

 

 

 

 領土

 

 

 

 エクアドル

 

 

 

 

 

 

 

 ラプラタ東方共和国(ラプラタ民主連合共和国)

 

 

 

 政体  民主共和制→民主共和制原理主義→事実上の無政府状態

 

 

 

 首都  モンテビデオ

 

 

 

 面積  176,220km2

 

 

 

 人口  2,773,000人(国民総白化)

 

 

 

 領土

 

 

 

 ウルグアイ

 

 

 

 民主共和制原理主義組織ペンタゴン

 

 

 

 最高指導者 ジェファーソン・デイビス

 

 

 

 目的    南ブリタニア大陸の原理主義化

 

 

 

 構成員数  約500,000人+α

 

 



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帝都の休日外伝 駄目男シリーズ(玉城真一郎シリーズ)
お父様と私 そしてシン兄様


原作とは違いブリタニアファミリーの家族仲は非常によく、また日本ブリタニア間の仲もあり得ないほど良好な関係となっております。
こちらも蒼の混沌掲示板様に投稿中です。


 

 

 帝都の休日 短編

 

 

 

 お父様と私 そしてシン兄様

 

 

 

 

 

 昔々あるところに一人のお姫様がいました。

 

 まだ幼くもそれはそれは賢く可愛らしいお姫様でした。

 

 お姫様のママは王様のお妃様です。王様には沢山のお妃様と子供達がいて皆とても仲の良い家族でした。

 

 王様とママ達と兄妹達──沢山の家族に囲まれた幸せな生活。

 

 それともう一人、お隣に住むとても仲良しな貴族の娘。

 

 

 

「私がお姫様のナイトになるわ!」

 

 

 

 二人は良き友達として楽しい少女時代を過ごします。

 

 

 

 いつまでも変わらないと思っていた毎日。

 

 そんなある日のこと、周りを見ていたお姫様は家族が減っていることに気が付きます。

 

 何人かのお兄さんやお姉さんがいなくなっていたのです。

 

 なんだかとても寂しくなったお姫様は、どうしてお兄さんお姉さんはいなくなったのかとママに聞いてみました。

 

 

 

「お兄様お姉様は大人になったのです」

 

 

 

 大人になったら家を出て行くというのです。

 

 どうして家を出て行くのかと聞いてもママはそれが大人になることだとしか教えてくれません。

 

 それからも時が経つ度に兄妹達はいなくなりました。

 

 残っている兄妹達も昔のように王様とは遊びません。

 

 お姫様はどうして遊ばないのか聞いてみました。

 

 

 

「ぺたぺたくっついてきたりするから」

 

 

 

 王様がくっつくのはそれだけ家族が大好きだからなのに、兄妹達はそれが嫌だというのです。

 

 王様と遊ばなくなったのは大人になったから以外の理由があったのです。

 

 

 

 理由を聞いたお姫様はそこでふと思いました。

 

 王様は寂しくないのかと。

 

 心配になったお姫様は仲良しな貴族の娘と一緒に王様が住むお城に向かいました。

 

 いつも忙しい王様は家族の為に、お国の為にと毎日お城でお仕事をしています。

 

 

 

「お仕事の邪魔をしてはいけません」

 

 

 

 お城に行こうとするお姫様と少女はママに叱られてしまいました。

 

 でも王様が心配なお姫様と少女ははママの言い付けを破ってお城に入っていきました。

 

 幾つかの大きなお部屋を除いて回るお姫様達は、昔家族みんなで写真を撮ったり遊んだりした大きなお庭で王様を見つけます。

 

 王様はとても寂しそうにお庭を眺めていました。

 

 今にも泣き出してしまいそうな王様を見たお姫様と少女は王様に駆け寄ってしがみつきました。

 

 それがとても嬉しく思えた王様は二人の頭を優しく撫でてあげます。

 

 その温かい手の温もりを感じた二人は寂しく笑う王様を見て言いました。

 

 

 

「私たちは大人になってもずっとお父様が大好き」

 

 

 

 王様はとても喜びました。

 

 

 

 それから少し時は流れて12歳になったお姫様は王様のお仕事でお国とは家族のような間柄にある国へとやってきました。

 

 

 

 

 

 皇歴2012年

 

 

 

 

 

「あっちーな……」

 

 初夏の陽気、とでも言えば聞こえは良い物の、この大日本帝国の初夏というのは異様なほど湿度が高く、生まれも育ちも日本人である筈の男にも耐え難い苦痛を与えていた。

 

 その耐え難い苦痛を少しでも癒そうと、茶色の短髪を逆立てた威勢の良い髪型が特徴的な目つきの悪い男は、流れ落ちる汗を拭いながら手にしたスポーツドリンクを口に含む。

 

 喉を潤す冷たい感触が心地良く、一瞬ではあったが至福を感じて「生き返るぜ~」と口にしてみた物の、それは直ぐさま蒸し蒸しとした暑い空気に押し流されてしまった。

 

 地面から立ち上る熱気が肌に纏わり付いて気持ち悪いうえ、風も吹いていない完全無風な状態なのでスポーツドリンクを飲みきってしまえば後に待つのは、焦熱地獄だ。

 

 “う゛ッ、ひぐッ、”

 

 もっとも、それだけならばまだ我慢できたかも知れない。

 

 夏だから暑いのは当たり前、これが冷房を付けているような涼しい風でも吹いていれば逆に異常気象である。

 

 毎年毎年この時季から9月末の残暑が終わるまでは誰にも止めることが出来ない自然の力なのだから、受け入れ慣れるより他に手はないのだ。

 

 だが今日の彼はちょっと我慢できそうもなかった。

 

「さっきからウッセーんだよクソガキッッ!!」

 

「ひうッ!」

 

 その元凶は彼が座っているベンチの端っこで泣いている子供の存在だ。

 

 見たところ小学生くらいの白人の少女は、男が一休みしていたベンチにやってきて座ったまま10分くらい泣き通しだった。

 

 唯でさえ暑いというのに、子供がピーピー泣く声には余計にイライラさせられる。

 

 元々短気な彼はその泣き声の主に対し、とうとう切れて怒声を浴びせてしまったのだ。

 

「う゛っ……」

 

 だがこれは最悪手とも呼べる軽率な行動であった。

 

 泣いている小さな子供に男のような人相の悪い声の大きな人間が怒鳴るようなことをしてしまっては、余計に脅え、泣いてしまうだけ。

 

「う゛っ、ひっぐ」

 

「お、おい」

 

「うわァァァァァァンっっ!!」

 

 大口開けて泣き出した少女の声に公園の広場で休んでいる人が一斉に振り向いた。

 

 彼らの目に映るのは泣いている小さな女の子と、目つきの悪いワイルドな髪型をした男の姿。

 

 この構図を見たとき事情を知らない人は何を思うだろうか? まあ普通に考えれば一つしかない。

 

「おい見ろよ、あの男あんな小さな子泣かしてるぞ」

 

「うわっ、だっせ!」

 

「最低よね」

 

「なあ、警察に通報した方がいいんじゃね?」

 

 そこかしこで囁かれる非難の声と侮蔑に満ちた視線、それも警察に通報とかいう大袈裟な話にまでなっている。

 

 これにはさすがの男もイライラが吹き飛ぶくらいキモが冷えた。

 

「あ~っ、ほらほらほらお兄さん怒ってないよ~! ほ~らベロベロバー!」

 

 男にはある夢がある、それは前科などが付いたりすれば泡と消える夢。

 

 こんな何処から来たのかも分からないような子供を泣かせて、恐喝だ、脅迫だと訴えられたら堪らない。

 

 バカ丸出しだと自分でも思うし、なんで見ず知らずのガキ相手に人が大勢見てる前でアホなことしなければならんのだと腹立たしくなってくる。

 

(が、我慢っ! 我慢だ俺!)

 

「さあ真お兄ちゃんと遊ぼうな~っ!」

 

「──シン兄様?」

 

「そうだ真お兄ちゃんは遊びたくって仕方がないのだ~~っ!」

 

 プライドを捨ててアホな事をしたお陰か女の子は泣き止み笑い始めた。

 

「おもしろいお顔……」

 

「なっ? おもしれーだろ。じゃあ次はこんな顔だ~~っ!」

 

 自分の顔を両手で挟んで引っ張り精一杯の変顔を作り女の子を宥める男に、周りの人間も次第に感心を失いそれぞれの時間へと戻っていった。

 

 

 

「ふ~んそっかァ、親父さんと喧嘩したのか~」

 

 泣き止み笑い、落ち着いたところで何で泣いてたのかを聞き出したところ、女の子はお父さんの為に働きたくて悪者をやっつける仕事がしたい、と自身の父親に言ったら頭ごなしに怒られて逃げてきたというのだ。

 

 その悪者をやっつける仕事というのが具体的に何を指しているのかは分からなかったが、今すぐなりたいという彼女の言には待ったを掛けた。

 

「お前さ、いま何歳だ?」

 

「12」

 

「12か…………なら、親父さんの言うこと聞いて大人しくしてろ」

 

 本当なら子供を言い聞かせるに相応しい言い方という物があった。

 

 大人には大人の、子供には子供の、そして同年代には同年代の話し方がある。だが男は敢えて同年代と話すような感じで切り込んだのだ。

 

 何故ならばこの女の子、12歳という年の割に、泣いていた時と笑っていた時を除いて妙に成熟した雰囲気で話をするからとても子供には見えなかった。

 

 無論、正真正銘ただの子供であり、自分とは背丈が倍以上離れている小さな身体をしてはいたが、成熟した話し方のせいか年の近い相手と話してるような錯覚を覚えてしまうのである。

 

「どうしてっ!? 大好きなお父様の為に働くのがそんなに悪いことだって言うの!?」

 

 激昂する彼女に男は「まあ待てよ」と落ち着かせてから言った。

 

「あのな、12なんてのはまだまだ親に甘える子供だ。お前、自分で稼いでメシ食ってんのか? 違うだろ? 親に食わせて貰ってる身で一丁前な口聞いてんじゃねーよ」

 

 中々に鋭い指摘であったが、小学生くらいの年の子に言うような事ではない。

 

 自覚しつつも男は女の子の事を自分と対等の相手と見て話しているのだ。

 

「は……い……」

 

 女の子は俯き加減で消え入るように返事をしたが、納得している雰囲気ではない。

 

「ま、俺だってそんな偉そうな事言える御身分じゃねーけどよ」

 

「シン兄様も?」

 

「ああ、俺も嬢ちゃんと同じで親の脛かじってるどら息子だ。中坊ん時ゃ散々お袋泣かして親父にぶん殴られたもんだ」

 

「……」

 

「高校に上がってもそんな褒められた奴じゃなかったけど、親には迷惑かけねーってくらいには成長したんだぜ? けどよ、親から見りゃあやっぱガキなんだよなァ 卒業したら俺が親父とお袋にメシ食わしてやるっつったら何て言われたと思う? そういうのは自分の食い扶持稼げるようになってから言え! だぞ」

 

 はははと笑う男であったが、所詮自分もまだまだ子供であるという現実を思い出し大きな溜息を付いた。

 

「19の、そん時ゃまだ17だったが、それでもまだガキなんだよ。嬢ちゃんの親父さんもよ、嬢ちゃんが可愛いから怒ったのさ。まだ子供のお前がそんな危険な仕事をするなど許さんってな。 大体12で仕事するってどんだけだよ、最低でも16,7くらいまでは我慢しろって」

 

「まだ4年以上あるわ」

 

 長い、待てない、そういう女の子の頭にぽんと手を乗せてぐりぐり撫でながら男は言った。

 

「たった4年だって、進み出したら早ェーぞ? あっという間に俺くらいになって気が付いたらババアだ」

 

「酷い! 私、まだお婆ちゃんじゃない!」

 

「物の例えだよバーカ」

 

 怒って自分の胸を小さな手で叩く女の子に彼は聞いてみた。

 

「なあ嬢ちゃんは夢ってあるか?」

 

「夢?」

 

「ああ、俺は今一浪してんだけどさ、来年こそは東京帝大の受験に合格して、卒業後には官僚になるって夢があんだよ」

 

 男には官僚になるという漠然とした夢がある。官僚になって何をするのか? なんて聞かれたら返事に困ってしまうが、それでも官僚になってこの国を今より更にいい国にしたいとは思っている。

 

 そんな男に触発されたのか、女の子もベンチから立ち上がると高らかに宣言した。

 

「私は、お父様を悩ませるテロリズムを、この世から撲滅するっ!」

 

「テロ撲滅ってまた大層デケー夢だなおいっ! 親父さん警察関係者か?」

 

「ま、まあ、そんなところ」

 

 言い淀む女の子に落ちぶれたら口利き頼むなんて冗談を口にした男は、そこで手を差し出した。

 

「競争しようぜ! 俺が官僚になるのが先か、嬢ちゃんが警察官になるのが先か」

 

「シン兄様…………」

 

 差し出された男の手に、女の子の手が重なる。

 

「はいっ! 勝負ですシン兄様っ!」

 

「おう上等だぜっ、コテンパンにしてやっから覚悟しとけよ?」

 

 12の少女と19の青年は互いに手を取り合い、一つの約束を交わす。

 

 男は官僚に。少女はテロを撲滅す。それぞれにとって大きな大きな夢を実現させようという約束を。

 

 

 

 帰り道、男は女の子を連れて父親がいるというホテルまで連れて行くのだが、ホテルの近くまで来たとき女の子からここでいいと言われて分かれた。

 

「しっかし、すっげェホテルだな。お前いいとこの嬢ちゃんだったのか?」

 

「さあどうでしょう?」

 

 女の子は意味深に笑うと何やら人が群がるホテルにゆっくり歩いて行く。

 

 男はその背中をただ見送るだけであったが、何気なしに突っ込んだズボンのポケットにある物が入っているのに気付いて女の子を呼び止めた。

 

「何ですかシン兄様?」

 

「おう、これ持ってけ」

 

 女の子の小さな手に握らせたのは小瓶で中には色とりどりの飴が入っている。

 

 小さな飴には角みたいな突起物沢山が付いていて、強く握り締めたら痛そうな感じがした。

 

「金平糖っつーお菓子だ」

 

「どうしてこれを私に?」

 

「いや~さっきスポーツドリンク買った店で余り物だから持ってけって渡されたんだけどよ、こんのくそ暑いのに飴なんか食う気しねーからさあ」

 

 要らない物を渡そうとする男であったが、女の子はくすくす笑って受け取ってくれた。

 

「ありがとうございます。後で頂きますね」

 

「頂いてくれ、さてと……」

 

 それだけ言うと男は歩き出した。無論、女の子とは逆の方向に。

 

「んじゃあな嬢ちゃん、あばよ!」

 

 後ろ向きで手を振る男。顔を合わせたまま分かれるのがちょっとだけ寂しかったのである。

 

「シン兄様! あばよです!」

 

 女の子も男を真似て別れの挨拶を交わすと、男とは逆、ホテルに向かって歩き出した。

 

 

 

 もう逢うこともないであろう一瞬の邂逅に過ぎない、ほんの僅かな一時を過ごし夢を語り合った二人はただ前を見て歩く。自分の夢へと向かって。

 

 その夢が、その約束が、叶え果たされる日が来るのかどうかは、この時の二人には知る由もない事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7年後

 

 

 

 

 

 

 

「いま、祖国ブリタニアは平和を享受し続けています。しかし、世界に目を向ければ、紛争、テロリズム、政治的緊張が事欠くときはありません。 それどころか、今この時にも戦争が起こらんとしています。極東に勃興せし大清連邦は、その野心を隠そうとはせず、虎視眈々とシベリアの地に足を踏み入れる機会を伺い、 また、遙か南の地にある閉ざされし大国オセアニア──南天条約機構も近年になって露骨なまでに東南アジア諸国への挑発を繰り返しています。 これら以外にもE.U.ユーロピア共和国連合では相次ぐ不正の発覚に、民の目を反らせようとしてブリタニアを時代遅れの帝国主義者として蔑み、 我らが同胞であり家族たる日本を黄色い悪魔と呼び殊更脅威を煽り立てています」

 

 時の趨勢はお姫様の王様を支える力になりたいという意志を形にする機会を与えました。

 

 仲の良い少女と共にその力を全ての民、そして大好きな王様に見せる時が来たのです。

 

「また恥ずべき事に、足元である我らが祖国からも陛下と民を裏切り、南天や清国に内通していた不逞の輩が出ています」

 

 王様は大きくなっても自分を好きでいてくれるというお姫様が危険なお仕事をするのは反対でした。

 

 でもお姫様はその言葉を嬉しいと思いながらも諦めません。

 

「これらの勢力が公に、そして闇からブリタニアに食指を伸ばす時、彼らは己が身をもってその罪深さを知り、地獄の業火に焼かれる事となりましょう」

 

 諦めないお姫様の願いは遂に聞き入れられました。

 

「その時、民を守り、ブリタニアの剣となって卑劣なる者共に一の太刀を浴びせる事こそが我らの使命となります」

 

 しかし、王様は一つだけお願いをしました。

 

 そのお願いはお姫様と少女を心より大切にしているからこその物です。

 

 

 

 “例えどのような状況下であろうとも命を捨てるな! 泥水を啜り這いつくばってでも生き延びろ! いいな二人ともっ、死ぬことだけは絶対に許さんぞっ! ”

 

 

 

 お姫様と少女の二人を抱き締めて噎び泣く王様の手は──―

 

 

 

 

 

「グローリートゥグリンダ!!」

 

 

 

 

 

 幼き日に感じた時と変わらぬ──

 

 

 

 

 

「オールハイル!! ブリタニア!!!」

 

 

 

 

 

 優しくて大きな温かい手だったのでした。

 

 

 

 

 

 “グローリートゥグリンダ!! オールハイル!! ブリタニア!! ”

 

 

 

 




マリーベル皇女とオルドリンがグリンダを目指すお話であり。
皇女とニートが出会うきっかけのお話ですね。


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桜が咲いた夢をみた

駄目男シリーズの第二弾で駄目男がシリーズ化したときの作品です。
同じく蒼の混沌掲示板様に投稿しております。


 

 

 

 

 桜が咲いた夢をみた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 滝のように打ち付ける雨と、街路樹を薙ぎ倒してしまいそうな暴風をもたらし、人々を不安にさせていた大きな嵐。

 

 同時にそれは寒い冬を終わらせ暖かな春を呼び込む季節を移り変わらせる気象現象でもある。

 

 長期に渡って居座れば大きな爪痕を残していたであろう春の訪れを告げる嵐は、幸いにも2日程で日本列島を通り過ぎ

 

 北日本(樺太、神坂、千琴)へと差し掛かる頃には陸地から大きく逸れて、ベーリング海の方向へと進路を変えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 皇歴2013年4月7日

 

 

 

 

 

 

 

 前日までの嵐が幻だったかのような雲一つ無い晴天の青空の下、暖かな春の空気に触れたことで目を覚ましたソメイヨシノが満開に咲き誇り、その可憐な花片をひらひらと舞い散らせている。

 

 舞い散る桜の花片が、陽光差し込む桜並木に更なる色を添え、まるで其処が俗世間を離れた夢の世界である桃源郷のような錯覚を人々に与えていた。

 

 

 

 そんな美しい桜並木の中、舞い散る桜の花片を頭や服に付着させ降り積もらせながら歩く一人の青年の姿があった。

 

 

 

「今日から俺も大学生かぁ~、何か意外に実感沸かねェもんなんだなぁ~」

 

 

 

 誰に聞かせているのでもない独り言を呟きながら、颯爽と胸を張って歩く青年の姿は、全ての戦いに勝った勝者そのものである。

 

 威風堂々とした足取りで歩を進める彼の姿は、ともすれば王者の風格を備えているようにさえも見える。見る者にそう感じさせる程に強い強い勝者の気を放っているのだ。

 

 事実、彼は勝利者である。過酷な戦争の中で傷付き苦悩し、幾度もの辛酸を舐めながら立ち上がり続け、遂に勝利をもぎ取った真なる勝者。

 

 その勝者である彼は、茶色の短髪を逆立てた威勢の良い髪型と、顎に蓄えられた無精ヒゲが特徴的な目つきの悪い青年であったが、その目は今、堂々たる輝きを放っていた。

 

 普段ならば近付きがたいならず者という印象を他者に与えてしまうも、今この時においては、誰からも好かれるであろう好青年にしか見えず

 

 彼を知る者が今の彼の姿を見ていたら別人に見えてしまい、彼であると気付くことさえ出来ない事疑いなしである。

 

 

 

「おめでとう」

 

 

 

 横合いから掛けられた声にふと青年が振り返ると、そこには昔から苦労ばかり掛けている彼の父親が居た。

 

 

 

「親父……」

 

 

 

 荒れていた中高生の頃、警察の世話になったり学校に呼び出される度に何度となく鉄拳制裁を加えて諫めてきた父親は、瞳に光る物を浮かべながら笑っている。

 

 

 

「なんだよ、泣いてんのかよ? はははッ、みっともねえぞ親父。あんたが俺の為に泣くなんざらしくねェじゃねーか。こりゃあ雨でも降るか?」

 

 

 

 青年が父親の涙を見たのはこれが初めてだ。

 

 補導されても喧嘩でボロボロになって帰った時も病気になって倒れた時でさえも、決して涙を見せる事がなかったあの父が泣いている。

 

 父は、父は泣く程に喜んでくれているのだ。彼にはそれが嬉しかった。

 

 こんなにも愛されていた事が今更ながらに分ったのだから、嬉しく思わない筈がない。

 

 

 

「おめでとう」

 

 

 

 次に掛けられた声は母の物。

 

 荒れている自分をいつも見守ってくれ、また泣かせ続けてきた頭の上がらない母。

 

 

 

「やったぜおふくろ。俺、俺さ……、とうとうやったんだ……ッ」

 

 

 

 いつも問題を起こしては警察沙汰になる自分を迎えに来てくれ泣いていた母は、父とは違い今日に限って笑っている。

 

 その笑顔は昔何度も見た事があった。

 

 テストで100点を取ったとき。

 

 駈けっこで一等賞になったとき。

 

 母の日に贈り物をしたとき。

 

 いつも見せていた母の本当の笑顔。

 

 最近すっかり見なくなってしまった心からの笑顔だ。

 

 久しぶりに見た気がしたこのとっておきの笑顔を引き出せた事が、青年には誇らしかった。

 

 この笑顔で祝福してくれる母の愛が嬉しかった。

 

 

 

 

 

 そして──―

 

 

 

 

 

 

 

『シン兄様~~~っ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正面、これから彼が通うことになるキャンパスの入り口。今から潜ろうとしている門の前で自分の名を呼ぶ大きな声が聞こえた。

 

 青年は何事かと門の方を振り返る。すると其処に立って手を振っていたのは──煌びやかな桃色のドレスを着た薄紅の髪を持つ見覚えのある少女であった。

 

 

 

「お、お前……。あの時のお嬢ちゃんか?」

 

 

 

 お父様を悩ませるテロリズムをこの世から撲滅する──そう言っていた一年前の暑い夏の公園で、出逢い別れた警察官を目指している少女。

 

 官僚になる為大学を目指す自分と、父親の手助けがしたいと警官を目指す少女と、どちらが先に夢を叶えるかの勝負をしている小さなライバル。

 

 

 

「おめでとうございますシン兄様っ!」

 

「おおっと!」

 

 

 

 青年は飛び付いてきた小さな少女を受け止める。

 

 一年振りの再会だ。

 

 

 

「嬢ちゃん良く俺が此処に居るって分ったなぁ。それになんかすっかり見違えちまった。去年会った時と比べて雰囲気が違ってねえか?」

 

「うふふ、だってわたくしはもう13歳ですもの。大人への階段を上り始めて日に日に成長して居りますのよ?」

 

「……前言撤回、な~にが大人の階段だこのちんちくりん。まだ13歳の臑齧りだろうがよ」

 

 

 

 青年は生意気な口を聞く少女を抱いたまま、その小さな額にこつんと軽く頭突きをお見舞いする。

 

 

 

「あうッ……ひ、ヒドイですわシン兄様っ」

 

 

 

 痛いからではなく、ちんちくりんと言われたことを怒る少女。

 

 青年は自分の背丈よりもずっと小さいというのに妙に大人びている少女を抱いたまま、野性味溢れるワイルドな容貌に笑顔を浮かべて途中経過を報告する。

 

 彼女とは馴れ合う関係ではない。夢を実現させる勝負の真っ最中にあるライバル同士という間柄なのだ。

 

 

 

「嬢ちゃんよお、俺さ、大学に合格したぜ。てーか此処に嬢ちゃんが来てるって事はこっちの事情なんざ先刻承知って訳だ。流石は将来の警察官だな」

 

「モチのロンです! シン兄様の事などわたくしの情報網を持ってすれば赤ちゃんの手を捻るよりも簡単に調べる事ができますので」

 

「はッ、随分と余裕じゃねーか」

 

「健闘を称え合うのがライバルというものですもの。シン兄様、どうやらわたくしはシン兄様に一歩遅れを取ってしまったようですが、このままでは終わりませんよ?」

 

「上等上等ッ! それでこそ俺様のライバルってもんだ。けどよ、俺は嬢ちゃんみたいなちんちくりんに追い付かれる程脚は遅かねえぞ」

 

「好きなように仰ってなさい。直ぐに追い付き追い越して御覧に入れますので」

 

 

 

 青年は小生意気ながら上品で、どこか浮世離れした雰囲気を持つライバルの少女と言葉を交わしながら思う。

 

 口ではどうこう言いながらも、彼女もまた、父や母と同じ様に、自分の入学祝いに態々駆け付けてくれたのであろうと。

 

 持つべき者は友。好敵手と書いて親友と読む。

 

 これからもこの小さな好敵手とは切磋琢磨しながら互いを高め合って行くのであろう。

 

 

 

「桜咲く、か」

 

「どう致しましたの?」

 

「んにゃ、なんでもねえ」

 

 

 

 桜咲く。日本の春を象徴するソメイヨシノが満開に咲き誇る今日という日。

 

 青年は忘れないだろう。夢を叶えたその後も、原点となったこの日の事を。

 

 この暖かい春の風が吹く桜吹雪の中で、父と母、そして……小さなライバルに祝福された素晴らしき喜びの日を、永遠に忘れない。

 

 

 

 

 

 永遠に……。

 

 

 

 

 

 

 

 誓いを新たにし、この喜びの日を胸に刻んだ青年は、抱いていた少女を下ろす。

 

 

 

「さて。これからの大学生活。気を引き締めてやってかなきゃな!」

 

 

 

 そして、夢への──官僚への道の第一歩を踏み出すべく門を潜ろうとした。

 

 

 

 

 

 しかし……。

 

 

 

 

 

「何処へ行こうというのですか?」

 

 

 

 校門の中から霞のように姿を現した何者かによって止められてしまった。

 

 霞が取れて現れたのは、青年の父親より少し年上に見える今時珍しいまん丸のフレームを持つ眼鏡を掛けた壮年の男性である。

 

 

 

「は……? 何処って……大学に決まってんじゃねーか」

 

 

 

 夢への第一歩だと気合いを入れて踏み出そうとした足を止められた青年は少し苛立たしげな声で男性に詰め寄る。

 

 だが、男性はそんな青年の様子を気にしても居ないらしく、彼の言葉を涼しげな顔で聞き流していた。

 

 

 

「ほう、大学ですか。それは一体何処の大学なのでしょうか?」

 

「何処って……、此処に決まってんじゃねーかよッ!」

 

 

 

 何処と言うなら此処だ。自分が受験し合格したのはこの大学なのだから。

 

 そんな当たり前のことを質問しながら行く手を遮る男性に、青年の怒りは頂点に達する。

 

 

 

(俺の夢を妨害しようってなら容赦しねーぞ!!)

 

 

 

 実力行使。ぶん殴ってでも校門を通ってやる。

 

 頭に血が上った青年は冷静さを失い、思わず男性に掴み掛かろうとさえした。

 

 だがしかし、次の瞬間にはその瞬間湯沸かし器のように沸騰した頭に氷の塊を落とされてしまったのだ。

 

 

 

「此処は“女子”大学ですよ?」

 

「……へ?」

 

「もう一度言いましょうか? 此処は【女子大学】です。男性である貴方が入れる訳ないでしょう」

 

「ち、ちちッ……、ちょっと待てよ! そんな筈ねェ! 俺は確かに此処の受験で合格して……っ!」

 

 

 

 青年がそこまで言った時であった。それまで涼しげな表情で青年の言葉を受け流していた男性の眉間に皺が寄り、明らかな怒気を孕み始めたのは。

 

 

 

「男性である貴方が神聖なる我が女子大学の受験を受けたですと?」

 

 

 

 聞き捨てなりませんね。怒りを帯びた男性の声が青年を突き刺す。

 

 自分よりも小さな身体であるというのに、まるで怒れる大巨人に変身したかのような錯覚を覚え、たじろぐ青年。

 

 

 

「然るに貴方……変質者ですね?」

 

「なっ?! ち、ちがっ!」

 

「何処が違うのですか。男であるにも拘わらず、女子大の入試を受けようと受験会場に潜入し、剰え合格を勝ち取って我が神聖なる女子の学舎へと足を踏み入れようとした。これが変態でなくて何だというのですか?」

 

 

 

 男性の言っている事は尤もである。

 

 男が女子大の入試を受けるなら女装か何かをしている。そこまでして女子大に入ろうとするなど変質者の類……いや、その物ズバリ変態としか言えない。

 

 つまり、青年は女子大に入ろうとした。そして彼がこの女子大の受験を受けたか否かなど調べれば直ぐに分かる。

 

 

 

 思いも寄らなかった事実に狼狽える青年は、受験履歴を調べ始めた男性を前にして、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。

 

 そして調べ上げた男性はすっと顔を上げると絶望の言葉を告げてくる。

 

 

 

「確かに、貴方我が校の受験を受けてますね……つまり、変質者であると特定されてしまった訳です。淑やかなる女子をその毒牙に掛けようとする……許し難いことですね」

 

 

 

 死の宣告、正に社会的に抹殺されるであろう宣告であった。いや、それだけならばまだしも、丸眼鏡の男性は明らかにそれ以上の制裁を発動させようという空気を放っている。

 

 更に──ガチャっ……。

 

 

 

「へ……・? な、なんだよ、おい……?」

 

 

 

 青年の右腕を冷たい感触が包むと共に、耳障りの悪い音が響く。

 

 

 

「じ、嬢ちゃん……?」

 

 

 

 腕には鈍く輝く手錠が嵌められており、それを掛けたのは誰であろう彼の小さなライバルであった。

 

 いや、小さかった筈の彼女は、いつの間にやら立派な女性へと成長して居た。

 

 

 

「まさか……。よもやシン兄様が変態であったなどとは……。見下げ果てはましたわ」

 

 

 

 背中に羽のパーツが付いた桃と赤を基調とするドレスに、赤いハイヒール姿の彼女は、心底軽蔑したという目で青年を睨み付けている。

 

 

 

「ち、ちがう嬢ちゃんッ、これは何かの間違いだッッ」

 

 

 

 急に大人へと成長した事など些事であるとばかりに自らの身の潔白を主張する青年であったが。

 

 

 

「ではこの受験記録はなんです? 正直に申し上げて貴方の行いは極刑に値しますよ」

 

 

 

 神聖な女子大学を汚されたことで恐ろしいまでの怒気を孕んだ声音で迫る丸眼鏡の男性と。

 

 

 

「往生際が悪いですわよシン兄様……ッ! これ以上わたくしを失望させないでくださいまし……ッ!」

 

 

 

 軽蔑の目を向ける少女には通じない。

 

 女子大の受験記録という厳然たる事実がある以上、彼の言い訳は虚しく響くだけであり、恥の上塗りをする物でしかないのだ。

 

 

 

「マリー、この男ね。マリーを失望させて泣かせた変態は」

 

 

 

 そして手錠をされ抵抗できない状態の青年の前に、もう一人別の少女が姿を現す。

 

 

 

「誰だよお前ッ!?」

 

 

 

 ライバルの少女と同じ赤い服を着、カールさせた金髪を二つ結びにしているその少女は、青年の疑問に答えることなく携えていた剣を抜き放ち

 

 陽光に照らされて鈍く光る白刃を彼へと向けた。

 

 

 

「マリーを悲しませた罪の重さ……、その身を持って知りなさいッ!」

 

 

 

 斬られた。

 

 

 

 

 

 青年がそう知覚した時、彼の意識は永遠の闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 フッと視界が広がる。するとそこにあったのは見知らぬ天井。

 

 

 

「……」

 

 

 

 つい先ほどまで桜の花片が舞い散る門の前に居たというのに、今は桜など何処にも見当たらない。

 

 自分の大学入学を祝福に来てくれたライバルの少女と両親に見守られながら大学の門を潜った。

 

 門の前で丸眼鏡の男性に行く手を遮られ、自分が入ろうとしていたのは女子大であると告げられた挙げ句に変質者扱いされた。

 

 怒る男性が突き付ける証拠にライバルの少女が手錠を掛けてきて、見知らぬ少女に斬りかかられた。

 

 

 

 

 

 そして、次の瞬間ブラックアウトした視界が映しだしたのは、自分が暮らすボロアパートではない見知らぬ天井。

 

 頭が現実を認めたくないと叫んでいる。今この瞬間は喜びの余り失神した自分が見ている夢であって欲しいと。

 

 正確には後半部分は無かったことにして、門を潜って輝かしい第一歩を刻んだというのが現実であって欲しいと。

 

 

 

(重い……)

 

 

 

 身体の上に何かが乗っている。温かい人肌の温もりなのは何となく分った。触れている体積面と重量からして子供らしいという事も。

 

 顔に触れるさらさらした感触は髪の毛だろう。妙に良い匂いがする辺り高級な洗髪剤でも使っているのかも知れない。

 

 せめてこれがライバルの少女であって欲しい。

 

 決して変な意味ではない。この温もりが彼の少女の身体の温もりであるのならば、まだ先ほどの光景が幻ではなかったのだと信じられる要素が残っているからだ。

 

 無論、都合の良いように前半部分だけを切り取った輝かしい一歩の光景が。

 

 

 

 

 

 しかし、無情にも青年の視界の端に映っているのは、ライバルの少女の髪色ではない。

 

 朱・紅色といった彼の少女の髪よりも薄い色。桃・ピンク……そう、桜色だ。

 

 今まで居た門の前で父と母と少女に祝福されながら、夢への一歩を踏み出そうとしていた世界に舞っていた桜の色。

 

 変態と罵られ、見知らぬ少女に斬り殺されたのも同じ場所であったが、彼の中では後半部分がなかった事になっている。

 

 

 

 

 

 頬に感じたさらさらした物の正体がこの髪であり、皮肉にもそれが桜色ときている上に、向こうの世界から引き戻した物であったことが殊更に青年の気分を落ち込ませる。

 

 

 

「誰だよコレ──つーか夢だよな? 誰か夢だと言ってくれ……」

 

 

 

 認めたくない物は認めたくない。さっきのアレが夢であったなどと。後半部分は最悪であったが途中までは最高の光景であったのだから。

 

 だが、現実は常に非情だ。こんな筈ではなかったというのが現実世界におけるある種の法則である以上、それから逃れることは不可能である。

 

 

 

「それとも──夢で良かったのか?」

 

 

 

 しかし、後半部分の結末を鑑みれば夢であって良かったとも思えるのだから複雑極まりなかった。

 

 

 

「ぅぅ、ん」

 

 

 

 声を出したからであろう。身体の上に乗って寝ていたらしい子供が目を覚ましたようで、左肩を枕のようにして伏せっていた頭がぐぐっと持ち上がる。

 

 長い髪の毛が桜色で、一瞬桜のお化けにも見えたが、紛う事なき人間の子供。

 

 女の子だ。年の頃10歳前後で青年のライバルである少女と同年代と思われた。

 

 

 

「んんぅ?」

 

 

 

 少女はまだ眠いのか目をごしごし擦ってから2,3回瞬きをして、青年の顔をジッと見つめてくる。

 

 

 

「…………………………お兄ちゃん? 何してるの?」

 

「知るかぁぁぁぁ──ッ!! お前こそ何やってんだよッ?!」

 

 

 

 髪どころか瞳の色まで桜色の少女は開口一番何をしているのかと聞いてきた。

 

 だがそれは彼の方が聞きたいのだ。目を覚ましたら知らない部屋に居たのだから。

 

 

 

「お前じゃないよクララだよ? で、お兄ちゃんは何してるの?」

 

 

 

 しかし少女はまたもや何をしているのかと聞いてくる。

 

 

 

「だから知らねえーッつってんだろッ!!」

 

 

 

 自分とて何がどうなったのかを知っていたら教えてやらないでもなかったが、本当に何も知らないのだ。

 

 

 

「口が悪いなぁ…… 女の子にそんな口の聞き方しちゃダメだよまったくもう」

 

 

 

 だが少女──クララは青年の口の悪さを指摘するだけでまったく話が噛み合わない。

 

 

 

「やかましいッ! 人が夢への一歩を実現させたってのに期待もたせるような夢見せて現実を壊しやがってこのピンクちびッ! てかココ夢だよな? コレ夢だよな? 現実じゃないよな? あっちが現実だよな? 主に前半ッッ!!」

 

「はいはいどーどー落ち着いて落ち着いて、混乱しすぎだよシンお兄ちゃん。お兄ちゃんが夢への一歩を踏み出したって何それ? ダジャレ?」

 

 

 

 つまんないよーと笑う小憎らしい少女の事を、青年は良く知っている。

 

 毎年大学受験に向けてバイト代の殆どを注ぎ込み通っている塾の近くの公園で休憩しているときに良く会う少女。

 

 彼女の保護者という、子供みたいな中年男性とも良く話をしていてお互い顔見知りの間柄だ。

 

 彼はこの少女と、少女の保護者である男性とは、何度も顔を合わせている内にそこそこ親しくなっていたが

 

 顔を合わせるのは専ら公園での事であり、こんな見知らぬ部屋で会うなどというのは理解不能であった。

 

 

 

「ええっとね、順を追って説明しちゃうと。昨日の夜に例の公園で吐しゃ物撒き散らしてぶっ倒れてたお兄ちゃんを偶然通りかかったパパが見掛けて連れて帰ってきたんだよ。 酒臭いし汚いしで大変だったんだから。パパなんか一張羅の服にゲロ吐かれて災難だったみたいだよ?」

 

「…………悪い、俺なんも覚えてねえ……おっさんに会ったような記憶は朧気に浮かんでくるんだが……」

 

「あれだけべろんべろんに酔ってたらそりゃねー。それでそれで、そのあとお兄ちゃんは酔った勢いでクララを布団に押し倒して無理矢理傷物にしてこうして朝を──」

 

「ウソ付くなピンクちびッッ!!」

 

 

 

 何があったかの説明を聞いていた彼は不意に発したクララの一言に聞き捨てならないとグリコをお見舞いする。

 

 

 

「痛い痛いッ!!」

 

 

 

 幾ら泥酔状態でも子供相手に間違いを犯すようなロリペドフィリアではないと。

 

 

 

「乱暴だなぁもう…… 今からこんなじゃこれからの夫婦生活大変だよ…… お兄ちゃん、尽くす嫁であるクララちゃんに感謝してよね? 普通ならとっくに離婚だよまったくもう」

 

「じゃかましいクソガキッッ! 誰と誰が夫婦だッ!!」

 

「そんなのお兄ちゃんとクララに決まってるじゃない!」

 

「ああああ~~~ッ もうクソッ! 口の減らねェガキだッ!!」

 

 

 

 ライバルの少女と変わらないくらいに大人びた言動ながら、何処か幼さを感じさせるクララ。

 

 そんな彼女はとにかく口が達者で、青年はいつも言い負かされている。

 

 

 

「ま、夫婦の営みは追々って事で」

 

「営まねえーっつッてんだろが!」

 

「はいはいツンデレはもう良いから。男のツンデレはキモイだけだし」

 

「ツンデレでもねェ!」

 

「ま、とにかく何しか要するに、此処はクララの家だよ。いらっしゃいお兄ちゃん」

 

 

 

 彼女の言葉で漸く自分が居るのは何処かを知った。そう、此処は彼女クララ、クララ・ランフランクの家。

 

 つまり。

 

 

 

「クララの家ってことは……おっさんの家か?」

 

 

 

 彼女の保護者の家だ。

 

 

 

「そうだよ。何か悲しい現実から逃避しようと自棄酒を飲んでぶっ倒れた哀れなお兄ちゃんは、魔法使いであるパパに助けられてお姫様の家で幸せになりましたぁー」

 

「誰がお姫様だって?」

 

「勿論クララ」

 

「言ってろアホ」

 

「ひっどーいッ! ま、いいやお兄ちゃんだから許す! じゃ、ちょっと待っててね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パパを呼んでくるねと部屋から出て行く小さな背中を見ながら青年はある事に気付き、ポケットの財布を取り出す。

 

 彼女は言っていた……公園で倒れていたと。ならば最悪のことを考えつくのも自然である。即ち、誰ぞに抜かれている可能性。

 

 

 

 

 

「……中見抜かれてる」

 

 

 

 

 

 開けた財布に入っていたのは百円玉一枚のみ。

 

 自棄酒こそ飲んでいた物のすっからかんになる程高い酒も飲んでいなければ、高級な店に入った記憶もない。

 

 いや、記憶が殆ど飛んでいるからもしかしたらという事も有り得るが、とにかく今が無一文に近い状況であるのは変わらない。

 

 

 

 

 

「……やべェどうすんだよこれから……家賃に生活費に……おっさんの服にゲロも吐いたんだよな……あの高そうな服の弁償代に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇歴2013年4月7日 AM8:26分

 

 

 

 

 

 再度の受験に落ち、自棄酒に溺れ、財布の中身を盗まれて、高級な衣服の弁償代まで払わなければならない。

 

 それが青年──玉城真一郎の現実であった。

 

 

 

 



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ダメニートを養おう

駄目男シリーズ第三弾前編です。
蒼の混沌掲示板様に投稿してます。


 

 

 

 

 

 

 帝都の休日外伝 ダメニートを養おう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇歴2017年8月13日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おおお~すげェ~ッ!」

 

 

 

 鉄の城より突き出された巨大な三連装砲塔が火を噴き、相対する鉄の城を屠っていく様が余程興奮を誘うのか。その情景を目にしていた青年を歓喜の渦へと誘い込んでいた。

 

 

 

 

 

 太平洋戦争の始まりと終わり。毎年八月。日本の最も暑い季節となるこの時期はお盆の特集と、それなりの広がりを見せる趣味人達の一大イベントたる大祭典。そして、この種の終戦記念番組ばかりが放送されていた。

 

 興味のない者には退屈極まりなかったが、興味在る者にとっては至福とも言える期間。お盆は先祖を迎えるための古来よりの習わしとして。有明と幕張。二つの会場にて開催されている大祭典は趣味人達の神聖なる巡礼の場として日ブを始めとした勢力圏内は疎か、遠く中華連邦やけして良好とは言い難いE.U.からも人が集まる。

 

 

 

 

 

 そして、終戦記念の日には日ブ両国の国民が不幸な擦れ違いの果てに刃を交えた過去へと思いを馳せながら、祖先への供養と共に、二度と同じ過ちを犯さないとの決意を新たにする意味で、当時の戦争を振り返る特番ドラマ等が公共の電波で流されていた。

 

 しかしそれは同時に軍艦や戦争に興味在る者達の目を惹く番組でもあるという一側面もあった。

 

 

 

 

 

 興奮している彼の青年がそういった物に興味が在るのかどうかは不明なれど、少なくともこのドラマを観て楽しいと感じているのは間違いない様子で、先程からこの家の家人を放りっぱなしでテレビ画面へと齧り付いている。

 

 

 

 

 

『八百万の神々に守護されし神国ッ! 大日本帝国が敗れる事は無いッ!』

 

 

 

 

 

 “太平洋戦争”

 

 何の捻りもないそのままなタイトルの終戦記念特番であるこのドラマは、当時の戦争を戦い抜いた海軍提督たちの活躍と生き様を描いている。

 

 

 

 

 

『奴らに物量が有るようにッ 我らには培ってきた技術がッ……! そして連綿と受け継いできた大和魂が有るッ!! いいか貴様等ッ その日本男児の高貴なる大和魂をブリタニアの貴族共に見せつけてやれいッッ!!』

 

 

 

 

 

 画面の中で叫んでいる男は日本の俳優であったが、その役柄としての名は無論俳優個人の名前ではなかった。大日本帝国海軍中将ウィリアム・F・ハルゼー(春勢)。大の欧州嫌いで有名なブリタニア系三世の提督の絶叫と共に、隷下の艦が一斉砲撃を開始した。

 

 無数の巨弾をその身に受け、次々と沈み行くブリタニア艦隊。迫力満点なそのシーンを食い入り観ていた青年は再度となる感嘆の声を漏らしていた。

 

 

 

 

 

「はァァ~スゲェよなァ~。こんなでっかい軍艦同士が大砲向け合って撃ち合いするとか、もうテレビでしか観れないんだろうなぁ~。ああ~一回でいいから生で観てみてェわ~」

 

 

 

 

 

 威勢良く逆立てた短い茶髪に、剃り残し気味な顎髭を蓄えた目付きの悪い二十代中頃の青年──玉城真一郎。

 

 刻一刻と変わりゆくドラマの場面を少年の様に目を輝かせながら観ていた彼は、ミサイルが主役と成った現代の海戦を思い浮かべて残念だと不満を漏らすと、再び画面へと意識を集中させる。

 

 平和を謳歌する日本という環境で育った彼は、良くも悪くも非日常の象徴である戦争に興味津々な様子であった。

 

 無論そこにはテレビの向こう側の出来事だという傍観者としての意識が働いている訳だが、男というのは生まれながらにして戦争を含めた非現実にロマンを求めてしまう性を持っている為、一概に彼を非常識だと切って捨てる事も出来ないであろう。

 

 軍艦はカッコイイ。戦車はカッコイイ。戦闘機はカッコイイ。これはもう理屈で語ることが出来ない不可侵の何かなのだ。

 

 方向性こそ違えど鉄道、アニメ、ゲームといった、一文化のジャンルなのである。玉城青年もそれに熱い想いを抱く一人であった。

 

 但し、彼は自分が軍人になろうとは思わなかったが……。

 

 好きな物は好き。だが本職に就こうとは思わない。だが好きだから戦争映画やドラマを観て楽しむ。

 

 好きだから模型を造ったり、趣味人同士で集まって語り合ったりもする。難しい事は言いっこ無し。そういう物なのだ。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんてばホントこういう汗臭いの好きだね~」

 

 

 

 

 

 そんな彼のことをお兄ちゃんと呼び、背後から首に手を回して負ぶさる要領で彼に抱き着いたのは、年の頃十代半ば~後半の少女。

 

 膝裏辺りまで伸ばされた桜色の髪を首の後ろで一つに束ねた、髪と同色の瞳を持つその少女は、玉城にべったりくっつくとにこやかに微笑んだ。

 

 

 

 

 

「おうよ、戦争っつーのはなぁ。男のロマンよ」

 

 

 

 

 

 目を閉じて何処かの国の冒険家の様に話す玉城。少女は興味無さ気に彼が観ているテレビ画面に目を移す。

 

 今度は嶋田提督とニミッツ提督が作戦会議をしている場面に切り替わっていたが、これを観たところで少女が興味をそそられる事は無く、何が面白いのかさっぱり分からないといった表情を浮かべているだけだった。

 

 

 

 

 

「ロマン、ねぇ……。それで殺し合いが出来ちゃうんなら、それってもうロマンという名の呪いじゃないの?」

 

「なんでそうなるんだよ。国の為に武器を持って勇敢に戦う男の生き様……かっこいいじゃねーか」

 

「その国の為っていうのが抽象的で良く分からないんだなぁ。国の為に命をかけた結果家族を残して死んじゃうとか最悪だし無責任だよ」

 

「ふ、所詮女のお前にゃ一生理解するのは無理だ。こういうのはな、男にしかわかんねェもんなんだよ」

 

「ふんだ。別に理解したいとも思わないからいいもん。クララの優先順位は国なんかじゃないし、国を護るために死ぬ気なんてこれっぽっちも無いんだから」

 

「国なんかどうでもいいってか? ……お前ってホントさァ、忠誠心の塊みたいな騎士とか貴族が普通にいるブリタニアの人間らしくねーよなぁ~。珍しいくれーに愛国心ねェし」

 

「あのねぇお兄ちゃん。ブリタニア人だからってみんながみんな国家への忠誠心厚い訳じゃないから。というよりも、普通に生きてて忠誠がどうたら言ってんのは貴族様か騎士様かくらいだよ。それにクララは愛国心で生きてる訳じゃないんだし」

 

 

 

 

 

 玉城が持つ思い込みにも似たブリタニア人のイメージ。これを否定する少女クララ・ランフランク。

 

 在住は日本、そして訛ってもいない流暢な日本語を扱える処からして一見するとブリタニア系の日本人に見えるが、しかしその実はブリタニア生まれのブリタニア育ちという生粋のブリタニア人である。しかし彼女にはブリタニア人特有の国家への忠誠心等はない。

 

 彼の国の人間にしては珍しく祖国に対する帰属意識も低いが故に、国の為に命を捨てられるか? と質問をすれば、彼女は間を置くことなく「捨てない」とはっきりした答えを返すであろう。

 

 彼女に取っての優先順位で“国家”という物は、けして高い位置には無いのだ。それこそ国が分裂するような事態に陥る様な何かが起こったとしても、彼女が国の心配等をする事など皆無に近い程に。

 

 

 

 

 

 物事の優先順位が自分に取り高い物以外は殆どどうでも良いと思っているくらいなのだから、クララ・ランフランクという少女に愛国心を問うこと自体が間違っているのだ言えようか。

 

 

 

 

 

 だがもし、その質問が何の為なら命を捨てられるか? といった類の物であったのならば、彼女は迷うこと無く答えていたはずだ。自身の命を掛けても良いと言える程に優先順位の高い存在の名を。

 

 

 

 

 

 彼女に取っては何物にも代え難い優先順位を誇る存在──即ち“家族”と。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 クララ・ランフランク。彼女はブリタニアの国家機密に拘わる重要な研究機関、及びブリタニアの秘中の秘に当たる【嚮団】という特務機関の関係者であった。

 

 世間一般には公表されていない、人の精神や脳に干渉可能な能力という、現代文明を持ってしても全容を解き明かすこと困難を極める超科学に類別される能力研究の対象者として【嚮団】施設で育ち、9歳までのあいだ普通の子供では生涯体験することがないような様々な実験を行われてきた。

 

 

 

 

 

 発現した超科学能力が人にどのような影響を与えるのか? これを調べる為と死刑の確定した受刑者を対象に使用するという実験が行われた。

 

 能力保持者の精神状態によってその効力はどのように変化するのか? その為にと孤独な環境下で長い時を過ごさせられもした。

 

 

 

 

 

 どんなに平和な国であっても、国家という物はけして清廉潔白で清らかなる物では無い。凡そ戦争とは縁遠く、他国よりの信頼を裏切らない善良で平和な国というイメージが強い日本であっても、光あればまた闇もある。

 

 光を護る為に存在する闇の部分は、途もすれば悪と捉えられてしまうような事さえ行っている物だ。政治腐敗が少ない日本ですら粛正や暗殺等、非合法手段による害悪の排除をこれまで幾度となく行っているのだから。

 

 法治国家として如何な物なのか? そう問題視されることもあれど、国家が国家として存続していく以上、これは容認されるべき必要悪なのである。

 

 

 

 

 

 大を生かすために小を犠牲に。

 

 

 

 

 

 国という名の集団……即ち“大”の存在が創り上げし非情なロジックであったが、必要なこと故に誰しもが目を瞑る。非合法とされる研究もまた同じだ。

 

 利用法によっては永久機関に限りなく近いエネルギーを得る事も可能となる原子の力を用いた大量破壊兵器の研究を行うのは如何なる理由があっての事か? それ即ち国を、陛下を、そして民を護る為。

 

 力の駆け引きによって成り立つのが国際社会、そして人類文明である以上は、国を護る非合法な闇の存在は必要不可欠な物であり、そこから目を背けることは国家にとって許されない大罪となるのだ。

 

 民が力を持つ法治国家大日本帝国でさえそうなのだから、絶対君主と貴族こそが法であるとし、日本以上に力の論理が働いているブリタニアでなら尚のこと、大を生かす為の小の犠牲は容認されてしまう物。

 

 

 

 

 

 良い悪い。その様な単純且つ無意味な二元論で片付けられる話ではない。

 

 必要なこと──それが全てであり答えなのである。正義でも悪でもなく必要だから有る。唯それだけのこと。

 

 

 

 

 

 だが如何に必要であるとは言え、それらの研究が倫理的には疑問符が付く物である事は確かであり、クララが体験してきた能力開発や研究もその類の物であるというのは明々白々なこと。

 

 如何に美辞麗句で飾り立てようが、彼女達の存在は国家が必要とする犠牲の小であり、ブリタニアという国の日の当たらない部分。

 

 日の当たらない影の存在として生み出された──それがクララを含め【嚮団】より生み出された者達と、【嚮団】に関わる者達であった。

 

 

 

 

 

 帝国を陰から護り支える機関が行ってきたその研究や課題は、彼女以外にも数多くの子ども達に課せられてきた。当然その子ども達は【嚮団】によって生み出された者が大多数であったが、中には暗部組織などから預けられた子どもも存在する。

 

 それ程までに【嚮団】が持つ失われし旧世界の技術は、帝国の裏側にとって無くてはならない物であった。

 

 無論、能力開発の対象と成る子ども達には出来る得る限りの手厚い待遇が与えられてもいたが、満ち足りた楽しい日々であったのかと問われれば、皆が「違う」と答えるであろう。いや、本当はそれすらも彼らには分からないのかも知れない。

 

 自分達が過ごす環境こそが、生まれた時より、または物心付いた頃より当たり前であるのだから、「違う」と答えるのは、所詮事情を知らない外部の人間の勝手な思い込みに過ぎないとも言えるのではないだろうか。

 

 彼等には彼等の『幸せ』があり、彼等の常識と考え方がある。それを彼等でもない外部の人間がどうこう言うのは、実は大きな間違いなのかも知れない。

 

 早い者では10歳前後の歳には研究過程や特殊な訓練、及び能力開発を終え、個々人の適正に沿った任務が与えられる。それが彼等の進む進路であり、彼等自身が望む道。

 

 暗部組織で【嚮団】で、己の能力を活かしつつ、帝国に反逆を試みる不忠者や、帝国と帝国が抱える勢力圏の平和を脅かす外敵を排除し、帝国と同盟国とその庇護下にある国々の繁栄を支えているのだ。

 

 また、能力に目覚めなかった者は、研究に携わっていた貴族や【嚮団】関係者に身柄を引き取られ、普通の生活を送れるようにとの配慮も成されている。

 

 それは彼等を必要とする者達の、彼等にも幸せになる権利があるという思いの表れであった。

 

 そんな彼等には、多少の個人差こそあれど、唯一無二の求めて止まない物がある。それこそが『家族』という存在。

 

 家族の居ない環境で育ってきたからこそ、彼等は家族を強く求めるのだ。

 

 

 

 

 

 言わずもがな、国を護るために必要であるからこそ行われる彼等への能力開発と研究は、彼等が普通の子どもとして育つ環境を奪うという制約を科さざるを得ない大人の側の勝手な都合である。

 

 故に機関の者達……取り分け総責任者である【嚮団】の【嚮主】は、その為だけに産み出されてきた彼等が、少しでも“楽しい”“生まれてきて良かった”と思えるようにと、どんな望みでも叶えてきたが、しかし唯一本当の家族だけは与えることが出来なかった。

 

 だがそれこそ勝手な大人の思い込みであり、真の意味で彼等の事を理解出来ては居なかったという証明でしかなかったのだ。そう、彼等が求める第一の家族は当に彼等の眼前に居て、何時何処にいても彼等と繋がっているのだから。

 

 彼等の家族……それは彼等が父と呼び慕う【嚮団嚮主】に他ならない。

 

 事を理解してより、いいや理解する以前より彼等の父であろうと心掛けてきた【嚮主】もまた、彼等の心の内を知り、以前よりも強く彼等への愛情を示すようになった。

 

 自身は彼等の父であり、親として接していかなければならない。自身の遺伝子を持つ者も、またそうでない子ども達へも、平等な愛情を持って接する。そう、【嚮主】の血を分けた実弟が、自らの愛する子ども達へそうしているのと同じように。

 

 

 

 

 

 だが、その特異な環境で育ってきた彼等の家族を求める欲求は、時に父一人の存在では完結し得ない時がある。

 

 

 

 

 

 彼女──クララ・ランフランクもそうであった。

 

 

 

 

 

 彼女も他の子ども達同様“家族”或いは“家族の絆”を求める気持ちが強く大きかったが、一点だけ他の子ども達とは異なる状況下に置かれていた。

 

 相手を認識しながらキーワードを口にする事で、能力を掛けた対象人物の思考を無視して身体の命令権を奪うという、使い方によっては非情に強力且つ有用な能力を持つ彼女は、その能力が故に【嚮主】である父の直属としての立ち位置を得ることが出来たのだ。

 

 つまり『遠くにいても繋がっている』ではなく、『近くに居て何時でも話せる』という、非常に満たされる位置に在ったのである。

 

 大好きな父と常に一緒にいられる立場は、本当の意味での“満ち足りた”を彼女に与えていた。

 

 遊びに行くとき、仕事のとき、日常生活。全てに於いて父が近くに居る充足した毎日を送っている。

 

 それも彼女が父の遺伝子を有している、本当の意味で血が繋がっていると明かされてからは特に。

 

 

 

 

 

『君の中にはボクの血も入っているんだよ。君だけじゃなくて他の幾人かの子ども達にもね。まあボクにとってはそんな事どうでもいいんだけどね。血の繋がりがあろうと無かろうと、君たちはみんな大切なボクの子どもである事には変わりないから』

 

 

 

 

 

 衝撃を受けたその告白は実にさらりとした物だった。自然ではない出生法ではあっても、自分の中には確かに父の血が流れている。

 

 そしてそれ程仲の良かった訳では無い兄弟の中にも本当の兄弟が……。これを知り、また一つ家族の絆を得ることが出来た様に感じた彼女は、至上の喜びの中にいた。

 

 自分にも本当の家族が居たのだと……。

 

 

 

 

 

 その後、父が移り住んでいた日本へと渡ったクララは、時折父の命で動くときを除いて、平穏で静かな満ち足りた日々を送っていたが、ふとあるとき思い至る。

 

 父に連れられ会った叔父。その家族は何百人と居たのに、いま自分は父と二人だけで暮らしている。

 

 

 

 

 

(もっと欲しい……な……)

 

 

 

 

 

 今この時、とても恵まれた幸せの中に身を置いているというのに、彼女はその先を求めるようになってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 もっと家族が欲しい。

 

 もっと絆を造りたい。

 

 もっと繋がりたい。

 

 

 

 

 

 これは彼女の持って生まれた性。そういう絆を求めてしまう環境で育ってきたが故の性。欲張りだと、強欲だと分かっていても止められない。

 

 人間という物は欲深い生き物ゆえ、一つ手に入れれば二つ目が欲しくなり、二つ目を手に入れれば更に多くが欲しくなる。人とはそういう物。

 

 

 

 

 

 親と子の絆、自身と兄弟の絆を手に入れた彼女は、また新しい家族の絆を紡げる相手を欲していた。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

(お兄ちゃんて昔からまったく変わらないんだよね)

 

 

 

 

 

 父が良く連れて行ってくれた公園。そこで知り合った玉城の事を、クララがお兄ちゃんと呼び懐くようになったのは、今から六年と少し前。

 

 日本に来たばかりでまだ友達と呼べる存在が居なかった彼女が公園で一人遊んでいる時、今にも死んでしまいそうな程に暗い顔をしてベンチに座っていた彼へと声を掛けたのが切欠であった。

 

 友達が居ないというと『んじゃあ俺が友達になってやる』と軽い調子で返されたことは、今でも良く覚えている。

 

 

 

 

 

(あのときだってやけっぱちだったみたいだし、ホント成長しないというか浮き沈みが激しいというか……。そこが放っておけなくて良いんだけどさぁ)

 

 

 

 

 

 彼がそんな事を言ったのは、その年の大学受験に失敗したショックを紛らわせることが出来るのならば誰でもいいと話し相手を欲していたが故だ。

 

 当時10歳のクララにそれを求めてしまう辺りかなりの落ち込みようだったと言えるが、立場上人を見る目が確かな彼女の父も、クララには人との触れ合いが必要だと考え、馬鹿だが悪い人間ではない彼なら大丈夫だろうと、公園で会う度に娘の遊び相手を頼んでいた。

 

 そうして後に再び受験を失敗して自暴自棄となり、酒に溺れ泥酔状態で倒れていた彼は、父の手により家に連れてこられた。そのとき父の一張羅が台無しになってしまったが、それを機にこうして時々遊びに来てくれるようになったのは素直に嬉しい。

 

 彼女にとって彼と会うとき、彼とお話しをするときは、不思議と家族の絆を確たる物とした幼い頃と同じ気持ちになれるのだから。

 

 

 

 

 

(どうせパパの好意に甘えているだけだと分かってるんだけど、こうしてお兄ちゃんが家へ遊びに来てくれるようになって、クララは本当に嬉しいんだよ)

 

 

 

 

 

 自慢ではないがクララの父はお金持ちであり、家も高級住宅街に建つ大きめな日本家屋。貧乏浪人生な玉城が食うに困ったとき、父が『食費に困ったらおいでよ』と好意で言った言葉に思い切り甘えているのだ。

 

 勿論、ただ飯をたかりに来ているだけではなく、父に勉強を見て貰ったりと一端の浪人生らしい真面目な姿も見せている。

 

 最近では時折訪れる父の姪や、その部下にまで勉強を見て貰っては、受験失敗を繰り返している為、もう諦めた方が良いとまで諭されている始末であったが。

 

 気性の荒い父の姪……クララの従姉など、今年の受験失敗の言い訳『俺が悪いんじゃねェ! “受験番号が”悪いんだよ!』に激怒して、家に飾ってあった真剣を抜き、『お前の脳みそこそが悪いようだから私が切り開いて診てやろう!』と追い掛け回したりしていた。

 

 普通に考えるのならそんなおっかない相手に追われれば恐ろしいと思い避ける様になる物。普段から「怒ると怖ェよあの乳デカ男女」そんな悪口さえ口にする事がある。

 

 

 

 

 

 唯知っている。玉城は従姉に追い掛け回されながらも嬉しそうにしていたのを彼女は知っている。

 

 従姉とこの家でばったり会った時など無駄にかっこ付けようとしているのを知っている。

 

 勉強を教わっているときの態度がいつもと違う事を知っている。

 

 従姉の従者が従姉の手に触れたのを見たときに怒気を露わにしていたのを知っている。

 

 クララは知っている。玉城真一郎が『コーネリア・ランペルージ』に色目を使っている事を────知っている。

 

 

 

 

 

(お兄ちゃん……クララはね。お兄ちゃんに家族になって貰いたいと思ってるから。だから絶対に──)

 

 

 

 

 

 

 

 絶対に──お姫様や他の女になんか渡さない

 

 

 

 

 

 

 

 髪と同じ色を持つ瞳……彼女の右目に赤い鳥の姿が浮かび上がる。その光る赤鳥の浮かんだ瞳が捕らえているのは、彼女が負ぶさり抱き着いている玉城の瞳。

 

 

 

 

 

(もし、お兄ちゃんが他の女の物になるのなら……そんなことになるくらいなら……)

 

 

 

 

 

 クララは彼の肩越しに顔を出し、瞳を彼に合わせている。それはまるで照準を合わせたスナイパーライフルの銃口の様に。

 

 普段は降ろしている髪を暑いからと束ねているのもあっていつも以上に良く見える彼女の瞳。しかし彼からは見えない。ぴたりと頬を触れ合わせたままでいるから、赤く光る彼女の瞳は死角となって見えない。

 

 無論、彼女が“コレ”を使用することは無く、ただその綺麗な桜色の右目に浮かべてみただけ。

 

 威圧とも威嚇とも取れるその行為は、ある種彼女の独占欲と嫉妬心からくる行動であったが、“家族にしようと決めた相手”にコレを使用する程、彼女も非情ではないのだ。彼女に取り、何よりも優先すべき存在である“家族”に、彼女はソレをけして行使することができない。

 

 それ以前の問題として、コレを許可なく使用したら父の怒りを買ってしまうという理由もあるにはあったのだが、そんな事情を除いても、クララ・ランフランクが玉城真一郎にコレを使うことは、彼女に取って大いなるタブーとなっていたのである。

 

 

 

「クララお前──」

 

「なぁに?」

 

「ちょっとよォ……胸、おっきくなってねェ?」

 

「あはは、そんなの当たり前だよ。クララだってもう高校生なんだからおっぱいだって育ってくるよ? なんだったら触らせてあげようか? お兄ちゃんはおっぱいが好きだもんねェー」

 

「ば、バーロー十年早ェよッ、そういうのはネリーくらいのデカパイになってから言えっつーのッ! つーか暑ィからいい加減離れろ!」

 

「……」

 

 

 

 

 

(ふ~ん、お姫様と……コウお姉ちゃんと比較するのね……)

 

 

 

 

 

 ──今はクララの話をしているのに

 

 

 

 

 

 不意に玉城の口より溢れ出た名前。

 

 父や従姉や従姉の兄弟達の事を『クララの叔父の子どもで、お金持ちのランペルージ』としか知らないお兄ちゃんにはそうなる“芽が無い”と知ってはいても、気分の良い物では無い。

 

 

 

 

 

(どうせ無理なのに。お兄ちゃんがメガネって呼んでるあの騎士くらいの身分が有れば別だけれど。でもね、クララなら……私なら、お兄ちゃんの家族になれるんだよ?)

 

 

 

 

 

 クララが唯一安心できる部分。ずっと昔、クララがこの世に生を受けるよりもずっと以前に父は皇籍奉還──臣籍降下をしたことによって、今は“一民間人”であることであった。

 

 父の血を持つ自身には“芽が有る”。父は皇族ではない、父の娘たる自分も皇族ではない。民間人なのだ。例え裏側の仕事をしていようと民間人なのだ。

 

 それでも苛立つ事はある。コーネリア・ランペルージの話を出されると特に。

 

 何がどうなる物でもなかったが、何が起こるか分からないのがこの世という物。

 

 まかに間違って、という事態など考えたくもない。玉城真一郎は、自分が家族とするべく決めた人間。

 

 そうあのとき、あの瞬間から──。

 

 

 

 

 

(あのとき言ったよね? 女の前ではカッコつけたいって。私を庇ってくれたあの時に、私の事を子どもじゃなくて“女”って言ったよね? あれ──)

 

 

 

 

 

 

 

 ──忘れてないから

 

 

 

 

 

 

 

 思い起こされるのは来日後。彼と出逢ったあの公園の情景。手に持ったソフトクリームを通行人の男にぶつけてしまった時のこと。

 

 その時、まだ出逢ったばかりなのにも拘わらず、彼が自分を庇ってくれた時のこと。

 

 

 

 

 

 クララは忘れていない。あのとき、お兄ちゃんを家族にしたいと感じた事を。クララはけして忘れない……。

 

 

 

 

 

 



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ダメニートを養おう 後編

駄目男シリーズ第三弾後編です。
同じく蒼の混沌掲示板様に投稿しております。


 

 

 

 

 

 

 帝都の休日外伝 ダメニートを養おう 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 皇歴2011年4月

 

 

 

 

 

 

 

 高い物では900m、1000mにも達する強化耐震設計の摩天楼群と、広大な関東平野に広がる耐震ブロック構造の建築物によって形成された大都会──大日本帝国帝都東京。

 

 都市の規模・人口密度共にブリタニア帝都ペンドラゴン、同じくブリタニアの大都市ニューヨークと並ぶ世界三大都市の一角を成すこの大都市にも数は少ないながら緑と自然に囲まれた場所は存在している。

 

 開闢以来、古くは古代文明が存在していたとされる先史文明時代より途切れることなく受け継がれてきた人類最古の王朝──大日本帝国皇家。

 

 その尊き血脈の方々が現皇家当主、つまり大日本帝国の今上帝と共に住まわれている皇居および周辺区域は、その豊かな緑地の代表として真っ先に思い浮かぶものだが

 

 無論のこと都内には皇居周辺区域以外にも緑は存在している。

 

 

 

 例として挙げるのならば都内に点在する公園などがそうだろう。

 

 大都会での生存競争を生き抜く企業戦士達には束の間の休息場として、また鉄筋コンクリートと巨大太陽光発電パネルの下で育った子供たちにとっては近場の良き遊び場として、

 

 緑という物は人工物ばかりの東京における一種のオアシスのような役割を果たしていた。

 

 

 

「はぁぁ……」

 

 

 

 そんな緑に囲まれた都会のオアシスの只中で、幸運の女神も裸足で逃げ出してしまいそうな程とても暗い空気を纏いながら、深い深い溜息を付いている青年が居た。

 

 彼、玉城真一郎の溜息の原因。それは今年の大学受験失敗にある。

 

 つい先月までは東大生になった自分の姿を思い描きつつ、入学してからどのサークルに入ろうか? 官僚になるにはやはり政治経済学部だろうか? 

 

 単位が足らなくて留年などということにならないよう気を付けなければと、あれこれ考えながら希望と不安の入り混じった学生生活のスタートを切ると信じていた。

 

 

 

 だが結果は不合格。

 

 

 

 気合いを入れて受験に臨み答案用紙の全項目を埋めたというのに、発表されたその合格者の中に自分の受験番号は無かったのだ。

 

 一年間努力に努力を重ねてきた。

 

 馬鹿ながら真面目に真剣に取り組んできた。

 

 それは官僚に、政治家になるという、高校のときに誇大妄想狂扱いされた自身の夢に向って本気で直走ってきたからに他ならない。

 

 でなければ生まれてこの方碌に努力をして来ず勉強嫌いを自認していた自分がここまで粘れるはずがなかった。

 

 

 

 “努力は必ず報われる”

 

 

 

 嘘を言え。

 

 なにが努力は必ず報われるだ。

 

 報われない努力もあるのだ。

 

 現にいまこうして努力を嘲笑う結果を示されたばかりではないか。

 

 これで総ては水の泡。

 

 努力などクソの役にも立ちはしなかった。

 

 

 

「ああ……これからどうするかな……」

 

 

 

 頭の中が真っ白になり何も思い浮かばない。そも合格ありきでこの先の予定を立てていたのだから不合格となれば総ての予定が狂ってしまうというものだ。

 

 予定は決定から未定へと変わり、開けると信じていた明るい未来は先行きの見えない暗闇に閉ざされてしまった。

 

 

 

 実家へ帰る? 

 

 

 

 それは無い。何の為に親を頼らずバイトをしながら齷齪と頑張っているのか? 

 

 それはこれ以上親に迷惑を掛けたくないからだ。

 

 

 

 では進学を諦めるか? 

 

 

 

 これも無い。政治家・官僚を目指すのならば大学卒くらいの学歴は必須である。

 

 学歴が無くともなれる人間は居ると知っているがそれこそ今以上の狭き門となるのだけは確かであり進んでその道を選ぼうとは思わない。

 

 必死になって勉強してきたからこそ改めて理解させられたが、自分は馬鹿だ。

 

 どんなに詰め込んでも一週間もすれば忘れてしまうほどに物覚えが悪く記憶力もない。

 

 昨日覚えて見事に解けた数学の問題が、翌日になると全く解けなくなっていたという事が幾度もあり、そのあまりの物覚えの悪さから

 

 自分の頭のメモリー容量が2ビットくらいしかないように思え、一体どうやって高校受験に受かったのだろうかと頭を抱えてしまった。

 

 

 

 そして自分がどうしようもない馬鹿であると気づいたからこそ分かったことがある。

 

 

 

 馬鹿では政治家や官僚には成れない。

 

 

 

 この一年間それなりに勉強してきたから分かる。例え成れても馬鹿では続かないと。

 

 

 

「ああ~もうどうすりゃいいんだよ~ッ!」

 

 

 

 答えなど疾に出ている。一年待って来年の同じ時期にもう一度受験。

 

 つまりは浪人生になれと突き付けられた現実が其処にはあるだけ。

 

 再び勉強と忍耐の日々が始まる。高い塾代と生活費も稼がなければならない。

 

 お金が必要となれば仕事の時間が増えて、仕事の時間が増えれば必然的に勉強が捗らなくなる。

 

 といって実家に戻るわけにも行かない。

 

 

 

 一つの失敗から総てが悪い方向に向けて転がっていくという典型的な悪循環の輪が出来上がりつつあった。

 

 

 

 頭が痛い……。

 

 

 

 立ち止まっていようと前へ進もうと悪い方向へ転がり行く大穴が一方的に口を開けて待っているのだから無理もない事だが、

 

 まさか楽天的に生きてきた自分がこうして頭を抱えて思い悩む日が来ようとは予想だにしていなかった精神的ダメージは、彼自身が考えているよりも非常に大きな物であった。

 

 

 

 人生のツケという物は自身が最も辛い状況にある時にやってくるという。

 

 

 

 思い返せば小学生の頃、勉強も宿題もせずにただ遊び呆ける毎日であった。

 

 中学生時代、不良グループに入りやはり遊んでいた。

 

 来る日も来る日も馬鹿をやっては親に周囲に迷惑を掛け通しで、喧嘩で警察に補導されたことすらあった。

 

 そんな彼の小さな転機となったのが高校時代。

 

 夏休みのある日に家でテレビを観ていたとき、偶然にも映っていた嶋田繁太郎内閣総理大臣と青少年達による公開討論番組。

 

 そこで語られていた総理大臣の言葉だ。

 

 

 

『努力に結果は着いてくる』

 

 

 

 それを聴いた玉城は『努力すれば自分でも政治家になれるかな』と何となく思った。

 

 親に迷惑を掛けてばかりの自身に嫌気が差していた時に聞いた総理大臣の言葉は、意外にも彼の胸に響いていたのだ。

 

 政治家や官僚になってどうするのかということについては何一つ考え無しのただの思い付き。

 

 だがこれ以上親を泣かせるだけのクズのままでは居たくない。

 

 親に誇れる自分になるには天辺に立てばいい。この国で言う天辺とは帝を除けば総理大臣であり政治家や官僚といった国を動かす職のこと。

 

 ならば目指してみようじゃないか天辺を。

 

 

 

 そんな漠然とした思いに突き動かされたまましたことのない努力や勉強という行為に取り組んだのが高校二年の終わり頃だった。

 

 

 

 しかし幾ら真面目になろうと努力をしたところで受験までの期間はたったの一年。厳密には一年を切っていた。

 

 努力に結果は付いてくるのは確かなのだが、それは努力した分だけの結果であり自助努力を超える結果というものは早々付いてくる物では無い。

 

 

 

 であるが故に大学受験失敗は当然の帰結だ。

 

 

 

 小中高と約十年もの間遊んで過ごしてきたツケが、たかが一年の努力で取り返せるはずもないのだと考えなかったところが、彼の彼たる由縁なのだろう。

 

 

 

 就職を目指すにしても進学に向けての考えしか頭に無かったために就職口がない。

 

 明日からの生活もまともに出来るか分からない。

 

 といって迷惑掛け通しであった家には帰れない。

 

 

 

 当にいま、玉城真一郎の人生のツケはこの瞬間に訪れていたのだ。

 

 

 

 

 

 そんな時であった。

 

 

 

 腰掛けたベンチで身体を折り曲げ幾度にも渡る溜息を付きながら、明日のことさえ考えられないで居た彼の視界に鮮やかな桜色が入って来たのは。

 

 

 

 

 

(…………なんだ?)

 

 

 

 

 

 桜色。

 

 桜の色。

 

 咲くと信じて咲かなかったその色は、今彼が最も目に入れたくない色彩であった。

 

 咲いてさえいれば合格していた等と考えたりもしたが、そも合格したから桜が咲いたという比喩的表現に使われるのであり、

 

 不合格=咲かなかったが正しく、咲いていればどうこうといった話にはならない。仕方がない事だがそれが現実である。

 

 

 

「ん~?」

 

 

 

 その見たくないと思っていた桜の色が唐突に喋った。

 

 色が喋るとはなんとも奇妙なことだがその色は確かに喋った。唸るような何かを見定めるような、そんな声音で。

 

 少し視線を上げると、その色は肩口から流れ落ちた髪の房であることが分った。

 

 それが髪であるのならば持ち主は無論のこと桜の木などではなく人間だ。

 

 

 

「なんだよおまえ」

 

 

 

 真下の地面。足下を見ていた彼の視界に態々入り込んで唸っていたのは、10かそこらの小さな女の子だった。

 

 見た感じはブリタニア系の子であったが、彼は髪と同じその瞳の色にさえも不快な感情を抱いてしまう。

 

 桜が咲く季節に桜色の髪と瞳を持つ女の子が桜散った自分の前に現れる。

 

 

 

(舐めてんのかコラ)

 

 

 

 この少女に恨みも無ければ少女が彼を馬鹿にするような言葉を放ってきた訳でもないというのに、遣り場のない怒りだけが沸々とこみ上げて来る。

 

 自分の前に現れた桜色が特徴的な女の子が、まるで受験に落ちた自分を嘲笑いに現れた桜の木の妖精のようだと。

 

 とんでもない被害妄想だが精神的に追い詰められている彼の心情からして詮無き事である。

 

 

 

「クララ」

 

 

 

 そんな桜色の少女は彼の不快な気分など知らないと言わんばかりに自らの名を口にした。

 

 名前など聞いても居ないのに自分から名乗った少女は、次に『ヘンな顔』などと暴言まで吐いてくるではないか。

 

 生来気が長い方ではない玉城はその言葉を聴いてカッと頭に血が上り、あどけない表情を浮かべている少女に対し手を挙げそうになったが、

 

 今の自分は何なのか? と考えた時、その怒りも急速に霧散し消えていった。

 

 

 

(こんなとこで下向いて溜息ばっか付いてればそりゃあ変にも思われるよな……)

 

 

 

 普段ならばこんな年上の人間に対する口の聞き方も知らないような生意気な子供は怒鳴りつけてやるところなのだが、今はそれをする元気すらない。

 

 マイナスをループし始めた感情は怒りさえも消し去り彼を無気力にさせてしまったのだ。

 

 

 

「あっち行け、しっしっ」

 

 

 

 感情が急に冷えてしまいやる気が無くなった彼が犬を追い払う仕草で手を振るうと、少女は分っているのかいないのか、僅かに首をかしげ不意に視界から消えた。

 

 但し視界から消えただけでまだ彼の側に居たのだが。

 

 

 

「よっこらせっと」

 

 

 

 可愛らしい声と共に少女が腰掛けた場所。それはいま玉城が座っているベンチ。

 

 

 

「……」

 

 

 

 公園には他にも空いているベンチがいっぱいあるというのに態々自分が座っているベンチに腰掛けてくる辺りイイ性格をしていると思う玉城であったが、

 

 彼はこんなヘンなガキは無視してれば良いだけだと思い直して気にするのを止めた。

 

 

 

「ねえ、なにしてるの?」

 

 

 

 止めたのだが少女はしつこく話し掛けてくる。

 

 

 

「何もしてねぇよ」

 

「何もしてないのにどうしてそんな顔してるの?」

 

「うっせぇなぁ~。話し掛けてくんなよクソチビ」

 

「チビじゃなくてクララだって言ってるじゃない」

 

「だ~か~ら~、誰もお前の名前なんか聞いてねえって言ってるだろ」

 

 

 

 変な奴。

 

 一言で表すのならばこれ以外に表現のしようがなかった。

 

 会ったこともない見ず知らずの男に声を掛けてくるような子供が変でなかったらなんなんだ? 

 

 自分だったら下を向いて溜息ばかり付いている変な男になど絶対に声を掛けたりはしない。

 

 

 

「こんなにあったかくて良いお天気なのにそんな顔してるから気になっちゃうんだよね」

 

 

 

 しかしクララという少女はそれをこそ気になるようで積極的に関わってくるのだ。

 

 子供は好奇心の塊であると良く言うが、この少女の好奇心は一線を画しているように思える。

 

 そうまるで見る物触る物総てが初めてだったり、そうそう触れる機会がない場所から外に出て来たやんごとなき身分の浮世離れした人間であるかのように。

 

 

 

(アホらしい。考えすぎだぜ俺)

 

 

 

 偶々変な子供であるだけ。

 

 どうせそんなところであろう。

 

 

 

「気にすんな、黙れ散れ、以上。大体俺がどこでどんな顔してようがお前には関係ないだろ」

 

 

 

 関係ない他人に関わってくるな。

 

 そういって追い払おうとするも少女は食い下がってくる。

 

 

 

「うん関係ないよ。関係ないけどこの公園でそんな顔してるのお兄ちゃんだけだからね」

 

 

 

 少女の言葉を受けた玉城が視線をさまよわせてみると、子連れにカップルに花見をしている団体にと、皆それぞれ楽しそうにしているのが目に映った。

 

 季節柄陽気な気分になるのであろうが成るほど、確かにこれでは一人不幸を背負い込んでいるかの如き空気を発している自分は場違いであり彼女の言う通り嫌でも目立つというもの。

 

 しかし、それとこの少女が話し掛けてくるのとはまた話が違う。

 

 会ったこともない変な奴の顔をジロジロと見て何が楽しいのか分からない。

 

 

 

「俺の観察なんかしてないでダチと遊んでこいよ」

 

 

 

 そんな暇があるのならば友達と馬鹿騒ぎしていた方が余程有意義で楽しい。

 

 十年間遊び通しであった自分が言うのだから間違いないとベンチに座って脚をぶらぶらさせている少女に拙い説得を試みたが、それは彼女自身の事情により一蹴されてしまう事になる。

 

 

 

「クララには友達なんて居ないよ。だから一人で遊んでいるんだよ」

 

 

 

 何でも彼女はブリタニアから日本へ渡り来たばかりで友達と呼べる同年代の知り合いが居ないとの事。

 

 故にこうして一人で遊んでいるのだという。

 

 

 

「パパの用事に付いてきたんだけど、難しい話ばかりでどうせやること無いから此処で遊んでなさいって言われちゃったんだ」

 

「ガキに一人で遊んでろってそれどんな親父だよ。育児放棄してるんじゃないのか?」

 

「ん~ん、とっても優しいパパだよ。この公園でよく一緒に遊んでくれるし」

 

 

 

 とにかくそういった事情から友達が居ないという彼女は楽しそうな花見客からは想像も出来ない負の感情を撒き散らしている玉城が目に付いたので話し掛けた。

 

 端的に言えばそんな話であるらしい。

 

 それでも普通そんな変な奴に話し掛けたりしない物なのでこの少女もかなり変わっている。

 

 

 

「それでお兄ちゃんはどうして死にそうなくらい落ち込んでいたの?」

 

「また話戻すのかよ……」

 

「うん。あのお花見客の団体に話し掛けるなんて出来ないし、公園内もぐるっと一周してきたからもうすることがなくて暇なんだ~」

 

「暇だからって会ったこともない見ず知らずの変な奴の相談に乗ろうとするガキなんざ普通居ねェよ」

 

「まあまあ、此処にそんな子供が居るんだから話してみてよ。ちょっとくらいは気が晴れるかも知れないし、序でにクララのお話相手になってくれたら嬉しいなぁ~って」

 

「話したところで子供のお前なんかにゃ分かんねーと思うんだけどなぁ……」

 

 

 

(ま、何にもやることねーし、ダチも居ないっていうならコイツの親父が来るまでお守りでもしてやるか)

 

 

 

 丁度いい暇つぶし。

 

 受験に落ちたことで落ち込んで気も少しは紛らわせるだろう。

 

 

 

「大学って分かるか?」

 

「分かるよそれくらい」

 

 

 

 軽い調子で始めた話は自身の受験失敗についてだった。

 

 

 

 玉城は語る。高校に入ってから官僚や政治家になってやるという漠然としながらも大きな野望を抱いて粉骨砕身の努力をしてきたこと。

 

 遊びに誘われても断腸の思いで断り、寝る間も惜しんで勉学に勤しんできたこと。

 

 小中と高二までの殆どを何も考えずに生きてきたから勉強なんて出来ないし、そもそも嫌いなのに我慢して頑張ってきたこと。

 

 迷惑掛け通しの親に対してもう二度と迷惑は掛けないと決意したこと。

 

 その果てに待っていたのが努力を嘲笑うかのような非情な現実だったことなどを。

 

 

 

 初めて味わう挫折感はそれはもう想像を絶する心理的負担と成って彼の心を蝕んでいる。

 

 だからこそ吐き出す相手が現れると、恥も外聞もなく総てを吐き出してしまったのだ。

 

 

 

 小学生くらいの子供相手に何を真剣に語っているんだと思わないでもなかったが、相槌を入れながら真面目に話を聞いてくれる彼女に胸の内を吐き出していると少しは気が楽になってくる。

 

 そして総てを話し終えたとき、クララは無言でベンチの上に立つと、何を思ったのか此方の頭を撫でてきた。

 

 逆立てている髪の毛に彼女の小さな指が通り少しこそばゆく感じた玉城であったが、しかしその手を払いのけようとはしない。

 

 

 

「なにやってるんだ?」

 

「頭を撫でてる」

 

 

 

 そんな事は見れば分かる。どうして頭を撫でてくるのかと問いたい。

 

 しかしその答えは彼が口を開く前に返された。

 

 

 

「クララのパパはね、クララがいっぱい頑張ったらいつも頭を撫でてくれるんだよ。良くやった、頑張ったね、良い子だねって。だけどお兄ちゃんのパパは今此処に居ないからクララが代りに撫でてあげる」

 

 

 

 頑張ったから褒める。努力をしたから頭を撫でる。

 

 結果が出なくても彼女の父はそうやって労をねぎらっているという。

 

 彼女は唯それと同じ事を見ず知らずの男にしているだけ。

 

 褒めてくれる人が近くに居ないのだから代りに自分が褒めると言って。

 

 

 

「……」

 

 

 

 子供だましも良いところだと玉城は思う。どんなに努力をしたところで結果が出なければ意味は無い。

 

 努力とは実ったからこその努力なのであり、実らなければそれは努力ではなく単なる徒労だ。

 

 塾の講師は口癖のように話していたし彼自身それが世の中の真理、社会の理であると考えていた。

 

 努力に結果は付いてくる。努力は決して裏切らない。

 

 そんな総理大臣の言葉に沿って努力してきたが結果的には糞ムカツク塾の講師の方が正しかった。

 

 

 

 どんなに汗水垂らして働いたとしても結果が出なければいつまで経っても昇進しない。給料だって上がることはない。

 

 何処かの国に侵略されて負けた場合も攻め込んだ側が悪いのではなく、負けた側の国の努力が足りないから負けた。故に攻められた側にこそ落ち度があるとなってしまう。

 

 それが大人の世界の理であり変わることなき掟なのだ。

 

 

 

 よく頑張ったね。

 

 えらいね。

 

 それが通用するのは子供の間だけ。丁度いま頭を撫でてくるこの少女のように。

 

 

 

 だから彼は子供だましだと思ったのだ。

 

 だがそれでも──。

 

 

 

 

 

「……悪くないな」

 

 

 

 

 

 それでも悪くないと思った。

 

 

 

 馬鹿だから悪い。

 

 無駄な努力は意味が無い。

 

 世間がそう嘲笑う中で、見ず知らずの子供だけがよく頑張ったねと自分を褒めてくれた。

 

 褒められるのは好きだ。褒められると調子に乗ってしまうという悪い癖こそあったが、褒められないでいるよりも俄然やる気が出て来る。

 

 褒められたくらいで一気に伸びるなどといった都合の良いことこそ無い物の、気分だけは良くなってくる。

 

 そこでふと思い出した。

 

 この少女は友達がいないと言っていたこと。

 

 そして此処には良く遊びに来るということを。

 

 

 

「お前さあ、友達居ないんだよな」

 

「うん」

 

 

 

 無論国に入るだろう。

 

 しかし日本には居ない。

 

 

 

「んじゃあ俺が友達になってやる」

 

「え? お兄ちゃんが友達に?」

 

「ああ、俺の話聞いてくれたし、お前が良かったらだけどな」

 

 

 

 大学を目指す。

 

 政治家か官僚になってやる。

 

 親でさえまともに相手にしてくれなかった話を聞いてくれて、剰えこうして褒めてくれたのだ。

 

 褒めてくれる誰かが居て欲しい。

 

 そんな心理が働いたのであろう。

 

 

 

「けどその代りに時々俺の悩みを聴いてくれ。誰もまともに相手してくれないんだ」

 

「お兄ちゃんの夢のこと?」

 

「そうそれ、真剣なんだって伝えてもみんな夢みたいな事ばかり言ってるとかたまきんの分際でアホかって馬鹿にしやがるんだよ……」

 

 

 

 今までの自分に原因があるのは理解していたが、誰からもアホかと言われて相手にされないのはとても悔しかった。

 

 今胸の内を聴いてくれたこの少女以外には誰も褒めてくれないし、応援もしてくれなかった……。

 

 

 

 縋ったって良いだろう? 

 

 褒めてくれる奴が一人くらい欲しいんだ。

 

 

 

 馬鹿だと自覚していても馬鹿にされ続けたことでそれなりに傷付いては居たのである。

 

 

 

 友達になってやるではなく、友達になって欲しい。

 

 より正確に言うならば時々愚痴を聞いて、頑張ったら褒めて欲しいといった、高校を卒業した歳の人間が小学生くらいの子供に対して求めるべきではない、

 

 本来なら子供が年上に褒めて欲しいと求めるべきである事を真剣に求めている駄目男の言い分を──

 

 

 

「いいよ聴いてあげる」

 

 

 

 しかし彼女は受け入れてくれた。

 

 

 

 あっさりと返答してくれた彼女であったが、本当は悩みを打ち明けて頑張った分だけ褒めてくれたこの少女にこれからも話を聞いて貰いたいという

 

 自己本位な考えを発露させただけだ。友達になるという交換条件を示してもみたが彼女に取って友達なんてのは必要ないのかも知れないのに。

 

 

 

「だって友達だもんね」

 

「……良い奴なんだなお前。俺の周りにゃ一人もいねえよ……」

 

 

 

 人の優しさに久しく触れていない所為か、少女の純粋さが眩しくて堪らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、おしまい」

 

 

 

 褒美といって頭を撫でられ、愚痴も聞いてくれる約束を交わし友達と成った少女クララ。

 

 そのことを少し嬉しいと感じていた玉城の頭から小さな手の感触が消える。

 

 頑張ったご褒美として褒めてくれる時間はどうやら終わりのようだ。

 

 しかし彼女は友達記念にもう一つご褒美を上げると言った。

 

 

 

「もう一つってなんだ?」

 

「うん、ちょっと待っててね」

 

 

 

 それだけ言うとベンチから飛び降りて小走りで去っていく。

 

 背中で揺れる桜色の髪に彩られたその姿はやはり桜の妖精のようだ。

 

 

 

「なにやってるんだアイツ」

 

 

 

 そんな彼女が立ち止まったのは公園で良く夏場に店を出しているアイスクリーム屋さんの前。

 

 可愛らしいピンク色のポシェットから取り出したるは遠目にも分かるだろう財布と思わしき物。

 

 それを開いて何かを掴み店主の親父に渡し、代りにコーンの先に白い渦巻きを載せた何かを受け取っていた。

 

 それも一つではなく二つ。

 

 

 

「褒美ってアレか?」

 

 

 

 彼女が受け取ったそれは二つのソフトクリームだ。

 

 一人で食べるのならば二つもいらない。余程好きなら二つ食べる人も居るであろうが、先に残した彼女の言葉からして片方は自分。

 

 もう片方は此方への物であるというのに間違いなさそうであった。

 

 

 

「ソフトクリームねェ」

 

 

 

 甘い物が嫌いというわけではなかったが今は春。まだ食べるには少々早い季節。

 

 先程と同じく小走りで駆け此方へと戻ってくる彼女を見ながら「どうせなら缶コーヒーがよかった」と、

 

 施しを受けようとする者とは思えない失礼な事を口走った彼は、それでも口元が緩んでいた。

 

 

 

 その瞬間までは……。

 

 

 

「ヤベ……ッ!」

 

 

 

 此方へ向かって走っていたクララが、如何にも柄の悪そうな派手な金髪の男とぶつかってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

「お~いクソガキ、オメ俺の服どうしてくれちゃってんのコレ?」

 

「ごめんなさい」

 

「ゴメンで済んだら裁判所は要らないの。分かるかな~? ガキにゃ分からねぇよな~?」

 

 

 

 金色のネックレスにそり込みの入った刈り上げ。

 

 頭は地毛ではなく染めた金髪。

 

 そんな如何にも柄の悪そうな男を前に、クララは謝罪の言葉を発しながらも別のことを考えていた。

 

 お兄ちゃんのご褒美にと思い買ったソフトクリームが台無しだ。そんなに高くはないけれどもう一度買い直さなければならない。

 

 しかしそれは彼女の事情であって男にとっては何の関係もないことだ。

 

 

 

「てことでパパかママに弁償して貰いてェんだわ」

 

 

 

 汚したから弁償しろ。

 

 クリーニング代を払え。

 

 男の主張は何一つ間違ってはいない。

 

 汚したのは彼女であり余所見をしていた彼女にこそ非がある。

 

 しかしどう見ても安物のジャージのズボンにクリーニング代10万がどうと言い出したところからクララの応対が変わった。

 

 

 

「うざったいなぁ……パパは今お仕事で忙しいしクララも急いでるんだからどいてよ」

 

「人の服汚しておいてなんだその口の聞き方は? あ゛あ゛ッ?」

 

 

 

 まともに相手をする気が無いといったその様子に今度は男の方も凄み始める。

 

 子供に舐めた口を聞かれたのが余程腹が立つことであったのか掴み掛からんばかりの威勢だ。

 

 だが凄まれたところで怖いとも思わない彼女は法外な要求に対し、男の神経を逆なでする様な態度で切り返した。

 

 

 

「ああうざいうざい。そんな安物のジャージのクリーニング代が10万円もするわけないじゃない。私が子供だからって言いくるめられるとでも思いましたぁ~? なんなら警察呼びましょうかぁ~?」

 

 

 

 当然そんな態度を10やそこらの子供に取られれば男のような人間が激昂するのは目に見えている。

 

 この手の輩は警察のいない場所では幾ら『警察』と口にしたところで怯むこともないのだから、クララが採った対応はある種この手の人間に対するものとしては最悪手だ。

 

 

 

「んだとガキィ──!」

 

 

 

 案の定、男はクララの手を捻りあげるという暴挙に出て来た。

 

 

 

「痛い痛いッ~~!!」

 

 

 

 捻りあげられた右手に走る激痛。

 

 痛い経験など両手に余るほどしてきたが、何度味わわされても慣れる物では無い。

 

 兄弟たちの中には荒事に慣れている者も多いが、まだ子供である彼女自身は、こんなただの無頼漢一人にさえあの力を使わなければ勝てないくらいにか弱かった。

 

 

 

 痛いのは嫌だなと思う。

 

 だが必要以上に謝るつもりもなければ男への態度を改めたりする気もない。

 

 敢えて痛みを受けてやれば後々総ての状況は男の不利となるし、暴力は先に振るった方が負けなのだと彼女は内心男を馬鹿にしていた。

 

 本気で殺す覚悟もない暴力など唯のお遊び。本当の暴力とは“痛い”で済ませられるような生温い物では無い。

 

 無論男は優位に立ったつもりで居るのだろう。

 

 彼女の正体を知らないこと、それは男にとって幸福だったのかも知れない。

 

 力を行使しなくとも冷酷で計算高いクララ・ランフランクという少女が、

 

 何の力も持たないチンピラとはいえ父に無茶な請求をして迷惑を掛けようとしている男をただで済ませる訳が無いのだから。

 

 クリーニング代は払おう。だがそれ以上を求めてくるのならば“本当の暴力”の一端を使って教えて上げる必要がある。

 

 生半可な暴力は使う物では無いのだと言うことを。

 

 

 

 

 

 しかし幸か不幸か、振り上げられた男の手が彼女の頬を殴り付けることはなかった。

 

 

 

「悪い、そいつ俺の友達なんだ」

 

 

 

 それは同時に彼女が本物の暴力を振るう必要がなくなったことを意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玉城は擦り傷と打撲だらけで地面に転がっていた。

 

 倒れている、といった方が相応しい様相を呈している。

 

 こんな目に合っているのはクララに絡んでいた男と喧嘩になり負けたからだ。

 

 

 

(痛ぇ……、これあばらいかれてるよな絶対……)

 

 

 

 本当は喧嘩するつもりなどなかった。

 

 どう考えても勝てない相手だった上に、話からするとクララに非があったのだから穏便にやり過ごそうとして、その結果殴られたのだ。

 

 それも仲間まで呼ばれて三人がかりでのリンチを受け、なけなしのお金が入った財布まで取られるという欲しくない特盛りサービスも付けられて。

 

 

 

(アホだ俺……、三対一で勝てるわけないってのになんでやっちまったのかな……)

 

 

 

 残念ながら彼は喧嘩が強い人間ではない。

 

 気が短く素行も悪いとは言え基本的に調子の良い馬鹿なだけなので体格差以前の問題だ。

 

 

 

 桜散って桜色のチビに関わったお陰でタコ殴り。

 

 本当に厄日であると思う。

 

 

 

 その厄をもたらしてくれた桜色のチビことクララは倒れ込んだ彼の顔を覗き込んで不思議そうにしている。

 

 

 

「……どうして、助けてくれたの?」

 

 

 

 勝てないのなら放って置いてくれれば良かった。

 

 ああいう状況に態々巻き込まれようとするなんて馬鹿のすることだ。

 

 見て見ぬ振りが世の常。

 

 周りに居る人間も怖そうな男に絡まれているクララを観てみんな目を逸らしていた。

 

 それこそが普通の反応。誰しも自らトラブルに巻き込まれたいとは思わないので痛い目に合いたくなければ極力避けるべきである。

 

 何かするとしても警察に連絡を入れるに留め自らの身は危険の外に置くのが正解だ。

 

 事実遠巻きに見ていた者は110番を入れていたのを目にしたし、それで充分であると思っている。

 

 クララ自身のことで言えばあの場でぶたれるくらいのことは考えていたし、父へ迷惑を掛けようという種の発言をした彼の男をこの後どうしようかとの算段を立てていたというのに。

 

 

 

「別に無理して庇ってくれなくても良かったのに。ああいう暴力馬鹿って時々凶器を持っていたり、リフレインをやってたりすることもあるんだから危ないだけだよ?」

 

 

 

 別に玉城が皆と同じように見て見ぬ振りをしたところで彼女は恨んだりしない。

 

 今日会ったばかりで適当に話をしただけの見知らぬ者同士。

 

 幾ら友達になろうと約束したからと言っても助けを求めたり求められたりするほどにお互い仲良しになった訳では無いと。

 

 

 

「それなのにこんなボロボロになっちゃって……痛いでしょう?」

 

 

 

 だが彼は助けた。

 

 

 

「ああ、痛いぜ……マジで……。あばらいかれた感じだし……殴られたところも痛い……。金まで取られたし……よ、ほんと、さ、なにやってんだって、感じだわ……」

 

 

 

 本当に痛い思いをしてなにをやっているのか? 

 

 玉城もそう思うしクララもまた右に同じ。

 

 だが、彼には彼なりの思うところがある。

 

 その思うところ、理由とは恐ろしく単純だ。

 

 

 

「ただ、さあ……、ただ……」

 

 

 

 至極単純で実に彼らしい馬鹿な理由であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “友達とか何とかの前にさ……、女の前ではかっこつけたいんだよ俺は……、”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かっこつけたい。ただそれだけだ。

 

 馬鹿にも程がある彼の女を前にしたときの行動は、男らしいとも言えば阿呆とも言える……そんなもの。

 

 欲を言うならヒーローのように不良達を殴り倒せればなお良かったのだが、生憎玉城はヒーローではない。

 

 好きな子にいい所を見せようとして捨て犬を拾ったら誤解された挙げ句『犬が可哀想だ』と批難される様な、そんな人望も信用もない男である。

 

 

 

「女にはいいところ見せたい……じゃねえか……」

 

 

 

 それでもやはり女の前では格好をつけたいという衝動を抑えられなかった。

 

 例えその相手というのが10歳ほどの子供であったとしても、女は女だとして。

 

 

 

「それにお前さ、俺のこと……、褒めてくれたろ……、俺みたいな……、頭の容量が2ビットくらいしかない馬鹿をさ……、勉強で褒めてくれたのって、マジでお前が初めてなんだよ……」

 

 

 

 よく頑張ったと褒めてくれたただ一人の女の子。

 

 そんな彼女を見捨てるなどという選択肢は最初からなかったのかも知れない。

 

 

 

「ああ~……痛ぇ……なァ、くそ……、これでお前が、同い年くらいのいい女だったらなぁ……、最高にかっこいい俺に惚れるなんてことが……、痛って……っ!」

 

 

 

 清々しいほどの馬鹿だった。

 

 女の前でかっこつけたいからなどというくだらない理由で勝てもしない喧嘩をした挙げ句ボコボコにされて転がる。

 

 

 

「おにーちゃん……」

 

 

 

 こんなに不利益なことはないと思う。

 

 助けたからと言ってただの自己満足で、助けた相手が必ず感謝してくれるわけでもないというのに。

 

 

 

「馬鹿だね」

 

 

 

 そんなことは当の玉城自身が良く分かっている。

 

 

 

「うるせえ……。ありがとうの一言くらい言いやがれ……、このピンクチビ……」

 

「だって、馬鹿なんだもん」

 

 

 

 助けてやったというのに失礼な事ばかり口走る彼女の顔がすっと近付いてきた。

 

 何をするのかと考える間もなく急接近したクララの可愛らしい小さな唇が紡ぐ。

 

 

 

 

 

 “ホント馬鹿だよお兄ちゃん……。”

 

 

 

 

 

「ッ──!?」

 

 

 

 頬を撫でる桜色の髪。

 

 擦り傷だらけで血に汚れた頬に掛かる髪の毛の感触に混じって感じた、ほんの一瞬の暖かみ。

 

 

 

「お、おま、なにし──??!」

 

「ソフトクリームがね、駄目になっちゃったからさぁ、その代りのご褒美」

 

 

 

 離れた少女が無邪気に微笑んでいる。

 

 

 

「クララも誰かに助けられるのなんて初めてだったから、ちょっぴり嬉しかったよ」

 

 

 

 子供なのに恐ろしいほど余裕の微笑みを浮かべる彼女に対し、玉城は一人慌てていた。

 

 それは頬とは言え、玉城真一郎にとって生まれて初めてと成る異性よりのキス。

 

 好きな子嫌いな子、男からにさえ受けたことがないほっぺへの口付けというメロドラマで有りそうな行為。

 

 

 

 幸せではなく厄を運んできた4月の桜は、最後の最後でほんの小さなご褒美を彼にもたらしてくれた様であった。

 

 

 

 

 

 それから間もなく救急車に運ばれていった玉城は全治三ヶ月の重傷と診断され強制入院と相成ったのだが、不思議なことに治療費入院費共に無料であったという。

 

 無論其れは本人の与り知らないところで小さな子供の姿をした壮年男性が全額負担してくれたのだが、おめでたい彼は『金持ち日本は遂に医療費がタダになったのか』と変な方向に解釈し、

 

 今度は法律を作り運用する側に立ちたいという思いもプラスされ、官僚・政治家を目指して益々無謀な大学受験にのめり込んでいくことになるのだが、2ビットと自負する己の脳が付いていけない事を終ぞ考慮することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「馬鹿すぎ」

 

 

 

 あんな馬鹿は知らない。

 

 幾人もの狂信者や反体制組織。

 

 反乱の芽を持つ者達を右の瞳に宿る【絶対操作の力】を使い闇の中に葬ってきた彼女は人間の醜悪な部分を沢山見てきたが、あそこまで突き抜けた馬鹿は一度足りとて見た事がない。

 

 計画性も何もなく、凶器を隠し持っているかも知れないような無頼漢に対しただ本能の命じるままの行動を取る。

 

 

 

「外の世界って、あんな馬鹿ばっかりなのかな?」

 

 

 

 日の当たる場所にはこんな馬鹿が大手を振って生きているのか? 

 

 

 

 女にいいかっこがしたい。

 

 

 

 実にくだらない馬鹿の見本みたいな彼のような人間が、深い闇で生きる自分を助けようとする。

 

 滑稽だ。何もできない筈の一般人である彼が、何でも出来る自身のことを助けてしまったのだから。

 

 裏の世界、本当の意味での裏。反社会組織のような存在ではなく深淵の闇の世界。そこでは決して生きていけない無力な馬鹿。

 

 仮にそんな輩が自身の所属する世界に居たとしたなら真っ先に屍となるのがオチだ。

 

 飄々としつつ可愛らしく、それでいて純粋な冷酷さを持つというどこかしら普通とは違う彼女は、そんな過酷な世界に生きている。

 

 

 

「あはっ、変なの♪」

 

 

 

 物珍しいものを見させて貰ったと思う。

 

【嚮団】での生活を終えて初めて出て来たブリタニアの外。

 

 そこには実に変な人間が住まう優しい世界が広がっていた。

 

 

 

 ──面白いだろうクララ。

 

 

 

 救急車に運ばれていった玉城を見送っていたクララの耳に入る少年の声。

 

 不意に聞こえたその声、それは彼女の大切な父親の声であった。

 

 

 

「パパ♪」

 

 

 

 用事を済ませたから迎えに行くという話だ。

 

 

 

「変なお兄ちゃんが遊んでくれたよ」

 

 

 

 ──それはよかったね。まあ親としては知らない人と遊んじゃいけないって注意すべきなんだろうけど。

 

 

 

「でも悪い感じはしなかったよ? すっごく頭悪そうではあったけれどね~。“こっち側”じゃすぐ死んじゃいそうなくらいにさー」

 

 

 

 ──まあ確かに表の世界には、ああいう子が自由に生きられる環境があるよ。

 

 

 

 平和だからこそ過酷な世界では生きられない馬鹿も生きていける。

 

 死の覚悟もなく、殺し殺されることもなく、ただ静かに平穏に。

 

 クララの仕事はある意味その平和を護る仕事でもある。

 

 国は違えど表で自由にのびのびと生きる彼等の平和を。

 

 表を護る騎士や軍人、警察などに変わり、裏側から護る暗部の人間として。

 

 

 

 ──【嚮団】や裏の世界以外の外の世界を知るいい機会だから、いつも一人で遊んでないで色々交友関係を築いてみなよ。新しい発見があるかも知れないよ? 

 

 ──まあ彼がその第一号になりそうだけど。

 

 ──但し、君の情操教育に良くないと判断したら付き合うのは止めて貰うからね。

 

 ──ああそれと、君に酷いことをしたあの無頼漢に報復なんてしちゃ駄目だよ? 私的制裁は許されないし日本の警察組織に対する越権行為にもなるからね。

 

 ──まああの馬鹿な彼が盗られてしまったお金を取り返して上げるくらいはいいかな? もとは君が悪いんだしさ。

 

 

 

「……」

 

 

 

 娘を思う父としては変な友人は作って欲しくはないと念を押す。

 

 親馬鹿なところもあったが、クララ、そして【嚮団】の子供達を愛する父親として心配しすぎるに越したことはない。

 

 それだけ子供達を大切に思っている証でもあり、その思いは彼女や子供達一人一人にしっかりと伝わっていた。

 

 そして彼女がぶつかり服を汚してしまった男へ余計な事はするなとも言い含める。

 

 なにせクララは子供達の中でも上から数えた方が早いほど残酷な一面を持っている。

 

 注意しておかないと一応は一般人であった彼の無頼漢に何をするか分かった物では無い。

 

 故に念を押した父。

 

 

 

「……」

 

 

 

 ──どうしたんだい? 

 

 

 

 そんな愛する娘が何も返さない様子を訝しむ父の声に。

 

 

 

「あのねパパ」

 

 

 

 彼女は嬉しげに話す。

 

 

 

 

 

 

 

 “クララね、生まれて初めて人から助けられちゃった♪ ”

 

 

 

 

 

 

 

 今日起こった小さく些細な、そして心温まる出来事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもさぁお兄ちゃん分ってるの? 一応あの時のブリタニアって日本の敵だったんだよ?」

 

 

 

 色々あった出来事を思い出していたクララは、自分がのし掛かっているダメで放っておけないお兄ちゃんを注意する。

 

 右目に浮かんでいた赤い鳥は消え、もういつもの濃い桜色の瞳へと戻っていた。

 

 

 

「それもどっちかの国が潰れちゃうかってくらいの大戦争をした怨敵ーって」

 

 

 

 何についての注意かと言えば、それは今放送中の戦争ドラマを観て日本が優勢な戦況ならばまだしも、ブリタニアが優勢な戦況の場面あっても好意的に見ているような彼の発言についてだ。

 

 太平洋戦争時のブリタニアは紛うことなく日本の敵。それなのに艦隊決戦で日本が劣勢になっても「おもしろい! 凄い!」と宣っているのだから始末に負えない馬鹿である。

 

 それでもまあそこまでならばまだ良い。今や日ブが強固な同盟下にある切っても切れない関係へと進化している間柄なのだからまだ分かるという物だ。

 

 しかし太平洋戦争のドラマ以外にニューギニア戦争の映像が出たとき「ああもうオセアニアもっと踏ん張れよ! あっさり終わったらつまんねーんだよ!」と口走ったのは頂けない。

 

 彼の国は紛う事なき敵性国家だ。日本にとっては仮想敵国ですらない真性の敵性国家だ。

 

 

 

「官僚・政治家を目指してるくせにロマンだなんだと敵の応援をするとは感心できませんなぁ~、そんなことだから今年も落っこちちゃったんだよ~」

 

 

 

 日本の官僚を目指している彼が日本の敵を応援するなど本末転倒である。

 

 そんな人間を採用してくれるような国家機関など何処にあるというのだろうか。

 

 

 

「いいだろ別に! ついでに暑くるしいからくっついてくんなっ!」

 

 

 

 だが玉城の方はと言えば、自分の背中にのし掛かってこられるのが暑いというだけでまるで聞く耳を持つ気配がない。

 

 物事を深く考えながら観ていた訳ではなく、男が戦争に抱く熱い何かの部分を刺激されていただけ。

 

 それなのにあーだこーだと文句を付けられる筋合いはないと言って。

 

 仮に身内や日本がこの戦争に関わっていれば、官僚・政治家、果ては総理大臣になって国の為に何かが出来る『かっこいい男』になろうと考えている彼のこと

 

 まったく別の視点で観て「艦隊決戦おもしれー」にはならない筈であろうが、如何せん日頃よりの言動や行動に加え、性格からしてダメ人間という面が強過ぎて誰もそう受け取ってはくれない。

 

 それこそ、今現在最も親しき間柄にあり、彼の数少ない理解者の一人でもあるクララでさえも、ダメニートと結論付けてしまう程に信用がなかった。

 

 ましてやクララの場合は彼のそういう馬鹿でダメな部分に母性本能を擽られており、まるでダメ男な玉城を好意的に見ているが故、いい男玉城などお兄ちゃんじゃないと言わんばかりに切って捨てるであろう。

 

 

 

『もしもお兄ちゃんがこのままダメニート一直線でもクララが養ってあげるから安心して♪』

 

 

 

 これが受験失敗の度に落ち込む玉城へと向けられる彼女の常套句となっているのだから寧ろダメニートで全然構わないのだ。

 

 

 

 

 

「だから離れろって、お前だって暑いだろ」

 

 

 

 確かに暑い。時は夏真っ盛りで今一番ノリに乗っている日本名物灼熱の太陽さんはその力を如何なく発揮し地上を焼き照らしているのだから。

 

 おまけに二人が居る部屋には冷房器具は疎か扇風機すらなく、唯一取れる涼は風通しを良くする為にと開けている縁側の窓から時折入り込む自然のそよ風のみ。

 

 ひとたびこれが無風状態となれば部屋はサウナ状態となり、36度前後が平熱である人間の身体がくっつけば嫌でも体温は急上昇だ。

 

 掻きたくもない汗も吹き出し、気持ち悪い事この上ない。

 

 

 

 無論玉城だけではなく、彼にくっついているクララも同様の暑さを感じている。

 

 いつもは下ろしている長い髪を首の後ろで一つに束ね、半袖のシャツに短パンと精一杯涼しい装いをしているのがそれを物語っていた。

 

 そのくせ『お兄ちゃん』と甘えながら引っ付いてくるのだから玉城からすれば堪った物ではない。

 

 そんな彼の不快な思いを感じ取ったクララは、すっと腕の力を抜いてのし掛かっていた身体を離す。

 

 

 

「じゃあ、ぎゅーしてくれたら離れてあげる」

 

 

 

 クララが口にした“ぎゅー”というのは、彼女が初等部の頃に玉城がよくしてあげていた行為。

 

 お兄ちゃんお兄ちゃんと本当の妹みたいに付いてきていたクララがちょっと可愛くてやっていた、大人が子供をあやす方法の一つである正面から抱きしめて背中をさすったりする行為だ。

 

 

 

「あのなぁ~、お前もうそんな歳じゃないだろ」

 

「いいからいいからっ。 ほらっ、ぎゅーってしてぎゅーって」

 

 

 

 クララはぱっと手を広げて万全の体勢を整えている。『クララちゃん準備中~!』などと実に楽しそうだ。

 

 これは梃子でもやるまで納得しないだろうと思った玉城であったが、彼の思った通り彼女は本当にやってくれるまでくっついてやる気満々である。

 

 暑いには暑いが、涼しいとお兄ちゃんのどちらを選ぶかの二択なら、どんなに暑かろうが迷わずお兄ちゃんを取る。

 

 彼女にはそれ以外の選択肢などない。常にお兄ちゃん一択なのだ。

 

 

 

「しょーがねーなー」

 

 

 

 何だかんだでいつも悩みを聴いてくれる年下の友達クララに甘い玉城は、頭を掻きながらも彼女の身体をぎゅっと抱きしめてやった。

 

 彼よりも頭一つ分は低い彼女の華奢な身体が、細いながらも筋肉質な玉城の身体に包まれる。

 

 

 

「これでいいか?」

 

「うん、すごくいいかも♪」

 

 

 

 柔らかい彼女の身体を抱きしめたまま後ろに回した手で背中をさすってあげると、嬉しそうに目を細めて頭を擦りつけてくる。

 

 普段から口達者で人を小馬鹿にしたような言動の多いクララだが、こうして“ぎゅー”をしてあげているときだけは別人のようにしおらしく、

 

 いつも以上に甘えてくるので、普通に可愛く見えるから不思議だ。そんなクララの事を玉城はけして鬱陶しいとは思わなかった。

 

 大学受験失敗の度にもう諦めろと言う周りの人間。

 

 クララの父にも『そろそろ身の振り方を考えなよ』と厳しい言葉を貰っている。

 

 その中で彼女ただ一人だけがいつも頑張ったねと褒めてくれるのだ。

 

 

 

 ある種の依存だろう。何があっても味方で居てくれるこの桜色の友人は心の支えと成ってくれているのだから依存というほかない。

 

 褒められると嬉しいが、その褒めてくれるのが彼女一人であるが故の関係性であった。

 

 

 

 素直に頷くクララも玉城の腰から背に腕を回して抱き着く姿勢となる。

 

 一度離れたことで空気に触れ、少しは下がっていた二人の体温がまた急上昇していく。

 

 本当は高校生になって発育も良く“女”を意識せざるを得なくなってしまったクララに、昔のノリでぎゅーをするのは恥ずかしかったりするのだが。

 

 なにせぎゅーをすると密着体勢となり、膨らみ行く胸部が当たって柔らかいし髪からも身体からも“女性としての匂い”が出始めている為に色々と拙いのだ。

 

 それでも玉城はクララを離さずにその小さな……いや、成長して身長も伸びてきたことで大きくなった背中をさすり続ける。

 

 背中に回した手に触れる一つに束ねられた髪の束。

 

 掴んで触るとそのしなやかさ艶やかさが良くわかり、自分の硬いつんつん頭とはまったくの別物である女性らしい髪質だという事が感じ取れる。

 

 

 

(……ああ、やっぱコイツも女だわ)

 

 

 

 昔はただの子供であったクララはいま、確かに一人の女性となりつつあった。

 

 

 

 一方“ぎゅー”をされているクララの方はというと、背中をさする手が温かくてとても心地良かった。

 

 そう、暑いではなく温かい。

 

 

 

 クララは背中で上下に動く温もりと真正面から抱きしめられることで得られる温もり、二つの温もりを感じながら静かに口を開く。

 

 

 

「お兄ちゃん」

 

「なんだよ」

 

「さっきはごめんね。そんなことだから今年も落ちちゃったなんて言っちゃって。クララだけはお兄ちゃんの味方でないと行けないのに気にしてること言っちゃってごめんね」

 

 

 

 口から飛び出したのは謝罪のは言葉。何度も受験に失敗しては落ち込んでいる姿を一番近くで見てきた自分が口にすべき事ではなかったと謝る。

 

 

 

「気にしてねーよ。毎年落っこちてるのは事実だしな。それに今更そんなこと言われて落ち込むようなガラスのハートでもないしなぁ……」

 

 

 

 彼女の謝罪の言葉を受けて気にするなと返す玉城であったが、流石に今年で通算八回目となる挑戦が見事玉砕で幕を閉じた事に、思うところが無いわけではなかった。

 

 親に迷惑は掛けられないからと自分に対する仕送りを断っておきながら、クララの父には迷惑を掛けている。

 

 周りは皆就職して一端の会社員や作業員、また公務員であったり技術職であったりと社会の中に出て行っているというのに

 

 自分は未だに道筋さえ付けられない夢を追い、大学受験を受けては浪人の繰り返し。

 

 

 

(俺……マジでやばいんじゃないか?)

 

 

 

 最近になって考えるようになっていた。遅すぎるだろうと突っ込まれそうだが良くも悪くもそれが玉城真一郎という人間なのだ。

 

 

 

「あははははっ、ホント落ちまくりだよねー。ドリフのコントも真っ青の超絶リアルな馬鹿さ加減だもんね」

 

「一回泣かすぞコラっ」

 

 

 

 笑われた玉城は嫌な現実を復唱されてまたイラッとしたが堪える。

 

 イライラすると余計に暑くなるのだ。人の神経を逆なでするのが上手いピンクちびの言動に一々反応していたらキリがないと。

 

 

 

「でもね、もしもお兄ちゃんがこのままダメニート一直線だったとしても、そのときはクララが養ってあげるから安心してよ」

 

 

 

 彼の思うところを鋭く察したクララは追い打ちを掛けるように投げ掛けた。

 

 受験失敗の度に頑張ったことを褒め、此処最近になって口にし始めるようになった新しい言葉を。

 

 

 

「お前いっつも言うよなそれ……。大体お前が安心って言葉を使うと途端に胡散臭くなるんだよ」

 

「どうして?」

 

「この世に安心なんてものはないだとか昔息巻いてた癖して今更自分に任せて安心しろとか舐めてるだろ?」

 

「舐めてないし真剣だし何回だって言うよ……養ってあげるから安心してって。だってクララはダメなお兄ちゃんを見てると放っておけなくなるからね。

 

 安心がないのはクララの居る世界でのことだからお兄ちゃんのいる世界には当て嵌まらないんだよ。強いクララが弱いお兄ちゃんを護って上げられる此処なら安心を保証する事が出来るって意味」

 

「だからなんでお前が強者になってんだよ。俺男でお前女。俺背ェ高いお前チビ。どこ見て自分のが強いとかいう意味不明な自信が湧いてくるんだ」

 

 

 

 初めて会ったときの出来事では自分が助ける側であったというのに、この少女の言い分。

 

 納得がいかない玉城は根拠があるのかと言い詰めるも暖簾に腕押し。

 

 それも仕方が無いのだ。玉城の居る世界とクララが居る世界。

 

 それは同じ世界にして違う場所なのだから。クララの居る世界で玉城は生きていけないだろう。

 

 だが玉城の居る世界でクララは生きていける。

 

 そして玉城はそのクララが生きている世界を知らない。

 

 平和な光の当たる世界でぶつぶつと文句を言いながら生きている彼には想像も付かない闇の世界に彼女は生きていた。

 

 闇に生きるクララが玉城を護る為に力を行使すれば、それ即ち強者クララ弱者玉城の構図が完成と成る。

 

 彼女が口にした自らが強者であるというのは間違いなく正しかった。

 

 その気になれば右目一つで簡単に人の命を奪える力を持ち、且つ最大限に威力を発揮させる使用法を心得ている彼女は確かに強い。

 

 だがなによりも強いのはその世界で生きられる心を持っていること。

 

 いつ如何なる時であろうとも他者の命を平然と奪うことが可能なその精神性。

 

 老若男女問わず敵であれば殺すという行為に躊躇いを持たない、訓練された暗殺者。

 

 そんな彼女と比較すれば玉城は所詮粗暴で口が悪いだけの草食動物でしかなかった。

 

 

 

「だってホントのことだもん。女の子であるとか体格差があるとか、そんなの些細な事でしかないの」

 

「前にか弱いだなんだ抜かしてなかったか?」

 

「か弱いけど強い。それが私クララ・ランフランク。女の子にはね、秘密が多いのだよお兄ちゃん」

 

「訳わかんねーよ」

 

 

 

 正直なところ、ここまで玉城のダメな部分を全面肯定しているのは世界中でクララ唯一人だけだろう。

 

 両親でさえ彼のダメなところに付いては諦めている。昔彼が出逢った少女などは彼のダメな部分を知らない。

 

 クララの父も、父の甥も姪も。およそ玉城真一郎という人間を知る者皆が『ダメなところがダメすぎる駄目人間』と言う。

 

 だがクララだけは違う。彼女の常套句は決して嘘ではなかった。玉城が本当にダメニートになってしまった時は自分が面倒を見るつもりで居るのだ。

 

 

 

「お兄ちゃんはね、クララのそばに居てくれるだけでいいの。その代わりに──」

 

 

 

 “クララの本当の家族になってよ”

 

 

 

 玉城は自分の事をじっと見つめて万が一の時は養ってあげるから家族になってと口にする妹みたいな友人から目を反らせなくなる。

 

 彼女の想いは強い。昔から、ずっと昔からただ彼だけを見つめ続けてきたのだから。

 

 あの日、初めて人から助けられるという行為を経験したその時からずっと。

 

 

 

「なあ、クララ。俺、前からず~っと考えてたことがあるんだけどさぁ」

 

「なあに?」

 

「お前、どうやって俺を養う気なんだ?」

 

 

 

 彼女は高校生。

 

 表の顔はアッシュフォード学園日本校高等部に通う女子高生だ。

 

 

 

「俺を養うだなんだって余裕が単なる高校生のお前にあるとは思えないんだけどな」

 

 

 

 確かにその通りで間違いではない。

 

 

 

「クララのお仕事の収入で養えるってことだよ。ただそれだけ」

 

「それだけって、お前の仕事って一体なんなんだよ」

 

 

 

 思わせぶりに口にする事があるクララの仕事。

 

 無論玉城は知らない。

 

 それは表の世界で生きる彼が知るべきではない話。

 

 この世には知らなくても良い事がある。知るべきではないことがある。

 

 クララの仕事は正に彼が知るべきではない仕事の極地だ。

 

 

 

「ん~とねぇ~、ん~と……。Secret,Agent?」

 

 

 

 Secret,Agent。

 

 抱き締められて気をよくした所為かポロリとこぼれ落ちたクララのお仕事を暗喩するキーワード。

 

 

 

「はぁぁ~?」

 

 

 

 アニメや物語の中だけに出て来そうな名を聞いた玉城はもちろん信じていない。

 

 Secret,Agentなど、普通に考えて真面目な話を茶化されたと受け取られるだけの言葉なので彼を責めるのはお門違いと言えた。

 

 

 

「なに映画みたいなこと言ってるんだよお前は。俺は真面目に聞いてるんだぜ?」

 

「真面目に答えてるよ。それからさ、そういうこと聞くっていうことはクララと家族になってくれるって意味だと考えても良いんだよね?」

 

「それとこれとは別だ」

 

「エエ~どうして~? 何が不満なわけ~? クララもおっぱい育ってきたしお兄ちゃんが言ってたいい女に近付いてると思うんだけど」

 

「色気が無いが総てだな。胸ばっかおっきくなったところでまだまだなんだよ。それにお前本気じゃないだろ」

 

「本気だよ! クララはいつだってお兄ちゃんへの想いは本気の本気なんだからね!」

 

「へいへいそうですか、あーうれしーわーおれー、クララみたいないい女に想われて-」

 

「あ~ッ! 信じてない~~ッ!」

 

 

 

 いつも軽く口にする所為かいまいち信じがたいクララの玉城を養う発言と、附随する家族になってよ発言。

 

 結局始まってしまった口論、痴話げんかのような物は、クララの父が帰宅するまで続いていた。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「さて、もうすぐ25日だけど大丈夫なんだろうね?」

 

 

 

 もの凄く長く伸びた淡い金色の髪が特徴的な、少年の姿をした還暦越えの壮年の男が、眼前で平伏している青年に紅玉の瞳を向けている。

 

 男は形式上大丈夫かと訊ねている物の、大丈夫では無かろうと関係無いという威圧感を発しながら丸いちゃぶ台に置かれていた自分用の湯飲みを手に、

 

 己の前に居る青年に返答するよう促した。

 

 

 

「えー、そのことに付きまして御相談があり本日は参上した次第で……、ええ実はデスね、今月色々入り用で少しだけ待って頂くというのは」

 

「駄目、甘えるんじゃないよ。今月25日に3万円きっちり取り立てに行くから。ないなら私物差し押さえて売り払うから覚悟してよ」

 

 

 

 ずずっと湯飲みを傾けて中身を煽る壮年男性、クララの父ことV.V.は、予想通りの返答に、平伏している青年玉城真一郎を一言の下で斬って捨てた。

 

 

 

「そんな殺生なこと言うなよォォ! 俺とおっさんの仲だろォォ!!」

 

 

 

 思いも寄らぬと言うべきか、将又予想通りとでも言うべきか。

 

 冷たくあしらわれた玉城はV.V.の肩を掴んで縋り付いて喚き散らす。

 

 

 

「おっさん、あんたデカいマンションを何軒も経営してる超大金持ちなんだから、小さいアパートのたかが3万くらいの家賃滞納は笑って済ませてくれよォ!!」

 

「駄目駄目。そういう個人的な事とビジネスはまた別なんだよ。それと不満があるなら先月分と先々月分の家賃合わせて6万円、耳揃えて払ってからにして貰いたいものだね。それになに。たかが3万だって? 君、世の中舐めてるの? もういちど同じ事を口にしたら僕怒るよ? 仮に3万が1円であっても契約とその内容を反故にするような奴には容赦しないことにしてるんだ。大体君の住んでるアパートを元の権利者から買い取って家賃を6万から3万に下げてあげたのは誰だと思ってるんだい? 普通に考えれば生活に余裕も出てくる物だけど君の場合以前と変わらずの金欠っぷりと来ている。取りも直さずそれは君のお金の使い方に問題があるからだよ。君、クララにまでお金借りてるよね。僕が知らないとでも思ってる? 君は僕とそれなりに付き合い長いから知っているね? 僕が事情もなく嘘を吐く人間が大嫌いだって事。シンイチロウ、君もう24だろう? そろそろ現実を見据えてこの先を考えて貰わないと困るよ」

 

「おっ、俺は、俺には夢がっ──」

 

 

 

 尚も見苦しい言い訳を続けようとする玉城に対し、言葉を遮って畳み掛けるV.V.

 

 

 

 

 

「実現不可能だと判断した夢は単なる夢想に過ぎないよ。以前君の御両親が君の滞納していた家賃を払いに来てくれたことがあってね。毎月家賃を滞納していることを謝られた上に、僕にいい働き口は無いものでしょうかって相談して来られたよ。君ねぇ、恥ずかしくないの? 君も知ってる僕の姪のユーフェミアも夢想に近い事を言っているけど、あの娘にはブリタニ……ランペルージ家の人脈があるから夢の実現を目指せるわけでね、君みたいに出たとこ勝負の考え無しじゃいつまで経っても夢想で終わりだよ? おまけに親に迷惑を掛けないって言っておきながら親に家の家賃を払って貰っている。勝手に払っているから関係無いは通用しないからね。一応御両親にはもう受け取れないからとお引き取り願ったよ。君の就職口についてはうちの親族が経営しているKMFの部品工場のライン作業で欠員が出てるらしいからどうだろうと考えているんだけど真面目に考えてくれない? 未経験者歓迎という話だから君が腹を決めてくれれば直ぐにでもアルバイターから正規雇用の社員になれるんだけど。

 

 君は優柔不断で芯が無くて出たとこ勝負で馬鹿でアホでお調子者などうしようもない夢想家だけど、悪い奴じゃないのは分かってる。本当に悪い奴ならクララを助けたりしないし、あの子が懐くこともないからね。でも親としては心配なんだよ。君みたいな紐があの子の足枷になったりしないかと。腐った根性を叩き直す為にコーネリアとギルフォードに散々扱いて貰ったり、ルルーシュにスパルタで勉強を見て貰ったりしてコロコロ意見を変えたりする君の一番悪いところだけは矯正できたけどそれ以上の成果はない。まさかと思うけどブリタ……、ランペルージ家の財産を当てにしてたりしないだろうね? ランペルージ家の家長は僕の弟であって、僕に実権はないからクララと仲良くなったところでお零れには預かれないよ? というよりも本気でそんなこと考えてるなら二度とうちの敷居は跨がせないしアパートからも即時退去して貰うから。違約金も払って貰うし滞納した分についてはトイチの利息で行かせてもらうよ。なに? ランペルージ家の人間がブリタニア皇家の名前ばかり付けてるのが度胸有るし皇族とよく似ているだって? 話を誤魔化すんじゃないよ。今は君の将来についてどうするかって話をしてるんだから。クララの仕事? そんなの聞いてどうするの? それとも本気でクララの手伝いをしようとか考えてる? 

 

 それこそあの子の足手になるからいっそニートのままクララに養われながらの人生を終えてくれないかな。コーネリアに色目を使うのもやめて欲しいんだけど。クララの気持ち気付いてるよね? あの子泣かせたら許さないから」

 

「勝手に話進めんなっ! ていうかおっさん俺のことをどんな目で視てやがるんだよっ!!」

 

「夢想家の駄目人間。それとまだまだいい足りないからこの際とことんまで言わせて貰うよ駄目人間」

 

 

 

 クララという少女を除けば接点皆無な二人の間柄。

 

 それは良く行くBARと居酒屋での飲み友達。

 

 そして──玉城が借りている部屋の大家と借家人にして、厳しい先生と出来の悪い生徒。

 

 そういう関係であった。

 

 

 

「この間実家に帰ったときマリーベルっていう僕の姪っ子の一人が君の写り込んでいた写真観てビックリしてたけど、君なにやったの? ていうか姪っ子と何処で知り合ったの? 

 

 姪っ子の護衛してる娘が姪っ子から君の話を聞いて斬り捨ててやるとか息巻いてるんだけどどうするの君?」

 

「おっさんの姪なんてネリーとユフィとナナちゃんくらいしか知らねーよ!! マリーベルだ?! どこの花の魔法使いなんだよそれっ! ていうかなんでその護衛ってのがそんなキレてるんだよ!?」

 

「姪っ子の話では昔君に泣かされたことがあるとかいう話でね。何か知らないけどえらく君に会いたがっていたよ。ただそれを聴いた護衛の娘が主を泣かせた奴は私の敵だって言っててね」

 

「知らん知らん俺は無実だっ!! それに俺そんな危ない取り巻き連れてる姪っ子ってのとは請われても会いたかねえから絶対に連れてくんなよっ!!」

 

「そこは安心していい。その姪っ子は特殊な仕事をしている関係でそうそう会えるような身でもないから」

 

「そ、それならいいんだけどな」

 

 

 

 ランペルージの実態について玉城は何も知らない。

 

 自身が住むアパートの新しい大家と成った大金持ちの爺さん兄弟が経営する企業。

 

 良くあるブリタニア人の名字。

 

 事情は知らないがランペルージグループの経営者一族であるV.V.の娘クララの名字がランペルージではない。

 

 分かっているのは精々それくらいである。

 

 

 

「大体にして君は僕の一張羅を吐しゃ物まみれにしてくれた頃からずっと人間的な成長が止まって──」

 

 

 

 いい加減に生き方を決めろと玉城を詰めるV.V.の説教は終わらない。

 

 娘が懐いているが故に彼をダメニートのままで居させるわけにはいかないという親心が其処にはある。

 

 例え娘の収入で彼を養えるとは言ってもそれはそれ、これはこれだ。

 

 

 

 

 

 これが単なる馬鹿にしてお調子者の玉城真一郎と、プライベートにおいてはランペルージという仮の姿も持つブリタニア皇家の、いつの間にやら紡ぎあげられていた不可思議で奇怪な縁の顛末であった。

 

 

 

 

 

 



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駄目男と物好きな少女

最初に投稿したこのお話が駄目男シリーズの第四弾です。シリーズのコンセプトは、もしもあの調子の良い彼が平和な日本で夢を諦めきれてなかったら? そんな彼を徹底的に甘やかす味方が近くに居たら?


 

 

 

 

 ちゃんと見てくれてる奴ってのはいるもんだなと、最近思うことがある。

 

 昔から、多少の見返りを望みながらも良かれと思ってやったことが何故か悪いように受け取られ、結果嫌われることが多かった俺。

 

 それなりに人との付き合いはあった方だが、本当の俺を誰も見てくれていない気がして、よく落ち込んだ。

 

 小学校の頃はおかしなあだ名を付けられて。

 

 枕投げでは必ず俺だけが標的にされて。

 

 好きな子には誤解されて。

 

 何をやっても上手く行かない。

 

 誰も俺を見てくれない。

 

 散々だった人生の中でそいつは現れた。

 

 当時2011年の春、そいつはまだ小学生のガキだった。

 

『ねえ、なにしてるの?』

 

 ブリタニアから引っ越してきたばかりで友達が居ないというそいつとは、気分転換によく訪れる公園で出会った。

 

 落ち込んでいる処に益々気分が悪くなる特有の“色”を持っていたそいつは、やたら積極的に話し掛けてきては此方のペースを乱していく。

 

『こんなにあったかくて良いお天気なのにそんな顔してるから気になっちゃうんだよね』

 

 追い払おうとしても追い払えず、いつまでも絡んできたそいつと俺は、流れのままに友達となっていた。

 

 親しくなった切っ掛けはやはりというか、俺の夢。俺の描く理想の夢語り、野望ってやつ? 

 

 そいつはとにかく無邪気で慇懃無礼。口達者で大人を舐め腐った態度を取る小生意気な奴だが、俺の夢の話だけは真面目に聞いてくれたんだ。

 

 親以外でまともに話を聞いてくれたのが小さな子供だったところが笑えなくて、本当におかしくて。

 

『また意見変わっちゃったの? よくもまあそんなにコロコロ主張が変わるものだよまったく』

 

 親しくなればなるほどに、俺のことを信用できない人間と決めつけてかかるようになっていった腹の立つ奴。

 

 直ぐに意見を変える、人の言葉に流されやすい。マイナス点をずけずけと指摘するような容赦の無さに、何度も喧嘩となった。

 

 何度も何度も喧嘩して、喧嘩する度仲直り。

 

 そうして不思議と今日まで関係が切れることなく来た自称『俺の味方』は、今でも夢に向いながら挫折を繰り返すだけで前に進めないこの俺を、変わらず励ましてくれていた。

 

 高校時代からもう何年もの間追い続けていた自身の夢。

 

 頭の中で考えるだけに終わらない。適当な思い付きなんかじゃない。

 

 自分なりの計画を立て終点までの過程を組み上げている壮大な夢だ。

 

『お前には無理』

 

 誰もが否定するこの夢の事始めとして、俺は人生最大難度の試練へと臨んだ。

 

 今となっては耳にするだけでも気が滅入る“受験”という名の神の試練へ。

 

 夢のためには大学に入って政治経済学を学ぶ必要があったからだ。

 

 大学なんて行かなくてもなれる奴はなれるらしいが、自分の場合いまの地点から先に進まないと必ず行き詰まることはわかっていた。

 

 だから高校卒業と同時に大学へ進むという道を選んだのだ。

 

『目指せ東大ッ』

 

 大日本帝国の学の頂点に位置する大学の一つへの挑戦。

 

 当然その道の先に現れた最初の門はとてつもなく重厚で、俺は終始圧倒されっぱなしだった。

 

 ならばランクを落とせばこの分厚い門のイメージも払拭できたろうに、と思われるだろう。

 

 なにも自分からハードルを上げて跳べなくしてしまうよりも、バーを下げて確実に跳べばいいだけだと。

 

 だが、それでも俺は敢えて突き進んだ。

 

 最高クラスの大学へ進まなければ叶わない夢でもないが、そこはそれ。

 

 男が挑戦してやるからには頂点を目指さないでどうする? 

 

 萎縮して縮こまるよりも、全力でぶつかって後先考えずに突っ走る方がモチベーションも上がるってものだ。

 

 そしてこの最初の関門をクリアする為に取り組んだこと。

 

 それは、今までの我が人生には不必要と考えていた意味不明且つ大嫌いな──―勉強という名の苦行だった。

 

 大学へ行こうというのだから仕方ない。学校は勉強するところで、夢のためには勉強が必要で、受験を合格するにもまず勉強しなければスタートラインにさえ立てない。

 

 解けない方程式に悩んだ数学。

 

 クソ面白くもない歴史。

 

 小難しい経済の話。

 

 三日寝れば忘れてしまう程に低容量な2ビットの頭脳を駆使してありったけの知識を詰め込むだけの毎日だ。

 

 高校時代といえば、普通友達を作って、彼女を作って。

 

 充実したリアルを満喫する期間のはずだが、俺は悉くそれを我慢した。

 

 生まれつき物事に取り組み耐えることが苦手なのか小学校、中学という義務教育の間、これからの人生を生きて行く上で必要なことを学ぶ為の環境に身を置きながらも最後までやり遂げたことは皆無だった俺が、狂ったように勉強一筋。教科書や参考書を片手に机と向かい合う。

 

 はっきり言ってつまらないの一言だった。「もういいや」そう何度投げ出しそうになったことか。

 

 だがこれも夢の為だ。一時の欲を捨てて、より大きな物をこの手に掴む為には、何も考えずに楽しく過ごすという青春の方をこそ諦めるしかなかった。

 

 苦痛だったのは、真面目に取り組むそんな俺の姿を見て馬鹿にする奴等の、欲しくもない応援の数々だ。

 

 “頑張れよ”──という言葉に嘲笑を感じたのは一度や二度では済まないほど多く、殴り合いになったこともある。

 

 成績や頭が悪いのは自覚していた。小中共にビリケツだったし、頑張っても無駄とか思われるのは当然で、そんな俺が『夢の為に大学を目指す』といえば笑いのネタにされるだろうなんてこと、誰かに指摘されなくとも自分が一番よくわかっていた。

 

 しかし、それならそれで、下手に応援の言葉なんぞかけて欲しくない。

 

 図工などで作り上げた自分の自信作についた感想が心の籠もってない「上手だね」の一言であったり、腫れ物に触って気遣うような世辞だったりするくらいならば、駄目だったところを痛烈に批判してくれたほうがまだましだ。

 

 批判も批判で心に突き刺さり傷付くから別に嬉かないが、自分の姿勢の何処が悪いのかを客観的に見られることは大変有り難い。

 

 つまり何をやっても裏目裏目で、馬鹿扱いされることにはもう慣れていた俺でも、欠片ほども役に立ちそうにない嘲笑いの『頑張れ』だけには本当に我慢ならなかったわけだ。

 

 そして初挑戦に敗れた後に出会ったのがそいつだった。

 

 遠慮の欠片もなく『馬鹿』『駄目男』『信用できない』と平気で罵っても、そいつはちゃんと俺を見てくれていた。

 

『頑張ったね』

 

 その一言をくれるそいつは、そいつだけは。

 

 俺の夢をずっと聞き続けてくれたんだ。

 

 

 

 *

 

 

 

「ア~ツ~イ~」

 

 六畳間一つしかない俺の部屋に遊びに来ていた少女は、抑揚のない間延びした声で喚き散らす。

 

 続いて激昂するように。

 

「まるでサウナじゃんっ!」

 

 喚びもしないのに自分から訪ねてきておいて何だその失礼な言いぐさは──と思わないでもなかった。

 

 使い古してよれよれにくたびれた参考書を開きながら昔を思い出していた俺に、少女は本のくたびれ具合に負けず劣らずのくたびれた声で再び叫んだ。

 

「なんとかしてよぉ~~っ」

 

 両肩を掴まれてゆっさゆっさと揺さぶられる。

 

 視界が揺れて気持ち悪い。

 

「暑いんだよ~~ッ」

 

「ああ~、ンなこと言われたってよお」

 

 なんともならない。

 

 俺だってこの部屋を涼しくできるものならば涼しくしたいし、手段があるならとっくに手を尽くしている。

 

 問題はその解決策がなにひとつ無いということだ。

 

「アレ……もう死んでるんだぜ?」

 

 指差す先にあるのは壁へと張り付く細長い機械。

 

 真夏のこの時期にフル稼働させていた中ボロエアコンがぶっ壊れてしまったのだ。

 

「天に召されちまいやがったわけなんですよ~ウチのエアコンくん」

 

 予期せぬトラブルに見舞われたことで我が家の熱波に牙を剥かれた被害者なのは俺も同じだった。

 

 その俺にあーだこーだと文句を言われても困るってものだ。

 

「修理に出せば?」

 

「布団の下には綺麗さっぱりと中身を吐いてしまったお財布が一個……、燃料切れの財布なんざクソの役にも立たねーぜ」

 

 修理に出すも買い換えも、そもそも金に余裕のない俺には縁のない話だったのだ。

 

「扇風機があるじゃん扇風機ぃ~ッ」

 

「ああダメダメ扇風機もオダブツさんなんだよ。後ろのモーターから煙り噴いて停まっちゃってやがんの。笑っちまうぜこの状況にゃあな」

 

 この八方塞がりな状況でどうしろというのかと問いたいのは此方のほうだ。

 

「つまり、もはや打つ手ナッシングよ。お前が幾ら俺を揺さぶってもなーんも解決せんわけ」

 

「なんで壊れちゃったのよ~っ」

 

「知るか!」

 

 機械にでも聞いてくれ。

 

「修理代も無いとかなにやってんだか。先週お給料もらったばかりなんでしょ?」

 

「いやな~、そうなんだけどよぉ、そっちに関しちゃ俺別に悪くないんだぜ? 信頼して金託した奴等が裏切りやがったんだよ。かぁ~っ、思い出しただけでも腹が立つぜクソッタレが!」

 

「いつもお金に困ってるお兄ちゃんがお給料を託したぁ? ……うん、一応聞くけれどそれって誰」

 

「お馬さんと玉入れ」

 

 この俺様が貢いでやったのに応えやがらない駄馬と糞台だった。

 

「やっぱり賭け事じゃん」

 

「ああそうだよっ! だったらなんだ文句あんのか?!」

 

 居心地悪い視線を向けられて少し声を荒げてしまった。

 

 この程度気にもしないのが彼女だったりするから、まあ険悪にならないで済むが。

 

「別にぃ。お兄ちゃんのお金だから何に使おうと文句はないけどさぁ、毎度毎度よくやるなーって」

 

「へっ当然よ! 期待値追ってればいつか絶対に勝てるもんなんだからな」

 

「その開き直り様と無根拠で無意味な自信が凄いかも」

 

「自信もへったくれも期待値+を追ってれば絶対なんだって。所詮高校生のお前にゃあ大人の世界の話なんかわかんねーんだよ」

 

「分かりたくもないしちっとも威張れることじゃないんだけれどねそういうのって。どうせ直ぐ負けてお金がないって騒ぐクセに勝てない博打の繰り返しじゃね~。つまり、お兄ちゃんの期待値+はギャンブルを止めることです。自制心も無いクセに博打に手を出す事がそもそも間違ってるってわけだ」

 

「けっ、言ってろよ。そのうち一発逆転して一気に巻き返してやっから」

 

「へぇー、それいつの話? 現実には逆転どころか空振り三振スリーアウトでサヨナラ負けしちゃってるクセしてさぁーっ!」

 

「うっせーんだよその内ったらその内だ!」

 

「そのうちなんて来るわけ無いよ。大体胴元が誰か知ってるの? 国だよ国。世界に冠たる超大国大日本帝国が元締めなんだよ? 国の管理下だから不正はほぼ無いと見て良いけれど、ギャンブルは娯楽であって勝たせる事が目的じゃないんだし、お馬鹿なお兄ちゃんじゃ一億万年たっても勝てっこない相手に決まってるでしょ」

 

「知っとるわそんなもん! けどよぉ勝ってるやつだって居るじゃねえか。ほら、例えば英雄山本五十六。知ってるか? 山本ってのはギャンブルには滅法強くて最近じゃシーランドのカジノに出禁喰らってるんだぜ? それって山本が博打一本で喰ってけるほど稼いでる証拠みたいなものだろ?」

 

 うるさい彼女に明瞭な勝ち組。この場合はギャンブルによる勝ち組だが、それを提示してやったが。

 

「ハア、やれやれまったく。誰を引き合いに出してくるかと思えば……バッカじゃない」

 

 どうしようもない奴と呆れられてしまった。

 

「山本卿は日本海軍で采配採ってオセアニア軍を一方的に叩きのめした戦略家だよ? 戦いの場を政界に移してからも立憲政友会の重鎮の一人として公民党相手に舌鋒鋭く論戦を交わしねじ伏せてきた人じゃん。お兄ちゃんが賭け事をしてその戦略家と同じ結果を望めると本気で考えてるなら今すぐ考えを改めるべきだよ。お兄ちゃんには無理だから」

 

「そうか? 俺は違うと思うぜ」

 

「どうしてそう思うの」

 

「博打って結局は期待値+に多少の運が全てだろ。山本五十六はスゲー強運持ちって舞朝新聞のコラムに書いてあったぜ? 政友会が万年与党なのも山本の豪運が関係してるってよ。山本が引退した今は総理執務室に山本の肖像画を飾って御利益を得てるんだとよ。要するに山本には運があって俺には無い、それだけじゃねえか」

 

「……えッ? あ、あのさ、それ……本気?」

 

「本気もなにも、事実だろ」

 

「う、うそ、信じられない……、あんなお馬鹿な新聞の記事を鵜呑みにしてるなんて……。ああもう馬鹿でアホでダメダメなのは昔からだけれどここまで最悪になっちゃうなんて! この部屋の暑さはきっとお兄ちゃんの馬鹿が原因なんだよッ!」

 

「うっせーッ馬鹿で悪かったな!! 黙って聞いてりゃあぎゃあぎゃあと好き勝手なことをがなり立てやがって!」

 

 蝉が鳴けば暑く感じるのと同じで、女のキンキンした喚き声という物もこれまた格別に暑苦しくて適わない。

 

(すっからかんにやられちまって唯でさえ苛ついてんのに)

 

 博打批判するのが自分自身ならまだ負け惜しみで済むことも、人から言われると気分悪い。

 

 もしこれで彼女が男だったのなら、今頃やかましいとワンパンかましているところだった。

 

「俺相手に喚き散らしてなにがしたいんじゃオメーは。それで涼しくでもなんのかぁ? あァ? 言ってみろやァ」

 

「ならないよ? なるわけないじゃんなに凄んでるの?」

 

「んなら黙ってろもう、説教はお前以外の人間だけで間に合ってんだからこれ以上俺様をイラつかせんじゃねぇよ」

 

「そんなこといったって暑いんだもん。お兄ちゃんはパンツ一丁で涼しいかも知れないけれどこっちはそうもいかないんだからね」

 

「コラチミィー、その変態さんを彷彿とさせちまうような言い方やめい」

 

 断じて下着だけで過ごしているわけではないのだ。

 

「お前さあ、俺の趣味にケチ付けてまでそんなぶーぶー文句垂れるくらいならせめてそのブレザーくらい脱いどきゃあいいじゃんか。そんなもん着てっから暑いんだろ」

 

「え、上着?」

 

 俺の肩を掴んでいた彼女の両腕がぐっと前に伸ばされたことで開く距離。

 

 額に張り付く前髪の下ではソメイヨシノの花の色を濃くしたような桜色の瞳が動く。

 

 丸い桜色はまず此方を見て、次に自分の腕を見た。

 

「長袖?」

 

「そうだよ、その長袖だよ長袖ブレザー。お前自分から暑くなるようなカッコしてんじゃねぇか」

 

 既にサウナと化した我が部屋ではパンツと白シャツ一枚という薄着も薄着な俺でも暑いのに、輪を掛けて暑苦しそうな暖色系長袖ブレザーの制服を着たまま暑いとほざいてりゃ世話はない。

 

「学校帰りの直行だもん」

 

「なんで家帰って着替えてから来ないんだ? 俺今日バイトもなーんもねぇからここ動かねぇって言ってたし、急いで来る必要なかったろ」

 

「急いでてもパパには連絡してあるから大丈夫だよ。お兄ちゃんとこで遊んでくるって」

 

「いや、そういう話じゃねんだ。ウチに来る前にその見てるだけでも汗かきそうな制服をどうにかしてから来いつってんの」

 

「そんなこと言われたってもう来ちゃってるし」

 

「今からでも遅くねーよ。行って着替えて戻ってくればいいじゃんか」

 

「う~ん、でも外暑いしなぁ……。う~ん……………………あっ、いいこと思い付いちゃった♪」

 

「ゼッテー嫌だ」

 

「まだなにも言ってないんだけど……」

 

「言わなくても分かるんだよ。どうせまたろくでもないことなんだろ」

 

「ろくでなしが服着て歩いてるみたいな人にだけは言われたくありません」

 

「うっせーわ! 勝手に合鍵作っていつの間にか部屋に上がり込んでるストーカー擬きのクセしやがってよっ」

 

「むぅ、ストーカーじゃなくてお兄ちゃんウォッチング──スニーキングしてるだけだよ」

 

「どっちも同じなんだよ!」

 

「えっへん!」

 

「威張るなよ褒めてねぇんだから! で、それじゃあ何なんだそのいいことってのは」

 

「おんぶ」

 

「はぁ?」

 

「私をおんぶして家まで連れてって♪」

 

「あぁ? 誰が誰をおんぶして連れてくだって?」

 

「お兄ちゃんがぁ、私を♪」

 

「…………なあ、お前舐めてんのか? なんでこんなクソ暑い日にこの俺様がお前を負ぶって外出せにゃならんのだ」

 

「やっぱりそう思う?」

 

「ったりめーだ。それ以外なんていや良いんだよ」

 

「あはははっ、だよねぇ~っ、まあそう言うとは思ったんだぁー。逆にこっちがお兄ちゃんをおんぶする立場なら絶対ノーだからさぁ」

 

「心配せんでもこっちからお断りだっつーの。五体満足のいい歳した大人、それも男が女子高生に背負ってもらうとか、そりゃただの罰ゲームだぜ。いい笑い者じゃんかよ」

 

 少しばかり話が脱線気味になってしまったが、彼女の暑い原因など論えば他に幾らでも出てくる。

 

「首もだよ」

 

「首?」

 

 例えばネクタイ。

 

「そんなへーこら頭下げまくってるくたびれたリーマンみてーにきっつきつに締めてねぇで、もうちょっとこう、よれっとなるくらいに緩めちゃったりなんかしてな」

 

 制服のタイなんて物は緩めて過ごす物と決まってる。俺が高校の時はまともに締めたことすらなかった。

 

 なのに彼女と来たら指の入る隙間もないくらいきっちりと締めているのだ。ピシッと締められた首元を見てると気持ち悪さを感じる。

 

「よくもまあそこまでお行儀良くバチっと決めてられるもんだぜ、マジで感心するわ。俺くんだと絶対真似できないね」

 

「それはだって、ネクタイ緩めるなんてだらしないもん。服装の乱れはぁ~心の乱れ~っていうでしょ?」

 

「なんだそりゃ。委員長キャラでもねぇクセして真面目ちゃんぶってやがんのか?」

 

 名門校だけに校則が厳しいのか。それともただ彼女が真面目なだけなのか。

 

 こっちとしては一人我慢大会を見させられている気分なので何とかしろと逆提案するより他ない。

 

「これでも余所行きは丁寧なんだよねー。こほん、お忘れですか? 私の学舎は、日ブ問わず皇族・貴族の方々や、上流階級の御子弟の皆様方が多数在籍なされているブリタニアきっての名門校です。彼のブリタニア帝立コルチェスターと並び称されるアッシュフォード学園なのですよ? 礼儀作法、武芸一般、一通りのことは習得済みです」

 

「うわっキメェ~。お前ほど丁寧語が似合わん奴もいねーよなぁ」

 

「お行儀の宜しくないお兄様にだけは御指摘されたくありません」

 

「やかましいっ!」

 

 指摘ついでに付け加えるのなら後は。

 

「そのど派手なピンクヘッド」

 

「頭……髪の毛のことを御指摘なされておいでなのでしょうか?」

 

 まだ続く優等生モード。

 

「他に何があるんだよピンクちゃん」

 

「むっ、ピンクなのは生まれつきだもん」

 

 しかし直ぐにメッキが剥がれた。

 

「まさか髪の毛がピンク色だから暑いとでも言いたいわけなのかなぁ?」

 

 それこそまさかだ。

 

「ノンノン。ピンクで暑いってなら、お前目の色もピンクなんだから今頃目ン玉しおしおのパーで干からびちまってるだろーぜ」

 

「ふむ、お兄ちゃんのクセに的確な返しとは……。中々やりおるな」

 

「俺のクセには余計だぞコラ」

 

「だったらなぁに?」

 

「いやほら、髪ばさーっと背中に広がってるじゃんか。暑くね?」

 

 単純に毛先が太股の裏側にまで届いてしまうくらいにクソ長いので、服の上から更に背中を覆い尽くす分だけ暑さは増すと思われるのだ。

 

 暑い暑いと言ってるときはまとめているのだが、今は下ろしたまま。

 

 長袖ブレザーに、きつきつに締められたネクタイに、背中に広がる下ろし髪。暑さ増し増し三拍子だった。

 

 これら彼女の装いの中で涼しさを感じられるところを一つ挙げるのなら膝上までしかない学校指定のミニスカートだけだ。

 

「ああ~言われてみればそうかも。学校行ってるときは大体が下ろしたままだからさー」

 

「わかってんなら髪まとめろ、そんで服脱げ、首元緩めろ、敗戦してしょぼくれてる俺様に文句付けんな」

 

 ともあれ、少しでも涼しくなるようアドバイスしてやったというのに、俺の両肩を掴んでいた手を離した彼女は、何故かその手を胸の前でクロスさせながら、自分の両肩を抱いて不審の目を向けてきた。

 

「エッチ」

 

「はあ?」

 

「油断させて襲う気なんでしょ」

 

 半眼で不審人物を見る様にこっちを睨み付けている。実に意味不明だ。

 

「なにィ~? この紳士な俺様がお前を襲うってかァ?」

 

「うん」

 

「肯定すんなっ!」

 

「だってさっきまではブレザーだったのに今度はストレートに服脱げとか言うし。それってさあ裸になれってことでしょう?」

 

「誰がいつんなこと言ったんだよ!?」

 

「女の子に服脱げっていうのがもうセクハラなんだよ~。口にしちゃいけない言葉だよね」

 

 そういうのを言葉の揚げ足取りというのだが、実に反論しにくい責め方でもある。

 

「それにさっきからずーっと脚を凝視してるじゃない。お兄ちゃんは元から女に色目を使うエロ紳士なんだし、いーやらしいー」

 

 酷い言い掛かりだった。

 

「ああーないないないわ~ありえねーわ。そりゃあれだ、自意識過剰すぎってやつだぜェ」

 

 俺だって欲情する相手くらい選ぶ。

 

「毎度毎度同じ様なことばっか言ってっけど」

 

 10回、20回、もっとか? とにかく昔から同じ様な問答を繰り返してるせいでもう何度目になるかすら覚えてもなかった。

 

「この俺様は年下のおチビちゃんなんぞにゃあ興味ねぇわけよ。な? 分かるだろ?」

 

 好みの女を挙げてみろというのなら彼女の従姉が真っ先に思い浮かぶ。

 

 俺はネリーと呼んでいたが、出て、引っ込んで、出て、もう堪らないほどのいい女だ。

 

 この少女と同じでその従姉にも勉強を教えてもらったりすることが有る手前、間近で拝む完熟ボディに青い性を刺激されること数えきれず。

 

 もし誘われたら二つ返事で了承しているだろう絶対の自信があった。

 

 しかしながら現実は厳しく、俺は少女の従姉から全く相手にされてない様で、あくまで『従妹の友達』としか見られていなかった。

 

 世の中上手く行かない物である。

 

 だが、そんな俺の好みを知っているのにこの少女はというと、お構いなしに突っ掛かってくる。

 

「はいはーい! この身はもうお兄ちゃんが見向きもしない小さなショーガクセーではなく、大人の一歩手前たるコーコーセーにして立派なレディなのです。年下とかそういう定義からそろそろ外れる年齢でもありま~す」

 

 小柄な身体で背伸びして両手を大きく広げながら精一杯の自己アピール。

 

 涙ぐましい努力もその体躯の所為で無駄に感じる。

 

「いやいや高校生にしてそのタッパ(身長)じゃ立派なおチビちゃん過ぎるだろ」

 

 意地を張ったところで俺より頭一つ分くらい背が低いから所詮はおチビちゃんだ。

 

「辛うじて年下のナナちゃんに勝ってるぐらいで、そのナナちゃんともどんぐりの背比べじゃねーかよ」

 

 “ナナちゃん”というのは彼女の従妹でネリーの腹違いの妹。

 

「ナナちゃんにはちょっとだけ勝ってるもん」

 

「数センチ程度の微々たる差だろ。誤差だぜそんなもん」

 

 ナナちゃんは中等部から高等部に上がったばかりなのだが、そのついこの間まで中学生だった少女と彼女は成長具合が殆ど変わらないくらいで、彼女が大人ぶるのは少し無理があった。

 

「それを言うに事欠いてレディだぁ~? 笑わせんじゃねーよ。悔しかったら俺ちゃんを誘惑できちまうような大人の女子力を身に付けてみやがれってんだ。ええ~身長以外で具体的には~? 乳、尻、太股でござ~い。全部ないじゃんお前」

 

「人が気にしてることをこれでもかと突き付けるなんてサイテー……」

 

「へっ、サイテーでもなんでも現実に伸ばすべき処がいっぱいなんだからしょーがねえ。お前の貧弱ボディ見てるとお兄さん哀しくなっちまうぜ」

 

 胸に関してだけ若干クリアに近付いてきているが、それでもまだ貧弱だ。普通なんてのは巨乳好きの俺から言わせりゃ論外。

 

 コレの従姉様方の無敵艦隊上等なオムネサマには逆立ちしても勝てっこない。

 

「ま、簡単にまとめるとだ。オメーにゃ成長度合いと女性フェロモンが圧倒的に足りてねーの。わかるかなぁ?」

 

「むぅぅ……、悪口混じりに女を否定されたみたいでな~んか引っ掛かる言い方ぁ」

 

「否定はしとらんぞ、足りてねぇと言っとるだけだ。──っと悪い、よく見りゃ小坊の頃よりかはずっと伸びてるわ──身長」

 

 俺から見て目下になる桜色の頭を。

 

「ほれ」

 

「きゃふ」

 

 ぽんぽん叩いてやった。

 

「よかったな~、このくらい手を伸ばしたらオメーの頭を触れるくらいにゃ背が高くなってんぞ~?」

 

 ぽふぽふ叩いては汗に濡れた彼女の桜色の髪の毛を掻き回す。

 

「うう~やめてよもうっ、髪の毛くしゃくしゃになっちゃうじゃないっ!」

 

「どうせ汗でびーっちょびちょなんだから気にすんなってぇ。おらおら~ぐ~りぐり~」

 

「や~め~て~っ」

 

 まあ彼女も随分と背が伸びた。下げ気味に合わせながらもかなり近くなった彼女との目線に、時が経つのは早い物だと感じる。

 

「いや~正直よくここまで頑張って背を伸ばしたもんだよ」

 

「なにそのチョー上から目線」

 

「実際上から見下ろされる立場じゃねえかチビ助。俺はな、未だにお前がユフィの一個下だなんて信じらんねーんだぜ?」

 

 ユフィとはネリーの妹で同じくこの少女の従姉に当たるが、その一つ年上の従姉とこの少女とは洒落にならないスペック差が有り過ぎて、てんで勝負になってない。

 

「まあな、お前もお前なりに成長はしてるんだけどな。うんうん大っきくなったぜ色々と。比較対象を絞ればだけどよ」

 

「うう~っ」

 

 それでも昔は大平原だった胸部にも二つの丘が盛り上がってきていて、引っ付かれたりしたとき等は無駄に動揺してしまうのは男の性なのでなんともしがたい敗北感に打ち拉がれざるを得なかったりして。

 

 最近になり少し……ほんの少しだけ。

 

 彼女に“女”を感じることもあるにはあったのだ。

 

「俺様も驚きだぜえ。あのちっこい幼女からおチビレディに大変身だ。かっかっかっ立派立派」

 

「……ひょっとして喧嘩売ってるの?」

 

「そう機嫌悪くすんなって。なんつーのほら。美人とかいうより“かわいい系”ってやつ? かわいいかわいい~」

 

 かわいいかわいいと、更に頭をグリグリ撫で回してやったらまた彼女に睨まれてしまった。

 

「いい加減にしてってば! そういうのが一番ムカツクんだからっ!」

 

 一応正当に褒めたつもりだがどうも彼女は気に入らないらしい。

 

「ワリィワリィ。丁度撫でやすい位置に見事なまでのピンクヘッドがあるもんだからついな」

 

 しかしそれも一瞬のことだ。

 

「……もういいよ」

 

 睨みを利かせて細まっていた目は次の瞬間には大きく見開かれて、いつもの明るい笑顔に立ち戻っていた。

 

「どうせいつものお兄ちゃん流照れ隠しなんだろーし」

 

「照れてねえ隠れてねえ。自分に都合良くばっか考えてんなよ?」

 

 彼女という人間は毎度のことながら捕らえ所のない性格をしていると思う。

 

「でもさぁ、そうやって興味ないって妹扱いされている年下の幼馴染みはアニメじゃよくヒロインしてるよね~。お互いに近すぎて気持ちが分からないとか何とか? だけど最後はハッピーエンドみたいな」

 

「だからどうしたってんだ」

 

「ここにも居るよ年下の幼馴染みが」

 

「で?」

 

「フラグ立たない?」

 

「…………いや、いやいやいや立たないだろ普通」

 

「ええ~っ」

 

「ええ~っじゃねェよアニメじゃねぇんだし。幼馴染みったって俺とお前と幾つ歳が離れてると思ってやがんだ? 一回り近いんだぜ一回り。アニメだとしても殆どの場合は対象外でフラグの立ち様がねぇから。それとも、そんな突っ掛かってくるってことはお前は俺に襲って貰いたいわけか? 彼女無し歴=年齢で日々欲求不満な俺様を慰めてくれるってんならご希望通り襲ってやってもいいんだぜお嬢ちゃんよぉ?」

 

 もちろん本気ではなく話の流れ的な軽い冗談なのだが。

 

「やだ」

 

 思いっきり拒否されてしまった。

 

(冗談を真に受けられても困るっつーの)

 

 俺も彼女に童貞を卒業させてもらおうとは思ってない。仮定の話だが、もし本気でそんなことをすれば彼女の父親からどんな目に遭わされるか。

 

(あの無表情なチビ親父が鬼の形相で切れてる処なんてのはちょっと想像できねぇけど)

 

 彼女の父親は沸点があるのかも疑わしいくらいに怒りの感情を見せたことがない60代半ばの温厚なブリタニア人男性だ。

 

 老人といって差し障りない年齢だというのに、その外見は10歳くらいの少年といった信じられない姿をしている不思議な父親は、一見温厚そうな性格に見えても身内のことについてはかなり危ない台詞を口にしたことがあった。

 

『子供達の身に何かあれば、ボクは日に影に子供達を傷付けた相手を追い詰めるかもね。キミも含め皆ボクのことを温厚な性格であると考えているようだけれどもこれでも子を持つ人の親さ。愛する家族を傷付けられて黙っていられるほどに大人しい人間じゃないよ』

 

 大日本帝国と神聖ブリタニア帝国を中核とする環太平洋経済圏内でグループ企業を率いている創業者一族らしく、何も持ってない一個人とでは力の大きさが違うのだ。

 

 もしも、なにかの間違いで彼女を傷付けたりしたら? 

 

 物事をあまり深く考えない主義で、なんでも楽観視する悪癖を持った自分でさえ、その話をした時の彼女の父親には寒気がした。

 

(うん、あのジジイだけはマジギレさせたらヤベー)

 

 彼女の父が、付き合いこそ長い相手で娘と親しい友人関係にある男とはいえ、大切な娘を傷物にされて黙っているか? 

 

(そっちの方がねーぜ……、俺が同じ立場ならそいつの家に殴り込みを掛けるに決まってるもんな……。まあ、コイツがどうとか、そんなもん抜きにしたリアルな話で考えても、あのおっさん切れさせると俺マジヤバなんだけどよ)

 

 自分の持つ人生観や考え方について何度も叱られたことはあったが、切れさせたことはない。

 

 飲み友達といった気楽な間柄でもあるが、同時に常日頃から生活面でお世話になっている身の上というのもあり、基本的には逆らえないのだ。

 

 金持ちだとか権力者だとか、その前にもう生活生命線に直結してくる話で本気で怒らせてはいけない相手と俺の中では位置付けられていた。

 

 だからこそこれは所詮いつもの冗談話であり枠内から逸脱することではない。

 

 そう考えていたら。

 

「気持ちが籠もってないんだもん」

 

 OKなのか拒否しているのか判別しがたい返答を彼女がしてきたので、これはこれで困りものだった。

 

「籠もってたらいいのかよ……」

 

 こうして彼女がしつこく絡んでくるのは昔からのことだ。何年も続く心許せる友達関係というやつ。

 

 昨日今日に始まった事じゃない。

 

「そんなことばっか抜かしてやがるとマジで襲っちまうぞこら」

 

「うわっ強姦魔ぁ! 怖いよパパぁ! 犯されるぅ!」

 

「うっせ黙れ! 隣近所に聞こえて通報されたらどうしてくれるんだよ俺の社会的信用が消滅もんになっちまうじゃねーか! お前の親父からもヒデー目に遭わされるだろうし俺くん超破滅よッ?!」

 

「エエ~っお兄ちゃんに社会的信用ー? なんてどあつかましい」

 

「うぉい! そこは心配するとこだろ?!」

 

「本当に無い物だから気にするだけ無駄なんだよ無駄無駄。いっその事とことんパパに怒られちゃえばそのいい加減な生き方も少しは矯正できるんじゃない?」

 

「ヒデー……この冷血女め……」

 

「だって本当のことなんだもん。信用無くすようなこといっぱいしてきた癖に今更そんなこと言ったって説得力がないっての」

 

「ああァ? おうコラクソチビ。真面目で誠実に生きてるこの俺様のどこ見てンなこと抜かしてやがんだよ?」

 

「生き方に決まってるじゃない」

 

「だから夢に向って頑張りながら清く正しく誠実に生きてるだろ」

 

「寝言ば~っか。まったくもう、へそで茶が沸いちゃうよ」

 

 やれやれと頭を振る彼女のその仕草が堂に入ってる。

 

 こういうときの彼女は必ず逃げ道を塞いでくるから話を切り替えて誤魔化してやろうと思ったが、どうやら一足遅かったようだ。

 

「いいよ、だったら信用できない事例の数々を列挙したげるからその腐った耳かっぽじってよーく聞きなさい。まず家賃滞納でしょ」

 

「うっ」

 

「家賃払わない癖に家主の娘に借金するし」

 

「くッ……!」

 

「家主の家に上がり込んでは毎夜の如くタダ飯食べてく図々しさ」

 

「ぐッ」

 

「昨日と今日で言ってることがコロコロ変わる芯の無さ」

 

「うぐッ」

 

「極めつけにお金もないのに勝てないギャンブルを繰り返す駄目人間っぷり」

 

「ぐあッ……!」

 

「とまあ適当に挙げてみただけでもこんなに沢山出てくるわけだ。そんないい加減で図々しくて計画性皆無な人に“社会的信用”なんてものが微塵でもあると思ってましたかぁー?」

 

 小さな手を伸ばしてぺしぺしと頬を叩いてくる彼女の言う事がなまじっか事実なだけに反論が出来なかった。

 

「いい歳してどれだけ自分に都合良く物事を考えるかなあこのダメ夫くんはぁ。私のキャラじゃないのに思わずパパの真似して説教しちゃったじゃない」

 

 なんという憎たらしい。

 

「な、なあ、ちょっとくらいオブラートに包んでやろうとか思わんのかキミ」

 

 声が震えてしまう。まだ社会の厳しさを知りもしないような高校生のガキに説教されるほど苛つくこともないのだ。

 

 もちろん此方の心境を知る由もない彼女が遠慮してくれることはなかった。

 

「思うわけないじゃん事実なんだし」

 

 いや、彼女の事だ。心境を知っていても遠慮なんてしないだろう。

 

 こういう容赦のないところは父親そっくりだった。

 

「んーでもまぁ、痛いと感じてるだけまだ多少の見所はあるかも?」

 

(こんのガキィ~、簀巻きにして窓から捨てたろか)

 

「それにま、もし万が一にもご近所さんに通報されちゃった時は、ちゃんとこっちで手を回したげるから大丈夫だよ~お兄ちゃん♪」

 

「はあ? なに言ってんだよ、オメーみたいな唯の女子高生が何処の何に手ェ回せるってんだ?」

 

「おまわりさんに決まってるじゃん。こう見えても公安とか特高に知り合い多いんだから」

 

 胸を張る彼女の時折出てくる法螺話の類を出されて力が抜けてしまった。

 

「あ~あ、ま~た始まった。始まっちゃったよ妄想少女の法螺話。それ聞かされるとあんまりにもアホらし過ぎてお兄さん怒る気も失せちまうんだよなァ」

 

 なにがそうさせるのか、とにかく彼女は昔から在りもしない突飛な話を口走ることがある。

 

 特高警察や公安には知り合いが居る。偉い軍人さんや政治家の顔をテレビで観ている時に、『この人ってマスコミでは悪いように書かれてるけれど本当は違うのに』等と、まるで会った事があるかのように語るのだ。

 

『口にしても問題無い範囲内でしか話さない』以前そんな意味不明な事を話していたが、勿論全部ウソか冗談なのだろう。

 

 8年程の付き合いの中で、一度でもそんな危なそうな奴や、偉そうな人間と出会した事がないので、自然に分かるというものだ。

 

 彼女の父親にも『本当に問題は無いんだけれど、あまり冗談を真に受け過ぎないように』そう注意されたことがあった。

 

「相変わらず治らんなぁその虚言癖」

 

「嘘じゃないんだけど」

 

「はいはいわーったわーった」

 

 こういう変なところだけは昔から治らないし治す気もないようだ。

 

「天下のブリタニア帝国の自称“やみにいきるひみつこうさくいん”“しーくれっとえーじぇんとサマ”になら日本の特高警察に知り合いくらいおいでになさいますでしょうよ」

 

「もーっ、自称じゃなくてホントなんだってばーっ」

 

「そういう話は俺との間だけにしとけよ?」

 

「うんっ。私とお兄ちゃんだけのヒ・ミ・ツ、だね♪」

 

「いーや。単に変な子扱いされるからだぜ。お前だけなら未だしも、お前の話に付き合う俺まで変に視られちまうじゃんかよ」

 

「ふぅん、結局信じないんだ? ダメダメだねお兄ちゃん……。あ、でも本当に内緒の話だから信じてくれない方が実はいいのかも?」

 

「そら内緒の話だろ。茶店の隅っこで真面目な顔してそんな法螺話をしてたら危ない奴だぜ? 高校の時の連れが居る処でそんな話されたら俺全力で逃げんぞ」

 

「そして私とお兄ちゃんの逃避行が始まると」

 

「逃避行だとまだロマンあっていいけどよォ、小柄なお前を連れて逃げたら俺世間から誘拐犯にされちまうんじゃねーか?」

 

「あははっ、ありそうかも。それじゃ逃避行は3年後までお預けだね」

 

「3年後ってなんで……、ああ……! そういやあと3年でお前成人か」

 

「yes、きっとお兄ちゃんが涎垂らしながら飛び付くほどの“いい女”になってるから期待しててね♪」

 

「中学生みたいなのが成人式に参加してる姿しか想像できん」

 

「もうっ、そんなこと言ってもしコウお姉ちゃん並の身体になったらどぉ落とし前付けてくれるの?」

 

「お前にゃ無理。ネリー並とか頭が高ぇんだよ」

 

「そんなことわからないじゃん。3年あれば女は変わるものなんだから」

 

「8年かけてもこれだけのお前が言うか」

 

「今までは本気じゃなかっただけ!」

 

「おおっ、いいねぇ~なんか新鮮だ。自分でよく口にする台詞をお前の口から聞けると妙な優越感に浸れるぜっ」

 

「うっ、しまった! まさかお兄ちゃんの専売特許な台詞を使っちゃうなんて……! 一生の不覚っ」

 

 軽口をたたき合えるほど気心の知れた仲。最早ツーカーといっても過言ではない彼女との付き合いは長い物で、歳の離れた幼馴染みと、彼女から見れば俺という人間はそう映るのだろう。

 

 よく遊び、よく出掛け、子供にしか見えない彼女の父親同伴で小旅行に行ったことすらある。(ちなみに旅費は全部彼女の親持ち)

 

 自分の小学生時代を写し取ったアルバムを見れば俺も似たような経験をしていたので、彼女の俺に対する距離感が幼馴染みと言えるほどの近さなのはなんとなく分かっていた。

 

 こういう馬鹿な話を平然と出来る関係ってのは、やっぱり有り難いものだ。

 

「馬~鹿なことばっか言ってねーでさっさとそのクソカラフルなピンクっ毛くらいまとめとけ。ちっとは暑さもましになんだろ」

 

「ふーんだ。人の話をホントか嘘かも見抜けない様なお馬鹿サマに馬鹿って言われたくありませ~ん」

 

「そんなら馬鹿と分かりきってる上で馬鹿に対して態々馬鹿っていいやがるオメーはもっと馬鹿でいいんだよな? お・ば・か・さ~ん」

 

「うざっ! 死んじゃえ!」

 

「イヤだブー」

 

 そして俺から見た彼女もまた親友だ。さすがに俺視点で彼女を幼馴染みと言うには無理があったが、彼女が俺をそう見てることもあって俺も彼女に対し幼馴染み的な感じで忌憚なく接してはいる。

 

 実際問題、垣根という物がない間柄、親友・幼馴染み、なんにでも取れる親しみを彼女に対しては感じていた。

 

 そんな歳の離れた親友は俺のことを平気で「馬鹿」だと宣う。記憶している限りの範囲では最も多くの「馬鹿」を俺に投げ付けてくれた酷い奴だ。

 

 確かにアッシュフォード学園という世界的な名門校に通う彼女からすれば、三流の公立校出な俺など本気で単なる馬鹿にしか見えないだろう。

 

 学校抜きの頭の良さだけで論ずるのならもう完全にお手上げ状態。どこにでもいそうな今時の女子高生に見えても、この少女は小学生時代にはもう超高校級の問題さえ解いてしまえていたほどの成績優秀者で、俺なんかとは土台頭の出来が違いすぎる。

 

 それだけに毎年恒例と成ってしまった大学受験に向けての勉強を教えて貰うことも多く、俺が問題を間違える度に「馬鹿」をお見舞いされる機会も増えてしまうという有り様だった。

 

 腹が立つかどうかと言えば、正直に言って腹が立つこともあった。

 

 一回り近く歳の離れたガキに「馬鹿」と罵られるのだからカチンと来もするだろう。しかしながら、言い換えればそれだけだ。

 

 馬鹿を連呼してきても、それは彼女の本音と一致した嘘偽りのないもので、一度興奮を通り抜ければその飾らない言葉には寧ろ清々しい気分にさせられる。

 

 ただ馬鹿にするだけが目的の奴や、俺のことを見もしない奴と違い、彼女は俺を見続け馬鹿と言う。そして最後に必ずこう付け加えてくれた。

 

 “頑張ったね”

 

 嘲笑の意味を持たない心からの言葉にはいつも励まされた。腹の立つ「頑張れ」との違いは、普段の彼女と接していればよく分かる。

 

 自称「俺の味方」は伊達ではない。誰もが現実を見ろと苦言を呈してくる中でも、彼女だけは俺を支持してくれるのだから。

 

 俺にだって中高から付き合いの続く友達は居るが、心置きなく悩みを話せる親友と呼ぶべき相手となると、彼女を置いて他にいないだろう。

 

 女の親友とか、高校までの間は考えた事もなかった。

 

 これが遅咲きの青春……とならないのは、一回り近くも離れた俺と彼女の歳の差にあるのだろうと思う。

 

 初めて出会った当時はまだ小学生だったこの少女を、どうにも俺は“女”として見れない。

 

 見ていたら見ていたで問題大ありだ。自分がロリコンだったと認めたような物だから。

 

 だが美少女……と、そう断言しても言い過ぎでない彼女が、もしも俺と同年代だったのなら或いは。

 

 もし、彼女が大人になってもまだ俺に引っ付きまわっていたとしたら。

 

 年齢差が形骸化する数年後の未来。そのとき俺は、大人と成った彼女を女として視るようになってしまうのではないか? 

 

 俺の有り様を全肯定する唯一の友人を、俺は妹分として見続けることができるのだろうか? 

 

 最近になって時々考えるようになったこれは、きっと2ビットの脳みそが起こした誤作動であると信じたい。

 

(馬鹿馬鹿しいぜ、そんな難しく考える事じゃねえのによ……。大体俺の好みに掠りもしてねえじゃんかコイツは。成長の遅いチビで高等部になってもガキっぽい性格のまんま変わらない。そんなコイツを相手に俺がどうこうなるわけねーだろ)

 

「ん」

 

 悶々とする俺に、柔らかそうなすべすべの手が差し出されてきた。

 

 それはもちろん彼女の手だ。

 

「あ? んだよこの手は? 小遣いくれとか言われたって金ねーぞ。逆に馬に蹴られてピンチとなってしまった俺くんに恵んでくれよ」

 

「それはダメ。もうお兄ちゃんには現金を与えるなってパパに怒られちゃったから」

 

「餌与えるなみてーな言い方だな……。おっさんの中で俺って人間はどんな位置付けされてんだ?」

 

「下手に施しを与えると甘えきってどこまでも堕落していく駄目ニートだって」

 

「なこと言ってんのかよ!? 見た目小坊の貧弱坊やなクセにざけやがってあのクソジジイ!」

 

「酷いよねっ! あんまりだよねっ!」

 

「そーだそーだっ! お前のいうとーり!」

 

 突然怒り出す彼女にさすがは俺様の味方だと思ったのも束の間。

 

「お兄ちゃんだって一人前のフリーターでギャンブル狂で女の子にお金借りてるクセしてエラソーな講釈ばっかり垂れて調子に乗ってる計画性ゼロの立派な大人なのに! ニートだなんて失礼しちゃうよねっ!!」

 

 単にボロクソ言われただけだった。

 

「お前の方が失礼だよ!」

 

 じゃあこの手はなにかと思いきや。

 

 1本の黒い紐が握り込まれている。

 

「紐……?」

 

「うん紐。さっきまとめろって言ってたじゃない。だからお願い」

 

「なぜに紐よ? ヘアゴムかリボンだろ普通」

 

「一応髪留めの一種だから問題無いよ? それにヘアゴムだと髪の毛ぐちゃぐちゃにされて失敗しそうだから」

 

「そりゃまあ失敗するぜ。そんなもん使ったことねぇんだから」

 

「だから紐なんだよ」

 

 意味するところは髪をまとめてくれということらしいが、どうやら彼女は言い出しっぺの俺にやらせようという腹積もりのようだ。

 

 付き合いが長い分、彼女の髪を弄くることはそれなりにあった。

 

 彼女がまだ小さな頃の話だが、リボンで結ぶくらいなら何度も経験有り。

 

 無造作に結ぶ程度だがな。

 

「オメーもうチビっ子の中のチビっ子だった頃みたいな小坊じゃねんだからこーゆーのは自分でやれよなぁ」

 

「だって、まとめようにもこの部屋姿見ないんだもん」

 

「あるわけねーだろ。一人暮らしの男がそんなもん持ってたらキモイっつーの」

 

「お兄ちゃんは持ってなくてもキモイから、ってかウザイから」

 

「締めんぞこのガキャア!」

 

「あっ、今の心無い一言にか弱い女の子の繊細な心が傷付きました」

 

 取って付けたような言い方をして手の平の中身を押し付けてくる彼女は、今も昔も変わらずの口数を誇っているので口では到底勝てそうもない。

 

 ああ言えばこう言うの攻勢に終わりが見えないのだ。思い返せば彼女との口喧嘩に勝利したことは一度もなかった。

 

「とゆーわけで、お兄ちゃんが傷付けた傷心のか弱い女の子へのお詫びも込めてはいヨロシク~」

 

「な~にがか弱いだよチョーシくれやがって、俺はお前ほど図太い神経してる奴にはお前以外で会ったことねぇよ」

 

「それほどでもあるかな? なにせ私のお仕事は壊れてるか図太くないとやってけないしねー」

 

「なんなんだよホントに、お前の仕事ってのは。壊れてるか神経図太くなきゃやってけないとかマジでわからねーんだけど」

 

「だからさー、前から言ってるじゃん。一種のsecret,agentみたいなものだって」

 

「その法螺はもう飽きた……。もういいからその紐よこせ。髪結んでほしいんだろ?」

 

「やったぁ~さすが愛しのお兄ちゃん! なんだかんだ文句言いながらも優しいお兄ちゃんがだ~い好き♪」

 

「調子いいんだよコラ」

 

「えへへ♪」

 

 憎まれ口を叩きつつも飾り気のない黒い紐を受け取る俺は、そのまま彼女の背中側へと回って、桜色が鮮やかに映える髪を首の後ろ辺りでまとめに入る。

 

「このぐらい自分で出来ンだろ、手ェ伸ばしてテキトーに結んどきゃそれでいいのになんで態々俺くんの手を患わせてやろうとか余計なことばっか考えるかねェ」

 

「なにその迷惑がり様。まったくもうっ。こんな美少女の髪を触れるのに喜ばないなんて失礼しちゃうなあ」

 

「おっ? どこ、どこよ美少女? どこにいるんだ?」

 

「目の前にいるじゃん」

 

「だからどこだって聞いてんだろ? ちなみに視界に入る妖怪カラフルピンクヘッドはナシ」

 

「うう~っいじわる! 馬鹿でアホでうざいモテナイくんの癖になんでいつもそんな上から目線なのお兄ちゃんはっ!」

 

 憤慨する自称美少女……、いや、間違いなく美少女なのだがこの場で認めるのは何か納得いかないので自称美少女で押し通す。

 

「っと動くなって、変な縛り方になっちまうだろ」

 

「あ……、うん、ごめんなさい……」

 

「ったくよぉ、頼むぜ?」

 

「は~い、じっとしてま~す」

 

 集めた髪に紐を巻き付けてきつく縛り、解けないように結ぶ。

 

 上手くは結べないが髪を傷付けないように優しくだ。そこらを注意しておけば問題無いだろう。

 

(あ~、なんか俺コイツに誘導されてね?)

 

 お世辞での「頑張れ」を決して口にしない彼女だからか、俺もついつい甘くなってしまうわけだ。

 

 ずっと味方で在り続けてくれる親友の存在は、それだけ俺の中でも大切ってことなんだろうなと、そう思う。

 

「ほらよ、これでいいんだろ」

 

「きちんと結んでくれた?」

 

「きちんとかどうかは知らね。一応解けないようにはしてやったから自分の手で触ってみろよ」

 

 俺が促してやると早速小さな手が首の後ろで髪を束ねている結び目に伸ばされた。

 

「う~ん……」

 

 結び目を触り縛り具合を確認している。

 

 それを見ていると自分で結べるだろうという思いが一層強くなったが、まあダチのよしみで不問にしてやろう。

 

 それに髪を結ばされた程度で文句言うほどこの俺様は心の狭い人間ではないのだ。

 

「うん……よろしい褒めて遣わす。ご褒美に頭をナデナデしてあげよっか?」

 

「いらん鬱陶しい」

 

 からかう彼女をあしらいながら俺は紐で縛って一本にまとめてやった髪をひと撫でしてみる。

 

「にしてもなァ」

 

 まとめてるときから気になっていたがサラッとしたいつもの柔らかさがない。

 

「このやたらと目に眩しいピンクっ毛はどんだけ汗を吸い込んでいやがんだ?」

 

 少し持ち上げてやると水分を含んで重くなっていることがわかる。

 

 この水分のすべてが汗だとすれば、この部屋でじっとしているだけでも終いには脱水症状で倒れてしまうのではないだろうか? 

 

 もしそうなったらこの炎天下を俺が彼女を背負って病院へ? 

 

 幼女だった頃の彼女ならまだしも、今の彼女を背負って歩き回るのは身体に堪えるだろうから止めて欲しい。

 

「仕方ないじゃない。外暑いしこの部屋も暑いしで別に掻きたくもないのに汗いっぱい出ちゃうんだから」

 

「まあそうなんだけどよぉ、このまんま放っといたら髪の毛カピカピになっちまうぜ」

 

 タオルで拭いてもこう暑いとキリがない。そもそもその我が家のタオルが全部俺の汗で臭くなっていて彼女に貸し出せる状態になかった。

 

「うん、わかってるならシャワー貸して」

 

「ねぇよそんなハイソサエチィなもんは」

 

 あったら自分が浴びている。

 

「家賃3万のオンボロアパートになにを求めてるんだお前」

 

「へぇー、家主さまを前にしてそ~んなケチ付けるんだぁ~。ならどうぞ出て行ってくれてもいいんだよ? まともに家賃払わないような住人はこっちから願い下げだしねー」

 

 まるでこのアパートが私の物だと言わんばかりの生意気な態度。

 

 自信ありげなその様は本当に彼女が家主であると勘違いしそうな程に堂々とした物だが、もちろん彼女は此処の家主と違う。

 

「お前のじゃなくてお前の“親父の”だろうが」

 

「そうともいう」

 

「そうとしか言わねーよ」

 

 地上400~600mという強化耐震設計の超高層ビル群と、耐震ブロック構造の建築物が関東平野全体に広がる大日本帝国帝都東京。

 

 北は北極圏千琴から、南は太平洋ポリネシアまでという、広い領域を持つ日本の中心地点。

 

 同盟国ブリタニアの帝都ペンドラゴンと共に、世界で1,2を争うその超巨大都市の都心の一角に、ひっそりと佇む我が愛すべきボロアパート。

 

 高校を出てからずっと此処で生活しているわけだが、初めから破格の家賃3万というわけじゃなかった。元は6万だったところを、このアパートの権利事土地を買い取った彼女の父が半額に下げてくれたのだ。もちろん俺だけじゃない住人全員分一律に。

 

 家主である彼女の父曰く別に親切心からこうしたわけではないらしいが、バイト代も安く塾費用も掛かる俺としては非常に助かっている。

 

「ごちゃごちゃ言ってねーでおとなしく銭湯行って汗流してこいよ。女のクセして髪の毛かっぴかぴじゃみっともねーぞ」

 

「もう仕方ないなぁ、じゃあお兄ちゃんも一緒に行こ」

 

「あん? 俺は行かねぇよ」

 

「なんで?」

 

「金が勿体ねぇだろが。大人420円もするんだぜ?」

 

 毎日通えば420×30で締めて12600円。

 

 月の家賃3万と合計して42600円。これに電気と水道代合わせて1万に携帯料金7千で約6万円だ。

 

 年金と健康保険だって差っ引かれ、更には食費や塾代やらでギリギリの生活を送る俺には銭湯の敷居は高すぎる。

 

「420円ならまだ安い方だよ。800円するところもあるんだから」

 

「あのなぁ、余裕のない生活してる俺と、お前みたいな金持ちのお嬢とを一緒にしてんじゃねえよ。420円の銭湯でも一ヶ月まるっと通えば万札とんじまうってのに、そんな高いとこ行けるかよ……。銭湯なんざもう二週間は行ってねーなぁ」

 

「に、二週間~?」

 

 何故其処で引く? 

 

「本当に行ってないの……? お風呂屋さん」

 

「おうよ。先月は6300円も浮かしてるんだぜ? その気になりゃ一ヶ月でも二ヶ月でも浮かし続けられるってもんよ。どうだ驚いたか」

 

 これぞ俺流節約術。

 

 人間風呂なんか入らなくても死にはしないのだ。

 

「うわぁ~お兄ちゃん不潔。絶対シラミ沸いてるよ……。頭腐って脳みそ腐敗してもっと馬鹿になっちゃう」

 

「頭くらいちゃんと洗っとるわい!」

 

 風呂に入らなくても頭を洗う手段などある。

 

「つーかお前ただ俺の悪口言いたかっただけだろ」

 

「うんそう。だって不潔なんだもん」

 

「だから頭洗ってるって言ってんだろ!」

 

 身体だって拭いている。

 

「どこで?」

 

「台所の水道」

 

「……」

 

「今日みてーな暑い日は気持ちいいんだぜ? 外から帰ってきたときに蛇口捻って流れ落ちる冷たい清流の中に頭を突っ込んだらそらもう地獄から天国よ」

 

 水道の水浴びが誇る気持ち良さを力説してやったわけだが。

 

「…………」

 

 背中側に立つ俺へ身体をゆっくり回転させた彼女は、静かに立ち上がると物悲しい表情を向けてきた。

 

 昔、捨て犬を拾って『心優しい男』な感じにいいかっこしようとしたら好きだった子に批難されて、その子が俺から引ったくった犬に向けていた時の、あの目を彷彿とさせる哀れみの視線だ。

 

 すっと伸ばされてきた手が肩に乗る。ポンッと叩かれたように感じたのは気のせいじゃない。

 

「ねえお兄ちゃん……。もうクララがお金出したげるからお風呂屋さん行こうよ……」

 

「なんだおいクララ。なんでオメーそんな哀れみの目で俺のこと見てやがるんだ」

 

「うん、もう何も言わなくていいからさぁ。ほら洗面器と石鹸と用意して、タオル持って銭湯行くよシンお兄ちゃん」

 

 俺みたいな人間のことでもきっちりと見てくれてる奴──そいつの名はクララ・ランフランク。

 

 ブリタニアの秘密工作員を自称する訳の分からん女子高生で、俺が住むアパートの大家の娘。

 

 高校卒業からこの方、ずっと一緒に遊んでる親友にして腐れ縁の少女だった。

 

「あ、ちょい待て」

 

「なにかな。お風呂のお代は出してあげるけどお金は貸せないよ? パパに怒られちゃう」

 

「ちげぇよ、その話じゃねえ」

 

「じゃあな~に?」

 

「ブラシ持ってねえ?」

 

「ん、持ってるよ」

 

「貸してみ」

 

「かけてくれるの?」

 

「まあついでだからな。髪まとめてからで悪いけどいいか?」

 

「うんうんっ、もちろんいいに決まってるよっ! さ、遠慮無くかけてかけて~♪」

 

「よっしゃまかせろ」

 

 受け取ったブラシを髪に通してやる。

 

「一旦解くか?」

 

「ううん、このままでいい。でも綺麗に梳かしてね」

 

「女の髪なんかそうそう触る機会のない寂しい独り身男の俺に無茶言うな」

 

「そういってもクララの髪は昔から触らせてあげてるでしょ」

 

「お前のだけだろ」

 

「充分じゃない。クララ以外の誰の髪に触れる必要があるの?」

 

「ネリーとか……。あとは中学生の時にいいなって思ってた子とかかねぇ……。ああ~アイツ今どうしてるんだろなぁ」

 

「…………初恋の人?」

 

「まあ、似たようなもん。恋になる前に終わっちまった感があるけどよ……。あの時はちょっとショックが大きくてな、避けられる原因になっちまった犬って動物を嫌いになりかけたんだぜ?」

 

「ふ~ん……」

 

「って、ことでさ。俺のことわかってくれる女ってお前だけなんだよクララ」

 

「うえっ!? う、うん……」

 

「これからもずっと友達で居てくれな?」

 

「く、クララは友達よりも先に進んだ方がいいかも……」

 

「おおっ、そういや俺とお前は幼馴染みの親友だったぜ!」

 

「もうっ、そうじゃなくて!」

 

 鮮やかな桜の色がブラシの黒い毛の間を流れていく。

 

 桜には初受験で落ちたときを皮切りに、毎年苦汁を舐めさせられるときの思いしかないが、彼女──クララを象徴する色でもある。

 

 だから桜色は俺の敵だが同じくらい俺の味方でもあった。

 

「あ~あ、この髪の色みてぇに来年こそは桜が咲いてるといいのになぁ」

 

 指を差し入れほつれていないか確かめる。指の隙間を流れていく汗を含み湿った桜色の髪に思い浮かべるのは来年の俺の姿。

 

 灰色の受験生活なんてもう終わりにしたい。

 

 俺の味方の桜色と同じ桜を咲かせてやりたい。

 

 強く願っても未だ適わぬ遠い未来。

 

 本当に遠い……。

 

「ウン、サクトイイネ、クララハズットオウエンシテルカラガンバッテネ?」

 

「なんだその片言で棒読みな日本語……」

 

「ダイジョウブ。キットゴウカクスル……カモ?」

 

「お前、絶対落ちると思ってるだろ!」

 

「ソンナコトナイヨ」

 

「チキショーめっ! 来年は絶対合格してやっからな!」

 

 

 

 今日も俺は、俺を見てくれている俺の味方──クララと、こうして適当に過ごしていた。

 

 毎年桜の咲く季節を迎える度にこの小柄な友人から贈られる『頑張ったね』を『頑張ってきて良かったね』に変えてやることを夢見ながら。

 

 そんな俺の夢とは、政治家になること。

 

「あとさ、無理って言ってたけど、やっぱ──────―金貸してくれっ!」

 

「ダメっ絶対!」

 

「頼むッ、頼みますッ、クララ様だけが頼りなんですッ! 貴女様は日々金銭の悩みを抱えている俺くんの唯一の生命線なんでごぜーますッ!」

 

「う~、でもパパから“シンイチロウにお金を貸しちゃ駄目だよ? ”って言いつけられちゃったし」

 

「そこをっ、そこをなんとかおねげーしますよ……!」

 

 大学に入り、卒業後は官僚になって、そして政治家へ。

 

 最後はウハウハな天下り生活を手に入れて圧倒的勝ち組になる予定の偉大な男。

 

 俺の名は玉城真一郎。

 

 

 

 現在浪人────9回生。

 

 




以上となります。
なぜ玉城の物語を描いてみたくなったのかを申し上げますと、PS2ソフト【コードギアス反逆のルルーシュ LOST COLORS】内における彼の主人公に対する接し方に好感を覚えたからです。もちろん彼にはすぐ調子に乗る、コロコロと主張を変える、粗暴、叶わない夢を抱く無謀な人、等々のマイナスの面も多々見受けられるのですが、記憶喪失の主人公の為に歓迎会の音頭を採るなど、優しい面もありました。
右も左も分からない不安な主人公の心に、調子の良すぎる彼のうざく笑える行動は、少しばかり『楽しい』と思えるなにかをもたらしたような、そんな印象を受けたのですね。
ですので平和な世界では『官僚から政治家へ』の夢を追い続ける彼の姿を、生暖かく想像してみようと考えられました。
無論、現実は厳しく、彼の思うようには行きません。しかし彼を支えてくれる者が現れたなら? きっと彼は原作とは異なり夢を諦めないとなるでしょう。まあ、そうはいっても彼の輝かしい成功の未来はとてつもなく難しい話でありほぼ実現不可能なのでしょうけれど。
原作と同じような場所へ落ち着くことが彼にとって一番幸せなのかも知れませんね。

それでは、お読みくださった皆様、真にありがとうございました。


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玉城真一郎は一本抜けている
玉城真一郎は一本抜けている


上手くかけているか自信はありませんが逆リクエスト作品です。

CP:玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア

 :レオンハルト・シュタイナー×マリーカ・ソレイシィ


 

 

 

 その日、レオンハルトは非番でグランベリー艦内を歩いていた。とくにどこへとなり寄る用事も無く散歩のような物。ハドロン砲の電子制御室に顔を出したり。

 

 日本製最新式のKMFシミュレーターを見たり。婚約者である辺境伯令嬢マリーカの部屋を訪ねるのに緊張したりと、充実した午前を過ごして。

 

 丁度午後になる頃にグランベリーからネッサローズへ渡る予定なのだ。

 

 KMFで渡る都合上、特に地上へ降りたり、橋渡しのような危険なことをする必要は無い。

 

 現在高度は4,000m。それほど高くない高度とは言え危ない高度だ。万一にも生身で渡ろうとすれば、風に吹き飛ばされて、お空の星となってしまう可能性とてあった。

 

 まあそのように抜けている騎士やオペレーター、乗組員は我がグリンダ騎士団にも、このグランベリーの乗組員にも居ないのだが。

 

 そこまで考えてレオンハルトは「あっ」と思った。若干初めての騎士団への仮入団で第8.5号機KMFヴィンセント・グリンダ・カスタム。エナジーウィング機を手足のように、身体で表現するように乗りこなした、憧れの人の事を。

 

 憧れというのはおかしいか。出逢ってまだそれ程時間も経っていない。羨望の眼差しで見ていたという方が正しい。エナジーウィング機はすでに量産体制が整って久しい。

 

 ヴィンセント・グリンダ・カスタムだけじゃない。普通のヴィンセント・カスタムもそう、なにより8.5号機なんてでたらめな機種を開発した日本にはもう10,000騎単位での量産計画が上がっているらしい。

 

 神聖ブリタニア帝国にとって兄弟のような国、家族その物の国、大日本帝国はでも、そのブリタニアの半歩前を歩き続けて先へ行くことも並び立つことも許さないのだ。

 

 第9世代機だってもう数百の単位で量産が始まっている。史上最強の騎士モニカ・クルシェフスキー専用機第9.5世代KMFフリーダム・フローレンスを開発したのも日本の倉崎重工先進技術開発室。KMFの進化を先導する日本が存在する限り、この恐竜的進化がとまることはないだろう。

 

 おかげで戦闘機、統合打撃戦闘機、浮遊航空艦、軌道衛星等と言った、空の守りにKMFが新たに加わったことは、デヴァイサーとして誇らしいし、KMF開発の会社を持つ貴族としても誇らしい。

 

 それでも日本に後半歩常に追いつけないのは悔しいけれど。そこはそれ、日本とブリタニアの役割分担だ。

 

 日本はその圧倒的なる技術力で。ブリタニアはその圧倒的なる生産力で。お互いを補い合えば良い。

 

 で、エナジーウィング機、話しは件のヴィンセント・グリンダ・カスタムを手足のように操れる人に戻る。

 

 グリンダ騎士団に抜けている人は居ない。上述通り。でも浮遊航空艦13艦、地上部隊33,000名のグリンダ騎士団の総団長、神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア皇女殿下の嘱託副官なんて、意味不明な役職に就かされている、日本人のデヴァイサー。玉城真一郎さん。

 

 彼は抜けている。間違いなく抜けている。随一抜けている。たぶん単純な戦闘能力では、信じられないけれどKMF戦に限って、玉城さんは、我がグリンダ騎士団最高位の騎士、ナイトオブナイツ・筆頭騎士オルドリン・ジヴォンに匹敵する。

 

 模擬戦での被撃墜率はオズが256なのに対して、玉城さんは254。ほぼ互角だ。

 

 これは信じられないことだった。あり得ては成らないことだった。民間人の玉城さんが筆頭騎士と互角なのだ。実戦では違っていたけれど、生還率100%。彼と共に居た騎士も彼に救われ生還率100%。

 

 ここまで行くともう彼は神に守られているとしか言えない。彼曰く『昔から悪運だけはアホみてーに強かったからよお』悪運が強い、で済ませられない。

 

 こうなると引けなくなったオズが日本の開発した新型シミュレーターで、玉城さんと戦うんだけど、この悪運が強いときの玉城さんは無敵状態で、オズが全戦全敗して空っぽになっているときに、オズの対面で。

 

『キャーッ! 流石は私のシン兄さまですわ~ッ!!』

 

 

 

 

 玉城真一郎は一本抜けている

 

 

 

 

 なんてマリーベル殿下が玉城さんに抱き着くものだから、オズの膝蹴りが玉城さんに飛んで、調子に乗っている玉城さんは吹っ飛ばされるわけで。

 

 これをまたマリーベル皇女が介抱するものだから僕やソキア、トトさん、マリーカさんで宥めて止めること数知れず。

 

 ともあれ、玉城さんは凄い人である。マリーベル皇女自らが自身の副官として認め、いや見初められるだけのことはある。

 

 シュバルツァー将軍も『この男にならば姫様を任せる事が出来る』と、自分も挑んで負けた将軍も仰っていた。そんな玉城さんだけど、僕も凄い人だと思う玉城さんだけど。とにかく抜けている。

 

 遅刻の常習者、だったのはネッサローズに移る前。彼がネッサローズに拉致――連れて行かれてからは、遅刻しなくなったという。マリーベル殿下が何かしたのだろうか。

 

 読み書き勉強が圧倒的に遅い、というか出来ない。ソキアからは「アホのたまきん」と呼ばれる始末だ。ブリタニアの第二母国語である日本語は幼少期には誰でも喋れ、読み書きも出来るようになる。

 

 日本でもそう、日本の第二母国語であるブリタニア語は幼少期に習いマスターする、それを玉城さんは初等部三年生になるまで話せなかったという。

 

 酒を飲んでねげ……。昼間から飲酒状態で出勤。廊下で寝転がって寝ている。エロ本雑誌をこっそり読んでいるつもりでも艦内上空から丸見えでマリーベル皇女に見とがめられて折檻。年上の女性を観るとナンパ。後でマリーベル皇女に折檻されているという噂だ。

 

 マリーベル殿下はグリンダ騎士団最強の騎士でもある。僕ら主要騎士が全員で挑んでも負けてしまうほどの圧倒的な強さを誇っている。

 

 そんなマリーベル様からでさえ競技KMFリーグで賭け事をして全財産を喪った彼は、勝ってしまったのだ。一対一の勝負でである。

 

 ぺたんと座り込むマリーベル殿下に。

 

『ガキが調子くれってからこういうことになンだよ。ちったァ分かったかよ。マリーベル・メル・ブリタニア。おめえ自身の弱さが』

 

 物凄い暴言だったけど、誰も何も言えなかったんだ。マリーベル殿下に勝ったということは玉城さんがグリンダ騎士団最強という証を手に入れたわけだから。

 

 ソキアは

 

『たまきんすげェェェマリーベル様を単騎で墜とせる奴なんていねェんだぜいッッ?!』

 

 と驚き。

 

 トトさんは物静かにだけどその強さに目を剥いて、地上の誰かと連絡を取っていた。

 

 なんか「このままでは本当に殿下の婿に……ララ……どうするの」って肝心の所は聞き取れなかったけど、殿下と玉城さんのことについてらしい。地上の友達か何か?

 

 ティンクは。

 

『あり得ない事があり得てしまう。玉城卿は我々よりずっと高みにいると言うことか。自分自身精進せねばな』

 

 冷静に分析。

 

 マリーカさんは

 

『凄い……嚮導学校にも行っていないのにKGFシミュレーターに乗った殿下を、……た、玉城さん凄いッ、凄いですッ!』

 

 マリーカさんの言葉にちょっとムッとした僕は、だけど。

 

『凄いッ。凄いですよ玉城卿ッ。まさかマリーベル殿下を、エルファバのシミュレーション騎に乗ったマリーベル殿下を単騎で討ち取るだなんてッ。誰にも不可能な事ですッ!!』

 

 あの時は真面目に尊敬した。絶対に不可能な事をやらかしたのだから。

 

 シュバルツァー将軍なんて

 

『真一郎殿に儂の教えることは無い』

 

 なんて涙を流していた。

 

 いや、皇室に入るにしては行儀見習いと言いますか。普段の態度が最悪なんですけど。

 

『ままッ、まーまーまー、みなのしゅう、俺がちっとばかし本気出せばガキの一人くれェよゆーよゆー』

 

 マリーベル殿下をガキって言うところがまた凄い。そんな皇族侮辱罪的なことを言う人間は約37,000人居るグリンダ騎士団の中には一人だって居ない。

 

 それどころかブリタニア中探したって居ないだろうに彼は平然と口にするのだから。アホというのもまんざら嘘ではなさそうだ。

 

 で、オルドリンは。

 

『おらァァァァ!!』

 

 気合い一線、鋭い蹴りの一撃を玉城さんのお尻に直撃させていた。

 

『ぶッ、ぶべらァァァッッ!!』

 

 艦内の壁に吹き飛び激突した玉城さんは動かなくなった。

 

『私のマリーになんてことすんのよこのくそ玉城があああッッ!!』

 

 そういえばもうみんな玉城さんの名前の呼び名が日本名で慣れたな。無意識的にマリーベル殿下のご婚約者だからっていうのが働いていたのかも。

 

 

 ※

 

 

 そんな凄くも抜けている玉城さんの事で、御前から午後、ネッサローズへと渡ろうとしていたときに聞いてしまった。

 

「この間さー、ソレイシィ卿に土下座してたんよ土下座。俺には君しかいないッ、頼むッ君しかいないんだーッてたまきんが」

 

 な、何だってッ?! 玉城さんがマリーカさんに土下座ァッ?! し、しか、も、君しかいないィィィッ?!

 

「彼、そういう方ですよ。私は友人から伺って存じております。いの一番、ここで終わりだというタイミングで本性を現すそうです」

 

 ほ、本性?! 本性ってぐへへへマリーカ俺の物になれとかってなんとかってことかァッ!!!

 

 それならば許さないッ、許さないぞ玉城真一郎ッ、適わぬまでもマリーカさんをッッ――と、そこまで激高する寸前だったところ。

 

「でもさー、日本円で100万も借りて返せんのー?」

 

 え? そういうことじゃない? え? まてよ? 金? 僕の大切なマリーカさんにお金を借りた?

 

 お、落ち着けレオンハルト。お金を借りるくらい良くある事。それが大金であっても。でも、僕に一言の相談も無く?

 

「1万ブリタニアポンドくらいだったっけ? ソレイシィ卿に拝み倒して借りてたんだぜい!」

 

「それ、返ってきませんよ。地上の、日本の東京にいるお父様のところに姉妹が住んでるんですけど、1円も返ってきたことが無いとか……。それと今回の例の騒動で姉妹が大泣きしてしまって、父が猛烈にお怒りだとか。玉城さん、地上に戻ったらただでは済みませんよ。姉妹も立ち直ったのか殺すか折檻かとぶつぶつ呟いているそうで。あ、私の姉妹暗殺者なんです」

 

「にこッって笑って言ってるけど、トト、それ偉い情報だよ。誰かに知られでもしたら」

 

 えと、暗殺者?トトさんのご姉妹が? いや、ここはまあ聞かなかったことにしよう。

 

 それより玉城さんが問題だ。マリーカさんにお金を返さないつもりで借りたのか?! それがホントなら許せない!! 丁度ネッサローズに行く時間だ。問い詰めてみよう。

 

 

 ※

 

 

「返さないつもりでマリーカさんにお金を借りたんですってね玉城さん」

 

 僕はグランベリーからネッサローズに着艦していた。場所は甲板。目的は金を返さない男への取り立てだ。

 

「いや、返すって、今度の競技KMFで倍にするつもりだから」

 

「なあッ?! ま、マリーカさんのお金を賭博に使うおつもりですか!? 見損ないましたよ玉城さんッ! あなたはッ! あなたは凄いお人だとばかり思っていたのに!」

 

 マリーベル殿下を倒せる凄い人だと思っていたのに、こんなにもお金にだらしがないなんて。

 

「い、いやいや、俺本業ニートなんですけど。国会議員に成る予定の議員とも言う」

 

「誤魔化さないでくださいッ! 友達に地上とのやり取りをしている女性がいらっしゃって、その方が仰るには、その方の父と姉妹の方にお金を借りて返していないと先ほどお聞きしましたよ!!」

 

「いやいや、だーかーらーッ、その金を返すためにグリンダ騎士団に仮入団させられたわけ。俺頑張って日々返し取るのよ、給料全額さっ引かれて」

 

「え? そ、そうだったのですか」

 

 僕はてっきり地上の借金取りから逃げてきたとかばかり考えて。そ、そうじゃないのですね。

 

 う、うん。で、でも、マリーカさんから更に金を借りていたら意味が無い。

 

「ところでレオンハルトくん」

 

「は、はいッ」

 

「一端の男ってなあな、競馬もパチンコもやっちゃってなあ、煙草もビールもやっちゃってなあ、女はまあ君の場合不味いが女もやっちゃってだなあ。そうやって漢って奴になっていくんだぜ」

 

「え? え?」

 

「ちょうどここに札束があるんだなあ~っ」

 

 

 ※

 

 

「き、来ましたよ玉城さん大穴ですッ」

 

「俺も来たぜーッ!! 今日は乗りに乗ってるぜ!!」

 

 玉城真一郎の部屋。と書いた看板を下げた部屋の中。酒臭い匂いと、ネットラジオを聞きながら二人の男が身を寄せあって、競馬を楽しんでいた。

 

 二人とも泥酔状態である。

 

「世の中ネットで馬券買えるなんざ楽になったもんだぜ」

 

「玉城さん、次ッ、なんば――」

 

 と、その時だった。すーっと玉城の部屋の自動ドアが開いたのは。ロックをしていたはずなのにロックが解除されているのはマスターキーで開けられたから。

 

「……」

 

「……」

 

 固まる二人。なにせ二人の前には茶髪のショートカットの神の少女と、薄紅色の髪を腰下まで伸ばした、ピンクを基調としたドレス姿の美女が立っていたのだから。

 

 にっこりと、笑顔で。

 

「兄さま~、賭け事は禁止ですとあれほどに言い置いていたはずなのですが~」

 

 マリーベル・メル・ブリタニア。彼女は事実上の婚約者である愛おしい兄さまがこれ以上借金を増やすことを望まない。借金が増えればライバルであるクララ・ランフランクを利するだけなのだから。

 

 あるいはこれもクララの想定内の出来事なのかも知れませんわねと、優しい笑顔で愛する兄さまに迫る。

 

「ま、マリーしゃん、これラジオ聞いてただけ――」

 

 言い訳をしようとした玉城の右頬を、ひゅっと音を立てて振り抜かれる美脚。ヒールの先が頬を掠めて血が滲み出てきた。

 

「レオ~ン、どういうことなのでしょうか? 私が玉城さんにお貸ししたお金で玉城さんと一緒に賭博を為さっているとは“私のお金で”レオン、御説明を」

 

 マリーカ・ソレイシィ。婚約者たる辺境伯令嬢は目を離すことを許さずレオンを詰問する。

 

 

 この日、レオンハルトは一つ勉強した。玉城真一郎さんはやっぱり一本抜けている。以上彼についてわかったことがまた一つ増えた日だった。マリーカさん痛い。レオンの左頬にはモミジの後。

 

 しかし玉城に比べればましだろう。だって彼は今、こわ~い笑顔の皇女様から折檻を受けているのだから。隠していたエロ本までも見つけられて……。

 

 

 

 



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玉城真一郎がグリンダ騎士団に入団しますた(駄目男シリーズ)
馬鹿と薔薇と皇女と魔弾


玉城グリンダ騎士団入団


 

 

 

 それは皇歴2020年某月。南天の超巨大テロ組織、世界中に100,000,000人の構成員が存在するという“白い翼”の躍動と、南天本体の北進の兆候が見られることから、一計を案じた神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアは。

 

 対テロ遊撃部隊であるグリンダ騎士団を現行の4艦6000人体制から、13艦30,000人体制へと大幅増員をすることに決めた。

 

 その規模は地上部隊と浮遊航空艦部隊。別途に用意したKMFヴィンセント・グリンダ部隊などと併せれば、総数にして36,000~37,000。実に3個師団に上る大部隊だった。

 

 しかし、南天勢が本格的に動き出した今、この規模でさえまだ足りない。充分に大グリンダ騎士団と呼び始めても良い頃のこの規模でさえ。

 

 100,000,000人のテロ組織、その傘下に無数の犯罪組織や、シンジケートを抱える白い翼に対しては微々たる物でしか無く、白い翼が動き出せば現在のグリンダ騎士団など。

 

 それに白い翼など問題ではない。もしも南天正規軍――南天条約機構軍とグリンダ騎士団がぶつかれば……グリンダは容赦の無い死兵の津波に呑み込まれてしまう。

 

 そう考え、悩みに悩み、更なるグリンダ騎士団の戦力拡大をシャルルが考えている頃。

 

 ※

 

「ダ~メ~っ!駄目ったら駄目~っっ!!」

 

 ゴシック調の黒い服を着た美少女が叫ぶ

 

「兄さまはわたくしが連れて参りますの~っっ!!」

 

 桃色を基調とした衣服の美女が叫ぶ。

 

 大日本帝国はV.V.邸で二人の少女。正確には美少女と美女が争っていた。一人の男を挟んで。

 

「や、ヤメロてめ~ら、まじでふくちぎれっちまう~っ」

 

 そして紫の服に身体にフィットしたGパンの威勢良く髪を逆立てた不良風の男が叫ぶ。

 

「そのときはわたくしがコーディネートして差し上げますわ。いつでも仰ってくださいマシな」

 

 にっこり笑顔なのは服を引っ張っている一人。薄紅色の腰下まで届く長い髪。どこまでも深いディープブルーを思わせる美しい瞳。胸は大きく、背はそれなりに高い。背中に羽を収納した桃色を基調としたロングスカートのドレス。神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア・こと、マリーベル・ランペルージその人であった。

 

「いらないことしなくてもいいんだよ! お兄ちゃんの世話はこのクララが万事任されてるんだから!」

 

 こちらも勝手なことを言っている、桜色の綺麗な瞳に、同じ色の膝下にまで届く長い髪。胸は小ぶりながら年相応に女性らしい身体になりつつある少女。2019年度で17歳、2020年度で18歳。お前の成長はここまでと男に言われてムキーっと激高すること数知れず。その正体はギアス嚮団という秘密結社のナンバーワン暗殺者。クララ・ランフランク。もう一つの名をクララ・ジ・ブリタニア。ブリタニア帝国皇兄殿下の実の娘でもあるのだ。

 

「テメーらまず俺の意見を聞けェェェ俺は政治家になってだなあ」

 

「ああもうそれ聞き飽きたから」

 

「兄さま、不可能とは、夢想以上に適わない事なのですよ」

 

 否定に入る美少女と美女。クララは美少女、マリーベルは美女だ。町を歩いていれば必ず声を掛けられるくらいの美少女と美女。その先の選択肢次第で声を掛けた者の命運は変わってしまうほどの危険人物だが。

 

 二人は共に個人戦闘力が恐ろしく高い。クララは暗殺術に長け、更にギアスという超能力のような力をその綺麗な桜色の両目に宿している。この力自体も非常に危険で『目視した人間の名前を叫ぶことで対象の肉体の自由を奪い、意のままに操るもの』が、今では能力が向上し『目視した対象を意のままに操る力』へとパワーアップしている。

 

 マリーベルは軍の嚮導学校などのシミュレーターで最高点を出す実力者。本人も数多くの戦闘を経験しており、南ブリタニア大陸に巣くう民主共和制原理主義組織ペンタゴンの№2の首級はオルドリン・ジヴォンがあげたが、その他の中級幹部の多くを殺害したのはマリーベルである。

 

 そのマリーベルもギアスを持っている。その力は『相手の自我を奪い殺戮人形にする絶対服従のギアス』これを進化させ両目にギアスを顕現できるようになった今『自由に掛け解きを可能とし相手の自我を残したまま絶対服従のギアスを掛けることも可能』となっており彼女自身の成長の証でもある。

 

 そんな強く、聡明で頭も回る二人が言い争う中心点にいるのが、ニートの三流校卒のアホだとは神様でも思うまい。

 

 事の始まりは、お兄ちゃん・兄さまこと玉城真一郎の借金返済について。これをV.V.邸でいきなりマリーベルがぶち上げたこと。

 

 ナイトオブナイツことオルドリン・ジヴォンは、流石のマリーベルに対しても『マリー一言言わせてばっかじゃないの』と言われるほどの、ずさん且つアホらしく実現したらしたで頭痛くなることこの上ない計画だったのだ。

 

「伯父様。兄さまの借金は返せる見込みは?」

 

 すると畳の上にざあっと広がるほど長い、踵まで届く髪を持つ、見掛け10歳中身65歳の伯父さんは言った。

 

「僕の所で8.5号機のデヴァイサーやってもらってるからね。上手くいけば3年かな」

 

 あれだけやって3年かよテメー舐めてんなよ糞ジジーとぶーたれるアホは放っておく。

 

 そこでクララが手を上げる。

 

「お兄ちゃん、クララからも三桁台の借金してるよね」

 

 これを聞いたルルーシュが。

 

「な、ナナリー、人の良さにつけ込まれてかしてないだろうな」

 

 と、慌てるも。

 

「玉城さんの為になりませんので無心はされましたがかしてません」

 

 クララよりも更に年下のナナリーにまで無心していたのだ。もう人として終わっている。

 

「そういえば私の所にも来たな金の無心に」

 

 コーネリアがぼそっと呟くと。

 

「玉城貴様ァァァァァ!!」

 

 ギルフォードが剣を抜きかけたので、コーネリアが止めた。

 

「まあ、待てギルフォード。アホのすることに一々付き合っていてはこちらまでアホになる。コイツの受験のために私が一体何度勉強を教え何度落ちたか。私の教え方が悪かったのかと自問自答したが分かったのだコイツがアホすぎるのだと。次の受験頼られたら教えてやるが落ちてもそれは私の所為ではない」

 

 もうコーネリアは呆れている。コーネリア・ランペルージ、またの名を駐日ブリタニア大使コーネリア・リ・ブリタニア。彼女も弟妹たちの騒動に片足を突っ込んでいたが、静観の構えを取って居た。とにかくアホに関わると碌な事にならない。

 

 ギルフォードにも伝え「御意」と下がるギルフォードを見て息をついた。

 

 結局の所この騒動の発端は玉城の借金とそれを返す方法の論議なのだ。このまま伯父のところでバイトをしながらゆっくりと返していくか。マリーベルの騎士団に仮入団し多くの給金を貰い一気に返すか。

 

 これに猛反対しているのがクララなのだ。借金なんかクララのポケットマネーで全額返済してあげるよと。印鑑付きの口座番号の預金通帳をもう要らない季節になってきたコタツにバンッと押し付けたのが原因。

 

「一、十、百、千、万、十万、百万、一千万、一億、じじじじ十億、……クララ様、なんすかこれなんすかこれッッ!?」

 

 アホは興奮状態でクララを見て。

 

「クララの預金。だから前から言ってるじゃん。クララはシークレットエージェントだからそのくらいは稼いでるって」

 

 ここで、クララが本当に正体をバラした。

 

 ヒュッ

 

 シュキッ

 

 一瞬で姿を消すと、大好きなお兄ちゃんの首元に細いナイフを当てていたのだ。

 

「お兄ちゃんみたいな不良さんなら半日で1,000人は殺せるよ。裏技使ったらもっと行けるけれどね。このナイフもそれくらいじゃ刃こぼれしない丈夫なものだから」

 

 溢れ出す冷気、殺意、玉城が始めて感じ取るクララの本当の姿。彼女は玉城の後ろで更に両目に鳥を羽ばたかせている。

 

 それを――

 

 じィン

 

 同じくナイフの音。刃と刃が鍔迫り合いをした音だ。今度ナイフを取り出したるは桃色のロングドレスの女性マリーベル・ランペルージ。

 

「兄さまへの狼藉は許しません」

 

 クララは冷静に応じる。

 

「狼藉? あの通帳を見せた時点で本当の“私”を見せなきゃお兄ちゃんも信用しないでしょう」

 

 玉城は始めて聞いた気がするクララがクララと言わず私と自分の事を呼称したのを。これが本当のクララ、なのか?

 

 それに、そのクララのナイフを簡単に受け止めたマリーの剣、短剣っていうのか。アレで簡単にクララのナイフを押し止めた。俺の首元に当てられていたナイフを。

 

「ふーん……困ったなあ。これもう誤魔化しがきかないよ。真一郎、キミ日常を歩いていたいんだよね? だったら今日のことすっぱり忘れて僕らと完全に縁を切るか。とことんまで深淵を覗くかのどちらかしかないんだけど? どうする」

 

「はわわわ~ッ」

 

「あ、逃げた」

 

 玉城は逃げた。怖くて逃げたんじゃ無い。現実に追いつかなくなって、追いつけなくなって、一端頭を整理するために逃げたのだ。これでも全部投げ出して逃げるような無責任な男では断じてない。

 

 V.V.ファミリーとは一体何なのだろうか? クララの持っていたあの十億なんてデタラメな大金は何なのだろうか。クララから感じた身の毛もよだつ死んだと感じさせられたあの殺意は。そのクララの殺意を真正面から受け止めて平然としていたマリーベルは。

 

 考え考え考え抜いて、それでも出ない答えに現実が追いついてくるのでは無いかという恐怖に苛まれながらに逃げ続けていたために、前方を歩いた人への視認が遅れてしまいぶつかってしまったのだ。

 

 どんッ

 

 人にぶつかった。考え事をしていては気付かなかった。

 

「っとごめん、わりィ」

 

 別に恐怖に駆られて逃げたわけでは無いので普通の対応が出来た。が、相手が不味かった。

 

「なんだガキか。わりいなお嬢ちゃん」

 

 その対応も不味かった。

 

 その少女は持っていたステッキを瞬間にしてくるりと逆さに持ち替えると、玉城の脚を引っかけ。

 

「うぎゃッ」

 

 喉を突いたのだ。

 

「っててて、てめいきなりなにしやがッッッ……!!」

 

「それはこちらの台詞だわ。歩いていたところをいきなりぶつかってきて“わりィ”“ガキ”などと無礼な。これでも私は今年で27よ」

 

 薔薇が咲いたような真っ赤なドレス。欧米紳士が持つようなステッキを持つ、赤いヘッドドレスに細く黒いリボンで結い上げられた身の丈よりも長いだろう美しい金色に輝くロングツインテールが風に靡いている。

 

 こんな時じゃなかったら見とれていただろうビスクドールのように美しい女性は、透き通った蒼い瞳で不躾な男を見下ろすと年齢を告げた。

 

「と、年上ェェェ!! ちんまい年上なら他に知り合いにもいるがまさか2人も居るとは思わなかったぜ」

 

「下郎、名を名乗りなさい」

 

 命令である。強制では無く確かに命令である。何故なら玉城の喉を突いているステッキの力は寸分も緩められていない上に、女性の潤みを帯びた蒼い瞳は冷ややかにこちらへと向けられたままなのだから。

 

「た、玉城、玉城真一郎……」

 

 逆らってはいけない。第六感が告げている。この女もヤヴァイ類いの女だと。

 

「タマキ……貴方がシンイチロウ・タマキ?」

 

「え、あ、あ、ああ、ブリタニア風に直すのならな」

 

「……ふーん、とても相応しく見えないわ」

 

「な、なんの」

 

「皇女殿下のご婚約者としてよ」

 

 ハアっ?! どっから出できやがんのよ皇女殿下の婚約者って。つーか皇女殿下って誰よ? 神楽耶皇女殿下?俺一回もあったことねーし、神楽耶皇女殿下にはもブリタニアのオデュッセウス第一皇子殿下とご婚約が。

 

 アホはアホなりに勉強してきた知識がそれなりに役立った瞬間でもあった。アホでもやれば出来るのだ。ただそれを受験で生かせないだけなのだ。

 

 そんなことを考えていると――

 

「シンク様! こちらでしたか! あれほどお一人に成られては成りませんと申しつけておりましたのに」

 

 様ァァ?! やっぱこいつもどこかのお嬢様かよ。瞬間、黒服の一人がこちらを見棘馬手振り向いた威圧感が半端ない。そこらの不良やヤクザがチビって逃げ出しそうなほど。

 

 かく言う玉城も逃げ出したくて仕方が無かった。逃げても良いなら。でも俺の喉元に突きつけられたステッキが逃がしてくれないんだよ。

 

「む、貴様ローゼンクロイツ家第五女、シンク・ローゼンクロイツ伯爵ご令嬢に対し御無礼を働いてはいまいな」

 

 は、は、伯爵令嬢?! 貴族? ブリタニアの貴族しかもローゼンクロイツ伯爵家っつったら上から数えた方が早い上位伯爵家じゃねえかよッ! そのご令嬢が何でこんなとこに!?

 

 無駄知識。ある意味で有用知識を覚えている玉城。やはりこれを受験に活かせないのが彼の彼たるゆえんだろうか。通称アホの玉城は今でも健在なのである。

 

 一夜漬けで詰め込んだ社会や歴史の知識が、よもやこの様な場所で出て来ようとは誰も思うまい。彼は。

 

 ヴェルガモン家、シュタットフェルト家。ヴァインベルグ家、ソレイシィ家、クルシェフスキー家、アッシュフォード家、名だたるブリタニアの名家を知っている。社会勉強したからだ。

 

 それも当のローゼンクロイツ伯爵家縁の者とこんな街中で邂逅しようだなんてまさか思いもしない。社交界では薔薇乙女と呼ばれている第五女。ローゼンシスターズはそれぞれが優雅な薔薇に例えられることが多い。

 

 中でも赤いバラ、第五女は日本へ輿入れした令嬢で有名だ。輿入れと言っても籍はローゼンクロイツ家のままだが。嫁いだ先がまた凄い先の名外相、吉田茂の孫で、現外務大臣麻生良太郎のところなのだ。

 

 名家は名家と結ばれるというがやはり本当なのだろうと馬鹿なりの頭で解釈した。

 

「無礼は働かれていないわ。少し世間話をしていたところよ、そうでしょ?」

 

「ははは、はい、シンク様とは、お世間話を」

 

 モノホンの貴族となんか話したことねーから話し方わかんねーよ。どう話せば良いんだよ。

 

「……」

 

「……」

 

「何か話しなさい」

 

「な、何かと申しましてもですね。私に話題をお振られ戴きましても、なんともお答えにお難しいと思う仕上げますか」

 

「文法が滅茶苦茶だわ。もう無理をして丁寧な言葉遣いを使おうとしなくてもいいから普通に話しなさい普通に」

 

「じゃあ、普通に話すわ、つーかSPの人いきなり無礼なとか無礼討ちにして来たりしねえェ?」

 

「一度注意してあるから大丈夫よ。それよりあなたあんなに急いでどうしたの? 前から歩いてくる人間も見えないくらいに走り回って」

 

 そりゃあんたの背が小せえからという命知らずな事は言わない。相手は天下のローゼンクロイツ伯爵家の御令嬢なのだ。自分の首なんてポーンと跳ね飛ばせる相手なのだ。

 

「いやまあ掻い摘んで言うとだなあ」

 

 十億の預金通帳を出されてビビッて。豹変した幼馴染にナイフを首筋にあてられた。瞬間これまた豹変した幼馴染に短剣でそのナイフを止められた。

 

 それで現実を生きるか、非現実を生きるかさあどうするかと迫られて、逃げた。という事だった。

 

 通りのベンチに座っている二人、少し遠くにはアホみたいに高い900m1,000mのビルが建っているのが見える。シンクにはSPが赤い日傘をさしている。季節は春を過ぎようとしていたが丁度良い小春日和。ここまで聞いたシンクは一言。

 

「情けない男ね」

 

「んだとぉッ!」

 

「ようはあなたはあなたが怖くて逃げたのではない。得体のしれない周りが怖くて逃げたのでもない。物事についていけなくなって逃げた。違うかしら?」

 

 自分が怖いわけがない20と6年生きてきて自分が怖いと思ったことは無かった。じゃあクララが怖かったか? 確かに首筋にナイフを充てられたし、殺気とか呼ばれるのをバンバン飛ばされた。だが別に俺は幼馴染のあいつがいきなり自分の事を切りつけてくるとも思ってないし、あんなの悪戯の延長線とも言えた。じゃあ、それを懐から取り出した短剣で以て冷ややかな目線で止めたマリーが怖いかと言われれば、はっきりと言える怖くないと。

 

 マリーは俺を助けようとして咄嗟にああいう行動に出たのであって、あっちが素のマリーってんならそれはそれでいいんじゃないかなとも思う。

 

 結局のところ最終的にあいつらは何なんだ?いったい何様でどこの誰なんだ? おっさんは言った。

 

『キミ日常を歩いていたいんだよね? だったら今日のことすっぱり忘れて僕らと完全に縁を切るか。とことんまで深淵を覗くかのどちらかしかないんだけど? どうする』

 

 すっぱり忘れてってのは縁を切るってことだ。縁を切ってこの東京で一から出発して一から始めるってことだ……何もかもなかった事にして。

 

 おっさんに家賃滞納で物を差し押さえられたことも。おっさん家でゴロゴロしてたらルルーシュに蹴っ飛ばされたことも。

 

 ナナちゃんに作りすぎのクッキー余りものを頂いて美味しかったことも。ジェレミアをからかってみたら生真面目なあいつは本気でどぶ川に飛び込んだことも。

 

 そこのことで奥さんのヴィレッタに折檻を食らった事も。おっさんの居室でゴロゴロしてたらやっぱりおっさんに蹴飛ばされたことも。

 

 ネリーに勉強を教えられたことも、教えられたのに受験落ちまくって怒られまくった事も、おっさんに、クララに三桁の借金してギャンブル三昧でアウトだったことも。

 

 高校卒業してからホント、あいつらとは色々あったぜ、それを全部無しにする? ……ねえよ。みんなとの思い出を無しにして一からやり直すだぁ? そんなもんはなぁ、一なんて言わねえんだよ無しゼロだ。

 

 おれはみんなとの嫌な事もあったし、楽しい事もあったし、ツレえこともあったし、のんびりしたこともあった。そんな毎日が大好きなんだよ。

 

「なあ、貴族様」

 

「シンクで良いわ」

 

「シンク様……やっぱり俺、みんなのところへ帰るわ。そんで謝る。急に逃げ出して御免、訳わかんなくなって逃げた。だから俺はこれからもみんなと一緒にいてェって伝えに戻るぜ──」

 

「そう、でも、その必要はなさそうよ」

 

「は?そりゃどういう」

 

 

 きゃきゃきゃあああああ右右イイ──

 

 思いっきり右に切ってるぜい! オズのケツがデカいからァァァ──

 

 だ、誰のケツがデカいですってェェェ──

 

 ふ、二人共はしたないですわこのような公衆の面前──!!

 

 ソキアさんのスーパーテクにケチ付けるからさァァァァ──

 

 うわああああああッッッ、ソキアお姉ちゃん前見て前ッッッ

 

 のわわわわわわわわわわ───!!」

 

 

 

「良太郎」

 

「わーってるい」

 

 名前を呼ばれて気が付いた。俺の直ぐとおなりにくわえたばこのダンディなおっさんが立ってたことに。SPじゃない。それどころか当のSP自身が驚いてる。

 

 勉強してるときに読んだことがあるこれがあれかよ。気配遮断ってやつかよ。まじで使えるやついるんだな。

 

「簡単な遊びだ」

 

 服の内側をわずかに見せたかと思うと‟プシュッ”と空気が抜けた音がして、俺たちの目の前で二人乗りのマウンテンバイクはバラバラに空中分解するように解体されちまうと、乗ってた四人。

 

 運転手ソキア、その後ろにオルドリン、ちょうど真ん中にマリーベル、最後にちっこいのクララがそれぞれ空中で放り出されて。すげえなと思ったのが誰も誰かの助けを必要せずに空中で身を翻しその場に上手く着地した事。

 

 やっぱ思ったとおりこいつらただ者じゃねえわ。普通ありえねえだろ、ぶっ壊れて空中分解した自転車から落ちて、普通に着地するとか。

 

「ったく、ソキアがこっちからたまきんの匂いがするって言うから従ったら偉い目に合ったじゃ無い。さっきの何かチカッひかって光って自転車がばらけなくちゃ人混みに突っ込んでたわよ」

 

 やっぱり隣のおっさん何かし――げええええええ?!

 

「あ、あ、あ、あ、あんあん、た、麻生、良太――」

 

「散々俺のワイフと語らっててくれたみてェだな兄ちゃん。本来なら死刑もんだが、おめえェさん死刑にしちまうと俺があのブリタニアの嬢ちゃん共とやり合うことになっちまう。負けやしねえが二人相手はちと時間を食うからなァ」

 

「わ、ワイフって」

 

「赤いドレスの金髪ツインテールだよ」

 

「はあああああァァァ?! 麻生大臣の奥さんってあんなちっこかったのかよ」

 

「本人の前では絶対に言うなよ気にしてるから殺されっちまうぞ。身体は小柄だがあれでもそれなりに戦闘能力は高い。見かけで判断してたら痛い目みるぜ。と、俺っちも挨拶しとかねえとな」

 

 コツ、コツ、コツ、自転車が無くなったから返るときあーだーこーだと良いあっていた四人の元へと足音が近づいてくる。ヒールの足音。周りには黒い衣服で身を固めたSPの姿。

 

 マリーの回るにも見掛けるし、オズの周りにも見掛ける。時々うっとうしいとさえ感じる彼らの職務は、対象人物を守ること。

 

 気配そのままに現れたのは、身の丈よりも長い金色の艶やかな美しい髪を、頭の側頭部高くに細く黒いリボンで丁寧に結い上げられ地に着かない様にと毛先が少し浮いている。

 

 水晶のように透き通った蒼い瞳は心の奥までも見透かしてくるような不可思議な色と潤いを湛えている。そして赤、ヘッドドレスは赤、衣服も赤、スカートも赤で靴も赤、赤いドレスを纏った少女。薔薇の妖精のように美しかった。

 

 その赤い少女はドレスを摘まむとこちら側へと挨拶をしてきた。

 

「まず始めに非礼のほどをお許しください」

 

 丁寧に赤い少女が言うと。

 

「よい、差し許す」

 

 マリーベルが返す。

 

「神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア殿下、マリーベル殿下の筆頭騎士オルドリン・ジヴォン様、ギアス嚮団筆頭暗殺者にしてブリタニア皇兄殿下ご息女クララ・ジ・ブリタニアさま。グリンダ騎士団騎士ソキア・シェルパ様。で、間違い御座いませんね?」

 

 マリーベル殿下、ジヴォン卿とはいつぞやの舞踏会以来ですね。と、赤い少女が言うと。

 

「シンク・ローゼンクロイツ卿ではありませんか!! お久しぶりです私はちっとも踊れませんでしたが」

 

 少し恥ずかしげにたははとオルドリンが話すと、シンクはそれを否定するでもなく。

 

「踊りというのも剣の道と同じです。一や二、十や二十、百と二百と修練を重ねていくことで上手くなっていくもの。今覚え始めて今上手く成られては私たちの立つ瀬が御座いません」

 

「た、確かに」

 

「マリーベル殿下もご立派に成られましたね。昨日私と同じくらいかと思えばもう追い抜かされて」

 

「シンク様はそのいつまでも変わらないお若く、小柄なお姿こそが、大輪の赤い薔薇という美しさを表わしてお出でだと思うのです」

 

「勿体ないお言葉を痛み入ります」

 

 そこへ、煙草をくゆらせながらあたまをガリガリ搔いて居心地悪そうに入って来た人物一人。凡そ華やかなるご婦人達の間に入ってくるべきではない無粋な男。片手には玉城の襟首をひっ噛んでいる。

 

「ああー、いいですかいご婦人方」

 

「良太郎なにも遠慮することは無いわ」

 

「俺が遠慮すんだよ。ああ、おりゃシンク見てえな貴族じゃねえ.貴族的作法についちゃ勘弁してくれ。麻生良太郎。大日本帝国枢木内閣外務大臣をやらせて貰ってる」

 

 

 えええええええええええええ?!

 

 

 知っている者知らない者。それぞれの叫び声がこだました。

 

 麻生良太郎。裏の世界では知らない者はいない世界最強を冠するスナイパー。有名処の伝説では1m内でのビリヤードを(弾丸討ち)をこなし、スコープ無しでの1㎞の超々射程ピンホールショットを簡単にこなし、跳弾を利用した敵兵団の全滅をもやってのけたことがあるという。本来の得物であるライフルでは戦闘機さえも撃墜している怪物だ。

 

 狙った敵は外さない、意思ある弾丸を放つという意味で魔弾の射手と付けられた二つ名は、子供の頃のあだ名だったりもして恥ずかしくもあった。

 

「魔弾の、射手……」

 

 マリーベルの額から頬に掛けて一筋の雫が落ちる。もしも敵であったのならばこの場の何人かの命は覚悟しなければならない。

 

 だが――

 

「おいおい姫さん騎士さん方、そう殺気立つない。言ったろーが。枢木内閣外務大臣ってよ。ついでに言わせて貰うとその肩書きもつかうつもりはねーよ。嫁の付き合いでのんびり散歩してただけ出しよ」

 

「麻生大臣のお嫁さんて……」

 

「そのちんまいのだ」

 

 

 ええええええええええええええ?!

 

 

「ありゃ、オズしらなかったのかにゃ~? 社交界じゃ有名だぜい?!」

 

「だ、だって、二人でいるのあんまり見たことないから」

 

「おらそういう華やかなところは苦手でね…………でだ、言うことあんじゃねーのか小僧」

 

 小僧こと玉城に振られた話題。いつかは来ると思っていたが遂に来たかと緊張が走る。

 

 すぅー、はぁー。

 

「マリー、マリーベル・メル・ブリタニア皇女殿下。か、数々の御無礼、平に謝る。申し訳なかった」

 

「そのような、こと」

 

 マリーは玉城兄さまの口よりその様な言葉を聞きたくなかった。いつも馬鹿にしていてくれても良い。でも明るいほと小馬鹿にする態度で接して欲しかった。

 

 まるで今の様な臣従関係のような……そんなのは何よりも、嫌だった。

 

「クララ、クララ・ジ・ブリタニア皇兄女殿下。これまで犯してきた数々の御無礼と非礼。お詫びしてもお詫びし尽くせねえ。本当になんて言ったら良いか……」

 

 何を言われているのか分からなかったクララ、さま? お兄ちゃんがクララ殿下ってそういったの? やだ やだよ そんなのやだよ。どうしてお兄ちゃん。クララそんな風に呼ばれたくない!

 

 いつものお兄ちゃんに戻ってよ!!!

 

「この馬鹿ッッッ!!!」

 

 良太郎が玉城を殴る。

 

「女に謝罪して女泣かせるとかお前は屑の世界チャンピョンか。ちげーだろお前が言いてえのはそれじゃねーだろ」

 

 

 キミ日常を歩いていたいんだよね? だったら今日のことすっぱり忘れて僕らと完全に縁を切るか。とことんまで深淵を覗くかのどちらかしかないんだけど? どうする

 

 

「マリー…………、クララ……、オルドリン、ソキア……、今更なんて虫のいい話だ、人に言われてなんて最悪だよな。けどよ、このいい加減な男が玉城真一郎なんだよ。こんないい加減男で良かったら、これまで通り、お前等の傍にいさせてほしい!!」

 

 ぽろぽろと大粒の涙が出てくる、いちのまにかマリーが俺を真正面から抱き締めて泣いている。ああ、いつもの俺ならエロいことの一つや二つ思い浮かべているはずなのに感情が死んでる見てえにエロいことを考えられない。

 

 クララが脇に抱き着いている。いつまでたってもちんまいなあとかの皮肉がまるで出て来ない。今は言えるクララを一人の女として視られる。普通にいい女だこんないい女を袖にしていたなんて屑だよただ、マリーとどっちがって言われると甲乙付けがたい。

 

 ここにネリーを加えるとネリーに軍配が上がってしまうう~ん困った。とりあえずはさ、これでいいんだよな。

 

 

 ※※※

 

 

「ま、なにはどうあれ、世は全て事も無し……。が、続けば良いんだけど、あんだけ獲物が居りゃな」

 

 燻らせている煙草の火を消すと、街を循環中のお掃除ロボットの近くに放る良太郎。

 

 放ると同時に見えない速度で一発発砲カメラで捉えられていない。

 

「また一人、迷子になってしまったのね。迷子になった子はもう二度と返ってこない」

 

「進んで迷子になりたいやつの気は知れんよ――全天に美しき世界の実現の為に。だそうだ」

 

「一体何人迷子になるのかしら」

 

「さあな」

 

 コツ、コツ、シンクは静かに歩み寄ると、小首をかしげ両腕を掲げ上げた。地面に付きそうな長い金色のツインテールが大きく揺れる。

 

「良太郎。抱っこ、してちょうだい」

 

 夫の名を呼びシンクは手を伸ばす。

 

 夫たる良太郎はそんなシンクを左胸へ持たれ掛けさせながら、左手に座らせるように彼女の定位置へと就かせてあげる。

 

「これでいいか?」

 

「ええ。さあ、早く参りましょう。本日の帝都探索はまだ半分も終わっていないわ」

 

「はいはい」

 

「はいは一回」

 

「へいへいへいへいへいえぱしぃッいでェ」

 

 シンクが長い髪を鞭代わりにして良太郎の頬をバシッと叩いたのだ。

 

「髪の毛を鞭代わりに使うなよいてーんだぞそれ」

 

「僕の癖にご主人様に口答えするからよ。僕は僕らしくご主人様のいう事を訊いていたり位の」

 

「分かりましたよお嬢様」

 

 そういいつつ春風の中二人は静かな靴付けを交わした。

 

 二人の仲の良さの証でもある。

 

 

 ※

 

 

「ええええええ――――ッッッお兄ちゃんをグリンダ騎士団に入団させるぅぅ!! ぱ、パパ本気で言ってるの!!」

 

「ああ、至って本気。まず空の上にいれば下手に賭博には手を出せない。ネットって言う手段があるけどどうとでも出来る。それにグリンダで本気で働いたら借金の完済も可能。いいことずくめじゃないか」

 

 冗談じゃない、グリンダにはあの女がいる。

 

「クララにとっても兄さまからの借金を完済する良い機会、だと思うのですが。如何でしょう」

 

「3年くらいの間だしその間にも日本とかに降りたりするんだろ?」

 

「ええ、もちろんですわ♪」

 

「でもってオルドリンはハイグレイルは扱えるけれども、俺様みてーにゃ8.5号機以上のエナジーウィング機は扱えねーと。いやーまいっちまうぜ。ナイトオブナイツよりも戦闘力が上の新人とかって」

 

 現在グリンダ騎士団にエナジーウィング機乗りこなせられるものは居ない。玉城が入って始めて乗りこなせる者が見つかるのである。

 

 レオンなどは目を輝かせて玉城に話を聞きに行っている。

 

「玉城さん! エナジーウィング機を操るコツみたいなのいるんですか!」

 

「まあ練習だな地道に練習あるのみよ」

 

「練習。してれな僕もいつか玉城さんのようにエナジーウィング機を」

 

 ソキアは少し離れた場所でティンクとお菓子を頬張りながら玉城を見ていた。

 

「ああいうキャラうちらの中にはいなかったからさー。案外基調だよねー。8.5世代機を手足のように乗りこなせるのも凄いけどさー。ところで玉城隊員!!」

 

「んだーにゃーにゃーのねーちゃん」

 

「誰がにゃーにゃーのねーちゃんかソキア先輩とよびんしゃい!」

 

「わーった、ソキアなにー」

 

「生意気な奴めー。まあいい、缶ジュース買ってこーい」

 

 二本分200円放り渡した。なんで俺がと言う玉城だが悲しいかな肉体労働者の一番下っ端は缶ジュースを買いに行かされる係なのだ。

 

 

 こうして決定した玉城真一郎のグリンダ騎士団の入団

 

 

 勝ち誇るマリーベルはクララと擦れ違いざまに耳にした。

 

「空の上でお兄ちゃんに何かしたら殺すから」

 

 マリーベルも一瞬素の表情に戻ると。

 

「受けて立ちますわ」

 

 

「たーまーきーッッ!!だーれがあんたなんかより弱いですって!!」

 

 騒動を訊いていたオルドリンが切れて玉城の尻を蹴り上げた。

 

 

「うぼあァァァ!!!」

 

 

 どこーんとへこんだスペースに見事クリーンヒットする玉城は謎の断末魔を残して気絶。

 

 勝誇ったオルドリンはそのままマリーベルとの模擬戦に直行させられるのであった。

 

 

 ※

 

 

 大空へと上がっていくネッサローズ以下3艦。ただし、ここにブリタニア皇帝が危惧に危惧を重ねた結果更にも9艦と地上部隊の増強、ネッサローズ、グランベリーのアヴァロン級化改造を受けグリンダ騎士団は

 

 

 ネッサローズ

 (アヴァロン級)

 グランベリー

 (アヴァロン級)

 

 その他最新型カールレオン級11艦

 

 地上部隊30,000名

 

 専用基地有り

 

 3個師団編成可能

 

 とまで大成長を遂げる。

 



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月夜のネッサローズ

CP:玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア


 

 

 

 

『3番熱い!3番!来るこれは確実だーーっ!!』

 

「よっしゃーーイケイケ抜けー…………やったーっっ!! 200,000万馬券っっっ!! いよっしょああああああああっっ!!」

 

 額にはバンダナを巻き、威勢良く茶の髪を逆立てた男は誰もいない自動運行モードのネッサローズのブリッジで、ガッツポーズの勝利宣言をしていた。

 

 ネットで買った馬券が大当たりしたのだ。ここなら、夜の此処なら多少騒いでも大丈夫そうと考えての大声だったのだが、大声以前にある仕掛けを施されていた男は、何処に居ようが、とある人物には丸見えだったのだ。

 

「はいっ、没収」

 

「うげェ、ままままマリーしゃん」

 

「毎度毎度同じ事を為さいますわね。本当に懲りない方。兄さまの脳みそには2Bitの容量すらも無いのではありませんか?」

 

 髪を逆立て紫のシャツ、ジーパンの代わりに短パンを穿いている男、玉城真一郎は。マントの羽を広げた聖女のようにも見える、薄紅色の腰下まで伸ばされた長い髪と、桃色のロングスカートを纏った女性。神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア皇女に、端末を取り上げられた。

 

「どうして俺がここにいるって分かったよ」

 

 目の覚めるような美女を前に、面白くなさそーな顔をしてごちる玉城に、マリーベルは。

 

「兄さまの為さる事などお見通しですもの。ですので発信器をポケットに入れておきました」

 

「は?え、まじ?げえっ?! まじで入ってんじゃねーか!!」

 

 玉城のポケットには四ミリ四方の薄いカード式の発信器が一枚入っていたのだ。マリーベルの言うその通りに。

 

 この様な物を忍ばせるあたり、マリーベルもなかなかの策士である。

 

「マリー、お前なあ。プライバシーって言葉知らねーの」

 

 プライバシーだ。玉城真一郎にも当然あるプライバシーを。

 

「知りません」

 

 ガン。

 

 ひっくり返る玉城。まさか真正面から否定してくるとはなんつー女だ。

 

「少なくともわたくしと兄さまの間にプライベートは存在しないものとわたくしは考えます。この心。この気持ち。この身体。全て兄さまのものだと考えますわ。当然ながら、兄さまの身も心もお気持ちもわたくしだけの、このマリーベル・メル・ブリタニアだけのもの」

 

 誇らしげに宣言するマリーベル。私の全ては貴方の物。でも当然貴方の全ては私の物。愛の告白だ。こんな処誰かに聞かれたら大騒ぎになる。神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニアがただ一人の、三流校卒のアホに懸想をしているなど彼女の弱点以外の何物でも無い。だが彼女は常々言うのだ口にするのだ、玉城真一郎を愛していると。

 

「お前ね。冗談でもんなこと誰かのいるところで言うなよ? 絶対に変な誤解を受けてさらし者にされるから」

 

「うふふふ、どうせならばさらし者になりましょう。いっそ兄さまがわたくしを抱いたと言う噂を流すのもありかもしれませんわね」

 

 そうすれば既成事実も出来て、晴れて兄さまはわたくしに婿入りをと平気で宣う皇女様。

 

「ねーよッ、ねーッ、ねーッ!」

 

 玉城はマリーベルの口を塞ぎ、彼女を脇に抱えると、見られたら困るからと言う理由で、自分の部屋へとダッシュ。態となのか、マリーベルは大きめの声で話をしていたので質が悪い。

 

 まるで巡回中の衛士にでも聞こえるかのように大声で。コイツは狙ってやっているのだろうか。コイツは自分が宝石なのだと気付いていやがらねーのか?コイツは俺が道端の石ころだと気付いていやがらねーのかよ。

 

「まあっ、兄さまったら、わたくしをお部屋へ連れ込んで。ああわたくしはこれから抱かれるのですわね……初めて、なので……どうか、優しく……して、ください、まし」

 

 どうせするつもりもない挑発だと分かっていても、こんな美女からの挑発だ。アホの俺でも理性くらい揺らいだりする。もしもだってあり得る。だから止めてくれ。

 

「アホ、馬鹿、だからそういうことを言うんじゃねーの、お前ただでさえ美人なのにそういうこといわれたら――」

 

「え!え!なんと仰いましたの?! もう一度、今一度お聞かせくださいましっ?!」

 

 ついつい出てしまった本音。そうだマリーベル・メル・ブリタニア皇女は美しい。掛け値無しに美女だ。こいつと匹敵する俺を好いてる美“少女”はあいつだけ。この二人をブスだという奴がいたらそいつは目がおかしいか頭がイカレてる。断言しても良い。コイツらは絶世のを頭に付けても申し分ないくらいの、美女美少女だ。惜しむらくは好く相手を完全に間違えているところか。コイツらなら貴族・皇子そんなんを好きになり結婚すべきだ。三流校卒の夢崩れのアホのニートに熱上げてんじゃねーよ。

 

「…………美人だよ。ああもうマリーベル・メル・ブリタニア皇女はぁ美人だよッ!! これでいいんだろ!」

 

 だが、本音は本音だ。本音を言われろ嘘を突くなと言われたらコイツは、掛け値無しの美人だよとしか言えない。これだけの美人は人生で三度あった、俺が恋して恋い破れたネリー、コーネリア・リ・ブリタニアと、俺に引っ付いて回ってくる糞チビ、桜色で俺の事は絶対に裏切らない女の子、クララ・ランフランクこと最強の暗殺者クララ・ジ・ブリタニア。そしてコイツが子供の頃に「一緒に夢を叶えましょう」と誓い合った、誓いを交わした神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア皇女。この三人だ。

 

 一人は、本命は脈無しなのに、本命じゃねー二人が好きと言って離れねー。俺みたいなクズヤローを好きなんて言って離れねーんだ。

 

「…………本当に、本音ですの」

 

 

 

 月夜のネッサローズ

 

 

 

「んあ……?」

 

「答えなさい玉城真一郎!今の言葉、一遍の嘘偽りも無く本音ですのね? あなたはマリーベル・メル・ブリタニアを美人だと、本心からのお言葉として見て下さっているのですわね?」

 

 コイツは何を焦っているのか。何処を見ればコイツのことをブスだなんて言う奴がいるか。同じベンチでやかましく泣いてただけの糞ガキが、よくもまあここまで立派に育ちやがったもんだよ。

 

 一種の感慨深ささえ覚える。俺はコイツと家族でも何でもねえ。再会したときゃそりゃ偉い目に合っちまった。死ぬ瀬戸際まで行ってコイツもアイツも壊れかけた。

 

 ほんの何か一つの歯車が狂っていたら、今の平和な俺たちは無かったんだろうな。コイツもアイツも無謀な復讐に臨んで死んで、多くの人間が悲しんで北南世界大戦ってか。

 

 コイツら分かってんのかよ。自分たちが北側諸国の重要人物だってこと。ちょっと考えりゃアホの俺でも分かるぜ、それが、俺なんかに、俺みたいな屑にかかりきりになっちまって、北南大戦まで起こしかけやがって、馬鹿じゃねーの?

 

 いや、俺なんか其処までの大物じゃ無い。俺が死んだところでコイツとアイツが泣いてくれるくらいさ。でもな。俺みたいな奴でも泣いてくれる奴くらいいるんだよな。なんでかわかんねーけどさ。俺のために泣く美女と美少女がいるんだよな。

 

 男冥利に尽きるっつか、勿体ないわ。

 

 マリーベル・メル・ブリタニアも、クララ・ランフランクも、俺みたいな糞男の傍にいようとすんじゃなくって、社交界ですげーの捕まえるのが普通なんだろ。

 

 こいつらは自分を無駄遣いしてる。自分の価値が分かってねー。お前等が見てるのは、注目してるのは道端の石ころなんだぜ? そんなもんを必死になって奪い合ってる。なんつー滑稽な姿だよ

 

 なーマリーベル・メル・ブリタニア。シャルル皇帝の手伝いを、対テロ部隊の創設を試みて夢を叶えたその先で見つけた石ころに、お前は何を望んでるんだよ。

 

 クララ・ランフランク、シークレットエージェントとして暗殺者を極めた皇兄女殿下。お前も同じだよ。石ころ相手に殺すだのなんだの、何必死になっちゃってんの。

 

 お前等みたいな金と石ころじゃ土台価値が違うんだよ。石ころはどんなに磨いたって石ころなんだよ。

 

「…………本音だよ、お前は美人でキレーだよマリーベル・メル・ブリタニア。俺なんかを好いてる奴でおまえレベルのやつはアイツだけだ。大体お前等頭おかしいんだよ金塊が揃って石ころ好きになって、追っかけまわしてる。言っとくがな。石ころはどこまでいっても石ころだぜ金塊には金にはなれない、お前等は必死になってそんな糞の価値もねー石ころを――」

 

 パンッ

 

 ベッドの上俺がマリーベルにのし掛かられる体制。乾いた音が一つ響き渡る。

 

 左頬が痛かった。この激痛はあの時以来かも知れねえ。あの再会の時の銃撃と。

 

「見くびらないで下さいませ。誰が石を好きにならない金がお有りと申したのです、あなたは確かに金には成れないでしょう。でも、その石と添い遂げたいと願う金が此処に確かにあるのです」

 

 ああ、じんじんする。なんだこりゃ。痛みが浸透してきてるみたいだ。いてーや。

 

「いいえ、ここだけではありません。悔しいですがあなたという石ころを愛している方は地上にもいらっしゃいます。その方もまた金です。あなたは二つの金に愛される特別な石ころなのです」

 

 痛え、痛えわ。軽くぶたれただけなのに。心の痛み、ほんの数年前味わったばかりなのに。また俺は忘れてたのか。忘れて、コイツに味わわせてたのか。

 

 アイツだったら泣いてんのかな。とんでもねーツエーくせに、心の奥底はもろいアイツなら。

 

 マリーが俺に覆い被さる急な展開に予測不可能。なにをしたいんだろうかこの金は。凄い真顔。真剣な顔。ああ、美人だわほんとに。

 

「地上の金は悔しいことにあなたと先に口付けを交わしたそうですね」

 

 地上の金、クララ・ランフランクとのディープな口付け。交したな。こんな俺なんかにキスしたら唇が汚れるってのに。アイツは俺なんかの唇を。

 

 は? 顔を寄せてくるマリーベル。肩口から薄紅色の長い髪が流れ落ちて、俺の顔や頬を滑り落ちて、肌に張り付く。オイ、お前何しようってんだ!

 

 羽のマントがふわりと広がって、俺とマリーベルを包み込む。もう離さないとでも言うかのように。離れないとでも伝えてくるかの様に。

 

 クララの時もそうだったけどさ、女の髪ってすげー良い匂いがするんだよ。肌触りも最高でずっとこうしていたいって。マリーベルの長い髪の毛に指を入れて梳き通した瞬間だった。触り心地のいい髪の毛だなって──

 

 て、思って――

 

「んうう」

 

 あ、もう、遅かったこの馬鹿な金も石ころに引っ付きやがった。

 

 ああ、馬鹿だ、本当にバカヤローだ。なんの価値も無い。無価値の石ころにこの金はくっついってきやがったよ。アイツと同じように。いや、アイツ以上に。

 

「んっ……んッ――」

 

 俺は何もしてない。ただ唇を重ねられているだけ。してるのはせいぜいマリーベルの長い髪を何度も何度も梳き通して、髪の毛の手触りを楽しんでいるだけ。

 

 ただし、マリーベルはそんなんじゃすまない。マリーベルの方は俺の唇を押し割って舌を口内に侵入させてくんの。逆レイプみたいなの。これなんてーの? 逆キッス? 馬鹿だわコイツも。無価値の物になんでどうしてそんなに積極的になるんだよ。

 

 ああ、でもこの馬鹿のキスは気持ちいい、ぶよぶよとしていて、滑らかで、濡れた舌の感触が、俺の口の中を這い回るのが分かる。歯茎を優しく丁寧になぞり、口内の粘膜をなぞりながら、舌の裏をつつーっとなぞっていく。

 

 エクスタシーっていうのか。身体が勝手に反応してマリーベルを押し倒そうとするも、強力な格闘技術を持つマリーベルには適わず、ひっくり返り掛けた体制を再び元に戻された。

 

 舌が少し離れた瞬間耳元で。

 

「おいたはダメよ?」

 

 そう言われてまた口付けられた。

 

 今度は手を拘束されて片手で腰を引き寄せられての、脚を絡ませ合いながらの、口付け。これもう口付けを通り越してるんじゃねーの。

 

 丁度続き、俺がマリーベルに覆い被さろうとした瞬間からの。終わりは近い。

 

 裏筋を舌全体で舐め上げていき、頂点まで辿り着くと、予想したとおり、舌を巻き付かされた。

 

 限りなく優しく全体を揉み込むようにして、ちゅるちゅると音まで出るほどの激しさで。

 

 官能だけが刺激されて、このままもう、マリーベルを抱きたくなってしまう。この勘違いした馬鹿な金に、石ころの硬さを教えてやりたいって。

 

 俺はどうしても身体を反転させたくてもがくも、マリーベルはそうさせてはくれず、ベッドの上でびくんびくんと痙攣する俺をマリーベルが余裕を持って押し倒している構図が出来上がっていた。

 

 影で見ると、達する俺をマリーベルが受け止めても見えるだろうこの構図。アイツや筆頭騎士に見られたら殺されちまう。

 

「ちゅる――……ああ、兄さま。わたくしと兄さまはいま一つになったのですね」

 

 マリーベルが俺を抱き締める。大きなお胸が俺のなんの取り柄も無い胸部に当たって潰れて、まりまりぷにょぷにょ、気持ち良すぎ。当然彼処にも血液が行くわけで。

 

「兄さまと、このまま伽へと参りたいですわ。伽へと参り、夜を超え、このネッサローズの兄さまの部屋で朝を迎えるの」

 

 と、伽って、え、え、えっち、だろ?

 

 俺もどーでもいいわってえっちしようとしたけどよー、流石にそれは不味いだろどう考えても。

 

 お姫様と平民なんだぜ。

 

「それはまずい、その、そういうので始めたんじゃねえだろ」

 

「うふふふ流石はわたくしの兄さま。今もし致そうなどという行為を見せましたら首の骨を折っていたところですわ」

 

 し、シャレにならん。コイツ怖すぎる。

 

「じ、じゃあ、あらためまして、してェっ!て言ったらどうする?」

 

 ちょっと時間を空けての再度の試みって奴は。投げやりな質問にコイツは。

 

「兄さまが、その、本気でわたくしをお抱きになりたいと申されるのならば……金は、石ころと一つになろうかと」

 

「不味いだろ、お前皇女で俺平民なんだぜ国は違えども」

 

「平民と契りを交し婚姻に至った皇族も居りますわ」

 

「誰だよそれ、言えるのかよ」

 

「わたくしのお父様です。平民からの奥方を数人娶っております」

 

「よりによって現皇帝かよ」

 

 態勢変わらず、マリーベルの髪が俺の顔に掛かっているが、彼女の表情は見えず。

 

 俺の腰は相変わらずマリーベルに抱かれている。腕を掴む手の力は緩んでいる。

 

 本当にOKなんだろうが、俺は抱き締めた、抱き締め合う形で留めた。

 

 そのまま頬を擦り寄せ合って。俺はマリーベルの髪を優しく優し撫でてみてさ。指の間を髪の毛が透き通っていくのよ。しっかり手入れされてるんだな。本当に言い触り心地なんだぜ。

 

「なあ、もう寝ようぜ。あと端末返せな」

 

「はい、寝ましょう。端末は返しませんが」

 

 石ころを好きになる奇特な金もある。それも二つも。マリーベル。クララ。二人とも俺の大切な――

 

 

 

 月が出ていた。

 

 ネッサローズを照らす月が。

 

 その金色の光は。

 

 石ころに恋をする宝石のように輝いていた。

 

 



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ゲバラの護衛艦はグランベリー

 

 

「はあっ?! わたしが最初期型浮遊航空艦の護衛をするのっ?!」

 

 憤り、というよりは、唐突な指令に頭が付いていかないオルドリンは次の言葉に大混乱。

 

『依り正確を期すならば、あなたの艦であるグランベリーがエルネスト・ゲバラ子爵の乗った3150機の護衛に付くと行った感じかしら』

 

 マリーベルの言葉に何でグランベリーがと反論するオルドリン・ジヴォン。グランベリー指揮艦は納得がいかずの反論をする。

 

「旅客機に改造されている3150機は武装は残してあるけれど。だけど、悪く言わせて貰うとあれは浮遊航空艦の最初期型。旧式も旧式で、あれに合わせて飛行するってどれだけ鈍足飛行か分かってるの?」

 

 最新型アヴァロン級の高速に慣れたオルドリンは、今更最旧型の鈍足に合わせて飛行するのはイライラするわけだ。

 

 どんなものでもそうだが渋滞でのろのろ運転しか出来ない車に誰も乗りたくは無い。

 

 

 ここにグランベリーと3150機の諸元性能を挙げてみよう。

 

 

 

 

 ゲバラの護衛艦はグランベリー

 

 

 

 

 軽斑鳩級浮遊航空艦3150機

 

 全長:190m

 

 時速巡航:400㎞

 

 最高速度:900㎞

 

 ブースター装着時:マッハ2~3

 

 乗員:220名

 

 充足時:340名

 

 フレイヤ炉搭載

 

 航続距離:∞

 

 兵装:単装砲(リニア砲)5問

 

   :ミサイル発射機2基搭載

 

   :スラッシュハーケン(近接用武装)

 

   :ブレイズルミナス

 

   :KMF無頼初期型最大10騎搭載可能

 

   :VTOL10機搭載可能

 

 

 

 アヴァロン級浮遊航空艦グランベリー(休日版)

 

 全長:234m

 

 全幅:74m

 

 全高:38m

 

 速力:巡航速度1,100㎞

 

 :最高速度2,700㎞

 

 実用上昇限度:38,000m

 

 兵装:ハドロン重砲4門

 

 :単装リニア砲9門

 

   :大型リニア砲2門

 

   :32連装ミサイル発射機2基

 

   :スラッシュハーケン4基

 

 動力:フレイヤ炉

 

 航続距離:∞

 

 特殊武装:ブレイズルミナス(強化発展型)

 

 最高速度で2.7倍の差があるのだ。遅いも遅い。鈍行列車のそれである。

 

 ちょっと注意しておかないと置き去りにしてしまいそうなほどに遅いのだ。

 

「……ねえ、マリー」

 

『なあに?』

 

「うち(ブリタニア)ってどれだけ日本の影響を受けているのよ。これさあ、どう見たって日本の斑鳩級の技術をかなり取り入れてるじゃ無い」

 

『それはまあ、残念ながら、陸も海も空も宙も全ての面に於いて日本の方が強力だもの……、オルドリンも御存じでしょうけれど8.5世代ナイトメアなんてデタラメ騎や、9.5世代ナイトメアなんて常軌を逸したナイトメアを生み出したのは日本よ?』

 

 それだけではない。第六世代統合打撃戦闘機も第六.五世代戦闘機も日本が生み出した。

 

 宇宙に浮かぶ四機の巨大宇宙ステーションも日本の技術がふんだんに使われている。

 

 海もそうだ。改大鳳級13万t強巨大空母は日本が生み出したし、満載排水量16万tなんて戦艦は日本以外に持っていない。

 

 第四世代、第四.五世代主力戦車も日本が造りだした物。古く言えば究極兵器F号兵器も日本の技術がふんだんに使われており、ブリタニアは日本にその生命線を握られていると言っても過言では無い。

 

『まあ、別に日本と敵対するわけでも無し、考えても詮無きことですわ』

 

 そんな話をマリーとしていると。アホが話を嗅ぎつけてやって来た。

 

「オルドリン、マリーなんだそんな難しい顔をして顔つき着け有って」

 

『に、兄さまっ、どうしてグランベリーに乗艦しておりますのっ?!』

 

「ありゃっ? おめー忘れたのかよ自分で言ってて。兄さまには特別にグリンダ騎士団内で自由に動くことを許可致しますって、前に自分で言ってたろーが」

 

 呆れて、ふぅ、とため息を吐くオルドリン。

 

「この馬鹿なら朝っぱらからうちに来て、ソレイシィ卿に2千ポンド借りてたわよ。俺の田舎の従妹の親戚のばあちゃんの息子の友達が病気で、どうしても2千ポンド必要なんだとか。純情マリーカさんとレオンハルトくんは涙ながらに貸してたわ」

 

 その涙が目薬だとも知らずに。誰も居なかったから止める者が居なかった。故に玉城は簡単に借り入れられたのだが、その2千ポンドを早速競技KMFの掛けで使ってパーにした。

 

「それでね、オルドリン様。いやさ、オルドリン・ジヴォン卿!」

 

「な、なによそんなあらたまってっ! そんな殊勝な態度を取ったところで――」

 

 オルドリンを壁に追い詰めドンっっと壁に手を突くアホ。

 

「君は美しい。君ほどの美しい女を俺は知らないっ」

 

「な、な、なに、よ、あほ、の、くせ、に、」

 

 そんなしどろもどろろなオルドリンの髪を触るアホはにこりと微笑む。

 

 優しく優しく、オルドリンの髪を撫で掬いながら、ポニーテールに纏めていた彼女の髪を解く。

 

「なあ、遊ぼうぜオルドリン。変な意味じゃねえ、人生楽しまなきゃ損だってことだからよ」

 

 更にオルドリンの髪を撫でる。巻き髪やポニーテールにせず降ろしていたら、結構長いオルドリンの髪。

 

 玉城はその髪に五指を通して優しく撫で梳きながら、彼女を遊びに誘う。

 

 最近時々こういったことをしてくるアホ、だが。

 

 オルドリン・ジヴォン。こういうことには耐性の無い女性である。男勝りで美人だが格好いい寄りで見られることが多いから余計に。

 

 玉城が其処まで計算したかは分からない。元々テキトーに生きているテキトー男なのだから。

 

 だが、この瞬間だけは、間違いなくオルドリンのハートを掴んでいた。

 

「君と共に、一当てしたい。他でもない君とだ。一緒に俺と――」

 

 瞳をキラキラ輝かせて、坊少女漫画風に迫っていたところに。

 

 

 だだだだだだだだだだだだだだっっっ、走る音。

 

 ヒュウーン!! ブリッジの扉が開く音。

 

 ばんッッ 跳躍する音。ばさばさと鳴るスカートの翻る音

 

 スタッと降り立つ音がして。

 

 

 ぽん、ぽん、と壁ドンをしている玉城の両肩に置かれる白魚のような両手。ほきん、ごきん、と音がし、オルドリンは正気に戻った。

 

「うぎゃああああ~~~~っ、俺の、俺の肩がよおおおっっ~~~っっっ!!!」

 

「危ないところでしたわオルドリン。わたくしが急ぎ駆けつけなければこの裏切り者の魔の手に掛かってしまうところでしたっ。大丈夫でしょうか?」

 

「え、ええっ、大丈夫よマリー……っていうか、だ、大丈夫なのタマキ?」

 

「ええ、これにはこのくらいの罰が丁度良いのです!」

 

 爽やかに言うマリーベルとは裏腹に、オルドリンは先ほど壁ドンしてきたときの玉城がかっこよかったなと感じていたのであった。

 

「序でですから標準的アヴァロン型のスペック表もお持ち致しました。まあデータ入力されているので必要ありませんが」

 

 

 

 通常アヴァロン級浮遊航空艦(休日版)

 

 全長:238m

 

 全幅:74m

 

 全高:38m

 

 速力:巡航速度1,150㎞

 

 :最高速度2,750㎞

 

 実用上昇限度:40,000m

 

 兵装:ハドロン重砲4門

 

 :単装リニア砲9門

 

 :大型リニア砲2門

 

 :32連装ミサイル発射機2基

 

 :スラッシュハーケン4基

 

 動力:フレイヤ炉

 

 航続距離:∞

 

 特殊武装:ブレイズルミナス(強化発展型)

 

 

 兵装は斑鳩級に寄せている。

 

 

「思いっきり書いてあるわね。兵装は斑鳩級に寄せてあるって」

 

「どういう訳か日本の開発する兵器はその全てが最適化されて装備となっておりますので、結局はブリタニア独自の物を取り入れながらも日本に併せる形になるわけです。先人に学びなさいというところでしょうか」

 

 ふと、オルドリンは気になったのでマリーベルに聞いていた。

 

「マリー、あなたひょっとしてエルファバで着艦した? ちょっと感が揺れた気がしたのだけれど」

 

「お、オホホ、裏切り者を逃がさないようにと。ヴィンセント・カスタムで来ているのでしょう?」

 

 全部お見通しかと思ったオルドリンは。

 

「艦隊指揮はヨハン・シュバルツァー将軍に任せて3150機、エルネスト・ゲバラ子爵の護衛に急行。急げっ、南ブリタニアの民主共和制原理主義組織壊滅に多大な戦果を挙げたゲバラ子爵は南天のテロリストに狙われている可能性も高いっ」

 

 同時にマリーベル・メル・ブリタニアも指揮を飛ばす、片手に裏切り者をぶら下げて。

 

「エルネスト・ゲバラ子爵の乗った機はハバナ国際空港に向かっている模様。キューバ本土とバハマ諸島及び周辺島嶼の領主フィデル・カストロ伯爵に会いに行くためと推測。現在ギアナ公国カラカス上空付近、ブースター点火ッ! 最大船側で向かいなさいッッ!!」

 

 

 オール・ハイル・ブリタニア!!

 

 グローリィ・トゥ・グリンダ!!

 

「ぎゃあああ~~~ッッ!! 肩がァァァッッ!! 肩がよオオァァァァッッ!!!」

 

「うるさいタマキッッ(兄さまッッ)」

 

 

 アヴァロン級浮遊航空艦グランベリーと三隻の随伴艦カールレオン級浮遊航空艦が、グリンダ艦隊より離れ、飛び立った。

 

 

 

 

 こぼれ話。

 

 

 

 カストロ伯爵領についたゲバラは、親友であるフィデル・カストロ伯爵の宮殿で待たされていた。

 

 三十分や一時間ではない。

 

 実に十時間も待たされていたのだ。

 

「げ、ゲバラ卿、本日はお休みいただいても」

 

「いや、待っているよ。こちらから訪れておいて休むのは非礼に当たる、それよりもグリンダ騎士団のお方々にこそお休み願いたいところだが」

 

 グリンダ騎士団の面々はカストロ伯爵の演説を実に十時間も聞いているのだ。

 

 ものすごい精神力だと思う。親友の私でも無理なことをと称賛を送るゲバラ子爵は。

 

 グリンダの面々が立ったまま気絶していることを知らない。

 

 フィデル・カストロ伯爵。

 

 キューバとバハマ諸島を治める貴族は演説が長いことで有名だ。

 

 皇帝の御前会議で八時間の演説を行った猛者としても知られている。

 

 そんな猛者の前にグリンダの面々、マリーベル・オルドリン含めた幹部陣でも耐えられるものではなかったのだ。

 

 

 ※

 

 

「フィデル。君は相変わらず演説が長すぎるぞ」

 

「ふんエルネストよ、私の演説に無駄なものは何一つとしてない。マリーベル皇女擁するグリンダ騎士団の面々も学び取ったものはあろう」

 

「無茶言うな。十時間の演説では半分以上が寝ている」

 

「そんなことはないっ」

 

 平行線をたどる話を切るため、ゲバラは率直に切り出す。

 

「南ブリタニアは平穏を取り戻してきた。大人は仕事に出かけ、子供達には笑顔が……」

 

「良きことだ。ペンタゴンが弱体化し、細胞も死滅してきた証しだ」

 

 南ブリタニア原産の酒を煽り、葉巻に火をつけたカストロ伯爵は切り出す。

 

「行くのか。……欧州へ」

 

 ゲバラ子爵は苦しみに喘ぐ人々を見捨ててはおけない性分なのだ。

 

「行くよ、欧州へ」

 

「貴様にはバハマ諸島の自治を任そうと思っていたのだがな」

 

 カストロ伯爵の領地は広い。海を介しているが内海を持つほどに。

 

 故に優秀な人材の流出は歯止めをかけたかった。

 

 ゲバラは戦友であり親友。これほど信頼できる人間はいないのだ。

 

「だが、苦しんでいる人々がいる。革命ごっこの末に苦しみ喘いでいる人たちが。私にはそれを見過ごせない」

 

 故に、ユーロブリタニアに参加し欧州の解放を成し遂げん。

 

「……止めても無駄か」

 

「ああ……」

 

「では、一つ約束を」

 

 必ずや生きろ。

 

 戦勲を立てて所領の一つでももぎ取ってこい。

 

「……ああ、やって、やるさ」

 

「約束だぞエルネスト」

 

「約束だフィデル」

 

 拳を合わせた親友同士は暫しの別れに入る。

 

 後に欧州解放戦争にて、エルネスト・ゲバラはその功をたたえられ、ブリタニアに戻り伯爵へと封ぜられる事となる。

 

 



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じっとしていられない性分でね

ゲバラとカストロのその後


 

 

 

 皇歴2022年6月16日

 

 中東に兵を集めていた南天条約機構軍は、イラク社会主義共和国のユスフ・サルマン・ユスフ書記長の無茶苦茶としか思えない要求。

 

 ペルシャの地は古来より我が神聖なるイラクの土地である。現占領者は土地を明け渡し素直にペルシャを譲るか服従すべし。

 

 この要求を受けペルシャの民は反発、中華連邦も見過ごせないとして国境に軍を集結させたが、ユスフ書記長の言葉を最後通牒として、雪崩のように、津波のように。

 

 南天条約機構軍は中華連邦へと侵攻してきた。その軍勢の総数は3千万。後詰めの2千万を含めるのならば5千万という史上最大の侵攻軍。

 

 海からも大規模な艦隊の侵攻があり、各地の防衛ラインは寸断され、友好国ジルクスタンはこの津波に呑み込まれた。

 

 敵は、ペルシャは愚か奥深くにまで食い込んで来、インド軍区の過半以上、中華中央の外縁にまで迫ってきた。

 

 既に、ペルシャは愚か、パキスタン、アフガニスタン、タジク、トルクメン、ウズベク、キルギス、ブータン、新疆も切り取られ。

 

 スリランカ、インド過半は制圧下に。中華帝国各都市には空爆が続き、首都である洛陽にまで南天の空爆は及んでいた。

 

 東からは高麗と清国が迫っており四面楚歌の状況。

 

 このまま放置しておけば、早晩中華連邦は合衆国中華、或いは中華原理主義人民共和国と名を変えることだろう。

 

 事ここに至り、中華連邦は大日本帝国へと過去の恥も外聞も投げ捨てて助けを求めた。

 

 どうか中華連邦の民をあの死兵達から救って欲しいと。土下座でも何でもした。

 

 助けて欲しい。我らではどうしようも無い、我らではどうあっても適わない南天の津波をはじき返して欲しいと。

 

 これを大日本帝国政府は笑顔で受諾した。過去のことに拘ることはくだらないこと。

 

 前を見て今を観る事。謝ることはその切っ掛け。許さぬでは無く許すことの出来る強さを我々は持っている。

 

 共に戦いましょう。平和のために、明日への希望のために手を取り合い許し合って。過去のことは過去のことだと割り切って。

 

 

 

 

 じっとしていられない性分でね

 

 

 

 

 そこからは早かった。

 

 大日本帝国は予備役を一気に招集。陸海空海兵隊四軍、1200万という大軍を以てして高麗と清国を三日で叩き潰すと、清国攻めをしていたAEUとシベリアで握手。

 

 返す刀で日ブ相互安全保障条約、厳密には北側諸国同盟条約に則り、神聖ブリタニア帝国軍1600万という大軍が合流し、インド戦線、中華戦線へと食いかかっていった。

 

 一進一退の攻防を繰り広げる中、この大戦に参戦していたブリタニア軍のエルネスト・ゲバラ伯爵は、南天軍がトルコ方面にまで侵攻をしていることを知る。

 

 自分たちが必死の思いでユーロユニバースの魔の手より解放したトルコが、再び戦火にさらされる。それだけは看過できないと。南天軍を押し込んでいく中で思い悩み苦しみながら。

 

『待っていてくれ。必ずや死兵の魔の手よりトルコの同胞を解放してみせる』

 

 そう胸に近い、怒濤の勢いで敵軍を粉砕していった。

 

 海上でもまた大きな戦闘が起きていた。

 

 南天軍の23個という途方も無い空母戦闘群に対し、日ブ連合は50個という未曾有の空母戦闘群を以って対峙。

 

 インド洋に展開したのは1千隻を超える大艦隊、過去を顧みてもあり得ない鋼鉄の艨艟たちのデスマーチが繰り広げられていた。

 

 1艦食えば2艦食われ、3艦食われれば4艦食う。至る所で繰り返される撃沈破はインド洋の一地域では無い、インド洋全体に渡り展開された。

 

 多くの死と破壊があった。だが南天軍は【全天に美しき世界の実現の為に】を合い言葉に、死兵となって食い下がり、首だけとなってもなお口で相手の喉を噛み砕くという恐ろしい光景を。地上で海で空で繰り広げた。

 

 南天兵は、南天は完全に思想信条が異なる民族。北側とはけして相容れない民族。この戦争を戦った者達は皆多かれ少なかれそれを実感した。

 

 それとは別に、戦争自体の推移は兵器と技術に勝る北側連合軍が徐々に押し返し始めていた。

 

 8.5世代機、9世代機のナイトメアの質の力により、統合打撃戦闘機の機動力とステルス性、第四世代~四.五世代戦車の砲撃力。

 

 海に展開する超高質な艨艟群の鉄壁の布陣。徐々に数を減らし押し返されていく南天軍は、如何に死兵と言えどもその気迫と巨大なる軍の圧力に気押され。

 

 各地で敗退が続いた。もちろん、押し合いとなり互角の戦いを強いられる戦線も大いにあった。

 

 元より二つ名の超大国同士の戦い。同格同士の戦いなのだ。犠牲も多く強いられた。南天軍が食い破ってきた戦線もそれなりの数が有った。

 

 補填のために派遣された増援が再び敵を押し返し、一進一退の攻防に大きく変化が現れだしたのはそう、終戦三ヶ月ほど前だった。

 

 ある戦線で大きな前進が見られた、神聖ブリタニア帝国エルネスト・ゲバラ伯爵の率いていた方面軍だ。

 

『皆いまは辛い。地獄の中に居るとはこのことだ。南天は天使の仮面を被っているがその本質は無機質な悪魔だ。奴らを倒そう! 奴らを押し返そう! そうして我々の家族とともにある日常の世界に帰還するのだ!!』

 

 日常の世界に帰還する。それは大きな歓喜となって戦場を包み込んだ。

 

『隠した相手に負けたら情けないぞッ!』

 

『俺たちは帰るんだ我々自身の日常へッ!』

 

『心なき天使共に負けるな心ある人間達よッ!!』

 

 この地上での戦意が伝わったのか?

 

 海での戦いは日ブ連合軍の50艦空母戦闘群の内、実に8個群を、潜水艦も併せれば100艦以上撃沈・大破させられたが、南天軍の戦闘群は13個群を殲滅、3個群を大破半身不随に追い込んだ。

 

 一番の大物で在る七天艦隊こそ取り逃がした物の、スリランカとインド軍区を解放。中華への空爆を防いだことは大きな勝利と言えよう。

 

 空はほぼ同世代だったが、一部日ブがその先進性を発揮しキルレシオ1対3の圧勝、南天軍に後れを取ることは無かった。

 

 そして地上の戦女神と呼ばれたのが大型ナイトメア。第9.5世代KMFフリーダム=フローレンスだった。

 

 劣勢の戦場に颯爽と現れ2丁のスーパーヴァリス・レイ、ハイパーヴァリスとでも呼ぶべき物を乱射。

 

 巨大な刃状粒子弾を雨あられのように降り注がせては、敵の第7世代ナイトメア、第9世代と見られるナイトメアを次々に撃墜。

 

 序でとばかり日常の戦車や装甲車も撃破していき、止めにシュタルクハドロンを大型高威力にしたような砲撃を全方位、正確に敵のみを狙って発車・撃破していった。

 

 その余りの強さと華麗なる戦い方、圧倒適制圧力に戦女神の名を付けられ、戦女神の現れた戦場からは敵が居なくなるとまで言わしめた。

 

 そんな戦女神と一騎打ちをした南天のナイトメアも居た。真っ黒、漆黒のナイトメア。いや戦い方からして果たして南天のナイトメアだったのかもすら分からない。

 

 9.5世代機のフリーダム=フローレンスと互角と言うことは、その機体も9.5世代機。南天が開発したとは思いにくいその機体との戦いは一進一退の攻防。

 

 同じMVSを使い、同じ速度を持ち、同じ装備を持つ漆黒の機体との戦闘は、戦いで生じた荒野で行われたが決着が付かずに、両者が引く形で幕を閉じ。

 

 ダメージはあまりなかったフリーダム=フローレンスはそのまま戦いを続行。1千機以上の敵KMF、1千機以上の敵航空機、2千両以上の敵戦車を撃破。

 

 インフィニットドライブという無限に稼働するドライブがあるためと、パイロットの不断の努力によって得られた戦果であった

 

 これは南天と対峙する日ブ両国軍を大いに勇気づけた。

 

 ゲバラの鼓舞と戦女神の戦いに勢いづいた日ブ連合軍は、インド全土を解放した後。

 

 パキスタン、ジルクスタン、アフガニスタン、新疆、キルギス、トルクメン、タジク、ウズベク、ペルシャと解放していき。

 

『あそこは私が先陣を切る』

 

 とAEUオスマントルコの地へと強襲攻撃を掛けた、エルネスト・ゲバラの部隊とその後に続いた日ブ連合軍により、最後の南天侵略地オスマントルコを奪還。

 

 中華連邦・AEU・南天の国境線を元の場所にまで押し返したのだ。この先は南天の領域、危険と判断した北側諸国はここを停戦ラインとした。

 

 また南側諸国も少なくない戦力を喪ったため、その停戦ラインで合意。ここに第一次世界大戦は終結を見た。

 

 

 ※

 

 

「おめでとう我が同志よ」

 

 帝都ペンドラゴンからの帰り。

 

 最新式のカールレオン級浮遊航空艦を2艦下賜されたエルネスト・ゲバラ辺境伯は、親友の出迎えに苦笑いで答えた。

 

「すまんな。駐機場をかりることになって」

 

「かまわんよ。それよりも私は同志の出世が我が事のように嬉しい。普通無いぞ? 男爵から辺境伯にまで上り詰めるとか」

 

 フィデル・カストロはとっておきのワインを振る舞いながら、親友の出世を喜んだ。

 

「これで君は私の上に立ったという事だ」

 

「よしてくれフィデル。君と私に上下関係は無い」

 

 笑顔でワイングラスをチンと鳴らす二人は、慣れた手つきで中身を飲み干していく。

 

「領地も下賜されたのだろう」

 

「まあ、ね。私は固辞したのだが、皇帝陛下が報償だと仰ってね」

 

「どこだ?」

 

「君の隣だ」

 

「イスパニョーラ島」

 

「おお、直ぐ隣では無いか。元の領地と合わせて近いな」

 

「私としてはジャマイカだけで充分だったのだがな。それともう一つ」

 

「まだあるのか?!」

 

「プエルトリコ島。本当は本土に領地を持たぬかとサシの席で勧められたが辞退した。私にはこの辺りの気風が合っているからな」

 

「欲の無い奴だ。しかしプエルトリコは少しばかり遠いが。国定史跡があったろう? 観光業にはかかさんぞ。よし、もう一本開けてくれ」

 

 家宰に告げるカストロ。とても上機嫌だ。

 

「悔しくないのか、上に行かれて」

 

「悔しい物か。どうせこのキューバでのんびりと暮らしている身だ。友が出世する。めでたいことじゃないか。そうだ。明日の演説は十二時間を挑戦してみよう」

 

「おいおいやめてくれ、病人が出る」

 

 ゲバラは一言。

 

「立場が立場だ。もう動けんことが辛いなあ」

 

 カストロが一言。

 

「もう充分動いただろう。案外皇帝陛下ももうお前を動かさない様にするために頸木を討たれたのかも知れないぞ」

 

 

 夜明けまで飲み明かした二人は、これからのカリブ海の発展について考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィデル・カストロ伯爵

 

 

 領地:キューバ・バハマ諸島

 

 面積:125,170㎢

 

 人口:23,421,032人

 

 

 

 エルネスト・ゲバラ辺境伯

 

 

 領地:ジャマイカ・イスパニョーラ島・プエルトリコ

 

 面積:101,261㎢

 

 人口:31,353,300人

 



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新宿歌舞伎町の街角にて

マリーベルの変装はsideオルドリン第一期4巻14話「園庭、伏せし凶器・前編」の物です。


 

 

「あ~、くっそ~パチンコ打ちてえ~」

 

 濃色の茶髪を威勢よく逆立て、赤いバンダナで止めた男。

 

 服装は身体にフィットした紫の上着に、下は薄い青色のジーパンを穿いたその顎ひげを蓄えた、一種無頼漢に見える男は、パチンコ屋の入り口のドアが開く度に身体を心をうずうずさせていた。

 

 逸る気持ちを抑えられないといったところだろうか? 生来賭博が好きな彼は、競馬場の前を通れば競馬に。競艇場の前を通れば競艇に。その心を熱く熱く引き付けられるのだ。

 

 そして今の様にパチンコ屋の前を通ればパチンコを打ちたくなる。

 

 半ば家と自宅と化している大家の邸宅にて大家の弟が来訪していればカードゲームで賭けをする。自身への挑戦に対しけして逃げることの無い大家の弟シャルル・ランペルージはそんな彼をいつも返り討ちにする。

 

 そう、いつも返り討ちにされるというのに、ブラックジャック、ポーカー、スピード、カブ、あらゆるカードゲームを挑んでは有り金を巻き上げられるのだ。

 

 それでもギャンブルが辞められない彼――玉城真一郎は、もう手遅れなギャンブル依存症であろうと思われる。

 

「いけません!」

 

 パチンコが打ちたいと口走った玉城の腕に絡みつけている自身の腕で彼を引っ張ったのは、頭の左側高くで一つに纏め上げられた、腰下まで届く長いサイドテールの髪の女性。

 

 膝下へと届くロングスカートは裾部がフリルになっており、裾部に二本のラインがスカートをぐるり一周円を描くように描かれている白いワンピース。

 

 濃色の蒼い瞳はディープブルーの色で、どこまでも深い海のようなそんな色を思わせる、目鼻立ちの整った美しい女性だ。豊満な胸部を惜しげも無く玉城の身体に押し当てている様は、彼を誘惑しているかのようで。

 

 そんな美しい女性に引っ付かれているというのに表情一つ変えず、パチンコ屋に惜しげある視線を向けて見遣る彼に対して、彼女は強く指導する。

 

「ギャンブル依存症がほぼほぼ確実な兄さまの監視もわたくしのお仕事の一つなのですッ!」

 

 彼女の名はマリーベル。マリーベル・ランペルージ。本名をマリーベル・メル・ブリタニア。玉城の生まれ育った誇らしい国、世界第二位の超大国『技術の』大日本帝国の最も親しく、家族関係にあると言っても良い程に繋がり深い国。世界第一位の超大国『力の』神聖ブリタニア帝国の第八十八皇女。

 

 皇女殿下、お姫様なのだ。そんなお姫様がこんなギャンブル狂いの馬鹿と一緒に新宿歌舞伎町を歩いていたのには理由がある。

 

 今現在グリンダ騎士団、マリーベル皇女が総団長を務める浮遊航空艦30艦、総兵力11万人の巨大な対テロ遊撃騎士団に休暇が出され、同盟国日本へと羽を休めに訪れたのである。

 

 そこで、マリーベル皇女はいずれ自身の夫として迎える予定の馬鹿の玉城、アホの玉城、が、よっしゃあああっっ!! 一勝負行ってくるぜぇぇぇぇっ!! という、大家の家で口にしてはならない言葉を口にしたことで、玉城の上司としてマリーベルが監視に就いたのである。

 

 まあ、彼女に取っては監視という名のデートであり、出かける前はウキウキワクワクドキドキしていたのだが。

 

「いいじゃんかちょっとくれぇ……別にお前の金を使うんじゃねーんだからよぉ」

 

「駄目ですっ! 大体特別休暇であって賭博を行うための休暇ではありませんっ! そもそも兄さまは御自分の借金のことをお考えくださいっ!」

 

「いや、お前よお。博打打ちに行ってる奴もいるじゃんか。11万人もいるんだぜ? シャルルのおっさんが代わりの部隊派遣して全員に休暇取らせてんだから。借金持ちでギャンブルしてる奴もいるだろ。そいつらは良くて俺は駄目な訳ぇ? そんなん通用すっかよ!」

 

 消費者金融で借りてるわけでもあるまいし。

 

 ああ言えばこう言う玉城真一郎だが、彼がグリンダ騎士団に所属している意味の一つは借金を返すことである。

 

 

 

 

 新宿歌舞伎町の街角にて

 

 

 

 

 彼は大家にしてブリタニア帝国皇帝皇兄でもあるV.V.。

 

 V.V.の実の娘である皇兄女クララ・ランフランクもう一つの名をクララ・ジ・ブリタニア。

 

 神聖ブリタニア帝国第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

 

 神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。

 

 ブリタニア貴族ジヴォン家次期当主オルドリン・ジヴォン。

 

 ブリタニア貴族ソレイシィ辺境伯家次期当主マリーカ・ソレイシィ。

 

 ブリタニア貴族シュタイナー家次期当主レオンハルト・シュタイナー。

 

 そしてマリーベル。ブリタニア皇家の個人五人、ブリタニア貴族三人から大きな借金をしているのだ。ブリタニアの皇帝に皇族に貴族にと、やんごとなき人々に平気で借金をしまくっている馬鹿野郎なのだ。

 

 全てギャンブルで作った借金であり、利息こそ発生しないが膨れ上がった借金総額は一千万単位。

 

 これをグリンダ騎士団の仕事で返していっている訳なのだが、騎士団に嘱託副官として入団してから、入団前よりも借金が膨れ上がってしまっている。

 

 泣き落とし、宥め賺し、自傷行為、あらゆる手段でマリーベル、オルドリン、マリーカ、レオンハルトの心を揺さぶりお金を借りて。なんとブリタニアが誇る世界最大の賭博街ラスベガスで大勝負に出て、大惨敗してしまったのである。

 

 これを知った貴族達は怒った。いや、それ以前から彼にお金を貸していた皇族達も怒った。怒って呆れてしまった。真面目に返済をするかと思えばこれなのだ。もう呆れるしかないだろう。

 

 喜んだのは大口の貸主であるクララ。

 

 クララにとってはライバルのマリーベルの目算が外れたからだ。

 

 マリーベルの母である、神聖ブリタニア帝国皇妃フローラ妃の出した、玉城とマリーベルの結婚条件の一つに、玉城のギャンブルを辞めさせるという物があるからだ。

 

『ふふふっ。甘いねお姫様。お兄ちゃんの博打癖はそう簡単に治らないのだよ。重度のギャンブル依存症者であるお兄ちゃんを甘く見すぎだったね』

 

 グリンダ騎士団に入るということはブリタニアにも行き、ブリタニアに行くということはベガスにも行く。それが玉城真一郎という男。

 

 計画性も無く、いい加減で、適当な男の在り方をクララはよく知っていたのだ。

 

 玉城の人間性を“原作から識っていた”夢幻会のメンバーは、V.V.邸でごろごろしている玉城と知己の者も多いが、玉城にお金を貸したら返ってこない可能性があるとして誰一人貸していない。

 

 また、鼻の利くソキア・シェルパはしつこい無心をされたが、口をへの字に曲げ、目を点にしつつ、1ポンドも貸していない。

 

 多方でマリーベルの計画としては玉城を自身に依存させることもあったりする。クララの立場を自分が乗っ取ってしまうことも視野に入れて自分が玉城の資金源になれば、玉城は自分に依存すると考え、誰よりも多くのお金を貸したのだ。

 

 それがまさか見境無く借金をしまくるとは思っても見なかった。叔父V.V.、兄ルルーシュ、父シャルル、レオン、マリーカは安パイ。上記三人は男であり、レオンとマリーカは夫婦だからだ。

 

 だがクララは完全に地雷だし、最近はオルドリンも少し怪しいところがある。

 

「とにかくなりませんといったらなりません!! 兄さまのギャンブル依存を治すこともわたくしの使命の一つなのですから!!」

 

「なんでよっ?! 俺がどこで賭けようが俺の勝手だろうがっ?!」

 

「だーめーでーすーっ! さあ、兄さま本日のご予定は一日わたくしにお付き合い戴くことなのですからパチンコ屋さんに目など向けずに参りますよ!!」

 

 頭の左上高くに一纏めにされているマリーベルの長いサイドテールが大きく翻り揺れた。玉城はその様子を見遣りながら一計。

 

 また馬鹿なことを考えついて実行に移してしまった。

 

「はあああ~、どうしてわかってくれねえんだろうなマリー。マリーベル」

 

 玉城は壁越しにドンとマリーベルを追い詰める。実に素敵だろう。これがパチンコ屋の壁でさえ無ければ。

 

「にい、さま……?」

 

 玉城はマリーベルの顎を壁ドンしている左手とは違う、空いた右手でくいっと持ち上げる。日本の平民たる玉城、それも碌でなしな馬鹿男からのブリタニア皇族に対するこの行い。

 

 不敬罪ここに極まる行為ながら、マリーベルが玉城に好意を抱いているという無茶苦茶な事実は、北側諸国は愚か南天にまで知れ渡っているため。誰にも咎められることも無いのだ。

 

 玉城は年下の女に興味は無い。それはマリーベルも知っている。与り知りながら玉城を夫とすると宣言しており、他の女性を牽制している。

 

 ブリタニア帝国の皇女である自身が宣言を布告しておけば玉城に手を出す女性がそうそう現れないことを計算して。

 

 事実、この宣告にはかなりの効力があった。玉城に好意を抱いたとしても手を出そうと試みる者は平民の間では皆無。

 

 ブリタニアの皇女であるマリーベルに正面から挑もうという怖い物知らずが居るはずも無し。

 

 クララ・ランフランクやオルドリン・ジヴォン、皇族や名家の人間しか手を出そう、興味を抱くという者は居ない。無論これはブリタニア国内の話であって、大日本帝国や南天ではまた別。

 

 信じられないことに玉城に好意的な感情を抱いている女性が他にもいるのだ。その女に玉城の唇は一度奪われているらしい。

 

 その女性とは、修道女のような格好をしていた美女で、茶色の長い髪を三つ編みに結った女だったという。ふと気が付いた瞬間にその女にキスをされていたという彼の情報。

 

 激昂したマリーベルとクララはだがそれだけでは誰かわからないと追跡も出来なかった。不思議なことにカメラに捉えられて居らず、南天の幹部だと見られる無貌かとも思われたが実態は不明。

 

『玉城真一郎……いずれあなたを迎えに来るわ。それまで待っていなさい』

 

 妖艶に微笑みながら頬を優しく撫でてきた年上修道女の姿に玉城は。

 

『年上のいい女に好かれるのは最高の気分……』

 

 脳天気にもそんなことを呟いていたが。

 

 それは、それだけは許さないと以来守りを固めているマリーベルとクララ。

 

 まあそれはともあれ、今現在のこの体勢。こうなると。

 

「んう――」

 

 重ねられるしかなかった玉城の唇。別にマリーベルと玉城が口付けを交わしたのはこれが初めてでは無い。

 

 マリーベル側からが基本だが、二人はこれまでも幾度と口付けを交し来た。彼女も年頃の女性。愛する男性への愛情のアピールには欠かさないし、また我慢も出来ないだろう。恋する乙女の性だ。

 

 その普段からの愛していますアピールのおかげで玉城もマリーベルとの口付けに抵抗感が無くなっていた。というよりもここまでやってキスしないのはそれはそれでマリーベルに恥を搔かせることになってしまう。

 

 ブリタニアの皇女様に恥を搔かせるのは不味いだろうということは、この馬鹿にもわかっていた。

 

 第一、ここまで来てしまうと安易に止まれば彼女の不機嫌さが増してしまうだろう。

 

「んっ、んふぅ――」

 

 一分二分と続く口付けはけして深い物ではない。軽く触れ合わせたまま唇同士を啄み合わせる物で、たまに見掛ける世の恋人同士のそれ。

 

 それを神聖ブリタニア帝国第八十八皇女、英雄皇女と名高いマリーベル・メル・ブリタニアと。

 

 日本の底辺高卒で、不可能な夢を追う平民が行うのは間違っているか知れないが。

 

 少なくとも玉城の行いは痴れ者として判断されてしまうこと疑いなし。

 

 まあ、当のマリーベルが玉城との口付けに幸せを感じているのだから邪魔するのは野暮と言った物だが。

 

「んっ……にい、さま」

 

 静かに名残惜しそうに離れる唇。

 

「兄さま……」

 

 マリーベルはその名残惜しさを大切な愛する玉城を抱き締めることで彼の心へと訴えかけた。

 

「マリーは、わたくしは、兄さまが愛おしゅうございますわ……」

 

「ああ、俺も好きだぜマリー」

 

 玉城もマリーベルを抱き締める。優しくも強く。

 

 じゃりんじゃりん――玉城の耳には相変わらずパチンコ台の音が聞こえている。

 

「そんな好きなマリーと一緒によ。二人で並んで台を確保して打ちてーんだ俺は」

 

 ぴくっ。マリーベルの身体が震えた。ああ、兄さまそういうことなのですね? その為の口付けなのですわね?

 

「兄さま……」

 

「マリー……」

 

 ぎゅう。

 

 マリーベルの豊かな胸が玉城の胸板に押し付けられ潰される。

 

 男にとってはご褒美さながらの状況だろう。マリーベルほどの美人はそうそう居はしないのだから。

 

 玉城はそんな可愛らしいマリーベルのサイドテールに触れながら撫で下ろし、彼女の身体を抱き締めて上げた。

 

「マリー」

 

「兄さま」

 

 ぎゅううう。

 

 玉城の胸板に押し潰される豊かな胸は、更なる圧力を彼の胸板に掛けていく。

 

 彼の背中に回されているマリーベルの腕にも力は加わっていく。

 

「ま、マリー?」

 

「うふふふ兄さま」

 

 ぎゅうううううう。

 

 ゴム鞠のように大きく豊かなるマリーベルの胸部は玉城の胸部を更に更に押していき、潰されていくのだ。背中に回る腕は彼の身体を彼女の方へと、彼の身体は圧迫されていく。まるで圧縮機のように……。

 

「い、いだ、いだいっっ、いでででででで~~~~~っ! ちょ、ちょっ、ちょっと待てっ、おっぱいの感触とかイイ香りがして気持ちいいのに痛いっっ!! ま、マリー、マリーベルさんっっ?!」

 

「うふふふふ、結局は愛情故の口付けだとわたくし一人で勘違いをしていただけなのですわね? 兄さまがパチンコに行きたいだけの、そんなくだらない理由でわたくしは唇を捧げたのですわね? そんな自分が道化に感じられてむかっ腹が立ちましたの……兄さま、恋する女を怒らせるとどういう目に合うか? 今一度身を以ておお知りくださいましな」

 

 ぎゅううう――っっ!!

 

「いだいいいだいいだいっっ!! マリーベル様っっ!! 気を付けますっ! 今日はパチンコをしたり等致しませんっっ! 口にも致しませんっっ!! マリーベル様のお買い物だけにお付き合いを致しますっっ!!」

 

「わたくしとのお買い物ではありません……、わたくしとのデートです……」

 

 光を失ったマリーベルの蒼い瞳。玉城を見ながら、玉城を映しながら光を失っている虚無の瞳。

 

 馬鹿は学習をしないのである。マリーベルに口づけたら、愛を囁いたら誤魔化せる。これまでそんな手を何度も使われていれば愛に飢えている彼女も流石に騙されなくなるだろう。

 

「わ、わかったっ、わかりましたっっ、ですからお許しくださいっっ、いでででで~~~っ」

 

 ぎゅうううぅぅ……ぅぅ……。

 

 マリーベルの腕の力が抜けていく。玉城を抱き締めながらその背骨をへし折らんとしていた程の圧力が消え、ただ抱き締める格好へと変わっていく。恋人同士のそれへ。

 

「はあっ、はあっ、はあっ、い、痛かったわ、背骨折れるかと思ったっっ」

 

「兄さまがわたくしを裏切るようなことを仰るからです。次、ギャンブルのお話を為さったときは肩の骨を外してしまいますから」

 

 マリーベルはクララがお仕事中で東京を離れている今、玉城を独占できることに歓喜し、デートを楽しみにしていたのだ。

 

 それをギャンブルなどで潰されたくは無い。

 

 もちろん彼女も玉城のギャンブルに遊びで付き合ったりもする。だが、今日はデートがしたいのだ。デートにギャンブルは要らない。

 

「こ、こえーこと言うなよ。クララもそうだけどお前ら美人の癖しておっかねーんだよ……」

 

 玉城はそう言い冷や汗を流しながらマリーベルのサイドテールに指を通して撫でて上げる。ほとんど誤魔化し行為で。ビッグマウスで誤魔化すのだけは上手い男の本領。

 

 けしてお世辞では無い言葉をもらえた彼女は美人だと言われて頬を赤らめるが、怒っていることには違いない。

 

 彼女も玉城の逆立つ髪を撫でながら、彼を愛撫しつつ呟いた。

 

「兄さまとのデート、わたくし心待ちにしておりましたのに……。このようなつまらないことで怒らせないでくださいまし」

 

「ごめん、ごめんって、許してくれよマリー」

 

「……許して欲しかったら、もう一度、心を込めた口付けをください」

 

「お、お前なあ、別に俺等って恋人じゃねーんだぞ?」

 

「愛する殿方よりの口付けをいただきたいのは女として当然のこと……、さ、兄さま」

 

 光を戻していた深い蒼。ディープブルーの瞳を閉じるマリーベルはただ待つ、玉城の背に腕を回したままで。

 

「ったく、しょーがねーなー」

 

 学習しない馬鹿は馬鹿なりに、漸く少しばかりの学習をして、嫌いでは無い女の唇を自分の唇で優しく塞いだ。

 

 



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小ネタ 南天という世界の闇

 

 

 異世界編

 

 休日世界編

 

 両世界で通用するお話です。

 

 

 

 

 

 南天条約機構。

 

 それは日本・ブリタニア太平洋戦争の際に、東南アジアの一部、南太平洋のほぼ全域と、自国の領域を拡大していった合衆国オセアニアが作り出した集団安全保障体制にして、集団攻勢保証体制。

 

 日ブ太平洋戦争に着いていける唯一の国と考えられていた合衆国オセアニアは、戦争その物には直接介入はせず、裏口から戦争への介入を図り、見事日本勢力圏、ブリタニア勢力圏より領土を掠め取っていった。

 

 正確には、当時の東南アジアは日本の裏庭に数えられ、当時の大洋州連合はブリタニアの裏庭の一つとみられていた。これらの一部と全域を掠め取ったオセアニアの策謀は上手くいったが。

 

 その危険性を熟知し始めた日ブ両国は、戦争終結後、悪化した国民感情を鎮めていき、対オセアニアで一致した行動を取ろうと、日ブ相互安全保障条約を早々に締結。後に北側と呼ばれる諸国を率いるオセアニアとの冷戦が始まった。

 

 一方のオセアニアは太平洋戦争へ裏口参加し、唯一の戦勝国となったものの、予想以上の早い太平洋戦争の終結(一年戦争)に、いらだちを隠せないでいた。本来ならば東南アジア全域、南ブリタニア全域への侵攻を予定し、あまつさえ疲弊した日本・ブリタニア両国の併呑をまでをももくろんでいたところ、宛てが外れたからだ。

 

 大日本帝国と神聖ブリタニア帝国は、見事手の平の上で転がってくれた。誤算だったのは転がっていたボールの止まりが予想以上に早いこと。

 

 いずれにせよ計画は頓挫。両国が余力を残した状態で北側へと攻め入るのはリスクが高すぎた。当時はまだ手足となる兵の数も武装勢力も、コングロマリットも無く手詰まりの状態だったのだ。

 

 この状況下で日ブは同盟を絡め、オセアニアにとり脅威となるもの『F号兵器』と呼ばれる、広範囲消滅兵器を作り出し、その実験に成功した。

 

 太平洋を赤桃色へと染めあげた巨大な光源はオセアニアからも見えており、オセアニア自身理論上、いや盟主が知識として識っていた兵器の70年もの早きに渡る誕生に、盟主本人の嗤いも止まったとさえ噂されている。

 

 無論、オセアニア人や、当時のオセアニアの衛星国の人間は、誰一人として盟主の顔など見たことは無いが為、噂の域を出なければ、そんな怪人がいることさえも懐疑的だったが。

 

 しかしこの日ブのF号兵器の開発実験成功は、事実上日本主導で行われていたため、オセアニアの世論は日本憎しで固まっていき、翌年には最悪の結果を生み出すことに。

 

 出力は日ブが生み出したそれよりも低かったものの、盟主主導の元、国家一丸となり動き出した、一体化したオセアニアの脅威が白日の下にさらけ出された。

 

 それはある晴れた日のこと、南天の空を赤桃色の光が包み込んだのだ。場所は南太平洋の無人地帯。宙よりコレを捉えた日ブはある事態の始まりを確信した。

 

 北南冷戦である。お互いが究極兵器F号を開発してしまったために、お互いに手を出せなくなった。容易なる手出しは即ち破滅を意味し、何もかもが消滅する憂き目に遭ってしまう。

 

 そして、オセアニアは予てより計画していた体制の構築に動き出すことになる。集団安全保障体制にして集団攻勢保証体制。一国が攻撃を受けたなら、同時に全ての国が攻撃を受けたと見なし、総反撃に出、一国が戦争を始めたならば同時に全ての国が参戦する異色の集団行動体制の構築を急いだ。

 

 まずは、旧大洋州連合を入れ、本土を入れ、日本との間の盾とした衛星国南ニューギニアを組み込む。次いで自治州と化していたマダガスカル(旧メリナ)を組み込み、アフリカ大陸に入り、高度に成長していた合衆国東アフリカを組み込んだ。

 

 この後、東アフリカの属国。国家間としては平等である中東のイエメンを組み込み、初期の体制は確立された。南太平洋からインド洋にかけてぐるりと取り囲むこの広大なる安全保障地域は南の天を支配するもの――南天条約機構と名付けられ日ブ同盟との対立を深めていった。 

 

 やがてこの安全保障機構にイラク社会主義共和国が、民主共和制原理主義に帰依するのではなく、共産主義のままオブザーバーとして加わり、中東戦争を引き起こす。戦争は激化を極め、イラクは独力で北サウジ、ヨルダン西部をもぎ取ったことで南天諸国に認められることに。

 

 この間の各国の動きとして、日ブ同盟もまた自国の勢力圏を広げようとする動きを見せた。地域的に、日本は東南アジア諸国とその近辺。ブリタニアは南ブリタニア諸国とその島嶼群。

 

 両国共に警戒された。日本は異常なる成長を遂げ、過去に大規模戦争を繰り返し、敵国を過度に壊滅させてきた恐ろしき国として。

 

 ブリタニアは過去二度に渡る大規模な侵略戦争と、北南戦争という内戦まで起こした国として。

 

 基本、平和的に生きてきた中小国家群から見れば、日本もブリタニアも危険な大国、今やオセアニア同様世界を支配せんとする危険な超大国としてみられていたのだ。

 

 そして、ことは動いた。まず、先を読み取ったかのように中東の小国クウェート、ヨーロッパの小国シーランド王国が待遇的なものもあり日ブ同盟の傘下に加わった。

 

 以前より日本の傘下に加わっていたナウルはわかる。太平洋戦争の激戦の中生き残りをかけた戦略だったのだろう。事実大洋州連合はオセアニアに呑み込まれた。

 

 当時世界はこの動きに懐疑的だった。独立したばかりの国と、独立国。態々その二つが属国として歩み出したのだから。シーランドは分からないでも無い。周りが敵国であるE.U.ユーロピア共和国連合なのだからいつ圧殺されるかわからない。

 

 だがクウェートは意味不明だった。共産イラクという危険な覇権国家が存在するにせよ、たかが石油如きのために日本が助けに来るとでも本気で考えているのか? そう周囲の中東諸国に馬鹿にされた。

 

 しかし、1995年3月、事態は一変し出す。合衆国オセアニアの属国にして南天条約機構構成国の一国、ニューギニア民主共和国が突如として北進を始めたのだ。南ニューギニアによるニューギニアの原理主義的統一を掲げて。

 

 猛反発したパプアニューギニアは南ニューギニアとの国境線に大量の兵を送り、両国は衝突。遂にはオセアニア本国までが動き出しソロモンに駐留していたメタトロン級空母戦闘群2個群まで送り出してきたのだ。

 

 当然こうなるとパプアニューギニアには勝ち目はない。以前からオセアニアは地域大国インドネシアや小国ティモールを小突き回し、日本の反応を伺っていたが、日本動く事なしの確証を得て此度は軍を動かしたのだ。

 

 ブーゲンヴィル島とニュー・ブリテン島をオセアニアに占領され、マダン・ウェワクといった都市部への空爆まで受けたパプアニューギニア政府は、所詮小国が列強国と戦っても勝てないのだという事を悟る。列強には列強をぶつけるしかない。この意思で予てより『技術の日本』の二つ名を持つ超大国であり、列強でもあった日本に対して助けを求めるメッセージを送ったのだ。

 

 この動きに、当時、中立を保っていた東南アジア諸国は荒れた。勝手に列強の、ましてや日中戦争、日欧戦争、太平洋戦争と大きな戦争ばかり繰り返してきた日本を呼び込むとは、植民地化されると。

 

 だがパプアニューギニア政府は、ならば貴様らがオセアニアと戦ってみよ! オセアニアの空母戦闘群1個群だけでも国を滅ぼされるぞ。と返されては、どの国も何も言えなかった。

 

 今回の戦争でオセアニアは動いたが、南天は動いていない。南天条約機構無しのオセアニアが相手ならば日本も動いてくれるかもしれない。一縷の望みをかけたパプアニューギニア政府は──賭けに勝った。

 

 日本はトラック諸島に駐留させていた鳳凰空母戦闘群を始めとした空母戦闘群4個群を動かして、オセアニアの占領下にあったブーゲンヴィル島とニュー・ブリテン島を急襲解放、続きビスマルク海戦では、オセアニア空母メタトロンとサディケルを半身不随にまで追い込み、護衛艦艇のおよそ6割を撃沈・撤退に追い込んでいる。

 

 これに対して、日本側はイージス巡洋艦六甲と生駒が大破し、駆逐艦1隻が撃沈された以外は、小中破に留まり目立った被害はなく、鳳凰級空母4艦全艦無傷という、完勝に近い勝利を得た。これは、艦艇や航空機の性能は勿論、采配を採った司令官、山本五十六海軍大将の指揮能力の高さを物語っていた。山本は後年この時の戦争を振り返り、格下相手に負けておっては帝国海軍軍人の名折れであると言明し、奥方の神聖ブリタニア帝国リーライナ・ヴェルガモン伯爵と共によくこの話を強要されていたという。

 

 オセアニア海軍の敗退を目にしたパプアニューギニア政府は、日本が完全にわが国の味方に付いた!と、勢いづき、軍の士気は大いに向上。一時期は完全にニューギニア島全土は白化すると考えられていたところから、一気に国境線まで南ニューギニア軍を押し返し、膠着状態へと戻すことに成功。

 

 オセアニアの当時の国防長官は、全空母戦闘群を以てすれば東南アジア全土など容易く抑えられると豪語したが、その様なことを実行に移せば日本との本格的な戦争は避けられなくなり、F号兵器の撃ち合いを招くと総代行主に却下されている。

 

 この時も神は、盟主は嗤っていたと伝えられているが、誰が神か、神の姿を知る者はいない為に分からずじまい。だが、この敗戦を機に、南天条約機構は次第にその形を作り始めていく。神への絶対なる忠誠。全天に美しき世界の実現の為に。教化と浄化。この三本柱を持ち。国民皆兵制度を取り入れて行く事となるその始まりの戦争でもあった。

 

 守られた側のパプアニューギニア政府だったが、国土は荒廃し、各都市をがれきにされ、復興には時間がかかるとされたが、ここでも日本の先進技術および強大な工業・建築が役に立ち、早期復興、奇跡の復興を成し遂げた。同時にパプアニューギニア政府は自らひざを折った。日本の衛星国としてこの先を生き抜いていく覚悟を決めたのである。

 

 この戦争を見守っていたティモール、インドネシア、フィリピン、インドシナなど、東南アジアの国々が、日本は必ず助けてくれる、圧制を敷いたりおかしな思想を持ち込むことも無いと確信。次々と日本の庇護下に入っていったのもこの時期の事だった。

 

 これにより大日本帝国は大量の衛星国を手に入れるが、同時にオセアニアと言う国を正式に南天へと変質させるきっかけを作ったとも言えよう。

 

 次に大きな話としてブリタニア五・六事変が挙げられる。世間的にはよくある皇族や貴族の反乱とみられているが、この事件、南天の神が関わっている可能性も指摘されていた。

 

 何故かと言えば、誰も何も覚えていない『空白の三十分事件』と言う謎の怪事件が発生し、当時最強を誇ったラウンズマリアンヌが何者かに重傷を負わされ、多くのロイヤルガードが死んでいるからだ。皇帝シャルルも多くを語ることは無く『さあ、選択の時だ』とだけ声が聴こえたと語る。

 

 大勢の死傷者を出し、ブリタニア最高の頭脳の一人、悪魔伯爵と呼ばれる男の脱獄もあって大混乱に陥ったクーデター事件。しかし、それを、その戦いを陰より支えていた日本の仲間たちがシャルルには居たとされ。彼は孤独に戦っていたのではなく、多くの皇族・貴族、日本の仲間たちに支えられながら、事件を戦い抜き、皇帝の座をつかんだと言われている。

 

 次に歴史の針が大きく動いたのは、皇歴2010年のこと。南ブリタニアはユーロユニバースの友好国であったラプラタ東方共和国を、民主共和性原理主義者ジェファーソン・デイビスが、ラプラタ民主連合共和国へと白化させようとした事件。

 

 これは南ブリタニアに大きな戦乱を呼び込むこととなる。当時すでに中央アフリカ以南が次々に白化されており、秘密裏に民主共和性原理主義国家が増えていく中。遂にその足音は南ブリタニアにまで迫ってきたのだ。

 

 新たなる、唯一神を仰ぎしラプラタを作ろうとしたデイビスは、白化の危険性を熟知していた南ブリタニア五ヵ国よりの経済制裁を受ける。

 

 この返答として返したのは、アラウカニア=パタゴニアの都市ブエノスアイレスへの空爆だった。この凶行に南ブリタニア諸国は連名でラプラタとデイビスを討つことを宣言するも。

 

 ラプラタの凶行は止まず、各国に送り込んでいた原理主義者による自爆テロを敢行してきたのだ。まさか自爆テロにまで及ぶような凶行までに走るとも思って居なかった各国軍は、全力を挙げてラプラタを攻撃した。最早この国を残しておくわけには行かないと。

 

 だが、これをこそ待っていたのだ。デイビスはここまでの動きをすれば、盟主が何らかのアクションを起こして下さると信じていた。盟主を、唯一神を妄信するデイビスにとって、死は救済である。怖くはない。だが足跡を残し神と共に聖戦=ラグナロクを戦い抜きたいとも考える彼は。

 

 神の動きを待った。はたして神は動いた。空母5隻からなる戦闘群を、南ブリタニア両岸に張り付けたのだ。南天条約機構こそ動かされなかったが充分だった。南ブリタニア諸国をどうにかするには。そう、神聖ブリタニア帝国、大日本帝国が動かなければ。

 

 このタイミングで彼の国々もまた動いたのだ。当時を振り返りシュナイゼル宰相は語る。我々が介入しなければ、南ブリタニア諸国は白化されていた、神を妄信し、神の為に死を選ぶ恐ろしき民に思考を改造されていたでしょう。

 

 この時すでに南天条約機構は動員可能だった2010年当時の最大戦力は50,000,000人とみられている。七天もまだ存在していなかったとも。確かな事は分かっていないが、皇歴2015年以降の完全なる全にして個と化した強大なる南天条約機構軍はまだ完成していなかったとみるべきだろう。

 

 そうして難を逃れた南ブリタニア諸国は、長年のわだかまりを捨て、ブリタニアの手を取るに至った。その後、衛星国となった国々を、日ブはそれぞれに集団安全保障体制へと組み込んでいき、2020年より数年後には欧州解放戦争によって消滅したユーロユニバースに変わって出来上がったAEU諸国も組み込み、北側諸国同盟を完成させるに至る。

 

 同じころ、南側も中央アフリカ以南を正式に民主共和性原理主義国家として南側に組み込んでいき、最大動員80,000,000人、戦車200,000両以上、作戦機20,000機以上、主力水上艦艇千数百隻以上、KMF23,000騎以上、浮遊航空艦艇500艦以上、更に2年後には空母戦闘群30個群体制にまで膨れ上がった南天条約機構は一応の完成を見る。

 

 北側と南側は表裏一体。一方が動けば一方が動く、ここに『技術の日本』『力のブリタニア』『数の南天』(最早南天はこの時点で一つの国家としてみられている)が揃ったのだ。

 

 以降も三勢力は軍拡を強行していき2022年度段階で三勢力合わせ300,000発のF号兵器の保有にいたり、世界を10回以上に渡り消滅させられるほどの力を持つに至る。

 

 南天の危険性を識るのは、かつてのユーロユニバース、大日本帝国・神聖ブリタニア帝国率いる北側諸国のみ。AEUですらその本当の危険性については気付いていない。

 

 世界中に1,700,000,000の信徒を持ち、勢力としては1,000,000,000ほどの人口を持ち、テロ組織・コングロマリットとしては100,000,000の構成員を持ち、宗教としては1,200,000,000の人数を持つ。その全てが全天に美しき世界の実現の為にという一つの目的のために蠢く集合体なのだ。

 

 とくに80,000,000の南天軍や、民主共和制原理主義者の一部は死兵と呼ばれる感情無きキリングマシーンともなれる。教化か浄化の二択を強要し教化を選ばなければ浄化=処刑する。それは国家単位ですら行われる為、ジェノサイドすらも容易に行うのだ。

 

 また死に対する一切の恐怖を持たず、神に帰依するという幸せなる未来のみを見て生きている。根本的に民主主義とは相容れない民主主義教の勢力。それが南天なのだ。ユーロユニバースはその恐ろしさを知りながらも同じ民主主義の人間として、いつも笑顔な彼らの顔を信じている。

 

 中華連邦やジルクスタンはその危険性に気付きながらも、自分たちが侵略される事は無いだろうと半分の人間は考えている。中東はそも侵略されていたというのに気付いていなかった。相手がイラクだったと言うこともあって。

 

 しかし彼らは根本的なところで勘違いをしている。南天に与する人間は皆口を揃えて言う。笑顔の仮面を張り付けて。

 

 

 

 

 

 ―――“全天”に美しき世界の実現のために―――

 

 

 

 

 

 南天という世界の闇

 

 

 

 

 

「なに読んでんの?」

 

「うわおッ!」

 

 怖い本を読んでいた。そんなときに肩越しから声を掛けられたら誰でもびっくりする。この時の玉城真一郎もそうであった。

 

 右肩越しを振り向くと、其処には長いウェーブがかった金髪を、二つ結びにした女性の姿。オルドリン・ジヴォン。間もなく23歳とならん女性でその胸は大きく成長――こほん。その身体は大人らしく成長してきていた。

 

 肩越しに甘い香りが漂ってくる。彼女は性格はがさつだが、女性としてみれば相当な美女である。彼女クラスとなればこのグリンダ騎士団には『麗しの姫君しかいない』無論、こんなことをそこらで話せばひんしゅくモノだが。

 

 リドールナイツの中にも美女・美少女は多い、ソキアも充分美女だ、というかグリンダ騎士団以前に、玉城真一郎の周囲は男女問わず顔面偏差値が高すぎる。唯一玉城一人が落第点なのだから、彼が誰をどうこうとは言っては成らないのである。

 

「なによ。そんなお化けでも見たみたいな反応して」

 

「いや、お前、普通に美女なんだからいきなり声かけてくんなよ」

 

「び、びじょッ!?」

 

 オルドリンの顔が赤くなる。オルドリンの家の爵位は低いが、長年ブリタニアの闇を司ってきた一家としてそれなりの名家なのだ。そのお嬢様に気軽に声を掛ける男も少なく、オルドリン自身家に決められた婚約者はまだいない。そんな中、歯に衣着せぬ、オルドリンにさえ平然と接する年上の男からの、美女宣言。

 

 普段言われ慣れていないせいもあってか胸が無駄に高鳴ってしまった。

 

「どしたよ?」

 

「あ、あうううう」

 

「だからどしたよ」

 

「た、玉城のくせに生意気なのよ!」

 

 照れ隠しで玉城の肩を叩くも、いつものように思うように力が入らず、へちょ~っとしたような叩き具合となってしまい、余計に玉城に心地良さを与えるだけだった。

 

「と、とにかく本よ本。漫画じゃ無くて図書室できちんとした歴史関係の本を読むなんて、あんたにしちゃ殊勝じゃない。ちょっと肩揉んだげる」

 

 気分の良いオルドリン。美女と正面切って言われたら女性ならそれは気分が良いだろう。

 

「おお、お前の肩揉み上手いんだよなあ。誰かがやると肩折れるんだが」

 

「それ、本人の前で言わない方が良いわよ? 確実に肩砕かれるから、まあ砕かれても、いまの日本やブリタニアの医療なら簡単に治せるのがまた怖いところなんだけれどねー。発展しすぎって言うか、私らの国って何処を目指してるんだろうってさ」

 

「そりゃおめー宇宙じゃねえの?未発達、未開発、どこまでも続く果てしない空間。そこにロマンを感じるもんだよ。せせこましい一つの星の上でぎゃーぎゃーやってんのなんざ、本来バカらしいことなんだがな」

 

「…………き、今日のあんた無駄に格好いい」

 

「お? イケてるか俺? イケちゃってます?」

 

「すぐ調子に乗る。そういうところがマイナス点なのよ。っていうかあんたグリンダの艦隊勤務の女の子や女性に結構モテてるんだから、多少は自覚持ってしゃんとしなさいしゃんと。私だって時々格好いいなって思うことあるんだから」

 

「おお、嬉しいことを言ってくれるねえ。今日はどしたよ」

 

「だからあ、殊勝にも勉学の為の本を読んでること」

 

 玉城はそこで黙った。冷や汗を流していた。

 

「そりゃ、自分の命が狙われたら調べたくも成るだろうぜ」

 

 そうだ。命が掛かっているのだ。冗談では無い、遊びでも無い、真剣な話しだ。グリンダへ来たのだってこれと無関係では無い。グリンダの艦隊勤務は基本空を回る。地上に降りたりもするが世界中を飛び回っている為に一か所に留まることが少ない。そこに玉城の安全性が担保されていると言えよう。最も、玉城をこよなく愛している皇女様の好意を何処かに向けなければ根本的解決には至らない。といって玉城は自分を、自分みたいなダメニートを好いてくれる彼女を無碍にはできない。で堂々巡りが続いているのだ。

 

「そう言えばあんた」

 

「思い出したくないから止めてくれ。どっちが死んでも後悔しか残らねえ最悪な状況だったんだ。あんな警戒網すり抜けてくるとか誰が考えるよ」

 

「あんた狙ってたの北側諸国で“無貌”って呼ばれてる南天の大物でしょ? 無理も無いわよそんなのに狙われたら」

 

 オルドリンは肩越しに彼を抱き締めた。楽天家でバカでアホで間抜け、でも幼いマリーに道を与え、クララ皇兄女、クララさんを完全なる闇に落とさせず。いつも光を用意し、日本とブリタニアの高官達に時に笑いをもたらしてきた男。

 

 V.V.皇兄殿下もなにかと認めているところもある、色んな意味で変な奴が狙われたのはそう、マリーとの再会の日。最も重要で、最も優しくて、最も祝われるべき日に、“四人”は狙われた。無貌の差し向けた刺客の凶弾によって。アレは間違いなく真正面からの宣戦布告だった。

 

 あの時のシマダ卿の顔を忘れられない、無言で純粋な怒りに満ち、それでいて凪のように静か。ツナミが来る前のように。誰かが言った、シマダ卿は怒らせてはならない方だと。

 

 オルドリンはあの現場に居合わせ、無貌よりも凶弾よりも、母や伯父よりも恐ろしい方の存在を識ったのだ。シマダシゲタロウ卿。ツジマサノブ卿あの方々をこそ真に恐ろしい存在というのでは無いだろうか。

 

 あの静かな怒りの中、確かに感じた数百数千、数万、数十万、数百万数千万、億の血の臭い。どこであの臭いは身に付けられてきたモノなのだろうか。あの方々はあの臭いを持ちながら何故平然としていられるのか。

 

 猛烈な吐き気に襲われた。以前、ブラッドリー卿に窺っていたのはコレだったのだと理解した。初めて見たとき、まだ小さな頃だったが恐怖を感じた。見た目は普通なのにとてつもなく巨大な存在に見えたと。

 

 いずれにせよ、それはまた、いつか語るべき時が来よう。今は玉城のことだ。オルドリンは優しく抱き締めて、その恐怖を癒やしてあげることに専念し、肩越しに彼の読んでいた本のタイトルを見た。

 

『南天という世界の闇』

 

 その本の内容、確かかなり不正確だったはずだ。南天が完全なる形を為したのはかなり古く、1960年代にはもう完成を見ていた。当時既にユーロユニバースは南天に怖れを成して土下座外交をしていたはず。

 

 中東はイラクと南天を警戒し、ジルクと中華も南天を警戒していたはずだ。南天の国力は既にこれら全ての国を足しても尚余りあるほど強大のものになっていたから。

 

 ではなぜ、オセアニアは日本に負け、南ブリタニアには手を出せなかったのか? それは日ブの持つ最終兵器F号兵器が関係している。

 

 一度発動すれば世界を消滅させ尽くすとも言われる恐ろしい兵器。これを日ブもオセアニアも共に実践配備していたから、一度火が付けばどちらかが滅びるまで終わらなくなる。そして、この時。南天条約機構の発動体制が整っていなかったのも幸いした。この当時で50,000,000と言われていた南天条約機構軍は、その巨大さ故に動くのに時間が掛かる。

 

 少なくともラプラタ戦争、南ブリタニア紛争の時点ではそうだったのだろう。これが近年は改善され、更に強大に膨れ上がり、最早日本、ブリタニア一国とならば互角に戦えるだけの力を身に付けてきた。故に北側諸国も集団安全保障体制を構築した。

 

 日本とブリタニアの衛星国をそれぞれ北側諸国同盟として再編していったのだ。南天と同じく一国への攻撃を全ての国への攻撃と見なす体制の構築を。既に始まっていた北南冷戦はもう60年以上続いているが、終わる気配が無い。南天の戦力は加速度的に増大の一途を辿り、日本・ブリタニアの戦力も対抗して増大の一途を辿っている。

 

 どこまでいくのか分からない。そして北側諸国の大方の予想通り、南天は北側南側何処の勢力にも属さずの空白地帯だった中東へと攻め込み、僅か二週間で併呑すると、矢継ぎ早にジルクスタンと中華連邦へ同時侵攻した。兵力数は3000万。更に追加派兵で2000万が待機状態にあったため、5000万という史上最大の軍隊が動き出したのだ。動かす気ならば更に3000万、計8000万という信じられないほど膨大な軍を動かせる南天、この進軍を二国は止められまい。

 

 ならば二国を助けるか? ここで脚を縛っていたのが日本の旧敵国条項。中華連邦およびユーロユニバースに適応されており、この二国に一定以上の被害のあるであろう紛争に対し助力しないとする条項だ。

 

 最早100年以上も昔の寂れた条項ながら、約束や契約を重んじる国、日本では現在でも守られ続けていた。なにより国民感情がなぜ中華のために日本人が血を流さなければならないとなっていたのも大きい。

 

 しかし、これを動かしたのは意外にも我が国だった。日本と中華連邦との間の仲介に立ち、両国間の仲を皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの名で繋いだのだ。南天の脅威の前に過去のわだかまりに拘っている時などでは無いと。日本の上帝陛下もこれに加わった。古びた条約と南天の脅威、優先すべきはどちらでしょうか、と。

 

 相手は5000万という史上最大の蠢く死兵の群れ、これをはじき返すために必要ならば日本と我が神聖ブリタニア帝国は中華連邦の側に立とう。と。

 

 そして南天の走狗となっていた大清連邦と高麗共和国を大日本帝国の当時で24個あった空母戦闘群、同じく24個の遠征打撃群のうち12個群ずつを出撃させ僅か3日で清国と高麗を踏み潰し、失地回復のためにと極東の地にまで遠征に来ていたAEU軍600万とシベリアの地で握手をし。

 

 返す刀で、24個・24個の巨大空母。巨大揚陸艦。600艦からなる浮遊航空艦隊12,000,000の軍を大陸へと派遣、中華連邦を縦走しながら南天侵攻域までの強行軍を果たし、大日本帝国軍と南天軍は激突、追ってブリタニア軍も16,000,000の軍とそれに付随する戦力をジルクスタン・中華連邦の南天侵攻域に送り込み南天軍と衝突した。陸で、海で、空で、宙で、熾烈を極めた戦いは続いた。

 

「まあ、これが大凡の真実って処ね。私も全てを識っているわけじゃ無いから分からないけれど。でも凄いのは、日本もブリタニアも南天も、戦争の途上にありながら戦力が増え続けていることなのよ」

 

「ま、マジか」

 

「ええ、ブリタニア名、第一次ラグナロク作戦と命名されたこの作戦、世間的には大ユーラシア大戦、第一次北南戦争。より分かりやすくは世界大戦とした方が通ってるかしら? で日本もブリタニアも南天も本土では兵器の大増産を図っていてね、戦後の方が戦力増えちゃってんの」

 

「い、イカレテやがるな。戦時増産した分の方が消耗分を上回っているとか」

 

「各国のKMFの世代も一気に進んだわ。戦争がテクノロジーを上昇させるってのは昔の話しだと思っていたんだけれどね。空母戦闘群だけで言えば日本は改大鳳型が多く建造されて100,000t級~130,000t強空母戦闘群30個群になっちゃってるし、うちは100,000t級~130,000t弱級空母と戦闘群で56個群、オセアニアがごちゃ混ぜで42個群にまで膨らんで維持可能だからそのままの体制に。中華連邦やジルクスタン、AEU、北側諸国は皆この三国に着いていくのは不可能って言ってさじを投げてるわ。まあそうよね、異常だもの」

 

「そりゃ無理だろ。脳みその容量が2Bitしかないと自称してる俺でさえ分かるわ。おかしいんじゃねえのか?」

 

「ねー、これが通常運転だから尚のことおかしいのよ。当然だけど、次というか、決着を付けるべき第二次北南大戦、第二次世界大戦は互いの全戦力をぶつけ合うわけだからコレよりもっと酷いことになるわよ?」

 

 背後から玉城を抱き締めたまま、オルドリンは語り続ける。

 

「おかしいと言えば。うちの騎士団もおかしいのよ。分かる?」

 

「お、分かる分かる。この騎士団って確か、立ち上げた頃は300人ちょっとだったんだよな?」

 

「へー、よく識ってんじゃない。それ僅かな期間だったからほとんどの人が知らないのに」

 

「いや、俺も自分の所属する騎士団のことくらいは調べるっての。で、確か初代グランベリーの1艦体制だったんだよな」

 

「そうそう、懐かしいわー初代グランベリー。愛着があったから変えるのは嫌だったんだけど。それで立ち上げ後すぐに半個師団に増やされて地上部隊が創設されたのよね-」

 

 6,000人体制。正確には7,200人体制となったのだ。これは浮遊航空艦が個から艦隊となったことでそうなった。

 

 グランベリーだけだったところへローズベリーとブラッドベリー、後にネッサローズ初代が追加されたのだ。もうこの時点で対テロ即応部隊の規模を超えていた。

 

「い、いきなし半個師団だもんな。地上部隊なんかも作られて訳分かんねーだろうな。なんての。お、大所帯になりすぎ」

 

 姿勢を崩したままで立っているのも疲れてきたオルドリンは、玉城の右肩に顎を乗せた。依然背後から彼を抱き締めたまま。さすがの玉城もここまで接近されると来る物がある。

 

 なにせ、暖かくて柔らかいものが二つくっついてくるからだ。この椅子の背もたれは低い。低いからこそ柔らかいものはむにゅむにゅと押し付けられる。

 

 おまけに二つ結びにしているオルドリンの髪の一房が、玉城の頬を撫でていて、さらさら擦れる髪の毛の感触、香しいその香りにどぎまぎとさせられていたのだ。

 

 幾ら年下は守備範囲外といったところで、大人の女性にここまで接近されて無反応でいられるほどに玉城も男として終わってはいない。

 

「な、なによあんたいきなり声を上擦らせたりなんかして、」

 

「い、いや、なんでも、」

 

「あ、わかった! またギャンブルしてるんでしょう? マリーに言いつけてあげようかしら?」

 

「い、いや、だから違ッ」

 

 おめーの柔らかくて大きなおっぱいが二つとも背中に当たってるんだよ。あと、さらさらの髪が頬に擦れて香しさもあって、き、気持ちいいんだよッ!

 

 と、言ったらぶっ飛ばされそうなので、玉城はこの気持ちの良い時間を自ら受け入れることにした。そう自らの意思で受け入れることにしたのだ。

 

 “彼女”というものがありながら、というのが一般説的には唱えられるだろう言葉。だが、何度も論っているように彼女は玉城の守備範囲外。正確にはオルドリンも。ここで要約してみると、オルドリンは玉城のことを好きでも嫌いでもない。

 

 だからこそオルドリンは安心して玉城に引っ付いたのだ。年下の自分に対してエロいことを考えない男として。もちろんそこはオルドリンも女。恥ずかしいし羞恥心もある。

 

 ただ、怖がっているというか、びびっている玉城を放っておくのも、それはそれで違う気がしたのだ。故に抱き締めて安心させてあげた。不思議なことに、男の人というのは、女性から抱き締められると安心し落ち着く物であるらしい。

 

 今更な話しだが玉城も随分と落ち着いてきたようだし。こちらはこちらで途中から姿勢的に疲れてきたので、そのまま彼の肩の上に顎まで載せてしまったのはやり過ぎのような気がしないでも無かったが、どうせここまで来たら今更だと、そのままにしたのだ。

 

「ねえねえ、いいから話しの続きをしようよ。それでグリンダ騎士団は4艦半個師団体制に成りながら、南ブリタニア大陸を縦横無尽に走り回るのよね。テロ掃討要請が多く出ていたのが当時南ブリタニア大陸諸国からだったから」

 

「そ、そうらしいな、グリンダ騎士団がジェファーソン・デイビス以外の主要な国際テロ組織ペンタゴンの幹部陣を討ち取ったのは、この頃だったとか聞いたぜ? 確かオルドリンが№2を討ち取ったんだろ? おめーすげーな!」

 

「ふふん、もっと褒めなさい。褒めても何も出ないけれど私の気分が良くなって、これからは玉城に優しくしてあげることも増えるかもだから。そのときなのよねー私のグレイルが活躍したの。でもあの時一番活躍したのって実は私じゃ無いのよ?」

 

 ぐっと、また強く胸が押し付けられる(あ~っ、おっぱいや~らけ~っ)余りエッチな方では無い玉城。どちらかといえば出世街道を目指すただのアホといった方が正しい。そんな彼でも女の色香に全く無反応でいられるかといえば、前述のようにNOだ。

 

 玉城だって男だ。口ではちびっ子だの。ちっせーんだよなにもかもといいながらも、きっちりとクララの女としての色香に反応していたように。別に年下の女だから何も反応しないなんてことは無い。反応しなかったらしなかったで今度は病気である。

 

 今のオルドリンのように、クララもよくぺたぺたと玉城にくっついていたが、玉城は男としてきっちり反応していた。男が女に反応する。極々自然なありふれたこと。

 

(あ、横顔結構かっこいい、かも。は、え? わ、私何考えてんのよっ! 相手は玉城じゃない、玉城なのよ玉城っ、そ、そんな感情を抱くはずが無いでしょーが!クララさん――クララ皇兄女殿下やマリーじゃあるまいし)

 

 女であるオルドリンが男である玉城に反応する。こちらも自然なことだ。ともあれ、異性同士が過度にくっつくと無感情ではいられない。何らかの感情なり、情動なりが働いたりする。今の二人はそんな状況下にあった。

 

「で、で? 一番活躍したのって誰だ?」

 

「え、あ、ああ、マリーよ」

 

 マリーと聞いてドキンとする玉城。悪いことはしていないはずなのに何か悪いことをしているような気分。いわゆる旦那が妻に内緒で他の女と会っている的な気分だ。

 

 別にマリーは妻では無い。マリーベル・メル・ブリタニア皇女は神聖ブリタニア帝国の皇女様であって、日本の一平民如きがお付き合い可能な相手でもない。ので、今のこのオルドリンとの接触はノーカウントである。

 

 そんな発想を抱きつつも、マリーとはそれこそよくキスをしている。夜はマリーの部屋にて同じ布団で寝ながらディープなキッスまで交してしまっている。しかも一回は本気で致してしまった……だが、もちろん恋人ではないのだ。

 

 玉城とマリーの関係は、お兄様と妹分的関係と玉城は今でも考えている。

 

 皇歴2012年のくそ暑い初夏。共に座っていたベンチの端と端。びーびー煩い糞ガキが泣いていたあの頃から何も変わってはいないものと。

 

(あの頃、あのガキは12歳だった。俺は19大人手前だった。そんなあのガキが今ではあの頃の俺よりも年上だ。だが、俺ン中じゃガキのままなんだよ。夢を語り合って金平糖握らせて別れたガキだ、今更どうしようってんだ)

 

 気が付けば彼女ももう大人。皇室の人間ならそろそろお相手探しを始める時期だ。長寿の種族の日本人とブリタニア人の結婚適齢期はかなり長い。とくにいまの世代だと外見年齢も相当遅く進行していくため、諸外国の二十代後半の外見年齢で六十~八十も普通にいる。

 

 なにせ平均寿命が二百年もあるのだ。当然だが外見年齢の進みも遅くなろう。この長寿種族化、医療、バイオ、サイバネティクスの三分野の異常進化がもたらした副産物で、主に日本人、ブリタニア人、南天人、シーランド人にその長寿化傾向は見られる。

 

「なあ、オルドリン、おまえさあ、何歳くらいに結婚とか考えてる訳よ?」

 

「な、なによ急に、」

 

「いいから、貴族様ってのは何歳くらいまでで結婚するんだ」

 

「と、とくに結婚年齢は決まってないけれど、婚約者候補が見つかったら、余程のことが無い限りほぼ内定みたいなもの。貴族ってね血を大事にするから家格の高い相手や、名家と結婚したりするのよ。私も何れはそうなるかな。うちは婿を取る側だけれどね」

 

「ほえー、あのよぉ、口出ししてわりーけどさあ、そんなんでいいわけ? 惚れた腫れたのとか、恋愛結婚とかは?」

 

「ああ、ほぼ無理よそれ。レオンとこみたいな例は珍しいの。まあ、あんたの周囲もそういう意味では珍しい方達ばかりだけれど、みんな恋愛結婚なんだもん」

 

「そいやレオンとこってどうなってんだ? レオンはシュタイナー家の嫡男で跡継ぎなのにマリーカんとこに婿入りしちまってるし。どうなってんだ?」

 

 レオンハルト・シュタイナー。シュタイナー家の嫡男で当然にして貴族。だが、彼は家を継ぎながらも、ソレイシィ辺境伯家へ入り婿として入っている。

 

 そんな形が不思議に感じた玉城は、同じく貴族であるオルドリンに聞いてみた。

 

「マリーカさんていうか、ソレイシィ卿の方が家格が大分上だからね、当然レオンの方が入り婿となる訳。日本でもそうでしょう?例えば普通の華族伯爵家であるヤマモト卿が、上位伯爵家であるウィスコンシンの領主ヴェルガモン卿の家へ婿入り為された。同じ伯爵家の中でも家格が別れてるのよ。そういうのと同じ。で、シュタイナー家としてはきちんとレオンが当主として収まってる。当主不在という形でね。だから代わりに当主代行の家宰が全てを取り仕切ることになる訳なの」

 

「現代日本とブリタニアの貴族事情ってわけか、じゃあ皇室は?」

 

 気になっていたことを聞いてみた玉城。クララは皇室の籍を抜かれているから民間人という。だが、ジ家に跡取りが生まれないときはクララの皇籍が復帰される。

 

 マリーベルは言うに及ばず皇女様だ。思いっきり皇族の人間だ。玉城のことを好きと言い、本当にアプローチまでしてくる女性がそうなのだから、玉城としては頭が痛い。

 

「皇室はもっと厳格。ブリタニアの皇室の場合日本から婚姻相手を貰う場合、日本の皇室の人間か、華族伯爵位を持つ人間以上となる。ブリタニア人からなら伯爵位を持つ人間以上の家格の相手としか婚姻は認められないわね基本的に。例外的に名家の場合は爵位が低くとも皇室へと上がれることもあるって感じかしら」

 

「因みに聞くけどよ、平民は?」

 

「ほぼ無い。たまに認められるケースがあるんだけれどよほどのことがないと……って、玉城、あんたマリーからあれだけ逃げておいて今更その気になったの?」

 

「ねーよねーよ、なんであんな泣き虫のガキゴリラを嫁にせにゃならんのだってーのよ。あの手で肩握られたらごきって骨折れたんだけど」

 

「あ、あんたねーそのうち皇族侮辱罪か不敬罪で処刑されるわ――?!」

 

 貴族への不敬ならオルドリンにしまくりの玉城。もしオルドリンが不敬罪に処すと決めた場合、その場で処罰することも可能なのだ。

 

 もちろんオルドリンがその様なことをするはずもない。彼女の性格上蹴りかパンチ一発で終わりにするだろう。

 

 時に、こうして玉城を優しく抱き締めて、その胸を当てたり、顎を彼の肩に置いたり、髪の毛で頬を擦らせたりと男女を気にしながらも、優しくそして気安く接するのだ。

 

「ウフフフ、仲よさそうですわね兄さま、オルドリン? ねえ、オルドリン。あなたはいつから兄さまのお身体を気安く抱き締めたり為さるような関係となったのでしょうか?」

 

 だが、それが時に悪いものを引き寄せてしまう。図書室に静か―に入ってきた、嫉妬に狂った鬼である。

 

 その鬼、薄い紅色の腰下まで届く長い髪をし、深い青色の瞳を持ち、桃色を基調としたロングスカートを穿き、背中には天使の翼のような真っ白な羽マントを広げた美女、神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア皇女は怒り狂っていた。

 

 よりによって信じている親友に兄さまを奪われんとしていた、愛の行為をしていた、肌を擦らせ遭っていた、それが許せなかった。

 

「ねえ、兄さま。兄さまはわたくしが抱き着こうと致しましてもあんなにも嫌がりますのに、オルドリンに抱き着かれて、あまつさえその肩に顎をおかれて……頬を擦られてっっ!!!」

 

「ま、ままま、マリー違うわッ! 誤解ッ、誤解よッッ、玉城を抱き締めてたのは彼がちょっと不安そうにしていたからッ! そ、それと、きちんと正直に言うけれど殊勝にも玉城が歴史の本を読んでたから付き合ってあげていただけよ」

 

 オルドリンは鬼に淡々と事実のみを説明する。果たして鬼は。

 

「ほっ、なんだそうですの。それならば罰しません。兄さまを盗ろうとなさっていたのなら処罰していたところですが」

 

 平然とそう言う鬼に背筋が寒くなるオルドリンは、誤魔化しもあってその場に膝を突く。

 

「神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア殿下、ようこそグランベリーへお越しくださいました。艦を代表し歓迎致します」

 

 実際、グランベリーの責任者はオルドリン・ジヴォンなのだ。艦を代表するのは当たり前、親友であっても主従関係なのだから。

 

「歓迎の儀ご苦労」

 

 リドールナイツが10人ほど出てきてマリーベルの両側に道を作るように並ぶ。

 

「艦員はそれぞれ休暇のためどうかご理解のほどを」

 

 本来は艦員総出で出迎えなければならないのだが、急な来訪のためと、本日グランベリーが休暇のために致し方の無い部分もあったのだ。

 

「差し許す。私も急な来訪のために多くを求めては居りません。普段のお勤めの分だけ、皆英気を養うように」

 

「勿体ないお言葉を頂戴し恐悦至極に存じ上げます」

 

 そんな感動的な主従のやり取りの中、すたすたと堂々と逃げようとしているバカ一人。

 

 リドールナイツの隊員の中には「あのマリーベル殿下を前にしても引かない強さが格好いいのよね♪」と惚気ているものが数名。

 

 そんなリドールナイツの隊員は主人の冷たい視線を浴びて直ぐさま凍り付くことになるが。

 

「兄さま~♪ 何処へ行こうと為さるのですか~」

 

 怒れば怒るほどに微笑む、マリーベルの本気の微笑みが炸裂していた。

 

「い、いやあ、君たちの感動の主従の挨拶に水を差すのは無粋だと思ってね、お邪魔虫は退散することにしたのだよ。ゆっくりと語り合ってくれたまえ」

 

「ウフフフ、そう仰らずに兄さまもこちらへいらしてもう一度お座りくださいな、今度はわたくしが丁寧に教えて差し上げますので。まさかっっ! オルドリンの教えはお受けになって、わたくしの教えはお受けにならないなんてこと……仰りませんわよね?」

 

 バカは逃げ場を喪った。最初からマリーベルが来訪した時点で逃げ場など無いのだ。なにせ、要所要所にリドールナイツが配置され『シン兄さまを絶対にこの艦より逃がさないように』と厳命を受けていたから。

 

 ぐいっと手を引っ張られて強制的に椅子に座らされるバカ。

 

 そのままオルドリンがしていたようにマリーベルは後ろから抱き着く。肩にも顎を乗せて頬擦りをするのだ。

 

 気持ちいい。良い香り。マリーベルの長い紅髪は、彼女の肩を跨いで玉城の肩を滑り落ちる。良い匂いに良い感触の筈なのにそれを楽しめないのは何故だろうか?

 

 なんだこの気持ち。浮気がバレた夫みたいな…………。

 

 マリーベルは自らの豊かな胸を玉城の背中に当てる、いや押し付ける。ふにゅんと感じるおっぱいの感触、実に気持ちが良い。頬ずりをされる。ああ実に気持ちいい。

 

 だが、やはり純粋にその空気を楽しめない。

 

「ウフフフ、先ほどオルドリンとこの様なことを為されていたのですねェ兄さまは」

 

 びくんっ!! 身体が震える、これはあれだ恐怖って奴だ。

 

「わたくしという者がありながらなぜオルドリンなのですか? 兄さまは年下には御興味が無いのでは? いつもわたくしに仰ってますわよねえ。どうですの?」

 

「な、ない、ないっ、ありませんっ」

 

 マリーベルを見る玉城。

 

「ひえっ!」

 

 深く蒼い綺麗な瞳はぐるぐると渦を巻いていた。

 

 こういうときの脱出方法を玉城ももちろん身に付けていた。少々罪悪感も感じるし、マリーベルを弄んでいるようで嫌なのだが、この方法が一番なのだ。

 

「マリーっちゅ!」

 

「んうっ?!」

 

 玉城命名キス一発である。神聖ブリタニア帝国皇女マリーベル・メル・ブリタニアに、このような行為。本来なら処刑物である。しかしそうはならないのは、マリーベルが玉城をこよなく愛しているが為。

 

 マリーベルが作り続けている玉城くん人形は、2048体に達してネッサローズの広い彼女の部屋を埋め尽くしている。

 

 そんな彼女が彼を罰しない理由など決まりきっている。将来彼を婿に取ろうと考えている為なのだ。こんなことが地上にいる最強の暗殺者であるヤンデレラにバレたら『お兄ちゃんを盗られるくらいなら殺す』と追い掛けられること必然なのだが。

 

 とにかく玉城を愛する女性筆頭のマリーベル皇女とクララはヤンデレ気質で、クララに至ってはヤンデレラなので玉城も気が滅入って仕方が無い。俺に普通の年上の女との甘酸っぱい恋愛はと考えることはあるが。

 

 そんなことをしたら本当に殺されるのは玉城自身であると気付いていないあたり、やはり真性のアホなのである。

 

 玉城からの突然のキスを受けたマリーベルは目を見開いている。とにかく彼女、玉城からに限ってだが唐突な行動に弱い。

 

「んんっ、んちゅっ」

 

 玉城は玉城でマリーベルとキスしている内に、かなりキスが上手くなった。人間何事も続けていれば上達していくものである。キスその物は甘酸っぱくて気持ちが良い。マリーベルの瑞々しい唇の味は、多分どんな料理よりも美味い。七歳も年下とは思えない大人の味がするのだ。もちろん今現在マリーベルは大人なのだが。

 

 唇を啄み、鼻息の掛かる距離で顔を寄せ合う二人、幾度も、幾度も、口付けを繰り返す。コレを見ていたオルドリンはひゃあと恥ずかしくなると共に、胸にチクッと痛みを感じた。

 

 リドールナイツの女性数名も胸に痛みを感じているが、主人と玉城の関係には誰も踏み込めないのだ。

 

 そうして数分、玉城はマリーベルにキスをしていたわけだが。彼女の瞳を見ると、あのぐるぐると渦を巻いていた瞳では無く、普段の深い蒼に戻っていた。とろんとしているが。

 

 そして、ゆっくりと唇を離す。

 

「ん――……にい、さまぁ」

 

 マリーベルは椅子に座る玉城の背後から抱き着いて、全身を以てくっつきながら、すりすりと頬擦りを始めた。さすがのオルドリンもここまではしていなかった。

 

「お、おま、こら、勉強を教えてくれるんじゃねーのかよ」

 

 これは勘弁だった。周りにいる女性陣の目が痛いのだ。マリーベルは知ったことかと頬擦りを続けながら、話す。

 

「階級のことでしたらこれですわあ」

 

 彼女は端末を取り出してみせる。頬擦りは続けたまま。オルドリンもリドールナイツも何も言えずのままだった。なにせ皇女殿下が自らの意思でしていることなのだ。誰が何を言えようか?

 

 第1階位:Commoner:平民

 

 第2階位:Knight of honor:武勲侯

 

 第3階位:Knight:騎士

 

 第4階位:Baron:男爵

 

 第5階位:Viscount:子爵

 

 第6階位:Earl:伯爵

 

 第7階位:Margrave:辺境伯

 

 第8階位:Marqess:侯爵

 

 第9階位:Duke:公爵

 

 第10階位:Grand Duke:大公爵

 

 第11階位:Knight of Rounds:ナイトオブラウンズ

 

 第12階位:Imperial family:皇族

 

 第13階位:Emperor:皇帝

 

「下へ行くほど階級が上です。我が神聖ブリタニア帝国は絶対的階級制国家。大きく分けて全13階級から構成されております。本来ならば平民が男爵などに不敬を働いた場合、その場で処刑も出来てしまいますのよ?」

 

「…………俺何処?」

 

 表情筋を引き攣らせながら平民は決まり切ったことを態々問う。

 

「一番上ですわあ」

 

 嬉々として答える皇族。

 

「お前何処?」

 

「上から12番目ですわ。兄さまの普段からの不敬の数々。わたくしはこの場で兄さまを処刑してしまえるのですよ?ウフフフ♪」

 

 笑う美しい皇女様は、表情筋の引き攣る平民に、何度も優しーく頬擦りをする、飽くまでも優しーくだ。良い香りと良い感触なのだが、何故かとてつもなく怖く感じたのは、たぶん気のせいでは無いのだろう。何か猛獣に頬擦りされているような気が……。

 

「あ、あは、あは、あっはっはっは、冗談きついぜマリーちゃん」

 

 皇族を相手にキスで誤魔化すという許されない罪業を犯してまで機嫌を直せた訳だが、背中から汗が噴き出る。そして、絶対的階級差と言っても段階があることを皇族は教えてくれた。

 

「平民から騎士で一つの括りですわ。もちろん、平民が騎士爵に不敬を働いても無礼打ちは許されます。そして騎士までは一代限りの貴族です。ですが男爵からは基本的に永代貴族となります。また騎士爵と男爵では大きな力の差がありますの。次に子爵と伯爵です。子爵から下の貴族が下位貴族となり、伯爵より上が上位貴族となります。ここにまた一つの壁が存在することとなりますわね。またそれぞれの爵位の内部でも細かく分かれております、下位の男爵もいれば上位の男爵もおりますように。そして上位の伯爵からがいわゆる大諸侯と呼ばれる爵位と成り、領地持ちの上位伯爵以上ならば経済圏を抱えていたりも致します。このあたりでまた一段階壁が出来ておりますわね。伯爵・辺境伯・侯爵・公爵・大公と順に上位貴族は続いていきますがこの中で細かく分かれておりますの。そして一代限りの騎士の頂点、ナイトオブラウンズがここで入って参ります。その上に皇族が入る……わたくしはここに入りますの」

 

 皇族と上位貴族ヤヴァイ……この話が続くとヤバいことになりそうだと危機感を覚えた平民玉城は、ここで強引に話を打ち切った。

 

「アーッあーっ、そうそう、南ブリタニアでのペンタゴン掃討作戦で一番活躍したのはマリーなんだってなーっ、あーっ、やっぱすげーわマリーはっ、よっ、さっすがグリンダ騎士団総団長!! 戦姫マリーベル格好いいっ!」

 

 玉城のべた褒め。あからさまな逃げだが。

 

「そ、そんなこと、あ、ありませんわ、皆の力があってこそですもの、そ、それに総団長と呼ばれる前です」

 

 マリーベル皇女は簡単に引っ掛かった。玉城、シン兄さまからの手放しのお褒めは今の話題に勝り、彼女に取っては歓喜となるのだ。

 

 心が温かくなり、身の内より嬉しさが湧いてくる。それが玉城真一郎のマリーベルへの言葉の魔力。

 

 話しついでだからこのまま話そうと考えた玉城は、総団長と呼ばれる前だという処に注目、そこを突いた。序でに勉強勉強。

 

「なんだその総団長と呼ばれる前ってのは?」

 

「総団長と呼ばれるようになったのは、単純に騎士団の規模の巨大化です」

 

「あーそういやそんな話ししてたわ。最初は1艦320人体制だったけど創立直ぐに3艦半個師団体制になって、次に4艦半個師団体制に、そんでもって今は」

 

 13艦37,000人体制3個師団状態。

 

「お父様はまだ増勢させるおつもりのご様子で。次の増勢では30艦100,000人体制に為さるのだとか」

 

「お、おいおいマジか?! それもう対テロ即応部隊じゃねーぞ。対テロ即応軍だぞっ」

 

「わたくしとオルドリンの身を案じてのことなのでしょう。昔なにをしても生きて帰ってくれと“例えどのような状況下であろうとも命を捨てるな! 泥水を啜り這いつくばってでも生き延びろ! いいな二人ともっ、死ぬことだけは絶対に許さんぞっ!”と仰ってお出ででしたので、その為の増勢と、対テロでまだまだ手が足りないからという意味合いもあるものかと」

 

「あ、懐かしい。陛下に抱き着かれて仰られたのよね。あの時の陛下の温もり、今でも覚えているわ」

 

 マリーの昔を思い出す言葉に、ぼーっと立っていたオルドリンが反応した。懐かしいシャルルからの願いであった。

 

「そりゃ親父さんの気持ちも分からんでもねーけどどんだけ増やすんだよ」

 

「兄さまもそうお思いですわよね? 浮遊航空艦30艦、地上部隊100,000人体制。近くそうなるそうですが、きちんと指揮できるか不安ですわ」

 

「大グリンダ騎士団だなこりゃ。今でも充分大グリンダ騎士団だけどよお」

 

「ねー。今でも充分大グリンダ騎士団よねー。浮遊航空艦隊が30艦なら浮遊航空艦隊員だけで10,000人になっちゃうから、地上部隊と併せて110,000人なのよね」

 

「ヤベーなその人数。でもそんだけいりゃ年上美女――」

 

「兄さま?」

 

 マリーベルは笑顔で玉城を抱き締めると、再び玉城に頬を擦り寄せる。マリーベルの長い髪が一房、玉城の肩を跨ぎ流れ落ち、彼の頬を擦り付ける。

 

「兄さまはわたくしを裏切りませんわよね? たとえどの様な女性が勤務されることになろうとも、ね?」

 

 そのままの体勢でぎゅうううっと玉城を抱き締める手に力を入れ始めるマリーベル。

 

「ま、ま、マリーしゃん、裏切らない裏切らないっっ!! 裏切りませんっっ!!」

 

「本当に?」

 

 ニコニコ笑顔のマリーベル。この状態が一番怖い。オルドリンにヘルプの視線を送る玉城だが、私まで巻き込まないでと無視された。

 

「またオルドリンを見て……兄さまあっっ!!」

 

 軍学校オールSの握力が玉城を抱き締めるその身体に加わり始めた。

 

「いだいっ! いだいいだいっ!! 良い匂いもするけど、おっぱいやーらけーけどいだいっ!!」

 

 この瞬間玉城は助かった。良い匂いというワードと、おっぱいやーらかいというワード。この二つの嫌らしく汚らわしく、平凡なワードに羞恥を覚えたマリーベルが力を緩めたのだ。

 

「兄さま、エッチ……」

 

 



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小ネタ 30艦11万人体制

 

 

 30艦11万人体制

 

 

 

 皇歴2018年。我が部隊は産声を上げました。当初、僅かな期間でしたが我が部隊はカールレオン級初代グランベリー1艦320人体制という僅かなる少数精鋭部隊でした。

 

 それが時置かずして3艦6000人体制と成り、初代ネッサローズが合流したことで規模はより大きく、対テロを念頭に置いた作戦も寄り大規模に大胆に動けるようになりました。

 

 そして皇歴2022年我がグリンダ騎士団は大グリンダへの飛躍の年を迎えたのです。アヴァロン級2艦、カールレオン級11艦、地上部隊3万3千名。とてつもなく大きな部隊、いえ軍へと成長し。

 

 数々のテロ組織の掃討を行えてきました。我がグリンダ騎士団が壊滅へと追い込んだテロ組織の数は、皮肉にも30組織。この30という数字は新たなるグリンダ騎士団の象徴たる数字。

 

 本日2023年○月×日を持ちましてグリンダ騎士団は。

 

 地上部隊10万名。

 

 浮遊航空艦アヴァロン級7艦。

 

 カールレオン級23艦。

 

 艦隊要員約1万名と地上部隊10万名の11万名体制と成り。

 

 正式に対テロ部隊から対テロ軍集団へと昇格します。

 

 

 オール・ハイル・マリーベル!!

 

 

 オール・ハイル・ブリタニア!!

 

 

 オール・ハイル・マリーベル!!

 

 

 オール・ハイル・ブリタニア!!

 

 

「皆静かに!! マリーベル殿下のお言葉を拝聴せよ!!」

 

 興奮冷めやらぬ兵士達は、皆それぞれに、神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア皇女を讃えていた。1艦320名の部隊が今や30艦11万人となる軍集団へと成長したのだ。

 

 一テロ部隊としてはあるまじき偉業。それも全てはマリーベル殿下や騎士達の功績によるもの。

 

 とくにマリーベル殿下を筆頭に、ナイトオブナイツ――オルドリン・ジヴォン、ヨハン・シュバルツァー将軍、幹部陣のソキア・シェルパ卿、ティンク・ロックハート卿。

 

 ラインハルト・シュタイナー卿、マリーカ・ソレイシィ卿。……マリーベル殿下直属の嘱託副官シンイチロウ・タマキ卿の力が大きい。

 

 そのタマキ卿だが、さっきからマリーベル殿下の演説をチラッとも聴いていない。艦隊勤務の年上の女性に声を掛けて邪魔している。

 

 別に大声で演説を邪魔しているのでは無いので、演説自体の邪魔にはなっていない。嘱託副官などと言っても一般兵と同じ扱いな訳で、割と自由が効く身だ。

 

 その立場を利用して、艦隊勤務の年上女性に粉を掛けまくっているのだ。

 

 

 まだまだテロリズムの根が絶たれたとは言い難い現状。彼の巨大組織白い翼は1億人からなるコングロマリットにして、恐るべきテロ組織でもあります。

 

 マリーベル・メル・ブリタニア皇女を映す巨大モニター。旗艦ネッサローズに据えられている巨大モニターは、グリンダ騎士団中に中継されているのだが。

 

 そのマリーベル皇女の目が、先ほどからぐるぐると、あっちへ動き、こっちへ動きとハエでも見るように動いているのだ。

 

 視線の先には嘱託副官、シンイチロウ・タマキの姿。

 

 

 ともあれ、テロリストの一人一人。組織の一つ一つを潰していくためには。11万人皆の一人一人の力が必要なのです。

 

 さあ、行きましょう。新たなる戦いの地へ! そしてこの世界に平和と安定を取り戻すのです! 断じて民主共和制原理主義を広めるようなことがあってはなりません!

 

 

 世界に蔓延る民主共和制原理主義テロリズムを! 鋼鉄の箒で薙ぎ払い!! 白化の芽を根絶やしにするのです!!!

 

 

 グローリートゥグリンダ!!

 

 

 オールハイル!! ブリタニア!!!

 

 

 グローリートゥグリンダ!!

 

 

 オールハイル!! ブリタニア!!!

 

 

 グローリートゥグリンダ!!

 

 

 オールハイル!! ブリタニア!!!

 

 

 艦隊員達が、地上部隊の兵士達が唱和する中、やはり嘱託副官のタマキ卿は女性隊員に声を掛けている。

 

 そして最後に艦隊員に、地上部隊員に申しつけておくことがあります。

 

 我がグリンダ騎士団では恋愛は自由です。身分の差など色々と後々の懸念事項もあるでしょうが、艦隊内での恋愛は自由です。

 

 ただし、裏切り行為だけは決して許してはなりません。特に男性が女性を裏切るなどと言う最低行為だけは許してはなりません。

 

 キョロキョロと目玉だけが動く美貌。美人だから麗しいだの可愛いだのと、讃えられるマリーベルは、しかしそれどころではない。

 

 艦隊内、軍集団内に年上の女性が大勢入隊してきたのだ。あのアホの好みの女性だっているだろう。実際に演説中ずっと女性に声を掛けていた。

 

 ココはもう一つ付け加えるべきだろうかと麗しの皇女様は考える。とにかく自由にしていては危険だ。

 

 恋愛は自由で良いのだ。身分違いの恋愛だって許されて良いと思うのだ。彼の平民とは12階級という越えられない壁の身分差がある。

 

 それでも自分は恋をし、彼を自分のものとし皇室へとあげるつもり。根回しは少しずつだが出来ている。

 

 大きな問題があるとすればクララとの決着。いずれは直接対決となろう巨大な壁。

 

 そんなことも考えずに、他の女性ばかりに粉を掛ける裏切り者を、わたくしは許すつもりはありません。

 

 今日という今日は、誤魔化しも嘘も、抱擁も、く、く、く、口付けも、逃げる一環の手段としてなら許しません。

 

 自由恋愛は自由恋愛として認めますが、わたくしは『あなたの』自由恋愛を認めるとは一言も申し上げておりませんので。

 

「うふ、ウフフフ、シン兄さまァ、マリーはこれよりシン兄さまのお側に向かいますわァ」

 

 どうしてくれようかしら。肩をお揉みしてうっかり砕いてしまおうかしら。それとも肩を外してしまおうかしら。変なナンパなど出来ないよう。

 

 

「マリーベル殿下目がキョロキョロしてたにゃー。あれはたぶんたまきんの様子を追っかけてた感じさー」

 

「でしょうね。あの馬鹿。艦隊員に年上の女性が入ってくることくらい予想してたから、やらかすと思ってたけど。マリーの爪を食らうわねあれ」

 

「し、しかし、マリーベル殿下も自由恋愛と申しておりましたし。タマキさんって一応フリーなんでしょう?」

 

「レオン! フリーだったら女性の気持ちを踏みにじっても良いとおっしゃるの!」

 

「マリーカちん、どうどう。これの目移り癖は今に始まったことじゃ無いから」

 

「ぼ、僕はマリーカさん一筋です!!」

 

「嘘にしかきこえんにゃー」

 

「しかし婿殿はどうなさるおつもりなのかな? 婿殿の行動パターンは殿下がシミュレート為されておったはずだが」

 

「今頃マリーに捕まって半殺しにされてお部屋へお持ち帰りされてる気がするわ」

 

 

 ※

 

 

「マリー、愛してるよ。マリーだけを愛してるからだから――外してる肩元に戻してくれェ!!」

 

 さめざめと泣くアホ一人。

 

「ダメですわ。そうしたらまた逃げ出して女性をあさりに行かれるのでしょう? 兄さまにはわたくしがおります。わたくし以外に」

 

「ちみっこがいるだろ」

 

「……クララ・ジ・ブリタニア、ですか」

 

「クララ・ランフランクな。あいつは一生俺のこと甘やかすんだと。俺の面倒見るんだと」

 

「ダメです。兄さまには皇室へ入って頂きます。カリーヌやギネヴィアお姉様。オデュッセウスお兄様には根回しも済んでおります。他にも大貴族の何割かにも。ブリタニアの4.5分の1のお力をお持ちのクルシェフスキー卿の説得がうまくいけば」

 

「……なあ、お前さあ、どんだけ俺のこと欲しいんだよ」

 

「あの、初夏の日からずっと兄さまを婿に迎えることだけを夢見ていました。女としての夢ですよ? 皇族としての夢は、グリンダ騎士団の創設と、テロリストの討伐」

 

 玉城は夢を語るマリーを見ながら、ほう、とため息を吐いた。

 

「ま、グリンダ騎士団を1艦320人体制から、30艦11万人軍集団体制のレベルまで成長させたのは素直にスゲーよ。こんだけの軍事力がありゃ結構なテロ組織を潰せるだろうな」

 

「……しかし、本当の敵は構成員1億人の白い翼……戦力的にはまだまだ足りないのが実情です」

 

「白い翼は無理だろ。世界中に根を張ってるコングロマリットだぞ。南天本体や光の嚮団の次にヤベーよ。1個軍集団程度でどうにか出来る相手じゃねー、お前、死ぬぜ」

 

 マリーベルの肩が小刻みに揺れる。

 

「どうしたよ」

 

「うふふふ、兄さまがわたくしのことを御心配してくださることが嬉しくて」

 

 言うと。玉城の肩の関節を。ごきんごきんっ。と元に戻してあげたマリーベルは玉城に抱き着く。

 

「わたくしが死ぬの、悲しいですか」

 

「……馬鹿野郎。大人がガキを守るのは当たり前だよ」

 

「わたくしはもう大人です。クララももう大人です。もう、兄さまに守られるだけの存在ではありません。わたくしもクララも兄さまよりもずっと強いんですのよ」

 

「知ってるよただな」

 

 言いかけてマリーベルを抱き締めた玉城。

 

「俺の日常の中に、お前等はもう居るんだよ」

 

「にい、さま」

 

 だらんとマリーベル皇女の腕が下がる。静かな午後の一幕。以外にも二人は仲良く過ごしていた。

 

 

 

「つーかよォ、このタマキくん人形何個作るんだよ?」

 

「さあ、わたくしも幾つ作りたいのか分かりません」

 

 部屋を埋め尽くすタマキくん人形大から小までもう二千数百体。マリーベルはいったいこれを幾つ作るつもりなのだろうと、少し怖く感じる玉城だった。

 

 因みに玉城とマリーの部屋にはシン兄さまとマリーの愛の部屋と書かれた掛札まで掲げられていた。

 

 

 



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帝都の休日外伝 ルルーシュシリーズ
また君を……。


こちらは悪逆皇帝となり死を迎えた彼の、その後のお話しとなっております。
蒼の混沌掲示板様投稿分から僅かばかりの修正が入っております。


 

 

 

 

 また君を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺戮に継ぐ殺戮。破壊に継ぐ破壊。

 

 多くの血を流し、我が手を真っ赤に染め上げ、全ての憎しみを集め世界の敵となった悪逆皇帝ルルーシュ。

 

 最早、虐殺皇女と名付けられたユーフェミアを思い出す者はいない。例え歴史にその名を刻んだとしても、悪逆皇帝が達成した偉業の前には、霞の如く薄れ消え行くであろう。

 

 無論、そうなった処でユフィに殺させてしまった者達の彼女へと向けられる憎しみが消えることはない。

 

 出来ることならば、その憎しみすらもこの身で引き受けたかった。しかし、人々の心を一つにし、ユフィが望んだ争いのない平和な世界を作る為には世界の英雄であるゼロの存在が必要なのだ。

 

 その為にはユーフェミアをギアスで操り、罪のない日本人の虐殺を命令したのがゼロであってはならない。もし、ゼロがルルーシュと同一の存在である事が白日の下に晒されれば、ゼロレクイエムは崩壊し、世界は再び戦火に包まれてしまう。

 

 そして、その新たな戦火を止めることは最早誰にも出来なくなり、己の全てを掛けたこの計画が水泡に帰してしまう。

 

 何もかもの引き金を引いたのが自身である以上、計画通りに進めることその物が傲慢と言えたが、例えユフィに恨まれたとしてもこの我だけは押し通す。

 

 それがこの俺……。

 

 

 

 魔王──ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが成し遂げなければならない最後の仕事なのだから……。

 

 

 

「ル……ルルーシュっ……!」

 

「これは、お前にとっても罰だ……」

 

 スザク……。いや、ゼロの剣で貫かれた胸が熱い……。

 

 だが、これでいい。こうでなければならないのだ。

 

「お前は、正義の味方として……仮面を被り続ける……。枢木スザクとして生きることは……もう……ない……。人並みの幸せも……全て……世界に捧げてもらう……、永遠に」

 

 俺の死と、そして枢木スザクの死こそが、このゼロレクイエムの総仕上げ。

 

 俺も、お前も、共に人を殺しすぎた……。

 

 俺は徹底した殺戮と破壊を行った悪逆皇帝として世界に憎まれながら死に、お前は悪逆皇帝の下で殺戮を実行した裏切りの騎士として死を迎える。

 

 お前が、お前として生きることは最早無い。枢木スザクが望んだ死すらも、ゼロ──今のお前には許されない。

 

 お前が人(スザク)として何かを望む事は、俺(魔王)が生き続ける事と同様に、これより訪れる平和な世界にとって許されざる大罪だ。

 

 故に、人としてではなく、ただ、正義の味方という装置として、己が天寿を全うするまで生き続けろ。それがお前の罰だ……。

 

「そのギアスっ……! 確かに受け取った……っ!」

 

 ああ……漸くだ……、ナナリーが望み、ユフィが望んだ世界が……俺とスザクが計画し、実行へと移したエゴ、ゼロレクイエムの果てに……。

 

「お兄様……」

 

 剣が引き抜かれ、身体の支えを失い落下した先には、俺が守りたいと思っていた者の一人が居た。

 

 ナナリー……。

 

「そんな……! お兄様は……今まで……っ!」

 

 俺の手に触れたナナリーの手……直後に聞こえたのは驚愕に彩られた声だった。

 

 ああ……そうか……。忘れていたよ……。ナナリーには、触れた者の心象風景を読み取る、不思議な力があったのを……。

 

 ふ……だが、知られた処で、最早何も意味は成さないがな……。

 

「お兄様っ……! 愛しています……っ!」

 

 涙を流し俺に縋るナナリーの声……。

 

 

 

 

 

 だが、それも束の間の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

『ルル……よかった……』

 

 

 

 

 

 

 

 泣きじゃくるナナリーの声に混じって。

 

 

 

 

 

 

 

『最後に、話せて……』

 

 

 

 

 

 

 

 別の声が聞こえてきたんだ……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

『私ね……記憶が戻って凄く怖かった……』

 

 これは……。

 

『偽物の、先生……。記憶にない……友達……。みんなが……嘘を、ついてる……。世界中は、私を見張ってるような気がして……』

 

 シャーリー……? 

 

『ルルは、こんな世界で一人で闘ってたんだね……。たった一人で……』

 

 ……シャーリーとの記憶……。

 

 永遠の別れとなった──彼女との。

 

『だから私は……私だけは……、ルルの本当になってあげたいって……』

 

 あのときの──別れの時の。

 

『私……ルルが好き……お父さんを巻き込んだって、分ってても……嫌いにはなれなかった……』

 

 父を殺した俺を。

 

 それでも……好きだと言ってくれた……。

 

『ルルが全部、忘れさせてくれたのに……。それでもまた……ルルを好きになった……』

 

 人生で二度目に愛した……。本気だった……。本気だったからこそ、遠ざけた……。

 

『記憶を弄られても……また好きになった……』

 

 シャーリーと話した……。

 

 

 

 最後の記憶……。

 

 

 

 

 

 はは……は……なんて……ことだ……。

 

 失礼……極まり……ないな……。

 

 分かれを告げ……一番に思わなければならないのは……今……俺に縋り付き、泣いている……ナナリーでなければ……ならないというのに……。

 

 死に行く……瞬間の……永遠とも言える時間が……シャーリーの残した……最後の言葉とは……。

 

 ナナリーとの幸せな日々ではなく……彼女との別れの瞬間を思い出しているなんて……。

 

 俺は……俺という奴は……こんなにも……薄情な兄だったのだろうか……? 

 

 ずっと……ナナリーの幸せを願い……戦ってきた筈なのに……。

 

 

 

『何度生まれ変わっても、きっとまた……・。ルルを好きになる……』

 

 

 

 いま……俺は……自分が愛した女の子の事だけを……思い出している……。

 

 …………。

 

 ────いいや……違うな……。

 

 何を、都合の良いようにばかり……考えている……。

 

 俺は……。俺という男は……。元々……こんな奴だったじゃないか……。

 

 ナナリーの為というのを口実にして自分の考えを押し付け。

 

 結局は自分の思い通りにしたかっただけの。

 

 自分勝手で我が儘な人間だ……。

 

 

 

『これって……運命なんだよね……』

 

 

 

 運命……か。

 

 そうだな……運命かも知れない。

 

 こんな自分勝手な俺を好きになってくれる、君みたいな優しい人と巡り会えたのは……、運命と呼ぶ以外に……何と呼べばいいのだろう……。

 

 シャーリーは、死の淵にあるその瞬間も、こんな自分勝手で傲慢な俺を好きで居続けてくれた……。

 

 こんな人との巡り会いが、運命でなければ、何だというのか……? 

 

 この、優しさの無い、冷たく孤独な世界で……。君の存在は、俺の救いだった……。

 

 

 

『だから……いいよね……ルル……。……生まれ変わってもまた……ルルを……好きになっても……』

 

 

 

 ああ、もちろんだよシャーリー……。

 

 こんな俺で良ければ……また……好きになって欲しい……。

 

 きっと俺も……君を……好きになるから……。

 

 

 

『何度も…… 何度も……』

 

 

 

 何度も……何度も……、何度でも……。

 

 

 

『好きに……なる……か……ら……』

 

 

 

 好きに……なるよ……。

 

 

 

 

 

「ああ……俺は……。世界を……壊し……。世界を……。造る……」

 

 

 

 

 

 新しい世界……。

 

 

 

 もしも……。

 

 

 

 そこで……また……。

 

 

 

 巡り会えるのなら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君のことを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きに……なるよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 **

 

 

 

 ***

 

 

 

 ****

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 眠りに落ちる瞬間……というのは、実に……不思議な物だ。

 

 いつ思考が途絶えたのか? それを僅かたりとも感じさせずに意識を失う。

 

 昔、考えた事がある。眠っている時とは、死んでいる時と同じ状態なのではないのかと。

 

 

 

 ──いっ! 

 

 

 

 眠ったまま起きないのが“死”という状態ならば、眠っているのは死を擬似的に体験していると考えられないだろうか。

 

 

 

 ──おいっ! しっかりしろっ! 

 

 

 

 人間は──いや、恐らく人間に限った事ではないと思われるが、生物は皆本能的に死を恐れている。

 

 にも拘わらず、意識や思考を完全に喪失した擬似的な死の状態にある眠りを恐れない。

 

 眠たいから眠る。これを進んで行っているのがその証明。

 

 一つ違うのは、眠りには起きられるという保証があるのに対して、死は二度と起きられないという処であろう。

 

 死んだ者が起き上がる。生き返ることはありえない。

 

 不死の力を持つコードの保持者でも無い限りは。

 

 俺は死んだ。

 

 ゼロとなったスザクに心臓を貫かれて。

 

 ナナリーに看取られながら、シャーリーの声を聴きながら。

 

 何度生まれ変わってもシャーリーを好きになるという誓いを立てながら。

 

 確かに俺は死んだのだ。

 

 

 

 つまり……この状況はおかしい。

 

 ありえないということだ。

 

 

 

 ──死ぬんじゃないっ! 

 

 

 

 最初は遠くから、徐々にはっきりしてきたこの声は、明らかに俺を起こそうとする声だ。

 

 眠っているのではない。死んだ筈の俺を起こそうとする為の。

 

 そこからはもう一瞬だった。睡眠中の人間を起こそうと身体を揺さぶれば大抵の者がそうであるように真っ暗闇だった俺の視界に光が差込む。

 

「う……」

 

 永遠と思われた闇が晴れ、光の世界に帰還した俺の視界には、ホッとしたような表情で覗き込んでくる一人の男の姿があった。

 

「おおっ! 気が付いたかっ!」

 

 眼鏡を掛けた中年の男性だ。見た感じはブリタニア人だが。

 

「ここ……は……?」

 

「ここはって……。君……、自分でこんな所まで入って来たんだろう?」

 

「自分で……?」

 

 自分で入って来たという男性の言葉に疑問を覚えて周りを見渡してみれば、そこは死の瞬間まで居た処刑執行前のパレード会場ではなく、鬱蒼とした草木と、木々が生い茂る森の中だった。

 

 その森の中に俺とこの男。更に数人の何かの機材を担いだ男達が居た。

 

 

 

 *

 

 

 

「まったく、若いのに何を考えているんだね君は!」

 

「えっ……? い、いや、俺は……」

 

「こんな樹海の奥まで入ってきて……っ! 何があったのかは知らないが、死んでどうするっ!」

 

 なに……? 

 

 この男は一体何を言っている? 

 

「……この辺りは携帯も使えないし、衛星電話は故障中……といって、このまま放って置くわけにもいかん……。これは一度引き返すしかないな」

 

「ええっ! 何考えてんすか局次長っ!? もう少しで調査ポイントだってのにっ!」

 

「そうっすよ! こんな自殺しに来たようなガキなんか放ってさっさと仕事終わらせましょうよっ!」

 

「そう言うわけにもいかんだろう。とにかく電波が届く場所まで引き返して警察に連絡だ」

 

 自殺? 自殺だと? 

 

 俺が自殺しに此処へ来たとか言っているのか? 

 

「君、名前は?」

 

 名前? 何故……この男は俺の名前を知らない? 

 

 俺は……俺の顔は、世界の敵として全人類が知っている筈だ……? 

 

 何故、自分が生きているのかは分からなかったが、生きているならばもう一度死ぬ必要がある。

 

「我が名はルルーシュ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」

 

 そして、知らないのならば教えなければならない。

 

 知らない人間が居るのならば知らしめる必要がある。

 

 少しでも多くの憎しみをこの身に集める為にも……! 

 

「な、なんだって……? もう一度いいかい? 私は君の名前を教えて欲しいんだよ」

 

「何度でも言おう、我が名は神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」

 

 耳が遠いのか聞き取れていなかった様子で再度俺の名を問うた男に、もう一度告げる。

 

 世界の敵であり、血塗られし悪逆皇帝である自身の名を。

 

 だが、もう一度名乗ったときだった。

 

「このガキィ──っっ!!」

 

 それまで特に関心を抱いて居なさそうだった男の部下らしき何かの機材を背負った男が殴りかかってきたのは。

 

「ぐッ……!」

 

 男の拳を諸に受けた俺は、後方に吹っ飛ばされて地面の上に投げ出された。

 

 流石はあれだけの機材を担いで歩くだけの事はあるな。

 

 だがこれでいい。こうして俺の正体を知った者がまた一人、憎しみを抱いてくれたのだから。

 

 その憎しみを背負って逝くのが俺の仕事だ。

 

 そう、思ったとき──

 

「よりによってルルーシュ殿下の御名を騙ろうとは何て恐れ多い事抜かすガキだッ! 局次長ッ! やっぱりこんなガキは放っておきましょうよッ!」

 

「まあ待てッ」

 

「けどルルーシュ殿下のッ、皇族の名を騙るなんて立派な不敬罪っすよ! それも98代帝シャルル陛下の御代で99代帝という僭称までッッ、幾らここが日本だからってッ!!」

 

 男達が始めた話に違和感を覚えた。

 

 呼び捨てでも陛下でもなく……殿下? 

 

 それに……シャルルの御代……?

 

「君もだ。幾ら自暴自棄になっているからといっても口にして良い事と悪い事がある。日本でならまだしも、そんなことをブリタニアで口にすれば皇族侮辱罪で捕まるぞ。大体そんなラフな服装の皇帝陛下が居るものか」

 

「局次長、日本でも特高に捕まるっす」

 

 今は98代シャルルの時代で、俺が殿下と呼ばれている。

 

 それにラフな服装? 

 

「なッ!」

 

 男の指摘を受けて自分の服装を見てみれば、死ぬ間際まで着ていた筈のブリタニア皇帝としての服装ではなかった。

 

 茶色のジャケットにグレーのパンツ……どこからどう見ても私服だ。

 

 何なのだいったい……。何がどうなっている……。

 

 死んだ自分が生きていて、気が付けば森の中。服は私服に替わっていて……そして今は98代帝シャルルの時代。

 

 男の真剣な顔。部下の男達の激情具合から判断しても、どうやら本気のように見える。

 

「もう一度聞く。次に同じ事を口にすれば流石の私も看過できん、場合によっては通報する事になるし、そうなれば君の御家族にまで危害が及ぶぞ」

 

 このまま自身の主張を押し通しても良かったが、もし本当に悪逆皇帝ルルーシュ──俺が居ないというのなら、自身の主張を続けたところで意味など無い。

 

 それに、色々と気に掛かることが多すぎた。

 

 いったい此処は何処だと言うんだ? 悪逆皇帝を知らない者が居る土地。そんな場所は、この地球上の何処にも有りはしないというのに……。

 

 …………此処は、話を合わせておくのが得策か……。そして名乗るなら、嘗て名乗っていた姓しかないだろう。

 

「す、すみません……ルルーシュ、ルルーシュ・ランペルージ……それが俺の本名です……」

 

 妙に歯痒い感じがしたが、このままでは恐らく何も進まない。

 

「そうか。ルルーシュというのは本当だったのか……嘘じゃないね?」

 

「はい」

 

「ルルーシュって……よくもまあ殿下と同じ名前を付けた物だなコイツの親も……」

 

「よさないか」

 

「へ~い」

 

 何より、シャルルが……、俺が殺したはずの父上が生きているらしいのが気になる。

 

 死んだ筈のあの男が何かをしたのか? もしもそうだとすれば、何をどうやってこんな……。

 

 そうやって思考の海に沈み掛けた時だった──。

 

「で、結局引き返すんですかフェネット局次長」

 

「ああ、そうなる。警察や、何よりも彼の御家族に連絡を取らなくてはならないからな」

 

 あの忘れられない、彼女の名前を耳にしたのは……。

 

「フェネット……?」

 

「ん? ああそうだよ。私はジョセフ・フェネットという。日本の地質調査研究チームと合同で富士裾野、此処、青木ヶ原の地質調査をしているんだ。まあ、その現場に向かう途中で君が倒れているのを発見したという訳だよ」

 

 ジョセフ・フェネット……ナリタ連山の作戦で、俺が殺してしまった……シャーリーの父親……。

 

 いったい、何の罰だこれは……。死んだ筈の俺が目を覚ませば、シャルルの御代だという連中に出逢い、その一人は俺が殺したシャーリーの父親。

 

 それに……。

 

「日本……?」

 

 さっきからずっと日本という国名を口にしている。彼らブリタニア人が日本という国名を使用する事は無いというのに。

 

 まさか、日本がブリタニアの侵略を受けて、エリア11となる前の時代にタイムスリップしたとでもいうのか? 

 

「しかし、よく見れば似てるな……」

 

「あ! それ、俺も思ったっす!」

 

「ひょっとして似てるから騙ったのか?」

 

 ジョセフだけではなく、地質調査チームとやらの全員が俺の顔を凝視してきた。

 

「な、何に似てるんですか?」

 

「何って、君が騙ったルルーシュ殿下にだよ。歳も背格好も同じくらいだし今まで間違われた事もあったんじゃないのかい」

 

 な……なんだと…… 歳も背格好も同じで俺が殿下と呼ばれている? 

 

 馬鹿な…… その頃はもう俺は死んだ事にされていたし皇籍も失っていた……! 

 

 今までの話が本当なら2010年以前にタイムスリップしたとなる筈だが、これでは年代がッ、そもそも辻褄が合わないぞッ!? 

 

 いや、それ以前にタイムスリップ自体がありえない……! 

 

「え、ええまあ、ところでフェネットさん……いま、何年何月か分かりますか?」

 

 混乱してきたが何とか平静であるように取り繕った俺は、確かめておかなければならない事を聞いた。

 

 そう、年代だ。年代を聞けばはっきりする。そう思って聞いたのだが──。

 

「変な事を聞くね……皇歴2019年8月に決まってるじゃないか。終戦記念日がある月を忘れるとは近頃の若者は……。ま、80年近くも昔の話だから分からんでもないが、ブ日両国にとって重要な日がある月を何と考えているのやら……」

 

 まるで年代が合わない……。それに80年前の終戦記念日? 

 

「き、9年前の、ブリタニアが日本を侵攻した時の極東事変終結ではなく?」

 

「極東事変? ブリタニアが日本侵攻? ……ぷッ、わはははッ、面白いが笑えない冗談だよ。いったい何をどうすればブリタニアと日本が戦争になるんだね? 仮にそんな事になったら両国共に破滅だよ」

 

「き、局次長、やっぱりこのガキちょっと頭がおかしいんじゃないっすか?」

 

「やめろ、とにかく引き上げよう。話があるならそれからだ」

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 そこから先は俄には信じがたい話ばかりだった。

 

 確かに戦争はあったがそれは80年も昔の事であり、現在のブリタニアと日本は同盟国という間柄。

 

 それも、共に歩むパートナーとしてあらゆる分野において共同研究と相互協力の条約を結び、最早一国二制度の連合国家と言っても過言ではない程の深い結びつきとなっていた。

 

 更には戦前から日本に渡っていたブリタニア人の移民も多く、現在ブリタニア系日本人は人口の一割超えにまで達している。

 

 反対に日本からブリタニアへと移り住んだ日系ブリタニア人も多く、ハワイや西海岸、特に日本と深い繋がりを持つクルシェフスキー侯爵領には相当数の邦人や帰化人がいる。

 

 いざ、他国との戦争となった際にはブ日相互安全保障条約──一方的な同盟ではなく互いが互いを守り合う対等な同盟に基づき即時参戦する体制が整えられている。

 

 双方の文化交流も相手の文化が根付くほどとなっている。

 

 皇族・貴族・名家の人間は、相手国に嫁いだりする事も多く、広義の意味でブリタニアと日本は血の通い合う親族関係となっている。

 

 ブリタニアと日本が一体化し始めている!? 

 

 想像を絶する友好関係が築かれていた。

 

 理想……そう理想だ。悪く言えば夢想そのものが現実となっていた。

 

 力こそが正義、弱肉強食を是とし、人は平等ではないと言い切る処までは俺の知るブリタニアと同じであったが、他者を踏みにじるのではなく、一国平和主義の果てに高福祉弱者救済の政策を行っている。

 

 平等ではないからこそ、こぼれ落ちてしまう者には救いの手を。貴族と平民は支配する者とされる者などという単純な関係ではなく、互いに手を取り合い支え合う関係に。

 

 

 

 その源流には、新大陸遷都後の初代皇帝リカルド・ヴァン・ブリタニアの遺訓があった。

 

 

 

『お前を信じろッ! 俺を信じられるお前を信じろッ!! 信頼する多くの仲間に裏切られようともッ! 父が母が兄弟姉妹がッ、血を分けし親類縁者全てがお前を欺こうともッッ! 世界中の全てに裏切られようともッ! 人を信じるその心を忘れるなッ! 人を信じられる自分という人間を信じ続けろッ! 人に信じられる自分という人間を信じ続けろッ! 人を信じられないというまやかしの自分を見るなッ! 人を信じられるという真実の自分を見続けろッ!! お前にただ一人でも信じられる存在が居るのならッ! お前のことをただ一人でも信じてくれる存在が居るのならばッ!! お前はお前を信じ続けろッッ!!』

 

 

 

 新大陸開祖リカルドが遺したとされる言葉は、裏切りと策謀渦巻くブリタニアの何かを変えたのか? 

 

 そもそも、そんな遺訓が本当に遺されていたのかは今となっては分からない。

 

 だが、基本的には他者を信じられない、疑心暗鬼の塊であった皇室出身者の幾人かには影響を与えていたのか。叔父V.V.と、シャルル──父の頑ななまでに人を信じることが出来ないでいたその心を変えた。

 

 いや……その時、人が信じられなくなりそうだった彼らの側には、彼らを信じる、そして彼らが信じられる誰かが居たのかも知れない。

 

 日本と同盟を結んだのも同じなのではないだろうか。

 

 日本という国を唯一無二のパートナーとしたのは、日本が、日本人が信じられるから。

 

 日本以外の国と歩まないのは、信じてくれる者が……そして信じられる者が居ないからではないのか? 

 

 この世界、最早自身が歩んだ世界とは別の過去と捉えた俺は、この新世界のブリタニアの歴史を学んだ。

 

 ブリタニアは嘗て三度、自国本意の戦争を起こしている。

 

 一度目はジョージ・ワシントンの反乱後に起こった北南戦争。

 

 二度目は北ブリタニア大陸統一の為の第一次拡張戦争。

 

 三度目は中央ブリタニア・カリブ海・南ブリタニア・主に北太平洋諸地域・そして南ブリタニアへと食指を伸ばした第二次拡張戦争。

 

 この内、第二次拡張戦争は南ブリタニア北部を併合した辺りで突如方針を変え進軍停止。

 

 その後は一国平和主義政策に転換し、併合した諸地域の開発と地域住民へのブリタニア人としての市民権を与え、徹底した手厚い国民第一主義政策に舵を切った。

 

 大規模な侵略戦争を繰り返していたブリタニアだったが、新たな領土住民には一切弾圧を加えていない。

 

 貴族だけが世界一といっても過言ではない豊穣なブリタニアの地の恩恵を受けるのではなく、新領土を含む全ブリタニアの平民にまでその豊かさを分け与えていた。

 

 貴族は平民を支え、平民は貴族を支える。その信頼関係の成就は永い時を掛けて国民全ての手で築き上げてきた物なのだろう。

 

 その為に宥和・帰化政策が殊の外上手く進んでいたようだ。

 

 当時世界は帝国主義全盛時代。世界中何処の列強も、程度の差こそあれ侵略戦争を行っていた。

 

 特にE.U.は酷く、植民地にしたアフリカでは酷い弾圧を繰り返している。自分のやってきたことを棚に上げて蔑むのはどうかとも思ったが、それを差し引いても無抵抗な弱者にやるべきことではないだろう。

 

 ブリタニアという巨大な侵略国家に隠れていて見えにくかったが、彼らはとても民主主義国家とは言えないな。

 

 一方で日本も積極的な北進政策・南進政策を行っていた。

 

 但し、編入した地域にはまだ近代国家と呼べる構造を持つ勢力は無く、編入後に日本本土と大差ない扱いをしていたお陰で住民の反発も少なかったようだ。

 

 1500年前後から緩やかに始めていた北進・南進政策では、長い年月を掛けて北は樺太・千島・カムチャツカ・チェコト・アリューシャンを。

 

 南は台湾・マリアナ諸島・パラオ・マーシャル諸島・ミクロネシアと周辺地域をそれぞれ日本に編入。

 

 後に日本に遅れながらも太平洋進出を目指した中華連邦との間には1889年に戦争が勃発し、終戦後に予てより係争中だった海南島を戦勝国となった日本が併合。

 

 1902年には南下・東進政策を採ったユーロピア共和国連合との日欧戦争が勃発、これを軍事力で撃破、正式に日欧国境線を確定させている。

 

 この間、欧州から始まった産業革命とは別の形で日本独自の産業革命を成し遂げている辺り、日本もまたブリタニア同様俺の知る日本とは別の存在となっていた。

 

 そして、何故これほど短期間の内に高い技術力を身に付け、先を知るかの如き絶妙なタイミングで国家の舵を切ってこれたのかが不思議でならない。

 

 他の列強に先駆けて産業革命を成し遂げ、近代国家のステージへと達し、予知と言っても過言ではない程の最良の選択を常時のように行ってきたこの世界の日本国──大日本帝国が、『技術の日本』と呼ばれているのは、

 

 ほぼ全ての面で世界より早く次の段階へと進み、新技術の開発を行っているからだろう。まるで……そう、まるで魔法の国だ。

 

 未来予知の魔法を使い先を知る事で常に世界より優位であり続ける。そんな魔法使い達がこの国を牽引してきたとでもいうのか? 

 

 そんな日本とブリタニアが激突したのが1940年8月8日。

 

 世界初のジェット戦闘機菊花に、初歩的とはいえ明らかにミサイルと思わしき技術を取り入れたロケット。

 

 8万t級の戦艦大和級や、同じく8万tクラスの航空母艦。

 

 どれもが当時のブリタニアには無い物で、どう贔屓目に見ても日本の科学技術力の異常性を表していた。

 

 翌年、1941年8月15日に終戦を向かえたこの太平洋戦争、日本で最初に【一年戦争】と呼称された新聞が出回った事から、後々列強の間でも一年戦争という呼称が広まった。

 

 戦争結果はほぼ痛み分け。技術に勝る日本ではあったが圧倒的物量のブリタニアを攻めきれず、物量に物を言わせるブリタニアも日本の高度な技術力で生み出された新兵器の数々に足踏み状態となり、

 

 結果として互いの本土に手を掛ける事無く、終戦を迎えた最初で最後の日ブ戦争。

 

 それまで常に勝ち続けてきたブリタニアが唯一勝てなかった戦争。

 

「その始まりは日本の飛鳥と、ブリタニアの星の女王号。二隻の客船が絡んだ事件……か」

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

「ルルー、リハビリはどう?」

 

 ブリタニアはもちろん、日本の事も詳しく書かれた【ブリタニアの歴史】なる題名の本を読みふけっていた時に聞こえた自分を呼ぶ声。

 

 ふと視線を上げると、そこに居たのは見知った顔。

 

「ん? ああ、順調だよ」

 

「早く記憶が戻るといいね」

 

 美人と言うより愛嬌のある可愛いとでも表現すべき顔立ちをしていて、腰まで届く艶やかな栗色の髪に薄い緑色の瞳を持つぱっちりした目の同年代の少女。

 

「……そうだな」

 

 明るい性格の少女が口にした戻ればいいという記憶など端から存在しない。俺の記憶は元より全て揃っているのだから。

 

 ──偽りの記憶喪失。

 

 あの日、目を覚ました青木ヶ原の樹海で出逢ったジョセフ・フェネットに名前以外自分が誰なのか思い出せないと伝えた俺は、記憶が戻るまで彼の家で面倒を見ると連れてこられた。

 

 記憶喪失ではないのにそうした理由は、歩く道々でルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの存在を何度も聞かされたからに他ならない。

 

 元の世界に俺という存在が居たように、この世界にも当然ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは居る。

 

 だから居ない筈の二人目である俺はルルーシュ・ランペルージとなる必要があったのだが、家は家族はと聞かれても答えられないのだ。

 

 向こうで死を迎え、何の因果か平行宇宙とやらに放り出されてしまった俺には、もう、家族と呼べる存在は誰一人として居ないのだから。

 

 故に必要だったのは、身元不明の記憶喪失者ルルーシュ・ランペルージの存在だった。

 

 幸いにして、戸籍を調べたところで本来存在しない筈の俺という人間には行き当たらず、連絡を取るべき親類にも辿り着く事は無い幽霊のような物だから、直ぐに自分という偽りの存在を作り上げることが出来た。

 

 素性調査が一通り終わった処でジョセフ・フェネットに引き取られた俺は、こうして自分を偽りながら平穏な日々を送っていた。

 

 そう、平穏……ユフィが望み、ナナリーが願った、優しい世界に限りなく近い平穏な世界に……俺は居る。

 

 死の先で、世界の迷い子となってまで未だ生き続けるこの身が憎らしくはあったが、彼女達が望み、そして俺自身が希求したのと限りなく近いこの世界の優しい空気を吸い続けていたいという欲求もあった。

 

 だからいま、俺は此処に居るんだ。

 

 尤も、この世界の国際情勢を知るにつれ、真に平和なのはブリタニアと日本の影響圏のみであると分ってきたが……。

 

 それに強大な軍事力を背景に平和を保ってはいても、近隣には“あの”宦官どもが建国した清という国に、何かと問題を起こす高麗という半島国家。

 

 そして太平洋戦争中にタイミングを合わせたかのように南太平洋中立国家群である大洋州連合(バヌアツ・フィジー・サモア・トンガ・ツバル・クック諸島・南ポリネシア・ソロモン諸島)に侵攻、小さな軍事力しか保有していない大洋州連合加盟国を短期間の内に制圧・解体、南太平洋の覇者となった事実上の鎖国体制を敷いている閉鎖的な列強国、合衆国オセアニアという不気味な影もあった。

 

 この内、オセアニアは太平洋戦争中に東南アジア全土への侵攻作戦と、南ブリタニア進出をも考えていたと見られる節がある。

 

 事実、オセアニアはニューギニア島にまで兵を進め同島南部を制圧していた。しかし、北太平洋で激戦を繰り広げていた日ブが想定よりも早い段階で停戦した為に予定が大幅に狂ったのだろう。

 

 戦争によって疲弊したとはいえ、自国よりも一段先にある技術大国日本の最新兵器の数々を目の当たりにし、また、そんな日本を物量で圧倒しようとしたブリタニアを見て、これ以上の東南アジア進出や東進は分の悪い賭だと判断したという処か。

 

 下手をすれば総力戦体制下にあった両国の矛先が一斉に自分へと向けられる可能性すら考えられたのだからな。

 

 当時、旧大洋州連合は栄光ある孤立を掲げて永世中立を謳っていた為に、この南太平洋での軍事行動を自国への直接的な敵対行動とは捉えなかった日ブ両国だったが、オセアニアが見せた自分たちの戦争を見越した上での用意周到さに警戒を強めた。

 

 オセアニアも太平洋戦争が起こらなければ、日ブ両国を刺激し、場合によっては両国と戦争になりかねない大洋州侵攻などという暴挙には出なかっただろう。

 

 若しくは、大洋州連合を構成していた国家群が日本かブリタニアのどちらかの庇護下にあったならばな。(太平洋戦争の少し前に大洋州連合を脱退し日本に庇護を求めたナウルは戦火を免れている)

 

 だが、戦争は起こり、結果として大洋州はオセアニアに制圧されてしまった。更にニューギニア侵攻から見られる東南アジアへの野心と、東へ東へと南ポリネシアまで軍を進めた経緯からも南ブリタニアを窺っていたのは明らかだ。

 

 これらの事から、勝者の居ない太平洋戦争で敢えて勝者の名を挙げるとすれば、それは間違いなくオセアニア。

 

 そして、オセアニアは、その後もインドネシア・ティモール・アラウカニア=パタゴニアと紛争を起こしている。

 

 近年で一番大きかったのは1995年3月、南ニューギニアに建国されたオセアニアの傀儡国家──ニューギニア民主共和国と、北ニューギニア──パプアニューギニアの間で起こったニューギニア戦争への介入。

 

 だがこれはソロモンに駐留していた空母メタトロンを基幹とする機動部隊に、本国から派遣した一個空母群を加えた計二個軍まで動かしての本格介入を始めた事で流れが変わる。

 

 ブーゲンヴィル島とニュー・ブリテン島をオセアニアに占領され、マダンやウェワクといった都市部を空爆された事で、最早抗しきれないと判断したパプアニューギニア政府が事此処に至り日本へと助けを求めたのだ。

 

 ただ、日本はその資源豊かな国土と高い技術力のせいか、昔から一国主義の気質が強く、他国の戦争には一貫して介入せずの立場を採っている。

 

 戦争をして何かの利権を得たりしなくとも、自国内で賄えるのだから必要ないと。更に、東南アジアは基本的に中立であり、独自の外交姿勢で国際社会と付き合っていた地域。

 

 同盟国でもない普通の関係の国の戦争に介入するのは反対だとする世論が強く、列強間の大方の予想では日本は動かないと考えられていた。

 

 しかし、その予想を裏切って日本は動いた。万が一に備えてトラック諸島に終結させていた鳳凰級空母4隻を基幹とする艦隊を動かし、オセアニアの占領下にあったブーゲンヴィル島とニュー・ブリテン島を急襲。

 

 ビスマーク海戦ではオセアニア艦隊の主力空母メタトロンとザフィケルを大破させ、護衛の巡洋艦や駆逐艦の6割を撃沈して撤退に追い込んでいる。

 

 対して日本側はイージス巡洋艦六甲と生駒が大破、駆逐艦1隻が撃沈された以外は、小破・中破に留まり、鳳凰級空母4隻全艦無傷という、完勝に近い勝利。

 

 これは、艦艇や航空機の性能は勿論、采配を採った司令官、山本五十六海軍大将の士気能力の高さを物語っていた。

 

 その後、オセアニア海軍の敗退を目にし、日本がパプアニューギニアの側に立ったと知った南ニューギニア軍の士気が大幅に低下、各地で戦線が崩壊し国境線まで押し返されている。

 

 ただ、オセアニアに睨みを利かせながらニューブリテン島に駐留していた日本艦隊もそれ以上の攻勢には出なかった。

 

 これ以上の積極的攻勢はオセアニアとの全面戦争に発展する。鎖国体制下にあり得られる情報は少なかったが高い国力を持つオセアニアとの全面戦争となれば犠牲が増える。

 

 世論が自国と近い国力を持ったオセアニアとの限定的戦争が、全面戦争にまで発展するのを恐れたのだ。当時の国民の間にはまだ残っていたのだろう、ブリタニアとの全面戦争で流された夥しい血の記憶が。

 

 これが同盟国か、シーランドのように庇護下に置いている国であれば、裏切りを良しとせず信頼を裏切らない国民は全面戦争になってでも守るべきと考えたであろうが、当時のパプアニューギニアは強そうな人に助けてくれと頼みにきただけの他人。

 

 血が流れるのを良しとはしなかったのだ。

 

 無論、オセアニアとの全面戦争ともなれば、1995年当時、既に同盟関係となっていたブリタニアも同盟に基づき即時参戦となるであろうが、それは幾ら何でも筋違いと考えたのだろう。

 

 その結果として一時は国土の4割を占領され、マダン・ウェワクまで瓦礫に変えられたニューギニア戦争は、日本とオセアニアが互いに引いた事もあり、元の国境線より少し南まで下がった1995年7月に停戦。

 

 戦後は南ニューギニアは当然として、二国間の戦争に介入してきたオセアニアにも賠償金を支払わせるべきだという話になったが、当初の予想通り両国共に「負けたわけではない引き分けの戦争で何故賠償金を支払う必要がある」と完全無視を決め込んでいた。

 

 国土を侵され、都市部への空爆で罪もない民間人が犠牲になったパプアニューギニア政府は腸が煮えくりかえっていたが、日本の介入がなければ大洋州連合と同じ運命を辿り亡国となっていたという現実の前に、ただ堪え忍ぶことしか出来なかった。

 

 一見、日本にとっては何の利益も得られない戦争に見えたが、結果としてパプアニューギニアという衛星国を手に入れ、オセアニアへの壁を強化する事に成功した処から全ては計算されていたと見るべき……。

 

「それにしても、鎖国体制の侵略国家か……。色々矛盾だらけだ」

 

 勉強することが多いな、前の世界とは余りにも世の中が違いすぎていて自分の常識が通用しそうもない。

 

 そして以前抱いていたブリタニアのイメージについてだけは完全に捨て去らなければ……。この世界のブリタニアは全く別の国だ。

 

 一国平和主義、日本と併せて二国間平和主義国家にして、絶大な力を持った環太平洋勢力圏の守護者……。

 

 大日本帝国。

 

 神聖ブリタニア帝国。

 

 世界のパワーバランスの頂点に君臨する二大超大国か……。

 

「本当に変な感じだな……」

 

 変だと思いながらも、悪い気はしない。

 

「え? 何か言った?」

 

「いいや、何でもないよ」

 

 少なくとも、こちらを覗き込んでいるこの少女と……。

 

「──でね、ルルもアッシュフォードに編入しないかって」

 

「身元不明者なんだぞ俺は……学費の宛がないよ」

 

「大丈夫。それはパパが──」

 

 

 

 君と……平和な世界で生きていけるのだからな……。

 

 

 

「ルルーシュ殿下とそっくりで──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “シャーリー”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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restart

また君を……の続きとなります。


 

 

 

 

 生まれ落ちた場所は。

 

 箱庭と呼べる世界だった。

 

 

 

 衣服も。

 

 物も。

 

 住むところも。

 

 

 

 身の回りにある総てが。

 

 自身の為だけに用意された世界。

 

 何一つとして自らの力で手に入れた物ではない、ただ与えられただけの環境。

 

 管理された幸せと無情の愛を本当の幸福だと信じながら。

 

 仲の良い兄弟達と笑い、遊び、喧嘩した日々。

 

 そこに存在していた総てが。

 

 無自覚な悪意を振り蒔く大人達によって作られていただけの偽りの優しさとは知らず。

 

 ただ……、ただ安寧のままに時を過ごしていた。

 

 

 

 だが──。

 

 

 

 いつまでも続いていくのだと思っていた平穏な箱庭世界は。

 

 その環境を作り出した無自覚な嘘に塗れた大人達の都合によって形を失い。

 

 

 

 やがて。

 

 

 

 

 

 

 

 壊れ行く。

 

 

 

 

 

 

 

 “弱者に用はない”

 

 

 

 なぜ母を守らなかったのか? 

 

 起きたことに対する家族としての当然の抗議を、その男は一言の下に切り捨てた。

 

 訪ねた相手は自らの父であり、訪ねたのは父の子である自分だというのに。

 

 

 

『くだらぬ。お前はそんなことを伝えるためにブリタニア皇帝の貴重な時間を割かせたのか? 愚かしい。我が息子ながら何たる愚かしさよ』

 

 

 

 そのたった一言に、幼い心は如何ほどの傷を負ったのだろう。

 

 あの男にとって自分など居ても居なくてもどうでもいい存在。

 

 幾らでも替えの利くただの政治道具。

 

 その時より俺は男を父として見なくなった。

 

 例え真意がどうであったにせよ。

 

 子を、家族を護らぬ男が父親であるはずがない。

 

 冷たい目をした男への憧憬は消え失せ。

 

 俺の世界は灰色に変わっていった。

 

 

 

 そんな冷たい男に何も知らぬまま総てを奪われ辿り着いたのは遠い異国。

 

 そこには、一人の少年が居た。

 

 少年は箱庭世界から放り出されてしまった俺と、心と体に大きな傷を負った妹を暖かく迎え入れてくれた。

 

 味方などいない。

 

 この世界の何処にも。

 

 信用できるのは血を分けた我が妹だけ。

 

 それがこの世界の不変の理なのだ。

 

 あの時。

 

 少年と出会うまでの間、ずっとそう考えていた。

 

 

 

 世界に覇を唱えんとし、その実は自分達こそが誇大妄想に取り付かれていた勝手極まりない大人達の“侵略”という行いは、この異国に於ける自分と妹に悪意となって返っていた。

 

 侵略者の子。

 

 呪われた皇子と皇女。

 

 人質。

 

 住民達が持つ感情は至極当然の事だろう。

 

 罪なき者を、その地で平和に暮らしている住民達の国を攻め滅ぼし殺戮を続けるあの男の血を持つ子供がどう思われるかなど、容易に想像が付く。

 

 それを単純に敵だと思えたのは、今にして思えばきっと幼さから来る反発もあってのことだったのだと思う。

 

 しかし。

 

 そんな中にあってもたった一人だけ偏見の目で視ることなく受け入れてくれたのがあの生涯の友となった少年であった。

 

 

 

 暑い夏。

 

 晴天の下で出掛けた砂浜で魚釣りをした。

 

 自分と身体が不自由な妹と、そして少年の三人だけで。

 

 少年との力比べで己の貧弱さを改めて思い知らされたのもその時だ。

 

 自分よりも力のない妹。

 

 何もできないと思っていた妹よりも釣り竿の扱いが下手だと思い知らされたのも。

 

『くそっ。なんなんだこの釣り竿は』

 

 自分の要領が悪くて真っ直ぐ飛ばせないだけだというのに竿の所為にして少年に笑われたり。

 

『次こそは君に勝ってみせるぞ』

 

『負けず嫌いなやつだなあ』

 

『それがお兄さまですから』

 

 結局自分は0で少年と妹は8匹も釣れて。

 

 それが自分の負けず嫌いを大きく刺激したり。

 

 何でもないことだったけれど。

 

 あの男の箱庭にいた時よりもずっと充実した……、生きている……。

 

 そう、生きていることを実感できる。

 

 そんな毎日。

 

 少年と共に作った。

 

 少年と妹の三人で作り上げた優しい日常。

 

 追いやられた新天地にて見つけた自分達の新しい居場所。

 

 その未だ幼い精神では気付く事無き本当の優しさの中で、俺は短く儚い幸せを知ったんだ。

 

 本当の幸せとは何もない日常の中にこそ存在していたのだと。

 

 物が無くとも。

 

 お金が無くとも。

 

 父や母など居なくとも。

 

 幸せという物は有ったのだと。

 

 

 

 だが。

 

 その小さな優しさと居場所さえ、この冷たい世界と大人達は奪い去る。

 

 

 

 ただ静かに生きたかった。

 

 ただ自らの居場所を護りたかった。

 

 それだけを望んでいたのに子の心など顧みることのない大人達は心配していると言いながら平気な顔をして平穏を壊し略奪していく。

 

 どうして奪う? 

 

 なぜ壊す? 

 

 何もしていないのになぜ世界はこんなにも多くの悪意を振り向けてくるんだ。

 

 そんなにも悪い事なのか? 

 

 小さな幸せを手に入れたいという願いはそんなにも望んではいけない程の大それた願い事だとでもいうのか? 

 

 まるで自らという存在を拒絶するかのように奪われていく幸せな時間。

 

 お前に幸せは必要ない。

 

 お前とお前が護ろうとする者総てはこの世界に生きる事を許さない。

 

 世界より突き付けられし冷たい刃はただ何も語らずその意思のみを示し続けてきた。

 

 

 

 ならば……。

 

 ならばそんな世界は要らない。

 

 そんな冷たい世界は……。

 

 ただ静かに生きようとする権利さえ剥奪するような世界は……。

 

 

 

 俺のこの手で

 

 

 

 息の根を止めてやるッ! 

 

 

 

 そして大切な人達の為に真の優しい世界を作り上げる。

 

 

 

 幸せな時を焼き尽くし破壊していく戦火の中で立てた誓い。

 

 そこから……総ては始まった。

 

 

 

 だが……そうやって歩み走り続けたその先で知る。

 

 

 

 その決意は。

 

 その決意と自らの意思は。

 

 自分達を排除したこの世界と。

 

 偽りの優しさを押し付けてきた嘘塗れな醜い大人達と。

 

 

 

 ──なにひとつ変わらない身勝手な考えでしかなかったのだと。

 

 

 

 

 

 ねえ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弱い者の味方なんだよね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────私のお父さんを殺したんだろう────

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 restart

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 憎しみに囚われて突き進むが余り、自らが否定した大人達と同じ事をしていたことにさえ気付けなかった。

 

 

 

『お父さん、優しくて……』

 

 

 

 憎しみは。

 

 

 

『私っ、ぶたれたこともなくてっ……』 

 

 

 

 憎しみを生み。

 

 

 

『なんにも悪い事……、なのに……、どうしてっ……?』

 

 

 

 憎しみは。

 

 

 

『なんでお父さんっ……わたしっ……』

 

 

 

 大切な者をも。

 

 

 

『いやっ……いやァァァァァァ──!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──傷付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簡単に分かる筈の法則にすら。

 

 曇り淀んだ己が眼では……、気付なかった……。

 

 護ろうとした物がこぼれ落ちて行く。

 

 作りたいと思う世界とは真逆の世界が見え始める。

 

 くすぶり続ける憎悪に身も心も支配されながらエゴを押し付ける身勝手な王となった俺は、数多の命とそこにある日常を奪い。

 

 壊した。

 

 失われる命の数だけ憎しみは増大し。

 

 肥大化し行く人々の憎悪は更なる悲劇と戦火を産む。

 

 終わる事なき憎しみの連鎖の果てに残っていたのは、孤独という名の牢獄だけ。

 

 優しさの代りに憎しみを、生の代りに死を振りまき続けた自らには相応しい牢獄の中で、漸く気付いた己が過ち。

 

 自らが戦いを起こさねば。

 

 理を曲げる力を憎しみのままに使い続ける事をしなければ。

 

 失われる事はなかったであろう多くの命。

 

 

 

 “王の力は人を孤独にする”

 

 

 

 魔女の忠告通りとなった自らを取り巻く環境は愛した者さえも失われてしまうという冷たく暗い深淵の世界だった。

 

 そう、日常に生きていた優しい“彼女”を。

 

 いつも眩しい笑顔を浮かべていた明るい彼女を。

 

 俺は……、奈落の底へと突き落としてしまった。

 

 彼女の肉親の命を奪い。

 

 彼女を深く傷付けただけには飽きたらず。

 

 

 

 遂には──。

 

 

 

 彼女自身の命さえも。

 

 奪う切っ掛けを作り出した。

 

 

 

 かつての俺と同じ平穏な世界で生きていただけの彼女を巻き込んでしまったのは、誰あろう彼女を愛した自分自身。

 

 恨まれてもいい。

 

 憎まれてもいい。

 

 いや……。

 

 寧ろそれをこそ望んでいた。

 

 大切な者を奪った俺を憎み抜いてくれ。

 

 君の抱いた憎しみでどうか俺の存在を抹消してくれ。

 

 自らの望みを優先して世界を巻き込んだあの大人達と同じ汚れた血の流れるこんな俺を……。

 

 君の手で……。

 

 

 

 いつしか、あの大人達に負けないくらい身勝手な人間と成ってしまった俺は知らずのうちに望んでいた。

 

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという存在を、未来永劫に憎み続けて欲しいと。

 

 俺は彼女が好きだった。

 

 いつも俺だけを見てくれていた彼女が。

 

 いつも傍に居てくれた彼女の事が。

 

 だから俺は俺を許せなかった。

 

 大好きな彼女から総てを奪った俺自身を。

 

 

 

 好きだからこそ憎まれていたい。

 

 好きだからこそ俺のような人間を好きで居続けてくれることに堪えられない。

 

 憎まれる人間で有らねばならないのだと分かっているからこそ。

 

 せめて君にだけは愛されていたいと思う気持ちとは裏腹に。

 

 世界中の人間に許されても。

 

 君だけには許されてはならないのだという相反した思いを抱く矛盾に塗れた俺を。

 

 世界で一番大切な君から。

 

 君の大切だった物全てを奪い去ってしまった。

 

 愚かで。

 

 身勝手で。

 

 醜くて。

 

 救い様のない程の卑怯者であるこの俺を。

 

 

 

 彼女はそれでも

 

 

 

 消え行く命の狭間にあっても

 

 

 

 こんな俺を

 

 

 

 身勝手を極めてしまった愚かな男を

 

 

 

 その無限とも言える大きな愛で

 

 

 

 ただ……優しく……。

 

 

 

 包み込んでくれた……。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 ……ル

 

 ……ルル

 

 ルルってば

 

「ん──」

 

 遠くから、それでいて直ぐ近くから聞こえた声に。

 

 暗く閉ざされていた視界が開かれる。

 

 幼き頃より歩んできた道程を映すスクリーンが消え。

 

 もう居ない筈の彼女の姿が視界の先に現れた。

 

 

 

 長く伸ばされた艶やかな栗色の髪。

 

 いつも俺を映してくれていた薄い緑色の瞳。

 

 それは、この腕の中で息を引き取り。

 

 もう二度と会うことが出来なくなってしまった少女の姿だ。

 

 嘘か本当かの確認さえ不可能な死後の世界とされる場所。

 

 Cの世界には居るかも知れない彼女が。

 

 

 

 此処に居る。

 

 

 

 

 

 

 

 ということは。

 

 この身が無事に死を迎えられたという事なのだろうか? 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 嬉しい……な。

 

 

 

 死後の世界があるなど半信半疑であり信じていなかったが、例えこれが幻であっても俺は嬉しかった。

 

 君ともう一度再会できたのだから。

 

 

 

「迎えに来てくれたんだね……」

 

 

 

 死の間際に観るという幻でもいい。

 

 世界の悪意が作り出した偽りの君であってもいい。

 

 君にもう一度触れたい。

 

 ただ、もう一度だけ、君に触れたい。

 

 

 

「え……? ちょ、ちょっとルル……?!」

 

 

 

 いいじゃないか。

 

 俺は君を失ってから、ずっとこうして君と触れ合える瞬間を夢見てきたんだ。

 

 心行くまで君と触れ合いたいという俺の想いを。

 

 どうか理解してほしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャーリー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴホン。んっ、んんっ……

 

 

 

 五月蠅いな

 

 いまシャーリーとの再会を喜んでいるところなのに──

 

 

 

 ゴホンっゴホンっ! 

 

 

 

 いい加減にしろ五月蠅いぞっ! 

 

 

 

 

 

 ランペルージ君っ、君は私の講義がそんなにつまらないのかねっ?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 突如として響いたのは怒りの色を帯びた声。

 

 夢見心地のふわふわした感覚が薄れ、止まっていた思考が急速に加速していく。

 

 ぼやけたセピア色の世界が消え行き、戻ってくるのは色彩豊かな景色。

 

「ん……」

 

 色を取り戻した景色の中に見つけたのは、顔を真っ赤にしたシャーリーの姿だった。

 

「シャー、リー……?」

 

「ル、ルル……」

 

 俺の手はその彼女の右頬に触れていて……。

 

「聴いているのかねランペルージ君ッッ!」

 

 再び響いた怒声にシャーリーの頬から慌てて手を離しつつ、折り曲げ伏せていた身体を素早く起こした。

 

「春先だからといって気が緩みすぎだぞッ、それも名門中の名門たる我がアッシュフォードに中途編入した分際で堂々と居眠りとは貴様私を舐めてるのかっ!?」

 

 怒りを露わにする“アッシュフォード学園大学教授”。

 

 クスクスと聞こえる笑い声。

 

「も、申し訳ありませんでしたっ……」

 

 

 

 

 

(夢……だったのか……)

 

 遠い……

 

 とても遠い日の……夢。

 

 本当は一年にも満たない過去の話だというのに、もう何十年と昔のように感じてしまう“あの頃の”夢。

 

 ふと隣を見遣ると、まだ頬を赤くしたままのシャーリーが此方を気にしている。

 

 血の海に沈む青白い顔をした彼女ではない、正真正銘生きているシャーリーの頬は生気に溢れていた。

 

 

 

 どうやら俺は──居眠りをしていたようだ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

 

 

「ル~ルく~ん、チミは一体どんな夢を見ていたのかね~? んん~? ほれほれ~正直に言ってみ~」

 

 講義中の居眠りに続く失態を近くで見ていたらしい友人がしつこく問い質してくる。

 

「だから夢など見てないと言ってるだろ」

 

 外側に跳ねている青みがかった黒髪の少年。

 

 友達という関係を築いてよりまだ一年と経っていないがその性格も口癖も俺は良く知っていた。

 

 貴族相手の非合法チェス勝負では散々一緒に金を巻き上げた。

 

 修学旅行を休まざるを得なかったときには花火で迎えてくれた。

 

 楽天的でお調子者で遊びの天才。

 

 生徒会では書記を務め、恋には一途。

 

 いつも周りに気を配ってひっそり生きる俺の学園生活に色を添えてくれた得難き友達──リヴァル・カルデモンド。

 

 だがそれは、飽くまでも似て非なる別人の話だ。

 

 今目の前にいるのはかつての俺と友達だったリヴァルとは違う別の軌跡を辿ってきたであろうまた別のリヴァルなのだから。

 

 無論、彼だけではない。

 

 凡そ此処に来てから知り合った総ての人が、俺の知る人達とは別の人間だった。

 

(新世界……か)

 

 死を迎えた先に広がっていた平和な世界。

 

 来ないと思っていた、来てはならないと思っていた明日。

 

 日本とブリタニアが同盟を結び歩む戦火なき優しい世界。

 

 俺はいま、そんな優しい世界で新しい人生送っている。

 

(みんな同じだ……あの頃と……)

 

 リヴァルはお調子者で、ミレイ会長はお祭り好きで、ニーナは研究が好きで。

 

 そこに生きる人達との触れ合いは、まるであの学園生活の続きのようにも思え毎日が楽しかった。

 

 そして、彼女は……。

 

「誤魔化すなよ~、シャーリーにあんなことしておいてさぁ」

 

「だからあれはシャーリーの頬に何か付いていたからとってやろうとしてただけだと何度も説明しただろう」

 

 シャーリー・フェネット。

 

 向こうで俺が好きだった……俺のような自分勝手な男を好きでいてくれた心優しい少女の存在に、どれほど俺は救われたのだろう。

 

(運命……なのかな?)

 

 スザクの手に掛かり死んだ筈の俺が富士の樹海にいて、そこを調査に訪れていた彼女の父ジョセフ・フェネットに拾われたのは、果たして偶然だったのだろうか? 

 

 俺がナリタ連山で命を奪ってしまった彼と同一の人間に拾われ、俺が愛したシャーリーと再び出逢う。

 

(まるで……。そうまるで導かれるようにして俺は彼女と再び出逢った)

 

 出逢い、そしてもう一度恋をした。

 

 連れて行かれたフェネット家は、いまジョセフの仕事の都合で東京に居を構えている。

 

 地質学の第一人者として、日本や東南アジアの国々から様々な調査を依頼される為に此方へ引っ越してきたのだという。

 

 ブリタニアよりも遥かに多くのサクラダイトが埋蔵されている日本の地質調査は枚挙に遑が無い。

 

 その為国内の学者だけでは到底手が足りないとして同盟国や友好国の地質研究グループにも積極的に呼び掛けては日本への招聘を行っているらしい。

 

 妙な話だが、日本が地質学者の出稼ぎ先と成っているような状況だ。

 

 ジョセフはブリタニア政府から幾つもの地質調査を命じられて成果を上げてきた人間であり、調査グループの長も勤めている関係からいの一番に声が掛かっていた。

 

 ブリタニア国内での大きな仕事を終えたばかりで暫くの間はフリーとなっていた処に政府筋より声が掛かり、日本行きが決定したと聞いているが。

 

『私は仕事の関係で家を留守にする事が多くてね。娘にはいつも寂しい思いをさせているんだ。そこで提案があるのだが、良ければこのまま家で暮らさないか?』

 

 富士の樹海で出逢った時に記憶喪失であると偽った俺はジョセフに引き取られていたが、日本を拠点にフィリピンやインドネシアなどへも仕事で飛んでいる所為か、あまり家には帰れないという彼はこのまま家の子にならないかと提案してきたのだ。

 

 当初は迷った。

 

 世界の迷い子である俺に居場所はない故その申し出は大変嬉しかったのだが、本当に良いのだろうか? 

 

 多くの人の命を奪い人生を壊してきた俺が、今更居場所を与えられてぬくぬくと平穏に生きるなど許されない事ではないのかと。

 

 しかし、結果として俺は思い悩んだ末にジョセフの提案を受け入れる。

 

 その動機と成ったのは、やはりシャーリーの存在だった。

 

 向こうで護れなかった彼女と同じでいて、非なる彼女。

 

 だが、世界は違えどやはりシャーリーはシャーリーだ。

 

 明るくて、父が大好きで、水泳部員で、生徒会の……大学では学生自治会の一員。

 

 ジョセフに引き取られた日。つまり世界の迷い子となったあの日からずっと観てきたが、なにひとつ違わず俺の知るシャーリーと同じだった。

 

 声も、性格も、怒った顔も、“記憶喪失”な俺を気遣ってくれるその優しさも。

 

 魂を同じくする者故にとでもいうのか? 

 

 俺はかつてと同じ様に、再び彼女に惹かれていった。

 

 だが、その想いを伝えることが出来ないでいる。

 

 それはいま抱いているこの想いがシャーリーに向けられた物なのか? 

 

 それとも“彼女”を意識した物なのか? 

 

 自分でも良く分からないからだ。

 

 “彼女”の影を引き摺っていたことは確かだ。

 

 シャーリーと“彼女”は同じ存在なのだから。

 

 故にこの気持ちが“彼女”への想いを前提としたものであったならば、それはシャーリーに対する侮辱であるとして伝えることを躊躇してしまうのだ。

 

 シャーリーと再び出逢い自分の想いを再確認したからこその悩み。

 

 袋小路に陥った想いをどうすれば良いのか? この答えを持つ者は他ならぬ自分自身でありながら、俺は自分で答えが出せないでいた。

 

 

 

「そうやって隠すと? はいはい分かった分かりましたぁ。はぁ~あ、いいよなぁ~お前は。そう暢気に構えてられてさぁ」

 

 軽い調子で言ってくれるリヴァルだが、俺の事情を知らない彼には想像も付かないだろう。

 

 好きである女性が同じ女性であるからこそ伝えられないで居るこの悩みというのは。

 

 だが同時にリヴァルの抱えている悩みも俺には想像できない物だ。

 

「まだ、諦めてないのか?」

 

「まだっていうかさ、そう簡単に諦められる訳ないだろ……。無理だぁ~、不可能だぁ~、ってのは分かってるんだけどさ。なんていうの? ほら、ゴールインするまでは~ってやつ?」

 

「そこまでの想いがあるのなら告白くらいはしたらどうだなんだ。してはいけないという法律もないし心は自由なのだからな」

 

 自分の事は差し置いておきながら俺は平然と言い放つ。

 

 どこかで彼の出す答えを求めているのかも知れない。

 

 答えを出すことが出来ない彼がその答えを自身で出したとき、自分が追い求める答えへもまた辿り着けるのではないのかと思うから。

 

 そう、リヴァルもまた恋をしているのだ。

 

 しかしその恋は越えようとしても越えられない大きな壁によって阻まれた、成就させるのが殆ど不可能に等しい恋。

 

 それは彼自身が良く理解しているようだが、それでも想いを断ち切ることが出来ないでいるらしい。

 

「馬鹿、無理に決まってるだろ。相手は公爵家令嬢で、それも幼少の砌より決められた婚約者まで居るんだぜ? その婚約者ってのが──」

 

 

 

 “ルルーシュ殿下なんだぞ? ”

 

 

 

 リヴァルが想いを寄せている相手。

 

 それはアッシュフォード公爵家のミレイ・アッシュフォード公爵令嬢。

 

 此方でも同じく先輩・後輩、会長・書記の関係だったらしい、あのミレイ会長だった。

 

 友達になったばかりの頃に恋の悩みがあるという話を聞いたときから予想はしていた。

 

 相手はきっとミレイ会長だろうなと。

 

 無論この恋は実らないだろう。

 

 最初から諦めるというのは嫌いだが、どう足掻いても不可能な事は存在する。

 

「どんな裏技を使ったら平民の俺の割り込む余地があるっていうのさ……」

 

 かつての世界ではブリタニアを壊すとまで決意し、結果壊してしまった俺であっても、制度の枠内から物事を打破するのは容易ではないと知っている。

 

 植民地人──イレヴンという立場に在りながら実力と謀略でラウンズにまで上り詰めた俺の知るスザクが、内側から国を変えようとして変えられなかったように。

 

『枠内』、という物に収まっている以上は、所詮それなりの処までが限界なのだ。

 

 出来ればバックアップする形でリヴァルの恋の成就に力添えをしたいと思っている。

 

 俺も伝えられない想いを抱いている関係上他人事であるとは思えないし、なにより友達だから。

 

 しかし、この世界でも変わらぬブリタニアの国家としての形、枠がそれを許さない。

 

 言わずもがな、神聖ブリタニア帝国というのは大きく分けて13の階級より成り立っている絶対的階級制国家だ。

 

 細かく分ければさらに多くの階級が階位内に存在する程の厳格さを持つ。

 

 市民生活、給金、仕事。

 

 ありとあらゆる方面で階級によって固定化された『枠』が存在している。

 

 ミレイ会長は高等部在籍時は生徒会長。大学進学後はアッシュフォード学園学生自治会長として学園内では貴族・平民の区分無く誰とでも付き合ってはいる物の、一歩外に出ればブリタニアの大貴族──アッシュフォード公爵家令嬢としての身分を持つという、本来平民のリヴァルでは接することさえ不可能な身分差のある相手だ。

 

 第1階位Commoner(平民)と第2階位Knight of honor(武勲侯)第3階位Knight(騎士)この範囲内ならばまだ可能だ。

 

 1階級上の武勲侯、2階級差の騎士。ここまでは努力次第では平民にも到達できる場所である為に、世間的にも制度的にも婚姻関係を結ぶに当たっての壁となる障害はほぼ皆無故。

 

 しかし3階級上の第4階位Baron(男爵)からは状況が一変して、目に見える形で貴族と平民の壁が立ち塞がるようになるのだ。

 

 更に言えば同じ貴族内でも第5階位Viscount(子爵)と男爵の力関係が雲泥の差となって表れるように、男爵とそれ以下では完全な別枠扱い。

 

 上に行けば行くほどに階級差による権力の固定化と力の差は大きくなり、細分化された同一階級の中でも第6階位Earl(伯爵)の上位まで進むと、最早平民との差は天地の差といっても過言ではない程の開きとなってしまう。

 

 俗に言う大諸侯とは領地持ちの第7階位Margrave(辺境伯)以上を指すが、広義には上位伯爵からそう呼称しても問題は無い処に此処からもう一つ大きな壁が存在していると言えた。

 

 そしてミレイ会長のアッシュフォード家第9階位Duke(公爵)と、第1階位平民リヴァルとの間には都合9階級にも及ぶ絶望的な壁、『枠』が存在している。

 

 大貴族と平民が結ばれるという創作上の物語はあっても、現実で結ばれる例は基本的に存在しない。

 

 ブリタニアの階級制度が内包する厳格さは、世界が違うとは言えあの国の皇族であった手前良く知っていた。

 

 その俺が言う。

 

 この枠を崩すのは実質国を破壊するような行為だと。

 

 平和な世界で皇族・貴族・平民が手を取り助け合っている理想的な国となっている以上、枠の破壊や制度の転換など百害あって一利無し。

 

 では、枠の中で有り得ぬ前例を作り出せるのかといえば、これもまた『否』だ。

 

 例外的に平民出身の皇妃マリアンヌが居たが、彼女の場合はその騎士としての天性の素質を発揮し、軍内部兼階級制度の枠内にて一代限りの選ばれればだが、例外的に特進可能な第11階位Knight of Rounds(ナイト・オブ・ラウンズ)にまで上り詰めたうえに、日本で言うところの【ブリタニア五・六事変】または【ブリタニア5月クーデター】。

 

 1997年5月6日に発生して多くの犠牲を生んだ通称【血の紋章事件】において、現在在位中の第98代帝シャルルの側に付き、反乱軍に加わっていた当時のラウンズを幾人も討ち取るという功績を挙げていた。

 

 その戦いの中でシャルルとの信頼を築き上げた彼女は第1階位平民からの第12階位Imperial family(皇族)という、軍や警察、会社での階級とは違い、基本的に変えることが出来ない国家制度としての階級に於いて11階級特進をやってのけたのだ。

 

 あの自分勝手な大人代表の母を知る者としては英雄視されているマリアンヌの本当の顔が気になったが。

 

 とにかく、例え平民でも国家の英雄ともなれば話が違ってくるという前例でもあったわけだ。

 

 だが、この例を持ち出すのは無意味にも程がある。

 

 何故ならば、リヴァルは英雄でもなければ天性の素質を一つたりとも持ち合わせていない、正真正銘ただの平民にして大学1回生なのだから。

 

 これでは前提条件からして破綻していた。

 

 しかもリヴァルのライバル……悪いが、彼ではライバルにも成れないであろう、俺と同一の存在にして別人な彼。

 

 神聖ブリタニア帝国第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがミレイ会長の婚約者として立ちはだかっていた為に、勝ち目はゼロに近い。

 

 天文学的数値を持ち出せば或いは可能性を見出せないこともなかったが、ブリタニアの国家制度である階級の『枠』がその僅かな可能性をも潰していた。

 

 もちろんこの枠から脱する方法は非合法ながら幾らか存在する。

 

 その一例としては、ミレイ会長が公爵家令嬢という身分を捨ててリヴァルと駆け落ちし、アッシュフォード公爵家の手が届かないところまで逃げるといったものだ。

 

 ブリタニアと深い同盟関係にある日本や、日ブの勢力圏である東南アジア・南ブリタニア諸国ではまだ追っ手に見つかる懸念があるため、縁遠いユーロピア。最悪オセアニアを盟主とする民主共和制原理主義圏──原始民主制の国々へと逃亡しなければならないだろう。

 

 深く愛し合う男女の逃避行。

 

 匿ってくれたり支持してくれたりする人間とて何処かに現れるかも知れない。

 

 そうして逃げた先で全てを忘れ別人として生きる。

 

 別人として生きたことがある経験上、逃避行その物は成功確率0ではないと個人的にはそう思う。

 

 但し。これにはたった一つにして最大の前提条件が必要だ。

 

(ミレイ会長がリヴァルに好意を抱いてくれているのならば、なんだがな)

 

 そう、これは会長がリヴァルと両想いであり、そこまでの覚悟がリヴァルに有った場合を前提とした話。

 

 しかし、聴くところによると、残念ながら会長の心はルルーシュへと向いているようだった。

 

 生憎鈍いという表現の塊みたいな彼の方は会長のアプローチに気付いて居ないという専らの噂だが、彼も自らの婚約者であり、長き時を同じ学舎で送り続けている彼女を嫌ってなどいないだろう。

 

 自分で言うと自惚れているようにしか聞こえない物の、ルルーシュは聡明で思慮深く何でもそつなくこなしてしまう相当優秀な男だ。

 

 リヴァルとシャーリーが学生自治会に所属し、彼もまた同組織に所属しているという関係から彼の話題は良く上がる。

 

 現役の学生皇子様なのだから興味を引くのも話題に出るのも当然と言えば当然であったが。

 

 彼等以外でも他の学生の話やシャーリー伝手でジョセフが面会したりすることもあって彼の人となりを伺い知る機会は多く、様々な話しを総合した結果99.9%リヴァルの勝ち目は無いと断定せざるを得なかったのだ。

 

(ふ……、俺が俺を評価する。これほど奇妙な事もないな)

 

 

 

「な~にをニヤついてんだこの殿下のバッタモンは~。俺が悩んでるのがそんなに笑えることなのかよ~」

 

「あ、ああ悪い。ちょっとした思い出し笑いというやつだ。気にするな」

 

 

 

 最初の頃、アッシュフォードに編入となった俺は当然出だしからで躓いた。

 

 高校も通ってない扱いの俺が、超が頭に付く名門のアッシュフォードに入れるわけがないからだ。

 

 この世界に戸籍なんてないただの記憶喪失者。それが俺という存在。

 

 大学への編入には高卒という学歴が必要。基本的にであって全ての大学で必要なのでもないが、しかしアッシュフォードという名門中の名門に入るには……まあ、言うまでもない事だ。

 

 ではどうやって編入されたか? 

 

 それは他でもない政府筋にまで顔が利くジョセフのコネと、そして当のアッシュフォード公爵家のゴリ押しが通ったからだ。

 

 正確には俺の存在を知ったミレイ会長の「面白そう」の一言で編入可能となったのだ。

 

 あの会長のことだ、恐らくは駐日ブリタニア総領事を勤める祖父にでも頼み込んだのだろう。

 

「殿下そっくりな人間が居て面白そうだから入れてあげたい」などという軽い感じで。

 

 もちろん編入に当たってはIQテスト、アッシュフォード及びコルチェスター高等部卒業程度認定試験、アッシュフォード学園大学編入試験、等々の、通常の入学や編入とは異なる、より高いハードルをクリアしなければならなかったが。

 

 無論俺はこれら全てをクリアした。これでも勉強には自身がある。唯一この世界の歴史についてだけは不安があったが、それもジョセフの所有する歴史書を読みあさり、日本の国立図書館通いが成果を上げて見事合格ラインの点数を取ることが出来たのだ。

 

 そうしてアッシュフォード学園大学への編入資格を得て編入となった訳だが、言うまでもなく入ったその直後に学園中が大騒ぎになった。

 

『で、で、で、殿下っ! 殿下が二人ィィィィ!!』

 

『う、うそ~マジ!? そっくりってレベルじゃないわよこの人っ!』

 

 まあ、想定内の反応だった。

 

 髪型、虹彩、慎重、体つき、声。

 

 総てが双子かと思われる程にそっくりだとくれば騒ぎにもなる。

 

 しかもそっくりな相手が世界最大の超大国神聖ブリタニア帝国の第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとなればな。

 

 だがこの世に二人も同じ人間は存在しない。

 

 そして彼は双子ではなく正真正銘一人で生まれてきた。

 

 では俺という存在は、ルルーシュ・ランペルージは何者なのかとなる訳だが、これもやがてはそっくりな他人ということで落ち着く様になる。

 

(世界に幾つもの例があるのは助かったが、確かに不思議ではあるな)

 

 この世に瓜二つな人間は三人居るという。細かい部分を分析してもまったく同じの人間すら不思議なことに存在するのだ。

 

 まあ世界全体で70億も80億も人間が居ればどこかしらまったく同じになる人間も出て来るだろう。

 

 俺という存在は、その非常に稀な例の一つとして認識されていた。

 

 そもそも、それ以外に解釈のしようがないからだ。

 

 この種の世界中に似たケースは幾つもあるという前例が後押しとなってくれたのは良かったのだが、万が一の確認としてDNA検査を強要されたときは焦った。

 

 同一人物ならばこそまったく同じ型になる筈だから。

 

 態々そこまでする理由は皇帝の隠し子なのではないかという疑惑が持ち上がったからだ。

 

 言わずもがな、ブリタニア98代帝シャルルは歴代のブリタニア皇帝の中でも最も多く妃を持つ恋多き男。

 

 皇家の血を絶やさぬ為とする一夫多妻なのは当たり前だが、それにしてもシャルルが娶った女性は多いのだ。

 

 無論のこと、その女性達との間に設けた皇子・皇女もまた総勢3桁に上るという前代未聞の人数。

 

 となれば、明らかになっていないだけで、市井の女性と関係を持ち子を授かった事もあるのではないか? 

 

 次々に妃を娶り子を設ける程の超人的な精力を持った彼ならば、妃以外と関係を持ってもおかしくないのでは? 

 

 といった、実に不敬極まりない話しが宮廷で持ち上がったそうだ。

 

 多くの妃に取り囲まれて詰め寄られた本人は「絶対に無いっ!」と否定したらしいが念のためにと。

 

(皇子と似ているからとはいえ、記憶喪失の平民相手に大騒ぎをするなど、向こうの世界では考えられない事だな)

 

 採血をされたときに事の真相を話してくれた皇族の専属医という医者は面白可笑しく話していた。

 

 平和なのだろう。皇帝も“あの男”とは比べるのも愚かな程に多くの人間から慕われているのだろう。

 

(父親か)

 

 …………ルルーシュが、彼が少し羨ましい。

 

 偽りの愛ではなく、俺が終ぞ手に入れられなかった。触れることすらできなかった父の本物の愛を受けている彼のことが。

 

 学生自治会の人間ではない俺は隠し子騒ぎの際に少し顔を合わせただけだが。

 

「身内の馬鹿騒ぎに巻き込んで済まなかった」と心から謝罪していた彼と顔を合わせた時、あまりにそっくりで鏡を見ているような錯覚を覚え彼と二人して驚いていたがただ一点、その瞳には憎しみの色が無い事に気付く。

 

 誰かを憎悪しなくても良い環境で育ってきたであろう事を伺い知れるその事実に、俺は思わず問い掛けていた。

 

『ルルーシュ殿下は……陛下を……、御父上を愛しておられるのですか?』

 

 問い掛けた自分を殺したくなるほど怖気の走る質問であったが、彼の答えを聞いてその怒りは霧散してしまう。

 

『ふん……。そうだな……。色々と騒ぎを起こしては親族から煙たがられているむさ苦しく迷惑な鬱陶しい男だが』

 

 一度言葉を切った彼は逡巡しながらも言い切ったのだ。

 

 

 

 “あんなのでも……大切な父上だから、な。まあ……、愛してはいるよ……”

 

 

 

 少し照れ臭そうに「今のは誰にも言わないでくれ」と口止めする彼に、俺が感じたのは少しの嫉妬と言い知れぬ歓び。

 

 “優しい世界に生きる俺は、歪んだ自己満足な愛ではない本当の愛をあの男から受けている”

 

 かつて夢見た場所に居る自分が羨ましくもあり微笑ましかった。そして思う。

 

 家族の愛を手に入れられなかった俺の分まで幸せになり、破壊と殺戮を繰り返してきた俺の分まで人に優しい君で居て欲しいと。

 

 君には幸せになる権利があり、そして民を幸せにする義務があるのだから。

 

 悪逆皇帝である俺が出来なかった総てを君にはやって貰いたい物だと、そう、思ったのだ。

 

(ふ、考えても詮無きことか)

 

 誰に望まれなくとも彼ならそうするだろう。

 

 家族と民を愛し護るシャルルに育てられた彼なら。

 

 採血の結果についてだが、幸いにも俺とルルーシュの型は完全一致しなかった。

 

 非常に酷似した型で殆ど同一らしいが、細部において僅かな違いがあったらしい。

 

 こればかりはどうしてなのか自分でもわからない事であったが、消えてしまった俺のギアスが何らかの作用を身体に与えていた可能性が拭いきれない。

 

(コードもギアスも、その詳細については未だ謎が多いからな)

 

 此方の世界ではどれだけ研究が進められているのか不明なれど、基本的にあの力は未知の物だ。

 

 どうして相手の精神を操ったり出来るのか? 

 

 あの力を生み出したというが、どうやって生み出したのか? 

 

 それも人の手で。

 

 総て分からず仕舞いだが、自分の中のギアスが消えて良かったと。俺はそう思う。

 

(もう、力が暴走することも。誰かの尊厳を踏みにじったりする事もしなくていいんだ)

 

 ふと、思い出したのは、桃色の髪を持つ腹違いの妹のこと。

 

(ユフィ)

 

 ギアスの力を暴走させ、最後はこの手で殺害し貶めてしまったユーフェミア。

 

 彼女にはまだ会った事はない。ブリタニア第三皇女たる彼女と平民である自分では相見える事もないと思っているが、当然、彼女もこの世界には居る。

 

(駐日ブリタニア大使補佐官か)

 

 2018年から駐日大使に就任したコーネリアの補佐として共に来日したらしいが彼女らしいと思う。

 

 学業よりも皇族としての勤めを優先する辺りが特に。

 

 

 

(……)

 

 

 

 そしてふと思った。

 

 もしも、もしもだ。

 

 もしも彼女と相見えるようなことがあったとき、俺は普通の対応を取れるのだろうかと。

 

 自分自身が手に掛けた彼女に。

 

 望まぬままに命を奪ってしまった彼女に。

 

(まあ……出会うことなんて、一生無いだろうがな……)

 

 

 

(…………そういえば)

 

 ユフィといえば、とんでもない婚約発表をしていた事を思い出した。

 

 予想だにしない事ばかりするのが彼女であったと覚えているが、あの婚約発表の会見には度肝を抜かれた物だ。

 

 もしも俺の親友だった向こうの世界のスザクが観たら我を失いそうな程に。

 

 会見その物は普通の婚約会見だ。

 

 相手との出逢いから馴れ初めまで。

 

 実に良くお似合いな雰囲気でお互い深く愛し合っている事をテレビ越しにも伺い知ることはできた。

 

 だが、その相手がまさか──

 

(還暦の老──)

 

「おいルル聞いてんのかよ俺の話!」

 

「ん? あ、ああ聞いてるよ」

 

 編入時から色々あった出来事を振り返っていた俺はリヴァルの声に引き戻される。

 

(…………)

 

 また……。

 

 今度ゆっくり振り返ろう。

 

 今はリヴァルの件もあるし。

 

 俺自身の事でも頭がいっぱいだ。

 

 あの頃の夢を……。

 

 あの時の夢を見た所為か余計にシャーリーへの想いと“シャーリーへの想い”がせめぎ合っている。

 

 同じだからこその悩み。

 

 いつかは伝えられる日が来るだろうか? 

 

 今の俺が抱えている二つにして一つの。

 

 一つにして二つのこの想いに、自分なりのケジメをつけられた時。

 

 その時にこそ伝えられるだろうか。

 

 

 

『restart』

 

 

 

 俺の再スタートは

 

 

 

 新しいスタートは

 

 

 

 まだ

 

 

 

 始まったばかりだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

 

「よし! 決めたぞルル!」

 

「なんだ、結論が出たのか」

 

 声色からして何かしらの決意をしたようにも感じたが、どうするんだ? 

 

「俺、勇気を出して会長に告白する!」

 

 どうやら固めたみたいだ。

 

「頑張れ。告白するのはタダだし平民とはいえ学生自治会書記の立場にいる君なら会長に近い立ち位置だ。タイミングさえ合えばいつでも出来るだろう」

 

 応援しよう。

 

 あのルルーシュが相手では多分、いや絶対に大撃沈な気もするが、誰を好きになるかは自由だ。

 

「会長が卒業するまでには!」

 

(……)

 

「……俺は今すぐという感じで聞いていたんだが」

 

「いや~あはは、やっぱりいざとなると色々考えちゃってさァ~、振られたらもう絶望的だし学生自治会所属だから毎日顔合わせるわけでその後ずっと針の筵っぽくなりかねないしさァ。ルルーシュ殿下とも気まずくなったら怖いし……」

 

 これは……駄目かも知れないな。

 

 結局胸に秘めたままで終わらせそうなパターンだ……。

 

 

 

 




このルルシャリも自分的にはまだ未完ですね。
いつかこの続きを書けたらなと思います。


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帝都の休日外伝 山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
いっくんとリーラの温かい早朝


このお話しはオズでリーライナが登場するよりも以前に書いたお話しである為、リーライナの言葉遣いが原作とは異なっております。
また、非常に年齢差のあるカップリングとなっているので、年齢差が受け付けられない方は御注意の程お願い致します。


 

 

 

 

 いっくんとリーラの温かい早朝

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 寒い冬の朝。ひんやりとした空気を肌に感じた男が不意に目を覚ます。

 

「……まだこんな時間か」

 

 枕元に置いてある大きな目覚まし時計の針は午前5時丁度を差していた。

 

 夏の時間帯ならば空は白み始めて夜明けを告げる頃合いなのだが、この時期はまだまだお日様が顔を覗かせる気配が無く、外はまだ真っ暗闇だ。

 

 寝室であるこの和室もランプ一つ付けていないので暗い。精々家の外に設置されている街灯やらの明かりが漏れて薄暗く見えるだけで、少し離れれば何があるのか裸眼で確認することは不可能であった。

 

 だが、同時にほぼゼロ距離の場所であるならば何の問題もなく見えるというものだ。それこそ目を懲らしたりする必要さえない。

 

「んん……いっくん……」

 

 そのゼロ距離。正確に言えばすぐ左隣から聞こえた声に身体ごと動いて振り向く。あるのは当然金色の長髪に整った容姿を持つ、控えめに言っても美人であろう年の頃は二十歳くらいの白人女性の姿。

 

 今や寝るときも含めて自分の隣は彼女の定位置となっている。

 

 彼女が付けてくれた自分の愛称、下の名前が五十六(いそろく)だから“いっくん”

 

 難しくも何ともない至ってシンプルな愛称だが自分としては意外と気に入っていた。

 

 流石に初めの頃は恥ずかしかった物だが、呼ばれ慣れてくると子供が付ける渾名と同じ様な物だと気付いた。

 

 親しい間柄にあるからこそこんな名前を付けてくれたのだろうと思えば、嬉しいとも感じられるのだから不思議としか言いようがない。

 

 寝言でも良く口にしているから気になって聞いてみたことがある。すると、良く自分が出てくる夢を見ているらしく、それが寝言になってしまうと言うのだ。

 

 夢に見るほど想われているのは嬉しい物だが、同時に少し気恥ずかしくもあった。

 

「リーラ……」

 

 リーラ──それが彼女の愛称。自分だけが使っている彼女の呼び名だ。

 

 本名はリーライナ、リーライナ・ヴェルガモン。

 

 神聖ブリタニア帝国ヴェルガモン伯爵家の息女にして、駐日ブリタニア大使館で警備の任務に就いている女性騎士。そして結婚を前提としたお付き合いをしている恋人でもあった。

 

 闇の中でもよく映える彼女の金髪に触れ、指を絡めながら撫でる。

 

 腰まで届く綺麗な髪は纏めないまま眠ってしまったからか少々乱れていた。

 

 それを治してやろうと彼女の首の後ろから肩を跨いで身体の前に髪を持ってくると、手櫛で梳きながらほつれを解いていく。

 

 指の間を何度も擦り抜けていく度に髪のほつれは取れていき、10分ほどそうしている内にすっかり綺麗になっていた。

 

「よく寝ているな」

 

 当然か。昨晩はじっくりと時間を掛けて何度も抱いたのだからよく眠れない方がおかしい。

 

 逆に、こんな朝早くに目が覚める自分の方が問題なのではないのだろうか。

 

 年を取った証拠とも思ったが、あれだけ愛し合ったのだから自分とて相応に体力は消耗したはず。

 

 それも、ここ最近リーライナがブリタニア大使館員宿舎より家に引っ越してきて一つ屋根の下で寝食を共にするようになってからというもの、毎晩のように抱き合っている。

 

 年寄りの朝は早いのが定番だが全身が汗にまみれるほど深く愛し合って疲れたというのに、一度寝て起きれば殆ど疲れは取れているのだから、まだまだ若い証拠であるとも言えるだろうか? 

 

 “還暦を越えれば老人”などという口の悪い人間も居るが、遺伝子技術・医療技術・栄養事情・エネルギー事情この4拍子が世界最高の水準を誇る日本人の平均寿命は年々延び続け、現在では120の領域に達している。

 

 つまり、還暦というのは人生の折り返し地点でしかなく、考え方によってはまだまだ若いという認識は決して的外れな物ではないであろうと思われた。

 

 前世では想像だにもしていなかった昨今の平均寿命の異常な伸びは、やはりブリタニアとの遺伝子・医療技術の共同研究と開発が著しく影響しているだろう。

 

 生命に関連する技術の伸びは正直目を見張る物がある。これは不老不死さえ存在するこの世界特有の物であるのかも知れない。

 

 医療福祉がしっかりしているお陰で定年後の人生にも不安がないので生きやすい社会であり、老後の不安というストレスからくる心因性の病気が極端に少ないのもまた一因か。

 

 最近では定年を80代にまで引き上げるべきではないのかとの議論まで出ているくらいだ。

 

 最低ラインで100以上。平均が120まで生きられるのならばそういった意見が出てくるのも然もありなん。悪い事ではないだろうと思う。

 

 尤も、現状の体制で問題が起こっている訳では無いので、制度が変更されなくとも何の問題もないのだが。

 

 この辺りは資源豊富で高い技術力を持つ世界一の金持ち国家である日本とブリタニアだからこそ実現できた高福祉低負担政策のお陰だ。

 

 そうでなければ両国共に平均寿命120で年金支給が60乃至65からとなれば、人口的に考えても国家財政が破綻してしまう。

 

 全ては全分野のエネルギー源となる高純度で質の高いサクラダイトの存在と、磨き上げてきた技術が実を結んだ結果であり、両国の良い部分を伸ばし続けるよう努力している者達が居たからこその今である。

 

「今年は2人で富士山詣でもするか」

 

 安らかに眠っている彼女の頭や髪を撫でながら一つの提案をしてみた。

 

 霊峰富士。元より日本人の宝と言っても過言ではない美しき休火山。

 

 だが、この世界に於いては正真正銘の宝山である。世界の7割にも達する膨大なサクラダイトが埋蔵されている黄金の山。

 

 この山の存在こそが、この世界の日本を世界一の技術力と財力を持つ国へと駆け上がらせ、ブリタニアに次ぐ世界第2位の超大国へと押し上げた一因でもあった。

 

 その為か、元旦の富士登山は、初日の出というよりも初詣の趣がある。

 

 この国に住まう者は当然、ブリタニアにも大きな恩恵をもたらしている富士山に感謝の念を持とうという訳だ。

 

 日ブ両国の敬虔な富士山信仰者は毎年元旦には富士山詣に訪れて、山頂を埋め尽くすのが恒例となっていた。

 

「富士山頂から拝む御来光は格別だからな」

 

 去年はリーライナが年末に実家へと帰ってしまった都合上行くことが出来なかったが、今年は元旦と2日を日本で過ごすと話していたから丁度いいだろう。

 

「ヴィンセントに2人乗りでもして行く?」

 

 気が付くと彼女の閉じていた目が開いていた。

 

「起こしてしまったか」

 

「うん。なんだか頭と背中がこそばゆくてね」

 

「ああすまん。随分と髪がほつれていたからちょっと治していたんだ」

 

「ふ~ん、そうなんだ……。ふふっ、ありがとう」

 

 まるでエメラルドのように美しい翠色の瞳がじっと此方を見つめている。

 

「まだ5時を少し回ったところだからもう一度眠ると良い」

 

 起こしてしまって悪いと思い眠るように進めてみたが『いっくんが起きてるなら私も起きてる』とやんわり断られてしまった。

 

 次いで此方に抱き着いてくる。

 

「おい、こんな朝っぱらからは流石に──」

 

「なにを変な勘違いしているのよ。こうしているといっくんの温もりを直に感じられて気持ちが良いの」

 

「あ、ああ、なんだそういうことか……」

 

 自分たちはいま服を着ていない。

 

 昨日の夜にたっぷりと愛し合った後は衣服を脱いだままで寝てしまったから、今は肌と肌で直接触れ合っている状態だ。

 

 胸板に押し付けられる形となった豊かな膨らみの温かさを直に感じることとなり、それ故につい変な勘違いをしてしまった。

 

(……俺もまだまだ若いという証明か)

 

 120という日ブの平均寿命からすれば60などまだまだ青年期であるとも言えよう。

 

 まあ、青年期といっても一線を退いた中年の男であるという事実は変わらないが、心と体力は未だ若いと自負しているので、彼女のようないい女にこうして抱き締められれば、妙な考えも浮かぶという物だ。得てして愛し合う男と女の関係とはそういうもの。

 

 前世でも芸者を相手にした色恋沙汰等、幾つもあった。やはり男と女の恋の駆け引きという意味では昔も今も変わらない。

 

(尤も、今はリーラ一筋だがな)

 

 何故アイツまで転生しているのだと思える意外な男、米内光政に誘われてたった一度だけ夜の街に連れて行かれたことがあったが、それは内緒だ。

 

 それに言い訳をさせて貰えば全て米内の奴が悪い。食事に行きましょうと誘われたから久しぶりに顔を合わせたしと思い行ってみれば“食事もできる”というだけで、そういう店であったのだから。

 

 店の女にやたらと引っ付かれたが全て突っぱねたし、まあ知られたところで問題は無いと思うのだが決して良い気分ではないだろう。故に黙っているのが吉である。

 

 思い出してしまった米内関係の嫌な事と、実はまだケツの青いガキなのかも知れないという恥ずかしさを誤魔化す為に、自分からもリーライナを抱き寄せ、その瑞々しい唇を奪う。

 

「んっ」

 

 濡れた唇の接触で口内に甘酸っぱい唾液が溜まってくる。

 

「んっ……んっ……んんっ!」

 

 口内に溜まった唾液は重なり触れ合う唇から舌を差し入れ、彼女の口内へと送り込んでは呑み下させる。そして差し入れた舌はそのまま彼女の舌を求めて絡ませ合う。

 

 粘膜を触れ合わせて互いに唇と舌を味わいながら唾液の交換をはかり、愛情を塗り込んでいく。

 

「はむっ、んっ……んむっ……っ」

 

 リーライナの舌の裏側を舌先でつつーっとなぞりながら感じさせ、今度は彼女からの舌による愛撫を受け入れる。

 

 行ったり来たり、互いの口内を往復させての舌による応酬は続く。

 

「あっ、んうっ……っ……んちゅ……あっ……んんんっ……」

 

 腰に回されている腕には力が込められ、お互いを離さぬよう強く抱き締め合ったまま。1分、2分、3分と、長々と深い接吻を交わし続けた。

 

 

 

 *

 

 

 

「んふぅ……ん……」

 

 やがてゆっくりと唇を離して僅かな距離で見つめ合ったまま微笑み合う。

 

 寒さからではない彼女の頬の赤みが接吻の激しさに感じ耽っていた事を窺わせていた。

 

「いっくん、キスは気持ち良くていいんだけど……。毎日毎日キスも含めていっぱいしてるのにまだ物足りなかったりする?」

 

「俺はいつでも紳士的に対応しているだけなのだがな。リーラみたいな“いい女”に求められて何もせんのは逆に失礼というものだ」

 

「だからそういう意味で抱き着いた訳じゃないって言ってるでしょう」

 

「すまんな。青年的には刺激が強すぎる身体を密着させられるとつい意識してしまうものなんだ」

 

「なにが青年よ。中年のおじさんの癖によく言うわ……。それに、普段は私に密着されただけで真っ赤になる癖にこういうときばかりは男らしくてカッコイイとか狡い!」

 

「男らしくてカッコイイか。それは男冥利に尽きる有り難い一言だ」

 

 こうやってリーラと軽口を叩き合うのが今の自分にとっては何より楽しく充実した毎日と言える。

 

 少なくともあと半世紀以上はこういう関係で居られると思うと中々どうして、楽しい老後になりそうではないか。

 

 気の合う友人と、愛する女に囲まれている今という人生は、正に得難いものである。

 

「話は変わるけど私はいいわよ、フジサン詣」

 

「ヴィンセントでは行かんぞ? アレは1人乗り用で俺は入れんし、そもそも私事での使用許可など下りないだろう?」

 

「冗談に決まっているでしょう。でも……もし私のヴィンセントが複座式で使用許可も下りていたら乗ってくれる?」

 

「聞かれるまでもない。淑女のお誘いをお受けするのは紳士としての嗜みだからな」

 

「まあ、お上手です事」

 

 冗談の中に紳士淑女の話でも入れてみると、淑女らしい仕草と言葉遣いをしてくるリーライナ。

 

 中々様になっている。流石はヴェルガモン伯爵家の姫といったところか。

 

「今年は1月3日に本国に帰る予定だから、年越し蕎麦もお餅も一緒に食べられるわね」

 

「ああそうだな。今年の年末年始は一緒に過ごせるから去年やれなかったことを全てやっておこうか」

 

「うん……あっ、そうだ忘れてたわ」

 

「なんだ急に」

 

「うん、あのね──」

 

 向かい合う形で自分を抱き締めていたリーライナの腕が、すすっと背中を越えて首の後ろに添えられると『えい』と頭を引き寄せられた。

 

「おい、急になにをするんだっ」

 

 丁度顔がリーライナの胸元に押し付けられるような態勢にされてしまい、仄かな香りが直に鼻腔を擽ってくる。

 

「う~んやっぱりこのいがぐりみたいな坊主頭は触り心地がいいわ~」

 

 そんなことはお構いなしに自分の頭をわしゃわしゃと撫で回してくるから適わない。

 

「おいこらやめんかっ」

 

「い・や・よ。いっくんだって散々私の髪の毛触ってたから今度は私が触る番なの。なにか文句がおありなのかしら?」

 

「頭触るのは構わんが、その為に一々顔を胸に押し付けるなっ」

 

「いつも触ってるのに今更じゃない」

 

「それは時と場合によってだな──」

 

「いいから私の好きに触らせて。いっくんのいがぐり頭触るの凄く好きなんだから」

 

「……仕方がない」

 

 了承すると遠慮の欠片もなくわしゃわしゃとやり始めた。

 

「どう? 気持ちいい?」

 

「うむ……」

 

 惚れている女に頭を撫でられて気持ち悪いという男はあいにくと見たことがない。

 

 現に今こうされて心地がよく、少しずつだが眠気を誘ってくるのだから。

 

「いっくん」

 

「なんだ?」

 

 

 

 “……………………大好きよ”

 

 

 

 眠気に瞼が落ちそうになってきたところで聴こえたのは。

 

 そんな他愛のない、いつもと同じ愛の囁きだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「あら、寝ちゃったの?」

 

 いがぐり頭の恋人の頭を思う存分撫でていたリーライナは、ふと自分の胸元で聴こえる寝息に耳を傾ける。

 

「もう少しくらい起きてて欲しかったわね」

 

 “そろそろいっくんの事を婚約者として紹介しておきたいから頃合いを見て両親に会ってほしい”

 

 これを伝えるつもりであったというのに寝られてしまってはどうしようもない。

 

「ま、いいわ。夢から覚めたそのときに改めて聴いてもらうから……」

 

(今はゆっくりおやすみなさい)

 

 

 

 



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貴方へ見せる本当の自分

こちらは山本五十六とリーライナ・ヴェルガモンの未完のお話しです。
オズ内に於いてリーライナの言葉づかいが明かされた後に考えた物となります。
完全版を書く予定なのですが目処が立っていないためいつになるかは未定。
年齢差の恋愛が苦手な方は御注意くださいませ。




 

 

 

 

 貴方へ見せる本当の自分

 

 

 

 

 

 州や軍区の集合体である連邦制や連合制国家ではなく、単一における国家としては他に類を見ない世界最大の大帝国。

 

 他国を超越せし圧倒的なる武力はたとえ全列強を敵に回したとしても戦い抜けることを可能とし、その気になれば世界征服をも実現してしまえるほどの質と量を備えている北ブリタニア大陸全土・中央ブリタニア・コロンビア・カリブ海・太平洋・大西洋と、一国が手にし維持するにはあまりにも広すぎる版図を持つ巨大な封建制国家。

 

 外より響く様々な声や表現で示されるように、神聖ブリタニア帝国という中世そのままの体制色濃き大帝国は、上位の伯爵以上の貴族領が軒並み中小国級の力を持つ事でも知られていた。

 

 領内には国法とは別に独自の法があり、複数の大都市が、都市を動かす人が、人の働く企業が、治安を預かる警察が、そして災害や、他国よりの侵攻に対する備えとしての各貴族の独自戦力。即ち軍隊が独立して存在している。

 

 領内に住まう人間は海外や他領よりの出稼ぎ労働者やその親族を除けばブリタニア国民であると同時に各貴族領の領民でもあり、国税以外の税金として領主に対しての租税も納めなければならない。

 

 日本で言うところの市県民税や住民税といった物に該当する租税は各貴族領ごとに独自の税率を課してはいるが、概ね誰でも支払える程度の範囲に収められている。

 

 貧困層への租税については国税同様に免除申請を行い審査が通れば免除されるといった仕組みを採用しており、管轄する役所は各市町村に設けられた領の役場。

 

 尊き血脈ながらも流浪の民となってしまった間借り人の末裔ユーロ・ブリタニア所属の欧州貴族は別として、古来よりブリタニアに忠義を尽くしてきた純血の貴族や、日本や欧州より渡り多大なる功績をもってブリタニアへと帰順した家系の中でも、これらの地方自治を行える地位を持つのは主立った名家として列挙される貴族ばかりなのだが、皆例外なく国家規模の領地と権力を保持しており、多いところでは1000万人以上の領民を抱えるという正に国の中に存在する独立国家群としての一面を持ち合わせていた。

 

 抜きん出た諸侯の中には陸海空3軍すべてを備えた家もある為、当代の当主がそのまま国家元首のような位置付けとなってしまう事すらままあるのだ。

 

 例を挙げるとするのならば、ユーロピアの自治州がアッシュフォードやクルシェフスキー家と=と考えても差し障りはないだろう。

 

 異なる点はユーロピア自治州が“独立国家”であることに対して、ブリタニアの大諸侯は“皇帝の臣下”であるという処のみで、行政規模・経済力・領域としてはイーブンに近い。

 

 そして、それら大諸侯の中には、【ヴェルガモン】という伯爵家の名もまた連ねられていた。

 

 ヴェルガモン伯爵家。

 

 かつてブリタニアが欧州に在った頃より続く名家の一つは、伯爵という階位ながらその家格は実質辺境伯級として扱われており、同盟国や日ブ勢力圏傘下に収まる国々は勿論のこと。

 

 決して深い付き合いのある訳ではないユーロピアや、日本という超大国に引き離される形ながら次ぐアジア第二位の大国中華連邦の政務関係者でさえその名を知っている。いや知っておかなければならない名の一つ。

 

 世界経済を牛耳る大日本帝国の帝と皇室、更にその日本へ黄金期をもたらした前政権主要閣僚。

 

 武によって世界と対峙するブリタニア帝国の皇帝と皇室。その帝国を支える大諸侯。

 

 外交に携わる仕事へと就く者に取り既知である事こそが普通である日ブ政界の重鎮達の中にその名を置く名家の一つは、当然国その物の領地を治める位置に立つ以上一族の教育も他家同様に厳しく、次代後継者の第一候補に対しては徹底した帝王学教育を施し、どこへ出しても恥ずかしくない紳士淑女に育て上げることが時の当主が担う役割の一つでもあった。

 

 当代のヴェルガモン伯爵も次代を担う後継者──ヴェルガモン伯爵家が長女、リーライナへの教育を徹底していたのも当然と言えよう。

 

 立ち居振る舞い・言葉遣い・貴族としての在り方・領地経営のノウハウ。

 

 他家との社交界における付き合い・自領が経営する企業体と他国の、特に同盟国日本が誇るスメラギ・倉崎等の巨大総合企業体との折衝・取引と、ヴェルガモン家当主として将来関わっていく事となるであろうあらゆる方面で渡り合うために必要とされる能力を徹底的に叩き込まれていた。

 

 先に挙げた通り大諸侯の家は一国家として数えても良い規模を持つ。即ちヴェルガモン家の家督を父より譲り受ける事となるリーライナは広義の意味では“国家元首”なのだ。

 

 それも民主主義国家のように選挙で新たに選び直せる物でもなく、親類縁者に代行者無き場合、リーライナの去就一つでヴェルガモン伯爵領770万人の人生に影響を及ぼす事になる。

 

 いや、外部よりの労働者やその親族をも含めるのならばやはり域内の人口は更に多くなり、領主にはそれらの人々の生活に対する責任を負う義務があった。

 

 五大湖周辺に進出する日本企業は、もちろんシカゴより北のミシガン湖に面するヴェルガモン伯爵領(史実ウィスコンシン)領都ミルウォーキーにも多数進出しているため、領主の失政によってヴェルガモン領が衰退するような事があれば、五大湖全域の経済にも波及し日本へのマイナス面での影響も決して少なくはなく、他国の、それも一貴族領の領地経済とはいえ他人事ではなかった。

 

 軍事の面に於いても伯爵家にも拘わらず陸上騎士団4個師団約5万人、天空騎士団8千人、その他予備役と、7万名近い常備兵を持つ諸侯軍であるヴェルガモン騎士団──つまりはヴェルガモン家の軍隊は、アッシュフォード家やクルシェフスキー家、シュタットフェルト家と並んで日本軍との演習や交流を頻繁に行っている間柄。

 

 環太平洋連合を着々と形成しつつある日ブ経済圏になくてはならない、そして衰退するような事があってはならない領邦の一つであった。

 

 過ちを犯さぬ貴族として、優秀なる経営者として、そして自らが選んだ道……帝国への忠誠心厚き、臣民を護りし軍人・騎士として、次期領主たるリーライナは弛まぬ努力を積み重ねてきた。

 

 論ずるまでもなくそこには完璧なる淑女としての一面も添える形で。

 

 完璧なる淑女……、紛う事なき淑女。

 

 いま己の眼前にてナイフとフォークを使い、皿に載せられた分厚いステーキ肉を音を立てることなく切り分けているこの女性は、疑う余地すら見出せられないほどに完成された淑女だった。

 

「イソロクさま、如何なさいまして?」

 

 ぽかんとしていたのが悪かったのか、視線に気付いた眼前の淑女が話し掛けてくる。

 

「あ……ああ、うむっ……。いや、……ん゛ん゛っ……如何したとは?」

 

 急に話し掛けられたので取り乱してしまったのは、今時珍しい一厘刈りの丸坊主に、着慣れぬタキシードで整えた初老の男。大日本帝国元海軍大臣山本五十六だが、相対する彼女は気にも留めていない様子だ。

 

 この彼の様子に、普段ならばからかう口調で後を続けそうな物を、一貫して淑女然とした態度を崩すことのないリーライナの様子は、彼が知る常の彼女からしてまるで別人の物である。

 

 そんな彼女の様子に当年とって齢60となる老成された男は、今日会ったばかりの女性とお見合いをしているようにさえ思え、面映ゆい気分と、そこはかとないぎこちなさを感じずには居られなかった。

 

 ぎこちなさ、一種の居心地の悪さを彼が感じていることは当然彼女も気付いている筈なのに、やはりその言葉遣いと態度は変わらず。

 

 自身へと向けられていた此方の視線のみを指摘する以外は、何事もなく淡々と話を進めるだけに留まっていた。

 

「いえ、先程よりなにやら私の事をジッと見つめておいででしたので、気になってしまいましたの」

 

 店の雰囲気に合う仄暗い橙色の室内灯に照らされ輝く長い金色の髪。

 

 エメラルドの装飾を施されたバレッタにてアップに纏められている、普段は背に流しているだけのその金の髪を、彼女は微かに揺らす。バレッタのエメラルドがまるで石ころのように思えてしまう程に美しい翠玉の瞳に、喜怒哀楽の喜の感情を浮かべながら。

 

「失礼した……。おま……、いや君が」

 

『おまえ』と言い掛けたところで口をつぐみ、言葉を選び直した彼──山本五十六は、この場の雰囲気に合わせようと使い慣れない台詞を解き放つ。

 

「あまりにも美しいのでつい……見惚れてしまった」

 

 口元にナプキンを添え、そっと拭う淑女は、あまり聞く事のない彼の賛辞を冗談だと受け取ったのかコロコロ笑った。

 

「まあっ、お上手ですこと」

 

 大口を開いての下品な笑い方ではなく、常時の明るい笑顔でもない淑女としてのそれは、山本には本当に耳慣れない笑い声であった。

 

(誰だこれは……)

 

 整った美貌も、翠玉の瞳も、流れような明るい金の長髪も、すべてが自分の見聞き知るリーライナ・ヴェルガモンに相違なし。真剣な一夜を共にする程の仲である彼女を見間違えたりするほど耄碌してはいない。

 

 しかしながら。

 

(……別人だな)

 

 人間誰しも相対する人物によって己の言葉遣いや態度を変えることがごく普通であったが、山本に対する彼女の対応としてこれはほぼあり得ない事と言い切ってもよいだろう。

 

 出会い方が出会い方だ。取り繕う間もなくその場での応対と接し方が二人にとっての自然となった以上、今が常とは異とする状態にある、そう断言すべきで、彼の考えに間違いはない。

 

 どうしてこうなった? 

 

 曲者揃いの夢幻会の中において最も平穏を望む苦労人、親友の嶋田繁太郎が考えそうな台詞が心中より沸き上がる。

 

 2月14日はセントバレンタインデー。

 

 理由は定かでない物の、何故か日本では女性の側より自らが好意を寄せる男性へと想いを込めたチョコレートを送るものとして、世間が甘味菓子一色に染まってしまうよくわからない日。

 

 根っからの古き良き昭和の軍人で、骨の髄まで海の漢の世界に生きてきた彼には、妻がいた前世ですら経験することのなかったイベントに、新たに生まれ来たこの世界にて初めて触れる切っ掛けを作られたのは、丁度一週間前の夜の事だった。

 

『来週14日は空いてる?』

 

 使い慣れた携帯に入る1件のメールには、山本と彼女、そして彼女と仲の良い後輩と、後輩の連れ合いの4人で食事へ行けないかというお誘いが書かれていた。

 

 彼女リーライナ・ヴェルガモンの後輩とは、士官学校からブリタニア第二皇女コーネリアの従卒を経て共にナイトオブテン親衛隊時代を過ごし、なにかと縁深く一緒に歩んできた仲の良い少女らしい。

 

 リーライナが駐日大使館付きの騎士となる以前。ブリタニア本国勤務時代には、先輩として恋愛事から、重すぎる将来の職責に付いての悩み事等、よく相談に乗り、また自身も悩みを打ち明けるといった、軍内部で一段高い信頼関係を築いていた間柄なのだという。

 

 その付き合いの深い後輩の少女が、休暇を利用し、日本でブリタニア皇家が1家、ヴィ家の皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇子と、同じくヴィ家のナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女護衛の任に就いている兄上の元へ会いに行くために来日するとの事だった。

 

 そしてもう一人、少女の連れ合いという人物は、少女の婚約者であり、少女と共に少女の兄上へ挨拶に伺う為にと日取りを合わせて休暇を取り共に来日するとのこと。

 

 彼等は数日の間日本に滞在する予定なので、丁度いい機会じゃないだろうかと彼女は述べる。

 

 簡潔に言えば『山本の事を紹介させてほしい』とのメール内容だった。

 

 これに対し山本の方はどうかと云うと、会うのは一向に構わなかった。

 

 リーライナと交際しているからには何れかの段階で彼女の交友関係に自分という新たな因子が加わることを意味する。

 

 齢60に達しよう自分と、リーライナと同年代であろう彼女の友人達の間に有る大きな世代間ギャップ。

 

 会った事もない相手に対してそう断言できるのは、今や深く愛し合う関係と成ったリーライナとの間にも当然のように有るからだ。離れすぎた年齢を起因とする埋められない世代間の相違が。

 

『いっくんの考え方は古い』

 

 二人で話している時に「昔はこうだった云々」を口にすると時々返ってくる彼女の反論は、今と昔の世代差が如実に表れた物であると言えよう。

 

 昔は~を、口にしている時点で今の世の流行や言論、ファッション等に一部引っ掛かりを覚えるところがある証明みたいな物で、自身もまた彼女の事を言えないのであるが、考え方を変えようにも今と昔では違いが有り過ぎるのだ。

 

 例えば露出度の高いブリタニア女性騎士のKMF飛行服(パイロットスーツ)を巡って、ちょっとした意見交換をしたときのこと。

 

 効率や運動性までをしっかり考え、計算に入れた上で、これが最も良い形であるとしてプロの手でデザインされた物だが、初めてリーライナの飛行服姿を見たときは『はしたないにも程がある』と、ついつい正直な感想を口にしてしまいそうになった山本には(恥ずかしくないのだろうか)という思いがあった。

 

 膝上から腰までと、胸部から腹部にかけて素肌が露出している彼女の飛行服はもう完全にレオタードその物。

 

 恋人としての身内贔屓を抜きにして見ても美人だと言えるリーライナがそんな服を着ては、同僚の男性諸氏から“そういった目で”見られる事とてあるだろう。

 

 つまり、ただでさえ露出過多なブリタニア軍女性騎士の飛行服の中でも輪をかけて恥ずかしいデザインに感じた訳であったが、当の本人は『これは普通だ』というから分からないものである。

 

 要するにもう世代の違いによる常識や考え方の相違としか言えなかった。

 

 親友の嶋田曰く『山本は頭が硬い』。

 

 本当にそうなのかも知れない。

 

 前世でも激動だった昭和。この世界に生まれ変わってからは昭和から今の平成の時を生きているわけだが、やはり心の何処かで自分という人間は“昭和”の常識を考え方の基礎としているのだろう。

 

 リーライナという今の時代の若者と付き合っていく上で、多少自分も柔らかさというものを身に付けた方が良いのかも知れない。

 

 その意味では彼女の友人知人。つまりは彼女と同年代の少年少女との食事は其れその物が良い機会であると考えられた。

 

 ただ、事はそう単純な話でもないようで、友人の紹介と云うよりも家同士の交流といった意味合いを含んでいる様にも感じられる部分があったのだ。

 

 “マリーカ・ソレイシィ”という、リーライナの後輩の名を目にしたからこそ余計に。

 

 ソレイシィ。

 

 言わずと知れたソレイシィ辺境伯家を示す名であり、彼の辺境伯家息女こそが件のマリーカ嬢の身分であった。

 

 ソレイシィ家と言えば、彼の英雄帝クレア御世の時代に、同皇帝と皇位継承争いを繰り広げていたとされるリシャール皇子を擁し、皇子の影へと控える形で一時ブリタニアの全権を掌握しかけた事もある大貴族──ロレンツォ・イル・ソレイシィ直系の一族。

 

 何があったのか経緯は不明ながらもクレア帝誕生時の折りには、それまで敵対関係にあったはずの同皇帝を立てるという変節振りを見せている。

 

 その後は彼の皇帝の支援貴族に収まる形で、臨機応変な対応を以て国内に影響力を保ち続けた事で、最盛期の権勢と比すれば遠く及ばずながら現在でも一定以上の大きな力を持つ大諸侯の1家だ。

 

 もう一人、マリーカの婚約者という人物の姓も彼は耳にしたことがある。

 

 レオンハルト・シュタイナー。

 

 ナイトオブラウンズ第三席として名高いジノ・ヴァインベルグの生家、ヴァインベルグ侯爵家を支える技術系貴族シュタイナー家に連なる人物であろう。

 

 名家は名家同士と深い繋がりを持ち行くのは世の常。名家ヴェルガモン家の息女と付き合う以上は大諸侯ソレイシィや、大諸侯と繋がりの深い貴族と個人間で接触する。つまりこういう事もあるということだ。

 

 かく言う山本自身も帝国海軍から政界、夢幻会としての己が立場を持つ者ゆえに、“リーライナ・ヴェルガモン”と関係を持てば彼女が持つ横の繋がりとも否応なしに関係を築いていかねばならなくなる事をよく理解していた。

 

 これは言うなればリーライナもまた山本の知人たる日本政界の重鎮と顔を合わせる機会があろうという事実でもあったが、この歳になって彼女のような若い少女と恋に落ちてしまったという事を知人達に知られて冷やかされるのを懸念した彼が黙して語らずな姿勢を貫いている為、会うこともないというだけである。

 

 尤も、彼女のヴェルガモンという立場から、父である伯爵に連れられる形で日ブ政財界と両国の皇族、華族、貴族の夜会に訪れていた幼少期の彼女には会った事のある前嶋田政権の元閣僚も居るには居たが、それとこれとはまた別の話。

 

 山本も武門の家系であるソレイシィ辺境伯とは挨拶程度に言葉を交わしたことがある。

 

(まさかそのソレイシィ辺境伯の息女とこんな形で会うことになるとは、あの頃の自分には想像もできない未来だ)

 

 その辺りの事情はともかくとして、ブリタニアの次代を、広くは日ブ関係におけるブリタニア側の次代の担い手の一員となる彼女の知人への紹介という話となる。

 

 正しくは山本をマリーカとレオンハルトへ、マリーカとレオンハルトを山本へ、といった、相互に紹介し合う形だが、2月14日に此と言った予定もなく、彼女の友人達と共に会食することに抵抗もないとし、山本は二つ返事で了承したのだ。

 

 2月14日といえばバレンなんとかいう日だったなと、名前すらまともに覚えていないイベント日の事を思い出したが、今まで興味を抱いた事もないイベントよりも、優先すべきはその食事会だろう。

 

 と考え、当日となり、いざ待ち合わせていたホテルへ来てみれば、誘ってきた当のリーライナ自身から単なるバレンタインのお食事会だと断言されたうえ、何故か終始このような淑女然とした丁寧な物腰で接されてしまい、妙な心地悪さに苛まれていたのであった。

 

 ついでに彼女が彼のことを周知してなかったお陰で紹介された二人に余計な気まで遣わせるといった場面もあり、どっと気疲れが増していた。

 

 

 

 *

 

 

 

「お目にかかれて光栄ですッ! ヤマモト将軍閣下ッ!」

 

 無風だというのに風を受けているかの如く流れる長めの前髪が似合う髪の色はコルク。

 

 吊り上がり気味な黄土色の瞳を持つ目と、良く鍛えられている事が一目で分かる引き締まった細身の身体。

 

 出来る男、といった第一印象に、しかし実はそうでもないように受け取れてしまうのは緊張と焦りを表出させた声音が原因であろう。

 

「ヴァインベルグ侯爵家臣下シュタイナー家が嫡男ッ、レオンハルト・シュタイナーと申しますッ!」

 

 騎士……軍人らしい直立不動の態勢で開口一番に敬礼をしてきた少年に、山本の頭が痛くなってきた。

 

「初めましてシュタイナー卿。山本五十六だ。私も会えて嬉しいよ。……ただな、申し訳ないがその将軍や閣下といった敬称はご遠慮願いたい。既に軍も政界も引退した隠居に対する敬称としては些か大袈裟にすぎる」

 

 夢幻会最高意思決定機関『会合』顧問という、帝を除けば世界第二位の超大国大日本帝国の頂点に立つ者の一人である身の彼は実のところ永遠に閣下と呼ばれる立場だったりする訳だが、あいにく彼自身にはその自覚は無い。

 

 無論、彼の少年には山本が就く今の役職を知る術など有りはしない。彼はあくまでも過去の山本を知る上での『閣下』という意味で敬称を使っただけ。

 

 それは彼の過去の積み重ねが、他者よりそういった敬称を用い尊崇の念を抱かれる今日の土台を築き上げて来たのだが、彼としては個人差はあれど会う要人が皆『閣下』『長官』『将軍』と、過去に頂いた敬称を用いて呼称してくるので困るのだ。

 

「それにリーラ……んん゛っ、失礼。リーライナ嬢の知人として紹介されるこの身に、閣下というのは合わないだろう? 歳こそ君より40以上上だがリーライナ嬢の友人として此処に居るのだから、それらしい接し方で頼むよ」

 

「し、しかしあのッ、ニューギニア戦争の英雄……、世界最強の提督として誉れ高いヤマモト閣下に対し、私のような若輩者が気安く接するなど……」

 

「昔の話だ」

 

 軍人と顔を合わせると誰もが同じ反応をするが、英雄といった崇拝的に語られるのはあまり好ましいとは思わない。

 

 皇国のために戦い抜いた結果を誇る以前に、軍人として当然の事を行ったのだ。

 

 ましてや格下相手の戦果に過ぎず、それも現場の将兵皆が力を合わせて築き上げたものであって自分個人が過剰に語られるほどの事はしていないと、彼自身は常々思っていたが世界はそう視ていないようだった。

 

「せッ、せッ、せん……ぱい……っ、えっ、ええええ、英雄イソロク・ヤマモト……っ」

 

 もう一人、リーライナよりも幾つか年下と思われるまだあどけなさを残した面影の少女はというと、山本を目にして固まっている。

 

 肩よりも少し上までの短い栗色の髪、瞳の色は少し色素が薄めの翠玉色で、背丈も低め。

 

 成熟した大人の女性らしい身体つきのリーライナに対して、まだ未成熟でスレンダーな肢体の美少女。

 

 リーライナの後輩、マリーカ・ソレイシィ辺境伯令嬢だ。

 

「あら~? マリーカさんは私の恋慕う方がヤマモト卿である事を御存じ有りませんでしたか?」

 

「ぞっ、ぞぞぞっ、存じてませんっ! い、いいいっ、いまの今まで一度たりとて先輩よりお聞かせ頂いたことはございませんっ!!」

 

 例え相手が皇族であっても事前に伺ってさえいれば一切動じることなきマリーカであろうと、いきなり恋人だと紹介された相手が日本海軍を率いてあの日ブに追随せんとする強大国オセアニアと対峙し、僅かな犠牲で空前の大勝利を収めた英雄だと知れば取り乱しもする。

 

「そうでしたか? うふふ、ごめんなさい。ど忘れしておりましたわ」

 

 悪戯が成功した時の黒い微笑みとでもいうのか、あの手の笑顔を張り付かせたリーライナが彼へと歩み寄り、そっと身体を寄せた。

 

「それではあらためて御紹介させて頂きます。マリーカさん、レオンハルトさん。この方こそわたくしが生涯を共にし、生まれ変わってもまた愛し合うと誓った我が夫。お二人とも既知の事かと存じますが、元大日本帝国海軍大将・連合艦隊司令長官、そして日本政界に於いて海軍大臣等を歴任されて来られましたイソロク・ヤマモト卿ですわ」

 

「なっ──!?」

 

 リーライナにとっての山本は今はまだ夫ではなく恋人。

 

 百歩譲って婚約者。それも二人の間でだけ通じる非公認のものだが、リーライナは有無を言わさず彼を夫と呼ぶ。

 

 山本は今夜見せる彼女の強引さに言葉を詰まらせながら、彼女が何を考えているのかを計りかねていた。

 

 

 

 



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休日&楽隠居の??年後、或いは別の世界線【日ブ海軍甲事件】」

これは自作【帝都の休日本編】である嶋田繁太郎×ユーフェミアルートの近未来として当初考えていた短編作品ですが、本編とは無関係の単体の派生作品として観てくださっても問題はありません。
作品内に於ける現象のモデルは田中光二氏著作の歴史群像新書、【超空の艦隊】に登場している時空を繋ぐ雲となります。
やはりオズでのリーライナ登場以前に書いた作品なので彼女の言葉遣いが原作とは異なっております。
オリジナル設定とオリジナルKMFが登場しておりますのでその点も御注意ください。


 

 

 

 

 帝都の休日 外伝 海軍甲事件

 

 

 

 

 

 環太平洋──正確には太平洋を跨いで隣り合う大日本帝国と神聖ブリタニア帝国を中心に、両国と友好関係にある東南アジア及び南ブリタニア諸国の海軍が、一年に一度ハワイ近海に集まる日──8月8日。

 

 この日は太平洋に面する国々にとって歴史に刻まれた特別な日である。

 

 1940年の同月同日に勃発した史上最大級の大戦争──太平洋戦争。

 

 二つの客船が絡んだとある事件を発端とし、不幸なすれ違いと陰謀の果てに起きた忘れ得ぬ悲劇。

 

 血と硝煙と怨嗟が南北太平洋全域を覆い尽くした忌まわしき記憶が刻まれた日。

 

 日本が、ブリタニアが、戦う必要のない戦争へと突入し、憎み合わなくても良い憎しみを抱いて血で血を洗いながら殺し合った。

 

 太平洋列強三国の天秤が大きく傾き、間隙を突いた南の大国が平和を謳う太平洋の国々と東南アジアの一部へ襲いかかり、飲み込んだ。

 

 東南アジアの、そして南ブリタニアの力を持たない国々が助けを求めることも出来ず、ただ迫り来る侵略者の恐怖に脅えていた。

 

 その忌まわしき記憶の全てが集約する日、8月8日。

 

 彼らはこの日を太平洋が一つになるべき日であると定め、各国海軍が一堂に会し肩を並べながら戦友として戦うべき日であると制定した。

 

 特に日本とブリタニアは二度と互いを疑わない。信じて信じて信じ抜くとの想いを込め、この日と、終戦の日である8月15日には各地で追悼式典や友好行事を開いている。

 

 それは二度と同じ過ちは繰り返さないという両国の強い意志の表れ。

 

 ある意味、この場に集った海軍が行うのも、それら友好と追悼の催しの一つであると言えるであろう。

 

 嘗て第一線にて刃を交え、死闘を演じた者達の子孫が、こうして信頼を寄せ合う友として集っているのだから。

 

【環太平洋合同軍事演習】

 

 それが年に一度、日ブが激戦を繰り広げたハワイ沖を舞台に行われる、8月8日の慣例行事であった。

 

 

 

 *

 

 

 

 今年も数多くの艦艇や浮遊航空艦。航空機、KMFなどが演習地域の空と海を埋め尽くしている。

 

 日本からは改鳳凰級と呼ばれる10万tを優に超える巨大な航空母艦が2隻に、空前絶後の12万t級戦艦大和(改大和・新大和・超大和級等の呼称で同級は大和・武蔵の2艦のみ存在)

 

 他、巡洋艦・駆逐艦などの護衛艦艇が36隻と強襲揚陸艦が2隻。航空機180機、KMF100騎。

 

 ブリタニアも同規模の空母ブリガンテス・イングルバラの2隻に護衛艦艇40隻。強襲揚陸艦2隻、航空機200機、KMF160騎。

 

 他には両国の浮遊航空艦艇が10隻ほどと、補給艦などの補助艦艇も併せれば日ブの2国だけで今すぐ戦争が可能な程の陣容が整っていた。

 

 両国以外の国々も、その国の事情にあった艦艇が参加しており、演習予定海域は各国の軍艦が犇めきあっていた。

 

 如何に重要な日の演習であるとは言え、これだけの陣容を揃えるのには無論訳があった。一つは同盟国へのアピール。そしてもう一つは仮想敵国への無言の圧力である。

 

 演習でさえこれだけの戦力を惜しげもなく動かす事ができる。それが可能な資源・経済力・軍事力に裏打ちされた国力があるという証明。

 

 “我らの勢力圏に手を出すな”

 

 早い話が永の仮想敵国である合衆国オセアニアとその衛星国や支援国によって構成される、南天条約機構。

 

 新興の大国清に対しての牽制である。無論、高麗も若干……いや、僅か……。……意識しているのかは何とも言い難いが、チラ見くらいはしていたが……。

 

 といって、この陣容に挑める仮想敵の海軍国などオセアニアと南天以外に存在しないのと、太平洋戦争から近年に掛けてのオセアニアの被侵略国が揃って参加している処を見る限り、明らかに同国を主敵と見据えた物である。

 

 そんな諸々の事情から演習海域に集った大艦隊の総旗艦を務める戦艦大和のCICでは、現在、蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。

 

「まだ通信は繋がらないのか!?」

 

「ダメですっ! 応答有りませんッ!!」

 

 騒ぎの原因は三十分ほど前に突如として上空に現れた紫色の雲。快晴だった空にどこからとも無く滲み出てくるように発生した雲であったが、その雲が直接艦隊に何か悪影響をもたらしているのかと言えば、実はそういう訳でもなかった。

 

 強力な電磁波を発しているのなら艦艇やKMF・航空機の機械類が故障したり、不具合が出たりして非常に宜しくない。また、台風のような暴風を伴っているのならば直ぐにでも海域を離脱しなければ危険である。

 

 だが、雲はただ上空に浮かんでいるだけで、風に流されたり形を変化させたりもしなければ、荒ぶるような事もなく、その場で静かに留まっているだけなのだ。

 

 では、一体何を騒いでいるのか? 

 

 それは、艦隊上空に展開していた2騎のブリタニア軍機が、前触れもなく現れた件の雲に飲み込まれて通信が途絶えてしまったからであった。

 

 しかも、その通信が途絶えた2騎にはブリタニアのナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー親衛隊を得て、後に独立部隊となったグラウサム・ヴァルキリエの指揮官──リーライナ・Y・ヴェルガモンと。

 

 同親衛隊出身者で現ヴァルキリエ隊の副官を勤めるマリーカ・ソレイシィが騎乗していた。

 

 もし、この消えた2人が無名の一般兵であったならばこれだけの騒ぎにはなっていなかったであろう。

 

 しかし、彼女達の立ち位置という物がこの騒ぎに拍車を掛けているのだ。

 

 リーライナ・Y・ヴェルガモン。

 

 マリーカ・ソレイシィ。

 

 2人は共に神聖ブリタニア帝国の名家、ヴェルガモン伯爵家とソレイシィ辺境伯家の次期当主という高位の貴族であり、万が一のことがあった場合、各方面に大きな影響が出ること必至の人物なのだ。

 

 無論、これが爵位を持たない一般兵であったとしても救助と、このような不可解な自体の原因究明に全力を挙げる事には変わりない。

 

 がしかし、事故に巻き込まれたリーライナとマリーカは、やはりその名が大きすぎた。

 

 彼女達に何かあれば数百万人もの両家の領民がその影響を受け、ブリタニアの政界や貴族社会にも大きな波紋が広がる事になるのだから。

 

「や、山本長官……、ヴェルガモン卿が……」

 

 2人との通信が途絶えたと知れ渡ったとき、大和のブリッジにいた者達全員が提督席に座る男を振り返った。

 

 雲に飲み込まれて通信が途絶えたリーライナ・Y・ヴェルガモンは、ヴェルガモン伯爵家の次期当主であると同時に、その席に座る人物、嘗てのニューギニア戦争でオセアニア海軍を相手に完勝した英雄──山本五十六の妻なのだ。

 

 この合同演習の為に一時復帰しているとはいえ既に彼は引退して久しく、普段の動静など余人には知る由もなかったが、その仲睦まじい夫婦の間柄は日ブの識者や軍関係者の間では良く知られていた。

 

 それ故に、如何な英雄山本と言えど心の平静を失い動揺しているのではないか? もしそうなら少しでも励ましの言葉を掛けたい。

 

 齢66になる老人の事を、父のように慕い憧れている日本海軍将兵達はそう考え彼を振り返っていたのだが、彼らの予想とは違い山本は冷静その物な姿勢を崩すことなく、演習を一時中断して捜索に当たるよう指示を出している。

 

 目の前で愛妻が行方不明になっているというのに冷静なその様子に、「流石は山本長官だ」という声が上がり、自分たちが父と慕う彼の為にも行方不明の奥方を必ずや見つけ出してみせると決意した将兵皆が捜索に移っていく。

 

 しかし、彼らは気付かない。

 

 何があろうと冷静さを失ってはならないのだという持論を持ち、事実そうであるべき立場の彼の拳が、異様なまでに強く握りしめられ血が滲んでいたことに。

 

 彼は平静を装いつつも心の中では大きく動揺していたのだ。

 

 例え表には出さなくとも愛する妻を心配する男の姿が、そこに確かな形として存在している。

 

 そして、そんな彼と同じく動揺を隠せないで居たもう一人の人物が大和の通信チャンネルに割り込んできた。

 

『山本指令ッ!』

 

 メインモニターに映り込んだのは目付きの鋭い青年。神聖ブリタニア帝国対テロリスト遊撃機甲部隊グリンダ騎士団所属のエース、レオンハルト・シュタイナー。

 

 本来、対テロ部隊所属の彼が正規軍同士で行われる演習に参加しているのは、これが南ブリタニアに拠点を持つ国際テロ組織、民主共和制原理主義組織──ペンタゴンの海上テロをも想定した総合軍事演習であるからだ。

 

 オセアニア以下の民主共和制原理主義国家から手に入れたのか、ペンタゴンはKMFは疎か、普通の民間船に擬装していたが明らかに軍艦であると見られる堅牢な船までをも所有し、要人誘拐や客船襲撃を繰り返している。

 

 それも南ブリタニア周辺海域だけではなく、遠く合衆国東アフリカや中東の海域でまで。

 

 今まで幾度にも渡り南ブリタニアの拠点を潰してきた日ブ両国であったが、未だ最高指導者ジェファーソン・デイビスの逮捕には至っていない。

 

 そんな事情もあってグリンダ騎士団所属の兵が同騎士団が保有する浮遊航空艦の3番艦ブラッドベリーと共に多数参加していた。

 

 その一人がレオンハルトなのである。

 

「何用かシュタイナー卿」

 

『はッ! 僭越ながら申し上げますッ! 私にッ、このレオンハルト・シュタイナーにヴェルガモン卿とソレイシィ卿捜索の為、上空に現れた雲への突入許可を与えて下さいッ!』

 

 鬼気迫る必死の形相で訴えてきたブリタニア軍の青年に──

 

「…………却下だ」

 

 しかし山本は無情な一言を告げる。

 

「何故ですッ!? このまま手を拱いていてもお二方が戻ってくる保証がない以上、此方から雲へ突入し捜索する以外に手はありませんッ!!」

 

 怒鳴り散らす様な青年の必死さは良く理解できる。何せ山本自身、彼と同じ立場なのだ。

 

 妻と共に行方不明となったマリーカ・ソレイシィは彼の青年レオンハルトの婚約者。

 

 山本は妻を通して付き合いのあるマリーカやレオンハルトの事は良く知っている。無論彼らの仲が余人の立ち入りを許さない深い物であるということも。

 

 だからこそ、今すぐ飛んでいきたいという彼の気持ちが痛いほど理解できるのだ。今の彼と同じく、自分自身があの雲に突入したいと考えているくらいなのだから。

 

 だが──

 

「あの雲の構造が解明できない以上、危険性を考慮して内部への突入許可は出せん」

 

 この場に展開している艦隊を預かる将としてはそのような無謀な行動を起こすわけには行かない。彼個人の話ではなく何万という将兵の命を預かっている以上仕方のないことだ。

 

 また、あの雲には不確定要素も多く、危険性を考慮してレオンハルトが捜索の為に内部へと突入する事も許可できない。

 

『くッ! あなたは……っ!!』

 

 無論レオンハルトとてブリタニア帝国の騎士である以上、そんな事は言われずとも分っている。

 

 しかし、事が自身の愛するマリーカの命に関わるかも知れないので、割り切ることができないのだ。

 

 そして自身と同じである山本が冷静に、且つ冷徹な判断を下しているというのが納得いかなかった。

 

『山本長官……ッ、いや、山本さんはリーライナさんが心配じゃないのかッ!?』

 

 軍に居る以上プライベートではないのだから私情で話すような口の聞き方は許されない。

 

『あの雲の中でリーライナさんが危険にさらされているかも知れないんだぞッ!!』

 

 だが、山本の冷徹な判断に頭に血が上った彼は、艦隊司令ではなく、年上の友人としてお付き合いをしている山本に対して辛らつな言葉を投げかけていた。

 

「心配じゃないのか……か。無論私も……俺もレオンくんと同じでリーラの事が心配だ」

 

『そッ、それなら──』

 

「だが、今の俺は私情で動く立場ではない。預かっている艦隊将兵全員の安全を考えながら指示を出さねばならんのだ……ッ!」

 

 思うように動けない自分の立場に忸怩たる思いを抱く山本の姿を見たレオンハルトは。

 

『……話に……ならないッ……』

 

 歯を食いしばって一言吐き捨てると、乗機ブラッドフォード・ディバイダーの操縦桿を握る手に力を入れ、戦闘機形態フォートレスモードへと変形させ。

 

『これよりレオンハルト・シュタイナーは独自の判断で動きますッッ!!』

 

 山本の命令を無視して上空に浮かぶ紫色の雲の中へと突入していった……。

 

 

 

 ***

 

 

 

「どうなっているの、この雲は……?」

 

 不気味な紫色の雲に突入してしまったリーライナが雲を抜けると、そこは何処かの島嶼の上空だった。

 

 計器類は狂い、座標こそ分からない物の、太平洋の何処かなのは間違いないと思われる。

 

『リーライナ先輩っ』

 

 未知の現象を体験し、少々戸惑いの色を見せていた彼女の耳に聞き慣れた女性の声が入ってきた。

 

「マリーカ」

 

 聞こえた声の主の名を呼ぶと、乗機であるヴィンセント・カスタムと同じ機体が彼女の側に飛んできた。

 

 彼女の部隊であるヴァルキリエ隊のメンバーで、部下のマリーカ・ソレイシィだ。

 

「貴女も巻き込まれたの?」

 

『そう、みたいです……。先輩……ここ、一体何処なんでしょうか……?』

 

 何事にも凛とした姿勢を崩さない自身と同じく士官学校首席卒の才媛にしては珍しく動揺の色を見せている。

 

 もちろん自分自身も戸惑っているので人のことを言えるような身ではないのだが。

 

「わからないわ。太平洋の何処かではあると思うけど」

 

 全天モニターに映し出される地上の様子。

 

 本来そこにある筈の海上を埋め尽くす日ブとその友好国からなる連合艦隊の姿はなく、見渡す限りの何もない水面が広がっていた。直ぐ近くにあるのは精々幾つかの島だけだ。

 

 そして後ろを振り返ると、そこにはまだあの紫色の不気味な雲が煙のようにモクモクと蠢きながら青い空に異彩を放っている。

 

「あの雲がここに繋がっていたのは間違いないみたいね」

 

 では逆に此方からあの雲に突入すれば元の演習海域に戻れるのではないだろうか? 

 

 無論確実性には乏しく、入ったからといって元の場所に帰れる保証など何処にも無い。

 

「もう一度あの雲に突入するわよ」

 

 しかし、それ以外に方法が無い以上は、確証が有ろうと無かろうと入らざるを得ないのだ。

 

『ええっ! またあの気持ち悪い雲に入るんですかっ!?』

 

「気持ち悪くてもアレに入らないと元の海域に戻れない以上仕方ないでしょう?」

 

 嫌がるマリーカに入らないと帰れなくなるかもと言い聞かせるリーライナ。

 

 どう考えたところであの雲が原因なのは疑いようのない事実。

 

 そうである以上あの雲に入れば向こう側に通じている筈なのだから嫌でも入るしかないのだ。

 

『うう、わかりましたよ』

 

 リーライナはイヤイヤながら頷くマリーカに先行する形で雲に入ろうとした。この雲の向こうに居るであろう友軍と合流するために。そして愛する夫の元に戻るため。

 

 無骨で融通が利かなくて昔気質な古い考え方しかできない人だが、ああ見えてとても優しく心配性なのだ。

 

 立場上そういった様子は見せないであろうが、きっと自分が居なくなってしまった事で内心凄く動揺しているに違いない。

 

 それだけ想われている自信もあるし、自分が彼の立場であったならばやはり心配で居ても立っても居られなくなること確実だから。

 

「いっくんって見掛けが頑固な昔気質の人に見えるけど、あれで凄く心配性だから向こうに帰ったら何て声を掛けようかし──!?」

 

 誰に言い聞かせるでもなく呟きながら、心配性な夫にどう声を掛けようかと悩んでいたその時であった。今まで狂いっぱなしだったレーダーが俄に反応を示したのは。

 

『え、何……?』

 

 どうやらマリーカ機のレーダーにも反応があったらしい。

 

「近くを飛行している航空機があるみたいね」

 

 レーダーには10前後の光点が映っていた。

 

 航空機が飛んでいること自体はそんなに珍しいことではない。今の世の中、世界中何処にでも飛んでいるし、海の上でも陸の上でもレーダーに反応があるのは寧ろ普通だ。

 

 だが、此処が知らない海域である以上、何処かの国の領空を侵犯している可能性がある。

 

 これが同盟国日本なら何も問題は無い。識別反応で此方がブリタニア機であるのは直ぐ分かるし、日ブの間に領空侵犯などといった概念は無く、基本的に両国間の間は行き来が自由だ。

 

 個人的なことで言えばリーライナ自身自由に出入りできる身分にあるので、トラブルになったとしても身元を調べて貰えばいいだけの話である。

 

 地位を自慢する訳では無いが、伊達にヴェルガモン伯爵家の家名を背負っては居ないのだ。

 

 ただ、北太平洋は全域が日本とブリタニア二国の領海なのだから良いとして、もし此処が南太平洋だとしたら全ての話が変わってくる。

 

 南太平洋は北部を除いてほぼ全域が合衆国オセアニアの領海に当たるからだ。

 

 このヴィンセント・カスタムならばオセアニアのKMFなど10騎単位で襲いかかってきても余裕であしらえるだけの性能があったが、戦闘機や攻撃機が相手となると少々勝手が違ってくる。

 

 一応この機は第10世代機に搭載予定の兵装の試験機的な側面もあり、10世代機をエナジーウィングで統一することが念頭に置かれ、一般兵が耐えられるようGを軽減させた簡易型エナジーウィングを搭載していたが、

 

 流石に第9世代機であるフリーダムやランスロット・アルビオン等の、戦闘機相手でも優位に戦えるような化け物などではない。

 

 あんな異常とも言える運動性もなければ、自分自身、第9世代機を乗りこなせるような超人的身体能力もない。当然ながらその為の訓練も受けた事は無く、真のエナジーウィング機を操るなど到底不可能。

 

 この機は精々音速を若干上回るくらいの速度しか出ないし、刃状粒子の射出もできない第8世代から8.5世代といった感じの機体だ。もしもオセアニアの第5世代戦闘機が飛んできたら分が悪すぎる。

 

 尤も、此方がブリタニア軍機であると知った上でいきなり攻撃してくる事は無いと思うが……。

 

 仮にそんなことをすれば日ブ双方を同時に敵に回すことになり、オセアニアにとって不利益以外の何物でもないのだから。

 

「でも、あのオセアニアなら絶対攻撃してこないと言い切れないのが怖いところか……」

 

 極東の半島国家高麗とはまた別の意味で何を考えているのか分からないのがオセアニアだ。

 

 欧州の反乱勢力が起こした混乱の隙を突いて旧メリナ王国、セーシェル、モーリシャスを自国の版図に加え、欧州がまだ勢力圏に加えていなかった東アフリカ沿岸地域を武力制圧して傀儡国家を作り上げたうえ、

 

 太平洋戦争では日ブの激突を尻目に南太平洋に存在していた旧大洋州連合や、ニューギニア南部と周辺の島を占領し版図に加えた油断ならない相手。

 

 ここ二,三十年の間で見ても南ブリタニアや東南アジア相手に平然と戦争や武力紛争を起こし、一度は日本とまでぶつかったかなりの国力と軍事力を持った閉鎖国家。

 

 もしもレーダーに映っている機影がオセアニア軍機なら、逃げようとしてもどうせ追いつかれる。ならばここは此方から呼び掛け、敵意はないと示しておいた方が得策か。

 

「此方から呼びかけるわ」

 

『Yes, My Lord』

 

 通信回線をオープンにしたリーライナは、此方に向かって飛行している10機前後の航空機編隊に応答を呼びかけた。

 

「こちら神聖ブリタニア帝国軍所属リーライナ・Y・ヴェルガモン。予期せぬ事故により当該空域に迷い込んだ次第であり、侵略的意図を持っての侵入ではありません。貴隊よりの応答を願います」

 

 しかし…………繋がらない。

 

『先輩、応答有りません』

 

「わかってる。もう一度呼びかけてみるわ」

 

 確実に聞こえている筈だというのに応答のない相手に、再度同じように呼びかけてみた。

 

 それでもやはり応答無し。

 

「おかしいわね。10機近くもいて全機無線が壊れてるなんてこと有り得ないし……」

 

 不審に思いながらも編隊に向けて外部カメラをズームアップしてみる。

 

 すると。

 

「え? あれ……日の丸じゃない?」

 

 その編隊飛行する航空機には見慣れた赤い丸が描かれていた。

 

 つまり応答のない相手は日本機ということだ。だが、何かがおかしい。

 

「あ、あれって……ッ」

 

 鋭い鋭角状の鉄の怪鳥を思わせる現在の戦闘機とは異なるトンボのような外観。プロペラを回転させて飛翔しているのでジェット機ではない。

 

 無論、現代でもセスナや民間機にプロペラの航空機というのはあるし、軍でも普通に残っていた。

 

 だが、アレは違う。アレは世界中捜しても編隊飛行しているのが有り得ない航空機だ。

 

「まさかッ……零戦……ッ?」

 

『嘘っ!? あれ……零戦って……っ……昔の日本のっ!?』

 

 そう、飛んでくる編隊は太平洋戦争時よりも更に前の時代の日本の戦闘機だったのだ。

 

 現在では空戦の主流は第5世代ステルス戦闘機とKMF+浮遊航空艦となっており、最早博物館にしかないような零戦を現役で運用しているはずがない。

 

 太平洋戦争の時でさえ日本は初期、というか世界初のジェット戦闘機を運用しており、当時でさえレシプロ機の零戦は時代遅れの代物と化していた。

 

 そんな歴史の中にだけしか存在しない物が太平洋上空を堂々と編隊飛行しているのだから驚くなという方が無理な話だ。

 

 こんな光景はそれこそタイムスリップでもしなければ見ること適わぬ、現代という時間軸の意味での、この世の物では無い光景であった。

 

 そんな光景を目の当たりにして衝撃を受けた2人が暫しの間絶句していると、2騎のレーダーに件の零戦隊とは別の物と思われる新たな光点が出現した。

 

 その光点は明らかに日本機目掛けて一直線に近付いている。

 

「──っ!?」

 

 まるで行く手を塞ぐかのように現れた光点は、零戦隊を狙っているように徐々に徐々に近付いていく。

 

「何かわからないけど行くわよマリーカっ!」

 

 嫌な予感がした。虫の知らせというかそのような感じの、今この瞬間、あの零戦隊を追い掛けなければ大切な何かを失ってしまう。

 

 そんな予感に突き動かされたリーライナは、乗機のエナジーウィングを展開したまま機体を急加速させて、零戦と零戦を狙っているであろう光点が現れた空域へと飛翔した。

 

『あ、待ってください!』

 

 置いて行かれまいと続くマリーカもエナジーウィングを展開して急加速し、先を行くリーライナ機を追いかけていく。

 

 音速の領域に達した2騎は一瞬にしてその場から遠ざかっていった。が、丁度その直ぐ後のこと──紫の雲から行き違いとなる形で到着した機影があった。

 

「何処なんだ此処は……ッ!」

 

 消えてしまった2人を捜索する為に向こう側から紫の雲に突入した戦闘機。

 

 いや、戦闘機形態であるフォートレスモードに変形したレオンハルト・シュタイナー乗機のブラッドフォード・ディバイダーである。

 

「マリーカさんはッ……!」

 

 彼は自分と同じ様にこちら側に居る筈の愛する婚約者の機体を捜した。

 

 目視できる範囲には居なかったが、雲に入った直後からレーダーが反応しなくなっていたので目で捜す以外に無いのだ。

 

 しかし、そんな彼の機体も、リーライナとマリーカがそうであったように間もなく異常を示していた全計器類が回復し、レーダーに味方機の識別反応を表す光点が2つ現れた。

 

「これはッ、マリーカさんとヴェルガモン卿かッ!?」

 

 吸い込まれた2人の機体であるとは決まっていなかったが、移動する速度や雲から誓い機影である処から当たりを付けた2機を追走。

 

 同時に彼女達が向かう先には数十の光点があり、彼女達がそこへ向かっていると知った彼は機体を急加速させた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 その頃、3騎のブリタニア軍機が向かった空域では、先に居た10機程の古めかしい戦闘機、零戦艦上戦闘機と、零戦……というより、零戦が護衛している一式陸上攻撃機と呼ばれる双発の機体を狙って現れた、

 

 星のマークが描かれし敵国アメリカ合衆国の戦闘機P-38ライトニングが戦闘状態に陥っていた。

 

「くそっ、振り切れないっ!」

 

 一式陸上攻撃機の中では、アメリカ軍機を振り切ろうと必死な操縦士が絶望的なこの状況に冷静さを失い叫んでいた。

 

 そんな彼を余所に、ただ1人鞘に収まった軍刀の切っ先を床に立てたままの姿勢で静かに前だけを見ている男の姿があった。

 

 短く刈り込んだ坊主頭に、生真面目で頑固な印象を受ける顔つきをした四十代くらいのその男の名は──

 

 大日本帝国海軍大将にして連合艦隊司令長官 山本五十六。

 

 彼は、激戦続く“太平洋戦争”の最中、ショートランド島方面への視察と激励に向かうため、一式陸上攻撃機に乗り込みニューブリテン島ラバウル飛行場を飛び立っていたが、

 

 丁度、ブーゲンビル島上空に差し掛かったところで待ち伏せしていたアメリカ軍のP-38戦闘機16機による襲撃を受けたのだ。

 

「暗号を解読されていた……ということか」

 

 こちらは一式陸攻2機に零式艦上戦闘機6機。

 

 対するアメリカ側はP-38ライトニング戦闘機16機。

 

 彼我の戦力差は数だけで見ても倍、そのうえ敵方からの奇襲攻撃ということもあり、此方が不利であるのは火を見るよりも明らか。

 

 それも護衛の零戦隊は山本が搭乗する一式陸攻を守りながらの戦闘という厳しい闘いであった。

 

 恐らくは確実なる死が口を開けて待っていることだろう。諦めるつもりはないがこの差を覆せない以上、それが一番高い可能性として浮かび上がってくるのは否定しようがない事実。

 

 にも拘わらず、山本は椅子に座ったまま微動だにしないのだ。

 

 己の死期を悟りながらも威風堂々たるその姿は、他の搭乗員達を大いに勇気付けていた。

 

(何があっても長官だけは守る!)

 

 闘志に火を付け、己を奮い立たせながら彼らは必死に闘う。

 

 山本五十六という人間は、唯其処に居るだけで兵士にとっては100万の味方にも等しい存在なのだ。

 

 だが、そんな彼らを大いに勇気付ける存在を消してしまうべく、間隙を縫うようにして1機のP-38が突っ込んできた。

 

「ハハハッ、こいつをやれば日本軍の戦意を削ぎ落とし大いに意気消沈させる事が出来るッ! イエロージャップの悪足掻きもこれで終わりだッ!」

 

 狂気の笑みを浮かべてP-38を操るアメリカ軍の兵士が日本人に対する差別用語を喚き散らしながら山本の搭乗機目掛けて、一直線に突っ込んでくる。

 

「黄色い猿如きがいつまで神に選ばれた白人様に楯突くつもりだッ! 身の程を弁えろ猿がッ!!」

 

 

 

「そいつを行かせるなぁぁっ!」

 

 取り付いてくる敵機を何度も何度も追い払い続けていた零戦隊第二小隊の柳谷飛行兵長は長官機目掛けて突っ込むその機の存在に気付いていたが間に合わない。

 

 他の機も対処することが出来そうな状況にはなかった。何せ16機全機が長官機だけを狙っているのだ。

 

 それ故、いま目の前にいる敵機も抑えなければならず、目の前の敵機と同時にその機を撃墜するなど到底不可能なことであった。

 

 山本へと迫る魔の手。それを振り払える者は、盾になれる者は、この場に誰一人として居なかった……。

 

 いや──

 

 居ないはずだった。

 

 だが、自然の悪戯は。

 

 その魔の手を振り払う女神をこの世界に呼び寄せていたのだ。

 

 ヒュンッ! 

 

 そんな風切り音でも聞こえてきそうな速度で通り過ぎる何か。

 

 長官機を狙っていたアメリカ軍機のパイロットは、

 

「な、なんッ……!」

 

 自分が一体何をされたのかも理解できずに一瞬の後には機体ごと爆散していた。

 

 その瞬間は柳谷兵長も目撃していた。真っ二つに切り裂かれて爆発四散するP-38と、それを成したであろう5メートルはあろうかという白銀に輝く翼を広げた巨大な人型。

 

 更にその鉄の巨人は目にもとまらぬ凄まじい速度と、桁外れの機動性を持って瞬く間に敵機を撃墜して行くではないか。その様はまるで止まった標的を撃ち抜いていくかのようだ。

 

「な、なんだっ、アレは……っ?!」

 

 生憎と柳谷の叫んだ疑問に答えを持つ者などこの場には居ない。

 

 誰もが見たことも聞いたこともない鉄の巨人が何であるのか? また何故自分たちを助けてくれるのか? それに答えられる訳がないのだから。

 

 飛び回るハエを叩き落とすかの如き異常な戦闘力を持った巨人は、瞬く間に敵機の半数を撃ち落としていく。

 

 それでも長官機を狙おうとしていた敵機がめげずに飛びかかってきたが、今度は音よりも早く飛ぶ新たな飛翔物体が、光を撃ち出しながら敵機を撃墜しつつ戦闘空域に乱入してきたではないか。

 

「俺は……夢でも……見てるのか……?」

 

 2体の巨人と音、より早い飛翔物体の乱入、そしてそれが自分たちを苦しめ山本を狙う敵機を赤子の手を捻るように切り裂いていく姿に、零戦隊の兵士達は此処が戦場であることも忘れて呆然としていた……。

 

 神風……。

 

 そう、神風が吹いたのだ……。

 

 

 

 ***

 

 

 

 マリーカに先行する形でいち早く戦場に到着したリーライナはそのままの勢いで日本機とは違う星のマークが付いた機体を撃墜した。

 

「ま、間に合ったっ」

 

 後少しでも遅れていれば零戦隊に守られていた航空機は撃墜されていただろう。

 

 そのぐらい際どいところであった。

 

 何とか守ることが出来た日本機に目を向ける、すると其処には無傷で悠悠と飛行する一式陸攻の姿が。

 

「よかった、無事みたいね」

 

 無事を確認した彼女は撃墜した機と同じ星のマークの機体に目を向ける。

 

「悪いけど日本の航空機を狙った以上、容赦なく落とさせてもらうわっ!」

 

 リーライナにとって日本は第2の祖国。その祖国に刃を向ける存在は例え如何なる存在であろうとも許さない。

 

 それでなくとも日ブ相互安全保障条約というのが存在しているのだ。

 

 日本とブリタニアのどちらか一方を攻撃しようとする敵対勢力があれば、双方無条件でこれに対処するという相互防衛同盟。

 

 日本の敵はブリタニアの敵。ブリタニアの敵は日本の敵だ。

 

『先輩無茶ですよ1人で突っ込んでいくなんてっ!』

 

 遅れて飛んできたマリーカ機からの通信。

 

「同胞が危険にさらされているんだから無茶でも何でも押し通すっ!」

 

『せ、先輩、キャラが変わって──『マリーカさァァァァァァ──―んっっっ!!!』──えっ、何々!? なんですかっ!?』

 

 上司に苦言を呈しながらも戦闘に加わったマリーカ機に入った通信と共に画面に現れたのは金とオレンジで彩られた5,6メートル程の小型戦闘機。

 

 その戦闘機は急加速して乱戦の中に突っ込んでくるとリニアレールカノンを発射、残りの敵機を七面鳥撃ちでもしているかの如き余裕を持って撃ち落としていく。

 

 

 

 ***

 

 

 

「なッ、なんだッ!? なんなんだコイツらはァァッッ!!」

 

 ウィリアム・ハルゼー提督よりの命令でヴェンジェンス作戦に参加するP-38航空隊16機(トラブルで引き返した2機は除く)の指揮を任されていた彼は、5時25分にガダルカナル島ヘンダーソン基地から飛び立ち、

 

 7時33分にはブーゲンビル島上空に到着。同時刻に山本五十六を乗せた一式陸上攻撃機2機と零式艦上戦闘機6機からなる日本軍機の編隊を発見。攻撃を開始した。

 

 はっきり言えばこの作戦は日本側の暗号を解読した時点でアメリカの勝ちは決まっていた。

 

 たかがイエロージャップの編隊8機を叩き落とすなど訳もないことだと、そう考えていた。

 

 事実、攻撃開始後、日本側は山本機に食い付こうとする味方機を追い払えないで居たのだからその考えに何ら間違いはない。

 

 此方を食い止めようとするゼロを相手取り、フリーになった奴が間隙を縫って突入した直後までは……。

 

 そうだ、その瞬間に全ては狂ったんだ。

 

 突入した機の脇を何かが通り過ぎたかと思えば、その機は真っ二つに切り裂かれて爆発した。しかもそれをやったのはピンク色の4,5メートルくらいの鉄人形だというから何の冗談だ。

 

 1機目を喰ったピンク色に輝く羽を広げたソイツは次々と味方に襲いかかり、一瞬にして4機が喰われた。

 

 それだけじゃない。目で追うのもやっとなその鉄人形がもう一体現れて部下を撃墜し始めやがったんだ。

 

 装甲が厚いのか此方の攻撃は全く利きやがらない。それなのに奴らが持つ光る剣は紙でも切り裂くみたいにこっちを真っ二つにしてくる。

 

 おまけにレーダーに映らないもっと速い奴までが現れた。今度のは小型の戦闘機みたいなのだったが音が遅れて来やがるほどに速くて目でも追えなかった。

 

 そいつが突っ込んできたと思えば光線みたいな物を撃ち出してきて味方を次から次へ喰っていく。

 

「なんだよッ!? どうなっているんだよッ!? なんで……ッ、なんでこんな奴らがジャップの味方をしていやがるッッ?!」

 

 どうしてこんなことになった? 合衆国は神に選ばれ愛された偉大な国なんだぞ!? 

 

 それがこんな、こんな薄汚い猿に味方する合衆国のどの機体よりも速く強い鉄人形と戦闘機に一方的に……ッ!! 

 

 大きな力ってのはアメリカにこそ相応しいのであってこんな猿どもが持っていい物ではないッ! 

 

 時のアメリカ人全てがそうであるという訳では無いが、決して少なくない有色人種差別主義者の彼は心の中で罵り続ける。

 

 勝てる筈の戦いがより大きな力を持つ者達の介入によって一方的な敗退を余儀なくされる。それを行ったのは高い機動性をスピードを持つ2機の鉄人形と、レーダーに映らなければ音よりも速い1機の小型戦闘機という計3機のアンノウン。

 

 あのナチでさえも持ち得ない神の如き力を発揮し戦場を蹂躙した者達が味方をしたのは神に愛されたアメリカ合衆国ではなく、ちっぽけな島国に住む身の程を知らない黄色い猿。

 

「くッ!! このッ……猿どもがァァァァァ────」

 

 彼の思考はそこで途切れる。

 

 彼がこの世で最後に見たのは、味方を全滅させたピンク色の鉄人形が巨大な銃を構え、その弾丸を自分に向けて撃ち出すという悪夢のような光景だった。

 

 彼は知らない、白人こそが最優等種であり、中でもアメリカこそが世界の頂点に立つべきと神に約束されているのだと妄信する彼らを死神の鎌で刈り取っていったのが

 

 この世界とは別の遠い異世界にて、彼らが黄色い猿と見下す民族を自らの家族であると言い共に歩み続ける、彼らと同じ白人であった事を……。

 

 神は、他を見下しながら排除し続ける彼らに、終ぞ微笑むことはなかったのだ。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「これで最後ね」

 

 冷徹とも言える抑揚のない声で構えたヴァリスの弾丸を最後に残った1機のコックピットに撃ち込むリーライナ。

 

 狙いは正確。そも、あの様な鈍重な動きしかできない80年以上も昔のレシプロ機相手に外したりするほどノーコンではない。

 

 あっさり爆発四散する最後に残った国籍を表す星のマークの古い戦闘機。余りの一方的な戦闘結果に拍子抜けするより罪悪感を覚えてしまいそうで気分が悪かったが、これが戦場という物。

 

 敵である以上、微塵も容赦などしてはならない。

 

 それが原因で、次は自身や大切な人が死ぬことになってしまっては元も子もないから。

 

 敵機を撃墜した彼女は、先ほどから甘い空気を振りまき始めた後輩と、その婚約者の機体に目を移した。

 

 後輩マリーカの婚約者、レオンハルトのブラッドフォード・ディバイダーだ。

 

『レ、レオンっ、どうして貴方が……っっ!』

 

『マリーカさん達を捜索する為、僕もあの雲に飛び込んだんです』

 

『そ、捜索の為に飛び込んだって……、な、何て無茶をするんですかっ! そんな事をしてもし貴方の身に何かあったらっっ』

 

 モニターに出たレオンハルトは晴れやかな笑みを浮かべていたが、マリーカとしては得体の知れない雲に事故ではなく自ら飛び込んだ彼の軽率さに思わず叱責していた。

 

 だが、そんな彼女にレオンハルトの方は──

 

『それは僕も同じです。マリーカさん……貴方の身に何かあったら……僕は、僕は……っ』

 

 彼女が抱いた物と同じ想いをぶつけたのである。

 

『レオン……』

 

 

 

「ねえ、2人とも……此処が戦場だって事を忘れてない?」

 

 そんな2人の様子は、同じ通信チャンネルに合わせているので声も表情もセットでリーライナのコックピットにも伝わってくるのだ。

 

 そう、如何に相手が旧式も旧式のレシプロ機であったとはいえ此処は戦場。まして自分たちは同胞である日本軍機を助けにきたというのに。

 

『も、申し訳ありませんヴェルガモン卿っ!』

 

『す、すみません』

 

「まあ別にいいんだけど。ラブ臭振りまいててもキッチリ手は動いてたしね」

 

 尤も、そういった通信の遣り取りをしながらも、敵機は瞬く間に撃墜され、空域には自分たち3騎の他には日本軍機が残るのみという一方的な戦闘結果となっていたが。

 

 P-38はあまりにも隔絶した戦闘力を持つ2騎の第8世代KMFヴィンセント・カスタム。及びブラッドフォード・ディバイダーによって物の数分の間に全機撃墜されてしまったのである。

 

 そこには理不尽なまでの力の定義が働いていたがそれが戦場という物だ。

 

 

 

 山本五十六暗殺という悲劇を起こす筈だった歴史に残る海軍甲事件。

 

 それは、こうして平行世界からの迷い人によって阻止され、歴史の中にその名を刻む事無く終焉を迎えるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 星のマークが描かれた敵機を鎧袖一触したリーライナは、日の丸が描かれた古い日本軍機に再度の接触を試みていた。

 

「こちら神聖ブリタニア帝国軍グラウサム・ヴァルキリエ所属リーライナ・Y・ヴェルガモン。貴隊よりの応答を願います」

 

 無論先ほどのことを考えれば無線が繋がるとは思えず、場合によってはこのまま引き返して雲の向こうに向かうべきかと考えもしたが……。

 

 何せ相手は80年以上昔の日本軍機。近代化改修されてデモンストレーション等で空を飛ぶ物ならまだしも、どう見ても昔のままの機体なのだ。

 

 何故そんな物がこうして現実に飛び回り、あの様な旧式機と戦闘をしていたのか全く持って不明であったが。

 

 とにかくここは一度戻って報告するべきか? そう考えを巡らせていたとき。

 

『……ちら……だい……ほんて……』

 

 漸く無線が繋がった。

 

 最初は雑音混じりで聞き取りにくく、何を喋っているのか分からなかったが、次第にその声は鮮明な物となってくる。

 

 しかし、繋がった無線の声を聞いたリーライナは、それが思いも寄らない相手であったことに困惑してしまう事に。

 

『こちら大日本帝国海軍大将、連合艦隊司令山本五十六。貴官らの救援に感謝する。礼を言いたい、是非貴官らの所属を教えられたし』

 

 そう、繋がった無線から聞こえてきたのは何の冗談か、この場には居ない筈の彼女が愛する夫『山本五十六』の声だったのだ。

 

(いっ……くん……?)

 

 毎日耳にする彼の声を聞き間違える事は無い。これは間違いなく彼の声だ。

 

 硬い喋り方も、言葉遣いも、伝わる雰囲気も、その全てが夫──山本五十六に相違なかった。

 

 だが。

 

 だが何かが違う。

 

 もしこれが夫ならば、このような質問をしてくる筈がないのだ。

 

 このヴィンセント・カスタムが何処の所属なのかは一目瞭然であり、言うまでもなく夫も知っている筈なのだから。

 

 そも、彼ならこの機に妻である自分が騎乗していると知っている。

 

 それなのにこの無線で繋がった相手は、何も知らないとでも言わんばかりの問いかけをしてきた。

 

「…………。御無事で……御無事で何よりです……山本大将閣下」

 

 だからこそ、愛する夫と同じ声、同じ名前のこの人に、自分の方からも初対面として接するしかなかった。

 

 少し……胸が痛い。

 

 

 

「私は神聖ブリタニア帝国軍所属、グラウサム・ヴァルキリエ指揮官リーライナ・Y・ヴェルガモンです。日ブ相互安全保障条約、日ブ同盟に基づき貴隊への支援戦闘を行わせて頂きました」

 

『神聖……ブリタニア帝国……?』

 

 無線より聞こえた山本の言葉に彼女は確信した──

 

『それは一体……何所の国なのだ……?』

 

 あの機に乗っている山本五十六という人物は、やはり自身の夫とは別人であるということを。

 

『山本さんッ! こんなときに冗談は……!』

 

「いいのマリーカ。貴女は黙ってて」

 

『でも先輩……』

 

「いいから」

 

 しかしそうとは思わないマリーカは山本の妻に対する場違いな冗談に一言苦言を呈しそうになった。

 

 それはそうだろう。例え一方的な結果であったとはいえ命を賭けて戦い救出した妻に、余りと言えば余りな言いようなのだから。

 

 尤も、当のリーライナに抑えられては黙るしかなかったが。

 

 一方、レオンハルトの方はといえば、此方へと向かう際に山本と言い争ったのもあり、同じ声同じ名を聞いて少し気まずそうに事の成り行きを見守っている。

 

 無線で入る声しか聞こえず、相手方の通信とリンクしている筈のモニターが砂嵐なので確認しようが無かったが、この雰囲気は間違いなく山本五十六であると3人共に確信していた。

 

 無論、山本は山本でも自分たちの友であり夫である山本とは別人であるという事も……。

 

「失礼致しました。ご質問にお答えさせて頂きます』

 

 リーライナは不思議な出逢いをした相手──山本に対し、簡単な説明だけをする。

 

「ブリタニアとは……とても、とても遠い国です……」

 

 きっと……きっとこういう説明をする以外に無いだろう。

 

 彼の質問はブリタニアを知らないということが前提となっている。この前提が既に有り得ない事だが……。

 

 自慢ではないがブリタニアという世界最大の大帝国を知らない人間がこの世に存在している筈がないのだ。

 

『遠い……国……か……』

 

「はい……。ここからはそう簡単に行けないくらい……ずっと、ずっと遠くにある国です……」

 

 故に、此処はブリタニアが存在しない場所なのだろう。元より存在しない国の名など知り得る事はないから彼が知らないのも当たり前。

 

 だからリーライナは敢えて遠い国という表現を使った。

 

 日本とブリタニアは遠い国ではなく本来ならば隣国である。

 

 しかし、ブリタニアが存在しない世界だというなら……それは、言うまでもなく遠い遠い国となるのだろう。

 

『そうか……遠い国か』

 

「はい……」

 

 それを山本は察した。

 

 常識で考えられる遠い国などではない。文字通り行けない場所にある遠い国なのだと。それは無線越しに聞こえるリーライナの声を聞けば分かる。

 

 第一、自分が行ける国に彼女が乗っているようなこの世の物とは思えない隔絶した戦闘力を持つ人型戦闘機など存在していない。

 

 アメリカはもちろん、あの先進科学技術の塊であるドイツでさえこのような兵器は作れないだろう。

 

 行けない国。決して見ること適わぬ遠い異世界の国。

 

 荒唐無稽なSF小説にでも出てきそうな話だが、そう考えれば納得も行く。

 

 この世には科学で解明できない事象など幾らでもある。偶々自分がそれに遭遇しただけなのだ。

 

 彼以外の搭乗員達も皆一様にその話に聞き入っていた。謀略か? ただの与太話か? 誰もがそう思う筈だというのに誰も彼女の話を疑わない。

 

 何故ならそこに厳然とした証拠ともいえるKMFヴィンセント・カスタムと、プロペラの無い洗練された三角形に近い形状の、音よりも早い速度で飛び回りながら怪光線を発射できる戦闘機が存在しているのだから。

 

 それに、もし彼らが敵だというのならば、自分たちを助けたりしないし、こうして穏やかな会話をする事もないだろう。

 

 あれだけの戦闘力なら我々を一瞬にして全滅させることが可能なのだから、謀略など仕掛ける必要さえもない。

 

 だからこそ誰も口を挟まず、ただ山本とリーライナの話しに耳を傾けていた。

 

『豊かな国なのだろうな。きっと俺には想像できないくらい豊かで、そして強い国なのだろうな。俺が、皇国が今戦っている強大な国、アメリカすらも凌駕する』

 

「はい……。とても、とても豊かです……。閣下が仰って居られますアメリカというのがどれ程の国なのかは存じ上げませんが、我が祖国神聖ブリタニア帝国は、大日本帝国と並び諸外国より超大国と呼称されております」

 

『ふ、ふふふ、ははははっ!』

 

 彼女の話を聞いていた山本が突如大きな声で笑い出す。

 

 それはそうだろう。彼の祖国である大日本帝国と寸分違わぬ国名を持つ国が、超大国という最も強大な力を持った国に対して与えられる称号を冠しているというのだから、これが笑わずに居られようか。

 

『それはいい! 超大国大日本ときたかっ! 是非とも行ってみたいものだなその日本とやらにっ!』

 

 実におかしな会話であった。

 

 超大国の称号を頂く日本と、それに拮抗する神聖ブリタニア帝国。

 

『日本とブリタニアは同盟国なのだな?』

 

「ええ、同盟国です。切ろうと思っても切れないほどに、深く深く結びついた……家族であります」

 

『そうか……』

 

 この世に存在しないはずの二つの巨大国家は、確かに存在しているのだろう。

 

 此処ではない……遠い世界に……。そんな巨大国家同士が手と手を取り合い、切ることが出来ないほどの深い関係にある其処は、とても平和で楽しい世界なのだろうな。

 

 リーライナの話を聞きながら山本はそう思った。

 

『ならば……。ならば俺は皇国を貴官の国や『日本』に負けないくらい豊かな国にするため、なんとしてもこの戦争を戦い抜き、勝利しなければならん』

 

「……」

 

 彼の口を突いて出たのはそんな言葉。

 

 この戦争に勝利する……。それがどれだけ不可能に近い事か分っていながら彼は言い切った。

 

 此処とは違う遠い異世界には、超大国日本が存在している。きっと色々違う事情の国なのだろう。例えば自国で資源が賄えたり、先進的な考えを持つ者が欧米以上に多かったりと。

 

 だがそれでも、皇国と同じ名を持つ日本が豊かであるという事実が其処にはあるのだ。

 

 ならば、自分たちの皇国日本も、そうなれる可能性があっても良いのではないか? 

 

 例え、アメリカという強大な国との絶望的な戦争を繰り広げているとはいえ、絶対に勝てないとは……。いや、勝てないまでも“負けない”に軟着陸することができるのでは? 

 

 そこへと持って行くのが俺たちの勤めだ……。

 

『そして、必ずやこの国難を乗り越えてみせよう』

 

「……」

 

 何かを決意したかのような彼の言葉を、リーライナは何も言わずに聞いていた。

 

 アメリカという国がどのような国かは分からない。だが、きっと彼らにとっては余りにも大きな敵なのだろう。

 

 強大な敵国という存在と相対したことがない現代のブリタニア人には分からないその決意は、きっと80年前の太平洋戦争の時に従軍した曾祖父が抱いた物と同じ。

 

 唯一、敵となり得る力を持った国日本と、太平洋を二分して戦ったブリタニア建国史上最大の戦争。

 

 戦い続ければ勝てると言われていたその戦争は、それまで無敗であったブリタニアが唯一勝てなかった戦。

 

 世界に類を見ない日本の最新兵器の前に戦線が崩壊した地域もあったとされている。その時、初めてブリタニアは祖国の危機を感じ取っていた筈だ。

 

 そう、嘗て日本は大きな敵であった。いま彼が決意し、勝利してみせると言わざるを得ない相手と同じ様なブリタニアを脅かす程の、大きな大きな敵であった。

 

 しかし、その日本は、今やブリタニアにとって家族とも呼べる関係にある絶対の信頼を置く同盟国だ。

 

 故に彼女は、彼の祖国である日本が、そのアメリカという国と現在の自分たちのような関係を築き、共に歩む存在となれるようにと願わずには居られない。

 

 そして、平和で豊かになったこの世界の日本で、静かな時を送って欲しいと願わずには……。

 

『少々長くなってしまったな。実に興味深く愉快な話故、時が経つのも忘れてつい話し込んでしまいそうだが……この辺りで……お別れだ』

 

「ええ……そのよう……ですね……」

 

『君も、帰りなさい……。君の愛する人や、友人が待つ世界に……。君のやるべき事がある、君の世界に……』

 

 彼の言う通り、彼には彼の、そして自分には自分のやるべき事と帰る場所がある。

 

「山本閣下」

 

『ん?』

 

「……ご武運を」

 

『……ありがとう』

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 遠ざかっていく日本軍機を見送りながら、リーライナはコックピットの中で敬礼をしていた。

 

 これは本来有るはずのない出会い。時間率・世界線・因果律等の難しい話は分からなかったが、有ってはならない出会いなのだろう。

 

 だが……それでも祈らずには居られない。

 

 この平行世界で生きる山本五十六の無事と勝利を。

 

 せめて生きていて欲しい。生き抜いてくれるだけでいい。貴方の帰りを待つ人も、きっとそれを望んでいるはずだから……。

 

『先輩……いいんですか?』

 

「ええ、私たちは本来交わってはいけない存在。偶発的に世界の境界が繋がっただけなんだから……。だから、これでいいの……」

 

『でもあの人は山本さんですよ! 先輩の大切な山本さんなんですよ! 私たちが加勢すればッ!!』

 

「違うわマリーカ。あの人は私の愛するいっくんじゃない。同姓同名で同じ存在かも知れないけど違うの……。それに加勢してどうするの? 武器も弾薬もエネルギーも無尽蔵にある訳じゃない。幾ら強力な兵器を持っていようとたった3騎のKMFで戦争の行方を左右するなんて不可能な事よ」

 

『マリーカさん。僕もヴェルガモン卿の意見が正しいと思います』

 

『レオン……』

 

『いま邂逅したあの人は、僕らの友人である山本さんではなく……よく似た別人なんです。それにヴェルガモン卿の仰る通り、僕らが加勢したところでどうにもなりません』

 

『……』

 

 確かに自分たちが乗るKMFはこの世界に於いて他を圧倒する強力な物。

 

 だがそれもエネルギーが尽きるまでの話だ。その後はただの金属の塊になってしまうだけ。

 

 確かにリーライナにも加勢したいという気持ちはあった。今し方彼らはその命をこの空に散らすところだったのだ。

 

 それを不思議な偶然の重なりで阻止することができた。

 

 だが、自分たちにできるのはここまで。

 

 一瞬の交差ではあったが、確かに交わった因果。

 

 でも、これより先は、きっと互いの因果が交わる事はない。

 

 だから、この出逢いは、同時にこの場での分かれを意味している。

 

 彼には彼の、自分たちには自分たちの歩く道がある。自分たちはその道に帰らなければならないのだから。

 

 ほんの少し交わって、ほんの少し何かが変わった……それで充分。

 

 それ以上何かを求めるのは……傲慢だ。

 

「さ、帰るわよ二人とも。早く帰って演習の続きに参加しないと」

 

『あ、ちょっと待ってくださいよ先輩……!』

 

『はァ、山本さんに顔合わせ辛いな……』

 

 遠くに消えていく日本軍機に背を向けてKMFは加速する。

 

 彼女の大好きな夫が待つ、自分たちの世界へ向けて……。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

(まだか……まだ繋がらんのか……っ)

 

 焦りを隠せない山本はそれでも冷静に連絡が繋がるのを待っていた。

 

 どう考えても上空に現れた不気味な積乱雲が関係しているのは間違いないのだが、あの中に捜索隊を送り込むわけにはいかないのだ。

 

 1時間ほど前に命令を無視して飛び込んでいったブラッドフォード・ディバイダーとも連絡は途絶えたまま。

 

 どのような構造になっているのか見当も付かないが、下手に手を出せば更なる行方不明者を増やすだけ。

 

 艦隊司令としても人としてもそんなことは出来なかった。

 

(リーラ…… 無事で、無事でいてくれ……っ)

 

 心の中で叫びながら妻の身を案じ続ける山本の手の平には爪が食い込み、血がしたたり落ちていた。

 

 もし自分がKMFでも操縦できるなら代理に後を任せて雲に突っ込んでいるところだ。

 

 自分は犠牲になっても構わないというのも無責任と言えば無責任だが、愛する妻を助けたいという彼の想いを否定できる者など居はしない。

 

 まだかまだかと神に祈るように連絡を待ち続ける山本。

 

 その強い祈りにこそ、慈悲深い神という存在は、希望の答えをくれるのだ。

 

『……キ……エタ……リーラ……」

 

「な、なんだ通信がっ!!」

 

 今までどれだけ呼びかけても応答無しだったスピーカーから声が聞こえた。

 

 雑音混じりで何を言っているのか聞き取れない物の、その声は確かに彼女の声だった。

 

「リーラッ!!」

 

 ただひたすら耐え続けていた山本は、その反動からか周囲の目も気にせず大声で妻の名を叫んでいた。

 

 そんな彼の呼び掛けに、今度こそハッキリとした声が返ってくる。

 

『リーライナ・Y・ヴェルガモン、マリーカ・ソレイシィ、レオンハルト・シュタイナー、以上三名只今帰還致しましたッッ!!』

 

 彼女の声と共にブリッジの大画面には紫の雲から出てきた2機のヴィンセント・カスタムとブラッドフォード・ディバイダーが映し出されていた。

 

 彼女達の搭乗機が雲から出てきた瞬間、ブリッジのクルーからは大きな歓声が上がり、山本は逆に立ち上がっていた状態から疲れたように提督席に身を沈める。

 

 艦橋から空を見上げれば、先ほどまであった紫の雲が空間に融けるかのように消えていき、広がる空に浮かぶKMFが3機、大和に向かって飛んでくる姿が見える。

 

「まったく……心配ばかり掛けさせおって……」

 

「長官、奥様から通信が」

 

「おい、今は訓練中だ。奥様とか呼ぶんじゃない……まあいい、繋いでくれ」

 

「はッ」

 

 次の瞬間ブリッジのメインモニターに映し出されたのは、年の頃は20くらいで黒と紫の露出の多いハイレグのようなパイロットスーツに身を包んだ、腰まで届く長い金髪の女性。

 

 控えめに見ても整った容姿を持つこのブリタニア人の女性こそ、山本の妻でありヴァルキリエ隊指揮官、リーライナ・Y・ヴェルガモンである。

 

『艦隊将兵の皆様には多大なご迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます』

 

「全くだ。それで、一体どうなっていたのかを説明して貰えるのか?」

 

『いえ、一言で申し上げるには難しいことですので、後ほど報告に上がります』

 

「わかった……では予定通り演習を始める。元の配置に戻るように」

 

『Yes, My Lord』

 

 事務的な遣り取りを終えた山本は通信回線を海上艦艇、浮遊航空艦艇など全艦隊に繋ぎ演習再開の指示を出す。

 

 あの様な不可思議な事件があったからといって、各国の海軍が集結している以上演習を中止させるわけにも行かないのだ。

 

 無論、この一件は報告書に纏めておく必要もあったが。

 

「ん? まだなにかあるのか?」

 

 やることが増えてしまったと溜息を付いた山本が顔を上げると、視界に映るメインモニターには未だリーライナの姿が映し出されていたのだ。

 

 山本はまだ何か報告でもあるのだろうかと彼女に聞いてみるも、何故か彼女は俯いたまま。

 

「ど、どうしたっ? 気分でも悪いのかっ?」

 

 あんな訳の分からない雲に約二時間もの間捕らわれていたのだから、体に不調が出ても何らおかしな事ではないと心配する彼に、当のリーライナは右手で口を押さえると──

 

 

 

 

 

『…………レモン……食べたい……』

 

 

 

 

 

 と呟いた。

 

「…………な、なん……だと……?」

 

『だから……レモン食べたい……』

 

 レモン食べたい──。

 

 山本は以前、リーライナと共に彼女のご両親、ヴェルガモン伯爵夫妻の元へと挨拶に窺った際に妻の口からまったく同じ台詞を聞いている。

 

 もう何年も前の事だ。あの日は大変だった。

 

 交際しているという挨拶をする筈だったというのに、急遽予定変更で非常に気まずかったような……。

 

 結果として今があるから、アレはアレで良かったのかも知れないが……。

 

 山本の脳裏に懐かしく恥ずかしいリーライナのご両親への挨拶に窺った時の想い出が蘇っていた。

 

 あの時以来2回目となるレモン食べたい……。

 

「レモン……って、ヴェルガモン卿は何を仰っているんだ?」

 

「さあ、レモンがお好きなのだろう」

 

「いや、だが演習前に旗艦のCICどころか全艦艇と航空機・KMFに通信が繋がった状態で態々口にする事なのか?」

 

 不意に発したその言葉は本人も何となしに出てしまった物なのだろう。

 

 しかし、その一言が艦隊将兵全員に聞こえていた為に、皆が皆レモンがどうしたとかひそひそ話し始めた。

 

 更に──

 

「そ、そうかっ、レモンか……、い、いかんっ、ヴェルガモン卿は体調が優れんようなので演習参加を禁じるっ! 今すぐに近場の……大和でいいからとにかく医務室にっ!」

 

『い、Yes, ……My…… Lord……』

 

 山本の慌てようと何やら体調不良を訴え始めたリーライナに、何かあるのではと疑惑のような物が広がっていく。

 

 

 

【環太平洋海軍甲事件】

 

 

 

 またの名を“海軍レモン事件””レモン疑惑”

 

 

 

 遥か未来、幾つもの銀河を股に掛けるような勢力圏を持つに至る幾星霜の時の果てにまで残り続ける、歴史の1ページ。

 

 尚、大日本帝国山本家と神聖ブリタニア帝国ヴェルガモン家の永い歴史の中で、時折生まれる両家を結び付けたご先祖様と瓜二つの当主は、その時々に於いて“レモン疑惑”を再燃させているらしいという逸話が残っている。

 

 また、オカルトの世界では──

 

 “五十六の名を持つ山本家当主と、リーライナの名を持つヴェルガモン家当主が邂逅するとき、異界への扉が開かれる”

 

 として、終末論と同様、思い出したようにメディアで特集を組まれる事があるくらいに有名な歴史上の出来事であったとか……。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中、満点の星空の下、大和の甲板では坊主頭をした初老の男性と露出の多いパイロットスーツに身を包んだ女性が、静かに寄り添っていた。

 

「まったく……いきなりレモンと言うから慌てたぞ」

 

 男性は月明かりに照らされた女性の艶やかな長い髪に指を絡めながら優しく撫でる。

 

 指の隙間を滑り抜ける髪の感触が心地良く、幾度梳いても飽きが来ない。

 

「いつ分ったんだ?」

 

「先週にね。勤務中に気分が悪くなって病院で見て貰ったら……そうだった」

 

「何故早く言わんのだ……分ってたら演習には参加させないようにしたものを」

 

「それよ。どうせいっくんの事だからそう言うと思って黙ってたの」

 

 悪びれもなく言う彼女の彼は理由を聞く。

 

 そういう状態なら激しい動きをする演習には参加しないのが普通ではないかと。

 

「いっくんと一緒に居たいの……それじゃダメ? あの子はいま実家だし私1人で家で留守番なんて寂しくて死んじゃうわ」

 

「だったら、演習の間は実家に戻っていれば良いだろうに……」

 

「それはそうだけど、やっぱりいっくんの側には私が居ないとダメだと思うの。いっくんを1人にしたくないし」

 

 しなだれ掛かる女性は彼の唇を求め、顔を近づけるとそのままそっと唇を塞いだ。

 

「んっ……」

 

 ほんの少しの間触れ合わせただけだがこれでも充分だと彼の首に腕を絡ませたまま抱き着く。

 

「そ、それは、まあ素直に嬉しい一言だが……」

 

 零距離で密着する彼女の腰に彼の方からも腕を回して抱き締め、互いに相手の温もりと鼓動を感じ合う。

 

「それにしても……2人目、か……」

 

「ええ、2人目、ね……」

 

 見つめ合いながら少し気恥ずかしそうに互いに頬を擦り寄せ合ったまま話を続ける。

 

「リーラはどんな名前がいいんだ?」

 

「いっくんは?」

 

「質問に質問で返すな……。まあ、真面目に言うならさっきの今で名前と言われても思い付かんぞ」

 

「ふふ、それもそうね」

 

「そういうお前はこの一週間有った訳だが……どうなんだ?」

 

 彼女は彼よりも一週間早く事を知っていた。ならば時間はあっただろうと彼は聞いたが。

 

「まだ早すぎるから考えて無かった……」

 

 常にマイペースながら誰よりも行動が早い、いっくん──こと、山本五十六と。

 

 リーラ──こと、リーライナ・Y・ヴェルガモンは、星空の下で幾度も口付けを交わしながら語り合う。

 

 今までの事。これからの事。

 

「まず、お父様とお母様にも報告して、あの子にも伝えてあげないとね」

 

「あの子がお姉さんか……時の流れを感じて感慨深いものだな。…………しかし、お義父上にもまだ連絡しておらんかったのか?」

 

「自分の次に知るべきなのはいっくんだと思ったから♪」

 

 自分は正しいとでも言わんばかりに満面の笑みを浮かべる彼女の手触りの良い金色に輝く髪を優しく愛撫していた彼は、深い溜息を付くと一言。

 

「普通は親に報告するものなんだが……伯爵殿もお義母上も親不孝な娘を持ったな……」

 

 だがそんな彼に彼女も間髪入れずに切り返した。

 

「他人事みたいに言ってるけど、いっくんにとっても親なんだから、いっくんがフォローしてよ?」

 

 

 

 こうして仲睦まじい夫婦の話は夜を通して延々と続けられるのであった……。

 

 

 

 



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楽隠居?と円卓の少女外伝 嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
とても暑い日本の夏


こちらのお話しはヒロインがモニカ・クルシェフスキーとなっているお話しで、帝都の休日シリーズとは展開の異なる物語シリーズの短編です。
カップリングはearth様作【提督たちの憂鬱】の主人公、嶋田繁太郎との物であるため、年齢差が非常に大きいです。御注意ください。
実は私の作品【帝都の休日シリーズ】の主人公も彼だったりします。



 

 

 

 

 とても暑い日本の夏

 

 

 

 

 

 

 

 8月というのは日本、そしてブリタニアにとって色々と重要な式典が多い月。

 

 1年を通して行われる式典の凡そ3割がこの月に集中している事からも分かるように、8月という月自体が両国にとって非常に大きな意味を持っているのだ。

 

 言うまでもなく8月は日ブ両国が太平洋を舞台に血で血を洗う大いくさを起こした月にして、それを終息させ、平和と友好を、そして何があっても互いを信じ抜くという誓いを交わし合った月。

 

 開戦。

 

 講和。

 

 平和友好条約。

 

 そして同盟関係を築き上げた月──それが8の月だ。

 

 故に、この月に開催される式典には両国の皇族・貴族・政財界の重鎮が出席するような大変重要度の高い物が多く、その内の日本の帝都東京で開かれていたある式典会場には、ブリタニアの重鎮であり皇族を除けば最も位が高い女性の姿もあった。

 

 両手に嵌めた黒いグローブ。騎士にしては珍しく腰まで入ったスリットスカートの白い騎士服に、膝まである黒のロングブーツ。

 

 そして両肩から身体の前に流して赤いリボンを結び巻き付け残りは背中に流したお尻の辺りまで届く真っ直ぐな金色の髪と、深い海、また澄み渡った青空のような色をした双眸を持つ、黄緑色のマントに身を包んだ見目麗しいその女性。

 

 大日本帝国在勤ブリタニア大使官附主席駐在官、所謂駐在武官の筆頭として日本で勤務している、神聖ブリタニア帝国ナイトオブラウンズ第12席ナイトオブトゥエルブ──モニカ・クルシェフスキー。

 

 そんな重鎮も重鎮の彼女は今、参加している式典に於いて大変困難な状況下に置かれている。それは体温の上昇、激しい動悸、目眩息切れ、発汗の停止という、身体の不調を鑑みても明らか。

 

 否──それが全てであると言っても過言ではない異常事態である。

 

 生まれ持った才能に鍛錬を重ねて身についた高い身体能力と、それに裏打ちされた体力の持ち主である彼女が、この様な状況に追い込まれているのが異常事態でなければ何だというのだ。

 

 では何故、戦場ではなく、また大きな事故や災害現場でもなく、政治的プレッシャーに苛まされるような事もない公務の一つとして出席している式典にて身体が不調訴えているのか? 

 

 ぶっちゃけてしまおう────暑い。以上。

 

 そう暑い。とっても暑い。倒れそうなくらいに暑いのだ。

 

 気温は実に36℃という夏休み大好きで、お外で遊び回る子供達も真っ青な猛暑日である。

 

 これは百葉箱等の、日光を遮る場所で観測された気温なので、直射日光の当たる屋外では40℃に達していてもおかしくはないだろう気温だ。

 

 この式典会場は正に太陽が燦々と照り付ける屋外に設置されている。つまり此処は気温約40℃の灼熱地獄の真っ直中なのであった。

 

 主席駐在官に任命されて日本で勤務するようになってから今年で3年目となるモニカも、当然、日本の夏が暑いのは良く知っていたし、過去2回も経験しているのだから結構慣れてきていた筈なのだ。

 

 しかし、結果から言えばその考えは甘かったと言わざるを得なかった。

 

 生まれも育ちも日本の、純日本人でさえ、暑さに慣れたと言いきることが出来ないというのに、たかだか2回くらい日本の夏を経験した程度で今年は大丈夫とか豪語していた自分が甘かったとモニカは揺れる視界の中で考える。

 

 しかも今自分は分厚いとまでは言わない物のマントを着用している。熱を吸収しやすい濃色ではなく比較的マシな黄緑のマント。しかしながら内側の生地は紫色なので気分的には暑苦しく感じてしまう。

 

 というよりも……こんな暑い日にマントを着用して直射日光の下突っ立っているなんて正気の沙汰とは思えない。

 

 何処の誰がこんな熱の籠もるような服装で外気温40℃の灼熱地獄の下、日中を過ごしているというのだろうか? 街を歩いている人達や一般出席者の服装を見てほしい。誰1人としてこんな暑苦しい格好などしていないではないか。

 

 

 

 マントの内側に蒸し蒸しとした熱が籠もって意識が朦朧とし、思考能力が低下してくる。

 

(…………暑い……死んでしまう……)

 

 正直な話、こんな暑苦しいマントはさっさと脱いでしまいたい処であった。

 

 だが、いまはプライベートで来ているのではなく、ナイトオブトゥエルブとしてこの場に立っている。

 

 ラウンズの正装が騎士服とこのマントである以上、脱ぎたくても脱げないのだ。

 

「モニカ様……」

 

 隣に立つナイトオブトゥエルブ親衛隊隊長にして、自身の副官を勤める精悍な顔つきの男が小さな声で話し掛けてきた。

 

「もしや、御気分の方が優れないのでは……? 何でしたら私がスピーチを代わらせて頂きますが……」

 

 そう気遣いの言葉を掛けてくれる年上の副官。

 

 本来ラウンズの直属とは言え、一親衛隊の隊長に代役など務まる筈もないのだが、彼はクルシェフスキー家に仕える伯爵の爵位を持つ騎士でもある。

 

 時と場合によっては名代という形で行事に参加することも可能な身分ではあった。

 

「い、いえ……、大丈夫です……問題ありません。……お気遣いの程、痛み入ります……」

 

 だが、自らの立場上、彼の好意に甘えるわけにはいかなかった。天下のラウンズが暑さで式典をリタイアなどすれば、また日本のマスコミ──口の悪い人達は『マスゴミ』と呼んでいる週刊減退や、舞朝新聞に嫌がらせのような記事を書かれてしまう。

 

 良い意味でも悪い意味でも貴族が大きな力を持つブリタニアで、彼の新聞社や週刊誌のような記事を書いたりすれば、皇族貴族に対する不敬の罪で重罪になること必定であったが、日本にはそこまでの規制はない。

 

 但し、ブリタニア皇帝の代弁者であるラウンズや、日本の政財界とも繋がりの深い大貴族等に対する行きすぎた記事は、それ自体が国益を害することにもなりかねない為、時によっては日本の特高警察が動き物理的に“処分”される可能性はあったが……。

 

 これに付いてはブリタニアでも同じだ。日本の皇族貴族に対する不敬行為、及び誹謗中傷の記事を書いたりしたブリタニアのマスコミも自国の皇族貴族に対し働いた不敬と同等の罪で罰せられる。

 

 正当な記事を書いている分には日本は当然として、絶対君主貴族制でありながらも基本的には言論の自由が認められているブリタニアでも罰せられることはないのだが、とにかく『マスゴミ』と呼ばれている週刊誌・新聞社に付いては誇張したり捏造したりと

 

 表現の自由・言論の自由を悪用していて話にならない。

 

 彼女自身、以前に誇張記事を書かれるという被害にあったことがあるので、彼らが作る言葉遊びには重々注意していた。

 

 まあ、それら含めた諸々の責任や立場以前に──

 

『で、あるからして今日に至る友好は──』

 

 今舞台上でスピーチをしている自身よりもずっと年上であり想い人であり、そして剣を捧げた相手──嶋田繁太郎がこの炎天下の中頑張っているのだから、

 

 彼の騎士として、彼の前で無様な姿は見せる訳にはいかないのだ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

『ご来賓、並びにご出席の皆様、御静聴ありがとう御座いました』

 

『続きまして、神聖ブリタニア帝国ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー卿』

 

「はい」

 

 壇上でスピーチを終えた男──嶋田がゆっくりと下りてくるのを見たモニカは、彼女の名を呼ぶ司会の声に、今度は自分の番だと席を立つと、先ほどまで嶋田が挨拶をしていた壇上に向かってゆっくりと歩を進めていく。

 

(う……これ……は……)

 

 視界が揺れている。完全に熱中症だ。照り付ける太陽の熱線が衰えることはなく、今この時も彼女への攻撃の手を緩めない。

 

 だがしかし、此方に戻ってくる嶋田の姿が揺れる視界に捉えられると、モニカはグッと手に力を込めて気合いを入れなおした。

 

(嶋田さん……)

 

 何かあったとき、彼が側に居るのと居ないのとでは随分差が生じてしまうようになったと思う。

 

 日本へと渡り来た1年目に彼への思慕を抱き、2年目に彼を必ず撃墜してみせると誓いを立て、そして今年は彼と枕を一つにして眠り、おはようとおやすみのキスまでもを行えるようになった。

 

 直接的に想いを伝えなければ鈍い彼には伝わらないだろう好きという気持ち。だが、心の距離はとても近付いてきたとの確信を抱いている。

 

 そうして距離が縮まっていくに連れ彼への依存度が高くなっているようにも感じたが、同時に彼が側にいるときや彼を想いながら何かをするときは、実力以上の物を発揮できるようになった。

 

 だからこそ、この程度の熱中症如きには負けていられないのだ。

 

 そう思いながら歩を進めていた彼女であったが、悲しいかな、思いが強く気合い充分であると言っても、身体の方が付いてこなかった。

 

「あ……」

 

 ぐらっ、と大きく揺れた視界に足がもつれて倒れそうになってしまうモニカ、支える物は無く受け身も取れないだろうから、無様に転倒してしまうなと考えた──が。

 

「おっと!」

 

 ガシっと身体を支える手が伸びたのだ。

 

「危ないところだったな。大丈夫かいモニカさん」

 

 丁度すれ違いざまだったのが幸いして身体のふらつきに気付いた嶋田が受け止めてくれた。

 

「あっ……嶋田……さん……」

 

 暑くなった自分の身体を同じくらい暑い身体が抱き留めている。

 

「わた、し……少し……暑く……て……っ」

 

 此方の顔色を覗き込む彼の顔がとても近い。不意に抱き着いて【嶋田さん分】の補給でもしたくなる程に。

 

 しかし、今の彼女にはその気力はあっても体力が残ってない。仮にいつものように頬を擦り寄せようと思っても、身体が言う事を聞かないのだ。

 

 当然、ステージの上でぐらつくモニカを見た来賓や一般来場者もざわめきだす。

 

「何かあったのか?」

 

「いや、何かクルシェフスキー卿が御気分が悪いとか……」

 

「お、おいおい、大丈夫かよ……救急車呼んだ方が……」

 

 皆、彼女の様子を見て一様に心配している。

 

 最強の騎士などと言っても直接的に彼女の戦闘力を目の当たりにした者でもなければ、華奢な身体つきをしたか弱い女性にしか見えないのだから然もありなんといった反応だ。

 

 だが、式典の最中に気分が悪いとかで式を一時中断させてしまった身としては、申し訳なさと情けなさで胸がいっぱいになってしまう。

 

「モニカさん。俺の顔が見えるか?」

 

 とても心配げな嶋田の声に余計いたたまれなくなり、【嶋田さん分の補給】などと考えていた自分を叱りつけたい。

 

 彼女は自己嫌悪しながら我が身を気遣ってくれる彼に返事を返す。

 

「…………す、少し……ぼやけています……ね……」

 

 眼を細くしてジッと見てみるも曇ったガラス越しに見るような視界が広がり、彼の顔がぼやけて見えるのだ。

 

 想い人の顔がはっきりと見えないのは悲しいを通り越して泣きたくなってくる。

 

「ダメだなこれは……完全に熱中症だ」

 

「モニカ様っ!」

 

 恥じ入っていた時、駆け寄ってくる親衛隊長の声が聞こえた。

 

「ですから申し上げましたでしょうっ、私がお代わり致しましょうかとっ!」

 

 彼は人目も憚らず叱り付けてくる。伯爵位を持つとは言え一親衛隊長に過ぎない彼がラウンズの彼女を叱り付けるなど懲罰物と言えよう。

 

 次期クルシェフスキー侯爵にしてラウンズともなれば、一国の王を怒鳴りつけているような物なのだから。

 

「ご……ごめんなさい……」

 

 が、彼女は素直に謝る。彼は階級とかそういった物差しで測れるような家臣ではない。

 

 幼少期より仕えてきたクルシェフスキー家の重臣の1人であり、モニカにとっては歳の離れた兄のような存在。

 

 それに自分の甘い判断で大勢の人に迷惑を掛けているのだから、謝るのが当たり前だ。

 

「嶋田卿、お手をお掛けしますがモニカ様をお願いします」

 

「ええ、分かりました」

 

「あ……っ、ダメです……っ、私がスピーチをっ……」

 

 それでも手にしていたスピーチ用の原稿が親衛隊長に取り上げられた抗議の声を上げる辺り、剣を捧げた嶋田の前で自らの成すべき事すらできないという姿を見られたくないという意思の方が勝っていた。

 

 余人には分からないであろうが、騎士が剣を捧げた主の前で無様な姿を晒すというのは、時に死にたいと思う程の恥辱である。

 

 だが、この場に於いては彼女の意思を優先させるというのは唯の我が儘でしかない。あくまでも彼女の身を第一に考えるのがこの場の最善策であり、尤も場が丸く収まる方法なのだ。

 

「なりませんっ! 少しは己が身を御自愛なさいませっ! モニカ様には確かにお立場という物が御座いますが、周りに迷惑の掛かる御命令までは承伏致しかねますっ!」

 

「そういうことだよモニカさん。此処は彼に任せて病人は大人しく休んでいなさい。大体そんな身体で壇上に立たれたら式の進行が遅れに遅れてしまうだろう」

 

「あうう……」

 

 2人の正論に攻められたモニカは二の句が継げず押し黙らざるを得なかった。

 

 そして強制退場が決定してしまった彼女は──

 

「ちょっと失礼させて貰う、ぞっと!」

 

「きゃ……っ!」

 

 その場で嶋田にお姫様抱っこをされてしまった。それもわりかし軽々と言った感じで。

 

 齢60になる嶋田であったが若い頃は海軍で鍛えていたために、モニカのような軽い女性を抱き上げるなど訳もないのである。

 

「あっ……あうっ、あうっ」

 

 お陰で羞恥心から言葉を紡げずあうあうと唸る彼女は、熱中症とはまた別の熱が出てしまい、体温の上昇に拍車が掛かっていた。

 

 だが、そんな状況に身を置きつつも逆に朦朧としていた意識がクリアになってくるから不思議でならない。

 

「ああこれはまずいな、益々熱が出てきたようだ。早く救護所で応急処置をして貰わないと」

 

 林檎より赤いのではないかと思えるほど頬をバラ色に染めたモニカは、こうして嶋田の腕に抱かれたまま壇上から強制退場させられるのであった。

 

 尤も、壇上の横でお姫様抱っこ。これに大きく反応したのは何も当事者たる彼女だけではない。

 

 式典会場に居た『マスゴミ』が一斉にフラッシュを炊いたのである。

 

 ここ最近雑誌の売れ行きが悪い『マスゴミ』は、こういう場面を取ろうと躍起になっている。帝国元宰相とナイトオブトゥエルブにしてクルシェフスキー侯爵家息女の甘いロマンスを激写できればバカ売れ間違いなしの大スクープ。

 

 といった風に思わぬネタが髪の悪戯によりもたらされた訳だが…………。

 

 残念無念、後々ゴシップ週刊誌に面白可笑しく誇張して記事を掲載するであろうことは目に見えていたので、会場を警備していた警察や軍関係者によって、今の瞬間のテープとネガを全て没収されてしまうのであった。

 

 

 

 結局モニカは嶋田にお姫様だっこされたまま救護所へ連れて行かれ、自身が読み上げる筈であった原稿を代わりに読み上げた親衛隊長のスピーチを聞き終えたところで病院へと搬送される事となったのだが、

 

 彼女が熱中症になった原因の一つに正装として着用していたマントがあったので、この一件以降、日本に駐在している騎士やラウンズのマントは、湿気を溜めないよう工夫された日本の夏仕様が支給される事となる。

 

 当然デザイン見た目は全く同じ物。基本的に統一された規格というのが主流であるブリタニア軍の制服に勝手なデザイン変更はできないからだ。

 

 モニカの場合は黄緑色のマントだが、あの模様もカラーもデザインも全てが決められた物であるから、変更点というのは湿気が籠もらないという一点のみ。

 

 一応ブリタニアにも夏仕様という制服やマントは普通にあったのだが、【日本の夏仕様】という今まで無かった新たな規格が生まれる切っ掛けとなった、ある暑い夏の出来事であった。

 

 

 

 




こうして見ていくと、夏のお話しばかり書いていることに今更気付かされました。


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帝都の休日外伝 嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
ユーフェミア・リ・ブリタニア 未知との遭遇


帝都の休日本編シリーズの小ネタです。
昭和の軍人さん嶋田繁太郎(壮年のおじさま)と、ユーフェミアのカップリング物ですので、年齢差の恋愛が苦手な方や、原作カップリング以外苦手とされている方は、重々御注意ください。

ユフィは未知との遭遇を果たしました。
蒼の混沌掲示板様投稿分よりかなりの修正と変更が入っております。




 

 

 

 

 ユーフェミア・リ・ブリタニア 未知との遭遇

 

 

 

 

 

 

 

 在日ブリタニア大使館内の応接室にて、長い桃色の髪の毛をポニーテールで纏めた、白いタイトスカートに鳥の羽を連想させるオレンジのフレアスカート姿の少女が緊張した面持ちで人を待っていた。

 

 少女の名はユーフェミア・リ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国第三皇女その人である。

 

 彼女は大日本帝国首相の枢木ゲンブ以外では初めてとなる日本の要人との対談に臨んでいるのだ。

 

 本来なら姉のコーネリア大使の仕事なのだが、今回は先方が彼女を指名した事もあって今日の対談が実現した。

 

 しかし、この対談について姉からは下手な同意も合意も一切するなと言い含められていたことが、不安でならない。

 

 そんなに危険な人物なのだろうか? 信用できない相手なのだろうか? 

 

 拭い去れない憂鬱な気持ちに苛まれる中、対談時刻きっかりにその男は入って来た。

 

(あ! り、リトルグレ──)

 

 天然なのか宛てているのか分からないが、パーマを掛けたようなもじゃもじゃ頭の髪型。

 

 まるで飛び出しそうになっている黒く大きな目はとても深くて底が見えない。

 

 一目見た瞬間。彼女は失礼だと思いつつも年末に放送していたミステリー特集の宇宙人を思い出した。

 

(未知との遭遇……?)

 

 グレイタイプを思い起こさせる容姿につい目を見張り見入ってしまうユーフェミア。

 

(はッ!? い、いけません……ッ!)

 

 初対面の相手の顔をまじまじと見る。

 

 それはとても失礼な行為であった。

 

「こ、このたびシャルル陛下より駐日ブリタニア大使補佐官の大役を仰せつかり先日着任致しました、神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアと申しますっ」

 

 いけないと思い慌てて挨拶をする彼女に、男は気にした素振りも見せずその場で膝を突き、そっと手を差し出しながら微笑む。

 

「お会いできて光栄ですユーフェミア皇女殿下。しかしそう堅くならないでください。もっと気を楽にして。友邦ブリタニアの姫殿下に対し無礼を承知で申し上げますが、私共は志を同じくするトモダチではありませんか」

 

「と、とも、だち?」

 

「そうですとも。私とユーフェミア殿下はトモダチです!」

 

(え、ええ~と……。いまお会いしたばかりなのですが……)

 

 お互いのことを何も知らないというのに友達だと言う鳩川。

 

(信頼、なされている……ということ、なのでしょうか?)

 

 きっとそうなのだろう。

 

 彼女は多少の戸惑いを覚えつつも、これが彼流の信頼の証なのだろうと良い方へ捉えることにした。

 

 これ以外の解釈。自身の身分が身分だけに下心の可能性も拭いきれなかった物の、何事かの謀を考えていたとして自分にはどうすることもできないのだから。

 

 父や兄姉、そして繁太郎のような。政治家として一流の人間ではない未だ未熟なこの身にできる事など殆ど無いとして。

 

 とにかく今は駐日ブリタニア大使補佐官として、この対談を無事に終わらせることがなによりも重要であった。

 

「貴女は慈愛。私は友愛。多少の差はあっても同じような物なのです」

 

 ユーフェミアはそのフレンドリーな態度に彼の手を取るべきなのかどうかまた悩む。

 

「あ、あのっ」

 

「ああこれは重ね重ねの御無礼を。自己紹介がまだでしたね。ゴホンッ。私は日本公民党幹事長を務めております鳩川雪夫と申します。本日は私の対談願いをお聞き入れくださり、誠にありがとうございますユーフェミア皇女殿下」

 

「……」

 

 ユーフェミアはブリタニア皇族として。駐日ブリタニア大使補佐官として。

 

 与党立憲政友会は当然の事、野党日本公民党の主立った幹部の名は頭に叩き込んである。

 

 自己紹介はすべきであるし、互いを知るにもまずは名前からが世の常。

 

 だが、彼女はそれを差し置いても、いきなりの友達発言の方が気になっていた。

 

 どういうつもりなのだろうか? なぜこの方は面識もない自分に対し友達であると、殊更に“トモダチ”を強調してくるのだろうか? 

 

「あ、あのわたくし──」

 

 そう思った彼女は自らの疑問に解を得るべく口を開き掛けたが。

 

「時にボクのトモダチっ!」

 

「は、はいっ!」

 

 続け様に飛び出した鳩川の一言にまたもや発言の機会を奪われてしまった。

 

「この日本は誰の物だと思われますか?」

 

「……え?」

 

「日本が、大日本帝国が誰の物だと……皇女殿下はお考えなのでしょうか?」

 

「……」

 

 日本が誰の物。そう聞かれて出る答えなど普通に考えれば日本人の物しかない。

 

 皇室の物、帝の物、今上帝の物。何れも否定されるだろう。

 

 ユーフェミアもブリタニア皇族として日本の今上陛下にお会いしたことはあった。無論、言葉を交えたことも。

 

 今上陛下は日本は日本を愛する我が国臣民皆の物であると、そう仰せであった。

 

 父もまたブリタニアは自分の物でも、親族=皇族の物でもない。ブリタニアに住まう住人全ての物であると、常々主張していた。

 

 彼女も皇族として臣民の守護者として、統治者としての立場から彼の質問に答えるべきと思い言葉を紡いだ。

 

「日本は……、日本を愛し、この地に住まう、日本国民総ての方々の物であると思います」

 

 人の上に立つ者としての、理想的な統治者としての答えだ。

 

 自らも皇女として9億のブリタニア臣民一人一人を大切にする、実に彼女らしい回答であった。

 

 が。彼、鳩川雪夫は。良くも悪くもそのような“普通”が通用する男ではなかったのだ。

 

「否ッッッ!!」

 

「ひッ……!」

 

 いきなり大声を出した鳩川に竦み上がってしまうユーフェミア。

 

 何か怒らせるような事を言ってしまったのだろうか? 

 

 謝ろうとする彼女を手で制した鳩川は同じ調子で叫んだ。

 

「日本は日本人だけの物ではありませんッッ!! ブリタニアの皇女ッ、それも私と同じ道を歩む貴女がそんな事でどうするのですかッッッ!!」

 

「ご、ごめんなさいッッ」

 

 いきなりの説教である。

 

 他国とは言っても相手は同盟国の、連合国家化まで時間の問題と言わしめるほど深い仲にある最恵国たる友邦の皇族。

 

 不敬罪確実な行為に及びながらも、だが彼は自分の言動が意味するところを知ってか知らずか、お構いなしに捲したてる。

 

「ユーフェミア皇女殿下は私のトモダチなのですよッ!! 嘆かわしい、全く持って嘆かわしいッ! それで慈愛の皇女などとはッ……。いいでしょう、それでは僭越ながらこの私がお教え致しましょう」

 

「な、何事に付いてなのでしょうか?」

 

「この世界が誰の物か? 友愛とはどのような物か? ということをです」

 

 すっかり鳩川に主導権を持って行かれたユーフェミアは若干の怯えを見せながら彼に伺う。

 

「この世界が、誰の物かを……?」

 

「はい。まず日本ですが…………。日本は高麗の物ですっ!」

 

「ええッ──!?」

 

 そんな話は聞いたこともない。姉にもシゲタロウにも。

 

 それ以前に歴史や社会の勉強にも日本が高麗の物などとは書いていないのだから無理がありすぎる。

 

 否、日本人は誰一人として今の彼の主張を受け入れないだろう。耳にすれば激怒すること疑い無しだ。

 

 ブリタニア人の自分も友邦日本が高麗人の物であるという人間を到底好きになどなれない。

 

 だが彼の日本は日本人だけの物ではないというおかしな繰り言は更に続く。

 

「清国の物でもあります!」

 

「し、清国の物??」

 

 彼は一体どこの国の政治家なのだろうか? 

 

「そして中華、EU、ブリタニア、南ブリタニア諸国、東南アジア諸国、果てはオセアニアの方々の物でもあるのですっ!」

 

「えっ? ええっ?? ど、どうして??」

 

 益々意味不明な事を言いだした彼に、ユーフェミアは次第に頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。

 

 そんな彼女に追い打ちを掛ける鳩川は。

 

「日本人だけの物ではない樺太は清国の物でもある。つまり共同所有こそが正しい道なのです」

 

 日本が抱える領土問題はそれ自体が間違っているとも言い始めるではないか。

 

 いや、そもそも日本に領土問題など無い。現在の日本領は国際法的にも世界的にも、歴史的な観点から見ても大日本帝国領として確定されたもの。

 

 そこに領土問題など欠片ほども存在しないのだから無茶苦茶な話をしているとしか言えなかった。

 

「これは貴国ブリタニアにも当てはまりますよ」

 

「ぶ、ブリタニアにも、ですか……?」

 

 今度は彼女の祖国にまで飛び火する鳩川的領土論。

 

「そうです。今申し上げたように日本は日本人だけの物ではない。では同じくしてブリタニアもブリタニア人だけの物ではないとなります。では誰の物なのか? それは」

 

「それは……?」

 

「地球市民みんなの物なのですっ!!」

 

 背景にバーンっ!! といった擬音でも浮かび上がりそうなほどの言い切りに。

 

「ち、ちきゅうしみん???」

 

 ユーフェミアはそう返すのがやっとだった。

 

「ぬうう、そのような初歩すらご存じでないとは…………宜しい。ユーフェミア殿下と私はたったいま親友となったのですからお教えしましょう……友愛。その心の在り方を。全地球市民を代表してこの友愛の闘士鳩川がっ!」

 

 友達と言っていたのがいつの間にか親友に変わっている。

 

 一体自分とこの人はいつ親友になったというのだろうか? 

 

 というか、この人は先程よりなにを言っているのだろうか? 

 

「いいですか、友愛とは──」

 

 ユーフェミアは耐え続けた。鳩川の言う理解不能な言葉の羅列に。

 

 25%削減、友愛の海、地球市民、次々と投げかけられる質問に次第に涙が浮かんできた。

 

(怖い……この人……訳が分からない……)

 

 そして最後に。

 

「トラストミー」

 

 その言葉を聞いたとき、ユーフェミアは気分が悪くなったのでこれで終わりにしてくださいと涙声で呟いていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ある日、枢木から『手違いでとんでもないことをやらかした。下手をすると刃傷沙汰になるかもしれない』という悲痛な連絡を受けた嶋田は久々に国会を訪れていた。

 

 懐かしいと思いながら赤絨毯を踏んでいた彼は意外な人物より声を掛けられる。

 

「お久しぶりです。お元気ですか嶋田元総理」

 

 パーマを掛けたようなもじゃもじゃ頭。

 

 飛び出しそうになっている黒く大きな目。

 

 かつての政敵、日本公民党幹事長鳩川雪夫だ。

 

「え、ええ元気ですよ、鳩川さんもお変わりないようで……」

 

 いつも変なことばかり口にして周囲を騒がす迷惑なやつで、総理なんかやらせた日には世界大戦を起こすと言われている超危険人物である。

 

「嶋田元総理。現役時代は色々ありましたが、これからはトモダチとして仲良くやっていきましょう」

 

「は、はあ」

 

(なんだこいつ。いきなり馴れ馴れしくなったな)

 

「ところで嶋田元総理。貴方はユーフェミア皇女殿下と親しいと耳にしたのですが本当ですか?」

 

「え、ええまあ、殿下とはその……、色々とあったのでね……。……ユーフェミア殿下が、どうかされました?」

 

「そうそうユーフェミア殿下。彼女と私は親友になったんです! これからは私と嶋田さんとユーフェミア皇女殿下の三人。トモダチとして仲良くしていきましょう」

 

(な、なんでユフィとこいつが親友なんだ??!)

 

「そうだ! せっかくトモダチになったのですから私と嶋田さんとユーフェミア殿下の三人で食事にでも行きましょう!!」

 

『それがいい! それがいい!』意気揚々に立ち去る鳩川に嫌な予感がした嶋田は、間もなくその理由を知ることになるのであった。

 

 

 

 




ボクのトモダチさん、こと、鳩川雪夫のモデルは、漫画家大和田秀樹先生の麻雀漫画【ムダヅモなき改革】に登場する電波系の敵キャラ、鳩山ユキオです。


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新年小ネタ 嶋田繁太郎×ユーフェミア

こちらは2015年の正月に書いた嶋田繁太郎×ユーフェミアの新年の小ネタです。
年齢差の大きなカップリングですので御注意ください。
時系列は設定していない短文ですので、二人にはこんなことがあったんだくらいに考えてください。
蒼の混沌掲示板様投稿時より若干の修正と変更が入っております。



 

 

 

 

 嶋田・ユーフェミア。

 

 

 

 ゴーン……

 

 鳴り響く鐘の音は百八つ。

 

 人間が生まれながらにして内に持つとされる煩悩の数。

 

 ただ静かに、心の奥へと染み渡るかの如き静謐なる音が、深夜0時を越えても尚、帝都に響き渡っていた。

 

 

 

「あけましておめでとう御座います」

 

 折り曲げた脚部。膝を揃えて畳に手を突き深々と頭を下げるのは神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 

 下げた頭に桃色の髪が流れ、畳へとこぼれ落ちている。

 

「あけましておめでとう」

 

 その挨拶を受け、彼女と同様に揃えた膝に向い頭を垂れるのは、大日本帝国元宰相──嶋田繁太郎。

 

「我が身はブリタニア皇族という身の上故に、ご迷惑をお掛けする事も多きことかと存じますが、どうかこの一年、公私共々に宜しくお願い致します」

 

 ブリタニア第三皇女という己が身の上を語るユーフェミア。

 

 特殊な身分であるが故に嶋田へ掛かる某かの負担や物事もあろう。

 

 それを承知で今年も宜しくという彼女は、何があってもけして離れはしないとの意思を込めて新年の挨拶とした。

 

「いえ私の方こそまだ不慣れな日本での生活を送り、駐日大使補佐官という大役をお勤めなされますユーフェミア殿下を公私共に支えられる一年と致したく」

 

 大日本帝国元宰相。現在表向きは民間人である自身は、少し肩の荷が軽くなっている。

 

 夢幻会という大役には未だ就いているとはいえ、ブリタニア皇女として第一線にて働く年若い彼女に比べれば。

 

 そう考えている故に嶋田は年長者として。そして政治の世界に於ける先達として、彼女を支えて上げたいとの思いを告げる。

 

 それは一年の始まりの挨拶。

 

 仲睦まじき普段の二人からすれば余りにも他人行儀とならざるを得ないその挨拶は公としての物。

 

 国は隔てど階位としては伯爵位である目下の嶋田は、ブリタニア第三皇女という身分としては目上のユーフェミアが頭を上げるのを待ち、彼女に次ぐ形で頭を上げる。

 

 どんなに仲が良くとも公私を分ける。共に持つ肩書きを考えれば当たり前のこと。

 

 元宰相であり日本帝国伯爵と、ブリタニア第三皇女。

 

 目上はどちらなのか? 上座に座るべきは? 無論、それはユーフェミアに他ならない。

 

 だがそれは公に於ける挨拶であって、本来在るべき私での挨拶ではないからだ。

 

 だからこそ、そんな堅苦しい公の挨拶はいち早く済ませて、普段通りに接しようという思いが──

 

「ユフィ、今年も宜しく」

 

「わたくしの方こそ、宜しくお願い致しますシゲタロウ」

 

 続く挨拶には込められていた。

 

 



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帝都の休日外伝 駄目男シリーズ(玉城真一郎シリーズ)
新年小ネタ 玉城×クララ+V.V.


こちらは2015年の正月に書いた玉城×クララの新年と、V.V.の新年の短文となります。
スザク×ナナリーの要素も微妙に入っております。
蒼の混沌様投稿時より多少の加筆修正が入っております。



 

 

 

 玉城・クララ。

 

 

 

 威勢良く髪を逆立てた青年が、深夜0時を過ぎた寒い屋外を震えながら歩いていた。

 

「ああくそっ、さみーなぁ」

 

 片手にはウイスキーの瓶が握られている。

 

 外が寒ければ懐も寒い青年には過ぎたる買い物であったが、この寒い夜に呼び出されて、何も口にせずに歩くなどできそうもない。

 

「ったく、あのピンクちびめ」

 

 ぶつくさ文句を言いながら酔いの回った身体でふらふら。

 

 足下のおぼつかない様子だが、それもそのはずだ。ついさっきまで友人と飲んでいたのだから。

 

 どうせ明日は元旦で碌に店も開いてないし、外へ行く予定もなかったので夜通し飲んでやるつもりだった。

 

 高校卒業後に知り合った気の合う連中で杉山と南というのだが、彼等と飲んでいたときに電話が入ったのだ。

 

 断る……という選択肢は無い。正確に言うのなら、その選択肢を真っ先に潰されてしまった。

 

「何が“今すぐ家に来なきゃもうお金貸してあげない”だ畜生」

 

 死活問題だ。電話の相手が融通してくれたからこそ先月もどうにかなったというのに。

 

 財布の紐を握られているではなく、正しく“生殺与奪の権利が向こうにある”状態。

 

 ぎりぎりの生活を続けている青年には冗談では済まされない。

 

 サラ金に走らないで済んでいるのはその電話相手と電話相手の父親のお陰なのだから。

 

 

 

「お~に~い~ちゃんっ!」

 

「うわァ!!」

 

 電話相手の家近くまで来たとき、何者かに背後から飛び付かれた。

 

 酔いが回る頭では後ろに気をやる余裕もない為に、突然の衝撃を喰らいびっくりしたのだ。

 

「あけましておめでと~」

 

 振り返るまでもなくこんなことをする知り合いは一人しか思い当たらない。

 

「てめっクララっ!! いきなり沸くなっていつも言ってるだろーがっ!!」

 

 振り返ると其処に立っていたのは頭一つ分低いピンクのロングヘアと瞳が特徴的な予想通りの少女。

 

 電話の相手こと、クララ。

 

「沸くってなに沸くって。こんな可愛い女の子捕まえてボウフラみたいに言わないでよ」

 

「言われるのが嫌なら気配消して後ろから飛び付くじゃねぇっ!」

 

「む~り! だってクララはスニーキングのプロだよ? お兄ちゃんをスニーキングするなって、それ死ねと同義だから」

 

「怖いんだよ! なんだよスニーキングのプロって!」

 

 そう、こんな少女だクララ・ランフランクというのは。

 

「まあそこは置いといて」

 

「置くなっ!」

 

「呼んだのはね。初詣行こうって思って」

 

「初詣だァ~?」

 

 初詣。年明け一日に神社へと参ること。青年の場合は良く嶋田神社へ行く。

 

 官僚やら政治家やらを目指す手前、大宰相を輩出した神社へ行けば御利益があると思う故に。

 

 しかし、例年こんな真夜中から行くことは流石になかった。

 

 そんなことは付き合いの長いこの少女も知っているだろうにとつい不満が顔に出てしまう。

 

「早すぎんだろお前よぉ。いま何時だと思ってんだよ馬鹿」

 

 0時30分。草木も眠る丑三つ時よりも前だ。

 

「早く行った方が御利益も大きいと思うんだよ多分。だってほら早行きは三文の得って」

 

「そりゃ早起きだろ。勝手に作るな」

 

「ん~でも、クララお参りの後に初日の出観たいもん」

 

 どうせ行くなら両方とも行こうというらしい。

 

 勿論大好きなお兄ちゃんと──というのが、クララが彼を呼び出した理由であった。

 

「ったくしょうがね~な~気持ち良く飲んでたのによォ~」

 

 寒さに震えながらボリボリと頭を掻く彼は、にこやかに笑う彼女の頭をいつものように撫で回す。

 

「ピンク~、オメーは人の都合も考えろよなぁ」

 

「ピンク関係無いし」

 

 撫で回されても動じない。本当に変わらぬいつものやり取り。

 

 新年の始まりは仲良しな友人と初詣に行き初日の出を拝む。

 

「ま、いいわ。来ちまったついでに付き合ってやらぁ」

 

「わ~いお兄ちゃんと初詣だよ~♪ クララ感激しちゃうなぁ」

 

「去年も一昨年も行ったろーが」

 

「違うんだなぁこれが。その一年一年が大切なんだよ」

 

「おんなじだっつーの」

 

 それでも悪い事ではなかった。

 

「おっさんには言って出て来たか?」

 

「もちろん許可取ってきたよ。パパも誘ったんだけど、こんな寒い日に真夜中出掛けるとか年寄りにはキツイんだってさ」

 

「なりはガキみたいな身体してる癖に……。やっぱ中身はジジイだなあのおっさん」

 

「お兄ちゃん、クララの肩に捕まって。そんなふらふらじゃ転げちゃうよ?」

 

「お、おう……、悪い」

 

 千鳥足の青年を慮り肩を貸すクララ。

 

(お? 風呂上りか? 髪から石鹸の匂いがする……って、だからなんでクララ相手にんなこと考えてんだ俺ェ……!)

 

 煩悩を討ち払う鐘。

 

 それはこの青年とは無縁のようであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「それでは行ってまいります」

 

 玄関に佇むのは自らの護衛も兼ねる少年。

 

「うん。まあ楽しんでおいで」

 

「しかし、本当にいいのですか? 僕は父さんの護衛でもあるのですが……」

 

「気にしなくていいよ。第一護衛と言ってもこの平和な日本で誰が僕を狙うっていうのさ。それに僕は不死身だよ? 撃たれたところで痛いだけ。死にはしないよ」

 

(兄さんに誘われました)

 

 滅多なことでは自己を優先しない息子だが、こと兄と慕う甥ルルーシュの言葉だけは父である自分の言葉よりも優先する帰来がある。

 

 無論甥の妹ナナリーも大事に思っているのは生活を共にしている関係でわかっていたが、まず第一に置いている相手がルルーシュだというのは言動からもよく分かっていた。

 

「逆に君やルルーシュの方が心配だよ僕は。ナナリーについては最強のナイトが付いているから安心だけどさ」

 

「父さん、あまり僕やジェレミア卿を舐めないでくださいよ? これでも対人戦闘には長けている物との自負はあります」

 

「だろうね」

 

 本音を言えば心配など杞憂であると知っていた。なにせ、彼らにはヴィ家の精鋭が護衛についている。

 

 共に行動するナナリーのナイトこと、枢木スザクも居るのだから心配するだけ無意味なことだ。

 

「風邪だけは引かないように」

 

「わかってますよ」

 

「いってらっしゃい──ロロ」

 

 玄関を出る息子の向こう側には大勢の人が列をなしていた。

 

(枢木家とヴィ家の護衛……物々しいな)

 

 娘を先に外に出したのは正解だった。

 

 娘が惚れているあの駄目ニートにこれを見せる訳にもいかないから。

 

「特に、あの車に現役総理が乗ってると知ったら、あの馬鹿のことだから紹介してとかいうに決まってるしね」

 

 官僚・政治家を目差している駄目ニートには刺激が強すぎるだろう。

 

 知れば楽して政友会から立候補が出来るとか余計な事を考えかねない。

 

 無論、そんな事は不可能であり、自分も保護責任者として許すつもりなどないのだが。

 

「まさか新年一発目が家族総出の枢木神社への初詣とは思わなかったよ」

 

 夜中にお忍びとはいえ現役総理大臣である枢木ゲンブが訪ねてきたのだ。ここら一帯は戒厳令さながらの事態になっていた。

 

 ゲンブが来たのは息子スザクとナナリーの関係と、自分達ブリタニア皇家との新年初顔合わせといった意味合いがある。

 

 どうせならばその脚で自らの家が預かる神社へ初詣に。

 

 “宜しければV.V.殿も如何ですか? 我が枢木神社は──”

 

 といった感じで自身も誘われたのだが、自分としてはこんな寒い日に外に出る気はしなかった。

 

「そう考えると、僕も年取ったな……」

 

 肉体年齢は10前後のころに停止したままだが、感性というか感覚的に年を取ったと思う。

 

 そんな年寄り臭いことを考えながら、玄関を閉め家の中へと入っていった彼は、一人静かにコタツへ潜りテレビをつけると。

 

「老人は老人らしく、暖かな家でのんびりとした正月を楽しむことにしますか」

 

 歳相応の静かな新年を迎えるのであった。

 

 




穏やかな新年を迎えてます。


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楽隠居?と円卓の少女外伝(??年後、或いは別の世界線) 南雲忠一×ドロテア・エルンスト
不機嫌な淑女


こちらは【円卓の少女】の正式な近未来として最初期に書いた作品です。
時系列的にはユーロブリタニアの欧州解放前となります。
戦争云々以前に私の作品本編はまったく進んでいないのですが……(汗。
ヒロインはナイトオブフォー ドロテア・エルンスト卿。
ヴァルトシュタイン卿と並び称される豪傑な女性らしいですが……。

カップリングはやはり大きな年齢差のある物ですね。
提督たちの憂鬱のキャラとしてですが、嶋田繁太郎氏も山本五十六氏も、そしてこの作品の南雲忠一氏も皆戦前の軍人さんです。そしてみんなおじさまです。
蒼の混沌掲示板様への投稿分から多少の加筆修正が入っております。


 

 

 

 

 不機嫌な淑女

 

 

 

 

 

 

 

 神聖ブリタニア帝国皇帝の騎士ナイトオブラウンズ。その一人、ナイトオブフォーの称号を持つ褐色肌の女性ドロテア・エルンストは不機嫌だった。

 

 何か悪いことがあった訳でも、誰かと揉めているわけでもない。

 

 彼女が不機嫌な理由はこの場所に居ることその物。

 

(私はナイトオブラウンズなんだぞ?! その私が何故このような格好をしてこんなパーティーに出席しなければならないんだ!)

 

 天上で輝きを放つシャンデリア。飾り付けられたテーブルには庶民が口にすることは滅多にないであろう豪勢な食事が所狭しと並べられている。

 

 周りを見れば煌びやかなドレスを着飾った淑女や、タキシードや豪奢な飾り付けをされた衣服を身に纏う紳士達の姿。

 

 自身を振り返れば所々に宝石をあしらった黒一色のドレス、普段は決して身に纏うことはないスカートの生地を、彼女は苛立たしげに握りしめていた。

 

 そんな不機嫌な様子を隠そうともしない彼女は、所謂貴族の社交の場であるパーティー会場にて壁の花となっていた。

 

(まったく、父上も母上も勝手なことを……)

 

 ドロテアとしてはこのようなパーティなど出席したくなかったのだが、生憎彼女自身も騎士である前に貴族である。

 

 貴族社会の付き合いとして顔を出す必要があるし、実家の両親などはいつまでも男っ気が無い娘を心配し、出会いの場として積極的に参加させるように手を打っているのだ。

 

 そして久々の休暇で実家に帰っていた彼女は抵抗虚しく強制参加させられた、という訳である。

 

 

 

「機嫌が悪いようだな」

 

 声を掛けてきたのは淡い黄緑の髪をショートカットにして、左側の一部の髪を短く三つ編みにした女性。

 

 ラウンズの同僚でナイトオブナインのノネット・エニアグラムだった。

 

 後輩や友人、部下に同僚、果ては上司に至るまで。とにかく面倒見の良い姉御肌な女性として人気のある彼女もまた、普段見ることはない紫色のドレスで着飾っている。

 

「当たり前だ。私は騎士だぞ? それがこんなひらひらのドレスを着て舞踏会などに参加させられて良い気分でいられるか!」

 

 騎士は戦いこそが本分。

 

 自分は皇帝陛下の騎士となった時点で女であることは捨てている。

 

「結婚にも興味は無いし、出会いなど必要ない。ノネット。私はお前もそうだと思っていたのだがな」

 

「まあ、どちらかと言えばな。この着慣れないドレスはどうにも肩が凝るものだよ。だが、私は出会いがあってもいいとは思うぞ? 何も女としての自分を全て捨てる必要は無い。機会があれば、また自分を預けられる男と出逢えたなら、それは私やお前が一人の女に戻るべきときだと宣告された証……そうは思わないか?」

 

「……、ふん。私はお前やモニカとは違う」

 

「ハハハッ。そうかそうか、うんそれならそれでもいいさ。人それぞれだから私の意見を押し付けるつもりはないよ。ふう、それにしてもモニカか……」

 

 ノネットが思い浮かべているのは同じくラウンズの同僚、正確には後輩のモニカ・クルシェフスキーのことだろう。

 

 ラウンズの女性騎士としてはナイトオブシックス──アーニャ・アールストレイムを除けば最も若い年齢で、唯一の既婚者にして子持ち。

 

 それも釣り上げたのは同盟国大日本帝国の元首相というとんでもない大物だから結婚の話を聞いたときは皆一様に驚いていた。

 

 まあ日本に行ったアーニャがルルーシュ殿下の元でメイドの真似事をしていると知ったときは「ラウンズって一体……」という気にさせられたが。

 

「まさか年下のモニカに抜かれるとは思わなかった。それも子供まで生むとは、先の事というのは分からない物だね」

 

 ノネットはそう言うが結婚に興味のない自分に取ってはどうでもいい。

 

 モニカの結婚は同僚として喜ばしいし、子供が生まれたという写真をメールで送ってきたときも心から祝福したが、羨ましいと思ったことはなかった。

 

「一つ屋根の下で暮らす男と女がやることをやっていれば子供も出来る。喜ばしいことだが羨ましいとは思わないな。男に興味がない私としてはだが」

 

「身も蓋もない言い方だな」

 

 そんな話をしている間にも周囲にいる男達はちらちらと二人を伺っている。

 

 ドロテアにしてもノネットにしても美女というグループのど真ん中にいる存在だ。

 

 声を掛けたい、お近づきになりたいと思うのは男として正しい反応だが、ノネットは兎も角、ドロテアが発する近寄りがたい空気に声を掛けられないのだ。

 

「ノネット、すまないが少し席を外すぞ」

 

「どうしたんだ?」

 

「さっきから周りの連中がお前を見ているようなのでな。私が居ては邪魔になる」

 

 それだけ言って立ち去るドロテアを見て様子を伺っていた内の半数はガックリと肩を落として居たのだが、気にも留めない彼女は会場から出て行った。

 

 因みに取り残されたノネットは一斉に声を掛けてきた男達に大忙しだったが。

 

 

 

 ***

 

 

 

「それにしても歩きにくいな」

 

 丈の長いドレスは床にまで付いていて普通に歩くだけでも鬱陶しい事この上ない。

 

 おまけに踵の高いヒールを履いているのでちょっとしたことで転げそうになってしまうのだ。

 

「だからイヤなんだ舞踏会とかパーティーとか!」

 

 着慣れていたり履き慣れていたりする貴族の子女なら兎も角、自身が一年を通してこのような格好をするのは殆ど無い。

 

 それでも貴族かと言われそうだが自分は騎士だ。戦う者なんだ。

 

 ドレスで着飾って男と踊るような軟弱者と一緒にするな。

 

 考えるほどに苛つきは増し、歩く速度も速くなる。

 

 着慣れないドレスとヒールで早歩きをするのはとても危険なことだ。

 

 普通に考えればわかることなのだが、苛立ちに支配された彼女にはそれがわからない。

 

 だからだろう。気が付いたときには時既に遅く。

 

 脚がもつれて前のめりにつんのめってしまったのは。

 

「うぁッ!」

 

 咄嗟に体勢を整えようとするドロテアだったが、ひらひらのドレスと高いヒールに邪魔されて受け身を取れそうにない。

 

 やはりこんなドレス着るんじゃなかった。

 

 そう思いつつ倒れようとしていた彼女を。

 

「危ないッ!」

 

 大きな身体が受け止めた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ、すまない助かった」

 

 受け止めてくれたのはスーツ姿の東洋人男性。

 

 少し垂れ目がちな目、大きめの鼻、笑っていれば話し掛けやすそうで、黙っていれば怖そう。そんな雰囲気の日本人男性。

 

 日本人と断言できるのはブリタニアに滞在、または移住している東洋人で一番多いのが日本人だからだ。

 

 それに長年の付き合いからブリタニア人の間では東洋人=日本人のイメージが定着してしまっている。

 

「あ、貴方は……」

 

 ドロテアは自分を抱き留めてくれている日本人男性に見覚えがあった。

 

「ナグモ卿……か?」

 

 南雲忠一。

 

 ブリタニア帝都ペンドラゴンに滞在している日本の駐在武官。

 

 以前就任の挨拶に訪れた彼とは皇宮で顔を合わせたことがある。

 

 近々引退するとのことで日本に帰国するらしいが。

 

 おそらくは彼も招待されていたのだろう。

 

「これは……誰かと思えばエルンスト卿でしたか」

 

「も、申し訳ない今離れ……痛っ!」

 

 抱き留められたままだったドロテアがはっとして離れようとしたところ右足に痛みが走った。

 

「どうしました?」

 

「い、いやなんでもっ」

 

 何でもないという彼女。

 

 捻ったのか靴擦れなのかはわからないが足を怪我している様子なのは確かだ。

 

 だがこの程度で迷惑は掛けられない。

 

 そう思い構わないで欲しいと告げたところ。ぐっと身体が浮遊した。

 

「なっ、なにをっ!?」

 

 膝の後ろと背中を支えられ、そのまま抱き上げられたのだ。

 

「失礼。淑女が足を痛めていて放っておくのは日本男児とは言えませんからな」

 

 にこやかに笑う南雲。

 

「け、結構だっ! 一人で歩けるので離してもらいたいっっ!!」

 

「お断りします」

 

 人としては勿論のこと、日本人として困っている人を助けずには居られない。

 

 国の気風とでも言おうか、日本人はとかく親切なのだ。それも必ずと言って良いほど見返りを求めない。

 

 その国民性がブリタニア人にはとても好かれていて、永住権と国籍を取得して日本に移住する者も多く、ブリタニア系日本人は今では珍しくないほど普通にいる。

 

 クレア帝統治時代に築かれた日ブの友好と交流、そして相互移民は、太平洋戦争の断絶期間を完全に払拭し再会されてより活発の一途を辿っている事が、両国の信頼関係を物語る上で一つの指標と成っていた。

 

 ドロテアもまたそんなお人好しの日本人が好きな一人だが、こういうのは正直お断りしたい。

 

 今の彼女がどういった状態にあるのか? 

 

 南雲と密着状態。お姫様抱っこなどという恥ずかしいことをされている。

 

「き、貴公はッ、私がラウンズであるとッ──」

 

「此処に居る貴女は最強の騎士たるラウンズなどではなく、怪我をして動けないでいるただの女性には違い有りませんよ」

 

「──ッッ!??」

 

 無論このようなことは初めてだ。

 

 何やら変に胸が熱くなってきた彼女は必死になって訴えるも彼は耳を貸さずに離してくれない。

 

「とにかく座れる場所に行きましょう」

 

「い、いや、だから私はっ」

 

 座れる場所で一番近いのはパーティー会場。

 

 当然の如く南雲はドロテアを抱き上げたまま会場へと向かった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「あ、あのっ、エニアグラム卿! 良ければこのあと一曲踊って」

 

「すまないが他を当たってくれ」

 

「そ、そんな……」

 

 ひっきりなしに声を掛けてくる男達だったが、ノネットのお眼鏡にかなう者は居そうになかった。

 

 親の威光を笠に着る者。爵位を持ち出す者。そんな軟弱な男ばかり。

 

 彼女は強い男を求めている。別に力の強さなど求めてはいない。

 

 たとえ非力で貧弱で見てくれが悪くとも、その心が誰にも負けない強い者ならばそれでいいのだ。

 

 そういう相手とならば是非とも一曲お相手させて頂きたいが、どうやら今日は無理なようだと諦めていた。

 

(ん? あれは……ナグモ卿?)

 

 ふと会場の入り口付近に目を向けると駐在武官の南雲忠一が腕に誰かを抱えて立っていた。

 

 黒いドレスに、結い上げられた黒髪、褐色の肌を持つその誰かは、彼の腕に抱かれたまま萎縮したように小さくなっている。

 

 それも遠目でわかるくらい真っ赤になっている様子だ。

 

(ドロテアじゃないか!)

 

 ノネットはそれが誰だかわかると彼らの元へと向かう。

 

 

 

 

 

「ナグモ卿!」

 

「おお、これはエニアグラム卿。これはまたずいぶんとお美しい」

 

 ドレス姿のノネットに思ったままの感想を述べる南雲だったが「お戯れを」と返されてしまった。

 

「それに先約のレディがもの凄い顔で睨んでいますので」

 

「先約?」

 

 南雲は気付かないが腕に抱いている褐色肌の淑女が一瞬ノネットを睨んでいたのだ。

 

「んんッ。ところでドロテア、どうかしたのか?」

 

「す、少し足を捻っただけだ……それなのにナグモ卿が……」

 

「ほぉ~う? 足を痛めたお姫様か」

 

「な、なんだっ! なにが言いたいのだ貴様ッ!!」

 

「い~やなにも~」

 

 南雲は二人の応酬をよくわからないと首を捻る。

 

「エニアグラム卿。お話はまた後ほどでお願いしたい。今はエルンスト卿を座らせてあげたいので」

 

「ああ、失礼。それでは奥のソファが空いておりますのでそちらへ」

 

 彼女が指さす方に空いているソファがあった。

 

「卿は御一緒されないのですか?」

 

 どうやら一緒に来ないらしいノネットに声を掛ける彼だったが、当の彼女は意味ありげに含み笑いをして「遠慮しておきましょう」と断った。

 

「ええ、どうやら私が居ては邪魔になるようですから」

 

「っっ~~!!」

 

 先ほど自分が言ったことをそのまま返してきたノネットにドロテアの言葉が詰まった。

 

(こいつは何を考えている。別に自分とナグモ卿は何かあるわけではない。自分とナグモ卿? なぜ私はそんなことを考えているんだ!?)

 

 おかしくなる思考に混乱してしまった彼女は、空いているソファに下ろされた後は終始南雲と一緒だった。

 

 

 

 結局痛めた足のせいで踊ることは出来なかったが、その踊れなかったことを残念に思っている自分にまた混乱するという悪循環に陥ったドロテア。

 

 しかし不思議なことに不機嫌だった彼女の気持ちは、いつも以上の穏やかさと初めて感じる暖かい物で満たされていた……その後。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 神聖ブリタニア帝国皇帝の騎士ナイトオブラウンズ。その一人、ナイトオブフォーの称号を持つ褐色肌の女性ドロテア・エルンストは不機嫌だった。

 

 腰まである艶やかな黒髪は下ろしたままバレッタで留めている。

 

 宝石に彩られた煌びやかな漆黒のドレス。耳には普段付けないイヤリング。代えたばかりで新品のルージュ。

 

 そんな気合いを入れて着飾った彼女が不機嫌な理由は。

 

「エルンスト卿! 私と一曲!」

 

「いえ是非私と!」

 

「貴様ら! 卿とはまず私が踊るのだ!!」

 

 やたらと声を掛けてくる有象無象の男達だった。

 

(誰が踊る約束などしているか! 大体何故騎士の私がまた舞踏会に!)

 

 そんな不機嫌オーラを出していた彼女の前にまた一人男がやってきた。

 

 少し垂れ目がちな目に大きめの鼻、笑っていれば話し掛けやすそうで、黙っていれば怖そうな、そんな日本人男性。

 

 彼は彼女の目をしっかり見つめた後、その場に跪いて手を差し出す。

 

「踊りは上手くありませんが……一曲、御一緒願いませんか?」

 

 その差し出された手に重なるのは最強の騎士でも、貴族の娘でもない、ただ一人の淑女の手。

 

 戦う者を感じさせるその手は、その瞬間から一人のレディの手となる。

 

 

 

 

 

 “よろこんで”

 

 

 

 

 

 会場中央で舞う褐色の貴婦人と初老の紳士。

 

 

 

 そこにはもう、不機嫌な淑女はいなかった。

 

 




豪傑らしい彼女も、きっと恋をすればかわいい女性になると思うのですね。


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ご機嫌な紳士淑女

南雲さん×ドロテアさんです


 

 

 

「ふう、会議会議。会議しか無いのかここは。大体にして私は駐ブリタニア大使館付き駐在官だぞ? 軍人が政治の会議に参加するとは政軍一致のブリタニアらしいと言えばらしいが」

 

 疲れる。連日の会議の原因はそう、南半球の実質的支配者たる南天条約機構が動き始めたからだ。

 

「中東に20,000,000いや、30,000,000の兵を集結させ始めているらしいが、会議に次ぐ会議などせずともその目的は明白。南天は中東を呑み込む気だろうに」

 

 バルコニーに出て風を受ける、鉄面皮。南雲忠一は、続きざまの会議にうんざりしていた。事は会議場で起きていない。現場で起きているのだ。

 

「万が一にもクウェートが巻き込まれることは無いと思いたいが、地理条件がな」

 

 頭が痛い。日本の傘下国にして、ブリタニアの傘下国でもある中東の小国クウェート。

 

 位置関係からしてこの南天の中東そしてアジア大攻勢に巻き込まれる可能性がある。

 

 現地には、日本軍とブリタニア軍が駐屯しており、そうそう手出しをしてくるとも思えないが。

 

 そう、頭を痛めていたところへ。

 

「ナグモ卿!」

 

 声を掛けられた。正直優しいという容貌より、第一印象は怖いという容姿を持つ自分に声を掛けてくるのは誰だろう。

 

 知り合いの誰かかと思う間もなく相対してきたのは、白い騎士服を青いマントで身を包んだ、褐色肌に緑色の透き通った瞳。長い黒髪を編み込んで結い纏めた、麗しい女性であった。

 

 その人物を南雲は知っている。いつぞやの社交界で共に踊ったことのある女性だった。以後何かとその女性とは縁があり、二人きりで出かけたり、彼女の家(上級貴族伯爵家)の招待を受けたりと会う機会の多い人物だ。

 

 そんな一見勇ましさを感じさせる淑女は、その外見に恥じぬ階級ナイトオブラウンズの第四席に就いている。普通ならば顔も見られない彼女と縁が出来たのは、引き合う運命だったのだろうかと、ここ最近では思わないでも無かった。

 

 彼女と二人で居ると、彼女を想うと、心が温かいのだ。百数十年、下手をすれば二百年と生きてきたが、これ程までに、一人の女性を想ったことは無いのでは無いだろうか。

 

「どうなされたエルンスト卿」

 

 ドロテア・エルンスト。だからエルンスト卿と彼女を呼んだ南雲だが。

 

「あ、その、ドロテアと、お呼び下さい」

 

 少しうつむき、頬を赤らめ、彼女は姓ではなく、名で呼んで欲しいと訂正を求めて来た。

 

 

 

 

 

 ご機嫌な紳士淑女

 

 

 

 

 もちろん彼女とはそれなりの付き合い。勘違いで無ければ男女としてもそれなり以上のお付き合いをしているとの自負がある南雲は、普段ならばドロテアさんと彼女を一人の女性としてその名を呼ぶ。

 

 しかしここは公館。市井ではない。故にエルンスト卿と彼女を呼んだわけだが、彼女はお気に召さなかったようだ。

 

「では、ドロテアさん……皇帝陛下の警護は大丈夫なのですか?」

 

「陛下の警護は他のラウンズが担っております。私は対南天対策の会議に陛下に変わり出席の要請をお受け致しましたので」

 

 まさかナグモ卿もご出席だったとはと、微笑む彼女。

 

 ああ、癒やされる。会議会議の合間に彼女のような美女の笑顔を拝謁すればそれだけで活力が湧いてくると言う物だ。

 

「そうとうお疲れのご様子ですね」

 

「まあ、ね、朝から午後まで会議が続いておりまして、結局現時点を持ちましても南天への対策に目処が付いていないのですよ。中東を攻略した南天は遺跡に手を掛けるでしょう。そしてその後は近隣にあるジルクスタンや中華連邦の遺跡にも手を掛けるためと、東へ向けて大東征を始めるのでは無いかと考えられているわけでして」

 

 その事について答えが出ない。中華連邦からは何の要請も今のところは無い。

 

 よもや自国が狙われているとは考えては居らぬのか?

 

 ジルクスタンからもだ。

 

 言っては悪いが、南天条約機構軍が侵攻を開始すれば、陸、海、空、からの三位一体の攻撃で両国共に短期間で崩壊するぞ。

 

 変わってドロテアが答える。

 

「ジルクスタン、中華連邦は、中東の制圧で南天が止まると考えているのでしょう。しかし南天条約機構軍の招集した戦力は最終的に30,000,000にまで膨れ上がるとの見解が出ております。その様な大戦力を中東攻略のためだけに招集するとは私にも考えがたいです」

 

「ドロテアさんもそう思われるかね」

 

「はい。生憎と私は遺跡や古代の力については造詣が深くありません。ですが軍事的な話となれば」

 

「南天は止まらない、と」

 

「はい。ジルクスタン、中華連邦を呑み込み清国や高麗の隣国と成り、しいては日本の勢力圏とも隣り合わせとなってしまう事でしょう」

 

「そんな事になれば本国も黙ってはおるまいて。日本と南天の間で大戦争が起きる」

 

「そうなれば我がブリタニアも日ブ同盟の条約の下、即時参戦となり世界大戦は避けられぬ物となるかと」

 

「……」

 

 

 不穏な話ばかりだ。

 

 バルコニーに風が吹き抜ける。

 

 ドロテアの青いマントが風に翻る。

 

 彼女の纏めている髪の後れ毛が舞い踊る。

 

 この様な平和な光景が、彼女の美しい姿が崩れるところを南雲は観たくないと強く思った。

 

「ナグモ卿」

 

 ふとドロテアが振り返る。その表情は先ほどまでの難しい物では無く、勇ましさの中に咲いた花。微笑みだった。

 

 思わず胸の奥がドキリと鳴る南雲。自分はやはりこの勇ましくも麗しい女性に特別な感情を抱いているようだ。

 

「どうなされましたかな?」

 

「ご休憩の方はまだ……お時間は?」

 

「ありますよ。会議が長引いている為か皆疲れておりますからな。一時間ほどは」

 

 そう答えると、ドロテアは花が綻ぶ様な満面の笑みを、麗しの顔に浮かべ、紫色のリップの塗られた唇を蠱惑的に開いた。

 

「ココア……」

 

「え?」

 

「これから一杯。参りませんか? もちろんお酒などではありません。温かいココアを私が淹れて参りますので、この、バルコニーで……二人だけで……」

 

 二人だけと言われた南雲は変に緊張する。ああ、やはり俺に取ってドロテア・エルンストは特別なようだ。

 

 彼女に取って、南雲忠一という男はどうなのだろうか? 特別なのだろうか。

 

 キミは本当に、私の前では勇敢な騎士ではなく、乙女としての姿を見せてくれる。

 

 いつもいつでも。どこであっても。そうだ。あの社交界での舞踏以来、キミは南雲忠一の前では乙女でしかない。

 

 27歳、若く咲いた花は成熟を迎えた頃か。人生150年が当たり前となった今ではその年の頃は。

 

 まだまだ九分咲きから満開の頃だろう。美しい花が咲き誇っている。それが私だけの花なのかどうか。

 

 答えはもう出ているはずなのだが。未だ想いを伝えられていないな。

 

「ドロテア……キミは美しい花だな」

 

「えっ?」

 

 ああ、俺は何を口走っているのだろうか。下手をすれば、彼女との築き上げてきた間柄を壊しかねないというのに。

 

 

「美しい、美しい、大輪の花だ」

 

「ナ、ナグモ卿……?」

 

「その花……俺だけの物にしたい。俺だけの物にしてしまいたい」

 

 言ってしまった。とんでもないことを言ってしまった。ドロテアさんも嫌だろうに。こんな年上の。親子ほども歳の離れた。彼女の御両親よりも年上の俺なんかの告白なんて。

 

 気分が悪いだろうに止められなかった。この大輪の青い花を前に。

 

「わ、私はその、淑女では、あ、ありませんよ?」

 

「淑女だよ」

 

「わ、私は、男勝りですよっ」

 

「この南雲忠一にはそのくらい気の強い女性こそが似合っている」

 

「お、お酒、飲めませんよっ」

 

「酔わせてベッドへお持ち帰りだ」

 

「こ、ココアくらいしか」

 

「ドロテア・エルンストのココアを独り占めできるのならそれに増した栄誉は無いと考える」

 

 ああ、本当に何をやっているのだろうかこの重要会議の休憩の席上で、俺とドロテアさんは。

 

「返事は今で無くとも良いよ。いずれ心の整理が付いたときにでも」

 

 俺が言うと、ドロテアさんは。

 

「お、お返事は、ココアの後で」

 

 顔を赤くしたドロテアさんの青いマントが、俺の頬をかすめるようにして翻されていく。

 

 廊下の奥へと消えていく彼女の後ろ姿を見送った俺は一言。ため息と共に呟いた。

 

「……やってしまった」

 

 空気か。その場の雰囲気か。エルンスト伯爵家のご令嬢でもあり、ナイトオブラウンズ、ナイトオブフォーに対して何てこと。

 

 これは更迭もあり得るな。俺の後釜は誰だろうか? 富永さんか? いやあいつが駐在武官なんてやればブリタニア内に変な秘密結社とか作りかねんし。

 

 

 大輪の青い花――。

 

 27年生きてきてそんなことは初めて言われた。

 

 貴女は淑女だ。

 

 私を淑女だなんて言う殿方はきっと彼くらいだろう。

 

 彼との出逢いは社交界だった。

 

 ああいう場が苦手な私を彼がリードし場を盛り上げて下さった。

 

 男――という存在を意識したのは、正にあの時だっただろう。

 

 以来、社交界には積極的に出るようになった。彼を求めて。

 

 何度も踊り、何度も杯を交わし。

 

 酒の飲めない私の介抱を彼がして下さった。

 

 起きたときの膝枕はもう数えられないほどに。褐色の肌が真っ赤になるほどに彼とは接近し続けた。

 

 時に市井に出かけ、アクセサリーや小物、今まで興味も示さなかった女子らしい物も買って頂いた。

 

 それらは私の宝物だ。今は私の部屋の鏡台の引き出しにしまってある。

 

 大輪の青い花――それは私のマントの色を差して答えて下さった物だろう。彼は青色が好きだろうか?

 

 私はナイトオブフォーだが、同時にエルンスト伯爵家の次期当主でもある。

 

 入り婿を迎えなければならない立場。彼は日本では影のフィクサーの一人だというまことしやかな噂がある。

 

 そんな大それた人物が、家族と称されるほどの堅牢なる同盟関係で結ばれている国家同士とは言え、たかが上級貴族程度の家の入り婿としてきてくださるのだろうか。

 

 

「い、いや、それ以前に私は何を考えているのだ!そのような大それた事を! 私はただの一騎士であって国家を動かすフィクサーなどと言う方とお付き合い、ましてやその先へ進む関係を築けるような存在では……存在では……」

 

 でも、だがもし、彼の御方が。ナグモ卿が。私という青い花を手折って下さるのならば、私は……。

 

「ナグモ卿のお言葉は、ふ、婦女子への告白だった。間違いなく、一遍の疑いなく」

 

 私は、ドロテア・エルンストはどうすれば。

 

 ドロテア・エルンストは紛うこと無くチュウイチ・ナグモ卿に引かれている。

 

 彼の方を……お慕い――申し上げている。

 

 だが、この気持ちを素直に、言葉に出して良い物なのか?

 

 コポコポと入っていく白湯。コップの中のココアが白湯に浮き散らばり始める。

 

 だが、だが、私は彼の御方を他の女性になど渡したくない。

 

 ココアを混ぜていく。チョコレート色がカップの中で攪拌されて広がり、見事な焦げ茶色へと変わっていった。

 

 ああ、チュウイチ・ナグモ様。どうしてあなたはこんな私などを愛して下さったのですか?

 

 男勝りで、淑女らしくも無い、こんな女を。

 

 私は答えなければならない。ボールは私に投げられたのだから。

 

「……駄目だ。あの御方を、チュウイチ・ナグモ様を、他の婦女子に取られるなど……いや、だ……」

 

 考えて、考えて、出てきた答え。

 

 どれだけ考えても同じ答えしか出て来ない。

 

 チュウイチ・ナグモ様に私という青い花を手折って頂きたい。

 

 あなたにこそ手折って欲しいというたった一つの答えのみが。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

「ナグモ卿、ただいま戻りました」

 

「お、おお、ドロテア、さん」

 

 二人はバルコニーから庭を見る。今は誰も居ない。

 

「ナ、ナグモ卿……」

 

 口火を切ったのはドロテア。

 

「ナグモ卿は日本の影のフィクサーだとお聞きした事があります、そのお一人であると」

 

「ほう……どこで?」

 

 目が鋭くなる南雲。触れてはいけない類いの情報なのだとこの瞬間にもドロテアは知る。

 

「ラウンズという最高位の貴族の職に就いていると、どこからか耳に入ってくる物なのです。皆が皆、そうではありませんが」

 

「そう、ですか。して、その情報を以てドロテアさんは何を為さろうと?」

 

「何も」

 

「何も?」

 

「はっ、何も……ただ、ただそのようなお立場にあられるあなたが、私などをと、そう考えただけです」

 

 一介の騎士でしかない自分に。一介の伯爵家次期当主でしかない身分の自分に釣り合わない身分だろうと、ドロテアは言うのだ。

 

 だが南雲の見解は異なるものだった。

 

「何故? 私が何者であろうと貴女と私の……俺の事柄には関係ないはず」

 

 そうだ無関係だ。たとえ南雲が日本を支配し歴史を操ってきたフィクサーであろうとも。個人間の問題にまで。

 

 ましてドロテアはブリタニアの上級貴族。日本とブリタニアの関係を深化させる意味でも自分達の関係は。

 

 

 

「いいえ、関係があります。……私はエルンスト伯爵家の次期当主の身。婿を迎えなければならない身なのです。そんな私の、一上級伯爵家の婿に、日本のフィクサーを迎えるなど無礼に過ぎ――」

 

 南雲はその彼女の言葉を遮った。

 

「貴女のその言葉こそ無礼千万ですがね」

 

 南雲はドロテアの言い分に怒った。

 

 一上級貴族如きだから強大なる身分を持つ南雲を迎えられない?

 

 この恋は、南雲忠一とドロテア・エルンストの恋は最初から間違っている?

 

「ドロテアさん、いや……ドロテア。貴女の本当の心は何処にある?俺はその在処を知りたい」

 

 間違ってなどいない。この恋は本物で、確かにここにある。

 

 南雲はドロテアに迫った。

 

「本当の、心……」

 

「そうだ」

 

 ナイトオブフォーでも、エルンスト伯爵家次期当主としてでもない。ドロテア・エルンストとしての心の在処。

 

 あの日あの時、社交界での舞踏をきっかけとして今日この時まで巡り来た恋のステップ。

 

 社交界で何度となく踊った。貴女のココアを飲んだ。心温まる美味しいココアを。酔いつぶれた貴女を開放しているとき、ある種の欲望を抑えるのに必死だった。

 

 二人きりでお出かけもしたね。アクセサリーを買い小物を買い、貴女はまるで少女のように輝いていた。

 

 それを伝えると、ドロテアの翡翠のような緑色の瞳から涙がこぼれ落ちた、溜めていたのか、ぽろぽろとこぼれ落ちる涙。

 

「チュウイチ、様……、私は、ドロテア・エルンストは、チュウイチ、様を、誰にも、渡したく……」

 

 感極まったドロテアは南雲の胸に縋り付いた。頭を南雲の胸に擦り付け、身体全体を南雲に預け。

 

 そのまま泣き続けるのだ。

 

 

「それでいい、それでいいよ……、ああ、俺も馬鹿なことをした甲斐が在ったという物だ。俺も怖かったんだドロテア、キミに受け入れられるかな」

 

「チュウイチ様、も?」

 

「ああ、俺だって怖いさ、心から愛した女が望み通りの答えをくれなかったらどうしようかとね。ただ、これまでのキミとの交流で手応えはあった。だからこの機会にぶちまけてやったんだよ」

 

 南雲は豪快に笑い。ドロテアを抱き締めた。ドロテアの青いマントに南雲の指が食い込む。

 

「ドロテア・エルンスト、今を以てキミという青い花はこの南雲忠一だけの物だ。誰にも渡さんよ。俺はまあやることに一段落付いたらエルンスト伯爵に挨拶をして、エルンスト家の婿となろう。なあにドロテアの心配している日本のお仕事も、本国と離れていても出来る事はあるし、どうせ辻さんが逃がしてくれない。いざとなれば飛行機や浮遊航空艦で日本まで飛んでいけば良いだけだ」

 

 だからドロテア、キミとの結婚を誰にも文句は言わさない。

 

 それだけを彼が告げると。

 

「ドロテア……」

 

「チュウイチ様……」

 

 

 南雲とドロテア。二人の顔は近づいていき。

 

 どちらともなく静かに唇を重ね合った。

 

 

 すっかり冷めてしまったココアを笑顔を向け合い飲む二人。そんな二人の姿を見たバルコニー近くを歩いていた騎士は、二人の空気の違いに気付いた。

 

 ナイトオブフォー・ドロテア・エルンストと、日本大使館の駐在武官チュウイチ・ナグモ卿の二人の様子が、恋人同士か夫婦が寄り添っているようだったと。

 

「さあ、会議は続くぞドロテア」

 

「チュウイチ様、どこまでもお供致します」

 

「ああ、その敬語はやめてくれ。いつも通りのキミで」

 

「分かった。ではゆくぞナグモ卿」

 

「ああ、エルンスト卿」

 

 対南天の会議は続く。南雲とドロテアは隣り合って席に着いた。

 

 



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ナイトメア・オブ・ダイニッポン
ナイトメア・オブ・ダイニッポン


こちらは異なる歴史と提督たちの憂鬱に登場します夢幻会転生系のオリジナル世界観および、所謂「僕の考えた最強の日本」系の短編となります。
コードギアスシリーズの正史として描かれた漫画【コードギアス漆黒の蓮夜】に登場致します、クレア・リ・ブリタニア皇帝の穏健的政策が原作以上に浸透した影響によって、ブリタニアは「他の総てを見下すだけの単なる侵略国家」ではなくなっております。
漫画【コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】の名称や設定を多分に取り入れさせて頂いておりますが、戦闘描写はありません。
短編ネタ作品であり憂鬱・ギアス正史・パラレル派生系ギアス作品・ガンダムSEED・その他の多重クロスオーバー系。
背景としてドイツ第三帝国のアドルフ・ヒトラーが頑張ってます。基本はオリジナル設定物。蒼の混沌掲示板様投稿時より若干の改訂と修正。



 

 

 

 

 ナイトメア・オブ・ダイニッポン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前年に続きまたも2桁増し」

 

 怒りを通り越して諦めの境地に達していた辻政信は、己に予算の許可を貰おうと参上してきた官房長官澤崎淳を冷ややかに眺めていた。

 

 前年比2桁増。それは唯の2桁ではなく兆の桁数における2桁増という異常な値。

 

 緊縮財政路線において歴代1位と言われた財務大臣辻が本来ならば許可しよう筈のないその金額は、陸海空の防衛力整備に必要な国防予算であった。

 

「し、しかしながら大変申し上げにくき事であると同時に閣下のお怒りは重々承知の上で進言させて頂きますと、我が国を取り巻く環境からして致し方なき事かと──」

 

 顔を深く下げ、上目遣いで様子を伺い理由を述べる澤崎に対し、辻の口から深い溜息が漏れ出る。

 

「確かに」

 

 彼の意見が尤もな正論である以上、如何に辻と言えど『削減』の二文字を口にすることは出来ないのだから、やむを得ないという他はなかった。

 

 とどのつまり消極的な了承というわけだ。

 

「無駄はありませんね? 有り余るサクラダイトマネーに胡座を掻いての馬鹿な戦力増強計画が持ち上がったりしていることなどはよもや?」

 

「め、滅相も御座いません! 引き締めるべき処は引き締め、十二分な精査を行った上での予算計上ですので!」

 

「そうですか……。ならばもうこれ以上の苦言は差し控えさせて頂きましょうか。しかし、空軍戦力の増強と新世代への更新。海軍艦艇の現有数維持。ギアス伝導回路・マッスルフレーミングシステム搭載型の改良型第7世代KMFの導入と空中艦艇の新規建造。広がりすぎた国土と勢力圏の防衛には一定以上の軍事力が必要であるとはいえ、毎度のことながら気苦労が絶えません。対中華・E.U.だけではなく、対ブリタニア・オセアニアをも考えた時に必要となるのは無限とも表すべき我が国の戦略地下資源と、此を活かす為の技術力・戦力・人口。そして何よりも容易な侵攻を不可能とする広い国土であるとはいえ、唯獲ればいいという物ではないというのに……。大戦時の為政者の方々には後に掛かる諸々の負担も計算しての国土拡大と戦後政策を行って欲しかったものです」

 

「心中お察し致します……」

 

 時代と共に技術が進み行くほど、各種の兵器と武装の開発・維持費は高騰するもの。

 

 極々自然な話であり、止めることなど出来よう筈もないその流れより生じた戦力の一斉更新に掛かる費用は今や天井知らず。

 

 特に、世界に先駆けた物を生み出し続けなければならない日本の予算はユーロピアや中華の財務担当者が目にすれば真っ青になる事間違いなしの位置にある堂々たる世界第2位となっていた。

 

 強力な抑止力を得る為にと拡大の一途を辿ってきた大日本帝国軍の軍事費は、今や『E.U.ユーロピア国家社会主義共和国連合』『E.U.ユーロピア共和国連合』『中華連邦』といった、継承3国と呼称される超大国──日本・ブリタニア・オセアニア以外の列強に、中東の共産諸国や東アフリカ。

 

 更には日本の衛星国家群の軍事費を足しても尚足りないほどとなっており、世界最大の軍事大国ブリタニアの予算に匹敵する額へと達していた。

 

 普通なら国家財政を圧迫、経済危機を招きかねないその額は、幸いな事に文明を動かす血液といっても過言ではない超伝導物質サクラダイトが国内2地点より湯水の如く採掘される事から生み出され続ける莫大な黒字によって支えられている。

 

 その為、財政難とは無縁なのがせめてもの救いであった。

 

 しかし常識的に考えるのならば、世界の軍事費の25%を日本一国で埋めているのは異常としか言えず、30%のブリタニアと併せ日ブ経済圏だけで実に55%という理解しがたい数値は辻政信の繊細な神経を逆撫でしっぱなしであった。

 

(世界の四分の一。これだけを見ればあのアメリカよりも少ないのですが)

 

 世界全体の軍事費に占める割合25%。それは彼の知る此処とは違う世界の超大国【アメリカ合衆国】が、その世界に占めていた軍事費の割合における“一国で50%”に比べればまだましと、一見そう受け取ってしまえそうな程度の数値。

 

 ブリタニアでさえ世界に締める総軍事費の割合は30%と、彼の国と比較すれば大きく劣る物でしか無く、アメリカの底知れない力を再確認させられる程度の割合なのだが。

 

 一点……ただ一点だけ。唯一にして絶対的なる相違点がそこにはあった。

 

(その絶対的なる相違点が問題なのです)

 

 確かにアメリカ合衆国の軍事予算は世界の50%に達していたかも知れない。

 

 それに相応しい最先端の兵器を山のように保有する、自他共に認める世界の警察官であったのは疑う余地もないことであろう。

 

 但し、そこには彼の国の軍事費が2桁兆であるという前提があるのだ。

 

(桁が1つ違うんですよね)

 

 3桁兆。

 

 これが現在の日本とブリタニア、それぞれの軍事予算の額。

 

 数十兆ではなく『百数十兆~』といった、思わずインフレかと勘違いしてしまいそうな程の莫大な額であった。

 

 無論、これ程までに軍事費が膨れあがったのは論ずるまでもなくアメリカ級の列強がひしめき合い、アメリカと比較にならない超大国が日本以外に2つもあるという現実と彼の世界よりも遥かに進んだ文明・科学技術力がそうさせているに他ならず、過分に過ぎる力を持たなければ他国によって飲み込まれるとなれば嫌でも強くなるしかないという抜き差しならない事情がある。

 

 国家が強くなるには文化・経済力・食糧自給率・戦略資源・教育といった、ありとあらゆる方面に力を注ぐことが必要なのだが、その一つが言うに及ばずたる軍事力の整備なのだ。

 

(まあ、費用を捻出できる下地あってこそ可能な力業ではありますが)

 

 日本を取り巻く環境と、最大の資源採掘国であるが故の経済的余裕。

 

 そして創世文明とされし最古の世界統一文明『エデンバイタル』が分裂した3国の一角、超古代国家『高天原』より続く日本の系譜。

 

 かつて欧州・南北ブリタニアを統治していた『アヴァロン』。オセアニア地域・アフリカ・中東を支配していた『レムリア』。

 

 これらと並び、ユーラシアの大半と太平洋地域に支配権を確立させていた『高天原』。

 

 遥か先史時代に世界を分割統治していた現在では考えられない規模と科学技術力を持つ3国が引き起こした、今日で言うところの『崩壊戦争』『ラグナロク』と呼称される星が消滅するのではないかという程の全地球規模の大戦によって一度は全てを失いながらも、高天原を継承した日本の永き歴史の中で洗練されてきた高度な技術。

 

 等々、今日に至るまでの世界環境と歴史、地下資源と技術、総ての要素が複雑に絡み合い結実した現在の大日本帝国は、此処150年程の間に急成長と急拡大を果たしてしまったが為に、応分の負担を余儀なくされていたのである。

 

(神代の前身国家を系譜に持つ永い歴史が国家崩壊から現在に至るまでの技術を育て上げてきた。育て上げるに相応しい人材と資源等に恵まれていた。先を識る者の出現によって更に文明の成長は加速した。それはそれでいいんですよ。誰しも己が所属する国が強く大きくなっていくことに否やはありませんからね。しかし、古代の叡智を引き継ぐ民族・人種であるが故にやり過ぎたとも言えるでしょう。本来ならば手を出さなくても良い場所にまで手を広げて、過分なまでに負担を増やしてくれたのですから)

 

 それもこれも全ての原因は日中日欧戦争。

 

 そして第一次世界大戦で獲得した日本勢力圏の広さにある。

 

(サハ以東の極東シベリア全域と外満州・山東半島・舟山群島・済州島の本土併合に加え、満州・高麗などの衛星エリアが5……オセアニアとの第二次南太平洋戦争後に獲得した新規エリア大洋州も含めて6つ。最後の南太平洋戦争で得た大洋州は我が国の衛星国である東南アジア諸国と併せてオセアニアの封じ込めに必要でしたが、ある意味に於いては思惑を外された形となってしまいましたし。日中日欧で獲得した中華連邦──中華帝国領外満州と、E.U.ロシア自治州領アムール・ハバロフスク・マガダン・サハの極東シベリアはまだしも、第一次大戦で獲得したエリア5つについてはどうにかできないものだったのでしょうか)

 

 日中日欧戦争を経て割譲・本土化したユーラシア東部地域の獲得によって対中華・E.U.を見据えた大陸の封鎖は概ね完了していた。

 

 にも拘わらず、第一次世界大戦を戦った当時の国粋主義的な対外強硬派と反協商国に沸く国民への妥協点として東京講和条約によって獲得した地域のエリア化が計られた為、結果として日本の国土は1889年の日中戦争から1998年終結の第二次南太平洋戦争までのわずか100年余りの間に、陸地面積だけで800%以上の大拡大を果たしてしまったのだ。

 

 排他的経済水域までも含めてしまえば拡大されたその領域は優に2000%を超えるのでは無かろうか? 

 

(国内の対外強硬勢力の力が予想以上に大きかった故に、といった事情もありますが)

 

 1889年8月2日開戦、1891年7月25日終戦の日中戦争──下関講和会議では高天原派と呼ばれる日本の最右翼派閥。(超古代文明時代には3つの超大国の一角として世界に君臨していたとされる高天原人=日本民族を、アヴァロン人=ブリタニア人。レムリア人=オセアニア人と共に、世界最古の3大優等人種として捉える国内勢力の一派)

 

 そして常に強硬姿勢な彼等を抑えるべく世界の先を識る者達で構成された派閥=現夢幻会派が中心となって、外興安嶺南部獲得を目的とした外満州全域の割譲を迫る交渉を展開。

 

 幾度もの海戦を経て海上戦力が消滅した上、外満州・満州・北京までを日本陸軍によって占領されて為す術のない中華連邦政府に対し、同地割譲を前提とした講和条件を呑ませている。

 

 更に1902年2月8日開戦、翌1903年9月5日終戦の日欧戦争──樺太講和会議では、残る外興安嶺北部(スタノヴォイ山脈)獲得と、極東におけるユーロピア排除を念頭に極東シベリア全域を、ユーロピア共和国連合より割譲させていた。

 

 2つの戦争で明らかと成っているのは、両国に対する防波堤を大陸に構築し、極東に眠る膨大なサクラダイトを日本一国で独占するという戦略目標の達成を目指した戦後処理を終始日本主導で進められたということだ。

 

(環境が整っていたのは幸いでした)

 

 第一に干渉する国がない。

 

 歴史的な自国への支援国として認識されていた日本の行動に、第一次大戦時のような冷え込んだ関係ではなかった弱肉強食膨張主義のブリタニアが文句をつけようはずもない。

 

 アフリカ・中東にまで勢力を広げ国内開発に追われていた強欲な自称正義の国──原始民主制国家オセアニアは干渉する機会を伺いつつも動けず。

 

 両エデンバイタル継承国のみが日本に干渉できるだけの国力を持っているのは自明の理であったが、両国共に当時は日本に干渉するような位置になかった。

 

 第二に、日本と中・欧両国間には乗り越えられない壁──質で圧倒する軍事力に尽きない戦略資源という巨大な壁が立ちはだかっていた。

 

 ユーロピアと中華が「質など量で押し潰せる」と考えていた処、蓋を開けてみれば海上戦力を一方的に壊滅させられるといった技術格差を見せつけられ、日欧戦争では戦闘機や戦車という未だかつてない新たな兵器の実戦投入まで行ったのだから、

 

 魂を解析し、生命や自然の理、空間すらも操ったとされる超文明エデンバイタルと、その分裂国に連なる3大継承国の『文明の発展速度』。

 

 および、日本特有の『未来見』を前に、ぐうの音も出せない程の完敗を喫すれば、相手の条件を丸呑みせざるを得ないというものだ。

 

(ここまで良いようにやられたらそれは中華も欧州も国挙げての反日へと傾くでしょうね。例えそれが向こう側より仕掛けた戦争が原因の自業自得な結果であったとしても)

 

 結果的に得る物無く、ただ一方的に奪われる形と成った両国の対日政策はその後反日一辺倒な物となり、外満州・外興安嶺北部よりサクラダイトが採掘され始めたことを機に反日機運は国全体へと浸透していった。

 

 しかし、当時ここまで対日感情が悪化したのには彼の2国が抱える大きな内的要因も存在していたのだ。

 

 それはユーロピアを支配する国防四十人委員会や、中華連邦の代表国である中華帝国政府へ批判が向かないようにする為の国内対策の一環であったという一語に尽きよう。

 

 自分達の戦略の誤りによって領土を失うばかりか国を動かすに無くてはならない貴重な戦略資源を結果的に奪われてしまったのだから、日本を『悪』だとして国民を先導しなければ自らの立場が危うい。

 

 長らく続いた大宦官による宮廷支配と四十人委員会による無為無策。両連邦へ加盟していた国の政治腐敗。

 

 それら負の要素から目を逸らさせ、『反日教育』を推し進め、次代の宦官であったり行政官・政治家達を右傾化させていった先に起きたのが『第一次世界大戦』だった。

 

(その第一次世界大戦後の勢力圏急拡大が負担を大きくしている原因なので、図体が大きくなり過ぎるのも正に考え物です)

 

 陸地面積:1407万km2。総人口:9億8000万人。

 

 この世界の有り様を知識として識る辻には、まるでブリタニアの膨張主義をそっくりそのまま焼き直したかのようにもみえる急速な国土の拡大は、嶋田政権の閣僚として自らも携わった1995年~1998年の第二次南太平洋戦争における戦後処理まで続き、本土化した極東シベリアと外満州・山東半島・舟山群島・済州島以外に6つの衛星エリア=自治州を獲得するまでに至る。

 

 エリア壱のフィリピンから順に、中華連邦より割譲させた中華大陸東北部地域のエリア弐・満州。

 

 同じく中華連邦より割譲させた中華南部沿岸地域、広東・福建から成るエリア参・華南。

 

 旧高麗帝国の内、済州島を除いた高麗半島と島嶼部全域から成るエリア肆・高麗。

 

 E.U.ユーロピア共和国連合より割譲させた、ブリヤート・ザバイカリエ・イルクーツク・クラスノヤルスク・トゥヴァの、中央シベリア5地域から成るエリア伍・西比利亜。

 

 第二次南太平洋戦争後、南側諸国の盟主にしてエデンバイタル継承国が一つにして、第三の超大国オセアニアより解放した旧大洋州連合地域の内、大洋州の掲げていた永世中立の理念を引き継ぐとして独立を回復させたフィジー・ソロモン諸島・バヌアツからなるオーブ首長国連邦を除く、メラネシア・ポリネシアの南太平洋島嶼群地域──エリア陸・大洋州。

 

 これだけの領域の獲得・維持を可能としたのは、偏に日本の国力を背景とした力推し外交と、古代文明国家時代より培われてきた高い統治能力の賜物と言えよう。

 

(反乱を引き起こさせないためのエリア全域隅々までに渡る投資と開発。日本式の教育に思想改革と、我々の1つ前の世代が最も苦労された事でしょう)

 

 日本に留まるか独立するかの是非を問う民主的な住民投票の実施。

 

 4年に一度の統一地方選挙における住民の住民による住民の為のエリア州議会・州知事選挙といった、住民の意思・自主権・自治を第一に考えた体制作り。

 

 ここまで整えても尚、住民投票によって自ら日本への残留を希望しながら、遠く合衆国インドシナにまで逃亡を図った高麗帝国亡命政権──現在の大高麗民主国の先導に呼応し暴動を起こしたエリア肆。

 

 再度の住民投票を行うも、結局は中華連邦……より正確には中華帝国の属国には戻りたくない。オセアニアの属国にもなりたくない。されど独立してやっていく自信もないとして、再び日本残留を選ぶという恥も外聞もない地域の統治。

 

 その際エリア肆・高麗は矯正エリアへと格下げされている。

 

(現在の安定に繋げてきた先輩方の努力には頭の下がる思いです。同時に後世の我々に余計な仕事を増やしてくれた事を恨みますよ。幸い満州から極東シベリアに掛けてのサクラダイト鉱山がそっくりそのまま手に入った事で、唯でさえ金満財政の我が国は更なる潤いを見せておりますが、広がりすぎた国土に見合うだけの防衛力整備に掛かる費用が年を追うごとに増加していく様には気が滅入ります。6つのエリアの維持運営・福利厚生・州知事選挙、及び州議会選挙など諸費用も発生することですし、せめて衛星国として独立させるかの工夫を考えて頂きたかった物ですね。まあ、それでは納得が行かないほど1940年代・50年代の日本は中華と欧州に怒り心頭であり、強硬派の勢力が強大だったという話なのでしょうが)

 

「二度の世界大戦の1つ。列強2国を相手取ることになった第一次世界大戦」

 

 一度ならず二度までも仕掛けてきた両国に対し、三度は許さずとばかりに徹底して叩き潰すという方針で戦い抜いた大戦。

 

 日中日欧戦争以来、地政学的・歴史的対立を抑え、対日本で協力し、3国間の協商関係を構築していた欧・中・高──ユーロピア共和国連合・中華連邦・中華の属国高麗帝国と、大日本帝国の間で勃発した史上最大の大戦争。

 

 個別にオセアニアまでもが大洋州連合・東南アジア諸国との間で第一次南太平洋戦争を引き起こしたこの世界大戦は、得る物も大きかったが失う物もまた大きな物であった。

 

「なまじ世界を動かせるだけの豊富な戦略資源と高天原時代後の研鑽によって培ってきた高度な技術力を持ったが故の悲劇、ですか」

 

「まあそんなところでしょう」

 

(我が国の暗躍により歴史が変わってしまった等、まったく別の要素も含まれますけどね)

 

 辻は思わず出しかけた言葉をしかし口にはせずに飲み込む。

 

 皇歴1500年より始まったであろう『識る者たち』と、遙かな昔に存在していた3つの超古代文明国家の一角。

 

 その歴史有る継承国家として発達した文明を築き、早々に国内統一が図られていた大日本帝国の暗躍による歴史改変の事実は、眼前に居るただの一政治家が知るべきではない特別機密事項である。

 

 ギアス能力の存在までは知る立場の澤崎といえど、歴史を改変してきた等の一種の時間犯罪とも言うべき事項に触れられる人間ではないのだ。

 

 此に触れても良いのはあくまでも『識る者=夢幻会最高幹部』と『帝』のみ。

 

(まあ、こんな事実を知ったところで誰にもどうすることは出来ませんが、それぞれの古代文明継承国が持つ力は侮れませんからね。しかし一方でやり過ぎたが故の修正不可能な流れも生まれてしまっています)

 

 人体強化技術、不老不死のコード、特殊な力を操る生命の力ギアス。使い方次第では世界の在り方を根底から覆しかねない古代文明の遺跡。

 

 これらを操る術を持った継承国家には常に細心の注意を払わなければならないとして動向を探り続けてきた日本であったが、

 

 エデンバイタル文明継承3国の1つである神聖ブリタニア帝国が将来起こしうる日本侵攻を回避するための暗躍で、識っている本来の歴史の流れから乖離を始めたのは大きな誤算であった。

 

(欧州革命により父祖の地を追われることが決定的と成ってしまったブリタニアに恩を売るため、エディンバラへ派遣した人員を通じてのエリザベス三世とブリタニア公の新大陸脱出への手引き。新大陸でのジョージ・ワシントン反乱鎮圧に対する援助。遷都後に勃発した欧州貴族とブリタニアの内乱──北南戦争時に於けるブリタニア出兵と側面支援)

 

 

 

 第一の分岐点となり得た欧州革命時。

 

 第二の分岐点である北南戦争時。

 

 そしてブリタニアが最も変われる可能性の高かったクレア帝誕生時の徹底した支援。

 

 欧州革命では遠い東洋には自分達を支援する勢力が存在しているという印象を与え、ブリタニアの為政者達から孤立主義を払拭させる事を狙いとし。

 

 北南戦争では恩を仇で返す欧州貴族とは違い、逆に必要もないというのに自国への支援を買って出た日本への好印象を根付かせた。

 

 そして最後の仕上げに民族協和・協調主義といった、他を圧するのではなく他と共に歩むという考え方を持つクレアを徹底支援することで、弱肉強食一辺倒の思想を持つロレンツォ・イル・ソレイシィ率いる当時の純潔派の思想を大きく緩和・減衰させる事に成功。

 

 こうして未来を大きく左右するであろう三つの出来事全てに関わり上々の成果を上げたことで、彼の国内部に『親日派勢力』を生み出す事が出来た。

 

 これが日本に取り歴史上類を見ない程の大成功であったことを知っている者は、この未来という明日に再び日を昇らせる為の『御来光計画』を主導した皇家と、皇家の信を得て計画を立案・遂行してきた識る者たちのみ。

 

 故に当時から強硬姿勢で知られていた高天原派の反発を大いに招く結果となったが、それでも必要であったのだ。

 

 だが同時に副作用も大きく、国内に於いては夢幻会派と高天原派の対立を呼び。

 

 ブリタニアに於いては欧州貴族の権威失墜へと繋がってしまった。

 

(北南戦争に於いて日本がブリタニア側へと加わったことで史実以上の大勝利を収めたまでは良かったのですがね。しかしながら、これを機として欧州貴族の力が大きく削がれ、後のユーロブリタニア成立の芽を摘んでしまった……。まあ、これだけ無茶をすれば歴史に歪みが生じるのも当然です)

 

 第一次太平洋戦争の代りに第一次世界大戦が起こってしまったのは間違いなく日本の動きが蝶の羽ばたきのようになって影響を及ぼした結果なのだ。

 

 計算では弾けないこともある。特にブリタニアの脅威を識るが故に彼の国のみに掛かり切っていたことが大きな痛手と成って跳ね返ってきた。

 

 だが、『他の全てを見下すだけの傲慢な思想』にブリタニアが染まらない可能性や分岐点を追求するのならば、それが日本の将来に関わる話であるというのなら、やはり必要な介入であったのだろう。

 

(あの国が世界侵略を開始したその根本には間違いなく孤立主義と異常なまでのブリタニア優越思想がありましたからね。多少の無茶は覚悟の上……と言いたいのですが、しかしそれによってまったく別の悪い事態が引き起こされてしまったのですから、やはり歴史に手を加えようと画策するのは大きなリスクを伴う)

 

 欧州貴族の権威失墜がユーロピアを勢い付かせ、国土とサクラダイトの奪還および第二次東征計画遂行の為として、過去の軋轢を乗り越えた欧中同盟──正式名称『欧・中・高3国協商条約』なる軍事同盟の成立を許してしまった。

 

「悲劇……。確かに悲劇ですな。これだけの勢力拡大を図れたここ80年の流れは我が国にとっては喜劇であったと嘯く輩も居るようですが」

 

 澤崎が述べたように広がった領域に国力の限りの投資を行い開発した結果より強大になった現在の日本をもって“喜劇”と表現した歴史学者や政治家が居る。

 

 それは戦乱の世であった過去ではなく平和な今の世に於いても一定数存在しており政治討論番組などを賑わせていたが、これに辻は一抹の危険性と驕りを感じずには居られない。

 

「何が喜劇な物ですか。対外戦争で拡大を図るには命も金も犠牲が大きくなりすぎるのが今の世、その突端こそがあの時代の戦争だったというのに。これだけの大帝国へと成長するまでにどれだけの犠牲を出してきたことか……。大きな事だけを口にする無責任な輩とは一度その辺りをじっくり話し合ってみたいものですね」

 

 

 

 第一次世界大戦。

 

 

 

 世界の戦略資源、超伝導物質サクラダイトの価格や供給量を巡る貿易摩擦により冷え込んでいた当時の日ブ関係を前に、これを好機と捉えた協商国が海南、台湾、日本領外満州、日本領シベリア、そして本州へと、全方位攻勢に打って出たことから始まったこの戦争では、当初協商国側の目論見としてブリタニアを参戦させるという計画があった。

 

 神聖ブリタニア帝国はユーロピアにとって忌むべき帝政国家であるとはいえ、ブリタニア北南戦争の折りに過去の民主革命で自分達が追い出した欧州貴族が予想以上の失態を演じ纏まれなくなってくれたお陰で、敵の敵は味方理論が通用する様になり、協商側へのブリタニア帝国引き込み工作が上手く行くと思われていたのだ。

 

 当時のブリタニアは日本という国を敵、または敵になりつつあるのではないかと懐疑的な目で視るようになっていた。

 

 膨張する軍事力、先行する新技術の数々、大きくなっていく国力を背景に、日本内部では貿易摩擦以降の関係悪化に伴い高天原派以外にも対ブリタニア強硬派勢力が出現。

 

 呼応するようにブリタニア国内でも対日強硬派の勢力が生まれていたそんな時代。

 

 疑心暗鬼となった両国人の間には次第に鬱屈した感情が溜まり始め、静かな対立関係へ至る道筋が付けられてしまった。

 

 こうならないようにとブリタニア寄りの姿勢を打ち出していたにも拘わらず、サクラダイトという生命線にしてアキレス腱でもある戦略資源が対立の温床を作り出したことに、識る者達が組織した夢幻会の前身組織のメンバーは落胆。

 

 中には反ブリタニア路線へと転向する者もおり、対話路線とは別で並行して進められてきた別計画。敢えて人道を無視して皇国の勝利のみを追求する、彼等の知る物とは異なる作用を持つ原子力兵器の開発と、これを用いたブリタニア大陸消滅作戦『破号計画』に傾倒していった。

 

(異相原子力兵器=フレイヤ。研究は進められたが通常の原子力兵器開発とは概念が異なるために大戦中の完成には至らず)

 

 一方日本と敵対関係にあるユーロピアは、ブリタニア国内に受け入れたにも拘わらず北南戦争という形でブリタニアを裏切り恩を仇で返そうとした欧州貴族とも当然の事ながら敵対していた。

 

 信用の失墜していた欧州貴族と関係の悪化した日本。双方の敵である当時のユーロピアはブリタニアにとって味方ではないまでも敵ではない立ち位置にあったと言えよう。

 

 ならば協力できるのではないか? となるのが自然の流れだ。

 

 成長著しい日本は近い将来脅威となって立ち塞がる可能性がある。

 

 対ブ強硬論などは正にそれを暗示した物であるという意見が必然的に支持され始めるのに差ほどの時間を要することなく、英雄帝クレアの共存共栄主義が広く浸透していたブリタニア国内でいつしか芽生えた日本との関係を見直す動きが出始めたのである。

 

 そしてサクラダイト関連で世界に覇を唱える可能性を持つ日本を今の内に叩いておくべきだとする対日強硬論の台頭と、強硬派へと傾き始めたブリタニアの空気を読み取ったかのようにやがてユーロピアから使者が送られた。

 

『協商国と歩調を合わせて日本へ侵攻し、彼の国が独占しているサクラダイトを世界で分かち合うべきだ』

 

 対日参戦と協商国参加を打診されたブリタニアは日ブ間における過去の友好関係を敢えて無視する態度を取り、協商国側の話を持ち帰るという姿勢に転じる。

 

 だがしかし、それで意見が対日開戦で纏まるのかといえばそうではなかった。

 

『今こそ好機ぞッ! 如何な技術大国日本といえど、オセアニアを除く全ての列強と我が国から同時に攻められてはひとたまりもあるまいッ! 日本が長年独占し続けてきたサクラダイトを始めとする地下資源を手にし、パックスブリタニアーナの構築を目指すまたとないチャンスだッ!』

 

『馬鹿なッ!? 日本とは新大陸遷都以前より友好関係にあったのだぞ!? それを一時の対立のみにとらわれて殊更に脅威を煽り立てるだけに留まらぬばかりか剰え信用のならぬ簒奪者共の口車に乗り日本侵攻を企てようとは……貴様等それでも騎士かッ! 恥を知れッ!』

 

 強硬派は日本侵攻に打って出ろと叫び。

 

 融和派は日本との友好関係を再構築し協商国の誘いに乗るべきではないと応じる。

 

 不毛な争いが繰り広げられ、意見が纏まらぬまま唯時間だけが過ぎていく。

 

 同様に南の超大国オセアニアへも中華連邦大宦官の一人が自ら足を運び協議を重ねていた。

 

 そう、協商国はブリタニアのみではなくオセアニアも自勢力側として対日参戦させるべく動いていたのだ。

 

 これは保険である。万が一ブリタニアが参戦しなかった時のための。

 

 自分達だけでは日本との長期戦に勝てないことなど百も承知の協商国側は、どちらか一方の超大国を引き込もうと考え両国に対し打診する方針だった。

 

 引き込めれば対日戦争へ動き、無理ならば取りやめに。

 

 一見場当たり的ながらこの賭は成功したときの実入りが莫大な物となり、将来的な大発展が期待できる。

 

 確率は低くとも期待値は絶大な賭なのだ。

 

 必要なのは日本を除く二つの超大国の一方を引き込むこと。

 

 これだけで確率は99%の勝率へと大化けし、計測不能な期待値を総て掻っ攫うことが可能。

 

 となれば、恨み骨髄なうえ自国の内的問題を一気に解消する為にゲームを行うは必定であった。

 

 この世の中は弱肉強食で成り立つ。

 

 勝てばいい。例え相手が強かろうとも勝つ算段があるのならば貪り喰うだけだ。

 

 無論日ブ関係悪化の間隙を突いた卑怯な行いに天子は反対であった。

 

 卑怯なのは勿論のこと、眉唾物ながら数百万年の歴史があるとされる日本の恐ろしさは日中戦争で経験済み。

 

 もしも開戦し思惑が外れてしまえば……、その時は最早中華連邦が滅びを迎えてしまうとして。

 

 しかしながら時の天子には暴走する大宦官を抑える力が無かったのである。

 

 それもやはりかつての日中戦争の惨敗によって天子の権威が著しく失墜していた故に。

 

 この時にもし天子に力があれば、後の世に中華を襲う災厄を招くことには成らなかったであろう。

 

 だが時既に遅し。

 

 賽は投げられてしまったのだ。

 

『貴国が古き時代より対立して居られる東洋鬼を共に退治致しましょうぞ』

 

 古くは前身国家レムリアの時代より対立関係にあった大日本帝国。

 

 これを攻略し神根島遺跡と改造人間技術、そしてサクラダイトを手にするまたとない機会に誘いを受けたオセアニア議会の意見は二つに分れる。

 

 何せ相手は東アフリカや中東のような弱小国でも、ユーロピアや中華のような下等種族の国でもない。

 

 自国と同じ偉大なるエデンバイタル継承国にして自国よりも上位に位置する継承第2位の日本なのだから事は慎重を要するとして。

 

『此度の下等種族共よりの誘い、乗るべきではないでしょうか? 高天原人を屈服させその総てを手に入れ我らが物とすればアヴァロン人を打ち破るのも容易きこととなりましょう。ラグナロク以後の三竦み体制に終止符を打ち、絶対正義の秩序を世界にもたらす最良の機会であると思われるのですが』

 

 これを好機とする積極参戦派と。

 

『犯罪も悪もない秩序に満ちた世界実現の為に正しき民主主義と絶対正義の理念を広げることは必要だが、相手は資源と技術の国日本。勇み足で参戦せずとも推移を見守ってからでも遅くはないだろう。参戦した後もしもアヴァロン人より背後を突かれてしまったその時に貴公はなんとする? 高天原人との挟撃を受け我が合衆国の歴史にこそ終止符を打たれかねんぞ』

 

 下手を打てば継承2国を同時に相手取ることになると慎重な意見を持つ派閥。

 

 拮抗し合う意見に対し最終的に協商国との間に不可侵条約を結びつつ、されど協商国への参加は見送り戦局を見ながら独自に動くという結論を下したオセアニアは動きを見せないブリタニアを尻目に着々と北進の準備を整えていった。

 

『まずは東南アジア方面と大洋州全域に正義の旗を立てる。アヴァロン人が動かず高天原人が下等種族の相手で手一杯な今が狙い目だ。そのあとは戦況次第と行こうではないか』

 

 

 

 そんな中、オセアニアが独自参戦の方向に動いた事で機は熟したと見た協商3国が遂に日本攻略への狼煙を上げた。

 

 高麗半島、シベリア、中華大陸東北部、各地に集結した協商国軍その総数実に700万という大兵力が日本攻略へ向けて動き出したのだ。

 

 名目上の理由として協商側は『サクラダイトの一国独占阻止』を掲げていたが、政治腐敗進むユーロピア、大宦官や軍区行政官の暴政続く中華連邦(特に中華帝国)の日中日欧雪辱戦。及び世界の7割という膨大な地下資源と日本が持つ先進技術の獲得が狙いなのは明らか。

 

 無論、第一目標である極東シベリア・外満州といった日中日欧戦争で奪われた失地の回復と、本来ならば自国の物であった筈のシベリアサクラダイト鉱山奪還を最優先としていたのは言うまでもない。

 

 高麗はともかくとしてユーロピアと中華の力が合わさればそれなりに日本と対峙できる力と成り得るだろう。

 

 いがみ合う列強が力を合わせればそれだけで巨大な勢力と成る。

 

 日本、ブリタニア、オセアニアの3国が突出している故に見落としがちのこの事実を前に一方で関係悪化に伴ってブリタニアへの対応も必要となってしまった日本は正に四面楚歌という状況へ追い込まれていた。

 

『駄目だッ……、連中、死体の山を物ともせずに乗り越えて来やがる……ッ』

 

 協商国中華連邦の主力である中華帝国軍・インド軍と、これをバックアップするユーロピア軍の人海戦術はそれは恐ろしい物であった。

 

 10万の兵が死ねば20万の兵が現れ、20万の兵を殺せば40万の兵が現れる。

 

 陸続きのシベリアや外満州で繰り広げられていたのはそんな亡者の群れを相手にするような泥沼の戦い。

 

『一体どれだけの敵を屠ればッッ』

 

 装備は劣悪。戦車は貧弱。航空機などカトンボをはたき落とすかの如き容易さで撃墜破可能。

 

 客観的に観れば勝てるはずの戦いをしかし劣勢に追い込まれるその因は、分析不可能なほどの圧倒的なる数の力。

 

 世界で1,2を争う人口に裏打ちされた尽きる事なきユーロピア・中華の大兵力を前にそれでも尚戦争となれば日本が終始優位で居られると言われるのは、無論無限の地下資源と高度な技術力がもたらすその国力に他ならなかった。

 

 だが、それはあくまでも十全に発揮されていればの話でしかない。

 

 南と東にまで力のリソースを振り分けなければならない状況下においてはどう足掻いたところで半分の力も発揮できず、まともな対処等不可能であった。

 

 ならば対オセアニア対ブリタニアに振り向けている分をいま攻め寄せてくる協商国へと振り向ければ良いではないか。

 

 普通ならばそう考えるところだが、海の向こうの2つの国は、共に余所見をして対処できるような小さき存在ではなく、本来なら全力で対峙しなければならない相手であり協商国とは比較にならない程の大国だ。

 

 特にオセアニアなどは協商国へ力を振り向けた瞬間、北進を開始するであろうことは目に見えて分かる、かつてのブリタニア並かそれを上回る膨張主義の原始民主制国家。

 

『神に唯一認められた我が国は常に絶対正義の体現者である。絶対正義の我が国を遮る者は此即ち“悪”であり、悪を倒すためのあらゆる物理的制裁は我が国が持つ正統なる権利なのだ。正義遂行の為に邁進せよっ!』

 

 自国の行動の総てを“絶対正義”の名の下に正当化し、他国に攻め入っては傀儡政権を立て権益を奪う。

 

 彼の国は帝国主義=他を抑圧する侵略主義として忌み嫌うが、彼等ほど露骨な“侵略主義”の国もないだろう。

 

 それでも彼の国の政体が選挙を経て国民に信を問い、投票によって選出された大統領なり政治家が国家を動かしているという、一応の“民主国家”であるところに変わりなかった。

 

 そんな、常に自国のみが正義であると嘯く独善的正義教国家は日本にとってブリタニアと並ぶ最大の脅威であり油断ならない相手。

 

 現に協商国の日本侵攻に連動する形で大洋州連合と東南アジア諸国制圧に動き出している為、彼の国に対し備えている戦力を大陸側へ移動させるのは自らの首を絞めるという自殺行為でしかない。

 

 “どんなに振り絞っても30%”

 

 日本が今この時に協商国側へと向けられる力はこれが限界なのだ。

 

 海の向こうにはブリタニアとオセアニア。

 

 大陸側には協商国。

 

 自縄自縛の苦しい戦いは続き、パワーバランスが崩れていく。

 

 

 

 世界のパワーバランスが大きく崩れたことで煽りを受けたのは中立国家群だった。

 

 日本にも協商国にも、ブリタニア・オセアニア何処の勢力にも組みせず局外中立を表明して戦火を逃れようとしていた彼等は、しかしこの世界の有り様である弱肉強食の法則を見誤ったのだ。

 

 

 

 1938年4月。

 

 東南アジア諸国と大洋州連合はティモールと大洋州がオセアニアの侵攻により瞬く間に席巻され独立を奪われた。

 

 続く1939年初頭。

 

 ニューギニア、インドネシアが共に国土の南半分を失い滅亡の瀬戸際へと追いやられ、インドネシアが防波堤と成る形で唯一国土を侵されていなかったフィリピンは起死回生の策として日本への併合を求める。

 

 “これ以上オセアニアの北進を許せば台湾・海南が、日本その物が、北と南よりの挟撃を受ける形となってしまう”

 

 未だ対日参戦は正式表明して居らず、大洋州と東南アジアにのみ的を絞っていたオセアニアであったが、情勢変わらずの膠着状態が続けば間違いなく参戦してくると読む大本営は、1939年4月8日。フィリピンの提案を受け入れ日比併合条約を締結。

 

 即日施工された条約に伴い同国が衛星エリア化されたことで、オセアニアのこれ以上の東南アジア侵攻を辛うじて踏みとどまらせることに成功した。

 

 彼の国が踏みとどまった理由。

 

 それは相手が自国と同じエデンバイタル継承国日本であるからに他ならない。

 

 エデンバイタル継承国家は何れも強大な国だ。

 

 特に古代からの歴史を知り尽くしている者同士、継承国は互いの底力を嫌と言うほどに把握している。1対1の状況において手を出せば自らも深手を負うと。

 

 故にオセアニアは待ったを掛けたのだ。ブリタニアの動きと協商国の動きを見ながら機会を伺うという形で。

 

 ブリタニアが協商国側で参戦すれば迷い無く日本侵攻へと舵を切る。

 

 ブリタニアが動かずとも日本へ圧力を掛け続けるというこのままの四面楚歌な状況が続けば、やはりオセアニアは協商国側に立ち参戦する。

 

 だが今は様子見で動かない。

 

 彼の国の慎重さは、このとき日本にとっては吉として働いていた。

 

 もしも今、彼の国に動かれれば敗戦すら有り得る厳しい状況だったのだから。

 

 しかし大陸の情勢如何によっては再びインドネシア北部地域とニューギニア北部へ向け侵攻を開始するであろうことが確実な情勢であることに変わりはない。

 

 下手をすればオセアニアの更なる北進……日本領への侵攻も有り得る事態に、国内の対ブ強硬派は次第にその矛先を変え始めた。

 

『卑怯な不意打ちを行った欧州と中華を許すまじッ!』

 

 ブリタニアと揉めている状況においての不意打ちを行った協商国への怒りを露わにする彼等はどうにもならない局面に際し、侵略者を罵ることしか出来ない自分が腹立たしかった。

 

 所詮国際関係。

 

 国と国とのだまし合い。

 

 卑怯も不意打ちも何でもありの世界なのだと理解しつつも怒りを抑えることは出来なかった。

 

 また自分達がこの事態を招いた一因である事を恥じ、識る者達と共に挙国一致体制を築き上げることで漸く日本国内は1つに纏まることと相成ったが、状況はけして芳しい物ではなかった。

 

 圧倒的なる海軍力と空軍力の差で本土・海南・台湾・大陸側領土を守り通してはいるものの、反撃の手が打てないのだ。

 

 反撃に動こうと南と東への力のリソースを大陸へと向ければブリタニアはまだしもオセアニアが仕掛けてくる。

 

 彼の国と協商国、2つ同時の戦となれば如何に日本と言えども当然勝ち目はない。

 

 国を覆う暗雲の中、出来る事はただひたすら堪えることであった。

 

 だがこのとき、協商国側にも大きな誤算が生じていた。

 

 大陸から日本を追い出し失地回復とサクラダイト鉱山奪還を成し遂げてみせるとして満を持しての日本侵攻だったというのに、本土は疎か大陸から目と鼻の先に在る台湾・海南や大陸の日本領すら攻略できないばかりか、日中戦争よりこの方、漸く再建成ったばかりの南洋艦隊改め、中華帝国南海艦隊が南シナ海海戦において本土より派遣された日本海軍の猛撃に遭い、開戦間もない時期に壊滅。

 

 行きがけの駄賃だとばかりに広州海軍基地までが日本軍空母艦載機烈風改による空爆を受け、基地航空隊の戦闘機では追いつく事すらままならぬままに次々と撃墜されてしまうという醜態を晒していたのだ。

 

 更に1937年中には海口・湛江・三亜といった南海艦隊の全海軍基地が日本艦隊と海南・台湾航空隊によって殲滅され、上海に司令部を置く東海艦隊、青島の北海艦隊も同様の運命を迎えてしまう。

 

 中華帝国海軍は海への出口を失うという事態に陥り、海戦において大和型という巨大戦艦を前に手も足も出ず沈められていく新定遠と鎮遠の様子は、連邦全土に衝撃を与えていた。

 

『長門に対抗可能な大戦艦ではなかったのかッ!?』

 

 大宦官の肝煎りで建造された中華帝国海軍旗艦──定遠。

 

 日中戦争の折に沈められた北洋艦隊旗艦と同じ名を与えられた新型艦は、全長270m、基準排水量53000tという中華帝国史上最大の大型艦であった。

 

 それが容易く沈められてしまったのだから衝撃を受けるなというのが無理な注文となろう。

 

 しかしこのとき誰が予想できた? 

 

 基準排水量55000tの長門型が既に2線級へと追いやられていたとは。

 

 中華帝国、そして中華連邦全体にとっても首都である洛陽。

 

 その宮廷にて天子を差し置き采配を取っていた大宦官達は、自国の3大艦隊を壊滅させたという大日本帝国連合艦隊の中に、情報には無かった未知の巨大艦が確認されたと耳にして恐慌状態に陥る。

 

『幾ら砲弾を受けても沈まない巨大戦艦と巨大空母じゃとッッ?!』

 

『41cm主砲の直撃を受けて殆ど無傷とな?!』

 

 南シナ海に入っていた中華連邦インド軍区艦隊よりの最後の報。

 

 それは長門や金剛を遥かに上回る巨大戦艦と、同等のサイズは有ろうかという航空母艦含む大艦隊に、自国艦隊が攻撃を受け壊滅的な打撃を受けつつありという救援要請だった。

 

 定遠と同級の戦艦インドラの41cm3連装砲弾を幾ら直撃させてもダメージを与えられず、逆に撃ち放たれた巨弾と数百機の航空機による波状攻撃を受けインド軍区が誇る連邦インド洋艦隊が殲滅させられる悪夢を現実の物として体験していたインド軍司令官も同様であった。

 

『どうなってるんだ! アレは……アレは一体何なのだッ?!』

 

 インド軍区行政官の必ず勝てるという話が果たして真なのか? 

 

 協商国はこの戦争に勝てるのだろうか? 

 

 種々の疑問を抱く彼に答える者は居ない。

 

 戦争を始めた宦官もインド代表もユーロピア国防四十人委員会も。

 

 誰もが持ち得ない答えなのだから。

 

 そんな彼の問いは、51cm砲弾の直撃によって艦橋が破壊されるその時まで彼の心を支配していた。

 

 

 

『日本は……古代文明継承国とはこれ程のっ……!!』

 

 一方、北の海でも同様の光景が再現され、北極海を越えて遙々遠征してきたドイツ・ロシア・フランスのユーロピア連合艦隊に災厄がもたらされていた。

 

『なにが最古の人類だ。古き叡智ある民だ。ただの有色人種ではないか』

 

 反日教育によってそんな差別意識を持っていたユーロピア軍の兵士は自らでは生み出すことすら適わない巨大な黒い影を前に、古代人とは我々人類と根本的に異なる別の生命体なのではないかという意識を持ち始めていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「白人至上主義者が“白人とは古代人類と現世人類のミッシングリンクの人種でありエデンバイタル人に近い人種”なんて馬鹿なことを言い始めたのはあの戦争からではないですか?」

 

「確かにそういう事を主張されている人達も居るようですね。どうあっても自分達白人が選ばれた優等人種であるという考え方を変えられないのでしょう。古代国家を引き継ぐ継承国人も現世人類も、なんら変わることない同じ人類だというのに」

 

 徹底した反日教育の賜物か、民主ユーロピア(ユーロピア共和国連合=欧州ロシアから中央シベリアの一部+中央アフリカ・カメルーン以南の南アフリカ政権)の国家元首を務める国防四十人委員会委員長にして、民主ユーロピア初の女性大統領エディット・クレイソンなど日本人を「古代の黄色い原始人」と呼び忌み嫌う発言を繰り返しては物議を醸しているが、これについては日本内部においても継承国以外の人間を「下等人類」として差別する者も居るのでどっちもどっちと言えなくもない。

 

「妙な優越主義の拡大には注意を払わなければなりませんな」

 

「そういうことです。まあ、中華連邦人や欧州人からすれば数百万年とも言われるエデンバイタル継承国の歴史と、抜き出た国力や技術力がそれだけ異常に見えるのでしょうが。悪く言えばそれだけの時間を費やしてもこの程度の格差しか付けられていないほど停滞期が長く、進歩の遅い国と言えなくもないんですよね」

 

「そ、それは言い過ぎではないかと……。マッスルフレーミングシステムやギアス伝導回路等、古代技術と現代技術を融合させた物を組み込んだ戦闘機やKMFを開発している我が国が遅れているなどと……他国の反感を買いますよ? 特に同システムを組み込んだ最新鋭戦闘機ゼロ(零神)はブリタニアも未だ開発していない最新世代機。進歩が遅いと言われたら不眠不休で頑張った倉崎・スメラギの技術者が泣きますぞ」

 

「超文明分裂後の前身国家が一度滅びた後の文明停滞期の長さを考えればけして言い過ぎでもないと思いますが、まあとにかく当時の協商国側には大きなインパクトであったのでしょう」

 

 

 

 ***

 

 

 

『極東へ派遣した各国の連合艦隊が全滅……』

 

 沈んだ船を数えるのが困難なほど多くの艦が大和型戦艦と、大和型と同級の排水量はあろうかという巨大な航空母艦群の艦載機によって海の藻屑とされてしまったユーロピア、中華帝国、インド、高麗。

 

 それぞれの海軍戦力は1938年の時点で日本近海に展開できる余力と戦力を喪失。結果、継続的な攻勢を続けられたのは実質陸上での人海戦術を使えるシベリア戦線と外満州のみとなってしまったのだ。

 

 そのシベリアや外満州でも立ちはだかる日本機甲部隊を相手に攻めきることが出来ず、されど引くことはできない消耗戦を強いられていた。

 

 そして1938年も終わりに差し掛かる頃になると、大陸沿岸都市部の基地や政府施設への空爆に訪れる航空機にまで信じられない物が混ざり始める。

 

『プロペラの無い高速機動戦闘機!?』

 

 烈風改という、恐るべき速度と大口径機関砲を兼ね備えた戦闘機に一方的な敗北を喫していた協商国連合空軍は、世界最速と見られる速度を誇るプロペラ機烈風改がまるで子供のようにさえ思えてしまう凄まじい速度──時速1000km以上は出ているかとみられる未知の新型戦闘機の出現に、最早自分達が対処できる範囲を超えてしまった事を思い知らされていた。

 

『なんだアレは!? プロペラも無くどうやって飛行しているんだッ!?」

 

『くそっ、ダメだっ……! 速さも旋回性能も攻撃力も、総て次元が違いすぎる……ッ!』

 

 香港、上海、青島。

 

 大陸沿岸部で繰り広げられた空中戦は得体の知れない怪物と戦っているような絶望感を中華帝国のパイロット達に与えていた。

 

 無論、これを映像で見せられた洛陽の宦官達も共に前線で戦う彼等の恐怖と混乱と動揺の物を味わわされていた。

 

『お、己ッ、古代の東洋鬼共めッ……! よもやあの様な物までもを開発していようとはッ!』

 

『くううッ! まだかッ! まだ外満州に中華の旗を立てることはッ……海南や台湾を攻め落とすことは出来ぬのか……ッ!』

 

『ふ、不可能ですッ、あの様な航空機や戦艦、空母……ッ、東北部方面で見られた戦車も我が方の戦車砲をはじき返す装甲を……ッ! 何もかもが規格外であり反撃に出られないだけでもまだ幸いな状況で……ッ!』

 

 

 

 戦線は膠着していた。

 

 

 

 攻勢一辺倒で被害ばかり拡大するも成果が出ない協商国。

 

 防戦のみで反攻作戦を採ろうとしない日本。

 

 どちらも痛みを増すばかりで役など無い。

 

 しかしそれでも彼等協商国が停戦講和を考えることなく徹底抗戦を叫んでいた理由。

 

 それは、長期戦へと持ち込むことで勝てるという算段を立てていたが故だ。

 

 なるほど、確かに日本の技術力は恐るべき物だ。

 

 プロペラの無い超高速戦闘機。

 

 先進的な砲と分厚い装甲を備えた巨躯を誇る戦車。

 

 全長300m以上の戦艦と空母。

 

 全ての兵器が協商国側の数段先を歩んでいる。

 

 “技術の日本”“古代文明継承国第2位の日本”“世界第2位の超大国”その名に相応しい恐るべき力だ。

 

 だが。

 

 だがそんな日本も四方を敵。或いは警戒すべき相手に囲まれた今の日本では十全なる力が発揮できない。全勢力を一点に振り向けることができない。ブリタニア・オセアニアの圧力により大陸への逆侵攻を行う余裕が無いのだ。

 

 言うなればこれは日本1国で全列強を相手取って戦争をしているに等しい状況であった。

 

 ブリタニアは唯それだけで絶望をもたらす圧倒的存在。

 

 オセアニアは彼の国1国となら日本優位である物の、決して生易しい相手でもない純然たるエデンバイタル文明継承国第3位の国。

 

 そしてそのどちらか一方が対日参戦に動けば戦局は一気に変わる。

 

 協商3国とブリタニア。或いは協商3国とオセアニア。この条件が整った瞬間、協商国側の勝利は疑うべくもない現実の物と成るだろう。

 

 その為のブリタニア貴族達の買収と引き込み。

 

 その為のオセアニアへの誘い。

 

 国交断絶下の情報封鎖が災いした予想を超える日本の先進兵器群による猛攻を受け良いようにやられる協商国が、それでも尚引くことなく戦い続けられるのは正にこの事に尽きた。

 

 彼の国々が日本側に立って参戦するなど其れこそ有り得ない。日本を攻略すれば技術はともかく、世界最大のサクラダイト鉱山である富士を山分けできるのだ。世界経済を動かす程のサクラダイトには奪えるチャンスが有るなら奪うに行くだけの、それだけの価値があった。

 

 事実オセアニアは東南アジアの国々を次々と落とし、準備と機会が揃えば差し手としてゲームに加わろうと確約してきた。

 

 日ブ関係が険悪化している今こそが千載一遇のチャンスであると日本侵攻に踏み切ったこの賭は間違いなく勝てる。

 

『堪え忍び犠牲を強いていけばいずれ突破口は開かれん!! 我ら新代の人間を下等種扱いして蔑む憎き古代の東洋鬼に対し今こそ復讐を遂げるのだっ!!』

 

 国民と軍を鼓舞する中華連邦大宦官とインド軍区行政官、そしてユーロピア国防四十人委員会。

 

 ブリタニアとは緊張関係にあり、オセアニアも目前まで迫っている。

 

 ここで持久戦へと持ち込み日本の出血を強いていけば姑息で強欲なオセアニアは必ずや日本に飛び掛かるだろう。

 

 反日気運の高まるブリタニアも参戦間違い無しという一報が入ってきている。

 

 30%の力しか振り向けられて来ないのならば、数に任せた互角の戦いに持ち込める。

 

 1で5を倒せる技術力が日本にあるのなら、此方はその1を10で仕留めればよい。

 

 兵隊など幾らでも補充可能。質は劣れど大量生産が出来る戦車・戦闘機で日本を消耗させろ。

 

 さすれば勝利への一歩を歩み出せる。

 

 持久戦となって得をするのは質と物量の両面が揃っている国。

 

 皮肉にも日本こそがその国であるというのに、この時ばかりは逆風が吹き付けていた。

 

 

 

 1939年。

 

 中頃になっても大陸への反攻作戦を実行に移せない大日本帝国は、協商国の極東海軍戦力こそ粗方叩き潰し空軍戦力も性能差に物を言わせて片っ端から撃墜してきたが、日本1国に対してのみ攻勢に出ている協商国は幾らでも戦闘機を補充し前線へと送り込んでくる。

 

 なにせ戦場は極東アジアのみなのだから遥か遠方のユーロピア本国は無傷のまま工場をフル稼働させての損失の埋め合わせが可能であった。

 

 無論、海路も空路も陸路も、日本側は可能な限りの補給路・輸送路の寸断・破壊を行って来た。

 

 長距離爆撃機富岳・連山を用いて中華奥地やインドの兵器工場や、危険を承知でサハから飛び立ちウラル工業地帯にまで脚を伸ばして爆撃し協商国側の補充を少しでも減らしていたが、されど決定打と成らない。

 

 本格的な反転攻勢に転じるには後背に控える継承2国の圧力があまりにも大きすぎるのだ。

 

 大陸への大反抗へ転じた隙を背後から突かれたら? 

 

 大陸とオセアニアとブリタニアの3正面に戦線を構えることになってしまったら? 

 

 日本を覆う暗雲は自らの油断が招いた物。

 

 世界と歴史の趨勢を識る者達が心の奥で抱いていたブリタニアへの恐れ。

 

 それが却って身近にある脅威を見えなくしてしまうという皮肉な結果を生み出した。

 

 この世界で油断してはならない相手。恐れを抱き全力で対峙しなければならない相手。それは、この世界に存在する列強全てが当て嵌まるのだ。

 

 識る者達は超大国ブリタニアとエデンバイタル継承第3位国オセアニアの巨大さ故に、本来己が識る国家基準に当て嵌めればこの世界の他の列強全てが例外なく“超大国”であるという、心に留め置かなくてはならなかった事実を見過ごしてしまった。

 

 中華連邦も、ユーロピア共和国連合も、共にアメリカ級の国力を持つ“超大国”であるのだと自らに言い聞かせておかなければならなかった。

 

 しかし、日中日欧の両戦争で一方的とも言える多大な戦果を挙げてしまったが為に、エデンバイタル継承国というこの世界の本当の超大国であるが故に、自らの目が曇り、いつしか生じていた油断に足下をすくわれる事態へ追い込まれてしまったのだ。

 

『このままでは皇国はッ』

 

 時の識る者達の中心者であった者は自分達の油断が招いた事態を前にして国内に蔓延る対ブリタニア強硬論を抑えきれなかった失策を嘆いた。

 

 彼の国と協調が取れたままであったならば、友好関係であったままならば、オセアニアを抑えて貰い自らは協商国へと全国力を振り向けて撃退することが可能となっていた筈。

 

 少なくとも3正面に備えて戦力を配置し、全力を出せないという局面へ陥る事態だけは避けられていただろう。

 

 

 

 ***

 

 

 

「当時の国民も政府も日本の敗北を意識していたことでしょうな。迫り来る協商国の数を打ち破れるだけの圧倒的な技術力がありながら思うように動けない屈辱的状況。背後に控える継承2国の日本侵攻が現実の物と成れば帝国に待っているのは滅亡」

 

 第一次世界大戦を振り返っていた澤崎は暗黒の未来が訪れた可能性があった事を示唆する。

 

 そう、間違いなくあったのだ。オセアニアかブリタニア。或いはその両国共が対日参戦をしていれば。

 

「ですが、そうはなりませんでした」

 

 それは日本が最も恐れ、友好関係構築に精を出してはその動向を常に監視してきた国。

 

 友好を築きながらも、一方では打ち破る方策を考えてきた世界最大のジョーカー。

 

 神聖ブリタニア帝国が動かない方針を明言したからである。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ユーロピアからの誘い。

 

 協商国の日本侵攻。

 

 そして伝えられる日本の苦戦。

 

『これに乗るべきではないのか?』

 

 いま協商国側と歩調を合わせて太平洋側から攻め入れば日本は確実に負ける。

 

 様子を伺うだけで居たオセアニアも機を見て日本侵攻に加わるかも知れない。

 

 “バスに乗り遅れるな”

 

 そんな積極的日本征伐論が叫ばれ始めていた中、しかし終ぞブリタニアが動くことはなかったのだ。

 

 ブリタニアが動かなかった理由。

 

 それは良くも悪くも絶対権力者であり、帝国の頂点に立つ皇帝の鶴の一声に、対日強硬派も、そうでない者達も、共に冷や水を浴びせられたが故であった。

 

『うぬ等は建国より今日まで日本より受けてきた返しきれぬ程の数々の恩を忘れたのか』

 

 国が割れそうな程に喧喧とした御前会議に於ける一括は、嘗てブリタニアが欧州を追われたときに行われた日本による脱出劇の援助や、新大陸が二つに引き裂かれた北南戦争の折に示された友情の話。

 

 新大陸遷都前、皇歴1700年代ブリテン島に居を構えていたブリタニア皇家と既に友好関係にあった日本は、大陸遷都後に起きた欧州貴族の反乱である北南戦争でブリタニア側を徹底支持し、多くの義勇兵を大陸へと派遣。皇室や軍の援助に乗り出していた。

 

 先を識る者達が未来への先行投資として行っていたテューダー王朝とブリタニア公への支援という、将来起こりうる日ブ戦争回避に向けた遠大なる計画の一環として変わらぬ友好の為にと遠きブリタニアの地にて散っていった日本の侍達の活躍は、今尚英雄譚として語り継がれている。

 

 それは長い時を掛けた日本の国益を見据えての計画。

 

 単なる友好の為ではなく計算ありきの支援であったが、援助を受け続けたブリタニアから観れば国益を無視して助けに来てくれたように写るものだったのだ。

 

『彼等は一体誰のために命を投げ出した? 他ならぬ我らの祖先の為であろう』

 

 日本の若者が、友好国とはいえ他国の皇族や貴族を護って命を落とした。

 

 日本の軍人が、ブリタニアの民を銃弾から庇った。

 

 皇族から平民まで、多くの民が日本人に命を救われたのだ。

 

 それを仇で返そうというのは北南戦争時の欧州貴族と同じではないかと叫び、皇帝は国内に蔓延る対日強硬論を諫める。

 

『今この時は関係が冷え込んでいようとも必ずや修復されるときが来る。日本との関係悪化は言うなれば痴話喧嘩のような物よ……。考えてもみよ。どれほど仲の良き夫婦であろうとも長く連れ添っている間に幾度となく仲違いを起こすであろう? しかしそれも一時のことに過ぎぬ。我らは長き友情に裏打ちされた信頼で硬く結ばれておるのだ。侍達の助けを受けながら欧州脱出を成功させたリカルド大帝の言葉を今一度思い起こせ。ただ一人信じてくれる者あらばその者を信じよ。その者を信じられる己を信じよ。人を信じられぬまやかしの己を見るな。欧州脱出、北南戦争、クレア陛下への多大なる援助、我々は恩を受けっぱなしなのだ。他国である我が国のために幾度となく己が血を流してくれた日本人をうぬ等は信用に値せぬと言うか? いつの日か世界に覇を唱える欲望に塗れた唾棄すべき存在であると貶めようというのか? 遙かな昔。ブリタニアと日本がエデンバイタルという国であった頃、我らは本当に一つの存在だったのだ。時の流れ、運命の悪戯によって高天原とアヴァロンに分裂してしまったが、分裂を引き起こしたレムリアとは違い我らは真なる家族であった筈だ。遡れば我らブリタニア人と彼等日本人には同じ血が流れておる同じ民族……創世国エデンバイタルの民。その血を分けた兄弟をうぬ等は信用できぬのか?』

 

 静かに語りかける皇帝に対し、誰もが自分の意見を述べることなく静まりかえった御前会議の席。

 

『かの国より受けし恩。示された友情と信頼の証し。それを返そうともせず、応えようともせず、ただ踏みにじるような恥知らずな真似……』

 

 

 

 

 

 ──余の目が黒い内は断じて許さぬと心得よ!! 

 

 

 

 

 

 無論、ブリタニア皇帝はただの親切心や義理のみで関係が冷え込んでいた日本を支持するような発言をしたわけではない。

 

『国内の膿を炙り出す』

 

 これを目的としていたのだ。

 

 新大陸遷都より130年が経過した当時、ブリタニア国内にも至る場所に膿が蓄積していた。

 

 平民を奴隷と見る者。

 

 恩を仇で返そうという者。

 

 欲望のみに生きる腐った輩。

 

 オセアニアと内通し国を売り渡そうとしていた売国奴。

 

 皇帝はこの大戦を利用してこれら奸賊の一掃を考え、対日参戦の気運が絶頂になる時を待っていたのだ。

 

 積極参戦派の顔触れには日本から強奪できるサクラダイト各種の利益によって肥え太ろうと考える輩が多く、オセアニアの内通者の動きも活発化する為実に分かりやすい。

 

 特に自身と接する機会の多い者などは“直接心を読む”ことで、日頃隠していた本音を知る事が出来、次々と選別することに成功した。

 

 腐敗し行くブリタニアの現状を快く思っていなかったノブレス・オブリージュの精神を地で行く彼は、これら炙り出しに成功した者達を皇族・貴族問わず容赦なく地位を剥奪し追放していった。

 

 中には粛清という形でこの世を去った者さえも居る。

 

 この一見すると暴挙として映る彼の豹変に、しかし誰もが意見をすることは出来ない。

 

 ブリタニアという国で皇帝という存在は正しく唯一神。

 

 いや神をも超える存在なのだから。

 

 

 

 ***

 

 

 

「いやいや流石はブリタニア皇帝。単純に非戦を叫ぶではなく散々焦らした挙げ句に国内浄化作戦に繋げようとは。とんだ狸ですよ」

 

「ですがそのお陰で反撃に出られなかった我が国にとってはいい迷惑です。彼の皇帝陛下が早々に対日非戦を明言していれば流れずに済んだ血もあったでしょうに……」

 

「まあそうですね。しかしその分の穴埋めは後々されていますし、貿易摩擦を機に日ブ関係が険悪化していたのも確かでしたから仕方が無いとも言えるでしょう」

 

 国と国の関係だ。完全なる仲良しこよしという訳にも行かないだろう。

 

 元は同じ国を出発点とする兄弟国であり、将来的には連合国家として一つに戻ろうと模索する動きも現在では出ているが、それはまだ先の話であったし当時に至ってはそんな機運など欠片もなかった。

 

「彼の皇帝が“心眼のワイヤード・ギアス”のユーザーであったことも関係しているでしょう。側近の中には皇帝がギアスユーザーであると識る者も居りましたし、その本心を隠す術を持っていた輩も当然居る筈ですから」

 

「本質を見極め心の声を聴くことを可能とする超能力。……辻閣下の側近となりこの種の超技術の存在を明かされるまでギアス能力なる超常の力がこの世に存在しているとは夢にも思いませんでした……」

 

「エデンバイタルの、超古代技術の一部は特一級の国家機密ですからね。少し前までの貴方はまだそれを知る立場にはなかった……ただそれだけです」

 

 

 

 ***

 

 

 

 かくして皇帝の激と始められた浄化のための粛清、絶対命令により、非戦派や融和派の立場が盤石な物と成るのにそう時間が掛かることはなく、対日戦を煽る強硬派は急速に力を失い瓦解していった。

 

 ブリタニアが対日非戦の姿勢を明確に打ち出したことから大戦の趨勢にも大きな変化が現れる。

 

 駐日ブリタニア大使ジョセフ・クラーク・グルーを通じブリタニアの方針を伝えられた日本は、サクラダイトを巡る諸問題の一時棚上げを提案。

 

 両国関係の正常化に向け努力することを確認し後顧の憂いを断ち切ると、動けぬ処へ不意打ちを行った協商側への反転攻勢を開始した。

 

 この大戦において終始中立を貫いたブリタニアであったが、何もしない事その物が日本にとって大きな援助となったのは言うまでもない。

 

 彼の国が動かず太平洋に目を光らせていたお陰で油断ならない南の大国によるこれ以上の北進が防がれ、日本はその世界第2位と謳われる国力と第1位の技術力の総てを協商3国へ振り向けるという反転攻勢に転じることが可能となったのだから。

 

 国力が十全に発揮できるようになった日本の協商国に対する怒りは凄まじく、多大なる犠牲と戦費を費やしながらも停戦講和を望むのではなく、降伏による講和を引き出すまで止まることはなかった。

 

 最終的にウラル山脈の東側まで攻め上った帝国欧州派遣軍は、ユーロピア・ロシア州エカテリンブルク占領にまで運び、欧州全域を射程圏に収めた。

 

 富岳・連山といった長距離爆撃機述べ47055機によるウラル工業地帯を始めとしたE.U.主要国軍事拠点への2年間に渡って行われた爆撃で、ロシア・ドイツ・フランス等々ユーロピア構成列強国の生産能力・戦争遂行能力を着実に削っていき、降伏・講和への道筋を開いていく。

 

 他方、中華戦線においては戦争に消極的だった加盟国──モンゴル・インドシナ諸国・中央アジア諸国・ペルシャなどへの攻撃は控え、中華帝国とインドにのみ的を絞っての攻勢に終始。

 

 一時首都洛陽を陥落させ、中華帝国の7割を占領下に置き、インドの主要軍事施設を壊滅状態に追い込んでいる。

 

 最後まで民と共にあろうとした時の天子は、我先にと首都脱出を図りインドへ逃亡した大宦官とは異なり、中華連邦天子として朱禁城にて日本軍を迎え入れるという堂々たる姿勢で臨み、大日本帝国中華派遣軍司令岡村寧次や、洛陽攻略に中っていた穰司・パットン中将の称賛を受けたという。

 

(大宦官の傀儡であった天子は己が力量不足によって招いた戦争とこの結果を粛々と受け入れ裁きを待ったが、終戦後この戦争の指導者は中華連邦においては大宦官とインド代表。ユーロピアにおいては国防四十人委員会に責があるとして戦争責任を追及されることはなく。徹底抗戦を叫びながらも敗色濃厚となるや天子を残して洛陽からの脱出を計った大宦官達は日本侵攻に消極的だったインド陸軍司令官スバス・チャンドラ・ボースのクーデターによりインド代表と共に拘束され、中華帝国へ送還されている)

 

 

 

 ***

 

 

 

「1937年2月27日より始まった戦争その物は実に7年半もの長期に及び多大なる犠牲を払うことになってしまいましたが、結果として無条件ではありませんが協商国を降伏へ追い込む事ができ、戦勝国と成った我が国は対外戦争において国始まって以来の大戦果を挙げた」

 

 終戦後。東京講和条約によって敗戦国と成った欧州より割譲した中央シベリアの大半を衛星エリアへ。

 

 中華より割譲させた山東半島、舟山群島もそれぞれ本土へ、満州・福建・広東を衛星エリアへ。

 

 そして高麗帝国は国家解体の後、済州島のみ本土へ、残りの半島全域を衛星エリアとしてそれぞれ日本へ併合。

 

 大戦中日比併合条約によって日本に併合されたフィリピンに対しては戦争が終結次第の再独立を約束していた。

 

 が、しかし。彼等は自らその約束をなかったことにしてしまう。

 

「終戦間際になっての正義教の参戦にはなんとも呆れさせられましたね」

 

「あそこはいつもですよ。隙を見せると動いては“絶対正義”の名の下に掻っ攫っていく。正義の味方というよりかは単なる悪辣な海賊です。ついこの間も継承国サミットの場に於いてナチスユーロピアと中華連邦を名指しで“悪の枢軸”と呼んでいたでしょう?」

 

 言うまでもなくオセアニアのことだ。

 

 彼の国の存在がフィリピン国民の独立心を奪い去ってしまったのである。

 

 

 

 ブリタニアの方針が明らかとなり日本の力が協商国へと振り向けられることが決定打と成った瞬間より自らも方針を変えた南の超大国オセアニア。

 

 彼の国は終戦間際になって中華連邦との不可侵条約と密約を一方的に破棄すると中華連邦構成国マレー半島へ雪崩れ込み、シンガポール、マレーシア領マレー半島、タイへと順に軍を進め制圧。瞬く間に自国勢力圏として組み込んでしまった。

 

 日本との長期間にわたる戦争で疲弊しきっていた中華やインドに此を跳ね返す力など残って居らず、終戦後の東京講和条約によって日本へ譲渡した地域に加え、中華連邦はこれらの地域までを失陥。

 

 マレー半島を奪われ北カリマンタンのみとなってしまったマレーシアはその後中華連邦を離脱。生き残りを図ってその他のインドシナ諸国と共に日本勢力圏への参画を表明している。

 

「高麗の動きも素早かったですね」

 

「素早いと言いますか、よくもまあ彼処まで恥知らずな事が出来る物です」

 

 これを受け中華に逃れていた高麗帝国政府は日本へ侵攻した手前日本に対して降伏すれば即決裁判にて死刑判決を受けかねないとし、中華・ユーロピアを見限りオセアニアへの逃亡と帰順という条約破り以上の恥さらしな行動に出た。

 

 何かに利用できるかも知れないと考え亡命を受け入れたオセアニアで。

 

『中華とE.U.に命令されて強制的に日本との戦争を戦わされた挙げ句に国土まで奪われた被害者』

 

 という主張を後々展開。

 

 高麗亡命政府──大高麗民主国を名乗り生き残りに成功した物の、世界の信用を無くしている。

 

(オセアニアは行動だけを見るとまるでソ連なのですが正義正義と叫んでいるところはアメリカですね。アメリカ以上に自己本位を発露させた絶対正義を唱える原始民主制国家ですが)

 

 “日本にとって敵対国である協商国を攻めた。言わば側面支援してやったのだから文句は言わせない”

 

 オセアニアの行動は此処とは違う世界でのソビエト連邦という国が見せた満州・樺太・千島侵攻と同じだ。

 

『世界に無用な混乱を引き起こした“悪の帝国中華連邦”への正義の懲罰である!』

 

 自ら中大不可侵条約を破り捨てながら“絶対正義”の一言で纏めてしまうという、このオセアニアの脅威を目の当たりにしたフィリピン内部にて、「日本より分離するのは危険だ」という声が大きくなるのも無理からぬこと。

 

 残るか独立かの国民投票が実施された結果、フィリピン国民は己が意思での日本残留を選択した訳である。

 

 そこには大戦中に目にしたジェット戦闘機疾風・橘花や、超大型の航空母艦大鳳、戦艦大和。

 

 超重爆撃機富岳に新世代主力戦車やミサイル兵器といった、数々の新兵器より受けた影響もあったのだろう。

 

 日本に留まれば大きく発展できるという打算は列強ひしめく世界で生き残りを模索する彼等なりの答えなのだ。

 

 なにせインドネシアはオセアニアの侵攻によって小スンダ列島とスマトラ・ジャワを奪われ大幅に国土が縮小。

 

 インドネシアに逃れて亡命政権を成立させていたティモールは国土その物を失陥してしまったのだから。

 

 止めに終戦間際のオセアニアが見せた中華連邦加盟国への電撃侵攻と、後の第二次世界大戦時の暗躍。

 

 第二次南太平洋戦争、続くインドシナ戦争に、フィリピン住民は自らの選択が間違いではなかったと語っていたとか。

 

「自業自得とは言え欧州も正義教に引っ掻き回されましたからね」

 

「中華連邦が宦官を処刑したのとは違い、欧州は国防四十人委員会が生き残ってしまった影響もありますから何とも言い難いですが、二度目の大戦の引き金と成ったのは擁護できません」

 

 ユーロピアでは主要加盟国の工業地帯や軍事関連施設、戦略目標の高い一部の都市が富岳の猛爆で大きな被害を受け、失地回復とサクラダイト権益確保の為として対日戦争に踏み切った国防四十人委員会の権威が大きく失墜。

 

 しかし当時は事なかれ主義と無関心主義が蔓延っていたうえ、敗戦のショックから何れの加盟国の国民も気力を失っていた為に彼等の命脈が保たれてしまったことが災いした。

 

 ある程度余力を残していたが故の悲劇か? 1970年初頭の欧州内戦から始まる第二次世界大戦の火種を作り出してしまい、第二次大戦でユーロピアを再統一したドイツ・イタリアを中心とする国家社会主義ユーロピア労働者党政権によって彼等が本土を追われるまでの間、欧州は貧困国への転落という暗黒の時代を迎えている。

 

「第二次大戦はそんな欧州国民にとって転機となりましたが、一方で正義の国はまたも勢力圏拡大に利用した」

 

「ヒトラー総統もお怒りだったでしょうね。苦労して第二次欧州革命を成し遂げたかと思えば中央アフリカ・カメルーン以南アフリカとロシアを四十人委員会に取られ、ジブチ・エチオピア・エリトリアを東アフリカに火事場泥棒されたのですから」

 

 欧州で戦争が勃発したとき。同時期欧州の混乱を突いた南側原始民主制圏の1国である合衆国東アフリカがジブチ、エチオピア、エリトリアへ軍を進め、「欧州の混乱が自国へ波及しないため」と銘打ち保障占領を行った後、自国寄りの傀儡政権を立てて独立させていた。

 

「中東もです」

 

 東アフリカは中東においても南側原始民主制国家のイエメンと共にオマーン侵攻を図り、欧州の混乱と中華の弱体化を好機として中東制覇へ動き出した共産イラクを宗主国オセアニアと共に支援。中東広域を共産化させてしまう。

 

『ヨルダン人民共和国』『シリア民主主義人民共和国』『サウジアラビア社会主義共和国連邦=サウジ・バーレーン・カタール・アラブ首長国連邦』を成立させて一大共産圏とし、南側勢力圏への引き込みに成功している。

 

 また、国防四十人委員会率いるユーロピア共和国連合の支援まで行い──。

 

『日本を相手に無謀な戦争を繰り返して国を荒廃させ分裂までさせた挙げ句、責任も取らずに自分達だけ逃げ出した害虫共を援助する国が正義を語ろうとは片腹痛いわッッ!』

 

 と、ユーロピア国家社会主義共和国連合初代総統アドルフ・ヒトラーの就任式の演説にて名指しで糾弾されている。

 

 欧州内戦から1980年代までの中東、アフリカ、欧州、ロシアで勃発した一連の戦争──第二次世界大戦。火種を残したまま各地で停戦となったこの戦争では、世界の国々から欧州正統政府として認められたユーロピア国家社会主義共和国連合と、国土の不法占拠を続ける政治勢力『ユーロピア共和国連合』の2つに欧州が分裂してしまった。

 

(尚、欧州が2つに分れてしまったことに怒りを隠せないナチスユーロピア総統アドルフ・ヒトラーが、悪しき国防四十人委員会を抹殺し旧E.U.圏の再統一を目指すという旨の演説を行っている)

 

「腐れた敗残者を今尚擁護している正義の味方アダムスはその名に恥じぬ冒険者ですな。私なら不良物件なんて態々手出ししませんよ」

 

 ロジャー・アダムス。現オセアニア大統領にして自称絶対正義の体現者。

 

 しかしその実、領土欲の塊で力の信奉者でしかない独裁者であった。

 

「古代人種以外を例外なく下等種族としているあのアダムスのことですから本音は四十人委員会などどうでもいいのでしょう。南アフリカ遺跡を確保している手前“飼ってやっている”とでも考えている筈です。古代技術の獲得には遺跡の解析が欠かせませんし。まああの国もこれまでに5つ手に入れましたので当分大人しくなると思いますけどね」

 

 第一次大戦はカリマンタン遺跡とビルマ遺跡獲得への布石。

 

 第二次大戦はサウジ遺跡の確保と南アフリカ遺跡の確保の為。

 

 第二次南太平洋戦争でカリマンタン遺跡の刈り取りを目指すも日本の介入で失敗。

 

 インドシナ戦争でビルマを占領状態に置きビルマ遺跡を確保。

 

 現在オセアニアはマダガスカル、ニュージーランド、サウジ、ビルマ、南アフリカの計5つの遺跡を確保していた。

 

「領土より勢力圏より遺跡ですか? ビルマを強奪された中華と独立を奪われたビルマが少しばかり哀れですな」

 

「エデンバイタルの遺跡にはそれだけの価値があるということです。もちろん勢力圏の拡大も考えて手を広げ続けたのでしょうが」

 

 遺跡にはその価値がある。

 

 周辺にサクラダイト鉱山があるだけでなく古代技術のサルベージに必要不可欠なのだ。

 

 ワイヤードギアス、ギアス伝導回路、マッスルフレーミングシステム。

 

 全て遺跡の解析によって手に入った技術ばかり。

 

(実の処、もっと厄介な使い方もできるので相当危険なんですよ遺跡は。まあ中心点となる大出力の遺跡を含めた最低8つの連結起動を必要としますが)

 

 発動されたら碌な事にはならない。

 

 もしも6つ目を確保しようと動くときは、今度こそ二度目と成る対オセアニア全面戦争を覚悟しなければならず、頭の痛い事この上ない事であった。

 

(フレイヤ実験を成功させ保有したあの国相手に二度目の全面戦争は正直願い下げなのですがね)

 

 皇歴2002年と2004年、インド洋に於いてそれぞれ三度のフレイヤ実験を行い第三のフレイヤ保有国となったオセアニアとの戦争は極力避けたい。

 

 無いとは思うも遺跡獲得阻止の戦争と成ったときに苦し紛れに使わないとは言い切れないのだから。

 

(まさかフレイヤの独自開発までやらかしてくれるとは想定外でした。流石はエデンバイタル文明継承国なだけあって高い技術力をお持ちですね)

 

 日本は1940年代後半。ブリタニアは1950年代にはフレイヤ実験を成功させフレイヤ保有国となっていたが、とにかく基礎理論からして異なるこの世界のフレイヤ含む原子力関連技術を開発するのは容易なことではなく、現在フレイヤを独力で獲得したのは継承3国と2014年3月にサハラ砂漠にてフレイヤ実験を行い成功させたナチスユーロピアの4国のみに留まっていた。

 

 ナチスユーロピアがフレイヤ開発を成功させ獲得し得たのは、基礎理論が異なるとは言え日本と同じく原子力関連技術に精通した人間が居たからである。そう、かつて“別の世界で”成功させた彼等ならば時を掛ければ或いはという話しだ。

 

(本当なら天才ニーナ・アインシュタインが出て来るまでフレイヤ開発は極めて難しいのですが、よくもここまで独力での開発を可能とする勢力があったものです)

 

 別の世界線においてはあのブリタニアですらフレイヤの生みの親である天才少女ニーナ・アインシュタインの出現まで基礎研究の域を出ていなかったのだ。

 

 通常の原子力関連の知識を用いた技術ではどうなっているのか不明なるも核分裂を起こさないのがその原因だが、そんな複雑怪奇な代物ながら日本含めて4つの国が独自開発を成し遂げてしまった。

 

 日ブの原子力技術先進国においては既にフレイヤ炉搭載の原子力空母量産にまで進んでいるのだから技術の進歩状況が異常であるとしかいえない。

 

(基礎技術力が高いナナナ的な過去の歴史も関係しているのでしょうが、しかしナチスユーロピアまで追い付いてきたのは意外でした。まあ伍長閣下のプライドもあったのでしょうね。エデンバイタル継承国家のみに大きな顔をさせておくことだけは我慢ならないという対抗心から何が何でもと)

 

 ナチスユーロピアの件は別として、基礎技術力が別格に高いこの世界。技術を教えれば中華連邦は疎かイラクや東アフリカ等の地域大国でも現時点で作れる可能性はある。

 

 無論フレイヤ技術の拡散など許すつもりはない日本は、関連技術の管理には蟻一匹通さぬ厳重な体制を敷いていた。

 

 これについては同兵器の恐ろしさを知っているブリタニアやナチスユーロピアも同様だ。

 

(オセアニアが馬鹿な気を起こさないことを願いますよ)

 

 リミッターを外したフレイヤは日本が持つ最新式の弾頭で半径300km直系600kmの空間を球状に消滅させるだけの絶大なエネルギーを持っている。

 

 こんなものを撃ち合えば勝ちも負けもなく国ごと陸地が消滅し、世界が滅びてしまうだけだ。

 

 もしも民主ユーロピアに核技術の供与などを行えばナチスユーロに対し行使しかねない。

 

 ナチスユーロなら“あのヒトラー達”が居る限りは不用意に使ったりしないだろうが国防四十人委員会だけは何とも言えないのだ。

 

(フレイヤの撃ち合いで人類滅亡とか、映画や小説の中だけにしてもらいたいものです)

 

 

 

 *

 

 

 

「話が脱線してしまいましたが、よくもまあここまで日本の領域を広げに広げてくれた物ですよ」

 

 北は中央シベリアから南は史実フランス領ポリネシアまで。

 

「最後に辻閣下も携わられた第二次南太平洋戦争でまた拡大でしたからね」

 

 そう第二次南太平洋戦争で獲得した史実フランス領ポリネシアまでだ。

 

 第二次南太平洋戦争。

 

 1995年3月8日~98年7月10日まで行われた日本とオセアニアの戦争。

 

 合衆国オセアニアの傀儡国家──ニューギニア民主共和国=南ニューギニアの北進と、インドネシア・カリマンタン島に眠る古代遺跡の奪取を目論むオセアニアの野心から始まった同戦争は、当初継承国オセアニア対小国インドネシア・パプアニューギニアという構図であった。

 

 列強3位にしてエデンバイタル継承3国が一角、超大国オセアニアの侵攻を防げる中小国は存在しない。

 

 列強と渡り合えるのは列強だけであったが、継承国オセアニアと1国で真正面から相対可能なのは列強上位2国にして同じ継承国1位と2位の、共に超大国の名を冠する国、大日本帝国及び神聖ブリタニア帝国のみ。

 

 そのオセアニアと相対可能な1国である当の日本が96年4月より参戦したことで、第二次南太平洋戦争は日本対オセアニアという継承国同士の大規模戦争へとその様相を変えていく。

 

「あれも計算が狂ったのです」

 

 嶋田内閣の下で行われた彼の戦争では、最終的に勝利を収めた日本が一時オセアニアの占領下に置かれ、併合宣言までされたカリマンタン島のインドネシア領とスラウェシ島および周辺の島嶼地域。

 

 パプアニューギニア(ニューギニア島北部)更には旧大洋州連合域の全域を解放。

 

 第一次大戦後に行われた初の対外戦争における大きな戦果に繋がったのだが、ここでも予定になかったエリアを1つ併合する形と成ってしまったのだ。

 

「大洋州の併合は当初の予定に無かった物なので」

 

 第一次大戦以後の領土のみとは言え主権を回復した北インドネシアとパプアニューギニアは再独立を果たし、個別で日本との間に安全保障条約を結び事は落ち着いたかに見えた。

 

 だが、旧大洋州連合の大半の地域が独立するのではなく日本に組み込まれることを望んだのである。

 

 かつては独立国であったり他国領であった地域。独立自主権1国2制度の体制下で発展を遂げ大国の脅威から護られていた日本の各衛星エリア。

 

 大洋州の大半の地域はその状況を鑑み、独立を維持してオセアニアの脅威と相対するよりはと、かつてのフィリピン国民と同様のことを考えたのだ。

 

 そして過去のエリア併合時に行われた慣例通り住民投票が実施された結果。フィジー、ソロモン諸島、バヌアツ、の3国を除く国々が『エリア陸・大洋州』という形で日本の独立地方、衛星エリアとして再出発を果たしていた。

 

「本当ならあの地域は大洋州連合として再独立させ、パプアニューギニア、北インドネシアと共に衛星国という形でオセアニアへの防波堤としたかったのですが」

 

「思惑を外されたと?」

 

「外れも外れです。旧大洋州の大半は日本領に。フィジー、ソロモン諸島、バヌアツの3国は永世中立国『オーブ首長国連邦』となり此方の影響から外れる選択を取られてしまったのですから」

 

 オーブという新興国として独立を果たした3国は大国とは距離を置く永世中立を是としていた旧大洋州の理念を引き継ぐと第二次大戦後に定期的に開催されるようになった『主要国首脳会議』の場で宣言し、独立回復の功労者である日本の面目を潰している。

 

(主要国サミットは大日本帝国・神聖ブリタニア帝国・合衆国オセアニア・中華連邦・ユーロピア国家社会主義共和国連合がG5として主導する形と成っている)

 

「此方寄りの緩衝国として最低限の役割さえ果たしてくれれば別に文句はありませんが、武器を作らず・持たず・持ち込ませずをやられてしまいましたのでもしもの時はあっという間に大洋州へオセアニアの出島を作られてしまいかねません。オーブ側は永世中立・平和主義を貫くことが戦火にさらされてきた者としての未来へのメッセージであると仰ってますがそんな弱小国の甘い戯れ言は私……ああいや、この世界の常識から言って通用しませんし日本としても迷惑ですから」

 

「……なにかと上手く行かないものですな」

 

「まあとにもかくにも国土拡大など求めていなかった我が国が、はからずも南北ブリタニア大陸を平定した同盟国の、二度に渡って行われた拡張戦争の時のような大拡張を成し遂げてしまいました。日中日欧戦争後から続くサクラダイトの取引停止と国交断絶による経済封鎖措置への返礼として、先進技術及び地下資源を武力によって日本から奪おうと画策した欧州の腐れ委員会と中華の強盗宦官、インドの俗物行政官。彼等の示した強欲が回り回ってこの結果をもたらしたとは本当に皮肉な物ですね」

 

 衆愚政治を極めた腐敗の温床四十人委員会と贅を尽くすことに命をかける強欲な大宦官。宦官と結託して中華連邦を意のままに操っていたインドの行政官。国民をないがしろに己の利潤のみを追求し国を私物化する彼等の実にらしい過ちであった。

 

 過去の戦争から何も学ばず豊かな日本からただ奪おうとして、逆に国を追われたり領土と資源を奪われ続けるという自業自得で皮肉な結果に成ろうとは、予期せぬ事態であったに違いない。

 

(高天原派が中華連邦人やユーロピア人を“下等な新世代人種”と見下すわけです)

 

 後に始まる南北冷戦の切っ掛けとなったのもまた両国人が原因である為に尚更侮蔑意識は強くなっていた。

 

(幾度かにわたるアフリカ紛争、第二次南太平洋戦争、インドシナ戦争、中大紛争、イラク・中華ペルシャ間の中東紛争)

 

 1980年代より始まった一連の南北冷戦における武力衝突は元を正せば欧中の失策で勢力圏を伸ばしたオセアニアの野心が絡んでいる。

 

(直接的な武力侵攻を受けた上に何度も巻き込まれる側としては腸が煮えくりかえる思いですよまったく)

 

 

 

 *

 

 

 

 おまけ

 

 

 

「ところで澤崎さん。こちらの戦争についてはどうなってます?」

 

 溜息を付きながらすっと差し出したのは一枚の写真。

 

 そこには仲良く歩く初老の男と金髪の女性と桃色髪の女性が映し出されていた。

 

「あ、はあ……そちら、ですか……」

 

 澤崎は汗を垂らしながら写真に写る三人の人物を目にし、こっちの戦争も日本にとって重大事であるのを忘れていたと反省した。

 

 なにせこの金色の騎士と桃姫の戦争。推移によっては日本経済や商取引への影響がかなり大きく放置できない。

 

 実際にこの戦争では桃姫側の背後に日本の皇家が付き、更にはブリタニア皇家の7割が付いており。

 

 一方の騎士側勢力として日本の財界やブリタニア西海岸を始めとする貴族の連合と日ブ両国の軍関係者が付いている。

 

 おまけにアナゴというハンドルネームを持つ人物が騎士側の最大支援者となっていて日ブ間の有力者勢が真っ二つに割れているのだ。

 

 取り扱いを間違えれば大火傷必死な日ブ間の懸念事項の一つであった。

 

「率直に申し上げますが、一つ屋根の下で生活を共にしていらっしゃいます西海岸の騎士の方がリードしているかと思われる報告が多々寄せられています」

 

「騎士が一歩リードですか」

 

 騎士がリードしているのはまあ予想が付いていた。

 

 寝起きを共にし昼間を除けば一緒に過ごす機会が多いのだから当たり前だ。

 

「しかしそうなると我が国とは歴史的に繋がりの深いブリタニア皇家が黙ってませんし、かといって騎士を蔑ろにしては西海岸と揉める原因にもなりますし」

 

「ですがそこは彼の国のアナゴ氏が上手く調整してくださるのでは?」

 

「アナゴ氏では無理なんですよ。あの人はただ桃姫を嫁にやりたくないだけの個人的な意見で突っ走るのであまり当てに出来ません」

 

 頼りがいのありそうなアナゴ氏だが生憎合理性も何もなく感情だけで動く為に双方の支持勢力から相手にされてない。

 

「感情的と言えば日に日に悪化してますよ騎士も桃姫も」

 

「伺っております、先日桃姫に対し不敬な言葉を発した騎士が……その、ソフトクリームを桃姫の顔に……」

 

「子供の喧嘩ですね」

 

 18の桃姫に20の騎士。

 

 分別の付く年齢ながらこと初老の紳士を巡る戦争においては子供みたいな事をしている。

 

 未確認ながら掴み合いをしたとか、酔った勢いで騎士が紳士を押し倒して致してしまったとか、ショックを受けた桃姫も紳士に対し実力行使に出て朝まで……といった過激な噂まで出ていた。

 

「閣下……それはその、事実なのでしょうか……?」

 

 本当ならば重大事であると気が気ではない澤崎に対し辻が言い放ったのは非情な宣告であった。

 

「事実です。なにせ紳士と騎士を前に話しを振ってみたら取り乱してましたので」

 

「な、なんと……」

 

 澤崎は絶句するがまあわかる。

 

 二人とも、桃姫まで含めた三人共に国家の要人である。

 

 軽率すぎるだろうと突っ込みたくなったのだ。

 

 それと共に、どこからそんな話が出たのか? 

 

 知ったら知ったで胸に秘めておく事柄であると考えなかったのかと憤慨する。

 

「そ、そんな噂はどこから」

 

 なので聞いてみたわけだが。

 

「根も葉もない噂ですよ」

 

 辻の答えは何でもない唯のデマであるとの話しであった。

 

 ならばどうして事実なのかとなるも。事実は事実であるから仕方が無いわけだ。

 

「ですがその根も葉もない噂をぶつけてみたんです。そうしたらまさかの反応があったので。さすがに事が事でしたのでお二人には詳しく事情を伺ったのですが本当に酒の席の間違いであったらしく、紳士の側ではなく酒に弱い騎士の側が日頃からの桃姫と紳士の仲良い姿に溜まっていたストレスが爆発して──まあそういうことです。桃姫の件も泣き付かれてどうして騎士だけがなんて喚かれてまあ、抵抗できなかったと。抵抗も何もお二人ともそれなりの身体能力もありますからどちらにせよ紳士では抗えなかったのかも知れませんね」

 

 

 

 *

 

 

 

「紳士閣下の場合、同じ晩婚の歳の差婚でも山本閣下や南雲閣下の様にスムーズに事が運びませんな。揉めたときの影響の大きさもあって余計に」

 

「山本さんや南雲さんは相手が一人だったというのもあるでしょう」

 

 2019年は結婚の年と言えた。

 

 それは夢幻会顧問山本五十六と神聖ブリタニア帝国伯ヴェルガモン家息女リーライナ・ヴェルガモンの結婚。

 

 在ブリタニア日本大使館付き駐在官である南雲忠一とブリタニア帝国皇帝直属騎士ナイトオブラウンズ第4席ドロテア・エルンストの結婚と、大物同士による結婚が続いている為だ。

 

「そういえば澤崎さん。貴方もそうでしたね」

 

「は?」

 

「いえ結婚ですよ。されたではありませんか出来ちゃったの入籍を」

 

「~~~~!!」

 

 澤崎淳は絶句する。

 

 どうしてだ。

 

 何故だ。

 

 なんでこの方は知っているんだ。

 

 その顔は語っていた。

 

「いやあめでたい。貴方の家庭の不和に私も無関係ではありませんでしたのでお見合い相手を探していたのですが肩の荷が下りました」

 

 澤崎は2014年のナチスユーロピアによるフレイヤ実験で世界に衝撃が走っていたのと同月に協議離婚を迎えていた。

 

 死にそうな顔でナチスのフレイヤ実験に対する国会答弁をしていたのは、フレイヤの脅威の拡散が原因ではなく自身の離婚が原因だったのだ。

 

「我々会合の丁っ……失礼、連絡員を貴方に一本化した為に仕事量が倍増し家庭を疎かにさせてしまいました。そのことに付いては返す返すも申し訳ありませんでした」

 

 席を立ち頭を下げる辻。彼は彼なりに澤崎の家庭を崩壊させてしまった事に対しての責任を感じていたのだ。

 

「お、お顔を上げてくださいっ、恐れ多くも夢幻会会合メンバーであらせられる辻閣下が私のような一閣僚如きにっ」

 

「いえいえ、貴方を任命したのは私ですし、それに──」

 

 

 

 “これからも頑張って貰うのですから頭を下げさせてください”

 

 

 

 やんごとなき夢幻会の指導層辻の突然の謝罪に慌てた澤崎であったが続く言葉にその本当の意味を知る。

 

 これからもよろしくという意味だったことを。

 

 

 

 *

 

 

 

 澤崎淳、彼は心の中で嘆く。

 

(ああ、前妻に続きお前とまで離婚する可能性が今この瞬間見えてしまった……直美)

 

 つい先日己が愛妻となったばかりの飲み友達。女にしては背が高く、活動的なラフなTシャツとジーンズを着こなした──澤崎直美(旧姓・井上)の顔を思い浮かべながら。

 

 会合の連絡員として本業の政治以外にも様々な仕事をこなしながら馬車馬の如く働いてきた彼は、それが故に家庭が崩壊し精神的にボロボロとなっていた頃。

 

 そのエリート思考で政敵を蹴落としてのし上がってきた事が災いして友達も少ない彼は、行き付けのBARでの飲み友達であった直美に癒しを求めて良く悩みを打ち明けていた。

 

 自分と住む世界が違う一般人。関わるのが酒の席だけということで素の自分で付き合える彼女とは良好な関係を築く事ができ、いつしか夜を共に過ごす仲へと進み行く。

 

 行きずりの関係ではあったが、互いの身の上を相談し合い、時に助け、時に助けられ。確かな信頼関係で結ばれていたのだ。

 

 もう恋に現を抜かす年ではなく、外的要因こそあれ自ら選んだ仕事によって一度離婚を経験していた為にあくまで酒の席から寂しい夜を共にする、そんな付かず離れずの関係に落ち着いていた。

 

 一方で彼女の方はどうだったかといえば『お偉い政治家先生の癖にいつも一生懸命な姿を観てるとなんか放っておけなくて慰めてあげたくなるのよ』『普段人前では堂々として物怖じしない強気一辺倒で悪党みたいな面構えしてる癖に私といる時や一人の時は小心者。自分よりも強い者の前でもやっぱり小心者。だけど文句言わずに働いて、リーダーとしての素質はないけど二番手で支える素質はピカイチ……嫌いじゃないわよ。そういうの』といった感じでけして悪くは思われていないようで。そんなこんなで続いた出逢って三年目となる記念にロマネで祝杯を挙げたその夜。

 

『子供が……できたの……』

 

 突然の告白であった。

 

 吐き気を催す体調不良を訴えて病院を受診した際に発覚したという。

 

『淳に迷惑は掛けられないから一人で生んで育てるわ』

 

 政治家という仕事はハード。真面目にやっていればこそ言えるその体現者たるあなたの邪魔にはなりたくないからと別れを告げられたのだ。

 

 それに余計な気を遣わせたくないからともう二度と連絡を取らないようにしようとも。

 

 だがしかし。

 

 彼女に対して澤崎は言った。

 

『責任を取らせてくれっ! 君が、君さえ良いというならば私が責任を取る為の機会を与えてくれっ!』

 

 行きずりとは言え肉体関係まで持ち、それでも今まで良好にやってきた仲。

 

 一時の快楽や慰め、癒しの為だけに彼女を求め、その上で子供が出来たから別れる等という恥知らずな事はできない。

 

 それに女一人に対する責任が取れなくて国民総ての代表者として国家の責任を担うべき政治家など勤まるものか。

 

 ましてや直美との仲はそんな薄情に切り捨て、また切り捨てられるような間柄ではない。だからこそ彼は責任を取りたかった。

 

『直美、君と君のお腹の子を、私に……俺に養わせてほしい。君さえ嫌でなければ、こんな離婚経験者の男失格者でもいいなら俺と……』

 

『淳……』

 

 そんな彼に、直美は静かに寄り添い頬を擦り寄せる。

 

 彼女の身体から漂う甘い香りはいつもと同じであったが、その時ばかりはその香りに妙な緊張感があった。

 

『淳……あなたって、さ……』

 

 

 

 

 

 

 

 最高に良い男よ──。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

(直美、お前にまで三行半を突き付けられたら私はもう)

 

 出逢いから入籍までの事をさっと思い出していた澤崎は、ひょっとしたら将来的に有り得るかも知れない二度目の離婚に薄ら寒くなった。

 

 一度目でも「やっていけない」と捨てられたとき、「鬱だ死のう」をやり掛けたというのに、今度離婚となったらもう確実に廃人である。

 

「澤崎さんどうしました?」

 

「は!? ああ……あの、何でもありません……」

 

「そうですか? 随分お顔の色が優れないようですが?」

 

「ほ、本当に大丈夫です」

 

 大丈夫ではなかった。

 

 つい先程のこれからも宜しくな辻の一言でまた何百何千の毛根が死滅した筈だ。

 

「ふふふ、ご安心ください。以前の二の舞とならぬよう私も仕事量はきちんと調整させて頂きますので。もうすぐお生まれになるお子さんのこともありますし直美さんと離婚する様な事にはさせませんよ。それに彼女は貴方の今までの苦労を御存じなのでしょう? その上で一緒になられたのですから貴方が捨てられる事はない筈です」

 

「は、はあ、それならばいいので……。────―は?」

 

「なにか?」

 

「い、いえ……、なにも、御座いません……ッ」

 

 この時、彼は気付いた。知らないはずの事を知られている事実に。

 

(この人どうして直美との馴れ初めや誰にも伝えてない直美の名前とか知ってるんだっ?!)

 

 知らないはずの妻の名と妻と自分だけが知る馴れ初め。

 

 なぜかそれらを知っている辻政信という男に戦慄を覚えた澤崎淳。

 

 彼の受難はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この短編のみの物としての設定

 

 

 

 

 

※エデンバイタル継承3国

 

 遥か太古の超文明エデンバイタルが分裂した国、高天原、アヴァロン、レムリアの正統継承国家。

 

 科学技術力。文明発展速度。歴史の長さ等々その他の国家とは異なり古代文明が保持していた超技術の一部を復活させている。

 

 ブリタニアを20とした場合、日本が17、オセアニアが15とそれぞれ1対1で正面からぶつかることを避けたい国力比となっており近年になってギアス伝導回路、マッスルフレーミングシステムなどの継承国独自の技術を開発。

 

 その他、コード、ギアス、ワイヤードギアス、遺跡など数多くの超技術や新世代の通常技術を操り有史以降の国々を圧倒している。

 

 3国共に極端な思想の中には古代人種=優勢種・人類。

 

 新世代人種=劣等種・類人猿・擬人といった、自分達人間と自分達以外の人間に似た別の生物という差別的意識があり一部で問題化している。

 

 特にオセアニア人はその傾向が強く、古代人種以外をそれぞれ白色擬人・黒色擬人・黄色擬人、または猿と呼称して差別し『管理』が必要であると考えている。

 

 力比

 

 継承3国

 

 大日本帝国=17

 

 フレイヤ保有国。

 

 現有の主力KMFはサクラダイトを用いる合成繊維によって形成されたギアス伝導回路と、合成樹脂と電動シェルの芯を同繊維で覆ったマッスルフレーミングを搭載した第7世代機。

 

 および同世代通常型機+第5世代後期機。特殊機としてギアス伝導回路+マッスルフレーミングシステム搭載のエナジーウィング機である第9世代KMFがある。

 

 

 

 神聖ブリタニア帝国=20

 

 フレイヤ保有国。

 

 通常型とギアス伝導回路システム搭載型の第7世代ヴィンセント。

 

 ギアス伝導回路システム+エナジーウィング搭載第9世代KMFランスロット・アルビオンなど、その他の特殊機としてマークネモ等日本と並び数多くの最新型KMFを開発・保有。

 

 

 

 合衆国オセアニア=15

 

 フレイヤ保有国。

 

 日ブに遅れてはいる物のギアス伝導回路とマッスルフレーミングシステム機の開発に成功。配備を始めている。

 

 絶対正義を理念に掲げる原始民主制体制。南側諸国盟主。

 

(拙作の「帝都の休日」や「楽隠居と円卓の少女」シリーズのオセアニアとは全く別の国です)

 

 

 

 ユーロピア国家社会主義共和国連合(ナチスユーロピア)=7

 

 フレイヤ保有国。

 

 1980年代に国家社会主義ユーロピア労働者党、ユーロピアファシスト党の2政党を率いるアドルフ・ヒトラー、ベニート・アミルカレ・アンドレア・ムッソリーニが起こした国家社会主義革命によって成立した欧州圏の正統継承国。

 

 政権奪取当初から、国交が断絶し冷え込んでいた日本との関係改善を模索して外交官を派遣、関係改善と国交正常化を達成。旧E.U.圏の再統一を目指している。

 

 2014年3月にフレイヤ実験を実施、成功を収め第4のフレイヤ保有国と成る。

 

 KMFは2019年現在第7世代通常型を配備しているところだが、古代文明継承国ではないためギアス伝導回路・マッスルフレーミングシステムの開発に苦慮。

 

 

 

 中華連邦=5

 

 日中、第一次大戦とエデンバイタル文明継承国第2位の日本との二度にわたる戦争にて敗北を喫し、代表国中華帝国と主要国インドの国力が大きく減退。

 

 続くインドシナ戦争に於いてバングラデシュ・インド東部・ビルマ軍区・雲南省全域と広西壮族自治区の一部をオセアニアに占領されたまま停戦。

 

 エデンバイタル継承国と対峙する為には同じエデンバイタル継承国の力が必要であるとして、オセアニアと敵対する日本・ブリタニアとの協力関係構築に向け協議中。

 

 

 

 E.U.ユーロピア共和国連合=4

 

 国家社会主義革命によって欧州を追われた国防四十人委員会と民主勢力が中央アフリカ以南及びロシアを確保した国。

 

 オセアニアや東アフリカ等南側諸国の援助によって力を付けつつ、欧州奪還を狙っている。

 

 

 

※インドシナ戦争:2010年8月10日~2012年3月20日。停戦。

 

 南北冷戦における戦争の一つ。

 

 合衆国オセアニアと合衆国インドシナ及びインドネシア民主共和国(南インドネシア)3国軍による中華連邦侵攻と、その後の武力衝突。

 

 合衆国インドシナとビルマ間の国境争いに自国の目的であるビルマ遺跡と、更にはペルシャ遺跡の確保までをも目指したオセアニアが介入し、中華帝国軍、およびインド軍との本格的な武力衝突へと発展。

 

 中華帝国とインドは共に主要都市へ通常弾頭の弾道ミサイルを撃ち込まれた上に、第一次大戦時の経験から日ブ・オセアニアといった列強上位に位置する古代人国家との全面戦争を恐れ迅速な対応が取れず後手に回っている。

 

 基礎的な兵器の技術格差と、更にオセアニアの新型陸上兵器第5世代KMFの投入によってインドシナでの戦線が崩壊。

 

 2年半に及ぶ攻防の末にバングラデシュ・インド東部・ビルマ軍区・雲南省全域と広西壮族自治区の一部までを占領されたまま中華連邦側は停戦を余儀なくされている。

 

 オセアニアの目的が中華が抱えるビルマ遺跡とペルシャ遺跡にあることを感知していた日ブはこれ以上の同国の拡大を阻止する目的で批難声明を出し、大日本帝国連合艦隊やブリタニア太平洋艦隊を南シナ海・東南アジア方面へと展開。

 

 加えてユーロピア共和国連合と対立している『ユーロピア国家社会主義共和国連合』『シーランド王国』等の欧州諸国も継承2国とは個別に国防四十人委員会の後援国オセアニアを批難。

 

 国際的な包囲網を構築していったが、遺跡の存在するビルマとペルシャを手に入れるまでは引き下がるつもりのなかったオセアニア大統領府は徹底無視の姿勢を明確にし、「万が一にも中華と無関係の第三国が我が国と盟邦の領土紛争に対し武力介入の姿勢を示したときは『レムリア条約機構軍=南側諸国の安全保障条約』の全軍を持って総反撃に転ずると警告」

 

 第三次世界大戦への発展を示唆し他国、特に日ブに対してはフレイヤ弾頭搭載の弾道ミサイル使用を示唆し牽制する動きを見せた。

 

 これに対してミサイル防衛システム等の防御機構を充実させている両国はあくまでも戦線の拡大に対し引かず、万が一の時は『太平洋条約機構』による全面介入を含めた『あらゆる手段の行使も有り得る』とこちらもフレイヤ使用に対する含みを持たせたことで最終的には停戦させることに成功。

 

 オセアニアの第二目標であったペルシャ遺跡獲得の為にイラクへ集結させていたレムリア条約機構軍によるペルシャ侵攻作戦を中止に追い込んでいる。

 

 

 

 

 

 交戦国

 

 中華連邦

 

 合衆国オセアニア

 

 合衆国インドシナ(タイ・マレー半島・シンガポールの連合国家)

 

 インドネシア民主共和国

 

 中華連邦寄り中立国

 

 大日本帝国

 

 神聖ブリタニア帝国

 

 ユーロピア国家社会主義共和国連合

 

 シーランド王国

 

 インドネシア共和国

 

 パプアニューギニア独立国

 

 マレーシア(北カリマンタン)

 

 ブルネイ王国

 

 ベトナム帝国

 

 カンボジア王国

 

 ラオス共和国

 

 クウェート王国

 

 

 

 オセアニア側中立国

 

 ユーロピア共和国連合(中央アフリカ以南・ロシア、首都は南アフリカプレトリア)

 

 合衆国東アフリカ

 

 イエメン民主共和国

 

 民主主義オマーン共和国

 

 民主主義エチオピア共和国

 

 ジブチ民主国

 

 エリトリア民主共和国

 

 ティモール民国

 

 ニューギニア民主共和国

 

 大高麗民主国=高麗亡命政府

 

 イラク社会主義共和国

 

 ヨルダン人民共和国

 

 シリア民主主義人民共和国

 

 サウジアラビア社会主義共和国連邦(サウジ・バーレーン・カタール・アラブ首長国連邦)

 

 

 

 太平洋条約機構

 

 大日本帝国・神聖ブリタニア帝国を中核とした北側諸国による主に南側諸国を念頭に置いた集団安全保障機構。

 

 加盟国は日ブ両国とその友好国および影響国。

 

 大日本帝国

 

 神聖ブリタニア帝国

 

 シーランド王国

 

 インドネシア共和国(北インドネシア)

 

 パプアニューギニア独立国(北ニューギニア)

 

 マレーシア(北カリマンタン)

 

 ブルネイ王国

 

 ベトナム帝国

 

 カンボジア王国

 

 ラオス共和国

 

 クウェート王国

 

 

 

 レムリア条約機構

 

 太古の超文明エデンバイタル分裂国が一角にして旧世界を支配していた3大超大国の一つ『レムリア』の名を冠する南側諸国の集団安全保障機構。

 

 加盟国は中核である合衆国オセアニア・ユーロピア共和国連合を始めとする南側諸国および南側諸国と同盟関係にある共産圏。

 

 合衆国オセアニア

 

 E.U.ユーロピア共和国連合

 

 合衆国東アフリカ

 

 イエメン民主共和国

 

 民主主義オマーン共和国

 

 民主主義エチオピア共和国

 

 ジブチ民主国

 

 エリトリア民主共和国

 

 合衆国インドシナ

 

 インドネシア民主共和国

 

 ティモール民国

 

 ニューギニア民主共和国

 

 大高麗民主国=高麗亡命政府

 

 イラク社会主義共和国

 

 ヨルダン人民共和国

 

 シリア民主主義人民共和国

 

 サウジアラビア社会主義共和国連邦(サウジ・バーレーン・カタール・アラブ首長国連邦)

 

 




このネタは蒼の混沌様の憂鬱ギアススレで話されていたナナナ談義を見て、もしもナナナ並の技術力を持った超大国日本が存在していたら?をコンセプトに書いた話です。
その都合上とにかく『僕の考えた最強日本』となってしまいました。


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楽隠居?と円卓の少女外伝 ブリタニアの勘違いした田舎男爵シリーズ
勘違いした田舎者


こちらは拙作【円卓の少女】シリーズの小ネタの一つで、オリジナルの田舎者貴族が自分の地位を笠に着て威張り散らすお話しとなります。
原作のナンバーズ差別を肯定するブリタニア貴族みたいな人物の話です。
蒼の混沌掲示板様投稿分から加筆修正しております。



 

 

 

 

 勘違いした田舎者

 

 

 

 

 

 神聖ブリタニア帝国。

 

 北はアラスカ・グリーンランド・アイルランドから、南は中米・カリブ・コロンビア、更にはサウスジョージア島やフォークランド諸島といった南ブリタニア大陸の外れに位置する離島。

 

 西はハワイ、ミッドウェーなどの太平洋諸地域を領土とし、凡そ2580万㎞2の陸地面積と、総人口13億人を数える世界最大の超大国である。

 

 ブリタニアの正史を記した『ブリタニア年代記』によれば、今から2019年前にローマ帝国のユリウス・カエサルが当時はヨーロッパにあったブリタニアへの侵攻を試みた際、頑強に抵抗した一ケルト部族の王が勝利した年を皇歴元年と定め、そのケルト部族の王、ブリタニア皇家始祖アルウィン一世が建国したとされている。

 

 絶対君主制・貴族制を敷く帝政国家であり、日本と同盟を結ぶまではほぼ一国主義的政策を採り続けてきた経緯を持つ、他の追随を許さない大帝国。

 

 自国領土より採れる豊かな鉱物資源と肥沃な大地よりもたらされる自然の恵み。皇族から平民に至るまでの高い教育水準、それらが合わさる事で実現した巨大な国力。

 

 いつしか“力のブリタニア”という二つ名で呼ばれるようになったこの国のある辺境に、ロズベルトという貴族が住んでいた。

 

 男爵の爵位を持つロズベルトは自分が選ばれた民だと思っていた。自分は武勲侯や騎士侯などの一代限りの貴族ではない本物の貴族であり、平民共とは違う選ばれし存在であると。

 

 

 

 ***

 

 

 

 俺の名はロズベルト。聞いて驚け、俺は男爵位を持つ正式な貴族だ。武勲侯とか騎士侯みたいな一代限りの下級貴族じゃあないぞ? 先祖代々世襲する、いわゆる上級貴族というやつだ。

 

 お前達平民から見れば雲の上のような存在だな。

 

 無論、自分の領地だって持っているぞ? 10㎞2にも及ぶ広大な領地に、1500人の領民が住んでいる。

 

 周辺地域には他にも男爵位を持つ貴族が住んでいたが、皆数十人~数百人規模の領民家臣しか持っていない弱小貴族ばかりだ。

 

 それに、同じ男爵でも俺は子爵相当の権限を持っている為、他の連中と比較すること自体が間違っているのだ。

 

 同盟国である日本の名家、米内家とも懇意にしている。当代当主の米内光政卿とは“ミツマサ”“フランク”と呼び合うほどの仲。

 

 まあ分かりやすい言葉で表すなら大貴族に相当する訳だ。

 

 本来ならばお前達平民が口を利いて良いような存在ではないが、寛大なる俺は例え卑しく下賤な平民と言えど、最低限度には口を利いてやるようにしている。

 

 そんな大貴族である俺はいま、帝都ペンドラゴンの大通りを歩いていた。

 

 今夜ペンドラゴンのあるホテルで男爵、子爵という大貴族ばかりが参加する舞踏会が開かれるのだ。

 

 無論、大貴族たる俺にも招待状が届き、参加する運びとなったのは言うまでもない。

 

 弱小貴族共や、武勲侯・騎士侯などの下級貴族には分からんだろうが、俺ほどの大貴族になれば色々と付き合いが多くて大変なのだよ。

 

 生まれが高貴すぎるというのも楽な物じゃない。

 

「きゃッ!」

 

「おっと」

 

 ちっ、お前と話をしてたら10歳くらいの平民少女とぶつかってしまったではないか。

 

「ちっ、泥臭い平民が」

 

 あ~臭くて適わん、平民臭というのか? とにかく貧乏人特有の臭いと気配がして汚らわしい事この上ない。

 

 俺の服にこの平民臭が付いてしまったらどうしてくれるのだ。

 

「何処を見て歩いているんだ?」

 

「は、い……っ、ご、ごめんなさっ」

 

 気分よく歩いているところを小汚い平民にぶつかられたら、腹が立つのも無理ないと思わないか? 

 

「謝って済むとでも思っているのか? 貴族たる俺が道を歩いているんだ。お前達平民は左右に分かれて道を空けるのが作法であり習わしという物だろう」

 

 なぜそんな当たり前の常識が分からないのだ。

 

「も、申し訳御座いませんっ、お許し下さいっ……!」

 

 苛ついた気分が声に出てしまったようで、此方の気分を察したのか、平民少女は怯えながら涙声で謝罪してくる。

 

「ふんっ」

 

 まあいい。俺は大貴族であり寛大な男。如何に相手が下賤な平民と言えど、ここまで反省の態度を取っている以上は許してやらんでもない。

 

 ただ、今後のためにも多少の教育はしておく必要がありそうだな。そう思って声を掛けようとしたら。

 

「なにをしているのですかっ!」

 

 通りを歩いていた女に怒鳴られた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「こんな小さな女児を泣かせたりして……恥ずかしくないのですかっ」

 

 なんだこの無礼な女は? 

 

 怒鳴りつけてきたのは前髪を切り揃えた長い金髪の女で、髪の毛には赤いリボンをくるくる巻き付けている。

 

 実にセンスのない女だな。思わず日本の理髪店で見られる青・赤・白の螺旋模様が回転する看板を思い出してしまったではないか。

 

「民の上に立ち手本と成るべき貴族がこの様な往来にて声を張り上げ立場の弱き者を脅しつけるなどっ……恥を知りなさいっ!」

 

 丁寧な口調だが着ている服はドレスなどではなく白いワンピース。

 

 察するに下級貴族の娘といったところだろうか? 

 

「ふん、その平民の子供が貴族である俺にぶつかってきたのだ。つまりその子供が悪い」

 

「大の大人が子供を脅かしている事の方が余程罪深きことです。それに、先程よりこの子は謝っているではありませんか。反省し謝罪する者、それも小さな子供の無礼一つを、なぜ許して差し上げる事が出来ないのです?」

 

 ずいぶんな口を聞いてくれるじゃないか、ええ? 大貴族であるこの俺に対し下級貴族風情が。

 

「貴様……、よもやこの俺をフランク・ロズベルト男爵と知ってのその口の聞き方ではあるまいな?」

 

 知っている上でなら容赦はせんぞ。下級貴族風情の家を取りつぶすなど造作もないこと。

 

 明日には一家離散。いや、不敬罪で告発すればその首が飛ぶことになるのだからな。

 

 くいっ──。

 

「んっ?」

 

 無礼な下級貴族の小娘をどう処罰すべきかを考えていた俺の袖を従者に引っ張られた。

 

「だ、男爵様……っ! この場はどうか……っ!」

 

 顔色の悪い従者はどうも目上の者であるこの俺が矛を収めるべきだとの態度で迫ってくる。

 

「ふむ」

 

 確かにお前の言うように大貴族たる俺が、下級貴族や平民相手に少々大人気ないかも知れん。

 

(大貴族としての品位にも拘わるか……)

 

 わかった。此処はこの場はこの俺が引いてやることにしよう。

 

「まあいいだろう、貴様──」

 

「モニカ・クルシェフスキーです」

 

 モニカ・クルシェフスキー? 聞いた事無いな。どこの田舎者だ? 

 

 まあ下級貴族の名前など覚えている価値もないが。

 

「ではクルシェフスキー。貴様も口の聞き方には気を付けろよ? 寛大な俺だからこそ、この程度で許してやるのだからな」

 

 俺でなければ子供は元より、お前の首も飛んでいたぞ? 

 

 下級貴族が大貴族たるこの俺に対して、ここまで無礼な口の聞き方をしているのだからな。

 

「あなたもむやみに己が権力を振り回すのはお止めなさい。此処帝都ペンドラゴンは日本は勿論のこと、友好国や同盟国の人々が多数訪れる我が国が誇る世界有数の都なのです。その都の往来にて我が国の政(まつりごと)を担う貴族の品格を貶めるような行為は慎むべきでしょう。この場は不問に致しますが、今後同様の行いを目にした時には看過出来ませんよ?」

 

 こうして許してやろうというのにも拘わらず、まだ減らず口を叩いてくるのだから。

 

 騎士侯のような下級貴族というものは育ちが知れるというものだ。

 

「ふん、騎士侯風情が……」

 

 俺は平民の子供と下級貴族を一瞥してから歩き出した。

 

 育ちの悪い連中と関わっていては此方まで穢れが移ってしまいかねんからな。

 

 

 

 *

 

 

 

「男爵様……」

 

「なんだ貴様。まだ何事かの注文を付けようとでもいうのか?」

 

「い、いえ、そうではありません……」

 

 よく我慢なされました──従者は顔面を蒼白にさせてこの俺の判断を讃えてくる。

 

 ふん、俺はあんな下級貴族相手に本気になるような小物ではないからな。

 

「し、正直、生きた心地が……」

 

「ハハハっ。なんだ貴様。まさか貴様にまで俺の怒りが飛び火するとでも思っていたか?」

 

「……っ」

 

 大体お前は小心に過ぎる。あんな騎士侯風情との小競り合い程度でなにを萎縮しているのだ。

 

 平民とは言え俺の従者ならもっと堂々としていろ。

 

「それにしても……クルシェフスキーだったか?」

 

「は、はい……く、クルシェフスキー卿に御座います……っ」

 

 あの下級貴族。とても高位の貴族に対して取る口の聞き方とは思えんな。

 

「礼儀を知らん女だ。平民上がりなのだろうが」

 

「っっ──!?」

 

「どうした?」

 

「い、いいえ、……は、早く、早く立ち去りましょうっっ」

 

「言われんでも急ぐさ。パーティに遅れてしまってはロズベルト男爵家の沽券に関わる」

 

 

 

 下級貴族の小娘め。今度会うようなことがあれば、俺自ら貴族のいろはを教えてやらねばならんようだ。

 

 

 

「まったく、勘違いした田舎者はこれだから困る」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 ロズベルト男爵家。

 

 カンザスの端の端にある10㎞2の領地と1500人の領民を持つ下級貴族。

 

 

 

 クルシェフスキー侯爵家。

 

 北ブリタニア大陸西海岸に位置し、約44万㎞2の領地と1200万人の領民を持つ域内総人口2000万人超。

 

 領地南部(オレゴン)領地北部(ワシントン) を治め。

 

 陸海空3軍10万名の騎士団を持つ。

 

 盟邦大日本帝国とも非常に縁の深い貴族領であり、歴代クルシェフスキー侯爵は帝国の要職に付いていることでも知られていたブリタニア有数の大諸侯。

 

 次期当主の名はモニカ・クルシェフスキー。

 

 現98代帝シャルルの12の剣の一振り、ナイトオブトゥエルブの称号を戴く騎士。

 

 事実を与り知らぬはただ一人の田舎者。

 

 後に愚者として扱われる事となる男は、脅え竦む従者を伴い意気揚々と歩き出す。

 

 帝都にて開かれる下級貴族のパーティ会場を目指して……。

 

 




世間を知らないという事の怖さですね。


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勘違いした田舎者その2

最初期に一回きりのキャラとして出したバカ男爵がスレ内において受けが良く、リレー的に書いてくださる方が居られたことから書いた彼の日本編だったりします。
時系列などは特に気にせず書いたものですが、若干の加筆修正を加えてあります。
尚、山本五十六×リーライナ・ヴェルガモンのカップリング話なので、年齢差を苦手とする方は御注意ください。

注:リーライナの言葉遣い発覚後の加筆修正となりますので既読の方には違和感があるかも知れません。
注:【円卓の少女】シリーズにおける出来事となっております。



 

 

 

 

 勘違いした田舎者その2

 

 

 

 

 

 俺の名はロズベルト。聞いて驚け、世界最大の超大国──神聖ブリタニア帝国の男爵位を持つ所謂大貴族だ。武勲侯・騎士侯みたいな一代限りの下級貴族じゃあないぞ? 先祖代々世襲する上級貴族というやつだ。

 

 

 

 さて、そんな大貴族な俺には上流階級の付き合いという物があって、時には外国にまで脚を運ぶ必要に迫られる時がある。

 

 正に今がその時な訳で、俺は祖国ブリタニアの唯一の同盟国である、大日本帝国は帝都東京を訪れていた。

 

 この国は“技術”の二つ名を持った世界第二位の大国である。ブリタニアと並び超大国とも呼ばれている。

 

 実際、国力面では我が国の方が上なのだが、技術面は半歩先を歩いているのだから大した物だと思うし、流石は我がブリタニアが同盟を結ぶに相応しい国であると常々思っていた。

 

 そして大貴族な俺は、この国の名士と友人関係だったりするのだ。ま、当たり前の話なのだが。

 

 米内光政卿。

 

 誰しも一度は聞いたことがあると思うが、日本の名家米内家の現当主殿である。

 

 その米内卿と俺は“ミツマサ”“フランク”と呼び合うほどの親しい仲、俗に言うマブダチなのだ。

 

 これだけを聞いてもお前たち平民との違い、圧倒的なまでの差というものがあると分かるだろう? 

 

 それとも、あまりに凄すぎて想像すらできんか? 

 

 だとしたら、意地悪な事を言ってしまったな。尊き貴族にあるまじき失言であったわ。

 

 え? なんだ? 前見ろだと? 

 

 貴様、従者の分際でなんたる口の聞き方をするのだ! 

 

 前から歩いてくる奴は俺を避ける。そんなのは万国共通というものだろう! 

 

 如何に外国であろうとも、その程度は一般常識として教育されている筈だ。

 

 “ドンっ! ”

 

「うおっ!?」

 

 何?! このロズベルト男爵様が歩いているというのに避けなかっただとっ!! 

 

 バカなっ! 日本は貴族にどう対応するか教育していないのか!? むう、やはり外国、我が国の常識とは多少違いがあるようだ。

 

 これは勉強不足であった。

 

「ご、ごめんなさいっ、急いでいたもので」

 

 しかし、この無礼者──春物のラフな服装の長い金髪の女は見るからに日本人ではなくブリタニア人ではないかっ!? 

 

 しかも急いでいたから俺に気付かずぶつかったというのだから信じられん。

 

 ブリタニア人であるならば話は別だ。

 

 何故ならば、この者はこのロズベルト男爵に無礼を働いた時点で、ブリタニアの法によって裁かれる立場に立たされた訳なのだから。

 

 だが、ブリタニアからの帰化人も多い日本には、総人口の10%近いブリタニア系日本人というのが存在しているのもまた確か。

 

 だから一応確認する。この者がブリタニア系日本人ならば、ブリタニアの法を適用する訳にもいかんからな。

 

「貴様、貴様はブリタニア人か?」

 

「そうですけれど……」

 

 よし、確定だ。だが、貴族という可能性もある。俺と同じような大貴族ならば手打ちにしてやってもよかろう。

 

「貴族か?」

 

「一応は」

 

 むっ? 貴族か。むう、ならば次は爵位だな。

 

「爵位は?」

 

「なぜそのようなことをお尋ねなさるのですか?」

 

「いいから言え」

 

「ナイト、ですわ……」

 

 騎士、騎士侯か……。ふ、ふはは、なんだまた下級貴族ではないか。焦って損したぞ。

 

 よし、ならばもう遠慮する必要は無さそうだ。

 

「貴様、この俺をロズベルト男爵家当主と知ってのその振る舞いかっ!!」

 

「あなた……ブリタニアの貴族?」

 

 怪訝な、人を疑うような目をして聞いてくる女。

 

 何だその目は? この俺の言葉を疑いでもしておるのか? 

 

「大貴族ロズベルト男爵家当主、フランク・ロズベルトを知らんのか?」

 

「知りませんわ……どこの何方なのかしら」

 

 知らんだと!? まあ、騎士侯風情では仕方が無いとも言えるが、本国ではないからと言って調子に乗っているのではあるまいな? 

 

 大体なんだ、その口の聞き方は? 俺が身分を明かしてから急にため口で喋り出すなど何たる非礼か。

 

 下級貴族が上級貴族たるこの俺に無礼を働くなど不敬にも程がある! 

 

「おのれっ! この大貴族ロズベルト男爵様に向かって何たる口の聞き方かっ! 名を名乗れいっ!」

 

「あ~もうっ、うるさいですわねっ。 わたくしはリーライナっ、リーライナ・ヴェルガモンですわっ!」

 

 悪びれもせずに大声で名乗った女ヴェルガモン。

 

 ヴェルガモン家? 聞いた事のない名前だ。やはり一代限りの騎士侯風情のようだな。

 

 それもこの俺の名を知らんとは、余程辺鄙な片田舎出身の弱小貴族と見える。

 

「ではヴェルガモン」

 

「なんですの? いきなり人のことを呼び捨てになされるなんて失礼な」

 

 どこの貴族だとか教養がないとか、それ以前に常識がなってないとか好き勝手なことばかり言い出す下級貴族ヴェルガモン。

 

 くそ、騎士侯風情が上級貴族に対しこのような態度を取ろうとは、厳格な階級社会で成り立っておるブリタニアにとって由々しき事態だ。

 

 ここはまず、上位貴族に対する態度や口の聞き方から教育してやらねばならん。

 

「ヴェルガモン。貴様がどこの勘違いした田舎者か知らんが、貴様にはまず正しい貴族としての──」

 

 教育をしてやろうとしたら、いきなり従者が俺の袖を引っ張ってきた。

 

 こら離せ、俺は今この騎士侯ヴェルガモンに上級貴族に対する接し方というのをだな──

 

「だ、男爵様っっ……!」

 

 なに? 米内卿を待たせていても良いのかだと? 

 

「……」

 

 は! いかんいかん、そうであったわ。

 

 こんな下級貴族の勘違いした田舎者を相手にしている場合ではなかった。

 

「まあいい、今日のところは不問にしてやろう。だが、次からは上位者に対しての口の聞き方を間違えんようにしろ。いいな?」

 

 おいこら、そんなに袖を引っ張るな! 服が伸びるだろうが! お前の着ている服みたいに安物じゃないんだぞっ!! 

 

 何でそんな危険から逃げるみたいに必死なんだお前はっ! 

 

 ええいいい加減にせんかっ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なによ……あれ……」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「いっくんお待たせ」

 

「おお、やっと来たか。ずいぶん遅いから心配していたのだが、何かあったのか?」

 

「うん、途中で変なのに絡まれてね」

 

「変なの?」

 

「俺は大貴族ロズベルト男爵だぁっ! 騎士侯風情が無礼だぁっ! とか言われて」

 

「なんだそれは? ブリタニアでは男爵が大貴族だったりするのか?」

 

 リーライナの話を聞いた壮年の男いっくんは、思わず聞き返していた。

 

 まあ、男爵で大貴族と言われれば、そんな反応をするのが普通というものかも知れない。

 

「まさか。男爵は単純に上下で言えば下から数えた方が早いわよ。男・子・伯・辺境伯・侯・公・大公の順に爵位が上がっていくのは世界中の貴族制国家の共通だもの。それにロズベルト男爵家なんて聞いた事ないし」

 

「そうか。ふむ、ではいったい何だったのだろうな」

 

「それは私が聞きたいんだけれど……」

 

 よくわからないという風に揃って首を捻る二人。

 

「ところで、リーラの爵位は何だったか?」

 

「なぁ~に、いっくんまで」

 

「いや、こんな話を聞いたら気になってな。リーラの実家ではなくリーラ個人のだぞ」

 

「はぁ、私はただの騎士侯よ。お父様から継承するまではね……。前に言ったじゃない」

 

「すまん、聞いてなかった」

 

 人の話を聞けと怒るリーライナに、いっくんは頭を掻いて誤魔化している。

 

「しかしなんだ。その男爵様はここがブリタニアでなくて良かったな」

 

「良かないわよ、人前で大声出すわ周りから注目されるわ、こっちとしては良い迷惑だったんだから」

 

(いやいや、良かっただろう……公の場で罵倒したのが)

 

「もう、ホントに恥ずかしいったらなかったわ」

 

(ヴェルガモン伯爵家のご令嬢なのだからな……)

 

 

 

 駐日ブリタニア大使館付きの騎士となる以前はナイトオブテン親衛隊、グラウサム・ヴァルキリエの指揮を採っていた女性騎士リーライナ・ヴェルガモン。

 

 彼女は北ブリタニア大陸にある五大湖の一つ、ミシガン湖の西岸ウィスコンシンを領地に持つ、ヴェルガモン伯爵家の令嬢である。彼の国の貴族であるならば誰でも知っている筈の名家であった。

 

 厳格な階級社会で成り立つ神聖ブリタニア帝国で、下位の貴族が上位の貴族に無礼を働くのは絶対にやってはならない行為。不敬罪で斬り捨てられても文句は言えないだろう。

 

(場所が日本で、やらかした相手が自身への非礼をあまり気に留めないリーラであったのがせめてもの救いか……。命拾いしたな、ロズベルト男爵様とやら)

 

 見知らぬ貴族に思いをはせるいっくんは、運が良いのか悪いのか、無礼だ不敬だにあまり頓着しない婚約者であるヴェルガモン伯爵令嬢を見て、一人静かに笑うのであった。

 

 

 

 



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勘違いした田舎者 裏側

馬鹿男爵シリーズの第三弾でロズベルト家にとっての深刻な事態となるお話しですね。
スレの議論を受けて男爵が犯した行為がどういう意味かを書いてみた物となります。
尚、憂鬱ギアススレ内にて男爵シリーズのリレーを書いてくださった“影響を受ける人”様の設定をお借りした補完的要素ともなっております。
登場人物とネタはフィクションです。
蒼の混沌掲示板様投稿分より若干の修正が入っております。
シュタットフェルト・ソレイシィの爵位はオリジナルです。
拙作【円卓の少女】シリーズの出来事となります。


 

 

 

 

 勘違いした田舎者 裏側

 

 

 

 人が集まれば群れとなる。群れが集れば村となる。そして村が集まって街となり、やがては国という大きな枠組みと社会を形成していく。

 

 その過程の中で、人は社会と国を安定させる為、法という決まり事を作る。

 

 これはしてもいい、これをしてはいけない、いけない事をしたら罰を受けなければならない。

 

 その国に所属する以上、子どもから大人まで、法という決まり事を守らなければならないのだ。

 

 当然、国ごとによって違う社会を形成している以上、法律という物もそれぞれに異なり、この国では良くてもあの国ではいけないこと=犯罪となったりもする。

 

 また共和制の国には共和制の、社会主義の国には社会主義の、帝政の国には帝政なりの社会に沿った法律が作られており、罪に対する罰の重さというのもまた違う。

 

 同じ侮辱罪でも罰金刑で済む国もあれば、何年もの服役を科せられる懲役刑になる国もあるのが正にそれ。

 

 まさかその程度の事で? と、思われるような事でも、国によっては死刑に相当する重罪になりかねない物があり、法律という物を一律同じに考える事は出来ないであろうことの表れだ。

 

 そんな数多の法律の中には不敬に対する罪【不敬罪】という物がある。

 

 この不敬罪とは、主に帝政・王政などの君主制国家に制定されている法律で、その国を治める王や皇帝。

 

 王族・皇族など、国家にとって絶対的存在である君主の一族に対し、その名誉や尊厳を害する暴言・誹謗中傷など、貶めるような事をしてはいけないという物。

 

 E.U.ユーロピア共和国連合など民主主義・共和制の国では、思想・表現の自由を始めとした国民の自由を制限する物として忌諱され撤廃されている物の、

 

 大日本帝国・神聖ブリタニア帝国等、立憲君主や絶対君主貴族制の国では普通に存在し、天子の下に人民は平等であると謳う中華連邦においても、天子に対する不敬は罪であるとされている。

 

 他にもシーランド王国、共産イラク(イラク社会主義共和国)を含む中東の王制諸国家、アラウカニア=パタゴニア王国など南ブリタニア諸王国でも同種の法律が存在していた。

 

 

 

 このような国家形態故、さぞ住みにくく、平民にとっては生きづらい世の中である。

 

 切っても切り離せない関係にある日本や、シーランド等の友好国以外ではそう考える人が多いことだろう。

 

 しかし、その実態としては、不敬罪の適用例は日本と同じく非常に少ないというのがブリタニアの特徴でもあった。

 

 何故か? 

 

 それは国を治める皇帝、および皇族貴族の平民に対する意識にあった。

 

 自分たちは支配階級であり、あらゆる面で優遇され、優雅な生活を送っている。

 

 では、自分たちが豊かな暮らしを送ることが出来るのはいったい誰のお陰か? 

 

 そう、他ならぬ平民の働きがあってのこと。彼らは皆、縁の下から我らを支えてくれているのだ。

 

 そんな彼らを粗末に扱ったり、ましてや少々のことで貴族の特権を振りかざして横暴に振る舞うなどということがあってはならない。

 

 平民は蔑みをを持って接する存在ではなく、敬い、感謝の念を持って接する存在である。

 

 常日頃から自分たちの生活を支えてくれている彼らへの感謝の気持ちを忘れてはならないのだと。

 

 貴族より上の階級に生まれた者は、幼少期にこの道徳教育を徹底して叩き込まれる。

 

 故に絶対君主制・貴族制でありながら、貴族が平民に対して横柄な態度を取る事例が極めて少なく、また、自分たちを守り、生活の糧を与えてくれる貴族達に平民の側も畏敬の念を持って接するという、理想的な関係が生まれているのであった。

 

 人は自分に良くしてくれる者を憎まない。

 

 これを双方が上手く実践しているからこその理想的な社会が形成されているのである。

 

 そうでなければ、かつての欧州で起きたような、打倒王政・帝国主義の流れがブリタニアの中でも生まれていたかも知れず、今のような階級社会・実力主義社会でありながらも平穏で豊かな国にはなっていなかった筈だ。

 

 無論数多くの国で制定されているこの法律だが、それぞれの国で罪の重さは異なるし適用範囲も違う。

 

 シーランドなどでは国の成立過程や、国民と友達のように接する王族の気風故か罪は非常に軽く、余程のことでもない限り、警察署での厳重注意や奉仕活動で済まされる場合が多く、重罪となるケースは珍しい。

 

 日本では皇族に対する不敬は2月以上、5年以下の懲役とされているが、元々皇族に対して中傷行為に及ぶ国民性ではなく適用例は皆無であった。

 

 その代わり、特定の思想に染まっている者や、利益を享受している団体・企業組織等による、与党政治家や国軍叩きというものが横行していたが、これは帝国という看板を掲げながらも実質的には民主主義である以上、致し方ない。

 

 言論の自由を履き違えている一定以上の行為に対しては自浄作用が働いているため社会的制裁を受けることはあっても、権力者による言論の封殺などがあってはならないというのがその根底にはあった。

 

 そんな多くの国々で制定されている同種の法。

 

 その中で最も重い罰則を科せられるのが日本と同じく2000年以上の歴史を持った巨大帝政国家、神聖ブリタニア帝国。

 

 この国では主に皇帝・皇族・貴族に対し不敬を働いた平民に対する罪とされている。

 

 厳格な階級制度が社会の根幹を成すブリタニアである以上、この種の法を適用されるのは身分の低い平民であるというのは仕方のない事。

 

 しかも裁量権は不敬を働かれた貴族等がその場で下すという、正に中世の時代より連綿と受け継がれてきた階級制度による特権が法の根となっているのだ。

 

 貴族へ不敬を働いた平民はその場で罰しても構わない。これは貴族階級以上の者にだけ許された特権。

 

 日本でも古くは斬り捨て御免など、百姓や町人が武士階級の者に無礼を働いた場合、その場で斬り捨てても罪にならないという制度が存在していたが、基本的にはそれと同じである。

 

 

 

 しかし、残念ながらそんなブリタニアの社会でも不敬罪が成立してしまう事例はある。

 

『貴族というのは選ばれし存在。そんな尊き人間である貴族に暴言を吐いたり非礼を働くような下賤で汚らわしい平民などその場で無礼打ちにしても構わない』

 

 法的には何の問題もないと言って些細なことでも無礼討ちにする貴族もやはり少数ながら存在しているのだ。

 

 無論ブリタニアにも裁判所はあるので、平民と言えど訴え出ることは出来る。実際、法廷で白黒付けて貴族側が敗訴する事もあった。

 

 ただ、やはり貴族はその身分と特権故に有利であるのに対し、平民の側は泣き寝入りするしかない事が多く、到底平等な裁判とは言えないのも事実。

 

 だがそんなとき、困っている彼ら平民に手を差し伸べるのもまた貴族なのだ。

 

 一部の権力者による不正・横暴を取り締まり、平民に住み良い社会を作らなければならない。

 

 上位の貴族になればなるほどこれを徹底している家系は多い。

 

 だからこそ、某年某月某日に帝都ペンドラゴンの真っ直中で起きたトラブルは、また一つ平民の貴族への信頼を深める事例になったと言えるであろう。

 

 

 

 だが、このトラブル──いや、もう事件と言ってしまっても何ら問題がないこの出来事は、ブリタニアの貴族社会に一斉に伝わってしまった。

 

 貴族とは言え、この事件を起こしたのはたかが男爵程度の下級貴族。それも身体がぶつかったとかの些細な事であり、事件に発展する要素は皆無なのだが、

 

 このとき男爵にぶつかった平民の少女を助けた一人の騎士の存在が、小さなトラブルであったこの事件を、前代未聞の大事件に発展させてしまったのである。

 

 

 

 *

 

 

 

 “なにをしているのですかっ! ”

 

 通りに響く大きな声は万人の耳に届くもの。

 

「ん? 騒々しいな」

 

 其処は皇宮のある帝都ペンドラゴンの中心街。

 

 道行く大勢の人々の中には貴族の子弟も居て当然の場所である。

 

 寧ろこの場において居ないと考える方がどうかしているだろう。

 

 ショッピングを楽しむ者、他愛ない世間話に花を咲かせている者、ラフな格好で歩いている者、一見貴族に見えないような雰囲気の通りを歩く人々だが、実は貴族の子弟であるという者も多いのだ。

 

 そんな雑踏の中、シルクハットを被り、口周りにヒゲを蓄えた子爵位を持つ壮年の男性、ルイ・スズキ・106世が騒ぎに気付いて立ち止まった。

 

「何かあったのかねヤグチくん」

 

「はい、どうやらすぐそこで平民の子どもにぶつかられた、無礼であるとかで何処かの男爵家の方が騒いでいるようです、そこへ偶々通りかかった騎士が止めに入ったとか」

 

「んん~? 大の大人が子どもにぶつかられたくらいで騒いでいるのかね?」

 

「そのようですね」

 

「ふぅ~む、なんという恥知らずな。平民は大切にせねばならんというのに、あろう事か子ども相手に怒鳴り散らしているとは呆れて物も言えんねぇ……」

 

 子爵は貴族の面汚しだと嫌悪の表情を露にして従者に騒ぎの場へと案内させた。

 

 もし止めに入っているのが爵位を持たない騎士侯や武勲侯ならば、爵位持ちの貴族が相手では不利だろうから、自分が間に入って仲介してやろうと考えたのである。

 

 どちらが正しいとかではない。男爵に対して騎士侯・武勲侯が意見をした場合、例え間違っていたとしても上位者の男爵の方が正しいという事になってしまうからだ。

 

 この国が厳格なる階級社会である以上、上位者が黒と言えばそれが白であっても黒となるのである。

 

 騎士侯・武勲侯が爵位持ちの貴族に非礼を働く事は決して許されない。

 

 ならばより上位者である自分が間に入り、騎士の側に立つことで、男爵の正当性をひっくり返せばいい。

 

 そもそも、子どもがぶつかったくらいで大の大人が騒ぎ立てるのは、どう考えても正しいとは言えないのだから。

 

(おや? 何か妙な雰囲気だな)

 

 しかし近くまで来たとき、子爵は周りの様子がおかしいことに気が付いた。

 

 人集り、野次馬の中には貴族らしき背格好をした者が数多くいたのだが──。

 

「お、おいッ、誰かあの無礼者を黙らせろよッ」

 

「入り込める雰囲気じゃないっ……それに、万が一とばっちりを喰らったら私まで……」

 

 皆口々に止めたいけど止めに入る勇気がないと話しているのだ。

 

 これだけの人が居て誰も止めに入らないとは情けない。

 

 最近の若い貴族の子弟はなっとらんと憤る子爵。そんな彼の耳には現在進行形で中の様子が漏れ聞こえてくる。

 

 “貴様、よもやこの俺をフランク・ロズベルト男爵と知ってのその口の聞き方ではあるまいな? ”

 

 ここで聞こえてきた声に子爵はトラブルを起こしているのがロズベルトという男爵であると知った。

 

 帝都に居を構えている貴族の家名は大体覚えていたが、ロズベルトというのは初めて聞く名だ。

 

(こんな人通りの多い公共の場で騒ぎを起こすような非常識な輩だ。大方、地方から物見遊山に出てきた田舎者であろう)

 

 子爵が考えている間に周りの人間達も再度騒ぎの中心に居る人物が男爵であると確認したらしく更にざわめきが大きくなる。

 

「だ、男爵……。まじで男爵なのかあいつ……」

 

「男爵って……あいつ無礼討ちになるぞ……」

 

「無礼討ち処じゃない……。下手をすれば一族郎党みんな処刑だ……」

 

 随分と物騒な話になってきた。どうやら件の男爵とやらが騎士を怒鳴りつけているようで、その騎士の処遇がどうなるかの話にまでなっている様子だ。

 

 このまま放置しておけば、最悪平民の子ども共々無礼討ちにされてしまうかも知れない。

 

(これは早く止めに入らねばならんか?)

 

 そう考えた子爵は様子を見るために人垣の中に割って入っていた従者を呼んだ。

 

「ヤグチくん中の状況はどうなってるのかね?」

 

 彼が呼ぶと眼鏡を掛けた外ハネおかっぱ頭の男がひとり、人混みの中から這い出てきた。長年使えている子爵の従者である。

 

 従者はズレた眼鏡をくいっと戻しながら子爵の側まで来ると一言忠言した。

 

「子爵さま、子爵さまがお止めになられる必要は御座いません」

 

「な、なに? それは一体どういうことだね?」

 

 自分が止めなくてもいいということは、誰か止めに入ったか話が付いたかという事だが。

 

 止めなくて良いという従者の忠言を聞いて、首を捻りながらヒゲを弄る子爵は、人垣の向こうでトラブルを起こしている男爵と騎士の会話に耳を傾ける。

 

 “まあいいだろう、貴様”

 

 “モニカ・クルシェフスキーです”

 

 瞬間──子爵は固まった。

 

「モ、モニカ、クルシェフ、スキー、だと?」

 

「と、いう訳でございます子爵さま」

 

 “ではクルシェフスキー。貴様も口の聞き方には気を付けろよ? 寛大な俺だからこそ、この程度で許してやるのだからな”

 

 止めなくて良いの答えを聞いた子爵の耳に次から次へと入ってくるのは無礼千万な男爵の言葉。

 

 もう分かった。周りの貴族達が口にしていた無礼討ちや一族郎党処刑、お家取り潰し等の物騒な話は騎士に対して向けられている物では無く──男爵に対して向けられている物だったのだ。

 

 “あなたもむやみに己が権力を振り回すのはお止めなさい。此処帝都ペンドラゴンは日本は勿論のこと、友好国や同盟国の人々が多数訪れる我が国が誇る世界有数の都なのです。その都の往来にて我が国の政(まつりごと)を担う貴族の品格を貶めるような行為は慎むべきでしょう。この場は不問に致しますが、今後同様の行いを目にした時には看過出来ませんよ? ”

 

 “ふん、騎士侯風情が聞いた風な口を叩く。何なら今ここでそのそっ首を跳ねてやっても良いのだぞ? ”

 

 子爵は、顔は見えないが意気揚々と反対方向に去っていったらしい貴族の捨て台詞であろう最後の一言が理解できなかった。

 

「き……、騎士侯……風情……? な、なにを言っとるんだねあの男は??」

 

 そも何故爵位持ちの貴族があの御方を御存じないのだと唖然とする子爵。

 

『モニカ・クルシェフスキー』

 

「シャルル・ジ・ブリタニア皇帝陛下直属の騎士、ナイトオブラウンズの末席であるトゥエルブの称号を賜った西海岸の雄、クルシェフスキー侯爵家の御令嬢ではないかッ?!」

 

 あまりの非常識さについ叫んでしまった怒声とも思える子爵の声に、集まっていた貴族達がざわめく。

 

 とにかく有り得ないのだ。たかだか一介の男爵如きがクルシェフスキー侯爵家の次期当主であり、ナイトオブトゥエルブを知らずに罵倒していたのだから。

 

 ブリタニアの貴族でクルシェフスキー家や、その親族を知らない者など居はしない。それどころか顔は知らずとも名前だけなら全国民が知ってて当たり前の人物なのだ。

 

 この国とは無関係の外国人でさえその名は知っているのに、よりにもよってこの国の貴族で知らない者が居たなどとは、いったいどういう教育を受けてきたのだというのが彼らの頭を過ぎる。

 

「モ、モニカ様を御存じないとは……。あの男本当に貴族なのか……?」

 

「ロズベルトとか言っていたな!?」

 

「至急取引先の家名を調べろ! 万一今の貴族と関係ある家なら即刻取引中止だ!!」

 

「親族全員に確認してフランク・ロズベルトなる当主を頂く男爵家と付き合いがあるなら今直ぐに手を切れと伝えろっ!! 理由?! たった今ペンドラゴンの通りでモニカ様を罵倒したんだよその男はっ!!」

 

 途端に大騒ぎとなる通りの真ん中で、騒ぎの中心に居た白いワンピース姿の女性は、自身が原因とは気付いていないようで、オロオロしながら自分が庇った平民の女の子を連れて足早にその場を去っていった。

 

「ヤ、ヤグチくん、私の耳はおかしくなったのか?」

 

「いいえ、子爵さまのお耳はと~ってもまともで御座います、あの男爵の頭がおかしいだけなのです」

 

「ル、ルネッサ~ンス……などとやっている場合ではないぞヤグチくんッ!」

 

 スズキ子爵と従者のヤグチはそれだけ話すと直ぐにスズキ家の取引先の確認をする為、一目散に帰路へと付くのだった。

 

 

 

 

 

 そしてこの事件はこれで終わりではなかった。

 

 なんと同姓同名の貴族が後日ペンドラゴンから遠く離れた日本の帝都東京にて、ヴェルガモン伯爵家の御息女──リーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢までも罵倒したというニュースが社交界を駆け巡ったのだ。

 

 この新たなニュースに、既にナイトオブトゥエルブ──モニカ・クルシェフスキー侯爵令嬢への不敬の罪で懲罰を与えるべきだと紛糾していた貴族達の動きが加速していく。

 

「信じられん! たかたが田舎の一男爵家当主風情がヴェルガモン伯爵家の御令嬢や、皇帝陛下の騎士たるモニカ・クルシェフスキー卿に対し罵声を浴びせるなどと!」

 

「諸卿はこのような不敬が許されて良いとお思いか!?」

 

「許される訳がない。当然件の男爵家に対しそれ相応の懲罰は必須であると考える」

 

 貴族達から上がるのは懲罰を求める声。

 

 そう、何も不敬罪は平民に対してだけ適用される物では無い。

 

 下位の貴族が上位の貴族に対して不敬を働いた際にも適用されるのである。厳格なる階級社会で成り立つブリタニアでは当たり前のことだ。

 

 もっとも、やはり裁量権は当事者が一番強いため、この場合モニカとリーライナが水に流すと言い訴え出なければ、周りが幾ら騒いでも罪は軽くなってしまう。

 

 無論訴え出た場合は極刑となること間違いなしの状況であり、彼女達が自ら討伐に向かい討ち取っても何ら問題は無いほどであった。

 

 それほど一介の男爵風情が伯爵家や侯爵家の人間を罵倒する、侮辱するといった行為は重罪なのである。

 

 そもそもにして、このような公の場にて下級貴族が上級貴族を罵倒するなどということ事態が有り得ない筈なのだが。

 

 ただ、今回の件、当事者の二人は自身への侮辱に付いてはそれほど気にしていない様子で訴え出る気配も無ければ討伐に動く様子も見えない。

 

 実際二人は謝罪があるなら受け入れるし、無いなら無いで構わないと考えていた。

 

 身分がどうとかを深く考える質ではないせいか、あまり怒りが湧いてこないというのもあるのだろう。

 

 更にラウンズ任命者のシャルル皇帝自身をも侮辱したと捉えられる発言であったが、これに付いても皇帝自身が当事者の判断に委ねるとの言を下していた事でお咎め無しとなったのである。

 

 懲罰動議を提出していた貴族達も「皇帝陛下やお二方が問題とせずと言うなら」と自ら身を引く形となり、事態は収束に向かう──―かに見えたが、そう簡単には終わらなかった。

 

 例え懲罰を避けられたからといって、一介の田舎男爵風情の行ったモニカとリーライナに対する不敬行為が帳消しになるわけではない。

 

 知らなかったからなどという言い訳が罷り通る筈もなく、ロズベルト家はクルシェフスキー侯爵家とヴェルガモン伯爵家の傘下にある多くの貴族に睨まれるという最悪の事態に追い込まれていく。

 

 なにせ現当主が行ったのは両家の次期当主に対する直接的な侮辱行為。

 

 両家傘下の貴族たちからすれば自分たちが仕えている主君を虚仮にされたのと同義であり、到底看過する事など出来ない許されざる行為なのだから。

 

 クルシェフスキー侯爵家は古くから続く由緒正しい家系であるというのは勿論のこと、その発言力はより上位者であるアッシュフォード公爵家やハイランド大公家に迫るほどの影響力を持つ神聖ブリタニア帝国の重鎮。

 

 陸海空10万の規模を誇る一大騎士団を保有し、国家の一翼を担う押しも押されぬ大貴族である。

 

 その領地と、侯爵家が持つ経済圏はとてつもなく巨大な物で、比較するのも愚かしいが、GDP、領地面積、その他国力として対比すれば独立国家である筈の高麗共和国を遥かに凌駕しているのだから、一国家と言っても過言ではないのだ。

 

 同じくブリタニア建国以来より続く家系であり、優秀な騎士や政治家を数多く排出しているヴェルガモン伯爵家。

 

 流石にクルシェフスキー家と比較すれば見劣りしてしまう物だが、独自の騎士団とウィスコンシンという広大な領地・経済圏を持っていることに変わりはない。

 

 保持する権威は同格の伯爵家の中でも最上位に位置し、シュタットフェルト辺境伯家やソレイシィ辺境伯家などと肩を並べて列挙される名家である。

 

 そんな両家と、両家の傘下に付く多くの貴族に睨まれているというのは、ブリタニアの貴族社会において死刑宣告を受けたに等しいのだ。

 

 現に、クルシェフスキー家やヴェルガモン家から睨まれているような貴族と関わり合いになりたくはないと、ロズベルト家と取引や提携していた貴族たちから一斉に距離を置かれてしまい、当代に変わってより唯でさえ上手くいかなくなっていたロズベルト家の領地経営は、一月もしないうちに破綻寸前にまで陥ってしまった。

 

 

 

 この窮地に、碌に領地経営もせず遊び呆けて散財するばかりの現当主に代わって、その地方では謹厳実直な人格者として知られていた先代のロズベルト家当主、アルバート・ロズベルトがクルシェフスキー・ヴェルガモン両家に謝罪を行おうと動いていたが、

 

 クルシェフスキー侯、ヴェルガモン伯、共に一介の男爵家が目通りを願い出たところでそう簡単に会えるような身分ではなく、まず話を通した両家の家臣たちから門前払いを受ける始末。

 

『旦那様はお忙しい身分。たかだか一介の男爵家の人間にお会いになる暇など無い』

 

 冷たい言葉が返ってくるが、それでも先代は諦めずに目通りを願い続けた。

 

 本来ならば非礼を働いた当主フランクが謝罪に向かわなければならないというのに、本人はアルバートの召喚命令を無視して未だ日本の地に留まり続けている。

 

 かといって本人が帰ってくるまでのあいだ何もしなければ、クルシェフスキー・ヴェルガモンの両家に仕える忠誠心厚き傘下貴族の強硬派などが、独自制裁に動き始めるかも知れないのだ。

 

 傘下の貴族と言っても皆ロズベルト家より爵位は上で、クルシェフスキーの家臣に至っては辺境伯クラスの上級貴族まで居る。

 

 もし彼らが動き出せば、埃を吹き飛ばすかの如く容易に踏み潰されてしまうであろう事は想像に難くない。

 

 だからこそ直ぐにでも動かなくてはならないし、何としてでも両家の当主に目通りを叶えて貰わなければいけなかった。

 

 伝手はないかと現役時代に仕えていた子爵家や、親交のある貴族たちを頼ってみるも、皆クルシェフスキーとヴェルガモンの名を出した途端、顔を青ざめさせて「冗談じゃないぞ! 私に死ねとでも言うのか!?」と追い返されてしまい、梨の礫であった。

 

(自分はどうなってもいい! だがこのままでは孫娘、領民や家臣の生活が立ちゆかなくなる……!!)

 

 家族、領民のためならば、この命捨てる覚悟は出来ている。

 

 その強い思いが実を結んだのか? 将又粘り強く交渉したお陰か? アルバートは漸くの事でヴェルガモン伯爵への面会が叶ったのである。

 

 

 

 *

 

 

 

「ヴェルガモン卿、この度は私めのような一介の男爵家の老骨にお目通りをさせて頂き、まこと光栄の至りに存じます」

 

 客間にて深々と頭を下げるアルバート。見事なまでのお辞儀である。

 

 馬鹿でプライドだけは人一倍高い次男の息子、現当主には決して出来ないであろうと思われる。

 

 アルバートとて決してプライドの低い人間ではなかったが、自らに非がある場合は例え相手が平民であろうと頭を下げることが出来る常識の持ち主。

 

 まして相手はあのヴェルガモン伯爵であり、自家の当主が非礼を働いたリーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢の父親なのだ。

 

 人の親(孫だが)として頭を下げるのは当然である。

 

「卿こそカンザスより遠路遙々よく参られた。で、早速だが用件をお聞かせ願おうか?」

 

 応じてくれたヴェルガモン伯爵は素っ気ない感じであったが、彼とて時間が無い中会っているのだから仕方がない。

 

 ヴェルガモン家ほどの貴族となれば抱えている領民は数十万の規模に登るであろう。下手をすれば100万の大台に手が届く可能性もあり得る。

 

 それだけの人間の生活がヴェルガモン伯爵の一挙手一投足には掛かっている。

 

 格上のシュタットフェルト家やソレイシィ家と肩を並べているのは伊達ではないのだ。

 

「は、では……」

 

 長々と伯爵の時間を頂いて話続ければ、多くの人々に迷惑を掛けることになる。

 

 それも、自家のような弱小貴族の当主の無礼な振る舞いのせいで。

 

 だからこそアルバートも単刀直入に言う事にした。言葉だけではなく行動で示しながら。

 

「この度はッ……! この度の当家当主によります御息女リーライナ様へのご無礼の数々ッ! 誠に申し開きようも御座いませんッッ!! 本来ならば不敬を働いた当主フランクが謝罪に訪れなければならないのですがッ、フランクは未だ召喚命令を無視して日本に留まっておりッ、自らが御息女リーライナ様へ不敬を働いた事も存じ上げないのですッ! 故に不肖の当主になり代わっての謝罪となりますがッ! 平にッ……平に御容赦の程をッ!」

 

「……」

 

 その場で蹲るように平伏しながら必死に謝罪するアルバート。ブリタニアには日本の文化が広く伝わっているからこそ、彼の行動はヴェルガモン伯爵にも当然ながら理解できた。

 

 土下座。

 

 プライドの高い貴族が行うにはあまりに卑屈なその行動を行うという事は、それだけ今回の不祥事に対する反省の深さを物語っている。

 

 貴族が土下座をするというのは、それだけ重い意味を持っているのだ。

 

 家名を持ち出している以上は個人が行うのではなく、ロズベルト一族としてヴェルガモン伯爵家に謝罪をしているという意味。

 

 ロズベルト家は一族揃ってヴェルガモン家に非礼を働きましたと認めた上での謝罪である。

 

 目の前にいる老人の白い頭を見下ろす格好となっていた伯爵は無論此を承知していた。

 

 承知し耳に入る言葉を自らの中で反芻しながら、彼は暫しの沈黙の後、静かに口を開いた。

 

「…………件の話は耳にしている。卿の家の当主が日本の地で我が娘への不敬を働いたというのはな」

 

 日本と言えばブリタニアの駐日総領事アッシュフォード公爵のお膝元である。

 

 その他にも、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇子殿下やナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下、コーネリア・リ・ブリタニア皇女殿下、ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女殿下といった皇族のお歴々が幾人も滞在している。

 

 そういった諸事情から、如何に日本が異国の地とはいえ、ブリタニア国内にいるのと変わらないくらい、その振る舞いには注意しなければならない地だ。

 

 そんな地で上位の貴族に働いた男爵の無礼な振る舞いがブリタニア本国に伝わらないはずがなかった。

 

 当然ながら、リーライナへの非礼は伯爵の耳に入っていたし、何れこうして謝罪に訪れる事は予期していた。

 

「当家当主の非礼は総て我が身の不徳の致すところで御座いますッ! 故にどのような罰も受ける覚悟は出来ておりますッ! ですがッ、ですが私と現当主以外の親類にはどうか寛大なる慈悲を持って──」

 

 アルバートは心の底から叫ぶ。ヴェルガモン伯の気分次第ではロズベルトの親類縁者総てに責めが及んでしまうのだから必死になるのも当然の事であった。

 

 馬鹿な当主、認めたくはないが次男の息子で血縁上は孫である当代の行いとはそれほどの大事なのである。

 

 しかし。

 

「顔をあげてくれないかロズベルト卿」

 

 

 

「は……? い、いえ、しかしッ」

 

「構わんよ。私としてはリーライナが気にしていない以上、貴家に対して何かを咎め立てするつもりはない」

 

 言葉の通り、ヴェルガモン伯爵は最初からロズベルト男爵家への制裁措置など考えては居なかったのだ。

 

 娘リーライナはもう立派な大人である。当家への直接的な非礼ではなく個々人のトラブルにまで伯爵家としての対応をするつもりはないし、親がしゃしゃり出るような年齢でもないのだからと。

 

 これに対し、アルバートは依然として平伏したまま、ヴェルガモン伯の対応に礼を述べる。

 

「寛大なご処置の程、深くッ、深く御礼申し上げます……ッッ!!」

 

 アルバートはヴェルガモン伯爵の措置に心からの感謝の意を伝える。

 

 男爵家による伯爵家への不敬行為。酷な話だが、これはブリタニアでは充分極刑が有り得るのだ。

 

 裁量権を持つヴェルガモン伯爵が当主は処刑し、家は取りつぶすと処断すれば男爵家の誰にも文句は言えない。

 

 そこを自身と当主の首を差し出すところで手打ちにしては貰えないかと願い出るつもりであったのに、当の伯爵がお咎め無しと言ってくれたのだから感謝してもし過ぎる事はなかった。

 

 それと共に僅かばかりの安堵が訪れる。といって、これで終わりではないという事は百も承知であったが……。

 

「しかし聞いたところによれば貴家の当主、彼のモニカ・クルシェフスキー卿にまで不敬を働いていたそうであるな?」

 

「ご、御存じであられましたか……」

 

「知っているも何も少し前から社交界ではこの話で持ちきりだよ。一介の男爵家当主が、西海岸の盟主であるクルシェフスキー侯爵家の次期当主殿を公衆の面前で罵倒したとな。情報が入って来たときは流石に我が耳を疑ったよ。次いでどこからこんな偽情報が流れてきたのだと調べもした。普通に考えて有り得ない話であった故にな」

 

 その有り得ないことをやってしまった不肖の身内をアルバートは恥じることしか出来ないで居る。

 

「侯爵家の人間と男爵家の人間では、余程の繋がりでもない限り相見える事はない。それを思えば知らなかったというのは確かにあるかも知れないことだ。だが、その家名までを耳にして知らないというのは通用しない話であるぞ」

 

 確かにその通りである。クルシェフスキーという名を知らない、この時点で最早貴族として失格なのである。

 

 ヴェルガモンの名も同じだ。知らないというのが通用しないほどの名家なのだから。

 

 その両者を知らないという事がどれだけ恥ずべき事であり、常識を知らない事か。

 

 少なくとも、ロズベルト男爵家の当主は、知っていて当たり前の大諸侯の名を知らない世間知らずの阿呆である。と広まってしまったのは、最早疑う余地もなかった。

 

「それも、モニカ・クルシェフスキー卿と言えばナイトオブトゥエルブの称号をお持ちの、私などから見ても遥かな雲上人だ。敢えていわせて頂くが、あまりにも教育がなっていないうえ、軽率に過ぎるのではないのかな?」

 

 そして問題はナイトオブトゥエルブという、ブリタニアの頂点に近い階位を頂く人物を知らないような者に、陛下より賜った領地と領民を預かる貴族家の当主が務まるのかという話にまで及ぶ。

 

「既に陛下やクルシェフスキー卿は此度のことを問題にはなされないと仰られているようだが、事はそう単純ではない。例えナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー卿がお許しになられても、当家と同じくクルシェフスキー侯爵家と貴家への問題に波及していくのは必然だ。一言忠告しておくが、クルシェフスキー侯爵家ともなればその影響力は当家とは比較にならんぞ」

 

「返すお言葉も御座いません……まさにヴェルガモン卿の仰せになられます通りです……。お恥ずかしい限りで御座いますが、当家の事情により貴族としての最低限の教育もできぬまま、現当主を今の地位に就かせた私の責任で御座います……」

 

 現当主フランクのあまりの常識の無さを指摘されたアルバートは、唯々我が身を恥じるばかりであった。

 

 

 

 *

 

 

 

 そして話も終わり、もう一度深く頭を下げたアルバートはヴェルガモン伯爵の屋敷を後にする。

 

 しかし、その際、ヴェルガモン家の執事やメイドの敵意に満ちた視線に晒され、間を取り次いでくれた家臣の子爵位を持つ家宰の言葉に、彼は自家当主の不始末の重大さを改めて思い知らされた。

 

『ロズベルト卿、例え旦那様やリーライナ様がお許しになられたからといって、我々ヴェルガモン家に仕える貴族や領民は此度のリーライナ様への無礼の数々を許したわけではないぞ』

 

 ヴェルガモン家はクルシェフスキー家と並び傘下の貴族や領民の忠誠心が厚い。

 

 シュタットフェルト、ソレイシィ、アッシュフォード、ハイランド、ヴァインベルグ、名家・大貴族は皆そうだが、主君を支える傘下貴族の忠誠心と団結力が強いのだ。

 

 帰り道でもヴェルガモン領の領民からの目は冷たい物だった。

 

 伯爵とリーライナ様には許された。

 

 だが、まだヴェルガモンの地に許されたわけではない。

 

 

 

 その事実に、一瞬緩みそうになっていた気を引き締め直したアルバートは、より強大な、国その物といってもいい大貴族、クルシェフスキー侯爵領へと向けて旅立つ。

 

 まだ侯爵家より目通りを請う自身に対する色よい返事を貰えてはいなかったが、それでも向かわなければならない。

 

『モニカ様がお許しになられても我らが許す理由にはならない』

 

 この厳しい現実と戦う為に。

 

 ロズベルトの親族と領民、そして自家の汚名返上の為にも、彼には息つく暇など無いのだから。

 

 

 

 




田舎の一男爵家が、一大経済圏を有するクルシェフスキー侯爵家一門・ヴェルガモン伯爵家一門と対立してしまったこのお話しですが。
議論の結果、男爵家はお取潰しになるのではないかという意見が大凡の流れとなっていたようです。


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勘違いした田舎者 ある家の下女

息抜きに短いバカネタを書こうと思いました。


 

 

 勘違いした田舎者 ある家の下女

 

 

 

 

 私の名はフランク・ロズベルト。カンザス州の端の方に領地を持つ大貴族だ。私には1500人もの領民が居るのだぞ? しかも階級は高貴なる男爵位。

 

 一人称を私にしたのは貴族としての品位を保つため。どうだ似合っているだろう? 私は平民どもではどうあがいても到達する事の叶わぬ身の上なのだ。

 

 そんな私は我が盟友ヨナイ卿の誘いで日本を訪れている。日本にも華族なる貴族階級が居ると聞いたがとんと出逢わんな。

 

 

 ──お、おい、カレン、お前買い過ぎだって──

 

 

 ──ショッピングしてるんだから買い過ぎは当たり前よ──

 

 

 ふと前方のショッピングモールで立ち往生している男女二人組を見かけた。

 

 ここは天下の往来、邪魔ではないか。

 

 私はその二人に近づいて行った。

 

「おい! そこな下男、下女!」

 

「へ? 下男って俺の事?」

 

「げ、下女って私の事なの?」

 

 肩までで切りそろえられた赤い髪の下女。彼女は明らかに私よりも年下だ。もう一人の下男らしき男は私と同年代なのだろうか。

 

 二人そろってこの様な天下の往来ではた迷惑な。私はもう二、三言ってやろうと、下女の胸ぐらをつかみ上げた、む、大きな乳をしておるではないか。

 

 ふむ、顔立ちも美女の部類に入る。これは先物買いとしておこうか。

 

「おい下女、貴様名は」

 

 私が下女に話かけた瞬間、左右からサングラスをかけ、ビジネススーツを着た平民が近寄ってきて。

 

「貴様、先ほどより聞いていれば無礼千万な。こちらに居られるか方をどなたと心得ておるか」

 

「ただの平民であろうが」

 

 普通の衣服を着て、ショッピングモールで買い物をするただの、うむ、顔は似ておるから兄弟と言ったところか、その程度だろう。

 

 そこへ。

 

 

 ──ナオトさーん大丈夫ですかー荷物ー──

 

 

 髪全体が後ろへと流された好青年といった雰囲気の男が、短い茶髪の女を連れて歩いてきた。

 

「ま、マリーカさん、これ、買い過ぎですよ、勘弁してくださいよ、ちょっと女の子見ただけじゃないですか」

 

「ちょっとー?ちょっとですって!? レオンだいたいあなたは私と言う者がありながら目移りしすぎなのです!!」

 

「はあああ、まーたレオンの浮気性の始まりかァ」

 

「兄さん彼女いないものね。そういう意味では気楽でいいじゃない」

 

「気楽じゃないよ。母さんが次々婚約者候補を選定しているんだ。近々見合いだよ」

 

 むううう、向こうからやってきた下女も容姿はかなり整って居るな。唾を付けておこう。

 

「そこな下女、我が家に仕えぬか? それなりの給金も出そう。一家食べていけるだけは稼げるぞ? 無論、私の夜の相手もして貰うがな」

 

 そこまで言うと。私の従者が止めに入った。何やら方々に頭を下げ、特に下女共と下男共には土下座を始める。

 

 そして私にまで謝罪を強要してきたのだ。何を謝罪する必要があるというのだ。

 

 なに、カレン・シュタットフェルト様に、ナオト・シュタットフェルト様。

 

 マリーカ・ソレイシィ様に、レオンハルト・シュタイナー様だと?なぜこんな下々の者にこの私が、男爵たる私が頭を下げなければならない。

 

「無礼な。下女呼ばわりされるいわれはありません」

 

「マリーカマリーカ、そんなアホ相手にするだけ無駄よ」

 

「でもカレンさん、私たち下女って呼ばれているんですよ。無礼千万にもほどがあるでしょう」

 

「無駄なんだって、コイツ、シュタットフェルトの名前にもソレイシィの名前にもシュタイナーの名前にも反応してない。ブリタニアの貴族だとしたらただのバカだ」

 

「な、ナオトさん、それは言い過ぎでは」

 

「レオン、荷物崩れるぞ」

 

 私の従者が『シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、シュタイナーコンツェルンの御方々です!絶対に非礼を働いては!!』うるさいこの下女はつれていく。

 

「来い下女」

 

 赤い髪の下女の腕をひっぱった処で、次々とサングラススーツの男と女が出てきた。

 

「貴様! カレン様、ナオト様、マリーカ様、レオンハルト様に対し先ほどより不敬にもほどがあるぞ!!」

 

 私が引っ張った赤い髪の女に私は。

 

「さっきっから人の手を気安く触ってんじゃ無いわよっっ!!」

 

 思い切り空中に放り上げられて蹴りを入れられた。

 

 ずざざざーっ。

 

 四、五メートルほど引きずられたところで止まった私。

 

 なんと、なんと無礼なっ!! ここが日本で無くブリタニアであったならば、その場で無礼討ちにしてやるものを! 己、覚えたぞ!その顔と名カレン・シュタットフェルトぉぉっっ!!

 

「申し訳御座いませんっ、申し訳御座いませんっ、我が主人は物を知らなすぎて――」

 

「知らないで済まされないこともあるんだけど。どーすんの? あんたんとこうちらと戦争でもしたいわけ」

 

「戦争するなら容赦しませんよ」

 

「うちのじゃじゃ馬怒らしたら怖いぞ」

 

「ソレイシィ辺境伯家の敵はシュタイナー家の敵です」

 

「申し訳御座いませんっ、本当に申し訳御座いませんっっ!!」

 

 土下座を繰り返す従者に呆れて、彼らはその場を去って行った。

 

 

 

「貴様はっ、貴様はッ!! あのような下々の者どもに土下座を繰り返しおってッ!ロズベルト男爵家の品位を穢すつもりかあああッッ!!」

 

 私はホテルの一室で従者を蹴り上げる。従者は鼻血を出しながら奴らにしていたように土下座をしてくるので私は毒気を抜かれた。

 

 それにしてもシュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、シュタイナーコンツェルンの跡取りと階って居ったな、あの下々民共め。

 

 奴らの素性を調べ上げることなどこのブリタニアの大貴族、ロズベルト男爵家の当主フランク・ロズベルトに容易いことなのだ。覚えておれ。

 

 




一人称や言葉遣いを変えようと性根は変わりません。

まして相手はシュタットフェルト辺境伯にソレイシィ辺境伯家、シュタイナー家の方々。そしてこの度公式設定でモニカ・クルシェフスキーが皇女であると判明しました。さあどうなるやら。


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馬鹿男爵関係者のお家設定

 

 

 

 クルシェフスキー侯爵領

 

 領地

 

 オレゴン州+ワシントン州

 

 領地面積:約44万㎢

 

   領都:ポートランド

 

 クルシェフスキー騎士団 

 

陸上騎士団:10万

 

海上騎士団:2万

 

天空騎士団:1万5千万+各騎士団予備役

 

 第5世代グロースター・サザーランド

 

 第7世代ヴィンセント

 

 第7世代ヴィンセント指揮官機

 

 第8.5世代ヴィンセント・カスタム

 

 領主 ジャン・クロード・クルシェフスキー(未登場)

 

 妻 ソフィア・クルシェフスキー(未登場)

 

 

 総人口領民:約1200万

 

 出稼ぎ労働者+その家族

 

 在ブリタニア外国人(ほぼ日本人)+その家族

 

 旅行者など合わせて域内滞在総計約2000万

 

 西海岸諸侯の事実上の盟主家で、幼い頃のモニカをシャルル皇帝自らが、シャルル・ランペルージを名乗り預けに来る。

 

 恨まれてもいい。いつの日か必ず父親と名乗り認知するその日まで、どうか信頼のおけるクルシェフスキー家で預かってくれないかと当主ジャンが涙ながらに訴えられ快諾。

 

 以後、国家の背信者、南天の犬と蔑まれていたギンツブルグの名は無くなり、当時赤子だったモニカは改めてクルシェフスキーの名を授かる。

 

 クルシェフスキー家へ養女となってからの日々、物心が付いたころから始まった、皇室と変わらない厳しい教育に何度も心折れそうになるも。

 

 謎の足長おじさんよりのプレゼントに温かさを感じ、自らを奮い立たせて、弱きを助け強きをくじく、平等なる平和がこの世界に降り注げばいいという大望を抱く、立派な貴族へと成長していく。

 

 実の父に認めてもらいたい、自分はこの世に生まれてきてよかったのだと認めてもらいたい、その一心でナイトオブトゥエルブにまで上り詰め。

 

 大日本帝国の地に派遣され、派遣されたその地で生涯を共にする心優しき、血塗れの男性と出逢う。

 

 容姿は腰下まで届く流れるような真っ直ぐな金髪、瞳の色はスカイブルーともマリンブルーとも取れる蒼い瞳。普段騎士服はタイトスカートな白い騎士服に、表地が黄緑色、裏地が紫色のマントを着用しており嶋田繁太郎からはとてもかっこいいと評価されている。

 

 2022年6月勃発の第一次世界大戦に他のラウンズと共に従軍。戦場で敵からも味方からも戦女神の二つ名を得るほどの活躍をした。

 

 なお、モニカのロイヤルガードは全てが第9世代機で固められていたために、面制圧に於いても多大な活躍をし高麗のN号兵器を抑えたのも彼女の部隊だった。

 

 乗機は世界最強のナイトメアフレーム、第9.5世代KMFフリーダム=フローレンス。その機体は第2世代エナジーウィングを装備し全方位攻撃・全方位防御が可能となっており、二丁の大型スーパーヴァリスとSMVSはブレイズルミナスを貫き、駆逐艦や巡洋艦・空母すら打ち抜く威力を持つ。

 

 センサーやレーダーでは追えない機動力と、M3.75という驚異的な速度は戦闘機すらも上回る。完全なるモニカ専用機。

 

 インフィニット・ドライブという既存のKMFにはない超小型フレイヤ炉の搭載により無限稼働が可能。

 

 なお、余談だが、あしながおじさんに送られたリボンの選定が、愛する人からの物だと直ぐ気付いた。

 

 ロズベルト男爵家を巡る紛争では本人は許している物の、クルシェフスキー侯爵は絶対に許すつもりは無く取り潰すつもりで居る。

 

 

 

 ヴェルガモン伯爵領(上位伯爵)

 

 

 ヴェルガモン伯爵家について

 

 領地:ウィスコンシン

 

 領地面積:約170000km²

 

 陸地面積:約140663km²

 

 水域面積:約28977km²

 

 東西幅420km、南北500km。最大標高約600m。最低標高176m。

 

 総人口:770万人。五大湖工業地帯に大きな影響力と発言力を持つ、大貴族。

 

 大きな固有の騎士団を持ち最大勢力の陸上戦力は約50000人

 

 航空戦力として天空騎士団を約8000人

 

 その他予備役を含めた総数は70000名

 

 最大で6ないし7個騎士団の編成が可能なほどの常備兵を保有

 

 第5世代戦闘機や第7世代KMFに戦車・装甲車も多数運用

 

 ヴェルガモン騎士団は、アッシュフォード騎士団やクルシェフスキー騎士団、シュタットフェルト騎士団と並んで日本軍との軍事演習も度々行っており、軍事的交流も深く。

 

 ヴェルガモン領を中心に五大湖工業地帯には多くの日本企業も進出しており。日本とは切っても切れない関係性にある。

 

 同盟国大日本帝国の元国防相、山本五十六と次期当主であるリーライナ・ヴェルガモンが電撃結婚。ブリタニア中を驚かせた。

 

 リーライナの容姿は腰下まで届く長い金色の髪、エメラルドグリーンの碧い瞳が特徴的で、山本曰く、「リーライナのように美しい女性とあったことがない」とべた褒めされ顔を真っ赤にさせて強襲揚陸艦紀伊の上で抱き合ったエピソードは有名である。

 

 ただ同時に山本はリーライナのパイロットスーツを「破廉恥だ」とも表している。ここには山本の照れ隠しもあり、本当は綺麗だと感じている。

 

 乗機はエナジーウィング機ヴィンセント・カスタム。史上最強の提督山本五十六と共に第一次世界大戦に従軍。大きな戦果を挙げる

 

 ロズベルト男爵家を巡る紛争では本人は許し、ヴェルガモン伯爵も許しては居る物の、ヴェルガモン伯爵家の子にあたる貴族家は許すつもりが無く一斉に経済制裁を掛けている。

 

 

 

 

 ローゼンクロイツ伯爵家(上位伯爵家)

 

 ローゼンクロイツ伯爵家について

 

 

 領地:アイオワ

 

 

 領地面積:約145743km²

 

 陸地面積:約144700km²

 

 水域面積:約1041km²

 

  総人口:630万人

 

 東西の幅:320㎞

 

南北の長さ:500㎞

 

 最高標高:509m

 

 平均標高:340m

 

 最低標高:146m

 

   領都:アイオワシティ

 

陸上騎士団:5万人

 

天空騎士団:1万2千人

 

水上騎士団:僅か

 

第5世代機:グロースター

 

第7世代機:ヴィンセント

 

 アイオワはローゼンクロイツ伯爵が治める領地。広大な領土を持ち、薔薇が名産。ローゼンクロイツ伯爵は薔薇をこよなく愛し。

 

 自身の娘たちには薔薇にちなんだ名前を与えている娘8人、末っ子にジュンという息子が一人いる。

 

 娘・息子たちに日本名を付けるのは、伯爵自身が大の日本好きであることと関係しており、娘のうち一人は日本人と結婚させると考えていた。

 

 そこへ第五女シンク令嬢、身体的特徴としては身の丈よりも長い金色の髪をツインテールに結わえ整えた、深く青い瞳を持つ小柄の女性、が取引先のアラウカニア=パタゴニアのある都市のホテルでテロ事件に巻き込まれ、聡明なあの子ならば大丈夫と考えるも。

 

 万が一を考えて、大日本帝国の知己であった辻政信に救出を依頼。魔弾の射手という裏世界最強を誇るスナイパーを送り込みテロリストを鎮圧。

 

 またこの事件を通じ魔弾の射手こと麻生良太郎とシンクに縁が生まれ、ローゼンクロイツ伯爵は笑顔で娘を任せられる男として、シンクを魔弾の射手に嫁入りさせた。

 

 が、シンク自身は以前と変わらず地位も変わらず日本の麻生家とローゼンクロイツ家を行ったり来たりと忙しい日々を送る。

 

 隣の領であるヴェルガモン伯爵家とは縁が深い。

 

 ロズベルト男爵家を巡る紛争ではシンク本人は被害らしい被害を負っていないため、夫良太郎と、父ローゼンクロイツ伯爵に伝えるに留める。

 

 

 シュタットフェルト辺境伯家

 

 シュタットフェルト辺境伯家について

 

 

 領地:ミネソタ

 

 

 領地面積:約225181km²

 

 陸地面積:約206375km²

 

 水域面積:約18990km²

 

  総人口:1000万人

 

 東西の幅:320-560㎞

 

南北の長さ:640㎞

 

 最高標高:701m

 

 平均標高:370m

 

 最低標高:183m

 

   領都:ミネアポリス

 

陸上騎士団:6万人

 

天空騎士団:1万6千人

 

水上騎士団:5000人

 

第5世代機:グロースター

 

第7世代機:ヴィンセント

 

 

 シュタットフェルト辺境伯家は神聖ブリタニア帝国の上位貴族の一家。次期当主に紅髪のお嬢様を据え、そのお嬢様ことカレン・シュタットフェルト辺境伯騎士団でカレンの兄ナオト・シュタットフェルトが周りを固めている。

 

 公の場では兄さん呼びをすることも多々あるが、親族だけの間ではお兄ちゃんと呼んでいる。カレンには他に正妻の子アレクサンドル・シュタットフェルトがいるが、三兄弟の仲はとても良好で、良く三人で遊びに出かけている。

 

 優しい継母と怖い実の母がおり、この怖い実の母が厳しい理由は、シュタットフェルト次期当主が妾の子であることで甘えられて育てられたというイメージを払しょくするためと言う、実母の思いからなのだがカレンは気づいておらず。

 

 よく継母のところへ逃げ込んでいたりする。逆に継母は兄弟三人分け隔てなく優しく育てるので、貴族の子がそれではいけないと実母に怒られる逆転現象が生じている。

 

 父は優しいが政治について必要最低限の事を教え、あとは自分で学んでいくべきことだと敢えて突き放し見守るタイプ。もちろん詰まったら助け舟を出す。

 

 シュタットフェルト次期当主カレンはアッシュフォード学園本稿ではお嬢様然として、大人しくしているが、既に化けの皮は剥がれており、「お姉様」として多くの生徒から慕われている

 

 因みにシュタットフェルト騎士団長は長男のナオトだが、次席のカレン・シュタットフェルトの乗機は日本から送られた第9.1世代機、紅蓮聖天八極式改なため、ナオトよりも遙かに強い。

 

 第一次世界大戦に従軍。死兵の一部に死の恐怖を味わわせた。

 

 ロズベルト男爵家を巡る紛争では被害の当事者の一人カレンは、うちとやるつもりなのかとロズベルト家従者に問い質した。

 

 

 

 ソレイシィ辺境伯家

 

 ソレイシィ辺境伯家について

 

 

 領地:ミズーリ

 

 

 領地面積:約180533km²

 

 陸地面積:約178455km²

 

 水域面積:約2119km²

 

  総人口:1050万人

 

 東西の幅:385㎞

 

南北の長さ:480㎞

 

 最高標高:540m

 

 平均標高:240m

 

 最低標高:70m

 

   領都:セントルイス

 

陸上騎士団:7万人

 

天空騎士団:1万7千人

 

水上騎士団:4000人

 

第5世代機:グロースター

 

第7世代機:ヴィンセント

 

 ソレイシィ辺境伯家はカンザスシティを領境に持つ、カンザスに強い影響力を持つ大諸侯として知られており、領地の位置は北ブリタニア大陸中西部に位置する。

 

 次期当主マリーカ・ソレイシィは普段は大人しく素直。夫レオンハルト・シュタイナー同様、同僚の玉城真一郎などに騙されやすい素直な性格をしており、基本的には人を疑わない。

 

 容姿は短い髪の薄い茶髪の美少女で、周りからはレオンとお似合いの夫婦と言われながらも、レオンにはもったいないという声も度々上がる。

 

 これには夫レオンハルトの目移り癖が関係しており、女性からは総スカンを食らっている。先輩にあたるリーライナ・ヴェルガモン同様に軍の嚮導学校を優秀な成績を収めて卒業しており。

 

 卒業後すぐにラウンズのロイヤルガードに抜擢されるほどのKMF操縦技術を持つ。グラウサム・ヴァルキリエが解散後はリーライナやカレンと行動を共にすることが多く、戦場にも彼らとよく出撃する。

 

 なお、現在ブリタニア帝国で問題になって居る、ロズベルト男爵家のあるカンザスとは偶然にも隣り合わせであり、カンザスの領主がソレイシィ騎士団の進軍を認めれば、それだけでロズベルト男爵家は簡単につぶされる程度の圧倒的兵力差を誇る。

 

 マリーカ・ソレイシィの乗機はエナジーウィング機ヴィンセント・カスタム。第一次世界大戦には対テロ即応部隊として側面支援。敵特殊部隊を討ち取る戦果を夫レオンハルトと共に挙げている。

 

 ロズベルト男爵家との紛争では被害者の一人。ロズベルトに手を触られるというセクハラを受けた。

 

 

 

 

 フランク・ロズベルト階級は男爵。

 

 当主:フランク・ロズベルト

 

 永代貴族

 

 男爵家

 

 領地:カンザスの端の端:10㎢

 

 総人口:1500人

 

 領都:無し

 

 騎士団:100名の歩兵

 

 当代の当主フランク・ロズベルト男爵の横暴に領民は耐えている。彼は本気で無礼討ちを見せしめのようにしてくるからである。

 

 領民の人数に対して100名という大騎士団を抱えるのは、彼の見栄と、何れ貴族の最高位である子爵に陞爵したときの見せかけの兵団である。

 

 本物の騎士は10名ほどで、残りは無理矢理掻き集めた農民兵。

 

 見栄と欲望の塊のような男で自分は大貴族であると本気で信じ、平民を見下げ虐げている典型的な腐敗貴族。

 

 賄賂にも弱く南天との繋がりの噂もある。

 

 現在は盟友ヨナイミツマサを頼り日本に滞在しているが、本物の大貴族である、ヴェルガモン伯爵家、ローゼンクロイツ伯爵家、シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、名家シュタイナー家、そして押しも押されぬ大貴族であるクルシェフスキー侯爵家に喧嘩を売ったことに気付いていない。

 

 これは貴族の最高階級が本気で子爵であると信じているためでもある。下位(下級)貴族の最高階級が子爵であり、その上に上位(高位・上級)貴族があるということを知らないのである。

 

 

 

 

 なお、この一男爵家による上位貴族への不敬行為は神聖ブリタニア帝国の社交界では大問題に発展している。

 

 たかが一男爵家がクルシェフスキー侯爵家を筆頭に、シュタットフェルト辺境伯令嬢・令息、ソレイシィ辺境伯令嬢、ヴェルガモン伯爵令嬢、ローゼンクロイツ伯爵令嬢、シュタイナーコンツェルン令息に不敬を働いたのだから。

 

 いずれも一男爵家如きが不敬を働いている以上、本来ならば無礼討ちのところを、各家令嬢令息が無視をしたからそうなっていないだけで、死罪相当であると判断され、ロズベルト家と繋がりのあった貴族家は皆離れていったという。

 

 絶対的階級制で成り立つブリタニア社会で、上位の貴族に対し、下位の貴族が不敬を働けば死罪は免れない。許されたと言って社会的に許されるわけでは無い。

 

 しかし、一人クルシェフスキー侯爵だけは絶対に許さないと布告を出し、ロズベルト男爵を逮捕するよう関係者に圧力を掛けており、必要ならば我が領の騎士団を使っても良いか陛下に奏上するとまで怒り立てているという。

 

 

 



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勘違いした田舎者 裏側2

仙台が大変なことになっているようです
短い小ネタです。


 

 

 

 クルシェフスキー領へと向かう中、新たな凶報が知らされた。

 

「ろ、ローゼンクロイツ伯爵家の第五女、シンク・ローゼンクロイツ様に手を出しおっただと、あのッ、あの馬鹿者めがッッ!!」

 

 前当主の瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちる。彼奴は自分がしたことをまるで分かっていないだろう。誰を誘い、誰を連れ出し、誰と望む夜を過ごしたのか?

 

 シンク・ローゼンクロイツ。身の丈よりも長く美しい金髪を、黒いリボンでツインテールに結わえているお姿がお美しく、深い深いその蒼い瞳はまるで全てを見通しているかのように深い色を湛えている。

 

 赤いヘッドドレスと、真っ赤な薔薇を想起させるドレスに身を包んだ社交界の花、薔薇乙女とも呼ばれる。

 

 歴とした上位伯爵ローゼンクロイツ伯爵の第五女にして、だ、だ、だだ、大日本帝国の枢木内閣外務大臣、麻生良太郎大臣の奥方でもあらせられる。

 

 そのシンク令嬢と踊り唾を付けただと!? お、終わりだ、ローゼンクロイツ伯爵は娘をこよなく愛していると聞く。そのローゼンクロイツ家のシンク嬢に手出してただで済むとは思えない。

 

 更に日本の夫、麻生太郎外務大臣は奥方に手を出す者に容赦しないと、噂では彼の魔弾の射手では無いかと裏では囁かれているほどの、銃の名手。いずれにせよただでは済まない。

 

 シンク嬢はお美しい、そのお美しさに惹かれて舞い飛んできた蝶は、悉く撃ち落とされているという。誰にとは言わないが想像は付く。

 

 依頼主も想像が付く。ローゼンクロイツ伯爵家は非常に優雅な薔薇だ、だが、薔薇のとげには毒があるのだ。ローゼンクロイツ伯爵は、シンク嬢に麻生大臣以外が触れる事を許していない。

 

 自らが認めた者ならば別らしいが、そうで無い物は、剪定してしまう非情なる御方としても有名だ。だから社交界で薔薇乙女達と踊ろうとすればそれなりの格好、それなりの心の持ちようを持つことが必要。

 

 ローゼンクロイツ伯爵も階級には拘らない貴族、自らの娘達が平民と踊っていてもにこやかに見ている。だが、下卑た者が相手だと一瞬のうちに冷笑に変わり、時と場合により下卑た者は死体で見つかる。

 

 これはローゼンクロイツ伯爵が為しているのでは無く、これを見ていた子の貴族が無礼討として為したと言われている。

 

 ローゼンクロイツ伯爵の領地は、確かアイオワ全土。

 

 領地:アイオワ

 

 

 領地面積:約145743km²

 

 陸地面積:約144700km²。

 

 水域面積:約1041km²

 

  総人口:630万人

 

 東西の幅:320㎞

 

南北の長さ:500㎞

 

 最高標高:509m

 

 平均標高:340m

 

 最低標高:146m

 

   領都:アイオワシティ

 

陸上騎士団:5万人

 

天空騎士団:1万2千人

 

水上騎士団:僅か

 

第5世代機:グロースター

 

第7世代機:ヴィンセント

 

 アイオワはローゼンクロイツ伯爵が治める領地。広大な領土を持ち、薔薇が名産。ローゼンクロイツ伯爵は薔薇をこよなく愛し。

 

 自身の娘たちには薔薇にちなんだ名前を与えている。令嬢8人、末っ子にジュン様というご子息が一人おられる。

 

 娘・息子たちに日本名を付けるのは、伯爵自身が大の日本好きであることと関係しており、娘のうち一人は日本人と結婚させると考えられていらっしゃったとか。

 

 そこへ第五女シンク姫、身体的特徴としては身の丈よりも長い金色の髪をツインテールに結わえ整えた、深く青い瞳を持つ小柄の女性、が取引先のアラウカニア=パタゴニアのある都市のホテルでテロ事件に巻き込まれ、聡明なシンク嬢ならば大丈夫と考えたと伝えられるも。

 

 やはり御心配だったのだろう、万が一を考えて、大日本帝国の知己であった辻政信財務大臣に救出を依頼。魔弾の射手という裏世界最強を誇るスナイパーを送り込みテロリストを鎮圧した。と伝えられていた。

 

 領地の何もかも、また魔弾の射手と知己である可能性。これらを加味すれば、我がロズベルト男爵家は……。

 

 

 

 勘違いした田舎者 裏側2

 

 

 

「だ、旦那様ッ、大変ですッ、」

 

「ははは……、これ以上大変なことがあるのかね」

 

 聞きたくない。聞きたくないが、ロズベルト家の者として聞かずには居られない。

 

「ご、御当主様がッ、日本のショッピングモールにて、お、恐れ多くもッ、シュタットフェルト辺境伯家の紅髪のご令嬢カレン・シュタットフェルト様。並びにナオト・シュタットフェルト様に対し、げ、下女、下男と、侮蔑し、居合わせたソレイシィ辺境伯ご令嬢に夜のお相手をさせようと……。なお、その場にはシュタイナーコンツェルン嫡男、レオンハルト・シュタイナー様も同席しており……もうすでに、この事件はローゼンクロイツ伯爵家に対する非礼と共に、ブリタニア中の社交界に情報として出回っている物と」

 

 な、なんと、なんということをしてくれるのだあの馬鹿者はっっ!! これでクルシェフスキー侯爵様、ヴェルガモン伯爵様、ローゼンクロイツ伯爵様、シュタットフェルト辺境伯様、ソレイシィ辺境伯様、シュタイナーコンツェルン様、六つの上位貴族家を怒らせてしまったのだぞ?!

 

 武で知られるシュタットフェルト辺境伯家は、己を侮辱する者全てを許さない。現当主のご側室が、武を以てとうとしとすと、家系の在り方を撃ち出してより。

 

 ヴェルガモン伯爵家、ローゼンクロイツ伯爵家、ソレイシィ辺境伯家と共に『技術の日本』とよく演習を重ねられ、騎士、軍人同士の交流を大いに進められていらっしゃるとか。

 

 そのシュタットフェルト辺境伯家には、近く日本より最新のナイトメア、紅蓮晴天なんとかというものが贈呈されるそうな。

 

 その領地は確かミネソタ。

 

 

 領地:ミネソタ

 

 

 領地面積:約225181km²

 

 陸地面積:約206375km²。

 

 水域面積:約18990km²

 

  総人口:1000万人

 

 東西の幅:320-560㎞

 

南北の長さ:640㎞

 

 最高標高:701m

 

 平均標高:370m

 

 最低標高:183m

 

   領都:ミネアポリス

 

陸上騎士団:6万人

 

天空騎士団:1万6千人

 

水上騎士団:5000人

 

第5世代機:グロースター

 

第7世代機:ヴィンセント

 

 

 シュタットフェルト辺境伯家は神聖ブリタニア帝国の上位貴族の一家だ。次期当主に紅髪のお嬢様を据え、カレン・シュタットフェルト辺境伯次期当主を、カレン様の兄ナオト・シュタットフェルト様が周りを固めている。

 

 兄弟仲は非常に良く、末の弟のアレクサンドル様含め、ご兄弟を侮辱されることを何よリも嫌うとか、カレン様を侮辱し、ナオト様を侮辱したあの馬鹿者はその事実に気付いていなかろう。

 

 仮に一騎打ちを申し込まれたのならば、無理矢理にでもあの馬鹿者を出し、カレン様の御自らの御手で成敗して頂く所存だ。それが最も平和的解決な気がして成らない。

 

 

 そしてソレイシィ辺境伯家はミズーリを領地に持つ御方、つまり、我がカンザスの大領主様に対して要請できる立場にお有りの御方。

 

 カンザスとソレイシィ辺境伯家の領地は隣り合わせであるからして、要請が可能なのだ。

 

 

 領地:ミズーリ

 

 

 領地面積:約180533km²

 

 陸地面積:約178455km²。

 

 水域面積:約2119km²

 

  総人口:1050万人

 

 東西の幅:385㎞

 

南北の長さ:480㎞

 

 最高標高:540m

 

 平均標高:240m

 

 最低標高:70m

 

   領都:セントルイス

 

陸上騎士団:7万人

 

天空騎士団:1万7千人

 

水上騎士団:4000人

 

第5世代機:グロースター

 

第7世代機:ヴィンセント

 

 ソレイシィ辺境伯家はカンザスシティを領境に持つ、カンザスに強い影響力を持つ大諸侯として知られており、領地の位置は北ブリタニア大陸中西部に位置する。

 

 ロズベルト男爵家の関係者を全員引き立てよと。……それが、それが現実になってしまえば、我が愛する孫娘の命運は……。マリーカ辺境伯令嬢とレオンハルト様はご夫婦。

 

 レオンハルト様はお優しい方と聞く。マリーカ様も。せめてソレイシィ辺境伯家だけでも御状を賜ることは出来ないだろうか。

 

 いや、その前にあやつが不敬を働いた全員が全員大貴族ばかり。

 

 子の貴族とて相当数に上る。いつかどこかでその子の貴族に一族郎党……。

 

 

 そんな不吉なことを考えていると、クルシェフスキー侯爵家の宮殿の門前に辿り着いた。

 

 私は衛兵に諸々の敬意を伝えると、衛兵の目つきが変わった。

 

「貴様か、不敬にもモニカ様やリーライナ様、新たにシンク様、カレン様、ナオト様、マリーカ様にレオンハルト様への不敬を働いたという男爵家当主の先代は」

 

「は、不肖の息子の親に御座います」

 

「その不肖の息子の教育もまともに出来ぬとは……一度六族に対する不敬の罪で、族滅となった方が良いのでは無いか?」

 

 生まれ変わってやり直せと冷たいお言葉を戴くも当然だ。今現状に於いてもそれだけのことをしているのだから。

 

「まあ、待っていろ。旦那様にお伝えしてくる」

 

 衛兵は邸の中へと入っていったが、幾人も居る衛兵が皆、こちらを睨み付けている。

 

 私は本日のことを振り返る。ヴェルガモン伯爵には許された、だがその子の貴族には許されなかった。リーライナ様への不敬はそれだけ重かったのだ。

 

 そしてこちらへと来る途上でローゼンクロイツ伯爵家のシンク様へ不敬を働いていたことを知ったのを皮切りに、シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、シュタイナーコンツェルンへの不敬。

 

 次々と大貴族ばかりへの不敬が発覚したのだ。老骨にむち打ってきたが、何度心臓が止まりそうになった事か。

 

 名を一つ聞く度に身体がビクンと震え、過呼吸になる。また名を一つ聞くにつれて心臓の鼓動がばくばくと早まり心筋梗塞を起こしそうになった。

 

 それでも耐えているのは、孫娘のため、可愛い孫娘には普通に生きて貰いたいのだ。

 

 

 ようやく、先ほどの衛兵が出てきてくれた。正直安堵した。この針のむしろ状態に耐えるのは堪えるのだ。

 

 だが、戻ってきた衛兵の答えは非情に過ぎる物であった。

 

「旦那様は会わん」

 

「は、いま、なんと?」

 

「聞こえなかったのか? 旦那様はロズベルト男爵関係者とは会わんといった。それだけの怒りを買っていることを自覚せよ。以上だ!!」

 

「そ、そんな、そんな、どうか一言だけでもクルシェフスキー侯爵に――!」

 

「ええい、うるさいぞッ。本来ならコレはヴェルガモン伯爵が下す沙汰、ローゼンクロイツ伯爵が下す沙汰、シュタットフェルト辺境伯が、ソレイシィ辺境伯が、シュタイナーコンツェルンが下す沙汰。それを旦那様が下された意味、ご理解頂こう。旦那様が代表して御貴殿の家へ怒りをぶつけられたと言うことだ。仮に他の家々が許していたとしても、モニカ様に不敬を働いたフランク・ロズベルトを旦那様は決して許さんぞ、その一族もな」

 

 私はその言葉に、目の前が白み始め、その場に倒れていた。

 

 

 気が付くと帰りの車の中だった。

 

 従者があの後くってかかったらしいが、精強で知られるクルシェフスキーの騎士を相手に一方的に取り押さえられたらしい。

 

「旦那様、こうなったらお嬢様だけでも」

 

「ああ、クルシェフスキー侯爵が族滅にまで動くか分からんが最悪を考えておこう」

 

「他の大諸侯の動きも見張っておきます」

 

「無駄だよ。あの方々には我々の動きなど手に取るように見えているさ……、クルシェフスキー侯爵・ヴェルガモン伯爵・ローゼンクロイツ伯爵・シュタットフェルト辺境伯・ソレイシィ辺境伯・シュタイナーコンツェルン。そうそうたる顔ぶれだ。あの方々には独自の情報網もある。あの方々には大量の子の貴族もいる。我々が何をしたところで無駄だよ」

 

 

 我々に出来る事があるとすればただ一つ。誠心誠意の謝罪のみ。

 

 けして軽挙妄動に走ってはならない。

 

 六家の内の一家でも我々を無礼討ちに処してしまえるのだから。それを忘れてはならないのだ。

 

 



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勘違いした田舎者 良太郎とシンクの穏やかなひととき

原作とアニメと史実から推測したオリジナル設定が大分と入っております。
また二二三氏のSSを元に、自分なりの解釈を入れて書いたオリジナルです。
まあ、単なる馬鹿男爵シリーズの一つのお話というだけですけれど(汗。
ローゼンメイデンのネタばかりなので億劫かも知れませんが、しっかり馬鹿男爵のネタも詰めております。



 

 

 

 神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家は、上位伯爵家であり、広大な領地と人口、そして軍事力を持つ恐るべき貴族の一家である。

 

 ブリタニアの階級制度は、平民から皇帝まで、全13階級に分けられているが、厳密に言えば13階級ではない。

 

 伯爵は伯爵でも、下位、中位、上位と大きく分けて三段階に分かれており、上位伯爵ともなれば更に階級が一つ上の下位の辺境伯とほぼ同等となる。その他、法衣貴族なども多数おり、一概にこれを以て何かとは言えないのだが。

 

 それぞれの貴族はやはり三段階ずつに分かれていると言っても良い為、ブリタニアの階級制度はその実、厳密に言えばだが、三十段階前後存在すると言っても過言では無いのだ。

 

 俗に呼ばれる大諸侯とは上位伯爵家からとなり、中位以下の伯爵家とはその力に大きな差が存在する。下位の貴族の最上位である子爵家と、上位の貴族である伯爵家との間に存在する絶対的なる壁。

 

 これと同等のものが中位伯爵家と上位伯爵家以上の貴族の間には存在しており、越えられない壁となっている。

 

 そのローゼンクロイツ伯爵家は近傍の貴族家である、シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、ヴェルガモン伯爵家、いずれ名だたる大貴族と同様。広大なる領地と精強な騎士団を持つ。その名はブリタニア人なら当然として北側諸国・南側諸国問わず知られている。

 

 北ブリタニア大陸中南部に位置する ローゼンクロイツ伯爵家の詳細は。

 

 

 領地面積:約145743km²

 

 陸地面積:約144700km²。

 

 水域面積:約1041km²

 

  総人口:630万人

 

 東西の幅:320㎞

 

南北の長さ:500㎞

 

 最高標高:509m

 

 平均標高:340m

 

 最低標高:146m

 

   領都:アイオワシティ

 

陸上騎士団:5万人

 

天空騎士団:1万2千人

 

水上騎士団:僅か

 

第5世代機:グロースター

 

第7世代機:ヴィンセント

 

 となっており、数値で見てもわかる通りの、押しも押されぬ大貴族。

 

 

 

 勘違いした田舎者 良太郎とシンクの穏やかなひととき

 

 

 

 そのローゼンクロイツ伯爵家は、大貴族にして大家族でもあった。

 

 腰まで届く銀色の長い髪にルビー色の美しい瞳を持ち、黒いドレスに身を包んだ、妖しい美を持つ、長女スイギントウ。

 

 ロールヘアーにされた緑色の髪に、緑色の瞳、黄色いドレスに身を包む次女、カナリア。

 

 身の丈よりも長い栗色の髪を二つに分けたロールヘアー、右の瞳が赤、左の瞳が緑のオッドアイを持ち、緑色のドレスに身を包む三女、スイセイセキ。

 

 栗色の短い髪に黒い帽子を乗せ、深い蒼色の男性用の衣服に身を包む、右の瞳が緑、左の瞳が赤のオッドアイを持つスイセイセキの双子の妹、四女、ソウセイセキ。

 

 身の丈よりも長い金色に輝く髪を、細く黒いリボンで左右側頭部高くに結び、赤いヘッドドレスと赤いドレスをいつも着こなす、全てを見通すような深い青色の瞳を持つ五女、シンク。

 

 肩までのセミロングの金髪を幾つかのロールヘアーに分け、薄桃色の大きなリボンを頭に結び、白桃色のドレスに身を包んだ緑の双眸を持つ六女、ヒナイチゴ。

 

 雪のように白く美しい、膝下にまで届くウェーブヘアーに整えた、右目に白い薔薇の眼帯を付け、白いドレスに身を包んだ、金色の瞳を持つ七女、キラキショウ。

 

 少し暗めの膝下にまで届く銀色の長い髪を持ち、左目に紫色の薔薇の眼帯を付け、紫色のドレスに身を包んだ、金色の瞳を持つ八女、バラスイショウ。

 

 短い黒髪に黒い瞳、眼鏡を掛け、青の紳士服に身を包んだ一見日本人に見まごうかという風貌を持つ末弟、ジュン。

 

 まるで五女シンクと生き写しのような容姿、髪の長さ、髪型を持つ、シンクと同じ赤薔薇のドレスに身を包んだ、ローゼンクロイツ伯爵夫人、アリス・ローゼンクロイツ。

 

 そして明るい金髪に白の紳士服に身を包んだ、二十代前半の風貌を持つ美青年、当主ローゼンクロイツ伯爵。

 

 他にもう一人、年中北側の世界中を旅している、八女バラスイショウの本当の父親で、ローゼンクロイツ伯爵とよく似た風貌を持つ、伯爵の実弟エンジュ・ローゼンクロイツ。

 

 皇室ほどではなくとも、日本基準で見ると充分すぎるほどの大所帯を持つローゼンクロイツ伯爵家は、その五女が盟邦大日本帝国のある人物の元に嫁いでおり、先日、その人物の留守中に、ある事件が起きた。

 

 ブリタニア帝国の男爵家を名乗る輩が、不敬にも夫を持つ身で有り、遙か高みにある上位伯爵家ローゼンクロイツの五女、シンクを、自らの交遊に誘ったのである。

 

 遊びに誘っただけ? とんでもない話しだ。たかが一男爵家、それも下位か中位に位置するだろう男爵家の当主を名乗る男が、神聖ブリタニア帝国の貴族として、本来識っておかなければならないはずの、ローゼンクロイツという大諸侯の息女の名も、顔も、識らずに、自らの遊びに誘ったのだ。

 

 当然ながらこれは不敬罪に相当する。シンク嬢が無礼討ちとすると決めたのならば即座に無礼討ちとされる対象。だが、起きた場所は大日本帝国。

 

 家族同然の盟邦とも例えられる同盟国同士なれど、法の違いは存在する。大日本帝国には大日本帝国の法が有り、ブリタニアの貴族であっても日本に居る以上はこれに従わなければならない。

 

 つまりシンクと言えども、日本では事件とならない、セクハラなどをされていない以上は検非違使に訴え出たところで意味も無く、無為な行為でしか無い。

 

 これらを承知の上で彼女は誘われて遊んでみた。ブリタニアの貴族たる者、当たり前として持つノブレス・オブリージュをこの男が僅かばかりでも持つのかを、自分でも愚かに思いながらも試してみたのだ。

 

 財産、権力、社会的地位。曲がりなりにも貴族の当主、それらを持つであろう者。平民への接し方は? 領地の運営については? 祖国に対する忠誠心は? いざとなれば領民の為、剣を振えるか?

 

 結果として言えば、全ての面に於いて0点を下回った。この男はブリタニアの貴族として相応しくない。そしてこの男を見つめることで、己が在り方を見つめ直すという事も、意味の無い一夜の遊びに彼女はしていた。

 

 が、この情報は漏れた。彼女が漏らしたのでは無い。この様なくだらないことを一々誰かに吹聴し噂とするような低俗な精神を彼女は持たない。高貴なる者の在り方、誇り高く生きる彼女が、こんな馬鹿との馬鹿な遊戯を口にするなど、自らをおとしめる行為だからだ。

 

 漏れた理由は至極単純なことだった。日本には多くのブリタニア人が遊びに来ている。また、良きにしろ悪しきにしろ、ブリタニア帝国の大貴族であるローゼンクロイツの名は、クルシェフスキーやヴェルガモンといった大諸侯同様、社交界、政財界で知れ渡っている。

 

 彼の男の誘いに応じたのはノブレス・オブリージュとは、を再確認するためだけの、くだらない時間でしか無かったが、そのくだらない時間の最中にあって、多くのブリタニア人また盟邦である日本の方々にも気付かれていたのだ。

 

 即ち、シンク・ローゼンクロイツ様だと。最早論うまでもなく、この情報はブリタニア中、そして日本の上流階級の間で駆け巡った。曰く『一男爵家当主を名乗る輩が不敬にもシンク様を自らの遊びにお誘いした』と。

 

 それが昨今問題になっていたロズベルト男爵家当主のフランク・ロズベルトだと分かるのも早かった。

 

 ※

 

「失敗だったかしら?」

 

 豪奢な鏡の前の椅子。どう高く見つもっても中学生に入るか入らないかくらいの少女、否、女性が座り。女性自身の身の丈よりも長い金色の美しい髪を、少し天然パーマの入った七三分けの黒髪の壮年の男に梳かれながら、鏡に写る自分を見ていた。

 

 丁度梳き終わったところで、彼女の頭の左側頭部高く、輝く美しい金の髪を集めながら、持っていた細く黒いリボンで髪を結う男は、女性――シンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢のそんな呟きに、息を吐き出しながら呆れた口調で応じた。

 

「失敗も何も、お前さんが嵌めた様なもんじゃねェかい……ったく、相手が誰かも知らずに誘った馬鹿男爵が不敬すぎるが、誘われてやったおめェも充分事態を悪化させてやってんだぞ? 件の馬鹿男爵様にとってのな」

 

 宮廷の舞踏会などでは稀に組み合わせとして下級貴族と上級貴族が踊ることもある。その様にならぬよう組み合わせが為されているが、下位貴族にとっては栄誉な事であり、自分を売り込むチャンスでもあるのだ。

 

 あの一夜の遊戯。もしもロズベルト男爵が子爵よりも上位の貴族位があるということを学んでおり、相手がシンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢だと気付いていた上で、『御無礼を承知で』とでも付け加え、自分の遊戯に付き合わせるのでは無く、シンク様のお供をさせてくださいませんかとでも主張していれば、まだ理解も得られたかも知れない。

 

「リョウタロウ、あなた、不倫を疑わないのね」

 

 シンクは誇らしげながらも、少し不満そうに口を尖らせる。自分が何処かの男と遊びに行っていても心配してくれないのか?

 

「誰が疑うかよ」

 

 左側頭部の髪を結い終えた男――大日本帝国枢木内閣外務大臣にして裏世界では魔弾の射手と呼ばれる、世界最強を謳われるスナイパー、壮年の面差しを持つ、まだまだ若々しい“青年”麻生良太郎は、シンクの右側の髪の毛を、彼女の右側頭部高くに集め、左と同じく細く黒いリボンを、集めた髪の根元に巻き付け、括り上げ、綺麗に結い上げつつ、言葉を発した。

 

「おめェが誰よりも高貴な女だって事ァこの俺がよーく知ってるぜ。大方心中ではつまらない男とでも考えてたんだろう? そもそもがお前さんをローゼンクロイツ伯爵令嬢と知らずに誘った木っ端貴族に罪がある。ブリタニアって絶対君主貴族制階級国家ってのはそうなってんだろ? だったら悪いのはそのロズベルトって木っ端貴族であってお前には何も落ち度はねェ」

 

 リボンをキュッと強めに結び、しっかりと結い上げ完成したツインテール。良太郎の手で結われた髪。良太郎は指を入れて撫でおろし、しっかり整えてから二つの髪束を離した。

 

「さ、完成だ。どうよ? 出来栄えは」

 

「いつも通りの合格点よリョウタロウ」

 

 自分を鏡に視ながら、自身の赤薔薇の色をしたヘッドドレスを彼から受け取ると、頭に付け、顎下に緑色のリボンで結びつける。

 

 彼女は今一度鏡に写る自分の身体の角度を変えながら、身嗜みを確認すると、すっ、と椅子から立ち上がり、良太郎に手を伸ばした。

 

「抱っこ、してちょうだい」

 

「なあ、お嬢様よお。俺、ちょっと疲れてんだよ」

 

「フフ、なにをおかしなことを。一個戦車大隊を簡単に迷子にして、南天と深い繋がりのあったユーロユニバースの議員を、来たるべき日が来るまでにユーロを白化させないよう三人ほど迷子にしてきただけ、なのでしょう?」

 

 このあり得ない返答に苦虫を潰す良太郎。裏の仕事の話しは妻にしていない。だが、妻シンク・ローゼンクロイツはいつも視てきたかのように言い当てる。その深い青の双眸で、こちらの瞳を見つめながら。

 

「依頼主はツジ卿、かしら」

 

「知らねェなあ」

 

 ガツンッ。

 

 瞬間、良太郎の脛に迸る激痛。

 

「痛っでェェ! オメェなにすんだッ!」

 

 すっとぼける良太郎の脛がシンクの爪先に蹴られた。いつものこと、彼が気に入らない回答をしたり行動を取れば、彼女は彼の脛を蹴るのだ。

 

 郷に入りては郷に従えの如く、シンクも日本の麻生の邸宅では靴を脱いでいる、なので家の中での脛蹴りは爪先となってしまうが、それでも充分痛い。

 

 彼女自身の爪先にダメージが来ないよう調整しながらというところが、彼女もまたただ者ではないことを示していた。

 

「素直に答えないからよ。随分前の私の救出もツジ卿からの依頼だったでしょう? あなたはよくツジ卿の依頼で動いている。違って?」

 

 なんでも言い当ててくる妻。普通の夫なら恐怖を覚えているかもしれない。

 

「……お前よお、なんでそんな簡単に物事当てられるんだよ」

 

「深淵にある情報の欠片を集めて形にしていけば答えは出るわ」

 

「じゃああれかよ。そんな女でも見抜けねえ男爵閣下は大物って事か」

 

「粗ばかりでしかない馬鹿の考えは見透かせても、理解までは出来ないわ。それもあそこまでの馬鹿となると、何をしたくて何事を行うのか。意味不明ね」

 

「で、ローゼンクロイツ伯爵には報告すんのか?」

 

 ※

 

 ローゼンクロイツ伯爵への報告。重い意味を持つ。

 

 伯爵は自身が手塩に掛けて育てた薔薇達を、無作法者に触られる事を嫌う。舞踏会に参加していた下位の男爵が、長女スイギントウに無遠慮に触れたことがあったが、後日死体で見つかっている。恐らく無礼討ちにされたのだろう。

 

 いつも優しげな微笑みを浮かべている伯爵は、その実とても優しい。領民からも親しみを込めて『ローゼン様』と愛称で呼ばれている。貴族を愛称で呼ぶなど不敬罪で処刑物だが、伯爵は嬉しそうに『いつも我が領の発展のために頑張ってくれてありがとう』と、微笑みを以て返すのだ。

 

 こんな話がある。あるとき、領内視察に赴いていたローゼンクロイツ伯爵の前を子供が通り、SPが気付いていなかったのか、伯爵共々転倒してしまったことがあったそうだ。雨に濡れた街頭。水たまりに落ちた二人。

 

 ずぶ濡れになってしまった伯爵と子供。確実なる無礼討ちとされる所業、だが伯爵は『坊やお家はどこかな? 名前は? 坊やが風邪を引いてしまっては大変だ。直ぐさまお家まで送ってあげよう。すまない君、車を回してくれないかな?』SPの一人に声を掛け、子供を家まで送り届け。なんと子供を転倒させてしまったことに対する謝罪金まで支払ったという。

 

 平民とは大切にするもの。尊きものとして守らなければならないもの。ノブレス・オブリージュの精神を持つアイオワを治める大貴族。ローゼンクロイツ伯爵。その教えは子供達や家臣にも受け継がれており、アイオワはローゼンクロイツ伯爵の邸宅でもある宮殿、薔薇の荘園を中心に発展の限りを尽くしている。

 

 また別の話がある。ローゼンクロイツ伯爵の奥方。シンクと鏡合わせの様に瓜二つなアリス・ローゼンクロイツは、シンクと同じく赤薔薇に例えられるが、この赤薔薇はローゼンクロイツ伯爵にも例えられることがある。優雅なる赤薔薇と、そして鮮血の赤薔薇だ。

 

 かつて大貴族連合という皇室を打ち倒し、新たなるブリタニアを作ろうと目論んだ、ノブレス・オブリージュの精神を忘れた愚かな貴族の集団があった。南天と繋がりを持ち、南天の支援を受け、その教えに染まり掛けていた彼らが各地で反旗の声を上げた際、アイオワ周辺の大貴族連合に参加した貴族は、悉く打ち倒されてしまったという。ナイトオブラウンズではなく、たった二人の貴族によって。それがローゼンクロイツ伯爵と、その妻アリス・ローゼンクロイツ伯爵夫人だったというのだ。

 

 この勲功により元々ローゼンクロイツ家はかなり大きな貴族としてアイオワに領地を構えていたが、アイオワ全土を所領として与えられている。皇帝シャルル・ジ・ブリタニアからは空席のナイトオブラウンズとして仕えぬかというお言葉を賜ったが、私どもには守るべき領民、そして子供達がおります、どうかこのお話はと辞退させて戴いたという話しだ。その変わりとしてシャルルが大貴族連合に参加した愚かな貴族達の所領を全て、ローゼンクロイツ領に併呑させ、同時に伯爵位としての区分を上位に引き上げたのだという。

 

 つまり、ラウンズとして召し抱えられようとしていたほどに個人戦闘力が抜きん出ている事を示しており、良太郎も初めて顔合わせをしたとき『二人同時に来られると厄介だな』と、裏世界最強の男が考える程の、静謐なる波を感じたくらいに、強いことが分かっている。

 

 ただ、その人柄は気持ちいいくらいに気持ち良かった。一点、愛する薔薇についてを除いて。

 

『アソウさん、いや、リョウタロウくん。君に一つだけ約束して貰いたいことがある』

 

『なんですかい?』

 

『僕の大切な小さな赤薔薇を、君以外の男がみだりに、ましてや悪意と欲望に満ちた男に触れるさせるようなことの無きように願いたい。あの子が自ら望んでいれば良いんだけれど。誇り高いあの子はその様な汚辱を受けるくらいならば相手を誅殺するだろう。適わぬならば自らで自らを枯らしてしまう。そんな誇り高い子だ。この約束を違えたとき、僕は君を討ち取りに向かう、たとえ力及ばず適わずとも。……僕の小さな赤薔薇を守ってくれるかな?』

 

『そんな大切な薔薇を俺みたいな死臭を漂わせている男に預けてもいいんですかい?』

 

『むしろ、君以外に預けようとは思わない。どうだろう。僕との約束を守り僕の小さな赤薔薇を受け取ってくれるかな?』

 

『Yes,My、Lord.──って言ってやりてえところだが、伯爵閣下、お前さんは俺の上司じゃねェ。あんたも知っての通り、俺の直属の上司は辻のおじき、ああ失礼。大日本帝国財務相辻政信閣下だ。俺に取ってYes,My、Lord.ってのは辻閣下にしか言えない言葉……だから――』

 

 

 ――俺が言えるのはYesまでだ。守るぜ、アンタがどうこうじゃねえ。俺の愛する赤い薔薇を、この“魔弾の射手”の名にかけて、な。

 

 

『ありがとうリョウタロウくん。それと、僕の事はローゼンと呼んで欲しい、呼び捨てでも構わないよ』

 

『ははッ、こらまた冗談の上手い御方だな。分かったぜローゼン。それとこちらからもよろしく頼まァ、親義父殿』

 

 ※

 

 シンクとの結婚の裏話を思い出していた良太郎を、ふと現実へと引き戻したのもシンクだった、

 

「報告? するまでもなくお父様のお耳に入るわ。お父様がどうなさるかまではピースが揃わない以上分からないけれど。既にクルシェフスキー侯爵家、シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、ヴェルガモン伯爵家、シュタイナーコンツェルン、そしてうち、六家へ不敬を働いたロズベルト男爵家は、ブリタニアの法に照らし合わせるのなら……極刑を通り越して、族滅対象ね」

 

「相変わらず階級関係ではおっかねえな、おめェのところの国は。うちも階級国家と言ァ、階級国家だが、もちっと緩やかだぜ。ところで……お前、馬鹿男爵に触られてねェだろうな?」

 

 触られていたら伯爵が何かをするまでも無い。この手で始末する。そのくらい良太郎も妻シンクを愛しているし、妻のことを伯爵から呉々も頼んだよと任されている。愛情と責任と両方があるのだ。

 

「フフ、その時は触られる前に私がこの手で制圧するわ。けれど、あの男、私の髪や身体に何度も触れようとしてきたわね。レディの身体に対し、無遠慮に触れようとする。それ事態が貴族の紳士としてマナー違反。もしも触れていたらステッキで喉を突き潰していたところよ」

 

「はあ、お前も充分怖い女だぜったく」

 

 そう、かく言うシンクとて素人では無い。武芸全般達人の域にある。薔薇は美しく可憐で誇り高いが、全身に棘を持つ。フランク・ロズベルト如きがシンクに触れる事など、端から不可能な事なのだ。

 

 しかし、矢継ぎ早な良太郎からの質問に、愛情を感じたシンクは、白い頬を薔薇色に染めていた。赤薔薇の名にふさわしく赤い色に。

 

「リョウタロウ、抱っこ」

 

 再度の彼女からの命令。僕は従わなければならないようだと、自身に伸ばされている手の間に入り、彼女の身体を優しく静かに持ち上げ、左腕に乗せる。如何に彼女が、中学生手前ほどの小柄な体躯をしているとはいえ、人一人を左腕だけで軽々と抱え続けられる力を持つ良太郎は常人では無いだろう。

 

「んで、何処行くんだお嬢様? どこまででもお供致しますぜ」

 

「じゃあまずは朝食。それから帝都の散策」

 

「なんだまた帝都の探検またかよ」

 

「大日本帝国の帝都は広いもの。幾ら散策をしても物足りないくらいよ。同じ場所を次に通れば何かが変わり、また別の場所に行けば新しい何かの出会いがある。それはとても素晴らしいこと」

 

 この二人は良く出かけている。一方は裏世界の人間として動くことが多く。そして同時に表では外務大臣として忙しく。一方は日本とブリタニアを行き来し、あらゆる物を視、聞きながら深淵にて紡ぐ欠片を集める。

 

 揃って出かけることも多い仲睦まじい夫婦。それが麻生良太郎とシンク・ローゼンクロイツの在り方。

 

「或いは……ロズベルト男爵領を見に行くのも良いかもしれないわ。いったい領民達はどの様な暮らしをしているのか? 家臣団は領民にとりどの様な存在なのか? フランク・ロズベルトは租税をどの様に扱っているのか」

 

「おいおい勘弁してくれよ。ブリタニアの何処なんだよその男爵様の領地は? 大体おめェみてェな大貴族が調査することじゃねェだろうがそんなもん」

 

 それはそうだろう。シンクの様な上位伯爵家の御令嬢が態々赴くようなことでは無い。聞くところによればロズベルト男爵家とはカンザスの何処かの10㎢の小さな領地だという。その地方の管轄の役人がいるだろう。そこら辺りの仕事だ。

 

 シンクみたいな大貴族が行こうとすれば確実に情報が流れる。アイオワとカンザスは近い上にアイオワを治めているローゼンクロイツ家と、カンザスを収めている各諸侯にも交遊はある。

 

 ローゼンクロイツ家の令嬢がカンザスに訪れると知られれば、まずはカンザスの最も上位の領主のところへと挨拶へ行くことと成り、その後目的を告げるとローゼンクロイツ家の御令嬢をその様な場所へ行かせるわけには参りません。となる。

 

 当たり前だ。カンザスは中小の諸侯が集まって構成されており、最高でも下位伯爵家までしかいない。厳密には違うのだが、場所柄五大湖諸侯の一家に数えられるローゼンクロイツ。五大湖諸侯はヴェルガモンを中心に大諸侯が集中している。

 

 その五大湖諸侯に数えられる上位伯爵家たるシンクが乗り込むのだ。自由に動こうにも『シンク様には相応しくありませんので』の連続で禄に動けやしないだろう。

 

「身分を偽って騎士爵か男爵かで向かえば良いのではないかしら? クロイツ男爵家とかどう? その為の身分証も作って」

 

「お前、うちの国の時代劇にでも嵌まってんじゃねえのかい?」

 

 あれは架空の話しだ。シンクほど位の高い貴族ならば確かに可能なことだが。

 

「俺もついて行くことなるから騒ぎが大きくなっちまうぜ……裏の顔で行きゃあ問題ねェがな。まあそれ以前としてローゼンクロイツの子、クルシェフスキー、ヴェルガモン、シュタットフェルト、ソレイシィの子が始末をつける可能性が高ェ。お前みたいな大物の出る幕はねェかもしれんぜ」

 

 シンクを座布団に座らせると。

 

「ん――」

 

 軽く朝の口付けを交わす。直ぐに離れる唇はだが、互いの温もりを残しており、シンクの瞳に潤いを。良太郎の顔に恥ずかしさを反映させた。

 

 硬派で不良な良太郎の柄では無いのだ。

 

「フフ、いつも嬉しいわ……リョウタロウ。愛情表現は夫婦として最も大切な事だもの」

 

 誇り高き赤薔薇が素直になる貴重な瞬間だろう。本当は彼女もこの手の事柄は苦手な方なのだから。

 

「ま、な、夫婦、だからな。俺だってちったあそういう空気も読むぜ」

 

「そう、じゃあ愛の朝食は花丸ハンバーグが食べたいわ」

 

 またシンクが無茶を言い出す。実を言うと良太郎は花丸ハンバーグを作れるが、こんな朝にいきなり言われて材料も無い。

 

 なにより。

 

「お前さんよう、今年で幾つよ? 二十代後半にもなって花丸ハンバーグはねェだろ」

 

「甘いわね。好きな物に歳は関係ないのよ。私があなたに葉巻をやめなさいと言っても聞かないのと同じよ」

 

「俺のは大人の嗜好品だ。一緒にするない……ま、花丸ハンバーグじゃねェが、メシ作るから待っててくれや」

 

 麻生家の食卓は良太郎とシンクが揃って在宅中の時は大凡が良太郎の領分となる。

 

 僕が主人の食事を作る。変な有り様だが、これが良太郎の家の有り様だった。

 

「仕方のない僕ね。まあいいわ。楽しみにしてるわ」

 

「はいよ、楽しみにお待ちくださいませ、お嬢様」

 

(ロズベルト男爵よう。うちの嫁さんに手を出したって事の意味分かってんのか? アイオワ全土と周辺の中小貴族を敵に回したって事なんだぜェ)

 

 ヴェルガモン伯爵、ソレイシィ辺境伯、シュタットフェルト辺境伯、ローゼンクロイツ伯爵、五大湖大諸侯だけでこれだけの数に上る。ヴェルガモンに手を出した時点で五大湖経済圏と中小貴族。そして各諸侯の子の貴族。

 

(これに西海岸諸侯盟主クルシェフスキー侯爵家。西海岸諸侯が全部敵に回ってる状態だ。それに、裏で生きてる分裏の噂も手には入るが、あのナイトオブトゥエルブのモニカ・クルシェフスキー卿ってのは確かシャルル陛下の――っと、いけねえいけねえ、滅多なこたァ考えるもんじゃねえな……いずれにせよお前さんの一族の命、そう長くねェぞ?)

 

 物騒なことを考えながら、朝だから重たくない物にしておくかと料理を作っていく、彼はテキパキと動きながら、あー葉巻吸いてえとか呟く。

 

 大日本帝国枢木内閣外務大臣、麻生良太郎。裏の世界で魔弾の射手の二つ名を持つ彼への命令権は、枢木ゲンブには無い。

 

 彼への絶対的命令権を有するのは夢幻会重鎮、辻政信で有り、辻政信こそが直属の上司。辻の依頼により潰してきたテロ組織や南天と関係する武装組織の数は相当数に上ろう。

 

 そんな超人的強さを持つ彼だが、家ではこの小さな、子供のような体躯の美しい妻こそが彼の直属の上司なのであった。

 

 

 



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勘違いした田舎者 ある親の思い

お父さんの色んな想いです。


 

 

 

「モニカ・クルシェフスキー卿への侮辱のみならず、リーライナ・ヴェルガモン卿への侮辱」

 

「これに続きシンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢、カレン・シュタットフェルト辺境伯令嬢、ナオト・シュタットフェルト辺境伯令息、マリーカ・ソレイシィ辺境伯令嬢。シュタイナー家のレオンハルト・シュタイナー令息への非礼。諸侯はどう思われる」

 

「どうもなにも、我がブリタニアの法に照らし合わせれば極刑は愚か、族滅対象ですぞ!」

 

「仮に法の執行をせずとも西海岸諸侯の盟主クルシェフスキー侯爵閣下、五大湖経済圏の中核を治めるヴェルガモン伯爵閣下、その他にもローゼンクロイツ伯爵閣下に、シュタットフェルト辺境伯閣下、ソレイシィ辺境伯閣下、シュタイナーコンツェルン。これだけの大貴族と有力貴族を敵に回しておるのだ。傘下の子の貴族、各諸侯の周辺を固める中小貴族が黙っておるまい」

 

 無礼討ちだ。公開処刑にしろ。たかが田舎の貴族が。所領はカンザスの端の端と聞いたぞ?

 

 誰か知っておるかね? 知らない。

 

「こ、皇帝陛下、改めてご沙汰を願います。この様なことが許されてはなりませんぞ!」

 

「そうです。たかが田舎の男爵家風情が、これだけの大諸侯に対し非礼を働いて沙汰無しとは、誰もが納得いたしま――」

 

 

 

 申しつけたはずだ。この一件については当事者間のみの解決とすると。当事者が良いと許すのならば、儂が特に何かを言うでも無いこと――。

 

 

 

「へ、陛下しかしそれでは」

 

「くどい。もう詮議は終わりだ。ロズベルト男爵家についての沙汰は、非礼を受けた各諸侯へ一任する」

 

 

 

 ある親の思い

 

 

 

 詮議が終わり。シャルル・ジ・ブリタニア皇帝は大広間を後にする。

 

 自分に付いてくる護衛。どこにでも着いてきて自身の身を守る護衛に、シャルルは冷たく言い放った。

 

「今日は良い」

 

「は?」

 

「今日は良いと言った」

 

「しかしそれでは陛下の御身を御守りする者が。いまはラウンズの方々もそれぞれの任務についておられ、我々まで離れては陛下の身辺に隙が生じてしまいます。彼の空白の三十分事件のこともありますし」

 

 護衛は必至で留めてくる、一人になってはならない。一人にしてはいけないと。誠に良き家臣を自分は持ったものだ。恵まれた生活環境に居るものだと思う。

 

「かまわぬ。空白の三十分は謎に満ちた事件。あれがもう一度起きるならば、我が身の周りに全てのラウンズが揃っていたとしても、無為な事よ。誰にも対処のできない超常現象に立ち向かう術など無い故にな」

 

 シャルルはそれだけ言い置き、護衛を下がらせながら、自身の居室へと続く長い廊下を歩いていた。

 

「96,97」

 

 数を数えながら歩む一歩が重い。

 

「98,99」

 

 それでも進まなければ、居室には辿り着けないのだ。居室は直ぐそこだ。

 

「101……」

 

 だが、シャルルの脚はそこで止まる。

 

「101」

 

 同じ数字を繰り返しながら。

 

 反芻する。96,97,98,99,……101。

 

 そうだ。数字が一つ無い。本来あるべき場所に一つの数字が無いのだ。そう、100がないのだ。100だけが、空白地帯のように存在しないのだ。

 

「北側諸国に根回しを、盟邦大日本帝国皇室・華族・政財界に全てを打ち明け、我が国の我が子等、親族、諸侯に全てを、いや、あの件を伏せ、無かったことにして打ち明け」

 

 意味不明。シャルルは幽鬼の様に立ち尽くし、何度も何度も繰り返し同じ事を口走る。

 

「あの子を、あの子を、あの子を」

 

 100に据えるべきあの子を迎え入れたい。西海岸諸侯の盟主とも一度二人だけで話がしたい。

 

 ともあれ軽率な事はできぬ。いきなりの発表などしてしまえば間違いなく混乱が起きるし、何よりもあの子が傷つき泣いてしまうだろう。それだけは避けねば。慎重に、慎重に。

 

 シーランド国王は受け入れてくれる。

 

 アルガルヴェ連合帝国は祝福してくれるだろうか?

 

 ギアナ公国は? ペルー王国は? エクアドルは? アラウカニア=パタゴニアの第二王女アリシアは友達になってくれるか?

 

 インドネシアは? ティモールは? パプアニューギニアは? フィリピンは? インドシナは? ナウルは? クウェートは?

 

 何れ建国される欧州諸王国の連合体は?

 

 そして、我が盟邦大日本帝国は、あの子を受け入れ祝福してくれるだろうか。あの優しい子を。優しく、強く、勇敢で、全ての民に正義は必要。騎士は強くあらねばならない。全ての民を守る為にと本気で考え実行している、心優しいあの子をみんなは受け入れてくれるだろうか?

 

 迎えるのならば、発表をするのならば万全の準備を以て。北側諸国への根回しは必ず行わなければならぬ。真っ先に大日本帝国の友人達と上帝陛下、御帝、華族諸諸侯へ。政財界へ。

 

 そこから北側の同盟各国首脳へと個別協議を以て広めていき、南天に漏れる事無きよう、配慮に配慮を重ね。いや、重ねすぎるに越したことは無い。ユーロユニバースを叩き潰し、欧州にハイランド大公・ヒトラー大公が皇帝・宰相として帰還し、新たなる国が発足。北側諸国が団結するのを待って。

 

 しかし、それでは儂が待てぬ。あの子を、あの優しき子を、この腕で抱き締めたい。抱き締めてその名を呼びたい。あの子の母より与えられたその名を呼んでやりたい。

 

 だが、どうなのだろうか? あの子は本心ではあの子の母を殺した儂を憎んでいるのでは無いだろうか。名と正体を明かし仇討ちを……。

 

 もしもあの子の本心がそうであるならば、儂はあの子の剣でこの身を貫かれたいと思う。そして、最後に一度で良い。あの子の名を呼びあの子を抱き締め、その腕の中で死んでいきたい。

 

 そして、もし、あの子が受け入れてくれるのならば。しっかりと根回しを行い、世界に混乱が起こらぬよう、あの子の出自を知られぬよう、情報管理を徹底して、この宮殿へ迎え入れよう。

 

 だが、あの子はアイツの元へと行きたがるに違いない。この四年、あの子とアイツの様子を見てきたが、アイツはどうか相変わらずその心も記憶も読めぬが、あの子はアイツを意識している。

 

 あの子を迎え入れるということは、アイツも迎え入れるということ。アイツはそれを良しとしてくれるだろうか? アイツは自由人だ。縛られることを嫌っているくせにしかし何かに縛られながら生きている。

 

 それがなにかは儂には分からぬ。だが、あの子の優しさはそれをすら解き放つのでは無いのだろうか? 如何なる苦しみや罪業を抱えていようとも、あの優しき子は必ず全てを受け入れる。

 

 もし、アイツが何かに苦しんでいるというのならば、あの子に打ち明けてあげて欲しい。きっとあの子はそれを共有したいと申し出るだろう、あの子はその優しさで苦しみから解放してくれるかも知れない。

 

 舐めるなよ。あの子の優しさを。儂は四年身近であの子を視てきたから分かるが、あの子は他のラウンズが多少は持つ傲慢や優越感、自分自身への過信を持たない子だ。ただ民の安寧と世界の平和を望んでいる。正義とは、全ての者に平等に降り注がれるべき物。あれほどの高潔にして強き信念を儂は知らぬ。

 

 儂などより余程皇帝に向いておるよ。なあ、儂は息子娘、子供達をこの手より手放すのは嫌いだ。南天かどうかは分からぬが邪悪なる魔神がこの世界に潜んでいることを知る儂は、子供達をこの手の内より手放すことに恐怖を感じている。我が手に離れたその先で、子供達が狙われるのではないかと心配でならぬからだ。

 

 なあ、貴様、貴様はあの子を守ってくれるか? 貴様より強いあの子をそれでも貴様は、お前は守ってくれるだろうか? 本当ならば我が手の内より離すこと怖くて適わぬが。儂は幼き頃よりの友であるお前にならば、あの子を託すことが出来る。あの子を託す相手としてお前以外にいないのだ。

 

「……ふ、ふふふふ、ふははははは。考えても詮無き事よ。全てはあの子と語らい、あの子の意思を確認し、北側諸国全土へ根回しを図ってからの話し……100が埋まるとき、儂は何を思うのだろうか?」

 

 やがて、居室の前に着く。扉を開け、中へ入ると、先に用意されていた赤ワインがあった。

 

 給士も誰も居ない居室。部屋の中央に置かれた丸いテーブルの上のワインをグラスに注ぐ。

 

 トクトクトク

 

 グラスに入っていく血のように赤いワイン。事実儂には血に見える。南天に与していた愚かな大貴族連合の血に。

 

 注ぎ終えたグラスを手に取る。

 

 窓の外を見つめる。見える範囲で離宮が沢山ある。遠くに見える離宮、近くに見える離宮、ここにはない離宮。

 

 あの子にも離宮は必要だろうか。そんな物はいらないと言われてしまいそうだ。

 

 ピキッ

 

 何かにひびが入る音がする。

 

 ピキッ、パキッ。

 

 それは直ぐ近く。手の内だった。それを気にせず外を眺める。窓に映る自分の顔。

 

 眉は大きくつり上がり、目はカッと見開かれ、歯は剥き出しの鬼の顔。

 

 誰も居なくて、人を下がらせておいて正解だった。

 

 

 バキィィィィッッッ!!!

 

 

 大きな破砕音を立てて砕け散ったのは、右手に持つワイングラス。中身はぶちまけられ、赤いワインと共に、赤い血が滴り落ちる。

 

「娘を侮辱されて怒らぬ親などおらぬわァァァァァッッッ!!!」

 

 テーブルの上に置かれたワイン瓶を力の限り払いのけ、壁へと叩き付けた。

 

「ふぅぅぅぅーーッッ、ふぅぅぅぅーーッッ!!」

 

 どこぞの木っ端貴族が我が娘を愚弄した。この場にいたのならば絞め殺していただろう。

 

 他の諸侯達も同じに違いない。皆無礼討ちに走っていないところが不思議なくらいだ。

 

 自家の暗部でも送り込んで始末するかと考えていたが、当事者が許しているのならばと自制している。だが多くの子の貴族達が動き出しているのは確認済みだ。当たり前だ。主君の令息・令嬢に非礼を働かれて黙っている子の貴族などおらぬわ。

 

 もしもあの子が正式に皇室に戻り第100皇女となっていたのならば、儂はためらうこと無く族滅の布告を出していただろう。無論、優しいあの子は儂を諫めるだろうが。それでも収まりが付かぬ。

 

 温情措置としても当主は出頭させ、儂の目の前でセップクを命じていた。

 

 クルシェフスキー侯爵は男爵家先代とは会わぬ選択を下したという、ヴェルガモン伯爵は子の貴族に始末を任せたとも。自らの手で始末するには汚らわしいという判断であろうか?

 

 当主は日本に逃れたまま帰還命令を無視し続け、儂もラウンズに勧誘したことがあるローゼンクロイツ伯爵の五女に非礼を働き。

 

 シュタットフェルト辺境伯息女・令息へと非礼を働き。ソレイシィ辺境伯息女への非礼。我が娘マリーベルが指揮を執るグリンダ騎士団の創設メンバー、シュタイナーコンツェルンの令息にも非礼を働いた。

 

「法に則ればッッ族滅対象だわァァァ!!」

 

 ああ、いかん、感情がコントロールできん。殺してやりたいが、誰がどこの貴族が無礼討ちにするかで子同士で協議でもしておるのか?

 

 儂自身が当事者に任せると布告を出した以上は儂は動けぬ、ああ、衝動が止められぬ。優しいあの子を侮辱した屑をこの手で……!一騎打ちで討ち果たしてやっても構わぬぞッ!

 

 ……。いっそのこと、ランペルージの警備部門を動かすか? ランペルージグループ社長でもある儂の命令一つで動かせる。警備部門といいつつ軍隊だからな。だが、その場合会長の兄さんの了承も得なければならん。兄さんは怒りに任せた行動は慎むようにと仰りそうだ。

 

 冷静になれシャルル・ジ・ブリタニア。まず最初にすべきことを考えよ。すでに当主は無礼討ちの対象。ブリタニアに帰国した瞬間何処かの貴族家に捕縛されるだろう。その前に領地運営の実態だ。どう考えてもまともな領地運営ができているとは考えにくい。

 

 カンザスのどの辺りだったか。田舎過ぎて分からぬな。我がブリタニアは国土も広ければ領地貴族も多い。カンザスだけでも中小かなりの数の領地貴族がいる。

 

 むしろクルシェフスキー侯爵やヴェルガモン伯爵、ローゼンクロイツ伯爵といった大貴族は少ないからな。調べるのが大変だわ。調べたところで公に儂は手を出さぬと公言してしまっておるからな。

 

 だが、儂は許さぬ。あの子が許しても儂は許さぬ。

 

 

 ぴりりり。

 

 

「むッ」

 

 携帯が鳴った。こんないらだっているときに誰だろうか。

 

「はい、シャルル・ランペルージです」

 

『どうも皇帝陛下。クルシェフスキーです』

 

「これはこれはクルシェフスキー卿。ご機嫌よろしくない日々が続いておるようだがどうした」

 

 クルシェフスキー侯爵だった。あの子に厳しい教育を課してきたため敬遠されていたというが、仕方の無いことなのだ。侯爵はいずれあの子が皇宮へと上がることを前提とした教育をしてきていたからだ。

 

『こちらにロズベルト男爵家の先代が参りました』

 

「窺っておる。なんでも卿に会って謝罪したいと抜かしておったとか聞いておったが。一男爵家が侯爵と会えること自体が本来ならあり得ぬと言うに、余程切羽詰まっておる様子だな」

 

『陛下はご承知ですかな? ローゼンクロイツ伯爵令嬢や、シュタットフェルト辺境伯令嬢方への不敬のお話は』

 

「うむ耳にしておる。日本で次々と上位貴族への不敬を働いておるそうだな。ローゼンクロイツ伯爵夫妻とはちょっとした知己でな。何ゆえに処断為されないのかと詰問された。余程腹に据えかねておるのだろう。公の場で、処断は当人達に委ねると発言してしまっているため動けないと返したら。では勝手にやらせていただきましょうと申しておった」

 

『なるほど。……陛下、私の個人的友人としてシャルルに言いたいことが』

 

「申してみよ」

 

『私はロズベルトをこの手で絞め殺してやりたいのだよシャルル。許せるか? 我が義娘をペンドラゴンの大通りで騎士侯風情がと男爵風情に侮辱されたのだぞ! 一報を聞いた私の怒りが分かるかシャルルよ! 私は君が当人同士に委ねるという沙汰を下したことにも納得いってはおらんのだ。何故その様な沙汰を下した?!』

 

「絶対的階級社会の我が国では、上位階級の者は、下位の者への大きな優越件がある。ナイトオブラウンズは第11階位。ヴェルガモンにしてもそうだ限りなく第7階位に近い第6階位の伯爵。これらが男爵家を許すと発言してしまっておる。沙汰の下しようがなかったのだ。本来ならば不敬罪で処刑なのだがな。二人にそのつもりがあればその場で無礼討ちであった。だが“不幸にも”二人は許した。その後に続いた諸侯令嬢・令息への不敬もそれぞれの者がその場で処断していない故にこちらから動きが取れない、と、いうことだジャン」

 

『そうか……、御無礼、平にお許し願いたい』

 

「かまわぬ“同じ子”を持つ親だからな。儂もいま暴れておったよ」

 

『そうですな。もしお時間がお有りでしたらランペルージとしてポートランドへ来ませんか?』

 

「今からか?」

 

『ええ、飛行機で来ればそんなに時間は掛かりません。本来ならこちらが窺うべきなのですが書類の山がね』

 

「……分かった。窺おう。なに、皇宮を抜け出すのは得意なのだ」

 

『ではお待ちしております。飲みながら話しましょう』

 

「うむ」

 



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勘違いした田舎者 実態

馬鹿男爵シリーズばかりで申し訳ないですが。
次は何か別のお話を書こうと考えております。
加筆修正しました。


 

 

 

 カンザス州シャイアン郡 セントフランシス市

 

 

 人口5万人ほどのシャイアン郡、郡の中心であるセントフランシス市には2万人近くが集まっており、中核市は大いににぎわっているが、端へ端へと行くほどに寒村も目立っている地域だ。一極集中。良きにしろ悪しきにしろそれが起きてしまっているのであった。

 

 そんなセントフランシス市に、日本から降り立った二人組の姿があった。一人は見かけ壮年の男。黒髪黒目の純日本人。ブリタニアには日本系ブリタニア人も多い為に、一概に外見だけを見て日本人とは言えないし、男のブリタニア語のイントネーションも純ブリタニア人と何ら変わらない為、判断がしづらかった。

 

 もう一人は薔薇のような赤いドレスを身に纏い、赤いヘッドドレスを付けた、地に着くほどの長い金色のツインテールの少女。煌びやかに輝く金色の髪に深い色の青目。ブリタニア語の発音もそのままのそれであり、間違いなく純ブリタニア人だろうと思われる。まあ、正確を期すなら、ブリタニア系日本人もまた多く。

 

 日本の総人口の約10%、3500~3600万人ほどがブリタニア系日本人なので、こちらも一概にそうであるとは確信を以ていう事は出来ないが、上品さを感じられるところからしてどこかの貴族様の可能性も高く、男はこの少女の従者なのかもしれない。

 

 だが、それにしては男の従者の方がため口なので、見ている方としては判別しづらいのだ。

 

「マジで来やがったよこのバカ……帝都の散策がアホ男爵の散策に変わっちまったよ」

 

「言ったでしょう。実態を知るには現地調査が一番だって」

 

 そんな二人は、どこか遠方へと赴くようであった。

 

 ここからローンリッジ近くにあるロズベルト男爵領まで移動するという。

 

 ロズベルト男爵領はゴーストタウン。と、セントフランシスからは視られているが、実際には1,500人ほどの人口が有り、街もある。農業と商業が主な産業だが、先代当主の頃は活気づいてが、当代になっては悪い噂しか聞かず、次第に人の流れも止まっていったという。

 

 そして、余りにも田舎過ぎて、誰もその実態を詳しくは掴んでいないのだが、一説には彼の悪名高き大貴族連合に所属していたという話もあり、南天との繋がりを噂されている地域だ。

 

「そんな偽の男爵家家紋まで作って、俺の折角の休暇まで潰して、何するかと思えば、こんなくっだらねえことに付き合わせやがって」

 

「くだらなくはないわ。地方の腐敗は近隣をも腐敗させ、やがて中央に辿り着くもの。うちの領はカンザスと近いわ。腐敗貴族がカンザスで蔓延れば損をするのはうちの領。早いうちに対処をして置くに越したことは無くてよ?」

 

 小柄で美しい赤薔薇の乙女。長い金色のツインテールを風に靡かせ、水底深い蒼い瞳で真面目に訴えられれば、七三分けに少し癖の入った黒髪黒目の男、良太郎もぐうの根も出ない。惚れた女がそうしたいというのだ。ローゼンクロイツ伯爵家令嬢、シンク・ローゼンクロイツの暇つぶしに彼はこれまでにも散々付き合わされていたが、付き合うのが従者の務めだとも心得ていた。

 

 

 ◇

 

 

 神聖ブリタニア帝国という国は、宿敵である『数の南天』共々に全土が発展している。地方都市も、地方の中央都市もくまなく。何せ競争相手があの『技術の超大国日本』なのだ。後れを取るわけにはいかない。僅かな遅れが、ずっと続いている半歩差を、一歩差に広めてしまい、気が付くと二歩目へと踏み出していることだろう。

 

 そんなことにならないため、北はアラスカから、南はコロンビアまで、くまなく発展を続けているのだ。しかし、ごく稀にだが見落としがある。それがロズベルト男爵領などの地方の中央政府にすら目の届かない田舎の田舎だったりする。

 

「アホだろおめェ、おめェみてェな大貴族がこんなど田舎まで個人視察とか。正体ばれたらどーすんだ」

 

 ぼそぼそっと呟く良太郎に。ロズベルト男爵領まで荷物を届けに行くというおじさんのトラックに、乗っけて貰っていた良太郎のその呟きにおじさんが反応した。

 

「あ? お客さんなんだって?」

 

「ああ、なんでもありやせんぜ」

 

 このトラックの運転手。気のせいでも何でも無く、良太郎自身の膝の上に載せているシンクに先ほどより反応している。

 

 下卑た視線を感じるのだ。シンクが我慢して居るからなにもするつもりはないが、本当ならその顔面に拳をたたき込んでやりてェところだった。

 

「それにしてもお客さんもいい性奴隷連れてるねえ。蒼い瞳、長い金色の髪、小柄で締まりが良さそうで……へっへっへ、毎日お楽しみかな?」

 

 良太郎はその言葉にぶち切れそうになったが、シンクが黙って良太郎の手を押さえる。今此処で暴れるなという合図だ。

 

 その代わりとして、貴族の従者らしい発言をした。ただの男爵としての、だが。

 

「おい、大概にしとけよ。この御方はクロイツ男爵家当主。クロイツ男爵様だぞ」

 

「はっはっは、冗談が上手いねえ。こんな子供が貴族家の、ましてや大貴族たる男爵家の当主な訳」

 

 いくら平民であっても、たかが男爵如きを‟大貴族”だなどと宣っている時点で男の教養の度合いが知れる。無論、平民からしてみれば領地持ちの永代貴族は充分に大貴族なのかもしれないが、貴族社会での大貴族とは伯爵からが基本。上位伯爵からが大諸侯だ。

 

 そんな、基本も知らない男にシンクが懐中時計を見せる。お父様から頂いた大切な懐中時計ではなく、金メッキの懐中時計だが、確かに男爵家の家紋が入っているのだ。

 

 トラックの運転手は慌てて車を止めて外に出ると、日本式の土下座をして平伏した。神聖ブリタニア帝国と大日本帝国の付き合いは長く、最低でも五百年以上と言われている。イギリステューダー朝以前からの友なのだ。

 

 それ程長くの交流があれば、日本式の最低の礼、ドゲザも伝わり一般化するというものだ。現に貴族すらドゲザをすることがある。セップクの文化も伝わっており、度々刑の執行に用いられている。

 

「は、ははーッ、も、申し訳御座いませんッ!! まさか男爵様だとは思いも寄らなかったもので御座いましてッ!」

 

「思いも寄らなければあの様な下卑た応対をレディに対して為さってもよろしいのかしらね」

 

「い、いえ、そのような、ことは、」

 

「私がその気なら、あなたこの場で無礼討ちよ?」

 

 冷たい瞳を向け、冷たい口調でシンクが言うと。良太郎は懐のベレッタを男に見せる。シンクの命令が下りれば火を噴き、命は奪われるだろう。貴族を相手に無礼を働くとはそういうことだ。

 

「ひいッッ! ど、どうか、どうか、それだけはご勘弁をッッ、どうかッ、どうかッ!」

 

「あなた、普段から女性の奴隷でも運んでいるのかしら? 我が神聖ブリタニア帝国では奴隷は禁止されている筈……どうなの?」

 

「い、え、そのようなことは、ご、ございません、家名に誓って、」

 

 目が泳いでいる。黒だ。奴隷商人か何か。男爵専属の。それも普段からの常習者で、かどわかしや女性の売買など、闇の職業にも大きく絡んでいる。

 

 そう受け取ったシンクはだが、無礼は一度だけ許しますとその場での罪は許した。

 

「案内なさい。ロズベルト男爵領へ」

 

「ははーッ」

 

 ベレッタが火を噴かなくて良かったな。ぽんとトラック運転手の肩を叩き再び乗り込む良太郎も、そのまま乗り込むと、トラックは静かに発車した。

 

 

 

 勘違いした田舎者 実態

 

 

 

 やがて着いた男爵領。

 

 トラックの運転手と別れ、逃げるように走り去っていくトラックを視ながら。確実なる不正の証を街の入り口に見つけたシンク。

 

「お、おいおいこれってよォ、あれだよなあ蒼天双翼光環旗の変色版だよな? ちょっといじり込んだら蒼天双翼光環旗になるぜ」

 

 シンクの視線の先を見る良太郎は、その堂々とした旗の掲げ方に驚く。知識の無い者は誰も知らないだろうが、貴族階級にある者ならば大抵の者が知っている。それは。

 

 蒼天双翼光環旗――南天条約機構の旗だ。

 

 シンクは吹き来る風に、足下まで届く、長い長い金色に輝くツインテールを靡かせながら呟いた。

 

「確実ね。先代はそうでは無かったのでしょうけれど、当代当主は南天と繋がっているか、大貴族連合の傘下貴族の一人。南天と繋がるという事はブリタニアの国法に照らし合わせると大逆罪よ」

 

 大逆罪──処刑の対象だ。一連の不敬行為が無くとも。一族郎党族滅対象となる。

 

「街へ入ってみましょう」

 

「入るのかよ。この写真を撮って見せれば分かるだろ。こんなもんの偽造をする馬鹿はいねェんだし、お義父さんとお義母さんはシャルル皇帝陛下の友達なんだろ? 一発だろうが」

 

 ローゼンクロイツ伯爵とその妻、アリス・ローゼンクロイツは血の紋章事件以前よりの、シャルル・ジ・ブリタニアの個人的友人である。その二人に大逆罪の証たる蒼天双翼光環旗の掲揚を見せつければ、その情報はたちまちのうちにシャルルの耳に届き、族滅の沙汰が下るだろう。もしシャルルが何もしなければ、『鮮血の薔薇』の二つ名を持つ伯爵夫妻が、ロズベルト男爵討滅に動く。

 

「私は領民の様子が見たいの。こんなものを、大逆罪になるものを平気で掲げているような領地の領民たちが、まともな生活を出来ているとはとても思えないもの」

 

「はー、正義感の強いこって。わーったよ、わかりました。従者は黙ってお付き合いを致しますよお嬢様ァ」

 

「ふふ、いい子ね」

 

「俺のがずっと年上なんだけどなあ」

 

「主人と従者に年の差なんて関係ないわ。黙ってついてきなさい」

 

 ※

 

 シンクと良太郎が通りを通ると。そこには人っ子一人歩いていなかった。道幅が広く、メインの通りだと思われる場所。皆家に引きこもっているのか。外に出るなという命令でも通達されているのか。まるで人が居ない。中央市で聞いたゴーストタウンだというのもうなずける静けさだった。

 

 そんな中、平伏しながらも何やら抵抗している街人の姿があった。偶然にしてはできすぎていたが、丁度良い。様子を見ようと、シンクと良太郎は物陰にはいる。

 

 三人の男が一人の男性を取り囲んでいたのだ。

 

「貴様ッ、離せッ」

 

「お、お待ちください徴税官様! これはこの半年で溜めた街の運営資金で御座いますッ! 本来なら街の運営資金は男爵様が用意されるべきものッ、しかし男爵様はッッ!!」

 

「貴様ッ、ロズベルト男爵様にもの申すというのかッ! お前達が無事暮らしていけるのもロズベルト男爵様の思し召しあってのことだというにそれをッ!」

 

 徴税官が剣を振り上げる。目標は当然逆らってきた町役人。このままでは彼の首がはねられてしまう。当然これを黙って見ているシンクでは無かった。彼女は普段とても冷静なのだが、二親のどちらに似たのかとにかく無駄に正義感が強く、こういう場面を見て黙って居られるような女性では無かったのだ。

 

「お、おいおいおい、割って入ったら面倒なことに……あちゃー」

 

 良太郎は素早く走って行く小柄な赤い薔薇の、靡く二束の金髪の束を見遣りながら、頭を抱えた。

 

 休暇中の面倒事は御免被りたいのだが、妻があの様子では致し方ない。ベレッタを懐から出して彼も歩いて行く。

 

 別に焦ってなど居ない。のんびり歩いても片が付く、俺の奥様はそんじょそこらでお目にかかれない程に強いのだから、正直自分が助太刀をする方が野暮って物だが。

 

「夫婦、だからなあ」

 

 嫁を助けるのは夫としての務め。助けられる瞬間があるのかは別としてだ。

 

 

 キィンッ!

 

 

 徴税官の剣が受け止められる、一本の黄土色のステッキに。

 

「な、なんだッ?!」

 

 突然の横やりにひるむ徴税官。とても徴税官には見えない、ただの荒くれものと言ったところ。まるで大昔のブリタニア大陸開拓時代の様だ。

 

「私の前で血なまぐさいことはやめてくださる? それとあなた、血の臭いが鼻につくわ。一体何人の無実の人を殺してきたのかしら?」

 

 鼻につくのは血の匂い。一人二人ではない。何十人と殺してきているそれも自らの手で直接。

 

「な、なんだあッ、お嬢ちゃんよォ。ここはお嬢ちゃんの出る幕じゃあねえぜ。おうちでママのおっぱいでもしゃぶってな」

 

 その言葉にムッとしたシンクは跳躍し飛び上がると、徴税官の内の一人の喉をステッキの先で突き、そのまま地面に勢いを付けて突き倒していた。無論、相手の喉は潰れ死んでいる。即死だ。

 

「お生憎様、私は大人よ」

 

 死体となった徴税官にうっすらと冷たい笑みを浮かべながら吐き捨てるシンク。

 

「て、テメエッッ」

 

 ここに来てようやく彼女がただ者では無い事に気が付いた徴税官達だが、時既に遅し。

 

 プシュ、プシュ。

 

 空気の抜けるような音がして、残りの二人のこめかみに穴が空き、血を吹きながら崩れ落ちていった。

 

「屑の血も赤いのね」

 

 自分の命が助かったことよりも、秒で徴税官達を皆殺しにしてしまったシンクと良太郎を前に、ポカーンと立ち尽くしていた街人は、瞬間ハッとなりその場に跪く。

 

「あ、危ないところをお助けくださり何とお礼を申してよいやらッ、」

 

「気にしなくて良いわ。うっとうしい蚊が飛んでいたら叩き潰すでしょう?」

 

「か、蚊?!」

 

 あの屈強な徴税官を蚊呼ばわりするシンク。事実一瞬だった。

 

 もう一人、後から現れた男の方を見ると。

 

「あ~っ、俺ゃ、ローゼっと、クロイツ男爵家当主、シンク・クロイツ男爵様の従者で、麻生ジュンタロウってもんでさあ」

 

 男爵家当主という言葉が、シーンとした街中に迸ると、そこらかしらから住人達が顔を覗かせた。

 

 ロズベルト男爵ではない、他家の、恐らくロズベルト家とはまったく関係の無い男爵家の当主様だと言うことで。

 

 ゴーストタウンではない。やはり人が居るのだ。

 

「シンクよお、この街には闇があるな」

 

「そうね」

 

 そんな、二人に、ある女性が前に出て跪き。

 

「クロイツ男爵様ッ! 訴えたきことが!!」

 

 必死の形相の女性だが、他の男性に止められた。

 

「や、やめろッ! 貴族様への直訴は死罪だぞッ!!」

 

 これは国法にある。平民の貴族への直訴は死罪。訴えたきことあらば裁判所を通すように。ブリタニアにも裁判所はあるのだから。だがその裁判所の裁判官が貴族サイドの賄賂を受け取っている事もある。地方の裁判所になれば顕著だ。大貴族が治めていない地方などにはその傾向もあり、それを取り締まるための役人もいる。平民とは大切にするべき存在。この考えは、大貴族になればなるほど強い。

 

 その大貴族を手本として、中小貴族は自らの所領を治めていく。だがロズベルト男爵家の様に、好き勝手に出来る立地にあり、小さすぎる貴族にはこのノブレス・オブリージュの精神を理解できない者もいるのだ。あまりにも酷い時にはプルートーンなどの暗部が動いて処理を行うことも往々にしてあるのだが、それにしてもロズベルト男爵家は田舎過ぎ、また小さすぎたが故に、不正を見逃してしまったのだ。

 

「構わないわ。私は今旅の最中。直訴の一つや二つ、話を聞く程度でいいのならば聞いてあげましょう」

 

 ※

 

 これによると、先代から当代へと代替わりをしたロズベルト男爵家は、当主フランク・ロズベルトが暴政の限りを尽くしているという。

 

 作物の献上量を増やし、重税を課し、集めた租税は遊興費と勢のために使い、また自ら集めた家臣団にお金を配り、元は農民だった新しい家臣団は、お金の魔力に取り付かれ、次第に欲のままに動き出すようになり、先代からの家臣団を閑職に追い遣ってやりたい方題しているという。

 

 カンザスの田舎の田舎という立地条件。僅か10㎢の小さな領地に1500の人口という山間の小さな所領と言うことで、中央政府からも見つからず、手付かずの状態。

 

 おまけにカンザスは大諸侯が居ないために、見張る者がおらず、誰にも気付かれないまま何年にもわたって圧政が続いている状況とか。

 

 命を懸けて直訴を試みた者は殺され、不敬を働いた者は無礼討ちにされ、誰もなにも言えない状態にされているこのような山間部の僅かな平野に訪れる貴族様もおらず、また裁判所へ訴え出ると言うことは直訴であると解釈され死罪に。

 

「酷いわね」

 

「屑の見本市だな。家臣団の不正は今の他には? その実態は?」

 

「はい、見目の良い女を見繕い、邸に連れ去ってはその……」

 

 シンクを窺って言いづらそうにしている。シンクは小柄だが見目麗しい女性だ。彼女もその対象となってしまうだけに口に出すことが不敬となると口ごもる、だがその反応だけで充分だ。

 

「申し訳ないわ。これは私たち貴族の失態、ノブレス・オブリージュの精神を忘れた愚かな貴族を放置してきていた私たちの。……ロズベルト家の邸は何処にあるの?」

 

「はッ、山間部の最も高い場所に……まッ、まさかッ、男爵様お一人でお向かいになるのですかッ?!」

 

「俺もいるぜ?」

 

「し、しかし、たったお二人で、三人倒してもまだ87人もの荒くれ騎士達がお屋敷にいるのですよッ!?」

 

「御心配ありがとう。でもたった87人で私と私の家来を討ち取ることは不可能な事よ」

 

「俺たち二人が揃っていれば精鋭歩兵千人から持ってこなけりゃ話にならねえぜ」

 

 ※

 

 話し合いが終わり、外に出たところで、突如空に影が差した。曇りでもない雨でもない快晴の日。なにかが日の光を遮ったのである。

 

「おおう、こりゃとんでもねえ増援まで来ちまったじゃねえか。お前、情報漏らしたのか?」

 

 大きな鉄の船。それが空に浮かんでいたのだ。

 

「私はなにもしていないわ」

 

 空に浮かぶは。

 

 全長:240m

 

 全幅:80m

 

 全高:45m

 

 速力:巡航速度1,100㎞

 

   :最高速度2,500㎞

 

 実用上昇限度:38,000m

 

 兵装:ハドロン重砲4門

 

   :単装リニア砲9門

 

   :大型リニア砲2門

 

   :32連装ミサイル発射機2基

 

   :スラッシュハーケン4基

 

 動力:フレイヤ炉

 

 航続距離:∞

 

 特殊武装:ブレイズルミナス(強化発展型)

 

 空飛ぶ鉄の船、浮遊航空艦アヴァロン型 アヴァロン。アヴァロン型1番艦にして他のアヴァロン級の基本型でもある。この艦は開発は古いが現在も尚強化中の最新型状態を保つ艦なのだ。

 

 そして、神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアの御座艦もである。本来ならば。

 

 艦が大きく街中には降りられないので、街の外の平たい場所に着艦するアヴァロン。シンクと良太郎、表を確認していた、音に気付いた街人たちは、わらわらと街の外へと集まっていく。

 

 その着艦したばかりのアヴァロンの下部ハッチが開き、中からは、シュナイゼルではなく予想外の人物が降りてきた。

 

 太陽に照らされた月の明かりのような輝く色をした短い金髪に、蒼穹のような蒼い瞳。全身を青の騎士服で身を包んだ一見年若い男性ながら口ひげを生やし、その実五十代中盤に差し掛かっている“青年”。

 

「おいおいおいどうすんだ。おう、とんでもない大物が出てきちまったぞ?」

 

 その名をジャン。

 

 ジャン・クロード・クルシェフスキー。

 

 人口1200万人、滞在人口2000万人を抱え、陸海空から成る十数万人の大騎士団を持つ、クルシェフスキー侯爵領領主にして、神聖ブリタニア帝国西海岸諸侯盟主その人であった。

 

 顔を知らない人もいるだろう。いや、顔を知らない人の方が多いだろう。その名前は知っていても。それくらいに平民や下級貴族が合える機会のない超の付く大貴族だった。

 

「やあ、お久しですなあ麻生リョウタロウ外務大臣閣下」

 

 集まっていたロズベルト領の領民達が。仰天する。

 

『西海岸諸侯の盟主様にッ! だ、大臣閣下ぁぁッ!!』

 

 街人の幾人かがひっくり返る。

 

 驚きの声を上げるのも無理からぬこと。何故西海岸諸侯の盟主を、田舎の田舎のロズベルト男爵家の領民が知っているか?

 

 当たり前である。1500人も居れば一人くらいは知っていて。学のある者もいるのだから。

 

 ただし、名前しか知らない。顔はお写真でしか見たことが無い者ばかりで、唯々その場に平伏するのみである。どのようなお方なのか? 一目そのお顔を。そんな不敬者はこの場に一人として居なかった。

 

 そして、大臣閣下と呼ばれたその麻生良太郎の名は、およそ全員が知っていた。最友にして家族的同盟国である大日本帝国現外務大臣閣下の名前だ。顔は知らずとも皆名前は知っていた。

 

「私だけじゃないですよ」

 

 西海岸諸侯の盟主が告げると。

 

 艦から二人目の人物が降りてくる。今度は唯々美しい女性であった。

 

 身の丈よりも長い、輝く美しい金色の髪を、頭の両側側頭部高くに黒く細いリボンで結い上げた、赤いヘッドドレスを付け、赤いドレスを着た、緑色の透き通った双眸を持つ、中学生に行くか行かないかの小柄な女性。

 

 瞳の色が違うだけでシンクとは瓜二つのその女性に、ロズベルト男爵領の人々は不敬にも、何度も何度も見比べている。それほどにシンク嬢と全く同じ女性──その名をアリス・ローゼンクロイツ。シンクの母親にして八人の子を産んだ女性でもある。大貴族連合の一角を皆殺しにした『鮮血の薔薇』の二つ名を持つ片割れ。

 

 良太郎の義母でも有り、彼としては苦手な人物ナンバーワンなのだ。なにせローゼンクロイツ伯爵家を訪れるたびに、行儀作法の話や、貴族としての心得やら、挙句戦闘の腕は落ちていないかと模擬戦までさせられる。それも専門外のKMF戦までやら剣術まで。それは苦手にもなるだろう。俺の専門は銃とナイフ戦だっつーの! というのが良太郎の主張であったし、行儀作法については俺ぁいいとこの出だが貴族じゃねえと言いたかった。

 

 この予想外の人物の登場にシンクも驚いている。が、不用意な発言だった。

 

「お、お母様ッ!」

 

 鮮血のローゼンクロイツの名はロズベルト家の領民とて知っている。アイオワを治める大貴族のローゼンクロイツ伯爵夫人である事も。つまり、その御方をお母様とお呼びしたシンク様は男爵などではなく。

 

『ローゼンクロイツ伯爵令嬢様ぁッ?!』

 

 幾人かがひっくり返った。今まで男爵様として話していたシンクが、実は伯爵令嬢なのだからそれもまた仕方のない事。

 

 アリスは駆け寄ってくるシンクを抱き締めるが。

 

「同じ格好した双子だな」

 

 呟いた良太郎の目の前を鋭いフルーレが通り過ぎていく、そのフルーレを微動だにせず利用して葉巻の先端を切り落とし、マッチで火を付け不貞不貞しく吸い始めた彼に、アリスは。

 

「若いという意味ですか? それとも小さいという意味ですか? 意味によって変わりますよリョウタロウさん」

 

 良太郎はその質問に煙を吐き出しながら。

 

「もちろん、お若いという意味ですよ御義母様」

 

 と、答えた。答えを間違えようものなら、今ここで‟鮮血の薔薇”と‟魔弾の射手”の一騎打ちが始まってしまうところだ。

 

「ならよろしいのです」

 

 にっこり答えるアリス

 

 そんなやり取りをしていると。

 

「どうして皆様、そんな我先にと参られますのまったく」

 

 次に顔を出したのは、腰下まで届く長い金色の髪を靡かせた、エメラルドグリーンの美しい双眸を持つ大きな胸、くびれた腰、すらりと伸びた手足を余り着ない騎士服に身を包んだ見目麗しい絶世の美女。

 

「ヴェ、ヴェルガモン伯爵令嬢だ、俺、遠目にお目にかかった事がある」

 

 ある青年がその美しさに、その時の事を思いだす。これを聞いた皆はやはりざわめく。五大湖経済圏の中心を治めるヴェルガモン伯爵家の次期当主様なのだから、もう大諸侯のオンパレードだ。

 

 リーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢が降りてくる。

 

「ヴェルガモン伯爵令嬢が居るってーことは」

 

 良太郎が葉巻を吸いこみながら。彼女と共に降りてくる人物を見遣り、にやりと口角を釣り上げた。

 

「アヴァロンの乗り心地もなかなかだな」

 

 丸坊主の頭、黒い軍服に身を包んだ他の者達とは明らかに異質な覇気を発する壮年の男性、その覇気をまともに浴びたロズベルト領の領民が失神し、あ、アドミラル・ヤマモト閣下と、涙を流して崇拝する者も幾人か。ヴェルガモン伯爵令嬢が腕を組んで話さないその男、良太郎の上司の一人。

 

「山本の旦那。お久しぶりです」

 

「麻生くんか、どうだね先行していたというか、君たちが調べようとしていたこの領の実態は」

 

「あらゆる点で真っ黒でさァ、とくに厄介なのは蒼天双翼光環旗らしき旗が街の入り口に掲げられていたことです」

 

「……南天と繋がっているか、大貴族連合の生き残りの可能性が高い、というわけか」

 

「他には碌でもない暴政をやらかしてます。シンクと俺が介入しなけりゃ見せしめに一人死んでいましたよ」

 

 そんな話をしている中、最後に降りてきた人物がいた。

 

 大柄で力強そうな体躯。頭の両側で幾つものロールヘアーにして纏められた白髪の厳めしい顔つきをした壮麗の男。

 

「こッ――」

 

 誰かが叫び掛けたが男は、しーっ、と指を立てて口許に当てた。

 

 ロズベルト男爵領の領民たちは、もう何十人と失神していた。

 

「この閑散とした様子。上空からも見えたが街中に死体が転がっていた。麻生大臣とシンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢がやったものではないな?」

 

「恐れながら」

 

「ああ、いつも通りで、跪かなくて良い。シンク嬢の美しい髪を汚してしまっては儂がローゼンの奴めに怒られる。そこなアリスめに刺し殺されるやも知れぬ」

 

「うふふ、そうね。いくらシャルルでも私の可愛い小さな薔薇を穢したなら、私はあなたを殺すかも知れないわ。たとえ我が友マリアンヌと戦う事となったとしても」

 

「ふははは、命拾いしたわ。それに儂も美しい赤薔薇を穢すことなど出来ぬ。そこのスナイパーに討ち取られてしまう故にな」

 

 シャルルの冗談に肩をすくめる良太郎。実際にやるかもしれんなとは考えている。

 

 シンクの髪は長すぎるため、跪くと地面に付いてしまうのだ。それで髪が汚れてしまうことを皆嫌っているのである。

 

「それでは立ったままでしつれいします。私たちが始末致しましたのは三人だけでございます。それ以外の遺体は見掛けておりません」

 

「では、やはりロズベルト家の見せしめか」

 

 シャルルが悼むように言うと。

 

 皆それぞれが、街に向かって黙祷を捧げる。

 

「だがそれも今日を限りで終わりとしよう。奴が戻らぬと言うのならば、奴の戻る場所をなくす。情報に寄れば孫娘が一人軟禁状態に置かれておるとも聞くが、これは救出。腐っている87名の家臣団は捕縛もしくは無礼討ち。それ以外にも腐敗した何者かがいれば一網打尽に、それと蒼天双翼光環旗が掲げられて居る以上は何らかの形で南天と繋がりがあるも知れぬ。場合によっては大逆罪となろう。乗り込むのは儂とジャン、アリス、リョウタロウ、シンク、リーライナの六名、五十六は街で待機願いたい。アヴァロンの指揮は貴殿に一任する」

 

「任された」

 

 と、山本。

 

「ヤマモト閣下」

 

「どうしたねシンク譲」

 

 長い金色の身の丈ほどもあるツインテールを風に揺らせながら、シンクは体験してきた一部を報告する。

 

「ここからそう遠くない一本道を一台のトラックが走っていると思われます。そのトラックの運転手は人身売買に手を染めている可能性が高いかと」

 

「聞き捨てならんな。シャルルさん、ブリタニアの法律では?」

 

「無論、黒、死罪だ。取り調べを行うべきだろうな。山本卿、申し訳ないが貴殿はそのトラックを追ってくれぬか? アヴァロンならば直ぐだ」

 

「了解だ。ふ、こうして貴殿らと共闘するのはいつ以来か。懐かしいものだ」

 

 血の紋章事件の時は日本のメンバーも大暴れしたものだ。山本が懐かしむと、クルシェフスキーが。

 

「今度山本卿も飲みに行きませんか?」

 

 と誘う。このお誘いに。

 

「リーラ、その、いいかね?」

 

 山本は一々妻に伺う。俺は海軍軍人だ。堂々としていればいい。とはいえ、現代社会に染まったせいで家庭ではリーライナに頭が上がらないようにもなっている。郷(未来)に入っては郷(未来)に従え、か。

 

「クルシェフスキー侯爵のお誘いをお断り為さるなど、非礼なことはできませんわ。よろしいでしょう」

 

「う、うむ」

 

「ただしギャンブルなどに手を出さないよう見張りとしてわたくしもお供致しますわ♪」

 

「お前まで来るのか?!」

 

「はっはっは、山本卿もすっかりヴェルガモン伯爵令嬢の尻に敷かれておりますなあ」

 

「あまり指摘せんでもらいたい」

 

 というところでそれぞれの方針は固まった。

 

 何故皆が直接向かうのか? アヴァロンの騎士を使わないのか? それはこれが皆の個人的復讐であるからだ。その復讐に無関係な者の命を懸けさせようなどと最初から考えていない。

 

 皇帝、いや、シャルル・ランペルージは告げる。

 

「一人13人ほどだが、いけるか?」

 

 これに応える西海岸諸侯にして親友ジャン。

 

「シャルルよ舐めるな。このクルシェフスキー、かつて血の紋章事件でそれ以上を相手取ったぞ」

 

 同じく友人の鮮血の薔薇アリスが返答。

 

「甘いわね。大貴族連合を始末していたときから比べるとぬるすぎるわ」

 

 ブリタニア帝国嚮導学校卒業生のお嬢様、ヴェルガモン伯爵令嬢が続く。

 

「陛下、いえシャルル・ランペルージさん。わたくしも伊達に軍の嚮導学校をトップで卒業してはおりませんわ」

 

 ふざけんな。俺を誰だと思ってやがんだとローゼンクロイツ家娘婿、麻生良太郎は口走る。

 

「舐めてんのか。これでも“魔弾の射手”と呼ばれてる男だぜ。二個戦車大隊を一人で片付けたことがあらあ」

 

 最も力弱いながらも、それでさえ戦力過多となろう小柄な女性。良太郎の妻シンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢が締める。

 

「私も13人程度に遅れを取るほど弱くはなくってよ」

 

 シャルルは大剣を。クルシェフスキーは長剣を。アリスはフルーレを。リーライナは剣を。良太郎は二丁拳銃を。シンクはステッキを。

 

 それぞれの得物を持った6人は攻略すべき場所を確認。

 

「堕とすべき目標はロズベルト男爵邸ッ! 各々行くぞッッ!!」

 

 6人は瞬速の速さで街の中に消えていった。

 

 この話の流れの中、集まっていた街人の中には未だ気絶している者も見られた。

 

 こ、皇帝陛下が。く、クルシェフスキー侯爵閣下。ヴェルガモン……伯爵、御令嬢。ろ、ローゼンクロイツ伯爵夫人。だ、大日本帝国、アソウ大臣。ローゼンクロイツ伯爵令嬢……。

 

 や、ヤマモトイソロク、元提督。

 

 死屍累々となっている広場を見つめて自分の名前が呼ばれたとき、「随分古い経歴を御存じだな」と思う山本は。

 

「ヤマモト元帥閣下! アヴァロンの指揮をお願い致しますッ!」

 

 という声に、一人アヴァロンへと乗り込んでいくのであった。

 

 



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勘違いした田舎者 男爵領討ち入りの裏側 日本

今回のお話は出来が悪いです。
推敲していて感じましたがせっかく書いたので投稿します。
また、次は別のお話をと申し上げておりましたのに馬鹿男爵シリーズの続きとなってしまい、申し訳ありません。


 

 

 

 

 俺の名はフランク・ロズベルト。大貴族たる男爵の爵位を持つ男だ。

 

 私という一人称はどうも俺にしっくり来ぬ。時と場所と場合によって使い分けよう。

 

 俺は今、神聖ブリタニア帝国の同盟国たる、大日本帝国の地に居る。

 

 我がブリタニア以上の歴史と伝統を持つこの国は、定かではないが2600年以上もの歴史を持つらしいのだ。

 

 俺は歴史研究家でもなければ、歴史に興味があるわけではない。だが2600年の重みというのはこの身で感じることが出来るというもの。

 

 この国の現首都なのか、旧首都なのか良く分からぬ京都という1000年以上続く都が、この帝都東京よりも大分と西へ行ったところにあるが、まだ訪れたことが無い為に一度は訪れ、その空気を吸い、歴史を体感してみたい物よ。

 

 しかしなんだ。俺には最近悩みがある。

 

 俺の日本滞在は無期限滞在。大日本帝国・神聖ブリタニア帝国間の華族以上・貴族以上の持つ特権の一つで、男爵以上の身分証があるか、男爵以上であるという保証を約束できる立場の人間の庇護下にあれば、永代貴族に限り、両国間に置いて無期限に滞在できるという特権だ。

 

 俺はそいつを利用して日本に滞在しておるのだが、とにかくくたばり損ないの身内からの召還命令がうるさくてな。

 

 ずっと無視してきているのだが、従者の奴が最近焦り出して「本国に帰国すべきでは」と煩いのだ。

 

 はっきりいうが、召還命令を出されるような悪い事はしてはおらんし、領地の運営も90、ああしつれい、100人からの家臣団に任せてあるからうまく回っているはずだ。一々この私が何かに口出しせずとも、奴らとて領地の運営のイロハをこの私から学んだはずなのだから。

 

 しかしシンク嬢だったか。小柄で美しい女性であった。一夜限りの遊興に付き合って下さったが、伯爵令嬢とは何なのだろうか?

 

 思えばヴェルガモンのやつもそうだったが、言葉遣いが位の高い物のそれであった。

 

 かといってその後にショッピングモールで小競り合いとなった、シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、シュタイナーコンツェルンなど聞いたことも無いぞ?

 

 そもそも伯爵や辺境伯とはなんなのだろうか? 爵位とは子爵こそが最も高き爵位のはずだ。

 

 だが従者の奴めは大慌てで止めに入ってきては、「この方は」「この方々は」と抜かしおる。どう考えても腑に落ちんのだが、ふーむ。俺の知らぬところで何か大きな出来事が起きているのだろうか。

 

 召還命令のしつこさ、従者の態度、そういう物を見ているとこう、変な気分になってくるな。

 

 うむ。よし、ここは気分を変えよう。見目麗しい女をナンパするのだ。ナンパなどと言えば、下々民どもの使う下品な言葉に聞こえるが、誘うと変えてみればそれもまた華やかな言葉に早変わりよ。

 

 貴族としての言葉遣いは完璧にマスターしている俺だが、大貴族の俺の領とは言え、領民ども、下民共はぱっとせず、使いどころが無いのだ。だがこの華やかなる大東京。

 

 初めてヨナイ卿のお誘いを受けて訪れた時は、まるで別世界に来たような感覚であったわ。我がブリタニア帝国のペンドラゴンも世界で指折りなほどに発展しつくして居るが。この東京はその上をいっている。

 

 大きな通りには車と人が行き交い、大きな高速道路が空を駆け抜け。800m、900m級のビルディングがあちらこちらに立ち並んでいる、強化耐震ブロック構造の街並みは、チバやカナガワ、サイタマ、フジのすそ野にまで広がっている。

 

 1,000mを超えるビルも存在し、まさに未来世界の様相を呈していた。

 

 極めつけは東京スカイツリーだ。

 

 なんとその高さは2,023m。この世で作られた人工物で最も高いという。展望台は1,900m付近だがそれでも十分に高かった。あまりにも高すぎて季節外れの雪が積もる事もあるらしく、作業員は大変など努力をしてタワーを維持しておるらしい。

 

 さて、ナンパもとい、本日のお誘いだが、誰にするか。大抵は金を見せれば付いてくる下々民よ。あさましい限りだが、中には美しい女もいるのだ。

 

 そう、金に靡かなかったシンク嬢のような誇り高くいて、それでいてこの俺に付き合ってくれる女がな。

 

 

「む?」

 

 

 早速見つけた。先の通りを横切った若い女だ。薄紅色の腰の下にまで届く長い髪を、左側頭部高くで一つに纏めた、白と桃色のワンピースに身を包んだ女、遠目にだがかなりの美人だ。

 

 それだけではない。少し背は低いが、あのシンク嬢の様な美しい容姿をした膝裏まで届く長い桜色の髪の少女。

 

 そして、美しい金色のロールヘアーを、両サイド二つに分けてツインテールに纏めている、意志の強そうな顔立ちの女。これも美人だ。

 

 だが。

 

「なんだ、あ奴は」

 

 要らぬものまで付いている。

 

 一人の日本人の男だ。それほどよくもない容姿に顎ひげを蓄え、茶髪を逆立て赤いバンダナを付けている。紫の服、青いジーンズを穿いた、細身の体系の男。

 

 むう、太めな俺から見れば細身だが、それだけ身体も軽く、弱いという事。あのこわもてな容姿で彼女たちを無理矢理に連れ増しているに違いない。

 

 姫君たち! この私めがただ今お助けに参りますぞ!!

 

 

 

 勘違いした田舎者 男爵領討ち入りの裏側 日本

 

 

 

 そうして走って行こうとした俺を、従者が慌てて止めに入ってきた。

 

「なりませんッ! なりませんッ! 絶対になりませんッ!! あの方々にお手出しを為さってはッ!!!」

 

 あの方々だと? 女たちは確かに見目麗しい者たちばかりだが、男はただの無頼漢に過ぎぬし、女たちも下々民であろう?

 

 掛け値なしに美しいのだが、高貴さが足りぬ。それをこの俺が遊んでやろうというのだから、逆に光栄な事なのだぞ。

 

 俺はしがみ付いてくる従者を。

 

「うるさいッッ!!」

 

 と、蹴り飛ばし。通りを横切って行った四人組の下へと走って行った。

 

 ※

 

「要らないんだよ。おめェらは。ついてくんなよ」

 

 その日、玉城は給料日だった。

 

 花の給料日だ。一か月これが来るのを待っていた。

 

 グリンダ騎士団に放り込まれてこの方。現金という、この世で最も素晴らしい物に触れさせてもらえなかったのだが、ついに今日、久々に東京に帰るという事で現金をこの手にしたのだ。

 

 それも三十万だぞ三十万。こんな大金いつ以来だろうか手にしたのは。

 

「よし。俺には決戦が待っている」

 

 最近、パチ屋の台が、スマートパチンコ。スマートスロットという物に置き換わったらしい。

 

 その時期はずっと空の上だったから触れることはおろか、見ることもかなわなかったわけだ。

 

 だから、今日初めて見るし、初めて触れる。

 

 スマートパチンコの方は良く知らないが、スマートスロットの方は1万9千枚も出るらしい。等価交換で38万だぞ?

 

 男なら挑戦せにゃならんだろうって事で30万握り締めて、久々に帰ってきていた我がボロアパートの扉を開けた瞬間。

 

「ごきげんよう兄さま」

 

「お兄ちゃんおはよー♪」

 

「昨日振りね。おはよう玉城」

 

 なんかよく知ってるくそじゃり共が玄関前をふさいでやがった。

 

「おはようさん。マリー、クララ、オルドリン、俺さあ今日は用事があんの。お前たちの遊び相手してられないんだー。そんじゃまた!」

 

 じゃり共の間を潜り抜けて走り出したら。

 

「お兄ちゃーん、どーこいーくの?」

 

 右隣に桜色の長い髪を靡かせながら並走してくるちびじゃりの姿が。

 

 そうだ、こいつ、こんな可愛い顔して最強とか言われてる暗殺者なんだった。素早さ勝負で俺が勝てる相手じゃねーんだよ!!

 

「クララちゃーん」

 

「なーに」

 

「後でキスしてあげるから追いかけてこないでー」

 

 こいつ、こんな可愛いくせして俺みたいなどうしようもないやつに惚れてやがるから、これで一発。

 

「ごめーん、クララちゃんはお兄ちゃんを愛しているけれど、お兄ちゃんのためにそれは無理なのだよー!」

 

 だと思ったら今日は騙されてくれやがらなかったぁぁぁーーーッ!

 

 ばっと、飛びつかれて押し倒されたのはその次の瞬間だった。

 

 おまけに。

 

「んちゅ──」

 

「んん~~~ッ」

 

 こんな道のど真ん中でキスして来やがったよ。暖かく湿った唇が気持ちいい。やーらかいわー。

 

 ってそうじゃね──。

 

「おどきなさいッ!!」

 

「キャッ、お姫さまクララとお兄ちゃんのラブラブ時間の邪魔しないでよ」

 

「兄さまの唇はあなただけのものではありませんわよクララッ──んん」

 

「ん~~!!」

 

 うわ~やーらかい。気持ちがいい。ミントの味がするぜ……朝にミンティアでもたべたのかなって、だからそーじゃねーよ!!

 

 こいつら恥ずかしくねーのか!? 馬鹿だろこんな道の真ん中で、押し倒して体密着させてきて連続でキスかまして来やがって!!

 

 したら。

 

「マリー、こんな通りの真ん中ではしたないわよ」

 

 救世主登場。オルドリンよ、俺様の味方はどうやらお前だけだったようだ。まあな。持つべきものは友ってやつなんだよ結局はよ。

 

「もう、オルドリンったら、せっかくのいいところでしたのに」

 

「皇女様がそんなんじゃ駄目でしょまったく。はい、玉城の上から降りる」

 

「はーい」

 

 ったく、朝っぱらからえれェめにあっちまったよ。っと携帯携帯っと、ええ、っと、九時四十五分。全力で走れば間に合うな。

 

「つーわけで皆の衆。またな」

 

 走り出そうとしたら。

 

「なーにが『またな』よッ、こんのアホがァーーーッッ!!」

 

 オルドリンの強烈な左ハイキックを貰ってしまった。ケツに。

 

「ぶべらァァァッッ!!」

 

 ※

 

「朝っぱらからおめーらにはえらい目に遭わされちまったわ」

 

「兄さま、お金が入りましたらすぐギャンブルでご使用なさるのですもの。身体を張ってお止め差し上げたまでですわ」

 

 軽やかに長いサイドテールを靡かせるお姫様。

 

「お兄ちゃん放っておくとすぐ財布の中身空っぽにしちゃうからね」

 

 長い髪をふわふわ揺らして前を歩く暗殺者。

 

「あんたってどれだけ信用無いのよ?」

 

 ツインテールを揺らしながら俺の隣を歩く筆頭騎士様。

 

「俺のケツ蹴り上げて下さったテメーが言うかよ」

 

 そんなオルドリンだが、先ほどからニヤニヤしてる。

 

「そんな安物の指輪なんかでそんな嬉しいか?」

 

 そう、オルドリンは指輪をはめている。彼女だけじゃない。マリーもクララも。

 

 俺が買ってやったもんだ。それぞれの髪の色に合わせて。一個五万もした。全部で十五万もかかっちまったがスマスロで取り返しゃいいと買ってやったんだよな。それから三人ともご機嫌でまあ。お兄ちゃんとしてはこの不可思議な現象を不思議がって観察していた訳さ。

 

「私、さ、親族以外でこういうの買ってもらったの……は、初めて、だから。う、嬉しいの。あ、ありがと玉城」

 

 おうおう、いつも凶暴な筆頭騎士様が可愛くなっちゃってまあ。

 

「ナイトオブナイツ。言っとくけどお兄ちゃんはクララのものだから手を出しちゃだめだよ」

 

 冷たい目つき。殺気とかいうのを飛ばしてんだろうな。こいつホントになんでこんなに俺のこと好きなのか。俺は良くわかりましぇん。

 

「オルドリン。兄さまにお手を出すと仰るのなら、あなたは今を以てわたくしの敵ですわ。それは承知置く様に」

 

 こっちも鋭い視線を飛ばすお姫様。つーかさあ、オルドリンはオメーの筆頭騎士なんだぞ。オルドリンが可哀想だろって思ったら、オルドリンったら、なにも反応を返さない訳よ。

 

 いつもだったら『クララさんそんなことは』とか『マリーッ私がこんなアホをッ!!』とか反論するのに、何だろうなこの空気は。んーよく分らんわ。でもまあ、三人それぞれに悪い気分じゃないらしいのは分かった。たった今までの話だけどよ。

 

 

 ――おい。そこな下女どもよ。俺の今夜の伽の相手としてやろう。

 

 

「は?」

 

 どこから聞こえた声か。歩いてきた通りの後ろから聞こえた声。

 

 そこには中肉中背、小デブっていう感じの若い男、多分ブリタニア人の男。似合ってない黒いマントを羽織り、こちらも似合っていない青い服を着た、格好からして貴族が立っていた。無駄に装飾過多なところが如何にも下級貴族って感じがする。マリーやオルドリンみてーな品がねェ。

 

「中々に良い女が揃っておるではないか。サイドテールの女も、ツインテールの女も、小柄な女も、かなりの綺麗どころ。ここまでの上物はそうはおるまい。お前達。このフランク・ロズベルト男爵の相手をすることを許して使わそう」

 

 何言ってんだコイツ?

 

「さあ、来ぬか」

 

 いきなり手を伸ばしてきた。俺の左隣にいたオルドリンに。

 

 俺が何かするまでもない。ここに居る全員俺なんかよりずっと強いんだからな。喧嘩じゃ絶対に勝てねー。たださあ、なんつーの。それは違うじゃねーかよ。

 

 ぬうっと伸びてくるそいつの脂ぎった手を、俺はひねり上げた。

 

「おい。何してんだコラ」

 

「いだだだだ、は、離せ離さぬと無礼討ちだぞッ!!」

 

 日本で無礼討ちなんかできるかよボケ。死罪ならあるけどな。

 

 ブリタニアの伯爵家以上。日本の華族以上に不敬を働いた場合は時に死罪となる。

 

 これは日本人、ブリタニア人、共通だ。

 

 オルドリンんちは名家だからな、場合によっちゃ死罪を言い渡せる。裁判無しで。

 

「た、玉城私は大丈夫だから」

 

「黙ってろ。お前等に汚い手で触らせたくねーんだよ。こんな糞みたいな奴の手を。コイツお前等のこと下女って言ったろ。お前等別に女中でも何でもねーし。コイツのお前等見る目が気に入らねえ。あれは性奴隷とか見る目だ。マリー。クララ。オルドリンは。俺の大切な奴らだ。そんな目で見られたかねーなァ!」

 

「た、玉城」

 

 オルドリンが黙り込む。この屑は先ほどから悲鳴を上げている。

 

「き、貴様、ここが日本であるからと安心してはおるまいなッ! この大貴族、フランク・ロズベルト男爵様にこの様なことをしてよもやヨナイ卿が黙っているとでも思っているのかァ!!」

 

 得意げに行ってるところ悪いけど、ヨナイって誰よ?

 

「げッ」

 

 次の瞬間だった。いつの間にか後ろに立っていたクララがこのわけ分からん男の後ろに立っていた。その首筋に細いナイフを当てて。

 

「お兄ちゃんへの悪口……それって死にたいってこと?」

 

「ひッ……!」

 

 まさかオルドリンが顔を真っ赤にして黙って、クララのが先に動くとは思わなかったわ。つーかどしたよオルドリン。

 

「先ほどより聞いていれば兄さまに対する悪口雑言。このわたくし自身が下女と呼ばれることに付きましてはお気に致しません。誰かが何かを仰っておりますねと受け流しもしましょう。ですが、兄さまを無礼討ちですって? 無礼討ちがお好きならば、最初で最後。その身に受けてみますか?」

 

 マリーも氷のような目つきをしている、ちょっとヤベーぞ。こいつらここでこの物を知らねえ馬鹿を殺しかねん。マリーは死罪を与える権利は持ってるがココは日本。無礼討ちはダメだ。

 

 クララに至っちゃ単なる殺人だ。ま、警察に見つかるような処理はしないだろうけどよお。

 

 でも、でもなあ……。

 

 こんな……、こんな屑の血で二人が汚れるのを、俺が見たくないんだよな……。

 

「いいクララ。離してやれ」

 

「でも、コイツお兄ちゃんのこと」

 

「いいって言ってんだろ。それよりもこんな奴の血でお前が汚れる方が問題だ」

 

「……わかった」

 

 クララがナイフを馬鹿の首筋から放す。

 

 命の危機が去って安心したのか、よろけてその場に倒れ込む馬鹿。ああ、容量2Bit以下の俺より馬鹿な奴がこの世にいるだなんて思いもしなかったわ。コイツまだオルドリンにもマリーにも気付いてねーもんな。

 

「ぷはあッ、はあッ、はあッ、き、貴様等ッ、このような事をしてどうなるか分かって」

 

「わーってるよどうなるかってのは」

 

 そんなことをこの馬鹿と話していると、馬鹿の来た方から、こちらも中肉中背の男がやって来た。どっちかっていうと細身の方ではある。お前等普段から運動しとけよ。

 

「も、も、も、申し訳御座いませんッッ!!」

 

 そいつは通り中に聞こえる大声で謝罪してきた。相手は誰か分かっている。オルドリンと、マリー、マリーベルだ。

 

「大変ッ、大変ッ申し訳御座いませんでしたッ!! 我が当主は物を知らなすぎるので御座います、御無礼の程をッ、平にッ、平にご容赦くださいませッ。ナイトオブナイツ、オルドリン・ジヴォン様ッ……、し、神聖ブリタニア帝国、だ、第八十八皇女――マリーベル・メル・ブリタニア殿下ァァァッッッ!!!」

 

 平伏するそいつ。たぶんこの馬鹿の従者だろ。そいつはマリーの事を知っていた様子だ。通りを歩いていた人達が足を止めたりして人だかりの山が出来る。

 

 マリーは長い髪をサイドポニーにして纏めて、ワンピース着てると、何処にでも居ない超美人な女性になるだけで、皇女様だとは気付かれない。

 

『皇女様? マリーベル様だって!? 嘘ッ英雄皇女様がいらっしゃるのッ!』

 

 ほーら騒ぎになってきた。だからコイツらと歩くの嫌だったんだけど、こんな馬鹿とコイツらが関わり合いになるのはもっと嫌だからよォ。

 

 馬鹿は馬鹿で粋がってくるし。

 

「こ、この様な街中に、供回りも付けずにマリーベル様がおわすはずがないッ!」

 

 その供回りがオルドリンなんだけど、もの知らなそうなこの馬鹿じゃわからんか。

 

 つか、マリーの顔を知らない時点で終わってる。

 

 オルドリンはというと、俺のあげた指輪と、俺を交互に見ては、真っ赤になってて使い物にならん。

 

 まあ、マリーとクララだけでこんな馬鹿は制圧できるけどな。俺は戦力にならんけど。

 

「き、気分を害した、行くぞッッ」

 

 そかそか、勝手に騒いで勝手に逃げていくのか。マリー達を下女呼ばわりして置いて。クズ野郎が。

 

「おいッ」

 

 糞がッ。

 

「今度コイツらに手を出そうとしたら俺がぶっ殺してやるから覚悟しとけよ」

 

 まじでな。マリーもオルドリンもクララも、俺の大切な奴らなんだ。テメーェみてーなゲスに触れられたくねーんだよ。

 

 その馬鹿は平伏する従者を引き連れて逃げていこうとするが、

 

 とまあ、ここで終われば良いんだが、マリーが腹に据えかねたのか最後に一言。

 

「フランク・ロズベルト男爵。神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニアとして言い渡しておきましょう。あなたには本国に戻り次第罪状を調べた後死罪を言い渡します。覚悟しておくように」

 

 おー怖い。目がもう人間を見る目じゃねーんだよ。ゴミ以下を見る目って言うのか。スゲー目だ。

 

 はあ、しゃーねーなー。

 

「マリー」

 

 マリーの頭を撫でる。頭を撫でながら髪を撫でる。

 

「そんな目すんな。誰も何も無かったんだからよ。いつもの温かい目を見せてくれよ、な?」

 

「兄さま……は、い」

 

 柔らかい目に戻って頬が薔薇色に色付く。

 

「おにいーちゃーん。クララにもなにかお言葉を-」

 

 よじよじと何かが背中上ってきて、温かくて柔らかい二つのお椀の感触がするなあと思ったら。予想通りクララだった。

 

「ありがとうなクララ。あの馬鹿に死の恐怖を味わわせてやって痛快だったわ」

 

 背後から肩に頭を載せてくるクララ、彼女の長い髪がさらりと一房、俺の肩を跨いで身体の前に落ちて揺れる。

 

「た、玉城ッ」

 

 最後にオルドリンが俺を見てきて。

 

「あ、ありがとう」

 

 礼を言ってくれたのが印象的だった。

 

 こんなことをしている間に、馬鹿とその従者はいなくなっちまってた。

 

 あいつらがどうなるのかは知らんし興味はない。

 

 俺の大切な奴らに手を出したんだ。どこで野垂れ死のうが知らん。

 

 どうせブリタニアの方でもろくでもない事になってそうだしな。

 

 なんでもブリタニア西海岸諸侯の盟主が動いたとかいう話を聞いたけど、関係あったりすんのかねえ。

 

 西海岸諸侯の盟主って言ったらアホの俺でも知ってるあのクルシェフスキー侯爵閣下だろ? 日本とすげー縁が深いから小学生のころから知ってるわ。名前しか知らんけど。

 

 そんな超大物が動くってよっぽどだぞ。

 

 何かあったんだろうなかなり大きなことが。

 

 とりあえず俺にとって大きなことは、この三人の女をどうやってまくかだ。その先にこそスマートスロットってー男の挑戦場所が待ってるからな。

 

 よし、いくぜ玉城真一郎。

 

 勢い付けて。

 

 どんッ!!

 

「あッ」

 

「兄さまッ!」

 

「お兄ちゃんッ!!」

 

「ふははははッ、ではさらばだ諸君ッ! また今晩にでも会おうッ!!」

 

 さあ、果たしてまけるか奴らを。

 

 

 

 



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勘違いした田舎者 玉城一行(またはマリーベル皇女一行)

馬鹿男爵に絡まれた玉城一行ことマリーベル一行。
揉めた末に男爵を追い払った彼女らは逃げ始めた玉城を追いかけて。


 

 

 

 慌ただしくも勘違いした男フランク・ロズベルトと、その従者の男の立ち去った後。

 

 三人娘からの逃走を試みた玉城の足では結局追いつかれてしまい取っつかまって、彼女たちを宥めることになったわけで。

 

 玉城はマリーベルの頭をナデナデしながら、オルドリンにも。

 

「こっちゃこい」

 

 呼びかける。

 

「な、なに、よっ?!」

 

 ナデナデ。オルドリンの頭をマリーベルのそれと同じように撫でる。

 

 玉城は玉城なりに、あの糞男の言葉に傷ついてしまったかもしれない彼女たちを慰めているのだ。

 

「あんなアホ貴族の言う事なんか気にすんじゃねーぞ? お前は下女でもなんでもねー。グリンダ騎士団のかっこいい筆頭騎士様なんだからよ」

 

「そ、そんな事、別に気にしてなんか///」

 

 顔が真っ赤になるオルドリン。温かい手の平。髪の毛を撫で梳かれる感触。優しく優しく壊れ物を扱うような手つきで。

 

 普段喧嘩ばかりしているこの男は、ふとしたところでこういう優しさを見せてくれる。私はこの男の、この馬鹿のこういうところを嫌いではない。

 

 でも、と、いつも一線は引いている。この男はマリーの見染めた男。神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア皇女殿下の見染めた。だから一線を引いて付き合わなければならないのだ。

 

 しかし、一人の人間として、このギャンブル狂の馬鹿でアホのことを、私は嫌いではないとオルドリンは思っていた。

 

 

 

 

 

 勘違いした田舎者 玉城一行(またはマリーベル皇女一行)

 

 

 

 

 

 一方、玉城真一郎を自身の婚約者であると公言して憚らないマリーベルはというと、何だか半分兄さまを奪われた気分で釈然としない。

 

 釈然としなかったが頭を撫でる彼の手が温かくて気持ち良くて怒る気になれないでいた。

 

「なあ、マリーよお、あいつってマジで死刑なの?」

 

 素朴な疑問。マリーを、マリーベル皇女殿下を侮辱しただけで本当に死刑となるのか? 

 

「に、兄さまはブリタニアの法は御存じではないのでしょうか?」

 

 照れ照れと顔を赤くしているマリーベルがしどろもどろに問う。サイドテールに一纏めにしている長い髪を愛しい彼がいと優しき手つきで撫でてくれている。もし今が二人きりなのであれば、マリーベルは自ら彼の唇を求めていたことだろう。

 

 そこに英雄皇女と呼び持て囃される女の姿はない。恋する女の姿があるだけだ。玉城真一郎というおとこを愛するマリーベル・メル・ブリタニアという女がここに居る。ただそれだけの。

 

「高校ンとき少し習った。同盟国というより姉妹国の日本とブリタニアの法律は一部共有されってっからな。日本の平民がブリタニア皇室を侮辱すると日本皇室侮辱罪と同等の扱いを受けるとかなんとか、で日本は日本の法で裁かれるから無期刑か懲役で済むが、ブリタニアだと」

 

「死罪ですわ。あの男はブリタニアの男爵であるとはっきりとわたくしに言い切りました」

 

 そこで玉城にかいぐりかいぐり撫でられてこちらも顔が真っ赤なオルドリンが引き継ぐ。

 

「マリーは皇女なの。そのマリーベル皇女に対してあの男は下女と呼び侮辱した。この不敬行為は万死に値し、神聖ブリタニア帝国の刑法では死罪と定められているわね」

 

 ナデナデナデ……

 

 ああ、なんて優しい手つきなの? 普段の喧嘩ばかりのこの男の手とは思えない。玉城真一郎にとって私──オルドリン・ジヴォンとは、どういう女なのだろう? 

 

 馬鹿やって気軽に話しかけてきて、一緒にお酒を飲んで勉強もして、KMFシミュレーターで戦ったり、本気の模擬戦もしたり。V.V.皇兄殿下をして『手のかかる息子みたいな物』と、ブリタニア皇家の人間と同じように扱われている不思議な平民。

 

 お兄ちゃんは平民のエウリアさんと婚約し、結婚が認められている。オリヴィアお母様、オイアグロ叔父様から直々に認められている。

 

 ジヴォン家次期当主の私には未だ婚約者はいない。ブリタニアと日本の結婚適齢期は80歳くらいまで。人生200年もあるんだもの、皆長い人生を共に在れるパートナーを探している。

 

 日本が4億2千万人、ブリタニアが13億人、併せて17億2千万人もの男と女がいる。基本的に日ブの皇族貴族(華族)は二国間でのみの婚姻を許している。だけど階級差はいかんともしがたい。

 

 お兄ちゃんのときだってジヴォン家の子の貴族からは異論が出ていた。平民と御婚約、御結婚なさるとはオルフェウス様のお考えが分からない。御考え直しを。といった言葉が私の耳にも入っていた。

 

 でもお兄ちゃんは押し切った。文句があるのならば俺と決闘し勝ち取って見せろ。力を示す事こそが、正しき力こそが神聖ブリタニア帝国の定義。力を以て俺を止めて見せろ。

 

 そうしてお兄ちゃんは反対していた子をねじ伏せて、エウリアさんはその優しさを以て子貴族たちを説得していった。

 

「絶対的階級制国家で皇族や上位貴族への不敬は死刑か。よかった、俺日本に生まれて」

 

 ナデナデナデ……

 

「兄さまはブリタニア人となるのですよ?」

 

「はあっ?! なんでっ?!」

 

「わたくしと結婚し、メル家へ婿入り為されるからですわ」

 

「あーあ、まーた勝手なこと言ってるよこの皇女様は」

 

 不貞腐れた口調ながらその優しい手。幼い頃、行くべき道を指し示して下さったときと同じ、温かくて優しい手。わたくしの愛する兄さまの御手。

 

 ですが、この手は今、クララやオルドリンにも向けられている。クララは自分の方が先だよこの泥棒猫とわたくしを詰りますけれど、順番など些細な事でしょう。

 

 誰がこの手を独占するかが重要なのです。ああ、わたくしはこの手に頭を髪を撫でられている今この瞬間がとてつもなく幸せです。この幸せはきっと他の何物にも代えらることのできない、この世に二つと無い物。

 

 わたくしは二人きりのデートの時、この腕の中に掻き抱かれたことがあります。そのお唇でわたくしは接吻を受けたこともあります。きっとクララも接吻は受けたことがあるでしょう。いえ、彼女のこと、強引に奪ったのかもしれません。

 

 オルドリン・ジヴォン。わたくしの騎士。まさか貴女までもが兄さまの御寵愛を……、ですがオルドリン。貴女はわたくしから兄さまを奪ったりは致しませんわよね? 

 

 もしも、もしものお話ですが、オルドリンまで兄さまに恋慕を寄せるというのでしたら、わたくしは受けて立ちますわ。……或いは、兄さまが望み、クララが望み、オルドリンが恋慕の情を抱いたというのならば共有を? 

 

 ……い、いいえ駄目ですっ! やはり兄さまはわたくしだけの物ですわっ! ……でも、わたくしは、オルドリンと争いたくはありません……。兄さま、わたくしはどのようにこの複雑なる方程式を解けばよろしいのでしょうか? 

 

 兄さまにこの胸の内は分からない。兄さまはわたくしの頭を撫で、髪を撫で梳いてくださるだけ。兄さま……お慕い申し上げております。

 

「あの男はわたくしだけではなく名家であるジヴォン家次期当主たるオルドリンにも不敬を働き、皇籍奉還はなされているとはいえジ家のクララも侮辱致しました。ただの死罪が軽い刑罰となりましょう」

 

 照れ照れつらつらとマリーベルは述べる。

 

 片やオルドリンの頭を撫でている玉城はそうだったよなと相づつ。

 

「筆頭騎士様の家もかなりの名家なんだよな。領地もそれなりに広いしよお」

 

「さ、さすがにクルシェフスキー、シュタットフェルト、ソレイシィ、ヴェルガモン、ローゼンクロイツ、アッシュフォードみたいなとんでもない大貴族には劣るけれどね」

 

 ふむふむと。両手でマリーベルとオルドリンを抱き締めながらそのフローラルな香りに包まれつつ、玉城は頷いた。

 

「世間知らずのクソ坊っちゃんがマリーベル皇女様と名家ジヴォン家次期当主オルドリン様に喧嘩売った訳だ。下女呼ばわりで。そりゃまあおめぇらの国の法律では縛り首だわな」

 

 うんうんと頷く玉城に。顔を火照らせているマリーベルとオルドリンは同時に振り向き。

 

「縛り首みたいな」

 

「甘い刑罰で済めばまだ恩赦と呼べる形でしょうね」

 

 などととろんとした瞳を玉城に向けて言った。

 

「縛り首以上の死刑って」

 

 裏から皇室を守護する家系にあるオルドリンは言う。

 

「死罪にも色々とあるわ。なにも縛り首や銃殺なんて甘い刑罰で終わりだとは言ってないでしょう? 私の家系、プルートーンのこと聞いたことあるわよね?」

 

「お、おお、なんかやべーんだろお前の兄貴のとこ。おっさんが頭張ってた組織と同じ様な危ない組織だとか」

 

「組織ではなく機関です。ヤバいで済んだらまだマシですわね。もしも彼の男ロズベルト男爵がプルートーンによる死罪を受けるのならそれは」

 

 待った! と、大声で制止する玉城。あまりグロイ話は聞きたくないのである。

 

「聞きたくねーよそういった痛そうな話は。そういうのはクララんとこだけで充分だわ」

 

 呼ばれたクララは、マリーベルとオルドリンばかりナデナデしている玉城を呆然と見ているだけだった。

 

 クララのお兄ちゃんがクララをほっぽってお姫さまとナイトオブナイツばかり構っている。なんで? なんで? どうしてよお兄ちゃん。お兄ちゃんはクララの物なんだよ? 

 

 お兄ちゃん昔言ったよね女(クララ)の前では格好つけたいって。クララ以外の女に現を抜かすことのどこが格好いいの? 

 

 ねえ、お兄ちゃん。……そんなことばかりしてたらお兄ちゃんのこと殺して永遠にクララだけの物にしちゃうよ……。

 

 そんな暗く恐ろしいことを考えていたクララであったが、ここで復活。

 

 クララは暗殺者らしく素早く玉城の正面に回り込んで、二人を押しのけて彼の身体に抱き着いた。

 

 こうして出来上がったのが密着する四人といった、男一人に美女美少女三人の天国状態なおしくらまんじゅうだが、六つの膨らみを身体に感じる玉城は「年下のくせに柔らケーよ。色気づきやがってコイツら」とか思っていたりする。

 

 歩道の真ん中なので注目を浴びていた。それはそうだろう。如何にもなヤンキー面のモテなそうな顔つきの男が、美女美少女三人とくっついているのだ。舐めてんのかである。

 

「おしえたげよっかお兄ちゃん。プルート―ンのやり方とウチのやり方。早く殺して下さいって泣いて懇願するようなやり方を」

 

 真正面から見上げてくる小柄な少女クララの深い瞳にぞっとする玉城真一郎。

 

「クララのところに入ってきてる情報ではね。ロズベルト男爵はブリタニア最大級の貴族西海岸諸侯盟主クルシェフスキー侯爵家。北ブリタニア大陸中央部を治める大貴族群シュタットフェルト辺境伯家。ソレイシィ辺境伯家。ヴェルガモン伯爵家。ローゼンクロイツ伯爵家と、こちらも結構な名家シュタイナー家の令嬢・令息に対し不敬行為を働いてる。どこか一つでも下級貴族である男爵家はお家断絶の処分が下るし当主は死罪だね。さらにマリーお姉ちゃんにナイトオブナイツに対する不敬が重なった。これもうウチかプルートーンクラスの暗部による死罪案件になるの。暗いくら~い、死にたくても死ねないくらいの痛みを味わわされた後に、お家と生まれてきた存在ごと処分されるくらいの大罪なんだよね」

 

「は、はは、そうなんか。そ、そりゃ、さ、災難だわ。お、オルドリンさん?」

 

「私は詳しくは知らないわ。クララさんかお兄ちゃんの属する機関の案件になりそうだし。実際にどうなるかもまだ分からない」

 

「楽に死ねたらまだマシかよ。まあマリーやオルドリンを侮辱してきた奴がどうなろうと知らんけどな」

 

 言いつつ玉城はマリーベルとオルドリンを抱き寄せ、優しく頭を撫でまわしながら、抱き着いてきているクララと頬を擦り合わせていた。

 

 通りのど真ん中で。

 

 男の達の嫉妬の視線と、女たちのなんであんな男がモテてんのといった疑問の目を一身に受けながら。

 

 

 



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勘違いした田舎者 討ち入り

ちょっとした人物紹介。


シャルル=シャルル・ジ・ブリタニア=コードギアス、モニカの実父(公式)

ジャン=ジャン・クロード・クルシェフスキー=コードギアスのオリキャラ、モニカの養父、シャルルの親友にして西海岸諸侯盟主。

アリス・ローゼンクロイツ=モデル、ローゼンメイデンのアリスの名前。シャルルの親友の一人。

麻生良太郎=モデル、ムダヅモ無き改革の麻生タロー。シンクの旦那さん。

シンク・ローゼンクロイツ=モデル、ローゼンメイデン第五ドール真紅。良太郎の妻。

リーライナ・ヴェルガモン=コードギアス、グラウサムヴァルキリエ隊の女性。山本五十六の妻。

山本五十六=史実大日本帝国の軍人で「提督たちの憂鬱」の登場人物。一度目の転生者=リーライナ・ヴェルガモンの夫。


 

 

 

 カンザス ローンリッジ近郊 ロズベルト男爵領

 

 

 

「討ち入りだあァッッ!」

 

「敵はたったの六名ッ。見える範囲でだがッ。一人たりとも逃がすな皆殺しにしろッ!」

 

「家宰様ッ、敵の中には美女が一人、美少女が二人ほど居るようですがこちらについては如何為さいます?」

 

「どれほどだ?」

 

「超上玉でさァ。そんじょそこらじゃお目にかかれないほどの」

 

「ほう。そりゃあいい。丁度奴隷共にも飽きてきたところだ。その女どもを捕まえて、順々に回していくかあ」

 

「さっすが家宰様、お心が広う御座いますな。このハンス。感服つかまつりました」

 

 二階建てのこじんまりとした邸の中では、70名ほどの無頼漢としか思えない騎士達が騒いでいた。

 

 この周囲を山に囲まれた天然の要塞とでも言うべきロズベルト男爵家のお屋敷に、今、たった六人ほどの愚かな人間が討ち入って来たという。

 

 こちらの戦力は未だ戻らぬ集金人の徴税官たち三名を抜いても87名。負けようとしても負けられない戦力差がある。

 

 だが、表に居る歩哨も騎士の様子もどうもおかしい。居ないというか声が聞こえないのだ。本来討ち入りなら騒ぎ声があってしかるべき。

 

 だというのにまるで何も声がしない。

 

 不気味なその様子に、家宰の頬には一筋の汗が流れ落ちていた。

 

 

 

 勘違いした田舎者 討ち入り

 

 

 

「よお、クルシェフスキー侯爵よお、中の連中もう気付いてんじゃねえのかい?」

 

「たぶんね。シャルルが正面突破しようだなんて言い出すから」

 

「こんな山間の要塞のような場所だ。正面突破しか道はあるまい。それと、先ほどのは計算違い。一人頭、14人とまあ+といったところだが。いけるか」

 

 シャルルが喋る間に、また六人ほどの荒くれ騎士が、邸の中から飛び出してきた。

 

 表地が青、裏地が白いマントに青い騎士服、全身を青で纏ったクルシェフスキーは、自らの長剣でそのうちの一人の首を一瞬で跳ね飛ばし、蒼空の空に赤い鮮血を舞わせた。

 

「お約束って奴だねえ」

 

 彼が呟く間にも5人の騎士達が迫り来る。黒一色の喪服のような衣服に身を包む大柄の男、シャルル・ランペルージの大剣が宙を凪、二人の首が一度に跳ね飛ばされた。当然にして舞う鮮血の下を一発の弾丸が通り抜け、剣を振り上げていた別の騎士の脳天を撃ち抜く。

 

「最初は全員捕縛を考えていたが、これはどうも指揮官の捕縛だけで済みそうだ」

 

 今し方二人を殺したシャルルが言うと、良太郎が。

 

「シャルルさんよ、あんたその方が簡単だからその方針に切り替えたんじゃねえのかい?」

 

「ふむ、まあそうとも――」

 

 シャルルが身体を反らすと、シャルルが立って居た場所を、フルーレの煌めきが通り過ぎ。更に迫り来ていた騎士の一人の心臓が抉り出された。

 

「残念。今のでシャルルを殺っていれば私が皇帝の座を奪えたのに」

 

 金色に輝く身の丈ほどの長いツインテールを大きく揺らせながら、赤いドレスと赤いヘッドドレスに身を包む少女、否、還暦を超えた女性。言葉を紡ぐのは『鮮血の薔薇』の異名を持つ、アリス・ローゼンクロイツ伯爵夫人。

 

「ふははっ、アリスよ、そんな事をすれば書類に埋もれて溺死することになるぞ?」

 

 シャルルが普段扱っている書類の量は半端ではない。執務机の上に山となって積もっているのだ。

 

「ひゃっはーッッ、死ねえーッ!!」

 

 丁度六人が固まっている背後の草むらから騎士が二人斬り掛かってきた。これに応じたのは、アリスと同じ赤いドレスと、赤いヘッドドレス、身の丈ほどの長い輝く金色のツインテール。アリスとの唯一の違いはその瞳の色。アリスが緑色なのに対して彼女は深い青色。赤薔薇の二つ名を社交界にて持つ、シンク・ローゼンクロイツ。彼女はその手に持つステッキを正確に喉を狙い突き潰す。

 

「言葉を紡ぐ前に手を動かしなさいな」

 

 シンクはそれだけ言うと死体から離れ後方に飛びすさり、もう一人いた騎士を、こちらの騎士に任せた。

 

 軍の嚮導学校をトップの成績で卒業し、ロイヤルガードに所属していた経歴さえ持つ、腰下へと流れる明るい長い髪に、エメラルドの瞳を持つ美しい騎士。ヴェルガモン伯爵家次期当主リーライナ・ヴェルガモンに。

 

「任されましたわ。このような弱敵に我が剣を振るうにふさわしいとは思えませんけれど」

 

 ちょっとした不満と共に、背後から襲い来たもう一人を袈裟斬りにするリーライナ。一撃である。

 

 邸の扉から飛び出してきた騎士のうち、残り二人は良太郎のデザートイーグルの弾丸で頭を破壊され血だまりとなって肉片を飛び散らかし、最後の一人はアリスのフルーレでその首を跳ね飛ばされた。アリスは器用に生首を突き刺し良太郎に。

 

「要りますかリョウタロウさん?」

 

 と進めていたりする。

 

「要らねえよ。サイコパスかよ……」

 

 葉巻に火を着けた良太郎は襲撃してきた連中が、十秒かからず全滅したのを見て『こりゃ直ぐ終わるな』と呟いた。

 

「最初に10人片付け、いま8人片付けたから残り69人か。直ぐ終わるねえ」

 

 クルシェフスキーが倒した人数を数えている。だが、ここから先は邸の中、相手のテリトリー。今までのように行くかと考えたが、考えるのも無駄と思考を打ち切った。

 

「シャルルこれは予想以上に簡単な戦となりそうだが、久々の私たちの戦だ。心躍らないか?」

 

「確かにな。書類仕事に飽き飽きしていたところなのだ。たまには身体を動かし、世直しをすべき場所を裁くのもいい。もっとも、この様な場所や悲劇を作ったのは儂の不徳の致すところだが」

 

「仕方ないさ。皇帝とて神様じゃない。全てを見通すことなんて出来やしないよ」

 

「神、か……」

 

 我が手は何処までも届くぞ?

 

「シャルル?」

 

「いや、何でも無い。行くぞ。ロズベルト邸へ」

 

 

 走り出す六人は扉を破壊し、中へと押し入る。丁度中央の広いホールとなっている場所。三十人ほどの騎士達が待機していた。

 

 二階の階段上の廊下より下の階を見下ろしているアイパッチの男が居る。銀髪にオールバックで他のものとは違う衣服に身を固めていた。

 

 執事服、あれが今のロズベルト家の家宰。つまり、この場にいる連中のナンバーワンだ。

 

「たった六人でロズベルト男爵様のお屋敷に討ち入りするとは褒めてやろう。だが外の連中を殺ったところでまで騎士達は大勢残っている。さあどうする?」

 

 勝ち誇り不適な笑顔を、醜悪な笑顔を浮かべる家宰を前に、どうせこちらの名も身分も知らないだろうから、告げても無駄と感じたアリスは。

 

「どうするぅ~? って、決まっているでしょう? あなたとロズベルト家の元々の家臣以外皆殺しよ」

 

「それができるかな? たった六人に――」

 

 家宰が不貞不貞しく言った瞬間。

 

 

 ガガガガガガガンッッ!!

 

 

 耳をつんざく大きな銃声と共に。ホールにいた騎士全員が眉間とこめかみに穴を空けて崩れ落ちた、やったのは『魔弾の射手』麻生良太郎だ。

 

「お前さん達がくっちゃべってる間に残り39人になっちまったぜ? どうするぅ~?」

 

 家宰とアリスの真似をやって葉巻の煙を吐き出す良太郎。一仕事の後の煙草は上手い。

 

「アソウ大臣。まだ終わってはおらんぞ?」

 

「そうだったなぁ、シャルルの大将。あと俺のこたぁ、良太郎でいい。同じ戦場で戦う仲間に大臣も糞もねェだろ」

 

「ふッ、ではリョウタロウと。これでまた一人友人が増えた。嬉しい限りだ」

 

「光栄だぜシャルルさんよ」

 

 話ている間に家宰は逃げていく。邸の二階の左奥の方へと。

 

「では、ここからは各々二組ずつで行動、と、言いたいところだが、リョウタロウは強すぎる。一人で行けるか?」

 

「俺ァ元より一人で仕事をやってる。くそったれのユーロピアを相手にするときも。イカレ南天の相手をするときもずっと一人だ。帰るべき場所をシンクが用意してくれてるから自由にやれてるのさ」

 

「り、リョウタロウ……」

 

 シンクとリョウタロウの惚気に、そういう場合じゃないだろうと全員が突っ込む。

 

「では、儂とリョウタロウが二階を。ジャンとヴェルガモン卿は一階左。アリスとシンク嬢は一階右をそれぞれ探索。敵騎士は全て斬り捨てて構わんが、先代に仕えていただろう者達は生かしておけ。では行くぞッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 シンク・アリス組

 

 

「こうして共に戦うのは初めてねシンク」

 

「はいお母様」

 

 瞳の色が違っていなければ見分けの付かない二人は、アリスがフルーレを。シンクがステッキを振るいながら唯々敵騎士を打ち倒している。

 

「ぶぺェ」

 

「うばァ」

 

 一撃で打ち倒し戦闘時間は秒も掛からない。

 

 金色の四本の輝く長い長いテールが靡き、軌跡を残していく。その下に鮮血に塗れた死体だけを残して。

 

『鮮血の薔薇』の片割れとも言われるが、本当の『鮮血の薔薇』とはアリスを差す。血のように赤く、血のように美しき、鮮血に染まった薔薇。

 

 大貴族連合が、神聖ブリタニア帝国各地で旗揚げをしていく中、その背後に南天の影を見出した彼女は夫と共に、出来る範囲での討伐へと乗り出したのだ。

 

 その実力は一騎当千。ナイトオブラウンズでさえ霞むと言わしめ、その名の通りアイオワ周辺の、大中小限らず、大貴族連合に所属し。

 

 南天へと降った貴族を千人は討ち果たしたという伝説を作り上げた、その当事者こそがアリス・ローゼンクロイツなのである。

 

 ブリタニア帝国近年最大の事件。血の紋章事件。日本で言うところのブリタニア五.六事変、ブリタニア五月クーデターにも皇帝派として参戦しており、その一騎当千の活躍振りには、味方は大いに闘志を奮い立たせられたとか。一説には最強のラウンズと謳われた、皇妃マリアンヌとさえ互角の実力を持つのだという。

 

 この為、シャルルは彼女と友人と言うことも有り、気が置ける存在にして、他を圧する強力な戦闘力の持ち主と言うことからラウンズに招聘したというが、自分には自分の領地を守る義務があるとして辞退されている。

 

 今でもシャルルの茶飲み友達で有り、飲み友達でもある為、親友ジャンと良く飲み歩いているらしい。

 

 彼女は我が子たちや、子の貴族達を前に薫陶を残している。ノブレス・オブリージュ。尊きものはそうであるが故に弱者を大切にしなければならない。もし尊きものがその役割と精神を腐らせたとき。赤い薔薇は死を告げに向かう、と。

 

「これはこれはお美しきご婦人お名前を――」

 

 ビュビュ、ビュッ

 

 如何にも強そうな屈強な男は、言葉を言い終える前にアリスのフルーレで全身を斬り裂かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 クルシェフスキー・リーライナ組

 

 

「ヴェルガモン卿と顔合わせをするのはこれで幾度目となるかな」

 

「恐れながら五度ほどかと。クルシェフスキー卿は舞踏会にも余りお出でにならず、薫陶を受ける機会も少ないものでして」

 

 ジャン・クロード・クルシェフスキー。

 

 その名は北側諸国の者ならば誰でも知っているが、直接顔を合わせた人間はほとんどいない謎の人でもある。

 

 本人が書類仕事に忙しく、視察は分からぬように向かう為、名前だけが広まってしまっているのだ。

 

 その正体は、子に厳しい親であり、西海岸諸侯を束ねる神聖ブリタニア帝国の重鎮中の重鎮。

 

 階級こそ侯爵だが実質的には公爵のそれであり、もしも次期陞爵があれば侯爵からの二階級特進、大公爵へとなる事が確実視されていると噂されている大人物である。

 

 一声声を掛ければブリティッシュコロンビア・アルバータ・アイダホ・ワイオミング・ユタ・ネヴァダ・カリフォルニア・アリゾナ等、西海岸諸侯が次々と動き出すと言われるほど大中小問わず子の貴族が多く。その歴史は1,000年を超えると言われる大貴族。ブリタニア人の故郷ブリテン島時代からの古参貴族家なのだ。

 

 駐日ブリタニア総領事を務める彼の大貴族、ルーベン・K・アッシュフォード公爵や、南方に影響力を持つカラレス公爵と、同格家と見られており、影響範囲では彼の二家を超えているとも密やかに囁かれている。動かせる影響範囲がそれ程に巨大だからだ。

 

 そして神聖ブリタニア帝国とは切っても切れないほどの仲を持ち、家族的同盟国とも例えられる大日本帝国との玄関口にも当たるため、日本との付き合いも非常に深い。

 

 80余年前の太平洋戦争を止めたのはこのクルシェフスキー侯爵家と、日本の嶋田伯爵家の協議によってというのは、公式文書に残っており、太平洋戦争停戦の功労者でもあるのだ。

 

 彼のクルシェフスキー侯爵家と嶋田伯爵家が動かなければ、神聖ブリタニア帝国・大日本帝国、共に亡国と成り果て、悪辣なる南天の旗の下に置かれていたことだろう。

 

 そんなクルシェフスキー侯爵家当代当主、ジャン・クロード・クルシェフスキーはシャルル皇帝の個人的な友人としても有名で、互いをシャルル、ジャン、と呼び合っている。

 

 血の紋章事件にも駆けつけ『友の危機を救うのはその親友だと昔から決まっているのさ』といった、臭い台詞を残している。

 

 ザシュッ!

 

「ギャアアアッ!!」

 

 ブシャアアッ!

 

 跳ね飛ぶ首、血しぶき舞い散る中。青い騎士服に一点の曇りも残すことなく、下階の敵を葬っていくクルシェフスキーはため息を吐く。

 

「もう少し歯ごたえがあると思ったんだが、弱すぎるな」

 

「お、恐れながら、クルシェフスキー侯爵閣下が強すぎるだけでは。敵は確かに弱いですけれど」

 

(お噂では聞いておりましたけれど、陛下のご友人方がラウンズ級というのは本当のことだったのですわね……隠れた達人、凄いですわ)

 

「誰が弱いだってェェ?」

 

 考えていると、奥の部屋から身長2mはありそうな巨漢が出てきたけれど。

 

「君たちが弱いんだよ」

 

 瞬間袈裟斬りにされて身体が両断されていた。

 

 

 

 

 

 良太郎

 

 

 欠伸が出るとはこのことだろう。誰もが剣。銃を持っていない。早撃ち勝負も一対一の決闘擬きも出来やしなかった。

 

 気配を読んでクズヤローだなと判明したらドアに弾を撃ち込んで始末するだけ。そして昔からの家臣らしき者がいたら。

 

「もうちょっと待ってな。いま、自称正義の味方マン共がこの邸の制圧に掛かってる。ただし、おたくらには碌な沙汰が待ってねーぞ。わかってるよな?」

 

 言い聞かせながら二階右側の廊下の部屋を、一つ一つ調べていた。実に暇で退屈な作業だった。

 

「俺とシンクだけで充分なのに、馬鹿みてェに戦力引き連れて来やがって皇帝陛下よォ」

 

 嚮導学校首席。

 

 鮮血の薔薇。

 

 西海岸諸侯盟主。

 

 皇帝。

 

 魔弾の射手。

 

 赤薔薇。

 

 何れ劣らぬ戦いの達人ばかり。一番弱いシンクだけでも、農民上がりの騎士擬き87人なんぞ全滅させるのに、それほど時間も掛からない。

 

「テロ組織の本部でもぶっ潰すつもりかよ」

 

 

 

 

 

 シャルル

 

 

 久々の戦場に立つ高揚感はあるが。同時に実に気分が悪い。

 

 我が娘モニカを侮辱されたというのもある。

 

 親友達の令嬢を、上位貴族の令嬢たちを馬鹿にされたのもある。

 

 だが、法と皇帝と貴族が支配するこのブリタニアで、平然と法を犯し、奴隷売買をしていたこと。

 

 これが最も気分の悪い原因だろう。

 

 許しがたき事よ。

 

 どれだけ死んだ?

 

 どれだけの無実の者が殺された?

 

 優しいあの子がこの事実を知れば、己が罪に苛まれ、苦しみ続けるだろう。

 

 もしも、自分自身への不敬行為を行われた時に、その優しさで見逃すのではなく、厳正に処分していれば、ここまでの犠牲者を出すことは無かったのではないかと。

 

 隠すべきか。情報公開すべきか、隠蔽してしまうべきか悩む。

 

 正義感の強すぎるあの子ならば、隠蔽しようが自ら調べ真実へとたどり着くかも知れぬ。

 

 儂はどうするべきなのか?

 

 ジャンの意見も聞かねばならぬ。

 

 儂はあの子の実父だが、ジャンはあの子の養父。

 

 共に親であることに変わりはないのだから。

 

「死ねやァァ」

 

 また一人愚か者が斬りかかってきた。

 

「ふんッ」

 

 儂は手に持つ大剣を横凪に振るう。

 

「ああ、へ、へへッ、なんともなってねェじゃねえかよォ、びびくらかしやがってェ」

 

 実に手応えがない、あの血の紋章事件の時。仲間と共に、日本の仲間と、ブリタニアの仲間と、皆と共に戦ったあの高揚感がない。

 

 それにしてもこの男。大層な身体をしおって、己がもう死んでいることにも気づかんのか愚か者め。

 

 ずずッ

 

「あ、あれ、し、視界がずれて……、よ、横にずれていくーーーーーッッ!」

 

 ぶしゃっと飛び散る大量の鮮血。

 

 胴体から二つに分かたれた肉体。

 

 輪切りとは行かぬが、出荷前の豚のようだ。

 

「いや、豚に失礼か」

 

 邸から気配が消えた。ほぼだがな。ジャンのやつめ、久々の外出だからか暴れておるな。

 

 ジャンがいればヴェルガモン伯爵令嬢に活躍の場がないだろうな。

 

 アリスもシンク嬢も暴れておるようだ。

 

 親子で戦えるのがそんなに気持ちいいのか。

 

 儂もモニカやマリーベルと共にいつか戦場に立ちたいものよ。

 

 そういえば、マリーベルと言えば、今休暇でオルドリンと共に日本を訪れているのだったな。

 

 よき休暇となってくれれば良いのだが。

 

 それにしてもあの子の男の趣味だけはどうにかならなかったのか。

 

 よもや三流校卒のニート。兄さんの家に居たあの男と結婚するとか言い出したときは焦ったものよ。

 

 儂は結婚は自由にさせる方だから一々文句は言わんが、妻から、あの子の母フローラから色々と注文を付けられた。

 

 とくにギャンブル関係と借金関係で。

 

 まあ、あの男の在り方を見ていると分からんでもないが。

 

 儂相手にまで掛けポーカーを挑んできおったその根性は見上げたものだが。

 

 因みに儂が勝って彼奴から一万円取り上げて競艇に使ってやったわ。

 

 

 さて、遊びも終わりか。

 

 最後の扉を開く。気配は二つ。

 

 予想は付いておるわ。

 

 

 ギイィィィ……。

 

 

「は、ははッ、よく、ここまで、たどりッ、ついたなッ」

 

 アイパッチを着けた、銀髪をオールバックにした家宰。

 

 フランク・ロズベルトと共に、このロズベルト領を悪漢の巣窟にし、無法地帯と化させていた男。

 

「順番に部屋を空けていけば必然的に貴様の元にも辿り着こう。名は?……いや、言わなくとも良い。どのみち貴様は死罪だ。死罪処か大逆罪なのだがな」

 

「南天様の旗を見たのか?」

 

「見るもなにも、先行しておった仲間が堂々と掲げておるのを発見しておるわ。意味が分かっていような? 外患誘致および民主共和制原理主義の思想散布予備罪の大逆罪であると」

 

「は、ははははッ! 南天様は、盟主様は神だッ! 絶対神であらせられるッッ!! 死後は盟主様の元に集い一つとなって生きるのだッ! 永遠の命が得られるのだッ! 故に我々は死を恐れぬッ!」

 

「当主は南天について?」

 

「あの馬鹿に南天様の教えを理解できるはずがなかろうッ! 俺こそが南天様に選ばれた使徒なのだッ!」

 

 使徒ではない……駒だな。このような男を南天の神が自らの使徒とする筈がない。

 

 悪魔伯爵や遺憾ながら私級の存在でも無い限り、あの邪悪なる神は自らの使徒とはしないだろう、もしくは才能を持つ者以外は。

 

「使徒たる俺にはこの地を自由にする権利があるのだッ!!」

 

 銀髪を後ろになでつけた家宰は得意げに言う。この地と一帯の汚染の源についてはこの男だな。

 

「奴隷は何故必要とした。南天にあるは教化と浄化の二択のみ。それ以外ではユスフのように自らその傘下に入る者のみ庇護されるはずだが?」

 

 儂も無知ではない。北側諸国の不倶戴天の敵である、南天条約機構について、自ら調べておる。

 

 頂点に神を据え。

 

 その下にルーク、ジェネラル、ビショップ、プリーストといった大幹部が存在し。

 

 以下。

 

 熾天使。

 

 智天使。

 

 座天使。

 

 主天使。

 

 力天使。

 

 能天使。

 

 権天使。

 

 大天使。

 

  天使。

 

  信徒。

 

 といった絶対的階級制に分けられている。

 

 また信徒は同時に天使の階級を持つことでも知られているな。

 

 階級制という意味では我がブリタニアと似ているが。

 

 死兵と呼ばれる死をも恐れぬ兵隊を8000万持つことでも知られている。

 

 その名の通り死を恐れず向かってくる生きたアンデッド。

 

 奴らは占領地の住民を従える為に『浄化』という恐怖を与え、次第に占領地を『教化』し、己がものとする最悪の占領統治を行うゆえに、ジェノサイドなど平気で起こす恐ろしい精神性を持っている。

 

「簡単だ。そうやって奴隷共にも教え込むのさ。やってやってやりまくって、もう逃げたい、すがりたいとなったとき、何にすがる? 神にすがるだろう? そうして教化した者を散布するのさ。地域社会に広がるようにな」

 

「南天に汚染された地域は幾つの領だ?」

 

「中小150はあるカンザスの17の領に広がっている。これからもまだまだ広がるぞ。奴隷貿易は教えと快楽を広げる最も簡潔なる手段だからな。リフレインと一緒だ。簡単に広がってやめられなくなるのさ」

 

 ペラペラと良く喋る男だ、それもそうか。儂を始末すれば良いのだからな。その手に持つ黒く光るもの──拳銃で。

 

「銃は剣よりも強しって言葉は知ってるかァ? 如何にそんな大剣を持っていようがなあ、結局銃には勝てないんだよォォッ!!」

 

 

 パァンッ

 

 

 銃の発射音。

 

 そして。

 

 瞬間遅れて。

 

 

 キィンッ!

 

 

 金属が金属を弾く音が鳴る。

 

「はっ? な、なんだっ? 何をしたァァっっ!!」

 

「一々耳障りに叫ばずとも答えくらいは教えてやる。剣で弾丸を弾いた。弾道さえ読めば簡単な事よ。無論リョウタロウクラスの怪物には通じんが」

 

「は、はったりだッ、まぐれで一発弾いたくらいでッッ」

 

 

 パァン、キィン!

 

 パンパンパンパン。

 

 キンキンキン、カィンッ!

 

 

「そ、そんな馬鹿なッ」

 

「申したであろう。弾道さえ読めば簡単な事だと。儂を舐めるなよ小僧」

 

 そこまでした時だった。

 

「ち、近づくなッ!」

 

 一歩踏み出し掛けた儂の足が止まる。年の頃10~12くらいの栗色の肩下くらいまでの髪の少女が、男の背後から姿を現した。姿を現したというよりも、強引に引きずり出されたといった感じだ。

 

 その少女のこめかみに銃を宛てがい。

 

「それ以上、近づいて見ろ、はあッ、はあッ、コイツの頭をぶち抜くぞッ」

 

「浄化という言葉を使わん辺り、貴様はただこのロズベルト領の私物化を男爵と共に行う事が目的なだけのただの屑というわけだな。死兵でも無ければ信徒でも、ましてや使徒でもないただの半端者だ」

 

「だ、だまれ、それでも南天様は我らを見捨てぬッッ!!」

 

「ふん、大貴族連合の反乱の時には僅かな支援の後にあっさりと見捨てられておるではないか」

 

 南天の手は確かに世界中に届く。17億もの信徒がいるのだ。いつどこに隠れ潜んでいても分からぬが。だからといって全てが全て支援してくれるとも限らない。散々支援を頼み込んでおったユーロピアなどゴミ扱いだ。

 

「それに来るなら来るが良い。我が神聖ブリタニア帝国と盟邦大日本帝国を中核とした北側諸国は、南天などに屈せぬわッ! たとえ最後の一人となろうともなッ!!」

 

「うるさいッ、貴様は後ろを向けッ、でないと――」

 

 

 ――シャルル、後ろを向くな。そいつの弾はもう無い。

 

 

 言葉と共にやってきたのは、この階の反対側を制圧していたリョウタロウだった。

 

「むう」

 

「銃声は聴いてた。そいつァ、リボルバーだ。六発で終わりだよ。つまりアイツの手にある銃は今、空っぽってわけさ」

 

「でかしたリョウタロウ。貴族位でもやろうか?」

 

 嘘ではない。かつてシンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢を救出したことなど、リョウタロウはブリタニアに多大な貢献をしてきた。シンク嬢のことだけではない。血の紋章事件の時も、大貴族連合反乱事件の時も、首魁に近い人間を複数討ち取っている。

 

『辻のおじきの依頼だからな』

 

 そんな事を言っておったがその功績はやはり大きい。いつか報いねばならぬ。

 

 最低でも子爵位、なんなら下位の伯爵位くらい与えても良い。

 

「それよりも、今はこやつか」

 

 

 儂は近づいていく。最早何も無いチンピラに。

 

 

「わ、悪かったッ、俺が悪かったよッ、だから謝るから許してくれよッ、な、なんだったら地下倉庫に詰め込んでる奴隷どもを自由にしても良いぜッ」

 

 一歩、一歩、踏み込んでいき。

 

「ホントだよォ~、嘘じゃねえよォ~、奴隷全部やってもいいから見逃してくれよォ~」

 

 最後の一歩を踏み込んだ瞬間。

 

「死ねえッッ!!」

 

 左手に隠し持っていたナイフに儂は刺された。

 

 

 指と指の隙間にだがな。

 

「は、え?」

 

「そう来ると思っておったわ。貴様のような子悪党は最後の最後まで自らの勝利を妄信する。儂を殺して、ではリョウタロウはどう攻略する、ジャンは、ヴェルガモン嬢は、アリス、シンク嬢はどうやって攻略するのだ? 貴様はもう詰んでおるのだよ家宰」

 

 儂はそのまま握力に任せて、ナイフと共に、家宰の手を握りつぶしてやった。

 

「ギィィヤァァァァーーーーッッ!!!」

 

「さて、貴様等の悪事も終焉の時だ」

 

 儂が男にボディブローを噛まそうとした瞬間。

 

 家宰は少女をこちらへ放り投げると。

 

「糞ォォォ、こうなったら皇帝も貴族共もッ、どいつもこいつも皆殺しにしてやるああああッッ!!」

 

 隠し持っていたボタンの様な物を押すと、男の立っておった場所の床が開き。

 

 男はその下に飛び降りていった。

 

「シャルル、別にヤバくもねェが奴さん切り札を持ち出してきそうだぜ。早く邸から脱出だ」

 

「了解した」

 

 儂は少女を担ぐと邸を出た。

 

 

 ※

 

 

 シャルルと良太郎が外に出ると、クルシェフスキー侯爵、ヴェルガモン伯爵令嬢、ローゼンクロイツ伯爵夫人、ローゼンクロイツ伯爵令嬢が出てきていた。

 

 ボロボロになった奴隷達10人を連れて。

 

 本来のロズベルト家家臣の10人も救出した以上、邸にもう人が居ないことを確認すると。

 

 丁度地響きがしてきた。

 

 同時にギャリリリリ。という“ランドスピナー”の駆動音が聞こえ。邸の左壁を破壊する音。

 

 現れたのは。

 

 褐色に塗装された、体高4mほどの機体。

 

 KMF:グラスゴーだ。

 

 

『ひゃああはっはっはっはァッ! 生身の貴様等にこれをヤれる術はねえェッ! テメーら全員ここで死ぬんだよォッ!!』

 

 

 KMFの登場に臆することなく、クルシェフスキー侯爵が一歩前に出る。

 

「なにを持ち出すかと思えば第4世代の旧型のおもちゃじゃないか」

 

 良太郎も前に出る。

 

「そんなもん何騎も撃破してきてるぜェ。魔弾を舐めんな」

 

 

『はッ、強がりもそこまでだなァ、死ねェェェェ!!!』

 

 

 向けられる大型キャノン。撃つ方向が分かっていれば。

 

 

 ドゥンッッ!!

 

 

 バッと飛びすさる六人。避けるのは簡単。

 

 シンクとアリスは花びらのように軽やかに。

 

 良太郎とクルシェフスキーとリーライナは素早く飛びすさり。

 

 シャルルは力強く飛び上がり回避。

 

 

『馬鹿だろテメエ等!! 空中じゃコイツは避けられまいッッ!! 死ね、スラッシュハーケンッッ!!』

 

 

 良太郎は葉巻を咥えたままで、喋る。呆れた口調だ。

 

「一々技名口に出してりゃ対処してくれって――」

 

 

 ガガガガガガガガガーーーーン!!!!

 

 

「言ってるようなもんだぜ家宰さんよォ」

 

 荒野に鳴り響く銃声。その命中場所はスラッシュハーケンのワイヤーの一点部、一カ所への㎜以下。

 

 ベレッタとデザートイーグル。

 

 別々の銃によるミクロのレベルの正確無比な集中射撃に、スラッシュハーケンのワイヤーがちぎれ飛び、大木に深々と突き刺さって止まった。

 

 

『ば、バカなッッ!! 金属で出来ているんだぞッッ!!』

 

 

 同時に飛び上がるのは、着地していたクルシェフスキーとシャルル。

 

 クルシェフスキーはグラスゴーの胸部を、シャルルは頭部を、長剣と大剣で薄く薙いだ。

 

 

 キーン。

 

 

 静かな金属音と共に、グラスゴーの頭部は泣き別れと成り、ファクトスフィアはその意味を無くし、胴を薙がれたことで脱出装置にまでエラーが出た。

 

 この様なこと。余程の剣の達人でないと不可能な事だが。シャルルとクルシェフスキーはそれぞれがラウンズ級かラウンズを超える個人戦闘力の持ち主。この程度、容易きこと。

 

 だがまだ手は動くとばかりに空中にいたシャルルとクルシェフスキーを叩き潰そうとする家宰は、しかし。

 

「私たちを忘れてはいないかしら?」

 

 アリスが緑色の双眸を煌めかせ、蒼穹の空の下、金色に輝く長いツインテールを靡かせながら跳躍し。

 

「お母様ほどの腕はないけれど超旧式のKMF一騎に後れを取る私ではなくってよ」

 

 ほぼ同時にシンクが深く青い双眸に攻撃箇所を見据えて、母アリスと同じく身の丈ほどもある長いツインテールを靡かせて跳躍。

 

「嚮導学校首席の力を見せて差し上げますわ」

 

 最後に腰下へと流れる金色の明るい金髪を靡かせ、珍しくも騎士服に身を包んでいるリーライナが飛び込む。

 

 三人が跳躍する。狙いは両手、右脚、関節駆動部の弱所。どんなものにも弱所はある。皆は其処を突いたのだ。

 

 鋭いフルーレで、鉄より固いステッキで、普通の騎士が持つよりも精錬された剣で。

 

 右手がズドンと地面に、左手もズドンと地面に落ち、右脚はずれるようにして胴体ごと地面へと倒れ込んだ。

 

 

 事ここに至り最早抵抗手段を喪った家宰。

 

「ひ、ひいいいィ」

 

 シャルルに潰された左手を押さえて上部ハッチから出てきた家宰の喉に、シャルルとクルシェフスキーの剣が交叉し宛がわれる。

 

「もう、手品はおしまいか?」

 

 と、何度も家宰と相対したシャルルが言い。

 

「君にラストボスは役不足だったみたいだねェ」

 

 そう、相対するクルシェフスキーが吐き捨てた。

 

 すると家宰は。

 

「あ、あ、ああっ、ああっ、あっ、……す、全ては……、全てはッ、フランク・ロズベルト様の命令なのですッッ!! 私は命令に従っていただけなので御座いますゥゥゥッッ!!」

 

 この期に及んでまでフランクに罪をなすり付けて、己は逃れんとしてきたのだ。

 

 この言葉を聞いた瞬間、シャルルは憤怒の形相と成り。

 

「死兵にすら成り切れぬ南天の駒がァァァッ!! もう黙れィィィィ!!!」

 

 大剣を持っていない方の手で家宰を殴り飛ばし、その意識を刈り取るのであった。

 

 

 ※

 

 

「これで一息、か」

 

 一度その場を離れる事にした皆。

 

 クルシェフスキー侯爵が進言する。

 

「シャルル、あの邸は後でヤマモト卿に頼んでアヴァロンのハドロン砲で焼き払った方が良いのではないか? この幼子の思い出の場所でもあるだろうが、血の臭いが詰まりすぎている」

 

 本当の幼少期。ロズベルト長男夫妻と暮らした想い出の場所は今や、血と鉄錆の臭いが溢れる恐怖の館と化している。

 

「周囲に被害が出なければな。それよりもこの者達のケアをせねばならぬ」

 

 奴隷達の何人かは。「南天様。南天様」と繰り返している。

 

「街の住人も調べていかねばならぬ」

 

「そうだな。南天の芽は摘まないと。血の紋章、大貴族連合、これらに続いてまた血の雨が降るからな……」

 

 

 ※

 

 

 街の入り口まで戻ると、街人が集まり平伏していた。

 

 皇帝陛下ー。クルシェフスキー侯爵閣下ーっと。

 

「まいったな。こういうのが嫌で外に出るときは変装してるんだが」

 

 クルシェフスキー侯爵も外には出る。当たり前ながら人間缶詰状態では精神衛生が保てない。

 

 ポートランドの酒場でシャルルやマリアンヌ、ローゼンクロイツ伯爵、ローゼンクロイツ伯爵夫人アリスと落ち合い、よく飲んだりして気分転換を図っているのだ。

 

 クルシェフスキー侯爵の治める地。影響する全域を含めるならばロッキーと西海岸全域が、日本酒の製造が盛んだ。

 

 クルシェフスキー侯爵と日本の関係から自然とそうなっていったのだが、このダメな大人たち。

 

 シャルル。クルシェフスキー侯爵。マリアンヌ。ローゼンクロイツ伯爵。ローゼンクロイツ伯爵夫人アリスは。良く集まる居酒屋で朝まで飲んでは全員そろって寝ゲロ、店主に怒られているのだ。

 

 二日酔いのまま行うそれぞれの公務は地獄だとかなんとか。

 

 そんな大貴族クルシェフスキー侯爵だが、一般市民・平民・貴族・問わず、謎の人で通っている。

 

 その権威はアッシュフォード公爵・カラレス公爵と並び、発言力はヴェランス大公・ヒトラー大公と並び。ロッキーを含めたロッキー以西の全領域を影響圏に持つ西海岸諸侯の盟主。

 

 そんな大人物と相まみえれば平民が平伏するのは当たり前なのだ。

 

「こういうのはシャルルの役目だろうに」

 

「儂は慣れておる。これを機に秘密の侯爵様のベールを剥いでしまってはどうだ?」

 

 厳めしい顔に笑みを浮かべるシャルル。気の置ける親友への心からの笑みだ。

 

 そうして駄弁っている間にも奴隷達の幾人かは。

 

「南天様、南天様」

 

 呪文のように繰り返している。

 

 シャルルは自身の豪腕をその身に受け気を失っている家宰を見る。

 

「こやつ、カンザスの150の諸侯のうち17の諸侯が奴隷売買に。人身売買に手を染めておると言うておったな」

 

 アリスが割って入る。

 

「そこまで? 穢らわしい。現代で奴隷貿易だなんて信じられないわね」

 

 リーライナも。

 

「17で収まるでしょうか陛下」

 

 と進言。収まらぬだろうなとシャルルは考えていた。

 

「それにこの少女だ」

 

 シャルルの腕の中で眠る少女。余り外に出ていないのか血色が悪い。

 

「この領は蒼天双翼光環旗を掲げておる。自らを南天の支配下だと言っているようなものだ。無論領民には一切罪がない、が、領主一族は……」

 

 身の丈ほどもある金色の長いツインテールを揺らし、シャルルの傍に歩みでる、シンク。

 

「如何した?」

 

「はい、シャルル陛下。そのご注進を」

 

「差し許す。かまわん、この場で申せ」

 

「はい、それでは。……この先代の孫娘と見られる子ですが、不憫とは申しますが他国へ養女として出されては? 仮にこの子が幼さを理由として大逆罪から逃れたとしても、ブリタニアでは生きづらかろうと」

 

「ふむ。儂もこの幼子にまで罪を適用しようとは考えておらぬ。どうするかだ。大逆罪についてもまだ詮議が済んでおらぬからどうするか」

 

「しかしシャルル、法は皇帝であっても曲げてはならぬもの。ということはよくよく肝に銘じておくんだ。皇帝であっても国法は曲げてはならない」

 

 クルシェフスキー侯爵の言葉に苦虫をかみつぶしたような顔をしたシャルルは。

 

「そんなことはわかっておる」

 

 とだけ返す。

 

 

 やがて空に小さな点が一つ見えてきて、直ぐさま大きく姿を現した。アヴァロンである。

 

 アヴァロンは街外の広場に着陸して、下部ハッチを開くとKMFではなく、一台のトラックを吐き出した。

 

 アヴァロン指揮官の日本式の黒い軍服に身を包んだ山本五十六も降りてきてリーライナの隣に立つと、様子を見守る。

 

「リーラ、結局討ち入りはどうなったのだ? 怪我人は出とらんだろうな」

 

 いずれ劣らぬブリタニア大貴族と大日本帝国外務大臣、更にはブリタニア皇帝。

 

 全員が実力者ばかりだから心配はしていなかったが、万一もあると、愛する女性に問い正す山本。

 

「ありがとう。みんな大丈夫よ。それよりね、酷いのよ。性奴隷にされていた人たちがいて、邸は荒くれものに占拠されていてね」

 

 

 山本が話している間にアヴァロンから吐き出されたトラック、それを見た良太郎が。

 

「おいおい、シンクよお、あれ、俺たちが此処に来るときに乗ってきた」

 

「そうね。私のことを舐め回すように見てくれた運転手が運転していたトラックね」

 

 降りてきたトラックは動かず、ただ手錠を掛けられた男がシャルルの前に引っ立てられた。

 

 心なしかげっそり痩せて見える男は、シャルルを見るなり皇帝だと気が付きその場で跪いた瞬間。

 

 ドゴオッ!

 

 シャルルの太い腕で殴り上げられていた。

 

「ぐへえッッ」

 

 転がり回る男の胸ぐらを掴み上げ。

 

「何領だ? 貴様が奴隷を運んだのは」

 

 シンクが冷たい声で補足した。

 

「素直に喋った方が良くてよ。この御方が誰かはお分かりよね」

 

 

 男は喋った。素直に。30領ほどと。

 

 当初の話しより多いこの数に。シャルルはカンザス一帯の調査を決めるのだった。

 

 

 これで当面の話は決着が付いた、奴の帰るべき場所は潰し、奴隷の販売ルートも洗い出せそうになり、孫娘も助け出せた。……凶報が入ったのはその時だった。

 

「なん、だと。そうか、いやいい、わかった、ナナリーは無事なのだな? 擦り傷程度、か。わかった良く守ってくれたキューエル卿にヴィレッタ卿。のちに褒美を取らす。うむ、ナナリーの傍に着いていてやってくれ。ルルーシュは? ふはは、日本で無礼討ちはまずかろう、マリーベルとオルドリン、クララにも大事はないのだな? ほう、マリーベルは死罪を言い渡したか。そういう事ならば、ますますブリタニアには戻って来んな。こうなればこちらから日本政府とその上層部に連絡を取って対処を願うしかなかろう。正直この件はもう終わりとしたい。儂の可愛い娘が気に病み傷つきかねないのだ。ああ、誰かは言えぬ。すまん。ではな」

 

 ピッ!

 

 端末を切った瞬間シャルルは、アヴァロンの壁に自らの拳を力強く叩き付けた。

 

「フランク・ロズベルトォォォッッッ!!!」

 

「シャルル」

 

 クルシェフスキー侯爵が問い質すと。

 

「ナナリーがバスケットの最中に足首を捻挫したらしい。捻挫で車椅子で早退中だったところ、車に乗る前に走って逃げていたあの男にぶつかられて転倒して擦り傷を負ったそうだ。キューエル卿がナナリー殿下に不敬であるぞと言ったところ、『ナナリー殿下がこのような場所にいるはずがないッッ!! 貴様等こそロズベルト男爵家当主である自分に対して不敬であるぞッ!』と走り去ったそうだ。なんでもその少し前にマリーベルとオルドリンと、クララに下女と言い、よ、よ、よ、夜の、あ、あ、相手を」

 

「シャルルもう良い! 気を落ち着かせろ! 済まなかった言いづらいことを聞いてしまって……しかし、あのクズめ! 我が義娘モニカへの不敬から始まりどこまでやれば気が済むのだ!!」

 

 モニカ・リーライナ・シンク・カレン・ナオト・レオンハルトへの不敬。

 

 マリーベル・オルドリン・クララへの不敬。

 

 ナナリーへの不敬と傷害行為。

 

 そしてロズベルト領への調査と討ち入りで判明してきた南天との繋がりと汚染。

 

 ロズベルト家の奴隷貿易。カンザスの貴族30家が絡んでいる人身売買。

 

 シャルルは大逆罪の適用を視野に入れて、今後を進める方向で考えていた。

 

 

 



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ロズベルト男爵領に討ち入った人達

ただの人物紹介です。飛ばしてくださっても問題ありません。


 

 

 

 ロズベルト男爵領に討ち入った人達

 

 

 

 シャルル・ジ・ブリタニア(シャルル・ランペルージ)コードギアス

 

 

 世界最大最強の超大国神聖ブリタニア帝国第98代皇帝にして、衛星・ロケットから鉛筆まで。現ランペルージグループ社長。

 

 稀代の名君にして、『力のブリタニア』の科学技術力を第一位の『技術の日本』を相手にあと半歩という処をキープし続けている。

 

 国民の評判は良く国父として親しまれ慕われており、別名みんなのお父さん。国民第一主義で絶対的階級社会に有りながら、不用意な不敬罪を平民に科すことを快く思っていない。

 

 100人以上の妻と、100人以上の子供を持つ、大家族の父でも有り。家族愛がとても強く、妻、息子、娘を自分の手の届かない場所へ行かせることに大きな不安を持つ。

 

 その直接的な原因は、夢か幻か定かではない、血の紋章事件中に起きた、『空白の三十分事件』にある。

 

 

 ロズベルト男爵領討伐ではシャルル・ランペルージとしてリーダーを務めるが、領民にはバレバレで皇帝陛下ーと頭を下げられていた。

 

 また大剣の使い手でも有り、両手でも、片手でさえも、超重武器の類いである大剣を扱うことが出来、自らの愛剣は常に磨いでいるため切れ味は抜群。

 

 硬いものから柔らかいものまで何でも切れる。

 

 超人的な身体能力を持っており、旧型のKMFグラスゴー一騎程度ならば生身で相手取る実力を有している。

 

 実は自身の騎士でもあるナイトオブラウンズのナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーの実父であるが、とある悲劇的な事情があり近くに居ながらにして生き別れ状態にある。

 

 モニカを皇室に迎えるときは第100皇女として迎える予定で、いきなりの発表などの軽挙妄動は慎んでいる。

 

 モニカを皇室に迎える際には、自身の家族、次いで盟邦大日本帝国の真なる首脳部と上帝陛下、御帝、皇室の方々、政府関係者、自国の貴族、日本の華族と根回しし事情を話していき。

 

 北側諸国各国の首脳へと話しを通す予定。無論、真っ先にモニカの意思を確認してから。

 

 両目に記憶に関するギアスを持つ。

 

 

 

 ジャン・クロード・クルシェフスキー モデル:コードギアスオリキャラ

 

 

 謎多きクルシェフスキー侯爵家の当主。領地はワシントンとオレゴン全土。

 

 非常に厳しい人物で、娘モニカに貴族としても考えられないほどの厳しい育て方をしてきたため、一時期モニカからも敬遠されていた。

 

 それは盟友シャルルの『貴様になら託せるのだ。どうか我が娘モニカを頼む』とシャルルに、娘と打ち明けずに託されていたため、いつの日か皇室に返す日が来ると、皇室さながらの教育を科していたが故。

 

 養女モニカを、本当の娘同様に愛しており、娘がナイトオブトゥエルブに就任した日は、自らの手料理を、秘密と称して侍従長に運ばせたりしていた。

 

 また彼自身はクルシェフスキー侯爵として神聖ブリタニア帝国西海岸諸侯の盟主でもあり、彼の一声でロッキーを含むロッキー以西の全貴族家が動き出すため、ブリタニアでけして怒らせてはならない貴族として数えられている。

 

 その権威は駐日大日本帝国総領事アッシュフォード公爵、南方に影響力を持つカラレス公爵と同等かそれ以上。発言力は彼のハイランド大公やヒトラー大公とも並ぶと称されている。

 

 西海岸という地理は日本とブリタニアの玄関口に当たるため、非情に親日家で知られており、宮殿の中には日本庭園もあったりするほど。

 

 緑茶が大好きで、銘柄は態々日本から本場のものを取り寄せている。こちらも日本の影響なのだが、実はラーメン好きで、自領でも開発したりしている。

 

 アリューシャンラーメン、千琴ラーメン、神坂ラーメン、樺太ラーメン、札幌ラーメンと北から始まって。

 

 博多ラーメン、台湾ラーメン、海南ラーメンまで。日本全国津々浦々のラーメンを食べる旅に出たことがある。ラーメンに胡椒を振りかけることは味を殺すとして邪道であると考えている。

 

 

 容姿は太陽に照らされた月の明かりのような輝く色をした短い金髪に、蒼穹のような蒼い瞳。一見年若い男性ながら口ひげを生やし、その実五十代中盤に差し掛かっている“青年”。

 

 領民人口1200万人、域内居住人口2000万人を抱え、陸海空から成る十数万人の大騎士団を持つ、クルシェフスキー侯爵領領主にして、神聖ブリタニア帝国西海岸諸侯盟主とはそんな人。

 

 顔を知らない人の方が多いだろう。その名前は知っていても。それくらいに平民や下級貴族が邂逅する機会のない超の付く大貴族である。

 

『血の紋章事件』『大貴族連合事件』の時も、シャルルと共に戦った。

 

 

 そんな彼は長剣の使い手で有り、敵に気付かせぬ間に相手の首を跳ねてしまうなど片手間で行い。全身を切り刻まれてばらばらになっても尚相手に気付かせないほどの腕を持つ。

 

 過去の経歴にはその剣で第4世代KMFグラスゴーを斬り裂いたという記録も残っており、ロズベルト領討伐の際にはその超人的な力が遺憾なく発揮された。

 

 

 

 

 アリス・ローゼンクロイツ(キャラクターモデル:アニメGOSICKのコルデリア・ギャロの髪をもう少し伸ばした女性)

 

 

 ローゼンクロイツ伯爵夫人。領地はアイオワ全土。金色に輝く身の丈よりも長い髪を持ち、いつも頭の両側側頭部高くに細く黒いリボンで結い上げている。

 

 赤いヘッドドレスを着け、真っ赤な薔薇の如きドレスを着た淑女。

 

 その正体は八人の子を産んだたくましいお母さんで有り。かつて大貴族連合がアイオワ周辺で旗揚げしたとき。

 

 これをブリタニア帝国に害成す勢力として、夫、ローゼンクロイツ伯爵と共に皆殺しにした『鮮血の薔薇』

 

 普段はとても美しい淑女で有り、第五女シンクとは不思議なことに瓜二つ。シンクが育って行くにつれそれは顕著となり。

 

 シンクが12、3になる頃には双子と言っても見分けが付かないほどになった。たった一つ違う点があるとすれば瞳の色である。

 

 アリスが透き通った緑色なのに対して、シンクは深い青色をしている。

 

 一見何処にでも居ない超美人な少女ながら実年齢は還暦を超えており、シャルルとクルシェフスキーから『若作りババア』と揶揄されたりしている。

 

 

 武器であるフルーレは常に研ぎ澄まされており、相手を葬る際は秒で勝負が決まるほどの腕の持ち主。

 

 気が付けば心臓を抉り出し。気が付けば脳を貫いている。彼女のフルーレで貫けぬ物は無いとまで言われ事実としてKMFの脚部関節部、コックピットハッチ部を貫き、KMFを破壊している。

 

 ロズベルト領討伐戦では、娘シンクと息の合った戦いを遺憾なく発揮。最終的に登場した家宰のグラスゴーの腕部を、得意の突きで破壊している。

 

 尚、皇妃マリアンヌとも互角で戦える実力ながら、お酒の席ではシャルル、クルシェフスキー、マリアンヌ、ローゼンクロイツらと共に朝まで飲んでグロッキーになるダメな人でもある。

 

 

 

 シンク・ローゼンクロイツ モデル:ローゼンメイデン第五ドール真紅

 

 

 ローゼンクロイツ伯爵令嬢。第五女。

 

 一連のロズベルト男爵の不敬行為を受けた一人。自らは特に気にしては居ないが、処罰するならば無礼討ちが許されている一人でもある。

 

 この一連の不敬行為事件に興味を持ち、ロズベルト男爵領探索を夫、麻生良太郎と共に行う中、次々と発覚する不正や横暴な行為に怒り覚めやらぬ様子で、徴税官の一人を殺害。

 

 良太郎の援護も有り無事横暴な徴税官達を殺害後、クロイツ男爵を名乗り、住民からの直訴を受ける。本来、平民の貴族に対する直訴は死罪ながら見過ごす以前に気にすることもなく聞いていた。

 

 外見は身の丈よりも長い輝く美しい金色の髪を持ち、いつも朝早くに起きては良太郎をたたき起こし、髪を梳かさせ、髪を頭の両側側頭部高くに細く黒いリボンで結ばせている。

 

 シンク曰く『女が髪を触らせるのはね。信頼している相手か……愛している相手だけなのよ』らしく、自身の髪を梳かせ結ばせるのは、良太郎を愛するが故のことと言外に伝えており。

 

 良太郎は『光栄だぜお嬢様』と口付けを以て返す。身長は中学生になるかならないかの低さで、身体は小柄ながら、これでも成人女性。

 

 良太郎との出逢いは、アラウカニア=パタゴニアでのテロ事件でホテルが占拠され取り残された彼女を、良太郎が救出したとき。

 

 後に運命を感じたとも語っており、お互いに一目惚れだったことが示唆されている。

 

 趣味は子供向け漫画、児童向けアニメや人形劇の視聴と、紅茶。とくに紅茶の時間にはうるさく、一分でも遅れることは許さない。

 

 よく良太郎の脛をガツンと蹴る。

 

 

 ロズベルト男爵領討伐に於いては最も非力ながら、一人で八人ほどの荒くれ騎士を殺害。そのステッキの一突きは鉄をも貫く。

 

 家宰がKMFグラスゴーを持ち出してきたときは、正確な突きで腕部の関節を破壊している。

 

 

 

 

 麻生良太郎 モデル:ムダヅモ無き改革スナイパー御曹司麻生タロー

 

 

 大日本帝国枢木内閣外務大臣にして、裏世界では『魔弾の射手』と呼ばれる世界最強のスナイパー。

 

 その実力は、1m四方に於ける弾丸のビリヤード(弾丸撃ち)をこなし、1㎞離れた場所に対してのピンホールショット。跳弾を利用しての敵勢力の壊滅など多岐に上り。

 

 ライフルを持たせればユーロピアの戦闘機程度なら撃墜してしまうほどである。事実、個人で2個戦車大隊を全滅させた記録も持つ超人的な強さの男。

 

 家庭や外では普段、妻シンクの従者のような扱いを受け、本人もそれに甘んじているが、脛蹴りだけはやめてほしいと本気で思っている。

 

 プロポーズの際に、『何千人も殺してきた俺なんかでホントで良いのか?』という彼に対して、シンクは『本当のあなたは優しい人。私にはそれで充分なのよ』と口付けを受けた。

 

 ロズベルト男爵領探索については本人は乗り気ではなく、さすがに、シンクに対してバカかよと愚痴をこぼしている。

 

 おまけにシンクが徴税官を殺した事で後に引けなくなり、本格的に参戦していくことに。

 

 しかし何のかんのと付き合っている辺り、妻シンクへの愛情を感じられる。

 

 

 クルシェフスキーといった大物が来たことで終わりと思えば、皇帝はくるわ、お義母さまはくるわでせっかくの休暇がおじゃんに。

 

 やけくそでロズベルト男爵領討伐対に加わり、ホールにいた荒くれ騎士を秒で三十人撃ち殺す絶技を披露。

 

 その後、二階へと上がり、殺気やクズの気配を読む能力で、扉越しに敵を殺害していき。自分の持ち場が終わると、シャルルの手助けに入った。

 

 銃の音だけで何の銃かを見極め、発射数だけで残弾を瞬時に計算できる。これにより家宰の弾がゼロだとシャルルに伝え、最終決戦に。

 

 

 家宰が持ち出してきた切り札がグラスゴーだったことに内心がっかりしていた。シンクでも勝てる相手なのだから。

 

 事実として彼はスラッシュハーケンを『撃ち落としている』絶対的戦力差はどちらなのか見極められないのかと、家宰を見下していた。

 

 私生活は政治家としての仕事をこなしながら、辻からの指令に世界中を奔走し、休みの日にはシンクお嬢様のお相手をするという日々を送る。

 

 忙しい日々だが充実したこの日々を悪くないと思っている。

 

 少し癖の入った黒髪を七三分けにした髪型がトレードマークで、大概スーツを着ている。

 

 葉巻が大好きで何処でも吸っているが、シンクからはやめた方が良いといつも注意されている。

 

 

 

 リーライナ・ヴェルガモン コードギアス

 

 

 ウィスコンシン全土を領地とする大貴族。ヴェルガモン伯爵家の次期当主。

 

 領民は800万近く、騎士団は6万近くの押しも押されぬ大貴族で、五大湖諸侯の中核貴族で五大湖経済圏に大きな影響力を持つ。

 

 近隣にはシュタットフェルト辺境伯領、ソレイシィ辺境伯領、ローゼンクロイツ辺境伯領があり、時折それぞれの騎士団同士で演習を行っている。

 

 盟邦大日本帝国とも非常に深い関係を持ち、五大湖経済圏と日本の政財界は切っても切れぬ間柄にまで深化している。

 

 とあるいきさつから夢幻会顧問の山本五十六と肉体的関係を持ってしまい、けっして遊びで身体を許すような軽い女ではないと彼に次げ、真剣な交際を申し込む。

 

 山本も、軽い気持ちでリーライナを抱いたつもりなど無い。帝国海軍軍人としての誇りに掛けてと。

 

 結局二人は交際を重ねていき、とうとう子供が出来てしまった。少々気が動転する山本に対し、冷静にヴェルガモン伯爵に連絡を入れるリーライナ。

 

『よくやった!!』

 

 が、ヴェルガモン伯爵の第一声だった。山本五十六は日本の影の支配者の一人と見なされており、その山本の子を身籠もり、彼を婿として迎えれば、ブリタニアと日本の関係は益々深化することを意味し。

 

 両国にとって非常にめでたきこと。またヴェルガモン領にとっても日本の新たな需要が見込め、これ以上無い素晴らしいことだと悦び。初孫の顔が見たいと飛び上がったという。

 

 一方の山本はリーライナのような美しい女性と結婚できることは嬉しいが、自分よりも年下の父親というものに不思議な感覚を抱いていた。

 

 リーライナの容姿は、明るい金色の腰下まで届く艶めかしい長い髪に、目鼻立ちの通った、翡翠のようなエメラルドグリーンの瞳を持つ美しい女性。

 

 夫、山本五十六は、リーライナ以上の美しさを持つ女性はこの世にいないと言い切るくらいの、絶世のを付けてもいい美女である。

 

 

 ロズベルト男爵領党閥戦では、超人クルシェフスキー侯爵と組んだことも有り、余り活躍は出来なかったが。

 

 最後に出てきた家宰の乗るグラスゴーを相手にしたときは、右脚部の弱所を攻撃、脚部を使い物にならなくして事実上のとどめを刺した。

 

 

 その後、アヴァロンが戻ってきた際には山本と夫婦隣り合わせで立っていたのが印象的。

 

 

 

 

 

 山本五十六 提督たちの憂鬱

 

 

 アヴァロンの指揮を任され、人身売買のトラックを補足。これを捕獲しロズベルト男爵領へと向かった。

 

 丸坊主の頭に優しそうな容姿が印象的。

 

 日本時代に於いて、今も日本時代と言えば日本時代(辻さんからのお仕事が入るため)リーライナと知り合い、紆余曲折の末、彼女を抱いた。

 

 けして軽い気持ちで抱いたのではなく、自分にはこの女しかいないという覚悟を持って抱いたという。

 

 愛し合う時間は一時間、二時間と過ぎゆき、四時間という長時間の果て、お互いが果てたとき。愛を、永遠の愛を誓い合った。

 

 そのまま愛を紡ぎ合う日々を過ごしmリーライナ・ヴェルガモンと結婚、永遠の愛を改めて誓い合う。

 

 現在はヴェルガモン領にて書類仕事をしているが、ヴェルガモン騎士団の水軍を指揮することもある。

 

 水軍を指揮しているときには海軍時代を思い出して楽しいというが、現在も帝国海軍を指揮することがある。

 

 日本帝国海軍も、そして、ブリタニア帝国海軍も。

 

 



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勘違いした田舎者 織姫と彦星は休めない

嶋田さんとモニカさんの甘いお話なのですが……


 

 

 

 あまり見るのは失礼だと思いながらも、七夕が近いという事で、ついつい目が行ってしまうのは、表地が黄色、裏地が紫色の、足首まで届く裾の長いマント。

 

 の上の方を流れる、美しく輝く金色の川。我が家の同居人モニカ・クルシェフスキーの長い髪だ。

 

 モニカさん、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝の剣の一振り。

 

 ナイトオブラウンズの第十二の席。ナイトオブトゥエルブを務める、世界で最も強き騎士の一人。

 

 そこまで、ここまで上り詰めるのに、どれくらいの努力をしてきたのだろうか?

 

 厳格なる階級社会で成り立つブリタニア帝国で、大きく分けて13の階級がある中で、第10階位である大公爵よりも上位にある、第11階位ラウンズに上り詰めるまでに。彼女はどれほどの努力と苦しみと、悲しみと、想いを抱いてきたのだろうか。

 

 あの俺の幼馴染の彼の為に、血のにじむ努力をして、きっと彼女は這い上がってきた。

 

 彼女の家、クルシェフスキー侯爵家は1000年以上続くブリタニア最古にして最大級の名家の一つ。

 

 普通なら、蝶よ花よと育てられていたのだろうか。

 

 だが、彼女は己に課せられた運命の道を行くように、クルシェフスキー侯爵の厳しき躾を耐え抜き大きく育ってきた。

 

 

 ──何度泣いたでしょうか。

 

 

 一人、部屋で枕に顔を埋めて泣きながら、それでも彼女はあの彼の背中を追うが故に、まるで訓練の様な、そう、皇宮での在り方を学ぶかのような勉学と修練とを繰り返し続けて来た。

 

 あの、泣き虫で引きこもりな弱虫のために。聴いているか。見ているか。お前の背を追い、お前に自らを伝えんがために、お前の、君の娘はここまで来たぞ。

 

 もう子供の頃の様に兄さんの背の後ろに隠れることはできないぞ。

 

 

 

 勘違いした田舎者 織姫と彦星は休めない

 

 

 

 彼女が何を考えているのか、彼女が君に自分を告げて、そして何を為したいのか、残念ながら俺にはわからない。

 

 彼女は恋愛小説が苦手だという。何で苦手になったのか? 女の子が好んで読む本を苦手にさせたの、君なんだぞ?

 

 クルシェフスキー侯爵からも、彼と会った時に色々と伺ってきた。

 

 

 ──嶋田閣下。彼も、彼もあれでずっと苦しんできているのですよ。我が子、我が娘を自分は捨ててしまったんだ。我が子の母を、儂は我が手にかけてしまったのだと。ずっと、ずっと、贖罪の意思を持ち続けているのですよ。嶋田閣下。あの子、気づいているでしょう? 気づかれていないと、隠せていると思うは本人ばかりなり。私もソフィアもあの子が私たちの実の子ではない事も、あの子の父や母、その系譜も、全部気付いていることを私たちも知っているのです。あの子、あんな大人しそうに見えて、頭のいい行動派な娘ですからね。ある月のある日、真っ黒な衣服を着て真っ黒なリボンを髪に結び巻いて必ず出かけます。そして‟あいつ”もまた、そのことを知ってるんですよ。あいつはあいつであの子とバッティングしないように日をずらして花を手向けに行ってるんです。あいつの幼馴染であるあなたにだけ、この事を伝えておきたかったのです。

 

 

『二人は二人共気付いている。だがお互いに名乗ることが出来ない』

 

 

 ──不器用な親子ですよね。ホント、誰に似たのか。私はね、あの子があいつを父親だと受け入れ、あいつの下に帰ると言うなら、返そうと思って居るんですよ。私個人の意思としてはクルシェフスキーの後は、あの子にこそ継いでもらいたい。他の子を大切に思っていない訳ではありませんが、私は血は繋がって居なくとも、あの子の父親ですからね。でも、それでもあの子があいつの下に帰るというなら、笑顔で送り出してあげたい。故にこそ、私はあの子への教育だけはただ当主として立つ者としての教育だけではなく、皇宮へ上がる時に必要となる最も厳しい教育を施してきました。心を鬼にして。嶋田閣下、あの子、優しいでしょう。正義とは平民、虐げられているもの、強者、弱者、関係なく必要なものであり、そして騎士は強くあらねばならない。全ての民を守るために。ふふ、おとぎ話の騎士様みたいにかっこよくて優しいんですよ。そんな優しい子に私は優しくしてあげられなかった……。

 

 

『クルシェフスキー‟卿”。あなたも十分不器用な親ですよ。ふふ、親子そっくりじゃないですか』

 

 

 俺はテレビの音を消したまま、彼女の背中だけを見つめている。

 

 モニカさんの太もも裏の少し上まで届く、長い、長い金色の髪の毛。真っ直ぐに流れる金色の。

 

 あまりじろじろと見る物では無いけれど、季節がらみてしまうのは、七夕を意識しての事だろう。

 

 モニカさんの長い髪が、七夕の舞台である天に流れる天の川を想起させるんだね。

 

 輝く金色は、星々の輝き。金の髪は川の流れその物。その金色の髪の毛が垂れ下がる彼女の背中は、当然として見えない。

 

 衣服を、マントを着用しているからとか、そんな理由ではない。

 

 彼女の髪の毛その物が、俺と彼女を隔てる川の流れの様になって、彼女の姿が見えないのだ。

 

 

 織姫と彦星は一年に一度しか会えない。

 

 

 彼女が皇宮へと帰る、彼の下へと帰る選択をした時。

 

 それが私と君のお別れの時だ。

 

 私とて、場所柄を同じとしない他国のお姫さまとは早々会えないからね。

 

 会談でもそうだ。モニカ皇女殿下とそう呼ぶことになり、今の気安い間柄はもう過去のものとして霧散してしまうだろう。

 

 私と君って、何なのだろうね?

 

 血のつながらない家族?

 

 それとも。

 

 まさか。

 

 

 恋び──。

 

 

 思い浮かべかけた罪深い言葉は、彼女の背を流れていた金色の髪が大きく流れ動いたことでかき消された。

 

 

 あ、金色の川が……。

 

 

 流れの変わった金色の川の向こう側には、黄緑色の美しい平原と、美しいお姫様の顔がある。

 

 赤いリボンで結ばれくるくると髪に巻き付けられている横髪までが流れを変えて、そうして彼女はこちらを見ていた。

 

 金色の川は向こう側。今は彼女の美しいかんばせだけが、こちらを見ている。

 

 深いマリンブルーか。あるいは蒼穹のスカイブルーかを思わせる両の碧眼が、静かに俺を見つめていた。

 

 ドクン。

 

 大きく高鳴る心臓の音。

 

 ああ思えば俺は、彼女の髪の毛をジロジロ見つめ続け、彼女の背中を無遠慮に見つめていたんだ。なんて恥ずかしく、なんて失礼な事をしていたのだろうか。

 

 女性の身体やら髪の毛をじっと見るだなんて、失礼にも程がある。

 

 思わず俺は目の合った、その青い瞳から逃げてしまう。目をそらした先は音のないテレビ。

 

「いや、はは、このテレビ面白いねっ」

 

 そんな俺の背後にパタパタと近づいてくる気配一つ。

 

 リビングの皮張りソファを隔てて直ぐ真後ろに立つ彼女の存在一つ。

 

 家政婦さんも、モニカさんの副官さんもいない。どんより曇った雲の下の一軒家。

 

 すっと右側に音がして、温もりが頬を擦る。頬擦り。

 

 これは時々モニカさんがしてくる。親に子だと言い出せない娘の寂しさからなのか。養父の愛情を受けていなかったとする勘違いが長かったからなのか。

 

 

 すり、すり……

 

 

「て、テレビ、お、おましろ」

 

 おまししろってなんだろう。自分で何を言っているのか分からなくなる。

 

 

 すり、すり、すり……

 

 

 右頬に擦り込まれるモニカさんの頬。

 

 金色の髪が俺の肩を跨いで流れて、俺をその清流の中へと取り込んでしまった。

 

 

「……」

 

 

 ああ、なんだ。そういうことか。

 

 俺は何を深く悩み過ぎていたのだろう。モニカさんの髪を見て、自問自答の自己解決を見る。

 

 金色の川とは、それはモニカさんの一部。

 

 結局俺と彼女を隔てる物なんて無いんだと。

 

 天の川の様に、いや、天の川よりもはるかに美しいモニカさんの長い髪は、俺と彼女を隔てる物じゃない。

 

 リボンの巻かれている髪の毛の束を、俺は自らの手で優しく撫で梳く。

 

 彼の流れこそが彼女の一部で、川その物が彼女自身ならば、俺という彦星はいつでもその川に、彼女に触れることが出来るという事だ。

 

 すり、すり……。

 

 しかし彼女、いつも無意識に頬擦りをしてくるな。

 

 こんなところをクルシェフスキー侯爵や彼に見られたら大変だ。

 

 

 ──嶋田閣下。あいつの無茶で、いいえ、信頼するあなたにだからこそ無茶をしてでもあなたにあの子を預けたのでしょうけれど、私はね、あの子を本当に大切に思っております。宝物なのです。私の大切な宝物を傷つけるようなことだけはなさらないでください。もし、傷つけようものならば、その時は。

 

 

 

 

 その強大なる死の気配に抗ってでもあなたを誅します。

 

 たとえ適わずまでも。

 

 

 

 

 ──ですが、私はあなたのその優しさをこそ信じております。あの子のこと、これからもどうかよろしくお願いします。

 

 

 ジャン・クロード・クルシェフスキー。

 

 誰よりも誇り高く高潔なる貴族にして騎士。クルシェフスキー侯爵家現当主にしてロッキー地方を含めたロッキー以西を影響圏に置くとてつもない広大な経済圏を持つ大貴族。

 

 影響地域は人口三億人を超えている。日本にとってブリタニア最大のお得意様。

 

 血の紋章事件、大貴族連合反乱事件では友である彼と共に戦い、彼についたラウンズ同様、最大の功績を上げた男。

 

 そんな大人物に頭を下げて頼み込まれたら、断れないじゃないか。それに──。

 

 

「モニカさん、こっちにおいで」

 

「はっ?!」

 

 

 はっと気が付くモニカさん。彼女の頬擦りはマーキングだなんて夢幻会の仲間の一部が言ってたけれど、そんな人間がそんなことする訳がないだろう。と、思うんだが。どうなのだろう。

 

 

「こっち」

 

 

 ぽんぽん、と叩くのは自分の膝だ。座りなさいと言うと、彼女は静々と俺の前に回り込んでもふもふのスリッパを脱ぐと。

 

 

「し、しつれい致します」

 

 

 ソファの上に上がり、右向きに俺の膝の上に座り込んだ。

 

 人一人分の体重がかかるが、年若い女性であり、このソファも柔らかいから大丈夫。

 

 黄緑色のマントが俺の着物の裾と合わさり、するっと衣擦れの音がする。

 

 金色の長い髪の先の方は、ソファの上でとぐろを巻いており。その髪の長さを実感できる。

 

 右手で彼女のマント越しに背を支え、左手で彼女の暖かい頬を撫でた。

 

 

「モニカさん、どうして君はこの柔らかくて暖かい頬で俺に頬擦りをするのかな?」

 

「え、えっと、なんと、なく、です……お嫌、でしょうか?」

 

 

 恐々と上目遣いで伺ってくる可愛い生き物。

 

 なに? この可愛い生き物。

 

 

「嫌じゃないよ。温かくて気持ちが良くて、嬉しいよ。ただ、どうしてかなあって思ったまでさ。人生200年。俺は一応‟青年”の域ではあるけれど君とは年が40も離れているのに、どうして俺なんかをこうも求めてくるのかなあってね」

 

「ね、年齢なんて関係ありません。嶋田さんは嶋田さんです……それが理由では、いけませんか?」

 

「いや、その、ね、俺も、いけないわけじゃないんだよ? ただ、君みたいな美しい女性とこう、接する機会はあまりないだろう? こちらも緊張してね」

 

「で、ですが、私と嶋田さんはもう4年も同じ屋根の下で済んでいるのです。……ですから、それに私は美しくなんて」

 

 

 この子は何を言い出しているのだろうか?

 

 モニカさんが美しくないと言ってしまったら、世の女性の7割は……ちょっと、言い難い。

 

 

「いいや、君は美しいよ」

 

「し、嶋田さん」

 

「こう、ぎゅ~って抱き締めたら幸せいっぱいになれるくらい」

 

「きゃっ、あ、あ、あの」

 

 

 モニカさんをお姫様抱っこしたまま、抱き締めて。ゆったりとした午後を過ごしていく。

 

 ああ、何だかそう、あれだ。

 

 織姫と彦星みたいだ。

 

 

 彦星がおっさんで、そんなに顔に自身があるとは言えないのが玉に瑕だけどね。

 

 

 ぶーっ、ぶーっ。

 

 

「あ、あの、すみません嶋田さん。私の携帯が鳴っているようなので」

 

「ああ、騎士服のポケットに入ってるの?」

 

「はい、マント、少し、その」

 

 

 マントを開かないと取れないな。これは悪い。抱き締めていた手を離してあげると、彼女はごそごそとポケットを触り出した。俺の膝から降りないでいてくれているところが凄く嬉しい気分だ。

 

 

「はい」

 

『クルシェフスキー卿ッ! お休みのところを申し訳ございませんッ!』

 

「いま、お客様をお待ちしているところなのです」

 

 

 そうこれだよお客さん。モニカさんが今日正装していた理由。なんでもシュナイゼル殿下の御座艦であるアヴァロンが、ブースターを付けて日本へ向かっているらしい。

 

 アヴァロンのブースターを点火したらマッハ7.5~10の極超音速に到達するからすぐにでも到着するだろう。

 

 それも何か空港で降りた後にモニカさんの家、つまり俺の家へ直通で数人のお客さんがやってくるらしい。

 

 お客さんは7人。なんか山本もいるらしくリーライナ・ヴェルガモン卿も一緒。

 

 モニカさんの会いづらいクルシェフスキー侯爵。会いたくて、でも何をどう思って居るのか彼、そして麻生大臣こと良太郎さんにシンク夫人。ローゼンクロイツ伯爵夫人。

 

 とんでもない豪華メンバーで本音言うと『政府官邸に行けよ』というのが本音なんだけど、みんなお忍びらしい。

 

 そんなときなのに。

 

 

『それが、緊急事態ですので直ちに出動願いますッ! 第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア殿下が街頭で侮辱を受け、同一人物と思われる男が恐れ多くも御帰宅中のナナリー・ヴィ・ブリタニア殿下に傷害を負わせ逃走したのですッッ!!』

 

 

 ああ、なんだろうかこの漏れ聞こえてくる恐ろしい言葉の数々。

 

 のんびりと休暇なんか楽しんでいるどころじゃないな。

 

 ぼんやりと聞きながらソファにとぐろを巻くモニカさんの長い金色の髪を弄びながら、ため息をついていると。

 

 

 ぶーッ、ぶーッ。

 

 

 今度は俺の携帯まで鳴り始めた。

 

 

「はい、嶋田です」

 

『嶋田さん。ニュース視てますか』

 

 

 丸眼鏡の男の顔がすぐに出てくる。

 

 

『ブリタニア皇族侮辱罪。並びに傷害罪が発生しました』

 

 

 知ってる。モニカさんの電話から聞こえてきている。

 

 

『それとこの一件に米内光政が絡んでいる可能性がありまして』

 

 

 げッ?! なんで米内が絡んでくるんだ! あいつ一応華族男爵位持ってる華族だから厄介だぞ?

 

 金色の髪の毛をくるくる指に巻き付けて遊んだり、撫でてあげたりしながらも、電話越しで続く話。

 

 

『華族子爵位以上の人間が出ていく必要性も考えられますので』

 

 

 なんで休暇の時ばかりこんな厄介事が起きるのだろうか。

 

 しかし、ナナリー殿下への傷害は許せんな。

 

 

「わかりました。こちらも動く準備をしておきます」

 

 

 ああ、モニカさんと二人だけでゆっくりとしたいなあ。

 

 モニカさんの髪に五指を通して何度も撫で梳いては俺は難しい顔をしていた。

 

 

 俺に髪の毛を弄られまくっているモニカさんは顔が真っ赤になっていた。

 

 反省はしていない。もう少し触らせてもらおう。

 




馬鹿男爵は嶋田さんとモニカさんの二人きりの時間さえ邪魔して来ます。
馬鹿男爵予告と違い申し訳ありません。
久しぶりに嶋田さんとモニカさんの甘いお話を書いてみたかったので。


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ヴェルガモン伯爵家にて

 

 

 うとうとと、夢現。ぼんやりと浮かぶ景色の中、金縛りの様に身体を動かせない。幽霊が出る前触れかの様だ。

 

 丸坊主のグレイの‟スーツ”を着た男。山本五十六は、その幻視の中で、同期の人間を数人視た。今頃皆転生し、どこかの世界に居るのだろう。

 

 自身の様に記憶を持っているのか? それとも一からの出直しなのか? それは生憎と奴らに会っていないから分からない。

 

 此方の同期である夢幻会のメンバーとはそれこそよく会っているが、皆癖の強い人間ばかりだがいい奴らだ。

 

 そういえば、一人だけ、全く癖のない平凡なのが居るな。

 

 嶋田繁太郎。二回目の転生者で、一回目の前の事については多くを語らない男。

 

 一度宴席で酒が入ったときに、サラリーマンの月給ではこんな高級な酒なんてと愚痴をこぼしていたので、サラリーマンだったらしいことまでは分かっている。

 

 仲間の詮索などしたくはなかったが、一人を除いて一番親しい男の過去とならば興味も湧いて、酔った勢いで聞いてみたが「あー、ダメ」と言って語らなくなってしまった。

 

 別に後ろ暗いことがある訳じゃないけど、平凡な生き方をしていた何処にでも居る人間で、特に語ることは無いんだ。と言っていた。

 

 嘘ではないのだろう、彼は嘘を吐くのが苦手だ。そのくせに好きな相手には無理をして嘘を吐く。今だってそうだ。クルシェフスキー卿に。

 

 そこまで考えたときだった、この夢現な状態の視界に金色の長い繊維がさらりと流れてきたのは。

 

 直ぐ隣からだった。その繊維の後に白い何かと、その中心にあるエメラルドグリーン、俺だけの翡翠の色がある。

 

 ああこれは分かった。今生で出逢い、永遠の愛を誓い合った女性のものだ。名をそう、リーライナ。

 

 リーライナ・ヴェルガモン。

 

「――くん」

 

 リーライナ。俺が手に入れた宝石。夢現に見るお前もぼんやりとはしているが綺麗なものだ。こんな美しい宝石を手に入れることができるとは思わなかった。

 

「――っくん」

 

 遠くから声が聞こえる。同期の者達の姿が、一つ、また一つと消えていく。変わって金色とエメラルドグリーンの色が濃くなっていく。

 

 ああ、これは夢現が消え去るときの感覚だ。耳に変に残っていたもやもやとした、余り気分の良くない音も消えていく。やはりその代わりとして声が大きくなっていく。

 

「いっくん」

 

 今度ははっきりと聞こえたが、これは果たして本物なのだろうか? レイスというのがスコットランドには居る。ブリタニアはイギリスを母体とした国。

 

 案外このぼんやりした、俺の妻を模る者はレイスという幽霊の可能性も。

 

 俺は幽霊を見たことはないが、転生がある以上は転生するまでの待機期間があってもおかしくはないだろう。その待機期間の状態が幽霊であるならば、レイスが居ても別におかしな事ではない。

 

 仮にこれがレイスならば家宅侵入も甚だしい。掴んで投げて追い出してやろう。ここはヴェルガモンの邸、邸と言っても城か宮殿と言った広さなのだが、邸と呼ぶべきなのだろう。日本の常識で言う邸の概念を大きく覆してくれる。ブリタニア。大きさで言えばやはり規格外だ。

 

 この巨大な国と比べれば、あのアメリカもまた小国に過ぎんな。

 

 とにかくこの侵入者だ。妻の姿を模って本当に迷惑だぞ?

 

 俺の美しき翡翠はこの世に二つ要らない。一人で良いのだ。

 

「いっく――んんんん~~~~っっ!!」

 

 ガツンと頭をぶつけてやろうとしたら。唇が重なってしまった。

 

 甘酸っぱいいつもの唇の味がする。俺の翡翠の味だ。

 

 試しに舌を入れてみた。

 

「んふううううーーー!!!」

 

 んん? 大きな声がより鮮明に聞こえてきて、目と目が合うその瞳のエメラルドグリーンも色彩をより鮮明にしてきて。

 

 これはどういう――って。

 

「ぷはあッ!! り、リーラッ?!」

 

「ぷはッッ!! リーラ? ではありませんわいっくんッ!! ぼーっとしているから心配になって、顔を近づけたら急にそちらも顔を近づけてきて、口付けなさるのですものッ!!」

 

 リーライナ・ヴェルガモン。この山本五十六の妻でヴェルガモン伯爵家の次期当主だった。

 

「いい加減にしてよね?! 普段から私のパイロットスーツ姿を破廉恥だ破廉恥だと詰っておいて、急に口付けしてくるのは破廉恥じゃないのッ?!」

 

「す、すまん、いや、何というかいま俺はぼーっとしておっただろう」

 

「ええ」

 

「夢現だったのだよ。現実の部屋の状況は見えているんだが身体が動かない。声も出せなければ視界もまともじゃない。その中に先に死んでいった同期の連中の姿を見たものでな」

 

 そうだ。確かにアレは同期の連中の姿だった。

 

「それとわたくしへの口付けとどういった御関係が?」

 

 どうでもいいが俺が転生者である事は伝えてある。リーライナにだけ。彼女は“転生者で何であれいっくんはいっくん。私の愛しい人”そう言って受け入れてくれた。夢幻会の仲間達にも了解は取ってある。心から愛する女に隠し事をしたくないのだと。皆には了承を貰ったがまた、リア充死ねという言葉の連発を食らってしまった。

 

 それはさておいて、リーライナだ。少し唇を尖らせているのは意味が分かっている。

 

 俺が普段リーライナの飛行服を破廉恥だと言っている所為だろう。

 

 正直に言おう。ここは正直に言ってしまった方が話が早いし自分的にもすっきりしていい。

 

「まずその、だな。急な口付けは済まなかった。完全に俺が悪い」

 

「どうしてあの様なことをなさいましたの?」

 

 リーライナは城内では基本的に丁寧語というか、お嬢様言葉を使う。そう教育されてきたから。普通の言葉遣いをしていると御両親はまあ大目に見ているらしいが、家宰やら、かつての教育係が煩いのだという。

 

 まあ、彼女自身、どちらかと言えば、ですわますわな言葉遣いの方が地なので、余程のことが無い限り、嚮導学校内での平民ルームメイト達に教えて貰った、平民の言葉遣いはせんがな。

 

 俺としては平民の、つまり普通の言葉遣いの彼女の方がいいからそっちで行って欲しいが、こればかりは家風な為に仕方が無い。

 

 大体貴族の家の令嬢は言葉遣いが丁寧だ。リーライナの後輩のマリーカ・ソレイシィ卿などもですわますわではないが、ですますの言葉遣いをしているからな。

 

「いっくん!」

 

「あ、ああ、済まん。いや、口付けをするつもりではなかったのだ」

 

「では何を為さるおつもりでしたの?」

 

「頭突き」

 

 はっきり言ったら両手で頬を引っ張られた。

 

 

 

 

 ヴェルガモン伯爵家にて

 

 

 

 

「もっと酷いでは御座いませんのッ!! わたくしに何かお恨み事でもッ?!」

 

「ふぁいふぁい(ないない)ふぁいふぁふぁ頬ふぉひっふぁふふぁ(ないから頬を引っ張るな)」

 

 頬から手を離してくれたが、少し痛かったぞ?

 

「痛いな」

 

「痛くされるようなことを仰いますからですわ」

 

「いや、だから話は最後まで聞け」

 

「ん」

 

「こう、輪郭がぼやーっとしておってだな、幽霊。こちらではレイスと言った方が良いだろう。それに見えたのだよ。それでまあ、人の家に勝手に上がり込んでくる見知らぬ幽霊を追っ払おうと、頭突きをしたらすり抜けるどころか」

 

 顔の位置的に口付けをする格好となってしまった。

 

 事故は事故だが普段から公序良俗やら破廉恥やらと、リーライナの飛行服姿について、ぐちぐちと言っているものだから、この行為が破廉恥じゃないのかとリーライナが切れたわけだ。

 

「うちは古城ではありませんわよ? きちんと普段より清掃もしっかりと致しておりますし、数百人と住んでおりますわ」

 

「無駄に広いからな」

 

 家宰を筆頭に、侍従長、執事にメイド長。一般のメイドやら召使いが大勢働いている。

 

 なんでもヴェルガモン家でもかつては召使いと軽々しく口を利いてはいけないなど、階級社会による厳格な決まり事もあったらしいが、クレア女帝の頃に大分と緩和されたのだとか。

 

「上位の伯爵家から上の貴族のお屋敷なんて皆お城か宮殿のような邸が普通なのですけれど」

 

「知っている。ブリタニアらしいスケールの大きさだ」

 

 最盛期のアメリカの三倍もの広さを持つ国だ。土地も大いに余っているのだろうと思いヴェルガモン伯爵と語り合っていたことがあったが。

 

 

 ※

 

 

『おや、ヤマモト卿はブリタニアにはお詳しいとお伺いしておりましたが』

 

 年下の親義父(おやじさん)を持つとは思わなかったから、戸惑っていたが、なに、話をしてみれば直ぐに打ち解けることが出来た。

 

 そんな中で飛び出したのが例の話題。土地関係の話だ。

 

『我がブリタニアは御存じの通り人口が非常に多いでしょう? 平民がほとんどですが所領を持つ貴族などもそれなりにおりましてね。結構な土地が貴族の土地だったりするのですよ。それでも土地はいくらでもあるのですが持ち主の居ない土地は皇帝陛下の物でして、本当の意味で余っている土地はないのです』

 

 功績を挙げた者を男爵以上の貴族として取り立て土地を与えたり、現在土地を持たない貴族が何らかの褒美として下賜されるという形で土地は消費されているという。国として余っている土地はない。つまりブリタニア最大の地主はシャルル陛下となる。

 

 しかし、ヴェルガモン伯爵も誰から聞いたのだろうか? 俺がブリタニアに詳しいと。俺はアメリカにはそれなりに詳しかったが、ブリタニアについてはデカすぎる国と現代でも中世の在り方がそのまま生きている国ということ以外、そこまで詳しくはないのだが。

 

 まあ、これについては知っていたが、まさかウィスコンシンが丸ごとヴェルガモン領で領民が800万人近いとか、考えられん規模だ。まだまだ増え続けているから近く一千万に到達するだろうとか。

 

 なにせヴェルガモン伯爵家は五大湖経済圏の中心地。発展に発展を重ねている。日本との繋がりも深く姉妹都市の提携をしている都市も多い。それとアメリカのウィスコンシンより少し広い。

 

 これは大貴族連合とのちょっとした内戦の際に周辺の貴族をヴェルガモン伯爵の軍勢が討ち取り、その貴族の土地をそのまま与えられたかららしい。

 

 ヴェルガモン伯爵は此処だけの話と、言い置いた上で。

 

『私としては要らなかったのですよ。管理が大変でしょう』

 

『伯爵ほどの大貴族ならば中小貴族の土地だった場所の小さな領地など簡単に管理できるでしょう?』

 

『そうお思いでしょう? 風土や風習の違い等色々ありましてね』

 

 なるほどと。関東と関西の違いのようなものかと思った。

 

『先に我が領に編入された土地の新しい管領などが我こそが先にヴェルガモン伯爵様のお目に適ったのだとか、馬鹿な争いを始めたりして、仲裁するのにうちの人間を派遣したりとくだらない争い事で書類整理が増える一方でしてね。頼むからしょーもない事は止めてくれとこちらが頼み込みたい気分ですよ』

 

『大変ですな』

 

『他人事だと思っておられませんかな? 私が引退した後我が領を次ぐ次期当主はリーライナなのですよ? つまり似たような苦労がリーライナにも回ってきて、リーライナを補佐する婿たる御貴殿にも同じようなことが回ってくるということなのですよ』

 

『私は東京に土地は持っておりますがこんな800万人近い領民を持つ領地を治めたことなど無いのですが……』

 

『え? すでに一千万には到達しておりますよ?』

 

『はあっ?! え、いや、リーライナからは770万と』

 

『それは結構前の情報ですね。現在は1千飛んで10万か20万でしたよ?』

 

 しまった。リーライナの言葉を鵜呑みにしてしまっていた。彼女の情報も正しいのだろうが、それは何年も前の情報だったのか?!

 

 俺も自分が住む土地のことはもっと調べておくべきだったな……。ネットで見れば一発なのに、いかんな。頭が古い。

 

『リーライナの代では1500万人を優に超えていましょう。後を頼みますよ婿殿』

 

 

 ※

 

 

「しかし馬鹿な小貴族もいたものだな。ヴェルガモン伯爵家は総兵力7万ほどの騎士団を持つ大貴族。周りもシュタットフェルト辺境伯、ソレイシィ辺境伯と大貴族ばかりだ。そんなところで反乱を起こして勝てるとでも思っていたのか」

 

「大貴族連合のことですの? ああもう貴族言葉止め。大貴族連合の背後には南天が居たのよ。だから勝てるとか考えてたんでしょうね。なにせ世界中に17億の信徒を持つ巨大勢力だもの。ブリタニア内にもあるわよ? それっぽいカルト組織。もちろん見つけ次第検非違使が逮捕して行っているけれど」

 

「リーライナ、前から感じていたのだが、何故かブリタニア語には日本語が混ざっているな」

 

「家族国家だもの。ブリタニア人ってみんな日本語が使えるんだから、言葉遣いも似てくるわよ」

 

「しかし言葉遣いがリーラのそれになっているが大丈夫か」

 

「家宰とかに聞かれていなければね。いっくんとお話していると、嚮導学校時代の友達を思い出すのよ。それで、ね?」

 

 同期の桜、か。リーライナにもそういう時代があったんだな。軍人誰しもそうだが。

 

「しかし、驚いたのはヴェルガモン騎士団に水軍があった事だ」

 

 そう、天空騎士団に、陸上騎士団の、つまり空軍と陸軍については伺っていたのだが、海軍ならぬ、水軍があったのだ。

 

「ああ、水軍ね」

 

「河川砲艦だけならわかるが、戦車揚陸艦や駆逐艦まであるとは予想外にもほどがある」

 

 ほとんどは河川砲艦だが、信じられんことに駆逐艦やら、輸送艦まであって、本格的な海軍に近い。

 

 こんなものがヴェルガモン領にあった事が予想外だった。特に説明もされていなかったし海軍も水軍もないものと思い込んでいたからな。

 

 ヴェルガモン領のような内陸に水軍があるとは思わんだろう? 国境を接している国があるわけでも無し。

 

「あんなの元々作る予定なんて無かったのよ。無駄に軍事費が掛かるし維持費も。ただうちに対して喧嘩売ってきた馬鹿貴族共の領地が、寄りによって直ぐ北側のアッパー半島でね。スペリオル湖の北側の大貴族連合に所属していた貴族から湖越しに支援を得ていたの。それでお父様は急遽河川砲艦と駆逐艦まで急増して輸送船の撃沈を初めて輸送ラインの寸断を図ったのよ」

 

「無茶しておるなヴェルガモン伯爵も」

 

 湖に駆逐艦。ヴェルガモン伯爵家という大貴族だから出来る離れ業だ。中小の貴族家がやれば維持費で死ぬぞ。

 

「輸送ラインを破壊してからアッパー半島みたいな田舎に態々進駐して、スペリオル湖の向こう側の中小貴族の討伐に輸送艦まで急増して戦車持ってってもう兵法も戦略も戦術もない力推し。河川砲艦と駆逐艦、輸送艦で艦隊編成してそれで一気にスペリオル湖の向こう側を制圧したのよ」

 

「当然その褒美は出るだろう」

 

「だからその田舎のアッパー半島を領地として下賜されたの。誰がいるかってのよ戦功功労者がお父様だけだったから、お父様しか居なかったのよね受け取る相手が。それとスペリオル湖を下賜されたわ。ホントはお父様が討伐なさった大貴族連合に所属していた貴族の領地を全部だったらしいんだけど。もう充分ですって陛下とサシの飲み会をして断ったのよ。そしたら陛下“また儂の管理地が増えてしまうな、くそったれの大貴族連合め!”ってお怒りになったんですって」

 

 そういう経緯があって水軍があるのか。北側のスペリオル湖に1万の兵を割き、東側のミシガン湖に5千の兵を割いているようだが。

 

「維持費を考えたら馬鹿らしくて。なんで湖に駆逐艦や戦車揚陸艦がいるのよ」

 

 分からなくもない。それもアッパー半島のような田舎の防衛のために。

 

「それからは全力で土地余りのアッパー半島に移住者を募集しているのよ。でもみんな領都のミルウォーキーとかマディソンとかの大都市圏に集中しちゃって」

 

 関東一極集中と同じか。最近は他の都市にも人が移り住んでいるらしいが。まあ、日本も全土が発展し尽くしておるからなあ。

 

 日本もブリタニアも皆、田舎には住みたがらんな。

 

「すまんがリーラ。地図上の面積にアッパー半島は?」

 

「あの地図帳昔のよ? 大貴族連合が反乱を起こす前のもの」

 

 なに? ではまったく違う地図になるではないか。

 

「いかんだろうアッパー半島も入れんと」

 

「入れてるわよ最近の地図帳には。ちょっと持ってくるから待ってて」

 

 そう言い残してリーライナは部屋を出て行った。

 

 アッパー半島か、かなり大きな半島だったはずだが、詳細までは知らんな。

 

 しかしそんな田舎を押し付けられるとは、ヴェルガモン伯爵も付いていないな。せっかく領地を下賜されても田舎ではなあ。山ばかりの土地とか貰っても、どうしようもないしな。

 

“お嬢様っ! 廊下を走るなどはしたないっ!”

 

“お、おほほほ、少し急ぎのご用でしたの。以後気をつけますわ”

 

 メイド長か。あの方は礼儀作法に煩いからな、それが仕事だから仕方が無いが。

 

「いっくんただいま戻りましたわ」

 

「文法が少しおかしいぞ」

 

「メイド長に見つかっちゃったのよ。別に廊下を走っても良いじゃ無い」

 

「平民になっとるな」

 

「では貴族に戻りますわ」

 

「コロコロと変わるな。こちらまでおかしくなる」

 

 俺の後ろに周り来て、肩越しに身を乗り出すリーライナの腰下まで届くきれいな長い髪が、俺の頬を擦りながら机へと流れ落ちた。

 

 良い香りがする。この香りのおかげで眠気が吹き飛んだ。リーライナのこの明るい金色の長い髪があれば、リーライナが部屋に居れば、紅茶の香りも、お香も必要ないな。

 

 俺の美しい妻リーライナ・ヴェルガモン、その翡翠の色の瞳が美しい。

 

「言葉遣いにつきましては万が一を考えましてこちらで。五十六様。こちらが最新の地図となります。一応すべて書き換えた分となっておりますわ……、あの、如何為さいましたの? わたくしの顔や瞳を見つめて……は、恥ずかしいんだけれど」

 

「いや、改めて俺の妻は美しいなと再確認していただけだ」

 

「う、うつくしっ! も、もう、……馬鹿な御方」

 

 馬鹿で結構だ。自分の妻の美しさをまた一つ知れて気分が良い。

 

 さて、本題の地図だが――。

 

 広げられた地図にはヴェルガモン伯爵領全図と明記されている。確かにアッパー半島も入っているな。

 

 

 ヴェルガモン伯爵領全図

 

 領地:ウィスコンシン+アッパー半島+スペリオル湖

 

 領地面積:約295,000km²

 

 陸地面積:約212,610km²。

 

 水域面積:約110,000km²

 

 総人口:1020万人。

 

 ヴェルガモン伯爵とは五大湖工業地帯に大きな影響力と発言力を持つ、大貴族。

 

 大きな固有の騎士団を持ち最大勢力の陸上騎士団は約6万人

 

 航空戦力として天空騎士団を約1万人

 

 水上戦力として水上騎士団1万5千人

 

 その他予備役を含めた総数は9万5千人

 

 最大で8個騎士団の編成が可能なほどの常備兵を保有

 

 第6世代戦闘機や第7世代KMFに、戦車・装甲車・河川砲艦・駆逐艦・戦車揚陸艦も多数運用

 

 

「……ちょっとまて、以前お前に聞いていた騎士団の数、予備役数含めた分よりこの説明では2万も増えておるではないか。それになんだこの領地の広さは……ああ、なるほど。スペリオル湖全体を合計した数値か」

 

「ええ、それとアッパー半島の警備の分も必要ですので騎士団の総数が増えましたの。水上騎士団は言わずもがなですわ。本当、こう言っては地元の人に悪いけれど、なんと申しましょうか、その」

 

「言いたいことは分かるが仮にも次期当主となる貴族だ。口にするな」

 

 まあ、とりあえずはアッパー半島の開発だな。現状のままではヴェルガモン伯爵領にとってアッパー半島が完全に足手まといだ。

 

 無論それでも圧倒的な速度でヴェルガモン領は発展して行っているわけだが、ミルウォーキー経済圏とマディソン経済圏が大きい。

 

 とくにミルウォーキーはすごい。強化耐震ブロック構造の都市に高層ビル群が乱立している。あれはミニ東京だな。

 

「アッパー半島につきましては自然を壊しすぎてもよろしくないので、都市部の開発に専念していこうと考えておりますわ。まあ、これはわたくし個人の考えなのですけれど」

 

 リーライナが後ろから腕を回して俺の首に抱き着いてきては、肩に顎を乗せてきた。

 

 俺の丸坊主の頭や肌に、リーライナのさらさらの長い髪と、温かい肌が触れてきて、実に心地が良い。

 

「五十六様はどうお考えですの?」

 

 こういうことは、以前なら破廉恥だとか思っておったろうな。今は耐性が付いたが。

 

 それに愛する女と、リーライナとこうして触れ合うことも、お互いの愛を深め合う良き行為でもあると気が付いたのだ。

 

 男と女の関係もまた学ぶべき事が多い。

 

「うむ、俺は……」

 

 領地運営についてはしたことがない素人なのだが。

 

 まあ、素人意見で良いというなら。

 

 

 ※

 

 

『そういえばヴェルガモン伯爵。御貴殿の元にロズベルト男爵の父親が来ておったそうですな。侍従長殿が憤慨しておりましたぞ』

 

『ああ、アルバート・ロズベルト卿の件ですか。ええ、来ておりましたよ』

 

『なんでも卿はリーラ……しつれい、リーライナへの不敬をお許しに成られたとか。何故かと思いましてね。丁度私は東京で彼女と待ち合わせをしておりましてね。事の次第を耳にしたとき怒りと呆れの両方がない交ぜになった感情に襲われまして』

 

『怒るに怒れなかった? でしょう?』

 

 ヴェルガモン伯爵の瞳はエメラルドグリーン。その瞳は笑っていなかった。

 

『許すと思いますか? 我が娘をたかが田舎の物知らずな男爵風情に公道で侮辱されて』

 

 明るい金色の髪。リーライナと同じ色の髪が、少し揺れた。

 

『ただ、陛下が何もせずという沙汰を下し、個人に任せると為された以上は、私が怒りをぶつけるというのも少し憚られましてね。ましてや侮辱行為に及んだ当人ではないのですから。ですので、私は許しました“私は”ね』

 

 にこやかに笑う優男という風体。かなり出来るとは思うがどれ程強いのか分からない。まず間違いなく達人の域だ。隙が無い。彼曰くヤマモト卿と初めてまみえたとき、余りの巨大さに押しつぶされそうになりましたよ。との事だが。

 

 俺から見れば彼も充分大きく見える。

 

 だがまあ、なるほど。ヴェルガモン伯爵家は伯爵家の中でも最上位に位置する伯爵家。子に同じく伯爵という階級の子を持つほどに子は多い。彼が何かをせずともロズベルト男爵は終わりということだ。

 

 多方面でもやらかしておるようだが、怒らせてはならん人物を怒らせてしまっているようだな。

 

『ところでヤマモト卿。うちのリーライナはどうですか? 貴殿の妻たるに相応しいでしょうか?』

 

 値踏み、ではなく、婿として聞かれた。年下の義父より。この様なことがあるとは考えた事も無かったが、不可思議な感じだ。

 

 正直な所を答える。

 

『あれほどのいい女を私は知りません。エメラルドグリーン、翡翠その物の瞳は深く麗しく、腰下へと流麗に流れる美しい金色の長い髪は明るく夜を照らす月のよう。透き通るような白い肌は水を弾き、正しく白磁の肌。失礼ですが柔らく大きな胸の温もりは安らぎを与えてくれ、私を深く温かな眠りに誘います。先に御子を作ってしまったことお詫びのしようもありませんが、あの様ないい女を抱かずに居られる方法などこの世に存在しないでしょう』

 

『外見が美しいからでしょうか? 父親であるからというわけでは在りませんが、あの子は間違いなく見目麗しい女です。引かれる男も多い事でしょう。それが証拠にヤマモト卿の様な強大なる存在をも引き寄せ、そして己が物として見せました。傾国の美女とまでは申しませんが、あなたを落として見せたことを考えるに強ち間違いでも無いでしょう。そんなあの子の外見だけにあなたは引かれたのでしょうか』

 

 問答のような問い掛けに俺は一言だけ告げた。

 

『無礼千万であるヴェルガモンッ! この山本ッ、おなごを選ぶにその外見で選んだりなどせぬわッッッ!!』

 

 一喝。ただ一言。何故怒ったか? 当たり前だろう。外見で選んだのかなどという設問そのものがリーライナ・ヴェルガモンへの侮辱である。

 

 彼女への侮辱は、けして許さぬ。俺の女。我が愛しき妻への侮辱はこの山本、義父であろうとも許さぬぞ。

 

 俺の怒声に静まりかえる室内。この場には彼の警護も複数居るが、誰も動かない。そして、彼は苦しそうな、それでいて真からの謝罪の言葉を口にした。

 

『御無礼を平にご容赦願いたい。ヤマモトイソロク閣下。そしてあなたほど我が娘に相応しき男を私は知らない。これまで多くの男が婚約者候補として我が娘に近づきましたがその全てが美貌に惹かれての欲望に塗れた男だったのです。娘もそれに気付いており全ての縁談をお断りして参りました。無論、中にはヴェルガモンの名に引かれて来たような権力欲に塗れた者もおりました。彼女自身の手で皆無礼討ちにされておりますがね』

 

 薄く笑うヴェルガモン卿。その翡翠の瞳を真正面から見つめたまま放さない俺。

 

『そんなあの子が抱かれたという報告を私にくれたとき。私の心を満たしたのは歓喜の気持ちでした。ついに見つけたのか! あの子が認めた本当の男を! と。それがアドミラル・ヤマモトだと本人から告げられたときには悦びの余り最高のロマネを開けて、喇叭飲みなんて馬鹿な飲み方で一気飲みしましたよ』

 

 そして翡翠の瞳を一度閉じると開き。

 

『娘を、リーライナのことを、これからもどうかよろしくお願い申し上げます。世界でただ一人、リーライナの婿となるべくしてなる漢。ヤマモト閣下』

 

 空気が和らぐ。俺が和らがせる。俺に相応しき女と義父殿が認めてくれたから。これ以上怒る理由もない。その謝罪、この山本受け取ろう。そしてあなたの娘殿はこの山本五十六がもらい受けた。

 

『ぷはッ、はあ、は、聞きしに勝る気迫ですな。ヤマモト卿。衛士達の中にはどうやら立ったまま気絶している者も居るようです』

 

『申し訳ない。リーライナへの無礼は例え実父のあなたであっても許せないのですよ』

 

『あの子があなたを選んだ理由が分かりましたよ私にも』

 

『まあ、偉そうなことを言っていても私はリーライナの尻に敷かれているような状態なのですがね』

 

 頭を搔きながら笑顔で話すと、ヴェルガモン伯爵も笑顔で。

 

『あの子は、騎士としての実力については、嚮導学校を首席で卒業するほど強いということは当然として、強かですからね。ヤマモト卿も重々お気を付けください。妊娠結婚なんて普通貴族ではあり得ません。が、あなたが相手なら変わってきます。五大湖諸侯の反応、なんだと思います? “アドミラル・ヤマモトをヴェルガモン卿に盗られた”ですよ? 笑いましたよ。本当に愉快でした。娘が自分で取ってきたというのに』

 

 

 ◇

 

 

「いっくん、いっくん」

 

「ん?! ああ、ど、どうした?」

 

「どうしたじゃありませんわ。また上の空になって。今日は本当にどうしたの?」

 

 リーライナが隣、まあ正確には背後から抱き締めてきて、頭だけを俺の右肩に乗せている状態なのだが。

 

 より身を乗り出して、俺の顔をのぞき込んでいた。

 

 翡翠の双眸が俺の顔を捉えている。

 

 俺も少し隣に身を乗り出して――。

 

「んッ――」

 

 リーライナに口付けをした。

 

 俺の妻は美しい、外見ではない、その磨き抜かれた宝石その物の心がだ。

 

 

 

 ヴェルガモン伯爵の城へロズベルト男爵領討ち入りの為にアヴァロンがやってくるのはこの三十分後のことであった。

 

 

 




城内に居た子の貴族達は「私もリーライナお嬢様への不敬に対する制裁に参加させてくださいませ」と騒ぎましたが、ヤマモト卿とリーライナと私が行くと言い出したりしています。
公務の問題でヴェルガモン伯爵はやむなく城に残ることに。


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クルシェフスキー領 領都ポートランドのBARにて

 

 

 

 時は逆戻り。

 

 

 

 クルシェフスキー侯爵……ジャンめに飲みに誘われた儂は皇宮を抜け出し、空の人となっていた。

 

 警備を掻い潜る事には慣れておる。

 

 幼い頃10歳の頃より兄さんやシゲタロウと共に良く抜け出しておったからな。

 

 後で侍従長に見つかっては怒鳴りつけられて叱られたものだが、それも含め、少年時代の淡い想い出よ。

 

 KMFの無資格操縦もしたことがある。日本と共同の元に行われたKMFの開発だが、昔見ていたマジンガー、ゲッター等のロボットアニメを思い出して乗ってみたいと思い勝手に乗って。事故った。

 

 ランドスピナーの操作ミスをして、アリエスの離宮の壁に穴を開けてマリアンヌに怒られた。

 

 コルチェスターの高等部時代には無免許運転をして補導されたこともある。

 

 あの時は、警察に迎えに来た父に殴られた。

 

『お前が怪我をするのはお前の勝手だ。だが人をはねて怪我をさせていたり、ましてや死なせていたりしたとき。お前は償えるのかッ!!』

 

 と言って殴り飛ばされた。

 

 今では丸くなっておるが、若い頃の父上は、まあ、今でも若いと言えば若いか、だがあの頃の父上には太平洋戦争を戦った頃の面影がまだ残っておった。

 

 昔は気の弱かった。いつも兄さんの後ろに隠れていた気弱な少年だった。シゲタロウと知り合って、兄さんと三人で殴り合って、強くなったのだが、儂はそれでも父上の事が怖くて仕方が無かったのだな。

 

 思えば十代の糞ガキがやっていたこととは言え、コルチェスター時代は無茶をした。愚か者の集まりのE.U.の様な少年法は我がブリタニアにはない。勘違いをした糞ガキ共が悪さをしていると、法に裁かれる事となる。

 

 そういうのはやはり何処の国にも居るようで、我が国にも当然のようにしている物だ。貴族のどら息子、ほとんどが子爵以下の貴族家の三男以下が多いが、そういう連中が中心となって悪さをしていることがある為、平民には手出しが出来ない。

 

 事実、不幸な話しだが手向かいした平民の少年が無礼討ちにされる事も起きている。貴族はそれだけで強い。その強き者こそ正しき心で在らねばならぬのだ。罪には罰を。信賞必罰であるべきなのだ。

 

 ペンドラゴンの治安は100%とは言わんが間違いなく良い。なにせこの儂が直接統治をしているところ。儂の目が黒い内はくだらぬ事はさせぬが。目の届かないところでは悪さをする輩もいる。

 

 儂は貴族の少年が法を犯したときには重罰を与えるよう法を制定している。強き者が弱き者を虐げるのは儂の最も嫌いな事の一つだからだ。

 

 まあ、重要なことだが、儂も迷惑は掛けたが平民を虐げたことがない事は、自分で自分を“勘違いした愚か者”にならずに居て良かったなと褒めてやりたい処よ。

 

 高校時代に無茶をしたこともある儂だが、気弱な方な性格だったと思うのだがなあ、ああしかし一概にそうで在ったとも言えぬか。

 

 仲良くなった平民の友達に誘われて遊びに行った先で、ナンパなどしたりもした。

 

 友達に『シャルルいけよ』と言われてだが。

 

 恥ずかしかったが、その時に遊んだ女の子に儂の妻となった子も居るからな。

 

 思えばハイスクール生活やその後の大学のキャンパスライフで浮かれていたのだろう。

 

 普段は触れられない平民達との触れ合い。

 

 平民の中に多くの友人も出来、所謂気分がハイになっていた。

 

 広くはあっても窮屈な皇宮暮らしの中で手にした外の開かれた世界。僕は今自由なんだと本当に浮かれきっていた。

 

 兄さんも優等生は優等生だったなりに、色々やっていたとも聞くし。

 

 コルチェスターは基本的に貴族しか入れぬ学校では在ったが、父の代で平民にも門戸を開いた。

 

 まあ金持ちの平民が多い中、必死に学習をして、アルバイトをしながら学園生活を頑張っていた者も居た。儂の淡い青春時代よ。

 

 もう二度とは戻らぬ一度限りの時代に、沢山遊び、沢山学び、沢山の友人を作ってきた。若人には告げたい、刻は止まっては居らぬぞ? とな。

 

 

『御乗客の皆様。当機はまもなくクルシェフスキー領ポートランド国際空港に到着致します。危険ですのでシートベルトのお締めをお願い致します』

 

 

 やはり超音速旅客機は速いな。日本ではもっと速い機体もあるが、相も変わらず半歩先を行かれるこの悔しさと切なさよ。

 

 いつか肩を並べられるときは来るのだろうか?

 

 

 

 

 クルシェフスキー領 領都ポートランドのBARにて

 

 

 

 

 さて、いつものBAR兼居酒屋に着いたが。クルシェフスキー……ジャンめの奴は。

 

「こっちだ!」

 

 目聡く儂を見つけ、声を掛けてくるジャン。

 

 蒼穹の瞳の色に、輝く金髪と口ひげが映える美中年。青い騎士服と、奥の壁にあるハンガーには青いマントが掛けられている。

 

 騎士の正装で来たのか? 何を考えておる? 目立つではないか。

 

「うむ」

 

 カウンターの一番端。チョイスが上手い。目立たない場所が一番良いからな儂等の場合は。

 

 最もこのBARで知り合いになった常連客の中には、儂等の正体を知っておる者もいるのだが。

 

「陛……っと、良く来てくれたなシャルル」

 

 陛下と言いかけたぞ? 何処に目と耳があるやも知れぬ。

 

 我が国にも南天の息が掛かった者が多数紛れ込んで居る故気をつけてくれよ?

 

「娘を侮辱された気分が収まり止まぬのでな。一人でワインを飲んで居ったのだが瓶ごと割ってしまったぞ。勿体ないことをした」

 

「仕方が無いさ」

 

 

 ――娘を侮辱されたらな。

 

 

 そう、数ヶ月ほど前の事。儂とジャンの娘は侮辱された。ペンドラゴンの大通りで。人の行き交う公共の場で騎士侯風情がと罵られた。

 

 犯人は分かっている。フランク・ロズベルトというカンザスの田舎の田舎の端っこに領地を持つ、ロズベルト男爵家の当主だ。

 

 自分で名乗っていた。二度も。おかげでその存在に気づけた。

 

 儂もこの人多きブリタニアの全ての貴族家を把握しているわけではない。

 

 木っ端貴族まで含めれば数十万、騎士侯、武勲侯まで含めれば何千万と居るからな。全員の顔と家名とを覚えろ等、土台無理な話よ。

 

 だが、其奴は、続き大日本帝国の東京でリーライナ・ヴェルガモン伯爵家令嬢に罵声を浴びせた。

 

 シンク・ローゼンクロイツ伯爵家令嬢をそうとは知らずに遊興に誘いセクハラ行為に及ぼうとした。

 

 カレン・シュタットフェルト辺境伯家令嬢を、マリーカ・ソレイシィ辺境伯家令嬢を下女と呼び連れて行こうとし。

 

 ナオト・シュタットフェルト辺境伯家令息を、レオンハルト・シュタイナー、シュタイナーコンツェルン令息を下男と呼び罵った。

 

「糞みたいな話しをするんだ。飲まずにはやって居られん。マスター、取っておきを貰おう」

 

 儂が注文するとマスターはほくほく顔でやってくる。

 

 店で一番高い日本酒を開けて。

 

「Yes, Your Majesty……と、でも、仰ればよろしいのですかお客様?」

 

「よしてくれマスター。儂はここに来るときはランペルージで来ておるのだからな。他の客に聞こえでもしたら大事になる」

 

「はっはっはっ、冗談ですよシャルルさん。大体、うちの常連客には存じていらっしゃる方も多いですよお二人のこと」

 

「マスター、私は大丈夫だよ。謎の人で通っているからね。公の場では滅多にこんな格好をしないから」

 

「儂の方はランペルージグループの社長として知られてもいるから大変なのだよ」

 

 話し込んでいくと盛り上がってくる。

 

 どうせバレているのだから等と身も蓋もないことを言い出したりするマスターやジャン。

 

 時折常連客が小声で、シャルル陛下こんにちはと挨拶に来たりする。

 

 昼間から酒を飲むなと言ってやったら、御自分は如何なのですか公務は? と返される。

 

 ここの客は知り合いが多いから気楽だが、気楽な分突っ込みも多くて適わぬ。

 

「モニカは……娘は気に病んでは居らぬだろうか……」

 

 ぽつり、呟きが漏れた。

 

 あの子は優しい。この絶対的階級社会に於いて自信への暴言を許してしまえる優しい子だ。第11階位ナイトオブラウンズでありながら、第4階位の男爵を許してしまえるくらいには。

 

 いや、そんな事であの子の優しさを推し量ることは出来ない。あの子は常々申しておる。正義は全ての人に対し平等に降り注がれなければならない。騎士とは民を守る為に強く在らねばならない。

 

 差別が大嫌いで、階級による区別すら嫌っておる。件の木っ端男爵が教育しようとしていたという子供の身を庇い助ける、とても良い子だ。よい子のお手本のような。

 

「それだけに儂は思うのだよ。あの子はロズベルトの不敬行為が続いておる昨今、気に病んでは居ないかと。自分が最初に処しておけばこの様なこと、階級制度を無視した蛮行が続き行われる事は無かったのでは無いかと」

 

 ぐいぐいと酒が進むが酔えない。人間気分が真剣なときには中々に酔えないのだろうか?

 

「私もその点が心配なんだよ。まあ、シマダ卿が傍に居るから大丈夫と考えても居るんだけれどね」

 

「シゲタロウか」

 

「シマダ卿の為人は彼の御仁と幼なじみである君がよく知っているだろう」

 

「……知っている」

 

 彼奴ならばモニカを任せられると儂は日本赴任中でのあの子のことを頼んでいるのだからな。

 

 ただ、最近懸念を抱く噂が耳に入っているのがな、少々気がかりだ。

 

「モニカは、シゲタロウに好意を抱いておるのだろうか?」

 

「それは……。どうだろう……私も懸念に思っていたところだ。もちろん仮にそれが事実であってシマダ卿の方にも気があるのならば、私は託せる御仁だと考えているよ。君は?」

 

「……まあ、儂も相手がシゲタロウならば文句はない。嶋田伯爵家という家格、大日本帝国海軍軍人から帝国宰相にまで上り詰めた経歴。何よりもその人間性と心の在り方。モニカを託すとするならばこれほどに相応しき男はおらぬだろう」

 

 ただ、もし、もしもそうだった場合、一つにして重大なる懸念事が上がってきているのだ。

 

「懸念って、何かあるのか?」

 

「大有りだ……、予想外に過ぎることがな。……大日本帝国の我が国の駐日大使、誰かは存じておるだろう」

 

「コーネリア殿下だね。それが?」

 

「いや、問題はコーネリアでは無いのだ。自分から言い出して聞かなかった故に承諾したのだがユーフェミアが補佐官としてついておるだろう?」

 

「ああ、それも存じ上げているよ。ユーフェミア殿下が本来ならば存在しない補佐官なんてポストに就いていると。もちろん君の承諾の元だろうとは思っていたけれど」

 

「先日のことなのだがな。……そのユーフェミアが『お父様っ! わたくし結婚を前提としたお付き合いをしたいと考える御方を見つけましたっ!』と、ホットラインで知らせてきたのだ」

 

 とても元気に、嬉しそうに。

 

 この御方しかおりませんと。

 

「なんだめでたいじゃないか。ナナリー殿下も日本の現宰相――枢木ゲンブ宰相の御子息、枢木スザク君との婚約が決まったんだろう。ルルーシュ殿下もマリアンヌも託すべき人物として認めたとか。ユーフェミア殿下にもそういう相手が決まったのなら尚のこと良いことじゃないか。祝い酒といこうか?」

 

「いや、それがな……」

 

 相手が大問題であった。いまの噂がもし本当なのだとすればこれはとんでもないバッティングなのだ。

 

「シゲタロウなのだ」

 

「はっ、え?!」

 

 ジャンの顔が面白い。変顔になる。

 

 驚きもしよう。

 

「シゲタロウなのだよ、ユーフェミアが心に決めた相手というのが……」

 

「ち、ちょっと待て、それじゃモニカがもしシマダ卿に好意を抱いていた場合……、ユーフェミア殿下が」

 

「競合相手となる。……だから、悩んでおる。無論モニカの気持ちを問い質したことはない。お互いに公式には親子であると名乗りあった事は無いからプライベートなことを尋ねづらい」

 

 するとジャンがグラスを一気に煽り叫んだ。

 

「冗談じゃないっ! 私はモニカが泣く姿を見るくらいなら君に決闘を申し込むぞっ!」

 

 怒るジャン。分からないでもない。ジャンにとってはユーフェミアは他人だが、モニカはずっと育ててきた大切な娘だ。

 

 もしも儂がユーフェミアとシゲタロウを結婚させたいからモニカには諦めて貰いたいなどと言えば、ジャンに手袋を投げつけられる。

 

 戦争ではない。儂とジャン、一対一のタイマンだ。儂もジャンも実力的にはほぼ互角、儂の方が力では上、素早さではジャンが上、僅差で儂の方が強いが、結局のところ千日勝負となって決着など付かぬ。

 

「落ち着いてくれジャン。儂等が決闘などしても決着は付かぬわ。それに儂からしてみればモニカもユーフェミアも共に大切な娘なのだ。二人とも泣かせたくはない」

 

「はああ、なんてことだよ。大体ユーフェミア殿下はシマダ卿と何処で知り合い、なんでそんな話になってるんだ?」

 

「東京見物を自由にしたいとホテルから抜け出して、その先で無理矢理ナンパされていたところを偶然そこに居たシゲタロウが助けたそうだ。暴漢、というか、ナンパ野郎共を肉弾戦で蹴散らして、で、“大丈夫だったかなお嬢さん”で落ちた」

 

「どこの恋愛漫画だッ!! シマダ卿はユーフェミア殿下だと知らなかったのか?!」

 

「ユーフェミアは本国でハイスクールに通って居ったからな。一応表舞台からは退いているシゲタロウが知る機会が無い。考えてもみよ。儂の子は300人以上居るのだ。全員の顔と名前を覚えておるのはブリタニア人くらいだ。ブリタニア人でさえ覚えて居らぬ者とていよう。男爵以上の貴族階級の者は皆知っているが」

 

「自慢するなッ! 君は結婚しすぎで子を持ちすぎなんだッ!」

 

「また今度、次の嫁を娶ろうと考えている。惚れた女がいてな。一つ勘違いせぬよう申しておくが儂は全ての妻と子を例外なく愛しておる。皆大切な妻で有り、愛する子なのだ」

 

「いい加減にしろッッ!! 君がそうやって無秩序に結婚を繰り返すから他国の口さがない者が『ハーレム皇帝』などと言いふらしているんだぞッ!!」

 

「惚れたものは仕方が無かろう」

 

 惚れた女が二人居てはならぬか? 三人、十人、百と居てはならぬのか? 愛故に……仕方が無いのだ。

 

 どうしてその気持ちを止められようか。

 

「はあ、はあ、そんな話をしているんじゃない。私は西海岸諸侯の盟主として根回しするぞモニカを推すように」

 

「するとブリタニアの四分の一がモニカを推すことになるか」

 

「君はどうなんだ。君自身の意見は?」

 

 儂にとって、モニカも、ユーフェミアも、共に愛する子だ。どちらか一方へ肩入れすることは出来ぬ。

 

「どちら共で有り、どちらでもない。故に儂は答えをシゲタロウに託そうと思う。儂等の手でどうこうと言えるべき問題でも無い。気付いて居ろうがシゲタロウは」

 

「ああ、あの御仁はお優しい。モニカを託すにしろ、ユーフェミア殿下と結婚するにしろ、大切に愛して下さるだろう。だが、同時に恐ろしくもある。信じられないほどの血の臭いを時々感じる。気が狂いそうなほどの死臭も。日本を影から支配すると言われるほどの御仁だ。何らかの秘密を抱えていらっしゃるのだろう。もちろん、それとこれとは別な話で、モニカにもユーフェミア殿下にも間違いなく相応しい御仁だからね」

 

 あの死臭はどこで付いてきたものなのだろう? 力ある者や聡い者は一目見て気付いている。ビスマルクの奴が。

 

『シマダ卿と初めて相対したとき。私は死を覚悟致しました。陛下、かの御仁は一体何者なのでしょうか?』

 

 そう申しておった。ビスマルクほどの男にそう言わしめるほどの死臭。

 

 幼なじみの儂や兄さんは子供の頃は気付かなかったが、自らを鍛えた末に力を身に付けたが故に知ってしまった。

 

 何も言わずに付き合って居るがな。

 

 今となっては気にもならぬし、なにより幼なじみだから信頼しておるのだ。

 

 誰よりもその為人を儂は知っておる。

 

 モニカも、ユーフェミアも、彼奴と結ばれれば幸せになれるだろう。

 

「話を戻そう。先にも述べたとおり、儂の答えは出せぬということだ。二人共に愛する娘故にな」

 

 グラスの日本酒を煽る。大吟醸は美味いな。

 

「となるとシマダ卿次第、か。まあ、確かに言われてみればこちらが選ぶべき事でも無いからね。これは自由恋愛にして政略結婚となるな。シマダ卿がどちらを選ぼうともブリタニアと日本の絆はより強固なものとなるだろうからね」

 

「問題があるとするならば、シゲタロウが二人を女として視てくれているかだ。儂は下は二十歳前後の妻も持っているが、シゲタロウにとって二人はそういう意味での“女”として視てくれる相手であろうか?」

 

「なに、愛は年齢じゃない心だ。モニカもユーフェミア殿下も、そのお心は美しい輝きを放っている。彼女たちを魅力的に感じない男など居やしないさ。それに心が決め手となるのはそれは君自身が証明しているし、喫緊ではヤマモト卿が証明した。お二人の結婚式には動かずのクルシェフスキーの私も動き、参列させて戴いたからね」

 

 あの結婚式こそ政略結婚にして自由恋愛の極地だったろう。

 

 ゲストにはユーロ・ブリタニアの二巨頭であるハイランド大公、ヒトラー大公も参列。儂自身も参列し祝辞を述べた。現役皇帝の参列する結婚式など久しぶりのこと故に少々大事になってしまったが、儂と五十六は気にせず普通に駄弁っていたが良き結婚式であった。

 

 しかしシゲタロウと付き合いが長いのに何故未だに繁太郎の発音にならぬのか。普通になってると言われているが釈然とせん。五十六は五十六と呼べておるというのにおかしなことよ。

 

「結局はシゲタロウの答え待ち、であるか。そういえば、最近もう一つ頭の痛い話があったのであったわ」

 

 ハア、とため息を吐く儂に、どうしたのか伺うジャン。

 

「いや、これも娘の話なのだがな、マリーベルのことだ」

 

「マリーベル殿下がどうかされたのか?」

 

「どうもこうも、彼奴、三流校卒の政治家になるとか夢みたいな事をほざいておるギャンブル狂いのニートと結婚すると言い出したのよ。それで儂がきちんと見ていないから変な男に引っ掛かるとフローラに怒られてな。だが、本人が惚れ込んでしまって居ってはどうにも出来ぬ。それも出逢ったらしいのはまだあの子が子供の頃の事だぞ? SPや儂の目を盗んで、ホテルから抜け出した先の公園で出逢ったらしいのだが、そこまで儂は責任が持てん」

 

「君もそうだけど、君の親族って抜け出すの上手いな」

 

 ああ、まあ指摘されてみれば思い当たるところが沢山在る。

 

 儂や兄さん然り、ユーフェミア然り、マリーベル然り。

 

「皆、儂や兄さん、もっと前で言うならクレア女帝等に似たのかも知れぬ。抜け出す、逃げ出す癖が」

 

「案外リカルド・ヴァン・ブリタニア大帝もそうだったのかもね。困った一族だよ。しかしそれは聞き流せない話でもある。皇室にニートは不味いだろう。それもギャンブル狂いって。フローラ様もお許しになるはずがない」

 

「ああ、だから注文を付けられた。一つ、皇室の者としての教育を行う事。一つ、ブリタニア皇室に入るのならば日本の政治家になることは諦めさせること。一つ、ニート状態は許しません。一つ、賭博を止めさせること。だ」

 

「尤もなことじゃないか。その人、本当にニートなのかい?」

 

「厳密にはニートではない。兄さんの担当するランペルージグループ内の部門の一つでKMFのデヴァイサーのバイトもしておるから。信じられんが第8.5世代機までならば乗りこなせる腕を持っているらしい」

 

 兄さんに伺ったときにはびっくりした。

 

 まさか、よもやただのニートと思って居ったあの玉城めがヴィンセント・カスタムを乗りこなせる腕を持つとは。

 

 簡易型とは言え仮にもエナジーウィング機をあのニートは乗りこなして居るのだ。信じられるか?

 

「十分通用するエース級じゃないか?! それでニートとは勿体ない……才能をドブに捨てているような物だぞ?」

 

 全く言わんとするばかりだ。彼奴には才能がある。正直軍のKMFパイロット適性検査を受けてもかなり高い判定を叩き出すだろう。

 

「玉城真一郎というのだが儂も知らぬ間柄ではなくてな。兄さんの家に赴く際によく居間でゴロゴロして居る輩だ。一見ごろつきに見える風貌だがあれで芯が通っているところもある」

 

「へえ、皇兄殿下は何と?」

 

「自分が決める話じゃない。ただクララも惚れ込んでいるから泣かせるようなことをしたら許さない、と」

 

「クララ殿下まで惚れてるって……クララ殿下って暗殺者だろう……何をどうすればニートに惚れるんだ」

 

「幼い頃に悪漢から助けられたらしい。その時、クララはギアスを既に自由に操れるようになっておったから悪漢など一蹴できたのだが、そこを大怪我を負ってまで助けてくれた玉城めに惚れてしまったのだとか」

 

 あばら骨を折る大怪我だったと兄さんに聞いた。病院の治療費は兄さんが出したらしい。

 

「……かっこいいね、それ」

 

「だから申しておろう。芯は通っていると。女の前では格好を付けたい。大人は子供を守る者……らしい。どうだ?」

 

「うん、悪くはないな、本人に脈は?」

 

「ダメだ。好みのタイプはギネヴィアやコーネリアのような年上のお姉様だそうだ」

 

 駄目な男でニートな男だが女子供を守ろうとする精神、心の在り方は本物。

 

 KMFパイロットの素質だけで言えば兄さんの見立てでもエースを張れるレベルにあるとか。

 

 ただ、本人の希望は衆議院議員らしく、選挙のことしか頭にない癖に、普段は何もせず金さえ有ればパチンコ、競馬、競輪、競艇に使い有り金を無くしている。

 

 ナナリーと共にアッシュフォード学園日本校に留学しているルルーシュは、玉城が兄さんの家でごろ寝をしていると腹立たしくて蹴飛ばしているとのこと。

 

 KMFパイロットの素質は間違いなく本物と太鼓判を押されているだけに色々と無駄に時間を消費しておる奴よ。

 

「じゃあもう結論が出ているじゃないか。その、タマキくん、か? タマキくんはマリーベル殿下もクララ殿下も脈無しということで」

 

 脈はない。現時点ではまだな……。

 

「ジャン……マリーベルやクララがそれくらいで諦めるタイプだと思うか?」

 

「……あき、らめないな……」

 

 そうだ。マリーベルもクララも。相手の好みのタイプが違う。そんなくだらん障害程度で諦めるような子達ではない。

 

 マリーベルが諦めないことを知っているからこそ、フローラは条件を付けて来たのだ。

 

 つまりはフローラもマリーベル・メル・ブリタニアがこの人と決めた相手と添い遂げんとする人間だと認めているということ。

 

 フローラ自身が諦めさせることを諦めているということだ。

 

「恋愛とは、斯様に問題ばかり起こるものなのか?」

 

「その恋愛を一番多くしている君が言う台詞じゃないだろう……」

 

 その通りだな。シゲタロウの方は彼奴自身に答えを出して貰わぬと行かぬし、まだモニカの気持ちがはっきりとはしておらぬ噂ばかりが先立つのみ。

 

 ユーフェミアはもうシゲタロウと心に決めてしまって居る様子だが。

 

 

 

 玉城の奴めは最悪マリーベルに拉致されるか、クララに監禁されてしまうぞ?

 

 

「さて、本題を話そうか。ロズベルト男爵家の話に戻るが――」

 

 

 



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ヴェルガモン領での写真撮影

山本さんリーライナ関係のちょっとした小ネタです。



 

 

 ヴェルガモン領での写真撮影

 

 

 

 俺の目の前。ヴェルガモンの城、一応邸らしいが、どう見ても数百人も暮らしている、ここに立つ建物は最早城か宮殿なのだがなあ。

 

 その中庭で、俺の目の前に、素肌にフィットした紫色の飛行服を着た女が長い金髪を風になびかせながらポーズを決めていた。

 

 パシャッ!

 

 デジカメで撮影するは俺、山本五十六である。

 

 俺は日本とブリタニアの二重国籍の俺は元大日本帝国海軍軍人にして、今でも現場で指揮を執ることがある男だ、ヴェルガモン伯爵領では水軍司令官であって、けしてカメラマンではないのだが。

 

 被写体は俺の妻であるリーライナ・ヴェルガモン。ここヴェルガモン伯爵領の次期当主。

 

 金色に輝く長い髪に翡翠のような緑色の双眸を持つ容姿の整った美しい女なのだが、俺が最も惹かれているのはその心の美しさだ。

 

 無論外見的美しさにはどうかと問われれば全くのゼロとも言い難い。女性を外見で推し量るような俺ではないが、リーライナの容姿容貌が美しいのは確かだから、そこは否定できんところだ。まあ、な、こんな美女が自分の妻だと誇らしく思うよ。

 

 そんな彼女が今、へその下あたりまで見えているVネックにしては深すぎで、腰部と太ももの素肌が丸見えの衣服を着て、何度もポーズを変えながら俺に写真を撮らせているのだ。

 

 肘より上まで届く手袋、太ももまで届くブーツ。纏い来ている全ての衣服が紫系統の色で統一されている。

 

 胸元も開きに開きすぎている。これでKMFの飛行服だというのだから、日本人の、いや帝国海軍軍人の俺には理解しがたい。

 

 なんでもアルバムの一ページに残したいそうだが、別に今日でなくともいつでも撮れるであろうに。

 

「いっくん顔真っ赤よー。さっきからずっと♪」

 

「う、うるさい、次のポーズを早く決めろ!」

 

 顔が真っ赤? 当たり前だ馬鹿者っ! 先ほどより恥ずかしくて仕方がないっ。

 

 これはなにか、嫌らしい写真の撮影としか思えんぞ?

 

 リーライナは続き、左手を大きく頭の後ろに回し、右手を手首の先だけ捻った形のポーズを取る。脚は右足だけを外側に開いた格好。

 

 ちょうど強めの風が吹き抜け、リーライナの長い髪をざああっと攫う様に、大きく靡かせた。

 

 ほお……。

 

 正直、衣服はあれだが髪がキラキラと太陽の光を受けて輝き、エメラルドグリーン、翡翠の瞳が大きく見開かれ、自信たっぷりにほほ笑んでいる彼女の姿が愛おしく、またとても言葉には言い表せない美しさを感じた。

 

「どーお?」

 

「う、うむ。に、似合っているな。いや、これはその、破廉恥だとかそういうのではなく……。き、綺麗だっ。美しいぞリーライナっ!」

 

 思わず浮かび来たそのままの言葉を、勢いに乗せて口にしていた。

 

 それほどまで我が妻の姿が素直に美しかったのだよ。

 

「じゃあその一番いい絵を撮ってよ? 破廉恥だー、破廉恥だー、って普段うるさいいっくんが、いま、私のパイロットスーツ姿の事を美しいと感じてくれているんでしょう? その瞬間を、残して」

 

 甘いささやき声の様な旋律。高いソプラノボイスが甘く中庭に聞こえる。

 

 パシャっ!

 

 撮れたのは一枚の絵。最高の瞬間を切り取れたと思う。

 

 リーライナはお嬢様なだけに柔和な微笑をする事が多い。

 

 きっと昔からそういった笑顔の練習をしてきたのだろう。

 

 だが、この一枚に写る、柔和な中にも勝気さや自然さを感じさせる微笑は、素晴らしく美しいと俺には感じられた。

 

 ああ、俺の翡翠、俺のリーライナ、我が永遠の妻。

 

 お前は自然にしている方が一番美しい。

 

「そうだな。こうして自然のままに見てみると。その飛行服もまたリーラには良く似合っているぞ」

 

「な、なによ。急におだて始めて。言って置くけれど何も出ないからね」

 

「要らんよ。一つだけあれば、な」

 

 俺はポーズを決めていたリーライナの傍へ寄ると、彼女を優しく抱きしめた。

 

「な、なん、ですの?」

 

「そういえば、そちらの言葉遣いの方が本来の物であったな」

 

「あ、あの、い、そろく、様?」

 

「いや、な。リーライナ・ヴェルガモンという翡翠があれば。俺は何も要らんと思っただけだ」

 

 そっと、唇を近づけて、口付ける。

 

「んうっ?!」

 

 目を開いたまま、彼女の柔らかい体を抱き寄せたまま、長い髪と背中を撫でながら。

 

 この指に絡まるのは明るい金色の髪。

 

 この身体の温もりは俺の翡翠の温もり。

 

 恥ずかしい飛行服を着ている彼女を抱き締めているから、当然俺の胸板に彼女の豊かな胸が当たっている。

 

 柔らかい。大きな胸。

 

 素肌が多く覘く飛行服。

 

 それでもそういった気持ちに、気分にならないのは、ただ純粋に美しいこの翡翠をこの腕に抱いていたいから。

 

 いつまでも、いつまでも、このままでいたい。

 

 エメラルドグリーンの瞳が静かに閉じる。白い素肌が赤く染まる。

 

 俺は彼女の唇を啄みながら、味わい深い味を堪能。

 

「んっ、んんっ」

 

 何度も何度も啄みながら、そして静かに唇を離した。

 

「ん……い、っくん……好き……愛して、る」

 

 先ほど閉じた瞳はすぐにも見開かれる。そのエメラルドは潤いを以て俺を迎えてくれている。

 

 エメラルドの瞳が潤みを増す、頬が朱に染まっている、金色の長い髪と彼女の身体は未だ俺の指と腕の中。

 

「ああ、俺も、愛してる。リーライナ」

 

 少し、空を飛びたい気分だ。

 

「リーライナ、愛しいお前と、俺たちの子の三人で、空を飛びたいが、行けるか?」

 

 リーライナのお腹には、俺と彼女の子が居る。

 

 まだお腹が膨らみ始めるのは先の話になろうが彼女は妊娠中。

 

 俺とリーライナと俺たちの子、だから三人だ。

 

「ヴィンセント・カスタムは、一人用だから……、お父様に申し上げて、小型可翔艦をお借り致しますわ……」

 

 普通の言葉と丁寧語と、言葉が混ざっておるな?

 

 こういう時のリーラはときめいているとき。混乱しているとき。

 

 それなりの付き合いであり、夫婦仲は深いから癖が分かる。

 

 俺もまたときめいている。リーライナの美しき心の輝きと、その瞳に。ま……服装にも、な。

 

「空からヴェルガモン領、お前の領地となるこの地の全体を一枚撮ろう」

 

 休暇日くらい、好きに時間を使ってもいいだろう。ヴェルガモン家の仕事をしている俺だが、夢幻会の仕事もしている俺。

 

 二足の草鞋の忙しい毎日の、ちょっとした息抜きにリーライナとの夫婦だけの時間を思う存分満喫したい。

 

 小型可翔艦で行く、ベストな選択だ。空を飛ぶ船と言っても船は船。操縦は俺がしよう。

 

 こう見えても小型可翔艦の操縦技術は習得済みだ。二度目の人生、色々と新しいことに挑戦してみようと思ったんだ。

 

 その一つに浮遊航空艦艇の操縦技術への挑戦があった。前の人生には無かった空飛ぶ船なのだぞ?

 

 海の男が空に昇りて船を操舵する。そういうのもいいと思ってな。

 

「リーラ」

 

「なに?」

 

「最高の一枚を撮ってくれ」

 

「わかったわ……ンっ」

 

 もう一度、触れるだけの口付けを交わし、日本の開発した小型可翔艦の技術を取り入れて開発された、神聖ブリタニア帝国独自の小型可翔艦。

 

 そのヴェルガモン家所有の小型可翔艦に、俺とリーライナは乗り込んだ。

 

 空から撮ったリーライナの写真は、最高の一枚だった。もう一枚! と、態々操縦をする俺の姿まで写してくれた飛行服姿の彼女の笑顔が、とても素敵だった。

 

 もう、破廉恥などとか言えんかな?

 

 



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小ネタ もしも馬鹿にナナリーに対して少し知恵が働いたら?

これはあり得ない小ネタです。
この馬鹿がこんな事を思いつくはずがないです。

ナナリーの能力を超強化してみました。
念のために、これは私の考えている男爵の話とは全く別です。
こんな展開になっていたら? といったお話ですね。
簡潔な内容になっております。


 

 

 ロズベルト

 

 俺は気が付いた。従者の奴が逃げたおかげで逆に頭がクリアになり、思い出してしまったのだ。

 

‟ナナリー・ヴィ・ブリタニア殿下は皇族の中でも抜きんでてお優しい。その次にユーフェミア・リ・ブリタニア殿下が”

 

 といった、社交の場で聞いたお話を。

 

 まだ引き返せる。今ならばまだ引き返せるぞォ~。

 

 

 

 キューエル

 

 私の失態だ。

 

 ナナリー殿下の警護の任をルルーシュ殿下より賜りながらのこの失態。

 

 我が命幾つ差し出しても足りぬ。

 

 不忠者によってナナリー様に暴言を吐かれる事を許してしまい、かつ御怪我までさせてしまった!

 

 警護隊長失格だ。

 

「ナナリー殿下っ! このキューエル・ソレイシィっ! 我が命を以て償いと──」

 

 私が言いかけた瞬間ナナリー殿下は私の手を握られ。

 

「なりませんキューエル・ソレイシィ。私はただ怒鳴られ、擦り傷を負っただけ。あなたの命に代えられる物ではありません」

 

「な、ナナリー様……!」

 

 体育の授業中の中退故にそのままのポニーテールに纏められているナナリー様の薄茶色の髪がふわりと揺れた。

 

「この様なことで命を差し出されては、私のお友達が減ってしまいます。キューエルさん。あなたも私の大切な方のお一人であるという御自覚をお持ちください」

 

 なん、と。なんという、ありがたきお言葉か! このキューエル。ナナリー様にこの命をお捧げ致しま──。

 

 その時だった、小太り気味で薄気味悪くも卑しい表情の男がやってきたのは。

 

「き、貴様っ!! ヴィレッタっ!」

 

「はッ! ナナリー様に近寄るな下郎ッ!!」

 

 そいつはヴィレッタの覇気にその場でびくんと身体を震わせると。

 

「えっ?」

 

「なッ?!」

 

「貴様何をッ?!」

 

 土下座をしたのだ。

 

 日本文化が馴染み切っている我がブリタニアでも、土下座の意味は誰しもが知っている。

 

 貴族であらば、それを為してしまわなければならないときの屈辱と恥辱。耐えがたきことであると。

 

 この男、男爵だと言っていたな?

 

 仮にも永代貴族が土下座をするという意味が分かっているのか?

 

 家名に泥を……はッ! いかん、コイツの目的はッ! 言わせてはならんッ!

 

 私がコイツの汚い手口に気が付いた時には、もう、遅かった。

 

「も、申し訳ございませぬッッ、ナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下ッッ!! こ、この、フランク・ロズベルト、よもやまさか本当に殿下であるとは思いもよらずッ!! 先ほど我に返りッ、貴女様が間違いなくナナリー皇女殿下であると気が付きッ、急ぎ馳せ参じた次第でございますッッ、この度は誠にッ、誠に面目次第もございませぬッッ!!」

 

 額を地面にこすり付け、ただひたすらに謝り続けるロズベルト。

 

 最悪の瞬間だった。

 

「……頭をお上げくださいロズベルト男爵」

 

「なッ、ナナリー様ッ!」

 

 私が叫ぶと此方を向いてすべてを癒す微笑を浮かべられたナナリー殿下。

 

 だ、ダメだッ。もう読めているッッ! 読めているがッ! 私が行動に出ようとすればナナリー殿下は私を諫められるに違いない。

 

「私は擦り傷を負っただけです。それにあなたは今、私に謝ろうとなさっております。土下座まで為されての誠心誠意。そのお気持ちだけで十分ですよ。フランク・ロズベルト、あなたの私への不敬を許しましょう」

 

 くッ、完全に奴の術中だッ!

 

 

 

 

 ロズベルト

 

 ふ、ふはは、やった、やったぞッ! ナナリー殿下の御直々にお許しのお言葉を頂けた。

 

 俺の勝ちだッ。

 

「あなた、あれだけお急ぎならなにか御用がおありだったのでしょう? もう行ってもかまいませんよ」

 

「お、お許しいただけるとはッ、なんとッ、なんと寛大なるお心ッ、その広きお心をこのロズベルトも見習おうと思いますッ」

 

「お行きなさい」

 

「い、Yes, Your Highness.!!」

 

 よ、よしッ。

 

 この調子だッッ。

 

 この調子でマリーベル殿下にも謝罪すれば、グフフフ。

 

 

 

 

 ナナリー

 

 

(嘘、ですね。嘘まみれです。あの方は微塵も私への謝罪のお気持ちなんて持ち合わせておりません。手は触れていなくともわかるようになりましたので。ある程度の範囲は私のテリトリーですから心が分かるのです。キューエルさんの謝罪は心からのもの。ヴィレッタさんの私を守ろうというお気持ちも。でも、あの方の心は嘘にまみれておりました。心の声が駄々洩れです。まさか、マリーベルお姉様にまで御不敬を働かれていようとは。マリーベルお姉様は御自身への不敬はあまりお気になさいませんが、玉城さんへの悪口は絶対に許されません。あの方は私への対処と同じ対処をお取りになれば助かるとお思いの様でしたけれど。ですが、この場では私が許さなければ、あの方は皇族侮辱罪で死罪に……、マリーベルお姉様には私が一言口添えをすればお許しくださるでしょうか? 玉城さんはどうせ御自分への悪口はお気になさいませんし。私は、どうすればよかったのでしょうか? お父様にこの事が伝われば、いずれにしろ……)

 

 

 

 ナナリー・ヴィ・ブリタニア

 

 テリトリー半径5m。

 

 相手の心の声が聞こえる。

 

 能力はON・OFF可能で普段は切っている。

 

 



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現閣僚は操り人形 遅いです

これは馬鹿男爵での小ネタ 適当に読んでください。推敲はしておりませんので誤字脱字があるかもです。



 

 

 

 現閣僚は操り人形

 

 

 

「た、た、た、大変だ枢木ッ!!」

 

「どうしたのだ澤崎ッ。儂は我が心の母たるナナリー皇女殿下の姿絵を見つめることで手一杯なのだ」

 

 枢木ゲンブ。

 

 大日本帝国現宰相を務める厳めしい男は、その厳めしさとは違い、ナナリー皇女を心の母と仰いでいる。

 

 ナナリー皇女殿下が知ればお義父様から、一気に気持ちの悪い人に落下するというのに、姿絵を隠し部屋に飾っているのだ。

 

 無論、この隠し部屋のことは辻は把握済みで、姿絵についてはいずれ、スザクくんに譲渡しようと考えていた。ゲンブ? ゲンブ如き小僧が辻に意見できるわけも無し。

 

 その隠し部屋に澤崎が勢い込んで入り込んできたのだ。

 

「澤崎ッ! 貴様でもこの部屋へ入ることは許さないとあれほど――」

 

 

 ――では、私が居れば許して頂けますかな枢木さん――

 

 

 現役宰相をさん、或いはくん付けで呼ぶことが出来る。

 

 それは皇室の方々を除けば、あの方々しか。

 

 どす黒いオーラが秘密部屋の室内を満たす。

 

 枢木は、枢木ゲンブはそのオーラの持ち主である、彼の御方に対して真っ先に跪いた。

 

 この方にとっては、ゲンブや澤崎など操り人形でしかないからだ。

 

 誰かは分かっている。御方々の気配はある程度読めるようになってきた。

 

 最も怒らせてはならない嶋田閣下ではない。その次くらいに現閣僚と縁の深い人物。

 

 

 ――辻政信閣下だ。

 

 

「つ、つ、つ、辻閣下、こ、この様な場所にお越しになるとは、ど、ど、どういったごようけんでありましょうか?」

 

 脂汗が止まらない。どもってしまって上手く喋れない。それは辻が怒っているからに他ならない。

 

「枢木さん、あなたの情報部は、諜報機関は何をしているのです?」

 

 いつも通りの落ち着いた声。

 

 だが、静かなる怒りに満ちている。

 

「我が帝国で起きてはならないことが起きました」

 

「お、起きては、ならないこと、で、御座いますか?」

 

「我が国の往来にて神聖ブリタニア帝国第八十八皇女、マリーベル・メル・ブリタニア殿下が下女と蔑まれ。続き、そちらの」

 

 ゲンブの背後を見遣る辻。そちらにはナナリー皇女の絵姿。

 

「ナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下が同一犯と思われる男によって障害を負わされ、侮辱されました。両案件共にブリタニアでは死罪です。あなたの諜報組織や護衛部隊はなにをやっていたのかと問い質しているのです……」

 

「そ、ソレは……」

 

「ま、この様な問答を交していることが時間の無駄ですが。間もなくシャルル・ランペルージ、ランペルージグループ社長がアヴァロンに乗って参られます。ブリタニア西海岸諸侯盟主クルシェフスキー侯爵。あなたもよーく御存じの山本さんも。リーライナ・ヴェルガモン卿、アリス・ローゼンクロイツ伯爵夫人、シンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢、麻生良太郎外務大臣が……要件は、お分かりですね?」

 

 そうそうたる面子である。ランペルージグループ、クルシェフスキー侯爵家、ヴェルガモン伯爵家、ローゼンクロイツ伯爵家。

 

 いずれも日本経済と大きく結びついているところばかりで、麻生外務大臣以外は揉めてはならない相手ばかり。

 

 揉めたら損益が出る。その損益を御方々は看過為されない。

 

 実のところ麻生外務大臣は辻の子飼いだから、麻生大臣と揉めたら大変なことになるのだが。

 

 枢木もシャルル・ランペルージ社長の正体を知っている。

 

 辻の怒りに合わせて生きた心地がしなかった。

 

「は、は、犯人の確保に向けて、た、た、た、直ちに特高警察を動かします!!」

 

 

 澤崎は一人何も言わずに立っていた。

 

 心の中ではひたすら美しき妻の名を叫びながら。

 

(直美ッッ、助けてくれ直美ッッ、直美ッッ!)

 

 

 

 

 

 

「以前南天が大部隊を集結させておる状況に変わらずというなら、こちらも振り上げた拳を降ろす事は出来んな」

 

 ある議員が言った。

 

 南側諸国は続々と中東地域に軍を集結させている。

 

 現地に入り込んだ諜報員からの情報なのだが、とにかく諜報活動に支障が出続けているといった状況が実態で、まともな活動が出来ていないという体たらく。

 

 衛星で調べようにも、衛星からも何らかのジャミングが発生しているのか、軍集団が続々と集まっているところまでは見えるのだが、詳細を見ようとすると画像に砂嵐が入るのだ。

 

 南天が二機宙に上げているラピュタが何かしているのだろうか?

 

「御方々はこの件について?」

 

「当然皇室の方々と御方々は御存じであらせられる。問題は情報の確度だ。これだけは御方々以外は与り知らぬ事」

 

 御方々は独自の諜報機関や機密組織をお持ちだ。

 

 その情報の確度は帝国議会で得られる確度を遙かに上回る。

 

 同時にその高い確度を持つ情報を、瞬時に帝国陸・海・空・海兵隊・更には沿岸警備隊や宇宙軍にまで伝達する方法を確立している。

 

 以前、貴族院、衆院を通して上げた軍事予算XXX兆という軍事予算。

 

 これでは足らぬと南側諸国の動きを察知した御方々は、当初の三倍超といった桁外れの予算を御方々のお一人であらせられる辻閣下と杉山閣下御自らが提示されてこられた。

 

『これで最低ラインだ』と。

 

 それほどに事態は逼迫しているというのだろうか?

 

 たかが中東如きの話ではないのか?

 

 オイルなどほとんど需要がない。

 

 御方々は民主共和制原理主義勢力の、南側諸国の北半球への進出を恐れているのだろうか。

 

 

 

 遅いです

 

 

 

 議長はチラリと左翼の約50席の議席を見る。

 

 いつ見ても連中は異様だ。まるで機械のような感情無き瞳。天使の如き爽やかな笑みを浮かべ、発言するときも厳かでもなければ、声を荒げるでもない。

 

 滔滔と穏やかに、相手の心に語りかけるように喋るのだ。

 

 

 日本民主共和党。

 

 

 最大野党である日本公民党に次ぐ野党で有り、その目的は。

 

 

 暴力によらない日本の民主共和制原理主義政権の樹立。

 

 

 民主共和制原理主義。

 

 その政体は古く、元を辿れば超古代文明時代にまで遡る。

 

 そう、大日本帝国の前身、神聖ブリタニア帝国の前進の前進、南天の前進の前進の前進。

 

 それらがこれに該当するが、民主共和制原理主義その物『原点に戻ろう』とする動きは、ここ、300年ほどの動きだ。

 

 彼らの言う原点とは。

 

 神という存在は紛うことなくこの地上に存在し、神に選ばれた神の代行者を頂点とする選ばれし民主主義の布教の先にこそ“絶対平和”は存在する。

 

 といった、民主主義で有りながら民主主義とは大きく性質を異にした、原始的な民主主義の亜種に当たる宗教的側面の強い物。

 

 E.U.ユーロピア共和国連合ことユーロユニバースの政治家の一部は、南側諸国を絶対的民主主義を確立するためならあらゆる手段が許されると妄信する、民主主義教の集団と呼んで恐れている。

 

 何故なら、ユーロユニバースは既にアフリカの半分を南側諸国に取られ、白いカーテンの向こう側へと隠されてしまっているからだ。

 

 それでも戦争とならないのはその国力の差ゆえ。

 

 ユーロユニバースが三つあっても二つ名の超大国たる『数の南天』には勝てないのだ。

 

 それほどの絶対的力の差が壁となって立ち塞がっている。

 

 ユーロユニバースの動かせる戦力。烏合の衆を集めに集めて1000万行くか行かないかだろう。

 

 だが南側諸国はその気になれば8000万の軍勢を動かせるほか、世界中に点在させている億を超える細胞を、非常時には動かせる。

 

 土台ユーロピア如きが足掻いたところで勝てはしない。

 

 そして議長の視線の先。真面目に議会に取り組み誰一人として欠伸一つしない、機械的に動く民主共和党の人間。

 

 彼らもまた細胞である事は分かっている。

 

 公然として民主共和制原理主義政党である事を掲げているのだから。

 

 ただ、彼らは暴力革命はしない。日本の法に則って天使の微笑みの仮面を片手に持ちながら、機械的に勢力拡大を図っている。

 

 しかし、そんな彼らもまるで思うように行かない現状に、昔から続く、500年前から始まった足利政権による政治改革で両手足を縛られ。

 

 現代に至っては、御方々によって、完全なる最重要監視対象にされて何かが起きたときには、全党員とその支援者の一斉検挙と制圧に踏み切られる指定対象とされてしまっている。

 

 両手両脚処か全身が雁字搦めにされているのだ。

 

(御方々の目の黒いうちは動けまい)

 

 天使の仮面を片手に、機械的な無機質な瞳の中に確かな憎悪を感じながら、議長は議題の続きの話を再開させようとしたとき。

 

 秘書官が青い顔をして飛んできた。秘書官は議長に何事かを耳打ち。

 

 議長の顔面が蒼白になっていく。

 

“ぼそぼそ……神聖ブリタニア帝国皇女マリーベル・メル・ブリタニア殿下、ならびにナナリー・ヴィ・ブリタニア殿下が公然と辱めを受け、ナナリー殿下に至っては傷害を負わされた模様……ぼそぼそ”

 

“い、一体何故なぜそんな事になっておるのだッ!! ……ぼそぼそ”

 

“そ、それが、先日より我が国帝都東京に於いてブリタニア帝国リーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢、シンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢、カレン・シュッタットフェルト辺境伯令嬢、ナオト・シュタットフェルト辺境伯令息、レオンハルト・シュタイナーシュタイナーコンツェルン令息への侮辱事件が次々と起こっており……ぼそぼそ”

 

“ど、どこも我が日本と強い経済的な結びつきのある大貴族ばかりではないかッ! 何故議題に挙げなかった! マスコミは! 貴族院は 公安はどうした、こ、この様なことが御方々に知られたら儂の首が……ぼそぼそ”

 

 その様な危険人物が、要注意対象者の話は。

 

“ま、まさかモニカ・クルシェフスキー卿をペンドラゴンの往来で侮辱したッ……ぼそぼそ”

 

“そう、です……入国管理局のチェック体制のミスです……ぼそぼそ”

 

“だ、だが、それにしても何故”

 

“よ、米内光政閣下の圧力があったとか……ぼそぼそ”

 

「い、いかんッ! 午後の議会は閉会とするッ!」

 

 その直後だった。議場に一人の人物が入って来たのは。

 

 誰もが知り、誰もが怖れ、誰もがおののく人物。

 

 それは御方々のお一人、阿部信行元内相にして、現内相を操っている男と目されている御方であった。

 

 衆院議長は慌てて阿倍の元に走って行くと、その場に跪く様にしてしゃがみ込む。

 

 汗がだらだらと流れ、床にシミを作っていた。

 

 仮にも衆院の議長にまで上り詰めている男が、前内相如きに何をと、事情も知らない野党や、若手議員などは不思議に思っていたが。

 

 御方々の実態を知っている者は皆顔面蒼白、民主共和党の面々は阿部ただ一人を見つめていた。

 

「特に、用事はありません。既にあなたもお気づきのようですから。情報の伝達が遅れた人間の首を飛ばしてきたところです」

 

「あ、あ、阿部閣下ッ、私めは先ほど――」

 

「遅い」

 

 阿部は一言言うと目をつむり。

 

「ロズベルトなる輩と米内男爵は以前より親交がありました。ロズベルトがペンドラゴンでクルシェフスキー卿を侮辱し、後、下位貴族のパーティに参加、その後ペンドラゴン国際空港より我が帝国へ向けて飛び立った。全て把握しております。現閣僚、議長、内務、外務、諜報担当者、全てが遅いです。……平和ボケ、しておりませんか?」

 

 阿部は特にクルシェフスキーへの侮辱と、件の男爵の入国時に動けなかった公安当局者に対して怒りを覚えていた。

 

「まあ、私が言うべき事ではありませんがクルシェフスキーはブリタニアの四分の一を影響圏に置いている超巨大貴族です。そのクルシェフスキーと最も親しいのは我が日本、経済的影響力は計り知れない。この様なことで喪われることがあってはならない」

 

 他の大貴族も全てそうですがと前置き。

 

「日本との繋がりが深い地域が彼の国には多いのです。ましてやこの度の失態。公安責任者と警備責任者の左遷は決定的でしょう」

 

 そうして阿部は振り返り。

 

 SPたちが開く扉から出て行きながら。

 

「帝国に無能は要りません」

 

 一言告げて出て行くのであった。

 

「…………いそ、げ」

 

 議長は汗だらだらの状態で。

 

「関係各所へ通達ッ。ただちに当該人物の身柄を拘束しろ! 貴族院、枢木総理にもッ、も、もう知らせている?! く、宮内省にも連絡をッッ!! ほ、報道はぎりぎりまで押さえろッ!!」

 

 

 ※

 

 

「脅かしすぎましたかね、コード、ギアス……南天……今回の件には南天が絡んでいます。侮辱事件その物は全くの別でしょうが、ロズベルトに南天の影が見えますしね、麻生外務大臣が辻さんに連絡を取っていたと仰いますし」

 

 阿部はSPを従えながら赤絨毯の上を歩いて行った。

 

 

 

 



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勘違いした田舎者 許されない男

 

「では、シンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢も、リーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢もやはり気にはして居らぬということか?」

 

 腰まで届くコルク色の波打つ髪。眼光鋭く顎髭を蓄えた美丈夫は、金色の肩パットを着けた裏地が白、表地が濃色紫マントを羽織り。

 

 赤と白で装飾され、下部にブリタニア皇家の紋章の入った衣服に身を包んだ彼は美しき令嬢両名に尋ねた。

 

 続き表地が青、裏地が白のマントを着た全身青い甲冑で身を固めた金髪の口ひげを生やした美丈夫も同様の問いをした。

 

「ローゼンクロイツ伯爵令嬢、ヴェルガモン伯爵令嬢、君たちが彼の男より受けた行為は我がブリタニアの階級制度の中に於いて万死に値する。君たち自身の手でその場で処刑しても何ら問題は無いという行いだ。日本でも伯爵家以上の上位貴族がブリタニアの下位貴族・平民に不敬を働かれた場合は切り捨て御免が許されている。君たちにはその資格があったはずだが?」

 

 赤いヘッドドレスを付け、真紅のドレスに身を包んだ、ステッキを持つ、身の丈よりも長く美しい金色の髪を、細く黒いリボンで頭の両側頭部高くで結い上げツインテールにしている深く青い瞳を持った少女。いや女性に話しかけた。

 

 同時に、紫色の“騎士服”に身を包み、裏地が紫、表地が薄い紫のマントを身につけた、こちらも腰下まで届く長い金色の髪を揺らし、エメラルドグリーンの双眸を持つ女性に問い掛けていた。

 

 先に答えるは真紅のドレスの小柄な女性。シンク・ローゼンクロイツであった。ローゼンクロイツ伯爵家の令嬢で、誰がどう見ても貴族の女性と映ろう女である。

 

「はい。僭越ながら申し上げます皇帝陛下。クルシェフスキー侯爵閣下」

 

 コルクの髪の男、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。

 

 金髪の美丈夫、神聖ブリタニア帝国西海岸諸侯盟主ジャン・クロード・クルシェフスキーは耳を傾ける。

 

 彼の無礼者を見逃したる理由を聞くために。

 

「確かにわたくしは髪や身体を触られようとされました」

 

 この発言に黙って聞いていた大日本帝国枢木内閣外務大臣、麻生良太郎――シンク・ローゼンクロイツの夫はぴくっと反応し、不機嫌そうに葉巻に火を付けた。

 

 如何な銃の名手でも目標が居なくてはどうしようもない。もう幾度めかとなろうが、シンクに触れようとしたと聞いた良太郎はフランク・ロズベルトを闇に葬る対象にまで格上げしていたりする。

 

「ですが分かっていたからこそその全てを躱して差し上げましたので、髪の毛一本、肌の一部分にまで触れられては居りません」

 

 だから被害は無く、対して気にはしていないという。

 

 だが、これに異を唱えるのはローゼンクロイツ伯爵夫人アリス。まるでシンクの生き写し、クローンであるかのような容貌を持つ六十代の女性である。

 

「シンクちゃんが気にしていなくても私とお父様は異なるわよ? だからこそローゼンクロイツ領からロズベルト男爵家へ経済制裁を掛けたのですもの」

 

 そうだ。既にローゼンクロイツ伯爵家からはロズベルト男爵家へ経済制裁が掛けられている。けして許されてなど居ないのだ。

 

 良太郎が葉巻を置いてシンクの髪のリボンを解く。右側のリボンがアヴァロンの床に付く。

 

「綺麗に清掃されてっから床についても問題ねえよ」

 

「……」

 

 そうしてもう一度同じ位置で髪を集めていく金色の美しく手触りの良い髪を、束ね集めて結わえる。細く黒いリボンを金色の束に巻き付けてしっかりと結んでいく。金色の髪が細く一本の束に結わえられていく。もう何度この髪を結わえただろうか? この髪の手触りはシンクが許した奴以外じゃ俺だけのモンなんだよ。

 

 どこぞの糞男爵が触ろうとしていいモンじゃねえ。良太郎にとってはいつもの事ながら、こんな大勢の前での髪結いは中々に恥ずかしい。だが、いまはそんな気分じゃ無いのだ。

 

「一々一回解いて置いてなんだがよ、しっかりと結んだぜ、髪」

 

 ふて腐れて言いながら葉巻を取り口に咥える良太郎

 

「リョウタロウ……」

 

 シンクは青く深い瞳でリョウタロウを見、アリスはうふふと微笑んでいる。娘婿が嫉妬してくれているのは母親として嬉しいのだ。

 

「い、いっくん負けていられませんわッ、はいッ」

 

 リーライナが山本に渡した物、ヘアゴムである。

 

「ポニーテールに結べとか、首の後ろで纏めてくれとかややこしいことをやれと言われても無理だぞ? やったことがない」

 

「なんでッ! わたくしの髪も長いのですから夫として結べるようにならなくてはいけませんわ!」

 

「ヘアゴムなんぞ一切使わん丸坊主の俺に無茶言うな! せめて麻生くんのようにリボンにしてくれ! そうしたら、か、髪の先の方なら結わえることも出来ないことも無いっ」

 

 真っ赤になって言う山本にリーライナは。

 

「いっくん!!」

 

 と場所も憚らずに抱き着く。

 

「こ、こらっ、お前の所の皇帝陛下や西海岸盟主殿の前だぞっ!!」

 

 山本はそれでも抱き着いてきたリーライナの明るい金色の長い髪に、五指を差し入れて、優しく梳き撫でる。

 

 リーライナの髪を撫でる事はけして嫌いでは無い。むしろその艶やかな触り心地が山本は好きであった。

 

「リーラ」

 

 指の股を滑り抜けていくリーライナの美しい髪。長い、腰の下まで伸びる彼女の髪を先まで撫で掬うのは大変だが、今はそうしてあげたかった。

 

「いっく、ん……」

 

 良太郎同様にリーライナのこの美しくある長い髪をどこぞの糞男爵に触られて居たかと思うとぞっとする思いだ。

 

 正直な所、山本は、酷い話だがリーライナ・ヴェルガモンという女の美しさに気付かれなくて良かったと思う。最も気づき迫られたところで実力的に無礼討ちにされて終わりであろうが。

 

 ただのボンボンと嚮導学校首席のエリートではそもそも実力が違いすぎるのだ。

 

 その様子を見てシャルルは一度目をつむる、三者三様夫婦の在り方にふっと口角を持ち上げ、再び目を開くと。

 

「なるほど。シンク嬢が特に気にしない理由は良く分かった……、が、貴族社会ではそれでも許されぬ行為を彼の男はしておるのだよ」

 

 

 

 馬鹿男爵 許されない男

 

 

 

「そうだ。たかが男爵家当主風情が私の娘モニカ、いや、ナイトオブトゥエルブモニカ・クルシェフスキー卿を大衆の面前で騎士侯風情と罵倒するという、ね」

 

 冷静に述べるシャルル、語気を荒げるクルシェフスキー侯爵。共に表情は穏やかだがその目はけして笑っては居ない。

 

「ヴェルガモン伯爵令嬢もローゼンクロイツ伯爵令嬢と同様の理由かな?」

 

「は、はい、そのわたくしの場合は罵声でしたが、別に罵声一つ日本の地で浴びせられたとしても殊更に問題視するほどのことでは無いと」

 

 リーライナの夫、山本五十六が帽子を目深に被り歯ぎしりをする。手はぎゅっと握られ血が滲んでいる。

 

 自分の妻を馬鹿にされて黙っていられる亭主が何処に居ようか。

 

「だが、夫君やヴェルガモン伯爵はそうではないようだよ」

 

「え、いっくん?」

 

「……すまんが、妻を侮辱されて黙っていられるほど俺は寛容では無いのだよ。ヴェルガモン伯も言って居ったよ。自分が何かをしなくても子が片を付けるでしょうとな。中々に計算高く怖い御仁だ。クルシェフスキー侯爵、貴公のところにも連絡が行っていたはずだ」

 

 え? とクルシェフスキー侯爵を見るリーライナ。

 

「ええ、まあ、来ておりましたよ。今後そちらにロズベルト家の先代が向かうからよろしく出迎えて上げてくださいとね。だから私は私なりによろしく出迎えました“会わない”という出迎えをね」

 

 一呼吸置いて。

 

「会うわけが無いだろう。スペアだからと碌に貴族教育もしていない先代当主と会って何を話す事がある。ごめんなさい、いいよ気にしなくて。そんなやり取りで収められるほどに私の心は広くないのだからね」

 

 思わずシャルルへのホットラインを開き、なぜ不問に処したのかと詰問したほどだとの告白に、皇帝に詰問できるだけの力を持っているのかと事情を知らない山本、リーライナは驚いていたが。

 

「シャルルとは付き合いも長くてね。それと私が西海岸諸侯の盟主としてブリタニアの四分の一近くを掌握しているというのもあって、まあ色々あるんですよ。ヤマモト閣下も似たような物でしょう?」

 

 暗に夢幻会の存在をちらつかせるクルシェフスキー侯爵。夢幻会の実態こそ知らずとも嶋田前政権が日本を支配し動かしているという話は、政財界の間では有名な話だ。

 

「ま、そういう事もあるでしょうな」

 

 山本は多くを語らず躱す。この場には妻も居るのだ。夢幻会の話を余りしたくは無い。

 

「まあ、いずれにせよ、ローゼンクロイツ伯爵令嬢、ヴェルガモン伯爵令嬢への不敬は完全なる不敬罪で死罪だ。これは我が国の国法故にな」

 

 始まりのモニカ・クルシェフスキー侯爵令嬢にしてナイトオブトゥエルブへの不敬行為で死罪。

 

 ヴェルガモン伯爵令嬢への不敬行為で死罪。

 

 ローゼンクロイツ伯爵令嬢への不敬行為で死罪。

 

 シュタットフェルト辺境伯令嬢・令息。

 

 ソレイシィ辺境伯令嬢、シュタイナーコンツェルン令息への不敬で死罪。

 

「こ、ここに、わ、わが娘マリーベル・メル・ブリタニアと、な、な、ナナリー・ヴィ・ブリタニアへの不敬と傷害行為で死罪。……よもや、よもやここまで……、ここまでこようとはなァ。全員が件の男爵を赦免したところで死罪は免れんのだ」

 

「そもそもこれはもうそんな話でも無くなっているんだ。大逆罪適用対象になる可能性が高い。南天と繋がるとはそういうことだよ」

 

 民主共和制原理主義。

 

 この危険な思想の持ち込みは大逆罪に当たる。国家への重大なる反逆罪だ。

 

「仮にソレが無かったとしても、私はフランク・ロズベルトを許さないけれどね」

 

「儂も、個人的に許すつもりは無い。……娘を侮辱されて怒らぬ親が何処におるというのだ……!」

 

 シャルルとクルシェフスキー侯爵の怒り。

 

 ロズベルト男爵を許したシンクとリーライナにも良く分かる。

 

 二人共に結婚している。シンクは良太郎と、リーライナは山本と。リーライナのお腹には既に子が居る。シンクも何れは子が産まれるだろう。その可愛い我が子を侮辱されて平静で居られるか? 居られるはずが無い。

 

 山本と良太郎は単純に妻への不敬が許せないのだ。アリスはシンクへの不敬が。

 

 それぞれ怒りを持つ者、持たぬ者を乗せたアヴァロンはブースターを全開にして最大船速で大日本帝国へと向かっていた。

 

 全ての元凶であるフランク・ロズベルト男爵の捕縛のために。

 

 

 神聖ブリタニア帝国下位貴族社交界

 

 

 このパーティには基本的に上位貴族の参加は許されていない。

 

 下位貴族には下位貴族のコミュニティがあるのだ。無論、上位貴族が紛れ込んだとしても、褒め称えられたり、人の輪が出来るだけで罪に問われることは無い。

 

 これが逆に上位貴族のパーティに子爵以下の貴族が紛れ込んだら大変だ。下手をすると処罰の対象となりかねない。

 

 最も、互いに互いのパーティを間違えることなんて滅多にあり得ない事だが。

 

「シャロン子爵夫人。お聞きになりまして、あの田舎者のロズベルト男爵のこと」

 

「ええ、ええ、それはもう、社交界、政財界で大騒ぎですもの。ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー卿への不敬に始まり、リーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢への不敬、両方とも罵声を浴びせたとか」

 

「信じられませんわ。たかだか田舎の男爵家風情がラウンズの方にして侯爵家令嬢のモニカ・クルシェフスキー様や、伯爵家ご息女のリーライナ・ヴェルガモン様へ罵声を浴びせるだなんて……なんという痴れ者なのでしょう」

 

 婦人達の噂話は続く。

 

「チェルシー男爵夫人、それどころかローゼンクロイツ伯爵家御令嬢シンク・ローゼンクロイツ様を遊興に誘い、シンク様の御髪やお身体に触れようと、セクハラに及ぼうとしたとか」

 

「まあッ! なんという怖れ知らずな下劣者なのでしょうッ!」

 

 婦人達は両手で自分の身体を守る様に抱き締める。

 

 自分自身がその身であったならばと考えると気持ちが悪くて仕方が無いのだ。

 

「更にわたくしが仕入れた情報ではシュタットフェルト辺境伯家御令嬢カレン・シュタットフェルト様、御令息ナオト・シュタットフェルト様、ソレイシィ辺境伯御令嬢マリーカ・ソレイシィ様、シュタイナーコンツェルン御令息レオンハルト・シュタイナー様を下女・下男と呼ばわりしたとか」

 

「な、なんて野蛮な、信じられないその様な不敬者が男爵家当主だなんて」

 

 田舎者だからという理由で彼女たちは侮蔑しない。

 

 ただただその在り方を軽蔑しているのだ。

 

 それもクルシェフスキー侯爵家を筆頭に。

 

 ヴェルガモン伯爵家。

 

 ローゼンクロイツ伯爵家。

 

 シュタットフェルト辺境伯家。

 

 ソレイシィ辺境伯家。

 

 と、不敬を働いている相手は全てブリタニア帝国でも有力な大貴族ばかりで有り、敵に回すなど恐れ多い貴族家ばかり。

 

 シュタイナーコンツェルンは大貴族では無いが有力企業の一つで有り、田舎男爵が逆立ちしても勝てる相手ではない。

 

 これらのどの家の貴族に不敬を働いても死罪は免れない。まだ生かされている方が不思議なのだが理由があった。

 

 いずれの不敬を働かれた貴族も不敬行為を許したのである。それは持ち前の優しさから出あったり、木っ端貴族を相手にしても仕方が無いからという理由もあろう。

 

 だが、その子の貴族まではそうはいかない、主君の姫を、王子を、馬鹿にされて黙っている子はいないからだ。

 

 結果としてロズベルト男爵家は経済制裁は掛けられるのは当然として、子の貴族からも無礼討ちの対象とされてしまっているのだ。

 

 クルシェフスキー侯爵家、ヴェルガモン伯爵家、ローゼンクロイツ伯爵家、シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、シュタイナーコンツェルン、子の貴族と影響圏まで考慮すれば凡そブリタニアの三分の一を敵に回している。

 

 貴婦人達は恐ろしい恐ろしいと口にしながらこの、前代未聞の事件、一男爵家がブリタニアの名だたる上位貴族への不敬を働いた事件の話題に終始していた。

 

 



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勘違いした田舎者 準備は整っていく

馬鹿男爵も破滅の時が迫っております。


 

 

 

「はあッ、はあッ、はあッ、マリーベル殿下だとッ?! ナナリー殿下だとッ?!」

 

 ナナリー殿下が日本にご留学為されているのはお聞きしていた。

 

 髪型がポニーテールで分かりにくかったが、あのコルク色のウェーブがかった長い髪。

 

 優しくも、意思の強そうな紫の双眸。藤色の美しく咲き誇る双眸。

 

 間違いようも疑いようも無い、ナナリー殿下だった。

 

 そしてマリーベル殿下が時折日本に訪問していることもお聞きしていた。下賤な平民の男に熱を上げていらっしゃると社交界で噂になっている。

 

 薄紅色のウェーブがかった長い髪をサイドテールに纏められ、白い私服をご着用であったから分からなかったが。

 

 強い意志の塊のような深く蒼い瞳。水底よりも深いディープブルーの瞳。

 

 知っている。俺はあれらの髪を、瞳を、遠目にだが見たことがある。

 

 あれは神聖ブリタニア帝国開国際の日。

 

 リカルド・ヴァン・ブリタニア大帝が神聖ブリタニア帝国を建国なされたお祭りの日。

 

 帝都ペンドラゴンのメインストリート。

 

 神聖ブリタニア帝国皇位継承順位第87位ナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女。

 

 神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア皇女。

 

 お二人のお姿を俺は目にしていたのだ。

 

 だが、だ。

 

 だが、この様なタイミングで両殿下とバッティングするなどと、誰が考えようか?

 

 はっきり言ってあり得ぬ事態。

 

 こんなこと、あり得てはならない事態だ。

 

 俺は大貴族だが、皇族にもの申すことなど出来ぬ。貴族と皇族ではそも階級的に大きな大きな天地の開きがある。

 

 ましてや俺はその皇族をマリーベル皇女殿下を下女と呼び、下の世話をさせようとしたッ。それも目の前でそれを告げたうえでだッ。

 

 皇族侮辱罪は死罪。そんな事はこの賢き大貴族フランク・ロズベルトなら知っている。

 

 そしてナナリー皇女殿下を名乗った女。いや、あれはナナリー皇女殿下に違いないッ!

 

 これについても傷害を負わせた。重罪だ。その上で侮辱までしている、し、死罪だッ。い、嫌だッ、死にたくないッ!

 

「お、おい、貴様、おいッ?!」

 

 後ろを走っていたはずの従者がいつの間にかいなくなっていた。

 

 何処へ行ったのだろうか? 気を利かせてスポーツドリンクでも……。

 

 いや、違うっ。違うぞっ。奴は、奴は逃げたのだ! マリーベル皇女殿下とナナリー皇女殿下に顔を覚えられていないだろう奴は、この俺を置き去りにして……!

 

「くっそ~~~~ッッ!!!」

 

 俺は死なんッ、死なんぞォォォ~~~ッ! 誰が大人しく法に従い死罪になどなってやる物かッ!

 

 この大貴族フランク・ロズベルトには絶対的階級があるのだ。大諸侯なのだッ。

 

 たかが非礼の一つや二つで首を飛ばしておっては、神聖ブリタニア帝国という国は回らなくなるだろうッ。

 

 とりあえず、安全地帯へ。確実なる安全地帯であるヨナイ卿の邸へッ。

 

 

 

 勘違いした田舎者 準備は整っていく

 

 

 

 米内邸

 

 

「はあ、はあ、ハアッ、ヨナイ卿ッ! ヨナイ卿はおられるかッ!」

 

 ヨナイ邸の警護の者達がなんだどうしたと群がってくるがええーい! 貴様等の相手をしておる暇は無いのだ。

 

「ヨナイ卿っ! ヨナイ卿っ!」

 

 大声で呼びかける。

 

 恥も外聞も無いとはこのこと。

 

 だが、いま落ち着いて物を考えられる思考にはないのだ。

 

 すると、邸の奥から黒髪の七三分けの男性。ヨナイ卿が姿を見せた。

 

「よ、ヨナイ卿ッ、み、ミツマサッ、助けてくれッ!! お、俺は」

 

 しかめっ面のヨナイ卿はとりあえず上がれと、招き入れてくださった。

 

「お前達は巡回に戻れ。これよりこの屋敷に近づく者は皆敵だと思い対処せよ」

 

『はっ! 米内閣下の仰せのままにっ!!』

 

 

 ※

 

 

「はあ、フランクよ。貴様大変なことをしてくれたな。クルシェフスキーに続きヴェルガモン、ローゼンクロイツ、シュタットフェルトにソレイシィ、シュタイナーコンツェルン。これだけの大貴族を敵に回して一体どうするつもりなのだ? え?」

 

「だ、大貴族??」

 

「そうだ、大貴族だ」

 

 何故だ? 何故ヨナイ卿は、ミツマサはこの大貴族フランク・ロズベルトがまるで相手にならないような目をしてみてくるのだ。

 

 こ、この俺は大貴族だ、木っ端貴族共とは違うのだぞ!

 

「や、奴らはっ、辺境伯だの伯爵だのと名乗って居ったのだぞっっ?! 存在しない貴族名を殊更に強調している奴らの何処が大貴族なのだ?!」

 

 私がそこまで言うと呆れた様にミツマサは首を振る。

 

「常識さえも知らんのかね君は。まず我が帝国の階級を提示しよう」

 

 上帝陛下

 

 御帝

 

 華族大公爵

 

 華族公爵

 

 華族侯爵

 

 華族伯爵

 

 華族子爵

 

 華族男爵

 

 士族

 

 平民

 

「上が最も尊く、下へ行くほど階級が下がる。華族は貴国で言う貴族だ。当然私は永代華族で爵位も嗣ぐことが出来る。で、何か気付かんかね? 子爵より上にある爵位に」

 

「ああっ!? 伯爵、侯爵」

 

「勉強不足の君に今伝授してやろう。ブリタニアの階級は全十三階級からなる」

 

 皇帝

 

 皇族

 

 ナイトオブラウンズ

 

 大公爵

 

 公爵

 

 侯爵

 

 辺境伯

 

 伯爵

 

 子爵

 

 男爵

 

 騎士侯

 

 武勲侯

 

 平民

 

「男爵は騎士侯以下と違い永代貴族だ。確かにな。だが、大諸侯というわけでは無い。大貴族というわけでは無い。今まで説明が面倒だったし自分で調べるだろうと思い放置して置いたらこれだ」

 

「で、では、大貴族とは?!」

 

「まだ分からんかね。伯爵から上だ。伯爵からが上位貴族・上級貴族と呼ばれる位階で、大貴族・大諸侯と呼ばれるのも伯爵から上だよ」

 

「し、しかし、家宰は男爵様は大貴族、大貴族だと。ち、父、あの老いぼれも子爵以上は教えてくれなかったぞ」

 

「家宰が間違っておるか騙されて居ったというわけだな。貴族としての教育については知らん。で、どうする。君は現役の第11階位ナイトオブラウンズに第8階位侯爵家の娘、第7階位辺境伯家の娘・息子、第6階位伯爵家の娘たちに不敬を働いた。もうニュースにもなっている。この屋敷を一歩出たら無礼討ちの対象となっているが」

 

 無礼討ち……死罪。い、嫌だっっ。嫌だっっ。

 

「し、死にたくない助けてくれミツマサっ!」

 

「ふ~っ、念のために言って置くが私は慈善家じゃあ無い。それなりの物は払って頂くが構わんね」

 

「む、無論だ、身に付けている物を売ればそれなりの金にはなるし。スイス銀行の方にもプールしている。庶民共から巻き上げた税金をな」

 

 にやりと表情筋が歪んだところへ付けていたニュースの臨時速報が流れる。

 

『臨時ニュース。臨時ニュースです。本日午後麻布近くの繁華街で神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア殿下、及び帰宅途中だった同国ナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下が罵倒され、ナナリー様は傷害まで負わされたとのことですっ。繰り返します、本日――』

 

「貴様か」

 

「ち、違うっ、俺は知らなかっただけなのだっ、両殿下だと知らなかっただけなのだっ、これではもうブリタニアに帰れないっ」

 

「ん? まだ知らんのか? もうお前に返る場所など無いぞ」

 

「……へ?」

 

 見せられた新聞。そこには滅茶苦茶に破壊された我が邸と連れ出される奴隷共、更には南天と繋がっていたという証明たる蒼天双翼光環旗が映し出されていた。

 

 膝から力が抜ける。魂さえも抜けそうになる。

 

「し、知らないっ! 俺は南天と繋がっていたことなんて知らないぞっ!!」

 

「だが、君の領地が発起点なる36の所領が南天の思想に染まり、20の所領が奴隷貿易を行っていたと書いてある。どの様な弁明も通らんな。我が日本には民主共和党という南天の思想を広める合法政党が存在しているが、確かブリタニアでは大逆罪ではなかったか?」

 

 また呆れた様子のミツマサはだが、どこか余裕がある。なぜそこまで余裕があるのだろうか。

 

「簡単だ。私は大日本帝国の華族。ブリタニアの法には縛られんのだよ。皇帝が相手であってもな」

 

 

 ※

 

 

 一方その頃、数々の事件のあらましを知ったモニカ・クルシェフスキーは嶋田の傍で不安を隠せないで居た。

 

「……陛下は、父は、お怒りなのでしょうか」

 

「どうして、そう思うのかな?」

 

「ロズベルト男爵領討ち入りに、私だけお声がけがありませんでした。リーライナ・ヴェルガモン卿、シンク・ローゼンクロイツ令嬢、そして陛下自らと動かずのクルシェフスキーと言われる父自らが動かれました。ですが、私には一言のお声がけも陛下は、父は私の甘い処遇に対し激怒なさっているのでは無いのでしょうか……」

 

 モニカの表情が曇る。

 

 もしもあの罵声を浴びせられたときに、自らが処罰していれば。

 

 もしもあの時、見過ごさなければこんなにも被害が大きくなることも無く、南天の思想がばらまかれるような、下手をすれば第二次大貴族連合の反乱に繋がるような大事になりはしなかったのでは無いか?

 

 ましてや父や陛下御自らが動くような大事には至らなかったのでは。

 

 何人死んだ? 自分の甘い対応のせいで無辜の民が何人死んだ?

 

「私は、私は取り返しの付かないことをっっ!!」

 

 頭をかきむしり悩み叫ぶ。無意味な行動をしている自覚はあってもそうせざるを得ない。

 

「私が、厳正な処罰をしていればっ、救われた命だってあったはずなのにっっ!!」

 

 ああ、心が壊れそうになる。ロズベルト家の現状は相当に酷い状況であったと伝わっている。カンザスの中小56家も。その少しでも自分は救えたはずなのに。

 

 カンザス150の貴族家の内、中小56貴族はお取り潰しになるでしょう。多くの迷い人も出してしまい、多くの生活が破壊される。その全ては私の責任。

 

 私は思わずマントの下に帯剣してある剣を抜剣し、自身を傷つけようとした。

 

 瞬間――。

 

「モニカさんっっ!!」

 

 嶋田さんが剣を握って私の行動を止めてきた。

 

「モニカさん。君が傷ついても、君が自分を傷つけても、何も帰ってこないんだ。寧ろ俺が後悔してしまう。君を傷つけさせてしまったその事に。君は俺に取って大切な女性だ。大切な女性が傷つくなんて耐えられるわけが無いだろう」

 

 ぽたっ、ぽたぽたっ、嶋田さんの手から血が、鮮血が流れ落ちる。

 

「あ、ああっ、わ、わた、私、嶋田さんをっっ、傷つけてっっ、あああああ―――ツっ!!」

 

「モニカさんっ」

 

 嶋田さんは剣を取り落とす私を強く抱き締めてくれた。

 

「ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーっっ!! 君は全ての人に平等に正義を降り注がせるんだろうっ!! だったら君自身にも平等に正義を降り注がせるんだっ! 騎士は強くあらねばならない民のためにもっ、君自身の為にもっ、こんなことくらいで弱気になるなっっ、今、君の仕えるべき皇帝陛下と、君のお父上が日本に向かってるっ、まず立ち寄るのは此処だろう。そして、君を連れて奴の捕縛或いはそう……成敗に向かうはずだ。君の汚名返上のためにっっ! だから、だから今は心を落ち着けて待てっ。ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーっ! そして、そして俺の大切なモニカっっ!」

 

 マントにぎゅっと皺が入る。強い強い抱き締め。血に濡れていない方の手で、強く強く抱き締められた。

 

 愛する男性に、愛する嶋田さんに。

 

 長い金色の髪が揺れる。赤いリボンと共に大きく揺れる。

 

「うっ、ああっ、ああああああ――っっ」

 

 決壊する感情。その想いの先には、暖かい男性の温もりがある。嶋田繁太郎さん。

 

 私は、モニカ・クルシェフスキーはこんな時でさえ、あなた様をお慕い申し上げているようです。

 

 その様な資格は、今の私には無いというのに。

 

 

 

 

 東京国際空港駐機場

 

 大日本帝国官房長官、澤崎敦は緊張していた。なにせブリタニアのシュナイゼル皇子の御座艦、アヴァロンに皇帝陛下やクルシェフスキー侯爵が座上してくるというのだから。

 

 枢木に出迎えに行って来いと言われたのがついさっきで、アヴァロンの方はもう到着していたのだ。ブースター前回できたのだろう。

 

 やがてアヴァロンの下部ハッチから降りきたのは。

 

 コルク色のウェーブがかった背中までの長髪。顎髭を蓄えた壮年の美丈夫。

 

 表地が紫色の、裏地が薄紫の色をしたマント。金色の肩パットに赤と白で纏められた衣服、衣服の下には皇家の紋章が刺繍してある。

 

 神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニアその人であった。

 

 そして続くは金色の月を思わせる短い髪に、口ひげを生やした美丈夫。表地が青、裏地が白のマントに身を包んだ青い騎士服の男性。現場が凍る、皇帝陛下に続き、彼の御方まで動かれているのだから。

 

 男の名はジャン、ジャン・クロード・クルシェフスキー。ブリタニア西海岸諸侯の盟主である。とんでもない大物の登場に、出迎えた者達の間には緊張が走る。

 

 更にアヴァロンから降りてくるのはシンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢と、その夫で澤崎のなじみ深い外務大臣麻生良太郎。そしてその隣にシンクそっくりの夫人の姿が。

 

(アリス・ローゼンクロイツ伯爵夫人っ!!)

 

(せ、鮮血の薔薇だっ!!!)

 

 そして最後に出てきた二人に閣僚達は卒倒しそうになった。

 

 一人は良く分かる。腰下まで届く長い金髪を風に揺らし、珍しくも騎士服にマントを羽織っている女性。リーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢。日本の駐日大使館勤務である為よく知っている。

 

 問題はその彼女と腕を組んで出てきた黒い軍服の男性。帽子を被っているから丸坊主の頭は見えない物の、よおく知っている。独特のオーラを出しブリタニア皇帝やクルシェフスキー侯爵に引けを取らない威圧感を持つ男性。

 

 元大日本帝国国防省、山本五十六であった。

 

(な、な、な、なぜ山本閣下まで)

 

 このメンバーが集まると威圧感が物凄い。

 

「よ、ようこそお越しくださいました神聖ブリタニア帝国皇帝陛下シャルル・ジ」

 

 澤崎敦官房長官が出迎えようとしたとき。

 

 当の皇帝陛下から待ったが掛かる。

 

「儂はランペルージグループ社長シャルル・ランペルージとして来ておる故にお気遣いは無用」

 

 無理があるだろう!!と思ったが口には出さない澤崎。世渡り上手なのだ。ああ、直美、直美の温もりの中で眠りたいよ。これも口には出さないが澤崎敦は己が愛する妻澤崎直美を求めていた。

 

「で、では、クルシェフスキー閣下は」

 

「あまり大げさにしなくていいよ」

 

 大げさにするよ! あんたら大人物ばかりなんだから。

 

「官房長官、官房長官」

 

「む、麻生外務大臣どうしたね?」

 

「この人等かなりお怒りでしてね。あまり触れない方が良いですよ」

 

「そ、その割に君は平気そうだな」

 

「ま、俺も当事者ですし。それに、こういう空気は慣れっこでさあ。それより全員分の車、用意してあります?」

 

「で、出来るだけ目立たないという要望だったのでリムジンは取りやめたが、二台分用意してある」

 

 それぞれが車に乗り込んでいく中、すまんなという皇帝陛下の気遣いの言葉と。ありがとう坊やというローゼンクロイツ伯爵夫人の言葉にぽーっとしていた澤崎だったが。

 

 気を取り戻すと。

 

「何をしとるっ!! とんでもないVIP方なのだぞ護衛を張り付けろっっ!!」

 

 と指示を飛ばすのであった。

 

 なお、枢木総理は総理官邸で皇帝陛下一行を待っていたがいつまでも訪れないので澤崎に電話を入れ。

 

 夢幻会は夢幻会側で腐っても華族である対米内に対する切り札を用意するため、宮内省と調整していた。

 

 



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帝都の休日&楽隠居?と円卓の少女 共通話
結集計りし存在、それは史上最大のレジスタンス


拙作の長編の中の一話なのですが欧州情勢解説の意味を含めて投稿したいと思います。
若干の加筆修正を加えております。



 

 

 

 

 結集計りし存在、それは史上最大のレジスタンス

 

 

 

 

 

 皇歴2019年4月末日

 

 

 

 極東では中華連邦より分離独立した新興国清と、清の属国でありながら南の大国と繋がっている高麗の胎動により動乱が巻き起ころうとしている中、もう一方の中心であるE.U.──ユーロピア共和国連合内でも長きに渡る政治腐敗のつけが噴出しようとしていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「欧州の犬めッ! この期に及んで更に税率を上げるだとッ!?」

 

 怒りを露にしながら振り下ろした拳をテーブルへ叩き付けるのは濃い口髭を蓄えたトーブ・カンドーラと呼ばれる白い民族衣装に身を包んだサングラスの男。

 

 男は憤懣やるかたないという様子で情報を持ってきたターバンの男に詰め寄る。

 

「四十人委員会のスポークスマン曰く、今までの低税率が金という血液の流れを悪くし、国を不況という名の病気に罹患させてしまったのだと息巻いておる」

 

 経済というものは金の流れが正しく循環してこそ正常に機能する。

 

 しかし一度国や個人が極端な蓄財と節約のみに走りだしてしまえば金の流れは堰き止められ、富の偏在が生じ、回るべき所に金が回らなくなる。

 

 金が回ってこなければ物を買うことも出来なくなり、物が売れなければ店は潰れ、回す店が無ければ物も作られない。となれば製造業その物が止まってしまう。

 

 社会や経済という血管に金という血液が流れなくなれば、やがては不況という名の病魔に犯され国は荒廃し滅び行く。

 

 これは帝国主義・民主主義問わず、社会を動かしているのが貨幣である以上避けて通れない問題だ。

 

「その血液の流れを悪くし上流にダムを造って堰き止めているのは目先のこと自分達のことしか考えていない身勝手な欧州自身であろうがッ!」

 

 しかしそれが人為的に行われているのならば、それは起こるべくして起こった不況であると言えよう。そして、人為的に起こす者達は皆自らの事しか考えない。

 

 政治的無責任主義。大衆迎合主義。無関心主義。ユーロピアに蔓延る民主主義の末期的な病巣。

 

 これらは総て自分達で作り出した悪性腫瘍であり、欧州諸国の国民と政府は何も手を打とうとはせずに唯症状が悪化していくのを黙って受け入れているだけ。

 

 その影響を最も受けるのは常に後回しにされ切り捨てられる事となる地方。特にアフリカ地域や極東ロシアといった辺境と、そこに住まう国民達だ。

 

「王侯貴族を追い出したのも、ナポレオンを処刑したのも、民主政治を選んだのも、総て欧州の奴らが勝手に行い我々を巻き込んできたのではないか! 我々はいつ如何なる時であろうと無関心でいたこともなければ上げるべき声とて上げ続けてきた! だが植民地扱いされている地方の声など欧州の連中は何一つ耳に入れようとはしない! 奴らの言う大衆迎合の『大衆』に我々地方の民は入っていないのだからなッ!」

 

 ユーロピア共和国連合という国は歪だ。

 

 自由と民主主義を謳い、努力すれば報われる社会であるとされながらも享受できるのは全体の一部。

 

 一部の富める者はより多くの富を得、今日食べる物にさえ有り付けない貧困層は年を追うごとに拡大。

 

 雇用もなく住む場所もない路上生活者が増加し行く状況にありながら福祉政策は縮小の一途。

 

 家が貧しいからと進学できない者に対しての救済措置であった奨学金制度も廃止。

 

 5%の富裕層と95%の貧困層という明確な線引きが生まれ、努力の報われない資本主義・民主主義となりつつあった。

 

 努力しようにも努力の場がない。

 

 雇用しようにも雇用できる企業がない。

 

 国庫に金がないので経済を立て直せない。

 

 力も発言権も常に中央政府・欧州が握っていながら何ら国を良くする政策を打ち出さず、

 

 目先の利益誘導を計っては膝元の欧州ですら廃れさせるという醜態を世界に晒し、現在進行形で荒廃を加速させていた。

 

 地方政策などは更に酷く、貧困の救済を行わない上に現地政府の住民に対する横暴な振る舞いを取り締まるどころか寧ろ加担しているくらいなのだから、

 

 これが本当に国民第一主義の民主国家、世界第五位の大国の姿なのかと疑いを持つほどだ。

 

 なぜこうなってしまったのか。それは言わずもがな国家が傾く程の大不況と建国以来延々続く野放図な国家戦略に原因があった。

 

 民衆の力で創り上げた人造国家には現代文明の命の源、世界一の財宝であるサクラダイト埋蔵量が少ない。

 

 本当は国土を隅々まで調査していけば未知なる鉱脈が眠っているかも知れないというのに政府は調査を行ってこなかった。

 

 豊かさを追い求めて始めた対外戦争も旧植民地にあったような小国相手ならばともかく、西へ進路を採りぶつかった極東の大国日本には逆に叩き返され、

 

 大国中華連邦との幾度にも渡る国境紛争では敗北して国境線を北側に押し上げられる始末。

 

 中央政府は『黄色い猿共の卑怯な戦法に敗れた』等の言い訳を述べていたが、日中戦争で日本に敗れた中華相手に劣勢を強いられている時点で、

 

 国民は自国が中華よりも下であると認めざるを得なかった。

 

 革命時に追い出した貴族達より財産を接収できなかった事で建国段階から躓いた国家財政。

 

 立憲君主と絶対君主の日ブが突出している為に後塵を拝し続け、浮上することなく今日まで来た技術開発と国内産業。

 

 20世紀に入ってからの戦争では敗戦続き。

 

 多額の賠償金を日中に支払い領土まで削られたとなっては景気が良くなる要素は皆無である。

 

 20世紀、21世紀、不況に続く不況。国難に続く国難に見舞われながら、それでも国が維持出来ているのはバラバラになれない世界情勢があるからに過ぎない。

 

 そうでなければ疾の昔に地域ごとの分離独立騒ぎが起こり空中分解していたであろう。

 

 そして地方諸国の者にとっては欧州人が持つ一種の国民病による悪影響もまた苦しみの一つ。

 

 欧州社会に古くから根付いている人種差別だ。

 

 昨今なりを潜めていたが極東の清国との対立が再び有色人差別を呼び覚ましてきたのだ。

 

 元よりユーロピアの首脳──四十人委員会が口にする『大衆』とは欧州の民の事であり、アフリカや極東といった地方の住民、特に白人以外の人種は入っていない。

 

 欧州の地方に対する差別意識は昔から何一つ変わって居らず、地方民は二等市民・三等市民であり、欧州の一等市民とは別枠なのだという区別すらされている。

 

 当然の事ながら民主主義・資本主義の根幹の一つである『機会の平等』も辺境地域の住民には担保されて居らず、年を追う事に中央との格差は開いていくばかり。

 

 更に長らく続く不況が欧州同様、それ以上の形と成って表れ、地方諸国を国丸ごと貧困層に変えてしまうという悪循環に陥っていった。

 

 無論こういった状況に、若者を中心とした現地住民の不満が爆発し暴動へと発展するケースもあったが、その殆どは武力鎮圧され後に待っているのは苛烈極まりない徹底した弾圧。

 

 国民主権たる民主国家で武力による弾圧など行えば普通は国民の手によって政権が崩壊するものだが、

 

 欧州に広がる差別と無関心主義が腐敗した現政権を支え続けている為、不健全極まりない国家体制が今尚維持され続けている。

 

『遠いアフリカで何が起こっていても自分達には関係ない』

 

 発言力も力も弱いアフリカ諸国は欧州諸国の心ある民衆に動いて貰うより手がないのが実情であるにも拘わらず、その欧州の人間が政治に無関心となっているのだから最早この国に自浄作用を期待するだけ無意味であった。

 

 地方・辺境に関心のない欧州人は地方は地方行政府で面倒を見るべきだとし、二等市民以下の人間が住まう旧植民地であったアフリカ諸国の事など知らないと総てを丸投げにしていたのだ。

 

 無論、欧州の人間にも言い分はある。

 

『国が傾くほどの大不況の中で他人の事など考えている余裕はない』

 

 今を生きるので精一杯になりつつあるのは欧州の人間とて同じ。

 

 差別主義者を除けば政府の地方政策はあまりに無責任なのではないかと考えている者もそれなりに存在していたが、自らや家族の生活とどちらを選ぶのかと問われれば彼等は迷うことなく自らを選ぶ。

 

 これを責める権利はやはり地方民にもない。余程の正義感溢れる者でない限り、自らが同じ立場にあるのならば自分を優先するのが人間なのだから。

 

 人は所詮誰かの犠牲の上に幸せを享受する。

 

 誰かが幸せならば誰かが不幸になる。

 

 皆が皆幸せを享受するのは不可能に近い。

 

 今のユーロピアは欧州が不幸でアフリカ・極東地方は更に不幸という、より不幸にならないようにするため互いに不幸の押し付け合いをしているような状況にあった。

 

 フランス州の大統領のように総てを現地政府に押し付けるのはどうかという最近になって意見を変えている政治家も少なからず居たが、所詮大勢ではなく極少数の意見でしかない。

 

 ましてや白人至上主義な人種差別主義者の多い欧州人が、如何に自治権を与えたとはいえ有色人種や混ざり物の為に自らを犠牲にしようと思うか? 

 

 答えは『否』であった。

 

 そんなことが幾度にも渡って繰り返されていればやがて体制に反旗を翻す勢力も出て来るであろう。サングラスの男が正にそれであった。

 

 実際彼はレジスタンス組織『サハラの牙』を率い、アルジェリアを中心にマグレブ全域で欧州への抵抗運動を続けている。

 

 彼が戦っている相手、今のユーロピア・アルジェリア行政府は欧州の犬と化しており、

 

 欧州同様に自浄作用が働かないという民主主義の末期的状態に陥っていた。正しく欧州の地方版とでも言うべきそんな状況だ。

 

 だが、いかに彼等が郷土を憂い抵抗運動をしようとしても、手榴弾や自動小銃、ロケット砲等の火器に少数のバミデスだけで強大な欧州軍相手に勝利を勝ち取る事など不可能。

 

 欧州はアフリカなどの反乱を防ぐべく抵抗運動を行う政治集団やグループには徹底弾圧の姿勢で臨み、戦車や戦闘機、パンツァー・フンメルまでもを投入してくるのだからその戦力差は歴然だ。

 

 国の土台が揺らいでいる中であっても対岸に位置するアフリカはマグレブ諸国への対応が迅速である辺り、流石は腐っても列強であると言えよう。

 

 ならば何もせずにただ指を咥えて見ているだけなのか? そう問われれば一口に違うと断言する。

 

 サングラスの男。サハラの牙の頭目でありマグレブ諸国内では『宰相』と呼ばれている彼は、自らが持つ人脈を頼り、

 

 予てより友好的な付き合いをしていた知人に協力して欲しいと、本格的な武装闘争が可能となるだけの武器を売って欲しいと商談を持ち掛けたのだ。

 

「金ならば幾らでも用意する。欧州との継続的且つ大規模な闘争が可能となるだけの武器を売って欲しい」

 

 ガナバディ。それが情報を持ってきた男の名であり宰相の協力者たる武器商人。

 

 裏の世界では有名な技術屋にして、大金を積めば世界中何処へでも戦車やKMFを届けてくれるインド人の男である。

 

 彼は得意先の一つであるサハラの牙とは設立当初からの付き合いがあり、同組織へは何かと肩入れをしていた。

 

 事実、同組織において最大手の武器供給元がこの大柄の男なのだから信頼関係も並の物ではないだろう。

 

「相変わらず大した品揃えだな」

 

「期待に応えられるかどうかは分からんが、それなりに自信はある品を取り揃えているつもりだ」

 

 ガナバディが手渡した写真にはマシンガンと固定キャノンが一対ずつ装備された無骨で丸みのある三本脚のKMFや、宰相も良く知る双頭のユーロピア製KMFパンツァー・フンメル等が写っている。

 

 他にも中華、ユーロピア製の戦車や対戦車砲から機関銃・拳銃。中には日本製やブリタニア製と思わしき重火器まで多種多様な商品が、リスト化されたマニュアルには載っていた。

 

「しかし未だ純正のKMFは無いようだな。ラプラタ戦争でその有用性が示されたというアレがあれば、欧州人との戦闘も優位に進められるであろうに」

 

「無茶を言わんでくれぃ。純正KMFだけは日本とブリタニアが第三国に輸出を始めん事にはどうにもならんよ」

 

 これだけ豊富な兵器を用意できる個人でやっている武器商人は世界広しと言えどガナバディくらいだが、それでも既存の陸戦兵器の概念を覆す戦闘力を持った純正のKMFだけは手に入れる事が出来ない。

 

 皇暦2010年。南ブリタニア大陸東海岸中部に位置する国──ラプラタ民主連合共和国の全権を掌握した民主共和制原理主義組織の暴発により勃発したラプラタ戦争(南ブリタニア紛争)では

 

 市街地・密林問わず、あらゆる環境下で高い機動性と地上走破性を発揮、まるでブリキの玩具を壊すかの如き容易さでラプラタの主力戦車を屠っていった人型機動兵器ナイトメアフレーム。

 

 その戦闘力の高さと地上戦での有用性は、ラプラタに投入されたという情報が秘匿されていたにも拘わらず、時を追う事に第三国の知る処となっていたが、

 

 開発国の日本とブリタニアが、保護国シーランド以外への輸出・ライセンスを認めていない為に実用化から二十年近くが経過した今現在でもその実態は謎に包まれている。

 

 それ故に、今もって純正KMFの製造が可能な国は大日本帝国と神聖ブリタニア帝国の二国のみであり他国では開発することすら不可能な先進技術の塊となっていた為、

 

 日ブに対抗しようとする列強各国は独自開発を試み完成させる以外に道がなかった。

 

 だが苦心の末に開発された中華連邦製の鋼髏やユーロピア製のパンツァー・フンメル、パンツァー・ヴェスペ、ガルドメアなどは所詮KMFに似せて造られただけのまがい物でしかなく、

 

 本当の意味で実戦においての日ブ製KMFの対抗馬と成れているのかは甚だ疑問となる処。

 

 列強で唯一蚊帳の外にいながら高度な技術力を持っていると目されるオセアニアならば既に開発・保有していても不思議ではない物の、

 

 此方はそもそも鎖国状態にあり、名称さえ不明なオセアニア製KMFを手に入れられる可能性は日ブ製KMF以上に低く、まるで話にならなかった。

 

 但し、宰相は物には例外もあるという事を知っている。

 

「しかし、先頃日本近海で拿捕された船から高麗製のKMFが発見されたというではないか」

 

 そう、大した国力もない極東の小国高麗が二大超大国しか開発できない純正KMFらしき物を保有している。しかもそれを海外に輸出しようとしていたという。

 

 となれば世界でも一、二を争う程に優秀な武器商人ガナバディなら既に実物を手に入れているのではと考えたのだ。

 

 しかし生憎と宰相の期待する返答を彼は持ち合わせていなかった。

 

「残念だが手に入れてはおらん。仮に手に入れたとしてもあの様な粗悪品を良品に改良したりするのはほぼ不可能だ。やってやれない事はないが費用対効果ではマイナスになるからのぅ。ましてやそのまま売るなど商人のプライドに掛けてもできんよ」

 

「そんなに酷い物なのか?」

 

「酷いなんてもんじゃあない。摘発した日本で調査が行われておるようだが、操縦した陸軍のKMFデヴァイサーが幾人か病院送りになっておるらしい。KMFのプロとも言える日本軍のデヴァイサーがだぞ」

 

 事実日本ではガナバディの言葉通り調査の途上で何人もの陸軍KMFパイロットが怪我をしている。

 

 その中には『若い軍人が弛んでおるから高麗製KMF如きに舐められるのだッッ!』

 

 と調査に当たっていた責任者の一人で、意気揚々と自ら乗り込んだ帝国陸軍大佐草壁如水も含まれていた。

 

「それにアレはブリタニアから漏れた技術を手にした中華連邦の宦官派が開発した品が流れ出た物だというから、高麗が開発した物でもない」

 

「宦官が?」

 

「ああ、高麗には宦官派……詰まるところ清国以外でまともな外交関係がある国は無い。宦官共が中華連邦──中華帝国にいた頃は高麗もまだ中華と付き合いがあったのだが、その最大の後援者である宦官が追い出された以上は中華にとってお荷物でしかないからと早々に縁を切っておるよ。何せ高麗と来たら自国の力では何もできん癖にやれ『竹島がー、対馬がー』と日本を煽るような事ばかりしておるでなあ。インド軍区もとばっちりを受ける可能性があるとして中華帝国側に再三高麗との国交断絶を提案しておったわい。知って居ると思うがインドも昔中華に付き合う形で日本とかち合って酷い目にあった事があるから高麗のおかしな主張を耳にする度に気が気ではなかったよ」

 

 インドには日中戦争で当時のインド軍区代表が大宦官の甘言に乗せられて、日本と連邦が係争中であった海南島と日本領台湾制圧の為に南シナ海へと送り込んだ連邦海軍インド洋艦隊を半壊させられた苦い経験がある。

 

 インドはあの一件から日本との武力衝突に発展するような危険を極力避けつつ、太平洋進出を堰き止められたことから反日姿勢を明確にしていた宦官達とも完全に関係を切っていた。

 

 太平洋戦争で明らかにされた日本の圧倒的なる技術力と物量を目にして、連邦の不穏分子である高麗半島を切り捨てるべきだと真っ先に発言したのも時のインド代表。

 

 このときはまだ日中戦争の敗戦から宦官が権勢を取り戻していない時期であったのと、時の天子も聡明な人物であった為にすんなりと事が進んでいた。

 

『高麗半島の民を中華より切り離すことは出来ぬか?』

 

 インド代表に先立って述べられた天子の一言に、中華も少しは良くなるのではと見直され、

 

 同時に宦官制度はいずれ連邦を荒廃させる要因となるのではないかという懸念をインド側に抱かせた時期でもあった。

 

 とにかく連邦が日本と衝突する要因は僅かたりとも残してはならないとインド軍区は動いてきたのだ。

 

「日本との緩衝地帯としてある程度は影響力を残そうというのが半島を切り離した後、次の天子へと変わってから、宦官の権勢が再び強まってきてからの中華帝国の方針であったらしいが、インドから言わせてみればとんでもない話だった。いやはや中華の連中がやることには毎度苛立たしい思いをさせられたものだ」

 

 その宦官達を切り離す歴史的快挙が成し遂げられたことに一番喜んだのは実はインドなのかも知れない。

 

 事此処に至って漸く連邦の癌を切除し、内憂を最小にまで抑え込む事が出来たのだから。

 

「少し話が脱線してしまったが、要するに高麗には日ブが開発したような兵器を独自開発できるだけの国力も技術力も無い。となれば自ずと答えは出て来るだろう? 少し前にも宦官と通じていたとされるブリタニアの貴族が幾人も逮捕されている。随分と前からの付き合いであったとされとるから、大方純正KMFの設計図か何かが渡っておったんだろ。高麗製KMFがサザーランドと類似しておったからには、恐らく清国が手にしたのもサザーランド相当の機体だ」

 

「清国がサザーランドを手に入れて保有しているやも知れぬと?」

 

「そういうことだ。独立したばかりの清国が大国E.U.相手に高飛車な態度を崩さぬ処か今にも攻め込まんとしておるのが何よりの証拠となっておるからのぅ。つまり中華もE.U.も、揃って宦官共に出し抜かれた訳だ」

 

「成るほどな……」

 

 国際政治の裏事情に詳しいガナバディの話を聞いて高麗のKMFの謎に一応の解を得た宰相であったが、だからといって清国へ打診してみるのもとは考えたりしない。

 

 清国が独立時に開催された六カ国協議の席で日本への挑発を行った事。以前より日ブと宦官派の関係は良好であったとは言えない事など国際社会では常識だ。

 

 敵の敵は味方というがそれも相手による。日本と敵対してでも清国製KMFを手に入れるだけの価値があるのかどうか? 一考の余地すらないだろう。

 

「何れにせよメイドインコリアの不確実な物を手に入れたところで御得意様である宰相さんに売るわけにはいかんよ。清国から買い付ける等の危ない橋を渡ろうとも思わんしな」

 

「そうか……、ん……・ならば仕方がないな」

 

 武器商人としての腕は確かな男がここまで貶めたように言うのならば余程扱い勝手の悪い粗悪品なのだろうと、一時はKMFの取得を期待した宰相も諦めるしかなかった。

 

 下手に手を出して乗り込ませた部下を事故で失うなど笑い話にもならない。

 

「ではフンメル20騎に鋼髏50騎。中華製98式120mm対戦車ロケットランチャー150。至急用意してくれ」

 

「やけに多いじゃないか。何かでかい作戦でも考えているのか?」

 

「……ペジャイア基地をやるつもりだ」

 

 ペジャイア。ユーロピア共和国連合アルジェリア軍の要衝である大規模な軍事施設。マグレブ地方防衛拠点の一つだ。

 

『極東で欧州と清国が激突する時に乗じての総攻撃』

 

 宰相の言葉に訪れる暫しの沈黙。これを断ち切ったのは他でもないガナバディだった。

 

「無茶だ……。お前さん死ぬぞ」

 

 レジスタンス組織『サハラの牙』はマグレブ全域に支援者を持ち中核構成員97,000名と規模が大きく資金も潤沢。

 

 とはいえ、所詮はアフリカの一武装勢力に過ぎない。

 

 10年ほど前に南ブリタニアで大暴れしたようなペンタゴン級の戦力も無ければ、何十万もの兵力がある訳でもないのだ。

 

 今までのようなゲリラ戦に徹するのならばともかくとして、アルジェリアの要衝ペジャイアを攻めるともなれば、E.U.正規軍との正面戦闘を覚悟しなければならない。

 

 残念ながらサハラの牙にE.U.正規軍を打ち破る程の力は無く、ペジャイア襲撃作戦などという無謀極まる作戦を実行に移せば一人残らず全滅するところが容易に想像出来るというもの。

 

「だが死ぬ気でやらねば何も変わらぬ! それともお前はこのまま身勝手な欧州に搾取され続けるのを我慢していろとでもいうのか!?」

 

 激昂する宰相。彼の言い分はわかる。ガナバディも裏家業をしている都合上欧州の金権政治や中華連邦大宦官の専横の実態を嫌と言うほど目にしている。

 

 そも彼の扱う商品に欧州製がある時点でユーロピア軍からの横流しによる裏ルート──不正行為が罷り通っているという証拠となっているのだから。

 

 中華連邦も宦官達が居た時代の裏ルートが幾つも存在しているから容易に商品を入荷できるのだが、それに比しても欧州はザルの様な状態であった。

 

 これが日本製やブリタニア製となると銃器一つであっても途端に入手困難となり、せいぜいが第三国輸出分のスペックダウン型が手に入るかといった程度で、多くを仕入れるのには困難を極める。

 

 鎖国状態にあるオセアニアもどうやら独自開発したKMFを配備しているらしいと裏業界の情報屋から耳にしていたが、此方も日ブ同様に入手不可な状態だ。

 

 それらと比較して欧州製が幾らでも手に入るのは、正しく政・官・軍、そして人心までもが腐り切っている証しであるとも言えた。

 

「お前さんの気持ちは分かる。お前さんを含むマグレブの住民の気持ちはな。だが今少しの間待つことは出来んか?」

 

「待つ? 一体何を待てばよいのだ。国際政治にも詳しく欧州のやり方を熟知しているお前ならば、今の奴らに期待できる物など何一つ残されてはいないという事が分っている筈だ。それに少し待った処で何が変わる? 待てば待つほどにマグレブの民の苦しみを長引かせ、無用な犠牲を増やすだけではないか」

 

 サングラスで隠れたその瞳はガナバディの小さな一言に対し静かな怒りの炎を燃え上がらせていた。

 

 このままでは近い将来民の暮らしは破壊される。アフリカの生き血を啜りながら今まで生きながらえてきた欲望塗れの欧州に……

 

「それでもだ」

 

 奴らに骨の髄まで吸い尽くされれば、その先に待っているのは慈悲無き結末しかないと切実に訴える宰相に、だがそれでも今暫し待てとガナバディは迫った。

 

「…………そこまで引き留めるからには何か理由が有っての事であろうな? 待つに値する何かがあるというのならば待つことも吝かではないが、唯危険であるから、適わないからという理由でならば最早私とサハラの牙は止まらんぞ?」

 

 玉砕の覚悟は固めている。例え勝ち目は薄くとも誰かがやらねば何も変わらぬ。我らが散ることで後に続く者達が必ずや現われ、いつの日か欧州の搾取より解放される日が訪れる。

 

 総てがたら・ればの希望的な話に過ぎないが、追い詰められた者達は止まらないだろう。

 

 何か一つの切っ掛けさえあれば崩壊してしまうであろう程に荒廃し切ったユーロピアは、彼らの血の犠牲により分解が早まるかも知れない。

 

 そうなれば南アフリカを除いて植民地扱いを受けているアフリカの国々も利益誘導の不当な圧政から開放される可能性は一層高くなる。

 

 だがガナバディは犠牲を抑えられる道があるのならばそれをこそ選ぶべきではないのかと説得する。

 

 流れなくても良い血。失われずとも良い命。その一滴一つが消えいくのを阻止したいが為に。

 

「理由ならばある」

 

「なに?」

 

「理由はあると言った。お前さん達に待って貰うに値するだけの理由がな」

 

 今日、彼が宰相との大口の商談に応じたのは、何も利益を得る為にだけや単なる仕事の一環としてのみではなかった。

 

 犠牲を抑えた上で圧政からも解放される道がある。これを伝えに来たのだ。否、これこそをメインに据えていたといってもいい。

 

「お前さんはユーロ・ブリタニアという組織、勢力を知っているか?」

 

「ユーロ・ブリタニア……。無論だ……知っているとも」

 

 ユーロ・ブリタニア。それは200年以上前に起こった欧州共和主義革命の際に、当時のE.U.統治者であった各国の王族・貴族の子孫達が神聖ブリタニア帝国にて結成した貴族の連盟の名。

 

「世界最大の軍事“勢力”の名でもある」

 

 現在ユーロ・ブリタニアは欧州奪還を目指して予備役と志願兵を合わせ凡そ4,500,000の総兵力を持つ正規軍を組織している。

 

 そして欧州大陸を席巻する為に必要なその大兵力に加え、陸海空の戦力もユーロピア軍を撃破するに足る物を要求し続け大きく膨張していた。

 

 満載100,000t級大型航空母艦ルイ・シャルル級10隻。

 

 主力水上艦艇220隻、潜水艦90隻、揚陸艦艇400隻、他補給艦・支援艦・ミサイル艇・哨戒艇・掃海艦艇等280隻。

 

 第5世代戦闘攻撃機5,100機含む主要作戦機7,900機、VTOL4,600機。

 

 アヴァロン級浮遊航空艦7隻、カールレオン級浮遊航空艦24隻、第5第7世代KMF8,500騎+予備機第4世代グラスゴー5,300騎(日本スメラギ製・ブリタニア製混成)

 

 G-1ベース30両、第3~4世代戦車14,000両、装甲戦闘車両29,000両、自走砲・野戦砲:21,000門、各種兵員輸送車等作戦車両多数。

 

 一組織・勢力でありながらも南ブリタニア全域、ペンドラゴン以南のブリタニアの一地方である中央ブリタニア地域・カリブ海地域に大きな権益と支援者を持ち、勢力全体の総合力としては世界第三位の大国オセアニアに匹敵するのではないかと目されている歴史上初めて現われた国土無き大国は、ブリタニア大陸東海岸・ブリタニア北部・カリブ海に拠点を借り受けつつ、“その時”に備えての強大な軍事力を作り出せる国力……いいや、組織力を蓄えていたのである。

 

 彼等の戦力はその総てが守る戦力に非ず侵攻作戦の為の戦力。

 

 間借りしているブリタニアの防衛も担っては居たが、“その時”は全力攻勢へと転換するという約定も定められていた。

 

 防衛力であり攻撃力である日本軍ともブリタニア軍とも性質が異なり、純粋に攻撃力としてのみ存在するのだ。

 

 守る物のない彼等だから、父祖の地の奪還のみを目指す彼等だからこそ整備可能となった軍隊。

 

 つまり事を起こすときにはユーロ・ブリタニアの全軍がブリタニア大陸の各所から出撃する事になるという、正しく侵攻軍としての性質を持って組織されていたのである

 

 無論彼の勢力がこれ程までに巨大化できたのは日本・ブリタニアという他とは比較にならない二つの超大国よりの莫大なる支援があったからに他ならず、

 

 組織一つで此処までの勢力に成長することは不可能であった。(日本はユーロ・ブリタニアの欧州復帰後を睨んだ支援でかなりの特需を得ている)

 

 間借りしているブリタニア大陸という広大で肥沃な国土とブリタニアが持つ大きな生産力。日本が持つ高度な技術力と膨大なサクラダイトの低価格供給。その総てを享受できる位置にある幸運。総てが複雑に重なり化学反応を起こして変貌した欧州貴族連盟組織──ユーロ・ブリタニア。

 

「なんとも想像を絶する『レジスタンス組織』よ……」

 

 これと比較した時、己が勢力サハラの牙のなんと儚く小さな事よ……。比べても意味は無いのだが、それでもサハラの牙にユーロ・ブリタニアの百分の一の戦力でもあればと考えずには居られない。

 

 ガナバディの話に己の非力さを痛感し唇を噛む宰相であったが、続く彼の話に目を剥いて驚く、または放心状態に陥る羽目になるとは、よもや思いもしなかったであろう。

 

「その大レジスタンス組織がどうかしたのか?」

 

「うむ……。実は先日な。そのユーロ・ブリタニアの聖ミカエル騎士団に所属しているアキトなる御仁と面会する機会があってな」

 

「聖ミカエル騎士団のアキト?」

 

「ああ、姓を名乗らなかったが恐らく間違いないだろう。ミカエル騎士団序列第二位──シン・ヒュウガ・シャイングの弟殿だ」

 

「なんだとッ……! ミカエル騎士団のシャイングの弟?!」

 

 ユーロ・ブリタニア精鋭四大騎士団の一つ、聖ミカエル騎士団。国無き国家勢力ユーロ・ブリタニアが誇る欧州奪還を目指して組織された正規軍より選りすぐられた300,000人規模の一大騎士団だ。

 

 同規模のラファエル・ガブリエル・ウリエルと合わせて1,200,000ともなる四大騎士団は、ユーロ・ブリタニア軍の通常軍とは別の同組織中核騎士団としてその名声を轟かせていた。

 

 ラプラタ戦争後より暫しの間続いていたペンタゴン残党による南ブリタニアの紛争や人質事件にも積極介入し、同じく派遣されていた日ブの対テロ対策部隊と共に、史上初と成るKMF機動戦闘を世に披露したのも同騎士団から派遣されたアシュラ隊と、シャイングの懐刀であるアキトの部隊であると言われている。

 

(一説には邦人救助とは別に、日ブユで当時第4第5世代機が中心であったKMFの実戦テストデータ採取の為の介入とも言われている)

 

「そのアキト氏からサハラの牙に伝えてくれと言われていた伝言だ」

 

 

 

『バラバラに戦っていては簒奪者の国に傷一つ負わせることはできない。今は堪え忍ぶときであり新たなる時代を担う優秀な者達の犠牲を最小限に抑えてほしい』

 

 

 

「新たなる、時代」

 

「遅くとも2020年代後半には全てが動き、2030年代には夜明けが訪れる。その時に備えての連携を模索していきたい。だそうだ」

 

「そんなにも早く……」

 

 いや、彼の組織ならば可能性はある。

 

 大国ユーロピアと正面切って戦い打ち勝つために堪え忍んできた彼等ならば或いは……。

 

 武器商人ガナバディは裏の交友関係がとても広く、日本やブリタニアの暗部組織にも知己が居る。

 

 今回の話、聖ミカエル騎士団序列第三位のアキトと目される人物と面会できたのもブリタニアの暗部組織、プルートーンの次代を担う騎士。

 

 ブリタニアのジヴォン家嫡男オルフェウス・ジヴォンの紹介であった。

 

 レジスタンス組織が無謀な攻勢を続けることにより、欧州民主勢力が経済問題から国民の目を逸らす為の大規模な弾圧を始めたりしないか? 

 

 またそれによって無辜の民の犠牲と共に、新生するユーロピアに必要であるマグレブ地方の優秀な人材が失われたりしないか? 

 

 そんな危惧を抱いたユーロ・ブリタニアはアフリカ各地で活動しているレジスタンス組織のこれ以上の暴走を抑える為、そしてレジスタンス組織と共闘態勢を築き外と内からの総攻撃を行う下準備として紛争地域の情勢に詳しく、幾多の武装勢力とも関係の深い武器商人ガナバディと接触していたのである。

 

「それに我らサハラの牙と連携だと……。それは……、それは我らを……我らサハラの牙を、ユーロ・ブリタニアの一翼を担う友軍として迎えるということなのか?」

 

「詳しくは話を伝えてサハラの牙の反応を観てからと言っておったが、まあそういうことで間違いなかろうて」

 

 200年以上も続く計画性無き国家運営により最早滅び行くしかなくなってしまった欧州。

 

 ユーロ・ブリタニアはその欧州を腐り切った簒奪者から取り戻し、民が安心して暮らせる平和で豊かな国へと造り替えるという大望の元、欧州解放を目指している。

 

 簒奪者の圧政よりの解放を目指すサハラの牙は正に自分達と同じ志を持ち同じ目的に向かって歩む同志。それはサハラの牙にとっても同じなのではないか。

 

「玉砕覚悟の無謀な闘争を行うのではなく、生き残って新しい国作りに参加してほしい。その為には個別に戦うのではなく力を合わせて共に戦うことが大事だ。もしお聞き入れ頂けるのならば後日改めて会談の場を持ちたい。それがアキト氏……ユーロ・ブリタニアからサハラの牙へ宛てられた伝言だ。どうだね宰相閣下。待って貰うには十二分過ぎる程の理由であるとは思わんか?」

 

「……」

 

「それに宰相。お前さんもマグレブ王族の末裔だろう?」

 

 マグレブ王族の末裔。かつてマグレブ地方に存在していた王朝の子孫。

 

「さてな……そのような大昔のこと、誰も覚えてはおらぬよ……」

 

 ガナバディの唐突な話を受け流した宰相であったが、確かに間違ってはいなかった。

 

 彼は欧州革命の発端である1789年までフランス王国の庇護下であったマグレブ王国。

 

 現在のアフリカ北部マグレブ地方北西部に存在していた王朝の血を引いていたのだ。

 

 皇暦1789年のフランスに端を発した欧州の民主化を目指す民主主義、共和主義の革命。

 

 この民衆中心の革命では政治を国民の手にという言葉を御旗に『王族貴族の存在は此を認めぬ』と欧州王侯貴族達が次々と断頭台に掛けられていった。

 

 悪政を敷いていた者は当然として、民の暮らしを第一に考え、弱者救済の善政を敷いていた王も、王の血族も、貴族の子弟達も、

 

 生まれて間もない幼子すらも、老若男女問わず王族貴族とその血を持つ者全てを処刑していった。

 

 同じ頃、欧州が王族と貴族と王統派の血で真っ赤に染め上げられていく中で、マグレブの王朝もこの革命への対応に迫られていた。

 

 次々と名乗りを上げる旧宗主国と友好国に成立していった民主共和制の新政権を認めるか認めないか? 

 

 認めて恭順の意を示す為に王室を廃し、革命勢力へと下るか? 

 

 しかし時の王は、王と国民は、欧州諸国の革命政権を認めないという道を選ぶ。

 

『フランス王室は長きに渡る恩人である。余は、余とマグレブの民は、友ルイ16世陛下と御一族を排斥せし簒奪者の新政権此を断固として認めぬッ!』

 

 君主制とは相容れない革命勢力の姿勢を目の当たりにした時の国王は、フランス王国改めフランス共和国(ユーロピアフランス州)となったかつての宗主国との国交を断絶。

 

 鎖国体制へと舵を切りつつ欧州より逃れてきたフランス王ルイ16世と王妃マリー・アントワネット始め幾つかの国の王族・貴族・王統派脱出の手引きを国を挙げて行った。

 

 保護された欧州の王族貴族は幾多の協力者とマグレブ王室の支援を得てその後新大陸へと渡り難を逃れることができた。だが革命政権を認めないとし、

 

 欧州国民の敵たる貴族を逃がす片棒を担いだマグレブに待っていたのは救い無き未来。

 

 皇暦1815年。革命の混乱が終息しつつあった欧州フランス共和国は、ルイ16世とその家族の逃亡を手助けしたマグレブを『人民の敵』『テロ支援国家』と断定。ドイツ・スペインと共に同国へと侵攻。

 

 元より大国フランスへ抗う術もないマグレブは懸命なる抵抗と国民の多大なる犠牲を払いながらも僅か2年で全土を制圧され降伏。

 

 国土はモロッコ、アルジェリア、西サハラに解体、王国は欧州革命勢力の分割統治下におかれ滅亡。当時の王とその一族は断頭台の露と消えた。

 

 こうしてマグレブ王室の血脈は途絶えた──かに見えたが、たった一人だけ生き残った者が居たのだ。

 

 それは当時まだ生まれてさえいない小さな命。

 

 最後の王が一度だけ関係を持ち身籠もっていた市井の女性。

 

 彼女の産んだ子。

 

 その赤子こそが宰相の祖先であった。

 

「お前さんがマグレブの民の未来を憂いておるのはそんな自身のルーツも関係しておるのではないのかのぅ」

 

 世が世ならマグレブ王家の一人として民を守り導く立場にあったかも知れないサングラスの男。

 

 政治体制や主義思想などどうでもいい。マグレブの民が幸せならばそれで。

 

 そう願うのは自らに流れる父祖の血がマグレブの民の安寧を求めているからではないのか? 

 

 彼はそう迫る武器商人の言葉にただ聞き入るだけ。

 

「お前さんの先祖は人助けをして国を滅ぼしたが、それは国民皆が共に望んだ信義に基づいてのことだ。それにあの当時の情勢下では仕方が無かろうて。革命勢力は自分達の旗頭であるナポレオンまでも断頭台に送りおったのだから時の王が暴走する民主勢力を危険だと断じ国交を断ったのも間違ってはおらんし、国丸ごと王統派のようなものであったマグレブに待っていたのは遅かれ早かれ大粛正だったろう。だが今は違うぞ。今のお前さんには選択肢が与えられとる。無謀な作戦で玉砕し欧州よりの更なる弾圧を誘発させるか? それともかつてお前さんの先祖が助けた者達と共に戦い、今度こそ民を苦しみから解放するのか?」

 

 極東での戦争に乗じる無謀な決起か? 

 

 それとも今暫しの間堪え忍び、万端の準備を整えた後にユーロ・ブリタニアと歩調を合わせて一斉蜂起か? 

 

「…………」

 

 どちらがより良い未来をマグレブの民にもたらす結果となるか。

 

 それは考えるまでもない事。

 

「それとな、先方が真っ先にサハラの牙を指定してきたのもサハラの牙が有力組織であるからではないぞ? 連中もお前さんの出自を調べ上げた上で声を掛けてきておる。義理堅い彼等は忘れておらんのさ。お前さんの先祖がフランス王族を助けた過去をな」

 

「……ふん。自分でさえ忘れている個人情報が駄々漏れではないか」

 

「要するにそれくらい調べるのは朝飯前な組織力を持っておるということだ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 後日、日ブの傘の下で平和を謳歌している中東の国クウェート王国にて、サハラの牙とユーロ・ブリタニアの共闘を確たる物とする調印が成された。

 

 事実上サハラの牙がユーロ・ブリタニアの傘下組織に収まるといった内容であったが、宰相は組織規模の圧倒的なる差からして当然の事として此を受け入れる。

 

 勝ち目のない絶望的な戦いが勝利を手にする為の戦いへと変わったのだから、なぜに否やと唱えられようか。

 

 

 

 ユーロ・ブリタニア聖ミカエル騎士団次席シン・ヒュウガ・シャイング。

 

 ブリタニア帝国ジヴォン家オイアグロ・ジヴォン、オルフェウス・ジヴォン。

 

 ブリタニア帝国ボッシ辺境伯家アルベルト・ボッシ辺境伯。

 

 加えてクウェート訪問中であった大日本帝国の吉田茂特使までが会するという、とても一レジスタンス組織との共闘に関する調印とは思えない面子にユーロ・ブリタニアが本気であると知った宰相は、近い将来実現するかも知れないユーロピアの、そしてアフリカの夜明けに思いを馳せるのであった。

 

 

 

 アフリカで最も大きなレジスタンス組織サハラの牙がユーロ・ブリタニアの傘下に収まった。

 

 これは瞬く間に他の反体制組織にも知れ渡り、各個バラバラで動いていた彼等は次第に一つに纏まる動きを見せ始める。

 

『ユーロ・ブリタニアと共にアフリカ解放を目指す』

 

 希望のない彼等の戦いに希望の火が灯り、燃え盛る業火となったのだ。

 

 勢い止まらぬ欧州貴族連盟──国土無き大国ユーロ・ブリタニア。

 

 欧州解放を目指す『レジスタンス組織』ユーロ・ブリタニア。

 

 彼等と一体となって闘争を始めた者達は皆感じていた。

 

 アフリカの夜明けは近いと……。

 

 

 

 

 

 終。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 2019年

 

 欧州貴族連盟軍ユーロ・ブリタニア

 

 最高司令官:オーガスタ・ヘンリ・ハイランド大公(ユーロ・ブリタニア宗主ヴェランス大公)

 

 志願制

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:4,570,000名(予備役含む)

 

 作戦機:7,900機(第五世代戦闘攻撃機5,100機)

 

 VTOL:4,600機

 

 浮遊航空艦艇:31隻

 

 KMF:8,500騎+予備役機5,300騎(スメラギ製・ブリタニア製混成第5第7世代。第4世代予備役機)

 

 G-1ベース:30両

 

 戦車:14,000両(第3~4世代)

 

 装甲戦闘車両:29,000両

 

 自走砲・野戦砲:21,000門

 

 航空母艦:10隻

 

 主力水上艦艇:220隻

 

 揚陸艦艇:400隻

 

 潜水艦:90隻

 

 他補給艦・支援艦・ミサイル艇・哨戒艇・掃海艦艇等:280隻

 

 各種兵員輸送車等作戦車両多数

 

 

 

 ルイ・シャルル級航空母艦

 

 ネームシップ一番艦 ルイ・シャルル

 

 就役中 10隻

 

 前期型 5隻

 

 

 

 基準排水量 80,700t

 

 満載排水量 102,800t

 

 全長    332.8m

 

 全幅    41.2m

 

 最大幅   77.1m

 

 吃水    11.2m

 

 速力    30kt

 

 主機    ルイ・シャルル級専用エナジーフィラー/同プラズマモーター4基

 

 推進    スクリュー

 

 軸数    4軸

 

 機関出力  260,000馬力

 

 カタパルト 電磁式4基

 

 兵装    20mm機関砲 3基(近接防御火器装置・毎分3,000発)

 

 8連装対空噴進弾発射機 2基

 

 21連装対空噴進弾発射機 2基

 

 艦載機   70~90機

 

 乗員    5,600名(操艦要員:3,100名)

 

(航空機搭乗員・整備員:2,500名)

 

 4個戦闘攻撃飛行隊(第五世代ステルス戦闘攻撃機:44機)

 

 1個電子攻撃飛行隊(電子戦機:5機)

 

 1個早期警戒飛行隊(早期警戒機:5機)

 

 1個VTOL海上作戦飛行隊(VTOL:12機)

 

 無人攻撃機(6~12機)

 

 他、艦隊後方支援隊

 

 

 

 ルイ・シャルル級航空母艦後期型 5隻

 

 

 

 基準排水量 81,700t

 

 満載排水量 103,900t

 

 全長    334.8m

 

 全幅    41.6m

 

 最大幅   78.2m

 

 吃水    11.3m

 

 速力    32kt

 

 主機    改ルイ・シャルル級専用エナジーフィラー/同プラズマモーター4基

 

 推進    スクリュー

 

 軸数    4軸

 

 機関出力  280,000馬力

 

 カタパルト 電磁式4基

 

 兵装    20mm機関砲 3基(近接防御火器装置・毎分3,000発~4,500発)

 

 8連装対空噴進弾発射機 2基

 

 21連装対空噴進弾発射機 2基

 

 艦載機   75~95機

 

 乗員    4,780名(操艦要員:2,280名)

 

(航空機搭乗員・整備員:2,500名)

 

 4個戦闘攻撃飛行隊(第五世代統合打撃戦闘機:48機)

 

 1個電子攻撃飛行隊(電子戦機:5機)

 

 1個早期警戒飛行隊(早期警戒機:5機)

 

 1個VTOL海上作戦飛行隊(VTOL:12機)

 

 無人攻撃機(6~12機)

 

 他、艦隊後方支援隊

 

 

 

 皇暦1970年代以降、同盟国である大日本帝国と神聖ブリタニア帝国が相次いで満載排水量100,000t超の大型航空母艦(スーパーキャリアー)を

 

 開発していく中で、欧州奪還を目指すユーロ・ブリタニアも独自の大型艦が必要になるとの趣旨のもと1982年~2019年にかけて開発された航空母艦。

 

 ブリタニアの空母を参考に1番艦よりステルス機の運用をも想定した設計と、ステルス船型を採用。

 

 開発年代が長期間に及ぶため1艦ごとに性能が向上しており、各艦で別々の型といっても過言ではない差が表れている。

 

 大出力大容量のルイ・シャルル級専用エナジーフィラーの採用で世界中どの地域においても無補給による長期作戦行動が可能となっており、それまでのユーロ・ブリタニアが採用していた空母の凡そ2倍の航空機兵器搭載能力を誇る。

 

 尚、後期型となる6番艦からは日ブ同様に大幅な改良と自動化がなされ兵器搭載量・レーダー性能・着艦制動装置が異なるなど、5番艦以前とは明らかに違う艦級となっていたが、日ブが開発した満載排水量130,000t級超大型航空母艦(メガキャリアー)の存在により同級後期型として扱っている。

 

(例:6番艦以降の艦は5番艦までと比較して兵器・弾薬・物資搭載量が2倍以上)

 

 

 

 

 

 旧マグレブ王国

 

 面積 3,095,000km2

 

 領土

 

 モロッコ

 

 アルジェリア

 

 西サハラ

 

 

 

 サハラの牙2019年時(ユーロ・ブリタニア傘下組織となる以前)

 

 指導者:サングラスの宰相

 

 総兵力:97,000名

 

 KMF:110騎(パンツァー・フンメル30騎、鋼髏70騎、バミデス10騎)

 

 トラック等各種作戦車両:300両

 

 サングラスの宰相は『コードギアス双貌のオズSIDEオルドリン』の第1巻にMask:02緋色の剣に登場する脇役人物で、過去設定は当方オリジナルとなっております。

 

 

 

 




脇役や名無しの人物にスポットを当てたいわけですね。


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武器商人と魔法使いと変わり者

対立が無いからこそジヴォン家の人間として真っ当に育ったオルフェウスの悩みと、原作ではオルフェウスに倒される運命だった辺境伯。そしてオルフェウスの頼れる知人であった武器商人の小ネタです。
蒼の混沌掲示板様投稿時より若干の加筆修正を加えてあります。




 

 

 

 

 武器商人と魔法使いと変わり者

 

 

 

「相変わらず法の網をかいくぐっての商売をしているようだな」

 

 己の役目を果たし後にクウェートの某所にて久方振りと成る息抜きをしていたガナバディが気配無く現れた声の主に振り返ると、自身のすぐ背後に黄金色の短髪と緑色の瞳を持つ少年が立っていた。

 

「おお、お前さんか」

 

 一瞬警戒した彼は声を掛けてきたのが知己である少年だと知り相好を崩す。

 

 視ると少年は一人ではなく、前面に突き出した形の特徴的な帽子を被り、正装であるマントを羽織った、三十代と見られる男性を引き連れていた。

 

「ほう。シュナイゼル皇子の直参であるボッシ卿までお揃いとは……。オレの様な一介の善良なる商人に、プルートーンの暗殺者と辺境伯が揃ってなんの用かのぅ」

 

「なぁに。世界中の武装勢力相手に手広くやって儲けている武器商人殿が、我が国の看過出来ぬ品物まで取り扱っていないか探りを入れにな」

 

 猛禽類の如くつり上がった目と高い鼻を向けたボッシ辺境伯はしかし不穏な空気など放ってはおらず、久しぶりに再会した友に挨拶を交わすが如き気安さでガナバディの肩を叩いた。

 

「久しいなガナバディ。ジヴォン卿……オズ殿とは時折会っているようだが、私とは何年ぶりになるか?」

 

「そうさのう、イラクのサウジ侵攻後だからかれこれ──」

 

 ブリタニアジヴォン家嫡男オルフェウス・ジヴォン──通称オズと、同じくブリタニアのボッシ辺境伯家当主アルベルト・ボッシ。共に彼の友人であった。

 

 オズとは武器商人という裏の仕事をしている関係から。ボッシとはイラク社会主義共和国によるサウジアラビア王国侵攻時に、クウェート領内で同国軍と行われた日本陸軍とブリタニア軍アルガトロ混成騎士団の軍事演習の際にそれぞれ知り合っていた関係で、今も情報のやり取りを行っている立場を超えた友人達である。

 

 三人は何をするでもなく談笑に興じる。早々会う機会もないのだから余計な事は忘れて楽しめばいいとして。

 

 そこに違法な兵器売買を捜査に訪れた騎士団長と暗殺者、裏の世界では名高い武器商人といった立場を持つ人間の姿など何処にもない。

 

「そういえばオズ。お前さんの妹殿、南ブリタニアで大活躍したそうじゃないか。アニキとしてはかわいい妹殿の活躍に鼻高々だろう?」

 

「かわいければ良いがアレは唯がさつなだけだ。次期ジヴォン家当主として婿取りをしなければならないというのに、マリーベル殿下の騎士になってからというもの戦ってばかりでな」

 

 そう言って溜息を付くオズであったが、これを観ていたボッシが『婚約話が無いオズ殿も人のことは言えんだろうに』等と突っ込む。

 

「オレのことは良い。オレは家を継ぐ身ではないからな。それにオレには好きな女性がいるのだから妹とは条件が異なるだろう」

 

 好きな人が居る。溜息と共に浮かない顔を浮かべたオズに話を振った当のボッシは一度口を閉ざす。

 

 彼の好きな相手とは彼が任務の途上で偶然知り合った平民の少女。溜息の原因は其処にあった。

 

 ジヴォン家は爵位こそ低くともブリタニアを影から守る家系である為に、その重要性の高さから平民との恋愛は些か困難なのである。

 

 といって彼はその女性以外の誰かを紹介されて好きになれ、一緒になれと強制されたところで従うつもりなど無い。

 

 貴族と平民……身分差のある恋というものは多分に問題を孕んでいるのだ。

 

「しかしオズ殿。オリヴィア殿にどう切り出されるおつもりなのだエウリア嬢のこと。このままでは何も解決できんぞ」

 

「頃合いを観てとは考えている」

 

「そんな悠長に構えていては事は進まんッ! さあ動けッ! すぐ動けッ! いま動くのだッ!」

 

 なぜか熱く語るアルベルト・ボッシだが、無論言うまでもなくオズの恋愛事情に彼の熱くなる要素が含まれているからだ。

 

「私もかつて当たって砕けろで今の妻を娶ったのだ」

 

 アルベルト・ボッシ辺境伯、彼の奥方は一般庶子。平民の出であった。

 

 そう、オズと同じく彼もまた身分差のある大恋愛を乗り越えて現在の妻と結ばれたという過去を持っているだけに、オズの話が他人事ではないのである。

 

「ほうボッシ卿も身分差の恋だったのか? それはさぞ問題を孕んでいたことであろうなぁ」

 

 初耳だったガナバディは良く御両親が承知したものだと関心を示したが、ボッシはというと首を振って否定。

 

「もちろん父上・母上には猛反対されたさ。平民差別ではないぞ? 階級差の大きく離れた女性と結婚して貴族社会に無理に引き入れ、それでその女性を幸せにできるのかとな」

 

 階級差のある結婚は大変だ。

 

 平民と貴族は住んでいる場所も生活スタイルも違いすぎる。

 

 当然貴族の家に嫁ぐとなれば平民として一切縁の無かった社交の場にも出なければならない。

 

 生まれたときから身に付けてきた貴族の作法、その家が抱える領地や企業の経営。

 

 国家の要人にも顔を合わせたり、他国への表敬訪問とて行わなければならないのだ。

 

 時にこれらを当主に代わって代行することさえ有り得るのが貴族の伴侶と成る者の勤め。

 

 自由を謳歌できる身である平民庶子に、堅苦しく自由のない貴族の生活が堪えられるのか? 

 

 相手方を不幸にし、自身と自身の家も不幸にするのではないか? 

 

 そもそもにして貴族の嫡子に自由恋愛など許されてはいない。

 

 血脈と家を存続させ続ける為に採られる政略的結婚が殆どで、望む相手と結ばれる方がレアなケースなのである。

 

 領地には領民がおりその領民達の生活も領主たる貴族の身の振り方一つで大きく変化する。

 

 もしもその婚姻が遠因と成って家を没落させ、家臣や領民を路頭に迷わせる事あらば、責任は総て身勝手な行動を起こした貴族に有り。

 

 階級差のある結婚はとかく問題を孕み過ぎているのだ。

 

 自らの親族、仕えている家臣、生活を預かっている領民。

 

 勝手な婚姻はその総てを破壊しかねない。

 

 大抵は此処で躊躇するもの。責任感有る貴族で有れば普通は家を考えて自分を殺すだろう。

 

 だがボッシは、このアルベルト・ボッシという男は違っていた。

 

 自らの意見を反対する両親に対し押し通してしまったのである。

 

「だから私は妻と両親の目の前で拳銃をコメカミに当てながら宣言したのだ。『私と結婚すれば貴女は辛い思いをするかも知れないッ! だが貴女と結婚した私は幸せだッ! 貴女を愛する私の為に私と結婚して私を幸せにして欲しいッ! それとも貴女は身分差から諦めて不幸にさせてしまうのかこの私をっ! 父上母上は私とこの方の結婚を反対して私がこの場で死んでも良いと仰るか!? 先に言っておくが私を幽閉しようとしても無駄だぞッ、私は彼女と引き離される事が決まった瞬間にどたまぶち抜いて死んでやるからなッ! さあどうする!? さあどうするのだお三方ッ!!』とな」

 

 自慢気味に語る彼の話を聞いて呆れたのはガナバディ。

 

「なんちゅう自己本位なプロポーズをしおるんだ……。ボッシ卿、お前さん真性のクズの素質があるぞ?」

 

 ボッシの話はプロポーズでもなんでもない。

 

『俺と結婚しなければ死んでやるッ! オレの結婚を認めなければ死んでやるッ!』

 

 これは単なる脅迫である。此処でこうしてのんびりしていられるのが不思議なくらいの。

 

 彼が自分で言ったように幽閉されていてもおかしくない精神錯乱状態でのプロポーズだった。

 

「だが結果的にこのプロポーズは成功したのだッ! こんな自分の様な女を死を覚悟する程に好いてくれているアナタが幸せならば私も幸せだとッ! 貴族の作法も一から覚え社交界に出ても恥とならぬボッシ家の嫁になってみせるとッ!」

 

「だからそれはプロポーズではなく脅迫だと言うとろうに……。それにお前さんの嫁も大した玉だわい。どう考えてもそのときのお前さんは普通の精神状態ではなかったであろうに……」

 

「ええいうるさいッ! とにかく彼女は見事ボッシ家の嫁として何ら恥じ入る事なき淑女となり父も母も認めてくれたのだッ!」

 

 奥方の能力の高さと度胸。それに愛。父母と家臣と領民の理解。

 

 総てが上手く重なり合った結果である大変珍しいケースであった。

 

「変わり者同士だったのとお前さんの御両親と家臣、周りの人間が寛容であったお陰で事なきを得た訳か……。まあ平民と貴族で上手くいった例も知ってはおるがこれは完全に特例だな。オズ、悪い事は言わん。この精神錯乱自己中男の話は鵜呑みにせず、お前さんはお前さんのやり方で彼女さんとやらとの未来を考えろ。無論自分の立場も踏まえてだ。こんな馬鹿のレアケースなんぞ絶対参考になりはせんからな」

 

「さっきから失礼だぞガナバディっ! 何ならオズ殿とプルートーンになり変わり、私と我がアルガトロ混成騎士団が貴様を違法な兵器売買の元締め──死の商人としてこの場で拘束してやっても良いのだぞ!?」

 

「頭に血が上りすぎだ。お前さんはたかが商人一人を拘束するのに軍隊まで持ち出さんとやれぬ無能者なのか?」

 

「国際的に有名な武器商人を捉えるのだからして当然である!」

 

「はぁ……やれやれ。アルガトロ混成騎士団はシュナイゼル皇子麾下の精鋭。その長であるお前さんにこうも冷静さが足りぬとは……気を付けておかんとそのうちに解任されおるぞ?」

 

「貴様になど心配されなくとも私は常に冷静だっ!!」

 

 けして参考にはならないボッシの熱い自分語りと、その後に始まった二人の口喧嘩を横目に、オズは深い深い溜息を付くのであった。

 

 

 

 




原作の悲しみは出来る限り消し去りたいわけですね。


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楽隠居?と円卓の少女外伝(本編とは異なる別の世界線ナチスユーロピア)
宿敵(とも)時空を超えて


これは蒼の混沌掲示板様にある【提督たちの憂鬱×コードギアススレ】の最初期に書いた作品で、私のもう一つのシリーズ物である【円卓の少女シリーズ】所謂モニカルートのパラレル的な話として書いておりました。
若干の修正が入っております。
嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキーという年齢差著しい作品となっております。
とても短い小さなネタとなっております。
設定などかなりいい加減ですがお読みくださると幸いです。


 

 

 

 

 宿敵(とも)時空を超えて

 

 

 

 後進の指導も上手く行き政界も夢幻会も完全に引退した嶋田繁太郎は漸く手に入れた平穏静かな老後を大いに満喫していた。

 

 数年前に結婚したモニカとの間に生まれた子供(女の子)の世話も最初の頃は大変だったが今では手慣れて名実共に立派な主夫となっている。

 

「ふぅ、やっと寝てくれたか」

 

 ぐずる子供をあやし続けていた彼は、子供が腕の中で目を瞑って寝息を立て始めたのを見て一息付く。

 

 そのまま起こさないようベビーベッドに寝かせて布団を掛けてあげると、溜まっていた洗濯物を洗い始めた。

 

 殆どの家庭では妻がするそれらの仕事を難無くこなしている辺り、主夫というのは意外に向いているのかもしれない。

 

「後は干すだけだな」

 

 すすぎ終えた洗濯物をかごに放り込み庭にある物干し竿に掛けていく。

 

 かごは下に置いてあるため立ったりかがんだりを繰り返す訳だが、海軍時代とそれに続く政治家人生の激務で鍛えているお陰か

 

 腰に掛かる負担の割には痛みを感じない。

 

「よしっ、洗濯物はこれで終わりだ」

 

 後は買い物だと思い冷蔵庫を空けてみる。

 

「ん~まだ大丈夫かな」

 

 食材は十分残っていた。

 

 嶋田家は彼とモニカと子供の三人家族だが子供はまだ離乳食を食べているところなので実質二人分あれば事足りる。

 

 追加で買いに行って調理が遅くなっては消費期限が切れてしまう事になりかねない。

 

「今日は買い物は無しだ」

 

 そうなると夕飯まで丸々時間が空くことになる。

 

 植木いじりでもするか、昼寝でもするか、それとも本を読むか。

 

「平和だなぁ~」

 

 これだよこれ、こういうのんびりした老後を夢見ていたんだ。

 

 彼はいま憧れていた生活のまっただ中にいた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「ただいま帰りました」

 

 玄関の戸が開く音と共に若い女性の声が聞こえた。

 

 安楽椅子でうたた寝をしていた嶋田はその声を聞いて起き上がると玄関まで迎えに出る。

 

「お帰りモニカ」

 

「ただいまです」

 

 嶋田の出迎えに歳の離れた若い金色の長い髪の女性が抱き着いてくる。

 

 ナイトオブトゥエルブ、モニカ・S・クルシェフスキー。彼の愛おしい妻だ。

 

「ん」

 

 そのまま交わされるただいまのキス。

 

 いってらっしゃいとただいまのキスは毎日欠かさないのだ。

 

「制服のまま帰宅とはめずらしいね」

 

 出勤時と帰宅時は私服、公務に於いては制服と分けている彼女にしては珍しく今日はタイトなスカートの上下白の制服姿に、

 

 表の生地が黄緑、内側の生地が紫のマントを着用していた。

 

「これですか?」

 

 嶋田に抱き着いていたモニカは身体を離すとマントを少し広げる。

 

「実は今日EUが緊急発表を行うという情報が入ったのでいつでも動けるようにとの通達が入ったのです」

 

「ああ、そういえば俺の方にもある筋からそんな連絡が入ってたよ」

 

 引退してからそれなりに時が経つとはいえ何かの際には連絡が入ることがある。

 

 緊急性や彼自身に関係がある情報などは特に。

 

「シゲタロウさんにもですか?」

 

「これでも元首相だからね。とりあえず此処じゃなんだから居間で話そう」

 

「そうですね」

 

 

 

 ***

 

 

 

 居間に移動したモニカは着ていたマントを脱いでハンガーに掛けると、ベビーベッドに寝ている我が子に「ただいま」と言ってキスをした。

 

 そんな彼女を微笑みを浮かべながら見ていた嶋田はこたつに入ってテレビを付ける。

 

 時間的にもうすぐ緊急速報的な放送が流れる事になるはずだ。

 

「そろそろですね」

 

 子供の寝顔を見ていたモニカも制服姿のままこたつに足を入れた。

 

 並んでもたれ合うようにして座っている辺り二人の夫婦仲の良さが表れている。

 

 こたつの温もりに負けないくらい温かい身体の温もり。

 

 互いにそれを感じながら何も言わずにテレビの画面を見続ける。

 

 家にいるときはこうして仲良く寄り添っているのが二人のいつもの姿であった。

 

 暫くの間芸人が騒ぐだけのテレビ番組が流れていたが緊急速報のテロップが出た瞬間映像が切り替わる。

 

 番組の途中ですが云々。お決まりのセリフを喋るキャスターの言葉が終わったと同時に記者会見の場のような映像が映し出された。

 

 記者達のざわめく声だけが聞こえる画面に一人の男が姿を現した。現EUの代表を務めている男だ。

 

『ええ、お集まりの皆様。並びに画面を通してこの会見を目にされている世界中の皆様。わたくしはこの度、長年にわたってEU加盟国を纏められなかった責を取り辞任することと相成りました』

 

 EU代表の辞任表明。

 

 これは確かに大ニュースだった。

 

 だが何かがおかしい。

 

「変だな……ここ数年EUは急速に纏まってきてたような」

 

「ええおかしいです。あれだけ意思疎通が上手くいかずにバラバラだったEUですが以前からは考えられないほど纏まってきています。それなのに代表が辞任等とは」

 

 そう、ここ暫くの間EUは考えられないくらいの纏まりを見せ始めていた。

 

 まるで見えない何かに操られているかのように。

 

 それまでの自国本位の意見を潜めて、手に手を取り合い経済力も回復してきていたはずだ。

 

 遡ってみればそれ以上前からそんな動きは見られていた。

 

 夢幻会も何かあると見ていたがそれが先鋭的な軍国主義や攻撃性に繫がる様子は無かったので様子見に止めていたのだ。

 

 平和その物のこの世界で多少気が緩んでいる処があったのも確かだが。

 

 嶋田とモニカの疑問を余所にEU代表──いや元代表となった男は話を続けた。

 

『しかし私の代では成し得なかった経済対策、技術革新を、陰に日向に支え実行し続けていた方々が居られます。彼らは我々を支えてくれどん底にあったEUを再び蘇らせようとしています』

 

(なんだそれ……まるで夢幻会みたいじゃないか)

 

『そんな彼らを率いる方々に私は、いや我がEUは、総意を持って全権を委任する決定を致しましたッ!』

 

 元代表の言葉に会見場はどよめきに包まれた。

 

 それはそうだ。何処の誰かも分からない者に全権委任すると言いだしたのだから。

 

 だが元代表は言い切る。彼らならば大丈夫。必ずや強いヨーロッパを再建してくれる。

 

 日本やブリタニアに負けない国にしてくれると。

 

『紹介しましょう。彼らが次のEU代表となる方々ですッ!!』

 

 大袈裟な身振りで声を張り上げた元代表が席を立つと、入れ替わるように入って来たのは年の頃は五十代と思われる一人の軍服姿の男。

 

「ち、ちょ・つ・と・ま・てぇぇッッッ!!」

 

 見たこともないデザインで威圧感たっぷりの軍服に制帽をかぶったその男は、無表情だが意志の強さを感じさせる瞳で会見場にいる記者達を睥睨して黙らせた。

 

 喋ってはいけない。この男の前で勝手な発言はできない。

 

 無意識の内にすり込まれたそれは一体何だろうか? 

 

 答えを知るものはいない。嶋田を含めた夢と幻の存在達以外には。

 

「ど、どうなされたのですかシゲタロウさん??」

 

「い、いやすまない……ちょっと、ね……」

 

 突然画面に向けて叫んだ夫にびっくりしたモニカ。

 

 普段優しく穏やかな空気を放っている彼にしては珍しいほどテンパっている。

 

 だがそれも仕方のない話だ。画面に現れた人物を見て彼に驚くなと言う方が無理なのだから。

 

 事情を知らないモニカには悪いが気にしていられない。

 

 男は静かになったのを見て帽子を脱いだ。

 

 髪の色は黒で、髪型はすそ刈りにした七三分け。

 

 見る者に取っては冷たいようにも暖かいようにも見える不思議な瞳。

 

 何よりも目を引く特徴的なヒゲ。

 

 その不思議な男はゆっくりと口を開く。

 

『この場にお集まり頂いた諸君。並びにカメラの向こうにいる世界の方々。とりあえずはこんにちはというべきか』

 

 冷たい表情に僅かばかりの笑みを浮かべる男。

 

 その瞬間男に引き込まれた者は相当数に上っただろう会心の笑み。

 

『自己紹介の前にまず、遠い時空の彼方より戦いを繰り広げている我が宿敵達に挨拶をしたい』

 

 代表就任や自己紹介が始まるのかとカメラを向けていた記者達は、急に意味不明なことを言いだしたEU新代表に戸惑いを隠せない。

 

 そんな記者達を気にも留めず男は喋り出す。

 

『おそらくこの会見を見ているだろう諸君! 久しぶりだな私は帰ってきたぞ!』

 

「帰ってくるなァァアァッッ!!」

 

「シ、シゲタロウさんッ?!」

 

 またまた叫ぶ夫にモニカは心配になってきた。

 

『私の推理によれば、この新世界に於いても諸君は確かに存在し暗闘しているとの答えが出ている。短期間に日本が飛躍しているのとそれを成し遂げた面々を見ればわかるというものだ。例え世界を誤魔化せても私の目は誤魔化せんぞッ!!』

 

(だ、誰かッ、誰かこのキ○ヤシを黙らせろッ! 回り回って真実を言い当てるんだよこの男はァァァ!!)

 

「先ほどより如何なされたというのですか……? それにこの方は一体何を話して──」

 

「気にしなくていい! これは俺個人の問題であるからしてだ、つまりモニカさんは気にしなくていいんだッ!!」

 

『だが、私と君たちが正面切って戦えば世界はラグナロクの戦いへと突入することになる……それは本意ではないし我が盟友も反対なようだ』

 

 そこまで言うとまた一人、会見場に姿を現した。

 

『ははは、久しぶりだなプライムミニスターシマダ。君と食べたナポリタンの味は今も忘れてはいないよ?』

 

 先に来た男よりもふくよかで穏和な表情の男。

 

 彼もまた軍服を着ており、入って早々女性記者に声を掛けていた。

 

『そういうのは後にしてくれないかねドゥーチェ』

 

『すまんねえ総統殿。レディに声を掛けるのは我がイタリア紳士としての流儀なものでね』

 

「あ、あは、あははは……おわった……おれの……おれの夢が……穏やかなる隠居生活が……」

 

「しっかりなさってくださいシゲタロウさぁぁぁーん!!」

 

 

 

 EU新代表の会見終了後、時を置かずして嶋田の家の電話が鳴った……。

 

 

 

 “申し訳ありません嶋田さん、お子さんのことがあるので毎日とは言いませんが、時々お仕事をお頼みする事となりそうですので御容赦のほどを”

 

 

 

 




嶋田さんには苦労が憑き物というわけですね。


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コードギアス 反攻のシマダ
コードギアス 反攻のシマダ


こちらは日本大陸ギアス系のもう一つお話しです。
日本大陸スレの主催者様であるハニワ氏の大陸ギアス作品とはまた異なる作品ですのでご注意ください。
なお、拙作の【コードギアス反逆のシマダ】よりも先に描いた作品ですが、文章的にかなり酷似しておりますのでご注意ください。

こちらは嶋田さん×モニカルートです。


 

 

 

 

 コードギアス 反攻のシマダ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漆黒の髪。

 

 黒真珠のような輝きを持つ瞳。

 

 平凡な東洋人の容姿に、されど東洋人ではない。

 

 そんな一人の青年が目を覚ました。

 

 

 

 

 

 深い眠りから目覚めた青年は、どういう訳か混濁している記憶を少しずつ掘り起こしながら辺りを見回す。

 

(ここは、どこだ……?)

 

 知らない部屋だ。

 

 内装も、周囲の様子も、自身の家の屋内とまったく異なる造り。

 

(俺は、確か……)

 

 家にいた。

 

 静かな余生を送る終の棲家で眠りに就いた筈だった。

 

 睡眠とは異なる、長き眠りに……。

 

(じゃあここは)

 

 青年の思考に浮かんだ答えは、たったひとつ。

 

(黄泉の国?)

 

 辿り着いた答えは、“それ”に帰結する経過を辿りココへ来たが故のものだ。

 

 この身は数刻前に時の終わりを迎え、その役目を終えた筈だとして。

 

(そうだ。俺は確かに死んだ筈だ)

 

 自分の身体のことだ。誰に言われるでもなく分かっていた。

 

 思うように動かせなくなった頃より感じていた己の死期。

 

 それをここ数日の間は特に強く感じていた。

 

 悟りの境地とでもいうのだろうか? 

 

 人間、不思議といつ頃かというのが見えてくるものだ。

 

 その予期していた通りに訪れた。

 

 予定通りに迎えた『その日』。

 

 彼は薄れ行く意識のなかで騒がしかった日々の情景が思い出しながら。

 

 “その時”を待っていた。

 

 仕事をしていたとき、ふと気が付けば西暦1905年──日本帝国海軍巡洋艦和泉の艦内にいた。

 

 そこで会社員であった自分……神崎博之が、嶋田繁太郎というまったくの別人に憑依してしまった事を知る。

 

 自らの人生で学んだ歴史とは大いに異なる世界の流れ。

 

 流れを変えたであろう者達との出逢い。

 

 それに連なる幾多の戦争と世界経済への介入。

 

 手を出すことなく封じた地域に。

 

 手を出さざるを得なかった地域。

 

 内部の膿を出すためとして、時に同志であった身内でさえも切り捨てながら破滅の未来を回避する努力を積み重ねてきた。

 

 しかし。

 

 その努力の甲斐もなく迎えた最大の難事──対米戦。

 

 確実なる勝利をもぎ取る為として、自然を利用した大作戦すら実行に移した。

 

 その後に訪れた先の読めない世界情勢。

 

 本来の歴史より外れた世界の流れに苦慮しながらも仲間と共に日本を導いてきた年月。

 

 先に逝った友人達の顔を思い浮かべながら、次こそは安寧なる世界で静かな人生を送りたい。

 

 平凡な家庭に生まれ、そしてのんびりとした一生を送りたい。

 

 そんな己が願望を思い描きながら、睡魔に身を任せて目を閉じ。

 

 旅立った。

 

 

 

 ……そう、旅立ったのだ。

 

 

 

 

 

 しかし──。

 

(あの世にしてはこう、らしくないというか)

 

 閉ざされた視界は永遠だったのか? 

 

 それとも瞬きほどの一瞬であったのか? 

 

 再び目を覚ました時、彼がいたのは此処だった。

 

 光に満ちた草原や、懐かしい顔触れが迎えに来る花畑といった天国的な物でも。

 

 賽の河原に地獄の鬼といった、おどろおどろしい物でもない。

 

 至って普通の部屋。

 

 死後の世界にしては、あまりに現実的なこの風景。

 

 ともすれば、死後ではなく生前その物のような。

 

 つまりこれは、あの世なのではなくこの世なのではないのだろうか? 

 

 そう思えるほどに感じ取れる“死”よりも“生”の感覚。

 

「どうなってるんだろうな、これは」

 

 自分が死んだのは間違いない。

 

 四肢の感覚を失い、己が死を自覚しながら眠りに就いたのだから。

 

 気のせいなどではなく、本当に今までとは異質である眠りの感覚に身を任せて。

 

 ではなぜ、こんなにも生を感じられるような状況下にあるのだろう? 

 

 身体のことは分かっても、この事態については何一つ知り得ようもない彼は、袋小路に陥り導き出せなくなってしまった答えを誰かに求めたい。

 

 そんな気分だった。

 

 ──丁度その時である。

 

 そんな彼の疑問に、この空間。

 

 この世界は、己に代わって回答させようとでも考えたのか? 

 

 この殺風景な部屋と外部とを隔てている扉を、まるで新しい世界の住人を歓迎するかのように、勢いよく開放させたのは。

 

 

 

 *

 

 

 

 開かれた扉の向こう側には、扉を開けたであろう人物の──一人の女性の姿があった。

 

 誰だ? 

 

 そう思う彼の目が件の女性の碧き双眸と交差する。

 

 瞬間。

 

 ふわりと宙を舞ったのは。

 

 美しき金色と赤──。

 

「うわっ!」

 

 身体に衝撃が走り、起こしていた上半身がよろりと揺らぐ。

 

 部屋の扉を開いたその女性が、勢いのままに飛び込んできたのだ。

 

「お気づきになられたのですねっ!」

 

 眉を隠すくらいの位置で一線に切り揃えられた前髪。

 

 その下より覗くのは……深い海の青。

 

 澄んだマリンブルーの瞳が、自分へと向けられている。

 

「医師からは過労と睡眠不足が原因であると伺っておりますが──」

 

 女性は心よりの心配を表す不安の色をその美しい容貌に浮かべながら語りかけてきた。

 

「き、キミは……?」

 

 名を呼んだという事は、自身を知る人物である。

 

 もちろん、彼には見覚えがない。

 

 いったい誰なのだろうか? 

 

 腰の下、尻の辺りまで届こうという長く艶やかな癖のない髪は、光り輝く黄金色。

 

 後ろ髪をそのまま背に流し、身体の前へと流された左右横側の髪のみ、巻き付けられた鮮やかな真紅のリボンによって纏められ二本の房となっている。

 

 背の裾が長く、先が二股に分れた燕尾服を連想させる白い服。

 

 下は腰までの深い切れ込みの入った同色のタイトなスリットスカートで、その白い服の上からは裏地が紫、表地が黄緑色をした、騎士が身に付けるようなマントが纏われている。

 

 金髪碧眼色白。

 

 その容姿からして日本人ではない事だけは分かる見目麗しい外国人女性。

 

(欧米系……イギリスの騎士みたいな服装からみるに、英国貴族? それも相当位の高い)

 

 礼装を思わせるその装いから、女性の身分がかなりの高位であることは伺い知れたが。

 

 一体誰か? 

 

 訪ねる間もなく己へと縋り付き容態を気遣う女性を前にして、唯でさえ事態が飲み込めないでいた彼の混乱に拍車が掛かる。

 

「ご無理をなさらないでくださいませっ、貴方のお身体は貴方お一人の物ではないのですからっ……!」

 

 伝わり来るのは、隠しきれない不安と──

 

「でも……よかった……」

 

 安堵。

 

 二つが綯い交ぜと成った気持ち。

 

 大丈夫であると思っていた。

 

 それでも怖かった。

 

「どこか、変調はございませんか?」

 

 相反する二つの意味を持つ言葉が女性の口より絞り出される。

 

「あ……ああ、大丈夫だよ。心配を掛けたな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──モニカ

 

 

 

 

 

 

 

 自分の身を案じてくれるそんな女性に対し、自然と突いて出たのは、知らないはずの彼女の名前だった。

 

 それは答えである。

 

 自身が今、どの様な状態にあるのかの。

 

(そうか……俺は、生きているんだな……)

 

 全ての答えを運んできた女性を前にして、感じていた“生”が漸く本物であると確信した。

 

 すんなりと我が身の状況を受け入れられたのは、それがかつて体験した巡洋艦和泉での出来事を思い起こさせたが故だ。

 

 怪我こそなくとも、気を失いベッドで目を覚ましたという処まであの時と同じである。

 

 

 

(──っ!)

 

 自らの身が“生”の状態にあると自覚し始めたとき、不意に彼の頭が疼きだす。

 

(これは……、記憶……?)

 

 疼く頭。

 

 その脳裏には彼の記憶と共に、もう一つ別の記憶が浮かび上がってきた。

 

(違う、これは……“俺”の記憶が……、この“身体”の、脳に……、書き込まれていってるんだ……)

 

 “己という存在”が“この身体”に入ったことで発生した記憶の融合から生じたと思われる偏頭痛。

 

 一瞬にして永遠を思わせるその痛みは、記憶野へと書き込まれる情報の巨大さを表しているのだろう。

 

(無理もない……か、100年+α分だから、な……。幾ら死ぬまでに使えるのが30%までと言われる大きな容量を誇る謎の塊──人間の脳でも、それは……、不具合くらい起こすだろうさ)

 

 本当に一度あることは二度ある物だと熟々思い知らされる。

 

 記憶の融合に痛みを伴っている分、一度目の時の方がまだましだった。

 

「シゲタロウ様」

 

 記憶の融合に伴う偏頭痛で顔を歪めてしまったからか。

 

「やはりどこかお身体が……」

 

 再び不安の色を浮かべ始めた女性の碧い瞳と視線が交差した。

 

 別に何ともない。

 

 膨大な記憶の書き込みが脳に負担を掛けているだけだ。

 

 じきに収まる。

 

 しかし、彼女から見れば体調を崩した病人が身体の異常に苦しんでいるように見えるのだろう。

 

「大丈夫だよ……。少し、目眩がしただけだ……、医師の言うように疲れているのかもしれないな」

 

 安心させるべく言葉を選び話した彼は、彼女の手を握り微笑みかけた。

 

 大丈夫。

 

 なんともない。

 

 心配されるのは素直に嬉しかったが、本当のところは『憑依・融合』による一時的な影響でしかない。

 

 弁解に用いた医者の話も彼女が言ったことを利用させて貰っただけであり、いま感じている痛みとはまったくの無関係だ。

 

 それだけに騙しているようで心苦しく思った彼は、いま“自分”を融合させつつある“彼”の記憶を探り、女性の事を読み取ってみた。

 

(モニカ……)

 

 幼い頃。

 

 まだ純真な子供の頃の記憶。

 

 物心付いた頃より遊んでいたという、隣家に生まれた女性。

 

(モニカ……クルシェフスキー……。クルシェフスキー侯爵家の一人娘にして、俺の……俺の遊び相手……)

 

 大きな家だ。

 

 それは国その物を連想させる大きな大きな領地を持つ大貴族の家だった。

 

 “自家の盟友であり傘下貴族でもある彼女の家”

 

 その家で。

 

 その邸で。

 

 彼女と二人仲良く遊んでいた記憶がはっきりと読み取れる。

 

 自然と思い出せる彼女と遊んでいた頃の記憶と彼女の家の全貌。

 

 それは例え自分が知らずとも自分が入ったこの身体が知っているという、それだけの話。

 

『二つの記憶の存在』と『自分が何者かという知識』。

 

 己が置かれている状況に対しこれだけで納得してしまえる辺りが所詮は二番煎じといったところなのか。

 

 それとも、経験は物を言うというやつなのか。

 

 この身体の人物が何者で。

 

 どういったことをしてきたのか。

 

 その総てが、手に取るように理解できてしまった。

 

(なにもかも同じだな。嶋田繁太郎になった“あのとき”と、なにもかもが……)

 

 そしてどうやら、一度体験済みの“憑依・融合現象如きに”驚いてばかりも居られない状況にあるようだということまでも。

 

(はぁ……、平穏を望んで眠りに就いたっていうのに、どうしてこうも厄介な立場に立たされてしまうのやら……。これは一度本格的な厄払いを行うべきだろうか?)

 

 

 

 

 

 

 

 皇歴2018年。

 

 エリア11として国の名を奪われた絶望の日本を舞台としたあの反逆物語が大きな山場を迎えた年。

 

 彼が目を覚ましたのは。

 

 そんな架空である筈の世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コードギアス 反攻のシマダ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(それにしても、訳分からなすぎるなこれは)

 

 期せずして此処へ辿り着いたと知ってしまった彼であったが、知ったからこその“違い”に心底驚かされてしまった。

 

 無理もない。

 

 この身体の記憶から読み取れたのは、自身の記憶の中に僅かばかり残っていたあの反逆世界の知識とはまるで異なる世界の形であったのだから。

 

「一人にしてもらったのは正解だった……。この分だと記憶の整理をしているときに混乱して不審がられる可能性大だ」

 

 あの後、自身を心配して「傍に付いていたい」と申し出てくれていたモニカであったが、彼はその厚意を丁重にお断りしていた。

 

 申し出は嬉しいのだが今はとにかく記憶の整理と現状の把握の為にも一人で考える時間が必要なのだ。

 

 それに大雑把に確認したところ色々混乱しそうな事実ばかりが浮かび上がって来た為に、彼女が傍に居ては都合が悪い事この上なかった。

 

 何かを発見し、また何かに気付くその都度驚いていては変に思われる。

 

 では驚かなければいい。と、言い聞かせて平静を保てる自信は残念ながら無い。微塵も。

 

 それほどの大きな“違い”ばかりあった。

 

 しかしながらこれが“現実”である。

 

(……。よし、まずは記憶の整理からだ。100年+αの記憶が入ったばかりで断片化されてしまった“彼”の記憶を再構成しつつ、しっかりと把握しておかなければ)

 

 まずこの身。

 

 自分という存在が入ったこの身体は、前世において憑依した仮想戦記の悪役にして史実では東条英機の腰巾着・小間使い・副官。

 

 との、散々な評価を下されていた大日本帝国海軍軍人・政治家としての嶋田繁太郎ではない。

 

 シゲタロウ・リ・シマダ。

 

(それが今の俺の名前か)

 

 何がどうなったのか、神聖ブリタニア帝国シマダ大公家嫡子──シゲタロウ・リ・シマダという身の上であるらしい。

 

(平行世界の同一存在や同位体存在とかいうやつなんだろうが。まさかのブリタニア皇族分家筋とは……想定外にもほどがあるぞ)

 

『リ』とは、その名が示す通り、ブリタニア皇家リ家の名を指す。

 

 コーネリア・リ・ブリタニア、ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 

 リ家の有名処と言えばこの二人だが、彼の中にはこの二人と根を同じくする祖先が居るようなのだ。

 

(確か反逆物語が始まる年代よりかなり遡った時代の皇帝だったな)

 

 その祖先の名を──クレア・リ・ブリタニア。

 

 民族協和と一つのブリタニアを掲げながら、時のエル家や、クレアの弟であるニールス・リ・ブリタニア皇子等と共に、リシャール皇子擁するロレンツォ・イル・ソレイシィを打ち破り、国家が瓦解する寸前であったブリタニアの内戦を終結に導いた英雄皇帝。

 

 ブリタニア年代記に燦然と輝く彼女の功績は、今尚伝説として語り継がれていた。

 

(コードギアスで間違いなさそうだが、俺はあの作品についてそんなに詳しくはないからクレアがどういった人物なのかよく知らない。リ家の血が入っただけで公爵から大公へ昇爵するということから考えても、シマダ公も含めかなりの大人物であったのだろうが)

 

 その内戦の最中。一時日本へと逃れていた英雄帝クレアを支え続け、共にロレンツォ率いる当時の純潔派と戦ったクレアの最大支援貴族シマダ家は、後に次代当主がクレアの次女と結ばれており皇家分家筋としてリ家の家名を与えられている。

 

 更にクレア皇帝を支え続けた内戦終結の功労者として大公爵へと昇爵し、新たにバハ・カリフォルニアを与えられ、元々の直轄領であったカリフォルニア・アリゾナと共にペンドラゴン北方の要として繁栄を極めていたのだ。

 

(入り込んでしまった人物の出自その物がいきなりの相違点とは、イレギュラー過ぎだろ)

 

 そのシマダ大公家なるものだが。

 

 当然彼の知識の中、コードギアスには存在していない。

 

 日系人のブリタニア貴族が居るらしいところまでは識っていたが、大公家でとなるとかなり限られてくる。

 

 日本皇族の血を引くブリタニアの皇帝も歴史上存在しているくらいなので「絶対にない」とは言い切れなかったが、嶋田繁太郎のブリタニア版など流石に考えられる範疇を逸脱し過ぎているだろう。

 

 それも恐るべき事にシマダ家の家系を辿っていくと、皇歴元年へと辿り着くのだからもう訳が分からなかった。

 

 シゲタロウの記憶にあるブリタニア年代記によれば、シマダ家の初代とされる人物はブリタニア皇家の始祖アルウィンと共に彼のローマ帝国ユリウス・カエサルのブリテン侵攻に立ち向かった皇家の盟友であると記されている。

 

(信じられんな……信じられんが、もし可能性があるとするなら超古代文明時代に何かあったんだろう)

 

 史実ではオカルト話しの域を出ない超古代文明。

 

 だが反逆物語には確かに存在していた。

 

 故にもしもあの時代にブリタニアへ渡った大和民族が居たとしたなら、或いは考えられなくもない。

 

 日本も、ブリタニアも、前身国家を辿っていけば出発点は同じ場所。超古代文明に起源を持つ国。

 

 コード、ギアス等、様々な超技術を生み出し、後に滅びたこの文明は元々一つの統一国家だったと思われるのだ。

 

 であるならば、当時の大和系の部族がブリタニアの地に移住していたとしても何ら不思議なことではない。

 

 それも“ある信じられない事象”から、大和系部族や民族。

 

 つまり日本民族の人口が多かったと考えられるだけに、当時一部の部族がブリテンの地に渡っていたというのは十二分に有り得る話しとなっていた。

 

 それに遺跡と両国の皇家。皇家を守護する存在など様々な共通点が示すその可能性は、反逆世界を“識っている身”としては、無いとは言い切れない部分がある。

 

(ま、考えられないことであろうと無かろうと、シマダ家の歴史はブリテン島が本土であった時代より続いている。それが真実な訳だが)

 

 だが、そのシマダ大公家の存在により日本とは……大日本帝国とはそれなりに上手く付き合えていたようだ。

 

(弱肉強食のブリタニアといっても全部が全部そうじゃないからな)

 

 ブリタニアの歴史は元より血と侵略の歴史。

 

 しかし例外的に膨張主義を否定したり、非侵略へと舵を切ることも可能だったであろう転換点と成り得る幾つかの時代が存在している。

 

 その一つがクレア帝時代だ。

 

 クレアの時代には彼女の性格や方針を反映した対外融和路線。

 

 つまりは弱肉強食ではない協調主義の路線が採用されていた。

 

 時代と共に国は再び原点への回帰を図り弱肉強食を国是とする時代に突入していったが、少なくとも彼女の時代から暫くの間は外交問題の解決の為に武力を用いることはなかったようだ。

 

(シマダ家とクレア帝の影響色濃いリ家の存在が歴史を変えたことで1940年代に起きたとされる太平洋戦争も起こってはいない)

 

 クレア帝御世の記憶が薄れ次代・次々代へと時が移り変わる中、徐々に一国至上主義的な国家へと立ち返っていたブリタニアであったが、当時はまだ日本との友好路線が維持されていたらしい。

 

 但し、それも1997年5月に起きた『血の紋章事件』と呼ばれる大規模なクーデター事件によって激的なる変化を迎えてしまったが。

 

(あのクーデターを境に即位して間もない第98代帝シャルルが己の立場を盤石な物とし、全世界に向けて覇権主義政策を宣言。隣接する南ブリタニア諸国への侵略戦争を開始している。と同時に日ブ関係も徐々に悪化)

 

 血の紋章事件を契機としてシャルル治世のブリタニアは今まで以上の極端な軍拡に舵を切り、内外問わずより一層の強硬路線を取るようになっていった。

 

 国外に対しては同時侵攻した南ブリタニア北部の国々を瞬く間に飲み込み、南へ南へとその勢力を拡大。

 

 侵略戦争に否定的な見解を述べた日本との関係も悪化の一途を辿り、同じ膨張主義の“大清帝国”へ肩入れを始めるという対日敵視の姿勢へ転じ。

 

 国内においては反皇帝派を次々に粛清、または閑職へと追いやっていき、反戦意見の多かったリ家の勢力と皇帝派とで対立が始まっている。

 

 そして大きな転換点となる二つの暗殺事件が起きた。

 

 一つはブリタニア皇家が一つ、ヴィ家のマリアンヌ皇妃暗殺事件。

 

(2009年のあの事件でルルーシュとナナリーが人質として日本へ──)

 

 自国の侵略戦争に対し、強力な海軍力を持つ日本からの不意打ちを警戒しての措置。

 

 知識の反逆物語の中でさえ同様の措置を採るくらい日本に対しては警戒心を抱いていたのだから、“ここの日本”相手だと尚更だろう。

 

 皇帝の個人的な事情も勿論あったわけだがそれはそれだ。

 

(流れその物は変わらずか。国を放り出されてしまったヴィ家の兄妹の心の内もおそらくは変わらずの父憎し……)

 

 ここは既知の流れであった。今更と言えようが、ルルーシュの心にシャルルとブリタニアへの憎悪が宿る切っ掛けとなった事件だ。

 

 それも、彼自身は何も知らぬうちに親のエゴに巻き込まれた挙げ句、自らも己のエゴによって数多の人々を殺戮することになる、その始まりの。

 

「壊れた大人たちの被害者にして自らも魔神となり壊れ加害者側となる悲劇の皇子。大切な人や何も知らずにただ戦っているだけの者、無関係な人々への殺戮を始めてしまう彼の物語の出発点。……なんとも業の深い一族だ」

 

 その業の深い一族と血が繋がる自分も気を付けなければいけない。

 

 なにが切っ掛けでその血の持つ業に囚われてしまうのか知れた物ではない故に。

 

(いや──)

 

 もう既にその血の影響は表れているやも知れない……。

 

 二つ目の事件。

 

(シマダ大公夫妻暗殺事件)

 

 マリアンヌ暗殺と同時期にこの身体の人物──シゲタロウの父と母の爆殺事件が起きていたのだ。

 

(やれやれ、これがもしブリタニア一族の業が成したものならば、もうこの身は既に呪われているな)

 

 未だ未解決となっている先のマリアンヌ暗殺事件とは違い、この事件については犯人が捕らえられていた。

 

 捕らえられた犯人は民主化を掲げる過激派であったとされているが。

 

(真相は不明)

 

 不明というのは、犯人であるとされる人物が犯行を行った事に確信が持てないからだ。

 

 誰でも思うし自分でもそう思った。

 

 帝国政府のみが独自見解を示して間違いないと豪語していたが、誰も信じてはいないだろう。

 

 たかが一過激派如きが、皇帝であっても配慮せざるを得ないブリタニア最古の名家の当主夫妻暗殺など可能なのかと。

 

 警備が厳重な大公家の宮殿に侵入し、且つ目的を遂げるのは容易なことではない。

 

 この一点が帝国政府の発表した「過激派によるテロ」の信憑性を損なわせている。

 

 しかしそのハードルを著しく下げてしまう手段については、方法があるということを彼は識っていた。

 

(ギアス、か?)

 

 古代文明が残した超常の力──ギアス。

 

 人の精神を操り、記憶を暴き、未来線を読み心の声を聴く。

 

 使い手ごとに保持している能力こそ違えど超能力とも言うべきこれらの能力は屡々歴史にその足跡を残していた。

 

 この能力を駆使すれば或いは、そう思わせるだけの力がある。

 

(可能性の問題だが、大公がギアス関係者に狙われたということも排除は出来ないな)

 

 シャルルの目的の為にはどうしても邪魔になるだろうシマダ大公とリ家が率いる勢力。

 

 これの排除にシャルルが動くとすれば、表からは勿論、裏側からも働きかけるであろうことは想像に難くない。

 

(他に考えられるのは身内か)

 

 また、記憶の融合によって得られたからこその別の可能性にも思い当たった。

 

 記憶を探り浮かんでくるその可能性を持った人物は、よりにもよって身内らしいのだから質が悪いとしか言えなかったが。

 

 この事実が、自らもブリタニア皇族の血の宿業を背負ってしまったのではないかと懸念した最大の理由である。

 

(シマダ大公の存在が邪魔であったと思われる輩の筆頭候補)

 

 記憶の中に浮かぶのは2m近い長身に、頑強に鍛え上げられた筋肉質の肉体を持つ、顎髭と口髭を蓄えた茶髪の巨漢。

 

 大公暗殺後、「幼いシゲタロウでは大公家を継ぐに力不足である」と、皇帝や皇帝派との共謀の末に継承順位を無視してシマダ家の実権を握ったブリタニア貴族の権化とも表すべき男。

 

 ヘンリー・リ・シマダ。

 

 ブリタニアの支配に抵抗を示す過激派など反体制的な人間を一族郎党断頭台に掛け、死の恐怖をもってエリア3ブラジルを平定した皇帝派の重鎮。

 

(その一方で媚を売る者、付き従い服従する意思を示した者へは寛容さを見せている)

 

 ただ恐怖のみで従わせるだけではなく、自らに従う者にはその働きや忠誠に応じて従来よりも多くの報奨や給金を取らせるという“飴”も大量に用意し配っているようだ。

 

 領民やエリア住民が彼に従うのはその恐怖と飴の相乗効果によるもので、平定後に彼が一時総督を務めていたエリア3の政策は一応の成功を収めていた。

 

(凶暴な野蛮人とはいえ馬鹿ではない、か。……あまりお近付きになりたい人種ではないな)

 

 シゲタロウの叔父にして、亡きシマダ大公の兄であるというこの人物は、貴族というよりも野人といった方がしっくり来る野性的な容貌をしていた。

 

 容貌通り、性格の方も野人と呼ぶべきであろうほどの凶暴な。

 

 亡き大公の先代、自身にとっては祖父に当たる二代前の当主がヘンリーを“不的確”として弟である先代、父に大公家を継がせたようだが、どうもその判断は間違いではなかったようだ。

 

(平民やナンバーズに対し区別という名の差別を行い積極的外征を唱えるブリタニアの癌の一人。ついでにシゲタロウ……、俺をブリタニアから追い出してくれた乗っ取り屋)

 

 シマダ大公夫妻暗殺後。

 

 皇帝の速やかにして無茶な介入によって大公家の全権を掌握したヘンリーが、シゲタロウを差し置き当代当主の名を名乗ってより直ぐにシゲタロウは日本へ送られていたらしい。

 

 要するにルルーシュやナナリーと同じく人質としての役目を負わされたわけだ。

 

 彼にとり、シマダ大公の意思を引き継ぐシゲタロウの存在はさぞや疎ましかったことだろう。

 

 本当ならシマダ家の長男である自分こそが家を継ぐべきだったというのに継承順を無視されて弟に家督を奪われた。

 

 その弟の息子なのだ。殺されなかったのが不思議なくらいであった。

 

 無論其処にはシゲタロウを殺害することによる“不利益”があったのは言うに及ばずだが。

 

(益々大公夫妻暗殺を実行したのは、捕縛された犯人とは別の人物であるという疑惑が深まるな。ともかく、大公家の実権が叔父に握られた事は大きなマイナスだ。奴がシャルル支持をシマダ家の名で宣言した為に、結果として外征を推し進めるシャルル体制を強固なものとしてしまった)

 

 ユーロ・ブリタニアのハイランド大公家と同等の権威を持つ救国の英雄にして最古の名家シマダ家が方針を変えれば共に変わらざるを得ない家は数多に上る。

 

 それほど大きな力を持つが故、シャルルも自らの地盤固めに利用するために彼を自陣営へと引き込んだのだ。

 

 その上で大公夫妻を暗殺し、彼に大公家を継承させて要職に据えれば、皇帝派はその力を一気に増す。

 

 暗殺の真相がどうであれ、結果としてシャルルを利する形となっているのは事実である。

 

 “弱肉強食こそブリタニアの理念として相応しく、世界はブリタニアによって統一され本来在るべき自然の姿へと立ち返るべきなのであるっ! ”

 

 力こそ正義。

 

 人間もまた自然の一部であって、強い者が勝者となり弱きは強者の糧となるか死すべきであると豪語する彼の野人と、嘘のない世界のためには身内の死ですら俗事に過ぎぬと考える皇帝シャルル。

 

 彼等の共闘は、国内の穏健派を一掃する意味でも大いに意義ある物であった。

 

(最悪の人間同士が最悪のタイミングで手を組み利用し合っている、そんなところか。追放、処刑、なんでもありとは……いやはや独善主義皇帝と野人の組み合わせには恐れ入る)

 

 弱いから死ぬ。

 

 弱者など必要ない。

 

(連中にはお似合いの台詞だな。しかしその結果が原作での超強硬派であるコーネリアのまさかの離反と皇帝派対反皇帝派による第二次血の紋章事件、いや事変か? とにかく大規模な内戦を招くとは、皮肉な話だ)

 

 強硬+強硬が掛け合わさった化学反応は恐るべき物で、皇帝に異を唱える者への容赦ない弾圧へと繋がっていった。

 

 爵位剥奪、領地没収、即決による死刑。憎しみを背負うために大虐殺を行った“あの悪逆皇帝”程ではないが、血の紋章時の反皇帝派弾圧の再現くらいにはなっていただろう。

 

 血の紋章事件を振り返れば分かることの一つがシャルルは時に身内の皇家の人間ですらも処刑するほど、一度排除を決めた以上は徹底的にやる冷酷さを持ち合わせているという部分だ。

 

(命を軽く見ている所為もあるか)

 

 死んでも会えるという様に、人の命を軽く考えているからこそ可能なのかも知れない。

 

 人の生死に意味は無い。

 

 死など一つになる事で解決できる程度の些事であるとでも。

 

 その結果が2009年末~2010年末に掛けてのブリタニア内戦に繋がった。

 

(しかし圧倒的なる皇帝派の勢力を前に、約1年に渡る内戦の末敗れた反皇帝派は日本への亡命を余儀なくされた)

 

 先導者とされたリ家の一族はシャルルの側に回ったヘンリーと日本で人質となっていたシゲタロウを除き皇籍を剥奪され国外追放処分、または粛清対象となり、関係が険悪化していた日本がリ家の一派や難民を受け入れたことで日ブ関係はそれまでにも増しての冷え込みを見せた。

 

(第二次血の紋章事変後から対日対ブ、両国の相手国に対する制裁が始まっている)

 

 血の紋章事件後の覇権主義政策を受けて殆どは撤退していたが、未だブリタニア国内に残っていた日本企業と資産についてはこのリ家の亡命受諾を受けての報復措置として凍結・接収されていた。

 

 当然のこと、これに対する報復として日本はそれまで控えていた対ブ経済制裁を発動し対抗、制裁の応酬へと発展している。

 

(リ家の動きと亡命は日本にとっては良い迷惑だったのか? それともブリタニアの暴走を抑えるためにもシャルルの排除が必要だとし、リ家との共闘を考えた?)

 

 どの様な考えがあったにせよ、遅かれ早かれこの流れは生まれていただろう。

 

 この先にある国交断絶と……そして。

 

(日ブ開戦)

 

 開戦とは穏やかではないが、しかしシャルルは日本侵攻を確実に実行へと移す。

 

 絶対にだ。

 

 彼が進めている計画を完成させる為には日本の神根島と、“シベリア遺跡”がどうしても必要となるのだから。

 

(幸いなのは日本その物の事情と、人質として送られていたヴィ家の遺児ルルーシュとナナリーが共にリ家へ合流したことで、亡命貴族の求心力が高まったことか)

 

 ヴィ家の遺児達がリ家を支持する、或いは合流するのは必然だった。

 

 彼等は母親暗殺後の冷たい仕打ちを父より受け、半ば追放されるような扱いで日本送りにされたのだから今のブリタニアに対しては恨みこそあれ従う義理など持ち合わせていない。

 

(マリアンヌ暗殺からの父親の仕打ちの真相がどうあれ、な。お陰でオレンジ卿……ジェレミアや、キューエルらヴィ家の派閥である純潔派までもがリ家に従い離反し、大きな戦力と成っている)

 

 ある程度の戦力。コーネリア軍を手土産として日本へ亡命したリ家と、皇帝やヘンリーに従わずあくまでも自分達の仰ぐ主はリ家だとし付き従った古参の重臣達。

 

 これにヴィ家の関係者達を加えた彼等亡命貴族達の形成したレジスタンス組織『自由ブリタニア』は、日本政府と連携する形でシャルル政権打倒を目指し戦う道を選ぶ。

 

(ただ、自分達で選んだとはいえこの選択に頭を悩ませた者も多かったろう)

 

 追放されたリ家やリ家に従った軍の一部はまだいい。

 

 己の意思でシャルル政権に対し反旗を翻した以上、覚悟を決めてのブリタニア脱出だ。

 

 だが後発組の、特に領地持ちの貴族などは、領民を巻き込まない為に敢えてシャルルへの恭順を決意したクルシェフスキー家等、同じリ家の派閥所属の他家を横目にしながら、されど己の信念とリ家への忠誠を裏切れないとして身一つで日本へ渡った者もいるのだ。

 

 なまじ責任在る立場なだけに苦悩に苛まれる中、それでも彼等は現皇帝シャルルと現シマダ大公ヘンリーの排斥こそが祖国の未来の為、自身の抱える領民の為として自由ブリタニアへと合流している。

 

(壮絶だな。だからこそ結束が硬く心強くもあるが)

 

 コーネリアを筆頭に、ユーフェミア・ルルーシュ・ナナリー等の皇族。

 

 リ家の重臣とヴィ家の一部貴族および純潔派と穏健派。

 

 彼等一人一人、或いは集団が、日本政府の協力を得て、原作の黒の騎士団とは比較にならない国無き流浪の国家組織『自由ブリタニア』を創り上げた。

 

 民間人と戦略の天才ゼロによる一レジスタンス集団ではなく、国家の正規軍規模を誇る一大レジスタンス組織を。

 

(そういえば亡命貴族の中にはヤマモト辺境伯なんて名前もあったが──)

 

 ギルフォード家、ヴェルガモン家といったリ家の重臣貴族の中にあったヤマモト辺境伯という名前には正直驚かされた。

 

 フルネームをイソロク・ド・ヤマモト辺境伯といって、クレア帝時代にシマダ家と共にブリタニア内戦を戦い抜き、クレア皇帝擁立に貢献した日本から渡り来た士族の一人を始祖とするだとのことだが、そのヤマモト家現当主の名を日本読みに直せばそのまま『山本五十六』だ。

 

 死ぬ前の世界での盟友と同じ名の。

 

(容姿も同じ)

 

 ふと頭を過ぎったのは、かつての時と似たこの状況下で自分と同じ様に“彼等”も来ているのではないかといった考え。

 

(まさか、な)

 

 シゲタロウの記憶の中にヤマモトという名と姿を見つけた瞬間、平行世界の同一人物なだけであると理解しながらも、彼はなんとなくそう思った。

 

 

 

 そして2015年5月。この自由ブリタニアの存在を認めた日本が、自国の持つ“広大な国土”に亡命ブリタニア人の為の自治州を設置し、同組織への正式な支援に乗り出したことで遂に日ブの国交は事実上の断絶を迎える。

 

 “事実上”というのは、細々としたチャンネルが生きているからに過ぎず、経済的にも外交的にもほぼ断交状態と成っていた。

 

 

 

(そう、日本だ)

 

 実はこれこそが原作と照らし合わせた時に判別可能な最大の変化にして、中身が日本人たる自らにとって最も喜ばしい差違であった。

 

(俺の存在が路肩の石ころ程度のイレギュラーでしかなくなってしまうほどの、その一挙手一投足が世界に影響を与える最大級のイレギュラー)

 

 それはブリタニア国内が強硬一辺倒に染まってきたにも拘わらず、2010年8月10日より始まるはずであった対日戦が、内戦の影響こそ有れども2018年現在に至るまで未だ回避されていたという事実その物と、シャルルがそうせざるを得なかった最大の理由。

 

(日本が“この様子”では、早々勢いのままに戦争を吹っかけるわけにもいかなかったんだろう。シャルルの計画の為の世界侵略とはいえ、“この日本に対してまで”同時侵攻を行えば失敗の危険性が出て来るからな)

 

 ブリタニアは強大だ。

 

 大国を相手取った世界同時侵攻を可能とするだけの圧倒的なる国力を備えている。

 

 それはあの作品を通してこの国を見知る自身も承知していることであった上に、今は自らの身がその国の貴族である故、身に滲みて理解させられてもいた。

 

 しかしそれでも尚、“この日本”の存在こそが、知識にあるような同時侵攻を踏み止まらせるという最大要素となっていたのだ。

 

(しかしまあ何なんだろうか、この)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──この巨大な日本列島は。

 

 

 

 



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コードギアス 反攻のシマダ2

反攻のシマダの第二話となりますが、三話以降は構想あれど纏まらずの状態ですので、もしもこの作品を楽しみにして戴ける方がおられました場合には誠に申し訳ございません……
ヴィレッタ等の純潔派は全員日本に建設された亡命ブリタニア人自治区へ身を寄せております。


 

 

 

 

 

 

 コードギアス 反攻のシマダ2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の形という物は物心付いた頃に大抵の者が覚える。

 

 多少の個人差こそあれ、世界地図を書いてくれと言われれば小学生低学年くらいの年少者にでも大雑把になら描けるだろう。

 

 当然嶋田にも、いやさ今年で20歳を迎えるらしいこの身体シゲタロウの記憶にもしっかりと世界の形が焼き付いていた。

 

 もしも焼き付いていないとしたならばそれだけで周りの評価が怖い。

 

 20にもなって、それも大公家の嫡子が世界の形を知らないなどお笑い種だ。

 

 いやいや、笑ってなどいられくなってしまう程の衝撃を受けただろう。

 

(甘やかされた馬鹿貴族でないのは幸いだが……地図上における世界の形を知らなかったら頭を抱える処だった)

 

 もっとも、喜ばしいながらも頭を抱えたくなる意味不明な地図を“視ている”事はこの際無視させて貰おうかと思わずにはいられなかった。

 

 それほどおかしい。常識で考えて有り得ない地図なのだから。

 

 彼はまずは六つの大陸を数えていく。

 

 ユーラシア大陸。

 

 アフリカ大陸。

 

 オーストラリア大陸。

 

 北ブリタニア大陸。

 

 南ブリタニア大陸。

 

 そして南極大陸。

 

 子供に地図を描かせてみよう。

 

 国は無理でも大陸という巨大な陸地のみならば、形こそ不細工でも丸や三角や四角といった適当な感じで描いてみせてくれる筈である。

 

 そう、六つの大陸なら当然として、“七つ目の大陸”についても簡単に。

 

 

 

 

 

 陸地面積378万平方キロメートル。

 

 

 

 

 

(なんだ……この面積……)

 

 彼の常識を根底から覆してしまったのはその七つ目の大陸だ。

 

 陸地面積が凡そ10倍に拡大という、実に頼もしく太ましい日本の形をした北西太平洋に浮かぶ大陸であった。

 

 日本列島を形成する四の巨大な島から成る七つ目の大陸の姿が厳然として存在していたのだ。

 

(面積10倍の日本列島で日本大陸だ? これ、シゲタロウくんがエイプリルフールに見た嘘の地図の記憶とかじゃない……よな?)

 

 日本大陸。

 

 書いて字の如く、大陸のように巨大化した日本の事。

 

 否、紛う事なき大陸そのものだ。

 

(日本も日本国ではなく“大日本帝国”か。まあ帝国の名こそが相応しいだろう。これほど強大にして絶大なる力を持つ国が“日本国”というのも違和感があるからな。それに政体も皇家──帝“みかど”を頂点とする体制である事だし……それにしても)

 

 恐ろしく巨大だ。

 

 大陸が巨大なのは当然の事として、大日本帝国という国家その物の領域が異常なまでに巨大なのだ。

 

(本土4島とその周辺島嶼地域に始まり、樺太、千島、台湾、海南島、南洋諸島、外満州、カムチャツカ、チュクチ、アリューシャン全島)

 

 それは日本国の領土。

 

 領土として統治している地域。

 

 前世界でさえ広大な地域を版図としていたというのに、此処の日本はもう端から端までおかしいとしか言えなかった。

 

(極東シベリア全域に中央シベリア南東部、中央シベリア高原──―何なんだこれは)

 

 果たしてこれは本当に日本なのだろうか。

 

 日本と呼べるのだろうか。

 

 いや呼んでもいいのだろうか。

 

 尽きない疑問と、やはり偽地図が記憶に焼き付いていたとかの記憶障害を疑ったが、この場に地図がない以上は確認不可能である。

 

 

 

 

 

 総陸地面積1322万6382km2

 

 総人口7億5289万1745人

 

 

 

 大陸である本土を中心に、北は中央シベリア北中部から南はミクロネシアまで広がった、ブリタニアと対を成す超大国。

 

 あまりにも大きすぎるその大帝国の存在は、ただ存在するというそれだけで世界経済と勢力図を書き換えてしまっていた。

 

(こんな化け物が日本とは……わけわからん……)

 

 分からない。

 

 なぜにこれほどまでに肥大化し、尚かつ国土が大きく広がっているのか。

 

 自然の成せる不可思議な現象。

 

 大陸化する程の大地の隆起。

 

 果てはスーパーホットプルームの大噴火による大地形の変化まで考えてみたが、どれも真実コレだという答えには結びつかない。

 

 だが分からないなりにも分かることの一つに彼の国の歴史があった。

 

(始まりは太古の超古代文明より、か)

 

 先史文明ではない。先史を皇歴という紀元を基準とした『それ以前の全て』とするのならば先史として一括りにも出来ようが、一般的に考えられる先史文明とはエジプト文明やメソポタミア文明といった四大文明に、日本の縄文文化など数千年から一万年単位前の物を指す。

 

 しかし日本のルーツの先に在る超古代文明とは、それら先史文明よりも更なる昔。

 

 世界の常識としては眉唾物であり、信用しない人間の方が多かろうが、所謂創世記に該当する時代のもの。

 

 分裂した超古代文明の一国を前身とする大日本帝国の歴史は、失われた遥か太古の時の彼方より続く皇室(皇家)の権威と力によって、統一国家として出立した紀元前にまで遡ることになるのだ。

 

(超古代文明後から始まった歴史とか気が遠くなる……。……しかし、そんな長い歴史を持つ割には海外進出は遅いな)

 

 絶海の大陸国家であり、豊富な資源と肥沃な大地の恩恵を受けていることから一国での完結を可能としていた為か、日本として出立した当時より同じ超古代文明国を前身に持つブリタニアと並ぶ世界最古の国でありながらも海外進出は遅く、台湾と南洋諸島を併合した事を除き殆ど行われていなかった。

 

 長らく続く安定期はひたすら国内の開発と技術革命に時を費やしていたようだ。

 

(超古代の栄華を取り戻す為とかなら笑えないが、真面目な話では大陸の広さと種々の恩恵から態々外征しなくとも必要以上の物を国内で揃える事が出来るというのがその理由といったところかなのかねえ)

 

 本土がこれだけ広いと下手に手を広げるよりも国内の整備が最優先課題にもなる。

 

 唯でさえこの世界の日本といえば国土その物が資源の塊だ。

 

 他に手を出す暇があるのならまずは──といった具合に。

 

(欧州でサクラダイト関連の技術が確立されたのは錬金術研究のさかんだった13世紀から15世紀頃、日本もまた同じ時期だが僅かばかり先行している。それも欧州では採掘量が少ないためサクラダイト関連技術の発展は遅れていたが、その点日本では──)

 

 湯水の如く採れる。

 

 あの架空としての世界の普通サイズの日本でさえ。

 

 ならばこの大陸化した日本では想像を絶する埋蔵量と成っていよう。

 

(引き籠もって技術革新に時間を費やす意味もこの日本ならではだな。その成果は十二分以上に上がっていたらしいから国内に重きを置いたのは正解だったようだ)

 

 年代的に考えれば技術開発の技の字もまだであろうかと思われるのだが、そこは古代文明国より続く正統継承国家。

 

 一度滅びた文明より這い上がった日本は当時としての世界最高の技術水準には達していたようである。

 

 無論『当時としての』であり、超科学によって栄えた古代文明時代や、進化したエレクトロニクス文明の結晶である現代とは比べるべくもなかったが。

 

(海外へと目を向け始めたのは皇歴1500年辺りからか)

 

 しかし皇暦1500年前後からはその様相が一変している。

 

 時の帝(みかど)の名代として天下を盤石の物としていた室町幕府第10代征夷大将軍足利義材が明らかに意図的な意思の下の海外進出を行い始めた事を機に、北方は1600年代前半までに樺太全土、カムチャツカ、チュクチ、アリューシャン列島全島へと進出しこれを正式な日本領として編入していた。

 

(もの凄い進出速度だ。特に義輝の代からその速度は急速に増している)

 

 足利13代将軍義輝の時代から“足利17代将軍”までの間に、まるで休憩無しで駆け抜けたかのように北への版図が大きな広がりを見せている。

 

 

 

 皇歴1600年代。

 

 足利幕府指揮の下シベリアまで進出していた日本は、その地の部族(今日で言うサハ、またはヤクート系日本人)との文化交流や商取引を始め、その地の発展に大きく寄与していた。

 

(平和的な交流による同化政策という意味合いもあっただろう)

 

 統一された大陸国家となれば人口も世界有数だった筈だ。

 

 なにも武力一辺倒で突き進まずともシベリアのような過疎地を取り込むのはわけもない。

 

(しかも丁度いい時期にロシア人がやってきた)

 

 1630年に入ると、シベリア西部から中央部に掛けての小国家群を次々に併呑してきた欧州列強の一つ、モスクワ大公国がシベリア東部へとその勢力を伸ばしてきた。

 

 同化政策によるシベリア浸透を狙った日本とは異なり、東方への強引な拡大を図り武力による極東征伐を選択したモスクワ大公国。

 

 この西方より迫り来る脅威に対し現地の部族は自分達だけで打ち勝つことは不可能であると、当時友好関係にあった日本へ助けを求めている。

 

 しかしただ親切心のみで血を流すのかと言えば、日本人も其処まで甘くはない。

 

 血を流す以上はそれに基づく対価を必要とする。

 

 彼等サハ人もまた日本の意図が静かなる侵攻と併合にあるという事には薄々勘付いていたが、武力征伐という手段に出ず友好的な付き合いに終始するならと受け入れていたのだ。

 

 それに和を以て貴しとなすという日本人の考え方が、武力を用いて圧する他の列強とは違う好印象を彼等に与えていたのも大きい。

 

 だが事此処に至り状況が一変した。

 

 ロシア人は日本人の様に甘くない。

 

 実際に力による少数民族支配を行っているのだから今更の話だ。

 

 だからこそサハ人達は迫られた。

 

 “日本”となるか“ロシア”になるかの選択を。

 

(小国や少数民族は“反逆物語の世界”だと独立国として生きて行くことが難しい……だが、生きる為の選択肢だけは平等に与えられている)

 

 選択は自由だ。自らを護るべき術を持たない彼等には与えられた選択を自らで選ぶという権利のみしか持ち得ない。

 

 もちろん、強引な併合を行わない日本は、経済交流という観点からサハの防衛に兵を割いてくれはしよう。

 

 しかし、それでどうなる? 

 

 一度目は防げても、二度目、三度目と繰り返し行われるかも知れない強国の侵略から永遠に護ってくれるという保証など何処にも有りはしないのだ。

 

 日本とて己が国益と都合によって動く以上は、『価値無し』と判断した時点から段階的な撤退を行うだろう。

 

 後に残されたシベリアの小国や部族は日本より吸収し、学び取った戦い方や武器を用いて独力での防衛を迫られることになる。

 

 大国モスクワ大公国を始めとする欧州列強や。

 

 南方の中華帝国を相手にそれが可能か? 

 

 誰に聞いても同じだが「否」と答えるだろう。

 

 ではどうすればよいか? 

 

 この答えを彼等は自ら導き出した。

 

 即ち、日本が進んで血を流さざるを得ない。

 

 “自分達の郷土としてのサハやシベリア”を護り続けるようにしてしまえばいいのだと。

 

(部族の独立心や誇りを捨てて実利を取ったわけだが、そこには部族社会や他文化に寛容な日本人の考え方に対する一種の共感もあったんだろう。例え部族の独立は失われ日本人になったとしても、自分達の生活はなにひとつ変わらないのだという確信も)

 

 変わらない処か向上の期待が持て、更に一刻の猶予もない以上、これが自分達の生き延びる唯一の道として彼等は決断したのだ。

 

 大日本帝国の一部、一員と成る決断を。

 

(両者の思惑は期せずしての一致を見た。それも日本にとってはロシア人が仕掛けてくれたお陰で抵抗も反発もなく予定より早い極東併合の道筋を付けられたわけだ)

 

 こうしてシベリアはサハ東部を己が領土とした日本は彼等サハ人の思い描いた通り、サハ防衛の為に本土より大軍を派遣して同地の護りを固め、1631年9月2日。現在のヤクーツク近郊にてピョートル・ベケトフ将軍率いるモスクワ大公国軍と激突。

 

 二度の戦争──日露戦争(1631-1633)(1654-1657)を経て一度目は帰属未定地であったマガダン地方とハバロフスク北部地域を。

 

 二度目にはサハ地域東部全域を戦勝国と成った日本が自国領土として確定・編入させている。

 

(コサックのベケトフがモスクワ大公国軍の将軍とは……、まあ世界が違えば歴史も違う。超古代文明より続く全く異質な歴史を持つ大陸国家日本があるくらいだから当然と言えば当然か)

 

 世界の根源にも関係していると言われている超古代文明は、コード・ギアス・強化人間・そしてナイトメア、ありとあらゆる超常の技術を生み出したとされるが。

 

 一体どれ程遡れば辿り着けるのか不明なこの文明から派生した二つの国こそが大日本帝国と神聖ブリタニア帝国である以上、そして此処が反逆物語と相似した世界である以上、“史実の話”を考えても意味は無い。

 

 要は史実とはまったく異なる流れを持った歴史であるという、それだけのことだ。

 

(ともかくも、これが日本にとって一度目となる本格的な対外戦争だったわけだ。しかし以後200年あまりの間は再び進出が停止している。広がった国土への入植と開発に手間取られたか?)

 

 足利幕府は国内の制度改革によって普通選挙が実施されるまでの間、織田・今川・徳川・毛利などの皇家の信を得て政権を支える大臣や官僚団を構成する大名たちの支持の下、皇歴1336年-1867年もの、実に530年の長期安定政権として帝の名代を勤めていた。

 

 この安定期に日本が力を蓄えていったことから察するに、1500年代からの拡大政策と史実徳川幕府の時代に当たる年代の停滞期には何かしらの繋がりはある様子だが。

 

(それは日本の中枢のみぞ知る……だな。そうして静かで、それでいて新規に獲得した極東シベリアの開発に心血を注ぎながら安定期を終え、迎えた久方振りとなる対外戦争にして、初の国家総力戦となったのが──日中戦争だった)

 

 

 

 1889年8月2日

 

 太平洋進出を目指した中華連邦との間で起こった日中戦争(1889年8月2日-1892年7月25日)では、連邦構成国家=中華帝国・インド・モンゴル・インドシナを相手にして陸海共に完勝を収めている。

 

(戦勝国と成った日本は海南島に加え、領域内にサクラダイトの大鉱山──外興安嶺南部を抱える外満州全域までもを割譲し極東全域の併合を達成……。国内の開発に全力を挙げてきたことで大幅に増した国力のお陰もあるだろうが、技術・物量、そのどちらもがブリタニア級の日本ならではの結果か。普通なら絶望的な相手だからな中華連邦は)

 

 いまさらの話だが中華連邦の国力は同時期の『アメリカ』とほぼ並び立てるだけの国力を誇っている。

 

 これを相手に打ち破る処か“大勝”してしまえる辺りがなにか間違っているのだが、事実としてある以上はそれ以上の力を日本が持っているという事で無理やり納得するしかなかった。

 

 

 

 そして、そんな中華の敗北に学ばなかったのが白人至上主義者たちだった。

 

 

 

 1902年2月8日

 

 モスクワ大公国以来初めてとなる東方拡大を図った欧州圏の統一国。

 

 E.U.民主主義革命政権──ユーロピア共和国連合との間で衝突不可避となり勃発した日欧戦争(1902年2月8日-1908年9月5日)では、国力・技術力に物を言わせた物量戦にて、兵器の質・量共に劣るユーロピア相手に日本優位の戦いを展開。

 

 ヤクーツク講和会議にてザバイカリエ、ブリヤート、イルクーツクの中央シベリア東部三地方。

 

 及び中央シベリア高原一帯──史実ロシアのエヴェンキ・タイミル両自治管区に該当する地方をユーロピアより割譲させて、日本領として編入している。

 

 二つの戦争共に共通している点は日本側の完勝であったということだ。

 

 それも講和に際する反論を許さずというほどの圧勝である。

 

(まあ無理もないか)

 

 日中戦争では黄海、東シナ海、南シナ海の三つの開戦を経て中華帝国とインドの海軍戦力が壊滅した上、外満州は疎か満州域やモンゴルにまで展開を図っていた日本陸軍の猛攻を前に為す術のない中華連邦が、同地割譲を前提とした講和条件に意義を唱えられるはずもなく。

 

 日欧戦争に至っては、世界初の『戦闘機』や『戦車』という、国際社会を驚嘆させる新時代の兵器の開発・実戦投入まで行ったのだから。

 

 一時期ウラル山脈の東側まで攻め上った日欧戦争では、東京で行われた講和会議の席でクラスノヤルスクやトゥヴァ等、中央シベリア全域の割譲案まで上がっていたほど欧州本土へ接近していた。

 

(しかし、日欧戦争の獲得地域に中央シベリア高原が入っているのは……これは偶然か?)

 

 ここまでを整理して引っ掛かった場所の一つ、中央シベリア高原。

 

 此処にはシャルルの進める“アーカーシャ”に必要となる遺跡の一つが眠っている。

 

 日欧戦争で大きく広げた領土だが、果たして此処まで広範な版図を講和条約締結会議で最初から要求するつもりだったのだろうか? 

 

 こう言ってはなんだが所詮中央シベリアなどこの日本にとっては不要な土地。

 

 獲得した地域に対し、そう言えてしまえるだけの物を日本は最初から持っている。

 

 ではただの領土欲? 

 

 否。

 

 領土を欲しているのならば自ら獲りに行けるだけの力が大陸化した日本にはあった。

 

 現に皇歴1500年からの北方進出ではモスクワ大公国を打ち破って極東の大半を手にしている。

 

(だが、シベリア遺跡の獲得の為であったというのなら北に広がった版図を更に広げた事の理由にも繋がる。と同時に絶対に必要であったわけでもなかったというのも)

 

 最初から手に入れるつもりであったのならば自ら仕掛けていた筈だ。

 

 だが現実にはユーロピアの側から仕掛け戦争は始まっている。

 

(神根島遺跡を抑えているだけでもアーカーシャ計画は進まない。しかしユーロピアが仕掛けてきたことで更に踏み込んで保険を掛けておこうとした?)

 

 シャルルの計画を。

 

 この世界の未来を知っている誰かが日本政府中枢に? 

 

 可能性はある。

 

 それ程上手く事が運んでいるから。

 

 但し、これだけの要素では別の可能性もまた否定できない。

 

(それとも、古代国家の継承国として単純に遺跡の価値を知るが故の措置だったとか?)

 

 そうだ。其れもまた有り得るのだ。

 

 態々血を流してまで奪いに行く必要性こそなかったが、向こうからやって来たものなら話しは別。

 

 返り討ちにして、ついでに土地と遺跡とその地に眠っているであろうサクラダイトを手に入れる。

 

 戦争をするからにはただ防衛するだけではなく相手から得る物を得なければ一方的な損害を被るだけ。

 

 金でも、土地でも、遺跡でも、資源でも、なんでもいい。

 

 その全てを要求できるだけの勝利を収めて且つ開発維持を可能とし。

 

 獲得した物を生かせる国力を保持しているのならば当然全てを要求するだろう。

 

 それが戦勝国の権利であるのなら、権利を行使し賠償として受け取るのは当然の事だった。

 

 国家とは綺麗事で語れる様な存在ではないのだから。

 

(他には国土が広がった分だけ容易な本土攻撃を不可能とさせる為……)

 

 未来を識っている者が居る。

 

 或いは偶然。

 

(どちらともに取れるから難しいな。しかしどういう意図があったにせよ古代文明時代よりの歴史が大陸化した日本を統一させるには十二分に過ぎる時間を与え、また、元より保持していた技術レベルの高さが日本大陸という豊穣の地の恩恵を受けて遺憾なく発揮された結果であることは確かだ……。なんともまあそら恐ろしくも頼もしいことで)

 

 古代文明を引き継ぐ長い歴史と、高度な技術力。それに加えて知識によって達成した独力による産業革命。

 

 文明を動かす戦略資源である超伝導物質サクラダイトの異常な埋蔵量と採掘量。

 

 豊穣なる国土が育む余りある食糧資源と自給率。

 

(一国で完全完結を可能とする大陸国家大日本帝国か……まるでブリタニアが二つあるみたいだ)

 

 現に日本が『人型自在戦闘装甲騎』、つまりKMFを世に送り出したのはブリタニアとほぼ同時期だ。

 

 資源その他の状況と足し併せたこの事実は、言うなれば日本が唯一ブリタニアに対抗可能な国であることの証明である。

 

 それも本来の歴史にて第四世代機が実戦投入される2010年よりも早い段階で両国共に開発完成をさせている処からして、熾烈な開発競争があったものと伺い知ることが出来た。

 

(同規模の国家が存在した事による競争の激化が技術の進歩を加速させたのか?)

 

 昨年の2017年には第七世代量産機が登場していたが、反逆物語の2017年といえばまだ第七世代機の完成を見る前。

 

 実験段階としてランスロット等の先行試作機が世に出てきた時期だ。

 

 だが、現実には既に第七世代量産機の実戦配備が始まってしまっている。

 

 フロートシステムの開発などもやはり早く、浮遊航空艦艇も量産されて。

 

(とにかく、シャルルが日本侵攻は容易成らざると判断する要素が満載だったというわけだ)

 

 国力比でみても一目瞭然。

 

 ブリタニアを10とした場合、日本もまた10と完全に拮抗している。

 

 この国力が中華やE.U.との戦争において遺憾なく発揮された結果が極東での急拡大であり、それを可能とする原動力となっていたのだ。

 

 尤も、ブリタニアには本国とは別に国家的集団としてユーロ・ブリタニアなる組織と軍が存在している為に、額面上の数値から戦争遂行能力その他を割り出せないといった不確定要素も存在していたが。

 

(何れにしても、リ家・ヴィ家と、その支持勢力が日本へ亡命して組織化できる土壌も国力もあり、且つ簡単に手出しできない要素が揃っている。自由ブリタニアの一員である俺の立場からしても有り難いことこの上ない)

 

 

 

 しかし、全てが全て良い方向に向ったわけではない。

 

 これだけの大きなイレギュラー。

 

 日本の急拡大と発展が思わぬ悪影響をもたらした部分も存在していた。

 

(中華帝国、大清帝国、インド連邦にインドシナ連合、ついでに高麗民国。中華の分裂か……)

 

 コードギアス三大国の一角。

 

 中華連邦が崩壊していたのだ。

 

 

 

 



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間話
会話


長らく御無沙汰しておりました。
共通話における間話的なお話です。


 

 

 会話

 

 

 

 

 

 暗く深き、日の光さし込む事なき闇の中。闇そのものとも思える空間には10m以上は有ろうかという高さの天上に届かんばかりの背を持つ無数の本棚が聳え立つ。

 

 端から端まで埋まる本棚と、本棚とは異なり多種多様な実験器具が収納された戸棚なども林立している奇妙な空間。

 

 闇夜の静寂に包まれているかの如き音源無き広大なるその空間の最奥には、幅の広い台が一つ設置されている。

 

 台上には失われし超古代文明時代の文献や、世界中の歴史が記された書物が堆く積まれており、そこを根城とする男の永き時の渇きを癒す一滴の水源程度にはなっていた。

 

「本はいいものだねえ。未だ飽くなき探究心に囚われ続ける頭脳に新しい知識を次々と与えてくれる」

 

 辺りには白い霞が立ちこめ、空間全体をこの世ならざる空気で包み込んでいたが、男は気にも留めずに手にした一冊の本を読み続けている。

 

「知識を得る媒体としては電脳空間こそが現代の主流であるというが、やはり本とバーチャルは別物だ。無論、私もこの新時代のネットワークシステムがもたらした未知数の可能性と利便性については否定しないがねェ」

 

 男は言う、インターネットは便利だと。調べるべき事柄のキーワードを検索エンジンにて入力、一度クリックするだけで必要な情報を与えてくれる優れ物。

 

 それも本とは違い膨大なる情報を提示して、閲覧者の好奇心を大いに満たす現代社会に無くてはならないシステムであると。

 

「だが、それも使う者次第で如何様にも変わる」

 

 無くてはならない優れ物には違いないが、同時に閲覧者個人の能力も試されるのだ。

 

 示された情報が正しきものか否かを自ら選び取らねばならないネットでは、基礎知識を持たない者ほど誤った知識を身に付けてしまう負の側面も持ち合わせているのだから。

 

「専門分野の詳細を事細かに知り、そして身に付け己の物とするためには書物をこそ読まねばならないと──そうは思わないかねェ?」

 

 濃密なる黒という闇の中で異彩を放つ白衣を着た男は、そこで一端言葉を切ると、丸い大きな眼鏡の奥に隠された瞳を自らが手に持つ本より引き上げ、自身の後方に現れた気配に向けて問うた。

 

「ですな」

 

 問い掛けられた相手はこちらも男。

 

 銀にも白髪にも見える髪を持つ細身の40代後半といった風体の。

 

「物事を簡単に知り得る時代であるが故の落とし穴といったところですか」

 

 気品漂う様子は、何処かの高い位に在る者を連想させる。並び立てば明らかに格下と見られるであろう貧相な白衣の男に対し、しかし問い掛けられた男が一歩引いた後方に控えながらの相槌を打っている処に、彼等の間に在る上下関係の存在を感じさせた。

 

「フッ、フフフフフ……、ふはははははっ──!」

 

 続いて白衣の男が笑いながら口にしたのは自身の見解だ。

 

「私はねェ。誤りの知識を身に付けて全てを知った気になっている者を目にするたびに残念に思うのだよ。なにゆえ先人達が残したもうた知識の宝庫である書物を読まないのかとね」

 

『今時の若者は』国の違いを問わずして、ある一定の年齢層以上の者が口癖のように呟くその言葉を、彼も時折口にする事があった。しかし彼は別に若人のなにもかもを否定しているわけではない。

 

 電脳空間をただ否定するだけの古い価値観の人間とは違い、無限に広がる将来性までを考えた上でその有用性について認めているからだ。

 

 今まで知らなかった物や事柄を電脳空間を通じて知り、これに興味を持つ。興味を抱けば更に深く知ろうとするのが人間。

 

 知識欲は個々の向上心をも育たせ人間的な成長を促進させる。それは実に良いことだ。

 

 だが上辺だけを知り、全を知ったつもりになるのは良くないと、彼は常々思っていた。

 

「利便性に溢れた新時代の便利ツールも、利用する者の能力が低ければ十全なる力を発揮することができず宝の持ち腐れとなってしまう。それはとても悲しいことだ」

 

 電脳空間に真実はある。だが同じくして嘘もある。

 

 無論書物にも偽りはあるが、後世まで残り続ける専門書には残るだけの理由があり、残り続けるのだから役立つ知識が多く為になる割合は電脳空間上の情報よりは大きめなのだ。

 

「古代の叡智にまつわる事柄の核心に触れた記事など、電脳空間の隅々までを網羅したところで出て来ることはなかろう?」

 

「確かに」

 

 真偽不明な情報の取捨選択が出来る出来ない以前に、電脳空間では知り得ないようなことを書物を通じて知る事ができる。

 

 電脳の世界で得た知識を全に近付ける為にはどうしても書が必要となってくると、彼としてはそのところを伝えたかった。

 

「まあ、古代知識のような万人が知り得ぬ事はさておき。最も良いのは電脳空間と書物、双方を活用し学ぶことだ。進歩を止めてしまえば停滞ではなく落ち行くだけとなってしまう不完全なる生命体なのだからねえ人間という生き物は」

 

 勉強は大事だ。人間日々勉強であり、学びを疎かにしては必ずや衰退を招いてしまう。他の生物以上に人間は歩み続けなければならない宿命を生まれながらにして課せられているが故に。

 

 そして物事を学ぶに当たっては早いも遅いもない。知識を得て理解するのは個人の能力に依存する物だが、真実を真実として捉えられればそれで良いのだから。

 

「そして知った事柄に対しての先入観……これを捨て去らねば思わぬ罠に嵌ってしまう物なのだよ」

 

「罠、ですか?」

 

「そう罠だ──破滅の罠だ」

 

 破滅の罠とはどういう意味か? 

 

 訊ねようとする背後の男を彼は手で制し話を続けた。

 

「以前君には話したね?」

 

 世界は一つではない──。

 

 それは世界が一つの国によって統一されているのか否かといった類の話ではなく。

 

 もっと広く、有り得ないほどに馬鹿馬鹿しく、そしてどこまでも壮大な【世界】のことであった。

 

 古代の秘術を深部まで解析することによってコードを介さずともギアスを獲得できるような超技術が存在する世界。

 

 KMFという人型機動兵器の開発されていない世界。

 

 此処と似た世界や、似ても似つかぬ世界。

 

 想像だけで語られる、否、妄想としか思えない平行世界論の話。

 

 一にして全を持つ彼だけが知り得る数多の世界の存在についての話だ。

 

「俄には信じがたい話ですが……」

 

「くっふっふっふっふ、信じる信じないは君の自由だよ。私も我が言葉の全てを信じろと強要するつもりもない」

 

 未開の森林奥深くで生活する人々に外の文明の話をしても誰も信じないだろう。

 

 自然状態の生活を送る者達には、まるで遙か彼方の神々が住まう地のおとぎ話の様にさえ聞こえる筈だ。

 

 元より外の文明を知っている者や、大地に広がる都市、天翔る人造の大鳥を己が眼で視た者だけが初めて辿り着ける領域の類。

 

 平行世界、多次元宇宙論など、今の人類にとっては未開の地の住人が文明を知ること以上に理解しがたく、また彼も己が言葉を他人に信じ込ませる労力を発揮してまで理解させようとは考えてなかった。

 

 結局彼に取ってはどうでもいいのだ。自分がもし相手の立場に立っているとするのならば自分自身もまた平行世界論などという信用するに値しない与太話など斬って捨てたであろうから。

 

「だが現実にあるのだよそういう世界がね。そもそもサクラダイトなる奇跡の鉱物その物が存在し得ぬ、君達には想像することさえ不可能な世界もまたある。過去と未来も、時間刻みのその一瞬さえも、ある種の平行世界と言えなくもなかろう」

 

 過去と未来もまた個別の世界。一時間後には一時間後の時を刻む世界があり、一時間前には一時間前の時と法則によって動く世界がある。

 

 時空航行船……タイムマシンのような物が存在していれば、その一時間前の世界にも行けるだろう。

 

 その世界はやはりその時点での時間率で動いている。ならば±0の世界と-の世界の二つはそれぞれ別世界とならないか? 

 

 つまり世界は相互の行き来を不可能としているだけの事であって一つの完結された物などではない。

 

「無限だよ、世界は無限にあるのだ」

 

 一日は二十四等分に区切られている。

 

 一時間前には一時間前の時間軸に沿って動く世界があるのならばそれは一日の中に二十四の世界が存在しているという事になる。

 

 区切る時間の数が増せば増すほどに時間軸の異なる世界は際限なく、そう無限に増えていくのだ。

 

 たった一つの世界線ですら区切れば無限に区切ることができ、タイムマシンなどの時間に干渉可能となる装置が開発されれば時を超えての介入を以て世界その物を元の流れより分岐させてしまうことさえ不可能なことではなくなる。

 

 それはまさしく平行世界。異世界の住人に干渉されたことで変わる新しい流れを持った新たな世界誕生の瞬間だ。

 

「では、それら無限の世界が一体どうやって誕生したのか? そこで生きている生命は何を元にして生まれ出でたのか──」

 

 影になって見えない彼の表情の下で大きく裂ける口。

 

「いぃぃ~~やァァァ~~~?」

 

 まるで口裂けの怪物が隠していたその正体を露わにしたのかの如く、闇を飲み込む真っ赤な口が開かれた。

 

「それともその生物は……果たして本当に生物なのだろうかねェ~?」

 

 彼の問い掛けに男が首を捻る。

 

「どういう意味です? 生物は生物でしょう」

 

 生物は生物。その通りだろう。生きている物が生物でないとしたら、何を持って生物の定義とするのであろうか? 

 

 背後で佇む男にとって上司であり先生でもある彼は、ごく自然なその返答をいい答えだと褒めそやした。

 

「そぉ~こぉ~なぁ~のぉ~だぁ~よぉ~キミぃ。それが一般的な受け答えという物だが」

 

 “実は其れこそが先入観だというのだ”

 

 先入観。思い込み。そうであると確信していた事柄が実はそうではないという、根底としている物が意味を無くしてしまうであろう何かを彼は優秀なる部下に示唆した。

 

「先入観? なぜ今の私の回答が?」

 

「フッ……クックック、確かに話の辻褄が合わんねェ。ふむ、ではこうしてみよう」

 

 意味が分からないという部下に、彼は書棚へと収納されていた一冊の本を取り出して掲げた。

 

「これだよ」

 

 何の変哲もないただの童話だ。哲学的な物や、いま語り合っている平行世界論の話とは何ら関連性無き児童書。

 

 彼はその童話の書き連ねられた文を無視して徐にページを進めていくと、人物の描かれた挿絵の場面で指を止めた。

 

「君、これは生物かね?」

 

 そうして止めたページを指さし、挿絵に描かれていた登場人物の姿を男に見せたのだ。

 

「これは生物かと聞いているのだよ」

 

「それは、まあ……、人……ですので……。……生物ではないかと」

 

 男は彼より投げ掛けられた妙な質問に人は生物だと即答する。

 

 人は有機物であり無機物ではない。呼吸もするし運動もする。新たな生命を紡いでもいく生ける存在……。つまりは生物と答える以外の解などないとし。

 

 だが、そんな部下の回答に対して彼は首を縦ではなく横へと振り、部下の導き出したる当然の答えを一蹴した。

 

「違うよキミィ、目を懲らしてよく見たまえ~」

 

 これは──。

 

 

 

 

 

 “絵”だ──。

 

 

 

 

 

「は?」

 

「絵だよ絵。君にはこれが息をして喋る生物にでも見えるのかね?」

 

「い、いえそれは……」

 

 絵と言われればそれは確かに絵なのだろう。絵に描かれた人物が生物ではないという指摘は何ら間違いではないのだから。

 

「もし、これが生物に見えるというのなら少し休暇を取らせよう。眼科にでもいってきたまえ」

 

 まるで謎かけだ。子供のなぞなぞである。

 

 しかしいま彼は核心について話している。

 

「だがこの絵の人物、『アンドレは薪を拾いに森の中へと足を踏み入れた』というアンドレ君は、この“中”においては間違いなく生きているのだ。自らが本の中に存在するだけの……そう、作者という名の神によって描かれた想像上の人間なのだとはよもや気付きもしまい」

 

「……!」

 

「物語の中で生きる“人形”は自らが生きる世界を現実だと捉えるだろう事は今述べたとおりだ。確認する術を持たない彼等人形どもは、この途方もない事実に思い至る事なく今日から明日への時間をこの箱庭の中で過ごしていくのだろう。己の歩みが所詮外の人間によって作られた、決められたシナリオ通りに動き確定された結末を迎えるだけの実にくだらない物であるという事実を知ることもなくねェ」

 

 大まじめに話す彼の言葉を物語の中にだけ存在する者達が知れば、待っているのはそう、絶望だ。

 

 どんなに努力をしようとも、どんな素晴らしい文物を生み出そうとも、それはそうなるように仕組まれたこと。

 

 自らの力ではなく外の誰かに操られた結果でしかないのだからこれ程までに恐ろしい事実はないだろう。

 

 人は何故生きているのか? それを考え自らの存在に価値を見出す者も多いと思う。

 

 だが此に生きている処か生かされてさえいない、物語に配置されただけの紙に描かれた人形は真実を知ったその時に自らの存在を無価値な物と知り、絶望するだけだ。

 

「そこで話は戻る。外から確認する術を持つ我々は確かにこのアンドレ君が物語の中だけに存在する人物だと知っている訳だが──」

 

 仕切り直した彼が解き放ったのはその絶望その物だった。

 

 もしも~~であるならば、誰もが発狂するカオスの言葉であった。

 

「さあ、我々が、そしてこの世界その物が──」

 

 

 

 “アンドレ君でないと誰が証明する? ”

 

 

 

 男は言葉を切り、開いていた分厚い書をそっと閉じる。

 

 “ぱたん”

 

 暗い空間に立ち並ぶ本棚の間で音が木霊し、消えた。

 

 男の黒い双眸に七色の光が浮かび上がる。

 

 今にも飛び立たんとしているかのような七色をした光の翼が。

 

 自分達がクリエイターより与えられた赤い翼ではない、この世でクリエイターだけが持つ七色の翼が。

 

「ふくくくく、ふはははははっ、前にも言っただろうキミィ、この世界で動いている総てが造り物の人形であるという事を」

 

 人形、そう。人形なのだ。

 

 犬も、猫も、熊も、ライオン・うさぎ、魚も。

 

 大地も空も月も太陽も、超古代の文明もコードもギアスも宇宙も人も総てが総て造り物なのだ。

 

「だがぁ、それを識り、世界の理の外からやってきた私は違う」

 

 創造主クリエイター=L。

 

 南天を創り出した理の外に生きる存在。

 

 男は高らかに宣告した。

 

 世界の外側から訪れた者はその声音と瞳に狂気の色を色濃く漂わせながら。

 

 自身の側近たる合衆国最高指導者たる総代行主に向けて叫ぶのだ。

 

「主よ、我が神よ、それは……、つまり、この私も人形という事なのでしょうか?」

 

 総代行主は問うた。偉大なる創造主に向けて。

 

 だがそれにクリエイターは否と応えた。

 

「キミ、私は以前キミ達に何と言ったか忘れてしまったのかねェ~?」

 

 何と言ったか。神の言の葉。

 

 総代行主は忘れたことはない。

 

 否、合衆国と合衆国の勢力に組み込まれている世界各国の代行者は誰一人として忘れたことはない。

 

「私達は選ばれし者、と」

 

 選ばれし者。神に選ばれた代行者。

 

 合衆国とその思想を仰ぐ者は皆等しく代行者である。

 

 その中にあっても尚自分達のような一部は別枠にあると。

 

「そうだぁ、この世の真実の一端に触れたキミ達もまた理外へとその身を昇華させているのだよ」

 

 理外、理の外。物語の外側。

 

 全てが総じて造り物の世界において、それは斯くも誘惑に満ちた言葉だった。

 

「愚かで不完全な白、黒、黄色の人形共とキミ達は違う。そう、あの東アフリカの黒い代行者君も常々言っているだろう。古き大陸を支配した気になって自らの土台をガタガタにさせている屑共を白いガラクタと」

 

「は、……確かに申しておりますな。合衆国東アフリカ議長は……」

 

 合衆国東アフリカの最高指導者、東アフリカ国家代行議会議長ジョン・ウリエル・ド・ムガベ。

 

 E.U.ユーロピア共和国連合を支配する者達を押し並べて『白いガラクタ人形』と見下し呼ぶ東アフリカの代行者にして独裁者。

 

 立場としてはイエメン民主共和国議長、合衆国オセアニア=マダガスカル自治州知事、ニューギニア民主共和国代行統、そして合衆国オセアニア総代行主たる自身と同じ立場に立つ、神に選ばれた代行者の頂点に立つ一人だ。

 

 彼の者は良く口にする。彼の者以外も同様にだが。E.U.ユーロピア共和国連合の全人民を遍く『旧大陸の白いガラクタ』と。ある意味ジャンク以下の扱いをされている。

 

「E.U.のガラクタ共を最も愚かなジャンクとしても、この世はジャンク人形で満たされているのだ」

 

 そんな人形共と一線を画する選ばれた代行者。

 

「それがキミ達だ。真実に触れ、真実を識り、箱庭の有り様を理解して管理出来るキミ達であるからこそ私は南天全土をキミ達に委ねている」

 

「……」

 

 南天──神を頂く民主共和制原理主義による空の下。

 

「だから安心したまえ、キミ達は有用な存在であるのだとこの私に承認されているのだから」

 

 神の承認を受ける。これ程の栄誉は無いだろう。

 

「身に余る栄誉で御座います」

 

 だが、と神は続ける。

 

「分を識らぬ賢しらな新大陸の人形共、そして人形遊びを面白がっているジャップ共は気に入らん」

 

 ジャップ。神だけが識る言の葉。

 

 誰も意味は知らずに使う直ぐ北に位置する超大国の賢人を指すそれ。その国民を人形とは称しても、その賢人達についてはジャップと称する神が造った名。

 

 初めて使ったのもクリエイター。本当の意味を識るのもクリエイター。

 

「我が国だけでは不可能かも知れませんが、南天の総力を挙げれば攻略は不可能ではないものかと」

 

 南天全軍を以てすればどちらか片方とはやりあえる。或いは双方を相手取ってもそれなりに。

 

 南半球は疎か北半球にも影響力を及ぼすことが出来る南天条約機構。SSTO(southern sky treaty organization)

 

 号令さえ掛かれば神の名の下進軍する死兵の軍。死を以て神への忠誠の証とする軍。

 

 その総力を動員すれば50,000,000を超える兵力の動員が可能であり、限界まで動員すれば70,000,000~80,000,000の兵力が順次投入可能。

 

 稼働させられる空母戦闘群だけでも最大で22個群、作戦機は20,000を数え、KMFを含めた装甲戦闘車両数200,000以上にもなる巨大な軍だ。

 

 切り札も幾つか持っている。だが盟主は総裁は神はクリエイターは言う。

 

「片方だけならば相打つ覚悟で更地に出来るやも知れんね。滅びを是とするのなら双方を壊滅させられるかも知れん。だがそれを可能とするこちらが持つ切り札の内一つはそのどちらもが持っている。大気圏内爆発はかなり前に宙(そら)より確認されているのだからね。無論こちらの大気圏内爆発実験も感知されていることだろう。こちらがカードを切れば向こう側もカードを切ってくる。そして奴らはそれを見越して互いを背中合わせにしているのだ。空母戦闘群の数も片方の16個、もう片方の26個、合計で42個群。SSTOの22個群を大きく超えてくる。また一部を除いた航空母艦の個艦性能と規模自体もあちらが大きい」

 

 一方が侵略されればもう一方が自動参戦する。

 

 相互防衛同盟をあの国々は結んでいた。

 

 黄色人形中華連邦やガラクタジャンクのE.U.ならば蹴散らせられるが、こと彼の二国に対しては比較劣勢となってしまう。

 

「全く以て気に入らないことだが遣りづらい物。人形遊びが好きなジャップ共の良いようにばかり事が進むのは」

 

「では……」

 

「そうだぁ、当面は共産主義者を使って中東を平らげるか、大陸の黄色人形共の地を目指すとなるだろう……両地共に手に入れるべき地が存在している、そうして着実なる世界の改変を目指す……、いや、それともガラクタ共を使って私も遊んでみるか? 最近ゲームをしていないからねェ」

 

「あのジャンク共は欧州貴族を自称する人形共とぶつかるのでは? そうなれば結局はジャップと新大陸の人形共とぶつかるのではないかと」

 

「分かっているとも。だから総取りは考えていない。半分でも取れれば世界改変は一歩進むのだよ」

 

「また傀儡政権を立てると?」

 

「ガラクタジャンクの駒は幾つか持ってるよぉ、無論ガラクタその物自体が駒だがねェ」

 

 盟主の考えは定まらない。

 

 200年以上も昔からこの大地に居たとされる超常の存在たる盟主の考え。

 

 人形ならぬ一代行者には推し量ることがそも不可能なのかも知れない。

 

 七色に輝く双眸の狙いは何処にあるのか? 

 

 まだそれは分からない。

 

 

 

 






 読み方やwiki的なもの。

 国家代行議会(こっかだいこうぎかい=民主共和制原理主義国家における国会に相当する機関)
 国家代行者(こっかだいこうしゃまたは国家代行議会議員=こっかだいこうぎかいぎいん=国会議員に相当する)
 代行統(だいこうとう=国家代行者=国家代行議員=国会議員を統べるものという意=大統領に相当)
 国家代行議会議長(国家議長=こっかだいこうぎかいぎちょう=だいこうとうと同じく国家元首に相当)
 総代行主(そうだいこうしゅ=オセアニアの代行統の名称)
 SSTO(南天条約機構=南側諸国による集団安全保障体制または集団攻勢軍体制=第二次最終戦争=第二次ラグナロクを戦い抜くために存在する軍事組織でもある。通常の動員は50,000,000、最終戦争時に備えた体制下の限界動員可能兵力は80,000,000)
 創造主クリエイター=L(南天の盟主にして最高指導者=自称・他称含め南天では唯一神として君臨している=七色に輝く"翼を”その双眸に宿している)
 合衆国東アフリカ国家代行議会議長ジョン・ウリエル・ド・ムガベ(黒人、東アフリカの最高指導者にして独裁者=欧州人を『白いガラクタ・ジャンク』と称して見下している)


 参考程度に皇歴2019年現在の判明している分の列強各国軍の戦力状況。

 帝国陸海空三軍の戦闘機・爆撃機等総作戦機数が11,649機(第5世代及び一部6世代戦闘攻撃機8,267機。その他戦略爆撃機・哨戒機・輸送機・給油機・電子戦機等作戦支援機3,382機)
 戦闘・輸送・汎用VTOL5,983機。計画中の物も含めた浮遊航空艦艇40隻。
 KMF12,537騎(第5世代+第7世代。順次第7世代機へ更新中。他第8世代技術実証機)
 90式改、10式、10式改戦車13,835両(第4世代~第4.5世代)、自走砲・野戦砲23,367門、装甲戦闘車両35,276両。
 鳳凰級~改鳳凰級前期クラスの航空母艦16隻(空母戦闘群16個群)、戦艦含む主力水上艦艇287隻、揚陸艦艇504隻、潜水艦155隻、他補給艦・支援艦・ミサイル艇・哨戒艇・掃海艦艇等352隻。
(戦車・装甲戦闘車両・予備役の無頼改まで含めたKMFの合計で約71,000。哨戒艇等の小型船舶まで含めた海軍艦艇1,300。8,000機以上の戦闘機・攻撃機を含めた主要作戦機11,000)

 ブリタニア軍。
鳳凰級~改鳳凰級前期クラスの空母26隻体制(編成可能な空母戦闘群26個群)

 中華連邦やE.U.は前者が構成国全体で鋼髏約23,000騎(配備数は多い順に中華帝国>インド軍区>ペルシャ軍区>その他)空母戦闘群9個群。
 後者E.U.はパンツァーヴェスペ・パンツァーフンメル・ガルドメア計約18,000騎(フランス・ドイツ・イタリア・ロシアが多い)空母戦闘群10個群。

 これまでのオセアニア軍の戦力。
 作戦機13,000機、VTOL6,800機、戦車45,000両、装甲戦闘車両等作戦車両67,000両、自走砲・野戦砲25,000門、航空母艦14隻、揚陸艦艇520隻、主力水上艦艇360隻、潜水艦艇190隻、ミサイル艇・魚雷艇・哨戒艇450隻―及びこれに近しい機動兵器(KMF)が10,000騎。

 南天条約機構軍としてのオセアニア軍。
 作戦機20,000超、戦闘装甲車両200,000以上、空母戦闘軍22個群。即時投入可能戦力50,000,000、限界戦力70,000,000~80,000,000(これを可能としているのは事実上の国民皆兵制度を南天諸国が導入しているためという側面もある)

 長期間にわたりお話に手を入れていなかった関係で自身も忘れている設定などが見受けられました。大変申し訳御座いません。
 御説明として盟主が言っている切り札の一つとは恐らく皆さんが御想像されている物と同一の物と思われます(コードギアスを御存じの方ならば東京に投下されたアレしかないと汗。


 南天諸国の現在

 合衆国オセアニア 皇歴2019年

 政体 特定思想に基づく民主共和制原理主義

 国家元首兼最高指導者:総代行主

 首都 エリュシオン(キャンベラ)

 陸海空三軍

 総兵力  1,820,000+予備役 (徴兵制で事実上の国民皆兵制度)

 陸地面積 8,614,526km2(マダガスカル自治州含む)

 総人口  334,000,000

 領土

 オーストラリア+周辺島嶼
 ニュージーランド
 フィジー
 ソロモン
 トンガ
 ツバル
 バヌアツ
 サモア
 米嶺サモア
 クック諸島
 南ポリネシア(史実フランス領ポリネシア+ヘンダーソン島・ピトケアン島) 
 モーリシャス
 セーシェル
 チャゴス諸島
 コモロ
(旧大洋州連合地域)
 イースター島


 合衆国オセアニア・マダガスカル自治州

 政体 民主共和制原理主義

 州知事:州知事

 州都 メリナシティ

 陸海空三軍

 総兵力 420,000+予備役

 総人口 52,417,000

 旧メリナ王国だったオセアニアのアフリカ方面の拠点。
 現在は自治政府が独自に行政を動かしている。


 オセアニアの人口変遷は少々無茶ですが、大昔から存在した国家と言う事で、徐々に徐々に増加していき、日本・ブリタニア・中華と同じく近代に入ってから爆発的に増加。
 現実と違いサクラダイトを除く殆どの資源を自国で賄っている。サクラダイトは採れるも日本やブリタニアのように豊穣ではない。
 更なる生存権の拡大を図りアフリカ・東南アジア・南ブリタニアを欲したが、東南アジアは日本に、南ブリタニアはブリタニアによって阻まれる。
 現在世界を舞台に暗躍しつつ、他の列強の隙を窺っている。


 合衆国東アフリカ

 政体 民主共和制原理主義

 国家元首兼最高指導者:ジョン・ウリエル・ド・ムガベ

 首都 ダルエスサラーム

 陸海空三軍

 総兵力  886,000+予備役 (徴兵制)

 陸地面積 2,165,394km2

 総人口  142,576,800人

 領土

 タンザニア
 ケニア
 ソマリア

 一応独立国家の体を成しているがオセアニアの属国でしかない。
 タンザニア州西部にはE.U.側植民地と跨る形でサクラダイト鉱山がある。





 イエメン民主共和国

 政体 民主共和制原理主義

 国家元首兼最高指導者:国家代行議会議長

 首都 アデン

 陸海空三軍

 総兵力  125,000

 陸地面積 527,970km2

 総人口  25,690,000人

 領土

 イエメン

 東アフリカの属国。宗主国はオセアニア。
 共産イラクとの窓口。




 ニューギニア民主共和国 (南ニューギニア)

 政体 民主共和制原理主義

 国家元首兼最高指導者:国家代行統

 首都 ポートモレスビー

 陸海空三軍

 総兵力  186,000+予備役(パプアニューギニアと睨み合い劣勢な為、人口比率に対して兵力が多い)

 陸地面積 350,934km2

 総人口  4,406,600

 領土

 ニューギニア島南部と周辺島嶼

 かつてニューギニア戦争の舞台となったニューギニア島南部に築かれたオセアニアの傀儡国家。
 パプアニューギニアと国境沿いでの睨み合いが続いている。

 南天条約機構現加盟国(この先物語の進み具合によっては新規加盟国が増えていくかも知れません)

 合衆国オセアニア
 合衆国オセアニア――マダガスカル自治州
 合衆国東アフリカ
 イエメン民主共和国
 ニューギニア民主共和国(南部ニューギニア)
 オセアニア領旧大洋州連合
 
 オブザーバー
 
 イラク社会主義共和国

 南天条約機構軍

 通常最大動員数50,000,000~
 限界動員数70,000,000~80,000,000名

 作戦機20,000機以上
 KMF含む戦闘装甲車両200,000以上
 空母戦闘軍22個群


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鉄錆の記憶の欠片

マリーベルの話を書くつもりがシャルルお父さんの話を書いてました。

念のための注意書き。
数がインフレしておりますが世界的宗教組織ならばあり得るかなと考えました。



 

 

 

 

 

 

 鉄錆の記憶の欠片

 

 

 

 

 

 赤い。

 

 真っ赤な、色。

 

 床に、絨毯に、壁に張り付いた、赤い色。

 

 点在する色が部屋を赤く染め上げ、その中心で、最愛の人、マリアンヌが倒れている。

 

『ふっふっふっふっ、ふくくくくっ、ひははははっ』

 

 部屋の中心では、医師や研究者の様な白衣姿をした男が一人、狂った様に嗤っている。

 

 狂笑。正しくそう捉えるべきなのだろう嗤い。

 

 この世の全てを見下す双眸には虹色が浮かんでいる。

 

『ブリタニア最強の騎士ナイトオブラウンズ、その中でも最強の中の最強と呼ばれるのがこの木偶だったねえ君ィ』

 

 ぐりん。

 

 斜め後ろに、此方へと向けられたその存在の、耳近くまで裂けた唇が目に映る。

 

 どういう訳か、影に覆われて見えない表情に大きな分厚い眼鏡を掛けた、そのレンズの奥の虹色の双眸は、相変わらず全てのあらゆるを見下す物。

 

 なにも映さない、無価値と捉える、その双眸が、此方を見ている。

 

 一つの視線では無い、一人が見ているというにも関わらず、その視線からは幾百、幾千、幾万もの、或いはそれ以上の、視線を感じた。

 

 その全ての視線が等しく無価値であると物語っている。

 

 恐怖を覚えた。これだけの視られた事の無い視線の、無価値なる瞳を受け、私はただその場に崩れ落ちていた。

 

 神聖ブリタニア帝国皇帝たるこの私が、絶対君主であり恐怖など無縁のこの私が、確かにあの時、恐怖した。

 

『木偶、君に尋ねているのだよぉ? 木偶は耳まで造り物だから聞こえんのかねェ?』

 

 木偶。でく。デク。

 

 その存在は、入室してきた時より、その場に居た全てを“木偶”と呼んでいた。

 

 いや、振り返ればそうなのかも知れない。

 

 確かにその時、誰もがその存在に抗う事さえ、出来なかったからだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ばたんっ、大きな音を立てて広間の扉が開かれた。

 

 謁見用の大広間、当時は血の紋章事件の最中であり、詰めていたのは貴族では無く騎士か軍人ばかりだった。

 

『おはこんばんにちわ~っと、でも。挨拶したらば良いのかねェ? 木偶人形諸君』

 

 無粋に入室してきたのは、異様な男が二人であった。

 

 一人は短機関銃を持った白い覆面姿に修道服の様な衣装を身に纏った男。

 

 そして、もう一人。この場には確実に似合わしくない、白衣姿の長身の男だ。

 

 白衣の男はどういう訳か、明かりの下にあっても顔が影でどす黒く隠れて見えない。

 

 大きな分厚いレンズの眼鏡を掛け、その眼鏡の奥には七色の瞳がギラギラと輝いている。

 

 不敬で無粋、狼藉を働いた見知らぬ男。血の紋章の渦中でもあった為に、処罰対象とされたのも必然だろう。

 

 だが、それが殺戮と蹂躙の合図であった。

 

『皇帝陛下の御前であるッ! 不敬であるぞっ!』

 

 斬りかかった我が騎士が死んだ。

 

『お行儀がなっとらん人形だねェ』

 

 目で捉えられぬ一瞬の移動。瞬間移動のような素早い動きで騎士に迫り、眉間に人差し指を突き刺した。

 

 それだけでだ。

 

『きっ、貴様ァァっ!!』

 

 同僚を殺されて激昂した騎士が、またも指一本で額に穴を開けられて死んだ。

 

『木偶はこれだから困りものだ。ゴミ以下の以下、ジャンクは行儀が悪くて始末に負えんよ』

 

 二人、秒で殺したその白衣の存在は、指に付いた血を舐め取りながら、耳まで口を裂けさせるような嗤いを影の顔に浮かべる。

 

 人を殺した、そういう意識よりも、ゴミを始末した、虫を踏み潰した、そんな嗤いが不気味な印象を此方へと植え付けた。

 

『くっ、慮外者だッ! 陛下をっ、陛下を御守りしろっっ!!』

 

 我が騎士達、我が戦友達、この血の紋章と呼ばれる事件の最中を。

 

 私を支えてくれていた騎士達が次々と死んでいった。

 

 重傷の身となり命永らえた物も居たが、三分の一は黄泉の旅路についた事だろう。

 

 血の紋章の中に起きた惨事。

 

 唐突に始まった凶行だった。

 

 これを排除せんが為に動いたのも我が騎士、その中でも最優のマリアンヌだ。

 

『我が名は皇帝陛下の剣ナイトオブシックス、マリアンヌっ。皇帝陛下に手向かいし男よっ、何者かは与り知らぬが貴様を誅殺するっ!!』

 

 振るわれた神速の剣。誰もがたどり着けない閃光の神閃。

 

 ナイトオブファイブ、ビスマルク・ヴァルトシュタインも此に加わる。

 

 尋常ならざる相手。肌で感じたが故に、一対一を旨とする彼らが二人、いやその親衛隊も併せて数十名で取り囲み、取り押さえに掛かったが、少し後、ほんの二分後には誰一人残さず血の海に沈む事となろうとは。

 

 そのほとんどが偶然にも私に翻意を抱いていた者達であった、謀略、欲望、自己満足、裏切り、負で満ち満ちた者達であったのは、果たして幸か不幸なのか。今を以ても分からない。

 

 勝負は一瞬だった。神速で振るわれたマリアンヌの剣。瞬速と剛力で以て振るわれたビスマルクの剣。

 

 それらを振るわれた白衣の存在は、その双剣を、左右の人差し指と中指で摘まんで、止めたのだ。

 

『ふむ』

 

 バシッと受け止められた双剣は、まるで金剛石でも相手にしているかの如き、硬い指で止められていた。

 

『なっ!? なんですって?!』

 

『ば、馬鹿なっっ!? 私とマリアンヌ様の剣を指でっっ!?』

 

 不可能、あり得ない、起こりえない事が起きた。誰もが息を呑み、件の二人は剣に力を込めているが、その存在は微動だにせず動かない。

 

 存在は言の葉を紡ぐ。

 

『ふぅん、これが噂に名高いナイトオブラウンズとやらの力か、木偶としてはまあ及第点だ──が』

 

 ドッ。

 

 瞬間、二人の最強の騎士のその頑健なる身体が、横凪の健脚で蹴り飛ばされ──

 

『ガッ?!』

 

『かはッッ!!』

 

 ──柱に激突して、双方共に崩れ落ちた。

 

 呆気にとられる間もなく遅い来た衝撃に、二人は意識を刈り取られていたのだ。

 

『こんなオモチャで神である私に傷の一つでも付けられるとでも、まさか本気で思っていたのかね?』

 

 二人から取り上げた剣を、その存在は虫でも握りつぶすかのようにして、その拳で砕いて潰した。

 

 砕かれ、へし折られて割れる金属音が、静まりかえった部屋に妙に響く。

 

 それはまさに人外の力だった。人の身で鋼を砕いてしまっているのだから。

 

 残された親衛隊の面々も、隊長格を瞬殺された動揺の隙を突かれ、その存在の部下と思わしき白覆面の男に機銃掃射を受け、皆殺しにされた。

 

『総裁、申し訳ありません。御身をこれ以上木偶の血で汚されるのはあまりにも不愉快であった為』

 

『ん~、構わんよぉ~、私は最強とやらの力をこの身で受けてみたいと思い、少し遊んだだけだからねェ。遊ぶ価値の無い木偶と戯れてやるほど慈善家じゃあない。いい年をして人形遊びに耽っているとは、全く以てジャップ共の気が知れんよ』

 

 この間、僅か二分ほどだったのでは無いだろうか? 或いはそれ以上に短かった様にも感じた。

 

 それ程までに隔絶された戦闘力の差が、その存在と、マリアンヌ・ビスマルク、以下の親衛隊達には合ったのだ。

 

 たった二人からの襲撃、それも部下らしい男はほとんど動いていない為、実質、この異様な、影に顔を隠された、七色の瞳を持つ存在一人に、我が騎士達は全員制圧された。

 

『しかしなんたる有様、あまりにも無知で愚かな愚者達だ。最強の騎士という物だからどれくらい運動できるか試してみたのだが、ふ~む、これでは運動にならんねェ。君ィ、特に僅かばかりだが張り合いを感じたこちらの木偶は何と言ったかねェ?』

 

 何もをも障害とせずに居たその存在は、その存在の脇にただ佇み、事後処理を終えたと事の成り行きを見ていたその存在の部下らしき、白覆面を被った男に話しかける。

 

『はっ、閃光のマリアンヌと』

 

 白覆面の男は答える。我が騎士最強のマリアンヌの名を。

 

 誰もが知り、誰もが届かない、たった先ほどまで“頂に立っていた筈の”マリアンヌの名を。

 

『閃光? 閃光の様な速さで地に伏すのが得意なのかねこの人形は……、ふッ、ふふふ、ふくくくくっ、ふはーっはっはっはっは! 人形劇の木偶人形としては上手く造られて居るではないかねェ! 実に素晴らしい演出だったよ100点をやろうっ! 満点だ中々の喜劇だったっ!』

 

 喜劇? 我が最愛のマリアンヌが木偶? 人形? 

 

『きッ、貴様ァァッ!』

 

 カッと頭に血が上った。

 

 恐怖が怒りに上書きされた。

 

 だが、一方で冷静になれとも自分に告げる。相手は得体の知れない怪物だ。

 

 それを前に前後を喪う等と。

 

 だが、我が最愛を侮辱され、その怒りは覚めやらぬまま頂点に達した、が。

 

 男へと斬りかかったその瞬間。

 

『がはッッ』

 

 我が身体も、我が騎士達同様に力任せに地へと叩き付けられていた。

 

 圧倒的な力だ。技術も戦闘力もプロでは無く素人のソレ。

 

 だが、人間とはかけ離れた力の差がソレを覆してあまりあった。

 

 血が滴り落ちる。

 

 私の、マリアンヌの、ビスマルクの、我が騎士達の血がこの広間に流れ落ちている。

 

 鉄錆の匂いがした。

 

『君に一つ良い言葉を贈ろう。“天に唾すれば己が身に跳ね返る”いま君たち木偶が行ったのはそれだ、神(わたし)に対して、唾を吐きかけようとしたのだからねェ。物語の舞台装置でしか無い木偶人形が、身の程という物を弁えたまえよ?』

 

 しゃがみ込み。此方を覗いてきたソレに頭を掴まれる。

 

『ぐっ、うう……』

 

 鷲掴みだ。引き上げられる様にして頭を持ち上げられた。

 

 その人力は人外のそれだった。

 

 眼前にあるというのに、やはりその顔は影で隠れて見えない。

 

 闇で覆い尽くされているかの様に。

 

 そして、虹色の双眸に浮かぶのは幾万、幾百万の視線。

 

 とても一人の人間が向けているとは思えないほどの人数の視線を感じた。

 

 等しく無価値な視線を。

 

『さあ、木偶人形君。選択の時だァ。我が代行者とならん資格を君は持っている、そこで君には二つの選択肢を与えようと思う』

 

 選択肢。

 

『我が洗礼を受け、神の使徒たる代行者となるか? これを断るか? イエスorノーの二択だ。とても単純明快だろう?』

 

 私の前に差し出された選択。

 

 これを私は。

 

『ノー、だッ』

 

 有無を言わさずに蹴った。

 

 我が愛するマリアンヌを侮辱したこの存在に、この男に、忠誠を誓えだと? 跪けだと? 

 

 ふざけるなッッ! 

 

 仮にも神聖ブリタニア帝国皇帝として、その様な選択など、断じて受け入れる訳にはいかぬ。

 

『そうか。話にもならんな。稀代の名君であると物語から識っていたが、所詮は木偶の一体に過ぎぬという事か。よろしい。たった今より君の価値は木偶以下のジャンクとなった。私としてもジャンクに様は無い、ここで壊して──』

 

 掴まれていた手に力が加わる。ビキビキと頭蓋が音を立てている。

 

 まるで万力の様で、とても人に出せる力では無い。

 

 それに、それに、この存在の虹色の双眸。

 

 見覚えのある形をしすぎている。

 

 これは、それは。

 

 

 

 コード、ギア──。

 

 

 

『総裁。失礼します!』

 

 

 

 突如広間に駆け込んできた別の覆面男の声で、思考が遮られる。

 

 覆面は顔を隠す為なのか。この存在の部下達は二人共が、同様の白い覆面姿だった。

 

 序でに締め上げられていた頭部への圧迫感も緩む。

 

 忌々しげに振り返るその存在は、変わらずしゃがみ込んだまま。

 

『何だね~騒々しい?』

 

『はッ! 目標の確保は終えました! 目標ゼブルス・ラース・ラズウェルは己の目的と引き換えならば力を貸す事、吝かでは無いと』

 

『ほ~う? 交渉条件を付けてきたのかね? この神たる私を相手に』

 

『絶対神たる総裁の事を未だ識らぬが無知故の事かと思われます』

 

 握りつぶされる寸前だった私の頭が握りつぶされなかったのは、その存在の、その男の部下らしい白覆面とはまた違う、別の男の乱入によって止められた。

 

 だが、こやつは今何と言いおった? 

 

 ゼブルス・ラース・ラズウェルだと?! 

 

 悪魔伯爵ラズウェルを解き放つだと?! 

 

 あの悪魔は父の御代に置いて千の人間を人体実験の犠牲にした悪魔なのだぞ。

 

 人の脳を使い、脳を演算装置代わりにした戦闘兵器の開発こそが、最も効率の良い人型兵器だと言い切って、中央学会を追放され、父の手により牢獄へと幽閉された悪魔。

 

 それをこやつは今、解き放つと言いおったか!? 

 

『き、さまッ、あのッ、男がッ、どういう男かを識りッ、その上で世に解き放つのかッ』

 

『識っているとも。人の命を犠牲にした悪魔の天才科学者らしいねェ。それだけの頭脳が無為に失われるのは惜しい。是非とも我が下で研究開発に勤しんで貰いたい物だ。人型自在兵器ナイトメア、次世代の戦闘兵器の開発には充分に使える人材だァ、君よりも余程に価値のある存在だよ木偶人形君』

 

 それに──木偶が千体壊れた処で、だからどうしたというのだね? 

 

 にいっと嗤う。赤い口が耳元まで裂ける。

 

 鉄錆の匂いに満ちた広間。

 

 大勢の死と、多くの血が流された、後に空白の三十分と呼ばれる怪奇事件。

 

 何故、怪奇事件と呼ばれるか? 

 

 それは、それは、被害を受けた誰一人。

 

 その場に居合わせた誰一人として記憶に残されては居なかったからだ。

 

 あの存在の、あの怪人の存在も、起きた事象も何もかもを、誰もが知らずに、気が付いたら皆死に絶え、幾人もの重傷者が出ていた。

 

 何者かの集団による破壊活動、皇帝暗殺未遂として処理されたこの事件、そのあらましは、記憶に関連するギアスを持つ影響だろう、私だけが断片的に覚えていた。

 

 此処に入り込んだときから変わらない、七色の双眸を、その瞳に映し出しながら狂笑する男。

 

 自らを神と呼び、正に神さびた存在だった、邪悪なる神。

 

『私がその気ならばこんな忌々しい舞台装置の世界など疾うに破壊しているよ。世界の管理者とやらも所詮は被創造物たる木偶でしかない。理外の存在であり神である“私達”からすれば等しく無価値だ。君たち人形は精々ジャップと戯れておけば良い。だが、忘れるな。我が手はいつでも君や君の親類縁者、木偶人形共の下に届くぞ? 努々警戒を怠らぬ事だ。そして、私の使徒とならぬ選択を選んだ君の責任だ。精々その寿命が尽き果てるまで親類縁者の心配でもしているが良い、ふふふッ、ふはははははッ』

 

 私の記憶は、そこで途絶えている……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「は──っ!!」

 

 目覚めると、そこは私室だった。

 

「かはっ、はあっ、はあっ……はあ、……はあ、……夢、か……」

 

 昼の休憩時、忙しい毎日の疲れが溜まっていたのか、うとうとと眠り、夢うつつとなっていた様だった。

 

 喉が干からびた様に乾いている。

 

 テーブルの上に置いてある水を一含み呑み込んだ。

 

「……久しぶり、か」

 

 夢うつつ……あの、怪奇現象の、夢。

 

 久しぶりに見た忌まわしい夢の記憶。

 

 本当に起きた事だったのか、わし自身が自らの記憶に疑いを持っている。

 

 あの誰にも負け得ぬ最強のマリアンヌが、虫の様に叩き潰され、多くの騎士を死に至らしめた怪事件と、邪悪なる、神。

 

「邪悪なる、神、か……」

 

 アレは自身を神であると言い切っておったが、確かにそうだと言えるのかも知れぬ。

 

 だが、アレは人々が安寧を求めている様な神では無い。

 

 破壊と殺戮を世にもたらす災禍の神の類いだ。

 

「そしてあの瞳」

 

 あの双眸。

 

 今でも忘れ得ないあの二つの瞳の虹色の輝きは。

 

「コード、或いは、ギアス」

 

 あの虹色の双眸には、確かに、それらしき翼の模様が浮かんでいた。

 

 どの様な能力か? あの人外染みた身体能力はアレによる物なのか? 

 

 何一つ分からない、だがもしもアレが現実の事であったなら。

 

 あの男は、あの男は、少なくとも三つ以上の能力を宿している事となる。

 

 銃で撃たれても死なず、効かず。

 

 人外の身体能力を持ち。

 

 数多の人間の記憶すらも操作する。

 

 複数の能力持ちの上で不死身。

 

 規格外に化け物過ぎる、反則だと言えるだろう。

 

 あの男自身が言っていた様に、自らを神と称しても問題ないほどの、異次元の能力だった。

 

 それに、アレが全てだとも思えない。

 

 アレの他にも未だ能力を持つ可能性がある。

 

 宮廷内に平然と入り込んできて、警備の者が誰一人気付かない、監視網にも引っ掛からない。それも一つの能力だったとするのなら、これで四つだ。

 

 本当に四つか? いや、まだある。少なくともわしはそう睨んでおる。

 

 あの様な邪神の如き存在が、たった四つの能力に収まる筈が無いだろう。

 

 神を自称する程なのだ。それ以上の何かを持っていても何らおかしな事では無い。

 

「神、邪悪なる神、複数の能力を持ち、コード保持者の不死性以上の不死身と最低ラインで四つ以上の能力を持つ、人外の力を持つ神、か」

 

 ふと、わしは思い出す。ここで重大すぎる事柄を思い出したのだ。

 

 我が愛娘とその友人達も関与しているテロについてを。

 

「……そういえば、白い翼と、光の嚮団も」

 

 民主共和制原理主義組織『白い翼』。

 

 あの南ブリタニア大陸に巣くう、凶暴で悪辣なるペンタゴンすらをも子犬の様に飼い慣らす、正真正銘の狂信者の組織。

 

「構成員人数は世界中に約──一億」

 

 一億人の構成員という、信じられない規模を誇る、各細胞事にバラバラに活動する巨大テロ組織にして、巨大複合企業の表の顔も持つ、裏社会の頂点に君臨する組織。

 

 あらゆるマフィア、暴力組織や犯罪組織と通じており、世界各国のテロ事件の黒幕とされる組織であった。

 

「その支持母体、光の嚮団もまた類推される組織、世界三大宗教の一つであり、絶対神による世界救済を信じる、福祉と慈善の手厚い集団──信徒数は」

 

 十二億──。

 

 凡そ十二億に達する、世界三大宗教の一つ。

 

 この世に存在するという絶対神を妄信し、崇め奉る存在。

 

 たった二百年ほどの期間で、爆発的な勢いを以て世界中に広がった、一大宗教組織だ。

 

 これの過激派が白い翼だとされている。少なくとも世の裏を識る者達の間では、そういう定説が定着していた。

 

「実態としては、両組織共に古代文明の調査研究や奪取を目的とし、古代文明技術の再現を目指す研究機関的な側面も併せ持つ、か」

 

 あの空白の三十分には、白い翼が関係していた痕跡が僅かばかりだが見られる。

 

 そしてあの虹色の双眸の男。総裁と呼ばれていたアレこそが、彼らの奉ずる神ではないのか? 

 

 アレは言っていた。我が手は何処であろうとも届きうると。

 

 同時に警戒していた。ジャップと呼ばれる存在を。

 

 ジャップが何を指しているのか、聞いた事も無い語源だが、あの邪悪な神に対抗できる存在なのだろうか? 

 

 空白の三十分の記憶の欠片を持つ自身は、今日に至るまであの事件については特に誰かに語っては居ない。

 

 信頼の置ける最愛の妻マリアンヌ、実兄であるV.V.兄さん──そして、我が心友シゲタロウにも。

 

 あまりにも怪奇すぎて、自分以外の誰もが知らなすぎて、自分ですら断片化された記憶しか持っていない。

 

 そんな不確かな事象、誰にも相談など出来る筈が無かった。

 

 だが、投獄されていたはずの悪魔伯爵、ゼブルス・ラース・ラズウェルの姿も牢から消えていた。

 

 指名手配したがその行方は様として知れず、現在を以てしても未だ発見されて居らぬ。

 

 あの悪魔は曲がりなりにも天才科学者であった、その頭脳が他国に漏れたのは致命的に過ぎる。

 

 あの瞬間を以て我が国の中核技術が他国に漏れた事は確実だろう。

 

 思い起こせばあの男が逃げ込みそうな場所と言えば、E.U.ユーロピア共和国連合か、或いは南天か……。

 

 それに、それ以上に、あの悪魔は何をやらかすか知れた物では無い。

 

 人間を実験動物程度にしか見ていな──ああ、いやそうだな。それを言うならばあの邪神は人間を“木偶”と称して居った。

 

 あの悪魔伯爵が可愛いとさえ思えるほどに、人間味の欠片も無い、幾百万以上の無価値な物を視る視線をその虹色の双眸に宿す男。

 

 あの邪神が巻き起こしていった惨禍の後も残っている。

 

 アレは現実として起こった事なのだろう。

 

 わしに残された、わずかな記憶の欠片だけを残し、全てが夢幻の如く消え去ってしまったが。

 

 だが、記憶がほとんど残っていないだけに、この不確実な事実を誰にも打ち明ける事が出来ないのだ。

 

 わし以外の誰か、一人でもこの事を覚えていてくれたのならば、な。

 

「そういえば、マリーベルがペンタゴンの主要幹部を先日討ち取ったのであったな」

 

 我が愛娘の一人。神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア。

 

 わしの為にと、対テロ部隊まで組織して我がブリタニアの裏庭である、南ブリタニア諸国でペンタゴンの掃討任務に就いている、行動的な娘。

 

 

 

 

 

 “──忘れるな。我が手はいつでも君や君の親類縁者、木偶人形共の下に届くぞ? ”

 

 

 

「──っっ!!」

 

 はっと思い出される断片の記憶のその欠片に残されていた言葉。

 

 ペンタゴンは民主共和制原理主義組織。

 

 その大本は白い翼と光の嚮団、そしてその根源は。

 

「南天──」

 

 南側諸国、通称南天。

 

 合衆国オセアニアを中核とする巨大国家群組織──SSTO。

 

 北側世界である我がブリタニアと技術の日本と対立してきた、最大の敵対国家群。

 

 

 

 “全天に美しき世界の実現の為に”

 

 

 

 この言葉を共通語とする彼らは『光の嚮団』『白い翼』を通じ、世界中に根を張っている。

 

 我がブリタニアにもその根はある。

 

 正確な情報は相変わらず分からぬが、南天の張る鉄のカーテンの向こう側より漏れ聞こえてきた噂を話半分で聴いても、最大動員50,000,000以上を可能とする巨大な軍。

 

 南天傘下の十二億の一大宗教『光の嚮団』まで加われば、最早宗教戦争、世界戦争は避けられまい相手。

 

 南天の手、それこそが神の言う手なのではないのか? 

 

 だとすればもう、愛娘の一人マリーベルはその手に触れてしまっている。

 

 メル家の我が妻と、我が愛娘ユーリア、二人とマリーベルが巻き込まれたメル家の火災事件。

 

 宮殿は焼け落ちたが、幸いな事に妻も、ユーリアも、マリーベルも、使用人や騎士達も皆無事だった。

 

 だが、アレは、アレを行ったのが白い翼では無いと、邪悪なる神では無いと、誰が証明するというのだ。

 

 今にして思えば、マリーベルは、あの一件から対テロに対して、更に積極的になっていった様にも思える。

 

 マリーベルは、あの火災現場で何かを見たか、何かに出会したのかも知れない。

 

 あの子も時折、わしの様に悪夢にうなされていると聞く。

 

 そんなとき、コンペイトウという日本の飴のお菓子を食べて落ち着きを取り戻すそうだが、コンペイトウに何か特別な思い入れでもあるのだろうか? 

 

 もしも精神の不安定化が定期的にでも起こってしまう様ならば、メル家の火災前後の記憶の書き換え処置もと考えはしたのだが、それはあの子の尊厳を傷つける行為。

 

 わしにはとても、その様な真似は、出来そうも無い。

 

「しかし──そうか、そうか、……そうだな、わしは……わしは恐れているのだな……」

 

 あの邪神の手が、愛する兄弟姉妹、愛する妻達、愛する息子娘達に及ぶのでは無いかと。

 

 あの誰もが、マリアンヌやラウンズですら片手で制圧してしまう、抗うこと叶わぬ暴虐な魔の手が、いつか届くのでは無いか。

 

 拳銃弾や機関銃を掃射されても狂笑を上げ立っていた、あの怪異の手が。

 

 だから、だからわし自身の庇護の元より、わしは家族を離したく無いのだ。

 

 それが息子達や娘達の反感を買う行為であったとしても。

 

 この身を盾として、あの邪悪なる神の魔の手より、家族を守れるのならばと。

 

「ふ、ふふふ、無謀な事よ、本当にあったかどうかも分からない出来事の断片の記憶に踊らされ、家族を喪う恐怖に怯え、家族を守らんが為に手元に置いて守りたい……。その様なわしの願いなど、あの邪悪なる神が実在していたならば、不可能に近い……。ブリタニアの防衛網を簡単にすり抜けて、宮廷内部に侵入し、圧倒的なる力を振るいつつ記憶や痕跡も消し去ってしまう怪人を相手に、この身一つで我が愛する家族達を守ろう等と、何と無謀で愚かな事よ……」

 

 だが、ペンタゴンの高級幹部達を悉く討ち取ったマリーベルは、その神の怒りに触れているかも知れぬ。

 

「構成員500,000は下らないとされているペンタゴンであっても、上位の幹部陣を討ち取られた以上、暫くは大人しくしていよう。マリーベルとオルドリン、彼奴らの活躍によって拠点も多く潰す事が出来た。此処は一度安全と休暇とを考慮し、日本に居る兄さんのところへでも向かわせるか」

 

 兄、V.V.は日本に帰化して久しい。皇室のもめ事の原因になるから。そう言って自ら皇籍を手放し、全ての責務から解放された兄は、渡日し、彼の国に帰化。とりあえずの自由を謳歌している。

 

 現在でも嚮主という立場にあるギアス嚮団の運営は、後進の嚮主代行に任せ、半隠居の身ではあるが。大日本帝国内に置いてはジ家の代表として動く事もあったりするのだ。

 

 ジ家の代表は本来ならわしだが、わしはわしで、ブリタニア帝国皇帝として多忙の身。必ずしも、この身一つで自由に動ける身体でも、立場でも無い。

 

 故に、兄さんには多少窮屈でも、代行という形で、日本では政務に携わって貰う事があった。

 

 兄さん自身はいつも『気にしないで良いよ。シャルルはブリタニア帝国の皇帝なんだから、身一つで自由にできない事だって大いにあるさ』と仰ってくださり。

 

 そういうの嫌だから皇籍を奉還したんだけどねと、そう言って笑ってくれる。

 

 全く以って、わしは良い兄、良き家族に恵まれた物だ。

 

 その兄の元、そして信頼できる友人達の下に身を寄せさせる事で、グリンダ騎士団として日々戦い続けているあの子達には、暫しの安寧を与えてやりたい。

 

「とはいえ、グリンダ騎士団は6,000の兵と、三隻の浮遊航空艦を持つ、大規模な対テロ部隊。半個師団規模の部隊だ。抜けた穴は大きい……、交代要員として別の部隊を組織して備えておくか」

 

 願わくば、あの子達に、邪悪なる神の魔の手が及ばぬ様。

 

 そう、願うばかりだ。

 

 

 

 






以上となります。

以下解説です。

光の嚮団:全世界に十二億の信徒を持つ宗教団体で、白い羽と天使の輪がシンボルマーク。
世界三大宗教の一つ。発祥は二百年程前と新しいが、この世に実在するという絶対神を信仰する。
慈善事業、福祉事業を手厚く行っており、主に貧困地域で絶大な支持を集めている。
活動家の特徴はとにかく善人。とても甘い顔を仮面の様に貼り付けており、人の心の隙間に入り込む事が巧み。

民主共和制原理主義組織、白い翼:マフィア、過激派組織、犯罪組織、人身売買組織等と繋がる一大テロ組織。推定構成員は一億人で、個々で独立して活動中。
過激派で“全天に美しき世界の実現の為に”世界中の細胞を使い、裏社会や政治の世界で暗躍する。
ペンタゴンなどもこの傘下に収まっており、ペンタゴンやその他の民主共和制原理主義組織の最上位組織に当たる。
表の世界では巨大複合企業を構成し、表でも世界を舞台に暗躍している。
光の嚮団の様な大規模な施設などはテロ部門に存在せず、世界各地に細胞として細分化され、地域社会に溶け込んでいる為、一目で判断は難しい。
“天命”が降りれば、“浄化”と称してテロ活動を行う。本人達は殺人=浄化作業は救済活動であると考えており、常人の思考とはまるで異なる。
光の嚮団の過激派分派と見なされている。シンボルマークは天使の翼。


南天条約機構:アフリカ東部諸国と中東の一部、東南アジアの一部、南太平洋の国々から構成される軍事同盟(今後加盟国が大幅に増える可能性ありです。
解説は不要かも知れませんが、最大動員数は80,000,000で、最大動員時には、世界中の民主共和制原理主義組織を統制下に置く事が可能。
旗は蒼天双翼光環旗。青地に白の双翼を広げた天使の輪を乗せた旗。南天全体のシンボルマーク。


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南天の最奥

オマケ程度です。


 

 

 南天の最奥

 

 

「ふふんふふんふふふーん」

 

 彼はシャツのボタンを留める。

 

「ふふんふふんふふふーん」

 

 彼とていつも白衣を着ているわけでは無いのだ。

 

 青い衣服に着替え、天窓を開いてこの通常空間とは異なりし位相空間に日の光を取り入れる。

 

「ん~?」

 

 埃一つ無い机の上。実験台には何も置かれていない。

 

 本一冊置かれていない。彼は良く本を読むが、その本も一冊とて無い。

 

 そして綺麗に拭かれている、手抜かりは無いとでも言うように。

 

「何かご用で御座いましょうか?」

 

 瞬間、空間移動をしてきたように現れたるは、エプロンドレスに白いヘッドドレス姿の女性。

 

「ん。しっかり仕事をしているねえ。流石はクイーンだと思っただけだ」

 

「ただのメイドで御座います」

 

 無表情にクールに。言うメイドの彼女、長い銀髪を三つ編みにして頭に巻き結い上げ帽子を被っている。

 

 何処にでも居るメイドだ。

 

「しかし、チリ一つ無い完璧な掃除は良いのだが、椅子を濡らしたままというのは手抜きではないのでは?」

 

 彼は影に隠れたその顔の赤い口の部分を、への字に曲げて、じっと、椅子を見る。

 

 濡れている。

 

 良く見れば机も湿ったままだ。

 

「掃除なのだからこう、乾いた雑巾でだねえ」

 

 彼は身振り手振りで説明するが、ただのメイドはふるふると首を横に振った。

 

「これも効率を考えての事です。創造主がこの部屋を訪れるより早く清掃を終わらせるにはこの方法が最もだったので御座います。つまり悪いのはこの部屋を所定時間よりも早く訪れた創造主なのです」

 

 全ては彼が悪い。人の仕事を邪魔しに来た創造主が悪いのだ。決めてかかるただのメイドに彼はいつものような大きな笑い声を上げた。

 

「ふふふふっ、ふははははははっ! ひゃーひゃっひゃっひゃあ! あ。……人のせいにするかねェキング?」

 

「します。給料の安いただのメイドですので。もう一度言いますキングでもクイーンでもありません。そんな役職は存在しません。私はただのメイドですので」

 

 ただのメイドに其処までの配慮は不要なのだ。

 

 そんなに賃金貰ってない。

 

「じゃあ、給料アップを約束しよう」

 

 ぴくっ、と眉が動くただのメイド。

 

「ですが、無駄な掃除は致しません。このあとおやつの時間ですので」

 

「ふはははははっ。……そうか。まあただのメイドに多くは求めまい。ああ、ついでにそこの木偶の掃除もして置いてくれたまえ。何処から入り込んだか知らんが、そんなところをうろうろされたら邪魔だ」

 

「……私が木偶の処理を?」

 

 嫌そうな顔をする。バッチイ物には触れたくないといった顔だ。

 

「アイスクリームをあげよう」

 

「ではただちに」

 

 簡単なメイドである。

 

 

 

 

 

 ??視点

 

 

 

 漸く、漸くだっ。漸く南天の最奥という処まで潜り込めたっっ。

 

 イエメン民主共和国、いや、正確にはイラク社会主義共和国からサウジアラビアを経てイエメンへ入り、合衆国東アフリカを経由。マダガスカルに渡り、セーシェル等の島嶼国家を経由、南ニューギニアへ。

 

 そこからオセアニア本土へと渡り北の都市や遺跡から順に調べ続けた。盟主が移動したと知るや長の休息期間に入った。オセアニアの人々、南側諸国の人々は皆親切だった。神のご加護がありますようにと幾つもの文物食料を戴いた。

 

 教化されてしまい、これらの豊かな国々の国民となってしまった方が楽であるかのように……。実際に教化されてしまった潜入員も居る。苦しいよりも楽を選ぶ、それもまた人の心の闇。

 

 多くの同胞を喪いながら、私がここに辿り着くまでに五年かかった。多くの仲間が散っていった。狂乱していった。その努力を無駄にしないためにも。私は南天の神、盟主を討ち取らなければならないのだ!!

 

 大きな本棚が多数並び立つ巨大な空間。これと似たような空間を私は知っている。そうだ黄昏の間。この世界とは異なる在り方で動いているとされる異空間。

 

 何度か訪れたその空間に、此処はよく似ていた。見た目では無い。その空気が。

 

 その不思議な空間の奥には、実験道具を起きそうな机が一つ、ぽつんと置かれている。

 

 その更に奥にはまた書棚が続き、最奥には大扉らしき物が見える。

 

 あれが、あれこそが南天の最奥。

 

 その手前で青いシャツの男とメイドらしき女が話をしている。

 

 傍耳を立てて聞いてみると、メイドの言葉の中に「創造主」「盟主」といった言葉が聞こえた。

 

 創造主、盟主――南天の神――……!!

 

 まさか、まさかまさかまさかっっ……!!

 

 あの男が、あの長身の男が、南天の……。

 

 男から目を離さなかったのに、瞬間男は消えていた。

 

 カツーン、カツーンという足音だけを残して。

 

 

 ――10秒あれば人は移動できます。

 

 

 なっっ?!

 

 私の目の前にモップを持つメイドの女が現れていた。

 

「ただのメイドが虫けら以下の木偶をお掃除をします。邪魔なので。おやつの」

 

 虫けら以下?! で、木偶だと?! な、なにを、ただのメイドが!

 

 いやそれよりも南天の神の情報をV.V.様に……え……あれ……ぶいつ、だまって……たれ……その、前、に……。

 

 お、れ、たれ……おれ、だれ? ……で、く…………。

 

 

 ざァァァっ、粉になって消えていく木偶。木偶は一々鬱陶しい。

 

「人のおやつの時間を邪魔しようというのですから。さあ、さっさとお掃除を終わらせておやつの時間です。ただのメイドの数少ない楽しみです」

 

 

 

 

 

 登場人物

 

 

 彼:無駄に笑う創造主。相手の役職を間違う盟主。別にきれい好きでは無い。本は乱雑に置かれていることを好む。

 

 ただのメイド:最大10秒時を止められるギアスと、物質を消滅させるギアスを持つ、南天盟主の力によって得たデュアルギアスユーザー。目下おやつとお給金が欲しい。

 

 ??:五年かけて南天の最奥まで初めて侵入できたギアス嚮団の暗殺者。神の姿を目にし戦意を持つも刹那のうちにただのメイドに10秒で消滅させられる。

 

 

 



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間話小話ユフィルート
大使館での愛のひとときを


 所謂ユフィルートの間話的小話となります。
 R-16となるため、また甘いお話となるため御注意ください。
 特にスザク×ユフィ絶対の方には完全な地雷話となってしまい、御不快な思いをされるため十二分の御注意を。

 年の差の恋愛注意です。

 CP:嶋田繁太郎(神崎博之)×ユーフェミア・リ・ブリタニア。


 

 

「ふう、これで一息か」

 

 ここは駐日ブリタニア大使館の一室。

 

 場所は大使の執務室。

 

 神聖ブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアの仕事場である。

 

 今日俺が此処を訪れたのは、カラレス前大使のパワハラ問題について事情調査を説明したいと言われたから。

 

 カラレス前大使と言えばラプラタ戦争では日本・ブリタニアの連合艦隊を率いて現場指揮を執っていた大提督だ。

 

 その戦場での功績や、南雲さんとの個人的友誼の関係から駐日ブリタニア大使館の大使として推挙され、日本に赴任してきたことを覚えている。

 

 そんな彼が事実上の更迭となったのは、戦場の軍人上がりか生来の気性からなのか。

 

 文官である大使館員と意見が合わず、ついつい手を出してしまうという事が度重なったが故の更迭と聞いた。

 

 そんな話を伺うために何故俺が? と思わないでもない。

 

 俺は既に政府の要職を退いているし、官庁関係の責任者でも無い。

 

 南雲さんのようにカラレス氏と個人的友誼があったわけでも無い。

 

 大日本帝国の国家最高意思決定機関である『無限会会合メンバー』といった、表に出来ない肩書きこそ持っている物の。

 

 俺を使いに出したのは辻さんという訳でもない。

 

 では誰か? 

 

 俺のホットラインにまで掛けてきてわざわざ呼び出したのは。

 

 当然のこと俺を呼び出したのは、俺のホットラインを知っている者に限られる。

 

 俺のホットラインを知る者はここ暫くの間に数人ほど増えていた。

 

 その中にはコーネリア皇女も居た。

 

 ブリタニア関係者では他に彼女の父君である現ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアも俺のホットラインを知っているし。

 

 そのシャルルさんの実兄であるV.V.さんも知っている。

 

 この辺りの人達は政治的要因からという面と共に、個人的友人関係だからといった側面もあった。

 

 友達に電話番号を教えることは何らおかしなことではない。

 

 ではコーネリア皇女は? 

 

 友達では無い、友人では無いが、だが家族となる人だから知っていた。

 

 教えていた。

 

 コーネリア皇女と家族となる。

 

 偏にそれはブリタニア皇家の古き名門であるリ家に他ならぬ俺が婿入りすることを指していた。

 

 では俺の結婚相手はリ家の次期当主たるコーネリア皇女か? 

 

 違う。麗しさと妖艶さを併せ持つ麗しの女性であり、男ならば誰しも目を奪われそうな美しい女性であるが。

 

 そんな彼女と俺は特段恋人同士であったり、恋仲である事は無い。

 

 となれば誰か? 

 

 もう一人居る。

 

 リ家の皇女に決まっていた。

 

 それは。

 

「ヒロユキ」

 

 思考の海へと沈み込んでいたところに後ろから掛けられた声。

 

「はい」

 

 思わず返事をしていた。

 

 

 

 

 

 大使館での愛のひとときを

 

 

 

 

 

 しまった──! 

 

 瞬時に焦燥に駆られる。

 

 その名は俺の真名とも呼ぶべき名でありこの世でその名を識る者はほとんどいない、俺の本当の名前。

 

 それに反応してしまうということは自身の隠し通さなければならない秘密の情報を相手に、敵に知られる可能性を意味しており。

 

 やってしまったという感が否めない物であった。

 

 しかし。

 

「ダメですわヒロユキ。こんな簡単に御自身の御名に反応なさっては」

 

 ふわり。

 

 背後から首筋へと絡みつかされ、胸の前で組まれた細く白い両手。

 

 衣服の袖は袖部分が僅かに広がった白い物で、作りからして上質な絹を使用されている事が一目で分かる。

 

 不意に顔の左側からそっと突き出されたのは、俺の真名を呼んだ女性の顔であった。

 

 さらり、彼女の長い髪が頬に触れる。

 

 にこりと、花が咲くような微笑みを優しげに湛えた少女、いや女性。

 

 名をユーフェミア。ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 

 ブリタニア皇家リ家のもう一人の姫君であり。

 

「き、君か……、驚かさないでくれよ……、心臓に悪い……」

 

 俺の婚約者にして妻。

 

 今生の俺が遅きに咲かせた恋の相手であり、俺の結婚相手たるユーフェミア・リ・ブリタニアその人であった。

 

 駐日ブリタニア大使補佐官であり、この執務室のもう一人の主。

 

 先ほどまでは不在だった俺、神崎博之の全てを識る、この世界ではただ一人俺の秘密の全てを識っている、俺の愛する女性だ。

 

 ぴたりと触れ合わされた頬に彼女の頬の温もりを感じながら、一つ目を閉じた後。

 

 俺は誰知らず大きなため息を吐く。

 

「はぁぁ~、びっくりした。会社員時代の同僚でも大体が神崎呼びなのに博之なんて呼ばれるとは。親か他に数えるだけ、小学校の頃の友達とかだけだぞそれ」

 

「うふふふ、だってわたくしはヒロユキの妻ですもの。その真名を呼ぶ権利はわたくしにもあると思うのです」

 

「それはまあ、君にならその権利はあるけれどもね。というかさ、今では君以外に博之と呼ぶ人間は居ないんだからそうそう軽はずみな悪戯をしないでくれ」

 

 名前を識られたそこから夢幻会の秘密に迫られる。

 

 可能性として無い訳では無い。

 

 だからユーフェミアには二人きりの時以外でその名は使わないようにして欲しいと以前話していたと思うのだが……。

 

「今はその二人きりですわ」

 

 悪戯が成功したかのようにして顔を綻ばせる暴君に振り向いた俺は、此処に今いない人物を訪ねた。

 

「コーネリア皇女は?」

 

 コーネリア皇女。つい先頃までカラレス氏の失態、まあ正直な話職場の空気が合わなかっただけの可哀想な人の事を説明してくれていた、第二皇女様の事を尋ねたわけだが。

 

「お電話中です」

 

「電話?」

 

「はい、シュナイゼル兄様からだとかでわたくしにヒロユキに伝えてくれと伝言を預かっておりますの」

 

 むう、シュナイゼル皇子からか。何か重大な案件なのだろうか? 

 

「いいえ、身内的なお話だとの事ですわ。それで偶然こちらへ伺おうとしていたわたくしと廊下で会い、という事です」

 

「という事ね……、というかコーネリア殿下はヒロユキだなんて呼んでないだろうに……」

 

「ええ勿論。ヒロユキと置換させたのはわたくしの自己判断です。二人きりなのですもの、少しくらい宜しいではありませんか」

 

 悪戯っ子気味に舌をペロッと出し、片目を閉じてウインクするユーフェミア。

 

 悪気が無いだけに質が悪いし、そんな顔をされたらキツく言い聞かせようにも言葉が出ない。

 

 なんて計算高い女性なのだろうか……。いや、彼女の事だから何も考えていないだけか。

 

 彼女も俺と同じで、俺の前でだけは一切の隠し事無くありのままのユーフェミアを見せてくれているから。

 

 打算も何も無い有りの儘の関係にある俺達だが、これも時と場合によっては危ないな。

 

 ただ公序良俗を以前の問題として二人きりになると難しく考えるのが馬鹿馬鹿しく思えてしまう。

 

 此処まで心の壁等一切合切取っ払って産まれたままの対応をお互いがしているのだから、今更感満載なのだ。

 

「恋人とイチャつこうなんて考えられるほどに駐日大使補佐官殿はお暇なのか?」

 

 秘肉の一つも言ってみた。線引きに意味は無い以前に線が重なり同化して永劫に離れなくなってしまった俺達の関係に、それは意味がないものだとしても。

 

 眼前に据え置かれた大使の執務机が悲しげに視ているような気がしていたたまれない。

 

『大使補佐官殿! 公序良俗を!』と、今にも叫びだしてしまいそうだ執務机さんが。

 

「暇では無いからこその暇を見つけてのイチャつきですわ。愛し合って見せましょうか?」

 

 また微笑む彼女。

 

 本気では無いだろう。

 

 幾ら何でも昼の日中。それも大使執務室で愛し合うなんて事が許されて良いと思えない。

 

 が、そこには一種の背徳的な物を感じ、思わず想像してしまった。

 

 今俺が腰掛けているソファ。お客様用なのか、コーネリア皇女かユーフェミア皇女のお休み用なのかかなりのサイズ。

 

 確かに此処でなら寝られそうだ。俺とユーフェミアが二人で寝ても問題ないくらいに大きい。

 

 ブリタニアの政庁関係の施設は豪奢な物が揃っているが、このソファもまたベッド代わりに出来るくらいには豪奢だった。

 

 此処に、ユーフェミアを寝かせ、俺はその上から彼女と身体を重ね合わせる。

 

 恥も外聞も無く愛し合いながら、互いに互いの身体を抱き締め合い、心行くまま時間さえも忘れて愛し合うのだ。

 

 コーネリア皇女に気付かれないように。

 

 ダールトン氏に視られないように。

 

 ギルフォード氏に、大使館員に、警備員に、騎士達に、決して悟られないようにして。

 

 それでも身体を重ね合わせたまま思うがままに愛し合う。

 

 ああ、いかん。それは何という背徳差で恥知らずな行為か。

 

 しかしユーフェミアを、ユフィを愛する気持ちが溢れ出してしまってからではもうきっと止められない。

 

 俺も止められないが、ユフィも止められないだろう。自分自身の感情の発露を。

 

 実際の問題として毎日のようにしている事だからだ。

 

 勿論場所は俺の家。初めて一線を越えてからずっと続く、そういつもの事の話なのだ。

 

 V.V.さんが気にされていた。子供が出来ちゃうよと。

 

 ああ、それは出来るだろう。考え込むまでも無い答えだ。

 

 俺とユーフェミアは子供を作ることを前提として愛し合っているのだから。

 

 いつも自然に行っている深く深く水底よりもまだ深く互いを愛し合う行為。

 

 子供が出来て当たり前なのだ。

 

 既に日本の皇族華族の御方々、ブリタニアの皇族貴族の御方々には俺とユーフェミアの交際は密やかに知れ渡っており。

 

 大きな支持も得られている。そこには政治的意味合いも大いにあった。

 

 大日本帝国元宰相にして嶋田伯爵家の嶋田繁太郎と、神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアが結婚するのだから、両国関係は益々を以て深く結びつく。

 

 だがそれはそれ。

 

 俺とユーフェミアはお互いを愛し合えればそれで良いとも考えていた。

 

 御国のため、民のため、それもある。

 

 だが唯の神崎博之と、唯のユーフェミア・リ・ブリタニアが、何も気にせず唯々愛し合えるならば、それでもう十分だ。

 

「……ユフィ」

 

「は、はいっ」

 

 俺の真面目な声かけにユーフェミアの声が僅かな緊張の色を帯びた。

 

「俺は、神崎博之は、ユフィとの子供が早く欲しいと思ってる。ユフィに俺の子を産んで貰いたいといつもいつも願って君を愛し抱いている」

 

「っ、こ、子供……?」

 

「ああ、俺達の赤ちゃんだ」

 

「わたくしと、ヒロユキの、子供……」

 

 ああ、こんなところで。

 

 この様な公共の場で何を言い始めたんだ俺は。

 

 そんなの、此処では無くともいつも俺の家で言ってるし、実行してるじゃないか。

 

 言い訳として弁解させて貰えるのなら、誘ってきたのはユーフェミアの方なんだぞ。

 

 そんな俺に対してユフィは。

 

「いつも、わたくしを愛してくださるとき、愛し合っている最中(さなか)、同じ事を仰っておりますわねヒロユキ」

 

「まあ、男として、愛し合う男女として、その、願っても良いだろう?」

 

 豪奢なソファより立ち上がった俺は、身体ごとユーフェミアに向き直る。

 

 公務服姿のユーフェミアだ。白を基調とした衣服、膝丈までの白のタイトスカートに、その外側を半身覆うひらひらの暖色系の羽のようなスカート。

 

 もう疾うに見慣れたユフィの職場や公的な場所での仕事服。言うなれば俺にとってのスーツみたいな衣服。

 

 膝にまで届くほどのとても長く美しい桃色の髪も普段のようには降ろされておらず、頭の後ろでに大きな髪留めにて一纏めにしては大きく緩やかな腰まで届くポニーテールを形作っている。

 

 といってその少し派手にも感じさせつつ慎ましやかさも同時に内包した公務服姿は、ユーフェミアという女性にそれは甚だしく似合っており、どこか静謐さをも感じさせられる物だ。

 

 そんなユーフェミアの傍に立ち、俺は彼女を静かに抱き寄せた。

 

「俺は、博之はユフィとの子供が欲しいんだ」

 

 再度の言葉にユーフェミアも俺の腰と背中を抱き寄せる。

 

 そうして互いに互いを引き寄せ合い。

 

「ヒロユキ……」

 

 ん──。

 

 唇と唇を、その粘膜同士を緩やかに強く重ね合わせた。

 

 ん、んっ……。

 

 啄まれ合う唇。

 

 温かく湿った温もりが互いの熱を高め行く。

 

 ん、んんっ! 

 

 熱に浮かされる。

 

 こうなればもういつもの行為に入るのに時間は然程に要しない。

 

 部屋に響くは衣擦れの音。

 

 部屋に響くは濡れた音。

 

 時を置くこと無くそれは部屋の中に発生した静かで秘めやかなノイズだった。

 

「あっ……、ああっ──!」

 

 ソファに投げ出される形となったユーフェミアの身体が熱を帯び、肌には白玉の汗が浮かび上がる。

 

 嶋田、いや博之はそんなユーフェミアを愛おしく想い。

 

 ユーフェミアの長い桃色の髪に指を通して静かに撫でた。

 

 手櫛で撫でるように静かに髪を撫で、その髪の一房を彼女の体の前に流し落とし。

 

 そうしてただ想いのままに。

 

「ユフィ……、愛しているよユフィっ、君を、永遠に愛するっ、神崎博之の名にかけてっっ……!」

 

「ああっ、ヒロユキっっ──わたくしもっ、わたくしも愛しておりますわヒロユキっ」

 

 愛を交わしたい。

 

 神崎博之青年はユーフェミア・リ・ブリタニアという女性と愛を交わしたい。

 

 ユーフェミア・リ・ブリタニアはヒロユキ・カンザキという男性をを愛したい。

 

 だからこそこれは実に正しい自然の理がもたらしたもうた答えの一つだった。

 

 そうして神崎博之とユーフェミア・リ・ブリタニアは、場所も時も忘れて互いの愛のすりあわせを行うのであった。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「すまない遅くなったシマダ卿、ユフィ、……? 、ん? どうした二人とも」

 

 コーネリア皇女がやってきた、というか戻ってきた。

 

 三十分、いや四十分は過ぎているか。随分と長い電話だったようだ。

 

 彼女は来客用兼お休み用のソファに隣り合わせで腰掛けた二人を視る。

 

「何かあったのか?」

 

 ユーフェミアは小刻みに小さく息をし、嶋田は大きな深呼吸を数度繰り返していた。

 

「い、いいえ、特になにもありませんよ。で、でしょうユーフェミア殿下」

 

 嶋田がユーフェミアをユフィまたはユーフェミアと呼び捨てていることはコーネリアも御存じ。

 

 二人が結婚の約束をして進みきっている間柄であるのも承知しているが、嶋田はその職業上と言おうか、立場上と言おうか。

 

 公の場ではユフィの事を『ユーフェミア皇女』若しくは『ユーフェミア殿下』と呼んでいる。

 

 公私混同をしないところがとても好ましく思え、それは二人の関係を鑑みても良いことだとコーネリアは考えていた。

 

 そんな二人、客観的に視ても息が上がっている様子だった。

 

 何か急いで身支度をしたかの様に、衣服にも若干の乱れが。

 

「ユフィ、お前は髪が長いから仕方が無いが髪が少し乱れて居るぞ。プライベートでは無い場所では身嗜みはきちんとしておけ」

 

 ユーフェミアの一纏めにされている長い髪の毛が若干、僅かながらだが乱れていた。

 

 目聡くも規律を重んじるコーネリアだからこそ気づけたのであろう。

 

 普通にしていればあまり違和感は見られないのだが、厳しい第二皇女の目には止まってしまった。

 

「は、はいっ、お姉様っ」

 

 ささっと、慌てて毛先を手櫛で梳くユーフェミア。

 

 他方で嶋田も少し様子がおかしかった。

 

「シマダ卿もどうなされた。お疲れのようならカラレスの件はまた明後日にでも時間があれば説明したいのだが」

 

「あ、ああ、い、いえ、大丈夫です。少しその運動……ああいや、動悸が激しくなっていた物で」

 

「そうか。だといいのだが……、……いや、良くないな。まだ六十とお若い身だとしても身体は労って遣って欲しい」

 

 人生百二十年。長ければ百五十年。それが今の日本とブリタニアの平均寿命だ。

 

 嶋田は還暦。まだまだ人生は長く、リ家に婿入りされてからも政務は待っている。

 

 故に身体は大切にしなければならない。リ家に婿入りした後はブリタニア皇族としての責務が待っているのだから。

 

「貴卿は我がリ家に婿入り成される大事な身。ユーフェミアの夫と成り、次代へ繋ぐためにもユーフェミアと子を成し、子を設け。リ家の分家当主となるユーフェミアを公私共に支えて頂かなくてはならないのだから」

 

「え、ええ、そうですね。コーネリア殿下の仰います様に、この身は私一人で完結する立場ではありませんからな」

 

「ふふ、リ家に婿入りなされユーフェミアが分家の当主となってからは私も力をお貸しさせていただきますので御安心を」

 

「な、何卒よしなに」

 

 “今その子を成すお仕事をしておりました”

 

 “ヒロユキの愛をこの身に受け入れたばかりのところですお姉様”

 

 嶋田もユーフェミアもそんな恥ずかしい事実をこの場で申し上げることは終ぞ出来なかった……。

 

 




 以上となります。
 普通の会社員、神崎博之さんの全てを存じてらっしゃる方はユフィだけです。
 ですので、私的な場所ではヒロユキと呼んでいたりもするということですね。


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knightその1
knightその1 危険性と、危機的なる可能性


モニカ・クルシェフスキールート


 

 

 

 

 その日、広い広い伏見宮邸宅には、ある意味で日本の影と闇の部分を司る男が来訪していた。

 

 今時珍しい古めかしい丸眼鏡、きちっとした背広に唾広の帽子。一見怪しげで、やはり怪しい出で立ちの男はある報告書を携えて帝を除く皇族の代表たる男、伏見宮博泰翁と向き合っていた。

 

「このような晴れ晴れとした良い夏晴れの日にこのような報告書を携えて宮様にお目通りをしなければならないのは、些か」

 

「かまわんよ。君も私も、夢幻会の皆は共に生き転生したる仲間ではないかね。あまり気を遣わなくても良い」

 

「恐縮です」

 

 通り一辺倒の挨拶は、極めて穏やかなる物。

 

 夏晴れに合う最初の挨拶といったところだが、一拍を置き、伏見宮は切り出した。

 

「オセアニアのことだな……、オセアニアはニュージーランド北島近郊の群発地震についてか?」

 

 切り出した伏見宮に、此方も一拍を起き、ふうと息を吐き出したところで閉ざしていた口を開ける辻政信。

 

「お早い、感服致しました」

 

「なぁに、此方とて遊んでおるわけではないからな。独自ルートもたくさん保持しておるよ」

 

 苦い顔をする伏見宮。是には彼の国と勢力‟南天”が、謎のコードとギアスを扱うということが関係していた。

 

 諜報員を送ろうとも、その諜報員が洗脳されてはねずみ取りがねずみとなって返される可能性がある。

 

 といってギアスの“効かない”者達が潜り込むのもリスクが大きく、殆ど手出しできない状況であった。

 

 ギアスの効かない者達――それは、理から外れし存在(もの)即ち、夢幻会や転生者がそれに当たるのだ。

 

 

 

 不可思議なる転生という現象を以てこの世界に集い来た仲間達には、ギアス能力が効かない。

 

 それについては早期に結論が出ていた。本来存在しない筈の者達、つまり理外者たる夢幻会にはこの世界の理が通用しないのだろうと。

 

 この理外者たちがそれぞれに2010年の日本崩壊を阻止すべく、皇暦1500年前後から動いてきたのだ。この日本を守るために、この日本を繁栄させるために。

 

 無論、彼等だけではない。彼らと共にこの世界に住まう者たちも共に力を合わせて戦ってきた。

 

 如何に特殊な力を防ぐ身の上であろうと理外者たちとて所詮は個にすぎない。

 

 個にできることなどたかが知れている。歴史という名の巨大な壁を動かすには、必ずやこの世界の者達と協力してゆかねばならないのだ。

 

 そうして彼等は時に協力し、時に反発し合いながらも、この日本を今日に至るまで導いてきた。

 

 その現在の護り手が自分たち、そして自分たちと共に在るこの世界の者達。

 

 けして個で此処まで来たのではない。夢幻会は皆がそう戒め、己に言い聞かせている。自分たちはただ未来と未来技術を知り、行く末を知る者である。己が立場で足掻き、その未来をより良い物にしたいだけのひとりの人間なのだと。

 

「何もしとらんように見えて何かをしている。我々はいつもこの国の為にそう動いてきた。私とて宮中にありながら影を動かしたり色々と個人的に情報を集めてはおるよ。ただオセアニアの──南天の情報は、南天所属国への内部潜入が難しく、中々手に入れられない事が難儀だが」

 

 伏見宮は苦い顔をより一層深くする、それが為に遅れた対応が最悪の物を誕生させてしまったと推測させる観測結果が出ていたからだ。

 

「一応こちらでも把握している。ニュージーランド北島の地震活動の活発化は」

 

「ええ、ここ“二十数年”ほどの活発化は人工地震の可能性が有り……そして」

 

「大気圏内放射性物質の変化……かね?」

 

「はい。……まあ、これだけ証拠が揃ってくると自ずと答えは見えてきます。まだ火の手は上がっていないので、確定ではありませんが」

 

 

「こちらがブリタニアとの仲を確実なものとしようとやっきになっている間、彼等も彼等で積極的に打って出ながらも、密かに我々への対抗措置を模索していたということか。ミッシングリンク。それがオセアニアの技術面で起きたとは思いたくもない物だが、現実は見据えなければならんな」

 

「ギアスが絡んでいる可能性もまた然りです。嚮主V.V.の話では過去に叡智のギアス。ある切っ掛けを以て生物的・技術的ミッシングリンクを可能とする技術・ギアスがブリタニア年代記の記述には見受けられたとか。つまりその叡智のギアスに目覚めた者が南天に存在している可能性も」

 

「叡智のギアス――本当なら厄介どころの話ではないようだな……、それが確かで、もし叡智のギアスに目覚めた者が南天に存在するのならば、そのギアスを使いこなせるだけの精神力を持ったのなら……連中、技術的格差を埋めに掛かってくるぞ」

 

 あまり良いとは云えぬ展開、あまり聴きたいとも思えぬ情報。

 

「作戦機13,000機、VTOL6,800機、戦車45,000両、装甲戦闘車両等作戦車両67,000両、自走砲・野戦砲25,000門、間もなく16隻体制と成る航空母艦と編成される16個の戦闘群、揚陸艦艇520隻、主力水上艦艇360隻、潜水艦艇190隻、ミサイル艇・魚雷艇・哨戒艇450隻――これに総裁とも盟主とも呼ばれている合衆国オセアニア最高指導者いや南天盟主が保有する、特殊作戦私兵軍――七天艦隊と、合衆国以外のSSTO南天条約機構軍が加わる訳か」

 

 その総兵力は80,000,000、KMFを含めた装甲戦闘車両200,000以上、作戦機20,000以上、主力水上艦艇千数百隻以上、弾道ミサイル数万は下らない。多弾頭弾の存在を考慮すれば100,000余発、アレも相当数の保有が予想される上にこの度の兵器。

 

 考察に考察を重ねながら二人は暫し口を閉ざし、そして沈黙を破ったのは辻であった。

 

「合衆国オセアニアとその衛星圏、“SSTO――南天条約機構”への脅威度を現在より二段階引き上げ最高指定といたします」

 

 最高脅威度指定。それはかつて嶋田家の嫡男と、ブリタニアヴィ家の双子の兄弟が友誼を結び始める前。

 

 太平洋戦争前夜から日ブ冷戦末期に置けるまでの期間、対神聖ブリタニア帝国向けとして指定されていた最大級の仮想敵に対する特別指定であった。

 

「妥当だな。中央アフリカ以南、東アフリカやイエメンに展開している南天軍が以前にも増して増強の一途を辿っていることもある。特に中東方面に既に20,000,000を超える恐るべき大軍を終結させている。シナイ半島北部からパレスチナ近辺に存在するだろう遺跡を狙っていることは確実だ。これに対応するという意味でも必要となろう。そして、もしも本当に“アレ”を開発実戦に投入してくることがあるようならば、こちらも最早いままでのような甘い対応を取っては居られぬことになろう」

 

「心得ております。F号兵器――ブリタニアと我が国、そして確実に南天も保有しているこれを突きつけてでも、アレの乱発は止めさせます。アレは大気を汚染する。あんな物を乱発されてはこちらも間接的被害を被ることになりましょうからな」

 

 

 

 

 knightその1 危険性と、危機的なる可能性

 

 

 

 

 

 2019年8月4日

 

 

 

 

「国境線を睨む進撃ルートの待機兵力は現在2,000,000を突破しました」

 

 忠実なる部下にして大清連邦軍の将――曹(ツァオ)の言葉には若干の焦りが見えていた。

 

 要因は一つしかない。

 

「高亥様、誠に申し上げにくいことなのですが、このまま延々と待機状態を続けさせれば兵も疲弊して参りますうえに、我が清国の財政力が持ちませぬぞ」

 

「兵站に財力に、あらゆる方面で保たぬか」

 

 中華連邦から独立してよりまだ僅かなとき。事実上の計画進行と独立が10年前からだと考えても、北方のE.U.ユーロピア共和国連合との国境線沿いに2,000,000もの兵力を貼り付けているのだ。

 

 ロボットではない生身の兵には衣食住が必要だ。それらに掛かる経費も財政を圧迫し始めている。

 

「予備役召集まで含めた兵力は2,500,000」

 

 シベリア仕様の兵装で固めた総兵力2,500,000という大軍は、未だ一兵たりとて清欧国境線を超えていなかった。それは無論のこと大清連邦の国家指導部となった8人の大宦官が進撃命令を出していないからだ。

 

「竜胆8艦にガン・ルゥ1200騎、戦車3400両、装甲車両4000両。ただそこに置いておくだけでも国家予算を圧迫する兵力よの。加えてまことのKMFたるジェンシーも300騎ほど攻略予定地のチタやウランウデを臨むキャフタより直近の南の地点と、海拉爾近郊に待機させたまま」

 

 以上は陸のことであり、海は清国ただ1隻の航空母艦黒竜江と、その護衛・補給艦艇27隻から成る大艦隊が、海参からオホーツクへと入る予定だった。

 

 空はS-20戦闘攻撃機60機全機と、旧式の第4世代機S-10戦闘機300機が待機。黒竜江に搭載された最新鋭のS-31型ステルス戦闘機も加えれば戦闘用航空機だけで400は下らない機数である。シベリア攻略に掻き集めてきたこの膨大な戦力を持て余すなどあってはならないこと。

 

 その通りあってはならないことなれど、高亥にも進撃命令を出せない事情があったのだ。

 

 

 

「陸も待機、海も待機、空も待機、待機待機待機、総てが待機だ。そうしているのも珍しくも己が意見を主張してきたあ奴等の言あってのことであるが、愚かな選択を選んでしまったのではないのか私は」

 

 本当ならここまでの兵力・戦力をシベリア南部攻略に割く予定は無かった。

 

 本来ならばもう5月初旬から6月に掛けての侵攻予定で堅め、備えていた軍に、清欧国境を突破させていたはずだった。

 

 しかし事はまだ動かずに、徒に時間だけが過ぎていく。なんの動きもないままに。

 

 これまであった動きなど、清国の属国高麗が援軍として兵を送ってきただけ。それとて使い物になるのかどうかも怪しいような。

 

 ただ異常なほどに高麗の高官は自信たっぷりであった。それがまた高亥の琴線に引っ掛かる。

 

「時間は敵……高亥様のお言葉を他の宦官様方はご承知の上で未だ事に移らない。なにか他に行動に移さない方針をお取りになる理由などお持ちなのでしょうか?」

 

 万が一となる清国の後方たる中華連邦からの侵攻に備えて、ある程度は東モンゴル軍区や大清軍区西方に兵力を固めていたが、副官とも云うべき曹の困惑に対し、高亥は“中華の清国侵攻は無い”と、そう断言しきっていた他の7人の、贅のための努力ですらもらしい努力をしてこなかった宦官達の自信に満ち溢れた顔を思い出していた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 それは六カ国協議による清国独立が現実の物となり、E.U.ロシア州領シベリア侵攻が見えてきた頃のことだった。

 

『中華から後背を突かれる恐れは万に一つもないじゃと?』

 

 清中国境の防備は最低限でよい。我が国は全戦力を以てシベリア侵攻に当たるべし。自身を除く7宦官の意見は、軍制に疎い高亥でもおかしいと考えさせるに値すべき意見であった。

 

『なぜお主達はそのように断言出来るのだ? 我らがどれほどに中華より、そして西モンゴルより恨まれておるのか知らぬわけでもなかろうに』

 

 中華連邦の中心、中華帝国は、政治を私物化し、天子を蔑ろにし、国土を引き剥がしていった大宦官を怒りの目で見ている。

 

 天子派と宦官派と呼ばれる、国を二分した政治勢力を生み出してしまった事だけでも、大宦官許し難しという考えで纏まっていた。それだけ好き勝手にやりすぎたということだが。

 

 宦官派はその天子派との政争に敗れたことで自らの身を案じ、10年の昔より進めて来た独立計画、中華東北部と東モンゴルを領土とする新国家樹立を実現させたのだ。

 

 そう、そしてその東モンゴル軍区がまた一つ問題の種となっていた。

 

 

 

 中華連邦モンゴル軍区は一つの軍区――国であった。それを宦官の介入によって東半分、中心都市――首都であるウランバートルまで奪われてしまう形で、東西分裂という憂き目にあってしまったのだ。

 

 残された正当なるモンゴル――西モンゴルは大いに怒りを露わにしていた。その怒りは協議の中核を担った中華帝国に向けられつつも、最たる原因を作った宦官と清国に対し向けられる事となる。

 

『我らモンゴルの民が開発し築き上げてきた土地を略奪せし宦官共を許すなッ!! 皆今こそ一丸となりて失地奪還を成し遂げるときだッ! 立ち上がれッ我がモンゴルの青き狼たちよッ!!』

 

 連日のように続く西モンゴルの“失地奪還”の声は、ニュースを通し、また中華内部に残る宦官派の人間を通し、高亥の耳にも入っていた。

 

 贅を尽くす。唯その為だけに努力を惜しまない高亥は、この動きが危険であると察知していた。いや余程の馬鹿でもない限り楽観視などできまいて。

 

 何故ならば西モンゴルの主張を中華帝国が無視すれば、緩やかなる連帯で繋がった大国中華連邦の崩壊に繋がる恐れもあるからだ。

 

 中華連邦とは、まず中華帝国という大国を軸に、中華帝国と双璧を為すインド帝国、続きペルシャ帝国といった、精強な国々を中心にして成り立つ連邦国家だ。

 

 そんな国家体制でありながら、中心も中心の中華帝国が弱腰で頼りにならないとあっては、中核軸が中華帝国にも引けを取らないインド帝国へと移り、インド連邦となってしまう事だろう。

 

 また場合によりけりながらも、四分五裂。中華帝国、インド帝国、ペルシャ帝国、中央アジア、インドシナ、と分裂に次ぐ分裂を経て、それぞれが独立した国となる可能性すらある。

 

 そうなってしまえばもう彼の国に未来は無い。南側諸国、通称南天という強大な国家勢力の侵略を受け、従属国とされてしまう事だろう。

 

 南天、この恐るべき国家勢力は単独で中華連邦を簡単に降してしまう力を持っている。もし中華が南天という巨大勢力と戦うのならば。

 

「大日本帝国、神聖ブリタニア帝国、いずれかの内1国でも同盟勢力として引き入れねばならぬ。まあ、またそれは別の話よな」

 

 以上の理由からも、中華崩壊を阻止する裏の目的のために、失地回復ならぬ失地奪還を叫ぶ西モンゴルに突き動かされる形で、清中(中清)戦争は将来的に起こりうると、高亥は考えていた。

 

 これを見越した上でのシベリア南部奪取作戦だ。まだいずこの国も、E.U.ユーロユニバース自身ですらも気付いていないサクラダイトの大鉱脈が眠る地の。

 

 この世界ではエネルギーの中心に必ずサクラダイトがある。万能資源とも呼ばれるこのサクラダイトの有り余る力を使い、隣国日本は並々ならぬ技術力と共に、技術の日本と呼ばれる世界第二位の超大国へと登り詰めた。周辺地域に顔を利かせる程度の“単なる大国”ではなく、世界中に影響力を持つ“超大国”にまで。

 

 その上で技術力などあらゆる要素が加わり、日本はその名に恥じぬ戦果をいま現在に至るまでの期間に叩き出してきた。

 

 

 無論さすがの高亥も、日本と同じ道を歩めるとは考えてはいない。日本は異常すぎるのだ。日本はあの世界最大最強にして、一国でも世界征服が可能なのではないかと言わしめるほどの国力と軍事力を誇る強国――神聖ブリタニア帝国と全面戦争を展開して、尚かつ引き分け・停戦講和に持ち込んだ歴史を持っている。

 

 いや表現を変えよう。第一位のブリタニアのみ停戦講和で終わりを迎えたが、逆に云うなら、その他の日本に挑んだ大国中小国は軒並み叩き潰されていたのだ。

 

 かつて中華連邦もその力と技術力、現代では“技術の日本”として称される超大国へと駆け上がる前の日本に叩き潰されていた。インドも含めた中華全体がちっぽけな島国とばかりに侮っていた日本に海軍を丸ごと壊滅させられたのだ。それはもう当時世界を駆け巡った衝撃といえば、それは計り知れない物であったろう。

 

 故に日本等目指そうとしても無理がある。井の中の蛙大海を知らず……その蛙ではないのだ、高亥という男は。

 

 その大海に、敢えて挑発的態度を協議の場で採ったのは、日本が介入して来るのではないのかといった懸念を抱いていたからという、彼個人の思惑もあった。

 

 蛙的な態度を見せて相手の反応を窺う。まさに駆け引きだった。結果として掴んだ感触は、日本に害がなければ介入せずを貫き通すだろうというものだった。

 

 故に対中・対欧にのみに的を絞って物事を進めている。中華やE.U.が容易に手出しできないくらいの国にこの清国を育て上げる。それが高亥の当座の目標であった。

 

 その為の戦争を前に後背も見ておかなければならない。いま清国はそんな状況下に置かれていた。

 

 しかしそれを気にしなくて良いと7宦官は云うのだ。訝しむ高亥に、7人のリーダー格たる肥え太った男――趙皓(ジャオ・ハオウ)は、余裕を垣間見させる笑みを浮かべて、清国建国の事実上の主幹である男に対して口を開く。

 

『ホッホッホッ何を急いて居るのだ高亥よ。中華の介入はこれを無いと言ったら無い。そなたが奔走していた間、我らとてただ無為無策のままに時を送り来た訳では無いのじゃぞ。結論から申すのならば中華は動くに動けぬよ。遠くインド・ペルシャまでものう~。ホッホッホッホ』

 

 インドもペルシャも動けない、否、動けなくなる――嗤う度に揺れる趙皓の腹に付いた脂肪に嫌悪しつつも高亥は訪ねた、その真意を。

 

『なぁに、簡単な事よ。中華が動けなくなる――は、正しくないの。正しくは中華もE.U.も、そして日本もブリタニアも、いずこの国であろうとも動けなくなる大きな事件がそう……近日中に起きるからじゃ。ホッホッホッホッ、楽しみにしておるがよい。その時こそが我ら清による北進の時来たれりとなろうぞ』

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ま、まさか高亥様はその趙皓様のお言葉を信じられたのですか?!」

 

「信じずにはおられまいて。あの欲しがるだけの怠惰な豚が珍しくも自ら動き、成功裏にシベリア攻略は達成なると豪語しておったのだから。まあここまで時のずれ込みが起きようとは想定外であり、自らの判断を恥じたのじゃがな。お主は耳を疑うやもしれぬが、私の申して居ったある事件とはその事なのじゃ。なにかを、世界を震撼させる何かが起きるのだろうの。それが吉と出るか凶と出るかはわからぬ。が、シベリア南部獲得が間違いないというのならばたとえ凶であろうとも此度の掛けのみは乗ってやることに決めたのじゃ」

 

 怠惰な豚。趙皓をそう蔑む高亥は、間もなくその豚の言葉の意味を知る事となる。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「しかし態々ばらして持ち込まねば成らんとは不便じゃわい」

 

 とても長い顎髭を蓄えたモノクルをかけた老人が、目の前で行われているトレーラーへの積み込み作業を見遣りながら不満を零していた。

 

「しかたないでしょー。本体そのまま運んでたらおっかなーい国二つにあっさりと見つかっちゃうよーん」

 

「どのみちお前さんのギアスで見えんじゃろうが」

 

「ふっふっふ、まーね」

 

 老人の態度に、まるで馬鹿にしたように指摘したのは老人と同階級にして、選任の男であった。

 

 七三分けの黒髪に厚淵眼鏡。笑っているよーで、見開いた目は魔物を思わせる凶暴な瞳を持つ男性。

 

 通り名を共に老人はプリースト、男性はビショップといった。それがそのまま彼等の階級である。

 

 ルーク、ビショップ、ジェネラル、プリースト、南天に君臨せし神に仕える大幹部の特別階級であった。

 

「ふん、よういうわ。ミッシングリンクだか何だか知らんが、あんな面白くも何ともないものを作らせおって。ただの毒物撒き散らす高熱の広範囲掃討爆弾じゃろうがあんなもの。儂はのう。儂の理論で作り上げたKMFが活躍するその姿が見たいんじゃ!! ブリタニア中央学会のクソ共に儂の正しさを示してやりたいんじゃッッ!! だというのにあんな強力な爆弾を搭載したホーリーとミトラスを発射しては活躍させる場その物がのうなるではないかッッ!?」

 

「あっはっは、あんなものっていうけれどねえ。それこそ僕らの、総裁の欲していたミッシングリンクの産物の一つなのさぁ。叡智のギアス――老体、君が持つそのギアスのね。ハッキリ言うがご老体。僕らは君の欲得満たしのために君に力を貸し与えてるわけじゃあないんだ。あくまで重要目標の一環として君の目的も叶えさせて上げようってだけでね。そこを忘れちゃいけないよ」

 

「……むう、わ、わかっとるわい。やるべきはやる。拾って貰った恩は忘れとりゃせん」

 

 実際はどうかわからない老人、プリースト――南天全域の国防長官を兼ねている老人は。まずは“陸上発射型の”ホーリーを高麗のロケット部隊に混ぜていく。

 

 続けて“潜水艦発射型の”ミトラスを高麗製潜水艦に搭載して海参にまで廻航させていく手配を取った。

 

「両方共に発射ボタンは高麗の偉大なる大統領閣下に渡してある。時を合わせて祝砲を挙げよとな。その瞬間にもシベリアは陥落したも同然じゃわい」

 

 プリーストの言葉に。

 

「使用弾頭数は3乃至4。前衛展開部隊と後方待機の後詰めに対し各1。ユーロピア極東行政を担うヤクーツク近郊に1。そして中華連邦モンゴル軍区に程近いイルクーツクに1。列強高麗の国際的虐殺デッビュー……ではあるけど、ま、期待してない隠れ蓑だよ所詮は。日ブへの牽制球、実態はこんなとこだ。あとは……ユーロピアに進退決めさせる意味での打上げ花火だよ。ユーロブリタニアとの融和だなんて今更そんな裏切りが許されるとでもっていうね」

 

「ホーリーⅡとミトラスⅢに搭載した弾頭の起爆実験も兼ねてのぅ。劣った新人類の白豚共には大気圏外から襲い来る攻撃への対処法なんぞありゃせんから撃墜される心配はない。これほど楽な実践を兼ねた実験もないわい」

 

 

 ビショップは返す。

 

「ああ、あと僕はまた日本に帰るから」

 

「ふん、お前さんも忙しいの」

 

「あっはっは、僕、かくれんぼ得意だから世界中色々回されちゃうのさあ。ああ、ジェネラルはいまイラクに向ってる。イラクを焚き付けにね。イラク社会主義共和国は政体こそ違えども我が南天傘下の国だからねえ」

 

「極東・中東同時に動かすか」

 

「隠れながら、ね。南天の中でも大きく動くのはイラクでありイエメンであり東アフリカ。そして極東は清国であり高麗だ。対戦相手も中東であり、ユーロピア極東である。持ち込んだホーリーだってミトラスだって“高麗が開発したもの”ってことだからね一応、弾頭も含めて……。ま、もっとも場合に寄りにけり、展開はいつでも変わるけどね」

 

 世間話の区切りでも付けるかのように笑い顔の男は付け加える。

 

「中東はまあ二分の一かな。リヤド付近までの北サウジ以北がイラクの取り分で共産化、ただし遺跡のあるシナイ北東部からパレスチナはこちらが戴く。次いでイエメンや東アフリカに集結させたSSTO軍による物量での電撃侵攻と内部革命の誘発。最後に南サウジとオマーンやバーレーンといった湾岸諸国の王政廃止と民主共和党体制による民主共和制原理主義化、それでおしまい」

 

「あっさりとしておるな。お前さん、戦争は好きじゃないのではなかったんかいのう」

 

「戦争は好きじゃないよーん。ただ、KMF戦って心躍らない?」

 

「ひょほほほほっ、そこは同感じゃなア。さてブリタニア中央学会と皇帝と嚮団元嚮主V.V.――クソッタレの双子の小僧共にも序でに復讐開始といくかなア」

 

 邪悪な笑みを浮かべるプリーストの脳裏には何が描かれているかは、まだ誰にも分からない。

 

「僕はまあ日本ですこーしジャップ共と遊んでくるよ。シベリアの混乱に乗じるか。丁度勇敢にしてお邪魔虫なマリーベル皇女の訪日に合わせて一つゲームでもしようかなあと。ふっふっふ、心に思い描く恐怖の心象、心に抱く恋の像、現実に出逢った二人、引き裂かれる皇女様と駄目なる男の悲劇。いいオペラになると思うんだよねえ。グリンダ騎士団の長の心が砕ける瞬間は」

 

 ビショップは悲劇を想像して無邪気に笑う。

 

「ああ、そうだ。連絡しておかないと」

 

 そうして部隊作りの要員の手配を始めた。取り出した通話装置に番号を入れる。

 

 

 

 ピー・ピー・ピー

 

 正しく入力された番号。呼び出しコールは鳴り響き。

 

『はい。ビショップ様』

 

「やーやー僕だよ、キミ、いま手空いてる?」

 

『は、任務は今はありません』

 

「丁度良かった。じゃあキミに任務を一つ。ああ、盟主からの任務が途中で入ったならそっちを優先してね」

 

『はい。では任務とは』

 

「日本で悲劇を一つ作って貰いたい。幸せの絶頂から絶望に落ちる瞬間を演出して貰いたい。出来るね?」

 

『ビショップ様の御命令とあらば』

 

 にいっと笑みを深めたビショップは、これは序でにと付けて。

 

『可能なら悲劇をもう一つ――こちらのクエストは達成されればキミは三階級特進でケルビムの地位は間違いないよ』

 

 

 ではもう一つの依頼の内容を。それは、それはねえ……。

 

 

 

 

 ――超大国の優しい優しい元大宰相と、長い金髪と黄緑のマントを風に翻す若き乙女騎士の永遠の別れの演出だ――

 

 どちらか片方でいい。大宰相をやれれば文句なしだが、女騎士の方でも充分だ。

 

 

 

 それじゃあ成田で会おうか。

 

 

 

 

 ヴァーチャーズ・キル・ワーカー。

 

 



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knightその2 イラクにて

 

 

 

 イラクの歴史。それは血塗られた歴史であった。

 

 幾人もの王。幾人もの大統領。その側近や幹部達が、その時代その時代によって数多く殺され来た血の歴史。

 

 かつてイラク王国という国がこの国には存在していた。

 

 時のE.U.ユーロピア共和国連合の支援の元で中央集権化を実現させ、ハシム国王の下で建国されたイラク王国。

 

 建国間もないイラク王国は領土を一気に拡大していき、隣国、また別の隣国へと戦争を仕掛け、次々と併合していった。

 

 そして、この勢いのままに石油の潤沢なるクウェート王国をも取ろうと画策するも、太平洋戦争での大日本帝国の圧倒的強さ。

 

 ジェット戦闘機という、未だこの世に存在しないはずの戦闘機や最新式の8万t戦艦や、同8万t空母を次々と送り出す姿を見せ、世界第一位の神聖ブリタニア帝国と正面からぶつかり合う姿を見て。

 

 もしもクウェートに手を出せば、保護国となって居るクウェートを助ける為、あの巨大な力が我が国に振り下ろされる、と諦めたという苦い経験がある。この頃よりイラクという国は領土拡大の野心に更に取り付かれ始めた。

 

 皇歴1941年4月2日。太平洋戦争の影響で混迷を極める中、間隙を縫うようにしてイラク王国ではラシード・アリー・ガイラニイラク王国軍司令官がクーデターを起こし、政権を確立。

 

 しかし、イラクに強い影響力を持つE.U.ユーロピア共和国連合はこれを許さず、注文を付け始めたが、あるときからE.U.からの干渉がぴたりと止まり始める。

 

 この陰で暗躍していたのが合衆国オセアニアだったと言われる。

 

 元より中東という地域全体にはオセアニアの影がちらついていた。イラクという地域に長年干渉してきた形跡もある。

 

 そのイラクの自由を、自由なるイラクの在り方を否定しようとしたE.U.は、合衆国オセアニアの怒りを買ったのだろうと、国際社会では見られていた。

 

 イラク人が生を求めれば生を謳歌させ、イラク人が死を求めれば安寧たる死を与える。

 

 これがオセアニアの意思だったのだ。クーデターとは血を求める物だが、イラクが幾度クーデターを起こそうと、オセアニアはソレを良しとする。

 

 E.U.の求める民主主義政体とは隔絶された政体が生まれようと、オセアニアはこれを認める。

 

 世界第三位の国オセアニアは、当時太平洋戦争で弱り切っていた大日本帝国と神聖ブリタニア帝国をも抑え、世界の覇者となるかも知れないと見られていた、それほどに強大な国で有り、列強第五位のE.U.如きになにかをどうする力など最初から無かったのだ。

 

 そのガイラニ政権は17年の永き時を、軍事政権としてイラクに君臨し続けたが、やがて軍事クーデターは軍事クーデターによって倒れる運命を行くかの如く、皇歴1958年7月10にムハマド・ルバイ。アブドルアリム・カシム自由イラク将校団の軍事クーデターによって倒され。

 

 ハシム国王を粛正したガイラニ大統領は、自らもまた命を奪われるという最期を遂げた。

 

 皇歴1959年3月8日、中東条約機構という集団安全保障機構がそれまでに存在していた。

 

 これはサウジアラビア王国を盟主とし、その他の中小加盟国によって成立した物で、対オセアニアを見据えての物であったが、寄りにもよって裏を知らずなサウジアラビアはイラクを加盟させていた。

 

 中東条約機構の情報はその全てがイエメン民主共和国へと筒抜けとなっており、中東諸国の動静の全ては合衆国オセアニアの識るところとなっていたのだ。

 

 同年同月親エジプト派閥、つまり親E.U.派閥が蜂起、中東条約機構を脱退。

 

 皇歴1960年10月、カシム首相がイラク石油の国有化を発表。

 

 1961年6月18日にイラクに抑えられていたヨルダン自治国が、我がヨルダン王国はイラクとは別の国であるとして独立を発表。E.U.は度重なるイラクの横暴と、オセアニア動かずの報を受けていたため介入。

 

 ヨルダン王国は正式に独立を回復したが、これらも所詮はオセアニアの手の平の上の出来事でしかないことを、E.U.自身も理解していなかった。

 

 同年9月11日第一次イラク・サウジ戦争が勃発した(1961-1963)

 

 

 

 knightその2 イラクにて

 

 

 

 イラク第二共和制

 

 皇歴1963年2月8日には新エジプト派閥とイラクバース党の将校団のクーデターが勃発。大統領にはアブドルサラム・アリフ、首相にはアフマド・バクルが就任。

 

 しかし新たな政権が出来た事もつかの間、1963年11月18日には反バース党クーデターが勃発1966年4月14日アブドルサラム・アリフが航空機事故で死去。

 

 これを機に反バース党クーデターの中心的政党、イラク共産党が姿を見せ。軍にも浸透していた共産主義者達は強きイラクを掲げて次々に蜂起していき。バース党関係者とその一族郎党を処刑していった。

 

 この時、イラク共産党書記長であったムハマド・アル・バクル(アフマド・バクルと名前がよく似ているが別人)が、イラク社会主義共和国の建国を宣言。

 

 皇歴1970年5月10日、第二次イラク・サウジ戦争勃発両者ともに決着が付かず、10年間もの戦争でイラクは大きく血を流しすぎ、経済も低迷した。

 

 ここでついに合衆国オセアニアが動き出す。イラクに対し「南天条約機構に加盟しないかと」南天に加盟すれば、食料と軍事力の援助、及び暫くの準備期間はかかろうが、我が南天軍は中東制圧に掛かると。

 

 彼らは言った。中東に欲しい物がある。大別すればその地以外は要らない。貴国イラク共産党が為したる革命は「浄化」のソレに当り、貴国とは末永くやっていけるだろう。

 

 皇歴1980年イラク共産党の若き第二代指導者、ユスフ・サルマン・ユスフはその甘い誘いに乗り、裏では破竹の勢いで世界への広がりを見せていた合衆国オセアニア改め、南天の手を取りパワーズ(能天使)の称号を得る。

 

 本来地域や国を治める首長にはヴァーチャーズ(力天使)以上のステージが与えられるが、当時のユスフが書記長に就任したばかりと、二十代と若い年齢でもあった事からパワーズとなった。

 

 これに大慌てしたのはE.U.である。敵対、とは行かぬまでも、自国と対立していたイラクがオセアニアの支援を離れ、正式に南天条約機構オブザーバー国となったのだから。

 

 当然、時のE.U.外交官は南天の入り口であるイエメン民主共和国や、合衆国東アフリカに抗議した。

 

『民主主義とイラクの唱える共産主義は相容れないっ! そのイラクを南天条約機構のオブザーバー加盟国とするとはこれは民主国家ユーロユニバースと民主共和性原理主義国家群南天との秘密協定違反ですぞっ!』

 

 この時に両国から返されたのは。

 

『我々の国ではなく南天に対して意見があるのならば、我々の偉大なる神か、神を守護せしケルビム(智天使)以上の階級の方々に意見して頂きたい。我々国家地域を守護するヴァーチャーズ・ドミニオン(主天使)には答えを申し上げる正当なる権利は持たない故に。それとも――』

 

 

 ――意見が通らないからといって、古代から現世までの叡智を何一つ持たない新世代人のガラクタの集合体如きが、我々南天と力尽くの戦争でもするのかね?

 

 

 辛辣に過ぎる返答だった。ユーロユニバースの使者はイエメン・東アフリカ両国の議長とも会えなかったのだ。南天と戦争? その様な恐ろしい事は考えることも出来ない。

 

 南天はすでに東アフリカ中東地域だけでなく、赤道以南アフリカまで浸透している。ユーロユニバースの領土を奪ってしまったのだ。そこに南天の、合衆国オセアニアの求める物がある。ただそれだけの理由で。

 

 国内にも南天のシンパは多い。世界中に南天は広がりを見せている。

 

 南天とユーロユニバースが本気で戦争を行えば、ユーロユニバースはその全土が半年と経たずに地図の上から消されてしまうだろう。

 

 土台ユーロユニバースに8000万という巨大な軍を持つ南天に抗う術など無いのだ。それどころか南天には請わねばならぬ立場。

 

 南天、この世界で『数の南天』と対等なのは『技術の日本』と『力のブリタニア』の二国のみ。この二国以外南天にとって全て相手にならない国でしかないのだ。

 

 それに、海の向こうより虎視眈々と王政復古の大号令を掛けんとするユーロ・ブリタニアとの戦争に勝利するには、南天の力が必要だ。

 

 南天と険悪な間柄にユーロユニバースはなれない、なってはならない。だが、果たして南天に支援要請しても南天は動いてくれるのだろうか?

 

 南天が動く時、日本・ブリタニアが動く。日本・ブリタニアが動く時、南天が動く。三竦み。北側と南側。対立する両陣営は強力すぎるからこそ下手に動けないのだ。

 

 ともあれ南天の意思は確認できた。民主共和性原理主義は共産主義をも包括する。ユーロユニバースには無理な事でも南天ならば可能。ここに力の差がはっきりと出ていた。

 

 斯くして、南天の支援も得た共産イラクは、第一次中東戦争へと邁進していき、サウジアラビア軍を強化型バミデス。神より下賜された戦車、装甲車、戦闘機群と100万の群を以て、サウジアラビア北部から中部まで押し込み。

 

 ヨルダン・シリアにも軍を派遣、包囲殲滅を行っていきヨルダン西部を占領。2019年前後には勃発する第二次中東戦争(南天北半球侵略戦争)に置いて南天の許容する範囲でのみだが、中東地域の全土を手にすることになる。

 

 六十代とまだまだ血気盛んなユスフ書記長の絶頂期であった。

 

 サウジアラビアの過半は手に入り。ヨルダンは手に入り、シリアも手に入った。

 

 そして自らは独立国で有りながらも南天の一部なのだ。世界第三位の超大国。彼の『技術の日本』『力のブリタニア』と並び称される『数の南天』の一員なのだ。特例としてながらオファニム(座天使)の階級にまで上り詰めた。

 

 これ以上は望めない状況の中にあったイラク社会主義共和国。

 

 皇歴1940年前後から80年。地域大国としては相当な血の歴史を歩んできた国は、血の上に栄華を極めんとしていたのだ。

 

 

 ※

 

 

 時は少し戻る

 

 

 

「たまのお休み。こうして外に出るのもいい物ですが、湿度の無い暑さと湿度の有る暑さ。あなたならどちらを選び、堪えられるでしょうか?」

 

 肩口の少し下より三つ編みにして黒い紐で纏められた腰辺りまで届く長い髪を左肩口より身体の前へと垂らし、白と紫で彩られた修道服に身を包み、紫の瞳をテラスから外に向けている三十代ほどの女性は、彼女の背後に立つオファニム・ユスフに問い掛ける。

 

 口ひげを蓄え、黒い髪を角刈りにし、カーキ色の軍服に赤い軍帽を被った筋骨隆々の男、イラク社会主義共和国書記長ユスフ・サルマン・ユスフ。

 

 一国の指導者で有りながら立ち位置がまるで違う。修道服の女こそユスフの後ろに控えるべきであろう。それが自然で有り、今この瞬間が不自然。

 

 ながら、ユスフはこれが自然であると考えている上、女性もこれが自然なのだろうと考える。最も、女性の役職を考えるのならばこれはあり得ない構図であるのだが。

 

 女性はかなりの美女。その静謐さと清楚な身なりもまた極上、体つきはこの上も無い。イラク社会主義共和国はこれから始まる戦争で勝利し、栄華を極めつつある。

 

 そのイラクの指導者ではあるユスフだが彼は凡人。軍事的才覚や指導力、それなりのカリスマこそ有れども、南天の最奥に居る者達から見れば、アリ以下の存在でしか無い。

 

 そんな彼もそれなりに女を抱いてきたし、眼前に居る美女なら自らの妻としても欲しいほどの容姿をしている……が、彼は眼前の女性に対してその様な欲望は抱かない。

 

 静謐な穏やかな微笑みを湛える聖女のような彼女だが、その実態は天使。心ない天使。瞳は美しく透き通っているが、その奥底はドロドロに濁っている。

 

 まるでここに在ってここに無い。天上人にして堕天使。その瞳は全てを映しているようで何も映していない。あらゆる全てが無価値だとでも物語っているように。

 

 汗が流れる。暑さ故の汗では無い、緊張から来る冷や汗だ。何と応えれば良いのか?

 

 まるでこちらの心を読み取ったかのように、女性が振り返り、口にした。

 

「あなたの思うとおりに答えても良いのですよ?」

 

 美しい。どこまでも美しく怖い。

 

「は、はっ、で、では僭越ながら。湿度の高い暑さという物を生まれてこの方経験したことが無いので、お応え致しかねます」

 

 ユスフは丁重に答えた。答えを間違えれば殺されてしまう。この女性と戦えば勝てる? そんなことは不可能な話だ。組み伏すことも、いやそれ以前に戦闘にもならないだろう。

 

 女性が持つ超常の力を使う以前の話だ。戦闘力に天地の差がある。この美しい女は身体一つでKMFを模して開発されたバミデスを、ユスフの眼前で破壊して見せたことがあるのだ。ただの人間である自分が勝てるわけが無い。

 

 現に一度調子に乗り、識らぬとは言え礼を失した言動を取った際、首を握りつぶされかけた。その時は偽りの姿、正確には二つの姿のその一つだったのだが。

 

「あ、アルテナ様はそういう地方にも赴いたことが?」

 

 女性――アルテナは微笑みを湛えたまま答えた。表情が全く動いていない。鉄面皮という奴だろう。

 

「ありますよ。ニューギニア民主共和国、大洋州連合、合衆国オセアニア内の湿地帯」

 

 

 ――大日本帝国。

 

 

「に、ほん、……に、入国、可能、なのですか?」

 

「ええ、本当の姿であるこの姿ならば怪しまれずに入国できますよ? この本当の姿では何もしておりません。故に何処にも誰にもマークされては居りませんので」

 

「は、はは、確かに、そう、ですな……アルテナ様の本当のお姿である、そちらのお姿を存じ上げている人間は少ない、ですからな」

 

 自分がその一人である事を意識すると空恐ろしくなるユスフ。

 

 アルテナの気分次第で自分の真の姿を知る者を一人消去しようと考えるかも知れないからだ。

 

 それが自分で無いという保障は何処にも無い。

 

「アルテナ様としては湿度の高さと気温の高さでは、どちらが?」

 

 逆質問が失礼に当たらないかと頭の中をぐるぐると回転させながら問うたユスフに。

 

「ふふっ」

 

 嗤うアルテナは気が付けばユスフの後ろに立っていた。

 

「っっ!!」

 

 自分の首にはアルテナの髪を纏めている黒い紐が巻き付けられていた。

 

 いつの間にか髪を解き、自分の首に解いた紐を巻き付けられた。一瞬で。

 

 能力を使ったのだろうか? それともただの速度だけで? どちらにせよ恐ろしい。

 

「私がその気ならばここには一体の木偶が転がっておりましたね。それとも――」

 

 彼女は彼の首から紐を解き、愛銃であるエンフィールド・リボルバーを懐から取り出すと、その銃口をゴツリと彼の頭に宛がう。

 

「こちらの方がお望みですか?」

 

「ご、ごじょ、ご冗談、を……ははっ」

 

「ふふふっ」

 

 そこまでしてから彼女は拳銃を仕舞い、三つ編みを解いていたことで彼女の背に広がっていた長い髪を、左肩から身体の前に流してまた編み始めた。

 

「私はどちらの国、どちらの地域にも良いところ、悪いところはあると思いますよ。普段は南天の最奥、大図書館より出て来ないので、たまに旅行をするとすれば、大日本帝国のような四季のある国がいいと思います」

 

 編まれていく三つ編み、彼女の茶色の長い髪を見遣りながら、恐ろしい冗談を噛ましてくる上に、酔狂な御方だと思うユスフ。

 

 そしてこちらは心からの微笑みだろう笑みをアルテナは浮かべ口にした。

 

「それに、大日本帝国には素晴らしい甘味の数々があるのです。おやつ天国なのですよ? その様な楽園にこの私が行かない筈がないではありませんか!!」

 

 ああ、そういえばこの御方は以前ジェネラル様と共に参られたときに、甘味を所望されていたなあ。

 

「失礼ですがアルテナ様」

 

「何でしょう?」

 

 そう思うユスフに後方の闇の中から白い覆面の男が声を掛けてきた。

 

 無粋だ等とも非礼だ等とも思わない。この白覆面もステージ・ケルビム(智天使)、ドミニオン・ユスフよりも上位の御方なのだ。

 

 不必要と考えながらも盟主が付けたアルテナの護衛だ。

 

「しかし、大日本帝国は不倶戴天の敵ですよ。アルテナ様の御身に何かがあっては南天の大いなる損失で御座います」

 

 髪を編み終え黒い紐で結び終えると、彼女は肩を震わせ笑った。

 

「あなたはあの国がただの旅行客をどうにかする様なお国柄だと思われますか? それに、私は大日本帝国の暗部も、神聖ブリタニア帝国の暗部も知り尽くしております。この世界の真実を、私もまた識っておりますので」

 

 まあ、日本の暗部については不明確なところが多々見受けられますがと、また微笑みを浮かべて言うアルテナ。

 

「それと――」

 

 アルテナは一枚の写真を取り出す。そこには。

 

 黒髪寄りの茶髪を威勢良く逆立てた、目つきの悪い粗暴そうな。赤いバンダナを頭に巻いた男が写っている。

 

「この男がどうか致しましたか?」

 

 ユスフから見てただの無頼漢にしか見えない。

 

「ビショップ殿とヴァーチャーズ・キルが狙っている一人だそうなのです。嶋田元宰相・辻元財務相・阿部元内相や杉山陸相と言い、ブリタニア皇族・貴族たち、大勢の大人物の中でただ一人の普通人。もしも生き残れたのなら少しお付き合いをしてみようかと考えたのですよ」

 

 白覆面のケルビムがまたご冗談をと揶揄すると。

 

 アルテナは冷たい笑みを浮かべながら「本気ですよ」と場の空気を支配した。

 

「ヴァーチャーズ・キルに狙われて生きていた者は居ない。ほぼだけれど。それでも生きているようなら、この私にこそ相応しい男だと思うのです。もちろん、この目、この肌、この心でどの様な男かを識る必要はあるでょうけれどね」

 

 何故この男が南天からマークされているか? 偏にこの男の危機回避力の高さの一語に尽きよう。この男はとてつもない悪運を持っている。

 

 男が確実に死んだ場面は一度や二度では無いと思われるのだ。事故が多いが明らかに死を生に変えている。もしもそういう能力を持っているのだとしたら?

 

 生と死を司る、死神などと呼ばれる自分とお似合いの人物では無いだろうか? そして最奥への控えの間とでも呼ぶべきエリュシオン地下大図書館の防衛力も増すだろう。

 

「うふふっ、皇歴2019年、年齢は26歳かしら? この歳でまだ粋がっている年下の坊や、こういう子のこういうところ、嫌いではありません……」

 

 そういうと、セラフィム・アルテナは三つ編みにした髪を頭の上で纏め。パチンと指を鳴らし髪を輝く銀髪に、修道服をメイド服へと早変わりさせてしまった。

 

 大図書館管理人にして清掃員、ただのメイドことアルテナ。

 

 南天の数少ない最上級幹部セラフィムの一人にして、南天最奥の地下大図書館の清掃員たるメイドは、白覆面の男と、ドミニオン・ユスフを引き連れ女王の如く、イラク宮殿の闇の中へと消えていった。

 

 

 




 ただのメイドことアルテナのモデルは2001年に放送されていたガンアクションアニメ(NOIR)ノワールのラスボスアルテナです。使っている愛銃もノワールのアルテナの物。本当の姿の方はアルテナそのままです。


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コードギアス反逆のザ・・・ザザザ・・・・絶望の・・・生まれた日
コードギアス反逆のザ・・・ザザザ・・・・絶望の・・・生まれた日


変なネタを書いてしまったので投稿します。



 

 

 

 

 花月シャーロット。彼女は黒髪黒目の日本人その物を思わせる人物ながら、本当はブリタニア人の名も知らぬ父親・男爵が、妾であった日本人の母親に産ませた子。

 

「はあッ……!はあッ……!はあッ……!」

 

 彼女は走っていた。ひたすらに森の中。富士の樹海の中を。

 

 産まれてより十年。どうしてこんなことに、こんな理不尽な世界になってしまったのだろう。

 

 兄と、母と、平和に暮らしていた日本の田舎町でのこと。それは不穏なニュースが連日流されている中、突如としてやって来た。

 

 空を覆い尽くす航空機。海から上陸してきた兵士。空から降りてきた人型の機械。町の人は無差別に殺された。生き残った女は強姦され、男はブリタニア兵の気分によって殺された。

 

 町は燃えた。やってきたのは海の向こう、神聖ブリタニア帝国からの使者だという監督官。彼は発言した。この町は本日よりブリタニアの一部になると。

 

 逆らった人、反発した人は、皆残らず処刑された。兄は我慢しろと言った。見目麗しかった母は連れて行かれた。

 

 ラジオニュースで知った。日本国は神聖ブリタニア帝国との戦争に敗れ、ブリタニアの一部になったのだと。日本人は名を奪われイレヴンと呼ばれるようになった。

 

 ある日、母は帰ってきた。物言わぬ死体となって。乱暴の限りを尽くされた後があった。イレヴンとなって何日後のことだったのか。もう、覚えていない。

 

 ブリタニアへの憎しみが生まれたのはこの頃からだったろうか。

 

 兄は言った。それでも我慢しろと。そんな兄はブリタニアをやっつけるべく、ナオトさんという人達と共に抵抗グループを立ち上げる計画を立てていた。

 

 でも、兄は、旗揚げの前に計画を知った兵に追われて亡くなったと、遺骨になった兄を持って表れたナオトさんから聞く。

 

 涙が出た……一昼夜泣き尽くした。忙しいはずのナオトさんは、そんな私に寄り添ってくれ、何も言わずに共に居てくれた。

 

 どれだけ泣いたのだろう。産まれてからこの方、此処まで泣いたことは無かったのかも知れない。涙は涸れ果てた。兄の遺骨は“家があった場所”に埋めた。埋葬する場所もブリタニアに奪われてから。

 

 寄り添ってくれていたナオトさんは旧東京の、シンジュクゲットーに戻るという。私もついて行くと言った。母と兄の敵を取りたいと。

 

 でもまだ十と少しの私に危険な目には合わせられないと、ナオトさんに断られる。とても優しく。生前の兄のように。

 

 ナオトさんは行ってしまった。私を一人残していくのは悔やまれるがと言い残して。彼は彼の戦場へ。

 

 私が残されたのは、これ以上この何も無い田舎町がブリタニアの兵の狼藉を受けることは無いだろう。そう判断したからだという。確かに私も思う。こんな何も無い町にブリタニア人も用は無い。

 

 彼らは東京で疎開を作り、優雅な生活を送っていると聞く。その日からこの田舎町には何も無くなった。家も、兄も、母も、もうない。私は適当に空いている空き家で一人で暮らし。

 

 時折ある旧日本人、現イレヴンへの配給で命を繋いでいた。

 

 そんな毎日の中、日々成長していく私が16となった頃。やってきた徴税官に私は目を付けられた。紅月ナオトの関係者だなと。

 

 確かに私は関係者。ナオトさんをよく知っているし、ナオトさんには良くして貰っていた。兄の埋葬を手伝ってくれたのもナオトさん。生前の兄と共に抵抗グループを立ち上げようとしていたのもそう。

 

 私はブリタニア人から見ると思い切りナオトさんの関係者だった。

 

「紅月ナオトは討ち取られたぞ?」

 

 え――?

 

「愚かにも我がブリタニアに対し抵抗運動を続けてきた紅月ナオトは討ち取られたと言ったのだ」

 

 な、に?

 

「馬鹿な男だ。我がブリタニアに跪き、イレヴンとなって生きていれば長生きできた物を」

 

 聞きたくなかった。

 

「どうやって死んだか教えてやろうか?」

 

 ペラペラと喋る徴税官の言葉を、私は聞きたくなかった。

 

 枯れ果てたと思っていた涙が涙腺から溢れ出し、ぼたぼたと地面に落ちてシミを作った。徴税官は面白そうに私の様子を見ながら、一通り話し終えた後。

 

「花月シャーロット。貴様にも逮捕状が出ている。大人しく我々に従い縛に就け。そうすればそうだなあ」

 

 舐め回すように私の身体を見て。

 

「悪いようにはしない」

 

 

 ※

 

 

 私は咄嗟に逃げ出した。誰が、誰が、ブリタニア人なんかの自由にされてやる物か。

 

 幸い周りは森ばかり。小娘の脚でも中年の徴税官よりは早くて直ぐに逃げ込むことが出来た。

 

 そこからは手配が回ったのだろう。紅月グループの生き残りがフジの樹海を逃走中。

 

 ラジオから情報は入った。正直絶望していた私だったけれど、紅月グループの生き残りという言葉が私の生をからくも繋いでいた。

 

 私は紅月グループじゃ無い。でもそう見られている。あの優しいナオトさんと同じグループの人間であると。

 

 だから此処まで逃げられた。だから此処まで生きてこれた。だけどブリタニアの人型自在装甲騎ナイトメアフレームの足の速さからは、とても逃げられず。

 

『花月シャーロットを発見しました』

 

 ランドスピナーの嫌な金切り音が聞こえ、無線マイクの私を見つけたという音声。

 

 見上げると青い人型の巨人。機械仕掛けの巨人が私を見下ろしてた。

 

 どうして? どうしてこんな世界になったのだろう? ただ平和に暮らしていただけなのに。ただの日常を送っていただけなのに。

 

 母は陵辱の限りを尽くされて殺され、兄は抵抗を試みて殺され、あの優しいナオトさんは……ナオトさんは……。

 

 誰も。

 

 誰も助けてくれなかった。

 

 日本がこんな惨状なのに、中華連邦は助けてくれなかった。風の噂ではユーロピアはブリタニアと同じように日本人をゲットーに押し込めてイレヴンのような扱いをしているらしい。

 

 ブリタニア人の父はこの惨状を知っているはずなのに、母を助けてくれなかった。私たちを助けてくれたナオトさんは……死んだ……。

 

「……ちゃえ」

 

『ああ、なんだテロリストめ。最後に何か言いたいことでもあるのかぁ?』

 

「こわれちゃえ……」

 

 私は叫んだ。フジという特別な場所で。

 

 不思議に石サクラダイトが沢山取れるこの地で。

 

「神様でも何でも良い……こんな世界ッ、こんなッ、こんな世界ッ、なにもかも壊しちゃってよッッッ!!!」

 

 もう、要らない。

 

 大切な人も居ない。

 

 誰も助けてくれない。

 

 誰も……好きな人も奪った、こんな世界。

 

 ナイトメアフレームの青い拳が振り下ろされる中。私は叫んでいた。

 

「壊れちゃえばいいんだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふむ、どこを壊してほしいのかねェェェ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コードギアス反逆のザ・・・ザザザ・・・・絶望の・・・生まれた日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガギイィィィ

 

『な、なんッッ』

 

 手が、まぎれもない人の手が、青い大きな機械仕掛けの手を、止めていた。

 

 そんな不可能な事が、目の前で起きていた。誰が思うのだろう? 誰が考えるだろう? 素手でナイトメアフレームの拳を受け止めてしまう人が存在するだなんて。

 

「どこを壊して欲しいのかと訊いているのだよ木偶人形君」

 

 私の背後から聞こえた声。素手で機械の手を止めている人の声

 

 振り向くと其処には。

 

 

 白い、お医者さんが着るような白い衣服を着た、顔の見えない、男の人? が立っていた。その左手一つでナイトメアフレームの拳を受け止めた姿勢のまま、微動だにしないで。

 

 

「ふーむ、木偶はいかんねえ。言葉が理解でないのかぁ? どこを壊して欲しいと……ああ、そうか、差し詰めまずはこのオモチャを壊して欲しいのだねェ?」

 

 虹色の……瞳。

 

 その人は、そのお医者さんみたいな人は、虹色の瞳をしていた。その瞳から沢山の視線を感じる。その人は一人の筈なのに一人では無い様な、沢山の視線を。

 

 

 ガリッ、ゴリッ、バキンッ。

 

 

 あり得ない音がして、私を追い掛けていたナイトメアフレームの片腕が力任せにもぎ取られていた。

 

『なッ、馬鹿なッッ、そんな馬鹿なぁぁッッ! 素手でナイトメアの腕を引き千切るだなどとッッ!?』

 

「相変わらず自分の信じたい常識しか信じようとせん愚かな人形だねェ、舞台装置の配置人形は。神に祈りを捧げるという信心深さの意味ではこちらの木偶の方が余程使徒に近い」

 

 その、人? はもぎ取った腕を放り捨てると、ナイトメアのコックピットまで高く飛び上がり張り付くと。

 

『なっ?!』

 

「真性の木偶に用は無い」

 

 コックピットに腕を振り抜いて、穴を開け。中に居た人の頭を……もぎ取った。

 

 大量の血が。赤い血が。コックピットの穴から流れ落ちている。

 

 喪った頭はその人が持っていて、その頭を彼はコックピットから引き出し、そのまま……食べた。

 

 その尋常ならざる光景を見て、私は嘔吐き、胃の中の物を吐き戻す。

 

「不味いねえ。やはり、ガリっ。ごりっ。くちゃくちゃ。木偶の肉は不味い。ああ、安心したまえレディにこの不味い物を進めるほど私も野暮じゃ無い。だが食料は現地調達が基本なのだよキミ」

 

 脳みそを食べた彼は、もういいとでも言うように頭部を放り捨てる。どちゃ、地面に落ちる脳みその無い頭部。いっそ哀れで先ほどまで私を殺そうとしていたその頭部の人物に祈りを捧げたくなるほど、ゴミのように打ち捨てられたソレは気持ち悪くも哀れみを誘った。

 

「ふむ、まあ後は野生動物が食べるだろう。人間を食べるのは神の特権だが、野生動物の特権でもある。だがしかし木偶だけは不味くていかん。くさった肉の方が未だ美味しい。焼いて食えばそれなりなのだが生食はいかんな」

 

 神?

 

 この白衣を着た虹色の瞳に影が差して見えない顔の人が……神。

 

「私一人で壊せる物はたかが知れているが。あと二十分もすれば私の使徒たちが世界を塗り替えてこの世界に降り立つ。そうなるように遺跡を調整起動させたからねえ。では何故私が先にここに居るのか? ふははははぁ、私とルークがエリュシオン地下の間に居たせいで位相空間がずれ私たちだけが先に此方へと来て、しかも神根島遺跡のある日本へと来てしまったようなのだよキミ」

 

 よく分からない単語を沢山並べる神様。

 

 そして。

 

「盟主。ここに居りましたか。盟主の仰います通り原作か、原作と非情に近似した世界のようですがあまり動き回られると危険です」

 

 白髪? 銀髪? を後ろへとなでつけた壮年の男性が森の中から現れた。誰?

 

「おお、マックスくん。済まんなジッとしていられる性分では無いのだ」

 

「マックス、マクシミリアン・スターゲイザーは合衆国オセアニア総代行主としての本名、いまはルークです。それと」

 

 何だか凄く偉い人みたいな、ルークと呼ばれた人は、神様の食べ残しを見て息をつく。

 

「悪食も程々に」

 

「だがねキミ。食料は現地調達が基本だ」

 

「といってもです。木偶人形などを食べて食中りでも起こしたらどうなさるおつもりです。こういうのをお食べになられるのは神であるあなた様だけですが、せめて焼くなり何なり調理をなさってからにしてください」

 

「ふふふふははははは、心配はいらんよ。食中りを起こしたことはここ150年ほど一度として無い。いや、永久に無かろうねェっと、そろそろか」

 

 神様が人を食べたという事実を何でも無いことのように語らう、ルークという人と神様。そして神様は時は満ちたと呟き空を見上げた。

 

 え? な、んで?

 

 

 

 晴天だった空が。

 

 

 

 

 真っ暗になっていた。

 

 

 

 

「ふふふふっ、不思議かね?」

 

 神様は私に言う。それは不思議だ日食でも無いのに空が真っ暗になるだなんて。満天の星々が輝いて居るだなんて。満天の、天の下で。

 

「世界を塗り替えるとき。必ず世界には大きな変化が起きる。それがどの様な物か。やるのが始めてな私にも分からない部分はあったが。皆既日食と同じ現象とは中々乙じゃ無いかね。神秘的でロマンスを感じるとは思わないかねェ」

 

「私と致しましてはちっともロマンスは感じませんな」

 

「いかんねキミ。芸術家魂に欠けておるよ?

 

 瞬間。地震のような地響きが起きた。

 

「キャッ、じ、地震?!」

 

「地震だねえ。いやはや天変地異だ。実に面白い現象だよ。しかもキミを中心として起きている。もしかしたらキミが我々を引き寄せたのかも知れないね。まあ大した問題でも無いし、気にすることでも無いがね」

 

 何でも無いという神様。地震の揺れは深度5くらいだろうか? 日本人としてはこれくらい平気な方だけれど。空が夜になった直後のことだったから、少し恐怖を感じていた。

 

 揺れは一分ほど続き。揺れが収まると同時に、やがて闇に包まれていた世界が晴天の光を取り戻した。

 

「無事、転移したようだ。各地のギアスユーザーの位置が分かる。オセアニア地方・大洋州地方・マダガスカル自治州・南アフリカ地方・東アフリカ地方・中東地方。南天各地からの位置情報が分かるぞぉ。あとはプリーストの居る高麗の反応もあると言うことは清と高麗も無事巻き込めたか」

 

 南……天……? 南天ってなに。清?高麗?

 

「キミ」

 

「え?」

 

「キミだよ木偶人形君」

 

 木偶、私の、こと?

 

「私、でしょうか?」

 

「そうだ。時にキミ。今は何年かね?」

 

 え? 何年って、神様なのにそんな事も知らないの?

 

「2017、皇歴2017年です」

 

 年がそんなにも気になるの? すると神様はルークに声を掛けた。

 

「ルーク君」

 

「はっ、原作基準での原作の始まった年。皇歴2017年ならば技術力の差は2025年の我が南天とは20~30年といったところでしょう。転移に合わせて各地の信徒や浄化組織の人・物も南天領域と清国高麗領域に分散配置しておりました故、物量など最早考えるまでも御座いません。高麗にはN兵器があと5発あります。他にも清国の新型KMFも。それと今ほど確認したところ南天と清・高麗上空にいた静止衛星と周回衛星も無事転移していることが判明致しました。これで南天軍ともオセアニア本国とも清・高麗とも通信が可能です」

 

「忌々しくもジャップとブリタニアと、北側諸国と中華を挟んで対峙し続けてきたがこれで邪魔者はいなくなった。いや、中華西部とトルコの遺跡を手にして不完全ながら連結起動した結果だが、全天に美しき世界の実現が可能となったわけだ。しかし素晴らしい手際だ100点満点で300点を与えよう」

 

「恐縮で御座います。世界の書き換えに必要な遺跡数は確保できませんでしたが、ギリギリで世界間移動を可能とする遺跡数は確保連結起動に成功致しました。正直を申し上げますと奇跡です」

 

「かまわんよ。結果が全てだ――さて」

 

 また、神様の虹色の双眸が私に向けられた。その不思議な虹色の双眸から、幾百、幾千、幾万、もっと。数えられないほどの恐ろしい数の視線を感じる。こんな瞳がこの世に存在するのか。神様だから? 急に怖くなってきたけれど、私は真正面からこの瞳と向き合わなければならないと思った。

 

「キミは何を壊して欲しいと言っていたかな? 私ならキミが壊したい物を壊すことが出来るが。いまの私は宿敵であるジャップが居なくなって寂しくもあり悔しくもあり、同時に解放感から気分が良かったりもする。叶えてやらないでもないよぉ?」

 

 壊したい物を壊せる。神様は私が壊したい物を壊せる。

 

 私が壊したい物。壊して壊して壊し尽くしたい物。

 

「なにも、かもを」

 

「何もかも?」

 

「はい」

 

 ブリタニアに攻撃された日本を助けてくれなかった中華連邦も。

 

 ブリタニアと同じように日本人をゲットーに押し込めているユーロピアも。

 

 母と、兄と、そして……大好きだったナオトさんを殺した神聖ブリタニア帝国も。

 

 世界の国々全てを壊して欲しい。何もかもを滅茶苦茶にして。祖国日本以外の何もかもを破壊して。

 

「それが、キミの願いか」

 

「は、い……私には、もう、何もありませんから……みんな、みんな、ぶっ壊れてしまえば、いい」

 

「ほう。ふ、ふふふふ、ふははははッッ。安心したまえ。私がその願い叶えてやろう。そしてこれは余談だが、どうもキミには私の使徒となる資格があるようだ。どうかね? 私の使徒となり、私と共に来ないかね?」

 

 神の使徒? 私が神様の使徒に? 神様の使徒になれば私は復讐が出来る?

 

「お母さんとお兄さんと、ナオト君のだね?」

 

 どうして、それを。私はそのことを、母のことも、兄のことも、ナオトさんのこともまだ神様の前で口には出していないのに。

 

「口には出していないのにどうしてわかるのか? その答えは簡単だ。キミの心の声など始めから聞こえているよ。これでも神だからねえ。さてどうする。使徒となるかならないか。どちらでも好きな方を選ぶといい」

 

 復讐、出来ますか?

 

 すべてを壊せますか?

 

 絶望を与えられますか?

 

「その為の力を与えよう」

 

 ……。

 

「なり、ます」

 

「ほう。ずいぶん即答だがかまわんのかね。私が誘いかけておいてなんだが、ペテンかも知れないよ?」

 

「私は神様の使徒になります。全てに復讐が出来るのなら。何もかもを絶望へと落とせるのなら。それにペテン師は素手でナイトメアフレームを破壊したり、人間を食べたりしません……そんな、虹色の瞳も……」

 

「まあ確かにその通りだが良い、返事だ……、では、」

 

 私の瞳をみたまえ。

 

 

 

 

 

 南天盟主・創造主クリエイター=Lが告ぐ。汝、花月シャーロットをこの時を以て我が使徒とする。この瞬間を持って異なる摂理・異なる時間・異なる命・そして理の外。今を持ってキミは出来人形から使徒へと昇華した。キミの思うがままキミはこの世界を浄化していくが良い。新たに生まれた理外の少女よ。

 

 

 

 

 目が熱い。これは何。

 

「我が使徒となった証と、祝福だよ。どの様な力か。頭の中に流れ込んでくるだろう。私にも分かるが壊したいというキミに相応しい力ではないか……そうだな、丁度良い。彼処に転がっている機械人形に対して使ってみたまえよ」

 

 機械人形。青いナイトメア。神様が壊したブリタニアのサザーランド。

 

 視る、そして。

 

「壊れろ」

 

 瞬間。

 

 

 ドゥンッッッ!!

 

 

 残りかすだったサザーランドは、木っ端微塵に爆発した。

 

 

 

「素晴らしい」

 

 ぱちぱちぱち。神様が拍手をしている。

 

「その力。今はまだ恐らく一度につき対象は一つだろう。人間でも何でも壊せる。だが成長して行けばやがては複数を対象にして壊せるようになるはずだ。両目にギアスが浮かぶその頃には。命名するならば破壊のギアスだ。壊したいというキミの願望にピッタリのギアスではないか。そう、思わないかねェ?」

 

「はい!神様! これで私はブリタニアを破壊するッ!! 破壊……してやる、ブリタニア……ッッ!」

 

「喜ばしいことだ。さてと、そろそろ連絡を取ろうか。一番近くは高麗だが……高麗かあ」

 

 神様は上を向いて頭に手を当てていた。頭が痛い。そんな感じだ。神様でもそんな事をするんだね。

 

「ニューギニア民主共和国には1,000,000単位で軍を貼り付けておりましたし、合衆国本国艦隊、それと恐れながら盟主の七天艦隊を北上させ一気に東南アジアを制圧。日本へ差し向ける方法もありますが」

 

 ひ、1,000,000? そんな大戦力を神様は保有しているの?

 

「ん? ああ、私が保有している戦力は80,000,000だよ。空母戦闘群は私個人の艦隊である七天を含めて30個まだ増産中だ。主力水上艦艇は千数百隻、浮遊航空艦数百隻、作戦車両200,000以上、KMFは増産に告ぐ増産で23,000騎を越えている。戦闘機など作戦機は20,000機以上だ。私自身は正確な数は知らん」

 

 う、嘘ッ!? 80,000,000?! そんな、それって!? ブリタニア軍なんて相手にならない。中華連邦も。ユーロピアも話にならない。世界を壊せる戦力……ッッ。

 

「ルーク、同時進行で行こう。まずは七天を動かす。本国艦隊10個群と併せて17個で一気に東南アジアを制圧する。同時に清国の持つ1個艦隊をキュウシュウに差し向けさせ陽動に使う。N兵器は中華牽制用に残しておけ。まあどのみち南天全土が来ている以上は全世界がF兵器・N兵器の射程に入っているがね。中華はV.V.が居るときに嚮団拠点をFかNで消し飛ばす。これでラグナレクとかいう人形芝居はおしまいだ。それと」

 

 凄いお話をしている神様の七色の瞳が、また私を視た。

 

「日本は極力無傷で取る。我が使徒シャーロットは日本を解放したいようだからな。此方も序でに富士と神根島が手に入ることであるし進軍してきた七天と本国艦隊、遠征打撃群と揚陸艦隊で一息に決着を付ける。序でに大洋州艦隊と戦闘機群でハワイ・ミッドウェーなどの太平洋のブリタニアの拠点も落としておこう。相手は三下の上にこちらの戦力は有り余っているのだから使わないのは勿体ない。それからは全方位展開だ。清国と高麗を南天に加盟させまた独立を回復した日本を日本人であるビショップ白河に任せ日本民主共和国として南天に加盟させる。日本からも樺太・千島列島を伝いアリューシャン列島を制圧・アラスカへ入り北からブリタニア本土を攻める。中央軍として大洋州軍を中央ブリタニア攻撃に使い、南北ブリタニア大陸を分断。オセアニア本国軍からの追加支援と南部アフリカ軍で南ブリタニアを挟撃。主要軍事施設を破壊したらブリタニア本土を東西南北から攻めて叩き潰す」

 

 神様は私のために、日本を無傷で……。でも、凄い話をしてる。ブリタニアを本気で壊そうとしてる。神様は場合によってはFとN兵器でブリタニアを地上から消し去るとまで仰ってる。本当に凄い。そんなことが出来てしまうだなんて。

 

「とりあえずシャーロットくん、キミには特別な階級としてポーンの階級を与える。エンジェルよりも下だがエンジェルからセラフィムまでの階級の者の命令を無視できる権限を与えておく。それといずれ南天から押し寄せてくる兵力から100,000を預ける参謀付きだから心配しなくて良い浮遊航空艦は12隻、KMFは型落ちだがレブナントを500。キミ専用に第7世代機のガルーダを1騎与えよう。遊撃隊として存分に絶望を振りまいてやると良い」

 

「は、はい、神様」

 

「ああ、それと私を呼ぶときは盟主か総裁か、或いは」

 

 

 創造主クリエイター=Lと呼ぶと良い。

 

 

「創造主クリエイター=L……それが、神様のお名前」

 

「そうだぁ」

 

 創造主クリエイター=Lを、神様を、私は信じる。私に力を与えてくれて、私にレジスタンス以上の戦力を与えてくれて、何よりも日本人を日本人と呼ぶ。人形、木偶とも呼ぶけれど、イレヴンとは呼ばない。

 

 だから私は創造主クリエイター=Lを信じて戦う。この世界を壊すために。この世界に絶望を与えてやるために。

 

「ところでポーン・シャーロット」

 

「は、はいッ」

 

「物事には順序があるが、我が南天は順序を無視できる力を持っている。ポーンはブリタニア・中華・ガラクタどれから潰して欲しいか。全部一気に潰して欲しいか。どうだね」

 

 ブリタニアはブリタニアで分かる。中華は中華連邦のこと。ガラクタってなんだろう? ひょっとしてユーロピア?

 

「せ、僭越ながら祖国日本を滅ぼし、私から母と兄と、ナオトさんを奪ったブリタニアから!!」

 

「ではプラン通りで行けるな。13個艦隊は防衛用に使う……それよりもルーク君、通信は」

 

「ニューギニアと高麗が真っ先に」

 

「また、高麗か……まあ、くれてやったガイストも独自で量産しているようだから、たかが第5世代機でしかも我々の5世代機よりも弱いブリタニアを相手に負けることはまず無い。キュウシュウ攻略に使えんこともないが。連中のKMFは自爆するからねェ……」

 

 高麗の話が出ると創造主クリエイター=Lは何処かしら落ち込みを見せているような。神様を落ち込ませる国って、どんな国なのだろう。

 

 

「あ、あの」

 

 私はルーク様に訊いてみる。

 

「高麗という国はそんなにも良くない国なのですか?」

 

「ん?ああ、元々は使い捨てで利用していた国でね。正直言って使い勝手は非常に悪い野一言なのだよ。言うこと訊かない、変なコピー兵器は作る、我が国が与えていたN兵器をとんでもないところに打ち込んだりする。独断専行はざらで予定しても居ない土地を割譲するとにかく滅茶苦茶やってくれてね。兵力は800,000ほどだからまあ使えないことも無い」

 

「でもクリエイター=Lは頭抱えてますよ」

 

「何をしでかすか分からない怖さがあるからね。まあ我が南天に逆らったりはしないから其処は安心して良い」

 

 そうなんだ。序でだから清国についても訊いてみよう。

 

「あの、清国とは?」

 

「大清連邦の事だ。地上戦艦竜胆を10隻ほど、KMFは元のジェンシーというサザーランドコピーといってもこの世界のサザーランドより強いだろう物を350騎、ガン・ルウが数千騎だったか装甲戦闘車両も数千あったな。後は独自開発したKMFが数百騎と戦闘機が数百機。2,500,000の兵力がある。極東に於いては元の世界では大したことは無かったが、こちらの世界ではかなり使えるだろう1個空母戦闘群も持っているからな」

 

 清国は凄かった。清国だけで今の日本を解放できるくらいに。それでも神様達の世界では弱かったって言うから、なんかよく分からない。

 

 神様の国々、南天についてはさっき訊いた。この世界を壊せるだけの力があるって。

 

 

 でも

 

 

 本当に。

 

 

 凄いな。

 

 望みが叶う。

 

 絶望をもたらせる事が出来るんだ。

 

 

 ユーロピアと、中華と。

 

 

 

 そして、ブリタニアに。

 

 

 

 母と、兄と、そしてナオトさんを私から奪ったブリタニア人は、一人残らず皆殺しにしてやる。

 

 

 

 

 

終?

 

 

 

 

 

花月シャーロット:コードギアス反逆のザ・・・ザザザ・・・・絶望の・・・生まれた日。の主人公。ブリタニア人貴族と日本人妾のハーフ。

兄、母をブリタニアの日本侵攻で喪う。紅月ナオトに一時期世話になっておりナオトに好意を抱いていた。

容姿は腰まで届くストレートロングヘアで瞳の色は黒。母譲りで見目麗しい大和撫子な風貌。

 

ブリタニアのレジスタンス狩りに追われる中、死を前にしてこんな世界壊れてしまえと願ったことにより、休日近未来世界より南天と創造主クリエイター=Lを召喚してしまう。

南天の力・クリエイター=Lの力を知り。世界に絶望を与えてやることを決意。とりあえずの目標は日本解放と日本を占領跋扈しているブリタニア人の皆殺し。

 

 

創造主クリエイター=L:自称他称神・南天の最高指導者にして幾千幾万の視線を感じさせる虹色の双眸を持ち、人間にあらざる力を持った怪人物。

顔は常に影に覆われており見えず七色の双眸だけが光り輝いている、いくつものギアス能力と思われる物を自身で扱い。

またその上でギアス能力を他人に与える力を持ったコード保持者らしき顔も覗かせる。

高麗のKMFの信用度のなさ、N兵器で北京を吹き飛ばした高麗の馬鹿さ加減に辟易している一人。

コードギアス反逆のザ・・・ザザザ・・・・絶望の・・・生まれた日では自分の召喚主であるシャーロットに興味を持ち助け。

破壊のギアスの力を与え、富士と神根島を抜いた日本をシャーロットにくれてやろうと考える。

シャーロットにポーンの地位を与え100,000の兵、浮遊航空艦12隻、第5世代KMFレブナント500。第7世代機ガルーダ1騎を供与。

小国並みの戦力をたった一人の16歳の少女に与えてしまう。

 

ルーク:南天四大幹部の一人、その正体は合衆国オセアニア総代行主本名マクシミリアン・スターゲイザー。

両目にギアスを持つが何のギアスかは不明。

創造主クリエイター=Lの側近だが彼の行動に逐一注意を入れたりする。

他の最高幹部や南天首脳同様クリエイター=Lに絶対の忠誠を誓っている。

 

 

 

 

 

以上です。

 

この後はまず清国と高麗がキュウシュウへ攻め込みます。

 

そこから南天の世界侵略は始まっていきます。

 

第一に日本開放から。

 

第二にブリタニア本土大爆撃と上陸。

 

東西南北からブリタニア本土に攻め込んでいきます。

 

主人公の花月シャーロットこと、【ポーン」の願いもあり、南天の神、創造主クリエイター=Lは、ブリタニア人絶滅政策をとります。

 



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設定や考察
設定や考察


世界地図あり


 

 世界地図皇歴2020後半から2021年ごろ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 第一次世界大戦概略地図

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

休日世界皇歴2023年後半予想

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ここで少し閑話休題を。

 

 SSじゃなくて申し訳ありません(汗汗

 

 

 

 南天側の統一階級について。

 

 既にご存知かと思われますが、南天は階級制国家です。正確には軍や暗部組織には徹底されている階級です。

 

 下から順に。

 

 第九階位:エンジェル。

 

 第八階位:アークエンジェル。

 

 第七階位:プリンシパリティーズ。

 

 ここまでが所謂兵から曹的な階級になります。

 

 第六階位:パワーズ。

 

 第五階位:ヴァーチャーズ。

 

 第四階位:ドミニオン。

 

 ここまでが尉官、佐官に該当します。かなり混濁してますがパワーズは纏めて尉官。ヴァーチャーズ、ドミニオン下位佐官、上位佐官です。

 

 第三階位:オファニム。

 

 第二階位:ケルビム。

 

 第一階位:セラフィム。

 

 それぞれ下位将官、中位将官、上位将官にあたります。

 

 第零階位:プリースト、ビショップ、ルーク、ジェネラル。

 

 軍の最高司令官や、南天条約機構外周局長、南天条約機構中央局長、南天条約機構総司令官。

 

 所謂元帥位に位置する階級であり、事実上の最高階位です。

 

 

 神位

 

 神の座。南天最高指導者にして民主共和性原理主義の最高指導者。光の嚮団の仰ぐ現人神。

 

 ジェファーソン・デイビスが率いていたペンタゴンや民主共和性原理主義組織でありコングロマリット白い翼など。

 

 すべての民主共和性原理主義組織の絶対命令権者(最高指導者の上位)

 

 過去から現代まで変わらず盟主・創造主クリエイター=Lがその座に就いている。

 

 

 南側諸国(南天諸国)

 

 領域

 

 合衆国オセアニア。

 

 大洋州。

 

 ニューギニア民主共和国。

 

 マダガスカル自治州。

 

 合衆国東アフリカ。

 

 イエメン民主共和国。

 

 中央アフリカ以南アフリカ諸国。

 

 イラク社会主義共和国。

 

 間もなく中東全域。

 

 加盟国増加中。

 

 

 

 これより予想される侵攻進路。

 

 ジルクスタン・中華連邦方面。

 

 トルコ・ロシア方面。

 

 大日本帝国・神聖ブリタニア帝国がどこで介入するかが鍵となる。

 

 

 軍事機構。

 

 通常兵力50,000,000

 

 最大兵力80,000,000

 

 兵力はこれ以下で動かすこともある。

 

 弾道ミサイル数万発、多弾頭ミサイルも存在。

 

 F兵器・N兵器保有数? 。(N兵器は叡智のギアスの力で開発。地下N実験を二十数年繰り返し、配備数を激増させてきた。南天の切り札の一つ)

 

 モドキではない正規KMF10,000騎以上。

 

 戦闘機・攻撃機等20,000機以上。

 

 長距離爆撃機200~300機

 

 作戦車両200,000両以上。

 

 主力水上艦艇等海軍艦艇千数百隻以上。

 

 潜水艦200~300隻。

 

 揚陸艦艇千数百隻。

 

 主力浮遊航空艦艇300~

 

 

 七天艦隊(懲罰艦隊)

 

 全てが史実ジェラルド・R・フォード級以上の艦艇と航空母艦で構成された七つの艦隊。

 

 意味は七つの海への懲罰。

 

 創造主クリエイター=L直轄の艦隊ながら、特殊部隊エクスキューショナーズにも所属するため一個艦隊程度なら第零階位の者にも動かす権利はある。

 

 ただし創造主クリエイター=Lの許可がいる。

 

 

 創造主クリエイター=L。

 

 平和を崩す全ての現況にして謎の存在。

 

 かつてブリタニア皇宮玉座の間まで単身で乗り込み、当時の最強のラウンズだったマリアンヌと、次席のビスマルクの剣を素手で受け止め握りつぶすという尽力を見せ、二人を戦闘不能に。

 

 ロイヤルガードも全員戦闘不能にし血の紋章事変時の皇帝シャルルに「神の使徒となるかと」問いかける。

 

 断られた直後にシャルルを人形であると断じその場を去った。マリーベル皇女の宮殿の火事にも関与していると見られる。

 

 日本人をジャップと呼ぶのか、夢幻会をジャップと呼ぶのかは不明ながら、夢幻会に激しい憎悪を抱いている。

 

 また夢幻会を人形遊びを楽しんでいて良く分からないと理解不明な事も口走っている。

 

 七色、虹色のギアスあるいはコードの持ち主で複数のギアスの能力らしきものを使える反則的な力の持ち主。

 

 自らを理の外よりやってきた神と称する。

 

 

 動静。

 

 中東侵略と遺跡確保のために30,000,000の兵を動員。

 

 高麗共和国へホーリー弾道ミサイル。ミトラス弾道ミサイルを供与。

 

 N兵器を5~10発程度供与。発射ボタンは高麗共和国大統領、李承朝が持つ。

 

 同第7世代荷電粒子砲搭載型KMFガイストを2騎供与。

 

 高麗を通じ大清連邦の高亥以外の大宦官と接触を持つ。

 

 真面目で警戒心の強い高亥とは最初から接触する予定が無かった。

 

 

 南天側の紹介ばかりで申し訳ないです。

 

 

 以下お話の投稿ではありません。

 

 本編内のネタバレがありますので、御興味の無い方やお目にしたくない方はお読み飛ばしくださいませ。

 

 

 ***

 

 

 急遽の補足的な後付け設定となり申し訳ありませんが、南天が22個群もの空母戦闘群を保有している数の合わない疑問点の内訳の説明をさせて頂きます。

 

 南天勢力の正規軍(総勢15個群)には居ないはずの7個群ですが、こちらは南天の何処の国の軍にも属さない南天盟主創造主クリエイター=Lの直属の私兵軍です。

 Lの私兵軍は陸海空に海兵隊まで加えた四軍が揃っております。

 この上記の7個群は七つの海への懲罰という名の侵略を考えた七つの特別な海軍艦隊で個艦性能的には正規軍よりも強力な艦隊です。

 平常時に動かすことは無く、Lの気が向いたとき、またはL自身が大規模戦争を遂行しようと考えたときに動かそうとしている完全な私兵軍であり隠し球です。

 

 お気づきの方はお気づきかと思われますが、南天勢の空母艦名は天使から取られています。

 そしてこれら懲罰艦隊7個群の旗艦である空母の艦名は特別枠と云うこともあり全てエノク書の七大天使の名を冠しております。(間違えていたら申し訳ありません、一番艦から順にミカエル,ガブリエル,ラファエル,ウリエル,ラグエル,ゼラキエル,レミエル)

 内訳としては少々無茶な飛躍振りですが、この七つの空母戦闘群は現実世界で言うところのジェラルド・R・フォード級クラスの空母打撃群に相当する戦闘力を想定しています。

 搭載している艦載機や護衛艦の性能が現実世界よりも強力な事を加味させていただくとアメリカの打撃群より強力かと思われます(汗。

 

 七大天使についてどうこうしたいといった考え自体は元々あったのですが、本当に申し訳ありませんが後付け設定です。

 

 他に補足があるとすれば南天勢はオセアニアが現在建造中の4隻の新型艦(何れも満載排水量100,000t級)、東アフリカが建造中の3隻の新型艦(満載排水量75,000t級)、マダガスカル自治州が建造中の1隻の新型艦(満載排水量80,000t級)が存在しております。

 建造中なので戦力化は先の話であり、またそれぞれに個艦性能が異なるため戦闘能力に違いが出て参りますが、南側(南天)は、対北側(日本・ブリタニア)を見据えて次々に戦力を揃えていっております。

 無論北側(日本,ブリタニア)もこれを見据えて軍拡しており、またブリタニアは特に日本の排水量128,800tにも達する世界最大の戦艦大和型を強く意識しており、大和型と同クラスの戦艦を建造しております。

 世界情勢としては北南両勢力で軍拡が急速に進んでいるといったところでしょうか。これもまた平常運転なところが上位三国のおかしなところなのですが(汗。

 

 中華連邦とユーロユニバースや、そも論外となってしまう中小国等はこの軍拡競争にとても付いていけない状態で、これを可能としている三国を化け物を見ているかの様な目で見て驚愕しております。

 

 無茶な設定なのでこれはダメだろう、無茶だろうとお考えになられましたらご批判やご意見をくださいませ。

 またそれらご意見が自身の考察や設定にも繋がるかと思われますので。

 

 建造ラッシュですね。Lは自分を唯一神としているため懲罰の七天使として自身の私兵軍を扱っております。

 

 日本は通常時約2,700,000程度の兵力を扱っており、ブリタニアは通常時5,000,000の兵力を揃えておりますがこれ等は常備軍です。

 人口3.5億ほどの日本と、人口9憶を超えるブリタニアなら弱肉強食的なギアスの不穏な世界情勢と、軍事国家的な性質もありこのくらい揃えていてもおかしくはないだろうとして設定しました。

 オセアニアは本土の人口3.4億人ほどで兵力は1,800,000~1,900,000ほどです。こちらも常備軍です。

 

 但しオセアニアの南天条約機構軍は常備軍ではありません。

 戦時においての動員で50,000,000~80,000,000という膨大な量的戦力を補充し、世界各地に散っている傘下勢力と細胞組織に絶対的命令権を持つ勢力として顕現します。

 南天条約機構は日本・ブリタニア相互防衛同盟が結成された事に対抗して作られた集団安全保障体制で。

 同機構が動員されるのは世界的な戦争を確実に遂行するためなので早々動員される事はありません。

 ただこれもLの気分次第なので彼が動かすと決めたら「我らが神の御心のままに」「全天に美しき世界の為に」を合言葉に動き始めるのでL次第でどうなるか分かりません。

 彼等の野心は北側世界を含めた全天の支配、または世界改変にあるので使うときには使います。

 議論されていた原作,休日ゲートのお話で南天ルートがあったら? についてお答えするなら下準備が整い次第ゲートの向こう側に南天条約機構軍を大動員して原作世界側から奪えるものを奪いつくすでしょう。

 慈悲も容赦もありません。なまじ神の御旗があるために原作ブリタニアの蛮行が児戯に見えるくらいの事もやるでしょう。

 Lは自分の認めた人間以外は人種民族問わず等しく木偶と考えているような恐ろしい人物なので。

 

 

 

 

 

 

 前スレの埋め代わりになるかなと思い書いていた分の文章ですので、不必要な長文となってしまいますが失礼します。

 

 疑問点と言いましょうか幾つかの謎や情勢について勝手に回答させて頂こうかと思いますネタバレが含まれますのでご注意のほどを。

 

 特筆すべき点は御座いませんのでご興味の無い方はお読み飛ばしくださいませ。

 

 

 

 過去スレを拝見させていただいておりましたが、オセアニアを超大国とお捉えの方がいらっしゃいましたので訂正を。正確を期すればオセアニアは超大国に限りなく近い言わば強大国というものになります。

 超大国は軍事、経済、情報、文化発信力等で世界的な影響力を持つ国と考えますが、大国とは国力が強い国、大きな国、列強国、といった概ね地域と世界と経済においてある程度の影響力を有する国かと推察します。

 合衆国オセアニアはこの中間点に位置し、限りなく超大国に近い国となります。

 本来この様なことは本編内のお話の中で御説明するべきなのですが、私の手が遅いのでこの場でのある程度の疑惑点にお答えできればと思い書かせて頂きます。

 

 まず提督たちの憂鬱とコードギアスのクロスオーバー二次創作である拙作の世界において、大国または列強国と位置づけられる国は。

 

 第一位:分類、超大国:神聖ブリタニア帝国。

 

 第二位:分類、超大国:大日本帝国。

 

 第三位:分類、超大国に準ずる強大国:合衆国オセアニア。

 

 超えられない壁。

 

 第四位:分類、大国:中華連邦。

 

 第五位:分類、大国:E.U.ユーロビア共和国連合ことユーロユニバース。

 

 上記の上位五カ国は列強として分類され、その他は合衆国東アフリカ,大清連邦等を筆頭に準列強と定義されます。

 ユーロ・ブリタニアにつきましては組織の勢力としてはブリタニアに土台を持ち、且つ日本、南ブリタニア諸国、東南アジア諸国等よりの援助もあり列強並の力を一組織ながら保持しております。

 

 高麗共和国につきましては弱国の一つです。しかしながら背丈に合わない軍事力を身につけているので経済的には効率の悪い国かと思われます。また近隣にある中華連邦をかつて支配される側にあったために敵視をしており、また日本につきましても日中戦争時の絡みで交戦関係にあったためと超大国日本への劣等感も手伝ってか、今でも逆恨みを抱いておりますね。

 

 イラク社会主義共和国は所謂地域大国で、サウジアラビアと競っております。サウジアラビアの他ヨルダンが侵略されており南天と挟み撃ちにされるとアウトの情勢です。

 イラクと言えば現実世界でイラクによって侵略された歴史を持つクウェートは、日本の庇護下に入っており不穏な中東情勢の中でただ一国平和を謳歌しております。差し詰め中東のオアシスといったところでしょうか。

 

 

 

 以下はネタバレ的要素が入っている為、お目を通される方はご注意ください。

 

 

 

 南天条約機構SSTOとしてのオセアニアはその傘下組織や支援団体あるいは政治結社・政党等を世界中に持つ一大勢力と成り。

 その全体的な国力と影響力はラプラタ戦争、イラクの中東侵略等に影響を及ぼしユーロユニバースにまで影響をもたらす世界規模の物で。

 その力は日ブ同盟と対抗しているように超大国として分類されるには十二分な能力を秘めております。

 分類上は、第一位、第二位に限りなく近く、世界に対し影響力を持つ超大国的組織SSTO(南天条約機構)となる形です。

 

 南天について、南天の総軍は強大で原作世界を相手とするなら原作世界側が各勢力に別れたままでは太刀打ちできないでしょう。

 最大動員80,000,000人のクリエイターやその側近の回想でもあったように死をも恐れぬ死兵の軍と、作戦機20,000、KMF,KGFに該当する兵器を含めた戦闘装甲車両等200,000以上と千数百隻の艦艇群。

 と、通常戦力もかなりの物ですが、何よりもアレかアレに相当する兵器を多数配備しております。

 原作世界側がバラバラで戦ったならば各個撃滅されてしまい、それこそ南天の望む世界が原作世界に創り出されてしまいます。

 

 アレの開発につきましては、まず技術的先進性と戦乱が続き通しだった情勢から軍事技術が発達していた事も影響して日ブが先行し、時置かずしてオセアニア=南天が成功させております。

 保有国は三国に限られその他の世界中の国々はアレの存在もその威力も名称その物すらも何も知りません。

 知っているのは日ブ自身(日ブの影響国も知りません)と、南天の下にある鉄のカーテンの向こう側の国々だけであり、最高機密に指定されており外部に漏れ出ないように厳重な管理下に置かれています。

 衛星技術もこの三国の独占状態となっており、原作よりも衰退著しいユーロユニバースはKMFの開発と共に、長距離攻撃を可能とするだろうアポロンの馬車の開発に躍起になっているといった有様で、日ブ・南天からは失笑を買っております。

 アポロンの馬車があったところでアレかアレに近しい兵器、あるいは衛星技術が無ければアポロンの馬車は本当の意味でのその真価を発揮できないと知っているために。

 

 直接相対すれば双方が多大な損害と場合によりけりですが世界滅亡の可能性をも秘めているので、皇歴1950年代以降より続く北南冷戦という冷戦構造が発生しております。

 日ブは太平洋戦争時に置いてのオセアニアの動きに警戒しており、隙あらば北側(日ブ)の勢力圏や遺跡を我が物としようと動く南天には常に監視の手を緩めておりません。

 日ブ・南天が全面戦争にまで踏み切らず、代理戦争が主として発生しているのもこの為で。全面戦争の先にアレの撃ち合いになるといった事態を避けたい様子です。(無論盟友などにアレを使われた場合は日ブも黙ってはおりません)

 また南天条約機構が動くときは北側の勢力である日ブ同盟も連動して何らかのアクションを起こす確率は高いでしょう。

 原作オズに登場した龍門石窟等も南天の攻略目標とされており、今後中華連邦へのアクションを起こすかも知れません。

 

 大清連邦、彼の国が列強国たるユーロユニバースに戦争を仕掛けようと無謀とも言える行動に出たのは幾つかの必須条件が重なった為です。

 条件の一つにユーロユニバースの極東管区からの戦力引き抜きが入ります。

 

 本国である欧州がユーロ・ブリタニアと対峙する為として不足する戦力を、植民地や地方から中央である欧州に集めている事が大清連邦の野望の原因の一つとなっております。

 

 小さなネタバレとして他にも幾つか要因が重なっておりますその要因についてですが、一部の大清連邦の高官には知らされておらず、その高官は事の次第を知り頭を悩ませる事となるでしょう。

 

 

 

 以下は特にネタバレ的なお話と、提督たちの憂鬱とコードギアスという作品の唯の上っ面だけを見てしまっているかも知れない自分語りを延々と書き綴っている為、お目を通される方はご注意ください。

 

 

 

 

 マリーと玉城のお話をお見かけしたりしますので私としても書いてみたく、先出し情報と成りプロットも何もありませんがマリーと玉城の再会のお話も考えております。

 まだ頭の中にしか浮かんでいない情景と述べましょうか妄想の段階なので明言は出来ませんがマリーと玉城の再会については以前より考えてはおりました。

 

 皆さんは玉城が好きですか? マリーが好きですか? 彼と彼女も史実の歴史の波と非情な世界の在り方に翻弄された人達だと私は考えております。

 マリーについては思うべき所もある物かと存じますが、玉城についてはどうでもいいと考えている方が多いと思われます。

 

 正直を申し上げると私は元々は玉城の事があまり好きではありませんでした。粗暴なキャラが苦手な事もありましたが。

 そのイメージが変わったのはIFのお話であるPS2ソフト、コードギアスロストストーリーズでのあるルートで主人公の歓迎会を開こうとしてくれた気さくさを見てからです。

 ただのお調子乗りでただ宴会をして騒ぎたかっただけなのかも知れませんが、孤独だった主人公は玉城の発言に嬉しさを感じた部分があったと思うのです。

 

 マリーもまた被害者ですが他者への在り方が回と章を経る事に悪魔的な物へと変貌していったようにも感じ、リドールナイツを用いた残虐性の発露から双貌のオズを見なくなってしまいました。

 ギアスを用いて他者の自由と尊厳を奪い人形としてしまうマリーの在り方が受け付けなかった為です。

 しかし後々続きを読んだときに、もし彼女に取り優しい世界があるのならば、彼女は高貴な魂を喪わず悪魔のような、悪い魔法使いのような人間にはならなかったのでは? そう考えるようになりました。

 やはりマリーも原作の冷酷な世界の被害者なのでしょう。

 

 

 

 モニカについて、その在り方は虐げられている弱者を助け、全ての民を守る為に剣を取り戦うことを第一として掲げる心優しく勇ましく、正しい心を持った素晴らしい人間だと考えております。

 そんな彼女には不幸は似合わない。たとえ戦場があろうとも平穏な日常があってもいいのではないか? 正しい行いを行動を以て示し、事実として虐げられている者を見捨てず助け、迷うスザクに言葉を掛けてあげたり優しさが目立つ快き人間です。

 ですのでモニカの幸せな物語を書いてみたく思ったのです。原作に置いてモニカがとても高潔な心の持ち主なのだというのは後出し情報と成ってますが……。

 そんなモニカが幸せになれる世界を実現してみたいと思いモニカと嶋田さんのお話を書き連ねておりました。

 モニカの全ての人に平等の正義をという新年は素晴らしい物で、人としての在り方は高潔その物。

 では、一人の女性としてはどんな感じなのか? 嶋田さんの前でのみ見せる騎士では無い彼女の姿は平穏の中で咲いた一輪の花のようですね。

 私自身が高潔な精神の持ち主である彼女が普通の女性としてならどうなのかを意識して描いておりますので(照。

 モニカは正しく万人への正義の為に戦う誇り高くも心優しい貴族であり騎士ですが、その日常には一人の女性としての彼女らしい在り方が隠されているのでは無いかと思うのです。

 

 ユフィにつきまして。彼女は理想論を語っております。実現困難な夢想に近いです。

 それは原作日本人からしてみれば納得のいかない者などは勝手に侵略してきて勝手なことを口にする理想論者としか映らないことでしょう。

 しかし彼女が優しい世界に生きていたらその夢想も少しくらいなら実現できるのかも知れません。

 地位に名誉。身分に生まれ。人種にも囚われない自由で優しい世界。

 大日本帝国と神聖ブリタニア帝国、嶋田さんと夢幻会の協力があればその夢想を現実に出来る形になるくらいには近づけられるかも知れません。

 その優しい世界で自分の全てと相手の全てを識り結ばれた嶋田さんとの幸せで平凡な日常。平凡ながら非凡でもある日常を描いて行けたらと思いお話を書き綴っておりました。

 嶋田さんを、より正確には一人の青年である神崎博之さんを愛するユフィですが、彼女の想いと夢が無事に実を結べば良いなと考えます(拙作でのユフィは理想論だけに生きてはおりませんと私は考えております)

 

 リーライナと山本さんの関係について。当初、リーライナが山本さんのところへ嫁ぐと考えておりました。

 ですが、リーライナがヴェルガモン伯爵家の次期当主であり、嶋田さんが一人でブリタニアへ行くのは少し寂しいなと考え(南雲さんとドロテアは既にブリタニアで住んでいるため例外です)

 考慮した結果山本さんもヴェルガモン家へと婿入りする予定となっております(リーライナが治めることとなるヴェルガモン伯爵領(ウィスコンシン州)の経営,運営を彼女と夫婦仲良く行っていく予定です)

 

 拙作のお話群ではモニカとユフィ。二人のヒロインであり主人公を描いておりますが、私はどちらかでは無く二人ともが幸せになれればと考えております。

 少し外れた世界線で、モニカと嶋田さん。ユフィと嶋田さん。それぞれの出逢いがありました。その幸せを祈っていきたいです。

 

 

 最新メカ

 

 名称:フリーダム=フローレンス、またはフリーダム・フローレンス。

 

 所属:ブリタニア

 

 開発:大日本帝国先進技術研究所

 

 世代:第9.5世代(性能は余裕で10世代でもいいが、これを10世代の基準にしてしまうとKMF騎乗手がいなくなる)

 

 パイロット:モニカ・クルシェフスキー

 

 全高:11.25

 

 重量:20.17

 

 最高速度:マッハ3.75

 

 武装:次世代型エナジーウィング(実験用)、スラッシュハーケン×4、MVS×2、スーパーヴァリス・レイ×2、シュタルクハドロン・レイ

 

 機関:インフィニットドライブ(ユグドラシルドライブとは根本的に異なる、F兵器の莫大なエネルギーを元に研究された永続稼働を可能とする機関、ただし人間が騎乗するため永続稼働は不可能)

 

 航続距離:事実上の無限。

 

 実用上昇限度:20,000m以上は確実ながらそれ以上も可能。

 

 圧倒的機動力・速力に対応するため、パイロットは人間の限界を超える訓練を。

 大日本帝国先進技術研究所にて受けている。

 パイロットはモニカ・クルシェフスキー。彼女以外にこの期待は乗りこなすことは現時点で不可能。

 

 等々、先進技術研究所はお化けを作ってしまいました。

 

 

 

 

 お久しぶりです休日です。

 

 クリスマスに合わせての甘い小ネタの一つでもと思い頑張っていたのですが、結果として間に合いそうにありません。と言いますか、次話は相当遅くなるかも知れません。

 

 私の拙いお話などを楽しみにしてくださっている方には申し訳ありません。

 

 変わりと言っては何ですが、本来なら次の本編内で明かすはずだったKMFを幾つか披露したいと思います。

 

 まず最初に日本・ブリタニア共同開発、主開発は日本倉崎重工、第9.5世代機フローレンス=フリーダム(またはフローレンス=レイ)レイは改の意。スパロボのラングラン語を知っていた転生者の一部が格好いいからと名付けた。

 

 言わずと知れたこの物語のメインヒロイン、ナイトオブトゥエルブにして嶋田の騎士ナイトオブゼロ(ナイトオブラウンズは最強を意味しますが、ナイトオブゼロは無敵を意味します)、モニカ・クルシェフスキーの乗機。

 

 元はフリーダムですがフローレンス寄りの外観にも改装を施しています。インセクトモードにはなれません。

 

 急激に進む日本の技術力に合わせる形で魔改造されたフリーダムで元の外観はもう翼・頭部・ボディの一部くらいしか残っておりません。

 

 最新の進化し続けるエナジーウィング・レイとスーパーヴァリス・レイを搭載しており、第9世代機が三騎掛かりでも抑えられない戦闘能力を誇ります(所謂チート機。剣道三倍段的な何か)。

 

 他の第9世代機は頂点とするフローレンス=フリーダムを仰ぐ形で日本が紅蓮聖天八極式、蜃気楼(原作での第8相当から昇格エナジーウィング機)、蜃気楼弍式と既に第9世代機の量産を始めています。(南天の侵略を恐れたラクシャータは日本に亡命済み、倉崎の先進技術研究所で無理難題を扱わされている、その他日本の新型浮遊航空艦艇や潜水艦の開発にも寄与しているが、日本の技術力の異常さに驚かされている)

 

 勿論、第9世代機はかなりのピーキー機。乗りこなすにはそれなりの訓練が必要。ですので数はそんなにありませんが現況日本はかなりの数を保有しております。

 

 第9.5世代機フローレンス=フリーダム(フローレンス=レイ)だけは完全な特別機で第10世代プロジェクトの先行試作機でもあり、モニカ以外に乗りこなせる人間はおりません。

 

 ブリタニアは言わずと知れたランスロット・アルビオン(ナナリー・ヴィ・ブリタニアの騎士枢木スザクの乗機)。そしてギャラハッド・レイ。ギャラハッドがエナジーウィングを搭載し第9世代機へと格上げとなりました。

 

 エナジーウィングの開発は進んでおりラウンズ機は順次エナジーウィング仕様の第9世代機に改装されていっています。勿論ランスロット・アルビオン同様にかなりの改造を敷いておりますしデバイサーへの負担も大きく専用の訓練も為されております。

 

 他第8.5世代機のヴィンセント・カスタム。暁・改もエナジーウィング機です(刃状粒子弾は撃てませんが機動力や速度は高いです。速度は音速を超えてきますので機動力と合わせて戦闘機とも戦えます)

 

 この世代、粒ぞろいですからパイロット候補もいっぱい居りますので……。

 

 日本・ブリタニア共に多種多様なKGFも開発済みでその内訳はまた何れ。とりあえずV.V.専用機のジークフリート・改ことネオ・ジークフリートはあります。

 

 最近のKMF事情、ギアス事情を知らない2016年程度の知識なので誤りがあれば遠慮なくご指摘いただけると助かります。

 

 最新の物語としては、嶋田さんが嶋田邸の前に停まった車の後部座席に、モニカさんに手を引かれ乗り込みます。

 

 モニカさんはいつもの白い騎士服に黄緑のマント姿、嶋田さんは茶色のスーツ姿。

 

 行き先はV.V.邸です。この日のV.V.邸には山本さん、辻さん、杉山さん、近衛さん、伏見宮殿下、伏見宮の叔父様に付いてきた皇神楽耶(初登場)とそうそうな顔ぶれが集まってきます。

 

 ブリタニア側はいつも通りのメンバーですが全員顔を揃えております。

 

 ルルーシュ、ナナリー、クララ(皇兄娘殿下として)、V.V.(皇兄として)、コーネリア、ユーフェミア(帝都の休日と混ざっちゃいますがモニカのライバルが此処で登場)。日本に居るブリタニアの皇族が全員集合。

 

 それぞれの護衛や親衛隊、外を取り巻く黒服のSPの集団と、V.V.邸は物々しさが増しております。

 

 其処へ入って来た民間人が一人。アホの玉城です。V.V.邸の警備員は玉城の事を主人の身内としてよく知っているので通してしまいます。

 

 その頃、羽田空港ではグリンダ騎士団の旗艦を務めてきたクランベリーに変わり、総旗艦となったネッサローズを中核とした、四隻のグリンダ騎士団の浮遊航空艦艇が着陸停泊。

 

 遂にマリーベル・メル・ブリタニアが日本の地に降り立ったのです。その片手にかつて兄様から貰ったコンペイトウの小瓶を持って。

 

 上気のそうそうたるメンバーが集まった理由はマリーベルの来訪が理由です。マリーベルはまず首相官邸で枢木首相や澤崎官房長官と会い、今上陛下とお会いし後、この国を本当に動かしている人々と合うわけです。

 

 彼女も知っているのです。大日本帝国を動かしている本当の人々とは誰かを。護衛としてナイトオブナイツことオルドリン・ジヴォン、吸血鬼ことナイトオブテンルキアーノ・ブラッドリーも付いてきていたりとかなりの体勢です。

 

 ルキアーノを付けたのは皇帝シャルルの危惧です。マリーベルは一度南天の魔の手に掛かりかけたので。

 

 同じ頃、V.V.邸から少し離れた遠方で謎の男達が暗躍を始めます。

 

 

 そろそろ清国と高麗がシベリアに攻め込みますが、高亥以外の宦官はある事を企んでいます、高麗はあるアイテムを手に入れます。高麗如きには有り余るアイテムです。

 

 南天も50,000,000という膨大な兵力で中東を飲み込みます。バミデスしかない中東諸国では押しつぶされておしまいでしょう。

 中東を平らげた後は中華連邦へと侵略を始めるかもしれません。この場合白い翼や光の嚮団等も使い中華連邦をかき混ぜるでしょう。そして80,000,000規模だけならば世界最大の南天条約機構軍が襲い掛かる……。

 

 世界は動き出します。混沌へ向かって。

 

 

 とまあ次話以降、可、不可、色々ネタを出しましたが全ての力を出し切れるとは言えませんので、どうかお手柔らかにお願いします。

 また、いつになるか分かりません。玉城とマリーベルの再会が主たるお話でしたので、愛の日でもあるクリスマスには書こうとしていたのですが……。

 

 

 

 

 生かせるかどうかの私の設定として。

 

 玉城はV.V.の経営する帝都内の一等地に立つアパートの住民。

 

 何度も大学受験に挑んでおり大学に行くのは政治家になるため。

 

 家賃を常に三か月は滞納しておりV.V.の家に出入りしては彼を拝み倒し待ってもらっている。

 

 V.V.から借金をしているが懲りずにクララからも借金をしている。

 

 嶋田や辻とも顔見知りだったりしており嶋田のおじさん辻のおじさんと慕っている。

 

 なお嶋田たちの正体には気づかないほどに鈍感。

 

 モニカとも顔見知りだが美人なねーちゃんでも堅物と見ている。モニカのほうもいい加減な男と見ている。

 

 実はコーネリアが好き。コーネリアに勉強を教えてもらう時が至福の喜び。

 

 ギルフォードのことをメガネくんと呼んで目の敵にしている。

 

 コーネリアとギルフォードが相思相愛だと気づいていない。

 

 幼いころのマリーベルと出逢っておりマリーベルを初見で泣かせた男。

 

 マリーベルと仲良くなりこの時の出来事が後々マリーベルに玉城への恋慕の情となる。

 

 夢を語り合うがマリーベルが夢をかなえたのに対し、玉城はダメニートと化してしまう。

 

 似たような出逢い方をしたクララからは一方的な愛情を抱かれており、クララが半ばヤンデレと化す遠因を作る。

 

 クララとは立場上年の離れた幼馴染。クララは玉城を殺したいくらいに愛している。自分の愛が受け入れてもらえない時には玉城を殺して自分も死のうと考えているくらいにはヤンデレている。

 

 クララはまさかのライバルにして強敵の存在マリーベルを知らない、マリーベルとは知り合いだがまさか恋敵だとは知らない。

 

 マリーベルも玉城の傍にクララという女性の存在がいるとは思いもよらず、この後の展開はどうなるか未知数。

 

 マリーベル、クララ、共通の敵としてコーネリアが居るが玉城に実がないことを知っているため特に気をやってはいない。

 

 V.V.は玉城をめぐる恋愛の厄介さに頭を痛めることになる。

 

 玉城のご両親が玉城の借金と滞納している家賃をV.V.に支払いに来たことがある。

 

 V.V.は受け取れないとして帰ってもらっている。

 

 掛け値なしのラッキー男でもあり幸運度はかなり高い。ただしピンチに陥った際にこれを回避する、KMFの実験中に乗騎のKMFの爆発から無傷で逃れえるといった悪運のほう。

 

 KMFには乗れる。V.V.の社で開発中の作業用KMF、一部戦闘用KMFのテストパイロットもしており原作スザクの様な事をV.V.の社ことランペルージ財閥・ランペルージグループ(ブリタニア皇室のフロント企業)の一部門でしている。腕はそれなり。

 

 

 KMFのデバイサーは彼の夢ではありませんからね。

 彼の夢は政治家ですから、といってももう諦めかけていますが。

 なおV.V.の家でブリタニアファミリーと一緒に朝昼晩しっかり食べているうえに、よくよく止まっていくため。

 玉城が居間やらクララの部屋やらV.V.の居室やらあちこちで寝転がっているとき

 アパート代以前に伯父上への迷惑料金を払えとルルーシュに蹴り飛ばされることがあります。

 

 日本のV.V.邸に住んでいるブリタニアファミリーは

 

 当主V.V.(神聖ブリタニア帝国ジ家皇兄殿下)

 クララ・ランフランク(クララ・ジ・ブリタニア)

 ルルーシュ・ランペルージ(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)

 ナナリー・ランペルージ(ナナリー・ヴィ・ブリタニア)

 コーネリア・ランペルージ(コーネリア・リ・ブリタニア)

(ユフィルートでは嶋田さんちにお引越し)ユーフェミア・ランペルージ(ユーフェミア・リブリタニア)

 

 日頃の激務の息抜きとして稀に訪れる人たち

 

 シャルル・ランペルージ(神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア)

 オデュッセウス・ランペルージ(オデュッセウス・ウ・ブリタニア)

 シュナイゼル・ランペルージ(シュナイゼル・エル・ブリタニア)

 クロヴィス・ランペルージ(クロヴィス・ラ・ブリタニア)

 マリーベル・ランペルージ(マリーベル・メル・ブリタニア)(滅多に訪れないうえに玉城とは致命的にすれ違い続けており合わない)

 カリーヌ・ランペルージ(カリーヌ・ネ・ブリタニア)

 ギネヴィア・ランペルージ(ヴィネヴィア・ド・ブリタニア)

 キャスタール・ランペルージ(キャスタール・ルィ・ブリタニア)

 パラックス・ランペルージ(パラックス・ルィ・ブリタニア)

 

 

 カリーヌ、ナナリーの玉城の印象は実は激良。

 小さなころからよく遊んでくれたお兄ちゃんとして好かれている。(恋愛感情は無い)

 

 

 このそうそうたるメンツを前にブリタニア皇室だと気づかない玉城の鈍感さには特に嶋田が呆れている。辻は玉城君ならそんなものでしょうと流している。

 

 

 

 

 アンケートも取っているのですが書き忘れに外務大臣だったかな? 麻生良太郎×シンク・ローゼンクロイツという選択肢があります。

 麻生良太郎のモデルは分かると思いますが銃の名手です。

 シンク・ローゼンクロイツは良太郎の妻で、神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家五女です。

 こちらもモデルがおります。

 

 もうまるわかりでしょうけれど、麻生良太郎はムダヅモなき改革の麻生太郎がモデルです。

 シンク・ローゼンクロイツはローゼンメイデンの第五ドール真紅がモデルです。

 二人の出会いはまだ描けておりませんが風景としては南ブリタニアのアラウカニア=パタゴニアでのテロ事件にブリタニアの伯爵家令嬢が巻き込まれた。

 とのことで、当時フリーの傭兵兼スナイパーをやっていた良太郎が向かい。

 まさにテロ現場で優雅にお茶を飲んでいたローゼンクロイツ伯爵家第五女。シンク・ローゼンクロイツと出会います。

 こちらのお話はまた機会があれば描きたいですね。

 

 

 

 

 チョビ髭の伍長殿はドゥーチェ、側近たち、バルボ等々と共に転生しております。

 どこに転生しどこで活動しているのかはシュタットフェルト家の血筋がヒント。飽く迄何処系貴族かという血筋だけの話です。

 最大のヒントとして戦艦グロイスドイッチェラントですね100,000t級です。

 こんなものを建造し持てる軍は「技術の日本」「力のブリタニア」「数の南天」以外では……。

 

 なお南天が各種戦力を全力増産中・新規開発中と同じくして

 大日本帝国・神聖ブリタニア帝国も各種戦力の新規開発・大増産中です

 

 

 シュタットフェルト一家はみな仲良く暮らしております。

 次期当主はカレン・シュタットフェルトです。

 

 

 

 高麗が伍長の逆鱗に触れますがどうなることやら。

 先に日本が片付けてしまう可能性が高いので。

 

 

 念のためこの地図は皇歴2020年度後半から2022年度前後を想定しております。

 登録がうまくいきアップロードもうまくいくかはわかりませんが、頑張ってみたいと思います。

 

 この地図を見ると伍長の激怒の意味も見えてくるものかと。

 

 

 あと地図は皆さんが描いていらっしゃった物に手を加えただけのもの。

 それも下手糞なので、そのあたりはご了承ください。

 ヴェルガモン領とかも描いてます。

 

 

 高麗がヤクーツクを取りました、マガダンも、清としては必要なかったのですが高麗の取り分をよこせ。

 俺達にはN兵器があるの脅しに屈して、じゃあ自由にしろと自由にさせたらあんな広い領土を盗っていったと。

 結果として高麗共和国自治管区なんて名乗りました。

 

 

 イラクのオレンジ色は南天です。あの国も南天の衛星国の一つなので。ですので中東はクウェート除きすべて南天で染まりました。

 

 

 

 正直総統閣下にとって高麗ごときに、失地回復の名目のもと取り戻すEU領に手を付けられるなんてことが、あってはならないのですよね。

 少しばかり大きな力を手にした子供が、他人の家に土足で踏み込むようなものですから。

 

 

 

 南天は御覧のように広大ですが、北側諸国も広大ですグリーンランド・アイスランドもブリタニア領なので。

 

 

 

 

 

 読み方やwiki的なもの。

 

 国家代行議会(こっかだいこうぎかい=民主共和制原理主義国家における国会に相当する機関)

 

 国家代行者(こっかだいこうしゃまたは国家代行議会議員=こっかだいこうぎかいぎいん=国会議員に相当する)

 

 代行統(だいこうとう=国家代行者=国家代行議員=国会議員を統べるものという意=大統領に相当)

 

 国家代行議会議長(国家議長=こっかだいこうぎかいぎちょう=だいこうとうと同じく国家元首に相当)

 

 総代行主(そうだいこうしゅ=オセアニアの代行統の名称)

 

 SSTO(南天条約機構=南側諸国による集団安全保障体制または集団攻勢軍体制=第二次最終戦争=第二次ラグナロクを戦い抜くために存在する軍事組織でもある。通常の動員は50,000,000、最終戦争時に備えた体制下の限界動員可能兵力は80,000,000)

 

 創造主クリエイター=L(南天の盟主にして最高指導者=自称・他称含め南天では唯一神として君臨している=七色に輝く"翼を”その双眸に宿している)

 

 合衆国東アフリカ国家代行議会議長ジョン・ウリエル・ド・ムガベ(黒人、東アフリカの最高指導者にして独裁者=欧州人を『白いガラクタ・ジャンク』と称して見下している)

 

 

 

 参考程度に皇歴2019年現在の判明している分の列強各国軍の戦力状況。

 

 帝国陸海空三軍の戦闘機・爆撃機等総作戦機数:11,649機(第5世代及び一部6世代戦闘攻撃機8,267機。その他戦略爆撃機・哨戒機・輸送機・給油機・電子戦機等作戦支援機3,382機)

 

 戦闘・輸送・汎用VTO:L5,983機。

 

 計画中の物も含めた浮遊航空艦艇40隻。現在14隻建造中。予定月産30隻。倉崎重工・スメラギ重工フル稼働・必要に迫られ大増産中。

 

 KMF12,537騎(第5世代+第7世代。順次第7世代機へ更新中。

 他第8世代技術実証機,第8.5世代,第9世代,第9.5世代量産中)

 

 90式改、10式、10式改戦車13,835両(第4世代~第4.5世代)、

 

 自走砲・野戦砲23,367門。

 

 装甲戦闘車両35,276両。

 

 戦艦2隻(世界最大の128800t51㎝三連装電磁砲三基九門。一番艦大和、二番艦武蔵、三番艦、四番艦、同時建造中。半年後就役ネーム信濃、長門)

 

 鳳凰級~改鳳凰級後期クラスの航空母艦16隻(空母戦闘群16個群)

 

 戦艦含む主力水上艦艇287隻

 

 揚陸艦艇504隻

 

 潜水艦155隻

 

 他補給艦・支援艦・ミサイル艇・哨戒艇・掃海艦艇等352隻。

 

(戦車・装甲戦闘車両・予備役の無頼改まで含めたKMFの合計で約71,000。哨戒艇等の小型船舶まで含めた海軍艦艇1,300。8,000機以上の戦闘機・攻撃機を含めた主要作戦機11,000)

 

 対南天政策シフトにより全戦力を大増産中。予備役の無頼改も現役復帰。

 

 常に世界の数歩先を行く技術力を誇り、対ブリタニアを相手にしても常に半歩先を行く。

 ブリタニアからの発注でラウンズ機を開発したり改造したりすることもある。

 世界最大の技術先進国、三大超大国の一つで通称『技術の日本』艦艇の技術能力ではブリタニアの一歩先を進んでいる。

 

 

 神聖ブリタニア帝国軍。

 

 鳳凰級~改鳳凰級前期クラスの空母26隻体制(編成可能な空母戦闘群26個群)

 

 排水量100000t級戦艦8隻。(最友好国にして常に技術では半歩先を行かれる日本の120000t級大和級を目指している)

 

 主力水上艦艇:千数百隻。

 

 浮遊航空艦:550隻以上。

 

 各種KMF:37000騎。

 

 戦車:35000両。

 

 装甲車:55000両。

 

 戦闘機・爆撃機・空中給油機・電子戦機・その他各航空機:16000機。

 

 VTOL:11000機。

 

 量的戦力においては一国辺りで世界一を誇るが、質的戦力においては日本に半歩劣る。

 日本とは連合国家的な結びつきを持つ唯一の国。

 三大超大国の一つで通称『力のブリタニア』

 

 

 クルシェフスキー侯爵領

 

 

 領地

 オレゴン州+ワシントン州

 領地面積 約44万㎞2

 

 

 私兵軍 クルシェフスキー騎士団 陸海空10万+予備役

 第五世代グロースター・サザーランド

 第七世代ヴィンセント指揮官機

 

 

 領主 ジャン・クロード・クルシェフスキー(未登場)

 妻 ソフィア・クルシェフスキー(未登場)

 

 

 人口 領民約1200万

 

 

 出稼ぎ労働者+その家族

 在ブリタニア外国人(ほぼ日本人)+その家族

 旅行者など合わせて域内滞在総計約2000万

 

 

 

 ヴェルガモン伯爵領(上位伯爵)

 

 ヴェルガモン伯爵家について

 

 領地:ウィスコンシン

 

 領地面積:約170000km²

 

 陸地面積:約140663km²。

 

 水域面積:約28977km²

 

 東西幅420km、南北500km。最大標高約600m。最低標高176m。

 

 総人口:770万人。五大湖工業地帯に大きな影響力と発言力を持つ、大貴族。

 

 大きな固有の騎士団を持ち最大勢力の陸上戦力は約50000人

 航空戦力として天空騎士団を約8000人

 その他予備役を含めた総数は70000名

 

 最大で6ないし7個騎士団の編成が可能なほどの常備兵を保有

 

 第5世代戦闘機や第7世代KMFに戦車・装甲車も多数運用

 

 ヴェルガモン騎士団は、アッシュフォード騎士団やクルシェフスキー騎士団、シュタットフェルト騎士団と並んで日本軍との軍事演習も度々行っており、軍事的交流も深く

 ヴェルガモン領を中心に五大湖工業地帯には多くの日本企業も進出しており。日本とは切っても切れない関係性にある。

 

 

 

 中華連邦:構成国全体で鋼髏約23,000騎(配備数は多い順に中華帝国>インド軍区>ペルシャ軍区>その他)空母戦闘群9個群。(75000t級)

 

 主力水上艦艇旧式の物:数百隻。

 

 戦闘機などの航空機数:6800機。

 

 地上戦艦竜但:24隻。

 

 地上戦艦大竜但:4隻。

 

 戦車:17700両

 

 全てにおいて三大国から見ると二線級。大日本帝国・神聖ブリタニア帝国・合衆国オセアニア(南天条約機構)と戦争になれば配線は必死。

 事実として100年前に日本と全面戦争になり大敗を喫している(日中戦争)

 大清連邦に離脱され更に国力と戦力が低下中。アメリカ軍よりは強い。

 

 

 

 ユーロピア共和国連合ユーロユニバース

 

 パンツァーヴェスペ・パンツァーフンメル・ガルドメア計約18,000騎(フランス・ドイツ・イタリア・ロシアが多い)

 

 空母戦闘群10個群。(80000~100000t級)

 

 主力水上艦艇:数百隻。

 

 航空機:4600機

 

 戦車:28900両

 

 最新の装備ばかりだが三大国から見れば二線級を最新と呼んでいる始末。

 ユーロユニバースの第四世代戦車の150mm砲は三大国第三世代戦車の装甲すら撃ち抜けない。

 一見華やかな都市群を形成し、中華連邦よりも洗練されているが、実態はハリボテの紛い物。

 三大国とも呼ぶが中華・ユーロピアを加えて五大国と呼ぶこともある。アメリカ軍よりは強い。

 

 

 

 2019年

 

 欧州貴族連盟軍ユーロ・ブリタニア

 

 最高司令官:オーガスタ・ヘンリ・ハイランド大公(ユーロ・ブリタニア宗主ヴェランス大公)

 最高指導者:アドルフ・ヒトラー

 次席司令官:ベニート・ムッソリーニ

 

 志願制

 

 陸海空三軍

 総兵力:4,570,000名(予備役含む)

 

 作戦機:7,900機(第五世代戦闘攻撃機5,100機)

 

 VTOL:4,600機

 

 浮遊航空艦艇:31隻

 

 KMF:8,500騎+予備役機5,300騎(スメラギ製・ブリタニア製混成第5第7世代。第4世代予備役機)

 

 G-1ベース:30両

 

 戦車:14,000両(第3~4世代)

 

 装甲戦闘車両:29,000両

 

 自走砲・野戦砲:21,000門

 

 戦艦2隻(グロイスドイッチェラント。グレートアドリア)

 

 航空母艦:10隻

 

 主力水上艦艇:220隻

 

 揚陸艦艇:400隻

 

 潜水艦:90隻

 

 他補給艦・支援艦・ミサイル艇・哨戒艇・掃海艦艇等:280隻

 

 各種兵員輸送車等作戦車両多数

 

 欧州解放のために貴族と故国の志願兵によって集められた軍ですが、例によって日本とブリタニアの大規模な支援を受けています。

 自らの拠点としてはブリタニア東岸と北部地域。南ブリタニア諸国と中央ブリタニアがあります。

 

 ルイ・シャルル級航空母艦

 

 ネームシップ一番艦 ルイ・シャルル

 

 就役中 10隻

 

 前期型 5隻

 

 

 基準排水量 80,700t

 

 満載排水量 102,800t

 

 全長    332.8m

 

 全幅    41.2m

 

 最大幅   77.1m

 

 吃水    11.2m

 

 速力    30kt

 

 主機    ルイ・シャルル級専用エナジーフィラー/同プラズマモーター4基

 

 推進    スクリュー

 

 軸数    4軸

 

 機関出力  260,000馬力

 

 カタパルト 電磁式4基

 

 兵装    20mm機関砲 3基(近接防御火器装置・毎分3,000発)

 8連装対空噴進弾発射機 2基

 21連装対空噴進弾発射機 2基

 

 艦載機   70~90機

 

 乗員    5,600名(操艦要員:3,100名)

(航空機搭乗員・整備員:2,500名)

 

 4個戦闘攻撃飛行隊(第五世代ステルス戦闘攻撃機:44機)

 1個電子攻撃飛行隊(電子戦機:5機)

 1個早期警戒飛行隊(早期警戒機:5機)

 1個VTOL海上作戦飛行隊(VTOL:12機)

 無人攻撃機(6~12機)

 他、艦隊後方支援隊

 

 ルイ・シャルル級航空母艦後期型 5隻

 

 

 基準排水量 81,700t

 

 満載排水量 103,900t

 

 全長    334.8m

 

 全幅    41.6m

 

 最大幅   78.2m

 

 吃水    11.3m

 

 速力    32kt

 

 主機    改ルイ・シャルル級専用エナジーフィラー/同プラズマモーター4基

 

 推進    スクリュー

 

 軸数    4軸

 

 機関出力  280,000馬力

 

 カタパルト 電磁式4基

 

 兵装    20mm機関砲 3基(近接防御火器装置・毎分3,000発~4,500発)

 8連装対空噴進弾発射機 2基

 21連装対空噴進弾発射機 2基

 

 艦載機   75~95機

 

 乗員    4,780名(操艦要員:2,280名)

(航空機搭乗員・整備員:2,500名)

 

 4個戦闘攻撃飛行隊(第五世代統合打撃戦闘機:48機)

 1個電子攻撃飛行隊(電子戦機:5機)

 1個早期警戒飛行隊(早期警戒機:5機)

 1個VTOL海上作戦飛行隊(VTOL:12機)

 無人攻撃機(6~12機)

 他、艦隊後方支援隊

 

 

 

 

 

 これまでのオセアニア軍の戦力。

 作戦機13,000機

 

 VTOL6,800機

 

 戦車45,000両

 

 装甲戦闘車両等作戦車両67,000両

 

 自走砲・野戦砲25,000門

 

 航空母艦14隻

 

 揚陸艦艇520隻

 

 主力水上艦艇360隻

 

 潜水艦艇190隻

 

 ミサイル艇・魚雷艇・哨戒艇450隻―及び純正KMFが10,000騎。

 

 

 南天条約機構軍としてのオセアニア軍。

 

 作戦機20,000超。

 

 戦闘装甲車両200,000以上。

 

 空母戦闘軍22個群。(内七隻が七天艦隊と呼ばれる盟主直轄の個人艦隊。いずれもフォード級を超える100000t級空母でフレイヤ炉を搭載。半永久的に稼働できる)

 

 即時投入可能戦力50,000,000

 

 限界戦力70,000,000~80,000,000(これを可能としているのは事実上の国民皆兵制度を南天諸国が導入しているためという側面もある)

 

 KMF:23000騎。

 

 長期間にわたりお話に手を入れていなかった関係で自身も忘れている設定などが見受けられました。大変申し訳御座いません。

 御説明として盟主が言っている切り札の一つとは恐らく皆さんが御想像されている物と同一の物と思われます(コードギアスを御存じの方ならば東京に投下されたアレしかないと汗。

 南天の切り札はF兵器とN兵器短距離から長距離弾道ミサイル数万発。同様の物は日本・ブリタニアも十数万発保有。N兵器は持っていない。

 合衆国オセアニアとしては超大国に限りなく近い大国。南天としては三大超大国。

 

 

 

 南天諸国の現在

 

 合衆国オセアニア 皇歴2019年

 

 政体 特定思想に基づく民主共和制原理主義

 

 国家元首兼最高指導者:総代行主

 

 首都 エリュシオン(キャンベラ)

 

 陸海空三軍

 

 総兵力  1,820,000+予備役 (徴兵制で事実上の国民皆兵制度)

 

 陸地面積 8,614,526km2(マダガスカル自治州含む)

 

 総人口  334,000,000

 

 領土

 

 オーストラリア+周辺島嶼

 ニュージーランド

 フィジー

 ソロモン

 トンガ

 ツバル

 バヌアツ

 サモア

 米嶺サモア

 クック諸島

 南ポリネシア(史実フランス領ポリネシア+ヘンダーソン島・ピトケアン島) 

 モーリシャス

 セーシェル

 チャゴス諸島

 コモロ

(旧大洋州連合地域)

 イースター島

 

 

 合衆国オセアニア・マダガスカル自治州

 

 政体 民主共和制原理主義

 

 州知事:州知事

 

 州都 メリナシティ

 

 陸海空三軍

 

 総兵力 420,000+予備役

 

 総人口 52,417,000

 

 旧メリナ王国だったオセアニアのアフリカ方面の拠点。

 現在は自治政府が独自に行政を動かしている。

 

 

 オセアニアの人口変遷は少々無茶ですが、大昔から存在した国家と言う事で、徐々に徐々に増加していき、日本・ブリタニア・中華と同じく近代に入ってから爆発的に増加。

 現実と違いサクラダイトを除く殆どの資源を自国で賄っている。サクラダイトは採れるも日本やブリタニアのように豊穣ではない。

 更なる生存権の拡大を図りアフリカ・東南アジア・南ブリタニアを欲したが、東南アジアは日本に、南ブリタニアはブリタニアによって阻まれる。

 現在世界を舞台に暗躍しつつ、他の列強の隙を窺っている。

 

 

 

 合衆国東アフリカ

 

 政体 民主共和制原理主義

 

 国家元首兼最高指導者:ジョン・ウリエル・ド・ムガベ

 

 首都 ダルエスサラーム

 

 陸海空三軍

 

 総兵力  886,000+予備役 (徴兵制)

 

 陸地面積 2,165,394km2

 

 総人口  142,576,800人

 

 領土

 

 タンザニア

 ケニア

 ソマリア

 

 一応独立国家の体を成しているがオセアニアの属国でしかない。

 タンザニア州西部にはE.U.側植民地と跨る形でサクラダイト鉱山がある。

 

 

 

 

 

 イエメン民主共和国

 

 政体 民主共和制原理主義

 

 国家元首兼最高指導者:国家代行議会議長

 

 首都 アデン

 

 陸海空三軍

 

 総兵力  125,000

 

 陸地面積 527,970km2

 

 総人口  25,690,000人

 

 領土

 

 イエメン

 

 東アフリカの属国。宗主国はオセアニア。

 共産イラクとの窓口。

 

 

 

 ニューギニア民主共和国 (南ニューギニア)

 

 政体 民主共和制原理主義

 

 国家元首兼最高指導者:国家代行統

 

 首都 ポートモレスビー

 

 陸海空三軍

 

 総兵力  186,000+予備役(パプアニューギニアと睨み合い劣勢な為、人口比率に対して兵力が多い)

 

 陸地面積 350,934km2

 

 総人口  4,406,600

 

 領土

 

 ニューギニア島南部と周辺島嶼

 

 かつてニューギニア戦争の舞台となったニューギニア島南部に築かれたオセアニアの傀儡国家。

 パプアニューギニアと国境沿いでの睨み合いが続いている。

 

 

 

 

 

 

 

 南天条約機構現加盟国(この先物語の進み具合によっては新規加盟国が増えていくかも知れません)

 

 合衆国オセアニア

 

 合衆国オセアニア──マダガスカル自治州

 

 合衆国東アフリカ

 

 イエメン民主共和国

 

 ニューギニア民主共和国(南部ニューギニア)

 

 オセアニア領旧大洋州連合

 

 中央アフリカ以南のアフリカ南部地域

 

 オブザーバー

 

 イラク社会主義共和国

 

 カメルーン民主共和国。

 

 民主主義中央アフリカ。

 

 民主主義ガボン。

 

 コンゴ原理主義共和国。

 

 ルワンダ民主共和国。

 

 ブルンジ民主共和国。

 

 アンゴラ原始民主制共和国。

 

 民主原理性ザンビア。

 

 ジンバブエ民主共和国。

 

 原理主義人民ナミビア国。

 

 ボツワナ原理主義人民共和国。

 

 南アフリカ原理主義人民共和国。

 

 レソト原理性共和国。

 

 エスワティニ原理性共和国。

 

 総計二十一ヶ国地域が加盟する国家連合体であり、集団安全保障機構でもあり、集団攻勢機構体でもあった。

 

 

 

 南天条約機構軍

 

 通常最大動員数50,000,000~

 限界動員数70,000,000~80,000,000名

 

 作戦機20,000機以上

 KMF含む戦闘装甲車両200,000以上

 空母戦闘軍22個群

 

 この世界における闇。日本・ブリタニアと対峙し続けている勢力で世界を滅ぼす力を持っている。世界三大超大国に数えられ、通称『数の南天』と呼ばれている。その名の通り、物量と兵力数が凄まじく、兵力数においては世界第一位を誇る。世界中に散らばる遺跡を狙いつつ独自の思想をばらまき続ける。世界中のテロ組織の真の元締めにして黒幕。

 

 

 

 

 大清連邦軍

 総兵力140万+予備役

 

 KMFガン・ルゥ1500騎

 戦車4200両

 装甲車両5000両

 地上戦艦竜胆(ロンダン)10隻

 

 

 第五世代戦闘機“S-20”60機

 第四世代戦闘機“S-10”450機

 KMF輸送機などの作戦機300機

 

 高麗軍

 高麗半島全土及び周辺島嶼群約22万㎞2

 の国土面積と7000万の人口。

 陸海空合わせて80万+予備役からなる国軍を持つ共和制国家。

 

 

 

 

 

 

 鳳凰型航空母艦

 就役中   10隻

 1番艦鳳凰、2番艦白凰、3番艦天凰、4番艦神凰

 

 基準排水量 82,000t

 満載排水量 106,200t

 全長    336.7m

 最大幅   77.8m

 吃水    11.3m

 速力    32kt

 主機    鳳凰型専用エナジーフィラー/同プラズマモーター4基:フレイヤ炉搭載

 推進    スクリュー

 軸数    4軸

 機関出力  280,000馬力

 カタパルト 電磁式4基

 

 兵装    74式20mm機関砲 2基(近接防御火器装置・毎分3,000発)

 8連装90式対空噴進弾発射機 2基

 21連装89式対空噴進弾発射機 2基

 

 艦載機   70~90機

 

 乗員    5700名(操艦要員:3200名)

(航空機搭乗員・整備員:2500名)

 

 4個戦闘攻撃飛行隊(統合打撃戦闘機秋水:48機)

 1個電子攻撃飛行隊(電子戦機:5機)

 1個早期警戒飛行隊(早期警戒機:5機)

 1個VTOL海上作戦飛行隊(VTOL:12機)

 無人攻撃機(12機)

 他、艦隊後方支援隊

 5番艦蒼龍、6番艦飛龍、7番艦白龍、8番艦黄龍、9番艦剛龍、10番艦瑞龍

 

 基準排水量 84,000t

 満載排水量 108,600t

 全長    343.9m

 最大幅   78.8m

 吃水    11.4m

 速力    32kt

 主機    鳳凰型専用エナジーフィラー/同プラズマモーター4基:フレイヤ炉搭載

 推進    スクリュー

 軸数    4軸

 機関出力  280,000馬力

 カタパルト 電磁式4基

 

 兵装    74式20mm機関砲 3基(近接防御火器装置・毎分3,000発)

 8連装90式対空噴進弾発射機 2基

 21連装89式対空噴進弾発射機 2基

 

 艦載機   75~95機

 

 乗員    5400名(操艦要員:2900名)

(航空機搭乗員・整備員:2500名)

 

 

 4個戦闘攻撃飛行隊(統合打撃戦闘機秋水:52機)

 1個電子攻撃飛行隊(電子戦機:5機)

 1個早期警戒飛行隊(早期警戒機:5機)

 1個VTOL海上作戦飛行隊(VTOL:12機)

 無人攻撃機(12機)

 他、艦隊後方支援隊

 

 

 

 太平洋戦争当時、神聖ブリタニア帝国の侵攻と此を打ち破る為の反攻作戦で幾度もの海戦を戦い抜いた末に数多くの空母を喪った大日本帝国が

 頑強さと大量搭載が可能な戦後まで生き残っていた80,000t級新型航空母艦 大鳳型を更に検証し直し改大鳳型を経て計画した大型航空母艦。

 大鳳、改大鳳、で有用性が証明されたアングルドデッキは引き続き採用。

 超伝導物質サクラダイトを燃料とし、推進システムであるスクリュープロペラを回転させる完全電気推進機関を備えている。

 近代におけるサクラダイト加工技術の向上によって、大型艦船用高出力大容量エナジーフィラーも平行して研究開発が行われていたが

 それら常用の物とは違い鳳凰型専用のエナジーフィラーと発電・充電装置が開発採用されており

 各母港から世界中あらゆる地域への無補給往復航行、地球一周無補給航行さえ可能という日本の水上艦船では最長級となる異常な航続距離を持つ。

 開発建造費は現代に換算するとネームシップである1番艦鳳凰で7,500億円と、護衛艦艇を併せた1個空母戦闘群の艦艇建造費は小国の国家予算並みか若干上回る規模となっており

 国力、資源、技術、共に他を圧倒する世界1位、2位の経済大国日本とブリタニア以外の国では技術的にも財政的にも揃えるのは困難を極める。

 

 5番艦蒼龍以降は改良が進められたことで4番艦神凰までと比較するとやや大型化。

 9番艦剛龍、10番艦瑞龍では次級である改鳳凰級への実験艦的側面として種々の新技術が盛り込まれている。

 

 本級の運用寿命は約50年であり、皇歴2020年度末には1番艦鳳凰が新大鳳型7番艦と入れ替わる形で退役、練習艦となる予定。

 

 

 備考:夢幻会と転生者達のみが知り得る秘密として本級のスペックは史実世界のニミッツ級原子力空母を参考にされており、その外観は同級に酷似。

 史実世界においてアメリカ以外の国では建艦・維持共に不可能であるニミッツ級であるが、戦国時代以前より存在していたこの世界の未来を識る者達が2010年対ブリタニア戦争による日本の破滅的な結末の回避に備え

 為政者から一労働者まで多岐に渡る分野でそれぞれが持つ力を活かし歴史改変を行いつつ富国強兵を早期に目指していた事で大幅に増大した国力。

 人類文明の根幹を成す万能資源サクラダイトの七割が眠っている日本という大地その物が産み出す圧倒的資源量と財力。

 世界に先行する高い技術力。等が複雑に絡み合った結果、同級と同等以上の鳳凰級空母の開発建造と維持が可能な環境を作り上げていた。

 

 1995年に勃発したニューギニア戦争では鳳凰、白鳳、蒼龍、飛龍、の4艦とその護衛艦群が参戦。本級にとって遅き初陣となった南太平洋海戦(ビスマルク海戦)で大きな戦果を挙げている。

 1970年に1番艦『鳳凰』が就役。

 1996年、最終10番艦『瑞龍』の完成を持って計画終了。

 後に永久機関フレイヤ炉を搭載

 

 

 

 

 

 新大鳳型(改鳳凰型航空母艦)

 

 就役中   6隻

 

 建造中   4隻

 

 1番艦大鳳、2番艦祥鳳、3番艦龍鳳

 

 基準排水量 104,200t

 満載排水量 130,800t

 全長    365.3m

 最大幅   85.8m

 吃水    12.4m

 速力    30kt

 主機    新大鳳型専用エナジーフィラー/同プラズマモーター4基:フレイヤ炉搭載

 推進    スクリュー

 軸数    4軸

 機関出力  300,000馬力

 カタパルト 電磁式4基

 

 兵装    97式20mm機関砲 3基(近接防御火器装置・毎分3,000~4,500発)

 8連装90式対空噴進弾発射機 2基

 21連装89式対空噴進弾発射機 2基

 

 艦載機   80~115機

 

 乗員    4700名(操艦要員:2100名)

(航空機搭乗員・整備員:2600名)

 

 5個戦闘攻撃飛行隊(統合打撃戦闘機秋水:60機)

 1個電子攻撃飛行隊(電子戦機:5機)

 1個早期警戒飛行隊(早期警戒機:5機)

 1個VTOL海上作戦飛行隊(VTOL:12機)

 無人攻撃機(14機)

 他、艦隊後方支援隊

 4番艦翔鶴、5番艦瑞鶴、6番艦蒼鶴

 

 基準排水量 106,500t

 満載排水量 133,200t

 全長    367.1m

 最大幅   86.2m

 吃水    12.4m

 速力    30kt

 主機    新大鳳型専用エナジーフィラー/同プラズマモーター4基:フレイヤ炉搭載

 推進    スクリュー

 軸数    4軸

 機関出力  300,000馬力

 カタパルト 電磁式4基

 

 兵装    97式20mm機関砲 3基(近接防御火器装置・毎分3,000~4,500発)

 8連装90式対空噴進弾発射機 2基

 21連装89対空噴進弾発射機 2基

 

 艦載機   80~115機

 

 乗員    4700名(操艦要員:2100名)

(航空機搭乗員・整備員:2600名)

 

 5個戦闘攻撃飛行隊(統合打撃戦闘機秋水:60機)

 1個電子攻撃飛行隊(電子戦機:5機)

 1個早期警戒飛行隊(早期警戒機:5機)

 1個VTOL海上作戦飛行隊(VTOL:12機)

 無人攻撃機(14機)

 他、艦隊後方支援隊

 

 本級はニューギニア戦争後、他国からの脅威に対して強力な海上打撃力が引き続き必要であると再確認され

 更なる質の向上と鳳凰型の次を目指して計画された基準排水量100,000t超、満載時130,000t超となる大日本帝国の超大型航空母艦。

 研究、設計その物は1980年代からステルス機の運用を目指すという構想の下行われていた上に

 95年には半世紀振りの戦争(ニューギニア戦争)が勃発したことで大幅に増額された膨大な国防予算の後押しもあり、2番艦、3番艦の計画も立て続けに予算が通過、開発の加速がなされ、2000年7月には1番艦となる大鳳が進水。(2001年度末就役)

 以後国内にある皇、倉崎の各造船所で続々と起工されていき2019年現在6隻が就役。4隻が建造中。

 4番艦翔鶴以降は改良型となっており3番艦以前とはややスペックが異なる。

 開発建造費は9,480億円にも達し、2隻のみ建造された戦艦──120,000t級大和型戦艦を除けば太平洋戦争後の大日本帝国が開発した艦艇で史上最高額となった。

 

 鳳凰型エナジーフィラーのデータを元に開発された新大鳳型専用エナジーフィラーの採用。

 敵レーダーによる捕捉を防ぐ為のステルス技術。

 各種の自動化された最新技術の導入による操艦要員の削減。

 自動化による運用コストの低減化等、様々な新機軸が盛り込まれている。

 

 備考:鳳凰型、改鳳凰型、双方の共通点として各艦建造ごとの改良が行われているため同型といっても相応の違いが生じており

 特に鳳凰型は1番艦と9,10番艦では最早完全に別の船であるといっても過言ではない程の技術的な差違が見受けられる。

 

 CVX(改大鳳型航空母艦)

 計画中

 

 

 

 長門型ミサイル巡洋艦(フライトⅢ~Ⅳ)

 

 

 長門、陸奥、伊勢、日向、扶桑、山城、尾張、肥前、肥後、伊予、摂津、美濃、他

 

 

 就役中   48隻

 建造中   6隻

 

 基準排水量 13,700t

 満載排水量 16,900t

 全長    197.6m

 全幅    19.8m

 喫水    9.3m

 速力    32kt

 乗員    270名

 主機    艦船用エナジーフィラー/同プラズマモーター2基:フレイヤ炉搭載

 推進    スクリュー

 軸数    2軸

 機関出力  105,000馬力

 

 兵装    62口径155㎜単装電磁速射砲(先進電磁砲装置) 1基

 97式20mm機関砲 2基(近接防御火器装置・毎分3,000~4,500発)

 垂直発射装置 前部 64セル

 後部 72セル

 3連装短魚雷発射管 2基

 

 艦載機   VTOL:2機

 無人偵察・攻撃機:2機

 

 雪風型ミサイル駆逐艦(フライト? ~?)

 

 

 雪風、太刀風、陽炎、不知火、黒潮、天津風、磯風、時津風、浦風、嵐、萩風、谷風、早風、野分、浜風、舞風、秋雲、春風、他

 

 

 就役中   40隻

 

 建造中   8隻

 

 基準排水量 12,600t

 満載排水量 15,450t

 全長    186.2m

 全幅    22.0m

 吃水    8.2m

 速力    33kt

 乗員    200名

 主機    艦船用エナジーフィラー/同プラズマモーター2基:フレイヤ炉搭載

 推進    スクリュー

 軸数    2軸

 機関出力  100,000馬力

 

 兵装    62口径155? 単装電磁速射砲(先進電磁砲装置) 1基

 97式20mm機関砲 2基(近接防御火器装置・毎分3,000~4,500発)

 垂直発射装置 前部 64セル

 後部 48セル

 3連装短魚雷発射管 2基

 

 艦載機   VTOL:1機

 無人偵察・攻撃機:1機

 

 

 日本海軍の現用イージス艦艇、長門型巡洋艦、及び雪風型駆逐艦は前世代であるフライト? ~? Aのイージス艦艇に使用されていたレーダーとは異なる

 次世代型イージス艦用の新レーダーシステムと消費電力の増大に伴い開発された大容量の新型艦船用エナジーフィラーを搭載。

 既存の艦艇よりも大型化した船体には金剛型、秋月型に比べミサイル搭載数・艦載機数共に強化され一層の打撃力・防衛力向上が図られており、

 全艦が対誘導・弾道弾迎撃システムも備えている。

 

 注:弾道ミサイル技術は2010年対ブリタニアに備えて日本で研究開発がなされており、

 同時期にブリタニアが開発してくる可能性も見据えたうえで迎撃システムMDの研究開発も行われていた為に

 本来ギアス世界には存在しなかった筈の両技術が生み出されている。

 

 注2:同時に弾道ミサイル用のプラズマロケットがそのまま衛星打ち上げにも用いられている為に、宇宙開発としての平和利用にも貢献。

 

 注3:プラズマロケットを用いたICBM=大陸間弾道ミサイル保有国は現在日ブのみであり、保有されていると目される国は合衆国オセアニア。

 その他開発疑惑国に中華連邦、E.U.ユーロピア共和国連合、合衆国東アフリカ、大清連邦、高麗共和国等がある。

 

 注4:日本は1940年代より相転移・消滅兵器フレイヤの開発も同時に進めていたが既知の原子力知識では……

 後にブリタニアとの共同研究で……

 

 

 

 

 

 いつ出るかは不明ですが

 仮ですので仮

 

 

 南天仕様

 

 MKGF:メガ・ナイトギガフォートレス

 

 名称:テトラグラマトン(断罪者)

 

 全長240m

 

 中・長距離F弾道ミサイル12発

 

 ハイパー・ハイ・ハドロン砲2

 ハイメガMVS6

 

 ハイメガ・ハドロンブラスター6

 

 24連装ミサイルポッド4

 

 速力Ⅿ2.5

 

 

 

 

 休日ギアス世界階級図

 

 大日本帝国

 

 上帝=上皇陛下

 ↓

 帝(みかど)=天皇陛下=国家元首

 ↓

 皇族=伏見宮博恭・皇神楽耶等々

 ↓

 華族公爵=近衛公爵等

 ↓

 華族侯爵

 ↓

 華族伯爵=嶋田伯爵・山本伯爵・東条伯爵等。

 ↓

 華族子爵

 ↓

 華族男爵

 ↓

 士族

 ↓

 平民

 

 

 以上が大日本帝国(休日ギアス世界)の位階です。

 細かく表せば宰相など国務大臣も入りますがそれらは役職の為外しました。

 

 

 神聖ブリタニア帝国

 

 皇帝

 ↓

 皇族

 ↓

 ナイトオブラウンズ―一代限り

 ↓

 大公爵

 ↓

 公爵

 ↓

 侯爵

 ↓

 辺境伯

 ↓

 伯爵―ここまでが上位貴族で上位貴族の中にも細かく位がある。ヴェルガモン家はほぼ辺境伯

 ↓

 子爵

 ↓

 男爵―ここまでが世襲貴族

 ↓

 騎士侯―一代限り

 ↓

 武勲侯―一代限り

 ↓

 平民

 

 以上が神聖ブリタニア帝国(休日ギアス世界)の位階です。

 

 

 尚、北側諸国は階級制国家が多いですが、厳格なのは大日本帝国と神聖ブリタニア帝国の二国です。

 シーランド王国・アルガルヴェ連合帝国・アラウカニア=パタゴニア王国・ギアナ公国・エクアドル公国・ペルー王国等は階級制国家ですが階級間の扱いは緩い方です。

 東南アジア諸国は階級制国家がそもそもありません。

 

 

 

 南天

 

 唯一神─創造主クリエイター=L

 ↓

 プリースト・ビショップ・ルーク・ジェネラル。第零階位であり最高階位。原則一人ずつ限りで四人のみ。

 ↓

 セラフィム─出世できる最高階位。

 ↓

 ケルビム

 ↓

 オファニム

 ↓

 ドミニオン

 ↓

 ヴァーチャーズ

 ↓

 パワーズ

 ↓

 プリンシパリティーズ

 ↓

 アークエンジェル

 ↓

 エンジェル

 ↓

 信徒(平民)

 

 以上が南天の階級となります。南側諸国も厳格な階級制国家が多いです。

 特に南天として存在する天使の階級などは特別階級で軍の階級でもありかなり厳格です。

 

 

 

 

 

 こんにちわ~。

 

 休日世界については完全に軍事力のインフレが起きてるよ。

 まずリアルのアメリカの作戦機の内戦闘機は。

 アメリカ二七〇〇機。

 

 それ以外の上位十国が。

 

 中国一五〇〇機。

 

 ロシア一五〇〇機。

 

 インド六七〇機。

 

 北朝鮮五七〇機

 

 韓国四七〇機。

 

 パキスタン四五〇機。

 

 サウジ三六〇機。

 

 エジプト三四〇機。

 

 台湾二九〇機ほど。

 

 

 

 

 知恵袋なんていう信用度の薄いソースで申し訳ないが1989年の戦力比では。

 NATO1600万人、MBT3万4000両、作戦機1万500機。

 ワルシャワ条約機構1300万人、MBT7万8000両、作戦機1万機。

 

 だったらしい。

 

 これに対して南天条約機構は8000万人、MBTとか20万両以上、作戦機2万機以上。

 

 

 

 

 二〇二二年度アメリカの航空機(ヘリとか哨戒機とか含め)13232機

 

 二〇一九年度で休日日本は第五世代、第六世代戦闘攻撃機 8267機。

 作戦機に至っては(ヘリの代わりにVTOLとか含め)17632機(フロート付きだろうKMFを航空機として数えるなら三万機超えてくる)

 二〇二二年度なら優に通常の作戦機だけで二万機超えてきてもおかしくはない。

 軍事予算は三桁兆だし。

 

 詳細は出てないが休日ブリタニアはこれの+数千機~で二万数千機くらいあってもおかしくない。(KMFを入れるなら三万数千機~四万機以上)

 軍事予算はやはり三桁兆だろう。

 

 南天は詳細不明ながらも作戦機二万機以上。

 南天の機甲戦力なんか二〇万以上でワルシャワ条約機構の三倍から四倍にもなる、しかも質までリアルアメリカより上。

 こちらも三桁兆かと思われる。

 

 ちな休日日本は強襲揚陸艦を空母数として数えるなら三〇隻超えてくる。建造中のを含めたらもう分からない。性能は当然アメリカのを大きく上回る。

 リアルアメリカは強襲揚陸艦含めて二〇隻だから段違い。

 

 特に日本、ブリタニア、南天は核兵器を遙かに上回る威力を持つフレイヤまで保有してる。

 

 中華連邦やユーロピアもアメリカ並みくらいはあるだろう。

 

 以上の事から踏まえて休日世界は完全に軍事力のインフレーションが起きている状態なんよ。

 でも各国ともこれが通常運転で別に無理している訳では無い事が恐ろしいんだよ。

 

 377:名無しさん:2022/09/23(金) 15:30:29 HOST:opt-133-123-182-253.client.pikara.ne.jp

 これで無理してないってどんだけー

 

 378:名無しさん:2022/09/23(金) 15:30:47 HOST:p54116-ipngn200501kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

 日本の作戦車両については機甲戦力戦闘走行車両とは別に、トラックとか輸送車とかは数十万両以上あるやろうね。

 

 379:名無しさん:2022/09/23(金) 15:40:05 HOST:p54116-ipngn200501kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

 >>377

 こんなイカレタ事になってるからゲートの南天が原作世界の支配を考えられるくらいには戦力あるって事になるんよね。

 

 380:名無しさん:2022/09/23(金) 15:40:48 HOST:opt-133-123-182-253.client.pikara.ne.jp

 その後方の補給や整備士、事務仕事の人とか

 含めたらどんだけ人員いるのやら

 

 381:名無しさん:2022/09/23(金) 15:48:03 HOST:KD106128195068.au-net.ne.jp

 休日日本の作戦機ナイトメア入れて3万機以上って頭おかしい

 バグってる

 

 382:名無しさん:2022/09/23(金) 15:55:38 HOST:p54116-ipngn200501kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

 兵力数だけで見るなら南天は完全にイカレテるんよ。

 NATOにWTO足してまだ二倍以上の兵力があるんだから。

 同じくらい日ブと傘下勢力とに総動員かけたら全部足して五〇〇〇か六〇〇〇万くらいは行くやろと思うからこっちもこっちでイカレテるんよね。

 ま、日ブの方は俺氏の勝手な予想やけども……。

 

 383:名無しさん:2022/09/23(金) 16:01:04 HOST:p54116-ipngn200501kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

 日本とブリタニアだけで十二億五千万の人口があるから本気で根こそぎ動員したら南天と同じ八千万から一億は行けるやろうとは思うよ。

 ただ日ブの場合は職業軍人以外も数に入るから国民皆兵の南天よりも動員された一般人の兵隊としての能力は南天の兵隊に劣るんやないかなと。

 

 384:名無しさん:2022/09/23(金) 16:04:16 HOST:p54116-ipngn200501kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

 南天側も同時に八隻の大型空母を平時で建造できるってなるとアメリカとは比べ物にならん国力があることになる。

 空母だけを作っとるわけやないしね。

 

 385:名無しさん:2022/09/23(金) 16:12:39 HOST:KD106128195068.au-net.ne.jp

 休日日本、ブリタニア、南天の前ではあのアメリカも子供に見える

 

 386:トゥ! ヘァ! スマホ:2022/09/23(金) 16:16:38 HOST:FL1-122-133-164-39.kng.mesh.ad.jp

 基本的には前線職より後方職の方が膨大な数が必要とされますからね。

 

 割合は色々な説がありますが、1:8の割合が平均だったかな。

 うろ覚えですけど。

 

 387:名無しさん:2022/09/23(金) 16:18:02 HOST:p54116-ipngn200501kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

 原作ブリタニアでさえも話にならないほどの質的戦力差もあるからな~。

 第四世代戦車がうじゃうじゃいたり、第六世代戦闘機を実用化してるとか色々進みすぎてるんよ。

 

 388:名無しさん:2022/09/23(金) 16:22:32 HOST:p54116-ipngn200501kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

 日ブ南天については全機が五世代から六世代の戦闘機を普通に運用してるしね。

 一テロ組織に過ぎないペンタゴンでさえユーロファイター持っとるような世界やし。

 

 

 

 日本と同盟国

 

 大日本帝国

 首都東京

 領土

 日本列島+台湾+海南島+樺太+千島列島+カムチャツカ+チェコト+アリューシャン列島+南洋諸島=マリアナ諸島・パラオ・マーシャル諸島・ミクロネシア連邦

 陸地面積 174万7546㎞2

 総人口 4億2000人

 陸海空海兵隊四軍 約270万名が常備戦力

 

 神聖ブリタニア帝国

 首都ペンドラゴン(って場所どこ? 

 領土

 北米・中米・カリブ海島嶼全域+ハワイ+ミッドウェー+コロンビア

 多分領土

 フォークランド諸島、サウスジョージア島、アイスランド(アイスランドは北米に含まれる? 

 陸地面積 2584万9000㎞2

 総人口 13億人

 陸海空海兵隊 約500万人が常備戦力

 

 クルシェフスキー侯爵領

 領都はポートランド 

 領地

 史実アメリカのオレゴン州+ワシントン州

 領地面積 約44万㎞2

 クルシェフスキー騎士団 陸海空 約十数万名

 

 286: 名無しさん :2015/04/18(土) 12:45:42

 日ブの保護国? 

 

 シーランド王国

 首都はそのままシーランド? 

 領土

 イギリス南東部公海上巨大人工島群

 北側諸国加盟国

 

 ナウル

 首都史実通りヤレン? 

 領土

 ナウル島?

 北側諸国加盟国

 

 パプアニューギニア(北ニューギニア

 首都は? 

 領土

 ニューギニア島北半分

 北側諸国加盟国

 

 

 東南アジア

 

 東南アジア諸国

 フィリピン・インドネシア・マレーシア・ブルネイ・シンガポール・ベトナム・カンボジア・タイ・ラオス(でいいのかな? 

 インドシナ含むその他の東南アジアはニューギニアを除いて史実通りの国家構成? 

 北側諸国加盟国

 

 

 

 南ブリタニア

 

 ギアナ公国

 首都カラカス

 総面積 1,378,219km2

 領土

 ベネズエラ

 ガイアナ

 スリナム

 フランス領ギアナ

 北側諸国加盟国

 

 アルガルヴェ連合帝国

 首都リオ・デ・ジャネイロ

 総面積 10,017,295km2

 領土

 ブラジル

 ボリビア

 パラグアイ

 北側諸国加盟国

 

 アラウカニア=パタゴニア王国

 首都ペルケンコ(って場所どこ? 

 総面積 3,523,840km2

 領土

 アルゼンチン

 チリ

 北側諸国加盟国

 

 ペルー王国

 首都リマ

 面積  1,285,220km2

 領土

 ペルー

 北側諸国加盟国

 

 エクアドル公国

 首都キト

 面積  283,560km2

 領土

 エクアドル

 北側諸国加盟国

 

 

 アジアとヨーロッパ

 

 大清連邦

 首都哈爾浜

 領土

 中国東北部三州+内モンゴル自治区東部+モンゴル東半分+外満州(であってる?

 2023年には消滅、大日本帝国・神聖ブリタニア帝国の統治下を経て譲り合い

 

 

 高麗共和国

 首都ソウル

 領土

 朝鮮半島

 2023年には消滅、大日本帝国・神聖ブリタニア帝国の統治下を経て譲り合い

 

 中華連邦

 首都洛陽

 領土

 清国領除く中国+ネパール+ブータン+インド+スリランカ+パキスタン+イラン+アフガニスタン+バングラデシュ+ミャンマー+モンゴル西半分+キルギス+トルクメニスタン+ウズベキスタン+タジキスタンであってる?

 

 ジルクスタン

 場所:中華連邦西部地方

 

 EUユーロピア共和国連合

 首都パリ

 領土

 チェコトとカムチャツカ除く史実ロシア領+全欧州の国+東アフリカ除く中央アフリカ以北。

 

 

 中東

 

 イラク社会主義共和国

 首都史実バグダット

 領土

 史実イラク領+占領中の地域(ヨルダンのマフラク東部・サウジアラビアの北部国境州・ジャウフ州・タブーク州

 

 クウェート王国

 首都史実クウェート 

 領土

 史実クウェート領のみ

 

 サウジアラビア

 首都史実リヤド

 領土

 イラクに占領されている地域以外の史実サウジ領

 2020年南天の侵略により消滅

 

 ヨルダン

 首都史実アンマン

 領土

 イラクに占領されている地域以外のヨルダン領

 2020年イラクと南天の侵略により消滅

 

 オマーン

 首都史実マスカット

 領土

 史実オマーン領

 2020年南天の侵略により消滅

 

 その他の中東諸国

 2020年イラクと南天の侵略により消滅

 

 

 

 オセアニアと同盟国

 

 合衆国オセアニア

 首都エリュシオン(キャンベラ)

 陸地面積 8,614,526km2(マダガスカル自治州含む)

 領土

 オーストラリア+周辺島嶼(てことはニューカレドニアなんかもかな? 

 ニュージーランド

 フィジー

 ソロモン

 トンガ

 ツバル

 バヌアツ

 サモア

 米嶺サモア

 クック諸島

 南ポリネシア(史実フランス領ポリネシア+ヘンダーソン島・ピトケアン島)

 モーリシャス

 セーシェル

 チャゴス諸島

 コモロ

 合衆国オセアニア・マダガスカル自治州

 州都メリナシティ

 

 合衆国東アフリカ

 首都ダルエスサラーム

 陸地面積 2,165,394km2

 領土

 タンザニア

 ケニア

 ソマリア

 

 イエメン民主共和国

 首都アデン

 陸地面積 527,970km2

 領土

 イエメン

 

 ニューギニア民主共和国(南ニューギニア)

 首都ポートモレスビー

 陸地面積 350,934km2

 領土

 ニューギニア島南半分と周辺島嶼

 

 ラプラタ東方共和国(ラプラタ民主連合共和国)

 首都モンテビデオ

 面積  176,220km2

 領土

 2011年? 南ブリタニア諸国、以降グリンダ騎士団の攻撃を受けて消滅

 

 

 

 当方急なお休みができたので少し書き込もうと思います。

 乙です。

 なにか揉めていらっしゃる様で……。

 書き込みのタイミング悪かったでしょうか? 

 参考までに私の恋愛シーンはティーンズラブ系を主体としております。

 アダルトっぽいのに所謂R18には指定されていない物ですね。

 その中でも割合軽めな表現で留めております。

 

 フレイヤ炉の搭載は振る舞いすぎな様にも思えますが、初期のフレイヤ炉だと大型な上にエネルギー伝導効率が悪いですよ。

 エナジーフィラーの充電が切れた状態だと巡航・最高速度が半分くらいに落ちます。

 その間フレイヤ炉はエナジーフィラーの充電をしなければいけないので。整備作業員もいっぱい要ります

 満充電の状態なら軽斑鳩級(軽アヴァロン級のカールレオン級が存在するので私も出す予定でした(汗。もちろん重斑鳩級も。

 カールレオン級共に時速1,000㎞は出る感じでしょうか。原作より上がってます。

 ブースター等を使用した場合だと一時的にマッハ3を超えるあたりですね。倉崎・スメラギ開発の特殊な物だとそれ以上。

 ただし一時的にです。巡行では出せません。

 

 最新型のフレイヤ炉は最近完成したばかりな設定で、これだとエナジーフィラーも必要なしな設定です。日本の空母や戦艦・浮遊航空艦に順次改修作業で搭載されて行っております。

 こちらもその技術はブリタニアにも供与されて共同運用されます。またまたブリタニアの開発局や重工業は、日本に先を越されまくって悔しい思いを。

 インフィニットドライブも超小型のフレイヤ炉でエネルギー伝導効率がとてつもなく高いです。ですからマッハ4近い速度を誇る頭のおかしいKMFが作れるんですね。

 物の序に申し上げるなら、インフィニットドライブを搭載したフリーダム=フローレンスの航続距離は無限です。ひとたび飛び立てば半永久的に稼働できます。

 これも皇歴2020~21年の辺りでは日本の倉崎の先進技術開発研究所しか作れません。

 

 お話が長くなりましたがパ皇が運用するにあたっての注意点は無理な出力を出さない事。

 無理が出来るのは日本とブリタニアだけとなるのであしからず。ユーロブリタニアも無理はできません。

『技術の日本』『力のブリタニア』この二国が相互補完し合っているからこそ無理が出来るのです。

 

 でないと南天の北進はずっと前に起きていた事でしょうね。

 

 日本国召喚世界ではそれでもオーバースペックでパ皇に扱いこなせるかが……。

 KMFも超旧式の通常無頼初期型を500騎もくれてやったんでしょう。

 60式戦車は史実61式戦車の発展版っぽいのを1,000両みたいですし、戦艦も史実大和を超える戦艦4隻。そのうえコルベットも揚陸艦も付けて。

 ロウリアもう戦いにもならないどころかこれ、場面場面ではグ帝も余裕で押し返せる。

 私の読んだ日本国召喚二次の中ではたぶん最強のパーパルディアとなっているかな。

 

 朝田さんとレミールの恋愛については私的には問題ないかなと。

 好き合ってる二人なのだからしてそういう事もしているでしょう。

 問題ありならearth様がきちんと止めて下さります。ここほどしっかりと管理された掲示板も珍しいので。

 earth様が問題ないと仰られれば問題ない。問題ありかなと仰られれば問題あり。

 私の場合はティーンズラブを参考にしているにもかかわらずアダルトシーンがーみたいな感じのことを昔ごちゃごちゃ言われましたけど。

 earth様は物書きですからねティーンズラブとかその辺りのこともご存じなのでしょう。不問とされました。

 ティーンズラブって少女小説系のちとしたえちいシーンのある小説なのですが、それとアダルト小説をごちゃまぜにされる方が多くて困ります。

 

 

 それとですが転載の際、冒頭でいきなり誤字があり目につきましたので修正しておきました。

 

 新規設定のって設定自体は昔からありましたが、麻生良太郎さんはムダヅモ無き改革の麻生タローがモデルです。

 シンク・ローゼンクロイツのモデルはローゼンメイデンの真紅ちゃんがモデルです。

 昔pixivで見た絵に確かタロー×真紅がありまして、それで私も書いてみようかなと思いました。

 麻生良太郎の二つ名は『魔弾の射手』絶対に外さない銃の腕から呼ばれた二つ名です。

 

 

 アラウカニア=パタゴニア王国のアリシア第二王女はライブアライブのアリシアをそのままにした感じで作りましたです。

 背丈、髪の長さ、髪の色、顔立ち性格、すべてライブアライブのアリシアそのままです。

 

 

 新規設定の一部。

 

 

 東京スカイツリー:高さ2,023m、展望台は四つで一番高い展望台は地上1,900mのところにある。

 

 東京の街並み:強化耐震ブロック構造で地上800m、900m、最も高いビルで地上1,056mの巨大なビルが林立する世界最大規模の巨大都市。

 

 緑地公園が所々に点在。日照権問題も出ている。

 

 

 新規登場人物

 

 SS風味。

 

 麻生良太郎:枢木内閣外務大臣で世界最強のスナイパー。裏世界での名を『魔弾の射手』

(モデルはムダヅモ無き改革の麻生タロー)

 

 麻生夫人:シンク・ローゼンクロイツ 小柄で身の丈よりも長い金色の髪と、すべてを見通すような蒼い瞳が特徴

(モデルはRozen Maidenのローゼンメイデン第五ドール真紅 神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家の令嬢で第五女

 

 

 麻生良太郎(モデルはムダヅモ無き改革の麻生タロー)

 

 

 枢木内閣外務大臣。

 

 外見は壮齢男性で、年齢は52歳。

 

 口が悪くべらんめえ口調が特徴な言葉遣いをしている。自分の年齢の半分ほどの年齢の女性、神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家第五女シンク・ローゼンクロイツを妻に持つ。

 

 二人の出逢いはアラウカニア=パタゴニアでの南天のテロ組織の細胞が巻き起こした紛争に巻き込まれたシンクを、当時スナイパーとして世界中を飛び回っていた良太郎の下に、辻大臣から。

 

『ローゼンクロイツ伯爵家の御息女が麻生さんの滞在中の街で紛争に巻き込まれています。あなたもまた巻き込まれているでしょうがどうか救出をお願いできないでしょうか?』

 

『辻のおじきの頼みじゃ断れませんぜ。俺っちに任せて下せェや』

 

 と、辻政信より依頼を受けたことが出逢いの切っ掛け。

 

 

 

 シンク・ローゼンクロイツ(モデルはRozen Maidenのローゼンメイデン第五ドール真紅)

 

 

 常に真っ赤な薔薇を連想させるドレスを着ている、枢木内閣麻生良太郎外務大臣の妻。年齢26歳ながら外見年齢は十代中盤から後半くらいながら、下手をすると小学生に間違われかねないくらい小柄。

 

 神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家の令嬢で第五女。

 

 小柄な女性であり、世界中の書物を読む読書家。普段は大人しく清楚で寡黙。一見無表情にも映るが、時折浮かべる微笑みは静かな優しさを称えている。

 

 社交界では薔薇乙女と呼ばれ、その透き通った青い瞳と、幼さを感じさせる小柄な背丈に、身の丈よりも長い金色に輝く美しい髪を黒いリボンでツインテールに纏めており、その美貌に多くの男性の心を奪う。

 

 一見完璧な淑女ながら、児童書が好きであったり、児童向けアニメを視ていたりと、社交界での彼女とのギャップが激しい。

 

 また、紅茶の時間にはとても煩く、いつも携帯している金の懐中時計で時間を確認、一分でも遅れる事を許さない。

 

 夫である良太郎をまるで下部や下僕の様に扱いながらも、本当は誰よりもこよなく彼の事を愛している。

 

 その証明とでもいうかのようにシンクの身の丈よりも長く伸ばされた美しい金色の髪を良太郎に梳かさせて、地面に付かないよう、黒いリボンでツインテールに髪結いまでさせている。

 

 シンク曰く、『女が髪を触らせる相手は、それだけその相手へ愛情を抱き信頼しているからなのよ』だそう。

 

 

 

 戦艦大和級は現在60㎝三連装レールガン前部2基6門射程1000㎞超えになってます。

 

 皇歴2022年にまでなると、大和級も四隻に増えます。

 

 二番艦武蔵は今まで通り、新たに三番艦信濃、四番艦尾張が加わり、地味に増産してます。

 

 つまり60㎝レールガン24門一斉射ができるわけです。信濃と尾張は最初から60㎝レールガン搭載艦として建造された感じですね。

 

 

 

 

 計算しないと出せないので適当なことしか言えませんが、今の大和型戦艦は満載排水量160,000t級に到達してると思いますよ。

 

 ブリタニアのペンドラゴン型で150,000t強はあるかと。日本に追いつけ追いつけしてるんですよ。

 

 南天も日本に見せつけられた南ブリタニアの件で焦って追いつけ追いつけして150,000t弱でしょうかね

 

 ユーロブリタニア後のAEUが140,000t級で劣等感を感じてるんです。

 

 

 超重型斑鳩級浮遊航空艦(現在10番艦まで保有)

 

 全長:374m

 

 最大幅:165m

 

 全高:105.5m

 

 巡航速度:1,000㎞

 

 最大速度:2,200㎞

 

 ブースター装着時マッハ4~5

 

 乗員:1,550名

 

 倉崎・スメラギ共同開発大型フレイヤ炉:1機搭載

 

 航続距離:∞

 

 兵装:連装リニア砲24基

 

 :単装リニア砲36基

 

 :CIWSバルカンファランクス機関砲8基

 

 :ハドロン重砲8門

 

 :32連装ミサイル発射機8基

 

 :艦首ハドロン超重砲2門(2個1で発射に30秒程度の充電が必要・九州くらいの島ならば一撃で消し飛ばす・指定分類は大量破壊兵器に指定され時の総理など幾人かの許可を経て使用を許される)

 

 :スラッシュハーケン12基

 

 :超強化型ブレイズルミナス(ハドロン重砲をはじき返す)

 

 KMF搭載能力:120騎 VTOL:120機

 

 備考:現在大日本帝国だけが保有する超大型浮遊航空艦。艦体全面には100の銃砲塔や武装を持ち敵を寄せ付けない空飛ぶ要塞といった風体を持つ。

 大型フレイヤ炉から潤沢なエネルギーを得ることでエネルギー切れを起こすことも無く、大量のKMFを戦場に運ぶ事を可能とする。

 

 

 

 やりすぎと疑問を持たれたらおっしゃってくださいハドロン超重砲2門のモデルは、未来少年コナンの最終兵器ギガントに搭載されていた地上破壊用超大口径レーザー砲こと超磁力兵器です。

 

 

 

 シーランド海軍2019

 

 駆逐艦16隻

 

 巡洋艦6隻

 

 主力水上艦艇以外にも水中用KGF・KMFの数を合わせたらさらに大きなものとなります

 

 

 

 

 

 南天条約機構軍

 

 

 集団安全保障機構

 

 集団攻勢機構体

 

 通称南天──南側諸国。正式名称を南天条約機構。

 

 加盟国。

 

 

 

 合衆国オセアニア:皇歴2019年

 

 政体:特定思想に基づく民主共和制原理主義

 

 首都:エリュシオン

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:1,820,000+予備役 (徴兵制で事実上の国民皆兵制度)

 

 陸地面積:8,614,526km2(マダガスカル自治州含む)

 

 総人口:334,000,000

 

 領土

 

 オーストラリア+周辺島嶼

 

 ニュージーランド

 

 フィジー

 

 ソロモン

 

 トンガ

 

 ツバル

 

 バヌアツ

 

 サモア

 

 米嶺サモア

 

 クック諸島

 

 南ポリネシア(史実フランス領ポリネシア+ヘンダーソン島・ピトケアン島)

 

 モーリシャス

 

 セーシェル

 

 チャゴス諸島

 

 コモロ

 

 イースター島

 

 サライゴメス島

 

 

 合衆国オセアニア・マダガスカル自治州

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 州都 メリナシティ

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:420,000+予備役

 

 総人口:52,417,000

 

 旧メリナ王国だったオセアニアのアフリカ方面の拠点。

 

 現在は自治政府が独自に行政を動かしている。

 

 

 オセアニアの人口変遷は少々無茶ですが、大昔から存在した国家と言う事で、徐々に徐々に増加していき、日本・ブリタニア・中華と同じく近代に入ってから爆発的に増加。

 

 現実と違いサクラダイトを除く殆どの資源を自国で賄っている。サクラダイトは採れるも日本やブリタニアのように豊穣ではない。

 

 更なる生存権の拡大を図りアフリカ・東南アジア・南ブリタニアを欲したが、東南アジアは日本に、南ブリタニアはブリタニアによって阻まれる。

 

 現在世界を舞台に暗躍しつつ、他の列強の隙を窺っている。

 

 

 

 旧大洋州連合

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:オセアニアの直轄地

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:適正年齢の成人

 

 陸地面積:ほぼ海

 

 総人口:100,000~200,000

 

 領土:南太平洋・赤道太平世の一部

 

 日ブ太平洋戦争の際に中立政策をとったことでオセアニアに侵攻され併合された、元中立国家。

 

 現在は民主共和制原理主義となっている。

 

 

 

 合衆国東アフリカ

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ダルエスサラーム

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:886,000+予備役 (徴兵制)

 

 陸地面積:2,165,394km2

 

 総人口:142,576,800人

 

 領土

 

 タンザニア

 

 ケニア

 

 ソマリア

 

 一応独立国家の体を成しているがオセアニアの属国でしかない。

 

 タンザニア州西部にはE.U.側植民地と跨る形でサクラダイト鉱山がある。

 

 

 

 

 

 イエメン民主共和国

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:アデン

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:125,000

 

 陸地面積:527,970km2

 

 総人口:25,690,000人

 

 領土

 

 イエメン

 

 東アフリカの属国。宗主国はオセアニア。

 

 共産イラクとの窓口? 

 

 

 

 

 ニューギニア民主共和国(南ニューギニア)

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ポートモレスビー

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:186,000+予備役(パプアニューギニアと睨み合い劣勢な為、人口比率に対して兵力が多い)

 

 陸地面積:350,934km2

 

 総人口:4,406,600

 

 領土

 

 ニューギニア島南部と周辺島嶼

 

 かつてニューギニア戦争の舞台となったニューギニア島南部に築かれたオセアニアの傀儡国家。

 

 パプアニューギニアと国境沿いでの睨み合いが続いている。

 

 

 

 イラク社会主義共和国。

 

 政体:共産主義

 

 首都:バグダッド

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:1,000,000

 

 陸地面積:102.8万㎢(中東戦争後の併合地域含む)

 

 総人口:66,000,000(中東戦争後の併合地域含む)

 

 領土:イラク・サウジアラビア北部・ヨルダン西部。

 

 

 カメルーン民主共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ヤウンデ

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:40,000

 

 陸地面積:47.6万㎢

 

 総人口:33,500,000

 

 領土:カメルーン

 

 

 

 

 民主主義中央アフリカ。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:バンギ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:25,000

 

 陸地面積:62.3万㎢

 

 総人口:5,590,000

 

 領土:中央アフリカ

 

 

 

 民主主義ガボン。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:リーブルビル

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:120,000

 

 陸地面積:26.8万㎢

 

 総人口:4,400,000

 

 領土:ガボン

 

 

 

 コンゴ原理主義共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:キンシャサ

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:620,000

 

 陸地面積:268.7万㎢

 

 総人口:92,500,000

 

 領土:コンゴ

 

 

 

 ルワンダ民主共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:キガリ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:120,000

 

 陸地面積:2.6万㎢

 

 総人口:18,130,000

 

 領土:ルワンダ

 

 

 

 

 ブルンジ民主共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ブジュンブラ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:100,000

 

 陸地面積:2.8万㎢

 

 総人口:18,760,000

 

 領土:ブルンジ

 

 

 

 アンゴラ原始民主制共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ルアンダ

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:312,000

 

 陸地面積:124.7万㎢

 

 総人口:43,260,000

 

 領土:アンゴラ

 

 

 

 

 民主原理性ザンビア。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ルサカ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:348,000

 

 陸地面積:75.3万㎢

 

 総人口:33,280,000

 

 領土:ザンビア

 

 

 

 

 ジンバブエ民主共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ハラレ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:175,000

 

 陸地面積:39.1万㎢

 

 総人口:25,400,000

 

 領土:ジンバブエ

 

 

 

 

 原理主義人民ナミビア国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ウィントフック

 

 陸空二軍

 

 総兵力:172,000

 

 陸地面積:82.4万㎢

 

 総人口:25,700,000

 

 領土:ナミビア

 

 

 

 

 ボツワナ原理主義人民共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ハボローネ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:112,000

 

 陸地面積:58.2万㎢

 

 総人口:15,600,000

 

 領土:ボツワナ

 

 

 

 

 

 

 南アフリカ原理主義人民共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:プレトリア

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:1,580,000

 

 陸地面積:122.1万㎢

 

 総人口:112,000,000

 

 領土:南アフリカ

 

 

 

 

 

 レソト原理性共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:マセル

 

 陸空二軍

 

 総兵力:65,000

 

 陸地面積:3.0万㎢

 

 総人口:3,200,000

 

 領土:レソト

 

 

 

 

 エスワティニ原理性共和国。

 

 政体:民主共和制原理主義

 

 首都:ムババーネ

 

 陸空二軍

 

 総兵力:80,000

 

 陸地面積:1.7万㎢

 

 総人口:1,700,000

 

 領土:エスワティニ

 

 

 総計二十一ヶ国地域が加盟。

 

 

 総兵力50,000,000~80,000,000。

 

 旗:蒼天双翼光環旗。

 

 空軍:20,000機以上。

 

 海軍:主力水上艦艇千数百隻以上。

 

 陸軍:戦闘装甲車両200,000両以上。

 

 唱和・合言葉=全天に美しき世界の実現のために。

 

 

 

 

 

「加盟国が一気に増えたね」

 

 V.V.が言う。その通りで、かつての六ヶ国地域から、イラクがオブザーバー加盟して七ヶ国地域へ。

 

 そして近年遂に中央アフリカ以南が動き出し、自らの意思で神に帰依するのだとして中央アフリカ以南全アフリカが加盟し、二十一ヶ国地域にまで膨れ上がった。

 

「南天はまだまだ膨れ上がりますよきっと。次は中東を狙いその次は」

 

「ジルクスタン。中華連邦かい? 全て遺跡のあるところばかりじゃ無いか。きっとトルコの遺跡も掠め取っていくだろうね。ユーロユニバースは南天には逆らえないから。情けない国だ。仮にも列強で有りながら相手国の顔色を窺いながらペコペコペコペコと。ちょっとは列強の意地でも見せて見ろってんだッ!」

 

「V.V.さん悪酔いしてますよ」

 

「V.V.殿、酒は飲んでも呑まれるな。ほどほどに」

 

 伏見宮王がやんわり注意すると。

 

「まあね、自覚はあるよ、ただ情勢は悪い方向に向かって動いてる。僕の掴んだ情報では、空母戦闘群を8個群一気に増やすらしいんだよ南天が、そして通常戦力50,000,000、最大戦力80,000,000の死兵と呼ばれる正規軍を持ち、世界中に南天の神の信徒が南天の支配エリアまで含めると1,700,000,000いるらしい」

 

「じゅう、なッ」

 

 倉崎翁が声を詰まらせた。

 

「正規軍の内訳で判明してるのは戦車などの戦闘車両200,000両。戦闘機などの航空機20,000機以上。主力水上艦艇が千数百隻だ。これが現時点」

 

「戦車200,000両だと?! KMFも合わせたらどんなことに?! それに戦闘機など20,000機以上とは?!」

 

「なッ、それは本当の?」

 

「本当の情報さ。情報を得てきた嚮団のその諜報員はその場で爆発して死んだって話しだった。良くやったとだけお悔やみの言葉と、ご遺族に見舞金として生涯分の賃金と退職金を渡したって。息子さんは立派に任務を成し遂げましたとね。僕がいたら直接謝罪したかった。僕が殺したようなもんだ」

 

 V.V.の悲しみに重い口を開く伏見宮王

 

 

 

 

 大空へと上がっていくネッサローズ以下3艦。ただし、ここにブリタニア皇帝が危惧に危惧を重ねた結果更にも9艦と地上部隊の増強、ネッサローズ、グランベリーのアヴァロン級化改造を受けグリンダ騎士団は

 

 

 

 

 

 

 

 軽斑鳩級浮遊航空艦 デュロ

 

 使用国:パーパルディア皇国

 

 全長:191m

 

 時速巡航:450㎞

 

 最高速度:1000㎞

 

 ブースター装着時:マッハ2~3

 

 乗員:230名

 

 充足時:340名

 

 フレイヤ炉搭載

 

 航続距離:∞

 

 兵装:単装砲(リニア砲)5門

 

 :ミサイル発射機2基搭載

 

 :スラッシュハーケン(近接用武装)

 

 :ブレイズルミナス

 

 

 

 

 斑鳩級浮遊航空艦亭子(休日版)

 

 全長:236m

 

 全幅:72m

 

 全高:36m

 

 速力:巡航速度1,200㎞

 

 :最高速度2,800㎞

 

 実用上昇限度:42,000m

 

 兵装:ハドロン重砲4門

 

 :単装リニア砲7門

 

 :大型リニア砲2門

 

 :32連装ミサイル発射機3基

 

 :スラッシュハーケン4基

 

 動力:フレイヤ炉

 

 航続距離:∞

 

 特殊武装:ブレイズルミナス(強化発展型)

 

 

 

 

 ネッサローズ

(アヴァロン級)

 グランベリー

(アヴァロン級)

 

 その他最新型カールレオン級11艦

 

 地上部隊30,000名

 

 グリンダ騎士団専用地上基地有り=浮遊航空艦発着スポット付き

 

 3個師団編成可能

 

 とまで大成長を遂げる。

 

 

 アヴァロン級遊航空艦ネッサローズ(休日版)

 

 全長:246m

 

 全幅:102m

 

 全高:38m

 

 速力:巡航速度1,050㎞

 

 :最高速度2,500㎞

 

 実用上昇限度:36,000m

 

 兵装:ハドロン重砲4門

 

 :単装リニア砲9門

 

 :大型リニア砲2門

 

 :32連装ミサイル発射機2基

 

 :スラッシュハーケン4基

 

 動力:フレイヤ炉

 

 航続距離:∞

 

 特殊武装:ブレイズルミナス(強化発展型)

 

 

 

 

 アヴァロン級浮遊航空艦グランベリー(休日版)

 

 全長:234m

 

 全幅:74m

 

 全高:38m

 

 速力:巡航速度1,100㎞

 

 :最高速度2,700㎞

 

 実用上昇限度:38,000m

 

 兵装:ハドロン重砲4門

 

 :単装リニア砲9門

 

 :大型リニア砲2門

 

 :32連装ミサイル発射機2基

 

 :スラッシュハーケン4基

 

 動力:フレイヤ炉

 

 航続距離:∞

 

 特殊武装:ブレイズルミナス(強化発展型)

 

 

 以上です。休日版のアヴァロン級は夢幻会の影響を受けて原作よりかなり強力です。

 

 

 アヴァロン級浮遊航空艦(休日版)

 

 全長:238m

 

 全幅:74m

 

 全高:38m

 

 速力:巡航速度1,150㎞

 

 :最高速度2,750㎞

 

 実用上昇限度:40,000m

 

 兵装:ハドロン重砲4門

 

 :単装リニア砲9門

 

 :大型リニア砲2門

 

 :32連装ミサイル発射機2基

 

 :スラッシュハーケン4基

 

 動力:フレイヤ炉

 

 航続距離:∞

 

 特殊武装:ブレイズルミナス(強化発展型)

 

 

 兵装は斑鳩級に対抗心を燃やしているため斑鳩級とだいぶ似通っております。

 

 実用上昇限度についてはやった日本を超えたと思ったら42,000であさっり抜き返されてます。

 

 当然ですが日本が建造した超重斑鳩級に対抗して超重ログレス級も企画されてます。

 

 

 

 

 

 戦艦グロイスドイッチェラント級

 

 

 

 一番艦:グロイスドイッチェラント

 

 

 

 二番艦:グリードリッヒデアグローゼ。

 

 

 

 三番艦:ウルリヒ・フォン・フッテン

 

 

 

 四番艦:ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン

 

 

 

 基準排水量:123,000t

 

 

 

 常備排水量:132,000t

 

 

 

 満載排水量:142,500t

 

 

 

 :AEU新型フレイヤ炉搭載

 

 

 

 全長:347.0m

 

 

 

 全幅:52.0m

 

 

 

 速力:34.9ノット

 

 

 

 主砲:56.0cm三連装超電磁砲3基9門

 

 

 

 :15cm55口径砲連装6基12門

 

 

 

 :10.5cm65口径高角砲連装8基16門

 

 

 

 :37mm自動機関砲16門

 

 

 

 :20mmCIWS12基

 

 

 

 :全長6.02m533㎜誘導魚雷発射管(水中)を艦首両舷各3門計6門装備(最大射程は205㎞)

 

 

 

 :艦載機:VTOL6機

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇歴2023(中央歴1640) AEU軍(旧ユーロ・ブリタニア)

 

 

 最高司令官:オーガスタ・ヘンリ・ハイランド皇帝

 

 最高指導者:アドルフ・ヒトラー宰相

 

 次席指導者:ベニート・アミルカレ・アンドレーア・ムッソリーニ(イタリア王国国王)

 

 

 

 志願制

 

 

 

 陸海空三軍

 

 総兵力:6,500,000名(予備役4,700,000)

 

 作戦機:10,500機(第五世代戦闘攻撃機5,100機、第六世代統合打撃戦闘機2,000機、その他作戦機約3,000機)

 

 VTOL:6,700機

 

 浮遊航空艦艇:205隻

 

 KMF:13,300騎+予備役機7,200騎(スメラギ製・ブリタニア製・AEU製混成。第5第7世代。第8.5世代、第9世代少数騎。第4世代予備役機)

 

 G-1ベース:122両

 

 戦車:18,000両(第3~4世代)

 

 装甲戦闘車両:39,000両

 

 自走砲・野戦砲:26,000門

 

 航空母艦:15隻

 

 主力水上艦艇:320隻

 

 揚陸艦艇:500隻

 

 潜水艦:125隻

 

 他補給艦・支援艦・ミサイル艇・哨戒艇・掃海艦艇等:380隻

 

 各種兵員輸送車等作戦車両多数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流れていく星空を見つめながらレミールが呟く。

 

「北側諸国は地球では常に緊張状態に置かれていたのか? その、軍備が凄すぎてな。別冊宝大陸2023年度各国軍事力表という本を読んだのだが。日本はあの鳳凰級・大鳳級巨大空母を100,000t~130,000t超え空母を24隻、ブリタニアに至っては100,000超えの空母を36隻保有しているそうではないか。AEUでも100,000級の空母を15隻。他の国も強力な戦力を保有しておる。地球は戦争前夜だったのか?」

 

 戦艦大和型は160,000tそんなものを日本は4隻まだ増産中だったとも言われる。ブリタニアもペンドラゴン型を8隻保有。AEUもグロイスドイッチェラント型を4隻。他の国もやはり戦艦空母を多数。

 

 戦闘機や戦車・KMFに浮遊航空艦、通常艦艇も尋常な数では無い。日本の計画中のまで合わせた大型浮遊航空艦の数は500隻を超えている小型可翔艦まで合わせれば1,000隻を余裕で超えている。その性能も旧式と最新式で雲泥の差がある。KMFも北側諸国全てを合わせれば100,000騎近くあるのでは無いだろうか。

 

「常──とは言いませんが、ここ5年ほどの間は。正確にはここ10年になるのでしょうか。我々北側諸国と対立していた国々のことはレミール皇女ももう御存じでしょう」

 

 

「南天条約機構だな」

 

「はい。その南天が大軍拡を始めたばかりか、北半球への侵略を始めたのです」

 

「北半球への侵略? しかし北半球全てが北側諸国に加盟していたわけでも無かろう。色分けされた地図も見たがアジアという地域がすっぽりと抜けておった。あとはE.U.という地域が」

 

 そうだ。北側諸国とは現在でこそそのE.U.もとい元E.U.現在のAEUも入っているがいずれにせよ中東からアジアは抜けていた。

 

「ええ、その抜けていた地域への侵略を始めたのです。南天に抗せるのは日本・ブリタニアだけ。これは世界の常識でしてね。実際に生産力・軍事力・経済力・GDPで見ても南天は日本・ブリタニアの次にくるのですよ。総兵力では世界一位でしてね“死兵”といって、神に命を捧げるための戦闘マシーンが80,000,000もいるのです」

 

「……ぞっとするな」

 

 死を恐れぬ80,000,000の兵が最新式の兵器で身を固めて攻めてくるのだ。地獄の蓋が開いたとしか思えない。

 

「その南天が2~3年で30個空母戦闘群体勢を創り上げまして、まだ増産に入っているのを見て。これは本格的な北半球への侵略を始めようとしていると自体を重く見た北側諸国は大軍拡に入ったのです。そして立て続けに起きた第二次シベリア戦争、日本による高麗・清国侵攻、南天の中華・ジルクスタン同時侵攻、日本・ブリタニアの中華出兵とジルクスタンでの日・ブ・南激突。これにより荒廃した中華連邦とジルクスタンの復興。南天側も中東まで引きそこを停戦ラインとして緊張状態が続いていた中」

 

「我々の惑星への北側諸国大転移が起きた」

 

「そういうことです」

 

 レミールは思い出す。自宅、つまり朝田の家の自分の部屋に置いてある別冊宝大陸2023の内容を。

 

 北南世界大戦が起きれば世界は10回以上滅びるという一説を。

 

「泰司……」

 

「なんです?」

 

「我々の世界にも恐怖の国としておとぎ話に語られる古の魔法帝国の話があるが、その魔法帝国と南天条約機構ではどちらが危険か?」

 

 少し溜めを置く朝田。彼ももう一年と少しの間この世界に身を置いている。この大きな惑星に。

 

 古の魔法帝国のことも調べた。どれ程の物かというものも分析した。各国の演算装置が割り出した答えの中にはこの古の魔法帝国の復活についても触れられており。

 

 復活したらまず多種族と友好関係を築き、平和的に発展を目指すかと問い掛け、NOという返事が出た場合、F号兵器で大陸ごと消し飛ばす算段が立てられていた。

 

 そして、もしも南天諸国が転移してきたら? 彼らの行動を見て慎重に事を運ぶ算段が立てられている。南天を刺激するのは危険すぎるからだ。

 

「まず種族的危険度で言えば魔法帝国です。全ての種族を奴隷にしていたという点を鑑みても。ですが、同時に思想的危険度で言えば南天が上です。南天には教化か浄化の二択しか無いのです。唯一神を崇め奉るか? それとも浄化=死刑か」

 

「魔法帝国並みに危険では無いか!!」

 

「ええ、まあある意味ではそうかも知れません。そして、軍事的危険度で言えば──―南天条約機構の方が圧倒的に危険です。彼らはこの巨大な惑星でも5回以上は滅ぼせる力を持っております。最低ラインで」

 

 北側のF号兵器は日本ブリタニアでそれぞれ100,000発はある。現時点ならばAEUも1,000発は保有しているだろう。

 

「まず日本のF号兵器は半径300㎞、最大で350㎞の範囲を消滅させられます、ブリタニアは半径300㎞。AEUは半径200㎞──南天の物は半径200㎞」

 

「な、なんだ、出力は日本よりも低──」

 

「但し、保有数は推定50,000発です」

 

「……ッッ!!」

 

 レミールは言葉を失う。たった50~100で大陸まるごと消滅させてしまう兵器を50,000発も持った狂信者の国。

 

 死をもいとわず向かってくる80,000,000の死兵。多種多様な北側諸国と同等の兵器群。そして世界を滅ぼすF号兵器。

 

「南天は魔法帝国を滅ぼすのに1,000分1の力で滅ぼせるわけだな……」

 

 震えるレミールを少し強めに抱き締めた朝田は優しく話す。

 

「想定の話ですから意味はありません。演算装置の結果でも転移してくるのは取り残されている中華連邦とジルクスタンです。南天ではありません。魔法帝国は話の通じない相手ならば大陸ごと消し飛ばします。空間ごと消滅させるF号兵器にはシールドの類いも役に立ちませんからね」

 

 いぜれにせよ、全ては事が起こってからでないと手の打ちようがない。万全の準備はするが。

 

 願わくば南天条約機構がこの惑星に転移してこないことを祈る。朝田とレミール、思うことは同じであった。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 シーランド軍2020空軍、主力水上艦艇

 

 

 アヴァロン級浮遊航空艦:1艦

 

 カールレオン級浮遊航空艦:3艦

 

 巡洋艦:6艦

 

 駆逐艦:16艦

 

 第9世代KMF:8騎

 

 第8.5世代KMF68騎

 

 

 

 

 日欧戦争 皇歴1902

 

 

 大日本帝国軍戦勝艦

 

 戦艦三笠

 

 排水量:74,000トン(基準)

 

 :79,000トン(公試)

 

 :84,809トン(満載)

 

 全長 :285.0m

 

 水線長:276.0m

 

 幅 :40.9m

 

 吃水 :11.3m

 

 倉崎式ブレイズルミナス:8基

 

 主機 スメラギ式エナジーフィラー:4本

 

 出力 183,553馬力

 

 最大速力 30.76ノット

 

 航続距離 16ノットで10,200海里

 

 乗員 竣工時:2,800名

 

 最終時:3,772名

 

 兵装

 

 新造時

 

 50口径00年式46cm3連装砲塔:3基9門

 

 60口径01年式15.5cm3連装砲塔:4基12門

 

 45口径12.7cm連装高角砲:12基

 

 25mm3連装機銃:10基

 

 13mm連装機銃:4基

 

 最終時

 

 50口径46cm3連超電磁砲塔:3基9門

 

 60口径15.5cm3連装砲塔:4基

 

 45口径12.7cm連装高角砲:12基

 

 25mm3連装機銃:60基

 

 25mm単装機銃:12基

 

 13mm連装機銃:4基

 

 装甲 舷側 450mm+15mm(傾斜20度)

 

 対水雷防御隔壁 245mm~105mm

 

 最上甲板 55mm~80mm

 

 主甲板 270mm~300mm

 

 合計甲板装甲 300mm

 

 バルクヘッド 390mm~350mm

 

 主砲防盾 700mm

 

 主砲側面 300mm

 

 主砲後面 240mm

 

 主砲天板 320mm

 

 主砲バーベット 600mm~420mm

 

 司令塔 550mm~440mm

 

 搭載機 8機(カタパルト2基)

 

 

 

 

 

 ユーロユニバースはこんな化け物を続々と送り出してくる国といつまでも戦争はしてられないと停戦講和しましたが。

 世界的にはユーロユニバースの無条件降伏とみられております。

 

 この四十年後には基準八万トン空母、基準八万トン戦艦が続々と送り出され激戦が繰り広げられる皇歴1940年8月日ブ太平洋戦争が勃発します。

 

 >>511

 技術加速が始まったのが実は皇歴1500年からなんです。ですから日本だけがとてつもない速度で技術開発をしていったので世界から驚嘆の目で見られていました。

 南天の技術加速は200年ほど前からですね。ブリタニアは技術加速という意味では日本、南天に遅れてました。

 やがてポテンシャルを発揮し始めたブリタニアは自力で日・南に並ぶほどの技術加速力を身に着け、南天を追い越し日本に迫ったところで日本には常に半歩追いつけないというのが現状です。

 

 >>513

 欧州人は基本傲慢でしたので極東全土日本海南島台湾外南内南まで全部取ろうと当初は考えておりました。

 しかしふたを開いたら日本の圧倒的科学技術力、工業生産力に驚き、戦争を続けていれば負けるのはユーロピアだと悟ったグループが。

「今のうちなら停戦講和で済ませてやろう」と日本に対して上から目線で言ったため、日本は「なら続けましょうか戦争を」で欧州本土爆撃。

 極東シベリア一帯の制圧までやってしまったんですね。で、ユーロピアは「停戦講和してください」と二度目の交渉でついに頭を下げたんです。

 因みにこのころすでに日本は四発の重爆である連山と連山・改を開発20,000機即時投入の段階に入っており、バルチック艦隊10ダース程度の軍事力しか持っていなかったユーロピアを灰にまでする予定でした。

 

 停戦講和後、日本は占領していた極東の返還に応じ「次手を出して来たらユーロピア共和国連合を地図の上から消す」と絶滅宣言までしました。

 それくらい当時の日本には下等なユーロピア人の生意気な極東侵略に対して国全体が怒りに満ちていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クルシェフスキー侯爵領

 

 領地

 

 オレゴン州+ワシントン州

 

 領地面積:約44万㎢

 

 領都:ポートランド

 

 クルシェフスキー騎士団 

 

 陸上騎士団:10万

 

 海上騎士団:2万

 

 天空騎士団:1万5千万+各騎士団予備役

 

 第5世代グロースター・サザーランド

 

 第7世代ヴィンセント

 

 第7世代ヴィンセント指揮官機

 

 第8.5世代ヴィンセント・カスタム

 

 領主 ジャン・クロード・クルシェフスキー(未登場)

 

 妻 ソフィア・クルシェフスキー(未登場)

 

 

 総人口領民:約1200万

 

 出稼ぎ労働者+その家族

 

 在ブリタニア外国人(ほぼ日本人)+その家族

 

 旅行者など合わせて域内滞在総計約2000万

 

 西海岸諸侯の事実上の盟主家で、幼い頃のモニカをシャルル皇帝自らが、シャルル・ランペルージを名乗り預けに来る。

 

 恨まれてもいい。いつの日か必ず父親と名乗り認知するその日まで、どうか信頼のおけるクルシェフスキー家で預かってくれないかと当主ジャンが涙ながらに訴えられ快諾。

 

 以後、国家の背信者、南天の犬と蔑まれていたギンツブルグの名は無くなり、当時赤子だったモニカは改めてクルシェフスキーの名を授かる。

 

 クルシェフスキー家へ養女となってからの日々、物心が付いたころから始まった、皇室と変わらない厳しい教育に何度も心折れそうになるも。

 

 謎の足長おじさんよりのプレゼントに温かさを感じ、自らを奮い立たせて、弱きを助け強きをくじく、平等なる平和がこの世界に降り注げばいいという大望を抱く、立派な貴族へと成長していく。

 

 実の父に認めてもらいたい、自分はこの世に生まれてきてよかったのだと認めてもらいたい、その一心でナイトオブトゥエルブにまで上り詰め。

 

 大日本帝国の地に派遣され、派遣されたその地で生涯を共にする心優しき、血塗れの男性と出逢う。

 

 容姿は腰下まで届く流れるような真っ直ぐな金髪、瞳の色はスカイブルーともマリンブルーとも取れる蒼い瞳。普段騎士服はタイトスカートな白い騎士服に、表地が黄緑色、裏地が紫色のマントを着用しており嶋田繁太郎からはとてもかっこいいと評価されている。

 

 2022年6月勃発の第一次世界大戦に他のラウンズと共に従軍。戦場で敵からも味方からも戦女神の二つ名を得るほどの活躍をした。

 

 なお、モニカのロイヤルガードは全てが第9世代機で固められていたために、面制圧に於いても多大な活躍をし高麗のN号兵器を抑えたのも彼女の部隊だった。

 

 乗機は世界最強のナイトメアフレーム、第9.5世代KMFフリーダム=フローレンス。その機体は第2世代エナジーウィングを装備し全方位攻撃・全方位防御が可能となっており、二丁の大型スーパーヴァリスとSMVSはブレイズルミナスを貫き、駆逐艦や巡洋艦・空母すら打ち抜く威力を持つ。

 

 センサーやレーダーでは追えない機動力と、M3.75という驚異的な速度は戦闘機すらも上回る。完全なるモニカ専用機。

 

 インフィニット・ドライブという既存のKMFにはない超小型フレイヤ炉の搭載により無限稼働が可能。

 

 なお、余談だが、あしながおじさんに送られたリボンの選定が、愛する人からの物だと直ぐ気付いた。

 

 

 

 

 

 ヴェルガモン伯爵領(上位伯爵)

 

 

 ヴェルガモン伯爵家について

 

 ヴェルガモン伯爵領全図

 

 領地:ウィスコンシン+アッパー半島+スペリオル湖

 

 領地面積:約295,000km²

 

 陸地面積:約212,610km²。

 

 水域面積:約110,000km²

 

 総人口:1020万人。

 

 ヴェルガモン伯爵とは五大湖工業地帯に大きな影響力と発言力を持つ、大貴族。

 

 大きな固有の騎士団を持ち最大勢力の陸上騎士団は約6万人

 

 航空戦力として天空騎士団を約1万人

 

 水上戦力として水上騎士団1万5千人

 

 その他予備役を含めた総数は9万5千人

 

 最大で8個騎士団の編成が可能なほどの常備兵を保有

 

 第6世代戦闘機や第7世代KMFに、戦車・装甲車・河川砲艦・駆逐艦・戦車揚陸艦も多数運用

 

 ヴェルガモン騎士団は、アッシュフォード騎士団やクルシェフスキー騎士団、シュタットフェルト騎士団と並んで日本軍との軍事演習も度々行っており、軍事的交流も深く。

 

 ヴェルガモン領を中心に五大湖工業地帯には多くの日本企業も進出しており。日本とは切っても切れない関係性にある。

 

 同盟国大日本帝国の元国防相、山本五十六と次期当主であるリーライナ・ヴェルガモンが電撃結婚。ブリタニア中を驚かせた。

 

 リーライナの容姿は腰下まで届く長い金色の髪、エメラルドグリーンの碧い瞳が特徴的で、山本曰く、「リーライナのように美しい女性とあったことがない」とべた褒めされ顔を真っ赤にさせて強襲揚陸艦紀伊の上で抱き合ったエピソードは有名である。

 

 ただ同時に山本はリーライナのパイロットスーツを「破廉恥だ」とも表している。ここには山本の照れ隠しもあり、本当は綺麗だと感じている。

 

 乗機はエナジーウィング機ヴィンセント・カスタム。史上最強の提督山本五十六と共に第一次世界大戦に従軍。大きな戦果を挙げる

 

 

 

 

 

 

 ローゼンクロイツ伯爵家(上位伯爵家)

 

 ヴェルガモン伯爵家について

 

 

 領地:アイオワ

 

 

 領地面積:約145743km²

 

 陸地面積:約144700km²。

 

 水域面積:約1041km²

 

 総人口:630万人

 

 東西の幅:320㎞

 

 南北の長さ:500㎞

 

 最高標高:509m

 

 平均標高:340m

 

 最低標高:146m

 

 領都:アイオワシティ

 

 陸上騎士団:5万人

 

 天空騎士団:1万2千人

 

 水上騎士団:僅か

 

 第5世代機:グロースター

 

 第7世代機:ヴィンセント

 

 アイオワはローゼンクロイツ伯爵が治める領地。広大な領土を持ち、薔薇が名産。ローゼンクロイツ伯爵は薔薇をこよなく愛し。

 

 自身の娘たちには薔薇にちなんだ名前を与えている娘8人、末っ子にジュンという息子が一人いる。

 

 娘・息子たちに日本名を付けるのは、伯爵自身が大の日本好きであることと関係しており、娘のうち一人は日本人と結婚させると考えていた。

 

 そこへ第五女シンク令嬢、身体的特徴としては身の丈よりも長い金色の髪をツインテールに結わえ整えた、深く青い瞳を持つ小柄の女性、が取引先のアラウカニア=パタゴニアのある都市のホテルでテロ事件に巻き込まれ、聡明なあの子ならば大丈夫と考えるも。

 

 万が一を考えて、大日本帝国の知己であった辻政信に救出を依頼。魔弾の射手という裏世界最強を誇るスナイパーを送り込みテロリストを鎮圧。

 

 またこの事件を通じ魔弾の射手こと麻生良太郎とシンクに縁が生まれ、ローゼンクロイツ伯爵は笑顔で娘を任せられる男として、シンクを魔弾の射手に嫁入りさせた。

 

 が、シンク自身は以前と変わらず地位も変わらず日本の麻生家とローゼンクロイツ家を行ったり来たりと忙しい日々を送る。

 

 隣の領であるヴェルガモン伯爵家とは縁が深い。

 

 

 

 

 

 シュタットフェルト辺境伯家

 

 シュタットフェルト辺境伯家について

 

 

 領地:ミネソタ

 

 

 領地面積:約225181km²

 

 陸地面積:約206375km²。

 

 水域面積:約18990km²

 

 総人口:1000万人

 

 東西の幅:320-560㎞

 

 南北の長さ:640㎞

 

 最高標高:701m

 

 平均標高:370m

 

 最低標高:183m

 

 領都:ミネアポリス

 

 陸上騎士団:6万人

 

 天空騎士団:1万6千人

 

 水上騎士団:5000人

 

 第5世代機:グロースター

 

 第7世代機:ヴィンセント

 

 

 シュタットフェルト辺境伯家は神聖ブリタニア帝国の上位貴族の一家。次期当主に紅髪のお嬢様を据え、そのお嬢様ことカレン・シュタットフェルト辺境伯騎士団でカレンの兄ナオト・シュタットフェルトが周りを固めている。

 

 公の場では兄さん呼びをすることも多々あるが、親族だけの間ではお兄ちゃんと呼んでいる。カレンには他に正妻の子アレクサンドル・シュタットフェルトがいるが、三兄弟の仲はとても良好で、良く三人で遊びに出かけている。

 

 優しい継母と怖い実の母がおり、この怖い実の母が厳しい理由は、シュタットフェルト次期当主が妾の子であることで甘えられて育てられたというイメージを払しょくするためと言う、実母の思いからなのだがカレンは気づいておらず。

 

 よく継母のところへ逃げ込んでいたりする。逆に継母は兄弟三人分け隔てなく優しく育てるので、貴族の子がそれではいけないと実母に怒られる逆転現象が生じている。

 

 父は優しいが政治について必要最低限の事を教え、あとは自分で学んでいくべきことだと敢えて突き放し見守るタイプ。もちろん詰まったら助け舟を出す。

 

 シュタットフェルト次期当主カレンはアッシュフォード学園本稿ではお嬢様然として、大人しくしているが、既に化けの皮は剥がれており、「お姉様」として多くの生徒から慕われている

 

 因みにシュタットフェルト騎士団長は長男のナオトだが、次席のカレン・シュタットフェルトの乗機は日本から送られた第9.1世代機、紅蓮聖天八極式改なため、ナオトよりも遙かに強い。

 

 第一次世界大戦に従軍。死兵の一部に死の恐怖を味わわせた。

 

 

 

 

 

 

 ソレイシィ辺境伯家

 

 ソレイシィ辺境伯家について

 

 

 領地:ミズーリ

 

 

 領地面積:約180533km²

 

 陸地面積:約178455km²。

 

 水域面積:約2119km²

 

 総人口:1050万人

 

 東西の幅:385㎞

 

 南北の長さ:480㎞

 

 最高標高:540m

 

 平均標高:240m

 

 最低標高:70m

 

 領都:セントルイス

 

 陸上騎士団:7万人

 

 天空騎士団:1万7千人

 

 水上騎士団:4000人

 

 第5世代機:グロースター

 

 第7世代機:ヴィンセント

 

 ソレイシィ辺境伯家はカンザスシティを領境に持つ、カンザスに強い影響力を持つ大諸侯として知られており、領地の位置は北ブリタニア大陸中西部に位置する。

 

 次期当主マリーカ・ソレイシィは普段は大人しく素直。夫レオンハルト・シュタイナー同様、同僚の玉城真一郎などに騙されやすい素直な性格をしており、基本的には人を疑わない。

 

 容姿は短い髪の薄い茶髪の美少女で、周りからはレオンとお似合いの夫婦と言われながらも、レオンにはもったいないという声も度々上がる。

 

 これには夫レオンハルトの目移り癖が関係しており、女性からは総スカンを食らっている。先輩にあたるリーライナ・ヴェルガモン同様に軍の嚮導学校を優秀な成績を収めて卒業しており。

 

 卒業後すぐにラウンズのロイヤルガードに抜擢されるほどのKMF操縦技術を持つ。グラウサム・ヴァルキリエが解散後はリーライナやカレンと行動を共にすることが多く、戦場にも彼らとよく出撃する。

 

 なお、現在ブリタニア帝国で問題になって居る、ロズベルト男爵家のあるカンザスとは偶然にも隣り合わせであり、カンザスの領主がソレイシィ騎士団の進軍を認めれば、それだけでロズベルト男爵家は簡単につぶされる程度の圧倒的兵力差を誇る。

 

 マリーカ・ソレイシィの乗機はエナジーウィング機ヴィンセント・カスタム。第一次世界大戦には対テロ即応部隊として側面支援。敵特殊部隊を討ち取る戦果を夫レオンハルトと共に挙げている。

 

 

 

 

 

 

 フランク・ロズベルト階級は男爵。

 

 当主:フランク・ロズベルト

 

 永代貴族

 

 男爵家

 

 領地:カンザスの端の端。

 

 総人口:1500人

 

 領都:無し

 

 騎士団:100名の歩兵

 

 当代の当主フランク・ロズベルト男爵の横暴に領民は耐えている。彼は本気で無礼討ちを見せしめのようにしてくるからである。

 

 領民の人数に対して100名という大騎士団を抱えるのは、彼の見栄と、何れ貴族の最高位である子爵に陞爵したときの見せかけの兵団である。

 

 本物の騎士は10名ほどで、残りは無理矢理掻き集めた農民兵。

 

 

 

 

 

 

ヒトラーとハイランド両大公が北方と東海岸に大きな勢力圏を持っていましたが二人とも欧州へと帰還しましたので。

アッシュフォード公爵とカラレス公爵も大きな領地を南方のほうに持ってますね。

ただ両公爵は公爵でありつつ超巨大勢力圏を持つクルシェフスキー侯爵を目上に見ています。

アッシュフォード公爵は駐日総領事を務めておりますので領地は奥さんが取り仕切っております。ちなみにアッシュフォード公爵領はメキシコ全土です。

カラレス公爵はコロンビアと中米地方ですね。

いずれにせよヒトラーとハイランド両大公が抜けるのでブリタニアは再編に追われて大変な時期を迎えることになります。

それと四方山話ですが、カラレス公爵は自称立ち食いのプロで自領の立ち食い蕎麦屋に供回りもつけずに入店してくるおじさんとして知られています。

名産のコーヒーよりお蕎麦が大好きで、月見そばは卵をつぶさずに食べる派の人です。

カラレス曰く「月を見て食べるのが月見そば。月をつぶしてしまっては最早月見そばではない」そうです。

 

 

 

 

ちょっとしたものを投稿します。

 

以下はクルシェフスキー侯爵の持つ影響圏です。

 

治めているのは大・中・小それぞれの貴族ですが全てがクルシェフスキー侯爵の子です。何千とおります。下手をすると万おります。

 

クルシェフスキー侯爵を他の貴族たちが恐れている理由がまさにこれであり、クルシェフスキー侯爵が西海岸諸侯の盟主と呼ばれる様になったのもこういった事情があります。

 

また彼の権威が公爵と同等。発言力が大公爵と同等。シャルルが彼を特別視する理由。

 

彼に大切なモニカを預けた理由などもこれに含まれ、彼の影響圏ならば安全であると考えた次第です、昔からの親友であることもありますね。

 

なお公爵や大公爵でさえクルシェフスキー侯爵には敬語で話しますし、ヒトラーは彼の人格を称して「気持ちのいい友人」とも言っております。

 

次の昇格で二級飛びの大公爵となるだろうと言われる理由でもあります。本当はもう大公爵になっている人物です。

 

なお、この人が陞爵を嫌がる理由は膨大な直轄地を構えることになる可能性が高いからです。多くを求めない人物で、今で十分と考えております。

一応設定的には2019年ブリタニアの人口は伸びに伸び2020年には10億を突破、2022~2023年頃には12億を設定しておりましたが。

 

この件も有り多少設定変更して2019で10億人越えとしようかなとも考え中。途中での設定変更は大変なのでやりたくないのですが……結果的にブリタニアの総人口は13億人に変更しました。

 

馬鹿男爵が喧嘩を売った人の正体はこんな人です。

それぞれの単位は一番目以降からは外します。

 

 

ブリティッシュコロンビア

 

総面積:944,735㎢

 

陸地面積:925,186㎢

 

水域面積:19,549㎢

 

最高標高:4,663m

 

人口:27,888,330

 

 

アルバータ

 

総面積:661,848

 

陸地面積:642,317

 

水域面積:19,531

 

最高標高:3,747

 

総人口:20,335,725

 

 

アイダホ

 

総面積:216,632

 

陸地面積:214,499

 

水域面積:2,133

 

総人口:11,034,636

 

 

モンタナ

 

総面積:381,154

 

陸地面積:377,230

 

水域面積:3,862

 

総人口:10,842,250

 

 

ワイオミング

 

総面積:253,348

 

陸地面積:251,498

 

水域面積:1,851

 

総人口:5,768,510

 

 

ネヴァダ

 

総面積:286,352

 

陸地面積:284,448

 

水域面積:1,904

 

総人口:21,732,048

 

 

カリフォルニア

 

総面積:423,970

 

陸地面積:403,932

 

水域面積:20,047

 

総人口:158,153,172

 

 

ユタ

 

総面積:219,887

 

陸地面積:212,751

 

水域面積:7,136

 

総人口:16,358,080

 

 

コロラド

 

総面積:269,837

 

陸地面積:268,875

 

水域面積:962

 

総人口:25,981,713

 

 

アリゾナ

 

総面積:295,253

 

陸地面積:294,313

 

水域面積:943

 

総人口:35,757,510

 

 

ニューメキシコ

 

総面積:315,194

 

陸地面積:314,590

 

水域面積:608

 

総人口:10,587,610

 

 

 

ワシントン クルシェフスキー領

 

総面積:184,827

 

陸地面積:172,587

 

水域面積:12,237

 

総人口:7,705,281

 

 

オレゴン クルシェフスキー領

 

総面積:255,026

 

陸地面積:248,849

 

水域面積:6,177

 

総人口:4,237,236

 

 

 

クルシェフスキー侯爵家影響圏総面積:4,774,663㎢

 

総人口:356,439,584人

 

 

 

 

 

宇宙ステーション

 

 

宇宙ステーションは四つほど打ち上げてる脳内設定がありますね。城型、塔型、現実の形のを30倍以上大きくしたもの(夢幻会発案)、コロニー型(夢幻会発案、円筒状のかなり大きなもの)の四つです。

南天は神をイメージしたラピュタに酷似した形のを二つです。

 

当然ですが両陣営の宇宙ステーションにはF号兵器も搭載されております……。

 

 

 

 

95:休日:2023/06/23(金) 23:25:39 HOST:115x125x17x146.ap115.ftth.ucom.ne.jp

>>65

正直モニカの気持ちとしてはどうして……?ですね……。

リーライナは討ち入りに参加したのに、自分だけ外されて苦しんでいます。

ええ、シャルルとクルシェフスキー侯爵が本心では激怒しているのかと思い悩み塞ぎ込んでいます。

そんな彼女を嶋田さんは「そうじゃないよモニカさん。きっとシャルルさんたちにも考えがあるんだよ」と、慰め勇気づけています

シャルルとクルシェフスキー侯爵はそんなつもりはありませんでした。

男爵領の実態を知れば余計にモニカさんが傷つくだろうと考え外したのです。

それに彼女は日本で任務中でもありますしね。

けじめはは次回付けます。このままモニカを放置するシャルルとクルシェフスキー侯爵ではありません。

 

>>68

シャルルは体験を片手で操るほどの腕力の持ち主です。

 

クルシェフスキー侯爵はラーメンだけじゃなく、ソーメン、御蕎麦、ところてん等、麺や、麺ぽい物みんな好きです。

 

>>69

それはちょっとまずいですね。

シンクもまた馬鹿男爵に不敬行為を働かれた一人ですから。

ましてや上位貴族です。

他の諸侯が納得しません。

 

>>70

良太郎とシンクにはまだ子供は居りませんが何れ。

 

>>72

逆に報道管制は敷かれません。南天が絡んでいる以上は北側諸国に情報を共有するためにもトップニュースで流します。

 

>>76

結婚数年目ですね。

 

>>82

東京はたぶんペンドラゴンを超えて世界第一位の巨大都市となっております。

 

>>84

私は髪が長いままで、美しいままの心優しいモニカが好きですね。

 

>>85

色々ありましたね。そして迎えた80スレ。100スレ目指して頑張りましょう。

 

>>88

シンクと良太郎は麻布、新宿、六本木、あと港区で海見ていることが多いです。

紅茶を飲みながら海を見るのが好きです。

SPはついたりついていなかったり。

なにせ、二人の方がSPよりも強いですから。

 

>>90

大阪エリアも700、800m級のビルは普通にあります。

通天閣は1500m前後です。

 

>>92

シャルルは日本にもブリタニアにも友達が多いですよ。

 

>>93

良太郎のシンク愛を舐めてはいけません。いくら瓜二つでもアリスとシンクの違いは気配で分かります。

 

 

東京の1000超のビルに対抗してあべのハルカスは1300mを目指して建造中です。もちろん強化耐震ブロック構造です。

 

東京倉崎地所は1500mの駅前ビルの開発に勤しんでおります。

 

あべのハルカスはほぼ出来掛けなのに対し世界一を大阪如きに取られてなるものかと倉崎地所はスメラギの力も借りながら建造中ですね。

 

あべのハルカスは2020年開業予定です。

 

二年遅れで東京の1500mトーチタワーは開業予定です。

 

 

 

 

レス返事になります。

>>662トゥ!ヘァ!様

彼ならまず間違いなく欧州解放戦争に参戦しますからね。

 

>>664

彼の人物の演説はキツイですからね。10時間とかあり得ない演説をぶちかましてきますから。

 

>>665二二三様

実際のゲバラが耐えられたかはわかりませんが休日のゲバラは耐えられましたw。

二人ともに親日家でしたからね。もう亡くなられましたが評価はわかれどもいろんな意味で革命児でした。

良太郎はいろんなところの葉巻を吸ってます。で、シンクに文句を言われてます。

 

>>666

根っからですからね。

彼の血が騒いだのでしょう。

 

ですからシャルル自ら動きを封じました。優秀な貴族には国内政治で残ってもらいたいでしょうから。

 

>>667

第一次大戦には参戦します。

 

>>668

イエスです。その通り落ち着きませんでした。

 

>>669

ユーロユニバースなどという烏合の衆には勝ちました。

 

 

 

 

692:休日:2023/07/23(日) 17:09:31 HOST:115x125x17x146.ap115.ftth.ucom.ne.jp

返信レスです。

>>687トゥ!ヘァ!スマホ様

来年は大量報告がいっぱいですね。

涙をのみながら。

 

>>688

史実ほどの軍事力はあるのではないかと思われます。

 

>>689二二三様

正確には言えませんが恐らく数百隻は沈んでいるものかと。

 

>>690ハニワ一号様

カストロが伯爵。ゲバラが辺境伯で落ち着きました。ゲバラもこれで立場上動けることはなくなったようです。大きな所領を治めないとだめですからね。

史実世界の人が知れば驚くでしょう。二人とも容姿は若いまま、キューバ革命のころのままの姿で伯爵と辺境伯ですから。

中華連邦が少し削ったので厳密にいうと南天軍の戦力は若干落ちてますが、ほぼ変わらず、インド洋で1千隻の主力鑑定が激突しました。

せんごはそれよりも増えているんですけれどねw。

日本16万t、ブリタニア15万t強、南天15万t弱の戦艦群が複数個所で戦いを繰り広げているので、とんでもない大海戦になってます。みんな超電磁砲が主砲ですからね。

 

>>691

南天は若干少ないです。中華が少しだけ削りましたから。

七天艦隊は参戦しておりました。

両軍合わせた主力艦艇数は1千隻を軽く超えます。インド洋全体が火を噴いたようになったでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィデル・カストロ伯爵

 

 

 領地:キューバ・バハマ諸島

 

 面積:125,170㎢

 

 人口:23,421,032人

 

 

 

 エルネスト・ゲバラ辺境伯

 

 

 領地:ジャマイカ・イスパニョーラ島・プエルトリコ

 

 面積:101,261㎢

 

 人口:31,353,300人

 

 

 

 

 

 



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考察する

 休日世界の設定(設定は増えます)

 コードギアス 提督たちの休日(帝都の休日)

 提督たちの憂鬱の世界の人物がコードギアス平行世界に転生。

 前世界と同じような職に就きながら、既に完成を見ていた夢幻会の元老に就いていく。



 

 

 

 考察する

 

 

 

 約500年前、足利政権時代には夢幻会と転生者の影がちらついており、足利幕府が大政奉還する頃には完全なる形が出来あがっていた。

 

 徳川幕府も豊臣政権も存在せず、足利義輝が絶対的な力を持っていた為、足利政権は存続。この影に夢幻会の存在がちらついている。

 

 足利時代、北方、北海道、千島列島、樺太、カムチャツカ、チュコト、アリューシャン全島へと進出。

 

 南方は台湾、ミクロネシア、ポリネシア西部、メラネシア最北部へと進出し日本の領土は急拡大。

 

 剣豪将軍足利義輝生誕100年を祝い、混在していた国号を朝廷の指示の元、正式に大日本帝国と定める。

 

 当時より積極的対外進出をしているため、中小大国と小競り合いは起こしてきたが、全ての紛争に勝利をしてきており、負け無しの日本、常勝大日本、無敵皇軍として知られる。

 

 また欧州、とくに大英帝国との関係を非常に重視し、大英帝国には日本と同じくして超古代文明の民族の血が流れる同胞であるとしての衝撃的秘密の共有が為される。

 

 また、その超古代文明を三つに割った切っ掛けは未だ姿を現していない第三勢力であると言うことも。

 

 その第三勢力がついに300~250年前に世界に姿を現す。

 

 合衆国オセアニア。

 

 新興の国ながら信じられない高度な文明を築いていることを察知。

 

 これが超古代文明第三の勢力である事を暗に物語っているとして、大日本帝国と大英帝国は警戒。

 

 しかし欧州の争乱にて大英帝国は崩壊、最後のテューダー朝を支援していた大日本帝国は、新大陸にて興された新たな国、神聖ブリタニア帝国を全面支持。

 

 建国直後に承認し、同盟を結ぶことに。

 

 なお大英帝国崩壊の一因となった欧州の争乱『革命ごっこ』の影には既に南天を名乗り始めていた、合衆国オセアニアの影が有り。

 

 欧州の死兵と大量の駒を使って革命を先導。誘導された革命であった事を、革命達成者のナポレオンも気が付いていない。

 

 ナポレオンはギアスの持ち主であったが、南天からは重視されておらず、その後、革命勢力によって処刑されるまで助成されていない。

 

 この間に、合衆国オセアニアは周辺島嶼を制圧、インド洋島嶼を制圧していき、マダガスカルを足場にアフリカ東部から中東南部を切り取りながら、世界中に細胞をばらまいていた。

 

 イラクとの交遊が生まれたのもこの時期で有り、まだ未発達な各地域にオセアニアの持つ一線級の科学技術を分け与えて、南天条約機構の基礎を構築し始める。

 

 一方、神聖ブリタニア帝国建国時、リカルド・ヴァン・ブリタニアは自分と友を信じろとの遺訓を残しており、暗に日本を疑うなという意味の言葉を残している。

 

 当時、技術力は大日本帝国、合衆国オセアニア、神聖ブリタニア帝国の順で、ブリタニアは先進二ヶ国に対し遅れていた。

 

 これは後の太平洋戦争で顕著に表れており、物量・国力が圧倒的に勝るブリタニアが日本に対して、全技術面で後れを取っていることで実証されている。

 

 戦後僅かな日ブ冷戦期を経て再び強固な同盟関係を築くに当り(この際、嶋田家とクルシェフスキー家の尽力があった)、ブリタニアは日本を手本に技術の底上げを行っていった。

 

 もしもこの戦間期にオセアニアからの侵略があれば、ブリタニアも危険だったかも知れないというシミュレーター結果が出ており、結果的にはオセアニアは南ブリタニアを、あわよくばブリタニア本土を取り損ねたという形となった。

 

 なお、ブリタニアも新大陸での建国以後、大きな戦争を四回起こしている。

 

 北ブリタニア全土を収める北ブリタニア大陸戦争。

 

 南へと版図を広げる第一次拡張戦争ではコロンビアまでを自国領に編入。

 

 太平洋大西洋を内海とすべく行った第二次拡張戦争で、太平洋の島々、大西洋の島々を侵略。自国領に編入。

 

 そして内戦である欧州貴族との北南戦争という大規模な戦争。

 

 日本は一貫してブリタニア皇帝家を支え、義勇軍も送っている。

 

 ブリタニアの地で戦死した日本軍墓地がペンドラゴンの郊外には静かに広がっている。

 

 日本は英雄帝クレア・リ・ブリタニアの擁立にも多くの援助をしており、ブリタニアに日本系貴族がいるのはクレア帝擁立時の報償という側面が大きい。

 

 そして日ブ貿易摩擦(仕組まれた説が現在では根強い)から始まり、日本の飛鳥号と、ブリタニアの星の女王号の客船沈没事故で極限に達した両国はついに互いに宣戦布告。

 

 

 日ブ太平洋戦争が始まった。

 

 

 この戦争にはオセアニアも裏口参戦しており、南太平洋全域バヌアツ・フィジー・サモア・トンガ・ツバル・クック諸島・南ポリネシア・ソロモン諸島。東南アジアの一部、南ニューギニアも掠め取っていき、こちらも準備が整ったとばかりに戦後、集団安全保障機構にして集団攻勢体勢機構。

 

 

 南天条約機構を結成し、日ブに少し遅れてF号兵器の空中爆発実験を南太平洋海上で起こし、保有が決定的となった。共に皇歴1950年代のこと。

 

 

 すべて、確証は得られないが、太平洋戦争の火を付けたのはオセアニアではないかとの噂もある。

 

 オセアニアだけが領土を獲得し、日ブ両国にダメージを与え、両国同士の信頼を失墜させ、F号兵器を実践配備する時間や弾道ミサイルの配備の時間も得た。

 

 太平洋戦争での勝ち組、それは合衆国オセアニア一国のみなのだ。

 

 この間、他の列強である中華連邦も、ユーロユニバースも動けなかった。動いたところでこの三匹の怪物の戦争に割って入ることなど出来ないからだ。

 

 両国共に知っている、この三国の異常性を。

 

 中華連邦は皇歴1889年極東の島国と侮り、係争中だった海南島を巡って日本と戦端を開いた。

 

 結果、中華が8000t級戦艦を山ほど繰り出したのに対して、日本は3万t級の戦艦を繰り出してきたのだ。おまけに複葉機であったが戦闘機という新兵器まで戦場に繰り出してきた。

 

 勝てるはずのない戦いで清国は北洋南洋両艦隊を全艦沈められ、インド軍区艦隊は半壊させられた。

 

 中華連邦は無条件降伏、海南島は日本に編入され多額の賠償金を奪い取られた。

 

 続き1902年には南下・東進の政策を採ったE.U.ユーロピア共和国連合ことユーロユニバースとの日欧戦争が勃発。

 

 やはり極東の黄色いサルと侮っていたユーロユニバースは8万tという当時から太平洋戦争まで世界最大を誇る戦艦(後の初代大和も8万t級戦艦。ただし三笠とは装備が段違い)三笠とその艦隊、鋼鉄の艨艟群と以上発展した航空機単葉機ゼロ式艦上戦闘機、長距離爆撃機連山や連山改と60式主力戦車等と正面切って戦うハメとなり、ユーロピア連合艦隊(バルチック艦隊10個群ほど)を全艦沈められこちらも無条件降伏。

 

 講和会議ではサハ共和国とバイカル湖以東の全域を日本に割譲する案が上がるも、日本側は「それはいずれ正式な持ち主の元に返る土地」として固辞。

 

 E.U.が傾きかねないほどの賠償金と国境画定で終わらせた。本当は本来の持ち主に返すときのためにE.U.を解体してしまおうという案も出たが、時期尚早と却下されている。

 

 日欧戦争で大幅に弱体化したE.U.は更にオセアニアへの依存を強めていくこととなる。

 

 

 皇歴1950年代に入り漸く、ついに南天が裏から表へと姿を現す。

 

 これにより北南冷戦が完全な形で始まる。

 

 南天の表出により大日本帝国、神聖ブリタニア帝国もその形を変えていく。まずは勢力圏の構築と確定。

 

 

 大日本帝国は東南アジアとクウェート、ナウルを中心とする予定。

 

 神聖ブリタニア帝国は南ブリタニア諸国と北東太平洋地域の確定。

 

 だが、両国とも戦争に次ぐ戦争の歴史を歩んできた超大国のため、当該地域が植民地化を怖れ距離を取る。

 

 これに1995年3月、ニューギニア民主共和国の北進によるニューギニア島の民主共和制原理主義による統一国家を建国せんとする野心に、当初動かずの姿勢を取っていた大日本帝国嶋田政権は、合衆国オセアニアの介入を見て動き、トラック諸島の空母戦闘群4個を動かし、司令官の山本五十六がオセアニア軍を壊滅させた事で戦局は逆転。

 

 パプアニューギニアは反転攻勢へと移り、南ニューギニア軍を国境線まで押し返す。オセアニアは追加の軍を派遣するか、南天を動かすかまで考慮したが、結局南天は動かさずで戦争は終結。

 

 パプアニューギニア政府は自国の危機に駆けつけてくれた大日本帝国を盟主と仰ぎ、自ら衛星圏に組み込まれることを選択。

 

 これを横目で見ていたフィリピン、インドネシア、ティモール、インドシナ、東南アジアの国々は挙って日本の庇護下に入っていった。なぜ中華連邦では無いのかというと、昔日本に木っ端微塵に吹き飛ばされた中華連邦にはそれ程の力は無い。南天から守ってくれる力は無いと見抜かれていたから。

 

 

 神聖ブリタニア帝国は南ブリタニア諸国を組み込みたいと考えていたが、まず侵略戦争を繰り返していた過去から信用されていない。

 

 そこへラプラタ戦争が発生、民主共和制原理主義の魔の手が南ブリタニア諸国にも迫ってきた。

 

 これは追い風なのか? それとも破滅の罠か? 御前会議で議題に上がったとき、若き天才宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアは。

 

 民主共和制原理主義の危険性を説き、直ぐ足下までソレが迫ってきている。

 

『かつての汚名をそそぐときで有り、危機に喘ぐ南ブリタニアに手を差し伸べるべきである。この手を取るかどうかは彼の国々次第である。盟邦大日本帝国と共に対オセアニア、対南天の壁を南ブリタニア大陸両眼に築こうでは無いか』

 

 この意見に皇族達、貴族達は賛成していき(皮肉な事にロズベルト男爵先代が現役だった頃、シュナイゼルの意見に賛成していた)シャルルは。

 

『南ブリタニアを守護する盾。イージス。オペレーションイージスと名付けるッ!!』

 

 そう吠え、日本にも参戦の要請を送り、対南天の防壁の構築のためならばと、盟邦のためという理由で参戦を決定。

 

 国民は無敵皇軍を叫び出征する艦艇と軍人を見送った。

 

 戦争結果はオセアニア軍、東アフリカ軍共にラプラタへの援助は出来ず、南天条約機構の出動態勢が整っていないこともあり南ブリタニア諸国五ヶ国によるラプラタ集中攻撃で、ラプラタ民主連合共和国は崩壊。

 

 ラプラタに巣くっていた民主共和制原理主義組織ペンタゴンは、南ブリタニア各地に散っていき、テロ活動を繰り返すようになる。

 

 最高指導者のジェファーソンデイビスもまた雲隠れし、皇歴2011年にはヴァーチャーズ・キル=ワーカーに依頼して、ギアナ公国のウゴ・チャベス陸軍大将を狙撃するなど足掻いていたが。

 

 皇歴2017年7月末には、大規模なテロ事件やゲリラ攻撃はほぼ終息したとの宣言が出され。事実上の終戦となる。無論50万人という膨大な数的戦力を有するテロ組織を完全壊滅させるには至って居らず、その後もブリタニアの対テロ遊撃機甲師団グリンダ騎士団にたびたび要請が掛かることとなる。

 

 アラウカニア=パタゴニア王国。アルガルヴェ連合帝国。ギアナ公国。ブリタニア帝国首都ペンドラゴンにて同国主導の下ラプラタ分割会議に出席。

 

 大日本帝国。オブザーバーとして出席。

 

 ギアナ公国。ラプラタは飛び地で有り、飛び地管理の問題から権利放棄。

 

 アラウカニア=パタゴニア、アルガルヴェによる二国間協議の後ラプラタの東西二分割併合で合意。

 

 ここに民主共和制原理主義国家ラプラタ民主連合共和国消滅。

 

 同時にギアナ公国、アルガルヴェ連合帝国、アラウカニア=パタゴニア王国、ペルー王国、エクアドル公国、南ブリタニア五ヶ国は神聖ブリタニア帝国と大日本帝国の衛星国家としてその庇護下に入る。

 

 

 その後、南天条約機構の体制を鑑み、こちらも同様の体制を取り迎え撃つべきという判断の下、衛星国を再編し北側諸国同盟を成立させる。

 

 共に一国への攻撃を全ての国の攻撃と見なし総攻撃へと移る。

 

 

 

 北側諸国同盟

 

 

 大日本帝国

 

 神聖ブリタニア帝国

 

 シーランド王国

 

 ナウル

 

 クウェート王国

 

 インドネシア共和国

 

 フィリピン共和国

 

 ティモール国

 

 パプアニューギニア共和国

 

 インドシナ連邦

 

 アルガルヴェ連合帝国

 

 ギアナ公国

 

 アラウカニア=パタゴニア王国

 

 ペルー王国

 

 エクアドル公国

 

 加盟予定

 

 ユーロブリタニア=AEU

 

 中華連邦

 

 ジルクスタン

 

 

 北側諸国会議。

 

 小国であっても一票は一票。一票でも多い決議が採択されるが、加盟国が全18ヶ国地域(といっても北半球全域)のため9対9で分かれることがある。

 

 このケースの場合は再度投票のやり直し、二度目で駄目なら国家内国家、AEUならドイツ帝国、イタリア王国、ロシア帝国、オスマン帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、スペイン王国、ポルトガル王国、フランス王国、マグレブ王国、等々。

 

 北側諸国拡大会議における参加国にも投票権が付与される。三度目の正直という奴である。

 

 

 

 

 南天条約機構

 

 

 

 この世界における闇。日本・ブリタニアと対峙し続けている勢力で世界を滅ぼす力を持っている。世界三大超大国に数えられ、通称『数の南天』と呼ばれている。

 

 その名の通り、物量と兵力数が凄まじく、兵力数においては世界第一位を誇る。世界中に散らばる遺跡を狙いつつ独自の思想をばらまき続ける。世界中のテロ組織の真の元締めにして黒幕。

 

 

 現加盟国(この先物語の進み具合によっては新規加盟国が増えていくかも知れません)

 

 

 合衆国オセアニア

 

 合衆国オセアニア──マダガスカル自治州

 

 合衆国東アフリカ

 

 イエメン民主共和国

 

 ニューギニア民主共和国(南部ニューギニア)

 

 オセアニア領旧大洋州連合

 

 中央アフリカ以南のアフリカ南部地域

 

 イラク社会主義共和国(オブザーバー)

 

 カメルーン民主共和国。

 

 民主主義中央アフリカ。

 

 民主主義ガボン。

 

 コンゴ原理主義共和国。

 

 ルワンダ民主共和国。

 

 ブルンジ民主共和国。

 

 アンゴラ原始民主制共和国。

 

 民主原理性ザンビア。

 

 ジンバブエ民主共和国。

 

 原理主義人民ナミビア国。

 

 ボツワナ原理主義人民共和国。

 

 南アフリカ原理主義人民共和国。

 

 レソト原理性共和国。

 

 エスワティニ原理性共和国。

 

 総計二十一ヶ国地域が加盟する国家連合体であり、集団安全保障機構でもあり、集団攻勢機構体でもある。

 

 

 

 南天条約機構軍(2022)

 

 

 

 通常最大動員数5千万~

 

 限界動員数7千万~8千万名

 

 

 

 作戦機22,000機以上

 

 KMF含む戦闘装甲車両25~30万両以上(KMF2万3千騎)

 

 空母戦闘軍30個群

 

 2022年時浮遊航空艦数1千5百~2千艦

 

 

 この様にして現在の世界は形成されており、宇宙に浮かぶ六基(日本2基、ブリタニア2基、南天2基、各全長6㎞~10㎞)の巨大宇宙ステーションと、大日本帝国1万8千基、神聖ブリタニア帝国2万5千基、南天3万2千基。

 

 総計7万5千基の人工衛星群に取り囲まれている地球という星は、世にも珍しく物騒な星なのかも知れない。

 

 




全長高10㎞の超巨大宇宙ステーションは日本先導の物です。
圧倒的技術力の塊です……。
六基宇宙に上がって衛星軌道上を周回している巨大宇宙ステーションはコロニーでもありダモクレスの巨大版であると考えていただけたらいいです。



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砂の王国の終焉
砂の王国の終焉


 

 

 

 

 砂の王国の終焉

 

 

 

 

 イラク社会主義共和国、ユスフ・サルマン・ユスフ書記長。イラクの最高指導者である彼の心は、その心境はいま絶頂の最中にあった。

 

『ヨルダン・シリア・サウジアラビア北部。全てくれてやる。ただしパレスチナ一帯は我々が貰う。いいな?』

 

 イラクもオブザーバー加盟している南天条約機構。その指導層の一人である、ジェネラル・将軍閣下が自ら発言したのだ。

 

『ただしそれらを欲しければ動け。動かざるば何も手に入らぬと知れ』

 

 これはそのままの意味。イラク赤軍を動かせという事だ。南天軍はいま、イエメン民主共和国に恐るべき兵力を終結させている。

 

 それはイラク軍にもある無人機よりの偵察で判明している。総兵力30,000,000、KMF5000騎、戦車装甲車68,000両、戦闘機・攻撃機4,300機、ペルシャ湾を封鎖する空母戦闘群8個群、その中には七天と見られる艦隊が2個群混ざっており、戦艦も80,000級と見られる物が4隻混ざっていた。

 

 正直恐るべきこの物量と戦力、人の海に、我が国の戦力は必要なのかとも考えた物だが、サウジを筆頭としたその他の中東諸国を逃がさないという意味では、必要とされているのかもしれない。何せ南天はイラクを除く中東全土を白化させるつもりなのだ。

 

 我が国にも役目はあろう。そう決意したユスフ書記長は、自国もまた南天条約機構構成国の1国である事を自覚し、事に当たるためと、今の自国に可能な戦力。

 

 第2~第2.5世代ユスフ戦車ユスフ、2戦車計4000両、航空機560機、バミデス230騎とイラク赤軍1,000,000を自国の南。現在のサウジとの国境に展開した。

 

 北方や西方は放置して置いても問題ない。シリアにもヨルダンにも、我がイラクにすら反抗出来ずなのだ。ましてや南天条約機構が本格的に動き出したこの時。

 

 その南天の一員である我が国に手出しなど出来まい。南天は所属国の1国が攻撃を受けた時、これを構成国全体への攻撃と受け取る。シリアやヨルダン如き小国、南天に踏み潰されて終わりだ。まさにいま攻撃もしてない中東諸国が南天の野心によって白化されんとしているのだ。何もできるはずがない。小国など我ら南天に膝まづいておれば良いのだ。

 

 これまでの自国の広がりを思い描く。ヨルダンに侵攻しヨルダン西部を得た。サウジに侵攻しサウジの最北をわがものとしてきた。

 

 それが一気に、ヨルダン全土、サウジの半分、シリアの全土が我がイラクの下に降る事となるのだ。

 

 ユスフ書記長はそうほくそ笑むと、次代の中東の覇者たる自身の姿を思い浮かべながら床に就いた。

 

 南天よりオファニムのステージをいただけることも、この作戦には掛かっているのだ。

 

 

 

「く、くそうっ、南天の犬どもに……っ、南天……条約機構どもめっっ」

 

 瞳を充血させて怒るのは。もはや怒る事が無意味である知ら締められている男。

 

 トゥルキー・ラシード。サウジアラビア国王である。

 

 北にイラク、南に強大なる南天軍に挟まれ、自国が風前の灯火であることを認めざるを得なかった。

 

 彼は後悔していた。これまでの事を。

 

 これまでに幾度かあったのだ。大日本帝国より『我が国の保護国とならないか』という誘いが。

 

 その全てを突っぱねてきたのがこの男ラシードであった。ラシードには保護国化・衛星国化がどうしても許せなかった。

 

 300年の歴史を持つサウジアラビア。その偉大なるアラビアの盟主が極東の島国の下に付く。そのような事が許せるはずがないと。

 

 だが、歴史を追ってみるうちに分かってきたことがある、その極東の島国の歴史は皇歴元年より以前なのだという。

 

 信じられなかった。2,000年以上の歴史を持つ国が実在しているなど。

 

 そして神聖ブリタニア帝国。世界最大の超大国とかの国は、かつて大戦争を引き起こし、引き分けた歴史を持つ超大国同士だったのだ。

 

 若きラシードは学が無い。故に政治情勢にも疎く、ただの島国が世界第二位の『技術の日本』と呼ばれる超大国だとは夢にも思わなかった。

 

 通りで対応に当たっていた執務官たちの態度が畏まった物ばかりだったわけだ。

 

 その超大国に、ラシードは知らず唾を吐きかけた。かの超大国はとかく性格が優しく大人しいという。事実として戦争などの事態には発展しなかったし、外交非礼についても何も言わなかった。

 

 だが、それだけである。後々の国際会議で出逢っても笑顔の挨拶を交わすが、挨拶で終わり。上辺の話はするが深くは話さない。

 

 見限った相手に対してとことんなまでに冷たい国なのだと、その時知った。

 

 かの国の保護国、なっていればイラクからの侵略(中東戦争)は起きなかったろう。保護国化されたクウェートが平和を謳歌している様に、自国も悠々自適な生活が送れていたはずだ。

 

 実際にイラクはクウェートには一切の手を付けていない。日ブの保護国状態の南ブリタニア諸国は日本・ブリタニア自身の手で、オセアニアより守られたという。

 

 保護国ではなかったが、保護国化にサインした北ニューギニアは南ニューギニアとオセアニアの侵略より、物理的に守られている。

 

 日本軍の大艦隊が出撃し、日本の名提督、山本五十六が、オセアニア艦隊を一方的に撃破した逸話は現在でも残っているのだから。

 

 その山本五十六がブリタニアは名門貴族たる、ヴェルガモン伯爵家に婿入りが決定している事もまた有名。

 

 他にも嶋田元宰相とナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー卿。南雲忠一駐ブリタニア武官とナイトオブフォー、ドロテア・エルンスト卿。

 

 噂では市井の青年とマリーベル・メル・ブリタニア皇女の恋の話まであるという。

 

 家族と称される日本人とブリタニア人は、真の家族として付き合いをして結びついているのだ。

 

「すべては……、すべては余の失策か……」

 

 うなだれていた時。

 

「ご、ご報告です!」

 

「なんだ……良き報ではなかろう」

 

 表情を暗くするラシードに、最後通牒が突き付けられたのはこの瞬間だった。

 

「な、南天条約機構軍がオマーン国境・我が国の国境を同時突破北上を開始! イラク軍が停戦ラインを突破して南下を始めましたっ! イラク軍は1,000,000。南天軍は……その」

 

「申してみよ」

 

「は、はっ、南天軍は第一陣で15,000,000。我が国の人口の、約半数……とても止められません」

 

 イラク軍と合わせて16,000,000……。もはや人の海、陸上の津波。防波堤のない我が国は。

 

「ふ、ふ、ふ、ふははははっ」

 

「へ、陛下っ?」

 

「終わったよ、終わった。オマーン、アラブ首長国連邦、カタール、バーレーン、ヨルダン、シリア、パレスチナ、そして我がサウジアラビア王国……、すべてが南天の星の下に落ちた……」

 

「さ、最大限の抵抗はして見せますっっ、奴らの言う白化や浄化など、私は絶対に受け入れませんっっ! それならば戦場で一人でも多くの兵を道ずれに散華して見せましょうっ! それでは陛下失礼!!」

 

 静かになった宮殿。騒がしかったのは先ほどまで。皆、身をひそめるか逃げだすか、一矢報いるために行ったのだろう。

 

「抵抗は、無意味だよ……31,000,000の兵に、誰が勝てる物か……どうあがいても不可能だ、それが可能なのはこの世で二国、神聖ブリタニア帝国と……そして……大日本帝国だけだ……余は、疲れた」

 

 ラシードはうなだれながら、玉座に身を沈めるのだった。

 

 

 

 

 

 

『死ねェ南天軍ッッ!!』

 

 巨大なバミデス。サウジの軍が砲撃を繰り返すも機動力に勝る南天のKMFレイスには当たらず。

 

 逆にレイスのスラッシュハーケンにコックピットや薄い装甲を次々と貫かれて撃破されていく。

 

 同様の光景はあちらこちらで観られ、南天の戦車エイブラハムには砲弾や銃砲の玉それ自体がはじき返される。

 

 南天に対し被害を与えているのは、僅かな歩兵にのみ。その歩兵も戦車や装甲車に身を隠しながら対戦車砲を雨あられの様に撃ってくるのだから、少ないサウジ軍は急速にその数を減らしていた。

 

『お、己ェェ、天使の名をかたる死兵の機械マシーン共めェェェ』

 

 ドウンッ

 

 また一騎、バミデスが堕ちた。いや一騎にあらず。100騎単位でバミデスは爆発擱座していく。当然だ全方位展開している南天軍は10,000,000を余裕で超えているのに対して、中東連合軍は500,000にも満たない。

 

 それも正確にはイラク赤軍への対応に北側へと回っている部隊もあり、こちらは総兵力30,000,000の兵と撃退しているのだ。どうやったって勝てる道理は無い。

 

「浄化」

 

『ぐわあッ』

 

「浄化」

 

『がはあッ』

 

 数十騎単位で爆発四散していくバミデスを見遣りながら、冷たい表情のまま、浄化浄化浄化をと繰り返す南天兵。

 

「全天に美しき世界の為にッ」

 

『全天に美しき世界の実現の為にッ』

 

 

“浄化をッ!!”

 

 

 この表情の無い死兵の群れに。圧倒的な人の津波に。戦線は各所で崩壊していく。逃げる物は浄化され、降伏する物には教化するか浄化されるかをその場で選ばされる。

 

 中東連合軍は勝ち目は無い。何をどうやってもこの60体1と兵器の質の違い、兵士の士気の高さと練度の違いの前に、勝利など望めない。それも彼の条約機構群。本当にその一部しか軍を動かしていない。

 

 見える範囲で見えるのは黒山の人だかりで、砂漠の砂が人と兵器で埋め尽くされていた。どこまでも続く戦車・装甲車・KMF。

 

 そして。キーンッッ。耳をつんざく空気音を響かせながら空を駆け巡る猛禽の群れが、一方的に中東連合軍の雀を食い尽くしていた。

 

「あっ、あっ。あっ。も、もう駄目だっ、こんな怪物共にどうやったって勝てるわけが無いっっ!!」

 

 天使? いや、怪物だ。南天は巨大な蠢く怪物なのだ。こんな物をどうやって倒せというのか。

 

 戦線は各所で完全に壊乱。

 

 

 浮遊航空艦隊旗艦アズラエルの中から眼下に広がる無駄・無意味・無価値な戦闘を見下ろしていたジェネラルは、全部隊に告げた。

 

「一人も逃すな。浄化か教化の二択だけ。それ以外は認めんと」

 

 

 ※

 

 

 全てが片付いた地上を見下ろしながら、ジェネラルは呟いた。

 

「この地へと招集を掛けて置いてなんだが、壮観たる光景だな」

 

 広がる光景は人と機械の群れ。どこまでも、地平までもを埋め尽くす。南天条約機構軍のその一部たる30,000,000万の正規兵と、兵器、兵器、兵器の群れである。

 

 第4世代KMFレイス、第5世代KMFレブナント計5,000騎、第4世代戦車エイブラハム23,000両、MI装甲車45,000両、浮遊航空艦32隻、輸送トラックやその他の車両18,000両、第5.5世代戦闘攻撃機4,300機、VTOL2,200機.火砲4,300門。ペルシャ湾には空母戦闘群を8個群も集中させているのだ。

 

「軍隊の海だな。たかが中東攻略にこの戦力は不必要。第7世代量産型のガルーダやウィスプを持ち出す必要さえ無い」

 

 実際に不必要だった。中東連合軍は数時間しか持たなかった。数十万の兵でも30,000,000の兵の前には無力だったのだ。そも兵器の質が違いすぎた。KMF擬きのバミデスなどでどうにかなる相手ではなかったのだ。第三世代の戦闘機で第五、第五.五世代の戦闘機になど勝てる訳が無かったのだ。

 

「ならば盟主が狙っているのは」

 

 ジルクスタン・中華連邦攻略。

 

「これの後続部隊の追加派遣の情報も既に入ってきている……」

 

「閣下、シベリアの方は?」

 

「ふん、ガイスト以上にN兵器までくれてやっているんだ。中華にも清に手出しできぬようにと多めにくれてやったんだ。勝ちの決まっている木偶どもの勝負に興味はない」

 

「ですな。しかし、それをおっしゃるのならばこちらも勝ちは決まっているのでは?」

 

「確かに……、だが、盟主は北側と本気でやるつもりなのか?」

 

「さあどうでしょうな。我らが神のお考えは所詮人の身では分かりかねます」

 

 法則がある。太平洋戦争以来の法則だ。

 

 北側――大日本帝国と神聖ブリタニア帝国は手を結び、南側への牽制を始め。

 

 南側――南天の領域は北側への対抗のため、独自のKMF、独自の浮遊航空艦、そして切り札たるF兵器とN兵器をこの世に生み出し、互いににらみ合ってきた。

 

「F兵器については北側も確実に保有している。それも我が国以上の出力の物を我が国以上の量的戦力で」

 

 お互いに動いてはならない。南が動けば北が動き、北が動けば南が動く。もしそこで北南全面戦争が勃発すれば。

 

「世界は滅び去るのみ……盟主は、我が神、創造主クリエイター=Lはいったいなにをお考えなのか……。10の遺跡を奪取して世界を書き換えなさるのか」

 

 

“全天に美しき世界を”

 

 

 創造主クリエイター=L。

 

 人の概念では図れない神の真意は何処に。それはジェネラルにも分からない。ただジェネラルは神の意志に従うのみ。

 

 かつて助けて頂いた御恩に報いるためにと。

 

「“小競り合いは終わった”全軍進め。目標は中東全土。最重要目標はパレスチナ南部」

 

 南天条約機構軍の進む方向は、全方位。中東の全方位なのだ。一部一面での侵攻ではない。30,000,000の兵を以ての中東全地域への全面侵攻。

 

 

 中東全土を我が神の住まう全天に美しき世界の下へ。

 

 

「行け。蒼天双翼光環旗の下に」

 

 

 ※

 

 

「どうするんだ! 南天に、合衆国オセアニアに使者を送りその真意を問い質すのか!?」

 

「だが、使者と言っても我が国には南天へのチャンネルが無い」

 

「あるではないか合衆国東アフリカが!」

 

「あの我々やユーロピアを見下している東アフリカ国家代行議会議長ジョン・ウリエル・ド・ムガベが我々の言葉など聞くとでも思ってるのか! 木偶と罵られて追い返されるだけだ!」

 

「ではどうすればいいのだ?! あの大軍勢。中東攻略の為もあろうがその先を見据えたものぞ!」

 

(……)

 

 恐慌し、ののしり合う同胞たち、宮廷会議は沸騰する。この場に天子様がおわせでなくて良かった。

 

 しかし、むべなるかな。中東はまだ彼方とは言え、ジルクスタンと共に中東を押さえられると、悪辣なる南天諸国と地続きとなってしまうのだ。

 

 ましてや中東攻略兵の戦力数は30,000,000という信じられない大軍。噂では後続に20,000,000の大軍勢を組織し始めているという。それが真実ならば目的は一つ。

 

「我が国だ……我が国その物か、我が国の何かか」

 

 皆、ひしひしとそれを感じ取っていたがここにきて感情が爆発した。

 

 南天は自国の教義を押し付けるという。天子様は神の名の下に排除されてしまうか、或いは天子様が「全天に美しき世界の実現を」と叫ぶ日が来るかもしれない。

 

 それを拒めば『浄化』という措置が待っている。すなわち死刑だ。彼らは教義を受け入れない者を悉く浄化してきた。

 

 ならばいい。それならばいい。最後の最後まで抵抗し、浄化されてやろうではないか。そして必ずや天子様だけはお救いして見せる。

 

「そ、そうだ日本へっ、大日本帝国へ使者を送れば……!」

 

「貴公忘れたか。大日本帝国とは旧敵国同士、そう簡単にいくとは……」

 

 会議室が静まり返る。確かに大日本帝国。『技術の日本』ならば『数の南天』にも対抗できよう。世界を北側と南側で二分する北側の雄の一国なのだ。超大国・大日本帝国ならば。

 

 だが忘れてはならない歴史の業が日中の間にはあった。100年前。中華連邦は日本へ侵略したのだ。結果としては自国が叩き潰されてしまった訳だが、旧敵国同士な事には違いない。

 

 国家開闢以来の危機だから助けてくれ! そんな都合のいい話が通るはずがないのだ。

 

「星刻よ貴公はどう見る。現在の日本と中華の関係を」

 

 六か国協議に参加し、日本とも多少は触れ合った星刻に、洪古が話を振った。考え込んでいた星刻は顔を上げる。

 

「正直に言えば手ごたえはあった、吉田大使と二人で話もしたが中華許すまじという空気は少なくとも感じなかった。ただ問題はかの国の国民の方であろう」

 

「国民感情か」

 

 厄介な物である、一度嫌わばとことんその国の人間を嫌ってしまう。かの国の高麗嫌い・宦官嫌いなどは有名だ。

 

 今は家族仲と呼んでも良い程に、二度とは離れられぬ程くっついる日本とブリタニアも、80年ほど前の大戦争時はその20年を前後して険悪な間柄となって居た。

 

 事を重く見た当時の日本側は嶋田伯。ブリタニア側はクルシェフスキー侯が声を上げ、現日本の上皇陛下と、先代のブリタニア皇帝の直接会談にまで繋げたのだ。なお、上皇陛下も血の紋章より逃れえた先代皇帝も、かの国々では恐るべきことに人生150年となり、現在でもピンピンしているらしい。

 

 話を戻すと、結局は日本の国民感情をどうするかだろう。一般の日本人からしてみれば『親族たるブリタニア人の為ならともかく、なんで赤の他人の中華連邦の奴らの為に我々が血を流さなければならないんだ?』である。

 

「ここを抑えることが出来るのであれば、あるいは。大日本帝国を味方にできる、か」

 

 洪古の言葉に場が色めき立つ。

 

「日本が味方に付けば何とかなる」

 

「日本が味方に付くという事は同時にブリタニアも味方に」

 

 色めき立つ者たちを前に、それでも星刻と洪古は真剣であり、こわばった表情を崩さない。

 

 それは、いい。頼もしい味方だ。ただし、分かっているのだろうか。下手をすれば北側と南側の全面戦争になるのだぞ。

 

 彼の三勢力がどのような秘匿兵器を隠し持っているか。KMFですら我が国に無き技術の塊であった。技術力で間違いなく我が国と10年以上は20年は軽く開いているかの国々が持つ秘匿兵器。

 

 その恐ろしい物が解き放たれた時。

 

「世界はどうなってしまうのか……洪古」

 

 今や星刻の側近である彼へと指示を出す。

 

「まずはジルクスタンに連絡を取るか」

 

「ああ、南天に対抗して歩調を合わせ戦う国は、まずはかの国だからな。南天の狙いが何なのか。未だ良く分からないというのもある。なぜ侵略を始めるのか?その目的と意味とは?」

 

 日本ならば何か知っているかもしれん。

 

 大日本帝国、神聖ブリタニア帝国、かの二国は世界最古の国。

 

 南天の目的も知っているやも。

 

「それを教えてくれるとは思えんがな──おそらくはかの二国にとっても秘匿すべき事柄だろうから」

 

 いずれにせよ、南天条約機構軍は向かってくる。こうしている間にも遠くイエメンの地で準備を整えている。否、既に中東への侵略は始まっているとみるべきだろう。

 

 わずかな洗車装甲戦闘車両、中東独自のKMFバミデスでは一日と持つまい。

 

 距離を考えると信じられない。かの南側諸国の狙いがジルクスタンと我が国などと。

 

「海も警戒せよ。南天軍の海軍もまた強大だ。わが国ではとても対抗できぬほどに……既にペルシャ湾には南天の8個空母戦闘群が展開している。これは簡単にインド洋・アラビア海に周ってくる。我が国はすでに南天の侵略を受けている状態だ」

 

 戦えない戦えない戦えない。弱き自分が、弱き我が国が堪らない……。

 

「8個群は最低で追加で倍は来る。しかも南天諸国では空母や鑑定を増産中、数年内に30個群まで強化されるとは……、同じ列強同士と言えども上位列強・超大国とはこれ程の差があるのか」

 

 

 

 吉田茂氏と連絡を取ってみるか。

 

 

 

 

 

「か、会議中に失礼致しますっっ!!」

 

 通信室の衛生兵が飛び込んできた。

 

「何だ騒々しい」

 

 会議に参加していた上級将官の一人が表情を歪めるが、そんな事はすぐに吹き飛んでしまった。

 

「こ、高麗半島近海より飛翔体が発射され、西モンゴル自治区で直径数キロに及ぶ巨大な大火球が発生したとのことですっっ! なお同じ大火球は北京でも発生し被害の全容はつかめておりませんっっ!!」

 

 

 

『な、なんだとっっ!!』

 

「そ、そんな馬鹿なっっ、何かの間違いではないのかっっ」

 

「い、いえ、間違いありませんっっ、西モンゴル軍区西部地域っ、北京付近っ、両地域で飛翔体の来襲と共に大爆発が起きたのを視ている者、多数っっ!」

 

「ばか、なっ」

 

「飛翔体は高麗本土からも発射され、北方のシベリア方向にも向かったとっっ」

 

 

『な、なにが起こっているのだ』

 

 

 落ち着きを取り戻したというよりも、誰もが言葉を失ったという雰囲気であった。

 

「て、天子様っ、天子様をお守りしろっっ!!」

 

 直径数キロの謎の大火球を相手にして何もできなくとも。星刻は、あの気の弱く心優しい天子──蒋麗華の傍に居てやりたかった。

 

 その想いで星刻は走った。

 

 

 

 ※

 

 

 

 サウジアラビアの王宮に大勢の足音が響き渡る。

 

 戦闘機の音。VTOLの音。戦車の音も。全てサウジ軍の物では無い。

 

 南天の、悪魔共の足音だ。

 

‟探せっ、探せッ、国王の遺児はいないか探せッ、教化に応じなかったサウジの王室は根絶やしにせよッ”

 

 玉座に崩れ落ちたままのラシード国王はもう口を開かない。

 

 全身に穴を開けて血を吹き出し事切れているからだ。

 

 南天条約機構軍サウジ王宮攻略司令官を前に、彼は言ったのだ。

 

 浄化か。

 

 教化か。

 

 サウジ国王は大勢の兵士達を喪い、側近すらも戦場に散ったと訊いたサウジアラビアの偉大にして愚かな国王は嗤いながら告げたのだ。

 

『浄化も教化も無いっ! 我々は砂漠の民として自由に生きるのだっ!! 去るが言いっ、南の天より降り立ちし悪魔共よっっ!!』

 

 瞬間。

 

 

“ズガガガガガッッッ!!”

 

 

 四方八方からの銃撃に彼の身体はマリオネットのように踊り。銃撃の終わりと共に玉座に崩れ落ちたのだ。

 

 

 トゥルキー・ラシード。

 

 

 南天の魔の手に最後まで屈しなかった彼を知る者はこう言う。

 

 隠れ顰その最後を見ていた、聞いていた民たちは称える

 

 

“愚かにして偉大なる我らが国王陛下”

 

 

 と。

 

 

 

 

 

 南天条約機構

 

 第4世代KMFレイス。名前は幽霊の意味。独自開発された南天のKMFで性能はグラスゴーや無頼に相当し、全高などもほぼ同じである。

 

 正規KMFであるため第5世代KMFジェンシーよりも高い戦闘力を誇る。現在は第5世代機と第7世代機に置き換わっていっているために二線級の兵器である。

 

 

 

 第5世代KMFレブナント。再び蘇ってきた者という意味(フランス語)ゾンビの亜種。

 

 南天のKMFでレイスから得た研究データをもとに開発された。開発期間は叡智のギアス。フルカネルリ機関の本格的な採用と改良を得てレイスとは比べ物にならない戦闘力を得る。

 

 この機体も第5世代ハイクラスと第7世代機の量産が始まった事で旧式化されているが、正規KMFを持たない中東諸国、中華連邦相手ならばこれで十分という考えのもと編成された。

 

 

 

 イラク社会主義共和国、ユスフ・サルマン・ユスフ書記長。

 

 共産イラクの現共産党書記長にして独裁者。

 

 拡大主義者で過去にヨルダン・サウジアラビアを相手に中東戦争を起こし戦勝国となっている。

 

 その後南側諸国と接触、南天条約機構に加盟オブザーバー。この戦役後は正式加盟の予定。

 

 ユスフ書記長の南天としてのステージはドミニオン。

 

 隣国の小国クウェートも欲しいが日ブの衛星国の為に手が出せない。なおクウェートにはアルガトロ混成騎士団が常駐している。指揮官はアルベルト・ボッシでクウェート在中の日ブ混成軍の事実上の司令官。

 

 

 

 トゥルキー・ラシードサウジアラビア国王

 

 サウジ版のバカ男爵。一人っ子だったために前国王・王妃が甘やかせて育てたため、成人する頃になっても政治学の基礎も習っていなかった。

 

 大日本帝国を極東の島国と侮るなど言動の端々に、政治的倫理のなさが現れている。

 

 彼が国王では早晩サウジ王家は革命で倒れていた可能性もある。

 

 日本に助けを求められない、家族と称されるほど日本と硬い盟友であるブリタニアに助けを求められない直接的原因を作った張本人。

 

 

 

 ジェネラル

 

 南天条約機構及び南天での最高ステージ第零階位に君臨する一人。階級名でもあり通称もジェネラル。

 

 本来は一人或いは少人数で行動する人物で、軍の司令官はあまりやることはない。

 

 

 

 

 大火球

 

 

 もうお分かりかと、ニュークリアパワードがヒントにして答えです。

 

 とうとう炸裂しました。そしてシベリア戦争も中東侵攻と共に同時開戦です。

 

 といっても残敵処理状態になるかもしれません。

 

 この後、日本側でお話はさかのぼりますが。

 

 驚愕するのは夢幻会の一部、高亥も含めた大宦官。

 

「見よ!私の力を!」のセリフは某国大統領です。

 

 中華連邦首都は原作通り洛陽なので天子もその他の名有りキャラも無事ですが

 

 西モンゴル軍区の頭部と、北京は地獄になっているかと。無論シベリアのユーロユニバース兵も一気に消し飛ばされて半減しているでしょう。

 

 

 

 



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飛行服=パイロットスーツ(グラウサム・ヴァルキリエ)
飛行服=パイロットスーツ(グラウサム・ヴァルキリエ)


 

 

 

 飛行服

 

 

 

 

 

 

「いっく~ん!」

 

 強襲揚陸艦紀伊。日本が誇る最大級の揚陸艦の艦上を、紫色と黒で縁取られた際どい衣装の飛行服を着た女が一人は走ってくる。

 

 走ってきては飛びついて。

 

「うおっ、こ、こらやめんかリーライナ・ヴェルガモン卿っ、」

 

 腰まで届く少しウェーブの掛かった長いまっすぐな金髪を風にさわめかせながら、勢い余って揺らせ、件の女性は俺に遠慮することなく飛び付き、足の間に足を差し入れ、四肢を絡みつかせるように抱き着いてきたのだ。

 

「ば、場所を考えろ、此処は紀伊の艦上のど真ん中なのだぞ? 軍艦の上だぞ不謹慎にも程があるっっ!」

 

 数多くのVTOL、数多くの単距離離着陸戦闘機、その整備要員で一杯な艦上では確かに目立たないかもしれない。

 

 だがそれはそれだ。帝国海軍軍人たるもの。この様な場所でこんな破廉恥な格好をした女人と……。

 

「ま~たハレンチだとか考えてるでしょう? このパイロットスーツこそがグラウサム・ヴァルキリエ隊としての私の制服なのよ」

 

 リーライナにはお見通しだったか。伊達に付き合いも長くないというところか。

 

「ブリタニアの飛行服が破廉恥すぎなのだ。なぜそんな破廉恥な飛行服を採用しているのかさっぱりわからん」

 

「あ~、それ他国への内政干渉なんですけど~」

 

 言いながらリーライナはひしっと抱き着いてくる。彼女の愛情表現だ。親しくなってからよく分かったが、親しい者の腕にはしがみついたりする彼女は、愛する者には全身を以て抱き着くのだ。

 

 場所も時も基本は気にせず、愛する相手に愛を伝えたいといういじらしい気持ちと、愛する相手への独占欲。山本五十六はヴェルガモン伯爵家嫡子リーライナ・ヴェルガモンだけの物という意思表示。

 

 愛されて嬉しいから良いのか。愛が故にいつでも何処でもという事が果たして良い物なのか見当が付かない。おまけに彼女はお嬢様。限りなく辺境伯に近い上位伯爵家のご令嬢。対応に困る。

 

 ううむ、だがこれはいかがした物か。程よくを超えた大きな胸部。透き通った肌をした手足。金色の長い髪が俺の肌をくすぐってきて、距離が近すぎるんだが。

 

「この飛行服は確かに際どいけれども、その分動きやすくて咄嗟の対応にも付いていけますのよ? それに丈夫で耐衝撃にも強く出来ておりますわ」

 

 う~む出た、唐突なお嬢様言葉。淑やかで礼儀正しいヴェルガモン伯爵家の次期当主としてのふさわしい在り方だが、俺とリーライナの間では少々堅苦しく感じてしまう。

 

 基本、彼女はこのお嬢様言葉、丁寧な言葉が通常なのだ。余程心を許した相手か、心に決めた人にだけのみタメ口などと言う彼女からすれば下品に過ぎるだろう言葉を使う。

 

 これは教導学校時代のルームメイトが平民達だったことが影響しているらしい。貴族の学校に平民を入れるようになったのは日本を手本にしたとか言っていたな。

 

 日本の、大日本帝国の軍事技術は常に神聖ブリタニア帝国の半歩先を行き、南天の1.5歩先を行く。常に最先端、其処に学びを見出し取り入れた。故に昨今のブリタニアの貴族のお嬢様やお貴族様にも平民の文物が逸っていたりもするらしい。

 

 しかしまあそのお嬢様言葉をリーライナに使われると妙な距離感を感じるとでも言おうか。俺としては普段のリーライナの方が好きだな。

 

「その格好で、その破廉恥な飛行服で丁寧語だと妙に感じるのだがな」

 

「あら、わたくしはヴェルガモン家次期当主の身、どこであろうと行儀礼節全般心得ているつもりですわ山本伯爵閣下」

 

 ひしっと抱き着かれている。距離感はゼロ。髪は俺の胸元に触れて、両手足は俺の体に巻き付かせ、丁度抱き合う格好でそう言うリーライナ。

 

「リーライナ……リーラ、困らせるのはやめてくれ」

 

 俺と彼女の間で妙な壁を作ってほしくはない。ありのままが一番いい。いつか食事会をする約束をしていたが、その時もこれだと俺の方が耐えられなくなりそうだ。

 

 愛しているが故にリーライナ・ヴェルガモンという女には、俺に自然であって欲しい。お嬢様な彼女も自然なのだろうが、俺に対しては俺に対しての接し方で。

 

「ん~~、じゃあ、いっくん」

 

 結局することは同じ。飛行甲板のど真ん中で抱きしめあう格好だ。

 

 ああ、だが俺とリーラにはこういう人目も気にしない方が似合っているのかもしれん。

 

 飛行甲板の向こう側には演習用で使っていたリーライナ搭乗機のヴィンセント・カスタムが羽を休めている。

 

 エナジーウィング機である彼の機体も、破廉恥な飛行服を着たリーライナに乗り回されて疲れているのかもしれんな。

 

「あ、いっくんまた失礼なこと考えてる」

 

「鋭すぎるぞお前」

 

「こういう飛行服はラウンズの方々も着ていらっしゃるんだから外交的に非礼よ?」

 

「ああ、確かに嶋田のところに滞在していらっしゃるモニカ・クルシェフスキー卿も際どく破廉恥な飛行服を着てらっしゃったな、非礼と言わば非礼に当たるか」

 

 そういうと、今度は全身でリーライナが抱き着いてきた。いやちょっとまて、お前の飛行服でそんな密着されたら柔らかい胸が、太ももが、長い髪がさらさらくすぐってきて。

 

「クルシェフスキー卿はラウンズ、ナトオブトゥエルヴです。ですがわたくしも神聖ブリタニア帝国ウィスコンシンの地を収める大貴族ヴェルガモン伯爵家の次期当主ですわ。そのわたくしを前に非礼ではなくて?」

 

 う、う~む、確かにヴェルガモン伯爵家次期当主。それも俺が婿入りをする相手、非礼な応対と言われれば非礼に過ぎたかもしれん。

 

「す、すまないリーライナ嬢、親しき中にも礼儀ありだな。非礼を詫びる。飛行服云々の事は忘れてくれ」

 

「う、うう、な、なによそんな素直に謝られたら私が悪いみたいじゃない! も、もういいわよ! その代わり──」

 

「その代わり?」

 

「もっと強く私のことを抱きしめて。人目とか気にせずに、口づけも……して?」

 

 難しい注文だった。甲板の上でいつまで睦あっているんだという視線もある中。

 

 俺は注文にこたえるべく、リーライナを抱きしめ、彼女の風になびく長い金髪に五指を通して撫で梳きながら毛先へ向かい指を通していく。

 

 リーライナの髪は柔らかい絹のように艶のある長い髪だ。嶋田がクルシェフスキー卿の長い髪をなでるときも似たような手触りと感覚を味わっているのだろうか。

 

 俺は次いで破廉恥な飛行服に身を包むリーライナを抱きしめながら、そっと接吻を交わした。

 

 

 瞬間、ひゅーひゅーと鳴る口笛と。山本長官。我らのリーライナ様をよくもオオ、アドミラル・ヤマモトオオと恨み言のような声が聞こえたが、眼前の美しい女性の前ではすべてがどうでも良かったのだ。

 

 リーライナ・ヴェルガモンという女に一方的な恋心や好意を持つ者は多い。見目麗しい美女だからな。なぜ俺のような壮年の男がリーライナという美女と結ばれたのか。時折自分でも自問自答してしまう事がある。

 

 こんな年若く美しい女を俺の物にしてしまって良いのか? そんな俺に彼女は肌を重ねて愛し合うという男と女の極地を以て応えた。彼女がそうなるよう誘導した。

 

『あなたがわたくしを欲しいのではありませんわ。わたくしがあなたを欲しいのです』

 

 そうやって一昼夜肌を合わせた。幾度も彼女の中で達し、幾度も行為を繰り返し、愛と愛とを重ね合わせて交配させたのはもうそれなりに前だったような。それともついこの間のような。以来、毎夜のように肌を重ねるようになった。

 

 毎夜、毎夜、幾度も、幾度も、子供が出来てしまうぞと注意を入れても彼女は聞かず、避妊もしないで一昼夜。理由は単純だった。子供が出来ても良いように彼女に先手を打たれていたのである。

 

 なんと、彼女は実家であるヴェルガモン伯爵家に、『わたくしの婚約者となる、生涯の伴侶とすべき男性を見つけましたの』と連絡していたのだ。ヴェルガモン伯爵もさぞ驚いたことだろう。

 

 外堀を埋めるどころかリーライナは本丸を一気攻めにして落としてしまおうというのだから。そんな事は不可能仮にもブリタニア帝国の上位貴族である伯爵家の中でも、更に最上位に位置し、ほぼ辺境伯家であるヴェルガモン伯爵家の城がそんな簡単に落とせるわけ。

 

 そう考えていた俺に、彼女は強烈な一撃を食らわせてきた。

 

『お相手は大日本帝国元海軍大臣兼国防相のイソロク・ヤマモト閣下で御座いますわ』

 

 俺の素性を丸裸にして伝えたのだ。これはとんでもない。外交問題に発展する。日本の元大臣とブリタニアの伯爵令嬢しかもウィスコンシン一帯を領地にする大貴族であるヴェルガモン伯爵令嬢が――――。

 

 が、『よくやったっっ!大金星だぞ我が娘よっっ!!』当のヴェルガモン伯爵が大金星だと、超の付く大金星だと宣い。ブリタニアの政財界・社交界も

 

『あのヤマモト閣下を我がブリタニアに婿入りさせるとは!』

 

『さすがはヴェルガモン伯爵閣下だっ!!』

 

 と大盛り上がりで大歓迎ムード。我が日本の皇室とブリタニアの皇室までが出ばり、信じられないことに上皇陛下より『誠に良き縁談、山本、大義である』と仰せに。お言葉を賜るという。俺に取っても信じられない事態に発展してしまった。

 

 リーライナにどうなってるんだこれはと尋ねたところ『根回しは済んでおりますの』と、あっけらかんと言う始末。神聖ブリタニア帝国でも重要度も地位も高い我がヴェルガモン家息女が、日本元大臣イソロク・ヤマモトと婚姻を結ぶ。この意味が分からないあなたではないでしょうと事実のみを突きつけられた。

 

 ヴェルガモン伯爵家が動く。それはつまるところブリタニア帝国の総意が動くと同義。山本五十六がヴェルガモン家息女を抱いた。それは日本側にとってもけして断れない理由が出来ると共に、ヴェルガモン伯爵家を含むヴェルガモン経済圏がまるごと懐に入り込む事を意味し、上皇陛下も色々な面で誠に喜ばしいとの言葉を紡ぐに値する事柄であったのだ。

 

 日本の政財界も。

 

『なんか知らんうちに山本閣下がやらかしてヴェルガモン経済圏が手に入った!!』

 

 と盛況に湧いた。

 

 リーライナと抱き合ったあの日に全てが決まってしまい、今更無かったことには出来なくなっていたのだ。

 

 それにこの縁談は大日本帝国と神聖ブリタニア帝国の家族の証として裏の業界では駆け巡り、この後の嶋田の騒動と南雲の騒動、スザク君や玉城君の騒動やらと併せてその一角に数えられることとなる。

 

 まさかリーライナはここまで想定して愛し合ってくれたのだろうか? 抱き合い、達する中、そんな計算をしていたのだろうか? もしそうだったなら、俺は少しばかり悲しい。

 

 あの時、俺とリーライナは、お互いだけを見て、お互いだけを想って、お互いだけを愛し合っていた、と、そう思っていたからだ。

 

 ああ、リーライナ。リーライナ・ヴェルガモン。俺の山本五十六の愛する女よ。お前は、何を思い俺を受け入れ、俺を受け止め、子供を作ろうとしてくれているんだ。

 

「……」

 

「いっくん……?」

 

 少し彼女の目を真剣に見つめ、彼女の考えを図ろうとした俺を。彼女は純粋で曇りの無いエメラルドグリーンの瞳を潤ませながら、俺を目を見つめていた。

 

「ふっ、いや」

 

 なにを馬鹿な。リーライナを、リーライナ・ヴェルガモンという女を、この世で一番理解しているのは彼女の御両親でも、彼女の友人のマリーカ嬢ですらない。この俺自身では無いか。

 

 その俺が彼女を信用しないでどうする。誰が信用する。俺とリーライナが初めて抱き合ったあの日、一昼夜を愛し合ったあの日、俺と彼女は、ただ純粋に惚れ合った男女として。男と女として想い合い、愛を嗣ぐんだのだ。何度も、何度も、いつまでも。愛しているからこそ肌と肌を合わせ、身体を一つに重ね合っていたんじゃ無いか。全く、それを今更疑うなどと。俺はどうかしているな。

 

 長い時間だ。もう何十年と、何百年と俺とリーライナは一緒に居るようだ。愛という感情が、時間の感覚を狂わせているんだろう。それでいいと思う。少なくとも来世でも俺はリーライナと愛し合いたいからな。来世でも、再来世でも、ずっと果ての無い時間を。

 

 リーライナと時を過ごす。それは俺を桃源郷へと導き、時の流れを望郷の彼方へと押しやってしまう。こうしている今も、甲板で抱き合ってどれほど経ったか分からないのだから。

 

 リーライナを見る胸部から腹部に掛けて大きく肌が露出し、へそさえ見えている。首、胸部、腹部周りと袖まである長い手袋が紫色を基調とし、後ろに広がるスカート部とブーツ、背中に片部が黒を基調としている。太股は大きく開き、所謂ハイレグスーツと呼ばれる物だろう。

 

 左前髪に付けている部隊章を模っているのだろう橙色の髪飾りだけが唯一まともな装備にも。

 

 本当に以ってあられもない飛行服だ。帝国陸海空軍では絶対に採用されんぞ……。

 

 ま、なんだ、一応個人的な感想としては破廉恥な見方をしないで見れば美しい。とても、美しい。

 

 見目麗しくスタイルも抜群な美しいリーライナには、その、とてもよく似合っているのだがな……。

 

「リーライナ、お前は美しいな……」

 

「え?い、いっくん?」

 

 リーライナを抱き締める。そのハイレグスーツのような飛行服に身を包んだ彼女を、真正面から抱き締める。

 

「リーラ……お前は美しい」

 

「いっ、く、ん……」

 

 飛行服の胸元。大きな胸の二房が、俺の胸板に、衣服越しにだが押しつぶされている。柔らかくて気持ちが良い。

 

 脚を絡ませてみる倒れないようにと彼女の身体を支えながら。

 

 リーライナの長い金色の美しい髪が流れ、宙を舞い、彼女の背から離れて宙で揺れ、太陽の光を受けて煌めく。

 

 身体こそ抱き締めているが、舞踏会での女性側が背を後ろに反らせて停止している格好に近い。

 

「俺のリーライナ……愛している……」

 

 いかんな、自分でも変だ紀伊の、強襲揚陸艦の甲板のど真ん中で女を、美女を抱き締め、愛を囁くなど。

 

 そのままの姿勢でもう一度彼女を引き寄せ、今度は普通に立ったまま彼女を抱き締める。

 

 普通の姿勢に戻ったことで宙に浮かんでいた長い髪は彼女の背中に戻る。その長い髪を俺は彼女の首からそっと後ろへと梳き通し、腰下まで抜けさせていく。指をしっかりと絡めて、彼女の髪の手触りを楽しみながら。

 

「リーライナの金色の長い髪が、陽の光に照らされて輝き煌めいて……とても綺麗だぞ。美しい」

 

 よくよく見れば、確かにハイレグスーツは破廉恥であったが、リーライナの“美”を十全に発揮させる洋服でもあった。

 

 うん、美しい……お前は美しいぞリーライナ。

 

「ふふっ、女が髪を触らせる相手って、その相手を愛しているからなのよ……いっくん、五十六様………リーライナは、わたくしは、あなた様を愛しておりますわ――」

 

 静かに髪を触らせてくれているリーライナは、慣れ親しんでいるのであろう言葉遣い。お嬢様言葉へと戻り、愛を伝えてくれて。

 

 俺の唇をそっと静かに塞いだ。

 

「んっ――」

 

 接吻をしながら坊主頭を触られる。

 

 髪も無いのに坊主頭を彼女が触るのは、俺への愛の証だ。好きなのだというこの坊主頭が。

 

 俺がリーライナの金色の長い髪が好きなように、撫でて梳いて、指を絡ませているように。

 

 リーライナも、俺の坊主頭を撫で、摩り、いじり回す。

 

 髪と頭同士への愛撫一つだけでよく分かる、俺が、彼女が、どれだけお互いを想い、愛し合っているのかを。

 

 

 強襲揚陸艦紀伊の甲板で散々なまでに健全な愛を交わし合った、俺とリーライナ・ヴェルガモンは。

 

 

「発注機訓練の邪魔ですっ! 山本閣下っ! ヴェルガモン卿っ! ヴェルガモン卿もさっさとヴィンセント・カスタムを二番エレベータに載せて下さいっっ!!」

 

 

 怒る甲板員に二人してその場を追い出された。

 

 



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小ネタ集
サクラの不幸な一日


966 :サクラの不幸な一日:2013/11/30(土) 23:19:59
提督たちの憂鬱のキャラがギアス並行世界(オリジナルギアス世界)に転生。
モニカルート。
嶋田さんとモニカの結婚後。
短編ネタ。
子供達の話。
オリジナルキャラのみの話。
213氏のネタである『鏡じゃないよ』のお話しを前提とさせて頂いております。
ご使用がNGで御座いましたら後々削除依頼を出させて頂き、内容を変えての再投稿をさせて頂きます。

967 :サクラの不幸な一日:2013/11/30(土) 23:21:00



 

 

 

 サクラの不幸な一日

 

 

 

 

 

 生物には親から子・孫に、また細胞を単位とみてその次の世代に身体の形や肌の色など、個々に持つ特徴が伝わっていく遺伝と名付けられた現象を起こす機能が備わっている。

 

 それは容姿であったり髪質であったり性格であったり、時には癌などの重い病気となりやすい体質までと様々だが、良くも悪くも二親の特徴を受け継ぐ形でこの世に生を受けるのだ。

 

 そうやって生まれてきた子は成長と共に二親のどちらかと似通ってくるものなのだが、極々希に、完全に同じ、正に生き写しとしか言えない姿形となっていくことがある。

 

 瓜二つとなるのが特徴の一卵性双生児などは一つの受精卵から分たれることで遺伝子血液型などまったく同じになり、背格好・容姿共に僅かに差が出たとしてもほぼ鏡写しとなることで知られていたが、親と子の間でそこまで似通うというのは滅多にない。

 

 しかし、滅多にないというだけであって絶対にないという訳ではなかった。

 

 100億に迫る人口飽和の時代にあって、双子以外で瓜二つとならないというのは、逆にその方が可能性としては薄くなるものではないだろうか。

 

 100億通りの容姿がある、というのは考えようによっては非現実的とも言える。

 

 今はまだ100億だが、遥か未来に於いては1000億、兆、京、最終的には無量大数へと達するかもしれない人間全てが違う容姿となれば、これはもう科学では解明できない領域となるのではないか。

 

 尤も、無量大数にまで達する以前に人間という種が絶滅したり、増えすぎたところで本能が調整しようとするかの如く出生率の大幅な低下が始まったりすることも考えられるので、未来というものがどうなるのかは分からないのだが……。

 

 ただ一つ言えることは、100億人の人口しか居ない現時点でも、世界中に瓜二つな人間は複数存在していると確認されている。

 

 時折行われるバラエティ番組のスペシャル枠で、そっくりな人間を集めるという、意味があるのか無いのかよくわからない企画をしているが、そんな番組に出てくるそっくりさんの中には一卵性双生児ではないのかと思われるほどに良く似た人が居たりするのだ。

 

 娯楽のための番組でも探し出せるほどにはそっくりさんというのは多いという話でもあり、他人で探すのではなく、親族内で探せば更に多くのそっくりさんが見つかるのではないかと思う程には存在しているという証拠であろう。

 

 つまりはそっくりさん、自分と瓜二つな人間は存在しているのが当たり前のことであり、何ら不思議な話ではないのだが、似ている相手によっては嫌な思いをする事もあれば変な期待をされてしまい、期待に添う結果が伴わなければ陰口を叩かれたりして嫌な思いをする事とてある。

 

 そして今、日本とブリタニアのそれぞれにある実家の内、母方の実家であり祖父と祖母の家でもある神聖ブリタニア帝国クルシェフスキー侯爵領領主のお屋敷で、そのしがらみが絶えないそっくりさんの一人は自室に備え付けられている大きな姿見に写る自分の姿を見て深い溜息を吐いていた。

 

「はァ……」

 

 溜息を吐くと幸せが逃げていく。ジンクス・言い伝えの類であるその言葉は良く知っていたが、今は溜息の一つも吐きたい気分なのだ。

 

 その原因というのは往々にして鏡に映る自分の姿にあった。

 

 目の上、眉が隠れるくらいの位置で切り揃えられた前髪。

 

 少し幼げな印象も受けるしとやかな風貌。空の色を思わせる碧く澄んだ瞳。

 

 腰の位置よりも更に下、臀部に掛かる長さがある癖のない真っ直ぐな金色の髪。

 

 寸分違うことなく憧れのあの人と同じ容姿。それ故に比べられてしまうあの人と自分。

 

 あの人と自分は違うというのに周りが勝手に期待しては失望していく。

 

 士官学校へと進んだばかりのときもそう。やれ『戦女神の再来』だ。やれ『次期ラウンズ候補筆頭間違いなし』だとか煽っておいて、実力があの人には遠く及ばないと知ると『まがい物か』『どうせ親の七光り』など、心に棘となって突き刺さる言葉を囁いてくる。

 

 一度、あまりにあの人と比べられてストレスの限界から持ち出したハサミで髪をばっさり切ってしまおうとしたことさえあった。

 

 自分で伸ばした髪。あの人を尊敬し憧れているから、強く美しいあの人みたいになりたいと伸ばしていた髪。それを切ってしまえば、あの人と比較される事もなくなるのではないかと。

 

 所詮、髪など切ったところでまったく同じ容姿である以上意味が無いというのに。

 

 そんな子供でも分かりそうな事にさえ気が付かないほど精神的に追い詰められていた。

 

 968 :サクラの不幸な一日:2013/11/30(土) 23:21:38

 

 

 

 あの時、逃げる方向に向かわなかったのは、厳しい母と対になるような優しい父が居たからだ。

 

 偶然にも自分の様子を見ていた父が『危ないから髪を切るなら美容院に行きなさい』と止めようとしたのか、背中を押そうとしたのか、よくわからない感じの言葉を掛けてきたのだ。

 

 あの人が厳しいからか、父の前ではつい弱音を吐いてしまう自分は、周りがあの人と自分を比較する。自分はあの人じゃないのにどうして比べられないといけないのかと、当時既に16であったのにも拘わらず、まるで駄々っ子のように父に泣きついていた。

 

 すると父は──『周りにどう思われようといいじゃないか。周りから評価されるためにあの大きすぎる背中を追ったのか?』

 

 そう言って、自分が選んだ道で、その結果の今ならば、それでいいじゃないかと励ましてくれた。

 

 あの人の教育方針や自分が進もうとする道について何も言わない父は、一つだけいつも同じ事を言っていた。

 

 自分らしく生きてくれたらそれでいい。周りの評価を気にするな。クルシェフスキーでも嶋田でもなく『サクラ』としての人生を歩めと。

 

 改めて同じ言葉を父から貰った自分は、手にしていたハサミを取り落として、父に縋り付き泣いた。

 

 いつも『サクラ』を見てくれている人が居る。

 

 こんなにも優しくて温かい父が居てくれる。

 

 父は決してあの人と自分を比べたりなんかしない。

 

 考えてみたら父も妹も弟も。そしてあの人も。

 

 誰一人自分の家族は自分と誰かを比べたことはなかった。

 

 あの人はよく怒る厳しくて怖い人だけど、一度たりとも自分と同じ様になれと言ったことはない。

 

 クルシェフスキーの名を背負う者としての教育。

 

 それ以外ではいつもただの『サクラ』を見てくれていた。

 

 ずっとずっと思い詰めて、溜まっていたストレスと周りの声を気にしすぎていたせいで、いつも自分を見てくれていた家族の存在すら、あの時の自分には『比べようとする者達』に見えていたのかも知れない。

 

 その後は暫くの間父に縋り付いたまま甘えていた。16にもなってみっともないと思いはしたけど、父の傍はとても安心できるから。

 

 あの人が父の騎士となり護ろうとしたこの温もりは、娘である自分の物でもあるような、自分も包まれていて良いような気がしたから。

 

 だからつい、自分も妹も弟も。家族ですらやらない『補給』という行為を父に対して行ってしまったのだが──―やっている最中に帰ってきたあの人に酷い目に合わされてしまった。

 

 969 :サクラの不幸な一日:2013/11/30(土) 23:22:22

 

 

 

『姉さま、補給をして良いのは母さまだけなんだよ』

 

 あの人に折檻されて寝込んでしまった自分を心配して、側に居てくれた妹に諭されてしまうという、ちょっと格好が付かない思い出まで付いてきたのは、あの人が抱く父への愛情の深さを見誤っていた自分の落ち度だと思う。

 

 相手が誰であれ、あの人に許可無くあの人以外の女が、父に対し『補給』を求めるのだけは許さないというのを失念していた。

 

 小さい頃なら許してくれたのに、成長するにつれて許されなくなっていったのを考えると、例え家族であっても嫉妬するということなのだろうか? 

 

 未だ恋をしたことがないこの身では理解する術がなく、分っているのはあの人のタブーは父に関する全てで、父のことをとても深く愛しているのだという事だけだ。

 

 あの人が父に関して嫉妬深く独占欲が強いのは知っているけれど、それほどまでにあの人から想われている父は、戦女神とさえ称されるあの人よりもっと凄い人で、俗に言う『いいおとこ』なのかも知れない。

 

 でも、誰かに理想のタイプは? なんて聞かれて父の名をあげようものなら、本当に殺されてしまいかねないから気を付けないと……。

 

 

 

 そんな自分は、あの日を境に周りの目と評価を一切気にしなくなった。

 

 気にするべきは家族の眼差しと暖かさ。そしてあの人との距離。

 

 それに、あの日を境に更に厳しくなったあの人の教育の前には、くだらない声などで悩んでいる暇など一切無かった。

 

『私と比較されるというのなら、比較しようと考える者達こそが疎かなのであると言うことを教えてあげましょう』

 

 一度だけそう言った母は、自身が持つ権力を行使してボワルセル士官学校から自分を一時呼び戻して、次期皇帝となる第一皇位継承者に科せられるかの如く厳しい帝王学と修練を科してきた。

 

 一度終わったクルシェフスキー侯爵領後継者教育を短期間の内にやり直させるという、無茶苦茶な教育プログラムを組まれてこの世の地獄を味わった。

 

 すると、今までまがい物、七光り、そう言って蔑んでいた人達の声が『頑張れ』『逃げられるなら逃げろ』と激励の言葉へと変わっていった。

 

 その声は嬉しくて頼ったり甘えたりしそうになるものであった。だけど……もう自分は逃げない。逃げようとは思わない。

 

 どんなに辛く厳しい修練であったとしても、あの人は『私』を見てくれているから。家族はいつも『私』を見てくれているから。

 

 だから私は耐え抜き、打ち勝ち、そしていつの日かあの人の──

 

 

 

 “偉大なる我が母、モニカ・S・クルシェフスキーの背中に追いつき追い越してみせる”

 

 970 :サクラの不幸な一日:2013/11/30(土) 23:23:03

 

 

 

「はァ……」

 

 少し前の事、いい思い出という物を思い出していても吐いてしまう溜息を止めることが出来ない。

 

 思い出に逃げるのもまた現実逃避という物なのであろうか? もしそうなら、それを現実逃避の定義に含めた人を嫌いになる自信があった。

 

「……本当に……そっくりですね」

 

 改めて姿見の自分を目にした私は思った。そう、全ては……。全てはあの人とそっくりな自分が問題なのだ。

 

 どうやったらここまで、小さい頃に見たアニメに登場するコピー人間のように瓜二つとなってしまうのか? 

 

 優しい父の遺伝子はどこへ消えたのだろうと考えれば思い当たったのが苦労を背負い込む体質。厄介事に巻き込まれてしまう巻き込まれ体質。厄介事を持ってくる人が近くにいるという環境。

 

「遺伝とか関係ありませんし」

 

 ああ、身内に甘くしてしまう性格なのかも。

 

「……17時」

 

 2時間で帰ってくると言ったあの子がそろそろ帰宅する時間。

 

 私と同じ様に母の命を受けた家臣が今頃手ぐすね引いて待ち構えているとは露知らない弟は、発売されたばかりの新作ゲームソフト片手にほくほく笑顔で帰ってくるに違いない。

 

 せめてあの子は逃がしてあげたいと考えたけれど、その後が怖くて行動不能。

 

「携帯電話も取り上げられてしまいましたし」

 

 せめて妹が、忍が居れば──。

 

「…………いいえ逃げますね……あの子も」

 

 あの子は危機回避と察知力、所謂感というものが人並み外れているから、何となく空気を察して私や弟に近寄ろうともしないだろう。

 

 家で母を恐れていないのはクルシェフスキーの祖父母と。それに父だけ。

 

 妹も弟も、当然私もみんな母が怖い。本当に何もないプライベートな時間ではとても優しいけど、一度怒らせてしまうと……弟が良く口にする鬼のようになってしまう。

 

 先ほどから鏡に写った自分の姿を見ながら、怒った母を前にしても平然と居られる自分で居ようと練習していたがダメだった。

 

 幾ら同じ顔でも母の放つ空気や気配と私とでは雲泥の差があり全くの別人だ。そもそも鏡に写っているのはどうやっても自分でしかないのだから空気が違うのは当たり前なのだが、それでも少しはと考えてしまう自分は辺り相当混乱しているのだと思う。

 

 長年クルシェフスキー家と嶋田家に仕えている家臣やメイド、家政婦の中には一目で私と母を区別できる人も居るので、その人間個人が持つ空気や気配というものは早々変えられないという事らしい。

 

 971 :サクラの不幸な一日:2013/11/30(土) 23:23:59

 

 

 

「お母さまがご帰宅なされるまであと……2時間」

 

 2時間。15時頃に出て行った弟が17時までの2時間で帰ってくるなら大丈夫だと思ってしまった自分はなんという愚か者だったのか。

 

 まさか自分が使った『忘れ物を取りに帰ってきた』という嘘が本当になってしまうとは。

 

 母が忘れ物をしていたなどというのは完全に予想外だった。それさえ知っていれば母に成り済まして弟を外に出すなどというバカな事をしたりはしなかったというのに。

 

 今まで何度かやっていたことまで知られてしまったら……。

 

「あの子に手を貸したのは大きな間違いでした……」

 

『サクラ姉さんは母さんとそっくりだから成り済ましも余裕だよね』

 

 つい甘やかせてしまう弟のお願いを聞いてしまったが故に危機的状況に立たされている。

 

 二十歳となり大人であるにも拘わらず、状況判断の甘さが目立つ。

 

 大丈夫かも知れないとはいえ“あの”母を怒らせてしまうリスクを伴った計画に加担した挙げ句、“本当に”忘れ物を取りに帰ってきた“本物の”母にひっ捕まってしまうなんて……。

 

『モニカさま如何なされました?』

 

『忘れ物を取りに帰ってきたらこの子が私と同じリボンを髪に結んでいたので何をしていたのかと問い質したところ、一繁を外に連れ出したと白状した物ですから……。真面目なこの子がよもやこの様なことをしていたとは考えてもみませんでした』

 

『あのう……。お母さま。私はもう大人ですからこの子などと呼ばれる年齢では──“お黙りなさいッ!! ”ひうっ!?』

 

『え? ええッ? あ、あれ? と、申されますと……。モニカさま……。ひ、ひょっとしてさっきのはサクラさまだったのですかっ!?』

 

『あぅぅぅ……』

 

『そういうことです。ということで、私が帰るまでの間この子を一繁と同じ部屋に閉じ込めて置いて下さい。窓から外に出られないよう庭にも2,3人衛兵を貼り付けておきますので』

 

『いッ、Yes, My Lord!!』

 

『さて、サクラ』

 

『ひゃいッ!』

 

『帰ったら一繁共々ゆっくりとお話しを聞かせて頂きますからそのつもりで。それと、万に一つでも逃げ出そうとしたのならば、私の御機嫌はとても宜しくなくなりますのでその辺りはしっかり肝に銘じておきなさい……いいですね?』

 

『あぅぅぅ』

 

 

 

 

 

 

 

「……2時間前の自分に忠告してあげたいものです」

 

 今の時刻は17時。両親祖父母が帰ってくる予定の19時までのこの2時間が、まるで死刑を言い渡された囚人が刑を待つ時間のように感じる。

 

 

 

「こんな事になるのならば私もあの子に付き合ってポートランドに行っていれば良かった……」

 

 

 

 

 

 972 :サクラの不幸な一日:2013/11/30(土) 23:26:30

 

 終わりです。

 

 

 

 皆さんの意見やお話しに「サクラはモニカとそっくりで黒目」というのがあったので、それならばいっそと目の色も含めて全てモニカと同じにしました。

 

 モニカとの相違点としてはリボンを結んでいないの一点のみとなりますが、長年嶋田家やクルシェフスキー家に仕えている人間なら雰囲気の違いで大体区別が付きます。

 

 皆さんの議論やお話しで次女の名前は忍。長男の名前は一繁。というのを多々お見かけ致しましたスレの総意と今更変更するのも何ですから正式に採用させて頂きます。

 

 

 

 基本的に年齢差はサクラと忍の間が2歳差。忍と一繁の間が4歳差。

 

 サクラはクルシェフスキー侯爵家の後継者。忍は嶋田家の後継者。一繁はフリーとさせて頂きます。

 

 異論・御意見が御座いましたら宜しくお願い致します。

 

 最終更新:2013年12月01日 12:24



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枢木総理の悩み

終わり

続いて枢木ゲンブのお話

枢木ゲンブの日常
帝都の休日と同一線
登場人物、政党はフィクションです



 

 

 

 264 :枢木総理の悩み:2013/01/06(日) 22:57:37

 

 帝国議会

 

 大日本帝国の全ての政を司る議会は荒れに荒れていた。

 

 荒れる原因となったのはつい先頃中華連邦より袂を分けて独立した大清連邦という新国家についてのこと。

 

 国家と呼んではいる物の、日本もブリタニアもEUもまだ正式に承認してはおらず、唯一承認していたのは隣国の高麗共和国のみという到底国家とは呼べない状況下にあった。

 

 国際的な見方で言えば“国”ではなく、大清連邦という“勢力”扱いなのだ。

 

 ただ、ややこしいのは強引に袂を分けられ、中華連邦の北東部全域という広大な領土を掠め取られた当の中華連邦が国家承認するという情報が入っていたことだ。

 

 これはどう考えても中華による清=宦官派の切り捨てなのだが、以前から一定数存在していた国内の親中勢力(親宦官派)を勢い付かせていた。

 

「中華連邦は大清連邦を国家として承認すると言っています。これについてどうお考えですか総理?」

 

 質問したのは剣尚人(けんなおと)

 

 野党第一党、日本公民党の代表を務めている男だ。

 

「枢木総理大臣」

 

 議会の委員長が総理の発言を促す。

 

「その件につきましては現在閣僚会議にて審議中です。追って方針を発表します」

 

 枢木の言葉を聞いてさっと手を挙げる剣尚人。

 

「剣尚人君」

 

「閣僚だけで審議中ですか? 新国家の承認という大事を内輪だけでお決めになると?」

 

「そうは言っておりません。方針を決めた後は議会にて審議をさせて頂きます」

 

「何故今ではダメなのですか? 肝心要の中華が国として認めると言っているのですから、我が国も承認するべきではないのでしょうか?」

 

 確かに中華は認めている。

 

 これ以上ないくらいの承認とも言えるだろう。

 

 これはやがて東南アジアも認めるだろうし、オセアニア、いずれは環太平洋諸国全てが認めることになるかも知れない。

 

 ブリタニアだけは日本と共同歩調を取ってくれるかも知れないが、やはり中華が認めたというのは大きいのだ。

 

 265 :枢木総理の悩み:2013/01/06(日) 22:58:08

 

 だが、枢木個人としては認めがたいのも事実。

 

 何せ大清連邦は独立時の自国領土に日本領である樺太まで入れているのだから。

 

『樺太は清国の領土』

 

 そういって憚らない連中をどうして認めなければならないのか? 

 

 無論、戦争となれば日本が勝つだろう。だが向こうから侵略してきた訳でもないのに軍は動かせない。

 

 そんなことをすれば唯の侵略国家だ。

 

 まあ言っていることは高麗の方が上なのだが……。

 

 何せ日本の皇家とブリタニアの皇族は古くをたどれば彼らの民族から始まっていると言い出したのだから。

 

 それ以前に人類発祥の地だとも言っているので、全人類のルーツは彼らの民族となってしまうという滅茶苦茶な理論だ。

 

(売国奴め……貴様らが清と何らかの関係があるのはわかってるんだ)

 

 いずれにせよ日本公民党が清や高麗と繋がっているという明確な証拠がない。

 

 清の独立騒ぎのとき、日本国内のいくつかの企業で宦官派との繋がりが発覚して摘発されていたが、政界については全くと言って良いほど尻尾を掴めなかったのだ。

 

 それほど巧妙かつしたたかな連中なのだろう。

 

 同時に前世代以前の政治家達が軒並み引退してしまったのも大きい。

 

 そして何よりも長年続く平和によって国民の中にもそれはどうなんだと思われる考えを持つ者も出てきている。

 

(平和ボケというやつだろうな……平和が一番なのだが、どうしても気が緩み人心が腐ってしまう。嘆かわしいがこればかりは地道な対策をしていくしかないか)

 

「清国の独立承認。そして友好条約締結と経済、技術支援をしていくことが、アジア太平洋地域のリーダーたる我が国の勤めではないのですか?」

 

「では此方からお聞きしたい。清国の主張する領土に樺太が入っていること、これについて剣議員はどうお考えか?」

 

「無論、樺太は日本の領土です。ですがそのことだけを理由にして清国との友好を結ばないというのは国家国益、世界平和に反します。それとも非侵略の国是を破って清国と戦争でも始めるおつもりか? 

 

 日本は帝国の名を冠してはいても断じて帝国主義国家ではありませんし軍事優先でもありません。そして何より非侵略を国是としております。よもやお忘れではありますまいな?」

 

 大日本帝国と聞けばおどろおどろしく聞こえるが実態は歴とした民主主義の国である。

 

 議員は選挙によって国民に選ばれ、選ばれた議員が帝国議会を動かすのだ。

 

 その辺りは同盟国であるブリタニアとは違う。

 

 といっても絶対君主制ではあるも平和主義を貫いている彼の国も方向性は日本と同じような物だが。

 

 寧ろ絶対君主制であるブリタニアの方が素早く行動できる分いいのかも知れない。

 

「勿論です。我が国は建国以来非侵略を国是とし今日に至っております。ですからこれより先も侵略戦争は起こしません。但し降りかかる火の粉は払います」

 

「当然ですな。座して死を待つつもりは毛頭ございません。ですがそれと清国の承認は別問題です」

 

(あーいえばこーいう。口から先に生まれてきたような男だ)

 

 結局、審議は平行線を辿り次回に持ち越しとなってしまった。

 

 266 :枢木総理の悩み:2013/01/06(日) 22:58:59

 

 



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枢木総理の悩み 第2話


538 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:29:57

提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生
性格改変注意
綺麗な枢木ゲンブ
帝都の休日と同一線
時系列は第5話の少し先
政党、人物は架空の物

539 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:30:29



 

 

 枢木総理の悩み 第2話

 

 

 

 第××回帝国議会 衆議院本会議

 

 

 

 大日本帝国首相 枢木ゲンブはいい加減うんざりしていた。

 

「枢木総理、清国の国家承認と友好条約締結の件、進展がないようですが一体どうなっているのですか?」

 

 これだ。毎日毎日こればかりに終始して他に決めなければならない事がちっとも前に進まないのだ。

 

 野党、日本公民党はそれが分かっていてやっているから余計立ちが悪い。

 

 予算委員会で協力を求めようとしても“清の承認”を引き替えに出してくるので空転状態が続いている。

 

(貴様らは何処の国の人間だッ!!)

 

 本気でそう叫ぼうとしたのが一度や二度ではすまない程しつこい。

 

(貴様らのような売国奴に言われずとももう承認する方向で話は付いている)

 

 数日前に中華連邦に特使として派遣した外務省の人間が先日帰国した。

 

 その際に事細かな状況報告を受けていたのだ。

 

『中華は清の独立と承認で纏まりました』

 

 紛争当事国である中華連邦が正式に方針を打ち出したというのが決定打となり、既に幾つかの国が承認に動いた。

 

 隣の高麗が認めていたのとは訳が違う。国際的な流れが出来てしまったのだから。

 

 当然これは今朝の閣議でも取り上げられ、最終的には大日本帝国として大清連邦の独立認め、国家として承認するという方向で調整は付いた。

 

 但しそれには避けて通れない問題があり、これの解決無くしては彼の国を国家として認める事など不可能だ。

 

 それを野党に説明するため枢木は手を挙げた。

 

「枢木総理大臣」

 

 議長の指名で立ち上がった彼は壇上に立つ。

 

「進展はありました。我が国としては大清連邦を独立国家として承認する方向で調整中です」

 

 “おお~~っっ!! ”

 

 枢木の言葉に野党席からは歓声が上がり、拍手する者まで現れた。

 

 皆が皆、よかったよかったと喜びの声を上げている。

 

 だが、その中の三人だけは口元に笑みを浮かべただけで、それ以上の反応は示さなかった。

 

 明らかに他の有象無象とは色んな意味で一線を画するその三人。

 

 日本公民党代表 剣尚人。

 

 同党代表代行 大沢二郎。

 

 同党幹事長 鳩川雪夫。

 

(この連中の澄まし顔を見ていると気分が悪くなる……)

 

 枢木は彼らが嫌いだった。

 

 全身真っ黒でありながらも憲政の中枢に駆け上がってきた剣。

 

 大きな影響力を持ちながらも常に一歩引いた場所で暗闘する豪腕大沢。

 

 そして何を考えているのか理解不能な男、鳩川。

 

 三人共にタイプの違う政治家ではあるが、誰一人油断が出来ない相手なのだから。

 

 540 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:31:13

 

 

 

 そんな事を考えていると今度は剣が挙手した。

 

「剣尚人くん」

 

「総理、大変喜ばしいお話ではあるのですが一つ気がかりな点が」

 

「なんでしょう?」

 

「調整中とはどういう事ですか? 正式に決定したのではないのでしょうか?」

 

(まあ、そう来るだろうな)

 

「はい、正式にはまだです」

 

「理由は?」

 

「ご存じのように清が我が国の領土である樺太の領有を主張している。この一点が正式な決定を下せない理由です」

 

「それでは結局話が進まないのでは?」

 

「いえ、その点に付いてはご心配に及びません。近々この問題の関係各国、中華、清、高麗、日本、ブリタニア、EU、の六カ国による国際会議が開かれる手筈になっております」

 

 中華は清の分離独立の当事者。

 

 高麗はいち早く清を承認した現在唯一の友好国。

 

 日本は樺太の領有問題──日本は領土問題を認めてはいないが、この六カ国協議に於いて清の領有権主張を取り下げさせるつもりである。

 

 ブリタニアは同盟国日本の領土が侵されようとしている為、二国間相互防衛同盟の元会議に参加+場合によってはブリタニア側から不正に流れたKMF技術に付いての詰問。

 

 EUは清との国境の線引き。

 

 一国家の承認に世界四強が一同に会するという前代未聞の事態である。

 

 尤も、中華に挑戦しようと機会を伺う清に取っては、大国の動きを見られるまたとないチャンスだ。

 

 日本とブリタニアの二大超大国が動いているのも大きい。

 

 そして何より、この六カ国協議開催を一番喜んだのが高麗共和国だったりする。

 

 何故なら高麗以外の国は清に良い感情を持っていない為、中立的立場は難しいとなり、消去法的に高麗が議長国になったからだ。

 

 つまり高麗は日・ブの超大国。それに続く中華・EUという大国の意見を纏めるという建国以来の絶頂期に躍り出た訳である。

 

『超大国高麗!』

 

『高麗万歳!』

 

 これを知った高麗国民は遂に高麗も列強の仲間入りだと大騒ぎしていた。

 

 大統領の李・承朝などは六カ国協議用にスーツを新調した程だ。

 

 541 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:31:49

 

 

 

 それぞれの目的の下、東アジア六カ国協議の開催が既に決定していた。

 

 その会議を持って正式に大清連邦の国家承認となる予定だが、場合によっては物別れとなり清側の出方次第では戦争もありうる状態なのだ。

 

「なるほど、全く進んでいなかった訳ではないのですね」

 

「ええ、連日の議会空転のようにはなっておりませんのであしからず」

 

「…………質問は以上です」

 

 暗に野党側のせいで空転していると示唆したのは、せめてもの意趣返しという物だ。

 

 そして多国間協議で決定する事になる以上、同じ問題で議会を空転させる事は許さないとの意味もあった。

 

 これで質疑応答は終わりだと自分の席に戻ろうとする枢木。

 

 だがそのとき、沈黙していた男が手を挙げた。

 

「鳩川雪夫くん」

 

 議長が呼んだその名を聞いて枢木の顔に嫌悪の色が浮かぶ。

 

 この男は生理的に受け付けないのだ。

 

 絶対にお断りだが、これと友達になるくらいなら剣と親友になる方を選ぶ。

 

「ええ~、私からは一言だけですのでお時間は取らせません」

 

「…………どうぞ」

 

「枢木総理……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “日本は日本人だけのものではない!! ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 堂々と、はっきりと、誇らしげに叫ぶ鳩川。

 

 その顔には『俺が正しい』『俺はやり遂げた』そんな感情が見て取れる。

 

(日本人のものでなければ誰の物だというのだ!!)

 

 こういう理解不能な事を平然と言いながらも公民党の大幹部という事実が枢木は信じられなかった。

 

 これを支持している人間が一定数存在している。

 

 それを考えるだけで頭が痛い。

 

「これを覚えて置いてください。そして日本海、オホーツク海などの近海を友愛の海にしましょう!!」

 

「…………」

 

「以上です」

 

 反論する気力を奪う、相手に出来ないという気にさせるという所は凄いのかも知れないが……。

 

 542 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:32:33

 

 



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父への思い

362 :父への思い:2013/01/10(木) 19:18:16

続いて短いネタですが『枢木総理の悩み』の裏話的なお話でスザクの一人語りです

帝都の休日シリーズ
スザクの一人語り

363 :父への思い:2013/01/10(木) 19:19:19


 

 

「父さんただいま」

 

「おお、お帰りずいぶん遅かったな」

 

「少し生徒会の手伝いが長引いて」

 

「それは残念だったな。せっかくナナリー殿下がお越しになられていたというのに」

 

「え、ナナリー来てたの!?」

 

「ああ、少しの間待っておられたがな……私とお茶を飲みながら……」

 

「へえ、そうなんだ」

 

 ある日、生徒会の手伝いで遅くなった僕が帰宅すると、出迎えてくれた父さんがナナリーが来ていたことを上機嫌に話していた。

 

 最近になって気付いたんだけど、父さんはナナリーが来てるときとても楽しそうにしてるんだ。

 

 まあナナリーは優しくて穏やかな空気を持ってるから、一緒に居て楽しいのは当たり前なんだけどね。

 

 後、父さんの知り合いである嶋田さんと、ナナリーと同じブリタニアの皇女様であるユーフェミア殿下がたまに一緒に来られたとき、よく口にする言葉がある。

 

「愛に年の差は関係ありませんよ」

 

 それは嶋田さんとユーフェミア殿下に向けられた言葉。

 

 二人は婚約者っていう間柄で年は離れてるけど、いつも手を繋いだり見つめ合ってたり、キスしてるところも見たことがあったから、心から愛し合ってる事がよくわかるんだ。

 

 そんな二人を見て僕も愛に年の差なんて関係ないし、身分の差も関係ないんだって勇気付けられていた。

 

 でも時々見るんだ。愛に年は関係ないって自分に言い聞かせるように呟いてる父さんの姿を。

 

 ひょっとしたら父さんは嶋田さんとユーフェミア殿下みたいに年の離れた女性に恋をしているのかも知れない。

 

 もしそうなら僕は応援してあげたい。

 

 母さんが亡くなって結構経つんだから、父さんも新しい恋をしてもいいと思うんだ。

 

 だから思い切って聞いてみたことがある。

 

「父さん、ひょっとして誰か好きな人でも居るの?」

 

 でもそれに一瞬驚いたような顔をするだけでいつも「いない」って返されるんだ。

 

 それよりナナリー殿下の騎士を目指すお前は余計な事を考えずに自分のことだけを考えろって逆に励まされてしまう。

 

 父さんは政治家、それも総理大臣を務めていていつも国のことを第一に考える凄い人だ。

 

 だけどそれだけ精神的に疲れるって事だから、父さんを支えてくれる人が居たらなっていつも考えてる。

 

 僕の事を一番に考えてくれる父さん。

 

 僕とナナリーを応援してくれる父さん。

 

 僕は父さんが大好きだ。

 

 いつか父さんみたいな立派な男になってナナリーの騎士、そして婿に。

 

 それが僕の目標であり到達点。

 

 でも、そのときは父さんの番だと思う。

 

 ずっと僕らを見守ってくれた父さんには幸せになってもらいたいから。

 

 だからその日を目指して頑張ろう。

 

 僕の為にも。

 

 大好きな父さんの為にも……。

 

 

 

「シゲタロウ、わたくしスザクに相談をされたのですが」

 

「何を?」

 

「お父様の恋を実らせてあげたいと」

 

「ユフィ……君は本当に優しいな」

 

(だけどその優しさが枢木さんとスザク君の親子仲を引き裂く可能性を孕んでるんだ……だから)

 

「でもね、これは枢木さん自身が決めなきゃダメなんだ。俺やユフィが口出ししていいことじゃない」

 

「シゲタロウ……」

 

「大丈夫。きっとね……」

 

 364 :休日:2013/01/10(木) 19:28:50

 

 終わり

 

 最終更新:2013年01月11日 20:01



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変なKMF

834 :休日:2013/01/26(土) 20:24:13

提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生
嶋田さん独身でロマンス
楽隠居?と円卓の少女シリーズ
性格改変注意
100%ネタ
ギャグ回

835 :変なKMF:2013/01/26(土) 20:25:31



 

 

 変なKMF

 

 

 

 

 

「これが兵器密売組織の摘発で回収されたサザーランドコピー、ジェンシーです」

 

「…………正確には“高麗製の”ですよね?」

 

「ま、まあ」

 

 眼前に佇むブリタニアが開発した第五世代KMFサザーランド。

 

 その設計図を元にデッドコピーした清国製のKMFジェンシーを更に劣化させた高麗製ジェンシーを見上げるのは、神聖ブリタニア帝国軍の頂点に立つ最強の12騎士ナイトオブラウンズが一人。

 

 ナイトオブトゥエルブの称号を持つ女性、モニカ・クルシェフスキー。

 

 此処は以前彼女が同盟国日本の第七世代量産機──ウィンダムの模擬戦兼テストパイロットを行った実験機用の演習場。

 

(乗りたくない……)

 

 モニカは此処に来たときの服装である騎士服と黄緑のマントという制服姿ではなく、白いパイロットスーツに身を包み、長い金糸の髪も赤いリボンで二つ括りにしていた。

 

 それが意味するのは彼女が今からKMFに乗ると言うこと。

 

 どの機種に? 目の前にあるのは1騎だけなので自ずと答えが分かる。

 

 そう、メイドイン高麗の劣化ジェンシーに騎乗するのだ。

 

 何故あれほど乗るのが嫌だと言っていた彼女が劣化ジェンシーに騎乗する気になったのか? 

 

 その理由は、先頃熱海にオープンした新しいヘルスセンターのペアチケットを引き替えに出されたから。

 

 オープン初日から大盛況でチケットが手に入らないのだ。

 

 彼女は日頃お世話になっている大家さんの嶋田繁太郎にプレゼントしたいと思い、今回の劣化ジェンシー騎乗を引き受けたのである。

 

 餌に釣られるなんてと思いはしたが、「嶋田さん喜びますよ」などと言われたら引き受けざるを得ない。

 

 恋する女の純な気持ちを逆手に取られていたのだ

 

(でも今更こんな物体のデータなんて必要なの?)

 

 モニカが疑問に思うのは当然だ。

 

 第七世代機の量産型を完成させ実戦配備を始めている日本は既に第八世代の実験機を開発している。

 

 勿論、仮想敵国である高麗のKMFなので、詳細データを調べるという必要はあるかも知れないが。

 

 日本から見れば高麗など吹けば飛ぶような小国でしかない。それを考えるとどうしても疑問に思わざるを得ないのだ。

 

 ただ研究者側としてはどんな動作をするのか気になるというのがあった。だが誰も乗りたがらない。高麗製というだけでみんな忌諱しているから。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが以前模擬戦を引き受けてくれたブリタニアの駐在武官モニカ。

 

 無論日本に住んでそれなりの時間を過ごしている彼女もメイドイン高麗の悪い噂をよく耳にする。

 

 だから乗りたくないと断ったのだが、「嶋田さんが喜ぶ」という餌を用意されてまんまと引っ掛かってしまったのだ。

 

 836 :変なKMF:2013/01/26(土) 20:26:01

 

 

 

 考えていても仕方がない。早く終わらせて帰ろう。そう思ったモニカはコックピットハッチの下に立ち、搭乗用ウインチを握って巻き上げボタンを押した。

 

 だが──。

 

「あれ?」

 

 動かない。

 

「モニカさんどうしました。早く乗ってください」

 

 ウインチのワイヤーを握ったまま突っ立っている彼女に声を掛ける開発主任。

 

「あの……ウインチが作動しません……」

 

「…………」

 

 

 

 応急処置で何とか作動したウインチ。

 

 コックピットに乗り込んだモニカは士官学校で騎乗したサザーランドと見掛けは同じ配列の計器類を眺めて(懐かしいわね)と思い、起動キーを回した。

 

「……」

 

 動かない。

 

 キュキュキュキュと変な音がして機体が振動している物の、壊れかけのバイクみたいに中々起動しない。

 

 四回五回と繰り返しキーを回して漸く動いた。

 

(やだな……)

 

 そんな劣化ジェンシーの動作に悪い予感しかしないモニカは、取りあえずランドスピナーを動かしてその場から移動。

 

 ターゲットとして用意されていたダミーに向けてスラッシュハーケンを打ち出してみた。

 

 すると左肩から発射されたハーケンは狙い違わずダミーを撃ち抜く。止まっている目標物など目を瞑っていても外す事はない。

 

「一応普通に動くか」

 

 確認した彼女はハーケンワイヤーの巻き上げボタンを押す。

 

 が──。

 

「……」

 

 動かない。

 

(どうなってるのこれ……)

 

 仕方がないので右肩のスラッシュハーケンを打ち出してダミーを破壊するか、衝撃を利用して貫いたまま回収できないワイヤーを切り離そうと試みる。

 

「これで!」

 

 “バシュッ”

 

 音を立てて勢いよく打ち出されたのは──。

 

「ええッ?!」

 

 劣化ジェンシーの右腕。

 

 そう、スラッシュハーケンは発射されたのだが、伸びきったと同時に右肩ごと腕がすっぽ抜けたのだ。

 

『何やってるんですかッ!!』

 

「そんなこと私に聞かないでくださいッ!!」

 

 見かねた主任が無線口で怒鳴っているがそんなのこっちが聞きたい。

 

 どこの世界にスラッシュハーケンを発射して腕ごとすっぽ抜けるKMFがあるというのか? 

 

 少なくともモニカは見たことも聞いたこともないし、こんなおかしなKMFに騎乗したのは初めてだ。

 

『むうう、配線トラブル? 電気系統の故障?』

 

 無線機の向こうで物騒な事を言い始めた主任に対し彼女は(そんな危ない物に乗せないでよッ!)と憤る。

 

『とりあえずその場に止まっていても意味が無いのでダミーに接近して蹴りでも入れてワイヤーを切り離してください』

 

「はい……」

 

 言われるがまま脚部のランドスピナーを急速回転させる。

 

 そも言われる以前にダミーに接近して力尽くで切り離す以外にないだろう。

 

 837 :変なKMF:2013/01/26(土) 20:26:35

 

 

 

(なんて無様なの)

 

 誉れ高き皇帝陛下の剣。

 

 ナイトオブラウンズの自分がこのように無様でみっともない操縦をしているところを誰かに見られたら騎士の品格に関わる。

 

 それもこれもこの変なKMFのせいだ。

 

(こんな姿、嶋田さんには絶対に見られたくない!)

 

 忠誠を誓う主シャルルとは別に、もう一人の主君として己が全てを捧げて恋慕う嶋田にだけは見られたくないと操縦桿を握る手に力を込めたモニカは無意識のうちに速度を上げた。

 

 その瞬間──

 

 “ギャリリリッッ!! ”

 

「キャア!!」

 

 唸りを上げて回転していたランドスピナーが、何かに引っ掛かったように急停止。

 

 当然劣化ジェンシーの本体も急停止するわけで、加速した勢いのままつんのめって前のめりに倒れてしまった。

 

『あちゃ~』

 

 一部始終を見ていた主任が無線の向こうで額に手を当てている。

 

(もうイヤ……)

 

 うつ伏せで倒れる中モニカは「もうやってられない!」と操縦席ハッチの開閉ボタンを押した。

 

 だがハッチは開かない。その代わりに──

 

「きゃああああああ~~~~ッッ」

 

 彼女は操縦席ごと機体の真上に吹っ飛んだ。

 

 ハッチの開閉ボタンを押したら操縦席が切り離されたよ! 

 

 そんな説明でも聞こえてきそうな有り得ない脱出装置の起動。

 

 最後は三つあったパラシュートの内、一つが不完全な開きになるマルファング。

 

 当たり前だが地面に着地するときの衝撃はちょっとばかり大きな物で。

 

「きゅうう~」

 

 ど派手に着地したモニカはコックピットブロックの中で目を回していた……。

 

 838 :変なKMF:2013/01/26(土) 20:29:59

 

 

 

 *

 

 

 

 幸いなことに怪我は無く無事だったが一歩間違えば大けがをさせていた可能性もあり、それを知った嶋田は。

 

「高麗製のKMFに乗せるなんてモニカさんに何かあったらどうする処だったんですかッッ!!」

 

 と珍しく烈火の如き怒りを露にしていた。ただ当のモニカは(嶋田さん……こんなに私の事想ってくれてるんだ)と内心嬉しいと思い、怒ってなかったりしたのだが。

 

 それでも高麗製のKMFには二度と乗らないと誓いを新たにしていた。

 

 まあその後、嶋田とモニカは熱海のヘルスセンターで二人仲良く温泉(混浴)に入って溜飲を下げた訳だが、この辺り主任の思惑通りに運んでいるのではと引っ掛かる二人であった。

 

「気持ちいいなあ~、やっぱり温泉は最高だ」

 

「気に入ってもらえましたか?」

 

 髪を頭の上で綺麗に纏めてバスタオルを身体に巻いたモニカは久々の温泉を満喫するほくほく顔の嶋田の横に腰を下ろす。

 

 不思議と恥ずかしい気持ちはなく、二人は自然に身体を寄せ合い暖まっていた。

 

「勿論だよ。ありがとうモニカさん」

 

 モニカの頭を撫でる嶋田。

 

「えへへ♪」

 

 撫でられたモニカは嬉しそうな笑顔を見せる。

 

「でもあの人(主任)には要注意だよ?」

 

「それはもう。今回のことでよ~くわかりましたし」

 

 湯の中で寄り添う二人はまるで歳の離れた夫婦のようだと周囲の客は思ったとか思わなかったとか。

 

 

 

 数日後、高麗製のKMFに在日ブリタニア駐在武官を務めているナイトオブラウンズのモニカ・クルシェフスキーが騎乗したらしい! 

 

 という情報を何処からか手に入れた週刊誌の記者にコメントを求められた彼女は言った。

 

 

 

 “あんなKMFを乗りこなす高麗軍の兵士はある意味ラウンズ以上の勇者です”

 

 最終更新:2013年02月10日 20:02



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舞朝新聞

384 :舞朝新聞:2013/02/09(土) 00:08:03

提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生
やっかいなプライド(共通話3)の最後に出た捏造週刊誌の親玉
楽隠居?と円卓の少女シリーズ
架空の企業

385 :舞朝新聞:2013/02/09(土) 00:08:50



 

 

 舞朝新聞。

 

 

 

 朝に舞う新聞──という意味の名を持つ大日本帝国に存在するこの新聞社は、本業である新聞販売以外にも、幾つかの週刊誌・月刊誌の販売を手がけている大手新聞社の一つ。

 

 日本以外にブリタニア・中華連邦・E.U.など列強諸国でも国際版が発行されている。

 

 購読者数は数千万にも達するこの新聞社の会長兼社長、浅村豊数は先頃掛かってきた苦情の電話と、ネット上に書き込まれている非難の声に苦虫を噛み潰していた。

 

『売国奴浅村はクルシェフスキー氏に謝罪しろっ!』

 

『日本とブリタニアの友好関係に罅を入れようとしている舞朝を廃刊に追い込めっ!』

 

『記事のねつ造して楽しいですか舞朝さん』

 

「なんでこの儂が帝国主義者の小娘如きに謝罪せねばならんのだっ!!」

 

 でっぷりと肥え太り、脂ぎった顔を真っ赤にして返事の来ないネットに向かって大声を上げ罵る浅村。

 

 最近禿げ具合が進行した為バーコードにして誤魔化している頭にも、興奮のせいか汗が浮かんでいた。

 

「し、しかし会長、今回ばかりは相手が悪いですよ、モニカ・クルシェフスキーといえばブリタニアの名家中の名家、クルシェフスキー侯爵家の次期当主です」

 

 クルシェフスキー侯爵家は域内人口数百万を数え、数多くの貴族や企業を傘下に持った、ブリタニア国内ではかなりの発言力を有する大貴族。

 

 その領地も広大な物で一つの国と言っても過言ではなく、域内総生産は小国の国家予算に匹敵する規模だった。

 

 万一今回のことでクルシェフスキー侯爵を怒らせるような事になれば、最悪、舞朝新聞はブリタニア市場から叩き出されてもおかしくない。

 

 色々と不祥事も多く、明確に親清、親高麗的な発言をしている舞朝新聞は、ここ最近国内の契約者数が伸び悩んでいた。

 

 そんな中でブリタニア市場を失うことになれば、莫大な赤字を出して倒産の危機もあり得るのだ。

 

「今更そんなこと言われんでもわかっとるっ! だが此処は日本で儂らは日本人、ブリタニアの施政権は及ばんし言論の自由が保障される我が国で何を書こうが自由だ!! 

 

 あの記事を元に我が社を国内から追い出そうとするなら、それこそ叩きに叩きまくってやる! 『ブリタニアは非情な帝国主義国家』『日本は一刻も早くブリタニアと手を切ってアジアの友人達と手を結ぶべき』とな!」

 

 浅村はネットで叩かれた上、ひっきりなしに掛かってくる抗議の電話で頭に血が上ってまともな判断が出来ていない。

 

 そのような行為に及ぼうとすれば間違いなく公安が動く。最悪の場合、日本の影に存在する組織によって闇に葬られてしまうというのに。

 

「大体あの小娘本人が『今回は自分も週刊誌に付いて勉強不足だった』と言っとるじゃないか!」

 

 

 

 “スクープッ!! ”

 

 “あのッ! ブリタニア最強の騎士ッ! ナイトオブラウンズがッ! 高麗軍に不戦敗ッッ!! ”

 

 “世界最強の騎士はラウンズではなく高麗軍の兵士だったッッ!! ”

 

 

 

 これを見出しとして書かれたデマ記事に、モニカ自身は週刊誌がどういう物かいまいち良く分かってなかったのもあって今回訴訟は起こさないと明言していた。

 

 無論、記事を書いた者と責任者には厳重に抗議していたが、言い換えればそれだけで済ませたのだ。

 

 だが彼の言っている事を直訳すれば『全ては物を知らない世間知らずのモニカ・クルシェフスキーが悪い』となってしまう。

 

「そもそも、あの記事を書いた週刊誌は我が社の傘下ではあっても、独立した会社である事に違いないだろう? それを儂に謝れなどと……碌に顔も出して発言出来ないクズ共が偉そうなことばかり抜かしおって!!」

 

 彼は憎々しげに吐き捨てる。当然だ。インターネットは自分たちの権益を脅かす敵なのだから。

 

『ネットは取り締まるべきだ』と良く口にする彼は、ネットに言論の自由などあってはならないとさえ考えていた。

 

 自分に対して暴言まで吐いたのだ。そんなクズ共に自由な発言をさせるのは間違っていると。

 

 自分の事は棚に上げている辺り実に自分本位の人間と言えるだろう。

 

 386 :舞朝新聞:2013/02/09(土) 00:10:09

 

 

 

「ですが非難の声が大きく、購読者からは『舞朝新聞取るの止める』と言われ実際に契約を切られています。やはり影響を考えますと謝罪会見を開いた方が良いのでは……」

 

 更にねつ造記事の相手がブリタニアの高官という事もあり、政界の方でも非難の声が上がっている。

 

 唯でさえ与党には睨まれているというのに踏んだり蹴ったりだ。こればかりはいつも味方の筈の公民党も流石に知らぬ存ぜぬで通していた。

 

 日本公民党と舞朝新聞は持ちつ持たれつの関係なのだが、傘下の週刊誌がねつ造記事を書いたのは紛れもなく事実なので擁護しようがない。

 

 下手に擁護などしては自分たちの立場まで危うくなってしまうのだから。

 

「どいつもこいつも言いたい放題抜かしやがって! 儂を誰だと思っとるんだ!! 浅村だぞ? 浅村豊数様だぞ?!」

 

 まるで自分こそが正しい。自分こそが正義なのだと言わんばかりの尊大な態度を取る浅村。

 

 彼の辞書には一つの言葉がある。

 

 “ペンは剣よりも強し”

 

 これは舞朝新聞の社訓にもなっている言葉なのだが、剣とは文字通り軍人や騎士を示している。

 

 例えどんなに強い者であろうと、ペンという力で社会的に抹殺する事が出来るのだという浅村の持論だ。

 

「最強と言うなら儂こそが最強だ! ペンの力を持ってすれば政治家でも失脚に追い込めるんだぞ! クルシェフスキーが怖くてブン屋が勤まるかっ!!」

 

(そうだ! クルシェフスキーなど怖くない! ネットのクズ共など相手にもならんわっ!!)

 

「も、もちろん会長の仰るとおりでございます、それでもお客様には」

 

「ふんっ、我が社の新聞を読みたくないというなら読まなければいい。誰も読んでくれとは言っとらん」

 

 嫌なら読むなと言い切る浅村に、彼の秘書を長年勤めている男はこれ以上は無駄だなと忠言するのを止めにした。

 

 



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シーランド王国

966 :休日:2013/02/28(木) 22:52:56
ネタ投下します完全なネタです、帝都の休日前提ですが本編とは全く関係ない話です
時間がないのと短いので即効投下

967 :休日:2013/02/28(木) 22:54:36


 

 

 

 

 シーランド王国

 

 

 

 

 

 E.U.ユーロピア共和国連合は、その名の通り幾つもの加盟国で構成される連邦制の独立国家連合である。

 

 凡そヨーロッパと呼称される地域の全てはこの国家連合に加盟していた。そうしなければ、遠くアジア太平洋地域に存在する大日本帝国や、大西洋を跨いで睨み合う神聖ブリタニア帝国。

 

 ユーラシアの南側を支配する巨大連邦国家、中華連邦に対抗する事ができないからだ。

 

 もし、ヨーロッパがナポレオンによる1790年のフランス革命以後もそれぞれの国が独立したままの状態で現代を迎えていれば、当時追い出したユーロ・ブリタニアの貴族達によって国土を奪い返されていたか、

 

 中華連邦辺りに飲み込まれて、国民こそが主権者であるという自由と民主主義を失っていたところであろう。

 

 そんなE.U.勢力圏にあって、ただ一国のみ、E.U.に加盟していない国があった。

 

 

 

『シーランド王国』

 

 

 

 民主主義こそが唯一の正しい政体であるヨーロッパ諸国にあって、王国を名乗る忌々しい国。いや、元々存在してなかった筈の国であり、今尚E.U.加盟国でシーランドを国家承認している国は無い。

 

 

 

 *

 

 

 

 シーランド王国は皇歴1979年9月2日、E.U.構成国の一つであるイギリス州南東岸沖合10㎞の北海洋上に於いて突如独立を宣言。

 

 その海域にはいつの日か来るかも知れないユーロ・ブリタニアの侵攻に備える為に考案された、海上基地構想の実験施設が建っていた。

 

 1942年に建設され、後に海上基地構想の立ち消えで廃棄された実験施設は、大きな二本の柱と柱の上に渡された甲板、その甲板の上にある小屋で構成された構造物で成り立っている。

 

 この施設を占拠し、独立宣言したのは当時30歳だったE.U.イギリス州軍元少佐ルイ・ヴェーツと、彼の元部下達十数名。

 

 彼らが何を思ってこの廃墟を占領したのかは今現在分かっていない物の、何の戦略的価値もない洋上に建つ廃墟を国と言った処で誰も相手にしない。

 

「奪還するべきでは?」という声もあるにはあったが、言ってみればただの廃棄物、粗大ゴミに過ぎない洋上廃墟の奪還など時間と金の無駄であると判断され放置されたのである。

 

 

 

 だが翌1980年8月に予想だにしない事が起こった。なんとこの海域でお忍びのヨーロッパ旅行をしていたブリタニア皇族を乗せた客船が行方不明になったのだ。

 

 これは大変だとイギリス州から捜索隊が出された訳だが、それよりも早く行動し乗員を救助していた者が居た。

 

「大丈夫かっ! しっかりするんだっ!」

 

「た、助かった、貴公、名は?」

 

「俺の名前なんかどうでもいいっ、貴様らの救助の方が先だ!」

 

「ヴェーツさんこっちも無事です!」

 

 そう、シーランド王国と称し、同国国王を名乗るルイ・ヴェーツである。

 

 面目を潰された格好ではある物の、ヴェーツの素早い救助活動のお陰で乗員乗客が全員無事であったのは不幸中の幸い。

 

 下手をすれば暗殺などの在らぬ疑いを掛けられて、ブリタニアとの間に戦端が開かれていた可能性があったのだから。

 

 なにせ、ユーロ・ブリタニアは復権の機会を虎視眈々と狙っている。これ幸いと戦争口実にしたとしても決して不思議な事ではない。

 

 尤も、翌月日本とブリタニアが連盟で発表したある外交事案に衝撃を受ける事になったが。

 

 968 :シーランド王国:2013/02/28(木) 22:55:07

 

 

 

『我が神聖ブリタニア帝国と大日本帝国は、両国要人の救助というルイ・ヴェーツ1世陛下とシーランド国民の多大なる貢献に対し、シーランド王国を友邦と認め、国家として承認する事をここに宣言致します』

 

 

 

 この衝撃のニュースは瞬く間に世界を駆け巡った。

 

 あの世界を置き去りにして発展していく二大超大国が、世界の誰も認めないと目される自称国家、シーランド王国を一国家として承認したのである。

 

 百歩譲ってブリタニアは皇族が救助されたのだから分かるとして何故日本が? この疑問も直ぐ明らかになった。乗客名簿の中に嶋田繁太郎と辻正信の名前が記載されていたのだ。

 

 嶋田と辻と言えば、まだ二十代の若さにも拘わらず日本の皇家や政財界の大物達との繋がりが噂される人物。

 

 彼らもあの難破した客船に乗船し、ヴェーツに救助されていたとなれば日本が動いたのも頷ける。信義を第一とするあの国ならばこの度の救出活動の見返りにシーランドを認める事ぐらいだろう。

 

 E.U.加盟各国はそう結論を出し、これからの対応を考える。日本とブリタニアが友好国として国家承認した以上、ヴェーツを放置しておくのはまずい。

 

 シーランドを利用してヨーロッパへの足がかりとされる可能性が捨てきれないのだから。『制圧』の二文字が浮かび上がってくる。

 

 だが、E.U.のその手段は先手を打たれる形で封じられた。

 

 

 

『尚、シーランド王国は最恵国待遇として迎えられることになり、最低限の自国防衛体制が整備されるまでは我が国が安全を保証します』

 

 

 

 これは言うなれば「シーランドに手を出すのは許さない」そう言っているような物だ。

 

 つまりヴェーツを拘束する=ブリタニアとの戦争になってしまう。この結果、E.U.には何も手出しする事が出来なくなってしまった。

 

 こんな事になると分かっていれば多少金は掛かっても制圧しておくべきだったが全ては後の祭り。

 

 翌々月には日本・ブリタニア両国の援助で二本の柱の周りが埋め立てられ、補強工事がされていく。

 

 承認こそしない物の、最早一国家として扱わざるを得なくなったシーランドの領海内で何をされようが、E.U.には口出しが出来ない。

 

 流石に大規模な軍事力を展開されるのは看過するつもりはないが、両国ともに自分から戦争を仕掛けるような国ではないので想定するだけ無駄だ。

 

 

 

 こうしてシーランド王国は二大超大国から承認され、『最恵国待遇』を与えられた唯一の国となるのであった。

 

 969 :シーランド王国:2013/02/28(木) 22:56:36

 

 終わりです

 

 補足

 

 このあとシーランド王国は約二十年の歳月を掛けて国土面積0.00055k㎡から約4k㎡の人工島になり、人口も移民によって十数人から約二万人にまで増え

 

 後々日本・ブリタニアの援助で第五世代ダガーやグロースターを供与される

 

 最終更新:2013年03月06日 22:13



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名も無き兵士の話

39 :名も無き兵士の話:2013/02/01(金) 22:46:46
929氏の設定そのままなお話

隠居のIF未来?


 

 

 40 :名も無き兵士の話:2013/02/01(金) 22:47:27

 

 

 

 皇歴20XX年

 

 大清連邦の樺太侵攻に端を発した極東に於ける戦争は佳境を迎えていた。

 

 開戦当初、奇襲攻撃によって樺太上陸を果たした清国軍は、独自に開発した新型KMF(第五世代の後期型相当)を主力に突き進んだ。

 

 時を同じくして清国の同盟国であった高麗共和国も

 

『五大国(高麗を入れて)の一角であるE.U.に独力で勝った清と、列強の一角である我が国が共に攻め込めば、さしもの超大国日本も打ち負かせるッ!!』

 

 と、気勢を上げて大日本帝国へと宣戦布告。

 

 国土防衛の僅かな部隊を残し、海空軍の総力を持って日本の領空領海に進入。

 

 E.U.との戦争に勝利し、シベリアのサクラダイト鉱山を手にしていた清の目的は、日本を攻略することで手に入る各種先進技術。

 

 常に世界の先を行く彼の国の技術を己が物とすれば世界帝国の道が開ける。

 

 そんな宦官たちの愚かな妄想が日本侵攻の原因だったのだが、意外なことにただ一人反対した者がいた。

 

 なんと大宦官の一人である高亥だ。

 

 彼はその他の宦官と違い己の贅沢の為には努力を惜しまない人物であった。

 

 努力無く贅を求める者はただ得られる利益を享受するだけであるのだが、贅を尽くすためには労力も必要と考える者はその過程で多くを学ぶ。

 

 例え国民を己の道具としてしか見ていなくとも。

 

 それ故、高亥は物事を冷静に見つめる目を持っていたのである。

 

『今の清では日本には絶対に勝てない』

 

 宦官たちの最高会議の際そう主張し続けた彼は国家反逆罪で逮捕投獄され、翌日清は日本侵略に動いたのだ。

 

 

 

 だが樺太へと侵攻した清国陸軍の新型KMFを伴った部隊が、待ち構えていた日本軍の主力KMFウィンダム、

 

 配備の始まっていた第八世代KMFを伴う大部隊に壊滅させられ逆に海へと追い落とされたのを皮切りに、空でも海でも同じ光景が再現され瞬く間に戦線は崩壊。

 

 日本海上空に於いては日本空軍の第五・第六世代ステルス戦闘機の猛攻に、第四世代機が主力だった高麗空軍が鎧袖一触されてしまった。

 

 こうして清・高麗連合の日本侵攻軍は僅か三日で壊滅的打撃を受け撤退。

 

 無論、侵略された日本側がこれで済ませる筈がなく、戦時体制が整うと同時に総力を挙げて大陸へと侵攻。

 

 圧倒的技術格差、物量の差で高麗半島と清国大陸の二正面作戦を展開、各地を制圧していった。

 

 この作戦には日本の同盟国である神聖ブリタニア帝国も兵力を提供していた。

 

 当初日本側は『清や高麗如きに貴国の手を借りるのは忍びない』と申し出を断っていたのだが、

 

 時の第99代ブリタニア皇帝オデュッセウスに『友邦、家族である日本を攻撃されて黙っているわけにはいかない』とまで言われ、ブリタニア軍の派兵を受け入れたのである。

 

 そんな日ブ同盟軍の高麗攻略軍司令官ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーは、長年の日本駐在とブリタニアとの信頼の証にと供与されていた第九世代KMFフリーダムを駆り自ら前線に出て高麗軍を蹴散らしていた。

 

 ウィンダム相手に後退を強いられていた高麗軍は、まるで次元の違う第九世代機フリーダムに為す術無く討ち取られていく。

 

 白銀に輝くエナジーウィングから射出される刃状粒子。

 

 他を寄せ付けない二丁のスーパーヴァリス。

 

 高出力ハドロン砲×2

 

 これらの一斉射撃により忽ちの内に数十騎が撃墜され戦線に大きな穴が開き、そこへモニカ麾下の日本・ブリタニア軍が突入、瞬く間に高麗軍は壊走していった。

 

 しかし、そんな猛攻の中ただ一騎だけ善戦していたジェンシーが居たのだ。

 

 そのジェンシーはモニカの親衛隊である数機のウィンダムとヴィンセントを撃墜するという、おそらくはこの戦争で最大の戦果を上げていた。

 

 普通誰が想像できる? 第五世代──改良によって性能は増しているかも知れないが、ジェンシーで第七世代機であるウィンダムやヴィンセントを複数機撃墜するなど。

 

 ジェンシー搭乗者の技量、そして何よりその闘志によってここまでの実力を発揮していたのだ。

 

 それ故、モニカ自身も『油断のならない相手』として己が全力を持って戦い、その果てに彼の機を討ち取った。

 

 41 :名も無き兵士の話:2013/02/01(金) 22:49:06

 

 



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ギアス板大陸日本の人口と領域

 

 

 ギアス板大陸日本の人口と領域

 

 

 

 大日本帝国領西シベリア(史実ロシア・ウラル連邦管区)

 

 総面積 1,788,900km2

 総人口 14,848,709人

 

 

 クルガン(史実ロシア・クルガン州)

 

 面積 71,000km2

 人口 1,223,438人

 

 チュメニ(史実ロシア・チュメニ州)

 

 面積 1,435,200km2

 人口 3,917,809人

 

 スヴェルドロフク(史実ロシア・スヴェルドロフク州)

 

 面積 194,800km2

 人口 5,383,456人

 

 チェリャビンスク(史実ロシア・チェリャビンスク州)

 

 面積 87,900km2

 人口 4,324,006人

 

 

 

 

 

 

 

 大日本帝国領中央シベリア(史実ロシア・シベリア連邦管区)

 

 総面積 5,114,800km2

 総人口 24,075,522人

 

 

 アルタイ州(史実ロシア・アルタイ共和国+アルタイ地方)

 

 面積 261,700km2

 人口 3,372,447人

 

 ブリヤート州(史実ロシア・ブリヤート共和国+ザバイカリエ地方)

 

 面積 782,800km2

 人口 2,563,900人

 

 イルクーツク州(史実ロシア・イルクーツク州)

 

 面積 767,900km2

 人口 3,098,046人

 

 ハカス州(史実ロシア・ハカス共和国+ケメロヴォ州)

 

 面積 157,400km2

 人口 4,134,256人

 

 クラスノヤルスク州(史実ロシア・クラスノヤルスク地方)

 

 面積 2,339,700km2

 人口 3,559,250人

 

 ノヴォシビルスク州(史実ロシア・ノヴォシビルスク州)

 

 面積 178,200km2

 人口 3,230,701人

 

 オムスク州(史実ロシア・オムスク州)

 

 面積 139,700km2

 人口 2,495,064人

 

 トムスク州(史実ロシア・トムスク州)

 

 面積 316,900km2

 人口 1,255,246人

 

 トゥヴァ州(史実ロシア・トゥヴァ共和国)

 

 面積 170,500km2

 人口 366,612人

 

 極東シベリア(史実ロシア・極東連邦管区)

 

 総面積 6,210,864km2

 総人口 14,267,059人

 

 

 サハ(史実ロシア・サハ共和国)

 

 面積 3,103,200km2

 人口 1,150,233人

 

 浦塩(史実ロシア・沿海地方)

 

 面積 165,900km2

 人口 2,485,452人

 

 ハバロフスク(史実ロシア・ハバロフスク地方)

 

 面積 788,600km2

 人口 1,723,884人

 

 アムール(史実ロシア・アムール州)

 

 面積 363,700km2

 人口 996,123人

 

 神坂(史実ロシア・カムチャツカ地方)

 

 面積 472,300km2

 人口 430,561人

 

 マガダン(史実ロシア・マガダン州)

 

 面積 461,400km2

 人口 219,271人

 

 千琴(史実ロシア・チュクチ自治管区)

 

 面積 737,700km2

 人口 64,588人

 

 樺太(史実ロシア・サハリン州。但し日本固有領である北方領土四島は大陸日本に含まれているので除きます)

 

 面積 82,064km2

 人口 656,032人

 

 亡命ブリタニア人自治区(史実ロシア・ユダヤ自治州)

 

 面積 36,000km2

 人口 6,540,915人

 

 日本本土

 

 面積 3,779,617.3km2(史実日本領全域を10倍の大きさにした領域)

 人口 632,650,000人(史実日本の2010年代人口の約5倍)

 

 

 

 

 台湾

 

 面積 35,980km2

 人口 28,053,018人

 

 海南島

 

 面積 33,210km2

 人口 10,404,000人

 

 ベーリング島

 

 面積 1,660km2

 人口 1,440人

 

 メードヌイ島

 

 面積 186km2

 人口 400人

 

 

 

 

 

 

 アラスカ(ベーリング島+メードヌイ島除くアリューシャン列島含む史実アメリカのアラスカ州)

 

 面積 1,717,854km2

 人口 852,277人

 

 ハワイ諸島

 

 面積 28,313km2

 人口 1,632,361人

 

 マリアナ諸島

 

 面積 1,026km2

 人口 275,018人

 

 パラオ

 

 面積 458km2

 人口 24,363

 

 マーシャル諸島

 

 面積 181km2

 人口 74,355人

 

 ミクロネシア

 

 面積 702km2

 人口 129,786人

 

 シンガポール

 

 面積 707.1km2

 人口 5,518,200人

 

 フィリピン

 

 面積 299,404km2

 人口 114,152,502人

 

 スンダ列島(史実インドネシア・東ティモール・ブルネイとマレーシアの一部)

 

 面積 2,019,587.2km2

 人口 271,700,000人

 

 東ニューギニア(史実パプアニューギニア領)

 

 面積 462,840km2

 人口 8,078,400人

 

 ソロモン諸島

 

 面積 28,450km2   

 人口 638,400人

 

 ニュージーランド

 

 面積 268,680km2

 人口 5,334,523人

 

 扶桑大陸(史実オーストラリア)

 

 面積 7,686,650km2

 人口 38,327,400人   

 

 

 

 

 

 大陸日本ギアス

 

 総面積 29,480,069km2km2(小数点切り捨て)

 

 総人口 1,171,037,733人

 

 

 

 

 

 人口および面積はWikipediaと2010年度版世界地図帳を元にしております。

 尚、人口の基本は大陸日本を除く2002年~2012年の各地の人口に1.2掛けしたものですが、一部その限りではありませんのでご了承くださいませ。

 

 地名変更や自治体の併合など私の考えました独自設定も入っておりますので御注意ください。

 

 ブリタニア人自治区は【行政特区日本】と同様の自治体として亡命ブリタニア人の自治国扱いとなっており、日本領内にも数カ所ブリタニア自治区扱いの亡命ブリタニア軍基地が存在しているとみております。

 

 主に日本よりの姿勢をとっていたとされる西海岸諸侯と元領民などが中心となってコミュニティを築いている感じです。

 

 注意点と致しましてテンプレで示された地域のみの算出となっており、記載のない太平洋地域の島嶼は正式な日本領ではないとみて対象から除外しております。

 

 日本大陸+台湾+海南島+樺太+シベリア全域+外満州+アリューシャン列島+アラスカ+ハワイ諸島+南洋諸島=マリアナ諸島・パラオ・マーシャル諸島・ミクロネシア連邦

 千島列島+シンガポール+フィリピン+スンダ列島+ニューギニア島および周辺の島+ソロモン諸島+豪州大陸(日本名・扶桑大陸)+ニュージランドのみです。

 

 最終更新:2015年07月16日 18:52



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南天のちょっとしたWiki先生みたいなもの

 

 

 

 南天のちょっとしたWiki先生みたいなもの

 

 

 

 浄化

 

 

 浄化と言う言葉がある。これは浄化作用や下水等の浄化装置といった意味合いが一般的で、少なくとも北側諸国、および中華連邦、ジルクスタン、E.U.ユーロピア共和国連合ことユーロユニバースではそう捉えられ、またその意味合い、浄化装置の意味合いを持つことが多い。

 

 だが、一度これを南側諸国こと南天に当てはめてしまうと、全く別の意味に早変わりする。浄化とは洗い清めること。清めるとは神の洗礼の儀(簡略化でも良し)を受けさせ、神への忠誠と信仰心を植え付けることが宗教上では一般的意味を持つが、南天の浄化は死刑である。

 

 神に仇なし、神の洗礼を、神の教えを受け入れぬ者、従わぬ者に、生きている価値なし。無価値なる汚れた存在であるとして浄化措置、死刑という一択の選択肢が選ばれる。死を以てその魂は浄化され、神の御許へ導かれるという意味もある。

 

 これを回避するには、神の名の下に教え導き付き従い、神と共に生きる道である教化を選ばねばならず。南天勢力範囲の人間ならば一度は『教化か浄化か』という、南天の教えに染まっていない者には恐ろしく聞こえる台詞を聞かされる。

 

 注:生まれついての南側諸国の人間および洗礼を受けている両親の子は、強制的に教化を選ばされており、幼少期から神への教育が行われている。

 

 

 教化

 

 

 南天の唯一神にして絶対神、創造主クリエイター=Lへ絶対なる忠誠を誓うことを意味し、南天の教義に触れ、彼の教義を覚え実践することを意味する。

 

 大凡は福祉、慈善事業で、現人神たる唯一神のご加護がありますようにと、善意のみを振りまき無償で貧困層を援助していく事など、一見完全な善意の下で動くも。

 

 唯一神の下へ民を導く布教活動で、世界中を、全天の星の下へ置くべき事を究極の目的に据えている。神に忠誠を捧げよ、世界を愛せよ、南天を愛せよ、同じ教えを受ける同胞のために汝の命を捧げよ。という教えが分かりやすい説明だろうか。

 

 この教化された者の中より信仰心の厚き者にはエンジェル以上のステージが与えられ、南天の領域と、南天に連なる組織や団体に一定以上の発言権を下賜される事となる。

 

 オファニム以上となれば、南天全体での発言権が得られ、一国や特定地域を神よりの贈り物として下賜される事もある。場合によっては神への謁見が適い、そのありがたきお言葉を戴くことが出来る栄誉を得られることもある。

 

 ケルビム、セラフィムレベルは、一地域、一国家を下賜されると共に、南天条約機構軍の一軍の司令官を任されることも。これは国を下賜される以上に大変名誉なこととされ、全天に美しき世界の実現の最先端を進めるという栄誉その物。

 

 注:南天条約機構軍関係者はエンジェル以上が多い。これは軍は信徒の中でも最も影響ある布教団体の側面を併せ持つからである。

 

 

 

 

 死兵の軍

 

 

 北側諸国および中華連邦、ジルクスタン、E.U.ユーロピア共和国連合ことユーロユニバースではそう呼ばれる、南天条約機構軍兵士80,000,000名の別名。

 

 無表情でただ機械的に進軍し、浄化、浄化、と静かに口走りながら死への怖れもなく浄化作業、戦争任務を遂行していく姿から付けられた呼び名。

 

 なお別に感情が無い訳では無く、同じ軍の人間同士で話すときは普通の会話。上官へと話しかける際も普通の軍人である。

 

 普通に話す事も、喜怒哀楽もある人間ばかりである。ただし、一度天命が降りれば無表情であるいは満面の微笑みで。浄化作業を行う二面性を隠し持っている。

 

 死は唯一神にして絶対神、創造主クリエイター=Lと一つになれることであり、究極の救済でもあると考えており、死への怖れその物が存在しない。

 

 

 

 全天に美しき世界の為に(実現を)

 

 

 南天軍から南天関連のテロ組織、細胞組織、慈善事業団体関係者、一人の信徒に至るまでの全体での合い言葉であり、南天の絶対命題。

 

 その意味するところは恐らく北側諸国やその他の北半球諸国と、取りこぼしている南ブリタニア諸国全土の征服。すなわち世界征服であろうと推測される。

 

 全天とは南天と北天を指し、南天は南半球。北天は北半球を意味する。地球全土のこと。

 

 

 

 

 

以上です。

何か頭の中にひらめいてこんな説明文を書いておりました。

こんなの書く前にお前のくだらんお話の続きを書けよとお叱りを受けてしまいそうですね……。

 



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魔弾と薔薇


 以前投稿した設定をSSにしてみました。設定の一部は設定のほうに


麻生良太郎:枢木内閣外務大臣で世界最強のスナイパー

(モデルはムダヅモ無き改革の麻生タロー)

麻生夫人:シンク・ローゼンクロイツ 小柄で身の丈よりも長い金色の髪と、すべてを見通すような蒼い瞳が特徴

(モデルはRozen Maidenのローゼンメイデン第五ドール真紅 神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家の令嬢で第五女)



 

 

 

 ある日の午後、麻生良太郎の下に、辻政信大臣から依頼が入った。なんてことの無いいつもの依頼だ。南天のテロ組織の細胞潰しの。

 

『ローゼンクロイツ伯爵家の御息女が麻生さんの滞在中の街で紛争に巻き込まれています。あなたもまた巻き込まれているでしょう? 同じ地なのですから。どうか救出をお願いできないでしょうか?』

 

『貴族のお嬢様かァ……俺ァお高くとまった貴族のお嬢様ってのが苦手なんですがねェ』

 

 ノブレス・オブリージュを行くブリタニアの貴族を嫌っては居ない。ただそれでも、中にはお高くとまってる勘違いしたお嬢様もいる。

 

 平民をあしざまに罵ったり、下位貴族をいびり倒す上位貴族のお嬢様だったり。出自の関係でそういうのは何度も見てきた。

 

 そういう付き合いが嫌で家を飛び出し根無し草になったようなものだ。だが、まあ。

 

『辻のおじきの頼みじゃ断れませんぜ。散々世話ンなってますからね。ま、俺っちに任せて下せェや』

 

『お任せしましたよ。ただそのローゼンクロイツ家のご令嬢は非情に気位の高い女性でして、頭の回転も良く、何でも知っているような方で。THE・上流階級を地で行く方のなのです。少々お気を悪くされる発言が飛び脱したり。思いもしない一言が飛び出したりするかも知れません。くれぐれも冷静な対応をお願い致します。くれぐれも」

 

 と、辻政信のおじきより依頼を受けたことがアイツとの出逢いの切っ掛けだった。

 

 

 ※

 

 

 ガンッ。

 

 扉越しに一発。

 

 血の臭いがした。それも濃いのがな。つまり向こう側にいるのは人間を殺した奴だ。そしてこの場で人間を殺しているのはテロリストしかいねえ。殺気と邪悪な臭いもぷんぷんしやがるしなァ。

 

 案の定扉を開けた先で崩れ落ちていたのは、白い装束の、南天に忠誠を誓う連中が身に纏う服着た男だった。

 

『だ、誰だてめェェッ!!』

 

『ああ、俺のこたァ、助六とでも呼んでくれや。それとよォ、神に仕える信徒が、口がなっちゃいねえぜ』

 

『やかましいッ! 敵だ片付けろッ!』

 

 

 

 

 魔弾と薔薇

 

 

 

 

 パン、パンパパンッ。銃声音に、俺が片手に持つハンドガンが火を噴く。

 

 相手に撃たれるより先に、撃って、相手の弾を弾き飛ばすのさ。

 

『ぐェッ』

 

『ぎゃッ』

 

 弾き飛ばした弾も無駄にしねえ。リサイクルできるゴミはリサイクルしねェといけねえだろ?

 

『な、なんだッ?! なにやったんだ?!』

 

『弾を弾で弾いて軌道を変えて、リサイクルしてやっただけさ。誰でも出来る手品だろ?』

 

 愛用の煙草に火を付けながら、肺の奥に吸い込む。戦場での一服はいい。生きてるって心地がしてよ。

 

『ば、化けもんがァッッ!!』

 

 撃てッ、撃て撃てッ、片手の弾を撃ちつくし。瞬速のリロード。これでも手は早ェンだぜ? その間にもう片手は一発一発撃っていく。

 

 自分で言うのもおかしな話しだが、昔からそうなんだよ。銃全般を撃つとき世界が灰色になって時の流れが遅くなンだ。

 

 遅えからどれだけ撃たれようが、そのおっせえ弾に自分の弾丸を当ててりゃいい。昔辻のおじきに相談したことがあった。

 

 あの人も結構不思議だからよ。そしたらそれは持って生まれたあなたの力だろうだってよ。なんの為の力か。

 

 こういう時のための力なんだろうな。2、5、10、30、撃ち尽くしてはリロード。撃ち尽くしてはリロード。片手でな。

 

 コイルガンリボルバーってな楽でいい。リロードが簡単だ。50。70。

 

『ば、化け物だ、こん、こんなやつに勝て――ギャッ』

 

 81。まだいるぜ豚共は。ああ豚に失礼か。羽虫だな。俺は両手に持ったコイルガンを四方八方に撃ち尽くす。倒れたのは一気に50。少なかったか。

 

『な、ななッ、なにやったてめえッ、今のはなん――』

 

 パンッ。

 

『口動かす前に手ェ動かせや三下ァ。跳弾って簡単な手品だよ』

 

 あと50人くらいか“死兵”だったら厄介なところだったが、“死兵”になる度胸も信仰心も薄い本域の三下だな。最も“死兵”なら雰囲気と言葉尻で分かるがな。あの狂った連中独特の『全天に美しき世界の為に』『浄化』そんな言い回しが耳に残る。

 

 カチカチカチカチカチカチカチ……。

 

 一瞬でリロードを終えた俺は、一人ずつヤんのも面倒だともう一発手品を噛ました。

 

 どさッ、どさどさどさッ。

 

 最後に一人残ってたなあ。指示だけ出してたドサンピンが。

 

 俺はゆっくりと階段を上っていく。そいつはまだ銃を持っていた。機関銃だ。自慢だけしたい奴が持つ獲物だ。禄に使えもしねェくせしてよ。

 

 そいつ使っても俺にゃ勝てェけどな。

 

『ひッ、ひッ、ば、ばけもッ、たしゅッ、たしゅけてッ、命だけは』

 

『祈るんなら祈れ』

 

 リボルバーをそいつの額に当てて。

 

『てめェらの信じてる南天の神様ってやつによ』

 

 乾いた音が一発鳴り響いた。

 

 ※

 

 現場のホテルにおいて、最上階に宿泊しているという情報を元に、約200名のテロリストを壊滅させ、現場へとたどり着いた時。

 

 救出目標は、そいつァ、一人涼し気に優雅に紅茶を飲んでいた。どういう神経してんだって思うだろ。だが俺にゃ何も言えなかったのさ。

 

 その様があまりにも似合っていて。その在り方が至高のアリスって奴に見えて。アリス……純真無垢な至高の少女。昔見た漫画に出てきたこの世でただ一人の美しき少女。

 

 ※

 

『……』

 

 蒼い瞳はどこまでも深く透き通り。心の奥を見透かされる様にこちらを見つめている。

 

 身の丈よりも長く美しい金色の髪を、頭の両側側頭部高くに黒いリボンで結び。赤いヘッドドレスを付け。

 

 ヘッドドレス同様に、その小柄な身を包んでいるのも、赤い、赤いドレス。戦場に咲く美しい薔薇がそこにあった。

 

 その優雅な美しさに一瞬見惚れ、加えていた煙草を落としてしまうも、気を取り直した良太郎は問うた。

 

『おめえさんがローゼンクロイツ伯爵家第五女、シンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢さんかい?』

 

 名を聞いただけなのに。その瞳はすうっと細くなる。まるでなってないと言わんばかりに。

 

『レディに名を聞く前にはまず自身の名を告げなさい、無粋な男』

 

 当然の事を一々レディに言わせるな。少女なのか女性なのか、年は確か、ああいや、それこそ無粋だな。

 

『おおっと、こいつぁ失礼しちまったぜ。俺っちはリョウタロウ・アソウ。便利屋っつーか、まあ傭兵見てェな事してるぜい。ある人の依頼であんたを救出に来た』

 

 そこまで答えた時。

 

『お茶が冷めてしまったわ。そう、リョウタロウ……といったわね、淹れ直しなさい』

 

 この様な紛争のさなかにありながら、彼女はお茶を要求したのだ。

 

 こんな、血と硝煙の臭いのする戦場の中でだ。テロリストが未だ何処に潜んでいるかも分からない状況でだ。

 

 豪胆な、つええ女だと思ったねェ。強がりじゃねえ。本物の強さって奴を持ってらあ。

 

『おいおい、……いい、度胸してんじゃねーかよ。こんな状況で、眉一つ動かさず、瞳に動揺の色も見せず……オメエさん、大物だな……』

 

『どうでもいいわ。早く淹れなさい。‟魔弾の射手”。あなたが動いたというのなら、もうこの建物内に不埒な輩は残っていないはず……そうでしょ?』

 

 その全てを見通すような蒼い瞳は、やはり全てを見通していた様で。良太郎の持つもう一つの名を言い当ててしまった。

 

 ちょっと待て。何で知ってんだそんな裏情報。その二つ名を俺と繋げて知ってるやつなんざ、あの方々と恐れ多くも上帝陛下、御帝くれえだ。皇族の方々だってほとんど知らねえってのに、なんで初めて出会ったこのお嬢様が知ってやがんだ。

 

『知ってんのかよ。俺っちの事。こいつァまいったぜ……何処で知った?』

 

 本来知ってる者はといえば、裏世界に精通している人間に限られる。こんな美しい上位貴族のお嬢様が知っていていい名ではない。それなのに知っている、なぜだ?

 

『ふふ、レディは何でも知っているのよ……あなたが闇社会、南天に繋がる組織を潰しまわっていることも。あなたに依頼している方々が誰なのかも』

 

 ッッ! こいつはやべェぜおじき。救出対象だが消しちまったほうが──そう考えた瞬間だった、柔らかな微笑みを浮かべたシンクの二つくくりの長い髪が大きく揺れた。

 

「ふふ、私を殺す? 全てを知っているこの私を。あなたのその銃で私を手折ってみる? 手折れるのならば」

 

 鮮やかで美しく、艶やかで儚く。戦場に咲いた美しき薔薇……。

 

 ここまでのいい女を……俺は……見たことがなかった……。すげえよ、一舜で心を鷲づかみにされちまった。

 

 一目惚れ、なんてのが本当にあるとは思わなかったぜ。

 

 くそッ、くそッ、くそくそくそくそったれッッ!

 

 ああ、ダメだ。俺はこいつを殺せねえ。

 

 この美しい薔薇を手折れねえ。

 

 奇麗すぎてダメだ。

 

 ああ、いいぜクソッタレ。今生の見納めだ。あの世へのいい土産だよ。

 

 最悪、俺っちが辻のおじきに消されてもいいぜ。

 

 それで、そんなことでこの女を守れるのならば……。

 

『だけどね魔弾の射手──そんなことはどうでもいいの。あなたが私をどうするか? そんなことには興味なんてないの。私はね、世界最強のその手で淹れられたお茶を飲みたいの……。最強の手で淹れられたお茶とはどのような香りと味がするものなのかが知りたいの……。お茶を淹れなさい──リョウタロウ』

 

『は、はははッ、はっはっはっ、剛毅だねえシンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢。自分の置かれた状況もわきまえず。あくまで態度を崩さずか』

 

『ええ、心配する必要性がないもの。私は今この時。私のknightを見つけたから』

 

『ふ、ふふ、ふふふっ、はっはっはっはっは、そうか、そうかよお嬢。いいぜ、あんたのknight。この魔弾の射手が務めてやらあ、んでもって最高のお茶を淹れてやるよ、シンクお嬢様』

 

 すげえ女だよったく、この俺が執事扱いか。だが、ああこりゃ、悪く、ねえなあ。シンク。美しき俺の薔薇。お前に、俺は。

 

『思いもしない一言が飛び出したりするかも知れません。くれぐれも冷静な対応をお願い致します。くれぐれも』

 

 そうか、辻のおじき。そういう事だったのか。どうやら魔弾の射手は撃たれちまった見てェですぜ。この美しき薔薇のアリスに……。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 ガンッ

 

「いっでェェェ、毎朝毎朝何しやがんだこの糞アマッ!!」

 

 身の丈よりも長い金色に輝く美しい髪がさらりと肩から流れ落ちている。まだ結んでいないその絹糸は立ち上がったならば床に付いてしまうだろう。

 

 だが、その長い金色の艶やかな髪は俺の身体を包み込むようにして、放射状に広がっていた。小柄な彼女の身体だけあって、視覚的によく見える。

 

 所謂朝チュンとかいう奴だが服はもう着ている。つまり先ほどまでは二人して裸だった。身体の小さなこのお嬢様を抱くのはいつもながらに背徳さがある。

 

 とにかく、俺の身体にうつ伏せで乗っかって脛を蹴って来やがった。こいつはなにかと脛蹴り噛ましてくるからその内俺の脚骨折しねェかと心配になる訳よ。

 

「いつもいつも言っているでしょう!! お茶の時間に間に合うよう髪をセットしなさいとッ!!」

 

 お嬢様は赤いドレスはもうお召し。ヘッドドレスは未だ。俺に髪を梳かれる時を待っていたらしい。

 

 いつまでも俺がベッドの上で仰向けンなって寝転がってる物だから、ベッドサイドに座っていたお嬢様はキレてボディプレスしてきて脛蹴り噛ましたってこったな。

 

「へいへーい。おりゃ召使いかよ」

 

「違うわ。あなたは私の僕よ」

 

 僕、何か結婚したときのことを思い出す。

 

 俺はお嬢様用のブラシを手に取り、金色の長い髪の下に手を入れて、優しく優しく梳いていく。

 

『リョウタロウ・アソウ。こ、こ、このローゼンクロイツ伯爵家第五女、シンク・ローゼンクロイツの永遠の僕となりなさいッ!!』

 

 いま思い出してもなんちゅープロポーズだよ。逆プロポーズだったんだが、そんなプロポーズに応えちまった俺も俺か。

 

 まあな。あの出逢いの時からコイツしかいねえって俺も思ってたから、想い実って最高だったよ。

 

「ん、気持ちいい、リョウタロウ。あなたなにか嬉しい事を考えているわね?」

 

 お嬢様――シンクの長い長い、身の丈よりも長い金色の髪を梳いているとき。シンクが俺の考えを当てた。

 

 昔からだよな。昔からそうだった。俺の考えを簡単に当ててきて。心の中まで見透かしているかのように。

 

 その間も手を止めず、重たくも、流れるような美しきその髪の毛にブラシを通して梳いていく。

 

「ああ、最高に嬉しい事を考えてた」

 

 俺が嬉しい事を考えながら髪を梳かれると、シンクはいつも以上に気持ちが良いらしい。

 

 日当たりの良い部屋で髪を梳いてやってるとき、そんな状態になると、心地良すぎて寝ちまうんだとか。

 

 俺の腕の中で眠っちまったシンクを、俺は背後から抱き締める。髪からは良い香り。身体からは薔薇の香り。こんないい女と結婚して俺も幸せだなあと、俺もシンクと一緒に寝ちまうのよ。

 

 

 長すぎる髪を梳き終えるのに結構時間が掛かった。

 

 柔らかい髪の毛を傷つけないように、優しく優しく梳くからな。この時ばかりはシンクもお茶の時間を口にしない。

 

 女が髪を触らせる相手は、それだけその相手へ愛情を抱き信頼しているからなのよ。シンクの格言だ。その言葉通り、シンクは俺以外の誰にも髪を触らせない。お父様であるローゼンクロイツ伯爵だけは別枠だが。

 

「終わったぜ」

 

「そう、それじゃ、髪を結って頂戴」

 

 細く黒いリボンが二つ渡される。これも今や普通になった髪結いだ。

 

 俺はシンクの髪をまず大きく二つに分け。片側を側頭上部に集めていき。優しくきゅっと絞ると、黒いリボンを巻き付けて結い結んでいく。

 

 そして続くもう片方。残ったから側に広がる柔らかで美しい髪の毛を束にして、同じく側頭上部、先に結い終えた片側と寸分変わらぬ位置でキュッと絞り。

 

 もう一本の黒いリボンを髪の毛の束の根元に巻き付け、くっと絞り。綺麗に結びつけていく。

 

「これでいいか?」

 

 聞くと、シンクは手鏡で結ばれた髪の様子を眺めると。

 

「いいわ。うまくなったわね」

 

 小首をかしげて優しく微笑むシンク。吸い込まれそうな蒼い瞳が俺の顔を映し出している。

 

「おまえは変わらず美しいぜ」

 

 言うと。彼女の頬が赤く染まる。何を言い出すのかと言いたげな彼女は、ドレスの色と同じ赤いヘッドドレスを手に素早く頭に付けると。ベッドから一緒に立ち上がったところを。

 

 ガンッ

 

「いっだァァッ!! てめッ! だからなんでそんな脛を蹴ってくるわけッッ?!」

 

 彼女の手には金色の懐中時計が握られている。昔から愛用の物でお父様に頂いた大切な時計らしい。ローゼンクロイツ伯爵、俺も当然お会いしたが八人も居る娘達を愛する物静かな紳士だ。

 

 そういえばローゼンクロイツ伯爵は娘達に日本風の名前ばかり付けているな。一番下がバラスイショウ・ローゼンクロイツ嬢だったな。そのバラスイショウ様と、長女のスイギントウ様にはなんか気に入られてるんだよな俺。

 

「ほら、お茶の時間が三分過ぎてしまっているわ。早く用意なさい」

 

「へいへーい」

 

 色々考え事してたらシンクに急かされた。くそ、こんな朝っぱらから起こしやがって。今日は俺休みだっつーのに。

 

 ガンッ

 

「いっだあああ!!! 三発も蹴るかァァ!!」

 

「僕のくせに遅いからよ。……ランチは外で食べて、その後は映画館――でしょ?」

 

 にっこり微笑む麗しの君。ああ、ずるいなその笑顔。可愛すぎて中年手前の俺の心臓バクバクなんだけど。

 

「ああ、そうだな。お嬢様よ」

 

「リョウタロウ……」

 

 朝の素敵なモーニングタイムの前に、俺たちはまず挨拶の口付けを交わした。

 

 

 ※※※

 

 

 麻生良太郎。

 

 

 枢木内閣外務大臣。(モデルはムダヅモ無き改革の麻生タロー)

 

 外見は壮齢男性で、年齢は52歳。

 

 口が悪くべらんめえ口調が特徴な言葉遣いをしている。自分の年齢の半分ほどの年齢の女性、神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家第五女シンク・ローゼンクロイツを妻に持つ。

 

 二人の出逢いはアラウカニア=パタゴニアでの南天のテロ組織の細胞が巻き起こした紛争に巻き込まれたシンクを、当時スナイパーとして世界中を飛び回っていたとき良太郎が引き受けた、辻の依頼からでのこと。

 

 二つ名を『魔弾の射手』生まれてから銃と呼べるもの、おもちゃの銃やエアーガン含むで、一度も外したことがない事から付いた、裏世界での通り名。

 

 1㎞離れた場所からのピンホールショット。1m以内でのビリヤード(弾丸撃ち)や跳弾撃ちもこなす射撃の天才を通り越した怪物。

 

 獲物は基本古めかしく使い込まれたライフルだが、拳銃、マシンガンと各種扱え、また徒手格闘、ナイフ戦等も可能なオールラウンダー。

 

 辻政信からは一人で一個大隊を潰せるのは彼くらいでしょう。戦車を銃で撃破。ライフルで戦闘機・KMFを撃墜した事もある超人。

 

 全天に美しき世界の実現と神の為に“死兵”となってまで戦い続ける南天の本物の信徒の危険性を熟知している一人。

 

 

 

 シンク・ローゼンクロイツ(モデルはRozen Maidenのローゼンメイデン第五ドール真紅)

 

 

 常に真っ赤な薔薇を連想させるドレスを着ている、枢木内閣麻生良太郎外務大臣の妻。

 

 年齢26歳ながら外見年齢は十代中盤から後半くらい。立派な成人ながら小学生と間違われることもある。

 

 神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家の令嬢で第五女。

 

 小柄な女性であり、世界中の書物を読む読書家。普段は大人しく清楚で寡黙。一見無表情にも映るが、時折浮かべる微笑みは静かな優しさを称えている。

 

 社交界では薔薇乙女と呼ばれ、その透き通った青い瞳と、幼さを感じさせる小柄な背丈に、身の丈よりも長い金色に輝く美しい髪を黒いリボンでツインテールに纏めており、その美貌に多くの男性の心を奪う。

 

 一見完璧な淑女ながら、児童書が好きであったり、児童向けアニメを視ていたりと、社交界での彼女とのギャップが激しい。

 

 また、紅茶の時間にはとても煩く、いつも携帯している金の懐中時計で時間を確認、一分でも遅れる事を許さない。

 

 夫である良太郎をまるで下部や下僕の様に扱いながらも、本当は誰よりもこよなく彼の事を愛している。

 

 その証明とでもいうかのようにシンクの身の丈よりも長く伸ばされた美しい金色の髪を良太郎に梳かさせて、地面に付かないよう、黒いリボンでツインテールに髪結いまでさせている。

 

 シンク曰く、『女が髪を触らせる相手は、それだけその相手へ愛情を抱き信頼しているからなのよ』だそう。

 

 全天に美しき世界の実現と神の為に“死兵”となってまで戦い続ける南天の本物の信徒の危険性を熟知している一人。

 



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マリーベルの気持ち

何かネタを書かなくてはと思い考えたネタです。
ネタバレが混じっておりますので読まれている方で、ネタバレがお嫌いな方は飛ばしてください。



 

 

 小ネタ マリーベルの気持ち

 

 

「んがぁぁぁ、んがぁぁぁ」

 

 V.V.邸の居間。この誰も居ない時間帯に、二人の人物が居た。

 

 パチンコで負けて、望みの綱として、丁度来訪していたランペルージグループ社長。

 

 シャルル・ランペルージ社長を相手に、財布の中身全部勝負で、スピードとポーカー勝負を挑み。

 

 結果として全財産をシャルルに巻き上げられてしまったのはそう。

 

 この不貞不貞しく居間を占拠しながら眠る。

 

 茶髪を逆立て、顎髭を生やし、身体にフィットしたジーパンと紫のTシャツに身を包む、日本人の青年、玉城真一郎であった。

 

 シャルルの護衛で艦隊を動かし、日本まで来ていた、あるお姫様は。

 

 そんな居間に眠る青年の頭を自分の膝に乗せてあげていた。

 

 本来は空の人と成り、世界中を飛び回らなければない彼女。

 

 超巨大テロ組織白い翼と、その参加のテロ組織を相手取って戦わなければならないのだが。

 

 シャルルが日本を訪れる際には休暇が出される事があり、シャルル護衛艦隊に混ざって行動することもある。

 

 シャルルが久しぶりに娘に会いたいという個人的な希望もあって。

 

 そのシャルルは今、嶋田邸に赴いている。政治の話ではない、主に商談の話なので、かつての嶋田政権の元閣僚数人や、彼の世界四大企業の一つ倉崎重工の倉崎翁が参加している話し合いらしい。

 

 警護にはシャルルが皇帝と分かってしまうような布陣、ナイトオブシックス――アーニャ・アールストレイム卿、ナイトオブテン――ルキアーノ・ブラッドリー卿が付き。

 

 嶋田繁太郎元宰相側にはナイトオブトゥエルブ――モニカ・クルシェフスキー卿、陸軍から藤堂鏡志朗と四聖剣が付くという徹底ぶり。

 

 ランペルージ側からは技術顧問としてロイド・アスプルンド伯爵。

 

 その助手セシル・クルーミー女史が参加し。

 

 倉崎側からは技術顧問として倉崎の最先端技術開発部主任と、ラクシャータ・チャウラー顧問が参加。

 

 かなり大きな商談らしく、皇族ではV.V.皇兄殿下にしてランペルージグループ会長が参加しているのみ。

 

「何のお話を為さっているのでしょうね? 兄さま?」

 

 お姫様は、白雪姫のように眠る玉城真一郎の頬を撫で、逆立つ髪を撫で、彼の唇に口付ける。

 

 白雪姫は起きない。まるで、まるでそう、あの時のよう。

 

 白雪姫であるこの人と、王子である私が再会したときのよう。

 

 あの時のように、もう二度とお起きに成られないのではといった不安が、今以て拭えない。

 

 あの時から、王子は更にテロと南天を憎むように成った。

 

 

 

 

「白い翼――南天……」

 

 この世界の平穏を乱す敵、わたくしと、お母さまと、ユーリア。多くの騎士や使用人達を一時生死の境に落とした、あの火事と爆発。

 

 忘れない――『キミは資格を持っているのだ選択の数だけ時間と未来は生まれる さあ、選択の時だァ? くふふふっひゃーっはっはっはっはっはァァァァ!!!』

 

 影に隠れた容貌の奥、目の位置に輝くは虹色の双眸。鳥のような羽ばたきを持つ虹色の、二つの瞳。

 

 眼鏡を掛けていた、白衣の男。見たことも無い銃を持つ白い頭巾を被った二人の男を従えて、わたくしたちの宮殿を焼失させた男。

 

 あれはきっと夢じゃない。お父様を悩ますテロリスト。そんな生易しい物ではない、あれこそがきっとこの世界の敵。

 

「南天のか――」

 

 口に出してはいけない言葉を出しかけたとき、わたくしの膝の上で、熱源体がごろんと寝返りを打った。

 

 兄さま、ああ、兄さま、わたくしは、王子はあなたをお慕い申し上げております。

 

 もう二度と、あの様な目には、合わさないと。衣服をまさぐり上げると、ほっそりとしながらもたくましい身体の一カ所に、大きな弾痕の跡がある。

 

「……ヴァーチャーズ、キル・ワーカー……」

 

 裏世界では名を知らぬ者が居ないと言われるほどの、スナイパー。

 

 麻生良太郎大臣は動かれた。

 

『調子くれた糞ガキの始末は任せろ』

 

 そう言って辻卿の命令の下、正確を期すなら静かな怒りで有り、世界を破壊してしまうような恐ろしい怒気を発していた嶋田閣下の御命令で。

 

 あの日はそう、お祝いの日だった。わたくしの、わたくしだけの秘密のお祝いの日。

 

 ネッサローズで、グリンダ艦隊でこの盟邦大日本帝国へと降り立ったときから、その瞬間だけを待ち焦がれていた……。それが……。

 

「兄さま、兄さまは必ずやこのわたくしが御守り致します。ですから……、ですから、どうか今は安らかに」

 

 今、王子たるわたくしは、グリンダ騎士団の正装でも、外出用のワンピースでもない。

 

 左胸に紫の薔薇のコサージュを付けた白い上着と、金の髪留めで大きく一つに纏めた髪に白い帽子、タイトなスカートの赤い衣服に、焦げ茶色のソックスといった姿。

 

 社長令嬢マリーベル・ランペルージの姿であり、視察に赴くとき様のマリーベル・メル・ブリタニアとしての装い。

 

「兄さまにこの姿をお見せしたかったのに」

 

 兄さまは深い眠りに就いている。こういうときの兄さまは起こしても起きないこと、わたくしはこの僅かな時間で与り知りました。

 

 疲れて眠っている兄さまを起こすつもりもない。

 

「兄さまがお起きでしたらば。そして、いつもとは違うわたくしの姿をそのお目に焼き付けていたら、どの様な御反応を為さっていたのでしょうか」

 

 愛しております兄さま。永久に愛しております……。

 

 マリーベル・メル・ブリタニアは、あなた様への永遠の愛をここにお誓い申し上げます……。

 

 そっと、静かに唇を重ねる。

 

 寝息しか出ていない、いびきを搔いているその口に。

 

 

 



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小ネタ 策士マリーベル

小ネタ マリーベルの気持ちの小ネタです。


 

 

 小ネタ 策士マリーベル

 

 

 

 するとパッと目を覚ます兄さま。

 

 もう少しの間、御就寝下さっていらっしゃってもよろしいのに。

 

「あ、あら?!」

 

 突然お起きなさる兄さまにわたくしは少し慌てながらも平静さを装いつつ。

 

 左胸に紫の薔薇のコサージュを付けた白い上着と、金の髪留めで大きく一つに纏めた髪に白い帽子。

 

 タイトなスカートの赤い衣服に、焦げ茶色のソックスといった姿。

 

 社長令嬢マリーベル・ランペルージの姿であり、視察に赴くとき様のマリーベル・メル・ブリタニアとしての装いを兄さまにご披露いたします。

 

「こ、こほんっ、わ、わたくし本日余所行きの装いで御座いまして、いつもの衣服ではありませんの」

 

 思えばこの視察用の公務服は兄さまの前で披露した事が無い様な気も致します。

 

 わたくしが兄さまを公務に連れまわす事。その事その物がありませんものね。

 

 マリーベル・メル・ブリタニアの騎士か?! 等と、兄さまの事を邪推されても困りますし。

 

 シン兄さまはわたくしの婚約者であると大々的に発表致しますにも、時期という物が御座います。

 

 無論、皇室への根回し、描く大貴族家への根回し、盟邦大日本帝国への根回し。そして北側諸国全土への根回しとなさねばならぬことは多岐にわたります。

 

 兄さまの意思の確認?

 

 その様な物は必要ありません。

 

 兄さまがわたくし以外の女性を選ぶなどという事は億に一つもございませんもの。

 

 もしもその可能性があるとしたらクララ・ランフランクというわたくしの恋のライバルのみ。

 

 あの娘への対処も万全。迎え撃つ覚悟はできておりますわ。

 

 本日はあの娘はおじさまの会議の護衛として出席中。

 

 わたくしは日本の、主に新宿副都心界隈と秋葉原の視察に赴くのでここに居るのです。

 

 兄さまをお誘いしようとしていたのですが、御就寝だったご様子でしたので諦めるつもりでしたが。

 

 お起きになったのであれば話は変わってまいります。

 

 このまま兄さまを拉致──もとい。兄さまをお誘いし、わたくしの御車にて送迎をさせて頂きましょう。

 

 ところで兄さま。固まっておいでですが如何なされたというのでしょうか?

 

「ま、マリー、だよな?」

 

「はい、マリーベルですわ」

 

「な、なんだよそのかっこ」

 

「うふふふ、視察用の公務服ですの。テレビなどでは中継されているのですが、兄さまそもそもそもギャンブル関係以外をご覧になりませんものね」

 

 ええ、この公務服姿。

 

 テレビ中継ではそれなりに放映されている機会も御座いますのよ?

 

 それなのに兄さまはちっともご覧になってくださいませんので。

 

「こ、こう、なんつーのよ。で、出来る女って感じがする……よく考えたらお前ブリタニアの皇女、お姫さまなんだよなあ。出来て当たり前なんだよなあ」

 

「学業、礼儀作法、武芸一般、一通りは習得してきておりますわ」

 

「そりゃ俺の肩外せるわけだわ」

 

「この衣装の時はその様な粗暴な事は致しません。神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニアとしての通常の公務を行う時ですから」

 

「英雄皇女様でもいくさ姫さまでもねーっつー訳か。なら、俺も安心してパチンコに──」

 

「行かせませんっ!」

 

 ぐっと肩を掴んでわたくしのひざの上にもう一度寝かせます。

 

 視察は三十分後。三十分間このままで。

 

「ううっ?! おめーに肩を抑えつけられると幻肢痛がして痛いんだけど……膝は、柔らけーし、良い匂いがする」

 

「前半は必要ありませんが、後半のお言葉は、そ、その、お、女として……嬉しい、ですわ」

 

 しばしの沈黙。

 

 雀がちゅんちゅん鳴いておりますね。

 

 わ、わたくしったら、行けない事を考えてしまいましたわ。

 

 こ、このまま、もしも兄さまにちゅんちゅんされてしまわれましたら、どう致しましょう?

 

 だ、大事件になってしまいますわ!

 

「ああ、……っに、兄さま、行けませんこの様なところでっ、っっああーーーっっ!!」

 

「な、なにやってんのお前」

 

「し、思考実験ですわ、兄さまがわたくしを襲ったらという」

 

「襲うかっ! 天下のブリタニアの皇女様を襲ったら俺100%死刑だろっ?!」

 

「兄さまがきちんとわたくしを娶ってくだされば問題ありませんわ」

 

 わたくし、あまりの恥ずかしさに両手を頬に充てて、嫌々と首を振ります。

 

 その首の動きに合わせて私の長い髪もふぁさふぁさと揺れます。

 

 兄さまは真っ赤なお顔を為さり固まっていらっしゃいますが、事態の推移をご理解いただけたようですわね。

 

 わたくしはいつでも兄さまを受け入れる覚悟はできております、兄さまがきちんと責任をお取りくださるのならば、この身をいつでもどこでも、この場ででも。

 

 捧げるつもりですわ。

 

「お、おま、おま、そ、そんな、はしたないこと、お姫さまが」

 

 わたくしはそっと兄さまの紫色のシャツをまくりその素肌に触れます。

 

「ちょっ、ちょっと待っ──」

 

 ああ、兄さまの鼓動を感じますわ。

 

 どくどくどくどくと、とても速い、お逃げ為さる時よりも速い鼓動。

 

 わたくしは兄さまの手を取り、自身の胸へ。大きな胸だという自信はあります。

 

「こ、こらマリー、しゃん、あーた、さっきからなにやってんの? むにゅんとしたやーらかいお胸さまが、俺の右手に当たって……ちょーちょっと、君、やり過ぎじゃねー、の?」

 

「わたくしの鼓動を感じてください。兄さまの様に速いでしょう? わたくしと兄さまはいま同じなのです」

 

 一致しているわたくしたち。寸土の違いも無く。

 

 わたくしは膝枕をしていた兄さまを離して、そのお体に自らの身体を重ねます。

 

「うふふ、兄さま、お身体は正直ですわ」

 

「あ、あのな、お、お前みてーな、い、いい女に、覆いかぶさられたら、は、反応するもんもするわいっ!!! いいからどけっ!!!」

 

 嬉しい。わたくしを女として見て下さっているのですね兄さまは……。

 

「退きません。警邏が来るか、お呼びがかかるまでこのまま抱き締め合って居ましょう」

 

「だ、だからあ、俺のが持たねーっつってんの!!」

 

「わたくしをお抱きなさいますか? もちろん責任はお取りいただきますが?」

 

「だ、抱かんっ! 抱かねーぞっ!! マリーを抱いたら責任もあれだがクララに何されるか分からんっっ!!」

 

「クララ・ランフランクはわたくしが退けます」

 

「抱かそーとすんじゃねーよっっ!!」

 

 そうしてわたくしは三十分の間。

 

 警邏の者が呼びに来るまで兄さまと抱き締め合っておりました。

 

 もちろん、秋葉原と新宿副都心の視察には兄さまもご一緒していただきましたわ♪

 

 

ですが、一つ問題が。わたくしがわたくしと分かってしまう装いでは、結局のところ騒ぎとなってしまいまして。

 

 日本で大きな信用を得ていない最低最悪の報道に嗅ぎ付けられてしまい。

 

 

『ババーンッ! 神聖ブリタニア帝国第八十八皇女殿下マリーベル・メル・ブリタニア殿下に男の影っ!!』

 

『ドドドドドーン!! なんとおーーっ!! お相手は日本人の平民っ! 一般人であるのでお顔は伏せさせていただきますが、秋葉原でプリクラを取りっ、新宿歌舞伎町ではマリーベル殿下に恐れ多くもお酒を飲ませたという男性は、界隈では名のしれてない?? へ?ニート? ともあれマリーベル皇女殿下には相応しからずお相手であり、当局の対応が待たれる次第です』

 

 ご提供は朝に舞う新聞のフレーズでご存知の「舞朝新聞号外」でございました。

 

 

 



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ジヴォン家で誕生日

リクエストSSとなります。
お題をいただいてとなりますので逆リクエストとなりましょうか?

アドバイスもあり移動させました。


 

 

 

 その日。6月6日。

 

 その日はあるジヴォン家のある二人にとってのめでたき日であった。

 

 そう、6月6日とはオルフェウス・ジヴォン、オルドリン・ジヴォン兄妹の生まれた日。誕生日なのであった。

 

 それも今日は二十歳の誕生日。いつも以上のお祝いにジヴォン家当主、オリヴィア・ジヴォンも大いに張り切っていた。

 

 

 ドーンッ! ドーンドーンッ!

 

 

『おめでとーッ!! オルフェウス兄さんッ! オルドリンッ!!』

 

 この場に、ジヴォン邸。といっても外観。内装。どうひいき目に見ても、お城か宮殿としか思えない広さを持つ邸には、かなり大勢の人物が駆けつけていた。

 

 本当はグリンダ騎士団の№2であるオルドリン・ジヴォンのお誕生日とあって、皆が皆『是非ともお祝いさせて頂きたいのです筆頭騎士様ッ!!』といって聞かなかったから、後日全体集会の時にでも挨拶するという話になった。

 

 因みに本来ならばクラッカーを鳴らすのが普通であるのだが、ジヴォン家の当主であるオリヴィアが。

 

『どうせなら本場である盟邦大日本帝国から花火職人を呼んで、三尺玉でも打ち上げて貰いましょう』

 

 などと、実に無意味且つ勿体ない、真昼に三尺玉を打ち上げてしまったのである。

 

 これにはアホの玉城も。

 

『俺を超えるアホがいた』

 

 などとオリヴィアに向かって命知らずにも言い放ち、オリヴィアの、ジヴォンの剣を受けたのである。

 

 予想外にもこれを全て避けきった(圧倒的悪運の強さで適当に逃げたら避けられただけ)玉城真一郎に、そんな馬鹿なと崩れ落ちるオリヴィア。同時に素晴らしいとも褒め称え賞賛を送りもし。

 

 調子に乗った玉城がオルドリンに。

 

『俺お前の母ちゃんの剣を避けきったぞどーよ? え? これが俺様の実力なんだよ。これからは玉城様と呼びなさいオルドリンくん』

 

 などと迫った物だから。

 

『調子くれんなーアホのタマキがーッ!!』

 

 と、尻を蹴り上げられるアクシデントが序盤に発生した物の。

 

 オルドリン、オルフェウス兄妹の叔父であるオイアグロ・ジヴォンが。

 

『信じられん。姉上の剣を全て避けきるなどと、常人には不可能だ』

 

 など、これまた驚いていたり。

 

 序盤から実に騒がしい誕生日になっているのである。

 

 

 

 

 

 ジヴォン家で誕生日

 

 

 

 

 

「オルフェウス。エウリア嬢とは上手くいっているのかしら? 続報を聞かないけれど、お母様は早く孫の顔が見たいのよ?」

 

「ま、孫の顔って、母上はまだお若いというのに孫も何も無いでしょうっ」

 

 オリヴィアは絶賛、婚約者として認めている平民の子女であるエウリアと長子オルフェウスとの子を求めている。

 

「覚えている? あなたが平民であるエウリア嬢を私に紹介したとき。私は平民と婚姻するというのならば私から一本を取ること。判定は弟にさせるといって、私の剣を受け、全身を傷だらけにしてまでこの私から一本を勝ち取った事を」

 

 オリヴィアが弟を見る。

 

「はい、姉上。あの時のオルフェウスの一撃は紛う事なき一本で御座いました。我が目に狂いはありません」

 

 こくんと肯くオリヴィアはその上で告げる

 

「そしてあなたは帝国に仇なす者を打ち倒す、皇族の影としての定めを背負い、陰惨で薄暗い匂いのするジヴォンの剣を体得した。プルートーンとして生きる道を選んだ」

 

 オルフェウスは黙って聞き入る。敬愛する母の言葉を。

 

「はっきりと、この祝いの席だからこそ伝えましょう。私はその道をあなたが選ぶ事には正直反対でした」

 

 プルートーンとして生きると言うことは、皇室を影から守り支えることを意味する。

 

 それは、皇室の汚れ仕事、暗殺や破壊工作なども為し得ねばならぬ上に、オリヴィアとしてはけして相対して欲しくない、彼の南天条約機構とも裏からぶつかると言うことを意味している。

 

 謎のギアスの力を多く持ち、盟主とも神とも呼ばれる超常の存在が率いる17億の信徒を世界中に分散させている悪辣にして強大極まる組織。プルートーンに入ると言うことはこの巨大組織を相手取ることでもあるのだ。

 

 オルフェウスのプルートーンへの加入、これはオイアグロも大いに反対した。それはもう家財道具一式を破壊する勢いで。

 

 愛おしい甥が、愛する甥が、プルートーンに加入するという事は、プルートーンとして1億の構成員を持つコングロマリットにして、裏世界の帝王たる、白い翼を筆頭とした巨大な地下組織群と対峙する事を意味するからだ。

 

 正直命を喪う可能性とてあろう。その可能性は極めて高い。南天の仕業だと目されている『空白の三十分事件』この犯人を追ったプルートーンの部隊員は幾人も失踪している。

 

 恐らく死体も残さずに始末されたのだろうというのが大凡の見方。

 

 こんな危険で巨大な組織と戦って欲しくない。

 

 嘘偽らざる想いだ。

 

 だが皮肉な事に、オルフェウス処か、オルドリンまでもが表側よりグリンダ騎士団の筆頭騎士として対テロ。

 

 即ち最終目標として白い翼を相手取り、制圧する組織に身を置いた。無論、フローラを頂点としたブリタニア皇室メル家を支えるジヴォン家。

 

 暗部組織として皇室に必要な貴族家にして、その組織でもある。光有れば影有り、共に揃っている状態こそが通常の状態。

 

 どちらかが無ければ、どちらも存在が成立し得ない、自然の摂理。

 

 弱肉強食でも何でも無い。この世の理なのだから。

 

「オルドリンっ」

 

「あっ、はいお母さま! このアホっ、私の肉取ったら尻蹴り上げてやるからねっっ!!」

 

「ふっ、てめえのお母様の剣を全て避けたこの俺様が、お前如きひよっこの蹴りなんぞ――」

 

 ドンっっ!

 

「痛でェェェェーーーっ!!」

 

「ふんっ! だーれがひよっこよっ。このアホっっ」

 

「いてててて、……淑女らしくて可愛らしいと思ったらこれだよ」

 

「か、かわっっ……。た、タマキの、く、く、くくせにににっ」

 

「オズが壊れたにゃー」

 

 ※

 

「オルドリンこちらへっ」

 

「は、はいお母様っ!」

 

 アホと肉の取り合いに発展していた上に、変な一言にどぎまぎさせられていたオルドリンが呼び出される。

 

 今日は誕生日と言うことで、ロールヘアーや二つ結びにして纏めている普段の髪型ではなく、気品有るお嬢様としての格好をし。

 

 背から腰の中程に届く濃色の金髪を降ろし、風に煽らせている、薄緑の双眸を持つ淑女な愛娘。

 

 兄のオルフェウスが左に泣きぼくろがあるのに対して、右に泣きぼくろがある、妙な色気を感じさせてアホを圧倒したりしているのだが、それは秘密。

 

「貴女は自分の選んだ今の道に後悔はないの? あなたもまた別の形でジヴォンの剣を取ったわ。オルフェウスは裏側から、そしてあなたは表側から」

 

 オリヴィアに続いてオイアグロが言葉を引き継ぐ。

 

「無論、メル家の皇女殿下であらせられる、マリーベル・メル・ブリタニア殿下を補佐する素晴らしい任務で有り、我がジヴォン家としては誇らしいんだよ。私も、姉上もね」

 

 オルドリンが神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニアの筆頭騎士となった。

 

 この日は誕生日や他の祝い事とは別にパーティーも開いた物だ。

 

 ジヴォン家は爵位こそそれ程高くは無い物の、旧家にして名家だ。そこらの新興の下位伯爵家くらいなら圧倒できる発言権や権力を有している。

 

 お屋敷に勤める使用人の数の数百人は居るだろう。

 

 なにも二人揃ってジヴォンの剣を取らずとも、一人には平凡に生きる選択だってあった筈なのだ。

 

「この様なことを皇室の裏側にお仕えする私たちが言葉にすべきではないだろう。だが、私も姉上も」

 

 姉に振るオイアグロ。こくんと引き継ぐ姉オリヴィア。

 

 実は二人とも顔が真っ赤なのである。

 

 いつもならばこんな大勢が居る、何百人と参加しているパーティーの席で、こんな話を公にしたりしないのだが。

 

 オリヴィアが、オイアグロが、二人を抱き締め。

 

「お、叔父上っ?!」

 

「お、かあ、さまっ?!」

 

 瞳を閉じて本音を語る。

 

「南天の魔の手が、お前達に」

 

「貴女たちに」

 

『及ぶことが怖いのだ』

 

 白い翼。

 

 表社会、裏社会、双方に根を張る巨大組織は、プルートーン。グリンダ騎士団が相手取るには余りにも大きすぎる組織。

 

 世界の超巨大企業は大きく分けて四つ存在する。一つは大日本帝国の倉崎、一つは同じく大日本帝国のスメラギ、一つは神聖ブリタニア帝国のランペルージ。

 

 そして最後の一つが慈善団体ピースユニオンと全く同じ名の企業――ピースユニオングループ。

 

 これが白い翼の表企業と目されており、南側諸国を中心にユーロユニバース、中華連邦、その他の中小諸国にも入り込んでいる。

 

 同時にこの企業の裏の顔こそが世界最大のテロ組織白い翼だと言われている。

 

 白い翼は数多くの秘密結社やマフィアなどの裏組織、同じ民主共和制原理主義組織の総本山と目されており。

 

 その上位にこそ南天の存在がある。

 

 情けない話だが、オリヴィアも、オイアグロも、我が身に南天の牙が届くことについては当然として考えており、命を懸けて迎え撃つ覚悟も出来ている。

 

 その為のジヴォン家であり、その為のプルートーン。皇室に仇為す敵を討つ事こそが使命なのだから。

 

 だが、子供達にはこの家に生まれ来た以上は仕方の無いこととは言え、子供達には出来る事ならば平穏なる時代を生きて欲しいのだ。親の、叔父の欲目であった。

 

 誰しも我が子は可愛い。子煩悩で知られる皇帝陛下然り、誰しもが子供が可愛いのだ。

 

 しかし、気弱な。普段ならば絶対に言わないような心の本音を口にした、母と叔父を、二人は優しく抱き締め返した。そして告げる。

 

「お母さま、叔父さま」

 

「母上、叔父上」

 

 

 ――私たちを舐めないで頂きたい。

 

 

「オル、ドリン?」

 

「オル、フェウス……?」

 

「数々のテロ組織と戦って参りました」

 

「数多くの闇組織との戦いを経ました」

 

 

『我らのジヴォンの剣で』

 

 

「あなたたちの」

 

「ジヴォンの剣……」

 

 

「はい、お母さま叔父さま。私たちのジヴォンの剣です」

 

 皇族の影としての定めを背負い、陰惨で薄暗い血にまみれたジヴォンの剣ではない。

 

 世界を闇で覆わん南天という大魔王と魔神と対峙し、その闇に捕らわれんとして居る者達を一人でも多く救うため。

 

 その者達、死兵からの救いを求めんと、邪悪なる神の手から逃れんとせん人々の為に我らが剣を振るうため。

 

 我ら兄妹、光と闇を併せ持つ、勇者としての剣とならん。

 

「母上、この世には闇も必要なのです」

 

「お母さま同時に光も必要なの」

 

 

 ――光と闇は共に在ってこそ自然。

 

 

「闇を超えた死で世界を覆わんとする南天は、我ら新たなるジヴォンの剣、俺という闇の剣」

 

「私という光の剣が」

 

 

『必ずや打ち払いましょう』

 

 

「だから、安心してお母さま、叔父さま。私たちは私たちの意思でこの手に剣を取ったのだから」

 

「母上、叔父上、御安心を。このブリタニア内に救う癌は、闇の剣たる俺が切除致しましょう」

 

 オリヴィアとオイアグロは双子の決意と、新たなるジヴォンの剣という言葉。南天を死と呼び、光と闇こそがその死を打ち払うに必要たる物という言葉を聞いて。笑った。

 

「くふふふ、はははっ、人間結局最後には死ぬんだぞ? その死もまた必要なのではないのかね?」

 

「叔父さま、南天のような汚れた死は地獄です。死とは安息であるべきなのですよ」

 

 汚れた死とは地獄。南天は事実としてこの世界に地獄を作り上げている。合衆国オセアニアを中核とする南側諸国の民は、最早完全なる死兵。

 

 神の為に、神と一つにならんが為に、この世に多くの死をまき散らす地獄だ。そこに彼ら以外の安息など無い。

 

 あまりにも異質、光と闇ですら無い、地獄たる場所。南側諸国。北側諸国とは永遠にわかり合えないだろう。北南冷戦が終わらないのはその在り方故だ。

 

「地獄の死ではなく安息の死をもたらす為に、必要とあらばプルートーンの力を使う。地獄の苦しみから人々を解放するために地獄の使徒白い翼を討つ、その為のグリンダ騎士団」

 

 オイアグロは思っていた以上に考えていた二人に祝杯を上げんが為、その手にクルシェフスキー産大吟醸の一升瓶を持つ。

 

「そう、あなた達はもう、自分の剣を見定めているのね……。いいでしょう。その剣、どこまで通じるのかこのジヴォン家当主。オリヴィア・ジヴォンが見届けてあげましょう」

 

 オリヴィアは既に我が手を離れている。立派な騎士として成長を遂げたオルフェウスとオルドリンに満面の笑みを浮かべながら、弟が手にする物と同じブランドの大吟醸を手にする。

 

『オルフェウス・オルドリン、二十歳の誕生日と立派な騎士になった事を祝して、カンパーイっっ!!』

 

 キンっ、ではなくゴツンと重い一升瓶同士がぶつかる音がして、オリヴィアとオイアグロは豪快に一升瓶ごと一気飲みをして、一気に酔いが回ってしまった。

 

 

 ※

 

 

「ねえ、オルドリン~っ、オルドリンには決まった相手は居るのぉ~っ」

 

「お兄ちゃん助けてっ、お母さま酔っ払いになっちゃってるっ!」

 

「すまんオルドリン。こっちはこっちで叔父上が吐きまくっているから大変なんだ。母上の面倒までは見れん」

 

「そんなぁ」

 

 当たり前である。一升瓶を一気飲みなんぞしたら普通はぶっ倒れるところだ。

 

 そもそもが、オルフェウスとオルドリンに思うところを吐き出していた時点で、この母と叔父は酔いが回っていたのだから。

 

 そうでなければジヴォン家の裏話や、プルートーンの話などするはずがない。何を考えているのかと言ったところだろう。

 

 そこへ。

 

 

 ――任せろオルドリン。お母さまの介護はこの俺がやってやるから安心しろ。

 

 

 えっ。手伝ってくれるのっ! ありがとうと思って振り向いた先には。

 

「うへへへっ、年上のお姉様の介護はこの俺様に任せろよ~」

 

 酔っ払ったアホの姿である。

 

「あらぁ~、ありがとう坊やぁ~、お礼にちゅーしてあげるぅ~っ」

 

 オリヴィアの酒臭くも瑞々しい唇が、アホの唇に近づいていく、このままでは敬愛する母が浮気だなんて馬鹿なことをしてしまうことに。

 

 というか、なんだかアホがマリー以外の女というか、女を女と意識してキスに及ぼうとしていることが、自分でも良く分からないが腹立たしく思った。

 

「ダメェ~っ! ダメよお母さまっっ! ダメなんだからねアホっっ、絶対にキスとかダメなんだか――」

 

 

 ――に~い~さ~ま~。

 

 

 また一人助けが入ったが、これはこれで爆弾だった。

 

 神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア様、主君のご降臨である。

 

 いや、先ほどから中庭のバーベキューコーナーなり、フランクフルトなり、ベビーカステラにラーメンに、綿飴、お好み焼きコーナーにとアホの後ろをカルガモの子の様に引っ付き回っていただけなのだが。

 

 ちょっと見ていたが、まるでストーカーだった。オルドリンちのハウスメイドで有り、グリンダ騎士団の一員であるトトに事故で接触しそうになったときは、オルドリンが蹴り飛ばしていた。

 

 こんなアホとトトに触れて欲しくない。トトに「では御自身は如何なのですかお嬢様?」と問われたとき、何故かオルドリンは顔を赤くしていたりする。

 

 酔っ払ったアホがオルドリンに辛み酒をしてきたときも、オルドリンと言えば優しく介抱してあげたりなんかして、その際に髪を撫でられて。

 

「髪下ろしたら結構長いな。腰近くまであるじゃねーか」

 

 そう言い、五指を髪に差し入れられて優しく梳き通されていたオルドリンは、益々顔を赤くして戸惑いながら。

 

「えっ、ちょっ、た、たま、きっ、お、女の、髪にっ、そ、そんな勝手にっ、さわっ、って」

 

 しどろもどろになりながらも、何も言えなくなるという醜態をさらしていた。

 

「オルドリンの長い髪~っ、ふだん~っ、意識してねー分思うけど~っ、キレーじゃんかあ~っっ。いっつもドリルにしてんのもったいねーよお~っポニーテールとかあ、ストレートに降ろすとかあ、色々やってみい? 元が美人なのにもったいねーじゃんかよお~、ヒック」

 

「あ、あうううう~っ、あ、アホ~っ」

 

 アホを殴るのだが、へちょ~っ、っとなってしまい殴る威力は攻撃力ゼロなのである。

 

 え? なんで? どーして? わ、私、別にタマキのことなんかっっ?! 混乱するオルドリンに、じーっと怖い視線を送るマリーベルに気付いてドンっ、無理矢理突き飛ばして身体を離したのだが。

 

 髪の毛を触られて、撫で梳かれていたことについては、別に気持ち悪くはなかったし怒りも湧かなかった。何故だか分からない。

 

 そんなアホが今度はお母さまに手を出そうとしてきて、お母さまも酔っ払ってるから年下の坊やを可愛がるモードに変なスイッチが入っちゃって。

 

 もうちょっとでキス~というところに大魔王降臨である。単にアホの後ろにくっついてきていただけなのだがここは助かった。

 

「ま、ま、ま、マリーしゃん、お、お、お前なんかこわかねーぞお~っ。俺様は奇跡の玉城様だあ~っ。女子供なんかこわくねーんだあ~っ」

 

 酒が入って気が大きくなってる。ダメだわコイツ。たぶん次の瞬間。

 

「うふ、うふふふふ~っ、怖くないのですわよねえ~わたくしなんて~っ」

 

 あ、マリーもお酒飲んでる。

 

 ああ~分かって来ちゃったこの後の展開が。もう読めたわ。

 

 ぽんっ。

 

 上司が部下の肩を叩くように、顔を赤らめたマリーが凄い笑顔で、もう片方の手でアホの右肩を。

 

 ごきんっ!

 

 凄い鈍い音がした。あれ完全に肩逝ってるわね……南無。

 

「ぎにゃあああああ~~~~っ」

 

「うふふふふ~っ、怖くないのでしょうわたくしなんてえ~っヒック、もう一本逝っておきますかあ~っ」

 

「ま、待て、待ってくれマリーベル皇女殿下っ!」

 

 あ、酔いが吹き飛んだみたい。普段使わないのに皇女殿下だって、そう言えばこのアホってマリー相手でも乱暴な言葉遣いしてるけど、不敬罪にはならないのよね。

 

 マリーが許してるからってのもあるだろうけれど、こ、恋ってそういうものなの? 私もコイツに髪を触られても何も嫌な気がしないけれど……。え?! ち、ちがっ! 私はこんなアホなんかに!!

 

 第一コイツには……マリーが、いるし……。

 

「ん、んふふふっ、オルドリンはあの坊やに気があるのかしらあ~っ?」

 

 酔っ払いなお母さまが何か言い出したーっ!!

 

「な、ないない、ないわよ、あんなアホにっ!! だ、大体アイツ日本の平民なんだから士族階級でも華族階級でもないただのへ・い・み・ん、ジヴォン家は爵位は低いけれど旧家の名家。あんなアホを迎え入れるだなんてあり得ないわ」

 

「でも、マリーベル殿下は皇室に迎え入れる気でいらっしゃるのでしょう? ブリタニアで言えば平民は第1階位、マリーベル皇女殿下は第12階位、婚姻だなんて絶対にあり得ないけれど。それならばまだしもうちの婿にするなんってことも~ヒック」

 

「だから無いんだってばあこの酔っ払い~っ!!」

 

 

 ※

 

 

「マリーしゃんん~っ、肩戻してくれ~っせっかくのパーティーなのに食べられねえよお~っ」

 

「兄さまにはあ~っ、わたくしが手ずから食べさせて差し上げますのでーっ、何も御心配は為さらなくてもよろしいのですよ~っヒック」

 

 頼み込んでもクソッタレな酔っ払いは元に戻してくれない。ここはも最後の手段だとアホは行動に移す、左肩は外されていないのでこの手段が取れた。ついでにマリーが直ぐ隣にいたからだ。

 

「マリーっっ!!」

 

 ぐいっっ!

 

「きゃっっ!?」

 

 マリーを左腕で抱き寄せ抱き締める。まるでお前は俺の女だとでも言わんばかりのその手際。マリーベルの酔いで赤くなった頬が益々の薔薇色へと濃くなっていく。

 

 マリーの頭をなでなで、背中にも手を回しながら薄紅色の長い髪を捉え、彼女の首の後ろから髪の中に手を差し入れて、指に絡ませながら、優しく撫でる。

 

「俺のマリーベル、俺のマリー、せっかくのパーティー、俺、マリーにお好み焼きを作ってやりてえなーと思ってたのに、こんな腕じゃ作られねーよ。戻してくれ肩を……マリー」

 

「に、兄さま、あの、この様な場所で――んんっ」

 

 マリーベルも一人の女。皆の目がある場所でこの様に抱き締められるのは恥ずかしい。幾らマリーベルにとって身内ばかりの人間が揃っているとは言え。キスまでされて。

 

 玉城真一郎。普段からマリーとクララにキスされまくったおかげで、この二人との口付けが挨拶程度に感じるくらいに難易度が低下していた。もちろん、真剣なときの口付けは別で、いつも通りあうあうあうあうと大慌てしているが。

 

 逃げるためなら軽く口づけるくらいは。酒の勢いも強い。

 

「ティンク隊員っ! またマリーベル様とたまきんがイチャついておりますぞっ!!」

 

 ソキアは目聡く見つけた。実は彼女。オズとアホが良い雰囲気になっているところにも気が付いていたが、どうせ後でマリーベルの雷が落ちるだろうと見過ごしていたのである。

 

(しっかし、オズってばマジであのアホに気が湧いて来ちゃったー? あのアホと幸せになるにはマリーベル様級の盲目的な愛が必要なのわかってんのかにゃー?)

 

 あのアホと幸せになろうと思ったら並大抵の愛情では無理だ。ソキアの知る範囲でならマリーベル皇女殿下とクララ様だけ。そのレベルの愛情を抱くのは非常に難しい。

 

(まあなるようになるさー。でもソキア姉さんとしてはアホのたまきんとオズは応援しにくい。オズが不幸になる未来しか見えないにゃー)

 

 ブリタニアにだって賭博場は腐るほど有る。たまきんの大好きな賭博場。ジヴォン家は旧家で有り名家。超金持ち。あのアホがその金に手を出さないかなと心配なのだ。

 

 まあ、あのアホにも見所はあるし、グリンダで働いてるからそのお金での範囲内なら。

 

(ああ、そいや仮にアホがジヴォン家に婿入りしたところで、オリヴィア様があのアホに好き勝手させるわけ無いか。ふむ。となれば下馬評としては本命マリーベル殿下、時点クララ様、穴でオズってところかにゃー)

 

 見知らぬ年上のお姉様という線も、大穴としてあるにはあると考えた事もある。だがどうせマリーベル殿下に叩き潰されるに決まってるさーというのが、ソキアの考えだった。

 

「マリーベル殿下は超の付く美人なのに何故タマキ卿はマリーベル殿下を選ばないのだろうか」

 

「ティンク隊員、あのアホの好みは年上のお姉様、好みを変えさせるのはマリーベル様ほどの美女を以てしても難しい物なのだよ」

 

 そんな話をしているとレオンハルトとマリーカがやってきた。

 

 レオンハルト、レオンは片手にフランクフルトを持ち、マリーカはベビーカステラを持ち頬張っていた。

 

「しかしタマキ卿はいい加減マリーベル殿下お一人に決めるべきです、僕のようにマリーカさん一筋に――」

 

『どの口が言うか』

 

 ティンクとソキアが同時に突っ込んだ。レオンハルトの目移りは今に始まったことではない。アホは年下が好みではないというだけで、別にマリーベルのことを嫌いだとも言ってなければ見てない訳でも無い。

 

 単に年下が好みの対象外というだけだ。それも皆が聞いた話ではマリーベル殿下とアホが出逢ったのは皇歴2012年、まだマリーベル殿下が子供の頃。子供を愛しろと言われてハイそーですかとは中々行かない。

 

「っかし、オズの家も結構ヤバいにゃー。噂には聞いていたけどプルートーンとはね」

 

 ソキアの呟きにマリーカが続く。

 

「プルートーンって皇室の暗部と、ブリタニア帝国の暗部だと伺いましたが」

 

「その通りですよマリーカさん。正真正銘ブリタニアの暗部組織です。皇室への翻意を抱く貴族家の抹殺や、南天と繋がっている貴族家の粛正が主な任務です」

 

「間接的な南天との戦いという意味ではあたしたちと同じさー。あたし達が戦ってるテロ組織の大本は白い翼その白い翼の親分こそがっ」

 

 

 ――南天。

 

 

 マリーカがベビーカステラを口に放り込みながら話す。

 

「思えば私たちってとんでもない敵と戦っているんですね」

 

「正確にはその細胞組織や中規模組織だけどニャー。白い翼が全力を上げて蜂起したらそれこそ世界大戦さー」

 

 

“皆様、大変遅くなりました”

 

 

 フローラママンやって来ましたー。

 

 髪の長い美人な女性。誰がどう見てもマリーベルの家族だろうと思われる目鼻立ちや特徴を持っている。

 

 フローラ・メル・ブリタニア。

 

 神聖ブリタニア帝国の皇妃様が、オルフェウスとオルドリンの誕生日を祝いに、ジヴォン家を訪れたのである。

 

 その場に居た皆が一同、同時に跪く。皇妃なのだ当然の事である。一人を除いて。

 

 

「オルフェウス・ジヴォン卿、オルドリン・ジヴォン卿、二十歳のお誕生日、おめでとう御座います」

 

「フローラ様よりの祝辞のお言葉を賜り。オルフェウス、光栄の至りに御座います」

 

「同じく、オルドリン、恐悦至極に御座います」

 

「オリヴィアもいつも通り元気ね。いつもお会いしているからそれ程特別感はございませんけれど、ふふっ」

 

「元気そうねではないのかしらね? それにその言い方。少しは息災であるかとかお声がけして下さらないかしらフローラ」

 

「元気なのはいつものこと。承知しておりますもの。それにわたくしたちの間柄ですもの今更でしょう? 余計な気遣いこそが不要です」

 

 オリヴィアとフローラ。立場は違えども立場を超えた大切な親友、娘と息子の晴れの二十歳の誕生日に駆けつけてくれたことを嬉しく思う。

 

 ジヴォン家双子へ心からの祝辞を述べたフローラは、続き、オリヴィア、オイアグロと挨拶を交していき。切り出した。

 

「ところで」

 

 

 ――タマキ様あ~、タマキシンイチロウ様はどちらにぃ~?

 

 

「へ?」

 

「お母さまこちらですッ! 兄さまほらッ!」

 

「やッ? へ? 俺なに言えば言い訳?! 別にお前と付き合いも何もしてねーだろ俺?! なんでお前の母ちゃんに俺が挨拶しねーといけねーわけッッ?!」

 

「あらあら、うふふふ、あなたが」

 

 ざああっと道が開かれる。玉城がキスしていたマリーベルへと続く道が

 

「娘と結婚を前提としたお付き合いをなさっているタマキシンイチロウ様なのですね~?」

 

「なんでンな話になってんだよおッッ?!」

 

「あなたとは娘とのことでゆっくりとお話があるのです」

 

 怒っている。笑顔で起こっている事が全員に分かった。マリーベルと同じタイプの人間であると。

 

「オルドリンほらっ」

 

 オリヴィアがオルドリンを突く。

 

「マリーベル殿下に取られちゃうわよ彼」

 

「お、お母さま、だ、だからあいつとはそんなんじゃないんだってばッッ!!」

 

 

 



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大人の自慢=グロイスドイッチェラント

 

 

 

 皇歴2019年のある日

 

 

 

 

 大人の自慢=グロイスドイッチェラント

 

 

 

「やあ、カレン・シュタットフェルト辺境伯令嬢。ナオト・コウズキ・シュタットフェルト辺境伯令息。よくぞ我がユーロ・ブリタニアの海軍工廠に来てくれたねッ!」

 

 やたらと大きな身振り手振り、不必要な大声でしゃべる、ちょび髭のおじさん。

 

 シュタットフェルト辺境伯家次期当主。カレン・シュタットフェルトと。

 

 戦闘力は妹のカレン以下で、シュタットフェルトの血は継いでおらずとも、家族仲良く暮らしているシュタットフェルト家騎士団長。ナオトは呼び出された先でとんでもない大物と顔を合わせることになった。

 

「本来ならば君たち、特にアーリアの血を引くドイツ系貴族のカレン嬢には、式典で出会いたかったのだが。ちょうど君たちが休暇でこの近くの街を訪れているとの情報が入ってね。失礼だが招待状を送らせていただいたのだよ」

 

 急遽のことで悪いと悪びれもなく言うユーロ・ブリタニア最高指導者アドルフ・ヒトラー大公に、こちらは内心恐縮しっぱなしであった。

 

「君たちを呼んだのはほかでもない。ドイツ系であるカレンくんには特にお見せしたくて。そして元は日本人であるナオト君にも見せたくてうずうずしていたのだ」

 

 てくてくと工廠内を案内されていくとその先に大きな、大きすぎる船体が、職人によって徐々に徐々に形を成していっていた。

 

 あまりにも巨大な船体はドックのギリギリまで場所を占有。これなら空母のルイ・シャルル級のドックでも使えばいいのではと思わされるくらいであった。それほどに巨大なのだ。

 

 圧倒されるカレンとナオト。このレベルのものはブリタニアでは戦艦ペンドラゴン級しかない。

 

「こちらが間もなく、本当に間もなくあと二週間で生まれる事になる四つ子の長女、名を──グロイスドイッチェラントという」

 

 

 基準排水量:123,000t

 

 常備排水量:132,000t

 

 満載排水量:142,500t

 

 全長:347.0m

 

 全幅:52.0m

 

 速力:34.9ノット

 

 主砲:50.6cm三連装超電磁砲3基9門

 

 

「これでッ! これで我がユーロ・ブリタニアも日本に並んだッ! あの『技術の日本に』艦船分野で並んだのだッ!」

 

 喜びをかみしめ涙を流す、ちょび髭のおじさんに、ナオトは申し訳なさそうに真実だけを告げた。

 

 確かにすごい、この戦艦はペンドラゴン級と同等の威圧感がある、重厚なる装甲、高い艦橋、何物をも圧倒する巨体。そして日本・ブリタニア・南天以外ではまず作れないだろう巨大な三連装超電磁砲。

 

 この艦自体が北側の二大超大国と南側を除けば建造不可能だろう。これが60,000t、70,000級、80,000級くらいまでであればアルガヴェやインドネシア、アラウカニア・パタゴニアクラスの北側の大国になら現在では作れる。

 

 だがこれは無理だこの戦艦ペンドラゴン級とためを張れるだろうこの戦艦は、日本かブリタニア以外で作れる勢力があるとは思えなかった。南天ならあるいはだが。

 

「あ、あの、ヒトラー大公閣下、よろしいでしょうか」

 

「ん、ぐすッ、なんだねナオトくん。今の私は最高の気分なのだ。言いたいことがあるのなら何でも言ってみたまえ。小遣いが欲しいのならばやろう。この後街で遊ぶのだろう?」

 

 人好きのする笑みを浮かべるヒトラー大公に、誠に申し訳ないと真実だけを伝えた。

 

「大日本帝国の戦艦大和と武蔵級、基準排水量で128,800tなのですが」

 

「……なん、だと?」

 

 すでに基準排水量で負けていた。ならば満載排水量は150,000t前後となる。

 

「それと砲も51cm超電磁砲はもう古いとして、60cm三連装超電磁砲3基9門に変えたそうです。先日。ですから基準排水量130,000t超えてますよたぶん。満載だと150,000~160,000tの間くらいじゃないですかね」

 

 ナオト・コウヅキ・シュタットフェルトの実に冷酷な宣告に、ヒトラー大公はその場に崩れ落ちた。

 

 勝負は始まる前から負けていたのだ。全然追い付いていない。二週間後には全艦就役だというウキウキ気分は今や、沈み気分なピエロへと化していた。

 

 

 二番艦:グリードリッヒデアグローゼ。

 

 三番艦:ウルリヒ・フォン・フッテン

 

 四番艦:ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン

 

 

 全部負け犬になった。少女たちよ済まない。不甲斐ない生みの親で済まない。

 

 アドルフ・ヒトラー大公・ユーロ・ブリタニア最高指導者、彼が人生百数十年の中で幾度目かに覚えた敗北の瞬間だった。

 

 

「ね、ねえお兄ちゃん、あんまりにもあんまりじゃない」

 

「いや、でも事実は事実だろう。平民の間ではまだ情報公開されていないけど貴族の間では」

 

「貴族の間でも情報公開されてないんだけれど……お兄ちゃんどこからその情報つかんできたわけ?」

 

「あ、あははは、俺はアレクを連れて遊びに行かなくちゃならないんだった」

 

 アレク・シュタットフェルト、ナオトとカレンの弟である。第一夫人が産んだ子でとてもかわいらしい金髪の男の子だ。

 

 その子が街のホテルで待っている。

 

「あ、あのヒトラー大公閣下。私たちはこれで失礼しても……」

 

 カレンが尋ねると幽鬼の様に立ち上がったヒトラー大公が尋ね返してきた。

 

「君たちもか?」

 

「は?」

 

「君たちもかね。日本を相手にこのような思いをさせられてきたのは」

 

 悔しい思い。追いつけども追い越され、追いついたと思えば半歩引き離される。日本とブリタニアの歴史であった。

 

 いつも日本はブリタニアの半歩先を歩いているのだ、その背にけして手を届かせないようにして。

 

 何もブリタニアだけではない。世界中の国々が近くに遠くに日本の背中を見ている。それは今現在も変わらない構図だった。

 

 そんなヒトラーの質問にカレンは答える。

 

「ええ、そうですね。我が神聖ブリタニア帝国はいつでも日本のその背中を見てまいりました、けして届かないその背中を、ですが我々はあきらめません。いつか必ずその背中にタッチをして見せます。何せあと半歩ですので」

 

 まあずっと半歩なのですけれどと苦笑いをしながら、肩口で切りそろえた艶やかで美しい赤い髪の先をいじるカレン。

 

 すると、その言葉を聞いたヒトラー大公の瞳に生気が戻った。

 

「ふ、ふふふ、ふははははッ! いやそうだった。この百と数十年ずっとそうだった。我らユーロ・ブリタニアは二歩ほど遅れているといったとことか? たった二歩。されど二歩。だが、だがいつか、いつかの日か必ずやその背に追いついて見せるさ」

 

 百数十年?と疑問に思うカレンとナオトを横目に、ヒトラーは両手を大きく広げ。

 

 そうしてグロイスドイッチェラントを見上げるヒトラーは彼女に言葉をかけた。

 

「人間だってそうだ。小柄で生まれてくるものもあらば、大きな体で生まれてくるものもいる。我が娘グロイスドイッチェラントよ。姉妹たちとともにその威容を見せつけてやるがいい。ユーロユニバースのくそったれどもへ──そして」

 

 強大なる大日本帝国へ。

 

 この二週間後、産声を上げた四つ子は日本へと親善訪問へ向かい。日本の艦船ファンを大いににぎわし、テレビを大いに賑わせたという。

 

 

 

 

 ユーロ・ブリタニアのちのAEU戦艦グロイスドイッチェラント級

 

 

 一番艦:グロイスドイッチェラント

 

 二番艦:グリードリッヒデアグローゼ。

 

 三番艦:ウルリヒ・フォン・フッテン

 

 四番艦:ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン

 

 

 基準排水量:123,000t

 

 常備排水量:132,000t

 

 満載排水量:142,500t

 

 全長:347.0m

 

 全幅:52.0m

 

 速力:34.9ノット

 

 主砲:50.6cm三連装超電磁砲3基9門

 

 

 



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ある日の国防四十人委員会

 オリキャラが出ております。



 

 

 

 E.U.ユーロピア共和国連合大統領。

 

 

 皇歴2019年某月

 

 

 国防四十人委員会。

 

 革命暦元年の発足当初、その呼称で呼ばれていた委員会は、今や委員数二百名~三百名にまで膨れ上がっていた。

 

 その二百名以上でありながら国防四十人委員会という名の委員会は、蜂の巣を突いた騒ぎになっていた。

 

「どういうことだ! 南天は動かずと誰が言ったんだ!!」

 

「我々は南天ではない! 南天の動きなど分かるはずもなかろうが!」

 

 通称南天――南側諸国。正式名称を南天条約機構。

 

 盟主国合衆国オセアニアを筆頭に。

 

 マダガスカル自治州。

 

 合衆国東アフリカ。

 

 イエメン民主共和国。

 

 旧大洋州連合。

 

 ニューギニア民主共和国。

 

 イラク社会主義共和国。

 

 カメルーン民主共和国。

 

 民主主義中央アフリカ。

 

 民主主義ガボン。

 

 コンゴ原理主義共和国。

 

 ルワンダ民主共和国。

 

 ブルンジ民主共和国。

 

 アンゴラ原始民主制共和国。

 

 民主原理性ザンビア。

 

 ジンバブエ民主共和国。

 

 原理主義人民ナミビア国。

 

 ボツワナ原理主義人民共和国。

 

 南アフリカ原理主義人民共和国。

 

 レソト原理性共和国。

 

 エスワティニ原理性共和国。

 

 総計二十一ヶ国地域が加盟する国家連合体であり、集団安全保障機構でもあり、集団攻勢機構体でもあった。

 

 

 

 

 

 ある日の国防四十人委員会

 

 

 

 

 

 中央アフリカより南はここ50年の間に侵食され、民主共和制原理主義が根付き、ユーロユニバースから切り離された地域。

 

 より正確を期すれば2010年前後までは名義上・便宜上はユーロユニバースの土地であった。これを自然に奪われたのがここ数年の期間だ。それも南天条約機構の動員無しに。

 

 それほど地方地域。アフリカ南部などにユーロユニバースは見限られていたのである。

 

 そして宗教的浸透についてが何よりも大きな遠因となっていただろう。原始民主制の亜種とも言える、唯一神を戴き神の下に選ばれた代行議員候補の中より、国会議員等を選ぶシステム。

 

 選別は神が行うが、時の代行議長や、代行統、総代行主などが行っても良いとされている。神の手は何処までも届き。神は全てを視ている、が。同時に全てに対して干渉するわけでは無い。

 

 故に平常時は自由な暮らし、安全な暮らし、豊かなる暮らしが約束されている。世界中に根を張る民主共和制原理主義組織の総本山“白い翼”と、唯一神をあがめ、古代遺跡を探索する十二億の信徒達で構成された“光の嚮団”が集めてくる潤沢なる資金。

 

 同時に合衆国オセアニアを中核として発展に発展を重ねてきた強大なる国力が、老いも若きも、男も女も、子供も赤子も、人種も関係無く、全てに“豊かさ”という名の恩恵をもたらし、唯一神への信仰へと変えてきた。

 

 だからこそ彼らは戦時には武器を取り、神の闘争、聖戦、全天に美しき世界を実現するために。世界の浄化を始めるのだ。

 

 それは、新参であるアフリカ勢でも変わらない。彼らの根底には100年以上の昔より発展し行く、東アフリカとオセアニア自治州への憧れがあったからだ。

 

 神のため、唯一神のため、全天に美しき世界の実現の為に。彼らは時として妄信的なる戦闘民族へと変わる。国家の壁など無い。人種の壁など無い。民主共和制原理主義の下一つの統一体となり、進軍するのである。

 

 時に笑顔の仮面を張り付けて、時に無機質なる深層を表出させて。

 

 

 そして時は現代。皇歴2019年の中頃。神の啓示が舞い降りた。曰く中東を教化せよ。白く染め上げよと。それは南天の傘下に収まっているイラクのユスフ書記長の下にも降りた。

 

 ユスフ書記長は共産主義者であって、民主共和制原理主義者ではない。しかし、自ら望み南天条約機構に加盟した。オブザーバー加盟ではあったが、加盟した以上は南天の庇護の下には入れるわけである。

 

 覇権主義者でもある彼は、大日本帝国・神聖ブリタニア帝国を中核とする北側諸国同盟には参画できない。北側諸国同盟とは非侵略が基本であるからだ。

 

 自然、世界最大の覇権主義国であるオセアニアの下へと付くこととなり、中東で猛威を振るい、中東戦争ではサウジアラビア王国北部とヨルダン王国東部を占領することに成功した。

 

 この時、南天は特に動かず、イラクも南天に働きかけずだった。己が欲しくば己で動け。南天側の無言の回答であったのだ。無論、南天からの援護はあった。彼らはイエメンに兵を集める気配を見せたのだ。

 

 これだけ。たったそれだけでサウジアラビア王国は動けなくなってしまった。南部にも兵を割かずに居られなくなり、北部の戦力は目に見えて減った。これをユスフ書記長は突き、サウジアラビア北部を手にしたのだ。

 

 イラクにも降りた此度の啓示。当然オブザーバー参加の彼らは無視しても特に何も無い。だが同時に何も得られない。これ以上の領土の拡大が望めない。ジェネラルは言った『欲しければ動け』。

 

 ユスフは動きイラクは巨大化を果たしたのだが。

 

 ここで再び時計の針を戻す。

 

 

 ※

 

 

「皆さん静粛にっ!!」

 

 欧州は行政府に充たる、国防四十人委員会のとりまとめ役である議長が会場のざわめきと混乱を鎮める。このままでは話し合いも出来ない。

 

「だが、南天は既にイエメンに10,000,000を超える兵を集結させているそうじゃ無いか。おかげでイエメンでは物が飛ぶように売れて超好景気だとか。諜報員、ああいや、連絡員から情報が入っている」

 

 諜報員では無い、連絡員だ。これは南天側より許可を貰って入らせているからである。なんでも好きなだけ調べていけば良い。南天側のメッセージだ。

 

「10,000,000どころの話しじゃない。まだまだ増える様子だ。中東戦争の時イエメンに集めたお遊びの5,000,000じゃない。一ヶ月単位で3,000,000前後と跳ね上がるように増えていっている。我が国では絶対に不可能なことだ」

 

「それに兵器の増産数。噂では航空母艦の8隻同時起工を始め船体はできあがりつつあり、他の護衛艦艇や戦艦まで着工を始めてまだ軍事力を増やそうとしておる。南天だけではない。南天に合わせるように日本もブリタニアも大軍拡いや超軍拡を始めおった。我らや他の国では到底ついて行けん」

 

 事実、現在南天は2~3年内の30個空母戦闘群体制を目指しており、ほぼこれを完遂しつつある。この南天の大軍拡に対抗して、北側諸国の中核国である大日本帝国と神聖ブリタニア帝国も大軍拡を始めている。

 

 連絡員の報告書を見ていたある議員は南天のことを指して呟いた。

 

「ば、化け物だっ……、こんなのと対抗することなど……ッ」

 

 これを耳にした隣の議員は呟いた議員を叱責する。

 

「馬鹿なことを言うな! 我がユーロユニバースは最初から南天と事を構えるつもりなど無い! 滅多なことを言うんじゃない!」

 

 そうだ。滅多なことを言うべきでは無い。総数で1,700,000,000を数える南天の信徒は既に欧州にも根を張っている。噂の段階でしかない世界的企業、鉛筆からロケットまでを合い言葉にする企業ホワイトブラザーズは、南天の傘下だと言われている。

 

 白い翼のフロント企業だとも。

 

 誰もが怖いのだ南天のことが。表面上ユーロユニバースと南天はイーブンの関係だが実際は違う。国際社会でも言われている。E.U.は南天の小間使いと。事実だから文句も言えない。誰が抗うことかなおうか、彼の強大なる国家連合に。

 

「……」

 

「……」

 

 皆、一様に口をつぐむ中、手を挙げた人物がいる。

 

「げ、ゲルツェン大統領」

 

 短い白髪に鋭い蒼い瞳をした痩せ型の男が立ち上がる。

 

 ユーリー・イワノヴィッチ・ゲルツェン。ロシア州の首相にして、E.U.ユーロピア共和国連合のトップに君臨する三大統領の一人であった。

 

「皆さん何を恐れているのです?」

 

 あたりを睥睨し彼は告げた。

 

「南天は我々の秘密の友好国ではありませんか。確かに南天には中央アフリカ以南を奪われました。しかし、あの地域には既に100年も前から種が植えられていたのです。今の話しではありません。我々の前の前のその前の世代の話し。我々がどうこうと話しても意味が無いではありませんか。それに一度教化された地域は余程のことが無ければ元には戻らないのは皆様も御存じの筈です。結局南天が動く先は何処に対してであるか? そこが大事なのではありませんか?」

 

 薄ら笑いを浮かべながらゲルツェンは続けた。

 

「一応念のため、我がE.U.ユーロピア共和国連合には南天条約機構と戦えるような力はありません。南天条約機構は白いカーテンの向こう側に隠されているためほぼ情報が伝わってきません。漏れ聞こえてくる情報や、連絡員などの情報では、通常戦力で50,000,000。最大戦力80,000,000の兵を持ち、絶大な生産力、重工業力、国力、経済力を持つということです。彼の国家連合『数の南天』と事を構えることができるのは、技術の超大国大日本帝国、力の超大国神聖ブリタニア帝国の二国のみ。他には存在しません。仮に我が国と中華連邦が手を組み戦いを挑んだとしても、死兵と呼ばれる兵と質の高い兵器の波に押しつぶされておしまいです。それと、連絡員の話しでは純正のKMFらしき物の存在も確認されており、これで南天のKMF保有論も確実となりました。序でと言っては何ですが浮遊航空艦と80,000t以上の戦艦の存在も確認済みです。ですが、恐らくこれらも相手が日本やブリタニアでは無いから一線二線級下の代物でしょう」

 

 ざわざわ、KMFまで、ざわ、80,000,000とは……あり得ない、ざわざわ。

 

「静粛に静粛に!!」

 

 場が静まるのを待ち、余裕の笑みを浮かべるゲルツェンは続けた。

 

「斯様に恐ろしき国家的組織ですが、敵対しなければ何もしては来ません。むしろイラクのように傘下に入ってしまえば何もされませんよ」

 

「ば、馬鹿なっ!! ゲルツェン大統領閣下は祖先が築き上げてきたこの民主主義の牙城を売り渡そうというのですか!!」

 

 一人の議員が噛みつくが、ゲルツェンは一瞬目を閉じただけでやれやれという仕草を見せた。

 

「民主主義の牙城ぉ~? 失敗作でしょう。大衆迎合主義、政治的無責任主義ィ、そしてェッ!無関心主義ィィッッ――!」

 

 そこまで行って。

 

 バンッッ

 

 大きく机を叩いた。

 

「一体何の三本柱なのだねェェッ?! 腐敗を無視しッ、地方を苦しめッ、中央だけが富めば良いッ、自分たちだけが栄えれば良いッ、ノブレス・オブリージュをゆくブリタニアの正反対ではないかねッッ!! 王族を皆殺しにしッ、貴族共を処刑しッ、彼らを追い出しッ、ナポレオンまで処刑して創り上げたユートピアがこれかねッ?! こんな腐れた国が民主主義の理想郷なのかね?! ええ?どうなんだね諸君ッッ!!」

 

 誰もがぐうの音も出ない。皆が目をそらす。政治腐敗、金権政治の恩恵は誰しもが受けていたからだ。この場にいるほとんどが。

 

「そして……、私の了承も無く極東から兵まで引き抜いた。中央を守る為に。ユーロ・ブリタニアの攻勢から深奥だけを守らんが為に。ならば、いっそォ、我が国も南天条約機構に加盟してしまえば良いではないかッ。彼らは来る者は拒まず。イラクのように立ち回れば教化も回避できるだろう。どうだね諸君ッ?」

 

 冷たい目で、自身から目をそらす議員達を眺めながら、ゲルツェンが再び口を開き掛けたとき。

 

「異議あり」

 

 一人の男が異議を申し立てた。ゲルツェンと似た風貌ながら少し髪を伸ばした白髪に赤い目の男だ。名をグレゴリー・ミハイロヴィッチ・ラスプーチン。ロシア州の副首相を務める男。

 

「ほう、君がこの私に楯突こうというのかね? 同志ラスプーチン」

 

「楯突くつもりは無い同志ゲルツェン。私はあなたの考え方に間違いがあると言った」

 

「ふむ、ならば君は極東から兵を引き上げる指示を出したこの屑共をどう思うかね?」

 

 屑共とはっきりと言い切るゲルツェン。彼の権勢は国防四十人委員会、欧州三大統領の中で最も強く、時にこの種の暴言も許されるのだ。屑と言われて誰も何も言わないことこそ、その証明。

 

「それについては私も思うところはあり許せない気持ちで一杯だ。だが、それとこれとはまた別だ。私は、いや、私も彼ら民主共和制原理主義者とは幾度も会い、幾度も会話をしたよ。皆無機質な瞳をしていた。笑っていても泣いていても、悔しがっていても、怒っていても、その瞳の奥底は常に無機質で冷たいのだ、今のあなたのようにな同志ゲルツェン」

 

「……」

 

「私は、私は偉大なる祖国ロシアの子供達にあの様な無機質な瞳になって欲しくない。させたくないのだ。ただそれだけだ。その為に必要ならば。私はE.U.ユーロピア共和国連合とユーロ・ブリタニアの融合もまた一つの選択肢だと考えている」

 

「……ラスプーチン、君は体ユーロ・ブリタニア融和派だったのかね」

 

「特に派閥にはこだわりは無い。ただ、私は貧困に喘ぐ子供達に未来を与えたいと考えている。それだけだ」

 

 お二人ともそこまでにしてください。と、議長が告げると、ゲルツェンは冷たい無機質な瞳のままに席に着いた。

 

 ラスプーチンはただ愁いを帯びた瞳のままに席に着いた。

 

「議題の趣旨から外れましたが、南天の目指すところは」

 

「決まっているじゃないか。イエメンに兵を集めているということは――」

 

 中東だよ。

 

 そして。

 

 

 あるいは、その先へ。

 

 

 南天条約機構軍の中東侵攻は始まりに過ぎず、ジルクスタン、中華連邦への侵攻までもを示唆して、この日の議会は閉幕した。

 

 

 

 




以上です。
ユーリー・イワノヴィッチ・ゲルツェン=こちらは歴史上の人物をモデルとしております。
グレゴリー・ミハイロヴィッチ・ラスプーチン=こちらはあるゲーム・アニメの人物をモデルとしておりますが某KGB長官もモデルにしております。


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苦悩する大陸国と要らないものは要らない夢幻会

少し未来のネタバレが入っておりますのでそういうのがお嫌な方は読まないようにしてください。

このお話には整合性が取れるかも怪しい未来ネタが含まれております。
時期は皇歴2022~2023度後半にあたります。

ただ駄弁っているだけのお話です。

本スレでのご指摘を受け少し加筆修正いたしました。
また誤字脱字があったら申し訳ありません。


 

 

 

 

 南天条約機構軍をジルクスタン、中華連邦の二国より退けた北側諸国。正確には大日本帝国と神聖ブリタニア帝国の国民、皇族、華族・貴族、政治家は沸きに沸いた。

 

 皆それぞれが、南天の一部とは言え、南天軍との衝突に初勝利したことを祝っていた。『数の南天』南天諸国を個としてみたときの呼び名。

 

 それは『二つ名の超大国』を表わす意味で、激突すれば相応の被害は覚悟しなければならない。『技術の日本』『力のブリタニア』であってもだ。それだけ南天とは強大なのだ。

 

 そして、大方の予想通り、相応の被害が出た。日本は死者行方不明者合わせ500,000人以上。ブリタニアは死者行方不明者合わせ700,000人以上。膨大な被害数だ。

 

 だが、日本は全体の4%の損耗率に収まり、ブリタニアは5%ほどの被害に押し止めることが出来たともいえるだろう。

 

 これは、『二つ名の超大国』を相手に全面激突した割には、まだマシな被害である。

 

 引き換え、戦地となったジルクスタンおよび中華連邦では無視できない被害が出た。

 

 ジルクスタンは国土のほぼ全土が南天による空爆などを受け荒廃しきり、中華連邦も西部全域が壊滅状態にまで陥り中華連邦軍全体の20%強の兵力の消耗を出してしまった。

 

 南天の30個という途方もない数の戦闘群が抱える航空機により、インド軍区、中華本土にも多数の空爆による被害が出た。首都洛陽も空爆され、政府高官にも死者を出す痛恨事。

 

 二国とも日本・ブリタニアの力を借りてとは言え確かな戦勝国となった。戦勝国の筈なのに、まるで敗戦国のような有様なのだ。

 

 そうして三か月が経とうとしていた。

 

 

 

 

 苦悩する大陸国と要らないものは要らない夢幻会

 

 

 

 

 首都洛陽 中華連邦議会

 

 

 議会はお通夜状態だった。いや、まだしも通夜が開けるだけマシな方なのだろうか。下手を打てば通夜さえ開くことかなわずの可能性すらあった。

 

 日本に・ブリタニアに助けを求めなければ終わっていた。全て何もかもが終わっていた。オセアニアの、南天の属国へと転落していたのだ。今頃全国民は『全天に美しき世界の実現の為に』そう唱和させられていたかも知れない。

 

 それをおもわば、通夜が開けるだけマシであると考えなければならないのだ。

 

「で、全体の兵力の消耗は約27%というのは、きちんと統計を取った上での数値なのだね?」

 

「確かな話だ。南天の死兵どもに約三割の兵を食い殺された……痛恨事だ」

 

 ある高官が言った。たったの一会戦、陸、海、空による被害統計だ。

 

「20,000,000と数だけは多い陸軍だが、奴らには全く歯が立たず、6,000,000の被害を出した。壊滅的と言って良い。海は9個の空母戦闘群の内、5個を喪い半壊した。それに対して南天は今や40個の空母戦闘群にまで増大している」

 

 化け物だ。40個群とは何をどうすれば。10倍の戦力差が生まれてしまったのか? こちらの損害をものともしない工業生産力。超大国とかどうとか、そんなレベルの話ではない。

 

「空も酷い、我が方の戦闘機は、南天の統合打撃戦闘機相手に全く戦いになっていなかった。キルレシオは1対100だ。我が中華連邦軍は南天に対しかすり傷を負わせるのでやっとだったというわけだ。地上戦艦竜胆、大竜胆も何艦擱座させられたやら。連邦軍は事実上の壊滅状態だよ。こうしてここで息をしていることが不思議なくらいだ」

 

「正直な話こんな強大極まる国だとは思ってもみなかった。我が中華連邦は列強の一つだぞ? それがこんな、弱小国の様に食いつぶされるなんて」

 

 嘆く高官。誰もが嘆く。洪古も、周香凛も、皆嘆いていた。己の力のなさを。力がないゆえに南天に食いつぶされた自国の惨状を。

 

「嘆いてばかりいても仕方がない。先を見て物事を考えていこうではないか」

 

 さあ、被害統計の話しは終わりだ。いつまでもこんな話をしていても何の生産性も無い。まずは荒廃した西部域の国土の回復。ジルクスタンの復興支援。

 

「ジルクスタンは大丈夫なのか?」

 

 ジルクスタンと言えば彼の国はもっと酷いことになって居るそうだ。国全土が戦場になったからな。日本軍が間に合わなければジルクスタンは確実に白化していた。

 

「最早一刻の猶予も無い。日本式の土下座をしてでも良い。大日本帝国に旧敵国条項を削除して貰うよう請願し、北側諸国同盟への加盟を果たすべきだ。中立でいられるほど、中立を許してくれるほど南天は甘い国ではなかったということだ」

 

 発言したのは黎星刻。黒く長い髪は膝にまで伸び、端整な顔立ちをしたその青年、中華連邦の武官にして、若くして高位の政治家に上り詰めた天才であった。

 

 その星刻が、一刻の猶予も無いと発言したのには理由がある。南天は現在中東にまで撤退。日本ブリタニア連合軍とにらみ合いを続けているが、いつこの均衡が崩れるか分からない。何せかの国には80,000,000の殺戮マシーンが存在するのだ。本気で来るならば日本・ブリタニアが相手でも早々引かないだろう。そして本気ならば北側諸国全土に動員令が発令され、世界は一気に北南世界大戦に突入する。

 

 だが、まずとりあえずのところ、日本ブリタニア連合軍がいる間は南天も動かない、南天も大きな被害を出している。分析では7,000,000前後の兵を喪ったとみられている。だが、その補填は南天に限り幾らでも可能だ。所詮今回動いている兵の50,000,000の内の7,000,000。12%の損害だ。

 

 大日本帝国・神聖ブリタニア帝国連合軍28,000,000名の介入で達成された数値だが、これだけの損害を与えてさえまだ本気ではない。本気なら80,000,000という途方もない数を動かして来ただろう。

 

 全所属国が国民皆兵制度を取り、神のために死ぬことを悦びとし、兵を数としか見ていない頭のおかしな国ばかりなのだ。数の補充なら幾らでも効いてしまう。中華連邦如きがどうこう出来る相手ではない。

 

 ましてやジルクスタンなど白化こそ防げたものの壊滅的打撃を受けている。日本・ブリタニアは今回の戦争でクウェートと合わせて、我が中華西部とジルクスタンを対南天の最前線の一つと位置付けるかもしれない。

 

 そして我が国はもしもその方針打ち出されたところで、文句の一つすらいえないのだ。事実上の敗戦国たる我が国には。

 

 実際のところ、日本もブリタニアも南天も、本気ではなかったからこそこれくらいの被害で済んだと言える。

 

 日本もブリタニアも今回の戦争ではそれなりに被害を出しているが、まだ十二分に戦える。それどころか、戦前よりも戦力数が増えている。日本は24個の空母戦闘群が30個に、ブリタニアは42個が56個に、浮遊航空艦艇・KMF・戦車装甲車・作戦車両・戦闘機数軒並み増えている。このあたりは南天と同じだ。南天はこの三か月で80,000,000の兵力と喪失した戦力の補填は済んだとみて良い。

 

 日本、ブリタニアも喪失した兵力の補填は済んでいるだろう。本当に化け物共だ。中華連邦はその化け物の一国に敵国条項を適応されている。日中戦争以来百と数十年。

 

「プライドに固執しているときでは無い、日本軍も、ブリタニア軍も、いつまでもジルク・中華と中東の国境に戦力を張り付けてくれているわけでは無い。彼らにも彼らの役目や日常があるのだ。故に我らより、大日本帝国へ請願しなければならない。旧敵国条項の削除を。仲介には、引き続きブリタニアを頼ろうと思う。現在我が中華連邦と日本との仲介が可能な国はブリタニアのみだからだ」

 

 まだできたばかりで超大国への枠組みへと駆け上がったAEUを頼るのも手だ。だがAEUと日本では“格”が違う。格の同じ超大国はブリタニアと南天だけ。この内南天は明確なる現敵国。中華連邦は列強だが、今回の戦争ではっきりした。日本がその気ならば中華連邦など簡単に踏み潰せる程度の中小国と何ら変わらないのだと。それは南天、南側諸国から見ても同じだろう。

 

 故に今、くだらないプライドに固執して、頭を下げる瞬間を見誤っては、中華連邦は再び南天からの侵略を受ける。だが、天子様に頭を下げさせるわけにはいかない。それだけは絶対に出来ない。

 

「ブリタニア帝国を仲介者として日中会談を開きたい。その場で日本に対し中華連邦に掛けられている対中敵国条項削除の請願をする」

 

「し、しかし星刻よ、そんな都合のいい話を家族とも言える間柄のブリタニアや、懐に入っている北側諸国以外に日本が……、日本は内側には優しく寛容な国だが、外側に対しては厳しく恐ろしい国なのだぞ?」

 

「だからこその請願だ。こちらから頭を下げ、必要とあらば土下座でも何でもするのだ。必要だと思われることは全てし、過去の贖罪を申し出る」

 

 もし、その場で腹を切れと言われたならば、腹を切りもしよう。それで中華連邦が助かるのなら安いものだ。

 

「そこまでの覚悟を……、分かった、星刻。私は貴殿の意見に賛成する。どうだね諸君。星刻の意見に掛けてみないかね?」

 

「私は賛成だ。なに、超大国『技術の日本』長命種といっても同じ人間だ。話せば、こちらが請願すれば分かってくれる」

 

「そうだな。その気が無ければ態々我が国の救助要請を受けてくれたりはしない。あの恐るべき南天と戦うリスクまで負って、我が国を助けてくれるものか」

 

 星刻は議場の椅子から立ち、賛成してくれた同志たちに頭を下げた。

 

「みんな、済まない。ありがとう」

 

「しかし、こうなるとジルクスタンの高官も共に連れて行くべきだな」

 

「先ほど言われた北側諸国への加盟を目指すと?」

 

「我が国やジルクスタンのような小国がこの化け物共がにらみ合う世界で生き延びるには、その懐に入り込むしか無い。北側諸国という国家連合があるのだ。そこに属さなければ我らは中東の二の舞になる事が今回の戦争で良く分かったろう? どうかね諸君」

 

「だが、北側加盟にまで辿り着けるかどうか……」

 

「それこそ政治家の政治力が試されるときではないかね」

 

 中華連邦の高官達は、それぞれの思いを胸に、ブリタニアへと連絡を取り。

 

 ブリタニアより連絡を受けた大日本帝国は日中会談を快諾。

 

 実に百数十年ぶりとなる日中会談はピリピリすること無く進んでいき。本題へと入っていった。

 

 ※

 

 対中敵国条項の削除。星刻は頼み込む。星刻以外の中華連邦側の議員たちは皆一斉に過去の謝罪を始めた。

 

「もしも貴国が我が国西部を南天への壁としたいとお考えなのならば、我が中華連邦は貴国に対し、過去の件も含め連邦西部を割譲しても良いと考えている。その程度で済むのならば安きもの。どうか。我が国に掛けられている条項を削除願いたい。どうか、どうか」

 

 日本側は慌てるでも無く冷静にこれを聞いていた。この会談でこの話を出されること、大凡見当が付いていたからだ。

 

 そして中華側の請願と、謝罪に次ぐ謝罪を聞き終えたところで枢木宰相は言った。

 

「黎星刻殿、100年以上も昔のことに拘るのは、愚かなことだと思われませんか」

 

 日本側はそれ以上の謝罪も請願も必要ないと、中華連邦側を止めさせた。

 

「そのお気持ちが本気である。それが分かれば充分です」

 

 そうして枢木は立ち。

 

「大日本帝国、宰相枢木ゲンブの名の下、ここに対中敵国条項を破棄することを宣言いたします。これは上帝陛下、御帝ご快諾の上での発言とお受け取り下さい。これで両国の間には何のわだかまりもありません。共に世界平和のために歩んで参りましょう」

 

 澤崎も間に入った。

 

「貴国の西部割譲も必要ありません。我々は貴国の北側諸国同盟への加盟を無条件で支持いたしましょう。もちろんジルクスタンの加盟についてもです。加盟に関する会議でも恐らく全会一致で両国の加盟は認められるでしょう」

 

 皆それぞれ南天には痛い目に遭わされておりますからなと笑う枢木。

 

「枢木総理……」

 

「澤崎殿……」

 

 

 ※

 

 

「そう、それでいいのですよ。最早カビの生えた対中敵国条項は国家100年の大系にとって邪魔以外の何ものでもありません」

 

 この会談を遠くから見ていた夢幻会は、それぞれの意見を出していく。

 

「さて、中華連邦とのくだらないわだかまりは消えました。一部の国民は天子に土下座させろと言っていますが。分かってるんですかねそれ。上皇陛下や御帝に土下座しろと言ってることと同じだと」

 

 阿部が呆れて言うと。

 

「僕に土下座しろと言われたら僕は土下座くらいするけれど」

 

 上下とも白を基調に、青と金で彩られた宗教指導者が着るような豪奢な司祭服。表地が漆黒、裏地が薄い紫のマントを着た。踵まで届く長すぎる淡い金髪を、黒い金縁の髪留めで抑えた、紫の瞳の少年。

 

 この場でただ一人異色の姿の少年、容貌もブリタニア人の少年の姿をした、実年齢はこの場にいるメンバー達と同年代の少年、V.V.が微笑みながら言う。因みに会議用の椅子に座っているのだが足が床に着いていなく、ぷらんぷらんしている。

 

 長い髪の毛は椅子の上でぐるぐると渦を舞いて散らばっていた。年齢の割には子供にしか見えないのは、彼の年齢が10歳くらいで止まっているからだ。その理由をこの場にいる大体が識っている。嶋田や山本は後から識った。

 

 ついでに、この種の服装は大凡のブリタニア人の階級の高い者の正装な為、誰も何も言わない。飲み会ならばどんな衣服でも構わないが、この場では正装で来るのが普通である。

 

「V.V.よ、貴様の土下座には意味があるまい。貴様色々手広くやっとるようだが一般人だろう」

 

 杉山が至極当然の事を告げる。

 

 V.V.がなぜここにいるか? それは一応V.V.も夢幻会関係者だからだ。会合顧問という立場でこの場にいる。

 

 彼は、彼が辿るはずだった運命を聞かされ、彼が我々と共に歩むというなら手を取りませんかと誘われ、夢幻会という組織に入った。

 

 ただ、彼は会合関係者の昭和時代を識らないため、教えられない秘密もあるんだなと考え、納得しながらこの場で会議に参加しているのだった。

 

 正直言ってびっくりした。日本の政財界の大物や、影の支配者と言われている者ばかり。さらには伏見宮博恭王殿下が姿を現したときは、ジ家の皇子だった頃と同じ応対をしたくらいだ。

 

「まあ、一般人かと問われたら一般人。でもま、ギアス嚮団の嚮主でもあるけれど」

 

 頬杖を突き、笑みを深くし、この瞬間だけは凄みを出すV.V.。さすがは夢幻会会合の補欠要員になるくらいだと警備員は感心する。

 

「ギアス嚮団の運営は次席責任者に丸投げにしているとお聞きしますが」

 

「マサノブ、せっかく大物感出してた処なのに台無しにするの止めてくれない? あとまあ、ランペルージグループの会長でもあるね。実権は社長のシャルルにあるけれどさ」

 

 杉山が気になっていたことを聞いてみた。

 

「V.V.よ、貴様ジークフリートには乗れるのか」

 

 KGFジークフリート。原作での彼の愛機である。その質問にあっさり答えるV.V.。

 

「乗れるよ? ただしジークフリートⅢだけどね。全高も全長も50m前後の球形で、戦闘力はジークフリートの10倍以上はあるかな。ジークフリート10騎同時に相手をしても僕の腕なら勝てるよ。超小型フレイヤ炉を搭載した永久可動式さ。ギアス嚮団含めたブリタニアでも最新鋭機KGFの一つだよ」

 

「ほお、夢幻会の個人最強戦力だな。身体能力は10歳児だが」

 

「うるさいよっ、人が気にしていることをっ!」

 

 辻が少し驚き交じりに呟く。

 

「KGF用と小型艦艇や小型可翔艦用にうちでも超小型フレイヤ炉は作りましたが、また一気に技術が進んでますね」

 

 その言葉を受けて怒鳴るV.V.。君らに言われたくないっ!と。そうだ。ブリタニアはどんなに頑張っても日本に追いつけないのだ。その原因こそ日本であり夢幻会でもある。V.V.も夢幻会の一員な為、日本の為に頑張らないといけないわけで、そも国籍も日本に変えて日本永住者になっているから、日本の為に頑張ることに異論はないのだが、それでも引っ掛かるところはある。誰が異常技術を作り出しているんだと。

 

「君たちが技術を加速度的に進めてるんじゃないか!! おかげで世界のパワーバランスが滅茶苦茶になって、日ブ南天で十回以上世界を消滅させられるようになっちゃったんだぞ?!」

 

 そうなのだ。夢幻会が技術加速を行う関係上、世界全体が技術加速され、とくにブリタニアと、南天が、異常な速度で技術加速して行っているのだ。それでも日本に追いつかない。

 

「皆さんだんらんはそのくらいで。主題は中華をどうするか。ジルクをどうするか。あと、大陸で得た我々の権益についてです」

 

 阿部がもう一度言う。すると倉崎翁が。

 

「我々としては今回大いに儲けさせて貰った。スメラギとの軋轢も無いことだし、これ以上は何も要らんな。少々作りすぎたくらいだ」

 

 艦艇のことである。主力水上艦艇、航空母艦、強襲揚陸艦、30艦・30艦体制という前代未聞の艦艇数になったことで、倉崎重工は大儲けだ。この儲けはスメラギにも出ていた。浮遊航空艦艇の共同開発で小型可翔艦を含め千数百艦の浮遊航空艦艇を建造し、ウハウハなのだ。大日本帝国の予算ならばこれくらいならばまだ充分維持範疇なため、戦後は対南天でこの膨大な戦力を維持することが決まっている。

 

「僕のところのランペルージグループも大いに儲けさせて貰ったよ。まさか100,000t超えの航空母艦56艦体制になっちゃうとは、いやはや、我が祖国ながら恐ろしい工業生産力だ。質で日本には負けてるけどね」

 

「V.V.さん、あなたもう日本人でしょうに」

 

「あ、そうだった」

 

 杉山、東条。

 

「日本もブリタニアも喪った兵が痛いな。補填が効くとはいえ、南天のように兵を数では見ておらんからな我々は。よく頑張ってくれたと弔意を送りたい。見舞金もだ。恩給もな。本当に彼らには頑張ってもらった」

 

 暫し全員が黙とうする。

 

 そして、山本が続く。

 

「海軍としては増えすぎた艦艇の扱いだな。訓練に使うにしろ、親善訪問にしろ、ここまで膨大な数になるとは思わなかったので少々困惑しておる。といったところで、俺自身は今はもうブリタニア人なのだがな」

 

 この場はある種、おかしなことになっていた。日本・ブリタニア両属の者が何人かいるのだ。山本はブリタニア国籍の元日本人ながら、日本の夢幻会会合に日本海軍責任者として出席している。

 

 V.V.は既に元ブリタニア人の日本国籍ながら、ブリタニア帝国のランペルージグループの会長でもある為、ブリタニアの利益も考えないとならない立場にあった。

 

 南雲忠一もまたブリタニア人でありつつ、会合に出席していた。

 

 大日本帝国と神聖ブリタニア帝国が共に歩み来て160年以上。リカルド大帝の頃以前より日本とは親しき仲にあった為に、実際はそれ以上の年月を共に歩んできた。超古代文明の時代にまで遡ればもう何年の時を家族国として過ごして来たのやら。

 

 そんな長き時を共に生きてきた日本と・ブリタニアは、夢幻会という枠組みにおいても、変質し始めているのだろう。昭和の人間は昭和の秘密を抱えたまま、それより昔となる平成の人間は平成の秘密を抱えたまま、V.V.の様な新世代の人間も取り入れて。その多様さを増していくのだろう。やがて来る日本・ブリタニア連合帝国の時代を目指して。

 

 それぞれがそれぞれ、その様な思いを胸に抱えながら、これからを思い描いていたところに。

 

 嶋田が挟み込んだ。

 

「あとだれも言い出しませんけど、大陸どうします? 高麗と清国の領土合わせて結構な領土が手に入っちゃったんですけど」

 

 この話は正直に言って面倒だった。第二次シベリア戦争の強制終結後、ヒトラーとも話したが、AEUとしては第一次シベリア戦争時に清と高麗に奪われた土地を取り戻せれば、後は興味が無いと言う話しで。

 

 権益は日本とブリタニアで分配することになったのだ。

 

 辻は。

 

「要りませんよ大陸の土地なんて」

 

 と、言うが、これに続いてV.V.までもが。

 

「一応ブリタニア代表としもこの場に立つ立場にある者として発言させて頂くと、まず飛び地となる時点で管理がややこしい。中華大陸に領土なんて要らない。飛び地として得る領土としては広すぎるこの三点を以てブリタニアとしては辞退させて頂きたい。日本が全部貰っちゃえば?」

 

 V.V.の意思で決めているのでは無い。ブリタニアの総意として決めている。昔々に侵略戦争をやっていた頃なら経営の難しさも考えずに飛びついていたかも知れないが、現代ブリタニアはそのややこしさを識っている為、要らないものは、要らないのだ。

 

 振られた嶋田が伏見宮に投げた。

 

「要らんな我が帝国も。大陸に領土など持っても経営が一々面倒だ。だが、戦勝国がわれわれだけだからややこしい。といって放置しておく訳にもいかん。こちらとしては正直ブリタニアが嬉々として受け取ってくれるものと思っていたのだが」

 

 V.V.に再度、ブリタニア側に大陸の領土的な権益を進めてみたが、彼は拒否。彼の拒否は即ちブリタニアが拒否したことに他ならない。

 

「要~ら~な~い~よ~。とくに高麗半島なんて絶対に要りません。お断り。そもそもあそこの人民と日本人・ブリタニア人は根本的に合わないんだから……、そういえば例の北京を超兵器でふきとばした李承朝って大統領閣下の身柄は?」

 

 高麗人を嫌うV.V.。別にV.V.だけに限らない。この場にいる面子全員が高麗人が嫌いだった。高麗人の全てを嫌っている訳ではないのだが、日本嫌い、ブリタニア嫌いで嘘つきな高麗人を、当然二国共に信用しておらずとなるのは仕方のないことであった、V.V.の問いには阿部が答えた。

 

「我々が抑えておりますが、中華連邦に引き渡す予定です」

 

 東条が言った。

 

「死刑確定だな」

 

 再びV.V.が皆に聞く、大体は決まり切った質問だが北側の一員として質問はしておかなければならない。

 

「で? 中華とジルクが北側諸国同盟への加盟を申請してきた場合は?」

 

 す、すすっ、一人二人三人手が上がっていく、V.V.も手を挙げる。

 

「夢幻会としては賛成と」

 

「断る理由もありませんし、南側の北側に対する封じ込めにも一役買います。まあ、もう既に一部中東という地域に侵入を許してしまっているのですがね」

 

 辻は油断成らない。油断しては成らないと警戒の意思を露わにし、告げる。

 

「これ以上の民主共和制原理主義の浸透を阻止すべきです。どの地域であっても」

 

 大体の議題が出そろい、さあこれからが本格的な会議だとなったとき。

 

 嶋田が全員を一巡りして、V.V.を見ると、V.V.はふいっと目をそらした。どーせ話題が戻るだろうという予感がしたからだ。

 

 伏見宮・嶋田・辻・富永・杉山・山本・南雲・阿部・倉崎翁・V.V.etc(中華大陸に領土なんか要らないんだよ・とくに高麗なんか要らん)

 

「で、どうします? 大陸の権益」

 

 

 結局日本・ブリタニアの得た大陸の権益については一時保留ということになった。

 

 枢木ゲンブや澤崎敦、シュナイゼルとも相談しないといけないということを名目にして。

 

 

 ※

 

 

 嶋田とV.V.の帰り道。二人は手を繋いでいた。黒マントの少年と、スーツ姿の男性という変わった組み合わせ。

 

 下手をすると誘拐犯とでも疑われそうな様相だが、二人がにこやかに、楽しそうに歩いているのを見ては、そういう気分も失せるだろう。あの後恒例の飲み会になったのだ。

 

 嶋田もV.V.も大いに飲んだ。普段控えめなだけに多少は羽目を外しても良いのでは? そんな気分だったのである。

 

「ねえ、シゲタロウ」

 

「なんですかV.V.さん」

 

「もうすっかり君に背を追い越されちゃったんだねえ。僕は未だに10歳児のまま。昔僕よりも背の低かった君が、今では僕より背が高い。不思議でちょっと寂しいかな」

 

「でも、子供のままには子供のままの利点も数多くありますよ例えば」

 

『全部子供料金!』

 

 手を繋ぎ合ったまま、お互いを指さす。

 

「でも、飲み屋じゃ疑われるよ? まあ行きつけの居酒屋も増えたから、昔みたいに困ることもなくなったけどさ」

 

 少し寂しげに言うV.V.。そう言えば今飲み友達でもある玉城くんは、と思い出した嶋田は。

 

「ちょっといいですか」

 

 一言告げて、V.V.の前にしゃがみ込むと、彼の小さな身体を抱き締めた。

 

「ん、どうしたんだいシゲタロウ」

 

「いえ、俺も、私も昔を思い出していたんですよ、お兄さん」

 

 お兄さんと呼ばれたV.V.。幼い頃、シゲタロウはいつも自分のことをお兄さんと呼んでくれていた。兄弟でもないのに、兄弟の様に遊び過ごした。

 

 そんな彼の頭へと手を伸ばすV.V.は、嶋田の頭を撫でる。子供の頃の様に。

 

 嶋田もまたV.V.の髪を撫でた、踵まで届く淡い金色の髪。昔はもっと短かった。時の流れを感じる

 

「お兄さん、髪の毛伸びましたね……、すっごーく、長いですよぉ」

 

「ふふ、酔ってるねェ、出来上がっちゃってるねぇシゲタロウ。もう何年僕が髪切って無いか、自分でも分からなくなっちゃったよ。切ろうとしたら家族に怒られるし」

 

「ここまで長くなってしまっては、切る方がもったいないと思いますよ? まあ昔のお兄さんの髪型もかっこよかったですけど。今は今で可愛らしいです」

 

 嶋田は長すぎるほどに長いV.V.の髪の毛を指に絡めて幾度も梳くように救い上げる。段々慣れてくると頭の上から髪の毛の先まで、髪を梳き下ろようになった。何度も、何度も。昔語りに花を咲かせながら。

 

「男に可愛らしいって言われて嬉しい気持ちになるだなんて不思議だねェ。幼馴染だからかなあ。ふふ、僕の髪の毛で遊ぶだなんて、シゲタロウもいつまでも子供だねェ」

 

「おじさん同士でなにやってんですかね俺ら」

 

「酔いが回っちゃってるんだよ。だから変なことしちゃうのさあー。ほら、お空に伸びるスカイツリーがくるくる回ってる」

 

「ああー、ホントですねえ」

 

 自分で始めたV.V.をちょっと励まそうとした、ほんのお遊び程度の気持ち。それが二人の酔いをこれ程はない程に回していく。

 

 でも、気分が良い、シャルルさんがいなかったときに、V.V.さんと二人で遊んだ小さなころを思い出せて。

 

「蝉取りしましたねー」

 

「したねー」

 

 ぐっとV.V.が強めに肩を掴むと嶋田のスーツに皺が入る。

 

「川で遊んだよねー」

 

「遊びましたね。魚獲ろうとして獲れませんでした」

 

 同じようにぐっと強めにV.V.の背中で嶋田の指が立てられる。黒いマントに皺が入る。

 

 お互いに昔はこんな大人の衣服は着ていなかった。

 

「ずっと、子供のままで居られたらよかったのにね」

 

「そうですね」

 

 姿は少年でも既に六十代の大人。背は高く姿もそれなりの六十代の大人。

 

 二人共、何も考えずに遊びまわっていた子供の頃が懐かしい。

 

「そーれっ。俺はお兄さんよりもでっかくなったんだぞお!!」

 

 叫び嶋田は小さなV.V.の身体を持ち上げて、その場でぐるぐると回り始めた。ぐるぐるぐるぐるぐーるぐる。場所も時間も考えずに騒ぐ二人。V.V.は不死身だからという理由で普段からSPを付けていない。

 

 もちろん、周りからは付けろと言われている。ロロからもクララからも。最もそのクララが実質的なSPと言えなくも無いが。

 

 一方の嶋田にはSPが付いている。俄かに護衛対象が騒ぎ出したものだからSPたちは慌てた後、呆れた。おっさん二人で何をやっているのかと。

 

 勢いよくV.V.を回す嶋田の動きに合わせて、V.V.の長い髪がふわふわと宙を漂い、金色の線を空中に描いていく。

 

「わははははっ、こら、シゲタロウっ、僕は君より年上なんだぞおっ、あははははーっ」

 

 くるくる回されながら、楽しく懐かしく、そして嬉しい気分になるV.V.も大声で笑った。

 

 昔だったらこんなことは出来なかった。昔は自分の方が背は高かったが、今ほどの体格差があったわけじゃ無い。

 

 あの頃のシゲタロウに出来なかったことが、今の大きくなったシゲタロウには軽く出来てしまう、これが…………時の、流れ。

 

 やがて静かに回転は収まり、さらりと大きくV.V.の髪は流れ、彼の背中に足下に戻っていく。嶋田はその場にしゃがみ込む。降ろされたV.V.は嶋田と向き合うようにして立つ。

 

「俺たち、大人になっちゃったんですね。なんだか、寂しい気持ちです」

 

「ははっ、今度はシゲタロウが寂しい気持ちか……、やっぱり僕も寂しい気持ちだよ。別に飲み友達でもあるバカが居ないからって訳じゃあ無いぞ? 大人になっちゃったことの寂しささ……」

 

 自分もシゲタロウも大人になってしまった。もう昔のように虫取りも川遊びも、気軽には出来ない。草原を走ったり、野山を駆け巡ったり。楽しかった思い出たち。

 

 所詮はあの頃は良かったなあっていう昔を懐かしんでいるだけで、今だってきっと楽しいはずなんだけれどね。子供達が出来た。仲間達が出来た、その人達との新しい関係性が始まった。昔を楽しんでばかりいちゃいけないのは分かってるさ。

 

 でも、今夜くらい良いだろう? シゲタロウといっぱい、時間も忘れて遊びたいのさーっ。

 

「もう一軒いくかあ!!」

 

「……そうですね……もう一軒行きましょうっっ!!」

 

「飲むぞおおっ、シゲタロウーっ!!」

 

「飲みますよお、朝まででもV.V.さんには付き合ってもらいますからねェー!!」

 

 スーツの上を脱ぎ叫ぶシゲタロウ。

 

「シゲタロウこそ、朝まで僕に付き合わせるからなあ!!」

 

 髪とマントを大きく風になびかせながら叫ぶ僕。

 

 あーこんな夜中に迷惑な酔っぱらいどもだよ。クララがいたら言われそうだね。うるさいんだよまったくもーってさー。

 

 

 そんな二人は、ふらふら、ふらふら、とまっすぐに歩けないまま、夜の居酒屋へと消えていった。

 

 

 

 

 



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戦争:第一次世界大戦:概要

かなり適当で短いですがお読みいただけたら幸いです。


 

 

 

 戦争:第一次世界大戦:概要

 

 年月日:2022年6月16-2023年8月25日

 

 場所:主戦場はユーラシア。中東域からジルクスタン、中華連邦、インド軍区、ペルシャ軍区、極東にかけて。

 

 結果:日本・ブリタニア連合側の勝利。日ブ・南。北側諸国・南側諸国による第二次冷戦がはじまる。

 

        交戦勢力

 

 中華連邦側      合衆国オセアニア

 

 中華連邦       マダガスカル自治州

 

 ジルクスタン     合衆国東アフリカ

 

 大日本帝国      イエメン民主共和国

 

 神聖ブリタニア帝国  旧大洋州連合

 

 場合によりAEU    ニューギニア民主共和国

 

            イラク社会主義共和国

 

            ノイエユーロピア

 

            カメルーン民主共和国

 

            民主主義中央アフリカ

 

            民主主義ガボン

 

            コンゴ原理主義共和国

 

            ルワンダ民主共和国

 

            ブルンジ民主共和国

 

            アンゴラ原始民主制共和国

 

            民主原理性ザンビア

 

            ジンバブエ民主共和国

 

            原理主義人民ナミビア国

 

            ボツワナ原理主義人民共和国

 

            南アフリカ原理主義人民共和国

 

            レソト原理性共和国

 

            エスワティニ原理性共和国

 

            大清連邦

 

            高麗共和国

 

 

 

            指導者

 

 大日本帝国:上帝陛下。御帝           南天条約機構:創造主クリエイター=L

 

 神聖ブリタニア帝国:シャルル・ジ・ブリタニア

 

 中華連邦:天子:蒋麗華        合衆国オセアニア総代行主:マクシミリアン・シュナイダー

 

 ジルクスタン:シャリオ、シャムナ     イラク社会主義共和国:ユスフ・サルマン・ユスフ

 

 AEU:アドルフ・ヒトラー          大清連邦:大宦官

                   

                      高麗共和国:李承朝

 

            戦力

 

 

 大日本帝国:12,000,000万人      南天条約機構:50,000,000万人

 

 神聖ブリタニア帝国:16,000,000万人  大清連邦:3,200,000万人

 

 中華連邦:20,000,000万人       高麗共和国:1,200,000万人

 

 ジルクスタン:1,200,000万人

 

 AEU:6,500,000万人

 

            損害

 

 

 大日本帝国:500,000万人       南天条約機構軍:7,600,000万人

 

 神聖ブリタニア帝国:700,000万人   大清連邦:2,950,000万人

 

 中華連邦:6,300,000万人       高麗共和国:1,000,000万人

 

 ジルクスタン:970,000万人

 

 AEU22,000人(シベリア戦線のみで中華戦線に直接参戦していない為)

 

 計:8,492,000万人                計:11,550,000万人

 

 

 第一次世界大戦は南天条約機構軍による北進東進。その切っ掛けは中華連邦およびジルクスタン内に存在する超古代遺跡と国土を取得するため、両国へと軍事侵攻を開始した事でおきた戦争。

 

 合衆国オセアニア・合衆国東アフリカなど南天条約機構各国。大日本帝国・神聖ブリタニア帝国等、北側諸国の盟主国が中心となり参戦した史上最大規模の戦争の一つ。

 

 近年人類史上最大の死傷者・行方不明者を産んだ。

 

 

 概略

 

 2022年6月2日。最後通牒としてイラク社会主義共和国は中華連邦に対し、ペルシャ軍区の割譲を要求。元々ペルシャ軍区はイラクの土地であるというのが言い分。

 

 この世迷言を中華連邦が一蹴した事で、南天の一国であるイラクのユスフ・サルマン・ユスフ書記長は盟主へと連絡を取る。

 

 盟主はただ一言『浄化したまえ』とだけ答え、協定書も何も書かなかったという。協議はイラク側から一方的に打ち切られ。

 

 イラクに展開していた30,000,000万人の南天条約機構軍はイラク・ペルシャ国境に集結6月16日、無茶苦茶な要求を蹴った事を理由に中華連邦ペルシャ軍区国境を突破。

 

 第一次世界大戦は始まった。同刻AEUも失地回復の為、極東を目指し6,500,000万人の軍を動かしシベリア戦線が勃発。

 

 中華連邦はペルシャ軍区を奪われ南天軍はジルクスタンにまで侵攻。20,000,000万人の南天軍が後詰めとしてくるという情報に、45,000,000万人の国民数を超える軍隊を前に、1,200,000の盛況なる国軍で戦うも、南天軍の圧倒的物量と最新兵器の数々を前に一時国土全域を占領される。

 

 国王シャリオ、聖神官シャムナは最後まで国民と共に戦うと宣言するも、精神的支柱のお二人まで戦死されては我がジルクスタンは亡国と化すと説得され、中華連邦中央、中華帝国へと逃れていく。

 

 後詰めの20,000,000万人が合流し計50,000,000の史上最大の軍隊となった南天軍はインド洋に30個空母戦闘群を並べ、インド軍区を集中攻撃。中華連邦もこれに対応するため、中華全土より9個の空母戦闘群をかき集めてくるも。

 

 各艦艇の性能差、兵器の性能差により敗退が続き、決死の思い出2個群を食い破るも5個群が壊滅させられ4個群が半壊。連邦海軍は事実上の全滅に近い損害を出して撤退。

 

 中華連邦海軍の撤退もあり、インド軍区各地の都市を攻撃し終えたオセアニア軍は西部より、アフガン、パキスタンと侵攻占領していきインド軍区にまで到達。この間、民間人にも相当数の被害が出たと推測され推定人数60,000,000万人近い民間人が南天の言う『浄化』という名の死に追いやられている。

 

 これは南天が平気でジェノサイドをする精神性にあることを示しており、民主共和性原理主義の危険性が世界中にさらされた瞬間でもあった。

 

 また南天軍は、インド軍区を壊滅状態に追い込んだ後は、中華連邦首都洛陽まで空爆し連邦高官に多数の死者を出している。

 

 事ここに居たりもはや過去の遺恨にこだわっている場合ではないと悟った連邦政府は、隣国にして『二つ名』の超大国、大日本帝国へと救援要請を出す。

 

 当初予想通り、この救援要請に、旧敵国である中華人の為になぜ我々が血を流さなければならないんだと反発が起きるも。

 

 同胞たる神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの──

 

『日本の同胞たちよ。南天の脅威の前に過去のわだかまりに拘っている時などでは無い。今武器を取らずしていつ武器を取るのだ。南天は来るぞ?この日本までも、我が国までも」

 

 と。日本の上帝陛下もこれに加わった──。

 

『古びた条約と南天の脅威、優先すべきはどちらでしょうか? 今この瞬間にも罪もない中華連邦の民や、占領されている地域では圧制が敷かれていると伺います。我々日本およびブリタニアには、彼らを解放する力があります。皆さん、どうか我々と共に中華連邦・ジルクスタン解放の為の戦いにお力をお貸しいただけないでしょうか?』

 

 国民に頭を下げるブリタニア帝国皇帝・上帝陛下。御帝。

 

 陛下方に頭を下げさせるな。我々は陛下と共に戦うぞ。

 

 大日本帝国万歳!!

 

 上帝陛下万歳!!

 

 御帝万歳!!

 

 オール・ハイル・ブリタニア!!

 

 各地で響く怒号と共に、大日本帝国陸海空海兵隊四軍は全軍を出撃させ、まず南天に与した者への制裁と言わんばかりに、三日で大清連邦。高麗共和国を滅ぼした。

 

 この時投入された戦力は第7世代KMFウィンダム7,000騎、第8.5世代エナジーウィング機400機、第9世代KMF紅蓮聖天八極式80騎、ランスロット・アルビオン100騎、フリーダム120騎。

 

 作戦機10,000機、戦艦4艦、主力水上艦艇750艦、潜水艦160艦、12個空母戦闘群・12個遠征打撃群、戦車50,000両(南天との軍拡で大幅に増勢されている)装甲車70,000両、戦闘用VTOL3,500機、浮遊航空艦600艦、各種支援車両120,000両を一気に展開(北側の大陸沿いにも)

 

 このままの勢いで12,000,000万人の兵を派遣した日本軍は、後続として派遣されてきたブリタニア軍とインド軍区で合流。インド洋に50個空母戦闘群を展開しこれ以上の南天軍の攻撃を防ぐためと、南天海軍と激突。

 

 南天軍の七天こそ取り逃すも13艦撃沈。3艦隊大破の大ダメージを与えて南天海軍を撤退に追い込む。

 

 ただし、日ブ連合軍も被害は少なく無く、50個の内8個群を撃沈ないし大破させられた。これは痛手だったが本国では増産に次ぐ増産が為されているとか。

 

 同じことは南天にも言えるため痛み分けと言えよう。空はほぼ同世代、一部は日ブが一世代先の戦闘機だったため、南天軍に後れを取ること無く圧勝。

 

 KMFは8.5世代騎と9世代騎の数と質にものを言わせた日ブ軍が優位に進めたが、さしもの南天軍もやられてばかりでは無く、逆に日ブ軍が危ない局面も何度かあった。

 

 そこへ颯爽と現れた一騎のKMF緑と白と青のカラーリングが施された第9.5世代機という異色の機体が全方面刃状粒子弾や、二丁のスーパーヴァリスを振り回し。巨大なSMVSを振り回し敵を真っ二つにしていく様が幾つもの戦場で見られ。

 

 その美しさと圧倒的強さから、ブリタニアの戦女神と呼ばれる。その速度は戦闘機以上に速く、普通のKMFの二倍以上の大きさ。スーパーヴァリスの威力も通常のものとは段違い。

 

 とてつもなく強力なシュタルクハドロン・レイ。オマケに燃料切れが無いのかずっと戦場を飛び回り、戦車、KMF、戦闘機、浮遊航空艦に軍艦さえも刈り続けている。

 

 誰が騎乗しているかは不明なものの、その圧倒的強さは大いに士気を高めさせ、絶望の淵にいた中華連邦軍を立ち直らせていった。

 

 

 

 終局

 

 

 28,000,000人の日本ブリタニア連合軍のとてつもない強さに勇気づけられた中華連邦軍は共に、進軍を開始、インド軍区西部を完全解放。

 

 追って、アフガニスタン地方パキスタン、同盟国ジルクスタンを次々と解放していく。この間、南天軍との大きな激突が何度となくあり、犠牲者は増大の一途を辿ったが、最後に南天軍をペルシャ軍区から押し返したとき、戦場は歓喜に包まれた。

 

『数の南天』に我々は勝ったのだと。もちろんそこには大日本帝国と神聖ブリタニア帝国の協力と、そして大きな犠牲があったことは言うまでもなかった。その犠牲を胸に生き残った彼らは明日を、生きていかなければならないのだ。

 

 史上最大の戦争第一次世界大戦はこうして幕を閉じた。北側・南側、双方まだまだ余力を残したまま。

 

 

 戦後

 

 

 第一次世界大戦は謎のKMFの活躍もあり、終結を向かえたが、各国軍の被害も無視できない物となった。日本やブリタニアでさえも500,000万人以上の死者行方不明者を出したのだ。

 

 それだけ『二つ名』の超大国と戦う事はリスクを負うと言うことを教えられ、戦後は間もなくブリタニア帝国の仲介により大日本帝国の対中敵国条項は削除され、ジルクスタンと中華連邦は復興の道へつく。同時に両国の北側諸国同盟への加盟に繋がっていく。

 

 



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子どもがお酒を飲もうとすると……絡まれる

シンクは小学生高学年から中学生1年くらいに見られますが、実年齢二十代半ばから後半です。

ご指摘を受け少し加筆修正しました。


 

 

「リョウタロウ、遅いわね」

 

 いつものBAR、もっと華やかなお店が彼女には見合うだろうに何故このようなBARに呼び出されたかというと。

 

 単純な話、夫の好きな行きつけのBARの一つだからだ。

 

 カウンターテーブルの一番端、目立たない場所に彼女は座っていた。

 

 身の丈よりも長く美しい金色の髪を黒いリボンで、頭の両側側頭部高くでツインテールに結い上げ、赤いヘッドドレスを付け、深紅のドレスを身に纏った彼女は、このBARの空気にはとても馴染みそうにない。

 

「おいおいっ、金髪のガキが来てるぜっ!」

 

 ガキ? いったい誰のことを言っているのかしら? 子どもなんていないのに。シンクは辺りを見回すと、ガラの悪そうな金髪と黒髪のツーブロックの髪型。

 

 上体は非情に盛り上がった筋肉質で出来ている漢、いや男と目が合った。

 

「よお、ガキ、ここはおめえみてーなしょんべんくせえガキが来るとこじゃねーぜ。なんならこの俺様が大人の何たるかをその小せえ身体に教え込んでやろうか?」

 

 ギャハハハハっ! 仲間たちと笑う男。

 

「おめーのデケーの突っ込んだらそのガキのアソコが裂けちまうよっ!」

 

 下品ね聞いていられないわ。

 

「でもこのガキ、ガキのくせに色気あるなあおい、ごくり」

 

「確かに、な。よく見りゃ相当の上物だしよぉ」

 

 

 

 

 子どもがお酒を飲もうとすると……絡まれる。

 

 

 

 

 男たちの目の色が変わる。私を見ていた目が、お子様を見る目から色欲の目に……。気に入らないわね。大人のなんたるかなんてこと、リョウタロウにこの身を捧げたあの日に知ったわ。

 

 痛くて、熱くて、でも心地良くて幸せで。麻生リョウタロウの全てをこの私、シンク・ローゼンクロイツが包み込んでいる感触がとても気持ち良かった。私の中にリョウタロウがいる。私とリョウタロウが熱く一つに溶け合っている。

 

 それはとても痛くて純粋で、汚れ無き愛の瞬間。私たちにもそんな初めての時はあったわ。

 

 子供はまだ出来ないけれどね。お母さまはリョウタロウくんとシンクちゃんの子供が早く見たいわと仰るけれども、子は授かり物だもの。そうそう望むとおりには行かない物よ。

 

「どれ、このオレ様が味見してやるぜ奥の部屋へ来いよ」

 

 私の手を、穢らわしい手が取る。

 

 瞬間――パンっ。空いている方の手で穢らわしい手で触り来た男の頬を叩いていた。

 

「汚い手で触らないで頂戴」

 

 私に触れて良いのは親、姉妹、弟、以外では愛する夫、リョウタロウだけ。

 

 それ以外の男が触れることを私はけして望まないし受け入れない。当然先ほどよりこの男が勝手に宣っている行為など考えるだに穢らわしい。私が受け入れるのはリョウタロウだけであってその他の誰でも無いのだから。

 

「この糞ガキィィッ! 優しくしてやってりゃ付け上がりやがってェェェッ!!」

 

「私はあなたに優しくして貰いたいとも言っていなければ、して欲しいとも思っていないのだけれど」

 

「チっ、この糞ガキがっ、ちっとお仕置きが必要だな」

 

 私は男の言葉に、カウンターに掛けていたステッキを手に取る。ああ、とても手に馴染むわ。戦闘用の物では無いけれど耐久性は充分だし、壊れることは無いでしょう。

 

 なんなら、別の物を代用としても良いし。

 

「ちーと痛えぜ?」

 

 大方男は小柄な私を子供と思っているのでしょうね。斜め四十五度に振り上げた手は女子供の頬を叩く手。叩き慣れているのかしら? ますます以て穢らわしいわ。無抵抗な女子供を叩いてきた事が透けて見える。

 

 振り下ろされてくる手。何の訓練も為されていない一般人の攻撃や動作なんてスローモーションに見えてしまうわね。私はその手を取り。

 

「なッ?!」

 

 驚く男を無視して片手でひねり上げた。

 

 私のツインテールがふわりと宙を舞う。

 

「いでェェ!! 痛デデデデデッ!! く、くそ、離せッ!!」

 

 面白いくらいに弱いわ。口頭では脅し文句を使い、凄んで見た目と合わせて相手を怯ませ、いざ本当に強い相手を前にするとどうなるか。

 

 腕を捻りあげたまま床に頬リ投げる、床に置いてあるテーブルが音を立てて倒れ散らかった。あとで損害賠償請求もしておこうかしら? そうして引き倒した男のその喉元にステッキの先を押し当てると。

 

「や、やめッ、やめッて、くッ、れ」

 

 こうして簡単に謝る。闘志も霧散させて。情けない男。

 

 あなたは本当は徒党を組んで相手を攻撃しなければ何も出来ない弱い男よ。

 

 肉体的にはある程度強いのでしょうけれど、所詮人を殺す覚悟も無い半端者でしかない。

 

「このまま私がこのステッキの切っ先に力を入れたら、あなた、地獄にいけるわね」

 

 天国とは言わない。どうせこの手の男は今までに同じ事をしてきているのでしょうから、地獄行きは確定でしょう。

 

「die or NOTdie? 生か死か? あなたの至るその道の決定権は私にあるわ」

 

 態と薄く酷薄な笑みを浮かべると仲間の男達も息を止めた。

 

「助けてあげないのかしら? お友達なのでしょう?」

 

 

「っっ……!!」

 

 彼のお友達たちはぶるっと震えて何も言わない。ここには力関係しか無い。友情は無い。見たところ私が抑え付けているこの男が一番強いようね。

 

「残念ね。あなたのお友達はあなたを助けてはくださらないみたいよ?」

 

 ここに居るのは精々不良グループと呼べる者達。生き死を、本当の戦場を経験してない子達ね。初心な子達。それが暴力を振るおうというのだからなんて平和な世界で育ってきたのでしょう。

 

「私を犯すみたいなことを仰ってたみたいだけど、あなた、殺されたいの?」

 

 ゴミを見る目。きっとそんな目をしているのでしょうね。私はその目で押し倒している男を見遣り、ステッキの切っ先にぎゅっと力を込める。

 

 このまま喉を潰し、首の骨を砕いて現実の怖さでも知ってあの世へ行って貰おうかしら。

 

「た、たぢゅッ! たぢゅげでぐだざいッッ、もうじばぜんッッ、おやぐぞぐいだじばずッッ」

 

 じゅわわ~。

 

 下半身、ズボンの留め具の中から音がして、透明な液体が下半身の周りに広がっていく。

 

 この程度で失禁とは、情けない。日本の闇に生きている男でもこの程度で失禁まではしないわ。

 

 本当にただのお坊ちゃんなのね。見せかけだけは威圧的で言葉も態度も威圧的、実際実力もそこそこなのでしょうけれど、本当に人を殺してきた者の闇を見抜けない中途半端な輩。

 

 こういったBARには多い、溜まり場になっているとは聞いたけれど、本当みたい。連中は腫れ物を見るように遠巻きに私を見ている。

 

 私は冷酷なままにステッキに力を入れていく。

 

「良いことを教えて差し上げましょう。日本の華族伯爵家以上の階級の者は、神聖ブリタニア帝国内での平民下位貴族への無礼討ちが許されているわ。同様に」

 

 一呼吸置いて瞳に殺気を込める。少年のリーダー格は泡を吹き出したけれど意識は失わせていない。そんな楽をさせる物ですか。

 

「神聖ブリタニア帝国の伯爵家貴族以上の者にも日本の士族、平民への無礼討ちは許されている。そして私はローゼンクロイツ伯爵家の一族の者。お分かり? 見たところ士族の様子だけれど。御帝がお嘆きだわ。士族とは国を守る為にその時が来れば戦わなくてはならない物だというのに……、落ちぶれ汚れてしまった士族……ここでこの手でジャンクにしてしまっても問題は無いわね」

 

「ひい゛だぢゅげ」

 

 ゴキンッ

 

「げえッ……」

 

 喉元に当てていたステッキに力を込める。綺麗に折れた少年の首。何故この男を殺したか? 簡単。血の匂いがしたからよ。士族という階級を持ち出して好き勝手に暴れて、女性を辱めて殺してきた。ありありとその光景が浮かんでくるわ。

 

 それにしても、何度戦場でこの音を聞いてきたか。

 

 それをこの様な街中で聞くことになるなんて因果な物ね。

 

 目の前で行われた生きた者がジャンクへと変わる瞬間を見た、仲間の少年三人は、恐怖に立ちすくんで動けない。

 

 するとそこへ。

 

 

 ――わりい遅くなっちまった。閣議と辻のおじきの仕事が入ってちょっと片付けてきてな。

 

 

 少し癖のある黒髪を七三分けにして、上下グレーのスーツに黒いコートと黒い帽子姿の男が入って来た。

 

 私は手早く少年を解放してステッキを元の位置に戻し、ヘッドドレスのゆがみと髪のほつれを取り居住まいを正す。

 

 奥までやってくる男、リョウタロウ。彼は失禁したまま壊れている少年を見て『お前なんかやったのか?』と私を見て来るも私は何もやってないと帰す。

 

「嘘吐け……こら、髪がほつれてる」

 

 リョウタロウが私のツインテールの片方を何度か梳いてくれる。近寄る身体同士、リョウタロウの匂い。

 

 硝煙の匂いがする。誰がしかを片付けてきたのね。分かりやすいけれど、こんな場には似合わないわ。

 

 それと、私と少年グループのトラブルの際、一切動かなかったマスターが、リョウタロウのコートを受け取る。

 

「マスター」

 

「如何いたしましたかマドマヅェル?」

 

 まあ当然だけれど、マスターは私を大人だと認識していたようだわ。いきつけのBARの一つだから当然といえば当然だけれど、その割には助け船がなかった。

 

「あなた、何故先ほどの私と彼らのもめ事を仲裁するか、警邏に通報しなかったのかしら」

 

 怖かったから動けなかったというのならばBARのマスターの資格無し。

 

 少年達と同グループだというならばそれ以前。

 

 するとマスターは。

 

「ご冗談を。彼の神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家五女、シンク・ローゼンクロイツ様が、斯様な無頼漢如きを退けられないはずも無いと考えた次第で御座います」

 

 そう、私が誰かと知っていて見過ごしていたと。

 

 良い度胸ね。場合によっては大問題に発展するのだけれど、敢えてソレを見過ごすだなんて。

 

「それにシンク様なら警護の方が付いていらっしゃるかと思い」

 

「今日は、今夜は何かとうるさい警護は付けていないの。リョウタロウと二人きりの時間を楽しみたいと思ってね」

 

「それはそれは」

 

 それにしてもあの不良の子たち。本当に何を習っているのかしら?

 

 リョウタロウを見ても外務大臣だと気が付いていないなんて。

 

 傍耳を立ててみると聞こえるのは「マフィアだ……」「ま、マフィアのボスだ……」ですって。お笑いもいいところだわ。まあ確かに普段のリョウタロウはマフィアに見えないことも無い格好をしていることもあるけれどね。ふふッ、本人は格好いいとでもお思っているのかしら?

 

「しっかし、よお、天下のローゼンクロイツ伯爵家の御令嬢に難癖付けるたあいい度胸してるじゃねーかよ。何なら俺が教育しとこうか?」

 

 言いながら彼は愛用のベレッタを出す。殺す気だ。私はもう一人ジャンクにしているけれど。

 

 ローゼンクロイツ伯爵家と聞いた瞬間彼らの顔面が蒼白になる。小柄な淑女の多い大貴族として日本でも有名だものね。日本と多くの経済的取引もしているお得意様だし。

 

 そこの息女と喧嘩をしたなんてことがどこかに漏れれば、彼らの将来はおしまい。私はそこまでしないけれど第1女スイギントウだと彼らの将来どころか命さえ危うかったわ。

 

「ふふッ、教育は私がしておいたわよ。ねえ。あなたたち」

 

 私は視線だけを彼らに寄こし正否を問う。彼らは、身体を震わせながら、小さな声で「は……はい……」と応えた。

 

 もちろん教育だけでは終わらないけれど。

 

「マスター」

 

「はい、シンク様」

 

 110番。

 

 

 間もなくやってくる日本の警邏。小太りな巡査部長が私とリョウタロウに気付いて姿勢を正す。

 

「こ、これは外務大臣閣下、ローゼンクロイツ伯爵家シンク様」

 

「俺たちへの挨拶は良いんだよ。先に其処に転がってるジャンクの始末と、糞ガキ共を連れていけ。どこぞのBARで女を輪姦してたっぽい奴らだ。シンクのことも犯そうとしやがった」

 

「し、シンク様をッッ!!」

 

「意味わかってんよな。俺の管轄だからアレだが外交問題に発展してたぜ。シンクがこの場で収めるって言わなかったらよ」

 

 そう、私は収めると言った。だからこれはここまで。私も外交問題にまで話を大きくするつもりは無い。

 

 少年グループのリーダーは私が誅し、グループメンバーは逮捕させた。余罪なんて幾らでも出てくるでしょう。

 

 ソレで十分ではないかしら? 日本にもE.U.の腐れた少年法なんて無い。婦女暴行監禁傷害、死刑かしら。見逃して上げた意味無いわね。最もこれまでを考えるのならそれ相応の刑罰でしょう。

 

「そ、それではこれで失礼致します、私がでは在りませんが少年グループには厳正なる処分が下される物かと」

 

「むしろ下してくれ。ローゼンクロイツ家に知れたら何人首が飛ぶか分からねえぞ?」

 

「は、はいッッ、必ずやッ、し、失礼致しますッッ」

 

 少年達は終始真っ青だった。自分たちの犯してきた罪と向き合い悔いているのか? これから訪れる厳正なる処罰を恐れているのか? どうせ後者でしょうね。こういう輩は悔い改めない。

 

「リョウタロウ」

 

「んあっ」

 

 今日の日のためのワインを頼んでいたリョウタロウの手から、赤薔薇の私をイメージさせる赤ワインがグラスに注がれていく。

 

「極刑?」

 

 意味は分かっている。私に手を出した彼の少年達の処遇について。

 

「決まってるだろ極刑だよ。ローゼンクロイツ伯爵家っつー大貴族の息女に手を出したのがあのガキ共の最大のアウトだ、ま、元々婦女暴行監禁傷害、かなりの罪となってたろうがね。止めに伯爵家令嬢だ見過ごせられる範疇を逸脱してやがるよ」

 

 今度は私がボトルを手に持ちリョウタロウのグラスに注いでいく。

 

「士族ってなあそれだけで特権階級だ。士族様なら何しても大抵許される。嶋田の旦那や親父さんの代でそんな悪しき風習には終止符が打たれたんだが、今でもあんな小僧共が悪さしてやがんだよ」

 

 チンっ

 

 グラスを鳴らし乾杯。美味しいお酒だけれど少し気分が悪いわね。

 

「ふふっ」

 

「なんだよ」

 

「いえ、ね、リョウタロウも悪ガキだったのかしらと思って」

 

「うっせえよ」

 

 リョウタロウが私の長い髪を優しく掬う。指を通して何度も何度も照れ隠しのように。

 

 うふふ、気分は悪くなっていたけれど、頬を赤くする夫の姿を見れただけで良しとしましょうか。

 

 

 



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親方様万歳

クルシェフスキー侯爵はオリキャラです。


 

 

 本日、朝、晴天なり。クルシェフスキー領領都ポートランド郊外。クルシェフスキー家所有の大広場に集められたのは実に数万という貴族達だった。

 

 親方様のもとに集められた子の貴族は全て西海岸諸侯。親方様は西海岸諸侯の盟主であらせられる。

 

 親方様の子が治める地は西海岸から食い込んだ、東・南はロッキーやニューメキシコ地帯にまで及び、北はブリティッシュコロンビアやアルバータにまで及ぶ。

 

 ブリティッシュコロンビア

 

 アルバータ

 

 アイダホ

 

 モンタナ

 

 ワイオミング

 

 ネヴァダ

 

 カリフォルニア

 

 ユタ

 

 コロラド

 

 アリゾナ

 

 ニューメキシコ

 

 ワシントン:クルシェフスキー直轄領

 

 オレゴン:クルシェフスキー直轄領

 

 総人口3億5千万人を超え、域内面積は500万㎢に近い。戦力的にも神聖ブリタニア帝国の四分の一が集中している。

 

 なにしろ南天の防備に割かなければならない戦力が西海海岸と太平洋には集められているからな。

 

 つまり親方様は神聖ブリタニア帝国の四分の一の領域と力と人口を持つ支配者。これだけの大きな力を持つ一諸侯は過去から現在まで居たことは無い。

 

 一諸侯に力が集まりすぎると反乱の怖れがあるからだ。だが、皇家、そして大英帝国、その前進の時代より、クルシェフスキー家は常に時の王室に仕えてきた。

 

 一切の翻意も見せず、野心の欠片も持たず。その高潔なる姿勢に数多くの貴族が魅せられ、子は大きく膨大に増えていった。

 

 それは新大陸、ブリタニア大陸に来てからも変わらなかった。先住民との戦争になるかと思われたときも、必ずクルシェフスキー家が割って入り、話し合いで済ませ、なんと先住民から貴族を輩出させるという離れ業、ともすれば皇家への背信行為に繋がるのでは無いかと思える行動さえ取ってきた。

 

 多くの批判があった。これ幸いにとクルシェフスキー家は責められた。だがそれでも方針を変えず、皇家への忠誠心はけして揺らぐことはありませんと言い切り、時のクルシェフスキー家当主は眼光鋭くわめき散らす貴族達を黙らせたという。

 

 ブリタニア北南戦争が起きたときも皇家の盾となり、剣となり戦った。熾烈を極めた最大級の内戦で、クルシェフスキー派閥からは多くの戦死者を出したが。戦後にはその権勢は更に強力な物となった。

 

 定住地として、西の要としてクルシェフスキー家は太平洋に面した大きな領地を与えられ、クルシェフスキー派閥の貴族の多くも西海岸へと渡っていった。

 

 これが現在のクルシェフスキー影響圏、西海岸諸侯を象る最初の一歩となったのだろう。

 

 その後も第一次拡張戦争、第二次拡張戦争、英雄帝クレア・リ・ブリタニア擁立にも大きく貢献し、太平洋戦争の調停役も務め果たし、西海岸諸侯は更に膨張していった。

 

 貴族の中には自ら志願して『是非ともわたくしめをクルシェフスキー家の一門に加えて頂きたいと』門戸を叩く者が続出し。

 

 結果としてクルシェフスキー家の正確な西海岸影響圏、通称西海岸諸侯圏は。

 

 総面積:4,774,663㎢

 

 総人口:356,439,584人

 

 という、神聖ブリタニア帝国史上最大の勢力となったのだ。

 

 

 

 親方様万歳

 

 

 

 

 これは北南戦争を起こした欧州貴族よりも勢力としては多く、声を掛ければ更に集まるとさえ言われているほどの巨大勢力圏。

 

 この西海岸諸侯の盟主クルシェフスキー家は一千年、一千年の歴史を誇る他に類を見ない貴族家なのだ。

 

 栄枯盛衰、起こる貴族在れば滅びる貴族有り、取り立てられれば潰される貴族もある。その中で単純な意味ではブリタニア皇家よりも歴史が長いのでは無いかとさえ言われるクルシェフスキー家は、もう、その時が来ても良いのでは無いか?

 

 即ち、ブリタニア皇家に代わり、ブリタニア朝に代わり新たなる皇家。クルシェフスキー朝を起こしても良いのでは無かろうか? そう考えている者もこの場には居よう。

 

 もし、今日の、本日の全体集会がブリタニア朝に取って代わらんとするその宣言集会だとしても、誰も反対はしない。クルシェフスキー家の結束はそれだけ強固なのだ。

 

 戦力は恐らくブリタニアの三分の一。大日本帝国はクルシェフスキー家と非常に大きな縁がある為必ずやこちらに付くはず。充分勝算はある。

 

 親方様が声を発する。皆その一言一言を聞き逃すまい。

 

 親方様は爵位こそ侯爵だが発言権、影響力共に既存の大公爵を超えている。

 

 それだけの御方が今。クルシェフスキー家の――。

 

「まず、諸卿らに申しつけておく。愚かな考えを持つ者、これを捨てよ。ブリタニアが滅ぶとき、それはクルシェフスキーが滅ぶときである」

 

 へ?

 

「我が家は一千年。ブリタニア、大英帝国、その前進国家を変わらず支えてきているが、それはこれからも変わらぬ」

 

「し、しかし親方様ッ! 皇家の親方様に対する報いは余りにも無体に過ぎまするッ!! 大貴族連合の反乱、血の紋章、これまでの戦乱や大乱での活躍ッ!! それを、それだけの貢献をしてきたにも関わらず未だ親方様は侯爵という地位に留まり、領地も依然変わらぬままッ! これでは我ら西海岸諸侯一同納得がいきませぬッッ!!」

 

 功労に対する報償が為されていない。そうだ親方様に立つことを望む者達が多いのはソレが原因だ。皇家はクルシェフスキー家を蔑ろにしている。

 

 だが、親方様はまあ待てと数万人の諸卿を諫められた。

 

「実はな、もう何代か前より話はあったのだよ。陞爵の話と新領地下賜の話は」

 

 なっ?! そ、そんなことは初めて聞くぞ??! ど、どういうことなんだ!!

 

「だが、先代も、先々代も辞退されたのだよ。そして私も固辞してきている。まあシャル――皇帝陛下からは西海岸諸侯から不満が漏れたときは見せるようにとの言伝と、こんな物を預かってきている。読み上げるぞ」

 

 親方様の言葉を待つ諸卿、ごくりと唾を飲む音が聞こえる。

 

「以下の者、これまで200年間の長きにわたる功績に対する報償を固辞し続け、現在まで繋ぎ来た貴族クルシェフスキー侯爵家。現時点を以て望むのならばブリタニア領太平洋全域及び西海岸全域を下賜し、爵位を大公爵とするものとする」

 

『ハアァァァーーー?!!』

 

 皆が驚きの声を上げる。中にはひっくり返る物も居る。

 

「なお、次なる武勲乃至功績を立てたと判断された瞬間、以上は強制的効力を帯びる物とする」

 

 そ、それって、え、親方様が今望めば大公爵へと二階級特進??

 

 次の手柄で強制昇進と巨大領地の下賜?

 

 我らクルシェフスキー派閥は皆、親方様の直系の家臣となり、あらたな子まで……。

 

「分かっただろう諸卿。皇家はずっとクルシェフスキー家に対し報いようとして下さって居た。これを固辞し続けてきたのは我がクルシェフスキー家の方なのだよ。だからこそ、勘違いからの馬鹿な行動を起こさないよう慎んでくれたまえ」

 

 場が盛り上がると同時にざわめく。

 

 即ち、大公爵クルシェフスキーという歴史の瞬間に立ち会えそうなのだと。

 

「私としてはいまのままで充分なのだがね。先代も、先々代もそうであった。皆静かに生きたいのだよ」

 

 なんと、なんと、親方様は欲の無い御方なのか! 望めば手に入る大公という地位ですら必要の無い物としてお考えとは。

 

 そして、そして我ら子や家臣団はなんと底の浅い人間だったのか?! 親方様の真意、皇家の真意両方を読み切れず安易な皇家打倒を考えてしまうとは!!

 

 皇家は、皇家は、ずっと以前より親方様への報償を用意し、親方様がお受け取りになる瞬間を心待ちにしておられたのだ。

 

 ブリタニア万歳!! ブリタニア皇家万歳!! 我らの浅はかなる考えをお諫めくださり感謝の言葉も御座いませぬ、この身この魂。クルシェフスキー家とブリタニア皇家のため、これからも役立てていく所存っ!!

 

 しかし動かずのクルシェフスキーの秘密の一つにはこの様なことが隠されていたのか。秘密と言えば、親方様の仮面の下はどの様なお素顔なのか。ほとんどの家臣が見たことが無いと言われる素顔、一度見てみたい物よ。

 

 

 ※

 

 

「はあ、なんでこんな余興を開かねばならないのか。私は静かに生きたいんだよ。ブリタニアの皇帝になる? なんでそんな疲れることを進んでしなければならないんだ。大公昇進はほぼ確実だし書類仕事に西海岸とブリタニア領太平洋全部、たぶん西海岸だけだろう。まさかアッシュフォード領やカラレス領沖の太平洋まで入っていないだろうな? そこまで面倒見切れないぞ……公海の確認や見直しも必要だし書類仕事も増える……、頭が痛い……」

 

 



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クルシェフスキー侯爵は休みたい

小ネタなので時系列は無視してください。


 

 

 クルシェフスキー侯爵は休みたい

 

 

「……広いな」

 

 西海岸諸侯の地図を見るクルシェフスキー侯爵。

 

「すでにわが手に入っているも同然とはいえ、正式にわが手に入るのか。私が大公となれば」

 

 大公、大公爵。ヒトラーとハイランド両大公が欧州へと帰還するため必然的にクルシェフスキー侯爵が大公となる。

 

 これは決定的でいずれにせよ覆せない。

 

 西海岸諸侯盟主という立場は変わらないが、権勢は比較にならないほど大きなものに。

 

「いっそ、アキト・ヒュウガ・シャイング伯爵当たりの船に紛れて私も欧州へわたっちゃおうかな……」

 

 アキト・ヒュウガ・シャイング、レイラ・フォン・ブライスガウ嬢と婚姻関係にある我がブリタニアの貴族だった少年。

 

 今は欧州へと渡り自分の領地をもらい、渡航する予定だ。功績高く下位の伯爵の地位を徐爵している。そう、私が領地の運営指導係として赴くとかどうだろうか?

 

 書類仕事には飽き飽きなのだ。英気を養うために領内の居酒屋に行っても正体がばれているため、家宰とソフィアにすぐ邸へ連れ戻される。

 

 ああ、つまらぬ毎日だ。学生だった頃が懐かしい。淡い青春の日々よもう一度……! そんなことを望んでも帰ってはこないんだけどね。

 

 しかしまあ欧州委期は大げさにしても、たまにはヴェルガモン伯、山本殿、リーライナ嬢、シャルル、マリアンヌ、アリス、ローゼン、ローゼン八姉妹と息子君、リョウタロウ、シュタットフェルト家一同、ソレイシィ家一同。

 

 ロズベルトの一件で仲良くなった面子でキャンプにでも行きたい。

 

 場所はそうだなヴェルガモン家所有のミシガン湖湖畔で。

 

 あそこなら目立たないし、他のキャンパーに紛れることもできよう。

 

 そうだ! モニカとシマダ卿も誘おう! いい案だ!

 

 あの二人の仲はまだそれほど進んでいないとも、反面進み切っているとも、いろんな噂を聞く。

 

 どれが本当かわからない。一度二人と会ってどの様な感じになっているか確かめねば。

 

 ああ! しかしそうなるとシャルルがユーフェミア皇女を連れてくる!

 

 ユーフェミア皇女は明確にシマダ卿に好意を抱いている。これはもうどうしようもないことだ。ユーフェミア皇女がシマダ卿を好き。これは確実なことなのだから。勝手に結婚するとまで言い切っているとかどんだけなんだよ。

 

 男女の恋話、好きだの惚れたの話に他人が口をはさむわけにはいかないし、難しい話だ。

 

 というかモニカはユーフェミア皇女の姉なんだぞ?! 姉に優先しなさい。名前を与えるとすればモニカ・クルシェフスキー・ジ・ブリタニアだろう。

 

 私は他人ではないモニカの養父。シャルルに至ってはモニカとユーフェミア皇女の実父。

 

 思い悩んでいることだろう。どちらか一方を取ることができないのだからな。

 

 同じような意味ではマリーベル皇女とクララ皇兄女殿下の件も挙げられる。こちらは兄弟げんかに発展するし。

 

 マリーベル皇女はグリンダ騎士団の総団長。クララ殿下は裏組織のトップ暗殺者。戦えば両者ただでは済まない。

 

 ああ、くそ、なんて問題の多い家族なんだブリタニア皇家とクルシェフスキー家。

 

 こちらはただのんびりとしたキャンプでも楽しみたいだけなのに。

 



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ジュンくんは思春期

ローゼンメイデンネタ。


 

 

 ジュンくんは思春期

 

 

 父さんも母さんも姉さん達も叔父さんも、みんな美形なのにどうして僕だけ平凡なんだろう。

 

 昔怖くて血液検査まで受けて、間違いなく父さんと母さんの子だって分かってるけれど、でもそれでもみんな美形で僕だけ平凡って。

 

「おーうジュン。良いかあ」

 

 考え込んでいたところに飛んでくるリョウタロウ義兄さんの声。

 

 うちに来てたんだ。

 

 シンク姉ちゃんの旦那さんで、凄い銃の名手。

 

 この人は平凡な容姿。僕側の人で、僕の気持ちをりかいしてくれるひと。

 

「入って良いよ」

 

 バリケードにちょっと隙間を空ける。

 

 すると黒髪の頭が入ってくる。

 

 それは良い、まだ良かったんだけどさ。

 

 全身が入りきったところで。もう一人入って来た。

 

 膝まで届く銀色の長いウェービーヘアをさらさらと零れ流しながら、左目につけた眼帯は逆三角形で中心に紫の薔薇が彩られていて。

 

 覗く片方の右目は金色、全体が紫色ですぼまる格好のドレスを着ている。スカートの裾は蕾の膨らみに見えてとても綺麗。

 

 素足は紫色のサイハイロングブーツに膝上まで包まれていて、ブーツの真ん中にも紫の薔薇の意匠が凝らされている。胸元にも紫の薔薇のコサージュ。紫の薔薇、紫薔薇なんて呼ばれてるきれいな女の人。

 

 今年で二十歳になる、ローゼンクロイツ伯爵家第八女バラスイショウ・ローゼンクロイツ。親戚と言うことで僕の婚約者でもある美しい女性、美形なんだけど彼女とは婚約者だし幼なじみでもあるからバリケードの中に入るのを許している。

 

「ば、バラスイショウ姉ちゃん?!」

 

「おはようジュン」

 

「いやさ、俺とバラスイショウなら入って良いんだろ?」

 

 外からはシンク姉ちゃんのいい加減出てきなさいって大きな言葉が響いてる。

 

「う、うん、リョウタロウさんとバラスイショウ姉ちゃんなら」

 

 早速二人にソファへ座って貰うんだけど。

 

 バラスイショウ姉ちゃんはそそっと僕の隣に来て、身体をくっつけてくる。は、恥ずかしいな。

 

「なあよお、ジュン」

 

 リョウタロウさんが切り出す。

 

「おめーだって他に持ってねーもんあるだろ」

 

「うん、ジュンのお裁縫の技術はとても凄い」

 

 僕は裁縫が得意だ。男のくせになぜか。

 

 一部の人にはマイスターなんて持ち上げられてるけれど、そんな大層な物じゃ無い。と、思う。

 

 良太郎さんもバラスイショウ姉ちゃんもそこを褒めてくれるけど。

 

「そいつァ、才能ってもんだ。それを伸ばしていきゃあ良い。平凡な容姿? 俺からしたら充分可愛らしい容姿だぜ」

 

「か、可愛らしいって」

 

 男の人に可愛らしいなんて言われても嬉しくないなあ。

 

「ジュンはかっこいいよ」

 

 バラスイショウ姉ちゃんに言われたら今度は恥ずかしいや。

 

「頭蓋骨の上に肉がくっついてるだけなんだよ顔の作りなんてなあ。気にすんな」

 

 ああ、やっぱこの二人とは話しやすいや。

 

「あと、ジュンよお、男として格好良くなる手っ取り早い方法を教えてやろうか?」

 

「手っ取り早い方法?」

 

「バラスイショウを……ごにょごにょするんだ」

 

「で、で、出来ないよそんな事っ!!」

 

 なんてことを言い出すんだろうこの人。それくらいに気安い間柄だからってのはあるけれど。

 

 バラスイショウ姉ちゃんが頬を赤くして立ち上がると。

 

 ブーツの先でリョウタロウさんの脛を蹴っていた。

 

 それでまた僕の隣に姉ちゃんが座る。姉ちゃんは僕を見て小首を傾げる。顔が凄い真っ赤でいい匂いがする。

 

 大人の女の人ってこんなに良い匂いがするんだ。

 

 さらっと銀色の長い髪を揺らしながらバラスイショウ姉ちゃんは呟いたんだ。

 

「ジュンがいいなら……いい、よ」

 

 優しい声音。そうして優しく抱き着いてくる小柄でも豊満な体躯のバラスイショウ姉ちゃん。鼻腔や顔を擽る姉ちゃんの長い髪さらさらで良い匂いだ……。

 

「しても、いいよ?」

 

 赤い顔でそういうことの話をする姉ちゃん。

 

 ああ、姉ちゃん。言ってる意味分かってるの?

 

 ぼ、僕だって16歳とはいえ男は男なんだぞ。

 

 純粋で無口で美人で優しくて、僕の大好きなバラスイショウ姉ちゃん。

 

 僕、僕は、この純真無垢な紫の薔薇をどうすればいいんだろう。

 

「正に二人の世界って奴だな……ジュンよお、もうバラスイショウに男にして貰え。そうすりゃ多少は自信も付くぜ」

 

「そ、そ、そ、そんなことっ、でき、できできない、よっ」

 

「ジュンになら、なにされても、いい」

 

「ね、ね、ね、姉ちゃん!」

 

 僕は悶々とした時間を過ごした。

 

 俺は邪魔だからって出て行ったリョウタロウさん。

 

 僕とバラスイショウ姉ちゃんを二人きりにしてこんな空気のまま、僕にどうしろっての?!

 

「ジュン、二人きり……だね」

 

「ね、姉ちゃん」

 

 姉ちゃんの身体の香りは甘いし、長い髪は良い匂いだし。

 

 ぼ、僕、僕は。

 

「うわーっ! 僕にはそんな事出来ないっ!」

 

 頭を抱えて叫ぶ僕を姉ちゃんは。

 

「意気地無し」

 

 そう言ってベッドまでぐいぐい引っ張っていって押し倒された。

 

「ね、姉ちゃん、何するの?」

 

「何するの?」

 

「ね、ねえ?」

 

「ねえ?」

 

 姉ちゃんの長い銀色の髪の毛が僕の顔の周りに流れてカーテンになって、銀世界と薄暗さを作り出す。

 

 バラスイショウ……ねえ……ちゃん……。

 

 



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十六歳はもう大人だよね

時間軸としては馬鹿男爵領討ち入りよりも前です。


 

 

 カチっ、カチっ、カチっ。

 

 

 つかねえな。

 

 シュゴウっ

 

「おおうっ」

 

「火、要るんだろう?」

 

 差し出された手、唐突に付いたターボライターの火。白いシャツに包まれた手が後ろから伸ばされている、気配も無く現れたその人物に振り返る良太郎。その手の持ち主は穏やかな笑顔、温かい微笑みを送りながら大日本帝国外務大臣では無い。

 

 私人、麻生良太郎を、シンクと同じ蒼い双眸で見つめている。白いシャツには赤い薔薇を刺し、下は黄土色のズボン。焦げ茶色の靴。まさに紳士という言葉が良く似合う男性は笑顔で炎を差し出していた。

 

「わりィな……ローゼン」

 

 ローゼンクロイツ家当代当主、ローゼンクロイツ伯爵その人であった。

 

 メイド達、召使い達は一斉に控えるがローゼンが手を振ると皆、それぞれの仕事に戻っていった。この薔薇の宮殿の頂点に立つ男は召使いの使い方も心得ているようだ。

 

「なんだ鞄なんか持って、例の如くドールでも入れてるのか? つーか、気配無く後ろに立つなよ」

 

 揶揄では無く挨拶代わりの言葉を使う良太郎。実際にローゼン、彼は広大なローゼンクロイツ伯爵家領主であると共に、人形師でもある為、鞄に制作中のドールが入っていることもままあった。

 

「中央、ペンドラゴンに行っていたんだよ。南天の動きが怪しいからその会議にね。僕の赤薔薇は元気かい」

 

「元気だよ俺ァ下僕にされてるこの邸に帰ってきてるから後で会ってやってくれ。喜ぶぜ。それと、こっちも情報は掴んでる。中東に大軍を集めてるらしいな1千万どころじゃねえ。3千万だ、本格的に北半球に攻め込んでくるんじゃねえかってのが帝国議会の見解だ。ユスフの糞野郎が小躍りしてるところを見るにどっか攻め込むなありゃ」

 

 ふぅーっと葉巻の煙を吹き出す良太郎。

 

「あいかわらずとんでもない数だね3千万とか、本気なら8千万なんだろう? 死ぬことに高等恍惚なる意義を見出すなんていう生けるアンデッドみたいな兵隊が。今や中東の覇者となったユスフはその力を利用してるつもりなんだろうけれど、利用されてるのはユスフの方なんだけどねまあ、情報では彼もオファニムの地位を貰ってるそうだから身内としては扱われているんだろう……しかし君も葉巻が好きだね。キューバ産かい?」

 

「お、当り。カストロ伯爵の贈り物でな。同じ葉巻愛好家って事で」

 

「なるほどね。カストロ伯爵も葉巻をよく吸うね。けどあれ元はぶよとか羽虫除けだって聞いてたよ。彼、ゲバラ子爵と共に南ブリタニアのペンタゴン掃討作戦をしていたろう。あの頃吸い始めた物だとか」

 

「聞いたことあるな。あの人もオレ等と同じで戦いの歴史だからなあ」

 

「君が一番戦ってるじゃ無いか。銃無しの君が相手でも互角が良いところだよ僕はね」

 

「おめーも大概人間止めてんな」

 

「アリスよりは弱いよ」

 

「嫁さんはヤベーわ」

 

 一頻り近況を話し合った二人は、ちょっとした問題事に目を向ける。

 

 

 

 

 十六歳はもう大人だよね

 

 

 

 

 

 良太郎が出てきた扉の向こうの問題だ。

 

「ジュンくん、また引きこもったんだって? 中央で連絡が来たよ」

 

「らしいわ。部屋ん中にバリケード作ってやがって、俺かバラスイショウ以外は召使いもメイドも、姉貴等も入るなってよ」

 

「それで君が入ったんだろう?」

 

「バラスイショウと一緒にな。そんで彼女だけ残して出てきた。ジュンにアドバイスをくれてやってな」

 

 にやりと笑う良太郎にはァーっとため息を吐くローゼン。

 

「変な事したんじゃ無いだろうね?」

 

「してねーよ? ジュンに大人になれって言ってやっただけだ」

 

「あのジュンくんにそんなことができるはずがないだろう。ん?……ま、まさか、……バラスイショウに?」

 

「当りだ」

 

「な、なんてことするんだ君は。ジュンくんはまだ十六歳なんだぞ? まだ子供だ」

 

「大人の味を覚えて精神的に成長すりゃあ引きこもりも無くなるだろう。ジュンは言ってもローゼンクロイツ家の人間だ。おめーさんだってそれなりの役職に就かせるつもりなんだろう」

 

 ローゼンが黙り込む。確かにジュンはローゼンクロイツ家唯一の男子。何れは要職に就かせるつもりだ。中央で仕事をしている姉たちに代わり領内を取り仕切って貰わねばならない。

 

 ヒナイチゴ、キラキショウ、バラスイショウと、領内に残っている姉たちと共に。後は近々帰ってくる第3女のスイセイセキと共に。

 

 ローゼンはふと胸元に刺している薔薇を取る。

 

「ところで――」

 

 薔薇を取り、斜め後ろにずっと控えている長い黒髪を夜会巻きにしているメイドに問い掛けた。この薔薇の邸にメイド――召使いは数百人と居る。が、ローゼンはその中で直ぐ傍に控えていた一人に反応していた。

 

「君は新しいメイドさんかな? 僕は記憶力が良いんだ。この家に仕えている600名ほどの召使いの顔は皆覚えている」

 

 ローゼンは人形師、人形細工は細かく、感覚で覚えながらも記憶力も必要。故に知らない召使いは直ぐに分かる。

 

「誰だね君は? 我が家の家宰は優秀だ。そんな機械みたいな目をした人間を、僕の家宰は雇わないぞ?」

 

 ローゼンの目がすうっと窄まる。

 

「な、お戯れを。わたくしは一介の――」

 

 オドオドと取り乱すメイド。主人に疑われてしまい、職を失ってしまう。ましてや無礼討ちを。そんな声音だったが。

 

 もう無駄、そう悟った彼女の目の色は狂気の色へと変わった。

 

「一介の死兵にございます」

 

 死兵――南天の正規兵。死をもいとわぬ生きたアンデッドはその正体を現した。

 

「ププププッッ!!」

 

 跳躍したメイドは天井に張り付き、ローゼン目掛けて口から針を撃ち出してきた。

 

 ローゼンクロイツ伯爵を仕留めれば、南天に取り大きな益となろう。

 

 当初はローゼンクロイツ家末子を誘惑し誘拐する予定であったが。それも伯爵の思わぬ帰還と、赤薔薇、紫の薔薇、魔弾の射手の訪問と帰還により失敗に終わった。

 

 ならば最早伯爵を仕留めるしか無い。そう考えたメイドの決死の攻撃であったが。

 

 ローゼンは身じろぎもせずに大輪の薔薇を盾にして全ての攻撃を受け止める。ジジっ、ジジジジっ、音がして端の中心に突き刺さる幾本もの針。

 

「君は南天軍に就職するよりもサーカス団にでも就職した方が良かったね。そうすれば――」

 

 その薔薇をくるりと逆さに持ち替えたローゼンは、メイドの口へと目掛け放った。

 

 ビュッ――風切り音を残し飛翔する赤薔薇。

 

「ガッ――!!」

 

 鋭い茎はメイドの口へと深々と突き刺さり、その喉奥を貫き絶命させた。

 

 だらだらと垂れてくる鮮血が真っ赤な薔薇に更なる赤を追加し、ポタポタと血を滴らせる。

 

「まともな人間で居られて、生きている事も出来たというのに……」

 

 髪が解けながらばらけつつ落下してくる死骸。物言わなくなった死の天使。死後は神と一つになるという教義の下か、瞳には死の恐怖よりも悦びが浮かんでいる。完全に頭のおかしな人間、最早人間を辞めてしまった者のなれの果てであった。

 

 良太郎はその様子を見守りながらデザートイーグルをくるくる回している。

 

「ヒューっ、一瞬かよ。……まッ、こっちも気付いてたから一発で仕留めるつもりだったからな。目が死兵のソレだったからどうせなにも喋らねえ処か」

 

「死兵だと名乗った以上は一瞬で仕留めないと大きな被害が出る。口の中に爆弾が入ってる。たぶん威力的には数十メートル四方を吹き飛ばす物だろう。スイッチは口内かな? 死兵の持つ奥の手なんてのはそんなのが多い。これでも死兵と何度も戦ったから大体分かるんだよ」

 

「そいつァ俺っちも知ってらァ。イカレ天使共の最終手段だ」

 

「針にも青酸だろう毒が仕込まれてる。完全に狂っているとしか言えないね」

 

 こんなのが3千万中東に集結している。どこへ向かうのか分からないが3千万もの大道員となれば北半球侵攻は確実だろう。

 

 中華連邦・ジルクスタン方面か? 見切りを付けた南天の犬のE.U.ユーロピア共和国連合ことユーロユニバース方面か? 南ブリタニア大陸か?

 

 それとも。

 

「大日本帝国・神聖ブリタニア帝国と決着でも付けるつもりで北側諸国とやり合う気か? F号兵器の撃ち合いなんぞ行えば最悪世界が滅ぶぞ」

 

 南天諸国は何かを求め動いている。南天の神もまた何かを求め動いている。それがなにか?

 

「1個は分かってるんだぜ? 日本にある何かか、或いは複数の人物を目標としているかだ。それとな、こりゃ俺の勘だが、南天の神に取っちゃこの世界に意味なんて無いんじゃねーのかね。正直この世界を滅ぼしても良いとか考えてるような気がするぜ。勘だがな」

 

 ふぅ~ッ、良太郎が葉巻の煙を大きく吐き出しながら憂鬱な顔をした。

 

 

 ※

 

 

 外での凄惨なやり取りも気付かぬままに、ボサッとした短い黒髪に黒縁眼鏡、優しそうで平凡な容姿。日本人系の容貌を持つ少年。

 

 上は黒いベストに白いシャツ、袖にはフリルが付いていて下は青いズボン、そんな紳士的な服装を身に纏った確かな少年、ジュン・ローゼンクロイツがそーっと扉を開けて出てきた。その頬はもう真っ赤っか。

 

 もう一人、ジュンの後ろから 膝まで届く銀色の長いウェービーヘアを肩から流しながら、左目につけた眼帯は逆三角形で中心に紫の薔薇が彩られていて。

 

 覗く片方の右目は金色、全体が紫色ですぼまる格好のドレスを着ている。スカートの裾は紫の薔薇の蕾の膨らみに見えてとても綺麗。ドレスの乱れは無い。きちんと確認した綺麗な形。

 

 素足は紫色のサイハイロングブーツに膝上まで包まれていて、ブーツの真ん中にも紫の薔薇の意匠が凝らされている。胸元にも紫の薔薇のコサージュ。紫の薔薇、紫薔薇なんて呼ばれてるきれいな女の人。

 

 当年二十歳の、ローゼンクロイツ伯爵家第8女バラスイショウ・ローゼンクロイツ。ジュンとは親戚と言うことで婚約者でもある美しい女性。バラスイショウの頬も赤く色付いて居る。少し呼吸も乱れていた。

 

 たった今、ジュンとバラスイショウは男と女になったのだ。良太郎に促されて。ジュンはこんなつもりじゃなかったし覚悟も何も無かった。十六歳で致してしまう。

 

 それもバラスイショウの側からというのがまた情けないことこの上ない。男の子なのに、最後まで女性にリードされて。でも初めて知った女性の温もり、バラスイショウの温もりは優しく慈愛に満ちていて、嬉しく心地の良い一時でもあった。

 

 そんな時が終わり、お互いに身嗜みを整えて、ジュンは自分の事を甘く優しく抱いてくれたバラスイショウに膝枕をされて暫しの余韻を楽しみ、そうして部屋を。

 

 

「やあ、ジュンくん」

 

 そーっと出てきたところで声を掛けられた。よく知ってる声で、アリス母さんの次に逆らえない人の声。

 

「と、と、と、父さんっ!」

 

 ローゼンクロイツ伯爵家当主、ローゼンクロイツ伯爵その人。ジュンの実の父親である。実はローゼンの作る人形の衣服はジュンが作ったりデザインしても居る。

 

「ペンドラゴンに行ってたんじゃ?!」

 

「ああ、予定が早く終わってね領地の方も気になる。そうしたら邸に虫が一匹」

 

「虫?」

 

「ああ、なんでもないよ……、それよりもまた引き籠もってたんだって? みんなに心配ばかり掛けて」

 

「ご、ごめん、父さん、でも僕っ」

 

「ああ、分かってるよ。容姿のことで悩ましいんだろう。でもね容姿、なんてのは、心の美しさには勝てない。ジュンくんはバラスイショウが美しいから婚約したのかい?」

 

 美しい。ああそうだろう。ローゼンクロイツ家の例に漏れず、親戚筋のバラスイショウも美しい。だけどそうじゃない。

 

 美しいから、きれいだから婚約したんじゃ無い。心が、その心がとても美しい女性だなと思ったから。

 

 静かな月の光、紫水晶、紫の薔薇、その静けさをたたえた心の美しさが僕を引きつけたから、僕はエンジュ叔父さんの持って来たバラスイショウ姉ちゃんとの婚約話を受けたんだ。

 

「違うよ父さん。僕はバラスイショウ姉ちゃんが綺麗だから婚約したんじゃ無い。僕は姉ちゃんの心の輝きに引かれて、それで、その……」

 

 僕は言葉尻を小さくしながらバラスイショウ姉ちゃんの長くて綺麗な銀色の髪を手に取る。僕の手の平から流れ垂れ下がる綺麗な長い髪の感触。とても良い香りがして、もう汗も乾いていてさらさら感と、潤いを取り戻していた。

 

「ジュン……好き、ジュン」

 

 僕を抱き締めてくる小柄な姉ちゃんが愛くるしい、小柄って言っても、僕も小柄な方だから身長は近いけど。

 

「ただ、まあ、まだ二人とも婚約段階なんだ“そういうことは”ほどほどにしてね」

 

 ば、バレてるっ!

 

 全部バレてるよ姉ちゃんっっ!!

 

「へっへっへ、最近の若いのはその手のもはええんだよ。別にしたいときにすりゃいいって。きちんと責任取る覚悟が出来てるならなーんも問題ねえ。皇帝陛下見て見ろ」

 

「皇帝陛下を持ち出さないでくれよ。まあジュンくんがというより年齢的にバラスイショウが責任取れるなら僕は何も言わないよ。ただエンジュにも君の事は任されてるから」

 

「う、うん、父さん」

 

「はい、お父様……ジュン……ね?」

 

 ね? が何を意味しているか分かるジュンは真っ赤になって緊張した。これからもああいうことをしよう。してもっと仲良くなろうという無言の合図だ。

 

「と、父さん」

 

「なんだい?」

 

「十六歳って大人なのかな?」

 

「さあ、場合によりけりじゃ無いかな。分別の付く歳ではあるから大人と言えば大人だね」

 

「お、大人、かあ」

 

 勿論だからと言って僕にそういうことをする勇気は無い、バラスイショウ姉ちゃんからして貰う形になる。でもそれでいいのだろうか。

 

「あ~あ~ッッ」

 

「はっはっは、悩めるのは少年の証だよ」

 

 

 そんなジュンを初心だねえーっと笑う良太郎。

 

 真剣なローゼンクロイツ伯爵はそれでいてにこにこと微笑みを崩さず。

 

 こうしてジュンの引きこもりは解消の方向に向かっていくのだった。

 



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山の日(富士山?)

時間軸は無視してください。モニカさんの嶋田さんの呼び方から判断していただければ。平和な時間軸です。ただし南天と創造主クリエイター=Lとの戦いはまだ終わっておりません。

皆さん山の日ですが、山登られましたか?
私は登っていないのでせめてSSでは山の日を。
嶋田さんとモニカさんと共に。
エレーナさんは顔や姿は出ておりませんが公式でのモニカさんの副官です。


 

 

「はあっ、はあっ、はあっ」

 

 海の漢が山に登る。簡単に言うが結構キツいな。頭がクラクラしてきた。

 

 嶋田繁太郎として生きてきて200年近いが、それでも山登りは余りしてこなかったような。書類仕事ばっかだったものなあ。

 

「さあ、博之さん。あと少しです」

 

 前を歩くモニカさんの長い金髪。を、ポニーテールに結った、腰にまで届く彼女の長いポニーテールが元気よく揺れている。

 

 いつもの黄緑色のマントでは無い。白いタイトスカートの騎士服でも無い。

 

 今は、黄緑色のシャツに白いジーンズ。黄緑色のシャツは良いとして、白のジーンズは汚れが目立つのでは?

 

 モニカさん曰く『汚さないように歩くのです。ラウンズとして常日頃から鍛えていかねばなりません』というのが答えらしかったが、確かに見事なまでに汚れていない。

 

「はあっ、ふうっ、はあっ」

 

 ああ、しかし、まるで夜伽の方の呼吸の乱れにも通ずる。モニカさんが普段しないポニーテールなんて髪型をしているせいで、少しばかり不埒なことを想像してしまうのだ。

 

 思えば彼女いっつも髪を下ろしているものなあ、結んでいると言えば、身体の前に流した横髪と鬢の髪をリボンで結んで、あまったリボンはくるくると髪の毛に巻き付けているだけ。

 

 いつもそれだものなあ。見慣れているし、綺麗だと思うけれども、たまには違うモニカさんの姿を見てみたいという男心もあるにはあるのだ。その絶好の機会だというのに。

 

 体力はある。海軍時代に遠泳などで鍛えられてきたし、甲板で運動もしてきた。しかし陸に上がった亀は遅いとでも言うのか? 着実なる一歩は踏み出せるが足の速い彼女に追いつかない。

 

 

 

 

 山の日(富士山?)

 

 

 

 

 するとモニカさんの副官さん、エレーナさんが側に寄ってきて耳元で囁くように呟いた。

 

「よろしければ私がお荷物をお持ち致しましょうか?」

 

 気遣いの出来る人エレーナさん、さくさく先を歩いて気付かないモニカさんとはまた別種の魅力がある。

 

 下心は無いけれども、そんな事を考えていた為か、エレーナさんはくすりと笑い。

 

「その様なことをお考えですとクルシェフスキー卿の御不興をお買い致しますよ?」

 

 モニカさんの不興。買うのだろうか。あの空の色よりも蒼く、海の色よりも深い、雄大な瞳を持つモニカさんが嫉妬。

 

「何をしているのですっ!」

 

 突如響く怒声、怒声というか大きな声というか。

 

 それは金色の長いポニーテールを揺らしながらこちらへと下がってくるモニカ・クルシェフスキーの姿だった。

 

「何を為さって居たのですか博之さんエレーナっ!」

 

 俺が何かを言う前にエレーナさんが応えてしまう。

 

「いえ、嶋田卿が少しお疲れのご様子でしたので私がお荷物をお持ちして差し上げようと」

 

「お疲れ…………、そ、そうなのですか博之さん?」

 

 むう、モニカさんが怒っている。物静かで他人を思いやる彼女にしては珍しい。普段風流なことを口にするくらいに物静かだというのに、俺とエレーナさんが接近しただけで。

 

「も、モニカさん……。怒ってる?」

 

 緑の木々が伝い覆う山道で何をしているのだろうか?

 

「お、おお」

 

「おお?」

 

「お、怒ってません! ただエレーナが博之さんにご迷惑をお掛けしているのではと感じただけです!」

 

 普通逆でしょう。男の俺がエレーナさんに迷惑を掛けるのなら未だしも。

 

「ふふ、大丈夫ですよクルシェフスキー卿」

 

 余裕たっぷりのエレーナさんはまるで挑発をするかのようで。この二人、普段から姉妹のように仲が良いのに何でこんなに荒れているんだろうか? え? 俺? 俺が原因ですか?

 

「な、なにがでしょう?」

 

 エレーナさんはモニカさんの耳元に唇を近づけると、某かを囁いた。

 

 凄く小さな声だったので俺には聞こえなかったけれど。

 

“私はクルシェフスキー卿から嶋田卿を盗ったりなど致しません”

 

 このボソボソとした言葉の瞬間、モニカさんの顔は瞬間湯沸かし器みたいに血流が上り、ボンッと真っ赤になった。

 

「え、え、エレ、エレーナっ、わ、私は別に、そ、そういう意味で注意したのではっ!」

 

「ふふふっ、ではどういう意味なのでしょう? クルシェフスキー卿に取り、嶋田卿は最優先の存在。その側に近づく女性は例え副官の私であっても許容し得ないと存じましたが如何に」

 

 エレーナさんが挑発文句を口にしながら、俺の頬に頬を近づけて。

 

 俺は――。

 

 俺は――。

 

 ぐいっとエレーナさんを押し戻した。

 

「それ以上は駄目ですエレーナさん」

 

「嶋田卿?」

 

「俺のこの身はモニカさんに、モニカさんだけが触れても良い。モニカ・クルシェフスキーという女性にだけ触れて良い体だと決めているのです。ですから、エレーナさんの想いにはお応えできません」

 

 多分試されたのだと思う、エレーナさんはモニカさんの副官。もう何年もの付き合いになる。その為人についてよく知っている。こんなことを悪戯で行うような女性では無い。

 

 俺の、モニカさんへの気持ちを試されたんだと思う。副官故に、大切な姉妹みたいな存在故に。

 

 ぱちぱちぱちっ。

 

 エレーナさんの拍手が響く。

 

「見事ですね嶋田卿。さすがはクルシェフスキー卿が見初めた男性です」

 

 優雅に、嬉しそうに微笑むエレーナさん。ぽかーんとするモニカさんとはまるで真逆。

 

「安易に女性の手を頼らないところも、誘惑じみた私の掛け声にも反応せずのところも合わせ◎です。まあ、分かっていることなのですけれど、人は逆境にあるときにこそ本心が出ます。ですので非礼を承知で試させて頂きました」

 

 なんだ、やっぱりそうだったか。

 

「ですが、お荷物をお持ち致しましょうかというのも本心です。嶋田卿は私にとっても大切な御方。万一があってはなりませんので」

 

 おおう、そっちも本音だったのか。優しい副官さんだなあ。

 

 ほんわかしていたのが顔に出ていたのだろうか。はっとするとモニカさんの表情が無表情になっていた。

 

「あ、あの、モニカ、さん?」

 

「ふんっ、そんなにエレーナがよろしいのでしたらエレーナに甘えればよいでしょう!」

 

 あ、モニカさん怒ってる。駄目だなぁこれくらいで怒っちゃ。

 

「普段の冷静沈着で落ち着いた、物静かな君はどこへいったのかな?」

 

「知りませんっ、そ、そんなおだてられたって私はっ」

 

 ちょっと荒療治。

 

「んふう――?!」

 

 口付け。

 

 なんでもない、触れ合わせるだけの。

 

 それでも、モニカさんの甘い唇の味が、唾液と合わさって、俺の唇に付着する。

 

「ん――……」

 

 静かに離れる俺とモニカさんの唇。

 

 彼女の蒼い瞳が潤いを帯び、木々の隙間の空を映す。

 

「モニカさんとは楽しく山登りをしたいな。それが俺の本音かな」

 

 ただ山登りをするだけならば、フリーダム=フローレンスで二人乗りをして、インフィニットドライブから繰り出される強力なエネルギーを持ったランドスピナーで走破していけばいいだろう。

 

 その方が山頂には早く着くし安全だ。でもそんなの山登りじゃ無い。

 

「俺は、モニカさんと一緒に、親しい人達と山登りがしたい。多少しんどくてもね」

 

「博之さん……」

 

 博之さんと呼ぶモニカさんは当然俺の全てを識っている。全てを教え、全てを受け入れてくれる、そんな優しい女性。

 

 俺は言おう。

 

「俺は、モニカ・クルシェフスキーが好きだ。誰よりも愛している!」

 

 エレーナが口許に手を当てる。俺のSPが頬を赤らめる。赤らめんで良い。

 

 モニカさんは。

 

「あうっ、えうっ、はううっ」

 

 何だか良く分からないことになっていた。

 

 ふう、しかし程よい休憩にはなったな。

 

 俺は慌てているモニカさんの右手を握った。

 

「モニカさん、陸戦空戦タイプのモニカさんのペースだと、海戦タイプの俺は付いていくのが少ししんどそうだ。俺に合わせてくれたら助かるな」

 

「あ……、わ、私も少し浮かれておりました。博之さんと山登りという状況に、反省……です」

 

 モニカさんは意識してだろう。恋人繋ぎの、指と指の間に指を差し入れ合わせて握り締め合う繋ぎ方に変えてきた。

 

 俺もその繋ぎ方に合わせて指を握り締め、手の平全体を合わせる。

 

「今度は、どちらが先行するのでは無く、一緒に並んで歩いて参りましょう」

 

 優しい笑顔のモニカさんに俺は。

 

「そうだね。モニカさん。一緒に歩こう、せっかくの山の日の山登りなのだから」

 

「はい、博之さん」

 

 俺たちは荷物を背負ったまま抱き締め合う。

 

 俺の頭をモニカさんが優しく撫でてくれる、気持ちいい。指の一つ一つが髪の合間を掬い。

 

 俺もモニカさんの長いポニーテールに指を入れて撫で掬う、腰まで届く金色の尻尾の毛先まで指を抜けさせて。

 

 お互いの頬を擦り付け合わせる。すりすりと擦らせて自分自身を互いに擦り込んで匂いを付けるんだ。

 

 博之はモニカさんの物。

 

 モニカさんは博之の物。

 

 身体中を抱き締め合わせて触れてない処なんて無いくらいに、お互いを触れ合わせ会う俺たち。

 

 エレーナさんが真っ赤になって、俺のSPたちが明後日の方向を向いて。

 

 別に誰に見られていようと構わない、博之とモニカだけの時間。

 

「んっ」

 

 ソレは最後に軽いキスを残して終わりを告げた。

 

「さあ、参りましょう博之さん。目指す麓は直ぐ其処です」

 

「麓、ね」

 

 カムチャツカ地方。

 

 登る山は富士山。

 

 富士は富士でも標高4750mのカムチャツカ富士。大日本帝国最高峰。他にも沢山の登山客がいる。

 

 登頂難度がどれくらいあるのか俺は知らないけど、みんなが背負う装備の多さからそこそこ分かる。

 

 今は軽い服装だけど後で防寒着に替わるんだろうな。

 

 モニカさん。

 

 直ぐ其処ってどこのことなの?

 

 

 



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上帝陛下と将軍と無限なる夢の関係

三人の人が休暇にお茶を飲んでおります。


 

 

 

 上帝陛下と将軍と無限なる夢の関係

 

 

 

 大きな宮殿の池、とある人たちは其処で久方ぶりとなる顔合わせを行っていた。

 

「今年は寒いですね。テレビでは暖冬、暖冬と頻りに叫んでおりましたが」

 

 ですますと、丁寧な言葉で話すのはこの中での最低齢の女性。

 

 その系譜の途上にて幾度かブリタニアの白人種の血が入った為か、先祖返りした当代は、腰まで届く金髪に美しい碧眼を持つ美貌の女性であった。

 

 名を足利義輝。初代義輝の如き剣の達人であれと、彼女の両親が名付けたのだ。

 

 当年取って三十路に突入する事ながら、貴族院にてその辣腕を振るっている。

 

「織田公爵には相変わらず疲れさせられます」

 

 ニューギニア戦争の戦費負担分だけでも合衆国オセアニアから取れないか?

 

 今年度の軍事予算をGDP比10パーセント枠の一千兆にまで引き上げられないか?

 

 かなりの無茶ばかり言うのだ。その根底には清国。高麗共和国。この二国に加えて予想外の中国攻め、つまり中華連邦攻めの魂胆が混じっているからもう大変だ。

 

『日中戦争はまだ終わっては居りません。大陸の管理はややこしい。では島をと言うなら海南島の遥か西にはセイロン島があるではありませんか』

 

 昔は技術的問題などや国力の問題から不可能であったセイロン島の割譲。だが現代の圧倒的なる国力と技術力を背景とすれば可能。強行的な織田公爵の言い分は分かるが日中講和条約自体はもう結ばれている。

 

 海南島は日本の領土として定められ、セイロンの方に付いては中華連邦インド軍区にその権利有りと定められているのだ。

 

『ならば攻め落とせばよいのです。どっちつかずでふらふらしているアジア大陸。これを全て我が帝国が総取りするのです。今の世界第二位の超大国にまで肥大化した今の日の下ならば、帝国ならば可能なのですっ!!』

 

 とまで言ってのける織田公爵も、足利大公が反対すれば大人しくなる。武家華族は公家華族とは違い足利大公が強力な求心力を以てして束ねている為、武家華族は足利将軍家=足利大公家には逆らえないのだ。

 

「強硬派を抑えるのも疲れる物ですね」

 

 そんな足利大公に、はァァ、とため息をつきながら同意するのはタカ派にもハト派にも根を持つ、帝国議会の本当の支配者夢幻会のメンバーであった。

 

「なにを仰いますか。貴方こそ本来ならば私の上に立つべき人物。将軍・帝の知恵袋として過去より今日までこの日ノ本を支え導いて来たのは貴方方でしょうに──夢幻会主幹のお一人、嶋田繁太郎伯爵閣下」

 

 呼ばれた嶋田は、インチキも多分に混ざってますよと自嘲気味に笑う。

 

 そんな二人の会話に割って入るのは、頬には法令線が見え、髭や髪にも白い物が混ざっている、壮齢の男性。

 

 男性は池の鯉に餌をあげる。優しい男性の気質もあり、とても懐いている鯉たちは、我よ我よと餌を食べていく。

 

「人生100年以上も生きておると、様々な問題ごとにぶつかるもの。時に力で、時に知恵で、解決を図ってきたのだが100%の答えだけは一人として出せぬのだ」

 

 男性は続ける。

 

「我がかわいい孫、第八皇女──皇家の神楽耶と、ブリタニア帝国第一皇子オデュッセウス殿との婚約の際にも、方々より邪魔が入り排除するのに苦労した。嶋田伯爵、足利大公、二人にも面倒をかけたな」

 

「勿体なきお言葉に御座います」

 

 義輝が首を垂れ。

 

「誠心誠意頑張った。そして結果が実った。全ては上帝陛下と御帝の御心のままであると存じ上げます」

 

 嶋田はただ謙遜する。

 

「いついつ会っても二人とも変わらぬな。……朕、いや、思えば私も無茶をした。あの神聖ブリタニア帝国と真正面からぶつかる選択を詮議に詮議を重ねたとはいえ良しとしたのであるから」

 

 嶋田と足利、二人が生まれる前の話。穏やかな中に悲痛なる瞳の色が見て取れた。

 

 本当にあれしかなかったのか。

 

 本当に戦しか手が無かったのか。

 

 中華や欧州の様な格下ではない。二倍半から三倍の国力を持つ相手だ。最先端を行く技術で押し切るほかなかった。

 

 会戦劈頭での橘花の大量投入。8万t空母、8万t戦艦を五月雨の如く大海へと流し込み。ブリタニア軍の驚愕を耳に鎧袖一触していった。

 

 だが、ブリタニア側も遅れてジェット戦闘機を繰り出し始める。それを支えられる蒸気カタパルト付きの航空母艦も。

 

 ならばとこちらは対艦ミサイルを開発、対潜魚雷を開発、技術の先取りを行いつつ、"最初の三発”までも開発した。

 

 時間との勝負だった。技術で勝り追いつかれ、また勝り追いつかれ勝る。千日千手の中で不気味な動きを見せていた南半球の覇者は大洋州連合へと攻め入り併合。

 

 東南アジアという帝国の裏庭に入るニューギニア島にも攻め入り、他ティモール、インドネシアと狙い始め、南ブリタニア大陸にも兵を送ろうとし始めていた。

 

 混迷を極める巨大国家群の動きに他の国々は、戦々恐々とした目で戦の趨勢を見ていたという。

 

 ものすごい勢いで大増産されていく艦艇にジェット戦闘機。巡航ミサイルに、弾道ミサイル。中戦車を超えた主力戦車の登場。太平洋戦争中に世代が一つ上がる程におかしな戦争。

 

 落としどころを見つけなければならない。双方が納得するところを。そうでなければ不吉に動き始めた南の大国が何を始めるか分からない。

 

 我が国は8万5千機の六発超重爆撃機富岳を以てして、ブリタニア全土爆撃計画にてブリタニアを灰燼に帰す手前まで行った。

 

 ブリタニアも似たような考えで、無敵艦隊とでも言わんばかりの大艦隊で太平洋から日本近海まで押し寄せていた。

 

 もはや事ここに至りて相討たんと、実験もしていないから使えるか否かは不明ながら、最初の三を投入しようとしていたところに日本からは嶋田卿が。ブリタニアからはクルシェフスキー卿が待ったをかけた。

 

 そして戦は終息へと向かい、日ブはがっちりと手を組み合った。そして留め置いていた最初の三を戦後の実験と称して使用した。実験は成功。

 

 悪魔の兵器をこの世に生み出してしまった、か。

 

「上帝様、どうかなさりましたか」

 

 思いにふけっていた壮年の彼、やんごとなき御方、大日本帝国先代帝、上帝陛下が目を開けて共にいた二人を見る。

 

「嶋田伯爵」

 

「はい」

 

「足利大公」

 

「はっ」

 

「ブリタニアの血の紋章事件の件もある。くれぐれも軽挙妄動に走らんとする輩には気を付けてくれ」

 

『はっ、臣の一命を賭して』

 

 空をぼんやりと見上げながら女官が持ってきた緑茶を飲む三人。

 

「しかし、上帝様」

 

「なにかね?」

 

「こうして上帝様と足利大公との秘密の園遊会というのも不思議な物ですね」

 

「そして全員が夢幻会の関係者であるという処もか」

 

 上帝陛下。足利大公。嶋田伯爵。

 

 三人ともが彼の組織と繋がっているのだ。

 

 まさか足利大公までと考える者もいるだろう。だが、この大日本帝国でただ一家、大公位を持つ足利家が夢幻会と無関係であるはずもない。

 

 強力な者達が自身を戒め、不忠者に目を見張る体制の確立。これをこそして帝国の安寧は保たれている。夢幻会の役割とはそれ程に大きいのだ。

 

 

 シュゴ―ーーー!

 

 

 大きな排気音を立てながらフォートレスモードのKMFが一騎空を飛んでいる。ずいぶんと高空の様子だが音は確かに聞こえた。

 

「上帝陛下と御帝、御皇族方の住まう宮殿の上空を飛行するとは……」

 

 足利大公が言いかけて。はたと気が付く。

 

「あれは近衛の訓練でしょうか?」

 

 すると上帝陛下はほっこりと笑顔を浮かべた。

 

「正解だ。流石は武勲も誉れ高き足利家の現当主。世が世なら征夷大将軍に任じられ、ユーロピアとでも戦っていたのかもしれぬな」

 

「と、とんでもない、この身は何処までも陛下を守る剣であります」

 

 主従の美しき光景に。嶋田が口を挟んだ。

 

「しかし、万一にも南天軍と総力戦となった場合は陛下の身を守るために必要ですからね」

 

「朕……自分としては民草をこそ守って欲しい物だが。27万8千の兵力。多いか少ないかは誰が語ることが出来ようかとも思わぬが。南天という巨大で邪悪な存在を前にしては、何時いかなる時であれ気は抜けぬな」

 

 ごくり。丁度お茶を嚥下する瞬間が三人共に重なり。

 

 三人は顔を見せ合って笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 上帝陛下または上皇様

 

 昭和の天皇陛下。引退してより三十余年、100歳を超えても元気な笑顔が似合う御方。

 

 嶋田さんと、足利大公は茶飲み友達。園遊会を時々開いている。

 

 近衛師団の指揮権を持つが、自分は退いた世代であるとし、基本は今上帝の方針に口は挟まれない。

 

 植物など生物学の権威で世界中の賞を受賞している。

 

 

 足利義輝

 

 足利大公家現当主。貴族院議員。

 

 風貌は十代後半から二十代前半の腰まで届く金髪と、曇りのない碧眼の女性。

 

 現代の剣豪将軍とも呼ばれる程に剣の腕が立つ。

 

 

 

 近衛師団

 

 総兵力27万8千。

 

 戦車・装甲車・兵員輸送車・対空ミサイル・多連装ロケット・KMF・浮遊航空艦等の多くの戦力を有する今上帝直轄の軍。

 

 



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逆リクエストみたいなの
シーランドカジノ解禁


R15‐16

CP:山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン(基本原作のお嬢様口調)


 

 

 

 

 

 会合の日

 

 

 

「大変です皆様方!」

 

 息せき切らせて会議室に入り込んできたのは、枢木政権ナンバーワン現大日本帝国宰相の枢木ゲンブであった。

 

 枢木ゲンブ、澤崎敦の二人はとにかくこの部屋に入りたくない。皆様方の圧が物凄くて息もまともに出来ないからだ。澤崎敦に至ってはこれが原因で家庭不和を引き起こし、離婚までしてしまった。昔日交際していた井上直美という女性と結婚し、今は新婚夫婦となったのだが。

 

 まあとにかく端的に言えば怖い。何か得体の知れない怪物の中に入るようで。事実として彼らは得体が知れない。昔彼らの内定調査を行った際。

 

 自身の目の前で報告書をくしゃりと潰し、火を付けて燃やした辻に『早死にしたくはないでしょう』と告げられて以来、彼らは恐怖の対象なのだ。

 

 しかし何の因果か自分が彼ら“夢幻会会合”との連絡係を引き受けることとなってしまったのだ。同様に澤崎敦も。

 

 澤崎の時間が空いていれば全部あいつに丸投げして逃げ出すところなのだが、あいつのとこは新婚家庭なので迷惑をかけづらく、あいつはいない上に、緊急事態とも成れば、話しは変わってくる。

 

「何です騒々しい」

 

 阿部が不機嫌そうに言う。この方一人でも機嫌を損ねてしまえば自分の首など物理的に飛んでしまう。

 

「まあまあ、ここは話を聞こうじゃないか。でどうしたのだね枢木君」

 

 普段いかめしい雰囲気の杉山が珍しくも助けをブネを出してくれた。これは好機とみた枢木は一枚のビラを見せるそこには――

 

 

 

 急に海に行きたくなったので少し休みを貰いたい。有休なので頼む。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……あの剥げーッ! 何が有休だざっけんな剥げーッ!」

 

「お、おち、おちついてッくださッ、杉山閣下ッ、富永閣下助けてくださいッ」

 

「蛇眼が開いてないから助けられん」

 

「そ、そんなッ」

 

「落ち着いてください杉山さん」

 

「あ、阿部閣下!」

 

「丁稚にあたっても意味がありません」

 

「で、丁稚……、た、確かに小官は丁稚でありますな、は、ははは、」

 

 ぶんぶん揺すられる枢木、はっきり言って彼には微塵も責任はない。ただ事実だけ伝えただけであって何も無いのだ。哀れ枢木。表では名宰相、実態は丁稚である。それは澤崎も変わらない。彼らは足るを知り、分を弁えているのだ。

 

「まあまあ皆さん落ち着いて。何も有休を取ってはいけないという規則は御座いませんし、山本さんはブリタニアの貴族でもあります。言うなれば半分我々の手から離れている立場とも言えます。有休を取られたといってもそれはそれで致し方の無い事かと。当然ヴェルガモン家のお仕事もある事ですし、我々が口出しできる範囲を逸脱しております」

 

 ヴェルガモン伯爵家。神聖ブリタニア帝国の上位伯爵家、五大湖経済圏に強い影響力を持つ大貴族。日本の夢幻会とは言えおいそれとは手を出せ無い相手だ。無論五大湖経済圏との仲は非常に良好。

 

 手を出す出さないといった物騒な話になるはずも無し。では山本は何処に消えたのか? あの酔狂な山本のこと。普通なら好奇心の赴くままに何処かへと飛んでいきそうなもの。だが、彼の場合は考えられる範囲が限られてくる。

 

 近衛公が口を出す。

 

「山本くんが行きそうで好きな場所…………あった。ベガスだ」

 

 村中大佐が僭越ながらと手を上げる。

 

「ヴェルガモン伯爵令嬢も伴っているという先方寄りのお話でしたのでそれは無いかと」

 

「ヴェルガモン卿もか。夫婦揃ってのアヴァンチュールか」

 

 杉山が嫌みを言ったとき。辻が行き先について分かったと声を上げた。

 

「海に行きたくなった。それをそのまま受け取ればよろしいのです」

 

 阿部が考え込む。

 

「海に」

 

 近衛が考える。

 

「行きたく」

 

 嶋田があッと声を上げた。

 

「シーランドだ。あいつそろそろシーランドのカジノの解禁時期だろう」

 

 永久禁止にでもされてなければ何処かで必ず解禁はされる。

 

「なるほどカジノか、そりゃ行きたくて行きたくてうずうずしとっただろうな」

 

 近衛公が続いた。山本のカジノ好きは有名だからだ。

 

「だが奥さんが良く許したな。リーライナ嬢は賭け事について余りいい感情はもっとらんだろうに」

 

 阿部が続く、彼も山本とリーライナの仲の良さをよく知っているからだ。

 

「其処は口八丁手八丁で誤魔化したのでしょう。リーライナ、キミと海に囲まれた部屋で一晩を過ごしたかったのだ。行けなかったかな(カジノも行きたかったのだ)――とか。ヴェルガモン卿はあれで山本さんにベタ惚れですからねえ」

 

 最後に辻が締めくくる。

 

「まあ、得てしてこういった邪な試みは失敗に終わると決まっているのです。特に山本さんのような嘘が苦手な方がこの手の計画を思いつくと碌な目に合いません、まあ、上手くいきませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 シーランドカジノ解禁

 

 

 

 

 

 

「しかし、以前訪れた頃よりも軍事区画が充実しているな。いや充実しているという規模じゃ無いぞこれは」

 

 軍事区画を通り越して、もはや海軍基地である。

 

 坊主頭に灰色のスーツ姿、これで度の入った眼鏡でも掛けていればヤの突く自由業である見かけの男は、軍事区画の更なる拡張工事を眺めていた。大きな発着スポットが四つある。そこへ。

 

「五十六様お待たせしまして」

 

 白一色のタイトなドレスに身を包んだ令嬢が一人立っていた。腰下へ流れる長い金色に輝く髪が、ざあ、と風に靡き。唇には薄い色のリップを塗り両手には袖まで届く手袋、高級そうなバックを片手に佇む姿は一目で貴族のご令嬢だということが分かってしまうもの。

 

 事実貴族の上位貴族の御令嬢だ。軍事の軍区にこれ程見合わないご令嬢もいないだろう。本来このご令嬢は社交界を席巻すべきところを山本にお付き合いをしてくれているのだ。

 

「リーライナ、おまえ言葉遣いもアレだが、その貴族貴族した服はどうにかならんのか……まあ、その、綺麗だし、似合ってはおるが。本来社交界か何かで着る服だろうに」

 

「社交界以外ではこの様な機会でしかお召しになれないものですから。それにお外での言葉遣いは大切ですのよ? それよりも何をご覧になっておりましたの?」

 

「ん、ああ、あれだ」

 

 かなりの大拡張をしている軍需区画。隣の島と合わせてみても4倍を超える広さだ。もうこれは区画と言った容積を超えている。基地のレベルだ。海軍基地の。

 

 確かシーランドには主力水上艦艇として巡洋艦が6隻、駆逐艦が16隻ある。後は異常進化した水中用KGEとKMF。陸上用KMFが多数。ユーロユニバースという敵がいなくなった今、軍拡の必要は無いのだが。

 

 その時、ふっと日に影が差す。見上げると其処には大きな船が一隻滞空していた。リーライナも共に驚いている。

 

「!?あれは、カールレオン級か! 」

 

 大きな空飛ぶ軍艦が通り過ぎていった。いや、一隻ではない、二、三、四隻。ハドロン砲まで搭載しているのが見て取れた。すべて最新型だ。

 

「一隻はアヴァロン級ですわ」

 

 四隻の内一隻はサイズが二回り大きい。アヴァロン級だ。ハドロン重砲4門搭載した最新型。何れ劣らぬ最新型の浮遊航空艦を四隻、このシーランドに必要なのだろうか。

 

 シーランドは確かに持たざる国だ。食料、資源、軍事力、全て他国に頼ってきた。だが、その周辺環境は現在悪いとは言えない。大軍拡とまでは行かぬまでも、シーランドのリソースを考えると無茶をしているような。

 

 それにこれだけの基地。浮遊航空艦だけでは終わらないだろう。

 

 

 そんな事を考えていると。ポロシャツに短パン麦わら帽といった妙なスタイルの男が声を掛けてきた。

 

「シーランド王国は何でこんな軍拡を始めたのか。って顔・表情に出てますぜ英雄提督山本五十六閣下」

 

 シーランド王国国王ルイ・ヴェーツその人であった。彼は乗りの軽い様子で拡張されていく軍事区画の様子を見ていた。

 

「分かっていらっしゃるのなら何故、少々無茶な軍備拡張系画を? あれは軍事区画の拡張を超えております。明らかに基地のレベルだ。海軍基地の」

 

 山本の詰問に少し置いて、ヴェーツ国王は答え始めた。

 

「一応計画は2022達成の予定でさぁ、力こそ正義なブリタニア政府も後押ししてくださってる。丁度グレートブリテンとアイルランドがブリタニアに戻ってきたところだしお祝いも兼ねてってことでしてね」

 

 ガンガンガン、ゴンゴン、軍事区画の、いや海軍基地の工事の音が響く。

 

「山本閣下……俺ぁさ、凡人だ。あんたみてえなすげえ采配は出来ねえ。今のこの国があるのはみんなで守ってきたからだ。日本の、ブリタニアの、ユーロ・ブリタニアの支援があったからこそだ。……だから、ユーロピア解放戦争の時悔しかったのさ。ただそこにいて何も出来ないのが。多少の空軍フロート付きKMF、浮遊航空艦があればわずながらにでも力になれた。ほんと微力ながらだがよ、それで救えた命もあったかも知れない。空に関しちゃ無力だったのさ。そう考えるとどうしても悔しくて」

 

「それで遅かれとなる正式なる海軍・空軍の創設をとお考えに」

 

「ま、な、背伸びしたさ。平和になった今要らないだろって議会の古株にも問題視されたよ。だが忘れちゃいませんかねえ。南の海には北側諸国の不倶戴天の敵、南天って巨大な敵がいることを。いつやつらが襲いかかって来るかも分からねえ。そんなとき、このシーランドの海を空を守るのは軍艦であり、戦闘機であり、8.5世代機、9世代機、浮遊航空艦で構成される空軍だ。基地の方ももう少し拡張だな。一応予定としては皇歴2022年までにカールレオン級をもう4隻、88,000t級の戦艦を2隻、80,000級空母1隻、7,000級ミサイル駆逐艦14隻、8,800級ミサイル巡洋艦4隻、6,800級攻撃型潜水艦4隻、揃える予定だブリタニアの工業力を以てすれば余裕だろ。先方も簡単な事だと仰ってたしな」

 

「うちやブリタニアなら余裕だな一年も要らん」

 

「だろう? この計画にクラサキ・スメラギも乗ってくれりゃ三ヶ月で終わるんだがな。山本閣下から口利き出来ねえかな」

 

「俺がせんでも乗るだろう商人の基本は商売だ。枢木くんも許可するだろう。対南天条約機構を見据えた防衛力の増加と言えば」

 

「おおっ! そりゃ助かるっ! あとは物が先に出来るか基地が先に出来るか」

 

「物が先だな。日本とブリタニアを舐めん方が良いですぞ」

 

「そいつぁ、基地区画の整備を急がにゃ成りませんな」

 

 あ、あと、『技術の日本』『力のブリタニア』あんたらの背中をオレ等は追ってるってこと忘れんでくださいよ。というと、ヴェーツ国王は現場監督よろしく工事現場の中へと入っていった。

 

 

「わたくしたちは先頭を走っているから見えないだけで、多くの国々がわたくしたちを追い掛けてきているのですわね。シーランド王国もまたその一つ」

 

「先を走るものには後ろは見えない、か」

 

「何を申しておりますの」

 

 パンッ、リーライナが山本の肩を叩く。

 

「その最も先頭を走っているのはあなた方大日本帝国なのですわよ!!」

 

 

 

 それからは気を取り直してショッピングモールなどで物品を買いあさった。

 

 荷物は全て山本持ち。

 

 結構な量と結構な重さだったが。

 

『女性の荷物は男性が持つのは当たり前ではなくて』

 

 リーライナの非情な声が響く。

 

 

 映画館では丁度ホラー映画を上映しており、驚いたリーライナが山本に飛びつく姿も見られた。

 

 この瞬間山本はリーライナの大きな胸が腕にあたり、ガチガチになっており映画処では無くなっていた。基本彼はまじめ君なのだ。

 

(や、柔らかい、な……い、いかんいかん、なにを破廉恥なことを考えておるのだ俺は!!)

 

 なおこの瞬間はバッチリ家宰に撮られており、お嬢様の驚く姿として暫くの間ヴェルガモン伯爵家で闇取引されていたとか。

 

 

 ※

 

 

 そして時は夜。シャワーを浴び、ワインを程々に呑む山本とリーライナの二人。

 

「月並みだが、君の瞳になんて言葉しか出んくらいに美しい。そのエメラルドグリーンの碧い碧い透き通った美しい瞳に」

 

 事実嘘偽りでは無い。どこまでも透き通った翡翠色の碧い瞳に底は見えず、水底よりもまだ綺麗な色を湛えているのだから。これ以外に形容のしようが無いのだ。

 

「君の明るく美しい長い髪に」

 

 腰下まで届く美しい髪は指を入れて梳き通しても引っかかりを覚えること無く、毛先へさらりと抜けていく。本当に言葉に出来ないほどの美しい髪。

 

 金色の眉は細く長く、瞳は大きく深い、くびれた腰に大きな張りのある胸部。柔らかそうなその胸部の頂点には桜色の何かが覗いており、それもまたリーライナという女性の美しさを一段階引き上げていた。

 

 山本の周りには何故か美しい女性が多い、リーライナ・ヴェルガモンを始めマリーカ・ソレイシィ、モニカ・クルシェフスキー、ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女、コーネリア・リ・ブリタニア皇女、クララ・ランフランク嬢、マリーベル・メル・ブリタニア皇女、オルドリン・ジヴォン卿、ドロテア・エルンスト卿、ヴィレッタ・ヌゥ卿数え挙げればきりが無い。

 

 もっともっと探せばまだまだ出てくるだろう。しかしその中で唯一光り輝くのは誰か? たった一人の特別は誰? そう問われれば、彼は、俺は間違いなく一人を上げる。

 

 

 リーライナ・ヴェルガモン――俺の愛しき光り輝く翡翠よ。

 

 

「ん――…………」

 

 山本は光り輝く金色の長い髪を触る。この世で俺だけが触れて良い髪を、もちろん比喩的な表現に過ぎないが、今この時だけは。

 

「五十六様の……いっくんの指が私の髪の中を通り抜けていくのが気持ちいい」

 

「やっと言葉を崩してくれたな。俺としてはそちらの方がいいのだが?」

 

「だって私は貴族ですもの。そうあれと教育を受けてきたものはそう簡単には変えられないわ」

 

「俺は普通の言葉遣いの方が好きなのだがな。嚮導学校の平民生徒とは普通だったのだろう?」

 

「社交界でボロが出ないように猫を被ってますの」

 

「俺の前でまで猫を被らんでも良いだろうに。しかし、君の髪はさらさらして本当に手触りが良いな」

 

「私は、わたくしは五十六様のざらざらとした坊主頭が好きですわ」

 

 髪を触られながら山本とじゃれ合うリーライナも、己が思うところを告げた。

 

「ざらざらして男らしく短くて、現代のなよなよした男性には無い風体ですもの」

 

「そんな事を言ったら現代の男性を全否定しているようなものだがな。現代にも現代で、気骨のある男は居る。グリンダ騎士団のティンク君や、君が一時期親衛隊を務めていたルキアーノ君。ラウンズの男性陣に我が国にも枢木君、藤堂鏡四郎くんに朝比奈君。探せば幾らでもいる」

 

 だが、そんな中で君の、リーライナ・ヴェルガモンの目に止まったのは俺だった。

 

「数いる魅力的な男の中より君に見初められた事を喜ばしく、また運命とも思う。俺が君という翡翠と巡り会えたのは正しく運命だ」

 

 ワインに甘く酔った二人は。バスローブを脱いでいく。

 

 四方を海に囲まれたコテージの上、海のよく見える景色の中、二人のじゃれ愛は収束していく。

 

 山本の五指がリーライナの髪を捉え撫で梳きながら、彼女の胸の間へと手を差し入れ。

 

「んあッ――」

 

 ベッドの上で繰り広げられ攻防の声を誰かに聞かれることは無い。

 

 此処は海上なのだから、リーライナも返す様に彼の大切なところを握り、さする。

 

「う、くッ、慣れてるなッ」

 

「うふふふッ、だって、いっくんさまと毎日しておりますもの。毎日毎日、幾日も幾日も、わたくしの奥までいっくんが入って」

 

「こういう時にいっくんさまは変だから止めてくれ」

 

「じゃあいっくん……」

 

「それがいい。言葉遣いもお嬢様なのは」

 

 いっくんなのに言葉遣いだけお嬢様言葉なのはおかしいという山本だが、敢えて此処はおかしなままでいくことにしたリーライナは。

 

 溢れ出す物を掻き分け、彼自身を自身の大切なところへと導いた。

 

「んんッ……ッふ、あ……っう……」

 

 痛みは無い。当たり前だ。日々を山本と愛し合っているのだから。山本の側も同じで違和感は無い。むしろ此処こそが俺自身の帰るべき場所であるとの確証さえある。

 

 リーライナ・ヴェルガモンの中とは山本五十六の帰るべき場所。正しき在処はこの場所なのだ。

 

「あ、ぁッ、ん……はあ、は……ッん、い、いっくんのッ……大きく、なってますわ」

 

「くッ、……リーラがッ、ッ高めてく、くれているから、な、俺、を、リーラ、君が愛おしい」

 

「わたくしも、わたくし、も、……、いっくん、が……、いとお、しい」

 

 限界はまだ先だろうお互いに。だが、逸る気持ちと、特別な場所にいるという高揚感が二人をその時を待たずして、ひとつへ導いた。

 

「う、くうう――ッ」

 

「んあ――――ッッ!!」

 

 リーライナの下腹部に走る衝撃。宙にふわりと広がる金色の長い髪。エメラルドグリーンの瞳からは涙が零れ、一つになった嬉しさに頬を濡らす。

 

 髪の房は山本の顔にも掛かり、その芳香を鼻がしらに残していく。対面で抱き合う二人。対面で座ってが多いのは、お互いの顔と身体を良く見つめ合い認識することが出来るから。お互いを強く抱き締め合うことが出来るから。最も触れ合える形こそが向き合う形であるだけだ。

 

 もちろんそれ以外の形で行う事も普通にある。愛とはけして一つの形ではないのだから。

 

「苦しくないか?」

 

「気持ちいいに、決まっているでしょう」

 

 愛おしい人と一つになれて苦しい人間なんていない。そう涙に笑顔を浮かべるリーライナは誰よりも何よりも美しかった。

 

「いっくんは大丈夫です、の?」

 

「俺はまだまだ60過ぎたばかりの青年だぞ?」

 

 60は青年。史実基準ではおかしな話しなれどこの世界の日本人、ブリタニア人、南天人は平均寿命が200年ほどある。故に60とはまだ青年の域なのだ。

 

 青年で有りながら5年後には年金が貰える。社会福祉システムの完成度の高さ。国の圧倒的豊かさを指し示す指標でもあった。

 

「あッ……。ああっ……っあ、は、んっ……」

 

 60の青年は有り余る元気をリーライナ・ヴェルガモンへと託し、リーライナ・ヴェルガモンはその有り余る全てを全身で受け止める。二人だけが許される愛。二人にだけ許される愛。時が移ろっても変わらない、それは、約束の二人なのだから。

 

 抱き締め合いながら何度リーライナの髪をさらさらと撫で梳いたろう。どれだけ触っても飽き足りずいつまでもこの金色の絹糸の束をこの手にしていたい。

 

 抱き締め合いながら何度山本の坊主頭をざらざらと触り尽くしただろう。ざらざらとした触感には飽きが来ず、何処までも触り続けていたい。

 

 山本五十六、リーライナ・ヴェルガモン、二人の考えることは同じで、同じだからこそこうして何処までもいつまでも求め合って。終わりというものを望まないでいる。

 

 

 だが、終わりとは必ずややってくるもの。

 

 熱ければ熱いほどに。

 

 強ければ強いほどに終わりは必ずやってくるのだ。

 

 そして、この終わりは次へのプロローグでもある。次という始まりはもう既に。

 

「い、いっ、っいっくん!、きて、来てくださいましっっ、っわたくしの中に、っすべて!!」

 

 結局最後のこの瞬間まで、お貴族様言葉なんだな、と、苦笑いした山本は、リーライナの中に全てを埋め込むと。

 

 熱くたぎるマグマを。リーライナに全て余さず受け取って貰った。

 

「リーラっっ!! リーライナぁぁぁぁっっ!!愛しているッッ!!お前をッ、お前だけをッッ!!いつまでもっっ!!」

 

 お前以外の誰を愛するものか。俺の山本五十六の愛はリーライナ・ヴェルガモンに帰結するのだ。

 

「あああっっ!!い、いっく、んっっっ!!!愛してるいっくんッ!! 愛しております五十六さまッッ、永久に!!」

 

 あなた以外の誰を愛するというの。リーライナは、リーライナ・ヴェルガモンの愛は山本五十六へと必ずや回帰するのです。回帰するの。ね、そうよね、いっくん。

 

 

 共に果てた二人は、共にベッドへと横たわり、カジノの明かりだろう夜景を窓に見遣りながら息を継ぎ。

 

「いっくん、愛しておりますわ」

 

「俺も、愛しているよリーライナ」

 

 互いに愛を口にし熱い口付けというベーゼを以てこの日の愛の時間を終えるのだった。

 

 

 

 

 ――深夜――

 

 

 カジノ街はまだ明るい。何処も一件も閉まっていない。これからがフィーバーナイトの時間なのだから。

 

 ふふ、出入り禁止になって一年と少し。もうほとぼりも冷めただろう。

 

 此処に孤高のギャンブラーが一人。名をイソロク・ヤマモト。ラスベガスの全てのカジノを出入り禁止になった男は。もう大丈夫だろうと新興国であるシーランド王国のカジノに目を付けたのだ。

 

 彼、シーランドでも全てのカジノに出入り禁止措置を食らっていたのだが、新興国だから大丈夫だろう解禁日だ、と昼間にリーライナとデートをしながら、目星を付けていたのである。

 

 が、「当店の入店は」「申し訳ありませんが」「またのご来店、永遠にご来店しなくて結構です」

 

 見事なまでの全店舗拒否。これには二人の人物が動いていた。まず第一に、山本五十六にカジノに居座られては財政が破綻するから永久追放で。

 

 「なぜだあああああああああああッッッ、解禁日だろ?!おかしいだろう?!」

 

 ヴェルガモン伯爵家次期当主の夫が賭博師では世間体的にも良くないと言うことで、リーライナがヴェーツ国王に申し立てていたのである。

 

 相手は超大国ブリタニアの上位伯爵家五大湖経済圏有する次期当主。リーライナ・ヴェルガモン小国の国王が勝てる相手ではない。ましてや今回の件、こちらを立ててくださる形での問題提起とその解決。

 

 ヴェーツ国王はこれに乗った。シーランドカジノ議連も不倶戴天の敵山本五十六を追い出せるならと乗った。ここの勝敗は決していたのである。

 

 

 翌朝。ベッドの上でバスローブ姿の二人。お風呂に入ってリラックスしていたのである。

 

 リーライナはヤマモトの方に顎を置く。彼女の長い髪の束がさらり山本の肩を跨いで彼の背に流れた。

 

 ローブ越しでも分かるリーライナの髪の感触に心地良さを感じていると、当のリーライナから一言告げられた。

 

「駄目だったでしょう?」

 

「?!」

 

 何をかとは聞かないしリーライナもそれ以上なにも言ってこない。彼女はただヤマモトの頬に頬刷りをして気持ち良さそうにしていた。

 

 

 

 ※

 

 

 

 シーランド軍2020空軍

 

 

 アヴァロン級浮遊航空艦:1艦

 

 カールレオン級浮遊航空艦:3艦

 

 巡洋艦:6艦

 

 駆逐艦:16艦

 

 第9世代KMF:8騎

 

 第8.5世代KMF68騎

 

 

 

 シーランド軍2022空・海軍

 

 アヴァロン級浮遊航空艦:1

 

 カールレオン級浮遊航空艦:7

 

 88,000t級戦艦:2

 

 80,000t級空母:1

 

 8,800級t巡洋艦:10

 

 7,000t級駆逐艦:30

 

 第9世代KMF:8騎紅蓮聖天八極式量産型4騎、ランスロット・アルビオン量産型4騎

 

 第8.5世代KMF:68騎ヴィンセント・カスタム68騎

 

 第7世代KMF:200騎ウィンダム100騎、ヴィンセント100騎

 

 第5世代KMF:500騎グロースター200騎、サザーランド300騎

 

 



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支援SS
原作ギアスゲート×休日ギアス ユフィ視点・シュナイゼル視点


 

 

 

 

 

 わたくしは異世界への門。神根島沖に現れた巨大な雲をお兄様と共にくぐり抜け。

 

 まるで嵐の中に入ったようにも感じつつ、凪の海という不思議な空間を通り抜けた先、平行世界だという海へと辿り着きました。

 

 我が方の艦隊は親善訪問ながら空母ハドリアヌスなどを筆頭に50艦程の大艦隊を向かわせ、我が国が絶えず行ってきた砲艦外交を、平行世界相手にまで行ってしまったのです。

 

 悪戯に相手を刺激することになる。そうシュナイゼルお兄様は反対のようでしたが、コーネリアお姉様や平行世界の存在に懐疑的なギネヴィアお姉様、カリーヌ等の後押しにより実現致しました親善訪問艦隊の陣容。

 

 航空母艦2艦、巡洋艦16艦、駆逐艦24艦、浮遊航空艦8艦、強襲揚陸艦4艦、潜水艦12艦。50艦どころではありませんね。

 

 まるで戦争を仕掛けるような陣容にわたくし以上にお兄様が頭を抱えていらっしゃいました。

 

「ユフィ、我が艦隊は大艦隊に見えるだろう?」

 

「はい」

 

 押しも押されぬ大艦隊でしょう。理想、いえ夢想と否定された夢の中に生きていたわたくしの目から見ても、まるでユーロピア共和国連合へと仕掛けるような大艦隊です。

 

「だけどね。私は向こうの世界の大日本帝国・神聖ブリタニア帝国・AEUの艦隊をこの目で見ている。ユフィだってみたはずだ、コーネリアも、彼の強大に過ぎる大艦隊と、まだ理論上にしかない兵器エナジーウィング機の大編隊を」

 

「はい、見ました。彼の強大な艦隊を」

 

「それを相手に回してたったこれだけの軍勢を供回りに連れて行って何になるというんだ。なれば無駄であるからこそ丸腰で向かう方が余程相手方の心証を良くすると思うのだがね」

 

 平和の使者は武器を持たない。その通りなのでしょう。V.V.レクイエムなど大きな混乱があった先での親善訪問なのですから多少は大目に見て下さるかも知れませんが、無為なる武装は警戒を招きます。

 

「ああ、そこは安心しているよ。我がブリタニアの軍事力など大日本帝国を“技術の日本”を前にしてしまえば塵みたいな物だ。向こう側に相手にもされまいよ」

 

「大日本帝国、向こうの世界の三大超大国の一国、第二位の“技術の日本”二度(ふたど)と目にするその国で、わたくしは何を見て感じるのでしょうか?」

 

「何でも見て感じれば良い。相手は貴重な格上の国なのだからね」

 

 雲を通り過ぎ、到着したその先で驚かされたのは、既にあちら側が準備万端であった事でした。

 

 

 ※

 

 

「なあ、やりすぎじゃね?」

 

 空の上で眼下を移すモニターを見遣りながらシンイチロウ・メル・ブリタニアは呟く。

 

 この男、とうとうマリーベルにひっつかまってしまったのだ。メル家に放り込まれてフローラ皇妃の笑顔の圧力に屈し娘さんを幸せにしますと。

 

 無論怒ったクララは今も絶えず玉城の奪還を試みていたりするが、そんな玉城は艦長席に淑やかに座る妻マリーベル・メル・ブリタニアと、マリーベルの筆頭騎士を見遣る。

 

「アホのアンタには分かんないでしょうけど大日本帝国はこれくらいお見通しよ。向こうのブリタニアが頑張って振り出した戦力を差し向けてくるだろう事くらいはね。長年砲艦外交をしてきた私たち、そして相手方だからこそこは想定の範囲内なの」

 

 筆頭騎士オルドリン・ジヴォンの説明に、だからといってと前置き。

 

「戦艦大和、武蔵、尾張、と世界最強の大和型を3艦も持ってくるかよ。しかも改鳳凰級や改大鳳級の13万tクラスの空母8艦、護衛艦200艦、浮遊航空艦艇300艦って、相手を海の藻屑にする気かうちのお偉いさんは」

 

 アホの玉城でさえもお迎えする艦隊としては非常識に過ぎると思う大艦隊を見てアホかと思うほどの大日本帝国親善訪問受け入れ艦隊が眼下に広がっているのだ。

 

「むう、もしも相手方が不審な行動を取ったとして瞬時のうちに殲滅する作戦とは。いやはや日本軍のやり方は苛烈ですなあ若」

 

 ヨハン・シュバルツァー将軍はうんうんと肯く。

 

 因みにシュバルツァー将軍の言う若とはシンイチロウの事である。旧姓を玉城は、窮屈で退屈な宮殿暮らしよりはグリンダ騎士団にいる事を望んだのであった。

 

 そんな三人の様子を見ながらマリーベルは。

 

「これも日本の真なる支配者方の深謀遠慮なのでしょう。彼の方々は、わたくしたちごとき凡人ではとても追いつけない思考をしていらっしゃるのです」

 

 

 

 原作ギアスゲート×休日ギアス ユフィ視点・シュナイゼル視点

 

 

 ※

 

 

「はくしょんっっ。ずずっ、誰か噂をしているのでしょうか」

 

 阿部信行は夢幻会最高意思決定機関会合メンバーが集まっている円卓で、盛大なくしゃみをしていた。

 

「おい。風邪をうつさないでくれ」

 

 杉山元が身を逃れさせて呟く。

 

「失礼ですね。これでも体調管理はきちっとしておりますよ」

 

 一瞬バチったその何でも無い空気に、部屋の隅にてちっちゃく立っている枢木ゲンブ宰相は一人でガタガタ震えており、辻に気遣われたりしていた。

 

「まあ、正直馬鹿みたいな戦力だ。浮遊航空艦艇に潜水艦も含めれば600艦での出迎えだからな。相手方もさぞ萎縮していることだろう」

 

 伏見宮の言葉にズームアップされたスクリーン。改大鳳型、新大鳳型一番艦大鳳の13万tの巨体に張られた横断幕が小さく写っている。

 

 “異界の神聖ブリタニア帝国歓迎! シュナイゼル殿下万歳! ユーフェミア殿下万歳!”

 

 万歳どころか虐めである。

 

「あんなことをされてもただただ萎縮するだけでしょうね。ライオン処か恐竜の檻に閉じ込められたような物ですから」

 

「たったの60艦に対して600艦も持ち出すとか、やり過ぎなんですよ」

 

 近衛に続き阿部が静かに言うと、再び纏める伏見宮もふうとため息を吐いて。

 

「世界侵略をしていた国だからな……。南天と比較すれば遙かに“小物”とはいえ、こちらもそれ相応の対処が必要となってくる。相手の心をへし折るくらいのな」

 

「もうへし折れているでしょう。最初の接触時に」

 

 と近衛は口にし、皆は推移を見守った。迎えに行っているのはあちらのユーフェミア皇女に対して最も優しく当たれるだろう、夢想主義者ではない現実主義者のこちらの世界のユーフェミア皇女だ。

 

 そのユーフェミア皇女の補佐として嶋田繁太郎が共に居る。どちらかと言えば嶋田の方が主役かも知れない。

 

 

 ※

 

 

「……」

 

「ユフィ、緊張しているのかい?」

 

 茶色のスーツでビシッと決めた還暦過ぎの男性、夢幻会元老の一人嶋田繁太郎は、白と薄紅色の公務服で身を固めたタイトスカートに腰部より後ろに広がる薄桃色の羽の様なひらひらしたスカートを海風に靡かせている自身の妻に問うた。

 

「いいえ、前回の会談時にもわたくし、彼方の世界のユーフェミア皇女とお会いしお言葉を交しておりますので」

 

 ユーフェミア・リ・ブリタニア――神聖ブリタニア帝国第三皇女。世界第一位の超大国“力のブリタニア”の皇女様は緊張こそしていなくとも、期待感は隠せていない。

 

 留めるところには金のラインが入り、それ以外は白という大きな髪留めで結われた膝裏まで届く長い髪は、今は毛先が腰の上に届くくらいの大きな一つのポニーテール。

 

 その大きく結われた桃色のポニーテールを強い海風がなぶり、彼女は頭を抑える。嶋田も嶋田でスーツに合わせた帽子が飛ばされないようにと頭を抑えてその場に立つ。

 

「ユフィ、髪の毛がくしゃくしゃにならないように気を付けてね。流石に髪の毛がくしゃくしゃだと他国の親善訪問大使を受け入れるのに様にならない。上空にはブリタニア側からグリンダ騎士団70艦が見張っているから、マリーベル皇女も見ている筈だ」

 

「マリーベルお姉様が……それにしてもグリンダ騎士団も一気に大きくなりお姉様も大変でしょうね」

 

 グリンダ騎士団は、平行世界の、エリア11と呼ばれている日本と。この世界の神根島近海が繋がってしまったゲートの件と、活発化している白い翼の動きに合わせてとうとう70艦30万人体制にまで大幅な戦力増強を試みられていた。

 

 ただこれはあくまでも通過試験で、その実100艦50万人体制を目指している噂もあるくらいだが、第一次世界大戦を引き起こした今の南天への怒りが覚めやらぬシャルルなら実現してしまうだろう。

 

 白い翼のテロリズムに北側諸国は悩まされているのだ。

 

「来たぞユフィ」

 

「ええ、ヒロユキも抜かりなきよう」

 

「ヒロユキの名前を出してる時点でユフィが抜かるんでいるんだけれどね」

 

「あ、ああそうでしたシゲタロウ。いえ、嶋田卿とお呼びしなければならないのでしたね」

 

 ユフィは自分でも分かっていなかったのかテンパっていた。これをほぐした嶋田は沖に見える艨艟群を捉えながら。もう少し落ち着こうとある考えを思いついた。

 

「ユフィ、海を背にして立って」

 

「海を背に?」

 

 ユフィは指示されたとおりに海を背にする。ユフィの背後には艨艟群の影。嶋田はスマホを横にし。

 

「いい絵だ」

 

 とだけ呟くと、ポニーテールの髪を大きく靡かせたユフィの姿をパシャリと撮った。

 

 すると“そういうことですか”と、今度はユフィが自分のスマホを出して。

 

「ヒロユキ、ヒロユキもわたくしと同じようにお立ち下さいな」

 

 自分がヒロユキの一枚絵を撮りたいと、彼が先ほど自分の立っていた位置に立たせる。

 

「これでいいかな?」

 

「ええ、それで、じっとしていてくださいましね。では……ハイ、チーズ!」

 

 パシャリ。

 

 なんとものどかで緊張感の無い主人達だと思う嶋田とユフィのSPたち。そのうちの一人にユフィは歩みを寄せていく。

 

「い、如何致したのでしょうかユーフェミア皇女殿下」

 

「ええ、その、わたくしと夫嶋田卿の身長に丁度お合いになる方だと思いまして。はい」

 

 ユフィの手ずからカメラモード中のスマートフォンを手渡されるSP。

 

「それでわたくしと嶋田卿を、背景に写る艦隊と共に写して下さい。記念写真です」

 

「はあ、まあそれでよろしければ」

 

 在る一定の時を除き緊張感を出さない嶋田とユフィの警護を長年してきたSPは、ご夫婦での記念撮影かと思いながら、嶋田とユフィが並び立つその背景も捉えた記念写真を撮るのであった。

 

 

 ※

 

 

「す、ごい、一度見て知っては居りましたが、一国でこれだけの大艦隊を……」

 

 ユーフェミアは海の風に大きなポニーテールを靡かせながら、ただただ大日本帝国の受け入れ艦隊に圧倒されていた。その艦数は浮遊航空艦隊を含めれば600艦に上るという。

 

 いま、ユーフェミアとシュナイゼルは、VTOLで戦艦大和に乗艦し、大和の強大さを体感していた。

 

「確かに凄いね。何をどうやってもこの艦はブリタニアの建艦技術では作れない。こちらの世界のブリタニアでさえこの戦艦ヤマトを作ることは出来ないという“技術の日本”これほどとは……」

 

 圧倒的力な差だ。その上、大日本帝国、神聖ブリタニア帝国、まだ見ぬ南天条約機構はそれぞれ数万発から十数万発のF号兵器――我々の世界で言う理論上は作れる大量破壊兵器フレイヤの更に強力な物を保有し、天にまで浮かべているというでは無いか。

 

「我が妹ながら、いくさびとたるコーネリアに大日本帝国との一度目の会談を任せなくて良かった。もしも任せていて力を見せろ等と挑発していればブリタニアは滅亡していたことだろう」

 

 常が格下ばかりだった。それが故にブリタニアは増長していた面が大いにある。どんな国が相手でも勝てる。無根拠な自信ばかりが大きくなっていって現実が見えなくなっていた。

 

 国内は皇族至上主義、貴族至上主義、力こそ全ての思想が蔓延し。

 

 それでも実態としての力を持つが故にこれまでは上手く回ってきた。

 

 それがエリア11という綻びによって崩れ始めていたところを、異界より現れた大軍勢の力を目の当たりにし夢より覚めた。

 

「吉と出るか凶と出るか、賭けではあったけど、賭けには勝った」

 

 V.V.レクイエムといった世界的戦争こそ起きたが、‟介入前のブリタニアやあなた方の世界、こういっては悪いですが南天の餌場になる可能性もありましたよ?”

 

 大日本帝国の本当の支配者の一人と目される辻卿の言葉通り、南天とか言う勢力が入り込みやすい状況に我が世界はあるという。そして一度入ってしまえばもう追い出すことは不可能に近い。

 

 大日本帝国も神聖ブリタニア帝国も南天には苦労させられているらしい。

 

 一度その南天との間で世界大戦が勃発したとか。犠牲者数はたった一年と少しの戦争で8000万人を数えたという。

 

 恐ろしい数値だった、あり得ない戦死者数だった、こんな戦争を平然と起こせる南天条約機構。彼の中華連邦を消滅の危機に追い遣ったというだけでもその圧倒的戦力を感じ取れる。

 

 ふとユーフェミアを見ると、彼女はヤマトの巨砲を見つめていた。

 

「どうしたんだいユフィ?」

 

「お兄様、このヤマトの砲はわたくしの見てきた砲の中で最も大きく最も重厚ですわ。これを、人の手で作り出せるだなんて」

 

「ああ、本当にね。スペックを教えて貰えたが最大射程は1千㎞を超えているらしい。信じられないね」

 

 

 ※

 

 

「嶋田閣下、ユーフェミア皇女殿下、ご到着したようです」

 

「到着? 到着ったって、あれはうちの大和じゃないか」

 

「大和ですわね……ヒロユキ、もしかしたらお二人とお二人のSPの方々は大和に乗り換えたのかも知れませんよ?」

 

「電車じゃ在るまいしそんなこと」

 

 シマダ閣下~っ、ユーフェミア殿下~っ。

 

 大和の舷側から手を振っているのは。ユフィと同じ衣服、ユフィと同じ髪留めで纏められた大きなポニーテールを靡かせ。ユフィと全く同じ顔にして同じ姿の彼方の世界のユーフェミア殿下であった。申し訳程度に身を乗り出したシュナイゼル殿下も手を振っている。

 

「ほら」

 

「あちゃあ~、電車じゃ無いんだぞ。戦艦なんだぞ」

 

 港湾施設に接岸された大和。

 

 次々に下船してくる人達の中、前後を屈強な騎士に挟まれたユーフェミア殿下とシュナイゼル殿下が降りてきた。

 

「久方ぶりですシマダ閣下、ユーフェミア皇女殿下」

 

 まずはシュナイゼルが挨拶をする。

 

「V.V.レクイエム以前からですから結構時間が空いておりますね。こちらこそまたお会いできて光栄ですシュナイゼル殿下」

 

「お久しぶりに御座いますシュナイゼル殿下」

 

 しっかりと握手をする嶋田とユフィ。

 

 続いて。

 

「お久しゅう御座いますシマダ閣下、ユーフェミア皇女殿下」

 

 ユーフェミアの挨拶、シマダもユフィも笑顔で受ける。とくにユフィは質問を交えて。

 

「久方ぶりですねユーフェミア殿下。現実に即した夢、夢想では無い夢の続きは上手く運んでおりますか?」

 

「はい、ユーフェミア皇女殿下に諭された現実を見ての実現可能な夢を、わたくしも実践に移しております」

 

「それはよかった」

 

「ユーフェミア皇女殿下の方は如何でしょう?」

 

「ええ、わたくしもまた新たに建国されたAEU諸国を相手に鋭意頑張っているところですわ」

 

 すぐ隣でそんな話をしているユーフェミアとユーフェミア。

 

 白いタイトスカートに薄紅色の衣服、衣服から伸びた膝辺りから身体の後ろを覆う、花びらや羽を連想させるトレーンタイプのスカート。

 

 髪を留める部位には金のラメ、その他は丸く大きな白い部位の髪留めにて大きなポニーテールに纏められた膝裏まで届く長い髪は、髪の側頭部位のみをシニヨンにして編み込んでいる。

 

 二人とも全くの同じ姿をした同じ顔の二人のユーフェミア皇女。

 

 兄であるシュナイゼルには見るだけでは見分けが付かない。

 

 しかし、ユフィの夫である嶋田にはどちらが自分の愛しているユフィかが分かるのだ。

 

「違いが分かるのですかシマダ閣下には」

 

「いいえ、私にも違いは分かりませんよ。全く同じ服装、全く同じ髪型、全く同じ容貌ですから。ただ雰囲気や空気で分かるんです。ああ、こちらが私の愛する妻であるのだなと。一目で分かりますよ」

 

 嶋田はそっと手を伸ばし片方のユーフェミアを抱き寄せた。

 

「キャっ!」

 

「こちらが私の妻、ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女です」

 

「も、もうヒロ……嶋田卿。わたくしはユーフェミア皇女殿下とこれからをお話ししているところなのですからお邪魔なさらないでくださいまし」

 

「そんなの移動中にでも出来るよ」

 

 そんな嶋田とユフィの姿を目にしながら羨ましそうにシュナイゼルは呟いた。

 

「愛あるが故、ですか。私もそんな恋をしてみたい物です」

 

「できるでしょう。シュナイゼル殿下のその甘いマスクなら」

 

「ははは、権力欲や、お金、容姿に引かれてくる女性はお断りしているのですよ……。……それにしても、恐るべき港湾施設ですね。あの大艦隊が次々に身を収めていくとは」

 

 350余隻の艦隊はドックや岸壁に次々とその身を収めていく。どれ程巨大な港湾施設なのだろうかとシュナイゼルは汗を流す。

 

「あの300艦の浮遊航空艦もどこかへ」

 

「ええ、大型の駐機場がありましてね。そちらへ帰還していきました」

 

「あれらはほんの一部なのでしょう?」

 

 ユーフェミアが恐る恐る尋ねると、嶋田は支配者の空気をぶわっと出させて口にした。

 

「ええ、一部です。全軍では浮遊航空艦2千数百艦、主力水上鑑定千数百艦はありますよ」

 

 びくっと肩を震わせるユーフェミア。額に嫌な汗をにじみださせるシュナイゼル。想定の三倍強の戦力なのだから二人が恐怖して当然であった。

 

 加えて嶋田の威圧感が二人を圧する。

 

「我々もこの様な巨大な軍を保有するつもりなどない。だが巨大にならざるを得ないのですよ。南天は“数の南天”はそれだけの物量を誇る相手なのでね」

 

「し、シマダ閣下、威圧を抑えて頂けると」

 

 シュナイゼルは額に汗しながら言う。いつも冷静で微笑みを絶やさない兄の姿にしかし、この威圧を真正面から受けては致し方ないのかも知れないと、ユーフェミアは思った。

 

 ユーフェミアも穏やかな空気を瞬時に凍り付かせた嶋田に空恐ろしさを感じる。お日様のように暖かい空気を持ち、周りへの気配りも欠かさないシマダ卿。

 

 そのシマダ卿があのような凍てついた空気を放つなどと思いもしなかったから、だがそのシマダ卿の手をユーフェミア殿下が握ると、彼は凍てついた空気を霧散させてしまった。

 

「その……シマダ閣下は、ユーフェミア皇女殿下を愛していらっしゃるのですね」

 

 羨ましいくらいにユーフェミア殿下は愛されているのですね──少し妬けてしまいます。

 

「ええ、愛しております。心の底から。私の大切な妻ですので」

 

「ひ、ヒロユキ……」

 

 小さな声だったので誰にも聞こえていないシマダ卿の本当のお名前らしき物。ああ、わたくしもいつかはこの様な夫婦関係を築けるお相手と。

 

「こほん。まあ、じゃれ合いはこのくらいにして。お車の方にお乗り下さいシュナイゼル殿下、ユーフェミア殿下、これより東京をご案内致しましょう」

 

「よろしくお願い致します。一度目の会談の時は全てを視ては居りませんでしたので」

 

「わたくしも楽しみですわ」

 

「ぜ、全部は見れませんよ? 相当時間が掛かるので」

 

 



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イギリス万歳?

休日ギアス×ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えりクロスネタSSをお書きになられたハニワ一号様への支援SSです。


さて、自衛隊に先んじて進出を果たした大日本帝国軍と神聖ブリタニア帝国軍。
両軍の占領下におかれたアルヌスへと日本国側からマスゴミがやってきました。

そこへ居合わせたのは?


 

 

 イギリス万歳?

 

 

「ゲートの向こう側は既に大日本帝国と、その同盟国である神聖ブリタニア帝国の占領するところとなっているらしい」

 

 日本国内閣総理大臣、北条重則は小さくため息をつきながらその場で発言した。

 

「実際のところ、わが日本もまた大日本帝国に助けられましたからね。まさかずっと昔に消え去ったはずの大日本帝国が健在で、向こう側の情報では世界第二位の超大国として北半球に君臨しているとか」

 

 北条の言を引き継いだ本位がなぜその様な事を知り得ているのか?

 

 それは大日本帝国の使者だという‟あの”嶋田繁太郎‟伯爵”が、サポートとして共に訪れた‟辻政信”と共に、日日首脳会談で述べたからだ。

 

 向こうの世界はこちらとは全く異なる歴史を辿り、技術体形もまた大きく異なり、少なくともこちらの世界よりも半世紀近く進んだ技術体系を獲得しているらしかった。

 

 この日本、否、大日本帝国に救助された日本国の今後の方針はというと、正直何も定まっていない。野党は内閣の責任追及に奔走する一方、マスコミと組んで大日本帝国へのネガティブキャンペーンまで展開。

 

 使者として訪れていた嶋田卿・辻卿の印象は最悪だった、いや、案外それすらも予期していたかのような振る舞いを両人はされておられ、こちらの粗ばかりが目立つに至った。

 

 最悪なのは、こちらの歴史に照らし合わせて嶋田卿や辻卿をA級戦犯と呼ぶマスコミまでが出てくる始末。

 

 あのロボット兵器の戦闘力を彼らは観ていなかったのか? あんなものをポンポンと送り出してくるような国だぞ? 途方もない国力を秘めている事を察するのは訳ない事だ。

 

 万が一にも怒らせて、ゲート越しに戦争にでもなってみろ。十中八九日本では勝てない。アメリカでも無理だろうと推察していた。

 

 本位が言う。

 

「それでですね。今後の事を考え、不用意にそちらが‟我々の国の領土に”踏み入らないようにと、こちらで騒いでいるマスコミに一部見学を許可するとか」

 

「見学を? ……いったい何を考えているんだ。向こうのマスコミは品行方正かもしれないが、こちらのマスコミはその、言っては悪いが品位に欠けているのだぞ」

 

「それもまた織り込み済みなのでしょう。おかげでゲート近くには各国のマスコミが集まって収拾のつかない事態に陥っております」

 

「各国のだと?!」

 

「は、はい……」

 

 北条は頭を抱えた。日本のマスコミだけでも手一杯なのに、アメリカ、イギリス、中国、ロシア、フランスと言った五大国のマスコミまで入ってきているのだ。

 

「仕方がない。だが、スパイで無いという保証は?」

 

「残念ながら……」

 

「スパイ関連は駄々アマだからな我が国は」

 

 

 ※

 

 

「ここが特地……?」

 

「街じゃないか……」

 

 あまりに煩い野党とマスコミ、各国首脳の圧力に屈した北条総理は、大日本帝国、神聖ブリタニア帝国の許可を得て、マスコミ関係者を特地へと派遣した。

 

 彼らが観たのは近代化された都市その物。東京とまでは行かない物の、強化耐震ブロック性で繋ぎ目の見当たらないビル群のそびえたつその姿だった。

 

「あり得ない! この短期間にこの様な都市を作り上げるだなんて!」

 

 それも現代科学では解き明かせないような建築様式の見たこともない都市。

 

 ざわざわとざわめき驚きを隠せないマスコミ陣に。

 

「どうでしょうか皆さま。我が大日本帝国領アルヌス要塞兼租界都市の全景は」

 

 一人の隙だらけの日系人、いや大日本帝国人が近づいてくる。センター分けにされた短い髪型。厳めしい容貌のその男は案内を務めるという。

 

「わたくし、大日本帝国内閣官房長官を務めております、澤崎敦と申します。短い間ですが皆様方のご案内を仰せつかりました」

 

 場がまたざわつく。内閣官房長官。大物ではないかと。すると。

 

「ええ、いや、私などただの三下ですよ。少なくとも本日このアルヌス疎開にご訪問されている方々から比べれば」

 

 はぁ~っ、と大きなため息をつく澤崎官房長官。マスコミやマスコミに化けたスパイは一様に思う。それほどの大物が来ているのかと。

 

「さて、では案内と申しましても特に見せてはいけない物など御座いませんし、皆様は何を見物為さる事をご所望で?」

 

「へ、兵器っ!」

 

 スパイ丸出しな発言だが、それも致し方ない。銀座事件のロボット兵器や、見たことも無い戦闘機を今この目で見ているのだ。

 

「ああ、それならばこちらへ」

 

 ※

 

 一行が通された先には。

 

「おおっっ」

 

 彼のロボット兵器が並べられていた。

 

「あれは我が大日本帝国の倉崎重工が開発致しました第7世代KMF量産型のウィンダムです。まあ速度はそれ程出ませんが空中戦闘、および本来ナイトメアの主任務であった陸上戦闘両面において強力な力を発揮します」

 

 背部に翼を背負った力強そうなロボット兵器に皆興味津々。カメラで写真撮影をする者もいるが許可も無く良いのかという懸念に「どうぞどうぞ」と優しく応じる澤崎官房長官。

 

 そしてあちらがと8.5世代機の──と説明を終えた時。各国のマスコミは震えあがった。

 

「お、音速……?」

 

「ば、馬鹿なっ、この形状で音速が出るだとっ?!」

 

 人型機動兵器が空を飛び、ましてや音速を出し戦闘機と渡り合えるという事実に驚愕の声が上がる。

 

「エナジーウィング機と言いましてね。新世代のKMFには必ず装備されております。これより上もありますよ?」

 

 案内していく澤崎はどーせ見せてもコピーすらできんと思いながら見せていく。

 

「この紅い機体」

 

 案内された先にはごてごてした厳めしい外見を持ち、赤い透明な翼を持つ機体を見せられた。

 

「これはマッハ2を超えます」

 

「ま、マッハ2以上ですと?!」

 

「紅蓮聖天八極式と申しましてね。既に量産済みの第9世代機でして、これまでのナイトメア、KMFのコンセプトを覆す機動力と戦闘力を備え、面制圧に長けた非常に強力な機体です。当然ですが第6世代戦闘機ともある程度は渡り合える性能を有しております」

 

 この言葉にマスコミのスパイは声を上げて叫んだ。

 

「だ、だ、だ、第6世代戦闘機っ!?」

 

「まあ今では6.5世代が主流で、第7世代機を開発中ですが」

 

 彼らの口からは魂が抜けていく。それとこちらもご覧下さいと見せられたのが、大空に飛び立っていく全長230~240mはありそうな巨大な空飛ぶ船。それも一艦ではない四艦ほどが編隊を組んで。

 

「そ、空飛ぶ戦艦……」

 

「ジーザス……」

 

 皆が皆、隣にいる者を見遣りながら戦慄を隠せない。

 

「あ、あり得ないですよね」

 

 日本のマスコミの男は言う。

 

「こ、こんな大軍拡が認められているだなんて、こんな最先端軍事技術が存在するだなんて」

 

 信じられないという風体で言葉を紡ぐ男に。隣から。

 

 

 そうでしょうか?

 

 

 鈴の鳴る様な美しい声が木霊した。

 

「はっ?」

 

 男はそちらを見る。

 

 男だけではない、世界のマスコミ各社の人間がそちらを見た。いつの間にここを訪れていたのだろうか。

 

 白い衣服に、金色の髪留めで纏められた薄紅色の髪のポニーテール。その頭には白い帽子が斜交いに乗せられ、白い衣服の右胸は紫の薔薇のコサージュで彩られている。

 

 赤いタイトスカートのワンピースを身に纏い、ワンピースの胸部には金色の刺繍が施されている。タイトスカートの下は絶対領域が見えそうで見えない焦げ茶色のソックス、赤いハイヒールを履いた。

 

 百人が百人、その美しさに目を奪われるだろうディープブルーの瞳の女性。彼女は言葉を続ける。

 

「あの陸上戦艦」

 

 たおやかな指が指し示す先には、半身が地中に埋まっていた為建物だとばかり思って居た大きな要塞があった。

 

「轟天号を除けば、ここに持ち込まれている品は一部を除き二線級の品が多いのですよ」

 

 見せられたものが暗に最新式であるという女性は、ですよねと美しい顔に笑顔を浮かべながら澤崎官房長官に尋ねた。

 

「そ、そ、その通りなのですがっ、な、何故に殿下がここへっっ?!」

 

 報道陣は頭を空っぽにして次の言葉を待つ。次の言葉は皆一斉に同一の物であった。

 

 

「「「「「で、で、で、殿下ぁぁぁぁ~~~~っっ!!」」」」」

 

 

 殿下、殿下、でんか。

 

 一部の国を除き殿下という敬称とは王族以上の者が持つ物だ。それをこの女性は持っている。一見、日本人離れした白人の女性。見た感じだとイギリス系に近いとイギリスの記者は感じた。

 

「いえ、なにやら澤崎官房長官がお一人で遊んでいるとお耳に致しましたのでわたくしも退屈な会議を抜け出して参りました。それにわたくしは此処には視察に訪れたのです。会議をしに来たのではありません」

 

 するとその横に呆れ顔のピンク色のマントを着用した金髪ポニーテールの英国系とみられる白人女性と、その女性に首根っこを引っ張られる様にしてやってきたこちらは茶髪を逆立てた紫のジャケットにジーンズ姿というこの場に似つかわしくない日系人、いや日本人男性が現れた。

 

 女性はかなりの美人で右目の下の泣き黒子が印象的な緑の瞳を持つ、如何にも騎士と言った風貌をしているが、もう一人の男は渋谷にでも居そうなヤンキー丸出しな輩であった。

 

「このクソゴリラどもっっ!! 俺は今日パチのイベントの七の付く日だったんだぞクソがっっ!! それをこんな銀座事件の扉の向こう側にまで引きずってきやがっていったい何──」

 

 赤いワンピースの美女、殿下と呼ばれた美女が男の前まで進み出ると。ぽん、ぽん、と男の両肩に手を置いた。

 

「クソゴリラ? ふぅんクソゴリラですの? 誰のことを仰っているのでしょうかあ?」

 

 瞬間男は表情を青ざめさせながら報道陣を見遣る。見遣ったところで報道陣にも何が何だかと言った事態なので助けを期待できよう筈も無し。

 

 彼の両肩には次第に力が込められていく。彼は金髪ポニーテールの女性を見るが、彼女の目も醒めた目で助けてくれるとは思えない。

 

 そこへ助け舟を出したのは。

 

「み、皆さまご傾聴ください。こ、この御方は我が大日本帝国の同盟国、神聖ブリタニア帝国第八十八皇女、マリーベル・メル・ブリタニア皇女殿下にあらせられますっっ! くれぐれも失礼のなきように願いますっ!」

 

 案に礼を失する事無きように願いますという澤崎の言。紹介が適当なのは気のせいか? 無論マリーベル皇女はその程度のことを気にしたりはしないが。

 

 澤崎の胃が痛くなる、なんで俺がマリーベル殿下のご案内というか、お供をせにゃならんのだ。運上人のお付きは気疲れがして胃潰瘍になりそうなのだ。

 

「こ、皇女殿下……」

 

 皆一同が驚く中、肩の圧力が緩んだことを確認した男は、ふぃ~っ、と息を吐く。

 

「はーいシンイチロウくん誰か忘れちゃいませんか~っ」

 

 今度は金髪ポニーテールのピンクのマントを着用した女性が彼の背後を取り。ごきん、ごきん。と彼の両肩より音を立たせていっでえええええーと飛び上がった男の頭を剣の柄でどついて黙らせた。

 

 そんなハチャメチャな展開の中、報道陣が手を上げて質問。皇女殿下とは言え小国の皇女ならば見下してもいいだろうなどといった実に下種い考えを持っていたようだが、そんなものは澤崎も皇女殿下も最初から気付いている。見え見えなのだ。

 

「し、神聖ブリタニア帝国とはどの様なお国なのでしょうか?」

 

 この様な質問をすること自体がマリーベル皇女、引いてはブリタニアに対する非礼なのだが生憎マスゴミには分からない。

 

 冷笑を浮かべたマリーベル皇女は。

 

「我が神聖ブリタニア帝国は絶対君主・階級制で首都をペンドラゴンと呼び、北ブリタニア大陸、あなた方に分かりやすい様御説明させていただきますと、北米・中米・カリブ海島嶼地域全域、ハワイ諸島、ミッドウェー、コロンビア、フォークランド諸島、サウスジョージア島、アイスランドとなっており、グリーンランドは北ブリタニアに含まれる広範な領土を保有しておりますわ」

 

 酷薄さと優雅さを兼ね備えた笑みを浮かべながら皇女殿下は続ける。

 

「陸地面積は2584万9000㎞2、総人口は13億人、陸・海・空・海兵隊と約500万人が常備戦力ですが、有事の際には数千万人の動員が可能です。一言断っておきますが、技術の日本も同様の動員が可能ですわ」

 

「……!」

 

 言葉を紡げない報道陣。目の前の皇女殿下は13億人のほぼ頂点に立つロイヤルファミリーの一人なのだ。それも同じくらいの人口を誇る中国やインドとは比べ物にならない程の強大なる軍事力を持つ。

 

 日本が振られたことで澤崎もため息をつきながら国家情報を教える。別段国家機密でも無しと。

 

「恐れ多くもマリーベル殿下より振られましたので御説明を、大日本帝国は皆さま御存じながら帝都は東京です」

 

 この大日本帝国という国名と、帝都という言葉に、日本のマスコミと中国の報道陣が日帝、帝国主義者と呟き、マリーベル、澤崎、マリーベルの護衛騎士の心象を悪化させる。

 

「領土ですが、日本列島、台湾、海南島、樺太、千島列島、カムチャツカ、チェコト、アリューシャン列島、南洋諸島=マリアナ諸島・パラオ・マーシャル諸島・ミクロネシア連邦です」

 

 報道機関の怒りが頂点に達する。しかし一部のスパイは冷静に事を聞き出していた。これはまずい、予想を超えて巨大に過ぎると。

 

「陸地面積は174万7546㎞2、総人口4億2000万人 軍事力は陸・海・空・海兵隊の四軍で約270万名が常備戦力ですが、マリーベル殿下の御説明にもありました通り有事の際には四桁台での動員が可能となっております。自慢ではありませんが技術力では世界最先端を進んでおり、技術の日本なる二つ名を頂いております」

 

 スパイたちの顔色は悪くなり、逆にマスゴミの攻撃色が強くなる。

 

 日本の領土に中国、ロシアが含まれているからだ。アメリカは冷静に聞いており、イギリスはマリーベル皇女に一つどうしても聞いて置かなければならないと思い質問していた。

 

「麗しきマリーベル皇女殿下」

 

 彼は膝をつきイギリス式の王室への忠誠を誓う様に、騎士の様な様相を醸し出す。

 

 金髪ポニーテールの騎士、オルドリン・ジヴォンは「へ~っ」と感心した。

 

「他国の皇族に膝など突かなくてもよろしいのですよ」

 

 微笑むマリーベルにあくまでも膝を突き続ける記者に「困った方ですわね」とコロコロと笑い。

 

「何を知りたいのでしょうか?」

 

 と問うた。

 

 すると。

 

「では僭越ながら……ブリタニア帝国のブリタニアとは、ブリテンではないのでしょうか? マリーベル皇女殿下とこちらの騎士様」

 

「オルドリン・ジヴォンよ」

 

「サー・ジヴォンのお顔がどうしてもイギリス、ブリテン系の方に見えまして」

 

「まあ、当たっておりますわ。我がブリタニア皇家はブリテンをその発祥の地、故地としております。故に我がブリタニア人の心の故郷とはブリテンの地を指します」

 

「や、やはりっ、やはりブリテンが覇権を取った世界だっ!」

 

 悦び飛び上がる彼にオルドリンが釘を刺す。

 

「生憎だけれど、ブリタニアは覇権国だけれど、私たちの世界には覇権国が三つあるわ」

 

「み、み、三つ?!」

 

「一つは世界第一位の超大国神聖ブリタニア帝国‟力のブリタニア”という二つ名を持つ」

 

「力の」

 

「そう、圧倒的なる力を持つ国という意味ね。そして次に世界第二位の超大国大日本帝国‟技術の日本”の二つ名を持ち、実際にその技術力は世界最先端よ。そして我がブリタニアの同盟国。それもただの同盟国じゃない。互いに互いの移民のみを認め合い、皇族同士、貴族同士の婚姻も認められている家族も同然の同盟国」

 

 ここでイギリスの記者は飛び上がらんほどの衝撃を受けた。日英同盟がどうとかいうレベルではない。背を預け合う者同士として、完全に互いを信頼し合っている。まさか皇室・貴族にまで日本とブリタニアの友好の深化は届いているとは。

 

「そして私たち日本とブリタニアはかつて私たちが友好を結んだ国や衛星国とした国々を一度再編統合し直し、北側諸国同盟を構築した」

 

 NATOの様なものかと考えた記者はならば。南側はと考え、すぐさま答えに辿り着く。

 

 その様子を察したオルドリンはにっこりと微笑む。その笑顔に記者は見惚れるがマリーベルが。

 

「難しいですわよオルドリンを狙うのは。この子、こう見えて爵位は低いけれども名家の出身でね。他国の平民となんて許されないの」

 

「マリー、その言葉、貴女にそっくりそのままお返しするわ。よりによってあんな馬鹿を」

 

「わたくしと兄さまは運命の糸でつながれておりますもの♪」

 

「あの、マリーベル皇女殿下に不敬では?」

 

 不敬だ。名家とはいえ一貴族が皇女殿下を相手にため口などと。

 

「よいのです。わたくしとオルドリンは幼馴染であり、我がメル家の支援貴族にジヴォン家がおりますので」

 

‟こらーっ!! このメスゴリラどもっ!! 俺の肩を治しやがれクソがっっ!! 俺はパチ屋に行かなきゃなんねんだよクソがっっ!!”

 

「あ、あれは明らかに不敬ですよ皇女殿下。皇女殿下に対する不敬罪に当たるのではサー・ジヴォン」

 

「あ、あのアホはほっといたらいいのよ」

 

 うふふふふ、メスゴリラ……死にたいようですわね兄さまぁぁ……。麗しい美女が怒りを抱いた笑い方をするとこうも恐ろしいのかと思う彼は、深く聞くのをやめにした。

 

 恐らくあの男とマリーベル皇女殿下、サー・ジヴォンは仲がいいのだろうと。

 

「な、なるほど」

 

「そういうこと……さて、最後の一つはお察しの通り南側諸国。北側と、正確には日本・ブリタニアと長年対立を続けてきた勢力ね。その名を」

 

 

 南天条約機構──。

 

 

「唯一神を崇め奉り、神の為ならばいかなる残虐行為も行い、自らの命も捨てるような勢力で、世界を白化させようと日々北側や他の中小大国の隙を伺っているわ。二つ名を‟数の南天”世界最大の兵力数を誇る巨大な軍隊を持つ国よ」

 

 ここで黙って聞いていたマスゴミの一部が切れだした。

 

「マリーベル皇女殿下。邪悪な日本帝国主義者とは手を切るべきですっ! さもなくばこの特地の管理は我が日本国と共同で行うべきですっ!」

 

 頭が狂ったのかと思わんばかりの暴言にマリーベルの瞳が冷たくなる。

 

 澤崎は辻からこうなる可能性を前もって聞いていたので動じてはいない物の、マリーベル皇女にとっては許し難い発言である。

 

「あなた、名は?」

 

「朝鮮特報の李・ユンピョルです」

 

「李……さん。あなた高麗人という人種と似ておりますけれど御存じですか?」

 

「こ、高麗を御存じなのですかっ! 皇女殿下っ! 高麗は我が朝鮮の祖先なのですっ!!」

 

 それを告げると日本のマスゴミが彼を称賛しだす。が、他の国のマスコミやスパイは嘘つけ! と思っていたりする。

 

「異界の超大国の姫君に名を覚えて頂くとはさすが李氏だっ!!」

 

「然り然り」

 

 マリーベル皇女が李を覚えたのは、単純に李という名が嫌いなだけだからだ。高麗の大統領──李承朝を思い出すから。

 

 彼の男は可愛い妹のユーフェミアを、ユーフェミアの本名はユーフェミア・李・ブリタニアなのだと嘯いたことがある許せない男。自らの手で叩き切ってやりたいくらいに。

 

 そんな事情も知らず、わーわーと朝鮮人記者をもてはやし始めた日本のマスゴミを尻目に、特地で得られる特需。そして大日本帝国と神聖ブリタニア帝国の情報をもっと手に入れなければならない、と各国のスパイは考えていた。

 

 特に澤崎敦官房長官、マリーベル・メル・ブリタニア皇女殿下、サー・オルドリン・ジヴォンとの繋がりを深い物とし、祖国の利益へ誘導しなければ。

 

 間違ってもナイトメアや空飛ぶ戦艦、陸上戦艦、数多くの未知なる兵器。それも自分達の世界よりもはるかに強力な兵器を持つこの両国と敵対するようなことになってはならない。

 



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二二三氏よりご許可いただいた作品
帝都の休日 三次創作 エルファバの魔女の肩もみ


 

 

 

 エルファバの魔女の肩もみ

 

 

 

 

「あん?なになに~、特集記事ブリタニアの対テロ特殊作戦部隊グリンダの牙」

 

待ち惚けで鼻くそをほじっていた玉城真一郎。何とはなしに彼が手に取った本の特集ページ。

大々的な飾り文句と共に大きく描かれていたのは、全体的に赤い色でカラーリングされたKMFだった。

 

「筆頭騎士の剣の秘密ねえ」

 

割と見慣れたスマートな機体は突き出した両肩部にそれぞれ取り付けられた紫色のマントと、両肩部後背に六本ずつ装着された剣が特徴的。

騎士階級の存在するブリタニア帝国の騎士を彷彿とさせる佇まいは、騎士爵等に詳しくない者が目にしても格好良いと呼べる造型だろう。

見慣れているというのは南ブリタニアや東南アジア、時に中東クウェート国等で起きるテロ事件でそれぞれの国政府からのブリタニア帝国への応援要請があれば。

都度出撃し活躍している為、マスコミなどがよく取り上げて紙面を飾っているからだ。

 

「あ、それってグリンダ騎士団の特集?」

 

そのKMFを見ていたら後ろから声を掛けられた。

振り向けば両肩で左右二つ結びにされた金髪を揺らして、緑色の双眸を玉城の持つ本のページに向けている赤い服の少女の姿。

学生服にも見えなくも無い赤いスカートは丈が短く、すらりと伸びる健康的な両脚が肌を露出させている。

 

「ああそうだよ」

 

生返事を返した玉城。

 

「どれどれ~、ちょっと私にも見せて。えーっと、筆頭騎士の剣の系譜に迫る――筆頭騎士の実兄オルフェウス・ジヴォンは」

 

その玉城の肩に手を置いて身を乗り出す彼女は、彼の肩越しに益々身を乗り出し、赤と金縁で彩られた機体をまじまじと見つめて。

 

「うう~んさっすがグレイルよね。いつ見ても格好良くって素敵! お兄ちゃんも素敵!」

 

まるで我が事の様にして頬を緩めにやけていた。

 

「なんでお前が嬉しがンだよ。大体よォ、こいつジヴォン家の貴族様だぜ? 平民のお前にゃ関係ねいだろが」」

 

そんな彼女に怪訝な顔色で問い質すと。

格好いいから好きだ。好きな物が特集されていたら嬉しいと彼女はいう。

まあそれはそうだ。アイドルの追っかけみたいなものである。

 

「私KMFが大好きだし、特にグレイル。とかグレイルとかグレイルが!」

 

「へいへいそーですかよ。ま、お前が言うみたいにこいつは結構イイ線いってるけどな。見かけが普通に格好いいわ」

 

生返事に彩りを添えてみる、それだけで更に彼女の表情筋は緩んだ。

 

「なーにがイイ線いってるよ、玉城のくせになっまいき~」

 

「あのな、俺一応年上だぜ? 敬え」

 

「あんた年上って威張れるほどの年上らしさ無いじゃない。ニートのくせに」

 

 

 

 

言葉で非難して声色で悦びを表す。空気も相手の態度も読めない玉城にも目に見えて彼女の機嫌が良いとわかった。

肩に置かれた手がもみもみ。肩もみ仕様さながらの有りよう。

余程に好きなのだろう、このランスロット・グレイルというKMFのことが。

 

「俺のこたーさておき。如何にも騎士っつー感じだよなこのKMFは。勇敢さに満ち満ちているぜこの表情」

 

「うんうん、そーそー」

 

「乗ってるパイロットなんかも勇ましくて格好いい騎士様なんだろーな」

 

「うんうん、わかってんじゃない」

 

肩もみが両肩もみに変化した。緩やかでそれなりに上手く押されるツボ。

 

「おお、イイ……」

 

「ちょーっと気分良いから特別サービスよ。それにしてもあんたろくに仕事もしてない癖して無駄に肩凝ってるわね」

 

「ほっとけ」

 

自分に対していつも気に食わないといった態度の少女らしくない、とても友好的な態度。

どんな心変わりなのからしくないったらなかったが、揉み込まれる肩の心地良さに黙って動かずにいることにした。

 

 

普段は険悪な雰囲気の間柄にある少女からの肩もみを満喫すること約一分。

開きっぱなしの障子戸のあちら側から、長い濃色桃色髪を大きなポニーテールに纏めた頭がひょっこりと覗いた。

白いタイトなスカートに、腰からは羽を思わせるピンクのひらひらスカートという意匠特徴的な動きやすい服装をした少女が、障子に手を触れさせて玉城たちを見ていたのだ。

 

「ユーフェミア様っ」

 

玉城が言うより早く肩もみ少女が居住まいを正す。

覗いてきた少女の名はユーフェミア・ランペルージといって。

付き合いはそれなりに長くとも未だよく知らないランペルージというブリタニア帝国の大企業の、そこの社長令嬢だった。

 

 

 

 

ここはそもそもユーフェミアの叔父の家、現在大日本帝国に住んでいる彼女が訪ねてきていても不思議ではないのだ。

 

「な~にやってんだよ?」

 

覗き見、隠れ見ている様な様相に、玉城の表情にも妙なといった色が浮かぶ。

 

「あ、あの……」

 

何かまずいところを見てしまった。そう言いたげな困った表情。

 

「何をなさっておいでなのですか?」

 

薄紫色の瞳に動揺っぽい物が見られたユーフェミアがおずおずと尋ねてきた。

 

「質問に質問で返すんじゃねー」

 

「あ、あんた口の利き方にっ」

 

「あ?だって俺ランペルージの社員じゃねーし。大体お前マリーに対してはタメ口だろーが。なんだってユフィとかには様なんだよ」

 

「そ、それはそうだけど……あーもう!あんたにはわっかんない事情があんのよこっちには!」

 

しかしユーフェミアがこちらを見て何をそんなに困る必要があるだろうかと思い、ありあり事実だけを伝える。

 

「ん、まいーや。あのさKMFの特集っつーか、グリンダ騎士団ってあんだろ? それの特集を雑誌でやっててな。その話をこいつとしてただけだよ」

 

「グリンダ騎士団の?」

 

「おう、ほれ」

 

雑誌をひらひらさせて彼女に見せる。雑誌を受け取った彼女はそのトップ記事に掲載されている赤いKMFランスロット・グレイルの項目に目を落とした。

 

「鮮烈な赤、その性能は通常機体と比較し三倍以上の戦闘能力を有する?」

 

「あ、ユーフェミア様。その三倍の戦闘力ってのは大げさすぎですので信じないでくださいねっ」

 

「なんでお前がそんなこと知ってんだ?」

 

「いいから黙る!」

 

慌てた拍子にぎゅっと強く揉み込まれた指。

痛いと訴える玉城に余計なこと言うからよと応じる少女。

 

 

「……」

 

本からちらっと彼らに寄越されたユーフェミアの視線はまた困惑の色に。

 

「あ、あのタマキさん。マリーお姉様がいらっしゃるのに、他の女性と、その」

 

ごにょごにょ。

小さな声で言うユーフェミアに玉城はまた雑誌のページを一枚捲った。

 

そこには、赤茶色が全体を覆う、巨大なKGFの姿が一枚絵で写し出されていた。

 

「あっ!」

 

それを見ていると、ユーフェミア程露骨な桃色をしていないが、桜色の長い髪の少女がやってきた。

 

「それお姫様の──」

 

「ああっ、クララよお。おまこれが何か知ってんのかよ?」

 

クララ・ランフランク。この家の当主の娘であるお嬢様で、玉城の事が何故か好きな変な女の子でもあった。因みに超の付く美少女。

 

「ええーなになにィ。全高27.26m、重量74.73t、スラッシュハーケン×2、MVS×2、ブレイズ・ルミナス、ハイパーハドロン砲×1、拡散ハドロン砲×10、ミサイルポッド」

 

玉城が読み上げていく間、クララがオルドリンに突っかかる。

 

「駄目っ」

 

「え、クララさん?」

 

「お兄ちゃんの身体を触っても良いのはクララだけ」

 

「そ、それは無体では」

 

ユーフェミアが口を挟むも。

 

「ユーフェミア様……ユフィお姉ちゃんだって嶋田おじさんの身体を他の女性に触られたら嫌でしょ!!」

 

「そ、それは」

 

口をつぐむユーフェミア。

 

そして、後ろの障子がスーッと小さな音を立てて開いたのはその時だった。

 

「あっマリーおねさ──」

 

ユフィが言いかけて黙る。

 

「マリ──」

 

オルドリンが言いかけて黙る。

 

「マリーおねえちゃ──」

 

クララが言いかけて黙る。

 

 

 

マリー……マリーベル・ランペルージ、こと、マリーベル・メル・ブリタニアは、彼女が愛する玉城真一郎。

何故か彼女もクララ同様に超の付く美女でありながら玉城みたいなアホに惚れている。その玉城が、自分の特集が組まれたページを開いている事に、ニコニコ微笑んでいた。

 

「こりゃゴリラだな」

 

「「「!?」」」

 

ユーフェミア、クララ、オルドリンがその一言に、こいつ何を言い出すんだという表情になる。

 

マリーベルはニコニコと微笑んでいる。心なしか腰下にまで届くマリーベルの薄紅色に近い長い髪がざわついている幻覚が見える。

 

「こんなゴツイもん乗り回すのはゼッテーゴリラの類だわ。いや、ゴリラだわ」

 

いつもなら不敬!と叫び玉城の頭に剣の柄を振り下ろすオルドリンが、ぶるぶる震えている。

 

玉城と同じく悪乗りしたクララが。

 

「ぶふぉっ!! ご、ゴリラだよねっ、こんなの乗ってるのゴリラ──ひッ!!」

 

悪乗りしかけて止めた。

 

ユーフェミアはがたがた震えながら「ヒロユキ助けて!」と何か拝んでいる。

 

やがてニコニコと微笑んでいたマリーベルが歩を進め、「ゴリラだゴリラ!ぎゃはははは!」大笑いしている玉城の両方に。

そのしなやかな指と手を置いた。

 

「お、今度は誰だクララかまたオルドリンか?それともユフィ? 大穴でおっさん!!」

 

「ウフフフ、わたくしですわ」

 

「お、マリーか?」

 

十指がしなやかに食い込み始める。

 

マリーベルの長い髪の毛はそのまま腰下に流れているのに、影では何故か悪魔の翼の影絵の様な雰囲気を醸し出している。

その異様な空気に玉城とマリーベル以外の三人は震えていた。

 

ニコニコと微笑むマリーベル。

 

「ウフフフ、ゴリラ……ゴリラですか……。確かにゴリラが騎乗しているのかもしれませんねえ?」

 

「お、おい、ちょっと、いてえん、だけど、もうちょっと、優しく」

 

「こんなかぎづめを持つゴリラかも知れません。シン兄さま、どう思われますかあ」

 

ぐりん、ごりん、玉城の肩に食い込んでいく十指は止まることなく奥へ、奥へ。

マリーベルは微笑んだまま「ウフフフ」と笑っている。

 

「い、いだ、いだい、いでえッッ、いでえッて、ちょっ、マリー、おまっ、なにやって」

 

「ゴリラが肩をおもみするとどうなるかの実験ですわ。ウフフフ。お付き合いくださいますわよね兄さま?」

 

「ぎゃあああああああああ────!!」

 

バギンッ!!

 

肩の骨の折れる音が聞こえたが。

クララ、オルドリン、ユーフェミアの三人は涙目になって何も言えなかったという。

 

 

やがてVV邸に一台の救急車がやってきたのはその三十分後だったとか。

 



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少し前、ほんのひと月前までの自分達ならば考えられないことだった

二二三氏の短編です


 

 少し前、ほんのひと月前までの自分達ならば考えられないことだった。

 

「ふ、ぁっ……ああ、シゲタロ……ッ」

 

 唇と唇を重ね、肌と肌を合わせ、彼女と一つになり愛し合うなどと。

 攻めるという程では無いが、少し奥まで重なると、彼女はとても甘い声を唇から漏らす。

 

「ふ、はぁっ、はあ……」

 

 女性なのだからそれで自然なのだ。年嵩なれども男たる俺が彼女を、ユーフェミアを最たる場所まで愛し。

 受ける側のユーフェミアも優しく包み込むようにして。

 

「し、シゲタ、ロぅ……わたく、しっ」

 

 俺の愛に答えてくれる。

 

 男と女の理想的にして自然の馴れ初めだ。

 愛し合っている以上この行為は避けがたいし。

 なにより俺も、またユーフェミアも、お互いを愛しているからこそ求め合わずになどいられるものか。

 

 それは俺、嶋田繁太郎が大日本帝国の伯爵位を持つ華族で。

 俺が今この時愛している女、ユーフェミア・リ・ブリタニアが神聖ブリタニア帝国の第三皇女。

 家格は俺が劣るも華族で、ユーフェミアが同盟国の皇族であることを加味したとしても止まらない。

 

 婚前交渉。一線を引いて踏み入るべからずの禁忌的なその行為に俺とユーフェミアは至ってしまっていた。

 自分を手折れとそう決意を込めて訴えてきた彼女に負け、彼女を肉体的に愛してしまったあの時から、俺と彼女の情事は秘めやかに続いてきたのだ。

 

 

 初めての。という特別な日を跨ぎ。二度目の特別へ至り、程なくして三度目の特別へと至る。

 ユーフェミアと愛し合うという時はいつも特別で、他の事を考える隙間などない。

 どうして彼女をこんなにも、こんなにも愛してしまうのか。

 

 ユーフェミアはどうしてこんなにも嶋田繁太郎を愛するのか。

 

 事は中ほど。途上の余暇の少しの休みを挟んだ時、何となく聞いてみた。

 

「ふう、……。なあ、ユフィ。君は、君はどうしてこんな俺をここまで愛してくれるのかな? 知っての通りこの手は血に汚れ億の人間を死に至らしめた罪業者だというのに……俺を愛してくれる君の愛にはまるで底が見えない」

 

 彼女に尋ねるには少しばかり意地悪で、俺を受け入れてくれている彼女に対しての背信にも思えたが。

 

「ん……んうっ」

 

 尋ねながら少しだけ生じた動きに彼女は身をよじりながら、そんな俺の考えや思いを見透かすかのようにして答えをくれた。

 

「んっ……、必要、なのですか?」

 

「え?」

 

「私がシゲタロウを愛する事に。シゲタロウの過去や罪が何を意味するというのです。咎人……確かにそうかもしれません。でもその咎人だった貴方を私が愛する事に、愛する以上に何か必要なのでしょうか」

 

 過去は過去。起こした出来事も奪った命も変えられない。だが、だからといって戦という非常時に大切なものを守る為ならば。

 致し方ないこととてあるだろう。

 

 ユーフェミアはそっと静かに自らの頬を俺の頬へと重ねて擦った。

 未だ公務の最中、その一時間ほどの休憩を利用して愛し合っているため、ユフィの髪は公務用の大きな髪留めで緩く大きなポニーテール風に結われている。

 頬をすり合わされた肌の上をその纏められて桃色の長い髪の一房が撫でていった。

 くすぐったく、肌心地が良く、いい香り。

 衣服を着用したままなのに、夜のベッドで愛し合う時の匂いが少しする

 

 

「それに私は以前申し上げましたわ。貴方の罪も纏めて愛しますと」

 

 擦り合っていた頬が強く押し付けられた。

 自然、俺は愛するユーフェミアの長い髪をただ静かに撫でていた。

 髪を撫で、指で透き通しながら。

 

「すまなかった……それと、ありがとう……、こんな俺を愛してくれて」

 

「こんなが余計ですわ。私の愛しいシゲタロウ……私の貴方への愛は永劫に尽きないのです」

 

 ユーフェミアの髪を抑えていた手に力がかかる。

 外側に押されている。それは彼女が伏せていた顔を上げて離した合図。

 

「貴方は私を愛してくださらないのですか?この愛は計算によって裏打ちされた間というのでしょうか?」

 

 そんなこと、あるもんか。

 声を大にして言いたい。

 

「そんなこと、あるわけないだろうっ……ユフィを愛する気持ちに底なんて無いし、打算なんてものは最初から存在してないっ」

 

 俺は彼女の髪を撫でながらそっと自分の方へと彼女の顔を引き寄せる。

 それに対して彼女は瞳を薄く閉じ……。

 

「ん──」

 

 俺とユーフェミアは今日一番の心のこもる口付けをした。

 唇を割って入り込む互いの舌。求め合い絡まり合う。体も同じく抱き締め合う。

 どこまでも強く、お互いを離さないように、衣服越しの肌のぬくもりを感じ合うんだ。

 

「ん、ふうう……お優しいキスですわね……甘酸っぱいですわ」

 

「ユフィとのキスはなるべく優しく長く、そして熱くしていたいからね」

 

 大きなポニーテール風に纏められている彼女の髪をまた撫でる。

 纏まっている髪の房を手に取り、手のひらを滑らせるとしゅるるっと肌の上をこすれていき気持ちいい。

 

 

 

「ユフィを愛したい……ただユフィを愛したいんだ。どこででも、いつまでも……ユフィを愛していたいんだ……。ユーフェミア・リ・ブリタニア、君を愛したい気持ちが止まらないんだ」

 

「どうして、私を?」

 

「聞かないでくれ。言葉にできないから……ただ、君を愛したい」

 

「ああ……、シゲタロウ……わたくしを、私を愛して……貴方の愛で私を満たして……!」

 

「ユフィっ!」

 

 何度も何度も、撫でては梳いて、撫でては梳いて。

 ユフィの長い髪の手触り、触り心地、肌触りを楽しみ。

 慈しみながら彼女を愛する。

 

「気持ちいい……、シゲタロウに髪を撫でられるのがとっても気持ちがいいの……ねえ、もっと撫でてくださいまし……」

 

「ユーフェミア皇女様のご要望とあらばいつまででも……俺も、こうしていたいから、だから君から言われるまでもなくこうするよ」

 

 ユーフェミアはそういうとまた俺の頬に自分の頬を近づけてきた。

 俺も彼女の頬に自分を合わせて、そうして。

 

「ん……ユフィ」

 

「シゲタロウ……んあ」

 

 抱き締め合いながら、今一度時間の許す限り愛し合った。

 

 



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小さな幸せ1

ちょっと書いてみましたよ


 

 

小さな幸せ1

 

変わった

 

あの日から

 

あの晴天の日。昼の陽光に白む月の下で迎えた運命の日から、私の生き方の、私の有り様の全てが変わった

 

20代後半の、長く美しい銀髪を幾つものロール状にまとめて束ねた髪型をした女性。線の細い身体、頭に戴いた金のサークレットが輝く美女は、寄る窓辺より、耐震ブロックと幾何学的な形状を持つ大摩天楼郡が織り成し造り上げられた、大都会、東京の夜景を見下ろしながら思いを馳せていた

 

 

中央暦1639年5月17日

 

それは、世界に冠たる五大列強国が一国、パーパルディア皇国首都エストシラントにある第3外務局

パーパルディア皇宮から離れた施設の外側に位置する部署を訪れた、文明圏外国の、いわゆる蛮国の国の役人からの一言から始まった

 

「すみません!なんとしても局長様と!大列強国たるパーパルディア皇国の第3局長様とお会わせくださいませ!」

 

床に額をすり付けながら、大日本帝国という名の文明圏外の役人は、必死に叫んでいた

相手が列強パーパルディアである事は当然として、へりくだるもへりくだる。地に両足を着けて頼み込んでくる様は異種異様なまでに目立っていた

自然、第3外務局内の局員の目は、その男に集まる

第3外務局だけではない

局内にいる人間の全ての目が、その男に集まっていた

大日本と同じ文明圏外国の人間の目から、皇国人、局員の

果ては偶々第3外務局を訪問していた第1外務局、皇宮の内部に位置し、文明圏の五大列強国のみを相手として外交を行う。高度な政治判断を求められるエリート中のエリートで構成される部局の人間の目すらも

 

「ち、ちょっとあなたねえ、しばらくお待ち下さいと言っているでしょう!如何にあなた方、ええっと……大日本帝国ですか?」

「そうです!」

「文明圏外の国の癖に大日本帝国などという大層な国名とは……ああ、失礼。列強たる我がパーパルディアへの外交団の訪問を認めてもらいたいでしたか?だとしてもね、順序というものがあるんです。まあ、外交使節としてのあなたの我が国への態度は指摘するまでもなく100点満点なのですが」

 

叫び、膝を着いたりしていては、エリート部局の人間の目と耳も、相応に引かれるわけである

 

「待て。120点だな」

 

そんな中、顕著に反応を見せたのは

 

「その見上げた平伏外交っぷりは大した様になっている。聞こうか用件を」

 

頭に金のサークレットを戴いている、20代後半くらいの美しい銀髪の女性だった。

 

「は、ははぁっ、失礼ですがどちら様で御座いましょうか?」

 

大日本の役人は、唐突に掛けられた声に、目を見開いている

 

「外務局監査室のレミールだ。第3外務局の局長より上の権限を持っている」

 

パーパルディア外務局監査室。外務局の不正が判明した時、或いは相手国への対応に不手際が発生した場合を考え、設置された組織である

いわばパーパルディア外務局の本当の意味でのトップ。監査室の人員は全てパーパルディアの皇族で構成されている

彼女はつまりパーパルディア皇族である

彼女の名と外務局監査室という部署名を耳にした大日本の役人は、ピンと背筋を伸ばして、恭しく頭を垂れた

 

「こ、これはっ?!パーパルディアの御皇族の方とは存ぜず、非礼をば!平に、平に御容赦ください!」

「ふむ。まあ、知らぬのは当然であろう。なにせ未だ国交も結んでいない程度の文明圏外国の人間なのだからな。その程度の非礼を許さぬほどに私は狭量ではない。頭をあげよ」

「ははーっ」

 

下げていた頭を斜め45°まであげて、もう一度確認するように日本の役人は止まる

 

「構わん。頭をあげろ」

「はっ」

 

促されるままに頭をあげた男

 

「お前、名は?」

「はっ、大日本帝国外務省の朝田で御座います。麗しきレミール殿下とのご拝謁に賜り、深く御礼申し上げます」

 

眼鏡をかけ、ピシッと決まった髪型の、いわゆるイケメンな朝田が頭を下げた前の勢いのままに一礼する

それがレミールの高いプライドを擽る

 

「ここでは話も出来んな。場所を移そう」

 

日本の外務省職員、朝田は、レミールや彼女の護衛たちと共に別館へと移動する

 

「素晴らしい場所ですね。柱の一本一本まで繊細な彫刻がなされていて、なんというか、圧巻です」

「我が国は列強だからな。列強とは見栄えも良くなければならない。お前たち文明圏外国の人間では分からぬかも知れないが」

「はい。勉強させて頂きますレミール殿下」

 

広い廊下に、大理石の床を叩く靴音だけが響く中、日本の役人はただただへりくだり、レミールはただただ普通の、いやかなり優しい対応をしていた

やがて二つ角を曲がり、重厚な扉の前へと辿り着く

すると、レミールの両脇に控えていた護衛が、その扉を開き、彼女と共に部屋の中へと入っていった

 

「構わん朝田、お前も入れ」

「はっ、レミール様。それでは失礼致します」

 

 

 

入室したところで立ち止まり、再びの一礼を返す朝田に、レミールは日本の要望を聞き出した

 

「つまるところ、ニッポンは我がパーパルディア皇国との国交開設のための使節団を送りたい。その際に誤認を防ぐために我が国領内での一度限りの礼砲を上げたいと。その礼砲を我が国に捧げたいと、そう言うのだな?」

「はい。どうかせめて我が国の使節団を乗せた"船団"だけは、領海内に入ることをお許しください」

 

他国の艦隊、いやさ船団が領海に入る

これを良しとする国は列強以外にはない

いや、列強から見れば文明圏外国の艦隊など艦隊ではなく所詮どこまでいっても船団にすぎない

そのような貧弱なる船団、艦隊の受け入れ程度ならばいつでも可能だ。列強とは、それだけ強大なる国なのだから

無論、同じ列強国のムーやミリシアル帝国が艦隊を送るというのならば、万難を廃して迎え入れ、また万が一の対策に備え準備もしよう

しかし、文明圏外国の船団ならば、了承を得た上でならば領海に入ることなど目をつむろうというものだ

文明圏外国が何をたくらもうが、列強パーパルディアの海軍は150門級戦列艦3隻を初めとした数百隻からの大艦隊を持つ

だから、だからレミールは目をつむったのだ

 

「いきなり来て船団を領海に通せとは随分と舐めた口を叩いてくれるものだが、まあよかろう。お前のその私を前にしても怯まぬ度胸と、ニッポンの大した平伏外交振りに特別に許可をやろう。以後のニッポン担当も私がしてやる。安心するがよい」

「ははっ!レミール殿下の御采配にはなんと感謝を申し上げてよいか……!」

「ふふっ、本来ならあり得ぬ事なのだぞ?私の口添え有ればこそだということだけは肝に命じておけ。後々のニッポン側の担当も朝田、お前が務めよ。よもや否やはあるまいな?」

「無論で御座いますレミール様!私朝田はパーパルディア皇国の繁栄と日本との恒久的平和をお祈りしております!」

 



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小さな幸せ2

 

 

小さな幸せ2

 

中央暦1639年6月22日

 

 

第3文明圏最大にして最強の国、パーパルディア皇国の、第1から第3外務局、果ては監査室まで、およそ外交を司る全部署は大混乱に陥っていた

或いは恐慌をきたしていると言ってもいい事態だった

それは、外務関係だけにはあらず。軍から民間まで、皇都エストシラントに存在するの全ての人間が恐れおののいた表情を浮かべて、エストシラント沖の海上を眺めていた

 

「あれは、なんだ?……なんなのだあれらは?!」

 

本日は一月と少し前に交わした大日本帝国の外交使節団が訪れる日

その日、エストシラント沖海上を30ノットという高速で皇都に向かい接近してきている、全長にして優に300mを超える巨大な鋼鉄製の軍艦が、自国の哨戒騎たるワイバーンオーバーロードにより発見されたという

 

そんな馬鹿な。あり得ない

 

レミールの頭をよぎったのは、そう思い込みたい自分の心の声だった

宮廷服飾職人の仕立てたドレスは冷や汗を吸い重くなり、心の重圧と共に彼女の気分を落ち込ませ、また、掻き乱す

 

 

この一月。レミールはひたすら平伏外交に徹していた日本の朝田という外交官と幾度もの協議を重ねながら、大東洋と呼ばれる東の最果ての広大な海の西側にあるという、聞いたことの無い国について、情報収集をしていた

その一環として、偶然にも日本と既に国交を開いており、日本をよく知るというムー国大使ムーゲの話を聞くことができていた

ムーゲ曰く「彼ら大日本帝国は我々ムーよりも、いやあえて宣言しておきましょう。神聖ミリシアル帝国よりも強大な国力と軍事力を持つ、機械文明国家」なのだという

 

無論レミールは一笑に伏した。たかが文明圏外の、それも未開の新興たる蛮国が、第二文明圏や第一文明圏の列強よりも発展しているなどと、信じられないと

しかし、その自信は、呼び出した当のムーゲよりの更なる情報開示により不安へと変わる

 

出された情報は写真だった。写真に写るプロペラの無い戦闘用飛行機械の

ムーゲは言う。我々ムーの飛行機械マリンにはプロペラが付いている。しかし日本の飛行機械にはプロペラが付いていない

この差はプロペラ機とそうでない物の物理限界の差ゆえのものだという

ムーの最新鋭戦闘機を指して限界が低く、日本の戦闘機はその限界を超えている

 

にわかには信じがたいが、ついでというように差し出された情報で、日本の戦闘機は音の速さを超えているという、あり得ない話まで飛び出していた

 

更に机に並べられた写真の中には日本の首都だという、帝都東京の様子までが写し出されていた

日本の帝都東京。それは、ブロック状の構造体に、幾つあるかも分からないほど無数の摩天楼が林立する、超巨大な都市だという

高層建築物やブロック状の構造体は、どこが継ぎ目かも分からない不思議なものである

その全てに高価な窓ガラスが張り巡らされた、一見しただけでこの世界の大国とは隔絶した圧倒的な発展度がうかがえた

 

ムーゲの言葉は続く「軍にしても、技術にしても、大日本帝国は我々よりも遥かに高いし、先を進んでいるのです。我々の調査では神聖ミリシアル帝国よりも遥か先を進む科学的・軍事的超大国であるとの結論に達しました。また大日本帝国の他にも、大日本帝国の同盟国だという二つの超大国が存在しています。こちらも大東洋に存在する神聖ブリタニア帝国という国、そしてAEUと彼らは呼んでおりましたが、複数の王政復古国家による連合国家だそうです。現在我々ムーは大日本帝国を頼り、神聖ブリタニア帝国、AEUとも国交開設の準備に取り掛かっております。信じられないことかと思われますが、全て事実です」

 

最後にムーゲは付け加えていた「くれぐれも対応を誤らないようにしてください」パーパルディアの今までの歩みを振り返っての注意勧告だったのだろう

 

パーパルディアは常に国土拡大政策に邁進してきた

反抗する国は叩き潰し、蹂躙し、服従させ。庇護を求める国には引き換えとして多くの宝物や資源を献上させてきた

ムーゲは暗に語る、日本に対して同じことをすれば、パーパルディア皇国は滅亡すると

 

 

何もかもが信じられない事ばかりだった。レミールはムーにより技術を与えられた日本による、ムーの間接的な侵略行為か、或いは謀略かとも考えた

だが、あの写真の数々と、汗を流しながら真剣に話をしていたムーゲの言葉が頭から離れない

 

これらの情報を得てからも朝田の様子に変わりはない。平身低頭の平伏外交に徹していた。無論レミールは皇帝ルディアスにもこの報告を上げようとした

しかし、現実主義のルディアスが聞き入れるはずもないと、日本という国の存在がかなり重要である事を仄めかす程度に留めていた。かの写真やムーゲの真剣な様子から「まさか」と考えていたレミールでさえも、本心では眉唾物の話だと考えずにはいられないからだ

一方で、もしも本当だったのならば、といった考えを抱くようにもなっていた

常に最悪を考える。今までは楽観主義的に事を進めてきたレミールが慎重にならざるを得なくなってしまった

 

朝田への態度も、文明圏外国の役人を相手にするような態度を改めて、五大列強国の役人を相手にするような対応に切り替えた

もちろん対日本の担当は引き続きレミールが行うようにして、毎日のように第1外務局へと呼び出しては、これからの外交の話から、些末な日常的な話まで、席を共にしながら、時には本当に談笑をする間柄にまで関係を深めていた

たかが文明圏外国を相手に何をやっているんだという思いと、もしもの時に備えて日本の外交官朝田と縁を深めておけば、それだけでも皇国の為にはなろうと自らに言い聞かせながら

 

レミールのこの姿勢は「蛮国を相手に甘すぎる」というルディアスの叱責や不興を買ったりもしたが、それでも彼女は感じていた悪い予感を信じて、朝田との友好関係を深めていた

 

朝田も、そんな彼女の変化を感じ取ったようで、平伏外交姿勢はそのままながらも、プライベートな話もするようになっていた

 

「私も最近は悩み事が多く困っているのですよ。仕事柄あっちへ、こっちへと、出張を繰り返す日々でして、そのうち身体を壊してしまいそうです」

「なるほど。だが、外交官ならば仕方あるまい。国と国を行き来し、相手国との連絡役、ひいては友好の為にもその役目は大事となろう」

「レミール殿下よりの激励の御言葉、この朝田、まことに有り難く存じます」

「気にするな。国交を開く間柄、文明圏外国とはいえお前は全権大使のような立場なのだろう。苦労の一つ二つはあろう」

「はあ、苦労しっぱなしでして。浮いた話の一つもないところですよ」

「ほう。ならば私が立候補でもしてやろうか?同じ外交の場に身を置く者同士だ。釣り合いもとれよう」

「お、お戯れを。列強パーパルディアの皇女殿下であらせられるレミール様よりの、文明圏外国の一外交官でしかない私への身に余りすぎる御言葉は感激の限りに御座いますが。レミール様にはルディアス皇帝陛下という御方が」

「最近、そのルディアス陛下が私に素っ気ないのだ。文明圏外国を相手にいつまでくだらぬ事をしているのかと。まるでお相手くださらない」

「はは、それは皇帝陛下のお立場ともあらば、たかが文明圏外国相手に時間を割くなと仰せになるでしょう。こうして私のような者にまで、お目をかけて戴ける事はこの上もない喜びに御座いますが」

 

朝田との交友は次第に公私に渡り始める。その程度の者であったかとでも言わんばかりの素っ気ない態度になったルディアスの空気をつぶさに感じ取ったレミールは、捌け口に朝田を求めたのだ

時には私邸にまで呼び出してはパーパルディアの事を話し、日本の事を聞き出そうとするレミールに、しかし朝田は多くを語らず、ルディアスとの不仲より寂しさを感じ始めていたのであろう彼女の話し相手として振る舞うに留まっていた

朝田も、こちらも時に、外務省職員として誇りを持ち仕事をこなしながらも、友好国間を駆け回る忙しさに休みがほしいといった愚痴を呟いたり

レミールは朝田との友好関係を確実に深め、当初の頃とは打って変わり、二人の関係は友人といっても差し障りがないほどにまでなっていった

 

 

そうしてやってきた、その日が今日だった。この今であった

 

始まりは早朝の朝田からの面会要請から

この日の朝田は丁寧ながらも、平身低頭ではなかった

 

「レミール様、朝早くに失礼致します。本日は貴国との国交開設の為の我が国の使節団がここエストシラントへ訪れる事となりますが、我が国の使節団を乗せた船団、艦隊は1隻1隻の規模が大きく、貴国に対して不自由を強いる事となるかも知れませんが、その点に付きましては予め謝罪をしておきます」

「規模が大きい……まさか、我が国が誇る100門級戦列艦隊のような大艦隊が来るとでもいうのではあるまいな?」

「いいえ、戦列艦は1隻も御座いません。ただ、空母。貴国の竜母と同じように運用する艦艇や、大型艦艇がエストシラント沖に入ることになりますので」

「戦列艦ではない大型艦艇だと」

 

レミールの頭にムーゲの言葉がよぎる

日本はムーを遥かに超える超大国

もし、それが本当ならば、大型艦艇とは、ムーの誇る巨大艦ラ・カサミのような艦艇かもしれない。それが何隻も訪れるとなれば、確かにパーパルディアの総力を上げる必要が出てくるだろう

背中に滲み出す冷や汗を隠しながら、レミールは朝田に告げた

 

「よい。本日の日本船団の訪問は陛下も預かり知るところ。日本との外交については私が全権を預かっている。よってパーパルディア皇国皇族レミールの名の下に日本使節団が我が国の領海へ入ること、およびエストシラント港への入港を許可する」

 

レミールは待つ。ただその時を。そうして太陽が中天に差し掛かるとき。その轟音は鳴り響いた

 

ドォォォォォォン!!!

 

大地が地響きに揺れる。窓ガラスがバリバリと震える。エストシラントの遥か沖合いから轟く雷鳴のような轟音は、鳴り響く音と合わせてエストシラント沖に巨大な水柱を立てていた。レミールと共にいる朝田曰く、これが「礼砲」なのだという

戦列艦ではない「戦艦大和」の60㎝主砲によるパーパルディアへの礼砲なのだというのだ

 

「60㎝砲だと?!」

「はい。我が国が誇る戦艦大和による60㎝主砲です。領海内で発砲したことは改めてお詫びします」

 

監査室内がざわめく。第1から第3外務局内が、港の水夫たちが、エストシラントの臣民たちがざわめく

やがてワイバーンオーバーロードの哨戒騎より魔信が入る

 

『エストシラント沖を北上中の超巨大艦を発見。全長300m以上の艦艇が目視で超巨大戦艦2隻、超巨大な竜母らしき船が4隻。その他巨大竜母らしき船がいずれも200mから200超で12隻、ラ・カサミ級を超える巨大戦艦が100隻以上、更に巨大戦艦艦隊上空には200mはあろう空を飛ぶ戦艦が12隻と戦艦の周囲を飛行する5mほどの鉄のゴーレムが無数、全て日本の国旗を掲げている日本船団、大日本帝国艦隊である模様っ!!』と

 

その魔信を伝える竜騎士の声は最早叫び声であった

この世ならざるものを見たとでもいうような絶叫だった

絶叫は伝播する。レミールにも

 

「全長300mを超える戦艦や竜母っ?!ラ・カサミを超える戦艦が100隻以上っ?!空を飛ぶ戦艦に鉄のゴーレムだとっっ!?」

 

魔信はパーパルディア海軍、陸軍にも伝わり、にわかに厳戒体制が取られる事となり、やがて水平線の向こう側より信じられない程の巨砲を備えた超巨大戦艦と、同じくらい大きな超巨大竜母、ムーのラ・カサミなど話しにならない戦艦群がエストシラント沖合いに姿を現し始めた

 

空には竜母より飛び立った鉄の竜が音を遅らせて飛び交い、鉄竜の上空には空飛ぶ戦艦が艦列を成して飛行している

 

その様はまるで古の魔法帝国の進軍を思わせる光景だった

 

 

 



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小さな幸せ3

 

小さな幸せ3

 

大日本帝国外務省パーパルディア担当職員、朝田泰司は述べた

 

「エストシラント沖に見えましたるあれが、我が大日本帝国パーパルディア皇国派遣使節団の艦隊です」

 

朝田の隣で水平線に現れた艦隊を見つめるレミールの美貌は、驚愕に彩られていた

 

この目で視てさえもまだ信じられない

しかし、現実にパーパルディア皇国の政治中枢、外務局より見える巨大な水柱は、確かにいまそこにあったのだ

偵察の竜騎士からの魔信が、偽りや誇張ではないのなら、全長にして300mを優に超える戦艦や、竜母が多数存在しているとのこと

その内の1隻の戦艦が放った砲撃がエストシラントの海に着弾したのだ。地を轟かせ、大気を震わせる轟音と共に

加えて100隻を数える150m以上の大戦艦郡、恐るべき脅威だ。とくに大和という名の超巨大な戦艦と比較すれば、世界第二位の列強ムー帝国の誇る大戦艦ラ・カサミがただの小舟に見えてしまう

 

空を見上げれば海上の艦隊とはまた別の、空飛ぶ艦隊が進軍してきている

軍艦が、それも200m級の軍艦が空を飛んでいるのだ

飛行戦艦を運用している国など、伝承に存在する世界を支配したとされる古の魔法帝国ラヴァーナルをおいて、他に存在しないはずなのだ

或いは噂の域を出ないが、神聖ミリシアル帝国が発掘したとされる、ラヴァーナルの飛行戦艦が稼働状態にあるかもしれないが、それでもそう多くはないだろう

 

だが、言葉にするまでもなく日本の艦隊には、空中に浮かぶ艦隊までが艦列を成して姿を現していた。それも10を超える隻数でだ

 

「空に、空に浮かんでいるのはなんだ?」

「帝国空軍の浮遊航空艦隊です。本来なら時速400㎞から500㎞、最高速度となると900㎞は出る艦艇ばかりでしてね。特殊なブースターを取り付ければマッハ2、音速の2倍の速度を出しながら、高度3万mを飛行可能なのですが」

「音の速さの2倍で高度3万mだと?!」

「ええ、ですがまあ、それほどお驚きになられる事でも、然程に珍しい事でも御座いませんよ。我が国の空母。貴国で仰るところの竜母には、マッハ2以上の速度で飛行する鉄の竜、戦闘機が数十機搭載されておりますしね。我が国には8千機からの戦闘機がありますので、すべて高度1万mを超えて上昇可能です。そんなに珍しい物ではないんです」

「音よりも速く飛ぶ飛行機械が8千機…」

 

音の速さを超える飛行機械が日本にはある。ムー帝国大使ムーゲはそう話していた。話していたが、まさか8千機などというでたらめな数だとは、レミールは考えてもみなかったのだ

よもや飛行戦艦までも保有し、時によってはやはり音速を超える恐るべき速力を出すという。下手をすると古のラヴァーナル帝国を上回る超文明を築いているのではなかろうか

 

「ああそうそう、浮遊航空艦隊で御座いましたね。あれらがあそこまで遅い速度で進んでいるのは、此度の貴国来訪に際しての海軍の巡航速度に合わせているからです。まさか浮遊航空艦隊だけが先に貴国へかっ飛んできて、騒ぎを大きくさせるわけにもいきませんので」

「り、竜母は、何隻連れてきているのだ」

 

衝撃と恐怖に上ずる声を抑えながら、レミールは朝田に尋ねた

 

「竜母ではなく、空母なのですが、その空母は私が受け取っております本国よりの連絡では確か4隻だったはずです」

 

坦々と話す朝田に対してしびれを切らしたレミールは声をあらげた

 

「この期に及んで誤魔化さずともよい!! 偵察騎からの報告ではとてつもなく巨大な竜母、空母が、最低でも10隻はあると聞き及んでいる!朝田、お前も先ほどの魔信を聴いていたはずだ!!」

 

 

この反応を予期していたかのように、朝田はやはり坦々と答えた

 

「確かに。しかし、それは貴国の偵察騎士の方の間違いですよ。此度の使節団艦隊の陣容は、戦艦2、空母4、浮遊航空艦12、揚陸艦12、空母と揚陸艦の護衛艦として巡洋艦・駆逐艦、あとフリゲート艦が合計して100、潜水艦が36、補給艦や支援艦艇が60ほどだったはずですので。恐らくですが、偵察騎士の方は強襲揚陸艦や輸送揚陸艦、それと補給艦艇あたりを空母とお間違えになられたのでしょう。強襲揚陸艦などは一見空母にしか見えませんので」

「揚陸艦、竜母のような揚陸艦…!」

「はい、普段は遠征打撃群として空陸戦用の戦力を取り扱う専用の艦艇でして、強襲揚陸艦と他に2隻の大型揚陸艦と組ませ、護衛の巡洋艦・駆逐艦・潜水艦と合わせて一つのグループとして扱っております。今回の使節団としてそれを4個郡用意してきました。そして空母戦闘郡もまた同様に4個郡を。我が大日本帝国外務省としては、第3文明圏の覇者にして、強大な列強国であるパーパルディア皇国との、国交開設にあたり、決して非礼とならない充分な艦隊だと自負しております」

 

意味するところは、陸海空全方面での潤沢な戦力を揃えてきているということだ。それも日本の言う空母のような巨大揚陸艦も何隻も

1度に上陸させられる部隊はどれだけに及ぶか

1度の航空戦で音の速さを超える飛行機械や、飛行艦隊と、海上を埋め尽くす鋼鉄の艦隊と、もしも戦闘に及んだとき、パーパルディアはどれだけ戦えるのか

 

「……」

 

レミールは二の句が継げなくなった。200隻以上の大艦隊だ。1隻1隻がムーのラ・カサミを子供と見てしまえるような巨大な鋼鉄の艦隊

戦闘用艦艇は100と少しらしく、パーパルディアの全軍、1000隻近い戦列艦隊を以てすれば数の力で押し潰せるような気もしないでもない

だが、それでもレミールの危機意識はしっかりと働いていた

 

危険だ

 

この国へ普段通りの対応をしていればどうなっていたことか

ルディアス陛下がどういった反応をなされるのかも気になる

列強パーパルディアの皇族として誇り高い自分であったが、あの大和の砲撃と、現れた鋼鉄の艦隊や飛行機械に飛行艦隊を前にすれば、プライドだけでは生きられない現実があることをレミールは思い知らされたのだ

 

「間もなくエストシラント港に入る事に、と言いたいところなのですが、貴国の大艦隊がひしめく港に我が国の艦隊が入るわけにも参りませんので、沖合いにて待機させていただきます。使節団の代表は輸送用VTOL、垂直離着陸ができる飛行機械にてお連れしたいと思うのですが、レミール様、御許可願えませんか?」

「あ、ああ、構わん。日本との外交については私が全権を委任されているからな」

「ありがとうございます。では、早速使節団の方に連絡を通しますので。指定場所は」

「港の開けた場所に上陸するように伝えてくれ」

「わかりました」

 

本音ではパラディス城の中庭でも構わなかったが、今のパラディス城は混沌としている

この外務局内でも、朝田が話はじめてより誰もが彼の言葉に耳をすませていた

静まり返る外務局の中で、レミールと朝田だけが声をあげていたのだ

時折、怯えるようにエストシラント沖をみやりながら

 

朝田はレミールの許可を得て、スラックスのポケットに入れていた小型無線機を取り出し、プレストークボタンを押していた

魔信にも似た無線機の存在は、レミールも預かり知っている

彼女と円滑に連絡を取り合えるようにと朝田が彼女とのホットライン用として渡していたからだ

レミールの無線機は彼女の邸宅に置いてある。文明圏外の蛮族の物を後生大事に持つな。そういったルディアスからの叱責が飛ぶ可能性があった為に

本当は常に連絡を取り合えるような態勢でいなければならないというのに、近頃日本を相手にするようになってから、ルディアスはレミールへの苛立ちを隠さなくなっていた

彼女もそれに気付いていたので、それ相応の体裁として無線機の持ち歩きはしていない

その無線機を使い、朝田は沖合いの艦隊に連絡を入れている

 

「こちら外務省の朝田泰司です。パーパルディア皇国皇族であらせられますレミール様よりVTOLによるエストシラント港上陸の許可が降りました」

『了解。こちら大和。これより使節団を送ります』

「了解しました。お待ちしております」

 

朝田の声が響く外務局の中で、レミールは考えていた。この使節団との交渉はなんとしてでも成功させなければならない

間違っても、ルディアスの覇道をそのまま日本にぶつけるようなことになってはならないと

 

 



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小さな幸せ4

ユフィルートしげちー×日本国召喚クロスの続きです。今回はレミール視点ではありません


 

小さな幸せ4

 

 

奇妙な箱のような大きな銀色の鉄の怪鳥が沖合いより低空飛行で飛んで来た

 

全長にして20mはあるだろうか?

 

明らかにワイバーンよりも大きなそれは、同じく空中を飛行する5mほどの体長を持った、マスケットとはまた違う巨大な銃を備えている白と青で彩られた鉄のゴーレムを4体伴わせながら、やがて陸地にまで辿り着くと、ゆっくりと下降を始め、エストシラント港の開けた場所に向けて静かに降りてきた

 

キィーンという、かん高い音を立てて降り立ち、暫しして音を消した怪鳥、箱の名はVTOL。人員や兵器を輸送するための飛行機械の一種なのだという

鉄のゴーレムの方は名をKMF、ナイトメアフレームというらしく、近接戦、中長距離戦もこなせるやはり機械仕掛けの兵器らしい

 

「垂直離着陸が可能な飛行機械に、人が乗る戦闘用の鉄のゴーレム…」

 

パーパルディア皇国には無い純粋な科学技術でのみ作られているというこの飛行機械たちは、どのような原理で空中を飛ぶのかも、なにを以て稼動しているのかも不明であった

 

「そして…」

 

エストシラント港の上空には、信じられないことに船までが飛んで来ていた

数は4隻だ。その巨体は優に200mはあろう空飛ぶ戦艦であった。地上からでは下部しか見えない船体には、幾つもの砲が搭載されていることが見てとれる。砲数こそ少なく、距離感からわかりづらいが、そのどれもが皇国の持つ戦列艦の砲よりも大きいのだろう

 

世界第二位の列強ムーの保有する戦艦ラ・カサミよりも巨大な戦艦が、空を飛んでいる非現実的な光景だった

 

それら空飛ぶ艦隊の周りにも数十体の鉄のゴーレムが浮いており、パーパルディア皇国皇都エストシラントを見下ろしていた

 

 

港に駆け付けていたパーパルディア皇国第3外務局局長カイオスは、周囲を警戒している皇軍の兵たちや、空を飛び交うワイバーンロード、ワイバーンオーバーロードに騎乗する兵たちと共にそれらを視て、息を呑む

 

先見の明があり聡い彼は、外務局監査室の皇族レミールが、ある時、皇国との国交開設を願い出てきた文明圏外の国の外交官と接触し、交友を深めていくに伴い、徐々に焦りにも似た何かを持つようになっていった事に感付いていた

監査室のレミールと言えばとかく冷酷非情な人間であり、多少の事にも動じたりしない、いやさ動じたりした場面を誰もが見たこともないほど傲慢で冷徹な女性であった。そのことはカイオスも彼女の人となりをこの暫くの間に調べて知っていた

そのレミールは当初、平身低頭で土下座までしてきた外交官の態度をいたく気に入り、彼の外交官の国との交渉は自分預かりとすると宣言。随所で彼の外交官朝田と共に居るところが目撃されていた

 

この接触初めの頃は、焦りを見せるどころか、傲慢その物な態度を崩していなかったのだが、彼女の態度は日を追うごとに変わり始めた

 

朝田との仲が深まれば深まるほどに、冗談すら飛ばしあっているところが見られれば見られるほどに、一人でいる時の彼女の態度は変化していった。遠目で視てわかるほどにだ

 

特にムーの大使との会談後、「デンシケイサンキ」なる物や、魔導通信にも似た「ムセンキ」なる物を朝田より贈られ、それを技術を扱う部署で調べさせた後からは、最早焦燥に近い様相を呈していることもあった

 

朝田との仲は良好で、良好であればあるほどに焦りを見せていくレミール

少し前の帝前会議でもそうだった

 

『ルディアス陛下…、陛下に御報告したき事が御座います』

『申してみよ』

『はっ、実はいま去る文明圏外国との国交開設の準備に取り掛かっているところなのですが、その国は我がパーパルディア皇国にとり非常に重要な相手国となる可能性が御座います…』

 

顔色悪く述べていたレミールは、ある文明圏外国が皇国にとって重要な相手国となり、この国を相手にして常のような教育的外交を行えば、皇国は取り返しのつかない一歩を踏み出すことになる

そうルディアス皇帝に進言、忠告したのだ

この一言は、当然ながらルディアス皇帝の不興を買っていた

 

『レミールよ、予が知らぬとでも思うたか?お前がたかが一文明圏外の蛮国の外交官を相手に、パーパルディア皇族としてあるまじき対応をしていることを。随分とその蛮国を遇しているそうではないか。報告を耳にしてより見下げ果てさせられたぞそなたの行動にはな。それにあろうことかこの場においてまでその様な戯れ言を申すとは。列強パーパルディア皇国の皇族としての誇りは無いのか?』

『へ、陛下っ、しかし、しかし彼の国はやもすればミリシアルやムーをも!』

『もうよい。そなたの戯言をこれ以上聞いている暇など無いのだ。下がれ』

『……』

 

それでもレミールは彼の国への対応は慎重にと進言し続け、ルディアス皇帝との仲は悪い方向へと流れていた。文明圏5ヵ国、文明圏外67ヵ国、大小合わせて72ヵ国もの属国を従えるまでに巨大化したパーパルディアのこんにちの繁栄は、ルディアスの覇道があったればこそだ

現実主義で己の覇道をゆくルディアスに、聞いたこともない無名の文明圏外国を特別視し相手にするようなレミールの姿勢は軟弱であり弱腰であると映っていた

だから距離が生まれてしまったのだ

だが、彼女はこれだけはとそれとなく何度も警告していた。無論ルディアスには軽くあしらわれていたが、しかし何故そこまで文明圏外国を重要視するのか?それが不思議で、同時に皇帝と不仲になってまで忠告をしていた彼女の姿勢に何かあると、そのことにカイオスもまた危機感を覚え、レミールが調べさせていたというデンシケイサンキの事を調べてみたが、なにもわからなかった

技術部門の誰もが解析不能という壁にぶち当たっていたのだ

この袋小路の中で唯一判明したことは、レミールと一部の人間だけが彼の国の姿を朧気に掴んでいたということであった

ムーの駐パーパルディア大使ムーゲからの情報として

問題は内容があまりにもあり得ない話ばかりなので、虚偽情報だろうと切り捨てられる類いの物であったのだが、カイオス自身レミールやムーゲの話をもっと精査しておくべきだったと後悔していた

 

 

 

 

その彼の国こそが、レミールが焦燥感さえ浮かべさせながら警戒していた国こそが、その焦りの原因こそがこれだったのだ

この科学技術で作り上げられた箱や、同様に作られた鉄のゴーレムに空を飛ぶ戦艦

中天の時、エストシラント沖でとてつもなく巨大な水柱を立てさせる砲撃を行った

 

「大日本帝国…!」

 

カイオスは口に出して叫んでいた。余りにも余りにすぎる現実を前に

 

 

日本の使節団だというこれらを最初に発見したのは、皇国観察軍東洋艦隊所属の竜騎士レクマイアだった

レクマイア、彼は魔導通信で告げていた。叫んでいた

 

空を飛ぶ戦艦

全長にして300mを越えている超巨大戦艦

海原を進む200隻以上の鋼鉄の艦隊

鉄のゴーレムや、ムーの持つ飛行機械マリンのようでマリンなど話しにならないほど速いマリンのような飛行機械

まだいるのだ、沖合いの空と水平線に点のように見える粒全てが巨大な戦艦群なのだ

 

「大日本、帝国」

 

その名を噛み締めるようにもう一度口にした時、隣に立っていた彼の国の外交官、朝田泰司が返答した

 

「はい。我が国、大日本帝国の使節団です。と言いましても使節団艦隊の一部ですが」

 

つまり、いま自分が目にしているものは、報告にあった内のまだほんの一部に過ぎないのだ

ほんの一部で「これ」なのだ

 

カイオスがここに来たのは正解だった。国家の上層部の人間が直に目にしなければ、この重圧は伝わらない

カイオスはいち早く自分の目で確かめて良かったと思った。相手をはかり損ねていたらどうなっていたことかと。第1外務局はこの事実のほんの触りまでは知っているだろう、監査室のレミールが直接ことに当たっていたのだから

実はこの使節団の出迎えには当初レミールが直接出向くと言っていたのだ。自分が担当している相手国であるからと。何よりレミールは日本に対しては人一倍気を使っていた

だが、それは流石に皇国としても面子の問題があるので是とするわけにもいかなかった

皇族であるレミールを文明圏外国の外交使節団の出迎えに出す。それでは列強としての面子が丸潰れだと

 

かといってだ、これは最早列強がどうのという話ではない

カイオスは自分が来て正解だと思っていたが、レミールが来ても正解だったのだ。もっと言えばルディアス皇帝が来ていれば、この恐れを体験した方が後々に間違いを犯さないで済むだろう

いや、すでにもうパラディス城よりこの光景を御覧になり、敗北感や憤怒に顔を歪めているかもしれない

皇都エストシラントが見下ろされている、パラディス城が見下ろされているのだから

そのルディアス皇帝が、怒りと覇道のままに日本と向き合えば、あの空の戦艦からの砲撃がエストシラントに降り注ぐ事だろう

 

文明圏外の蛮国?

魔法も使えない蛮族?

 

とんでもない

 

蛮国どころか列強など遥かに及ばない超文明国だ

魔法など必要としないだろう超機械文明国だ

 

その超機械文明国の鉄の箱の扉がいま開かれる

 

まず最初に出てきたのは、見たこともない白い服を身にまとう数人の男たちであった

皆一様に扉の両脇に控えて並び立つ

様子からして軍人だろう

次に出てきたのは、短い髪を後ろに撫で付けた、少し厳めしい顔立ちの壮年男性だった。こちらは日本外交官朝田と同じ様な服装をしていた

男性は、カイオスに目を向けると静かに歩み寄ってくる

 

「このエストシラント港の空までお借りし、お騒がせしてしまい申し訳ありません。そちらの朝田よりお伺いしております、パーパルディア皇国第3外務局局長カイオス殿ですね。わたくし、大日本帝国は枢木内閣で官房長官を務めさせていただいております、澤崎淳と申します。本使節団の団長として参りました。宜しくお願い申し上げます」

 

大日本帝国外交使節団団長、官房長官澤崎淳。老獪な政治家といった風体の男であった

差し出された彼の手をカイオスは握る

握りながら、心の動揺を表には出さないようにして返事をした

 

「これはご丁寧に、遥か大東洋より遠路遥々ようこそお越しくださいました。既知のようですが、パーパルディア皇国第3外務局局長カイオスです。こちらこそ宜しくお願い申し上げます」

 

文明圏外の蛮国を相手にするような接し方ではない。皇国内ではレミールを含め、一部の者だけがそうしているように、五大列強に名を連ねる国々を相手にするような応対をしていた

何事も第一印象は大切だ。文明圏外の国というイメージは、上空に止まる艦隊と、巨大な銃を備える数十体のゴーレムを視たことで一切捨て去っていた

「早速の質問で失礼ですが、空のあれは何なのですか?」

 

カイオスは聞いた。おとぎ話に出てくるような、古の魔法帝国のような空飛ぶ船のことを

誰もが知りたがっているだろう。あれはなんだと

 

「浮遊航空艦隊のことですな?」

「浮遊航空艦隊…」

「簡潔に申し上げれば空中戦艦で構成された艦隊です。あの1個艦隊4隻は貴国の港湾に入港できない帝国海軍の大型艦艇の代わりですよ。浮遊航空艦隊につきましては今回の貴国訪問では3個艦隊12隻で来ておりますが、やはり港湾への入港には事前通知が必要でしたかな。第三文明圏唯一の大国、列強であるパーパルディア皇国に対しては失礼の無いようにそれなりの艦隊を揃えようとして精一杯手配した物なのですが…、ああ、彼処に見えますのが旗艦の飛鳥です、その他が順に庵戸、板蓋、朝倉です」

 

斑鳩級浮遊航空艦:飛鳥

 

全長:200m

兵装:主砲ハドロン重砲2門

副砲76㎜単装リニア砲2門

57㎜単装リニア砲8門

対空・対艦ミサイル発射基各4基

バルカンファランクス2基

ブレイズルミナス

 

列強には持てる限りの礼儀を尽くす。この世界の常識としては力を誇示することがそれにあたる。弱肉強食の世界なのだから当たり前のこと。日本はただそれを行っているだけなのだ

弱い力を見せて見下し見下された結果、不幸な行き違いが起こるということのないよう、力を示すのは当然のことなのだ

もしも日本がこれだけのものを用意せず、沿岸警備船のような船を少数だけで来ていたら、パーパルディア側の対応は一気に日本をただの一文明圏外の蛮国という位置付けに変えていた事だろう

それほどまでに力の誇示は大切なのだ

国家間の無用な軋轢を避けるためにも

 

「なるほど。まあ、正直に申し上げれば、空を飛ぶ船を見るのは初めてでしたので誰もが気になっていました。ましてや我が国領空を飛ばれては、不意な事故的に我が国の誇る"第三文明圏最強の"竜騎士たちが混乱のままに導力火炎弾で攻撃してしまう可能性がありましたので」

「ああ、それならば大丈夫ですよ。我が国の浮遊航空艦やKMFには防御機構としてブレイズルミナス、簡単な説明としては特殊な膜のような防御壁が展開できますので、ある程度の相手からの攻撃なら簡単に通るようにはなっておりません。まあ、お互いに物騒なお話は止めにしましょう。戦争をするわけではありませんので」

 

ワイバーンオーバーロードの導力火炎弾でも通用しないのだろうかと考えてしまう。しかし見たところあの空中艦隊も金属でできている様子。恐らく通用しないだろうと直感で考えたカイオスは気持ちを切り替える

戦争をするわけではないのだ。戦争などになれば、レクマイアの報告が本当なら

皇国が、栄華を誇る我がパーパルディアが一夜で滅びてしまう。事を荒立てないようにする事が第一である

 

「そうですな。では、あちらに馬車を用意してありますので」

「これは、列強である貴国よりのお心遣い、大日本帝国を代表して御礼申し上げます」

 

そうして、カイオスが、国交開設の条件の擦り合わせと、本格的な国交締結を目指すべく、日本外交の一切を取り仕切っているレミールの待つ皇宮へと移動するため馬車へと乗り込もうとしたとき

 

VTOLと呼ばれる箱の中より、もう一人別の男が出てきた

 

「待ってください澤崎団長。私も御一緒させていただきますので」

 

それは、朝田や澤崎と同じ様な意匠をした、焦げ茶色の衣服を身にまとう、特徴的な丸い眼鏡をかけた男であった

 

 

 



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小さな幸せ5

 

 

 

小さな幸せ5

 

 

 

 

同刻皇宮パラディス城 王の間

 

重臣たちが平伏する大広間は静まり返っていた。誰もが口を開くことを恐れている。口を開くことで、ある文明圏外国の名が否応なしに出されるからだ

これを受け取る若干27歳の若き覇王、ルディアス皇帝の怒りを買ってしまわないかと

 

「どういうことだ」

 

誰もが口を紡ぐ中で、覇王だけが口を開く

 

「いったいどういうことなのだッ。蛮国が、魔法も使えぬ文明圏外の蛮族風情がなぜあのような古の魔法帝国の伝説に出てくるような空中戦艦を率いて我がパラディス城を見下ろしているのだッ」

 

それは皆が聞きたいところだった。なぜ彼の国、レミールが執心している国日本が、あのような物を保有し、運用しているのか

誰にもわからないことなのだ。レミールや第1外務局、監査室の一部の人間だけが日本の危険性についていち早く気付き、警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、誰もが一笑に付して耳を貸さなかったのだから

その筆頭が自身の覇道を進みゆくこの若き皇帝なのだ

今さらになり怒りの声をあげられても、こちらの話を右から左に流していたのは陛下御自身、だとは、第1外務局局長のエルトも口にできなかった

陛下の怒りを買えば死罪もある事をよく知っていたから何も言えず黙り込むより他なかったのだ

 

「あの中天の砲撃は何なのだ?!如何様なる巨砲を使わば、如何なる極大魔法を使わば、あのような水柱を作り上げることがかなうのか?!」

 

知らない、わからない、どれだけ怒りの声を浴びせられても誰にも答えられない

 

「今までのレミールの発言からして、第1外務局と監査室はこの事を知っていたのか?」

 

この場にレミールはいない。代わりに第1外務局局長エルトがいる

皇帝よりの詰問に身を震わせ、滴となって流れ落ちるほどの汗を浮かべながらエルトは答えた

 

「い、いえ陛下。彼の国、日本の事について監査室も第1外務局も、多くを預かり知りません。幾つか判明していることは、日本は文明圏外の国でありながらも、彼のムーを遥かに超越した超機械文明国だということだけで御座います。軍事力などの詳細につきましても本日、エストシラント沖を偵察していた竜騎士と、日本外交官朝田よりの今日になっての情報開示によりようやく掴めたことで御座いまして」

「それでは、日本との交渉を自分預かりとしながら、明確なる情報をレミールは掴めていなかったということだな?あの砲撃を放ったであろう沖合いの戦艦のことも、空中戦艦のことも、鉄のゴーレムのことも」

「は、はい、私もレミール様も、そこまでの情報は…」

 

エルトが顔を伏せた。ルディアスの鋭い眼光がエルトに向けられている

あの目が自分に向けられはしないかと皆が戦々恐々とするなか、ルディアスの声だけが響く。怒りが少しは覚めた、冷静な声であった

 

 

「怠慢だな。完全なる驕りだ。レミールを呼び出せ」

「な、なりません、レミール様には日本との交渉が控えております故に、」

「エルトよ、日本を恐れているのか?」

「あ…、」

 

見透かされている。無理もない。あの砲撃を目の当たりにして恐怖を覚えない者など居はしないだろうに。ルディアス皇帝も内心では口惜しさと共に恐怖も覚えているのではないのだろうかと、エルトは考えた

 

「ふむ、わからぬでもない。あのこちらを見下し来る忌々しい空中戦艦や、中天の砲撃を目にした以上は恐れも抱こう」

 

やはり、恐れているようだ。だが、ルディアスは何も恐ればかりを抱いていたわけではなかった

 

「だがよくよく考えてもみよ。それだけの戦力が、我が皇国を圧倒するだけの戦力が本当にあるというのならば、今まで無名であったはずがない。竜騎士の詳しい報告はどうなっている」

 

僅かに入った情報を整理する余裕もまた持ち合わせていたのだ。さすがはこのパーパルディアを一代で強大化させてきた男と言える

 

「は、はっ、全長200mあまりの空中戦艦と体長5mほどの鉄のゴーレムの他には、巨大な砲を備えた300mを超える巨艦の姿と、砲を1門のみ搭載したムーのラ・カサミクラスを越える大きな船体を持つ100隻ほどの鋼鉄艦に、砲の無い多数の鉄の軍船、巨大な竜母と思わしき十数隻の船がエストシラント沖合いに停泊中とのことに御座います。その他、ムーのマリンのようでいてマリンとは比較にもならない恐るべき速度の飛行機械の存在もあると」

「……それだ、巨砲を持つ戦艦や飛行機械はともかくとして、1門しか砲を持たぬ軍艦など大した戦力にもならぬ。軍艦の力は砲数が物を言う、我が国には1000隻に近い艦隊がある。これを一息にぶつければ、物量戦を仕掛ければ、いかなる戦艦であれひとたまりもあるまい。それを恐れて日本艦隊は沖合いで停泊しているのではないのか?エストシラントには600隻からの艦隊が控えているのだからな。飛行機械にしてもその速度は最高速度430㎞を出すワイバーンオーバーロードを僅かに上回る程度やもしれぬ。その程度ならばさしたる脅威であるとも思えぬがどうだ。空中戦艦や巨大戦艦にも戦列艦郡、ワイバーンロード、ワイバーンオーバーロードの波状攻撃を加えれば持ちこたえられるとは思えぬ、ゴーレムなどは僅か5m足らず。竜騎士隊の敵ではあるまい。なにを必要以上の恐れを抱く必要があろうか。それでも万が一を考えるのならば、試してやればよい」

「試すとは?」

「我が国との国交を開設したくば力を示せとまずは言うのだ」

「ま、まさか、日本と戦争を?」

「違う。戦争ではなく、廃船処分を任せるのだ。ちょうど新型艦艇と旧式艦艇との入れ換えで100隻ほどの余剰艦が出る。まだまだ使える余地もあるゆえに、他国に売却する予定であったそれらを日本に処分させるのだ。その際に日本の力を確かめる。レミールに伝えよ、日本との交渉においてはその事を念頭に入れて当たれと。それで、断るようなら見かけ倒しだろう、大した力も持たぬただの文明圏外国だと判明すれば、要求いかんによっては即開戦し」

 

教育的外交、いつものように徹底した躾を行うのみだ

 

 

 

 

 

「しかし、貴国の港は壮観の一言でしたね。私は生まれてよりこの方、あれ程までの隻数の戦列艦は見たことがありませんでしたよ」

「我が国が誇る魔導戦列艦隊ですよ。第三文明圏であれだけの艦隊を常備できるのは我がパーパルディア皇国だけですので」

 

馬車で移動しながら、窓の外に見える港の景色を眺めていた日本使節団団長の澤崎淳は、幾度目かとなる感嘆の声をあげていた

続くように、日本の財務担当官だという丸眼鏡の男が応じていた

 

「ええ、まさに圧巻でした。数百隻からの戦列艦がひしめき合う姿は。第三文明圏の雄として相応しい軍事力の象徴と言えるでしょう。19世紀初頭のブリタニアほどとは申しませんが、同時期のブリタニアと戦うことはできるほどの戦力でしょう」

 

外交官の朝田も答える

 

「1会戦、いえ、2会戦か3会戦は行けそうですよ。19世紀初頭のブリタニアとはいえ、あのブリタニアを相手に3会戦可能な軍事力などそうそうお目にかかれるものではありませんからね」

 

あのブリタニアと3会戦可能な軍事力?

日本の外交官たちが話す内容にカイオスは目を剥いてしまった

エストシラント港には600隻からの軍艦が待機しているのだぞ。それらを全て出して、たったの3会戦だと?

しかも話ぶりからして、パーパルディアが負けるような話ぶりだ。あり得ない。そんな事、ムーやミリシアルでもない限り

それにブリタニア?日本ではなくブリタニア?

 

「お話に名の上がったブリタニアとは?」

 

軽くした質問に、そういえばその名を何処かで聞いたような気がするとカイオスは思った

そう、あれは、ムーの大使とすれ違ったときに…

質問をしておきながら、物思いに耽りそうになったカイオスに、澤崎団長が話しかけてくる

 

「太古の昔に我が国と袂を分かった、血を分けた兄弟国ですよ。いや、貴国の港湾を埋め尽くしていた皇国海軍の偉容はまさに第三文明圏最強に相応しく、ふと昔のブリタニアを思い出してしまったのです。とは言いましても、今や歴史の教科書に記載されている過去の話、200年ほど昔の話なので直接見たわけではありませんがね」

 

…なに?

…いま、なんといった?

澤崎団長はなんといった?

 

カイオスは耳に入れた情報を頭の中で整理し直す

 

過去のこと、200年ほど過去ならば、我がパーパルディアは、そのブリタニアなる国と僅かながらに戦えたという

それだけでも強大なる国であることが窺える。信じがたいが、ブリタニアなる国はパーパルディアを上回る国力を"持っていた"のだ

 

では、今はどうだというのだ?

 

 

「彼の国は無尽蔵とも言える国力をお持ちでしてね、80年ほど前に、我が国はそのブリタニアと互いの命運をかけて戦いましたが、やはり勝てませんでした。太平洋戦争と呼ばれる大きな犠牲を払った末に1年間も続いた無為な戦争の勝敗は、五分の引き分けに終わり、そのまま終戦を迎えました。以後ブリタニアとは短期間を険悪な時期として過ごしましたが、今では背を預け合う最も重要な同盟国となっています」

「……は、はは、それは、貴国も大変な歴史を歩まれてきたのですな、大東洋にはまだ見ぬ国があるのですな……」

 

カイオスの顔がひきつる。大東洋にそんな国はない。あるのはどこまでも続く恐ろしく広大な終わりなき大海原だけのはずだ

それが、現実には大日本帝国やブリタニアというような国が存在し、日本はそのブリタニアなる200年前にはすでにパーパルディアを超えていた大国と、80年も昔に戦い、引き分けたという

そんな話は聞いたことがない、しかし現実に日本は存在している。だが、200年もの昔にパーパルディアを超えていたという国と引き分けた日本は、では今はどうなっているのだ

大日本帝国の技術水準は最低でも我がパーパルディアの200年先を行き、かつての日本もかつての日本で、パーパルディアが足元にも及ばない国力を誇っていたのではなかろうか?

 

ぞわり、背中に汗が浮かび上がる

 

港で見た空中戦艦と、KMFという鉄のゴーレムのような戦闘兵器。エストシラント沖に停泊中という鋼鉄の艦隊や、音の速さを凌駕する飛行機械

 

自分はあの港で見た空中戦艦とKMFを日本軍の一部だと思っていたが、沖合いで停泊している鋼鉄の艦隊もまた日本軍全体のごく一部なのではないのだろうか

 

思えば、日本の事は何も知らない。自分よりかは知っているだろうレミールでさえその詳細については情報開示されていないために知らなかったはずだ

第1外務局も何もつかめてはいないはず

ますますもって日本という国の不気味さが増していく

いま、触りを明かされた範囲での話が真実であると仮定して、日本はブリタニアという国と共に大東洋に存在する

技術水準の最低ラインが皇国の200年先にある

200年前にはすでにパーパルディアよりも強大であった国と80年前に引き分けている

 

……駄目だ、考えたところでとても理解できない

 

日本がとてつもない科学技術大国らしいということだけはわかったが…。まあ、焦らずともレミールが取り仕切る交渉で全貌は明かされるだろう

そして、いまの話を聞いて他にわかったことが一つ

 

日本は意図的に自国の情報を隠していたのだ

 

パーパルディアとの国交開設交渉を取り付けるために、その権限を持つ誰かと懇意となり国交締結への道筋をつけるためだけに、遥か格下のパーパルディアに土下座したのだ

そして見事パーパルディア皇族レミールという強い権限を持つ人間との接触に成功した

始めから、あの地に頭を擦り付ける無様な交渉の仕方から計算ずくだったわけである

 

 

カイオスは思う

なんと強かで油断ならない国であろうかと

 

格下への土下座。それはパーパルディアの気質を調べあげていたから行ったのだ。文明圏外国と見なせば蛮国として見下し、まともに相手をしない国だとの事前情報を得ていた上で、それでも平和的に国交を結ぶため、外務局で噂になるほどの恥も外聞もない交渉をしてきたのだ

そしていま、それを止めるときが訪れた

港で感じたそれはもう普通の姿であった。いつもレミールに頭を下げていた平身低頭だった朝田の姿は、普通の外交官の姿にたち戻っていた

我慢の時は終わりだと言わんばかりに

外交官は強かでないと務まらないが、朝田は見事日本の意向に沿うよう自分の仕事を努めあげたのだ

 

レミールとの個人的な友好もあると聞き及んでいたが、それは朝田にとっても想定外であったのだろう

一友人として接することのできる相手があの傲慢で冷酷なレミールにできるとは思わなかった

それも良い意味で日パ外交のプラスとして働いている

朝田とレミールが個人的に親しくなっている以上は、レミールもルディアス皇帝の意思に沿った無茶を日本に対してしたりはしない

それどころか、自らが日本についてのことを知ろうと積極的に動くほどなのだ

その上で、日本への対応を考えたに違いない

ルディアス皇帝の意向に逆らってまで

 

これらを仕掛けたのは誰かと考えるカイオスは、ふと日本財務担当官に目をやった

 

丸い眼鏡をかけた、表情の乏しい素朴な男だ

威張るでも居丈高になることも、へりくだることもなく、ただ、VTOLよりパーパルディアの地に降り立ったときから一切態度を変えない、感情を図りがたい男

澤崎団長は明らかにこの財務担当官の男に気を使っている

もしかしたら、この財務担当官という男は官房長官である澤崎団長よりも上位の立場にある人間なのでは

 

いや、考えても仕方のないことだ。思考を切り上げるカイオスは、間も無く到着する皇宮で待つレミールと共に、日本との交渉を何としても成功させなければと決意を新たにしていた

 

 

 



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小さな幸せ5-2

 

 

小さな幸せ5-2

 

 

パーパルディア皇国皇都エストシラント沿岸 エストシラント港海軍基地

 

皇都北側の陸軍基地と対となる、この海軍基地は、第三文明圏で最大規模を誇る港湾、エストシラント港の半分を割り当てられている。その総数600隻あまりの戦列艦や竜母がひしめき合う様相は、まさしく第三文明圏最強というに相応しい形を成していたが

その港湾施設の屋上で、港湾沖合いや、港湾上空を仰ぎ見る海軍提督バルスの顔色は、けして良いとは言えなかった

 

「マータルよ、もしも、もしもあれらと相対したとき、我が海軍は、いや我がパーパルディア皇国軍は勝てるか?」

 

彼の隣に立つ、皇国最高の頭脳と名高い作戦参謀マータルは、振られた話題に空を仰ぎ見る

 

「わかりません。古の魔法帝国のような空中戦艦を相手に戦うなど、熟考したこともありませんので。ただ、あれら空に浮かぶ戦艦4隻が沖合いよりエストシラント港上空へ入港してきた速力からして、下限で時速400㎞は出ています。最大船速ならそれよりも速いと考えるに、ワイバーンオーバーロードを以てしても戦いには着いていけないでしょう」

 

空には4隻の戦艦と、40体以上の鉄のゴーレムが浮かんでいる

エストシラント港を見下ろす形で浮かぶそれらは、ただそこにあるだけで動きはない

 

「あれらはムーの戦艦ラ・カサミクラスを軽く上回る巨体をしています。ラ・カサミが相手でも海戦は普通に戦えば負ける可能性があります。ましてや、130m級の鋼鉄艦ラ・カサミよりも巨大な200m級の鋼鉄の空中戦艦などが相手ではシミュレーションしようにもできませんので…。それに、あの艦隊の周囲に展開するゴーレムも、そのどれもが巨大な銃を装備しています。あれらがどれほどの能力を持つのかもわかりません。はっきり言って比較対照が存在しないため、正確な戦力分析ができません。基準となるとすればそれこそ古の魔帝くらいのものでしょう」

「古の魔帝か…」

「はい。沖合いを偵察に出ていた、今も日本軍への警戒監視にあたっている竜騎士隊よりの魔信からも次々と同じ報告が寄せられています。音よりも速く飛ぶ飛行機械や、300mを超える巨大な戦艦の存在、同じくらいに大きな竜母の情報に、200隻からの鋼鉄艦艇の話が。戦闘艦艇と思われる船に限れば100隻ほど。そのどれもが300m級戦艦の持つ巨砲に比べれば小振りながら、皇国を基準にすれば大口径砲となる砲を1門のみ搭載しているそうです、たった1門ですが、あの空中戦艦の存在を考慮するに、砲以外の何かがあると睨んだ方が正解でしょう。例えば、やはり魔帝が使用していたとされるような誘導魔光弾のような兵器があってもおかしくありません。現に空中戦艦などを作り上げてしまうような相手ですから」

「むう、では勝てぬか」

「巨大戦艦2隻、鋼鉄艦100隻に、更に空中戦艦12隻、音よりも速い戦闘機械、鉄のゴーレムや戦闘用もあるらしい鉄の箱、これらを相手にしては、皇国の総力をあげたとしても恐らくは一方的な負け戦となるかと。正直なところ、いまこの目で見ているからこその分析です。目にしていなければ私は鼻で笑い飛ばしていたかもしれません」

 

マータルの言うとおり、誰もが信じないだろう

いま挙げた話は全てが虚偽と遜色ない話だ

自分の目で見て、マータルのように理解して始めてわかることなのだ

 

「しかし、陛下はなんと仰せになるか。あの空中艦隊はパラディス城を見下ろす高さに停泊、滞空しているからな」

「この世界は弱肉強食ですからね。結局力を見せなければなにも動きません。正直、あの空中艦隊が来ていなければ、中天の砲撃が無ければ、陛下はいつもの蛮国への教育として日本を侮り、一方的な命令を下していたのかも知れません。それでもどうなることかわかりませんが…」

「マータルよ、いまの言葉はこの場限りにしておけよ?誰ぞの耳にでも入れば不敬罪で死罪もあり得るからな」

「は、はい、言葉が過ぎました…」

 

 

皇都エストシラント

 

 

皇国民たちは中天に差し掛かったあたりから、ざわめきの声をあげていた

耳を貫く豪雷のような轟きと共に、エストシラント港沖合いに巨大な水柱が立った

港に水柱が立つ。それはたまにある。皇国海軍が演習や新型砲を開発した時などに港の沖合いで砲を撃つからだ

しかし、今日の昼、海上に立ち上がった水柱は今までに見たことがないほど巨大であった

水柱は優に皇国のパラディス城を丸ごと呑み込んでしまうほどに大きく太く、その頂点は数十mの高さまでに達していた

続いて、港に向かい沖合いから飛翔してきた空を飛ぶ戦艦の姿に皆が皆、腰を抜かすほどの驚愕に包まれてしまった

 

「何なんだあれは!」

「港の方から戦艦が空を飛んで来る!」

「魔帝の侵略か?!」

「いや、なんでも今日日本という国が皇国と国交を開設するためにちょうどこの時間帯に訪れるとかいう話を聞いていたぞ…」

「そんな馬鹿な!文明圏外の蛮国があんな魔帝のような空中戦艦を持ってるわけがない!おとぎ話じゃないんだ現実なんだぞこれは!」

「日本は皇族レミール様を相手に土下座外交をしていると外務局の知り合いに聞いたが?」

「いや、俺は日本の外交官に対してはレミール様がかなり懇意にしていると聞いたが…」

 

皆が共通した話題で盛り上がり、古の魔法帝国の侵略ではないか?

日本が攻めてきた!

日本は皇国に友好を求めていると聞いた

と、どよめき、皇都エストシラントは騒然としていた

 

 

エストシラント沖

 

 

パーパルディアの竜騎士レクマイアは愛騎に騎乗しながら、エストシラント沖合いの上空より海面を見下ろしていた

レクマイアだけではなく、幾人もの竜騎士たちが、海面を見下ろしたり、上空を見上げたり、同じ高さを眺め見たりしていた

 

「何度見ても信じられない。全てがムーのラ・カサミよりも大きい鋼鉄艦なんて」

 

特に、2隻だけ存在する超巨大戦艦はその存在感が圧倒的であった

前部甲板の中央に備え付けられた三連装の巨大な砲が2基、エストシラントの方角へと向けられている。後部甲板にも1基3門の同じ砲がある。他にも幾つもの砲が水平へ上方へ向けられている。甲板の開いた場所には無数の蓋のような何かも設置されており、砲ではない何かが他にも有ることを示していた

 

「あれ1隻でも皇国では対応できる戦力がない。あんなものに攻め込まれたら、あんな巨砲を何発も撃たれたらエストシラントが灰になるぞ」

 

巨大戦艦と同じくらい大きく、そして戦艦よりも広大で平らな甲板を持つ竜母には、先程より警戒のためだろう、時折飛行機械が飛び立っては、艦隊上空を旋回している。旋回しながら時にこちらへ合わせるように飛行し、飛行機械の窓に見える人影が挨拶のような手振りをしてくるのがすれ違い様に見えた

4隻の超巨大竜母の周囲には無数の戦艦群が円陣を組み停泊している。他にもその4隻ほどではないが皇国艦から見れば巨大にすぎる竜母が何隻もある

その竜母の護衛だろう戦艦群には1門だけの砲が搭載されていた。他に武装は見当たらない

巨大戦艦の巨砲に比べればずっと小さいが、それでも大口径と呼べる砲はあの1門で何ができるというのだろうか?

もしも日本軍が皇国を攻めるつもりならばあの巨大戦艦だけで事足りてしまいそうだが

何となく気になったのは、その戦艦群にも巨大戦艦と同じような蓋のような物がたくさん搭載されている点だ

あの蓋のような物にはなにかある、レクマイアの危機意識が告げていた

1門しか砲が無くとも1隻1隻が恐るべき力を秘めている可能性があると

 

更に空に目を移すと、8隻の戦艦が空を飛んでいる

 

「反則だ、戦艦が空を飛ぶなんて伝説上の話だろう…、なんであんなのがあるんだ」

 

200mもの巨大が空を飛んでいるのだ。船体には砲が幾つも据えられている

海上艦隊ほど大型の砲こそないが、小さいとも言い難い

12隻いた空中戦艦のうち、4隻はエストシラントの方に飛行していったが、残りは海上艦隊の上空で待機しているようだった

 

その空中戦艦の周りには、空中戦艦から飛び出してきた5mほどの体長を持つ鉄のゴーレムが無数に浮かんでいる

中には空中戦艦に張り付いている物もいたが、殆どは交代交代に空中戦艦の周りを飛び交っていた

こちらも速い、ワイバーンオーバーロードよりも明らかに速い

 

レクマイアは強い敗北感に教われていた

皇国側のワイバーン部隊も100騎単位で警戒にあたっていたが、あれら全てにとても勝てそうにないのだ

飛行機械もゴーレムも、速力、旋回能力、機動力どれを以ても皇国側を軽く圧倒している

どの様な武器を持ち、どの様な攻撃法を行うのかはわからないが、いざ開戦などとなれば、瞬く間に撃墜されてしまう光景しか思い浮かべられなかった

 

 

 



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小さな幸せ6

 

 

小さな幸せ6

 

中央暦1639年6月22日正午過ぎ 第3外務局会議室

 

パーパルディア皇国皇都エストシラントの港沖に着弾した中天の大砲撃

および空中戦艦により編成された艦隊の入港のあと、「古の魔法帝国の復活か!魔帝からの侵略か!」と騒然とする皇宮を足早に去ったレミールは、急ぎ皇宮から離れた第3外務局へと出向し、同外務局の会議室に足を運んでいた

 

通常、彼女を含むパーパルディア皇族が出向するのは、エリート部署である第1外務局である

如何なる国が相手であろうとも第1外務局内での外交交渉相手は列強国である、神聖ミリシアル帝国・ムー・エモール王国・レイフォルの4ヶ国に限られており、どの様な国であれ、それが新興国や中小・文明圏外国である以上は、第3外務局での応対・面接・会談とするのがパーパルディア皇国の決まりごととしてある

これにより、今回の例外中の例外を除けばそうそうパーパルディア皇族が蛮地を相手取る第3外務局に出向くことはない

 

しかし、パーパルディア皇族レミールは視てしまった

視てはならないものを、常識の埒外にあるものを視てしまった

 

とうとう日本の文明力の一端を垣間見た

レミールの目にしたそれは、皇宮からも見える沖合いの戦艦群の姿と、エストシラント港上空に入港してきた4隻の空中戦艦の存在だった

 

戦艦が空を飛んでいる。空を飛ぶ戦艦を保有する国

皇宮に詰めている者たちや、エストシラントの臣民たちが騒ぐような、神話に登場する古の魔法帝国ラヴァーナルの保有していたとされる物と何ら変わらぬ物を平然と持ち出してきた国、大日本帝国の真実の一端を

 

今までは、この日までは、日本外交官朝田の平伏姿勢をよしとしてきた

レミールは彼の外交官とは割合多くの時間を過ごしてきた

列強を相手取ることが本来の仕事ながら日本外交を自分預かりとしていた為に、全くの放置もできないとして、というのが彼女が日本重視に傾いていた表向きの理由だった

だが、本当の理由としては、ムーの大使ムーゲより日本の情報を得てからというもの、事を慎重に進めることで、文明圏外の蛮国である日本に皇国流のいつもの躾をしようとしない彼女のその煮え切らない態度に苛立ちを覚えていたらしい、皇帝ルディアスより与えられる重圧から、重くなりつつあった心を解放できる場所を探していたというものがある

 

幸いにも朝田は初対面からずっと平伏姿勢を崩さず、それでいて聞き上手な男であり

日頃溜め込んでいた色々な物をぶつけるにはちょうど良い相手とも言えた

 

性格上、文明圏外国を相手取る時には一切の容赦無く自らの思うままに振る舞う自分に対して、それでもこれまで朝田は嫌な顔一つせず付き合ってきた

 

 

レミールは蛮族は好きではない。はっきりと言えるが蛮族は嫌いである

 

不潔で汚ならしく、列強の皇族たる自分に対しての礼儀や作法もまともに知らない文明圏外の蛮族を、レミールはどうしても好きになれなかった

ところが、文明圏外の人間でありながら、彼の朝田はいつも清潔でぱりっとしており、礼儀をわきまえ、ひたすら平身低頭な姿勢を崩さずに、その上で欲しい言葉を返してくる

毎日のように国交についての交渉を進めながらも、日常的な談笑ができるようにまで仲を深められたことは、今にして思えば幸運だったと言える

 

だが、彼は日本のことについては「使節団よりの正式な訪問までは」と、頑なに話そうとはしなかった

当初は列強たる皇国への遠慮や配慮、礼儀の一つとしての態度だろうと考えていたが明らかに違った

ある時、「レミール様も普段は列強国をお相手なされているとお聞き致しております。何かにお役立てください」そう言って、ボタンの様な物がたくさん付いている平らな物を贈られたのだ

デンシケイサンキ、いや電子計算機というらしいそれは、聞けば10数桁の計算が数個のボタンを押しただけでできるという

そんなものが有るわけがないと思いつ、使ってみると、電子計算機の上部にある窓に角ばった黒い数字が浮かび上がり、朝田の説明通りに使ってみると、本当に10数桁の計算が可能な品物であることがわかった

いったいどういった構造をしているのか?どのような魔導を用いて動いているのか?聞いても朝田は魔導ではなく科学だというのみで話が進まない

 

科学技術のみでその電子計算機を作るなど、科学技術大国ムーにも不可能ではないか

 

結局話は進まないわけだが、わかったことはあった。日本は自国に関する詳細を皇国に対して意図的に隠している

朝田の言うように、使節団が到着するまでは日本の詳細については判明しないだろう

ならばと、レミールは朝田よりもらった電子計算機を皇国の頭脳集団、先進兵器開発研究所、通称・兵研に調べさせたが、ここでもまた「わからない、どうすればこんな超技術の塊を魔導すら使わずに作れるのか」といった、答えが返ってくるだけであった

電子計算機をもとに戻させ、使える状態には復帰した物の、パーパルディアで同じものは作れないという

そこで甦ったのは、やはり彼女自らが動いて日本についての情報収集を行う中で得たムー大使のあの言葉であった

 

『ムーやミリシアルを超える科学技術超大国』

 

そんなこと、と疑いながらもレミールはムーの大使が汗を流しながら話していた日本へは慎重にあたってきた。他の文明圏外国と同一として扱うのは危険だと判断して

 

 

朝田との仲も良好で、気の置ける友人から、或いはそれ以上の好感を得るような間柄にまでなっていた

 

朝田は実に好ましい男であった

 

ルディアス皇帝が自分の話をまったく聞いてくれないという、酔いに任せての私的な愚痴に夜遅くまで付き合ってくれ

日本の事こそ話はしてくれなかったが、寂しさを感じていた時には公務外での付き合いもしてくれていた

 

その中で、何度か「文明圏外の国をして蛮国や蛮族と決め付けるのは良くないですよ」という言葉も受けていた

「相手も人間、現にレミール様の仰る不満をこうして聞き、相談に乗れる文明圏外の人間もいるのですから」と

 

これには、列強の皇族たる自分に対して無礼であろうと彼女も怒りも覚えたが、色々と話を聞いてくれる朝田という存在は確かに文明圏外の人間だということで、怒りは沈静化していった

とくに、彼女自身の性格上、親しく話せる友人と呼べる存在がいなかったことも大きいだろう。その親しく話せる相手が偶然にも文明圏外国の人間であった

 

文明圏外を文明圏外だからといって一括りに考えてはならない

 

そうなのかもしれない、文明圏外人も言葉の通じる人間であることには違いないと、他ならぬ文明圏外人の朝田に諭された

 

 

その朝田が寂しさを埋めてくれるように傍らに居てくれた。レミールにとっては見下す存在でしかない文明圏外の人間が、よもや自分に暖かさをもたらしてくれようとは露ほども考えていなかった為に、自分の中の文明圏外人への認識が、ほんの、ほんの少しだけではあったが、変わったようにも感じられた

相手が日本、相手が朝田であったからなのかも知れないが、それでも文明圏外の人間を始めて「今までのように野蛮な猿ではなく、人間として見てやってもよいかもしれぬな」そう思えた瞬間でもあったのだ

 

連絡を取り合いやすくする為のホットラインとして、魔導通信と似通いながら、魔導を一切使っていないらしいムセンキ、無線機なる物も渡された

この無線機も念のためにと兵研で調べてもらったが、こちらも電子計算機同様に原理のわからない超科学の産物であることがわかった

この無線機を使い、レミールは朝田とのやり取りをしていることがままあった。ルディアス皇帝の手前、皇宮には持っていけず、私邸に置いてあるために、もっぱら私用でしか使っていないが、朝田、ひいては日本とのコミュニケーションの道具として重宝している

 

ただ、もちろん、レミールと朝田個人との仲が良好だからと言って、パーパルディアと日本との仲までもが良好になるわけではない。理解しつつも、この一月、全ては順調に進み来たように思えた

一点、彼女がルディアス皇帝の信頼を失い不興を買ってしまっていることを除いては

 

日本へは慎重に、日本は重要な相手国となる可能性が高い、直接手に触れ、その手で使い、おぼろ気に見えてきた日本の科学力に不安を掻き立てられてもいたレミールはそう皇帝に説いた

だが、説けば説くほどにルディアス皇帝は文明圏外国を相手にするレミールを適当にあしらい続ける

 

仕方がないことなのだろう。彼女自身も文明圏外の国を相手に何をしているのだと考えていたのだ

 

無論、論じるまでもなくムー大使の話や電子計算機・無線機の存在、朝田の人となりからして、最早日本が蛮族の治める蛮国というのは逆の意味であり得ないと気付き始めていたが

刻一刻と、日本使節団の皇国訪問が近付くにつれ不安が鎌首をもたげ、焦燥感が募る。日本とはどの様な国なのか。日本とはパーパルディアを遥かに超えた想像も及ばない様な国なのではないだろうか

不安故に朝田と話をせずには居られなかった

 

 

日本との繋がりはどうしても確保しておきたい

いま、皇国で日本と最も繋がれる相手は朝田しかいない。その朝田を私邸に招待したり、とにかく友好的に接し続けた

朝田と話せば話すほどに私的な繋がりは強くなれども、まだ見ぬ大日本帝国という、恐らくはかなりの大国だろう国への危機感が増していく

 

レミールの所属している外務局監査室はもとより、第1外務局もこの頃になると日本を正確に図り始めて、自分を通じたりしながら日本という国を文明圏外に存在する大国として扱うようになっていた

外2、外3も同様だ。外3局長カイオスなどは、いま皇国で日本を最も知っているだろうレミールのところにも質問に来ていたほどだ

 

実際のところ、日本とは如何様なる国なのかと

 

しかし、レミールも日本の詳細は知らないので尋ねられたところで答えようもない

朝田との仲は良好であるとだけしか答えることはない

それ以外ではムーを遥かに超えた科学技術文明国家の可能性がある、それだけをカイオスに伝えていた

カイオスもカイオスで自身の情報網を使い日本を調べあげていたようだが、大東洋にある国という以外の詳細はわからなかったのだろう

ただ、レミールの、こちらの話を聞いている間に、日本への対応を間違えば大変なことになるといった危機意識だけは抱いたようだが

 

そして、いまレミールは自分の判断が正しかったことを、己で目にした事象により感じていた

 

 

沖合いよりの砲撃により判明した、軽く数十㎞は届いてしまうような射程を持った60㎝という超大口径巨砲を備える、この世に有らざるべきというほどに考えられないほどの巨大な戦艦

 

ムーの誇る全長130m級の巨大戦艦ラ・カサミクラスを超える巨体を持つ空中戦艦と、やはりラ・カサミを軽く超える巨体を持つ海上に停まる鋼鉄戦艦の艦隊

 

音を遅らせて飛び交うという、音の速度よりも速い飛行機械

 

空中戦艦を取り巻くように待機する鉄の巨人群

 

続々と入ってくる魔信よりの報告もあわせて、レミールは日本の存在を重くとらえて正解であったと悟っていた

 

 

「し、失礼します、レミール様はいらっしゃいますでしょうか!」

 

レミールが待つ会議室の扉が開く。飛び込んできたのは第1外務局のエルトだった

彼女もこの度の対日本との会談に出席する予定である

 

「どうしたのだエルトよ」

 

すわ日本の外交使節団が到着したのかとレミールの緊張感が増す。声にも態度にも緊張を見せず応対したが内心は恐怖と不安でいっぱいいっぱいであった

だが、エルトの報告はそんな危惧とはまったくの別物であったのは幸いなことなのか否か

 

「お、畏れながら皇帝陛下よりの勅命です」

 

陛下の勅命。日本からの何かではない、見聞き知る皇帝陛下よりの命令に安堵する自分がいたことに、レミールは不可思議な考えを抱いていた

不可思議なでありながら、安心する奇妙な感覚と共に

 

「陛下の勅命だと?申してみよ」

 

しかし、それは次なるエルトの言葉により否定されてしまう事となる

 

「は、陛下よりのお言葉です。レミールに告ぐ、日本使節団へ伝えよ。我がパーパルディア皇国と国交を開設したくば力を示せ。新型艦艇との交替で退役する売却予定の余剰艦艇100隻あまりを日本が処分することで日本の力を示してみせよと」

 

日本の力を示せ。単純で明快なる弱肉強食の指標だ

この世界は力ある国が繁栄を謳歌する

パーパルディアがそうしているように、中小文明圏外国は一方的に隷属させることが常識だ

日本は文明圏外国、隷属させるべき国、これが本来での常識であった

 

 

しかし、日本とは常識では図れない存在であった

悔しいが、神話の魔帝のような戦力を持つ日本を前にしては、皇国の側こそが下の立場となってしまう

それを皇帝ルディアス陛下はあくまでも皇国が上であるという考えのもとに、日本を図ろうとしているのだ

 

「バカなっ!陛下にはあのエストシラント港の上空に浮かぶ巨大な戦艦4隻がお見えにならないのか!中天の砲撃の轟きにお気付きではないのか?!」

 

誰もが視たはずだ。エストシラントに居る人間の誰もが轟音を聞き、水柱を視、空中戦艦を目にしている

パラディス城を見下ろすようにして滞空している空中戦艦が、まだそこにある事を

 

「もちろん、陛下もお気付きです。ただ、レミール様も存じ上げておられる事と承知しますが、日本の戦艦は2隻の巨大艦や12隻の空中戦艦を除いてほぼ全ての戦闘艦艇が砲を1門しか搭載していないとのこと。1門しかない砲など脅威とならない、陛下はこうお考えでして。国交開設条件として100隻の余剰艦艇をどの様に処分し力を見せるのか。或いは皇国の要請を断るのかを見ておいでなのです」

「それで日本が断れば」

「弱小国として、通常通りにご教育なさると」

 

通常通り、ルディアス皇帝の御意志に沿い、レミール自身が行ってきた、蛮族への躾である

日本に対して行えという

 

「……エルト、お前の意見を聞きたい。日本は、あの魔帝のような戦力を繰り出してきている日本は弱国か」

「……いえ、先ほどこちらへ向かう途上で皇国軍最高司令官のアルデ様と話をして来たのですが、彼の方の軍事の専門家としての意見として、1門のみの砲を持つ魔導艦には砲以外の何かが必ずあると仰っておいででした。その指標となる物は魔信より入ってくる巨大艦の情報だと」

「エストシラント港沖を砲撃したらしいあれか」

「はい。日本の朝田外交官よりの話と、沖合いを警戒飛行している竜騎士隊の報告が虚偽ではないのならば、彼の300mを大きく上回る船体を持つ巨大艦にはムーのラ・カサミクラスの持つ主砲の2倍程度の大口径砲が3基9門備えられております。その他にも多数の大口径砲が搭載されているとのこと。では、何故そのような巨大艦を作れる日本が、その他の艦艇には砲を1門しか搭載しないのか?そこには必ず何かの理由があるはずだとアルデ様は仰っていました」

「砲以外の何か?」

「アルデ様は日本の空中戦艦を例に、やはり魔帝が使っていたと伝説上に残されている誘導魔光弾の存在を疑っておいででした。それに、その1門の砲自体にも何かあるとお考えのようです……私個人の、この場限りでの不敬な発言として内密にお許し下さるのでしたら、見解を述べさせていただきます」

「よい、皇族レミールの名の下にこの場限りの言葉として聞こう」

「は、では、私個人の見解は」

 

日本は、大日本帝国は、我がパーパルディア皇国よりも強大な国である可能性がほぼ確実です

 

エルトの見解を聞いたレミールも、同じ事を考えていた

どのくらいの強さかは不明ながら、無敵・不敗の皇軍だが、日本軍と戦えば、敗けると

 

「中天の砲撃、あれは優にパラディス城全てを呑み込んでしまうほどの水柱を立てていた」

「……」

「エストシラント港沖に着弾していたが、本当にそこまでしか届かぬものであったのだろうか?私は恐ろしい考えを抱いているのだ。とても信じることなどできはしないが、恐らくあれは、エストシラントまで届く、……皇城にまで届くのではないかとな」

「私もレミール様と同様の考えを抱いておりました。あれは礼砲ではなく、この手は皇城まで届くぞと示すための威嚇だったのではないかと。北方のリーム王国あたりが皇国を相手に威嚇してきたとしたならば、ただの蛮勇であると私は一笑に付していたところでしょう。あれだけの物を持ち出されていなければですが」

 

言外にあれは違うとエルトは言う

彼女の意見とレミールの意見は完全なる一致をみていた

 

日本を皇国の敵にしてはならない

 

 

 



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小さな幸せ6-2

昨日の続きです
ユフィルートしげちー×日本国召喚クロス


 

小さな幸せ6-2

 

 

エストシラント港から少し

 

「馬車は初めてなのですが、結構揺れるものなのですね」

 

使節団長の澤崎が少し乗り心地悪そうな様子で世間話のように話した

実際問題、石畳が続く路上を走るので、車体がかなり揺れる

 

「澤崎さんは車酔いはなさる方ですか?」

 

財務担当官の丸い眼鏡の男が澤崎に尋ねている

 

「いえ、私は割りと平気な方なのですが、ここまで揺れると酔わないとは言い切れませんな。閣下は?」

 

なに?閣下だと。カイオスの耳に入った単語に彼は日本使節の様子を伺う。官房長官だという澤崎が、ただの財務担当官をして閣下と敬称を付けているのだ

合流してよりこちら、確かに澤崎は丸い眼鏡の男に気を使っていた

共に馬車に乗り込んだ朝田も、明らかに澤崎よりも上位者に対して接するような緊張した態度を隠さない

この財務担当官という男はやはり日本のかなりの上位者なのだろう

肩書き上、澤崎が使節団の団長を名乗っていたが、この男こそが真実一番上の立場なのかもしれない。カイオスは考えながら身を引き締める

 

「この分だと緩衝の為としてのサスペンションは売れそうですね」

 

財務担当官はなにげに呟いていた

しかし、馬車の中の談笑風景とは違い

 

キュイイイー

 

外から聞こえるかん高い音に内心の震えが止まらない

 

馬車の窓から見える、馬車に並走するあるものに、カイオスは目をやった

 

蒼と白にカラーリングされたそれは、港で視た鉄のゴーレムKMFだった

澤崎や財務担当官といった使節の護衛として、2体が馬車に並走して付いてきているのだ

カイオス同様、街中の臣民たちも興味深げに、戦々恐々とその2体の姿を眺めていることがわかる

 

「気になりますか?」

 

財務担当官が尋ねてくる。まるで心の奥底までを見透かされているかのような寒気がした

できる政治家といった澤崎よりも余程底知れない男、財務担当官辻正信に、唾を飲み込みながらカイオスは思うところを伝えた

 

「はっきりと言わせていただくのでしたらば、その、気になりますね。どういった原理で動いているのかも含めて」

「やはり気になりますか。まあ、あんな金属でできた機械仕掛けのゴーレムを目にすれば嫌でも気にはなるものかもしれませんね。KMFは我が国では日常的にありふれた存在なのですが、こちらの国々には無いようですから」

「あれが、ありふれた存在なのですか」

「ええ、工事の現場でも作業用として使われているような、どこにでもあるものです。外を並走している2騎は戦闘用のものですが」

 

 

「な、なるほど」

 

戦闘用のもの。正しく護衛騎としての意味でつけてきたものだと理解した

あれ1体でどれだけのことができるのか?

興味はつきないが、体高5mほどの鉄のゴーレムが暴れまわる姿は正直見たくない

細い外見ながら、日本のこと。外見からは想像もできない力を持っているのかもしれない

巨大な銃や、剣も備えている

 

「並走しているのはウィンダムと言いましてね。現在我が国の陸海空三軍で使用されている主力KMFです」

 

兵器用の資料を手渡された。上質な紙に書いてあるそれは、外を並走するKMFの性能のようだ

 

第7世代量産型KMF ウィンダム

全高:5.02m

重量:8.47t

推進機関:ジェットストライカー=フロートシステムおよびランドスピナー

兵装:高周波ブレード×2

ヴァリス×1

ハドロンランチャー×1

スラッシュハーケン×4

12.5㎜電磁機銃×2

2連装多目的ミサイル

ブレイズルミナス

 

大陸共通言語で書かれたそれを読んでみたが、なにがなにやらよくわからない、意味不明のものだった

不明ながらも感じ取れたのは、これはゴーレムなどといった生易しいものではないということだ

ふと考えてしまう、皇国の陸戦兵器である地竜リントヴルムとどちらが強力なのかと

 

いや、考えても仕方がないか。空を飛び、あんな巨大な銃を撃ち放ってくる相手

マスケット銃ですらリントヴルムを倒せるのだ

これを考慮するなら、あのKMFの装備しているような巨大な銃からの銃撃をリントヴルムが受ければただでは済むまい

 

「あれは、貴国には何体、いえ何騎あるのですか?機密ならばお尋ねしても仕方がないことですが」

 

聞いて後悔した

 

「ああ、機密ではありませんよ。我が国ではそこらの書店でも保有騎数の載った本が販売しておりますので、失礼、KMFの保有数でしたね。現在予備騎まで含めるなら2万3千騎あまりを陸海空三軍で運用中です」

「に、2万…」

 

言葉を失う。多すぎる

どれだけの戦闘力を持っているものかはわからないが、空中からも攻撃可能らしいあんなものを2万体も

そんなものを相手にして皇国に勝ち目は…

 

「し、主力陸戦兵器として大量配備をなされているのですな」

 

尋ねてまた後悔した

辻財務担当官は答えた

 

「いいえ、主力陸戦兵器はKMFの他に、帝国陸軍所属のVTOL、私どもが港に降り立った時の戦闘用のものが数千機、あとは戦車、戦うための装甲自動車両ですが、その戦車を含めた装甲戦闘車両が7万3千両あまりです」

「はぁっ?!」

「如何なさいました?」

「い、いえ」

 

単純な陸戦可能兵器が10万あまり

VTOLは直接目にしているので知っているが、自動車とはムーやミリシアルで見掛けたことのある陸を走る機械仕掛けの馬車のことだろう。あれの戦闘用車両が7万両もあるという

カイオスは絶句するしかなかった

 

 

衝撃を受けるばかりの情報を耳に入れながらも、皇宮から少し離れた皇国第3外務局へ到着したカイオスは、日本の外交使節団団長澤崎淳と

日本国外務省職員朝田泰司、財務担当官の辻正信の三人を連れ、第3外務局会議室へと彼等を伴い歩いていく。KMFは外で待機していたが、いつでも戦闘可能な臨戦態勢にあった。

 

 

第3外務局会議室

 

 

 

扉をノック。室内より聞こえた声に答えるように扉を開いた

 

常時なら局長自らが文明圏外国の外交使節を迎えにいき、自らが国交開設の協議をするための扉を開いたりはしない

これは特例だった。傲岸不遜なレミールをして努々失礼の無いように案内せよと言うほどだ

無理もない話であった。まさか古の魔法帝国が保有していたような空中戦艦や、鉄のゴーレムKMFを出してきたり

恐怖さえ覚えそうなほどの巨大な水柱を立てさせる砲撃を行う相手だ

そこらの職員を寄越して非礼があっては皇国の危機を招きかねない

 

「大日本帝国外交使節団の方々をお連れいたしました」

 

室内に入ると、皇国側の席に座る二人の女性のうち、冷たい印象を抱かせる20代後半くらいの美しい銀髪の女性が、カイオスに声をかけてきた

 

「出迎えご苦労だったカイオス。日本の方々、遠路遥々よくぞ参られた。私はパーパルディア皇国皇族、外務局監査室のレミールという。現在は貴国との国交開設交渉担当として出向してきている」

 

初対面だというのにも関わらず高圧的だが、これが彼女の普段通りの対応である

と、彼女をよく知る朝田は澤崎、辻に小さく耳打ちをする

 

「第1外務局局長エルトと申します、よろしくお願いします」

 

常に冷静なエルトが焦りを見せていることがわかる

 

「第2外務局局長のリウスも本協議に出席の予定だったのだが、私や第1外務局局長エルトが抜けているために外務局の仕事に穴が開いてもならないという理由から、私たちだけとなった」

 

レミールもそうだが、二人ともに冷静なように見えて、何処か焦っている様子だった

自分が居ない間に何かあったのだろうかとカイオスは疑念を抱いた

 

「まさか列強パーパルディアの皇族の方が御自ら交渉とは驚きました。いや、失礼を。わたくしは大日本帝国現内閣枢木政権で官房長官を務めております澤崎淳と申します。この度の貴国との国交開設交渉にあたり、外交使節団団長に任じられました。以後よろしくお願いします」

 

老獪で、できる政治家といった風体の澤崎団長

 

「この度の使節団派遣における財務担当官を務めております辻正信と申します。使節団の殆どは貴国沖合いにて待機しております。領空領海をお借りして申し訳ありませんレミール殿下」

「いや…よい」

 

澤崎よりも少し歳かさな様子の辻財務担当官

 

「大日本帝国外務省職員朝田泰司です」

 

最後に、最早レミールとは顔馴染みである朝田が挨拶をしたところで、日本側の面々が席に着く

彼等が席に着いたところで、日パ国交締結協議は始まる

 

「まず、我が大日本帝国についての資料を配布させていただいてもよろしいでしょうか」

 

澤崎の発言にレミールが応じた

 

「皇国は貴国の事について殆ど預かり知らぬ故、資料が示されるというのは正直助かる」

「わかりました。では朝田くん、皆さんに資料を配布してくれたまえ」

「はい」

 

配布される資料。まずはレミールに、続きエルト・カイオスへと朝田から資料が手渡されていく

 

「大陸共通言語に訳されておりますので大丈夫であると思いますが、もし読めないようでありましたら口頭にて説明させていただきますので」

 

大陸共通言語を話す日本人が、大陸共通言語に訳す?不可解な言い回しに引っ掛かりを覚えるカイオスであったが、資料は普通に読むことができた

これで、今まで謎のヴェールに包まれていた日本の真実がわかるのだ

 

 

国名:大日本帝国

 

首都・帝都東京

 

立憲君主制・議会制民主主義

人口3億5千万人

 

北端である千琴・アリューシャン列島がグラメウス大陸の南側、西端である海南島が皇都エストシラントより東へおよそ1千㎞の位置にある、約174万7千k㎡の国土を有する島国で、突如として全国土ごとこの世界に転移

元の世界では「技術の日本」と称され、世界第二位の列強国として環太平洋経済圏、および欧州経済圏に対して発言力を持っていた

年代は不明ながらも数万年の長きにわたる王朝を持つ立憲君主制国家であり、国家元首は「帝(みかど)」である

政治体制は貴族院および衆議院の二院制

貴族院は皇族議員・華族(貴族)議員・勅任議員により構成されており、議員の大半は終身議員とされている

衆議院は臣民による選挙によって選ばれた者が務め、任期は4年

総理大臣、首相が帝の代行者として内閣を組織し行政を動かす議員内閣制

国土大転移後の現在、周辺国と国交を締結している途上にあり、主に大東洋の国々を中心として広域にわたり文明を持つ処地域を探査中

 

「人口3億5千万だと?!」

 

レミールが叫ぶ

あり得ないと

実際にあり得ない人口だ

3億5千万といえば、パーパルディアの5倍もの人口となる

174万7千k㎡という広さの国土を持つとはいえ、その広さはパーパルディアの三分の一ほど

これに比しては人口が桁外れに多いと言えた

 

「国ごと転移とは、まるでムー大陸の伝説のようではありませんか?!」

 

続きエルトも声を荒げた

 

「これは、こんなことが…」

 

内心カイオス自身もなんと言ったら良いのか理解に苦しむ

こんな話が現実にあるだろうか?いやない。普通に考えるのならば

だが、普通ではない物、空を飛ぶ戦艦などを目にしている以上は、そんな国がフィルアデス大陸第三文明圏に存在していれば当然パーパルディアの耳にも入る

しかし現実には大東洋西部にそんな大きな国土を持つ国があるという調査結果はないし、誰も知らない

知らないものがあると言い張られたところで無いものは無いとしか言えないのだが、こうして日本の大艦隊がエストシラントに現れていることからして、有るのだろうという見解に至らざるを得ない

神話の魔法帝国のような空中戦艦が実在しているのだ。鋼鉄の大艦隊が存在しているのだ

有るものは有るのだろう

 

「信じていただくより他、こちらとしては何も言いようがないのです」

 

主として、日本側は澤崎が話をする

財務担当官の辻と、外交官の朝田はその様子を見ているだけだ

 

「転移国家ということをすぐに信じろと言われて頷けるものではない。ましてや3億5千万もの人口を持つ国家などと」

「しかし、ここに我々は存在しております。エストシラントの港の空には浮遊航空艦隊も滞空しておりますし、沖には我が国の艦隊が停泊しております。この外務局の外には貴国の反応から見てこの世界には存在しないらしい、少なくとも今現在は存在しないらしいKMF鉄のゴーレムも待機しています。貴国の魔導通信の報告にも色々と入ってきているのではありませんか?」

「……」

 

澤崎の言葉にレミールが押し黙る。押し黙り、一度目をつむり、再び開いたとき、彼女は「有るのだろうな」とだけ漏らした

神話の兵器があるのだ。ならば同じ様にもう一つの転移という神話があってもおかしくない、ということのようだ

納得しがたいが納得するより他ない。そうカイオスも思った

 

 

「我が国の西端である海南島まではエストシラントより1千㎞ほど東に、本土四島はエストシラントから北東へ2千㎞ほどの場所にあります、転移の際に何がどうなったのか、我が国西部にある海南島と台湾という島が我々が東シナ海と呼んでいた海に近付いた位置に転移しましてね。不思議なことです」

 

澤崎団長の衝撃続きな発言は続く

 

「また、我が国の同盟国も共に大東洋に転移してきております」

「まだ、転移国家があるというのですか?!」

 

これにエルトが飛び付く

 

「ええまあ、神聖ブリタニア帝国という大陸国家なのですが、あとは更にそのブリタニアより東にAEUという連合国家も転移してきております。こちらも我が国の友好国です。機会があれば、彼の国々とも交友を結ばれてみるのも良いものかと愚考いたします」

「全て、大東洋に?」

「ええ、大東洋にです」

 

話を聞きながら、日本の国土の位置関係にも変化が生じていることがわかってきた。だからといって何がどう変わるという話でもないが

更に信じられないことに他にも転移国家があるという。神話の大安売りだ、いったいどうなっているのか?

 

「その、ブリタニアとAEUという名には聞き覚えがある…」

 

驚いてばかりの皇国側だが、意外にもレミールは日本の友好国を知っているという

何処で知ったというカイオスの疑問に答えるかのように、彼女は語った

 

「ムー国の大使が話していた貴国、日本の話の中に、ブリタニアとAEUという名があがっていた……両国共に日本に匹敵する超大国であると」

 

日本に匹敵する超大国

空中戦艦などを持つ国が他にもあるというのか

もう、何が真実で、何が虚構なのか、カイオスにもわからなくなっていた

 

そして、日本側からの要望としてあがってきたのは、この世界の列強国パーパルディアにとっては、およそ認められない類いのものであった

 

 

◯パーパルディア皇国は大日本帝国が友好関係を結んでいる国々に対して不等な侵略等の拡大主義政策を取ってはならない

 

◯大日本帝国とパーパルディア皇国は互いを対等な国家として認め、互いの国へ大使館を設置する

 

◯大日本帝国とパーパルディア皇国は互いに治外法権を認めない

 

◯大日本帝国、パーパルディア皇国は相互不可侵条約の締結に向け努力する

 

◯大日本帝国、パーパルディア皇国は対等なもとでの為替レートを早急に整備する

 

とくにこの五項目については、一文明圏外国が要求して良いものではなかった

文明圏外の国が列強に対して対等な国交関係の樹立を要求する。あってはならないことであった

だが、日本はそのあってはならないことを押し通す

それだけの力が日本にはあるということなのだろう

少なくとも、いま視てきた限りでは、その科学技術力は皇国を圧倒している

ムーでさえ辿り着けない科学技術を保有している

全てがブラフでなければ、大日本帝国とは他と隔絶された超科学を有する国家となるだろう

 

「我が大日本帝国としては多くは望みません。互いを対等として認め、友好関係を結べられるのならば、それだけを望みます」

 

話を締め括るように告げる澤崎団長に、諦めと恐怖がない交ぜになったような表情をしたレミールが、震える声で絞り出した

かつての彼女の性格だと激昂していたのだろう日本よりの要望に、彼女は感情を荒らげることはなく、事実だけを伝える

 

「貴国のことはわかった。虚偽かどうかはともかく、事実として強大な科学技術を保有していることに疑いはないのだろう……だが一つ、国交開設にあたってだが、その前に我が国より一つの条件が出されたのだ…、ルディアス皇帝陛下の勅命として」

 

そのレミールの口から飛び出したのは、カイオスが聞いてもいない条件の話であった

 

「パーパルディア皇国と国交を締結したくば、まずは力を見せよと」

「ほう?」

 

ここで、これまで沈黙をしていた財務担当官辻正信が口を開いた

 

「それはいったいどの様な趣旨なのですかな?よもや我が国に宣戦布告でもなさるおつもりですか?貴国パーパルディア皇国がどの様な国か、どの様な政策を採り続けてきたのかは大東洋の国々より耳に入れ、しっておりますが」

 

パーパルディア皇国は長らく侵略戦争・国土拡大政策を採り続けてきた。それはすでに預かり知っている。それをこちらにも向けるおつもりか、と辻財務担当官は口には出さずに話しているのだ

凍り付く空気、沈黙が訪れる

緊迫する中、レミールは顔色を悪くしたままにそうではないと、趣旨を告げる。皇帝ルディアス陛下の思惑を

 

「この度、我が国で余剰艦が100隻ほど出るのだ。ルディアス陛下がそれらを日本に処分させることで力を見せろと仰せなのだ。こちらの身勝手な都合で悪いが皇帝陛下の御命令は絶対なのだ」

 

引き受けては貰えないだろうか

出された条件に、澤崎と朝田が緊張した様子で財務担当官を見る

これを受けて、笑顔を見せながらもその目は笑わずの顔を見せた財務担当官は簡潔に答えた

 

「ほう、なるほど、そういうことですか。我が国の力を見たいと。……よろしいでしょう。貴国の皇帝陛下がそれほどまでに希望なされるというのならば」

 

 

 

始めましょうか、弱肉強食を

 

 

 



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小さな幸せ7

 

 

 

小さな幸せ7

 

 

実務者協議の翌日、中央暦1639年6月23日 午前8時 パーパルディア皇国 皇都エストシラント南方海域

 

 

エストシラント港より沖合い、港から出港してきた船が次々と所定海域に辿り着いていた

 

10や20程度の小規模な艦隊などではない、実に150隻から成る大艦隊だ

 

20程度の艦隊でさえ小国を滅ぼせるほどの戦力となるパーパルディアの無敵艦隊が100を超える艦列を組ながら動いていた

 

その全てが戦列艦

 

50~100門級までのもので、多少艦齢の古い船ばかり

 

大小多数の艦は、多少古いとはいえ、それは大国パーパルディアから見ればの話だった。その実、文明圏外国や文明圏内の中小国から見れば充分以上の新鋭艦艇ばかりなのだ

 

皇国が売るというなら即座に買うと飛び付くこと請け合いの艦艇ばかり

 

パーパルディア軍人からしてもまだまだ使える艦ばかりで、これらを処分するなど勿体なさすぎる話である

 

しかし、ただ力を見せろというパーパルディアの絶対君主、皇国皇帝ルディアスの命令のもとに、これらの大艦隊は処分させられるのだ

 

そして、これらの余剰艦として処分される艦艇以外に、他にも群れを成す戦列艦隊はいる

 

皇国皇都防衛隊海軍艦隊の第3艦隊総勢180隻というパーパルディア皇国海軍の三つ有る本国主力の大艦隊だった

 

並みの中小国など問答無用で叩き潰せるパーパルディア本国の正真正銘の正規艦隊だ

 

1隻1隻が雄々しく、威圧感のある艦ばかりで、砲門の数など全艦艇を数えるなら1万数千門はあろう、馬鹿らしくなるほどの砲数がある

 

例えとして出すのならば、文明圏外のアルタラス王国や、フェン王国などが全国力を導入したとしても抗えない。僅か数日、下手をすれば一日で降伏以外の選択肢が無くなってしまうような、海を埋め尽くす一線級の大艦隊なのだ

 

 

パーパルディア皇国は外征型の覇権国家。年中自国の力を背景とした圧力外交を日常的に行っている上に、侵略戦争も繰り返し、72ヶ国の属国を従えるまでに膨れ上がったこの国らしい、通例ともなっていた。

 

新たな侵略戦争でも行うかのような過剰な軍勢が姿を現している目的は、今回に限り外征には非ず

 

パーパルディア皇国の余剰艦艇により構成された大艦隊を処分する、処分できる力があるから受諾したという、ふざけているとしか言いようがない新興国大日本帝国軍の力を確かめるためだ

 

たかが、一文明圏外の国の海軍が、第三文明圏の覇者の艦隊を、余剰艦艇とはいえ150隻も処分する

 

通常ならばそんなことは不可能。荒唐無稽にすぎる愚かな申し出

 

決めたのはルディアス皇帝だが、この命令は実行できないと頭を垂れるのが新興国としてのあり方のはず

 

新興国に150からの戦列艦隊を処分する力など有るはずはないのだから

 

それがどうだ。日本の外交使節団はやりましょうと受諾したのだ

 

これが如何に異常な事なのかはパーパルディアの臣民なら誰でも知っている

第三文明圏の諸国ならば右にならえで断り、皇帝の不興を買わぬようにと平伏するのが通例

だが、大日本帝国は完全な例外であった。初の反応を見せた相手であった

 

そんな愚かにも、不可思議にも映る大日本帝国軍の異様さは、現場海域に着いたものから順に把握していった

 

巨大。とにかく巨大なのだ

 

一艦一艦が島や城塞のような堅牢さと威圧感の塊であるのだ

 

パーパルディア皇国海軍第3艦隊の幾つかの艦には、魔導通信、人力の魔力ではなく魔石で動かす通信装置を進化させた、音声以外に映像まで写し出せる映像付き魔導通信機が持ち込まれている

 

艦船処分の様子を本国の首脳部に見せる為に用意された魔導通信機だ

 

これには、ルディアス皇帝の持つ魔導通信機と繋がっているものもある

 

これと、別個日本側からも映像が届けられる装置を用意されていたが、そちらは第1外務局局長エルト、第3外務局局長カイオスの居る第3外務局会議室に中継されているという

 

この海域に広がる鋼鉄の巨大艦艇群の様子も

 

 

「二線級のものとはいえ、予定よりも多い150隻もの戦列艦を処分なさるとは、また陛下も大きく出られたものだな」

 

第3艦隊提督アルカオンは、皇国に3隻しかない超フィシャヌス級150門戦列艦ディオスに乗船し、日本とやらの軍の力を見届けるために、日本軍艦隊の近くまで寄り、処分艦の広がる海域を睨んでいた

 

所定位置に辿り着いた艦からは、 曳航されてきた艦を除き、接舷する戦列艦や輸送船に乗り換え、乗組員たちが脱出していく

 

なにせ150隻の大艦隊だ。作業に従事していた海軍軍人の数も半端ではなく、脱出だけでも時間がかかっている

 

処分艦隊からは20㎞も離れた位置、最も遠方に配置されている処分艦はディオスから見て50㎞も離れている

 

離している理由は不明だが、日本側の力を見せろというルディアス皇帝の要請に、日本側が1隻1隻の間隔をわざと広げさせたという

中には40隻ほどを密集させている場所もあったが、なにかしらの意図があるのだろう

 

「だがしかし、なんという巨艦ばかりなのか」

 

アルカオンは1㎞ほど先に浮かんでいる目に写る艦、作業を見守る日本艦のとてつもない巨体に感嘆と驚愕の声をあげていた

ディオスの艦長が汗をたらしながら、アルカオン提督に同意する

 

「信じられませんな。あそこに見えるあの艦、キイと言いましたか、うちの竜母の何倍もの巨体をした鋼鉄の艦。あれで揚陸艦だそうですよ」

 

大日本帝国軍パーパルディア皇国派遣艦隊 第1遠征打撃群旗艦

紀伊型強襲揚陸艦1番艦 紀伊

満載排水量:51200t

全長:273.3m

全幅:49.1m

吃水:8.9m

速力:31kt

乗員:2700名

兵装:97式20㎜機関砲3基

8連装90式対空噴進弾2基

ブレイズルミナス

艦載機:輸送・戦闘用VTOL32機+秋水ニ型戦闘攻撃機10~12機・可変型双発輸送機

揚陸艇:LCAC3隻

輸送能力:兵員2500~3000名

KMF、90式改主力戦車・10式および10式改主力戦車・戦闘装甲車・機動戦闘車・自走砲・トラック他支援車両

 

「あんなものが目の前に存在していることが信じられんよ……。あれ1隻で皇国の揚陸艦何隻分になるのやら。日本軍とは、いったいどれほどの力を秘めているのか」

 

ディオスの周囲にも無数の巨艦の群が展開している

 

「とくに」

 

アルカオンの目を引くのは巨艦紀伊を遥かに超えた超巨大艦艇の姿だ

 

 

「とくに…、あの4隻の竜母と2隻の戦艦だ。なんなんだあれらは…。日本側の話が本当ならば、あの戦艦と竜母はそれぞれ10万tを超える排水量を持つらしいが、そんなものが人の手で造れるのか」

 

大日本帝国軍パーパルディア皇国派遣艦隊総旗艦 大和型戦艦 1番艦大和

基準排水量:128800t

兵装:60㎝3連装電磁砲前部2基6門

後部1基3門

他:155㎜3連装電磁砲、127㎜電磁速射砲、CIWSバルカンファランクス、ブレイズルミナス等

 

大日本帝国軍パーパルディア皇国派遣艦隊 第1第2空母戦闘群旗艦 大鳳型航空母艦 1番艦大鳳 2番艦祥鳳

基準排水量:104200t

満載排水量:130800t

全長:365.3m

最大幅:85.8m

吃水:12.4m

速力:30kt

乗員:4700名

兵装:97式20㎜機関砲CIWSファランクス3基

8連装90式対空噴進弾2基

21連装89式対空噴進弾2基

ブレイズルミナス

艦載機:統合打撃戦闘機秋水60機含むKMF、VTOL、無人偵察・攻撃機、電子戦機、早期警戒機、等80~115機

 

第3第4空母戦闘群旗艦 大鳳型4番艦翔鶴 5番艦瑞鶴

基準排水量:106500t

満載排水量:133200t

全長:367.1m

最大幅:86.2m

吃水:12.4m

速力:30kt

兵装:97式20㎜機関砲CIWSファランクス3基

8連装90式対空噴進弾2基

21連装89式対空噴進弾2基

艦載機:統合打撃戦闘機秋水60機含むKMF、VTOL、無人偵察・攻撃機、電子戦機、早期警戒機、計80~115機

 

これらの巨大艦艇以外にも、全艦艇がムーのラ・カサミ130m級鋼鉄戦艦を大きく凌駕する艦艇ばかりだ

この間隙を横目に展開するパーパルディア皇国海軍のなんたる小さきことか

アルカオンは屈辱と絶望感、そして恐怖に身を震わせながらも、次々と辺りを見回してみる

 

村雨型駆逐艦 五月雨

満載排水量:15200t

全長:183.6m

全幅:24.6m

吃水:8.2m

速力:34kt

乗員:150名

兵装:62口径155㎜単装電磁砲2基

70口径57㎜単装電磁速射砲2基

垂直発射装置VLS前部両舷6基48セル

後部両舷4基32セル

3連装短魚雷発射管2基

ブレイズルミナス

艦載機:VTOL1機

無人偵察機・攻撃機:3機

 

長戸型ミサイル巡洋艦 陸奥

満載排水量:15700t

全長:192m

全幅:22.8m

吃水:9.3m

速力:33kt

乗員:270名

兵装:62口径155㎜単装電磁速射砲1基

97式20㎜機関砲=ファランクス2基

垂直発射装置VLS前部64セル

後部64セル

3連装短魚雷発射管2基

ブレイズルミナス

艦載機:VTOL2機

無人偵察・攻撃機2機

 

恐らくは同じ艦級や型なのだろうそれらと同様の軍艦が一重二重と周囲を取り囲んでいた

他にも形の全く異なるイージス艦と日本軍人が呼称していた鋼鉄艦が何十隻と配置されている

輪陣形の中心部では紀伊のような竜母型の揚陸艦や、紀伊よりもずっと巨大で威圧感のある竜母が存在感を発していた

奇妙なのは、その巨大竜母や巨大揚陸艦の護衛艦らしきそれらの艦艇の殆どが見掛け1門しか砲を搭載していないところだった

たったの1門でなにができるのだろうか

 

 

そして、日を遮る影に空を視ると、そこには200m級の戦艦群と、戦艦を護衛するように取り巻く数十体のゴーレムや、鉄の箱にも鉄の鳥にも見えるものが浮かんでいる

 

大日本帝国軍パーパルディア皇国派遣艦隊 第2第3浮遊航空艦隊

斑鳩型浮遊航空艦

全長:200m

兵装:主砲ハドロン重砲2門

副砲76㎜単装リニア砲2門

57㎜単装リニア砲8門

対空・対艦ミサイル発射基各4基

CIWSバルカンファランクス2基

ブレイズルミナス

艦載機:KMF10~14機、輸送・戦闘VTOL10~14機

 

日本、分析しかねる国だ。まるで神話の中より突然出てきたようにも感じる…、これは本当に現実なのだろうか

 

「提督、あの空中戦艦の1隻に皇国皇族外務局監査室のレミール様が乗艦しているのですね?」

「ああ、なんでも対日本外交を引き受けていた御自身が見届けなければならないとの事でな」

 

大日本帝国の空中戦艦艦隊は12隻飛行していた、が、その内の4隻はエストシラント港に入港空中停泊していたが、その中から1隻

 

飛鳥という艦だけがこの海域に舞い戻ってきていたのだ。皇国の誇るワイバーンオーバーロードよりも遥かに速い速度で

 

「あの空中戦艦は明らかに430㎞というとてつもない速さを出すことが可能なワイバーンオーバーロードの2倍以上の速力を出せる。竜母や揚陸艦より飛び立っている凹凸の少ない滑らかな形をした大きな戦闘用の飛行機械などになれば軽くオーバーロードの3倍4倍の速力だ。どういう原理で飛行しているのかもわからんが、あんな化物どもとは戦おうとしても戦えん」

「この世のものとは思えませんな。伝説上の魔法帝国を彷彿とさせます」

 

日本軍と似通った話で残されている伝承は神話のラヴァーナルだけ

いな、そのラヴァーナルでさえも

 

「あれらの魔力を感知できない完全機械性の戦闘機械どもには対抗できないのではないのか?」

 

まるでそう、まるで魔法文明が取るに足らないとでも言われているかのような気分だった

 

 

 

 

信じられない場所にいる

 

眼下に広がるのは広い広い海

 

多くの、無数の艦隊が海を埋め尽くしているのが見える

 

パーパルディアの余剰艦艇150

パーパルディア本国艦隊180

そして、異様な巨大、威圧感のみを覚えさせられる陣容を誇った日本の鋼鉄艦隊200とこちらも日本の空中艦隊9

 

この海域には総勢で539隻の大艦隊が展開していた

 

それを空から見下ろしている

 

空中艦隊を編成している空中戦艦の1隻、第1空中艦隊旗艦、飛鳥という飛行戦艦の窓からその海上と辺りの様子をレミールは見下ろしていた

 

この船とエストシラント港に待機中の3隻を合わせて12隻もの艦艇が空を飛んでいる

艦艇の周りにはKMFと呼ばれる鉄のゴーレムが張り付き、周囲のワイバーンオーバーロードやワイバーンロードを警戒している

人型以外で飛び交う飛行機械も大きく威圧感があり、何よりも恐るべき速さだった

 

あの我が皇国が誇るワイバーンオーバーロードがよちよち歩きの子供のような、そう感じざるを得ない速さだった

あんなものを相手にしては戦いにもならない。レミールは外交分野の人間であり、けして軍事に明るくはないが、それでも素人目にもわかる

あんなものとまとも戦いなどできるはずがない

 

レミールの隣にいた軍部の最高責任者、皇帝に命じられてレミールと共に日本軍をその目で確かめてこいと命令を受け参じていたアルデも青ざめた様子で窓の外を見ていた

 

「レミール様、これは駄目です……これでは我が皇国は一夜で滅びます、精神論だけなら最後まで戦うと言い張りたいところなのですが、あんな速度の飛行機械、どうやって相手にしろと……」

 

絞り出すアルデにレミールも絞り出すように言った

 

「あの、眼下に見える砲が1門の戦艦群についてお前はどう考える」

「は、それにつきましても、別の攻撃手段があるようです。我々がいま乗艦しているこのアスカとかいう空中戦艦と同じ空中戦艦を12隻も運用している日本ですが、この空中戦艦も、他にもまだあるようです。日本人がくれたこの本が正しければ……」

 

アルデは参考までにどうぞと日本人の乗組員から渡されていた「別冊宝大陸 最新日本の軍事事情」というタイトルの本をレミールに手渡す。図鑑のようだと思い彼女はページを開く

 

先端が尖った細長い槍のようなものが最初に説明された項目を彼女は開いていた

 

「な、なんだこれは?!」

「これはミサイルという恐るべき兵器のようです。この自動で敵を追尾し攻撃するミサイルという兵器は、信じがたいことですが、ほぼ百発百中の精度を誇っているらしく。それぞれに対空・対地上・対艦とあるようですが、これは神話に出てくる古の魔法帝国の誘導魔光弾と似たようなもののようでして、速度はそれぞれに音の速さを遥かに超え、射程も100㎞~1000㎞の彼方から放てるもので、対空用のものについてはワイバーンオーバーロードもなにもできずに撃墜されてしまいます。これらがあの1門級の魔導艦に大量搭載されているようなのです。そしてあの砲もただの砲ではありません分間数十発~物によっては200発台で砲撃可能なものです。海上にいるらしい村雨型駆逐艦と呼ばれている艦の砲は射程距離が300㎞で、副砲は20㎞台で分間250発の砲撃ができる型の様です、命中精度もミサイル同様に百発百中だとか、とても信じられませんが」

「……っ!」

 

だからか。だから大量の砲が必要なかったのだとアルデの説明を聞かされたレミールは理解した。

こんな百発百中であたるような、それでなお強力な破壊力を持つミサイルのような反則兵器を大量に搭載しているのならば、砲の数など問題外だと

砲自体もそうだ。射程距離300㎞で99%が命中するなど、射程20㎞前後で分速250発など反則すぎる

 

「また、日本には竜母、空母という名前の船が18隻あるようですが、これには1隻あたり約100機あまりの音を超える速度の飛行機械が搭載でき、世界中のあらゆる場所まで無補給航行が可能です。随伴する護衛艦はそのようなわけにはいかないようですが、この」

 

話の途上でアルデは地図を出す。鮮明な地図だ。世界中のどこを探しても、世界一の列強国神聖ミリシアル帝国でも作成不可能な地図が出された

 

 

「こんな地図をどの様にして作成されたのか皆目わかりませぬが、この地図によれば我がパーパルディアは空母戦闘群という、我が皇国の竜母艦隊を恐ろしく強力にしたような艦隊を直ぐ様派遣、送り出せる場所にあるようでして、パーパルディアには簡単に日本の手が届くということのようです。また日本本土から戦略爆撃機なる飛行機械を用いれば、我が皇国はおろか第一文明圏にまで往復可能な長大な攻撃能力と投射能力を発揮、これと同じく長距離弾道ミサイルなるものを用いればやはりミリシアルにまで日本の手が届いてしまいます。この情報雑誌が正しければ、日本人たちは日本にいながらにして相手国を攻撃する手段をお持ちのようです」

 

図鑑のような本に目を通しながら、冷や汗を浮かべているレミールに、横合いから口を挟むアルデを、彼女は無礼ともなんとも思わずに聞いていた

 

「すでに皇国には4個空母戦闘群が派遣されてきており、遠征打撃群なる揚陸艦隊と合わせれば、この本の話が本当ならば皇国は」

「4個空母戦闘群、この本によれば1個群で日本基準での小国を滅ぼせるほどの戦力が4個群も来ている…、日本はいまこのときにでも、その気になれば皇国を滅ぼせるというのか?」

「……わかりません。仮にも我が国は列強」

「だが、その列強である我が国は、日本のこれが事実ならばただの一小国でしかないではないか…」

 

別冊宝大陸 大日本帝国軍皇暦2022年度最新版

 

常備兵力:約276万人

作戦機:11700機 内戦闘攻撃機8200機

VTOL:6000機

浮遊航空艦:40隻以上

KMF:予備騎含め23000騎

戦車:14000両

装甲戦闘車両:35300両

自走砲・野戦砲:23400門

航空母艦:18隻

海軍艦艇:1300隻

各種弾道:ミサイル未発表

 

殆どのものがどういった戦力なのかは図鑑を見ているレミールにもアルデにもわからない

戦車や装甲戦闘車両なるものがなにかもわからない

 

ただ、眼下に映る巨砲を備えた戦艦や、いま自分たちが乗艦している空中戦艦を造り出せる国

この一つ一つが考えも及ばない巨大な戦力なのだろう

竜母、空母や戦闘艦艇等の諸元性能についても載っていたが、レミール自身が竜母だろうと疑った船、強襲揚陸艦についての項目を見たときもまさかという気持ちでいっぱいであった

 

 

「アルデ、こんな巨大な揚陸艦、お前には考えられるか? これが14隻もあるというのだぞ。あの眼下に見える島のような竜母、空母が18隻もあるというのだぞ。いま私たちが乗艦しているような空中戦艦が40隻以上も、あの音よりも速い飛行機械が8千も、鉄のゴーレムKMFに至っては2万3千。なんだ、なんなのだこの大日本帝国というのは」

「はっきり言って、わかりません。これらの情報が確実なものなのだとしたら、私は日本が古の魔法帝国だと言われても信じてしまいます。魔法が無くともこれを実現できる、それはもう古の魔法帝国か、下手をすればそれ以上の巨大国家ですので。少なくともミリシアル並だとはみております」

「……古の魔法帝国か。私には最近その響きが何でもない事のように感じられるのだ。日本の話や、ムー大使の話では、日本ほどではないが、とてつもなく強大なAEUという国が大東洋にはあるらしい。そして、日本よりも巨大な国がやはり大東洋にはあるという。古の魔法帝国のような、或いは魔法帝国を凌駕するような国が3国だぞ?」

「耳にしております。とくに日本は日本から程近いことが理由としてあり、AEUなる連合国家はロデニウス大陸のクワ・トイネならびにクイラから発見された彼等の呼び名ではサクラダイトなる鉱石が非常に価値があるとして、日本と共にクワ・トイネ、クイラと国交を締結しているようでして、2国を併合しようと目論むロウリアには良い感情を持っていないようです」

「ロウリアか……最初の対応を間違えていれば、我が皇国も日本という巨大な国と敵対関係になっていたやもしれぬな」

「まだ、余談は許しませんが……日本の力がどれほどのものかはわかりませんが、古の魔法帝国ほどでないとしてもミリシアル並みならば皇帝陛下も対応を間違えたりはなさらないでしょう」

 

レミールとアルデが日本の力についてを考察していた時、ちょうど彼女たちから見て斜め正面となるメインモニターなる画面に誰かの顔が映し出されていた

 

『たった150隻の木造艦隊の処分に秋水の機銃・対艦ミサイルやウィンダムのヴァリス・ハドロンランチャーだけでは飽きたらず、飛鳥のハドロン重砲、大和の主砲と、五月雨のVLSに電磁速射砲まで使うだと?』

「はっ、は!その、畏れ多くも辻閣下の御意向でして、」

『そもそもなぜ命令権者が辻なんだね。肩書きではあっても権限を持つのは澤崎くんだろう、彼は確かKMFか戦闘機のみで終わらせると言っておったがあれはどうなった。そも処分艦艇をある程度固めさせて大和か武蔵の三式を撃ち込めばそれで終わりだろうに、これでは弾と金とエネルギーの無駄遣いになるぞ。普段から金の無駄遣いを嫌っておるはずの辻が。……やつはなにを考えておるんだ』

 

映像付き魔導通信、日本人たちは無線モニターやディスプレイと呼んでいたそこでは、丸坊主のたれ目気味な壮年の男が怒りの声をあげている

飛鳥の艦長との話からレミールは使節団の財務担当官の顔を思い出していた。朝田や澤崎とは違い、一人場の空気を支配してしまった不気味な丸い眼鏡の男

団長である澤崎は財務担当官を閣下と呼称していた。朝田もだ。その関係から、あの場の日本側の本当の実務者トップが辻財務担当官だとわかったレミールは、辻を警戒しながらも、終始彼のペースで進んでいった交渉とも言えない交渉を思い出す

 

 

平和に仲良くしましょうね

 

要約すれば日本側の求めはそれだけであった

そして大東洋の小国家群に手を出してくるなよという牽制だった

国交は対等関係を求め、それ以外に多くは要望してこなかったが、その対等関係が鬼門だったのだ

パーパルディアは五大列強以外に対等な国交を許さない

日本のような新興国ならばとくに

レミールの考えも皇帝の考えも、パーパルディア人全体の考えもそうであった

だが、日本は最初から力を示そうとしてきた

事実、エストシラント港沖で一発だけだが、巨砲を放ち、空中戦艦の艦隊で押し掛けてきた

迂闊なことができなくなってしまったパーパルディアは、善後策としての皇帝の勅命である日本の力を見せろと迫ったのだ

無論レミールは日本を調べあげていく内に、日本がとんでもなく巨大な国だと感づき始めていたために、日本には慎重にと忠言し続けたが、結果は今日という最悪に至る

いや、まだしもましな方なのかもしれない

日本との全面対立こそ避けられているからだ

飛鳥艦長兼パーパルディア皇国派遣浮遊航空艦隊指令田中中将は、レミールやアルデのように顔面を真っ青にしながらモニターの人物に頭を下げていた

 

「す、すみません名誉元帥閣下、澤崎官房長官閣下は辻閣下の御意向には逆らえず、その辻閣下とされましては個別の兵器ごとにそれぞれがこれだけの力を持つのだぞという最大火力をぶつけることで、以後一切の文句を言わせないようにしなければ、ここまで露骨な覇権主義国を黙らせるのは難しいと」

『現場の判断で恫喝に恫喝を重ねがけするやり方に変えたというわけか。その上今回は飴もなし。辻を怒らせる発言でも飛び出したのか』

「メリナや東アフリカ、南ニューギニア・大洋州連合と膨張してきたオセアニアと同じです。基本が膨張拡大主義のようですので、今のうちに強烈な一撃を与えておかなければ無用な戦争に発展しかねないとのこと。まあパーパルディアは我が国と正面切ってにらみ合えるようなオセアニアのような超大国ではありませんが」

『ふむ。まあ確かに、いま思い起こせばニューギニア戦争やラプラタ戦争のような世界各地における代理戦争はオセアニアに対しての油断から起きたようなものだったな。近年のアフリカ戦争も裏で糸を引いていたのはやつらだった。イラクの膨張主義による中東戦争も日ブとオセアニアの代理戦争的側面が強い。パーパルディアと代理戦争が起きるとは考えにくいが芽の内に潰しておくということか』

 

映像付き魔導通信よりもずっと鮮明な映像を映すモニター越し

交わされる日本艦隊総司令らしき丸坊主のたれ目男と飛鳥艦長の話から、レミールはパーパルディアが一小国、いや小国以下と見なされていることに気づいた

列強パーパルディアが小国以下

そんな見なされ方は屈辱だが、それだけの国力を大日本帝国は持っているのだろう

もう一度窓越しに眼下を観る

アルデも同様に

 

海上に浮かぶ530隻の艦隊のうち、自国パーパルディアの艦隊の、なんと小さきことか

200隻の鋼鉄の艦隊の巨大さ足るやなんと恐ろしきことか

 

間もなく始まる余剰艦艇の処分

 

それが皇国にとって幸いたらん事であるようにと

レミールやアルデは願わずにいられなかった

 

 

 



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小さな幸せ8

ひょっとしたら改訂するかもしれませんが、あっさりと処分風景。流し読みできてしまえそうなあっさり感じです
ユフィルートしげちー皇暦2022年×日本国召喚クロスネタ




 

 

 

 

 

小さな幸せ8

 

 

 

 

 

 中央暦1639年6月23日正午

 

 ダン…!

 

 全ての準備が整う。パーパルディア海軍艦艇余剰艦の配置が終わり、乗組員の脱出が完了したところで、その乾いた砲声は響いた

 天候は晴天。澄み渡る青い空の下にダン、ダン、ダン、立て続けに鳴り響く乾いた砲声は、大日本帝国海軍艦艇、村雨型駆逐艦五月雨より発声していた

 大きな砲声に混じりダダダダンと、音は多少小さいながらも連続した砲声も五月雨からは鳴り響いている

 五月雨の船体前部に搭載されている、62口径155㎜単装電磁砲1基と、70口径57㎜単装電磁速射砲2基が火を噴いているのだ

 この砲声が響く毎に、パーパルディア皇国の150隻から成る無人の艦隊の数が減っていく。その船体喫水線下に穴を穿たれ、1隻また1隻と沈んでいくのだ

 五月雨から見て50㎞は離れている艦艇にまで射程300㎞を誇る艦首砲弾は悠々と届き、船体下部に穴を開けて列強パーパルディアの船を吹き飛ばしていく

 

 この五月雨の砲撃を皮切りにして、第3戦闘群旗艦翔鶴から飛び立った帝国海軍の統合打撃戦闘機「秋水」二十数機余りが、パーパルディア処分艦隊の遥か後方より機体下部のミサイルを切り離し、まだまだ残存している標的艦に攻撃を加えていく

 ゴォー、処分の様子を監視しているパーパルディアの主力艦隊上空を次々に飛び越えていくミサイルは

 それぞれに目標として割り振られていた艦艇目掛けて突き進み、当たっては爆発を繰り返す

 

 

砲撃とミサイルの直撃を食らい木っ端と化していく木造艦隊の少し離れた上空からは、浮遊航空艦「飛鳥」の船体前部に備わる2基の主砲ハドロン重砲が、砲口に赤いエネルギーを集束させて、発射

 強力な赤いエネルギーの線が二本、海を走り、並び待機する標的艦を凪ぎ払っていく

 次々に吹き飛ぶ標的。それは全長にして60~70mほどの戦列艦、いま処分されているものは、二線級とはいえ第三文明圏で無敵を誇るパーパルディア皇国の艦隊なのだ

 それが、ゴミのように吹き飛ばされていく。時間にして5分もかかっていない

 波間に漂う生き残りの艦艇には、五月雨の垂直発射装置VLSより放たれた対艦誘導弾が

 KMFウィンダムのヴァリス、ハドロンランチャーの一斉射撃が別個襲いかかり、破口を穿ち、また木っ端と化させ、数分前まで存在していた船を、木屑や木片、沈没艦へと変えていった

 そして、40隻ほど固めてあった標的艦隊には、パーパルディア皇国派遣艦隊の総旗艦を務める128800tの超巨大艦、大和の前部主砲3門が、相対するように向けられていた

 

「もう無茶苦茶だな」

 

 大和の艦橋では、今回の派遣艦隊の指揮のために特別に復帰していた大日本帝国元国防相、名誉元帥の山本五十六が、やりすぎだというように呟いていた

 

「どうあれ、帝国海軍が中世ほどの文明の軍に示威行為を示そうとするならこうなってしまうの無理はないでしょう」

 

 山本の副官として大和に座乗していた帝国海軍少将内野が応じる

 

「列強パーパルディアは冷酷非道で傲慢なる拡大主義、覇権主義的国家である。事前調査で判明していたことですからね。徹底的にやれといった辻閣下の方針転換もわからなくはありません」

 

「辻か…、正直なところ奴がいきなりの無駄撃ちに舵を切ったと報告が入ったときは驚かされたよ。木造艦隊の処分など三式一発で終わるだろうに、非効率に過ぎる手段を使うとは思わなかったからな。権限も本来なら澤崎くんにあったはずだが」

 

「パーパルディア側の舐めた態度に生半可で終わらせれば外交関係的な凝りが残るとお考えになられたのではないかと愚考致します」

 

「効率よりも非効率で無謀な考えを抱かせないようにする、か。本艦と武蔵以外は見掛けの威圧感が弱いのはわかるが、実態は各戦闘群を構成する護衛艦だけでも傲慢なるパーパルディアを滅することが可能なのだと理解させるために、だな。まあ、致し方あるまいか」

 

 他国へ攻め入り、従わなければ教育と称して罪もない人間を虐殺する非道の国。自分達がその立場になりかねないと理解させることで、その考え方に待ったをかける

 日本に対してそれをするなら、それはすなわちパーパルディアの滅亡を意味すると

 

「ともあれ、とりあえずは仕上げといくか。前部主砲6門斉射用意。弾頭は三式。目標、前方パーパルディア標的艦隊、全砲門撃てーッ」

 

 ドウゥゥン!

 

 轟音と共に大気を震わせ、海面や前方の空間に衝撃波を発生させながら、荒れ狂うたった数分間の破壊の宴は、最後の瞬間を迎えたのであった

 

 



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小さな幸せ 少し未来のお話

甘い話書いたった。休日氏には負けるし意外過ぎるカプだけど。


 

 

 

小さな幸せ 少し未来のお話。

 

 

 

あの晴天の日。昼の陽光に白む月の下で迎えた運命の日から、私の生き方の、私の有り様の全てが変わった

 

20代後半の、長く美しい銀髪を幾つものロール状にまとめて束ねた髪型を、本日はロール状にはしておらず真っすぐに膝下へと降ろしていた女性。

線の細い身体、頭に戴いた金のサークレットが輝く美女は、寄る窓辺より、耐震ブロックと幾何学的な形状を持つ大摩天楼郡が織り成し造り上げられた、大都会、東京の夜景を見下ろしながら。

今日も今日とて思いを馳せていた

 

 

 

「ん?」

 

ふと気づく。以前も小さなことに気づく性格だったが、慌ただしい一年を過ごし漸く落ち着いてきたことで心の余裕が出来たのかもしれない。

 

「泰司。香が切れておるのではないのか?」

 

香、掻い摘んでいえばいい香りのする線香のような物。

 

丁度香が切れかかっていたというか切れていた。

 

「それと櫛が痛んで居る。お前ので良い櫛を貸せ」

 

ずいぶんと上から目線の要求を擦る彼女に。

 

部屋着へと着替えても七三な頭を崩さないこの部屋の主、朝田泰司はため息をついた。

 

「あのですねえレミール皇女殿下。ここは皇宮ではないのです。あなたが使っているようなお高い香が近所やそこらに売ってると本気で思ってますか?」

 

そんなもんあるわきゃない。

 

「なに安物の香でも大日本帝国の物は素晴らしくよい匂いがする」

 

「そりゃまあ前世界でも世界第二位の超大国、その気になれば世界を相手に戦争が出来るような技術力を持つ国ですから。その技術で作られた物は安物でも効果高いですよ」

 

「ふむ、ならばそれでよい。買って参れ」

 

「はあ?! いま風呂入ったばかりなのですよ?! 風邪ひきますよ!!」

 

「パーパルディア皇女たるこのレミールの命令が聞けぬと申すか」

 

「聞けませんね。レミール皇女はパーパルディアの外交官です。パーパルディア大使館でならば私も言う事を聞きますが、ここは皇女殿下の寝泊まりしているのは私の、この朝田泰司の部屋。この部屋の主人は私です。私は我が国の政治家・華族・皇室の御方々よりの命令以外は受け付けません。少なくともレミール皇女殿下は私の家では私より身分が上の一外交官であるとお知りおきください」

 

「むう、パーパルディア皇国皇女に対して無礼な奴だ」

 

「無礼も何も皇女殿下は一外交官なんですから形の上では私と同格なのですよ」

 

「私は大使ぞ?」

 

「大使でもレミール皇女の場合は立場上私と一緒です。大体貴女と私は僭越ながら一応は同僚でしょう」

 

「しかし神聖ブリタニア帝国のコーネリア大使閣下は特別に遇されて居るでは無いか」

 

「あたりまえです。我が国と並び立つ超大国ブリタニアの大使閣下ですから」

 

それを聞いたレミール皇女はため息をつく。

 

「大国、大国ともてはやされていた時期が懐かしい物よ」

 

「大国ですよ今でも」

 

「日本と比べればただの片田舎の弱小国ではないか」

 

何処をとは言っていないが何処を差しているかは分かっていた。

 

「大体ですねぇ、大使公邸も建築しようとしたら気心の知れた泰司の家でよいとか無茶抜かしたの貴女でしょう」

 

「ふふふッ、ここからの眺望が気に入ったのだ。こんな眺望を貴様が独り占めしているのが気にくわぬ」

 

「貴女のその我が儘のおかげでパーパルディア関係の仕事が増えたんですよ?! ただでさえ毎日あっちこっちへ飛ばされて死ぬ思いをしている私の仕事を増やさないでくださいッ!」

 

そういう朝田にレミール皇女はアンニュイな感じで、パーパルディア大使館は泰司の家から歩いて十分だと威張り、その大きな胸を張る。

揺れる胸がぷるんとプリンの様で柔らかそうだなと煩悩に捕らわれる朝田。

 

「触るか? お前ならばよいぞ。この一年外交で仕事を共にしてきたお前にならば、私は私のすべてを委ねられる。この身も、心もな」

 

真剣な表情。悪戯心の一切ない表情に朝田は慌てた。レミール皇女は本気なのだ。

 

「き、気軽にそういう事をおっしゃらないでください。レミール皇女はただでさえお美しいというのに、そんな言い方をされれば全身が凶器になりますよ……」

 

「気軽ではない。泰司だから言っている。私を身持ちの軽い売女などと同じにするな……、まあよい返事はそのうちに。それと、先ほどの湯あみで少し髪が濡れているのだ。いつものようにドライヤーで髪を乾かし、梳いてくれ」

 

香を買いに行ってくれない。求愛の返事もくれない朝田に、彼女は別な要求をする。

いつもしている要求を。

 

「い、いつもおっしゃっておりますがねえ、妙齢の女性。それも皇女殿下の様な絶世の美女がですよ、たかが平民の男なんかに髪を触らせるのは」

 

「では香を購入して参れ」

 

少し不機嫌そうにレミール皇女が言うと。

はあ、ため息をついた朝田は棚においてあった自分とレミール兼用のドライヤーを手に取りスイッチを入れる。

温かい熱風が出てくる。それを朝田は「失礼致します」と一声かけてレミールの長い銀髪を持ち上げて、濡れている個所へと定点的に充てていく。

 

「こういうの本来侍女にやらせる事でしょう」

 

「侍女は専用の宿舎で生活しておるからここには居らぬな。ここは私と泰司の家だからな」

 

「私の家です!」

 

「ふん、この一年様々な国を二人で巡ってきたではないか」

 

「パーパルディア代表がレミール皇女ですからね。それに失礼ですが、外交官の能力としましては私の方が上。辻閣下よりよろしく頼みますよとある意味教育係的な仕事も頼まれておりますし」

 

「サークレットが邪魔なのですが」

 

「遠慮せずに取るが良い」

 

「遠慮しますよまったく。綺麗な御髪に傷が付いたらどうするんです」

 

「思い切り高い美容院に行く、泰司の持ち出しでな」

 

「勘弁してくださいよ。一般人の私は私はレミール皇女のような超高給取りではないんです」

 

「その割には100階のマンションに住んでいるではないかオートロックの」

 

「このマンションは300階ですから私は下層界の方ですよ」

 

「誠に驚かされるなこの帝都東京は。800m900mの天をも突かんとする建築物がザラにあり、中には1000mを超えるビルまで……エストシラントが田舎に見える」

 

「まあ、おかげで日照権問題で煩くなってますけどね」

 

朝田は髪が絡まったりしない様にレミールのサークレットを外す。

そうして、ゴー。充てられていくドライヤーが、レミールの長く美しい銀色の髪を乾かしていく。手触りはとてもいい。いつも彼女とはこうしてじゃれ合っているが、朝田はこの時間が何となく好きだった。レミールと二人だけで居るこの時間が。

レミールはこの朝田に髪を触られ、ドライヤーを充てられている時間が好きだった。気持ちいのだ。そして上手い。

 

「泰司」

 

「なんです?」

 

「お前には特定の好いた女は居るのか」

 

「真面目な話で居ると思います?」

 

別に焦るでもなく平然と答える彼に。居ないだろうなとレミール皇女も思った。この一年を共にしてきて、仕事仕事仕事の日々だった。これで女など居れば疾うに振られてしまっているだろうと。

朝田の傍に居た女は公私ともにレミールだけだった。レミールの侍女も居るには居たがこちらはずっと一緒では無かった為に除外する。

 

「レミール皇女」

 

「な、なんだ」

 

そんな話をしたばかりのレミール皇女は焦る。もし、彼が私に告白でもしてきたら……私は、良いと口走ってしまうかもしれないと。

お堅い性格の朝田泰司がその様な事を口外することはないと思われるが、もしも泰司が「レミール皇女を抱きたいのです」そう口走れば、私は「優しく抱いてくれ」とこの身を泰司に差し出すだろう。

 

気のせいでもない。そのくらいレミールと朝田の中は良好なのだ。ただ邪魔なのは身分さだ朝田泰司は日本の外交官ながら平民。一方のレミールはパーパルディアの外交官ながら皇女。

これほどに身分の差が煩わしいとは思わなかった。ルディアス皇帝となら問題はないが、あの愚か極まりない皇帝には何の興味もない。

近いうちにカイオスがクーデターを起こし、別の皇族を国家元首に据えるかもしれないという噂が上がっているくらいにダメな男だ。

レミール自身ルディアスは生理的に受け付けない男となって居た。一度カイオスが日本のパーパルディア大使館へとやってきたとき。

 

『レミール様、私といたしましてはレミール様に次期皇帝陛下の座に就いて頂きたく考えているのです』

 

等と宣告された。とんでもない。皇帝に等なれば今の自由な生活も、泰司との二人きりの生活も無くなってしまう。

 

そんなことは嫌に決まっている。

 

故に。

 

『私は一外交官だ。それ以上でも以下でもない。クーデターの話は私も聞き及んでいるこのままルディアス皇帝陛下……ルディアスが皇帝の座に居続ければ我がパーパルディアは衰退するだろう。故に必要な処置だと。だがその後釜を私に求められても困る』

 

『しかしレミール様ほど適任なお方は!』

 

『カイオスよ。貴様視野が狭くなっておらぬか? 焦るがあまりの視野狭窄に陥っている。かつての私と同じだ。これからも私は外交官として大日本帝国に滞在する。この国で多くを学びパーパルディアの発展に生かす。まだ見ぬ多くの国とも国交を締結していく。それに探せばいるはずだ。私以外の皇族で皇帝に相応しき者もな』

 

日本での生活、日本から祖国の外交官として飛び回る日々、泰司との生活。私はすべてにおいて満足していた。今更祖国の皇位等私は欲していない。この小さな幸せがあればそれでいいのだ。

無論、この小さな幸せは泰司と共に嵐の中を歩くこともあろう。東の果てには第八帝国とかいう日本やブリタニア、AEUと同じく転移国家が猛威を振るい、列強の一角レイフォルを滅ぼしたと聞く。

 

外交官として情報収集力も大きく向上させてきた私は、それらのある程度の詳細情報を知っている。また日本勢力圏となったパーパルディア周辺にも戦列艦を簡単に吹き飛ばせる、潜水艦なるものが潜み跋扈を始めているとも。

 

無論潜水艦は第八帝国の物で、日本の勢力圏であるパーパルディアでの活動は許さないとばかりに簡単に吹き飛ばされていたが。日本とブリタニア、AEUほどの強大なる国に喧嘩を売ろうなど愚かな。

 

少し思考の海に沈んでいた私は、泰司の言葉によって水底から引き揚げられた。

 

「レミール皇女の御髪、ロール状にしてお纏めになれらていらっしゃるよりも、こうしてストレートに降ろしていらっしゃる方が綺麗かと存じますが」

 

「な、なんだそんなことか」

 

それでもレミール皇女は悪い気はしない。半ば国を追放される様に日本へと訪れた彼女だが、あの狭いパラディス城、エストシラント、なによりも狭量な皇帝ルディアスの下に居ては広がらなかった世界がここにはあった。

世界はこんなにも広いのだ。狭い皇宮に籠り、今日本の援助を受けて発展を始めたばかりのエストシランとに居ては、今の自分は息が詰まってしまうだろう。

朝田に持ち上げられる髪。朝田、泰司。泰司にあの日世界を見ませんかと手を差し出され、その手を取らなければ、私の世界は広がらなかった。

 

「泰司はロールに纏めている方が好きか? それともストレートに降ろしている方が好きか?」

 

髪型だ。私の髪型を決めるとしたらそれは泰司を置いて他には居ない。というか泰司が好きな髪型にしたいと思う。

 

そんな泰司の答えは

 

「ストレートに降ろしていらっしゃる方が綺麗です。ですが……これはまあ私事ですがレミール皇女のそんなお姿を他の男性に見せたくありませんので、見慣れたロール髪の方が」

 

面喰い、頬が熱く火照る。泰司は自分の降ろし髪を綺麗だから他の男に見せたくないといった。

 

泰司にも確かに独占欲があるのだ。レミールに対する独占欲が。なまじっかこの一年ずっと一緒に仕事をしてきたわけではない。

 

アルタラスに行った、フェンに赴いた。ガハラ神国にも足を延ばした、ロデニウス大陸はクワ・トイネ公国、クイラ王国にも足を延ばした。

これまで文明国圏外として見向きもしなかった国にも積極的に赴き、外交を繰り広げた。中にはレミール=パーパルディア皇国を露骨に警戒する国もあったが、日本が仲介に入る事で事はスムーズに進んでいった。

ロウリア王国に付いてはダメだったが、たかが未開の蛮国に屈したパーパルディアという印象を強く持たれ、いずれパーパルディアにも攻め込んでやるわと露骨なまでに皇女であるレミールに吐き捨ててきたのだ。

これには一緒に居た泰司が憤慨し語気を強めたが、日本に見せられなかったパーパルディアの力見せてやろうぞとレミールが余裕で受け流していた。

 

まあその前にクワ・トイネ公国、クイラ王国に手を出せば超大国三国の怒りを買っておしまいだがと心中哀れんでいたが。ロウリアはパーパルディア皇国と戦争になろうが、クワ・トイネ公国、クイラ王国と戦争になろうが滅びるのだ。

 

そうして一緒に一年の間、まるで旅でもするかのようにレミールと泰司は共に歩んだ。そんな中、泰司にもレミールに対しての独占欲は産まれていたのである。

相手が一国の皇女様だから、身分の違いがと遠慮はしていた物の、随所にその様相は表れていたのだ。

 

因みにこの間、皇帝ルディアスはレミール皇女を強国にひざを折った情けない女と見下げ果てるようになっていた。

一方で朝田泰司とレミール皇女は揃って世界が見えていない小さな男としてルディアスを完全に見限っていた。

 

 

とかく、身分違いの独占欲。これに朝田泰司は苛まれているのである。レミールはパーパルディアの皇女。これは一生涯変わらない。自分はただの平民これも一生もの。

普段からのレミール皇女への態度自体が不敬なのだ。仲良くなったそれも思いっきり、ベッドを共に枕を一つで寝ている。こんな事、普通ではありえない。

 

だがそんなに悩む泰司の心の一方で、レミール皇女は泰司が抱かせろとでも言って見せれば、いつでも抱かれるくらいの覚悟はできていたのだが。女の心、男知らずである。

 

「そ、そうか」

 

独占欲。泰司は私に対して独占欲を持っているようだ。私はパーパルディア皇国皇女レミールだぞ。誰かに独占欲を抱かれるなど。

この一年、共に仕事をしてきた。私はパーパルディアの外交官としてだが、無理矢理国を広げるのではなく、外交によって相手国と対等に絆を繋いで行く事を泰司に教えられてきた。

 

「終わりましたよ……レミール皇女の御髪、綺麗ですから触り心地がとてもいい。艶めかしくさらさらで。女性の髪なんてレミール皇女以外触った事ないですけれども皆こんな感じなのですか」

 

「あ、ああ、それは嬉しい。そ、それと、泰司は他の女の髪のことなど触るな考えるな。私の髪だけを触って居ればいい。いつでも触らせてやる」

 

「あ、こ、これは申し訳ありません。他国の皇女殿下を前に礼を失しておりました」

 

「よい。泰司には、その、私の事だけを考えていてもらいたいのだ。私以外の女の事など考えてほしくないのだ」

 

「レ、レミール皇女っ、それは、その」

 

レミール皇女は美しい女性だ。充分絶世のを付けていいほどの。そんな美女の事だけを考えていろと言う実に簡単な命令は遂行可能である。

それが逆に気を動転させる。泰司を見る美しいレミール皇女は、彼の答えを待っている。

 

「出来ぬか?」

 

出来る。恐ろしいくらいに簡単に。それをしてしまってよい物かと悩む泰司は妥協するように言葉を絞り出した。

 

「ど、努力はしてみましょう」

 

 

 

努力するという彼の言葉に瞬間私は抱き着いていた。

 

「ちょっ、レミール皇女お戯れはっ」

 

「戯れではないっ」

 

「え、ええっ」

 

私も案外、いや、かなり独占欲が強いのだな。自分の意外な一面を見させられた。ああ、元々か。傲慢だからな私は。

 

それにしても泰司、朝田泰司。私を広き世界に連れ出してくれた男。お前は私の事をどう思って居るのだろうか。

 

 

340:二二三:2023/04/03(月) 11:35:04 HOST:KD106155008195.au-net.ne.jp

終わり。ありえないカプ。こんな優しい世界があってもいいよね

このシリーズの冒頭でレミールが日本に居たのは

駐日パーパルディア皇国大使+朝田さんと一緒に外交巡りをしているからなんですよね

 

341:二二三:2023/04/03(月) 12:23:23 HOST:KD106155008195.au-net.ne.jp

書き忘れ

休日トーゴー氏ユフィルート×日本国召喚のクロスオーバーです

 

342:二二三:2023/04/03(月) 12:39:52 HOST:KD106155008195.au-net.ne.jp

トーゴー氏のと書いてないからトーゴー氏のではないかも?

まあ見てくだしゃったらそれで嬉しいっす

 

 



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小さな幸せ9 レミール皇女殿下にお見せしましょう

 

 

 小さな幸せ9

 

 

 

 レミール皇女殿下にお見せしましょう

 

 

 

 パーパルディア皇国駐日大使にして本人自身も外交官として、大日本帝国外務省外交官朝田泰司と北側諸国を飛び回り国交樹立を成し遂げてきたパーパルディア皇族レミール。

 

 彼女は本日、朝田と共に、早朝。スマホで呼び出された。彼女を呼び出した相手は、大日本帝国の財務を司る、日本の影の支配者と呼ばれる者たちの中の一人。

 

 辻正信。その名を聞いて、彼女は心臓が止まりそうになった。

 

「た、た、た、泰司、私は何か粗相をしてしまったのだろうか?!」

 

「粗相だなんて、思い当たる節でもあるのですかレミール皇女?」

 

 二人とも今は裸で抱き合っていた。昨日夜遅くまで愛し合っていたのだ。陸み合いを、愛しい泰司と、愛しいレミール皇女と事を成していたのである。甘く切ない愛の時間、子を成す行為である。一時間、二時間、何度となく抱き合い続けた先で共に果てた。以前より思い続けていた事だが、身体の相性が最高なのだ。気持ちいい、心地いい、切ない時間はあっという間に過ぎゆく。そうして二人はただ微睡の中へと。そんな愛の日々。

 

 大日本帝国の平民朝田泰司とパーパルディア皇国皇族レミール、位を大きく別とする二人はだが恋人同士でもあった。許されるか許されないかは、日本の法律では他国の皇族と婚姻関係を結んでも良しとされている。

 

 だが、パーパルディアの皇族は歴史的に平民と婚姻関係を結んだ事は無い。レミール皇女が初めてのケースとなるだろう形であり、新皇帝であるレミールの従妹セレミアは皇都エストシラントのパラディス城にて、レミール姉様の為にと皇室典範を調べ穴が無いか。場合によっては法を変えて皇族と平民でも結婚できるように取り計らう為にと奔走中だったのである。

 

 とにかく一年以内に大筋を決めておかなければ、レミール皇女が朝田の子を妊娠、出産してしまう可能性がある。パーパルディア皇国新皇帝はそれはレミール皇女の愛の日々を耳が痛くなるほどに聞かされており、御子を宿すのも時間の問題と捉えていたのだ。

 

 事実として時間の問題なのだ。なにせ朝田とレミール皇女は一切の避妊をしないで愛し合い続けている。

 

『泰司の子が欲しい……私は、私は泰司の子が欲しいのだ。泰司の子を産み、泰司と二人で育てていきたい……。泰司、私の願い、叶えてくれるか?』

 

『もちろんですよレミール皇女……。私も、実はずっと以前から否認してこなかったのは、レミール皇女との子が欲しかったからです。レミール皇女に私の子を産んでもらいたいからなのです……。レミール皇女……、私の子を産んでくださいレミール皇女……!』

 

 朝田はレミール皇女に覆いかぶさり、彼女を掻き抱き、事を成していく。

 

『ああっあ──っあ……泰……司』

 

 事を成されるレミール皇女は切ない声を上げ朝田を呼び彼の背中へ腕を回す。

 

『レミール皇女……っ……、』

 

 愛し合う二人の高位は自然と深まっていき、朝田はレミール皇女の中で果てる。

 

 

 毎日毎日、朝田とレミール皇女は愛し合っている。危ないときであろうとも構わずに。それだけ二人は互いを愛し、想っているのだ。子は出来て自然であり、当然の状態へと落ち着いていた。

 

 パーパルディア皇国皇族レミール皇女は日本人の平民朝田泰司との子を望み、日毎愛を紡いでいる。これはパーパルディア皇国の皇室でも噂になってきており、余計な問題──と言っても相手国があの超大国『技術の日本』では口をさしはさみにくいが、さすがに皇族と平民では問題も多かろう。パーパルディア皇国の皇室の法その物を改訂する必要性が生じていた。皇族でも条件によっては平民との婚姻が結べるように。

 

 もちろん皇族の中でもかなり位の高いレミール皇女に意見をさしはさむ者はいない。ただ、だからと言って放置のできない問題。子どもが出来てから、ましてや産まれてから、さあ法を変えようといのも格好がつかないと、あれこれと調べ周りながら、大日本帝国を中核とする北側諸国と、妙な雲の向こうのもう一つの神聖ブリタニア帝国から供与を受けた、鋼鉄の軍艦と鉄竜、ムーのマリンをより強力にした戦闘機と言う兵器の精査にと奔走していた。

 

 北側諸国とは通称である。妙な雲が沸いたと同時期に世界が一瞬眩く輝き、その時に日本の向こうに現出した三大超大国がかつてあった世界より新たに転移してきた、大陸や島国の数々。

 

 いずれもがこの世界基準で言えば列強一位のミリシアル帝国を超えた国力と戦力を持つ国ばかりで、北側諸国の盟約では一国に手を出されたら此れ即ち全国家への攻撃とみなし反転攻勢へと入るという、頼もしくも恐ろしい体制を組んでいたのだ。北側諸国が現れた場所は三大超大国が現れたのと同様の場所、大東洋。北側諸国で一番小さな国シーランド王国は大日本帝国の海南島近くの海域に出現した。

 

 小さいからと侮ることなかれ。その小さな国の戦力でさえパーパルディア皇国を容易く滅ぼす力を持っている。人口の都合上統治まではできない。人口だけは7000万人の皇国の方が圧倒的に勝るからだ。

 

 そんな大変な情勢の中、新皇帝セレミアの苦労を横目に朝田泰司と愛し合い続けているレミール皇女は、子供の名前はどうするとか、男児と女児とどちらが産まれるのだろうなと惚気に惚気ていた。

 

 また、そんなレミール皇女を愛する朝田も。子供が出来たら何処へ連れて行ってあげましょうか? や、その前に新婚旅行の為の休暇手続きを取らないといけませんねと惚気ていた。

 

 立場上二人はまだ恋人同士、婚約者ですらないが。結婚はすでに決めており。事実上の夫婦状態にあった。それは新婚さん状態の二人。惚気たくもなる。苦労するのは皇帝や重臣だが、高位皇族でありながら外交官でもあるレミール皇女には外交という仕事がある為、本国の事についてはノータッチ。

 

 知らぬ存ぜぬを貫き通していた。本国には他の皇族たちや皇帝、重臣に政治家たちが居るのだから、自分は日本で毎日愛の──働いていればいいのだとして。

 

 

 この異世界に日本事来て、巨大な異星の惑星にやって来て働きづめだった朝田に訪れた幸せ。そのレミール皇女との幸せな毎日のお陰で、朝田の疲れも吹き飛んでいた。

 

 二人の愛の時間は夜通しほぼ毎日、日毎の事なので、朝起きた時はお互いにこなれた動作で朝食を摂り、仕事場であるパーパルディア皇国大使館へと向かうのだ。

 

 朝田は大日本帝国の外務省職員だが、仕事場はレミール皇女と同じパーパルディア皇国大使館で、仕事内容は主にレミール皇女の補佐。もちろん大日本帝国外交官としての仕事もあり、二人は一組で日本とパーパルディアの外交官の仕事に就いているのだ。

 

 そんなある日の朝。朝田が鏡台に座るレミール皇女の膝下にまで届くほどに長い、輝くように美しい銀色の髪を自らの手で持ち上げ、櫛で梳いていたいつもの朝の、いつも通りの事をしていた時の事。

 

 二人のスマホにほぼ同時に鳴った電話、そのメール相手こそが辻正信だったのである。本日午後●●時。倉崎重工の海軍工廠まで来てください。遅れることは許しませんよ。

 

 そんな不気味なメールが入ったのである。これに心穏やかではいられないレミール皇女は、朝田に何かしていないだろうかと問いただしたのだ。

 

 結論から言おう。何もしていない。日本の真なる支配者の一人の心象を悪くするようなことは何一つ。パーパルディア皇国と日本及び北側諸国は対等なる外交関係ではあっても、パーパルディア皇国側が北側諸国に対して常に平身低頭。

 

 気を使いながら今日までやって来た。それもそうだ。北側諸国で最も小さな国、シーランド王国でさえも、パーパルディア皇国を滅ぼそうと思えばいつでも滅ぼせるのだから。それを彼の国々との外交関係を築いて行くにあたり、レミール皇女は思い知らされた。

 

 科学水準に技術力・国力が圧倒的に違い過ぎる。簡潔に言うならお話にならない。これまでは、ルディアス前皇帝の時代まで、周辺国をいびり倒してきたパーパルディア皇国だったが、立場が逆になってしまうどころか、逆さになってもまだ足りない程に力の差があり過ぎて、最早皇国の皇族たちも恐れを抱くばかりになって居る。

 

 パーパルディア皇国は井の中の蛙だった。レミール皇女自身も、前皇帝ルディアスも、軍部の最高責任者アルデも。いや皇国の誰もかれもが列強パーパルディアと勝手に傲慢になり浮かれていたのだ。

 

 レミール皇女はあの日を思い出す。朝田と、泰司と友誼を深めていく中で知って行った当時は三国だった国家群の強大さを。そして実際に外交に国交開設交渉に訪れた大日本帝国・神聖ブリタニア帝国・AEU三国の大艦隊に、曇った眼を覚まさせられた。

 

 120,000tを超える排水量を持つ巨大に過ぎる戦艦。同じくらいの排水量を持つ巨躯を誇る空母。伝説にしかない空飛ぶ軍艦同様の浮遊航空艦が空から影を落とし、海は鋼鉄の船で埋め尽くされた。あの大戦力に当時のパーパルディア皇国の戦列艦800隻程度でどうなるというのか。

 

 空を飛ぶKMFや音を超える速さの戦闘機を前に、ワイバーンロード。ワイバーンオーバーロードが何をできる。ムーのマリンやラ・カサミにすら勝てないわが国の軍隊など、巨大な生物に踏み潰されるアリと同じだった。

 

 それでも強がって見せた、無謀さを隠さなかったルディアスは余剰艦の処分を奴らにやらせて、あれらが本物か張りぼてかを見極めてやろうぞ、そう虚勢を張り日本を挑発した。怒った、怒らせてはならない辻卿は舐められたことで静かな怒りを見せ、弱肉強食がお好きならやりましょうか弱肉強食をと態度で表すと、余剰艦全艦150隻を物の十数分で沈めて見せた。当時、日本の浮遊航空艦の中より軍司令のアルデと共に生で見ていたレミールは思い知った。既に気付いていたが、それもまだ甘い認識だったのだと。

 

 ルディアスは、無敵皇国軍を嘯いていたルディアスはこれを見せられて最終的に王室から逃げた。王室から逃げ、隠れ部屋に逃げ込み、パラディス城からの脱出さえ試みていたのだ。あの男に、あんな男に一時は懸想していた自分が今でも情けない。

 

 それ以外の皆は、殆どの者が、現実を現実の物として受け入れ、事の対応に当たっていき、この忙しい一年の中で、北側諸国より友好の印として鋼鉄の機動部隊を無償で供与されたのだ。

 

 だが勘違いしてはならない。意味するところなどすぐ分かる。北側諸国にその気はないが、それをポンと渡せるところに、その戦力でさえ北側諸国の前では無力に等しいという事が。

 

 そして逃げていたルディアスが姿を現し、‟全ては外務局監査室が日本の国力を見抜けなかったことに責任がある。レミールの失態である”として、自分に責任を押し付けようと画策。

 

 未だ居た愚か極まりないルディアス派と共に皇国は僅かな内紛とも呼べない内紛を起こした。この際、辻卿は『7世代機クラスは貸出できませんが、4世代の無頼をお貸ししましょうかデヴァイサー付きで。無償で構いませんよ。ただKMFですから貸すだけですよ?』そう日本は力を貸して下さった。

 

 KMFというものは恐ろしいほど強かった。ファクトスフィアという無頼内部で魔導式映像通信機のような今では既知のセンサーカメラが搭載され外部は全周囲が丸見え。スラッシュハーケンという鋼鉄の刃のような武器。

 

 ランドスピナーという地上を高速で自由自在に走り回れる車輪。そして銃を大きくしたようで高速連射が可能な銃を装備し、皇都エストシラントを駆け回りルディアス派を駆逐していった。容赦がない。とは、まさにあれを言うのだろう。大蹂躙でしかなく、情けない話、自分の従妹であり、パーパルディア皇国皇女セレミアを筆頭にした融和派は、結局何も手を出せないままに紛争は終結。

 

 後、逮捕されたルディアスとルディアス派の皇族貴族、政治家官僚には、これまでの皇国の業を全て被ってもらい処刑。新皇帝には聡明なる従妹にして対日本融和派筆頭であった、皇族のセレミアが即位し、自分は駐日大使兼一兵卒の外交官としても日本に赴任した。

 

 日本に赴任した理由は特にない。皇国内では人質としてレミール皇女が選ばれた。狂犬レミールとも呼ばれ、皇族の中でも皇位の高いレミール皇女が人質として丁度良いと。

 

 だが事実は異なっていた。日本からしてみればパーパルディア如き極弱小国の皇族を人質に取る意味も理由も無い。普通に外交官として派遣されてきた物として捉えられていたのだ。

 

 この事は徐々に皇国民の間でも周知されていく。日本は人質外交などと言う時代錯誤な政策を取りはしない。レミール皇女は自らが志願して異国の地に旅立ったのだ。レミール皇女が外交官として日本へ渡ってより一月もしない間にこの事実は広まった。

 

 日本は、日本を含む北側諸国は何もかもが我々と違う。我々は日本に、彼の国々に学ばなければならないのだ。傲慢だった皇国民の意識も良き方向へと導かれていった。

 

 レミール皇女を変えたのも日本の外交官だった。朝田泰司。ただの平民で外務省の一職員。そんな男がレミール皇女と深い友誼を結び彼女を変え、やがて二人はその距離の近さゆえに想いを寄せ合っていき。

 

 

 そうして朝田と、泰司と愛し合い結ばれた私は、夜ごと泰司と愛を紡ぐ中になったのだ。だがもし辻卿の御不興を買ってしまっていたならば、そんな幸せで優しい日々も終わりを告げる。それほどに日本を真に支配するあの御方々は恐ろしいのだ。

 

「泰司よ、本当に大丈夫なのだろうな……私は粗相を、お前が何かのミスをしでかしていないだろうな?」

 

「大丈夫ですって。それは私もあの御方々は怖いですよ。いや、あの御方々を怖がらない省庁職員や政治家は居りません……あの方々と対等なのは本当にごく一部なんです。前嶋田政権の方々と。まあ、その実あの方々の実態を知らない人間の方が多いのですけれども」

 

 泰司はそう笑いながら、私の髪を梳いていく。最近は髪を梳かれてそれで終わり。ロールヘアー、以前していた巻き髪にはしていない。

 

 泰司曰く。髪を降ろしている方がお美しいですから。泰司に美しいと褒められるのは嬉しい。泰司を見初めて以来特に女磨きなどはしていないが泰司は『自然のままのレミール皇女が一番お美しいのですよ』そう称えてくれるのだ。

 

「外交官は見栄えも重要です。相手に対する印象が大きく変わりますからね。だから我々もビシッとしたスーツと髪型で決めているでしょう?」

 

「確かにな。泰司はいつも、いや北側諸国の外交官は皆清潔感がある」

 

「レミール皇女の様に皇族の方なら特に。レミール皇女の場合だといつもの豪奢なドレスをお着になられて、御髪は綺麗に整えてストレートが一番お美しいのでそれで決めて、頭に金のサークレットを戴き皇族らしく美しく優雅に。そうすれば相手の印象も変わります。しぐさは気品あるものでですね」

 

 色々と注文を付けてくる泰司にふむ、確かにと頭に入れながら。

 

「だがこの相手を挑発してしまう様な言葉遣いだけは変えられぬぞ。これは今更矯正など出来ぬゆえにな」

 

「構いませんよ。別に。レミール皇女のような言葉遣いをされているブリタニアの皇族、貴族の方は普通にいらっしゃいますし」

 

「そ、そうなのか?」

 

「コーネリア第二皇女殿下などがそうです」

 

「コーネリア殿下が」

 

 コーネリア・リ・ブリタニア殿下。神聖ブリタニア帝国第二皇女であらせられるお方。私もパーパルディア皇国皇位の高い皇女だが格その物が違い過ぎる。『力のブリタニア』と呼ばれる北側諸国最大の国の皇女殿下なのだから。

 

 日本は『技術の日本』北側諸国で常に最先端の技術力を誇り、80年ほど前にはブリタニアと戦争をし、互角に渡り合ったというやはり桁外れの国。これらの国々と渡り合ってきたのが南側諸国、通称『数の南天』という国々らしいが、なんでも兵力8000万というとてつもない兵力を展開可能な国だったらしい。

 

 我がパーパルディア皇国の人口ですら7000万人。我が国の人口よりも多い兵力を世界中に展開し、北側諸国と代理戦争を繰り返してきたという。向こうの世界。考えるだにそら恐ろしき世界よ。

 

「レミール皇女、御髪のお手入れ終わりましたよ。レミール皇女の御髪は膝下に届く長さですから結構大変です。こうして私が持ち上げながらお梳きしなければ床に着いてしまいますからね」

 

 確かに長いな。私の髪は長い。膝下まで届く長さゆえにこうして鏡台の前に座ると髪が床に着きとぐろを巻いてしまう。そうならないように泰司が私の髪を優しく持ち上げてくれるのだが。

 

 その手つきの一つ一つが愛おしくて私は胸を高鳴らせるのだ。だが、確かに私の髪は長すぎるのは長すぎる。ふむ、いっそ短く切ってしまおうか。セレミアは肩下までの長さ。あのくらいが丁度良いのでは?

 

「短く切った方が良いか?」

 

 軽く呟いてみた言葉に泰司は。

 

「と、とんでもございませんっ! レミール皇女のお美しい御髪を切るだなんて! 私は反対ですっ!」

 

 大慌てで否定されてしまった。

 

「それにこうして、朝や夜、風呂上がりのレミール皇女の長くお美しい銀色の髪を持ち上げ、触り、お手入れをさせて頂きますのは、私の楽しみの一つなのですから。その楽しみをお奪いにならないでください」

 

 褒めちぎりと言うか、自分の欲も入っているのか。女としての私への……。う、うむ、何だか照れ臭いな。

 

「そ、そうか、泰司は髪は長い方が好きなのか?」

 

「レミール皇女の長くお美しい御髪が好きなのですよ」

 

 にっこりと微笑む泰司。ああ、分かるぞその気持ち。私は泰司の全てが好いておる故にな。

 

「私は泰司の全てが好きだぞ……泰司」

 

 目をつむる私。泰司の両手が私の肩を掴む。意味はもう分かっていよう、泰司も毎朝私としているからな。いや、朝だけではないか……。昼も、夜も、時があれば口付け、そして愛し合う私たち。

 

「レミール皇女……」

 

 

 んっ──

 

 

 触れ合う唇。軽い触れ合いだが、湿り気を帯びた泰司の唇と私の唇が、お互いに吸い合う様に吸着した。

 

 薄目を開けると泰司の眼鏡が見える。蛍光灯の光を反射する眼鏡の向こうの泰司の瞳も僅かばかり開いている。私は私からも泰司に抱き着いた。抱き着いて口付けを強くした。

 

 ああ、泰司、愛している。私はお前を愛している……甘く蕩けるようで、少しばかり酸い味が口の中に広がる。唇同士の吸い合いは解けない。むしろますます強くなる。自分たちでそうしている。

 

 泰司が私の髪を撫でた。泰司が好きだという私の長い髪に泰司は指を絡ませながら。髪に指が絡められる感触はとても気持ちいい、心地いい。胸がどきどきとする。

 

 泰司は私の唇を押し割り舌を入れてきた。私の口内を泰司の舌が這う。私の歯茎を綺麗になぞり、私の舌の裏筋を優しく舐め上げ、唾液を送り込んできては私に呑ませるのだ。

 

 美味しい、と、そう感じられる生暖かい泰司の唾液を私は嚥下し、喉の奥へと飲み下す。

 

 ◇

 

 愛しいレミール皇女との口付け。朝、よく行う軽い口付けはいつもこうして深い口付けへと移行する。一度口付けを始めると私たちは止まれなくなるのだ。止めようとも思わない。ただ自然のままに。

 

 レミール皇女の長く美しい膝下にまで届く御髪を、私は梳く。私の手の指を以て梳くのだ。指に絡めて梳き通し、何度も何度もレミール皇女の長いさらさらと艶めかしい御髪を愛撫。

 

 その間も口付けは続けながら、冷めやらない熱を彼女の口の中へと私は送り込む。

 

 そうして幾分か、レミール皇女の口内を自由に這い回っていた私の舌に、レミール皇女は自分の舌を絡めて、私の舌を絡めとりながら、私の舌の裏筋を、私がそうしたように優しく撫でてくれる。

 

 いつの間にかお互いの場所は入れ替わり、こじ開けられた私の唇の中へとレミール皇女の舌が入って来ていた。

 

 ああ、なんて甘く酸っぱい口付け。朝いつもする。夜いつも行う。だが、慣れる事ない。私の愛するレミール皇女との口付けとは、一生涯慣れる物では無いのだろう。

 

 慣れようとも思わないが。愛する女性との口付けに慣れが出てしまっては新鮮さが薄れてしまう。私はレミール皇女といつまでも真新しく新鮮な愛情を交換し合って居たいのだ。彼女を心から愛するが故に。

 

「んっ、んん……んっ」

 

 繋がる唇から漏れる唾液。私の物とレミール皇女の。混ざり合った唾液が口の中いっぱいに溜まっているのだ。……何分口付けているのだろうか。五分? 十分? たぶんそれを超えている。

 

 朝の忙しい時間帯に唇を重ね合わせて、啄み合って、舌を絡め合わせて唾液を飲ませ合う。ああ、私はどれだけレミール皇女を愛しているのか? 恐らく言葉で表せられる類の物ではないのだろう。

 

 だからこそこうしてお互いに、行為を以て示すのだ。

 

 唇が離れる。唇の間には銀色の糸が一筋伸びる。レミール皇女の長い御髪の方がもちろんずっとお美しいが、この唾液も綺麗な物だ。

 

 消したくはないが落としたくもない。その想いの下に。

 

「ちゅる、レミール皇女の唾液が美味しいです」

 

「んっ……泰司の唾液も美味であるぞ」

 

 銀の唾液を飲みながら、レミール皇女の唇に軽く口付けて、糸を消した。

 

 ◇

 

 だがそうした熱い口付けは二人の愛情に火を付ける。朝も早い時間だというのに、朝食も食べなければならないというのに。

 

 朝田泰司とレミール皇女は愛し合うという行為に走ってしまうのだ。止められない愛情を二人共が触れ合わせれば、こうなることは必然だった。

 

「ああ泰司、泰司。私はっ、私はお前を愛しているっ、早くっ、早く泰司の子を産みたいのだっ、私は泰司の子を産みたいのだっ」

 

 朝田の衣服を脱がせるレミール皇女。その手は止まらない。

 

「ええ、レミール皇女っ、私も愛しておりますレミール皇女っっ、レミール皇女にこの朝田泰司の子を産んでもらいたいっ、私の子をレミール皇女に産んでもらいたいっ、レミール皇女との子がほしいっ」

 

 自分の子を早く欲しい、レミール皇女に自分の子を産んでもらいたいと、朝田もレミール皇女の衣服を脱がせる。

 

 一糸まとわぬレミール皇女がベッドに倒れ込んだ。サークレットが外れて落ちる。ベッドの上には膝下まで届くレミール皇女の銀色の長い髪が大きく広がり、銀色の美しくも柔らかな渦をベッド上に作りだす。先ほどセットをしたばかりなのにまたやり直し。

 

 だが、構わない。いまはこの美しい女を抱きたい、優しく静かに抱いてあげたい。そうして自分とレミール皇女の二人で子を成すのだ。

 

 前奏など必要ない。レミール皇女の身体にどのように入れば彼女を心地よくさせられるのか? その様な事はこの一年で学んできた。そもそもが相性の良すぎる相手同士。互いに痛みを与えた事など無きに等しい。

 

「泰司っ……っぁぁあ!!」

 

 レミール皇女の中へと泰司が入り、レミール皇女は泰司を受け入れ叫ぶ。泰司が入ってくる、愛しい泰司が最も深いところへと。レミール皇女の作り出したベッドに広がる銀色の渦が彼女の身体の捻りに合わせてうねりを帯びる。

 

 泰司から見てそれは実に美しい光景だった。泰司はその銀色の渦の一つを手に掴み持ち上げてみる。さらりとした長い銀色の髪は綺麗に輝いていた。どんな絹糸よりも柔らかくさらりとした艶めく長い銀の髪。

 

 美しい、この美しい女を私は愛さずにいられない。

 

「レミール皇女──っ!」

 

 レミール皇女の中に入った泰司も彼女の、愛する女の名を叫ぶ。大丈夫、ここは防音が良く効いていてどんなに愛し合ってもお隣さんには聴こえない。二人はそれを知っているからこそ朝の日の光の中で愛し合うのだ。

 

 レミール皇女の中はそれはとても温かく心地よい。暖かな日差しの中に居るようだ。彼女は私の太陽そのものなのだと朝田は感じる。

 

 そして本物の日差し、日の光を受けて輝く銀色の長い髪が美しい。片腕で彼女を抱き寄せながら、片手でその長い銀色の渦を手の平や指に絡めとる。

 

 手に、指に、纏わりつく、銀の髪。とても長く綺麗で、美しく輝く、きらきらとした光沢を放つ銀髪。

 

「このお美しい銀の御髪。後でまたお手入れさせていただきますね」

 

「あっああ…たの、む…、ンっ」

 

 線は細くとも豊満な双丘を揺らす彼女の身体はとても肉感的だ。

 

 たくましい泰司自身が私の中で大きく動いている。たくましい泰司の胸板が私の身体を抑え込む。

 

 そうして二人は深く深く、しかし静かで優しく愛し合い、また一つ子を成す行為と愛の交合を行うのだった。

 

 

 愛し合うところに火が灯り。愛はますます深まる。熱い口付けを終えたばかりの二人の熱は止まらない。暴走を始め、一度愛し合う時間に三十分かけ。

 

 朝田とレミール皇女の愛の交合が終わるころ、朝食を抜いた二人は共にパーパルディア皇国大使館へと出勤するのであった。

 

 午後は辻の呼び出しがある。早くに書類仕事を終えておかなければならないと。

 

 

 ◇

 

 

「お呼び建てして申し訳ありませんねレミール皇女殿下」

 

 丸眼鏡に帽子、茶色のスーツ。一見すると何処にでもいるおじさんと言った風貌ながら、その眼鏡の奥の眼光は鋭く、心の中さえも見通すような感覚さえ覚えさせた。

 

 大日本帝国の真なる支配者の一人と噂されている男。辻正信である。事実として支配者なのだと知っているレミール皇女。枢木総理大臣がはっきりと呼んでいるのだ。『辻閣下』と。

 

 現職の総理大臣が閣下と呼ぶ相手など日本の皇族以外であり得てはならない。日本の行政の最高権力者である総理大臣が出逢うたびに呼ぶ相手は幾人か存在する。

 

 嶋田閣下、山本閣下、阿部閣下、杉山閣下、富永閣下、辻閣下。かれらこそがこの日本の真なる支配者たちなのだ。他にもまだ居るだろう。まだ見ぬ支配者たちが。

 

 そんな支配者たちを前にするとレミール皇女はガチガチに緊張する。何度も言うが大日本帝国とパーパルディア皇国は対等であって対等ではないのだ。パーパルディア皇国は遥か格下の国なのだ。超大国三国の衛星国のさらに衛星国という表現が正しいのかもしれない。

 

 その超大国の支配者に呼び出されたのは海軍工廠。倉崎重工の。

 

「レミール皇女殿下はパーパルディア皇国の大使であり外交官として我が国の朝田君と共に世界を飛び回ったりする身。さぞお忙しいところを申し訳ありません」

 

「構わぬ。私に用があるからこそ呼ばれたのであろう?」

 

 いつもの言葉遣いは崩さず、さりとて無礼とならぬように努めて、レミール皇女は彼の前に立った。レミール皇女に勇気を与えていたのは隣に立つ朝田……泰司の存在が大きい。そうでなければ気圧されて這い蹲っていたところだろう。

 

「ええ、実はレミール皇女殿下に見せたいものがありまして」

 

 そうして工廠内を案内される。とてつもなく巨大な施設だった。この施設だけでパラディス城何個分なのだろうかと考えながら。彼女は泰司と手をつなぎ歩いていく。

 

 失礼に当たるだろうがそこは辻も大目に見ていた。なにせ外交官朝田泰司とパーパルディア皇国皇族レミール皇女は、時間があれば睦み合う間柄。

 

 家であれ、大使館であれ、外交先であれ、時と場所が許すのなら朝田泰司とレミール皇女は愛し合う。

 

 若い二人の愛の事情におじさんが横槍を入れるわけにもいかないと。

 

 それに一応体裁的には自分は引退した身、身分としてはレミール皇女の方が上になるのだ。……事実がどうあれ。

 

「ああそうそう、来年の今頃は朝田さんとレミール皇女殿下の間に御子がお生まれになっているのでしょうね。朝から愛し合うとは素晴らしきは愛かなですねえ。まあパーパルディア皇国の外交官としてのお仕事と、大日本帝国外交官としてのお仕事が上手く行くのなら。どこでだってどれだけでも愛し合われてかまいませんよ。よろしけれレミール皇女殿下と朝田さんの御子様、一度は抱かせてくださいね」

 

 ぼそっと口に出した辻の言葉に若い二人は真っ赤になる。事実を指摘したまでだが実に初々しい。反面二人からしてみれば朝の情事を全て知られているのではないかという怖さと羞恥。如何なる時での情事も認めて下さっている安心感。子供が生まれたらという、既に子が生まれた後の事も考えて下さっている優しさで、頭の中がごちゃごちゃになっていた。

 

 辻は忙しい二人が、忙しいの中に愛し合う事を組み込んでいる事も当然知っている。今朝も愛し合ってきたのでしょう? 素晴らしい事です。

 

「パーパルディア皇国の皇族であらせられるレミール皇女殿下が一般人の朝田君と結ばれ子を儲ける。素晴らしいロマンスではありませんか。私も応援しますよ。パーパルディア皇国皇族レミール皇女殿下が日本人の朝田泰司君との間に子を儲けるという事は、両国にとってもめでたき事ですからねえ」

 

 ますます赤くなる二人は辻卿、辻閣下はいったいどこまで知っているのだろうかと疑問を抱きながらも恥ずかしくなる。一方の辻はにこにこと微笑み、やがてその場所に付いた。

 

「ま、あなた方の御子様よりも、この子の方が産まれるのは先になるのですけどね。この子の姉妹たちも同時期に産まれます」

 

 巨大な鋼鉄の船がそこにはあった。

 

「つ、辻卿、これはっ、これはなんなのだ?!」

 

 レミール皇女が驚き大声を上げるも、職工たちは誰も興味を示さず手を止めない。

 

 辻閣下よりの御命令は早々に仕上げる事。これ一択であるのだ。

 

「船ですが? レミール皇女殿下にはこれが船以外の何かに見えますか?」

 

 船は船。分かっている。見ればわかる。問題はその巨大さと、鋼鉄の船である事だ。

 

「そ、それはっ、分かっておるっ、いったい、何の船かと──」

 

 少々恐慌状態に陥るレミール皇女。無論すぐ隣に彼女の愛する男が居る。

 

「レ、レミール皇女落ち着いてくださいっ」

 

 ぐっと泰司がレミール皇女の手を握る力を強くする。私が居るからご安心をと言っている。レミール皇女は大きく深呼吸をして気を落ち着かせた。

 

「辻卿、この船はいったい何の船なのだ? 軍艦であることは分かるのだがこの様に巨大な軍艦は──」

 

「おや? レミール皇女殿下はこれ以上をご覧になられているでしょう。これは精々70000tと言ったところですよ。いまどき70000tの戦艦など旧式もいいところの戦艦です。まあ一応新品は新品ですがね」

 

「こ、これが旧式……?」

 

 泰司を振り返るレミール。泰司はこくんと頷いた。そうだ、これは所詮旧式なのだ。80年以上前にはこれよりも上の戦艦を日本は造船し、ブリタニアと戦っていた。

 

 同時期、ブリタニアもこれ以上の80000t級戦艦を素早く繰り出してきた。日本がブリタニアの半歩先を行くならば、ブリタニアはその半歩を埋めにかかる。昔からずっとそうだった。

 

「同時に4隻起工しておりますがなぁに、すぐに出来ます。こちらを貴国、パーパルディア皇国にお引き渡し致します。ああご心配なく、こんな安物は無償ですから」

 

「や、やす、もの、」

 

「その気になればこれくらいの物ならば半年で30隻は作れますよ。いまは造船技術も上がってますからねうちとブリタニアはこんな安物要りませんので作りませんがAEUも。我々の国では戦艦と言えば10万tからです。70000tはまあ中途半端なポケット戦艦ですかね」

 

 レミール皇女の常識ががらがらと音を立てて崩れていく。

 

 こんなものを4隻も手に入れれば列強1位の座は確実。神聖ミリシアル帝国を超えてしまう事確実である。だがそれも『技術の日本』にとっては短期間で作れる上に、安物でしかなかったのだ。

 

「し、しかし貴国はもっと小型の巡洋艦や駆逐艦も作っておるではないか! あれはどう説明するのだ!」

 

「あれらは主に空母の護衛戦力でありミサイル艦艇です。射程など数千㎞からですので全く違います。技術の塊なんですよ。弾道ミサイル、こちらで言うところのコア魔法ですか? それも撃ち落とせますので」

 

「なっ!!」

 

「おや? もう一年も我が国にいらっしゃったのでご存知かと思いましたが」

 

 コア魔法を撃ち落とせる兵器。そんなものを多量に搭載した軍艦。そんな子供の考えた私の考えた最強の兵器みたいな物が実在しているのか!

 

 調べてはいた。大日本帝国や神聖ブリタニア帝国の兵器については。戦艦、空母、浮遊航空艦、KMFや巡航ミサイル、戦闘機に爆撃機。

 

 戦車、装甲車、火砲、その他多種多様のミサイル、電磁砲、荷電粒子砲、だが弾道ミサイル撃墜用のミサイルについてはまず弾道ミサイルが何なのかを調べていなかった自身の落ち度だった。

 

 部下で同僚でもあるパーパルディア皇国の別の外交員が、この国の兵器はいやはや予想も出来ない物ばかりで見るたびに驚かされます。そう話して興奮していたのに聞き逃していた。

 

 まさかコア魔法の類の一つだったとは。この国にはコア魔法よりも強力な兵器が無数にあるというが。その回避手段も当然あり、攻撃手段も。

 

「で、ではフレイヤは?」

 

 フレイヤ、それこそがコア魔法を凌駕する兵器。半径300㎞・直径600㎞を空間ごと消滅させる究極の兵器。日本はこれを何万発と保有しているらしい。

 

「察しが早くて助かります。弾道ミサイルにも積んでおります。KMF発射型、陸上発射型、フレイヤ砲弾、潜水艦発射型、艦艇発射型、爆撃機発射型、戦闘機投射型、手段は色々ありますよ。前にも申し上げたと思いますが、我々はね世界を10回は滅ぼせるんですよ」

 

 やりませんがねと微笑む辻卿

 

「話を戻しましょうか。こっちの方に、これの砲は46㎝三連装超電磁砲3基9門。射程は300㎞。全長270m、全幅39mといったところですね。ま、こんなおもちゃの砲、我が国の大和や他国の現用戦艦に当てたところでコンっですがね。あれ? 如何なされましたレミール皇女殿下?」

 

 レミール皇女は床を見て自分のドレスの裾を掴みながら訊いた。

 

「つ、辻卿、泰司、常識とは、常識とは何なのだろう?」

 

 辻は言う。

 

「掃いて捨てる物です。ああそうそう、これの一番艦の名は戦艦パールネウスなんてどうでしょう? 貴国の守護をする戦艦に相応しい名前でしょう?」

 

 眼鏡の奥の瞳をさらに柔らかく微笑ませながら言い切った辻。

 

 ますます怖くなったレミール皇女は場も弁えず泰司に抱き着いた。

 

「たっ、泰司っっ!!」

 

「レ、レミール皇女、こんなところでっ」

 

「ああかまいませんよ朝田君。常識が崩れ去る時、皆多少は恐怖を感じる物ですから。そんなとき、愛し合う者同士抱きしめ合い、恐怖を克服するのです」

 

(レミール皇女はあなたに恐怖を感じてるんですよ!!)

 

 とは口が裂けても言えない朝田泰司であった。

 

 

 余談だが実際に一番艦の艦名は戦艦パールネウスで決定した。

 

 命名者が辻卿という事でパーパルディア皇国側は誰も逆らえなかった上。確かにこの巨艦の一番艦にはパールネウスこそが相応しいという事で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリ軍艦

 

 

 パールネウス型戦艦

 

 

 基準排水量70180t

 

 満載排水量76800t

 

 全長275m

 

 全幅39m

 

 吃水11.2m

 

 フレイヤ炉搭載

 

 推進器スクリュープロペラ4軸

 

 出力180000馬力

 

 速力32ノット

 

 航続距離∞

 

 乗員2800名

 

 主砲50口径46㎝三連装超電磁砲3基9門

 

 副砲60口径15㎝三連装砲4基12門

 

 対空砲40口径12.5㎝連装高角砲6基

 

 20㎜バルカンファランクス4基

 

 装甲

 

 舷側510㎜

 

 甲板300㎜

 

 主砲防盾750㎜

 

 

 大日本帝国が建造したパーパルディア皇国の新造戦艦。レミール皇女に見せた一か月後にはパーパルディア皇国に4隻同時に引き渡され練習航海が開始される。

 

 この巨大艦、日本曰くおもちゃがパーパルディア皇国に引き渡されたことで、皇国が大量に保有していた戦列艦は安価で売却され。また余った戦列艦は標的艦として処分された。

 

 これによりパーパルディア皇国が現在保有する戦力は。

 

 70000t級パールネウス型戦艦×4

 

 40000t級空母×4

 

 巡洋艦×4

 

 駆逐艦×16

 

 航空機

 

 ゼロ戦×600機

 

 800隻保有していた戦列艦は沿岸警備用を残して売却、標的艦処分。

 

 

 

 オリキャラ

 

 パーパルディア皇国新皇帝セレミア。

 

 前皇帝ルディアスとの紛争ではレミール皇女と共に陣頭指揮を執っていた対超大国三国と大東洋諸国融和派の筆頭。レミールや軍司令官のアルデが心変わりをしたことで、ルディアスの排除に踏み切った。

 

 ルディアスとその一党は日本軍が無頼を使い粗方片づけてしまった為、事後処理のような戦いとなり一兵も兵を失うことなくパーパルディア皇国の実権を掌握。

 

 ルディアスと一党を奴隷制度や汚職、これまでの虐殺の指揮を執っていた責任者たちとして公開処刑。パーパルディア皇国を平定した。皇帝の座に就くつもりは無かった物の周囲に押し切られ新皇帝に戴冠。

 

 レミール皇女の希望もありレミール皇女を駐日大使兼外交官として日本へ送る。レミール皇女が二十代後半なのに対してセレミアは十代後半。髪の長さは肩口より少し下でレミール皇女同様輝くような銀髪。

 

 パーパルディア皇国の皇族でありながら日本人の外交官にして一般平民の朝田泰司と結ばれたレミール皇女の為と、再び同様の事態が起きた時の為に、皇族と平民でも婚姻関係を結べるよう法を改訂しようとしている。

 

 



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小さな幸せ10

 

 

 

 小さな幸せ10

 

 

「日本は、北側諸国は何やら忙しいらしいな」

 

 朝の食卓。共に暮らし愛し合う仲にして、仕事の同僚でもある朝田泰司とサンドイッチを頬張りながら、パーパルディア皇国皇族であり外交官。身体の線は細く、黒を基調とした豪奢なドレスに身を包んだ、年の頃は二十代後半の女性。レミール皇女は呟いた。朝の日の光に膝下まで伸びた彼女の銀色の髪が輝き美しさを醸し出している。

 

 その美しい女性を向かいにしながら、黒髪を七三でピシッと分け、眼鏡を掛けた、レミール皇女より若干年上くらいの男性、朝田泰司は応じた。

 

「ええ、何か我が国の神根島近海に不思議な雲が現れたとか」

 

「神根島とは? 私も日本に一年も滞在するが聞いたことが無いぞ」

 

 レミール皇女は駐日パーパルディア皇国大使(形だけ)兼一外交官として大日本帝国へと赴任して約一年になる。大日本帝国の表で知られている事はほとんど調べ尽くしていた。神根島はそのレミール皇女が知らない領域の話だった。

 

「それはまあ一般的にはあまり知られておりませんので、念入りに神根島の事を調べでもしなければ分かりませんよ。一種の聖域の様な場所でして。その神根島付近の海域に、霞でもない紛う事なき雲が現れまして、上の方では騒動になっているのですよ」

 

 朝田もハムサンドをパクリと頬張ると続けた。

 

「かなり大きな雲でして、直径は10kmを優に超え、海中には3kmも深く沈み込み、空には20kmと伸びている。白い雲なのですが、そうですねえ、入道雲。積乱雲を大きくしたスーパーセルと呼ばれる渦巻き型の雲に近似した雲らしいのです」

 

 分かりますか? と朝田が尋ねると、レミール皇女は愛し合う時間ですら無いというのに大きな柔らかい胸を無駄に張って。知っているぞと得意げになった。

 

 一見すると朝田を誘っているようにも見える。時間が時間ならば朝田はレミール皇女をベッドに運び、そのまま愛し合っていただろう。二人の仲はそれ程に深く気安い仲なのだ。

 

「私も日本へと赴任して早一年。日本の言葉や文化、文物に触れ学んできた故にな。スーパーセルとは日本ではあまり発生しない特殊で大きな雲なのだろう? 竜巻はこれを元にして発生する」

 

「ええ、そうです。勉強されてますね」

 

「大使、といっても大使としての仕事は補佐官に全て丸投げしておる故に私は書類仕事だけだが、外交官としては見聞も知識も広めておかなければならぬからな。……しかし、解せぬ。積乱雲にせよスーパーセルにせよ、海中にまで沈み込むことは無いはずだが。それも3㎞等と普通に考えるならあり得ぬ」

 

 雲が海中に沈む。ダウンバーストという現象ならば見かけ上それが起こっている様にも見えなくもないが、通常海中に雲が沈み込むことは無い。

 

「はいそうですあり得ません。そのあり得ない現象に次いでさらにあり得ない事が起こりまして、レミール皇女には未だ情報が入っていないようですが、実はその雲からVTOLが出てきたというのです。機種型式は20年近く前の旧型機らしいのですが、どうもそれがブリタニアの物でして」

 

「なにっ。それは誠かっ!?」

 

 神聖ブリタニア帝国。技術の日本、力のブリタニアと呼ばれる強大な二大超大国。これに現在ではAEUを足して三大超大国と呼ばれる超大国国家の中で、最も強いとされている国。レミール皇女も件の国の皇女にお会いしたことがあった。コーネリア第二皇女、ユーフェミア第三皇女、マリーベル第八十八皇女などがその例だ。

 

 パーパルディア皇国と対等な外交関係を築かれている国のレミール皇女と同じく、皇族方だが、レミール皇女は話す以前に空気で格の違いを思い知らされた。

 

 同様に大日本帝国の皇神楽耶皇女ともお会いしたが、笑顔と無邪気さの中に感じた底知れなさに、やはり皇族としてそもそもの格の違いを思い知らされていた。

 

 敗北感溢れる彼女を、それでも彼の皇女方は優しく接し、国は違えど同じ皇族であると接してくださったのだ。その事に心が高揚し、いつもの態度に戻れたのはきっと良き事だったのだろうと彼女は考えていた。あの場では素の自分を出す事こそが重要だったからだ。そこにどの様な意図があろうとも。

 

「ええ、それで外務省の、まあ上がブリタニア軍とブリタニア外務省に問い合わせたのですが、そんな古い物を今更我が国は使用していない、と」

 

 約20年前の機種。日本が常に自国の半歩先を行くために追い付け追い付けとその背中を追いかけてくるブリタニアは、通常、兵器にしろ民生品にしろ最新を更新し続けている。

 

 同様に日本も世界の先を歩き続けるため、走り続けるために、先へ先へと行き続ける。けして他の国。家族と呼べるほどに固い絆にあるブリタニアにさえも追い付かれない様に。

 

 だからこそブリタニアが20年も前の古い型式の物を今更使うわけが無い。第4世代KMFグラスゴーを予備役に回しているのと同じ理論だ。倉庫には眠っているだろうがもう日の目を見ることは無い。

 

 それが雲の中から出てきた。これは何かあると日本の真なる支配者達が動き出し、自爆装置付きの無人偵察機を20機ほど、雲の中に送り込む予定だという。

 

「それでまあこちらの世界。変な話、異世界と呼んでますが、現世界のことは後回しにするそうです」

 

「待て。後回し? 日本やブリタニアの国力ならば後回しにせずとも充分、我々の世界のことにも手を付けて行けそうなのだが」

 

 まあ、実際の話、レミール皇女の口にした様に行けるだろう。ただ向こうの世界のブリタニアと全面戦争になるなら、こちらもそれなりの戦力を送り込む必要が出てくる。

 

 神聖ブリタニア帝国とはそれほどに強大なる国なのだ。普通に真正面から戦っては勝てない、これが常識。その常識が通用しないのが大日本帝国とこちらの神聖ブリタニア帝国およびAEUなのである。

 

「大日本帝国ならば真正面から真っ向勝負をしても勝てるであろう?」

 

 勝てないとは言わさない。レミール皇女がそう言う理由は、彼女自身がこの一年間で日本という国を見てきたからだ。世界中が恐れる古の魔法帝国がまるで相手にならないと思われるだろう圧倒的国力と工業力。技術力に経済力。そして軍事力を有している。

 

 その様なある種もう基準の分からない国が負けるようなことなど考えられぬと彼女は主張するのだ。

 

「まあ負けないでしょうね。20年前程度の技術力しか無いVTOLを現用機として使っている相手です。通常戦力で充分でしょう。ただまあ、何がどうなっているのか分からない現状ですから念には念を入れて、総力を挙げて調査に当たるという次第で。そこでレミール皇女。あなたの国、パーパルディア皇国にほんの少しの期間、周辺国の治安を任せたいと上は考えているようです」

 

「わ、我が皇国に?! しかし我が国はこれまで……」

 

 奴隷献上、領土の咀嚼、強引な鉱山の開発権の横取り。やりたい放題やって来た。今、新皇帝である従妹のセレミアと、処刑した愚帝ルディアスに言われるがまま機嫌を取りたいがままに、皇国に従わぬ国の国民を虐殺してきたレミール皇女自身が第三文明圏を統べる状態は変わっては居ない物の、以前のような要求は一切して居らず、何なら以前のことを謝罪して見せたりもした。

 

 外交に於いて弱みを見せてはならない。これをある程度は破って信用を勝ち取ろうと努力していたのだ。それは全てでは無いが一定の成果を収めていた。特にアルタラスで無法ばかりを働いていたカストと同類の者達を逮捕、処刑した際は、パーパルディアも変わってきたのだと他国が受け取り始めるいった感触を悉に感じ取ることが出来た。

 

「私が言うのもおかしな話、恥知らずな話だが、我がパーパルディア皇国の腐敗は思う以上に酷かった。この一年、セレミア皇帝と私、カイオス等の分別在る高官達やまともな軍機構で逮捕してきた官僚や外交官の人数は相当数に上る。完全に腐り果てていたのだ我が国は。日本とブリタニア、AEUに目を覚まさせて貰うまで。いや私の場合は泰司に目を覚まさせて貰うまで、ずっと汚泥の中をさまよっていた。ルディアスに命じられるがまま皆腐っていったのだ。そんな我が国が周辺諸国の守護を等、どの面下げて……」

 

 うつむき、肩をふるわせ、悔恨の涙を流すレミール皇女。

 

 そんなレミール皇女の傍に寄り、肩を掴み、一つ軽く彼女の唇に口づける。朝田。

 

「んう――」

 

 嬉しい事だが正直そんな気分では無い。レミール皇女は朝田の肩をぽんぽんと叩いて離れるよう促した。

 

 キスは止めた朝田。唇は離れる。だが、身体は離れない。

 

「泰司……」

 

 レミール皇女は朝田を見上げた。彼は優しく微笑みながら口にした。

 

「だからこそですよ」

 

「だから、こそ?」

 

「ええ、暴虐の限りを尽くしてきたからこそ、今度は身を挺してその国々を護るんです。今のパーパルディア皇国は艦船はたったの28隻しかありませんが、建国以来最強の軍事力をお持ちです。その力で周辺国を征服しようと野心を燃やす国を止めるんです。まあ、我が日本流に言うと潰してしまっても構わないそうです」

 

 艦船28隻。内訳は。

 

 基準70000t級のパールネウス型戦艦×4

 

 基準40000t級空母×4

 

 基準14500t級重巡洋艦×4

 

 基準2200t級駆逐艦×16

 

 ゼロ式艦上戦闘機52型360機

 

 ゼロ式【陸上】攻撃機240機

 

「しかしだ泰司よ。たったこれだけの戦力で護れるのだろうか。あのロウリアから第三文明圏と大東洋諸国を。私が言うのもおかしいが、我が国は800隻を超える戦列艦があったればこそ、ワイバーンオーバーロードが多数あったればこそ、第三文明圏最強にして列強国だったのだ」

 

 ドレスの袖で涙を拭いながら自国の現状を語るレミール皇女。だが朝田は重ねて言う。

 

「それこそ今のパーパルディア皇国の戦力の前ではおもちゃですよ。我々から見れば今のパーパルディア皇国の軍事力はおもちゃに過ぎませんが、以前の戦列艦やワイバーンなどおもちゃ以下なんです。辻閣下も申し上げていたでしょうパールネウス型をおもちゃだと。短期間で幾らでも作れると。ですがこれで間違いなくパーパルディア皇国は列強第二位のムーを超えました軽くね。それどころか恐らくですが列強第一位の神聖ミリシアル帝国すら超えたでしょう」

 

 レミール皇女は上目遣いで朝田を見ながら「本当か?」と尋ねる。以前のような高揚感など微塵もない。列強? その様な基準は北側諸国には通用しない。とてつもない国日本やブリタニアを筆頭とする国を前には。だからこそ、今のレミール皇女に驕りは無いのだ。一年間日本で暮らして知ってしまったから。日本という国を。上には上がいくらでもあることを。

 

「それとこれは辻閣下からの追加のおもちゃだそうです。は、ははツ、いや、私も予想外でしたが。貴国の防衛用とやはり第三文明圏守護用にと言うことで少しだけ強力な物を差し上げましょうとかなんとか」

 

「追加のおもちゃだと? なんだそれは?」

 

 朝田はレミール皇女の傍を一度離れると、自分の仕事用の鞄を開く。

 

「書類か?」

 

「ええ、書類です。物は……も、もう出来てるそうです。いや、自分で言うのも何ですけど、我が国の工業力は本当に凄まじい。500年ほど前から一気に上がってきたらしいのですが、ここ100年とちょっとの期間は伸び率が半端ないんですよ」

 

「そ、そういえば確かに、日中、日欧戦争だったか? 歴史書を読んだがそのあたりから日本は本当の意味で別の国となった様に私も感じた。技術力、工業力、文化、あらゆる面で世界の先を常に進み続ける強大な国に」

 

 レミール皇女は日本の歴史書を読んだことを思い出す。まず日本語が読めなかったが朝田に教えて貰いながらではあるが、この一年で中学卒業レベルの学習能力を身に付けていた。この調子で勉強を続けていけばもう二年もすれば大学レベルに行けますよとは朝田の見解。レミール皇女と愛し合っている都合上、多少贔屓目に見てしまっているがレミール皇女の地頭が良いのは間違いなかった。伊達にルディアス時代エリート部署の長をやっていたわけでは無いらしい。中世程度の文明力の人間が、たった一年で中学卒業、高校レベルの学修能力を身に付ける。中々無いことだ。

 

「泰司、見つからぬのか? そろそろ出勤の時間だ。故にまた後でも構わぬぞ? どうせ職場は同じ、仕事も共にするのだ」

 

「ああ、いえ、少しお待ちを。このFileに挟んで置いた筈なんだけどなぁ……お! あったあった、ありましたよレミール皇女っ!」

 

 朝田はレミール皇女の傍に寄り、彼女の唇にキスを落とす。

 

「ん――」

 

 少し呻くレミール皇女は朝田の首に腕を回して彼を身体事引き寄せた。

 

「んっ、んっ」

 

 朝田が彼女の唇を啄むと、彼女も合わせて唇を啄ませる。息の合った愛の接吻。

 

 一々熱くなり、こうして愛を交わし合ってしまうのは、朝田とレミール皇女が新婚関係に近い間柄にある為だろう。

 

 ◇

 

 朝田泰司とパーパルディア皇国皇族レミール皇女は事実上の婚姻関係にある。辻はこの二人の関係を異世界、異星の人間と結ばれる一つの良きケースと分析していた。

 

 特に一般人の平民の朝田泰司とパーパルディア皇国皇族のレミール皇女という、階級差のある恋愛がこの中世近似の文明が多い世界で受け入れられるのかという試金石の一つでもある。そして二人の場合は見事に合格。

 

 少なくとも朝田とレミール皇女が結婚できるのは間違いない、パーパルディア皇国の新皇帝セレミアがその為に動いているからだ。皇帝権限で二人を正式な婚姻関係とさせる事も出来よう。

 

 他で確実なのは岡真司とエスペラント王国のサフィーネ・エリエゼル王女の例だ。こちらも階級差のある婚姻関係ながら予言という不確定要素にして、確定要素が関係していた。

 

 現時点で少々問題があるのは大内田和樹帝国陸軍中将とクワ・トイネ公国のイーネ・コルメス公爵家令嬢だろう。こちらも平民と上位貴族という階級差があり、更にこちらは確定要素が無い。

 

 ただまあ何とかなる。と、辻は見ている。彼の第六感だ。とにかくこの第三文明圏の、力に依らない掌握の方法として、最大の大国であるパーパルディア皇国皇族レミール皇女と朝田泰司が婚姻関係を結ぶというのは、非常に大きな意味を持つのだ。

 

 日本人とパーパルディア皇国の皇女が結婚する。日本という国はそれ程に重要と、他の文明圏にも伝わる。無論警戒もされるだろうが、余計な争いも減るだろう。辻も含む夢幻会は何も世界征服をしようとは考えていない。平和裏に事を運べるならばこれに越したことは無い。

 

 一年前、パーパルディア皇国に砲艦外交を仕掛けたのも、ルディアス前皇帝のやり方だと日本と必ず戦争になると見たからだ。ならばまずは土下座外交という屈辱を取っても彼の国に取り入り、それ以前、彼の国の上部と接触するにはそれしか方法が無い、その後、親善訪問として大艦隊を率いていけば力の差に気付くだろうという考えからだが。

 

 だが、ルディアスはその上を行って見せた。はっきり言って愚かここに極まるであった。余剰艦の処分をしてみせて力を見せろと挑発してきたのだ。余りの馬鹿さ加減に怒った辻は弱肉強食で答えてやった。速射砲をぶっ放し、ハドロン砲をぶっ放し、60㎝三連装超電磁砲すらぶっ放してやった。たかが戦列艦しか保有していない国に対して大人げない話だが、馬鹿には目に見える形で分からせなければならないのだ。

 

 この時、軍や国家の高官、レミール皇女などの皇族の多くは日本がパーパルディア皇国など足下にも及ばぬ、いつでも踏み潰せる蟻のような存在ほどの差のある大国だと気が付いたが。

 

 この頃にはもうルディアスは逃亡、後に帰ってきて争乱を起こし、日本のKMF無頼にルディアス一派はほぼ全滅させられ、レミール皇女とセレミア皇女が中心となってパーパルディア皇国をルディアスから解放したのだ。

 

 次代皇帝にはセレミア皇女が即位。レミール皇女は自ら志願して日本へ外交官として訪れ、日本を拠点として第三文明圏および大東洋諸国を飛び回るようになった。彼女の補佐役でもあり引き続き外交官としての役目も持った朝田泰司と共に。

 

 その朝田泰司とレミール皇女が結ばれた。この報は直ぐさまパーパルディア皇国皇室や貴族に伝わり、またいち早く夢幻会に伝わった。パーパルディア皇国側の動きからしても婚姻は時間の問題。どころか朝田とレミール皇女が毎日毎日、来る日も来る日も愛し合う仲へとなっている為、婚姻関係を結ぶ前に子を妊娠し、レミール皇女が日本の病院で無事出産。となる可能性の方が高かった。どちらにせよレミール皇女は日本は東京に住んでいるため、帝都の病院で出産する事になる。それはそれでめでたいこと。辻も夢幻会もパーパルディア皇国皇族と日本の繋がりが増すことは、大いに良きと見ていた。

 

「朝田君はレミール皇女に惚れているのですね?」

 

 ある日、辻が聞いたとき。朝田は。

 

「は、はい、心底惚れております。最初、出逢った頃は傲慢な嫌な女だと思っていたのですが、土下座外交の時、プレゼントを何度も送っている間に、彼女の態度が徐々に変わって参りまして。今では、愛しい運命の女性だと」

 

「それは良いことです。是非ともレミール皇女の事、幸せにしてあげてくださいね」

 

「はいっ!」

 

 朝田泰司とレミール皇女の婚姻は、この世界に根付くという意味では大きな一歩にもなるからだ。

 

 とりあえず複数、異世界人の皇族、王族、貴族と婚姻を結べた。これから婚姻を結ぶ。ほぼ確実に恋人同士となれるだろうという組み合わせの男女が生まれた事は、良い事だと皆祝福モードだった。

 

 ◇

 

「んっ、んっ、泰司っ、止めぬかっ、んん、い、いまは」

 

「いまはレミール皇女を愛するときです……ん、しばし、お待ちを」

 

「た、泰司」

 

 口付けだけだ。朝田はレミール皇女の膝下まで届く艶やかな長い銀髪を触り、手指で梳いて、絡め取りながら彼女の頭を自分の側へと引き寄せ。口付けを深めていく。

 

「んん、泰っ司っ、や、やめよっ、んんっ、んんっ」

 

「レミール、皇女っ」

 

 くちゅくちゅと舌と舌が絡まり合い。口の中の粘膜同士が熱く深く、触れ合う。朝田は時間が許すのならばこのままレミール皇女と愛し合ってしまいたいと考えた。

 

 愛し合って彼女の中へ深く入り込み、最後は彼女の中に全てを解き放つ。その瞬間の背徳さと愛おしさが朝田は好きだった。レミール皇女と愛し合い、レミール皇女の中に全てを解き放つ。

 

 それは昨夜幾度となく行ったばかりだというのに未だ足りないのか。我ながら絶倫だが、そのくらいの体力が無くてはあちこち飛び回ってはいられないという物。

 

 そうして何分レミール皇女と口付け合っていたのだろうか? どちらともなく自然に唇は離れ、愛の時間に終わりが訪れた。

 

「ん、はあ、はあ、泰司っ、朝から積極的に過ぎるぞっ」

 

「す、すみません、レミール皇女を愛さずにはいられないのです私は」

 

「う、うむ、そう言えばなにもかもが収まるとでも考えているのか?」

 

「滅相も無い。私は心からレミール皇女を愛しているだけです。ただそれだけでして」

 

 暫しの沈黙が訪れる。

 

「私も、泰司を愛している」

 

 ぽつっとレミール皇女が呟いた。朝田は。

 

「このまま抱いても良いでしょうか。私、朝田泰司はレミール皇女との子が欲しい」

 

 冗談めかして言う。あまり冗談は言わない真面目な男だが、レミール皇女を愛する行為を行っているときにはテンションが昂ぶり、つい冗談をほのめかしてしまうのだ。策略的な外交手段を使うことが多いが、レミール皇女を愛するときにもこの手段は役に立つ。

 

 ただ、激情型な人間でもある為、策略や冗談を職場で言ったり使ったりでレミール皇女を煽り、結果として自身も止まらなくなって彼女を職場で抱いてしまう事も。ドレス姿の彼女と着衣で抱き合うのは難儀ながら、何度もしている間にすっかり慣れた。無論当たり前だがそういう行為は仕事に支障の無い範囲でと決めている。

 

 当然レミール皇女も朝田を深く愛しているわけで、彼に誘われると自分自身も誘惑に負けてしまうのだ。

 

「わ、私も抱かれたい、泰司の子を産みたい」

 

 真っ赤な顔でレミール皇女は返答する彼女は、朝田と愛し合う事については割合本気で受け取る。そんな美しくも可愛らしいレミール皇女を朝田はそのまま勢いで抱く。

 

「抱かれたいし、泰司の子を授かりたいが、今日は…不味かろう……」

 

 勿論そうであっても彼女も時と場合は弁えている。今はそういうことをしている暇は無い。

 

「ええ、そうですね。今日は私も控えます」

 

 朝はそういう愛のトラブルが多いが、今日は本当にお互い駄目だと分かっている。時間が無いことと、辻より渡されたおもちゃの資料をさっさとレミール皇女に見せなければならないからだ。

 

「こちらになります」

 

「どれ」

 

 渡されたのは一枚の書類。そこには写真が映し出され、諸元性能が掲載されていた。

 

「なっ?! こ、これはっ」

 

 

 

 001式コルベット

 

 基準排水量1100t

 

 満載排水量1315t

 

 全長87.14m

 

 全幅12.00m

 

 吃水3.20m

 

 機関ユグドラシルドライブ旧型

 

 可変ピッチ・プロペラ2軸

 

 速力36ノット

 

 航続距離4000海里

 

 乗員65名

 

 兵装ファランクス20㎜CIWS1基

 

 短SAM4基

 

 SSM4連装発射筒4基

 

 4連装短魚雷発射管2基

 

 艦載機90式VTOL1機

 

 戦術情報処理装置

 

 3次元式レーダー1基

 

 対空捜索用レーダー1基

 

 対水上捜索用レーダー1基

 

 射撃指揮用レーダー1基

 

 電波探知装置

 

 電波妨害装置

 

 通信情報装置

 

 72連装デコイ発射機3基

 

 32連装発煙弾発射機2基

 

 対魚雷デコイ1組

 

 

 

「辻閣下がレミール皇女に贈るおもちゃその二だそうです。ああ、御安心を。我が国で現用で使っているのはこれの三世代は先の物なので。しかしこれは使い方によっては戦艦さえ無力化できますよ。なにせ対艦ミサイルを搭載しておりますから。貴国のパールネウス型戦艦では無くそうですね、貴国からの情報で得られているムー国の戦艦は確実に、ミリシアルの戦艦でも撃沈できますよ。小型の艦ですが馬鹿に出来ない戦力です」

 

 コルベット艦。フリゲート艦よりもまだ小型だが沿岸警備には充分すぎる能力がある。この第三文明圏では。航続距離も長く片道で良いなら7408㎞は航行可能であり、替えのエナジーフィラーを搭載していればその数倍の航続距離を得ることも可能。

 

「じ、12隻だとっ?! そ、そんなにも……!」

 

「ええ、12隻です。短期で一度に建造していたそうです。いや、やはり我が技術の日本の工業力はブリタニアを除けば圧倒的ですね。技術についてはブリタニアを抜いておりますが」

 

「よ、良いのかこのような物を我がパーパルディア皇国が供与を受けてもっ」

 

「良いも何も、辻閣下が良いと言えば良いのですよ。財務を司る方ですから。それにあのパールネウス型戦艦4隻も供与を受けたでしょう。今更ですよ」

 

 簡単に言ってくれる朝田は更にレミール皇女へ別紙を出した。

 

「はあ?! ま、まだあるというのかっ!」

 

「ええ、陸上戦力が無いでしょうとのことでパーパルディア皇国に60式戦車1000両が贈られるそうです。整備員や部品も混みで。序でに揚陸艦も4隻。旧型ですがこちらは二世代前の物です。全て一から造った新品とは言えもはや骨董品ですので好きに使い潰してくださいとのことです」

 

 

 

 60式主力戦車

 

 全長8.31m

 

 車体長6.40m

 

 全幅3.0m

 

 全高2.50m(砲塔上の重機関銃を含む高さ3.17m)

 

 重量35.5t

 

 速度時速50㎞

 

 行動距離500㎞

 

 主砲60式55口径90㎜ライフル砲

 

 副武装7.62㎜機関銃

 

 12.8㎜重機関銃

 

 エンジン60式エナジーフィラーエンジン

 

 乗員4名

 

「こちらが1000輌」

 

 レミール皇女は沈黙したまま。朝田だけが声を発する。資料だけを見せながら。

 

 

 

 001式戦車揚陸艦・ドック型輸送揚陸艦

 

 基準排水量10500t

 

 満載排水量17000t

 

 全長188m

 

 最大幅27.8m

 

 吃水7.0m

 

 主機001式戦車揚陸艦・ドック型輸送揚陸艦エナジーフィラー×2基

 

 推進器可変ピッチ・プロペラ×2軸

 

 出力35000馬力

 

 最大速力30ノット

 

 乗員195名

 

 兵装20㎜バルカンファランクス機関砲(CIWS)×2基

 

 搭載艇エアクッション型揚陸艇(LCAC)×2隻

 

 レーダー対空捜索用×1基

 

 対水上捜索用×1基

 

 航海用×1基

 

 電子戦および対抗手段8連装デコイ発射機×4基

 

 揚陸能力陸軍部隊520名

 

 民間人輸送1400名

 

 収容能力陸軍部隊520名

 

 60式戦車35輌

 

 VTOL3機

 

 

 

「こちらは4隻。計コルベット12隻、戦車揚陸艦4隻の16隻と戦車が1000輌。全て無料でのご提供となります。ああ、もちろんVTOLも揚陸艇等も込みで付いておりますので御安心ください。それと001というのは艦名が決まっていない為に番号で呼んでいるだけで、艦名は貴国でご自由にとのことです」

 

「……」

 

「レミール皇女。どうかなされましたか?

 

 沈黙したままだったレミール皇女は自身を覗き込みながら、頬を触り始めた朝田についに沈黙を破った。

 

「わ、私は日本へ赴任して一年だ。これらがどういう兵器かもある程度は理解している。理解しているからこそ怖い。こ、コルベット艦12隻に揚陸艦4隻。さらに戦車1000輌だとォッッ!? た、泰司ッ、私はどうすれば良い?! なにを返せば良い?! この間完成したばかりの戦艦4隻とこれらとッ、つ、辻卿はッ、日本の真なる支配者方は私になにを求めているのだ?! 泰司はッ、泰司はこれを見て驚かないのかッ! すべてもう完成済みで後はパーパルディア皇国へ運ぶだけなのだろうッ!? なあ、泰司ッ! お前は何故そう平静にしていられるのだ?!」

 

 口を開いたレミール皇女は矢継ぎ早に疑問を投げかけた。何故? どうして? 私がここまでの物を無償で提供されるような貢献を大日本帝国に対し何かしたのだろうかと。

 

 そんな彼女に朝田は答えた。真面目な表情で。

 

「驚くことを止めただけです。我が国が常識外れの超大国である事を私自身が忘れていただけなので。このくらいのこと、我が国は普通に出来ますし痛くもかゆくも無いんです。駄菓子屋で十円のお菓子を買うのと同じくらいの感覚なのですよ。レミール皇女の驚きこそが実はこの大日本帝国では不思議に感じられることなのです」

 

 朝田もまた一息に事情を説明すると、レミール皇女の腰を抱き寄せ彼女を椅子から立たせて、一つ小さく彼女の唇に口付けた。今度はもう先ほどのように長く深い口付けは行わない。時間だ。

 

「では出勤しましょう。時間になってもレミール皇女と補佐役の私が大使館へ出勤していないのは不味いでしょう?」

 

 レミール皇女は朝田の腕の中で何度も呟いていた。

 

「常識。これが常識なのか……大日本帝国の常識なのか? 駄菓子屋も知ったがその駄菓子屋の十円菓子とこれらが同一だと? いや、あり得ぬだろう? あり得ぬはずだ。私はおかしくないはずだ。泰司がおかしいのだ。そうだ、そうに決まっている。あ、愛し合えば泰司は元に戻るはずだ。きっとそうだ。た、泰司ッ、私を抱けッ! 抱きたいのだろうッ? 私との子が欲しいのだろう? 私も泰司の子を早く産みたい! それゆえ抱かせてやるからッ! 愛し合って正気に戻してやるから抱くが良いッ!」

 

「私といたしましてもこのままレミール皇女を抱き、レミール皇女と子作りを…。と、参りたいところなのです。なのですが、出勤時刻ですので今は、残念ですが……。昼食時間にでも抱かせてください。ああ、いけませんね私は。オフィスラブを積極的に行おうなどと。しかしせっかくのレミール皇女よりのお言葉なのですから。昼に愛し合いましょう。もちろん誰にも見つからないいつもの場所でですよ? ああ、それと私は至って正気ですとも」

 

 

 

 

 昼、パーパルディア皇国大使館のいつもの場所。

 

「はッああ、たい、じッ、正気にッ、もど、れッああ!」

 

 いつも着慣れた黒を基調とするドレス姿のレミール皇女は、朝田に愛されながら、朝田を正気に戻そうとしていた。あれほどの戦力我がパーパルディア皇国の歴史上初めてとなる圧倒的なる物。あれが常識なのだという泰司は少しおかしくなっているから。この身を以て正気に戻してやろうぞ。そう考えて。

 

 だが当の朝田はと言えば。

 

「うう、ふう、レミール皇女ッ、愛しておりますッ」

 

 愛するレミール皇女と愛せる時間を作れて幸せだと考えるだけで、至って普通であり正気であった。

 

 やがて朝田が上り詰め。レミール皇女が朝田の全てを受け止め。愛の時間が終わった時。

 

「はあ、はあ、たい、じ、正気に、戻ったか?」

 

「え、は、はあ、正気ですよ……、こうしてレミール皇女と愛し合えて、私は幸せですので」

 

「そ、そうか」

 

 レミール皇女は安心してあの内容を尋ねた。あり得ない事こそが常識なのだと言い切った朝田の、朝の言葉の内容を。

 

「た、泰司、朝の、朝のこと……だが、あれは、常識では、ないのだろう?」

 

 頬を赤く、身体を熱く、火照らせながら、ドレスを元に戻すレミール皇女。そのドレスの乱れを朝田が直しており、膝下まで届くレミール皇女の艶やかで光り輝く美しい長い銀色の髪も、彼は膝から下の方を手指で綺麗に梳いて乱れを治している。

 

 自身の目線の下に居る。レミール皇女はその朝田の七三分けの頭に向けて、正気に戻ったか?と問い掛ける。しかし。

 

「ええ、ですからあれが我が国の常識なのだと仰いましたでしょう。レミール皇女。貴女にはまだ我が国の真なる姿がお見えでは無いようです。少しお待ちください。工業力と技術力の詳細な説明が出来る資料をお持ち致しますので」

 

 もちろんパーパルディア皇国大使館内には無いため、朝田は外務省まで戻り説明可能で分かりやすい資料を持ち帰ってきた。それを彼女に見せたとき、彼女は辻が呟いた「常識とは掃いて捨てる物」という言葉を思い出すのだった。

 

 

 

 

 ロウリア王国 王都ジン・ハーク ハーク城

 

 

 ロデニウス大陸の西側半分を占め、人口3800万人にも達する大国、ロウリア王国。元は中規模国家ながら、侵略戦争を繰り返し、結果として現在の他を圧倒する大国となった。

 

 人間至上主義を唱えるこの国は、純粋な人間種以外、エルフ、ドワーフ、獣人族といった種族を亜人と呼び迫害を繰り返してきた。さらには亜人の殲滅をこくぜとしているために、亜人の多い隣国の二つの国。クワ・トイネ公国、クイラ王国にいつ攻め込もうかとずっと機会を伺っていた。

 

 ある時、その亜人国二つとロウリア王国に国交を持ちかけてきた国があった。大日本帝国。神聖ブリタニア帝国。AEU。三国の国だが、聞いたことも無いその国々は、何でも大東洋に存在するという。

 

 だが、その位置を聞いてみれば、何も無いはずの大東洋のど真ん中と、少数の集落が存在していた場所だと分かったのだ。国など無い場所からやって来た国々の人間。妙な格好をしている者達ばかりで信用するに値しないと、その時は追い返した。

 

 尚も数度やってきたが、隣国クワ・トイネ。クイラとも国交を開設する交渉に入っていると聞き出したため、今度来たら命は無いと謎の三つの国の使者を追い返したのだ。

 

 どうせ蛮族の類いだろう。話を聞けばワイバーンを初めて見たとか。ロウリア王国の竜騎士団を見てほざいていたという。必然、竜騎士の存在しない国と言うこと。つまり蛮族の集まりとなる。

 

 その為、誰も相手にしていなかったのだが、丁度その頃、同じ時期に当たるだろう。長らくロウリア王国を支援していた三大文明圏の一つ。フィルアデス大陸の国、パーパルディア皇国からの支援が途切れた。

 

 それは良い。そういうこともあるだろう。国家事情とはそういう物だ。だが、問題は其処では無い。これまでパーパルディア皇国よりの支援で軍事力や国力を高めてきたロウリア王国に取り不味い状況ができあがってしまったことだ。

 

 今のロウリア王国はパーパルディア皇国の支援で持っていた。それが無くなれば、下手にクワ・トイネとクイラに攻め込むことも危うくなったのだ。

 

 会議に会議を重ねた末、計画は一時見送り。一年後を目処に再度侵攻計画を立て直すとなったのである。忌々しきはパーパルディア皇国。奴らが支援を切ってきた所為でこちらの計画は全て白紙に戻ってしまったのだから。

 

 

 そして、時は流れて一年。クワ・トイネ、クイラを攻めるためにと、自国の力で艦船を増強し、現在では6000隻にまで膨れ上がった。総兵力も100万人とかつての倍に。無論無理はした。無理をし国家財政は圧迫され続けている。だからこそ奴らから奪い奴らを奴隷とするのだ。

 

 ハーク・ロウリア34世がそう決意したところに、これもまた別の情報が舞い込んで来た。何でもフィルアデス大陸から渡ってきたという商人からの情報だったらしい。

 

 詳しくは知らないそうだが、パーパルディア皇国が800隻以上あった戦列艦を処分し、または売り払い。たったの24隻の艦隊しか持たなくなってしまったというのだ。

 

 一隻一隻は大きな船らしいが、かつてのような大量の砲も持たない船だという。そのうえ精強を誇った竜騎士団まで解散してしまい、地竜なども売り払われたり家畜とされたりしているという。

 

 何故にパーパルディア皇国はその様な事をしたというのか。その様な馬鹿なことをと。誰しもが疑問に思うところ。

 

 だが、ハーク・ロウリア34世には分かった。簡単に分かってしまった。自国が同じだからこそ分かってしまったのだ。

 

 悲しいかな、パーパルディア皇国は軍事力に財政をつぎ込みすぎて、国家が破綻寸前にまで陥ってしまったのだろう。同じ事はロウリアにも言えるが、先にパーパルディア皇国が破綻してしまったのだ。

 

 維持できなくなってしまった艦船や竜騎士団は処分解散という憂き目に遭い、地竜なども家畜とするしかなくなってしまったという事。

 

 皇帝ルディアスはその責を取らされ処刑されたという専らの噂だった。愚かな国だ。背伸びをしすぎて国諸共に死んだのだ。今は変わって新皇帝セレミアが就き、国家の再建に奔走しているとのこと。

 

 ほとんどの皇族達や貴族達がそのまま居座っているらしいと言う話は少しおかしく感じはすれど、全体的にはパーパルディア皇国は小国へと転落したのだと答えが出てしまう。

 

「確かパーパルディア皇国の人口は7000万人であったな」

 

 これを労働力、奴隷として奪えれば、我がロウリアの財政も大いに持ち直すだろう。ましてや未だ残されているだろう皇族共などの財宝などを手に入れれば。

 

「いや、ここはやはり人間か。7000万人の奴隷とはそれだけで大きく我が国の益となろう」

 

 労働力の方が魅力的かも知れない。いずれにせよ方針は決まった。

 

「素っ裸になってしまったパーパルディア皇国へ攻め入る」

 

 どうせ何れはフィルアデス大陸、第三文明圏にも攻め込む予定だったのだ。隣国二つの亜人共よりも容易に獲れる獲物を獲らずしてどうする。今のパーパルディア皇国を守護する防壁は無い。

 

 ならばその簡単に取れる人間という家畜から先に獲り、その後にあらためて隣国の亜人も獲る。

 

「時代が余を選んでいるという事か、パーパルディア皇国という獲物を獲り、そこから始まる第三文明圏の収穫祭を行えと。余は嬉しいぞ。この一年という時間は余にこそ与えられた時間だったのだ!!」

 

 ハーク・ロウリア34世。時代に選ばれた王の中の王はまずは狩りを始めようと決意した。獲物はパーパルディア皇国。

 

「そういえばパーパルディア皇国皇族のレミールは性格は悪いが美しい女だと聞く。レミールに余の子を産まさせるのも一興か」

 

 パーパルディア皇国皇族レミール。

 

 この女にこそ自身の子を産まさせるに相応しい。性格の悪い女? いたぶり、嬲り、泣き叫び命乞いでもさせてみながらというのも良いかも知れぬ。

 

 とても美味そうな獲物だと狩りを楽しみに。彼の大王は床に就くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 中央歴1640年6月23日現在 パーパルディア皇国軍

 

 

 基準排水量70000t級のパールネウス型戦艦×4

 

 基準排水量40000t級空母×4

 

 基準排水量14500t級重巡洋艦×4

 

 基準排水量2200t級駆逐艦×16

 

 基準排水量1100t級コルベット×12

 

 基準排水量10500t戦車揚陸艦4隻

 

 60式主力戦車×1000輌

 

 90式VTOL×16機

 

 ゼロ式艦上戦闘機52型360機

 

 ゼロ式【陸上】攻撃機240機

 



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小さな幸せ11

 

 

 小さな幸せ11

 

 

 

 ロウリアでハーク・ロウリア34世がその野心の矛先を、パーパルディア皇国という獲物に変えている頃。

 

 大日本帝国のV.V.宅ではちょっとした宴会、もとい、食事会が開かれていた、

 

 参加者は家の主であるV.V.。この家に住まう神聖ブリタニア帝国の皇子皇女方。そして日本の皇族である伏見宮翁。さらになんの関係もない無関係な民間人、玉城真一郎。なんでここにいるのか玉城真一郎。

 

 グリンダ騎士団の長としてではなく、個人で来日していた神聖ブリタニア帝国皇女、マリーベル・メル・ブリタニア皇女といった面子。

 

 ブリタニアの皇子皇女方は宴会の方には参加できない。年少組もいるのだから。しかし、お食事は出来るのでお相伴に預かっていた。まあというのもおかしな話か。ここは彼らの邸宅なのだから。

 

 

 ブリタニアの皇子皇女は。別の名前でここに居る。ランペルージというお忍び姓だ。コーネリア・ランペルージを筆頭に。ルルーシュ・ランペルージ。ナナリー・ランペルージ。マリーベル・ランペルージ。計四人。

 

 そこへ日本の真の支配者こと夢幻会から、嶋田繁太郎。杉山元。辻政信。山本五十六。伏見宮博恭王。といった面々。全員が集まれないのは時間が時間であったし寝ている者も居る。正味の話ナナリーはもう船をこいでルルーシュに寄りかかり寝ていた。

 

 後はまあ屋敷周りを周回するSPとヴィ家兄妹の親衛隊、コーネリア個人の親衛隊だけだがこちらも不参加なので省く。

 

 他にも夢幻会の面子のSPも当然居るのだがやはりこの場には居ない。精々が山本五十六の妻である美しく長い金髪の女性、リーライナ・ヴェルガモンが同席していたくらいか。

 

 

 このそうそうたる面子の仲カチカチに固まっている二人がいた。一人は大日本帝国外務省職員にして外交官の朝田泰司。今夜も七三分けの髪型でぴしっと決め。眼鏡を掛けているが、その眼鏡の奥の瞳はすっかり泳ぎ切っていた。

 

 その隣には黒を基調とした豪奢なドレスに身を包む、膝下へ掛かるほどの長い銀髪をした美しい女性。美しさで言えばこの場は美女美少女ばかりであるので彼女の美しさも霞む、パーパルディア皇国皇女にして同国の駐日大使兼外交官、朝田泰司の事実上の妻レミール皇女が朝田と同じく石のようにカチカチに固まって座布団の上に座っている。

 

 自分達は何故このやんごとなき方々の御前に出ているのだろうか? 引っ立てられることでもしただろうか? 視線だけを隣同士で合わせ共に何かしてないか? 失礼を無礼を働いては居ないかと確認する二人。

 

 正直、身に覚えがない。大日本帝国の真なる支配者方や、ブリタニアの皇族方に呼び出される覚えは。

 

「おッ! 銀髪の姉ちゃん見れる顔してんじゃねえかよ。固まってたから影薄くて気付かなかったけどかなりの上玉じゃんかッ! 俺と一緒に呑もう――ぜえ?!」

 

 身を乗り出し声を掛けてきたのは、何故この場にいるのか分からない、一般人らしき男。逆立てた髪は威勢良く、顎髭を蓄えた如何にもな無頼漢。それがレミール皇女を誘おうとしたとき。

 

 その横からぐいっと耳を引っ張られていた。

 

「うふふふっ、兄さまぁ~。誰が誰とお呑みになるですってェ~。もう一度仰ってくださいましな~っ!」

 

 ひうっ。息が詰まったのは朝田とレミール皇女。マリーベル皇女から放たれる殺気に身体が強張ってしまったのだ。

 

 レミール皇女も彼女をよく知っていた。薄紅色の腰下まで届く長い髪。意志の強そうな透き通った青い瞳。羽のパーツを背に纏い、桃色を基調としたロングスカートのドレスを着たブリタニアの戦姫、エルファバの魔女。いくつもの異名を北側諸国で持ち讃えられる、神聖ブリタニア帝国第八十八皇女殿下だ。その魔女が無頼漢の耳を引っ張りながらニコニコと温かい笑顔をその美貌に張り付けている。怖い。

 

「いでェよォ! いでえっ! なにすっだよこの糞マリーィィィッ!!」

 

「!??」

 

 朝田は朝田で驚いた。マリーベル皇女殿下にあの様な無礼な口の利き方をして。平民風情がである。普通なら無礼打ちながらそうはならず。

 

「兄さまがレミール皇女殿下に不埒なことを申し上げるからです。わたくしという者がありながら!」

 

 はあッ?! マリーベル皇女殿下はなんといった?! この無頼漢はマリーベル皇女殿下の何なのだ?! 頭の混乱する、朝田とレミール皇女。それに気付くこともなくマリーベル皇女は兄さまと呼ばれた無頼漢の耳をぎゅうっと引っ張りながら、自らの方へと抱き寄せている。

 

「はあ、真一郎の年上好きは……ああ、レミール大使と真一郎は同年代だったか……。クララが雲の調査で神根島へ行っててよかったよ。こんなの見られたら血の雨だ」

 

 こんなのとは両方。レミール皇女に色目を使ったことと、マリーベル皇女との痴話喧嘩の両方だ。

 

「V.V.ブリタニア帝国皇兄殿下であらせられますね?! せ、僭越ながら申し上げますッ! 私とレミール皇女はなぜこの場にお引き立てられてしまったのでしょうか?!」

 

 膝下に届く長さの髪をしたレミール皇女よりも更に長い明るい金髪をした、十歳くらいの、この場には相応しくない紫色の瞳をした少年が朝田の言葉に応じた。

 

「ふ~ん、朝田君だったねキミ。よく僕の事をブリタニア皇兄だと知ってた物だ。余り出回っていない情報なんだけど。よもや南天のスパイだったなんてオチじゃないだろうね?」

 

「ブリタニア皇兄殿下ぁッ?!」

 

 大きな声で驚いたのはレミール皇女。この幼い少年がブリタニア帝国の皇兄殿下だとは予期できなかった。当たり前だ。ブリタニアの皇帝は六十代後半。それが僅か十つほどの少年がその兄だというのだから。

 

「ああレミール大使。僕はこう見えても六十七歳だ。キミらよりもずっと年上だからそこは忘れないように」

 

 六十七?! また一つ、レミール皇女は驚いた。驚愕した。どう考えたってあり得ないと。そこにちゃちゃを入れたのが無頼漢だった。

 

「よおよお姉ちゃんよお。そのおっさんはただの無駄に年食ってるジジイだからあんまし気にすんなよ。年金ジジイなんだよ。くそが会社や不動産やら投資やらで儲けまくってるくせに年金まで貰いやがってよお!」

 

 皇兄殿下になんという口をきくのだこの平民は?! パーパルディア皇国ならば間違いなく無礼打ち……いや、ただの平民がブリタニア帝国の皇兄殿下に対してこの様な態度を取れるはずが。

 

「話が進みませんね。玉城君は少し黙っていてください」

 

「は、はいッ! 辻閣下ッ! 次の衆院選、立憲政友会から是非ともこの玉城真一郎をよろしくお願い致します!」

 

「その件はまた後日。マリーベル皇女殿下。黙らせて置いてください」

 

「承りましたわツジ卿」

 

 兄さま行きましょうね~寝所へ~♪

 

 うわあ止めろアホォォォ!! 俺の好みはネリーなんだよォォ。ネリーっ、ネリーっ!!

 

「「「「「……」」」」」

 

 夢幻会メンバーは思った。マリーベル皇女は何をしようとしているのかと。

 

「まあ、玉城君とマリーベル皇女が出来ちゃった婚などしよう物なら……それはそれで日ブの関係性はより深まりますが。日ブの皇室、華族、貴族からかなり苦情が出そうですねえ」

 

「政信、クララのことも忘れないでね。マリーベルを殺しに行こうとするだろうから。うちの国、お家騒動並みに揉めてしまうよ」

 

 玉城を愛するマリーベルはどうも玉城と寝てしまおうと本気で考えている節がある。そうなれば最凶の暗殺者がマリーを狙う。止めても止まらないだろうトンビに油揚げをさらわれるとはこの事だから。

 

「ま、クララもマリーベルも本気で殺し合いまでするとは思わないけど……、ないよね?」

 

 エルファバの魔女は肉弾戦も相当強く両目ともギアス持ち。同じくギアス嚮団のトップクラスの暗殺者クララ・ランフランクも両目共にギアスを持ち暗殺術に長けている。この二人が本気でぶつかればグリンダ騎士団内には止められる人間がいない。筆頭騎士でも割って入るのは無理だろう。

 

「大丈夫だろう。マリーベル殿下もクララ君もそこまで無分別ではないと思うぞ」

 

 丸坊主の紳士が割って入った。山本五十六卿。日本の真なる支配者の――。

 

「そうですわ。だいたい玉城さんが態度を明確に為されないのが問題であって」

 

 山本にしなだれかかっているブリタニア帝国ヴェルガモン伯爵家令嬢リーライナ・ヴェルガモンが、玉城が悪いと不満を漏らす。そう全てはあの馬鹿ニートが悪いのだ。

 

「すまん。どうも奴は私の事が好きらしいのだ……」

 

 何故か申し訳なさそうにコーネリア皇女が頭を下げた。

 

「厄介な……、しかし辻よ、本当にアレを政友会から立候補させるつもりか? アレは問題を起こすぞ」

 

 杉山元が顔をしかめ、玉城の立候補について反対の意見を述べた。あんな人間を万一当選させて、我々のバックアップがあれば当選させられるだろうという杉山は、それをこそ反対しているのだ。

 

「まあ、根は悪い男ではない。我々は実際にソレを知っているからな。一度やらせてみてその後ならマリーベル皇女との婚姻にも文句は出ないだろう。まあクララさんは大いに反発して何をしでかすか分からんが」

 

 伏見宮博恭王が意見を述べ。

 

「皆様方のご意見とマリーベルの好意。そしてクララの好意。これらを考慮なされるのならば僭越ながらこのルルーシュ・ランペルージの回答といたしましては、あのニートに二人とも娶らせるという案も」

 

 ルルーシュ皇子が自らの思うところを語る。

 

 そして最後に嶋田が。

 

「まあ、私も二人娶ってますからその考えもあるにはありますが。玉城君は平民ですからねえ。ああ、だからこその衆議院を一期だけでも、か」

 

 で、みんな揃って。

 

「「「「「というか、玉城君の話の場ではない!!」」」」」

 

 いつの間にあのニートの話になったのか? 玉城真一郎恐ろしい子。それぞれの思いを胸に。先ほどよりやはりカチコチになっているレミール皇女と朝田泰司へと目を向けた。

 

 辻が音頭を取る。

 

「朝田君、レミール皇女、今夜この席にお二人をお呼びしたのは他でもありません」

 

 そう言い、資料を出す。二枚だ。

 

「つ、辻卿、こちらは?」

 

 レミール皇女が震える声で尋ねる。なんだこれは? 人型をしたゴーレム。色は黄土色から茶色を基調とした色だ。見たことがある。

 

 一年前、エストシラントの街中を縦横無尽に走り回り、ルディアス派を葬っていたあの鉄のゴーレム。日本で一年勉強してきたからこそ知っているKMF、ナイトメアフレームだ。初期の方の。

 

「このおもちゃ。無頼初期型とグラスゴー初期型に当たるタイプで。日本とブリタニアで何万機と倉庫で眠っておりましてね。実際の処使い道がありません。それで今回オーバーホールして貴国に500機ほどお譲りしようかと。なに、本当に初期型の初期型なのでおもちゃなのですよ」

 

 また、おもちゃ……それも500機。

 

 しかもこれを数万機保有していると……

 

 ああ、やはり大日本帝国と神聖ブリタニア帝国は、つくづく神話の帝国を超えている。

 

「よ、よろしいのでしょうか。その、これまでにも大量の兵器を無償提供して頂いておいてさらにこのようなっ、正直申し上げまして私は先日より混乱しっぱなしで胃が痛く」

 

「胃薬もプレゼント致しましょうか?」

 

 そういう話ではない。全てが全て無償譲渡というのがもう頭がどうにかなりそうで、体調までおかしくなっているのだ。とは、レミール皇女は言い出せないし、朝田もフォローには入れなかった。

 

 すると杉山が口を挟んだ

 

「いやな。色々と調べてみたところここらあたりは。ああ、第三文明圏の事だが、第三文明圏には急峻な場所や不整地地が多い。戦車も必要だがナイトメアも必要ではないかと思ったのだ。それでどうせ使わんオンボロの旧式機の最初期型ならば提供しても良いのではという話になってな。オーバーホールして貴国に90式VTOL輸送用500機と共に供与しようと会議で決まったのだよ。我々は少し忙しくなる上にこんな時に限って、ロウリアなる弱小も弱小な国が貴国を狙って居るようだと諜報員から連絡が入ったのだ」

 

 これを耳にしたレミール皇女の身が別の意味で固まる。朝田はというと、以外と平静のようだった。何故平静にしていられるのだろう。レミール皇女の祖国が狙われているというのにと、彼女は少し不満を持つも。

 

「それとこっちは本物のプレゼントだ。我らの国ではおもちゃに近い代物で短期間の大量建造も可能。日ブ共に700隻から保有しているが、一隻ずつかもう一隻+くらいならかまわんだろうという話が協議の上で出てな」

 

 コーネリア皇女が口走ったその資料を見たとき。レミール皇女は今度こそ本当に気を失いそうになった。

 

 軽斑鳩級浮遊航空艦×1

 

 カールレオン級浮遊航空艦×2

 

 話を締めくくるように伏見宮博恭王殿下がとどめを刺した。

 

「貴国流に旧式無頼と旧式グラスゴー。それぞれ250機ずつだが設計形式はほぼ同じなので無頼とでもグラスゴーとでも呼称してくれたまえ。それの運搬用にも使える艦船だ。たった3隻で役に立つかは分からんが、上手く使ってくれたまえレミール大使」

 

 ああそれとくれぐれも頭に入れて置いて欲しいのは。解体して調べんことだ。我々の調べた限り、ムーやミリシアルの技術力でも二度と組み立てられんだろうし、解析も出来ん。第三文明圏、ロウリアとの戦争ごっこは任せたぞ。

 

 遠くなる声を聞きながら、私は良き夢、悪き夢、良く分からぬ夢を見ているのだ。起きたら泰司と一糸まとわず布団の中で目覚めるに違いないと考え。闇の中に意識を落としていった。

 

 ◇

 

 そして宴席の場で一時間後に泰司の膝の上で目覚めたレミール皇女は、一升瓶を手に持ち。

 

「伏見宮王殿下、コーネリア皇女殿下、ルルーシュ王子殿下、ナナリー皇女殿下、ヴェルガモン伯爵令嬢殿、嶋田閣下、辻閣下、杉山閣下、山本閣下、皆々様方。パーパルディア皇国は弱小国ながら、これまで以上に第三文明圏の要の一つとして精進して参ります。ご指導ご鞭撻の程平によろしくお願い申し上げます」

 

 ラッパ飲みしながら、遂に常識を掃き捨てたのであった。

 

 頂いた全ての兵器の使い方など未だ練習中なのにここで更に追加追加。古の魔法帝国のような空飛ぶ戦艦などどうやって使えというのだ。

 

 ぐびぐび呑み始めたレミール皇女はやがて本当にぶっ倒れ、朝田の介抱の下、のんべえの如くふらふらになりながら帰宅の途に就くのであった。

 

 

 

 やんごとなき方々に会った夢を見た。翌日そうして目を覚ましたレミール皇女。昨日の夜、どこかで飲んだのか酒臭い。

 

 ふと隣を見ると泰司が隣で寝息を立てていた。思い出した何処かで飲んで、散々飲んで帰宅した後、日を跨いで泰司に抱かれたのだ。激しく愛し合い、幾度となく泰司を受け止めて、泰司も私の中へと幾度となく。

 

 それで泰司と共に、二人で気を失うように眠ってしまったのだったな。

 

「ふふっ、泰司。かわいい寝顔だな……」

 

 私はよく眠る泰司をベッドに残してドレスを着ていく。いつもは泰司が着付けを手伝ってくれるのだが、今日くらいはよいか。自分で出来ぬでもない。

 

 泰司の事は後で起こしてやるとして、私の髪を自分で梳くのはなかなか大変だ。長すぎるからな。こちらもいつもは泰司にしてもらうのだが。んーー、やはり泰司を起こすか。

 

 私はベッドのある部屋へと足を運び、泰司を起こす。泰司の顔に顔を近づけ、耳を甘く噛みながら。泰司を起こすのだ。

 

「はむっ、泰司、あむっ、泰司起きよ、起きるのだ。あむっ、髪を梳いてくれ」

 

「あ、ん、れ、みる、皇女……え、あれ、もう朝、か、う、ちょ、レミール皇女くすぐったいですよ、」

 

「ふふ、早く起きぬからだ、さあ泰司。起きたなら服を着替えて、私の髪を梳いてくれ。やはり長すぎて自分ではやり辛い」

 

「分かりました……ふああ、あっ。よく寝たなあ」

 

 そんな朝のスキンシップを泰司と図っていた私の下に、『貴国パーパルディア皇国用の浮遊航空艦の用意出来てますんで受領してください』との電話が入ったのは、出勤する僅か五分前の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中央歴1640年7月3日現在 パーパルディア皇国軍

 

 

 基準排水量70000t級のパールネウス型戦艦×4隻

 

 基準排水量40000t級空母×4隻

 

 基準排水量14500t級重巡洋艦×4隻

 

 基準排水量2200t級駆逐艦×16隻

 

 基準排水量1100t級コルベット×12隻

 

 基準排水量10500t戦車揚陸艦4隻

 

 60式主力戦車×1000輌

 

 90式VTOL×16機

 

 ゼロ式艦上戦闘機52型360機

 

 ゼロ式【陸上】攻撃機240機

 

 旧式無頼・旧式グラスゴー×500機

 

 90式VTOL輸送用×500機

 

 軽斑鳩級浮遊航空艦×1隻

 

 カールレオン級浮遊航空艦×2隻

 

 

 

 



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小さな幸せ12

 

 

 

 小さな幸せ12

 

 

 

 

 

 中央歴1640年7月4日

 

 

 

 

 コンコンっ。

 

 扉を叩く音。

 

「入れ」

 

 直ぐさま反応するは麗しの美女。二十代後半くらいの美しい長い銀髪の女性。身体の線は細く、その線を隠すように黒を基調とした豪奢なドレスを身に纏い、頭に戴いた金のサークレットが蛍光灯の光を反射させている。

 

 パーパルディア皇国皇族レミール駐日大使であった。一年前の彼女ならば確実に、追い返せと指示していただろう、気軽な口調の入室許可に。彼女は彼女で気軽に応じる。彼女はこの一年日本であらゆる物に触れ目に入れ、また。

 

 彼女の隣で書類作業を補佐していた大日本帝国外務省職員にして外交官の朝田泰司と、深い愛を育むようになって随分と変わった。もちろん良き方向に。

 

 これらをよく知る駐日パーパルディア皇国大使館の職員は、レミール大使がパーパルディア皇国の皇族とは言え、安心して話しかけることが出来るようになったのだ。狂犬レミールなどと言う不名誉な二つ名を影で囁かれていた頃の人物と同一人物とは思えないような変わりよう。

 

 弱小国パーパルディアを突きつけられた今、ようやく彼女は真人間になれたのだろうと皆がホッとしていた。

 

 それと無駄に手入れの時間が掛かるロールヘアーの髪型は今はして居らず、髪は真っ直ぐの直毛に伸ばして外見的にも変わっていた。こちらは朝田外交官のアドバイスあってのことらしいが、膝下へ伸びる真っ直ぐな銀色の髪は、レミール皇女の美しさを引き立てていた。

 

 ただ巻き髪だった頃の髪でも髪先は膝に届いていた。それを真っ直ぐなストレートヘアーに降ろし変えたのだから、その髪先は優に膝下にまで届く長さとなっており、別の意味で手入れが大変だとのこと。その手入れを任されている朝田外交官は愚痴一つ言わずにお付き合いをしている。それだけ愛し合っているのだろうと大使館職員内では専らの噂。

 

 噂では昼頃に二人揃って大使館内の何処かへ姿を消す二人はそこで行為に及んでいるのではないかという話も上がっており、口さがない者などレミール皇女が朝田氏の子を身籠もるのはいつ頃だと推測するか? 等と言った、実に不敬極まりない話までしているのだから困った物である。

 

 まあ、実際いつもの場所と二人だけの隠語で呼ばれる場所で、朝田とレミール皇女は愛し合っている。ドレスを着たままのレミール皇女を朝田は上手に愛し、スーツを着たままの朝田に上手に愛されるレミール皇女。達するときは最奥で。熱い物を受け入れながらもレミール皇女は大きな声を出さず二人は静かに愛し合う。そんな日々なのでレミール皇女の妊娠が時間の問題だという話は、実は見事に的を射ていた。

 

 とにかくそうして柔らかくなったレミール皇女の下に誰かがやって来た。

 

 誰でもやって来る。大使なんて仕事をしていれば第三文明圏と大東洋諸国の人間ならば誰でも。反面日本の人間はほとんど訪れない。パーパルディア皇国という国自体には観光客が多く駆けつけているらしい。彼ら曰く「中世ヨーロッパの空気が生で味わえる」だそうで物珍しいらしい。

 

 出来れば日本のようなビルだらけの国にはなって欲しくないと観光客達は言うが、パーパルディアも発展しなければならないのだ。無論昔の景観を残した都市も数多く残すつもりで都市計画は進んでいるらしいが。皇都エストシラントは東京をモデルに発展させたいと考えていた。ただ東京が余りにも巨大すぎて、真似しようにも中々真似をするのが難しいと言った難儀さも有り、一朝一夕には行かない物だとため息を吐いていた。

 

「失礼します」

 

 入室してきたのは、国家戦略局のイノス。未だ覇権主義を掲げ第三文明圏の制服を画策している時代遅れのロウリア王国へと、勝手に軍事支援をしていた男。中分の肩までの長髪をしたかつてはみすぼらしかった男。日本赴任後の今は肥え太っており、ダイエットに励んでいるという。日本の食事が彼には余程合ったのかと思えば、ただのジャンクフードの食べ過ぎらしかった。

 

 別にレミール皇女としては好きなものを好きなように食べれば良いと思う。しかし、日本人、ブリタニア人は、若さを保ちながら平均年齢百五十歳まで生きるという長寿の種族。

 

 日本へ赴任、引っ越してきてからという物、レミール皇女自身もその例に漏れず恩恵を受け始め、髪と肌の艶が以前とは比べものにならないくらいに良くなった。体力自体も以前より付き、皇居マラソンとも呼ばれている巨大な皇居の外周を一蹴する運動も時々行い、身体のメリハリも以前以上に。この時の髪型はポニーテールにしている。

 

 正直一人でのんびりと走りたいところなれど、パーパルディア皇国皇族という身分がソレを許さず。SPが何人か付いてのマラソンとなり酷く物々しい。彼女以外にもSP付きのランナーは幾人と見た。嶋田閣下やクルシェフスキー卿、山本閣下、ヴェルガモン卿、コーネリア皇女、ユーフェミア皇女、ルルーシュ皇子にナナリー皇女、皇居に住んでいる伏見宮殿下や皇神楽耶大日本帝国皇女殿下などもその一人で、朝の挨拶を交わしたりもした。ガチガチに緊張しながら。

 

 そうした普段の努力も有り、以前よりお美しいと褒め称えられてきたが、今では更にお美しいと言われる機会が増えた。

 

 そんな良き環境にありながらイノスは醜くとは言わないが、太ってしまった。油ギッシュな彼を視て思うことは、「こいつ大丈夫か」である。彼女は彼女なりに、国家戦略局から左遷されて、ある意味出世して日本の駐日大使館勤務となっていた彼を心配していたのである。これもかつての傲慢だった頃の彼女には見られなかった気質であった。

 

「人の事をどうこうと口出しするつもりはないがイノス。お前、食生活を改めぬと糖尿病になるぞ?」

 

 日本へ訪れて知った糖尿病やガンと言った、これまでのパーパルディア皇国の常識では図れなかった病気の数々。おかげでこのたった一年の間にパーパルディアの医療技術も発達してきた。

 

 だからこそ糖尿病が最悪、脚の壊死を呼び込み、脚を切断しなければならない大事に繋がると知っているからこそ、レミール皇女は忠告したわけだ。

 

「はッ、ですから現在絶賛ダイエット中であります」

 

「運動しながら油ものばかり食べていては結局変わらぬぞ?」

 

「うッ!」

 

 レミール皇女の鋭い指摘にイノスの顔色は悪くなる。

 

「やはりか……。別にお前が好きな物を食べようが自由だが、病気には気をつけよ。後で後悔するのは己だからな。で、要件は?」

 

「あ、は、はい。大日本帝国および神聖ブリタニア帝国両国よりの支援項目と、供与品の受領が終了致しましたのでご報告に上がりました」

 

 そうして油ギッシュな彼の手より渡された項目を見て、レミール皇女は頭がふらつきそうになったが、違う、常識とは掃いて捨てる物なのだと自身に言い聞かせて。受領項目の品目だけを目に入れた。

 

 朝田が心配そうに立ち上がりレミール皇女の肩を支えるも、大丈夫だと微笑んで断るあたり、彼女もここ暫くの間に急成長という名の開き直りをしてしまったのだなと悟る。

 

 恐らく大日本帝国の本当の意味での実態や、更なる物を見せれば、また一々白黒させて目を回しぶっ倒れるだろう。エナジーウィング機を生で見たら。第六世代統合打撃戦闘機を生で見たら。数万機のKMFが大空に展開しているところを生で見たら、浮遊航空艦大艦隊、海軍大艦隊を生で見たら。その都度肩を支えることになるだろうなと朝田は思った。

 

 北側諸国の合同軍事演習にこの世界の者は招待されていないし、ましてやフレイヤ起爆実験など見せてもない。そんな物を見せたら対等な外交関係を築くどころか、皆平伏してくるからだ。そんな外交関係は望んでいない。第三文明圏、特にパーパルディア皇国を衛星国とし、要の国とする案は出ている。

 

 パーパルディア皇国はルディアス前皇帝の覇権主義から、周辺国への融和主義に政策を大きく転換させたとは言え、この異星世界の基準で言えば列強。それも今や第四列強国から恐らく第一列強国となっているだろう、この世界で時々行われているらしい先進国会議的な基準で言えばだが。他の不確定要素までを加えるのならば現時点では分からない。

 

 ただ、それなりに強化したパーパルディア皇国を第三文明圏の要とする。だからこその、この世界ではトップクラスに君臨できるだろうおもちゃの軍隊を鍛えているのだ。おもちゃを飛び越えて、超旧式のナイトメアフレームに、旧式初期型の浮遊航空艦というプレゼントまで与えられた。

 

 これはレミール皇女もよくよく理解できていた。これだけの信じられないほどの軍事力を無償供与してくれ、朝田曰く歴史上最強のパーパルディア皇国となったと言うからにはそうなのだろう。

 

 無論本当にそうなのだろうかといった疑問も抱いてしまうが。それも無理ない。800隻以上あった戦列艦が24隻の軍艦に。今ほど供与された分を加えても40隻ちょっと。戦車とKMFが強力なのは何となく分かるが、これで歴史上最強のパーパルディア皇国だと言われてもピンとこない。レミール皇女も日本という国を勉強してきたつもりだが。

 

 そして、一応の処最強となってるという現パーパルディア皇国の、その最強に強化した事の意味するところとは? 馬鹿=ルディアスに心酔していなければ元々頭は良かったレミールにも、大凡は分かっていたのだ。くだらない戦争ごっこの代替役と第三文明圏の盾役として期待されているのだと。

 

 今日までの日本、ブリタニアからの支援でパーパルディア皇国は大きく発展してきた。奴隷も必要としないシステム、クワ・トイネから日本からブリタニアからの穀物の移送と食事事情の大幅な改善。大型高層ビルディングの建築に科学文明の産物の安価な輸入。病院施設の設置と各種病気に対する対策と学習。義務教育の施行による国民の能力の向上。

 

 そこへレミール皇女から見て800隻もあった艦船の数が、再供与分含めたったの四十余隻と、数は少なく感じてしまったが、説明を受けている間に強大に過ぎることが分かった軍事力の無償提供だ。少なくともパールネウス型戦艦についてはピンとは来なくとも、とてつもない戦闘力である事は分かった。そんなパーパルディア皇国は丁度第三文明圏の玄関口にも当たる。ここを大きく発展させる意味は。【第三文明圏に余計な手出しをするな】だろう。

 

 暫し思考の海に沈んでいたレミール皇女。

 

「レミール皇女…!レミール皇女!」

 

「ん、ああ、すまぬ」

 

 現実に引き戻したのはイノスだった。朝田はまた考え込んでいるのだろうなと彼女の肩を支えていた。

 

「泰司も、もう大丈夫だ。考え事をしすぎていただけだ」

 

 レミール皇女は自分を支えてくれている朝田の手に、やんわりと自身の手を重ねた。

 

「イノスさんが不安がっておりましたので、お考え事も程々にしてくださいよ?」

 

 少し名残惜しそうに朝田は彼女の肩から手を離した。

 

「うむ。……で、イノス。品目を」

 

「はッ。こちらになります!」

 

 

 基準排水量70000t級パールネウス型戦艦×4隻(一番艦命名者辻政信大日本帝国元財務相)

 

 基準排水量1100t級001型コルベット艦×12隻

 

 基準排水量10500t級001型戦車揚陸艦4隻

 

 60式主力戦車×1000輌

 

 90式VTOL×16機

 

 旧式無頼・旧式グラスゴー×500機

 

 90式VTOL輸送用×500機

 

 軽斑鳩級浮遊航空艦×1隻

 

 カールレオン級浮遊航空艦×2隻

 

 

「こ、こうして品目にして、書類にしてみると凄まじい。これだけで第三文明圏を統一できそうな。なんでもこの60式主力戦車の90㎜ライフル砲はリントヴルムを一撃で粉微塵に出来るそうだ。私もBlu-rayで発射と標的の粉砕を見せられたがとんでもない代物だぞ? 日本風に言わせればこれでもおもちゃだそうだが」

 

 無償供与、譲渡品目を見て、冷や汗を搔くレミール皇女の額や頬を、朝田が自身のハンカチでこまめに拭いてあげる。

 

「す、すまぬな泰司」

 

「どういたしまして」

 

 そんな夫婦でもないのに夫婦なやり取りをする二人は事実上の婚姻関係。大使館内ではもう知れ渡っている事であり、本国の皇室、貴族の間でも知れ渡っている。

 

 そんな事は疾うに与り知っているイノスは、仲の良い二人を横目に、震えながら声を絞り出していた。

 

「……浮遊航空艦はパールネウス型戦艦同様にフレイヤ炉搭載型だそうで、その航続距離と稼働時間は∞だとか……レミール皇女殿下、我々は、我々はいったい何をさせられようとしているのでしょうか? こんな大戦力を無償供与というのが私には不安で不安で」

 

 

 

 軽斑鳩級

 

 全長191m

 

 時速巡航450㎞

 

 最高速度1000㎞

 

 ブースター装着時マッハ2~3

 

 乗員230名

 

 充足時340名

 

 フレイヤ炉搭載

 

 航続距離∞

 

 

 カールレオン級

 

 全長190m

 

 最高時速960㎞

 

 乗員210名

 

 充足時315名

 

 フレイヤ炉搭載

 

 航続距離∞

 

 

 

 

 

 冷や汗を流して不安がるイノスに、レミール皇女はハンカチを渡してやる。

 

「こ、これは皇女殿下のハンカチを」

 

「かまわぬ。洗って返してくれ。……それと、日本が我が国にさせようとしていること。掻い摘まんで言えばだが、第三文明圏の玄関口から中口までの安定を担わせようと言ったところだろう。日本とブリタニアが自ら出て行く案件は大東洋と第三文明圏東部、それにロデニウス大陸やグラメウス大陸に限定したいのかも知れぬ。無論、私程度に彼の国々が何をお考えなのか与り知ることかなわぬが」

 

 これまで黙って事の成り行きを見守っていた朝田はここで合いの手を入れるように口を挟んだ。

 

「まあ、レミール皇女もイノスさんも、小難しく考える必要はありませんよ。我が大日本帝国と我が心邦=家族は多くを求めておりません。貴国への援助も貴国の戦列艦や竜騎士団、地竜や歩兵部隊が余りにも脆弱に過ぎる。これに金や鉱物をつぎ込むことは無駄と考えた末の判断ですので。第三文明圏の発展度は他の文明圏のソレよりかなり劣っております。ですのでその発展の手助けの一環としておもちゃを差し上げただけなのでしょう」

 

「朝田殿、しかしおもちゃというには強力に過ぎませんか?」

 

 それでもと、レミール皇女のハンカチで流れ落ちる冷や汗を拭うイノスは反論するも。

 

「では例を挙げましょうか。基準排水量70000t級戦艦パールネウス。我が国なら一発の砲撃で沈められます1000㎞は離れた場所から」

 

 レミール皇女は戦艦大和と武蔵のことだなと黙っていた。直に見たことがある故に知っているのだ。そして戦艦は自身の主砲では装甲板を貫通できないことも学んでいた。つまりパールネウスの46㎝超電磁砲では大和・武蔵・ブリタニアの戦艦などにかすり傷も付けられない。逆に大和の60㎝主砲だとパールネウスは一撃で貫通するか吹き飛ばされて終わり。格が違う以前の話、異次元の差がある。

 

 そのことを勉強していなかったらしいイノスは、い、一発?!と取り乱す。パーパルディア皇国の職員は無勉強な者が多かった。元々列強だったという驕りと。反面日本へ渡り来た者はその圧倒的文明力を知り、無気力症候群の様な状態に陥ってしまうのだ。無理からぬだろうとレミール皇女も思う。列強列強と驕り高ぶっていたところへあの鋼鉄の大艦隊と空飛ぶ艦隊を見せ付けられたのだからな、と。

 

 だが、それでも前へ進もうとする大使館職員も増えてきて、最近では活気づいてきていた。自ら積極的に学ぶ者。その文化を少しでも取り入れられないかと努力する者。千差万別様々だが、レミール皇女は学ぶ者であり、世界を超えて朝田泰司という愛する男性と巡り会った希少な人間であった。

 

「ね? その程度のおもちゃなのです。多少マシなのが名無しの旧式浮遊航空艦と、超旧式の初期型KMFくらいで、それ以外は見るところも無い骨董品ばかりです。まあ、懐かしいなとか、この頃の戦艦はここが素晴らしいとかお年寄りが語り合うくらいです」

 

 言葉を失うイノス。70000t級の超巨大戦艦が骨董品で、一撃で沈められる大したことの無いおもちゃなのだと告げられたのだから。おもちゃおもちゃとこれまで何度も聴かされてきたが、彼ら日本やブリタニアからすれば本当におもちゃらしい。

 

「それを、貴国は新品で我が国に?」

 

「こんなおもちゃの中古品なんて残ってませんからね。一から新造するしかないわけです。とまあこんな感じでしょうか。辻閣下風に仰るならばですが」

 

「……」

 

 完全に黙ってしまったイノスにレミール皇女がヒントを与えた。

 

「イノスよ。これは私が辻卿より授かったお言葉だが、お前にも教えておこう」

 

 

 常識とは掃いて捨てる物。

 

 

 

 ◇

 

 

 常識とは掃いて捨てる物。そう聞かされたイノスにもう昼だから休憩に行ってこいと送り出したレミール皇女。彼女は彼女で別のことで頭を抱えた。

 

「なあ、ところで泰司よ。船は未だ良い。空飛ぶ船……浮遊航空艦も良い。だが、戦車とナイトメア? どうやってパーパルディアまで持って行くのだっ!」

 

 あああ~っと頭を抱えるレミール皇女。陸の兵器を海を渡ってパーパルディア皇国へと輸送する。

 

 皇国には輸送艦だけは大量にあるが、皆木造船ばかりであり、戦車やナイトメアフレームのような鋼鉄製の兵器の輸送には向いていない。そもそも不可能だろう。

 

 VTOLまで含めるのならば輸送する数は2000。けして少なくない数だ。悩むレミール皇女。前傾姿勢で机に突っ伏すレミール皇女。長い銀の髪が一房、しゅるりと彼女の肩を流れ落ちる。

 

 だが、これも執務机の上に置かれた品目を手に取って、再度目を通して、朝田があっさりと答えを出した。

 

「我が国の超大型RORO船で運べますよ。50万t級の奴で。全部」

 

「はあッ?! ご、50万t級の船だとッ!? た、泰司、書類仕事のしすぎで狂ったか?! そのような船があるわけがないだろうッ?!」

 

 朝田の何でも無いよと言う言葉に、突っ伏していた机からばっと頭を上げ狂乱するレミール皇女。思わず頭に戴く金のサークレットが外れそうになった。

 

 今自分で常識とは掃いて捨てる物とイノスにかっこつけて語った女性と同じとは思えない。だが、朝田は淡々と事実だけを語る。

 

「ありますよ普通に20万t級、30万t級のも。タンカーもRORO船もそんなのいくらでもありますよ。まあ三隻もあれば充分でしょう。普通あり得ないのですけれどね。潜水艦やら敵艦の攻撃を考えてRORO船で兵器を輸送するのは。RORO船は主に自動車と重機を運ぶ船なのですよ。ですがまあ戦車・装甲車用、KMF用のも一応はあったりしまして、第三文明圏では危険も無いでしょうし」

 

 パーパルディア側の港湾施設の問題で、超大型船を直付け出来ないだろう問題は、戦車揚陸艦に搭載されたVTOLで片が付くだろう。場合によっては戦車用のVTOLを貸してもいい。余りまくっているのだ。

 

「……泰司、私にはまだ掃いて捨てられない常識があるようだ」

 

「我が国と、ブリタニア、AEUおよび北側諸国の内情を知っていけば行くほど、更に出てきますよ。掃いて捨てられない常識が。まあレミール皇女はこの一年間で大分我が国のことを知ったのです。歴史から何からと。これからまた知っていけば良い。それだけです」

 

「分かった。分からないが分かった……しかし、これらの兵器を私が指揮し、本国へと輸送するのか……」

 

 レミール皇女は駐日大使だが、大使としての実務は首席公使が担っている。これはレミール皇女が一外交官として朝田と共に各国を回り、現場の勉強をしていきたいからといったパーパルディア皇国皇族恒例の強権からだが。

 

 実際に別の国での大使経験のある首席公使の方が実務に向いていると判断され、レミール皇女が大使館に不在の際は、パーパルディア皇国大使館では首席公使が大使として繰り上げられている。

 

 今回、大日本帝国と神聖ブリタニア帝国という二大超大国より用意されたおもちゃを本国へ届けるにあたり、里帰りも兼ねてレミール皇女が輸送の指揮を執る運びとなったのだ。

 

 指揮と言っても、こちらも指揮するのは現場の人間であり、素人の彼女には何もすることはなく、精々が隊員や作業員の鼓舞をするのみ。

 

 それもまた皇族として立派な責務であり公務の一つなのだが。これに一外交官であり、彼女の補佐役でもある朝田がついて行くのである。レミール皇女と常に職場を共にする彼の日常だが。

 

 おもちゃの艦隊とは言えそこは本物の兵器。現場で兵器を取り扱う仕事の手伝いをするのは朝田も身が引き締まる思いだった。

 

 

 

 

 

 昼、いつもの場所

 

 

 いつもの場所で愛し合う朝田とレミール皇女。深くいて、静かで、レミール皇女も朝田も共に感じながら、会話を行う。

 

「あッ、はあッ、たい、じッ、ろ、ロウリ、ア、が、不穏なッ、動きを……ッ、しておると、いう」

 

 愛し合う行為のさなかの意見交換。頭の熱が沸騰している状態でのこういった話は、時に事を冷静に見つめられる。

 

 朝田とレミール皇女が昼に愛し合うのは、愛を交換するためだけにはあらず。

 

 こうした意見交換も兼ねてのことであった。ただ愛し合う為だけならば家ですれば良い。二人は共に暮らしこの一年愛し合い続けてきたのだから。

 

 夜は純粋な愛の時間だが、昼は愛し合いも兼ねた意見交換、情報交換の時間でもあるのだ。

 

 時に愛し合いながら会議でもするかのように二人は言葉を交わす。そんな事もままあった。

 

 二人だけの愛の時間。二人だけの雑談にして会議。大切な行為を行いながら、重要な話をする。それは何も二人だけではない。多くの人間がしていることだ。多くの愛し合う者同士が。

 

「だい、じょうぶ、であろうか? ロウリア、はッ、六千、せ、き、の。はあッあ、か、艦船を、揃えッ、我が国へッ、攻め込まんとしてッ、いるッ、とッ、ああッ、報告ッ、がッ、上がって、おるッッ!」

 

 ロウリア軍は六千隻の艦船。ワイバーン1000騎、これでパーパルディア皇国へと攻め入らんとしている。

 

 そんな情報は日増しに多くなっていた。そして既にその強大な軍集団は統合され、後はロウリア王国大王ハーク・ロウリア34世が号令を掛けるだけという、瀬戸際まで来ていると言った情報まで舞い込んでいた。

 

「大丈夫ですッ、よッ、レミール、皇女ッ、パーパルディア、にはッ、我が国が、ご提供したッ……、ゼロ戦ッッ、600機がッ、ありますッ、ふ、ううう――ッ」

 

 瞬間弾ける朝田。大きく背を反らせるレミール皇女の長い銀色の髪が宙に舞い、銀の軌跡を残していく。

 

「ああァァァッッ!」

 

 上り詰めた朝田。受け入れたレミール皇女。二人は共に抱き締め合い、頬を擦り合わせながら衣服越しに互いの熱を共有し合い、情報交換の続きを行う。

 

「はあ、はあ、ッはあ、たい、じ、それは、分かっておる、だが、ふうふう、だが、それでも数の差が、はあ、はあ、不安、なのだ……ッ、1000対600、数の差で圧倒的に劣る故にな、はっ、はうう、」

 

「ふうううう、それこそ、取り越し苦労というものですよレミール皇女。我が国の最後期のプロペラ機の一つである零戦52型の速度は700㎞を超えます。巡航速度でも600㎞を超えてきます……ふう、」

 

 行為による心地良さと抱き締め合ったままの心地良さ。二つを味わいながら、身体を火照らせたまま、息を整えつつ、朝田とレミール皇女は意見を交換する。

 

「12.7㎜重機関銃6門21式ロケット弾12発搭載。これでは負けようがないのですよ、先ほど説明しました速度についても再度申し上げますが、貴国が保有していたワイバーンオーバーロードで430㎞でしょう? それをさえ遙かに凌駕した速度なのです。たかがワイバーンとかいうトカゲ如きに追いつかれませんよ」

 

 レミール皇女もその速度を聞いていた。ムーのマリンという戦闘機の二倍近い速度を誇るゼロ式の速さを。その目で見ていたが、それでもどうしても不安は付きまとう物。

 

「だが、船はどうする? もう我が皇国には800隻の戦列艦は無い。皇国途上のアルタラスも攻められよう。アルタラスの防備は?」

 

 パーパルディア皇国本土の手前には人口1500万人のアルタラス王国がある。ロウリア王国軍がこれを無視するとは。

 

「いえ、ロウリアは先にパーパルディアを狙う可能性が高いです。アルタラスは見かけ上は何の戦力減少もしていない。この状態でアルタラスを攻めるとは考えづらい。いえまあ私は一外交官に過ぎず専門家ではありませんので確実な事は言えませんが。とりあえずで話させて頂きますと、アルタラスに引き換えパーパルディア皇国には何の戦力も無いとロウリア側は下に見てきます。こちらを攻める方が安全だとも」

 

「それでは尚更皇国の危機ではないかッ?! 私の持ち帰る戦艦パールネウスの戦闘力は私自身が把握しているが、エストシラントに残っている24隻の艦隊で6000隻に――」

 

 レミール皇女の言葉は斬って捨てられた。今も尚抱き締め合っている朝田に。

 

「勝てます。むしろ戦力過多なくらいですね。40000t級空母4隻。14500t級重巡洋艦4隻。2200級駆逐艦16隻。これでロウリア艦隊に負ける方が無理、不可能です。前にも言いましたがパーパルディア皇国は今が歴史上最強なのです」

 

 自信を持って述べる朝田がレミール皇女の中より外へと出て、ティッシュで自分と彼女を拭う。一筋、二筋と、彼女の脚を伝い落ちたが、それも拭き取り。

 

 綺麗にしてから朝田も居住まいを正し、レミール皇女のドレスのスカートの中を少し触って。

 

「ん、んん」

 

 声を漏らす彼女のその綺麗な声に耳を擽られながら、彼女の肌に付ける衣服を元に戻す。

 

 序でドレスのスカートを戻し、ドレスを綺麗に着付け尚させ、全て事を終えた。続きは何も考えずに愛し合える夜、寝所でだなとレミール皇女が考える中。

 

 朝田は、後は残りとばかりにレミール皇女の膝下へと届く長い銀髪を手指に絡めて梳き通しながら、髪の乱れを元に戻し行く。

 

「私も勉強はしたし確かにお前の口より直接聞いている。間違いなく我がパーパルディア皇国は歴史上最強なのだろう……だが、だが、本当なのか? たったの24隻なのだぞ?」

 

 自身で日本の歴史を学び、自身の眼で大昔の日本帝国海軍の姿を見た。それでも不安なのだ。本国の人間も凄い凄いと通信機器を通してレミール皇女に伝えてくるが、彼女はこの一年本国に帰っていないから知らないのだ。だからこそむくむくと不安がわき上がってくる。

 

「んーまだご不安ですか。ならば、そうですねえ……、そう、レミール皇女は以前、ムー国のラ・カサミ型戦艦にはパーパルディア全軍で当たらなければ勝てないと仰られておりましたよね?」

 

「んっ、随分以前の話だがな」

 

 800隻の戦列艦全てで当たらなければムーの巨大な機械動力艦には適わない。愚帝ルディアスがそう言っていたし自分でもそれは感じていた。

 

「我が国が供与した重巡洋艦。排水量だけならそのムーの戦艦と同等クラスと分析されております。まだムーとも正式に国交を開設しておりませんが、衛星写真で判断したところではまず間違いなく」

 

「なっ?! ほ、本当なのか?! あれらがムーの戦艦ラ・カサミと同等だというのか?!」

 

「当然戦艦と巡洋艦ですから。砲口径は劣るでしょう。が、排水量は。つまり、パーパルディア皇国は今この時点でもロウリア軍に圧勝できるんです。レミール皇女のお土産無しの状態でです。その上でレミール皇女のお土産。もうこれどうやって負けたら良いのでしょうね」

 

 朝田は笑いながらレミール皇女の髪を手放した。

 

 さらりと彼女の背に戻る煌びやかな銀髪。行為によって外れ掛かっていた彼女のサークレットを朝田が戻してやり。

 

 昼の情事は幕を下ろした。

 

「泰司、で、では本国が大丈夫として私はどうすればいい? 浮遊航空艦で先に帰るべきか。航空艦は下限で400㎞は出ると辻卿に伺ったことがある。旧型でも最高速度なら900㎞とか、正直この目で見てきたが信じられん」

 

 旧型の浮遊航空艦で下限平均400㎞前後、最高900㎞前後、特殊なブースターを使えばマッハ2や3というとてつもない速度が出るという事は、レミールも知っていた。旧型でこれだ。日本の最新型ならば更に桁外れだ。

 

「航空艦の速度を海上の艦隊に合わせて超鈍足飛行にして共にパーパルディアへ帰還すべきか?」

 

 そうなのだ。だからこそこの問題が出てくる。浮遊航空艦と海上艦隊。どちらで先に帰るべきか。どちらと合わせるべきか。

 

「そうですね、インパクトを考えるのなら全艦艇で一気に帰還した方がロウリアにも、パーパルディア皇国自身にも与える印象は変わってきます。急ぎでないならば浮遊航空艦を海上艦隊の速度に合わせ、まあレミール皇女は戦艦パールネウスか三隻の浮遊航空艦のどれかに座乗となるでしょう。まさか皇女殿下をRORO船には乗せられませんので」

 

 うーむ。考えるレミール皇女。暫し考えて。

 

「ロウリアの動きは気になるが、全艦で帰るべきなのだろうか?」

 

 全艦での帰還へと舵を切り掛けていた。

 

 

 

 

 パーパルディア皇国に供与された浮遊航空艦スペック

 

 軽斑鳩級

 

 全長191m

 

 時速巡航450㎞

 

 最高速度1000㎞

 

 ブースター装着時マッハ2~3

 

 乗員230名

 

 充足時340名

 

 フレイヤ炉搭載

 

 航続距離∞

 

 

 カールレオン級

 

 全長190m

 

 最高時速960㎞

 

 乗員210名

 

 充足時315名

 

 フレイヤ炉搭載

 

 航続距離∞

 

 

 スペックが少々ヤバい事になっておりますがこれですら旧型です

 

 

 

569:二二三:2023/04/12(水) 16:56:11 HOST:KD106155012012.au-net.ne.jp

終わりです

 

早くロウリアを動かしてあげたいパーパルディア皇国を征服して7000万人の奴隷を手に入れて

ロウリアの大王様はレミールを性奴隷にしたいみたいなので

 



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戦列艦どうしようか

 

 

 

 戦列艦どうしようか

 

 

 パーパルディア皇国にはつい一年と少し前まで1000隻前後の魔導戦列艦があった。

 

 大東洋諸国圏の国々からすれば恐ろしい数だ。

 

 だが、北側諸国という列強の基準でなど計ることのできない絶大な力を持つ国々の援助を受け、強大で精強なパーパルディア皇国皇軍へと生まれ変わった。

 

 地竜は1000両もの戦車と500機ものKMFへ。ワイバーンロード、ワイバーンオーバーロードは2100機もの戦闘機に。そして魔導戦列艦隊は40数隻の鋼鉄の巨大艦隊へ。

 

 40数隻と侮るなかれ。この40数隻の艦隊には以前の皇国が保有していた1000隻の戦列艦は勝てないのだ。金属の壁に阻まれ、超長射程の射撃の前に、ミサイルや機関砲の前に。

 

 そして46㎝超電磁砲の前にはゴミ同然。体当たりしたところで鋼鉄の船体はびくともしない。超フィシャヌス級の150門の大砲を戦艦や巡洋艦、駆逐艦、コルベットにさえ当てたところで効かない。

 

 あるいはコルベットなら船体をへこませることくらいなら可能かも知れないが、彼の艦の速度を捉えることは不可能だろう。

 

 この鋼鉄の艦隊を前にしては、戦列艦など2000隻3000隻あっても全部沈められておしまいだ。とくにあの戦艦パールネウス級の圧倒的な攻撃力。あの前では戦列艦などゴミだゴミ。主砲の風圧だけでばらばらになるだろう。

 

 地竜の攻撃なども戦車には効かず、戦車の主砲を受けて地竜の方が爆砕される。下限でも600㎞前後の速度を出し、速い機種なら900㎞を超える鉄の戦闘機にワイバーンオーバーロードでさえ追いつけず、瞬く間に撃墜される。空中を制止するVTOLという兵器も500以上戴いた。

 

 これらの強力な兵器群が北側諸国曰くおもちゃだというのだから、彼の国々はどれ程の力を持っているのだろう。

 

 そういえば、3隻のみだが空飛ぶ戦艦まで無償で譲り受けてしまった。

 

 こんな常識を覆すようなことがあっていいのだろうか。

 

 皇国皇族であらせられるレミール皇女殿下は日本へ大使として、また外交官として赴任し、日本という国に触れ、日本のやんごとなき方々に仰られたそうな。

 

「常識とは掃いて捨てるもの」

 

 私もそろそろ見識を改めなければならないのかも知れない。

 

 皇国皇軍は以前の10倍以上は確実に強力になった。

 

 今であれば神聖ミリシアル帝国にさえ立ち向かえることができるだろう。

 

 ……別に何も揉めていないのでそんな事はしないが、無意味に等しいとは言え列強第一位と互角か、下手をすればそれより強い現在にわくわく感は隠せない。

 

 今私はとても嬉しく、毎日が楽しい。我が精強なる鋼鉄の艦隊を目にすることが毎日の楽しみだ。

 

 そんな私だが、一つだけ悩みもあった。

 

 大東洋諸国から苦情と共に勿体ないという声が上がっているのだ。

 

 魔導戦列艦の処分についてだ。

 

 なにせ1000隻。これまでに800隻と少しは処分してきた。海上でコルベットのシウスという超高速リニア主砲や、駆逐艦の砲、巡洋艦の砲、戦艦の副砲などでボンボン撃沈処分している。

 

 その木っ端となった木片のゴミが海流に乗って一部の大東洋諸国の浜辺に辿り着いて、ゴミ拾いで迷惑が掛かっているというのである。

 

 あと

 

「貴国では無用の長物かも知れないが我らから見れば喉から手が出るくらい欲しい物だということを忘れ取りゃせんかね」

 

 などと、小言を貰った。

 

 軍事司令官のアルデは一人考えた。隠して処分していっている戦列艦はもう100とちょっとしかない。

 

 これならば処分しても意味が無いのでは無いか? いっそのこと下取りをして貰ったほうが多少は金になる。

 

 下取りだから本当に安い金で良い。幸いにも我が皇国はいま大好景気。高度経済成長に突入している。すべて北側諸国と関係を持ってからだ。

 

 古都を見たいということでエストシラントにも観光客が溢れ、物が飛ぶように売れていっている。

 

 地方都市、下属領の現自治都市の開発にも北側諸国の手が入り、本格的な都市化が進んでいっているという。

 

 その中での旧時代の遺物である戦列艦だ。10隻かそこらは北側諸国最大の国家である神聖ブリタニア帝国の貴族や皇族の方がコレクションにと購入されたが。

 

 他も全部売却してしまえば一気に片付くではないか。

 

 幸いにも皇国の周りには海に面した国が多い。真正面のアルタラス王国やその隣のシオス王国、フェン王国など受注先はそれなりにある。

 

「うーむ、しかしレミール様がおられる頃なら即断即決も可能であったろうが。新皇帝陛下のセレミア様は書類仕事に忙殺されておられるからなあ」

 

 ここで一つ案件を増やしてまた仕事を増やすのかとどやされたらどうしようかと思うアルデは悩む。

 

 もう、使い物にならないといってもそこはそれ。他国からしたら最新鋭軍艦。どうも北側諸国は必要以上に軍事力をばらまくつもりは無いのか。

 

 今のところ大きく軍事的な援助をしてくれたのは列強たる我が国だけ。

 

 セレミア陛下やレミール様が仰るには、パーパルディア皇国は地理的に第三文明圏と大東洋諸国、そして大東洋への入り口にあたる。

 

 この地点を強化し、防衛用地点とするのは理に適っており、北側諸国の意図はそこにこそあるのではないかというものだった。

 

「まあどーせ北側諸国が本気になれば敵になる国などいなかろうが。北側諸国が元いた惑星でも緊張状態が続いていたらしいから、しばらくまったりとなされたいのかもしれん」

 

 朝のチキンラーメンをすすりながら私はノートPCを操作する。チキンラーメンは美味い。器に入れてお湯を注ぎ、3分経ったら食べられる。卵やネギを入れると尚美味しい。

 

 以前は高級品だった卵も北側諸国と貿易を始めてから庶民でも買える値段にまで下がった。こんな恩恵の声があちらこちらから聞こえてくる。

 

 おかげでこうして朝食のチキンラーメンにもぽこんと卵を入れられるというわけだ。

 

 初めての頃。すすって食べるという姿勢に実にはしたなく感じたものだが、これも文化の違いと食べてみたら嵌まった。他にも塩ラーメン、味噌ラーメン、醤油ラーメン、豚骨ラーメンと色々種類があるが。

 

 私はこのシンプルなチキンラーメンが大好きなのだ。

 

 日本住まいのレミール皇女もラーメン食に嵌ったりしているのだろうか? あの方の場合嵌ればとことん行くタイプだからな。日本びいきの日本通になっているかもしれん。

 

 そういえばここ皇都エストシラントではカップラーメンなる物が逸り始めているらしいな。今度探索に行かねば。

 

 そうして私は健康食として朝食はこれとサンドイッチを食べているのだ。

 

 私もこの一年、ノートPCとあんさいくろぺでぃあで学んだのだ。頭も非常にさえわたり良くなったと実感している。

 

 北側が打ち上げた人工の星、衛星は100基を優に超えているらしく、ノートPCや携帯テレビなどの端末さえ持っていればよほど奥深い山の中や、海のど真ん中でも無い限りアンテナを立てている地域ではいんたあねっとが楽しめる。

 

 私も夜遅くまでいんたあねっとの鹿金やら怖い番組やらを見て楽しんでいるのだ。そしてあんさいくろぺでぃあで勉強をするこれで頭が鍛えられていっている。

 

「ふふふ、皇国皇軍も最強になったが私の学力も最強になったのだ」

 

 そんなことより下取りの件をどうするか。正直このまま的当てをしていても意味が無い。皇国海軍も充分に練度が磨かれた。

 

 もったいない、か。一度皇帝陛下に奏上してみるか。書類仕事の邪魔ですとかって蹴り出されそうだけど。

 

 



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もしも、ある首長国が存在していたら

 

もしも、ある首長国が存在していたら

 

 

 

 

「大変光栄なお申し出ありがたく存じ上げておりますが、お断り致します」

 

 

響いた拒絶の声

 

それは一つの首脳会談における軍事同盟の議題に入ったときであった

 

「貴国もご存じの通り、我が国はありとあらゆる軍事力を持たず・作らず・持ち込ませずを国是として貫いて来ております」

 

とある太平洋の首長国

太平洋戦争の折り、南の大国に侵攻され蹂躙され尽くした旧大洋州連合構成国の、ただ一つの生き残りである島を中心とした島国であった

 

彼らの理念は争いの萌芽となりうる軍事力の永久放棄

何処の経済圏からも距離を置き、敵味方とならぬよう尽くす完全中立の立場の維持

 

彼らは信じていた

太平洋戦争の戦火より逃れ得たのは、自国が何処の勢力にも属さず、唯一大洋州連合に属しながらも軍事力の放棄を謳っていたことで、南の巨大国家よりの侵略を防げていたのだと

 

「しかし、貴国の立ち位置は微妙です。我が大日本帝国とも、ブリタニア帝国とも距離を置かれ、さりとて中華連邦の庇護の下にあるわけでもない。己を守る為の刃すら持たず、彼の合衆国の隣国として永世中立を保っている事は勇気ある政治的方針かと受け止めてはおりますが、このままではいつか」

 

「くどいですぞ嶋田宰相閣下。我が国が貴国を訪れたのは新たな通商条約の締結についてが主題。軍事同盟の話などでは断じてありません」

 

「そうですか……」

 

1998年

南洋の島国と大日本帝国は新しく通商条約を結ぶに至った

主題の裏側に大きな不安を残す形となった会談は、日本宰相嶋田繁太郎と、南洋の島国の首長の、平行線となる話し合いを最後に終了となった

 

 

 

やがて、時は2019年へとその舞台を移す

 

 

 

 

夜空に伸びた幾筋もの光の柱を、南洋の島国の人々は不安に駈られながら見上げていた

 

「何の光だ」

 

行政府である首長府の近くに集まった聴衆がざわざわと騒いでいた

 

「海の方からだわ」

 

光の柱は次々と数を増していき、次第に南洋の楽園である島国の星空を覆い隠していく

まるで光のアートに失敗したかのような光景に、聴衆の不安は一層深まっていた

 

 

 

 

「首長…まさか!」

 

首長府のテラスからも見える光は、南西方向から照らされていた

慌てる首長国首長筆頭書記官が、南西方向を睨み付ける首長に自らの予測を口にした

 

「サーチライトの光だ」

 

夜空を埋め尽くすほどの海から来るサーチライトを搭載した何かは、島国には存在しないはずの物からのものであった

軍艦も、沿岸警備艇さえ持たない国には、そもそも初めからない

夜は小さな中心都市の明かりくらいで海からの光などないはずなのだ

 

「ついに、来たか…」

 

絞り出すような首長の声には、後悔と決意がない交ぜになった思いが含まれていた

20年前、島国との積極的な外交姿勢を打ち出していた、時の日本嶋田政権からの打診を受け入れていれば

このような事態を招く事などなかっただろう

しかし、一方で国の信条を捨てることなど、時の首長にはできなかった

 

建国より百数十年余り、一度として戦火に見舞われたことがない島国は、変えない国是こそが、非武装永世中立の理念こそが、この国を守ってきたからと信じていたからだ

 

首長も、政治家も、国民も、皆がそれを信じて生きてきた

 

この国で根を下ろして苦難を共にしてきたのだ

 

今さらどうして捨て去れようかという理念であった

 

 

 

「お父様…!」

 

少女が一人、駆け込んでくる

首長の娘、カガリであった

 

「姫っ」

 

駆け込んできた首長の娘が、畏まる書記官を横目にして、強張る表情を隠せない父を見て伝えた

 

「彼の、彼の国の艦隊が我が国の領海を!」

 

「わかっている」

 

ドォーン!

 

「わかっているとも…!」

 

首長が答えた直後、まるで返礼でも行ったかのように海の方角から大気を震わせる発砲音が轟いた

 

 

 

 

島国沖

 

大小7隻の船の内の1隻が、前甲板に据え付けられた76ミリ単装主砲を45度の角度で固定して発砲を続けていた

 

その船、世界標準で言うコルベット艦の艦長は艦隊指令からの命令で発砲を続けながらぼやいた

 

「たかだかフリゲート2隻とコルベット4隻に揚陸艦1隻で事足りるようなちっぽけな国をなんだって取る必要があるんだ?」

 

副長が答える

 

「なんでもニューギニア・南ブリタニアと失敗続きの軍の面子を保つ為だとかなんとか」

 

「また政治に振り回されるわけか。たまったもんじゃないぜ」

 

「艦長、指令より通信です。予定通り砲撃で地ならしをしたのち、KMFを上陸させ、首長国を一気に制圧するとの事です」

 

「了解、まあ所詮は沿岸警備艇の1隻も持たない無抵抗の相手だ。やり過ぎないようにやってやるさ」

 

 

 

 

 

日本

 

 

 

「嶋田さん」

 

嶋田家の居候にして駐日武官であるモニカ・クルシェフスキーが白い騎士服に袖を通し、黄緑色のマントを羽織ながら入ったばかりの報告を嶋田に伝えた

 

「首長国が合衆国オセアニアの強襲を受けたそうです…」

 

これから大使館に向かうのだろうモニカの様子に、嶋田は「そうか」とだけ呟き

 

「20年前、首長国をなんとか説得できていればこんなことにはならなかったかもしれないな」

 

かつて臨んだ一つの首脳会談を思い出しながら南の空を見上げながら力無げに肩を落としていた

 



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お兄ちゃん暑いね

 

お兄ちゃん暑いね

 

桜の季節ではないのに桜色

そんなピンクのまっすぐな長髪の少女が、無精髭のような顎髭を蓄えた目付きの悪い青年に話しかけていた

 

「あちいな…」

 

元気なさげにぼやく青年こと玉城真一郎は、ピンク髪の少女クララ・ランフランクに引っ付かれながら、半ば諦めたように項垂れていた

 

暑いですわね兄様

 

すると、今度は玉城真一郎の逆隣に座る、紅色の長髪をした女性が、クララと同じ感想を差し挟んできた

 

「あちいな…」

 

紅色の髪の女性、マリーベル・ランペルージ、こと、マリーベル・メル・ブリタニアに引っ付かれながら、青年、玉城真一郎は、またもや諦めたように項垂れていた

 

「あのよー、お前らさぁ、暑いんだよ…、引っ付いてくんなよ…、離れろよ、頼むから離れてくれよ、俺、熱中症で死んじまうわ…」

 

項垂れていた玉城は、左のクララ、右のマリーベル、双方に言い聞かせるようにして付きはなそうと足掻いた

 

「俺もお前らも汗っだくじゃんか…、まじ馬鹿だろ…」

 

しかし、それは無駄な足掻きでしかない

髪から汗を滴らせながらも、クララ、マリーベルは、玉城から離れようとしないのだから

 

「クララが兄様から離れれば、わたくしも離れますわ」

 

ぽたぽた

分けた前髪からマリーベルの汗が地面に落ちた

 

「マリーお姉ちゃんがお兄ちゃんを離したらクララも離れるよ?」

 

ぽたぽた

ぱっつん切り揃えられたクララの前髪から汗が地面に落ち染みになる

 

「いい加減にしろてめぇら! こんなあっちいのに何で三人揃って引っ付き虫にならにゃならねんだ!」

 

頭を振るい、逆立つ髪から汗を飛ばさせながら、玉城は怒る

 

三人は今日も色んな意味で熱かった

 

 

 

暑いです

 

 

モニカは嶋田家の縁側で風にあたりながら風鈴の音を聞いていた

 

りーん

りりーん

 

涼しげな音から風流を感じる

しかし、暑い

 

「こうも暑いのにどうしてマントを着ているのでしょうか私…」

 

待機任務中だからだそりゃ

仕方ないだろう

モニカ・クルシェフスキー、ナイトオブトゥエルブは嶋田家にて待機せよとブリタニアの皇帝陛下直々の御下命なのだから

 

『夏休みだぞシゲタロォォォウ 』

 

だから、嶋田家に遊びに来る

 

別荘へ行って下さい

 

モニカは不敬ながら皇帝陛下に対してそんなことを考えてしまった

 

すると

 

「君も大変だなモニカさん。シャルルさんの護衛任務」

 

「嶋田さん…」

 

この家の主人にしてモニカ・クルシェフスキーの最愛の人、嶋田繁太郎がやってきた

 

「もう、お帰りになられたのですか?」

 

嶋田は今日、午前中は所用で忙しく、午後にやって来る、あ・そ・び・に・やって来るシャルルの時間に合わせて帰宅予定だった

それなのにもう帰って来た

 

「途中で切り上げてきたよ。君一人だけ暑い中の待機任務は可哀想だと辻さんに言われてね。それに、ほら、うちのエアコン壊れていたろう? この中で騎士の正装で一人待つ君の身を思うと、俺もいてもたってもいられなくってな」

 

それだけ言うと嶋田はモニカの隣に座り、静かに彼女を抱き寄せた

 

「暑いときも俺達は一緒だよ」

 

「…!」

 

モニカの顔は紅くなる

暑さと熱さで紅くなる

 

暑い暑い今日の嶋田家

 

二人は恋人のような抱擁を続け、ブリタニア皇帝、いや、シャルル・ランペルージを待っていた

 

 

「暑いですわ」

 

リーライナ・ヴェルガモンは山本五十六の肩に頭をのせながら呟いた

 

「暑いですわいっくん」

 

暑いなら頭をどければどうかとは言わない

山本は自身の最愛の女性がそうするなら、されるがままでも良いと考えていたからだ

 

「暑い暑いと思うから暑いのだ。心頭滅却すれば火もまた涼し。俺の身体を水か氷だとでも考えればいい。それより、俺にはその言葉遣いの方が気になるのだがな」

 

「あら。わたくしは由緒正しいヴェルガモン家の者ですもの」

 

「だから、普段通りに喋ればいいだろう」

 

「うふふ、いっくんの反応を楽しんでおりますの」

 

リーライナはその美貌に妖しげな笑みを浮かべて顔をあげ、山本を見る

エメラルドの瞳に射ぬかれた山本は、特に動じることもない

 

動じることもなく最愛の女性を見てひとこと

 

「いつものリーラが一番だな」

 

どこにでもいる女性、といった普段の彼女をこそ山本はもっとも彼女らしいと感じている

お嬢様然とした、その実、貴族階級のお嬢様なのだが

 

「淑やかな淑女はお嫌いですの?」

 

そんな彼女リーライナ・ヴェルガモンに山本は

 

「リーライナ・ヴェルガモンという淑女ならばまあ、どのような顔を見せても問題はないがな」

 

とだけ伝え、彼女の肩を抱いて、唇を奪った

 

それは暑く蒸した夏の午後

山本五十六とリーライナ・ヴェルガモンの間に交わされた、熱い熱い口づけであった

 



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台風の日

 

台風の日、玉城は勝手知ったる第二の自宅といっても過言ではないV.V.邸に避難していた

 

今年もっとも強い台風の被害に遭わないためだ

建て直して強度もしっかりしている自分の住むアパート、とはいえ

不安があった

楽天的な彼も一人の人間

自然災害への不安くらいあったりする

 

そこで彼は帝都東京での自分の身元引き受け人でもあるアパートの大家さん、V.V.に電話して避難させてくれと申し出たのである

 

「シンイチロウ、君でも危機管理くらいは出来るんだね」

 

踵まで伸ばされた淡い金色の髪を揺らしながら外見上は小学生高学年くらいの少年の姿をしたV.V.が布団を敷いている玉城に話しかけた

ここはV.V.邸のV.V.の部屋

純和室造りの畳の部屋に甚平を着たV.V.と、パジャマ姿の玉城の二人はいた

 

「危ないとわかってれば俺だって避難くらいするぞ。今度の台風はすごいらしいじゃねえか。避難勧告だって出てるしなあ」

「へえ、大人的な考え方だね」

「俺は大人だよ」

「わかってるよ。誰が見ても君が大人だってことなんて。ただね、君の向こう見ずな行動を見ていると僕は時々君が大きな子供に見えてしまうんだ。すぐに調子に乗っては痛い目を見るしさ。クララと一緒に小学生みたいなことをしていたりするしね」

「ガキっぽいところがあるのは自覚してるよ。同年代の奴等と遊びに行ってる時には良く感じてる。ああ、みんな大人になっちまったんだなってな」

 

玉城が敷く布団は一つ

V.V.の布団だった

よく遊びに来ては泊まっていく為にV.V.邸には玉城の布団もあったりするのだが、たまたまロロやクララの兄妹たちが泊まりに来ていた為に今日は貸し出されていた

小さい子供が五人ほどと多く

布団が足りないので玉城の布団を子供たちに渡したのである

 

彼も大人だ

小さな子供に優先してあげることくらいするのだ

 

クララも今夜は妹と寝る為にクララの布団にも潜り込めない

ルルーシュやナナリーもそうだ

V.V.の子供たちと寝る

 

「それにしてもおっさんって子供多いな」

「まあね。血の繋がりのある子から引き取って育てている子までたくさんいるよ」

 

誇らしげなV.V.に、布団を敷き終えた玉城は無造作に彼の小さな身体を抱き上げていた

 

「なにするんだい急に」

「いやあ、こんなちっこいのにガキのいる親父さんなんだよなあと思ってな」

 

V.V.を抱き上げた玉城

玉城に抱き上げられたV.V.

日本人とブリタニア人

人種の違いから兄弟には見えずとも、近所のお兄さんと子供くらいには見える

しかし、実際には大人の玉城が年下で、子供に見えるV.V.が年上で、しかもおじさんと若年者といった関係だ

 

 

「体が小さいのは確かなことだけど、僕は君の倍以上は人生の先輩なんだよ」

 

脇の下に手を通されて抱き上げられていたV.V.は、自由になっている両手で玉城の頭をくしゃくしゃ撫でる

 

「や、やめろよ俺ガキじゃないんだから」

「僕のことを子供みたいに抱き上げている君が言えることじゃないね。それに、僕にとっては君もまた僕の子供みたいなものだよ」

 

V.V.に優しく撫でられること

それは玉城にはあまり経験のないことだった

どちらかと言えば彼はV.V.にいつも叱られているからだ

 

「手の掛かる馬鹿息子って感じかな」

「うっせえよクソ親父」

「ふふ、親父か。父上・父さん・お父様・パパとは呼ばれているけれど父親としての親父ってのは呼ばれたことがないな。ちょっと新鮮な響きだ。よければもう一度呼んでみてよ」

 

V.V.の手が玉城の両ほっぺを掴む

小さな手だ

子供の手だ

だがいま玉城にはその小さな手が、包み込むようなほど大きな手に感じられた

 

「……お、親父」

「なんだいシンイチロウ」

「こ、小遣いくれ」

「残念だけど、一応は独り立ちした息子にお小遣いはあげられないかな?」

「んだよそれ。あー、なんかだんだん恥ずかしくなってきたぜ」

 

玉城は抱き上げていたV.V.を下ろした

 

「寝るか」

 

ゴォゴォとなる風の音

雨戸を叩く水の音

台風が近づいている

 

玉城は敷いた布団に入った

V.V.も同じ布団に入った隣同士の枕

天井を見る二人

眠気はまだ来ない

 

「風すごいな」

「そうだね」

「雨もな」

「うん」

「なんか、こうしてると子供の頃の台風が来る夜を思い出すぜ。わくわくしたあの感じ、大人になったいまじゃ不安しか感じないけどな」

「そうかい。なら、僕は大人として君を守ってあげなくちゃいけないね」

 

V.V.が玉城に身体を寄せ、彼の頭を撫でてあげた

 

「またそれかよ」

「嫌かな?」

「べ、別に嫌な訳じゃないけどなあ、ガキ扱いがちょっと」

「ふふふ、言ったろ。君も僕の子供みたいなものだって。子供を子供として扱うのは親として当然だよ。それによく言うだろう、出来の悪い子ほどかわいいってね」

「出来が悪いってだけ余計だぜ」

 

玉城も手持ちぶさたな手をV.V.の頭に当て、子供にしか見えないその小さな頭を撫でていた

 

「お父さんの頭を撫でる心境かな?」

 

撫でられて気持ちよさげに目を細めながらV.V.は言った

 

「どうだいお父さんの頭は」

「ちっこい」

「まあ小さいからね」

「体が小さいままなのは体質かなんかか?」

「後天的な体質だよ」

「なんだそれ」

「知らなくていいんだよ」

「クララもおっさんも隠し事多すぎだろ」

「息子を危険に晒さないためさ」

「まだやるのかよ親子ごっこ」

「いいじゃないか」

 

びゅうびゅう

風の音

ザーザー

雨の音

 

そのなかに、くしゃくしゃとV.V.が玉城の頭を弄り撫でる音と

しゅっしゅっと玉城がV.V.の髪をすき通し触る音

 

一夜限りの父と子の温もりを感じさせる音が混じっていた

 

 

おしまい

台風の夜に不安がる息子玉城と、そんな息子を守ってあげるV.V.お父さんの様子でした

 



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【突然金持ちになった】金持ちになった人あつまれ【急展開】

調子に乗れてるかわかりませんがどうぞ


 

 

【突然金持ちになった】金持ちになった人あつまれ【急展開】

 

ここは思わぬ大金を手にした体験談を語るスレです

荒らしはスルー

 

注意等:身元特定には要注意

全て自己責任として発言してください

 

2:名無しの金持ち

縦乙

 

3:いきなり金持ち

信じられねえことに親の遺産が1億ペリカ入った

 

4:突然金持ち

不意の慰謝料とか、宝くじ当たったとか

 

5:名無しの金持ち

クソスレ建てんな

 

6:名無しの金持ち

ここは嘘つきの集まりです

 

7:名無しの金持ち

そんな都合よく金が手に入るかよ

 

8:名無しのバーテン

し、信じられねえことが起こった、まじわけわかんねえ、1000万手に入っちまった……

 

9:名無しの金持ち

うそこけ

 

10:名無しの金持ち

こんなとこに人集まらないだろアホらしい

 

11:名無しのバーテン

>>9

イヤマジなんだって!

 

12:いきなり金持ち

わかるわ。信じられない気持ち

俺も1億ペリカ手に入るまで信じられなかった

 

13:名無しの金持ち

名無しのバーテンって、バーテンやってんの?

 

14:突然金持ち

宝くじで500マン当たった俺

 

15:名無しの金持ち

500万で金持ちとか笑わせるわ

そんなもん普通に仕事してりゃ貯まる

 

16:名無しのバーテン

>>13

帝都東京でバーテンやってんだぜ

 

17:名無しの金持ち

天から金が降ってくるわけないだろーがいい加減にしろ

 

18:名無しの金持ち

1億ペリカはまあどうでもいいが、宝くじ500万は無いとは言えんな

嘘かもしれんが

嘘前提で聞くが、バーテンはどうやって金手にしたの?

 

19:名無しのバーテン

見舞金と慰謝料

 

20:名無しの金持ち

はいはい

 

21:名無しの金持ち

有りがちな嘘だな

 

22:名無しの金持ち

よかったねー

 

23:名無しのバーテン

テメーら信じてねーな!

 

24:名無しの金持ち

いや信じるよ?

君の頭が愉快なことはw

 

25:名無しの金持ち

証拠もないんじゃなあ

 

26:いきなり金持ち

証拠ってどうやってみるのん?

 

27:突然金持ち

500万は貯金したから見せられないな。残念だわ

 

28:名無しの金持ち

ほら証拠を示せない嘘つきばっか

 

 

29:名無しのバーテン

俺のは嘘じゃねーんだって!

 

30:名無しの金持ち

一人だけ必死だな(笑)

 

31:名無しの金持ち

証明できなけりゃなんとでも言える

 

32:名無しのバーテン

じゃあ見せてやるぜ

 

33:名無しの金持ち

どうやって見せるんだよバカw

 

34:名無しの金持ち

バカだバカがいるw

 

35:いきなり金持ち

すまない、俺は証拠を見せられないな

 

36:名無しの金持ち

誰もお前に聞いてない

 

37:突然金持ち

貯金してるから証明できない

 

38:名無しのバーテン

画像

 

画像

 

画像

 

39:名無しの金持ち

金持ちを騙ろうスレw

 

40:名無しの金持ち

(*゜ロ゜)?

 

41:名無しの金持ち

(゜д゜)?

 

42:名無しの金持ち

え、嘘っ!

マジ?!

 

43:突然金持ち

さ、札束ぁぁぁ!

 

44:いきなり金持ち

うぞぉぉぉ?!

 

45:名無しのバーテン

な?

マジだろ?

 

46:名無しの金持ち

ちょっと待て!それは自分で貯めたお金じゃないのか?!

 

47:名無しの金持ち

表の一枚目だけが本物とかは

 

48:名無しのバーテン

>>46

毎月金が足りなくなって大家のじーさんに飯食わせてもらってる俺が貯められるわけねー。馬とかボートに貯金はしてるがなw

>>47

よく見ろ本物だよ!

画像

 

49:名無しの金持ち

これは‥!

 

50:名無しの金持ち

マジかぁぁ!

 

51:突然金持ち

ど、どうやってこの金を?!

 

52:いきなり金持ち

教えろ詳しく詳しく!

 

53:名無しの貴族

競馬と競艇に貯金とは言わんw

てか、どうやってこんな金手にした!

 

54:名無しの金持ち

ほすい…

 

 

55:名無しのバーテン

>>51-53

だから慰謝料と見舞金なんだって。俺この間知らんブリタニア人のおっさんにまあ、ちょっと大怪我させられてな。そいつの実家から慰謝料だって俺んとこに振り込まれたんよ。それがこの金

 

56:名無しの金持ち

なるほどな。うらやましー

 

57:名無しの金持ち

大怪我しても復帰して金が手元に入るなら俺も殴られたい…

 

58:名無しの金持ち

本物というわけか?

 

59:名無しの金持ち

お前その金どうすんの?

 

60:いきなり金持ち

貯金しておけ!

 

61:名無しのバーテン

一発当てようと思ってる

 

62:名無しの金持ち

バカかお前!せっかくの大金を一瞬で失うぞ!?

 

63:名無しの金持ち

悪いこと言わん、計画的に使うんだ

 

64:名無しのバーテン

バカいうなよ。せっかくのチャンスなんだぜ?

10万ずつ貼ったってまだまだヨユーなんだぜ?

ここで増やさずいつ増やすよ!

 

65:名無しの金持ち

むう、言わんとしてることわからんでもない…

 

66:名無しの金持ち

10万単位で賭けるやつ周りにおらんから見てはみたいw

 

67:名無しの金持ち

やめといたほうが無難だぞ

 

68:名無しのバーテン

俺の金を俺がどう使おうが勝手だろ

とりあえず500は立候補のために置いておく

 

69:名無しの金持ち

なんの立候補?

 

70:名無しのバーテン

衆院選挙

 

71:名無しの金持ち

は?

 

72:いきなり金持ち

頭沸いてる・・・

 

73:名無しの金持ち

お前なにがしたいんだ

 

74:名無しの金持ち

そんな無駄なことに金使うなら俺に寄越せ!有効な使い方をしてやるわ!

 

75:名無しのバーテン

バカにすんじゃねーぞ。俺マジもんの金持ちに結構コネがあってな。そいつらのセージ力を使えば衆院選くらい一発で

 

 

76:名無しの金持ち

ダメだコイツ

 

77:名無しの金持ち

その1000万は置いておけって。何かあったときに役立つから。絶対に要りようになるから!

 

78:名無しの金持ち

金持ちの知り合いっても政治家にコネがあるとは限らん

というかお前みたいなやつを金持ちが相手するわけない

 

79:いきなり金持ち

勿体ない、勿体ないぞ、博打やら望みもない選挙やらに金使うなんてバカらしいぞ・・・

 

80:名無しの金持ち

俺だったら1000万もあれば日本一周旅行やブリタニア旅行でもしてくるわ

ギャンブルだけはない

 

81:名無しの金持ち

まあバーテンの金だからバーテンが自由に使えばいいさ。しかし棚からぼたもちだな、まあ慰謝料もらうのは当然のことされたんだろうが

 

で、何に貼るんだ?

馬かボートか

 

82:名無しのバーテン

>>79

うっせー黙れ

>>80

旅行もいいよな。飲み屋のネーチャンでも連れて童貞卒業の旅へwいまの俺ならできるw

>>81

とりまボート

一点ずつで10万全レースで貼る!

 

83:名無しの貴族

童貞か、いまならソープで余裕っすよ?

 

84:名無しのバーテン

童貞にはヘルスやソープは敷居がたけー

が、行ってみるのもいいかも

 

85:突然金持ち

10万単位で貼るか、確かにこんなときでないとやれない賭け方ですな

 

86:名無しのバーテン

今日はこの1000万を枕にして眠りますwww

 

87:名無しの金持ち

バカだ、バカだが、うらやますい

 

88:名無しの金持ち

硬いけど気持ちのええ枕やろなあ…

 

89:名無しの金持ち

成金かよwww

 

90:名無しの金持ち

泡銭はすぐ無くなるぞー

 

91:いきなり金持ち

金枕…膝枕よりも気持ちよさそう…

 

92:名無しのバーテン

明日は欠勤したろwww

 

93:名無しの金持ち

欠勤したらあかんやろw

 

94:名無しの金持ち

わからんでもないその気持ちw

 

95:名無しの金持ち

うわぁぁぁん、羨ましいぃぃ!

 

96:名無しの金持ち

あー、なんかこんな話聞かされると仕事するのが馬鹿馬鹿しくなってくる

 

97:名無しのバーテン

デリヘルも呼んでみようかなw

もち、超かわいい子w

いまなら余裕だしよ

 

98:名無しの金持ち

>>97

このクソ成金(血涙

 

99:名無しの貴族

バーテンがもしかわいいデリヘル嬢とツーショットの画像なんかアップしたらぶちころ○たくなるな

 

100:名無しの貴族

居ないと思うけど、もしもバーテンに彼女さんが居たら血の雨が降って逆にわろえるがwww

 

551:二二三:2018/10/10(水) 19:42:15 HOST:KD182251193137.au-net.ne.jp

こんなところです

前に名無しで書いた掲示板SSと繋がってます

以前の掲示板SSは割合シリアスに書いたので、こんな繋がり方は変かも知れません

ただ、バーテン=玉城なので、あり得るかなと

 



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国際テロ組織inハルケギニア

 

 

国際テロ組織inハルケギニア

 

 

「本当に大丈夫なのだろうねミスター・デイビス」

 

貴族の連盟組織レコンキスタを率いるオリヴァー・クロムウェルは、アルビオン王国クーデターを進めながらある組織との連携を深めていた

真の黒幕よりの命令でアルビオン掌握後はトリステインへと攻め込む計画を立てていたレコンキスタであったが、大国ゲルマニアの動き次第では身動きが取れなくなり失敗する可能性とてある、そうなればいつ役立たずだとして消されるやも知れないと常日頃から怯えていた彼は、現有戦力を失わぬままに王侯派攻略を成し遂げ、次に備えたいと考えていたのだ

その矢先だった。数年前にふらっと現れレコンキスタへと参加した不気味なこの男ジェファーソン・デイビスが自分にやらせて欲しいと申し出てきたのは

 

「なあに、大船に乗ったつもりでいてください。ニューカッスルは明日の夕刻までには陥落し、このアルビオンは閣下の手の内となっておりましょうぞ」

 

「ふむ。そこまで言うのならば貴公に一任しよう。失敗は許されんよミスター・デイビス」

 

「心得ております」

 

自信有りげなデイビスに任せてみるかと一任した彼は再度失敗せぬようと言い含めてデイビスを下がらせた

 

 

「ふん、小心に過ぎるなあの男は」

 

天幕より出たデイビスは本営から少し離れた場所まで来ると、待機させていた自身の部下と合流する

 

「首尾は?」

 

「はっ。既に配置は完了しております。かねてよりアルビオン国内に潜り込ませてきた精鋭聖戦士3万と大陸直下に展開させた巡航ミサイル搭載偽装駆逐艦2隻、ミサイル艇8隻が閣下の号令一過ニューカッスル攻勢への手筈と」

 

「ロマリアの土人共は?」

 

「ヴィットーリオより、あまりやりすぎないよう願いますとだけお伺いしております。閣下の方は?」

 

「こちらも準備は終えている。クロムウェルには既にギアスを掛けてあるがあやつは私に思考誘導をされておるとは気付きもすまい。あのシェフィールドとかいう女もな。ガリアの狂王は気付いているやもしれぬが、対処は不可能よ。我が絶対思考誘導のギアスを破ることなどな」

 

得意気に語るデイビス。その正体は皇暦2010年のラプラタ民主共和国ごと異世界ハルケギニアへと時空転移してしまった民主共和制原理主義組織ペンタゴン最高指導者ジェファーソン・デイビスは、ブリミル教の総本山ロマリアと手を組みながら、ハルケギニア調伏作戦を着々と進めていた

 

「しかし閣下、気がかりな報告が一つ」

 

「なんだね気がかりな報告とは?」

 

「は。実は先頃トリステインにてグリンダ騎士団の紋章を掲げた一団、およびブリタニア第88皇女マリーベルの姿を見掛けたと…」

 

「……まさか、あの異教の女狐がこのハルケギニアに来ていると?」

 

「可能性はございます。しかしながら国土ごとではなく騎士団のみの転移でございましょうが」

 

グリンダ騎士団。それはペンタゴンとデイビスにとり仇敵とでも呼ぶべき存在である、彼方の世界の大国ブリタニアが誇りし対テロ機甲部隊

幾度となく刃を交え、自らも騎士団長マリーベルと戦ったことがある宿命の敵同士

 

「騎士団のみと侮るな。もしも本当にグリンダ騎士団ならば油断ならぬぞ。少しの隙、それが我が方に多大な損害をもたらす事となるやもしれぬ」

 

「無論、肝に銘じております」

 

「しかし補給が覚束ぬ以上、物量の戦いとなれば我がペンタゴンとラプラタの勝利は揺るがぬだろう。問題は油断によりくだらぬ犠牲を出した結果、聖戦士達の数を減らすことよ。錬度と信仰心の高い良質な聖戦士は短期間での補充が利かぬゆえな」

 

神の下にある政治思想。民主共和制原理主義布教の為には信仰心の高い良質な聖戦士の存在が必要不可欠

くだらぬ油断から犠牲が増えればハルケギニア布教活動に支障をきたす恐れがあった。故に油断は許されないのだ

永年の仇敵グリンダ騎士団が相手ならば尚更に

部下に努々忘れるなと言い含めたデイビスは号令を掛ける

 

「アラウカニア=パタゴニア奇襲の前夜にこの世界へと転移してより暫くになるが、漸く一手目のアルビオン制圧に乗り出すときが訪れた。これは我らが神より下された、異界布教の命!さあ行くぞ!全天に美しき秩序ある世界構築の為に!」

 

異界へ跳ばされし神の僕ペンタゴン

そしてラプラタ民主共和国の布教という名の侵略戦争がいま、始まる

 

 

 

 

絶対思考誘導とかいったオリジナルギアス能力でも出してみましたが続きませんよ

 

ついでにペンタゴン側は、嶋田さん・山本さん・辻さん

リーライナさん以下グラウサム・ヴァルキリエ。ヒトラー・ムッソリーニ以下のAEU二個師団が召喚されていることまでは知らない設定

ペンタゴンは南ブリタニア紛争前夜の最盛期なままラプラタ本国ごとハルケギニアへ転移した時系列が矛盾した扱いですが、敵は強い方が良いでしょう?

 

 



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出先から掲示板ネタ1レス

出先から掲示板ネタ1レス


 

212:名無しの貴族

話の合間に口挟んで悪いですが、二重の妹さんは学生という話ですが高校生?大学生?

 

213:名無しの平民

クルシェフスキー侯爵家とどう絡んでくるのか楽しみになって参りましたぁ!

 

214:二重の妹

 >>212

え? 大学だけど・・・○ッシュ○ォー○本校

 

215:名無しの貴族

はいー俺にもわかりました(笑)

伏せ字しても無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!!正直過ぎるんだよカ○ン・シュ○ット○ェルト辺境伯令嬢様ァァァァァァァっっっ!!!

アッシュ○ォード本校はブリタニアにありィィィィィィィィ!!

カ○ン様の御年齢と照らし合わせればあなたは自白いや自爆も同然ンンンンンンーーーーーーー!!

 

216:名無しの貴族

うおお!やはりシュ○ット○ェルト家の御令嬢だったぁぁぁ!

 

217:名無しの貴族

えーと・・・マシバナっすか?

二重の妹様はヴェルガモン伯爵令嬢を様付けしてたのに?

 

218:名無しの貴族

 >>215

個人特定はマナー違反

 >>217

二重の妹様が誰かは関係ない話として話すが。ヴェルガモン伯爵家の権威や権力・家格は領地持ちの辺境伯家と同等

それと貴族の子女間ではたとえ自分が辺境伯家令嬢であれ格下の男爵家令嬢とかには普通に様付けする人も多い

これは俺らが田中〈さん〉鈴木〈さん〉と呼称するのと同じ事で常識

 

219:名無しの平民

 >>215

悪ノリし過ぎですよ

二重の妹様もうかつですが

 

220:名無しの紳士

二重の妹様のお兄ちゃんはナ○ト・シ○タット○ェルト様か・・・

どんな荒くれでも統率できるほどにカリスマ性が凄いと聞いたことある

 

221:名無しの貴族

だから個人特定をやめろっつうの!

相手が相手だから運営からIP抜き取られて自分が痛い目に合うぞ

 

222:名無しの無関係

こうやって馬鹿共が痛い目に合う訳なのね・・・

 

223:独身貴族

だからやめろと言うとるだろーに

巡り巡って自分がダメージ受けるぞ大貴族(笑)のように

二重の妹さんすみません。クソ平民共が調子に乗りまして

 

224:名無しの貴族

真面目に考えたら危ないんだけどなー。そこらの親の脛かじりニートを特定するんじゃないんだからさあ

 

225:名無しの貴族

カ○ン様お許しください

どうか文無し平民にお救いの手を

 

226:二重の妹

知らないし!シュタット○ェルトなんて知らないし!カ○ンなんて知らないし!ナ○トお兄ちゃんなんて知らないし!

 

227:名無しの貴族

お許しをお許しを

 

228:名無しの他人

 >>226

もうなにも喋らない方が・・・

真っ正直過ぎますよ二重の妹様・・・

 

229:名無しの貴族

どうかお母様とお付きの侍女さんにはバレないよう御注意を

 

230:二重の妹

もうやだーっ!!

 



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色んなスレタイ適当

嶋田さんとユフィ殿下が結婚している前提世界のスレタイと、嶋田さんとモニカさんが結婚している前提世界のスレタイがごちゃ混ぜになってます
あくまでスレタイなので気にしちゃダメですよ適当に流し読みしてくださいね


 

 

 

 

色んなスレタイ適当

 

 

 

 

 

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最終更新:2018年03月24日 09:41

 



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ちゃんねる伍式

 

 

【同盟国】神聖ブリタニア帝国の貴族を語ろう1221【ノブレスオブリージュ】

 

ここは本スレ【家族的同盟国】神聖ブリタニア帝国を語ろうスレより分離した分家スレです

ブリタニア帝国の貴族制度や体制等を語りましょう

 

荒らしはスルーが鉄則

 

注意等:ブリタニア国籍の方は書き込みによる不敬罪に御注意を。全て自己責任として発言してください

 

 

1:名無しの貴族

ナイトオブ2get

 

2:名無しの貴族

ナイトオブ2ゲット

 

3:名無しの貴族

 >>2

お前ナイトオブ3ゲットだぞ

俺はナイトオブ4ゲット・・・

 

4:名無しの貴族

地味っぽいラウンズだな

 

5:名無しの貴族

でもエルンスト卿って地味に見えて強いらしい。実力的にはヴァルトシュタイン卿に近いとかなんとか

 

6:名無しの貴族

ていうかまたいきなり雲上人の話かよ・・・

貴族つってもさあ、あるじゃん男・子・伯・侯・公って

 

7:名無しの貴族

貴族事態が雲上人だってのw

日本に当て嵌めてみろよ。俺らの中で誰が華族と知り合いだってんだ?

 

8:独身貴族

いや俺は貴族だし?

 

9:名無しの貴族

じゃ俺も貴族だわwww

 

10:名無しの平民

私は貴族位を返上しました

 

11:名無しの貴族

俺も貴族ね。40も越えてるから昇爵してますよ?

 

12:名無しの貴族

悲しき貴族たちよ・・・

 

13:独身貴族

 >>10

リア充は不敬罪で死刑!

 

14:名無しの貴族

 >>10

クソ!貴様平民の分際で身分を弁えよ!(涙)

 

15:大貴族

なんという醜い争いか。大貴族たる私ともなれば平民など金で買えるわ

 

16:名無しの貴族

出ました大貴族様w

 

17:名無しの貴族

自称大貴族なんだろどーせ

 

18:独身貴族

羨ましい・・・大貴族みたいに金で女買うとか現実で口にしてみたい・・・

 

19:大貴族

 >>17

愚民にはこの高貴溢れる私の言葉が分からぬようだな

 >>18

愚民たる平民の女程度ポンド札で簡単に釣れおるわ

 

20:名無しの貴族

なんかさ、前から思ってたんだが、大貴族様はいつの時代の貴族よ?

 

21:名無しの貴族

大貴族様にはスレタイが見えんのかね~

 

22:名無しの貴族

所詮は大貴族様(笑)だからな。自称でしかない

 

23:大貴族

私には愚民に合わせる理由がないのだ

 

24:名無しの貴族

話だけ聞いてると貴族臭いんだけど、ノブレスオブリージュというより単なる権威主義者にしか感じない

 

25:名無しの貴族

貴族って権威あるから普通じゃね?

 

26:髭子爵

スレ住民の皆には常々申しておるのだが貴族とは貴き物である

民を愛し、民を守り、民を導かねばならぬ者。ただの権威主義者であってはならぬのだ

 

27:名無しの貴族

 >>25

権威を傘に威張ってるのが自称大貴族(笑)様だよ。ノブレスオブリージュが基本系の現代には合わない。ブリタニアと同じ封建主義のアルガルヴェ帝国にギアナやアラウカニア=パタゴニア王国見てごらん?

 

28:名無しの貴族

 >>26

あ、髭子爵こんにちは

 

29:髭子爵

 >>27

うむ。我輩も同意件である

我輩の親も同じ姿勢であられ、未だ若輩な子である我輩も彼の御方より学ばねばならぬと日々精進しておるところ

人生とは常に学ぶべし。我が家と親である彼の御方の家では爵位も歴史も格式も違いすぎて、とても比較など出来ぬのだがなあ・・・

 

30:髭子爵

 >>28

うむごきげんよう!

 

31:大貴族

これはこれは髭子爵様、ご機嫌麗しゅう存じ上げます

 

32:名無しの貴族

髭子爵って本物のブリタニア貴族?

 

33:独身貴族

髭子爵こそ貴族だ

 

34:名無しの貴族

尊大なる大貴族の手のひら返しwww

 

35:髭子爵

 >>32

顔の見えぬ匿名の場で申しても本当か嘘かはわからんよ。故に平民と思い気軽に話しかけていただけると我輩としてもありがたい

なにより我輩たち貴族は平民からの税によって日々の暮らしを過ごしておる

平民とは蔑みを以て見る存在に非ず

自らを支えて貰っている事を日頃より感謝し、大切なる家族として共に生活していかねばならぬ存在なのだよ

 

36:名無しの貴族

見たかね大貴族(笑)殿。これが貴族だ

 

37:名無しの貴族

やっぱり普通に貴族っぽいよ髭卿

 

38:名無しの貴族

そういやさ、髭卿の親って誰なの?

 

39:大貴族

ぐぬぬ、た、確かに髭子爵様の仰有られる事にも一理ある。さ、流石は大貴族であらせられますな

 

40:名無しの平民

 >>36

前からの書き込み内容を鑑みるに貴族なのは間違いないと思う。匿名掲示板だからわかんないけどね、たぶん貴族

 

41: 名無しの貴族

 >>38

それ明かすのは不味いだろ。不敬とかじゃなくて髭子爵の個人情報や特定に繋がりかねないし。万が一それがもとで親に迷惑かかれば最高刑死罪があり得る

貴族制の国の不敬罪を舐めちゃいかんよ

 

41:独身貴族

 >>39

なにが一理だバカ。ノブレスオブリージュってのはそういうもんだよ

 

42:大貴族

 >>38

親とは父上殿や母上殿に決まっておろう。なにをバカな事を申しておる愚民よ

 

43:名無しの貴族

バカだバカがいるwww

 

44:38

俺バカにバカって言われたよw

 

45:独身貴族

駄目だ~、ホントに貴族とは思えない~

大貴族の貴族知識とはいったい何なんだよ~

 

46:名無しの平民

よーし。ここはこの卑しき平民めが大貴族様にも分かりやすいよう簡潔にお答え致しましょう

髭子爵様が仰っている親とは血縁上での親子ではないのです。子である子爵様にとっての主君のことですねはい

忠誠を捧げる主君=親の下に付く貴族=子という意味で主君は親となるのです

つまり皇帝陛下とはその親の更に親。まさしく御国=家族一族を守護する家族の長

貴族・平民含めた国民全ての親が皇帝陛下という訳ですね

で、子爵様の直接の親が子爵が傘下に入っておられます貴族様である。となる訳

ご理解頂けました?

 

47:名無しの貴族

本当に簡単にまとめたな

 

48:名無しの貴族

でも残念!大貴族(笑)様には理解できないと私は見た!

 

49:独身貴族

バカは考えるな!感じろ!なんとなく感じろ!

 

50:髭子爵

大貴族殿、あの我輩別に大貴族ではないのだが・・・並みいる子爵家の中でも下に位置する木っ端貴族なのだが・・・

 

しかし大貴族殿は貴族としてなにを学んでこられたのか我輩心配でならん

 

 

51:髭子爵

我輩の親であるか?

うーむ、これはお答えし辛い。我輩自身は別に身バレなど構わぬのだが、親が正真正銘の大貴族故に下手なことを言えぬのだ

しかしそうであるなぁ、ヒントだけなら良いか?

 

では行くぞ?

 

 

これがヒントである

何処の御方を想像するのも皆の自由だが、まあ皆も知ってはおろうな

 

52:名無しの貴族

……パッと浮かんだのは二家

 

53:名無しの貴族

俺は三家

 

54:名無しの貴族

俺も三家

 

55:名無しの平民

同じくらい三家

 

56:独身貴族

大貴族ともなると伯爵家の上位からだな。その三家で思い当たるのはヴァル○シュタイン家、ヴァイ○ベルグ家、ヴェル○モン家

お前らが考えたのこの辺りだろ?

 

57:名無しの貴族

俺はヴェ○ガモン家が思い浮かんだ

 

58:名無しの貴族

わからん。三家ともデカイが身近に感じるのはヴェル○モンかな

 

59:名無しの貴族

次期当主様が駐日ブリタニア大使館勤務だからなー

 

60:髭子爵

然り、彼の聡明なる御令嬢は日ブの関係に精通なされた立派な御当主殿のなられよう。ルネッサーンス

 

61:名無しの貴族

…oh

 

62:名無しの平民

子爵様ひょっとして親は・・・

 

63:名無しの貴族

え、っと・・・ビンゴ?ご自分で?

 

64:髭子爵

……い、いやいや何を言われるのか皆の者。わ、我輩なにも言ってはおらぬぞ?

 

65:独身貴族

いや、まさか、な?

ほら、わからんだろ子爵の親が誰かなんて子爵自身なにも名前出してないしさ

 

66:名無しの貴族

そ、そうそう。子爵自身なにも仰ってないしセーフセーフ

 

67:大貴族

ふむ、伏せ字であるからさっぱりわからぬわ。ヴと言えばヴェル○○ンなる日本勤務の小生意気な騎士侯の女と街中でぶつかったが、たかが下級も下級、一代限りの貴族位しか持たぬ無礼千万なやつであった

 

68:名無しの貴族

……oh、no!

 

69:名無しの貴族

ダウトだろこのバカ・・・

 

70:名無しの貴族

い、いやまて。どんな女性だったのかわからん以上軽率な発言はやめておけ

 

71:独身貴族

よし大貴族様。言葉遣いと特徴を述べよう。名前は出すな!絶対に出すんじゃないぞ!

 

72:髭子爵

……

 

73:大貴族

う、うむ確か長い金髪の女で容姿スタイルはまあ共にかなり良かった。瞳の色は確かエメラルドのような色で、言葉遣いは市井の平民と変わらぬ言葉遣いであったはずだ

所作には気品が感じ取れていたがそれは大貴族たる私の前では当然のことよ

その無礼な降るまいには私も注意し叱りつけておいたが

 

74:名無しの平民

……や、やばい。知ってる顔が浮かんでしまった…

 

75:名無しの貴族

そ、そうか平民よ、偶然だな、俺もだ

 

76:独身貴族

ひ、髭子爵様、如何ですか?

 

77:名無しの貴族

き、聞くなよオイ!

このスレから死刑囚が出かねんぞ!

 

78:大貴族

なにをバカな事を。たかだか騎士侯風情にそのような権力なぞありはせぬわ

 

79:名無しの貴族

とりあえずバカは黙ってろ!

 

で、本物のブリタニア貴族である前提で聞くけど、どうなの子爵様?

 

80:髭子爵

…が、外見的特徴はほぼほぼあの御方と同じ、であると

しかし彼の御令嬢はとても丁寧な言葉遣いをなされていたはずだが・・・

 

81:名無しの平民

じ、じゃあ別人、かな?

 

82:名無しの貴族

よ、良く似たやつっているもんな!

 

83:名無しの貴族

そ、そうそう。ほら金髪のロングヘアでエメラルドの目なんかブリタニア人によくいるし、ブリタニア系日本人にだっているじゃん?

 

84:独身貴族

そうだよ気にしすぎだよ皆。偶々だ偶々ってやつだ。だいたい威張りすぎなんだよ大貴族は。リアルでも威張り散らしてるとかどんだけなんだよ

 

85:大貴族

ふん。あの女が悪いであって私が悪いのではないわ

あのリー○イナ・ヴェル○モンとかいう女騎士が

 

86:名無しの貴族

うわーアウトだー!

運営にスレの削除依頼出せー!

 

87:名無しの平民

うわー逃げろおまいらー!

 

88:名無しの貴族

いや逃げるのは大貴族だー!

 

89:独身貴族

俺を巻き込むんじゃねーよバカ貴族ー!

 

90:髭子爵

…すまぬ大貴族殿

もう一度その御方の御名を申し上げてはくださらんかね?

御貴殿が本当にブリタニアの貴族なのであらば、我輩もそれなりの対処を考えねばならぬ故に(怒)

 

91:名無しの貴族

ひ、髭子爵様がお怒りだー!

 

92:名無しの貴族

なに言われても怒らない髭子爵様が怒っておられる・・・

やっぱ髭子爵の親ってヴェルガ○ン?

 

93:名無しの平民

大貴族様あんた洒落にならんよ!

 

94:独身貴族

バカがマジの大貴族に不敬を働いていた事実・・・

ど、どうすんのこれ・・・

 

95:名無しの貴族

え?なに?打ち首獄門?

 

96:名無しの貴族

大貴族殿悪いことは言わん。もし本当に大貴族殿がブリタニア貴族でいま日本に滞在中ならこの足で駐日ブリタニア大使館か領事館に出頭しとけ

あんたの話を聞いてる限りでは髭子爵様より爵位下だろ?

あんたよく自分の事を大貴族と言ってるが、通常貴族社会は伯爵からが高位貴族になる。子爵様も言ってるが爵位の中にも階級はあって上位伯爵家まで行くとマジもんの大貴族だ

上位伯爵家に不敬を働けて逃げたり出頭拒否したら最悪・・・

 

97:大貴族

そんな事は知っておるわ!

だから私が叱りつけたのはただの騎士侯だと言うておるだろうに!

日本にもヤマダとかスズキとか同じような名前などいくらでもあろうが!

それと私も代々爵位を受け継ぐ本物の大貴族だ!

 

98:独身貴族

大貴族(笑)の正体。予想、下位から中位男爵家

ヴェル○モン伯爵家、問答無用の上位伯爵家にして旧い名家の大貴族

 

大貴族(笑)おわた\(^o^)/

 

99:名無しの平民

俺日本の平民でよかった・・・

 

100:名無しの貴族

とりあえず皆さん。巻き添えになる前に早く新スレ立てて逃げましょう

 

 

 

 

おーわり!

です!

 

まあ髭子爵さんと大貴族(笑)さんが匿名掲示板していたってだけです

 



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ちゃんねる伍式【同盟国】神聖ブリタニア帝国の貴族を語ろう1234【ノブレスオブリージュ】

 

ちゃんねる伍式

 

 

【同盟国】神聖ブリタニア帝国の貴族を語ろう1234【ノブレスオブリージュ】

 

ここは本スレ【家族的同盟国】神聖ブリタニア帝国を語ろうスレより分離した分家スレです

ブリタニア帝国の貴族制度や体制等を語りましょう

 

荒らしはスルーが鉄則

 

注意等:ブリタニア国籍の方は書き込みによる不敬罪に御注意を。全て自己責任として発言してください

 

ちゃんねる伍式運営よりの通達

 

現在当スレの該当過去スレは神聖ブリタニア帝国西海岸諸侯ならびに同国五大湖諸侯関係者によるIPアドレス開示請求がなされております

該当者は特定人物のみと指定されているため、スレ住民の皆様には御安心してお使いくださるようお願い致します

 

 

 

 

2:名無しの貴族

ナイトオブ2get・・・とかやってる場合じゃないぞ?!

 

3:名無しの貴族

なんかヤバそうな一文が見えるのだが私の気のせいかね?

 

4:名無しの貴族

ハハハ、安心しろよ俺にも見える

 

5:名無しの貴族

ちゃんねる伍式の運営が協力してるって事かな?

 

6:名無しの貴族

ていうかいきなりやばくなってるじゃん・・・

西海岸諸侯と五大湖諸侯って・・・戦争でもすんの?

 

7:名無しの貴族

これってさあ、あれだよな絶対

ほらあの大貴族(笑)

 

8:独身貴族

他に該当者いないんだけど

 

9:名無しの貴族

あれから三日。やつの書き込みが途絶えたまま

 

10:名無しの平民

やつだけじゃないぞ?

コテハンの髭子爵の書き込みもない

 

11:名無しの他人

それが余計に怖いね恐ろしいね。俺無関係だから大丈夫だけど

 

12:名無しの貴族

絶対になんかあったよな?

ニュースではそれらしいのなかったが

 

13:名無しの無関係

国会の事を全部は流さないのと同じだと思うよ。髭子爵が自分の事を木っ端貴族って言ってたじゃん?

大貴族(笑)が髭子爵より下なら木っ端の中の木っ端だろ。そんなやつのニュース一々取り上げたりするわきゃないわ

 

14:名無しの貴族

ヴェルガ○ン伯爵家が絡んでるなら五大湖諸侯はわかんだけどさ、西海岸諸侯ってなんでよ?

 

15:名無しの他人

運営のヤバさ1000%な通達でスレがゆっくりペースだから助かるわ・・・

いや、こんなゆっくり要らんけどさ・・・

 

16:名無しの貴族

西海岸諸侯って盟主どこ?

中卒の馬鹿でもわかるようにエロイ人おせーて

 

17:名無しの貴族

大貴族(笑)あいつ他にもやらかしてたのかな

 

18:名無し無関係

 >>16

中学の社会でも習うぞ?

西海岸の盟主家はクルシェフスキーで爵位は侯爵

日本と一番経済交流が盛んな貴族

 

19:名無しの平民

五大湖って聞いて過去スレの話がほんとだとわかった

西海岸と聞いた瞬間麗しき駐在武官様の顔が浮かんだ

 

20:名無しの貴族

 >>18

こ、侯爵? なしてそんなヤバいのが出てくるのよ?

 

21:名無しの貴族

 >>19

ああ、麗しのわが君ナイトオブトゥエルブモニカ様

私はあなた様のお写真をネタにして毎夜愛を注いでおりまする

 

22:名無しの貴族

冗談でも死ぬぞオイ!いまヤバいんだって!西海岸諸侯やら五大湖諸侯の目がスレに光ってるってことは、付き合いの深い日本側の政府や大企業、警察関係者も目を光らせてるって事だぞ!おまえ自殺志願者か!?

 

23:名無しの平民

駐日武官モニカ様も大使館警備指揮者のリーライナ様も俺の嫁だから

 

24:名無しの貴族

おまえ既婚者だろww

 

25:名無しの華族

私は断然、我が国の誇る月の女神のように静かな美しさを湛える神楽耶皇女殿下と添い遂げたい!

あの濡れ羽色の艶やかな黒髪

翡翠のような緑色をした美しき瞳

天真爛漫に輝く笑顔

ああ我が愛しの神楽耶様、あなた様の忠実なる臣はいつの日か必ず御迎えに上がります

 

26:名無しの貴族

西海岸諸侯が動いたってことは、西海岸諸侯の姫君ナイトオブトゥエルブのモニカ・クルシェ○スキー卿か西海岸盟主のクルシェフ○キー侯爵と揉めたと・・・・・・アイツ死んだな

 

27:名無しの貴族

リーライナ様と結婚したい

どうすれば実現しますか?

 

28:名無しの貴族

 >>25

どうせおまえ華族じゃないだろ

神楽耶様と結婚だぁ? ただの平民の分際で身分を弁えよ下郎!

俺も平民だけど・・・神楽耶様と結婚・・・いいな~

 

29:名無しの無関係

お前ら平然と実名出してるけど大丈夫なん? 出てくる名前がみんな雲上人ばっかなんだが

 

30:名無しの他人

 >>27

君が日本人なら伯爵級の上位華族か皇族に。君がブリタニア人なら伯爵級の貴族か皇族になれば結婚の権利は得られます

でも無理。リーラ○ナ・ヴェル○モン卿にはもう婚約者がいるので

我が国の帝国海軍大提督だった山本五○六元帥閣下、のちの大日本帝国国防相閣下と婚約なされてますのー、残ねーん!!

 

 

31:名無しの無関係

真面目な話、新しい情報がないからスレがカオスだな。おまけに監視中みたいだし

 

32:名無しの貴族

監視ってか捜査してるの大貴族(笑)が書き込んでた内容だろ?

アイツ権威主義的で糞ウザかったから誰も味方いなかったし、正直アイツ以外にヤバい立場に立たされるやつはこのスレにはおらんよ

違法なこと何にもしとらんし探られて腹痛む書き込みなんかないわ

 

33:独身貴族

 >>30

モニカ・クルシェ○スキー卿も婚約手前とか噂聞いたな

 

34:名無しの貴族

 >>33

ウソォ!

 

35:名無しの貴族

 >>33

マジで!?

ウソだと言ってよバニー!

 

36:名無しの貴族

相手誰よ。ナイトオブトゥエ○ブが婚約してるとか聞いたことないよ

 

37:名無しの貴族

おい独身貴族。おまえの妄想じゃねーの?

 

38:名無しの他人

独身貴族は独身を拗らせてリアルと妄想の境目が無くなったのね。かわいそうに

 

39:独身貴族

 >>36

前宰相閣下

 

40:名無しの無関係

 >>36

駐在武官のクルシェ○スキー卿については前から噂はあるよ。日本でのあの方は嶋○前宰相預りになっていて、帝都内の○田邸に住んでらっしゃるから

 

41: 名無しの貴族

なんでーっ!なんでよー!なんであんなおっさんどもがモテて俺には美人の女ができないのーっ!

 

42:独身貴族

身分・功績・武勲・関係性お前にはどれ一つ無いから

自分で言ってて悲しくなるわ・・・

 

43:名無しの貴族

全然関係ない話になってきてる件

 

44:名無しの貴族

仕方ないだろ情報がないんだから。髭子爵が来るまで何にもわからんよ。可能性として過去スレ精査中のクル○ェフスキー家やヴェルガ○ン家の関係者が書き込んでくれることがあるかもだが、そんなん期待するな

あんな雲上人が俺らみたいなのに構ってる暇なんてないから

 

45:名無しの無関係

しっかしマジアイツ生きてこのスレに帰って来んかもな

 

46:名無しの貴族

そんなヤバいの?

 

47:名無しの平民

よーし。ではこの平民めが知らない人にも分かりやすいよう簡潔にお答え致しましょう

 

48:名無しの貴族

お前もう説明書代わりになってるなw

 

49:名無しの貴族

おながーしまーす。馬鹿なので自分

 

50:名無しの平民

ではまず、彼の蛮勇の氏大貴族(笑)殿がほぼ確実に喧嘩を売ったであろうと目される相手ヴェルガモン伯爵家について

 

地理的位置は御存じのように五大湖となり、東部にミシガン湖を望み最北部にはスペリオル湖を望む、ウィスコンシンと呼ばれる地域一帯を領地とする上位伯爵家であります

 

陸地と水域を合計した領地面積は約170000km²

 

ええ~内訳は陸地面積140663km²。水域面積が28977km² となっており、東西幅420km、南北には500kmの長さがあります。最大標高は約600m。最低標高は176mですね

 

総人口は凡そ770万人。五大湖工業地帯に大きな影響力と発言力を持つ、大貴族(笑)などではない正真正銘の大貴族となります

 

軍事力の面においてもとても大きな固有の騎士団を持ち最大勢力の陸上戦力は約50000人

航空戦力として天空騎士団を約8000人

その他予備役を含めた総数は70000名と、最大で6ないし7個騎士団の編成が可能なほどの常備兵を保有しております

当然第5世代戦闘機や第7世代KMFに戦車・装甲車も多数運用充実しております

 

このヴェルガモン騎士団ですが、アッシュフォード騎士団やクルシェフスキー騎士団、シュタットフェルト騎士団と並んで日本軍との軍事演習も度々行っておりまして軍事的交流も深く

またヴェルガモン領を中心に五大湖工業地帯には多くの日本企業も進出して。まあ日本とは切っても切れない関係性にある。という訳ですねはい

 

51:名無しの貴族

……もう国じゃんそれ。一貴族の領地の規模じゃないだろ

 

52:名無しの貴族

おうふ、ヤバいどころじゃねーよ

 

53:名無しの他人

アイツどーすんのこれ?

こんなのに喧嘩売って・・・

 

54:名無しの平民

ええ~続きまして日本とはもっとも馴染み深い関係性を持つクルシェフスキー侯爵家についてのお勉強をしてみましょう

 

55:名無しの貴族

ああーわかるわー、漂い来るヤバい臭がさらに濃厚になってきたのがー

 

56:名無し無関係

大貴族(笑)のHPは0を下回りマイナスに突入しましたw

 

57:名無しの貴族

やめたげてよー!死体を蹴り回しちゃダメだよー!

 

58:独身貴族

いや死体残らんよたぶん

 

59:名無しの平民

はいちゃっちゃと行きますよー!

 

クルシェフスキー侯爵領。こちらは皆さん御存じのように北ブリタニア大陸の西海岸中央部に存在しております

領地は大きく北部と南部に分かれておりまして、北にはシアトルという大都市圏があり、タコマ、オリンピアと下ってコロンビア川を望む領都ポートランドがあります。さらに南にはセーラム、スプリングフィールドと続いておりそれぞれの都市圏が一つの道で繋がっております

北部の大都市シアトルは奥まった湾がフアン・デ・フカ海峡を通じて太平洋へと続いています。太平洋岸の海岸線沿いにもほぼ一本道となる形で小さな街や都市が北部から南部へ伸びており

東西はカスケード山脈によって西部と東部に分けられておりますね

 

さあこうして見ていきますとー。なんだか広い領地に感じませんかー?

 

60:名無しの貴族

指摘されんでも広そうなのはわかる

 

61:名無しの貴族

や実際広いだろ

 

62:名無しの他人

広いね。ヴェルガモン領より確実に

 

63:独身貴族

知ってるから言わない。言うまでもなくわかる。普通にヤバいから

 

64:名無しの平民

その通り!皆さんの予想は見事に的中しておりますですはい!

クルシェフスキー侯爵領の領地面積はなんとー!

 

約440000km²!

 

おしい、498000円ではないんですよー

そして人口。こちらも一つ桁が上がっているのでございますはい

 

総人口はなんとー!

1200万人です!

 

いやーこれ全部領民だけの人口でして、滞在人口ともなれば常時2000万人を越えるのだー。もう意味わからんよねーほんと

 

次に諸侯軍たるクルシェフスキー騎士団ですが・・・陸上騎士団、海上騎士団、天空騎士団、陸海空三軍揃い踏みという破格の戦力となっております

その総兵力は約10万人。そして予備役兵も動員すれば12~13個騎士団の編成がいつでも可能な総兵力となっております

 

捕捉事項としてヴェルガモン、クルシェフスキー両騎士団は現在軍拡と新型騎の導入を順次行っておりまして、近く全KMFが第7世代と第8世代に置き換わる事でしょう

あ、捕捉そのニとしてクルシェフスキー侯爵領は在ブリタニア日本人がもっとも多く生活している地でもあります。そのまま移住する方も多いようですね

御承知のように日ブ間でのみ相互移民は認められておりまして、基本的にそれ以外の国からの移民は両国共に完全シャットアウト

まあこの辺りは将来的な日ブ連合帝国体制の確立を目指す動きの一環とも見られておりますが、両国間の移民が本格化したのは彼のクレア女帝陛下の時代からですのでどうとも言えませんねー。なにせ遠い昔、大日本帝国と神聖ブリタニア帝国は一つの国だったらしいのですから

二つに分かたれた国が再び一つに戻ろうとしている。実に自然な流れですはい

ユーロピアやら中華とは一つにはなれませんからね。元々違う国なので

 

以上。ご静聴ありがとうございました!

 

65:名無しの貴族

なげーよ!

でもよくわかった。大貴族(笑)はきっと死にたかったんだよ。領民巻き込んでの盛大な自殺だ

 

66:名無しの貴族

終わった?

うん一言。なにこれ?

領民1200万?

領地面積44万km²?

完璧に国だろこれは

 

67:名無しの無関係

面積は日本列島よりデカイぞおい・・・

 

68:名無しの他人

陸海空揃った10万人越えの騎士団?

一国の軍隊並みだぞ

 

69:独身貴族

知ってた。わかってたんだが改めて見ると桁違いだな。これに傘下であり子である西海岸諸侯がまだいるだろ?

ヴェルガモンも自家の傘下として子である五大湖諸侯の勢力や、ヴェルガモン伯爵家と仲のいいソレイシィ辺境伯家やらシュタットフェルト辺境伯家があるだろ?

西海岸・・・もうややこしいから、クルシェフスキー経済圏とヴェルガモン経済圏があってだな、そんな巨大経済圏二つと大貴族(笑)は戦ってる訳だ

 

70:名無しの貴族

戦ってる?

……踏み潰されてるの間違いじゃ?

 

71:名無しの無関係

いやそこは大丈夫。恐竜たちには蟻ん子が見えないw

 

72:名無しの平民

目のいい恐竜さんだからたぶん見えてるよ~。余裕でw

 

73:名無しの他人

これあかんわ。クルシェフスキーもヴェルガモンもチート過ぎて勝負にならん

 

74:名無しの貴族

レベル1の勇者ならぬレベルマイナスの愚者が、カンストの上に限界突破とか極限突破とかした大魔王と戦うようなもん。デコピン一発で死亡確定

 

75:名無しの貴族

で。アイツどーすんの

 

76:名無しの貴族

知らんわ。誰か出頭した方がいいってアドバイスしてたけどアホ過ぎてアドバイス聞くかわからないし。仮におとなしく出頭したところでただではすまんだろ

 

77:名無しの貴族

とりあえずどうしよっか

 

78:名無しの平民

髭子爵様待ちかねえ

 

79:名無しの貴族

ところで平民はアイツの領地は知らんのか?

 

80:名無しの無関係

子爵様はよー

 

81:名無しの平民

 >>79

名前も知らないのに知るわけないじゃん。自称大貴族(笑)だよ?髭子爵様に媚売ってへこへこしてたやつだぞ?

 

82:名無しの他人

よくても男爵位の中位くらいやろなー。意外性を持って上位男爵

 

83:名無しの貴族

 >>81

髭殿以下の爵位は確実。武勲侯・騎士侯よりは上。となると自然消去的に下位から上位の男爵しかない

 

84:名無しの貴族

大貴族(笑)予想男爵VSクルシェフスキー侯爵家と傘下の子貴族+ヴェルガモン伯爵家と傘下の子貴族

低レベルクリアはレベルがあるから低レベルクリアって言うんだが、マイナスレベルでクリアできるゲームなんかないぞ

しかもこれリアルだし・・・

 

85:独身貴族

結局子爵様まちか

 

86:名無しの貴族

 >>76

どうやったってどうにもならんよなあ。アイツアホだし推定男爵じゃ大貴族のクルシェフスキー侯やヴェルガモン伯に意見すらできない

 

87:名無しの貴族

まずクルシェフスキー侯とヴェルガモン伯の周囲の貴族だけでもみんな大貴族(笑)より家格も爵位も上と考えろよ

ヤツがもし殊勝な気持ちで心底からの謝罪の意思を伝えたくて土下座しようとしても面会も無理だって

 

88:独身貴族

たかが推定男爵程度がクルシェフスキー侯爵やヴェルガモン伯爵に直接面会なんかできるわけないんだよな

しかも、しかもだぞ?もしもナイトオブトゥ○ルブが関わっていたら・・・

 

89:名無しの貴族

 >>87

俺らが畏れ多くも御帝や、嶋田前宰相や、山本前国防相とかと面会要請するようなもんか

 

90:名無しの無関係

 >>88

皇帝陛下の御前会議行きだ・・・

 

91:名無しの他人

そいやさ、日本のカーストは大別してこんなんなんだっけ?

 

御帝

⬇⬅絶対に越えられない壁

皇太子様

皇族

華族公爵

華族侯爵

華族伯爵

⬇⬅高位華族と下位華族の分かれ目

華族子爵

華族男爵

士族

平民

 

92:名無しの貴族

だいたいそんなんじゃね。平民の俺には関係ないから知らんけど

 

93:名無しの平民

ブリタニアは大別するならこうだろうね

 

皇帝陛下

⬇⬅絶対に越えられない壁

皇太子様

皇族

ナイトオブワン

ナイトオブトゥエルブ⬅モニカ・クルシェフスキー卿

その他のラウンズ

大公爵

公爵

侯爵

辺境伯

伯爵

⬇⬅高位貴族と下位貴族の分かれ目

子爵

男爵

騎士侯

武勲侯

平民

 

94:名無しの貴族

ほうほう。で、日本のカーストもブリタニアのカーストも華族位と世襲貴族位の中でさらに分類されていると

 

95:名無しの貴族

確かどっちも皇族・高位華族・高位貴族は下位の家とは結婚できないんだっけか?

 

96:名無しの貴族

よく知らんけどたぶん。山本閣下は華族伯爵位だろ?とヴェルガモン伯爵令嬢は次期ヴェルガモン伯爵家当主

高位華族・貴族同士だ

 

噂になってる嶋田前宰相とナイトオブトゥエルブのモニカ・クルシェフスキー卿は嶋田前宰相が華族伯爵でモニカ・クルシェフスキー卿がナイトオブトゥエルブの称号を持つ次期クルシェフスキー侯爵家の当主

こちらも高位華族・高位貴族同士

 

97:名無しの貴族

平民の出番はないのか

 

98:名無しの平民

あるわきゃない

 

99:名無しの無関係

身分差の恋とか誰か成功せんものかな

 

100:名無しの貴族

誰を狙っとるのかね?

 

101:名無しの貴族

マリーカ・ソレイシィ卿

ブリタニア大使館で草刈りしてた時に一目惚れした

かわえかったなー

 

102:名無しの貴族

リーライナ・ヴェルガモン卿

ふつくしい

 

103:名無しの貴族

モニカ・クルシェフスキー卿

あどけなく柔らかい微笑みに撃沈された

 

104:名無しの貴族

無謀すぎるわおまえら・・・

許されるわけない。挙がった女性みんな婚約者がいるし、たぶん嶋田前宰相とモニカ・クルシェフスキー卿も噂は真実だと思う

 

105:名無しの貴族

皇神楽耶皇女殿下と俺は結婚する!

 

106:独身貴族

 >>105

おまえは不敬罪で即効捕まる

だいたい神楽耶皇女殿下と平民がどうやって知り合うんだよ。殿下の御住まいは皇居の宮殿だぞ?

 

107:名無しのバーテン

俺ぁコーネリア・リ・ブリタニア!

あのおっぱいと色気は最強だぜ!

 

108:名無しの貴族

 >>107

新入りさん?下手な発言は危ないよ。ここたぶんクルシェフスキー家とヴェルガモン家に監視されてるから

てかおまえら名前に伏せ字入れろよ。バカの大貴族(笑)様と関係ないからって開き直りすぎだろw

 

109:名無しの妹

なんか浮気されてる気がしちゃったからこんにちは

 

110:名無しの貴族

また変なやつきた

 

 

 

 

111:独身貴族

 >>109

あや?ひょっとしたら女の子?

それともネカマ?

 

112:名無しの妹

女の子だよー、といったってちゃんねる伍式じゃわかんないよね。だってここ匿名掲示板なんだもん

 

113:名無しの貴族

……oh、確かに嘘かほんとかは確認しようもないが自称女の子が来るとは。何歳?

 

114:名無しの紳士

そこはかとない女の子臭がする

 

115:名無しの貴族

また変なのが現れたぁ!?

 

116:名無しの平民

 >>114みたいなコテハンは特別変じゃないのに言ってる事が危ないからコテハンもヤバい感じがします・・・

 

117:名無しの貴族

へ、変態紳士?

 

118:名無しの妹

 >>113

何歳かはひ・み・つ

でも女子高生だよ

 

119:名無しの貴族

おじさんと遊ばない?

 

120:名無しの貴族

うわなんかとち狂った!

 

121:名無しの貴族

やめろおまえ!遊ぶの内容いかんによっては相手がホントにリアル女子高生だったら犯罪だぞ?!

 

122:名無しの貴族

黙れ愚民どもぉぉぉぉっ!

俺は、俺は愛に餓えてるんだぁぁぁぁぁ!!

 

123:名無しの平民

こ、心の叫びだ。俺にはわかる。これは心からの叫びだと・・・!

 

124:名無しの貴族

黙れ既婚者!!

 

125:名無しの紳士

そうですよ犯罪ですよ

 

126:名無しの無関係

俺は無関係だから。おまわりさん俺は無関係ですから

 

127:名無しの貴族

 >>125

新参のうえ変態な紳士に言われたくない!

 

128:名無しの妹

うわぁ、濃いなぁ・・・

でも妹はお兄ちゃんにゾッコンラブだからダメなんだー。ゴメンね?

 

130:名無しの貴族

お、お兄ちゃん、だと?

 

131:名無しの平民

い、いかん少女よ!近親相姦はいかんぞ!あくまでもあれは物語の中だけに存在するのだ!リアルではただの倒錯した愛にすぎない!

 

132:名無しのバーテン

アホかよお前ら。仮に女子高生ってのが本当だとしてもだ。マジもんの女子高生なんざ大人の色気もねーしそんな躍起になるもんでもねーよ

 

133:名無しの貴族

新入り、いやせっかくだからハンネで呼ぶとしようかバーテンよ。君は女子高生を知ってるのか?

 

134:名無しの平民

なん、だと?

 

135:独身貴族

なにやったか吐け。いまならサイバー警察もいるから自白として少し罪が軽くなるかもしれんぞ

 

136:名無しのバーテン

あんな貧相な身体に誰が欲情すっかよ

やっぱ胸部にデカイ果物がねーと。

コーネリア大使の果物はすげーっすわ!

 

137:名無しの貴族

おまえ不敬の塊だな。ブリタニア人だったら問答無用でムショ行きだぞ

だが一方でよくいった正直者よ。あれは確かにいいものだ

 

138:名無しのバーテン

だろだろ?

 

 >>135

なにもするかよ!

青臭ぇガキには色気が足らんのだ!

 

139:名無しの貴族

 >>137

おいおいー、相手は同盟国の第二皇女様だぞ?

とはいえまあ侮辱してるわけでないし、解釈によっては好意と賛美だから大丈夫だと思われるが

 

140:真・名無しの妹

 >>136

完全同意です。ですが年上よりは年下の方がよろしいかと

 

141:名無しの平民

また新規参入者が・・・しかも人のコテハンパクってるしw

 

142:名無しの貴族

え?真・名無しの妹?

ラスボスが変身したみたいな名前だな

 

143:独身貴族

 >>140

コテハンなんか書き込みの個人識別程度のものだから何でもありだけど、コテハンパクるのは印象悪いよ

 

144:名無しの妹

名前ドロボーだぁぁ!

 

145:真・名無しの妹

真なる妹とは淑女でなければならないのです

ただの妹とは違うのです

 

146:真・名無しの妹

 >>144

可愛い子ぶりっ子は逆にあざとく見えて妹らしさを半減させてしまいます

 

147:名無しの紳士

 >>144

ドロボーは言い過ぎ。しかし荒らし扱いされるてしまうぞ我が妹たちよ

兄は、兄は悲しい(涙)

 

148:名無しの無関係

 >>145

主観の違いってやつだな。世の中色んな妹さんがいるんだから一概に決めつけてはいかん

それと変態紳士は黙っとれ

 

149:名無しの平民

そうですねー、人それぞれですからねー

紳士さんは妹を独占しない!

 

150:二重の妹

呼ばれた気がするわ

 

151:独身貴族

 >>149

程度の違いはあるが兄が妹を独占するのはありだろうか?

変態紳士みたいなのいるし兄と妹を考察していけば世の中のお兄さんの気持ちがわかるような気がする

 

152:名無しの貴族

紳士ならまず手を出さない。イエスロリータノータッチと似たようなものだ

 

153:名無しの貴族

うお!また新たな妹が現れた!

 

154:名無しの平民

ここはいつから妹たちのすくつになったんだろ

皆可愛かったら文句言わない

 

155:独身貴族

 >>150

にじゅうの妹と読むのか?

ふたえの妹と読むのか?

 

156:名無しの貴族

妹いない俺氏、ホントに女の子なら妹の皆さん歓迎するよ

男兄弟ばかりだとむさ苦しいんだ

 

157:名無しの妹

うわーん、妹キャラがいっぱいだと妹悲しいよー

 

158:名無しの紳士

 >>154

容姿で区別してはいかんよ?妹はすべからく愛でねば

 

159:二重の妹

 >>151

お兄ちゃんは独占欲ないからわからないかな。弟はよく甘えてくれて可愛いね

 >>155

にじゅう。特別な意味はないよ?家と学校では態度を分けてるからってだけ。うちって母さんが二人いてさ、実母と義母と。どっちの母さんも優しいんだけどね

平民出身な実の母親の方がちょっと礼儀作法にガミガミ煩くって、貴族である義母の方は私らしく在るのが一番ですって言ってくれてる変わった環境にいるんだ

でも貴族の子女であることを傘に平民の子を虐めてた馬鹿共がいてさぁ、そいつらをとっちめてやったわけ

そしたら学校でも本性がバレちゃって・・・念のためいままで通り貞淑なる淑女を演じてるんだけど周りの見る目が変わっちゃってね

なにがどうしたんだか平民の子を虐めてた子なんか同い年なのにお姉さまとか呼んでくるんだよ?

 

160:名無しの妹

 >>151

お兄ちゃんはホントのお兄ちゃんじゃないから私への独占欲はないかなぁ

 

161:真・名無しの妹

 >>151

私の家では兄より父の方が問題視されていますね。娘への独占欲がとてもお強い方でして一番上のお姉さまの結婚話が一度破談にされておりますので

私はそんなお父様が大好きなのですが・・・

 

162:名無しの貴族

 >>158

あんたが愛でると言うとさぶいぼが立つ・・・

 

163:名無しの平民

妹さん三連投w

 

164:独身貴族

 >>159

なるほど。そういった意味でのにじゅうか。中々に難儀な家庭よな

しかしお姉さまか・・・

道を踏み外さないように気を付けろよ?

 

165:名無しの貴族

というか>>159の妹氏、モノホンの貴族様?

 

166:名無しの貴族

え?おそらく本物であろう髭子爵殿と同類なの?

 

167:名無しの貴族

ま、まさかの展開。妹ちゃんの一人が貴族様だった件

スレタイ通りのノブレスオブリージュっぽい行動がとても好感的ですお姉さまw

 

168:名無しの平民

は? 二重の妹!あ、失礼しますた!二重の妹様は貴族様であらせられますか!?

 

169:独身貴族

急に態度変えるなし。掲示板じゃわからんし大貴族(笑)もあんなので貴族らしかったらしいし妹さんの一人や二人貴族でもおかしくは・・・他の妹も貴族じゃなかろうな?

 

 

170:名無しの無関係

 >>159

申し訳ない貴族様。よろしければ爵位のほどをお教えいただけないでしょうか?

 

171:名無しの他人

 >>169

彼はいま苦境に立たされている。ヴェルガモン伯爵家に非礼を働いた事で

西海岸が動いてるって事はクルシェフスキー侯爵家関係者にも同じ事をしたのだろうなーむー(^人^)

 

172:二重の妹

 >>167

や~め~て~っ!

 >>170

ごめん。自慢じゃないけどうち少々高い爵位だから身バレの可能性あるし、身バレしちゃうとたぶん実母と侍女からの容赦のないお叱りと正座の刑に処されちゃうんでちょっと無理・・・死ぬ

 

173:名無しの貴族

 >>171

試練の時だ。試されているのだ大貴族(笑)は

 

174:名無しの貴族

 >>171

おまえ目が笑ってるやんw

 

175:名無しの無関係

 >>172

二重の妹様、もしかしなくても高位?

 

176:独身貴族

貴族ってのが本当か嘘かは別として爵位明かしが駄目なら確実に高位だな。上に行けば行くほど数が少なくなるんで爵位明かしが身バレに繋がる

すると二重の妹様には実母様と侍女のお叱りが降りかかる

 

177:二重の妹

 >>171

うちの父もヴェルガモン家の子とはまた別で独自の経済制裁かけるって。ヴェルガモン家とは付き合い長いからね

 >>175

うん、まあ一応

 

178:名無しの平民

 >>172

二重の妹殿。義母様のもとへお逃げあそばされませ

 

179:名無しの貴族

はい重要情報が飛び出しましたー!

二重の妹殿の家とヴェルガモン伯爵家は家同士の付き合いがあって、二重の妹殿の家はヴェルガモン伯爵家の子と別で大貴族(笑)に経済制裁ー!

 

180:名無しの貴族

はえ? ヴェルガモン家の子とは別で独自制裁の付き合い長い家?

も、もしかしなくても、シュタット○ェルトかソレイ○ィ?!

 

181:名無しの貴族

……ohジーザス。シュタット○ェルトとかソレ○シィとかだったら大貴族(笑)のダメージがさらに9999だぞ!

 

182:名無しの無関係

二重の妹様、御自身の御発言で身バレ自爆しかけてます!

 

 

183:名無しの妹

うわぁ、やっちゃったねー。妹はいまので二重の妹さんが誰かわかっちゃったー

 

184:真・名無しの妹

御発言には重々御注意くださいませ

御自宅ではお母様が待機なされておられますよ(ニッコリ)

 

185:名無しの貴族

 >>183

妹ちゃん、いい子だからおじさんにおせーて

 

186:名無しの貴族

日本人、容赦ねー。高位貴族家の躾とか無茶苦茶厳しいのに・・・

 

もし二重の妹様がシュタット○ェルト家だったと仮定したとしよう

 

シュタット○ェルト辺境伯家の第二婦人は日本の平民出身ゆえに誰よりも厳しく躾る躾の鬼とかカ○ン様と面識ある商家が言ってたぞ

第一婦人は見た目こそ冷酷な印象の美女だが、それはそれはカ○ン様やナ○ト様の事を猫可愛がりして、お二方の弟様であらせられる第一婦人の実子と変わらずに接してらっしゃるらしい

そんな方だからもし二重の妹様がカ○ン様だった場合、第一婦人様の下は緊急避難先にはなるだろう

 

187:名無しの貴族

 >>185

やめろっておまえ。ブリタニアの高位貴族ともなれば日本の政財界とも顔繋がってるんだから、明日出勤したら社長に呼び出されて会社首とか普通にあるぞ

なんでかわかる? ブリタニアって同盟国ってだけじゃなく経済的にも日本のお得意様だからだよ

同じ事を逆にしても言えるがね。ブリタニアの第一のお得意様は大日本帝国

だからブリタニアの貴族や商家はあちらへ進出してる日本企業に優遇措置を設けてる

これは日本企業にだけ適応されてる特例法があるから

 

187:名無しのバーテン

身バレってそんなにやべーか?

 

188:独身貴族

そこまでにしとけ。貴重な貴族の子女を追い詰めるんじゃない。ただし二重の妹様はPCにロックかけておられた方がいいですよ?

義母様の下への避難準備も念のためやっとかないとな。元平民の実母様ならこの手の掲示板のこと詳しく知ってるかもしれんし、一スレ住人としては御貴殿が実母様と侍女に首根っこ掴まれながら説教部屋に連行されるのを見過ごすのは忍びない

 

189:二重の妹

 >>186

大丈夫だからうん。シュタット○ェルトとか知らないしうん。カ○ン?誰それ?

 >>188

独身貴族さんありがと。いまロックの設定したよ。パスワードは日本語とブリタニア語をごちゃ混ぜにしたから解除できるのは私だけ

 

190:名無しの貴族

自白してるみたいなもんでっせカ○ン・シュタッ○フェルト様

 

191:二重の妹

だから違うって言ってるでしょしつこいよあんた?!

 

192:名無しの貴族

人前では淑女、本当は男勝り

だと聞いたことある俺氏

 

193:名無しの貴族

大丈夫ですって(生暖かい目)

 

194:名無しの無関係

まあ普通に書き込むぶんには大丈夫。本スレにも日本華族やブリタニア貴族で身バレに近い方いらっしゃるし、これもまた日ブ交流の一貫さ

 

195:名無しの貴族

でも二重の妹殿のお母様には関係ない話

憐れ、二重の妹殿は説教部屋へ連行されてお母様と侍女による教育的指導を施されるのであった

 

196:名無しの妹

御愁傷様?

 

197:独身貴族

もう収集つかなくなるから話戻そう。大貴族(笑)がどうなったのか知ってるかもしれない二重の妹様がいらしたのだから、これはよき出会いとして情報収集に当たろうではないか皆の衆

 

198:名無しの貴族

貴族なら知ってるか

 

199:名無しの貴族

でも二重の妹様はまだ政務に着いてないだろ学校とか言ってるし

 

200:二重の妹

 >>197

別に情報封鎖されたり報道管制敷かれたりしているわけじゃないから話はできるよ。あくまでも一男爵家の処遇に付いてだからニュースにもならないし。ただ私まだ学生だからさ知ってる事も限られてるよ?

 

えっとそれじゃまずは概要だけ。みんな予想はしてると思うけど、事の発端はヴェルガモン伯爵家の次期当主リーライナ様が日本の帝都東京の往来で罵倒されたのが始まり。うちの国の男爵家当主にね

 

201:名無しの貴族

衝撃の事実!

大貴族(笑)は男爵家の当主だった!

 

202:名無しの他人

やっぱり男爵が大貴族を名乗っていたのかwww

 

203:名無しの貴族

俺は大貴族(笑)が本物の貴族だったことに驚いたわw

 

204:名無しの貴族

この分だと髭子爵様も本物の貴族で確定だな

つーかまじだったのかリーライナ様に罵声を浴びせたとかいう話

 

205:名無しの貴族

信じられん・・・

男爵家当主が上位伯爵家の次期当主を罵倒していたのかよ・・・頭おかしいだろ

 

206:名無しの貴族

ヴェルガモン伯爵家の次期当主への不敬が確定した。そりゃ五大湖諸侯に睨まれるわ

アイツいま頃パニクってんじゃないか?

 

207:独身貴族

まあ待てみんな。二重の妹様の話はまだ終わってない

 

208:二重の妹

 

ああー続きいいかしら?

じゃ行くわね

 

ええまあそんな事があって、その件が社交界で一気に広がっちゃってね

 

たかが男爵家の当主が上位伯爵家であるヴェルガモン家の次期当主に対して無礼千万も甚だしいって

 

ほら、うちの国って絶対君主貴族制じゃない? 階級制度が厳格に組み込まれている政体だから見過ごせない重大時だって話が大きくなっちゃったのよ

これに輪をかけたのがうちの国の帝都ペンドラゴンの往来で起きていたある事件

 

209:名無しの他人

話が見えてきた。ここでクルシェフスキーの名前が来るぞ

 

210:名無しの無関係

西海岸の大御所様に繋がるのだね

 

211:名無しの貴族

ワクワクテカテカ

 

 




ここまで
独自設定入れまくってますはい


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ちゃんねる伍式オリ設定ふんだん掲示板ネタ

オリ設定ふんだん掲示板ネタでございます
誰か様の連続時空体存在が出てきます


 

 

 

231:名無しの無関係

スレ住人たちよ落ち着きなさい。そして心を無にするのです。二重の妹様は二重の妹様であってどこかの辺境伯家とは無関係なのです。よろしいかな?

 

でもブリタニア国籍のやつらマジで書き込みに注意しろよ?二重の妹様は大貴族(笑)じゃないんだから不敬罪でしょっぴかれちゃうよ~?

 

232:名無しの貴族

正直な方だなあ~。大貴族(笑)にスレ荒らされてたから反応がいちいち可愛らしいくて癒されるわー

 

233:名無しの他人

まあまあ皆さん進行が止まってしまうばかりか不敬罪に問われかねないのでこの辺で真面目に語らいましょう

 

234:名無しの妹

貴族の身元を探ろうとかとっくのとーに不敬罪なんだけどね

 

235:名無しの貴族

二重の妹様、わたくしめは平民ですがプロポーズしても構いませんか

以前あなた様のお姿を遠目に拝見した事があるのですが、肩の上で切り揃えられた静かに揺れる紅い髪に、凛々しさと儚さをあわせ持つ御尊顔をお見かけ致しまして一目で心を奪われたのです

領民へお心を砕くお姿、領地視察時には分け隔てない愛情を向けてくださる笑顔にわたくしめの胸は一刀のもとに貫かれてしまったので御座います

 

ちなみにわたくしめはあなた様の領地の領民です

 

236:名無しの紳士

 >>234

妹ちゃんは貴族?平民?かわいい?何歳?どこに住んでるの?おじさん知りたいなあー

 

237:名無しの貴族

いいから変態は黙ってろ!変質者具合に磨きがかかっとるやないか!

 

238:名無しの貴族

妹ちゃんは何も答えちゃ駄目だよ?悪いおじさんに連れてかれちゃうからね

 

239:名無しの貴族

 >>235

うおい!?なんかプロポーズしてらっしゃる!!

しかし平民は諦めなさい。二重の妹様とでは文字通り階級が違いすぎて不可能だから

 

240:名無しの他人

勇者だ・・・

でもいくら恋しようと辺境伯の御令嬢とただの平民じゃなあ・・・

 

241:名無しの貴族

こんなとこで本気のプロポーズ・・・でも無理だよな

 

242:二重の妹

 >>235

ええっと、いきなりプロポーズされたけどごめん。気持ちは嬉しいけど応えられない。私はあなたの事をなにも知らないし、貴族として自由な恋愛なんて許されないの・・・

 

243:名無しの無関係

仮にアッシユ○ォードとかコルチ○スターで優秀な成績を修めて首席で卒業していたとしても平民では無理なんよ

感情論では片付けられないカーストがあるのさ

 

244:名無しのバーテン

シュタット○ェルトってよー、んなにスゲーわけ?

 

245:独身貴族

貴族と平民の壁だな。高位貴族と下位貴族との間にも壁はあるし難しい話なんだよ

 

246:235

いえ、お応えをくださりましてありがとう御座います。私もブリタニア人としてシュタット○ェルト辺境伯家の領民として国法を尊主する者

無理だとは承知しておりましたが伝えずにはいられませんでした

辺境伯の御令嬢とこのような形とはいえどお近づきになることなど今後考えられないと思い御迷惑とは思われましたが心の内を伝えさせていただいた次第です

改めまして、ありがとうございました

 

お慕いしておりました

 

 

247:名無しの平民

 >>244

んなにスゲーの。シュタット○ェルト辺境伯家はヴェルガモン伯爵家と同等級と考えて貰えればいい

うえでこの平民めがヴェルガモン伯爵家の詳細を説明させていただきましたので

ご参照のほどを

 

248:名無しの貴族

アッシュフォード、クルシェフスキー、ヴァインベルグ、ヴァルトシュタイン、シュタットフェルト、ソレイシィ、ヴェルガモン

適当に挙げてみたがこの辺りは言ってみれば全部が一つの国その物な領地と領民人口と軍事力を持つような名家ばかりで傘下の"子"の数も尋常でない規格外と見てくれたらいいよ

 

249:名無しの貴族

 >>246

勇気を出してよく頑張った!感動した!

結果的に失恋だが身分を越えてでも行動に出たその想いには素直に敬服する!

今日はとことん飲もうぜ!俺日本人だからネット越しでな?

 

250:名無しの他人

失恋しても気持ちを抱えたまま諦めるよりはましだよ

バーテン、俺から彼に250年物を

 

251:名無しの貴族

領民に慕われる領主の娘か

それがどんな感情であれ民に慕われる貴族なら民草との間にいい関係を築けている証だ。誇れ>>246、君の領地を治める領主家は民草を大事にする貴族なのだと

 

252:独身貴族

大貴族(笑)男爵とは大違いだわ

 >>250

250年物www

 

253:名無しの無関係

比べるのが非礼である。シュタット○ェルトクラスの大貴族がアイツと同じならブリタニアが潰れてる

民主主義の恥さらしことユーロピアみたくディストピアになる

 

254:名無しのバーテン

おまえら・・・よしいいぜ!特上の250年物を出してやらぁ!!

 

255:246

ありがとうみんな

 

256:名無しの貴族

大貴族(笑)が男爵家の当主と判明したからにはもう大貴族(笑)と呼称しなくてもいいのでは?

 

257:名無しの紳士

なんかロマンスが生まれてる件

 

258:名無しの貴族

変態紳士にロマンスは生まれない件

 

259:名無しの平民

変態さんは妄想だけで我慢しなさい

 

 

260:真・名無しの妹

身分違いの恋・・・素敵です

わたくしも・・・

 

261:名無しの貴族

変態紳士よ現実は斯くも厳しくあるのだ

 

262:名無しの無関係

 >>260

ぶぅぅぅーっ、げほげほ、ち、ちょっと真・妹さん?おたくも身分違いの恋してますのん?

 

263:独身貴族

書き込みだけ追っていくと良家の子女っぽいのだが、演じてる可能性だってある

 

264:名無しの貴族

 >>260

いまこのスレでは貴族が居てくれるとアホな男爵の情報が手に入りやすくてありがたいのです

真・妹さんが貴族かどうかだけをお教えくだされば幸いです

 

265:名無しの貴族

二重の妹様の身バレで慣れたせいかど直球で聞いてやがるw

 

266:名無しの平民

貴族とかなんとか以前にそれはちょっと失礼だよ

 

267:名無しの他人

公序良俗という言葉があってだな

 

268:真・名無しの妹

わたくしは貴族ではありません

貴族ではありませんの

 

269:名無しの貴族

住民のモラルがアイツ並みに低下する前になんとかせんとあかんわ

 

270:名無しの無関係

おおなんか答えてくれてる

 

271:二重の妹

 >>255

ごめんなさい。でもあなたのような私を思ってくれる民に失望されないよう私も頑張るわ!

 

272:名無しの貴族

不用意な発言で身バレしたことがお母上や侍女に伝わっても説教部屋で頑張るわ!!

 

273:名無しの平民

貴族ではないんだ真・妹さん

しかしなんか含みがある感じがする

 

身バレで実母さんと侍女に追い掛けられたら第一婦人の義母さんのところへ逃げ込むわ!!

 

274:名無しの貴族

二重の妹様、第一婦人の義母様という安全地帯に緊急避難しておいた方がよろしいですよw

 

275:名無しの貴族

真・妹さんが貴族ではない事を強調してるところに違和感を覚えて仕方ないのだが

 

276:二重の妹

 >>272

不吉な事を言わないで!

 >>273

いま避難先

 >>274

いま義母の方の母さんの部屋にノートPC持ち込みして書き込んでるの。ここなら実母の方の母さんも勝手に入ってこないと思うから。義母の方の母さんに事情話したらシュタット○ェルト、ああもう今さら伏せても無駄よね

それじゃ改めて、義母的にはシュタットフェルト家の家族構成なんていまの時代インターネットで閲覧し放題だから気にするなだって

それからこの件は実母の方の母さんには内緒にしてくれるってさ。でもだからって本名は出さないでくれたらありがたいかな?ハンドルネームで呼んでね

 >>275

うん私も同じ事を考えたわ。真・妹さんの言葉遣いが演技ではないなら豪商の子かも

もう一つの可能性としては・・・

ううん、まさかね。あの方々がちゃんねる伍に書き込みしてるとは思えないし

 

277:名無しの貴族

二重の妹殿が開き直られました

まあ身バレに繋がる書き込みしまくりでしたからねえ

 

278:名無しの平民

しかし実母様に話通してちゃっかりと安全地帯確保してる辺りは抜け目がありませぬな二重の妹様も

 

279:名無しの貴族

実母様とお付きの侍女の雷が怖いカ○ン様に萌える

 

280:独身貴族

まあ何れにせよ落ち着いたという事で、情報提供の続きをよろしいでしょうかカ○ン様

真・妹さんの違和感こそ残ってますが

 

281:真・名無しの妹

……貴族ではありません

 

282:名無しの無関係

"貴族ではない"ねぇ・・・

 

283:二重の妹

ちょっとあんたたちまた特定行動に走ってるんじゃないわよ

 

284:名無しの貴族

特定されたからこそわかるこの不安と焦燥感・・・カ○ン様は感じてなさそうだが、芯の強い御方だ

といったところで情報プリーズです

 

285:名無しの貴族

プリーズプリーズカ○ン様

 

286:名無しの他人

カ○ン様、我ら愚民は情報に餓えておりまする

 

287:二重の妹

だから名前を連呼すんなって言ってるでしょ!?

 

288:名前の紳士

お気になされるとお肌やお髪が痛みまするぞ?

そしてプリーズ情報。ペンドラゴンでなにが起きていたのか?

 

289:二重の妹

あ、あんたたち・・・

 

はあ、もういいわよ。だけど伏せ字でも名前出さないでくれない?

 

290:名無しの無関係

了解ですマム?

 

291:名無しの貴族

了解?

 

292:名無しの貴族

はっ!了解致しました?

 

293:名無しの平民

了解されるかな?

 

294:二重の妹

あんたたち舐めてるでしょ?

 

ええいもう話戻すわよ!

 

例の男爵の事件の件なんだけど、私がお呼ばれした夜会で聞いた話では、ペンドラゴンの往来のど真ん中でよりにもよって皇帝陛下の騎士ナイトオブトゥエルブのモニカ・クルシェフスキー卿に罵声を浴びせてたらしいのよ

クルシェフスキー卿は男爵に絡まれていた子供を助けようとして割って入ったって話だったわ

 

続いて日本へ赴いた折りにヴェルガモン伯爵家の御令嬢に罵声を浴びせた

このときは帝都東京の往来でそのヴェルガモン令嬢と肩がぶつかったってね。ほら彼女って騎士じゃない?

それで騎士侯と侮って自分が上位者な男爵だからと聞くに耐えない罵声で罵ったらしいわ

この時点では西海岸諸侯も五大湖諸侯も動いてなかったんだけどね。もちろんうちも。ただ話が真実であると周知され始めた頃から一気に事態が動き出したの

 

招待された夜会で聞いた話ではこの件は御前会議に上げられたらしいってさ

それとこれから先については学生の身として御前会議に出られるわけもないから私は知らないよ?

 

295:名無しの貴族

oh・・・・・・なんと言えばよいやら

 

296:名無しの貴族

アイツ死罪じゃないのかもう

 

297:名無しの他人

ブリタニアの階級制度を普通に考えるならおそらく死罪相当。最低でも無期禁固相当と爵位・領地召し上げ措置が採られる

 

298:名無しの貴族

なあ、なんでアイツブリタニアの貴族なのに自分の国の高位貴族であるクルシェフスキーやヴェルガモン、ましてやラウンズの事を知らないわけよ?

ちょっと考えられんのだが・・・

 

299:名無しの紳士

まともな教育をされて来なかった?

男爵家次期当主その実予備だった?

 

300:名無しの貴族

予備だろうが万一を想定した予備だろ。何のための予備なんだよ

それに正統当主がいるならいるで、予備は予備で当主の補佐役や領地発展に貢献せにゃならんものだ

普通に英才教育を受けさせられてるはずなんだがなあ

 

301:名無しの無関係

御前会議でなにがあったか知ってるやつは流石におらんよなぁ。カ○ン様は学生だし

お父様からお聞きしておりません?

 

302:独身貴族

 >>300

それな。ナイトオブトゥエルブを知らないクルシェフスキーを知らないヴェルガモンを知らない普通いないぞそんな貴族

 

家の事情で教育をされてなかったとしか考えられない

 

303:名無しの平民

ここまでの馬鹿だったとは・・・スレ住人の予想を上回る大貴族(笑)っぷりに言葉が出ません

 

304:二重の妹

 >>301

ごめん知らない。父さんも御前会議や貴族議会の事は教えてくれないから

日本でも御前会議の内容や国会での重要事項は守秘義務があるでしょ?

 

305:名無しの貴族

 >>303

こうなるともう大貴族(笑)でさえ分不相応。小貴族(笑)でもいいくらいだw

 

306:真・名無しの妹

この件に付きましての報道管制は一切敷かれておりません。ですので個々の貴族間でお話をお広げになさいますのかは自由です。侮辱するつもりは毛頭御座いませんが礼に失する行為をなさった方へ、わたくしが容赦する意味も理由も御座いませんので。貴族会議のお話でよろしければ簡潔に御披露なさいましょうか?

 

307:名無しの貴族

超爆弾発言がデター!!

 

308:名無しの貴族

し、真・妹さん、あなたはいったい何者?

 

309:名無しの他人

君は貴族ではないと宣言してなかったかい?

 

310:名無しの無関係

言ってたよ貴族じゃないって

 

311:名無しの貴族

俺の危機意識が真・妹さんの個人特定をするなと警鐘を鳴らしまくってる・・・

 

312:名無しの貴族

HAHAHA、二重の妹様を追求しまくりだったおまいらが個人特定から率先して手を引くとはな

まったくもってヘタレの集まりだぜ

 

俺は屈・・・する

 

313:名無しの貴族

屈するんかいwww

 

314:名無しのバーテン

ここはヘタレの集まりかよw

 

315:名無しの無関係

バーテンよ、時には触れてはならぬ物がこの世にはあるのだ

 

316:二重の妹

……誰かはわからない。だけどおおよその身分に見当がついたわ

 

話さない!絶対話さないからね!

 

317:名無しの平民

 >>314

ヘタレでいいよ

だって平民だもん

 

318:名無しの貴族

ほら、カ○ン様ほどの貴族様も追及してはいけないと仰ってなさる

おまえら愚民は推測だけして黙っとれ(脅)

 

319:真・名無しの妹

人の事を猛獣みたいに仰らないでくださいませんか?

まだしも蛮勇的であれバーテン様の方が気骨があるように見えます

 

320:名無しの貴族

話してるとわかる。バーテンは大貴族(笑)よりましなだけでバカの類いだよ

 

321:超姉貴

ふと気になり覗いて見ましたが議論がまったく進みませんね。何ならわたくしが代わって事件のあらましをご説明致しましょうか?

 

322:名無しの貴族

 >>320

バカはいいよな怖いものがなくて

"バカ羨ましい"なんちゃって

 

323:名無しの貴族

なんだなんだ? 妹ズの次は姉貴が出てきたぞ? しかも超重要なことをさらりと口に出してなさる

 

324:名無しの貴族

超姉貴www

 

325:名無しの他人

シューティングゲームでもしてんの?

 

326:真・名無しの妹

 >>321

まっ、まってください、それではわたくしの存在感がなくなってしまいます

 

327:二重の妹

あーあーなんにも聞こえなーい

 

328:名無しの妹

存在感が凄かった真・妹さんが狼狽えて、大貴族の二重の妹さんが現実逃避

 

くっ、超姉貴、あなたは誰だぁっ!?

 

329:名無しの妹

あははー、カオスここに極まれりだねー

 

330:名無しの紳士

動じない妹ちゃんハァハァ

 

331:名無しの貴族

だから変態紳士はどっか行け!!危ないんだよ!!

 

332:超姉貴

 >>328

本スレ住人で長女です

長女は妹を心配するものですわかりますか?

 

333:名無しの貴族

世の中に長女なんて幾らでもいますってw

 

334:名無しの無関係

そりゃ妹がいるなら兄や姉だっているよな

 

335:ジョイ君

父も母も叔父だっているね

 

336:名無しの貴族

 >>334

当たり前の事を言うな

 

337:名無しの貴族

あっジョイ君だお久しぶりー。ジョイ君も本スレの住人だったよね? 正確にはちゃんねる伍式最古参の一人だったか?

 

338:ジョイ君

うん。なんかこの事件の話で分家がカオスになってるって聞いたから見にきた

 

339:名無しのバーテン

おいこら、なんでもいいから話進めろや

 

340:真・名無しの妹

では存在感が埋もれてしまう前に!

グローティートゥちゃんねる伍式!!

 

ふぅ、それでは参りましょう

 

貴族議会での会議の折りにもこの事件のお話は出ました。政体への重大なる挑戦行為であり看過できない事項であると

しかしながら事態は議会の手を離れる事となりました

 

皇帝陛下が御自ら当事者間の問題であり自らが裁くのは筋の通らない話であるとして

 

そしてその御判断はモニカ・クルシェフスキー卿およびクルシェフスキー侯爵

リーライナ・ヴェルガモン卿およびヴェルガモン伯爵預かりとなり、裁定がくだされました

 

クルシェフスキー卿ならびにヴェルガモン卿ご両人共に不問

クルシェフスキー侯爵ならびにヴェルガモン伯爵としても娘はもう成人しているのですから親の出る幕ではありませんと不問

結果、ロズベルト男爵家当主、フランク・ロズベルト男爵への高位貴族家への不敬発言と、皇帝陛下の剣の一振りでもあるナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキー卿への非礼の数々は不問、全面無罪となりました

 

341:名無しの貴族

こ、皇帝陛下、クルシェフスキー侯爵、ヴェルガモン伯爵、意図してか仏心か知らんがなんちゅう残酷な裁定を下してなさるんだ

 

342:名無しの貴族

あちゃー、考えられ得る裁定の中でも最悪な分類の裁きではないか・・・

 

343:名無しの貴族

ああ、可哀想に大貴族(笑)いや、フランク・ロズベルト

 

344:名無しの平民

ついに本名が明かされましたか

でもどーせ名誉毀損には問えないわな。自分が散々名誉毀損してるんだからモニカ様・リーライナ様に

これ裁き下された方が大分と温情措置になっていた最悪なケースだぞ

 

345:名無しの無関係

大貴族(笑)終わったな

なにもかも終わったな

 

346:名無しの貴族

え? なんでよ。ムカつくけど無罪って事なんだろ?

よかったじゃん

 

347:ジョイ君

後の事を考えるならこれ優しいとか温情とかじゃないからね

 

348:名無しのバーテン

 >>346

だよな?ただの無罪じゃねーか。さすが腐ってもお貴族様。特例ってやつだねぇ

俺なんか正月早々心の狭い大家の親父にボコられたのに。俺なんもしてねーんだぞ?新年会で酒飲んでただけだっつーの

前後不覚で記憶なかったけどあんなことすんのは絶対にあのクソ大家しかいねーぜ

 

それに比べてブリタニア皇帝や大貴族のなんと心の広い事か

 

349:名無しの平民

 >>346

 >>348

そんな君たちにご説明しよう

 

350:名無しの貴族

 >>348

どーせ飲みすぎて気が大きくなったから暴言吐きまくってたとかなんだろ

自業自得

 

351:名無しの無関係

 >>349

出ました説明書w

 

352:名無しの貴族

もう名無しの説明書にでもコテハン変えたらば?

 

353:名無しの平民

えーまず、名前が出たから名前で呼ぼう。ロズベルト男爵は見事に無罪を勝ち取りました

 

354:超姉貴

勝ち取ったわけではありませんよ?

 

355:真・名無しの妹

最悪な形で見逃されただけの話です

モニカ・クルシェフスキー卿やリーライナ・ヴェルガモン卿は本当に気にされてはおられないのでしょう

皇帝陛下やクルシェフスキー侯爵やヴェルガモン伯爵にしても捨て置く方が罰になるとお考えになられて

高位貴族に不敬を働いた下位貴族がどのような災難にあうか

 

356:名無しの妹

まあまあ説明書さんの話を読もうよ

 

357:名無しの紳士

ハァハァ、平民を説明書呼ばわりする妹ちゃんハァハァ

 

358:名無しの貴族

妹ちゃん、あーた説明書を読むになってるよ

しかしそれとは別に消えろ変態!

 

359:名無しの他人

変態紳士が本格的に変態になってきた

紳士よ、紳士であれ!オールハイルノータッチ!

 

360:名無しの平民

みんなして話の腰を折らないでください・・・

 

気を取り直して

 

皆さん御存じブリタニアのカーストはかなり厳格であります。国体に組み込まれてますからね。また上記に基づき構成された各地域の主従関係も厳格であります

 

子の親への忠誠心は、皇帝陛下や国への忠誠心と同義と考えてもらって構いません

 

さてそこでこの政体に逆らってしまったロズベルト男爵がどうなるのか?

 

まず皇帝陛下は当事者間の話として取り合わない

 

次にクルシェフスキー侯爵とヴェルガモン伯爵も当事者間の話として非礼を働かれた本人たちに委ねた

 

そして委ねられたクルシェフスキー卿とヴェルガモン卿も口汚く罵られはしたけど、これを以て特別罰したいとは考えず不問に処す判断をくだした

 

さあここでのポイントはクルシェフスキー侯爵とヴェルガモン伯爵です

両家共にロズベルト男爵を不問としておりましたが、両家が不問とした事が問題なのです

 

わかりやすく説明しますね

 

皇帝陛下は不問、両家は不問、当事者は不問、さあこのどこに両家の子や両家と繋がりのある付き合いのある家が不問に納得してるんでしょうか?

国体に、自分の親たる主君に、自分の盟友たる貴族の顔に、泥を塗りたくって砂までかけたロズベルト男爵を西海岸諸侯と五大湖諸侯、ヴェルガモン伯爵家と友好関係にあるシュタットフェルト辺境伯家やソレイシィ辺境伯家がなにもしないと思われますか?

 

 

361:名無しの貴族

ないな。現にシュタットフェルト家は独自に経済制裁をかけてるとシュタットフェルト辺境伯の令嬢であるカ○ン様が仰っている

 

362:名無しの他人

あの怒らないことがステータスとも言える髭子爵様が大貴族(笑)のリーライナ様への罵倒にキレてたんだからヴェルガモン伯爵家の子や五大湖諸侯も足並み揃えて経済制裁に入るよたぶん

 

363:名無しの無関係

プラスクルシェフスキーを盟主に仰ぐ西海岸諸侯も独自制裁に着手する

 

364:名無しの妹

妹は知ってるよ?

ロズベルト男爵家ってカンザス・・・の田舎、のさらに田舎、に約10km²と1500人ほどの領民を持つ貴族だって

妹は調べてきたからねー

 

365:名無しの貴族

なんで妹ちゃんが知ってるねん!

 

366:名無しの妹

それは私が妹だから

 

367:名無しの貴族

どんな妹やねん・・・

 

368:真・名無しの妹

わたくしも妹として調査致しましたが、ヴェルガモン伯爵家を主家とする五大湖諸侯に友好関係にある諸侯

シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家およびその子に当たる家々

クルシェフスキー侯爵家を主家とするブリタニア西海岸諸侯

つまりは西海岸経済圏と五大湖経済圏にシュタットフェルト辺境伯家とその子に当たる方々およびソレイシィ辺境伯家とその子に当たる方々が連盟でロズベルト男爵家を糾弾、経済制裁を科しておりますので遠からずロズベルト男爵家は財政破綻に追い込まれる事でしょう

 

369:二重の妹

とりあえずうちの制裁は全品目に科す事になると思うわ

シュタットフェルト家と付き合いのある商家や商会、企業にも話は回ると思うし

 

370:名無しの平民

途中から話を奪われた・・・

 

まあいいです

このように大貴族の一大経済圏が二つ経済制裁に入ると

皇帝陛下や親がお許しになっても、傘下にある我々子一同は謝っても許さんよと

大切な友達を貶されて頭に来てるよ許さんよと

 

これが無罪になってしまったロズベルト男爵家へと振りかかる災厄ですねはい

 

371:名無しの貴族

……

 

372:名無しの貴族

……

 

373:名無しの貴族

……

 

374:名無しの紳士

……妹ちゃん

 

375:名無しの無関係

なんか喋れよと思ったけど変態だけは黙っててくれ

 

376:ジョイ君

なら僕が代わりに喋ろうか。皆の話の捕捉になるだけだけどね

 

事態を知った・・・誰を罵倒して誰を敵に回したのかを知ったロズベルト男爵家現当主フランク・ロズベルトは前当主からの帰国命令を完全に無視してる

それはわかるよね。まさか二人の女性騎士への罵倒が西海岸経済圏と五大湖経済圏からの制裁に繋がるだなんて考えてもなかったんだから

それでロズベルト家前当主はいま領地と爵位の返上を以て償いとさせていただきたいと各家々に書状を送ってるらしい

どうなるかはわからないけど、皇帝は一時天領としてロズベルト男爵家の領地を召し上げる方向性でいるらしくて、該当地には当面は代官を置き、その代官を新たな領主とする予定らしいよ

代官として派遣されるのはトウ・ヘ○子爵っていう帝都ペンドラゴンの省庁の官僚で、真面目な働き具合と引退した父君の血の紋章事件での功績の関係から報奨として領地を下賜、滅多にないことなんだけど爵位も一つ上がり下位伯爵になるようだよ

 

下賜される領地は旧ロズベルト領に加えて周辺の天領も含め計99.8km²。現時点での領地予定内人口は67000人

トウ・ヘ○子爵は日系貴族でね。建て直しと開拓に日ブ問わずで人や移民を急募集するだろうから人口は90000ないし100000にはなると僕は見てる

伯爵になる身としては小さな領地だけど旧き名家で上位伯爵家であるヴェルガモン家と比較しても仕方ない話だね

 

ちなみに先代当主と一族はまともだよ。現当主がアレ過ぎるだけでね

 

377:名無しの貴族

相変わらずだがジョイ君が内情に詳しすぎる件

 

378:名無しの貴族

さすがはちゃんねる伍式の古参コテハンだ

 

379:名無しの平民

物識りジョイ君さんの弟子の一人を自称してます

 

380:名無しの貴族

この平民は、説明書のくせに生意気だ!

 

381:超姉貴

私も与り知らない情報なのですけれど・・・

 

382:真・名無しの妹

ジョイ君さん凄い情報力ですね?

諜報員を疑ってしまうほどに

 

383:名無しのバーテン

中央官僚から爵位上がって土地もらってのんびりスローライフ。日々家賃催促に来る大家からどう逃げようか頭を悩ませてる俺には羨ましいとしか言えんわ

 

384:名無しの無関係

ジョイ君のすさまじい情報収集力www

調査会社で食ってけるよ

 

385:二重の妹

ジョイ君さんの情報力はすごいけど、へぇロズベルト男爵って日本に逃げてるんだね

 

386:名無しの貴族

ブリタニアからの公式な引き渡し要請がなければこのまま国外逃亡コースだな

先代当主や一族が可哀想だわ・・・

 

387:名無しの貴族

クズが日本に逃げてきてるのか

 

388:名無しの貴族

でも日本には第二皇女コーネリア大使やら総領事のアッシュフォード公爵等の平民には寛容だけど貴族に対しては容赦のない方々がいるぞ?

 

389:名無しの平民

引き渡し要請がないとあくまで私人

私人がおとなしくしている限りなら日本側も動けない

ただロズベルト男爵を放置するのは西海岸経済圏・五大湖経済圏との関係上日本企業にとっては大迷惑。下手すると日本の財界がヒットマン送り込んでもおかしくはない

 

390:名無しの貴族

うちの会社今年クルシェフスキー領に支店出すのに・・・

 

391:名無しの貴族

俺の働いてる会社五大湖経済圏にブリタニア支社置いてるんだが

 

392:名無しの平民

果てしなく迷惑な方ですな大貴族(笑)

 

393:名無しの無関係

もう超弱小貴族(笑)でいいわ胸くそ悪い

 

394:ジョイ君

もう一つ追加情報。彼はいまミツ○サ・ヨ○イに匿われていて日本への帰化手続きに入っているようだよ

 

395:名無しの貴族

……はあ?

 

396:名無しの貴族

冗談だろヨ○イってあの米○?

 

397:名無しの貴族

誰?

 

398:名無しの貴族

皇軍の黒歴史がなんで出てくるぅぅー?!

 

399:名無しの貴族

 >>397

前回の総選挙にて野党側無所属で立候補してまさかの当選を果たした現国会議員様

軍人時代は知らない

 

400:ジョイ君

どこで知り合ったのかフランク・ロズベルトと友人らしいよ

 

401:名無しの貴族

 >>383

家賃払えよ

 

402:名無しの貴族

田舎の開拓か

移民の募集かかったらいこかな

 

403:名無しの他人

中央官僚はエリートだ。爵位上がるといってもペンドラゴンみたいな東京級の超大都会からの田舎暮らしはしんどいだろなその法衣貴族様

 

404:名無しの貴族

領主貴族となるとある程度の自由裁量権があるだろうから、旧ロズベルト男爵家の一族を拾ってくれるかも

バカ過ぎる現当主は拾わないと思うが

 

 



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ちゃんねる伍式【欧州解放戦争】大日本帝国シベリア出兵スレ42【新規領土獲得?】

 

ちゃんねる伍式

 

【欧州解放戦争】大日本帝国シベリア出兵スレ42【新規領土獲得?】

 

1:名無しの元帥

このスレは帝国陸軍によるシベリア出兵を語るスレです

 

関連スレ

速報ニュース板

 

枢木内閣帝国陸軍のシベリア派遣を閣議決定

 

貴族院・衆議院でのシベリア出兵審議開始

 

帝国陸・海・空・海兵隊四軍の予備役召集・待機命令

 

2:名無しの二等兵

建て乙

 

3:名無しの二等兵

2ゲッツ

 

4:名無しの二等兵

ハーゲンダッツ

 

5:名無しの軍曹

シベリア出兵はまだ正式決定じゃないだろ

 

6:名無しの伍長

派遣総軍は2個軍集団230万にはなりそうらしいな

 

7:名無しの二等兵

 >>5

ほぼ確実。議会でなんちゃって議論して承認する。なんたって嶋田前内閣の元閣僚が後押ししてるらしいから

どうも清国・高麗連合が中央シベリア掠め取りに動く気配があるから連中の頭を抑えにかかるみたい

オセアニアが合衆国東アフリカやらイエメンやらの衛星国家と、友好関係のイラク動かして中華の身動きとれないようにしながら清と高麗を焚き付けてる。清・高の連合軍はシベリア戦争の時みたいに200万オーバーの兵力がフリーハンドでユーロピアは欧州側に兵力集中させたまま

 

極東側から攻め込むのはユーロブリタニア欧州東部攻略軍と帝国陸軍+ブリタニア帝国軍の連合軍になりそう

帝国陸軍230万、ユーロブリタニアは聖ガブリエル騎士団と聖ミカエル騎士団を中核に2個騎士軍集団200万、ブリタニアが300個騎士団派遣する模様

 

8:名無しの二等兵

なんじゃその兵力は!?

日ブ連合軍+ユーロブリタニア軍で750万にはなるじゃないか。日ブだけで異常なくらいの数的戦力が存在するのは知ってるが現代戦にそんな戦力いるのかよ

 

9:名無しの二等兵

ちょっと頭追い付かない

 

10:名無しの二等兵

日ブって昔からシベリアに固執してたからなあ。なんかあるのかねシベリアには

 

11:名無しの伍長

噂の古代遺失技術とやらでは?

 

12:名無しの二等兵

眉唾物の噂じゃん

 

13:名無しの二等兵

古代遺失技術は実在してる可能性あり。皇室の天領に指定されてる神根島から色々発掘されて現代技術と組み合わされてるとか

現実に不老長寿の技術も発見されてる

 

14:名無しの軍曹

なおブリタニアのシベリア方面派遣軍の指揮を採るのはナイトオブシックス アーニャ・アールストレイム卿と、ナイトオブナイン ノネット・エニアグラム卿

日ブシベリア方面派遣総軍の司令官は牟田口廉也元帥

 

本来の主役であるユーロブリタニアは独自に動くみたいだ

 

 

15:名無しの二等兵

牟田口さんが日ブ総軍の司令官とは、日ブの一体化が進んでるな

 

16:名無しの二等兵

ラウンズ二人も投入すんのかよブリタニア

 

17:名無しの一等兵

日本でラウンズと言えばナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキー卿だろふざけんな!

 

18:名無しの二等兵

クルシェフスキー卿には駐日ブリタニア大使館付き駐在武官としてのお役目がある

日ブ承認のもと嶋田繁太郎前宰相の専任護衛まで請け負ってるて話もあるし

 

19:名無しの二等兵

てゆーかモニカ・クルシェフスキー卿は嶋田前宰相と婚約しとるやんけ

 

20:名無しの二等兵

まあなんにせよナイトオブトゥエルブ クルシェフスキー卿は駐在武官の任務があるから動かせない

だから別にラウンズが派遣されている

 

21:名無しの二等兵

あくまでも主役はユーロブリタニア軍だろ? 日ブはどこまで攻め込むと思うよ?

 

22:名無しの伍長

ナイトオブトゥエルブ クルシェフスキー卿については戦況次第でトゥエルブ親衛隊と後発投入だろうな

他にはナイトオブテン ルキアーノ・ブラッドリー卿とナイトオブフォー ドロテア・エルンスト卿が欧州本土攻撃に加わる事が決まってる

 

23:名無しの二等兵

 >>21

日ブは半数がユーロブリタニア軍と共にウラル越えして欧州ロシアまで行くだろ

ラウンズのどちらかも欧州まで行くんじゃね?

牟田口元帥は中央シベリアクラスノヤルスク辺りまで抑えて止まるだろ

指揮官を全面に出して戦うのはブリタニアとユーロブリタニアくらいだからな

とくにラウンズは人間離れしてるしw

 

しっかしラウンズ四人も投入決定なのか

 

24:名無しの二等兵

速報!シベリア出兵ならび日本軍の欧州派遣決定!

 

海軍

8個空母打撃群

海兵隊

8個遠征打撃群

 

補給・補助艦艇まで含めて艦艇200隻以上

 

空軍

作戦機1700機

 

陸軍

総兵力200個師団230万

浮遊航空艦艇32隻

VTOL1650機

KMF4600騎

戦車5700両

自走砲・野戦砲7800門

その他装甲戦闘車両・作戦車両18000両

 

25:名無しの二等兵

…これ日本だけでモスクワまで突破できるじゃんか・・・

海軍はアレ、北極海周り?

 

26:名無しの二等兵

これにブリタニア軍とユーロブリタニア軍が加わるんだろ?

 

27:名無しの二等兵

ブリタニア海軍は10個空母打撃群と12個遠征打撃群を派遣

補助艦艇270隻

 

陸上騎士団と天空騎士団

総兵力300個騎士団360万

作戦機2800機

浮遊航空艦艇67隻

VTOL2160機

KMF4800騎

戦車7500両

自走砲・野戦砲11800門

作戦車両26000両

 

28:名無しの二等兵

……

 

29:名無しの二等兵

……

 

30:名無しの大佐

頭おかしい。怖いよ・・・日ブで世界制覇でもやんの?

 

31:名無しの二等兵

ユーロブリタニア軍の振り分けはブリタニア東海岸から欧州側本土へ攻め込む戦力の方が多くて、そっちは270個騎士団300万オーバーになりそう。ブリタニア軍は欧州本土攻略に250個騎士団出すらしい

日本の保護国てか衛星国のインドネシアやらフィリピンやらの東南アジアも参戦するって

ブリタニアの衛星国であるギアナ・アルガルヴェ・アラウカニア=パタゴニアといった南ブリタニア勢はユーロブリタニアと縁戚関係だから参戦決めてるし

 

28:名無しの二等兵

……日ブだけで余裕でユーロピア崩しできそうじゃない?

 

29:名無しの二等兵

待てい!ブリタニア軍は計550個騎士団で派兵総兵力600万オーバーかよ!現代戦だろーがよ!おかしーじゃんよ!

ユーロブリタニアは全軍を以て欧州アフリカ解放に当たるから500万越えるのはわかるが、ブリタニアが600万ってどうなってんだよ!

 

30:名無しの二等兵

ブリタニア軍550個騎士団600万でもまだまだ余裕

空母打撃群だけでも26個を常時維持できる化け物だぞ?

ちなみに日本は16個打撃群を常時保有してるが少ないと思う?

思ったあなた。感覚が麻痺してますw

ユーロブリタニアは今回の一大決戦に保有してる10個打撃群全部投入する

 

当初日本もブリタニアに負けじと強硬派が全予備役を召集しての5個軍集団500万オーバーを投入しようとしていた。それに待ったをかけたのが辻のお使いとか呼ばれてる澤崎敦官房長官

日本も本気でやればブリタニアと対比して60%くらいの軍事力はあるし

 

31:名無しの四等兵

ブリタニアと張り合ってどないすんねん無駄金無駄戦力を使うなーってか?

名目は清と高麗の中央シベリア侵出阻止だもんな

ついでに日ブ+ユーブリでシベリア南部も奪還に動くんじゃね?片手間でw

 

32:名無しの二等兵

 >>29

日本は最強資源サクラダイトで超お金持ちなので最先端兵器を山ほど保有してますのん

ブリタニアは天限突破した国力で近代兵器を山ほど保有してますのん

だから総兵力も必然的に多くなる

 

日本て世界第二位の超大国で常備軍だけでも270万超えてんだぞ? 全予備役召集すると技術力の高さも相まってユーロピア・中華同時侵攻も可能なんだぜ? 虎の子の多弾頭型フレイヤミサイルだってあるしね。使わんけどな

 

しかーし、第一位のブリタニアなんか予備役全投入、全戦力投入すれば日本以外の全世界を相手どれてしまう。こちらさんも多弾頭型フレイヤミサイルある。使わんけどな

 

オセアニアは規格外で戦時には成人全皆兵だし畑から兵隊採れるくらいに兵力数だけは世界第一位

単弾頭フレイヤミサイルも持ってるぽい

しかし通常兵器は別で日本より1段半、ブリタニアより1段落ちる。でも全面戦争ともなれば日ブ共に多くの血が流れる

フレイヤ保有国同士は全面戦争なんぞできんけどな

 

33:名無しの二等兵

澤崎って家庭崩壊してたの知ってる?

辻のせいとか言われてるんだよ?

 

34:名無しの二等兵

ヤバイな日ブオ、とくに日ブはおかしいわ

 

35:名無しの二等兵

 >>33

後継ぎの息子が軍に入って、その後なんでか除隊してユーロブリタニアに参加してるとか変なことになってるんだっけ?

衆愚政治から民衆を解放しようと立つ姿にシンパシーを感じた!なんて言って日本飛び出していったとか噂で聞いたわ

 

確定話では嫁さんと離婚決定で翌日倒れて入院したって

でもって澤崎の知人の女性が見舞いに通ってるらしい

政治週刊誌に書いてたが一般人の独身女性でI.Nさんというんだとさ

飲み友達でかなり仲いいって話

 

嫁さんに離婚されたのも息子さんが好き勝手してるのも全部辿れば仕事のし過ぎによる家庭内不和が原因

 

たぶん澤崎は次の選挙立候補しないで政界引退すると思う

どう考えても精神的にヤバそうだし

 

36:名無しの二等兵

澤崎ェ、もうその一般人女性とでも再婚して地方でまったり生活しとこうよ。お前さんはよく頑張ったよ。国民もお前さんの仕事振りは見てるよ

 

帝都の忙しさの犠牲者の一人だわ

 

37:名無しの二等兵

辻氏の犠牲者とも言うw

 

38:名無しの二等兵

嶋田前内閣は働きすぎが通常業務だったから比較してやりなさんな・・・

あっちゃんはI.Nさんて人と再婚してスローライフ送れ

もう普通の人としては一生分の仕事したよ

 

39:名無しの二等兵

 >>32

オセアニアのフレイヤ保有は確定情報じゃないよ

可能性は高いんだけどね

半径10~20km圏内を消し飛ばせる出力の低いフレイヤ弾頭は保有してるかもしれんが

 

40:名無しの大佐

日ブのフレイヤは最大出力で300km圏内を消し飛ばす悪魔の兵器です

日本とブリタニアは世界に君臨する恐怖の帝国だったのだよ

 

41:名無しの二等兵

こんな大規模派兵してどうすんのよ?

 

42:名無しの二等兵

だから新規領土獲得の為なんじゃって

日ブはシベリア中央に拘ってるからウラル以西取るつもりじゃないのかと

もちユーロブリタニアとは話つけてる前提でだが

 

43:名無しの二等兵

どうせユーロピア潰したら王制復古で西のお隣さんも同盟国になりはるし、シベリアなんか要らんと思うけど

 



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ちゃんねる伍式【過去の栄光】アフリカEUスレ332【オセアニアの衛星国】

 

ちゃんねる伍式

 

 

 

【過去の栄光】アフリカEUスレ332【オセアニアの衛星国】

 

 

ここはアフリカEU=ユーロピア共和国連合を語るスレです

 

荒らしはスルーが基本です

 

 

2:崩壊の民主主義

民主主義的に2票投票

 

3:崩壊の民主主義

民主主義的に投票2

 

4:崩壊の民主主義

多重投票してる時点で民主主義ちゃうけどねー

 

5:崩壊の民主主義

そもそもアフリカEUって国名がおかしい。EUってユーロピア共和国連合だろ。アフリカEUはユーロピア共和国連合を名乗ってるが実効支配できてるのは辛うじてアフリカ大陸の南側6割ほど

これの何処がユーロピアなんだよ

 

6:崩壊の民主主義

えー、スレ住人に欧州・北部アフリカ盟主のハイランド大公とヒトラー大宰相に忠誠を誓う方々がいたらすみません

日本も階級社会ではありますが通常の民主主義的な選挙も行う立憲君主制民主主義国家です

民主国家として謝罪します。民主主義の面汚しをいつまでも生かしていてすみません(>_<)

 

7:崩壊の民主主義

アフリカEUといっても国名がEUである以上はユーロピア共和国連合

そこに支配地が云々言い出しても意味ない

過去スレで散々議論してるよ

 

8:ディストピア

まだしもロシアンEUの方がユーロピアの名前を継ぐに相応しくね?

 

9:崩壊の民主主義

欧州解放戦争で逃亡した三百人委員会の生き残りと唯一生き残った大統領が国家運営してるんだよね?

 

10:崩壊の民主主義

あいつら勝手に日本を民主主義の裏切り者とかほざいてたから嫌いだわ

 

11:崩壊の民主主義

ロシアンEUはプー○ン大統領が話つけて助かったとか

ロシア系王侯貴族がハイランド大公とヒトラー大宰相に文句言ってたらしいね

 

12:ディストピア

ロシア系王族もサンクトペテルブルクとか東欧ロシアの大半を抑えたんだから文句言っちゃ駄目だよ

 

13:名無しの民主主義

たぶんブラフ。取り返したいなら力を示せ

所詮この世は弱肉強食

ユーロブリタニア所属の王族や貴族が復権できたのは日ブの後押しと、ハイランド大公・ヒトラー宰相の力があってこそ

 

現実に今の欧州・北アフリカ盟主はハイランド大公とヒトラー宰相だよ

 

14:崩壊の民主主義

カリスマと指導力か

曲がりなりにも現欧州が一つにまとまってるのはハイランドとヒトラーが居てこそだかんなぁー

 

 

 

1:【大日本】連合帝国・二重帝国【ブリタニア】

 

 

 

ここは大日本=ブリタニア連合帝国についてのスレです

正式な国名は神聖大日本=ブリタニア連合帝国となります

 

荒らしはスルー。日本皇室・華族、ブリタニア皇室・貴族への不敬発言は厳罰に処される可能性があるので書き込みには細心の注意を祓いましょう

 

2:名無しの連合帝国

二重帝国GET

 

3:名無しの連合帝国

二重帝国ゲット!

 

4:名無しの連合帝国

いつかはこの日が来ると思っていた

俺が死んだ後の話だとばかりにだがね

 

5:名無しの連合帝国

結局どういう国家体制なの?

連合帝国憲法原文知ってるのいる?

 

6名無しの連合帝国

なぜに二重帝国ではないのか

 

7:名無しの連合帝国

まずきっかけはあった。既知の事だろうが嶋田元宰相閣下の内閣時代にブリタニアの5.6事件があったが、あれに日本の義勇軍が混じっていたやらなんやら

嶋田元宰相はブリタニア皇室との間、もっと詳しくいくなら即位間もないシャルル陛下と我が日本今上帝陛下を交えた三者会談を開いていて、超古代に別たれた両帝国の再統一に言及したとされている

 

これは日本皇室上位者やブリタニア皇室上位者に嶋田内閣閣僚立ち会いのもとで行われた最重要の秘密会談だったと随時情報開示されている

 

太平洋の向こう側にフレイヤで威嚇してくる超古代国家滅亡のきっかけを作ったオセアニアがいるのに、別れた国がいつまでも別れたままでいては付け入る隙を与えるだけってのと、両帝国間には共通文化も根づき始めているから期を窺いながら融和から連合への道筋を模索していたってことさ

太平洋戦争のような愚かな争いを二度と繰り返さないよう元鞘に納まろうってことでもあるだろうし、環太平洋をひとつに纏めようという意味もあった

 

8:名無しの連合帝国

連合帝国発表の政体としては同君連合みたいなやつでなく、完全な一国二制度で大日本帝国側は大日本帝国憲法と法体系と政体で、神聖ブリタニア帝国側も既存の体制のままらしいね

日本は日本の皇室が、ブリタニアはブリタニアの皇室が今まで通り治める形態

国家としてひとつの国になりましたよ。日本はブリタニアと=で、ブリタニアは日本と=の国ですよと明確化した形

 

9:名無しの連合帝国

 >>7

連合帝国共同発表の内容には驚かされてばかりだわ。超古代文明国が実在していたのは本当のことらしいが発表まで懐疑的だった

正式に大日本=ブリタニア連合政府が認めたときは気が狂ったのかと思たわ

 

10:名無しの連合帝国

 >>8

二重帝国でも同君連合でもなく、連合帝国ってのはそういう意味なのね

 

11:名無しの連合帝国

 >>8日本人は日本人、ブリタニア人はブリタニア人で今まで通りなんだな

 

12:名無しの連合帝国

これさ、なんか今までと変わったとこ無いように思うんだが

 

13:名無しの連合帝国

今まで通りなら別に同じ国になる必要あんの?

 

14:名無しの連合帝国

まず軍事的な一体化がある。連合帝国軍となるから海軍なら連合帝国海軍、連合帝国艦隊となり陸軍・空軍・海兵隊や遊撃師団辺りも同じ扱い

ただし戦力は一国の戦力としての扱いになるが、組織形体は個別

日本に騎士団はないし騎士階級もないから

こんなところが幾つもあって整合性取りにくい部分があるから一国二制度になった

日本軍・ブリタニア軍は別々な形態だが同国軍でもあり、敵国からの攻撃は一つの国である連合帝国への宣戦布告となる

 

15:名無しの連合帝国

oh、ならブリタニアが攻撃されるのは文字通り日本帝国が攻撃されたってことになるわけだ

 

16:名無しの連合帝国

ティンと来た!

てことは連合帝国軍は全8軍となるんだな!

 

17:名無しの連合帝国

日本帝国 陸・海・空・海兵隊

ブリタニア帝国 陸・海・空・海兵隊

 

連合帝国8軍であってる

 

18:名無しの連合帝国

8つの軍を保有する国ってなんぞw

歴史上始めてだの大無茶具合だな

 

19:名無しの連合帝国

ブリタニアって常備軍の兵力が500万くらいだったろ

日本は270万ちょいで連合帝国軍常備兵力770万かよ

 

20:名無しの連合帝国

日本もブリタニアもやたらと予備役兵多いから戦時には1500万以上にはなる。これを余裕で支えられる国力もあるし金も資源も棄てるほどある

 

21:名無しの連合帝国

フレイヤ炉搭載の空母で最大で42個打撃群の編制ができる海軍とか頭おかしい

航空母艦の護衛艦艇いれたら大型艦だけで500以上、日本の地方隊やらブリタニア各貴族の海上騎士団いれたら主力艦艇700は行くだろ

 

22:名無しの連合帝国

日本側は新大鳳後期型が出揃ったし基準排水量110000t級の次級も完成したのが4隻ほどあって試運転中だから近く20隻体制になる

だから連合帝国海軍は最大46個打撃群の編制が可能となってるんよ

 

これは日本側だけのデータになるが、戦艦は大和級2隻で基準排水量が128800tの歴史上最大サイズの巨大戦艦

 

2025年度日本海軍の主力艦艇は約300隻

超大型揚陸艦の紀伊級から小型揚陸艦艇まで含めた揚陸艦艇は510隻

潜水艦が160隻

補給艦にミサイル艇やら哨戒艇やらは360隻

 

23:名無しの連合帝国

はい俺素人!

それ多いの少ないの?

 

24:名無しの連合帝国

滅茶苦茶多いから

2025年の日本軍の内訳は増産しまくりの浮遊航空艦艇が80隻で今も20隻が造船中で程近く100隻体制になる

 

第7第8第9世代KMFは15000騎が常備体制。練習騎や予備役機に回されてる第5世代13000騎と合わせれば28000騎

 

戦車は第4第4.5世代戦車約14000両

90式はインドネシアやフィリピンや北ニューギニアに売却中

 

機動戦闘車とかの装甲車が36000両

 

自走砲やら野戦砲やらが24000門

 

作戦機12000機で5世代6世代の戦闘攻撃機が8300機

 

陸海空海兵隊4軍のVTOLが計約6000機

 

これに上のひとの海軍戦力が加わる

 

25:名無しの連合帝国

あんまり知らんが名前も知らない110000tの空母が別次元なのはわかる

 

26:名無しの連合帝国

 >>24

こんなの出されてもわからーん!

ブリタニアはこれの2倍近いんだろ?

少ないように感じるんだがな

 

27:原初の民

戦艦は2隻しか持ってなかったのかよ日本ショボ

 

28:名無しの連合帝国

これにブリタニア軍が合併して2系統ながら同国軍として動くわけですね?

 

29:名無しの連合帝国

両帝国合併をユーロブリタニアが出ていってから発表するあたりに作為を感じる

 

30:名無しの連合帝国

戦艦はねえ、現代ではねえ

 

31:名無しの連合帝国

大軍拡中じゃねーか!

どこ目指してんの?

 

32:名無しの連合帝国日本側

たった2隻しかない戦艦のショボさよ

もっと作れよ。ブリタニア側も作ってんだろ?

 

33:名無しの連合帝国

ユーロブリタニアが抜けた穴埋めに日本もブリタニアも軍拡中だったのが連合帝国になって加速する?

 

34:名無しの連合帝国

試験中の110000t空母が作れる範囲のサイズでは最大らしいな。これ以上図体大きくなると色々問題が出てくるとかなんとか軍事板で見た

 

35:名無しの連合帝国

日本皇室分家筋の枢木家の嫡男枢木スザク卿がナナリー殿下と結婚

華族の嶋田繁太郎元宰相がユーフェミア第三皇女と結婚

華族の山本五十六元国防相がリーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢と結婚

南雲忠一武官がナイトオブラウンズのドロテア・エルンスト卿と結婚

 

風に聞いた話では神楽耶皇女殿下とブリタニア皇室の誰かが結婚するってのも聞いたわ。クロヴィス第三皇子が有力らしいがまさかまさかのオデュッセウス皇帝陛下ではとも言われてる

神楽耶皇女殿下はオデュッセウス陛下のことお髭のおじさまと慕ってるし

 

軍の一体化や文化の根づき具合も成熟した

 

そんでユーロブリタニア勢が欧州に帰還した

 

何万年か何十万年か昔には同一王朝だった日ブが元鞘に戻る条件が整ったんだな

 

36:名無しの連合帝国

大和と武蔵て太平洋戦争時代の戦艦の名前なんだよな

現代の戦艦にまで大和武蔵てどんだけ思い入れが強いんだよ

 

37:名無しの連合帝国

帝国憲法前文に連合帝国憲法が追記されたから読んでみるといいよ

まあ別に大日本=ブリタニア連合帝国になったといってもパスポートが要らなくなって国内旅行の幅が増えた程度にしか思わないな

 

38:名無しの連合帝国

 

ブリタニアが日本の倍だとして連合帝国8軍の戦力はおおよそこうか?

 

総兵力770万~1500万で戦時には更に増える

 

基準排水量100000t超の航空母艦が46隻

 

基準排水量128800tの大和級が2隻。基準排水量100000t級のブリタニア戦艦4隻で計戦艦6隻

 

連合帝国海軍の主力艦艇は約900隻

 

超大型揚陸艦の紀伊級から小型揚陸艦艇まで含めた揚陸艦艇は1510隻

 

潜水艦が480隻

 

補給艦にミサイル艇やら哨戒艇やらは1080隻

 

超斑鳩級、改斑鳩級、斑鳩級、ログレス級、アヴァロン級、カールレオン級の各種浮遊航空艦艇が300隻

 

第7世代以降のKMFは45000騎。予備役の第5世代50000騎と合わせて計95000騎+ブリタニア諸侯軍のKMF

 

戦車は第4第4.5世代戦車約42000両

 

機動戦闘車とかの装甲車が108000両

 

自走砲やら野戦砲やらが72000門

 

作戦機36000機。5世代6世代の戦闘攻撃機が約25000機

 

陸海空海兵隊4軍のVTOLが計約18000機

 

これらが最低ラインの常備戦力で戦時体制下には工場フル稼働で更に増産しまくり

 

39:名無しの連合帝国

よしわかった。ちょっと世界征服でもするか

 

40:名無しの連合帝国

高麗くらいならデコピン一発で終わり

 

41:名無しの連合帝国

中華くらいなら余裕のよっちゃん

 

42:名無しの連合帝国

ユーロピアは灰塵にできちゃう

 

43:名無しの連合帝国

オセアニアは無理なんだよなフレイヤ弾道ミサイル持ってるし

 

44:名無しの連合帝国

早い話が日本=ブリタニア連合帝国ができました。日本もブリタニアも同国です。皇室は二つ存在します。国内旅行の範囲が増えました。パスポート要りません。国力・財力・資源・軍事力がチートに突入しました

 

国家元首は今上帝陛下とオデュッセウス陛下の共同統治体制で一国二制度になりました

 

それだけのこと

 

45:名無しの連合帝国

連合帝国のフレイヤ数は万発あるだろw

 

46:名無しの連合帝国

ユーロブリタニア

オーストリア=ハンガリー二重帝国さん「・・・・・・私の立場は?」

 

南ブリタニア

アルガルヴェ連合帝国さん「私の取り柄がなくなってもーた・・・」

 

47:名無しの連合帝国

大日本=ブリタニア連合帝国さん「いや君らには友好国としての立場はあるし。別に真似してないし」

 

48:原初の民

高麗さん「俺は?」

 

49:名無しの連合帝国

日本=ブリタニア連合帝国さん「あんた中華に切り捨てられた単なるぼっちで連合国家とか関係ないでしょ」

 

50:ハミゴ

ユーロブリタニアさん「欧州系貴族で欧州統合したらなんか日ブも連合国家になっていた。ずっとナカーマだった俺らも連合帝国に入れてよ仲間外れは嫌だよ」

 

51:名無しの連合帝国ブリタニア側

ところで国名が神聖大日本=ブリタニア連合帝国なのはなんで?

神聖ブリタニア=大日本連合帝国でもいいんじゃ?

 

52:原初の民

そもそも人類の起源は高麗半島にある

 

53:名無しの連合帝国

日ブのお得意様で友好関係なユーロブリタニアだけど、日ブは遡れば同じ国に行き着く

でもしかしユーロブリタニアはそうではない

それだけのこと

 

54:名無しの連合帝国ブリタニア側2

 >>50

おまえら昔助けてあげたのにブリタニア大陸征服しようとして北南戦争しかけて来ただろ!

うちの家系は代々欧州系は根っ子のところでは信用するなという家訓があるんだよ!

 

その点日本はブリタニアと同祖に繋がってるし太平洋戦争はやったことあるが、あれは両国の腐敗政治と利害関係の不一致と客船事件が絡んだ不幸な行き違いから始まってる

 

55:名無しの連合帝国ブリタニア側

太平洋戦争時の日本はブリタニアが退かなければ最終手段として航続距離1万数千キロの超重爆撃機富嶽を以てブリタニア本土に片道特別攻撃してブリタニアと刺し違える覚悟でいたらしいね

 

後々判明したが本土四島・千島・神坂に10000万機以上の富嶽が待機していたみたいで、最後の停戦交渉が失敗したらブリタニアを道連れにして総玉砕だった

 

戦費・戦死者・行方不明者も両帝国共に膨大な人数に昇っていた

うちの爺さんなんかは日本とだけは二度と絶対に戦争するなと遺言残してるくらいだから相当だったんだろ

 

56:名無しの連合帝国ブリタニア側2

後々日本はブリタニアを支援したり前皇帝陛下を影に日向に援助してくれたり、南ブリタニアのラプラタ戦争では地球の裏側まで駆け付けて来てくれたりと轡を並べて戦ってきた戦友でもある

欧州解放戦争では一緒にシベリア横断してたし

 

古くは英雄帝クレア陛下を庇護してクレア陛下の支援国になって当時のブリタニアを国家分裂の危機から救ってくれた恩人

5.6事件でもシャルル前陛下を助けるために有志の義勇兵を送り込んでくれた

 

57:フィ

 >>51様

オデュッセウス陛下が「同祖であっても日本の方がブリタニアよりも歴史は古く長い。いわば僕ら超古代文明継承国の中では一番のセンパイだよ。コウハイがセンパイに先んじるのはおかしいんじゃないのかなぁって。いや、深い意味はないんだよ?」と仰っておいででしたわ

 

58:名無しの連合帝国

どこ情報やねんそれw

 

59:名無しの連合帝国ブリタニア側

まるで陛下と話したことがあるような仰っりよう

 

60:名無しの連合帝国ブリタニア側2

適当なこと書き込んだら不敬罪でタイーホだよ>>57

 

61:原初の民

先輩後輩なら高麗が一番の大先輩なんだがなぁ

 

62:名無しの連合帝国日本側

聞いたことない話だがあのオデュッセウス陛下なら笑いながら御前会議でそんなこと仰りそうだから逆にわろえない

 

63:名無しの連合帝国

 >>52

嘘つきの起源は高麗

 

64:神

オデュッセウス陛下のお言葉はまことです!

 

65:フィ

本当です。嘘はついておりません!

 

66:名無しの連合帝国

だったらソースよこせバカ

 

67:名無しの連合帝国

64

自分で神とか名乗るとはw

 

68:フィ

 >>66

ソースは私ですわ!

 

69:亡国待った無し

日本人とブリタニア人て人種には寛容なのにこと移民や仲間となると途端に

日本人→ブリタニア人

ブリタニア人→日本人

しか信用しなくなるからなあ

 

70:名無しの連合帝国ブリタニア側2

欧州系貴族は恩知らず

 

71:名無しの連合帝国日本側

 >>69

民族としては日ブは同じ民族

実はオセアニアもそう

しかしそれ以外は異民族だから

 

日ブが日ブ人以外の移民なんか認めたら国が混乱するだけだ

 

72:名無しの連合帝国

ユーロブリタニアは友好国だが心より信じきれるかどうかで言えば信じきれないのも無理ないよ

北南戦争は誰が起こしたのかを顧みるとねぇ

 

73:名無しの連合帝国

 >>61

はいはい起源起源

 

74:名無しの連合帝国日本側2

……もしもフィと神の言ってる事がほんとならヤバないか?

フィはブリタニア貴族で神は日本華族って事になるぞ?

 

両帝国御前会議の内容や帝や皇帝のお話なんて皇族・華族・貴族、他には国家のお偉いさんくらいしか知らないだろ

 

75:名無しの連合帝国ブリタニア側

……フィと神よ、どうなんよ?

 

76:名無しの連合帝国

いやいやないだろそんなの

こんな落書き掲示板に貴族やら華族やらが書き込むわけないって

 

77:名無しの連合帝国ハミゴ

ないとも言い切れないぞ。匿名掲示板を映し出しているお前らの箱の向こう側には誰がいるのかなんてわからないんだから

 

78:名無しの連合帝国日本側

タイーホ出る?

 

79:フィ

私は貴族ではありません

 

80:神

私は華族ではありませんわ

 

81:原初の民

俺には関係無いね。相手が日本の帝だろーが、ブリタニアの皇帝だろーが、はっきりと悪口を書き込めるわ

 

82:名無しの連合帝国

ハミゴの言うことももっともだが、まあ無いな

貴族や華族や、まして皇族がこんなネットの掃き溜め掲示板に書き込むとは思えんよ

 

83:名無しの連合帝国

フィも神も華族・貴族やないってさ

よかったなおまいら

 

84:名無しの連合帝国

くだらん心配しすぎ、過敏に反応しすぎ

ソースが自分とか言ってる段階で聞く価値無し

 

85:ユーブリロシア帝国軍二等兵

 >>56

一兵卒な俺氏もあれには焦った

主役であるはずのユーロブリタニア軍より牟田口総司令率いる日ブ軍の方が圧倒的なスピードでシベリア攻略していくんだから

結局日ブ軍はウラル越えまで果たして、ヴェランス大公と牟田口司令がモスクワで握手してたんだから恐ろしいわ

下手したら祖国ロシアを日ブに取られていたかもしれんしさ

 

 

 

 



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ちゃんねる伍式【同盟国】神聖ブリタニア帝国の貴族を語ろう1265【ノブレスオブリージュ】

 

ちゃんねる伍式

 

 

 

 

 

 

【同盟国】神聖ブリタニア帝国の貴族を語ろう1265【ノブレスオブリージュ】

 

ここは本スレ【家族的同盟国】神聖ブリタニア帝国を語ろうスレ より分離した分家スレです

ブリタニア帝国の貴族制度や体制等を語りましょう

 

荒らしはスルーが鉄則

 

注意等:ブリタニア国籍の方は書き込みによる不敬罪に御注意を。全て自己責任として発言してください

 

ちゃんねる伍式運営よりの通達

 

現在当スレの該当過去スレは神聖ブリタニア帝国西海岸諸侯ならびに同国五大湖諸侯関係者によるIPアドレス開示請求がなされております

該当者は特定人物のみと指定されているため、スレ住民の皆様には御安心してお使いくださるようお願い致します

 

 

 

 

2:名無しの貴族

ナイトオブ2get

 

3:名無しの貴族

2get

 

4:名無しの貴族

カレン様の書き込みが無くなった

 

5:名無しの貴族

大貴族(笑)はどうなった?

 

6:名無しの貴族

髭氏も貴族だよな

 

7:名無しの貴族

大貴族(笑)は日本に逃亡しておりまする。ブリタニア大使館に通報したれw

 

8:華族のつもり

髭氏は昔から貴族であると仰っていたでおじゃる

 

9:名無しの貴族

 >>4

たぶんね。カレン様はね。第二婦人の実母様と専属の侍女さんに絞られたと思うのね

 

10:名無しの貴族

wikiにシュタットフェルト辺境伯家の項目あるがヴェルガモン家並みにヤバい

大体ヴェルガモン家と同じくらいに考えてりゃ間違いない!

 

11:名無しの華族

 >>8

そんな言葉遣いしてるのは少数派

 

12:名無しの貴族

そりゃなあ大貴族家シュタットフェルトだもん

カレン様の書き込みにママンが反応してもおかしくないさーw

 

13:カレン

呼んだかしら?

 

14:名無しの貴族

シュタットフェルトで調べた

ヴェルガモン、ソレイシィと付き合いが長くてまあ凄いの一言

 

15:名無しの凡人

 >>13

読んでない、おたく誰よ

 

16:名無しの貴族

カレンて・・・

 

17:名無しの華族

カレン・・・?

ふむ、わかったよ、とある妹殿だな?

 

18:名無し無関係

開き直りましたカレン様w

 

19:名無しの貴族

 >>17

二重?

 

20:名無しの貴族

カレンで妹・・・

 

21:名無しの貴族

 >>17

謎はすべて解けた!

 

22:名無しの貴族

カレン・シュタットフェ・・・おおっとカレンさん。分かりやすいねあーた

 

23:カレン

もういいのよもういいの

うちの騎士団に放り込まれて可愛がられたからもう遠慮しない

 

24:名無しの貴族

ああなるへそ、カレン=カレン・シュタットフェルト様ねってそのままやんかw

 

25:名無しの貴族

レン様、シュタットフェルト騎士団はどんな規模っすか?

 

26:名無しの貴族

妹キャラやめるのですかよ・・・

ナ○ト兄はお悲しみですわよ

 

27:カレン

 >>24

フルネームで呼ぶなってのに!

 >>25

wikiで調べてくれない?

書いてるから誰かがね

ま、ヴェルガモン家と同等くらいかな

 

28:カレン

 >>26

あんたらのせいじゃないの!

あとお兄ちゃん関係ないし!

 

29:名無しの平民

おおカレン・シュタットフェルト様・・・じゃなかた

カレン様お帰りなさいませ

騎士団で揉まれたとの事ですが、wiki先生を読むとシュタットフェルト騎士団で最強のナ○ト様に勝ったとか書いてますが?

揉まれたというよりも揉んでやったのでは?

 

30:華族になりたい

カレン殿。貴族たる者言葉遣いには気を付けてでおじゃる

お転婆がすぎまするぞ?

 

31:カレン

 >>29

KMFでの教導や模擬戦で負けたことないわね

昔お世話になった教導官は才能あるって言ってたけど、あるのかしら?

 

32:独身貴族

お兄さんはここに書き込みしてないからなあ。カレンさんのお兄さんは成人してるしシュタット○ェルト騎士団のトップクラスの立場だし

 

33:名無しの貴族

 >>30はデフォじゃないので

今どきこんな華族殆どいないので

 

34:名無しの貴族

匿名の言いたいほうだい・特定ほうだいに巻き込まれたカレンさんの災難よ

 

35:カレン

 >>32

トップは父よ?名目上はね

でも父は机の人で兄は実務の人だから、いざ有事の際には兄が指揮を採る事になるわね

文官と武官の違いというところよ

 

36:名無しの貴族

しっかしカレン様、身バレしたからかもう隠す気もないな

シュタットフェルト家についてはwiki見りゃ分かるからしゃーねーか

 

37:名無しの平民

ナ○ト様ってカリスマ+指揮力+腕で、何気にチートですよね

 

38:名無しの華族

公人にプライベートはないから

 

39:名無しの貴族

 >>34

何事も自己責任。カレン様には悪いが特定できる情報が多すぎた

 

40:名無しの貴族

色々言われてますが別に全答する必要ないよ。カレン氏はカレン氏の思うままに。

ところでシュタットフェルトとしてはロズベルト領を自領として組み込まれた新伯爵についてどうお考えですか?

 

41: 独身貴族

 >>37

wiki見るとそれでも当主は辞退してなさるわ

実母様の子を次期当主として推してる

 

42:名無しの華族

カレン様はどうなのですか?

 

43:名無しの貴族

 >>39

ネットこそ自己責任の極みだからねえ

書き込みするのは結局自分なんだから

 

44:カレン

 >>40

ありがとね

 

新伯爵についてはうちにも挨拶に来られたよ

旧ロズベルト領は自分の領地として皇帝陛下より定められた故に旧ロズベルト領の管轄であった全域と全項目に対する経済制裁の全面的解除を願いたいって

 

うちとしてはリーライナ様・・・というよりヴェルガモン伯爵家への不敬行為を働いたのはフランク・ロズベルト男爵であってペンドラゴンの官僚だった新伯爵じゃないから制裁の解除は折り込み済み

 

ただし、爵位を返上したロズベルト男爵家の復権はこれを認めずの姿勢

 

ロズベルト家の一族による復権も現時点では難しいわね

私個人は別に良いんじゃないかなーと思うんだけど、ヴェルガモン伯爵家とは国で言えば同盟関係にあるし、次期当主のリーライナ様・・・砕けて言えばリーライナさんへの非礼・不敬はちょっとね

それでもフランク・ロズベルト以外に責任追及するつもりはないわ。私自身は一大学生でしかないし、リーライナさんも赦してるらしいからお馬鹿な現、ああ元当主かな? そいつが素直に出頭してくれたらまあ周りも一応の納得はすると思う

ソレイシィ辺境伯家も私達の子にあたる貴族家も同様に右に倣えってね

 

クルシェフスキー侯爵家傘下の西海岸へも新伯爵が上手く調整を図ってるわね

さすがは魑魅魍魎が蠢く中央で長年勤めていた腕利き官僚なだけあるわ

父から聞いた話じゃ引くところは引いて、でも推すべき場所は頑として譲らずだったみたいだから

 

あとこれはまだ決定してない話だけどクルシェフスキー・シュタットフェルト・ソレイシィ・ヴェルガモンに仇討ちの立ち会いをしてほしいと新伯爵から求められてるの

立ち会いの話は他にも申し出られているみたいで男爵家の仇討ちの立ち会い人としては過去最大の家格と人数になるんじゃない?

もちろん仇討ちをしたいと申し出てきてるのはロズベルト男爵家一族で、仇討ち対象はフランク・ロズベルト

なんでもお家を滅亡させたフランクを捨て置けないとか

新伯爵は謂わば代理人ね。豪華な代理人だけどさ

 

 >>42

私も次期当主には弟を推してる。弟は第一婦人である義母の子

私もお兄ちゃんも継承順位は義弟より下になるし、それに私もお兄ちゃんも領地運営に向いてないと思うからさ

兄、妹、義弟、三人で上手くやってくわ

 

45:名無しの平民

シュタットフェルト辺境伯家に栄光あれ!

 

46:名無しの貴族

シュタットフェルト辺境伯家に栄光あれ!

 

47:名無しの貴族

シュタットフェルト辺境伯家に以下同文!

 

48:カレン

やめてってばそういうの!

 

49:名無しの貴族

しかしクルシェフスキー侯爵家と、ヴェルガモン伯爵家と、シュタットフェルト辺境伯家と、ソレイシィ辺境伯家。

いずれも大量に子を擁する大貴族ばかりなのによくもまあ上手く交渉進めたもんだよ新伯爵様は

 

50:名無しの華族

ロズベルトが敵に回した全家と子を含めると億人経済圏じゃないかな

 

51:名無しの貴族

大貴族(笑)捕まえられないの?

 

52:名無しの貴族

一族の仇討ちかよw

 

53:独身貴族

奴は我が国、畏れ多くも帝が治めたる大日本帝国に逃げてきてます

 

54:名無しの貴族

ロズベルト男爵・・・あっとー、もう爵位は喪ったんだったな。仇討ちの立ち会いを求めてるロズベルト一族って誰よカレン氏

 

55:名無しの貴族

 >>50

恐ろしいわw

アイツやっぱり愚かの極みだわ

愚者を極めた職人だわ

 

56:名無し貴族

髭氏~、髭氏も閲覧されてるなら書き込みして~、ヴェルガモン伯爵家の子としての意見を聞きたいっす

 

57:名無しの他人

失墜して爵位を喪った一族が一族を貶めた元男爵に仇討ちか

時代劇みたいですね

 

58:華族になりたい

フランク・ロズベルトには尊きものとしての品位も資格もないでおじゃるな

 

59:名無しの平民

髭子爵様も経済制裁するみたいな感じでしたな

 

60:名無しの貴族

髭子爵はヴェルガモン伯爵家の子で確定がスレ住人の常識になってる件

 

61:カレン

ヴェルガモン家の子で髭子爵ってひょっとしたらスズキ卿かしら?

 

62:名無しの平民

あ・・・

 

63:名無しの華族

あーっ!

 

64:名無しの貴族

またまたやってしまいました我らのカレン様www

 

65:名無しの他人

カレン様ぁ、ちったぁ匿名掲示板の意味を考えましょうぜい

 

66:名無しの貴族

またまた身バレェ・・・今度は他人からの身バレェ

 

67:名無しの無関係

家格が違いすぎるから髭子爵は抗議も出来ぬルネッサーンス!

 

68:カレン

え~っと~、私またまずっちゃった?

テヘ?

 

69:名無しの貴族

ハンドルネームが髭子爵でヴェルガモンの子らしくて口癖がルネッサーンス!だと答え合わせしてるようなもんだしなあ

 

70:名無しの貴族

俺は知ってたよ髭子爵様がスズキ106世子爵だと

 

それとねえカレン様にはテヘとか似合わないから

 

71:名無しの華族

なんでもありになってきた

 

72:カレン

私フルでは言ってないからね?

責任転嫁しないでよ絶対に!

 >>70

うっさい!!

 

73:名無しの貴族

 >>70

おまえなあ、それはいかんだろそれは

予測ができても書き込みしたらあかんよー

 

74:名無しの妹

また身バレしてるねw

 

75:名無しの貴族

髭子爵ってスズキ子爵っていうのな

俺はしらんかたよ?

 

76:名無しの平民

あーあ、なん世とかまで言っちゃった

 

77:名無しの華族

子爵様、見てる?

 

78:名無しの貴族

基本カレン様が悪い

 

79:髭子爵

わ、我輩の個人情報が、

 

80:名無しの他人

カレン様と>>70によるユニゾン暴露ですたですた

 

81:名無しの貴族

子爵様バッドタイミングwww

 

82:名無しの無関係

うわぁ

 

 

83:超姉貴

過去スレを見ると、どのみち髭卿の個人情報は遠からず特定されていた事でしょう。ヴェルガモン家傘下の髭子爵とまで明かされていては時間の問題でした

 

84:名無しの貴族

でもよく考えろみんな

こうなったのは元を辿れば大貴族(笑)に行き着く事を

 

85:名無しの貴族

超姉貴見参w

シューティングやってますか?

 

86:名無しの妹

髭子爵、スズキ・ルイ・106世だよね

 

87:名無しの貴族

ルイ・スズキ・106世の可能性も

 

88:名無しの華族

遠慮がなくなってきた

 

89:名無しの紳士

妹ちゃんハアハア

 

90:名無しの平民

ま、貴族様にプライベートは無いと言っちゃないですが。カレン様も髭子爵様も容易に特定されすぎです

というか妹ちゃん詳しいな

 

91:真・名無しの妹

スズキ子爵と私の兄は髭で被っております

 

92:名無しの他人

妹ちゃんは変態紳士に気を付けて

 

93:超姉貴

 >>85

超兄○の事ですね?

シューティングゲームと私のハンドルネームの繋がりが気になり調べましたが大日本帝国のシューティングゲームでしたね

一応プレイは致しましたよ

 

94:名無しの貴族

 >>91

髭蓄えてる人なんぞ日ブに幾らでもおりまっせ?

日ブ2か国だけで人口12億超はいるってのに

 

95:名無しの貴族

超姉貴は超○貴をプレイしてたのか

 

96:名無しの貴族

超兄○もいいがシューティングゲームならアレ○タシリーズ、グラディ○スシリーズ、ツイ○ビーシリーズ、19シリーズ、ストライ○ーズシリーズ、ガンバ○ドシリーズ、コ○トンシリーズ

 

97:名無しの妹

ガイア○ス、ファラン○ス、ファンタジー○ーンシリーズもいいよね!

お兄ちゃんちでやったことあるよ!

 

98:リーラ

ソニックウ○ングスシリーズもいいですわよね

マオマオさんで全クリア致しましたわ

 

99:真・名無しの妹

ゼビ○ス、ザク○ンシリーズも捨てがたいですわ。ザク○ン3Dには手こずりました

 

100:超兄貴

僕はいま上げられてるゲームは全部プレイしたなあ

みんな面白かったよ

 

クリアできない方が多かったけど楽しめればそれでいいんだよ

 

101:名無しの貴族

パロディ○ス、極上パロディ○ス

 

102:ジョイくん

実況パロディ○ス、セクシーパロディ○ス

 

103:名無しの平民

シューティングゲーム祭りになってるw

 

104:カレン

ほとんどやったことあるわね

 

105:髭子爵

我輩はダライ○スシリーズを推すねえ

 

106:名無しの華族

ポップンツイ○ビー

 

107:名無しの貴族

ビーウィ○グ

てか超兄貴さんとかリーラさんとかいつのまにやらお初の方々が混じってるw

しかも超姉貴てシューティングゲームの権化みたいなハンネw

 

108:名無しのバーテン

おまえら何でもかんでも上げりゃいいってもんじゃねーよw

サラマ○ダ、ネメ○ス

 

109:名無しの貴族

スーパーアレ○タ

ティ可愛いよティ

 

110:華族になりたい

おぬしら何故にシューティングゲームに詳しいのでおじゃるか?

レイフォ○ス、スターフォッ○ス

 

111:名無しの貴族

名無しもコテハンもシューティングやり過ぎwww

 

112:フィ

アクス○イとかはいかがでしょうか?

 

113:名無しの貴族

あなた様方、おまえら、みんなしてマニアックすぎんだよw

 

114:ジョイくん

上上下下左右左右BAスタート!

 

115:名無しの貴族

なんでこんな詳しいの?

 

116:超姉貴

ジョイくんさん3で即死なされたでしょう?

 

117:名無しの貴族

もう貴族関係ないなw

 

118:名無しの平民

ふっふっふっ、貴族様方、平民舐めちゃいけませんよ。これでも19○X地元の点数記録保持者なのでね、フッ

 

119:ジョイくん

 >>116

舐めないでもらいたいものだね。3はLRLRだろう?

 

120:名無しの貴族

シューティングスレだw

 

121:名無しの貴族

ジョイくん、子供みたいなハンネのくせして中身おっさんだな?

グラデ○ウスの隠しコマンドとかいつの時代だよ

 

R-t○pe

 

122:名無しの貴族

ここのスレ民揃ってシューティングマニアだった件www

 

123:名無しの貴族ヴェルガモン領住まい

リーラさんてリーライナ・ヴェルガモン様と似てる名前?

いやハンネだし違いますよね?

 

124:名無しの貴族

もう貴族も平民も関係ないよこの話題ではw

 

 

 

 

125:名無しのバーテン

式神の城とかもあったよな?

俺はあのシリーズの敵キャラだけどよアララ・クランが好きだったわ

式神の城Ⅱ1面のbossなんだけどな

 

とにかく式神の城シリーズにはアララ初めふみ子たんとか大人の色っぽいキャラが多くてやりこんだわ

 

126:名無しの貴族

シューティングって既存ソフトがほぼレアで物によっては超レアでなの知ってた?

 

127:名無しの貴族

式神は俺も好きだったわ。小夜ちゃん

 

128:真・名無しの妹

東方プロジェクトもいいですわ。あの弾幕具合が

 

129:名無しの貴族

のーみそこねこねコンパ○ル系はやりつくした

 

130:名無しのバーテン

 >>128

だったら西方プロジェクトやら五月雨もやったか?

弾幕シューティングではお勧めだぜ

市場に出てればの話だがな

 

131:超兄貴

シューティングではないがロック○ンシリーズも好きだったね。生憎と僕はブルース○罠までしかプレイしてないが

ラストボスのワイリーカプ○ルⅡには手こずったよ

なにせビート召喚の条件を整えていなかったから

 

132:名無しの妹

東方は妹がLOVE寄せてるお兄ちゃんがはまっちゃって、紅魔郷・妖々夢・永夜抄・風神録はやりこんだよ?

 

133:一くん

あまいな君たちはゲームのやり込みが足らないマ○オシリーズをやったかな?

がんばれゴエ○ンをやったかな?

Ⅱをやったかな?

ワイ○イワールド1と2をやったかな?

スーパーチ○イニーズ1、2をやったかな?

くにお○んシリーズをやったかな?

がんばれゴ○モン外伝消えた黄金キセルをやったかな?

ゴエ○ン外伝Ⅱ天下の財宝をやったかな?

 

コンシューマーの祖先はその代表としてファミリーコンピュー○がある

 

セガ○ークⅢやマスターシステムなどもあるが、制覇したのかな?

現在のコンシューマーの祖先を知らずしてテレビゲームを語るなかれだ

そしてゲームウォッチを知らずしてゲームをテレビゲームという遊戯を語るなかれだ!

 

134:名無しの貴族

し、渋い

 

135:名無しの貴族

何歳だよおっさん。ゲームウォッチとかなんだよそれ?!

 

136:リーラ

かっこいいですわ一くんさん・・・

 

137:イニシャルSS

これは一本取られたなあ

PCエン○ン、メガドラ○ブ、スーパーファ○コンはその後の世代だからな

 

138:名無しの貴族

スレにゲームの歴史が詰め込まれている

 

139:名無しのバーテン

ゲームウォッチとかは知らんわ~

 

140:超姉貴

生まれた年代は違いますがMSXとかは存じておりますね

 

141:名無しの貴族

古すぎてわかんね

 

142:真・名無しの妹

わたくしは知っていてスーパーファ○コンが限界です

 

143:フィ

わたくしはプレ○テ・セガサタ○ン・ネオ○オCD・スーパーCDROMR○Mが古さの限界点ですわ

 

144:じゅうに

メガドラ○ブの派生にメガ○Dがありましたね

 

145:名無しの貴族

メガC○とか充分古いですよ、よく知ってますね

 

146:じゅうに

日本に滞在してそれなりになりますので

 

147:名無しの妹

テレビゲームは日本が一番進んでるよねー♪

 

148:超兄貴

僕も暇さえあれば日本のゲームを買い集めてるなあ

 

149:超姉貴

私は主にシューティングですが、脳ミソこねこねコンパ○ルのぷよ○よが好きですね

アレ○タ、電忍アレ○タ、GGア○スタ、といったア○スタシリーズは本当にやり込みました

 

150:名無しの華族

みんな好きだな日本のゲーム

 

151:名無しの貴族

だって面白いもん。誇っていいよ日本のゲームは

 

152:髭子爵

うむ。我輩も日本のゲームに感銘を受けてこう自分自身で性能良きKMFを購入し操縦したいというか

 

153:名無しの貴族

資源と技術とテレビゲームではブリタニアにも負けんよ日本は

 

154:名無しの貴族

スズキ子爵様新しいKMF購入するのでしょうか?

 

155:名無しの他人

新しいとなると7世代以降ですか?

 

156:名無しの貴族

でも前に家宰だか家令だかのひとが反対して買えないと言ってなかったかな?

 

157:名無しの貴族

なにその家宰とかっての

 

158:名無しの華族

当主に代わって貴族の家を取り仕切るみたいな役職

 

159:名無しの他人

 >>157

簡単に言えば家の宰相。当主の次に偉い人。髭子爵の家宰はヤグチくんてひと

 

160:名無しの貴族

ヤグチくん? 日系か

 

161:名無しのバーテン

ヤグチって日本系の名前しかないだろーがよ

 

162:名無しの貴族ブリタニア住まい

おまえらヤグチくんヤグチくん言ってるが、ヤグチさんてブリタニア貴族だぜ

正式にはスズキ子爵家家宰ヤグチ男爵

 

163:名無しの貴族

うそ? なんか下っぱみたいな名前なのにモノホンの貴族かよ?

 

164:名前の平民

髭子爵が気軽に言うのでてっきり平民か騎士侯くらいだと思ってました

 

165:カレン

ヤグチ男爵って歴とした貴族だよ?

血の紋章事件のときもシャルル陛下の側に立って参戦していたし、御先祖は確か北南戦争で功績を打ち立てたとか

個人戦闘力も相当でナイトオブスリー、ナイトオブシックスといったラウンズ相手に互角に渡り合った逸話も残されてるくらいに凄いひとよ?

 

166:名無しの貴族

oh普通にチート級かよ・・・

 

167:名無しの無関係

ラウンズと互角て

 

168:名無しの他人

なんかおかしいよ

 

169:髭子爵

いや実際ヤグチくんは強いのだよ。我輩もラウンズのアールストレイム卿と互角に渡り合えるとはよもや思いもしなかったからねえ。ラウンズの空きポストへの引き抜きの話も出たことはあったのだが自分はスズキ子爵家に仕える身であると固辞して・・・いや、我輩には勿体ないほどの家臣であるよ

 

170:名無しの無関係

でもケチなんですよね

 

171:髭子爵

そうそう、ケチなのだよヤグチくんは

グロースターの一騎くらい購入してくれてもいいのに融通が利かないというか

 

172:カレン

髭子爵、失礼ですけど子爵の領地にグロースターなんて必要ですか?

 

173:名無しの他人

容赦ないカレン様w

 

174:名無しの無関係

必要かどうかなら必要無さそうな気もする。子爵は自分で田舎の木っ端貴族と言っていたし

 

175:名無しの貴族

しかしカレン様のシュタットフェルト家ではグロースターどころかヴィンセントを普通に運用なされてるよwiki見てみ?

 

176:名無しの貴族

まあシュタットフェルト辺境伯家やヴェルガモン伯爵家やソレイシィ辺境伯家は別格だから比較しても

 

177:髭子爵

吾輩、どうしてもグロースターをできればヴィンセントをほしいのだよ

カレン・シュタットフェルト卿、もしもであればの話、お口添えは可能でしょうかな?

 

178:名無しの華族

本気だ、本気だよ子爵

 

179:名無しの貴族

でも家宰の決済降りないとダメっしょ

 

180:カレン

主家であるヴェルガモン伯爵家には話を通されたのですか?

 

181:名無しの貴族

必要?

 

182:名無しの無関係

必要だよ。子が親に内緒で勝手な戦力増強なんてしたら主家への造反行為と見なされる

 

183:名無しの貴族

子供が親父に内緒で物買ったら怒られるだろ。あれと似てる

 

184:名無しの妹

貴族の場合だと親に勝手したら怒られるじゃ済まないけどね

 

185:超姉貴

しかしグロースターなど必要なのですか?

見栄のためなら私としても無駄金をお使いになられることには反対しますが

 

186:超兄貴

KMFも世代を超えた途端に性能も価格も跳ね上がるからねえ。彼のナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキー卿など第9世代機を専用機としておられるけれど、あれ一騎で莫大な予算を注ぎ込まれてるらしいからね。確か倉崎重工の先進技術部が作り出した時代を先取りした機体で、まあ簡潔にはよくわからないけど一騎で戦局を覆す怪物機だとか

あれを操れるのも特別な訓練を重ねたナイトオブトゥエルブモニカ・クルシェフスキー卿ただ一人といったとんでもない機体でね

 

187:真・名無しの妹

使えるものか、使い時はあるのか、様々な角度から検討なさる事をお薦めなさいますわ

 

188:名無しの貴族

姉貴も兄貴も妹も適格な意見だが内情に詳しいなマジ

 

189:名無しの貴族

カレン様が大貴族で髭子爵がヴェルガモン伯爵家傘下の小貴族

では、超兄貴・超姉貴・真・名無しの妹は誰だ!?

あと新顔のリーラ氏とか一くん氏とか平民の勘がびんびん働く

ジョイくんも名無しの妹ちゃんもフィ氏もなんか違う物を感じる

 

190:超兄貴

あはは、口チャックだよ

 

191:超姉貴

個人特定をされたくないだけですよ

 

192:真・名無しの妹

ここは忌憚なくお話をする場所。それでいいではありませんか

 

193:リーラ

つまらないことに拘りすぎますと、つまらないだけですわ

 

194:一くん

誰かわからない。誰もわからないからこそ率直な意見を述べられる

それはそれで貴重だ。無論罵詈雑言などもっての他だがな

 

195:ジョイくん

んー気にしたって意味ないと思うよ

 

196:名無しの妹

妹は妹で兄でも姉でもないんだよ?

それだけかな

 

197:フィ

わたくしも身バレは立場上。日本に住んではおりますがそれ以上は

 

198:名無しの華族

詮索は良くないよ。自分だって身バレは嫌でしょ?

カレン様と子爵様はまた別ね

 

199:カレン

私は身バレしたくなかったのにあんたらが特定に走ったんでしょーが!

 

200:名無しの無関係

自己責任または自業自得ですよカレン様

確定的ヒントをお与えになられた迂闊さを反省しないとまたママンと侍女さんに怒られますって

 

201:名無しの貴族

特定禁止てガイドラインに書くべき?

普通特定行為は禁止って当たり前な話だけとま

 

202:髭子爵

 >>180

話は通したのですがヤグチくんに先手を打たれておりまして・・・

お流れになったのですよ

 

203:名無しの貴族

なんか、かわいそう

 

204:名無しの貴族

いや、みんな言ってるじゃん。世代が上がれば高機能化する。高機能化すれば維持費が高騰する。当たり前だよそんなん

 

205:カレン

 >>202

卿の親であるヴェルガモン伯爵家に手を打たれていたら如何に友好貴族家ではあれシュタットフェルト家がKMFを融通することはできません

家宰のヤグチ男爵を説得する以外にないかと思われますよ

 

206:名無しの貴族

結局やり手の家宰に話が差し戻されるわけか

髭子爵おかわいそうに・・・

 

207:名無しの貴族

いらんもん買うなというヤグチくん男爵の意見も至極まっとうなんだがな

 

208:名無しの華族

ヤグチ男爵とガチバトルするしかありませんな髭子爵殿

 

209:名無しの貴族

ヴァインベルグ卿やアールストレイム卿と互角に渡り合えるヤグチ男爵とガチバトルしたら髭子爵が死んじゃう

 

 



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続き分

砂糖入りですだよ


 

 

 

 

続き分

 

 

 

670:リーラ

皆様朝早くまで元気ですわね・・・

 

671:名無しの平民

あるいはヴェルガモン伯爵家より下賜される形に持っていければ髭子爵様の念願は叶う!

 

672:名無しの無職

 >>670

昨日の新顔さんか

教えてあげよう!

無職は最強なのだよ!

 

673:リーラ

 >>671

ヴェルガモン家よりKMFを下賜することはありませんわね

 

674:名無しの貴族

なんで言い切れるのおたく

 

675:名無しの貴族

そりゃヤグチくんがヴェルガモン家の方に手を回してるからだろ

 

676:名無しの平民

やり手の家宰ヤグチ男爵には勝てない子爵様かわいそう

 

677:リーラ

ええそうそれです、ヤグチ卿がお話を通されておりますので

 

678:名無しの貴族

かわいそうでもこの高い壁を突破しなければグロースターの購入など無理ィ

 

679:一くん

皆、元気だな。俺も元気だが

 

680:名無しの貴族

 >>677

事情を知ってそうな断言の仕方が関係者を思わせるが、その通りなんだよね

子爵様自身がカレン様に仰ってたから

 

681:名無しの無職

昨日の新顔さんまた一人復帰か

 

682:リーラ

 >>679

ええ元気なようですわね、私は疲れておりますが・・・私は、疲れておりますが・・・?

 

683:名無しの貴族

 >>679

一くん氏も無職かな?

 

684:名無しの貴族

 >>680

そうなんだよなー。でもなんのかんのと付き合い長い髭子爵様の希望が叶って・・・・・・ムリか

 

685:一くん

 >>682

そ、そうか、

それはその、なんと、言おうか・・・そのだな

こう、気合いが入りすぎる日も・・・

 

686:名無しの無職

疲れるよな~、俺もだるいもん

目しばしばするし、頭ぼーっとするし

 

687:名無しの貴族

 >>685

なんの話してるん

 

688:名無しの貴族

一くんがイミフ

 

689:名無しの貴族

寝てないと頭混乱して変なこと考える事も

 

690:名無しの平民

リーラ氏が怒りっぽくなってます

 

691:名無しの無職

あー、悪いそろそろ寝るわー、お休みー

 

692:名無しの貴族

疲れたら怒りっぽくなるもんだよ

反面なんにもする気なくなる時もあるが

 

693:名無しの貴族

目が充血して肌カサカサになるしな

 

694:一くん

 >>683

無職かと言われれば無職だが、無職でないと言われれば無職でもない

 

695:リーラ

 >>693

お肌には艶があるのですけれど、疲れが取れないのですわ

 

696:名無しの貴族

 >>694

無職であって無職でない

わけわからん

 

697:名無しの平民

 >>695

なるほど、そういうことですか

 

698:名無しの貴族

なんかわかったのか平民

 

699:名無しの貴族

健康な生活、規則正しい生活してるんでしょ。ネカマじゃないなら女性っぽいし

 

700:名無しの平民

リア充にしかわからないよ

 

701:名無しの貴族

 >>699

俺は不健康だからカッサカサ

頭も痛いし疲れも取れない

 

702:名無しの貴族

そういや平民は既婚者のリア充なんだよなあ

 

703:名無しの貴族

 >>691

誰も言わないから、俺が

おやすみー(^^)//

 

704:名無しの貴族

既婚者だからリア充とも言えないがな

 

705:名無しの貴族

平民氏はリア充のようだけどね

 

706:一くん

 >>695

ま、まあ、そういった日もあるのだろう

 

707:名無しの貴族

そう慌てるな一くん氏。所詮ネット上での話だ。相手の生活気にしても仕方ない

 

「ええ確かにネット上の話ですわね。わたくしもそうだと思いますわ。ネット上ではね」

 

和室に敷かれた布団に半身を隠したままに長い金色の髪を持つ美しい女性リーラ、リーライナ・ヴェルガモンはこちらを見つめて微笑んだ

 

こちらと呼べる距離感もない。正真正銘の零距離

肉体同士が触れ合っている

伝わりくる人肌の温もりが棘のある言葉とは裏腹に安心感を誘う

 

「本当にすまんリーラ。昨夜はその少々元気にすぎたと俺も反省しとるよ」

 

見つめてくる翡翠色の瞳が揺らめき、吸い込まれそうな深さを以てこちらの視線を受け止めている

 

「ふふ、まあいいわ。気だるさはまだ残っているけれどいっくんの腕に包まれたままよく眠れたし、それで赦して差し上げますわ」

 

お互い片手に持つスマホを布団の脇に置く

画面には画面向こうの者たちの発言が707以降も書き込まれている事だろう

 

だがいま、俺の手は腕は

俺の体はスマホよりも、眼前の愛しい女を求めて自然にその腰を引き寄せていた

 

スマホを置いたリーライナの腕もまた俺の体を引き寄せようとこちらの腰に腕を回して力を入れている

 

「ん・・・うっ」

 

引き合う力をそのままに顔を寄せていき、交わされた熱い接吻

 

押しつけ合った唇の粘膜をすりつけあいながら、ただ濃密な接吻を交わし続けて

 

「疲れの残っているところを悪いが今一度リーライナ・ヴェルガモンを求めたいと俺、山本五十六は望む。いいか?」

 

もう一度、我ながら大したものだと思う

しかし、これほどのいい女を前にして求めずにいられようか?

生涯をかけて求め続ける他ないだろう

 

「リーライナ・ヴェルガモンも五十六様を受け入れたいと申し上げておりますわ。まあね、これで求められないなんてそっちの方がありませんので。・・・だけど、今度は優しく、ね?」

 

そして

 

「わかっとる。俺もリーラと優しい時間を送りたいからな」

 

寒い季節の最中にありながら、リーライナを求めずにいられない俺の体は再び熱を上昇させていった

求めに応じてくれた彼女の体温と共に

最終更新:2018年03月25日 14:24

 



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掲示板ネタ

他の方の設定と過去スレ住人の話題とかも取り入れさせていただいたうえでのオリ仕様


 

 

掲示板ネタ

 

 

 

 

647:名無しの平民

あれからとくに動きなくスレが進行してますね

 

648:名無しの貴族

大貴族(笑)の話が何故だかゲームの話になって続いて髭子爵のKMF買うになったからな

その時の人である髭子爵が消えたから話題提供者がいなくなった

時間も時間だしさ

もう朝5時だぞ

 

649:名無しの無職

仕事ない俺の勝ちだ!

 

650:名無しの貴族

なにを威張ってるんだよ就職しろw

 

651:名無しの貴族

無職は失うものさえなければ無敵だからな

 

651:名無しの貴族

やっとわかったぞ。カレン様のおかげで髭子爵の本名と人物像

 

髭子爵=本名はルイ・スズキ・106世

欧州時代にヴェルガモン家の子になっていた模様

 

穏和な性格であまり怒らない人

 

いつも燕尾服にシルクハットでステッキを持っているのが特徴的

 

困った人がいると手をさしのべずにはいられない人

 

少し太り気味で口周りには髭を蓄えている

 

貴族と平民の壁なんて関係ないよと謂わんばかりに気さくな接し方で領民と付き合っている

ついでに本物の独身貴族でもある

 

家臣や領民の目下の悩みはお世継ぎについて。本人には結婚願望があるようだが大貴族でもないからといわゆる貴族的な結婚を拒否して自分で嫁探しをしているらしい

曲がりなりにも子爵家の当主だから対象者は貴族に限られると思うが

 

 

スズキ騎士団の兵力は約500名で予備を入れても精々700前後

領地に兵役はない

 

第4世代KMFグラスゴー改=日本の無頼改と同じ仕様のものを4機所有

他は剣・大砲・迫撃砲・ロケットランチャー・自動小銃・拳銃が主な兵装

 

実はKMF5機導入の予定だったが購入時に髭子爵が指揮官機特別仕様とかいってグラスゴーに擬装した中身サザーランドを発注しようとしたところ直前でヤグチくんにバレて差し止め食らった

その結果怒ったヤグチくんはペナルティとして1機減の4機にしてしまった

ヤグチくんは戦闘のプロだからそれでも充分と考えたんじゃないかな

 

領地はまあとりあえず辺境地にある

領内人口は詳しく分からなかったが10000人以上は確実ってのは分かった

 

追記としてはヤグチ男爵の戦闘力は本物

ラウンズへの引き抜きの話も本当にあったが蹴ってる

 

アールストレイム卿のブログ記事に掲載されていたから興味ある人はご一読ください

 

652:名無しの貴族

よく調べたな。wikiにも載ってないんじゃないの?

 

653:名無しの無職

wiki以外となると領民のブログあたりかね

 

654:名無しの貴族

当たり、領民のブログ

日ブ相互が幼児教育から日本語とブリタニア語の2か国語を公用語として教育に採り入れているおかげでブリタニア語でも普通に読めて楽だったわ

 

655:名無しの無職

無頼改のスペックとグラスゴー改のスペック完全に同じだから分かりやすい

 

656:名無しの貴族

自分で木っ端とか言いながらもKMF持っていたのか

騎士団は予備を入れて約1個大隊で計算したら良さそうだね

 

657:名無しの貴族

髭子爵様、変な小細工するから痛い目に合うんだよ・・・

 

658:名無しの無職

アールストレイム卿の過去ブログに書いていたわ。引き分けた日ってタイトルで

グラスゴー対グラスゴーでやったらしい

 

659:名無しの貴族

強いなヤグチくん

彼の祖先がスズキ子爵家に仕えるようになった経緯をしりたくなってきたわ

 

660:名無しの平民

説明書は私の役割なのに・・・

 

661:名無しの貴族

何百年も昔に日本から欧州に渡って当時のブリタニアで立身出世した家なんだろうな

 

662:名無しの無職

欧州時代にヴェルガモン家の子になっていたってことはだ、ブリタニア北南戦争やら拡大侵略主義政策の時代も、クレア帝時代の戦乱期も生き抜いてきたのか

 

663:名無しの貴族

ブリタニアにとって歴史上最大の戦争となった日ブ太平洋戦争も生き残ったわけだ

 

664:名無しの平民

何気にすごい家ですね。貴族である以上は戦争が起これば戦場に立たないといけない、それを生き抜いて来たのですから

 

665:名無しの貴族

太平洋戦争が続いていたらお家どころか両国とも滅亡してたがな

 

666:名無しの貴族

話を戻すけど子爵の騎士団のKMFは1機分の空きがあるんだよね

それなら指揮官機として子爵の希望叶えられる可能性はまたま残ってるんじゃ

 

667:名無しの無職

太平洋戦争の勝者って実は南太平洋と東南アジア侵攻を開始してたオセアニアなんだぜ

日ブが北から中部・東部太平洋で大海戦と航空戦、島嶼部での陸上戦を繰り返して何にも獲られず終戦を迎えたなか、オセアニア一国だけが領土領海を拡大させた

 

668:名無しの貴族

 >>666

カレン様も仰っておられたが、ヤグチ卿の説得が必要

できるのかな?

 

669:名無しの貴族

 >>667

太平洋戦争があと2年か3年続いていたらオセアニアが天下盗ってたな

最低でも南ブリタニアと東南アジアは持っていかれてたわ

 

 

 

 

さて続きの続き別に甘くもなんともないんで

リアル掲示板の駄弁りと似たようなの

 

 

947:一くん

俺も少々疲れた

 

948:名無しの貴族

どしたの?

朝の運動でもしてきた?

 

949:名無しの平民

最近皇居周りの軽いジョギングとかやってる方もいるらしいですね

 

950:名無しの貴族

俺も運動しなきゃな。でないと溜められ行くこの脂肪の行き先がない

 

951:リーラ

優しい運動に心も体もリフレッシュ

そんな私は勤務の時間ですので失礼致しますわね

 

952:名無しの貴族

運動は必要だと思うが中々こうやろうとするとやる気出ないんだ

 

953:名無しの貴族

 >>951

リーラ氏いってらっさーい

 

954:名無しの平民

 >>951

お気をつけて

 

955:名無しの無職

世間は労働時間ですか

 

956:名無しの貴族

おまえはまだ寝とけって、起きるの早すぎだっての

 

957:一くん

 >>951

気をつけてな

 

958:名無しの貴族

仕事に行ったリーラ氏除いていま書き込みしてるやつの半分は無職だと思うんだ

 

959:名無しの平民

夜仕事してる人もいますよ?

 

960:名無しの無職

そうだぞ夜から仕事してるやつだって

 

961:名無しの貴族

私は夜仕事だわ

 

962:名無しのバーテン

俺も夜。昼のときもあるけどよ

 

963:名無しの貴族

 >>960

だからおまえは無職だろ!宣言してるだろ!カミングアウトしてるだろ!

 

964:名無しの貴族

コテハン常連は大体夕方からが多い

 

965:名無しの貴族

カレン様はアッシュフォード大学から書き込みしてんのかな昼書き込んでるときは

 

966:名無しの貴族

カレン様はあれハンネじゃなく本名だしw

 

967:名無しの平民

大体ここの住人が悪い

 

968:名無しの貴族

カレン様はだから髭子爵を引きずり込んだのだ

身バレ仲間にw

 

969:一くん

俺も疲れたが集まりもあるし出なければな

 

970:名無しの貴族

集まりってオフ会?

 

971:名無しの貴族

なんだろ。集まりって聞いたら老人会を思い浮かべた俺は年取って来たからか?

 

972:名無しの平民

 >>969

なにか知りませんがいってらっしゃい(^^)/

 

973:名無しの貴族

一くんいってらっしゃーい

 

974:名無しの貴族

結局一くん氏はなにして疲れたのかねえ

 

975:名無しの無職

ジョギングだろ

 

976:名無しの貴族

朝の5時頃に目が覚めたのか書き込みして、それから7時過ぎとなると結構な距離走ってるよ

 

977:名無しのバーテン

健康的でいいじゃんか

 

978:名無しの貴族

 >>975

だからおまえは寝なさい

 

979:名無しの貴族

一くん氏健康マニア説

 

980:名無しの貴族

次スレ建てようとしたらなんか駄目だった

 

981:フィ

わたくしが建てましたわ

次スレ

○○○○○○○○○○○○○○

 

982:名無しの貴族

こんな朝早くに・・・フィ氏も無職じゃなかろうな

 

983:名無しの貴族

まだどこの企業も始業時間前だよ

俺も仕事行ってくる

 

984:フィ

いま職場へ向かう車の中から書き込んでおりますの

 

985:名無しのバーテン

今日は仕事休みだからボート行ってくるわ

 

986:名無しの貴族

 >>984

ながらはいかんぞ

 

987:名無しの貴族

俺も仕事だーっ、んじゃまた夜にな皆の衆

 

988:フィ

運転手の方がいらっしゃいますので

 

989:名無しの無職

ハイソだ

 

990:名無しの貴族

 >>985

ショボくれて帰ってくるバーテンの姿が目に浮かぶ

 

991:名無しの平民

フィさんまさかのセレブ?

 

992:名無しのバーテン

 >>990

大丈夫だぜ今日は優秀な参謀を連れていくから

 

993:フィ

いえ別にハイソやセレブ等と意識したことはありません

 

994:カレン

 >>992

そういった「俺は勝てるんだぜー!」とか粋がってる人に限って負けちゃうんだよね

 

995:名無しの平民

 >>992

ほどほどにね

 

996:名無しの貴族

マジセレブなカレン様登場

 

997:名無しの貴族

キャンパスからかな?

 

998:名無しのバーテン

今日の俺は勝つる!

ぜってー勝つる!

最強の参謀は前に競馬で参謀のやつが指定したレース全的させやがったんだぜ!

そんときゃ信用してなかったから買わなかったんだが買っときゃよかったぜクソ!

だから今日はリベンジマッチ!

 

999:名無しの無職

とか寝言をほざいており

といいたいが、それがマジ話なら優秀どこか超人だわ

おまえが良ければリアルでオフ会したいんだが、OKなら俺の捨てアドにメールくれ

これな○○○○○○○

ギャンブル生活とかてきるんなら最強じゃん!

 

1000:名無しの貴族

このスレは1000になりましたので------

 

 



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ちゃんねる伍式【同盟国】神聖ブリタニア帝国の貴族を語ろう1267【ノブレスオブリージュ】



553:二二三:2018/10/10(水) 20:28:42 HOST:KD182251193137.au-net.ne.jp
以下、掲示板SSのちょっとしたネタバレ(覚えてる範囲内)



名無しの貴族・名前の金持ち=所謂匿名掲示板におけるその他大勢の名無しさん

超姉貴=ギネヴィア・ド・ブリタニア

超兄貴=オデュッセウス・ウ・ブリタニア

ジョイ君=V.V.

一くん=山本五十六

リーラ=リーライナ・ヴェルガモン

イニシャルSS=嶋田さん

名無しの紳士=どこかの変質者

華族になりたい=おじゃると喋ってるだけの人

無謀な勇者=どこかの勇者

大貴族=フランク・ロズベルト

海と陸の民=シーランド国王ベーツさん

スレのさすらい人=どこかの人

貴族T=アレクサンダー・T・ヘア伯爵=トゥ!ヘァ!さん

貴族D=ドーマ侯爵=hamさん

フィ=ユーフェミア・リ・ブリタニア

名無しの平民=どこかの既婚者リア充

独身貴族=どこかの独身

名無しの武勲侯=ブリタニアの貴族

名無しの華族=日本の華族?

名無しの他人=どこかの他人

名無しの無関係=どこかの無関係さん

名無しのバーテン=玉城真一郎

名無しの無職=都内に住む無職ニート=本名、北南光太郎=名前の由来は仮面ライダーブラックの南光太郎

髭子爵=ルイ・スズキ106世子爵

カレン=二重の妹=元・二重の妹=カレン・シュタットフェルト

名無しの妹=クララ・ランフランク

真・名無しの妹=マリーベル・メル・ブリタニア

554:二二三:2018/10/10(水) 20:32:56 HOST:KD182251193137.au-net.ne.jp
>>552
すぐ調子に乗る男であり、ダメな男ですからね



 

 

 

ちゃんねる伍式

 

 

 

 

 

 

【同盟国】神聖ブリタニア帝国の貴族を語ろう1267【ノブレスオブリージュ】

 

ここは本スレ【家族的同盟国】神聖ブリタニア帝国を語ろうスレ より分離した分家スレです

ブリタニア帝国の貴族制度や体制等を語りましょう

 

荒らしはスルーが鉄則

 

注意等:ブリタニア国籍の方は書き込みによる不敬罪に御注意を。全て自己責任として発言してください

 

ちゃんねる伍式運営よりの通達

 

当スレは神聖ブリタニア帝国西海岸諸侯ならびに同国五大湖諸侯関係者によるIPアドレス開示請求がなされておりまさしたが当スレにおける捜査につきましては終了いたしました

スレ住民の皆様におかれましてはご協力のほどありがとうございました

 

 

2:名無しの貴族

ん? 捜査終わった?

 

3:名無しの貴族

無事解決したってことかな

 

4:名無しの貴族

ガイドラインをよく読めよ

当スレにおける捜査が終了したのであって解決したとは書いてない

 

5:名無しの貴族

大貴族(笑)はまだ日本にいるだろ亡命するためにw

 

6:名無しの華族

政治亡命になるか。認められるのかね

 

7:名無しの貴族

あんなやつの亡命認めたら日本の恥だぞ

 

8:名無しの平民

さっさと身柄拘束して新領地伯爵に引き渡してあげましょう

 

9:名無しの貴族

でも不敬罪については不問にされてるからなあ。拘束するには相応の理由がいるんだよ

 

10:名無しの他人

いやあの手合は絶対になにかやってる。不正の証拠を見つけたらブリタニア側から新伯爵への引き渡し要請が出されるはず

 

11:名無しの無関係

どうにせよ監視が無くなったのは良いことだ

 

12:名無しの貴族

ロズベルト一族がロズベルト元当主の仇討ち要請して通ればロズベルトがロズベルトに討たれてロズベルトは終わり

なんやわけわかめ

 

13:名無しの平民

やましいことはしてなくても監視されてるのは気分よくないですからね

 

14:カレン

 >>12

昨日シュタットフェルトとソレイシィ家の夜会で詳しい話をすることがあってそこで聞いたけど仇討ちは先代の孫娘がするらしいわ

 

12才の

 

15:名無しの貴族

人の目は気になるもんだ

 

16:名無しの貴族

ホワイ? 12の孫娘?

 

17:名無しの他人

ハァ? 殺されるだろ?!

小学六年生じゃないか!

 

18:名無しの貴族

大貴族(笑)が何歳か知らんが大人だよな

大人と子供じゃ勝負にもならない

 

19:華族になりたい

はぁ、おぬしら知らぬのか? 幼子が

仇討ちを行う場合には助太刀が認められておるのを

 

20:名無しの貴族

天下太平の超長期政権だった足利政権時代にも女子供による敵討ちには助太刀が認められてたよ

 

21:カレン

あー、お株奪われたわね・・・

まあそういうこと

誰が助太刀に入るのかは知らないけど

 

22:髭子爵

丁度よき時に書き込めたようですなルネッサーンス!ハッハッハッ!

 

23:名無しの他人

な、なるほど。それもそうか12才の子供じゃ敵討ちもクソもないからな

アールストレイム卿は小学生かと間違いそうな小柄な体でラウンズだから見た目で判断できないけど

 

24:名無しの貴族

成人VS小学生じゃどうしようもないもんなアールストレイム卿以外

 

25:名無しの貴族

アールストレイム卿ちっちゃいからなあー

 

26:カレン

あんたらバレたら殺されるわよ・・・

 

27:名無しの貴族

ふっ、カレン氏。こやつらはちっちゃい子好きだから大丈夫!

 

28:名無しの紳士

俺たちは変態紳士なのさ

 

29:髭子爵

カレン様。彼の御仁アールストレイム卿は小さな事には拘りませんぞ?

 

30:名無しの貴族

小さいだけに

 

31:名無しの貴族

小さいことは気にすんな

 

32:名無しの平民

そうかなあ? アールストレイム卿は中学生くらいにみえるけどなあ

 

33:名無しの貴族

 >>28

テメーと一緒にすんじゃねー!!

 

34:名無しの貴族

カレン様は大きいよな

シュタットフェルト繋がりならヴェルガモン家のリーライナ様も大きいよな

同じくシュタットフェルト繋がりでもマリーカ様は小さい

そしてラウンズではエニアグラム卿とエルンスト卿が大きいよな

クルシェフスキー卿が大きいよりの普通かな

 

35:名無しの貴族

 >>32

アールストレイム卿の御年令は2019年時で16だったはずだが

まあ一歳違いなんぞわからんもんだが

 

36:カレン

 >>34

私の身長はそんなに大きくないけど?

普通じゃないかしら?

 

37:名無しの無関係

1歳変わるだけで身体的なものが様変わりしたら怖いわ!

 

38:名無しの貴族

カレン様にはわからないことさ

 

39:名無しの貴族

わかっても嬉しい側じゃなかろーか?

 

40:名無しの紳士

自慢できる側ですねカレン様は

でも俺はアールストレイム卿の方が

 

41:髭子爵

……我輩、皆の言う言葉の意味に気がついてしまった

確かにこれは紳士にしかわからんねぇ

 

42:名無しの平民

アールストレイム卿16なんですか

 

43:カレン

え?

身長じゃないの?

244:名無しの貴族

そうかあ、あいつ不正蓄財してたのかあ

 

245:髭子爵

うむ。コツコツと目立たぬように長年かけて公金を横領していたようでねぇ。いま新伯爵殿が証拠固めをして逃れられぬようにと硬い檻を作っておられるようなのだよ

 

246:カレン

ねえ、だからさっきの大きいとか小さいとかなんなのよ

 

247:名無しの平民

貴族の風上にも置けない愚物でありましたか

 

248:名無しの貴族

貴族が法を犯した場合にはかなり厳罰に処されるケースが多い

平民への示しがつかないとしてね

大貴族(笑)は貴族でなくなったとはいえ横領していたのは貴族時代だから貴族として罰せられる

これで一族滅亡の仇討ち名目ができたな

 

249:名無しの貴族

 >>246

しつこいですよカレン様。あなた様は恵まれている持っている者。うだうだ言うのはアーニャ・アールストレイム卿やマリーカ・ソレイシィ卿、一応モニカ・クルシェフスキー卿に対しても悪いことなのだと自覚しなさい!

まったくこれだから持っている人には困るんだ。無自覚なだけにたちが悪い!

 

250:名無しの他人

ロズベルト孫娘の助太刀誰がするのかな

 

251:名無しの無関係

カレン様はねえ、世の中の女性の悩みを知らねばならんのだよ

無知は罪なのだよ

 

252:名無しの貴族

画像掲示板にカレン様の画像がはっつけられていたことあるから俺も知ってるわ

カレン様と比較されるクルシェフスキー卿・ソレイシィ卿・アールストレイム卿がかわいそう・・・

 

253:カレン

え? なによなんなわけ? 私が悪いの?

 

254:名無しの貴族

悪い!

 

255:名無しの無関係

悪いに決まってるでしょーがいい加減にしなさい!

 

256:名無しの他人

これについてはね

 

257:髭子爵

我輩は意見せんよ・・・

 

258:名無しの華族

カレン様悪い。以上

 

259:華族になりたい

カレン殿、仕方ないでおじゃるよ

 

260:カレン

えっと・・・な、なんか、ごめんなさいm(__)m

 

261:名無しの平民

あまりお気になさらず・・・

 

 

 

 

 

ロズベルト関連掲示板ネタの続き

オリ設定もーりまくりーデス!

 

 

695:名無しの紳士

カレン様がいなくなった

 

696:名無しの平民

しかし皆さん遠慮ないですね

シュタットフェルト辺境伯家は以前私がアップしたヴェルガモン伯爵家の勢力と似たような勢力なのですが、つまりカレン様って辺境伯御息女とはいえ一国の姫君と変わらないのに

 

697:名無しの貴族

 >>695

大学生なんだから普通に講義の時間っしょ

 

698:名無しの無関係

大きい小さいに身分差はないからな

 

699:名無しの武勲侯

大きいと小さいの前では階級差など無意味

 

700:名無しの他人

しかしまあその話題はこの辺りで止めとこう

アールストレイム卿なんかブログ大好きネット大好き人間だし察知されたら大変だ

 

701:独身貴族

 >>699

さすが武勲侯。言うことが違う

 

702:スレのさすらい人

ここの住人相手が気づかないからって無茶苦茶だな。ある意味勇者の集まりだわ

 

703:名無しの貴族

 >>700

ナイトオブ○ックス卿「希少価値・・・ステータス・・・」

 

704:無謀な勇者

ナイトオブ○ゥエルブ卿「私は小さくありません」

住人「駐日ブ大使とブ大使補佐官に負けてますよね(笑)同僚の女性騎士二人にも負けてますよね(笑)」

 

705:名無しの貴族

 >>702

伊達に貴族と話してねー!

 

706:名無しの貴族

直で話したことはないがな

 

707:名無しの平民

大貴族(笑)が品位を貶めまくりましたからね。ただあれを華族や貴族の普通と勘違いしたら今度は自分自身があれの二の舞に・・・

 

708:スレのさすらい人

 >>704

その方東京住まいだから気を付けた方が良いですよ?

 

709:名無しの貴族

大貴族(笑)はもう逃げられないな

 

710:名無しの貴族

公金横領が事実なら米内議員も大貴族(笑)を見捨てるだろうね。ましてブリタニア帝国政府から身柄引き渡し要請されたら日本政府も黙ってないから

 

711:名無しの無関係

大貴族(笑)が助かる方法いくつか無いとも言えんがな

 

1ディストピアに逃亡する

2オセアニア圏に逃亡する

3ブリタニア大使館に自主

 

1は崩れ去る砂上の楼閣

2は確実だがその選択は日ブを敵に回すと同義でオセアニア圏内に留まる分には安泰

3は大使館に自主=ブ帝国政府に捕縛して貰うことで仇討ちから逃げられるかもしれない。ただし横領額によっては死刑だし、良くて終身刑で一生壁の中。ブ帝国は平民を大事にするお国柄だから貴族の不正には厳罰を以て応えるんでね

 

712:名無しの華族

引き渡し要請が出たらもう自主も通じない。まあ新伯爵殿に不正を暴かれてる時点で難しいかも知れないが

それにあのコーネリア大使・アッシュフォード総領事、クルシェフスキー武官ら日本在住のブリタニア皇族・貴族の責任者たちが汚職貴族に甘い対処するはずもなし

大貴族(笑)を捕縛して日ブ政府に捕縛の通達を出してから旧ロズベルト領直行になる可能性も微レ存

 

713:名無しの貴族

俺が逃げる立場ならオセアニアに逃げるな。日ブでもオセアニア相手だと下手に手出しできないだろ

ユーロピアは欧州とアフリカ北部をユーロブリタニアが抑えるだろうから、アフリカ南部くらいしか逃げ場ない

アフリカ南部のユーロピアはオセアニアの傀儡政権に成り下がるのは目に見えてるし、プレトリアかヨハネスブルグあたりで一生を送る

 

714:名無しの貴族

ロシアがウラルで東西に割れたらモスクワ大公国とロシアユーロピアが成立する。ロシアに逃げる手も

 

715:名無しの貴族

オセアニアが安全圏となる日が来ようとは思いもしなかったろうね大貴族(笑)様

 

716:名無しの平民

 >>714

日本が参戦すればそれも危ういですよ

逃げるなら赤道以南のアフリカを含めたオセアニア圏でしょう

 

717:名無しの貴族

まなんだかんだで逃亡中に身柄拘束されるわ。日本政府にも話は行ってると俺は見てる

日本から逃げようとしたところで公安や特高に捕まるのがオチ

175:名無しの無職

おはよー

 

176:名無しの貴族

髭子爵様来ないな

 

177:名無しの貴族

ヤツは捕まること決まりで新しい話題を

 

178:名無しの貴族

 >>175

おはよー、よく眠れたかね?

 

179:名無しの他人

 >>176

公務中じゃないか?

 

180:名無しの無職

 >>178

うん寝れた。お日様が眩しいね

 

181:名無しの貴族

無職最強過ぎw

 

182:名無しの平民

おはよー

 

183:名無しの貴族

無職は最強なんだって無いが故に

 

184:名無しの無職

 >>181

最強でもないんだぜ?

パーパマーマの仕送り止まるとあっという間に死んじゃう~♪

だから

 >>182

おはよー(^^)/

ところで捨てアドに何か名無しのバーテンからメール来てるんだが

 

185:名無しの他人

無職は最強にして最弱

 

186:名無しの貴族

 >>184

おまえがメールくれ言ったから律儀にくれたんだろ

それでなんて?

 

187:名無しの貴族

 >>184

メール来たのかよw

ギャンブラーと無職のコンビって悪いイメージしか湧かないw

 

188:名無しの貴族

仕送り無職がギャンブルかよw

 

189:名無しの無職

 >>186

平和島行くから来いよだって

間違えたり行き違いにならないようにって待ち合わせ場所までしっかり指定してきてる

 

この後は事情があって連絡取れないからって自分の年齢に背格好まで詳細に書いてる

参謀はまだ来てないからそこで待ってるって

参謀来ても30分くらいなら待ってるから指定場所に来てくれたら良いってさ

 

とりあえず軍資金3万ほど手に初オフ会行ってくるわ

 

190:名無しの貴族

仕送りした金の使用用途なんて親には分からんからな

 

191:名無しの他人

他人ながらに思う。親御さんは泣いてらっしゃるぞ

 

192:名無しの貴族

オフ会が競艇か

しかも初のオフ会で

 

193:名無しの貴族

バーテンは前からアホ臭が漂っていたが連絡取れなくなるとかそんなやつ信用して大丈夫か?

 

194:名無しの平民

昔から駄目っぽい感はありましたね

何年も前からギャンブル系のスレではよく見かけましたよ

ギャンブル系スレのコテハンで「カジノ戦線」て方がいらっしゃっるんですが、その方から張りかたが悪いと毎回注意されてましたね

 

195:名無しの貴族

無職がアホ+駄目+うざい=バーテンに引きずられたりしないか心配だわ

バーテンからの誘いとか俺なら絶対に行かない

 

196:名無しの貴族

カジノ戦線w

どんだけギャンブル好きアピールなコテハンだよw

 

197:名無しの貴族

カジノ戦線ってアイツか。あのユーロピアのカジノで出禁喰らったとかいう

 

198:名無しの貴族

カジノ戦線はカジノで戦争でもしてんの?

 

199:名無しの平民

 >>196

ギャンブル系スレでしか使ってないらしいです。他のスレではまったく違うハンネだと言ってましたから

 

200:海と陸の民

 >>197

勝ちすぎで出禁になる人まれにいるよ

俺の国にも出禁というか、カジノ目的の入国を禁止された人いるし

 

201:名無しの貴族

 >>199

そりゃギャンブルスレ以外じゃ変だからだろ

 

202:名無しの他人

バーテンはどこでもバーテンか

 

203:名無しの貴族

 >>200

ハンネだけで君の国がどこかわかった

 

204:名無しの貴族

海と陸、シーランドしかねーw

 

205:名無しの貴族

シーランドからの書き込みかあ

めちゃめちゃ遠い国なのにネット通せばすぐ隣に感じるデジャブー

 

206:名無しの貴族

 >>202

言ってることもころころ変わる

馬辞めたとか言った次の日には馬やってる

ギャンブル卒業宣言の次の日には競輪の話してる

 

政治板では政治家になる!

公務員スレでは官僚目指す!

ギャンブルスレではこれで喰っていく!

 

もう人生ぶれぶれぶれまくりw

 

それでも就職はできたようだ

 

207:名無しの貴族

バーテンはバーテンやってるだけ、親の仕送りで生きてる名無しの無職よりも社会的立場は上なのか

 

208:名無しの平民

ギャンブルスレのレスを見ていた感じではバーテンさんも無職歴それなりだったようですが

 

209:名無しの貴族

俺は昔のハンネを知ってる

ヤツはその昔、名無しの事務次官を名乗っていた

 

210:名無しの貴族

きっとこのスレにも他にいるであろうニートよりかはバーテンの方が未だしも上なんだよな

しかしヤツにはそれを感じさせない間抜けさがあるw

 

211:名無しの貴族

 >>209

アイツが事務次官になれるんなら俺は国会議員になれるわwww

 

714:名無しの無職

えー、現在平和島到着。待ち合わせ場所に紫系のジャンパーと青のジーパン、赤いバンダナで髪を逆立てている聞いていた特徴と同じ目付きの悪いヤンキー丸出しのヤツがいて、絡まれたら嫌だな~と思っていると「おまえ名無しの無職?」って話しかけられた

ひょっとしてバーテンさんですかって聞き返したら「おう!」だって

 

715:名無しの貴族

元ヤンか?

 

716:名無しの貴族

輩丸出しなイメージができてしまった

 

717:名無しの無職

それで連絡取れなくなるってのは、参謀呼ぶのにGPS位置情報がバレたら不味い相手がいるからスマホ持ってきてないんだってさ。参謀とも事前の打ち合わせは終えてるみたい

 

718:名無しの貴族

バーテンに対しては紳士的なイメージか、または真逆のヤンキー的なイメージかの二つしかなかった俺には予想できていたぜ

バーテンは後者だとな

 

719:名無しの平民

バレたら不味いって、バーテンの参謀さん何か訳有りなひと?

 

720:名無しの無職

とか書き込んでたら参謀さん来た!

 

721:名無しの貴族

○ヤな自由業だったりしないだろうな

 

722:名無しの無職

ヤバい!メッチャクチャカワイイ!!

 

723:名無しの貴族

俺が名無しの無職だったら参謀が自由業なら即効逃げたるわw

 

724:名無しの貴族

 >>720

どんな人?

 

725:名無しの他人

へ? バーテンの参謀って女か?

 

726:名無しの貴族

 >>722

テンションあがってるとこ悪いが特徴教えろ

 

727:名無しの貴族

はぁ~っ? あのアホ・うざ・駄目で更にだめ押しに輩チックだと判明したバーテンの参謀が女だぁ?

 

728:名無しの平民

バーテンの参謀って女性なのかぁ

 

729:名無しの無職

ちょっとトイレって抜け出してきたっ!

 

個室トイレからで失礼するが、まず女性っていうより女の子だ

掛け値なしにすんごい美少女!

 

服装は白の長袖ブラウスの上に白いフリル付きの黒ワンピースに同色膝丈までのサイハイソックスと黒シューズ

 

腰にはベルトがわりに大きな白リボンを巻いて左腰で結んでる

 

襟元は濃いピンク色の細いリボンを回して胸元で結んでる

 

体つきは小柄でスレンダーながら胸元は膨らんで来つつある途上といったところ。戦闘力で言えば普通より少し下。少なくともネットのアップ画像で見たことがあるシッ○ス卿よりは確実に上だと思う

 

背丈は低くて参謀の頭が俺とバーテンの顎くらいまでしかない

前髪は目の上でぱっつん切り揃えられていて、所謂姫カットにされた髪は薄めのピンク色。髪の長さは膝くらいまで届く長さでさらさらストレートなロングヘア

 

目鼻立ち、容姿は西洋のお人形さんみたいに可愛くて、確実にブリタニア系日本人かもしくはブリタニア人

日本語がネイティブというか普通にぺらぺらな点で欧州系である可能性はほぼゼロと推測

 

長々と語ってしまったが超美少女

美少女度数は最高を99としてレベル90台は余裕でいってる。アイドルの事務所に連れてったら即日デビューしてもおかしくないレベル

バーテンとの釣り合いが取れてなさすぎw

 

で俺氏咄嗟に隠し撮りしてしまった

URL○○○○○○○○○

街角美少女投稿という訳にはいかんから一瞬だけアップしたら消す

肖像権侵害になるんでマジで即効消すからな

 

730:名無しの貴族

……

 

731:名無しの貴族

……

 

732:名無しの無関係

……

 

733:名無しの貴族

………ざっけんなぁぁぁっ!!

 

734:名無しの貴族

え? なに? なんだこの美少女?!

舐めてんのかあのクソバーテン!!

 

735:名無しの他人

エエエエエエエーーーーーーっっ!!

なんだよこれェッッ!?

あいつリア充だったのかァァっ?!

 

736:独身貴族

畏れ多い事だが同年代だと考えられるシッ○ス卿と参謀の美少女レベルが同等だったとは

 

737:名無しの貴族

冗談は氏んでからにしろ!!

 

738:名無しの貴族

リア充にも程があるだろふざけんなっっっ

 

739:名無しの無職

はいおしまい削除した

ちょっとヒヤヒヤものだた

でもここの住人でもあるバーテンには書き込み内容からバレるから理由話すわ

 

740:名無しの貴族

リア充氏すべし

 

741:名無しの無関係

街角美少女って話はよくあるがこんな超高レベルのがいるとは想定外すぐる・・・

 

742:名無しの貴族

 >>739

輩っぽいんだったら殴られる事も考えられるから気を付けろよ

 

 



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「えっとね、だからこの2番は駄目。絶対とは言えないけれど過去のデータと喫近の戦績からして」

注意喚起、原作で玉城嫌いか興味ないなーな方は読み飛ばしたほうがいいかも。


 

 

 

「えっとね、だからこの2番は駄目。絶対とは言えないけれど過去のデータと喫近の戦績からして」

 

俺が戻ると参謀ちゃんが話してるところだった。どうやら本命のレースに的を絞るような話だ

 

しかし可愛いな・・・なんていうか、こう・・・・・・可愛いな

既知の単語が少なすぎで上手く言えないが可愛すぎだ

 

ずっと眺めていたい

そんな気にさせられる

 

思えば女の子と手すら握った事のない俺がこんな美少女と接近遭遇なんて無茶だ

あーヤバいよ、心臓バクバクいってる

 

「ん? どうしたの? クーーー参謀の顔に何か付いてる?」

 

たいして意識もしてないでやってるんだろう首を傾げる仕草

 

揺れる髪、ぱちくりする瞳

身長差から見上げられる格好の俺はその可愛さにまともな反応も返せない

 

「なんもついてねーよ。おまえがぬぼーっとしてやがっから無職が変に思ったんだよなぁまったくもう。な?無職ヨォ? まったくもう」

 

会ったばかりなのにフレンドリーに、悪く取れば馴れ馴れしく俺の肩を叩いてくるバーテン

 

「むうっ! クーーー参謀はぬぼっとしてないよ? それはどっちかって言うとおにーーーバーテンさんの役割じゃん! てゆーかひとの口癖を真似するなーっまったくもう!」

 

参謀ちゃんがむくれながら文句をつけている。バーテンとはどんな関係なんだろうか?

口癖を知ってる間柄という事はやっぱあれかなカレカノ的な・・・く、バーテン。ただの無職の俺と差が開きすぎだろっ

 

 

「ねえ無職さん、ほんとにどうしたの?」

 

「え? ああなんでもないんだ、なんでも、ははっ」

 

なんて邪気のない、無邪気な仕草と態度なんだろう

 

「お手洗い長かったけど、大丈夫?」

 

くっ、これは反則だぞ

こんな顔を見せられたら自分のしたことがどれくらい身勝手なことかを嫌にも思い知らされてしまう

 

「おまえに待たされた時間に比べりゃあ屁でもねーよ、まったくもう」

 

「もう、真似するなぁー!!」

 

からかうバーテンの胸に、からかわれた参謀ちゃんの拳がぽかぽか叩きつけられている

 

微笑ましい、でも妬ましい

 

思わず小さな声で「爆発しろ」と言ってしまったが、二人には聴こえてないようだ

 

「・・・・・・あ、あの、さ」

 

そんな二人を見ているとなんだか罪悪感がどんどん募ってきた

俺は了解もなく参謀ちゃんの画像を撮って、数十秒とはいえネット上にアップしてしまった

好奇心とか色々ある。でも超えちゃいけない一線の一つでもある事くらいわかる

 

プライバシーの侵害に肖像権の侵害

 

俺がやったのはそういう行為だ

 

「ご、ごめん俺、さっき参謀さんの画像ネットにアップした」

 

喉元過ぎれば感じないというのはたぶん本当。でも実際はその喉は火傷している。火傷したままこの二人と向き合いたくない。と、そう考えたときには無意識に出てしまっていた

 

「ああ? このちみっ子の画像をか?」

 

「あ、ああ、その参謀さんがあまりにも可愛くて、だから、つい、・・・ごめんなさい」

 

頭を下げる俺。自然に下がった俺の頭をでもグッと押し上げたのは小柄な体躯の参謀ちゃん・・・さん、だった

彼女はニコッと笑うと言った

 

「いいよ別に参謀としては。きちんと消してくれたんでしょその画像も」

 

消したか?

 

ゾクッ

 

な、なんだ、いまの?

 

笑顔の中に一瞬だけ感じたいまのは、怖い?恐ろしい?

 

どうしてそんなの感じるんだ

こんなかわいい子に・・・

 

でもそれは気のせいだったとしか思えないほどの一瞬で、瞬きした刹那には彼女の瞳はまた人好きのする無邪気なものへと変貌を遂げていた

 

「あ、ああ、・・・うん、アップして即消しに近いくらい、1分も上げてなかった・・・」

 

一瞬だけ感じた恐怖みたいな感じはもうない。いまはただ美少女がひとり微笑んでいるだけだ

ふっと鼻に入るなんとも言葉にしがたい芳香は参謀さんの髪か体からか

 

「じゃあいいよ。女の子はみんな可愛いって言われたら嬉しいし、可愛いからってアップしたんだよね? だったら特に言うことはないかなぁ」

 

こんな近い距離で異性と向き合うなんてなかったから体が硬直してしまう

 

「はーいはいはい見詰めあわねーよーになーまったくもう。俺らの目的はお見合いじゃねーだろーまったくもう」

 

動かなかった体を動かしたのはこの場にいるもうひとり、バーテンだった

何かおかしな、変わった単語をくっつけている

まったくもうって、あんたみたいな厳つい男が使うと変だぞ

 

「つーかこのちんまいのはそんぐれーの事いちいち気にするたまじゃねーよ。だから無職よォ、おまえも気にすんなって」

 

「バーテン・・・、でも俺はおまえの彼女をーーー」

 

言いかけたときだった

バーテンが間髪入れずに否定してきた

 

「ちょい待てやオイ。なんでこのちみっ子参謀がいつの間にか俺の彼女になってんだコラ」

 

「え、だってそんな親しそうにーーー」

 

と言いかけてまた話を遮られた

今度は参謀さんだった

 

「許すっ! 許すよ参謀はたったいまぜーんぶ許しました! なにがあっても全部圧倒的に絶対的なる無条件で許しましたー!! ほらわかる人にはわかるんだってわかっちゃったでしょ? ハッハッハッ私たちは結ばれる運命にあるのだよーっ!!」

 

花がほころぶっていうのか?

向日葵が一瞬にして咲き誇るように満面な笑顔を浮かべて捲し立てる参謀さんは、言葉の勢いそのままでバーテンに抱き着いていた

 

「ちっげぇだろオイ! 放せ離れろおまえがんな事してきやがるから勘違いするヤツが増えるんだろーが!」

 

でも抱き着かれたバーテンは彼女の頭を押さえて必死になって引き剥がそうとしている

 

えっ? ・・・? なにこれ?

これはどういうこと?

この二人は彼氏彼女じゃないのか?

 

「ほらほらぁ、まぁたそんな照れ隠ししちゃってさー。さっきだって参謀のこと無職さんから引き離そうとして声上げて嫉妬してた癖にぃ~、素直じゃないんだからまったくもう」

 

「うっせーんだよちみっ子てめぇの目と耳は腐ってやがんのかああ?! 昔っから俺の好みはボンキュボンだっつーてるだろーが! おまえにゃ圧倒的に足りてねんだよ肉がー! 言いたいことがあるならよー、せめてその慎ましやかな胸とケツをなんとかしてからにしろよ!」

 

「はーいはいはいもう照れ隠ししなくってもいいんだよ、慈愛の微笑みぃ」

 

「慈愛の微笑みとか口で言うなっつーかは・な・れ・ろ・つってんだろが!」

 

「は・な・さ・な・い・つってんだろがぁ~!」

 

正面からバーテンに抱き着いたまま押しっこをしている参謀さん

意地でも離れないといった執念を感じる

ああ、俺がバーテンの立場なら抱き締め返す・・・できないな・・・ハァ

 

「参謀は知ってるもん、参謀が引っ付いたとき急に慌て出したりしてること。そうやって肉足りてなーいとかなんとか誤魔化しちゃっても参謀は身体測定でしっかり膨らんで来てるの自分でわかってるんだからね。ここ最近はとくに成長早いもーんだ。それに胸とお尻がなんとかなったらOKであるって、わっかりにくい遠回しな告白でいいんだよね? うんわかった告白受け入れた! はいバーテンさんと参謀は恋人同士にチェックをかけましたぁ~と。だから運命に身を委ねなさーい、チェックメイトは秒読みだよー♪」

 

「んなっ?! 胸とか幾らあろーがなぁっ! 結局色気がなきゃ意味ねんだよ! テメーで勝手に話を進めてんな!」

 

ひょっとしなくても痴話喧嘩?

俺邪魔な子?

いらない子?

 

それにしてはバーテンのヤツも必死だし、参謀さんも食い下がってるし

ああクソ、交際経験とか無いからこういうのよくわっかんねーよ!!

 

ただ、ただメチャメチャムカつく!!

 

バーテンのヤツこんな可愛い子に引っ付かれてんのに引き剥がそうとしたり嫌そうにしてたり

 

こいつ何様なんだよ?!

持ってるもんのヨユーかよ?!

ふざけんなよ!!

 

沸々グツグツ煮えてきたこれを劣等感というのか。プルプル手が震えだした頃に参謀さんはやっとこバーテンから離れた

 

「と、まあ愛の抱擁はこのくらいにしてそろそろかなぁ」

 

すごい切り替え方だ。愛の抱擁なんてよく口にできるなぁ

 

でもなにか不穏だった

 

笑顔は笑顔のままなんだけど参謀さんの笑顔はさっきと変わってしまってる

 

なんか、こう、黒い・・・?

 

あらあら? また、しーーーバーテン様にご迷惑をおかけしているんですねクーーー参謀さん?

 

「へ?」

 

底冷えのする寒さを含む声が、バーテンたちと向き合う側と反対側、俺の背後から響いてきた

不意に渇いたのどを潤そうとして無意識にごくりと唾を飲み込みながらも、俺は背後を振り替える

 

するとそこには

なんか、怪しさ2万%なひとが立っていた

 

「よお来たか。これで揃ったな」

 

「お邪魔虫は要りませんが、ニッコリ」

 

「ニッコリだってさ、アハハ口で言うなんてばっかみたーい。アハハほんと笑っちゃうなぁ。でもマーーー参謀その二さんは実際口よりも先に手が動く脳筋だもんね~。あそっかぁ、参謀その二さんは口でニッコリなんて言わないお友達さんよりもーっと脳筋だから頭動かす仕事なんてできない体力だけのモノホンのお・バ・カ・さーん、だもんね~。ごめんね~気が回らなくてぇ♪」

 

「おまえも似たようなこと抜かしてやがったろーが」

 

「ちっちっち、参謀ちゃんは過去を振り返るよーな女ではないのだよワトソンくん」

 

喧嘩は喧嘩でも痴話喧嘩みたいなものじゃなくて、本気の喧嘩が始まりそうな空気にしてしまったのは新しくやってきたこれまた女性だった。怪しいという前置きを改めてつけさせていただくが

 

服装は白のロングスカートタイプのワンピース。服の腕やスカート部の裾には二本の黒いラインが入っていて、肩から胸元には同色のラインが一本

 

ワンピースの上背だけはなんとなくセーラー服のように見えなくもない

 

腕・スカートの裾と胸元を閉めるボタン周りには参謀さんの衣服と同じでフリルが付いていて、黒いハイソックスに黒靴と、着ている服は二人ともに高級感溢れる仕様だ

 

前髪はセンターで分け、全体は左側で一つに束ねた腰の下くらいまでの長さをした薄紅色?ベージュ色?っぽいサイドテール

 

背丈は参謀さんと違ってそれなりにある。俺やバーテンと変わらないか若干低いかくらいだ

 

ただ口から鼻までを全部隠す白マスクに目と眉を覆い隠す度の入りすぎた真っ黒黒なサングラスが、この女性を近寄りがたい・・・正直に言おう絶対に近づきたくない不振人物と化させている

 

「な、なあ、バーテン。このひとは?」

 

「わり、念のために呼んどいた第二参謀」

 

第二参謀?!

そんなの聞いてないぞおいなに勝手に人数増やしてんだよ!

 

「参謀ちゃん的には参謀その二なオマケなんて要らないっていうのにおーーーバーテンさんが連れてくるって言うから、絶対に要らないっていうのにまったくもう。勝手に脱け出してきちゃってきっと騒ぎになってるしホーント困ったちゃ~ん」

 

「まあなあ、でもちょうどいいときに日本来たってこいつからメールあったんで折角だしいいんじゃねって?」

 

「まあっ、流石はしーーーバーテン様です。それに引き換え参謀さんと来ましたら、ひとの事を要らない要らないと相も変わらず失礼極まりない方ね。叔父様はどんな教育をなさっているのかしら?」

 

「あら、ごめんあそばせ。私貴女に対しては何故か丁寧な応対ができませんの。無駄にすぎる駄肉があるぶんノロマでございますでしょうし、頭は脳筋できっとバーテンさんの"邪魔"にしかならないかと、むしろ邪魔だから帰ってくれないかなぁ?」

 

「これはこれは手厳しいこと。ですが私第一参謀様のような貧しい御方のお気持ちはわかりませんの。肩凝りの原因となる大きな大きな"駄肉"がございますので。それと脱け出し行為は我が一族の専売特許みたいなものですわ。貴女こそ高校生の分際で学院を早退してこのような場所へ来ていると叔父様に知られたらそれこそしーーーバーテン様のご迷惑となりますので早くご帰宅なさいな」

 

「貴女に言われたくないなぁアハハハハハハハハ」

 

「こちらの方こそ貴女にだけは言われたくないわウフフフフフフフフ」

 

これは喧嘩腰なんて生易しいものじゃないぞ

 

知ってる仲みたいだけど、仲は仲でも犬猿の仲じゃないか!

駄肉とか貧しいとかはたぶんスレ住人たちが話し合っていたあの大きい小さいの話だろう

 

仮称サングラスさん俺氏命名

が脱け出してきたら騒ぎになるのはなんでだろうか?

 

「だ、大丈夫かよバーテン、今にもグーパンでの話し合いに入りそうなんだけど・・・てか、さっき騒ぎになるとか言ってなかったか?」

 

疑問形式じゃない。確かに言ってたぞ騒ぎになるって

理由はわからないけどサングラスさんがここにいるのは何かしらの問題があることなのではなかろうか?

 

「まぁ、大丈夫だろ」

 

しかしてサングラスさんがいることにあっけらかんとしたバーテンは心底どうでもいいとでも言うように話した

 

「グラサンの第二参謀は警官だし実際には頭回るから。この俺よりもずっと頭がいいんだぜ?」

 

おまえがアホだってことは掲示板の連中みんな知ってるよ

 

「警官だって? サングラスのひとが?」

 

「ああそうだぜ。あいつ結構デカイ会社の社長令嬢なんだけど親父の会社をテロから守るためとかでな」

 

バーテンのヤツはそこまで話すと参謀さんと言い争っているサングラスの女性の頭に手を載せてくしゃくしゃ撫で始めた

 

「きゃっ?! な、何ですか!?」

 

企業テロから親を守るために警察官か、立派だなぁーってバーテンおまえなにやってんのいきなり!

 

「こいつとはなぁ、こいつが小さい頃に初めて会ったんだがよ、そんときゃこいつ親父が警官だって嘘ついてやがったんだよ。なあ?」

 

「は、はい」

 

くしゃくしゃ撫で回されるサングラスの女性のサイドテールが揺れている

バーテンが頭を撫でているからだ

 

ああ、女いない歴年齢の俺でもわかる。マスクとサングラスの下はいまナデポ状態だろたぶん

 

つーか今時ナデポなんかあんのかよ!

 

リアルでナデポとかあっていいのかよ!

 

「はいはい邪魔ーっ、お邪魔虫は害虫だから駆除だよーっ!」

 

するといい雰囲気、俺には最悪な雰囲気を参謀さんがサングラスさんにダイブして押し退けてぶち壊してくれた

 

「はい」

 

と俺が思ったのは気のせいだったらしい

 

「バーテンさんは参謀ちゃんの頭に手を置いてくださーい」

 

「は? あ、ああ、なんか知らねーが、ほれ、置いた」

 

本当に置いた

置きやがったよぽんって

平然と、一切の疑問なく起きやがりましたよコノヤロウ

 

「はいでは、そのまま撫で撫でしてください。すると参謀ちゃんのヤル気が∞にアップアップしまーす!」

 

で撫でた。言われるがまま撫でやがってるよバーテン!

またリアルナデポが始まっちゃったよ?

なんだこの空気と超疎外感・・・

 

「あーまだ寒い季節ですのに勘違いした害虫には困るりますわーっ!」

 

ドンっ

 

今度はサングラスの女性が参謀さんを突き飛ばした

 

「もう、やっぱ邪魔ぁ! 帰ってよ要らないから!」

 

「邪魔をなさるのは貴女でしょう!」

 

そして始まるのはまた喧嘩で、巡ってやがるのはバーテンヤロウ

フーテンのトラさんみたく自分が惚れる側でなく、惚れられてる側っておまえなんなんだクソ

男はつら○よが俺がつらいよに変わってるじゃねーか!

浅草で厄払いして草団子食いなさいって天啓か何かかコレ?

 

「ああーもう止めろっつーんだよ!」

 

そんな内心イラつきまくりな俺への止めを刺しやがったのは、誰あろう二人の間へ割って入ったクソバーテンだった

 

「おまえらなー、もう小坊じゃねえんだからいい加減にしろよったく、はあ」

 

やれやれ、とバーテンは、両手を一つずつ参謀さんとサングラスの女性の頭に置いてくしゃくしゃ

 

俺なにしに来たわけ?

 

俺なに?

 

俺って何なんだよ?!

 

変な空気の中心にいる腹立つバーテンが二人の頭を一通り撫で終わる頃、顔こそ合わせないままだけど喧嘩腰ではなくなった参謀さんと、サングラスさんこと第二参謀さんは、落ち着いて先を進む俺とバーテンの後ろを着いてきた

 

ああそうだよ。今日はこのために来たんじゃねーか。

なんでわけわからん痴話喧嘩にバーテン巡っての女の火花なんぞ見せられにゃいかんのだ

 

で、そんなこんなでやっとこ入場

 

 

 

 

「まずこのレースですが2番はありません。戦績からーーー」

 

「参謀的には4番と5番かなぁ?」

 

「参謀その二は4番です。しーーーバーテン様と無職様はいかがですか?」

 

「あ、俺ボートは初めてなんでよくわからなくって参謀さんお二人にお任せで」

 

競馬で全的中させたという参謀さんがいると聞いたからバーテンの誘いに乗って態々平和島まで来たのだ

競艇初めての俺に予想なんざできるわきゃない

 

しかし、その全的させたらしい参謀その一さんはやはりすごかった。持ってる鞄見たがあの鞄は超名門校アッシュフォード学園のものだ

 

ブリタニアでは確かコルチェスターと並ぶ皇族・貴族御用達の幼等部から大学院までのエスカレーター学校で、日本で言えば帝大とかと同等級の超エリート校だ

 

参謀さんはそこの高等部学生だった

三流大学中退の無職である俺なんかとは頭のデキが違う

この分じゃサングラスさんも似たような学院に通ってたのかも知れんな

 

アッシュフォード

 

コルチェスター

 

この2校の名前を思い浮かべた俺は、常駐してるスレの関係からまさかブリタニアの貴族じゃなかろうかと疑った

だが参謀さんはサングラスさんの企業の創業者一族の分家筋にあたるひとらしく、現在の社長の兄の娘だとのことで貴族ではないという話だった

 

サングラスさんはサングラスさんで現社長の娘にして警察官。やはり貴族ではない

 

二人ともにその辺りはあまり聞かれたくないらしく答えづらそうにしていた

ただ企業名を聞いて俺はビビった。大日本帝国の皇族が経営しているスメラギコンツェルンとか、日本の最先端技術に重工業を牛耳る倉崎重工とかと同類の、環太平洋経済圏でしのぎ合う巨大多国籍企業の一つだったのだ

 

なんでそんなとこのお嬢様二人とこんな単なるバーテンが知り合いなんだよ!

 

もう突っ込みどころが満載で何処をどう突っ込めばいいのかさえわからない

 

でバーテンは本職バーテンらしい。そして予想通りバーテンはアホだった

 

「6番、確実だぜ」

 

配当金が一番いいだけで最低人気の最下位常連選手を選ぼうとしたのだ

 

馬鹿である。あえて言おう馬鹿であると!

 

大貴族(笑)とはまたタイプの異なる馬鹿である

 

コイツの予想だけは絶対あてにならん

あてにしたら間違いなく死ぬる

 

「あの、6番は難しいかと」

 

サングラスさんが口ごもる

はっきり言ってやってください。馬鹿は考えるなと

 

「レースなんて絶対じゃないからわからないけど、配当金が高いのは滅多に来ないから高いんだよ?」

 

参謀さんもくちごもる

貴女もはっきり言ってやってください。馬鹿は考えるだけ無駄なんだと

 

ともかく俺は俺で参謀さんとサングラスさんを信じて買ってみよう

 

二人はもう何レースか先を予想しているようでさっきまでの険悪さは何処へやら

見事な連係プレーで確実な勝ちを拾っていった

 

「よし、次こそは大穴狙いだな!」

 

「「駄目だよ(です)!!」」

 

馬鹿だコイツほんと

 

「はあ、バーテンおまえなーーー」

 

906:名無しの貴族

だーかーらー、言ってるじゃんか、日本にいる現段階ではもうヤツに逃げ場なしだって

 

907:名無しの貴族

米内議員は無関係宣言したんだろ?

じゃあアイツいまどこよ?

 

908:超姉貴

ロズベルト元男爵の公金横領の事実を確認次第ブリタニア帝国政府は日本政府へフランク・ロズベルトの引き渡し要請を正式に行う方針です

 

909:名無しの無関係

日本中逃げ回ってるか、米内議員に見捨てられて呆然自失か

 

910:名無しの貴族

大グリンダやブリタニア政府が腐敗貴族の粛清に動いているのは知ってる

 

911:名無しの他人

おい、いまのニュース見たかおまえら

都内在住のバーテンが新宿で刺されたって

 

912:名無しの貴族

 >>908

超姉貴はなんでんなこと知ってるの

 

913:名無しの華族

 >>911

バーテンが刺されたのか

なんか嫌だなバーテンの話を昼にしてた矢先に

 

914:名無しの貴族

まあ関係無いだろ。バーの店員なんか東京中に腐るほどいるし

 

915:名無しの貴族

バーテンといや遅いなオフでボートやってる無職とバーテンの奴ら。もうレース終わってるだろ

 

916:名無しの平民

バーとかだと酔った勢いの喧嘩で刺した刺されたはありますからね

いま見ましたが意識不明の重症らしいです。痛ましい。回復を願うばかりです

 

917:名無しの貴族

バーテンらが勝ったのか負けたのかが知りたい

幾ら勝ったのか幾ら負けたのかが知りたい

 

918:華族になりたい

 >>915

勝ったら勝ったで祝勝会にでも行っているのでおじゃろう

負けたら負けたで残念会を。バーテンだけにでおじゃる

 

919:名無しの無職

ヤバい、ヤバいよ

 

920:名無しの貴族

超姉貴貴族の可能性あり?

 

921:名無しの貴族

超姉貴は貴族じゃないとか言ってなかった?

 

922:名無しの他人

 >>919

おお!帰ってきたかね無職よ!

で、ヤバいとは勝まくりでヤバいのか全財産いかれてヤバいのか?

 

923:カレン

 >>919

勝った?負けた?

あのバーテンが自信満々そうだっただけにちょっと気になるわ

 

924:名無しの貴族

カレン様は金持ちなんだから別に気にせんでも大丈夫っしょw

 

925:名無しの無職

勝った俺は18万ほどでバーテンは43万

って、そんな話はどうでもいいんだ

バーテンが刺された!

 

926:名無しの貴族

超姉貴は何者か?

バーテンと無職は勝ったのか?

 

927:名無しの貴族

負けた方に100円

 

928:名無しの無関係

 >>925

ニュースの話だろつまらん

てか幾らなんでも不謹慎だぞ

 

929:名無しの貴族

名無しのバーテンと、刺されたバーテンで驚かせようとしたってそうはいかんざき!

 

930:名無しの貴族

で、それはいいから勝った分は例の口座に

 

931:名無しの無職

違うマジで刺されたんだって!

勝った帰りに参謀さんたちと別れたあとに新宿で飲んでたんだよ祝勝会のつもりで!

その帰りに歩いてたときにブリタニア系かブリタニア人かの変なおっさんがブツブツ言いながらふらふら近寄ってきてバーテンとぶつかって財布スられて、アイツすぐ気づいておっさん追いかけたんだが、曲がり角曲がったとこで血ィどばどば流して倒れてて

 

さっきのおっさんに刺されたって

 

それで警察と救急呼んで、俺事情話して、いま警察署から出てきたところ

アイツは病院に運ばれたって、俺もうわけわからんくて

 

932:名無しの貴族

 >>929

維神崎議員って昔いたなぁ

 

933:名無しの平民

 >>930

何処の口座なんですかそれw

 

934:名無しの貴族

 >>931

マジ?

 

935:名無しの貴族

ちょっと待てやマジか

 

936:カレン

ち、ちょっと冗談じゃないの?!

 

937:名無しの華族

おまえらまず落ち着け!

それたぶん今ニュースでやってるやつだ

 

938:超姉貴

 >>931氏が仰っておりますお話しの真偽の程は?

 

939:名無しの平民

えっと、新宿でバーテンが刺されて意識不明の重症とだけ出てますね

 

940:名無しの無職

あいつとさぁ、飲んでるときあいつ、

 

『この金の内手元に残すのは5万だけで残りは借金返済に回すんだ。そしたら今月の給料は丸々手元に残るわけでさ、俺そいつで以てあいつらとさ、それと小柄な方のやつの親父にプレゼント買ってやるんだ。へへっ、柄にもねーだろ? 博打しまくりの駄目人間な俺が汗水垂らして稼いだ金の方で人様にプレゼントとか。でもなぁ、あいつらってさ頭いいし、家柄もいいし、世界が俺を裏切っても自分は最後まで味方だーっなんてバカ言うような良いやつらだし

俺みたく脳みそ2ビットの三流高卒で、クソみてーにいい加減で、調子乗りヤローに付き合ってくれてる勿体無いなんて言葉じゃ片付けらんねーような良いダチなんだよ。普段ゼッテー口にしねーんだがテキトー人生の俺の一生の宝物みたいなやつらなんだわ。ホントさ、なんで俺みてーなアホと遊んでくれるんだろうな? 俺みてーなアホヤローはよ、世間様の嫌われもんで良いのに、あいつらもおっさんもみんな良くしてくれんだ。見捨てりゃいいのになぁこんなクソは』

『バーテンおまえ・・・そうかおまえ、自分のことわかってたのか』

『おいおいー戦友、そこはイイヤツだったんだなとか意外だなとか掛けてくれてもいいじゃんよー』

 

なんて話して何がいいかなー、喜んでくれっかなー? て、嬉しそうに相談してくるんだよ・・・

 

それなのに、なのになんでそんな矢先に刺されてんだよ! わけわかんねーよ!

なあ、あいつ、あいつ死んじゃうのか?!

俺が止めてたら、間に合ってたら刺されなかったのかっ!?

どうしよ、どうしよ俺っ、あの場にいたのにっ

 

941:名無しの他人

 >>938

恐らくは間違いないかと思います

 

942:名無しの無関係

 >>940

とにかく落ち着けって。おまえが悪いんじゃないんだから

最悪おまえまで刺されてたかも知れんしこれはどうしようもなかった

刺されたバーテンも意識不明だがまだ重傷と出てる。より命の危険性が高い重体じゃない。助かる可能性がまだ充分ある

 

 

 




ここまで。バーテンの癖に生意気な状態ですがバイオレンス食らってるんで許してやってください


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あいつとさぁ、飲んでるときあいつ、

 

 

940:名無しの無職

あいつとさぁ、飲んでるときあいつ、

 

『この金の内手元に残すのは5万だけで残りは借金返済に回すんだ。そしたら今月の給料は丸々手元に残るわけでさ、俺そいつで以てあいつらとさ、それと小柄な方のやつの親父にプレゼント買ってやるんだ。へへっ、柄にもねーだろ? 博打しまくりの駄目人間な俺が汗水垂らして稼いだ金の方で人様にプレゼントとか。でもなぁ、あいつらってさ頭いいし、家柄もいいし、世界が俺を裏切っても自分は最後まで味方だーっなんてバカ言うような良いやつらだし

俺みたく脳みそ2ビットの三流高卒で、クソみてーにいい加減で、調子乗りヤローに付き合ってくれてる勿体無いなんて言葉じゃ片付けらんねーような良いダチなんだよ。普段ゼッテー口にしねーんだがテキトー人生の俺の一生の宝物みたいなやつらなんだわ。ホントさ、なんで俺みてーなアホと遊んでくれるんだろうな? 俺みてーなアホヤローはよ、世間様の嫌われもんで良いのに、あいつらもおっさんもみんな良くしてくれんだ。見捨てりゃいいのになぁこんなクソは』

 

『バーテンおまえ・・・そうかおまえ、自分のことわかってたのか』

 

『おいおいー戦友、そこはイイヤツだったんだなとか意外だなとか掛けてくれてもいいじゃんよー』

 

なんて話して何がいいかなー、喜んでくれっかなー? て、嬉しそうに相談してくるんだよ・・・

 

それなのに、なのになんでそんな矢先に刺されてんだよ! わけわかんねーよ!

なあ、あいつ、あいつ死んじゃうのか?!

 

俺が止めてたら、間に合ってたら刺されなかったのかっ!?

どうしよ、どうしよ俺っ、あの場にいたのにっ

 

941:名無しの他人

 >>938

恐らくは間違いないかと思います

 

942:名無しの無関係

 >>940

とにかく落ち着けって。おまえが悪いんじゃないんだから

 

最悪おまえまで刺されてたかも知れんしこれはどうしようもなかった

 

刺されたバーテンも意識不明だがまだ重傷と出てる。より命の危険性が高い重体じゃない。助かる可能性がまだ充分ある

 

画面の向こう。広がり続ける混乱

名無しも、コテハンも、常連も、ROM専も関係ない

 

一つの事件を巡ってのやり取りがただ流れていく

 

無駄なのにな

 

画面の向こうで何を言おうと何一つとしてそれらが解決に繋がることはない

だって、コイツらは誰もバーテンのこと知らないんだからさ

 

所詮インターネットでなされるだけのやり取り

 

所詮インターネットだけでの、名前も顔も出さない軽薄でくだらない繋がり

 

カレン様や子爵様ら貴族様でも例外じゃない

 

直接会って、顔をつき合わせて会話を交わしてなどいないうわべだけの話し合い

その人となりを知らない者同士の空虚な会話でしかないんだから

 

動揺を隠せずにキーボードを打ち続けていた俺は、それをどこか冷めた目で見つめていた

 

 

「ああーちっきしょう・・・痛ッテェ・・・、はぁはぁ、ちくしょ、くっそ痛ってぇ、わ・・・」

 

「バーテンおいっ、バーテンしっかりしろっ!」

 

「ア、ハハ、さっきの、おっさんに、やられたわ、おお、スッゲ痛ェ・・・刺されたとこ、熱くなって、こんな、痛ぇん、だな」

 

赤い液体が流れ出る

 

どこまでも流れ出続けていく

 

止まることなくバーテンの腹から流れていく

 

「喋んな! いま警察と救急に連絡したから!」

 

「・・・・・・」

 

事実だけを伝えるとバーテンは押し黙る

しかしまた口を開き話始めた

 

「あ、あ、さんきゅ、な? はは・・・でもなぁ、たぶんコレ・・・駄目だわ・・・、ハハッ・・・俺みてぇな、駄目ヤローはやっぱ、あれよ、駄目なんだよ・・・」

 

「そ、そんなことねーって! 大丈夫だって! 救急だって直ぐに来るし警察だって!」

 

生を諦め始めているバーテン

顔が徐々に青白くなってきて、血の気が引いている事を嫌でも見せつけられて、それでも俺は励まし続けた

 

だが

 

でも

 

俺も、俺にだって本当は分かってる

バーテンの傷はかなり深い

駄目かもしれないって

 

でもだからって、気力が砕けたらそう、僅かばかりにあるもしかしたら生きられたかも知れない生命力だって、風の揺らぎに消えてしまうように思えたんだ

 

だから、俺は俺なりに話続けた

 

気力を失わないよう

まだ確かについているバーテンの灯火を消さないように

 

しかし、そんな努力も虚しく、彼は彼で諦めている

諦めきっていた

 

生きることそのものを

 

どうしてか。それはーーー無駄だからなんだと彼は言った

 

「あー、ムリ、ムリだって・・・見ろ、よ、コレ・・・ぜーん、ぜん、とまんね・・・破裂した水道管・・・、に見える血道管・・・なん、ちって、さ」

 

止まらない赤い液体。流れ出る赤い液体が止まることはない

こんな時でも馬鹿な冗談を言うバーテンは力なく笑いながら自嘲していた

 

すごい量だ。夥しい量だ。リアルなグロい事に耐性の無い俺には嘔吐感が込み上げてくるようなら量だった。それだけ大量の赤い液体がバーテンの体を中心に広がっている

 

嘔吐感に耐えながら傷口を手で押さえてもまるで無駄だった

 

俺の手も赤い液体に濡れていくだけでけして止まらない液体は流れ続ける

 

その様は、まるでひねった蛇口からあふれでる水にさらされた手のようだ

 

それが赤いか透明かな違いがあるだけ

 

鉄錆びの臭いがあるか、臭いがないかな違いがある。ただそれだけ

 

やがてそんな俺を見ていたバーテンは、夜空に浮かぶ月を見上げながら、こんな場には似つかわしくない自分語りな話を始めた

 

「な、あ。ちょっと、だけ。話、付き合って、くんね?」

 

ちょっと

 

きっと言葉の通りのちょっと

見ればわかる。疑う必要さえないちょっとなのだと

 

「バー、テン」

 

了承も何もしてない俺を余所にしてバーテンは勝手に話始めた

 

「おれ、さあ、こんなじゃん? 昔っからで、さ。嫌われ者、だったんだ・・・、調子乗りで、馬鹿なことばっか・・・やってよ・・・んで、いっつも、嫌われてやがんの・・・、へへ、いくら、馬鹿でも、わかんだぜ? 他人の、悪意・・・うざい、うざい、同級生からも、うざい・・・ 好きんなった子からも、気持ち悪い・・・そんな、風にさぁ、思われてるの・・・、そんなか、で、 一番キツかったの、は・・・ はは、あれだわ・・・ 雨ん中で、捨てられてた、子犬拾って、そんで好きな子から、軽蔑されたやつ・・・、もち、下心、あったぜ・・・

いいとこ、見せたい、ってさ・・・でも、なんで、軽蔑されんだろ・・・? ずっと、引っ掛かってて、恋もできなくなって、おまえも、知ってる、だろ? いまだって、俺が、嫌われてんの・・・」

 

昔語り。何てことのないありふれた昔語り

 

出てくるのは駄目な自分

 

語られるのは馬鹿な自分

 

蔑む言葉が向けられる相手は嫌われ者

うざがられてばかりな自分自身

 

自分は嫌われている

 

誰からも好かれてなんかない

 

昔もいまも、変わらずに

 

「死ぬ前って、意外と、冷静に・・・なれる、もんなんだな・・・すげ、な・・・俺、なんかでも、自分、みつめ、なおせ、る・・・、でさ、俺、やっぱ、クズヤロー、だわ・・・色んな、こと、思い出して、ろくなこと、やってねー・・・はは、そりゃ、誰からも、嫌われる、つーの、ばっかじゃ、ね、なあ?」

 

嫌われて当たり前

 

嫌われることばかりしてきたから

 

冷静だからこそ、見つめることができる自分

 

その自分を、バーテンは語る

 

馬鹿で、いい加減で、調子に乗っては嫌われている

 

それが俺なんだと

 

「そんな、そんなことねーよ! ほ、ほら、今日一緒にいたあの女の子と女性はさ、おまえのことーーー」

 

だから俺は否定した。あの二人の女性からは嫌われてない!

 

あんなに好かれてるって

 

でもバーテンは違うのだと話す

 

「ばっか、あいつら、超エリート様、なんだぜ? 超、金持ち、の・・・お嬢ども、なんだぜ?・・・は、哀れみで、アホな俺によ、こんな、クソみてぇ、貧乏人で、いい加減で、むけい、かく、な、ギャンブル、やろ、に、付き合ってくれてる、だけだ、っての・・・ だいたい、ちっこい、ほうには、すきだ、すきだ、って、よく、言われてっけど、よ、あいつにゃ、100以上、借金してて、さ・・・ほんとに、好かれてるわけ、ねーじゃんか、

ちっこい、ほうの・・・親父にゃ、散々っぱら、迷惑、かけてるし、グラサンの、ほうにはよ、夢、諦めた、おれなんか、心ん、なかじゃ、軽蔑、されてる、っての・・・

夢、叶えよ、ってよ、グラサンのと、むかし、むかしに、語り、あってた・・・、けっ、きょく、叶えたの、あいつ、だけで、おれ・・・あき、あきらめ、て、だから、わかん、だよ、それに、あいつら、の・・・周りの、やつらだっ、て・・・、おれ、の、こと、嫌って、るし、あいつ、だけじゃ、なくて、あいつ、の、家族だって、おれのこと、軽蔑、してんし、る、るる、からは、めに、みえ、て・・・ な、なちゃん、からも、うわべ、は優しい、けどよ、ほんと、はどうか・・・ お、やじ、にも、おふく、ろ、にも、愛想、つかされ・・・・・・いき、る、かち、ねーじゃん、な?」

 

自分を見つめることでたくさんの事に気づく

 

自分の行いで自分自身がどれだけ嫌われてきたのか

 

俺の知らない彼の交友関係は、事実、そうなのかも知れない

 

だって、俺には、何もわかんないんだからさ

 

俺は今日はじめて顔を会わせたばかりなんだから

 

「わかった!わかったから!もういいから!だから!」

 

喋んな!

 

でも、バーテンは喋るのをやめない

 

黙ると時間が勿体無いと言って

 

何の時間かなんて聞くまでもない

 

終わりの・・・時間だ

 

「おれ、さ、信じて、ない、みてぇ、なんだ、わ・・・、むかし、好きだった、あの子に、けー、べつ、されてから、ずっと、ひとのこと、だれも・・・、人間、不信、ってのかな? ・・・家族も、おっさん、も、おっさんの、家族も、ま、りー、も、くら、ら、も、だれ、も・・・、信じて、なかった、みてぇ、いまに、なって、わかる、んだ、なんと、なく・・・みな、みとか、ダ、チ、だって、ぜって、おれ、みたい、な、の、まとも、に、あいて、して、ね、だろ、な・・・」

 

本当は誰も信じていない

 

信じられるひとなんていない

 

嫌われてるから

 

軽蔑されてるから

 

うざったい、やなやつだから

 

昼間の二人だって、心の奥底では自分のことなんて嫌ってる

 

断言する彼の言葉を否定する材料が俺にはない

 

掲示板では鬱陶しがられていた

 

他スレでは嫌われていた

 

あいつうざい、あいつくんなよ

 

アホの相手なんかしてらんね

 

バーテンへの悪口には事欠かなかったように思う

 

リアルでだってアッシュフォードなんてエリート校の生徒に無理を言って競艇に来させた

 

なにか訳ありそうなサングラスの女性に無理を言って来させていた

 

全部普通なら嫌がられることばかりだから

 

嫌がられてうざがられてばかりな事実がそこにはあったから

 

だから俺には否定することができなかったんだ

 

「けど、今日、さ・・・ちょっと、楽しかったんだ・・・ おれ、みたいな、あった、ことねー、やつの、連絡に・・・ おまえ、来て、くれて・・・ はなした、こと、ねーのに・・・ りあるで、でも、おまえ、きて、くれた、じゃん?

おれ、ちょっと、うれし・・・しんよう、して、くれた、のか、なって? お、まえは、へへ、なんか、うれし、むかし、みたい、に、うれし、おれ・・・」

 

他の誰よりも、俺みたいな名前も知らないやつが来たことを、嬉しいとバーテンは言う

口から、赤い液体を流しながら

涙を流しながら、顔に苦痛の色を浮かべながらも

青白い顔になっていく中にあっても

俺なんかと、単なる無職の親からの仕送

りで生きてるクズなんかと遊べて嬉しいと、楽しいと、そう心からの笑みを浮かべている

 

「さ、いご、に、であ、えて、のんだ、の、おま、えで、よかっ、た、わ、なんか、それだけ、で、満足、しちまって、る・・・、おれ、なんかの、誘いで、来て、くれて、あんがと、な・・・」

 

「そ、それ、は・・・それは、・・・だ、ダチ、だから。だから俺来たんだよ」

 

なにが、なにかまダチだよ、嘘つけよクズヤロー!

 

俺だってこいつのこと信用なんてしてなかったくせに!

 

馬鹿にしていただけのくせに!

 

バーテンのこと、なんにもしらないくせに!

 

俺は、嘘つきだ!

 

サイテーな嘘つきヤローだ!

 

匿名の掲示板で目に見えない場所から誹謗中傷ばかりしていた

 

文句ばかり付けていた

 

人が嫌がることばかりしていた

 

不満だらけを書きなぐっていた

 

書かなくても良いような相手の感情を傷つけることばかり書いていた

 

心の中だけに留め置けば良いようなことを態々書き込みして相手を嫌な気持ちにさせてきた

 

ただの糞でクズなゴミ人間じゃねーか!

 

でも

 

それでも

 

俺も、いまきっと

嬉しいと、感じてる

 

画面越しの付き合いがリアルな付き合いになって

また遊ぼうって約束して

友達のいない俺なんかの初めての友達だって、言ってくれて、友達だって思ってくれてるんだって

 

「お、おれ、も・・・うれし、かったよ。楽しかったよ! 友達いなくって、おまえが、バーテンが初めての友達で・・・、嫌だよこんなの! せっかく友達になれたのに何でおまえいなくなっちまうんだよ!」

 

初めての友達。まだ友達というには早すぎるだろう友達

でも、次に遊ぼうって約束してた

これからは本当の友達になれるかも知れないのに

 

「わり、駄目男、は、やなヤローは、やっぱし、約束の、ひと、つ、守れねー、みたい、だわ・・・なあ、無職・・・」

 

 

 

 

 

こんなクズにだけはならないでくれよな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一言を最後にバーテンの意識は無くなった

 



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それからはよく覚えてない

 

 

530: 名無しさん :2018/01/26(金) 03:41:13 ・

それからはよく覚えてない

パトカーが来て、救急車が来て、俺は事情聴取されて、ほぼ白だってそのまま帰されて

 

ふらふら戻ってきた自宅でまたいつものようにパソコンと向かい合っていた

 

相変わらず掲示板では騒ぎが続いている

俺はその文字だけで羅列された喧騒を見ながらそっとキーボードから手を離した

 

もう、なんか、書き込みする気にもなれないや

あんなに好きな掲示板なのに

みんながバーテンを心配しているのに

すべてが嘘っぱちな言葉の羅列に思えて

だから俺はひとり、静かにパソコンの電源を落としていた

 

「ああ、綺麗だな、月」

 

窓から見える晴天の夜空には、変わらず月が浮かんでいた。黄色にも白にも見えるその月はただありのままの姿で俺を、世界を見下ろしている

 

ふと、俺にはその月があいつの笑顔に見えた

 

今日会ったあの名前も知らないあいつの

 

どこまでも変わらない、リアルなあいつの笑顔に

 

"好きになった子のために頑張った。俺の初めてにして最強の頑張りはたぶんあのときだったんだろな"

 

頑張った・・・か。

あはは、あいつも昔は恋愛してたんだな

玉砕して人間不信を招いちゃったみたいだけどさ

 

"残りの借金は生命保険で一括返済可能だぜ。受取人は子供みてーなおっさん。だから安心して逝けるってもんだ"

 

あいつも考えていたんだな。なんにも考えてないようで、万が一があれば返済できるように

 

でもさ、俺、もっとおまえと話したかったな

馬鹿やったり、旅行してみたり、いっぱいいっぱい遊んでみたかった

 

「遊んでみたかったんだ・・・」

 

無意識に呟いた俺の言葉は、答えの帰ってこない月明かりの虚空へと消えていった

 

 

ピンポン

 

 

しばらくの間虚空に浮かぶ月から目を離してぼーっとしながらテレビを着けてニュースを眺めていた俺の家にインターフォンの音がなり響いた

 

時間はもう深夜を迎えてる。12の数字は短い針にも置き去りにされているそんな時間に誰が訪ねてきたのか?

 

ふらふら、ふらふら

 

酔ってはいたけどしっかりしている意識に足腰はしかし千鳥足のまま玄関まで体を運んでいく

 

施錠していた鍵を開ける

 

相手が誰なのかを確認もしないで

 

混乱しているからか

呆けているからか

迂闊にすぎる開錠を俺は行っていた

 

その行いはやはりというか、そういった応答となって跳ね返ってきた

 

一瞬。きっと表現するならそんな陳腐な言葉が似合いそうな目にも止まらない速さで俺の首筋に冷たい刃が当てられていた

 

綺麗な、豪奢な装飾の施されているナイフ

ナイフじゃないかな? ナイフよりも刃渡りのある短剣だった

 

短剣の持ち主はひどく冷静で、でもひどく激昂しているようにも見える

 

「答えなさいッ! お兄様に危害を加えたのはッ・・・お兄様を刺したのは貴方なのか否かを答えなさいッ!」

 

月明かりに照らされて煌めく薄紅色をした、腰まで届くだろう、頭の左に束ねられたサイドテールの長い髪

高い声音には品があり、聞いたことのある声

 

そしていまはマスクもサングラスもしてないその顔を俺は見たことがある

 

「違うよ俺じゃない・・・なんで、なんで友達の俺がバーテンを刺さなきゃいけないんだよふざけんな!!」

 

なんでこんな冷静になって答えられるんだろう

首筋に短剣を押し当てられながらなんで押し付けてくる相手に怒鳴れるんだろう

相手が昼間に会ったあのサングラスさんだからか

髪型も髪の毛の色も背丈も体格も、サングラスさんと同じ女性からは射すような視線を向けられているのにちっとも怖くない

それともサングラスさんが実は・・・テレビやニュースで何度も見たことあるブリタニアの皇女様だったから、感覚が追い付かなくて麻痺しているんだろうか

 

「やめなさい! やりすぎよマリー! その人が犯人じゃないのは日本の特高から既に確認済みの事なのよ!」

 

サングラスさんのその後ろからは、背中くらいまである濃色の金髪をツインテールにして束ねた、サングラスさん、マリーさんと同じ年頃の女性がマリーさんを停めに入ってきた

 

「VV様や辻卿からも軽挙妄動は慎むようにと言及されていたでしょう!」

 

叫ぶような声はだけど周囲を騒がせないように配慮された静かさ

きっとこのマリーさんや俺の精神が不安定なことも察してるんだと思う

いつもなら震え上がってる俺がいまのマリーさんを前にして冷静でいられるのがそもそもおかしいんだから

 

「でも、でも・・・、オルドリ、ン、お、お兄様、シンお兄様をっ、こ、ころ、殺しっ」

 

「死んでない! マリーっ!死んでないわマリー! 貴女の大切なあの男はまだ死んだ訳じゃない! あの腹の立つけどしぶとそうな悪運だけは強い男がそんな簡単に死ぬわけないじゃない!! それなのにマリーがそんなに取り乱してどうするの! しっかりしなさい! しっかりしなさいマリーベル・メル・ブリタニア!!」

 

言っちゃったよ? フルネーム

 

マリーベル・メル・ブリタニア

 

知ってはいたけどさ、勿論彼女を停めるこの女性のこともね

 

オルドリン・ジヴォン

 

"技術"の日本と並び"力"と称されて世界から恐れられている日本の同盟相手神聖ブリタニア帝国

その帝国の頂点に君臨する皇帝の息女のひとり、第88皇女マリーベル・メル・ブリタニアに仕えるナイトオブナイツにして大グリンダ騎士団の筆頭騎士だ

 

俺だって伊達に貴族スレに常駐してない。どっちも知ってるのが常識な大物だった

 

「俺・・・ほんとにやってない・・・。ブリタニア系の変なおっさんがバーテンを刺したんだ。大切なもの壊す大切なもの壊す大切なもの壊す大切なものぶっ壊すってぶつぶつ言ってて、それ以上は知らない・・・警察にも話したことだよ、それで何もなく帰された。サングラスさん、いえマリーさん、あんただって知ってるはずだろ。こんな親のすねかじりなクズの話なんか」

 

ああやっぱし俺も精神がおかしくなってる

同盟国ブリタニアの皇女様やナイトオブナイツを目の前にしてタメ口聞いて物怖じしないなんて、絶対にあり得ないことなのに

知らないと俺は言った。でも知ってることもある。このお姫様も、ナイトオブナイツも、バーテンから信用されてないってこと

 

馬鹿だなホントバカヤローだよバーテン

おまえ、ほら見てみろよ。マリーベル皇女の、マリーさんの目を

目を真っ赤にして頬を張らしながら涙ポロポロポロポロ溢してんじゃん

 

なにが信用されてないだよ

 

どこが好かれてないんだよ

 

嫌いな男を思って泣く女性が世界のどこにいるんだよ馬鹿ヤロー

 

「ごめんなさいね。マリー、いま凄く動揺しているから」

 

ナイトオブナイツが謝る

 

「べつに、いいです。俺だって頭ん中ぐちゃぐちゃで無茶苦茶だから」

 

無礼も非礼もやってしまってる

 

「に、いさま、がお亡くなりに、なったら、わた、くし・・・」

 

「マリー大丈夫。ね? 馬鹿は死んだりしないの。死んだら、もしも死んだらマリーと一緒にあの世へ攻め込んで首に縄を引っ掛けてでも連れ戻してやるわ。地獄の閻魔様には悪いけれどあの馬鹿男は全部マリーの物だってね」

 

過激だなブリタニアの騎士は

淑女然としたモニカ・クルシェフスキー駐在官なんかと偉い違いだ

 

 

「張り付いて正解でしたね」

 

黒塗りセダンの中。丸い眼鏡をかけた中年過ぎの男が、隣に座る足首まで届く薄い金の長髪を持つ少年に話しかけていた

 

「まったくだ。予想はしていたけれどまさかホントに襲撃紛いの事をするなんてね。あの子もことあの馬鹿が絡むと激情しやすいから。しかしマサノブ。君が出てきたという事はこの事件は」

 

丸眼鏡、マサノブと呼ばれた男性は冷静その物な表情を崩さず答えた

 

「ええ、犯人は既にこちらの手で拘束しておりますよ嚮主VVさん。そしてその犯人には強力な思考誘導が施されているようであの青年の供述通りに同じ言葉を繰り返しています。大切なものを壊す大切なものを壊すと」

 

マサノブに嚮主VVと呼ばれた少年は大切なものを壊す?と訪ね返した

 

「ええ大切なものを壊すと。殺人"未遂"犯の取り調べを行っている特高の対ギアス犯罪課の話ではどうも特定条件が重なった時にあるキーワードを見る。または聞くなりすると必ず発動する遅延タイプだと。直接発動も可能なようですが、これはどちらかと言えば貴方の分野に該当する筈ですが、殺人未遂犯フランク・ロズベルト元ブリタニア男爵の日本渡航までの形跡を調査願えますか?」

 

「わかった。すぐに動かせてもらうよ。それと引き続き犯人の行方は不明で公表してもらえるよう圧力をかけておいてくれたら助かる。全部が確定しても"真犯人"については伏せておきたいしね。じゃないとマリーベルが暴走しかねない」

 

「クララさんもでは?」

 

「僕直属のクララなら抑えられるけどマリーベルは無理だ。シャルルが親馬鹿振りを発揮して大グリンダをブリタニア正規軍とは別枠扱いにしてしまったせいでマリーベル個人の私兵軍化してる。戦力も旗艦のアヴァロン級浮遊航空艦艇1隻にカールレオン級浮遊航空艦艇15隻。陸上騎士団として10個騎士団12万人。航空母艦1。強襲揚陸艦1。巡洋艦4。駆逐艦4。潜水艦2。補給艦艇・輸送艦艇各1。作戦機230からなる馬鹿みたいな戦力になってるんだよ。それも絶対命令権を持つのもマリーベルだけだ。もしあの子を暴走させて無差別攻撃の指示でもさせてしまったら南ブリタニア諸国とのせっかく築き上げてきた友好関係が完全に破綻してしまう」

 

「10個騎士団と1個空母打撃群にKMFを除いての航空機だけで230機ですか・・・相変わらずですが個人の持つ戦力ではありませんね。まあ南ブリタニアのペンタゴン殲滅には必要だったのでしょうがあまりにも規模が大きすぎますよ。マリーベル皇女殿下が万一憎しみに駆られてしまえばそれだけで戦争になりかねません。強力な思考誘導のギアス・・・ジェファーソン・デイビスでしょう?」

 

「検討はついてるんだね流石は魔法使い達だ」

 

「使ってませんよ魔法は。我々が魔法を行使できる流れよりこの世界は完全に外れてしまいましたので、既に未来は未確定にして霞の中です」

 

「ふーんまあいいけどね。それは別として僕も大グリンダ騎士団については南ブリタニアの諸問題が片付き次第なんとか規模を縮小させたいところだよ。一個人が持つには大きすぎるからね。ま、無理なら無理で使いようもあるけどさ」

 

「簡単に言ってのけるだけブリタニアの国力物量はとんでもないですよ」

 

「それを言うなら技術は常に半歩前を進む日本もとんでもないよ」

 

「ま、否定は致しません。・・・クララさんは?」

 

「・・・いまは帝都総合病院にいるよ。馬鹿に付きっきりで看病してる。下手に情報は流さずマリーベルもあいつの傍から離れないように誘導しておくつもりだ。起きた時に君がいなければクララに盗られるよとでも言っておけばなんとかなるかな」

 

「クララさんもマリーベル殿下も一途ですね。バーテンーーーーー玉城くんには勿体無いですよ。どうするんですか。貴方はクララさんとの仲をお認めだと承知しておりましたが?」

 

「クララは勿論マリーベルとの仲も成就するなら認めるよ。国内からは反対の声が上がるだろうけどね。いまのマリーベルの行動の原動力は間違いなくあのお馬鹿だ。あの馬鹿がいたからこそマリーベルはグリンダを創設し、自らグリンダの長となって剣を取り、そして国内からは不穏分子の一掃を、南ブリタニアではペンタゴン殲滅への道筋につき見事に南ブリタニア大陸の混乱を平定せしめた。悔しいし認めたくもないけどあの馬鹿シンがクララやマリーベルの一番大切な存在になってるんだ」

 

「ブリタニア流一夫多妻ですか?」

 

「まさか。そんなの僕やシャルルが文句つける以前にクララとマリーベル自身が認めないよ。二人とも狂気的なまでに独占欲が強いからね。負けたらたぶん快く譲るだろうけれど二人ともの両立なんて土台不可能な話さ。ただ、二人はあれでお互いを認めあってるよ」

 

「所謂ライバル関係ですね。クララさんが玉城くんを好きなことも、マリーベル殿下が玉城くんを好きなことも、認めあった上での勝負。修羅場ですね。観ている分には面白そうですが当事者になりたいとは思いません。しかしどうするのですかお二人は」

 

「簡単さ。相手に軍配が上がれば自らは身を引く。おそらくそうなる。ただし、あの二人はお互い以外の女性がシンイチロウとの関係を築く事にはこれを一切認めずに全力排除に動くだろうけどね。まあシンイチロウには選択の自由も逃亡する自由もないかな? とくに今回の一件が決定打になったと見るべきだ」

 

「失礼ですが彼は日本の平民です。華族でも士族でもありませんが、マリーベル殿下に軍配が上がった場合のその辺りの調整は如何するのですか?」

 

「クララが勝ったならクララの好きにさせるよ。玉城姓でもランフランク姓でも好きに名乗ってくれたらいいしね。クララは血縁上ブリタニアの皇族に連なる人間だ。当然嚮団関係者と皇族は反対するだろうけどそれは僕が抑える。僕の娘が愛するひとを選んだんだから親として口出しさせないってね。マリーベルの場合はマリーベル・メル・ブリタニアとしては生涯未婚となるだろう。 でもマリーベル・ランペルージとしてならばシンイチロウと結婚できる。それで行くつもりさ。必要ならば僕の捨てたジ家嫡男としての名をあげてもいい」

 

「名を差し上げるとは、思いきりますね貴方も」

 

「思いきらなきゃ無理な話だからね。あの子はシンイチロウ以外に一切興味がないみたいだからシンイチロウがクララを選んだなら結局生涯未婚を貫く可能性が大いにある。オルドリンがあの子の部屋であの子の書いただろう日記を何冊も見つけた時には戦慄を覚えたんだってさ。全ページ隙間無くシンイチロウへの求愛の言葉で埋め尽くされていたらしい」

 

「それはまた・・・病んでらっしゃいますねマリーベル殿下も」

 

「クララと同類だって言ったろ? 思い込みと執着と独占欲が凄いんだよ。思わず引いてしまうほどに」

 

「なるほど。つくづく悪運の星に愛されていますね彼は。美少女と美女に愛される。しかしながらそのお二人は病んでらっしゃる」

 

「ま、好意を抱かれたのが運の尽きかな」

 

言葉のキャッチボールをしながらも、マサノブとVVはマリーベルから目を離さない

なにかあれば待機させているマサノブ、辻の選りすぐった警護員とギアス嚮団の戦闘部隊で現場を抑えにかかるつもりだ

 

「本当にたまらないよあの駄目男には。クララとマリーベルの心を盗んで、自分は生死をさ迷い関係ないと来た。本当ふざけるんじゃないぞシンイチロウ。僕は許さないからね。金を返したら無関係? 返せばそれでいい? だったら借金返済なんてしなくていいからクララとマリーベルの件に決着をつけてくれかな・・・バカ息子」

 

少年が呟くひとりごとにマサノブの表情は緩む

 

こんな世界があってもいい

こんな平和があってもいい

 

VVが、クララが、マリーベルが、あんな馬鹿なお調子者を相手にして笑い合う世界があっても

 

それは駐日駐在武官ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーにも

駐日ブリタニア大使補佐官ユーフェミア・リ・ブリタニアにも

 

日本に留学中のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにも、ナナリー・ヴィ・ブリタニアにも

ヴィ家の親衛隊員ジェレミア・ゴットバルトにも、キューエル・ソレイシィにも

ヴィレッタ・ヌゥにも

 

京都六家にも

現大日本帝国宰相 枢木ゲンブにも

ゲンブの息子枢木スザクにも

官房長官 澤崎敦にも

 

ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアにも

その正妻的なマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアにも

 

その他の人々にとっての平和な世界があってもいい

 

玉城真一郎もまたそのひとり

平和な世界で平和に生きる一般人としての幸せ・・・・・・

 

「については叶わないかも知れませんが生きていてくださらないと困りますよ玉城真一郎くん。女性の前では格好つけたいのでしょう?」

 

帝都総合病院での手術はもう終えている。できる限りの事はした。手は尽くした

 

しかしまだ、彼は目覚めない

 

手術室の前では非情で気丈、笑いながらひとを殺すギアスを行使できるはずの狂気を持つ少女クララ・ランフランクが泣きじゃくっていた

 

テロリズムを許さないブリタニアの戦姫マリーベル・メル・ブリタニアはいま一軒家の玄関で無職青年の首に宛がっていた短剣を取り落とし、オルドリンにすがり付きながら咽び泣いている

 

「玉城くん。彼女たちを泣かすのは女性に格好つけたい願望持ちのうざくてお調子者な貴方には合いませんよ。そういうのをね、ただのカッコ悪いというのです」

 

マサノブは、辻正信は、一度瞑目した後、雲に陰る月をなんとなしに見上げていた

 

 



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夢は叶っていた

掲示板ネタ


 

 

 

 

 

夢は叶っていた

 

 

 

 

 

 

くん

 

…?

 

ーーくん

 

ああ?

 

ーーまきくん

 

んだよせっーな

 

玉城くん!

 

ああーうっせー!「ひとが気持ちよく寝てんのにうるせーんだよ!」

 

ばん!

 

テーブル?を叩いて飛び起きた俺は安眠妨害してくれやがったくそったれに文句つけてやったまま・・・固まってしまった

 

「ず、ずいぶんな、言い様じゃない・・・ねぇ、たまきん?」

 

「・・・あ」

 

「あ、じゃないわよ。 まったくいくらアルコールが入ってると言ったって話の最中に普通寝るかなあ~?」

 

不満。苛立ち。少しばかりの怒り

併せ持った感情を隠すことなく"そいつ"は俺にぶつけてきた

 

短く切り揃えられた肩までの艶やかな黒髪。タイトスカートのグレースーツに身を包んだ百発百中どストライクなボンキュボンのボディコンダイナマイツバディに、大人の色気を漂わせている日本人形を連想させる美女

 

昔、まだ学生時代に子犬拾って何故か

勘違いされて振られてしまった"あいつ"だった

 

「わ、わりぃ、ちょっと疲れてたから」

 

「ま、ね。分からないでもないわよそりゃね? 厚生労働省課長様ともなれば日々が忙しいもの。でもさぁ」

 

"たかが課長ごときが部長様を前にしていびき掻いて寝てんじゃないわよ"

 

そいつから注意を受けた俺はぼんやりした頭をフル回転させた

 

そうだよ。俺はこいつを、部長様を誘って飲みに来てたんだったよ。うお、なんで忘れてんだよ俺の馬鹿!

 

ああいかんなぁ酔いすぎは

 

仕事柄下手に飲み過ぎて二日酔いとか困るから休みの前日にしか思い切り飲めないんからなぁってアホみたいに飲んでたんだよ。ああいかんいかん

 

そんでその部長様ってのは、俺が昔好きだったあの子だった

俺課長、こいつ部長、俺が寝る、非礼

まあ当たり前だわ

 

 

いやしかしホントに偶然ってあるもんだよなあ

 

三流高校卒な俺が死ぬ気で勉強してさ。最下位クラスとはいえ東大受験に合格してキャンパスでこいつと再会したわけなんだけどよ

 

マジで驚きっつーか挙動不審になっちまったよ

 

人間不信になった原因にして、いまでも内心想い続けてた元同級生の女と東大でまた出会すとか運命的じゃん?

 

まあさ、振られてんだから脈なしなのは分かってんだけどちったあ期待するよな

 

 

といってもまた告白とかもう弱りきったハートにゃ無理だからなんにも言えず終いで大学院まで行って卒業

俺もこいつもまた偶然にも同じくして同じ省庁、厚生労働省なんだけどよ。そこに入省して、俺もこいつも順風満帆な出世コースに乗ったんだなこれが

 

でもな、出るんだよ。元アホ・・・ま今でもんなに変わらねーけど勉強できるアホくらいにはなれた俺と

マジなエリート街道ばく進中だったこいつとでは自力の差ってやつがさぁ

 

俺は厚生労働省課長

こいつは厚生労働省部長

 

つまり上下関係で差が開いちまったわけよ

 

ああ別に不満はねーよ?

 

そもそもの俺の夢ってのが官僚になる

あるいは政治家にだったから

 

念願だった官僚になれて、ましてや順調な出世コースに入っててさ

それも初恋にして今恋でもあるこいつと一緒の省庁に入省と来たもんだ

 

思わずキターーて叫びそうになったよ入省初日には

ま、そんな馬鹿はもうとっくのとうに卒業してっからマジでやったりしないけどな(笑)

 

んでまあ連休前だし?なんとなく誘ってみたのよ

したらばどうよ?誘いに応じてくれて俺氏ドギマギだよ

いざ顔付き合わせて飲んでると学生時代の思出話とか、あの子犬拾いアーンドその後の軽蔑事件とかまあ出るわ出るわね昔話

 

苦い思い出もいっぱい

 

だけど好きなこいつと昔語りしてるとさ、ついつい酒も進んじゃってまあ酔い潰れてた

 

不安でいっぱいなのになぜか安心できる

 

それってやっぱまだ俺がこいつを好きで、好きなこいつが誘いに応じてくれて

だからなのかな。まあ安心しまくりよ?

 

「ハァ、」

 

「どしたよ部長様?」

 

「いやね。ほら私連休明けにはアメリカに出張じゃない? 日本から離れると思うとさあなんだかこう寂しくなるわけよ」

 

ああそういやこいつ近くアメリカに出張だったな

 

アメリカ合衆国。第二次世界大戦では大日本に"破れども"同じ敗戦国中華連邦同様に条件付き降伏に留められた国

 

大日本帝国と、南半球の覇者合衆国オセアニア、そして欧州を纏めあげたナポレオンを祖とする国家社会主義ユーロピア労働者党率いるユーロピア第三帝国に次ぐ世界第四位の大国だ

 

ナポレオンの欧州制覇で旧ブリタニアやらフランスやら、主要な欧州王政国家の皇族・王族・貴族が軒並み処刑されていく最中、ベンジャミン・フランクリンやジョージ・ワシントンらがいち早く民主主義国家として独立させた東部13州を基にして発展させていった北アメリカ中央に位置する大国でもある

そして万能資源と称されるサクラダイトの一大生産国にして技術の日本と呼ばれて恐れられる大日本帝国にただ一国真っ向勝負を仕掛けてきたヤンキー魂溢れる国家だ

 

結果についてはまあ歴史の通り、太平洋全域は勿論の事、日本に北はアラスカ、ワシントン州・アイダホ州から南はアリゾナ州・ニューメキシコ州までとロッキー以西の全域+アルファを割譲される形で降伏。当時の対日戦争を行った責任者フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領を始めとした主要な閣僚と軍高官が戦犯として処刑されたわけだが

 

その後はオセアニアの民主共和制原理主義を封じるためにと日欧同盟に加わる形で日欧米三国同盟の一角を成すほどに急回復した奇跡の国

だが一方では日欧の腰巾着やらとまあ色々貶されてる国家でもある

 

「アメリカ出張ったって日本国内のロス辺りの都会だろうに。なんでそんなに憂鬱そうなんだよ」

 

ロスは日本領西アメリカの中心都市だ。はっきり言って東京ほどではないにしてもいまや日本本土の大都市大阪と争うほどの、大日本帝国第二位の都市といっても過言ではない

正直日本の衛生国の一つである北米カナダのどの都市よりも余程発展している

治安も良く住みたい都市ランキングでは常に上位に入るほど。なにをそんなに憂鬱そうにするのかわからん

 

「ハァー、あなたってホントににぶちんよねぇー」

 

「な、なにがよ? てかなんだよ唐突に?」

 

俺が鈍いのは昔からだ。ひとの感情に疎くて実は好かれてたのに嫌われてたうざがられてたと勘違いしていたことがわかったこの間の同窓会では、嬉しはずかしな立場に立たされていた

 

みんなに好かれていた

 

んなもん予想外も予想外だよ

 

恋愛的に好かれていたとかいう話もちらほらで、だからって今さら教えられてどうしろってのよ、ってな

 

「ああもうクソにぶちんなたまきんめー!」

 

「うおっ!」

 

なんか叫んだと思えば部長様は俺の頭を脇に抱えてグーにした拳を頭に押し付けてきた

 

「痛い痛いっ! 痛ぇってちょっとおい!」

 

「うっるさーい! 私の気も知らないで呑気にしてるたまきん見てると頭にくんのよーっ!」

 

なんのことだよわけわかめ?

つかおまえの体はボンキュボンな凶器にして色香たっぷりなんだからやめてくれー!

お、俺のなけなしの理性が色々とやっべーよ!

 

「てーか、たまきん呼ぶなーっ!」

 

飲み屋でじゃれてる?のかねぇ

俺とこいつを見て「よっ! にーちゃんすみにおけないねっ!」「ちきしょーっ! あんな人相悪いやつになんであんな美人がーっ!」なーんて声がかかる

 

……も、もしかして、俺って脈ありなの?

 

ちーとばかし期待が高まる

 

ああ、もしそうなら嬉しい

昔の恋が時を経て実る。ロマンチックじゃねえか

いやいや、ロマンチックとかどうでも良いわ!

俺、こいつとマジに結ばれるなら、恋が成就するなら今のポストから出世しなくても・・・

 

ん?

 

そう考えたときだった。なんだか肝心な事を忘れてるよーなぁ・・・?

 

んーなんだっけなあ?

 

とっても重要で、でも信じられなくて・・・

 

 

あれ?

 

信じられないってなにをよ

 

 

あー、わからん

 

難しい事考えると頭が痛くなる

難しい事考えるなんて最下位クラスとはいえ東大卒の俺にはわけねーのに

 

んん?

 

東大?

 

帝大じゃなかったか俺が受験してたのって

 

ああ、わからん

 

とりあえずこいつはアメリカに主張することがーーーーーは?

 

アメリカ?

 

あれ? んな国あったっけか?

 

ああ、いやいや、アメリカ合衆国は普通にあるよな

世界第一位の超大国、大日本帝国の同盟国だもんな忘れるわけ・・・・・・第一位? ありゃ? 日本て第一位だったか?

 

「こらぁ! たまきん課長! 部長の私を無視して考えに耽るとはいい度胸してるじゃない!」

 

「いっ?! あ、すんません部長書類は期日までに!」

 

「なに呆けてんのよたまきん! もうそんなだからたまきんなんて渾名付けられんのよ~っ?」

 

「いやいや関係ねーからね? たまきんとか呼んでるの同窓生のおまえらだけだかんな?」

 

ふう。疲れてるのかねえ?

毎日毎日書類と格闘してるせいか変な事ばっか考えちまう

 

ま、いつもの気のせいなのはわかんだが、なんかなー、引っかかんだよなー

こう、のどの奥に何かしらつっかえてるみてぇな違和感

 

気持ち悪い感じ?

 

はぁ、なんか最近よく変な考えに耽る事があって困るわ

嫌だぜこの年でまさかのアルツ発症とか

でも若年性とかあるし放置も不味いか

 

ま、人生堅実がモットーな俺の場合貯金ばっかしてっから金はあるし近々人間ドック行っとくかな

 

ほんと貯金が趣味になっちまってんなぁ

 

ここだって部長様の奢りだしよ

 

「えへへーたまきーん♪」

 

急に猫なで声になる我が上司様

うう、いい加減離れてくんね?

俺いつまでも理性保てるほど紳士でないよ?

っかし、いい匂いだわ・・・

昔と全っぜん変わらん香りだわ

 

いっそのこと酔いに任せて押し倒してやるか?

 

あー、いやそれはいかんよな

これでも厚生労働省の課長なんだから

公務員で官僚なんだからいかんよいかん

 

厚生労働だけに更正しないと、なんちゃって

 

「うりうりたまきーん! 私が出張するからって泣いたりするんじゃないわよー!」

 

「し、しねーし、口うるせー上司様がいなくても平気のへーざだぜ?」

 

だって俺にゃ世界が敵に回っても味方でいるってやつが・・・・・・って、は? んなのいたっけ?

 

 

ーーーーーお兄ちゃん

 

 

「ーーーっ!?」

 

痛い。痛いよ頭が。なんかすげー痛い

一瞬浮かんだのなんだあれ。誰だよ今の声。小柄でピンクかベージュっぽい色が見えたような・・・

 

 

ーーーーーシン兄様

 

 

「痛って!」

 

まただ。またなんか変な頭痛がした

今度は薄紅っぽい何かが

 

頭・・・・・・髪の毛の色?

 

いやちょっと待ておかしいだろそれは

ピンクだ薄紅だどんな色だよそれ

人間の髪の毛の色って基本は黒か茶か金だろ

 

ああ

 

痛い

 

気持ち悪い

 

なんだよこれ

 

くっそ、好きな女と酒飲んでんのになんでこんな違和感やら頭が痛てーやら変な感じが

 

「たまきん、顔色悪いけど大丈夫?」

 

あいつが心配して覗き込んでくる

 

「なんかさ、さっきっから頭が痛いんだわ」

 

「あー、たぶんそれ飲み過ぎよ。寝入っちゃう前にがばがば飲んでたもの」

 

「あっ、そっか、俺さっき寝てて・・・おー痛つつ!」

 

「・・・・・・帰ろっか。飲み過ぎるのもよくないしね」

 

「だな」

 

「払いは私持ちでいいから」

 

「け、けどよ」

 

「部長の私が課長の玉城くんに奢らせるわけにいかないでしょ」

 

「悪いな・・・」

 

「いいっていいって、気にしないで」

 

 

でま、なさけねーことに自宅まで送ってもらっちまったわけで、なんかまあ成り行きと申しますか

 

 

大人の展開になっちまいました・・・

 

 

 

 

 

手術は無事に終えた。後は患者自身の生きる力だが

 

偶然にもあいつが運ばれてきた時に身元引き受け人とその娘だと名乗り出た少年、いや男性と少女の血液型が、患者の型と完全に一致していたからギリギリでの出血性ショックは防がれた

 

男性は一度所用があるといって娘さんを残して病院を出ていったが娘さんは手術室の前でずっと泣きじゃくっていた

ナースが休憩室の方へ連れていったようだがずっと悲痛な声で泣いていた

 

回復に向かってもいいはずだ

 

回復に向かうのが普通な、正常な反応のはずなんだ

 

なのに回復どころか心拍脈拍呼吸全てが下限知らずに下がりつつある

 

まるで生きる気力その物が無いかのように

 

「いい加減にしろよこのうざ野郎。こっちは毎日必死にがむしゃらに生きてるのに人様に迷惑ばかりかけてきて、あんな可愛らしいお嬢さんまで泣かせて、なに悟りを開いたみたいな顔して寝てるんだ」

 

私はこの患者を知っていた

 

帝都在住飲食店店員の玉城真一郎

 

ちゃんねる伍式というインターネットの巨大掲示板の政治・公務員関係のスレで昔『名無しの事務次官』を名乗っていた男だ

 

一度だけだがリアルでのオフ会で会ったことがある

 

そのオフ会は場所こそカラオケ屋という意味不明なチョイスだったが割りと真面目に政治家について、官僚・公務員について、世界情勢についてを語り合うものだった

年齢層は様々だった。40台の自称弁護士先生。30台の自称ではない医者こと私。30台の自称学校教師。20台の自称帝国陸軍中尉。全員男

 

私が自称といったのは彼らの本当がわからないからにすぎず、現実にそれらの職業に就いていたのかも知れない

 

そんな中でこいつは最も若く実名か偽名かは不明だったが玉城真一郎と名乗りあげた上で20の大学生だと話していた

見た目からしてそのくらいの年頃だったので本当の事だろうと皆は皆でそれとなく納得していたが、オフ会としては相手のリアルを探らない暗黙のルールがあった為、その時のこいつが本当に大学生だったのかは今となっても分からずだ

 

そんな自己紹介のあとに始まった政治公務員官僚論議。こいつも最初は真面目に議論に参加していた

 

最近の外務省の対応は

日本はラプラタ戦争時のオセアニアへの対応に対して弱腰だったのではないか

公務員制度改革について

 

まあ色々と織り混ぜながら議論は進んでいた

 

しかし名無しの事務次官は次第に飽きてきたのかいきなり曲を入れてカラオケを歌い始めた

 

まあカラオケ屋なんだから多少はな。みんな一様に考え少しの間だけカラオケを楽しんだ

 

しかし少しのつもりが、こいつだけは延々とカラオケを歌い続けて酒は注文するわ、絡んでくるわと場を白けさせてしまい、堪えかねた一人のメンバーが帰るわと言ったのを切っ掛けに、次々と抜けていき、やがて最後まで付き合っていたのは私一人となっていた

 

その時に『テメーもつまんねーなら帰れよ』とふて腐れていたことは今でも覚えている

私は、そう私はその一言に無言で立ち上がりカラオケ屋を後にした

 

翌日から名無しの事務次官は政治関連スレに姿を表さなくなり、実名か偽名かわからなかったが玉城真一郎という名前こそ出さなかったが、オフ会メンバーたちは皆口々に名無しの事務次官はうざい。自分勝手でエラソーにしてて腹が立つとスレが悪口一色の染まるほど不満を書き立てられていた

 

結局彼はその後一度として現れることがなく、今も政治関連スレは平穏な議論スレとして進行している

 

それから数年がすぎ。私はある時、政治スレから飛んだ先。大日本の家族的同盟国ブリタニアの貴族についてを語るスレで『名無しのバーテン』というコテハンを目にした

そしてその言動やら横入りレス等を見、過去の夢やその内容に自分語りまで聞いた辺りでこいつが名無しの事務次官と同一人物だと気が付いたのだ

カラオケ屋でのオフ会らしき話まで語っていたので間違いない

 

いまはギャンブルスレや貴族スレでごろを巻いているらしく、相変わらずだなと呆れさせられるばかりだった

当然お互いに不干渉を貫いた。まあ私の場合政治系のスレ以外では掲示板で設定されている名無しの◯◯のままで通すことが基本だから通常運転なのだが

 

どうやら彼が本当に帝都内で飲食店の店員をしているらしいことは話の内容から掴めていた

だからといって何がどうなることでもなかったが

 

そんな変わらぬ日々。彼は、こいつはまた掲示板内でおちゃらけながらも鬱陶しがられながらもそれなりに上手く住人とは付き合っていたらしい

 

書き込みも年単位。ずっと住人をやれている辺り少しは空気の読み方等を学習したのだろうか? と思えば、そうでもないところがこいつらしいといえばらしかった

 

そして今日、コテハンの一人名無しの無職とオフ会をするといった話になったと聞いて昔大失敗した一件を久しぶりに思い出していた

 

オフ目的が競艇らしかったので政治オフの時のような下手な失敗もないだろうと、昼休憩の時もとくに気にすることなく過ごし私は仕事に戻っていた

 

そうして夜も更けてきた頃になり急患が一人運ばれてきた

 

ここは帝都東京。人口は優に2000万を超える人口密集域だ。眠らない街とも呼ばれる大日本帝国最大の都市だ。事故、病気、怪我等により急患が運び込まれることなど珍しいことではない

 

ただそう、ただ一つだけいつもと違うとすれば

 

それは運ばれてきた急患がこいつ、名無しのバーテンこと玉城真一郎であったということだった

手術その物は成功。我ながら最高の腕を振るえた自身も手応えもある

 

身内ではなくとも知らない仲ではない。どうしても見知らぬ患者さんより力が入ってしまうのは人間なのだから勘弁していただきたい

 

そうだ。手術は成功したのだ

輸血により喪われた血液も寸でのところで何とかなり、世界最高の医療技術を誇る我が日本の本領も発揮できた

塞いだ傷口もその痕跡すら残すことなく消える。そのはずなんだ

 

だが、だがこいつは、名無しの事務次官は確実に死に向かって進んでいる。消えてない命の火は蝋燭の寿命が近づいているかのように消える方向へと進んでいる

 

なぜだ?

 

死ぬはずがない

 

手術は完璧

 

運び込まれてきた時は重傷で意識もなかったが、重体とまではいってなかった

 

それなのに、これではまるで

 

本人が死にたいと望んでいるようではないか・・・

 

「手術は成功しました。重傷ではありましたが命に別状はありません」

 

私は手術室の前に集まっていた名無しの事務次官の関係者たちに術後の経過を嘘偽りなく話すことにした

 

正直に言おう。私はこの面子を前にしてしっかり話せている自分自身を褒めてやりたいと考えている

 

それほどにあの名無しの事務次官の身元引き受け人の親族の面子がなんというか・・・滅茶苦茶なのだ

 

「で、では兄様はっ! 兄様は助かるのですねっ!?」

 

話始める私に真っ先に食いついてきたのは薄紅の腰まで届くサイドテールの髪をした女性

 

その御名をマリーベル・メル・ブリタニア。同盟国ブリタニアの第88皇女にして見事強大なる民主共和制原理主義組織ペンタゴンの主要幹部を討ち取り、南ブリタニアの対テロ紛争を終息させた大グリンダ騎士団の最高司令官でもある

 

明らかに私服と思われる白のワンピースに身を包んだご本人はマリーベル・ランペルージと名乗られて御出だったが、背中まで届く濃い金髪を二つに分けて結っている女性マリーベル殿下の筆頭騎士ナイトオブナイツのオルドリン・ジヴォン卿が隣にいては偽名を本名と言い張るには少々説得力に欠けすぎていた

 

いや、まだナイトオブナイツだけなら誤魔化しも効いたかも知れない

 

「あのっ、本当にシンイチロウさんは大丈夫なのですか?!」

 

言い澱むこちらの心の奥まで見透すような瞳を向けてくる小柄な少女

 

薄い茶、薄い黄土色か?の髪色をしたウェーブのかかった長髪を持つ儚げで優しそうな印象深いその少女。ナナリー・ランペルージと名乗られているが、間違えるはずがない

 

政治・官僚スレに何年いると思っているのか

医者として医療面における提携も結んでいるブリタニアについてどれだけ勉強してきたことか

 

ナナリー・ヴィ・ブリタニア

 

日本に留学中のブリタニア皇室ヴィ家の皇女殿下だ

 

「マリー、ナナリー、あの馬鹿が死ぬ。そんな事が考えられるか?」

 

「ルルーシュ」

 

「お兄様」

 

二人を励ますのはルルーシュ・ランペルージという男性

もう多くを語る必要なんてない

 

ヴィ家のルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇子殿下

 

彼等の護衛にはヴィ家の名高き親衛隊長である青髪の美青年ジェレミア・ゴッドバルト卿と、その妻君となられる予定らしい長い銀髪を一つ括りにした褐色肌の美女ヴィレッタ・ヌゥ卿、ヴィ家親衛隊次席指揮官の茶髪の美丈夫キューエル・ソレイシィ卿までいる

 

ならばこの帝都総合病院へと再び来訪した少年姿の男性と、休憩室から連れてこられたのだろう膝辺りまで伸ばされたピンク色をした髪の小柄な少女は、噂に聞くブリタニア帝国シャルル皇帝の実兄親子ではないだろうか?

 

「ねぇ先生っ! お兄ちゃんは大丈夫なのっ! 大丈夫だよねっ! 大丈夫だって言ってよっ!!」

 

その鮮やかなピンク色の長髪を振り乱しながら少女が叫ぶ

 

「先生っ! 仰ってくださいお兄様は大丈夫だとっ・・・!」

 

マリーベル殿下も叫ぶ

 

「クララ、マリーも落ち着くんだ。ここで泣いて叫んで無理言って。それでシンイチロウが回復するのかい?」

 

黒のマントに上下揃えの豪華な白い衣服に身を包んだ足首まで届くほどの物凄い長さをした淡い金髪の少年姿の男性が二人を宥める

 

「おじ、さま・・・」

 

「パパぁぁ、お兄ちゃん死なないよね? 死なないよね!?」

 

「大丈夫。大丈夫だよ。馬鹿は殺しても死なないんだ。起きたら試してみるつもりでいたらどうだい? そのくらい気を楽にして待つんだ。そんな張り詰めてばかりいちゃ、体も気力も持たなくなるよ」

 

ああ、マリーベル殿下が叔父と呼んでるということは、この男性は噂のブリタニア皇帝の兄君で間違いないなIDでもそうと結論付けられる御年令だった。そしてピンクの長髪の少女はシャルル皇帝の兄君のお嬢様にして皇室の親戚だ

 

名無しの事務次官。おまえの身元引き受け人や交遊関係はいったいどうなってるんだ

 

「その様子では、術後の玉城くんの経過は芳しくないようですね」

 

そんなやんごとなき方々の後からやってきたのは灰褐色のスーツに丸眼鏡をかけ古めかしさを感じさせる帽子をかぶった中年過ぎの男性だった

 

昨今平均寿命が120~150の超長寿大国となった日本およびブリタニアの人間では60を過ぎたくらいは初老とも呼べない

 

それはいい。いやそれこそどうでもいいことだ。現実逃避だ。やってきたその男性の正体がとても怖い話がつきまとう大日本帝国政財界の超大物だったからだ

 

「つ、辻正信、閣下」

 

「ああ、閣下なんて大袈裟です。辻と気軽にお呼びください」

 

冷静だったり無表情だったり、とにかく静かな人物像な辻元大臣らしく眼鏡の下の瞳はにこやかに笑っている

親しみやすさを感じさせる微笑みだ

だが黒い噂が常につきまとうこの方の笑みほど恐ろしく感じられるものはない

 

とにかくここは私の領域

私の戦場だ

故に誰が相手であろうとも臆するわけにはいかない

事実だけを伝えるただそれだけだ

 

辻元大臣の後ろからまたぞろやってきたコーネリア・リ・ブリタニア駐日大使にユーフェミア・リ・ブリタニア駐日大使補佐官の姿を見ながら、いま病院の周囲は私服の警護部隊に取り囲まれているんだろうなと考え巡らせながらも平静さだけは保ちながら

 

「手術は無事に成功致しました。完璧なる成功です。ですが・・・回復傾向にはありません。むしろ・・・」

 

「死に、向かっている・・・といったところでしょうか」

 

辻元大臣が私の言葉に重ねるように告げてきた

 

「はい・・・生きる力、生きようとする気力がまるで無いかのように、全ての数値が低下の一途を辿っております・・・辻閣下、ブリタニア御皇室の皆々様、正直にお伝えさせていただきます。医者としての見地から申し上げますが」

 

 

 

 

 

 

夜明けまでは持たないでしょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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うつしよのよるへ

掲示板ネタ
まだリアルバーテン編



 

 

うつしよのよるへ

 

 

 

 

 

 

悲壮感漂う休憩室から人数が増えてきた為に待合室まで移動した

移動したところで漂う悲壮感が消失することもない

むしろ時間経過により寿命が縮まっていることを予感させるだけだ

 

口火を切ったのは嶋田前内閣の実質的No.2の立場にいた大日本帝国の元閣僚、辻政信だった

 

「先生一つ確認したいのですが宜しいでしょうか?」

 

「は、はい、何なりとお訪ねください」

 

「では率直に。玉城くんは回復・・・いいえ誤魔化しはやめにしましょうか。生存できる可能性は0で間違いありませんね?」

 

生存率0、死亡率100

 

戦争などで敵機に撃墜され自機の爆発等に巻き込まれ行方知れずとなってしまったパイロットでさえ完全に100%となる死亡率はない

0,という低い確率ではあっても後々生存していたことが明らかになるケースもあるのだ

 

各種ガン等の死亡率の高い病変でも5年生存率で0等はほとんどあり得ない数値

 

しかし、稀に存在する

 

生きる気力を喪った重病患者や命に関わる怪我を負った場合にやはり死を強く意識して、或いは生きようとする気持ちを喪失した際に実質的0となる可能性が

 

 

そして今回のケースは該当例がある

生きる気力を喪失したケース

 

現在進行形で死に向かっているケース

 

「0と100が存在しない前提でお答えいたしますが、このまま全数値の低下が止まらなければ朝までに生存率ほぼ0というのが現時点での私の正式回答です。生きる気持ちがない。死にたいと願っているかのような患者さんのケースでは余命1年であった方が2週間で亡くなった例もありますので、生存率0はほぼ確実かと」

 

答えたその時に椅子から勢いよく立ち上がった女性が二人いた

 

ブリタニアの戦姫マリーベル・メル・ブリタニア皇女殿下と、その御親戚のクララ・ランフランク姫殿下のお二人だ

 

「う、そ、です。嘘に決まってますわ!にい、さまが、兄様がお亡くなりになるなんてわたくしは信じません!」

 

「無いよ? 絶対そんなこと無いよね? 嘘ついたら酷い目に合わせるよ? だから、だから嘘だって言ってよ!!」

 

マリーベル殿下はまだしもクララ姫からは身も凍りつくような殺意が漏れ出ている

職業柄闇社会の患者さんも見たことがあるために齧った程度には殺意のようなものを感じ取れるが、クララ姫殿下の殺意はまるで闇社会の人間が可愛らしく感じてしまえるほどに強烈だった

 

「マリーベル落ち着いて。クララもそういう事はやめなさい。二度は言わないよ。わかったね」

 

マリーベル殿下、クララ姫殿下、お二人ともシャルル皇帝の兄君の言葉に自分を抑えてくださった

 

「すまないね騒がしくて。ただ、まあこの二人はちょっと、ね」

 

VV殿下は言葉にこそされなかったが私も察する事はできる。そういう事なのだと

名無しの事務次官、おまえを凄いと初めて感じた。いまこの待合室にいる全員が例外なく雲上人なんだぞ

こんなこと、政治板の連中に話しても誰も信じないだろうがな

 

すると再び静まった場に辻閣下の声が響く

 

「実は玉城くんが回復しない理由について私には心当たりがありましてね。こちらは今日の正午過ぎくらいに彼と遊んでいたらしい青年から伺った話なのですが、共にお遊びになられていたマリーベル殿下とクララさんはその青年を御存じですね?」

 

問われたマリーベル殿下はうつむき、クララ姫殿下は言葉なく頷くのみだった

 

辻閣下が語り始めたのは、ありがちな人間不信に陥る一つの例の話だった

 

昔から鬱陶しい、嫌いだと言われたり

 

調子に乗っていてムカつく等蔑まれたり

 

恋した女性、元々脈はなかったろう女の子に勘違いから振られた話

 

最悪のタイミング

最悪の条件

最悪なコンディション

人生不幸で始まり不幸で閉じそうになっている。そんな話の集大成のようなある青年の昔語りだった

 

インターネット掲示板でも嫌われ

どこへ行っても鬱陶しがられ

何をしても上手く行かず

努力に結果が付いてこない

 

そんなどこにでもありそうな話を集約させたような話だった

 

「つまりはこういうことです。玉城くんは誰も信じていない。信用できない。うわべで仲良くしてくれているだけだと誰に対しても等しく考えていたそうです。死ぬ間際・・・失礼。死を間近に捉えたことで自分が嫌われ者であったことを冷静に第三者的な見方で強く自覚し、かつ今の交遊関係全般に対しても実は嫌われているんだろうと考えてしまった。そんな中で彼の青年、調べましたが名無しの無職さんだけは何の疑いもなく遊んでくれた最初で最後の方だと認識して満足し、満足しきったがゆえに今まで充分生きてきた事を、生ききった事を心が受け入れてしまい、そして迫り来る死その物もまた受け入れてしまった。マリーベル殿下とクララさんには特に悪い言い方となってしまいますが、彼は貴女方にさえ本当は嫌われてるんだと思うと語っていたそうです」

 

待合室には再び沈黙が降りる

 

間もなくクララ姫殿下が泣き始めた

 

「う、ぁぁ、うわぁぁん、うぁぁ、ひど、いよ、ひどいよぉ、クララ、クララお兄ちゃんのことずっとずっとずぎだっだのにぃ、ひっく、ひっく」

 

止まることなく流れる涙はやがてマリーベル殿下の頬を濡らす形で彼女の瞳からも溢れだしていた

 

「にい、さま、は・・・わた、くしを、ずっと、御信用、くださって、いなかった・・・? どう、して・・・ねえ、どうしてなの・・・兄様?」

 

次々と溜まり、一筋一筋頬をかけ落ちていく涙の筋が悲しみに染まった川の流れのようにも見え、殊更に悲痛な想いが伝わってくる

 

「マリー・・・」

 

「オル、ドリン・・・どう、して兄様は、わ、だじの、ごど・・・」

 

「あの馬鹿っっ・・・よくも、よくも僕の大切な娘と姪を泣かせてくれたなっ・・・! 頭に来るのは僕らだけじゃなくクララとマリーベルまで信じていなかったことだよ! どうしてだっ・・・どうしてなんだよ!」

 

 

悲しみは伝わっていく。信じられていなかったこと。信頼されていなかったこと

 

本当の意味での一方通行だった気持ち

 

暴かれた非情な現実にこの場に集う雲上人たちはただやり場のない怒りを抱いていた

 

「皆さん怒るのも、嘆くのも、色々思うところもおありでしょうが、とりあえずはそこまでにしておきましょうか」

 

一人マイペースを崩さない辻政信閣下を除いて

 

「マサノブ?」

 

「いやね、簡単なんですよ。本当に信じていないのかどうか、その深層心理の奥深い場所にこそ彼の気持ちが隠されているはずですから。だったら行けばよろしい。自らの足で、自らの意思で、玉城くんに問いかけてあげればよろしいのです」

 

「そんな、簡単に言うけどねマサノブ。いまはそれどころじゃ」

 

「いいえ、それどころで済むところまで漸く来たからこそです。先生、何度もお訊きして申し訳ありませんが、玉城くんは、患者さんには肉体的損傷での死亡危険度については無いのですね? 精神が死を望んでいるというだけで。つまり精神が肉体を死の寸前にまで追い込んでいる玉城くんはいま"死に追い詰められ切った段階にある"という見解でよろしいのですね?」

 

「はい、体の方は全治三ヶ月といったところでしょう。しかし精神が死を望む事を是とし肉体の生命活動を停止させようとしています。はい、患者は"追い詰められ切った状態"におかれています」

 

「ほう帝都総合病院の医師自らの言葉の下で絶対的に追い詰められていると。それはなおよろしい。さて、最適任者も丁度お二人ともお揃いの事ですし、参りましょうか」

 

「マサノブ、ちょっと僕には分からないんだけど、どういうことなんだい?」

 

「まあ、私は皆さんよりも彼について詳しいとだけ言っておきましょうか。ではマリーベル殿下とクララさんにはこちらをお渡ししておきます」

 

辻閣下が懐より取り出したのは何かの液体が入った小瓶だった

 

「さあ、今宵はギャンブル好きな玉城くんに合わせて私もかけると致しましょう。私は玉城くんが回復しないにーーー」

 

無茶苦茶な話をしだした辻閣下は別の内ポケットより小切手を取り出すと、なにも書かれていないそれに500万と書いた

 

「ーーー!」

 

するとこちらもなにかをお気付きになったのだろうか?

 

ブリタニア皇帝の兄君VV殿下も取り出したる小切手に「じゃあ僕も馬鹿が回復しないに1000かな」1000万

 

他はいないかと促す二人に

 

泣きながらも、涙で頬を腫らしながらもマリーベル殿下が回復しないに名無しの無職への口づけをかけ、クララ姫殿下も口づけを掛けようとして辻閣下に高校生はこういった遊びは早いですよと止められていた

 

「ま、ほぼほぼ勝敗の決まったデキレースとなりますが、負けた分は玉城くんの手術費用と入院費用として病院側で差し引きの形にさせていただきましょうか」

 

「一つ確認だマサノブ。これは魔法使いの領分と見ていいんだね? 僕らは・・・僕らの敗けは100%でいいんだね?」

 

敗けは100だと?

 

そんなっ、そんな馬鹿なっ?!

 

いま患者は、名無しの事務次官・・・玉城真一郎は助からないと説明したばかりだというのに辻閣下はいったいなにを・・・?!

 

「先ほど申し上げた事とは異なりますが、この世に現実としての0と100なんて%はありませんよ。そうですね。我々の勝率は精々0,01、いや最悪まで追い詰められている事を鑑みるに0,001~0,0001%の一発勝負です。高く見積もっての話ですよ? ああそれとマリーベル殿下、クララさん、これより貴女方には玉城くんの元に行っていただきお渡しした水をそれぞれ彼に飲ませていただきますが、彼はいま自分で飲む事ができない状態です。昔から人を助ける際に行うのは・・・ わかりますね。これは救命行為です。既存の方法が通用しない時間もない以上は先生にもご了解いただけますね?」

 

辻閣下の確信に満ちた言葉に対して、対策の無い私には否という事はできなかった

 

 

 

 

それからまあ、ちょっとだけ時期が過ぎた頃だ

あいつがアメリカに出張して結構たったかな? 半年くらい

 

俺たちは遠距離恋愛してた

 

あの日、俺の自宅で勢いから関係もって、そこで初めてあいつが昔から俺のこと好きだったってさ、逆告白されちまったのよ

 

いやー、飛び上がって喜んだね

 

マジで人生最良の日だったぜ

 

軽蔑された女の子は時を越えて好きだと告白してくれたのだ

 

って、なんかメロドラマに有りそうなでも本当の話

 

一も二もなく俺も好きだ!結婚しよう!ってなったよ

 

しかしまあアメリカ出張から帰って来てからとお約束展開まで着いてきちまったがそりゃ仕方ねーよ

 

お役所勤めの官僚様なんだから、俺もあいつもさ

 

 

 

そんなこんなで、あいつが帰って来てから一月

 

俺は着なれねータキシードなんか着て教会の真ん中に立っていた

 

理由はまあ、察しろ

 

わからないって?

 

結婚すんだよ。言わせんな!

昔の同窓生たちがみんな駆け付けてくれた

結構な人数だ。学年全員来てくれてんじゃね?

名簿見とけばよかった

 

招待状出したのはあいつだ

 

俺は名簿なんか残してないし昔のアルバムなんかもどこかへいっちまってたから

 

その辺りも気配り上手というかなんというか頭があがんねーわ

 

そうこうしてると新婦が入場してきた

 

流れるのはお決まりのウェディングテーマ

 

チャチャチャチャー、チャチャチャチャー、チャチャチャチャっチャチャチャチャっ、てやつ

 

やって来るのは真っ白なウェディングドレスに身を包んだあいつだ

 

……綺麗だ

 

なんか、こう、綺麗だ

 

白いヴェールに隠された表情も、白一色の衣装も、それに身を包んだあいつも

全部まとめて綺麗

 

空から舞い降りた天使が翼だけを隠しているような美しさがそこにはある

 

さっすが、ガキの頃の俺は見る目あったよな

 

俺の勘違いやら、こいつとのすれ違いでやなんやで延びちまったがようやっと収まるべき場所に収まった感じだ

 

ああ、人生、幸せだぜ

 

必死こいて勉強して

 

必死こいて受験して

 

大学でこいつと再会して

 

同じキャンパスで学んで

 

念願だった官僚にもなれてさ

 

出世コースにも乗れて順風満帆だ

 

幸せって連鎖すんのな

 

特に意識しなくても転がり込んできて、なにもない日常の中にその幸せってのはあって

俺はただそれを逃さずに掴めた。ただそれだけの話だよな

 

親父さんにエスコートされて歩いてきたあいつがやがて俺の前で、俺の隣で止まる

 

俺は静かにその白いグローブに包まれた手を取り、神父の前で二人並んだ

 

「汝、玉城真一郎はこれなる◯◯を健やかなるときも、病めるときも、また苦難の中にあっても、互いに助け合い愛し続ける事を誓いますか?」

 

「誓います」

 

「汝、◯◯。貴女はこれなる玉城真一郎を健やかなるときも、病めるときも、苦難の最中にあろうとも支え助け合いながら愛し続ける事を誓いますか?」

 

「誓います」

 

荘厳な空気の中で進行していく宣誓

 

神様なんて本気で信じている訳じゃねー

ただこいつのことは・・・?

 

こいつのことは・・・?

 

こいつのことは・・・?

 

信じて、いる?

 

「玉城くん、私幸せよ」

 

「あ、ああ、俺も幸せだ」

 

信じているんだろうか?

 

おい、なんでこんな疑問が出てくんだ?

 

関係持ったのは確かに勢いからだったが、その後のアメリカ出張中の遠距離恋愛は本気だったはずだぜ

 

なのになんで

 

俺はこいつの事を信じられないと感じてるんだ

 

「それでは誓いの口づけをーーー」

 

心の中に生まれた妙な不信感

 

感じ続けていた違和感と不安感

 

それらが最高潮に高まっている時に神父からは結婚式に付き物の謳い文句が告げられ

 

「させません」

 

なかった

 

は?

 

「いま、なんつった?」

 

「させませんと申し上げました」

 

いや、させませんてあんた職務放棄かよ?!

 

聖職者がいいのか?

 

って目を見張った直後だった

 

バサァッ

 

前触れもなく神父が聖職衣を脱ぎ去ったのは

 

「へ? あ、あんた誰?」

 

聖職衣の下から現れたのは左右に黒。胸部下、腹部にかけて赤い意匠が施された足首まで隠すロングスカートをしたピンクのドレス姿の女

 

背中には白い羽が広がりそのまま女の身を包むマントになっている

 

薄紅色の長い髪と紺碧の海を連想させる瞳が印象的で、その目は今結婚しようとしているこいつ、じゃなく。なぜか俺だけを映し出していた

 

「た、たまきん、誰よこの女?」

 

「い、いや、誰と聞かれましても俺にゃさっぱり」

 

知らんとしか

 

 

 

…?

 

…ほんとに、知らん・・・のか?

 

知らないのか?

 

俺はこの女を

 

「お迎えに上がりましたわシン兄様」

 

高い声音と微笑みを浮かべたままに俺の手を取る見知らぬ女

 

「ち、ちょっと待てよおい! 俺とこいつは誓いの口づけを交わして結婚を」

 

「偽りの誓いなどに何の拘束力や価値があるのでしょうか」

 

「い、偽りだぁ?」

 

そうだよお兄ちゃん!

 

 

ダンっ!

 

 

今度は招待客の最前列に座っていたらしい黒いスカートにフリルをあしらったワンピースのこっちもまたピンクっぽい色をしたストレートロングヘアの小柄な少女が床を蹴って立ち上がった

 

こんなガキ招待されてねーよ!

 

誰が連れてきたんだバカヤロー!

 

「この教会も。ここにいるお客さんも。この世界も。それとぉ、その女も」

 

その女と少女が言ったとき、少女の目に危険な色が浮かんだ

 

敵でも見つけたような

 

いまにも殺しにかかって来そうな危ない微笑みだった

 

「全部ぜーんぶうそっこだもん。お兄ちゃんを惑わす嘘ばっかり」

 

カツ

 

神父という偽りの皮を剥いだ方の女も赤いピンヒールを履いた足を前に進めて歩み寄ってきた

 

俺の手をぐっと強く掴んだままで

 

「そうですわ。ここはシン兄様を惑わせる悪い世界。確かにあったかも知れない世界なのでしょう。確かな可能性の世界なのでしょう。ともすればシン兄様にとり至上の幸福にして理想の実現なされた唯一無二の世界やも知れません」

 

女は語る

 

ここは俺の理想の世界だと

 

もっとも望んでいた夢が全部かなった世界

 

唯一無二の俺だけの世界で幸せな場所なんだと

 

「ですが、わたくしマリーベル・メル・ブリタニアはこの世界の一切を否定致します!」

 

意味わかんね。そこまで言って

そこまで分かっててなんで否定されにゃなんねーんだよ!

 

「わたくしはわたくしの幸せの為にこの理想溢れる世界のすべてを否定します!兄様、まことに申し訳ございませんがわたくしの幸せの為に兄様の幸せには犠牲になっていただきます」

 

はぁー?! なに言ってんだよこのアマぁー!

 

「ふざけんなよ! 俺の幸せよりテメーの幸せのが大事で、そのために俺の幸せを」

 

「ええ否定致しますよ。もう一度繰り返しますわ兄様。わたくしはわたくしの幸せの為に貴方の幸せを犠牲にします。兄様の幸せがわたくしの幸せにとり害悪となるのならばその様な幸せなど断じて認めるわけには参りません! そんな幸せなどこのわたくし自身が自らの手を持ち斬り捨てて御覧に入れます」

 

「あっ、クララをそこの脳みそ筋肉お姫様といっしょにしないでね? クララはクララの幸せの為にクララがお兄ちゃんを養ってあげるんだからお兄ちゃんがニートでも、無職でも、ごろごろしてる博打狂いの駄目男でもなんでも受け入れてあげる♪ でもー」

 

マリーお姉ちゃん以外でお兄ちゃんに近づく女は殺しちゃうかも?

お兄ちゃんを盗ろうとする女もお兄ちゃんを傷つけようとする存在も全部滅っさーつ!しちゃうかも?

決着ついたらマリーお姉ちゃんだろーと容赦しないかも?

 

無邪気に笑っていたちっこい少女は、目を細めて殺意を込めながら笑う

 

いまにも襲いかかって来そうで

 

でも・・・なんだ?

 

なんだっけか?

 

と、とにかくだ! この変な女とちっこいガキは頭おかしいぜ!

 

「た、たまきん、なんだかこの人たち変よ」

 

俺にしがみつくあいつ

 

伝わる感触は震え。恐怖を覚えてるんだこの変な女どもに

 

ここは俺が守ってやらにゃ男が廃るぜ

 

「テメーらいい加減にし」

 

「下がりなさい下朗!」

 

下朗って普通男に対して言うよな?

じゃ俺が下がれってことかよ

 

ほいじゃ一歩下がろうとする俺はしかし、この変な女に掴まれた手が下がらせてくれないんですわはい

 

現実逃避だよな。これ絶ってーにこいつに対して言ってるわ

 

つーか見も知らない変な女になんで俺の嫁さんを下朗なんて言われにゃならんのだ

 

「お兄ちゃんに触るなっ!うそっこ女ァァァ!!」

 

続いてちっこいガキがやっぱり俺の嫁であるこいつを罵りながら俺の傍までてててーと駆け寄ってきて、こいつから、俺の嫁から俺を引き剥がす

 

なんかよくわからんが二人ともこえー顔して目を赤く光らせながら俺の嫁を睨み付けている

 

くっそ、なんだよこれどうなってんだ

 

教会の余興とかじゃねーよな?

 

なんでいきなりこんなことに

 

「悪い魔女は大切なものを奪っていきますなにもかも。さしずめそこな下朗は悪い魔女で、わたくしは貴方を救いに参った騎士といったところでしょうか」

 

羽根つきマントにドレスの女は童話に出てくるお姫様みたいな格好してるくせして騎士とか抜かしてやがる

 

「じゃあクララは善の魔法使いだね。悪い魔女を殺しちゃおう!」

 

ちっこい少女はちっこい少女で無邪気に物騒なこと抜かして

 

「兄様。兄様はいまお幸せですか?」

 

ドレスの女が俺に問う。幸せか?

 

「そりゃ幸せに決まってんだ 」

 

ろーーーそう答えようとして、俺はでも答えられないでいた

 

「理想は理想。夢は夢。追うのも目指すのも自由であり全ては自己の責任である。しかしながら、うつしよはゆめ」

 

「よるのゆめこそまことーってね? お兄ちゃんは夢を見ているだけなんだよ。理想が叶ったかも知れないどこかのあかるーい世界の夢を。でもそれは夢だから。妄想だから。じゃあ反対に日の目を見なかったお兄ちゃんの現実という夢はきっとお兄ちゃんにはつまんない夢だね。いやーな夢だよ? もうメチャメチャのグチャグチャで掃除機で吸い込んでゴミ箱ぽーいってしちゃいたいくらいにひっどい夢。現実なんてそんなものだもん。でもね、それでもクララが幸せになれる夢でクララがお兄ちゃんを幸せにしてあげられる夢でもあるんだぁ」

 

屈託のない純粋な笑顔。これはたぶん、俺にだけ見せる顔なんだなと

なんかわかっちまった

 

「わたくしが幸せになれる夢。兄様がお求めになるのならばわたくしの幸せが叶う夢でもありますわぁ。帝都でデートなどどうでしょう。わたくしと二人だけで。護衛の目を掻い潜るなんて造作もありませんので朝から夜まで御一緒できます。朝食はファミレスなど如何? 普段口にする機会がございませんので。昼食には日本の名物の一つラーメンなど食したいですわ勿論二人だけでですわよ? 夜にはイルミネーションを観ながらレストランへ行きワインでも嗜みながら、そして最後はホテルで甘いひとときを」

 

ドレスの女は頬を赤らめて瞳をうるうる潤ませて

うっとりした表情を俺に見せている

 

「うわーひいちゃうわぁ、下心の塊だよー。マリーお姉ちゃんそんなこと考えてるなんてお姫様失格だねー」

 

「うふふ、日本には姫始めがございますのよ? クララでは犯罪になってしまいますもの。ですがわたくしと兄様ならばランプだけが灯された一室において男と女として愛を語り合ったところで問題などありませんもの」

 

ドレスの女の潤む瞳が近づいてきて、そのまんま唇にちゅー・・・うあ、柔らけー。湿ってんのに温もりがあって、甘い?甘酸っぱい?んな感じが口の中にまでいっぱいに広がって

 

唇ってこんなに柔らかいもんな・・・

 

あれ、俺なんでキスしたことねーわけ?

 

結婚する、のに、なんで、だ

 

「あーっずるーい! クララっ、クララもっ!」

 

「うふふふ、クララでは事案になってしまいますもの。駄目ですわ」

 

「くっ、卑怯だよ年齢持ち出すなんてーっ、ふ、ふんだ。いいもん。 クララはいつもお兄ちゃんの傍にいるから無理やり奪っちゃうもん」

 

「またストーカーでもなさいますの? ああこれは失礼を。スニーキングでしたわね。それならばわたくしもシン兄様をスニーキングする自由がありませんか?」

 

「皇女様のくせにストーカーするなんてはーずかしー」

 

「恋に身分は関係ありませんわね。それにわたくしのもう一つの名はマリーベル・ランペルージ。一民間人でしてよ?」

 

ドレスの女の得意気な顔。結婚だってとまたうっとりした感じになりやがる

 

この顔もたぶん、俺だけに見せる顔なんだろうなってなんか感じた瞬間だった

 

「さあシン兄様。暗く詰まらない失敗した人生を歩むなにもない日常たる"うつしよのよる"へと帰りましょう。わたくしマリーベル・メル・ブリタニアの幸せのために」

 

「ブリタニア一族の闇に生きるわたし。ギアス嚮団エージェント、クララ・ランフランクがお兄ちゃんを幸せにしてあげられる世界に」

 

矢継ぎ早に、早口で捲し立てながら俺を俺の好きだった嫁さんから引き離す二人の女

 

わけわからねーことばっか抜かしながら俺を引きずって行こうとする二人の女

 

そんな俺をあいつは俺の嫁は

 

俺の嫁は

 

俺の、嫁・・・?

 

…?

 

そんなもん・・・俺にいたっけ?

 

立っていたはずの、俺にしがみついていたはずの嫁が、いない・・・

 

俺は玉城真一郎

 

厚生労働省の出世コースに乗ってる課長様で、嫁は昔俺を振ったあいつで、あいつは厚生労働省の部長で

アメリカから帰って来て今日、結婚するはずだった俺の嫁で

 

「うつしよは、ゆめ?」

 

独り言を口にする俺にドレスの女がはいと答える

 

「よるのゆめこそ、まこと?」

 

独り言を口にする俺にちっこい少女はそうだねーと答える

 

「兄様はお一人ではありません」

 

「お兄ちゃんは一人ぼっちじゃないんだよ?」

 

 

だから、夢敗れて暗い人生を歩いている"まことのよるに帰ろう"

 

真実のわたくしが

 

ホントのわたしが

 

 

"ずっと一緒に歩いてあげるから"

 

 

二人の言葉が響いてそれぞれの目に赤い鳥みたいな光が羽ばたく

 

今までいた嫁の姿はもうなかったが、それまであった教会も

 

招待されていた俺の同窓生たちも

 

学生時代の教師や嫁の親父も綺麗さっぱりなくなっちまった

 

 

 



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結局のところ

掲示板ネタ
たぶん甘いと感じます?



 

 

 

 

 

 

結局のところ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辻政信閣下とVV殿下

 

そしてマリーベル殿下とクララ姫殿下を伴い集中治療室に戻ってきた私は、四人の方々が責任を取るという言葉を信じて名無しの事務次官の人工呼吸器を取り外した

 

酸素を送り込んでいた呼吸器を外したことで、元より細かった彼の呼吸に合わせて酸素濃度が低下を始める

 

「つ、辻閣下っ、」

 

私は焦る。医師としての経歴に傷が付く事を恐れてではなく、一医者として患者の死を早めてしまう行いに手を貸してしまっている事を自分で許せないからだ

 

確かに現状患者が助かる確率はほぼ、いや0だ。しかし、まだ患者には、名無しの事務次官には命がある。私は医者だ。例え1分1秒でも命を長らえさせることが可能なのならば、その手段をこそ考じなければならない

 

であるからこそ、これを、この様な呼吸器を外すような方法を認めるわけには

 

しかし辻閣下は「ご安心ください」とだけ言って丸眼鏡の奥で光る目をにこやかにした後、こちらを気にすることなくマリーベル殿下に指示を出していた

 

「さてマリーベル皇女殿下、いやここは永遠の眠りに落ちつつある姫を助けにやってきたブリタニア王国マリーベル・メル・ブリタニア王子と呼ぶべきでしょうか」

 

彼の御仁はおかしな事を口走りながら、殿下へと手渡していた小瓶の中身を口に含むようにとだけ伝えると

 

「では王子。眠り姫に愛と目覚めの口づけをお願い致します。むろんご説明は不要かと存じますが、口の水はしっかり姫に飲ませてくださいよ」

 

衝撃的な頼み事をしていた

 

「辻閣下っ、マリーベル殿下はブリタニアの皇女」

 

「しーっ! 先生はお静かに・・・さあ王子様。貴女のプリンセスがお待ちです」

 

口移しで水を飲ませる。聞いた皇女殿下は目を白黒させながら、それでも口に含む水を飲み込まず吐き出すこともなく、彼女は患者に歩み寄ると、顔を近付けて

 

「ーーーん」

 

患者、名無しの事務次官に口づけながら、口に含んだ水を彼の口に送り込んでいった

 

「う、ぅぅ・・・んく」

 

殿下より送り込まれた水を、名無しの事務次官は苦しそうに表情を歪ませながらも飲んでいく。無意識下の反射的な体の反応ながら、確かにその水を飲み干した

 

すると

 

ピーっ、ピッ、ピッ、ピッ・・・

 

「ば、馬鹿な?! そんな!これは一体・・・?!」

 

一瞬にして呼吸が安定し始め、心拍数も平常値にまで上昇してきたのだ

医学的に起こり得ない現象がいま起きた。如何なる薬の投与を行おうとも速効性を以て容態の回復を促す事など不可能だ

それがどうだろうか。いまにも消えそうな命の火がまるで炎のように燃え上がっているではないか

 

「あ、あの、ツジ卿これは?」

 

口移しで水を飲ませた事に羞恥したのか赤い顔でマリーベル殿下が辻閣下に訪ねた

少し隣に視線を移すと、クララ姫殿下が口に手を当てて驚いた顔をした後に、熊も殺せそうな目でマリーベル殿下を睨み付けていた

いまにも飛び掛かりそうなところをVV殿下が抑えておられるが皆一様にこの現象に付いては驚愕を以て捉えている様子であった

その中にありやはり冷静さを崩すことがない辻閣下は更なる先を促していた

 

「思った通りの効力です。そして、やはり玉城くんは玉城くんだという事ですね。さあ次はクララさん貴女の番ですよ。眠り姫に貴女がお持ちの水を今のマリーベル殿下のように口に含み彼へ」

 

「お、お兄ちゃんに、きききっ、キスするの?」

 

「キスではありません。救命行為です。ですのでお二方共にカウントなさらないでくださいよ?」

 

「は、い」

 

「う、うん・・・じ、じゃあ、お兄ちゃん・・・行くね?」

 

クララ姫殿下も同じ事を行うよう促されると一転して耳まで真っ赤になってしまった

 

ボンっ!

 

そんな音でも聞こえそうなくらいに赤い顔で手にした小瓶の水を口に含み、マリーベル殿下とは反対側へ回ると手で自らの髪を抑えながら名無しの事務次官に口づけをした

 

「んーーー」

 

そして口に含む水をマリーベル殿下同様、名無しの事務次官に飲ませていく

 

「んっ・・・く、・・・んく・・・んく」

 

またもや彼は口に入った水を飲み干していった。すると安定していた心拍数、呼吸、脈拍、すべてが正常値のままに進み始めたのだ。それどころの話ではない。青白く冷たさを感じさせていた彼の肌には命溢れる色艶が戻り始めていたのだ

 

「い、一体これはどういう?」

 

私は問いかけずにはいられなかった

現代医学を真っ向から否定しにかかった丸眼鏡の権力者に。すると閣下は一瞥もくれることなく大したことはしていないとだけを口にした

 

「なんてことのない裏技ですよ。精々彼にくらいじゃないですかねこれが効くのは。もちろん他にも効果の見込める方は探せばいらっしゃるでしょうし、該当人物がいればご提供差し上げますが」

 

「マサノブ。君は、君はこうなる事を、シンイチロウの容態が瞬く間に改善の方向へと向かわせられるだろう事を確信していたのかい?」

 

「いいえまさかそんな事があるわけがないでしょう? 流石にこの即事性は想定の埓外でしたよ。ですけれどね、まあ結果オーライです。この後はそうですねマリーベル殿下とクララさんで彼の手でも握っていてあげてくださればきっと帰ってきますよ。叶わぬ夢、らしくない夢に逃げてしまった臆病な眠り姫は、迷うことなく貴女方二人の王子の下へとね」

 

「お兄ちゃん・・・」

 

「兄様・・・」

 

長年の夢も、追いかけてきた恋も、成就し結婚まで進んだところで何もかもが喪われちまった

 

いまここには好きなあいつはいない

 

娘を頼むよと泣いていたあいつの親父もいない

 

俺たちの期待の星、玉城くんの未来にと祝福してくれていた同窓生たちもいない

 

式その物を挙げていた教会も消えて

 

俺はいま、羽根つきマントにドレスの女に左手を

 

黒スカートのワンピースに背の低い少女に右手を

 

二人の女に両手を引かれて夜みたいに暗い場所を歩かされていた

 

「なあ、おまえら何なんだよ。何なんだよいったい! いきなり結婚式ぶっ壊して俺のこと連れ出してよォ! いったい全体どうしようってのよなあっ!!」

 

左手を繋ぐドレスの女が言った

 

「どうもこうも。ただ兄様を本来の在るべき場所へと連れていく。その為にわたくしたちは参りました。心のずっと奥の奥、深層心理の更に深くより参上した次第です。そしてわたくしはわたくしが幸せになるためにこんなくだらない場所から貴方を連れ戻す。貴方の幸せを犠牲にしてでも連れ帰ります」

 

右手を繋ぐ少女が言った

 

「ここわね。お兄ちゃんがいるべき場所じゃないんだよ。こんなところにいたらお調子者でうざったくってギャンブル好きな駄目男たるお兄ちゃんがいなくなっちゃうから。そんなことになっちゃうとさあ、クララが養ってあげられなくなるの。そんなの困るんだよね~」

 

聞いていると滅茶苦茶な理由ばかりだ。俺は俺なりに真面目一筋に勉強頑張って

 

東大入って

官僚んなって

結婚もして

 

これからだったのに

 

なんでこんな名前も知らねーわけわからんやつらに人生をぶち壊しにされにゃならんのだ

 

「てーかなんだよおい。さっきから聞いてりゃおまえらの言う理想の俺ってただのクズヤローじゃねーかよ。調子ん乗っちゃあ嫌われて、好きな子に告白すりゃきもがられて、高校卒業して受験失敗して、また受けては失敗して、またまた受けては失敗して。挙げ句の果てにゃギャンブル三昧。無職歴も数年ニート歴も重ねて世話になってるおじさんとやらには迷惑ばっかかけて。俺がそんなのだったら自分で自分を殺してやるぜ」

 

聞けば聞くほど最悪だぜ

 

受験失敗はまあ仕方ねー。俺だってギリで合格したんだから大きなこと言えねーしな

 

でもなんだよこいつらの知ってる、こいつらが幸せになるために必要な俺ってのは

 

博打狂いの借金ヤローで言ってる事がころころ変わって一貫性もなし。唯一は官僚や政治家を目指し続けたってとこだきゃまあそれなりじゃねって思ったがよ。叶わない夢追いかけ続けて知り合いのおじさんに助けてもらってりゃ世話ねーぜ

 

家賃未払いに親に迷惑もかけっぱなしの仕送りなし

 

いまは飲み屋の店員として働いてせこせこした生き方しながらまた博打

 

貯金は0で家賃3万のアパート暮らし

 

金に困れば大家のおじさんに助けを求めて半同居人化してぐだぐだ生きてる

 

単なるクズを通り越して天井突き抜けてるアホたれじゃねーか

 

「どうせんなやつぁ誰からも嫌われてんだろ? 自分で自分を冷静に見つめる機会でもありゃ直ぐに気づくだろーぜ。家族からも好きなやつからも友達からも身近なやつらからも誰からも好かれてねーアホでクズでいい加減なバカヤローだってな。ハハッばっかじゃね? 俺がそいつならマジで死にたくなるわ。つーかよ切っ掛けさえありゃ死ぬこと選ぶね。誰も彼もに嫌われて生きる人生なんてクソじゃん」

 

思いの丈ってほどでもねえ。正直に思ったことをぶちまけてやった。まあな、ぶちまけるもなにも普通に考えるだろそんなクズには近づきたくもねーってさ

 

とまあ、そんなわけで俺は頑張って努力して自分で自分を支えながら真面目に生きていく。そんな生き方を断然選ぶね。嵌め外しても精々休み前にちっとばっかし飲み過ぎに注意くらいだぜ

 

部下だって抱えてんのに上司の俺が駄目人間じゃ示しがつかんわ

 

そんなの、この変な女どもも分かってる事な筈だってのに

 

俺の考えが分かったのか羽根つきマントのドレス女が正確な人間像を語りだした

 

「ええ、ええ、わたくしの知る玉城真一郎とは、馬鹿で阿呆で借金まみれで底抜けのお調子者なだけに人様に迷惑ばかりかけてはまともに反省もできず反省しても精々三日もあれば綺麗さっぱり忘れている最低最悪を絵に描いて額縁に入れて飾り付けた様なわたくしの知る人間の中では最底辺を這いずって生きているお方ですわ」

 

ドレス女に黒スカートワンピースの小さい少女が続く

 

「そうそう、言ってる事だってコロコロコロコロボールを転がしてるみたいに変わるし一々ひとの気にしている事ばっかし口走ってはからかってくるしでもう存在事態が限りなく構成物質"うざい"でできたような鈍感にぶちん駄目男なんだよねー。ほんとも死んじゃえばいいのにってくらいの馬鹿の王様」

 

辛辣だった。まるで容赦の欠片もねー散々な罵りようで聞いてる俺までムカッ腹の立つクズだった

 

なら俺もなんか適当にあげつらってやるかなと言葉にしようとしたんだが

 

それを許さないとこっちの口を塞ぐようにして二人は更に続けていた

 

「ですが」

 

「だから」

 

 

それがなにか?

 

 

は? え? いやそれでなにて。こっちが聞きた

 

「わたくしは幼き日にある国のある公園のあるベンチにて泣いておりましたところをうるさいと怒鳴り散らされました。その方、いま思えば体面をお気になさっただけなのでしょう。わたくしを相手におどけながら笑わせてくださり、わたくしのお話し相手を勤めてくださいましたの。その際にお互いの夢を語りながらどちらが先に夢を叶えるのか夢をこの手に掴むのかを勝負しようとわたくしを鼓舞してくださり、挫けそうだったこの背中を押してくださいましたわ。最後にお別れのとき、なにを思い至ったのか存じ上げませんがその方は日本のお菓子である金平糖をわたくしにくださり、あばよなんて格好つけて去っていきました」

 

 

「わたしはね。ずっと地下の研究施設でいつもと変わらない毎日を兄弟姉妹の皆と過ごしていたんだ。そんなときにパパがある国へ連れていってくれてね。パパは用事でわたしはひとりある公園で待っているように言い聞かされてその公園に行ったんだよ。そうしたらなんかあるベンチに座ってはぁ、はぁ、ってため息ついて下向いてる変なお兄ちゃんに会ったの。ちょうど桜が満開な季節でね。沢山の花見客が楽しんでる中でひとり空気をぶち壊しにしてるから気になっちゃってお兄ちゃんの足下まで歩み寄ってから下から見上げてみたんだよ。そしたらあっちいけって追い払おうとしてきたんだけどおあいにく様。わたしは人の言うことなんて聞かないからそのベンチに座って話しかけ続けた。叶えたいけど叶わない夢があるんだって。叶えたいけどその入り口にも立てないんだって。そんなお兄ちゃんはね? 必要もないのに見知らぬわたしを助けて大怪我しちゃったよ。誰かに助けられたの初めてだった。だってわたしは何だって一人でできちゃうもん。でまあ大怪我しちゃったお兄ちゃんは救急車に運ばれて病院に連れてかれちゃった」

 

 

「思えばあの出逢いこそが」

 

「あの出逢いがさ」

 

「わたくしの」

 

「わたしの」

 

 

初恋だった

 

 

「なんだよそれ。そんなクズにおまえら恋してんのかよ・・・? おまえらもアホの同類だったってわけかよ。はは、こいつはお笑いだぜ」

 

「ええ」

 

「うん」

 

あまりもの馬鹿馬鹿しさ

 

その場しのぎだったりくだらねー勢いだったりそんなテキトーな事しかしなかったアホに真剣な顔で恋してると二人は言い切りやがった

 

「ですので」

 

「だから」

 

兄様が

 

お兄ちゃんが

 

 

"自分を否定する理由に私たちを使うなんて絶対に許さない"

 

 

「わたくしと兄様のお約束は再会を果たしたあのときにわたくしの勝利で幕を閉じたのです。そして新しいいまが始まりました。それを兄様の勝手で終わらせるですって? おふざけも大概になさいませ」

 

「わたしはお兄ちゃんがいればなーんにもいらない。お金がほしいならぜーんぶあげる。仕事したくなーいって言うならわたしがお兄ちゃんを養ったげる。でもさぁ、勝手に嫌われてるとか思うなんてふざけんなぁ!!」

 

そんなふざけた理由で逃げようと言うのなら鎖に繋いで逃げられないように一生監禁してあげる

 

「・・・・・・おまえらさぁ。言ってて恥ずかしくねーのかよ。二人してそんだけ綺麗なツラしてたった一人に尽くせるくらいに愛情深い良い性格しててよ、そんな最低最悪のアホなクソヤローを好きになってるとか、そのアホ上回る馬鹿だろ」

 

「ええ、馬鹿ですもの。馬鹿を掴まえるにはこちらも馬鹿にならざるを得ませんもの」

 

「自覚はあるよ? 自分が馬鹿を甘やかせる駄目男製造器だって」

 

ですが

 

でもね

 

 

 

"好きになっちゃったんだから仕方無いよ"

 

「・・・・・・ああマジもんの馬鹿でアホだわテメーら。なあ、おまえら俺を連れてくつってたよな? 俺の望んだ理想的な俺の生活も未来も幸せも全部ぶち壊しにして」

 

「はい、わたくしは兄様の幸せを否定します。わたくしマリーベル・メル・ブリタニアの名に誓いわたくしはわたくしの幸せを叶える為にも兄様の幸せを犠牲に致します」

 

「わたしクララ・ランフランクはこの名に誓ってお兄ちゃんを生涯甘やかすよ? 理想的な格好いいお兄ちゃんなんて超カッコ悪いしそんなクソ喰らえなお兄ちゃんなんて要らないもん」

 

「ああそうかいそうかいそうですか。理想の俺はおまえらには不必要な俺ですか。俺の幸せはおまえらの不幸せですかよ。・・・・・・そこまで言うんだったらよぉ・・・テメーら俺の幸せを奪った責任取れんだろーなぁ!!」

 

「ええ元よりそのつもりです」

 

「責任取って精々ぐーたらな日常生活を堪能させたげるもん」

 

なんだよこいつら即答かよ

やっぱこいつら馬鹿だわ

 

だったら

 

だったら責任取って精々俺の面倒看やがれよな

 

どうなっても俺の責任じゃねーかんな

 

 

はあ、疲れたわもう

 

ばいばいな。俺の理想

 

ばいばいな。俺の幸せ

 

俺以上のアホ二人に掴まった俺を助けてくれる誰かさん

 

いねーかなぁ

 

二人とも良い女なんだが色気が足りてねーんだよ

 

はあ、嫌だ

 

嫌だ嫌だ理想と正反対の人生なんて

 

はあ、嫌だわ

 

ホントは信じてたなんて主張をひっくり返されて嫌だわぁ

 

白み始めた暗い世界の向こう側が見えてきた

そこは理想も何もかも喪ったアホな俺が生きてる世界

俺は俺以上のアホ二人に両手を掴まれたまま、そのくだらねーつまんねー世界へと引き摺り戻されていった

 

 

「う・・・?」

 

気がついたとき、そこには知らない天井が見えていた

なんかスゲー幸せな夢を見ていた気がするんだけど、よく思い出せねー

 

「やあおはよう玉城アホ一郎。目覚めはどうだい」

 

見知った顔が寝起きの俺を出迎えてくれた

 

「さい、あく。腹痛てーし笑ってる癖に般若の形相に見える子供みてーなじじいがお出迎えとかもっかい寝てーよ」

 

「ああどうぞお好きに寝てくれてもいいよ。ただしその子たちから逃げようだなんてのは全面的に却下だ。借金を踏み倒したとしても、それだけは僕も許さないからね」

 

誰かいるのは分かってた

 

俺の左手を握り締めたまま安心したように眠る薄紅の腰まで届いてる長いサイドポニーテールの女マリーベル・ランペルージ

 

俺の右手を握り締めたまま幸せそうに眠る薄ピンクの膝裏まである長い髪をした小柄な少女クララ・ランフランク

 

「なにやってんだよこの色気からっきしの足りない女どもは」

 

マリーはボンっキュっボンっな俺の好みの体つきだが如何せん色気が無い

 

クララは胸も膨らんできて妙に妖しい色気を感じさせる事はあっても理想体型にはまだ遠い

 

つーかこの二人を妹分以上に見れねーよ

 

「さあね。知るもんか。人の娘と姪を泣かせてくれた駄目駄目男になにかを教えてやる義理なんて持ち合わせちゃいないんでね」

 

なんのこっちゃ。意味分からんわ

 

「まあ要するにアホを上回るアホからは逃げられない。魔王クララと大魔王マリーベルからは逃げられないってことさ」

 

「説明プリーズ」

 

「却下だと言ったろ。君はおとなしく二人の王子に守ってもらってればいいんだよ。ああもー娘と姪がこんなアホに入れ込むだなんて僕こそこの現実が悪夢だよ」

 

なんかよーわからん事をぶつくさ言いながら記憶に無い病室みたいな部屋から大家のじじいは出ていった

 

「マリー、クララ、・・・相変わらず色気ねーなあおまえらは」

 

嫌いじゃねーけどさ

 

おまえらは俺なんかのこと本気なのか?

クララは日ごと好き好き光線を送ってくるけど本心はどうなんだ

 

ランペルージグループ社長令嬢のマリーベルはなんで俺なんかに構ってんだ

 

しかしまあなんかさ、幸せな夢を見ていたところをおまえらがぶち壊しにしてくれたような気がすんだ

その幸せな世界にはクララもマリーもいなかった

 

「理想が叶おうがおまえらごいない世界なんざ何の価値もねーかな」

 

本心からの一言。こんなのこいつらには聞かせらんねーな

勘違いさせるだけだし、おまえらにゃもっと理想的な男が必ず現れ

 

そこまで考えたとき背筋をゾッとした何かが駆け抜けていった。なんかもう見つけてるから要らないって声がこいつらから聞こえたような気がして

 

 

「マサノブ待たせたかな」

 

「いいえ、久しぶりにビルの屋上の風を満喫しておりましたよ。季節柄寒さ一辺倒ですが、我が身を以てして季節を感じるのもまた一興。玉城くん目を覚ましましたか?」

 

「いまさっきね。開口一番で僕の悪口にクララとマリーの貶しから入ってくれて思わず殴り倒しそうになったよ」

 

「ふ、玉城くんらしい。ですがその変わらぬ玉城くんらしさが今回は命を救った。もちろんマリーベル殿下とクララさんの御協力あってのことですが」

 

「そこが分からないんだ。どうして君は命の危機にあるシンイチロウが助かると見込んだのか。それもほぼ100%助かると考えたのか」

 

「まあそうですね、魔法の種明かしをしましょうか。玉城くんは死を望んでいた様子でした。ここまでは分かりますね」

 

「ああ」

 

「しかしてその要因は誰からも嫌われている自分は生きる価値がないと彼自身が思い込んだが故のものです。しかしながらあの場にはそれを反転させられる高い可能性を持った二人の女性がいらっしゃいました。そうマリーベル殿下とクララさんです」

 

「どうして確信を持ったんだい」

 

「これも分かりきった答えとなるのですが、お二人のお気持ちは本物です。それに触れ続けていた玉城くんはきっと深層意識に刻んでいた筈なのです。マリーベル・メル・ブリタニアとクララ・ランフランクの名をね。あの水は夢見ドロップ、ドリームドロップの改良品に過ぎませんでした。しかしあれをマリーベル殿下とクララさんが愛情を込めて飲ませるとき、きっと彼の深層心理を呼び覚ます筈だと考え至ったわけです」

 

「ちょっと分からないな。深層心理を呼び覚ますといったってシンイチロウは理想的な夢でも見てそれを現実と捉えて眠り続けていた可能性だってある。もしもそうであるならば深層心理に刻まれているかも知れないマリーベルやクララの存在にすら気づかない事も考えられたはずだよ。だけど君はシンイチロウが最悪の容態にあると聞いて確実性を抱きあんな賭けを"助からない賭けを行った"つまり君にはシンイチロウが助かると確信していたことになる。その根拠はなにか。僕が知りたいのはそこなんだ」

 

「ふふ、残念ながらそこは大日本帝国の魔法使いとして機密事項に抵触致しますのでお教えする事はできません。ただそうですね。玉城くんは生来にして悪運が強い。試しにいま銃弾でも撃ってみましょうか? 100%当たりませんよ。至近距離からでもね。その悪運の強さは意識を喪い死の淵にあってもなお健在だとの確信を私は抱いていました。いえ、彼を知り尽くしているからこそ追い詰められている彼は無敵状態にあったと言い切りましょう。だからこそ勝ち目の無い賭けを行ったのです。如何に彼でも通常化においては単なる一般人に過ぎず、手術費用と入院費用に苦慮する事は目に見えておりましたのでね。それに」

 

「それに?」

 

「マリーベル殿下とクララさんならば世界のすべてを敵に回して否定してでも玉城くんだけの幸せなんて認めないだろうと考えたわけですよ。その執着心・独占欲・依存性・狂的な愛情のどれ一つ取っても深層心理に彼女たちが潜んでいるのなら彼だけの幸せなど受け入れたりしないと。彼の幸せが自らの幸せを邪魔するのならば世界ごと壊して彼を引き摺り戻すくらいはやるだろうと考えたわけです。類は友を呼ぶと言いますがマリーベル殿下とクララさんは類いまれなる才能と聡明さをお持ちの方々ですが、こと色恋には阿呆を越えた阿呆である。まあ結論から申し上げるのならば、結局のところ恋は盲目であるということです」

 

「はぁ、なるほどね。つまりシンイチロウを救ったのはマリーベルとクララの強すぎる愛情に、結局のところマサノブ、君の魔法であったという事かい?」

 

「まあ知識がないと使えない大日本の秘奥技ですので」

 

「それには僕ら兄弟も昔助けられたよね?」

 

「教えませんよ? 魔法とは秘匿されるべきものですので。ああ、それと正確にはあなた方を救ったのは信じる力です。あなた方ご兄弟は嶋田さんを信じきりました。嶋田さんのお言葉を信じきりました。周囲にいるあなた方のお味方を最後の最後まで信じきりました97年ブリタニアクーデターをあの程度で収められたのはこれまた結局のところあなた方自身の信じる心だということをお忘れ泣きように」

 

辻の話に耳を傾けていたブリタニア皇兄ギアス嚮団嚮主VVは、吹き荒ぶ寒風の中、彼方に昇り始めた太陽の光に目を細め、黒いマントと踵まで伸ばされた淡い金髪を靡かせながら終始ご機嫌な様子で微笑んでいた

 

 

 

 



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馬鹿がほしい馬鹿


掲示板ネタ


 

馬鹿がほしい馬鹿

 

 

 

 

「兄様への狼藉は許しませんよ?」

 

ひとが心配してやってきたのに個室の扉を開けるなりディープキッスを交わしていたバーテンとマリーベル・メル・ブリタニア皇女

 

俺はいったい何しに来たんだろ?

 

バーテンが刺されて

 

夜も寝られず

 

掲示板にも顔を出す気分すら起きない毎日

 

その中でようやく待ち望んでいた吉報を受け取りいざ病室まで来てみれば、深い深ーいキスの真っ最中ときた

 

反射的にスマホで撮ってしまったのは悪いと思ってる

 

熱くなって怒鳴り散らしたのも病院内であり病室であり怪我人を前にして非常に悪かった

 

それでも目の前でキス、それも舌まで絡ませ合ってのキスなんかされていて冷静でいられるほど彼女いない無職くんな俺にはキツく感じる事はなかった

 

それでついつい久々となる掲示板に俺こと北南光太郎は某ライダーブラックのように参上してバーテンや俺自身の無事を知らせると共に、キス画像までアップしてしまった

 

ヒーローに似た名前なのにやってる事は三流悪役

 

自分が情けなくなったがマリーベル皇女の護衛を務めている病室前の男性に許可を取りこうしてアップしたのであった

 

 

 

その最中、病室から出てきたマリーベル皇女は俺が指を走らせるスマホを背後よりジーっと眺めていて、予感がした為に何をするーみたいな文字を打ちかけたところで予感通りにスマホをかっ拐われてしまったのだった

 

あとはまあ掲示板住人の知る通り。マリーベル皇女がなんか書き込んでにっこり笑ってスマホを返してくれた

 

「あの、すみませんでした。勝手に」

 

「構いません。これでもカメラには撮られなれておりますもの。気づいてさえいれば少しだけでも顔の角度を変えるだけで写らぬようにする対処など朝飯前ですわ」

 

朗らかに笑う。邪気のない笑みだ。このひとって確かKGFナイトギガフォートレスとかいう巨大なKMFのデヴァイサーもしていて、御自身の手で南ブリタニアに根を張っていた一大テロ組織の基地を二つ三つ潰した戦歴を持っているような怖くも凄い方なのに

 

この顔を見ているとまるでそんな風には感じさせない年頃の女性って印象を受ける。まあ少々美人過ぎて話しかけるのに苦慮しそうだけどさ

 

「そんな事よりも、いつぞやの夜は大変な失礼を致しました。危うく何も関係のない貴方を殺めてしまうところでしたわ。本当に申し訳ありませんでした」

 

頭を下げるマリーベル皇女。左に結われたサイドテールも彼女の動作に合わせて垂れ下がり宙ぶらりんに揺れている

 

「そ、そんな困ります! 頭をお上げになってください!」

 

なんにも知らない民間人の俺だって彼女がとてつもない身分を持つ御方である事くらいは知ってる。そんな相手にただの無職ヤローがいつまでも頭を下げさせているわけに行くかよ

 

すると彼女は二度は語らず頭を上げてくれた

 

「では、お言葉に甘えますね」

 

「甘えてください。というよりブリタニアの皇女様に畏まられるとこっちがどうしていいかわかんなくなっちゃうんで、できれば普通に」

 

「ええ。それでは普通に。あとひとことだけご注意を。兄様の前ではマリーベルさんか、マリーさんとお呼びくださいね? 間違っても皇女様や姫等と呼ばないでくださいましな。兄様はわたくしの正体など何一つお気づきではありませんので」

 

657: 名無しさん :2018/01/30(火) 21:00:24

 

それを聞いて俺は思った。あいつは最大級の馬鹿なのだと

 

「テレビ観れば貴女の御尊顔などいくらでも」

 

「観てはいると思われます。ふふ、おかしなお話となりますが、わたくしがKGFを駆りカメラに納められていた映像をわたくしと二人で御覧になった事もございますのよ? それでも兄様はマリーベル・メル・ブリタニアとマリーベル・ランペルージが同一人物とはお気づきになさいませんの。うふふ、馬鹿でしょう」

 

いや馬鹿でしょうてあんた笑って口走るどころの話じゃないっすよ

馬鹿とかそんな段階で収まらない

 

「あの、それでは・・・それじゃどうしてマリーベルさんはあんなアホなやつと一緒に遊んだり・・・なんというかその」

 

伝えづらそうにしていた俺へマリーベル皇女、マリーベルさんは答えた。ありのままを

 

「好きなのか? ですわね」

 

そうそれだよ。なんであんた分かっててそんなにこにこしてられるんだよ。あんた自分の身分分かってるのか?

あの馬鹿がたぶん気づいてない事を分かってんのか? 俺が女なら悪いけどあんなの願い下げだぞ

 

「うん。あいつたぶんマリーベルさんの気持ちに」

 

「気づいてはおられないでしょう。未だ兄様の中でわたくしは妹分でしかありませんもの」

 

「それ分かってて・・・だったらこっちも不敬を承知で言うよ」

 

あんた・・・馬鹿じゃねーの?

 

 

 

不敬だと言ったが正直な話俺は不敬だなんてこれっぽっちも思ってなかった。馬鹿に馬鹿と伝えて悪いのは確かだが、それがイコール不敬なのではない。真実の話だ

 

なにかの障害を負ってるひとじゃない。この女性は大グリンダ騎士団を率い自らナイトギガフォートレスを駆って戦うような、頭を使った戦いだって要求される戦場で指揮を執り数々の武勲を挙げてきた聡明な人物だ。それが・・・恋に対してはどうしてこうも馬鹿になるのか?

 

思うところを口にしていく俺

 

黙って聞くマリーベルさん

 

直ぐとなりに立つ護衛の人もこれにはわかっているのか頭を悩ませているのか口を差し挟んではこなかった

 

思いの丈を述べる俺にうんうんと相づつマリーベルさん。その度にサイドテールが揺れている

 

信じられないよ。こんな聡明な頭の良い人があんな馬鹿に

 

その馬鹿が無事だと知って喜び駆けつけた自分を無視して言いたい放題だ

 

やがて出てくる言葉が尽きた頃。マリーベルさんは話し出した

 

「自らが恋に対して馬鹿だという自覚はあります。身分違いであるという自覚もございます。ですが、ですがわたくしはシン兄様に、兄様の手にこの背を押されたのです。幼き日に道に迷い泣いていたわたくしを歩むべき道まで連れていってくださり、最後にこの背を押してくださったのです。わたくしはあの日あの時よりシン兄様への確かな愛情をこの胸に抱きました。無論ブリタニアの皇女というこの身。日本の皇族・華族、士族ですらない一介の平民でしかない兄様となどと一時は諦めていたのですが、いつかの時。実にくだらない理由で再会を果たした兄様よりこれをーーー」

 

言って彼女が白いワンピースのポケットから取り出したのは。出てきたのは何の変哲もない和菓子。角みたいな突起が丸い球場の物体にたくさん突き出た日本の和菓子。いまはもう滅多に見ない駄菓子屋にでも行けば置いていそうな飴。金平糖だった

 

マリーベルさんはその金平糖を宝物を手にするように両手に包み込みながら目を瞑り

 

659: 名無しさん :2018/01/30(火) 21:03:25

 

「これを新たに受け取った時よりもうこの恋を諦めたりはしないと誓ったのです。いえ、新たに誓いを立てたのですわ。ですからわたくし、恋には馬鹿になる事を決めましたの。馬鹿と同じ土俵に上がらなければ馬鹿にはこの姿を見ること叶わぬと申されるのならば、このわたくし自身が馬鹿となり馬鹿を超えて馬鹿を手にして放さないようにする。そう、二度と永遠にと」

 

滔々と語るマリーベルさん。マリーベルさんの護衛さんが両手を上げて首を振っている。その様が俺には馬鹿には敵わないと言いたげで。俺は俺で馬鹿を超えて馬鹿を手にすると宣戦布告するようなマリーベルさんをひとり、手に負えない馬鹿だと考えていた

 

「あの、では先ほどのその・・・口づけをしていたのも?」

 

聞きづらいけれど気になって仕方ない事を俺はマリーベルさん、恋における馬鹿に訪ねていた

ただの好奇心からなんだけどね。そしたら馬鹿は顔を真っ赤なリンゴよろしくな具合に染め上げて

 

「あ、あれはその、兄様をお助けする際に行ったある賭け事の負け分の御支払ですの」

 

・・・・・・わっけわかりませーん

うああ駄目だぁ! 俺の中でブリタニアの紅き戦姫のイメージがぐちゃめちゃに壊れてくーっ!

 

なんでもバーテン。本名は玉城真一郎というそうだ。彼は極端に悪運が強く悪い方へのサポートの意味でも口づけなんてものを賭けていたらしい

 

本来の受取人は病院側なんだけど、いくらなんでも同盟国の皇女様からのキスなんて受け取れないし、そもそもマリーベルさんが嫌がる様子を見せていたそうだ。こちらは隣にいる屈強な護衛さんが付け足してくれた。じゃあ払わないかと言えば、神聖ブリタニア帝国の皇女として支払わない訳にはいかないとなり、支払い対象がなんでか病室の中にいるアホに変更されたらしい

 

南ブリタニアの紛争もほぼ沈静化したことで大グリンダの指揮を彼女の筆頭騎士ナイトオブナイツのオルドリン・ジヴォン卿に引き継ぎ長の休暇をもらい、こうして日本において想いびとのお世話をしていた中で交わされた支払い対象変更に従い、マリーベルさんは玉城真一郎さんにのし掛かって口づけをするに至った

 

それがいま俺の見た光景だったとの単純な話

 

 

 

「マリーベルさん、もう一度で悪いけどあんた馬鹿だろ?」

 

「は、はい、先ほど申し上げましたが自覚しております、」

 

「で、さ、なんであんな深いキスをしたわけなんです?」

 

「わ、わたくしがしたかったから。く、唇を重ね合わせただけではその・・・物足りなく・・・、恋愛ドラマのようなロマンチックな口づけをと・・・舌を入れたのも舌を絡ませたのも、10分ほどの深く長い口づけを交わしながら唾を飲ませ会わせたのも・・・わたくしなのです・・・」

 

げーっ!?

 

10分もディープキッスしてたーっ?!

 

俺そんなことまで聞いてねーよ?!

 

つーかそれじゃマリーベルさんあんたが玉城さんを襲ってたんじゃんか?!

 

「ああ・・・よく、よーくわかったよ。あんたやっぱ馬鹿だわ・・・あいつとお似合いだよ・・・」

 

バーテン、おまえ・・・とんでもない女に捕まっちまったみてーだぜ

 

この分じゃあのかわいらしい参謀さんもヤバそう・・・

 

 

俺は静かに合掌しながらマリーベルさんと共にバーテンの待つ病室へ戻った

バーテンはバーテンであわあわして呂律が回ってなかった

 

そりゃまああんなディープな口づけを10分もされてたら、ねえ?

 

 



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めぐりあい馬鹿

 

掲示板ネタの掲示板外

ギアス能力オリ設定入り

 

 

 

 

 

 

めぐりあい馬鹿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は退屈していた

 

訂正、退屈はしていない

 

退屈する暇はないから退屈しようもない

 

要らないと突っぱねるのに毎日毎日面会時刻いっぱいまでマリーベルが俺の世話をしに朝からやってくるのだ

 

なんでか知らないが彼女も含めて俺が根っこからは誰も信用していなかった事がバレてしまった

 

どうもバらしたのはネットを通じて最近友人となったばかりの渾名無職。正式名名無しの無職だが、長いので無職と呼んでいる

 

やつも割合毎日に近い形でお見舞いという名のその実遊びに来ていたが、たまにマリーベルに病室外に連れ出されては翌日来なくなる事がある

 

後で来た日、マリー抜きの時にサシで聞いてみると、毎日遊びに来られては兄様のお体に負担が掛かってしまいますので明日はどうかとお願いされるらしい

 

なら自分はどうなんだよとマリーベルに直球で聞いてやったら「わたくしは兄様のお世話係ですので」で、来て普通なのだとかなんとか

 

言わんとしてるところは分からんでもない。刺された傷は病院の話では全治三ヶ月。そのあとのリハビリやらなんやらで退院後も通院だけは欠かさないでほしいとのこと

 

入院中は入院中で患部に負担のかかる行為は慎むようにとのご注意まで受けていた

 

こうなると再会してからそんなに月日も経ってないにも関わらず、俺の行動や考えに聡いマリーベルが俺を放置しとくわけない。案の定入院から一月後にはお目付け役よろしくとばかりに毎日張り付いてきた

 

これがクララなら何とでもなる。あいつもあいつでお目付け役は簡単にこなすが、反面俺のお願い事については大抵聞いてくれる

何かほしいと金渡せば酒の一本二本くらいまでなら隠れて買ってきてくれるだろう。無職はマリーベルみたいに厳格じゃないけど酒は駄目だろあれは駄目だろで全部を聞いちゃくれない。なんて友達思いの無いやつだ

 

そこで俺は気をやった。はたと思い付いてしまったのだ。マリーベルがあんな毎日朝早くから夜遅くまで俺に付きっきりなのは、信用されてなかったことがショックだったからではないのかと

 

676: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:51:21

 

あれは容態が安定してきた頃だった。ガラッと開いた病室の扉。現れたのは子供姿の大家のじいさん。信じらんないがあれでも年金受け取るような年齢だ。ずいぶん前に身分証見せてもらった時にそれは分かっていた

 

本名V.V.

年齢5X

 

見かけは子供、中身はお爺ちゃんだ

 

まあよ、平均年齢が劇的に伸びた現在じゃいわゆる中年に当たる年なんだが、そのおっさん達の現役時はそれでも高齢者扱いだったわけでそれこそ年齢の割りにゃ年金貰えてる最後の世代

俺らの世代じゃ年金は80から下手すりゃ90から支給になってるかもしれない

こればかりは平均寿命の伸びと共に定年が上に伸びたから仕方ない

 

まあそんなわけで子供なおじさんが見舞いにでも来てくれたのかなと考えていたら近づいてきて無言で頭を殴られた

あれはかなーり痛かった。気合いの入った一撃ってやつだわ。その時の俺は今よりまだ体悪かったんだが容赦ねー。そんで言ったてか怒られたわけだよ

 

『伊達や酔狂で君のような阿呆に僕やみんなが付き合ってるとでも考えてたかい? もしもそうならちょっと頭を開いて中を見せて貰いたいものだね。中身が腐ってるなら捨ててあげるから』

 

なんにも返す言葉がなかったぜあれは

 

『僕はね。これでも君を息子みたいに思ってる。出会った時は虚勢はった単なるお調子者な悪ガキ。飲み友達になってからは大言壮語な大法螺吹き。クララの遊び相手を頼んでいたよね? あの子は大層君になついていた。その様子を長年見続けて最近は息子かな?って思い始めていたんだ。それをまあ僕らが君を嫌っていて本当は信じちゃいなかっただぁ? 人の機敏も社会もろくに知らないようなクソガキが粋がってるんじゃないぞっ!! 僕はまだいい。君にそう思われていたんだと知ったクララの気持ちを考えたかっ?! 僕やあの子の兄弟姉妹、あの子の叔父である僕の弟やその兄弟姉妹にさえ見せたことがない大声を上げて恥も外聞もなく泣きじゃくってたんだぞっっ?!』

 

677: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:51:51

 

心からの叫びってやつだったわ

 

『正直に言おう。僕はね、あの時ほど君を殴って殴って殴り回して・・・殺してやりたいと思った事はなかったよ。クララは小さい頃からずっと君に言い続けていたね? 例え世界が敵になろうともクララだけはお兄ちゃんの味方だからって。あれは嘘でも世辞でもない心からの言葉さ。あの子は僕がもしも"君を殺そうとするなら"君を連れて世界中を逃げ回るって言ったんだよ。他ならぬ"この僕にだ"』

 

さっぱり分からない話だ

 

俺はクララの事も

あのじいさんの事も

よく知らない

 

俺のつまんねー日常にふっと現れていつの間にか日常の一部になってた。クララが何かヤバそうな"お仕事"ってやつをしてるって程度にしかクララを知らない

 

クララが泣いた

 

クララが大口開いて泣きじゃくった

 

残念ながらそいつがどれ程の意味なのか俺にはさっぱりだ

ただ他でもない俺がクララを泣かせたって事に思い至っちまった瞬間、俺は自分を殴ってやりたくなってた

 

あいつは俺を好きだといつも公言する

 

 

お兄ちゃんラブー

 

愛しのクララちゃんが来たよー

 

クララはお兄ちゃんが好きだもん

 

お兄ちゃんがクララを鬱陶しいガキだって思ってもクララはお兄ちゃんがだーい好きだよ!!

 

 

なんてこたぁねー。結局くだらねぇ昔の自分に固執して、何かしたらまた嫌われるって

本当はクララにだって嫌われてるんだ。だから急にうざいと言われても、蔑まれたり貶されたりしても、アホだと馬鹿にされても、それは仕方ないんだって予防線張っていたのは臆病な俺の方だったって話だ

 

クララはいつだって俺の味方だった

全部終われば残っていたのは覆しようの無いたった一つの事実だけだった

 

678: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:52:42

 

マリーベルについちゃわからねー。昔会ったことあるあの公園で泣いていたやかましいガキだった。警察官の親がいるってのは嘘で本当は環太平洋経済圏の三大企業の一個、ランペルージグループの社長令嬢だったってことくらいしか

 

でもよ、夢叶えようってあの話は本当だった。その時迷っていたらしいあいつの背中を俺が押したんだと

 

あいつもあいつで俺みたいなアホともう一度会いたいとか馬鹿な事を考えてたらしい

受験大失敗して夢諦めた俺と違ってあいつはあいつの夢を叶えていた

 

そんな中で偶然再会したわけなんだが、再会してからこっち暇さえありゃ会いに来てたような気がするわ。ほとんど取れない貴重な休暇を使って、あのやたらと攻撃的な金髪の女マリーベルの部下だっていうオルドリンと一緒に

 

そこら辺からだったか?クララがマリーベルに攻撃的だったのが分かったの。クララはあいつの従姉であるコーネリアにもやたらと攻撃的視線を送ることがある。それは俺がコーネリアを気にしていたからだ。仕方ないじゃんかよ。もろ好みのタイプだし

まあ、なんかコーネリアの婚約者らしい眼鏡と張り合っていたがよ、相手にもされなかった。家柄もよくて頭もよくて、強くてイケメンとか、勝てっこねーよ

 

ま、何にしろマリーベルとクララは犬猿の間柄だった。そのマリーベルも今回の件を知って、俺の弱くて脆いテキトー心くんの本音を知って泣いていたんだとさ

 

振り返れば馬鹿だわ。ホンっとにつくづくアホだよ

あのおっさんはマリーベル、マリーを泣かせた件に付いてもこっちは別だってキツいの一発ドタマにくれやがった

 

こっちもまた心に響き渡る一撃だったわ

 

『僕のかわいい娘と姪を泣かせてこれで済むなんて安いものなんだぞ』

 

何がどう安いのか分からなかったがマリーの親父はランペルージグループの社長でおっさんは名誉職っつーても会長様だ

 

実際拳骨二発で済むとか安いんだろうな

 

679: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:53:18

 

とまあ嵐のようなお小言をいただいたわけだが、そのおっさんは去り際「半年間休暇をやる。バーオーナーとしての特別権限だ三割カットだけど給与も出す。精々早く元気になって遊びまくればいいさ」って男相手なのに惚れちまいそうな笑顔をくれて帰りやがった

 

あのおっさん普通に体が成長してたらスゲー美形なんだろうなぁ

 

 

そんな経過で始まったような穏やかな入院生活は一月過ぎてマリーがお世話係するようになってから変わった

 

学校帰りには必ず来てくれるクララと顔を会わせるたびに嫌み謗りの口喧嘩だ

 

こいつらには仲良くなろうとか友達になろうとかの考えはないのか?

 

聞いてやったら

 

『アハハあるわけないじゃん。マリーお姉ちゃんは目下最大の敵だから。滅殺対象だからぁ』

 

『ウフフフ、ありません。いっときの共闘は既に解消されておりますのでクララ・ランフランクは我がエルファバの殲滅対象となっておりますの』

 

エルファバってのは無職が差し入れてくれたノートPCで観たネット動画で、マリーとよく似たブリタニアの皇女様が乗り回してるとんでもなくデカイ飛行型として開発されたナイトメアフレームの事だ

 

詳しくはマリーが教えてくれた

戦場カメラマンが撮影してるらしいが迫力が段違いで映像で観ても「俺つぇーーー!」感が半端なかった

 

680: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:53:54

 

ああそうそうマリーの話考えてたんだった

 

あいつがああまでクララを敵視する理由。クララがマリーを敵視する理由。考えれば考えるほどに俺がコーネリアのこといいかと思ってる時の状況と似てやがった

 

これはまさかだが

 

まさかマリーのやつも俺の事好きなんではなかろーか?

確認するには本人に訊くしかない。俺に悟れとかそれムリ。うんそれムリ。どこかの委員長が可愛かったなぁ~。ニート時代に深夜アニメで観た委員長キャラ。最後は死ぬってか消えちまうんだが、好きだったわあの子

 

でムリ。じゃなかったマリーさん。ちょっと酒を買ってきてくんね?

 

「うん、それムリ」

 

言うと思ったわ。昔を懐かしんで昨日クララと二人でその涼宮ハ◯ヒの憂鬱ってアニメを観ていたんだが、挟む形でマリーも観てたんだよ

一応その場にいた無職も一緒に観ていたんだけど俺がオセロの黒でクララとマリーが白になって挟み込むように視聴し始めたのを見て

 

『リア充のくせに、リア充のくせに何で萌え系アニメをリア充状態で観てんだよ! 死ねーよ!』

 

なんてぶつぶつ独り言喋りながら部屋に備え付けのトイレに入ったっきり一時間出て来なかった

 

俺なんか悪ぃーことしたか?

 

681: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:54:41

 

「ビールか酎ハイ350缶1本くらい良いだろ?」

 

「いけません。病院で飲酒など許されませんわ」

 

「ここ個室じゃんかよ」

 

「四人部屋でも二人部屋でも個室でも病院内は病院内。駄目なものは駄目です」

 

よしここで釜をかけてやる

なんでやろうと思ったかこまどりくん

それはキスをされたからとカラスは言った

言ったんだよ

マジでキスしてきやがったんだよ俺の手術後に賭けして負けたからって

負けたからって普通キスなんかするか?

それもすっげー長い時間、口ん中に舌まで入れてきてベロチューだぜベロチュー

 

ああ、あれは甘酸っぱくてゾクゾクして気持ちよくて、なんか幸せな気分だった

 

そこを無職に見られて終わったけど、あれ見られてなきゃまだキスされてたろうなぁ

 

だからだよ。こいつまさか俺の事をって思ったの

 

「俺を好きなマリーなら買ってきてくれそうな気がする」

 

「好きなお方であるからこそ買いにいきません。ムリ」

 

いい笑顔で首かしげて頭の左側で一纏めにした長いサイドテールを元気に揺らすマリー。・・・・・・状況確認終了

 

682: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:55:35

 

「あっ・・・!」

 

自分の吐いた言葉の意味に気がついたのか。マリーはみるみる顔を赤くしてこっちを睨み付けてきた

 

「だ、だ、騙しましたわね?!」

 

「アホかよ騙してねーよ?! テメーが勝手に口走ったんだろ!? だいたいこないだのキスはあれなんだよ!? 思いっきりベロチューしてきたじゃんかあれでなんにも思ってないとか鈍い俺でもそりゃおかしいって分かるわ!!」

 

「う、うう・・・」

 

うつむくマリー。なんか最近はうつむく、下向いてばっかだなこいつ

したら、急にキッと睨み付け直してきて「ううーーーっっ!」ってしがみついて胸にグーパンしてきた

 

痛ッデェェーーーっっ!

 

俺怪我人!俺怪我人!

 

となんのかんので落ち着いた?マリーは

 

マリーベル・ランペルージは玉城真一郎が好き

 

簡単に言ってのけた

 

「お、おまえはよ、認めたらずいぶんあっさりだな、」

 

あっさり過ぎて逆に引くわ

 

「わたくしの敵と対等な立場に上がらなければならないと、この事件の最中に気づかされましたので」

 

「はあ、やっぱ敵ってのはつまりあれかクララか?」

 

「はい。わたくし最大の恋の敵はクララ・ランフランクとお見受け致しました」

 

そうかよ。でもそれ勘違いだぜ

 

683: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:56:35

 

「あのな。こうなったらもうこっちもぶっちゃけちまうけど悪ぃーがよ、クララもマリーも俺の好みじゃねー。俺の好みは」

 

「兄様の好みの女性はボンっ、キュっ、ボンっ、の色気ある年上の女性なのでしょう?」

 

「なんだ、知ってたのかよ」

 

「クララよりお聞き致しております。『どーせクララもマリーお姉ちゃんも相手にされてないよー』と」

 

「んならなんで」

 

「だから? それで? クララは申しておりましたわ。そしてわたくしも申し上げますわ」

 

"貴方を好きなわたくしの気持ちを否定する権利など貴方にはありません"

 

・・・・・・何処かで聴いたような言葉だな。ああそっか、昔っからクララのやつが抜かしてや がる事と同じなんだ

 

目を合わせるとこっちを射抜く瞳までクララと同じだった

 

「これで対等。ここからが真の勝負。わたくしは玉城真一郎。これよりあなたをこの手にするまで地平の果てまでもあなたひとりを追いかけて参ります。地平で捕らえられないのならば宇宙の果てまでも。ですからわたくしからは諦めるつもりなどありませんのでそのつもりでいてくださいな。ね、シン兄さま」

 

684: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:57:17

 

ああ、そうかわかったわかりましたよ。おまえら揃ってたちの悪いストーカーだとな

 

「言っとくが俺は好みの女見つけたら逃げるかんな?」

 

「ご自由になさいませ。たかだか其処らの有象無象ごとき。わたくしのエルファバを以て焼き払ってご覧に入れましょう」

 

「エルファバってあの動画ね・・・いやいやマリーさんよ、あんたあの皇女様と名前おんなしで顔似てるだけの別人だろってかあのデカイナイトメアフレームに乗ってる皇女様よりおまえの方が断然かわいらしいぞ」

 

「えっ・・・ま、またその様な戯れを仰ってはぐらかそうとしても!」

 

「いやいやそこは本心。あんなゴツイもん乗り回してる女よりはマリーのがずっと可愛いわ」

 

嘘じゃない。この辺はな

クララもマリーも俺には勿体ないほど可愛くて良い女だってのは分かっちゃいるんだよ

ただどうしても昔からの事があるせいか妹的に見ちまうんだ

クララはもち、マリーもあのちっこかった嬢ちゃんの頃が思い出されてなぁ

 

「い、いまは、そのお言葉だけでわたくしは良しと、す、少し失礼を」

 

「小便か?」

 

「違いますっっ!!」

 

ぷりぷり怒って出ていった

 

685: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:58:03

 

「・・・」

 

なんだかな・・・

 

「はあ、どうすりゃ良いのよこれ」

 

「おまえが死んだら解決するわ!!」

 

「うおっ? 無職いたのか!」

 

「そりゃいるよ! おまえちょっと酷くね?」

 

「悪い悪い、ていうかおまえ話聞いてたのかよ? 盗み聞きは趣味悪ぃーからやめてくんねーか」

 

「誰が盗み聞きなんかするか人聞きの悪い。つーかアホかよ。おまえらの中二的な話し声さ、部屋の外まで聞こえてたぞ」

 

「ま、マジで?」

 

「マジマジ。つーかさぁおまえこれどうすんの? 自分で油に火ぃ着けてさ放火魔かおまえ。この間のキスだって黙っておけば知らぬ存ぜぬで逃げられたのに。後な、おまえ注意しとけよ俺もう逃げるから」

 

 

見舞いに来たあの参謀さん、クララさん、は辺かな? クララちゃんかな

 

そのクララちゃんさあ、扉の前で立ち尽くして全部聞いてたぞ?

 

目蓋をうすめて半笑いで、暗~い笑顔で扉を見つめて

 

686: 名無しさん :2018/02/01(木) 00:58:35

*

*

*

 

マリーベルは気分を落ち着けるため。そしてせめてジュースくらいならと玉城に飲ませてあげる為に扉を出たところで、膝裏まで届く薄いピンク色の髪を肩から払いながら扉の中へ入ろうとしていた少女とすれ違う

 

「そんな手段を取るなんて、さすがは横入りドロボーはやることが汚いね。反吐が出る」

 

少女はすれ違うマリーベルを罵る

 

「同じステージに立った? アハハハハハ、ジョーダンにしては笑わせてくれるじゃない。お腹が捩れちゃうよホントに。クララとお兄ちゃんの間にはね、過ごしてきた時間があるんだ。子供の頃からずっと一緒だった時間と絆がある。ちょっとくらいキスした、お兄ちゃんの唇を奪ったくらいでイイ気になるのも大概にしてよ」

 

身も凍りつくような怨念を秘めた声で告げる少女クララの挑発を受け止めたマリーベル。彼女はそれを受けても何でもない事のようにして受け流した

 

「安い挑発ですこと。時間がある? その時間のおかげで貴女は兄様に"妹"としてしか認識なされていないのではなくて?

それに貴女に傾き始めている兄様の心を奪うにはいずれはわたくし自身が舞台に上がらなくてはならなかった・・・そう、これはほんの少し早く訪れた天秤を傾けるトラブルですわ」

 

付き合うクララはその美貌に半笑いを浮かべたまま敵を見据えた

 

「へぇ、ドロボーの分際でわたしのお兄ちゃんを盗ろうっていうんだぁ・・・」

 

マリーベルもまた敵を見据える

 

「ええ、妹などにいつまでも兄が必要であるとは思えませんもの。それに貴女はそこらにいる有象無象ではないわたくしの敵ですので」

 

扉の前にはもう一人、マリーベルの護衛が立っていたが口を挟むことはない

 

彼はクララが世間には知らされていないブリタニア皇帝の兄君にして、ギアス嚮団嚮主V.V.の血を引く、ブリタニアに数多いる闇の姫の一人とでも呼ぶべき立場にある存在だという事を知っているからだ

 

そのギアスは本気を出せば既に両眼を以て行使可能となっておりこれに伴い威力も増大している。名前も知らない相手にも命令の行使が可能なほどに

ギアス対策を受けていないマリーベルの護衛一人などどうとでもできてしまうのだ

 

それにこの場の罵り合いは恋愛事の話だ

他人が口出しすべき話でもないとだんまりを決め込んでいた

 

だいたいギアスならマリーベル皇女とて持っており、ギアスユーザー同士の戦いになればもう常人には付いていけない

 

正直部屋の中のキングオブ馬鹿を巡ってバトられて巻き添えで死んだらアホである

 

 

 



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「ここに来んのも久しぶりだわー」

甘くはないですよ






やっぱり返さないと情けない
でも分からないものは分からない



 

 

 

「ここに来んのも久しぶりだわー」

 

ツンツンに逆立てた茶髪に攻撃的なつり上がり気味な、目付きの悪いすらっとした男は、連れ立って来た短髪黒髪の普通体型な同年代の男に聞かせるよう空に向かって独り言を吐き出した

ツンツン茶髪の男ハンドルネーム『名無しのバーテン』は、日本帝都東京内の某所に佇む飲食店の店員だ

給金は月25~30万とそれなり

色々と入り用な帝都でも彼くらいの稼ぎがあればなんとか生活が出来る程度には頑張っていた

 

「よくここで沈んだりハイになったりしたもんだ」

 

夢は官僚か政治家か

 

国を動かす立場に立ちたかった男は夢破れて今を生き昔を懐かしむ

日ごと報道を賑わせる国会の場にもしかしたら立っていただろう自分を幻視して

 

「この公園に思い入れでもあるの?」

 

彼の心中預かり知らぬバーテンの連れ

ハンドルネーム『名無しの無職』は、何かを思い出している彼を見て問いかけていた

 

「特別な場所に聞こえたんだけど」

「んーまぁ、思い入れっつーか、今の人間関係が出来る元になった場所なんだよ。夢とか何とか考えたり、クララと出会ったのもここ。このベンチでさ。V.V.のおっさんやマリーベルと出会ったのもここなんだ」

「へぇ、さしずめ人生の交差点か」

「んな大袈裟なもんでもねーけどな」

 

失敗人生始まりの地でもあると、バーテンは自嘲気味にからから笑いながら手に持つ缶ビールを仰ぎ飲んだ

 

「失敗人生ねぇ、俺にはそうは思えないよ」

「なんでよ? 俺ってば最終学歴三流高校なんだぜ。大学受験なんて全部失敗だしさ。成功人生とはとても思えねー」

「大学行ったからって成功するとは限らないよ。俺を見ろよ。いま無職で親からの仕送りに頼って生きてるんだぞ? どうだい成功してるよーに見える?」

「いや、そりゃなあ、まあ」

 

バーテンの自嘲に無職は自嘲で返礼をした

 

「バーテンはさ、成功はしてなくても失敗はしてないよ」

「そっかなぁ」

「そうだよ」

 

バーテンは彼自身が知らないだけで、築き上げていた人間関係についてだけを見てみれば、無職の知る人間の中では最も大成していると断言できてしまう男なのだ

 

彼を思いやる人たちに彼は囲まれている

彼を心配する人たちに彼は囲まれている

彼を愛する女性からは海よりも深い愛情を寄せられている

 

それだけを以てしてもバーテンは誰よりも成功者なのだと無職は思った

 

人間関係を構築するのは一朝一夕でどうにかなるものじゃない

 

長い時間が必要だ

 

家に籠りきりだった自分にはただ無為に過ごしてきた時間しかないのだと無職は考えていた

 

「俺なんて家族との付き合いはない、友達いない、知り合いなんてネットの中だけだったんだ。最近になって生まれた交遊関係だっておまえを通じてのものじゃないか。おまえは俺よりもずっといい環境にいるよ」

 

それにバーテンは無職ではない。飲食店店員といった平社員だがランペルージグループの末端社員でもある

大人しく今を享受しながら真っ当に生きてさえいれば順風満帆な日々を送れるのだ

 

「それなのに失敗なんて言ってたら殴りたくなる」

 

得てして恵まれた環境に身を置く者は、自分が如何に恵まれているのかに気づかない

知らないだけで羨まわれる場所に彼はいるのだ

バーテンには分からずとも無職には分かること

彼との交遊関係を築いたことでそのおこぼれを与っているのは誰あろう無職自身だという事だった

 

「殴んのはやめてくれマジに。こないだあの糞ジジイに殴られたばっかしなんだから勘弁だぜ」

 

糞ジジイ

 

バーテンがそう呼ぶ人は世界も視野も共に狭しな彼の中では一人しかいない

 

おっさん、ジジイ、爺さん、ガキみたいな年寄り

 

まるで悪口の羅列とも受け取れよう罵りを吐かれているその人は確かに年輩の人で

見た目だけなら小学生そのものな、色素の薄い色の金髪を踵まで伸ばした不思議な雰囲気を持つ人物だった

 

名無しの無職はその人とも面識がある

何度となく見舞いに訪れていた病院で顔を合わせた、バーテンの東京での身元引き受け人の人であった

その正体はバーテンに好意を寄せている二人の女性、その人の実子クララ・ランフランクという可憐な美少女と、ブリタニア帝国の戦姫、第88皇女マリーベル・メル・ブリタニアの実の伯父なのだ

 

ブリタニア帝国皇帝の兄

 

皇籍を返上しているらしいとはいえ、ブリタニアの皇兄殿下であった

となれば実子クララ・ランフランクも世が世なら姫殿下となる

 

無職はバーテンと二人で巻き込まれた事件を通じてバーテンの周りにいる人たちの正体を知っていた

どこの誰を見渡してもVIPばかりという恐ろしい人間関係だった

 

バーテン自身は何も知らない

だがしかし、知らないで良いと皇兄殿下、V.V.は無職に伝えていた

 

知らない方が誰しもにとっても幸せで

気兼ねなく接する事ができるだろうと

 

馬鹿ゆえに気づかない

生来の鈍感力が良き方向へと彼を導いているのだ

 

そんなバーテンにとっての最良の環境が生まれていた

 

「まーた怒られるような事したんだろ」

 

普通の一般人にしては有り得るはずのない滅茶苦茶な交遊関係を持つそんなバーテンは、入院中何度もV.V.に怒られていた

 

飲酒で怒られ

誰ぞに馬券を買いに行かせては怒られ

ナースにセクハラしては怒られ

娘をベッドに連れ込んだと誤解されては殺されかけ

 

まさに自業自得の連続だった

 

クララをベッドに連れ込んだのは誤解から生じたすれ違いだが、大体は考えなしの彼が悪いに帰結するので、無職もバーテンの性格と無計画ないい加減具合を目の当たりにし理解させられていた

 

V.V.おじさんが怒る=バーテンが悪い

 

話はそれで終わってしまうのだと

 

「なにやらかしたんだよ」

「マリーに5万借りたんだ。そしたらよ、その日の内におっさんちに呼び出されてマリーと一緒に一時間正座強要、くどくど説教されながら俺だけ4,5発いかれた」

「…おまえすげーな…」

「なにが?」

「いや…」

 

一国のお姫様に平気でお金貸してと言える無神経さがだよ!とは無職も言えなかった

彼の周囲の人間関係についてを彼自身も入れて誰にも口外しないようにと言い含められているから

 

「クララが俺を甘やかしてるって怒られて俺に金貸すの禁止されたって言うもんだからマリーを頼ったわけよ。したらば今度は俺も呼び出し受けて、俺みたいに無計画な金遣いをしてる人間の金の貸し借りは信用の切り売りに繋がる。お互いのために良くないからやめろって借りたばっかの金をマリーに返させられちまってさ」

「おじさんの言うとおりじゃんか。大体なんで借金しなきゃならないくらいにまで使い込みするわけ?」

「5と9が来ると思ったんだよ!」

「やっぱしギャンブルかー!!」

 

バーテンはギャンブルが好きである

生活費を使い込むほどにやらかしてしまうくらいには

リアルで初対面したオフ会が競艇だから言わずもがなであるが

 

「クララからも生活費を使い込むなって注意された」

「へー、あのおまえには駄々甘なクララさんがね」

 

クララとはまだ短い付き合いの無職だが、彼女の甘えっぷりは見ている方が恥ずかしくなるくらいだった

 

膝枕、耳掻き、抱き着きに頬擦り

胸に抱き止めて頭をなでなで

尽くす女だからと自分で言い切る彼女はとにかくバーテンに甘えまくるし、またなにかと彼に対して甘くもあった

ついでにクララへと対抗するようにしてマリーベルもバーテンに対してそれはそれは甘い事この上ない有り様だ

 

病室で彼の唇を奪った事を皮切りに、彼を抱き寄せ胸に掻き抱いたりして甘えるその姿からは

世界最先端をゆく倉崎重工の技術をふんだんに盛り込まれているらしい、エルファバという巨大な空中戦用のナイトメアを駆使して、テロリストを相手に大立ち回りをする勇ましさなど微塵も感じられなかった

 

(二人とも甘やかせ過ぎてるんだろうな)

 

V.V.やマリーベルの筆頭騎士がブレーキを掛けて丁度いいくらいなのかもと、無職は無職なりに色恋とは無縁の人生を送りながらも考えさせられるほど、クララもマリーベルもバーテンには甘いのだ

 

(こんなのがどうしてあんな美少女や美女にモテるんだろ? 世の中理不尽だ)

 

世が世ならブリタニアのお姫様だったクララ・ランフランク

世も何もブリタニアのお姫様であるマリーベル・メル・ブリタニア

甲乙付けようにも付けられない美少女と美女が駄目男に恋をしている

 

(あーなんか腹立ってきた)

 

このヘンテコアンバランスな恋模様を密やかに応援はしている無職だったが、腹立たしいものは腹立たしい

鎌首をもたげる嫉妬に身を焦がそうとしていた無職はだがその直後にはバーテンの意外な一面に心を沈めさせられてしまう

 

「おかげでこんなのしか買えなかった」

 

バーテンが肩から下げていた鞄から色とりどりのキャンディが入ったキャンディボックスを二つ取り出したのだ

 

「絶ってーに使わんと残してた金で買ったやつなんだけどな。やっぱ返すもんは返さないと情けねーかなって」

 

一つは宝石箱のようなキャンディボックス

もう一つは坪をかたどったような透明のキャンディボックス

 

「こっちには丸いキャンディがいっぱい入ってて、こっちには金平糖がいっぱい入ってんだよ」

 

バーテン的にはあれこれ悩んだが結局マシュマロよりもキャンディにした

なにを? 勿論先月のお返しである

 

「まさかそれ、クララさんとマリーさんにか?」

「他に誰がいるよ」

「チョコ、もらってたの?」

「先月な」

「…」

 

淡々としたバーテンと、思わず殴りたくなった無職

だが無職は一方で称賛してもいた

称賛されたバーテンにはわからないが、金遣いの酷い彼が女性の為に絶対に使わないお金を避けて置いていた事実に無職は衝撃を受けたのだ

 

「殴るのまた今度にする」

「なんで殴られにゃならねんだ!」

「いや、全国のモテない男を代表して」

「なんの代表だよそりゃ!」

 

しかし二つのキャンディボックスはどちらがどちらへ渡るのか

無職の興味はそちらに移っていたのでこれはこれで良かったのだろう

 

「丸いキャンディの入ってるキャンディボックスがクララで、金平糖のがマリーだ」

「意味でもあるのか?」

「金平糖についてはマリーが好きな飴だからだ。クララの方はちょっと悩んだけどよ、マリーが飴だからクララも飴かなってな。安直だが飴と飴なら公平だろ」

 

にししと笑うバーテンに彼なりに考えてそうしたらしいと分かった無職は聞いていた

 

「なあ、おまえさあ、どっちが好きなの?」

「は? なんだよいきなり」

「クララさんとマリーさんのどっちが好きなのかって話。真面目な話だぞ」

 

急な話に押し黙るバーテン

そんな事を聞かれても困る

好みと外れてるし

そう言い訳をしそうになるも言葉にならなかった

 

「あー、うーん。や、あのさぁ、怒んなよ?」

「怒らないよ」

 

答えにくかったがバーテンは答えた

 

「今までろくに考えたことなかったんだよ。クララもマリーもなんつーか妹って感じで。マリーと再会したのはつい最近の事だからまあまだしも、クララとはあいつが小学生の頃から遊んでやってたから。二人とも好みのタイプからは外れてるし、でもな、なんかこう…なんつーの…? あーなんつったらいいのかわかんねー。モヤモヤしてる。あいつらの気持ちは嬉しいし、あいつらとキスしてから変に意識しちまって、昔好きだった女の子の事を考えてたときと感覚的には似てるんだが、なんかもやーっとしてるみたいな…おまえ分かる?この感じ」

「逆質されても分からないって。俺、女の子に好かれた事ないし恋愛経験無しだから。単純にどっちが好きなのかなって思っただけなんだ」

「そっかあー」

 

話はすぐに終わりを迎えてしまった

最終更新:2018年03月17日 16:38

 

 



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「あと一週間だねお兄ちゃん」

掲示板外リミット一週間前ネタ
で玉城の分際で砂糖まみれネタ



 

 

 

「あと一週間だねお兄ちゃん」

 

唐突なひとことを病室で告げてきたクララは満面の笑顔だった

ようやく今年もやってきたーだとさ、いやあ楽しいようで良かったねーお嬢ちゃん

 

「ことしも俺好みの女からは義理しかもらえねー日まで一週間だねぇ。あーマジくそだわー」

 

「むーっ! クララがいるじゃん! 気に入らないけどあの横入り女もいるしなんで不満なの?」

 

そういや今年はひとり増えてんだった

なんか悪い気がする

もらう側なのはクララで慣れてたはずなんだがなんつーかな。まさかの相手とまさかの再会して、そうこうする間になんか腹をぶっ刺されて色々ありすぎで気が回らなかった

 

2月14日は贈り物があるから

 

クララは毎年の事なんだがマリーまでがンなこと言い出すとは思わなかったわ

 

「ああそうだなー。もうそんな季節なんだよなー。まだ寒いわー。早くあったかくなんねーかなー」

 

そこまで考えてから一転興味ない風を装い、あーでもないこーでもないとはぐらかそうとする俺氏

 

をだがクララは許してくれそうになく

すぐに話を元の方向へと持っていこうとする

 

「駄目だよねー逃げちゃ。女の子から逃げるなんてそれカッコ悪い事だからねお兄ちゃん」

 

部屋に備え付けられてる飾り気のない病室のベッド。俺専用の個室だから俺の専用ベッドと言えなくもない。割りと大きめのサイズをしたベッドに身を乗り出しては乗っかってくるクララは、やっぱり話のはぐらかしについて絶妙に突いて来やがった

 

「話を逸らせるのもダーメ。クララはお兄ちゃんが好きなんだもん。女の子として真剣に」

 

四つん這いで這い寄ってくるクララ。俺が頭を載せている枕元まで這い寄ってくる

俺を見下ろすクララ。流れ落ちるクララの髪の毛がいつかのようにカーテンの役割をして俺とクララの顔を外から見えなくした

相も変わらぬ薄ピンクの髪。どんな色だよピンクって。天然だとか言ってたが信じられねーいろだわ。そういやコーネリアもコーネリアで紫髪。コーネリアの妹のユフィもピンク髪だったな。マリーもピンク寄りの紅色か

こいつらって一族揃って頭がカラフルすぎだろ

VVのおっさんやルルやナナちゃんはまだ普通の髪色なのになんでこうも血族内で違うんだ?

おっと、いやぁ俺としたことが一個忘れてた。VVのおっさんとルルは目の色が紫っぽかったな

ランペルージはカラフル一族かよ

 

764: 名無しさん :2018/02/09(金) 14:57:00

 

 

「えへへーっ、お兄ちゃ~ん」

 

しっかし、どうにかなんねーのか? この寝てる俺を覗き込んでくるクララちゃんの体勢よぉ。既視感がスゲーんだけど

 

「なあさあ、なんか前にもこんなことなかったか? 寝てる俺の布団におまえが入ってきて顔を寄せてきて、俺とおまえはお互いしか見えなくなるみたいなこんな感じが」

 

布団で一緒に寝る程度なら昔からだが、こうなんつーの、迫られる?的なのはそんな無かったよーな。だからやられた時のことをなんとなーく覚えてたんだよなぁ

 

「んー? そうだね~、あったかなあ前に」

 

やっぱりありやがりましたか

 

「ただあのときもお兄ちゃんはクララの、私の話をはぐらかしてたような気がするよ?」

 

「そっか、はぐらかしてましたですか」

 

「でしたでした。んー、あーゆーのって逃げてるとも言うよね? まあ似たようなことがあったのはホント」

 

「やっぱしなぁ、あったよなぁ、俺の記憶違いじゃねーんだよなー。んでクララさんよ、あんたとしては俺の上から梃子でも退かねーってんですか?」

 

「うん!退かない!」

 

「言い切んなよ!」

 

「言い切る! だあってーっ、昔からお兄ちゃんにはしてた事だしお兄ちゃんのお腹の上でクララ寝たこともあるじゃん。一度や二度じゃなくっていっぱいね? だから今さらお兄ちゃんに覆い被さろうがクララ的にはお兄ちゃんのお腹の上から退く必要性を感じないのだよ」

 

「なーにが、のだよ、だよ。それってまだおまえがガキの頃の話じゃねーかよ。あのさあクララ。おまえもちっとばかしは今のてめえの年を考えろよなあ。おまえだってもう数えで18なんじゃね? こう、不味いだろ色んな意味で」

 

「2017年の時は16でしたー。じゃ2019

年では? わかるよね」

 

「んなことくらいわかるわいバカにすんな! アッシュフォード学園日本校高等部クララ・ランフランク実年齢17の数え18だよ!」

 

「そうです。もうすぐクララも18なのです。お兄ちゃんはいつまでクララちゃんを待たせるのかなー? ほらクララちゃんは不味くないからおいでおいでー、ドキドキワクワクテカテカー」

 

不味いわ!

社会的に抹殺されっちまうだろ!

 

「月日が経つのはマジはえーわな。んでおまえは一生理想の王子様でも待ってろよ。俺応援すっからはいお仕舞い」

 

「はいはい終わらないから。また話をはぐらかしてるよ? 駄目だってクララは言ったじゃん。クララの王子様はお兄ちゃんだけなんだからね」

 

765: 名無しさん :2018/02/09(金) 14:57:30

 

だからここまでしちゃうんだよー?

 

言って布団をめくりあげるとクララは俺の腹の上にまさかの腹這いになっては顔だけひょこっと俺の顔の前に出してきた

 

「うおい! 看護婦とかに見つかったらやべーだろ!」

 

「フッフッフッ。クララ、もぉ分かってるんだからね? お兄ちゃんがクララにドキドキしてるのをフハハハハー」

 

「だから年を考えろってんだよ! おまえの年ならそりゃ膨らむとこ膨らむのは当たり前なんだよ! 何を偉そうに自分は特別だーみてーに威張ってんだよこの体勢で!」

 

「隠さなくても良いじゃん。お兄ちゃんはクララと同じ様にクララにドキドキしてる訳なんだしさぁ」

 

ああそうだよ。困ったことにこの何年かの間にクララは女の子から女へと急成長してきてやがる

 

体は小柄で背は低くても、16の辺りからぐらいか? 胸の膨らみは徐々にながら確実に大きくなって、女に付き物なあの甘ったるい匂いを漂わせてくるようになっていた

 

それは胸部が膨らんできた大人になろうと花開かんとしているこいつの体からか

それとも昔から変わらないさらさらとした長い髪の毛からか

 

男の性としてクララの"女"を意識させられっちまう

 

マジな話全身から良い匂いをさせているクララに、俺はクララだけにクラっと来ちまった事があるし今も来てるっちゃ来てる

 

「クララだけにクラっと・・・うわーくっだらねーよ俺ぇ・・・」

 

「えっなにが?」

 

「クララが良い匂いさせてるからクラっと来ちまった。なんて考えてた」

 

「ああオヤジギャグね・・・うんまあ、寒いね」

 

「自分でも寒いと思った」

 

766: 名無しさん :2018/02/09(金) 14:58:01

 

 

寒いんだけど暖かい

 

そりゃクララに密着されてりゃ寒いはずねーか

 

ああもう良いわこのヤロー

ヤローじゃねーけどこのヤロー

 

「うりゃ!」

 

「わきゃっ!」

 

俺の腹に寝そべってきたクララを両手で抱き締めてやった

もうそりゃ力いっぱい抱きすくめるくらいにぎゅーって

 

はぁ、膨らんだ胸・・・柔らかいわ

 

体も柔らかい

 

匂いは甘ったるい

 

以上。クララは良い女に成長してきてますようですよ

 

あ? たまきんの分際でやりすぎだ?

 

知るか!

 

俺の煩悩を刺激しまくってきたのこいつなんだから文句あるならこいつに言えバカ!

 

「お、お兄ちゃん、積極的・・・」

 

「へ、変なこと言うんじゃねーよ、そんなつもりは全っ然ねーからな? か、勘違いすんなよ?」

 

途端にクララの綺麗な透き通った目が細まる

 

「へー? つもりはなくてもマリーお姉ちゃんのキスは良いんだね~?」

 

ちょっとした話の中で俺を見下ろすクララから受ける感覚が変わる。この目をしてるときのクララはヤバい

 

なんかしんねーがマジでヤバい

 

本能が恐怖を感じるってのか?

やたらとヤバい感じがするんだよな

 

ま、ヤバいっても、そのヤベー空気も受ける数を重ねてりゃすっかり慣れたもんだが

 

半眼で薄く暗い笑い

 

このときのクララは確かあれだ。昔クララの"お仕事"を訊いたときに初めて感じてから、おっさんの家で何年振りかに会ったあのときのガキ。マリーが俺に飛び付いてきてはひしっと抱き締めてきたときに感じたやつだ

 

おっさんの話じゃ深くは訊かないであげてほしいと念入りに忠告されていたが

なんか良くわかんねーがヤバいって感じだけは分かるんだよな

 

「あ、あれは事故つーか、マリーに無理矢理」

 

「無理矢理なら良いんだぁー、へぇ、そんなことクララ知らなかったよ?」

 

危ない雰囲気が増していく

 

「無理矢理なら良いんじゃさあ、いまクララちゃんが無理矢理襲っても良いになっちゃうんだよ分かってるの?」

 

どうすりゃいい?

 

なにをするべきなんだ?

 

難しいことなんか考えられない我が2bitの頭脳よ!

今こそその真価を発揮しやがれ・・・!

 

767: 名無しさん :2018/02/09(金) 14:58:34

 

・・・駄ぁ目だーっ! なーんにも良い案が浮かんでこねーっ!

 

てさ、そもそも真価を発揮できるわけないんだよ

 

所詮は2bitだし

 

必死に考えた挙げ句に好きな女にゃ振られてるし

 

昔の友人関係だって破綻してるし

 

大人になってから知り合った南やら吉田なんかは別だけどさ

 

もち、クララとマリーとVVのおっさんも別だしさ

 

そんな親しい友人知人さえ信じられずにいた俺の馬鹿さ加減にはほとほと呆れるばかりだぜ

 

でもな、調子乗りの馬鹿だってのは死にかけてから初めて自分で気づいたからな

誰だってこんなやつと付き合うの嫌だろ?

 

ま、な。クララもマリーも、掲示板で知り合ったダチの無職(本名、北南光太郎)も

みんな俺には勿体ないダチだったわけなんだけどさ

 

こいつらだけじゃねー

VVのおっさんも俺の親父みたいに俺を叱ってくれるし

ルルもナナちゃんもジェレミアもキューエルもヴィレッタもコーネリアもユフィも

あのクソ眼鏡ギルフォードや、ヤクザみたいなダールトンとかいうコーネリアの警備長?みたいな人も俺みたいな馬鹿の相手をしてくれてる

 

南や吉田も、気軽に飲みに連れてってくれたりさ。結局俺が駄目駄目だっただけで、みんな友達だったんだよな

 

辻さんも良く俺からの悩み事相談に乗ってくれる

 

ありがてーよ

 

本当にマジでこんな馬鹿にさ、みんな付き合ってくれてるなんて

 

768: 名無しさん :2018/02/09(金) 14:59:10

 

「お兄ちゃん?」

 

「なあ、クララ。おまえさ、もし俺がこの先ずーっと誰とも巡り会わずに独身だったら、そんときもまだ待ってくれてるか?」

 

なに言ってんだか

 

さすがにそんな都合良く待ってはくんねーじゃんよ

 

当たり前だよ。なんで合わせてくれるよこんな馬鹿に

 

ただ、なんかさ

 

答え、分かってたわ

 

「待つよ。クララは待ってるよ。お兄ちゃんがクララに女を感じてくれてるいまクララが待たない理由なんてない。お兄ちゃんが他の誰かに心を奪われちゃうならクララの方に振り向いてくれるように努力するよ? 悔しいけどマリーお姉ちゃんもクララと同じだと思う。クララと同じ舞台に立ったとかイイ気になってるけどさ」

 

ああ、分かってたよおまえはそう言うだろうなって

あの不意打ちキスでマリーベルもそうなんだろうなって気づいてた

 

「良い女すぎて眩しいわおまえ」

 

この純粋さが眩しすぎる

 

ぐいっ

 

俺は、俺には過ぎたる女なクララを引き寄せて、その唇を奪っていた

 

「んむうーーーっ?!」

 

悪い。まじごめん。ただ、マリーに奪われたファーストKISSストーリーは、俺から奪う形でおまえへのファーストKISSストーリーにしてやるわ

俺がそうしたい。なんもできねークズで馬鹿をそれでも養うとか言う超級馬鹿なクララにはこれくらいしないと駄目っぽいから

 

「んっ、むぅ・・・」

 

マリーにやられたときの逆位相。今度は俺がクララの唇を割って入って舌を絡めとる

 

気持ち良いよなキスって

 

あーあ、なにやってんだよ俺は

 

キス気持ち良いわ

 

アッシュフォードなんてお貴族様の名門校学生相手に、超お嬢様な可愛い妹分相手に俺はベロチューかましてる

 

キスは気持ち良いし美味しい味がする

 

769: 名無しさん :2018/02/09(金) 14:59:57

 

「ふっう、うぅーーン」

 

歯茎をなぞって舌を絡めさせて、クララの唇も口内も好きに味わって、これ絶ってーに問題アリだよなぁ

 

でも気持ち良いわ

心地良いわ

変な渇きが潤わされて満たされるわ

湿った唇を擦り合わさせて唇と唇を啄ませながら感じる舌の味わい深さ

マリーに続いて二回目のキスは自分からしてるせいかクララの唇を味わうヨユーがちょっとばかしあったみてー

 

いや、クララの甘ったるい声さえ聞き心地良いわ

 

こちとらスタイルグンバツな年上が好みだってのに、クララやマリーのせいで女の好みを変えられちまいそうでこえーよ

 

「ぷはぁっ! はぁ、はぁ、はぁー気持ち良かった美味かったっ! ふぅ・・・んで? これで満足かよクララ、マリーにされたのと同んなしだぜ? ほっとんど記憶吹っ飛ばされてるがマリーからの思いを込められたキスだけは忘れてねーから」

 

クララの様子を伺う。さあどうでるよクララ・ランフランクさんよ

 

「・・・し」

 

「し?」

 

「信じらんない! あの横入り女お兄ちゃんになんてことしてるんだなんてーっ!!」

 

でも

 

「き、気持ちよかった・・・お兄ちゃんからの口づけ・・・甘酸っぱい・・・ドキドキぞくぞくした。顔も、熱い・・・よ?」

 

クララは熱でも出してるみたいに耳まで赤くしてる。そうだよ、あのときのマリーみてーに

そら俺だってはずかしーわ。今のなんて半ば無理矢理くさかったし、これで嫌がられてたら犯罪者爆誕の決定的瞬間になるとこだったぜ

 

「なぁ、クララ・・・いまのな、女知らねー俺の全力投球だから・・・あれ以上はさすがの玉城さんにも無理だから、もう変な期待すんなよ?」

 

「う、ううん、クララは、い、いまので充分だよぅ・・・く、クララ、幸せ・・・」

 

ふにゃーって力が抜けたクララはそのまま俺の首に顔を埋めてきた

 

ああもうクソッタレ。クララもマリーもなんでこんな可愛くて良い女だってのに

 

770: 名無しさん :2018/02/09(金) 15:00:32

 

「なんであと7.8年早く生まれてこなかったんだよ~っ」

 

「そんな心の慟哭を叫ばれたって無理なものは無理だもん。だって生まれは選べないから」

 

そりゃそうだ。生まれが選べるなら俺は今頃大金持ちの御坊っちゃまだ

 

「えへへー、でもクララはいまの関係がとっても良いからこれでいいかなぁ」

 

「いまの関係、なあ・・・・・・あの、なあ、おまえさぁ、もう何回訊いたか分からんくらいにしつこく訊くけど、本気なのかよ? 俺を養うから俺がニートでも良いとか」

 

「うんホンキ♪ クララちゃんはお兄ちゃんを養いたいもん♪ もちろんお邪魔虫な横入りお姫様と決着をつけた後でね」

 

首にぐっと頭を押し付けては中々強烈で個性的な自己主張を押し付け気味に話すクララ。ちょっと目線下げるとピンク頭が見えている

横入り姫ってマリーのことだよな。なんでまああんな仲悪いのか

 

・・・

 

ひょっとして、俺のこと好きだからか?

二人とも振ってやったのに?

 

それでも俺を好きで居続けるクララとマリーの気持ちを否定する権利は俺には無い、ね

まあ、言わんとしてんのは間違いないか。俺にその気は無くても俺を思うのはこいつやあいつの自由なんだもんな

 

そいつを否定する権利なんぞ俺なんかにゃねー。道理ってやつか

 

それに、俺だって別に二人のこと嫌いなんじゃねーし

 

好きかといやぁ、そりゃまあ好きだし・・・好きじゃねーならキスなんてしねーし・・・マリーにされたときも、うんまあ、嬉しかったし

 

ああーヤバいぜ。いかんいかん。俺の理想の女ってあれだ、クララやマリーと同じランペルージさんちの人らでもコーネリアやギネヴィアなんだぞ?

あの姉ちゃん達は場外ホームラン級で俺の好みド直球。ただし、脈なし・・・

 

そいや無職のやつ「マリーさんもクララちゃんも二人とも超美人なのにおまえは贅沢すぎなんだよ」なーんてこと言ってやがったなぁ

 

俺そんな贅沢なのかなぁ

 

771: 名無しさん :2018/02/09(金) 15:01:25

オチまで続いてますが用事があるので投稿はのちほど

 

772: 名無しさん :2018/02/09(金) 17:50:48

上の続き

 

 

 

 

 

んー、でもまあそれは別にして好かれてるのはやっぱ嬉しい

 

「なあクララ、ありがとな・・・俺みたいなさ、俺みたいなクズをそれでも好きでいてくれて」

 

正直に話す

 

なんのことはねー。ただ俺みたいなやつを好きな物好きな女が俺の側にいつでもいてくれただけだ

 

「クララ、なあ、なんならこのまま久しぶりに一緒に寝るか? 検診やらも終わってるし、面会終了まで時間あるしさ。今日はマリーも来ないはずだーーー」

 

話してるとくうくうって首の下から聞こえてきた

 

「なんだこいつ。もう寝てんのかよ」

 

マイペースなやつだよな相変わらずに

 

高校生ンなってもクララはクララか

暢気なやつだよ病室のベッドに潜り込んできて俺の上に腹這いで寝腐ってやがるとか、無茶苦茶なんだよおまえは昔もいまも

黒と白のゴシック風なドレスのスカートくっしゃくしゃになっちまうぞ?

おまえに良く似合ってる可愛らしいドレスなのに

 

「世界でただひとりの俺の味方か・・・こんなクズでいい加減ヤローな玉城さんの味方を昔っから公言してんなぁおまえくらいなんだぜ?」

 

心強いわクララ。たったひとりでも絶対な味方がいてくれっと思うとな

 

ガラガラ

 

まあなんだ。色々昔のことやらクララのこと。好きとか、好きだからキスしたんだと思うとか、色んなこと考えてるとだな、入り口の扉が開かれたわけよ

 

定期検診もう終わったんだがなぁ

 

「よっ、バーテンの玉城。相変わらず馬鹿か?」

 

「馬鹿は余計だよバーロー」

 

入ってきたのは黒の短髪に平凡普通な容姿をした特徴らしい特徴の無い地味な男だった。ハンドルネーム名無しの無職だ

 

こいつもこいつで良く見舞いに来てくれている

最初はノートPCに始まりアニメにエロ画像にと色々持ってきてくれて大夫助かってる

 

病院生活は暇だから退屈しのぎにちょうど良かった

エロ動画やエロ画像についてはクララやマリーに見つかると目の前で破棄されちまうから秘密のフォルダに鍵かけて隠してる

おっさんなら男なんだから別に良いんじゃないか?で済ませてくれるんだが、クララとマリーの二人は不潔だとか言い出しては全消去しにかかってくるからなぁ

 

特別休暇の終わったマリーは仕事で忙しいとあまり顔出しできない日もあるために、実は溜め込んだエロ動画視るには最適な時間が生まれていたのだ。クララが来るのは学校終わりだし、時間を気にしておけば問題ない

 

「で、調子どーなんだ?」

 

「ん? まあ順調。もうすぐ本格的に退院。一日帰宅くらいなら許可もらえたりしてたけどな。けどやっぱしのんびり自由に遊びたいじゃんか」

 

「遊びたいって、おまえ仕事はよ」

 

「ふ、おまえも話したあの小学生みたいな外見のおっさん。あれ俺が勤めてるバーのオーナーなんだけどさ、そのオーナー様が半年間の有休くれてんだよ。早く退院したら残りの給与はポケットマネーで出してやるってんで、心配ナッシングよ」

 

「あ、ああ。あのおじさんか? 黒マント着た地面に着きそうなくらいのめちゃめちゃ長い金髪のブリタニア人の。あの子供にしか見えないひとだよな。俺さ、あのひとのID見せられてビックリしたよ。まさか60台半ばとはなぁ」

 

「そうそう。小さい癖に年金もらってる爺さんなんだよあのおっさん。そのおっさんがさ、必要ならもう少しくらい特別有休として休暇の延長してくれんだと。太っ腹だわさっすがオーナー様だよ」

 

「バーテンおまえなあ。こないだはこないだでケチなおっさんとかあのおじさんの事を散々言ってたのに変わり身早すぎ」

 

「はっ! んなこたぁ分かってんだよ。それでも。それでもみんなしてこんな馬鹿に付き合ってくれてんだ・・・おまえもな無職」

 

「まあなあ。他の人達のことは分からないけどあのVVおじさんと、マリーさんとクララちゃんはおまえのこと見捨てたりしないよ。俺もさ」

 

773: 名無しさん :2018/02/09(金) 17:51:39

 

「・・・そっか」

 

VVのおっさんにはぶん殴られた

 

マリーとクララは泣かせちまった

 

無職はリアルでずっと来てくれてる

 

たまに南や吉田も来ている。あくまでもオーナーだから店は店長に任せきりで滅多にバーカウンターに立つことはないおっさんがバーに立っていて、そのおっさんから事情を聞いたそうだが、本当に良いやつらばっかりだよ

 

「なあバーテンところでさ、おまえ太った?」

 

「はっ?」

 

「いやその腹よ、ちょっと出てきてね?ってさ、いや俺もメタボ近い体型だからひとのことどうこう言えないけどな」

 

太った?

 

俺が?

 

自分の布団を見る

 

うん。いやまあしっかりこんもり膨らんでますな

 

だがこれは違うぞ。俺ゃ断じて太ってないぞ

 

「ああ、これは違うんだわ」

 

「違うってなにが?」

 

「一見は百聞にしかずってな」

 

「それ百聞は一見にしかずだろ」

 

「え? そうなのか? いつから」

 

「前からだよ。おま、本当に高卒かよ?」

 

「ま、まあまあ、そこはおいといて。これは」

 

俺は布団を少しだけ。俺の腹を敷布団に、俺の首のした胸ら辺を枕にして寝てるクララの頭だけを無職に見せてやる

 

「こういう事だよ」

 

少しばかり捲った布団

表れるピンク頭と寝顔

そいつを目にした無職は

 

「・・・・・・おまえいい加減にしておかないと警察に通報するぞ?」

 

警察?! 思わぬ返事が返ってきた

 

「クララちゃん女子高生だろーが! 援交疑われるぞ!」

 

「お、おいおい落ち着けよマイフレンド無職ぅ。こいつ体は小柄だけどこんなでも数えで18だぜ? 大丈夫だって」

 

「じ、18っ?! ・・・と、とてもそうには見えない。俺てっきり中学生くらいだとばかり」

 

「VVのおっさんの娘だけあってか体つきが小さいからな。これでも高三だよ」

 

「あのおじさんの娘さんならまあ・・・って結局高校生じゃねーか! アウトだよアウトっ!」

 

「変なことしてねーぞ!」

 

「じゃあいまなにしてんだよ!」

 

「クララが布団に潜り込んで這い寄ってきて俺の腹の上で寝ちまったんだよ。昔からなんだぞ? おっさんだって知ってるしおっさんちの家人も知ってる」

 

クララにキスしたのは黙っておこう。クララにキスしたのバレたらおっさんに殺される・・・

 

マリーにはマリーで次なにされるかわかんねーし

 

774: 名無しさん :2018/02/09(金) 17:52:25

 

「そ、そうか・・・そうだな、そうだったな。おまえはリア充の類いだったよな。鈍感無意識ヤローでマリーさんみたいな美人やクララちゃんみたいな美少女を振ってそれでも好かれてるムカつくヤローだったよなぁ」

 

おい無職よ、ひと殺しそうな目ェしてるんだけどおまえ

俺、なんも悪ィことしてねーんだぞ?

 

「そんなバーテンにヤバい情報をひとつ。さっきロビーでサイドポニーの女性と出会った。あの子供みたいなおじさんもいたよ。それと丸い眼鏡の中年すぎな男のひとも」

 

・・・? なんか、聞き覚えのある特徴の人達ばかりなんだがそれ・・・

 

「・・・しつもーん」

 

「なんだ?」

 

「サイドポニーのひとは薄紅色っぽい髪か?」

 

「イエス」

 

「子供みたいなおじさんは黒いマントを着た超長髪な金髪の少年?」

 

「イエスイエス」

 

「丸い眼鏡のひとは60台くらいですっげ冷静そうな雰囲気の丁寧な言葉遣いなひと?」

 

「イエスイエスイエス」

 

・・・

 

「マリーとおっさんと辻さんじゃねーか!」

 

ヤベーよ! なんでこんな急転直下でピンチになってんだよ俺はぁ!

 

「イエスイエスイエスイエス・・・どうすんのおまえこの状態よ?」

 

どーするもこーするも

とりあえずをこいつ起こす!

 

「VVおじさんやマリーさんに見つかったらヤベーんじゃねーの?」

 

「辻さんもヤベーんだよ! あのひと女学生によからぬことする男にゃ容赦ないから! こんなとこ見られたら思いっきり勘違いされちまうわっ! クララーっ! 起きろクララーっ!」

 

無職の忠告にさあっと血の気が引く思いのした俺は俺の腹の上でのんびり寝入ってるクララを起こそうと揺する

 

775: 名無しさん :2018/02/09(金) 17:55:04

 

だが

 

起きねーっっ

 

なんで体揺すっても叫んでも起きねーんだよこいつ!

 

「な、なあ無職よぉ、おまえはなんも言わないよな? トモダチだよな俺達は?」

 

「・・・まあ、黙っててやるよ」

 

よっし! 言質採ったぁ!

 

俺は頭まで布団をひっかぶる

勿論起きそうもねークララもろともで

 

 

布団の中にクララの甘ったるい匂いが充満していた。柔らかい体。さらさらな髪。いい匂いの宝庫みたいになってやがるよ

 

が今の俺にはそんなもん気にしてるヨユーなんぞねーっ!

 

どーせ起きねークララをぐっと抱き締めたまま強引に体を横にする

とにかくこいつの薄ピンク色頭が見えないようにして

幸いにもクララは小柄だから誤魔化しも利くだろ

あとは布団からこいつの長い髪の毛がはみ出たりしないように手繰り寄せてだ・・・よし! これで準備完了!

 

「無職くん、俺は寝てる。いいな? 俺は寝てるって伝えてくれよ? 絶対だぞ?」

 

「わかった・・・寝てる、で良いんだな?」

 

「おう。寝てるで良い」

 

了解。じゃ寝てるからって伝えとくわ

 

776: 名無しさん :2018/02/09(金) 17:55:50

 

これでいい。退院前とはいっても寝てる病人を起こそうとして布団をめくりあげたりするやつはまずいねー

 

あとは狸寝入りしてりゃ嵐は

 

『僕は少しばかり特別でね。クララの居場所が分かるんだよ? 帝都総合病院内にいるはずなんだよ』

 

『そういえば面会者の記帳にもクララさんの名前がありましたねぇ。何処にいらっしゃるのやら』

 

『・・・・・・兄様。実はお起きなのではありませんか?』

 

『い、いえマリーさん、あのおじさんも辻閣っーーーあ、いえ、辻さんも皆さん落ち着いてくださいって。玉城さんはぐっすり寝てましたのであまり病室で騒ぐのはどうかと』

 

『ふむそれもそうですね。ところで帝都在住ハンドルネーム名無しの無職、親御さんから月に20ないし30万ほどの仕送りを受けながら一軒家でニート生活をなさっているご趣味はアニメに漫画にゲーム。あとはちゃんねる伍式の散策に書き込み、特に政治や日ブの皇族・華族・貴族板やスレに常駐なさっておられますーーー本名北南光太郎さんでしたか? 貴方はどうして彼がお眠りだと知っているのですか?』

 

『そ、そ、それは、声を、かけても、へ、返事がなかった、ですから・・・』

 

嵐は勝手に通りすぎそうもなかった

 

こ、怖い

なんでも知ってる辻さんが怖い

ベッドにクララを連れ込んでると感づきそうなおっさんが怖い

狸寝入りがバレそうなマリーが怖い

 

みんなしてこえー!

 

無職、頼むぞ無職よ!

しくじるなよ!

おまえだけが頼りなんだかんな!

 

あと、クララ!

 

おまえは絶ってーに起きるな!

 

このタイミングでおまえが起きたら俺アウトなんだから絶対に起きるんじゃねーぞ!

 

 

 



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ちゃんねる伍式【絶対】バレンタインdayを止めようスレその16384【廃止】

ちゃんねる伍式



 

ちゃんねる伍式

 

 

1:名無しの廃止

 

【絶対】バレンタインdayを止めようスレその16384【廃止】

 

 

ここはバレンタインを廃止しよう運動スレです

バレンタインは神聖なる宗教行事であって断じて恋人が愛を語り合う日ではありません

恋人持ちはすべからく荒らしです

 

2:名無しの廃止

1乙!

 

3:名無しの廃止

カップルくたばれ

 

4:名無しの無職

二股のカスは氏ね・・・ていったら本当になりそうだから困るわ

 

5:名無しの廃止

断固廃止!

バレンタイン廃止運動をしよう!

 

6:名無しの廃止

バレンタインなんかいらんやん

 

7:髭子爵

親筋である主家の更に主家を馬鹿にされた我輩久々に書き込むスレがこのスレとは

 

8:名無しの廃止

>>4

クソカップルになんぞあったか!?

 

9:名無しの廃止

まさかのメシウマ!?

 

10:名無しの廃止

>>7

子爵様、華族・貴族板のブリタニア貴族スレでなんか大変だったらしいですね

 

11:名無しの無職

>>8

>>9

カップルじゃない。カップルじゃないんだ・・・

鈍感系本命にはモテないくんヤローなんだけどね

よりにもよって美女と美少女にモッテモテなんだよムカつくわ

あと、そいつ12月末に通り魔に刺されたから冗談でも氏ねとか言えない

子爵様は知ってますよね

 

12:名無しの廃止

バレンタインなんかお菓子屋の陰謀だろ馬鹿馬鹿しい

 

13:名無しの賭博師

禁止にする必要はなかろう。モテないなら努力すべし。日本男子として恥ずかしくないのか?

 

14:髭子爵

>>10

うむ。我輩もロズベルト男爵家当主には大変怒りが覚め遣らぬ状況ではあるな

しかしペンドラゴンの官僚殿にして新たな領地伯爵殿がいま調整なされておられるところで我らヴェルガモン伯爵家一門は見守っているところである

それと貴族スレのコテハン殿が暴漢に襲われてな。皆心配しておったのだがどうやら今週退院らしく貴族スレではお祝いモードであったよ

 

ああこれは個人的な事であるがね。我輩はバレンタイン反対ではないのだがご婦人よりチョコレートを頂いた事がないので書き込んでおるのだよ

 

ルネッサーンス・・・はぁ

>>11

無職殿も大変であったな

しかし無職殿の機転も彼の命が救われた要素のひとつ。誇られよ

 

15:名無しの廃止

カップル消えろ!!

即刻帝都から失せろ!!

 

16:名無しの廃止

大日本から消えろバカップルども

 

17:名無しの廃止

>>13

日本男子ておたく何歳よ?

 

18:名無しの廃止

>>13

お爺ちゃん。寝言は寝てから言いましょうねー

 

19:名無しの無職

>>14

お久し振りです。最近リアルがいっぱいいっぱいで書き込む暇がなくてすみません

アイツは元気です。看護婦にセクハラしてるらしくてナースステーションで特別個室の患者がウザイウザイ言われてましたよ(^^;

 

20:名無しのリーラ

小さい方々ですわね。このような場所でくだを巻いている暇がおありでしたら御自分をお磨きになられては如何?

 

874: 名無しさん :2018/02/14(水) 14:04:35

 

21:10

>>14

中央の官僚の方は相当な遣り手だそうですね。嘘かほんとかヴェルガモン伯爵閣下と差しの会談で互角に渡り合ったとか

 

22:名無しの廃止

>>20

黙れネカマ

 

23:名無しの廃止

>>20

はいはい彼女持ちはよーざんすねー

 

24:名無しの廃止

>>19

過去スレ見たけどそいつスゲーなw

瀕死の重症から復帰してセクハラとか別の意味でスゲーよwww

 

25:髭子爵

>>21

いや実はその話本当のことなのだよ

武門で百戦錬磨の旧き名家ヴェルガモン家当主であらせられるヴェルガモン伯爵閣下に此度の一件を旧ロズベルト男爵家と切り離して考えて頂きたいと直談判なされたと話が出回っておるよ

我輩もヴェルガモン伯爵閣下を前にしては緊張でまともに言葉も発せぬというのに彼の御仁はクルシェフスキー侯爵閣下にまで直談判に赴いたと

 

26:名無しのリーラ

>>22

>>23

わたくしネカマではあ・り・ま・せ・ん・わ!!

 

27:名無しの賭博師

誰かさんはなぜに俺のいるスレがわかるのだ(;>_<;)

とりあえず俺は別のスレへ飛ぶことにする!さらばだ諸君!

 

28:名無しの廃止

>>24

カップルなんかセクハラしてやれ!

 

29:名無しの廃止

>>11

マジならカップル以上にたち悪いわ

 

俺は興味ねーんだ

でも女どもが俺を争いやがるんだ

 

とか、殺意を覚えるわ#

 

30:名無しの廃止

>>26

ネカマは大抵そう言うんだよ

>>27

おっさん何しに来たのw

誰から逃げてるのw

 

31:名無しの廃止

賭博師なだけに博打嫌いな嫁か恋人かにバレるのが嫌で逃げたとかなら笑う(((*≧艸≦)ププッ

 

32:名無しの廃止

スレと関係ない話題ですがそれはともかくヴェルガモン伯爵やクルシェフスキー侯爵と渡り合ったとか遣り手どころの話じゃないっすよ? なにもんですかそのお方は?

 

33:名無しのリーラ

賭け事禁止です! 逃がしませんことよ!

 

34:名無しの廃止

髭子爵様は本物の貴族だとバレてるせいか不敬罪を恐れて誰も批判せんな

所詮ネット民など木っ端平民の集まりか

 

35:名無しの無職

>>29

マジなのよ。そいつの好みは年上のスタイル抜群な色気ある美女なんだとさ

そいつに惚れてる美女はスタイル抜群な美女なんだけどそいつ曰く色気足らんだってよ

美少女の方は妖しい色気みたいなの感じることがあるらしいが、スタイルが足らないんだとさ

おまえどれだけ望み高いんだよ!って突っ込んだわ

したら、やんごとない方々の名前をポーンと挙げちゃってもうね。呆れた(-_-;)

 

36:名無しの廃止

え?

名無しのリーラと賭博師ってまさかリアルカプ?

 

37:名無しの廃止

ふざけんな!!

ここはカプ禁止スレだ!!

 

38:名無しの廃止

子爵様は貴族様なのにチョコレート貰えないのか・・・?

 

39:名無しの廃止

義理や玉の輿狙いの貴婦人ならぬ貴腐人どもからは貰ってそう?

 

875: 名無しさん :2018/02/14(水) 14:05:16

 

40:髭子爵

我輩、去年に貰ったのは目がギラツイタご婦人からの恐らく義理チョコを幾つか

 

41:名無しの廃止

下心のあるチョコレートなら嫉妬心も沸きません

 

42:名無しの廃止

髭子爵様ってス○キ子爵家当主でしょう? スズ○子爵家は小さいとはいっても歴史はあるし欧州時代からの旧家ですよ

 

性根の腐った女どもにはお気をつけくださいませ

お家が食い潰されてしまいます

これだから女はイヤなんだ!

 

43:髭子爵

我輩チョコレートは要らぬからヴィンセントかグロースターがほしい

 

44:名無しの廃止

>>35

高望みとかいうレベルじゃねーなそいつ

つーかこのスレのモテないくん達の敵だわ

 

45:名無しの無職

>>39

貴腐人て意味違うw

 

46:名無しの廃止

子爵様んちの家宰って結構ヤバくなかったか?

 

47:名無しの無職

>>44

参考までに言うとそいつにべた惚れな美女と美少女は頭に"絶世の"を付けてもいいレベルなんだ

そんな女性たちに眼中なしだから余計にムカつくの

 

48:名無しの廃止

>>46

ネット検索したら一発で出るくらいヤバい方

男爵位と騎士爵位をお持ちで代々ス○キ子爵家に仕えてる貴族

爵位こそ低いけどブリタニアの旧家のひとつ

信じられないと思うが実力はブリタニア軍で個人戦闘力最強のナイトオブラウンズと互角

御前試合でラウンズにスカウトされたの辞退してる

 

つか、カプ氏ね!!

 

49:名無しの廃止

>>46

ヤ○チ男爵+グラスゴーで実力者の騎乗するグロースター程度なら一撃でスクラップにできるぞ

真面目な話、ヤ○チ卿がいるならグロースター程度要らない。ヤ○チ卿の専用機にするならせめてヴィンセント・カスタムとかの8世代クラスか8世代超えの機体が必要となる

ちなみに日本在住で同レベルの戦いができるブリタニアの騎士はモニカ・クルシェフスキー卿とアーニャ・アールストレイム卿だけ

モニカ・クルシェフスキー卿は9世代機といった怪物機を操れるとんでも騎士で、ヴァルトシュタイン卿にも勝てるようなブリタニア最強の騎士だから、たぶんクルシェフスキー卿とヤ○チ卿ならクルシェフスキー卿が勝つ

 

50:髭子爵

皆がヤグチくんの肩を持つから我輩悲しい(;ω;)

 



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ちゃんねる✡️式【目標】トモダチを作ろう 1061億人【100】

若干一名理解不能なひとが混じってます
ネットの闇のひとつなのかな



 

 

 

 

 

ちゃんねる✡️式

 

 

ここはちゃんねる伍式とは一切関係ありません

管理人も違う別の匿名掲示板です

スレは各板ごとに分かれています

みんなで仲良く使いましょう

 

 

1:トモダチ

 

【目標】トモダチを作ろう 1061億人【100】

 

 

友達を作りましょう

ネッ友、ネッ友からリア友、リア友、色んな形の友達を作りましょう

 

注意:荒らしもトモダチ

ボクたちのトモダチに迎え入れましょう

友愛の精神で受け入れましょう

 

2:名無しの友達

1乙

 

3:名無しの友達

2GET

 

4:絶対的友達

みんな友達!

 

5:アルティメットモダチ

このスレの凄いところは友愛精神だけで荒らしを追い払えてしまえるとこ

 

6:トモダチ

トモダチはね大切なんだよ

トモダチはねこの世で一番大切にしなさいってママが言ってた

 

7:普通の友達

このスレが未だに続いてる。それが普通の友達としてわからん

 

8:名無しの友達

友達だけを語ったり作ったりするおかしなスレなのに、子供心を思い出せるスレ

純粋だったあの頃、友達って普通に作れたのに何故いまはいないんだろう

 

9:悲しい友達

ネットで友達になった人

一生友達でいようなって約束したのに今では俺を無視する

俺の書き込みには反応してくれなくなった

メール送ったのに返信もない

気に入らないところがあったなら直接言ってほしい

 

10:トモダチ

>>4

素晴らしい精神だよ!

>>5

友を愛し、信じること!

人類は皆トモダチなんだから!

>>7

トモダチを求める人が増えたからなんだよ!

日本だけで3億5000万人がトモダチになれるんだよ?

素晴らしいことだよ!

 

11:名無しの友達

最初にこのスレ建てたひと誰なんだろう?

 

12:絶対的友達

みんなは特別なお友達とかおりますか?

>>9

大丈夫!俺は君の友達だから!

○○○○○○これ私書箱、連絡をくれたらメール教えるしリアル友達を目指してくれてもいいよ?

 

911: 名無しさん :2018/02/16(金) 03:08:35

 

13:トモダチ

>>8

大人になるとトモダチを愛する心を無くしてしまうよね

トモダチを作るには心をさらけ出すことさ

>>9

悲しいよね。ボクにもたくさんのトモダチがいたんだけど、ボクが弱くなるとみんな離れていっちゃったんだ

ボクは利用されていただけなんだよってボクのトモダチが教えてくれたけどボクは今でも離れていったトモダチをトモダチだと思ってるよ

○○-○○○○-○○○○これ、ボクの自宅の電話番号

○○○-○○○○-○○○○これはボクの携帯電話

寂しくなったら電話してきてね?

君とボクは話をした瞬間からトモダチだからね

難しいならメールからでもいいよ○○.○○○@○○.○○こっちはメールアドレスだよ

>>12

モニカちゃん!ボクの親友なんだ(´∀`)

シゲ先輩やマサ先輩、ハジメちゃんヒデキくんシゲルくんとか、ナオトくんとかイチローくんとか、ボクにはトモダチがいっぱいいるんだけど一番の親友となっちゃうとやっぱりモニカちゃんだけなんだ!

ボク毎日モニカちゃんとお話をしてるんだよ?

緑が好きな勇敢で心優しい子なんだ

ボクの自慢の親友だよ!

 

14:名無しの友達

>>9

いるよなあそういうひとさ

嫌なところがあるなら直接言えば良いのに無視するひと

無視行為禁止法を作ろうとした鳩川議員好きだったからいつも応援してた

 

15:普通の友達

コテハンのトモダチさんはいつもスゲーよ。友達いなくなって悲しむひとには電話番号にメールに教えて

個人情報とか気にならないの?

 

16:名無しの友達

>>13

迷いなく親友の名前を挙げるトモダチさんw

親友の名前がモニカさんならトモダチさんも女性?

ボクっ子?

 

17:名無しの友達

トモダチさんは心も個人情報もさらけ出してるからある意味信用できるよな

 

18:絶対的友達

>>13

勇敢で心優しいとか素晴らしい親友さんですねモニカさんという方は

 

19:名無しの友達

トモダチさんだけはこのスレでひとり突き抜けた友達っぷりだからなあ

スレ住民は愚か、ROM専の人や荒らしまでトモダチ扱いだから凄い

 

20:トモダチ

>>14

本当にね。嫌なところは人間誰でもあるんだから言ってくれれば直す努力もできるのに。友達って良いところも悪いところも認めあって始めて信頼し合えるトモダチになれるのに

>>15

気にならないよ。個人情報なんて壁作ってお話をするなんて失礼だもん

顔を合わせて話すときに名前を伝えて話すよね? インターネットだって画面越しに顔を合わせてるんだから個人情報なんて必要ないんだ

>>16

ボク男!でもモニカちゃんはトモダチで親友なんだ!変な関係じゃないよ?純粋にオトモダチなんだ!

>>17

ありがとう!機会があればボクのおうちに君を招待したいな( ´∀`)

>>18

正義はすべてのひとに降り注がれなくちゃいけないんだって話していたよ!すごいよね!友愛のなんたるかを理解しているんだ!ボクの親友モニカちゃんは!

 

21:トモダチ

>>19

100億の人類はみんなボクのお友達だから!

 

 

 

 

 

駐日ブリタニア大使館

 

 

「クルシェフスキー卿」

 

執務室の扉がノックされる。私はそれを耳にしながら書類に目を通しつつ招き入れる

 

「入りなさい」

 

「はっ! 失礼いたします!」

 

入室してきたのは大使館員ではなく、私の親衛隊に入隊したばかりの新人だった

 

「なにかありましたか?」

 

「はっ! その、我が大使館の届け物の郵便物にモニカ様個人宛の郵便物が御座いましたので」

 

私への個人宛?

それなら嶋田邸へ届くはずですがなぜ大使館に

 

「調べたところ危険物等の様子もなく、ならばと御届けに伺った次第です」

 

私へ渡されたのは赤一色の包装用紙に包まれた厚みは薄く細長い箱

 

「そうですか、ご苦労。下がっていいですよ」

 

「はっ! イエスマイロード!」

 

出ていく新人隊員を見送りながら、私は私宛の郵便物に目をやる

 

「あけてみましょうか」

 

程よく仕事も進んでいる。少し休憩を入れよう

私は大使館員が持ってきてくださった紅茶と、届けられた包みを手に、執務机から立ち上がると来客用のソファへ移動した

 

「なんでしょう」

 

包みの包装用紙を剥がしながら、考える

まさかバレンタインのプレゼント?

バレンタインの季節に、男性から女性へと贈り物をするケースも最近はあるとお聞きしていますが、よもやそれでしょうか?

しかし、私には嶋田さんという方がおられます。ですのでその手のプレゼントだとしたら少々受け取りにくいのですが

 

包みを開き箱の蓋を開ける

 

すると

 

「これは、リボン?」

 

箱の中には私が使っている赤色のリボンと似通ったリボンが二本入っていた

今日も両頬から体の前へ流れている横髪を束ねる赤いリボンとほぼ同じ長さと色のリボン

 

同封されていた送り主の物らしき手紙にはただひとこと

 

"モニカちゃんへ。君のトモダチ"と書かれていた

 

「ひっ・・・!」

 

何故かわからない物の一瞬走った悪寒に、私は手にしていた紅茶を取り落としてしまった

 

 

 

 

 

 

 



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事件処理1


掲示板系SS
お父さんと生意気な不良息子の図的なBLにも見えるという名の注意
水面下の陰謀や戦いもある様子


 

 

 

 

 

 

 

 

事件処理1

 

 

 

 

 

 

 

「やあシンイチロウ、元気にしてたかい」

 

不躾に入ってくるなり面会者が座れるよう設置されているパイプ椅子へ着座したのは、ほとんど無表情で、薄明るいパツキンを踵まで伸ばしたとんでも長髪の子供だった

 

「ああ元気元気。マリーやクララが毎日五月蝿いくらいに見舞い来てたかんよ。最近はクララだけになってたんだけどマリーのやつブリタニアへ帰ったらしいな」

 

子供、少年は紫色の瞳でこっちを見ている

 

「なんだよ、ひと仕事終わったみたいなオヤジのツラしてやがんな」

 

「まあね。ひと仕事終わったのは事実だよ。マリーがお仕事頑張って、クララも知らない間に一つ仕事を終わらせていたみたいだから気にやむ問題が少し片付いたのさ」

 

「そりゃあ良かったな」

 

「クララは早かったよ。君の看病の『邪魔』なんだってさ」

 

「なにが?」

 

「さあね。少なくとも君が気にすることじゃない」

 

「さいですか」

 

当たり障りない話をしながら見ていると

少年がいつも着ている黒いマントが少しばっか濡れてる

いま帝都に降っている五十何年か振りの大雪のせいだろう

 

「そんな些事はどうでもいいんだ。今週退院だけど傷跡はどうだい?」

 

「痛みも跡も一切ねーぜ。パーペキ塞がってらぁ。なんなら見るか?」

 

「要らないよ。男の裸を見て喜ぶ趣味は僕にはないんでね」

 

マントが濡れてるだけじゃない。頭も髪の毛も濡れてる

 

そりゃそうだろうさ。窓の外は大雪なんだぜ。どんよりした雪雲が病室から見える600mはありそうなギガシティ東京の超高層ビル群上層階を覆うほどに低く垂れ込めてやがる

あんまり雪と縁が少ない都会モンの一員としちゃなんかワクワク感が沸き上がってきちまうんだが外で騒げる体でもねーしなあ

 

「ちょ、こっちこいよ」

 

だからなんだとそんなこたぁどうでもいいんだ

 

858: 名無しさん :2018/02/13(火) 23:52:21

 

「藪から棒になんだい」

 

「いいからジジイは素直に若輩者の言うこと聞いとけ」

 

そうなんだよ。こいつ、この一見10歳くらいの小学生に見える小難しい話ばっかな子供は、実は少年に見えて少年じゃねぇ。これで実年齢じゃ年金もらってる爺さんなのさ

不思議っちゃあ不思議で初めて顔合わせた頃は信じられなかったが、身分証明書見せられて、お役所様のお墨付きもありゃな

そりゃどうもこうも言えねぇんだよな

本名がV.V.とかいう変な名前でよ

昔は他に生まれながらの名前があったらしいんだが、まあなんか込み入った事情で今の名前に改名したんだと

 

俺はポンポンとベッドを叩く。俺のすぐ隣だ

 

「寝られないなら子守唄でも唄ってあげようか?」

 

「いらねーよ。ちょっと来いって」

 

V.V.のおっさんは怪訝な顔ひとつしないで傍へ来る。んで俺はんなおっさんの頭を徐に撫でた。つーか撫でたんじゃなくてだ

 

「頭に雪載っけて病室入ってくんな」

 

パッパッて雪を払ってやったのさ

 

「髪の毛もマントも濡れてんぞ。おっさんは髪なんか地面に着きそうなくれーなげーんだからよ風邪引いちまうぞ」

 

マントの肩に載った雪も払って

 

「後ろ向けよ」

 

「はいはい」

 

後ろを向いたおっさんの髪の毛をタオルで拭いてやる

年金爺さんのくせしてなんて綺麗でつやっつやなんだよ

つむじを触ってくりくりしてやったり。タオルで優しく挟んだおっさんの髪の毛から水分を吸わせながら髪を拭いてやった

 

「ドライヤーほしいね」

 

「ここ病室。風呂場はあっち」

 

「一緒に入るかい?」

 

「退院したらいの一番でおっさんちのデケー風呂を占拠しに行ってやんよ」

 

しかし羨まだわ。これ絶ってーに死ぬまで剥げないだろ

 

「おっさんてさ。寝て起きたり、頭洗ったりした時に、毛が抜けたりは」

 

「しないね。引っ張れば抜けるよ。引っ張るかい」

 

「するかよんなガキっぽいイタズラ。昔はやったけどな」

 

「なんだやってるんじゃないか」

 

天然パツキンを拭き拭き。背中まで吹いては持ち上げて更に下まで拭いてく

俺のベッドにはおっさんのパツキンがバッサーって広がって大変だ。早く拭かないとシーツやら濡らして、パイオツたぷたぷナースちゃんにまた怒られるわ

 

859: 名無しさん :2018/02/13(火) 23:53:03

 

「クララが自慢していたよ。『お兄ちゃんは髪を拭くのが上手なんだ♪』ってさ。なるほど、うまいじゃないか」

 

「そりゃアイツが小坊の時から髪を拭いてやってるから慣れるわ。おっさんが頼んできたクララの遊び相手ってのにンナのまで含まれてなかったんだけどなぁ」

 

「あの子は喜んでいたよ。『お兄ちゃんに髪の毛拭いてもらう!』なんて言ってさ、髪びしょ濡れのままで邸を走り回った時は大変だったね」

 

「あー、あんときなぁ。脱衣所から廊下に畳部屋にめっちゃくちゃにされちまったもんなぁ」

 

「ククッ」

 

「んだよ」

 

「いやね。あのときほら『裸を視られたからシンイチロウお兄ちゃんのお嫁さんだね!』ってさ、あの子はしゃいでたろう? あれずいぶん昔の話だけどあの頃からクララは君に好意を抱いていたのかなあと思ってさ」

 

「さあな。俺なんかのどこが良いのやら俺にだってわかんねーんだぜ? あんな良い女になれること確実な美少女がさ、なんで三流高校卒無職ニートだった俺をなんてな。・・・あいつの前で言うなよあいつ絶対調子に乗るから」

 

「わかってるよ。ただし大体のところは君の考えなんてあの子にお見通しだから隠すだけ無駄かも知れないけどね。でもだからこそ君を振り向かせる望みをあの子は捨ててないのさ」

 

ちょうどそこで話を切るおっさん

俺の方も腰から膝あたりにかかるところの髪は拭けた。次はその下だ。踵までとか長すぎだろ

 

「クララが君を好きになったのは残念だけど僕にもわからないよ。女心なんてのは所詮僕ら男にはわからないものだからさ。でもクララが君を好きな事実だけは覆せない。あの子は君を"家族として見ている"からね」

 

「おっさんの子供はみんなその家族関係を大事にしてるんだったな。あのルルとナナちゃんにべったりなロロもよぉ」

 

「そうだよ。そして家族の中でも1,2を争うくらいに強いよあの子の家族愛は。それが変じた恋心は、君が逃げても逃げても、自ら世界中を探し歩いて絶対に逃がさないほど粘着質で強いものだ。君のためを思って忠告しておくけど返事なしに逃げたりしたら君は文字通りあの子に監禁されてしまいかねない。あの子の場合愛しさあまって愛情度万倍になるだろうから。そうなってしまえばもう君に逃げ場なんてないからね」

 

膝より下あたりの髪をタオルで挟み込んで拭きながら、俺はおっさんと話を続ける

 

「やべーなそれ」

 

「やべーよホント。その証拠に・・・」

 

軽快に流れていく話が止まる

止めたのはおっさんだ。病室にはおっさんの髪の毛を拭くタオルの音だけが良く聞こえてる

 

「いや、なんでもない」

 

ちょっとばかし止まった話はまたおっさんから始まった

 

「ひとつ、僕が君に伝えておきたい。理解して噛み砕いてほしいことはね。なにがあろうとも君の味方であると自称したあの子を信じてあげてほしいってことさ。あの子は君に話せないことは話さないよ、話してないだろう? 話せないことは」

 

「まあ、な」

 

860: 名無しさん :2018/02/13(火) 23:53:46

 

「あの子は嘘だけはつかない。他の誰を偽っても君だけは偽れないんだ。そして君に危害を加えようとする人間は列なる存在そのものを許しはしない。君は君が思う以上にあの子から愛されてるのさ。『深淵を覗き込むとき、深淵もまたあなたを覗き見ている』あの子は"お仕事"を話せないと君に言った。それは君が深淵を覗き込もうとするのを拒否したんだよ。深淵とはあの子で覚悟もなく覗き込もうとしたの君だ。この先もあの子が"お仕事"を話すことはないだろうね。でも大丈夫だよ。たとえ見えなくとも、君の覗き込もうとしたその深淵は、いつも笑顔で深淵の淵から君を覗き見ているから」

 

・・・・・・難しい。なに言ってんだかさっぱりわからん。手繰り寄せたスッゲェ長さをしたおっさんのパツキンの先の方をタオルで包みぱたぱた拭き拭き

おっさんの濡れた髪を拭くのももう終盤だ

 

「・・・ああー駄目だわ、俺って馬鹿だからいまのおっさんの話を半分も理解できてねー。深淵を覗き込むときとか言われてもわかんねーし」

 

こういう時には2bitくんな頭脳に少しくれー容量足してくれてもよくね?と思わないでもない

それでもわかってることの一個くらいは、まああるわな

 

「ただ、こんなことがあって、クララやマリーを泣かせたりしてさ、アホ通り越したクズだって反省してるんだよ。だからクララに言っておいてくんね? 俺はクララのこと嫌いじゃねー。それだけは本気だってよ」

 

「必要ないなあ。それはあの子の本気度を低く見積もり過ぎてるよ。嫌いじゃねーなんて伝えたりしたら反対方向に極振りして『そっか、そうだったんだね! 実はクララが好きで好きでたまらないお兄ちゃんはクララを泣かせたことを気にしすぎて結婚したいのに結婚してって言えなくなってるんだ! パパ! クララ今すぐ責任とってお兄ちゃんをお婿さんに貰ってくるよ! 婿入りだからシンイチロウ・ランフランクだね。結婚式場はどこが良いかなパパ?』といった感じのとんでも解釈をしてしまうよ。もし何かを言うなら君が自分の言葉で言わなきゃ、あの子は自分の中で物事を勝手に決めちゃうぞ」

 

「なあ、クララって実はヤバすぎ?」

 

「そう、クララって実はヤバすぎなんだよ。ま、思い込みが著しく一方通行で激しい激情形の女の子だから。とくに大切なものへの執着心は父親である僕が言うのも変だけど怖いくらいに強い」

 

髪を拭き終わった

俺はおっさんの肩を掴んで後ろへ向かせで見つめ合いっ子

 

「な、なあ、おっさん、クララの大切なものって家族なんだよな?」

 

「そうだよ。ただし」

 

君ひとりだけ中華連邦のヒマラヤは愚か火星にあるオリンポス山並みに高い優先度がある

 

「ああ、オリンポス山というのは火星の最高峰で太陽系の最高峰でもある25000mくらいの超巨大な火「おっさーんっっ!!」ーーっと!」

 

俺は恥も外聞もなくおっさんに抱き着いた

 

861: 名無しさん :2018/02/13(火) 23:54:29

 

ちっこい子供に泣き付いてるいい年こいた大人の図。でもいいわいこのくらい!

 

「こ、コエー! まじヤバすぎだろクララーっ!」

 

しがみついて

抱き着いて

すがり付いて

この際男とかカンケーネー!

子供の体つきしてるから柔らかいし無駄に温かいし変にいい匂いだし・・・ち、違うぜ! 俺はそっち系じゃねーぜ! コエーんだよクララが!

 

「よしよしシンイチロウ、怖くない怖くない。僕の可愛い娘を怖いだなんて宣う君なんて僕は知らないからね~? なにかあっても全部君の責任だし僕は守らないからね~? いいこいいこ」

 

抱き返してくれたおっさんは俺の頭を撫でてくれながら優しい声で突き放してくる

え!! いやちげーだろ!!

ここは普通守ってやるだろ!!

 

「ば、バーテン??、と、クララちゃんのお父さん??」

 

「やあ、君はこの馬鹿太郎の友達の無職くんか。こんにちは」

 

なんだよ馬鹿太郎って!

郎しかあってねーよ!

 

「こ、こんにちは、あの・・・なにをしてるんですか?」

 

「ああ、これ?」

 

俺を抱き締めてくれたまま背伸びして『コツン』

額を宛ててきたおっさんめーとめーでーつーじあいたくねーよ男と!

 

『おっさんって良くみれば可愛らしい顔してんなー』

 

と思ったのは内緒だ気のせいだ頭が混乱してるだけなんだーっ!!

 

「んー? なんか僕が好きらしいよ?」

 

「・・・ば、バーテン、おまえ、そっちの、」

 

「ち、ちげー!! ちげーぞおい無職引くなぁ!!」

 

「おや~、僕の髪の毛を拭いてくれたりマントを拭いてくれたり、あまつさえ情熱的に抱き締めてくれるとかしたの誰かな~っと?」

 

「俺だよ!俺ですよ!でも違うだろ!」

 

862: 名無しさん :2018/02/13(火) 23:55:02

 

 

カシャッ

 

「無職ぅーー!! テメーカメラ撮んなーーっ!! 今すぐに消せーーっ!!」

 

「おじさん、ネットにアップしても良いですか?」

 

「いいよ。そうだねー、題名はぁ」

 

『子供に泣き付く駄目大人』かな?

 

 

・・・へ?

 

なん、・・・?

 

「あははっ、冗談に決まってるだろ? 僕は男色じゃないんだから。無職くんもそんなとこに立ってないでこっちへおいでよ」

 

「あ、はい、失礼します」

 

「さて、撮れ具合はどうかな?」

 

「ええーと、あっこれです」

 

「なかなかの撮れ具合だね」

 

「バッチリです。結構いいアングルだと思います」

 

「うん、確かに。ほらシンイチロウも観てごらんよ」

 

「・・・」

 

見た

 

子供に泣き付いてる駄目な大人の図が写っていた

 

「や、やめろーぉ! テメーらグルだな?! さてはグルだったんだな?!」

 

「ま、調べれば僕の身許なんて大日本帝国帝都東京在住の経営者65で検索出るから『子供に泣き付く駄目大人』じゃないのはわかるひとにはわかるんだけどね。大体さ、男同士が抱き合ってるとか巨人、阪神、広島、中日等々、野球ファンだって普通にいるし、嬉しければ悲しければ抱き合うのも普通だよ」

 

そ、そっか、そうだよな

考えすぎなんだよな、はは

 

それから何時間か俺とV.V.のおっさんと、そして名無しの無職とで話が盛り上がって、退院したら三人+クララ、におっさんの家人や警備員さん達、辻さんやら嶋田さんやらおっさんのダチ、空いてればみんなで温泉旅行でも行こうかと話し合っていた

 

863: 名無しさん :2018/02/13(火) 23:55:40

 

 

「首尾は」

 

「問題ない」

 

「ふふ、このやりとりは何度目でしょうかね」

 

「あはは、何だか癖になるよ。しかし僕らってさぁ、最近よくこの屋上で密談してるよね」

 

「鍵を閉めて誰も入れないようにすれば密室ですし、いまはV.V.さん子飼のプルートーンとギアス嚮団の部隊に、私"達"子飼の部隊も帝都総合病院周辺に配置されていますのでね」

 

「たとえば一般人を装い。たとえば看護婦や看護士を装い。たとえば警備員を装い。通りがかりやコンビニ店員を装い」

 

「皆さん優秀な方ばかりですよ。蟻の子一匹不審人物は入れません。入れば身許を調べますし、まあ残念か幸いか皆白でした・・・が」

 

「白の中には黒もいた。オセロの盤面へ落とされた駒のように」

 

小さな少年V.V.は彼がハッキリと友と定めた人々のひとりである丸眼鏡に茶系のスーツの男性、夢幻会の重鎮辻政信と病院屋上にて話し合っていた

玉城真一郎刺傷事件について

いや、事件の事後処理についてを

 

「ええ。我々が追っていたペンタゴンと繋がりのある人物は全員"生かして"捕まえましたが、クララさん単独で捕獲なされた人物達は残念ながら」

 

「だろうね。これは僕の落ち度であり僕の責任だ。申し訳ない。あの子とマリーに事件の真相ーーー犯人はフランク・ロズベルトと伝えた時に標的は日本政府が捕らえたと言い含めていたんだけど、どうやら独自に動いていたようだ。荒事には弱いクララだけど、あれで対ギアス能力者戦や諜報戦には長けていてね。本国においてあるあの子個人の嚮団実働部隊まで動かして日本へ入国させていたらしい。正直クララのシンイチロウへの害悪に対する異常なまでの敵意や憎しみと、彼女自身の実力を見謝っていたよ」

 

「クララさんの玉城くんを想う異常なまでの愛情を鑑みるならばわからなくもありませんがね。正直会合内でも揉めましたよ。日ブ間にある秘密協定。コード及びギアスの両国内における無許可使用に抵触するのではないかと」

 

コードはギアス能力者を生み出す

ギアス能力は超常的な力による被害が多岐にわたり予想される

なればこそ、日ブ両国内での無断使用は避けるべきだとする秘密の協定だ

 

協定違反に対するペナルティの裁定権は日本側は帝と夢幻会会合

 

ブリタニア側はギアス嚮団と時の皇帝にのみ裁定する権限がある

 

両国の宰相ですらコード・ギアスの悪用に対する裁定権はない

 

これは超古代関連技術を扱える権限を持つのが両国皇室と夢幻会・ギアス嚮団に限られている事と連動していた

例外はギアス犯罪やギアステロに対しては現場個人の判断での使用が認められるくらいだ

当然のこと、ギアステロを行えるなど、民主共和制原理主義組織ペンタゴンや、世界中のギアス犯罪の総元締めとでも呼ぶべき南半球の覇権国家合衆国オセアニアのみだろう

 

「会合での裁定は?」

 

「元よりギアスが絡んでいるといった、事情が事情な為に、クララさんの自己判断は全会一致の白判定でした。ただ、玉城くんには病院での"一般人看護士"へのセクハラ容疑から、マリーさんかクララさんに引き渡せと怒号の嵐でしたが」

 

実際には玉城を抹殺せよと物騒な話をしていたメンバーもいた

 

無論本気ではない

 

 



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事件処理その2

 

 

 

掲示板系SS

 

 

 

 

 

 

 

事件処理その2

 

 

 

 

「やれやれ、あいつは困ったものだねまったく」

 

屋上の欄干にもたれ掛かるV.V.の付くため息は白く霧のようになって空に消えていく

 

「セクハラその物が犯罪行為だという意識もないんだろうな。馬鹿につける薬はないって言うけど僕はほしいよその薬が」

 

「ふふ」

 

「どうしたのさ?」

 

「いえ失礼。子は親に似ると言いますが、貴方のいまの言葉の使い回しかたがクララさんと似てましたのでつい、ね。言葉の語尾にまったくをつける辺りなどよく似ておりますよ」

 

「それはどうも。僕もよく言われるよ僕とクララは子供たちの中でも一番似ているってね。極端から極端に走りそうになるところまでがそっくりだと」

 

「しかし貴方の場合はその極端にブレーキをお掛けくださる友人がいた。以前申し上げましたが私はね。もし嶋田さんが貴方と弟さんの幼なじみではなく、貴殿方のブレーキが掛からなければ」

 

排除することも考えておりました

 

にこやかな微笑を張り付けたまま大したことでもないように話す辻に、V.V.は気を悪くしたようでもなく

 

「危ういところだったのかな? 君たち魔法使いに狙われていた可能性があったなんてゾッとしないな。あらゆる秘密を知り、遥かな先を見通す未来見の力を持った君たちが敵に回れば・・・死、以外の未来が見えないね」

 

欄干に預ける力を強くしながら眦を下げだらけた様子で空を見上げるV.V.

 

「それは未来。もしかしたらもう終わってしまった未来なのかな魔法使い?」

 

あったかも知れない不確定未来になど思いを馳せても無駄なこと

それを理解しつつも考えてしまうのだ。もしも、信頼できる友人たちと敵として合間見えていたら?

 

「御冗談を。我々とて貴殿方の折れない執念を重々承知しておりますよ。目的のためならば世界を破壊すらしかねない執念と言いましょうか、猛執を。それに貴方が真に怖いのはそこではないのでしょう?」

 

嘘の無い世界を創世しようとしたV.V.兄弟の猛執。必要とあらば世界最大の超大国ブリタニア帝国や、世界中の人間全てでさえも、道具のひとつとして使ってしまうような馬鹿げた怨念とも呼べるそれと相対するのなら、夢幻会側もかなりの血を流す覚悟を要求されていたことだろう

 

しかしその傍らで、変えようとしても変わらない世界の流れと戦い続けてきた夢幻会以前のこの世界を知る人たち、夢幻会の中のこの世界を知る人たちは未来とV.V.たち個人を知るからこそ分かっていた

V.V.兄弟が必要としていたのは信頼できる友であったのだということを

 

「そうさ。僕は、僕とシャルルは、君たちというかけがえのない友人たちを得られなかった可能性。それが怖かったのさ」

 

友のいない二人だけの世界

寂しい世界

現実になっていたかも知れない世界

 

「信じられない大人たち。信じられない貴族たち。信じられない民たち。信じられない家族たち。嘘ばかりな世界。こんな世界なんてぶち壊して、盤面ごと変えてしまおうと、そう考えたこともあった」

 

「そんなときに、貴殿方の前へやってきた子供がいた」

 

「そうだ。見事なタイミングでね。そいつは言ったのさ。友だちになろうってさ」

 

空を見上げているV.V.の瞳からひとすじの水がこぼれて落ち、屋上を真っ白に染めている雪に染み込み消えていった

 

「嬉しかったなぁ・・・本当に、嬉しかった・・・心から、」

 

つーっ、と。頬を伝う水滴を彼は拭いながら口を開く

 

「なんにも腹に抱えてない純粋な眼差しで。『父からジ家の双子殿下の遊び相手をしてこいと言われたから来た』なんて無礼で馬鹿正直に。おどおどして引きこもりがちだったシャルルを引きずり出して殴りあったり、僕も混ざって三人で喧嘩したり、それからかな。心新たに誰かを信じてみるのも悪くはないって思い始めたの」

 

897: 名無しさん :2018/02/15(木) 18:08:04

 

「嶋田さんも子供の頃は子供の体に心を引っ張られていたのですね」

 

「なんのこと?」

 

「ああ失礼。独り言です」

 

舞い落ちるべた雪は溶けずに更に降り積もる。しんしん、しんしんと

 

「ブリタニア高祖リカルドは死ぬ間際に言っていたらしい。一度は誰かを信じた己自身を信じ抜けってさ。僕もシャルルも、生まれてから一度も誰かを信じなかったなんてことはさすがに無いんだよ? でもね、それ以上に同族争いに始まり、裏切りや妬み、媚びといった、下卑なる輩が多すぎた。周りはみんな嘘つきだらけだったのさ。そんな僕らの前に遠い異国から友だちになろうとやってきたあいつが現れた。思いをそのままにぶつけてくれたあいつが。だからもう一度だけ、僕らは信じてみたのさ。やがてそいつは唯一無二な親友となって僕らを僕ら自身の猛執から救い上げてくれたんだ。ま、やってたのは泥んこになるまで駆け回ったり、意見をたがえれば話し合いより先に手が出て取っ組み合いの喧嘩になったり、そんなことばかりだったけどね・・・・・・ふふ、そういえばちょっとどころじゃない変な気になったけとがあったなぁ」

 

「なんです?」

 

「いやね、シャルルはどうか知らないけどさ、僕はあいつがもし女の子だったのなら、僕の妃にしたいと考えたことがあったんだよ」

 

「ほうほう、それはそれはご腐人方がお慶びになりそうな」

 

「残念なことに彼は男だから友情的な心愛で止まったけどね」

 

「ご本人にはどうされましたか?」

 

「伝えたことがあるよ。そしたらさ、実に嬉しそうな笑顔で『そこまで信頼されてると清々しいくらいに嬉しいものですね』だってさ。人たらしだよあいつ。だからつい冗談で『僕の側が女の子だったら君はどうするんだ』って尋ねたんた。そしたらさ『○○殿下になら求婚してたと思います』だって。あのときはそっちの道に入りそうでかなり危うかったよ」

 

「そうですか。恥ずかしいけど嬉しい思い出というやつですね?」

 

「うん。あ、勘違いしないように訂正しておくけれども本当に何もなかったんだぞ? いまでも友情の意味での心愛だからな」

 

「そんな強調なさらずともわかっておりますよ。そうでなければ嶋田さんが女性と仲が宜しくなる時に嫉妬から無茶苦茶していたでしょうV.V.さんなら」

 

「だろうね。クララのこと言えないな」

 

「クララさんはそれだけ貴方と似ていらっしゃるのでしょう・・・・・・ところで、フランク・ロズベルトの足取りはわかりましたか?」

 

「ああ、そっちはもう調査済みだよ。彼は以前より南ブリタニア大陸はアラウカニア=パタゴニア王国に何度も出入りしてた形跡がある。それと、特定の人物が所属している会社と取引していたようだ」

 

「ペンタゴン関係のフロント企業の可能性高しですね」

 

「高いどころか真っ黒さ。なにせ今回ロズベルトが日本へ訪れる前に立ち寄ったみたいなんだけど、その後すぐに会社は畳まれて社長以下従業員は行方を眩ませてるから。思考誘導のギアスを掛けられたとすればその時だろう」

 

 

 



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事件処理3

 

 

 

事件処理3

 

 

 

 

 

「それで君たちはどう動くのかな?」

 

雪の降りしきる中でV.V.は問う。フランク・ロズベルトによる玉城真一郎刺傷事件の背後にいたのはかなり大きな組織だった。一度とはいえラプラタという国家を乗っ取り、合衆国オセアニアを南ブリタニア攻略へ引き出そうとしていた巨大民主共和制原理主義組織だったと

 

路肩の石ころつついてみたら大蛇が出てきたのだ

 

現在太平洋経済圏で国際テロ組織として指定されている組織は世界中を見据えても数多ある。その中で下部構成員まで含めた総数100万人超過の組織はペンタゴンだけであった

 

これに対するには『戦争』というくくりで性根を入れて掛からねば痛い目を見る

現に200年ほど前のかつてのアラウカニア=パタゴニアはペンタゴンを甘く見て大ダメージを受けている

ラプラタ戦争においてもアラウカニア=パタゴニアが最も多くの民間人犠牲者を出していた

とはいえ、所詮は国家基盤を喪失した一組織でしかない。図体こそ大きけれども大グリンダによる掃討戦にて打撃を受け、最高幹部の大半を喪い指揮系統もズタズタにされている

ただし、最高指導者である太平洋同盟国第一級特別指名手配犯ジェファーソン・デイビスは尚も健在であり、彼の男が健在である以上はペンタゴンの崩壊はない。これを踏まえての日本側、魔法使いたちはどの様に動くのか?

V.V.が尋ねているのはそこの部分であった

 

「粗方決まってますよ」

 

10歳ほどの少年の姿をした同年代の男に対して、精神年齢ではV.V.の2倍以上を生きている男辻政信は事も無げに返した

 

「真実を真実のままに公表して終わりです。神聖ブリタニア帝国元男爵フランク・ロズベルトによる刺傷事件としてね。背後関係など不要な情報を明らかにしたところで誰も得はしませんので」

 

「ふーん、クララやマリーベルが聞けばさぞかし憤慨しそうだ」

 

「それこそ一個人の感情や思惑に国家を引きずり回すのはそれは違うでしょうと返答させていただきますよ。・・・ただ、此度の件は日本側としても看過できない事柄です。故に我が大日本帝国からも対テロ特殊作戦軍を組織して南ブリタニアに派遣するつもりですよ。これを機に我々日ブのお庭よりペンタゴンを狩り尽くすか追い出すかして彼等を退場させてしまいましょうか。玉城くんも陛下の、日本皇室の子供たる大日本帝国の臣民の一人です。その日本国内でここまで舐めた真似をなされては日本側だけペンタゴンを放置するなどと筋が通りませんよ」

 

それに

 

「玉城くんが亡くなっていたケースも我々は考えました。その上で我々といたしましては彼の異常なまでの人間関係を鑑みた結果この事件は一刺傷事件で済まなかった可能性が窺えるとの判断を下しましたよ。まあ最もな話でもあるのですがね」

 

「へぇ、君たちも同じ結論だったんだね」

 

「もちろん。まず玉城くん自身は平凡な、まあ少しばかりやんちゃが過ぎる不良のなりそこないみたいな極々普通の、そう、一般家庭で育ってきた人間です」

 

「うん。あれが華族だとか言われたら僕は耳を疑うよ」

 

「そこを突くのならばロズベルト男爵元当主のフランクさんは貴族ですがどうなります?」

 

「痛いところを突くね。まあ、彼がブリタニア貴族の名を汚した事実はどうしようもないことだから僕としても言い訳はしないよ。まあこの際そこは置いておこうよ。で、一応聞くし答えなんて分かっちゃいるけれども、マサノブたちはどう考えたんだい」

 

「はい。まあ一言で申し上げましょうか? 最悪のケースでは我々としては第二次ブリタニア北南戦争が勃発していたとの分析結果に辿り着いた次第ですが。そちらは?」

 

「・・・最悪、そうなっていた可能性が7割以上かな」

 

ではなぜそのような結果が導きだされたのか?

 

「最悪玉城くんが亡くなっていた場合、ギアス嚮団嚮主の血を引くクララさんは嚮団で自らの影響力を発揮し、玉城くんの死の真相究明に全力を注いだことでしょう。それこそV.V.さん、貴方が止めようとしても勝手に動いてね。そして事はマリーベル皇女殿下にも波及します。ペンタゴンの暗躍という真相へと辿り着いたクララさんは復讐心に駈られるままに最も教えてはならないマリーベル殿下へと伝えたでしょう」

 

「クララがマリーベルへ教える・・・か。そうはならない可能性だってあるはずなのにえらく確信を持って言うもんだね」

 

「ええ、確信を持ち得るだけの感情がクララ・ランフランクという少女の中には渦巻いておりますので。そう、玉城くんへの愛情ですよ、狂う愛と書いて狂愛が。クララさんが持つ玉城くんへの依存性は我々の計り知れない段階にあると見てもよろしいでしょう」

 

41: 名無しさん :2018/02/18(日) 20:41:44

 

「元々そのけはあったんだけどね。クララがシンイチロウへの恋心を抱いたのが初めてあった日からの一目惚れだったとするなら、片思いの期間はもうじき10年になる。一途なんだよあの子は」

 

クララ・ランフランクは一途だ。誰よりも一途で誰よりも純愛に生きていて、それが故にひとつにして最大のピースが欠けてしまえば全てが揺らいでしまう危険性をはらんでいる

 

「そんなクララさんがただひとりライバルとして認めたマリーベル殿下へ、自ら辿り着いた事の真相を語らないはずもない。どうです?」

 

ライバルとは敵対関係にあり

だが敵対関係にありながらも志を同じくする同志とも取れる

クララは恋破れたとしてもその相手がマリーベルならば素直に祝福し、逆もまた然り

二人はそんな関係である。が故に二人が譲れない玉城真一郎という男性に危害を加えようとする存在は存在自体を許さないのだ

 

「ま、ほぼほぼそうなるね。あの独占欲の塊みたいなクララが認めたマリーベルにならシンイチロウの死の真相を話すだろう。そうさ、マサノブ。君の答えに間違いはないよ。クララはマリーベルに話す。クララとマリーベルは」

 

V.V.の言葉を辻が引き継ぐ

 

「復讐に走り、周囲の意見などに耳を傾けることなどなくなってしまうてましょう。なにせマリーベル殿下もマリーベル殿下でクララさんと似たり寄ったりな恋してますからね。青春・・・そう考えられるのは玉城くんが元気であればこそ。彼が欠けた瞬間に彼のお二人はディザスターやカラミティ、いや下手を打てばカタストロフへと早変わりです」

 

「はぁ、まさかあのお馬鹿が太平洋経済圏のバランサーのひとつになり得るなんて考えてもみなかったよ」

 

クララとマリーベルの復讐は南ブリタニアの災禍、災厄、崩壊、に繋がりかねない危険性がある

 

「マリーベル殿下はご自身の危険極まるギアスを用いてまで大グリンダ全軍を投じて、クララさんもまた自身の危険なギアスを駆使して、南ブリタニア諸国への無差別攻撃を開始していたことでしょう。事によってはご自身方が自ら動いて周囲の被害など顧みずに容疑有りな人物がいるかもしれないというだけでその都市を灰塵に帰したりと破壊マシンと化してしまいます。それができるだけの戦力を貴方の弟さんはマリーベル殿下個人に与えてしまっておりますので」

 

「アヴァロン級まで含めた浮遊航空艦艇10艦超、10個騎士団超の地上軍に天空騎士団4個、空母打撃群1個、遠征打撃群2個、補助艦艇多数。もう一国の軍隊だよ。こんなのがマリーベルのギアスを受けて無差別攻撃に動き出せば立派なカラミティだ。どれだけの犠牲が出るか」

 

「大都市圏も無関係で行くなら3桁の犠牲も有り得ると考えます。南ブリタニアも人口多いですからね・・・そして、そうなってしまえばユーロブリタニアがブリタニアの弾劾を始めるでしょう。南ブリタニア諸国との繋がりが一番深いのはユーロブリタニアですから。その先で対応を誤れば待っているのは日ブとユーロブリタニアの協定崩壊、南ブリタニア諸国とユーロブリタニアの同盟および神聖ブリタニア帝国への宣戦布告の可能性です。第二次北南戦争ですよ。日本側としては条約に基づきブリタニア帝国側で参戦となりますが、戦場は我々の庭と我々の本土。最終的には勝てるでしょう。ですが疲弊した日ブを見てオセアニアは北進を開始します。第二次太平洋戦争。或いはユーロピア共和国連合や大清連邦・高麗までも参戦しての第一次世界大戦の勃発となります。最後は進退極まってのフレイヤ乱れ撃ちでもしますか? 世界の終わりですよ。玉城くんが生きていたことでその心配は無用となりましたが。ま、最悪に最悪が重なって大凶を10回連続引けばそれはあり得た話でした」

 

「そうなる前に僕らが止めるからね。シャルルも国主としてそのくらい覚悟してるだろうし。なんにしても、なにも喪われずに済んで良かったよ・・・でも」

 

「彼等ペンタゴンには慰謝料の請求をしなければ、いえ払ってもらわなければなりませんね。我々を舐めてくれたツケを、ね。クララさんは真相に辿り着いたようですがマリーベル殿下にも?」

 

「知ってるよ。だから一気に攻勢へと転じた。ただし、周囲に被害を及ぼさないよう注意を払いながらね」

 

「玉城くんが生きていたから、なのでしょうね。といって変に一般人である玉城くんへ警護要員など付ければ却って玉城くんこそがマリーベル殿下の弱点であることを気取られますので警護を付けたりはしませんが」

 

42: 名無しさん :2018/02/18(日) 20:47:48

 

「結果は出たのフランクの」

 

「ええ。大切な物を奪え壊せ。これはあの方が大切な何かを奪われた時に発動し思考が誘導されてしまう仕掛けでした。大切な物を奪った者から大切な物を奪え壊せといったように」

 

「デイビスのギアスで確定か。しかしフランク・ロズベルトの大切な物って?」

 

「地位、名誉、財産・・・腐敗した俗物が取り付かれる典型的な欲望ですよ」

 

「なるほどね。それを奪ったのはシャルルというわけだ。そして、シャルルの大切な物はシャルル自身の子供達。時期的に最もシャルルが苦しむ方法はマリーベルの暴走と虐殺による数多の犠牲。そして都合よくもマリーベルには大切な物があった。それがシンイチロウだった、ということか。マリーベルの大切な物が何かなんてのは今以てジェファーソン・デイビスにもわからないだろうけれどね。まさかあんなナースにセクハラしてるようなお馬鹿だとか想像もできないだろ」

 

「正確には貴方の弟さんがフランク・ロズベルトより奪い取ったのではなく、先代ロズベルト家当主と一族が爵位を返上なされただけなのですがね」

 

「・・・引き渡しはいつに?」

 

「いつでも。ですが、念のために掛けられていたギアスをキャンセルしてからになります」

 

「そっちは頼んだよ。こっちはこっちでロズベルト家による仇討ちに持ってけるように動くから。日本での犯罪については引き渡された後にロズベルトの娘が討伐することで差し引きでいいかな? シンイチロウに聞いたら『俺生きてるから慰謝料と治療費の請求だけでなにも要らない』って言っていたよ。刑事事件としては?」

 

「刺されたご本人が元気ピンピンですのでまあ情状酌量として懲役10年が妥当ですが、そちらでは更に重くなりそうですね」

 

「公金横領が発覚してるからね。ブリタニアでは貴族による犯罪には厳罰が基本なんだ。でないと臣民に対し示しがつかない。西海岸と五大湖も黙ってないし日本での事件と合わせてロズベルト家の娘による一族没落の仇討ちが妥当かな? 仏心を出して無期禁固」

 

「人死に無しでの仇討ち、実質死刑とは中々重いですねぇ。まあ、フランク・ロズベルトの裁きはブリタニア側に任せますよ。日本じゃ甘い刑罰で終わりますのでね」

 

「ロズベルト家の娘次第かな?」

 

 

 

まだ雪は降っている

白いボタンが空から落ちてくる

止まることなく落ちてくる

 

「・・・しかし、どれだけ積もるのかな?」

 

「暫くぶりの大雪ですからね。昨年以上の。もしかしたら記録を更新するかも知れませんよ。ところでV.V.さん、貴方頭に雪積もってますが」

 

最悪あったかもしれない物騒な話を終えた二人は歓談へと移っていく

 

「ああホントだ。いつの間にか肩にまで」

 

「V.V.さんは体が小さく肩幅が狭いのでまだましでしょう。私なんてほら」

 

辻の肩にも雪は盛り上がっている

 

「盛り上がるのは楽しい話や嬉しい話、幸せな話だけで充分なのですが」

 

二人は頭や肩に積もる雪をパッパと払う

 

「髪濡れてくしゃくしゃだ」

 

「踵までの長さですからねえV.V.さんは」

 

「自分でも伸ばし過ぎだと思ってる。またシンイチロウに髪の毛といて貰おうかなあ」

 

「そんなことされていたのですか?」

 

「うん。さっき見舞いに病室行った時、なんかシンイチロウにこっちこいって言われてね。クララが幼い頃からあの子の髪を良くといてるらしいから慣れてるんだろうな。あんな目付きの悪い顔して不器用な癖に中々気持ち良くて上手だった」

 

「ふふ、玉城くんのそういう小さな積み重ねがクララさんから好意を寄せられるようになった切っ掛けだったりするのかも知れませんね。V.V.さんがクララさんを託せるとお思いなのもそんなちょっとした気遣いが関係しているのでは?」

 

「ないない。クララが心底惚れ込んじゃってさ、自分が養うとか言い出したからもうクララの好きにさせたげるのがあの子の幸せなんだろうと思って二人の仲を認めたんだよ。でなきゃあんな甲斐性無しに愛娘をあげたりするもんか」

 

「くく、シャルルさんは親バカが病的ですが、V.V.さんも結構な親バカ振りじゃありませんか?」

 

「娘を嫁にってさ、父親にとって結構堪えるんだよ」

 

43: 名無しさん :2018/02/18(日) 20:49:09

 

さてと。と、V.V.はもたれていた欄干より反動をつけながら身を起こす

 

「どうされるのですか?」

 

「クララにはもうこれ以上先走らないように釘打つんだよ」

 

と電話した

 

『なにパパ。クララいまお仕事で忙しいんだけどー?』

 

「それは悪かったね。でもねクララ。もうその話は付いたからいまのを謳わせたら残りは特高に大人しく引き渡すんだ。ギアスまで使って、君のやってることは独断専行の越権行為なんだよ」

 

『・・・・・・だからなぁに? この人たちお兄ちゃんを傷付けようとしたのに殺しちゃ駄目なの?』

 

「駄目だ。これはお願いじゃないんだよ? ギアス嚮団嚮主としての僕の命令なんだ。君のお仕事はもう終わり。終業時間はとっくに過ぎてる。残業も認めない。わかったらいま捕まえてる事件の関係者を特高に引き渡して帰ってきなさい。いいね?」

 

『・・・・・・はーい』

 

不満そうな娘の声に、V.V.はサービスだとばかりに話した

 

「シンイチロウが君に会いたいって言ってるよ。面会時間も限られてるんだから特高との連携を確認した後はもう早く帰っておいで。こっちも」

 

辻を見ると積もる雪をまた払いながらね帽子をあげてにこりと笑っていた

 

「話は終わったから。それじゃシンイチロウの病室で落ち合おープツン」

 

「どうでした?」

 

「納得してないけど納得したみたいな感じだ。たぶん現場はお掃除が必要かも」

 

「掃除くらいは構いませんが、あまりオルゴールを壊されると情報の引き出しができなくて困るのですが」

 

「そこはごめん"社長として"謝罪するよ」

 

「ま、良いですよ。長年一緒にお仕事をしてきた我々の関係ですしね。クララさんはどうなさると?」

 

「シンイチロウの話を出した途端に電話切っちゃったよ・・・まったく困った娘だ」

 

「ふふ、なら業務終了ですか。しかし本当に玉城くんはクララさんにマリーベル殿下にと、悪運の女神に愛されてますねえ」

 

「その暴走超特急娘の調整してる僕としては気苦労が多くて疲れるよ・・・」

 

「社長なら仕方ないでしょう?」

 

「マリーベルはうちの従業員じゃないんだけど」

 

雪はまだ降り積もる

 

終わりがないほどのボタン雪が次々と落ちてくる

落ちくる大粒の雪を見つめながら辻も何処かへ連絡をしたあと、V.V.と二人、玉城の病室へと戻っていった

 

 

 

 

"わりぃ看護婦さん手がすべ"

 

"お兄ちゃ~~~んっ!お兄ちゃんの愛しいクララちゃんが会いに来、ああ~~~っっ!?"

 

白衣の天使に手が滑ったと言い訳しながらボディタッチしている玉城

と、その玉城を見て塊るクララ

 

そんな二人を生暖かい目で見やりながらまた辻は呟いた

 

「とことん悪運の女神に愛されてますねえ~」

 

 

 

 

 

 

 

 



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どんなに楽天的でもストレスくらい溜まる

 

 

どんなに楽天的でもストレスくらい溜まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

看護婦へのセクハラ行為。ついに見られてはならない二人の内の一人に見られてしまった

玉城は気づかないがクララの笑顔は固まっていた。ついでにその後ろに立つ10歳くらいの少年と60台くらいのおじさんは片やあちゃーと額に手を宛て、片や笑顔のまま何が起きるのか彼の悪運を計っていた

 

そうとは知らないアホひとり

うつむき加減で近づいてくるピンク髪を膝裏まで伸ばした少女、クララ・ランフランクによっ!と手をあげて迎え入れている

今日もまた見舞いに訪れていた名無しの無職こと北南光太郎もなんか危なくね?と察して玉城とクララから離れていた

 

「ねえお兄ちゃん・・・なに、してたの?」

 

「お、おう、手が滑ってちとばかし事故ってたんだ」

 

かかあに浮気がバレた夫の言い訳に近い事を宣いながら玉城は誤魔化している

クララが自分の事を好きなことくらい日がな一日伝えられていた玉城も知ってはいた

だからこういった状況になると気を使ってしまうのだ

アホでもそのくらいの気遣いはできる素晴らしい発見の一幕であった

 

「へぇ、手が滑ったら女性の体に触れてもいいんだぁー? クララ日本の法についてもお勉強してきたからわざとらしい触れかたならセクハラになることくらい知ってるよ。いまのさぁ、お兄ちゃん、セクハラじゃん・・・違う? クララの言うこと間違ってる?」

 

ハイライトが消えるとはこの事

クララの瞳からはいつもの輝きが消えてほの暗く鈍い光が灯っている

事実数人"舌を噛みきって死ね"とその両の眼に赤い鳥羽を羽ばたかせてきたクララの体にはまだ鉄錆の匂いがこびりついていた

マリーもたまに同じ匂いをまとわりつかせていることがある

 

わかるものにはわかる匂い

 

わからないものにはわからないその匂い

 

幸か不幸か玉城にはわからない

所詮は光の下で生きる民間人でしかなあお彼には無縁な匂いなのだ

たとえその匂いを付けたクララやマリーが身近にいようとも

いや実はV.V.や辻も同じ匂いをつけていることがある

玉城はやはり気づかない。しかし彼に気づけというほうが無理くりなのだ。一般人にはわからない匂いでしかないのだから

 

さあ玉城真一郎はどうするのか?

 

まあ結論だけを挙げるのならば舐めていた

舐めきった対応でピンチを乗り越えてしまった

 

「クララーーっ!」

 

「きゃっ・・・?!」

 

「おまえ最近顔見せなかったから心配してたんだぞ? ったくチビな癖に心配かけさせんなよぉ」

 

暴挙

 

そうとしか言えない行動でクララの静かな怒りを回避してしまったのだ

 

つまりまあ、なんというか、玉城は近づいてきたクララの体を思い切り抱き締めたのだ

 

誤魔化しはあったろう

 

話を反らしたい意図もあったろう

 

しかし、クララには、純粋な純愛に生きる恋する少女には、そんな情熱的抱擁を受けて冷静でもいられなければ、怒りすら吹き飛んでしまうものだ

 

(天然の悪運的幸運ですね。さすがは玉城くんですか)

 

辻は感心しながらその様子を見守っていた

 

「お、おに、お兄ちゃ・・・」

 

クララはぐるぐる目を回している。クララ・ランフランクは純粋が故にこういった直接的な何かには弱いのだ

 

「おまえ毎日来るつったのに約束破りやがって。寂しいじゃんかよ・・・来るのが無職だとかむさい親父だけとか」

 

「え? 俺そんな扱いかよ!?」

 

「シンイチロウ。むさい親父というのは僕のことを指してるのかな?」

 

「いやいや別に誰とは言ってねーし」

 

「「言ってるようなもんだろっ!!」」

 

53: 名無しさん :2018/02/19(月) 16:38:01

 

「だーってよぉ、男とおっさんなら断然クララみたいな、可愛い女を選ぶだろかっかっかっ!」

 

上機嫌のままクララを抱き締めて頭に髪の毛に背中にと撫でまくり触りまくりな玉城くん。クララ「あうあう」と顔を真っ赤にしてされるがままにされていた

 

「無職くん。君、あの馬鹿にまたお酒飲ませただろう?」

 

「す、すみませんおじさん。どうしてもって言うからストロングチューハイ500を1本。すみませんでしたっ!」

 

「無職さん、ここは病院ですので基本的にはいけませんよ? とくにあの玉城くんはほら」

 

顎をしゃくる辻が示す先では、頭を髪を撫で回されて頬ずりされてるクララの姿があった

 

「あの通り酒癖が非常に悪いので。クララさんだから良い物の、クララさんやマリーベルで、失礼。マリーさん以外にあんなことをなされては玉城くんは警察行きですよ」

 

「は、はい、」

 

「ま、おかげで誤魔化しもできたしクララの期限もなおったから結果オーライだけど、今度は僕のストレスが貯まる。あの馬鹿いつまでクララを抱き締めてやりたい放題しているんだよ!」

 

そんな外野は無視の玉城くん

クララの髪の毛の根本を触ると

 

「なあ、クララ。ちょっと髪の毛1本引っ張ってもいいか?」

 

などと、女の子にとって大切な髪の毛を引っ張ろうとしていた

 

「1本くらいなら・・・でも、どうするの?」

 

「ちょっと試したいことがある」

 

言ってクララのピンク色をした長い髪の毛を1本引っ張った。少しばかり強めに

 

「いたっ!」

 

「わ、悪い。ごめんな」

 

「い、いいよお兄ちゃんなら」

 

何がしたかったのかと言うと、玉城はクララの頭皮?毛根?の強さを調べたのだ

 

「ぬ、抜けねー」

 

「え、ええと・・・ん、お兄ちゃんはクララの髪の毛がほしいの? それだったら1本くらい切ったげてもいいけど・・・」

 

「ああちげーって。これは俺の問題。ほら俺の枕見てみ?」

 

「えっ枕?」

 

クララは依然として玉城に抱き締められたまま、背伸びをして彼の肩越しに病院用の白い枕を見る。すると枕には数本の黒い糸が・・・

 

「マリーの髪の毛も引っ張ったことあるし、おっさんのも引っ張ったことあんだけどな。強いんだよ毛根」

 

玉城に言われてクララは父を振り替える

 

「髪の毛触らせろとか言って1本引っ張られたよいきなりね。髪の毛の強さとか毛根の強さを調べたんだってさ。マリーも無職くんも同じ事をされてるよ」

 

V.V.が無職を見ると無職はこくこくと首肯した。そんな皆を見ながら動いたのはつじーんである

 

「失礼」

 

辻は玉城の枕を見る。確かに抜けた毛が散らばっていた

 

「いつからですか?」

 

「えーっとすね。入院してから暫くしてからっす。気がついたらぱらぱらと。引っ張ったら抜けましたし・・・・・・」

 

「ふむなるほど」

 

辻は玉城のつむじや頭皮を触りながらひとこと告げる

 

「これは・・・危ないかもしれませんね」

 

「え?」

 

「へ?」

 

玉城とクララが同時に間の抜けた声をあげた

クララは剥げてもいいじゃんとハゲマシ。玉城はハゲマスなとクララの豊かな髪を撫でて羨ましそうに口走った

 

 

 



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誰よりもすごい交遊関係

掲示板系
名無しのバーテン退院と大貴族(笑)の逮捕と引き渡し公表



 

 

 

 

 

誰よりもすごい交遊関係

 

 

 

 

 

 

 

今日は退院である。晴れて退院である。酒で暴れて拘置所から出所などではない。病院からの退院なのである

 

思い返せば自由に外を出歩けない、マリーとクララが下の世話までしようとしてきた、無職、いや北南ともっと仲良くなれた、V.V.のおっさん、クララ、マリーベル、辻おじさん、V.V.家の人々、みんなかけがえのない好い人たちばかりだと思い知らされた入院生活だった

 

あと白衣の天使の体は天使だったなぁ

 

「おおう、まだ雪残ってやがる」

 

晴天ながら数日前に降り積もった帝都の雪はまだ建物の影にはたくさん残っていた

なんでも足利幕府による図ったかのような速やかなる大政奉還で明治へと移り変わって以来最高の降雪量を記録したそうだ

帝都の都心で氷点下6℃まで下がり、新宿でも34㎝の積雪を記録したそうだ

都会っ子玉城は普段あまり雪に縁がないので遊びたい気分だったが、まだその時はベッドに釘付けだったのでどうしようもなく、残念な気持ちで舞い落ちてくる雪とナースの谷間の白に目を奪われ通しだった

 

子供か

 

精神年齢はクララと同い年かもしれない玉城は雪を丸めてちいさな雪だるまを作ったりしていた

 

「玉城さん」

 

残雪で遊んでいた玉城に声がかけられる

振り返ると帝都総合病院の玉城の担当医がいた

 

「なんすか先生」

 

七三分けに整えられた白いものが混じる髪型

四角い眼鏡に膝まで隠す白衣のTHE・医者というべき装いの担当医

 

「少しよろしいですか」

 

なにを?二の句を告げる間もなく担当医は話し出した

 

「玉城さんの容態についてですが、当初の予想では退院後も定期的な通院が必要となるはずでしたが、玉城さんの驚異的な回復力のおかげでほぼ必要がなくなってしまいました」

 

回復力がすごい。良かったね。要するにそういう話だ

 

「そっすか」

 

常軌を逸した現代医学により、刺された傷跡も綺麗に無くなっていた為に今さらじゃないか?

彼としてはそう感じたのだが、担当医が言うには救急で運ばれてきた時にはもう駄目だと匙を投げていたらしい

 

「・・・こう言っちゃ悪いと思うんすけどね」

 

しゃがみこんだまま雪だるまをもうひとつ作る。ひとつ目よりも少し大きめのを

 

「俺、死んだら死んだで別にいいかなと思ってたんすよ」

 

死んだところで馬鹿で迷惑ばかりかけてるクズがひとりいなくなるだけだ

 

「ほら、人間死んだら生まれ変わるって言うでしょ? クズで糞な人生歩ってきた俺だから、次はまともな人生を歩こうって、ぶっ刺された時に考えていたんすよ。空に浮かんだ黄色い月を観ながら」

 

あの夜の月は網膜に焼き付いていた

この人生を駄目なやつとして生きてきた自分だが、次こそはと悟りの境地みたいな感覚を得られたような、そんな感じがしていた

 

「死ぬ前って意外に冷静になれるもんなんだって気づきましたよ。で、自分を振り返ってみたら、嫌われることばかりやってきてそれで今でもまだ人に迷惑をかけるような生き方をしてきて。挙げ句に夢も人生も諦めて落ち着いた先はBARの店員すよ」

 

夢はそんなのじゃなかった。今頃は省庁に入ってばりばり仕事をしていたはずなんだ。今の俺は現実の俺が見ている夢なんだ

玉城はもうひとつ雪玉を作っては残雪の上に乗せてコロコロと転がしていく

残雪は雪玉に着く。残雪の着いた雪玉は大きくなっていく。そうして胴体を作り上げては頭を作るためにともひとつおまけに雪玉作り

 

「たぶん、気ィ失ってたとき、そんなこと考えていて、なんか幸せな夢を見ていた気がするんすよね。夢を叶えて、昔恋していた、まあ初恋なんすけど」

 

雪玉を転がしながら照れ隠しでぼりぼりと頭を掻きながら先を続ける

 

「そいつと婚約してて最後は結婚する。そんな夢を見てたような気がね、するんっすよ」

 

担当医が彼の話に被せる形で言った

 

「・・・結婚した感じでしたか?」

 

それは夢なのだ。感じがしたのかしてないのかでしかない。所詮は夢でしかないのだからと、担当医は感じがしたかと問うた

 

「結婚手前まではいった感じっすかね。こう、無い頭を悩ませて思い出そうとしたら断片的にですけど夢の内容が思い出せてくるんすよ」

 

「そうですか・・・手前まではですか」

 

96: 名無しさん :2018/02/22(木) 19:03:39

 

「そっす。手前まではっす。ただそこからは霧がかって何にも見えやがらないんすよね。でもなんか、そう確かあれ」

 

滅茶苦茶身勝手なアホが二人沸いて出てきたような。そいつらが幸せな結婚式を壊してしまったような気がする

 

「アホが二人、ですか」

 

「あれ俺よりもアホっすよたぶん。はっきり覚えてないからなんとも言えないっすけどでもなんつーか、幸せな気持ちみたいな安心感がありました。んで目が覚めたらちっちゃい爺さんが俺を覗き込んでたっつー最悪な目覚めで」

 

「ち、ちっちゃい爺さん・・・」

 

「センセーも知ってるしょ? あの足首までのクソ長げー髪した子供っすよ。子供っつーか見た目が子供なだけで65歳か66歳か、そんぐれーの爺さんなんですけどね」

 

「あ、ああ、知ってるよもちろん・・・ブリタニア皇て、あ、いや失礼ブリタニアのランペルージグループの会長さんでしたか?」

 

「そうそう。会長とかいって大体は邸にいるだけのジジイっすよ。正直金持ちなだけで俺の同類みたいなもん」

 

「いやそれは違うと思いますが」

 

頭の雪玉が出来上がる

話ながらその雪玉を一番大きな胴体の上に乗っけた

 

「まあ、そんときゃ足らない女どもが俺の手を握りしめてたから動くに動けなかったっすねー。あの足らない女二人もアホですよ」

 

完成した三体の雪だるま

一番大きなのを真ん中に、二番目に大きなのを左に、もっとも小さな雪だるまを右に並べて肩を寄せ合わせるようにしてくっつけた

 

「ち、ちなみに、足らない女性とは?」

 

「ん? ああ、よく俺の見舞いに来てた薄紅色ってんすかね?腰の下くらいまでの長いサイドポニーテールの髪をした女と、ピンク色の膝までのストレートロングヘアした年の割には背の低い女の二人のことっすよ。サイドポニーテールの女のほうがマリーベルっていうんすけどこいつは体つきは良いのにお上品すぎて色気が足りない」

 

左側の雪だるまをつつきながら言う。次に右側の雪だるまをつつく

 

「ストレートロングの女のほうはクララっつーんすけど時々色気は感じるし胸もまあ膨らんできてますが背は低いしガキっぽいしでまあ俺の理想には足りない」

 

「あ、ああ、あのお二方ですね・・・」

 

ボソボソ(マリーベル皇女とクララ姫殿下をアホ呼ばわり。しかもあんな美女と美少女を前に足りないって)

 

「なんすか?」

 

「あ、ああすみませんね。なにもないですよ。で、そのお二方がどうなされましたか?」

 

「・・・本気、みたいなんすよねどうも。俺を好きとかっての」

 

一番大きな雪だるまを触る

 

「・・・・・」

 

言葉のない担当医に玉城は大きな雪だるまを触りながら独り言のように話す

 

「死にかけて初めて自分を見つめ直してた時に自分のいい加減さや嫌なとこばっかに気づいて、だからどーせあいつらだって俺の事なんかって思ってたのに・・・。それなのに俺の入院中に二人して好き好きアピールしてきて・・・馬鹿っすよあいつら。ランペルージグループみたいなのを良家っつーんすか?そんなとこのお嬢様で、ツラ良くて、性格だって誰かに尽くせるくらい良いのに。なんで俺みたいなアホのロクデナシなド庶民に本気になってんだよって」

 

97: 名無しさん :2018/02/22(木) 19:04:16

 

嘘偽りの無い本音だ。美人で金持ちで性格良しで頭も良い

クララ・ランフランクもマリーベル・ランペルージも全部揃っている完璧なお嬢様だ

それが何を間違えたのか庶民以下のクソヤローに本気で入れあげている

 

「あいつらの将来台無しっすよ。俺みてぇなアホを好きになったりしてたら」

 

綺麗なものが汚れたものと触れ合えば綺麗なものには汚れがつく

至極当たり前な道理だ。馬鹿も馬鹿なりにそのくらいはわかる

 

クララとマリーベルは綺麗な者

玉城真一郎は汚れた者

 

本当なら触れ合っちゃいけない者同士だってのに

 

しかし担当医はそれを聞いた上でその考えを否定した

 

「玉城さん・・・差し出がましい事ですが、それを決めるのはあなたではありません。マリーベルさんやクララさんがあなたに好意を寄せること。これを否定する権利はあなたにはありませんよ。いいじゃありませんか。誰が誰を好きになろうとも」

 

「そんなもんすかね」

 

「そんなもんですよ惚れた腫れたなんてのは。理屈じゃないんです身勝手なものなんです。あの方々と交わり過ぎることを由となさらないのは玉城さんの勝手。しかしあの方々からすれば玉城さんは大切な宝物なんです。しかし宝物側には相手がどう思っているのかなんてわからないもの。対象者はね、黙っているしかないんですよ。百年の恋も冷めるという言葉がありますがそれが千年万年なら、無限の時の彼方の恋ならばどうでしょうか? 冷めませんよきっと。私はあの方々のあなたへの恋心はきっとその類いのものだと思うのです。ま、これは私の勝手な推測ですが」

 

『お昼のニュースです。帝都在住飲食店店員の刺傷事件の続報です。えー、犯行を行った容疑者の特徴から特別高等警察に逮捕されていた人物の名はフランク・ロズベルト。フランク・ロズベルト容疑者と判明いたしました。ロズベルト容疑者は先月まで男爵位を持っていた神聖ブリタニア帝国の元貴族で、ブリタニア帝国政府より大日本帝国政府に身柄引き渡し要請が出されておりましたが、当局によると取り調べは終了したとの事と、ブリタニアでの公金横領、クルシェフスキー侯爵家およびヴェルガモン伯爵家に対する高位貴族への侮辱罪並びに不敬罪に問われており、ブリタニアの対テロ特殊作戦軍大グリンダ騎士団所属の浮遊航空艦ネッサローズによりブリタニアへ護送され、あらためて取り調べと罪状に対しての刑罰が課せられる模様です。これには日本での事件も過料されており、対テロ特殊軍である大グリンダ騎士団所属ネッサローズが動いていることからフランク・ロズベルト容疑者と国際テロ組織との繋がりも懸念されており』

 

「あの方々はあなたが逃げようとしても逃がさないでしょうね」

 

「ははっ、冗談きついぜセンセー。そりゃクララもマリーもランペルージグループのお嬢様だけどさ、世界中逃げ回れば逃げ切りもできるでしょ?」

 

「さあどうでしょうかね?」

 

含むところのありそうな担当医の態度に首を捻る玉城は、正門より入ってきた一台の車に気づき手を降った

 

「迎えが来たみてーだから行くわセンセー。お世話になりましたっす」

 

「いいえ。こちらこそ騒がしい患者さんを診るのは久しく無かったのでそれなりに楽しめましたよ」

 

握手を交わす二人はニッと笑い合った

到着した車はリムジンだ。自分には不似合い過ぎることこの上ないと玉城は思いながら、扉が開いたと同時に足を踏み出してきた人物によっと手をあげる

 

98: 名無しさん :2018/02/22(木) 19:06:53

 

「お久しゅうございますわシン兄様」

 

「久しゅうって先月まで毎日会ってたろ」

 

「恋する乙女に取りましては一時であれどもその別離は永遠に等しきものですのよ?」

 

「へ、へーそーですかよ、」

 

左右に黒。胸の下、腹部にかけて赤い意匠が施された足首まで隠すロングスカートをしたピンクのドレス姿が眩しい女性であった

白のワンピースやらの私服を着ている時と違い髪は全体的にストレートに下ろされ、一部のみを結い上げている

 

その隣にはウェーブがかった髪を左右肩で二つ結びにした濃色金髪が似合う麗しい女性の姿もある

 

「ゲッ、なんで迎えが凶暴護衛オルドリン付きマリーなわけだよッ!?」

 

「だ~れが凶暴護衛ですって~っ!!」

 

「うへぇーっ、マリー抑えろよおまえの護衛なんだろ!」

 

「兄様が余計なお一言を仰有るからですわ。オルドリンも。ここは病院ですわよ?」

 

「わかってるわよマリー。でもこいつの言葉が一々堪に触っちゃうのよ」

 

マリーベルに抑えられたオルドリンがリムジンの扉をもうひとつ開く

 

「ほらタマキ。こっちも忙しいんだからさっさと乗りなさいよね」

 

「へいへい、つーかマリーおまえすっげー格好してんな? 舞踏会にでも出るのかよ」

 

「兄様がエスコートしてくださるのならば」

 

「無理。上流階級のお嬢様をエスコートなんぞド庶民な俺には荷が重いわ・・・でもまあ・・・うん。・・・キレーだし・・・似合ってるぜ」

 

ぽりぽり鼻の頭を掻いて誤魔化す玉城にマリーベルは感極まり抱きつくと、彼の手をとって赤いピンヒールの音をカツカツと鳴らしながら歩みを進め、彼をリムジンへと連れていった

最後に担当医への礼を忘れずに深々としたお辞儀をしながら

 

「クララは?」

 

「クララは学校ですわよ?」

 

「おっさんは?」

 

「伯父様はお仕事ですわ」

 

「仕事っつったって家でなんかやってるだけじゃね?」

 

「いいえ今日は出掛け先ですの。ですからわたくしがお迎えに上がりました」

 

「ふーん」

 

「おーい、俺もいるんですけどー」

 

影の薄い男名無しの無職が玉城の斜め向かいに座っていた

当然玉城の隣にはマリーベルが着座している。彼の隣は自分の席ですがなにか?と言わんばかりのお澄まし顔で

 

「うおっ?! 無職おまえなんでマリーのリムジンに乗ってやがんだ?!」

 

「ヒデーなバーテン。いやね、おまえ今日退院だって聞いてたから出迎えにでも行こうかなって歩いてたらマリーさんの車に拾われたのさ。一緒に行きましょうって」

 

「ほぅそっか。ありがとな」

 

「なんか素直に言われたら照れるや」

 

「男が照れんな! あー、えーとオルドリン」

 

「なによ」

 

「ありがとな。俺みたいなやつの迎えに混じってくれてよ」

 

「べ、別にあんたを迎えに来たんじゃないわよ。マリーの護衛なんだから勘違いしないで!」

 

「へーい」

 

「・・・」

 

オルドリンを凝視するマリーベル。涼やかな殺気が漏れていた

 

「ま、マリーちょっと待ってって。私はタマキなんて好みの眼中にも入らないから盗ったりしないから!」

 

あわあわ。慌てるオルドリンは本心を述べた。それでも玉城を奪うのではといった嫉妬や執着がマリーの殺気に繋がっているのである

そんなオルドリンの救いの手は当の玉城よりもたらされた

 

「ま、マリー、ありがとな迎えに来てくれて。その・・・看病とかも、あー色々してくれて」

 

さりげなくマリーベルの手を取り繋ぐ玉城。それも恋人繋ぎ

彼も彼なりにマリーベルからの告白やら口づけやらを受けて彼女の心中を察したからのファインプレーであった

 

「兄様・・・あの、わたくし・・・兄様のそのお言葉だけで本望ですわ・・・」

 

99: 名無しさん :2018/02/22(木) 19:07:24

 

 

担当医はその豪華な一行を見送りながら手を降る

 

「ほら見ろ。しっかり捕まってるだろうが名無しの事務次官よ?」

 

昔の玉城のハンドルネームを知っている彼は、昔彼が馬鹿ばかりやって大失敗に終わったオフ会を思い出していた

 

「おまえ、結局夢は叶わなかったな」

 

その代わりに

 

「事務次官でさえもそうそう会えやしない方々が周りに集まってるじゃないか」

 

大日本帝国元宰相嶋田繁太郎

大日本帝国元官房長官、財務大臣辻政信

大日本帝国元海軍大臣、国防大臣山本五十六

神聖ブリタニア帝国皇帝の兄ジ家V.V.

神聖ブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニア

神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア

神聖ブリタニア帝国第一七皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア

神聖ブリタニア帝国第八七皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニア

神聖ブリタニア帝国第八八皇女マリーベル・メル・ブリタニア

神聖ブリタニア帝国第八八皇女のナイトオブナイツオルドリン・ジヴォン

神聖ブリタニア帝国クルシェフスキー侯爵家次期当主ナイトオブトゥエルブモニカ・クルシェフスキー

神聖ブリタニア帝国ヴェルガモン伯爵家次期当主リーライナ・ヴェルガモン

神聖ブリタニア帝国ゴッドバルト辺境伯家当主ジェレミア・ゴッドバルト

神聖ブリタニア帝国ソレイシィ辺境伯家のキューエル・ソレイシィ

神聖ブリタニア帝国ソレイシィ辺境伯家次期当主マリーカ・ソレイシィ

 

ほかにも数え上げられないほどのとてつもない交遊関係だ

 

「周りを見てみろよ名無しの事務次官。お迎えへお越しになったのは誰か? おまえが気軽に話し掛けてるのは誰か? 見舞いにお越しだったのは誰か? 交遊関係だけで言えばおまえとっくに各省庁の事務次官なんざ越えてるよ官僚のトップよりすげーんだよ」

 

玉城が気づいていないただそれだけのことで、恐るべき交遊関係なのだから最早担当医は笑うしかなかった

 

「ブリタニアの戦姫マリーベル皇女殿下や、ブリタニア皇帝の兄君の娘様クララ姫殿下から愛の告白なんぞされた庶民は世界広しと言えどおまえくらいなんだぞ」

 

担当医の視線の先にある寄せ合わされた雪だるまたちはくっついていた

 

ぴたりと隙間なく、三体の雪だるまたちは仲良さそうにくっついていた

 

 

 




100: 名無しさん :2018/02/22(木) 19:09:53
バーテンのセクハラ入院生活はこれにて終了。マリーはバーテンのセクハラを知りませんし無職くんも激情家なマリーベルが怖いので黙ってくれてます。クララはバーテンより口止めされてます


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【日中】実は平和条約が無い 37無条約目【日欧】

掲示板ネタ
ブリタニアの匿名掲示板でちゃんねる伍式の姉妹掲示板
サーバーがクルシェフスキー侯爵領に存在するのでチャンネルトゥエルブ



 

 

 

1:名無しの無条約

【日中】実は平和条約が無い 37無条約目【日欧】

 

 

同盟国大日本帝国との平和条約が無い国を語るスレです

荒らしはスルーしましょう

 

 

2:名無しの無条約

2GET

 

3:名無しの無条約

2get

 

4:名無しの無条約

日本と平和条約が無い国は中華やユーロだけじゃないだろ

オセアニア・東アフリカ・南ニューギニア・イエメン・サウジアラビア等アラビア半島諸国・イラク・清・高麗と他にもある

 

5:名無しの無条約

オセアニアは?

 

6:名無しの無条約

中華は我がブリタニアに日本との平和友好条約を結ぶ仲介を申し出てきてる

 

7:名無しの無条約

ユーロは早晩消えてなくなるか分裂するだろ

いいとこロシア州ウラル以東が我が国と日本の植民地になって、生き残れても赤道以南アフリカだけだ

ユーロブリタニアには北アフリカの王族も加盟してるしな

赤道以南アフリカもどうせオセアニアの傀儡にされるだけ

 

8:名無しの無条約

>>6

帝国政府は日本が話に乗るか分からないと中華側に伝えてる

日中戦争で日本が中華をフルボッコにしてから日本と中華の関係は悪化していた。もう100年以上も昔の話だぞ

 

9:名無しの無条約

ユーロは(ヾノ・∀・`)

たかが新人種の分際のクセして変に選民意識が強いし

知り合いの日本人なんか第二次日欧戦争が起きたらユーロは日本が解体するからその時はユーロブリタニアの出番は無いんでヨロシクって言ってたw

 

10:名無しの無条約

中華が勝手に脅えてるだけだろ

日本は基本的に来るもの拒まず去るもの追わずだしさ

 

11:名無しの無条約

もし日中戦争が起きたらスレではもう結論出てるぞ

中華消滅させて日本は知らんぷりするだろうってw

 

12:名無しの無条約

中華は清の宦官どもに全責任押し付けて「日中間が悪いのは宦官のせい」にするつもり

 

13:名無しの無条約

日本の国粋主義者の一部は中華の天子が帝の御前で土下座するまで日中間の平和は無いとか言ってるぞ

 

740: 名無しさん :2018/02/05(月) 17:57:18

 

14:名無しの無条約

>>11

フレイヤというかカグヅチか? 嶋田政権の下で日本が開発したとか言われてる多弾頭フレイヤミサイルシステム

あの手の特殊兵器無しでも日本なら戦略爆撃で中華の都市部を更地にできるだろ

 

15:名無しの無条約

日本も君主制の国だよ

天子に土下座させろって、その手の国粋主義者は意味分かってるのかねえ

天子ってのは君主だ。逆に言うなれば御帝に土下座しろと言ってるような超の付く不敬なんだが

 

16:名無しの無条約

もういっそ中華やらユーロやらは日ブで仲良く切り分けしたら良いんじゃね?

 

17:名無しの無条約

日中間て何気にまともなパイプが無いんだよな

 

日本としては別に中華なんぞどうでも良いだろうが、中華にしてみればいつ第二次日中戦争が起きるか不安で仕方ないんだろ

 

18:名無しの無条約

日本は今さら中華を潰す気なんか無いよ

やるつもりならもうやってる。やれるだけの国力と軍事力を日本は持ってるから

 

19:名無しの無条約

>>16

ユーロブリタニアと揉めるぞ

 

20:名無しの無条約

>>14

弾頭数最大で10数発のカグヅチをリミッター無しで20発くらいぶちこめば中華連邦の全都市圏が穴ぼこに変わるよ

日本がそんな環境破壊甚だしい無意味な大量破壊をやるとは思えんね

 

21:名無しの無条約

>>19

ユーロブリタニアは信用してません

北南戦争を忘れるな

 

22:名無しの無条約

日本人の本音は中華もユーロも相手にしてない興味ないだろ

 

23:名無しの無条約

イラクは無理だな。共産主義国と日本は相容れない

 

24:名無しの無条約

中華とユーロ市場は魅力的なんだがな

 

25:名無しの無条約

>>8

日中戦争で中華帝国とインドは海軍全滅させられたんだろ?

基地も壊滅して日本恐怖症を患った

太平洋戦争で日本恐怖症が再発した

 

26:名無しの無条約

>>21

おまえ高麗人みたいなやつだな

 

27:名無しの無条約

第二次北南戦争が起きたら北からは日本人が

南からはブリタニアが攻めてユーロブリタニアは壊滅する

 

741: 名無しさん :2018/02/05(月) 17:57:49

 

28:名無しの無条約

なんか内戦を煽ってるのがいる

 

29:名無しの無条約

>>4

高麗を並べて語るな

日本帝国は高麗こそ本気で相手にしてない

 

30:名無しの無条約

>>15

日本は君主制でもあり民主主義でもある

だから中華連邦よりユーロピアの方を嫌ってると思うよ

ユーロピアは民主主義の恥さらしって日本の帝国議会の議員が発言してるくらいだし

 

31:名無しの無条約

>>25

太平洋戦争は長引いていたら最悪日ブ共倒れになってオセアニアが世界征服しかねなかった危険な戦争だったんだよ?

 

32:名無しの無条約

高麗はうちのシュナイゼル殿下も認めたほどの列強国らしいから、高麗人は小さなこと気にしちゃ駄目だよね

 

33:名無しの無条約

でもうちの国が仲介しても日本が中華の話聞くのか聞かないのかについては保証できないな

 

34:名無しの無条約

>>4

オセアニア圏は論外だろ

日ブとは古代文明時代からの不倶戴天の敵同士だから話し合いも条約も糞もねーよ

 

35:名無しの無条約

アラビア半島諸国は栄光の中立を誇示してなかったっけ?

かつて存在していた大洋州連合のように

 

36:名無しの無条約

>>14

富嶽弐式の他にももう一種類あるんだろ? 完全ステルスの超重爆撃機が

 

37:名無しの無条約

>>31

太平洋戦争時の大日本帝国は旧富嶽を何万機か用意していたんだよな

死なばもろとものブリタニア全土爆撃用に

で最後は機体ごと自爆攻撃仕掛ける予定だったと戦後明かされてブリタニア中が恐怖に包まれたという

あれ、当時の日ブ交渉と会談を成功させた政治家や皇族貴族の方々は見事なファインプレイだった

 

日本からの一斉戦略爆撃での被害想定ではブリタニアの全都市が瓦礫にされて最悪の数値で数千万人があの世行きだったそうな

 

38:名無しの無条約

いまの世界情勢下で完全中立は無理じゃないか?

大洋州連合や東南アジアの一部なんかは最終的にオセアニアに飲み込まれたし

 

いまのオセアニアは単弾頭式とはいえフレイヤミサイルを配備していってる

 

日ブとオセアニア間では相互確証破壊が成立するが中華連邦なんか一手間違うだけで世界地図から消えかねん

 

39:名無しの無条約

オセアニアって中華侵攻の兆しがあるんだろ?

本土からマダガスカル・セーシェル→東アフリカ→イエメンといった順で次から次へと兵を送り込んでるとか

イエメン名義にしてイラクと共同でアラビア半島を制圧した後、イラクに兵を移動させて、ペルシャ軍区へ侵攻

インド洋からはオセアニア本国艦隊と揚陸艦隊が侵攻してインド軍区を制圧にかかるだろうから放置しておくと真面目に危ない

 

40:名無しの無条約

新人種なんて猿としか見てないオセアニアの事だから初手で中華帝国、インド軍区、ペルシャ軍区の中核都市にフレイヤ弾道ミサイルぶちこんでもおかしくないよ

 

41:名無しの無条約

中華が日本との平和友好条約を結びたいとブリタニアに泣き付いてきてるのは日本恐怖症に加えてオセアニア恐怖症もあるのかもね

 

42:名無しの無条約

オセアニアって昔から自国優位が決定的になると支配領域広めにかかるからな

1995年のニューギニア戦争で一度は日本海軍と直で艦隊戦やらかしてるくらいやるときゃやる国だから

 

43:名無しの無条約

ラプラタ戦争の時にも東西から複数の空母打撃群で南ブリタニア諸国に圧力かけてきたしな

ま、ブリタニアと日本がそんな事許すわきゃないんだが

 

742: 名無しさん :2018/02/05(月) 17:58:40

 

44:名無しの無条約

真面目なとこ中華との平和友好条約は無理でも軍事協定や秘密協定まで持ってけるのかね?

ブリタニア帝国政府報道官の話では日本側が大分難色を示してるとか発表していたが

 

45:名無しの無条約

オセアニアとの全面戦争なんてブリタニアも日本も本音では避けたいだろ。中華やユーロピアみたいな単なる列強程度の相手じゃないんだから

 

46:名無しの無条約

日ブは中華を盾に使うの?

 

47:名無しの無条約

オセアニアとの全面戦争はやめてくれ!

たぶん俺も徴兵される!徴兵いやだ死にたくねー!

 

48:名無しの無条約

オセアニアが本腰入れて中華攻略に乗り出した時に近場の超大国日本の庇護が無ければ太刀打ちできない

しかし日本としても勿論ブリタニアとしても中華をオセアニアに盗られるのは御免被る

 

49:名無しの無条約

>>47

安心しろ。おまえみたいな根性なしは帝国軍に必要ない

 

50:名無しの無条約

>>19

おまえさ、なんでユーロブリタニアを信用してないやつがいて日本が全面信用されてるのか考えたことあるか?

 

日本はな、昔からブリタニアが国難だったり内戦になってるときには必ずブリタニアとブリタニア皇室を支援してくれてるんだよ

 

欧州を追われた時も、リカルド大帝黎明期のブリタニア大陸混乱期の頃も影に日向に支援してくれてんだよ

英雄帝クレア陛下の時には特に格別の支援をしてくれた

 

97年血の紋章の時も当時の日本のシマダ政権は「畏れ多くも我が大日本帝国御帝、ならびに我が帝国政府は、ブリタニアはシャルル・ジ・ブリタニア殿下こそが神聖ブリタニア帝国第98代皇帝であると認め、シャルル皇帝陛下以外にブリタニア皇帝を語る如何なる者をもこれを簒奪者と見なし認めることはない」と政府発表して義勇兵まで送り込んでくれた

 

わかるかな?

 

ブリタニアを乗っ取ろうとして北南戦争を起こした欧州系貴族と大日本帝国は根本的に違う

 

ブリタニアが日本を全面信用することはあっても、ブリタニアがユーロブリタニアを全面信用することは残念ながらないんだよ

 

51:名無しの無条約

てーか話は中華からの条約締結打診を日本が受け入れるかなんだが

 

52:名無しの無条約

どうだろうなー

日本は中華とユーロピアは信用してないからな

ああ、高麗やらオセアニア圏は論外ね?

 

 

 



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【急募】フロンティアスピリッツ【経験不問】

ちょっと試しに書いてみました久しぶりの掲示板回で開拓民募集中


 

 

 

 

 

 

1:名無しさん

 

【急募】フロンティアスピリッツ【経験不問】

 

 

2:名無しさん

1乙

 

3:名無しさん

1乙じゃなくなによこのスレ

 

4:名無しさん

訳ワカメ

 

5:名無しさん

フロンティアスピリッツ?

開拓魂?

 

6:名無しさん

なに開拓すんの?

 

7:貴族T

スレ建てた者です

ランペルージグループの極東マネージャーを通して神聖ブリタニア帝国辺境地域開拓の人員を募集しておりまして辺境故に中々集まらないため方々駆けずり回っております

 

8:名無しさん

千琴開拓とか北方も開発され尽くしてるしな

 

9:名無しさん

外南洋も開拓され尽くしたしな

 

10:名無しさん

リアル財政チートな日本に開拓できない地などありはせんのだよ!

 

11:名無しさん

なんかスレ主出てきた!

ブリタニアの貴族?!

 

12:名無しさん

ランペルージグループの極東マネージャーって顔見たことないけど名義人はコーネリア・ランペルージだっけ?

またドエリャー大企業の幹部の名前が

て、募集してるのは貴族かよw

 

13:名無しさん

太平洋経済圏三大企業に依頼してらっちしゃる貴族様w

 

14:名無しさん

>>7

契約社員じゃなくてランペルージの正社員としてですか?

 

15:名無しさん

賃金次第だな

 

16:貴族T

簡単に説明すると、勤務地が辺境の辺境なので国内だけで募集しても人が集まらないからと、盟邦日本でも募集してみようとランペルージグループの副社長が申されまして

ちなみに副社長はいま現地でKMFによる作業をしております

 

17:名無しさん

ブリタニア本土ならともかくも海外領土なら行かない

帝都在住の俺は日本の海外領土であっても興味ない

ブリタニア領サウスジョージアとかも行かない

ブリタニア本土でもアラスカなら嫌

コロンビアなら月40貰えるならまあ良しかな

 

18:名無しの正社員

こんなとこでくだ巻いてるやつなんかどーせ無職かニートばっかなんだし、行けよお前ら

 

19:名無しさん

勤務地ミッドウェーで給料40以上でもお断り

何もないとこで高給貰っても役に立たんし

 

20:貴族D

失礼。日本の皆様こんにちは。私、開拓地域の貴族の支援をしておりますブリタニアの貴族です

ブリタニアは9億以上の人口がおりますが国土が広く辺境地域開発の人手につきましては正直足りていません

できれば皆様の暖かいお気持ちとお力をお貸し頂ければこれに勝る支援の手はありません

 

253: 名無しさん :2018/03/04(日) 02:51:30

 

21:名無しさん

副社長が現場作業とかランペルージグループは相変わらず汗水垂らして仕事してるなあ

 

22:開拓行こうかな

貴族T様。具体的な待遇を教えて下さい

 

23:名無しさん

>>20

日本の3.5倍の人口いるのに辺境には行きたくない

どこの国も同じですな

 

24:名無しさん

ランペルージグループ重役ってブリタニア皇族の名前と同じ名前が多いよな

 

25:貴族T

>>22

待遇につきましては宿舎有りの手取り60と歩合給になります

これは当地の領主よりの給金とランペルージグループからの給金との二重支給となっている為に高く設定されております

勤務地は神聖ブリタニア帝国カンザスの辺境地となっておりまして、娯楽施設などはカンザスシティまで行かないとありません

ランペルージグループは二年更新の契約社員として、領主は望めば移民待遇としてブリタニア国籍を与える事となっております。こちらは中央とも話を付けてありますのでご安心を

移民予定者に限りランペルージグループは正社員待遇として迎え入れる事になります

何れにしてもランペルージグループ日本支社にて受付はしておりますのでお問い合わせくださいませ

 

26:名無しさん

>>23

そりゃ進んで辺境行く輩は少ないだろ

 

27:名無しさん

60に歩合給なら月100も夢じゃない!

 

28:開拓行こうかな改め開拓行く

>>25

当方大日本帝国ミクロネシア地方に住んでますが待遇をお聞きいたしまして即断即決しました。日ブ間での移民は自由ですしブリタニアに移民します

早速ランペルージグループ日本支社へ問い合わせしますね

 

29:名無しさん

いきなり移民前提の開拓民がひとり決まったw

 

30:名無しさん

歩合給によっては100はスゲーよ!

領内か近くにカンザスシティがあるなら充分!

俺も問い合わせしてみよっと

 

31:貴族T

>>28

ありがとうございます。あなたのお力を是非とも我が領にお貸しください

 

32:名無しさん

カンザスシティ付近か?

それで最低60は美味しすぎるな

 

33:名無しさん

>>28

南方民よ行くのか?

漏れ千琴の北方民無職

 

ちと不安だが行ってみるか

 

34:名無しさん

待遇聞いた瞬間に即断即決とか金の亡者どもめ

辺境の開拓ってしんどいんだぞ?

 

35:貴族D

中央時代私の同僚だった領主貴族で信頼の置ける人間なので安心してください

 

36:名無しさん

問い合わせてみた

KMFや重機の免許持ってる場合100は硬い

で、早い者勝ちだから行くやつははよせー

 

37:開拓行く

私KMF免許保持者。基本給30が40に変わった。70確定。即採用決定

勤務地には旧ロズベルト領が入っているらしい

開拓魂を発揮してくる!

 

254: 名無しさん :2018/03/04(日) 02:52:07

 

38:貴族D

すみません。忘れてましたが旧ロズベルト領を内包した地域です

領主はアレクサンダー・T・ヘア伯爵です

 

39:名無しさん

旧ロズベルト領てなによ?

 

40:名無しさん

旧ロズベルト領かあ。そりゃひと集めるの大変だわ

 

41:名無しさん

え? それじゃ貴族T様って領主様け?!

 

42:名無しさん

>>39

ブリタニア高位貴族侮辱罪

公金横領罪

傷害罪

殺人未遂罪

をやらかした元男爵

 

こないだニュースでやってたけど大グリンダ騎士団所属浮遊航空艦ネッサローズでブリタニア本国に引き渡されていったある意味重罪人

 

43:名無しさん

知ってる。現ナイトオブトゥエルブで駐日ブリタニア大使館付きの駐在官モニカ・クルシェフスキー次期女侯と

駐日ブリタニア大使館付きの警備責任者リーライナ・ヴェルガモン次期女伯を

公衆の面前で罵倒した高位貴族侮辱罪から始まり、転落に次ぐ転落で事実上のお家お取り潰しになった男爵家だ

 

44:名無しさん

グリンダに引き渡されて行ったて、テロ関連もあるの?

 

45:名無しの正社員

月給60万以上?!

俺、明日退職届提出してこよ!

 

46:名無しさん

テロは分からんが、日本で殺人未遂事件起こして有名になってるなそいつ

カンザスに10㎞2の領地持ってた領主貴族で貴族板のスレで自称大貴族を名乗ってクルシェフスキー次期女侯とヴェルガモン次期女伯の事をボロクソ言ってたらしい

一度見逃されてるのに、過去スレの発言からもう高位貴族侮辱罪も免れないみたい

日本での傷害罪や殺人未遂も過料されてるから死刑か終身刑になるらしい

お沙汰が下ってないからまだ決まった訳じゃないが、日本で刑罰科すより余程重くなる

 

47:貴族T

>>41

はい。隠すつもりはありませんが実は本人です

>>42

採用者の方はその一件が片付くまで待機となりますが、待機期間も含めて仕事という事で月60の給金が出ます

採用された方はランペルージグループ日本支社よりブリタニア行きの航空券が送られてきますので、同封されている勤務地の案内に従って我が領までお越し下さい。より多くの開拓者の方をお待ちしております

 

48:名無しさん

巻き添えにされた一族が可哀想だな

俺ならぶっ殺したくなるわ

 

49:貴族T

>>46

現在の我が領地は天領を賜った事で約100㎞2となっております。未開地域が多く領地貴族となった経験も無いので色々と困ってます

ロズベルト元男爵家の処遇につきましては領地返上につき不問とされてます

元当主のフランク・ロズベルトの処遇は追って沙汰が下りますので後程ですね

死罪か終身禁固はまぬかれませんが、ロズベルト一族が『処分は我が一族の手で』と物申しておりまして未定です

 

50:名無しの正社員

クルシェフスキーは日本との交流が盛んだから分かるが、ヴェルガモンてのはあのヴェルガモンだよな? 五大湖の

 

51:名無しさん

一族で処分

処分=死刑か…

 

52:名無しさん

領地面積440000㎞2で領民1200万、陸海空騎士団総兵力100000のブリタニア西海岸諸侯盟主クルシェフスキー侯爵家とか

 

領地面積170000㎞2で領民770万、陸空騎士団総兵力60000以上の五大湖諸侯盟主ヴェルガモン伯爵家とか

 

ケンカする相手を間違えてるだろ頭イッテるのかその男爵家の当主

 

53:貴族D

実は今回の急募は西海岸と五大湖というブリタニアでも屈指の経済圏からの経済制裁によりロズベルト家がお取り潰しとなったところに端を発しておりまして

 

54:名無しさん

>>50

一大経済圏を持つ五大湖諸侯盟主のヴェルガモン伯爵家だよ

自称でなく正真正銘の大貴族

クルシェフスキーと同じで日本との経済交流や取り引きが盛んだから、この事件で下手打っていたら日本も経済的打撃を受けるところだった

何せロズベルト男爵が逃げ込んだの日本だったからさ

 

55:名無しさん

独自の経済圏まで持ってるクルシェフスキーやらヴェルガモンは一つの国と考えればいい

あまりにでかすぎて一貴族領として見ると感覚が狂うぞ?

決して木っ端貴族なんぞが喧嘩売る相手じゃない

 

続け!

 

 

 



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【同盟国】神聖ブリタニア帝国の貴族を語ろう1333【ノブレスオブリージュ 】

誰が誰かな?

ちゃんねる伍式



 

 

 

 

 

【同盟国】神聖ブリタニア帝国の貴族を語ろう1333【ノブレスオブリージュ 】

 

ここは本スレ【家族的同盟国】神聖ブリタニア帝国を語ろうスレ より分離した分家スレです

ブリタニア帝国の貴族制度や体制等を語りましょう

 

荒らしはスルーが鉄則

 

注意等:日本臣民の方々は日本皇室・華族の御方々への。ブリタニア国籍の方はブリタニア皇室・貴族の御方々への。両国下位貴族・下位華族は両国高位貴族・皇室の御方々への。とまれ書き込みによる不敬罪にだけは重々御注意のほどお願いします

全て自己責任として発言してください

 

 

 

2:名無しの貴族

縦乙

 

3:超姉貴

スレ立てお疲れ様です

 

4:名無しの貴族

運営の通達消えたな

 

5:名無しの貴族

通達無くなった

 

6:超兄貴

>>4

事件が解決したからじゃないかな?

 

7:名無しの貴族

大貴族(笑)死罪なのかな

不敬発言乱発して、スレ民に迷惑かけて、最悪な嵐ヤローだったけど、実際に話してたヤツが死ぬかもとなると可哀想な気もする

 

8:名無しの平民

金曜の夜から今日の朝にかけて奥さんとハッスルしたから疲れました

 

9:名無しの貴族

大貴族(笑)よ、俺達は君を忘れない!

 

>>7

変な同情心は持つなよ?

クルシェフスキー侯爵家、ヴェルガモン伯爵家の御息女への不敬発言は当初許されていたようなもんだった

それをここでまた不敬重ねるわ、日本臣民を傷つけるわして事態を悪化させていったのはヤツ自身なんだから

元より公金横領までしてる真性の悪党だ

他にもなにかやっててもおかしくない

 

10:名無しの紳士

大貴族(笑)がかわいい女の子だったなら庇ってやったんだがおっさんじゃなあ

 

11:ジョイ君

>>7

ブリタニアの国法で貴族を対象にした罪として裁くから重くて臣民への示しという意味を含めて死罪、普通で終身刑かな?

情状酌量で無期禁固か無期懲役

 

但し今はロズベルト家先代当主の孫娘が一族没落のけじめを着けさせたいとして決闘する運びとなってるから裁判は保留中

 

12:名無しの貴族

大貴族(笑)よ、明日には忘れてる!

そしてリア充な平民がスルーされてるw

 

13:名無しの貴族

>>10

ただのクズだし萎えるよな・・・

 

14:名無しの貴族

紳士はかわいけりゃ誰でも良しな節操なしの変態だぞ

 

433: 名無しさん :2018/03/20(火) 23:55:38

15:一くん

皇国臣民が傷つけられたのは残念だが、死者が出なかった事は不幸中の幸いだ

しかし彼は罪を重ね過ぎていた

情状酌量の余地はないだろう

 

16:独身貴族

名無しの平民がリア充過ぎてキレるわ!

 

>>11

けじめで決闘となると実質死刑に・・・

 

17:名無しの貴族

バーテン亡くなってたらさすがに落ち込んだと思う

>>15

情状酌量なんかされたら示しがつかないよね

スレ民刺されてるし余計に納得いかんよ

 

18:名無しの他人

>>15

それね

一時期スレ大混乱だったからね

>>16

死刑でも仕方無い

むしろ被害者的な側面もある一族の人が決闘で返り討ちにされたらそっちのが許せん

 

19:イニシャルSS

バーテンくん危なかったようですよ

ですが助かってよかった。本当によかった(涙)

 

20:華族になりたい

バーテン殿助かったは良いが入院中の様子が実にリア充でおじゃったな

そして平民は相変わらずのリア充でおじゃる(怒)

>>18

けじめともなればしっかりした者や介添人等も挟む訳で、まず大丈夫でおじゃるよ

 

21:無謀な勇者

バーテンくん、帰って来たときは一躍ときのひとだったねえ

このスレだけの最大瞬間風速だったけど

 

22:名無しの妹

>>7

そんなやつ死んじゃえばいいのに・・・

 

23:名無しの貴族

リア充だったがバーテン復活は素直に喜んだで

やっぱりやつもみんなの友達だったんだよ

 

24:超兄貴

私は私で調べたが大貴族くんはどうしようもない人だった・・・平和的な解決法がないかも探ったんだがどうも付け入る隙なく腐敗していたようでね・・・

 

けど、バーテンくんの命に別状が無くて良かったという思いは皆同じのようだね

私も嬉しかったよ

 

25:元・二重の妹

あんなお馬鹿でも私達の仲間だったんだね

いなくなりそうになってから始めて気付かされたわ

 

434: 名無しさん :2018/03/20(火) 23:59:35

 

26:真・名無しの妹

>>22

同感です。目の前にいれば・・・

>>24

平和的な解決など承服いたしかねますわ!

 

27:名無しの武勲侯

一部妹さん達が殺気立ってなさる

 

28:名無しの姪御

殺気だたれますそのお気持ちはわかります

私も尊敬する伯父様が暴漢に襲われたら激怒致しますもの

 

29:名無しの無関係

ネ友なんてどーせ画面上だけの繋がりだけでしかないと考えてたが、やつの個性故かいつの間にやら友人として捉えるようになってたんだな。俺だけじゃなくみんな

 

30:名無しの貴族

スレ住民で特高から事情聴取されたのいる?

 

>>25

身バレして開き直ってまでいらしたのに今さらコテハンに元をつけてカ◯ンさまったらお茶目さんw

 

31:名無しの妹

>>26

だよね。○してやりたいよ・・・

 

32:海と陸の民

友人は作ろうとして作るものじゃないからな

俺にも大勢の仲間たちが居るが、元は上司と部下の関係だった

それが俺の馬鹿に付き合ってくれている間にかけがえの無い友となっていた

今でも形を変えた上司と部下だが同時に友なんだ

 

そういうものだ

 

33:スレのさすらい人

>>30

普通の警察から

 

34:名無しの無関係

特高からはなかった

 

35:名無しの貴族

なんもしてない一般人かどうかなんて特高にはわかるよ

そんな俺は普通の警察から事情聴取された(泣)

 

36:元・二重の妹

私は父さんからの聞き取り調査と掲示板内での発言確認されたわ

悪いことしてなきゃ気にするほどの事じゃないわよ

 

それと>>30一言多い!

不敬罪として取り締まられたい?

 

435: 名無しさん :2018/03/21(水) 00:00:09

37:真・名無しの妹

伯父様からなら

 

38:超姉貴

調査はされておりませんね

 

39:超兄貴

私はブリタニア人だから日本の特高から聴取される事はないよ

おじさんから聴取されたけどね

 

40:一くん

俺もないな

 

41:名無しの貴族

おじさんから調査て、あんたらのおじさん警察のお偉いさんかよw

>>32

わかる

友達って作るものじゃないからな

出来るものだ

>>36

シュタッ◯フェルト辺境伯家の息女がそれ言ったらシャレなりませんよカ◯ンさま・・・

 

42:名無しの平民

私もなかったですね

 

43:イニシャルSS

疑わしきは罰せずですから

 

44:名無しの華族

ない

 

45:名無しの貴族

警察から話聞かれた

それだけ

 

46:華族になりたい

ないでおじゃる

 

47:無謀な勇者

ないなあ

 

48:ジョイ君

疚しいことが無いなら堂々としていればいいのさ

 

49:名無しの貴族

しかしまあ大貴族(笑)は相手を分からずにやっちまったのがアウトすぎた

クルシェフスキー侯爵家とヴェルガモン伯爵家を知らないだけでも問題なのに、両家の姫君を罵り倒したらそらもう逃げ場なくなって当たり前だ

 

50:名無しの無職

どうもおはこんばんちは無職です

 

436: 名無しさん :2018/03/21(水) 00:00:46

 

51:名無しの貴族

知らないのがおかしいし悪い

ブリタニア貴族なら知ってて当然の主だった大貴族家を知らないとこういった事になるからなあ

どんな教育受けてきたのやら

 

52:名無しの貴族

貴族ならアッシュフォードかコルチェスターで教育受けてるんじゃないのけ?

 

53:名無しの貴族

アッシュフォード・コルチェスターは皇族と大貴族の御用達校

日本からも皇室や華族の留学生がいる

平民にも広く門戸は開かれているが但し超エリート校だから馬鹿では試験落ちる

 

自国の大貴族を知らない大貴族(笑)では到底ムリwww

 

54:名無しの平民

>>50

お久しぶりです。その後大丈夫でしたか?

 

55:名無しの他人

元気だったか

 

56:元・二重の妹

お久しぶり

おバカの様子は?

 

57:名無しの無関係

久しぶりだな

 

58:独身貴族

残念リア充は?

 

59:名無しの他人

元・二重の妹様、容赦なしw

さすがシュタッ◯フェルトの紅き閃光!

 

60:超兄貴

>>50

久しぶりだね元気してたかい?

>>53

両校ともに努力する人を裏切らないからね

私もコルチェスターの卒業生だったりするんだ

自慢じゃないよ?

 

61:ジョイ君

>>50

ご利用は計画的にさせないとダメだよ?

それと君も就職しようね?

 

62:名無しの貴族

>>59

前に一瞬だけ上げられた画像で観た超美少女や、顔は知らないが超美人から好かれてるのに好みと違うとかなんとかふざけたこと抜かしてるやつに容赦する必要性を感じない

 

437: 名無しさん :2018/03/21(水) 00:01:28

 

63:名無しの貴族

超兄貴がさらっと衝撃の事実を告白してるんだけど

超エリートな兄貴だったのか

 

64:超姉貴

>>50

ご健勝そうでなによりです

>>51

必要な教育を怠るとどうなるのかを体現なされた形でしたね

 

私もコルチェスターのOGですが、アッシュフォードもコルチェスターも身分やお金ではないのです

努力した者が報われる校風なのです

 

65:名無しの貴族

いいこと言ってるけどその努力が大変難しい

アッシュフォードやらコルチェスターやらは日本で言う帝大や学習院と同じようなもんだから

 

66:名無しの貴族

元・二重の妹様はアッシュフォード本校だったな

 

67:名無しの貴族

何気にエリートだらけじゃねーかw

 

68:名無しの妹

妹もアッシュフォードだよー

 

69:名無しの武勲侯

当方ブリタニアの士官学校卒

 

70:真・名無しの妹

私も士官学校卒ですわ

 

71:一くん

海軍学校卒

 

72:名無しの貴族

エリートと軍人のすくつだったか

 

73:名無しの紳士

い、妹ちゃんはアッシュフォードか

 

74:名無しの無関係

ヤバい妹ちゃん逃げてー!

 

75:名無しの貴族

変態紳士よやめておけ

アッシュフォードだとするなら妹ちゃんもまた日ブ皇室・華族・貴族の関係者の可能性があるんだぞ?

 

438: 名無しさん :2018/03/21(水) 00:03:19

 

76:名無しの貴族

紳士も明日の今ごろは務所の中か

 

77:名無しの貴族

真面目な話、アッシュフォード、コルチェスターは警備厳重だから不審者は入れないぞ

 

78:名無しの妹

ということなんだよ

ざんねーん!

 

79:名無しの他人

ジョイ君、無職に就職しようねはキツい一言だよ(涙)

 

80:名無しの平民

エリートじゃなくてもリア充にはなれる!

 

81:名無しの華族

特待生枠、学費無料枠、奨学金、色々あるんだ

若い人は将来を考えるならしっかりした人生設計を立てていかないとな

 

82:ジョイ君

>>79

無職だからこそ就職するんじゃないか

いつまでも親の脛を噛っていないで独立しなくちゃね

 

勿論すぐにどうこうとは言わないよ?

僕は僕の一意見を述べているだけで、人には人の生き方とペースがあるからね

自分自身に合ったスピードで自分自身の生活を自分で見られるようにしていければそれが一番だ

 

83:名無しの貴族

ヽ( ・∀・)ノ俺も無職ニートだよー

 

84:一くん

親の脛噛りはいかんな

 

85:名無しの他人

ジョイ君や一くんが正論すぎて笑えない

 

86:華族になりたい

出遅れたならばそこを基軸として新たに粉骨砕身の努力をすれば良いのでおじゃるよ

 

87:名無しの無職

耳が痛い・・・

アホだと分かったバーテンですら仕事してるのに俺と来たら・・・

まあ、とりあえず大丈夫ではある

バーテンも大丈夫

人から借金しようとするくらいに元気

 

439: 名無しさん :2018/03/21(水) 00:04:11

 

88:超兄貴

努力は裏切らない

至言だね!

 

89:リーラ

>>49

ヴェルガモン伯爵家は別に不敬とかは気にしてないと思うけれどね

>>84

博打もいかんよねー?

 

90:名無しの武勲侯

>>87

早速の駄目っぷりごっつぁんです

 

91:名無しの無関係

借金癖はあかん

リア友になったのなら諌めろよ無職

 

92:名無しの貴族

友達同士か何かは知らんが借金は拗れたら関係破綻するからな

 

93:名無しの紳士

妹ちゃんがお金貸してと言ったら貢ぐよ?

 

94:名無しの姪御

借金はいけません

伯父様の御友人のTさまから『返す宛どのない借金は友達を無くします』そう仰っておられました

 

95:一くん

>>89

じ、自粛中だからな?!

 

96:名無しの無職

あー、その点は大丈夫。借りようとした人のおじさんに説教されながら数発殴られたらしくて反省してたよ

貸そうとしていた人も一緒に怒られたんだって

 

97:名無しの貴族

一くんが浮気バレた旦那みたいで笑えるw

 

98:お嬢様大スキー

>>95

おやいっく・・・失礼。一くんさん、額に汗が浮かんでますよ?

>>96

無計画な借金が元で人間関係が崩れる

よくある話です

我々スレ住民の友であるバーテンくんには道を踏み外して貰っては困りますねー色々な意味でも

 

99:名無しの貴族

>>96

貸そうとしてくれた人えらい迷惑だな・・・

 

100:名無しの貴族

一くんさんとリーラさんってリア友臭がするんだけど知り合いだったりするのかな?

 

440: 名無しさん :2018/03/21(水) 00:04:47

 

101:イニシャルSS

>>98

あなたが誰かに似ている・・・

 

102:超兄貴

一くんさんは男性だろうか?

リーラさんは女性のようだが

うーん、詮索は良くないが私の知り合いと似ている

 

103:名無しの貴族

ネットの書き込みで誰かに似てるってしょっちゅうあるから気にならないなぁ

ただ一くんさんがリーラさんの尻に敷かれた夫と嫁の関係には見えるw

 

104:名無しの無関係

似てる似てないは所謂一つのネットあるあるだな

 

105:名無しの妹

妹、今までを反省中・・・

 

106:名無しの華族

個人詮索はやめよう

カ◯ンさまと髭子爵さまと大貴族(笑)は身バレしてるから別ね

バーテンと無職間は二人の間だけで誰か分かってるんだろーな

 

107:真・名無しの妹

喫近で思い当たる事がございますので他人事とは思えません。反省です・・・

 

108:一くん

>>98

貴殿が誰か分かったよーな気がする・・・

 

109:超姉貴

もし本当にスレ住民がお互いを誰か知り合っていると前提を置くのならば、世間は斯くも狭いものとなりますね

 

110:名無しの他人

意外と個人間では知り合いだったりするヤツがいたりして

 

111:無謀な勇者

ああ、知ってるヤツかもと考え出すとポンポン顔と名前が出てくる

 

112:リーラ

>>108

あなたは誰なんでしょうねー?

 

113:元・二重の妹

リーラさんって、姓にヴが付いたりしません?

 

114:華族になりたい

詮索と特定のすくつになってしまったでおじゃるな

 

115:リーラ

>>113

ノーコメントですわカ◯ン様?

 

116:イニシャルSS

いかん、絶対に知ってるヤツが二人はいそうだ・・・

 

117:名無しの武勲侯

カ◯ン様が知っていてヴでHNリーラ・・・思い当たる御方が一人いる・・・

 

118:名無しの姪御

皆様詮索はやめましょう

 

119:芸術作家F

皆、ここは匿名の場だ

個人特定行為はいかん

 

120:名無しの平民

話が思い切りずれていってますね

 

121:ジョイ君

>>116

奇遇だ

僕も知ってる人が居そうな・・・

 

122:芸術作家K

詮索合戦になってきてますな

 

441: 名無しさん :2018/03/21(水) 00:05:46

終わり

掲載オケです

 

 

 

 



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その日はV.V.邸で

 

 

その日はV.V.邸で日頃の頑張りに対する各人への慰労会が催されておりました

 

慰労会と一口に言っても、行うことは単なる宴会でしたが、それぞれが日頃の労を一時の間だけは忘れて楽しもうと、近親者の間で定期的に行われているのです

今夜の幹事、ホストはもちろんV.V.邸の主である嚮主――いいえ、ただのV.V.さんです

 

参加者は上はなんと伏見の…いえ、フシミンさんや近衛…いえいえ、コノミンさんという何処かの素敵な紳士様方を筆頭に

 

嶋田繁太郎さんという名の、ブリタニアの大企業ランペルージグループ社長の兄であるV.V.さんの幼なじみというおじ様や、その友人である辻政信さん、山本五十六さんという、何処かで聞いたような名前をしたおじ様たち高年齢組から

 

下は大勢いるV.V.さんの姪の中でも更に年少組となるナナリー・ヴィ・ブリタ…もとい、ナナリー・ランペルージちゃんや、ナイトオブシック…否!ナナリーちゃんの同級生のアーニャちゃんという少女まで、多岐に渡る年齢層の人々が参加していたのです

 

知らぬものなどいないはずの一般人ならぬ逸般人たちばかりです

 

ですがしかし、その中にあってただ一人だけ正真正銘の一般人が参加していたのです

 

人相が悪く、無精髭のようなあご髭を生やしたその一般人である玉城真一郎さんという名の男性は、参加者たちの中では中間となる年齢層の、お酒を飲める年齢組となります

 

鈍いを通り越し、もはや馬鹿の領域へと両足を浸している玉城さんは、場にいる人々が実は実は実は揃いも揃ってやんごとなき身分の方々なのだという事実をしりません

馬鹿ゆえか

馬鹿ゆえにか

普通なら気がつくでしょうことに気がつくことなどないのです

ゆえに無礼を働いてしまいます

 

 

 

 

「よーう!嶋田のおっさん飲んでるかー!」

 

ドン

 

玉城さんは嶋田のおじ様の肩を付くように叩いたりします

 

「え、ええ飲んでますよ」

「相変わらずパツキンのネーチャン侍らして、ユフィも手込めにしてんのかーい!」

 

適当に思い付いたことを口にする玉城さんは、嶋田のおじ様の隣にいたストレートロングの金髪をしたお姉さん、ナイトオブトゥ…NO、モニカ・クルシェフスキーという名をした何処かの貴族と同じ名をした女性からの鋭い眼差しに気がつきません

 

「この無礼も―――」

「いいからいいからモニカさん、彼はお酒が入るといつもこんなだろう?抑えて抑えて」

 

モニカさんが腰に手をやり、しかし普段着のいまは帯剣していないことに気がついて、嶋田さんには止められて、おまけに

 

「ただの居候様は怒りっぽくていけませんね。玉城さんのお人柄を一方なりとご存じであるのでしたら軽く受け流すくらいのことはなさらないとまいりませんのに。ね、シゲタロウ」

 

モニカさんは、V.V.さんの姪の一人で長い桃色の髪をした、ブリタニアの皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア―――に似たユーフェミア・ランペルージさん、ユフィさんという女性にたしなめられてしまいました

ユフィさんはV.V.さんの姪なだけあって、玉城さんのこともよくしっています

とくに酔ってしまった彼のことはまともに相手をしてはならないことも

もちろん、内心ではユフィさんも玉城さんが嶋田さんへご無礼を働いたことや、自分たち三人の微妙な相関関係を揶揄されたことに嫌な思いをしておりました

しかしそこを「玉城さんだからこんなことくらい平気で口走る」と、我慢したのです

そうです、お隣に悠然と座る嶋田さんのように

そうして彼女は静かにさりげなく嶋田さんの手を握ります

 

「くっ、わかりました。ですが、ユーフェミアさ―――んは、まずその手をお放しくださいませ。嶋田さんがお料理を食べられません」

 

怒りをぶつける先を喪失した何処かの騎士と似たモニカさんは、ユフィさんの手が嶋田さんの手を握っていることに気がついて慌てて引きはなそうとします

 

「どうしてわたくしがクルシェフスキー卿の仰ることを聞かなければなりませんの?」

「嶋田さんがお困りになるからです」

 

クルシェフスキー卿というのが何処の誰のことかはわかりませんが、モニカさんの言うことをユフィさんは聞きません

でもモニカさんは嶋田さんが困ると言い切ってはユフィさんを嶋田さんから引き剥がそうとします

 

「困りますのシゲタロウ?」

 

ユフィさんは上目遣いで嶋田さんを見ます

目が潤んでいます

反則です

 

「い、いや、困るというか」

 

ユフィさんの反則攻勢に嶋田さん、困っています

 

「困りますよね嶋田さん?」

 

モニカさんも上目遣いで嶋田さんを見ます

やはり反則です

 

「困らないというか…ぼそ(どうしろというんだ!」

 

モニカさんの反則攻撃に嶋田さん、困っています

 

手を放さないユフィさんに、引き放したいモニカさん

二人に挟まれた嶋田さんは非常に困っています

あちらをとればこちらが立たず

こちらをとればあちらが立たず

といったところでしょう

 

「嶋田のおっさんモテモテで羨ましいぜー!」

 

原因を作った玉城さんは我関せずそんな彼と彼女たちを煽りながら、ふらふらと歩いては、続いて目についた坊主頭をはたきます

 

パーン!

 

肌を打つ音が鳴り響きました

 

「山本のおっさんもいつものパツキンネーチャン侍らしてお熱いねー!」

 

次なる標的にされた山本さんは頭をはたかれたことは別段気にしないままに忠告します

 

「飲み過ぎではないのか玉城君」

 

忠告しながら山本さんは、はたかれた場所を撫でさすってきた自分の隣に座る金髪の長い髪をした女性に「ありがとうリーラ」とお礼を言います

もうなんだか二人の間には自然とした甘い香りと空気が漂っております

 

「もう、いっくんは甘いんだから」

 

山本さんの頭をさするリーラさん、リーライナ・ヴェルガモンさんという、こちらもモニカさんと同じく、何処かの貴族と似た女性は玉城さんを睨みながら言いました

 

「こんな方には一発強めのをお見舞いして差し上げた方が宜しいですわよ?」

 

ですが山本さんは「宴席では多少は無礼講ということで気にせんよ」だそうでして、特に怒ってはいない様子でした

 

 

 

 

その間も、玉城さんは「フシミーン、今度俺用にエロ本描いてくれよー」と、この場にいるやんごとなき逸般人の頂点でありますフシミンさんに声をかけます

 

「玉城君、酒は飲んでも呑まれるなという言葉を知っているか?」

 

フシミンさんも泥酔玉城さんをたしなめます

 

「いいじゃないかちょっとぐれーよぉ、今日は無礼講なんだからよぉ」

 

自分が誰に向かい口を聞いているのか、馬鹿ゆえかアホゆえか、わからない玉城さんは気にしません

世界中の貴人たちから一般市民まで幅広く知られている人物なのに、知らないからこそ玉城さんは気にしません

 

「無礼講といっても限度があるぞ。嶋田君やモニカさんやユフィさんが揉めたりするように絡んだり、山本君の頭をはたいたり、少しやりすぎだろう」

 

そんな玉城さんをフシミンさんは柔らかく注意します

酒は飲んでも呑まれるな

当たり前のことなのです

 

フシミンさんの背後でいつの間にか待機していた幾人かの黒い服を着た男性たちが危うく動きそうでした

でもフシミンさんが手をかざすと黒い服の男性たちは下がります

 

「堅いこと言うなよフシミ―――ん?」

 

まだまだ平気そうな玉城さんでしたが、フシミンさんに絡んだところで後ろから引き倒されてしまいました

 

「ふぎゃっ!」

 

ふらふらの玉城さんに足払いをかけながら小さな手で服を掴み引き倒したのは、白い衣服と黒いマントを着た踵にかかるほどの長髪を持つ少年でした

V.V.さん、V.V.邸の主にして今回の慰労会のホストで幹事であります

 

「まことに申し訳無い伏見宮でん―――フシミン殿。御貴殿が御承知の上とはいえ、この馬鹿を招いたのは私の娘です。非はホストである私に」

「いや、構いませんぞV.V.殿。彼もまたこうして縁があり我々と知り合ったわけですからな。そう、一般人である我々と」

「そう言って戴けると助かります。……おい馬鹿、あっちに行くぞ」

 

普段見られないV.V.さんの堅苦しい言葉遣いを見ていた玉城さんは「おっさんが変になった」と口走っていましたが、V.V.さんは気にも留めずに玉城さんを年少組の元へと引きずっていきました

 

「V.V.、いやV.V.殿下と玉城君か。彼らもまあまったくあり得ん不思議な巡り合わせをしたものだな」

 

フシミンさんは、コノミンさんに話しかけます

 

「ええまったく。ですがしかしそれは我々とて同様にです。この世界で玉城君と、あの玉城と縁ができるとは思い描きもできないことでしたからな」

「確かにな」

 

フシミンさんとコノミンさんは杯を鳴らしてご機嫌気味に飲み干しました

 

 

 

 

少女祈祷ちゅ―――馬鹿無礼中…

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ痛、う、うう、あったま痛ぇ」

 

玉城さんはそう言って起きました

 

「あ、起きた」

「兄様大丈夫ですか?」

 

ぐらぐらする頭と視界

玉城さんを覗き込んできたのはピンク色の髪の少女と、紅い髪の女性です

 

玉城さんは彼女たちを知っています

ピンク色が玉城さんの幼なじみであるクララ・ランフランクちゃん、紅色が玉城さんと夢を語り合ったことのあるマリーベル・メル・ブリタニ―――マリーベル・ランペルージさんです

 

「あれ…?クララ…マリー…?俺、どうなって…?」

 

玉城さんの疑問にマリーベルさんが答えます

 

「兄様は飲み過ぎで泥酔なさってフシミン様に御無礼を働き、怒ったV.V.おじ様にルルーシュたちの、つまりわたくしたちの輪に放り込まれた後、コゥ姉様に抱き着いて殴られましたのよ?」

 

マリーベルさんは少し、いえかなりお怒りの様子です

怒っているのはマリーベルさんだけではないようです

 

「お兄ちゃんはコゥお姉ちゃんに殴られた後に気絶してたんだよ! もうっ、お兄ちゃんにはクララがいるのにコゥお姉ちゃんにデレデレして!」

 

クララちゃんも怒っていました

理由は明白です

クララちゃんは明確な、マリーベルさんは密やかな、玉城さんへの恋心を懐いているからです

 

好きな男性が別の女性に抱き着いた

 

これはクララちゃんとマリーベルさんにとっては面白くないことでしょう

 

どうして自分に抱き着いてこないのか

 

といった、嫉妬の感情も沸き上がってくるというものです

馬鹿に恋する馬鹿な少女たちなのです

玉城さんこんなどうしようもないお馬鹿さんなのに、実は自分も美女美少女からモテモテなのです

しかして残念なことに玉城さんにはわかりません

クララちゃんのようにきちんと言葉にしても、それでも悩める乙女心を十全に理解するには察する力が無さすぎるからです

マリーベルさんのお気持ちになど微塵たりとも気づくことはありません

馬鹿ゆえに

 

「全然記憶にないぞ」

 

当たり前です、気絶していたのですから

ですが玉城さんの気持ちは、気分はまだいいままです

ふわふわ、ふわふわ、ふーわふわ

まだ酔いが醒めていないからです

酒癖の悪い玉城さんらしい、というところでしょうか

 

「クララの言葉を華麗にスルーしたあ!」

「クララの妄言はスルーなさっても結構ですよ」

「なんのことだよ」

 

甘い流れは玉城さんに似合いません

鈍くて馬鹿な玉城さんは二人の少女を見比べてぼけーっとしております

するとそこへ

 

 

 

 

「クララ、マリー、そんな泥酔馬鹿に構っていると君たちにまで馬鹿と臭いが移るぞ」

 

黒髪短髪の美少年、V.V.さんの甥の一人で名門アッシュフォード大学の学生、ルルーシュ・ヴィ…アウト!

ルルーシュ・ランペルージさんがお声をかけてきました

 

「お、ルルーシュ。お前も飲んでるか」

 

玉城さん、馬鹿にされても平気です

馬鹿ゆえに

 

「俺の年齢で飲めるわけがないだろう、なに考えてるんだお前は。さっきから伏見宮殿下や嶋田卿、山本卿、ユフィやクルシェフスキー卿に絡んで、姉上にも抱き着いて」

「んー?誰だそれ。フシミンや嶋田のおっさんってそんな風に呼ばれてんのか?」

「……う、失言だった、ぼそ(玉城が馬鹿で助かった」

 

思わず失言してしまったルルーシュさん、逸般人ばかりのこの席で、玉城さんだけが本当の一般人、特別なのです

皆さん彼には秘密にしている身分をお持ちなのです

この時ばかりは玉城さんが馬鹿で助かりました

そんなルルーシュさんですが、大学生とはいえ日本の法律ではまだ成人していないのです、ルルーシュさんと同年のマリーベルさんもお酒は飲んでおりませんので玉城さんのように酔ってはおりません

クララちゃんに到っては高校生なので飲めなくて当然なのです

必然的に二十歳以下は皆さん年少組となるのです

 

「まあいいぜ。お前らガキどもに付き合ってたらせっかくの高い酒が飲めなくなるってもんだ、んじゃな~」

 

玉城さんへこたれません

まだ飲む気でいるのです

しかしそれはかなわぬ幻想郷なのでした

 

「お前はもう駄目だ」

 

ルルーシュさんの後ろからお声がかかります

コーネリア・リじゃなかった、コーネリア・ランペルージさん、年少組に混ざっていた年少組には非ずな紫色の長髪が鮮やかな美貌の女性です

名前からおわかりのように、彼女もV.V.さんの姪御さんのお一人様

あちらで酔ってしまったモニカさんが、もう自分は引っ付いてしまえばいいんだあと開き直って嶋田さんに全身体ごと引っ付いてしまい、今までとは反対に嶋田さんからモニカさんを引き剥がそうと奮闘することになってしまったユフィさんの実姉でもあります

コーネリアさんの非情なお言葉には、身の程知らずにも彼女に惚れているらしい玉城さんも不満を漏らします

 

「なんでだよ」

 

高いお酒

このやんごとなき逸般人たちの間で持ち回りで行われている慰労会、本当に高いお酒が出ているのです

お馬鹿の玉城さんもそこは酒好き

知らないお酒ばかりの中でもいくつか知っているヤバい値段のお酒のラベルを見ているのです

これは退くことができないというものです

ですが、コーネリアさんは淡々と告げます

 

「叔父上から飲ませるなとのお言葉が出た。何故かは己で考えよ、と言いたいところなのだが、馬鹿には分かりやすく言っておこう。呑まれ過ぎて調子に乗りすぎだお前は、少し頭を冷やせ」

 

惚れた女からのキツイ一言、orzな玉城さん

 

 

 

 

しかしどうして反省の色は無いようでした

身を乗り出して告げたコーネリアさんのたわわな胸元を覗き見ています

 

「ぼそ(でかい」

 

小さな声でした

この男、真面目な話の最中に嫌らしい目でよろしくないことを考えていたようです

でもそんな玉城さんには天罰が下ります

クララちゃんにマリーベルさん、お二人には聞こえておりましたので

 

「えいっ!」

 

クララちゃんの蹴りが玉城さんの左腰

 

「はっ!」

 

マリーベルさんの蹴りが玉城さんの右腰に

 

ズドン!

 

と炸裂しました

 

「痛ででででっ! あにすんだよお前らぁ!?」

 

怒る玉城さん

 

「お兄ちゃんのばーか!」

「兄様最低ですわ!」

 

怒っているクララちゃんとマリーベルさん

 

「やれやれ、やはりこれのどこが良いのか俺にはさっぱりわからないな。俺が女なら間違えてもこんなやつに好意は懐かない。悪友としてならそれなりに楽しめそうだが厄介ごとに巻き込まれてしまいそうな気もするしな」

「ルルお兄ちゃんにはわからないよお兄ちゃんの良さは」

「ルルーシュにはわからないことですわ」

「だから俺もわからないと言ってるだろ」

 

クララちゃんとマリーベルさんの物好き具合にはかなり呆れているルルーシュさんです

 

「どうしたのだ二人とも」

 

たわわな実りを覗き込まれたことそのことに気がついてないコーネリアさん

こと闘争についてはいかんなく力を発揮する武勇高き彼女も、なかなかに迂闊なところがあるようです

彼女の傍で控えていた眼鏡をかけた長髪黒髪のイケメン騎士が玉城さんに殺気を飛ばしていることにも、これを気づけていないのですから

 

年少組は年少組で騒がしいようです

 

「皆さ~んお団子とお菓子ですよ~」

「ナナリーと二人で作った…」

 

そこへ、ほんわかした声と共にやってきたのはナナリーちゃんとアーニャちゃん

彼女たちはお手製のお団子とお菓子を作って運んできたのでした

 

 

 

少女祈祷ちゅ―――馬鹿反省中

 

 

 

お酒禁止令を言い渡された玉城さんは、大広間の年少組の座の端っこで座布団を二枚敷き、その上でうつ伏せになり寝そべっておりました

 

「あー、つまんねーよー、酒飲めないと楽しさも半減だぜ」

 

六十畳は余裕でありそうな大きな広間です

人もいっぱいです

年長組や高年齢グループに混ざりお酒が飲みたい玉城さんはしかし、右側で玉城さんと同じように座布団を二枚敷いて寝そべるクララちゃんに監視されて年少組から出られないようにされています

もちろんクララちゃんを言いくるめて逃げ出すことも考えましたがV.V.さんから強く言われているクララちゃんは監視の手を緩めません

 

「こうなったのは自分のせいじゃん」

「なんで俺のせいになるんだよ?ガキのお前にはわからないかもしれんが、宴会なんてのは騒ぐのが普通なんだよ。それがなんだよ。ちょっと騒いだくらいで酒禁止って」

 

反省中は一時の気の迷いのようでした

玉城さん、全然反省の色が見えません

 

「あんた場所が場所なら今日の宴が始まってからの間に四度は死んでいたわよ」

 

反省しない玉城さんに、反省を促したのは両肩で二つ結びにした金髪が眩い女性でした

彼女も年少組の一人です、ただしマリーベル・メル・ブリタニア―――と、似ているマリーベルさんの護衛任務中でもあります

 

「なんだよオズ」

 

玉城さん、うんざりしたように顔だけを彼女に向けます

失礼な男です

 

「ナイトオブナイツはマリーお姉ちゃんの傍を離れてもいいんですか?」

 

クララちゃんも玉城さんにならって顔だけを女性に向けました

玉城さんの真似をしてはいけません

 

「そのマリーが玉城を監視するようにと、コーネリア様やルルーシュ様からも玉城を監視しなさいと仰せつかりました」

 

クララちゃんはV.V.さんの娘です

重要な意味を持っています

ですからオズさん、オルドリン・ジヴォンという名の、こちらも何処かのお貴族様と同じ名前をした別人ということになっている女性も敬意を表します

 

ナイトオブナイツ?

 

なんのことですか?

 

 

「玉城がお酒を飲まないようにと。この男、少し目を離すとすぐに酒瓶のところへ向かおうとするでしょう」

「なんだよオズ、ひとを餌探してる蟻みたいに言いやがって」

「蟻? Gの間違いでしょ」

「ちょっとナイトオブナイツ!Gはひどいよ蟻に訂正して!」

「お前ら言いたい放題だな!」

 

玉城さんは無視されています

 

「たまきーん、マリーベル殿下―――っとと違った違った。マリーベルお嬢様とナナリーお嬢様がみんなで楽しもうって誘ってるにゃー」

 

猫みたいな語尾をつけて玉城さんを誘うのは、オルドリンさんと同じランペルージグループ社長令嬢マリーベルさんの護衛をしている肩にかかるくらいの青髪をした女性、ソキア・シェルパさんです

 

「コーネリアの隣に座れるなら行ってやっても痛だだだだ!」

 

言いかけて玉城さんはクララちゃんにつねられました

 

「まだ言うし」

 

それを見てソキアさんも追い討ちをかけます

 

「たまきんはマリーベルお嬢様の隣だよ、逆隣はもちろんクララお嬢様かにゃー?」

「なにが悲しくてガキどもに挟まれてお酒を飲めない場にいかなけりゃならないんだよ」

「それはたまきんが伏見宮殿下―――っと、フシミン様に御無礼を働いたからさあ」

「そうよ、だいたいあんたどうして自分の国の皇ぞ」

「オズ!口チャックだぜい!」

「あ、ええ、助かったわソキア…」

「迂闊すぎだぜいオズ」

「だからなんの話なんだよ」

「お兄ちゃんは気にしなくっていいの」

 

玉城さんはなにもしらないのですよオルドリンさん

ソキアさん

も危ないところでした

世の中、知ってしまうと怖いこともたくさんあるのです

 

「まあまあ話はたまきんのお酒が抜けてからの方が良さそうだけど」

 

アルコールが抜けるまで待っていると玉城さんはおそらく寝てしまうでしょう

 

余談ですが、年少組といっても慰労会そのものには参加していない大人なら混ざっています

たとえばコーネリアさんの護衛であるギルフォードさんやダールトンさん

ルルーシュさん、ナナリーさんの護衛である小夜子さん、ジェレミアさん、キューエルさん、ヴィレッタさんなどなど、挙げればきりがないくらいには大人がいっぱいです

年少組とは、二十歳以下の慰労会参加者を指しての年少組なのです

そこへ参加している大人がコーネリアさんだけであっただけのことなのです

玉城さんは社長令息令嬢ばかりな年少組の護衛の皆さんを不思議には思いません

世界的な大企業の令息令嬢なら護衛くらいいるだろうと考えているからです

そのくらいの常識は持ち合わせているよです

内実は違いますが、ある意味では間違いでもない、といったところでしょう

 

さてさて、あさてさてさて、そうして慰労会は続いていくのです

逸般人の中に紛れ込んだ一般人、玉城さんを内に抱えて

 

 

おしまいです

本当は昭和のイラストレーターさんが書いていた本にあったマナーの話で「自己を表す時に私と言わず、自分の名前を言うのはある程度の年齢になってからは変な感じになってしまう」といった記述がありまして、高校生のクララが、いまだに自分のことを「私」と言わずに「クララ」と言っていることが変だと玉城に言われて、クララが泣いてしまうといったお話を書くつもりでした

 

 

 



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ナウでヤングなフィーリング

 

 

 ナウでヤングなフィーリング

 

 

 

 

 とあるアパートの近くの公園。

 表地が黒、裏地が紫といった高級そうなマントを着衣し、裾は足元まで届き、袖口が青、足元も青、ボタンのところは金縁。

 といった、白い豪奢な衣服。金持ちが着てそうな衣服に身を包んだ、マントと同じくらいの長い長い淡い金髪をした、紫色の瞳を持つ美少年と。

 

 茶色の短髪を威勢よく逆立て、顎髭を生やした、紫色の衣服に、青いジーンズという体にフィットした衣服を着こなした。

 いかにもガラの悪そうな男が、二人連れ立って歩いていた。

 

「なーんでこんな日曜日の昼の日中にジジイと二人で散歩せにゃならんのよ」

 

 ガラの悪そうな大人、玉城真一郎は、言葉悪く声を発す。爺。この場に老人など居ないというのに。

 だが。

 

「僕だって陽気のいい日曜日にアホの面倒なんか見たくないね。ガキのお守じゃあるまいし」

 

 爺と、そう呼ばれたのは黒マントの美少年の事であった。

 

 実はこの二人。見かけは子供と大人に見えるが、実年齢は逆なのである。

 爺と呼ばれた美少年VVの年齢は今年数えで64歳なのだ。年金支給年齢まであと一歩のところまで来ている。

 容姿はブリタニア人その物ながら日本へ帰化して長く、日本の年金も受け取れるのだ。

 

 一方で玉城真一郎、当年取って26歳。見かけ通りの年齢ながら、いつまでも不良を気取っている痛いやつである。

 因みに最近ではどう大きめに見ても小学生中学年程度、10歳程度の小柄な体躯をしたVVと喧嘩をして、合気道で投げ飛ばされた上に、蹴っ飛ばされたりしている。けして喧嘩が弱いわけではないのだが、彼の周りが強すぎるのである。

 実に年齢差40近く。VVが老人で、玉城はずっと年下の大人。なのにVVよりも喧嘩が弱いのだ。まあそれは置いておいて。

 

 これには近しいもの皆が知る事情があった。VVは歳をとらないのだ。コードと言う不思議な紋章の影響で。

 同じものを持つ者にCCという者がおり、こちらは女性VVよりもさらに年上。そしておそらくは南天にも存在しているだろうコード保持者、詳細は一切不明。

 

 彼らは皆年を取らない。永遠の命を持っている。誰もが憧れる永遠の命を。

 一度玉城はそれが欲しいといった。軽く言ったことながらVVに叱られてしまった。

 

 

 

 

 永遠に生きるとは、親しい者と出逢っても、永遠に分かれ続ける事だ。

 僕はクララが好きだ。ルルーシュが好きだ。ナナリーが好きだ。コーネリアが好きだ。真一郎の事も好きだよ。この家に住んでいるみんなの事が好きだ。玉城は同居人と認められている。

 そして彼らの親衛・・・・警備隊の事もみんな大好きだよ。

 そうさ、みんなの事が大好きだ。だけれどね、みんな僕より先に逝く。

 どうあがいても永遠という名の地獄に居る僕は君たちに取り残されてしまう。

 

 真一郎、君は耐えられるかい?

 

 哀愁漂う表情。泣き笑いにも見える寂しげな微笑み。玉城はその時、VVの永遠にもある苦しみを知った。

 

 そんなことはまあ置いといて。

 

 五百メートル、六百メートル級のクソ高いビル群があちこちにそびえ立つ大日本帝国帝都東京。

 都市圏としても超高層建造物数にしても世界一位を誇る技術の日本の象徴の谷間にある公園は。

 

 この日曜日という事もあってか、カップルがいっぱいであった。

 

 そこを見ればベンチに座るカップル。芝生を見ればシートを広げて抱き合っているカップル。

 

 カップル、カップル、カップルの群れである。玉城はわめき散らして追い散らかしてやりたかった。

 

 ここに自称しーくれっとえーじぇんとなる自他ともに認める美少女クララ・ランフランクが居れば「お兄ちゃんにはクララが居るじゃん」と飛びついてきて、クララのあまりの美少女っぷりに逆に反感を買ったりするだろう。

 またどこぞの令嬢かと言われるべき深窓の美しさを持つランペルージグループ社長令嬢の一人という仮面の顔を持つ、マリーベル・ランペルージが居ても「シン兄さまにはこのわたくしが居るではありませんか」ニコっの一発で、彼女持ちの男どもが怒り出すという、逆転現象が発生したりする。

 玉城は気づいていないだけなのだ。そんな超級の美少女たちから強い好意を抱かれている事を。

 

 まあそれは別の話として、いま彼と手を繋いでいるのは見かけ子供の実態老人である。

 

 こっちは年金手前のジジイと手を繋がされてんだぞ!!何の罰ゲームだよ!!

 

 とまあそんなとき、そのおじいちゃんが急に発言した。

 

「ふ~う、日曜日だからかアベックが多いなぁ」

 

 玉城は逃げられない様にと手をつないでいた美少年風クソジジイのおかしな言葉に首をかしげる。

 

 あ、アベ・・・・アベ、っク・・・? アベック? アベックってなんだ?

 

 26歳の玉城。その言葉を知らない。

 

「大体ねえ、君はなんだい、いつまでもそんなだらしのない格好で。君は若いんだからこうもっとナウでヤングに決めてだねえ」

 

 玉城の服装をジロジロ見るおじいちゃん。

 

 ????ナウで・・・・・ヤング????

 

 このVVおじいちゃんの言っている事がさっぱり分からない玉城は皇歴1993年生まれ。

 

 アベックが死語になりつつあり、ナウでヤングなんてとっくになくなっている世代であった。

 

 VVの青春時代。繁太郎やシャルルとお忍びで色んなところに遊びに行っては、侍従長に揃って怒られる。

 そんな時代の一ページがその言葉には詰められていた。

 

 

 

 

 ふと見ると、その青春おじいちゃんのマントに皺が出来ていた。

 

 玉城は目ざとく見つけて。

 

「おっさん、ちょっと手ぇ離して」

 

「逃げるんだろう?」

 

「この街の裏道まで知り尽くしてるおっさんとあんたの警護隊から俺なんかが逃げられると思う?」

 

「おもわないね。まあまず無理だ。この街は若い頃からよく来てたしねいつもの二人と三人でさ」

 

「あんた昔友達いたんだな」

 

「当たり前だ、ぼっちじゃないんだぞ? で、なに?」

 

「マントに皺、髪にほつれ・・・・直してやるから」

 

「・・・・・うん」

 

 素直に手を離したVV。彼のマントの背中の部分。髪に覆われて見えない部分を目ざとく見つけた玉城は、VVのマントの生地を掴み、パパッと手早く治してあげた。

 そして次に背中のほつれていた髪に、手指を差し入れて透き通していく。

 しゅ、しゅ、髪を梳きとおす音。さあっと吹き抜けていく風にVVの長い髪が攫われ揺れる。

 

「ああ、これがせめて、百歩譲ってクララかマリーだったらなあ」

 

「あの子たちの前でそんなこと言ったら殴られちゃうよ? マントの皺取れた?」

 

「ああ。マント一回クリーニングに出してみればよ」

 

「それもそうだね。下の衣服と合わせて今度クリーニングに出してみるよ」

 

「そうしとけ。どーせくっそ高ーんだろその服とマント」

 

「オーダーメイドでコーディネートに老舗ブランドだから三桁かな」

 

「アホだろ! 絶対にアホだ服に三桁って馬鹿の所業だっ!」

 

「失礼な。使うべきところに使うんだよ僕らって人種は」

 

「金持ちはわからんわあ」

 

 おじいちゃんにぐっと返事を返す玉城。

 

「髪は?」

 

「今やってる。踵まで伸ばしてるとかアホみてーになげェ髪してっから、こう手指を絡めて梳いていても上手く梳き解れないっつーかさあ」

 

 しゅっ、しゅっ、しゅっ、しゅるしゅる、手触りのいい髪の毛が玉城の五指と手肌に絡みつく。

 首元から背中を通り、尻を抜け太もも裏へ、太もも裏から膝裏を通り踵を抜ける。

 何度も何度も繰り返し梳き通していく玉城の手指に心地よさを感じたVVは、紫色の瞳をうっとりと閉じて大空を見上げた。

 

 風が吹き抜け、髪がふわりと靡く。玉城はその髪を抑えながらほつれを解いている。

 

 静かな時間だ。気持ちが良い。ああ、こんな時間も良いな・・・・・。

 

「気持ち、いいな。真一郎の指、良い気持ちだよ」

 

「お、そっか? へへっ、おっさんの髪も触り心地が良いぜ」

 

「そう?・・・・・触りたければいつでも言ってね? 気持ち良く梳いてくれるのならいつでも触らせてあげるから」

 

「それもまあ、いいな。おっさんの家でこたつに入ってテレビでも見ながら風呂上がりのおっさんの髪を触りながらドライヤーあてるとか、ん~けっこういいかもな~、落ち着いてゆっくりしてさあ」

 

「でもルルーシュに蹴っ飛ばされたりして。どこでドライヤーあててるんだこの馬鹿はとかって」

 

「あ、それあり得そうでムカつくわ・・・・あのくそガキ年上を敬わねーからよー」

 

「それにしても、ああ~っ、いい日曜日だね・・・・たまにはいいかもね、こういう日曜日も」

 

 VVはそう呟いて微笑んだ。

 

 

 

 

 玉城がVVの髪のほつれを解いてからは、二人はまた手をつないで歩きだす。

 別に変な意味はないが指と指を狭間に入れ合って手の平をくっつけ合う恋人つなぎだったりする。

 それだけ親しい間柄という事だ。おじいちゃんと介護の息子と言った感じであった。

 実際はおじいちゃんに見張られている出来の悪い息子なのだが。

 

「よォ、なんで老人って散歩が好きなの」

 

 VVの事をさし、そびえたつ六百メートルを優に超えるビルを見上げながら玉城は呟いた。

 

「そういうものさ。君も年を取ればわかるよ。あ、ほらあっちからも・・・・って、繁太郎ーーーっ」

 

 向こうも手を振っている。

 幼馴染にして親友が、黄緑色のマントに、日の光に輝く長い金髪をマントと共に靡かせながら歩く姿を見つけるのだった。

 

「VVさんじゃないですか黒のマントに長すぎる金髪、小柄な体で遠目にも直ぐにわかりましたよ。奇遇ですねェ。ここ、時折散歩コースに選んでまして」

 

「へー、まあ立ち話もなんだし、ベンチにでも座って話そうか」

 

 VVはベンチに座りながら辺りを冷静に見まわす。

 

(見える範囲でSPが6人、か。トゥエルブの親衛隊も居るな。ここに居る面子だけで戦争が出来るじゃないか・・・・・ご苦労様だね君たちも。僕にも警護は就いてるけれど裏の組織の警護だから暴力的で困る)

 

「楽隠居も楽じゃないよねお互いに」

 

「ははっ、まあ、ですね」

 

 VVの言葉に互いの状況を察しながら、老境に入っている二人は笑い合う。

 

「でもさ、老人たって僕らの国は平均寿命が150年。繁太郎も僕もそういう意味ではまだまだヤングだよね」

 

 ヤングと言った瞬間、嶋田の顔が引きつった。

 

「や、ヤング・・・・」

 

「え? 何かおかしいこと言った?」

 

「い、いえ、ヤングは、その・・・・」

 

 

「モニカのねーちゃん!」

 

「……」

 

「また無視かよ。ちょっとくれえお話しようぜ若者同士よォ」

 

「あなたと交わす言葉はありません。VV皇兄殿下に集り、あげく借金まで為さっているとか。もしも嶋田さんがその相手であれば我が剣の錆としているところです」

 

「おーこわ」

 

 VVが座るベンチの隣にモニカに追いやられた玉城も座る。何気なしにVVの身体をひょい。

 身体が小さいから軽いのだ。

 

「ん、なに?真一郎?」

 

 抱き上げて自分の膝にのせてみて。いまVVの座っていたところ。嶋田の隣に腰掛けた。

 

「うっす」

 

 抗議、ではなく不思議がるVVを他所に、玉城はVVの親友で、自身も知り合いである嶋田繁太郎に挨拶をした。

 ぶっきらぼうな挨拶ながら気を悪くした様子もなく、嶋田は優しく微笑み玉城の挨拶に応じた。

 むしろ嶋田の隣に立っているモニカの方が怖かった。

 

「こんにちは玉城くん。元気そうだね」

 

「元気だけが取り柄っすから」

 

 そんな玉城にVVは紫色の瞳で見上げて小首をかしげる。

 

「ん?なに?僕の事膝にのせたりして」

 

「いやぁ、なんとなく? あのねーちゃんがこえーから。嫌か?」

 

「別に嫌じゃないよ」

 

「そっか」

 

 その後、玉城の膝の上に座ったまま延々繁太郎のおじさんと喋り続けているVVを見ながら、玉城は小さく聞こえない様に呟いた。

 

「はぁ~ジジイとジジイは引き合うのかねぇ。ってーかあの金髪美人、攻略出来たらなあ。デート誘っても無視、言葉をかけても無視、態度で示しても無視、無視・無視・無視だもんなあ。俺様みてーな良い男より、あんなくたびれたおっさんのがいいのかよォ。そりゃまあ嶋田のおじさんはダンディだし良い人だけどさあ」

 

 玉城は玉城でVVおじいちゃんの幼馴染である、嶋田繁太郎に対して非常に失礼な事を考えていた。

 

 

 

 

 その日。

 

「お泊り会とか久しぶりだなあ」

 

 ウキウキしているVVと。

 

「真一郎は無いかい?お泊り会」

 

「お泊り会やったことあるけど。部屋から蹴り出された思い出が」

 

 困惑しながらも、パジャマに着替えていくVVを眺め。髪を上げてと指示されれば指示通りに髪を上げてあげる玉城。

 ボタンを留めていく前に見たその小さな体。一緒にお風呂に入る時にも見慣れているVVの身体を見ていたが。

 

「やっぱし小さいな。六十代とは思えねー」

 

「まあね。10歳くらいの時に身体の成長が止まったから」

 

 なんだかいつも以上にウキウキしている様子のVVその理由は。

 

「準備できましたか? 入りますよ」

 

「どーぞどーぞ入ってよ繁太郎」

 

 嶋田繁太郎その人の登場である。パジャマに着替えた。

 お付きとしてパジャマに着替えたモニカ・クルシェフスキーの姿もある。

 

「か、かわいい……」

 

 玉城はモニカを見て言ったが、フンと無視される。普段のいい加減さがあだとなって居た。

 彼女ほど平等なる正義を重んじ誰であっても親切に接する人間はいない。そのモニカに玉城は完全に見限られているのだ。

 すべてはダメニートのレッテルと本人の素行が原因ながら、そんな彼を好いている奇特な美女も存在するのだ。

 クララ・ランフランクVVの娘である美少女と、マリーベル・メル・ブリタニア、神聖ブリタニア帝国の美しき皇女様。

 この二人から異常なほどのラブコールを受けていた。だが玉城は気づいているのかいないのか。二人の事を棚に上げている。

 

 ともかく。

 

 モニカが玉城を眼中に入れていないのは確かだ。真面目な彼女は正反対の玉城を嫌う。無理からぬことだった。

 

「真一郎ーっ」

 

「あんっ?」

 

「えいっっ」

 

 唐突にVVは玉城に枕を投げた。

 ボスっと顔面にヒットする玉城。

 

「やったなクソジジイ」

 

 投げ返そうとした瞬間。

 ボスっ。

 

「うぶっ」

 

 またまた玉城にヒット。投げたのは。

 

「玉城くん、良い言葉を教えてあげましょう油断大敵っっと」

 

 蘊蓄を垂れていた嶋田を襲った枕は躱された。

 

「くそ~っ、繁太郎は昔から反射神経が良かったからなあ」

 

 VVが悔しそうに投げた弾丸の補充をする、それは玉城の枕だった。

 

「あ、おっさんそれ俺のっ」

 

「ルール無用なのさっえい!」

 

 

 

 

 またまたVVの投げた弾丸は玉城の顔面にボスっとヒット。

 

「私は嶋田さんを攻撃なんてできません。皇兄殿下への不敬な攻撃も・・・・では、くたばりなさいダメニートっっ!」

 

 モニカの放った強力な弾丸が玉城の顔面にヒット。玉城が倒れたところをVVは身体で乗りかかり、全身でプレス。

 その上に嶋田が乗っかかり、一番上にモニカが乗りかかって、結果は、玉城一人のノックアウトだった。

 

「煩いですよ伯父上っっ!!」

 

 ルルーシュ。大学生の声が聴こえた。彼は月曜は学校なのだ。その他も出勤。

 モニカも明日は仕事がある。

 

「騒ぐのはお休み前のお泊り会の時にしますか」

 

 嶋田の提案に。

 

「そうだね・・・・久しぶりだからはしゃいじゃった」

 

 VVは賛成。

 

「お泊り会って暴れる物なのですか?」

 

 モニカは一人勘違いし。

 

「きゅうう~~っ」

 

 玉城は目を回していた。

 

 

 そして電気を消す前。

 

「真一郎は僕と一緒のお布団だよ。仲良く寝よーね」

 

「お、おおっ、なんかガキに戻ったみてー」

 

「僕から見たら真一郎は子供だよ、ふふふ。おいで」

 

 その言葉に誘われてVVの布団に入る玉城は、VVと抱き合う形で眠りについた。

 

 

 一方の嶋田は。

 

「もう一緒に布団に入る事、慣れているとはいえ緊張するね」

 

 浴衣姿のモニカは長い金髪を左肩からすべて前に流し、一つに纏めていた。

 風呂上がりの匂いが嶋田の鼻腔を擽る。

 

「よ、よろしく、おねがいします、繁太郎さん」

 

 公では使わない下の名で嶋田を呼ぶ。そうだ。ここはもうプライベートなのだ。

 嶋田はモニカの手を引き抱き寄せる。流れる長い髪束が嶋田の顔を撫でた。

 

「う、気持ちいいし、いい匂い・・・と、とりあえず寝ようか」

 

「は、はい、」

 

 モニカの身体を抱き寄せる。柔らかい、無駄な肉など一欠けらも付いていないしなやかな肉体。

 それでいて胸は大きく盛り上がっているから女性というのは不思議である。

 

 VVと玉城が抱き合って寝るように、嶋田とモニカも抱き合って寝るのだ。

 

 間違いは起こさないが、今夜はなかなか眠れそうにないな、そう嶋田は思うのだった。

 

968:二二三:2023/03/15(水) 17:58:10 HOST:KD106154147052.au-net.ne.jp

終わり

 

VVと玉城って普段何をやってるのかなと思ってたら書いてた

 



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モニカのリボン

 

モニカのリボン

 

 

「な、何者です!」

 

「うふふ、それは貴女が一番わかってるはずよ?」

 

気がつけばその者は背後に居ました

 

髪の長さは私と同じで、でも真っ直ぐではないその長い金髪は、ふわふわウェーブのかかった物

 

体の前に流された二房の髪には私と同じリボン

 

瞳の色は深い蒼

 

眉が隠れるくらいで切り揃えられた前髪

 

装いは薄い桃色のドレス

 

マントは無い

 

背丈は私と同じく、スタイルも同じくらい

 

その容姿さえも

 

私はその顔を知っている

 

他ならぬモニカ・クルシェフスキー

 

それがいた

 

気が付けば部屋に私とそっくりな人がいた

 

「はじめまして。私はリリカっていうの。部屋、勝手に入っちゃってごめんなさい」

 

「……!、な、な、何者です貴女は!」

 

「だからあ、リリカって言ってるじゃない。大事な用があってね?」

 

だ、大事な用?

私とそっくりで、でも少し言葉遣いの荒さが目立つ女性は、私に言った

 

「そうそう。とっても大事な用なの。信じてよ。ほら、私の顔、貴女と同じでしょ?」

 

堂々たる女性

私も堂々としている方ですが、この方は少しがさつさが目立ちますね

 

まるでそう。私と同じでありながら、私とは別の私のような

 

「むう…、では、その大事な用とやらをお聞かせ願えないでしょうか」

 

ここまで堂々と部屋に侵入されて気づかない

それは最強と謳われるナイトオブラウンズの一角たる私の脅威でもあるということ

 

ですので、迂闊な行動には出られません

 

とりあえず相手の出方次第でしょうか

 

この家には私の守るべき方もいらっしゃいますし、その方へ危害を加えられるわけには

 

「ええとね。とりあえずどうしたらいいか…、そのね? 貴女を一年間観察させて貰いたいのよ」

 

「か、観察?」

 

私は実験動物ではないのですが

 

「そうなの。実はね私、魔法の国の皇女なのよ」

 

……、変な人です。変な人がいます

この場合、騎士たる私はどうすれば良いのか?

 

日本の警察に連絡?

 

い、いえ。もしこの女性が私と同等の実力者であるならば、警察に止められるはずも

 

「その、変なやつを見るような目をやめてくれない?」

 

858:名無しさん:2022/10/22(土) 01:43:11 HOST:KD106154150080.au-net.ne.jp

彼女リリカは語る

 

魔法の国では代々皇室を継ぐ者は様々な修行をなさなければならない

その一つに一人の人間を一年間観察して日記を付けるという物があるという

 

ただ、観察といっても、ずっと傍に張り付いての物ではなく、魔法の国から水晶玉に映して見るというだけ

 

魔法の国には皆、人間界に自分とまったく同じ容姿をした者がいる

 

その人間を探し出し、観察する、という決まりらしいのです

 

「それで私を探し出し、この嶋田邸の警戒網を掻い潜り、私の部屋に侵入したと?」

 

「そうよ。大変だったのよ?まず、ブリタニアの貴女の家から探し始めて、日本へ赴任中だと知ってから日本に向かって、そうしたら一般住宅じゃない酷い警戒態勢化に置かれてるお屋敷に住んでいるんだから」

 

「あの、大変だったご様子ですが、私、引き受けませんよ?」

「え?なんで?」

 

どうしても何も。知らないところからずっと監視されていい気などしませんし、私にもプライベートがあります

 

するとリリカという女性は。私と同じように体の前に二房流した髪を結び、巻き付けているリボンを解き始めました

 

「当然、報酬無しとは言わないわ。報酬代わりに」

 

二房の髪のリボンを解き、彼女は私に二本のリボンを差し出してきた

 

「このリボン、貸してあげる」

 

「り、リボンを貸していただくも何も、私は自分のリボンを持っておりますし」

 

「貴女のは普通のリボン。でも、このリボンは魔法のリボンなの。これを結んでいれば、人間界に存在する人になら誰にでも変身することができるのよ?」

 

859:名無しさん:2022/10/22(土) 01:56:11 HOST:KD106154150080.au-net.ne.jp

そ、そんな、まさか…

 

「物は試し。変身してみなさいよ。アイドルでも女優でも、好きな者に変身可能だから」

 

そんなこと、本当に?

 

「そ、それでは、嶋田さんになれたり、するのでしょうか?」

 

「シマダ? あ、ああここの家主さんのあのナイスミドルな彼ね♡」

 

「な?! ふ、不敬ですよ! 嶋田さんは私の主君にして私の」

 

嶋田さんに対して好意的なリリカの反応に、私はつい興奮気味に敵愾心を剥き出しにしてしまいました

 

し、嶋田さんは、私の…

 

「あら? おやおや~、私の何かなぁ?」

 

伺うように挑発してくる彼女

 

「わ、私の大切な主君であって、それ以上の意味などありません!」

 

「あら?そ~う、じゃ、私、彼のこと誘惑しちゃおうかなぁ?」

 

「なぁっっ?! し、嶋田さんはそんな軽い男性ではありません!硬派で紳士な方なのです!昨日今日で知り合った女性になど」

 

「じゃ、モニカを装って近付いたりなんかしちゃって」

 

「だ、駄目ですっ!!」

 

「んー、独占欲強いわね~、益々ナイスミドルなシマダさんの事が気になってきちゃった」

 

藪蛇でした。下手な言い訳と挑発に乗ったことで、リリカの興味が嶋田さんに!

 

860:名無しさん:2022/10/22(土) 01:56:50 HOST:KD106154150080.au-net.ne.jp

 

 

「とまあ、それは置いといて」

 

置くことではありません。私にとって貴女は脅威です

 

「とりあえずシマダさんに変身してみたら?」

 

「へ、変身…。憧れの嶋田さんに私が?」

 

本当に、なれるのでしょうか?

 

「なれるわよ。本当に魔法のリボンなんだから。試しに鏡台の前に立ってみて」

 

鏡台。嶋田邸の、日本様式の鏡台の前に私は立つ

 

鏡に映るのは私は

 

後ろにウェーブヘアの私も映っているので、この場には四人の私がいます

 

「両手を顔に当ててクロスして」

 

手に手を重ね、顔の前で交差させます

 

「これでいいのですか?」

 

「そう、そしてパラレルパラレルシマダさんになーれ、って、唱えてみて。そしたら手を離すの。分かった?」

 

「……い、いきます。……ぱ、パラレルパラレル ……嶋田さんに」

 

なーれっっ。

 

 

手を離し、目を見開いたとき、私の目の前に、私の主君にして、私のお慕いするお方、優しい男性の姿があったのです

 

 

 

 

 

 

とまあこんなところです。原作は三十年くらい前の漫画・アニメのクロスオーバーですが、わかった人います?

 



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駐日ブリタニア帝国大使館前

 

ネタ

 

 

駐日ブリタニア帝国大使館前

 

大勢の記者が集まる大使館前

ある意味では壮観とも呼べる、記者記者記者の数

 

それもそのはず

 

昨日発生した嶋田繁太郎元大日本帝国宰相の襲撃事件

これを解決に導き、嶋田元宰相を救出した、神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア殿下が、オープン回線で嶋田元宰相とは全くの別人の名を叫んだからである

 

〔ヒロユキ〕

 

嶋田繁太郎の名にかすりもしないその謎の名前

誰か?

世間一般に知れ渡っている嶋田元宰相とユーフェミア殿下の仲の良さ

不謹慎な噂ではもう一線を越えてしまっている間柄とも噂される二人の仲に、突如現れた別人の名は、世間の話題となっていた

 

より厳密には新聞社、週刊誌記者の的にされた格好だった

 

「ヴェルガモン卿、表の連中どうにかできないのか?」

 

大使館執務室で机に指をとんとんと叩かせながら苛立っているのは、神聖ブリタニア帝国第二皇女にして、駐日ブリタニア帝国大使、コーネリア・リ・ブリタニアであった

 

彼女は警備責任者の一人であるリーライナ・ヴェルガモンを呼び出し、意見を求めていた

 

「申し訳ありません。彼等マスコミは日本の法に則り、法律ギリギリの線でこちらを口撃しておりますので、大使館の敷地内にも一歩も踏み込んでおりませんし、対応は日本側にしかできないものかと」

 

麗しの警備責任者リーライナ、麗しの大使コーネリア

 

《はあ…》

 

共に溜息しか出ない

 

こんなことになったのも元はと言えば大使補佐官であり、コーネリア大使の実妹、ユーフェミア・リ・ブリタニア大使補佐官の不用意な発言にあった

 

ヒロユキ

 

嶋田繁太郎救出の際にオープン回線で発した一言が、世間に知れ渡ってしまったからだ

 

「まったく、ユフィも軽率に過ぎる。シマダ卿の言によればヒロユキとはユフィだけが呼ぶシマダ卿自身への愛称とのことだが、この国のマスコミは民主主義に乗っ取り行動してくるため安易な不敬罪にも問えないと来ている」

 

ブリタニア帝国は絶対君主・貴族制、だが大日本帝国は立憲君主制、政体の違い故に法律の許容する範囲内の報道行為であれば、安易な不敬罪にも問えない

 

「それにユーフェミア様がシマダ卿の愛称だとシマダ卿とお二人で説明しても、ではどうして本名とかすりもしないヒロユキなのかと攻めてくるでしょうし、困りましたわね」

 

返すリーライナもお手上げという具合に溜息を漏らした

 

「ユーフェミア様は本日ご出勤では御座いませんのに」

 

「大方、マスコミ連中は私から何かしらの探りでも入れたいのだろう。現地を取り記事を書き、財とする、その為には手段を選ばん連中もいるから気を付けよとツジ卿より連絡があった。騒動が落ち着くよう、日本側も手を回していると仰っていたからな」

 

 

「はぁぁぁ、わたくしはなんという浅慮な言動をしてしまったのでしょうか…」

 

こちらは嶋田邸はユーフェミアと嶋田繁太郎こと神崎博之の二人

ユーフェミアは襲撃事件を受けたばかりの嶋田の傍にいたいからという建前で、嶋田邸に一時避難していたのだ

 

「まあ、仕方ない。普段からユフィ、ヒロユキと呼び合ってるんだ。咄嗟の場面で本名を出してしまっても、それはそれ。あり得る話だよ」

 

白桃色のドレスに身を包む婚約者であるユーフェミアの頭を優しく撫でながら、嶋田繁太郎、神崎博之は慰める

 

「しかし、ヒロユキという名は墓の中、次なる転生先にまで持って行かねばならない名です。それを咄嗟とはいえオープン回線で叫んでしまうだなんて、わたくしったら本当に馬鹿です」

 

「大丈夫だよ。大体マスゴミなんてのは昔から餌があれば食いつく魚みたいなもの。今頃俺の信頼の置ける友人たちが別の粗を探して反撃の機会を狙っているから。もちろん俺もユフィを傷つけよう、口撃しようという言動を許すつもりもないしね」

 

「ヒロユキ…、本当にご迷惑をお掛けします」

 

「いや、ユーフェミア・リ・ブリタニアの夫、神崎博之が、妻たるユフィを守らずしてどうするよ。取引先と色々やり合ってきたし前世現世では帝国海軍軍人にして帝国宰相まで勤め上げた、このサラリーマン神崎博之を舐めんなよ?」

 

 

 



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コードギアス選択の玉城

 

コードギアス選択の玉城

 

所持金:100000

場所:自宅

時間:10時

曜日:土曜日

 

玉城「今日はお休みだぜ。どこ行こうか?」

 

矢印で選択

 

→アッシュフォード学園

→V.V.邸

→公園

→競艇場

→仕事先のBAR

 

玉城の供託金は没収がデフォでしょうね

帝愛パチンコはヤヴァイな

 

なんとなく続く

 

 

どこへいく

 

→アッシュフォード学園

 

学園の門は固く閉ざされている

 

玉城「そういえば今日は休校日だったぜ。クララが言ってたな」

 

 

 

 

どこへいく

 

→V.V.邸

 

 

場違いなほどの高級住宅街

 

V.V.邸の邸宅の前には一台のリムジンが停まっていた

 

玉城「誰か来てるのかねえ」

 

門に近づくと複数人の屈強な守衛が立ちはだかった

 

選択

 

→俺だよ

→玉城ってもんだけど、主人のV.V.っておっさんに取り次いでくれ

→とりあえず殴る

 

 

玉城の知り合いか知り合ってそうな人で貸してるか貸しそうな人予想。

 

 

借用書無しで貸してるのと貸しそうなの。

VV クララ マリー ナナリー ユフィ 嶋田 山本 。

 

借用書ありで貸しそうなので催促無しっぽいの。

扇 ソキア マリーカ。

 

借用書ありで貸しそうなので催促するっぽいの。

リーライナ コーネリア。

 

借用書ありで貸しそうなので返さなければ酷い目にあわされそうなの。

辻。

 

そもそも貸さないの。

ルル オルドリン モニカ。

 

 

こんな感じか?

 

 

 

スレ建て乙です

玉城選択の続き

 

 

→玉城ってもんだけど、主人のV.V.っておっさんに取り次いでくれ

 

玉城「 玉城ってもんだけど、主人のV.V.っておっさんに取り次いでくれ」

守衛「なんのようだ」

玉城「用があるから来たんだよ。おっさんいるか」

守衛「嚮主をおっさん呼ばわりとは…貴様は相変わらず口の聞き方を知らぬやつだな」

玉城「取り次いでくれよ」

守衛「ふん、なぜ貴様のようなやつを…ち、待っていろ」

 

守衛は邸宅内部の警備員に話をしにいった

 

玉城「いつも言ってやがるけどキョウシュってなんだろな」

 

辺りを見る

 

高そうな黒塗りのリムジンが停まっている

 

玉城「すげー車。金持ち一族らしいといえばらしいな。そういえば前にマリーのやつにこんな車に乗せてもらったことあったな」

 

守衛が戻ってきた

 

守衛「身体検査だけはさせてもらう」

玉城「何も持ってねーよ」

守衛「ねんのためだ」

 

 

 

 

 

 

守衛が体を触ってきた。むさい男に体を触られて気分が悪い

 

玉城「変なとこ触るんじゃねーぞ」

守衛「だれが触るか!」

 

ジャンパーのポッケ、ジーパンのポッケ、物が入りそうな場所を調べられた。「よしいいぞ」ようやく中へ入れてもらえた

 

守衛「手前の客間で待つようにと仰せだ」

玉城「へいへーい」

 

大きな玄関がある

 

中に入る

 

 

選択

 

→客間へ

→トイレへ

 

トイレへを選択

 

 

 

玉城「いかんなぁ、外の寒さで近くなっちまった。あの守衛が無駄に待たせやがるからだぞ」

 

廊下を歩いていると、見知った顔が対面に見えた

長いピンクの髪を頭の後ろでに纏めできた、その柔らか感溢れる大きなポニーテールを揺らせている女性だ

服装も肌に接するようなタイトスカートで、動きやすい格好をしている。仕事着姿のユーフェミアだった

 

玉城「おう」

ユフィ「あら、誰かと思えば玉城さん」

玉城「土曜日もお仕事なのかよ」

 

玉城は足早に近付き話しかける

 

ユフィ「今日はマリーがいらしているんです」

玉城「へぇ、マリー来てんのか。でもマリーが来たらなんで仕事なんだよ」

ユフィ「ええ、まあ、それは、色々とあるのです」

 

ユーフェミアはなんだかそわそわしている

なにをそんなにそわそわしているのか?

 

選択

 

→嶋田さんとはどう?

→金髪のねーちゃんとはどう?

→小便か?

 

 

 

 

 

顔会わせてる程度ですが玉城はモニカ知ってます

 

 

選択小便か?

 

玉城「小便か?」

ユフィ「し、失礼な!」

 

ばちーん!

 

玉城「ぎゃぴィーっ!」

 

頬を平手打ちされてしまった

とても痛い

怒ったユーフェミアはこちらを無視して去ってしまった

 

入れ替わりに顔に傷のあるいかつい男性がやってきた

 

ダールトン「貴様、ユーフェミア殿下…ユーフェミアお嬢様にご無礼を働いたそうだな。許されんぞ」

 

理不尽な鉄拳をお見舞いされた

 

玉城「ぐべっ!」

 

そのままV.V.邸から放り出されてしまった

 

ひゅううう~

 

ゲームオーバー

 

 

 

選択金髪ねーちゃんとは?

 

玉城「その後金髪ねーちゃんとはどうよ?」

ユフィ「どうとは?」

玉城「仲良くしてるのか」

ユフィ「クルシェフスキー卿とは顔を合わせるたびに喧嘩してます」

玉城「喧嘩するほど仲がいいってか」

ユフィ「それほどよろしくはありません」

玉城「職場仲間なんだろ」

ユフィ「ええ、ですから普段は良好な関係にあると思うのですが」

玉城「じゃあ友達じゃんか」

ユフィ「友人というよりもライバルでしょうか」

玉城「ライバルねー。あのねーちゃんって騎士なんだよな?ユフィの細腕じゃ素手ゴロ勝負じゃ勝てねーぞ」

ユフィ「そういった意味のライバルではありませんわ。それでは急ぎますので失礼いたしますね」

 

 

ユフィは廊下の奥へと消えていった

 

 

 

 

選択嶋田さんとはどう?

 

玉城「嶋田さんとはどうなんだ?」

ユフィ「し、シゲタロウとは、その」

 

ユーフェミアの頬が紅色になって、目が泳ぐ

 

ユフィ「わ、わたくしとシゲタロウの事はいいのです!それよりも玉城さんはマリーの事をどのようにお考えなのですか!」

玉城「なに焦ってんだよ」

ユフィ「いいからどうなのです」

玉城「あー、まあ」

 

慌てるユーフェミアは半ば話を強制的に切り上げるようにして問いかけてきた

マリーとはどうか。それは

 

玉城「妹分?」

ユフィ「・・・マリーの気持ちも知らずにお気楽すぎですわ」

玉城「なんのことだよ」

ユフィ「はあ、鈍感な方」

 

ユーフェミアは呆れた様子で廊下の奥へと消えていった

 

 

 

 

 

玉城「ハァーすっきり」

 

トイレを済ませた

 

玉城「にしても何で一般家庭でトイレが男女分かれてんだよ。どれだけ金持ちなんだよ」

 

→客間へ

 

客間についた。だだっ広い客間には誰もいない

 

玉城「この部屋だけで家だよな」

 

草色の畳が広がる和室。広い客間だ。V.V.の邸には洋室和室といくつかの客間がある。普段遊びに来るときにはよくこの客間に通される。鎧兜、本物の日本刀などが飾られている客間には、鳥が翼を広げたようなレリーフがある

 

玉城「よく見かけるよなあこれ。おっさんとこの会社の社章か何かかなあ」

 

この鳥形のレリーフはV.V.邸にてまま見かける。なにか特別な意味でもあるのだろうか?

 

→レリーフを見る

→周りを見る

 

選択周りを見る

 

畳の部屋の中央にどっかり据えられたお膳がその存在感を示している

 

→レリーフを見る

→お膳を見る

 

選択お膳を見る

 

玉城「お、エアコンのリモコンはっけーん」

 

暖房をかける?

かけない?

 

玉城「せっかくだし暖房ガンガンにかけてやれ」

 

部屋は暖房が入っていたが、ついでなので思い切り温度を上げてやる事にした

 

ブォーン

 

暖房が強くなる

 

玉城「おっし!限界までピッピッだぜ!」

 

もともと暖かい室温が、更に暖かくなりました

V.V.邸の電気代が上がります? 知らね

 

勝手に暖房をいじった玉城は続いてレリーフを見る

 

玉城「ほんと、なんだろなあこの鳥形」

 

赤い鳥形の模様をした高そうなレリーフだ

 

玉城「飛んだカモメを真正面から見りゃちょうどこんなだな」

 

邸にはいくつもあるから一つくらいかっぱらってもどうせバレないだろう

小さなレリーフも見たことがあるし今度一つパクろう

 

もう一度お膳を見る

 

リモコンの他に雑誌があった

 

玉城「月刊KMF?」

 

雑誌を開こうとすると

??「あれ?室温が上がってる」

 

 

 

 

>>選んでください

 

→誰だよ(嶋田、山本、辻、ルル、ナナリー、リーライナ、ユフィ、コーネリアなどなど)

→クララ?

→マリー?

→おっさん?

 

 

 

選択→おっさん?

 

薄く淡い色をした金髪が踵まで伸びているという、とんでもない長さの髪を金縁の髪留めで押さえつけた黒マントの少年がやって来た

 

??「キミ、勝手に暖房を触ったね?」

 

マントの裏生地と同じ紫色をした瞳が射抜き来る

ゆったりとした白い衣服を着ている無表情な10つ前後の少年だ

しかしてその実態は少年に見えるだけで還暦も過ぎたおじさんなのをもちろん玉城は知っていた

 

玉城「いいじゃんケチケチすんなよなあおっさん」

 

おっさん。玉城が気軽にそう呼ぶ相手は限られる。とみにV.V.邸でとなると大抵は一人しかいない。V.V.邸の主人であるV.V.その人である

 

V.V.「人の家のエアコンを無断で触っておいてのケチ呼ばわりとは何とも失礼な物言いだねシンイチロウ。なんだったら僕の貸してる借金の全額分の返済請求でもしてあげようか」

玉城「サーセン!許してくださいごめんなさい!」

 

少年ことV.V.の要求にあっさり平伏する。怒らせてはならない人物の一人なのだからして仕方がない

 

V.V.「そうして謝るくらいなら最初から謙虚にしてればいいんだ」

玉城「へーい」

V.V.「で、何か用事があるとか聞いたけど?」

玉城「お?おっさん今日客が来てるんじゃねーの?」

V.V.「ああ来てるよ。だけど僕がいなくても話は進むさ。特別僕個人が立ち会わなければならない話でもないしね」

玉城「そーなのかー?」

V.V.「……どうでもいいけど、"そーなのかー?"って言い方はキミに似合ってないなあ」

 

紫色の瞳がぱちくり。ため息が一つ。V.V.はやれやれと言った様子で玉城のそばに歩み寄る

玉城は正座に座り直した。頼み事があるからである

 

V.V.「ふん。その姿勢からして返済の猶予だね」

玉城「げっ、見抜かれてる!」

V.V.「分かりやすいんだよキミは」

玉城「へへーっ」

 

まるでお代官さまに平伏するかのような玉城の前で腰を下ろしたV.V.は、また一つため息をついた

 

V.V.「無いところから無理矢理出せとは言わないよ。万年金欠病のキミに僕が期待してると思うかい?」

 

V.V.の小さな手が玉城のつんつんした髪型の頭をなでなでする

子供そのものな小さな手の感触には期待感を持たざるを得ない

 

玉城「えー、おじさま。そんじゃ待っていただけるんで?」

V.V.「はあ、仕方無いなあキミだけは。待ってあげるよ」

 

望む言葉が引き出せた

 

玉城「おっさーんっっ!」

 

感極まる玉城は膝立ちになってはV.V.に抱き着く。抱き着いたままV.V.の小さな頭や柔らかい髪をなでなでしながらの頬擦り。たまにある光景であった

小さな子供にすがり付いて頬擦りする大人。端から見ればダメな大人にしか見えない玉城のそれは、V.V.という父親みたいな存在を前にしては最早常時の事である

真実として20代中頃な玉城に対して、60代半ばのV.V.。見かけこそアレな面もあれど、到って普通の姿だった

 

玉城「ありがとうなおっさん!恩にきるぜー!」

 

V.V.の頭をなでなで、ここぞとばかりに媚を売る

 

V.V.「はいはい。わかったわかった」

 

されるままのV.V.もダメな息子みたいな玉城からの愛撫?を受け入れている

 

選択

 

→V.V.への媚売り撫で撫でを続ける?

→そろそろやめる?

 

三つ目の選択

 

V.V.からの撫で撫でを受け入れ続ける?

 

 

→そろそろやめよう(唐突)

 

 

玉城の手が止まった。指はV.V.の髪の中へと深く差し入れられたままだ

 

V.V.「…ん?」

 

玉城に抱き締められたままのV.V.が訝しげに首をかしげた

 

V.V.「シンイチロウ?」

 

ほんのちょっぴり不満げに、V.V.が玉城を見る。吸い込まれそうな紫色の瞳が玉城の黒目を見つめている

 

V.V.「シンイチロウ、もう少し僕の頭を撫でてもいいんだよ」

 

不満色濃いV.V.がぺたっと頬をつけてくる。親から子供への愛情みたいなものがそこに感じられて、何だかこそばゆい

 

V.V.「それか、シンイチロウがやめるなら僕が撫で撫でしてあげようか」

 

なでこなでこ。小さな手がつんつん頭を撫でる

 

玉城「い、いやいやおっさん。俺ガキじゃねーし」

V.V.「子供だよ。三十路もまだの子供が遠慮しちゃダメだよ」

玉城「ううー、変な気分になる」

 

なでこなでこ、小さな手は玉城を撫でる

ぴた、小さな頬がくっついたまま

ぴた、玉城の手の指がV.V.の髪に差し入れられたまま。こちこちと時計の針だけが進んでいく

 

玉城「な、なあおっさん、客って誰だ?」

 

小学生そのままな小さいおじさんに頭を撫でられて玉城は恥ずかしそうにして聞いてみた

なにかしら話さないと間が持ちそうに無いからである

 

なでこなでこ

 

V.V.の手は玉城の頭を離れない

 

V.V.「客はマリーベルだよ。ユーフェミアがキミとすれ違い様に話したとか言っていたけど?」

玉城「あ、あーそうだそうだ、ど忘れど忘れ」

V.V.「ダメな子だなあ。つい今しがたの事を忘れるなんて」

 

なでこなでこ。V.V.の手が止まらない

恥ずかしさ極まる玉城はV.V.の髪に差し入れていた手を思わず更に奥へと差し入れては、彼のマントを掴んだ

 

玉城「い、いや、おっさん、ちょっと」

V.V.「ん?どうしたの?」

玉城「いや、その、どうしたじゃなくて。男同士で抱き合ってちょっと変じゃないかなーって」

V.V.「大人が子供を可愛がる。ごく普通じゃないか」

玉城「いやなだからそりゃおっさんよりかはずっと年下でガキみてーなもんだけど、一応俺も大人だし、これはこれで恥ずいってかよ」

 

だがV.V.はやめない。玉城の手がV.V.のマントを強く掴んだまま手が止まっているように、玉城を愛撫する小さなおじさんの手はとまらない

 

V.V.「膝枕でもしてあげようか」

玉城「はあ?!なにいってんのこの親父!」

 

選択をお願いします

 

→やんわり断る

→V.V.を引き剥がす

→V.V.に膝枕してもらう

→V.V.越しに女性の姿が見えた(羽パーツのドレス姿)

→V.V.越しに少女の姿が見えた(ヒラヒラスカート姿)

 

 

玉城ゲームネタをちょっと投下しておきます

 

 

では選択→V.V.越しに女性の姿が見えた(羽パーツのドレス姿)で

 

 

 

 

 

いい子いい子と頭を撫でてくれる小さなおじさんの肩越しに見える背後の襖が音もなく開いた

襖が開くという事は、そこに誰かがいるという事で。はたしてそこにいたのは

 

腰を超えるくらいの長さをした薄紅に近い赤の髪を一部纏めた髪型をした女性が一人、見開いた目をこちらへ向けて立っていた

衣服といえば、それはもう豪奢なピンクのドレスで。足首を隠すくらいのロングスカートに、背中には白い羽が付いた特徴的なもので、何処かの名家のお嬢様然とした空気感をありありと見せつけてくれている

ついでに言えばかなり大きな果実を二つお持ちの超が付く美女だった

 

??「そ、そんなっ、」

 

小さなおじさんV.V.を真正面から抱いているようにも見えなくもないこちらを見て驚愕の眼差しを向けているそんな美女に、こちらはこちらで、あせあせ焦ってしまった玉城んは、おじさんの背中のマントをますます強く握りしめてしまっているのだった

それはもういたいけな美少年を強く強く抱き締めているかの様相だった

 

V.V.「ん?」

 

他人からすれば、玉城に抱き締められているとしか見えないV.V.は、当の玉城の様子に顔だけ斜め後ろに向けて赤紫の瞳を眼の端へ動かしながら、背後を確認していた

 

V.V.「なんだマリーじゃないか。どうしたんだいそんなところで突っ立ってたりして」

 

いつもの自然体のままに背後の女性へ声掛するV.V.は、何か焦っている玉城の頭に置いていた手でまた玉城のツンツン頭を撫でる

そんな玉城ん、やめてほしければV.V.を離せばいいだけなのに相変わらずのしがみつきようでおかしな言い訳を始めてしまった

 

玉城「お、俺は何も変なことしてるんじゃねーからな!おっさんがなっ!このおっさんがな!借金返済の猶予をしてくれるって約束してくれたからちょっとしがみついてお礼を言ってただけでな!撫で撫では撫で撫ででな!撫でてもらってるだけでな!」

 

だからなんだ。である

V.V.もV.V.で誤解を招く言葉を口走ってしまっていた

 

V.V.「ん?ああ。シンイチロウを撫で撫でしてあげてたのさ。手のかかる子ほど可愛いからね。この子の場合手がかかりすぎなんだけど素直なもんだよ。僕に抱き着いてきて可愛いもんだよ」

 

まるきり挑発するかのようなV.V.の態度。本当に誤解か怪しいところである

 

玉城「おっさんマリーに変なこと言うなよ!!」

V.V.「変?どこが変なのさ。事実じゃないか」

 

また一撫で。今日のV.V.は機嫌がいいようだ

引き替え、二人にマリーと呼ばれた女性の目がだんだんと険しくなる

 

マリー「おじ様…、男同士で不潔ですわ…」

V.V.「なにが不潔なのさ?」

マリー「なにがもなにもありません…おじ様、ただちに兄さまをお離しくださいまし」

V.V.「ふん。僕がシンイチロウの頭を撫でてるのが不満なのかい。抱き着いてきてるのはシンイチロウなんだよ?」

玉城「だから抱き着いてねーっての!」

V.V.「抱き着いてるじゃないか。僕の背中に手を回して、僕の髪の毛を撫でて、今は僕のマントにしがみついて。僕なにか間違ったこと言ってるかな」

玉城「いやいやいや、だからそれが変に聞こえるって!それじゃまるで俺がおっさんに甘えてるみたいじゃんかよ!」

V.V.「甘えてたろう?」

玉城「・・・・ちょっと甘えてたよーな」

マリー「兄さま!!」

玉城「うおっ!」

マリー「わたくしにも借金がございましたわね!!」

 

マリーの目がものすごくつり上がった

 

→V.V.から離れてマリーに土下座

→もっとV.V.にしがみついて顔を伏せる

→V.V.に全投げ

 

 

 

では、皆さんの暇潰しの選択ゲームの続きです

 

→V.V.から離れてマリーに土下座(逃走の機会を窺う)

 

借金についての追及をされてからの、V.V.にしがみついていたままでいた玉城の行動は実に迅速だった

それはそれは白でもマリーこと、マリーベル・ランペルージが黒だと言えば黒ですとでも言わんばかりの素早さだった

 

玉城「へへーっ!マリーベル様のおっしゃる通りでございます!俺が悪いんですはい!何もかも俺が悪いんですので、どうかマリーベル様にも借金の返済猶予をお願いしたいっす!」

 

小さいおじさんの隣でジャンピング土下座である。それもそうです。玉城は眼前で目をつり上げている女性マリーベル・ランペルージにもお金を借りているからだ

年下の女性にまで借金を作っているような、終わっている男であるのだ

だが終わっている男は終わっているなりに考える。「なんで土下座せにゃならんの?」と。借金の返済猶予を申し出るのだからへりくだるのは当然として、土下座は必要ない。マリーの迫力に圧されて勢いでやってしまったが、年下の女に土下座とは何ともはや恥ずかしい事だ

V.V.に平伏したのは年上であるからと、普段から世話になりっぱなしだからという意味もある。けして無意味に平伏した訳ではない。ついでに、平伏しなければ返済猶予を無しにする可能性がV.V.という男にはあったからだ

財界人だけあってV.V.はその辺り結構シビアなのだ

 

だがマリーベルはV.V.とは異なり結構甘い

その甘さは玉城の幼なじみと競合できるほどの甘さである。玉城に対しては甘いのだ

なのに今の彼女は滅多に見せない怒った表情をしている

 

(何でだよ? コイツ何で怒ってんの? ホワイ?)

 

彼には分からない。しかし彼女が怒る理由があったから彼女は怒っているのだ

 

マリーベル「・・・・それだけ?」

玉城「それだけって?」

 

ホワイの嵐だった。玉城には分からなかった

 

マリーベル「おじ様にはアレでわたくしにはこれだけなのですか?!」

 

不機嫌全開なマリーベル

 

玉城(だから何をどーしろっつーんだぁぁ!!)

 

この状況から逃げ出す最善の作は?

 

→とりあえずマリーを抱き締めて誤魔化してみる

→金が無いと謝って一人で客間から逃走

→V.V.を引っ捕まえて二人で客間から逃走

→素直に謝る

 

 

 

休日様も来た事ですし、中途半端ながら行こうか?

 

 

玉城ゲームネタ

 

意見を取り入れて→「抱き締めて素直に謝る」を選択

 

焦り慌てる玉城は、V.V.を振り返った

 

V.V.「……」

 

V.V.は相変わらずの無表情で立っていた。V.V.おじさんはさっきまで玉城の頭を撫でていた手を見てにぎにぎしている

 

駄目だ、おっさんは宛になら無い

 

と玉城が思い始めたところで、V.V.はどこか表情を憮然とさせながら両腕を広げて抱き締める仕草をした

玉城はそのV.V.の仕草に考えてみる

 

マリーベルは「おじ様にはアレで」と言っていた。この意味とV.V.からのジェスチャーを組み合わせたら

 

玉城(・・・・はぁぁっ?! じゃなにかよマリーを抱き締めろってか!?)

 

行き着く先はそれしかなかった

成人男性が成人前の女性を抱き締める

行為としてはとても容認し難いものだろう。だがそこは玉城。あまり深く考えていない

マリーベルとはまだ彼女が小さな少女だった頃に出会っていたから抱き締めるといっても、それをそのまま男女の意味での抱き締めるとは捉えられないところがあるからだ

ただ、発育の良い彼女を抱き締める事には抵抗感もある。何気に大きな胸が、それなりの身長が、大人とさほど変わらない肉体が、抱き締めるという行為へ至らせる事に一定の抵抗感を与えていた

が、玉城。やはり考え無しであった。抵抗感?あるにはあるが、背に腹は代えられないだ

 

玉城「マリー!」

 

がばっと抱き着いた。一欠片の躊躇もなくマリーベルに抱き着いた

 

マリーベル「えっ、あっ!? えっ」

 

目を白黒。顔真っ赤なマリーベル。抱き着いた玉城からは見えないところで、彼女は思わぬ不意打ちに狼狽を隠せないでいた

 

玉城「悪い!すまね!ずっと(返済を)待たせてごめんな。俺、必ずお前の(返してくれっていう)期待に応えるから!もう少しだけ(猶予の)時間をくれねーか?」

マリーベル「えっ、あ・・・・し、シン、にい、さま・・・・あ、あの、あ・・・・わたくし、は」

 

女性を抱き締めながらのこの言葉

完全にそうとしか取れない発言である

気が動転しているマリーベルはもちろんそう受け取ってしまった

 

マリーベル「あ、あの、ですがクララの事は?」

 

クララとは、この場にいない玉城の幼なじみの事である

 

玉城「もちろんクララの(借金の)方にも納得行く答え(返済金)を出すから!もう少しだけ(返済を)待ってくれ頼む!この通りだ!」

 

ぎゅーっ。力強くマリーベルを抱き締める玉城は、彼女の背中に回した手で彼女の髪の毛を撫でながら、豊かな胸部の柔らかさを自分の胸板に感じつつ。思いの丈をぶちまけた

 

玉城(コイツおっぱいでっかくなったよなあ。あんなにちっせーガキだったのに)

 

マリーベル「に、兄さま」

 

感極まるかのように頬を赤らめ、目をうるませながら、マリーベルは自分からも玉城の背中に腕を回して抱き締め返していた

 

マリーベル「わ、わたくしには分不相応な、過分なお言葉ですわ・・・・で、ですが、わたくしは、兄さまのお返事をお待ちしております・・・・。必ず、必ず良い御返事を戴けるものと、わたくしは・・・・!」

玉城「お、おお!(返済を)待ってくれるのか?」

マリーベル「待ちます!」

玉城「ありがとう!ありがとうなマリー!さすがは俺の選んだ(お金に困ってるときに)頼れる女だぜ!」

マリーベル「そ、そんな、わたくしなど・・・・ああ、シン兄さま・・・・」

 

するどい目付きに強い口調が、優しく蕩けたような口ぶりと目に変わったマリーベルに、万事上手くいったようだと玉城は考えながら、彼女から離れた

 

玉城「じゃ、そういうことで頼むな」

マリーベル「は、はい、お待ちしております……ですがその、それならばおじ様とは何をなさっておいでだったのでしょうか?」

玉城「いや、な、ちょっと話があって、そんですがりついて、抱き着いて謝り倒していただけでさ。そんな深い意味はねーんだよ」

マリーベル「・・・・借金の事でしょうか?」

玉城「そ、そそ、それ、な。な?おっさん?」

V.V.「……うーん」

 

→誤魔化してV.V.を連れていく

→誤魔化してマリーベルを連れ出す

→誤魔化したまま一人でこの場を後にする

 

 

 

情報助かります。漫画速買いにいけますので

 

 

ところで玉城とマリーの正確な相関関係ってありました? あったら遵守したいし、なければ自由に作りますし

 

ゲーム玉城の現状

所持金:100000

場所:V.V.邸客間

一緒にいる人:V.V.、マリーベル



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202X年3月14日

501 :二二三:2013/03/15(金) 14:50:30
昨日ホワイトデーだったからネタ~完全なアホネタ~
休日氏のモニカルート電波ネタ
注:嶋田さんとモニカさんの娘の名前は勝手につけてます




501 :二二三:2013/03/15(金) 14:50:30

昨日ホワイトデーだったからネタ~完全なアホネタ~

休日氏のモニカルート電波ネタ

注:嶋田さんとモニカさんの娘の名前は勝手につけてます

 

 

202X年3月14日

 

「る~んた、るんた、るんたった~」

 

軽快なスキップと鼻唄混じりで通りのど真ん中を進む天パー男、鳩川雪夫

ちょっと残念な感じがするこの中年男はなにを隠そう日本の最大野党公民党の幹事長でとってもとってもエライのだ!

 

「きょ~うはっホ~ワっイっトデーっ!チョコをくれた女の子に男の子がお返しする日なのだ~!」

 

確かにホワイトデーはチョコをくれた女性にお返しする日である。だがチョコをもらってない男には無関係な日でもある

しかしこの男には関係無い。高級ブランドのマシュマロが入った紙袋片手にスキップするこの男には関係無いのだ

 

「さあモニカちゃんに会ってこのマシュマロを渡すぞォォ~」

 

彼の言うモニカちゃんとは同盟国ブリタニア最高位の騎士ナイトオブラウンズの12位モニカ・クルシェフスキーのことである

断っておくが彼はモニカにチョコをもらってない。彼のことを「金星人」とか言って怖がり嫌っているモニカがチョコなど贈る訳がなかった

ならどうしてマシュマロを贈るのか?それは彼の妄想したモニカがチョコをくれたからだ

 

〔ユッキー…チョコ作ってみたの、食べてみて〕

 

〔ボ、ボクは感激だよ、ありがとうモニカちゃん!〕

 

という具合に

 

「でもシゲくんちに行っても会わせて貰えないからなぁ~」

 

当たり前だ。キ◯◯イ電波男がブリタニアの高官に公務外で会わせてもらえる筈がない。それも今や日本の重鎮である嶋田繁太郎の女房だから尚更だ

 

「う~ん」

 

電波な天パー頭を悩ませる鳩川ユッキー。大親友モニカにチョコをもらってお返ししないのは彼の友愛精神が許さない

 

「そうだ!」

 

悩む彼の電波頭にあるアイデアが浮かんだ

 

「モニカちゃんの子どものサクラちゃんにチョコを渡してもらえばいいんだ!」

 

日本名=嶋田サクラ

ブリタニア名=サクラ・S・クルシェフスキー

鳩川が言うシゲくんとモニカちゃんの娘である

彼は以前サクラともトモダチになろうとしてお菓子がいっぱい詰まった箱を彼女が通う幼稚園に持っていったことがある

日本の良家やブリタニアの貴族子女が通うお嬢様幼稚園だから警備が厳しいので、そのときは公民党幹事長の肩書きを使い「視察」の名目で訪問していた

 

「よし!善は急げだ~!」

 

鳩川雪夫の傍迷惑なホワイトデーが始まった

最終更新:2013年03月15日 21:09

 

 



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クルシェフスキーの落ちこぼれの話

776 :二二三:2013/04/30(火) 01:20:58
さっき見てたビデオの影響を受けて書いてみたネタ~


嶋田さんとモニカさんの娘+いっくんとリーライナ先輩の娘(捏造)の話
嶋田さんたちの娘は勝手にサクラと名付けてます
んでもってメッチャクチャ暗くて苦い話だから、嫌な人は回れ右~~



 

 

 

クルシェフスキーの落ちこぼれの話

 

 

嶋田サクラ、またはサクラ・クルシェフスキー。名前からわかるように、彼女は大日本帝国の嶋田繁太郎元総理と、神聖ブリタニア帝国にあまねくその名を知られる元ナイトオブラウンズ筆頭にして、

ブリタニア大陸西海岸に広大な領地を持つ大貴族、モニカ・クルシェフスキー侯爵の長女である

 

侯爵家に生まれた者の宿命として、幼き頃よりの英才教育・帝王学教育を叩き込まれていた彼女は、かつては憧れの母モニカの後を継いでナイトオブラウンズに、立派な騎士になるという夢に向かって歩みを進めていたが、

そのあまりにも苛烈な教育に堪えきれず落ちこぼれとなってしまった

厳しく怖い母モニカとは対称的に、優しく温かい父繁太郎に泣き付いた彼女は、ある時言った

 

「お父様……わたし、わたしには騎士の道も、クルシェフスキー家の後を継ぐのも………無理です……!」

 

「サクラ……」

 

父繁太郎は自分にすがり付いたまま啜り泣く娘を不憫に思い、本来ならば口を出さないと決めていた侯爵家後継者教育に初めて口を出した

 

「モニカ、サクラにはクルシェフスキー家を継ぐのは無理だ、あの子の心は完全に折れている。このままじゃ本当に潰れてしまうよ。君が特別サクラに目をかけてるのは知ってる、けど………無理だよ」

 

「シゲタロウさん……」

 

もちろんこの話に限っては如何に夫であろうと口出しをさせるつもりはなかったモニカであったが、苦笑いをしながら疲れはてた様子の繁太郎を見てサクラの心は本当に折れてしまったのだと悟った

 

「わかりました」

 

結果、モニカはサクラを後継者候補から外し、次女を後継者とする道を選択する。この日を境にあれだけ厳しかったモニカはかつての優しい母に戻った

それはサクラにとって嬉しいことであった。毎日朝から晩まで勉強、作法、政治学、領地経営に必要な学問、そして騎士としての鍛練を繰り返し強要されていた彼女にとって、かつての温かい生活が戻ってきたのだから

 

 

 

だが理解していた。自分は母に見限られたのだということを……

 

 

 

こうしてクルシェフスキー侯爵家は次女が、嶋田家は長男が継ぐことが決まり、サクラは平穏で自由な日々を手に入れることができたのである

 

777 :二二三:2013/04/30(火) 01:23:12

それから数年の月日が流れ、サクラはアッシュフォード学院日本高の高等部三年生となっていた

 

「サクラはいいよね~」

 

高等部に入ってからの友人が話し掛けてきた。話の内容は大体わかっている

 

「だって、お堅いお貴族様の教育もなく、日本の名門嶋田家とブリタニアの名門クルシェフスキー家の名前を名乗れるんだからさあ~」

 

彼女は例え両家の後継者レースから外れたとしても、嶋田とクルシェフスキーの名を名乗れる。それ以外に名前はないのだから当然ではあったが、その二つの名前は政財界の間で大きな武器になるのだ

 

"あの嶋田"

 

"あのクルシェフスキー"

 

権力もその名も利用することができない立場にあるサクラであったが、その名を持つだけでなにもしなくても周りがちやほやしてくれる

自分はきっと名士に見初められるか、お飾りとして担ぎ上げられる。でも一生涯の生活の保証はされている。食いっぱぐれることも路頭に迷うこともない

それはある意味将来が約束されているのと同義であった

 

「あ、わたし、これからバイトがあるから、」

 

「ええーッ!別にいいじゃん、一日くらい」

 

「そういうわけにはいかないよ、だってさ、わたしは嶋田とクルシェフスキーの落ちこぼれだから、あんまり親に迷惑掛けられないんだ」

 

「サクラは真面目だね~。あたしだったらちょっとくらい自分の立場を利用しちゃうな~」

 

「あはは、」

 

無茶なことを言う友人に愛想笑いして別れたサクラはバイト先であるパン屋さんに着くと、手早く着替えてレジに立った

彼女の仕事は主にレジ打ちである。店としても空きのポジションが調度レジであったのと、サクラ自身レジ打ちがあっていたので、なんの不満もストレスもなく仕事をこなせていた

 

 

そんな感じでいつもと同じようにレジと向かい合っていた彼女の前に、意外な客が現れた

 

778 :二二三:2013/04/30(火) 01:25:10

「あっ!」

 

「……」

 

それは自分と同じく母親譲りの金髪を長く伸ばした少女、山本とヴェルガモン、二つの名を持つ幼馴染みであった

 

「いくら?」

 

「あ、は、はい120円になり」

 

「……楽しい?」

 

「え…」

 

「あんたさ…………………逃げてばっかりだよね…………」

 

「っっ!」

 

久しぶりに会う幼馴染みから掛けられたのは思いもよらぬキツい一言。昔は仲良しの親友でいつも一緒に遊んでいた少女はいま、冷たく醒めた目で自分を見つめている

 

「立派な騎士になるなんて口ばっかり……。」

 

幼馴染みの辛辣な言葉は矢継ぎ早に続く

 

「お母さんから逃げて、クルシェフスキーから逃げて、あんたに期待してた領民から逃げて、嶋田から逃げて…………その癖嶋田の姓を持つお父さんに泣き付いて……」

 

「……」

 

「挙げ句に自分からも逃げてる」

 

「っ…!」

 

「あんたさ……最低だよ」

 

そんなこと…………今さら言われなくてもわかってる……。全てから逃げ出して、目の前の幼馴染みと交わした「立派な騎士になる」という約束を反故にして破り捨て、親友を裏切ったのは自分だ

 

「ま、いいんだけどね……どうせあんた…………友達じゃないし……」

 

「……ひゃく、にじゅうえんに、なります」

 

絞り出せたのは親友だった少女への返事ではなくパンの値段であった

 

「……」

 

無言で代金を支払った少女は、そのまま一瞥する事もなく店から出ていった

 

残された彼女にバイトの先輩が気遣いの言葉をかけてくれる

 

 

親友だった少女からの絶縁ともとれる言葉を浴びせられたばかりの彼女は、ただ泣きそうな苦笑いを浮かべるので精一杯であった。

最終更新:2013年05月17日 21:48

 

 



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甘い話

 

 

甘い話

 

 

都内にある神聖ブリタニア帝国公館

 

 

「あ、シゲタロウさんですか?私です」

 

仕事の合間に私用の電話をかけているのは駐在武官のモニカ・クルシェフスキー

電話の相手は夫で仕事で遅くなる旨を伝える

 

〔そうか、いつも大変だな〕

 

「お仕事ですから。サクラは?」

 

〔いま昼寝してるよ。ああそれでね、サクラ、きょう幼稚園で「お菓子のトモダチ」から君に渡してくれってマシュマロを渡されたらしいんだ〕

 

「お菓子の友達……誰ですかそれ?」

 

聞き覚えのない名前に「娘の友達にそんな子いたかしら?」と悩んでいると秘書が入ってきた

 

「モニカ様、お紅茶が入りました」

 

「ありがとうございます。お砂糖などは自分で入れますのであなたも休憩してください」

 

「はっ、では失礼させていただきます」

 

秘書を下がらせた彼女は電話を耳に当てたまま砂糖の入った容器を開ける

 

〔どうしたの?〕

 

「何でもありません。秘書の方がお紅茶を煎れてくれただけです。それでいまの話ですけど、シゲタロウさんは「お菓子のトモダチ」が誰かご存知なのですか?」

 

〔いや知らないよ〕

 

開けた容器の中に刺されていた匙で砂糖を掬い紅茶に入れる

 

〔君にプレゼントくれた訳だから君に憧れてる子だとは思うけど、心当たりはないのかい?〕

 

モニカは神聖ブリタニア帝国力の象徴であるナイトオブラウンズの末席に座する女性である

そんな彼女に憧れを抱く日本人やブリタニア人の女の子は結構多いのだ

二杯目

 

「いいえ、私はお仕事の関係であまり幼稚園に迎えに行けませんから、サクラのお友達についてはシゲタロウさんの方がお詳しい筈ですが…」

 

三杯目

しかし公務の都合上娘を迎えにいけない日が多い彼女としては、そんな子どもたちと接する機会が少なく、必然的に夫の方が娘の友達に詳しいはずなのである

でも夫は知らないよという

 

「サクラはお菓子のトモダチのお名前知らないのですか?」

 

四杯目

 

〔聞いても「お菓子のトモダチ」としか言わないんだよ〕

 

「ひょっとして知らない大人の方では?」

 

五杯目

 

〔いや、そんな不審人物だとあの幼稚園には入れないよ。大体問題がありそうなら人物なら先生方から連絡が入ってるだろ…………あッ!〕

 

「ど、どうしたのですか?」

 

何かに気づいたのか、はっとした声をあげる夫に不安が沸き起こる

六杯目

 

〔あ、あいつかも、〕

 

「アイツって誰なんです?」

 

〔ほら、前に「視察」とかいってサクラの幼稚園に来たことあるだろ?君のこと「ボクのシンユウ、ボクのトモダチ」とかいってる〕

 

593 :名無しさん:2013/03/17(日) 17:14:42

 

「………」

 

思い出される傍迷惑な金星人の顔

ボクのトモダチ、ボクのトモダチ、と馴れ馴れしく付きまとってくる自称モニカのトモダチ

彼女がこの世で一番嫌っている男

七杯目

 

「ど、どうしてあの男とサクラが?」

 

〔わからない、また視察に行ったんじゃ…〕

 

「な、なにを呑気に構えてるんですか!!あの男が!あのキ◯◯イクラミジアがサクラと口を聞いたかも知れないのですよ?!」

 

〔お、落ち着いて落ち着いて、先生方から連絡もなかったし、送り迎えのSPからもそんな報告受けてないから、〕

 

「いいえあのダニなら!黄色ブドウ球菌なら誰にも気付かれないように近寄っても不思議じゃないんです!シゲタロウさんはあのエボラ菌の!あのQ熱の恐ろしさを知らないからそんな呑気にしていられるんです!」

 

八杯九杯十杯

 

〔モニカ!とにかく落ち着いて!〕

 

既に電話口から漏れる夫の声は聞こえていない

 

「あのボツリヌス菌!サクラに何かしたら絶対許さない!」

 

十一杯十二杯…

 

「フリーダムの一斉射撃で塵も遺さず消し飛ばしてやる…!」

 

子を持つ母は強い。普段あの男に抱いている言い知れない恐怖は娘が狙われているかも知れないという事実に、怒りと憎しみへと変化していく

極度の興奮状態に陥った彼女は匙を握りしめティーカップの中身をかき混ぜる

混ぜて混ぜて混ぜまくる

 

 

そして力一杯かき混ぜたティーカップを口許に運び、ぐいっと飲み干した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あま~~~~~ッッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

口に広がった砂糖その物の味か?今までのあの男への対応か?

モニカは「甘い!甘すぎたのです!」とただひたすらに怒り狂っていた

最終更新:2013年03月17日 22:37

 

 

 



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日高戦争から1年


194 :名無しさん:2013/03/07(木) 23:57:25
ネタ~
929氏のモニカさんと少佐の決戦1年後設定



 

 

 

 

194 :名無しさん:2013/03/07(木) 23:57:25

ネタ~

929氏のモニカさんと少佐の決戦1年後設定

 

 

 

日高戦争から1年

ナイトオブラウンズ末席に座する女性モニカ・クルシェフスキーは自宅である嶋田邸で暦を見つめていた

 

「早いものであれからもう1年か」

 

1年前、日本ブリタニア連合軍の前線司令官として自らKMFフリーダムを操り戦場を駆けたモニカは激戦の中で好敵手と出合い、討ち取っていた

今日はその好敵手の命日

 

「シゲタロウさん」

 

彼女は台所で朝飯を用意している夫を呼ぶ

結婚して何年にもなるのに一向に料理の腕が上達しないモニカに代わって彼が料理を作るのが嶋田家の日常

本当は嶋田邸で働く家政婦やモニカの実家から送られたメイドの仕事だが自分達で出来ることは自分達でするようにしているのである

 

「どうしたんだい?」

 

手を止めた彼が台所から顔を出す

 

「シゲタロウさん、明日お時間ありますか?」

 

「とくに用事はないから空いてるけど……なにか有るのか?」

 

「はい、もし宜しければ明日、私とシゲタロウさん。サクラの三人で高麗に行きませんか?」

 

「え?!こ、高麗に……?」

 

なにを言い出すんだコイツは?とでも言いたそうな夫

彼はあまり高麗に良い印象を持っていない

かくいうモニカも同じではあったが、彼女の場合あの戦場で戦った好敵手とその部下たちという例外を目の当たりにしていた為、少しは印象がマシになっていたのである

とはいっても「好き」にはなれそうにもないが

 

「実は、今日は以前話した好敵手の命日なんです」

 

「あ~、君が言ってた高麗首都防衛隊の」

 

1年前、戦後処理を終えて日本へ帰還したモニカは夫に高麗で戦った騎士の話をしていた

もちろん高麗人に彼女が話すような高潔な人がいたなど信じてくれなかったが

最後の最後まで首都に止まり、ブリタニアの戦女神と称されるナイトオブトゥエルブと戦った高麗軍人がいたらしいという噂を聞き最後は信じてくれたのだ

 

「ええ、その騎士と認めた好敵手の墓標に花を一輪添えたいと思いまして。シゲタロウさんとサクラには関係ありませんが、お付きあい頂けると幸いです」

 

「俺はいいよ。君が認めて君を相手に一歩も引かなかったのがどんな奴か見てみたいしね」

 

「ありがとうございます」

 

了承した夫はそのまま台所に戻ると朝食作りを再開する

 

「おか~たま~、おはよ~ございます~」

 

「おはようサクラ」

 

間延びした寝ぼけ声でやってきた娘に朝の挨拶をした彼女は、娘にも一緒に好敵手の墓参りに行ってくれないかと話し了承をもらったあと夫が作った朝食を口にした

最終更新:2013年03月16日 19:23

 



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クロス物

771 :二二三:2013/03/22(金) 15:54:23
じゃあクロスもの~
単なるネタ~
休日氏のモニカルート前提です~


 

クロス物

 

 

モニカは1ヶ月前、愛機フリーダムを整備に出した

最先端をぶっちぎっている第九世代機ともなれば整備できる国や施設は限られている。世界を見渡しても祖国ブリタニアか同盟国であり第二の故郷ともなった日本くらいだ

だが完璧を求めるなら日本一国に、それも彼女の専用機開発チームだけになる

つまりいま彼女の愛機は先進技術の研究をしている倉崎の、正確にはKMF開発主任の手の内にあった

その主任の手に渡ってから今日で1ヶ月になる

 

「長い……故障も不具合もないのに整備点検で1ヶ月もかかるの?」

 

不安になってきた、またフリーダムになにかされているのではないか?

まあわからないでもない。なにせ開発主任には前科がありすぎるのだ

 

「あの…」

 

「はっ、如何なさいましたか?」

 

どうしても気になったモニカは執務室で彼女の仕事を補佐している、トゥエルブ親衛隊副官に時間が空かないかと聞いてみた

 

「閣下のお時間ですか?」

 

「はい……その、そんなに長くなくていいのですが、できれば二時間くらい」

 

「二時間は充分長いと思われますが」

 

「あ、では一時間半で」

 

「閣下、昼休みではないのですから自重してください……というか昼休みより長いでしょう?」

 

基本的に昼休みは一時間、公館なのだから時間には正確を期すわけでそれ以上でも以下でもない。私用で一時間半も職場を離れるとなれば余程の事情がないと許可をもらえない

だが倉崎の研究所まで行って帰ってくるのを考慮すれば一時間半は欲しかった

 

「お願いします、どうしても気になることがあって仕事が手につきません」

 

実際彼女にしては仕事が捗ってないのは副官も気が付いていた

 

「どういう事情があるのですかな?」

 

「えっと、1ヶ月に私のフリーダムを整備に出したのはあなたもご存知ですよね?」

 

「ええまあ」

 

1ヶ月経ったいまも連絡がない。今まで何度か専用機に変な改造を施されたことがある。電話では不安なので直接確認にいきたい

等々理由を話した

 

「わかりました、では一時間半だけですよ」

 

理由を聞いた副官は一応私用での休憩を認めてくれた

気になって仕事にならないというなら心配事をなくさせた方がいいと判断したのである

 

「ありがとうございます」

 

「ただし遅れた場合、閣下には居残り作業してもらいますよ。おとがめなしでは下に示しが付きませんので」

 

「それは重々承知しています」

 

「では行ってらっしゃいませ」

 

772 :二二三:2013/03/22(金) 15:55:42

倉崎研究所

 

 

 

「主任、いいんですかこんなのを無断で取り付けて」

 

「大丈夫だ、モニカさんは僕という人間をわかっているからね。それにコレ、開発したはいいけど機体スペック的に第九世代機でしか運用できないからね、あいにく第九世代機はこのフリーダムだけだし」

 

主任が整備に時間をかけていたのはフリーダム用の新兵器を取り付けたり調整したりしていたからである。それもモニカに無断で

漸く完成をみたので今日にでも彼女に連絡を入れようと思っていたところだ

といった感じの主任の元へ黄緑色のマントを着用した女性がやってきた

 

「お?噂をすればなんとやらだな」

 

「主任さん、ごきげんよう」

 

「ごきげんようモニカさん、いま連絡を入れようと思っていたんですよ」

 

「それでは整備が終わったのですか?」

 

「もちろんです、整備も"取り付けも"終わりました」

 

「と、取り付け?!やっぱり、やっぱり変な改造をしていたのですね!!」

 

「失敬な!フリーダムを強化していたんです!それを変な改造とは……心外ですね」

 

「余計なことしないでください!」

 

また勝手にフリーダムを改造した主任に抗議したモニカはフリーダムの腕に連装式の砲身が付いているのを確認した

あれが取り付けた物なんだろう。見た感じスーパーヴァリスの砲身を短くしてサイズも小型化したような物であった

 

「………なんですか、あれ?」

 

恐る恐る聞いてみると「まずは……乗れ」などと言ってきた

 

「乗れって、パイロットスーツ持ってませんよ?」

 

「あれを撃ってもらうだけですから、そのままの服装で騎乗すればいいんです」

 

確かに操縦しないならパイロットスーツは必要ないだろう

言われるがままというのが癪にさわったが、あれがどういう物か確認しないと不安でならないモニカはマントを脱ぐと騎士服のままフリーダムに乗り込んだ

 

〔さあモニカさん、右腕を前方に向けてください〕

 

レバーを操作してフリーダムの右腕を前に向けた、ちょうど前方には分厚い装甲板が鎮座している

厚みからして戦艦の装甲に使われるような鉄板だ

 

「なにあれ?」

 

〔あれが標的ですよ〕

 

あれが標的?

 

「あんなのハドロンモードにしたスーパーヴァリスでしか破壊できませんよ?」

 

KMFで戦艦の装甲を貫こうなんて並大抵のことじゃない

しかし主任は「だ~いじょ~ぶ!」と自信満々でそのままレバーに付いているボタンを押せと指示してきた

 

「これを押せばいいのですね?」

 

〔そうです〕

 

言われるままに押してみる

すると……フリーダムの右腕についた連装砲身が光輝き、轟音を発しながら青と赤、二本の光線が螺旋状に絡まりながら前方に向かって射ち出された

 

「な、なにこれッ?!」

 

物凄い勢いで射ち出された青と赤の螺旋状光線は鎮座する装甲板にぶつかると、まるでプリンのように貫通させてしまった

モニカはその圧倒的な貫通力を見て呆然とする

 

〔フッフッフッ、これぞフリーダムの新たな秘密兵器クロスマッシャー!見ろ!装甲板が紙のようだァァ!〕

 

大喜びの主任に、よくわからないがまたトンデモ兵器を装備されてしまったことだけは理解したモニカであった

最終更新:2013年04月07日 11:14

 

 



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鳩「高麗は友人でトゥエルブは親友」

86 :二二三:2013/04/05(金) 02:05:19
929氏の最後の出撃の裏的なネタ~



 

 

鳩「高麗は友人でトゥエルブは親友」

 

 

東京都内にある公民党党本部では戦場からの生中継に騒然となっていた

 

「予想はしていたがこれほどとは……」

 

「我が国の持つ科学技術はたいしたものですなあ」

 

「感心してる場合か!我々の友好国が崩壊寸前なのだぞ?!」

 

祖国日本にとっては敵となった高麗だが、彼らにとってはアジアの友

無謀にも日本に宣戦布告したその友は風前の灯という有り様だった

テレビに映しだされた蒼空を思わせるカラーのKMFが、たった1騎で100騎以上の高麗軍KMFを撃墜しているのを嫌というほど見せ付けられている彼らのSAN値は急上昇中である

 

「時代遅れの第四世代機とは言え戦闘機まで撃墜しているぞ」

 

「あれはもう怪物だ」

 

「その怪物を作り出したのは我が国であることを忘れるなよ?」

 

日本人でありながら高麗軍を応援していた売国議員たちは味方のはずの同盟国ブリタニア高麗攻略軍司令官の一人、

ナイトオブトゥエルブモニカ・クルシェフスキーが操る蒼空のKMFフリーダムが見せた鬼神のような戦いぶりに言葉を失っていた

 

「しかし〈ラウンズの戦場に敗北は無い〉とはよく言ったものだ。あれが撃墜されるのは想像できん」

 

またもジェンシー、ガン・ルゥが十数騎まとめてスーパーヴァリスの餌食になっている

まったく抵抗らしい抵抗ができていない様子から、かの機体の動きが見えないのだろう

 

87 :二二三:2013/04/05(金) 02:06:28

「第九世代KMFフリーダムとナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーの組み合わせがここまで最悪な結果に結び付くとは思わなかった」

 

暗い目で画面を睨み付けているのは公民党代表剣尚人

世間では駄剣の渾名で呼ばれている彼にとって、金のなる木を潰すモニカは政敵枢木ゲンブと同じくらい気に食わない人間だ

 

「くそっこんな調子では高麗は愚か清まで無条件降伏だぞ!」

 

「なにがブリタニアの戦女神だ疫病神め!」

 

幹部たちも世界最強と謳われる自国製KMFフリーダムとそれを駆るモニカを口汚く罵っている

本来なら自分達の国を侵略してきた相手を撃墜するモニカは称賛されて然るべきであるにもかかわらず罵倒されるという、実におかしな構図ができあがっていた

 

「そもそも我らが頼りない友人たちはなにをトチ狂って日本侵攻などしてきたんだ?お陰でこっちは大口のスポンサーを2つ同時に失うことになってしまったではないか……」

 

などと言いつつシベリア戦争が順調に進みすぎたのが悪かったのは皆理解している。しかし現実を見たくないのか誰も口にしなかった

その代わりとしてモニカとフリーダムに不満をぶつけていたのである

 

「クルシェフスキーめ、小娘の分際で調子に乗りおって」

 

「剣代表、ここはクルシェフスキーのマイナスキャンペーンでも仕掛けますか?」

 

幹部の一人が進言する。相手が同盟国の人間だとかまるで考慮していない軽率な発言だが、ことこの場においては誰も咎める者はいない

 

「そうしたいのは山々だがやってしまえばクルシェフスキー侯爵家を丸ごと敵に回してしまう。それどころかあの悪魔の連れ合いまで敵になる

 今はまだ睨まれているだけで済んでいるが老いぼれとクルシェフスキーを同時に敵にすれば我が身の破滅だ」

 

遠回しにやる分には蜥蜴の尻尾切りで逃げ切れるがこのタイミングでやればほぼ確実に強制捜査の対象となる

剣尚人はそれがわからないような馬鹿ではなかった

それに彼が老いぼれと吐き捨てる人物を本気で怒らせるのは危険極まりない。それこそこの場にいる全員の首が物理的に飛びかねないのだ

クルシェフスキー侯爵家にしても同じだ。抜け道の用意がない状況であの大貴族相手に下手な行動は取れなかった

 

という具合に気力を奪われていく公民党一同

 

「わわわ、スゴいスゴいよ尚人くん!」

 

「……」

 

そんな中でただ一人だけがテレビに釘付けになっていた。それも称賛の雨霰である

 

「モニカちゃんカッコいいなあっ!ボクもアレに乗ってみたいなあっ!」

 

その男、公民党の中にあってなぜかモニカを持ち上げている

 

「鳩川さん、あなたこの状況がわかってるんですか?我々の友人たちがあの女に消されていってるのですよ?」

 

誰もが見ないように目を反らしているなか剣はその男、鳩川雪夫公民党幹事長に注意した。意外にも注意された彼の表情が政治家のそれに切り替わる

 

「剣代表、確かにあなたが言われるように友人たちが散っていくのは悲しい」

 

さっきまでのはしゃぎようが嘘みたいだ

 

「ですがそれを許すのが真の友愛精神なのです!ですから私はクルシェフスキー卿を許します、彼女もまた友愛精神を持つ我々の親友ではありませんかっ!」

 

(友愛精神の前に精神病院にでも行ってこいッ!)居合わせた一同の心の叫び

しかし友愛を語り始めた鳩川になにを言っても無駄である

諦めの境地に達した彼らは果てなく続く同志の電波に耳を塞いで堪えていた

最終更新:2013年05月14日 20:00

 



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皇暦20XX年

132 :二二三:2013/04/07(日) 01:51:19
空気の入れ替えでもしますか
普通に考えたらとっくに開通してるだろうけどそれはそれってことでネタを投下
休日氏のユフィルートが前提です~


 

 

 

皇暦20XX年

神聖ブリタニア帝国首都ペンドラゴン

 

 

世界最大の超大国を率いるには若干頼りない感じがする男、第99代皇帝オデュッセウス・ウ・ブリタニアは頭を悩ませていた

 

「う~ん、どうするべきかな」

 

原因となったのは彼が政務の息抜きにと行っているペンドラゴン市内の散歩の途上で聞いたある男たちの話

 

「はぁ、」

 

「どうしたよ?」

 

「ん?ああ、今月も赤字でな……」

 

なんでも彼は海運業を営んでいるらしく、ここ暫く赤字続きで従業員の給料も払えていないらしいのだ

要因はいくつかあった。彼が仕事を請け負っている元請けの子爵がカラレスという中堅貴族に仕事を奪われているため回ってこない

取り扱う品物が変わった

たまたま暇である

どれもが普通にあり得る話で、別段おかしなところはないようであった

しかし一番の要因はなんといっても輸送コスト。人件費+燃料費が馬鹿にならないくらい掛かるのだという

なにせ大西洋側から太平洋、とくに日本へ運ぶのに毎回南ブリタニア大陸の果てであるホーン岬を回らないと行けない

北ブリタニア大陸を出て南ブリタニア大陸を回り、また北ブリタニアまで戻って日本を目指す。こんな遠回りをしていたらいくら輸送費が掛かるかわからない

 

昔から海運業関係者を悩ませるこの遠回りなルートは弱小貴族やその傘下にある零細企業には負担が大きく、輸送コストがペイできないケースが度々発生していた

とくに中堅以上の貴族が横入りしてきた場合、弱小貴族は仕事その物を失い、彼らが養うべき家臣や領民に満足に食べさせることができなくなる為、社会問題にもなっているのである

無論不正競争は徹底して取り締まってはいたが、法の範囲内でやられるぶんには口出しができない

ただ、それを抜きにしてもやはり輸送コストがかかりすぎるのだ。これは早めに手を打たなければ物価の上昇にも繋がり国民生活に多大な悪影響を出してしまうことだろう

 

当然海運業者からもなんとかしてほしいと要望が出ていたが、如何に超大国ブリタニアといえど事は簡単ではなかった。なにせ要件を満たすためには大西洋と太平洋を物理的に繋げなければならないのだから

解決に必要なことはパッと思い浮かぶ。要は運河を開通させればそれで終わり。そんなことはわかっている

 

「だが運河を開通させるとなれば莫大な費用と時間がかかる」

 

ブリタニアは日本と並ぶ技術大国でもある。たかが運河一つ開通させるなど造作もない

問題はそれにかかる時間と費用だ。こればかりは右から左という訳にもいかずどうしたものかと頭を悩ませていたのである

そこで彼は誰かに相談してみることにした。一番に相談すべき人物はすぐ下の弟であるシュナイゼル・エル・ブリタニア

政治家としては非常に優秀で、どう考えても彼の方が皇帝に向いていると言える自慢の弟だ

しかし弟は海外に出向していて忙しいらしく、連絡が取れなかった

 

133 :二二三:2013/04/07(日) 01:52:46

皇族、それもブリタニアの宰相なんだからいついかなる時でも連絡を取れる状態にしておくべきなのにと思わなくもなかったが言ったところでどうしようもないと気持ちを切り替えた彼は、その次に頼りにしている弟に連絡を取ってみた

 

「もしもし、オデュッセウスですがいま少しだけ時間はありますか?」

 

〈これはお義兄さんじゃないですか、おひさしぶりです〉

 

弟といっても自分より年上で、父や叔父と同年代の義理の弟だ。妹ユーフェミア・リ・ブリタニアの夫である彼とは家族ぐるみの付き合いをしていることもあり時々相談ごとをしているのであった

血縁上は弟だが、実質頼れる兄という感じだ

早速市民の声を話、運河が必要であるとの結論に至った経緯を話す。もちろん時間と費用の問題も

 

〈即興で運河を開通させる方法ですか?〉

 

「私が即断すれば誰も文句は言えないのはわかっているのですが、権力を振りかざして言うことを聞かせるのはどうも性に合わないので……」

 

ブリタニアの皇帝がそれでは駄目だというのは理解していたが、やはりまだ皇帝となって日が浅いからかこれがいいと思ったことをそのまま実行に移せなかった

それも莫大な建設費用、国民の血税が使われるとなれば尚更だ。だからといって輸送コストが上がれば特定品目の値段も上がり、国民の生活に影響が出てしまう

当然ブリタニアの物を輸入している日本へも悪い方の影響が出て誰も得をしない

 

〈運河を開通させるとしたら中央ブリタニアのどこかですね。個人的にはパナマ辺りが最適ではないかと思うのですが〉

 

「パナマですか?」

 

確かに場所としては悪くない。あの辺りなら両大洋を隔てる陸地の幅も細く、工事費用も最小限に抑えられる

それでも決して安くはないし、工事費用をペイするまでにはかなりの月日を要するだろう。だからといって通行料を上げればなんのために運河を掘削するのかわからない

 

「いっそのこと土地を消し飛ばしてしまいたいですね」

 

〈ははは、いくらなんでも無茶ですよ。まさか運河掘削にフレイヤを使うわけにもいきませんし〉

 

〈シゲタロウ、フレイヤがどうかされたのですか?〉

 

電話越しに聞こえる妹の声。オデュッセウスは慈愛の皇女だとか呼ばれている妹の口から大量破壊兵器の名前が飛び出すのはいささか似合わないなと思った

 

〈ああちょっとね。オデュッセウス義兄さんとフレイヤの平和利用を考えていたんだよ〉

 

フレイヤの平和利用。義弟が言った何気無い一言に、それができれば素晴らしいことだなと思う平和主義者の彼は、後に世界中に運河を開通させたフレイヤ皇帝と呼ばれるようになるのであった

最終更新:2013年05月14日 20:17

 

 

 



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コードルーピー 友愛の雪夫

 

 

142 :二二三:2013/04/07(日) 13:55:58

コードルーピー 友愛の雪夫

 

 

皇暦2020年。大日本帝国第XX回衆議院総選挙において謎の大躍進を遂げた最大野党日本公民党は、衆議院単独3分の2という絶対的多数の議席を獲得

国民の支持を背景にした数々の夢見心地な政策を展開していった

子供手当て・年金保障の為の消費税15%アップ・最低賃金時給2000円

更に公民党初の総理大臣鳩川雪夫は「東シナ海を友愛の海にする!」と宣言、沖縄・台湾・海南島の戦力を5割削減してしまった

 

「平和を推進するのに軍事同盟は要らない!」

 

続いて彼が手をつけたのは日ブ相互補完条約内にある軍事条項の削除。友愛や平和を広める彼にとって、この軍事条項は邪魔であったのである

言うまでもなくブリタニア側は猛反発した。国家間の取り決めを、それも軍事同盟というもっとも重要な条項を、一方的に破棄するなど国際法的にも非常識極まりない

 

「いったいどういうつもりですか鳩川総理!納得のいくご説明を!」

 

在日ブリタニア大使コーネリアや駐在武官のモニカも、総理官邸に出向いて鳩川を睨み付けながら抗議した

 

「申し上げた通りです。友愛を広めるのに軍事同盟など必要ありません」

 

だが鳩川は友愛のために軍事同盟はいらないの一点張りでとりつく島もなかった

しかし本国では突如とした日本の暴挙に「清のような侵略戦争を始めるのではないか?」と不安の声が上がっているため引き下がれない

もし日本が戦争を始めればまともに渡り合えるのはブリタニアだけ、そのブリタニアも国土が灰塵に帰す可能性が極めて高く、日本相手の戦争などできるものではなかった。万一開戦となれば激戦の果てに両者共倒れ、何億という犠牲者が出てしまうのだから

無論のこと日本がブリタニア相手の侵略戦争などという愚かな行動に出るとは思わないが、絶対に大丈夫という保証はどこにもなかった。なにせ鳩川雪夫はブリタニアの皇族・貴族の間ではかなりの危険人物として知られている

とくに日本にいるコーネリア・ユーフェミア両皇女、ナイトオブトゥエルブモニカ、ブリタニアと親交の深い嶋田繁太郎を始めとした前時代の政治家たちは「あの男が政権を握れば日本、いや世界の終わりだ」と注意喚起していたほどだ

しかし帰ってきたのは非情な一言だった

 

「モニカちゃ……クルシェフスキー卿。コーネリア大使。貴女方は私のトモダチです」

 

「トモダチじゃない!」叫びたいのを我慢する二人に鳩川は言葉を続ける

 

「ですが!私の友愛道に立ち塞がるのなら容赦はしない!」

 

カッと見開かれた両目は目玉が飛び出しそうになっている。まるで宇宙人のようだ

 

結局一時間に渡る会談は両者物別れに終わるという無念の結果に終わった

 

 

翌日、世界中のトモダチが争い続けるのは、友愛精神が足りないからだ!と宣言した鳩川は、世界を友愛するために動き出す

 

「ボクは世界の全てを友愛する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやああああーーーッッッ!!!」

 

世界が友愛の炎に包まれるという最悪の光景を見て飛び起きたのは嶋田さんちのモニカさん

 

「あ、あれ……?」

 

麗らかな春の休日、ぼーっとしている内に眠ってしまったようだ

 

「よ、良かったぁ~、」

最終更新:2013年05月14日 20:20

 

 



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飛行服=パイロットスーツ=略してパイスーがおかしい件

165 :二二三:2013/04/09(火) 03:53:57
休日氏のいっくん話捏造~&甘い話に挑戦してみた~
付き合う前はこんなこともあったのかなと思った次第です~


 

 

飛行服=パイロットスーツ=略してパイスーがおかしい件

 

 

山本五十六という男がいる

ある世界では敵の奇襲を受けた末に戦死し、またある世界ではその途上で現れた人型の戦闘機ナイトメアフレームの介入で生き延びる

そしてこの世界の前世では、窓際に追いやられたと思えば逆に表舞台に返り咲いて海軍大臣を勤めたりと、数々の並行世界で数奇な運命を辿るおよそ普通とは縁遠い男

現世でもまた海軍から海軍大臣を経ているため普通とは言えない人生であった彼は、引退した今も時々海軍の観艦式に招待されたりしている

 

そんなある日の海軍のイベント、今回は同盟国のブリタニア海軍も特別参加していつも以上に盛り上がっていた場に彼の姿はあった

 

「なんであんなにカメラ持った男が多いんだ?」

 

山本の目につくカメラ小僧、小僧、小僧。海軍のイベントが人気あるのは確かだがそれにしてもカメラ小僧が多すぎる

 

「ああ、あの連中は艦艇の他に目的があるんですよ」

事情を知らない山本に、同じく招待されていた元部下の男が詳しい事情を話してくれた

 

「連中の目当てはグラウサム・ヴァルキリエですよ」

 

「グラウサム・ヴァルキリエ?」

 

「あ、ほらあれですよ」

 

元部下が指差す方向には薄いピンクの塗装を施されたヴィンセントが四騎、一糸乱れぬ編隊飛行をしている

 

「ほう、中々に見事だ。しかしあれは海軍機ではないだろう?」

 

「仰る通り海軍機ではありません。ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー卿の直属部隊です」

 

「なるほど、ラウンズの親衛隊か」

 

そうナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリーとその親衛隊グラウサム・ヴァルキリエである

 

「美人揃いの女性のみで編成された部隊です。早い話あのカメラ小僧たちの目的は彼女たちなわけですよ」

 

「そういうことか。呆れてものも言えんな」

 

予定の飛行を終えたグラウサム・ヴァルキリエは母艦であるブリタニア空母に戻らず、そのまま山本たちが乗っている揚陸艦に着艦してきた

観客へのサービスといったところか。普段あまり目にすることがないラウンズ親衛隊のKMFをここぞとばかりに撮影するカメラマンたちと、グラウサム・ヴァルキリエ自体が目当てのカメラ小僧

日本軍側への挨拶のために降りてくるパイロットたち

 

166 :二二三:2013/04/09(火) 03:55:14

「な、なんという破廉恥な格好をしとるんだ、」

 

始めてみたヴァルキリエ隊のパイロットスーツ姿に思わずツッコミを入れてしまう山本。まあ気持ちはわかる。なにせメンバー全員が胸元と腹部、太ももの部位が露出した紫と黒のハイレグ水着のような飛行服を着ているのだから

彼女たちは迎え入れる形となった艦長や乗組員と握手をしながら何やら言葉を交わしている

 

「まあブリタニアですからね。ほら、クルシェフスキー卿やアールストレイム卿の飛行服も結構露出部多いですし」

 

「確かにそうだが、それを考慮しても彼女たちのは破廉恥すぎ……?!」

 

山本は話の途中で言葉を切った。切らざるを得なかったのだ。カメラ小僧たちが炊くフラッシュの嵐のなかに知っている顔を見つけてしまったから

 

「どうされました?」

 

山本の視線の先を追う部下。そこには海風に煽られて靡く金色の長髪を手で押さえる女性がいた

 

「ああ、彼女は確かリーライナ・ヴェルガモンですね。ブラッドリー卿が不在の際は代わって部隊の指揮をとるグラウサム・ヴァルキリエの隊長みたいな人です」

 

「お、おかしなことを聞くが、彼女に双子の姉妹はおらんか?」

 

「いえ、そんな話は聞いたことないですね。彼女がどうかされましたか?」

 

「い、いや、知り合いと似ていたのでな……」

 

似ているどころかどう見ても本人である。

向こうもこちらに気付いたのか大きく目を見開いて驚いたあと、笑顔を浮かべながら手を振ってきた。だが振られた山本はというと、ふいっと視線をそらして無視

 

(あんな恥ずかしい格好をしとるあいつと手なんか振り合えるかっ!)

 

そんなことしたらカメラマンやカメラ小僧は一斉にフラッシュを炊くことだろう。そして翌日の週刊紙にあの恥ずかしい飛行服を着た彼女と並んで写真を掲載されてしまう

 

(しかし、あいつがナイトオブテンの親衛隊とは知らなかった。大使館の警備要員ではなかったのか?)

 

普段から二人で出掛けることは多いが仕事の話はあまりしないため彼女の事情を詳しく知らなかったのである

 

(まいったな、いくら友人とはいってもラウンズの親衛隊であれだけ人気があれば三流ゴシップ誌の記者が張り付いていてもおかしくはない)

 

万一あんな服装の彼女と親しげに話しているところを写真に撮られでもしたら、面白おかしく捏造した記事を書かれてしまう

 

(大体なんだあの飛行服はっ、破廉恥極まりないだろう!女性というのはもっと慎ましやかに奥ゆかしさを持ってだな……)

 

あれはないと考える自分が古いのか?露出過多な飛行服を採用しているブリタニアがおかしいのか?

頭を悩ませる山本の携帯がブルブルっと震えた

 

「誰だ」

 

取り出した携帯を開く。メールだ

 

 

From:リーライナ

 

Sub :コラ~ッ!

 

本文

 

コラ~ッ!無視するな~ッ!

 

 

「ぶッッ!」

 

「山本閣下?」

 

メール内容を読んで噎せる山本を元部下が変な顔をしてみていた

 

「い、いや、なんでもないんだ、」

 

メールを読んだ山本は彼女の方を向くと片手で「すまん」と謝罪した

最終更新:2013年05月14日 20:34

 

 



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休日世界の平和なユフィルートでもしサミットがあったとしたら

215 :二二三:2013/04/11(木) 21:29:26
アホネタブチコミ



 

休日世界の平和なユフィルートでもしサミットがあったとしたら

 

 

 

 

202X年度に行われる列強国のサミット

世界の平和と安定のため。はたまた自国有利にことを運ぶため。各国ともそれぞれの事情と思惑を抱えながら挑む国際会議

基本的に参加国は日・ブ・中・欧の4ヶ国。それいがいでは地域大国と認められた国家がオブザーバー的に参加するくらいである

今までオブザーバー参加したのは極東の準列強国である大清連邦

東南アジア諸国の年度ごとに決められた代表国

中東の盟主と目されている地域大国

そして謎に包まれた国オセアニア

毎年参加する訳ではないが、それぞれ諸地域に影響力を持つ国ばかりである

 

 

そして今年は世界のサクラダイト輸出枠を決める重要な年であるのと、ブリタニアと清の対欧州融和を図る会議も重なり、開かれた欧州サミットには諸地域の代表国全てが参加していた

 

無論反対の声も大きい

 

 

「主要国サミットは参加できない国を置き去りにして国際社会の問題を話し合う、列強クラブが馴れ合う秘密会談である」

 

毎回サミットを開くたびに開催国で行われるデモ

そこでの主張はこんな感じの不平等是正を謳う民主共和主義者の声が大半であった

もっとも、これらの声は殆どが反対のための反対であるため、各国とも取り合ってはいなかったが

 

だが今回だけはデモの赴きが少し違っていた

 

216 :二二三:2013/04/11(木) 21:30:31

 

「列強国高麗の参加しないサミットは無効だ~ッ!」

 

「高麗の力を怖れて高麗外しを行う4大国は考えを改めろ~ッ!」

 

そう、毎回必ずサミットに参加させてもらえない高麗共和国が声を張り上げてデモ行進していたのだ

日本やブリタニア辺りで開かれていれば入国もさせてもらえない彼ら高麗人は、今回比較的自由に出入国できる民主主義の国EUはフランスの首都パリに集結して己の主張を声高に叫んでいたのであった

 

当然パリ市民はいつもと違うサミット反対のデモに「高麗って列強国だったのか?」「さあ?」と首をかしげていたわけだが、破壊活動にでない以上、関係ないなと無視していた

しかし、彼らは次の瞬間、思わず「幻聴か?」と疑ってしまいそうになる、とある人物の声を耳にした

 

 

〔これで貴国も列強クラブの仲間入りですね〕

 

 

拡声器を使った大音量で流されるワンフレーズ

 

 

「お、おい、これって?!」

 

「う、嘘だろ?!これブリタニアのシュナイゼル皇子の声じゃないか!?」

 

 

無視していたパリ市民たちは思いもよらぬ人物の声に、デモ隊を振り返る。するとそこにはかつて高麗で開催された6カ国協議の1シーンを流す布で作られた映写機付き手製スクリーンが掲げられているではないか

態々こんなものを用意する高麗人にはあきれてしまうところであったが、それを感じさせない衝撃的映像であったのだ

 

 

〔これで貴国も列強クラブの仲間入りですね〕

 

 

よく見ればデモ隊は手に手にノートパソコンや携帯電話を持ち、繰返し同じ映像を流しているではないか

そしてある程度注目の目が集まったところで、拡声器の音量を最大にしたデモ隊のリーダーらしき男は大声で叫んだ

 

 

「平和を愛するEU国民、パリ市民の皆さん!いまお聴きに、そして目にされた事と思われますが、我が高麗共和国は、

世界一の超大国神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニア殿下から認められた世界で五番目の列強国なのです!

しかし、その他の列強4ヶ国はシュナイゼル殿下の言葉を無視して我が国をサミットから閉め出しています!これは我が国が参加することにより発言力が低下することを怖れた列強4ヶ国の陰謀なのです!」

 

 

故に高麗が参加しないサミットに正当性はない!

そう独自の主張を繰り返すデモ隊に、パリ市民は「シュナイゼル皇子が認めた以上高麗が閉め出されているのはおかしくないか?」と考え始めた

これに元々反主要国サミットを掲げていた民主共和主義者たちのグループが乗っかる

 

 

「皆さん、今ご覧になられたように主要国サミットは列強同士ですらまとまりを見せていません!五番目の列強国高麗を閉め出しているのが何よりの証拠ではないでしょうか!」

 

 

更に元より鬱憤晴らしをしたかった人間が加わる

 

 

「そうだそうだ!列強同士の仲よしクラブは直ぐ様中止しろ!」

 

「世界のことを4ヶ国だけで決めるな!」

 

 

こうして高麗デモ隊を切っ掛けにして行われたこの日のパリデモは、今まであった反主要国サミットデモを大きく上回る最大規模のデモへと発展していくのであった

 

 

「高麗民族の大勝利の日」

 

 

この日ソウルや平壌で流れたニュース速報には、そんな一文が付け加えられていたとかいないとか

最終更新:2013年05月14日 20:42

 

 



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バカ男爵の従者の心境

408 :二二三:2013/04/19(金) 01:59:16
休日氏の勘違いした田舎者でバカ男爵が話し掛けてた従者の心境を書いてみた~
なんか従者はモニカさんのこと知ってたみたいな感じを受けたので色々考えてたのかなと思ったもので
バカ男爵の従者と家の事情は勝手に作りました



 

 

バカ男爵の従者の心境

 

 

 

「俺は騎士侯とか武勲侯とは違う上級貴族なんだぞ」

 

「はい、その通りでございますねフランク様」

 

また始まったよ俺は偉い談義。こいつの凄いところは自分が高位貴族だと本気で信じているところだ

貴族ってのは上から順に

大公爵

公爵

侯爵

辺境伯

伯爵

子爵

男爵

騎士侯

武勲侯

となっていて、男爵なんぞ下の下だってのにやたらと大貴族大貴族と言って自慢してるから恥ずかしくてかなわない

すべての原因はこいつ専属の家庭教師にある。こいつの家庭教師はお世辞ばっか言う胡麻すり野郎で、こいつが小さい頃から変なことばかり吹き込んだせいで稀代のバカ貴族になってしまった

 

「坊っちゃまは大貴族でございます、将来は旦那様の後をお継ぎになられてロズベルト男爵家のご当主となられるのです」

 

「それは偉いのか?」

 

「もちろんでございます、なにせ騎士侯や武勲侯のような一代限りの爵位ではなく、永代の爵位でございますれば坊っちゃまは大貴族となります」

 

「そうか!俺は偉い大貴族なのか!」

 

こんな教育してりゃあバカにもなる

だいたい俺はこんなバカじゃなくて俺が行き倒れていたとき助けてくれた大恩ある先代のロズベルト男爵、旦那様にお仕えしようと仕官したってのに旦那様はもう歳だからって少し前に家督をバカに譲って引退するし最悪だよ

 

バカの自慢話はまだ続いてる。俺は10平方㎞の広大な領地と1500人の領民持った大貴族で日本の名士米内光政と懇意の仲だぁ~あ?

アホかこいつは?狭い領地とあの地方にしては多い程度の領民抱えてるだけだってのになにを威張ってるんだ

おまけに米内家が日本の名士?米内といえば日本の前世代の重鎮である嶋田卿や辻卿の不興を買って失脚したやつじゃないか。貴族ならまともな教育受けてりゃ子供でも知ってるようなことだぞ?どんな交友関係持ってるんだよこのバカは……

 

410 :二二三:2013/04/19(金) 02:02:35

「おっと」

 

あ、まずい。平民の女の子がバカにぶつかった

こいつバカでアホなくせして自尊心だけは人一倍強いんだよ。案の定小さい女の子相手に凄みをきかせてるし……

 

「貴族が歩いていたら平民は道を開けるのが礼儀だろう」

 

いつの時代の話してんだよ!?

確かにそういう風習や作法は今もあるっちゃあるが、今じゃ「平民を大事に」ってのが暗黙の了解になっててそんなこと強要する時代遅れはめったにいないぞ

これ、ほっといたらまずいよな?さすがにこんな往来で無茶やらかすことはないと思うが、バカに常識は通用しないし

 

「やめなさいっ!」

 

んで止めようとしたんだけど通り歩いてた人が代わりにバカを止めてくれた

おお、すっごい美人だ。前髪ぱっつんと切り揃えて身体の前に流した金色の髪の毛には赤いリボンをくるくるくる……あ、あれ?見たことあるぞこの人……

……

……

……

……

……

……

……

……

……

……

やっべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――ッッッッッッッ!!!

 

「こんな小さな女の子を泣かせたりして恥ずかしくないのですか!」

 

ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいィィィ!!!

ヤバすぎるって!!!

はい!もちろんあなた様の仰られる通ォォォォ―りでございますはい!

おいそこ!子供が悪いとか言うんじゃない!お前が悪いんだよ、百パーセントお前が悪い

たとえお前が正しくてもこの御方が仰られる以上お前が悪いんだよ

 

「よもやこの俺をフランク・ロズベルト男爵と知っての――」

 

この御方がお前のことなんか知るわけないだろっ、ってなんでお前はこの御方を知らないんだよ?!

 

だ、ダメだ、これ以上こいつに好き勝手喋らせていたらなにを言い出すかわからない、こいつがどうなろうが知ったことじゃないけど旦那様が悲しむし、旦那様にもとばっちりが行きかねない

こいつの従者である俺もヤバいし

 

「も、もうやめましょうフランク様!子供にぶつかられたくらいでお怒りになるなど貴族のすることではございません!」

 

本当はこの場ですぐ土下座させたかったが、このバカがこの御方を知らない以上またとんでもないこと言い出すかも知れない。となればここはこの場を去るのが正解だ

バカも引き下がる気になったのはいいが、この御方の名前、"モニカ・クルシェフスキー"を聞いてもわからないみたいで、どこの田舎者だ?とかほざいている

田舎者はお前だよ!というかもうなにも言うな!

 

「口の聞き方に気を付けろよ」

 

お前が気を付けろバカ!クルシェフスキー卿に向かって下級貴族とか言ってるし、もういやだ、こんなバカに付き合って俺まで無礼討ちにされたくない!

貴族だからといって無闇に権力を振り回すのはよくないと諭してくださるクルシェフスキー卿にバカは騎士侯風情がとか返してる……

そこでやっとのこと歩き出したバカの後ろに付いていきながら後ろを振り返った俺は何度も何度も頭を下げた

バカですみません、バカですみません

 

 

 

「フ、フランク様、よくお堪えになられましたね、」

 

「あんな下級貴族相手に本気になるような小者ではないからな」

 

いい加減にしろよこのバカ!お前が下級貴族なんだよ!

しかしなんにもわかってないバカは俺が小心者だのクルシェフスキー卿を騎士侯風情だの言いたい放題

 

わかってんのか?お前が喧嘩を売ったのはナイトオブラウンズでクルシェフスキー侯爵家のご令嬢なんだぞ?ロズベルト男爵家なんかいつでも潰せる正真正銘の大貴族なんだぞ。バカなの?死ぬの?

 

それとな、勘違いした田舎者はお前だから

 

 

とにかく旦那様へ報告しないと。そのあとはクルシェフスキー卿と侯爵家に謝罪だ

ああ、頭が痛い……

最終更新:2013年05月15日 20:34

 

 

 



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「日高戦争の伝説」

562 :二二三:2013/04/22(月) 21:45:26
ちょっと書いてみたよ



 

 

「日高戦争の伝説」

 

 

日高戦争末期、少佐率いる首都防衛隊は日ブ連合高麗方面軍司令官モニカ・クルシェフスキー、及びナイトオブトゥエルブ親衛隊と激戦を繰り広げていた

 

「ブリタニアの戦女神の親衛隊数騎は撃破したが……やはり、戦女神には届かなかったか……」

 

首都防衛隊もその殆どがモニカ騎乗の第九世代KMFフリーダムに撃墜され、かろうじて少佐一人が渡り合えている状況

超人的な身体能力と天才的KMF操縦能力、そして少佐のみが操れる合衆国という国よりもたらされた第七世代KMFガイストの性能。これらが合わさることによりなんとか渡り合うことが出来ていたのだが、それももう限界であった

 

(私は祖国を守れたのだろうか……義父さん……義母さん……部隊のみんな……)

 

ガイストの目前に迫るフリーダム。その手には絶大な破壊力を誇るスーパーヴァリスがフルバーストの体勢で構えられていた

死を目前にした少佐の脳裏に義父と義母、首都防衛隊の仲間たちの顔が浮かび上がる

走馬灯というものだろう。死の間際にある一瞬が永遠にも感じる時間

 

(兄………さん………)

 

そして最後に浮かんだのは、自分を嫌い蔑む肉親の顔

 

(貴方と………わかり……合いたかった………)

 

幼き時に生き別れとなり、再開後はわかり合うことが出来なかった、血をわけし双子の兄

彼が唯一心残りだったのは、その兄と和解することが出来なかったことだ

 

(次に、生まれ変わったときは、貴方と仲の良い、兄弟に……)

 

フリーダムのフルバーストモードのスーパーヴァリスが

 

 

火を噴き

 

 

 

少佐は

 

 

 

遠き

 

 

 

旅に

 

 

 

 

 

出る

 

 

 

 

 

はずであった

 

563 :二二三:2013/04/22(月) 21:46:41

 

「えッ!新手!?」

 

最後に残った高麗の騎士との激闘に終止符を打つべくスーパーヴァリスフルバーストモードでの攻撃に移る瞬間、フリーダムのコックピットに警報が鳴り響く

 

敵機の接近を告げる警告音とそれを物語るように現れたレーダーの光点

 

「くッ!」

 

一旦攻撃を中断したモニカがフリーダムのエナジーウィングを広げ、上空へと逃れたと同時に今までいた場所に追い詰めた騎士のKMFと同型のKMFが現れた

 

 

 

 

「久方ぶりですね」

 

現れたKMFガイストから少佐ガイストへと通信が入る、その声を聞いた少佐は叫んだ目を見開いて叫んだ

 

「あ、姉上ッッ!」

 

双子の兄、大佐の妻

 

「なんという無様な姿をさらしているのですか?」

 

義姉より飛ぶ叱責

 

「それでも貴方はあの方の弟なのですか」

 

普段から少佐を意味嫌う大佐。少佐はその妻である彼女にもよく思われてはいなかった

だが、少佐を彼女は助けた

 

 

「勘違いなさらないよう願います。私は貴方を助けたのではありません」

 

 

しかし彼女は少佐を助けたのではないと言い放つ

 

 

「私は……あの方の血をわけし弟を助けたのです」

 

「あね………うえ……」

 

 

フッと笑った大佐の妻は、上空より自分と弟を見下ろすフリーダムへと目を移し、高らかに宣言した

 

 

「さあ、ブリタニアの戦女神!これよりは不出来な義弟に代わり、姉であるこの私が相手となりましょう!」

 

 

フリーダムへと掲げられたガイストの銃口

 

 

(強い……!)

 

 

モニカがフリーダムのコックピットで感じたのは今まで戦っていた騎士を遥かに超えたプレッシャー

 

 

(ラウンズ……いえ、それ以上……!)

 

 

モニカもまた妻のガイストにプレッシャーを放つ

互いの思いはひとつ、相手にとって不足なし

 

 

 

 

「「いざ!尋常に勝負ッッ!!」」

 

 

 

 

 

この日、高麗首都中心部にて繰り広げられた2騎のKMFの決闘は、都市部を含めた周囲数キロを更地に変えてしまうほど激しく、そして華麗な戦女神たちの舞であったと後の世には伝えられている

最終更新:2013年05月15日 20:52

 

 



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第三皇女とヤン僧のケンカ

752 :二二三:2013/04/29(月) 18:39:39
ユフィの話が少ないというレスにお応えしてじゃあちょっとユフィの話でも書いてみようかと思い書いてみた~


 

 

 

 

第三皇女とヤン僧のケンカ

 

 

 

 

人型自在戦闘装甲騎ナイトメアフレーム。通称KMF

戦車に代わる画期的な陸上戦闘装甲兵器として開発されたこのロボットは、軍事用の兵器としての使用に留まらず、警察・民間警備会社・建築業・港湾作業等、幅広い場所で活躍中の現代社会には欠かせない存在となっていた

だが、こうして便利な労働力として重宝されているKMFにはその反面、悪事に利用されたり、ただのケンカを大掛かりなものにしてしまうというマイナスの要素も持っている

 

 

 

大日本帝国帝都東京

 

 

〔なんだこらァ!〕

 

〔やんのか!あァッ?!〕

 

東京のど真ん中にある工事現場前で、二機の作業用KMFがにらみ合いをしていた

その二機は外との意思疏通をしやすいようにし作業をスムーズに進めるため取り付けられていた外部スピーカー越しに、互いを威嚇するような怒声の応酬を繰り広げている

 

機種は共に倉崎重工製作業用KMF無頼。元は軍事用の第四世代機として開発されていたこの機種も最早時代遅れの品となり、現在では民間業者が使用するだけ

それ故、KMFを使用した揉め事ではもっとも多い機種であり年間最多を更新中な名前通り無頼の輩となってしまっていたのだ

 

「あの」

 

そんな二機が怒鳴りあっている工事現場の前を通りかかったのは、ピンク色の髪を頭の後ろでポニーテールに纏め、ひらひらの羽付きタイトスカートを履いた女性

 

「な、なんだ、あんたっ?!」

 

騒ぎが気になり、二機の様子をハラハラと見守るだけでいた番頭は、声をかけてきた女性を見てギョッと驚き後ずさった。まあそれも無理からぬ事である

なにせ女性は顔からはみ出るサイズの合わない大きなサングラスと、これまた大きな白マスクをかけていたのだから

服装とサングラスとマスク、恐ろしいほどチグハグな格好をした抜群の怪しさを誇る女性はどう見ても即通報されるような不審人物である

 

(なんだよコイツ、やべーよ、)

 

「なにがあったのですか?」

 

「え、ええ、実は作業中にあの二機の肩がぶつかりまして、どっちが先にぶつかっただの、謝れだので揉めてるんですよ」

 

「警察の方には通報なされないのですか?」

 

「しましたよ、ただ別の場所でも似たようなトラブルが起こっているのと、この連休中の渋滞で到着が遅れてるんです」

 

かいつまんで説明すると、隣通しで作業していた土方の若い衆二人のKMFがぶつかって取っ組み合いのケンカを始めたのだ

 

「止めようにもKMFの操縦免許持ってるのが他にいなくて……」

 

753 :二二三:2013/04/29(月) 18:41:15

KMF同士のケンカに生身で仲裁に入るのは走っている車に体当たりするのと同じだ。まず確実に大ケガをするし、下手をすれば死ぬことだってあり得るのだから、止めようと思っても止められない

 

「ですが、このままでは双方ともに大ケガをしてしまいますし、通行人の方にも御迷惑がかかります」

 

「そんなこと言ったって無理なものは無理だ!巻き込まれてケガしたり、死人が出たりしたらあんた責任取れんのかっ!?」

 

止めろと言うのは簡単だ。だが、手段がないのだからどうしようもない。空いている無頼もあるにはあるが、操縦できなければ鉄の置物である。すると、そこまで聞いた女性がとんでもないことを言い出した

 

「わかりました!ならばわたくしが止めに入ります!」

 

現場監督・番頭を含め、誰にも止めることができないのなら、代わりに自分がケンカの仲裁に入るというのだ

 

「はあっ!?あんたが止めに入るだって?!」

 

番頭の男は無茶を言う女性の頭から足の先までまじまじと見る。

そして直ぐ様結論を出した。無理

 

「そんな細っこい身体で土方の若い衆二人を相手取るなんて無理だ、それでもし部外者のあんたにケガでもされたら俺の責任になっちまう」

 

「それではどうなさるおつもりなのですか」

 

「警察来るまで放置だ、誰にも止める手段がない以上俺の責任を追求されることもないからな」

 

番頭的には止めたいけど止められないで済ませるつもりなのだ。事なかれ主義ではあったが、手立てがないのなら致し方ない

しかし、そんな彼に対して女性の方はというと

 

「もういいです!おどきなさいっ!」

 

「お、おい、なにす――!」

 

責任者の責任放棄に我慢できずに彼を押し退け、空いている無頼に勝手に乗り込んでしまったのだ

 

754 :二二三:2013/04/29(月) 18:42:53

〔大体お前は前から気に入らなかったんだよ、後輩の癖して挨拶はしねェ、敬語は使わねェ、ざけてんじゃねェゾ!!〕

 

殴りかかる無頼Aの拳を受け止める無頼B

 

〔先輩風吹かしてんじゃねェよ!年下の分際で半年先に入ったからって調子こいてんじゃねーッ!〕

 

受け止めた無頼Bが力任せに無頼Aを押し返す

同レベルの技量を持つ二人はさながら子供のケンカのようにどつき合いをしていた

 

〔おやめなさいッ!〕

 

そんな二人の無頼ABに割って入ったのは女性が駆る無頼C

 

〔んだぁ~~?〕

 

〔誰よてめェ?〕

 

見知らぬ女性の声に無頼ABは掴み合いを中断して振り返る

 

〔現場の皆さんや通行人の方々の御迷惑になるでしょう!そんなにケンカをなさりたいのならKMFから降りて素手でケンカをなさい!〕

 

そんなにケンカをやりたいならKMFに乗って周囲に迷惑をかけながらするのではなく隅っこの方で素手でやれ

至極普通な事を言っているつもりの女性だったが、まずケンカをするなと言わない辺り、徹底した実力主義の中で生きてきたことを窺わせる発言だ

そして、こうした物言いをされたら反発するのが彼等だった。ある意味両者は近いのかも知れない

 

〔ああ?うっせぇよ糞アマっ!てめ、どこ中?〕

 

〔いっちょ前に指図してんじゃねーよブスが!〕

 

〔んなっ!?〕

 

若い時分、いや今でも充分若いが、ケンカに明け暮れていた無頼ABの作業員は、挨拶代わりとでもいうような暴言を無頼Cの女性に浴びせかけた

彼らにとっては日常的に用いられていた言葉であったが、実力主義社会の中で育ちながらもお上品な世界で過ごしてきた女性には無縁のその言葉は深く深く突き刺さる言葉であった

 

〔ブ、ブス……そ、それは……わたくしのこと?〕

 

〔お前以外に誰が居んだよこのブスがっ、〕

 

無頼Aの男が断言する、お前はブスだと

彼女は決して自分が美人だとは考えていない。自分的には普通だと考えている。あまり見かけの美醜を気にしない彼女としては、自分が美人じゃないと言われる分には気にならなかった

といっても、人に尋ねれば十人が十人美人だと答えるであろうが

 

しかし、そんな彼女でも女性として"ブス"だと言われればさすがにショックを受けるというもの。万国共通で女性に"ブス"という言葉は禁句なのである

 

 

 

 

〔ふ、ふふ、わかりました〕

 

〔お前がブスだってことをか?〕

 

ぎゃははと笑う無頼B。ああ、うるさい、早く黙らせたい。暗い感情が沸々と込み上げてくる

 

〔いいえ……〕

 

女性は一度大きく深呼吸して操縦桿を握り締めた。細い手で力の限り握り締めているからか、ギリギリと軋み音がなっている

 

〔口で言ってもわからない方には、実力行使を行うしかないということがです!〕

 

口では建前を述べているが、内心ブスと言われて切れてしまった女性は無頼Cのランドスピナーを全速回転させて無頼ABに急接近

 

〔うおッ!速ェェ?!〕

 

〔そのようなこと、お父様にもお姉様にも――!〕

 

女性叫びながら無頼Cの腕を大きく振りかぶり

 

〔シゲタロウにも言われたことありませんのにーーーッッ!!〕

 

そのまま無頼Aを思い切り殴り付けた

 

 

 

「なにがわたくしが止めるだあの女!一緒になってケンカ始めてるじゃねーか!!」

 

現場監督と番頭は頭を抱えて叫ぶ、二機のケンカでもどうしようもないというのに、三機でどつき合いを始めてしまったのだ

 

〔このドブスがぁぁ!!〕

 

〔ド?!ドをつけたわねドをッ〕

 

もう許さないと殴りかかる女性騎乗の無頼C

やがて本格的なKMF操縦訓練を受けてきた女性と、作業用の資格と訓練しかしていない作業員たちの差が表れ、最終的に立っていたのは女性であった

 

 

 

そのあと、女性――神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアは、昼の休憩を一人で自由に過ごしたいからと護衛を振り切った挙げ句、工事現場の土方二人とKMFでどつき合いした事を姉のコーネリアやダールトン将軍からキツく叱られ、

婚約者の嶋田からも二三お小言をいただくという、散々な結果となってしまった

 

なお、ユーフェミアとケンカしたヤン僧たちや、現場監督・番頭は、後で円い大きなサングラスとマスクをした女性が誰であったのか知らされる訳だが……。

最終更新:2013年05月17日 21:47

 

 



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俺はオリ主なんだ!

993 :二二三:2013/05/04(土) 00:19:55
休日日本ユフィルート前提で、アッシュフォード日本高の生徒に憑依した男の話~
埋め立て用のくだらない短文ネタ~


 

 

俺はオリ主なんだ!

 

 

 

コードギアスというアニメがある。舞台は現実とは違う異世界の日本とアメリカ大陸にある架空の国、神聖ブリタニア帝国

そのブリタニアの皇帝に放逐された皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが歩む反逆の物語だ

 

個人的にだがこのアニメは一番のお気に入りだったりする。理由はルルーシュの妹ナナリーが好きだから

ふわふわした茶色の髪の毛、小柄な体躯、愛らしく穏やかな容姿、全部が俺好みな美少女なんだよ

 

で、このナナリーはルルーシュと一緒に人質という名目で送られた日本で静かな生活を送るわけだが、よりにもよってそれをした張本人シャルルが嘘のない世界を作る計画のために日本へと軍事侵攻してエリア11にしちまうんだ

お陰で平穏に暮らしていたルルーシュとナナリーは身を隠して生きざるを得ない状況に置かれ、ルルーシュは原因を作った父シャルルとブリタニアに激しい憎悪を抱くようになる

2010年にブリタニアの日本侵攻が始まり、日本という国は名前を奪われてエリア11になる。そして日本人はイレヴンと呼ばれ差別される最底辺の存在に貶められる訳だ

 

俺はナナリーは好きだがこのブリタニアという国は大嫌いだった。日本を占領して植民地にするような国を好きになれる筈がないだろ

 

 

そしてどうやら俺は憑依転生をしてしまったらしい、ついさっきまで自分の部屋でコードギアスを見ていたのに、気が付いてみたらアッシュフォード学園高等部の制服を着て、学園の敷地内に立っていた

 

「オリ主ってやつか!」

 

やった最高だぜ!となれば早速ナナリーに会いに行こう!

できればユフィにもフラグを立ててスザクから奪ってやりたいとこだが、既にウザクとデキてたら付け入る隙はないからな。てか、ウザクの身体能力考えたら奴を敵に回すのは危険極まりない

ま、俺はナナリー一筋だからウザクなんか関係ないけど

 

とにかく待っててくれナナリー!君の未来の旦那がいまいくからな!

 

93 :二二三:2013/05/04(土) 19:57:24

試行錯誤して書いてたゲスモブネタ完成~投下~

 

前スレ埋め立て用に10分くらいで書いた休日日本ユフィルート前提で、アッシュフォード日本高の生徒に憑依した男の話~

 

 

 

「俺はオリ主なんだ」改め、「いいや君は単なるゲスモブだよ」

 

 

早速ナナリーを探し始めた俺は学園の中庭まで来たところで見てはならない物を見てしまった

 

「な、な、あれはッ」

 

白髪を特徴的な巻き上げ髪にした日本ではまず見ることがない豪奢な髪型のオヤジ。服装はグレーのスーツを着ているが、あれは間違いなくブリタニア皇帝シャルル

 

「おい、そこの!」

 

この学園にはあり得ない人間の姿を見ながら立ち尽くしていると、警備員か教員か知らないけど男が声をかけてきた

 

「こんなところで何をやってるんだ。もう授業始まってるぞ?早く教室に戻りなさい」

 

「す、すみません、」

 

どうやら教員みたいだな。怪しまれないようにペコペコ頭を下げた俺がもう一度中庭を見ると、そこには誰もいなかった

 

 

一方、中庭の偉人は

 

「ええいっはなせ!儂を誰だと思っとるのだ!」

 

「神聖ブリタニア帝国第98代皇帝陛下ですな。あいにくとマリアンヌ様とシュナイゼル様から当学園の方に連絡が入っておりまして、陛下のお姿をお見かけ次第至急取り抑えるようにと仰せつかっております

 また枢木総理との首脳会談を終えたその足で抜け出してきたのでしょうが残念でしたな」

 

「貴様らには愛する我が子の授業風景を見たいという親の気持ちが分からんのくわぁぁぁ!」

 

「お連れしなさい」

 

「了解しました」

 

駆け付けた警備員と教員に取り抑えられていた

 

94 :二二三:2013/05/04(土) 19:59:03

くそっなんで皇帝が日本に来てるんだっやつが来るのはR2の後半になってからだろっ、まだ学園が普通にある以上R2のフレイヤ弾投下までいってないはずだ

大体オリ主がやってくるのは無印の始め頃と相場が決まってんだから確認するまでもないってのに……

 

そこまで考えて気付いたのはあのシャルルに護衛らしい護衛が着いてなかったこと。いくら安全でも皇帝に護衛がいないなんて普通に考えたらおかしい

 

「そうかっ、あれは皇帝の偽者かなにかだな!」

 

そうに違いない。なんであんな偽者を用意する必要があるのかは知らないが何か企んでいるのかも

 

もしそうならルルーシュとナナリーが危ないな。早く合流して皇帝の偽者に監視されていることを二人に伝えねば

ほんとは授業なんか出ている暇はないがこの時間ルルーシュも授業中だから、素早く合流するには俺も授業に出る必要がある訳だが俺は自分の教室がどこか分からない

 

「困ったな、こんなところでのんびりしている暇はないってのに」

 

でもその心配は必要なかった

 

「キミ!休憩時間はとうに終わっているぞ!」

 

また教員に注意されたのだ。まあ休憩時間でもないのに教室の外をうろついていれば怒られて当然か。でもま好都合だ

 

「あの……、すみません、この学園って広いから自分の教室がどこかわからなくなってしまいまして」

 

「教室がわからない?」

 

正直に話すと怪しい人物と疑われてそのまま職員室に連れていかれたのだが、学園の制服を着ていたのと生徒名簿に名前が記載されていたお陰で事なきを得、クラスの場所もすぐに判明した

どうやら俺はルルーシュとはクラスメイトのようだ。さすがはオリ主といったとこだな

 

95 :二二三:2013/05/04(土) 20:00:43

無事教室に着いた俺は担任の先生に注意されたあと席に着いた

 

(あれは日本人か?)

 

教室には日本人と思わしき生徒が何人かいて、教師の話を聞きながら熱心にノートをとっている

 

(裏切り者が)

 

ブリタニアの植民地になった日本で教育を受けている=名誉ブリタニア人

つまり日本人としての誇りを失った非国民

俺がウザクを嫌いな一番の理由は、親を殺した死にたがりの癖に名誉ブリタニア人になった裏切り者だからだ

それからも裏切りに次ぐ裏切りを繰り返している。日本を裏切り、皇帝を裏切り、ラウンズを裏切り、ナナリーをも裏切った正に裏切りの騎士

あんなやつにナナリーが好意を寄せていたのが信じられないしムカつく

 

ウザクほどじゃないけど、この教室にいる名誉ブリタニア人も見ていて吐き気がするんだよ

 

「皇歴1…年……ブリタニアと日本は……条約を……以後両国は……そして現在………」

 

ブリタニアの歴史を教えているみたいだけど、まったく興味がない俺は初っぱなから授業内容を聞いていなかった。日本人から何もかも奪い取ったブリタニアの歴史なんぞ覚える価値もない

 

 

 

授業が終わり放課後を迎えた訳だが、これからルルーシュには生徒会があるから接触が難しい、ではクラブハウスに行くにはどうすればいい?

原作では部外者はめったに行くことがない場所みたいだったから正直言えば足を踏み入れにくいんだ

しかしナナリーに会うためには行くしかない

 

「そうだな、生徒会に用があって訪れたら偶然会ったという感じでいくか」

 

 

 

結果的にこの試みは無用のものとなった。どうしてかというとナナリーが中庭にいたからだ。原作と同じく車椅子を使用しているところからして目もやはり見えないみたいだな

車椅子を牽いているのも原作同様、篠崎流忍術伝承者の篠崎咲世子さん。うむ、咲世子さん美人だ。オリ主である俺なら上手くすれば彼女にもフラグが立つかもしれない。ここはナナリーを本妻にして咲世子さんを愛人にするのもアリか?

 

とりあえずは声をかけてみよう。ナナリーなら見知らぬ男に声をかけられても普通に話をしてくれる筈。ただ警戒心が強い咲世子さんには要注意だな。変に疑いを持たれたらこの先ナナリーに会うのにも支障が出るし

 

そして俺は歩を進める。未来の嫁の元へと

 

96 :二二三:2013/05/04(土) 20:03:03

「あ、あの、」

 

「はい?」

 

「……」

 

だけどいざナナリーに話しかけたら声が上ずってしまった。案の定ナナリーの方は不審な目を向けてくることはなかったけど、咲世子さんが警戒している

 

こ、怖い、これが本物の忍者ってやつか?

けどここで怯んでいたらナナリーにフラグを立てるどころじゃない。大体俺はオリ主なんだから、もっと堂々とすべきだろ?

 

「あの~私に何かご用ですか?」

 

ナナリーを見ると目に包帯を巻いていた。目が見えないのは知ってるけど包帯をしてるのは穏やかじゃないな。何かあったのだろうか

 

「ナナリー様に御用件があれば私が窺いますが?」

 

いつまでも話さない俺に咲世子さんが進み出る、明らかにナナリーを庇うような体勢だ

 

「い、いやっあの俺はっ」

 

これはマズイと思った俺が予定通りの話をしようと口を開きかけたときだ

 

「お待たせナナリー!」

 

爽やかな好青年よろしく裏切りのウザクがやってきた

 

「スザクさんこんにちは」

 

後ろから聞こえた爽やかな声にナナリーは花がほころぶような微笑みを浮かべた。やめろナナリー!夫である俺以外に、とくにウザクなんかにそんな顔を見せるな!

 

「あれ、○○くんじゃないか」

 

するとウザクは俺の名前を口にした。なんでコイツが俺の名前を知ってるんだよ

 

「スザクさんはこちらの方お知り合いなのですか?」

 

「うん、クラスメイトだよ」

 

クラスメイト?ウザクと俺がクラスメイトだと!

確かにルルーシュとも同じクラスだからコイツも同じになる訳だが、嫌いなせいかすっかり抜け落ちていた

 

「○○くん、ナナリーに何か用でもあるのかい?」

 

うるさい話しかけてくるな!旦那が嫁に話しかけるのに理由なんか要らないだろーが!

 

「と、とくに用がある訳じゃないんだけど、ランペルージさんが……」

 

「ランペルージ?」

 

し、しまった、ムカつくあまりにナナリーを知らないはずの俺が名字を口にしてしまった!

 

「あの、人違いではないでしょうか?」

 

人違い?あせる俺はナナリーの口から飛び出た言葉に疑問を覚えた

ナナリーは今ブリタニアから身を隠して生きている。だから今の名前はナナリー・ランペルージで合ってる筈だ、なのに人違いって……

 

「あの~私はナナリー・ヴィ・ブリタニアです。ランペルージさんという方とお間違えなのではないですか?」

 

「はっ?」

 

ま、待てよナナリーっ!何でキミがその名を名乗ってるんだ!

 

「ははは、キミがそんな冗談を言う人だとは知らなかったな」

 

「えっ冗談だったのですか?」

 

「当たり前じゃないか。このアッシュフォード学園でキミと他の誰かを間違えるなんてあると思うかい?

ああそうだナナリー、さっき陛下が御越しになられてたよ」

 

な…に……?

 

「ナナリーはやらぬぞって怒鳴られたよ……」

 

「まあ、またお父様がそのように失礼なことを……」

 

なに…言ってんだ…?

 

「でもナナリーの騎士にっていうのは認めてくれてる筈なんだ。僕にナナリーを守る為に必要ならワシを殴れるかって聞いてくださるくらいだからね。もちろんナナリーの為ならたとえシャルル陛下が相手でも殴れると答えたよ」

 

「ス、スザクさん……、」

 

ナナリーの騎士…だと?

それにコイツの目……好きな女を見る目だ……

何でだ…?

何でウザクがナナリーの騎士になるとか言ってそんな目でナナリーをっ……俺の嫁を見ていやがるんだよっ!

 

〔違うっ違うだろッお前がなるのはユフィの騎士だろッなんでお前が俺の嫁を寝盗ってやがるんだッッ〕

 

怒りのあまりに口を突いて出そうになった罵詈雑言を寸でのところで我慢した俺は、もう見るに耐えられないウザクと嫁ののろけにその場から逃げ出していた

 

97 :二二三:2013/05/04(土) 20:05:25

「あっ○○さん!」

 

突然走り出した彼を見たナナリーは、引き留めようとして声をかけるも聞こえていないらしくそのまま走り去っていった

 

「いったいどうしてしまったのでしょうか?」

 

心から心配する優しい少女に彼の事情を知る由もないスザクもどうしたのかと首を捻る。だがそんな二人に対して心の機微を感じ取っていた咲世子だけは違った

 

「ナナリー様、以後彼にはお気を付けくださいませ」

 

「咲世子さん?」

 

「スザク様もそれとなくご注意の程を」

 

「は、はあ、」

 

(あの男のナナリー様を見る異様な目付き…危険ですね)

 

「それにしても大変だろうナナリー。慣れない車椅子生活は」

 

「いいえもう慣れました。でも皆さん大げさで困ります。結膜炎で目に包帯を巻かれてしまいますし、足を挫いたくらいで車椅子を用意されますし……」

 

「申し訳ございません。しかしナナリー様はブリタニアの皇族である御身故、ご理解くださいませ」

 

「そういうことだよ。結膜炎で目に包帯は変だけどね」

 

「もうっ、スザクさんの意地悪!」

 

「ははは」

 

このあと、ルルーシュ・ナナリー直属のヴィ家警護部隊は咲世子の進言によりしばらくの間ナナリーの身辺警護を強化することになるのであった

 

 

 

そのころオリ主は一人、帝都の中をさまよい歩いていた

 

 

 

皇帝とルルーシュたちが和気藹々としてる

ウザクがユフィじゃなくナナリーの騎士になってる

 

ウザクが俺の嫁を寝盗ったッ

 

なんで?なんでだ?なぜこんなに原作と違うんだッ

これじゃルルーシュとナナリーを助けてナナリーにフラグを立てる、嫁にできなくなってしまうッ

まさかここはコードギアスの世界じゃないとでも言うのか?

そんな筈はない、ルルーシュがいてナナリーがいてブリタニアがアッシュフォードがあって、現に東京の至る所にブリタニア人と見られる白人黒人が歩いてる

KMFだってグラスゴーを見た以上日本が占領下にあるのは間違いないんだ

 

それなのに、こんなバカなことがあってたまるかッ俺は主人公でオリ主なのにッこれから俺の物語が始まって、原作知識を生かしながら大活躍してナナリーを嫁にする筈だってのにッ

 

"ドンっ!"

 

原作との違い、何よりウザクにナナリーを寝盗られたことでイライラしていた俺は、前から歩いてきたやつに気付かずぶつかってしまった

 

「てーなッ!ちゃんと前見て歩けよッ!」

 

「ウヌぅ!今のは貴様が余所見して歩いていたのが悪いのであろうっ!それを棚にあげてこの大貴族ロズベルト男爵に責任転嫁しようとは許せぬ!」

 

ほら見ろっやっぱりコードギアスの世界で間違いないじゃないかッ

こんな東京のど真ん中で貴族が威張り散らしているのが何よりの証拠だっ!

 

98 :二二三:2013/05/04(土) 20:06:40

「へ、ブリキの癖に威張り散らすんじゃねー!ここは日本で俺は日本人だッ!」

 

憑依した身体は日本人、さっき入ったトイレの鏡で確認したから間違いない。仮にブリタニア人であっても心は日本人だ

 

「き、貴様ッ、いま我が祖国を侮辱する発言をしおったなッ、如何に日本人と言えど今のは捨て置けぬッ!」

 

エラソーな貴族の男は逆上して拳を振り上げている。へ、上等だ!オリ主の実力を見せ付けてやるよ!

 

「止めるなよ我が従者ッ」

 

「し、しかしフランク様、日本で乱闘騒ぎを起こしては、それにアッシュフォード学園の制服を着ている以上、下手をすればアッシュフォード卿がっ」

 

「アッシュフォード?!誰だその田舎者はッ!」

 

「お前はアッシュフォード公も知らねーのかよ!」

 

はははっいけすかないブリキ野郎は従者と仲違いを始めやがった。先手必勝だな!

 

そうさ、今までのは間違い……スザクは必ずナナリーを裏切るしルルーシュと二人して皇帝のギアスで記憶を書き換えられている、ウザクも書き換えられているみたいだが、やつのことはどうでもいい

 

「覚悟しろブリキ野郎――ッッ!!」

 

ここからだ、ここから俺の物語が始まるんだ。待っててくれよナナリー、俺は必ずキミを迎えにいくからな

 

99 :二二三:2013/05/04(土) 20:08:09

終わり~

書いてて腹がたったから何回か書き直してこんな感じになりました~

最終更新:2013年05月29日 21:07

 

 



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ゲスモブエピローグその1

136 :二二三:2013/05/05(日) 01:30:28
ゲスモブエピローグその1


ゲスモブエピローグその1

 

 

こうしてオリ主ではないゲスモブの妄想は果てしなく続いていく、そして翌日よりスザクの私物が壊されたり、カミソリレターを送られたりと陰湿な行為が始まったが、

しばらくしてアッシュフォードの生徒がひとり、退学となり引っ越したことでその陰湿な虐めも終わりを迎えた

といってやられた当人は虐められている事を然程気にもしていなかったようだが

 

「スザクさんはお強いのですね」

 

「いいや、僕なんてまだまだ弱いよ。僕は僕なんかとは比べ物にならないくらい色々言われてる人の背中を見ているからね、これくらいはなんともないのさ」

 

「その方というのはひょっとして?」

 

「うん、僕の自慢の父さんだよ」

 

137 :二二三:2013/05/05(日) 01:38:05

ゲスモブエピローグその2

 

 

「おやめなさいッ!」

 

ブリキに殴りかかろうとしたところで横からの声に止められた

 

「このような路上で乱闘騒ぎを起こすなど周囲の方々に迷惑が掛かるでしょう!」

 

穏やかそうに見えて意志の強そうな藤色の瞳、長いピンクの髪は頭の後ろでひとつに纏めたポニーテール、オレンジの羽根が付いた白スーツの女ってユフィじゃないか!?

 

ユーフェミア・リ・ブリタニア、ブリタニアの第3皇女で本来ならウザクを専任騎士にする慈愛の皇女

でもユフィは最後はルルーシュに撃たれて死ぬ筈だ。そのユフィが生きているってことは予想通りいまは無印の時間軸か

 

「お、おいユフィ、態々自分からトラブルに突っ込んでいかなくても、」

 

大きなヒントを得た俺の思考はその後ろからやってきた五十から六十くらいの中年男性に遮られた

ユフィだって?ユフィを愛称で呼べるのは皇族の中でもかなり親しい間柄にないと無理なんだぞ?それをなんで見たこともないオヤジが呼んでんだよ

 

「シゲタロウ」

 

し、シゲタロウ?ユフィまでオヤジを下の名前で呼んでる。しかもあの顔はさっきのナナリーと同じだ。ってことは…………ハァァっ!?ユフィが惚れてんのはこのオヤジだって言うのかよ?!

 

「大体キミは突発的な行動を取りすぎる、少しは自分の立場を考えなさい」

 

シゲタロウとかいうオヤジに注意されたユフィはさっきの威勢の良さはどこへいったのかしゅんと項垂れている

この男は誰なんだよ?コードギアスにこんなキャラはいない筈だけど、ユフィの近くにいてユフィを愛称で呼べる人物となれば必ず知ってる筈なのに知ってるキャラと一致しない。それもユフィが恋してるなんて……

ユフィにフラグを立てたのはウザクを除けば腹違いの兄であるルルーシュに、PS2とPSPのゲーム、ロストカラーズに登場する主人公のライだけの筈だ

 

というかこのオヤジ、どこかで見たような……

 

「ユーフェミア殿下、あまり嶋田卿にご心配をおかけになさいますな」

 

また一人走ってきた。今度は知ってる顔だ、確かグラストンナイツの……!?

 

い、いま……何て、言った…?

 

「ですが、このような場を見掛けたとなれば捨て置けません」

 

「あのなあユフィ。それでキミの身に何かあったらどうするんだ?」

 

「わたくし、シゲタロウよりは強い自信がありますわ」

 

「俺みたいな年寄りと比較して威張るんじゃない。それに俺も若い頃は帝国海軍で鍛えてきたんだ。年を取った今でもユフィくらいには勝てるぞ?」

 

て、帝国海軍でシゲタロウ、嶋田?

嶋田繁太郎?………………………………………………………………………………………………………………………………………………しまだしげたろォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ?!

 

歴史に出てくる名前を聞いた俺は頭の中が真っ白になっていく

 

「あら?ではわたくしはKMFを使用します。この間不良さんたちに勝ちましたので」

 

「おい卑怯だぞ。俺は身体ひとつでキミはKMFなのか?」

 

「ユーフェミア殿下、嶋田卿、夫婦喧嘩のお話はまた後程でお願いします」

 

ふ、夫婦、夫婦だって?あの嶋田繁太郎がこのギアス世界にいて、このオヤジがそうで、こんなオヤジとユフィが結婚してる……?

 

「おのれ貴様らっ!いつまでこのロズベルト男爵様を無視しているつもりだ!全員不敬罪で無礼討ちにしてくれるぞ!」

 

「いい加減にしろこのバカッ、我が国の第3皇女ユーフェミア殿下と大日本帝国の嶋田卿だッ!お前が不敬罪で打ち首だアホーー!!」

 

「き、貴様、従者の分際でこの俺様にアホだと!」

 

「当然だろーが!どこの世界に自分の国の皇族を知らない貴族がいるんだよ!てか俺までまきこんでんじゃねーーッッ!!」

 

なんかあっちでは俺に威張っていたブリキと従者が喧嘩を始めたし、大日本帝国ってなんだよそれ

ギアスの世界に大日本帝国は無いんだよ、嶋田繁太郎もいないんだよ、スザクはユフィの騎士になってルルーシュは皇帝を憎んで黒の騎士団を作んなきゃダメなんだよ

俺はあいつらを助けながらナナリーと結婚するんだよ、そうだよ、そうじゃなきゃダメだ……!

 

「あ、あは、あはあは、俺は、俺はオリ主なのに、俺はオリ主なのに、強くてかっこいいオリ主なのに、あはははははは、」

 

「あ、あの~大丈夫ですか?」

 

「な、なにか知らないが、そっとしておこう、」

最終更新:2013年05月29日 21:12

 

 



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「いっくん!総員退艦ではないの!?」

360 :名無しさん:2013/05/09(木) 18:23:05
過去ネタから拾ってみた


 

「いっくん!総員退艦ではないの!?」

「そうだ。リーンホースはこれより単独行動を取る

飛鳥とKMF部隊は退艦したクルーを守ってくれ」

「っ!・・・了解」

 

 

 

「すまない・・・・・・愛していたよ。リーラ」

 

 

 

この後、リーンホースは敵艦隊に特攻し爆沈したのだった

 

一発ネタ

 

382 :二二三:2013/05/09(木) 23:16:24

360のネタシチュエーションを作ってみた

 

突っ込みどころいっぱいの捏造設定満載一発ネタなので突っ込まれても困ります~

 

何らかの方法で高亥を排除したその他大宦官独裁下の清・高麗・シベリアに傀儡政権作って独立させた国・合衆国による四国枢軸同盟が世界制覇に乗り出して起こした世界大戦後

 

 

 

 

全世界を巻き込んだ史上最大の戦争ワールドウォー

 

枢軸同盟がEUの内部対立を煽り、分裂させ、混乱を巻き起こした事に端を発した戦争は、合衆国のブリタニア領ハワイ奇襲、更にはシベリア傀儡政権と枢軸に寝返った枢軸EUの中華連邦侵攻。清・高麗の日本侵攻により全世界に戦火を広げていった

日本・ブリタニアにまで侵攻する無謀な行動はある一人の老人が抱くブリタニア中央学会への深い憎しみからであった

しかし2つの超大国を同時に相手取る無謀な戦略は半年程で破綻する。戦時体制が整った日ブと日ブ側に付いた中華及び元EU構成国は枢軸同盟と枢軸側に付いた枢軸EUに圧倒的な技術力と物量を持って、反攻作戦を開始

 

欧州ではブリタニア東海岸から出撃したユーロ・ブリタニアと、日ブ同盟の支援を受けた連合EUに枢軸EUが総崩れとなり数ヶ月で降伏

 

極東戦線では日本・ブリタニア・中華連邦同盟軍が清・シベリア本土攻略と高麗本土攻略の二正面作戦を展開し、僅かふた月でこれらを撃破

 

残る合衆国は日ブに次ぐ高い技術力と中華以上と見られる国力全てをブリタニア戦線に注ぎ込み、死を怖れぬ洗脳兵の自爆特攻など予想外の攻撃に出た

この非人道的な攻勢に浮遊航空艦隊の指揮を執っていた山本五十六司令長官は懐深く潜り込んできた合衆国洗脳兵の自爆にあい乗艦リーンホースに致命的な損害を受け、乗組員を退艦させたあと、僅かでも狂戦士たちの攻撃から味方を守ろうと合衆国艦隊へと特攻して果てた

退艦した乗組員の中には彼の子を身ごもった妻リーライナ・ヴェルガモンの姿もあったという……

 

383 :二二三:2013/05/09(木) 23:20:26

あの大戦争から何年か経ち、私は子供と共に墓参りに行く事にした

 

 

「お母さん、ここにお父さんがいるの?」

 

山本家の立派な墓石の前まで来たとき、物心付いてから初めて訪れた娘が瞑らな瞳を私に向けてきた

 

「ここにいたらいいんだけどね」

 

アイツはここにはいない

 

「あのバカ、髪の毛一本残さずに何処かへ行っちゃったのよ」

 

遺髪も遺骨もなんにもない。アイツはあの日ブリタニア西海岸沖に消えてしまったから

 

「じゃあどうしてお墓参りをするの?」

 

「それはね、私と貴方がヴェルガモン家の人間というだけじゃなくて、山本家の人間でもあるからなの」

 

「じゃあご先祖様のご供養?」

 

「そっ」

 

そう、今日墓参りに訪れたのは、山本家の先祖の供養であってアイツの為なんかじゃない。私はアイツが死んだなんて思ってないから

死体も何も残ってない以上、死んだと決まったわけないじゃない

アイツの友達、日本政府機関、ブリタニア政府機関、ブリタニア西海岸の雄クルシェフスキー侯爵麾下の捜索部隊

その他にもナイトオブトゥエルブのモニカ・クルシェフスキー卿や、昔の上司であるルキアーノ様も八方手を尽くして捜してくれたけど依然として見つからなかった

捜索開始から一年が過ぎる頃、私は捜索打ち切りを願い出た。いつまでもアイツの捜索を続けて貰うわけにもいかないし、現場に居合わせた兵士は確かにリーンホースが特攻するのを目撃している

…………

…………

…………

いいえ、これは逃げね

だって……私自身この目で見たのだから

アイツが合衆国艦隊に突っ込んだ瞬間を

 

384 :二二三:2013/05/09(木) 23:20:57

「お母さん?」

 

ふと下を見ると娘が心配そうな顔をして私を見ていた

 

「ん、どうかした?」

 

「お母さん、なんだか泣きそうな顔してる」

 

「っっ!」

 

子供は敏感だ。悟りを開いた偉人のように勘が鋭い

 

「バカね~、お母さん別に痛いところなんか無いんだから、泣いたりするわけないでしょ?」

 

でも私は泣かない

 

「ほ~ら!バカなこと言ってないでお線香に火を点けてちゃんと手を合わせなさい」

 

「は~い!」

 

泣いたりするものか。アイツの為に流す涙なんて持ち合わせていないのだから

 

〔必ず生きて帰ろう、俺とリーラ、そしてお腹の子の三人一緒にな〕

 

あんな嘘つきの為に流す涙なんて、全部あそこで流れた

 

ううん違う。あの涙はあんな嘘つきと結婚なんかした自分と片親になってしまったこの子が可哀相で流れた涙、間違ってもアイツの為に流したんじゃない

 

「っさん!お母さんってば!」

 

「えっ?」

 

「手を合わせてご先祖様に挨拶したよ!」

 

「あ、そ、そう、じゃあお母さんも」

 

考え込みすぎて娘の声が聞こえていなかった

私は山本家の墓石に手を合わせる。冥福を祈り、感謝の念を伝えるのは山本家のご先祖様

 

「あのバカには必要ないから」

 

「お母さん、誰がバカなの?」

 

「ん~?」

 

ついつい口に出してしまったせいで娘に聞かれたみたい

 

「そうね…」

 

序でだ。あのバカのバカさ加減でも教えてあげよう

 

「昔、いっくんっていう博打が大好きで、考えの古いおバカさんがいてね」

 

「いっくん?」

 

「そ、いっくん」

 

アイツの恥ずかしい話、この子に全部教えてあげよう

娘に変なことを教えるなって化けて出るなら出てきなさいよ。思いっ切り文句言ってあげるから

 

「そのいっくんっていうのがね――」

 

そんな悪戯な考えを抱いて話し始めたそのとき

 

″おいおい、変なこと教えられては困るなあ″

 

私の耳に聞こえてきたのは、温かくて懐かしいアイツの声だった

 

385 :二二三:2013/05/09(木) 23:24:32

終わり~。最後、生きていたいっくんと再会したのか幽霊ないっくんが出てきたのか、はたまたリーラさんの幻聴だったのかは個々人の想像にお任せ~

最終更新:2013年05月29日 21:24

 



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フランク・ロズベルトという神聖ブリタニア帝国の男爵位を持つ者がいる。

415 :二二三:2013/05/10(金) 17:41:46
休日氏モニカさんルートの馬鹿男爵バッドエンドを書いてみた~
後味が悪い話なのでブラック嫌いな人は回れ右~



 

 

フランク・ロズベルトという神聖ブリタニア帝国の男爵位を持つ者がいる。自分は偉い大貴族で平民や下級貴族などとは育ちが違うと豪語し蔑み、横暴な振る舞いを繰り返す男だ

 

そんな偉い偉い選ばれし貴族であると思い込んでいる勘違いした下級貴族はある日、帝都ペンドラゴンを訪れていた日本の盟友で上流階級の男に会いに来ていた

 

がしかし、彼が付き合っているのは当然ながら上流階級などではない。米内光政という日本の真の支配者たちに表舞台から排除されてしまった単なる窓際族に過ぎない男だ

そんな事すらわからない勘違いした彼は、ブリタニアと日本の街中で度々トラブルを起こしていた

 

肩がぶつかった。挨拶しろ。貴族が通るのだから平民は道を開けて頭を下げろ

貴族という身分と権力にあぐらをかいて碌な勉強をしていない彼は、そんな事を繰り返す中で男爵とは比較するのも馬鹿馬鹿しいくらいに身分差があるクルシェフスキー侯爵家令嬢にしてナイトオブトゥエルブの称号を持つモニカ・クルシェフスキーという本物の大貴族や

ブリタニアの名門ヴェルガモン伯爵家の令嬢でナイトオブテン親衛隊指揮官リーライナ・ヴェルガモンを相手に下級貴族と侮蔑するという、前代未聞の不敬を働いていた

 

幸いにしてモニカ・リーライナの2人はあまり身分差を気にしない大らかな人間であった為に自らへの侮辱で彼を無礼討ちにする事はなかった物の、ブリタニアの貴族社会では問題視されていた為、本来なら有名になるような身分でもないのに悪い意味でその名を知られていた

そのため、以前から彼と親交のあった男爵家や子爵家の貴族たちは1人また1人と離れていき、気がついた時には彼の相手をするのは日本の米内光政だけになっていたのだ

侯爵・公爵・大公といった大諸侯の間でさえ話題になるほど立場が悪化し、先代のロズベルト男爵家当主がクルシェフスキー侯爵家・ヴェルガモン伯爵家へと土下座行脚をしているとも知らない彼は、ある1人の中年男性とぶつかって、いつものような横柄な態度で謝罪を要求していた

 

「貴様、この俺、ロズベルト男爵にぶつかってよもやただで済むと思ってはおるまいな?」

 

「いや、ですから謝っているじゃないですか」

 

以前の彼ならばこれで済ませていたところであった。なにせ自分は偉い大貴族であり、平凡その物な如何にも平民と思わしき日系ブリタニア人如きに目くじらを立てても仕方がないと考えられる心の余裕があったから

だが自分の周りから人がいなくなり、付き合いのあった貴族たちから嫌煙されていることを薄々感じていた彼は終始心に余裕がない状態であった

更にいつも付いていた従者までいないせいで不満の捌け口もなければ話し相手もいない。そして彼の横暴を止める者すらも

 

「そんな謝り方で済むと思っているのか」

 

だからやってしまった、唯でさえやってはならない相手に対して

 

「それではどうしろと?」

 

寄りによっで彼゙を己が主として剣を捧げている騎士が聞いている前で゙彼゙を侮辱してしまった

 

「決まっているだろう土下座だ。日本では最大級の謝罪の意と聞く」

 

いま゙彼女゙が゙彼゙の隣にいなかったのは、゙彼゙と2人で食べようと思ったアイスクリームをすぐ近くの店まで買いに行っているだけ

そして、゙彼女゙が戻ってくるこの最悪なタイミングで彼はやってしまった

 

「早く土下座するのだ!土下座すれば許して――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土下座しても――許しません

 

 

 

 

 

 

「19時のニュースです。本日、白昼ペンドラゴンの大通りにて不敬罪を働いた貴族が―――」

 

416 :二二三:2013/05/10(金) 17:44:57

終わり~。゙彼゙が゙彼女゙の制止に間に合ってバカ男爵が一命を取り留めたかはわかりません~

最終更新:2013年05月29日 21:32

 

 

 



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嶋田家の普通な長男

102 :二二三:2013/05/21(火) 16:08:03
とりあえずネタ投下
ネタSS
嶋田さんとモニカさんにこんな息子がいたらを想像してみました
この息子も3姉弟なのも完全に当方の捏造でございます
そして短く中身なしです



 

 

 

嶋田家の普通な長男

 

 

嶋田邸の広々としたリビングに中学生くらいの黒い短髪と碧い瞳の少年が顔を覗かせた

彼はそっと部屋を覗いて中の様子を窺う。すると部屋には壮年の男が1人テレビのニュース番組を見ていた

男は少年の父親だ。とてもそうは見えないが、もう80になる老人で名は嶋田繁太郎。少年は父の姿を確認すると部屋に入らず小声で呼び掛けた

 

゛父さん゛

 

「ん?なんだ帰ってたのか」

 

゛うん、さっきね……母さんは?゛

 

「母さんならサクラの修練を見に行ったよ」

 

゛姉さんの修練に?゛

 

「ああ、多分夜遅くまで帰らないだろうな」

 

「ハア~、焦って損したよ~」

 

母がいないのを確認した少年は大きなため息をひとつ付いて部屋に入ると、父と向かい合って座った

 

「なにを焦ってたんだ?またテストの点が悪かったのか?」

 

「平均をちょっと下回っただけだよ。でもこんな点数母さんに見せたらまた説教されるからね……」

 

「まったくしょうがない奴だなあ、俺なら見せても大丈夫だと思ったのか?」

 

「だってさ、父さんは母さんみたいにくどくど言わないじゃないか。それにあんな頭に角生やしたみたいな感じで怒ったりしないし」

 

「やれやれ、母さんはお前のためを思えばこそ言ってくれるんだぞ」

 

「それはわかってるけど、僕は嶋田の後継ぎでもクルシェフスキーの後継ぎでもないんだから姉さん達と同じ調子でやられたらたまらないよ。僕の目標は父さんと同じ平穏で静かな生き方なんだからね」

 

「まったく……ホントにお前は誰に似たんだか」

 

「胸を張って言うけど僕は父さんに似てると思ってる。運動神経普通、勉強普通、特に信念はない、夢は平社員の安月給でいいから静かに過ごすこと。ほらね」

 

「なにがほらねだ。お前がそんなだと俺が母さんに怒られるんだよ。そりゃ俺は平穏とは程遠い生き方をしてきたし、サクラたちには嶋田とクルシェフスキーを継いで貰わなければいけないぶん、

せめてお前には静かな生き方をしてほしいとは思うが、少しは嶋田・クルシェフスキーという自覚を持ちなさい」

 

103 :二二三:2013/05/21(火) 16:09:08

彼の家はちょっとばかり普通とは違う

なにが違うかと言うと、両親がとんでもない人たちなのだ

具体的には父が日本の元総理大臣で母がブリタニアのクルシェフスキー侯爵家当主にしてナイトオブラウンズ

 

そんな家庭環境であるため、両家の後継者として厳しい英才教育を施される姉たち同様に彼にも厳しい躾が行われていたのである。主に母モニカによって

 

「それは耳にたこが出来るくらい母さんに聞かされてるからわかってるよ」

 

「どうだかな……」

 

「でも母さんって丁寧な言葉遣いしてる割にはネチっこいんだよ……何回も同じ事を言われなくてもさあ」

 

「まあ、それだけお前のことを愛してる証拠だ」

 

「でも僕たま~に思うんだ。母さんもそろそろ年だから説教臭い言い回しが増えてるんじゃないかって」

 

母モニカは40代に乗った今でも昔と変わらない外見をしている。結婚前の写真と比べてまったく変化が見られないのだ

長い金糸の髪の毛は枝毛もなく艶々、肌は瑞々しく張りがあり十代のそれ、顔には皺ひとつなく若い頃に比べて代謝が落ちてる筈なのに無駄な肉もついていない

外見年齢二十歳くらいで中身四十代という人外っ振りを発揮していたのである

 

しかしいくら見た目二十代でも四十代は四十代。最近しつこくなってるのは年のせいもあるのではないかと考えた訳だ

 

「中身は年相応のおばさんなんだから絶対に影響あるよ。ほら、年寄りは説教臭いって言うでしょ?」

 

「それじゃあ俺もか?」

 

「父さんは例外中の例外、心が若いんだよ」

 

「はははそれはいいな。心が若いかぁ~それは嬉し――ッッ!!」

 

そこで父の表情が凍りついた。父は息子の背後に音もなく忍び寄る存在に気がついて、慌てて口を噤んだのであった

息子の背後に立つ存在の後ろでは、その存在と同じくいつの間にか部屋に入ってきた娘たちが抱き合ったまま震えている

しかし、その事に気付かない息子は、ひとりペラペラと余計なことをしゃべり続けていた

 

 

「母さんは外見が若いけど心は―」

 

 

〔心は……なんですか?〕

 

 

 

地の底から響いてくるような低くて恐ろしい声に彼が振り返った先には…………鬼がいた

最終更新:2013年09月06日 20:41

 

 

 



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特別なんです

166 :二二三:2013/05/23(木) 02:05:52
とくに意味はない話投下



 

 

特別なんです

 

 

 

卓越したKMFデヴァイサーとしての腕とブリタニアへの忠誠心を認められ、ナイトオブトゥエルブ親衛隊に抜擢されたある男

彼は何らかの用事で東京にあるブリタニアの公館を訪れた上司モニカ・クルシェフスキーの下宿先の家主が、寝ていた彼女の頬をつついているところを目撃した

 

(なにしてるんだあの人)

 

日本のことについて勉強不足な彼は敬愛する上司の頬をつつくといった無礼極まりない行為に及んでいる家主の男が誰か知らなかった

 

「失礼ですが、如何に家主殿であってもクルシェフスキー卿に無礼を働くのは許しませんよ」

 

「ああ、これはどうもすみません……

寝ているモニカさ、いやクルシェフスキー卿がかわいらしくてつい……」

 

あっさり自らの非を認めて陳謝する男

 

「親しき仲にも礼儀あり、ですね」

 

家主の男は上司に用があったらしいのだが、上司が寝てしまっているため「親衛隊の隊長さんに言付けを頼ませていただきますよ」とだけ言い残して去っていった

 

残されたのは執務机に突っ伏して眠りこける上司と自分だけ

手持ち無沙汰な彼は何気なしに上司の寝顔を見ていたが、確かにかわいいなと思った

以前、士官学校で初めて上司教えを受けたときより美しく強い御方だと敬愛していたが、かわいいと感じたのは初めて

 

いついかなる時であろうと隙らしい隙を見出すことができないほどに自分とは実力差がある上司があどけない表情を見せて無防備に寝ている

彼は敬愛する上司のかわいらしい寝顔に家主の男がしていた行為を思い出した

 

(これは確かにつついてみたくなる)

 

普段見られない上司の愛くるしい姿に邪な考えが浮かび上がり、ダメだと言い訳しながらも手が勝手に動いてしまった

 

(少しくらいなら……)

 

彼が今いるのは完全に上司のキルゾーン

こんな場所で無礼を働くなど命知らずもいいところだが、民間人である家主の男にできたのだから自分がつつけない筈もなし

 

(申し訳ございませんクルシェフスキー卿…少しだけあなたの頬を触らせていただきます…)

 

寝ている女性の頬に触れるというブリタニア紳士にあるまじき行為に及ぼうとする罪悪感から謝る彼の手が伸ばされ、きめ細やか白い頬に触れんとした瞬間、彼の視界が捉えたのは

 

自分に向かって突き出された上司の手刀であった

 

「かは…ッ」

 

首を突かれる衝撃と一瞬の痛み

それは彼の意識を刈り取るに十分すぎるほどのダメージを与えていた

 

167 :二二三:2013/05/23(木) 02:07:24

それから何時間かして彼が目を覚ましたのは都内にある病院のベッドの上であった

なぜ自分が病院にいるのか理解できていない彼にどうなったのか教えてくれたのはトゥエルブ親衛隊隊長

 

「危なかったな。あと数センチで急所に直撃を受けて死んでいたぞ」

 

「そ、そんな……」

 

「いったい何があったんだ?モニカ様も御自身でやられておいて状況がよくおわかりでない御様子だったが」

 

訝しげに詰問してくる直属の上司にことのあらましを包み隠さず明かした彼に隊長は「よくもそのような命知らずなことができるものだな」と呆れていた

 

「いや、その………実は、私がやる前にクルシェフスキー卿が下宿なされておられます家の家主殿がやっていたもので、つい……」

 

「家主?……ああ嶋田卿のことか」

 

「隊長は御存知なのですか?」

 

「御存知もなにも、我が部隊の人間は新人以外皆知っている御仁だ

まさか貴様、嶋田卿がモニカ様のキルゾーンで頬に触れられたから自分も大丈夫とか考えたのか?」

 

「はい…実はその通りです

悪い言い方になりますが、民間人が触れても起きないほど隙だらけでしたので」

 

「寝ているモニカ様を前に隙だらけだと感じたのなら貴様はまだまだ未熟だということだ。誉れあるトゥエルブ親衛隊所属の騎士たる実力がまだついていない証拠だな。貴様もモニカ様にお仕えする騎士の一人である以上そんなことでは困る

それと、勘違いしないように言っておくがモニカ様のキルゾーンで何をしても大丈夫なのは皇帝陛下を除けば嶋田卿ただお一人だけだ

命が惜しければ今後睡眠中のモニカ様をお見かけしても手を出さんようにしておけ」

 

「肝に銘じておきます……それにしても、あの家主殿はどういった御仁なのですか?」

 

上司にあんなことをしても何もされない家主のことが気になる新人騎士に、隊長は言った

 

「我々がモニカ様に忠誠を誓いお仕えしているように、モニカ様も皇帝陛下に忠誠を誓いお仕えしている。しかし私人としてのモニカ様はまた別に御守りしたい方がいる」

 

「それが、あの御仁だと?」

 

「そういうことだ。モニカ様がお仕えするもう一人の主君、それが嶋田卿なのだ。本来ならばラウンズが陛下以外に忠誠を誓うなどあってはならんのだが嶋田卿だけは特別なのだよ」

最終更新:2013年09月06日 21:00

 

 



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赤ペヤ◯グに挑戦

217 :二二三:2013/05/25(土) 01:35:04
短いモニカさんバカばなし~



 

赤ペヤ◯グに挑戦

 

 

 

ナイトオブトゥエルブ・モニカ・クルシェフスキー

 

ブリタニアの戦女神

 

ナイトオブゼロ

 

嶋田の騎士

 

様々な2つ名を持った最強の12騎士の1人である彼女には【ラーメン大好きモニカさん】なる名前もあった

 

 

 

ある日、夕食を終え風呂に入って何時間かしたとき無性に小腹が空いてしまったモニカは夜のコンビニを訪れていた

 

「いらっしゃいませー」

 

このコンビニの常連である白いパジャマ姿のモニカを出迎えてくれた店員さんの声にペコリとお辞儀したあと、速攻で目的の品が陳列されている棚へと足を向けた彼女は、そこで初めて目にしたカップ焼きそばを見つけた

 

「ペヤ◯グ焼きそば大盛」

 

ペ◯ング焼きそば自体はよく食べる。その場合は基本的に超大盛りを買って帰るのだがこのペヤ◯グ焼きそばは少し違うところがあった

 

「赤いペ◯ング焼きそばは初めて見ますね」

 

そう、包装しているビニールが赤色なのだ。赤といえば昔から使用しているリボンの色が思い浮かぶ

入浴した後でありこの後は寝るだけの彼女はリボンではなく黒の髪ゴムで髪を纏めていたため今手元にリボンは無いが、あの赤いリボンはお気に入りで使用頻度が高い

最近は想い人であり下宿先の家主がプレゼントしてくれた白と青の二種のリボンもお気に入りなのだが、昔から使っているぶん赤には思い入れがあった

更に言うならこのペヤ◯グは限定品である。今このときを逃せば二度と口にすること適わぬ代物かもしれない

そのため何の疑いもなく手に取ったのだが、包装に書かれていたある文字を目にして僅かながら怯んでしまった

 

「激辛……」

 

辛いものが苦手な方や、高血圧の方は要注意と書かれていたのである

モニカは別に辛いものが苦手でも高血圧でもない。大体騎士である自分が高血圧になるような食生活をしている筈がないのだ

朝晩は想い人である嶋田が手ずから作ってくれたり、嶋田家の家政婦さんが作る栄養バランスのしっかりした食事を食べている。つまり高血圧でも不健康でもないため、この焼きそばを食す権利は持っているという自信はある

何よりもラーメンのプロたる自分に゛撤退゛の二文字はない

 

「ラーメンのプロである私に戦わずして敗北など有り得ません!」

 

まるでラウンズの戦場に敗北はないを流用した感じの、いったい何と戦うのかと突っ込みを受けそうなバカな台詞を大声で叫び決意する彼女は、店にいた数人の客の視線を集めたが、そんなことはどうでもよかった

 

「これをください!」

 

「198円になります」

 

財布から取り出したのは桜の絵が描いてある銀色の硬貨2枚

 

「お釣りは要りません!」

 

いつものことなので釣銭の2円はそのままレジ横にある募金箱に放り込んだ店員は悠々と去っていくモニカの背中に「ありがとうございましたー」と声をかけていた

 

 

翌日、腹痛を起こしたモニカは嶋田と親衛隊の隊長から一週間のラーメン禁止命令を言い渡されてしまうのであった

 

 

 

ただその赤ペヤ◯グが癖になってしまったのか、一週間後の謹慎開けの日にまた食べるという懲りない女であった

そして数回の挑戦を経て激辛焼きそばを克服してしまったのは言うまでもないこと

 

 

モニカ・クルシェフスキー

 

ラーメンのプロたる彼女に敗北の二文字は無いのだ

最終更新:2013年09月06日 21:20

 

 

 



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バーコードギアスとクロスラブコメ?

479 :二二三:2013/05/27(月) 03:33:36
おバカ系統な話
公式パラレル漫画のバーコードギアスとクロスしてみたラブコメ~


 

 

バーコードギアスとクロスラブコメ?

 

 

 

 

 

嶋田繁太郎

御年6X歳を迎える初老の男は敵状視察の為にある店を訪れていた

 

「いらっしゃいませ」

 

(この店はいつ来ても広いな)

 

都内の一等地に立つこの店は、土地の高さなど気にしないとばかりの広大な敷地面積と大手に相応しい従業員の数を誇る巨大スーパーの本店である

当然ながら優秀な専属警備員も多く独自の警備会社まで持っている、凡そ一スーパーとは思えぬほど万全の体制を整えているのであった

 

「何かお探しですか?」

 

ライバル会社の巨大さにボーっと考え込んでところを不審に思ったのか黄緑色のマントを着た金髪の女性が声をかけてきた

 

「い、いや、大丈夫、ひとりで探せるから気にしないでください」

 

敵状視察に来たと悟られるわけにはいかない

バレてつまみ出されたりマークされるような事があれば、副社長の辻にまた大量の書類整理を回されてしまうのだから

それも声をかけてきたこの二十歳くらいの警備員は業界でも有名なスーパーブリタニア警備部の頂点に立つ12人からなる特務部隊【ナイトオブラウンズ】のひとりだ

スーパーブリタニア傘下の大企業クルシェフスキー食品社長令嬢であり、ゆくゆくはクルシェフスキー食品の次期社長に就任することになるであろうモニカ・クルシェフスキー女史である

 

「遠慮なさらないでください。お客様の御案内も職務の内ですから」

 

彼女は自分で探せるから大丈夫と断るこちらに対し、ぴったりくっついて離れず案内しようとしてくる

 

(ひょっとしてバレてるのか?)

 

だとしたらマズい。せっかくの偵察が無駄になるばかりか、正体がバレたら今後の経営戦略にも支障を来してしまう

嶋田は長年にわたってブリタニアと業界トップの座を争う夢幻コーポレーションの元社長であり、現在は同社の会長顧問に就いていた

立場上バレてはマズいのだ

 

「それでは御案内させて頂きま「お待ちなさい」えっ?」

 

モニカを巻くにはどうすればいいのかと思いを巡らせていたとき、横合いから別の店員が声をかけてきた

 

「こ、これはユーフェミアお嬢様っ!」

 

ピンク色の髪にモニカより若干年下に見える女性であった

 

(ユっ、ユフィじゃないか!?)

 

声をかけてきたモニカとは別の女性はユーフェミア・リ・ブリタニアといって、ここスーパーブリタニアの社長令嬢であり、取締役の一人でもあった

因みにユフィは嶋田の顔も正体も知っている。実は彼女とはあるお休みの日の公園で偶然知り合ったのを切欠に意気投合、以降休みの日には時々会ってお茶を飲んでいる茶飲み友達なのだ

 

「その方の御案内はわたくしがさせて頂きますので、あなたは持ち場に戻りなさい」

 

そういってすぐ隣にきたユフィは嶋田の手を取った

 

480 :二二三:2013/05/27(月) 03:34:56

 

(お、おいユフィ)

 

(シーっ!大丈夫ですからシゲタロウはわたくしに合わせてください)

 

要はユフィが案内すると見せかけてこの場をやり過ごそうというのである

そんな茶飲み友達からの助け船に有り難いと手を握りしめた嶋田ではあったが

 

「……いいえ、この方の御案内は私が致します」

 

ひそひそと話し始めた二人を注視していたモニカに邪魔をされてしまった

 

「その必要はありません!」

 

せっかくの助け船を無にしようとするモニカにユフィは少し腹を立てながら語気を強めて拒否

 

「モニカさんこれは命令です。あなたは持ち場に戻りなさい」

 

「私に命令する事ができるのはシャルル社長だけです」

 

しかし今度はモニカの側から命令拒否をしてきた。如何にユフィが社長令嬢であり取締役だったとしても、警備部特務部隊ナイトオブラウンズは社長の命令以外拒否することができる特別な権限を持っているのである

 

「くっ、あなたには警備という任務があるでしょう!」

 

なのにどうして一人の客に拘るのかと問い質したくなるユフィであったが、逆にその態度が嶋田への不審を抱かせるかもしれないとの危惧からできないでいた

彼女には夢がある。二大スーパー「ブリタニア」と「夢幻コーポレーション」が手を取り合って業界再編して、店舗のつぶし合いを終わらせるという夢が

嶋田と二人でそれを成し遂げたいと考えていたのだ

 

(そしてルルーシュのコンビニ「ゼンブイレヴン」とも仲直りして業界の無用な争いを終わらせてみせる。シゲタロウと二人で力を合わせれば必ずやできます)

 

だからこそ、こんなところで躓くわけにはいかない

 

 

 

だが、実のところモニカにも引けない理由があった

 

こちらはユフィとは違い理由だ

いや、その一点はユフィが持っているものとも同じなので同じ理由といえば同じ理由なのかもしれない

 

481 :二二三:2013/05/27(月) 03:36:02

 

今日もあの人が来た

ここしばらくうちの店に通い詰めている名前も知らない老紳士

 

彼はいつも入り口で一度立ち止まり、店内を見渡してから奥に進む

 

それを毎日見ていた私は何度となく彼と目が合い微笑みかけられていた

たったそれだけのことなのに胸がドキドキする

 

私はクルシェフスキー食品社長の娘故か、幼い頃から愛想笑いや地位に目がくらんだ人の下心丸見えの笑いばかりで、本当の笑顔を向けられることがあまりなかった

だけどあの人はいつも優しい目で私を見つめて微笑みかけてくれる

 

今日もその笑顔を私にくれた彼。私だけに向けてくれるとばかり思っていた

だけど今日は違う

今日思い切って声をかけ、あの人に店内の案内をしようとしたとき、実家の親会社で私が勤めている業界最大手のスーパー、ブリタニアの社長令嬢ユーフェミア取締役に邪魔されてしまった

そのとき、あの人はユーフェミア取締役とひそひそ話をしたのである。それも凄く親しげに……

 

それを間近で見せられた私はイライラする気分を抑えることができずに、ユーフェミア取締役の命令をラウンズの権限で拒否した

なんだか嫌なのだ。ユーフェミア取締役があの人と親しくするのも、あの人と二人きりの時間を過ごすかもしれないことも

 

だから邪魔して睨みつけてしまった

 

 

彼を案内するのは私だ。いくらユーフェミア取締役が相手であるとはいってもこれだけは譲れない

 

 

ユフィとモニカ

 

それぞれ譲れない感情を胸にした二人はスーパーブリタニアの入り口付近でいつまでもにらみ合いを続けるのであった

 

 

 

 

ちょうど同じ頃、嶋田が西側入り口付近で女性警備員と取締役に足止めされたの報告を聞いた山本が東側出入り口から偵察に入ろうとしたが

 

「あっ、また来た!」

 

こちらも何度も偵察に伺う内に山本とは顔馴染みとなったスーパーブリタニア警備員。リーライナ・ヴェルガモンに足止めされてしまった

 

「またキミか」

 

「それはこっちのセリフよ。おじさんも懲りないわね」

 

「友のため、会社のため、退くわけにはいかんのでな」

 

「スパイしにきたのが分かってて見逃すと思う?」

 

「思わんな。だが、万引きや強盗でもないので追い返すことはできないぞ」

 

「マークすることくらいはできるわ。だから私は見張りをさせてもらうわね?」

 

 

 

その頃辻はというと

 

「二人とも完全にマークされましたか……これは偵察が難しくなりますね」

 

さすがはスーパーブリタニア。一筋縄は行かない

 

「ここはルルーシュくんのゼンブイレヴンと業務提携交渉を進めている村中さんが一段落したらいってもらうとしますか」

最終更新:2013年09月06日 21:37

 

 



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二番目の男

728 :二二三:2013/05/30(木) 03:06:37
これは捏造話です
こんな奴いたんじゃないかと思いました


 

 

 

二番目の男

 

 

皇歴2016年

 

神聖ブリタニア帝国帝都ペンドラゴン

 

 

皇帝シャルル出席の下行われていた宮中御前試合はナイトオブラウンズの空席である12の称号を賭けての物であった

 

剣を交える騎士は二人。ひとりは士官学校の主席である無表情な氷の仮面を持つ少女モニカ・クルシェフスキー

此処ブリタニアは西海岸にその名を馳せるクルシェフスキー侯爵家の令嬢であり、類い希なる才能を持つ、正に騎士になるために生まれてきたような少女

 

対するはモニカには劣るが士官学校次席の成績優秀な秀才である少年

一般庶子、所謂平民の出である彼は、この御前試合に全てを賭けて挑んでいた

 

毎日夜遅くまで血反吐を吐くような無茶な特訓を続け、あらゆる兵法書を何度も読み返して頭に叩き込み、休む間を惜しんで行った努力の数々

悲鳴を上げる身体は脳に激痛を伝え休息を促していたが気合いで耐え修練を重ねる彼は、貧しい生活から抜け出し、社会的な地位を得るためにも負けるわけにはいかないのだ

 

幼い頃から飲んだくれて働かない父より毎日のように暴力を受けていた。収入といえば亡くなった母の遺族年金のみであり父は貧しさからくる行き場のない不満を息子を殴ることで解消しているクズの見本のような男であった

彼はそんな父を蔑んでいたが、何の能力も金も持っていない子供が家を出てひとりで生きていけるほど世の中甘くはない

といって現状に甘んじるつもりなど毛頭なかったのも事実であり、ある年齢まで成長した彼は今を抜け出すために騎士の道を目指し始めた

 

そして人一倍の努力と執念が実り士官学校へと進むことが出来たのである

しかし彼はそこでひとりの少女の存在を知ることになる。彼がどれだけ必死に勉強しても、どれだけの修練を積んでも、決して届かない一番に座する少女の存在を……

 

729 :二二三:2013/05/30(木) 03:07:43

 

「そこまで!」

 

 

試合終了の言が伝えられた

突きつけられた競技用の剣はモニカという少女の物。それを自機のグロースター胴体部分にあてがわれている

これが戦場なら命を落としていたであろう完全なる敗北

 

 

試合を行った両者は決着が付いたところでコックピットのハッチを開き外に出ると試合を見物していたシャルル皇帝の御前で跪いた

 

「共に修練を積み重ね努力しているのが窺える素晴らしい試合であった」

 

皇帝は一呼吸置くと言葉を続ける

 

「勝者モニカ・クルシェフスキー。貴様には空席となっているラウンズ12席の称号を与える。これより我が騎士としてナイトオブトゥエルブを名乗るがいい」

 

「イエス・ユア・マジェスティ!」

 

「そして惜しくも敗れてしまったが、ここまで戦い抜いた貴様にも褒美を取らせる。以後も己の技を磨き修練に励むがいい」

 

「ありがたき幸せにございます」

 

 

皇帝は跪く二人を立ち上がらせると、彼らの手を掴み握手をさせた

勝者と敗者ではある物の戦い終わった以上恩讐を流し互いの健闘を讃えるのが古来よりの習わし

 

皇帝の手ずから重ね合わされた手をがっちり握った二人

 

「試合は私が勝利しましたが、負けていてもおかしくない戦いでした」

 

「いえ、私の方こそクルシェフスキー卿の実力には感服させられました。アナタと戦う事が出来たのは私に取って光栄の至りです」

 

彼は優しく穏やかな微笑を浮かべる。人当たりがよく周囲の評価も高い彼のことはモニカも嫌いではなかった

士官学校のライバルとして認めるほどの実力も持っていたし、一度全力で戦いたいと思っていたのである

 

 

互いの健闘を讃え合う二人を一瞥した皇帝は御前試合の終了を宣言。こうしてラウンズの席を賭けた戦いは幕を閉じた

 

730 :二二三:2013/05/30(木) 03:08:41

 

試合終了後、敗者である彼は宮殿を後にすると、ペンドラゴン都内の公園にある公衆トイレで手を洗っていた

それもただ洗うだけではなく、何度も何度も繰り返して。その手は、先ほどモニカと握手した手

まるで汚物に触れてしまったかのように必死になって手を洗い続ける彼の姿には、ある種の狂気を感じさせる物があった……

 

 

 

 

いつも二番だった

勉強でも、模擬戦でも、実戦形式の訓練でも、二番、二番、二番だ!

いつもアイツが邪魔をする。勉強でも!スポーツでも!アイツが一番で俺は二番!何故邪魔をするんだ?!

生まれも育ちも大貴族様で貧乏のびの字も知らないような箱入りのお嬢様が!なぜ貧乏人の俺の邪魔をする!

 

あの試合はおかしい!俺は負けてない負けてないんだ!

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーッッ!!!」

 

そうだ、きっと陛下もアイツを贔屓しているんだ。俺が平民でアイツが侯爵家の跡取りだからって、みんな、みんなつるんで贔屓してやがるんだ!

そうだ!そうに違いない!

でなければずっとアイツが一番であり続けられる訳がない!

あんな蝶よ花よと育てられた金持ちのお嬢様に泥水啜って生きてきた俺が負ける筈ないんだ!

 

 

 

人当たりが良く誰もが「いい人」と褒める彼の内面

嫉妬に狂い、憎悪する本当の姿は、唯々醜いものであった

最終更新:2013年09月06日 21:40

 

 



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息子は愚痴る

817 :二二三:2013/05/31(金) 16:07:25
未来の話だからクルシェフスキー領の人口増えてるけど特に意味はない
捏造入りまくりの休日設定モニカさんルート未来
息子は名前がないよ~
全部一人称



 

 

息子は愚痴る

 

 

 

 

うちの母親モニカ・クルシェフスキーは一家の大黒柱であったりする

 

ブリタニアのクルシェフスキーと言えば世界中の名士たちの間でその名を知られている有名な家系だが、そのブリタニアのクルシェフスキー家当主というのが僕の母親だったりするんだ

昔はブリタニア最強の騎士である皇帝陛下直属のナイトオブラウンズ12番だったらしくて、引退した今でもラウンズを超えるラウンズ、ナイトオブゼロの称号を持ってるアホみたいに強い騎士

そしてブリタニア西海岸に領民だけで二千万。域内人口に至っては三千万を超える国みたいな広い領地を抱えた大貴族でもある。爵位は侯爵。つまり僕は侯爵家のお坊ちゃんな訳

簡単に言っちゃえば社員数二千万を抱える巨大総合企業の社長令息

更にはうちの父親も普通じゃない

うちの父親は嶋田繁太郎って言うんだけど、なんと日本の総理大臣だったりするんだ!……元、だけどね

父さんが総理大臣だったのは僕が生まれるよりずっと前のことだから正直「すごい人だったんだ」以外はわからない

就いていた役職や経歴を考えたら当たり前ではあるんだけど、毎月父さんの口座に振り込まれる年金と恩給の額は凄まじい物がある

サラリーマンの月平均給与の十倍はあるんじゃなかろうか?

そんな父さんの収入を遥かに上回るのが母さんだ。それが母さんが一家の大黒柱と言ってる理由でもある

それに母さんの場合はクルシェフスキーの現当主、つまり現役で仕事してる訳だから引退した父さんが大黒柱というのも変でしょ

 

「強くて美人で侯爵様、そんなすごい人がお母さんだなんて羨ましいな~」

 

学校の友達はよくそんな事を言ってくる

 

確かに母さんは強い。ラウンズの戦場に敗北は無いの言葉通り、現役時代の戦績に殆ど黒星が無い

もちろん母さんも人間離れした怪人物とはいえスパコンじゃないんだから負けたこともあるだろうけど、勝った話の方が圧倒的に多いのは事実だ

特別訓練した後の母さんには、当時ラウンズ最強だったビスマルクおじさんを含め向かうところ敵無しだったみたい

それで特別枠の地位にナイトオブゼロが創設されたとか云われてるけど真相はどうなんだろ?

とにかく、母さんに対抗できるのはナナリーさんの旦那さんで枢木兄妹の親父さんのスザクさんや、ブリタニアの名家シュタットフェルト家の戦姫とか呼ばれてる当代当主カレン・シュタットフェルト卿くらいだ

 

前に動画で見たけどスザクさんもシュタットフェルト卿も母さんと同じく人間の皮を被った妖怪の類としか思えないムチャクチャな動きをしていたから

「ああ、確かにこの二人と母さんは類友のバケモンだ」なんて思ったことがある

 

次に美人てところだけど、まあ息子として贔屓目に見てる訳じゃないけど確かに美人だとは思う

見た目は二十代前半だし女子大生と間違われて合コンに誘われた事があるくらい若い

人形みたいに整った顔立ちに綺麗な碧い目。枝毛の無い艶々の長い金髪。中年のオバサンとは思えないほど理想的なスタイル。年齢不詳かサバ読みしてミスコンか何かに出れば上位入賞しそうなくらいだ

 

でも所詮は見た目だけのオバンには違いないから萌える要素はどこにも無い。だって僕、オバコンじゃないし

髪に赤や青のリボンをいつも巻き付けてるけど、いい年こいたオバンの癖に恥ずかしくないのだろうか?

 

818 :二二三:2013/05/31(金) 16:08:25

 

侯爵様ってのも僕には恩恵が無いからどうでもいい。せいぜい生活に困ったりすることが無いくらいかな?

どうしてかというと、母さんは雀の涙ほどのお小遣いしかくれないから。中学生にもなって1日百円の小遣いしかもらえないっておかしいでしょ?

ブリタニアの貴族らしく寄付金は凄い額になってるんだけど、ちょっとは僕にも寄付してください……

 

僕は日本に住んでるけど母さんの仕事の都合や実家というのもあってちょくちょくクルシェフスキー領にも行ってる

ポートランドやシアトルみたいな超高層ビルが建ち並ぶ大都市圏もあれば、のどかな田園風景が見られる地域もある。どこに行っても様付けで呼ばれるのがちょっと恥ずかしい

で、顔を覚えてもらえた領民の人と話をしててつい小遣いの少なさを愚痴った事があったんだ。そうしたら、その人は平民さんだったけど、自分の息子にあげる小遣いより少ないって驚いてた

 

「モニカ様ももう少しくらい坊ちゃまのお小遣いを上げて差し上げたら宜しいのに……」

 

僕を哀れんでくれたその人は「モニカ様には内緒ですよ」と言ってブリタニア£、日本円で千円くらいのお小遣いをくれた

思わぬ臨時収入にラッキーって思ったけど、領民に恵んでもらう領主の息子っていったい……

 

後で知ったけどクルシェフスキーの倹約っぷりはブリタニアでも群を抜いているらしい

元々ブリタニアには貴族は贅沢が出来る地位にあるぶん、平民に還元しなければならないみたいな不文律があるけど、母さんの傘下にある中堅や下位の貴族たちも右に倣えをしていて

クルシェフスキー周辺部は貴族の子弟より平民の子供の方が小遣い多かったりする例が結構あるみたいだ

 

見かねた領民から「お子様のお小遣いをお上げになってください」なんて陳情書が届いたと聴いた時は思わず「これ、なんのコント?」なんて口に出してしまった

で、平民の声を大切にするのがブリタニアの貴族だ。これは思ってもみないチャンスではなかろうか?

そう考えて小遣いの値上げ交渉に赴いたら

 

「ビタ一文上げませんよ?」

 

とか、けんもほろろに断られてしまった

これには流石に温厚な僕もブチッときたわけで

 

 

 

〔貴族は平民の言葉を大切にするもんとちゃうんかいコラァァァァァーーーー!!人が大人しゅうしとったら付け上がりやがってクソババア!おんどれええ加減にしとかないてまうどーーーッッ!〕

 

819 :二二三:2013/05/31(金) 16:10:25

 

などとは決して言えず、すごすごと引き下がってしまった……

だって、もしそんなこと口にしたら姉さんたちにしてる゛修練゛とか゛帝王学゛とかいう名の拷問を受ける羽目になっちゃう

サクラ姉さんと二番目の姉さんがそれぞれ嶋田家とクルシェフスキー家の跡取りとして育てられてるお陰で、難を逃れてパンピー生活を謳歌してるのに、

わざわざ自分から鬼婆を怒らせてしごかれたいなんてMな性癖は持ってない

 

これはあれか?僕が嶋田の後継者でも、クルシェフスキーの後継者でもないから区別されてるのか?

と思ってサクラ姉さんの小遣い聞いてみたら、僕よりは多かったけどやっぱり少なかった

 

ちゅうことは母さんがドケチなだけだ

侯爵なんて大貴族の癖に何でこんなにケチなんだと父さんに聞いたら

 

「お前も知っての通り俺は贅沢しないだろう?でだな、結婚する前に同棲してたんだが、貴族の窮屈な生活をしてたモニカは俺みたいな、簡単に言えば庶民的で自由な生活に憧れを持っていたんだよ

それで俺と同棲してから始まった憧れの庶民生活を通して感覚が身に付いてしまったというわけだ」

 

つまり母さんがケチになった原因はアンタか。責任取って僕に小遣いください

 

「すまん、小遣いはモニカに一任する約束だから出せないんだ」

 

じゃあ鬼婆に内緒で

 

「いや、決まり事だからダメだ」

 

ちくしょう

父さんまでババアの味方するのか!

 

 

と、いった具合に、羨ましがられる環境ではないのである

 

何せ僕の臨時収入といったらクルシェフスキー領民からのお小遣いや、たま~にリーライナおばさんに「リーライナお姉さん!」なんておべっか使ったときに貰える小遣いだけ

お年玉はお年玉でジャンお爺ちゃん・ソフィアお婆ちゃん・領民のおじさんおばさん・山本のおじさんやリーライナおばさん・母さんの親衛隊の人たち、

果ては父さんや母さんの立場上付き合いのあるオデュッセウス皇帝陛下からも貰えるけど、全部母さんに預けられて、僕には三万円くらいしか回ってこない

 

「中学生のお年玉としてはそれくらいが妥当です」

 

鬼婆はそう言って残り全部僕の預金口座に放り込んで、通帳まで取り上げるんだ

 

 

そんな僕はいま二時間正座させられてお説教を受けた挙げ句に、お小遣いを1日五十円に下げられてしまった

理由はテストの点数が楽しいことになってしまったから……

 

 

「なにか仰りたい事があれば伺いますが?」

 

 

恨みがましく見ていた僕に鬼婆が言ってくる

 

 

 

〔テメーゴラァァアババア!?中学生舐めんじゃねェ!!〕

 

 

 

「………な、なにもないよ」

 

「成績が良くなればお小遣いも元に戻します。しっかり勉強するように……いいですね?」

 

「……はい」

 

 

思っても口にしない僕はきっと賢いヤツだと思います

 

……いつか下克上を突き付けたる!

最終更新:2013年09月08日 13:50

 

 

 



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死は新たな始まり

973 :二二三:2013/06/14(金) 18:33:55
ついでに意味不明のネタSS投下


 

休日モニカルート&最後は超未来

 

 

死は新たな始まり

 

 

 

"お母様、死んでしまうとはどういう事なのですか?"

 

 

唐突とも言える幼い娘からの問い掛けにモニカは頭を悩ませていた

死ぬとは動かなくなること。死ぬとは話をすることが出来なくなってしまうということ。死ぬとはいなくなってしまうということ

漠然とした答えこそ出て来はしても、核心を突いた分かりやすい答えは出せないであろうこの質問

"死"についての真なる答えを持つ者などこの世にはいない。死とは、死んで初めて分かることであり、生きている自分たちには知る由もない事なのだから

無論モニカとて命を賭して闘う騎士。そして貴族である身から幾度も"死"というものに直面してきている

不忠者や逆徒、戦争により闘った敵国の兵士。またテロリストなどと対峙した際、容赦なくその命を奪いもしてきたし、自身の命を奪われそうになったこともある

また、親しい付き合いの領民や、家臣で重い病を患った者たちの見舞いに訪れたり、葬儀に参列したこともあり、立場上人の死に触れた回数は数え切れないほどあった

 

だが、そんなモニカを持ってしても死そのものがどういう事かだけは語ることができない。語ったところでそれは生きている者の想像の範囲内でしかないのだから

それこそ死んでもいない身で死を語るなと叱責を受けてしまいそうだ

 

「そう…ですね。死ぬとは安らかな眠りにつく……という所でしょうか」

 

絞り出せたのは月並みな答え

数多くの人の死に触れてきた者として何とも歯痒い

 

「寝ることなのですか?」

 

「寝ることではありません。永遠の眠り、動かなくなる、考える事も出来なくなってしまう――」

 

なんと答えればいいのか分からない

そもそも娘は何故このような問い掛けをしてきたのだろうか?

自身も幼い頃に死に対する漠然とした恐怖や不安を抱いたことはあったが、それについて考える切欠があったはず……

 

「サクラ。何故あなたはその様なことを聞くのですか?」

 

だから聞いてみた訳だが、やはり死を考える切欠があったようで、娘は今日遭遇した悲しい出来事を語り出した

 

「今日、道で猫さんが倒れているのを見掛けました」

 

「……」

 

「猫さんを揺すっても抱き上げても、話しかけても起きないのです、そうしたら一緒にいたお友達が猫さんは死んでいるから起きないと」

 

そこでサクラは死ぬとはどういう事かと疑問に思ったというのである

一緒にいたという友達も猫が死んでいる事は分かってもそれがどういう物であるのかは分からないらしく、二人して死ぬというのは何なのかと考え込んでいたというのである

 

「動かない猫さんを見ていたら、とても悲しくて涙が出ました……。お母様、死ぬとは何なのでしょうか?お父様とお母様もいつか死んでしまうのですか?いなくなってしまうのですか?」

 

困った。娘の言うとおり自身も夫もいつかは死ぬ

生きているという事は、死に向かって歩みを進めている事でもある。といって、それをそのまま話しては娘が泣いてしまうだろうし、死が何なのかの答えにもならない

死後については未だ解明されていない未知なる領域であるからして、それを分かりやすく説明しろと言われても正直なところ出来ない相談であった

 

「ずいぶんと難しい話をしてるじゃないか」

 

そんな中、どう答えれば良いのかと悩んでいた彼女の後ろから娘に向かって話しかけたのは夫であった

 

974 :二二三:2013/06/14(金) 18:35:14

「シゲタロウさん」

 

「お父様」

 

「死の質問はかぐや姫の難題に匹敵するような難しいものだ」

 

悩んでいたモニカに替わって嶋田は一つの答えを示す

 

「だが敢えて言うなら、死ぬというのは次の始まりへの休憩時間なんだよ」

 

「どうしてお父様には死ぬというのが休憩時間とわかるのですか?」

 

理由がなければ納得できないとでも言いたげなサクラに父は答えた

 

「それはな、お父さんが死んだことがあるからだ」

 

「エエっ!?」

 

思わぬ衝撃発言に驚きの声を上げたのは、質問者である娘ではなく妻であった

モニカはブリタニア皇帝に仕えるナイトオブトゥエルブであると同時に、夫シゲタロウの騎士でもある

常に彼の側に控え、彼の身を守り続けてきたのに死んだ事があるなどと言われたら立つ瀬がない

そんな妻の様子を見て「いいからいいから」と宥めた彼は話を続けた

 

「実はお父さんには生まれる前の記憶があるんだ」

 

「お父様が生まれる前?」

 

「そう。生まれる前ということは死ぬ前だ。そして生まれる前に死んだお父さんは新しく生まれたからいまここにいる」

 

「生まれる前は死ぬ前……。それでは私も死んだことがあるのですか?」

 

「ああもちろんそうだよ。ただサクラは生まれる前のことを覚えてないだけなんだ」

 

「では、どうしてお父様は生まれる前を覚えているのですか?」

 

質問に次ぐ質問に対し、聞き分けのない子供に嘘をついてでも納得させるような信じられない話をする夫であったが、モニカには不思議と嘘ではなく本当のように聞こえた

それはサクラも同様で、彼が生まれる前を覚えているのが前提の話をしている

 

「さあ、どうしてだろうな。生憎お父さんにも分からないんだよ。ただ、その猫さんは今少しだけ休憩しているのは確かかな?」

 

「シゲタロウさん」

 

「どうした?」

 

いつの間にか娘以上に自分が聴き入っていたモニカは、気がつけば二人の話に割り込んでいた

 

「私も、覚えていられるのでしょうか?」

 

もし、夫が本当に生まれる前を覚えているのであれば、自分も覚えていられる可能性があるのではないのか?その答えを知りたい

 

「さ、さあどうだろう?俺が覚えているからといってキミもそうであるとは言えないからな…。殆どの人は忘れてしまうわけだし」

 

しかし彼女が期待していたような色よい返事は返ってこなかった

 

確かに夫の言うとおりである。少なくとも自分の知り合いに前世を覚えている者など居はしないし、前世という物が本当にあるとの証明すらされていない

だが、もし夫の言うことが本当ならば、自身も次の時に前世を覚えていたいと思うのだ

 

「ですが、シゲタロウさんが覚えておられますように、私も覚えていられる可能性はあるということですね?」

 

「まあ否定はしないよ」

 

否定はしないが肯定もしない夫。だが自分は覚えていなくてはならないのだ

次の時においても彼と出会い、その身を守護する騎士となるために

 

975 :二二三:2013/06/14(金) 18:38:13

「話が逸れたが、こんな所でいいかなサクラ」

 

「はい」

 

きっと娘は死ぬことに恐怖を抱いていたのだろう。誰しもいつかは死ぬし、死について考えるもの

永遠の眠りにつく。自分が消えてしまう

そうなってしまうのが怖い

 

だが、次があるとわかればその恐怖に悩まされる事もない

 

夫はそう考えてこんな話をしてくれたのだと思われるが、実のところ、モニカの不安もまた拭われていたのである

モニカの愛する夫は彼女より四十歳も年上だ。必然的に彼は先に旅立ってしまい今生の別れを向かえることになる

彼女はそれが辛く悲しく、そして怖かった……

 

だが次がある。生まれ変わりが存在するのなら怖くない。次があるのなら、また彼と出会い結ばれる可能性があるのだから

 

(私は忘れない。そして必ずやアナタを見つけ出す)

 

もちろんこの話が本当であるという保証は何処にもなかった

それこそ夫のみぞ知ることであり、彼にしかわからないこと

 

しかし、モニカは願わずにいられない

 

死の先にある新たな生と時の中で、また彼と共にあり続けられるようにと

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×××年後

 

 

 

神聖ブリタニア銀河帝国クルシェフスキー侯爵領を構成する星系の中心星、惑星クルシェフスキーにて次代領主となる1人の女児が誕生した

 

すくすく育った少女は、やがてブリタニア銀河帝国最強の騎士ナイトオブラウンズの末席に任命され、同盟関係にある銀河系国家、大日本銀河帝国の駐在武官として惑星東京へ派遣される

 

そして時の大日本銀河帝国首相の邸宅に住まうこととなるのだが、ここに一つ不思議なエピソードがあった

 

ナイトオブトゥエルブが派遣されると聞いた時の日本銀河帝国首相は、自らうちで預からせて欲しいとブリタニア側に打診していたというのである

そして要請を受けたナイトオブトゥエルブもまた二つ返事で了承し、任官の挨拶に訪れた官邸で首相の前に跪き、

「お久しぶりでございます我が愛しき主」と口走り、続けて「ただいま」と言って首相に抱きついたというのだ

更には抱きつかれた首相まで「おかえり」と言って受け止めるという、初対面のはずの両者ともに有り得ない行動を起こしていた

 

当然この不思議なやり取りは銀河を丸ごと支配する銀河系国家の総理大臣と、もう一方の銀河系国家の皇帝副官にして一星系の次代領主の大スキャンダルとして

銀河に跨る大手新聞社であり、幾つもの星系を支配下に置く両国の仮想敵国、大星系国家清と繋がりがあると黒い噂の絶えない舞朝新聞、

そして傘下の星間週刊誌、週刊減退の手で大々的に報道された

 

その一面を飾った首相の名を嶋田繁太郎

同じく紙面を飾った騎士の名をモニカ・クルシェフスキーといった

最終更新:2013年09月08日 14:35

 

 

 



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挑戦の尚人

 

挑戦の尚人

 

 

 

「決戦の時がきたか」

 

都内某所のとある政党本部

薄暗い部屋で男は両の目を輝かせていた

 

大日本帝国第XX回衆議院総選挙

 

 

「皆さん!今この大日本帝国に必要なのはマイナス消費税です!世界でも類をみない豊かなサクラダイト資源国である日本は、その立場上サクラダイトのレートを決める国際会議において大きな発言力を持っております!

にも関わらず、今日のサクラダイトのレートは非常に低く、我が国はその採掘規模に見合わない収入しか得ておりません!

その国家国民の財産であるサクラダイトの安売りを現在進行形で行っているのが現与党であり、枢木総理なのであります!

我が日本公民党はこのレートを解消して財源を生み出すことによって、国民への還元、則ちマイナス消費税を導入し、国民生活の更なる向上の手助けとなることを約束いたします!」

 

「いいぞ剣!」

 

「国民生活の更なる向上を!」

 

代表演説に集まった群衆から湧き上がる。声、声、声

 

耳障りのいい言葉は、剣尚人の支持者たちを歓喜の渦に巻き込んでいく

 

「更に!現枢木政権はあろう事かユーロブリタニア勢力による欧州侵略に手を貸そうとしています!

無用な緊張状態を引き起こし、戦争を誘発させるような行為に勤しむ現枢木政権にこれ以上日本の憲政を任せておくことなどできません!

我が日本公民党は国民に戦争の道を歩ませはしない!

ユーロブリタニアの侵略主義には荷担しない!

NOと言える政治・外交を展開していきます!

平和を望む大日本帝国臣民の皆さん!

どうか!どうか我が日本公民党に清き一票を託してください!」

 

 

 

〔剣(けーん)!剣(けーん)!剣(けーん)!剣(けーん)!〕

 

 

 

演説の直後、都心の一角を剣コールが包み込み、怒号のように響き渡る

 

「我が公民党は常に皆さんと共に歩みます!我々は皆さんのトモダチです!家族です!」

 

 

 

それぞれの思いを胸に出陣する剣を初めとした公民党の幹部たち

 

 

「皆さん!ボクは必ずやこの争いの世界に終止符を打ちます!世界は!このボクが友愛する!モニカちゃんの心友であるこのボクを信じてください!」

 

 

「1人で駄目なら2人!2人で駄目なら3人!この大沢、二度と党を割るような事は致しません!剣代表・鳩川幹事長・そしてこの私、大沢のトロイカ体制に任せてください!この剛腕をもって必ずや皆さんの期待にお応えして見せます!」

 

 

しかし彼らの前に立ちふさがるはあまりに強大な勢力だった

 

 

「公民党の甘言などに惑わされてはなりません!今日の日本の発展は我々日本が唯一のパートナーとして共に歩む事を決め、手に手を取って助け合いながら生きてきた家族とも呼べる国、神聖ブリタニア帝国、そしてユーロブリタニアという友人たちの協力が有ったればこそなのです!

その友人であるユーロブリタニアを追い出し!金権政治と汚職に塗れてしまったEU!

彼らはそのEU国民の苦しみを思えばこそ立ち上がらんとしているのです!

それを頭ごなしに侵略と罵り敵視する彼ら公民党は、日本の信頼を地に落とそうとしている卑劣漢でしかありません!

弱者救済を掲げながら、自分がよければそれでいいとサクラダイトのレートを上げようとしていることこそ!彼らが真に貧しき人たちのことを考えていない何よりの証明ではないでしょうか!

サクラダイトの値上がりによって最も苦しむのは発展途上にある国々であり、サクラダイトの恩恵を受けられなくなった人々の生活は破綻します!

この世界は日本やブリタニアのような豊かな国ばかりではないのです!」

 

 

強敵たちを前に日本公民党は野党第1党の座を死守することができるのであろうか?

 

そして政権の行方は?

 

 

次回 真夏の激戦

 

 

剣尚人の戦いが、今、始まる

最終更新:2013年09月08日 15:27

 

 



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悪い子にはならない

948 :二二三:2013/07/12(金) 01:38:45
ちょっと息子がゲスいの投下~
モニカさんがマジでひどい目にあってる描写があるから嫌な人は避けてね~
ついでに文章荒いんでそこんとこヨロシク~



悪い子にはならない

 

 

ある日、母さんが倒れた。病院に駆け付ける父さん、姉さんたち、母さんの部下の人たち

 

そして、僕

 

「迅速な対応とご本人が持つ強靭な体力のお陰もあり一命は取り留めることができました」

 

お医者さんの説明に胸を駆け付けたみんなは撫で下ろす

でも、それはほんの一瞬の間でしかなかった

 

「しかし、後遺症として左半身に麻痺が残ることは確実です」

 

僕の耳に続いてお医者さんの言葉が入ってくる

 

「日常生活を送るまでには回復すると思われます。ですが、回復はそこまでです」

 

「KMFには!?」

 

姉さんが叫ぶ。ただ質問しているだけなのに叫んでいるように聞こえた。それだけ憧れの母さんが心配なのだろう

 

「とんでもない!日常生活を送れるといっても、それも介護なしでは不可能なほど身体能力が喪われているのですぞ!本来ならば命を落としていてもおかしくないというのにKMFに乗るなど自殺行為に等しい!」

 

口調が荒くなるお医者さんと非情な現実を突き付けられ、その場に崩れ落ちる姉さん

終始冷静だった父さんの右手からは赤い雫がにじみ出ていた

 

 

数年後、自分の部屋にいた僕は母さんに呼ばれて一階に降りる。向かう先は焦げ茶色のお膳が置かれた居間

 

「なに?」

 

自分でもわかるくらい不機嫌な声になってしまう

あの日以来、弱々しい動きしかできなくなってしまった母さんが未だにエラソーな態度で説教するのがイライラして声に出てしまうようになったんだ

ホント、こんな筈じゃなかったのにね~

 

「―!――!!」

 

聞き取りにくい感じの言葉で母さんのお説教が始まる。よく聞いていないと何を言ってるのかさえわからない

そりゃそうだ。言語中枢にも麻痺が残っているんだから

 

「――!!」

 

ああ……イライラする

 

「うっせなぁ~」

 

口を突いて出て来たのはそんな言葉

 

「僕の頭が出来損ないだって言うなら、そんな出来損ないを生んだ母さんも同じだよね」

 

「……」

 

「おまけに今は扱けもしない。口でわーわー言うだけしかできない」

 

何を言ってるんだろうと思わないでもなかったけど、一度漏れ出した言葉は止まらなくて

 

「いい年してそんなリボンを髪に巻いてさ~恥ずかしくないわけ~?」

 

「……」

 

母さんは何も言い返してこないけど、僕の言葉は止まらない

もういいや、我慢生活もウンザリだし準備も整ってるし、種明かししてやろう

 

「だいたい僕は母さんに生んでくれなんて言った覚えないよ?誰がいつアンタに生んでほしいって頼んだよ?勝手に生んで育ててアンタの思うように教育されるこっちの身にもなってみろよ」

 

僕はその場から立ち上がると母さんの胸ぐらをつかみあげた

 

「ほら、昔みたいに投げ飛ばしてみてよ?ねえ?ねえ?」

 

僕は母さんを嘲笑いながら母さんの頬を殴った

 

「――っっ!」

 

「どうしたの~?やり返さないの~?なっさけないね~天下の元ラウンズ様が超格下の僕に殴られてな~んにもできないんだからさ~」

 

騒ぎを聞きつけたのか姉さんが来て止めに入るけど、僕は母さんをつかみあげてる右手はそのままに、空いている左手の裏拳一発で姉さんをぶっ飛ばした

三下が。僕に叶うとでも思ってんの?

 

「邪魔するなよ今いいところなんだからさ」

 

ふと見たら母さんの右手が震えていた

 

「あれ~?ひょっとして生意気にも怒っちゃってんのかな~?まあいいや、とにかく出来損ないでポンコツになっちゃったババアなんか怖くも何ともないから言っとくよ」

 

僕はひと月前に接触したある人たちから持ち掛けられた話をする

 

「剣尚人と浅村豊数って知ってるよね?」

 

「―!」

 

僕を睨んでいた母さんの目が見開かれた。蒼い瞳が揺れている

 

「そ、アンタや父さんの政敵である腐敗臭ぷんぷんのオジサンたち。でさあ、僕、夏の総選挙にその剣先生と浅村さんに後ろ盾になってもらって立候補するんだよ。当選は確実らしくってさ。もう勉強する必要無いんだよね~」

 

議員先生になれば左団扇の生活が待っている。勉強付けと母さんの説教からおさらばするのさ

母さんは僕が剣先生と浅村さんの二人と繋がってたことが余程ショックだったのか悲しい目をしていた

 

950 :二二三:2013/07/12(金) 01:41:08

 

「ついでに種明かししておくと、アンタの身体が麻痺した原因、それは僕が仕込んだ毒なんだよ」

 

「ッッ!!」

 

「そうさ!毎日毎日ウルサいアンタを黙らせてやろうと考えて毒を盛ってやったのさ!ククク…ア~ハッハッハッ」

 

母さんを出し抜いた喜びからか、一々出さなくてもいい下衆な笑い声が止まらなくなってしまう

ふと母さんの右手を見ると、さっきまでの震えが止まっていた

 

「あれ?そんなにショック?アンタの翼を奪ったのが実の息子である僕だった事実に」

 

そうだ。僕は母さんの翼を奪った。二度とKMFに乗れない身体にしてやったんだから

 

「ま、気も晴れたしもういいや。ポンコツになっちゃったアンタに僕は止められないし、お人好しでボンクラな父さんが僕の正体に気づく訳ないし…ね…」

 

そこまで言ったときだった。満足に動くことすらできない母さんから、全身ズタズタに引き裂かれるような殺気を感じたのは

 

「シ・・ゲ・・タロウ・・への・・・ぶじょ・・くは・・・・ゆるし・・ま・・せん・・・」

 

や…ばい……なんか知らないけどヤバい!

早くっ!早くこの死に損ないから離れなきゃ!!

そう思った時は………もう、手遅れだった…

 

「かは・・っ!」

 

止まっていた右手が目視できない速さで動いたかと思うと、次の瞬間には僕の喉を掴んでいた

 

「は・・なせっ・・・っ!」

 

もの凄い力で僕の喉に指が食い込む。音が、喉を握り潰す音が聴こえそうなくらいに

 

「あ、なた、の、きょ、いく、を、まち、がえた、わた、し、を、ゆる、して、く、ださ、い、」

 

母さんは泣いていた。僕の毒で翼を無くしても決して涙を見せなかった母さんが泣いた

 

"ゴキっ"

 

鈍い音が聴こえる。なん、だ、この、音?

息が、息ができない、

 

「せめ、て、あな、た、が、これ、いじょ、う、みち、を、ふみ、はずす、まえ、に、わた、し、が、いん、どう、を、わた、し、ます、」

 

いん…どう?

引導だって?

フザケンナ!

僕には!僕には輝かしい未来が待ってるんだ!

こんな!こんな事で!

こんな事でェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!

 

「ごめ、ん、な、さい、あい、して、い、ました、よ、カズ、シ、ゲ、」

 

"ボキっ"

 

もう一度鈍い音が聴こえて視界が暗転する瞬間

 

最後に見たのは、止め処なく溢れる涙に濡れた、悲しそうな母さんの顔だった

 

 

 

◆◆◆

 

951 :二二三:2013/07/12(金) 02:00:09

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ―――――ッッッ」

 

あれ……声が出る

さっき母さんに喉を潰されたはずなのに…………………………

 

「………ゆめ?」

 

ど、どうやら夢だったみたいだな、だけど……

 

「なんつー夢なんだよ」

 

僕、下衆すぎだろ

昔見た下衆さん下衆だよ

母さんに毒を盛って半身不随に追いやって公民党から立候補して、オマケにあんなことまで……

最後は母さんに喉潰されて殺されるなんて

 

「こら一繁!」

 

「うわあァァ!………ってなんだ、サクラ姉さんじゃないか……なんか用?」

 

「なんか用?じゃないでしょう!アナタいま何時だと思ってんの?!」

 

「何時って」

 

僕はいつも6時半には目が覚める

 

「6時半?」

 

「7時半よ!」

 

ゲェ!マズい遅刻する!

 

「ち、遅刻!遅刻しちゃうよ姉さん!」

 

「そんなこと言ってる暇があるならさっさと着替えて降りてきなさい!」

 

「わ、わかった、」

 

着替えて一階に降りた僕を待ってたのは、元気な母さんだった

そりゃそうだ。あの母さんは夢の中の母さんなんだから

 

「おはようございます」

 

「お、おはよう、母さん仕事は?」

 

「今日はナイトオブシックスと交代でお休みですよ?」

 

「そ、そうなんだ。父さんは?」

 

「お出掛けの支度をしています」

 

「出掛けるってどこに?」

 

「たまの休みですから映画でも観に行こうとなりましてね」

 

「へ、へぇ」

 

「そんな事より早く朝食を済ませなさい!アナタだけですよ?!夜遅くまで起きているからこの様なことになるのです!」

 

「あ、う…」

 

朝っぱらから母さんに怒られた

 

952 :二二三:2013/07/12(金) 02:00:58

「あのさ母さん、」

 

「なんですか?」

 

「もしもだよ?もしも僕が悪の道を歩み始めたら……母さんはどうする?」

 

「悪の道……ですか」

 

「もしもだよ!もしも!」

 

母さんは少し考えた後、答えた

 

「それは無意味な質問ですよ?」

 

「ど、どうしてさ?」

 

「カズシゲが悪の道に足を踏み入れる。そのような事、私がさせると思いますか?」

 

「う…」

 

「それに、アナタは私がお腹を痛めて生んだ子。アナタの事は一番理解しているつもりです。アナタは不真面目で、お調子者で、落ち着きのない、手の掛かる子ですが――」

 

悪い子にはならない。迷いなくそう答える母さんに面食らってしまった

 

………なんか、嬉しい

 

「さあ、早く食べなさい」

 

「……うん!」

 

目の前に置かれた味噌汁に手を着ける

 

「……」

 

まっず~~~!!

 

こ、この味は、間違い無い

 

「これ、母さんが作ったの?」

 

「ええそうですよ。さ、遠慮無く食べなさい」

 

「い、いただきます、」

 

母さん、アンタ自分の料理の腕が壊滅的なの自覚してんでしょーが!なんでメシ作ったの?!

 

でもニコニコしてる母さん見てるとマズくて食えないなんて言えないし

 

なんとか嘔吐感を我慢して食べきったけど、結局学校で吐いてしまったのでした

最終更新:2013年09月09日 01:02

 

 



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弘安4年1281年

791 :二二三:2013/07/25(木) 04:44:31
唐突で意味不明で訳わからないタイムスリップネタ~



 

弘安4年1281年

 

九州大宰府で行われていた日本の運命を左右する二つの会談

 

一つは日本を代表する皇家と、遥か東欧まで広大な領域を支配する中華の皇帝が書いた書簡を持参して訪れた使者の協議

こちらは使者を斬り殺した後に「帰って皇帝に伝えよ!日の本は中華に屈さず徹底抗戦であると!」と日本の意思を使者の配下に伝えて追い返し、交渉決裂という結果に終わった

惨い仕打ちと言えなくもなかったが、前回と此度、二度に渡る大陸の皇帝よりの書簡が侮蔑に満ちた内容であり、到底受け入れられるものではない

要約すれば日の本は我が国の属国となれという屈辱的な命令なのだ

なぜ日の本が大陸の風下に立たなければならぬ。これが皇家と日本が出した当然の答えであった

 

 

そしてもう一つ、日の本の人間も大陸の人間も、誰も名前を知らないであろう男たちの会談

皇家と皇帝の使者の会談とは違い差ほどの重要性も意味もない男たちの話し合いであったが、実のところそうではない

本当は此方の会談こそが日の本の、そして世界の歴史と未来を根底から覆してしまう可能性を秘めているのだ

 

792 :二二三:2013/07/25(木) 04:45:39

「それでは単刀直入に申し上げよう。我々が欲しているのは富士山だ。それ以外に興味などないし、悪戯に日本を侵略しようとも考えてはおらぬ」

 

口火を切ったのは50代と思わしき細目の男

 

「この提案を受け入れてもらえるならば東路・江南両軍を引き上げさせるよう中華の皇帝に取り合ってやる」

 

既に皇家と皇帝の使者の会談は決裂し、後は戦端が開かれるのを待つばかりであるにも関わらず、大陸の属国であり奴隷でしかない高麗人の男は自信ありげに唇を歪めている

自分ならばどうとでもできるという自信の表れ

 

「それはありがたい申し出だがお断りさせて頂こう」

 

戦争を止めるよう皇帝に掛け合うとの申し出を蹴ったのは60代と見られる坊主頭の男

 

「この戦争は日の本の勝利で終わる戦争だ。故に貴殿の申し出は受け入れるに値しない。そして富士山をくれてやる義理も道理もない」

 

「ほ~う?これはまた随分と大きく出たものだな海軍大臣殿?」

 

(元、だがな)

 

海軍大臣と口走った細目の男に心中で返す坊主頭の男

 

「なるほどなるほど、確かに貴様の言う通りだろう。大陸の原始人どもは負ける。この国に伝わる神風というものに叩き潰されてな」

 

まるでこの戦争の結果を知っているかのように話す二人であったが、事実知っているのだから冗談では済まない

大陸からの侵略者が神風によって壊滅する。これは歴史の必然であり、確実に起こることなのだ

但し

 

「但し、我々がいなければの話だが」

 

793 :二二三:2013/07/25(木) 04:48:18

男が言う我々とは自分たちのことを指し示していた

つまり、彼等がいる以上神風が吹いたところで負けると言うのである

 

「確かに貴様たちならば神風が吹いたところでやりようはあるだろう。だが、大陸側に貴様らが付いているように日本にも我々が付いている」

 

「ふん、そちらの戦力が補給艦と中型揚陸艦の2隻だけなのはとうに知っている」

 

補給艦・揚陸艦というのは戦う為の船ではない。細目の男が持つ戦力からすれば話にもならない

 

「対して此方は巡洋艦2隻。大日本帝国海軍を率いていた貴官ならこの戦力差が何を意味するのかわかるはずだが?」

 

護衛の無い中型揚陸艦と補給艦など話にならない

 

「それはどうかな?」

 

「強がってみたところでこの戦力差では勝負にもならんぞ?」

 

「そうやって自己を過大評価するのは高麗人の悪い癖だなカン・チョクジン艦長」

 

「なにィ」

 

一触即発の空気になるも、二人が腰の拳銃を引き抜くことはなかった

 

「ちっ まあいい。そっちがその気なら乗員纏めて海の底に沈めてやる。それまでせいぜい首を洗って待っていろ山本五十六」

 

 

◆◆◆

 

 

「終わった?」

 

細目の男高麗巡洋艦艦長カン・チョクジンが出て行くのと入れ替わりで入ってきたのは20代に見える長い金髪の女性だった

 

「どうでした山本さん」

 

「失礼します」

 

女性に続いてやはり20代の栗色ショートの女性と目つきの鋭い青年の二人が入ってきた

 

「あれはダメだな、何が何でも富士山を取る気だ。おそらく高麗半島にはサクラダイト精製施設と集積所も転移しているんだろう。大陸を原始人と言ってるところから、大陸相手に砲艦外交的なこともする腹積もりだ」

 

「そして当面動くのに困らないだけの弾薬とサクラダイトはある……放っておけないわね」

 

「無論放っておくつもりはない。おそらく高麗艦隊の2隻は中華の九州上陸を支援したあとは一直線に京へ向かい海上から京の都を狙うはずだ。対して此方は日本海側で待ち伏せ」

 

「腕が鳴るわグラウサム・ヴァルキリエの名は伊達じゃないってところたっぷり見せてあげる」

 

「リーライナ先輩は妊娠中なんですから無茶しないでくださいっ」

 

「そうですよヴェルガモン卿。ここは僕とマリーカさんに任せてください」

 

「わかってる、だから自分なりのペースで戦うわ」

 

「本当に無茶はせんでくれよ?」

 

「いっくんまで……みんな心配性なんだから」

 

「とにかく、奴らはまだ此方にグラウサム・ヴァルキリエのヴィンセント・カスタム4騎とレオン君のブラッドフォードがあるのを知らない。これを最大限に生かすんだ!」

 

794 :二二三:2013/07/25(木) 04:50:32

終わり~。ギアスで元冠あったのか元のポジションになる国があったのかは不明なので中華帝国みたいになってます

あと自分でも意味不明な話になってるからタイムスリップのきっかけは想像にお任せ~

最終更新:2013年09月15日 15:35

 

 



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ある日の山本邸

ある日の山本邸

 

食卓にはご飯、味噌汁、納豆、ひじき、といった実に日本の朝に相応しい、簡素ながら健康的な食事が用意されていた

 

「うん美味い。朝はやはりご飯と味噌汁に限るな」

 

家の主人である山本五十六は味噌汁を啜りながら満足気に頷くと、いつも手元に置いてある朝刊を開いた

 

゛夏の総選挙を前に白熱する都議会議員選挙、日本公民党は改選前の議席獲得も危うし!゛

 

゛公民党党員、公職選挙法違反で逮捕!゛

 

「相変わらずか」

 

選挙の度に公民党員が逮捕されるのは、大臣時代から日常的な出来事であったせいか、まったく関心が持てない

それだけ不正が横行している証拠でもあるため無関心でいるのは良くないのだが、現役時代ならいざ知らず、今の自分は単なる無職の親父

ぶっちゃけ関心持って何かしようとしても、何もする立場に無い訳で

 

「これで剣の小僧が少しは大人しくなれば良いのだかな」

 

という感想を述べるのが関の山なのだ

無論、国家の一大事ともなれば夢幻会顧問としての立場と権力を行使したりもするであろうが、そうではない平時の選挙は国民の手で行うべきである

幸い、有権者はまともな判断を下しそうなので安心して流し読みができるのだが

 

「ふぁっ…、おはよ~……」

 

そこへやって来たのは寝ぼけ眼で大きな欠伸をしながら朝の挨拶をするリーライナだ

長い後ろ髪は首の後ろで一つに纏めているのであまり寝癖は付いていない物の、前髪はボサボサになっている

 

「おはようさん。偉くゆっくりしているな」

 

「別にいいでしょ~休みの日くらいゆっくりしても~」

 

リーライナはふらふらと近寄ってきて山本にしなだれかかる

 

「大体いっくんが悪いんでしょ~が」

 

彼女は新聞を広げている彼に後ろから抱き付き、耳元に唇を寄せると愚痴を零した

 

「俺がか?」

 

「そ~よ。あんなふうにされたら疲れもするわ」

 

昨日の夜の事を言っているのだ。明日は休みだからと泊まりに来たリーライナと一晩中やることをやっていた訳だが、酒の勢いもあってか、ついつい頑張りすぎてしまったのである

 

「あ、あ~すまん。飲み過ぎていたから歯止めが利かなくなっていたんだ」

 

「反省してるの~?」

 

「反省しとる」

 

「ん~、じゃあいいわ。許したげる」

 

チュッと彼の唇に軽く口づけたリーライナは、彼の肩越しに広げられた新聞の記事を見た

 

「ああ。そういえば今日都議選だったわね」

 

今日が投票日の都議選。選挙という制度がないブリタニアの人間からすれば、物珍しく映るのかもしれない

 

「いっくんも行くの?」

 

「国民の義務だからな。飯を食ってから出ようかと考えていたところだ」

 

「ふ~ん…」

 

小さな一票だが、その一票が集まって国を動かす為に必要な力となる

民主主義の国で投票に行かないという事は、国を動かす権利を放棄する事であり、国が行う政策に文句を言える立場でさえ無くなるという事だ

自分から動こうとしない者に権利を主張する資格など有りはしない

 

「ねぇ」

 

「なんだ」

 

「私も付いて行っていいかしら?」

 

「別に構わんが、ただ投票用紙を入れに行くだけで楽しくも何ともないぞ?それにリーラは投票所の中までは入れんからな」

 

「いいの。外から見てるだけでも雰囲気は味わえるし、ついでにどこか歩きましょうよ」

 

投票に行った後はデートをしようというわけだ

 

「それなら行くか。あとな、いい加減離れてくれないか?飯が食えん…」

 

「な~によ?ホントは気持ちいいクセにぃ~」

 

背中越しに押し付けられるは二つの大きな山

 

「飯時に押し付けてくるな!」

 

「耳まで真っ赤にしちゃってか~わい~♪」

 

「うるさい!早く離れろ!」

 

「はいはい、離れますよ~」

 

漸く山本から離れたリーライナは向かい側に座って箸を取り「頂きます」と言って用意された朝食に手を着けるのであった

最終更新:2013年09月09日 00:44

 

 



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ブリタニアはヴェルガモン伯爵領にある大きなお屋敷


612 :二二三:2013/08/26(月) 00:39:34
なんとなく書いたネタ投下
いっくんとリーライナの話
色々ねつ造?


 

 

ブリタニアはヴェルガモン伯爵領にある大きなお屋敷

その屋敷の奥にある一室では、男らしく坊主頭にした壮年の東洋人男性が、お金持ちや貴族などが使っていそうな豪奢なベッドの上で、うつ伏せになって苦しんでいた

 

「いっ、痛いっ、もう少し加減してくれ、」

 

男性は腰を痛めている。誰でもそうだが、腰が痛いときは家族に揉んで貰うのが一番

 

「はいはい、わかってるわよ」

 

ということで男性の身体を跨いでベッドに膝を突く金髪ロングヘアの美人な奥様が腰を揉んでいる

 

「まったく。なにが"今夜は身体の調子がいいから寝かさんぞ"よ。少しは自分の歳を考えなさいよ」

 

「す、すまん、まだまだ若いと思っていたのだが、気付かん内に結構ガタがきていたようだ」

 

男は反省する。前は一晩くらい余裕であったものだが、いつまでも若くはないのだと

それ以前に一度目の人生で歳を取れば衰えるとわかっていた筈なのに"もう歳なんだから無理しないで"という妻の気遣いに、ムカッ腹が立って無茶をしてしまったのだから自業自得だ

人間歳を取ると身体の至る所に不具合が出て来るもの

長年使い続けていれる冷蔵庫や洗濯機などの家電製品と同じで、肉体というのも壊れてくる

幾ら若い頃海軍で鍛え、今でも節制しながら日々の運動を欠かさないようにしているとはいっても、本当の若者には適わない

それが証拠に年若い妻はぴんぴんつやつやしているのに、自分は恥ずかしながらぎっくり腰

 

「情けない。まだまだ若い者には負けんつもりなのだが……」

 

「若い者なんて言葉が出て、それを私に投げ掛けてる時点でいっくんももう若くないの。大体いっくんって私のお父様とお母様より年上じゃない」

 

事実だ。妻が二十代前半なのだから、ご両親が年下なのも至極普通である

今でこそ違和感なく話をしているが、結婚前まではギクシャクした会話をしていた。多分年上だからと気を使われていたのだろう

 

「お父様ったら、婿殿にはご無理なさらないようにって心配してたわよ?」

 

「う…む、それはいかん…。ご両親にご心配を掛けさせる為に来たわけではないからな」

 

男、いっくんが遙々ブリタニアはヴェルガモン伯爵家、つまり妻リーライナ・ヴェルガモンの実家を訪れたのは、夏の長期休暇を実家で過ごそうとなったからである

お盆の期間は日本で、後半はヴェルガモン伯爵家で過ごすのが妻と一緒になってからの夏の過ごし方だ

 

「もっとも元気なら元気で厄介なんだけどね~」

 

「なにが厄介なんだリーラ」

 

「だって、うちの領で試験的に運営を始めたカジノに行かれたら潰れちゃうじゃない。どうせこっちにいる間に隙を見つけて行く気だったんでしょ?」

 

「い、いや、それはだな、」

 

妻の言うカジノとは、国が運営しているものではなくてヴェルガモン家傘下の貴族が伯爵に許可を取って試験的に運営を始めたもの。実質的には義父である伯爵が後ろ盾になっているヴェルガモンの私営カジノだ

悪く言えばギャンブル狂とでもいうべき博打好きのいっくんは当然実家に帰省している間に一度は立ち寄ってみようと考えていた

しかし、それをされると困るのが妻リーライナである

 

「領主の娘婿が、領主傘下の貴族が経営しているカジノを潰したなんてことになったら堪ったものじゃないわ」

 

「そこは加減する。お父上からも許可は得ているのだから少しくらい良いだろう?」

 

「ダメ!お父様が許可しても私が許可しないから。だってお父様はいっくんの"腕"を舐めてるから。いっくんがEUで"クラッシャー"なんて渾名付けられるくらい凄腕の博徒だってこと未だに信じてないし」

 

「誰がクラッシャーだ!俺はただ純粋にギャンブルを楽しんでいるだけであってだな……!」

 

「ダメなものはダメ!ぎっくり腰のオジサンは家で大人しく寝てればいいの!」

 

「ならば意地でも治すぞ!」

 

「治ったら家族サービスに決まってるでしょ!それとも、まさかあの子連れてカジノ行く気?」

 

「いくらなんでも子どもを連れては行けんよ……」

 

あの子とは二人の子どもである。まだまだ幼児であり賭博上に連れて行くなどとんでもない

 

結局のところ、いっくんはぎっくり腰と妻と子どもに雁字搦めにされてヴェルガモン領のカジノへは行けないのであった

最終更新:2013年09月15日 18:39

 

 



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嶋田さん「まさかゼロの使い魔か!?」

316 :二二三:2013/08/29(木) 15:04:13
泣きながら塞ぎ込んでいた幼少期のルイズが使い魔召喚の魔法を使おうとして嶋田邸の庭に逆転移とか


 

発見した嶋田さんが詳しく聞いてみるとハルケギニアなる異世界から来たらしいことが判明

 

嶋田さん「まさかゼロの使い魔か!?」

 

辻さん始め夢幻会にも連絡が行き渡りどうしようかとなる

 

一応身元照会しても不明の迷い子であり、放ってはおけないからと家で預かることに

 

そして貴族出身、しかも侯爵家の後継者であるモニカさんと、同じく公爵家三女であるルイズは親近感を覚えて仲良しに

 

そして嶋田さんの騎士であり、ブリタニア最強の騎士、領民のことを大切に思うモニカさんの姿に、生き別れになってしまった両親の背中を見たルイズは「自分も立派な貴族になってみせる」と決意。モニカさんから貴族の心得や在り方を学んでいく

更には山本さん通じてリーラさんとも知り合い、リーラさんからも貴族とはどうあるべきかを教えられ、本格的教育を受けるために嶋田さん紹介のもとクルシェフスキー侯爵やシャルルのもとで帝王学を学ぶ

シャルル、久しぶりに自分の教えを求める少女ルイズの存在に感極まり、愛とは家族とはの大演説を定例会見でぶちかまして、集まっていた皇子皇女諸侯どん引き

クルシェフスキー侯爵も昔を思い出しながら実の娘のようにルイズに教える

 

数年後、こちらの世界にも適応してきたルイズは嶋田さんを「シゲ兄さま」モニカさんを「モニカ姉さま」と呼び慕うように

 

ついでにくぎみー主義者富永も「恭兄さま」とか呼んでもらっては悶絶している

 

そんなある日、なんとなく行った使い魔召喚の魔法でハルケギニアへのゲートが開けることに気がついたルイズは、嶋田さんやモニカさんに相談した上で結局ハルケギニアへと帰還することに

 

お世話になったみんなに見送られながらゲートをくぐって帰って行く

 

ハルケギニアに帰還したルイズが出たのはヴァリエールのお屋敷

 

驚き飛びついてくる家族に自分はこんなにも愛されていたんだと理解した彼女は、騒ぎ立てる家族に今までの体験を告白

半信半疑ながらも行方不明だったルイズからその様な話が語られる以上、ヴァリエール一家は信用する

 

「今までルイズがお世話になっていたというミスタ・シマダやミス・モニカには御礼に伺いたいものだが、異世界ではどうしようもできないな」

 

ヴァリエール公爵の一言に、向こうへの扉は繋げられると、ルイズが使い魔召喚のゲートを開いて休日ギアス世界への扉を開くと、嶋田さん・モニカさん・山本さん・リーラさんが仲良くスイカを食べている現場に出会す

 

嶋田「……」

 

ヴァリエール公爵「……」

 

モニカ「あ、あの……スイカ、どうぞ……」

 

リーライナ「ひ、冷えてて、美味しいですよ」

 

ヴァリエール公爵「ち、馳走になります……」

 

山本「い、いい天気ですな…」

 

ヴァリエール公爵「え、ええ、まったく、」

 

 

こうして始まったヴァリエール公爵家と休日ギアス世界の秘密の交流

 

 

そして舞台はゼロの使い魔原作の使い魔召喚の儀へ……

最終更新:2013年09月20日 14:44

 

 



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異界を掛ける鉄の騎士

620 :二二三:2013/10/15(火) 02:39:57
前に投下した休日モニカルート×ゼロ魔ネタの本編バージョン
一発系なネタなので突っ込み所満載かも~



 

 

異界を掛ける鉄の騎士

 

 

「ほら早く召喚しろよルイズ!」

 

「おい、あんまり可哀想なこと言ってやるなよ。魔法ゼロのルイズが使い魔の召喚なんて出来るわけないじゃん」

 

「あ、そうだった!これは失礼な事を言っちゃったなぁ」

 

周りに集まったクラスメート達は皆一様に自分の事を馬鹿にしているけど、特に気にはならない

 

「皆さん静かに!」

 

私の側に立つミスタ・コルベールが皆を一喝して静かにさせてくれるのは有り難いんだけど、正直な所周りがざわついていてくれた方がよかったのに

 

「さ、ミス・ヴァリエール、今の内にサモン・サーヴァントを」

 

「はい…」

 

引率者という事もあると思うけれど、きっと魔法が使えない私に対する彼なりの配慮なのだろう

だけど、今回ばかりははっきり言って有り難迷惑だ。だって、みんなが騒いでる間に態と呪文をミスして召喚出来なかったという具合に持って行くつもりだったのに、それを出来なくされたから

私のサモン・サーヴァントは普通とは違って人目に付く場所では使えない。その主たる要因は、゛向こう側への扉゛が開いてしまうからの一言に尽きる

向こう側を知っているのは私の他には家族だけだ。そして、その向こう側の事は極力秘密にしておかなければならない。家族以外に知られてはならないのだ。例え相手が王家であっても

何故ならハルケギニアにとって向こうの存在は異端その物だから

魔法とは異なる社会、科学という学問を基礎とした社会を築く向こう側の存在は、始祖ブリミルの教えこそが法の根幹を成すハルケギニアとは相容れない

もしロマリア辺りに向こう側の存在を知られ、ヴァリエールが向こう側と交流している事がバレてしまえば、ヴァリエール家は異端認定を受け、国を追われる事さえ有り得る

もっとも、向こうでお世話になった人たちは『こうしてルイズさんの家と我々の国が交流出来るようになったのも何かの縁です。万が一、我々との交流が原因でヴァリエール家が追われる立場になった時は頼ってください』そう言ってくれたけど、それはヴァリエール家が王家やロマリアと戦争になる可能性を意味していた。トリステイン王家はともかくロマリアからはヴァリエール家を取り潰すために騎士団が派遣されてくる

最大で10メイルほどの扉しか開けないとはいっても、向こう側の力を借りる事が出来れば確かに勝てると思う

だけど私は戦争なんてしたくないし、ヴァリエール家も国に迷惑を掛けるつもりなんかこれっぽっちも無い

無論、私がお世話になり、ちい姉様の病気を治してくれた向こうのお国にも迷惑を掛けたくない

だから扉が開いてしまうサモン・サーヴァントを人目のある場所で使う訳にはいかない

 

「ミス?」

 

「あ、す、すみません!いま……」

 

いけない。考え込みすぎていた

 

こうなったら言い間違っても分かり難い文字を一字だけ変えてしまおう。そうすればいつもみたいに爆発するはず

 

そう思って態と一字間違えた呪文を唱えたんだけど……

 

結果的には失敗だった

 

「おお!成功ですなミス・ヴァリエール!」

 

「嘘だろ!ゼロの癖に成功なんて!」

 

「それに何だあの鉄のゴーレム!?あんなの見たことないぞ!」

 

621 :二二三:2013/10/15(火) 02:45:44

「やったじゃないルイズ!」

 

「興味深い…」

 

驚愕する声に混じって自称私のライバル、キュルケの喜ぶ声が聞こえた。もう一人は私より背の低い小柄なガリアからの留学生。でも私はというと、到底手放しでは喜べない

だって

 

「な、ナイトメア……?」

 

本来爆発するはずの一字違いのデタラメ呪文を唱えたら、使い魔召喚の門が現れたのだから。それも、現れた門の大きさは高さ6メイル幅4メイルはあろうかという大きな物で、その門をくぐって現れたのが私もよく知る向こう側、地球の兵器、人型装甲騎ナイトメアフレーム

 

(ど、どうして使い魔じゃなくナイトメアが出てくるのよォォォォ?!)

 

知られてはならない向こう側の科学の塊が眼前に現れたせいで若干混乱してしまった私の肩をミスタ・コルベールが叩く

 

「やりましたな!ではコントラクト・サーヴァントを」

 

(できるわけないでしょーがぁぁぁ!!)

 

これは生き物でもゴーレムでもなく、高度な科学力で作られた機械。本来生物が対象のコントラクト・サーヴァントが通用する訳がない

 

「ま、待ってください、先にどういった物か調べさせてください、」

 

「しかし暴れ出すやも知れませんぞ?」

 

「それは大丈夫です!召喚した私にはわかるのですが、これは暴れ出したりしません!」

 

ナイトメアが勝手に暴れ出してたまるか。操縦者が内部に乗り込んで初めて動かせるのだから暴れたらお化けだ

渋るコルベール先生をやり込んだ私は膝を着いたまま動かないナイトメアによじ登って調べる振りをしながらコックピットハッチの開閉装置を探す

このナイトメアは初めて目にするタイプだったけど、見たところ私がお世話になった地球の国、日本とブリタニアの流れを汲む感じだし、外部から操作出来る場所は共通しているはず

 

(あった、これだわ)

 

思った通り簡単に見つかった外部からのハッチ開閉ボタン

私はそれを押してハッチのロックを解除すると、重い鉄の扉を開けてみた

 

「誰かいますか?」

 

寸でも動かないから何処かの基地に駐機していた無人のナイトメアかも知れないけれど、一応パイロットがいるのを前提で考える。その理由は使い魔召喚が飽くまでも生物を対象としているからだ

無機物だけが召喚されるなんて聞いたことはないし、ナイトメアが無機物でも、中に人がいればその人間こそが召喚対象のはず

もし人間がいたらすぐにでもゲートを開いて送り返さなきゃ。人間は使い魔じゃないんだから、此方の都合で無理に契約なんて出来ない

 

「いた!」

 

やっぱり予想した通り人がいた

コックピットの座席にもたれかかるようにして気を失っていたのは、体にフィットしたパイロットスーツに身を包んだ少し癖のある短い黒髪の男の子

ハルケギニアには珍しい黒髪はメイドのシエスタと同じ髪の色だ。シエスタは魔法学院で数少ない友達。付き合い始めの頃は身分がどうとか恐れ多いとかよく言ってたけど、私は身分の差なんて気にしてない

 

『平民は宝』

『平民こそが貴族を支えている』

『貴族と平民は助け合っていく関係であり、支配し隷属するのみの関係に非ず』

 

私がお世話になった地球はブリタニア帝国の貴族、モニカ姉様は口癖のように言っていたけど、私も今ではその通りだと思う

ううん、私だけじゃない。少なくともヴァリエールの人間はみんなそう考えていた

 

それはともかく、黒髪という事は東洋人か。それも顔を見た感じでは日本人に見えるけど、ブリタニアにも日系人は多いから一概に決め付けられないわね

 

622 :二二三:2013/10/15(火) 02:47:02

外傷は無いようだけど召喚のショックか何かで気を失っているようだ

 

「大丈夫ですか」

 

肩をユサユサ揺さぶっても全く起きる気配がない

 

「何かあったのですかミス・ヴァリエール?!」

 

いつまでも降りないからコルベール先生が来てしまった

 

「ミスタ、ゴーレムの中に人がいたのですが、召喚のショックで気を失っているようです。とりあえず医務室に運びたいのですが、コントラクト・サーヴァントは彼が回復してからでも宜しいでしょうか?」

 

「うむ、それならば仕方がありませんな。それにしてもこのゴーレムは一体……」

 

コルベール先生はナイトメアに興味を持ったみたいでコックピット内に目を走らせて観察している

彼は貴族には珍しく、地球を知らない生粋のハルケギニア人でありながら科学的な視野を持っている

だからナイトメアに興味を持っても不思議ではないけれど、下手にいじられて壊されでもしたら大変ね

この男の子が何処の国の軍人かはわからないけれど、このナイトメアの武装からして軍に所属しているのは確かだ

日本軍?ブリタニア軍?

それともモニカ姉様が治めるクルシェフスキー領の騎士団みたいなブリタニア諸侯軍所属の騎士団員?

身元が分かる物があればいいんだけど……

まあとにかく今は彼を医務室に運ぶのが先決ね

 

「ミスタ・コルベール、いつまで観察しているんですか?」

 

「おっと、これは私としたことが……では皆教室に戻るぞ」

 

外のクラスメート達に指示を飛ばすコルベール先生

 

「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」

 

「あいつフライは愚かレビテーションさえまともに使えないんだぜ」

 

「ゴーレムはアンタにもったいないけど、その平民はお似合いね!」

 

好き勝手な事を言って飛び去っていくみんな。悔しいけどフライもレビテーションも使えないのは事実だ

私に使えるのはゲートと名付けた地球への扉を開く魔法だけ

まあ、たった今新しくサモン・サーヴァントが使えた訳だけど、それはまた別だ

デタラメに唱えた呪文で奇跡的に事故を起こしただけ。要するに運良く使えたに過ぎない

 

「ま、いくら魔法が使えてもああいう平民を見下してばかりの傲慢な人間にはなりたくないわね」

 

アンタ達が普段口にする食事は誰のお陰で食べられるのか?

着ている服は誰が作ったのか?

平民に出来ないことを貴族は出来る

だけど貴族は長い時を掛けて磨き上げた平民の職人技は使えない

その職人の恩恵を私達貴族は受けているのだから、その事に感謝しなければならないのに……

 

人への思いやりや人と支え合って生きている事から目を背けていたら、いつか困ることになるわよ?

 

(さて、と……こっちも行きますか)

 

「ミスタ・コルベール、彼をお願いできますか?」

 

飛び去っていく皆の背中を見ながら考え事をしていた私はコックピットの彼をコルベール先生に任せる

 

「うむ、わかった。しかし君はどうするんだね?」

 

「私は……」

 

開けっ放しのハッチをくぐりながら伝える

 

「コレを運ばなければいけませんので」

 

「は……?ミ、ミス・ヴァリエール、君は何を言って、」

 

私の言葉に混乱する先生。確かに魔法を使えない私がコレを運ぶのは不可能

 

素手で運ぶのならば、ね

 

「多少は騒ぎになると思うけど、使い魔だから動かし方が分かったとでもしておきましょうか」

 

コックピットに乗り込んでシートに深く体を沈み込ませる

 

「久しぶりだから緊張しちゃうわ」

 

刺さったままの起動キーに手をかけ、回す

電源が入りユグドラシルドライブが起動。命を吹き込まれたかのようにパネルに光が入り、外の光景が映し出された

 

「うっわ、なんかグラスゴーや無頼なんかと全然違う感じ」

 

折り畳まれていたランドスピナーを地に下ろして、操縦桿を握り締めた

 

「行くわよ!」

 

地に下ろされた脚部のランドスピナーを急回転させて思い切り操縦桿を倒した

途端に停止していたゴーレム、その名もラファール・シュヴァリエは、異界の地に土煙をあげながら、急加速して滑るように地面を掛けていった

 

 

 

 

 

「う、動いた……」

 

後に残された頭頂部の薄い中年魔法使いは突如として動き出し、飛竜並みのスピードで地を掛けていった鉄のゴーレムを呆然と見送るのであった。その背中に本来の持ち主を抱えたまま

 

 

余談だが、クラスメートで一番早く学院に辿り着いたのは、魔法を使えないルイズであり、途中で追い抜かされた生徒達は皆一様に信じられないと驚愕の表情を浮かべながら、置き去りにしたはずのルイズに逆に置き去りにされるという屈辱を味わわされてしまうのであった

 

623 :二二三:2013/10/15(火) 02:47:34

お~し~ま~い~

 

639 :二二三:2013/10/15(火) 12:52:16

ラファール・シュヴァリエは配備されたばかりを想定してます。才人に関しては確か元ネタの方の設定では日系北欧人サイト・ヒラガとなっていたので、日系スカンジナビア人とでもしときましょうか

因みに自分が書いた話というか設定ではモニカさんは嶋田さんと新婚だった

ゼロ魔原作開始時点ではサクラちゃんが5歳か6歳くらいの時期を想定してますから、まだしげちーはいませんね~

 

地球=日本・ブリタニアと交流してるのはヴァリエール家だけで、トリステイン王家も知らない(というか相手は異世界なので知りようが無い)

カトレアは日本の病院で治療を受けて病気を克服

モニカさんやリーラさんやシャルルから貴族の在り方を学んだルイズは平民のシエスタやマルトーさん達と胸襟を開いて付き合っている

平民を中心とした地球の発展振りを目にし、平民を大切にすることでより豊かになっていったブリタニアの経緯を知ったヴァリエール公爵・カリーヌ夫人・エレオノール姉様も自領の平民に対して徹底した善政を敷いている

 

日本と交流している関係でヴァリエール公爵領には醤油・胡椒などの調味料や、日本料理の文化、地球の医学に基づいた医療施設が普通にある

ヴァリエール騎士団の装備には日本製の武器=銃などが有り、かなり強力になっている

でも平民の武器である銃なんて大した事はないと侮る輩もいる

 

 

といった感じです

最終更新:2013年10月21日 13:54

 

 



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小貴族には金が無い

408 :二二三:2013/08/30(金) 00:42:54
色々自己設定入れてるネタ~
元ネタは休日氏のヒゲ子爵



 

 

小貴族には金が無い

 

 

都会を離れて開けた平原にある一本の舗装された道を一台の高級車が行く

 

「もう間もなくお屋敷です」

 

おかっぱ頭で緑色の豪奢な服を着た運転手が、後部座席に座っている肥満体の男に声をかけた

 

「んん~そうか。もう屋敷に到着か」

 

男の名はルイ・スズキ・106世

 

神聖ブリタニア帝国スズキ子爵家の当主だ

スズキは脇に置いていた愛用のシルクハットを被るとトレードマークの口ひげを弄る

 

「しかしあれだね~ヤグチくん。先祖代々続く我がスズキ家は由緒ある貴族として大抵の物は揃っているが、騎士団だけは小さく装備も貧弱だね~」

 

見えてきた屋敷の周りには少数の騎士たちが怪しい者がいないかと警備についているのが見えた

精鋭とは言えないが、皆昔からスズキ家に仕えている忠義厚き騎士たちだ

信頼を置く小さな騎士団の数は総数500人ほど。それほど大きくもない領地を護るには充分な兵力だが、如何せん装備が貧弱である

ブリタニア正規軍は今や第7世代機ヴィンセントとウォードを配備し、各諸侯の私兵騎士団もクルシェフスキー、アッシュフォード、シュタットフェルトといった大貴族なら一部同等の機体と第5世代機グロースターを配備するという充実振り

古くからの名家ならヴェルガモン伯爵家の騎士団にも少数ながらウォードが配備され、グロースターは相当数に上る機数を誇っている

対して自分の家の騎士団は未だにKMFがない剣と自動小銃のみ。実に寂しい限りだ

 

そんな騎士団を見ていた彼はふと思い付いた

 

「良いことを思い付いたぞヤグチくん!今度の領地運営の予算にグロースターの購入費用を計上しよう!」

 

無いなら買えば良い。なにも買えないわけではないし、自家の騎士団に配備してはならないという法律もない

ちゃんと届け出をして置けば領地を持つ貴族ならKMFの所有許可が降りる

比べるのは間違っているのだが、クルシェフスキー家に至っては陸海空軍全て揃った一国の軍隊とも呼べる巨大騎士団を編成しているのだし、KMF導入を決断しても良いのではないか?

どうして今まで考えなかったのかと期待に胸を膨らませる

ヴィンセントなどの新鋭機は子爵という階級上保有は不可能である。そもヴィンセントなど高級過ぎて買えるような金は無いし、維持費用の捻出も無理だ

だがグロースターなら!

そう考えての提案であったのだが

 

「却下」

 

けんもほろろに断られてしまった

 

「どうしてだね!グロースターくらいなら何とかなるのではないのか!?」

 

あくまでKMFが欲しいと食い下がるスズキに、ヤグチは却下した理由を話し始めた

 

「子爵さま、残念ながらグロースターを少数購入するだけでも我がスズキ家はあっぷあっぷで御座います。確かにギリで予算を組めなくはありませんが、そんな状況で年間の維持費をどうなされるおつもりで御座いますか?」

 

よもや維持費がタダであるとはお申しになりませんよね?

ヤグチは眼鏡の奥で双眸を光らせながら迫る

 

「は、ははは、」

 

スズキの口から出て来るのは渇いた笑い声。この従者ヤグチは古くからスズキ家に仕える家系であり時の当主の身辺警護をもこなす実力者

温和な雰囲気だが怒らせると怖いのだ

 

「じ、冗談っ、冗談に決まっているではないかヤグチくん!いつもやってる貴族の軽いジョークだよ!ほら、ルネッサ~ンス!」

 

「運転中で御座います」

 

「そ、そうであったね~、これは失敬」

 

従者ヤグチの目が怖かったので、思わず主張を取り下げてしまったが、グロースターがダメならランクを落としてサザーランドを、などと考えるスズキ子爵

 

結構懲りない男であった

最終更新:2013年09月20日 14:46

 

 



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ユフィの声的にこういう事があるかも

773 :二二三:2013/09/19(木) 22:25:35
765
ユフィの声的にこういう事があるかも


 

 

 

夢幻会という組織には多種多様な趣味人が群雄割拠している訳だが、中でも尤も多く、声の大きい、アニメ・漫画・ゲームの趣味人たちは、嶋田繁太郎が神聖ブリタニア帝国第3皇女ユーフェミアと結婚したと知るや、まずは嫉妬、次いで祝福、そして最後にある事を頼んできた

 

 

 

 

「もう秋ですわね」

 

「そ、そうだな」

 

(うーん、あの変人たちに詰め寄られてついつい引き受けてしまったが、絶対変に思われるだろ)

 

休日の昼下がりに新婚ほやほやの若奥様ユーフェミアと二人して自宅の縁側で日向ぼっこをしていた嶋田はそよ風を受けて揺れるピンク色の髪の毛を横目に見ながらどうしたものかと悩みつつ、とりあえずは伝えなければ始まらないと思い切り出してみる事にした

 

「ユフィ、ちょっといいかい」

 

「なんでしょうか?」

 

「一つお願いがあるんだが」

 

「お願い?シゲタロウのお願いでしたらわたくしは何でもお聞きします。仰って下さい」

 

秋だというのに花弁でも舞いそうな暖かい微笑みを見せるユーフェミアが眩しくて益々頼みにくくなる

それくらいしょーもない、変な頼み事なのだ

 

「いや、実に馬鹿げた事なんだが」

 

しかし引き受けてしまったからには責任を持ってお願いしなければならない。引退したとはいえ政治家は信用第一。それに会合の度に変人たちの催促が五月蠅いのでさっさと終わらせてしまうに限る

 

「コレに『バカばっか』と『わたし少女ですから』と言ってくれないか?」

 

「はい…?」

 

差し出したのはICレコーダー。要するに録音機である。案の定ユーフェミアはICレコーダーと嶋田の顔を交互に見ながら怪訝な表情を浮かべている

普通に考えても録音機なんか差し出されて「バカばっかと言ってくれ」なんて頼まれたら変に思うだろう。幸いユーフェミアとは夫婦という間柄であり遠慮する必要も無いのだが、知った仲でもなければ春先に現れる不審者の類だと勘違いされて即通報されるところだ

 

「バカばっかと吹き込めば宜しいのですか?」

 

「ああ、頼まれてくれるかい?」

 

「そのくらい別に構いませんが、シゲタロウには“そういうご趣味が”おありだったのですね」

 

「ま、待て!断じて違うぞ!俺にそんな趣味は無い!」

 

「わたくしはシゲタロウがどの様な趣味をお持ちであろうと気に致しませんので、そんなに慌てなくても大丈夫です」

 

不審者の類なお願いにやはりそう受け取ったユーフェミアの変わらぬ笑顔からは夫の特殊な趣味を受け入れる理解ある妻の姿が垣間見えた

 

(まずい!変な趣味を持っていると誤解されてしまう!)

 

世間的に宜しくない趣味を持っていてもまったく気にしない広い心の持ち主である事を再確認させられた訳だがそういう話ではないのだ

 

必死の弁明を始めた嶋田にユーフェミアはニコニコ笑いながらICレコーダーに『バカばっか』『わたし少女ですから』と吹き込んでいた

最終更新:2013年10月21日 12:08

 

 



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乗りこなせるだけで超人

367 :二二三:2013/09/25(水) 15:00:34
突発的ネタ~


 

 

乗りこなせるだけで超人

 

 

 

「すげぇ…」

 

大空を舞う緑色の光を見上げていた黒髪と金髪の男が二人、ポカンと口を開けたまま思ったことをポツリと呟いた

 

「アレが第9世代ナイトメアフレーム、ランスロット・アルビオン!」

 

男たちにその名を呼ばれた緑色の光の正体は目を凝らして見ると辛うじて判別可能な白色のKMFだ

変わっている点として挙げるならその背中には既存のKMFには見られない緑色に光る翼が広がっているところか?

そしてもう一つの点はその異常な速度

 

「目で追えない……!」

 

その速度があまりにも速すぎるため加速時には背部の翼が蒼い空に描く緑色の軌跡だけしか見えないという異様な光景に言葉を失う黒髪の男

驚愕する黒髪の男を尻目に空を翔るKMFは急加速と急停止を繰り返しながら手にした大型のヴァリス、スーパーヴァリスを標的機であるヴィンセントに向けて発砲した

ヴィンセントは何も反応できないままに撃墜―――となる筈が、普通にその場に浮遊している

本来なら巨大な銃口から発射される閃光を受けて木っ端みじんに爆散している所だがそうならないのは、これがテストによる模擬戦であるからだ

テストの内容は新型機の性能を見るという物。無論新型機とはあの白と緑に光り輝くランスロット・アルビオン

 

「入隊する以前に聞いた、たった一騎でラウンズの諸卿を全滅させたという話は本当だったのか…」

 

黒髪の男はランスロット・アルビオンの異常な戦闘力を目にしながら士官学校在籍中に耳にした彼の機体に騎乗している人物の噂話を思い出す

 

曰わく、たった一騎で現役のラウンズを全滅させた最強のデヴァイサーがいるらしい

 

それが今あの機体に騎乗している彼らの所属部隊、神聖ブリタニア帝国軍ナイトオブトゥエルブ親衛隊の司令官モニカ・S・クルシェフスキーである

現時点において世界でただ一人第9世代機を専用機に持つ最強の騎士の実力を垣間見た彼はある種の感動を覚えていたが、彼の隣に立つもう一人の男はそうは思わなかったようで違う感想を口にした

 

「いや。確かに凄いと思うしラウンズの方々を全機撃墜なされたのも本当の事なのだろうが、それは日本が開発した世界初の第9世代機フリーダムの力があったればこそだろう?

私はモニカ様を尊敬しているし忠誠を誓っているが、"最強"であるとは考えていない。言うなればフリーダムやランスロット・アルビオンはジェット機で、ラウンズの方々が騎乗されている専用機は第8世代機――レシプロ機だ」

 

金髪の男が言うのももっともである。レシプロ機とジェット機では圧倒的な戦闘力差があり、如何に天下無双のラウンズといってもレシプロ機でジェット機――それも最新世代のジェット並みに格差のある機体を相手にすれば勝てる訳がない

 

「第9世代機フリーダムやアルビオンに乗れば私でもラウンズの方々を討ち取れる筈だ」

 

「おいおい口を慎めよ!不敬だぞ!」

 

「だが事実だろう?仮に私が第9世代機を駆り第8世代機を駆るモニカ様と闘えば勝つ自信がある」

 

同世代同士の機体ではモニカ様の足元にも及ばないがと付け加えた金髪の男であったが、ここまで彼が自信を持って言い切れるのには理由があった

金髪の男は士官学校を主席で卒業している超の付くエリートなのだ。特にKMFの操縦技術は群を抜いており、次代のラウンズ候補として名が挙がる程の実力を備えている

それだけの実力者だからこそラウンズの親衛隊に抜擢されたとも言えよう

 

『では騎乗してみますか?』

 

368 :二二三:2013/09/25(水) 15:04:11

「はっ?」

 

自信満々な金髪の男はすぐそばの車両に繋げられた無線から掛けられた声に言葉が詰まった

 

「ゴメンね~。無線の感度が良好過ぎて君らの会話をマイクが拾っちゃったみたいで」

 

無線で上空のモニカと遣り取りしていたアルビオンの開発責任者、メガネを掛けた銀髪の男性ロイド・アスプルンド伯爵からのお詫びと無線から聞こえた上司の声に、体を硬くして直立不動の態勢のまま敬礼する黒髪の男に対して、気を取り直した金髪の男には若干の余裕が見られる

 

「それは有り難いお言葉でございますが、新型機の性能テストに私のような若輩者を」

 

『構いません。ラウンズの権限で許可致します。宜しいでしょうかアスプルンド伯爵?』

 

「僕は構いませんよ~。このランスロット・アルビオンは少々の操縦ミスで壊れたりするような柔な機体じゃないですからねぇ~」

 

「ミス?モニカ様やアスプルンド伯爵に対して失礼を承知で申し上げますが、私は新型機とはいえ操縦ミスをするような素人ではありません」

 

「おいっだから言葉が過ぎるって言ってるだろうがっ!」

 

遥か上位者を侮るような金髪男の言葉を大慌てで止める黒髪男に、モニカとロイドは構わないからと言い、新たなにアルビオンのテスト、正確には"第9世代機素人騎乗テスト"を行うため金髪男をアルビオンに騎乗させるのであった

 

「モニカ様、アスプルンド伯爵、ペンドラゴン士官学校主席である私の実力、徳とご覧ください」

 

彼はこの直後、第9世代機という怪物の洗礼を受ける事になる

 

「第9世代機、アレを乗りこなせるのは世界広しと言えど、モニカくらいであろうな」

 

彼がこのナイトオブワンビスマルク・ヴァルトシュタインの言葉を知っていれば、自分も第9世代に乗ればラウンズに勝てるなどという愚かな考えは持たなかったであろう

ラウンズが強いのはその実力故であるが、モニカがラウンズ最強と称されるのは第9世代機フリーダムを自由自在に操れる人間離れした実力があるからこそ、そう他のラウンズは第9世代フリーダム、ランスロット・アルビオンを操れないのだ

ラウンズでさえモニカを除いてフリーダム・アルビオンを乗りこなせる者はいないというのに彼に乗りこなせる訳がない

それを知ったのは他でもない乗機アルビオンの手で士官学校主席卒としてのプライドを木っ端みじんに叩き潰された後であった

 

後に彼は正式なアルビオンのデヴァイサーとなるナナリー皇女の騎士枢木スザクと自身の上司モニカを「人間を超えた超越者」と称し、恐れ敬うようになったらしい

最終更新:2013年10月21日 12:46

 

 



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休日日本in史実1941

569 :二二三:2013/11/08(金) 03:08:12
唐突に思い付いた話
注意~
続けた場合は超火葬戦記に
休日氏のギアス海軍甲事件後


 

 

休日日本in史実1941

 

 

その日は突然やってきた

何の前触れもなく突如として現れた巨大な磁気嵐

テレビが消え電化製品が故障しインフラが麻痺状態に陥った

そして北は千琴

南は南洋

西は海南島までの

凡そ「大日本」と呼称される地域の全域を襲ったその自然現象により該当する地域との連絡が途絶えた日本と同盟関係にあるブリタニアでは朝から大騒ぎになっていた

 

それもそのはず、磁気嵐で通信が途絶えてもそれは所詮一時的なものであり、嵐が収まれば通信は回復すると見られていたというのに一向に日本と連絡が取れない状況が続いていたのだから

そして、その理由が明らかになるにつれて騒ぎは混乱へと発展していく

 

ブリタニアの衛星が捉えた日本の領域

 

本来ならば其処に有るはずの陸地全てが消失していたのだ

 

〔日本消滅!!〕

 

この情報は瞬く間に世界を席巻し、各国がこの超自然現象に注目した

消えた日本はどこへいったのか?

日本は帰ってくるのか?

 

世界が固唾を飲んで見守る中、閉鎖された大国オセアニアが俄かに蠢動を始めた

彼らは常から列強、それも太平洋を二分する日ブ勢力圏に手を伸ばそうと虎視眈々と気を伺っていたのだからこの動きは当然予想がついた

信頼する片割れを失い動揺するブリタニアであったが、彼らはオセアニアの動きを牽制すべく、日本勢力圏である東南アジア諸国防衛の為にハワイ海軍基地に駐留していた空母2隻を中核とした艦隊をフィリピンへと急行

消えた日本の穴埋めを行い東南アジアの国々を守るという意思表示と「東南アジアに手を出すな」のメッセージを送った

 

近年のオセアニアが恐れていたのは日ブ同盟という巨大な安全保証機構であり日本一国、またはブリタニア一国のみが相手なら不意を突けば何とかなると考えていた

だがブリタニアはその不意を突く隙すら与えずに東南アジア防衛ラインを構築していったのだからオセアニアとしては引かざるを得ない

1995年のニューギニア戦争で日本に大敗したオセアニアは、自国を除く四大列強のうち日本・ブリタニアの抜きん出た二国だけとは真正面からぶつかるのを避けてきた

やるのは危険、やるならどちらか一方

それも不意打ちを食らわせる形でなければ勝てないとシミュレーション結果が出ている

オセアニアより国力が劣る中華やEUとは訳が違うのだ

日本とブリタニアを敵に回すには最低でも不意を突き、更には極力全面戦争は避けなければならない

 

結果的にブリタニアの動きで南ニューギニア首都ポートモレスビーの海軍基地に待機していたオセアニア艦隊が北進することはなく、武力衝突の事態は避けられたのであった

 

 

さて、その頃

自国勢力圏が一触即発の事態になっていたとはつゆ知らない日本

こちらはこちらで国中が大混乱に陥っていた

磁気嵐が収まると電気製品などはその機能を回復させたが、今度は日本以外の地域と連絡が取れないときたのだから無理はない

 

しかも日本上空にあった衛星以外の全衛星が消失

その動かせる衛星が拾ってきた異常な映像の数々

 

80年前の諸外国が保有していたような古い艦船

他国上空を通過した際に撮影された低層ビルがまばらに立つだけの都市部

ブリタニア大陸にある主要都市にも天に届かんばかりの100階立てビルなど一つもなく、一緒に写り込んでいた航空機は明らかにレシプロ機

そして、そのブリタニア大陸のものと思わしき受信されたラジオ放送

 

〔去る12月7日。卑劣にもハワイオアフ島真珠湾を奇襲攻撃した日本は――〕

 

日本が真珠湾を攻撃したというその報道は南洋に住む住人のラジオでも受信され誰もが嘘だろと現実逃避していた

 

570 :二二三:2013/11/08(金) 03:09:38

 

“すわ日ブ会戦か!?”

 

とまで勘違いした者がいたほどの衝撃的ラジオ放送の内容

これらの情報を集めて解析した日本の情報部も日本を非難するブリタニアと思われていた相手の国名が“アメリカ”であると判明した事でお手上げとなってしまった

 

アメリカ?なんだそれは?

いったいどこの国だと頭を抱える情報部

衛星写真も相当古い街並みばかりが写し出されていて意味不明であった

 

そんな大混乱な日本で、今どのような状況に置かれているのかをはっきり理解している者たちが都内のビルに集まって溜め息をついていた

 

「“西暦”1941年12月8日ですか」

 

集まっていた者のひとり辻正信の呟きが虚しく宙に消えた

 

「何の冗談だまったく。磁気嵐が治まったと思えば日本が西暦の世界に転移……SF小説じゃないんだぞ」

 

「杉山さん、コードギアスは一応SFの範囲に入ります」

 

「入っても今は現実だろうが」

 

「まあまあ。丁度もんじゃも焼けましたしカリカリしないで食べながら話しましょう」

 

「もんじゃなんか食べられるか!お好み焼き持って来い!」

 

「なんだと!?もんじゃのどこがいけないんだ!」

 

「うるせー!こんなゲロみたいなのを食えるか!」

 

皆齢60を越える老年の男性ばかりだというのに随分とまあ元気である

そんな彼らこそが前時代の日本を率いていた者たちであり、現在も各界に大きな影響力を持っている存在

夢幻会の最高意思決定機関会合のメンバー

 

「総研はあの磁気嵐を時空乱流であったとの結論を出しています」

 

「まあそれしかないだろうが」

 

「時空乱流か、言葉だけ聞いていると某猫型ロボットの映画を思い出す」

 

辻・杉山・近衛らがそれぞれ起こっている現象と思ったことを述べる

次に嶋田がもんじゃ焼きを口にしながら磁気嵐とは別の現象を話す

 

「後は磁気嵐終息と時を同じくして現れた東京湾上空の紫色の雲ですね」

 

紫色の雲

 

それは去年の太平洋海軍甲事件として記録された超自然現象と異世界へと繋がる空間の存在の象徴

 

「ああ、それについては俺の妻がよく知っている。俺もこの目で見たが普通の雲とはまったく違って中に入ると別の場所に繋がっているそうだ。あれの近くや中では計器類が全て異常を示し、まったく役に立たなくなるらしい」

 

「そういえばリーライナさんは今回の現象と近い体験を個人でされていたのでしたね」

 

事件現場に居合わせた山本は当事者である妻リーライナから詳しく聞いて知っている

無論その情報は日ブ両国の上層部にも上げられて世界各地で似たような現象が過去になかったかの調査も行っていた

 

「ということは東京湾上空の雲は元の世界に通じているのか?それとも未知なる異世界に…!」

 

俺の右手が数日前から異様な反応を示していたのだ

などと富永はいつも通り中二な発言をしていたが皆一様に彼の言葉を聞いて頷いていた

 

「それについては既に有志を募って調査に入る手はずが整っていますが、まあ富永さんが言われているようにまず間違い無く元の世界と繋がっていると見て宜しいかと思われます」

 

根拠としては甲事件の時に当事者となったリーライナが無事に帰還し、アメリカと戦う日本の存在を明かしていたからだ

つまりギアス世界を起点として平行世界の扉が開いている

今回の大規模な磁気嵐を原因とした転移もあの雲と似たような現象なのだろう

 

571 :二二三:2013/11/08(金) 03:11:08

「東京湾の雲が向こうと繋がっているとして日本が戻る方策は無いのか?」

 

「それについても総研は全領域が無事に戻れると見解を出しています。あの磁気嵐の揺り戻しが必ず起こると。ただし揺り戻しが起こるのは最低でも3年後。長くて5年後になるとの事でしたが」

 

「まずいなそれは…」

 

「ああ確かにまずいですね」

 

ある意味希望に満ちた辻の報告

どうやって計算したのかは「秘密です」という辻であったが、少なくとも確実に帰れる事が分かったというのに皆難しい顔をしている

その理由は「アメさんに喧嘩売られるな」というものである

アメリカのラジオでは今は1941年の12月であり、史実に近いと考えられるこの世界の日本軍がハワイオアフ島真珠湾にあるアメリカ海軍基地を攻撃した事を伝えていた

日本とアメリカは戦争状態に突入している

 

「こっちが幾らアメリカを攻撃した日本と、我々の日本は違う。自然現象で異世界から飛ばされてきた日本であり何年か後には帰る。何ら侵略的意図は持ち合わせていないと説明した所で信用しないだろうからな」

 

杉山の苦虫を噛み潰したような顔にさもありなんと頷く一同

仮に今彼が述べたような事をアメリカに伝えた所で誰も信用しない

当たり前だ。普通に考えて平時でもそんな話を信用する国などいないというのに、この世界の日本に奇襲攻撃を受けたアメリカがそんな話を信用しなければならない道理などどこにも存在しない

 

「とにかく、こちらは非戦を呼び掛けましょう

今の日本は80……いえ100年以上未来の平行世界から自然現象によって転移してきた日本であり侵略的意図は一切持っていない

到底信じられない話だと思うが件の理由からこちらから戦争を起こすつもりはない

しかし、この世界のどの国が我が国の領土

日本列島・チュクチ・カムチャツカ・樺太・千島・アリューシャン・台湾・海南島・マリアナ・ミクロネシアなどの南洋諸島に許可なく踏み入ろうとした場合、

極めて遺憾ながら我が日本は武力による排除を含めたあらゆる手段を用いて反撃する

この世界とは比べ物にならない出力でメッセージを発すれば多少は信じるでしょう……ま、希望的観測に過ぎませんが」

 

そう言う辻に嶋田は「私が動くんじゃないですよね?」と念押しして確認した

 

「我々はあくまでも引退選手ですからね。精々こういう場所で意志決定して枢木さんや澤崎さん達に伝えるくらいですよ。ま、裏方に徹しましょう」

 

辻の言葉を聞いて今度はその裏方とやらに不安を感じたがきりがないので発言を控える嶋田

はっきり言ってアメリカと戦争になれば余裕で勝てる

ギアス世界という現実よりも進んだ高度な科学力に裏打ちされた技術格差もさることながら、超反則的な万能資源であるサクラダイトが殆ど無限に近いほど取れるのがギアス日本

その他の資源や食料もギアス日本は豊富だ

有り余る資源と資金、原作でさえ世界最先端だった日本の技術にブリタニアと一つになった事でブーストが掛かった生産力までプラスされる訳だ

史実2013年アメリカの倍は有ろうかという国力を持った日本

史実に近い世界の1941年アメリカが相手ならば話にならない

しかし、戦争という行為はしないに越したことはないのだ

それに裏方だろうが何だろうが余計な仕事が増えてしまうのは良いことではないと嶋田は思った

 

「後はブリタニア側にも今回の現象を詳しく説明せねばな

コーネリア殿下・ユーフェミア殿下・ルルーシュ殿下・ナナリー殿下・アッシュフォード卿・クルシェフスキー卿・アールストレイム卿、とにかく我が国にはブリタニアの皇族貴族や要人が数多く滞在しているからな」

 

それだけではなく親善訪問で訪れている空母2隻を中核としたブリタニア艦隊の将兵

日本に滞在している一般のブリタニア人や在日ブリタニア人も多く、確実に元の世界に帰れるという説明をして安心させなければならない

もしアメリカと戦争になるなら皇族や大貴族の方々には東京湾上空の雲からブリタニアへと帰って頂く必要もあった

 

「なんだか、我々はトラブルの星の下に生きる運命にあるような気がしてきましたよ」

 

深い溜め息をついた嶋田の肩を

 

「今更だ。なるようにしかならん」

 

山本が叩いた

 

 

それから三日後、今の日本はこの世界の日本ではない別世界の日本であり戦争は望まないという声明を発表したが、彼らの声明を信用する国は一つとして存在しなかった……

 

572 :二二三:2013/11/08(金) 03:12:05

終わり~

最終更新:2013年11月08日 11:11

 

 



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グラスゴーは尚も現役

761 :二二三:2013/10/16(水) 18:01:12
唐突&色々ごちゃ混ぜのモニカさん超未来


 

 

グラスゴーは尚も現役

 

 

皇暦65536年

大日本帝国首都星・惑星東京

 

 

六万年以上の長い歴史を持ち、今や一つの銀河を支配するまでの巨大銀河系国家へと成長していた日本

その首都星系東京中心星にある日本歴史資料博物館へ展示物を運び入れる人型作業機械を、感慨深げに見つめる人物がいた

 

艶やかで真っ直ぐな長い金色の髪と一点の曇りもない青空を思わせる瞳を持つ、黄緑色のマントを着用したその女性は、お隣の大銀河を支配する、日本とは六万年来の同盟関係にあった銀河系国家、神聖ブリタニア帝国軍の頂点に立つナイトオブラウンズ筆頭騎士だ

本来のラウンズ筆頭である第1席ナイトオブワンを差し置いて、第12席ナイトオブトゥエルブに就く彼女が何故ラウンズ筆頭騎士であるかというと、クルシェフスキーという幾つもの星系を領地に持つブリタニア帝国指折りの名家出身であり、その実力もラウンズ最強であるからに他ならない

超の付く実力主義社会であるブリタニアにおいて、クルシェフスキーという六万一千年以上の途方もない歴史を持つ大貴族でありながら、騎士としての実力でも最強という彼女がラウンズ筆頭となるのは当然とも言えたし、現ナイトオブワンも異論は無いようであったから問題は無かった

ただ、ラウンズ筆頭に任命されるにあたり、肝心のモニカ本人が拒絶するという珍事があったりと、一時大きなニュースにもなっていたが…

当時彼女が拒否した理由は、丁度日本へ派遣されている武官の任期が切れるに当たり自身が立候補しようとしていたからで、ラウンズ筆頭になれば本国から離れられなくなると危機感を抱いていたからというのが語られている

 

長い歴史の中で皇族同士が何代にも渡って婚姻関係を結んでいるので両国の皇族は親戚関係にある

国民の間も日本・ブリタニアは互いに同朋であるとの意識が強く、現在では兄弟国といっても過言ではない親密な関係にあった

このあたりは昔からなのだが、両国の憲法前文に互いの事を言及する一文が入っていたりと、その仲は良くなる一方で、他の勢力からは日本=ブリタニア連合帝国とさえ呼ばれているくらいだ

だからこそブリタニアでは日本での任務は出世コースと見られてる感があり、頂点に上り詰めた彼女が何故今更出世を考える必要があるのかと不思議がられていた

 

尤も、それは日本就任の挨拶の際に時の首相に抱き付いて「我が主」と囁いた彼女の行動が全ての答えであったと判明していたが、如何に相手が日本の首相とはいえ、皇帝陛下以外に、それも会ったことも無い相手にラウンズが剣を捧げるという前代未聞の事件は当時ブリタニア国内で騒動を巻き起こす

ラウンズは皇帝一人に対して剣を捧げる存在であり、いくらクルシェフスキー家の次期当主といえど許されないのではないかと

 

しかし、これもまたクルシェフスキー家が両国の間で特殊な地位にあったが故に不問に処されている

特にクルシェフスキー家の系譜を知っている両国皇家や大諸侯・名家の間では、寧ろ歓迎すべき事であると受け止められるほどだ

 

そして上流階級の事情を知らない者達も、モニカが皇帝以外に剣を捧げた日本首相嶋田繁太郎の嶋田家とクルシェフスキー家は六万年前より非常に深い繋がりがある事実と、クルシェフスキー家の名にあるSの意味を知るにつれ、一転して歓迎ムードに変わっていった

しかも、その六万年前に大恋愛の末結ばれた当時の嶋田家当主とクルシェフスキー家の次期当主が、件の首相とナイトオブトゥエルブと同じ名であり、容姿までが生き写しであったと判明するや否や、「六万年の時を超えて巡り会った約束の恋人」と呼び、週刊誌やワイドショーで他星系にまで報道されるイイ意味での騒動に発展していった

(その反面、日ブの影響下には無い星系では週刊銀河減退などが、「古代の独裁者と血濡れの女神!!」なる特集で嘘八百を並べ立てていたが)

 

762 :二二三:2013/10/16(水) 18:07:14

それはさておき

 

 

そんな多種多様な逸話を持つ大昔のクルシェフスキー家当主と同じ名を持つモニカは、展示品として貸し出されたクルシェフスキー家の秘宝、フリーダムを搬入する人型作業機械に見入っていた

 

「まだ、動いているのですね…」

 

洗練され大型化した現在のKMFに比べて無骨な印象さえ抱くその人型機械を懐かしそうに、そして古い友人にでも出逢ったかのように見つめる彼女の目には、此処とは違う遙か昔の自領や日本の姿が映し出されている

そこでは、この機械とよく似た機械が作業をしたり、戦闘をしていたりする光景が日常であったが、まさか六万年後にも、これを目にするとは思ってもみなかった

ブリタニアでも既に別な作業機械を導入しているというのに技術の二つ名を持つ日本は未だにこれを使用しているのだから、驚くのも無理はない

もちろんこれの中身が昔と同じというのは有り得ない。中身は何度も改修、新規開発を繰り返した別物で、これを嘗てのこれと一緒くたに考えるのは間違いである

 

「アナタも、私やシゲタロウさんのように、生まれ変わっていたのでしょうか?

 

゛無頼゛

 

 

時が過ぎ、人が変わり、世界が広がって新たな宇宙人類などとも交流するようになっても、その外観を変えずに元気よく稼働する作業機械の名を呼んだ彼女の口元は、戦友との再開を喜ぶかのように綻んでいた

 

「モニカ様、そろそろ宇宙管理局と銀河共和連合への対策会議のお時間ですので、搬入作業は他の者に任せてお車へ」

 

ぼんやりと無頼を眺めるモニカを、副官にしてトゥエルブ親衛隊の隊長が呼びにきた

彼女はフリーダム搬入作業を見ているほど暇ではない。これから嘗ての地球圏の国家とは別の現在対立している銀河勢力、宇宙管理局と共和連合に対する対策会議あるのだから

共和連合はその名の通り民主共和制こそ唯一の政体と盲信する嘗てのEUのような多星系国家連合で帝国主義打倒を打ち出している

宇宙管理局は管理局の名の下に管理されてこそ人類と宇宙の平和は保たれると考える、およそ国という概念を持たない勢力

双方共に日本・ブリタニアとは倍近く国力が劣るも、此方の情報をあまり知らない為か、接触時より日ブに対して威高々な態度を取り続けていた

そして、自分たちより少し劣るくらいと考えている日ブが同盟国であると知るや、自分たちも対日ブ同盟を結び

中立を旗印にしている幾つかの星系国家を自分たちの管理下に入るよう恫喝して、逆らえば報復戦争を仕掛け併合という、何処が平和に管理だ共和だというほど傲慢な思想を剥き出しにして暴れていた

対して、日本もブリタニアも此方に無茶な要求をしてきたり、領域侵犯をしてこない限りは口出しするつもりはないのだが、最近では国境付近を何度も侵犯してくるようになったので警戒していたのだ

一部の小さな星や両勢力と長年対立していた国などは、初めて接触した新たな宇宙勢力である両国に助けを求めて使者を派遣してきたが、具体的な方針はまだ決まっていない

 

「あ、はい、申し訳ありません。あまりに懐かしいもので、ついつい見入ってしまいました」

 

「まあ、分からなくもありませんよ。私も初めて目にした時は夢でも見ているのかと思いましたからなぁ~。いやはや、六万年もの間、姿形を変えずに生き残っていようとは……

流石はグラスゴー、無頼と言いましょうか、同時に日本の物持ちの良さには感服致します」

 

モニカは大事な対策会議を前に気が抜け過ぎているなと自覚しながら、副官を勤める精悍な顔つきの親衛隊隊長を見た

 

「そういえば、卿も私と同じでしたね」

 

「何を今更。以前病室で逝く前に申し上げましたよ?再びモニカ様にお仕えしますと。まあ、お仕えできるというのは生まれ変わった先で嶋田卿と再会した時に確信したのですがね

何せ嶋田卿とモニカ様は運命の糸で結ばれておりますからなぁ。嶋田卿がおられるならば必ずやモニカ様も今のクルシェフスキー家に転生なさるはずだと」

 

フッと笑いながら車の後部ドアを開ける副官に「約束の恋人」の話をされたモニカは恥ずかしそうに頬を赤らめ、もう一度最後に無頼を見やる

 

長い時の果て、愛する人や親しい家臣との再会、そして、初めて騎乗したKMFとの再会に心が暖まるモニカであった

 

763 :二二三:2013/10/16(水) 18:07:55

おしまい。メシ喰うぜ~

最終更新:2013年10月21日 14:18

 

 



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俺が一番

429 :二二三:2013/11/14(木) 23:35:50
何となく書いた二番目男
休日モニカルート


 

 

俺が一番

 

 

ペンドラゴン中心部から離れた郊外の裏通りを一人の男がフラフラと歩いていた

目は虚ろでどこを見ているのか焦点が定まっていない物の酔っているわけでもなければ、リフレインなどの危ない薬をやっているわけでもない

ただ、何も考えず歩いているだけなのだ

 

 

 

数日前

 

 

 

「民間に就職か…」

 

男は来たくもない士官学校の教官室に呼び出されるや開口一番にそう言われた

 

「君の人生だから君がどういう道を選ぼうと自由ではあるのだが、しかし、考え直す気はないかね?」

 

俺の人生だからというなら放っておいて欲しい。貴方には関係のない話なのだから

男は煩わしさを感じていたが、それを押し込め教官の話を聞いている

 

「君ほどの腕ならば即戦力として欲しがる部隊は幾らでもある。それに行く行くは皇族の方々やラウンズの方々の親衛隊へも抜擢されるだろう」

 

ラウンズの親衛隊だと?

そのラウンズに俺はなるはずだったんだ

 

「ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー卿も君の進路について伺いたいと申されていたのだが」

 

ぎりっ

 

モニカ・クルシェフスキー

その名を耳にした瞬間無意識に歯軋りしていた

二度と耳にしたくない名だ。聴くだけで耳が腐る

ヤツの…ヤツのせいで俺の未来は閉ざされたんだぞ

そんなヤツが今更俺の進路を気にしているだ?

 

「もし配属される部隊が決まっていないのなら推薦するとも仰っておられた」

 

すい……せん……?

 

 

誰がっ!誰がヤツの推薦など受けるものかっ!

ヤツの推薦を受けるくらいなら道端の糞でも喰らった方がましだっ!

 

「いえ、クルシェフスキー卿のお心遣いは大変有り難いのですがもう決めたことですので

もし教官がクルシェフスキー卿にお目通りなされる機会がお有りでしたらよしなにお伝えください」

 

教官からされた聞きたくもない話。それを聞いていた彼は、人当たりの良さそうな爽やかな表情を崩すことなく心の中で毒づき続けた

 

 

 

 

そうアイツ

全部アイツのせいだ

あの何でも持っている大貴族のお嬢様が何もかも台無しにしてくれたんだ

持たない貧乏人の俺が士官学校での死に物狂いの努力の果てに辿り着いたラウンズ候補生の座

だが、アイツは俺の努力をあざ笑うかの如き類い希なる才能で追い抜いていった

後一歩、後一歩だったというのに、持つ者であるアイツが持たざる俺から奪い取っていったんだ

 

実技も勉学も、アイツが来てから二番、二番、二番、全部二番…っ!

 

皇帝陛下の御前で行われたラウンズを決める最終試合に全てを賭けた

心では、思いの強さでは、あんなお貴族様には負けてなかったはずなんだ

 

 

だが、結果は……、アイツの勝ち……

 

あのとき、アイツの汚らわしい手で握手を求められたとき、その手を振り払わなかった俺を誉めてやりたい

 

アイツはそのままトゥエルブに就任し、士官学校から姿を消したが主席で卒業したのは言うまでもなく、残された俺には次席などという不名誉極まりない経歴が残った

 

どこに配属されるにしてもアイツが上で俺が下なのは変わらない

 

430 :二二三:2013/11/14(木) 23:37:15

そんな耐え難い屈辱を味わうくらいなら軍や騎士の道など纏めてゴミ箱に捨ててやろうと民間に進む事を決めたのだが、そんな俺を教官はもちろん同輩の者たちも皆止めた

 

“考え直せ”

 

“それほどの腕を埋もれさせるのは間違っている”

 

必死に引き留めてくれたが、ヤツらも皆内心では二番である俺を哀れんでいるに違いない

本当なら久しくなかった平民出身のナイトオブトゥエルブとして皇宮に上がれたはずなのに、後から来たアイツが…!

 

おまけに俺を推薦するだと?

 

お前みたいに苦労知らずの金持ち貴族がこれ以上俺を嘲るか?

 

何様のつもりだクルシェフスキー!!

 

 

「……」

 

ガッ―!

 

「ってーなコラァ!」

 

思い出せば思い出すほどに腹立たしいアイツの事を考えながら歩いていると前から来た二人組の男と肩がぶつかった

如何にも柄の悪そうな二人組だ。こんな郊外の裏通りでたむろっていそうな社会のゴミ

相手にする必要も無い

 

「人にぶつかっといて挨拶もなしか?教育すっぞ!」

 

肩を掴んできた男

ああ……煩わしい

 

その手を振り払ったと同時に男の顔面に拳を突き刺した

 

「がはッ!」

 

たかが軽く殴ったくらいで吹っ飛ぶとはひ弱なヤツだ

ああ、そう言えばもう一人いたな

 

「君もやってくれるかい?教育」

 

「ひいッッ!」

 

逃げようとするそいつを捕まえる

 

「教育してくれないなら俺がしてあげるよ」

 

「か、勘弁してください、」

 

もう一人のヤツはさっきの威勢はどこへやら平謝りしてくる

弱い、弱いな

 

「問題、俺と君の関係は?」

 

「は…?」

 

「答えは俺が一番で君が二番だ」

 

掴みあげたそいつの顔面にも思い切り拳をぶちかました

 

 

 

 

そうだ、俺が強くてお前たちは弱い

俺は一番でお前たちは二番なんだ

 

 

 

少しは気が紛れたような錯覚を覚えた彼は、再びフラフラと歩き出し、夜の裏通りへと消えていった

 

431 :二二三:2013/11/14(木) 23:38:23

とりあえずこんな風になってるけど彼にも色んなルートがあると思いますです

最終更新:2013年11月16日 12:37

 

 



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例の飴

51 :二二三:2013/11/20(水) 18:24:41
16氏の夢ネタお借りします
486氏の貴族に自由など無いでサクラがモニカそっくりだというのがあったからそれを準拠に
次女はフライルーの人のSSでしたか?とらはの忍をモデルにしているという話から忍の容姿に準拠



 

 

例の飴

 

 

「この、辻おじさんから貰った飴を食べて寝ればいい夢が見られる・・・らしい」

 

カラフルな飴玉、通称夢見ドロップを姉二人に見せる一繁

 

「ほ、本当ですか?」

 

怪訝そうに黄色の飴を受け取ったのは、一繁が苦手としている母のクローンかと勘違いしそうなほど母と瓜二つな長女サクラ

声も髪型も背格好も母と寸分違わぬ彼女の唯一異なる点は黒真珠のような輝きを持つその瞳だけ

 

「何か胡散臭いわねぇ」

 

右に習えで受け取る次女も同じく疑いの眼差しを向けている

母譲りの金髪である姉とは違い、鴉の濡れ羽色といった髪の和風美人

少し年の離れた美貌の姉二人に父譲りの平凡な容姿(美人な母の血も入っている為、中の上はある)の中学生である一繁は仕切りに飴を勧めている

一人で口にするのが不安なのだ

 

「嘘かホントかはわかんないけど安眠は約束するって言ってたよ」

 

「嘘でしたらヒドいですけど、辻のおじ様が危ない物を渡すなんてことはあり得ませんので、大丈夫ではあるのでしょうね・・・おそらく」

 

「お姉様は簡単に信用しすぎ。顔や言葉遣いだけじゃなくて性格までお人好しなお母様に似てきたわね。それが原因で昔お母様が週刊誌に変なこと言っちゃって皇族会議に取り上げられる大問題に発展したことがあるらしいからお姉様も気をつけてよ」

 

「ええ~!サクラ姉さんまで将来的にはババアみたいに口うるさくなんの~?!イヤだよそんなの~!」

 

「わ、私は若い頃のお母様と違って対マスコミの情報弱者ではありませんし、週刊誌の記者に引っかけられたりもしません!それに口うるさくもなりません!」

 

「ね、姉様、さり気なく酷いこと言ってるわよ、」

 

一繁に釣られてしまったのかサクラも何気にヒドいことを口にする

大方の所、事実には相違なかったが、忘れてしまいたいと思っている失態をほじくり返す三人の会話を、もし本人が聴いていたら、姉弟揃って修練という名の折檻を受けさせられること間違いなしである

 

「とにかく二人ともこの飴食べて!今すぐ!」

 

「あ、あなた何で私たちに食べさせたいのよ?」

 

「ぶっちゃけると僕一人で食べるのが怖いから」

 

「情けないわね~。あなた男でしょ?」

 

「僕は姉さんたちみたいに強くないからいいんだよ」

 

「まったく――って、姉様もう食べてるし!」

 

ふと隣にいるサクラを見ると既に飴玉を口の中に放り込んでいた

 

「とっても甘いですね♪」

 

「ほらほらサクラ姉さんも食べたわけだし僕らも食べようよ」

 

「はぁ、仕方ない。つきあってあげるわ」

 

サクラに続いて次女と一繁が食べる

 

「ん~?うん、甘い」

 

「普通のドロップより砂糖菓子とかに近い甘さだね」

 

 

 

こうして夢見がよくなるという変な飴を食した三人は、その日の夜、まったく同じ夢をみた

見たいとも思っていなかったその夢を

 

52 :二二三:2013/11/20(水) 18:25:31

広いどこかのホール。そこで行われているアイドルのコンサート

 

「か、母さん…?」

 

「え…?お、おかあ、さま…??」

 

「嘘…、何やってんの…お母様…、」

 

三人が見た夢には、 ラウンズ時代に着ていた露出過多の白いパイロットスーツを改造して飾り付けた衣装に身を包んだ母モニカ・S・クルシェフスキーその人の姿が――

 

“大好きハニー、いちごみたいに純情なの~”

 

「いや、あんた純情じゃなくて熟女だろ…」

 

“もう待てない、約束したよねキスをちょうだい”

 

「あ、憧れで、目標で、強く勇敢な騎士であるお母様が、どうしてあの様な変わり果てたお姿に…」

 

“ハニー大好き”

 

「お母様……今日だけは言わせて」

 

三者三様の受け取り方をした姉弟は揃って吐き出した

 

 

 

 

「「「ババア無理すんなっ!!!」」」

 

 

 

翌朝

 

 

 

「うぇぇ…、エラいもんみた…」

 

珍しく朝早い時間に起床した一繁が寝起きに洗面所で顔を洗っていると

 

「おはよう…ございます…」

 

目の下に熊を作ったサクラが夢遊病患者のようにふら~っとやってきた

母と双子ではないのかと思うほどそっくりな姉の顔を見た一繁はそうであってほしいと聞く

 

「姉さん、昨日僕の夢で姉さんとそっくりなアイドルがステージで歌ってる夢をみたんだけど」

 

「……… 奇遇ですね、私もみましたよ…その夢」

 

「―――姉さん、だよねアレ?姉さんが歌ってたって言ってよ…」

 

「―――瞳の色が……答えです……、聞きたくありませんので、その方の瞳の色を言わないでください……」

 

「……… う、うんわかった、」

 

 

知らぬ存ぜぬアレが誰であったかなど知りたくもないので無かったことにしよう

と決めた二人の下へ

「おはよ…」

 

やってくる次女

 

「おはよう…」

 

「おはようございます…」

 

無かったことにしようとした一繁とサクラに対し――――次女は言った

 

 

「昨日、夢で蒼い瞳の姉様が、すごい格好で歌を歌っていたのだけど……」

 

 

 

 

この日、嶋田とモニカは子供たちの様子がおかしかったと辻相手に語っていた

最終更新:2013年11月20日 21:00

 

 

 

 

 

 

 

718 :二二三:2013/12/12(木) 23:18:53

短いけどなんとか間に合わせた嶋田さんとモニカさんの話~

コードギアス一切関係なしでただ嶋田さんとモニカさんが出ているだけ~

 

 

聖夜の願いは唯あなたと

 

 

 

今日は大切な約束の日

 

世界一、宇宙一大切な彼女との約束の日

 

しかし自分を待っている世界中の子供たちの為に奔走し過ぎて遅れに遅れてしまった

 

彼女は怒っているだろうか?

 

帰ってしまっただろうか?

 

強く気丈に見えて実は誰よりも弱いと知っている

 

ひょっとしたら約束を忘れられたと泣いているかもしれない

 

もしそうなら謝っても謝りきれない

 

大切な彼女を泣かせてしまったのには変わりないのだから

 

どうやって挽回しようか?

 

自分にできること、それを持って誠心誠意彼女への愛を示すしかない

 

それが男としての責任であるし、自分を愛してくれる彼女へのたった一つの贈り物となるだろう

 

なにも難しいことではない

 

自分は子供たちの夢を叶える神秘の力を持っているのだから彼女一人への贈り物など簡単に取り出せるはずだ

 

そう考えて袋に手を入れてみた

 

だがなにも出て来ない

 

何故だ?子供たちへの贈り物なら幾らでも出せるというのに、どうしてたった一人の大切な人への贈り物が出て来ない?

 

若干混濁する思考の中で最も単純な理由に思い当たった

 

そうだ。彼女は大人であった

 

自分は子供たちの願いこそ幾らでも叶えることができたが、大人である彼女の願いを叶えることは出来ないのであった

 

なんという理不尽!なんという無力!

 

大切な人一人の願いもプレゼントも用意することが出来ない上に、約束の時間を大幅に遅れてしまうとは

 

暗い気分のまま全力で空を駆ける

 

この乗り物、自分専用のソリの速度をもってすれば彼女の下へは直ぐに飛べる

 

そうやって着いた待ち合わせの場所に彼女はいた

 

闇夜でも輝く綺麗な金の髪の頭に雪が積もっている

彼女が着ている黄緑色のマントも雪で濡れていた

 

寒い思いと寂しい思いをさせてしまった

 

遅れてしまって申し訳ない!

 

謝る自分に彼女はふるふると首を振り

 

子供たちの為ですから仕方がありませんよと微笑む

 

お詫びにプレゼントを渡したいと思い袋に手を入れたが子供ではない君へのプレゼントは出て来ない

本当に頼りなく、約束を破ってしまうような自分は君に顔向けできない

 

必死の思いでそう伝えると彼女はまたもや首を左右に振って否定する

 

その思いだけで充分

 

その愛だけで充分であると

 

〔それに願いは叶っています〕

 

〔私の願い……それは、この聖なる夜をアナタと2人で過ごすこと〕

 

〔それこそが私にとって最大のプレゼントです〕

 

心に響く言葉で抱きついてくる彼女の冷たくなった身体を抱きしめ髪に着いた雪を払ってやる

 

〔メリークリスマスシゲタロウさん〕

 

〔私の愛するサンタクロース……〕

 

頬をすりよせてくる彼女の温もりは、寒い聖夜を駆け抜けた自分にとって最高の贈り物であった

 

〔メリークリスマスモニカさん〕

最終更新:2014年02月22日 15:12

 

 



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ホントは怖いサクラダイト

SS投下~
休日世界
ルルーシュ・〔ランペルージ〕


 

 

ホントは怖いサクラダイト

 

 

ブリタニアの地質学者ジョセフ・フェネットの厚意によりフェネット家の居候となっていたルルーシュ・ランペルージは、昼下がりのリビングに流れた緊急速報のけたたましい音に、読んでいた本から目を離して、付けっぱなしであったテレビを見つめた

 

(なんだ?また公民党が何かやったのか?それとも舞朝新聞の汚職事件の続報か?)

 

ここ最近のニュースといえば最大野党日本公民党のスキャンダルか、マスコミ業界全体を巻き込んだ舞朝の汚職事件がトップを飾る事が多い。日本の直ぐ近くで今にも戦争が起こりそうな最中に何をやっているのかと憤りを覚える事もあったが、それは言い換えれば日本が平和である証拠とも言えた

日本が戦火に晒され亡国へと至った世界出身である彼には、馬鹿な政治家やマスコミに対する怒りと共に妙な安心感もあった

 

日本が平和だからこそ平和呆けした輩の愚かな行為もあるのだ

 

これが良いことである筈が無いのは百も承知なのだが戦火の日本しか知らない彼からすれば、こんな毎日がある平和な日本で良かったとさえ思えるのだから、人間一人一人立場の違いや生きてきた環境によってそれぞれ捉え方が異なるようである

但し、ルルーシュ・ランペルージの捉え方は乱世を生きていたからの物であり、家の主人であるジョセフや、ジョセフの娘で共にアッシュフォード学園日本校で学ぶ彼の同級生たるシャーリー辺りに考えを知られれば怒られること必死な考え方でしかない

 

そんな他愛もない事を考えながらルルーシュは画面に出たテロップを読む

 

「アフリカ解放を謳うアフリカ系武装組織によるノルウェー鉱山爆破計画発覚、内通者のユーロピア軍幹部逮捕」

 

ノルウェー鉱山とはノルウェーのサクラダイト採掘基地のことだ。近年急ピッチで開発が進むこの鉱山では足りない人手をアフリカから徴用してきた労働者で補っている

キツい鉱山での労働はユーロピアの民ではなく二等三等市民とでもいうべきアフリカ人がやるべき

極度な選民思想が根付くEUならではの事情だが、安い給料と劣悪な労働環境にアフリカ人の怒りは日増しに高まっている

EU内では実質的に発言力が無い植民地人扱いのアフリカ人の中には今回の事件のように武装闘争を選択している者も多く、元より利権と汚職で政治不信を招き、経済力が低下の一途を辿るEUの斜陽加減を表す要素の一つとなっていた

 

(まるでかつての自分が行っていた反逆行為その物だな)

 

行っている者が日本人からアフリカ人に。対象がブリタニアからEUに変わっただけで、アフリカ系武装組織がやっているのは理不尽な世界への反逆

一瞬、頑張れと、彼等への賞賛を心に浮かべたルルーシュであったが、ニュース速報が急遽ニュース特番に切り替わったのを見て疑問を抱いた

 

〔テラシマさん、テロ計画は未然に防がれたようですが、EU軍の幹部までもが関与していた今回のサクラダイト施設爆破計画は、下手をすればヨーロッパ全土が壊滅していたかも知れませんね〕

 

(な…に?ヨーロッパ全土が壊滅していたかも知れないだと!?)

 

ニュース番組の司会者が解説員に語った内容を聴いていたルルーシュの顔は驚愕に彩られていた

 

〔ええまったく恐ろしい計画でした。高い爆発性を持つサクラダイト施設を爆破などすれば、採掘基地の地下に眠るサクラダイト鉱石は勿論のこと、最悪鉱脈自体が連鎖爆発してヨーロッパ全土が文字通り吹き飛んでいたかもしれません。これはEU一国の問題ではなく世界全体の問題ですよ。EUの報道官はテロ組織に全ての責任があるとの発言を繰り返し強調していましたが、そもそも計画にEUの軍高官が関わっていたのが問題ですので――〕

 

テラシマという解説員が語るサクラダイト鉱脈爆破がヨーロッパ全土、最悪世界全体の気候を大きく変え、未曽有の大災害を引き起こしていた可能性があったという話にルルーシュは身体の震えが止まらなくなる

 

「ねぇパパ、サクラダイト鉱脈爆破テロが本当に実行されていたらヨーロッパが吹き飛んでいたって本当?」

 

ルルーシュと共にニュースを観ていたシャーリーが仕事の書類をチェックしていたジョセフに聞いた。ジョセフ・フェネットは地質学者故にサクラダイト関係の話には詳しい。彼がそうだと言うならばそうなのだろう

 

(否定してくれ…!)

 

願うルルーシュの脳裏には自分が行った富士山爆破の映像が蘇っていた。新しい人生をこの世界で歩むと決めた時より捨てた悪逆皇帝・魔神としての自分が起こした災厄が

 

〔この事件を受けて日ブ両政府外務省は武装組織とEU双方への非難声明を発表しました。会見で澤崎官房長官とブリタニアのコーネリア大使は次のように述べ――〕

 

「ん…、ああヨーロッパのテロか、」

 

書類から目を離したジョセフはニュースを観ながらシャーリーの質問に答える

 

「まあ、最悪の展開に至ればだが、ヨーロッパが吹き飛び地球規模の異常気象が起こっていた可能性はあるな」

 

「う、うそ、本当に?」

 

「ああ、それだけサクラダイトは爆発性・可燃性が非常に高く、爆発反応が連鎖した時の破壊力は想像を絶する事態を引き起こす危険な鉱物でもあるんだよ。現代文明には欠かせないエネルギー源であるのも事実だから採掘しない訳にも行かないがな」

 

ほぼすべての電化製品はサクラダイトがエネルギー源である。車も船も飛行機の燃料もサクラダイトであり家庭に供給されている電気も太陽エネルギーとサクラダイトの二つを併用している。つまりは切っても切り離せない資源なのだ

 

「普通に使う分には問題無いが未曾有の災害を引き起こす可能性も同時に秘めている。万能資源といってもそれなりのリスクはある」

 

「ふーん」

 

ジョセフとシャーリーの話を聴いていたルルーシュは喉の渇きに何度となく唾を飲み込んでいた

動悸と息切れも激しい。理由は言わずもがなだ

 

「ち、ちょっとルルどうしたの?!」

 

様子のおかしくなったルルーシュを心配したシャーリーが椅子から立って彼の背中をさすった

 

「あ、ああ、ちょっと気分が悪くて、」

 

「ルルーシュくん大丈夫かい?」

 

「え、ええ大丈夫です、」

 

「ルル…」

 

「大丈夫だよシャーリー……直ぐ治る」

 

真っ青な顔に冷や汗を浮かべながらも心配を掛けまいとするルルーシュの脳裏には噴火する富士山の光景が焼き付いて離れなかった

 

(何という事だ……俺は…、俺のエゴは、世界を滅ぼしていたのかも知れなかったのか………)

 

世界を一つにするための行動が世界の滅亡へ直結する物であったことを思い知らされたかつての魔神は、自身の愚かしさを改めて実感していた

 

 

 

〔いくら国内が不安定化しているとはいっても、サクラダイトの管理はしっかりとして頂きたい物ですね。次のニュースです。先日より話題になっております嶋田元首相を巡るユーフェミア・リ・ブリタニア皇女殿下とモニカ・クルシェフスキー卿の発言が各界を揺るがしており――〕

 

 

 

終わり~。ルルーシュはサクラダイトの危険性を知らなかった

裏は休日ダブルヒロインルート

 

休日氏の「また君を」が前提となったます

最終更新:2014年08月18日 21:48

 

 



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お見通し

ひな祭りネタでも投下しとくか~
休日モニカルートでしげちーが何かやってるだけ



 

 

お見通し

 

 

今日は3月3日雛祭り

 

女の子の女の子による女の子の為の日である

 

嶋田家には3人の女の子がいる

 

1人は母クルシェフスキー侯爵の後継者として日々鍛錬を欠かさない嶋田家の長女、サクラ・S・クルシェフスキー。女の子というには無理がある二十代の成人女性だがまだ女の子と言えるか?

2人目は嶋田繁太郎の跡を継ぎ大日本帝国嶋田伯爵家の次期当主となる嶋田忍

忍はまだ十代である為、女の子の範疇な入るであろう

 

そして3人目、実はこの3人目が問題なのだ

 

前髪を眉が隠れるくらいの位置でぱっつんと切りそろえた尻に掛かるくらいのストレートの長い金髪に碧い瞳を持つ3人目の女の子は、一見するとまったく同じ髪型と容貌を持つ長女サクラの双子の姉か妹といった感じだ

2人を知らない者が見れば誰もが口をそろえて「美しい双子の姉妹」と言う。家族から見ても双子にしか見えないその3人目の女の子、いやいや、女の子と呼ぶには〔本当の女の子〕に対して失礼だろう

だって、3人目の女の子(偽)は、長女サクラと同じ容貌ながら実は四十代のオバハンなのだから

 

で、そのオバハンの何が問題なのかと言えば、3月3日に合わせて生き雛様宜しくお雛様の衣装、お着物を着てみようとなった嶋田家で、いい年して「あ、あの、私も着てみようと思うのですが、シゲタロウさんはどう思われますか?その……私も女の子ですから……」などと嶋田家家長、嶋田繁太郎に進言するという恥知らずな真似をしてくれやがったのだ

 

無論のことそのオバハンを心より愛している繁太郎は「良いじゃないか。サクラ、忍、モニカの3人の晴れ姿を是非とも見せて欲しい」と言ってオバハンに微笑みかけていた

 

さて、もうお分かりかと思われますが、オバハンとは我が不肖の母にして神聖ブリタニア帝国クルシェフスキー侯爵家当主クルシェフスキー侯爵その人である

 

四十代のオバハンである

 

娘たちに混じって自称〔女の子〕とか寝言抜かしている恥ずかしいオバハンである

 

それが我が母だと思うともうね……年考えろって感じぃ~

 

 

 

そんな感じの文章を作成してメールを送信しているのは嶋田家長男、嶋田一繁

彼は今目の前で起こっている事を友人にメールしているのだ。それも写真まで撮って

 

「母さんこっち向いてよ写真撮るから」

 

「し、写真ですか?何だか恥ずかしいですね」

 

「そんな事無いよ。母さんとっても綺麗だよ。もう僕のお嫁さんにしたいくらい」

 

「も、もう、大人をからかう物ではありませんよ、」

 

「いや、一繁の言うとおり本当に綺麗だぞ。惚れ直しそうだ」

 

「シ、シゲタロウさんまで、」

 

「お母様素敵です」

 

「いつも思うけどお母様って本当に歳取ってるの?どうみてもサクラ姉さんと同じ歳にしか見えないわ……」

 

「それではシノブに質問致します、貴女を生んだのは誰でしょうか?」

 

「そ、それは、お母様に決まってるじゃない……」

 

「ふふっ、それが答えです。それと、サクラもシノブもお着物良く似合っていますよ」

 

そんな嶋田家の女性陣のやり取りを眺めていた一繁は携帯を向けて―

 

カシャ!

 

シャッター音と共にお雛様の格好をしたモニカが一繁の携帯に保存される。彼は即様写真を送信。もちろん友人宛てに

 

〔2枚目~〕

 

〔うわ、侯爵閣下スッゴい綺麗だね!これで四十代なんて信じられないよ!〕

 

〔信じられなくとも四十代のオバハンなのだよキミぃ~。それなのに女の子とか言っちゃってるのだよ~〕

 

〔こんなに若くて綺麗なら女の子でも通じるよ。どんなに上に見ても二十代前半がせいぜいじゃないかな?〕

 

〔でもマジで四十代のオバハンなんだぞ?いい年こいて姉さんたちに混じってキャピキャピやってんだぞ?〕

 

〔しげちーキミって贅沢過ぎ。侯爵閣下みたいな他人に自慢出来る母親なんてそうそう居ないんだよ〕

 

〔だって、幾ら綺麗でも鬼ぃのババアぁなんだもんwww〕

 

〔キミって本当に侯爵閣下の目が無いと言いたい放題だねぇ。僕とのメールのやり取りを知られたりしたらどうするの?〕

 

〔ふっ、そんなヘマをこの僕様がするとでもお思いかね?大体ね、人の携帯チェックするような人じゃないから母さんは。それにさ話のネタになった丁度いいじゃん!〕

 

〔…………あのさ〕

 

〔あによ?〕

 

〔もしもだよ?もし、このメールのやり取りが侯爵閣下にバレていたら……キミ、大丈夫?って僕も大丈夫?〕

 

〔…………は……はっはっは……チミハナニヲイッテオルノカネ?バレてたら?そりゃあ………シボウユウギ??〕

 

〔し、シボウユウギってなに?!僕は侯爵閣下の悪口言って無いしキミの話に同意してもいないから!〕

 

〔そんなつれないこと言うなよセニョール。僕らはマブダチだろ?僕の身代わりで死んでくれるんだろ?〕

 

〔死なないよ!ナニソレ!それマブダチじゃなくて身代わり君だろ?!〕

 

 

 

 

友人宅

 

 

〔死なないよ!ナニソレ!それマブダチじゃなくて身代わり君だろ?!〕

 

「まったく、なに考えてるんだよしげちーは。僕まで巻き込まないでよ……」

 

メールです

 

「あ、別のメールが―!?」

 

〔カズシゲがいつもお世話になっております。色々と落ち着きの無い子ですが、宜しければこれからも変わらず、良き友人で居てあげてください〕

 

 

「………へ?」

最終更新:2014年08月18日 21:51

 

 



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名前の意味

しげちーネタ好評だったようでもう一個書いた
休日モニカルート色々自己設定



 

 

名前の意味

 

 

「も、申し訳御座いませんっ、以後気をつけ、」

 

クルシェフスキー領シアトルの中心街にて、地面に額を付けて一心不乱に謝る老婆の姿があった

 

「ほう、貴様は謝ればそれで済むとでも考えているのかね?」

 

老婆が謝っている相手は豪奢な洋服とマントに身を包んだ中年の男。身なりからして間違い無く貴族であろうその男は先程より老婆を怒鳴りつけていた

 

「貴様は貴族である私の足を踏んだのだぞ?平民如きがこの私の靴を汚したのは極刑に値する重罪だ」

 

見れば男のブランド物の靴は少し汚れている。老婆が踏んだのだ

勿論態と踏んだのではない。足元の覚束無い高齢者なのだからふらつきもするし、ましてや人通りの多いシアトルの中心街では足を踏んづけられたり肩がぶつかったりするのは日常的に起こり得る

その場合殆どは「済みません」「いや此方こそ悪かったね」と、互いに譲り合う形でトラブルは回避される。貴族・平民問わず大体がそんな物

シアトルは人口の多い大都会故にそんな事に一々目くじらを立てて居てはキリがないのだ

 

しかし、自領があるテキサスの地方から仕事で出て来ていた貴族の男は、シアトルを預かっているとある伯爵への陳情が上手く行かずにイライラしていた所を平民の老婆に足を踏んづけられた物だから簡単にキレてしまったのである

そもそもに平民差別をするという貴族の地位に胡座を掻いたようなこの男の場合平民に足を踏まれるなど我慢ならない訳で、先程からねちっこく老婆をいびってストレスの発散しているのだ

 

「ふん、こんな杖を着かねば歩けんようなら大人しく家に引っ込んでおれば良い物を、貴様が出歩いたせいで私の靴が汚れてしまった」

 

「お許し下さい、お許し下さい、」

 

周りは誰も助けない。年寄りを虐める貴族の事を許せないと憤りを抱いた者もいたが、皆貴族(子爵位)相手に口を挟む勇気を持っていなかった

貴族と平民の間には大きな力の差がある。天地の差と言って良い程に越えられない壁が歴然として

 

とばっちりを受けて無礼討ちとなった例も実際にあるのだから平民は下手に貴族には逆らえない。それが如何に理不尽な仕打ちであろうと…

 

 

そんな殺伐とした空気に包まれていた時、1人の少年が進み出てきた

何をするでもないその少年は貴族の方に向けて、テクテクと歩み出して行くと、その高そうな黒光りする靴を思い切り踏んづけた

 

「あ、ゴッメーン、メンゴメンゴ~、こんな所に足があるとは思わなかったからさぁ~」

 

「くっ…この無礼者が……!?」

 

脳天気に「失敬失敬」と馬鹿にしたような謝り方をした少年に一瞬で頭に血が上った貴族は、腰に差していた剣を引き抜き少年へ振り――「??!」下ろさなかった

振り下ろすどころか少年の顔を見ながら剣を振り上げた態勢で固まってしまった

 

「いやぁ~本当にごめんなさぁい」

 

「こ、」

 

固まったままの貴族は少年の再度の謝罪に身体を震わせた。怒りから――ではない

 

「これは、坊ちゃまっ、」

 

恐怖感や不味い所を見られたという焦りからだ

 

「ゴメンねェ~」

 

「い、いえいえ、私の小汚い足を踏まれては坊ちゃまの御御足が汚れてしまうという物で御座います~~」

 

急に猫なで声になって遜り始めた貴族に、戦々恐々としていた周囲の人たちは少年を見てはっと息を呑む

貴族が大人しくなったのも無理からん。その少年は老婆を虐めていた貴族の男は愚か、シアトル伯爵よりもずっと上位の人間なのだ

 

同じ貴族でも男やシアトル伯爵辺りとでは文字通り越えられない壁の向こう側にいるのが一部の上位伯爵以上の、所謂大諸侯と呼ばれるブリタニアを支えている貴族たち。その一角を形成するクルシェフスキー侯爵家はブリタニア指折りの名家であり、少年はそのクルシェフスキー侯爵の息子であった

更にはクルシェフスキー侯爵の夫であり、ブリタニアの同盟国で日本の華族、嶋田繁太郎伯爵の息子でもある

クルシェフスキー侯爵は並みの……もとい。並み以上の高位貴族から見ても最早一国の王とでも言うべき存在であって、男程度の木っ端貴族が怒りを買ったりすれば御家断絶の憂き目に遭うこと間違い無しの大貴族

万が一にでもクルシェフスキー領内で問題を起こせば下手をすると彼自身縛り首になりかねない。何せこの大都会シアトルは広大なクルシェフスキー侯爵領の一部である

自領の取引相手で、シアトルを治めている伯爵もクルシェフスキー侯爵の一家臣に過ぎず、その伯爵にさえ頭が上がらない貴族にとっては天上人その物と言えた

 

「へ~オジサン僕の事知ってるんだ」

 

「も、もちろんで御座いますとも、坊ちゃまを知らない貴族がこのブリタニアに居よう筈が御座いません、」

 

さっきまでの威勢の良さはどこへ消えてしまったのか?貴族はいつの間にか振り上げていた剣を下ろして手揉みしながらゴマを擦っていた

貴族はこれを情け無いとも恥だとも思わない。強い者に媚びへつらうのは弱肉強食の社会ではごく当たり前の事だから

出世するのも良い目を見るのも如何に実力者の覚えを良くするかで決まる。彼は焦りながらも事態の打開と、これを機会にシアトル伯爵を飛び越えてクルシェフスキー侯爵にパイプを繋げられないかと考え始めていた

 

「ま、いいや。ところで…」

 

そんな自己保身と欲得尽くしの邪な考えを抱く貴族を余所に、少年はゴマを擦る貴族の足下で土下座していた老婆を指差して一言告げた。貴族にとっては最悪の一言を

 

「そのお婆ちゃんさあ、僕の知り合いなんだけど?」

 

「……え?」

 

貴族の顔は見る見るうちに青ざめていく。それはそうだ。彼のような木っ端貴族ではない、西海岸の盟主であるクルシェフスキー侯爵家の人間の知り合いに土下座をさせていたらしいのだから

 

「ねぇオジサン、お婆ちゃんに何をさせていた訳?お婆ちゃんは地面に這い蹲って何をしている訳?」

 

「そっ……そっ、そっ、それは……ですな…」

 

追及された貴族の目が泳ぐ。少年から見ても周囲の人間の誰が見ても面白いように目が泳いでいる

下手な事を言えば自分の身がどうなるか分からない以上誰でもこうなると言わんばかりに

だが次の瞬間、貴族の顔は明るくなった。この場を切り抜けて克つ少年の覚えを良くする最良の手段を思い付いたのだ

 

「それはですな、この御老人が足をもつれさせて転んでしまった所に偶然にも出会しましたので助け起こそうとしておったのですよ!」

 

態とらしくというか、開き直ったように大袈裟な手振りを加えながら釈明を始めた貴族は、足元の老婆へと屈み込み(余計な事は口にするな)と脅す。クルシェフスキー家の少年の知り合いとは言え、老婆自身はやはり平民

厳格なる階級社会で平民は貴族に逆らえない。一応念の為にと懐から取り出した帯付きの札を少年に見えないようにサッと老婆の懐へ入れて(私は転んでいた貴様を助け起こそうとした。良いな?)と耳元で囁くと、彼女の体をゆっくり抱き起こして立たせた

 

「大丈夫であったか?」

 

「あ、ありがとう、ございます…」

 

白々しくにこやかな笑顔で立たせた老婆を気遣う貴族に、老婆は礼を述べる。老婆は別にお金など入らなかったが、話を合わせないと貴族にどういう目に合わされるか分からないといった恐怖心がそうさせたのだ。何故なら老婆は少年の知り合いでもなんでもないから

きっと少年は見かねて助けてくれたのだろうと考えた老婆は、もし少年の言葉に甘えて後で少年とは無関係だと貴族に知られたら、と悪い方に捉えてしまった

それにこれで貴族への無礼を許して貰えるのならばと考えたのだ

 

「うむ、くれぐれも足下には気をつけるのだぞ?」

 

助けてやったと恩着せがましい嘘を吐く貴族と、二度と関わり合う事は無いであろう少年に何度も頭を下げながら、老婆は去っていった

 

 

 

「困っている平民を助ける!私めもクルシェフスキー侯爵閣下のこの教えこそが当に貴族としての在り方であると考え日々実践しておる次第!」

 

「………」

 

老婆の姿が見えなくなるとまたもや貴族は少年にゴマを摺り始めた。周りで一部始終を見ていた者も貴族の報復が怖くて真実を告げられないでいる

クルシェフスキー家お膝元のポートランドの住人ならば少年の顔見知りも多い為に真実を告げていたであろうが、あいにく此処シアトルに少年の知り合いは少ない

こうなればもう貴族の独壇場。彼は周囲の人間に睨みを利かせて散らせてしまうと、如何に自分が弱きを助けているかをアピールしだし、媚びへつらう

 

「あ!それと坊ちゃま!坊ちゃまは何かと金銭面でお困りであると風の噂で耳に致しましたが」

 

「えっ?!な、なんで知ってるの??」

 

いきなり振られた話に少年は取り乱したが、クルシェフスキー侯爵の長男が金欠病であるのは結構有名な話であった

必要以上に余計なお金を持たさない侯爵の教育方針だが、平民よりも少ないその小遣いに同情している者も多いとか

そこを突いた貴族は最後の一手を繰り出す

 

「こうしてお近づきになれたのも何かの縁でございます。宜しければお納めください」

 

スッと差し出したのは老婆に渡したのと同じ帯封された札束の入った茶封筒

 

「………お、おおおお、おか、おか、お金、こ、こんないっぱ、」

 

中身を見た少年は目を白黒させながら貴族の顔を見た

 

「こ、これホントに貰っていいの?」

 

「もちろんですとも!私めのような人間の靴を踏んでしまわれ、坊ちゃまの御御足を汚してしまった事、これでどうかお許しを!」

 

「い、いいよいいよ許す!超許す!」

 

「それと宜しければこちらも…」

 

大喜びの少年を見た貴族がすかさず差し出したのは名刺

 

「~~子爵、ね」

 

「以後お見知り置きを!」

 

「うん見知り置く!それはもう思いっきり見知り置く!」

 

「有り難き幸せにございます!出来ますれば侯爵閣下にもその……お口添えの程を…」

 

「了解了解!この僕様に任せておきなさい!」

 

「ははぁぁ!」

 

深々と頭を垂れる貴族は調子に乗って「イエスマイロード!」とまで言い既に少年の臣下になった気でいる

 

こうしてシアトル伯爵への陳情こそ失敗に終わった貴族であったが、伯爵など話にもならない大諸侯とのパイプが出来た事に舞い上がりながら、テキサスにある自領へと帰っていった

 

 

 

「………」

 

お金の入った茶封筒を貰って大はしゃぎしていた少年が去っていった貴族の名刺をジッと見つめながら何度も名前を確認していると、彼と共にシアトルに遊びに来ていた友人が駆け寄ってきた

 

「ち、ちょっと何してるんだよキミは!僕に任せろとかいうから黙って見ていたけど、そんな金を受け取るなんて!」

 

「そんな金って言うけど何十年分の小遣いだぞ!?超大金だぞ!?チミはこれ見て要らんとか抜かすのかね?!」

 

茶封筒に入った札束を友人に見せる少年

 

「う、すごい……何ポンドあるんだろ…………じゃない!これ賄賂じゃないか!」

 

「ええ~っ、賄賂じゃないよ~。僕の靴を汚した詫び金だよ~。正当なお金だよ~」

 

「どこをどう見たらこれが正当なお金なんだよ!キミはこういうの受け取らないと思ってたけど幻滅だ!おじさんと侯爵閣下に言いつけるよ!」

 

「うわ、なによキミ?告げ口するとか良くないと思います!」

 

友人に詰められた少年は僕は詫び金受け取っただけだと自己主張しながら徐に携帯電話を取り出した

 

「誰に電話するのさ」

 

「ん~、知り合いのおじさん………。あ、もしもし、~~伯爵ですか?僕です。実はついさっき~~子爵って人にお金の入った茶封筒と名刺貰ったんですけど………」

 

 

“こんなゴミ要らないから預かってもらえます?”

 

 

電話を切った少年はポカンとしている友人を見る

 

「ってことで、これからシアトル行政府へ向かいま~す!…………ま、なにがイエスマイロードだよクズがって感じかな?ホントさ、社交界デビューしたころから寄ってくるんだよ、あんな目をしたクズばっかり」

 

「………」

 

「僕の名前からいい匂いがするみたいだよ。嶋田・K(クルシェフスキー)って名前からさ」

 

「………ゴメン、僕キミのこと…」

 

「いいよ別に。マブダチだしね」

 

 

友人と連れ立ってシアトル行政府の伯爵に茶封筒を渡した少年が封筒の札束から一枚だけ抜いていたのは内緒である

最終更新:2014年08月18日 21:53

 

 

 



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ルイ・スズキ106世「第5世代機じゃあかんのか~い」

 

 

 

 

ルイ・スズキ106世「第5世代機じゃあかんのか~い」

 

 

 

 

ブリタニア帝国の子爵ルイ・スズキ106世は不満だった。

不満で悩みすぎてただでさえ太っていた体がついに100キロの大台を超えてしまった。

ストレスによる暴飲暴食が原因と思われたが最近では執事のヤグチくんに食べることさえも制限を掛けられてしまい はけ口を探すためとして夜な夜な屋敷を抜け出しては夜の街を歩いていた。

 

「なぜにいかんのか~い!」

 

独特の喋り方でユーモア溢れるスズキは貴族のお漫才と称して貴族平民分け隔て無く接することもあって領民に人気がある。

目を盗んで街に繰り出すときは捜索にきた屋敷の騎士たちから匿われたりすることが屡々あり 一種の友達感覚みたいな民が領内には点在しているのだ。

トレードマークのシルクハットと燕尾服を脱ぎ捨て日本文化の萌キャラ刺繍入りのTシャツに着替えたスズキは弛んだ腹を振るわせながら匿ってくれた酒屋の主人に絡んでいた。

 

「我が輩はなにも防衛予算に組み込むといったわけでも誰かの財布を当てにしたわけでもないのだぞっ!我が輩は我が輩のポケットマネーを上積みして購入しようと考えていただけなのにわからず屋のヤグチくんの強硬な反対で流されてしまった!」

 

荒れた原因はKMFの購入に関する事項についての執事のヤグチくんとの口論。

グロースターがほしいというスズキにグラスゴーにするというヤグチくん。

それならサザーランドでといえばやっぱりグラスゴーというヤグチくん。

予算が足りないなら現在の防衛予算に自分のポケットマネーを上積みするから最低でも第5世代をというスズキに だがグラスゴーだというヤグチくん。

 

「モニカ・クルシェフスキー卿の専用機は日本開発の最新鋭第9世代機だぞ そんな時代に旧型も旧型の古ぼけた骨董品である第4世代のグラスゴーなど購入しては我がスズキ領の治安対策は不完全な物となってしまう!」

 

「お言葉で御座いますがクルシェフスキー卿と比較なされるのは」

 

天下のナイトオブラウンズと辺境のいち下級貴族ではお話にならないという酒屋の主人。

 

「それにクルシェフスキー卿はご自身が駐日武官も務め日ブ友好に多大な貢献を果たしているだけでなく 日本のシマダ元宰相閣下と昵懇の間柄なのですから」

 

「ふ~むいわれてみればそうであるねぇ~」

 

これには納得したスズキはではと前置くとまた無理な比較を持ち出した。

 

「ではクルシェフスキー騎士団とではどうかね?」

 

「子爵子爵 クルシェフスキー侯爵家は一般的な諸侯領ではありませんよ」

 

こちらも天下のを付けていい相手だ。

クルシェフスキー騎士団の兵力は10万に達し 中小国の国軍に匹敵する陣容で騎士団だけでもスズキ子爵領の全人口を遙かに上回っている。

整備される兵器も戦闘機に戦車に海上艦艇まで KMFもヴィンセントやグロースターが配備されるほど。

兵力1000に満たないスズキ領騎士団が比べていい相手ではない。

 

「うぬ~ では100歩譲ってヴェルガモン騎士団でさえ配備されているサザーランド」

 

「ヴェルガモン伯爵を前にいえますか?不敬罪で縛り首ですよ? スズキ領騎士団がヴェルガモン騎士団を相手に演習して1時間もちこたえられますか?10分で壊滅しますよ?」

 

「・・・・・るねっさ~んす」

 

爵位が1級上なだけのヴェルガモン伯爵家だがその権威は2級上の辺境伯級でついでに領地持ちの辺境伯級。

所領として治める領地は広く領民の人口はやはり数百万の大台で騎士団の規模もこれに準じた戦力となっている。

スズキ子爵など鼻息で吹き飛ばされる。

 

「うわ~ん我が輩はっ!我が輩はどうしても第5世代機以降の機体がほしいのだよ~!5機購入のうちせめて旗機の1機だけでも5世代にしたいのだよ~!どうしていまさら骨董品のグラスゴーなどで固めねばならんのだねーーーっ!」

 

無理に無理を言い続けてはや数年。

貧乏だからと断られ続けた末ようやくのことでKMF導入が決定したというのになんでグラスゴーなんだ。

このことがスズキの体重増加と10円ハゲに繋がったわけだ。

 

「それは財政を預かるヤグチ様がお決めになられたことなので私ではなにも申せませんし」

 

ひげもじゃの太ったおっさんが駄々をこねる姿はまことに見苦しいと思わないでもない店主はピンとひらめいたことを提案してみた。

 

「ではこういうのはいかがでしょう」

 

「1度に5機も購入とは我ながら思いきったことをしたものでございますね」

 

スズキ子爵家執事ヤグチ男爵はKMF導入の予算を計上しながら関連書類に目を通していた。

 

「ん? なんですかこれは?」

 

各種の装備品と武装の項目の下に見慣れない項目がある。

 

「旗機における特別擬装?」

 

個別に予算が付いた項目だが自分はこんなもの与り知らない。

細かいところまで視ていたしグラスゴーを注文したときには付いていなかったはずだ。

 

「契約内容が勝手に改ざんされましたか オプションとして必要な物を担当者が忘れていましたか」

 

あってはいけないことだが人間誰しも間違いはある。

しかし妙に気になったのはその特別擬装の価格だ。

 

「擬装だけでこんなにも価格差が出る物なのでございましょうか」

 

騎士団の旗機といえばマントだ角だとごてごてした擬装を付けて余計に割り増しとなるのは常識の範疇だが 2機分近く割り増しなのは幾らなんでも高すぎる。

これならサザーランド1機を購入するほうがまだ安上がりだ。

ただでさえスズキ子爵領の経営は火の車でグラスゴー5機の購入も選定の剣カリバーンを引き抜くくらいの苦慮の末に絞り出したのだ。

スズキがポケットマネーを出すからと馬鹿なことを宣っていたがそんなはした金を積まれたところで焼け石に水 サザーランドの購入など整備面を考えても費用が掛かりすぎる。

第一運用ノウハウもないのに5世代機など購入してどうするつもりなのかと叱責し諦めさせたというのにこれでは意味が無い。

 

「発注はまだのはず これは調べてみなければなりません」

 

 

調査の結果グラスゴーに扮したサザーランド 外装をグラスゴーにした中身サザーランドという スーパーグラスゴーとでもいうべき特注品が注文されていたと知ったヤグチくんがヤグチカッターを繰り出したのは言うまでもない。

最終更新:2015年06月14日 16:03

 

 



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ある日の山本邸

 

 

ある日の山本邸

 

食卓にはご飯、味噌汁、納豆、ひじき、といった実に日本の朝に相応しい、簡素ながら健康的な食事が用意されていた

 

「うん美味い。朝はやはりご飯と味噌汁に限るな」

 

家の主人である山本五十六は味噌汁を啜りながら満足気に頷くと、いつも手元に置いてある朝刊を開いた

 

゛夏の総選挙を前に白熱する都議会議員選挙、日本公民党は改選前の議席獲得も危うし!゛

 

゛公民党党員、公職選挙法違反で逮捕!゛

 

「相変わらずか」

 

選挙の度に公民党員が逮捕されるのは、大臣時代から日常的な出来事であったせいか、まったく関心が持てない

それだけ不正が横行している証拠でもあるため無関心でいるのは良くないのだが、現役時代ならいざ知らず、今の自分は単なる無職の親父

ぶっちゃけ関心持って何かしようとしても、何もする立場に無い訳で

 

「これで剣の小僧が少しは大人しくなれば良いのだかな」

 

という感想を述べるのが関の山なのだ

無論、国家の一大事ともなれば夢幻会顧問としての立場と権力を行使したりもするであろうが、そうではない平時の選挙は国民の手で行うべきである

幸い、有権者はまともな判断を下しそうなので安心して流し読みができるのだが

 

「ふぁっ…、おはよ~……」

 

そこへやって来たのは寝ぼけ眼で大きな欠伸をしながら朝の挨拶をするリーライナだ

長い後ろ髪は首の後ろで一つに纏めているのであまり寝癖は付いていない物の、前髪はボサボサになっている

 

「おはようさん。偉くゆっくりしているな」

 

「別にいいでしょ~休みの日くらいゆっくりしても~」

 

リーライナはふらふらと近寄ってきて山本にしなだれかかる

 

「大体いっくんが悪いんでしょ~が」

 

彼女は新聞を広げている彼に後ろから抱き付き、耳元に唇を寄せると愚痴を零した

 

「俺がか?」

 

「そ~よ。あんなふうにされたら疲れもするわ」

 

昨日の夜の事を言っているのだ。明日は休みだからと泊まりに来たリーライナと一晩中やることをやっていた訳だが、酒の勢いもあってか、ついつい頑張りすぎてしまったのである

 

「あ、あ~すまん。飲み過ぎていたから歯止めが利かなくなっていたんだ」

 

「反省してるの~?」

 

「反省しとる」

 

「ん~、じゃあいいわ。許したげる」

 

チュッと彼の唇に軽く口づけたリーライナは、彼の肩越しに広げられた新聞の記事を見た

 

「ああ。そういえば今日都議選だったわね」

 

今日が投票日の都議選。選挙という制度がないブリタニアの人間からすれば、物珍しく映るのかもしれない

 

「いっくんも行くの?」

 

「国民の義務だからな。飯を食ってから出ようかと考えていたところだ」

 

「ふ~ん…」

 

小さな一票だが、その一票が集まって国を動かす為に必要な力となる

民主主義の国で投票に行かないという事は、国を動かす権利を放棄する事であり、国が行う政策に文句を言える立場でさえ無くなるという事だ

自分から動こうとしない者に権利を主張する資格など有りはしない

 

「ねぇ」

 

「なんだ」

 

「私も付いて行っていいかしら?」

 

「別に構わんが、ただ投票用紙を入れに行くだけで楽しくも何ともないぞ?それにリーラは投票所の中までは入れんからな」

 

「いいの。外から見てるだけでも雰囲気は味わえるし、ついでにどこか歩きましょうよ」

 

投票に行った後はデートをしようというわけだ

 

「それなら行くか。あとな、いい加減離れてくれないか?飯が食えん…」

 

「な~によ?ホントは気持ちいいクセにぃ~」

 

背中越しに押し付けられるは二つの大きな山

 

「飯時に押し付けてくるな!」

 

「耳まで真っ赤にしちゃってか~わい~♪」

 

「うるさい!早く離れろ!」

 

「はいはい、離れますよ~」

 

漸く山本から離れたリーライナは向かい側に座って箸を取り「頂きます」と言って用意された朝食に手を着けるのであった

最終更新:2013年09月09日 00:44



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半島転移1

221 :名無しさん:2013/03/08(金) 23:23:53

では、あらためまして

ネタ~ネタだよ~

 

 

大清連邦による突如としたシベリア侵攻

この暴挙に日本や中華連邦が警戒を強める中、弟分の思わぬ快進撃に色めき立っていた高麗共和国では「バスに乗り遅れるな!」の合言葉と共に高麗義勇軍の派遣を決定

首都防衛隊にも待機命令が出ていた

 

「少佐、本部より連絡!」

 

そんな中、弟分と言いつつ事実上の宗主国に付き合ってユーロピアと戦争しようとしている高麗を歯痒い思いで見ていた少佐は、部下の報告にため息をついた

 

「我が部隊は明日の第1陣で出撃か」

 

部隊が最前線に投入されるだろうことは予想していた

なにせ少佐と彼の部下は危険思想の集団として上層部から警戒されているから

 

「わかった、各員出撃態勢を…「き、緊急事態、緊急事態です!」

 

出撃準備を整えておくよう、指示する少佐に伝令とは別の部下が大慌てで入ってきた

 

「どうしたんだ騒々しい」

 

「は、申し訳ありません、あまりに信じがたい事態につい、」

 

「とにかく落ち着け」

 

「は、」

 

部下は数回大きく深呼吸すると緊急事態の内容を報告する

 

「お、落ち着いてお聞きください、」

 

少佐は落ち着くのはお前の方だと言ってやりたいところだったが話が進まないので黙って聞く

 

「こ…」

 

「こ?」

 

「黄海が消滅しました!」

 

「……」

 

祖国の愚劣な政治に翻弄されているせいで、とうとう耳がおかしくなったようだと現実逃避する少佐であったが、間も無くそれが事実であると思い知らされる

 

 

 

 

「は?黄海が消えて陸が現れた?」

 

「のようです」

 

清や高麗の動きを調べていたモニカ・クルシェフスキーは、トゥエルブ親衛隊副官の報告にポカンとアホの子みたいに口を開けたまま、目を点にしていた

 

「ど、どういうこと?」

 

「私にはなんとも…。ただ報告によると日本の東シナ海艦隊が直接確認したらしく、間違いないかと思われます」

 

更に詳しく聞くと、黄海に現れたその陸地は高麗半島にそっくりだという

 

「高麗半島にそっくりですか?」

 

「はい、こちらでも確認を急いでおりますが、高麗半島をそのまま模写したかのような陸地らしいです」

 

高麗と瓜二つの陸地?

まさか高麗半島がもうひとつ現れた?

 

「そ、そんな馬鹿なことないわよね」

 

頭に浮かんだおかしな想像を否定するモニカであったが、それこそが核心を突いていたことを思い知らされるまであと僅か

 

222 :名無しさん:2013/03/08(金) 23:25:56

 

 

「竹島に数百人規模の武装集団が現れた!?」

 

自宅で娘のサクラをあやしていた嶋田に掛かった電話は、腐れ縁となっている辻や杉山といった仲間たちからの物

携帯の方には山本からの着信が入っていた

 

〔傍受した無線にはコリアという単語が飛び交っています。もうおわかりかと思いますが、あの国ですよあの国〕

 

「やっぱりかぁぁ!」

 

〔現在、枢木さんが日本海艦隊を出撃させて直ちに退去するよう迫っていますが、まあお察しくださいな返答が帰ってきていますよ〕

 

「だろうな、当ててみましょうか?"独島は我が国固有の領土だ!"でしょう」

 

〔ご名答、それと衛生写真で確認が取れましたが、黄海を埋め立てるような形で高麗半島が……いや違いますね、朝鮮半島が出現してますそれも高麗半島と陸続きで〕

 

「朝鮮半島か、なんとも懐かしい響きだ……二度と聞きたくなかったけど」

 

〔同感です〕

 

「ということは南北朝鮮も来ているのか……」

 

〔我らが米軍もですね〕

 

朝鮮半島が来ている以上、昭和世界での敵であり、史実世界の同盟国であった在韓米軍もいる

 

「ただでさえ清と高麗が厄介な動きをしているのに」

 

清と高麗だけでも大概なのに南北朝鮮に米軍まで現れたとなれば厄介なことこの上ない

南はまだましだが北と米軍はアレを保有している可能性がある

 

「北と米軍はアレ持ってると思います?」

 

〔どの年代かによりますがこちら側と向こうが完全な平行線なら西暦202×年になるでしょうから保有している可能性は高いと思われますよ〕

 

米軍についてはあんなものを軽々しく使うような愚は犯さないだろうが北だけはなんとも言えない

 

「やれやれ、色々と厄介なことになりそうだな」

 

嶋田は腕の中で安らかに眠るサクラをあやしながらため息混じりに呟くのだった

最終更新:2013年03月16日 19:20



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半島転移2

296 :二二三:2013/03/10(日) 16:28:42
史実半島転移ネタ続けてみた~


 

 

 

半島転移2

 

 

 

在韓米軍司令官デビッド・ベイカー大将は大規模な通信障害の後、全てのGPSが使用不能になったとの報告に何が起こったのかを調べるため、

韓国政府との連絡を密にしながら海が消えて陸地が現れたという朝鮮半島東岸に偵察機を飛ばしていた

 

「日本海側に現れた陸地に国家の存在を確認、国名は高麗共和国か…」

 

偵察結果は陸地に国家が存在しているらしいという物

それが判明した理由はかの陸地から中国軍機のJ10に似た戦闘機が飛び上がってきたからだ

不慮の戦闘を避けるため国際共通チャンネルでの通信を試みても全く返事はなく、周波数帯を変えながら何度も接触を試みた結果漸く繋がった回線から飛び込んできたのは

「国籍不明機に告ぐ、貴機は高麗共和国の領空を侵犯している。直ちに領空外に退去されたし」

という警告だった

 

一触即発の事態に直ぐ様引き返した米軍機だったが、入れ替わりで到着した韓国軍機は相手方の警告に「大韓民国の領空侵犯をしているのはそちらだ」と返して威嚇射撃を行ったのだ

そうなれば相手方も同様の反応をするのは当然で、韓国側のF15K戦闘機二機と、相手方の戦闘機一機が被弾する結果となってしまった

 

「それにしてもなにをやってるんだ韓国は!事態が把握できない状況下でいきなり戦闘を始めるなど非常識にも程がある!」

 

韓国側の軽率な行動で高麗という国と敵対関係になってしまった

これが切っ掛けで戦争に発展したらどうするつもりだ

アメリカ本国との通信も回復しない、日本・在日米軍とすら連絡が取れないこの状況ではろくに補給を得られないまま馬鹿の尻拭いの為に血を流すことになってしまう

幸いにも双方死人が出ていないので外交さえしっかりすればまだ不幸な行き違いで済まされる範疇である筈だが、同盟国のお粗末な外交を知っているベイカー大将としては過大な期待は米軍にとって命取りになりかねないと理解していた

 

297 :二二三:2013/03/10(日) 16:29:10

「失礼します!」

 

これからどうするかと考えを巡らせていたベイカーのもとに新たな情報が飛び込んだ

 

「北は北朝鮮に塞がれているので偵察機を飛ばせませんでしたが、西と南からは有力な情報が入りました」

 

「読め」

 

「は、西に飛んだF22からはJ20と似通った戦闘機三機編隊と接触、相手方は"中華連邦"と名乗ったそうです」

 

「J20が三機?!実践配備されたという話は聞いていないぞ!それに中国ではなく中華連邦だと?!」

 

J20

中国が開発中であり未だ試験段階の域を出ていない第五世代ステルス戦闘機がスクランブルとして三機も飛んできたとなれば実践配備された以外に考えられない

それに中華連邦と名乗ったとすれば中華人民共和国とは違う国になる

 

「南からは日本と接触したと報告が入っています」

 

「それは心強いな」

 

ベイカーはアジアで唯一頼りにできる日本と連絡が付いたことに孤立した訳ではないと考えたが、続く部下の報告にぬか喜びであったことを思い知らされた

 

「しかしその日本と接触したのは尖閣諸島近海で自衛隊には存在しない第五世代ステルス戦闘機であったらしく、ステイツのラプターよりも洗練された機体であり更には大日本帝国と名乗ったと……」

 

「バカな、ラプターよりも洗練された機体に大日本帝国だと?」

 

「それどころか別の機からは空飛ぶ船や人形戦闘機を見たという報告も上がっています」

 

「い、いったいどうなってるんだ、」

 

朝鮮半島東岸に現れた陸地には高麗共和国という名の未知の国

西には第五世代戦闘機を配備した中華連邦

日本は日本国ではなく大日本帝国で、ラプターを超える戦闘機に空飛ぶ船や人形戦闘機を持っている

 

「これではまるで別の世界に飛ばされてしまったかの……」

 

(ま、まさか)

 

それしか考えられない

どれか一国でも知っている国があればまだしも、いま報告を受けた国は全てが知らない国である

 

「とにかく情報が少なすぎる。友好的接触が試みられそうな国から詳しい話を聞きたいところだが」

 

距離的に一番近い高麗は韓国のお蔭で友好的な接触が難しい

 

「となれば中華連邦か大日本帝国だが」

 

割りと穏やかに話ができたらしい日本が一番良いのではと推す部下に、ベイカーは韓国政府との関係もあり独自接触すべきかどうか頭を悩ましていた

最終更新:2013年03月16日 19:20



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半島転移3

342 :二二三:2013/03/11(月) 00:50:31
続きで竹島方面書いてみた
てもただ逃げ出すだけですが
休日氏のヒトラー存在モニカさんルートの一つ・68氏のナチスinEU前提です~



 

 

 

半島転移3

 

 

〔竹島に不法侵入した武装勢力に告ぐ。直ちに島から退去せよ、繰り返す、直ちに島から退去せよ〕

 

大日本帝国日本海艦隊所属の強襲揚陸艦・巡洋艦各一隻と四隻の駆逐艦からなる艦隊は竹島沖合いで待機し、突如島を占拠した武装勢力に退去勧告を繰り返していた

ただ、武装勢力はいくら退去を迫っても「独島は韓国固有の領土」と言い張って動かない

 

「お前、韓国って聞いたことあるか?」

 

「あるわけないでしょう」

 

「だよな~」

 

大韓民国軍を名乗る武装勢力だがそもそも韓国という国名は聞いたことがなかった

世界地図にもなければ歴史上にも出てこない

ただの与太話としか思えないのだが連中の物だろうと思われる古い型の揚陸艦の存在が武装勢力の主張に一定の信頼性を与えている

 

「上はなんと?」

 

「退去勧告を無視し続けた場合は威嚇射撃を許可する。それでも退かなければ島への砲撃と制圧行動に移れとのことです」

 

「そうか、それでは最終警告の後、警告射撃を。それでも退去しなければ揚陸艦を撃沈し島を制圧する」

 

343 :二二三:2013/03/11(月) 00:51:30

「どういうことだ!なぜ日本があのような大型揚陸艦を保有しているんだ!」

 

韓国海軍揚陸艦の艦長は、竹島に陸戦隊を上陸させてから暫く後に現れた艦隊に驚愕しっぱなしであった

大日本帝国を名乗るその艦隊は自分達が知るイージス艦を更に発展させたようなステルス形状の駆逐艦を四隻、

それより一回り大きいステルス形状の艦、止めにアメリカの強襲揚陸艦のような大型かつ高性能な印象を受ける揚陸艦まで揃えているのだ

日本の自衛隊にあのような駆逐艦や巡洋艦、強襲揚陸艦など存在しない

なによりも大日本帝国などという国自体存在する筈が…

 

「ど、どうしましょう、あの日本艦隊に独島一隻では勝てませんよ、」

 

「狼狽えるな!例え戦力が上でもあれは日本艦隊。攻撃などしてくる筈が……」

 

日本ならば攻撃しない。そう高をくくる艦長だったがそれがとんだ思い違いであることを理解させられる

 

「日本艦隊が発砲!」

 

「なんだと?!」

 

辺りに響く轟音と共に巡洋艦から発射された砲弾が韓国揚陸艦の至近距離に着弾

大きな水柱が立つ

 

それだけでは終わらない、日本艦隊は島にも砲撃を加えたのだ

これもまた上陸した陸戦隊を避けての威嚇砲撃だったが、破片や衝撃で数人の兵士が吹き飛ばされ負傷した

 

「ぐああ!」

 

「い、イデェっ!イデェよォォォ!!」

 

「そ、そんな?!日本が!あの日本が攻撃してきただと?!」

 

専守防衛を掲げ、自分からは絶対に撃つことはない日本が攻撃した

これは大きな衝撃となって韓国軍全体に伝わっていく

 

「て、撤収!撤収だァァ!」

 

日本は本気である

今の砲撃に嫌でも理解させられた上陸部隊隊長と揚陸艦艦長は直ぐ様撤退命令を出す

 

「に、逃げろ、逃げるんだっ、日本は本気で戦争するつもりだ!」

 

反撃など考えない。あれだけの艦隊相手に揚陸艦一隻で勝てる訳がないのだから

日本相手に一発も撃たずに逃げ出すなど非国民としか言えない所業だが勝ち目がない以上致し方ない

 

我先にと逃げ出す陸戦隊員を収容した揚陸艦は全速力で竹島近海を離脱していった

だがこのような暴挙が許される筈がない

 

「釜山に帰港したらすぐ報告だ。この度の日本の武力行使に対し謝罪と賠償を要求しなければならんからな」

最終更新:2013年03月16日 19:19



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半島転移4

374 :二二三:2013/03/12(火) 00:54:48
続いてみた~
休日氏の宿敵(とも)時空を越えて・68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUが前提です


 

 

 

半島転移4

 

 

釜山広域市古里原発

 

 

 

「急げーッッ!早くしないと間に合わんぞーッッ!!」

 

何台ものポンプ車・消防車・放水車といった水を運搬し供給する作業車が列をなして待機していた

彼らが行う作業は常時の任務である消化活動ではない。それよりもずっと危険な作業に取り組んでいるのである

 

「なんでこんなことになっちまったんだ!」

 

作業に従事していた男は誰に向かって言うでもなく叫んでいた

 

「海が消えて原子炉が冷やせなくなるなんて!」

 

日本海が消滅するという異常事態に見舞われてより早三日。海水の供給を断たれた大韓民国古里原子力発電所は怒号と悲鳴に包まれ地獄と化していた

 

 

 

「韓国政府はなんと言ってるんだ?」

 

「相変わらず"我が国の原発は平常運転を保っている"の一点張りです」

 

そんな訳があるか!在韓米軍司令官デビッド・ベイカー大将は部下の報告に怒鳴り散らしそうになるのを堪えて深呼吸する

部下に当たったり怒鳴ったところで何ら事態は好転しない。それよりもいまは気を引き閉めて当たらねばならない事柄が待っている

 

「日本…大日本帝国は我々の要請を受け入れてくれるのだろうか?」

 

昨日南に飛ばした偵察機から友好的な接触が出来たと報告のあった大日本帝国

在韓米軍は自らの生き残りをかけて日本と本格的な接触ができないかと試みていたのだ

韓国政府を差し置いての独断行動ではあったが、ことここに至っては背に腹は代えられない

なによりこれ以上信用できない同盟国に任せていては最悪の事態が待っているだけ。幸いにも先方が会談に応じると返事をしてくれた為、無駄な努力にならずに済んだのだが

 

「全てはこの会談にかかっているか」

 

375 :二二三:2013/03/12(火) 00:55:23

 

 

「在韓米軍から接触がありました」

 

久々に開かれた会合の場で議事進行の辻はいつもの冷静さを崩すことなく淡々と述べた

 

「在韓米軍などどうでもいい、問題は原発だよ。南朝鮮はまともな対処が出来ているのか?」

 

「はっきり言って出来ていません、それどころか情報隠蔽に走っています。このまま放置しておけばボンッ!ですよ」

 

杉山の質問に握りしめた拳を開いて爆発を連想させた辻はそこでどうするかと皆の意見を求めた

 

「古里原発は何基ある?」

 

「八基ですね。ただし北側蔚山近辺の四基は転移の影響か跡形もなく消滅していますので、暴走しているのは釜山の四基になります」

 

「どうするんだ!放置しておけば水蒸気爆発を起こして大量の放射性物質を大気中に撒き散らすぞ?!」

 

「もちろん放置プレイなんてしませんよ。いま海軍のステルス潜水艦鬼666型オーメンを朝鮮半島に向かわせています」

 

「なんちゅう名前だ……」

 

焦る山本に冷静な辻、最後に嶋田がポツリと呟いた

オーメンとは悪魔を示す名だ。どうしてそんな名前を付けたのか?

答えは簡単、転生者が名付け親に決まっている

 

「間もなく沖縄の那覇で在韓米軍司令官のベイカー大将と全権特使の吉田さん、それと嶋田さんの奥さんが会談することになります」

 

「モニカが?コーネリア大使ではないんですか?」

 

「コーネリア殿下は公務でブリタニア本国に帰還してますので、モニカさんがシャルル陛下から全権委任されてます」

 

「そうだったのか…。政治から遠のいているせいか妻の状況を把握してなかったよ」

 

「そんなものですよ。モニカさんも嶋田さんにはのんびりと主夫しててほしいでしょうしね」

 

「喜んでいいやら心配するべきやら反応に困りますね」

 

「嶋田、ウチも同じようなものだ」

 

嶋田と山本。奥さんが共に騎士なのでお互いの心情がよくわかる

 

「会談の結果がどう転ぼうがフレイヤ弾使用の許可を出す手筈です」

 

「結論ありきか」

 

「物が物だけにそうじゃないと困るんですよ。このままではメルトダウン・メルトスルー、最悪は水蒸気爆発が待ってますから。あとはモニカさんがどう判断するかですが、あの人に限って結論を間違えたりしないでしょう」

 

フレイヤ弾は日本とブリタニアが共同開発した切り札的兵器。それが故に使用許可には極力両国の意見を一致させたうえで慎重に慎重を期さなければならない

今回のような切羽詰まった状況であれば話は変わるのだが

 

「とにかく半島の原発が制御不能だというなら我々が消し飛ばすしかありません。放置しておくなどといった選択肢は最初からありませんよ」

 

「全くもって迷惑極まりないな」

 

 

 

最後に独島という名の揚陸艦が高麗共和国釜山港で拿捕されたことが議題に上がったが「空気読んで撃沈しろよ」の大合唱で終わった

最終更新:2013年03月16日 19:19



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半島転移5

437 :二二三:2013/03/13(水) 17:58:53
続き~
休日氏の宿敵(とも)時空を越えて・68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUが前提です



 

 

 

半島転移5

 

 

大日本帝国沖縄・那覇

 

 

 

「し、信じられん…。これが那覇市内だというのか…」

 

在韓米軍とその親族・関係者の生き残りをかけた会談に臨むべく未知の国、大日本帝国の地を踏みしめた在韓米軍司令官デビッド・ベイカー大将は自分が知る沖縄・那覇とあまりに隔絶した風景を見て絶句していた

 

 

競っているかのように天に向かってそびえ立つ高層ビル群

街の至る所で見られる巨大な太陽光発電のパネル

それらの間隙を縫うように走る高速道路

 

(まるで東京……いやそれ以上ではないか)

 

台湾や海南島、南洋の中継地でもある沖縄県那覇市は南日本随一の大都市なのである

ただ日本の都市圏は軒並み史実東京以上の大都市となっているため別段珍しくもない。七大都市と呼ばれる地域に至ってはニューヨーク以上の光景が広がっているのだから日本人的には「別に普通だろ」程度の感覚でしかないのだ

因みにもしベイカーがいまの帝都東京を見ればSF作品に登場するような未来都市にしか見えないだろう

そもそもこの那覇にしたってSF的な部分が垣間見られるのだから

 

「ロ、ロボットが…」

 

送迎車の窓から街角の建築現場を見たベイカーの副官バレット大佐が小さな呟きを漏らした

なんだあれは?!

あきらかにロボットだと思われる4m強の人形の機械が、ユンボやブルドーザーに紛れて工事作業をしている

 

「どうかされましたか?」

 

窓の外に釘付けになっていると変に思われたのか送迎車の運転手が声をかけてきた

 

「あ、あのロボットは?」

 

「ロボット?」

 

運転手は窓から見える建築現場の作業用KMFを見た

 

「作業用ナイトメアフレーム(KMF)がどうかしましたか?」

 

「あのロボットはナイトメアフレームというのかね?」

 

「ええ、戦闘用KMF無頼を元に開発された物で今や建築業に欠かせない主力機ですよ

 最近ではブリタニアのアッシュフォードがサザーランドをベースにした新型作業用KMFの売り込みを掛けてきてますからじきに世代交代することになるでしょう。それか倉崎の新型第五世代作業用KMFに代わるかですね」

 

軽い口調で説明する運転手に少なくとも秘匿するような物ではないことはわかった

 

「あのKMFというのは一般的な物なのかね?」

 

「ええ一般的ですよ。ただし日本とブリタニア限定ですが」

 

「なぜ日本とブリタニアという国限定なのか伺ってもいいかな?」

 

「単純な理由ですよ。KMFの技術は基本的に輸出してないんです。元が軍事技術なので他国に渡すわけにはいきませんから」

 

「つまり日本とブリタニアだけが持っている技術だと?」

 

「いいえ、他には盗人と嘘つきが持ってますね」

 

盗人と嘘つきが何なのか知らないベイカーが詳しい話を聞くと、盗人は中華連邦から分離独立した大清連邦という四大列強に次ぐ大国と、嘘つきは高麗共和国というこれも昔中華連邦から独立した国だと教えてくれる

 

「まあ二国ともに中華から切り捨てられたとも言えますが、少なくとも高麗は問答無用で切り捨てられてます」

 

中華連邦国民を搾取し続けた一部の特権階級が土地を盗んで作った国が大清連邦=清国で、続けてブリタニアから旧式の第五世代KMFサザーランドの技術を盗んだ泥棒だから盗人

高麗は本気かどうかはわからないが嘘ばかりついているので嘘つき

 

 

(共産中国と北朝鮮みたいな国だな、情けないが我が同盟国も……)

 

「ところで四大列強とは?」

 

疑問が晴れればまた新たな疑問が一つ生まれる

これから調べれていけばわかることだが、早いに越したことはないと引き続き運転手に聞いてみた

 

「そのままです。圧倒的な武力と国力を持った四つの国。神聖ブリタニア帝国・大日本帝国・中華連邦・ユーロピア共和国連合の四国のことですよ」

 

「なるほど…」

 

四大列強の一角大日本帝国

彼が知る日本国も経済大国であり有数の軍事力を持っていたが、どうやらこの日本はより大きな力を持っているようだ

 

「そろそろ那覇市庁舎に着きますので話はまた後ほどゆっくりとしましょう」

 

「ああ、すまないが最後に一つ」

 

「なんです?」

 

「U.S.A.……アメリカ合衆国というのは聞いたことないかな?」

 

「アメリカ合衆国?」

 

どこの国ですか?真面目に聞いてくる運転手に、ベイカーとバレット大佐は共に大きく肩を落として、不安に苛まれていた

最終更新:2013年03月16日 19:18



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半島転移6

463 :二二三:2013/03/14(木) 03:37:19
続き~
休日氏の宿敵(とも)時空を越えて・68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUが前提です


 

 

 

半島転移6

 

 

那覇市庁舎に到着したベイカーは外国要人との会談のさいに用いられる部屋に案内され、待っていた日本側の特使の顔を見て絶句していた

 

「し…、シゲル、ヨシダ…!」

 

そのうえ重要な会談相手だというのに迂闊にも呼び捨てにしていたのである

まあそれも仕方がないと言えば仕方がない。なにせ学生時代に歴史の教科書で見た人物とまったく同じ顔の男が目の前にいたのだから

 

「ん?貴方と会うのはこれが初めてだと思うのですが、なぜ私の名をご存知なのですかな?」

 

今日初めて会う筈なのにどうして自分の名を知っている?本来知らない筈だから疑問に思われるのも当然だ

 

「い、いえここに来る前、職員の方にお名前を伺っておりましたので…あと、知り合いに貴方と良く似た人がおりましてね…、」

 

「ほう、私とそっくりな方がおられるのですか?それは是非とも一度お会いしてみたいものですね」

 

和やかな空気を作ろうとしているのか冗談混じりに握手を求めてくる

 

「この度は我々の会談要請をお聞き入れ頂き誠にありがとうございます」

 

「いえ、我が国としてもなんの前触れもなく現れたもうひとつの高麗半島について色々と調べていたところでしたので、渡りに船ですよ」

 

「高麗半島?朝鮮半島ではなく高麗半島ですか?」

 

「ほう、そちらでは朝鮮半島と呼ばれているのですか。まあそれはさておき」

 

さて、と切り出した吉田にさっそく会談かと気を引き閉める

この会談には在韓米軍の将兵や家族、関係者の命運がかかっている

できれば燃料・食糧の支援などを引き出したい。最低でも原発の暴走を止める為の協力体制だけは構築しておかなければならないのだ

 

「ある程度の話は伺っております、大容量の発電施設が暴走状態にあるとか…これは事実でしょうか?」

 

「はい、残念ながら事実です。我々の同盟国は平常運転だと言い張っていますが……。とにかくそれを止める為の協力をお願いしたいのです、このまま放置して置けば水蒸気爆発を起こして深刻な事態を引き起こしかねません」

 

「確か原発…でしたかな?ウランやプルトニウムを原料にして発電する」

 

ベイカーは吉田の話に引っ掛かりを覚える。これではまるで原発を知らないかのようだ

 

「まさか、原発をご存知ないのですか?」

 

「理論上は知っていますが、あいにくと我が国には原子力発電なる施設がないものでしてね」

 

(原発がない?!)

 

話が違う。KMFとかいうアメリカでさえ開発できないロボットを保有し、東京以上の大都市を地方に作り出し、見たこともないほど巨大な太陽光発電装置を街中に設置するような高度な科学技術力を持つ日本が原子力発電を知らないなどと

それに日本は止める手段があると言っていたではないか?!原発があるからこそ止める手段も知っている筈だ。だがそれがないというならどうやって…

 

「ああ、勘違いなさらないでください。暴走した原子力発電施設を止める手段はあります」

 

不安が顔に出ていたのか吉田は安心させるように手段はあると教えてくれた

 

「ただそれには貴国と我が国だけではなく、我が国の同盟国も交えて話をしなければなりません。なにせその手段に用いる物は我が国と同盟国ブリタニアが共同開発した物でしてね」

 

この会談は在韓米軍=アメリカと日本、二国間の会談であった筈だ。だが助けを乞う立場である以上日本に意見などできない

 

(しかしブリタニアといえば四大列強の一国ではないか!?)

 

そのブリタニアと共同開発したなにかで、使用の通告をして意見を一致させなければならないというなら余程強力な何かだろうとあたりをつけた

 

 

「まあ会談まではまだ時間がありますのでもう少し待ちましょう」

 

464 :二二三:2013/03/14(木) 03:40:45

そうして暫く待っていると那覇市庁の職員が入ってきた

 

「失礼します、ただいまモニカ・クルシェフスキー卿とアーニャ・アールストレイム卿がご到着なされました」

 

「ではお通ししてください」

 

「畏まりました」

 

部屋から出ていく職員と入れ替わるように入ってきたのは二人の白人女性

一人は黄緑色のマントを羽織った二十代前半に見える長い金髪の女性で、もう一人はピンク色のマントを羽織った桃色髪の十代と思わしき少女

二人ともこのような政治的な場には似つかわしくない見目麗しい女性だった

 

「ご紹介します、神聖ブリタニア帝国全権特使、モニカ・クルシェフスキー卿です」

 

(こ、こんな若い女性が全権特使だと?!)

 

「お初にお目にかかります。この度は急を要する事態ということで皇帝陛下より全権をお預かりし、会談に出席させて頂くことになりました、神聖ブリタニア帝国ナイトオブトゥエルブモニカ・クルシェフスキーです」

 

「同じくナイトオブシックスアーニャ・アールストレイム、私はモニカの補佐だから気にしないで」

 

「お二人はともにナイトオブラウンズというブリタニアでも特別な地位にお着きの方々で、我が国や貴国アメリカの軍に当て嵌めますと中将・大将に相当します」

 

(この若さで中将・大将!?)

 

二十代の女性や十代の少女が中将・大将に相当する地位だという現実に、ベイカーは常識を覆されたような気分にさせられた

少なくともアメリカ軍ではあり得ない話であった

 

「それではお二方もお越しになられましたので本題に入りたいと思います」

 

切り出したのは吉田。彼の口調からはつい今しがたまであった柔らかな雰囲気が消えていた

 

「この度の第二高麗原子力発電施設暴走を止めるために、我が大日本帝国と致しましてはフレイヤ弾頭の使用を決定致しました」

 

そのフレイヤ弾なる物が原発を止める手段なのだろう

 

「フレイヤ弾とはどのような物かお聞きしても?」

 

「申し訳ありませんがフレイヤ弾は日本とブリタニアの最高軍事機密に当たる為詳細は説明できませんが、第二高麗原子力発電施設の暴走を確実に止められる物とだけ述べておきます」

 

フレイヤ弾なる物が何らかの超兵器であると理解はできた。最高機密ならばこれ以上の質問は意味をなさないだろう

 

「ブリタニアとしては此度のフレイヤ弾使用に付いては全面的に賛成します。第二高麗の原子力発電施設が毒性物質を撒き散らすと判明した以上止める手段が限られているならフレイヤ弾使用を躊躇うべきではありません

もし日本が動かないのならブリタニアが日本の賛成を取り付けてフレイヤ弾を使用しているところです」

 

「他はどうなってもいい。だけど日本とブリタニアが危険なら原子力発電施設は消し飛ばすべき」

 

クルシェフスキーに続いてアールストレイムが物騒な発言をした

消し飛ばす、消し飛ばせるということはそれができる威力を持っているとなる

 

「ち、ちょっと待ってください!日本・ブリタニアは事前通告もなく他国に対して超兵器を大量破壊兵器を使用すると言われるのですか!そのような国際法を無視した無法が許されていい筈」

 

ない!と叫ぶ筈だったベイカーは吉田に遮られた

 

「では貴国はこのまま暴走する原子力発電施設を放置して大気中に毒性物質が撒き散らされるのを黙って見ていると?その方が余程国際法違反ですよ

力こそが正義とは申しませんが、我々は大切な者を守る為なら力の行使を躊躇いません。話し合いで解決できるならそうしますが、今回はその限りではありません」

 

「私も同意見です。国と家族を守る為に必要とあらばフレイヤ弾使用もやむを得ません」

 

「それでも一言通告するべきだ!」

 

吉田とクルシェフスキーの非情な意見にベイカーは敢えて異を唱える。何の事前通告もなく超兵器を使用するなど間違っている

あくまで事前通告すべきだとする意見を曲げない。彼としてはどうしようもない相手であっても同盟国である以上黙っていられなかった

 

465 :二二三:2013/03/14(木) 03:46:53

「必要ない、それに第二高麗は信用できない」

 

だがアールストレイムは手にした携帯を手渡しながら事前通告すべきだとする彼の意見を切って捨てた

 

 

"先日「独島は歴史的にも韓国固有の領土」とする主張を繰り返していた武装勢力は退去するよう迫っていた帝国海軍の砲撃に逃走を図った模様です、揚陸艦保有していたところから犯行グループは高麗正規軍ではないかと見られており…"

 

 

アールストレイムの携帯の動画には独島と名付けられた同盟国の軍艦が映っていた

いくらベイカーでもこれを見せられてなお擁護できるほどお人好しではない

厄介で信用できない同盟国は見事なまでにやらかしていたのである

 

(なんてことをしてくれたんだッッ!!)

 

如何に何が起こったのかわからない状況下に置かれていたとはいえ、まさか揚陸艦を竹島に接岸させて陸戦隊を上陸させるとは想定外だ

 

「竹島は日本の領土。日本とブリタニアは家族。勝手に家に入ってきて「ここは俺の家だ」とかいう泥棒はブリタニアの敵……相手にするのがバカらしいから手を出さないだけ。でもあんまりしつこいと私が潰しにいく」

 

「アーニャ!」

 

無表情なまま淡々と吐き捨てるアールストレイムをクルシェフスキーが叱責しているが、ベイカーの耳には入ってなかった

あまりにお粗末すぎる韓国の行動に脳が聴覚を遮断していたのだ

 

「そういうことです、いまはまだ第二高麗半島が出現したことは国民に知らされてませんが、じきに知れ渡ります」

 

「申し訳ありません、これは間違いなく我が国の……同盟国の艦です…」

 

ベイカーは同盟国がやらかした失態を恥じ、陳謝する

彼が謝罪する必要はないのだが、これ以上日本・ブリタニア両国のアメリカへの心象を悪くさせては命に関わる

 

「なにも貴方が謝罪する必要はないでしょう?」

 

見かねた吉田がベイカーを止めた

 

「我々は貴国アメリカと第二高麗を同列に見てはいません。もし見ていたら会談を受け入れたりしませんよ」

 

「お心遣い、感謝します……」

 

なんとか一番大事なところをクリアしたベイカーだったが、信用できない同盟国のせいかもうこの時点で心身ともに疲労しきっていた

最終更新:2013年03月16日 19:18



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半島転移7

475 :二二三:2013/03/14(木) 17:15:52
続き~
休日氏の宿敵(とも)時空を越えて・68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUが前提です


 

 

 

半島転移7

 

 

日本、そして思わぬかたちでブリタニアとも協議したベイカーは、古里原発停止の協力と食糧援助を引き出すことに成功した

ただ在韓米軍としては致命的な局面に立たされていることも知ってしまったのである

 

「石油がない」

 

正確にいえば石油は存在している

しかし主要エネルギーではなく繊維製品に使われているくらいで、艦艇や航空機の燃料にはならないという話だった

 

「火薬も…」

 

おまけに火薬もない、銃は火薬で弾丸を射出するのではなく、モーターで弾丸を撃ち出す電気式

その他重火器を初めあらゆる艦船・航空機・車両の全てが電気で動いていた

日本の吉田特使もブリタニアのクルシェフスキー特使も揃って燃料弾薬の補給はできないと言った理由がこれだったのである

援助しようとしたところで物がないのだ

 

「そして祖国アメリカは存在しない」

 

会談終了後に那覇市庁舎資料室で見た皇暦202X年度と書かれた世界地図。そこに描かれていた国の殆どが知らない国名だった

 

南はインド西は中央アジア東は高麗半島手前までの広大な領土を持つ中華連邦

全ヨーロッパとロシア、アフリカの大半を支配するEUユーロピア共和国連合

西は海南島から北はカムチァツカ・チュコト、南は南洋までを領土とする大日本帝国

そして北米大陸……北ブリタニア大陸全土を版図に持つ絶対君主制国家、神聖ブリタニア帝国

 

これら四大列強国を初め自分の知る地図とまるきり違う名前が至るところに記されていた

 

それに歴史からして違いだらけだった

本来ならアメリカ独立戦争に勝利し、合衆国建国の父となる筈だった初代大統領ジョージ・ワシントンがヨークタウンで敗れ戦死しているのだ

つまりアメリカという国家は最初から存在していなかったのである

 

これに日本側から提出された現在の高麗半島を写した衛生写真を見て確信した

 

「ここは、異世界だ」

 

「異世界……」

 

ふいに呟いた独り言を引き継いだのは副官のピーター・バレット大佐

 

「閣下、我々はどうなるのでしょうか?」

 

いつも頼りになる副官の声は低く、彼の不安な胸のうちを現している

 

「わからん、日本・ブリタニアの両国から食糧支援は引き出せたが、燃料弾薬が手に入らない以上我が軍の装備は早晩鉄屑になる

といって元からして違う兵器体系だ、補給は望めんよ」

 

こんな状況で攻め込まれたら一月も持たずに制圧されてしまう

 

「清でしたか?東モンゴルからアムールまでを支配する覇権主義的傾向の侵略国家は?」

 

「ああ、ノースコリアのすぐ北側に面する物騒な国らしいな」

 

彼らが危惧しているのは半島の北側に存在する侵略国家大清連邦が南下政策をとらないかだ

如何に弱っているとはいえ、本来ならアメリカやソビエト並の国力を持つだろう列強の一角であるユーロピア共和国連合に正面から戦争を挑める準列強国

在韓米軍と韓国軍では補給が万全であったとしても到底勝ち目はない

だが如何に列強に次ぐ大国とはいっても相手がEUである以上二正面作戦を展開するとは思えない

それに朝鮮半島を併合したところで実入りはないのだから

 

476 :二二三:2013/03/14(木) 17:16:23

 

ではいま一番危険なのはどこか?それは釜山北部から浦項付近にかけて陸続きとなった隣国、高麗共和国だ

こちらとは散発的ながら韓国のF15Kが戦闘になり双方に被害が出ている。これもまた韓国側の軽率な行動が原因だった

 

「しかし韓国空軍が戦闘した相手が日本でないのは不幸中の幸いでしたね」

 

「まったくだ、もし相手が日本なら今頃韓国は地獄を見ていたことだろう……我々も含めてな」

 

資料室で見たのは世界地図や歴史資料だけではない

現代の各国対比図やGDP比率などの資料も読み漁っていたのである。そこで判明した事実にベイカーは気を失うところだった

なんと四大列強の国力はEUと中華連邦がアメリカに匹敵するレベルで、日本とブリタニアに至ってはアメリカの倍以上の国力を持っていたのだ

四大列強とはいっても上位二国だけは別枠のようで「技術の日本」「力のブリタニア」と呼ばれる超大国らしく、やる気があれば一国で下位二国を同時に敵に回して戦える桁外れの国力を持っている

事情を知らないとはいえ自分達の同盟国は祖国アメリカの倍もあるような怪物に喧嘩を売りかけていた訳だ

 

「危ないところだった…」

 

「閣下、やはり韓国とは距離を置くべきです、いつまた何をやらかすか知れたものではありません

 もとの世界に帰れる保証がない以上韓国と轡を並べ続けるのはリスクが高過ぎます」

 

「私もそれは感じていた、だがな、米韓同盟がある以上それも難しい……」

 

「閣下……」

 

どんなに信用できない相手でも信義を重んじる。それがデビット・ベイカーという男だった

 

477 :二二三:2013/03/14(木) 17:18:18

 

「しかし考えれば考えるほどおかしな世界だ。皇帝が国を治め貴族が政治行政軍事、果ては領民の生活の根幹を成している。そんな中世の貴族制その物な国が世界最大の超大国でアメリカに存在している

 その超大国の同盟国もまた超大国で帝国の名前を持つ立憲君主制国家」

 

民主主義の敵としかいえない王侯貴族が治める国と立憲君主制国家が世界で一番豊かである現実

 

「中華連邦もそうですよ、天子を頂き天子の元に平等。清も集団指導体制の独裁国家」

 

それでいてみな上手く纏まっている。それに引き換え民主共和制のEUは汚職にまみれて建て直しに苦労しているとは

 

「民主主義を信じる我々からは冗談にしか思えんよ。今日私が会談したブリタニアのクルシェフスキー特使も貴族だそうだ。貴族の心とはどういう物かと聞いてみたが〔貴族とは命をかけて皇帝陛下と領民を守るものです〕なんて仰られていたよ」

 

「為政者と騎士の鏡みたいな方ですね。そんな王侯貴族ばかりなら善政を敷いて国を富ませ豊かになるのも何ら不思議ではないか」

 

「そういうことだ。民主主義だろうと絶対王制だろうと結局は上に立つ者次第でいいようにも悪いようにもなる」

 

ベイカーは「EUは民主主義の暗黒面に染まっていたのだろう」と言葉少なに話ながらホテルの窓から見える大都会那覇の夜景に見いられていた

最終更新:2013年03月16日 19:25



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半島転移7-2

556 :二二三:2013/03/16(土) 20:12:58
続き~
休日氏の宿敵(とも)時空を越えて・68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUが前提ですがたいした話ではありません


 

 

 

半島転移7-2

 

 

日本・ブリタニア・アメリカの代表者たちが会談を終えた頃、国会では内閣総理大臣枢木ゲンブが野党公民党の女性議員から質問攻めにあっていた

 

 

「総理!総理!総理!枢木総理!説明をお願いします総理!」

 

とにかく口煩いことで有名なこの女性議員は相手が与党なら誰彼構わず噛み付いてはお茶の間を賑わせている

 

「沖縄で開かれた第二高麗半島特使との会談で日本とブリタニアがフレイヤ弾頭の使用を決定したという話は本当のことでしょうか?」

 

「事実です」

 

こんなところではぐらかしても仕方がないと決定した事実を有りの侭伝える枢木総理

 

「事実ですではありませんよ総理!フレイヤ弾頭は我が国が保有する世界最悪の大量破壊兵器です!これは将来的には破棄しなければならない物だというのに、ブリタニアと結託して使用許可を出すなど言語道断です!直ちに作戦中止命令を出すべきです!」

 

予想通りの反応に与党席からは「引っ込め売国奴!」などのヤジが飛び交う

 

「静粛に静粛に!」

 

議会運営に支障がでないよう議長が叱責して場を静める

静まると今度は枢木総理の番だ

 

「ではフレイヤ弾使用決定の理由についてご説明申し上げます」

 

係りの者が報告を書いた用紙を枢木総理に手渡し、総理は内容を読み上げた

 

「数日前に現れた第二の高麗半島についてですが、かの地には南側に大韓民国。北側に朝鮮民主主義人民共和国という二つの国家が存在しておりまして、この内南側の大韓民国では原子の力を用いた発電施設が制御不能の状態に陥っているとの報告が入っております」

 

「原子の力を用いた発電施設とはなんですか?」

 

「簡単に言えばウランやプルトニウムを原料にした発電施設で、ひと度制御不能に陥れば人体の細胞を破壊する大量の毒性物質を大気中に撒き散らす危険性があるらしく、先方にはこれを止める手段がないためやむを得ず施設ごとフレイヤ弾頭で消滅させることになったのです」

 

放置した場合偏西風に載って日本やブリタニアは愚か、世界中に毒性物質が撒き散らされることも付け加えた

与野党問わず説明を聞いた議員の大半は「使用やむ無し」と持論を引っ込めたが、相対する女性議員だけはしつこく食い下がる

 

「事情はわかりましたが、別の手段はないのでしょうか?」

 

一刻の猶予もないこの時に呑気なことを抜かす女性議員にさしもの総理も呆れ果てた

バカかコイツは?放っておけば日本が、お前自身が毒物で汚染されるのにと

 

「ありません、どうやら第二高麗半島と我々では基礎となっている技術体系が違うらしいので」

 

「そうですか……ですがフレイヤ弾頭を使用すればアジアの友好国にいらぬ誤解を与えます。平和のためにも使用すべきではありません」

 

なにが友好国だこの売国奴が!

与党議員は揃って叫びそうになるのを抑える

この平和バカは、二言目には「アジアの友人」を口にするので相手にするだけ無駄である

しかし、日頃からこのバカに難癖つけられていた総理は、さすがにひと言文句が言いたくなって反論した

 

「平和ですか、そうですね先生が仰るように平和は大事です」

 

いつもと違う返しに女性議員も与党議員もおや?と首をかしげた

 

「ならあなたの言うアジアの友人は平和の敵ですな」

 

清のことだ

 

「いまアジアの友人は何をしてますかな?」

 

「う…!」

 

返事につまる女性議員。返せないのは当然だ、彼女が言うアジアの友人は絶賛侵略戦争中なのだから

 

「そ、それとこれとは話が別です、総理がそのようにはぐらかされるなら討論になりませんし、以上で質問を終わります」

 

逃げるように質問を切り上げた女性議員に与党席からは失笑が、野党席からは「いらんことするな!」の厳しい視線が飛んでいた

最終更新:2013年03月17日 16:03



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半島転移7-3

572 :二二三:2013/03/17(日) 12:52:08
続き~
休日氏の宿敵(とも)時空を越えて・68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUが前提



 

 

半島転移7-3

 

大清連邦首都・哈爾浜

 

如何にも高級品ですよと言わんばかりの調度品や骨董価値のありそうな中華刀が飾られた執務室でこの国の実質的な最高指導者である大宦官の高亥は

突如遼東半島南岸に現れ黄海の約半分を埋め立ててしまった陸地の対応に頭を悩ませていた

 

「シベリア出兵を進めておるこの時になんと厄介な…」

 

大清連邦軍常備兵力の三分の二にも達する約百万の兵をEU領シベリアへ送り込んでいるこの時期に現れた第二の高麗半島

偵察部隊の報告ではどうやら国家が存在するらしく、万一に備えて遼東半島にも兵力を割かなければならなくなったのである

たかが高麗半島ごときとは思う物の相手が未知の国である以上、どんな装備を有しているかわからないし、侵略的意図を持ち合わせているかもしれない

そんな相手を無視して防衛体制を疎かにする訳にも行かず、二十個師団約三十万の兵を張り付かせる破目に陥っていた

幸い予備役を召集していたので兵力的には問題なかったのだが、思いもよらないというより予想通りのところから横槍が入ったのである

 

「高亥様、童倫様がお話があると」

 

秘書が告げた名前に唯でさえ悪い気分がより悪化するような感じがした

 

「童倫のチビにはあっても私にはない、私は不在だとでも言うておけ」

 

「は、」

 

心得たと部屋から出ていく秘書に深いため行きをついた

童倫の話など聞かずともわかっている

遼東半島南岸に現れた第二高麗を自国に取り込むべく、張り付かせてある三十万の兵を攻略のために進めろという催促だ

 

「あやつら揃いも揃って阿呆の集まりか?よもや忘れておるのではなかろうな、我が国が戦をしておるのは列強の一角であるというのを」

 

清が戦争をしているのはユーロピア共和国連合。経済的に衰退して弱っていても四大列強の一角だ

戦場がシベリアというEU本国から離れた遠隔地であるのと、KMFジェンシーを始めとした大戦力を投入しての戦争だから優位に進んでいるだけで、

国力的には三倍から五倍以上の開きがあるEUと戦いながら南にも戦線を抱える二正面作戦などいまの清に出来るものではない

 

「それを優位に進んでおるからと軽く考えおって…」

 

「高亥様」

 

いつの間にか戻ってきた秘書が考え込む高亥に話しかけた

 

「高亥様、我等大清連邦国防軍は高亥様のお声がかかればいつでも動く準備ができております」

 

「…」

 

高亥は真剣な眼差しを向ける秘書になんのことかとは聞き返さず黙って聞いていた

 

「我等清国民の大半は大恩ある高亥様が頂点にお立ちになられるのを待ち望んでいるのです」

 

高亥は清国民に私財さえはたいてばら蒔きをしてきた

彼にしてみれば道具に燃料を入れただけだが、清国民にとっては私財をはたいて生活を助けてくれた大恩人なのである

彼らが忠誠を誓っているのはあくまで高亥ただ一人にであって、その他の宦官たちにではない

 

「まあ待て、そち等が私になにを望んでいるのかは理解しておる」

 

忠実な道具たちは自分にクーデターを起こして清国の全権を掌握しろと言っているのだ

 

「じゃが、いま内紛を起こせばシベリアで戦こうておる兵にも動揺が拡がり戦に支障を来すやもしれぬ」

 

「しかし…!」

 

「なに、あの愚物どもの好きなようなはさせぬ。故にそち等は安心して任務に励めばよい」

 

「は…」

 

自分の仕事に戻る秘書に高亥は改めてため息をついた

 

「道具に期待されるのもこれで中々疲れるものじゃな…」

 

ただし道具とゴミは天秤に掛けるまでもない

 

「まったく、腐敗した生ゴミは早いところどうにかしたい物よの」

 

573 :二二三:2013/03/17(日) 12:54:26

 

高麗共和国首都近郊の基地

 

「出撃は中止か」

 

先ほど本部よりの伝令で義勇軍のシベリア出兵が正式に撤回された

理由は西方に現れた高麗半島と瓜二つの半島国家の偵察機とスクランブル発進した自軍のS10戦闘機が交戦し、被弾するという事案が発生した為だ

 

「陸地が現れたと聞いたときは耳がおかしくなったのかと思ったが、まさか本当のことだったとは…」

 

首都防衛隊にも待機命令が出ている。シベリアに行く筈だった少佐の部隊も現在待機中だ

 

「しかし相手の戦闘機が一昔前の日本の旧式戦闘機に似ている…か」

 

現在日本空海軍の主力機は全てが第五世代ステルス戦闘機

一部第六世代機だと噂されている未知の戦闘機も確認されていたし、第九世代KMFの噂も耳にしていたが、日本なら世界に先駆けて開発していてもおかしくはない

「技術」の二つ名は伊達じゃないからだ

日本の第四世代機は同じ世代でも高麗の持つ主力機S10より強い。それと同じような機体が西方の半島国家にあるならそれだけで脅威だ

そのうえ釜山港に入港してきて拿捕された揚陸艦もある。あれの乗組員の話が本当なら、異世界からやってきた未知の技術体系を持つ国かもしれないのだ

現にあの揚陸艦は石油燃料を元に動いていた。世界中どこを探しても石油を動力源とする船など存在しない

 

「政府はなんと?」

 

「いきなりやってきて領空侵領海侵犯しただけに止まらず、攻撃までしてきた蛮族を許すなと」

 

蛮族か、清の侵略戦争に荷担している我が国も人のことは言えんだろう。それに石油が主要エネルギーだとすれば補給が絶望的であることを意味する

 

(我が国も侵略戦争を始めるかもしれん)

 

どれだけ強力な兵器でも燃料がなくなればただの鉄屑だ。それなら勝てると踏んだ政府が生存権拡大を図ったとしてもおかしなことではない

そうなれば政府が言う蛮族は自分たちを指す言葉に早変わりだ

 

「いかんな」

 

やや自虐的になってしまった

 

「少佐?」

 

「いや、なんでもない。お前もいまの内に休んでおけ、もし西方の半島国家と揉めれば我々が最前線に立つことも十分あり得るからな」

 

上層部に睨まれているが故に最前線に送られる可能性が高い少佐は「EUや日本とやることを考えればまだましか」と呟き、日本製のPCでネットにある第二高麗半島の情報を読みふけっていた

 

 

 

大韓民国首都ソウル及び釜山

 

 

「領空侵犯した野蛮人を許すな!独島を強奪した泥棒に鉄槌を!」

 

「東に現れた陸地は元々韓国の領海だ!陸地は韓国領として併合すべきだ!」

 

ソウルの中心部では年配者・若者区別なく入り交じって声を張り上げながらデモ行進していた

先日東の陸地から飛来した戦闘機と韓国空軍F15Kの交戦は元より、揚陸艦独島拿捕の情報は無線を通じて韓国側も知るところとなり

原発暴走問題から目を逸らせる為に利用されていた

おかげで国民には古里原発が制御不能に陥っている事実を知られずに済み政府批判を避けることができた

だが国民感情の高まりで「神聖な韓国領に無断で侵入してきた蛮族を叩き潰し東の地を併合しろ」の声が時間と共に大きくなっている

 

574 :二二三:2013/03/17(日) 12:57:01

 

そんな安心の平常運転をしている韓国釜山沖合いの海中に一隻の大型潜水艦はいた

 

「さすがはステルス潜水艦鬼666だな、こんな近くの海中にいても韓国軍には毛ほども気付かれてない」

 

特殊任務部隊所属のステルス潜水艦オーメンの艦長はこれを開発した自国の技術力の高さに感嘆の声をあげていた

彼らが釜山沖合いにいるのは言わずと知れた暴走する古里原発の四基の原子炉を消し飛ばす為だ

既にフレイヤ弾頭を装備したKMF三騎がスタンバイしている

 

「しかし私がフレイヤ弾頭を他国に撃ち込むことになるとはな」

 

大日本帝国陸軍大佐・藤堂鏡志朗は乗り込んだ第八世代相当のKMFカラミティのコックピットで憂鬱な声をあげていた

オーメンの艦長とは偉い差だ、彼としてはフレイヤ弾という強力極まりない破壊力を持つ兵器の使用に若干抵抗があったのである

二段式のリミッターで影響範囲はかなり搾られていたが、それでも影響範囲の空間内全てを消滅させるのだから今までの兵器概念を覆してあまりある超兵器であった

これを保有し実践配備しているのは日本とブリタニアの二国のみ。世界を引き離す自国と同盟国の高度な科学技術力が生んだクリーン兵器

謳い文句は素晴らしいがブリタニアで行われた起爆実験を見たことがある藤堂としては、できることなら使いたくなかったのである

 

「だが日本を護る為だ、致し方ないか…」

 

僚機であるフォビドゥンとレイダーに騎乗する直属の部下、朝比奈昇吾と仙波崚河から無線が入る

 

〔そうですよ藤堂大佐!我々がやらなければ日本に毒性物質がばら蒔かれるんですから!〕

 

〔日本を護りましょう〕

 

「そうだな、これも日本を敷いては世界を護る為だ」

 

気を引き締める藤堂たちにオーメン艦長から浮上するぞと連絡が入った

 

「了解した!」

 

夜の闇に紛れて海上に浮上した巨大なステルス潜水艦オーメンの上部甲板ハッチが開く

 

「藤堂鏡志朗!カラミティ出るぞ!」

 

「朝比奈昇吾!フォビドゥン出ます!」

 

「仙波崚河!レイダー出る!」

 

ハッチから飛び出す三騎の第八世代KMF。藤堂機カラミティは両肩に巨大な砲塔と左手には機体の全高とほぼ同じ5mにも達するランチャーを装備していた

朝比奈機であるフォビドゥンは広い肩幅と死神を思わせる鎌状のMVSが特徴的で、こちらもランチャーを装備している

仙波機レイダーは飛翔すると同時に人形から戦闘機のような姿に変形してカラミティ・フォビドゥンの周りを飛び敵機来襲に備えた

 

彼ら三騎の全天モニターには数キロ先にある四つの建造物が映し出されていた

 

「あんな箱、発電施設が人体を破壊する物質をばら蒔くとは信じられんな」

 

専門家ではない藤堂にはどういった原理なのか皆目検討がつかなかった。だかやることは決まっている

 

「いくぞ朝比奈!」

 

「はい!」

 

カラミティとフォビドゥンが巨大なランチャーを四つの箱に向けて構えた

レイダーは上空で第二高麗軍のスクランブル発進に備えながら二機のKMFを見守っている

 

「キャノンギミック展開!」

 

そして今

 

「照準、前方原子力発電施設!」

 

藤堂と朝比奈は目標確認後、最近軍の一部で流行っている決め台詞を叫びながら全てを消し去る為のトリガーを引いた

 

 

 

 

「「蒼き清浄なる世界の為にっっ!!」」

 

 

 

 

カラミティ・フォビドゥンのランチャーから発射された二つの光弾は狙いたがわず古里原発へと突き進む

蒼き清浄なるこの世界を護るために

 

575 :二二三:2013/03/17(日) 13:00:18

 

古里原子力発電所

 

 

「なんだあれは!?」

 

逃げ出した原発職員に代わった原子炉冷却の任にあたっていた消防隊員は、海上から向かってくる二つの光を目撃した

 

「応援なのか!?」

 

作業の手を止めて上空を見上げる隊員

 

「手を止めるな!作業にもどれ!」

 

それを見ていた隊長からの叱責が飛ぶ。いまは他のことに気を取られている場合ではない。気を抜いたが最後、この地獄の釜は大爆発を起こして災厄を撒き散らすのだから

 

「絶対に停めてやる」

 

消防隊員たちの士気は高い。自分たちが逃げ出せば多くの同胞の命が奪われる。だから逃げ出すわけにはいかない

それぞれ考え方に違いはあれど、皆の思いはただ一つ「同胞を護る!」というもの

 

そんな彼らの思いは届いた

 

皮肉なことに彼らが忌み嫌う日本人の手によって彼らの願いは叶えられたのだ。その命と引き換えに……。

 

 

 

古里原子力発電所上空に到達した瞬間、光を失い不発に終わったかと見えたフレイヤ弾頭は、目が焼かれるかのような光輪を放ちながら、爆発的な勢いで光を膨張させていく

その光に包まれた弾道ミサイルの直撃にさえ耐えられる堅牢な作りの格納容器は一瞬にして分解され、足元で作業をする消防隊員は愚か、地表もろともこの世から消滅した

発生したフレイヤの光は一気に拡張。二段式リミッターの限界である半径ニキロの光球を生み出し、範囲に包まれた人、動物、建物、地面、あらゆる物質を飲み込んで原子の塵へと分解し、やがて唐突に消え失せる

 

 

そして全てが終わったあとには綺麗に切り取ったかのような直径三キロのクレーターだけが残され、

古里原発事故という本来なら歴史にその名を刻むであろう大事故は、存在と共に一瞬にして歴史から抹消されてしまったのであった

最終更新:2013年03月17日 16:06



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半島転移8

713 :二二三:2013/03/21(木) 02:02:21

休日氏の宿敵(とも)時空を越えて・68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUが前提
ただの半島な人たちと寒いネタ~



 

 

 

半島転移8

 

 

日本軍特殊任務部隊によるフレイヤ弾投下から一夜、大韓民国首都ソウルでは蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた

 

「古里原発の原子炉四基が跡形もなく消滅したそうだ」

 

「俺、昨日夜遅くに東の空が紫色に光ったのを見たぞ」

 

投下されたのが闇夜であるのと原発周辺は都市部と比べて明かりも少なく光源となる物がない為、フレイヤが放つ紫電の輝きは釜山市内からも見えていた

直接光を見た者は「核攻撃だ!」と叫んだ

実際あれだけの爆発光と巨大なクレーターを見れば核兵器による攻撃以外に思い付かないだろう。通常のTNT火薬を用いた爆弾であの㎞単位のクレーターを作り出したなんていう方が荒唐無稽な話だ

ではどこの国が核攻撃してきたのか?となる物だが

 

「ついに北朝鮮が攻撃してきたのか?!」

 

「それはない、北の将軍様も我が国の同盟相手がどこの誰かは知ってるんだ。そうそうバカな行動は起こさない、というか起こせないだろ?」

 

大韓民国の同盟相手は世界最強のアメリカ合衆国だ。核攻撃ともなればさすがに黙ってないだろう

それに核兵器こそ保有していないが韓国の軍備は北とは比較にならないほど近代化されている。投射手段と数の限られた核では自殺行為だ

といって海を隔てた仮想敵国日本に核兵器はない

 

「じゃああれか?我が国の領海に現れた陸地…確か高麗共和国とか名乗っている居直り強盗」

 

数日前、突如として韓国の領海である東海に現れた陸地。その陸地に住まう高麗人を名乗る野蛮人どもの国

奴らは韓国領東海に陸地ごと現れたばかりか、韓国空軍の戦闘機に攻撃して揚陸艦独島を奪った強盗である

 

「そうに違いない!あの野蛮な猿どもが神聖な我が国を攻撃してきたんだ!」

 

そこかしこで上がる批難の声。だが冷静な者は「核保有国と戦争できるのか?」と弱気だ。如何に最新鋭の兵器で身を固めていても、都市部に核の飽和攻撃など喰らえば詰みだ

核攻撃をしてきた時点で相手はアメリカを知らない可能性がある。であれば韓米同盟が抑止力にならないので今後も攻撃してくるだろう

それでも最終的にはアメリカの報復で勝てるかも知れないが、韓国の国土がボロボロになってはなんの意味もない

 

ただ幸いというか最悪というか、在韓米軍からもたらされた情報で核攻撃ではないことが通達された

 

「あれは先日起きた超自然現象の余震である」

 

米軍から発表されたのは実に荒唐無稽な漫画とか映画でしか出ない、そんな内容であった

 

 

 

日本海に陸地が現れたのではなく我々のいる朝鮮半島の方が黄海に出現、転移してきた

原因は不明だが科学では解明できない未知の超自然現象である

昨夜の古里原発消失事件はその余震

現に古里原発のクレーター付近で放射性物質は検出されていない

 

 

 

なるほど、放射性物質の検出がない以上核攻撃ではなかったのだろう。それは納得した

朝鮮半島が転移したというのも米軍の情報である以上そうなのかも知れない

 

だが続けて発表された「我々が転移したこの世界は根本から技術体系が異なる世界で、石油が主要エネルギーではない」というのだけは信じられなかった

なら先日韓国空軍が交戦した中国のJ10に酷似した野蛮人の戦闘機はなんだ?まさかあれの燃料は石油ではないとでもいうのか?

しかも米軍は火薬すら存在しないと言い出し、生き残るためには他国に援助を願い出るしかないと韓国政府に訴えてきたのだ

 

当然のこと韓国国民は誰も信用しなかった。その最大の要素は米軍が得た情報元にあった。なんと情報元は古来より続く民族の敵で、東の列島に住まう日本人だったのである

それも忌まわしき大日本帝国の名を持つ国なのだ。最早この時点で信用するに値しない

確かに大日本帝国は存在しているのだろうが、そんな国から得た情報などなんの価値もないデマだ。大方元の世界の日本よりもかなり遅れていて、韓国の持つ最新技術を奪おうとしているに違いない

 

根強い反日感情を持つ韓国国民の大半は「大日本帝国」の名を聞いた瞬間からそんな考えに支配されてしまった

 

714 :二二三:2013/03/21(木) 02:03:56

「駄目だっ、まるで話を聞きやしない!」

 

韓国政府ハク・ウネ大統領に日本のフレイヤ弾投下による古里原発の消滅を「超自然現象の一環」と伝えた以外は真実を述べ、

自分達が生きていくためには日本に助けを求めるしかないと説得した在韓米軍司令官ベイカーは、司令部に戻ると大きく肩を落とした

 

「我々もそうだが燃料食糧は節約して精々一月持つかどうかだ、それを…!」

 

大統領は話を聞かないどころか「安全に平常運転している」とのたまいつつ、実は対応に大わらわだった原発事故が四基の原子炉ごと謎の光で消滅したことで余裕が生まれたのか、

東の野蛮人に領空侵犯と独島強奪の謝罪と賠償を求めるとまで言い出したのだ

相手の主力機がJ10とほぼ同じなら、保有している戦車も中国と同じ旧世代戦車が大半だろうと考え強気に出るつもりらしい。日本からの情報で高麗に核がないとわかったのも大きな要素となっていた

これについては韓国を安心させるために提供した情報だったが、米軍の意図したのとは違い悪い意味で自信を与えてしまったのである

 

それを修正する意味でも「石油や火薬がないから補給できない」と付け加えたのだが、当然そんな詳しい情報がどこからもたらされた?とソースを聞かれ、大日本帝国との話し合いを伝えたのだ

米軍の独断行動については謝罪し、自分達は元より韓国が生き残るためにも必須であったと説明したが、今度は我が国や貴国の高度な科学技術を手にいれたいが為のデマだろうと決めつけてしまった

 

「なにが最新技術を奪おうとしているに違いない、だ!相手はアメリカを超える科学力と国力を持つ化け物国家だぞ?!どうしてそんな国が我々から技術を奪わなければならんのだ!」

 

日本の超兵器で抉りとられた大地を見て背筋が寒くなった。あれは核兵器では無理だ。あんな綺麗に大地を吹き飛ばして大クレーターを作り出すなど途方もない技術力がなければ不可能

放射能が発生しない核に似て非なる大量破壊兵器は影響範囲内の全てを文字通り消滅させてしまった

もちろんこれを韓国政府に伝えることはできないので、大日本帝国は日本国と変わらぬ平和主義的政策をとる国でアメリカ以上の超大国。加えて高度な科学力を保有している事実だけを教えた

その回答が「あなたは日本に騙されたのですよ」だったのである

 

「原発の暴走が止められたと思ったら今度は高麗相手に謝罪と賠償……」

 

外交は軍事力を背景にして始めて機能する

 

「燃料弾薬の補給が絶望的なこの状況では不可能だ」

 

軍事力が欠如した状態ではなにを要求しても鼻で笑われる。恐らく韓国の謝罪と賠償、揚陸艦返還要求、まとめて無視されるのは疑う余地もない。それどころか逆に向こうから難癖をつけてくる可能性もある

 

こちらの話に聞く耳を持たない韓国政府は早晩危機的状況に陥るだろう

日本からの情報では高麗は小国という話だったが、それでも燃料弾薬が尽きれば待っているのは一方的な嬲り殺し

大体相手の軍事力が全面的に劣っていると言い切れる根拠もない。日本から聞いた話では高麗もあのロボット兵器を持っているらしいのだから

 

どう考えても最善の策は日本、そして日本を通じて日本以上の大国ブリタニアに庇護を求めることだが、このままではその前に破滅する

 

「最悪、条約よりも邦人保護と我が軍の安全を第一に考えて行動しなければな」

 

条約を反故にはできないため戦争となれば韓国に付き合うしかないが、一方では別の道も模索する米軍司令官は延々頭を悩ませていた

 

 

 

 

 

朝鮮半島で色々あった頃

 

 

 

 

「朝はおはようとモーニング」

 

東京の自宅で朝ごはんを作っていた男は台所でなんとなく思い付いた歌を歌っていた

 

「二つを足すとおはようモーニング」

 

卵を割って油を引いたフライパンに落とす

 

「略してみるとおはモニ」

 

目玉焼きを作っている

 

「カを加えて…」

 

焼き上がった目玉焼きをお皿に載せて一言

 

「おはモニカ」

 

自分の分と妻の分を用意したところで振り返る

 

「なんちゃってな」

 

「……」

 

すると洗面所で顔を洗っていたはずの妻が立っていて石像みたいに固まっていた

 

「や、やあ、おはようモニカ、」

 

平和な日本ある家庭では朝っぱらから空気が冷たかった……。

最終更新:2013年04月07日 11:04



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半島転移8-2

739 :二二三:2013/03/21(木) 17:27:38

休日氏の宿敵(とも)時空を越えて・68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUが前提



 

 

半島転移8-2

 

 

EUユーロピア共和国連合

 

 

「なにィィィ?!日本が黄海に出現した第二高麗半島に核を投下したァァァッ?!」

 

「またか!また日本人か!奴らは悪魔なのか!」

 

高麗共和国に潜伏中の諜報員から上がってきた緊急報告に血相を変えたのは財政再建・腐敗根絶・シベリア戦争を遂行中のEUユーロピア共和国連合を陰から支える「EU枢軸会議」の面々

大清連邦軍をシベリア奥地まで誘い込み体力を奪いつつ、準備が整ったところでかけた反攻作戦が思いの外順調に進んでいたのでまだ精神的な余裕ができていたが、

東の仮想敵国で「EU枢軸会議」にとっては第3帝国世界からの因縁を持つ大日本帝国が核兵器を実践配備している事実に驚愕した

 

「あ、あり得ない、我々もこの世界で核兵器の実験はやったがどれも失敗だったのだぞ、」

 

EUの結束を深めるために連日連夜得意分野の宣伝という戦いをしているゲッベルスは信じられないと呟いた

彼だけではない、緊急会議に参加している全員が皆一様に同じ反応をしている

 

「そうだ、核開発は不可能だ」

 

彼らも核に関しては長い間研究してきたが、この世界は第3帝国世界と物理法則が違うのか、何度実験しても上手く核分裂せずに不完全な爆発となるのだ

製造行程に問題があるわけでも、部品が足らなかったわけでもない。明らかに物理法則が関与しているとしか思えない結果だったのである

つまり前とまったく同じ核兵器は製造不可能。この結論に達していた

それなのにあの黄色の突然変異種……ここまでくればもう人類の突然変異種といっても過言ではない日本人は開発に成功したというのである

 

「やはり日本人、いつでもどこでも日本人か」

 

だが枢軸会議の双璧であるヒトラーとムッソリーニの二人は落ち着き払っていた

理由など述べるまでもない。あの日本人ならなにか別の方法で核を製造してもおかしくはない

彼らの前科を鑑みればそう考えるのが寧ろ妥当と言えるだろう

 

「それにどうやら核兵器ではないようだ。核兵器ではこの綺麗な半円形のクレーターは作り出せんだろ」

 

報告と一緒に提出された衛生写真には第二の高麗半島の東部に隕石が衝突してできたようなクレーターが写っている

ヒトラーの言う通り地下で核兵器を爆発させてもここまで綺麗な穴は作れない

 

「忌々しいが日本人どもは核とは違う別の戦略兵器を手に入れたのだ。恐らく奴らが絡んでいるに違いない」

 

「夢幻会ですか?」

 

「左様、日本人が世界に先駆けてなにかを作り出すときは必ずあの連中が関与している。おまけに連中がてこ入れしたのかただでさえ大国だった日本が強大な超大国へと成長してしまった」

 

しかもたちが悪いことにその日本よりも更に強大な神聖ブリタニア帝国と蜜月関係を築いている

EUの潜在的敵国である超大国同士の結び付きは悪夢としか呼べない国力差を更に大きく広げていた

 

「第3帝国世界の時代から考えていたが、奴らはやはり魔法が使えるのではないのか?」

 

以前から噂になっていた日本人魔法使い説や宇宙人説が噂ではなく本当のことではないのか?

当の日本人、とくに彼らが目の敵にしている夢幻会の面々が耳にすれば「妄想乙!」と一笑に付されそうなことを考えてしまうヒトラーを始めとした枢軸会議のメンバー

 

彼らはどんなに頑張ってもあっという間に引き離して追い付けなくする日本人に、思考放棄して非現実的な答えを求めたい気分だった

 

740 :二二三:2013/03/21(木) 17:29:40

「で、その第二高麗半島だが、その地に存在する勢力の詳細は判明したのか?」

 

考えていても憂鬱になるだけなので話題を変える

答えるのはヒトラーの側近の一人ヒムラーだ

 

「判明はしていますあれは高麗ではなく朝鮮半島です。当該地域に存在する勢力が「大韓民国」を名乗っていることと、高麗に拿捕された揚陸艦がディーゼル燃料を使用していることで判明しました」

 

「大韓民国?大韓帝国ではないのか?」

 

「ええ、おそらくは我々や夢幻会が第3帝国世界から来たように、大韓民国も我々の世界に酷似した世界から跳躍してきたのでしょう」

 

ディーゼル燃料や朝鮮半島など第3帝国世界で聞き慣れていた名称の登場に前世を懐かしむメンバーたち

しかし続くヒムラーの「かの国への対応は如何なさいますか?」の問いかけに「徹底して無視」と意見を一致させていた

国の建て直しとシベリア戦争の真っ最中にあるEUには規格の違いから早晩鉄屑になってしまう戦力で身を固めた劣等中の劣等種の相手をしている暇などないのだ

 

「あそこは第3帝国世界でも日本の勢力圏だったのだ奴らに押し付けるか中華、または清にくれてやれ」

 

第3帝国世界で散々見てきた彼らの民族性にヒトラーは「敵にしたら頼もしいが味方にしたら大惨事だ」と吐き捨てた

 

「私が日本人ならあげると言われれば土下座して「勘弁してください」と謝るな」

 

引き継いだドゥーチェは「金も払うからあっちいってくれも付け加えておく」と苦笑いを浮かべていた

 

741 :二二三:2013/03/21(木) 17:33:37

 

神聖ブリタニア帝国帝都ペンドラゴン

 

 

「日本に滞在中のナイトオブトゥエルブ・モニカ・クルシェフスキー卿より連絡、第二高麗東部における毒を吐き出す暴走発電所除去作戦は成功、ブ日両国に毒性物質が降り注ぐ危険は回避されたとのことです」

 

ブリタニア軍の司令部に入った一報に歓声が沸き上がる

いきなり現れた第二の高麗半島には大気中に毒物を撒き散らす発電施設がある

今のうちに対処しなければ大変なことになるとあの半島に常駐しているアメリカ合衆国という国の現地司令官から伝えられたブリタニアと日本は、

フレイヤ弾頭による施設の除去という荒療治に出て、これを成功させたのだ

 

「けどなんて迷惑な国なのかしら、制御もできないくせにブリタニアと日本に毒性物質が降り注いでいたかも知れない施設を稼働させていたなんて」

 

両帝国の一大事に発展しかけた今回の事件に、その原因を作った第二高麗……大韓民国への嫌悪を隠さない神聖ブリタニア帝国第五皇女カリーヌ・ネ・ブリタニアは相手の事情を鑑みることなく吐き捨てる

転移による事故なので全部が全部韓国が悪いとは言えないのだが、彼女にとって大切なのはブリタニアと日本だけであって、かの国の事情など知ったことではなかった

それに日本には駐日大使のコーネリアやユーフェミア、留学中のルルーシュやナナリーがいる

皇帝シャルルを始め何よりも家族を大事にするのがブリタニア皇族の特質

彼女も例外ではなく日本にいる家族たちになにかあれば韓国を攻め滅ぼすくらい平気で行うだろう

 

「まあ大韓民国とやらも国土ごとこの世界にやってくるなんて超常現象に巻き込まれたんだ。我々と日本がいち早く動いて事態を解決できたのだから今回はよしとしようじゃないか」

 

そこへやってきたのは神聖ブリタニア帝国第一皇子オデュッセウス・ウ・ブリタニア

近く引退するシャルル皇帝の後を継いで第99代皇帝になるブリタニアの癒し系と言われている凡庸な人物だ

 

「オデュッセウス兄様は甘いわ、分を弁えない輩には躾が必要よ」

 

「まあまあ抑えて」

 

憤るカリーヌを宥める癒し系な兄。仲のいい兄妹の姿は実に微笑ましく、仕事で疲れていた司令部職員には一服の清涼剤になっていた

 

「でもお父様がなんていうかしらね?」

 

シャルル・ジ・ブリタニア

家族の情がひときわ強い彼らの父は日本にいる子供たちになにかあれば、大韓民国に宣戦布告して民族浄化くらいやりかねない

 

「父上ならシュナイゼルに監禁されてるから大丈夫だよ」

 

それを見越してか偉大なる彼らの父親はお目付け役の第二皇子の手で執務室に監禁されていたのである

まあ実際のところは度々皇宮を抜け出して日本に行っているせいで書類が溜まり続けた結果、怒ったシュナイゼルが実力行使に出ただけなのだが

 

「なんにしろ丸く収まってよかったよ」

 

戦争やきな臭い話が嫌いなブリタニア一の平和主義者は、何事もなく事態が終息してくれたことに安堵していた

 

「でもこれからどうするのかしら?クルシェフスキー卿の話じゃアメリカ軍とかいうのはブリタニアと日本に燃料食料の援助を申し出たって話だったけど」

 

「燃料弾薬は根本から違うから支援できないよ、食料支援はできるだろうけどね

 ただ日本の竹島に揚陸艦を接岸させて勝手に上陸したあげく「独島は韓国固有の領土」なんて訳のわからないこと言う国と繋がってる以上、最低限の援助しかできないな」

 

「援助なんて必要ないと思いますけど?」

 

カリーヌとしては竹島を自国領土なんていう無礼な国と同盟を組むアメリカに支援など必要ないと考えていた

彼女が交渉役なら「大韓民国の大統領を引きずってきて日本に謝罪させれば支援を考えてあげてもいいわ」なんて命令調で言ってだろう

 

「しかし毒性物質を撒き散らす可能性のある発電所の存在を教えてくれたのは彼らだからね、何らかの礼は必要だよ。それが食料支援だっていうならそれでいいじゃないか」

 

アメリカからもたらされた情報のお陰で日本にいる兄弟たちは無事だった。そう考えれば確かにお返しは必要である

 

742 :二二三:2013/03/21(木) 17:36:17

「まあ日本なら情報がなくても事態を解決させていた気がしないでもないけどね」

 

いつもブリタニアより早く新しいなにかを作り出す「技術」の二つ名を持つ同盟国

あの国は不思議な国だ。共同開発しても先に技術を進化させていく

KMFやフレイヤのヒントもあの国から出た。まるで将来KMFが主役になる時代が来ると知っていたかのように

さすがに他国との間にあるような一歩以上の開きがある訳ではないが、半歩は前を歩いている

その証拠にナイトオブトゥエルブの専用機であるフリーダムは日本が開発した物だ。あれに盛り込まれているエナジーウィングを始めとした各種技術はまだブリタニアでは研究段階にあったもの。それを日本が先に実用化した

その日本なら今回の超常現象が元で起こった大韓民国の発電所事故もどうすれば解決できるか知っていたとしても不思議ではない

 

「じゃあお兄様はナナリーがいるのはワンダーランドだとでも仰るの?」

 

「ははナナリーinワンダーランドか、なかなかおもしろい表現だね」

 

ワンダーランド日本。その地にいる兄弟たちの話題は延々と続いていた

最終更新:2013年04月07日 11:09



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半島転移8-3

2 :二二三:2013/03/31(日) 22:32:27

休日氏の宿敵(とも)時空を越えて・68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUが前提
特に動きはない



 

 

半島転移8-3

 

 

都内某所

 

 

「古里原発原子炉四基の消滅を確認しましたか」

 

「やれやれ、これで一息つけますね」

 

夢幻会の会合に集まった面々は上がってきた報告に安堵のため息をついていた

これでひとまずのところ放射性物質の拡散は阻止することができたのだから多少肩の力も抜きたくなる

 

「古里・月城が消滅したとして蔚珍・霊光は大丈夫か?」

 

「その二ヶ所は位置的に考えても連中の言う平常運転で間違いないかと思われます。韓国も高麗も信用できない発言ばかりなのでついうたがってしまいますがね」

 

「日頃の行いだな」

 

失笑する者。頷く者。皆それぞれ別々の反応を見せているが、ひとつだけ共通していたのは韓国と高麗は信用できないという思いである

これは彼ら夢幻会だけではない。日本国民、ブリタニア国民、果ては中華・EUに至っても同様だ

 

「それはそれとして、今回の注目すべき点は韓国の原発が稼動していたところだな」

 

注意点を上げたのは杉山。皆一様に頷く、何故ならばこの世界は特有の法則でもあるのか、昭和世界や史実世界と同様の原子力技術は使えない

唯一存在するその種の技術は日ブで共同開発したフレイヤだけ。にも関わらず韓国の原発は普通に動いているようなのだ

 

「元からあった、完成していた技術はそのまま使えるのかも知れません。そこだけは前の世界を引き継いでいるのかも」

 

「迷惑な話だな、お陰でこっちはフレイヤを使うはめになったのだから。いくら我が国がサクラダイトの収入で潤っているとは言え安物ではないのだぞ」

 

それにフレイヤ弾の製造費用は当然のこと税金、日本国民の血税から捻出されている。費用とてKMFとは比べ物にならない高額品だ

 

「まったくあの半島は史実世界でも昭和世界でもこの世界でも日本を悩ませてくれる」

 

3 :二二三:2013/03/31(日) 22:33:44

「しかし、韓国の原発が動いていたなら、北の核も健在であると見なければいけません」

 

「核か」

 

北朝鮮、朝鮮半島の北側にある共産主義国家

昭和世界出身者の山本だけは詳細について知らなかったため他の会合メンバーからレクチャーを受けていたが、期せずして日本・ブリタニアに続く第三の大量破壊兵器保有国となった国だ

 

「確かにまともに起爆するかどうかはわからんが、何発かは保有していると考えるべきだろうな。だが投射手段がないだろう?」

 

日本として注意すべきは北朝鮮の核が日本・ブリタニアに対し投射できるか否か?

結論としては北朝鮮の技術力を鑑みるに長距離弾道ミサイルテポドン2や、その改良型。中距離弾道ミサイルテポドン・ノドンに搭載できるほど小型化されてはいないだろうことは自明の理である

 

「無論、ミサイル発射の兆候があればそれ相応の対処はするべきだが」

 

「それ以前にやるやる詐欺の国ですからねあそこは」

 

「いや、追い詰められたら何をするかわからんぞ?」

 

「清の動きは?」

 

この絡みで一番気になるのは清の動きだ。かの国は現在EUユーロピア共和国連合と戦争中。それも戦況が一進一退と膠着している状況から万一北の核を手に入れたら実戦使用しかねない危険があった

 

「清は現在遼東半島南岸、北朝鮮との国境に二十~三十万ほどの兵力を張り付かせていますね。ただ攻勢に出るような兆候はありません」

 

「ほう、強欲な盗人にしては自制が利いているな」

 

「恐らく宦官の一人、高亥辺りが軍や他の宦官を押さえているのでしょう」

 

「あの男か……確かにやり手な印象を受けたな」

 

「国民の支持率も高く、自分のためなら努力を惜しまない奴ならば、清の国力的に二正面作戦は不可能と判断したのでしょう。

 実質軍もあの男の指揮下にあるようですし、下手な行動には出ないものと思われます」

 

会合メンバーでギアスを知るものたちは「あの高亥が優秀とか思いもしなかったな」みたいに驚きを隠せない

なにせ高亥といえばギアス初期に出たたんなるやられキャラで傲慢なだけの人物だったのだから。それが欲特尽くしではあっても自分以外の人間のためになる政治を行っている

まあ日本側としてはそのお陰で助かることもあるため、これはこれで良くはあったが

 

「とどのつまり、現時点では様子見ですか」

 

「だろうな」

 

「嶋田さん、奥さんからはなにか聞いてますか?」

 

嶋田に振る辻。ブリタニアの駐日本大使である第二皇女のコーネリアが本国に帰還している都合上、日本駐在のラウンズ、モニカ・クルシェフスキーが半島関連のブリタニア側代表である

まああくまでコーネリアが日本に戻るまでの代役ではあったが

 

「モニカからは当面静観とだけ聞いてますね」

 

正式な方針は追って連絡されるだろうが、情報は速いに越したことはない

 

「当然だ、奴等とは極力関わらんほうがいいからな」

 

ブリタニア側も韓国揚陸艦の竹島上陸事件でかの国が高麗と類似した国家であるのは知っている。日本次第では日ブ同盟を発動させて無慈悲な鉄槌を降り下ろす準備もしていたらしいが、

異世界からの転移による混乱のせいと、日本側が動かないのもあってとりあえずは静観となったのである

 

「ただユーフェミア皇女やルルーシュ皇子、ナナリー皇女が放射性物質の被害にあっていれば、今ごろ朝鮮半島にはブリタニアの大艦隊が展開していたでしょうけどね」

 

面々の脳裏にはシャルル自ら御座船グレートブリタニアに乗って韓国を叩き潰す姿が浮かび上がっていた

最終更新:2013年05月14日 19:18



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半島転移9

207 :二二三:2013/05/24(金) 21:44:19
これは休日氏の宿敵(とも)時空を越えて
68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUのインスパイア作品です
南朝鮮が沸いてるだけの話~



 

 

 

 

半島転移9

 

 

 

在韓米軍司令官が独自に動いて日本からの援助を取り付けるのに成功してから一週間が過ぎた頃、南朝鮮こと大韓民国ではある問題が噴出し始めていた

その問題とは先進文明国家として、また国民生活にも必要なディーゼルを始めとした石油燃料が手に入らないことであった

今のところある程度のエネルギーは残った原発の分で賄えているものの半数の原発が消滅した影響はやはり大きく、電力事情もこの短期間に悪化してきているのが現状であり早急な対策が必要となっていた

 

特に石油については産油国でもない韓国の場合、国内の備蓄分を使い果たせばそれっきりであるため、打開する為には他国からの援助が必要となる

しかしながら米軍情報で元の世界とよく似た異世界に国ごと転移してしまった韓国には、支援を求めるべき相手がいない

 

そこで背に腹は代えられぬと、例え世界が違っても自国固有の領土として認識している独島を奪った怨敵、大日本帝国と会談の席を設けたのが三日前

 

その日本、そしてブリタニアという聞いたこともない国との友好的接触を果たした米軍を仲介として行われた日・ブ・韓三者による会談で、

アメリカだけではなく我が国にも燃料・食糧・弾薬の補給など各種の援助をして頂きたいと申し出た韓国であったが、まず最初に日本から求められたのは謝罪という屈辱的なものであった

 

「なぜ我が国が貴国に対し謝罪しなければならないのだ!」

 

会議室に響く怒声は大韓民国外交通商相のもの

 

「貴国は世界転移という国難に見舞われ指揮系統が混乱していたとはいえ、我が国の領土である竹島に揚陸艦を接岸させて陸戦隊を上陸させたのですよ?

それもあろうことか竹島を自分たちの領土だと主張したのですから、理由はどうあれ、これは立派な侵略行為です。そのことについて謝罪して頂くのは当然の事かと」

 

日本側の担当者であるアジア大洋州局長は涼しげな表情を崩すことなく淡々と述べた

だが、韓国側としては引き下がれない。なにより日帝に謝罪するなどという朝鮮民族にとって耐え難い恥辱となる行為などできるわけがなかった

故に彼の返事がこうなったのも仕方がないと言えるだろう

 

「独島は韓国固有の領土だ!我が方が謝罪しなければならない事由など何一つない!」

 

「ほう、それは貴国の総意と受け取っても?」

 

「無論だ!我が国は領土ごと転移したのだからあの島が貴国の領土だったものと同一であるという保証はないだろう!」

 

「なるほど、確かにごもっともな意見だ。だがそれならば貴国の本土が転移してきた場所の近くに同じ島が現出していなければおかしい話になりますな?

半島が2つあるなら竹島も同様に2つなければおかしい」

 

「ぐっ!」

 

「そうではない以上、あの竹島は元々この世界に存在していたもの……。つまり我が大日本帝国の領土であるということです」

 

第二高麗が2つあるのに竹島は1つ。ならば韓国の言う独島は此方に転移してはいないということだ

そもそもが竹島は日本国の領土であるものを韓国が勝手に占拠していたに過ぎない。彼らはこの世界でも同じ調子でやろうとして、帝国海軍に蹴散らされていたのであった

いずれにせよ竹島が来ていない以上自国領というのが元からのでっち上げであり、この世界の竹島が元からある大日本帝国領竹島なのは疑う余地もない事実

そこを突かれた韓国外交通商相は口惜しげに唇を噛んでいる。世界は違えど日本相手の会談でこのような屈辱を受けたのは初めてであった

日本は強く出れば自らの非を認める国。それが半ば法則のようなものになっていたので、このような返しを受けるとは思ってもみなかったのである

 

208 :二二三:2013/05/24(金) 21:46:27

 

「ではご返答のほどを」

 

謝罪を迫る外交担当者に、しかし彼は謝罪しなかった

 

「この場で私個人の判断で謝罪するわけにはいかない……」

 

国に持ち帰らせて頂き改めて返答させて頂く。そう答えるので精一杯だった

しかしこれは誤りの選択であり返事であった。非が自国にあるとわかった時点でせめて彼が個人的にでも非礼を詫びるとでも言っておけば次の流れは防げていた筈なのだ

 

「わかりました。では此方も貴国の正当な見解と謝罪を持って、改めて各種支援についてどうするか考えさせて頂きます」

 

つまりは会談はこれで終わりだからさっさと帰れというわけだ

無論それは困るので、慌てて引き留めた彼は「貴国は五千万人もの人間が飢え死にしても構わないというのか!?」と吠えたのだが、返ってきたのは非情な言葉であった

 

「先ほどあなたは竹島への侵略行為を正当化し、それは貴国の総意かという私の質問に総意だとお答えされましたね?

であるならば現時点での韓国国民への我が国の認識は五千万人の泥棒です。なぜに税金を使ってまで泥棒を助ける必要があるというのですかな?」

 

話は終わりです。そう言って席を立つアジア大洋州局長に今度こそ何も言い返せなくなってしまった韓国外交通商相は、残されたもう1人の交渉相手に目を向けた

だが黄緑色のマントを着用した金髪の白人女性は無言で席を立つだけで一瞥さえしない

此方をまるで相手にしていないその態度に傷ついてしまったプライドが更にズタズタにされたような気になった彼は、会議室を出て行こうとする彼女に「貴国との交渉はまだですぞ!」と叫び引き止めた

すると足を止め外交通商相と視線を合わせた彼女は空の色を連想させる澄んだ碧い瞳で彼を射竦めながらブリタニア帝国としての意向を伝える

 

「………では単刀直入に申し上げます。我が神聖ブリタニア帝国は此度の大韓民国による大日本帝国への゛侵略行為゛について、大韓民国政府よりの正式な見解が示されるまで、一切の交渉には応じません」

 

「に、日本と我が国の問題はブリタニアには関係無いだろうっ!!」

 

その射抜くような厳しい視線に怯みながらも言葉を搾り出した外交通商相であったが、次の言葉に沈黙せざるを得なくなってしまった

 

「我が神聖ブリタニア帝国と大日本帝国の間には相互防衛同盟が結ばれています。つまり、日本を侵略した大韓民国は今の時点では゛敵国゛という扱いになるのです」

 

「て…てき…こく…?」

 

外交通商相はこの会談に先立ってアメリカよりある情報を聞かされていた。それは神聖ブリタニア帝国という国がどういった存在なのかというもの

神聖ブリタニア帝国とはこの世界で最大の超軍事大国であり、その国力はアメリカ合衆国の数倍にも達する怪物であるとレクチャーを受けていたのだ

支援を引き出すことができたらこれほど心強い存在はなかったが、同時に敵に回せば韓国の破滅を意味するような想像を絶する巨大帝政国家

そんな怪物から敵国認定を受けている。その事実は日本のアジア大洋州局長の態度に腸が煮えくり返っていた彼の心を一瞬にして凍り付かせてしまうに足る衝撃を与えていた

彼が迂闊だったのは、日本と揉めた時点でブリタニアが敵になるという事を想定していなかったこと

大日本帝国と神聖ブリタニア帝国の関係を日本国とアメリカ合衆国の関係と同じ様に考えてしまったことだ

竹島問題でアメリカが一定以上踏み込んでくることはない。ならば同じ様に竹島に上陸したくらいでブリタニアが踏み込んでくる筈がないと思い込んでいた

ところがふたを開けてみれば竹島を理由に韓国はブリタニアから敵国認定されてしまった

 

「私はこの問題について皇帝陛下より全権をお預かりしています。よって、私の言葉は皇帝陛下の言葉であり、ブリタニア臣民九億の言葉となります」

 

つまりはブリタニアの総意として大韓民国は敵であるとされたのだ

 

「もっとも世界転移という超常現象が発端となっておりますので戦争という手段は考えておりません。そして貴国にもこれ以上の侵略的意図はない御様子ですので」

 

「な、ならば!」

 

「ですが!………敵であるあなた方を援助する義理も謂われもございません」

 

「…っっ、」

 

「それでは失礼させて頂きます」

 

 

 

こうして日・ブ・韓の三者による会談はアメリカとは真逆の決裂という形で幕を閉じた

 

209 :二二三:2013/05/24(金) 21:48:32

 

大韓民国アメリカ軍基地

 

 

 

「交渉が決裂した!?」

 

在韓米軍司令官デビッド・ベイカーの下に入ったのは、日ブとの連絡を円滑なものにするためと日本より供与されていた、この世界の衛星電話を通じてもたらされた日本・ブリタニア・韓国による三者会談の結果であった

 

〔はい……。残念ながら日本・ブリタニア共に韓国政府の見解が述べられるまで今後一切韓国との交渉には応じないと〕

 

政府見解とは何のことかと一瞬疑問を抱いたが、韓国が何をしたかを思い出した彼はすぐに答えを導き出すことができた

「一応聞いておく。交渉決裂の要因は?」

 

〔…………先の韓国陸戦隊による竹島上陸に対し謝罪を求める日本側に回答した韓国外相通商相の不用意な発言が原因です〕

 

「なんと言ったのだ?」

 

〔その、独島は韓国固有の領土であるという例の主張に、それは大韓民国の総意かと質問された日本のアジア大洋州局長に対して外交通商相がYESと……〕

 

「………」

 

〔それを聞いた日本側はその場で会談を打ち切りました。外交通商相は同席されていたブリタニアのクルシェフスキー氏にも詰め寄っていましたが……現時点においては韓国は九億ブリタニアの敵であると〕

 

「……わかった。御苦労だったな」

 

〔いえ……それでは私も帰国します〕

 

「ああ、気をつけて帰ってこい」

 

 

通信を終えたベイカーはここ数日続く胃痛を抑えるため胃薬を飲む

健康に気を使い、司令部付きになってからも身体を鍛え続けて、病気や風邪など気合いで吹き飛ばしていたが、心労からくる胃痛だけはたった数日で我慢できないほどの痛みになっていた

全ては半島転移後の韓国政府のお粗末且つ軽率な行動が原因である

 

「閣下、今日はもうお休みになってください」

 

心配して休息を取るよう進言してくる部下であったが、休むわけにはいかない

 

「そうもいかんよ。こう、治安が悪化してきてはな……」

 

電力が不足し始め、あらゆる物資の輸入が途絶えたことに不安を抱き始めた一部の民衆が略奪・強姦などの犯罪行為に走り、韓国の治安が急速に悪化してきているのだ

 

「とにかく、行き場を失った邦人はできる限り保護しなければならん」

 

このような状況下で一番略奪・暴行の対象にされやすいのはアメリカ人を含む外国人や女性だ

各国の大使館には今それぞれの国の邦人たちや在韓外国人が押しかけている

別の世界に転移したとはどういうことか?

自分たちはこれからどうなるんだ?

大使館員にも答えを出せない質問があちこちの公館で飛び交っていた

無論在韓米軍基地に避難してきた者たちも同じだ

 

「しかし今の状況で食料支援・燃料弾薬支援を断られたとなると、奪いに行こうとするだろうな」

 

「東の朝鮮半島、いや高麗半島ですか?」

 

「ああ、韓国政府は未だに石油燃料が存在しないという話をデマだと考えているようだからな」

 

この世界は殆どの機械が電気を燃料として動いている。そう何度説明しても「航空機・船舶・自動車がどういった原理で動いているのか説明しろ」というだけで信じようとしないのである

 

「技術体系が違うのだから、原理など分かるはずがないというのに…!」

 

外部と交流できるようになれば理解するはずだとこの会談には期待していたのだが、頼りない同盟国はまたやってしまったのだ

 

「閣下、やはり日本・ブリタニアに庇護を求める以外に手はありません。韓国と高麗が戦争になるのは揚陸艦拿捕の件や領空侵犯による戦闘の対応を見ても明らかです」

 

両案件の韓国側。また高麗側の対応は「野蛮な猿」「蛮族」と双方共に罵りあって平行線を辿っていた

 

特に韓国側は高麗軍の装備がどうやら自国よりも劣り勝てると踏んだからか態度が大きくなっている

一方の高麗側は韓国の謝罪と賠償要求に知らぬ存ぜぬの態度を崩さない

 

「とにかくいまは各国大使館と連絡を密にしながら邦人保護に全力を尽くすんだ」

 

 

(もしも韓国側から手を出した場合、韓国には悪いが我がアメリカは米韓同盟の発動を見送り、独自行動をとらせて頂く)

 

いい加減で救いがたい外交ばかり行う愚かな連中に付き合って心中するつもりなど微塵もないベイカーは、痛みが走る腹を抑えながら、各所から入る情報に目を通し続けていた

 

210 :二二三:2013/05/24(金) 21:53:23

 

東京

 

 

「ただいま帰りました」

 

会談というより通告を終えて公館に戻り、報告書を作成して本国に送致したモニカは帰宅してすぐ夫に抱き付いた

 

「お帰り、どうだった会談は?」

 

「あれは会談ではなく通告ですよ。元よりブリタニアは大韓民国の要請に応じるつもりはありませんので」

 

ぎゅーと抱き付いて充電しているモニカは韓国外交通商相の不遜な態度を思い出して気分が悪くなった

 

「なぜあんなにふてぶてしい態度がとれるのでしょうか?」

 

(まあ、韓国だからな……)

 

「なんというか、あの日本なら援助して当然的な態度には怒りを覚えます」

 

どこか日本を見下していた外交通商相

支援を求めて助けをこう立場にありながら、侵略行為を働いたことに対して謝罪しないばかりか、またも竹島は自国領土と主張したばかりか、国民の総意とまで言い切る傲慢さ

日本という国が大好きであり、第2の故郷でもある彼女にはあの態度が非常に不愉快だった

 

「シゲタロウさん、私、あの外務大臣と目を合わせて話をしたのですが、少し言いたくなりました」

 

「何をだい?」

 

抱きついていた身体を離したモニカは夫の目を見てひとこと

 

 

 

 

 

゛こっち見んな゛

 

 

 

 

そして最後に心の清涼剤を求めて寝ている娘を抱き上げた

 

 

 

 

続く

最終更新:2013年09月06日 21:05



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202氏よりご許可いただいた作品 提督たちの憂鬱×コードギアス ネタスレ
瞳の色と髪の長さ


 

 

 

 

 

瞳の色と髪の長さ

 

 

 

玉城真一郎。

一見すると眼付きの悪そうな不良にしか見えないこの男は、いまとても親しい友人である女の子。

クララ・ランフランクの体を嘗め回すように見ていた。

 

「な、なあにお兄ちゃん??クララのことジロジロ見ちゃって???」

 

おもむろに手を伸ばした玉城。

 

「痛たッ」

 

彼の手はクララの長いピンクの髪を引っ張っていた。

なんという乱暴な行為か。

女の子の髪を引っ張るなどと。

 

「なにすんのよお兄ちゃん!痛いじゃない!?」

 

髪を触られるのはいい。

玉城に髪を触られることはむしろ好きだから。

愛する彼に触られるならいつでもいい。

でも無遠慮に引っ張るなんてのは女に対して失礼極まりない行いだ。

 

「あッ、わ、わりーわりー、ちょっと気になったもんで」

 

「クララの髪を触りたいなら触ってくれてもいいけれど、そんな強く引っ張ったりしないでよもう!女の子の髪を何だと思ってんの?!」

 

「い、いやちょっと確認をと思ってよ」

 

「なんの確認なの!?」

 

クララはご機嫌斜めだ。

優しく触ってもらえるのなら嬉しいがこんな触り方はない。

でもこれには理由があるという。

 

それは。

 

「カツラぁッ?!」

 

「い、いやそんな怒んなよ」

 

「なんでクララの髪がカツラだなんて!?」

 

「いや、あのな。今朝町でお前によく似た女があるっててよ、そんでそいつの髪腰までの長さだったからついもしかしてなんて……」

 

「クララもっと長いよ!?」

 

「ああ、わかってるよ。膝の裏まで届いてるってのは」

 

「そうだよ!前からお兄ちゃんにはクララの髪触らせてあげてたでしょ!長さだって知ってるくせにどーしてこんな酷いことするの?!」

 

「いやいや、だからわりーって、それと目の色……」

 

反省の色なしの玉城は今度はそう言って髪から手を放してクララの両瞼を抑えた。

 

「きゃッ、やだなにすんのさ!」

 

「いやな、目の色」

 

「痛い痛いッ、クララの目の色はピンクだよぉ~~ッ!うわ~~んッッ!!」

 

目が痛いし髪は引っ張られて痛いしで。

とうとうクララは泣き出してしまった。

愛するお兄ちゃんにならなにされてもいい。

しかしまるで珍獣や物扱いなこの一連の行為は酷すぎて悲しくなってしまったのだ。

 

「うわ~~んッ!うわ~~~んッ!お兄ちゃんのバカぁぁ~~ッ!パパに言いつけてやるもんッ、うわ~~~ん!!!」

 

これには慌ててクララを抱きしめながらさっき引っ張った髪の毛をやさしくなで始める玉城。

そんなことをしても遅い。

酷いことをした事実は変わらないのだから。

 

「ごめんッ、わるいごめんってッッ!だから泣くなって!」

 

「うわ~~~ん!!!」

 

クララは泣いた。

大好きなお兄ちゃんに物扱いされたことがショックで。

 

そんな夏の午後だった。

 

 

 

 



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なでなで

速攻仕上げる!


 

 

なでなで

 

 

「……」

 

頭を、首の後ろを、そして背中へ。

私の髪を梳き下ろしていく優しい手。

 

何度も、何度も、繰り返し私の金糸を撫でている。

 

「きれいだね。相変わらず」

 

「ん……そう、でしょうか?」

 

髪に自信はある。

無ければこんなにも、腰の下まで掛かるくらいに伸ばしたりはしない。

騎士としては戦闘の邪魔にならないよう切ってしまった方がいいかもと考えたこともあれど。

私も一人の女です。

 

女らしくを考えることだってあるのです。

 

だからラウンズの中では浮いていても騎士服にはスカートを使用したりもしているし。

 

何より、嶋田さんの・・・・繁太郎さんの前では一人の女で居たいと強く願うのです。

 

「勇敢な騎士で、かっこよくて、そして可愛らしく美しい・・・・・モニカさん、君と会えたこと、君という存在は俺の宝物だよ」

 

「嶋田さ、しげ、たろうさん・・・・・」

 

髪を梳く彼の五指が髪の中を滑り抜けていく。

彼の年齢を重ねた指の間には今、私の金色の髪の毛が清流となって流れ込んでいるのだろう。

自慢の髪をこうして優しく触られると私の胸はどくどくと早鐘を打ち脈が早くなっていく。

顔は熱く火照り、ただ彼の年波以上には鍛えられている胸に私は顔をうずめた。

 

「……優しいですね・・・・・とても優しい、手」

 

ああ、私は繁太郎さんに愛されているのか。

こんなにも優しく愛で私を包むのか。

 

うれしい・・・・

 

とても嬉しくて、そして恥ずかしい。

騎士として在らねばならないというのに、私はこの方の前でだけはいつの間にか一人の女となってしまうのです。

 

それはとても幸せで。

 

きっと、彼を無くしては今の私は壊れてしまいそうなほど彼に依存してしまっているのです・・・・・

 

ああ、私は最強の騎士として在らねばならないのに斯くも弱い女なのか。

 

繁太郎さんは私のウィークポイント。弱点でもある。

もし彼が誰かにさらわれでもしたら、私はいつもの冷静さを保てられるのでしょうか?

 

無理、きっと不可能。

 

狂乱し、悩乱することでしょう。

 

民のために国のためにすべての人の正義のために強く在らねばならないのに。

 

 

「頭を撫でたい、成人女性に対しては失礼だったかな?」

 

「そんな、・・・・・そんなこと、ありません。ただ、私は・・・・、わ、わたし、は・・・・」

 

言葉をうまくつむげない。

さわさわと私の頭を撫でる彼の指の感触が気持ちよくて。

今も好みを彼にゆだねているように。

私は、彼の前ではきっと弱く。

 

それは、いいことなのでしょうか?

 

ああ、気持ちいい。

 

「女性に対してあれだが、モニカさんの長くきれいな髪は触り心地がよくて、時を忘れて頭を撫で続けてしまいそうだ。嫌なら言ってほしい」

 

「そ、んな・・・・いやだ、なんて・・・・・思って、おりません。私は、ただ」

 

弱い自分を見せ続けてもいいのだろうかと考えてしまっているだけなのです。

ああ、ああ、そうですこの心地の良い指の触感。

彼の胸のぬくもり。

彼の鼓動。

これはとても良くて。

 

私、モニカ・クルシェフスキーは頭を撫でられるだけでこんなに大人しくさせられてしまう女なのでしょうか。

彼の腰に腕を回してみる。私の黄緑色のマントが広がり彼の膝を隠しかぶさる。

そんな私を彼は体ごと引き寄せて、頭を髪を撫で梳いていく。

 

「金色はまぶしく、黄緑は目に良い。モニカさんを見ているだけでこの目に活力がわいてくるよ」

 

「お、お戯れを」

 

「本音だよ、ああこれはあれだ・・・・幸せってやつなんだな。満ち足りている」

 

ああ、私は彼の年嵩な腕からさえ逃れられない鳥かごの鳥なのです。

でもそれはやはり幸せなことで。これ以上の何かを必要としません。

頭を髪を撫でられ、体を抱き寄せられ。そして私も彼の腰に抱き着く。

これだけでもう充足感で胸がいっぱいに。

 

「繁太郎さん・・・、少し、少しだけ、眠っても、良い・・・・でしょうか?」

 

あなたに頭を、髪を撫でられたまま、あなたの膝の上で。

 

「もちろんだ。いいよ」

 

ゆっくりおやすみ。

 

 

外は暑い日本の夏。

でもここは穏やかな繁太郎さんと私の春の空間。

 

まどろみの中に感じる確かな手のぬくもりは。

やはり私の長い髪の中を、繰り返し繰り返し通り抜けているようだった。

 

 



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カメラがないとか言ってるがカメラがあったら

カメラがないとか言ってるがカメラがあったら。


 

 

当直のブリタニア兵士は連勤で半分舟をこぎながら監視モニターの席についていた。

 

「おい、寝るな」

 

職務中に居眠りするなと同僚が彼を起こす。

 

「んあっ?」

 

「しっかりしろよ」

 

「俺、寝てた?」

 

「寝てたよ」

 

「そっか、すまん」

 

「いや別になにも変化が無いからいいけどさあ」

 

「だよな?天下のブリタニア大使館でそうそう変なこと起きたりしねーよなー」

 

ここは天下のブリタニア大使館。

鉄壁の布陣で守られている。

大使館員の警備は当然として、警備責任者には彼のナイトオブテン。

ルキアーノ・ブラッドリーの親衛隊だったグラウサム・ヴァルキリエ隊のリーライナ・ヴェルガモンまでいるのだ。

そんな防衛線を突破できる不審者なぞまずいないだろう。

 

カメラモニターの見張り番は半ば案山子。

あまり重要性はない。

遊んだり寝たりゲームをして休んでいる者もいる。

もちろんのこと監視は怠ったりしていないが。

職務怠慢と評価されたりしたら大使のコーネリア皇女や警備責任者のリーライナに性根を鍛えなおされるところだろう。

それは嫌だ。

まあ、あんな美人たちになら罵られることを良しとする変なのもいたが、大体はやることをやっていた。

 

「あっ、おいDモニター観ろ!」

 

「あん、Dモニター?」

 

Dモニター。

大使の執務室のモニターだ。

今は日本の嶋田元宰相が来訪中であり、しばらく前にコーネリア皇女が退室して席を空けているので彼一人が映っているはずだった。

 

「ありゃ、ユーフェミア様だ」

 

そこへユーフェミアが忍び寄って嶋田元宰相の後ろから抱き着いたのだ。

 

「おーお、おあついねえ家の皇女様は」

 

ユーフェミア皇女と嶋田元宰相の仲は大使館員の間でも静かに広がり噂になっている。

隠し通せるものでもないからだ。

 

「コーネリア殿下もユーフェミア殿下もいい女だからなー。なんであんな冴えないおっさんがユーフェミア殿下とあんな仲になったのかねー」

 

冴えないおっさんとは嶋田のことである。

大宰相、元とはいっても同盟国の大宰相に対してあんまりな物言いながら誰に聞かれるでもなし。

すごい人物であることは教科書で知っていたが若い監視員は現役時代の嶋田宰相を知らないから思わず軽口をたたいていたのだ。

 

「お前、不敬だぞ不敬」

 

「不敬もなにもよ、こっちの声が向こうに聞こえてるでもなし、おっさんなのはおっさんなんだから別にいいだろ」

 

「相手を選んでものを言え。あの方は長年我が国との友好を深め、南天とも渡り合ってきたすげー人なんだからな」

 

「はいはいわかったわかりました。嶋田閣下の前ではそんなこと言わねーよ。南天とやりあってきた人ってのは教科書で習ったし」

 

「気をつけろよ。いまの発言誰かに知られたらお前つかまんぞ」

 

「了解、気ィつけますよっと、おい、その嶋田閣下・・・・なんか動き出したぞ」

 

「そりゃじっとしてられないだろあのお二方は恋人っていうか実質的に夫婦関係みたいになってるんだから」

 

「いやだからそーじゃなく、観ろモニター」

 

「なんだよ?」

 

注意していた監視員がモニターを観る。

そこでは噂の二人が熱いキスを交わしつつ、ソファに倒れこむ瞬間だった。

 

 

「な、なにやってんだあの方々っ」

 

ソファの背もたれが高めでよく観えない。

観えない物の、ユーフェミア皇女の物らしい両足が宙にピンと伸びて大きく開かれている様子が見て取れた。

その上に覆いかぶさるようにして嶋田元宰相の体があり、ソファが少し揺れていた。

二人とも衣服は着用したまま。一見恋人のじゃれあいのようにも見える。

 

「音声マイクは?!」

 

「ねーよそんなもん!」

 

「なにやってんだあのお二方!」

 

観えない。背もたれが邪魔ではっきりとしているところは観えない。

ただそれでもなんとなく想像できた。

恋仲にある男女が人目のない場所で二人きり。

しかもあの体勢。

 

「やってる?」

 

「へ?やってんの?」

 

「嘘だろおい!」

 

「やべーよやべーって、俺はなにも観てねーからな!!」

 

「お、俺もっ」

 

しかしモニターの中に見入ってしまう二人。

 

「おっさんと美女・・・・・動画サイトじゃ観たことあるけど」

 

「いやいや、あれはじゃれてるだけだろ流石にさあ。執務室でやるとかそんなこと」

 

終始見入っていた二人。

本当に仲良さそうにしている。

ユーフェミア皇女の腕らしきものが嶋田元宰相の背中を抱き寄せて。

嶋田元宰相はユーフェミア皇女に覆いかぶさりながら、二人の体が少し振動しているようにも見えていた。

 

「いや、良そう下種の勘繰りは」

 

「だ、だよな、背もたれでよく観えねーし、じゃれてるだけだよな恋人としてただじゃれあってるだけだよな!」

 

そうだ、天下のブリタニア帝国第三皇女と日本帝国元宰相が場所もはばからずするなんてことあえりえない。

そう結論付けても二人の視線は執務室を映しているDモニターから離れなかった。

 

 




こういうのカメラに映ってたら男だろうが女だろうが見入っちゃうだろうと思いましたん。
ゲスい文章ですんません。


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【実録!南天条約機構大動員?!今後の日本政府の対応は!?】

ネタ一本投下。
つまんない退屈な会話文ばかりなのでそこんとこよろしくね。
登場人物は実在人物とは一切関係ない架空の人物です。

週刊減退特別号・ニュース報道の駅コラボ企画



 

 

【実録!南天条約機構大動員?!今後の日本政府の対応は!?】

 

 

「こんにちは。解説の紫【むらさき】です」

 

「こんにちは。古館【ふるたち】です」

 

「さて紫さん、最近列島周辺がきな臭くなってきておりますが」

 

「そうですね、清国の台頭、高麗国の列強への躍進、ユーロピア共和国連合の衰退。情勢が複雑に絡み合ってきております」

 

「どれも捨て置けない物ばかりですね。そこでずばり本題なのですが、その複雑怪奇なアジア太平洋地域の情勢について先ごろまた一つ不安定要因が持ち上がったとのことです」

 

「存じ上げております。我々週刊減退をご購入の読者の方々もご承知かと思われますが、南の大国合衆国オセアニアが南天条約機構の大動員を始めたとの噂が舞い込んできております」

 

「どうしてこのタイミングにと紫さんは思われますか?」

 

「そうですね、まずそれには近代日本の抱える大きな過失と失態を演じてきた歴史を振り返ってみましょう」

 

「近代日本の歴史ですか?」

 

「はい、まず大きな物として皇歴一九四〇年の太平洋戦争から端を発します」

 

「ほう太平洋戦争」

 

「ええ、あの無意味かつ無謀な拡大主義者によって引き起こされた戦争はすべて日本に責任があり、翻ってそれが現在の問題にまで尾を引いているのです」

 

「我が国の拡大主義者による暴走は有名ですね。日中、日欧の両戦争で領土拡張に走っただけではなく。太平洋東南アジア諸国にまで勢力圏を拡大させるような暴走っぷり。平和を重んじる我が国の国民がよくも声をあげなかった物です」

 

「帝国政府による国民の弾圧の賜物ですね。帝国政府はことあるごとに反戦デモ、平和主義デモを批判し弾圧してきました。催涙弾発砲と武力を用いて一般市民を抑圧してきたのです」

 

「そうですね、昨今の帝国政府の傲慢さは目に余ります」

 

「その通りです。そして帝国政府は多大な戦費と命を喪失させただけで何の成果も出せなかった太平洋戦争をブリタニア帝国政府との間で五分の引き分けとして落ち着かせましたが、これに黙っていることができなかったのが南の大国オセアニアだったのです」

 

「黙っていられなかった?とは、帝国政府とブリタニア帝国政府の平和協議にでしょうか」

 

「はい、日本・ブリタニア両帝国政府は傲慢にも自らの意志と勝手な判断、拡大主義者によって戦乱を引き起こしておきながら、アジア太平洋地域に混乱をもたらしたまま勝手な幕引きまで始めてしまったのですから、南太平洋の雄たるオセアニア政府が黙っているはずがないのです」

 

「そうですね。太平洋戦争に巻き込まれただけのオセアニアは被害者です」

 

「ですからオセアニア政府としては日本帝国政府ならびにブリタニア帝国政府の暴走に異議を唱え、当時蝙蝠外交を展開していた太平洋の国を日本・ブリタニアの暴虐より守らんがため、大洋州連合に進駐した」

 

「そうですね。これによって大洋州連合は悪辣な拡大主義者の魔の手から逃れ経たのですから」

 

「そして日本帝国主義者の魔の手から解放するためと東南アジアにも進駐を始めたオセアニアでしたが、このタイミングで日本・ブリタニアが停戦し、拡大主義者の目が再び東南アジアへと向けられたことで不必要な犠牲がこれ以上発生することに心を痛めたオセアニア政府は泣く泣く開放の手を止めた。これが歴史の真実です」

 

 

 

 

しかしと紫解説員は続けた。

 

「オセアニア政府は解放を求める民衆を忘れたりはせず皇歴一九九五年再び立ち上がりました。これが世に有名なニューギニア解放戦争・引いては東南アジア諸国解放戦争の始まりだったのです」

 

「おお、ニューギニア戦争もオセアニアによる解放戦争の一つだったと」

 

「ええ、ですがそのオセアニアの慈悲に満ちた試みをまたしても邪魔したのが時の帝国政府嶋田政権です」

 

「なるほど」

 

「嶋田政権は過去の政権と比較しても劣らずの拡大主義政権です。一九九五年当時、自由を謳歌していた東南アジア諸国を許されざることに次々と日本帝国政府の衛星国として組み込んでしまいました。これは帝国史上最悪の汚点の一つです。拡大主義者の意志を無理やりの形で実現させてしまったのですから」

 

「確かに当時の東南アジア諸国の人々の進駐は察するに余りある苦痛にさいなまされていたことでしょうね」

 

古館はここで慟哭していた。

 

「これをさらに進めたのが彼のラプラタ戦争です」

 

「ラプラタ戦争も帝国主義・拡大主義者たちが引き起こした自由の圧殺でしたよね」

 

「はい。皇歴二〇一〇年、自由を求めるジェファーソン・デイビス氏はラプラタの解放と南ブリタニアの解放を叫んでおりました。実際にこの解放戦争にはオセアニア政府・東アフリカ政府・ユーロピア政府が関与しデイビス氏の援助をしておりました」

 

「二〇一〇年、まだ記憶に新しいですね。当時私も報道の司会者として生中継でお送りさせて頂いておりましたが」

 

「あの時はお疲れさまでした。悪辣な拡大主義者・嶋田政権からの無言の圧力をはねのける勇気ある報道であり、報道陣はかくあるべきという古館さんの姿勢に感動を覚えたものです」

 

「ありがとうございます。あの時は局にも拡大主義者たちが抗議の電話・メール・投書などを寄せてきており対処に追われたことをよく覚えています」

 

古館の苦笑いが入る。

 

「話を戻しますが、そうして南ブリタニアの解放闘争に対してまたも日本帝国嶋田政権とブリタニア帝国シャルル政権は横やりを入れたのです。南ブリタニアの解放への火を消しにかかったのです」

 

「まことにもって許しがたい蛮行でした。私は嶋田政権に対しテレビを使い真っ向から批判の声を上げましたが、嶋田政権には黙殺されてしまいました」

 

「古館さんの勇気ある行動を称えます」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

「話を戻しますが、そうして拡大主義者たちはまたもや過去の過ちを犯し、南ブリタニア大陸全土の保護国化という日本嶋田政権・ブリタニアシャルル政権の野心を実らせてしまったのです」

 

「それらの歴史は実に恥ずべき汚点ですね」

 

「その通りです。オセアニアの自由の解放を圧殺してきたのですから。そして時は現在に移り、清国が中華帝国より独立を果たし、先に独立を果たしていた高麗国との間に自由と平和の共存を約束された。これが今度はユーロピアの差別主義者と対峙する。この間隙を縫ってまたも自由の妨害に日本帝国政府枢木政権とキングメーカーを気取っている拡大主義者嶋田元首相の手の物が暗躍するかも。そんな危惧をオセアニアは抱いたのでしょう」

 

「またも自由の息吹が消される危機に直面していると」

 

「それだけではありません。オセアニアを中核とした南天条約機構は日本・ブリタニアの拡大主義者を抑えるために結成された自由の軍。もし大動員が事実ならば総兵力五千万人からの世界最大規模の軍隊が投入されることとなり、今度は太平洋戦争時には及ばなかった本土への戦火が降りかかる恐れもあるのです」

 

「五千万!?それは大変なことです!では我々の動きとして、我々誠実なる日本人としてどう動けば」

 

「実に単純明快です。東南アジア諸国を開放し、衛星国化・保護国化している現状を無くし、衛星国・保護国の自由と独立を回復させつつ南天諸国に対してこれまでの歴史の清算を行うのです」

 

「歴史の清算ですか」

 

「ええ、南天諸国と東南アジア諸国に対して誠実なる謝罪と賠償を行うのです。そうすればその誠実な心が必ずや南天側にも伝わることでしょう。南天条約機構動員の解除にも繋がるはずです」

 

そしてと紫解説員は続けた。

 

「自由と正義のために我々日本帝国が清国・高麗国の後押しをし、悪辣なる人種差別主義者ユーロピア人と戦うのです。これは東南アジア諸国とアジア太平洋地域の自由と正義のために必要なこと。日本帝国・ブリタニア帝国・中華連邦といった古い帝国主義制度とも完全に決別する時代がやってきたのです」

 

「新しい時代ですね。我々報道陣は帝国主義者・拡大主義者である嶋田元首相や枢木政権と対決していかなくてはなりませんね」

 

 

 

週刊減退特別号、紫解説員と古館氏の対談集、好評発売中。

 

 

 

紫解説員。

週刊減退でコラムを書くジャーナリストにして反帝国・反拡大主義運動を地道に続ける平和愛好家。

昨今の枢木政権と拡大主義者嶋田元首相の癒着に関連した記事を多数掲載している。

 

古館。

ニュース報道の駅の司会者。平和主義者で反帝国主義・反拡大主義を基本とした政治題材を数多く扱っている憂国の志士。

 

 




終わりー。
思い付きで速攻書き殴ったネタだからつまんないと思うけど。
まあお暇つぶしにでもどぞ(^^)/


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子供だけに小ネタ

手土産に小ネタっす。
子供だけに小ネタ。


 

 

夜、深夜の一時手前。

 

和室の布団の上で肌を合わせたまま身体を休める嶋田繁太郎とユーフェミア・リ・ブリタニアがいた。

 

お互いを求め合い、事後に触れ合ったまま休む二人。

 

ふとユフィが口を開く。

 

「子供」

 

え?

と嶋田は返す。

 

「私たちの子供の名前、何としましょうか」

 

「ずいぶんと気が早いな」

 

「ええそれは早くもなります。だってこうして毎夜愛し合っているのですもの」

 

気の早い妻に嶋田は少し考える。

 

「ユーフェミア」

 

「はい?」

 

「ああ、君のことじゃないよ。君の名前がユーフェミアだからそこから何とつけようかと思ってね」

 

「私の名前から?」

 

「うん、子供の名前は親から貰う物だろう?一字なにかしら入れないとと思ったのさ」

 

だったら。

とユーフェミア。

 

「シゲタロウ・・・・ヒロユキの名前からお採りなさってもよろしいのではないですか?」

 

「ああそれもそうか。うんまあね、それもそうだが。となるとだ、日本風に一番目の子だから一を入れてみるのもいいな。いやでも、女の子だったらユフィの名前からも取り入れたいし」

 

まず一人目の子供が男の子なのか女の子なのか。

そこも一つ重要な点。

嶋田から名を取るなら男の子にしたい。

ユーフェミアから名を取るのなら女の子に贈りたい。

 

まだ子供も出来てないというのに。

 

だからといって早すぎることはないだろう。

こうして今のように毎日愛を重ねていれば早かれ子を授かることになるのだ。

今のうちに考えておくことも大切だ。

 

「私は男の子、女の子、どちらであっても一人目は和風の方が良いかと思います」

 

「どうしてか聞いても?」

 

「だって、あなたが私の家へと婿入りなされるのですもの。ブリタニア性となるからせめて第一子には和名をつけてあげたいのです」

 

それはそうだろう。ブリタニア皇室入りして嶋田の性は残らない。

いや残るには残る。シゲタロウ・シマダ・リ・ブリタニアとして。

しかしミドルネームとなるのはこれはどうすることもできないのだ。

だからその代わりとしてユーフェミアは第一子に和名を贈りたかった。

父のふるさとの名を授けたいと考えていたのだ。

 

「そうか、それは俺のことを考えてくれてありがとう、そう言うべきか。俺たちの子のためにありがとうと言葉を贈るべきか」

 

「二人で決めることですのでそんなに難しくお考えにならなくともいいですわ」

 

「そうだな」

 

「私としては子を授かり生んだその時には生まれた子に対して「私たちのところに生まれてきてくれてありがとう」と祝福を授けたいと思います」

 

そして名前だ。

一番目に生まれてくるから一番目に関連した名を。

和名でもブリタニア名でもいい。

一人目を指す名を考える二人は、考えている間にもお互いの温もりにうとうとと眠気を誘われ。

いつの間にやら寝息を立て始めていた。

 

 




名前考えるよね。
スレ的には一人目が男の子ならカズシゲになるよね。
女の子だったら想像もつかんのやけど。
ほんとはモニカネタを書きたかったんだが書いてみたらなんか上手くいかず。
結局ユフィネタになってしもた。


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やっぱモニモニ

いかんなモニカさんでモニモニせにゃならんのに。
短文だがモニカさんネタ書いたった!
やっぱモニモニせんといかんのだ。



 

 

「どうしたのですか嶋田さん」

 

下宿先である嶋田邸に帰宅した私を彼が見つめている。

彼に見つめられるのは悦びを感じる。

この心に淡い恋心を抱かせてくれた素敵な紳士に見つめられて心躍らないはずもなく。

私の鼓動はその視線に比例して早くなっていくのだ。

 

「ん、ああ、不躾というか悪いねまじまじと見つめてしまって」

 

「いいえ、私のことでよろしいのでしたらいつでも見てください・・・・私もその、嫌ではないので」

 

容姿に自信は?

男性に見つめられるだけの容貌を自身は持ち合わせているのか。

問われれば控えめにそれなりにと答えるかもしれない。

 

私は自分のことを美しい女だとは考えていない。

私くらいの容姿の女性なんて世の中には数多く存在するはずだ。

でも自分磨きの一つくらい私も女なのだからしている。

 

太らないように気を付けているし、髪も毎日しっかりと洗っている。

洗顔だってそれなりのいいものを使ってしている。

 

だからこんな私でいいのなら愛する男性には見つめていてほしいと思うのだ。

それはそんなに贅沢な望みだとは思わない。

 

「ああ、ごめん。マントを着用しているモニカさんはいつも勇ましくいてそして可憐だなと思っただけだよ」

 

マントを正装として用いる文化が日本にはないからだと彼は笑った。

 

「でしたら、着てみますか?」

 

少しばかり恥ずかしい申し出だっただろうか。

でも文化の違いを体感することはけして悪いことだとは思えないし。

少しくらいならいいのではないのでしょうか。

 

私は自身がいつも身に着けている黄緑色のマントの留め具を外し、愛する彼の傍に身を寄せる。

 

「どうぞ・・・・着させていただきます」

 

「いいのかい?その、ラウンズのマントは特別だろうに」

 

「特別だからこそなのです」

 

特別だから特別な人に着てもらいたい。

そんな乙女心をわかってはいただけないのでしょうか。

 

ばさっ。

 

彼の背中側よりマントの裾を広げて、後ろから彼の体を包み込む私。

 

ふわり。

 

広がるマントは一瞬のこと大きくなびき、彼の体を包み込む。

 

「いかがでしょう?」

 

「ああ・・・・優しい感じの生地だね。触り心地もいい」

 

彼は私の黄緑色のマントのその裾を優しく触り撫で。

生地の触感を確かめている。

 

彼の体は私とちょうど体格的に近い。

私のマントは彼の体にちょうどいいくらいの丈だろう。

サイズ的にも合うはず。

 

私と彼の共通点。

また一つ見つけてしまったことを私は嬉しく思います。

 

「モニカさんの匂いがする・・・・いい、匂いだ・・・・君の騎士としての誇りや矜持に少し触れた気分だね」

 

優しい言葉。

彼はとても優しい。

出会ったころから全く変わらない優しさがそこにある。

 

そんな彼を思うと私の心は嬉しくなるのだ。

まるで欠けていた半身がそこにあるかのように感じて。

 

「しかしながらこのマントには重みも感じるな。紫色をした内側の生地がラウンズの象徴にも見えて」

 

ラウンズのマントは表の生地については個々に色を決めてデザインしてもらえる。

だがしかし裏側の生地は紫色で統一された物となっており変更はできない。

ラウンズとしての統一性の表れというか。ラウンズのマントとはそういった物なのです。

 

「ラウンズのマントを着用するということはその責任の重さも纏うということ。内側の紫色はそんなラウンズの責任の色とも言えるのでしょう」

 

私の説明にほうと息をつく嶋田さん。

 

「重くないかい?」

 

気遣いの言葉。ああ、本当にこのお方はいつも私を見てくれるのですね。

 

「その重さも私は背負っておりますので。それに、嶋田さんのお言葉があれば私にはもうそれだけで重さに見合う対価となりましょう」

 

「ははっ、大げさだよモニカさん。君は本当に勇敢で素敵な騎士だね。心から思うよ」

 

そういっては着ているマントを優しげに触る彼。

その手はまるで、私の頭や背中を撫でてくれているときと同じようにも思える、優しい優しい手つきでした。

 

 

 



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「ヒロユキ」

日常では博之と呼ぶユフィ。
博之さん癒されてるやろな。


 

 

「ヒロユキ」

 

「なんだいユフィ」

 

「うふふ、呼んでみただけ」

 

「なんだそりゃ」

 

博之は新聞を読む。

と。

 

「ヒロユキ」

 

またもユーフェミアに呼ばれた。

 

「ん?」

 

不思議そうに首をかしげる博之に。

ユーフェミアは微笑みかける。

 

「呼んでみただけです」

 

呼んだだけ。

他意も意味もない。

 

「さっきからどうしたい?」

 

不思議に思う博之は問いかけた。

 

 

 

 

 

 

将来の子供たちはこんなことを話してるかもしれんね。

 

 

 

「ねえ、ヒロユキ。今週のお休みはペンドラゴンの散策に行きましょう」

 

「そうだな、今週の休みは予定がなかったからそうしようか」

 

「ええ、子供たちと一緒に楽しみましょう」

 

両親の会話。

お父様とお母様のお話。

 

「ねえねえ兄さま」

 

「どうしたの?」

 

「お父様とお母様、お二人でいらしているときはお母様がお父様のことよくヒロユキってお呼びですよね」

 

「うん、そうだね。母上は父上のことヒロユキって呼んでるね」

 

「でもおかしいでしょう?だってお父様のお名前はシゲタロウ・シマダ・リ・ブリタニアです。ヒロユキなんて一文字も入っておりません。なのにどうしてお母様はヒロユキとお呼びになるのでしょう」

 

兄と妹は話す。

ヒロユキの謎について。

 

「さあ、母上に尋ねてもいつもはぐらかされてわからないんだよ」

 

兄にはわからない。

 

「私も父上にお尋ねいたしましても。あだ名だよっておっしゃるだけでなにも教えてはくださいません」

 

兄と妹は首をひねる。

両親の秘密の名前について。

その答えは両親だけが知っていた。

 

 

 

>>779辻~んはなあ、チートキャラ風味あるから知ってるかもな~。

 

 

ユーフェミアはただ。

 

「ううん、私だけがヒロユキと呼べることがとても嬉しくて、つい」

 

と言った。

 

「ははは、なんだそれ」

 

リ家のある一日のことでした。

 

 

 

こんなのでもなんか一つ小ネタを書かずにいられない。

よしここはもう一個書いて落ちよう。

 

 

 

「シン兄様」

 

「うう」

 

「シン兄様」

 

「ううん、なんだようっせーなあ」

 

気持ちよく寝ていたところを起こされた。

起こしてきたのは赤い髪を腰の下くらいにまで伸ばした女だ。

 

「なんだおめー」

 

「なんだとは、私のことお忘れなのですか。ひどいですわシン兄様」

 

さめざめと泣いてる振りをしている女。

あざとい。

 

「マリーベルですわ」

 

知ってる。

 

「なもん知ってる。だからなんでここにおめーがいんのって言ってんだよ」

 

「ここは叔父様のおうちですもの。私がいてもおかしくはないでしょう?」

 

首をかしげる女マリー。

赤い長髪がさらっと流れて俺の顔に降りかかる。

 

「うぷ、髪の毛ひとの顔にふりかけんじゃねーよ!」

 

「あらあらうふふ、失礼いたしました」

 

「で、気持ちよく寝てんのに起こすなよ」

 

「兄様が気持ちよさそうにお昼寝をしていらっしゃいますと、まるでお仕事をさぼっているかのように見えますので」

 

「今日仕事じゃねーの。俺の安眠妨害すんじゃねーよマリーよお」

 

「うふふ、せっかくお起きになられたのですから私のお相手をしていただけませんこと?」

 

「ああ、うざってーなあ、わーったよ」

 

俺を起こす女の要望を俺はしぶしぶ受け入れた。

 

 

 

副題VVさんち。

そいじゃ落ちまーす。

 



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「よおたまきん!ひさしぶりじゃんか!」

小話でも投下せにゃいかんのか?


 

 

「よおたまきん!ひさしぶりじゃんか!」

 

「んお!誰だ俺様の黒歴史のあだ名を呼ぶやつァ!!」

 

特に何もない日曜日。

俺は露店の立ち並ぶ耐震設計構造ブロックの建築物群の一角で見知った後姿を見つけた。

背丈は並みの成人男性で、逆立てた髪型が生意気な不良小僧を思い起こさせるそいつ。

高校時代の友人だった玉城真一郎だ。

 

「よ、俺だよ俺」

 

もう何年も会ってないやつに気軽に声をかけるのも進められたものじゃないが、気分的にもあのバカの気質的にも問題ない。

だろうと判断して声をかけたのだが。

 

「あ~、お前誰だっけ?」

 

玉城のやつは俺を忘れていた。

そんな奴の隣にふと目がいった。

さっきから気づいていたがあのバカに限って彼女とかありえんと考えてたから偶然横を歩いていた他人だとばかり思っていたんだ。

そしたらそのサイドポニーに束ねられた鮮やかな赤い長髪がさらりと弧を描きながら舞って、その女も俺のほうへと振り向いた。

 

「え、誰? その美人?」

 

「いやなだからお前こそ誰なんだよ」

 

相変わらずたまきんは俺のことを思い出さない。

ほんとに覚えてないのかよ。

それなりには仲良かったのにショックだ。

 

「シン兄様、あちらのお方はどちら様なのですか?」

 

赤い長髪をサイドポニーにしている女がたまきんに確認を取っていた。

 

「いやあ~、マジわからん。覚えてねーわ。お前でも俺の知り合いだよな? 俺の忌み名を知ってやがるんだからよ」

 

兄様?

いやたまきんに妹はおらんだろ。

しかも思いっきり外人じゃねーか。

 

「え。いや、そっちの女、たまきんの妹じゃねーよな??」

 

わからん。

だが妹かと聞いてみたら。

 

「どちらのお方かは存じ上げませんが初めまして。わたくしの名はマリーと申します。こちら、玉城真一郎の婚約者ですわ♡」

 

「はあ~ッ??! たまきんの婚約者ああ??!」

 

目ん玉飛び出しそうになった。

頭がおかしくなりそうだった。

なんでよ?

成績最底辺のバカで将来は官僚か政治家になるなんてアホなこと抜かしてる大馬鹿野郎の婚約者がなんでこんな美人を捕まえられんだよ!!

 

「バカ、おめーは何を言い出すんだ!!」

 

「うふふふ」

 

たまきんはやはり俺には気づかず、隣の美人な女を怒鳴りつけていた。

 

899:名無しさん:2022/09/07(水) 20:30:39 HOST:p408218-ipngn200703kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

おっわり。

玉城の友人が玉城とマリーが歩いてるところに出くわした感じです。

 

そいじゃ落ちます。

またね~(^^♪



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「マリーったら、なんであんな変な男に御執心なのかしら」

小話一本投下。
昨日の小話の続きで玉城とマリーのデートの裏側みたいなの?


 

 

「マリーったら、なんであんな変な男に御執心なのかしら」

 

主君であり親友であるマリーベル・メル・ブリタニア。

大切な友達である件の彼女は一人の男に夢中なのであった。

それがオルドリンの癇に障る。いい加減な夢追い人。それはまだいい。夢を持って前に進むことは悪いことではないのだから。

だが、主張をコロコロと変える一貫性のなさ、二十も半ばになって無職、借金持ちのVV様の家への寄生。悪いところもいっぱいだ。

 

そんな男にどうしてかマリーは惚れている。

過去の話を聞いてみると共に夢を目指す同士として将来を誓い合った仲なのだとか名状しがたい説明を受けた。

幼い頃のマリー、それは自身も知っている。遊び相手であり幼なじみなのだから。

だがそんなオルドリンを以てしても玉城との一件は知り得たことは無かった。

 

「シンイチロウ・タマキ、ギャンブルが好きで粗暴、言葉遣いも悪ければ目上の人への態度もまるでなっていない。マリーが惚れる要素なんて何処にも無いじゃない!」

 

あのいい加減な男はそんなマリーの女性としての一面を引き出させているのだ。心中穏やかでは居られない。

腹立たしい、親友である自分でもあそこまでマリーの喜怒哀楽を引き出して素のままの女性にさせるなど無理なのに。

 

右側側頭上部で束ねられているマリーの赤く綺麗な長い髪が彼女の気持ちを物語るように嬉しそうに揺れている。膝に届いた毛先がさらさらと嬉しげに踊っている。

マリーの姿だけを視ていればそれは美しく高貴な女性がお忍びで街を散策している風景に見えなくも無いが、隣の男が全部台無しにしていた。

 

その隣を歩く柄の悪そうで品のなさそうな男、シンイチロウ・タマキ。

神聖ブリタニア帝国第八十八皇女ともあろう者がアレの何処に惚れたのか。

さっぱり以て理解不可能だ。何かの技術に秀でて居るでは無い、VV様曰く「ただのダメニート」。マリーがアレに惚れるだなんて聡明なVV様でさえ予想していなかったらしく。

神様がヘロインとコカインを飲んでスピードボール決めてイッチャッタとしか思えないよと仰っていた。

 

マリーは騙されているんだ、あの変な男に妖しい催眠術でも掛けられて騙されているに違いない。

 

「その性根と正体、マリーの前で絶対に暴いてやるんだから」

 

意気込むオルドリンはデート中の二人の後を見つからないよう付けていく。

しかし彼女は知らない。マリーベルがそんなダメニートの正体の全部を見切った上で手の平で転がすように自分へとその想いを向けさせようとしている事実に。

 

 

「なんか不審者がいるんだけど」

 

クララは街を散策していた。

大好きなパパと二人で。

お兄ちゃんも誘ったのだが別で予定が入っていると断られてしまったのだ。

 

そんなところで何やら物陰にシュババと身を隠しながら移動しているオルドリンを見つけてしまったのである。

 

「あれナイト・オブ・ナイツだよね? なにしてんのかな?」

 

「さあね。なにをしているんだろうね(大体想像付くけれどこれはまずいなあ)」

 

愛娘のクララまで暴走してしまう危険性を孕む展開だ。

この広い大東京でどうして玉城とマリーのデートに鉢合わせるようにしてオルドリンがいて。

そこへどうして自分とクララまでが鉢合わせてしまうのか。

 

東京は世界最大級の大都市だ。

日中の人口なんて何千万人と居る。

そんな中をたった五人が偶然にも居合わせる。

これはなんて災厄な事態なのか。

 

「クララ、あっち行こう」

 

せめてVVは愛娘が玉城とマリーのデートに気付かないようにこの場を離れたかった。

アレを見てしまえば娘は傷付くし、怒り心頭となるだろう。

 

「どうして? パパ気にならないの?」

 

「他人のプライベートを覗き見るのはレディのする事じゃないよ。クララはもう立派なレディだろう? だったらお行儀良くしなくちゃね」

 

背丈の低いクララは自分自身を良く気にしている。

よりにもよってクララの愛する男が豊満な体型の女性が好みだからだ。

お世辞にも大人らしい体型とは言えないクララは発展途上にある。だから余計に気にしている。

 

そこでVVはクララを立派なレディと褒めてあげることでオルドリンから気を逸らせようと考えたのだ。

オルドリンから気が逸れれば玉城とマリーの姿にも気が付かない、万事丸く収まるという具合。

 

しかしてその試みは。

 

「あーーーッッ!!」

 

失敗した。

 

「あちゃあ~ッ、ダメだもう」

 

オルドリンから逸れた愛娘の視線が僅かな瞬間に玉城とマリーにセットされてしまったのだ。

 

失敗したと頭を垂れるVV。足下まで掛かるほどの淡色の金髪がだらりと力なく垂れ下がり、毛先が地面に接触してしまった。

が、そんなことはどうでもいい。愛娘の反応の方が気になる。

これで娘が傷付いたりしたら今夜にもうちに来るだろうあのバカに借金の全額返済の請求とお説教をくれてやろう。

そう決意した彼は気が進まないと娘の顔を見上げた。

 

すると。

 

「あのお店アレ新作のパフェが出てるんだよ! ねえねえ行こうよパパァ!!」

 

玉城とマリーへと至る斜線軸の中間線。

そこにはパフェの店があり新作が発売中であるという垂れ幕が掛かっていた。

 

なんというタイミングと位置関係の良さなのだろうか。

 

「……相変わらず悪運強いね」

 

悪運にだけは愛されているのか危機的状況をまま回避する玉城真一郎という男。

どうやらこの度の悪運も彼に良かれと働いたようだった。

クララが彼らを発見するという悪運、それを回避したのだから。

 

「オルドリンはいいのかい?」

 

「ナイト・オブ・ナイツのことより今はパフェパフェ!」

 

こちらの腕を引っ張り始めたクララにVVは内心安堵のため息を吐きながら玉城とマリーを視界の端に入れた。

 

(マリーもクララも僕の大切な子達だからね。泣かせたりしたら許さないからね)

 

直接文句の一つも言ってやりたい。

彼の大馬鹿野郎はマリーの気持ちもクララの気持ちも知ったこっちゃないと遊び回っている。

マリーを心配するオルドリンの気持ち、分からないでもない。

あんなやつに惚れてしまったマリーとクララが可哀想だ。

 

でも答えはいずれ近いうちに出して貰わないと困るのだ。

 

マリーを選ぶにしろクララを選ぶにしろ。

 

そうしないとこの二人はいつまでも待ち続けるだろう。

 

「あまり待たすんじゃないぞ」

 

もっとも本人がどちらかに惚れてくれない限りは始まらないのでこれもまた頭の痛い悩みだった。

 

「はぁ~っ、二人とも何であんなアホに入れ込んじゃったんだよ」

 

「どうしたのパパ。ため息ばっか吐いちゃって。幸運の女神様が逃げちゃうよ」

 

「幸運の女神様とやらはコカインとヘロインやってスピードボールかましてとうの昔にどこかへいっちゃったよ」

 

心配してくる愛娘に余計気落ちしてくるVVの頭がまた下がり、彼の髪の毛がまた地面に触れた。

雨に濡れた街路だったら髪の毛先がドロドロになるところだ。

 

「パパの髪の毛地面に付いちゃってるんだけど」

 

「はぁぁあ、ああそうだね・・・・。うちに帰ったらあのバカに洗わせてやるよ。お風呂で二人きりになって逃げられない場で説教してやるんだ」

 

「お兄ちゃん何かしたの?」

 

「いいや君が気にすることじゃなし、なんでもないよ・・・・。パフェ、食べよっか」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

「こんばんちーん。今晩のご飯はなんすかー?」

 

夜、大馬鹿野郎はやってきた。

昼のデートの後マリーと別れてからわざわざ出直してきたよ。

こいつ計算してやってるのか?

 

「いらっしゃい、というべきかお帰りというべきか、君の場合家人でもないのに迷わされるよね」

 

相変わらずの悪人面で僕を見るシンイチロウ。

 

「いや~、一応こんばんはのお邪魔しますだろうよ流石に。まあ俺としちゃただいまーでもいいくらいこのうちの家人みてーなもんだし、それでもいいかなと思わんでもねーけどさ」

 

思えよ!君他人だろ!!

 

「図々しいやつだねまったく、ここの主人である僕を前にして」

 

「勝手知ったる仲じゃんか」

 

「君ね、僕は君より四十くらい年上なんだよ?態度や口の利き方に気を付けたりしないの?」

 

「だっておっさんはおっさんだしい、今更だしよぉ」

 

「はあ、本当に礼儀ってやつを知らないやつだなあ。そんなのだからいつまでも無職なんだよ」

 

「無職関係ねーし。つーか今晩のメシは?」

 

いきなりたかりですかそーですか。

それなら僕だって言ってやろう。

 

「先にこれ持って」

 

僕は風呂おけを突き出した。

自分の分もある。

 

「なにこれ。銭湯でも行くのか?」

 

「行かないよ。今からうちのお風呂に入るんだよ」

 

「なんで俺まで?」

 

俺メシの後でいいから。

そんなふざけたことを言ってくる。

 

僕は無言で立ち上がって馬鹿野郎の脛を蹴ってやった。

 

「痛ってええっ、なにすんだよクソジジイ」

 

ジジイの前に糞まで付けるか。

本当に目上に対する口の利き方がなってない。

 

「いいからお風呂入るよ。ついてきて」

 

「んだよジジイ、なにキレてんだよ。俺なんかした?」

 

「何もかもしてるしやらかしてるよ。ほら、さっさとついてこい」

 

「へいへい」

 

お風呂場。

僕は召使いにさせるように自分のマントや衣服を馬鹿野郎に脱がさせる。

 

「自分で脱げよ。なんで俺がジジイの服を脱がさにゃあならねんだよクソ」

 

「文句言うならご飯抜きにしてやってもいいんだぞ。今晩は君の頼りのクララはまだ帰ってきてない。僕がご飯を作るんだから」

 

「おっさんのメシ、久しぶり感あるな。マリーは?」

 

「まだ帰ってないよ。夜のお買い物さ。大体が君がうちにくるの早すぎなだけなんだよ」

 

腹減ったしとか舐めたことを言ってくる。

服を脱がされている最中だから行動には移せないけどもう一発蹴り入れてやろうか?

 

「パンツは自分で脱げよ?男のパンツとか触りたくねーし」

 

「自分で脱ぐにきまってるだろ気持ち悪い」

 

僕は服を全部脱いで風呂おけを持つ。

 

「ほら君もさっさと脱げ」

 

「おっさんが自分で服脱がねーから俺服脱ぐの遅れてんだぞ」

 

「うるさい口答えするな」

 

「ああもうなんでそんな機嫌悪ィの?」

 

「君のせいで髪の毛地面に付いたんだよ。外でね!」

 

「俺かんけーねーじゃん!」

 

「さっさと脱げ!」

 

僕がせかすとぶつくさ文句を言いながらも馬鹿野郎は衣服を脱いだ。

悔しいけど体格はしっかりしてて無駄な脂肪もついてない、体つきもいい。

十歳くらいで体の成長が止まった僕とじゃ大人と子供の差だった。

ちょっとムカつくなあ。

 

 

「さあ、入るよ」

 

「へーい」

 

男同士、裸になって僕のうちのお風呂に入る。

広さは結構なものだ。

一応屋敷と呼ばれる広さを持つ僕のうちのお風呂だからね。

狭いはずもなしだよ。

 

僕はシャワーを取ると、馬鹿野郎に手渡して風呂おけを洗い場に置いて椅子を取って座る。

 

「え?なに?」

 

「シャワーかけてくれ」

 

「自分でかけろよ」

 

「いいから言うとおりにしろ、ご飯抜きにするぞ」

 

「はいはいわかりましたよ爺さん」

 

ざあっ、シャワーからお湯が噴出し、僕の頭にかけられる。

お湯が髪の毛にしみこんでいって、ぼたぼたと流れ落ちていく。

行水しているみたいな感じだが、お湯が暖かくて気持ちがいい。

 

「しっかりお湯で濡らしたら次はシャンプーを僕の頭にかけてそのまま僕の髪の毛を洗ってくれ」

 

「なんで俺がんなことせにゃならんのよ?!」

 

「君のせいで髪が地面に付いたって言ったろ。君に汚されたようなものだから君が洗って流すんだよわかったかい?」

 

もごもご文句ばかり言ってくる馬鹿野郎。

僕が機転を利かさなかったら昼のあの時間修羅場になってたんだぞ。

 

「シャンプーぶしゅ~っと」

 

「大目に使ってくれていいよ」

 

「おっさんの髪の毛無駄になげーもんなあ」

 

「まあね、自分でも無駄に長いとは思ってるよ。ただ今更切る気もしなくってね。切ろうかと言ったら家族に邪魔されちゃったよ、切るなってさ」

 

「いや、逆にここまでなげーと実際切るのもったいなくね?おっさんもうすぐ年金世代だろ。切った瞬間に禿げるかもしれねーぞ」

 

「そんな馬鹿なことあるか、余計なお世話なんだよ」

 

シャンプーの冷たさを頭皮に感じる。

馬鹿野郎の手は続いて僕の髪の毛を撫でるようにして洗い始めた。

 

「わしゃわしゃ洗いたいけどよー、こう女みてーな毛だとそれも気が引けるんだよな」

 

「くしゃくしゃにはするなよ?」

 

「わーってるよ」

 

丁寧に髪を洗い始めた馬鹿野郎の手が意外に気持ちいいの悔しいな。

いつも自分で洗ってるから、たまに誰かに頭を洗ってもらうと気持ちがいいんだよね。

 

「なあなあ」

 

僕の髪に指を差し入れてしっかり洗いながら馬鹿野郎は聞いてくる。

どうして僕の機嫌が悪いのか。

どうして僕の髪の毛が地面に付いてしまったのが自分のせいなのかと。

 

「君、今日クララにお外に遊びに行こうと誘われて断ったよね?」

 

「おう、先約があったからな」

 

「その先約ってマリーのことだろう」

 

「げっ、なんで知ってんの?」

 

「居合わせたからさ。僕とクララがその場にね。君、酷いじゃないか埋め合わせもなしにクララの誘いを断って」

 

「いや、でも俺が誰と遊ぼうが俺の自由」

 

「自由だろうさ、クララが君のこと好いてなければ」

 

「い、いや、それは」

 

「あの子、いつも言ってるだろう君のことが好きだって。あの子の気持ちに嘘はないよ、君のこと本気なんだよ分かってあげてくれよいいかげんに」

 

「で、でも、なあ」

 

自信がない以前に端から信じていない。

他人からの好意に鈍いのだろう。付き合いが長いからわかっちゃいるけれどさ。

 

「まあそれはいい、置いておく。結局はクララと君の問題だからね。それで、その居合わせた場でクララが君とマリーに気付きそうになったところを僕が目を逸らさせたんだよ。その際に僕の髪の毛の先の方が地面についたのさ、肩と頭を落とした時に」

 

「そりゃあおっさんのせい」

 

髪を洗ってくれている手が止まる。

 

「手を止めるな」

 

「あ、はい」

 

再び馬鹿野郎の指が僕の髪の毛の中に吸い込まれてわしゃわしゃと洗う泡の音が聞こえた。頭皮に十本の指の触られ具合がよく感じられて気持ちいいな。

髪の毛全体が後ろに持ち上げられるようにされて背中に垂れ落ち、泡の感触とやつの手の感触がよく感じられてなじんできた。

 

「クララはああ見えてすごく嫉妬深くてね。真正面からなら受けて立つ方だけどその気はなくてもコソコソされているように受け取られたら君、何されるかわからないよ?」

 

「こ、こえーこと言うなよ」

 

冗談じゃない、あの子は好きな相手が自分を振り向いてくれないのなら殺してしまう可能性を秘めている。

世に言うヤンデレ気質のある子だ。真正のヤンデレではないところがまだましなんだけど、もちろんマリーが馬鹿野郎に好意を抱いていることも知ってる。

淑女協定じゃないけど真正面からならそう無茶なことはしないだろう。

だからこそ今日みたいな断り方はまずいのだ。きちんとマリーと遊びに行くと伝えてあげればあの子は怒るし悲しむかもしれないけど無茶な行動に出たりしないだろうからね。

 

わしゃわしゃ。

 

洗われている場所が背中に移り、やがて髪の毛の先まで丹念に洗われる。

結構上手いな。これなら時々やってもらってもいいかもね。

背中の流しっこはこの馬鹿とよくしているけれど頭を洗ってもらうのはあまりないしさ。

 

「まあ僕が何に怒っているのかというと、クララにもマリーにも思わせぶりな態度をとって何もなしとかはやめてあげてってことで怒ってるわけ。あの子たちは二人とも君に本気なんだからそれだけは忘れないでほしい。ああ、別にあの子たちと遊ぶことが悪いとは言ってないから、コソコソするようなことは控えてもらえるといいかなって思ってるんだよ」

 

「俺、コソコソしてるつもりねーんだけど」

 

「君にその気がなくても彼女たちはそう見ないだろう?」

 

「う、う~ん、そうなのか~?女の気持ちとかよくわかんねーしよお」

 

「まあそれなりに気を付けてあげてくれてたらいいよ」

 

「そっか、まあ気ィつけるわ」

 

もう一度頭のてっぺんから髪の毛の先まで洗われる。

念のためにと二回洗ってくれるらしい。

それ自体は悪い気分はしなかった。

イライラが洗い流されていく感じで気分がいい。

 

「えと、頭の先から髪の毛の先まで洗ったけどよ、シャワー流してもいいか?」

 

「いいよ」

 

「じゃあ流すぜ」

 

ざざーっ。

 

吹き出るシャワーのお湯。

僕の頭にお湯がかかり、髪の毛を伝いながら風呂場のタイルに流れ落ちていく。

 

「しっかり洗うな。おっさんの髪の毛すげーなげーから泡残らないように気を付けるわ」

 

そう言って片手でシャワーを流しながらもう片方の手で僕の髪を梳かしながらシャンプーの泡を洗い落としていく彼。

 

「ああ、結構気持ちいいねこれ」

 

「そか、へへっ、そう言ってもらえると俺も気分いいわ」

 

目をつむる僕。

僕の髪を洗い流すシンイチロウ。

 

ほんと気持ちいいや。

 

 

「シンイチロウ」

 

「なんだおっさん」

 

「僕の髪の毛を洗い終えたら今度は僕が君の頭を洗ってあげるよ」

 

「いいのか?」

 

「うん、けっこう気持ちいいからね。君にも同じことしてあげたくなったんだ」

 

「じゃ俺のことも気持ちよくしてくれな」

 

「わかった」

 

洗い終えた髪の毛。

足首まで届く長さの僕の髪が水分を吸うととても重くなる。頭自体がとても重い。

 

「シンイチロウ、お風呂から上がったら僕の髪の毛を乾かしてもらえるかな」

 

「ドライヤーか」

 

「そう」

 

「了解」

 

後でしっかりと乾かさないとね。乾かすのもシンイチロウにドライヤーを充ててもらおうっと。

 

「じゃあ交代だ。今度は君がここに座って」

 

「ほ~い」

 

シンイチロウが僕の座っていた椅子に腰かける。

同時に僕は水道の蛇口をひねってお湯を出し、そのシャワーを彼のつんつん頭にかけてあげた。

 

「お、あったけ~。ちょうどいい温度だな」

 

「今使ってたそのままだからね」

 

僕と違って普通の長さの髪の毛のシンイチロウ。

そのつんつん頭がお湯を吸ってヘタレるように普通の感じになっていく。

 

「いつも髪を逆立ててるからこうヘタレてしまうと一見別人に見えるよ」

 

「るっせ」

 

十分髪の毛を濡らしたところで僕はシャンプーを手に取り、手の平の上に洗剤を落として、その手でシンイチロウの頭にぺたりと張り付けた。

 

「うお、ぞっとしたぜ」

 

「気持ちいいだろ?」

 

「ああ、結構いいもんだな」

 

「じゃあ洗ってくね」

 

僕は十本の指をシンイチロウの髪の中に入れてわしゃわしゃと全体を泡立てながら洗い始めた。

 

「おお~。おっさんの指のこう、触られる感じが気持ちいいわ」

 

「だろう?僕もさっきこんな感じだったんだ。たまに洗いっこしようか」

 

「いいかもしんねーな」

 

わしゃわしゃ、泡立て洗うシンイチロウの髪は濡れているからだろうつんつん時には感じないつやと柔らかさがあった。

僕は耳の後ろ、うなじ周り、頭全体へと指を這い巡らせてしっかりとシンイチロウの髪を洗ってあげた。

 

 

「これくらいかな?じゃ目をつむって、シャワー流すよ~」

 

「へ~い」

 

ざざ~っ。

勢いよく出るシャワーのお湯を彼の頭にかけてあげながら。

僕も彼にされていたように片手を入れて彼の髪の毛をわしゃわしゃと触り、泡と洗剤を洗い落としていった。

 

きゅっ。

シャワーの蛇口を閉める。

お湯が止まる。

目を開いたシンイチロウはこっちを見て。

 

「終わった?」

 

そう聞いてきた。

 

「うん終わり。奇麗に流したよ」

 

「っしゃ、じゃ次は背中の流しっこだな」

 

「うん、今度も僕からお願いするよ」

 

「よし」

 

言うとシンイチロウは僕の髪の毛を纏めて僕の左肩から前に垂らさせた。髪の毛が背中を隠しているからだ。

 

「ジジイのクセ、そこらの普通のジジイと比べてやっぱちっこい身体と背中だよなーやっぱ」

 

口の悪いやつだ。お年寄りと言え。

 

「うるさいよ」

 

軽口をたたきあいながらの僕らの背中の流しっこが始まった。

 

 

 

終わり~。いや書き忘れた、あとがきでの注意書きで悪いが視覚的BL要素が入ってる。

まあ言ってもただ頭と背中の洗いっこを男同士お風呂でしてるだけなんだが。

 

 



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「君には親友っているかい?」

 

 

 

思い付きの小話。

 

「君には親友っているかい?」

 

おっさんの家でぼーっとしてたら隣り合わせでテレビを見ていたおっさんが何か言い出した。

 

「親友ねえ」

 

いるかと言われればいると思うし。

いないか言われればどうなんかね。

 

「ん~親友」

 

考えてみる。

腹を割って話し合えてなんでも本音で語り合える相手。

まずクララがそうだ。

あのちみっ子には隠し事なく何でも話せる。

 

それとマリーもそんなだろう。

あいつの前でも大体は素で何でも話している。

 

二人で歩いているとき、散策がてらに色々店回りしているとき。

狭いアパートで二人きりのとき。

どこでだって本音で語り合えるあいつらは親友と呼んでもいいのだろう。

 

しかしだ。

その親友をいわゆる心の友と呼べる存在となれば違ってくるかも知れん。

悩み事や人生問題について、生活態度やお金遣いまで全部さらけ出して話してる相手といやあだ。

 

「おっさん」

 

「・・・・・は?」

 

ハトが豆鉄砲食らったみたいな顔するおっさん。

 

「え、っとね。僕は君に親友はいるかと尋ねているんだぞ」

 

「おおよ、だから俺の心の友はおっさんだって」

 

「ええ~・・・・なんで僕になるの?」

 

そりゃあいつも真摯に悩み事を聞いてくれるし、飲みのもつれてってくれて一緒に飲んで朝まで飲み明かしてさ。

娘のことやら家族のことやら、政治の話とか色々おっさんの方も話してくれるし俺も俺のこと包み隠さず話してるし。

家にはいっつも上げてくれてメシ食わしてくれるし風呂も入らせてくれるしよ。

 

ルルーシュやコーネリアなんかには叔父上に寄生するなこのごくつぶしがって怒られたりするけど、そんなときも案外庇ってくれたりするんだよな。

 

そりゃあ、だから心の友だろ?

 

ありのままを伝えたら。

 

「はあ~」

 

溜息を吐かれちまった。

 

958:名無しさん:2022/09/09(金) 15:51:15 HOST:p950010-ipngn200504kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

 

「それ親友じゃなくて家族みたいな感じだろう」

 

「家族か、おっさんが俺の親父ってことでいいすか?」

 

「良くないよ。君のご両親はちゃんとご健在だろうに。仮の身元引受人みたいなことは僕がしてあげてるけどさ」

 

「家族じゃねえ、でも親身に色々やってくれるし俺もVVのおっさんの悩みや愚痴に付き合って朝まで飲んだりしてる。やっぱ心の友じゃん」

 

ニカっと自然に笑ってみると。

なんか言葉に詰まったおっさんは。

 

「・・・・・恥ずかしいよ」

 

照れ臭そうにしてうつむいた。

なんか顔真っ赤にしてる。

 

「え、照れてんの?」

 

「照れてない! 僕にだって親友はいるんだから今更君一人増えたと感じたところで照れ臭いだなんて思ったりしないよ!」

 

「いやさ、思い切り顔真っ赤なんだけど」

 

「うるさい!もう知らないよ好きに受け取ってればいいよ!」

 

頭の髪留めをわざわざ外して座ったままで前傾姿勢になって髪の毛でカーテン作って顔見えなくしてやんの。

おっさんて照れ屋なのか?ジジイといっても体に年引っ張られて子供っぽいとこあんのかな?

 

「なんか可愛いぞおっさん」

 

「黙れっ!」

 

小学生が友達になってって手を差し出して照れながらうんっていう感じと似てるっていうか。

 

「俺まで恥ずかしくなってきた」

 

「だったら変なこと言うな!」

 

959:名無しさん:2022/09/09(金) 15:54:17 HOST:p950010-ipngn200504kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

 

「でも親友は親友だし」

 

「ああーッうるさいうるさいうるさーい!照れてないし恥ずかしくなんかない!!もういいッ!今日は早いけど飲むッ!シンイチロウ付き合えッ!」

 

「おおっとこんな時間からもう晩酌っすか?是非ご相伴にあやからせていただきや~す」

 

こんな時間からただ酒飲めるなんてラッキー。

やっぱVVのおっさんは俺の心の友だ。

持つべきものは友達だぜ!

 

「飲もうぜ親友!」

 

「飲むぞッ、し、親友ッ!!」

 

おっさんも俺の乗りに乗ってくれた。

いいねえ、これこそマブダチってやつだわ。

 

この日の酒は美味かった。

記憶が飛ぶまで飲んでいて、朝気が付いたらなんかおっさんと酒瓶持ったままくっついていた。

 

途中でおっさんの同居人であるルルーシュとかナナちゃん、クララが俺たちの酒のペースについて注意してくれてたらしいんだが。

俺もおっさんも勢い止まらずでまったく覚えてねーわ。

 

ついでに俺もおっさんもお互いの服がべとべとになっていた。

二人して寝ゲロしちまってたらしい。

 

「あ、あったま痛ェ」

 

「僕も頭がぐわんぐわんしてるよ・・・・・」

 

くっつきあったまま状態を確認。

おっさんのくっそ長い髪の毛が俺の体に纏わりついて汗まみれで張り付いてるから気持ち悪いしくっそ暑くるしい。

 

「おっさんよお、どいてくれよ。おっさんの髪の毛がべたべた張り付いて鬱陶しいんだけど」

 

「君こそどけよ・・・・こっちは頭痛くて動けないんだよ」

 

二人して完全に二日酔いだった。

 

ダメだこりゃ。

 

960:名無しさん:2022/09/09(金) 15:56:00 HOST:p950010-ipngn200504kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

終わり~。酔っぱらった親友たちの巻ですた。

そいじゃ落ちます。

またねー(´・ω・`)

 

 



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玉城とVVが酔いつぶれたそのころの朝

 

 

小話~、玉城とVVが酔いつぶれたそのころの朝。

 

食卓にはルルーシュ、ナナリー、クララ、マリーベルの四人がついていた。

四人のうち三人はお忍びではランペルージの姓を名乗っているものの、その正体は大日本帝国の無二の同盟国であるブリタニア帝国の皇子と皇女なのだ。

部屋の外や屋敷周りはそれなりの警備員や騎士がスーツ姿で見張りについており、食卓以外は物々しい雰囲気に包まれていた。

 

「・・・・叔父上はまだなのか?それとあのアホは」

 

憮然とした表情でルルーシュは呟いた。

 

「まだですね。叔父様昨日の夜はとても機嫌よさそうに大声で飲んでいらしたので」

 

ナナリーは困った顔でそう言った。

 

「叔父様、お酒に呑まれておしまいになるくらいにお飲みになるなんて、シン兄様となにかあったのでしょうか?」

 

首をかしげて述べたのはマリーベル。

 

「昨日のパパ絶対変だったよ。あんな大声で騒いだりするような人じゃないもん。どーせお兄ちゃんが飲め飲めってお酒飲ませまくってパパまで酔って変になっちゃったんだ」

 

クララが憤慨して述懐した。

誰か様子を見てこようか。

いつまでたっても始まらない食事に業を煮やした四人の意見が一致し、叔父の部屋へと彼らの足は向いた。

 

「叔父様~?もう朝ですよ~?」

 

部屋の戸を開いてほんわかと呼びかけたのはナナリー。

尊敬すべき叔父は果たしてどうなっているのか。

 

「叔父上、それとアホのごくつぶし。もう朝食の時間だぞ」

 

ルルーシュは憮然と述べた。早くしないと学校に遅れてしまうではないか。

ここにいる四人のうちマリーを除いた三人はそれぞれ大学生と高校生なのだからこんなことで遅刻などみっともなくて言い訳できないのだ。

 

「パパ~、入るよ~」

 

こちらものんびると呼びかけたクララ。

彼女は父と玉城があれで結構仲がいいことを知っている。

楽しく飲んでいたのだろうとあえて優しく声をかけたのだ。

 

そして最後にマリーベル。

 

「叔父様、兄様、勝手に入らせていただきますよ?」

 

彼女は仲の良すぎる叔父と玉城がどんちゃん騒ぎをして何をしていたのかと胸をざわめかせていた。

 

四人が入る部屋の中。

 

果たして、畳の上に転がるようにしてその二人はいた。

 

《~~~っ!!》

 

誰からともなく絶句する声と、息をのむ音が伝わりあったことがわかった。

いま目の前にいる二人。叔父(父)と玉城(アホ)は玉城が上半身裸で叔父がマントを脱ぎ棄てて抱き合ったまま酒瓶を手に眠っているのだ。

玉城が下で大の字になり、叔父(父)が玉城の上で重なるようにしてうつ伏せで顔を横に向けて眠っている。

二人の衣服には吐しゃ物がかかっており、口からよだれを垂らしながらぐーすか寝ているではないか。

ちょうど叔父の長すぎる髪が広がって玉城の体を覆い隠し、一見すると二人は布団を着て寝ているようにも見えなくもなかった。

 

散々飲んでは前後不覚になって、酔いが回って飲んだお酒と当てを吐き戻し。そのまま抱き合って寝落ちした。そんな様子がありありと思い起こされた。

 

この痴態と醜態を見たルルーシュは頭を天井に向けて顔に手を当て情けないとこぼし。

ナナリーは叔父様汚いですと口元に手を当てて部屋を漂う酒の臭気に眩暈を起こす。

クララとマリーベルの二人は。

 

「兄様(お兄ちゃん)のバカーッッ、何をしておりますの!!(なにしてんのさ!!)」

 

そう叫んで急いで叔父(父)と玉城をたたき起こすのであった。

 

「こんなことではいつか聡明な叔父上にアホ(玉城)の馬鹿さ加減がうつってしまうぞ・・・・」

 

人知れずルルーシュは尊敬する叔父と玉城の醜態に気が滅入っていた。

 

 



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マコトくんがマリーベルに惚れたようです。

小話投下~、古いネタだから知ってる人おらんかも知れんが。
休日とスクイズのクロスネタ。

今回の主人公は00年代に有名になった知ってる人は知っているクズ野郎マコトくんです。
マリーに一目惚れして玉城と引き剥がそうとしてきた彼の運命やいかに。
マコトくんがこんな感じの男だったのかは残念ながら覚えとらんのでキャラ変わってるかもしれん。そこは大目にみてくだしあ。



マコトくんがマリーベルに惚れたようです。

 

 

 

 

俺が街を歩いていたときだった。目の覚めるような美女を見つけた。

 

頭の左側側頭部で束ねられた赤い色をしたサイドポニーの長い髪を揺らしながら嬉しそうに歩く美女。

 

抜群のプロポーションにモデル顔負けの美麗な容姿。

 

横顔を見つめても凄い美人だと分かったし、後ろ姿からも十分以上な眉目秀麗さが窺い知れた。

 

そんな美女の隣を歩いているのは如何にもな不良そうな男で、あの美女と全然釣り合ってない。

その男には見覚えがあった。昔俺と肩がぶつかったときに、お、ごめんよわりーなと、悪びれた様子もなく謝ってきた男だ。

別の意味でも知っている、確か俺の高校の近くの高校の六か七つくらい上の先輩で、悪い意味で高校時代に目立っていた不良崩れだ。

 

確かそう『アホのたまきん』とか呼ばれていて、その変なあだ名が今でも不良学生の間で知れ渡っている。

こちらも悪い意味で。勉強をさぼりすぎるとアホのたまきんみたいなアーパーになっちまうぞといったようにして。

 

そんな奴の隣を物凄い美女が連れ立って歩いている。

 

多くの女の子を知っている俺でも見たことのないような美しい女性に、俺は一目で惚れていた。

 

あんな美人は俺みたく真面目な奴の傍にこそ相応しいんじゃ無いか。

 

俺は二人の後をそれとなく追いかけ、二人が離れる時を待った。

間もなくだ、不良崩れは少し用事があるとか周囲に聞こえる大声で話して美女を一人置いて一軒の店の中に入っていった。

 

スーパーだ。一緒に入店すれば良いのに、あんな美女を一人で置いていくなんて噂通りのクズ野郎だな。

 

俺はその隙に一人待たされ建物に寄りかかりながら立っていた美女に声を掛けた。

 

「やあ、こんにちは」

 

「はあ、ご機嫌よう・・・・どちら様でしょう?」

 

青い目の色をしている。

髪の毛の色も目鼻立ちもそうだけどブリタニア系の人なのかな。

しかし息をつくくらいに美しい。

 

「君、あのさっきの男の人と知り合いなの?」

 

「不躾に失礼な方ですわね。知り合いだとしたらどうしたというのです?」

 

途端不機嫌になる彼女。

その不機嫌な顔もまた綺麗で俺の欲をかき立てる。

 

「あのさ、あの人、あまりいい人じゃないよ?俺の近くの高校に通っていた不良でさ、噂では何人もの女の子を泣かせてきたとか、暴力事件を度々起こしてたとか、よくない噂でいっぱいなんだ」

 

そこまで噂は酷いわけじゃない。真実じゃ無い話が多分に混ざってるだけでアホのたまきん伝説の一つとして素行不良の生徒の間で少し話題になっていただけだ。

だから俺は嘘を言っていない。こんな美しい人があんな不良上がりと一緒に居るなんて間違ってると思ったからこそ忠告したんだ。

 

「貴女のような綺麗な女性があんな不良崩れと一緒に居たりなんかしたら何された物か分かった物じゃ」

 

俺がそう言いかけたとき。

 

「黙りなさい下郎」

 

彼女は凄い目つきで俺をにらみながら、同時に何の興味も無いゴミを見るかのような色をその深い色をした青い瞳に浮かべていた。

 

怖い・・・・。

 

脚が震えた、その一喝で俺はとんでもない相手にとんでもないことを滔滔と語ってしまったのではないかと感じさせられたんだ。

この華奢で眉目秀麗な一見力なんてなさそうな雰囲気の女性が、今は獰猛な猛獣のように思えて恐怖が込み上げてきた。

 

「黙って聞いていれば兄様に対しての悪口雑言、その汚い口より零れ出す言葉の一つ一つが汚れた欲望に満ちていて聞くに堪えません」

 

「で、でも君のような女性があんなのと一緒に居るなんて何をされるか俺心配で」

 

手を伸ばして彼女に触れようとした時だった。

 

軽やかなステップで身を翻し、長いサイドポニーの赤い髪を空中で舞わせたなびかかせつ。

 

「ひざまずきなさい」

 

ぐいっと腕をひねり上げられた俺はその場で跪かされてしまった。

 

「下郎、今一度その侮辱発言を口にしたときは、その細いそっ首、わたくしが跳ねて差し上げましょう」

 

 

「死にたいのですか?」

 

物凄い力で腕をひねり上げられながら吐き捨てられた。

 

「うがああっ!」

 

あまりの痛さに悲鳴まで漏れた、このか細い腕の何処にこんな力があるのだろうか。

 

この女性は一体何者なんだろうか。怖い、怖いよ。なんで俺がこんな目に。

 

世界・・・・言葉。

 

彼女たちよりもずっと綺麗なこの女性が、あんな不良崩れと楽しそうにしていることがつい腹立たしくて。

この女性とお近づきになりたいなと思っただけなのに、どうして俺がこんな目に遭わなくちゃならないんだ。理不尽だ。理不尽すぎる。

 

「下郎、何も言わずにわたくしの前よりその薄汚い思考に塗れた顔を消すか、あくまでも兄様を侮辱しわたくしの手で手折られるか。それとも兄様に対し謝罪をなさるのか・・・・・三つの中より選ばせて差し上げましょう」

 

女性のキツい物言い、命令するような高圧的な言葉遣いが俺の耳にたたき込まれる。

話し方からして身分の高い人間なのだろうか。俺が声を掛けるべき相手じゃなかったのか。

だとしたらそんな身分の高い女性がどうしてあんな不良崩れなんかと。

 

ぐるぐる回り出す思考に俺の視線は彼女の瞳からそらすことを許されなかった。

 

怒り、蔑み、無価値。そんな感情がその深い青の目には浮かんでいる。

 

俺のことなんてまるで虫けらかのようにしか見ていない、こんな目をした人間に出会ったことがなかった。

だから殊更以上の恐怖を感じるんだ。この俺を、沢山の女の子から愛されている人格者な俺を道端の石ころとしか思っていないような彼女の目に。

 

「ああー、悪ィ悪ィ、マリー。待たせちまったみてーだな、ってどしたよおい」

 

あの不良崩れが店から出てきた。なんてタイミングなんだろう。

不良崩れの声を耳にしたらしい俺を跪かせている女性、彼女は嬉しそうにサイドポニーの髪を勢いよく揺らしながら後ろを振り返り、待ち人へと声をかけていた。

 

「兄様、お買い物は終わったのですか?」

 

「ああ、まあ・・・ちょっと女のお前には見せられない買い物だったからさ・・・・」

 

ぽんぽん、っと。

女性の頭を軽く叩いて彼女の赤いサイドポニーの髪をそっと撫でながら、不良崩れが俺のことに目を向けた。

その間際だけ女性の頬がわずかながらに色付いて、男への想いを第三者の俺にまで見せつけてくれる。

 

「つかなに、それよりこいつどうしたのよ?間接キマッちまってんぞ大丈夫か」

 

 

不良崩れな男が俺を心配してくる、なんでこんな奴に心配されなくちゃならないんだろう。

 

「この下郎、薄汚い目と思考をしております。兄様にとり悪影響かと思われますのであまりお構いにならないよう進言申し上げますわ」

 

「いや、別に普通のガキじゃね? ってかこいつ、マコトじゃねーか」

 

え、なんで。なんでこの不良崩れが俺のことを知っているのか。

確かに高校は近所だったけど、噂になるくらい変だったらしいこの不良と俺は六つか七つほど年が離れてるのに。

顔を合わせたり知り合うような接点はないはずだ。なのにこいつは俺を知っていた。

 

「この下郎を御存じですの兄様」

 

「ああ、近所じゃ有名なヤリガキだ。女とやりまくって噂になってるくらいにな。爛れた淫猥学生だってうちの近所のババア共が噂してたぜ・・・・確かマコトって名前だったはずだ」

 

「なるほどそれは汚れた視線を感じるわけですわね」

 

「お前、なんかされたの?」

 

「いいえ、この下郎が兄様を侮辱したので懲らしめていたところですの」

 

「お前の方が怖いわ。よおよお、マコトくんよお。お前手ェ出す女のヤバさくらい見抜いとけよ。あっちこっちで見境無く女引っかけてる間に女への嗅覚が鈍ったんじゃね?」

 

俺を見下げて話をする女性と不良崩れ。

 

どうもこの女性にとってこの不良崩れはとても大切な男らしい。

 

間違ってるよ。こんな美人がこんな男を好きだなんて。

 

それとこの不良崩れの話では俺は爛れた女性生活を送っている学生との噂が流れているらしい。

 

違う、俺は彼女たちみんなが好きなだけなんだ。そしてこの女性のことも好きになった。

 

俺には女を満足させる甲斐性があるんだ。こんな不良崩れとこんな美人が一緒に居ていいわけないんだ。

 

「この下郎の考えが透けて見えますわね。まるでわたくしのことを自分の都合の良いようにできる女だとでも考えている。女は全て自分の物、自分の良いようにできてしまうなってしまう物と考えている。貴方を囲う女性たちの耳障りの良い惹句に思い上がり、自ら考えることを放棄し、爛れた生活をただ良しとして受け入れてしまっている・・・・・下郎、やはり貴方の首はこの場で跳ねてしまった方が世の女性たちにとっての幸せに繋がるのかも知れません」

 

「おおーこえー女だわ。その超上から目線のお言葉。俺の耳にもすげー痛く響いてくるからさあ」

 

「兄様は良いのです。わたくしは有りの儘の兄様をお慕いしておりますので。それに・・・・兄様の瞳はこの下郎のように濁ってはおりません。もしも兄様がその様な殿方だったならばわたくしのこの手で兄様を誅し、永遠の良き思い出として胸に秘めておくところでしたわ」

 

「だから一々こえーんだよ。冗談でも言って良いこととわりーことがあってだなあ」

 

不良崩れへの説教の時、俺の腕をひねり上げている女性の腕の力が緩んだ.

 

 

「くっ、離せっ!」

 

振りほどく。力一杯に。

女性から逃れるために。

 

「あっ」

 

「おっ」

 

一瞬のことで対応の遅れた女性と不良崩れから、俺は逃げ出すことに成功したのだった。

でもあの女性はとても美しかったな。怖いけどその怖さもまた美しさに磨きを掛けていた。

いつか必ずあの女性ともう一度出会い、今度こそあの女性を抱いてみたいと思わされるほどにあの女性の印象が俺の中に根付いていた。

 

 

 

※※※

 

 

 

「あーあ、マコトくんに逃げられちまったよ」

 

「油断いたしました。あの下郎には兄様への謝罪を行わせるつもりだったのですが」

 

「謝罪なんかいらん、どうでもいいよ。ああいうやつは俺と別の方面でのろくでなしだ。逃げようがどうしようがこの先ろくな目に合わんだろうしな」

 

「兄様、あの様な下郎にまで寛容であられるとは。心の広い殿方ですね」

 

「もっと褒めて良いぜ。って、んなことよりマコトくんマリーのことターゲットにしたんじゃね。あぶねーぞ」

 

「ふふふ、兄様。あの様な下郎にこのわたくしがどうこうされるとお思いなのですか?」

 

「いやま、ねーな。返り討ちに遭って終わりだろ。お前俺より喧嘩ツエーんだし。可愛い顔して恐ろしいやつだよマリーはさ」

 

ぽんぽんっ。

玉城がマリーの頭を二回、三回とはたいてやると。

マリーは言葉少なげに嬉しそうにしていた。

 

982:名無しさん:2022/09/10(土) 18:20:16 HOST:p854254-ipngn200709kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

終わり~。まあ玉城にラブラブなマリーjの前で玉城を侮辱したらどうなるかってやつやね。

980踏んだからスレ立ててくるわ。

 



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ごろんごろん

雑談の合間で悪いけんどここで小話を一個。

しょーもないネタ投下~。


 

 

ごろんごろん。

 

「ん~~」

 

ごろんごろん。

 

「んあ~~~」

 

ごろんごろんごろん。

 

和室で何かが転がっている。

 

「なにをやっているんだ」

 

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは叔父の家で毎度の如くただ飯を食らって風呂に入り、自宅のようにくつろいでいる男を見下ろしていた。

 

「お、ルルーシュ。お帰り、今日も学業ご苦労さん」

 

「ニートの貴様に労をねぎらわれる必要性を感じないな」

 

「そっけねーなあ。俺一応お前の叔父様の被保護者なんだぜ。言ってみりゃお前と俺は親戚みてーなもんじゃねーかよ」

 

「勝手に身内扱いするな。俺はマリーやクララと違いお前を身内だなどと認めてはいない」

 

「まあまあそうかてーこと言うなって」

 

「お前が気安すぎるんだ」

 

玉城真一郎。我がブリタニア皇家、表向きはランペルージ家に寄生しているごくつぶしだ。

こいつは何を勘違いしているのか俺を親戚扱いしてくる。ナナリーにも気安く接している。

ナナリーは優しい子だからこんなアホとでも気軽に接しているが、俺に構ってこられたら困る。

このアホのアホは伝染するからだ。昨日も聡明な叔父がこのアホと酒盛りして醜態をさらしたばかり。

 

「俺ちゃん今暇なんだ」

 

「そうか。ならば少しくらい我が家の掃除でもしろ。風呂掃除でも何でもいいからやっていろ俺に構うなアホがうつる」

 

暇だからごろごろしていただと?

こいつと話をしているだけで頭痛がしてくる。

 

「お前いいとこの坊ちゃんなのに口わりーよな。ちょっとくらいナナちゃんやマリーを見習えよ」

 

「ふん、お前を相手に丁寧に接する必要性を要しないだけだ」

 

「け、かわいげねー奴。まあいいわ、何か遊んでくれよ」

 

「なぜ俺がお前と遊ばねばならん。俺は暇ではない」

 

「でも学校から帰ってきたばっかだし、お前もやることねーんじゃねーの?」

 

「それは、まあ……。確かに」

 

 

 

聡明な叔父より学業に専念しろと言われてアルバイトもしていない俺だ。

勉強時間以外は将来の政務についてをジェレミアやキューエル、ヴィレッタら臣下の者より学ぶ以外は空いている時間もある。

 

「じゃあよ、いっちょ俺様とポーカーでもしねえ?」

 

「ポーカーだと? 金でも掛ける気か?」

 

ギャンブル好きのこの男だ。ポーカーなどして掛け金無しとは考えづらい。

 

「当たり前だろ。金の掛かってねーポーカーなんざ面白みさに欠けるってもんよ。それともお金持ちのお坊ちゃんは俺に負けることが怖くてできねーってか?」

 

安い挑発だな。

 

だがいいだろう。

このアホの有り金を奪ってやるのも気分が良さそうだ。

どうせ金がなくなったらなくなったでクララか、それともタイミングが合えばマリー来訪時にでも金の無心をするだろう。

そして叔父上に説教される。この男には良い薬だ。

 

「いいだろう。だが俺を相手に選ぶとは、泣きを見ることになるぞ?」

 

にやっと笑って受けて立った。

 

結果。

 

「おっしゃ、もらったストレートフラッシュ!」

 

「馬鹿な・・・」

 

こちらの手札はエースのフォアカード。

まず負けない役だというのにこいつはあっさり上をいって見せた。

 

ここで思い出される叔父上の言葉。

 

『シンイチロウはピンチの時には凄い底力を発揮する事があるから何をするにも気をつけなよ。特に賭け事には』

 

まさか・・・・。

 

「玉城」

 

「なんだ」

 

「お前、いま金欠だな。財布の中身が全財産だろう?」

 

「な、なんでわかんだ?!」

 

「やはりな・・・・。そうか、叔父上の言っていたことはこれだったのか。確かに手強い」

 

「お、俺はインチキしてねーから勝った分は返さねーぜっ」

 

「ふん、そんなせこい真似を誰がするか。だが言い換えればいまお前は俺に勝って余裕が出来ている」

 

「だ、だからなんだってんだよ」

 

「ふ、なに・・・余裕が出来た貴様など我が敵では無いと思ったまでだ!!」

 

次の役。確実なのが来た。

 

「よし、キングのフォアカードだぜ、また俺の勝ち」

 

勝手に勝ちを確信し宣言するアホ。

そんなアホに現実というものを教えてやった。

 

「それはどうかな?」

 

にやり。

笑って晒した手札は。

 

「え、エースのファイブカードだとぉぉ!!」

 

「ふん、形勢逆転が始まったようだな」

 

余裕が出来た玉城ほど御しやすい相手はいない。

悪運に強い奴は状況が変われば運に見放される。

そのときがこの瞬間だっただけだ。

 

次も、フルハウス。フォアカード。ストレートフラッシュ。

次々と高い役が舞い込みアホの財布の中身を一円残さず回収してやった。

 

「ありがとう玉城くん、いい小遣い稼ぎになったよ。よければまた相手になってあげるよ。といっても今のお前には無理だけどな。じゃあな、はっはっはっは」

 

放心したアホを捨て置いて俺はその場を去った。

 

 

放心したアホは放心しながらも一縷の望みを掛けて電話した。

 

『はいもしもし』

 

「あの~叔父様、叔父様。俺だよ俺俺俺だよ、少しお金をお貸し頂けないかと」

 

『・・・・ああ、なんだオレオレ詐欺か。僕みたいなお年寄りからお金を巻き上げようだなんて悪い奴だな』

 

「ちっげーよ!!俺だよ真一郎だよ!!」

 

『お金の相談だろどーせ』

 

「うっ、お、お前の甥っ子に金巻き上げられたんだよ!!」

 

『カードゲームでもして負けたんじゃないの?お金掛けて』

 

「なっ?!」

 

『君の行動なんてお見通しなんだよ。いま出先だからね。帰ったらきっちりお説教してあげるから覚悟しておきなよ』

 

ぶつっ。つー。つー。

 

叔父様のお説教。

三時間ほど畳の上で正座させられてぐちぐちと言われ続ける素晴らしいお説教。

 

「……あ、俺今日用事あったんだ帰ろっと」

 

逃げるが勝ちだ。

 

94:名無しさん:2022/09/14(水) 18:18:53 HOST:p280237-ipngn200609kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

終わり~。

あまりルルーシュが出てこないからルルーシュを出してみたら玉城の駄目さ加減がさらに際立った。

 

 



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父は八十代?母は四十代?

 

200:名無しさん:2019/07/31(水) 19:45:47 HOST:p1378044-ipngn200905kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

ユフィルートしげちーちょいネタ。

 

 

父は八十代?母は四十代?

 

 

カズシゲはあるとき思った。

ソフィーを見ていて気付いたといってもいいだろう。

ソフィーは可愛い。

綺麗だ。

美しい。

幾百の賛美を以てしても足りないほどに美麗な女性である。

 

そんなソフィーを見ていたからだろう。

日頃気にも留めない違和感を覚えたのも。

 

ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 

カズシゲの実の母親である彼女が写真の若いころの姿のまま今現在を迎えているといった不可思議な現象に気が付いた。

肌には十代のころだという張り。

髪も十代のころと遜色のない色艶長さ。

執務用の衣服がその当時のままである事にもよくよく考えると気づく。

その瞳も容貌も。

まるで年齢による一般的な言い方をするのならば老いという物を感じさせない。

 

そしてそのことは同じくして父親シゲタロウ・シマダ・リ・ブリタニアにも言えた。

 

父シゲタロウは今年でもう八十は過ぎているはず。

しかしその容貌は母ユーフェミアと結婚した当時と全く変わり映えのないものなのだ。

 

これは如何なることや?

 

「父上も母上も・・・・・御年を召されていない?」

 

そんな馬鹿な。

とカズシゲは考えるものの。

父はともかく母は四十を迎えているのにどんな言葉を用いても二十代前半としか。

いややはり十代としか表現できない・・・・。

 

「歳を取らないはずがない 父上と母上が不老?いや・・・・そんな。そんな馬鹿なことがある訳ない・・・・・でもそれにしては父上も母上も若すぎる」

 

俗にいえばピチピチの十代であるソフィー。

そんなソフィーと同じくらいの年齢容貌のユーフェミア。

初老のままに時間が止まったようなシゲタロウ。

結婚当時の写真の姿と同じ格好をさせれば全く同じ写真そのままの実物となるであろう不思議な父と母の謎にようやく気付いたカズシゲは。

しばらくの間悩まされ続ける事となる。

 

 

カズシゲは後年その実態を知ることになる。

百を迎えたユーフェミアを見て。

時のシゲタロウを見て。

 

それはまだずっと先の話。

 

201:名無しさん:2019/07/31(水) 19:49:22 HOST:p1378044-ipngn200905kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp

即席のネタでした。

カズシゲくんが分かろうはずもない嶋田さんとユフィは○ー○持ち。

>>199

いいですね。

そういう新しいSSやネタも見てみたいです。

 



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暑い。

ついでにちょっとネタ。
この季節にはこれ思い出すからね。


 

 

 

暑い。

 

 

 

今年も暑い季節がやってきた。

まだそれほどでもないが夏は夏である。

梅雨特有のジメジメとした空気。

この中では薄着ですら暑いと感じてしまう。

 

ところでブリタニアの在日本駐在武官であるナイトオブトゥエルブことモニカ・クルシェフスキーは言わずもがな騎士である。

貴族であり騎士でもある。

騎士ならば当然マントを着用している。

ラウンズには特に決められたパーソナルカラーを持つマントの着用が公務中には義務付けられている。

 

しかしながらモニカは今日はお休みの日である。

お休みの日は居候としている嶋田の。

つまりは俺の家にいるわけだ。

 

「モニカさん」

 

俺はモニカ・クルシェフスキーの部屋を尋ねる。

彼女の実家の屋敷ほどには広くない俺の家だが。

それでも日本的には十分広い邸宅に。

彼女専用の部屋はある。

彼女が日本に赴任してきた時からずっとあるこの私室。

勝手に入ったりはできない。

 

だからと呼びかけたわけだがはたしてモニカさんは。

 

「はい」

 

いた。

 

開くは扉。

たたずむは明るい金色に輝くまっすぐな長い髪をした女性。

モニカ・クルシェフスキー卿である。

 

「忙しかった?」

 

「いえ特には どうされましたか?」

 

「ちょっと気になることがあってね」

 

「気になることですか?」

 

「ああ まあ大したことじゃないんだが」

 

彼女のたたずむ背後を見る。

ハンガーに掛けられているそれは黄緑色の表生地と紫色の裏生地が綺麗な色合いの印象を抱かせるマント。

 

「君のマントを少し着させてもらってもいいかなあと」

 

いいわけがない。

普通なら。

ラウンズのマントを軽々しく他人に着させるなど。

と思っていたら。

 

「・・・・・いいですよ?」

 

「え あのう・・・・いいのかい?」

 

「はい・・・・本当は駄目なのですが他ならぬ嶋田さんになら」

 

騎士の誇りであるマントを着てもいいのだと言う。

・・・・・なんか俺。

言ってることが変態に感じてしまう。

いや騎士のという以前の問題として女性の衣服を着させてくれとか。

でも気になることがあるから仕方がない。

 

「どうぞ室内へ」

 

「あ ああ うん」

 

 

室内に招かれ入る。

モニカさんらしい整理整頓された綺麗な室内だ。

室内に備え付けの机にはお化粧品やらまさかの口紅が置いてある。

そこにそこはかとなく女性らしさを感じるのは貴族の令嬢たる顔の彼女か。

あるいは彼女の本来の素顔か。

 

「あ!これはその!違います!この紅はその部下に進められて・・・・私が進んで買ったのでは」

 

「いや 女性らしくていいんじゃないかな モニカさんだって騎士である前に一人の女性なんだから口紅くらい」

 

「に 似合いませんよきっと」

 

「そんなことないよ」

 

想像をしてみる。

赤い口紅を上唇。

下唇につーっと塗り込む彼女の姿を。

口紅に彩られた彼女のその唇を。

 

・・・・・・うん。

や。

いいんじゃ。

ないか?

 

「後で見せてほしいが・・・・いいか・な?」

 

「・・・・!」

 

息を飲み込むモニカさん。

しかしてその首は縦に振られていた。

顔が真っ赤だ。

俺も顔が熱い。

何をやってるんだなにを!

 

「あ・そ そう。マントでしたね汗」

 

「そ そうそうマントっ汗」

 

モニカさんは慌ただしくハンガーに掛けられていたマントを持ってくる。

 

「でもこれは私のサイズですから嶋田さんには合わないのではないでしょうか」

 

男と女。

体格も違ってくる。

 

「うん まあ纏うくらいだから大丈夫だよ」

 

「きちんと着用までするには少し調整しないといけませんからね」

 

そういいながらもモニカさんは俺の後ろに回って自分のマントを掛けてくれた。

 

ファサ。

 

肩にかかるマント。

モニカさんの香りがする。

彼女が普段大切に着ていることが分かる皺一つない綺麗なマントが俺の体を包み込む。

 

「くす 嶋田さんには似合いませんね」

 

正面に回った彼女が笑う。

穏やかな笑みがまぶしい。

さらりと揺れる金の髪が輝かしい。

後ろに手を組む彼女はまじまじと俺を見つめていた。

 

 

・・・・結論。

 

・・・・暑い・・・・・。

 

いい匂いなんだが暑い。

 

「モニカさん君・・・・よくこんな暑いマントを着ていられるな」

 

「それは ラウンズですもの」

 

そう言って柔らかく微笑んだ彼女はぴとっと俺の体にくっついてきた。

 

「モニカさん暑いんだけど」

 

マントで暑い。

モニカさんの体も熱い。

 

「いいんです 今は暑くても・・・・」

 

金色の髪を纏めているリボンが視界の端によぎる。

赤いリボンは赤いだけに暑さを感じさせ。

その赤いリボンも金の髪も俺の体に押し付けられている。

 

「暑い・・・・確かに暑いな・・・・でも」

 

いい暑さだ。

 

 

 

でもやはりマントは暑かった。

 

 

 



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ルキアーノくんが怖がっている様です。

 

 

 

ルキアーノくんが怖がっている様です。

 

 

 

「お疲れ様ですブラッドリー卿」

 

駐日ブリタニア大使館。その一室。

そこで出迎えてきたのは金の長髪を揺らせる女。

かつての部下だったお嬢様だった。

恰好はパイロットスーツ。直ぐにでも戦闘に出られるようないで立ちだった。

緊急の用、KMFを動かす可能性すらもある最高の警備体制下にある事がその服装から感じ取れた。

 

「ずいぶんと久方ぶりよなリーライナ・ヴェルガモン卿」

 

かつては呼び捨てにしていたが今は立場が違う。

一個人、伯爵家令嬢としても立場を持つ相手。

しかも彼女は士官学校主席卒業の才媛でもある。

ラウンズたる自身とは格そのものが違うのだが貴族を相手とする接し方が必要とされる。

 

「ルキアーノ様、いえブラッドリー卿。皇帝陛下御来日の先触れとして訪れるとお耳にはしておりましたがずいぶんと可及ですね。なにかございましたの?」

 

リーライナが尋ねてくる。私の用向きは陛下の来訪とは別にあった。

 

「なに。本日わがブリタニア大使館に我が国の皇帝陛下の御朋友がたがご来訪されると耳にしたものでね。是非とも個人的にご挨拶できないかと思い参った次第さ」

 

 

「御朋友・・・・それはマサノブ・ツジ閣下、シゲタロウ・シマダ閣下、いっく・・・イソロク・ヤマモト閣下のお三方の事でしょうか?」

 

マサノブ・ツジ卿。

大日本帝国元大蔵・財務省にして日本の世界の闇を知り尽くしていると言われる御仁。

 

イソロク・ヤマモト卿。

大日本帝国元海軍大臣であり国防大臣にしてニューギニア戦争の英雄。

 

シゲタロウ・シマダ卿。

大日本帝国元宰相にして事実上の日本最高指導者。

 

三名ともに知らぬものは居らぬ大物たちだ。

その三名が揃って我が大使館を訪れる理由。

オセアニア、南天が絡んでいる事柄ではないのか。

 

色々とケースが考えられるが、日本を裏から操っていると言われる日本のフィクサーが一堂に会するこの機会。逃す手はないとして先走ったわけだが。

 

「リーライナ、お三方との急遽となる面会だが貴卿の権限で可能とすることはできないかな?」

 

「申し訳ございません。如何にナイトオブテン・ブラッドリー卿と言えども彼のお三方とアポイントもなくお会いになることは」

 

言いかけたリーライナ。

だがそれを遮るようにしてバタバタと大使館職員が動き出した。

伯爵令嬢であるリーライナ、ラウンズであるこの私にすら構ってはいられない何かがやってきた。

これをわかりやすく肌で感じる。

 

廊下の奥。

 

扉の向こうから気配がした。

 

三つ。

 

強大な気配だった。

 

(こ、これはッ?!)

 

物凄い、物凄い血の匂いがした。

これほどの濃密な血の匂いは今まで経験したことがない。

 

「失礼しますヴェルガモン卿! し、至急ヴェルガモン卿に御面会したいと申される御方がッ」

 

慌てた様子で入ってきた平民上がりの騎士。

本来ならラウンズたる私を優先すべきだと考えるが、私自身が可及の来訪にて私が此処にいることを知らぬ者とていよう。

なにせまだ大使閣下であるコーネリア殿下や大使補佐官であるユーフェミア殿下とも顔を合わせてはいないのだから。

 

だが、そんな雑多な思考は今この時、すべて吹き飛ばされてしまった。

 

「失礼いたします」

 

入室してきたのは一人の日本人。

それほど背も高くなく特別な何かを感じさせない風貌、一見してそんな風貌だったが。

 

(や、闇だ)

 

黒よりも黒い黒。

闇よりも深い闇。

 

丸い眼鏡が特徴的なその男は私に視線を向けた。

 

瞬間。

 

背筋を冷たいものが走り抜けたことを感じた。

 

「これはこれは、貴方はナイトオブラウンズ第十席、ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー卿ではありませんか。貴卿が此処にいるということは皇帝陛下がもう参られているのですかな」

 

心臓が捕まれる感覚がする。

この戦場と無縁そうな男から感じる深い闇はなんだ。

 

そしてこの血の匂い・・・・血の匂いに慣れているはずのこの私が、この濃密に過ぎる血の匂いに嘔吐しそうになっているだと?!

 

「こ、皇帝陛下はまだ御来訪ではありません。た、ただ私の独断でこちらを訪れていただけで」

 

声がひきつる。

なんだ、何なんだこの男は。

 

「そうですか。ブラッドリー卿ほどの御方が態々ご自身で優先なさりこちらを来訪する用向きがあると」

 

「は、はっ」

 

闇と血を纏う男は私から目を離す。

今度はリーライナを見る。

 

「ヴェルガモン卿」

 

「は、はいっ」

 

「いっく・・・・失礼。山本が貴女にご挨拶にしたいと申しておりまして、お通ししても構いませんか?」

 

「え、い、いっくん・・・あ、ヤマモト閣下が私に?」

 

いっくん?

なんだろうか。

この濃密な気配の前では些末なれども気になった。

 

 

「失礼する」

 

次にもう一つの強烈な気配が動き出した。

その気配も嗅いだことのない血の匂いを纏わせている。

丸坊主にされた頭。白い軍服。

 

(イソロク・ヤマモト!!)

 

元帝国海軍大臣にして国防大臣だったイソロク・ヤマモトだった。

 

「リーラ・・・・ああ、いや。ヴェルガモン卿構わんかな」

 

「う、うん・・・あ、いえ、はい」

 

二人は歩み寄る。

まるで長年連れ添った夫婦のようで。

 

(どういう関係なんだ?!)

 

「おお、失礼。貴卿はルキアーノ・ブラッドリー卿ですな? 山本五十六と申します、以後よしなに」

 

「はっ?! い、いえ、こちらこそ彼のニューギニア戦争の英雄ヤマモト閣下とお会いできるとは光栄でございます!」

 

内心汗が流れる。服の下が気持ち悪く濡れている。

そして。

 

「辻さん、山本さん、勝手に先へ行かないでくださいよ」

 

最後に入ってきた男。

その男からは血と闇と、そして強大な死その物の気配を感じた。

あまりもの死の匂いに本当に吐いてしまいそうだった。

 

(も、元帝国宰相・・・・シゲタロウ・・・シマダ・・・)

 

その死に寄り添うように入ってきたのは我がブリタニア帝国の第三皇女ユーフェミア殿下だった。

 

この場にいる私以外の者、なぜ正気でいられる?!

血と闇と死、この濃密すぎて強大な気配を前になぜ何もない日常を生きているかのようにしていられるのだ?!

 

(これが、これが日本を陰で操るフィクサーたち・・・・)

 

こんなのがまだ何人もいるという。

怪物としか思えない人間たちを前に、鋭すぎる嗅覚と血の匂いを感じ取る感知力を持った男、ルキアーノ・ブラッドリーは生まれて初めて抱いた恐怖に包まれていた。

彼をもってしても闇の深すぎる存在たちに彼は言葉もつむげず立ち尽くしていた。

 

 



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無責任な適当男は悪い魔法使いに説教しました。

 

 

 

無責任な適当男は悪い魔法使いに説教しました。

 

 

 

 

きょろきょろ。

辺りを見回す、この家の誰かが見ていないのかのチェックだ。

 

「誰もいねーよな」

 

この家はとにかくあちらこちらに人が居ることがあるから困る。

普段は子供みたいな老人が一人でいるだけなのだが、この家の老人の親戚達が居ると途端に人が増えて騒がしくなるのだ。

老人曰く警備員らしい。この家の関係者たちは特別な人間が多く、狙われやすい立場にあるという。

 

「大げさだろ、民間人狙うとか誘拐犯に狙われてるでもあるまいし」

 

この家の特殊事情を知らない男、玉城真一郎は愚痴をこぼしながら目的の場所に辿り着く。

 

「あった、あったああった。これだよな確か」

 

この家の主人である老人の居間のガラスケース。

鍵をかけ忘れたのか必要としないのか鍵は付いておらず、中身は直ぐに取り出せる。

 

「やっぱこれだ」

 

玉城が手にしたそれは小瓶。

小瓶には蓋がされており、入れ物の側面には『注意、試供品VV様用』と書かれたシールが貼り付けてあった。

 

「何だよあのジジイ。これは危ないから絶対に触るなとか言いやがってたくせして単なる試供品じゃねーかよ。あいつケチか。ケチ臭いジジイだな。金持ちになるとケチになるってーけどあのちっこいケチジジイめ」

 

何の変哲も無い試供品。無料の品である。

それを触るなと注意された物だからどんな物かと気になって見に来たのだ。

 

「へへ、試供品ってならいいよな?どんなもんか何個かもらいっと」

 

勝手に蓋を開けて勝手に口に放り込む。

飴の類いと聞いていたからどんな味かと気になっていたのだ。

 

「お、結構いけるじゃんか。あのジジイはケチ臭すぎなんだよ。こんなにあんのに全部自分の物にしようなんざいかんよなあ」

 

美味しい味がした。昔から飴はよく口にする方だがそれらと比べてもかなりいい。

ジジイは金持ちだ。そのジジイが手に入れた試供品なら結構高級な物かも知れない。

 

自分の様な貧乏庶民が口にできないような物かもしれないからラッキーと考え。

 

そう思って飴を舐めていると、少しずつ眠気が出てきた。

 

「あ、・・・なんだ、眠っ・・・・急に眠くなって」

 

気が付くと意識が飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

悔しい・・・

 

 

苦しい・・・

 

 

嘘つきめ・・・

 

 

魔女め・・・

 

 

気が付いたとき。

彼は不思議な異空間にいた。

 

どこだ、ここ。

 

異空間には怨嗟の言葉が溢れている。

 

恨み、憎しみ、嘆き、悲しみ。

 

大きすぎ、多すぎる負の感情が、辺りを満たしているのだ。

 

鈍い、人からそう言われる彼にもその憎悪に触れて分かった。

 

これはヤバいものだ。悪意の塊だと。

 

ただ自分に向けられている物ではない。

この一点をもって大丈夫だろうと判断した。

実にお気楽な人間である。

 

 

う・・・ぐ・・・っ

 

 

その憎悪の中、誰かの苦しみの声が聞こえる。

喘ぎ苦しみ助けを求める声だった。

 

 

たす、けて・・・っ

 

 

助けて オル・・・っ

 

 

「あにやってんだ?」

 

苦しみの声に気付いた彼は、苦しみ喘いでいたその誰かに声を掛けていた。

 

「だ、だれ・・・・?」

 

苦しんでいた誰かの声が彼の声に気付き反応する。

声の様子からしてまだガキじゃなかろうか?

大人になる前くらいのガキ。

 

「てめえこそ誰だよ。なんでそんな怖がってんだ?」

 

「こわ、い・・・わた、くしが、怖がっている・・・」

 

「ああ、さっきからこの変な気配に怖がらされてんだろう。怖いんだろお前」

 

相手の姿は双方共に見えない。

憎しみと怨嗟の渦巻く空間で声だけが響いている。

 

「わたくしは、怖くなどありませんっっ、怖がってなどいないっっ」

 

張り上がる虚勢の声。

だが彼には何となく分かった。

 

知り合いの誰かによく似た雰囲気がその声の主から感じられたから。

 

「怖いんだろ。これが」

 

周りの怨嗟を手で振り払っていく彼。

 

彼の手に触れられた憎悪が散っていく。

 

振り払う闇の先に彼女の手はあった。

 

手だけがそこに浮かんでいた。

 

 

「ほら、来いよ」

 

「あっ・・・」

 

「出るぞこんな辛気臭エとこ」

 

手を引きずり出す彼。

しかしその手の持ち主は動かない。

 

「ダメ、です・・・わたくしは、いけません」

 

「なんでだ?」

 

変なことを言い出す手の持ち主。

怖い、怖い、助けて欲しい、そう願っているのにここから動けないと言うのだ。

 

「わた、くしは・・・セレモニーを・・・・ウィキッドセレモニーを始めなければならないのです・・・」

 

「うぃきっど、なんだって?」

 

内容を聞いた。

 

声の主は素直に答えてくれた。

 

どうして話してしまったのか。

 

声の主にも分からない。

 

ただ、彼の声がとても大切な存在のように、いつもこの身を守ってくれているように、そんな存在に思えてしまったから。

戦友でもない、親友でもない、自身が操ってきた者達でもない、この得体のしれない手の持ち主に全てを打ち明けていた。

 

世界の安定の為。

 

この身一身で恐怖を体現し、人々の恐怖の象徴となる為。

 

大切な人達を守るため。

 

人々から忌み嫌われることで消えていき、恐怖を無くしてしまうため。

 

「わたしは、魔法使い・・・オズの魔法使い・・・・・悪の魔女なのですから・・・」

 

そう、この身は悪の魔法使い。

この恐怖から逃げてはいけないのだ。

この怨嗟と憎悪を受け入れなければならないのだと。

 

そう言った彼女に。

 

「じゃあ、誰がお前を助けんだ?」

 

「たす、ける・・・わた、しを・・・」

 

「ああ、こんな暗いところで怖い怖いって泣いてるガキを大人が助けてやらんでどーすんだ。俺みたいないい加減な奴だって泣いてるガキの一人くらい助けてやれるんだぜ」

 

手に、その空間に浮かんだ手だけの存在の手に、つぶつぶの突起を持った飴玉が一つ置かれた。

 

「これ、は・・・?」

 

「金平糖。飴だよ」

 

手に置かれたそれ。

小さな飴玉。

 

「食ってみろよ」

 

言われるままその手は闇の中、その手の持ち主がいるだろう闇の中に手を入れていった。

かりっ、聞こえる咀嚼音。

 

「あ、まい・・・です」

 

「うめえだろ。昔々に知り合いのガキにくれてやったことがあんだよ。そしたらそいつ嬉しそうにしてたからな」

 

泣き止んだか?

 

闇の中から聞こえるぶっきらぼうな声に優しさを感じた。

 

闇の中にいる手の持ち主は、涙が薄れていくのを感じた。

 

「おい、しい・・・」

 

「はは、そりゃあよかった。とっておきの魔法の飴玉なんだよ。奇跡の男が持つ魔法を超えた力だ。こんな闇でも払いのける力があるんだぜ!!」

 

闇はまだ深く、辺りに立ち込め、二人の姿を手以外隠したままだった。

 

「ふ、ふふ・・・うそ、つき・・・」

 

言葉が漏れていた。

 

「嫌い・・・みんな嫌いだった」

 

告白のような声。奇跡の男とやらは黙って聞いている。

 

「いつも無神経な男」

 

誰かを指している。

 

「あの小賢しいところが嫌い」

 

また誰かを指した。

 

「ヘタレのくせに女の子を守るときだけ張り切って嫌い」

 

それもまた誰か。

 

「嫌いだった!親友ヅラして善人ぶって厚かましい!!!!」

 

一際強く誰かを指していた。

 

「お母様を殺したのはわたし?ユーリアを殺したのはわたし?みんなを殺したのはわたし?一切がわたしには関係ない!!わたしは全てを壊す!わたしに付きまとう世界の全てを壊し尽くすの!!!」

 

そして。

 

「わたしはあの子が大嫌いだもの!!だから呪いをかけたのあの子に呪いを掛けてやった!!!」

 

最後の慟哭のような告白。

 

それをただ聞かされていた奇跡の男は。

 

「だからなんだ」

 

そう言った。

何でもないという様子で。

 

「結局てめーはてめーが嫌いなだけで、ホントはみんなが好きなんじゃねーか」

 

 

「みんなが、好き?」

 

「ああ、お前、誰よりも自分を嫌ってるだろ?自分以上に自分が嫌い。じゃあその他に向ける感情は裏返しだ。お前はお前が嫌いでお前はみんなが好きなんだよ。でもってそんなてめー自身さえてめーはてめーで嫌ってる」

 

「わたしがわたしを嫌いなだけで、わた、しは、みんなを、好き?」

 

「ああそうだよ。誰よりもそいつらを愛してる。ただてめーがそれに気付いてねえだけだ。じゃあいい、そういうお前を嫌いなお前を誰が好きになる?答えは一つ。お前以外のみんなだ」

 

「・・・・」

 

「世界を壊すだあ?あーあー、聞こえよがしな大嘘だ。ホントは自分が壊れて憎しみ集めて全部終わりにしたいだけ。そんなこと誰が望んでるよ。てめー以外の誰も望んでねえ自分勝手な逃げ口上なんだよ」

 

逃げるプロの俺が言うぜ。

 

「結局てめーはてめーから逃げられねえ。てめーがどれだけみんなを嫌ってる振りをしようがてめーは気付いてないだけでみんなのことが好きなんだからな」

 

奇跡の男はもう一つ、コンペイトウと呼ばれる飴をくれた。

 

「それ食ってもう寝ろ・・・・うぃきっどなんたらをやる前に、もう一度てめーと向き合え。どんだけてめーがみんなを愛してるか気付かされるだろうよ。なんたって――」

 

眩しい、全てがどうでも良くなる笑顔が闇の中に見えた気がした。

 

「このオレ様の、奇跡の男の奇跡の前じゃあな、悪い魔法使いの魔法は子供だましの手品でしかねーんだから」

 

笑顔が闇に消えていく。

 

「見栄張って無理して背伸びをしているガキを見てるとイラつくんだよ。俺は大人だ、そんで奇跡の男だ。そんなオレ様がお前に奇跡をくれてやるぜ。ありがたいと思いやがれよ!」

 

怨嗟と憎悪の闇はその手の持ち主の周りからいつの間にか消えていた。

 

奇跡の男を自称する手の持ち主によって闇は余さず散らされていた。

 

「奇跡の、男・・・・」

 

一体、あの人は何処の誰なのだろう。

 

彼の消えていった空間を、覚悟を決めていたはずの少女は放心したかのように力を失って見つめる。

張りつめていた空気。纏わりついていた怨嗟と憎悪の闇はもうない。奇跡の男が消し去っていったから。

 

温かい・・・

 

とても大きな温かさがあった・・・・

 

誰も居なくなり、気配の消えた空間でその手の持ち主。

 

本当はみんなが大好きなのだと言われてしまい、奇跡を掛けられた一人の少女は手に残された一粒の飴玉を口に入れ。

 

「あま、い・・・」

 

その優しい味に触れながら一粒の涙を落として、その場に崩れ落ちるように眠ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いっ」

 

「んっ」

 

「――おいっ」

 

「んあ、なんだよ」

 

「なんだよじゃない馬鹿。またこんなところで寝ていい加減にしろ。僕の私室は君の寝所じゃないんだぞ」

 

目が覚めると、黒いマントに身を包んだ小さい子供みたいな実年齢ジジイが立っていて俺の背中を蹴っ飛ばしてきた。

 

「痛ェっ、なにすんだクソジジイ!!」

 

「こんなところに入り込んで勝手に寝ている空き巣みたいな奴にジジイ呼ばわりされる筋合いは無いね」

 

良く見知る身元引受人、一応俺の保護者であるジジイが立っていた。

自室に入り込まれたのがご立腹なのか頬を膨らませ怒っている。

 

「私室? 俺、居間にいたんだけど」

 

「知らないよ、今此処で寝てる君にそんなこと聞かされて僕にどうしろっていうのさ」

 

「いや、変な飴玉――」

 

「あ~~っ、君、夢見ドロップ食べたなぁぁっ」

 

「げっ?!」

 

ばれた。口を滑らせてしまった。

 

「あれは試供品だし特別品なんだぞ?!僕の友人達の機関が研究中の試作品で副次効果が分からないから誰にも食べさせないようにって僕個人用調整されて貰ってきた奴なのになんてことしてくれるんだっ!」

 

怒りだしたジジイの説教モード。

逃げられないと判断した俺はその場で座らされて延々文句を聞かされる羽目になっちまった。

 

しかしあの変な夢、なんだったんだ・・・・?

 

 

 

 

おしまい~、追加で解説的なの。

 

夢見ドロップ。休日本編にて登場したドロップで、夢幻会の辻政信が開発にかかわっているらしい。

食べた者に不思議な夢を見させる飴。

 



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ハニワ氏原案仮称ゲート南天ルートの最初期こんなんかな?な予想図SS。

 

 

 

 

 

ハニワ氏原案仮称ゲート南天ルートの最初期こんなんかな?な予想図SS。

 

 

 

それは一方的だった。

戦いにすらなっていない。

 

「ははっ、なんだよおい。この世界のブリタニア人形共はいくら何でも弱すぎるだろう」

 

KMFレイス、第五世代機に該当するフロートユニットを搭載したある下級兵が乗る機体は、敵軍のあまりものもろさに肩すかしを食らっていた。

自身が撃破しているのはヴィンセントウォードだ、皮だけなら間違いなくあの機体なのだ。

第七世代機に当たるそれを第五世代機のレイスで撃破できている。

 

「これがあのブリタニアの人形と同じ種族だって?人形以下だろこんなもん。ユーロピアのジャンク共といい勝負じゃねえか。はははっ、また一機も~らいっと」

 

他、両機として投入されている第七世代機や第八世代機に該当する機体に乗る連中は、鴨打よろしく次々と敵機を撃墜しているのだ。

特別な訓練に耐え抜いて選びぬかれたエース中のエースなどが乗る第九世代機に至っては面制圧すらこなしている。

 

「な、なんだこれはっ?何処の国のKMFだっ、っああああ!」

 

「こ、こんな、こんな馬鹿なっ、我々は世界に冠たるブリタニア軍の精鋭なんだぞっ、こんな、この様な一方的にやられるなどあっていいわけがっぐあああ!」

 

ブリタニア軍兵士の断末魔が破壊されたコックピット内に響いては一つ、また一つと消えた。

 

空を見れば第五.五世代機の統合打撃戦闘機群による狩りが行われている。

ハドロン砲や荷電粒子砲に加え、この世界の機にはほとんど搭載されていないミサイル兵器を使った殺戮劇。

こちらも正しく狩りだった。戦うかまたは逃げ惑うかする敵機の第五世代機があまりにも弱すぎて勝負にすらなっていない。

 

一方的だった。

蹂躙劇であった。

 

二線級の部隊でこれなのだ。一線級である懲罰艦隊の七天を加えた南天条約機構本軍が到着すればもうお話にならないだろう。

 

「総員侮るな。敵機が弱くともこれは盟主よりの天命である。この世界をあまねく南天の空の下とするべくに各々の定められた使命を果たせ」

 

旗艦空母サディケルのCICに立つ指令から全軍に通達される。

敵を侮ることなかれ。北側を相手に戦っていることと同じ意思を持て。

この作戦は南天盟主、我らが唯一神クリエイターL直々の勅命なのだからと。

 

「「「「はっ、全天に美しき世界の実現の為にっ」」」」

 

この世界の技術が遅れている。少なく見積もって一〇年以上の技術差があるのではないか?

 

合衆国オセアニアとニュージーランドの近海に、突如として海の中から出現した巨大な楕円形積乱雲。

海中まで伸びたそれの調査に当たっていたオセアニア軍の艦艇が、雲の向こうに出たところ、そこはオセアニアが喉から手が出るほどに欲する神根島近海であったのだ。

 

その神根島。どうやらブリタニア軍の旧世代の艦艇とよく似た艦艇や、自分たちの与り知らない戦艦なのか空母なのかよく分からない汎用性に乏しい艦艇が存在し。

空には大型から小型までの各種浮遊航空艦艇までが展開しており神根島はブリタニア軍に占領されているらしかった。

 

急な接触に敵対意思はないと告げ、接触時刻のすりあわせを行った時だった。

 

皇歴二〇一八年。

 

現代よりも五年以上前の時間帯。

しかもブリタニア軍は日本軍と敵対しているらしく、日本はブリタニアの制圧下にあるらしい。

こちらの所属を問われたがオセアニアと発言したところで先方よりそれは何処の国だと返された。

 

このことから、この世界は全く異なる別の世界だとオセアニア軍は感知し、謎の雲が異界と現世を繋ぐ扉であると判断したのだ。

 

 

 

日本が旧式部隊を使った異界のブリタニア軍に占領されている。

 

それも異界ブリタニア軍の艦艇の一隻一隻それぞれが旧式艦艇ばかり。

航空機も旧式。ならばとKMFの性能、世にありふれているらしいその情報を聞き出したところ。

現世世界の旧式である第五世代機でも戦えそうなほどに弱い戦闘力しか無い事が判明した。

 

異界のブリタニアとの接触の後、敵では無いというのならただちにこの海域より退去せよという勧告に従ってオセアニア艦艇は雲の中へと戻っていった。

雲の調査は向こう側でも行われているらしかったが、神根島のことがあり些事であるとあまり調査は進んでいない様子だった。

 

情報はただちに南天盟主創造主クリエイターLの元へと届けられた。

Lは異界のブリタニア軍のお粗末な軍事力を聞き及ぶに至り、異界という広大なる新天地を神である自身の下へと置こうと考えた。

 

「雲の向こうにはなにがある。それは空だ満天の空だ。空は我がものでなければならんのだよ君ィ~。私の下で管理されてこその空なのだよ。その空を我が南天の下に下すのだぁ~」

 

即座に招集動員が開始された南天条約機構。

しかしその総兵力は通常最大動員の五〇〇〇万ではなく、三〇〇〇万ほどの動員数に満たない。

その気なら八〇〇〇万の動員も可能としながら、動員数を大幅に減らした理由は現世世界で北側に察知されないため。

せっかく見つけた新世界。北側・・・日本・ブリタニアに邪魔をされては元も子もないと。

 

その先発隊として戦闘群一〇個艦隊百数十隻。航空機二〇〇〇機。浮遊航空艦隊三〇余隻からなる大規模部隊を第一陣として異界の扉へ送り出したのだ。

南天防衛には当面八個艦隊あればなんとかなる。秘匿兵器も無数に保有しているので中華連邦ごとき弱小国程度が相手ならば地図上から消し飛ばしてやっても良い。

 

Lの命令はただ一つ、神根島の奪取。異界の人形共には過ぎたるおもちゃを我が手中にせよ。それだけだった。

 

後続としては懲罰艦隊七天と自身の私兵軍。これに南天の巨大戦力を送り込み一気に異界日本を制圧中の異界ブリタニアを排除せよと下命した。

 

戦闘は一方的だった。

 

わずか一時間足らずで神根島周辺の異界ブリタニア軍を殲滅したのだ。

数の差、質の差、物量、神に命を捧げるべく戦うという戦意、全てに勝る南天軍の前に。

異界ブリタニア軍は撃破、撃沈、撃滅され、神根島は南天の空の下に治まった。

 

異界の扉を通じて第二陣の七天を加えた艦隊一二個群と巨大なる輸送船団が到着。

先発の一〇個群と合流を果たした計二二個群の巨大空母戦闘群は、幾つかの艦隊に別れて日本本土各地へと散っていった。

 

異界ブリタニアの魔の手からの日本解放。

 

これを叫び実行に移し、成果という形を出して各地のブリタニア軍を駆逐していく南天軍の圧倒的な強さ。

南天の兵は真摯だった。あなたにも神の施しがあらんことをと、各地で傷付いていた者。

ゲットーで助けを待っていた日本人達に慈愛の眼差しと救いの手を差し伸べたのだ。

 

それはまるで神の御使いのようで、疲弊していた日本人に希望を取り戻させていた。

 

そうして本当に自分たちを解放してくれるのかという期待も伴い、日本各国で南天軍は解放軍であると歓迎を受けた。

 

付けられている仮面の意味さえ知らぬまま。

 

 

 

初期作戦として位置づけられた日本解放作戦こと日本制圧作戦に投入された作戦機は一〇〇〇〇。

KMFも同じく一〇〇〇〇。艦艇は輸送船団まで合わせると一〇〇〇余隻に上り。

 

更には秘匿兵器ことフレイア弾道ミサイルを満載した戦略型潜水艦も数十隻と投入していたのだ。

南天は神根島とフジサン周辺区域を制圧した後に必要とあらば異界日本を地図から消してしまうという選択肢も用意していた。

異界日本だけに留まらない。邪魔となればあらゆる物を浄化する作戦も実行に移すだろう。

 

異界では第二次トウキョウ決戦と呼ばれる戦いの直後に辺り、疲弊していたブリタニア軍は片っ端から撃破されていき。

トウキョウの鴨打と南天から揶揄されるに至る戦闘を終え。

 

「つまらんな、人形劇の人形以下だ。ハエを叩き潰しているような気分だよ」

 

「ハエは生き物ですが異界のブリタニア人形は人形以下です、ジャンクですな」

 

「まったく、貴官の言うとおりだ。まだ現世ユーロピアのジャンク共のほうが・・・・いやどっちもどっちか。ゴミには違いない」

 

そして日本全土で異界ブリタニア軍と交戦し撃滅した南天軍は、あらためて技術力の差と自軍の優位性を知るに至り。

それ以下と考えられる超合集国という国家連合を形成していた異界日本と、異界ブリタニアの停戦派や旧皇帝派を含めた行政府との接触を図る。

 

「初めまして超合集国の皆様方。そして平和を望む皆様方。我々は異世界の地よりあなた方の苦境を知り、力少なくながらもお力添えになりたいと参上した者でございます。ご挨拶が遅れました。私は合衆国オセアニア南天条約機構軍異界救出艦隊司令の――」

 

甘い仮面と笑顔を貼り付けて、その本心を隠しながら。

 

 

 

 

 

 

 

終わり~、南天側が近未来ということで建造中だった艦艇や第九世代機も量産配備している状況で~す。

このため原作世界側に送り込まれた南天軍は作戦機一〇〇〇〇機、KMF一〇〇〇〇機、戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、輸送艦艇、揚陸艦艇、補給艦艇等の艦艇一〇〇〇隻余。

これに当然機甲戦力も持ち込まれており動員兵力は三〇〇〇万と仮定しておりま~す。もちろんフレイヤ弾もダモクレス真っ青な数を用意しております笑い。

Lは本気で世界一つを手に入れるようです。

 

 



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出会いは運命

 

お口直しのネタ~。

 

嶋田さんモニカさんラブラブネタです~。

 

 出会いは運命

 

「そういえば我が騎士モニカさん」

 

問いかける嶋田に、金色の髪を揺らしてモニカ・クルシェフスキーは笑う。

 

「くす、自分の騎士にさん付けなんてしませんよ?」

 

さん付けは必要ない。

騎士としてのモニカには、「モニカ」と呼び捨てにすればいいのだ。

 

「ああ、いや、今更君のことを呼び捨てにするのはなにか悪い気がして」

 

嶋田は罰の悪い顔でぽりぽりと頭を掻く。

 

「それでは私も繁太郎様と呼びますよ?」

 

ぺろっと舌を出し片目を瞑りウインク。

真面目なモニカのあまり見せないその姿に、嶋田の胸が熱くなる。

 

こんな姿を見せてくれるのは自分の前でだけ。

 

特別、という感情に思わず少年のようにときまく嶋田。

 

「こちらへ」

 

モニカは嶋田の傍により、彼の手を引いて、リビングの椅子に座らせた。

 

「お聞きしたいこととは何でしょうか?」

 

「ん? え、ああ、いや君のご両親についてなんだが、何でもお母様は地方貴族出身だとかで、大貴族のクルシェフスキー侯とどのようにして知り合ってのかなと、まあ素朴な疑問だよ」

 

父と母。

何れは義父と義母となる年下の両親について、嶋田はどのような人物なのかを尋ねる。

 

「嶋田さん・・・・繁太郎さんは私の両親とお会いしたことがあったのでは?」

 

「ああ、まあ海軍の現役時代にね。その頃はまだ君は生まれてなかったんじゃないかな?」

 

「・・・・私が生まれる前」

 

「といってもそれほど深く話をした訳でもない。こちらは提督とはいえ一介の華族伯爵家だ。各上の侯爵家とそれほど馴れ馴れしくもできないだろう? まあ、宰相となった時にはある意味立場が逆転していたけれどね」

 

それでも深くは知らない。

正しくはクルシェフスキー家については深く知っている。

なにせクルシェフスキー家と日本は長く深い付き合いのある相手同士だからだ。

 

嶋田の父命周や、祖父、曾祖父も、クルシェフスキー家との親交は厚かった。

 

「ただ奥方の昔についてはあまり知らなかったのでね。立場の違う者同士、どうやって出会ったのかが気になったのさ」

 

「・・・・・私。」

 

モニカが座らせた嶋田にそっと、静かに抱き着いた。

 

「え、あ、ちょ、モニカ、さ」

 

嶋田に優しく抱き着くモニカ。頬をすり合わせて来て。嶋田の顔は真っ赤になる。

 

「私と、繁太郎さんも、立場の違う者同士・・・・・、私は、私の両親たちのような、運命的な出会いだと感じてしまったのです」

 

いえ、運命の出会いです。

そう言って、モニカは両親のことを話すでもなく嶋田に抱き着いたまま、彼の頬に一つ唇を落とした。

 

「繁太郎さん・・・・・好き・・・・」

 

 

 

そいじゃさよなら~(;・∀・)

 

 

 

 



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「俺の騎士。俺だけの騎士モニカ・クルシェフスキー、か」

 

 

「俺の騎士。俺だけの騎士モニカ・クルシェフスキー、か」

 

こんなこと、一昔前までは考えられなかった。

 

この四年間を同居しているモニカさんだが、彼女は親友で幼馴染のシャルルさんの騎士であって俺の騎士ではない。

 

ナイトオブトゥエルブ。

 

その名はとてつもなく重く、大きい。

 

神聖ブリタニア帝国皇帝の直属騎士の中でも1と12は特別だと聞いたことがある。

 

その12が12席次としてではなく、個人モニカ・クルシェフスキーとして俺に剣を捧げてくれた。

 

それは誇らしくもあり。

 

同時に背徳感もある。

 

シャルルさんと俺、二君に仕えるという矛盾は二心となって彼女を苛んだりしてはいないだろうか?

 

彼女は真面目だ。正義を信じ、義に厚く、強気も弱者も関係ない。すべての人々に平等に正義が降り注がれなければならないといった。

 

ある意味で理想主義。そして同時に実現できる範囲の望みと願いを持っている。

 

そんな誇り高い彼女に二心を抱かせるような事が許されていいと思えない。

 

俺のせいで彼女が二君に仕え二心を持つとなってしまったのなら、そう考えるとなんだか申し訳ない気分にもなってくる。

 

彼女の母君は田舎の小貴族らしいが優しく誇りある女性だと伺っている。

 

そして彼女の父君はブリタニア西海岸貴族の盟主であるブリタニアきっての大貴族、クルシェフスキー侯爵。

 

俺みたいな元サラリーマンな、なんちゃって華族伯爵がモニカさんの剣を捧げる相手として相応しいのだろうか。

 

俺の正体は平のサラリーマンで平民。前世では多くの人間を殺した殺戮者でもあり、この手は血で汚れている。

 

そんな俺が、モニカ・クルシェフスキーという美しく誇り高く、穢れを知らない騎士に、剣を捧げられる。

 

嬉しくもあるが申し訳なくもある。彼女にも告げるべきなのだろうか。俺にその身のすべてを捧げてくれている彼女に。

 

俺が実はただのサラリーマン神崎博之で、前世では大虐殺を犯した男だという事実を。

 

誇り高い彼女にこんな俺を知られること、正直言って怖くもある。

 

彼女が剣を捧げてくれたとき、いやそれ以前に。

 

俺はモニカ・クルシェフスキーという女性に恋をしたのだから。

 

俺の事実。隠しているすべて。すべてを捧げてくれているからこそ彼女にだけは打ち明けるべきか。

 

もし打ち明けて、拒絶されたらどうしよう。

 

思春期の少年でもあるまいに、それでも自分の恋心が否定されてしまいかねない事実を俺は隠し持っていた。

 

墓まで持っていくべきなのか。

 

主君と騎士。信頼をこそ最も大切とする関係であるモニカさんにこの事実、打ち明けるべきなのか。

 

ああだが、本当に拒絶されてしまったらどうしようか。

 

彼女を愛してしまっている自覚が強いからこそ、彼女から恐怖や畏怖の目で見られるようになるのは耐え難い。

 

「本当、余計なことばかり考えてしまうな・・・・・なあ、神崎博之よ。ただのサラリーマンよ。お前は、俺は、愛する人モニカ・クルシェフスキーにどう向き合うべきだと思う?」

 

嶋田さん。最近では繁太郎さんと親しみを込めて呼んでくれる麗しの我が騎士は、いまここにはいない。

 

ここにいるのは平リーマン、神崎博之だけ。

 

悩みは尽きない。

 

 

 

 

 

 

 

 

嶋田繁太郎としての嶋田さんは間違いなく心が強いと思う。

でもただのサラリーマンだった神崎博之さんは嶋田さんほどには心強くない面もあると思うんよね。

その弱い平民、神崎さんは内心でモニカへ自身のことを打ち明けるべきか悩んでいると思うんよ。

ユフィルートの方では血を吐く思いで自分の手は血に濡れているって告白して、でも優しいユフィにすべてを受け入れられた。

ではモニカルートの方の嶋田さんはどうなんだろうと思ったんよ。

モニカにはまだ自分の秘密を打ち明けてないはずやから、悩んでるんやないかなって。

 

 



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玉城inキスver.マリーベル

オズR2のコミックが発売されていたから読んだよ。
マリーが最悪なまでの墜天をしていたよ もう彼女に幸せは来ないよ。
なことからマリーの平和な日常の一コマを書いてみたくなった。
不可能といわれてる玉城←マリーベルのフラグありの絶対にないルートながら大目にみてやって。
玉城はBARのマスターでなくバイトで金欠
玉城BARにグリンダが入り浸る


 

 

玉城inキスver.マリーベル

 

 

 

 

自分の限界にぶち当たり夢を諦めた俺は酒場でアルバイトをしていた。

 

「んなことがな あったわけよ」

 

「それは大変でしたわね」

 

洗浄済みのグラスを拭き拭き日々の愚痴をこぼす相手は昔の競争仲間であるいいとこのお嬢様だ。

ちーと前のことになる。

俺はなけなしの生活費をまるっと競馬で擦っちまってよお 大家のちび親父ン家に頭下げにいったわけ。

したらばどっかで見覚えある女がいてな そいつが豆鉄砲喰らったみてェな顔して「兄様」なんていってくるわけよ。

俺にはこんな美人で外国人な妹なんざいねーしさ 目ェ腐ってンじゃねーの?って突っ返したんだ。

なんぼ美人だつっても頭の変な女はお断りだぜ。

そしたら変わってないだって笑いやがって「あの日シン兄様よりいただいたコンペイトウ 美味しゅう御座いました」よ。

ずっとまえの大学受験に失敗したときベンチで休む俺の横でべそ掻いてたアイツ。

親父ンとこから逃げてきたっつーから この俺様が直々に説教たれてやったあのガキだったんだよ。

昔は泣き虫のちびっ子だったくせしてまあエライ変わりようだったから気がつかなかったわ。

ちび親父の弟の娘なんだとよ おじさんに用があって来日してたら偶然にがっちゃんこしたって話さ。

聞けばなに 念願だった警察官にもなれたそうで順風満帆らしいじゃねーか。

どっかの犯罪組織のボスを逮捕したとか自慢してた。

こっちは古ぼけたBARでバイト生活だってのに・・・・

どっちが先に夢叶えるかの勝負をしていたあの頃が懐かしいぜ。

 

再会してからは俺がバイトしてるBARにちょくちょく来るようになった。

職場の部下を引き連れて団体さんで来店することもあったんで店長大喜びよ。

金持ちらしく景気よく注文してくるから儲かって儲かって。

そのくせ俺の給料やっすいままなんだからざけんなっつうの。

 

「兄様はお金にお困りですの?」

 

イヤなご質問をされてきやがりますねえ大金持ちで公務員のお嬢様よぉ。

ちび親父に金貸してくれって頭下げてたのみられたからしゃーないンだが気分わりーぜ。

 

「困ってるっていいますか万年金欠でごぜーますよ ペンドラゴンっつー高貴なお方々がお住みになられてる都市の住民サマならわかってンだろーが東京は家賃も物価もクソたけぇーの余裕ねーのキッツイの」

 

地方都市と比べて先進国の首都はどこもかしこも貧乏人には住みづらいときてやがる。

底辺はあっちいけってわけですかはいそーですか。

貧乏人舐めてンならそのうち革命起こしてやるからな。

 

「お嬢サマはいいよなぁ元から金持ちで夢だった警察官にもなれて 俺なんかこの歳でバイトで安月給だぞコノヤロー」

 

都会の片隅で格差社会をみた。

 

「金が金を生み出す金持ち一族ってずるいぜ」

 

ぜってー悪事で儲けてるとおもうんすけど。

 

「そうは申されますがしがらみも多いのですよ?」

 

しがらみ多くても生活は余裕だろうが。

なに貧乏人disってくれちゃってますのこのオジョーサマ。

 

「でも金には困らねえだろ 再会してから今までおまえから金に困った話なんざこれっぽっちもきいたことねーぞ」

 

コイツだけじゃなくちび親父の娘のクララからもお小遣いピンチとか聞いたことがなかった。

クララのことはアイツがまだ小学生の頃から知り合いだったんで小遣い事情もよく知ってんだよ。

アイツが小学生のときお年玉で三桁いったと抜かしやがったときゃあお面つけてカツアゲしてやろうかと思った。

 

「おまえらの一族って具体的にはなにして儲けてんだ?クララのヤツも家がなにやってっか教えてくんねーしVVのおっさんが不動産経営してるぐれーしか俺知らないぞ」

 

「それはーー 色々ですわ」

 

裏がありそうな笑顔で誤魔化してくれやがるお嬢様。

けっ おまえまで秘密主義かよクソが。

 

「クララも秘密主義 ナナちゃんも秘密主義 ルルーシュもコーネリアもみーんなして秘密主義でごぜーますか」

 

大金持ちの資本家サマは内々でよろしくやってるから貧乏人なんか相手にしてらんねーってか?

はいはい金持ちは謎が多くてミステリアスでよーございましたねー。

 

「ごめんなさい兄様 これはいわゆる守秘義務 禁則事項ですのよ」

 

指を唇に当てて片目を閉じウィンク。

美人がやると効果抜群で店ン中にいるヤローな客がいい女だ~とやたらざわめいていた。

いい女かといわれたらそりゃまあいい女なんだろう。

腰にかかる薄紅なロングウェーブヘアは前髪センター分けで表情がよくみえてな。

有名芸能プロダクションのトップモデル並の美貌が眩しい輝きを放ってんだ。

クララより若干歳上だとしてもさすがに発育よすぎな胸部が目を引くし 物腰穏やかな態度と言葉遣いがいいとこのお嬢様だってことを仄めかしてやがる。

美人でスタイルグンバツで性格良くて金持ち どんだけ完璧超人になりゃあ気が済むんだよ。

化けすぎだよな。

ホントに美人 まったくしらねー赤の他人だったらナンパしてた自信があるほどにとびっきりの美人さん。

美人で能力もあって金持ちなお嬢サマ。

フツメンで貧乏でお先真っ暗の俺サマ。

神様って奴ァはとことん不公平だった。

 

「そろそろお暇させていただきますわ お代のほうはおいくらですの?」

 

「57780円」

 

「まぁ ずいぶんお安いのですね」

 

安いってコイツ感覚おかしいだろ。

 

「おめーよォ メシだけ食って60000近くは普通の感覚じゃめちゃ高いんだぜ」

 

たっけーモンばっか注文しやがるの。

こんなモン腹一杯喰ったら俺なんか逃げるぜってのばっか喰っちゃってんだぜ?

 

「あらそうですの?」

 

目ェまんまるにしてびっくりしてやがる。

上流階級のお嬢様には一生かけてもわっかんねーよバカ野郎。

おまえらと付き合ってたらこっちの感覚までぶっ壊れちまわぁ。

 

「アタシからみても殿下の感覚は絶対におかしいんだぜ?」

 

おまえが言うなよ。

おまえが滅茶苦茶喰いやがるからこんな金額になってんだろーが。

ちょっとは遠慮しろよ。

 

「殿下ってなんだそりゃ マリーのアダ名かなんか?」

 

マリーってなぁお嬢サマの愛称だ。

俺にはこれで呼べって言ってっから呼んでるが女を愛称で呼ぶなんざガキの頃以来じゃね?

 

「おおーっとこりゃあたまきちくんの前で失言失言 ちょっとした言葉のアヤってやつさ-気にしなさんな」

 

みてのとおりマリーはひとりじゃなく職場の部下と一緒だった。

その部下のやたらとにゃーにゃー言ってる姉ちゃんがいっぱい注文してくれたおかげで売り上げが大きかったんだよなァ。

俺の給料にも繁栄されねーかなぁと密かに期待してるんだぜ?

にゃーにゃーうっせーけどその喰いっぷりには拍手してやろう。

 

「むむ~ッ たまき~ん いま失礼なこと考えなかったかにゃ~?」

 

青緑のショートカットをしたにゃーにゃーちゃんがきゅぴんと勘を働かせて睨んできやがった。

いい勘してるぜコイツも。

 

「おめーのおかげで売り上げが伸びたっつー感謝の念を送ってたンだよ」

 

「ほほう それはそれは・・・・・ ふ~む殊勝な心掛けだにゃ どれどれ褒美のちゅ~してあげようちゅ~」

 

「うォいコラおまえまじかッ」

 

裏表が無く明るい性格のにゃーさんはソキアっていうんだが コイツは俺とはウマが合うのかよくこうして絡んでくる。

コイツもまた美人さんなのでこう悪意なくじゃれつかれるのはちょっと役得だった。

ほっぺたにちゅーしてくることもあるくらいに人懐こいやつだから気軽に話できるのもポイントたけェ。

惜しむらくは胸がささやかでコイツも色気っつーもんを持ってないのが首尾範囲外な点。

俺の知り合う女はなぜか共通して一点だけが足りない 色気のある美人で巨乳 この必須条件を満たしてくれる女が皆無なのが悩みだった。

一人だけマリーと同じおっさんの姪でデカパイ女のコーネリアという美人さんがいるにはいるが相手にされねーしよォ-。

そういやマリーの直属の部下とかいう女も美人で巨乳だったぜ オルドリンっていうやつ。

出会い頭に喧嘩売られてついでにマリーには笑顔で睨まれたが。

俺とは性格あわねーし蛇蝎の如く嫌われてっけどマリーとセットだと絵になるんだぜ。

 

「うふふ~シン兄様ぁ ソキアぁ 冗談が過ぎますわよ~?」

 

悪ふざけとノリを全開にしていたソキアとノリにつき合っていた俺を止めたのは他でもないお嬢サマ。

笑顔のまんま黒いオーラを背景に背負っているのがなぜかみえる。

 

「あ あはははノリ悪いにゃ~ たんなるおふざけなんだぜい」

 

「そうそうっ ふざけてなきゃこんな人目のあるところで普通キスなんかしねーよなっ」

 

「そう 人目がなければ口付けを交わされますの」

 

「「ナイナイナイ交わしませんっ そんな仲ではござーませんっ」」

 

ぶんぶん首を振って否定。

冗談が通じないほど怖いこともない。

ソキアと俺のどこをみたらンな関係だったり恋愛的感情が芽生えてると思えるよ?

冗談で俺がいい男だからって惚れるなよとかいったことはあったが「姉さんにも好みがあるさー たまきんはゴメンナサイだぜい」

なーんつって一刀両断されてるってのに目が笑ってねぇぜ人殺しの目ェしてるぜ おまえどんだけ恋愛事に免疫無くて心に余裕がねーの?

マリーって高校三年か大学一年か歳的にゃそんくらいだったろ。

俺がそのくらいの頃は女や恋愛事に興味津々だったぜ?

ああーでもちょっともったいなかったなー 悪ふざけのキスでもキスはキスだ。

年上美女が好きで美少女はお呼びでない俺でも美少女のキスをもらえるってならそらほしい。

ああやっぱもったいねーわぁ。

 

「兄様ぁ~?」

 

「ひぃぃぃ!」

 

やべえ目がらりってるよ。

ヘンなクスリでもキメちゃってンですかよ。

 

「殿方は色を求める性をもちこの世に生まれ落ちると申されますけれど程々になさいませ」

 

おまえは俺のおかんか!

ソキアもなんかつっこめ!っていねーし!?

アイツ逃げ足はえー。

 

「それと これ少ないですけどとっておいてくださいな」

 

勘定をするマリーが食事の代金に加えて差し出してきたのは諭吉さん。

複数人の諭吉さんが俺に手を振ってくれてますコンニチハ。

 

「ナンスカコレ?」

 

「チップですわ 兄様のお給金が少ないとお聞きしましたのでなにかの足しにでもと思い」

 

ヨーロッパ系の国の風習。

元々は欧州が本拠地だったブリタニアにもチップの風習はある。

ブリタニア人のくせにチップどころかチャリンもくれねードケチなちび親父とはエライ違いだぜ。

ありがたやと小躍りしたい気分だった。

 

「兄様」

 

「なんですかお嬢様 もっとサービスしろってンならサービスしまくりまー」

 

チュっ

 

ん?

 

「むぐっ!?」

 

あれ?

なんかくちびるがしめっぽくてやわらかいんだけど。

息ができないんですけど。

アップになったお嬢様のお顔がみえやがるんですけど。

 

「ぷはっ!」

 

なにされた?

コイツなにしてきた?

なんか唇がとっても甘酸っぱい感じがして。

頭ン中こんがらがって。

 

「!?!?」

 

「ウフフ それではお暇致します」

 

エ?

俺もしかしてお婿いけなったの?

 

店の扉をあけるマリーがこっち振り返ってまた来ますだと。

 

でもつぎ会うときどんな顔すりゃいい?

最終更新:2015年06月14日 16:09

 

 

 



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ゲームオーバー~終焉のソビエト~


900 :202:2013/05/02(木) 20:32:24
ちーと失礼する。
休日氏の一部設定投下で熱出て勢いのままに書いてみた。

休日氏の宿敵(とも)時空を超えて 68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEU 影響を受ける人氏の憂鬱×ギアスにおけるKMF関連大清連邦編ごちゃまぜ設定 嶋田とモニカの娘の名前は二二三氏の設定拝借。
ダメなら申し訳ない。

へったくそだが良けりゃ暇つぶしに。

901 :202:2013/05/02(木) 20:32:54



 

 

 

 

ゲームオーバー~終焉のソビエト~

 

 

皇歴2027年

 

 

 

後に その範囲の広さから【世界大地震】と呼ばれるM6.3の世界同時地震が発生。

日本・ブリタニアは震度5弱 中華連邦・EU・清・高麗はそれぞれ震度4 南ブリタニア・アフリカ・東南アジア・オセアニアは震度3。

と それぞれ地域ごとのバラツキこそ見受けられたが 大凡震度3~5弱の地震であった。

 

最も大きな揺れに襲われた日本・ブリタニアでは死傷者0 経済インフラにも一切影響なしであったのに対し

震度4の高麗では揺れに驚いた一部の市民が暴徒と化し 略奪と強姦が行われるという以外は建物の倒壊などごく一部で済み

世界全体が地震に見舞われた割に死傷者数百人という 最小限の被害で抑えられた。

特に日本本土とブリタニアのクルシェフスキー侯爵領では 「あ ちょっと大きい地震」 程度にしか感じておらず 混乱らしい混乱も無しのタフさ加減を見せていた。

日頃から地震火山等の災害に見舞われている日本と侯爵領ならではの異質な風景であったが それを考慮しても尚 世界は平穏に流れようとしていた。

 

 

が・・・

 

 

ここに招かれざる客がやってきたことを世界は知る事になる。

 

 

もっとも 招かれざる客ではなく 客のほうが招かれたくなかったというのが正しいのであろうが。

 

 

 

 

大日本帝国

 

 

 

「お父様!」

 

「ううん・・・」

 

「お父様起きて~~~!」

 

大型連休のこの日 昼まで寝ているつもりだった嶋田繁太郎は娘のサクラに揺さぶられて目が覚めてしまった。

 

「なんだ・・・ 休みくらいゆっくり寝かせてくれ・・・」

 

「お父様は年中お休みでしょ? とにかく起きてよ~~~ テレビで凄いことしてるから」

 

どうでもいい事であった 別に休みの朝から見るような番組など無いから。

しかし よほど珍しい番組でもやってるのか サクラはぐいぐい引っ張る。

しつこい娘に根負けした彼は 二度寝するのを諦めて渋々と布団から起き上がった。

 

「わかったわかった わかったから服引っ張るのはやめなさい」

 

「は~い!」

 

(はァ~、 朝からなんなんだ?)

 

娘に手を引かれて居間に連れて行かれた嶋田は つけっぱなしのテレビを見遣った。

映っているのは100年近く前の古い戦車 今では博物館でしか見られないだろうT-34っぽい戦車が整然と並び行進していく映像。

 

「映画じゃないか」

 

偶に制作される昔の映画 夢幻会や転生者の人間が 前世の体験を元にして作る戦争映画の一風景。

実体験を元にしているからか臨場感溢れる戦争シーンは この手のマニアから高い評価を受けている。

だからといって別に珍しくも何ともないありふれた映像だ 起きて損したと思った嶋田ではあったが (偶には見てみるか) と娘が張り付くテレビの前に座った。

すると娘がとんでもない事を言いだした。

 

「これ映画じゃないよ 本物の古い戦車が動いてるんだよ すごいでしょ~~!」

 

えっへん! 胸を張るサクラに嘘はいけないと思った彼は注意する事にした。

今時 どこの国がこんな戦車を大量保有して機甲師団さながらの軍団を編成して動かしているというのだろうか。

 

「こら 嘘言っちゃダメじゃないか お母さんに怒られるぞ」

 

「嘘じゃないもん!」

 

作文で 将来は立派な騎士様になりたいです なんて書くくらい騎士である母に憧れを持つ娘は この歳で戦車とかKMFに興味を持っている。

とても女の子が興味を持つ物じゃないと思いながらも母の後を追いかける娘を見守っている彼は 次に聞こえてきた台詞に自身も釘付けにならざるを得なくなってしまった。

 

『お おいマジかよっ こっちに向かってくるぞっ!』

 

テレビに向かって行進してくる戦車が画面いっぱいまで接近したところで発砲 轟く轟音と阿鼻叫喚の悲鳴。

 

「な なんだこれはっ」

 

地面に落ちたと思われるカメラの映像には吹き飛ばされた人の身体 ミンチ状態のグロテスクな死体が映し出されている。

 

「さ サクラっ この番組は一体なんなんだっ」

 

「う~んとね 清の旅番組で シベリアの国境に来てるんだって」

 

EUと領土紛争を抱える仮想敵国で旅番組となると おそらくは舞朝系列のテレビ局。

日清友好を主張するあからさまな売国奴たちだが 未だ生き残れているのは腐ってもギリギリで止められる自制が利いているからだ。

しかし旅番組でなぜこんな映像が? 尽きない疑問の答えは直ぐに明かされる事となった。

 

902 :202:2013/05/02(木) 20:33:26

 

ジリリリ!

 

鳴り響く自宅の電話 なにか嫌な予感がする。

 

「はい嶋田でございます はい はい 少々お待ちください」

 

出たのは嶋田家の家政婦さんで 「旦那様にお電話です」 と 受話器を渡された。

 

「はい嶋田です」

 

『村中です お休みのところ失礼します 閣下はいまテレビご覧になってますか?』

 

電話の相手は村中だった。

 

「ええ・・・ なんですかあれ?」

 

『あれはやらせではなく 本物の映像ですよ 実は先ほど通信機器・電子機器に一斉にノイズが入りましてね 直ぐに回復したのですが』

 

「あれが映ったと」

 

『はい いま近衛閣下や辻閣下が緊急招集を掛けています ご引退なされた嶋田閣下にはゆっくりしていて頂きたいとの配慮で 連絡だけとなりますが 後日 会合にご出席して頂く事もございますので その時は御容赦ください』

 

といいつつ電話を掛けてくる辺り休ませて貰えないようだと判断した彼は 「わかりました」 とだけ返事をして深い溜息を付いた。

 

(あああ~!俺はなんでゆっくり休めないんだ~~~~!)

 

 

 

 

三日後。

 

何のかんのと言いながら やっぱり参加する事になってしまった会合の席で明かされたのは。

 

「結論から申し上げますと EUロシア州が――ロシア熊 イワンと入れ替わってしまいました 原因はまず間違いなくあの世界同時地震です あれの余波か何かで時空振が起きたと推測されます」

 

「時空振にソビエトが転移してきただと? 聞きたくもないがなぜ言い切れる?」

 

「あの映像のT-34っぽい戦車が本物のT-34だからです 清に潜り込ませている諜報員からの情報で三日前の映像は第三国の軍事侵攻であり 舞朝系のテレビスタッフが巻き込まれた事が判明しました

 追加の報告では その第三国の軍隊と清国軍が交戦 捕まった捕虜から赤軍の名前が出たそうです 序でにこの三日間で集めた情報と衛星写真からシベリア一帯に大規模な軍集団が展開しているのも確認できましたし

 写真に写っていたどれもがソビエト製の兵器でした 戦車航空機ともに赤い星のマーク そしてこれが決定的でしたがワシレフスキーの姿が映っています」

 

おお~!!

 

わき上がる歓声のようなどよめき。

 

「久しぶりじゃないか」

 

「元気にしてたか」

 

冗談を口にする者 懐かしむ者 三者三様の反応を示す会合メンバー達。

 

「で 清に侵攻した軍集団はどうなった?」

 

現実主義的な山本だが 並行世界への転生を経験したのと会合メンバーが二回も転生していることで科学で解明出来ない事があると知ったせいか ソビエトがやってきたことにそれ程驚いてなかった。

だからか普通に経緯を聞いた訳だがとっくに予想は付いている。

 

「清の国境を突破した部隊はほぼ殲滅されましたね」

 

「まあ そんなところだとは思っていた」

 

「極東ソ連に集まっている戦力は100万を超えています おそらく史実世界か類似世界からの転移だと思われますが あの地域にこれだけ集まっているということは

 ソビエト時間は西暦1945年7月下旬 乃至 8月頭ですね 技術体系の違いこそ在りますが80年以上の開きがあるのですから勝負になりません」

 

「サザーランドコピーやガン・ルゥ それどころか戦車装甲車どれをとってもソ連に勝ち目はありませんよ 一方的なタコ殴りです」

 

哀れソ連 誰もがそう思う中 山本を引き継ぐ杉山。

 

「聞いたところで意味ないかも知れんが 極東ソ連にはどれくらいの戦力が集まっているんだ?」

 

「モンゴルとアムール 我が国の領土 千琴とカムチャツカと樺太の分が無いと思われますが それらがシベリアのどこかに現出している可能性を考慮して最大兵力は1577725人

 迫撃砲も含めた火砲が26137門 戦車自走砲5556両 航空機3446機 あと太平洋艦隊が巡洋艦2隻 駆逐艦掃海艇12隻 潜水艦78隻 航空機1549機 兵力110000人 以上ですね」

 

膨大だ 膨大な戦力であった かつてなら頭を痛めていたところであろう大戦力 だがしかし。

 

903 :202:2013/05/02(木) 20:34:12

 

「詰んだな」

 

「ソ連がな」

 

おそらく動員を掛けている清は兵力2000000はいくだろう 皇歴2027年現在夏候が150騎 ジェンシー及び改良型800騎以上 ガン・ルゥも増産に次ぐ増産で2000騎を超えている。

戦車などの装甲戦闘車両も約10000両 地上戦艦竜胆・芳珠16隻 航空機もソ連とでは話にならない格差の第五第四世代機が600機。

海上戦力も無理して空母1隻に巡洋艦2隻追加建造した分があるから空母2 揚陸艦4 巡洋艦8 駆逐艦16 フリゲート10 潜水艦8 哨戒艇その他220となっている。

そして これら全てに圧倒的テクノロジーの差が追加されるのだからもう幼児と格闘家が喧嘩するようなものだ。

 

「しかし何も知らん鉄の男はモスクワで 「撤退は許さん!」 とか叫んでいるのだろうな」

 

杉山は写真のワシレフスキーに手を合わせる 他のメンバーも黙祷。

 

「さて 冗談はここまでにして 千琴・カムチャツカ・樺太と連絡が途絶えた 現地の部隊がシベリアに転移した となれば強欲な熊さんはこっちにもくる可能性が高いと考えますがみなさんどうでしょう?」

 

全員に対し質問した辻に メンバーは皆首を縦に振っている。

 

「まあくるだろ 来たら来たで叩き潰すだけだが」

 

「問題は既に日本人が犠牲になってることだな」

 

舞朝系テレビスタッフのことである。

自業自得な売国奴なんて放っておいても問題なしと考えていたが あの映像が海南・南洋から千琴まで日本全国のお茶の間に流れてしまったお陰で報復の声が大変な事になっていた。

 

“あんな骨董品を使ってる連中に日本が舐められた”

 

“政府は直ちに報復攻撃を”

 

“清に加勢するのではなく 日本人に手を出したらどんな目に合うか 世界に思い知らせてやるいい機会だ”

 

「国民の声を無視するわけにはいかんが もう一度チャンスをやろうといっても聞かないだろうからなあの熊は」

 

スターリンという男はとにかく強欲で とくに領土欲が異常なまでに強い。

期せずして千琴・カムチャツカ・樺太を失ったのだから 確実に攻め寄せてくる筈だ。

 

「ではもしも 確実にといったほうがいいでしょうか? 千琴・カムチャツカ・樺太のいずれかにソ連が軍を進ませた場合 即報復 これでよろしいでしょうか?」

 

「異論はないが 向こう側と接触して衝突を回避することも考えておくべきだろう」

 

「ええ そこはもう枢木さんが接触を試みています もちろん舞朝のテレビクルーの一件は謝罪させ 賠償を要求することになりますがね」

 

「謝罪と賠償か・・・ 嫌な言葉だ」

 

904 :202:2013/05/02(木) 20:35:27

 

大清連邦

 

 

「あの原始人は確かにソビエト連邦と言ったのじゃな?」

 

三日前に突如シベリアから清国国境を突破してきた軍隊 その装備は80年以上前のもので報告を受け取った清国最高指導者の一人である高亥は 信じられんと言いながらも完全なワンサイドゲームに

タイムスリップという名の超常現象を思い出し 疑った。

 

「はい 間違いなくEUでも ユーロピアでもなく ソビエトと」

 

「聞いた事のない名じゃ・・・ う~む つまりいまEU領シベリアを含むロシア州はソビエトなる国と入れ替わっておる ソビエトなる国はあのような骨董品で身を固めておる そういうことか?」

 

「御意にございます」

 

「ふむ」

 

少しの間考えを巡らせていた彼の唇に笑みが浮かんだ。

 

「絶好のチャンス到来かの」

 

骨董品で身を固めた軍しかいない相手なら最初から結果は見えている 現に国境を突破してきた10万を超える敵軍に対し 国境警備隊と二個師団の兵 計3万で敵を殲滅できたのだから。

それもこちらの被害は故障によるジェンシーの停止数騎と 奇襲による攻撃で歩兵が数十名死傷しただけで 相手側はほぼ全滅。

こんな軍事力しかない国が相手なら領土拡大のまたとないチャンス そう見た彼は直ぐさま清国北方の国境沿いに集めていた100万の兵に号令を下す。

 

 

 

「勇敢なりし大清連邦の精兵たちよッ 先日卑怯にも奇襲攻撃を仕掛けてきた原始人は我らの友人や私の家族ともいうべきそち達の仲間を死に追いやったッ!

 このような分別持たぬ卑怯な原始人を北の地に野放しにしておくは危険極まりないことであるッ なにより躾けをしておかねば またぞろ愚かな事をしでかすであろうッ!

 神聖なる大清連邦の地に土足で足を踏み入れた原始人共に鉄槌を下してやるのじゃッ!!」

 

905 :202:2013/05/02(木) 20:35:59

 

高麗共和国

 

 

「皆知っていると思うが 我らの弟分である清が未知の原始人と戦争を始めようとしている!」

 

高麗大統領は期待に胸を膨らませているのか自身満々に言い放った。

 

「我らも共に行こう!原始人を征服して偉大なる高麗民族の生存権を拡大するのだ!」

 

“おおーっ!!”

 

 

 

「やれやれ 腐った最高司令官殿はまた調子に乗っているのか」

 

 

首都防衛隊のリム大佐はガイストの整備を見守りながら呟いた。

 

 

「ふん あんな汚物でも我らの司令官だ 口を慎めよ?」

 

 

それを咎めたのは首都防衛隊指令で双子の兄 キム少将。

 

 

「兄さん」

 

「今のを誰かに そうだな 私のようにお前が嫌いな奴に聞かれたら軍法会議物だぞ」

 

「じゃあ私は軍法会議に掛けられるのですか?」

 

「生憎 私の耳はお前の汚い口から出る言葉は幾つか聞こえん物があるのでな」

 

「ふふ そうですか なら兄さんの前では腐った司令官と言っても大丈夫そうですね 聞こえないのですから」

 

「勝手に独り言でもほざいていろ 愚かな弟のくだらん話を聞いているほど偉大なる兄は暇ではないのだよ」

 

906 :202:2013/05/02(木) 20:36:46

 

E.U.ユーロ・ユニバース枢軸会議

 

 

 

 

「最悪だ・・・」

 

ロシア州が消滅!

 

現れたのは80年以上前の軍事力を持つソビエト連邦と名乗る国家!

 

ソビエト軍大清連邦国境を突破するも鎧袖一触され殲滅された模様!

 

新聞・テレビを賑わす報道に頭を抱えているのは表舞台に現れてより数年 EU経済立て直しに奔走するアドルフ・ヒトラーEU総統。

同じく溜息を付く枢軸会議のメンバー達 三日前 全ての通信機器・電子機器にノイズが走り ロシア州との連絡が途絶えたかと思えば ウクライナ州・ベラルーシ州から 「ロシア州よりレシプロ戦闘機現る」 の一報が入ってきた。

何の冗談かと思ったものの衛星写真 航空機を飛ばして確認したところ 近代的なビルが建ち並ぶロシアの町並みは消え 自分たちが第三帝国世界の時代に散々見た風景に様変わりしていたのである。

そして その航空機はヤコブレフYak-9に攻撃されたのだ その時の映像は残っているので間違いなく確認が取れた ソビエト軍であるということを。

 

「なんで今更あの熊が出てくるのだッ」

 

円卓に拳を叩き付けるヒトラーをゲッベルスやヒムラーが落ち着かせている。

 

「まずいッ まずいぞッ ロシア州消滅などという超常現象だけでもまずいのに スラブ人どもが清に軍事侵攻した事で盗人どもに大義名分が出来てしまったッ」

 

ヒトラーは多少の落ち着きを取り戻したが 如何せん事態が事態なだけに冷静ではいられなかった。

 

「確かにまずい ソ連が強大なのはあの時代であったからだ この世界ではソ連など骨董品で身を固めただけの弱小国に過ぎん」

 

いつもは気楽なムッソリーニもさすがに焦りの色を隠せてないようだ。

 

「自国領に土足で上がり込まれた清の盗人どもが黙っている筈がないッ 早晩北進を開始するぞッ」

 

「こ このままでは極東ロシアは清にっ」

 

「極東ロシアどころか下手をすればウラル以東を失うことになるッ」

 

「そうだッ あの盗人どもの首領 大盗賊高亥がシベリアだけで満足する筈がないッ」

 

阿鼻叫喚の枢軸会議はとにかく掻き集められるだけの戦力を構成州全域から掻き集め ソビエト侵攻を決定した。

 

「邪魔するソ連軍は容赦なく踏み潰せっ 最低でも中央ロシアまでは抑えるんだっっ!!」

 

ヒトラーの苦悩は始まったばかりである。

 

907 :202:2013/05/02(木) 20:37:33

 

ソビエト連邦

 

 

 

 

 

赤い皇帝の異名を持つ鉄の男スターリン 大祖国戦争を戦い抜き宿敵ドイツを降した彼は 返す刀で日ソ中立条約を結ぶ日本へと侵攻し併合を目論んで準備を進めていたところ

極東ソ連の一部である チュコト・カムチャツカ・樺太北部・沿海州との連絡が途絶えたと報告を受け アメリカの仕業だと考えた。

 

「ヤンキーどもめッ 満州と日本を手に入れるための謀略なのだろうがそうはいかんぞッ!」

 

取られる前に取ると意気込み ハバロフスク・ウラジオストックと連絡が取れない状況も無視して極東に集めていた赤軍に満州侵攻の命を下した。

しかし 数日後に入った報告は耳を疑うものであった。

 

「なにィ!? 第一陣で先行した兵10万が全滅だとっ!」

 

それも一方的にやられるだけで 敵に与えた損害は無いも同然であるという。

更には機械で出来た巨大人形が銃撃砲撃をしてきて 弾幕に捉えられたT-34戦車数百両がいとも簡単にスクラップにされたなどと 信じがたい報告まで上がってきた。

 

「巨大な機械人形? 失態の責任を免れようと嘘をつくなッ!!」

 

無論そんな与太話を信じるような男ではない 大方待ち伏せされていた事にも気付かず不用意に兵を進めて集中砲火を浴びたのだと結論付けてしまった。

 

その後も見たこともないような巨大戦闘機の編隊に100単位の航空部隊が一方的に撃墜された。

命辛々逃げ帰った戦闘機パイロットは 満州の地に巨大な建築物が建ち並ぶ街があった 等々意味不明な報告ばかり上がってくるのだ。

 

 

「いったいどうなっているのだ・・・」

 

 

袋小路に陥った彼が選択したのは連絡の取れなくなったチェコト・カムチャツカ方面への進撃。

 

未だ違う世界へ来てしまった事が認識できていない彼はただでさえ巨人相手の戦争を始めているというのに 寝ている大巨人と その友人の超大巨人にまで殴りかかろうとしている事に気付かない。

 

そして欧州方面からは 彼が降した筈の男達が 巨人となって進撃しようとしている事にも・・・

 

908 :202:2013/05/02(木) 20:38:31

 

神聖ブリタニア帝国

 

 

 

「なんだって 千琴が攻撃された?」

 

玉座に深く腰を掛けていた神聖ブリタニア帝国第99代皇帝オデュッセウス・ウ・ブリタニアは 情報局からの報告に椅子から転げ落ちそうになっていた。

 

「なんてバカなことしてるんだ・・・ 日本は一見大人しいように見えるけど一度怒らせたら手が付けられないんだぞ」

 

自国と並ぶ超大国は普段とても大人しい しかしその内に隠し持った力は永年の同盟関係を持つブリタニアなら誰でも知っている。

それに・・・

 

「家族を攻撃されたら幾ら平和主義者の私でも引っ込みが付かないじゃないか・・・」

 

共に歩んでくれる唯一のパートナー日本を家族と見るブリタニアもまた黙っていられなくなる。

 

「陛下 どうなさいますか?」

 

歩み出るのは脇に控えていたナイトオブワン ビスマルク・ヴァルトシュタイン。

 

「言ってくだされば私が鎮圧に向かいますが」

 

自分にやらせろと言わんばかりのナイトオブフォー ドロテア・エルンスト。

 

「いや ドロテアはダメだよ きみ二人目の子供産まれたばかりだろう? 幼い子供の側には母親がいてあげないといけないよ それに南雲卿に任せっきりなのは感心しないな」

 

「い いえっ 夫は子育ては任せろとっ」

 

「とにかく却下だ さて では誰にいって貰おうか」

 

そこまで言ったところで進み出る影5つ。

 

「陛下 それは我らにお任せください」

 

「ハイランド卿か」

 

「ロシアは我らユーロブリタニア父祖の地の一つ よって我らが適任であると進言致します」

 

ユーロブリタニア盟主と 彼に続く四大騎士団団長達も共に跪いている。

 

「・・・・・・・・・・・・わかった では此度の戦はユーロブリタニアヴェランス大公 貴公に一任する 我らの友 そして家族の敵を共に討ち果たすのだ」

 

「イエス・ユア・マジェスティッ オール・ハイル・ブリタニアッ!」

 

 

 

 

 

 

 

再び日本

 

 

 

ええ 親愛なる大日本帝国臣民のみなさん 残念なことに平和的接触を試みようとしていた矢先 千琴がソビエト連邦を名乗る国によって攻撃されました。

幸いなことに死者は出なかったこの度の攻撃ですが 我が国は座して死を待つような軟弱な国ではありません。

よって私は帝国臣民の誇りと命を守るため 国権を発動し 大日本帝国陸海空三軍の出動を命じました。

そして ソビエト連邦政府に対し速やかなる無条件降伏がなされない場合 “極めて遺憾ながら”我が大日本帝国は問題解決のため無慈悲なる鉄槌を振り下ろすことになるとの最後通牒を――

 

 

 

 

 

 

のちにソビエト戦争 またはソビエト分割戦争と呼ばれるこの戦争は 日・ブ・欧・清の名だたる大国が80年以上前の文明を持つ共産主義独裁国家一国をタコ殴りにする世にも珍しい戦争となった。

父祖の地の一部を取り返したユーロブリタニア 領土分割会議で要らないと突っ撥ねたのに大陸の領土が増えてしまった日本 元よりほしかったシベリア南部を得た清。

そして新天地を求めてこの戦争に参加した極東の小国高麗は 飛び地としてだが自国領土を3倍に増やす事となり一番実入りが多い国となったが 一部を除いて更に評価を落とす行動を取る平常運転振りを発揮し。

最も割を喰ったのはロシア州の六割近くを失陥したユーロユニバースであることは言うまでもなかった。

なお 列強で唯一参加しなかった中華連邦には大量の難民が流れ込み 世界最大の人口が更新されることになる。

 

だが本当の被害者でゲームオーバーとなったのは 鉄の男を名乗る非情な独裁者であったのだが 誰にも気にかけられることなく終焉のときを迎えるのであった。

 

 





909 :202:2013/05/02(木) 20:40:06
終。


ソビエトの設定はこんな。

西暦1945年7月上旬から8月初頭。
国土はギアス世界そのままに 陸地の上にある人・物・建築物のみ転移 範囲はEUロシア州該当地域丸ごと。
最終更新:2013年05月17日 22:02


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街を歩いていた嶋田は思わぬ人物に出会した

 

179 / 201

街を歩いていた嶋田は思わぬ人物に出会した。

 

 

 

297 :1スレ202:2013/02/06(水) 18:58:09

 

 

 

ネタ

 

 

 

 

 

街を歩いていた嶋田は思わぬ人物に出会した。

 

 

 

「これはこれは久しぶりじゃないですか嶋田さん」

 

 

 

垂れ目で七三分け にやつく口元がカンに触るあまり好きではない男 その名も米内光政。

 

前世から知っている男でこの世界でも以前と変わらない振る舞いをしていた為に夢幻会が危険と判断して失脚させた人物。

 

そして何を隠そう嶋田の同期。

 

 

 

「ひ 久しぶりですね お変わりありませんか?」

 

 

 

(イヤな奴に会ったな~)

 

 

 

「ええ見ての通りピンピンしておりますよ なにせ隙でしたからね~ 無職なもので」

 

 

 

「は はは それは」

 

 

 

「もう昔のことですから気にせんでください それに自分にも悪いところはありましたからなぁ あんた達に目を付けられても仕方ない」

 

 

 

(恨んでないのか? えらい変わりようじゃないか)

 

 

 

「どうです? 昔のことを水に流すという意味でこれから一杯やりませんか 誘う以上こちらが持たせてもらいますよ」

 

 

 

(う~ん どうする? 奢りというのはいいとして コイツと話すことなんぞ無いからな でも断ってまた恨みがぶり返したら気分悪いし)

 

 

 

「わかりました では御馳走になります」

 

 

 

(モニカさんには遅くなるとメールしておくか)

 

 

 

この時間はまだ仕事中の同居人にメールして にこやかに笑う米内に付いていった。

 

着いた先はクラブ黒の王。

 

 

 

「よ 米内さん ここクラブじゃないですか?!」

 

 

 

「ええ でも飲み屋には違いないでしょう?」

 

 

 

「それはそうですが……」

 

 

 

「ささ 行きましょう 可愛い女の子がお酌してくれますよ」

 

 

 

中に入るとキングと呼ばれているゴリラみたいな顔の支配人にペコペコされて特別室に案内された。

 

米内は相当なお得意様なのかキングは恐縮しっ放し そして特別室ではまた意外な男と顔を合わせた。

 

 

 

298 :1スレ202:2013/02/06(水) 18:58:45

 

 

 

「山本っ!」

 

 

 

「嶋田っ!」

 

 

 

山本五十六 米内と同じく海軍の同期。

 

彼も米内に声を掛けられていたらしい。

 

 

 

「驚いたな お前まで来るとは 俺は家にいたとき米内の奴から電話で一杯どうだと誘われたんだが」

 

 

 

「いやここに来る途中偶然嶋田さんと会ってね それでお誘いしたんだ 同期の桜の同窓会みたいで良いじゃないですか」

 

 

 

「いくらなんでもクラブで同窓会はないだろ?」

 

 

 

「酒も旨いし女もいっぱい居て最高じゃないか 何の文句が有るんだね? それに山本さんも女は嫌いじゃないだろう?」

 

 

 

パンパンと米内が手を叩くとバニーガールの若い女の子達が酌を始めた。

 

 

 

(お 俺はこういうの苦手だし好きじゃない さっさと飲んで帰ろう)

 

 

 

山本が嫌いじゃないのは勝手だがこっちはたまったもんじゃない嶋田はピッチを上げて酒を飲む。

 

 

 

「米内 言っておくが嶋田はあまりこういうのは好きじゃない それに俺も今は交際している女性が居てな 見られたらまずい」

 

 

 

「硬いこと言いっこなしだ!」

 

 

 

「大丈夫バレやしないよ! そんなことより二人とも飲んで飲んで!」

 

 

 

完全に他人事な米内 無責任に言い放つ。

 

 

 

「あら こちらのおじさま平凡な空気が新鮮で素敵」

 

 

 

嶋田に絡むのは色っぽいバニーガール。

 

結構マジで気に入ったらしくほっぺにチュウとかしてくる。

 

 

 

「こらっ やめなさい!」

 

 

 

真っ赤な顔して逃げる嶋田。

 

 

 

「どうぞおじさま」

 

 

 

「おお すまんな」

 

 

 

「ど~お?おいしい?」

 

 

 

「うむ酒は上等だが」

 

 

 

(こんなところアイツに見られたら大変だぞ……)

 

 

 

酒は旨いが交際相手の顔がちらついて気が気でない山本。

 

可愛い顔して怒らせたら怖いのだ。

 

 

 

「キングくん もっと女の子連れてきなさい」

 

 

 

「は かしこまりましたヨナイ様」

 

 

 

ゴリラ顔のブリタニア人支配人をこき使う米内。

 

 

 

(ふはは愉快愉快!あの嶋田と山本が困っておるわ!!この俺様を長年にわたってないがしろにしおっていい気味だわい!!)

 

 

 

同期の桜の同窓会。

 

心から楽しんでいるのは鬱憤を晴らし 女の子を侍らせてにやつく米内だけだった。

 

最終更新:2013年02月10日 20:33

 

 

 

 

 

 

 

 



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ウィキペディア? ナイトオブラウンズ

 

 

 

 

 

 

ウィキペディア? ナイトオブラウンズ

 

 

 

 

 

 

 

684 :202:2013/02/22(金) 21:04:16

 

ウィキペディアってかエンサイとアンサイMIX風味投下

 

休日氏の隠居設定

 

影響を受ける人氏のモニカ・クルシェフスキーの帰郷 & ジェンシーに乗ろう!!が前提になってるんで

 

影響を受ける人氏「NG!」ならスミマセン

 

 

 

685 :ウィキペディア? ナイトオブラウンズ:2013/02/22(金) 21:08:01

 

 

 

ブリタニア皇帝直属の専任騎士にして帝国最強の12騎士。

 

ラウンズはそれぞれ高性能な専用KMFを宛がわれており 独自のKMF開発チームを持っている 唯一の例外である第12席ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーのみ

 

同盟国である大日本帝国の先進技術研究スタッフが組んだKMF特別開発チームが専用機開発に携わっている。

 

 

 

称号保持者は敬称としてナイトオブ○○と呼ばれ その他の騎士や軍人より上位の権限を与えられており 命令権を持つのは皇帝のみとされている。

 

基本的に本当の意味での皇帝専任騎士であるナイトオブワン以外には上下関係はない あるとすれば先輩後輩や元の爵位のみ 一兵卒であっても実力と忠誠が認められればラウンズの称号が与えられる。 

 

構成員の中には女性や子供もいる また頂点であるナイトオブワンは天領の1つを皇帝より与えられるという特別な恩典がある。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトオブゼロ モニカ・クルシェフスキー(詳しくはナイトオブトゥエルブの項を参照)

 

 

 

倉崎重工特別研究室開発タイプX10Aフリーダムの実戦テストでナイトオブワン ビスマルク・ヴァルトシュタイン以下。

 

ナイトオブスリー・フォー・シックス・ナイン・テンの計6名のラウンズをたった数分で撃墜判定させてしまったモニカに付けられた尊称で「トゥエルブの前に敵はゼロ」「スーパーモニカ」の意。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトオブワン ビスマルク・ヴァルトシュタイン

 

 

 

四十代ほどの壮年男性でブリタニア帝国最強の騎士 マントの色は白 生身 KMF戦ともに自分の身長を超える大剣を扱い 剣術を得意とする。

 

行動原理は優しさと規範意識を第一とし 皇帝シャルル 皇妃マリアンヌへの絶対的忠誠を誓っている その一方でマリアンヌに恋慕の情を抱き 叶わぬ恋に悩むなど複雑な胸の内を抱えている。

 

ナイトオブゼロ スーパーモニカとの模擬戦では2分50秒持ち堪えた猛者だが「ラーメンほどでもありません」の一言を頂き撃沈。

 

ブリタニア製サザーランドのコピー品コピー 通称「劣化ジェンシー」が元で起こった「ラウンズ壊滅事件」では爆発の衝撃波で吹き飛び顔面に大けがを負う。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトオブスリー ジノ・ヴァインベルグ

 

 

 

17歳の少年でマントの色は深緑 ヴァインベルグ侯爵家という名門貴族出身。

 

普段は陽気な自由人で 地位など関係なく誰とでも気さくに付き合う大らかな性格をしている。

 

雑誌「週刊減退」に不用意な発言をしてしまい 自宅謹慎処分となったモニカに代わって臨時日本駐在武官に就任。

 

それにより「ラウンズ壊滅事件」の難を逃れた数少ない人。

 

ナイトオブゼロ スーパーモニカとの模擬戦では約1分持ち堪えるも撃墜判定「1分では食べられません」の一言を頂く。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトオブフォー ドロテア・エルンスト

 

 

 

二十代ほどの褐色肌の女性で長い黒髪を頭の上で纏めている ビスマルクと肩を並べるといわれる実力者 貴族として生を生きるより騎士としての道を極めるため女である自分を捨てている。

 

ナイトオブゼロ スーパーモニカとの模擬戦ではフリーダムの圧倒的スピードとパワーに付いていけず開始7秒で撃墜判定「7秒ではお湯を注げません」の一言を頂き膝を付く。

 

「ラウンズ壊滅事件」では暴走したジェンシーの急ブレーキで頭を打ち気絶 軽傷。

 

後に両親の策略で出席を余儀なくされた社交パーティーの場で 運命の人 南雲忠一と出会い恋の季節を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトオブシックス アーニャ・アールストレイム

 

 

 

15歳の少女でマントの色はピンク ピンク色のセミロングの髪を頭の後ろで纏めている 15歳という年齢ながらラウンズに抜擢された凄腕のKMF乗り。

 

モニカとともに在日ブリタニア駐在武官を勤める傍ら 日本留学中のルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇子とナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女護衛の任にも就いている。

 

皇室に出入りできる貴族の家出身で 行儀見習いとしてアリエス宮にいたことがあるため ルルーシュ皇子やナナリー皇女とは幼い頃からの付き合い。

 

感情がないのかと勘違いしそうなほどテンションが低いものの ナナリー曰く「とても感情豊か」であるらしい 「ラウンズ壊滅事件」のおり日本にいたため難を逃れる。

 

ナイトオブゼロ スーパーモニカとの模擬戦では1分越えで撃墜判定「まだ食べられません」の一言を頂いてもテンション低く「そう」と答えただけであった。

 

 

 

686 :ウィキペディア? ナイトオブラウンズ:2013/02/22(金) 21:17:07

 

 

 

ナイトオブナイン ノネット・エニアグラム

 

 

 

淡い黄緑色のショートカットの髪で二十代の女性 マントの色は紫 気ままで明るく豪放な性格の持ち主で後輩の面倒見も良い好人物。

 

士官学校時代には在日ブリタニア大使コーネリア・リ・ブリタニア皇女の先輩として交流があった。

 

「ラウンズ壊滅事件」ではジェンシーの搭乗用巻き上げウィンチの誤作動で身体ごと空中に投げ出されてしまい 背中と腰を強打して気絶。

 

ナイトオブゼロ スーパーモニカとの模擬戦では交戦時間2分という ビスマルクに次ぐ好戦績を収め「もう少しで食べられます」の一言を頂く。

 

後に同僚ドロテアと在ブリタニア駐在武官南雲忠一の恋を後押しする。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトオブテン ルキアーノ・ブラッドリー

 

 

 

二十歳前後の男性でマントの色はオレンジ 髪の色もオレンジ 好戦的性格の持ち主で戦うことが好き グラウサム・ヴァルキリエ隊という女性のみで構成された直属部隊を率いている。

 

ラウンズは皆例外なく直属の親衛隊を持っているが 女性のみの部隊は彼だけである。

 

「ラウンズ壊滅事件」では乗り込んだジェンシーの起動キーを回すと同時に脱出装置が作動 中途半端にパラシュートが開きコックピットが回転しながら地面に強打 全身打撲で病院行きになってしまった。

 

ナイトオブゼロ スーパーモニカとの模擬戦ではドロテア撃墜判定の5秒後に撃墜判定という 6人中もっとも交戦時間が短い不名誉な結果を迎え「5秒では封も切れません」の一言を浴びせられる。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキー

 

 

 

二十歳前後の長い金髪の女性でマントの色は黄緑 若いながらもラウンズに抜擢される実力と忠誠心を持ち 在日ブリタニア駐在武官として日本に派遣される。

 

ブリタニアの名門クルシェフスキー侯爵家に生を受け 次期当主として幼い頃より厳しい英才教育を受けて育てられた

 

日本に派遣された際に下宿先として紹介された家の主人でシャルル皇帝の友人 大日本帝国元首相 嶋田繁太郎と知り合う。

 

嶋田を通じて日本の重鎮達とも交流するようになり ブリタニアの高官ではシャルル皇帝と同じくらい日本と太いパイプを持つ日ブ友好の最重要人物でありキーマン。

 

無類のラーメン好きではないかと噂され 嶋田邸近くのコンビニやスーパーでカップ麺を購入している姿が度々目撃されている。

 

その際 目出し帽とサングラス姿で訪れることが多く 還って目立っていることに本人は気付いていない様子。

 

日本の倉崎重工がKMF特別開発チームを組んで専用機開発に携わっている唯一のラウンズである。

 

後に開発されるモニカの専用機 タイプX10Aフリーダムは 既存のKMFの概念を覆す隔絶された性能を持ち 運用の為の特別プログラムをこなしていたモニカの技能と合わせ他を寄せ付けない戦闘力を発揮。

 

彼女以外の6名のラウンズを相手取った模擬戦では僅か数分で全機撃墜判定を下してしまった。

 

このことから主任と呼ばれる倉崎の開発責任者から「ナイトオブゼロ」「スーパーモニカ」と二つ名を付けられ 呼称が一人歩きする形で広がってしまった。

 

あまりの成果とフリーダムの乗り心地にラーメンに例えた一言を1人1人に呟いているところから やはりラーメン好きは本当なのかもしれない。

 

「ラウンズ壊滅事件」の遠因を作った本人だが ジェンシー試乗不参加で難を逃れている 代わりに素直で人を疑わない人の良さが災いして嘘つき週刊誌「週刊減退」に捏造記事を書かれてしまい 自宅謹慎処分を受ける。

 

しかし そのジェンシー試乗を誰よりも早く日本で行ったモニカはラウンズ一の勇者であると言えるだろう。

 

またモニカはシャルル皇帝専属の騎士であると同時に 嶋田元総理の騎士でもあると噂されている。

 

(尚 女性の方がモニカの情報を聞こうと下宿先の大家さんに不用意に近付いたら 急に機嫌が悪くなるので要注意)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイトオブポッポ

 

 

 

ラウンズを超えるラウンズ ナイトオブゼロ モニカ・クルシェフスキーを一言で戦闘不能に追いやった史上最強のラウンズ。

 

その戦闘力は未知数で全てが謎に包まれた存在。

 

モニカでさえ手も足も出ずに病院送りにする実力を持つ以外 正体不明の人物。

 

 

 

鋭意調査中。

 

最終更新:2013年03月06日 21:37

 

 



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これが本気の週刊減退 特別増刊号

これが本気の週刊減退 特別増刊号

 

 

 

 

 

12 :202:2013/04/01(月) 16:28:33

 

休日世界設定

 

 

 

 

 

これが本気の週刊減退 特別増刊号

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“重大発表! 大日本帝国 ついに世界征服へと舵を切る!!”

 

 

 

 

 

高麗のある施設で行われた極秘会談を暴露したのは 四月一日と書いてワタヌキ氏(仮名)

 

ワタヌキ氏は語る “戦乱 差別 政情不安 経済不況 格差社会 これらを一掃するには一強一勢力による絶対的支配を持ってしか成すことはできない!!”

 

 

 

 

 

 

 

このたびは御身の危険を顧みずインタビューに応じて頂けたこと 心より御礼申し上げます。

 

まずは極秘会談を暴露するなど危険な選択を取られたのはなぜでしょうか?

 

 

 

「私は日本が世界平和の為に立ち上がったことを 日本国民 そして新たに同盟組むことになる国々の皆様に知って頂きたいのです」

 

 

 

世界平和 そして新たな同盟国とはいったいい?

 

 

 

「お答えします まず世界 そして人類は平等ではないというのは御存じですね? 顕著なところではEU内で問題になっている人種差別 不況から来る経済格差 政治への不安などがあります

 

 国を越えて世界に目を映せば 長らく続くEUと清の対立 東南アジアとオセアニアの紛争 アフリカ地域の貧困差別 

 

 一方で豊富な資源とそれを元にした科学技術の発展で国民全てが豊かな生を謳歌する日本・ブリタニア なぜこれほどの地域格差と不平等が生まれるのか?

 

 これら全ての原因は 世界が一つの勢力に集約されていないこと このひと言に尽きます 世界が一つであれば差別も貧困も生まれませんし 戦争そのものがなくなります」

 

 

 

確かに世界が一つならば戦争する相手がいませんからね。

 

では新たな同盟国とは?

 

 

 

「もうお気づきかと そう アジアの雄であり平和を愛する国家 高麗共和国と その同盟国大清連邦です」

 

 

 

な なんと! では極秘会談というのは?

 

 

 

「はい 日・高・清 三国軍事同盟締結のため開かれていたのです」

 

 

 

三国軍事同盟!?

 

 

 

「そして間もなく日本政府より発表があるかと思われますが この三国同盟に中華連邦が加わり四国同盟に アジア連合が誕生します」

 

 

 

アジア連合!? ずいぶんと壮大な話ですが なぜ日本は高麗・清と同盟を締結するのですか?

 

 

 

「簡単です 日本・高麗・清は古代高麗民族をルーツとした同族であり 互いに切っても切れない仲だからです そして三国に共通しているのは“平和を愛する清い心を持った民族”という部分

 

 つまり我々こそが世界を一つにまとめ上げるべく定められた民族なのですよ」

 

 

 

確かに日本人には高麗民族の血が流れていますね 世界最先端の技術を開発するような頭脳を持つのは高麗人くらいです。

 

 

 

「ええ そしてこれに加わる中華連邦は 平和を愛する高麗民族を永年に渡り搾取してきた野蛮な国家ですが 我々――そうですね 真・高麗民族とでも呼びますか

 

 我々 真・高麗民族はその罪を許そうという意見で一致しました」

 

 

 

なるほど それで三国同盟+一となるわけですか。

 

 

 

「はい その友好の証として我が大日本帝国の嶋田氏と中華連邦天子 蒋麗華さまのご結婚も決まっております」

 

 

 

これはまたとんでもない話が飛び出しましたね。

 

 

 

「申し上げておきますが政略結婚ではありません この辺りは私の口からどうこう語るものではないのでコメントは差し控えさせて頂きます」

 

 

 

わかりました とにかく嶋田氏と天子さまがご結婚なさると?

 

 

 

「はい」

 

 

 

実にめでたい話です 我々真・高麗民族と中華連邦は永き対立に終止符を打ち一つになる。

 

嶋田氏と天子さまのご結婚は融和の象徴となるのですね。

 

 

 

「これが始まりですよ これからアジア連合は西に進路を向けヨーロッパ・アフリカの平定に向かいます」

 

 

 

ところで現在 真・高麗民族の一翼を担う日本は 神聖ブリタニア帝国との間に二国間同盟を結んでおりますが?

 

 

 

「これは間もなく破棄されるでしょう なぜならブリタニアは我々と違い一国平和主義を貫くはずですから 平和は大切です ですが真の平和は我々が行く覇道の先にこそ存在するのです!

 

 見ていてください 数年後の世界地図は真・高麗民族を中心とした“高麗”の文字で埋め尽くされているはずです そしてこの地球という惑星の名も……!」

 

 

 

惑星高麗 すばらしい響きです!!

 

四月一日氏 今日は大変なお話を聞かせて頂きありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが本気の週刊減退 特別増刊号は定価980円で大好評発売中。

 

四月一日と書いてワタヌキ氏のインタビューのほか金星UFO特集も同時掲載。

 

売り切れ続出のためご購入はお早めに!!

 

そしてくれぐれも四月一日につき編集部一同なんら含むところはございません!!

 

 

 

13 :202:2013/04/01(月) 16:34:46

 

 

 

嘘が通じん人たちの反応。

 

 

 

 

 

 

 

“嶋田氏と中華連邦天子 蒋麗華さまのご結婚も決まって”

 

 

 

「……」

 

 

 

「どうしたユフィ?」

 

 

 

「お姉様」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「……虐殺です」

 

 

 

「お おいどこ行くんだユフィ!」

 

 

 

 

 

 

 

“嶋田氏と中華連邦天子 蒋麗華さまのご結婚も決まって”

 

 

 

「……」

 

 

 

「クルシェフスキー卿どちらへ?」

 

 

 

「ゴミ掃除に」

 

 

 

「ちょっ フリーダム持ち出して何するんですかっ!」

 

 

 

 

 

 

 

“嶋田氏と中華連邦天子 蒋麗華さまのご結婚も決まって”

 

 

 

「……」

 

 

 

「シンクー?」

 

 

 

「申し訳ありません 汚物の消毒をしてまいります」

 

最終更新:2013年05月14日 19:28

 

 

 



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緑色のビクトリームさま

 

 

 

 

 

 

緑色のビクトリームさま

 

 

 

 

 

748 :202:2013/06/21(金) 20:27:04

 

ちと思いつきのSSでも投下させてもらう。

 

休日のモニカルートだが関係ない話。

 

 

 

休日とガッシュのクロス。

 

 

 

749 :202:2013/06/21(金) 20:28:29

 

 

 

緑色のビクトリームさま

 

 

 

 

 

 

 

避暑地として有名な軽井沢。

 

毎年暑い夏を乗り切るため この地に購入した別荘に非難しているV.V.は 東京の自宅にいる時と同じく部屋でネットゲームに明け暮れていた。

 

都会の喧噪から離れて一人静かに過ごす年寄りにしか理解できない贅沢。

 

 

 

「あの子達の夏休み期間中は家にいたら暑苦しいのが来て 余計に暑くなっちゃうからね」

 

 

 

コードの所有者となって肉体年齢を止めてから程なく皇籍奉還特権を使用し ブリタニアの皇籍を離脱してより早50余年。

 

いち民間人となって日本国籍を取得し 日々自分の生きたいように生きる彼は 弟や親族達のことを思い浮かべてフッと笑った。

 

何かと騒がしい家族達のことは離れた場所から見ているのが一番楽なのである。

 

それに彼はもう年金暮らしの老人。

 

いくら外見年齢が少年であっても 年寄りに相応しい生き方というものがあるのだ。

 

と言いつつも 毎日のように襲撃してくる弟が煩くて適わないというのが本音だが・・・。 

 

 

 

「ルルーシュもナナリーも今頃シャルルに襲撃されて大変な目にあっているんだろうね ああ!あの子たちだけじゃなくてジェレミアやキューエルもか もしかしたらシゲタロウとあの騎士の娘も巻き込まれてるかも」

 

 

 

昔からの友人 嶋田繁太郎。

 

そして弟と友人という 二人の主君を持つ騎士である十二番 そして零番の称号を持つ娘。

 

みんなみんな弟に振り回されていることだろう。

 

 

 

「僕はみんなの分まで静かな夏を楽しむとするよ ま 夏コミのときだけは東京に帰るけどさ」

 

 

 

が 我関せずを決め込んでいたV.V.の耳にあの暑苦しい声が聞こえてきたのは彼が油断していたその時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ビクトリ―――――――――――――――――ム!!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンッッ!!

 

 

 

思いも寄らぬ濁声にズッコケてしまったV.V.は顔面を強打。

 

 

 

750 :緑色のビクトリームさま:2013/06/21(金) 20:29:13

 

 

 

 

 

 

 

「イッ イタタ・・・ ていうより なんでシャルルの声が聞こえるんだ」

 

 

 

軽井沢まで追いかけてきたとでもいうのだろうかとテラスに出て外を見た。

 

すると目の先 別荘の玄関前に変な人間が一人立っていて またさっきのように叫んでいる。

 

 

 

 

 

“ビクトリ―――――――――――――――――ム!!!”

 

 

 

 

 

声の主はあの人間のようだがどこかおかしい。

 

 

 

「シャルル・・・ じゃないよね? なに・・・あの変なVの形をした人間は」

 

 

 

声はシャルルそっくりだが身長も体格も全然違う。

 

 

 

「頭がV 身体もV・・・」

 

 

 

そのVの形をしたコスプレ人間はスカイグリーンの色をした分厚い本を持っている。

 

 

 

「貴様」

 

 

 

「エ・・・僕?」

 

 

 

なんだか危なそうな人間だから目を合わせないようにして様子を伺っていたV.V.であったが 結局のところ向こうから話し掛けてきたので応対せざるを得なくなってしまった。

 

 

 

「そうだ 貴様以外に誰がいるというのだ」

 

 

 

「誰がいるかと言われても・・・」

 

 

 

誰もいない。

 

 

 

「まあいい 取り敢えず今からそっちに行くぞ」

 

 

 

Vの人間は手を掲げて叫んだ。

 

 

 

「分離せよ!!我が美しき頭部よ!!」

 

 

 

瞬間 光り輝いたV字形の頭部が分離して宙に舞い上がりV.V.が立っている2階のテラスまで飛んできた。

 

 

 

「ええェェェェ―――!??」

 

 

 

「ふむ 視界良好!!!この状態に死角なし!!」

 

 

 

「く 首がもげて・・・」

 

 

 

驚き尻餅をついたV.V.に我関せずなVの人間はまた叫ぶ 無意味に叫ぶところがシャルルと似ている。

 

 

 

「我が体はVの体勢で待機せよ!!」

 

 

 

Vの体勢になる玄関前に放置された体 その体勢になんの意味があるのかはわからない。

 

 

 

751 :緑色のビクトリームさま:2013/06/21(金) 20:29:47

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ ちょっと君大丈夫 というか首もげてどうして生きてるの!!?」

 

 

 

「それは私が人間ではなく魔物であるからだ」

 

 

 

「魔物?」

 

 

 

首だけのV人間は魔物であるらしい。

 

なるほど 魔物であるなら首がもげても生きているのは・・・・・・生きていられる物なのか?

 

 

 

「そんなことはどうでもいい お前 この本を読んでみろ」

 

 

 

玄関前の体が 持っていたスカイグリーン色の本をV.V.目掛けて放り投げ またVの体勢に戻った。

 

 

 

「さあ読むのだ」

 

 

 

(なんでこうエラソーに命令口調なんだろ)

 

 

 

開いた本にはこう見たこともない文字で描かれた文章が並んでいて全然読むことができない。

 

 

 

(読めないなぁ)

 

 

 

しかし 捲っていくページの中に1カ所だけ色が変わっている部分があり そこに書かれてある文字だけは読むことが可能であった。

 

見たこともない文字であるのにどうして読めるのかはわからない ただ頭の中にその文字の言葉が浮かび上がってきたのだ。

 

 

 

 

 

“マグルガ”

 

 

 

 

 

その言葉を口にした瞬間首だけになっていたVの魔物から光線が発射されて 別荘の一部が吹き飛んでしまった。

 

 

 

「僕の 僕の別荘がァァァァ――――!!」

 

 

 

「ふはははッ やはり貴様が我が本の使い手であったか ならば改めて自己紹介しよう 私の名前はビクトリーム!華麗なるビクトリーム様だ!

 

 これより始まる人間界に放たれた100体の魔物たちによって行われる千年に一度の魔界の王を決める戦いに勝利し 王となる者の名前だ―――――!!」

 

 

 

「これからどうやって暑い夏を乗り切ればいいんだァァァァ―――!!」

 

 

 

「よ――――――く覚えておけ我がパートナーよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

噛み合わない会話は声だけ聴いていると某皇帝兄弟であったが 敬意を持って話すはずの弟が命令口調の慇懃無礼な喋り方であったと隣の別荘の人間は供述していた。

 

 

 

752 :緑色のビクトリームさま:2013/06/21(金) 20:30:23

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレの名はアシュロン 繁太郎といったな オレと共に戦ってくれないだろうか?」

 

 

 

「・・・・・・オレは とことんまで厄介事に巻き込まれる運命なんだな」

 

 

 

「嘆くな 共に精進していこう お前の心には何か強い物を感じるのだ」

 

 

 

「買い被り過ぎですよ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔界の王を決める戦いですか?」

 

 

 

「ああ 生憎この戦いはテメエらひ弱な人間どもの力を借りなきゃならないからな」

 

 

 

「随分な仰りようですね」

 

 

 

「貴様ッ モニカ様に対して無礼なッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シゲタロウをわたくしの物に・・・・」

 

 

 

「ええそうです アナタの愛する方を奪おうとする憎き女を 私とアナタで消してしまうのです 私はその為の力をアナタにお貸ししましょう」

 

 

 

「・・・・・・・・・そう・・・・ね シゲタロウを奪おうとする・・・・・・モニカさんには・・・・・・・・・・消えて頂くしか・・・ありませんね・・・・・」

 

 

 

「ふふふふ・・・ふはははは いいですよユフィ さあ・・・・・戦いの狼煙を上げましょうかぁ」

 

 

 

「うふふふ モニカさん・・・・・さようなら・・・・・・・・・・・・・“ディオガ・テオラドム”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに?私に協力しろと言うのかね?」

 

 

 

「ああ アドルフだったな?この戦いにはお前の力が必要なんだ」

 

 

 

「ふむ・・・」

 

 

 

「どうだ?嫌ならば力ずくでも頼むが?」

 

 

 

「いや いいだろう 私の力をゼオンくんに貸そうではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君 ガッシュくんだったね?父さんの話では記憶喪失らしいけど やっぱり何も思い出せないかな?」

 

 

 

「うぬ・・・ 思い出そうとしても何も・・・ のうスザク 私はどうすれば良いのかのう」

 

 

 

「そうだね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあナナリー呪文を!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

「一打粉砕に怒渇の心力を込め 万物を叩き割る剛剣の刃を生み出さん!!!」

 

 

 

「“ギャン・バギャム・ソルドン”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続かん

 

最終更新:2013年09月08日 14:58

 

 



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モニカ・S・クルシェフスキー 出典: フリー百科事典『ウソペディア(usopedia)』

 

 

 

 

モニカ・S・クルシェフスキー 出典: フリー百科事典『ウソペディア(usopedia)』

 

 

 

 

 

477 :202:2013/08/30(金) 21:43:20

 

 

 

投下されてたいろんなネタとオリジナル要素入れまくりモニカのウソペディア。

 

そこんとこ注意してくれ。

 

 

 

478 :202:2013/08/30(金) 21:43:59

 

 

 

 

 

 

 

モニカ・S・クルシェフスキー

 

 

 

出典: フリー百科事典『ウソペディア(usopedia)』

 

 

 

 

 

移動: 案内、 検索

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか 不十分です。

 

それ処か多分に誇張された内容であると推測されており 明らかなウソまで混じっているため全くもって当てにはなりません。

 

出典を追加のうえウソと誇張部分を削除して記事の信頼性向上にご協力ください。(2040年8月)

 

 

 

 

 

 

 

                【モニカ・S・クルシェフスキー】

 

 

 

 

 

本名        モニカ・S・クルシェフスキー

 

 

 

国籍        神聖ブリタニア帝国

 

 

 

ニックネーム    モニモニ ラーメン大好きモニカさん ラーメンババア 鬼ババア

 

 

 

生年月日      皇歴1999年10月25日(40歳)

 

 

 

出身地       神聖ブリタニア帝国クルシェフスキー侯爵領ポートランド

 

 

 

血液型       A型

 

 

 

身長        165cm

 

 

 

方言        なし 日本語 ブリタニア語(共通語 標準語)

 

 

 

最終学歴      クルシェフスキー侯爵領 後継者教育課程修了 ペンドラゴン士官学校

 

 

 

爵位        侯爵

 

 

 

所属        神聖ブリタニア帝国軍

 

 

 

役職・最終階級   騎士 ナイト・オブ・トゥエルブ 皇帝親衛隊ロイヤルガード指揮官(大将相当 皇帝副官)

 

 

 

軍歴        2014-

 

 

 

現在の役職     神聖ブリタニア帝国クルシェフスキー領 領主 西海岸諸侯 盟主

 

 

 

配偶者       嶋田繁太郎(大日本帝国 元総理大臣 大日本帝国伯爵)

 

 

 

長女        サクラ・S・クルシェフスキー

 

 

 

次女        ※※※

 

 

 

長男        嶋田一繁

 

 

 

公式サイト・ブログ モニモニの一日

 

 

 

 

 

モニカ・S・クルシェフスキー(モニカ・クルシェフスキー 皇歴1999年10月25日-)は ブリタニアの政治家 騎士 軍人 皇帝直属の騎士ナイト・オブ・ラウンズ(第12席) 愛称はモニカ。

 

 

 

神聖ブリタニア帝国クルシェフスキー侯爵領ポートランド出身 クルシェフスキー領主。身長165cm 体重※※※ 夫は元大日本帝国総理 嶋田繁太郎。

 

 

 

現代最強の騎士として世界にその名を知られている。

 

 

 

479 :202:2013/08/30(金) 21:45:12

 

 

 

 

 

 

 

目次

 

 

 

 

 

 ・1略歴

 

 ・2人物

 

    ・特徴

 

    ・交友関係

 

 ・3エピソード

 

    ・できちゃった

 

 ・4出演

 

    ・MHKスペシャル

 

 ・5関連

 

    ・蒼空の騎士

 

 

 

 

 

 

 

[編集] 略歴

 

 

 

 

 

クルシェフスキー後継者教育課程修了後 国立ペンドラゴン士官学校を飛び級で卒業 なお 在学中に第98帝シャルル陛下よりナイト・オブ・トゥエルブの称号を賜り就任と同時に卒業であった為

 

プロフィールには中退と書かれている。

 

ラウンズ就任後の2017年 ブリタニア駐在武官として来日。シャルル陛下の紹介により元総理大臣 嶋田繁太郎の家を宿舎として下宿人生活を開始。

 

後に同武官として派遣されたナイト・オブ・シックス アーニャ・アールストレイムと交代制で任に就く。

 

 

 

2019年の大清連邦独立とブリタニア本国の汚職に手を染めていた貴族によるKMF技術漏洩事件の煽りを受ける形で 雑誌インタビューに失言。

 

それが元で本国召還 一ヶ月の自宅謹慎処分を言い渡されてしまう。

 

復帰後は一秒でも早く帰りたいからと嶋田邸に専用機ユーウェインで帰宅という珍事を起こし 自らの親衛隊長(副官)よりお小言を頂く失態を演じた。

 

そのとき叫んだ『嶋田さん分が足らないんです!!』は この年の流行語大賞にノミネートされるも 各方面からの圧力により削除されている。

 

 

 

その後勃発したシベリア戦争で義勇軍として派遣されていた高麗共和国軍の新型機にいつの日か相見えるかもしれない予感がしていたという。

 

202X年 大日本帝国元総理大臣 嶋田繁太郎と実に40もの歳の差を乗り越えて結婚 この電撃的とも言える結婚の裏にはあるエピソードが隠されている。

 

静かな結婚をしたい ひっそりと式を挙げたいと望む本人達を余所に テレビカメラまで入っての大々的な披露宴になってしまった。

 

来賓・出席者は各界の著名人ばかりであり 答辞がブリタニア前皇帝シャルルであったことからもわかるように 嶋田繁太郎は例え引退しているとしてもやろうと思えば いつでも政界を掌握できる力があると考えられている日本の重鎮。

 

かたや古くからブリタニアを支え続けているクルシェフスキー侯爵家は単なる一貴族の家系などではなく ブリタニアの中にある国と表現した方が正しい大貴族。

 

嶋田繁太郎は当時でも国家元首であるのと変わりなく モニカ・クルシェフスキーは一国の王女のような存在 両家の婚姻というのは政治的にも内輪だけで行うのは不可能であった。

 

 

 

202X年-202X年

 

欧州 中東 極東 アフリカ そして合衆国機動部隊によるブリタニア領ハワイ・パナマ侵攻と立て続けに起こった戦争で 日本が直接参戦した極東戦争と南太平洋戦争。

 

両戦線で既存の兵器概念を根底から覆す最新鋭機 第9世代KMFフリーダムを駆って空を掛け 後に【戦女神の一騎駆け】と称される空前絶後の戦果を挙げた。

 

信じがたい事に この時のスコアにはKMF・MTF・装甲車両のみならず 駆逐艦 巡洋艦 戦闘機をも撃沈破した記録が残されている。

 

味方からは【蒼空の戦女神】敵からは【蒼き死神】と呼称されていた呼び名が世界的に広まったのもこの頃。

 

 

 

高麗戦線ではこの戦女神と死闘を演じた首都防衛隊指揮官と 指揮官の兄嫁とされるKMFデヴァイサーの一騎打ちが有名である。

 

 

 

203X年には引退した父より侯爵位を継承し現在のクルシェフスキー侯爵となり 領地経営と後継者の教育に日々精を出している。

 

 

 

480 :202:2013/08/30(金) 21:45:44

 

 

 

[編集] 人物

 

 

 

 

 

実家はブリタニア帝国クルシェフスキー領ポートランドにあり 父が同領領主を務める侯爵家。

 

幼い頃より侯爵家の後継者として厳しい教育環境に置かれていた為に 心を守ろうとして感情を押し殺す仮面を身に付けるようになる。

 

以来【何を考えているのか分からない】【不気味である】等の陰口を叩かれたりするも 半ば感情を喪失させた状態であった為に傷付く事無く育っていく。

 

教育課程修了後は自ら志願して騎士 軍人の道へと進み 士官学校在学中にその天性の素質を開花させて シャルル陛下の目に止まりラウンズ12席の称号を授与される。

 

この頃はまだ仮面はそのままであり 見かねたシャルル陛下が何とか出来ないかと考えていたという噂も。

 

 

 

その仮面は 後日来日した際に出逢った嶋田繁太郎により剥ぎ取られてしまい 幼少期に気になっていた日本の食べ物【カップ麺】を食べながら彼への恋心を自覚したとされている。

 

自身の回顧録【敗北は許されない】にて嶋田を『難攻不落の最大の敵であった』と表現。

 

撃墜は出来たのかという記者の質問に『自分が撃墜されたのかも』とはにかみながら話していた。

 

ラウンズの戦場に敗北は無いしあってはならないと語りながらも 嶋田になら撃墜されてもいいと超一級の微笑みを見せるモニカに記者は人妻じゃなければ口説いていたと語っている。

 

ただの記者がお近付きになれるような身分ではないと失笑されたらしい。

 

 

 

幼少期の教育が影響しているのか 自分に厳しく また身内に厳しいことでも知られている。

 

領民や友人 近隣の人にはお嬢様然とした態度と口調を崩さず 人当たりの良い好人物であると専らの評判であるが 身内 特に子どもには非情に厳しく【修練】と称して折檻を行う鬼ババアとして有名。

 

特に利発で聡明な長男には日々お説教と生活の糧(小遣い)を減らすという非情な一面を見せており 帝都に巣くう鬼ババ伝説の元になったという。

 

 

 

 

 

482 :202:2013/08/30(金) 21:46:17

 

 

 

 

 

 

 

[編集] 特徴

 

 

 

 

 

碧く澄んだ瞳と目の上で切り揃えられた前髪 脚の付け根くらいまである長い真っ直ぐな金色の髪にくるくる巻き付けて結んだ赤いリボンが外見的特徴。

 

パイロットスーツがとってもエッチでお尻がちょっと見えている。

 

パイロットスーツのときは髪の毛をツインテールにして纏めている 夫の嶋田繁太郎は最初目の遣り場に困っていたらしいが後々慣れてしまったらしい 人間慣れるものである。

 

 

 

四十路を迎える現在でも来日時と全く変わらない外見から 不老不死なのではと噂されている。

 

リボンの色は日によって白や青に変わることもある。

 

赤いリボンは幼少期からのお気に入りで 白と青は愛する人から送られた宝物らしい。

 

 

 

ラーメンをこよなく愛し 特にカップ麺やインスタント麺は『日本の至宝である』と豪語するほどのラーメン好き。

 

愛用のインスタント麺メーカーの会長が亡くなった際には仕事を休んで葬儀に参列するくらいラーメン開発者には敬意を抱いている。

 

夜中にラーメン食い過ぎて5kg太ったらしい 太らない体質の許容範囲をオーバーするほど食べるラーメンのプロ。

 

食べなければ太らないのに何故か食べる 不思議である 中毒である。

 

ラーメンを我慢しすぎているときは目がキマッテる。

 

 

 

好物はラーメン ラーメンならば余程のゲテモノでもペロリと完食してしまう。

 

ニ○シン マルカ○品 ミョ○ジョウ サ○ヨー食品 など有名処のインスタント麺はコンプリート済み。

 

地域ではラーメン貴族なる渾名まで付けられている。

 

 

 

また【嶋田さん分】なる成分が無くなってしまうと途端に元気が無くなるが 逆に言えば【嶋田さん分】があればいつでもどこでも元気であり 特に間近にいる場合は身体能力も大幅に上昇するらしく

 

世界3大騎士(モニカ・クルシェフスキー 枢木スザク カレン・シュタットフェルト)の一人 枢木スザクを一方的に攻め 手も足も出させないまま3分でKOしてしまったこともある。

 

 

 

【嶋田さん分】は嶋田繁太郎から補給できる。

 

補給するときはまず 嶋田繁太郎に抱き着く このとき完全密着していないと補給できない。

 

次に頬を合わせて塗り込むように擦り寄せる キスもすると一気に満タンになるのでなお良し。

 

とにかく嶋田繁太郎に引っ付くことが大切らしい。

 

 

 

【嶋田さん分】はモニカしか補給を許されない 彼女以外がそんなことしたら大変な事態に。

 

 

 

嶋田さんに愛されていないと死んでしまうらしい これはマジで。

 

 

 

嶋田に剣を捧げている。

 

 

 

モニカは嶋田を求めている。

 

その身体は きっと嶋田を求めていた。

 

 

 

 

 

 

 

[編集] 交友関係

 

 

 

 

 

幼少期に顔を合わせたクルシェフスキー家臣下の子弟たちが一番最初の交友関係と言える しかしながら侯爵家の教育課程の中で知り合ったせいか友人とまで言える間柄ではなくどちらかといえば完全な上下関係 主君と家臣の関係である

 

士官学校在学中も常に無表情の仮面を被っていた為 同期生 ライバルといった間柄であって友人関係とまで言える人物には巡り会えなかった。

 

 

 

モニカ曰く本当の意味で初めて親しい関係を作れたのは嶋田からであったらしく その縁で山本五十六 リーライナ・ヴェルガモン 辻正信と広がっていったとのこと。

 

嶋田が仮面を壊したお陰で交友関係は一気に広がったと言える。

 

 

 

現在 家族以外では山本五十六 リーライナ・Y・ヴェルガモン 辻正信 枢木スザク シャルル・ジ・ブリタニアおよびブリタニアの皇族貴族 ラウンズの同僚 ナイト・オブ・トゥエルブ親衛隊

 

などなど非常に広範かつ重要人物ばかりで締められている。

 

 

 

483 :202:2013/08/30(金) 21:46:51

 

 

 

 

 

 

 

[編集] エピソード

 

 

 

 

 

できちゃった事件

 

 

 

 

 

嶋田繁太郎の古くからの友人 山本五十六元大日本帝国海軍大臣と神聖ブリタニア帝国ヴェルガモン伯爵家令嬢リーライナ・ヴェルガモンの結婚式に出席した際 投げられたブーケを偶然にも嶋田と二人でキャッチ。

 

その後 酒に弱いという自身の体質を忘れて進められるままに祝い酒を飲み続け 二次会三次会でも勢いで飲んだ末に前後不覚になって帰宅。

 

お嬢様育ち故に普段は羞恥で抑えられているリミッターが解除されてしまい 訳も分からぬまま嶋田を布団の上に押し倒してしまう。

 

やめなさいと窘める嶋田をがっちり押さえ付けて逃がさなかったとか 酔っていてもラウンズ さすがである。

 

 

 

ついで幸せそうな結婚式で花嫁(リーライナ)からブーケを受け取ったのと いつまでも自分の恋心に気付いてくれない嶋田に対して『私を好きにならなきゃダメです!』云々口走り逆上。

 

侯爵家令嬢としてあるまじき行為に至ってしまい 明け方目を覚ましてから隣で眠る裸の大家を見て羞恥のあまり卒倒。

 

 

 

この一件について嶋田に気にしてないからと慰められるという大失態を犯し 更に三ヶ月後にはとんでもない事実が発覚。

 

 

 

これが後に二人の結婚に繋がる通称【できちゃった事件】

 

 

 

ホントかウソかは不明。

 

 

 

 

 

 

 

[編集] 出演

 

 

 

 

 

MHKスペシャル  【クルシェフスキー 西海岸の歴史】

 

 

 

 

 

 

 

[編集] 関連

 

 

 

 

 

ドラマ 蒼空の騎士 (モデルがモニカ・S・クルシェフスキー)

 

 

 

書籍  回顧録   【敗北は許されない】

 

 

 

     実録    【ナイト・オブ・ゼロ嶋田の騎士】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この項目は著しく真実とは違う内容が含まれているとクルシェフスキー家より訴えが出ています。

 

真実の部分もプライバシーの侵害であると抗議されています。

 

 

 

484 :202:2013/08/30(金) 21:47:25

 

 

最終更新:2013年09月20日 14:49



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「皆さんこんにちは朝のニュースです」

 

 

 

 

 

677 :202:2013/01/22(火) 18:42:41

 

 

 

東アジアの半島国家 高麗共和国。

 

そこで行われた高麗・中華・EU・清・ブリタニア・日本による六カ国協議。

 

無事終了して大清連邦の独立が承認された翌日。

 

高麗共和国はお祭り騒ぎになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんこんにちは朝のニュースです」

 

 

 

ニュースキャスターの声も浮かれ声。

 

 

 

「昨日開かれていた六カ国協議ですが 協議の結果 友好国大清連邦の独立が決定致しました」

 

 

 

「なおこの協議におきまして神聖ブリタニア帝国全権代表でもあります シュナイゼル・エル・ブリタニア第二皇子保証の元 我が高麗共和国が列強国として認定された模様です」

 

 

 

テレビ映像には高麗大統領とシュナイゼルの姿が。

 

 

 

『これで貴国も列強クラブの仲間入りですね』

 

 

 

「このようにシュナイゼル殿下自らのお言葉によって証明されました 解説のチェさんお願いします」

 

 

 

「ええ もう私の口から申し上げるまでもありませんね シュナイゼル殿下のお言葉通りです」

 

 

 

「では我が高麗は」

 

 

 

「はい 列強として認められたということです」

 

 

 

「おめでたいことですね 友邦 清の独立と 我が高麗が列強となった日が同じとは!」

 

 

 

「まさに歴史に残る日です とくに世界第一位の超大国 神聖ブリタニア帝国のお墨付きがもらえたのは大変重要なことです」

 

 

 

「と 申しますと?」

 

 

 

「ブリタニアが認めたということは 隣国であるもう一方の超大国 第二位の大日本帝国にも認められたということです」

 

 

 

「それはなぜでしょうか?」

 

 

 

「ご結婚がお決まりになられている日本の嶋田繁太郎元総理と ブリタニアの第三皇女ユーフェミア・李・ブリタニア殿下 お二人が夫婦になる関係で日本とブリタニアは親戚となります」

 

 

 

「はい」

 

 

 

「家族であるブリタニアのシュナイゼルお兄様がお認めになられた となれば妹様のユーフェミア殿下の夫 嶋田氏は弟様になるわけですから 日本とブリタニアの関係を鑑みるに

 

 日本も高麗を列強として見ることになる となりますね」

 

 

 

「それはすごいことではないですか!」

 

 

 

「ええ大変なことです 高麗共和国は2大超大国が認める列強国になったのですから!」

 

 

 

「では中華やEUもまもなく?」

 

 

 

「はい まもなく記者会見や談話で発表するかたちになると思います 新たな列強国 ブリタニア・日本・中華・EUに次ぐ5番目の列強国としての高麗共和国を!」

 

 

 

『これで貴国も列強クラブの仲間入りですね』

 

 

 

『これで貴国も列強クラブの仲間入りですね』

 

 

 

『これで貴国も列強クラブの仲間入りですね』

 

 

 

『これで貴国も列強クラブの仲間入りですね』

 

 

 

『これで貴国も列強クラブの仲間入りですね』

 

 

 

繰り返し流されるシュナイゼルのリップサーブス。

 

見ていた国民は大喜び。

 

 

 

「さあ祝いましょう!新しい列強国!高麗共和国マンセー!マンセー!マンセー!」

 

 

 

「マンセー!さあ次は嶋田氏とユーフェミア・李・ブリタニア殿下の高麗新婚旅行の準備ですね!」

 

 

 

「まだ決まっておられないようですが 新婚旅行は高麗一週の旅で間違いないでしょう!」

 

 

 

異常なくらいにハイテンションなニュースはいつまでも続いた。

 

最終更新:2013年02月10日 19:52

 

 



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影響を受ける人様作
シーランド王国建国前篇


868 :シーランド王国建国前篇:2013/06/22(土) 19:05:28
設定:休日世界
参考資料:シーランド王国 著者:休日氏
WIKI:シーランド王国 石油プラント コードギアス兵器
捏造設定あり ガンダムネタあり

869 :シーランド王国建国前篇:2013/06/22(土) 19:06:02



 

 

シーランド王国建国前篇

 

 

 

シーランド王国、その歴史はかなり新しく、波乱に満ちたものであった。

シーランド王国建国者であるE.U.イギリス州軍元少佐ルイ・ヴェーツは、建国前から現政府に対し不満を持ち、尚且つ癖の強い部下を押しつけられているという状況だった。まぁ、当の本人も癖がある軍人だったお蔭で部隊の中は良好で、『EUの愚連隊』と有名だった。

 

「あ~あ・・・つまらんなぁ」

「隊長そんなに暇なんですか?」

「暇というか不満だな」

「不満て・・・そんなのは前からじゃないですか」

「そうだな・・・あ、そうだ!」

「なんです?また上官の、遺贈のお酒でも盗むんですか?」

「違うよ。国だよ国!!」

「へ?」

「この国に不満があるなら、自分で作ればいいんだよ!!」

「その発想はなかった」

 

皇歴1979年2月14日・・・彼は部下の前で宣言すると、部下も「面白そうだ」と全員が提案に乗り、嫁も「いいんじゃないかしら」と普通に同意して密かに準備が進められた。

そして同年9月2日、イギリス州南東岸沖合10㎞の北海洋上にある廃棄施設にボート(中古品)を用いて上陸、放送をジャックして突如独立を宣言した。

廃棄施設は元々ブリタニアとユーロ・ブリタニアの侵攻に備える為に考案され、海上基地構想の実験施設として構築されたが維持費用や位置的な問題として廃棄されたものだった。

 

「廃棄されてずいぶん経つから汚いな・・・」

「まぁいいじゃないですか」

「住むならきれいにしないとね」

「嫁よ、そうだな!まずは掃除してから宣言だ!!」

「「「「「うっす!」」」」」

 

彼らは嫁主導の元、童心に帰ってこの拠点を整備、増設を行った。

 

「電力問題なし」

「そりゃ、最新の太陽光発電機持ち込んでいますからね」

「おい、ビニールハウスはどうだ?ある程度は自分で生産できないといけないぞ」

「設営できてますよ。ただ、淡水装置の方は定期的に交換しないと不味いですね・・・」

「そりゃ仕方がない。幸い俺にはおろしてある金がある。少しはもつだろう」

「倹約しないといけないわね」

「そうだな」

 

前向きな彼らは釣りをしたり、ボートレースをしたり、時折国に戻って足りない食料を買い込んだりしていた。

悠々自適。何をするのも自由、すべては自分の責任である。

建国?からしばらくして・・・事件は起きた。

翌1980年8月にブリタニア皇族を乗せた豪華客船、『エステカリーナ』号が行方不明になったのだ。

逸早く事件を知ったのはたまたま近くにいたヴェーツ等であり、受信が早かったのも彼等だった。

いくら勝手に軍をやめたとはいえ、人道的に無視をするなんて彼にはできなかった。

 

「おい、野郎ども!いくぞ!!」

「隊長、救急キットをありったけ詰め込みました!」

「流木とゴミで作った筏をけん引する準備が出来ました!」

「俺、泳げないんでここであったかい食事作っています」

「「「いいから来いよ!!」」」

「気をつけてね・・・」

「ああ、わかっているよ」

*1))

 

急行したヴェーツが見たのは、機関室から出火して煙を吹き上げる豪華客船だった。

すぐさまそのまま客船に取りついて怪我人を収容しようとするのと、周りに散らばった救命脱出筏に乗った人達を纏めるチームに別れた。

ヴェーツは自ら率先して乗り込み、船内を捜索する。

 

「隊長急いでください!」

「わぁってる!!」

 

部下を数人連れて大急ぎで館内を掛けていくと、逃げ遅れた貴族らしき人物とスーツを着た東洋人らしき人物が、奥の方からハンカチのマスクをしてあらわれた。

大急ぎで近づいていくと東洋人はヴェーツに気が付いたのか、ガックリと力が抜けたように前のめりで倒れそうになった。

慌てて支える。

 

「大丈夫か、しっかりするんだ!」

 

話しかけると貴族の方が顔を上げた。

 

「た、助かった。貴公、名は?」

「俺の名前なんかどうでもいい、貴様らの救助の方が先だ!」

「ヴェーツさんこっちも無事です!」

「隊長、振動が短くなってる。そろそろやばいです!!」

「しかし・・・『こちらAチーム。機関室に到着したがもう誰もいない。脱出する!!』お前らずらかるぞ!」

 

870 :シーランド王国建国前篇:2013/06/22(土) 19:07:07

最後の避難員を救助した後、急いでもどり。豪華客船を離れて五分後に大爆発を起こして豪華客船『エステカリーナ』号は海中に没した。

救助した客人達を、とりあえず自分達のホームに連れて行き、手当てをすることにした。

幸い救助した貴族専属の医者がおり、彼の尽力で死者はゼロ、行方不明もゼロと言う快挙を成し遂げた。

この時・・・

 

「辻さん・・・ここって」

「間違いありませんね。シーランド王国ですよ」

「前世界じゃ影も形もなかったのに」

「仕方ありませんよ。津波が怖いでしょうし」

「何か御礼したいですね」

「そうですね・・・近場の事情もありますし。地盤調査だけにしておきましょう」

「EUとはまだ構えたくありませんからね」

 

と言う会話があった。

御存じ主人公・嶋田繁太郎と大蔵省の魔王・辻正信である。

彼らはとある貴族と知己になるため来ており、今回の事件は本当に慌てた。

そして彼らの行動が、シーランド王国の存在を根底から変えることになる。

 

ブリタニアで有力な貴族も助けた彼等ヴェーツは、ブリタニア・日本から感謝状と両国からの行為で施設の点検拡張、地盤調査が行われた。

 

「いやぁ・・・壮観ですね」

「そうか?」

「施設も拡張してもらって、大きくなって住みやすくなったし。万々歳ですね」

「そうだな。金が尽きてきたらブリタニアまで逃げる道も出来たし、良かった、良かった」

「「あっはっはっは!!」」

「ヴェーツさん、大変です!!」

「ん?」

「船が・・・民間人を乗せた船が数隻向かってきます!!」

「・・・はぁ!?」

 

慌てて向かってくる方向に向かい、双眼鏡でのぞくと確かに船が数隻ほどこちらに向かっていた。

大体が小型船であるが、一隻だけ中型の古い貨物船までいた。

とりあえずこちらから迎えに行き事情を聴くと、どうやら今回の調査をどう勘違いしたのかわからないが、とりあえずわかったのは自分達と同じようにEU政府に不満を持ち、尚且つ今の生活を捨ててやってきた事だった。

これにはヴェーツ夫妻と部下たちも困惑した。

ブリタニアと日本にしてもEUをむやみに刺激するのは良くないとし、感謝状と地震対策の地形調査のみするつもりだったのだ。

そこに亡命難民である。

そんなに広くない場所に、一気に数十人以上がやってきたのだ。養う事なんてできない。

ヴェーツは今の生活をやめ、ブリタニアに亡命する道を選ぶことにした。

が・・・思わぬ介入を呼び込んだ。

 

ヨーロッパに帰る事を望むユーロ・ブリタニアが支援を開始したのだ。

 

871 :シーランド王国建国前篇:2013/06/22(土) 19:07:41

彼らは生涯の目標であるヨーロッパ帰還の足がかかりとしてシーランド王国に目をつけたのだ。

立地上の制約があるが、それでも勝算はあると見ていた。

 

※EU政府は今現在、末期状態であること。

※軍備がたいした事が無いこと。

※イギリスの財政等が酷く、とてもちょっかいを掛けられないこと。

 

等があるが、もしここでシーランド王国を仮に認めると、EUがこの国を滅ぼそうとするだろう。

その時は「友邦国家を守る」という建前で進軍できるようになる。

シーランド王国は、EUにとっての破滅に導く起爆信管としての役割を求めたのだ。

だがブリタニア本国としては旨味がない。場所が遠いうえに資源なんてない。周りは敵だらけ・・・どうしろと?

ユーロ・ブリタニアとしは独力でも戦力を調達することはできるが、今は居候の身だ。いくらブリタニア本国の財政と綿密にかかわっているからと言って、勝手には動けない。

渋るシャルル皇帝陛下に、ある提案を挙げた。

 

「日本と連名でかの国を認め。海洋研究所とすればよいかと思われます」

「海洋研究所ならば、すでにあるが・・・」

「あれは水産と海底資源調査関係のみでございます。かの国に求めるのは、将来における海洋コロニーの実施試験であります」

「ほう」

「さらに・・・」

「なんと、あの国はそれを認めるのか?」

「認めます。ある程度の利益が見込めるならば賛成するでしょう」

「ふむ、よくできておる。・・・しかし、日本が容認するかな?」

「そこは私が責任を持って説得してまいります」

「わかった。そこまで言うならば任せよう」

 

貴族は深く頭を下げた。

さっそく行動を起こした貴族は、日本に渡り交渉した。

むろん最初は渋ったが、海洋国家である日本は水中用KMFの実戦検証ができるかもしれないという軍部の思惑と、将来の投資を見据えた夢幻会の後押しを受けて承諾。

数日後には、連名で世界中に衝撃を与えることに成功する。

 

『我が神聖ブリタニア帝国と大日本帝国は、両国要人の救助というルイ・ヴェーツ1世陛下とシーランド国民の多大なる貢献に対し、シーランド王国を友邦と認め、国家として承認する事をここに宣言致します』

 

驚いたEUはすぐさま制圧に乗り出したかったが、

 

『尚、シーランド王国は最恵国待遇として迎えられることになり、最低限の自国防衛体制が整備されるまでは我が国が安全を保証します』

 

この発言により、ユーロ・ブリタニアの思惑通りEU政府は沈黙をするしかなかった。

この時、本来ならば調査船と言えど臨検調査くらいする筈のイギリス政府は、最初から動かなかった。

と言うのも、実は密約が交わされていてとりあえず監視はするが何もしないという取り決めがあったのだ。

そして今回の発表により第三国経由ではあるが、ある程度の食料が輸入する見込みが立ち。少しはプラスの要素があった。

何もしなければ民意を改善でき、一応EU政府にも監視はしているからと言い訳は立つ。

このようにしてシーランド王国に次々と資材が運ばれていくことになる。

この事態に全くついていけなかったのは、もともと住んでいたヴェーツ夫妻と部下たちであった。

 

「なにがなにやら・・・」

「いいのかしら?」

「これで隊長も正式に国王様ですか」

「そうだな」

「「「「にあわねぇ~」」」」

「うるせぇ!!」

「でも、これからは大変よ。なんか会社経営みたいになるみたいだし」

「そうだな。この年でまた勉強しなきゃならないのか・・・とほほほ」

 

まぁ、唯一の慰めとして『最恵国待遇』を与えられた唯一の国であり。ちゃんとした国家が出来るまでは保護してくれるだろう。

シーランド王国の整備はまず埋め立てから開始されるはずだったのだが、難民があれから少し増えたために急遽、住居と発電所を送る事になった。

 

872 :シーランド王国建国前篇:2013/06/22(土) 19:09:17

居住区は主に工員たちの住むスペースが割り当てており、それをお世話するのがシーランド王国の人達であった。

発電所は太陽光・風力・潮力で発電稼働するモノである。

これらは後々移動する事が考えられたため、海上に浮かぶタイプである。

最初は海上プラント群で王国を形成させるのを目標とし。

最終計画案は約二十年の歳月を掛けて国土面積0.00055k㎡から約4k㎡の人工島することを目標よしており。

人口も約15,000人にまで対応可能にするもであった。

第一次計画案は、

 

居住区:住民300人×1島 大(港付)

研究区:×2島 中

農業区:×1島 中

商業区:×1島 小

集積区:×1島 大(港付)

軍事区:×1島 中(港付)

工業区:×1島 大:1(港付)

発電区:×1島(港付)

シーランド王国本島×1島 極小(未整備)

 

第二次系計画案は、

 

居住区:住民300人×3島 大(一つに港付き)

研究区:×2島 中

農業区:×2島 中

娯楽区(カジノを含む):×2島 中(一つに港付き)

商業区:×1島 小

集積区:×1島 大(港付)

軍事区:×3島 大:1 中:2(連結して空港兼用)

工業区:×2島 大:1(港付) 中:1

発電区:×2島 中:2

シーランド王国本島×1島 極小(埋め立て開始)

 

最終計画案は、

 

居住区:住民400人×3島 大(一つに港付き)

研究区:×3島 中(連結予定)

農業区:×2島 大

娯楽区(カジノを含む):×2島 中(一つに港付き)

商業区:×2島 中(連結予定)

集積区:×2島 大:1(港付) 中:1(港付)

軍事区:×3島 大:1 中:2(連結して空港兼用)

工業区:×2島 大:1(港付) 中:1

発電区:×3島 中:3

シーランド王国本島:住民10000人×1島 極大(埋め立て完了)

 

である。戦力もかなり潤沢で、

 

陸上KMFブリタニア:60騎 日本:40騎

水中用KMFブリタニア:60騎 日本:40騎

水中用KGF:20騎

水陸両用戦闘航空艦艇:4機

対潜対空水上艦:24隻

 

を最終配備する予定である。他にも避難用の水中シェルターが各島にはあり、

 

873 :シーランド王国建国前篇:2013/06/22(土) 19:09:49

シーランド王国本島:1(水中用KMF・KGFの緊急発進基地兼用。居住区・軍事区・発電区・集積区に避難可能)

居住区:×3(避難用潜水艦基地兼用、集積区と本島に避難可能)

研究区:×1(農業区に避難可能)

農業区:×2(居住区に避難可能)

娯楽区(カジノを含む):×2(商業区に避難可能)

商業区:×2(娯楽区と集積区に避難可能)

集積区:×2(軍事区・居住区・商業区・発電区・工業区・本島に避難可能)

軍事区:×2(水中用KMF・KGFと潜水艦の緊急発進基地兼用。集積区と本島に避難可能)

工業区:×1(集積区に避難可能)

発電区:×3(避難用潜水艦基地兼用、集積区と本島に避難可能)

 

となっている。もっとも水中の建設は、最終段階にしか計画に載っていない。

あくまでもこの計画案は順調にいけば・・・となっており、政情によっては途中で取り止めることもあった。

主な目的は海洋研究であったが、娯楽区になるカジノも法律がブリタニア本国よりも緩和されて散財しやすくなっており。

海洋観光も貴重な外貨獲得の必須事項であった。

密約によりイギリスからも収入があるので、ある程度は賄える。

しかし誤算だったのは、意外にも亡命してくる人数が当初考えていたペースよりも早く、想定していたよりも多くの住民が増えたことで居住区の拡張が急がれた。

この事態を見て面白くないと考えるEU所属の国はもちろんあった。

だが、大抵はブリタニアと構えたくないという理由で静観していたのだが・・・いつのころからか抗議をする民間船がやってきて威嚇をし始めた。

ブリタニアから派遣された護衛艦が近づいて警告するのだが、一度は離れても別の方角からやってきて威嚇をすると言うイタチゴッコになっていた。

次第にその数は増えていき、EUを刺激しない為に少数しか派遣されていない護衛艦では対処できなくなっていった。

寄港予定のシーランド王国はまだ整備中であり、そんなに長く駐留できないのも理由の一つだ。

そんななか配備されたのが水中用KMFである。

居住区島に続いて集積区島と共に配置された軍事区島には、EUを刺激しない為に航空戦力は載せていなかったが水中用KMF専用の基地が存在した。

KMF【ポートマン】が配備され、小型の民間船を追い回して追い払う事が期待されて、それに答えた。

元々武装に関して少々頼りない感じはあったが、追い払う分には問題なかった。

だが、武装する民間船が出てきてからは一変する。

簡単な対潜兵器を装備した彼らはテロリストとして対処はできたが、【ポートマン】の搭載している魚雷の航続距離が短すぎたのと、スラッシュハーケンを当てようとして海上に顔を出した瞬間に銃撃されてしまうのとで思ったような戦果が挙げられなかった。

ブリタニアは護衛艦を増やすことで対処しようとしたが、EU政府を刺激するリスクを考えると戸惑われた。

悩むところにやってきたのが日本の水中用KMF【ズゴック】であった。

【ポートマン】とは違い、【ズゴック】は合金製クローを持っているうえに、水中でも撃てるコイルガンを装備していた。

また、より水中に適した機体になっているおかげで【ポートマン】よりもはやく、水圧にも強かった。

この機動を見たブリタニア派遣軍の兵士が、

 

「もし我々が、ちゃんとした水中用KMFを作るならば、ズゴックよりも強いモノを作らなければならない」

 

874 :シーランド王国建国前篇:2013/06/22(土) 19:10:21

と言わしめるほどに優秀で、【ポートマン】は警戒機と作業用に割り当てられてしまった。

【ズゴック】はクローで竜骨を叩き切り、魚雷で船底に穴をあけ、コイルガンで反撃するなどの戦果を挙げ。『サハギン』と言うコード名をもらうようになった(ちなみに【ポートマン】は『フロッガー』である)。

まさに技術大国日本の面目躍如であった。

【ズゴック】はまさに恐怖の代名詞と言える機体になった。

しかし人間は対処していくものだ。しばらくすると、【ズゴック】でさえも対処が難しくなった。

高速で移動する魚雷艇の出現だ。

いくら水中の抵抗力を下げていると言っても、海上を突き進む魚雷艇には勝てない。

振り切られて対潜兵器をお見舞いされると、さすがに堪えた。

彼らは民主主義をこそ世界を支える政府と言う心情を持つ狂信的な輩か、海賊だと名乗っていた。

どう見てもEU所属国の嫌がらせであった。

こちらも数を揃えてはいるが、1・2隻でも抜けられると各浮き島に接近されて銃撃されるなどの被害が出た。

むろん抗議するが、EUは知らぬ存ぜぬを押し通した。

彼らの装備は型落ちの武器ばかりで、在庫処分と言っても差し支えないようなものだった。

猛威を振るい始めた彼らに頭を抱えていると、日本のある兵器がシーランド王国に送られる事になった。

 

◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

◆◆◆

 

その日、シーランド王国軍事区〔G-1〕に搬入されたのは、あまりにも大きな荷物だった。

 

「なんですかこれ?」

 

運ばれてきた“モノ”を見ていた兵士に一人が、ついてきた日本の技術者に聞いた。

 

「これですか?これはKGF【ヴァル・ヴァロ】です」

「KGF?」

「『ナイト・ギガ・フォートレス』ですね。中に脱出用KMFを搭載させた大型局地兵器ですよ」

「へぇ。そうなんですか?」

「これ一機で小規模の艦隊くらいなら殲滅できる能力があるります」

「え、艦隊ですか!」

 

驚きはした兵士ではあるが、さすがにそれは嘘だろうと思い。もう一度巨大な機体を見た後、哨戒任務に戻る。

その時、巨大な機体を見ていたのは兵士だけではなく、国王ルイ・ヴェーツとブリタニアの軍事士官であった。

 

「こいつがなぁ・・・」

「ええ、日本が作ったKGFだそうです」

「データは見たが、実戦検証はこれからか」

「そうですね・・・しかし、この機体が成果をたたき出せば日本も大量配備するでしょう」

「大量にはいかないんじゃないか?費用は高いみたいだし」

「はは・・・、しかし日本で起動試験を見学させてもらった友人が言うには『化け物だ』だそうです。期待してもいいともおもわれます」

「そうだな、そうしよう」

 

二人は下層格納庫に搬入されていく機体を見届け、その場から立ち去る。

 

「それはそうと研究区の建設は進んでいるのかな?」

「基礎部分は完成しているそうです。農業区等の事は門外漢なので分かりかねますが・・・とりあえず軍事区〔G-2α〕〔G-2β〕の建設が急ピッチで進んでいるそうです」

「それが来れば、航空戦力の目途が立つか」

「ええ。ですが、戦力の中心はVTOL機が中心でしょう」

「滑走路が長くできれば問題ないんだけどなぁ」

「通常の戦闘機運用はできません」

 

二人はそのまま外に出て外周通路を歩く。

途中哨戒している兵士に返礼しつつ、間借りしている改装貨物艦の行政区画に入った。

少し揺れる船内に入ると二人は別れ、ヴェーツは執務室に向かった。

執務室に入ると秘書の代わりをしている妻が、ちょうどお茶を入れていた。

 

「あら、お帰りなさい」

「ああ、ただいま」

 

妻が自分の分のお茶を入れてくれるのを見つつ、席に座る。

 

「それしても・・・」

「ん?」

 

お茶を入れ終わり対面に座った妻が、視線をちょっと泳がせていた。

 

「私、本当のお姫様になるなんて信じられなかったわ」

「それは俺もだよ」

「あの時はおんぼろだったのにね」

「そうだなぁ。あの時は乗りと勢いでやっていたからな」

 

軽く笑いお茶を一口飲み、お菓子をつまむ。

妻もお茶を飲み、ホッと息をついて心配げな顔を向けた。

 

「それにしても最近は大丈夫かしら?」

「例の連中か?」

 

妻が心配するのは、ここ最近暴れまわる海賊の事だろうと予想する。

ここまで露骨に嫌がらせをしてくるのははっきり言って予想外であり、ヴェーツにとっても悩みの種だった。

 

「大丈夫さ。日本から新兵器もきたし、今度は何もさせないよ」

「・・・そうね。わかったわ」

 

心配そうな妻にヴェーツは笑いかけて安心させようとした。

妻も彼の表情から、自分を心配しているのがわかり微笑んだ。

 

 

しかし、ヴェーツ夫妻の懸念は一月後に具現化する事になる。

最終更新:2013年09月08日 17:40

 

 

 

 



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シーランド王国建国後編

926 :シーランド王国建国後編:2013/06/23(日) 11:29:06
設定:休日世界
参考資料:シーランド王国 著者:休日氏
WIKI:シーランド王国 石油プラント コードギアス兵器
捏造設定あり ガンダムネタあり

927 :シーランド王国建国後編:2013/06/23(日) 11:29:38


 

 

 

 

 

シーランド王国建国後編

 

 

シーランド王国軍事区〔G-1〕の戦闘指揮所が、慌ただしく動いていた。

原因はいつもの事ではあったが、今回の規模は今までよりも大きなものになっていた。

 

「くそ!吊り上げられた護衛艦はまだ戻ってこないのか!」

「護衛艦より伝達。『周囲に非武装の抗議船がおり、行動に阻害有り。威嚇発砲するも、離れず』です!」

「なんてことだ・・・ここまで組織的に動くとは、予想外だ」

 

戦闘指揮所のメインモニターには、吊り上げられて周囲を囲まれた護衛艦三隻が無様な姿をさらしており。

頼みの綱となる【ズゴック】も、敵高速艦艇に翻弄されてなかなか戦果を挙げられていない。

何時も数隻の高速艦艇がおちょくる様に動き回るだけなのだが、今回は明らかに駆逐艦と見える艦艇が一隻混じっていた。

船体の形から推測するとかなり前の年代物であるが、拘束されている味方艦が来ればすぐにでも撃沈できる代物だ。

しかし最悪な事に、四隻いるうちの護衛艦一隻が機関不調で軍事区〔G-1〕の仮港で係留中。

【ズゴック】においてはブリタニアとの部品共通化があるため何とかなってはいるが、独自の稼働コクピットの整備が大変手間がかかる。

さらに配備数が【ポートマン】に比べて少ないのもネックであり、高速艦艇六隻に対して稼働できる機体【ズゴック】八騎が拘束されていた。

現在、旧式駆逐艦×1と護衛の高速艦艇×4がこちらに突進していた。

 

(どうする・・・あいつらの目的は集積区の可燃物エリアだ。砲弾の一つでも落ちたら・・・)

 

最悪な未来を想像してしまい、慌てて頭を振るう。

自分はここを守る事を一任されている。

欧州に戻るための一手として重要な場所であり、自ら志願して着任したのだ。

しかし手札は少なく、防衛はなかなかうまくいかなかった。

戦力さえ整えられれば・・・そう思うが、そううまくいかないのが世の常だ。

苦悩していると格納庫から連絡が入った。

 

『指令、外では何が起こっているのですか?兵士がかなり慌てているようですが・・・』

 

連絡を入れてきたのは日本から来た技術者だ。あと数日もすれば日本に帰る手筈となっていた。

 

「ええ、少し不味い状況です。いつでも避難できるようにしていただけると・・・」

『そうなのですか。・・・それならば、“アレ”をだしますか?』

「“アレ”・・・とは?」

 

そこまで言うと、技術者の言う“アレ”と言うのを思い出した。

 

「調整が終わったのですか?!」

『ええ、先程ようやく』

「すぐに出せますか!」

『出せます。ですが・・・整備と調節をしていた為、あまり弾薬を積み込んでいません』

「いえ、それでもかまいません。時間を稼げれば何とかなります」

『了解しました』

「ご苦労をおかけします」

 

礼を述べて通信を切り、別の受話器を取り上げて格納庫に連絡つなげる。

 

「ああ私だ。状況はわかっているな・・・装備数が少ないのはわかっている!的になる可能性が高いのも承知しているが、今は出せる戦力が欲しいのだ!急げ!!」

 

受話器に怒鳴りつけると戦域マップの睨みつけながらも指令は指示を出し続けた。

 

◆◆◆

 

928 :シーランド王国建国後編:2013/06/23(日) 11:30:11

連絡を入れていた日本技術者が振り返ると、一人のパイロットが楽しそうな笑みを浮かべて立っていた。

 

「ヴェルナーさん。大丈夫ですか?」

「ああ大丈夫さ。なんでか知らないが、今自分はとてもワクワクしているよ」

 

技術者の前に立つ男・・・『ヴェルナー・ホースト』は安心させると様に言ったが、技術者の方はあまり緊張していなかった。

この技術者。前世において最前線近くで働いていたこともあり、こういう修羅場にはある程度慣れていた。

ヴェルナーは振り向き、最終調整をしていた機体を見つめる。

本来ならば赤い塗装をしているはずなのだが、この欧州の海に合わせた青い塗装を施した【ヴァル・ヴァロ】を頼もしそうに見ていた。

 

「さて、出撃許可が出たし俺は乗るよ」

 

そう言って去るその背中を、技術者は複雑な心境で見ていた。

 

(あの人は・・・どう見てもIGLOOのヴェルナー・ホルバインだよなぁ・・・

 この世界のそっくりサンなのか、それとも転生者なのかわからん。

 それとなくジオンとか聞いてみたが、全然反応しないし。

 記憶無しの転生か?

 脱出用KMF【ゼー・ゴック】っていうけど・・・フラグにはならないよなぁ。

 まぁ・・・度胸はあるから大丈夫でしょ)

 

そう締めくくると管制室に向かう。

 

◆◆◆

 

ヴェルナーは会話の後すぐに【ゼー・ゴック】に乗り込み、機体が【ヴァル・ヴァロ】に接続されたのを衝撃で感じ取った。

【ゼー・ゴック】は水流抵抗を少なくするためにカプセル状のモノに入っており、海水で中を満たして空気を抜く構造になっている。

通常のKGFが機首上部にKMFがあるのに対し、【ヴァル・ヴァロ】は後部上部に接地されており、横倒しになっている。

 

「よし、調整はうまくいっているな。すべてオールグリーンだ」

 

彼がこの機体に乗り込むときに感じたのは、どういうわけか懐かしさだった。

EUからの亡命者だったヴェルナーは漁村生まれで、そのまま漁師になるはずだった。

しかし不況のあおりを受けたせいで仕方なく食い扶持の為に軍に志願、【パンツァー・フンメル】に搭乗して治安維持などをしていたのだが・・・シーランド王国の事を知り、正式に退役して亡命してきた。

そして経歴を生かして最初は【ポートマン】に搭乗していたが、日本から持ち込まれた【ズゴック】を見た時衝撃が走ったのだ。

強烈なデジャビュが走ったその時、思わずお守り代わりの銛を触っていた。

自分はこれに乗っていたことがある。

ヴェルナーは急いで指令室に向かって交渉した。

KMFの才能を見出していた司令の推薦もあり、彼は無事に日本製水中用KMF部隊隊長に任命されて【ズゴック】を乗りこなした。

そして今回、この未知のKGFを動かせる人物として選ばれたのだ。

去来する様々な思いを胸に感じつつ、再び衝撃が走った。

リフトが下がり、海面近くまで下げられた。

しばらくすると機首に当たる部分が下に向けられ、全体が斜めになったところで止まる

 

『よろしいですか?』

 

コクピットのモニター画面の隅に、技術者と整備士達が映っているのが見えた。

にやりと笑い、親指を挙げて肯定する。

 

「ああ、出してくれ!!」

『では・・・』

 

「『エントリー!!』」

 

掛け声とともに【ヴァル・ヴァロ】は、その巨体を海中に滑るように突入した。

すぐさま機関を始動させて進み始める。

20メートルほど海中に沈んだところで水平になり、旋回する。

戦場は反対側で行われており、急いで向かわなければならない。

 

「さてと・・・〔電磁界装甲〕展開!」

 

気合を入れるのと同時に、スイッチを入れる。

【ヴァル・ヴァロ】の表面に変化が表れて、のろのろと進んでいた機体が次第に早くなり、軍事区を抜けるころには高速艦艇に負けないスピードを出して戦場に向かっていた。

 

「うひょぉぉぉ!!やっぱりこいつはパワフルだぜぇ!」

 

普通の水中用KMFでは得られない【ヴァル・ヴァロ】の加速力に、ヴェルナーは感嘆と興奮を表情に出す。

軽く右旋回左旋回してみても、殆どスピードが落ちない。

ヴェルナーが楽しんでいる頃、海上ではパニックが起きていた。

いきなり巨大な敵影がソナーに映ったかと思えば、あり得ない速さで突進してくるのだ。

すぐさま護衛の高速艦艇が駆逐艦から離れて謎の敵に向かう。

いくらスピードがあろうと相手は水中にいるならば、対応は同じだ。そう判断したのだろう。艦艇群は散開して包み込むように布陣、五隻が一斉に対潜魚雷を放つ。

駆逐艦が二発、高速艦艇が一発ずつ発射した魚雷はすぐに着水して敵に向かった。

距離もあるからこれで十分、たとえデコイで避けても第二陣を放つ余裕が駆逐艦には在った。

 

「おお!?魚雷か!!」

 

929 :シーランド王国建国後編:2013/06/23(日) 11:31:09

レーダーに映った小さな影を【ヴァル・ヴァロ】はすぐに解析と分析し、素早く教えてくれる。

すぐにデコイ発射を推奨してくる。が、ヴェルナーは違う判断を下した。

機体を水平から一気に上昇に変更した。

警報が鳴り響いて注意を促す。

 

「うるせぇ!黙ってろ!!」

 

対潜魚雷は一気に【ヴァル・ヴァロ】に向かってくる。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

更にスロットルを吹かさせてスピードを上げ・・・機体は海面から爆発するように飛び出た。

その光景を敵艦体は茫然と見ていた。

はじめてみるKGFの巨体に度肝を抜かれ、ソナーから上昇してくるとわかっていて待機していた銃手もその巨体に目をひん剥いた。

敵が驚いているとは知らないヴェルナーは、機首を少し離れているが充分射程圏内にいる高速艦艇の一隻に向けると、予めチャージしていた機首下部のカバーを開いてハドロン砲をぶっ放した。

狙われていると知って慌てて回避しようとした高速艦艇であったが、呆然としていた事が仇となって回避するまもなく直撃、爆散した。

仲間がやられて正気に戻ったのか距離を詰めてくる高速艦艇に、着水した【ヴァル・ヴァロ】も突進する。

水上でもかなりのスピードが出せるうえに、近接攻撃用の腕を使用する事で急激なターンやブレーキを駆使し、別の高速艦艇に向かっていく。

銃撃をする高速艦艇の攻撃は数発当たるのだが、【ヴァル・ヴァロ】の装甲を打ち抜けるほどのものではなかった。

〔電磁界装甲〕は、防御能力はないが【ヴァル・ヴァロ】自身の装甲はそれなりにある。ある程度の距離は慣れていれば弾くのも容易だ。

お返しとばかりにモーターガトリングガンをぶっ放す。

銃撃の閃光に慌てて銃手が伏せると、今まで撃ち放っていた機銃や艦橋に弾痕が刻まれ、粉砕される。

装甲が無きにひとしい艦艇だ。あっという間にハチの巣になり、銃弾がまだ残っていた対潜兵器が治められている場所を打ち抜くと、爆発して消し飛ぶ。

怒り狂った駆逐艦が砲撃する時には、察知した【ヴァル・ヴァロ】はすでに海中に潜っていた。

 

「ふぃぃぃ・・・あぶねェ、あぶねぇ」

『なにやってんですか!!』

「うぉぉぉ!?」

 

額に浮かぶ汗を拭くと同時に、サウンドオンリーで怒声が聞こえてきた。

 

「あ、あんたか・・・脅かさないでくれよ」

『【ヴァル・ヴァロ】の装甲は硬いですが、潜水艦と同じで穴が開くと不味いのですよ!!』

「ああ、そういえばそうだった。すまん」

『もういいです。・・・敵が動揺しているようです。このまま一気に・・・』

「わかっているさぁ!」

 

930 :シーランド王国建国後編:2013/06/23(日) 11:31:40

勢いよく答え、通信を切ると同時に少し落ちたスピードを再び加速させた。

あっという間に二隻もやられ、残った二隻の高速艦艇は離れないように一定の距離を保って【ヴァル・ヴァロ】を挟むように移動していく。

ヴェルナーとしてはさっさと駆逐艦を撃沈したかったが、二隻の高速艦艇はそうはさせまいと妨害してくる。

仕方がないので向かってくる高速艦艇に正対するよう機体を移動させ、すぐに魚雷を発射した。

敵が水中を進んでくる機体であるため、魚雷の存在は警戒していた高速艦艇はすぐにデコイを発射し、ほぼ同時に機首に装備されている爆雷投射機を起動させた。

魚雷はデコイに引っ掛かって逸れ、爆雷はうまい具合に【ヴァル・ヴァロ】を直撃するコースになった。

 

「甘いんだよ!!」

 

が、ヴェルナーは海面近くまで機体を浮上させると同時に対空ミサイルを発射、その後すぐに反転して腹ばいになり両腕を爆雷に向けて爪を開いた。

黒い線条が二本、爆雷を薙ぎ払うと同時に破壊した。

とんでもない方法で迎撃した敵に船員が頭を抱えると、仲間が怒鳴ってきた。

怒鳴っている方向には二発のミサイルが見えて・・・彼の乗る艦艇は直撃を受けてこの世から消えた。

爪を閉じて戦果を気にせずそのまま潜航し、一気に海中に潜る。

残った高速艦艇が逃げようと旋回を開始、その間に一気に詰め寄り距離を縮めた【ヴァル・ヴァロ】は海面から飛び出し、すれ違い様に伸ばしておいた腕で持ち上げるように艦艇をひっくり返してしまった。

【ヴァル・ヴァロ】が海中に戻る時には高速艦艇は艦首から海面に落ち、何度もバウンドしながら周りに部品や人間をばらまき、最後には真二つになって沈んでいった。

残った駆逐艦は相手にしている敵が恐るべき兵器であると知り、泡を食って離脱にかかった。

しかし、ヴェルナーは逃がすつもりなどない。今まで好き放題にやられて頭に来ていたのだ。

全滅させる行為は、政治的に見ても調子に乗った海賊・・・派遣元のEU政府に対する姿勢を見せるのもある。

他にもあるのだが政治家の思惑の事は知らない彼は、単純に仲間の為に敵を許すことは無かった。

ミサイルを放ち、同時に魚雷を放って横に回り込むように移動する。

駆逐艦もやられまいとミサイルを迎撃するために機銃を放ち、魚雷を避けるためにデコイを投下する。

しかし、たった一隻の弾幕などで高速で飛翔するミサイルを迎撃する事などできるわけがなく、悲しいことに全て直撃してしまう。

かろうじて魚雷はデコイの方に向かった。が、被弾して発生した火災を鎮火するために、急いでポンプを動かして消火をしなければならなかった。

 

「わるいな・・・逃がすわけにはいかねぇんだ」

 

必死に船を生かそうとする彼等の真横から【ヴァル・ヴァロ】が飛び込んで、

 

機首のハドロン砲で中央を分断、

 

モーターガトリングで薙ぎ払い、

 

駆逐艦を飛び越えて、開いておいた爪のハドロン砲を拡散式で穴だらけにして、

 

【ヴァル・ヴァロ】は着水した。

 

猛攻を受けた駆逐艦は、もう浮いているのが奇跡としか見えず。艦体は松明のごとく燃え盛っていた。

燃え盛る中、いきなり後部がはじけ飛んで何かが数発発射された。

それを機体のレーダーでとらえ、解析された結果を見てヴェルナーは目を向いた。

 

「なんだ・・・デカいミサイル!!」

 

最後に放ったのは、大型ミサイルらしきものだった。

戦闘が終わったと思い込んで落としていたスピードを、慌てて一気に引き上げて追いかけ始める。

しかし空中を進むミサイルの方が早いのはわかりきっている。

それでも諦めきれないヴェルナーは残っていたミサイルと魚雷をすべて投棄し、ハドロン砲に回されるエネルギー全てを推進力に変えた。

さらに【ヴァル・ヴァロ】を海面に浮上させて水中ではなく、海上を進むのを選択して海面を突き進んだ。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉ!!」

 

931 :シーランド王国建国後編:2013/06/23(日) 11:32:12

猛烈なGに、シートに押し付けられながらもミサイルを追いかける。その彼の前に、高速艦艇が二隻出てきた。

【ズゴック】を拘束していた二隻が仲間の救援きたのだが、あっという間にやられてしまい。せめて最後の抵抗を成功させるために妨害に打って出てきていたのだ。

 

「邪魔だぁぁぁぁぁ!!」

 

両側から迫る高速艦艇右側に舵を取り、モーターガトリングをばらまく。

最初は距離がありすぎて当たらなかったが、お互いに距離を埋めていくうちに直撃が出始めた。

 

「負けんなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

お互いに被弾し始め、チキンランの様になっていたが・・・装甲のある【ヴァル・ヴァロ】の方に結局軍配が上がった。

艦艇は爆散し、残った艦艇がその爆炎の横目に突進してくる。

それに対して薙ぎ払おうとしたが・・・弾丸が出てこない。

 

「しまった。撃ちすぎた!!」

 

元々ミサイル撃墜のために残しておいたのだが、緊急出撃の上に弾薬はあまり搭載していなかったのを忘れていた。

急いでハドロン砲を撃つことも考えたが、今速力を落とせばミサイルに追いつけない。

だからといって目の前の敵も無視できない。

 

「しょうがない。荒いが、我慢してくれよ!」

 

ヴェルナーは機体を一時的に沈ませると、一気に機首をあげてジャンプさせた。回転を加えて。

視界が目まぐるしく変わり、更にGの負荷も加わり意識が飛びそうになる。

まじかで飛び上がった巨体に、船員が驚き見上げてしまう。

見上げたおかげで気が付いた。

【ヴァル・ヴァロ】の腕が伸びていた。

回転を加えた軌道は、ちょうど高速艦艇を上から叩き潰す軌道だった。

それに気が付いた何人かが海に飛び込もうとする。しかしそれよりも早くに腕が落下してきて艦艇の後ろを見事に叩き潰した。

 

「ああもう!わかっているよ!!」

 

コクピット中に警報が鳴り響き、それらを一時的に黙らせる。

それと同時にミサイルを見ると見えなくなっていた。

慌てて確認すると、ミサイルだったものは全て海中を進んでいることが分かった。

どうやら迎撃をさせ難くするためなのだろう。変わった機構である。

魚雷に変貌したミサイルは、海水と言う防壁に守られながら突き進む。

さらに最悪な事に【ズゴック】を完全に無視して、残った高速艦艇が向かってきていた。

小さく舌打ちをし、海中に潜って魚雷を追う。対潜兵器は怖いが無視する。

さらに先程無茶をした腕から警報が鳴りやまないので、軽量化の為に切り離して突き進む。

 

「いけいけいけいけぇぇぇぇ!!」

 

932 :シーランド王国建国後編:2013/06/23(日) 11:32:43

可能な限り軽量化し、エネルギーを推進力に変えた【ヴァル・ヴァロ】は想定されていた以上に速さを見せつけた。

徐々に距離を詰め、次第に近づいていく魚雷。

集積区に向かう魚雷は恐らく、係留させている支柱に命中するようプログラムされているはずだ。

それをどうにかしなければならないのだが、ひたすら機体を直進させているヴェルナーの頭には無かった。

ただひたすらに魚雷に追いつく、それだけを考えていた。

後ろから高速艦艇が追いすがるが、まったく追いつけない。それ以上のスピードを出せばひっくり返る危険があるためだ。

 

『お前らの相手は俺たちだ!』

『隊長の邪魔させん!!』

 

その高速艦艇に、海上を滑るように移動できる装置を取り付けた【グロースター】が襲いかかる。

高速艦艇もそれに応じて攻撃を加え始め、激しい戦闘が後方で行われ始めた。

しかし、極限まで精神集中していたためにまったく気が付かず、ただひたすらに突進させていた。

この様子を司令部でも見ていたのだが、彼が何をするつもりなのかわからなかった。

そして集積区からわずか50メートル先で、後から追い掛けていた【ヴァル・ヴァロ】は魚雷を追い抜くことに成功した。

【ヴァル・ヴァロ】は魚雷の近くを通り過ぎ、巨大な体躯で海中を撹拌し、その衝撃に魚雷はめちゃくちゃに振り回されて誤った反応して全て自爆した。

 

魚雷が無力化された光景を、固定カメラとソナーで確認していた司令部は一気に歓声に包まれた。

 

「やったぞぉ!」

「やりましたね、指令!」

 

危機を脱したことを知った司令部が沸きあがる中、一人の通信兵がとあることに気が付いた。

 

「あ、あれ?・・・指令・・・」

「ん、なんだ?」

「【ヴァル・ヴァロ】が止まりません」

「は?」

「集積区の下を潜り抜けてそのまま突き進んでいます」

「・・・どういうことだ?機械トラブルか!?」

「いえ、そうではないようです」

 

通信兵はそういうとヘッドホンを手渡した。

そのヘッドホンからは・・・

 

『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!』

 

えらくハイテンションな声が聞こえてきた。

ガックリと肩を落とす指令を見て、通信兵が同情のまなざしでどうしようか聞いてみる。

 

「・・・自動帰還装置を起動させろ」

「了解」

 

何とも締まらない最後だった。

 

933 :シーランド王国建国後編:2013/06/23(日) 11:33:14

 

 

この後、自称海賊は全滅した。

脱出して生き残った者は全員テロリスト扱いでブリタニアに移送され、抗議団体はいきなり浮上突入してきた【ヴァル・ヴァロ】に驚いて退散した。

ブリタニアは正式にEUに対し抗議。EUも暴走した一部の政治家と軍部を処分する事で対応し、戦争回避に動いた。

抗議団体もEU政府の働きにより徹底的に抑えられ、イギリスもこのような団体は事前に察知して対応した。

処分が終わるまでに出てきた自称海賊に対しても、イギリスは徹底的に攻撃を加えて撃退し、密約を守る事を必死にアピールした。

流石に旧式駆逐艦を見逃したことは問題視されたからだ。

この後、シーランド王国は順調に整備されて世界初の海上都市として有名になり、海洋研究所としても名を馳せる様になる。

なお【ヴァル・ヴァロ】はこの時の戦果が認められ、正式に発注がかけられて合計20騎が納入されることとなった。

また、ブリタニアでも導入が一部進められることになる。

 

934 :影響を受ける人:2013/06/23(日) 11:34:32

 

 

と言うわけで、ようやく完成しました。

なんというか・・・【ヴァル・ヴァロ】を優遇し過ぎたような感があります。

かといって手直しできないし・・・

そして思った通り文章が酷い出来に・・・うまい人を見てもどうしたらいいのやら・・・

あと、投棄した腕は無事に回収されています。技術を渡すわけにはいきませんからね。

後、今回原作からキャラ持ってきてみましたがどうでしょうか・・・もしアウトならば改訂してやり直しをします。

楽しんでいただけたら幸いです。

 

935 :シーランド王国建国おまけ:2013/06/23(日) 11:35:12

おまけ

 

海上滑走ユニット:陸上KMF専用装備

上陸作戦でKMFを直接揚陸艦から発進させるために製作されたユニット。

コクピット両脇に推進用の大型プロペラを装備して、脚部にサンドボードに酷似したスキー板を取り付けることにより会場を滑走できる。

波が穏やかならば外洋でも運用できるが、コストに比べて活動限界が短くなるという欠点が発覚し、生産は少数のみで終わった。

他にも武装できる場所が両腕と、脚部固定の後付ロケットランチャーしかない。

しかも銃弾補充がしにくいとテストパイロットから報告が入るなど、評判は良くなかった。

銃弾補給はベルト式を採用する事で何とか解決したが、重量が重くなって速力が落ちた。

それでも海上防衛には使えるかもしれないという事で、シーランド王国にはとりあえず作った全てが配備された。

最終更新:2013年09月08日 15:04



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ファイバーとシャンブロの活劇

559 :ファイバーとシャンブロの活劇:2013/06/29(土) 16:43:42
ファイバーとシャンブロの活劇



 

 

 

その日、ブリタニアは大いなる戦争に動いた。

午前中にEU所属の国がシーランドに宣戦布告と同時に進行を開始した。

日頃から警戒網をしっかりしいていた王国側はすぐさま対処、KGF【ヴァル・ヴァロ】を中心とした水中戦力を多用して進行豚に打撃を与える。

この時点でブリタニアも、友邦国家であるシーランド王国を守るために艦隊を出し始めた。

しかしその夜、EUの最精鋭である特殊部隊がKGF格納庫に侵入し、破壊工作を仕掛けて撤退した。

小艦隊を相手にできるKGFを漸減させられ、著しく防衛が困難になったシーランド王国に中途半端に再編成された艦体が再度襲撃し、海上施設にダメージが入った。

元々EU各国を刺激しない規模に抑えられていたシーランド王国にとってこれは、深刻な痛打であった。

通信により現状を知ったブリタニアは、この時の為に用意しておいた戦力を投入する事を決意した。

KMF【フライルー】を中核とした追加装備【ファイバー】による弾道弾式長距離強襲である

戦線が開かれて二日目の夜の出来事だ。

 

 

 

シーランド王国から出向中のヴェルナー・ホーストは、夜中の出撃に合わせて寝ていたが少し寝過ごしてしまい、大急ぎで着替えて【フライルー】に乗り込んだ。

 

「まさか留守中に襲撃されるとは・・・あいつら無事かなぁ」

 

計器を捜査して問題中確認し、ハンガーに飛行形態で固定されている【フライルー】内部で心配げにシーランド王国がある方向を見る。

その間に、【フライルー】には各武装が取り付けられる。ミサイルにガトリング砲、手持ち武器としてヴァリス等々・・・

すべての武装を取り付けた【フライルー】は半KGFとでもいうべき存在となり、発射台まで牽引されていく。

まだ起上っていない発射台の上に到着してロケットブースター(外見がどう見てもACFAのVOB)装着し、もう一度すべての装備が動くかどうか点検してからようやく発射台が起上る。

同時に打ち上げるのは十機ほど・・・

計器類を念入りに確認し、管制塔に通信をつなげる。

 

「いよぉし! こちら“ダイバー1”発射OKだ」

 

ヴェルナーが言うと僚機からも肯定が入った。

 

『了解。カウント・スタート』

 

管制塔が答えてロケットを起動させ、振動がコクプットを揺らす。

 

『五秒前』

 

かなり無茶をして機体を打ち上げる為、KMFでは珍しくヘルメット装着が義務図けられ、最新の対G装備を着ている。

 

『4』

 

コクピットも全天モニターではなく、頑丈にするために以前のタイプにしている(それでも最新型)。

 

『3』

 

振動がより激しくなった。

 

『2』

 

【ファイバー】のコクピットで、ヴェルナーは唇を軽く湿らせる

 

『1』

 

ここで気合を入れ、

 

『0・・・グッドラック!』

 

【ファイバー】十機が打ち上げられた。

 

「っぅぅ・・・・・!!」

 

凄まじい衝撃と圧力に目の前がちかちかする。

振動も激しく、操縦桿から手が離れそうだ。

が、根性は人一倍ある。消して離さずモニターに映る後ろの風景と、高度計を見る。

 

「はん・・・てぇ・・・ん・・・!!!」

 

一定の高度で錐揉みするように反転、だんだん真っ直ぐから斜めになっていく。

眼下にはブリタニアの海岸線が見え、基地はもう小さく見えていた。

隣を見ると、僚機が順調に飛行しているのが見える。

思わずにやりと笑うが、歯を思いっきり喰いしばっているので全然格好がつかない。

そんなわずかの間に【ファイバー】は成層圏まで到達し、一時的な水平飛行に移る。

成層圏の世界は彼に感動とやはり、懐かしさを思い出させていた。

そんな感動は長く続かず。イギリスが見えてきたところでロケットブースターを切り離し、降下体勢に入った。

目指すは敵艦体中央部。

 

「うぉぉぉぉ!エントリイイィイィィィ!!」

 

全ての【ファイバー】が一気に突入していく。

しばらくするとミサイルが飛んでくるが、当たらないか当たってもブレイズルミナスで弾き飛ばしてしまう。

恐らく艦艇のレーダーでの攻撃だろう。タイミング的に遅いのは、密約を順守するイギリスの介入だろう。

イギリスは「刺激したくない」との理由で軍は動かさずに、宣戦布告した国家が基地を利用していた。だが、つかえていたのは海岸部のみで内陸部の方はボイコットしていた。

 

「ひゃっほう!入れ食いだぜぇぇぇぇぇぇ!!」

 

射程県外からレーダー照準で、お荷物な対艦ミサイル・熱源ミサイルをぶちまける。

拡大されたモニターの中で、慌てて回避行動をとる艦艇が見えるが迎撃されなかった全てのミサイルが着弾した。

空を飛行していた敵戦闘機にも熱源ミサイルの雨が襲いかかり、何機も撃墜した。

 

「どっこいせぇぇぇぇぇ!!」

 

560 :ファイバーとシャンブロの活劇:2013/06/29(土) 16:44:12

踏ん張って水平飛行に移らせつつ、【ファイバー】をKGFモードからKMFモードに切り替える。

敵が戦場に突如出現した巨大兵器に狂騰するなか、ミサイルカーゴからコンテナミサイルを放って飛び回っていた戦闘ヘリのハエを叩き落とす。

飛行速度を緩めずハドロン砲で駆逐艦や、水中用KMFの天敵である小型高速艦艇を薙ぎ払い。

艦橋めがけてガトリング砲をぶっ放してハチの巣にする。

宵闇の中、被弾した戦闘艦が松明の様に燃え盛っている

反撃してくる敵もいるが、【ファイバー】には自動的に障壁をはってくれる簡易AIを搭載しているから問題ない。

思う存分暴れまわっていると、体制を整えたジェット戦闘機群がやってきた。

さすがの【ファイバー】も、編隊を組んでチームプレーをする戦闘機の群れは天敵だ。

ハドロン砲とガトリングガン、ヴァリスで弾幕をはりつつ後退するがだいぶ遅くなってきた機体のせいで思うように進めない。

万事休すかと思われたとき、上空から再びミサイルの雨が降り注いだ。

慌てて散開する敵を見て、すぐにレーダーを横目で確認し、上空を映すモニターを見る。

 

「へっ、遅いじゃねか」

 

そこには第二陣として到着したばかりの【ファイバー】部隊がいた。

 

この後、【ファイバー】部隊は最後の第三陣まで到着してシーランド王国の残存戦力と共闘し、EU海軍に多大な出血をさせてユーロブリタニア艦隊の侵攻を容易にさせることに成功した。

そしてこの反抗時に、シーランド王国から出撃した新型兵器があった。

 

◆◆◆

 

イージス艦艦長ボルドイはこの作戦に懐疑的で、消極的だった。

しかし軍人である以上、命令に従わざる負えず。部下を無事に帰すことに専念すると決めていた。

最初のKGF襲撃は予想されていた。その被害も何とか想定内に収まり、再編を大急ぎで終えて進撃再び開始した。

特殊部隊の破壊工作がうまくいったのか、最初の襲撃よりも少ないKGFの群れに落ち着いて対処し、海上施設に打撃を与えることに成功。

すぐに上陸戦力を載せた強襲艦が、激しい抵抗にあいながらも港に強行的に突入し、強制的にでもKMFが自力で上陸できそうな場所に横付けして戦力を移していた。

 

「今の所、順調か・・・」

「はい。艦長、我が艦は支援しなくてよろしいのですか?」

「この船は正規空母の護衛がメインだ。命令が無いのに動けるか」

「失礼しました」

「・・・気が逸るのも無理はないが、落ち着いて行動しろ。戦場ではどんなことがあるかわからんのだ」

 

そう言ったものの、横に立っている副艦長は少し不服そうな顔でいた。

副艦長は極端な民主主義者で、こんなところに王国を作ったヴェーツや何もしないイギリスに対し、大いに不満をもっていた。

野心もあるのでたびたびこうして積極的に動こうとする。

内心で溜息をつきつつCICの画面を見つめて、異常が発生しないか見張る事にした。

彼の不安は、その日の夜に現実のものとなる。

交代で休んでいたボルドイが館内放送で飛び起き、駆け足でCICに飛び込むと怒号が飛びまくっていた。

その中で必死に指示を出している副艦長を見つけると、肩を叩いて彼が覗き込んでいる対空レーダーを共に覗き込んだ。

 

561 :ファイバーとシャンブロの活劇:2013/06/29(土) 16:44:43

「どうした」

「艦長!敵襲です・・・いきなりあらわれました!」

「いきなりだと・・・どういうことだ??」

「はい・・・どうもイギリスの向こうからやってきたようなですが・・・とにかく見て下さい。おい!例のを移せ!!」

 

副艦長が怒鳴ると、大画面に見たこともない巨大な機体が出現していた。

 

「なんだコイツは・・・」

「恐らく空中飛行型のKGFです。こいつが猛スピードで上空から強襲してきて上陸艦隊を襲撃しました」

「この混乱はその為か・・・」

「はい。数は少ないですが、あり得ないぐらいの火力のせいで艦艇に被害が出ています」

「いかんな・・・提督からは?」

「『機動艦隊は一時的に此処から離れ、敵奇襲に備えんとす』だそうです」

「ぬ・・・う・・・」

 

その命令は味方を見捨てるようにも聞こえるが、空母があの砲撃戦の中に突入しても無意味で邪魔な存在でしかない事には変わりなく、妥当な判断であった。

 

「わかった。それで、進路は?」

「それは〔Beee!Beee!〕どうした!!」

 

いきなりの警報に、副長が怒鳴るとレーダー員が振り向いて答える。

 

「ミサイルです!シーランドから多数のミサイル接近!!」

「ちぃ!こちらを逃がすつもりはないという事か?!」

 

すぐに迎撃ミサイルを発射すると同時に単装砲と機銃を飛来する方向に向ける。

迎撃ミサイルが何発かうまく撃墜してくれたが、すべて撃墜できるはずもなく全体の83%がこちらに向かって突進してくる。

 

「良く引き付けてから打ちこめ!!」

 

ボルドイの怒声に船員は威勢よく返答し、副艦長も他の艦との連絡を密に保つべく努力する。

機銃と単装砲が艦上で火を噴き、ミサイルに近づくなと拒絶の意識を叩きつける。

更に数発撃墜できたが、一発がボルドイの指揮するイージス艦に突入してきた。

 

「いかん!対ショック急げ!!」

 

マイクに噛り付いて怒鳴り、すぐに自分も体を固定する。

わずか数秒であったはずなのに長く感じられ、じれったくなるが衝撃は思いっきり乗艦を揺らした。

悲鳴が上がるCIC内で、ボルドイは動揺が収まると同時に顔を上げて状況を確認する。

幸いなのか最悪なのか、ミサイルは艦体中央部上甲部にあたっていた。装甲が最もある場所で、レーダーに近い場所であった。

 

「レーダーは・・・くそ、だめか!」

 

乱れまくる画面を見て、机を八つ当たり気味に殴りつける。

近くで倒れたままの副館長を助け起こすと、聴音手がヘッドホンを投げ捨てた。

 

「艦長此方も駄目です。やつら、ミサイルの中に海中で作動する妨害装置まで含めていたようです」

「いかんな、それは」

 

海中の耳を塞がれたという事は、水中用KMF・水中用KGFの接近がわからないという事だ。

更に念入りに磁器探知機まで封じるものもあったようだ。

すぐにこの海域から離れなければならないが、機動艦隊はまだ混乱していた。

しかし、被害はそうでもないのかすぐに消化が始まり。通信が正常に入り始める。

一安心できると思った時、CICのモニターの一つに映っていた味方艦が何かに貫かれた。

一番初めに気が付いたのは副艦長だった。

 

「・・・なんだあれは・・・」

 

彼が呟いて見つめる方向にCICにいた全員が目を向けると、その味方艦中央部から何かが生えていた。

それは三本の爪があって・・・その爪は見ている前で素早く視界から消えた。

爪が生えていた味方艦は休息に沈み始め、艦体を真二つにして海中に消えた。

次に餌食になったのは沈められた艦艇の近くにいた味方艦で、海中から出現した何かが覆いかぶさるように伸し掛かり、艦の上を破壊しながらその巨体を伸し上げた。

それはまるで恐竜のようなシルエットだった。その巨体は見るものすべてを圧倒し、恐怖を抱かせた。

それ・・・モンスターは好き放題に味方艦を蹂躙した後、海中に戻った。

 

「はっ・・・あ、あいつはどこにいった!!」

「わかりません!以前海中の様子はモニターできません!」

 

562 :ファイバーとシャンブロの活劇:2013/06/29(土) 16:45:13

呆然としていたボルドイであったが、すぐに職務を思い出して問いかけるも芳しくない状況が報告された。

あれがなんなのかはわかる。恐らくシーランド王国の切り札だろう。

その存在を、態々ミサイルまで発射して隠したのだ。

そして目標もわかる。狙いは味方の正規空母だ。

ボルドイが命令しようとすると、味方艦から一斉に悲鳴が上がった。

水中用KMFが一気に襲いかかってきたからだ。

味方のKMFモドキの【キャンサー】も応戦しているだろうが、あちらは嫌がらせなどをあしらってきた経験者でこちらはまだそれほど経験のない乗り手、勝敗などわかりきった答えだった。

 

艦底をぶち抜かれるもの、

 

艦上に這い上がられてロケット弾を撃ち込まれるもの、

 

側舷から穴を広げられて侵入されるもの、

 

返り討ちに成功するも最後っ屁で魚雷をドテッパラに受けるもの、

 

阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた。

 

ボルドイはそれでも艦を空母の近くに持って行き、護衛しようとした。

もう艦隊行動がどうのこうのと言っていられなかった。

最悪を避けるべく行動する。

だが・・・ボルドイの行動は無意味なものとなる。

モンスターが再び海面近くに浮上し後部から大量のミサイルを発射。無事だった味方艦に被害を与え、前方にいた邪魔な護衛艦を振り上げた腕で叩き潰す。

ボルドイが砲撃を叩きこむが、空中に障壁を展開して弾き飛ばして空母に直進していく。

空母もやられまいと機銃などを怪物に向けて攻撃するが、同じように障壁を展開して防ぐ。

そしてとうとうモンスターは空母に張り付いた。

側舷エレベーターを引きはがし、いったん海中に身を沈めさせ、今度は勢いをつけて飛び上がった。

機体は見事に空母の上に乗っかり、折りたたんでいたクローを展開して残っていた航空機を掴んではうるさい機関砲に叩きつけ、黙らせていく。

そればかりかモンスターは頭部から白い閃光を吐き出し、閃光を海上に向けて薙いだ。

閃光が当たった艦艇は赤熱蒸発して爆発して沈んだ。

胸部からも黒い線条の砲撃が叩き込まれ、近寄ってきた艦艇を串刺しにする。

強襲揚陸艦から発艦してきたのか戦闘ヘリが急行してきたが、後部からミサイルを叩きだして追い払う。

そしてダメ押しとばかりに両肩の装甲が上下に割れて何かが射出され、後から白い光が射出されたものに当たると光はレーザーとなって進路上の物をランダムに貫き薙いで行った。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ボルドイのイージス艦はもろの白い光を受け、艦体がずたずたにやられてもはや沈むのも時間の問題となってしまった。

 

563 :ファイバーとシャンブロの活劇:2013/06/29(土) 16:45:43

「副艦長、こうなっては仕方がない・・・総員退艦を命じる」

「艦長・・・」

「大の男が泣くな。何、生きて入ればんとかなるさ」

 

そう言って傷を負ったCICのメンバーに、肩を貸して出て行った。

死者はいたが生き残った船員が全員脱出できる時間はあったらしく、急いだものの余裕を持って退艦できた。

そして投げ出された他の艦艇の船員を助けている際に、もう一隻いた空母を口からの閃光で大穴を開けて撃沈し、仕上げとばかりに居座って居た空母を上から串刺しにして爆発沈没する前に退却していくのを、ボルドイは只々見つめていた。

 

この後、彼らはシーランド王国で捕虜となり収容所のに入れられ、終戦まで過ごして無事に帰国できた

モンスター・・・KGF【シャンブロ】は、元EU海軍兵士に大いなるトラウマを植え付けていた事を書いておこう。

 

564 :影響を受ける人:2013/06/29(土) 16:46:23

 

どちらも好きな機体であったので、即興で書いてみました。

至らない部分もありますが、喜んでいただければ幸いです。

 

シャンブロの性能ですが簡単に・・・

 

シャンブロ『SHAMBLO』 和名:嵐餓『ランガ』

型式番号:AMA-X7 開発:ブリタニアと日本の共同開発機

生産形態:試作機

武装: 頭部装備:荷電粒子砲×1 ガトリング砲×2

    胸部:ハドロン砲×5 コイルガン×2 スラッシュハーケン×4

    椀部:大型クロー×2 拡散構造相転移砲×2 スラッシュハーケン×2 コイルガン×二

    後部:ミサイルランチャー×8(総弾数24) 魚雷×4(総弾数16) コイルガン×四

特殊装備:ブレイズルミナス クラッシュブースター(両肩×6 後部×4) フロートユニット 電磁界装甲

移動手段:ホバー ランドスピナー フロートユニット

操縦者:二人

 

解説:日本とブリタニアの共同開発機。

将来において水中用KMFの需要が減ると判断した上層部が拠点防衛用に開発したKGF。

拠点防衛という事で移動は遅くとも良く、防御力重視という事で装甲が重視されている。

しかし計画よりも巨大化したためユグドラシルドライブを二つ装備しており、巨体の旋回能力を補助するためにフロートユニットまで装備、緊急回避用にクラッシュブースターまで取り付けた結果【ヴァル・ヴァロ】が四機、楽に生産できるほどのコストになってしまった。

その為一機のみの生産となっている。

操縦者も二人必要で、脱出用KMFを装備していないのも特徴である(コクピット自体が脱出可能となっている)。

凄まじい金食い虫であるがその能力は小さな要塞と言え、並大抵の腕では取りつくこともできない。

コイルガンがハリネズミのように装備されているのは、取りつかれるのを防ぐ為である。

拡散構造相転移砲も装備しているが、基本的にCP任せでおおざっぱな攻撃しかできない(味方を避けて攻撃できない。せいぜい自分に当てない様にするだけ)。

 

です。

とりあえずとんでも兵器にしてみました。

最終更新:2013年09月08日 15:34



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老貴族の憂鬱

429 :影響を受ける人:2013/04/19(金) 22:46:50

 

 

 

 

 

老貴族の憂鬱

 

 

 

 

 

 

儂はロズベルト男爵家の元当主、アルバート・ロズベルトじゃ・・・

今、儂は非常に悩んでおる。

というのも、現当主がどうしようもない無能であることじゃ

もともと本家を継ぐのはアヤツではなかった。儂の長男が継いでいく筈じゃった。

儂には子供が長男・次男・長女の三人がいる。

妻は長女を生み、しばらくしたら病気で他界してしまったがそれでも我が子を愛した。

将来は長男に継いでもらうつもりで教育を行った。

長女は社交界に出て、割とすぐに恋仲になった貴族(儂の友人の息子じゃ。正直嫁にはやりたくなかった)が出来たので嫁入りさせた。泣いたのぉ

長男も教育が良かったお蔭で領地も発展した。儂の手腕では現状維持がやっとだったからの。

儂は平民であったが、前当主に実力を認められて婿入りし、この家を継いだ。前当主・・・御父上の期待に応えられたかはわからぬ。かなり寡黙な方じゃったからな。

話がずれた。

長男も領地運営になれ、嫁を迎え、孫を産んでくれた時・・・儂はもう大丈夫だと思った。

このままゆっくりと老後を過ごそう・・・そう、思っていた矢先じゃった。長男夫婦が事故にあい、亡くなってしまったのは・・・

幸い孫娘が生き残ったものの、今も意識が戻らぬ。

儂は悲しみに潰れそうじゃったが、そうも出来ん。

なにせ領地運営は国から任されている大事な仕事じゃ。放り投げる事などあってはならぬ!

しかし、最近は体にガタが来ているようで思うように歩けなくなった。

仕事をするのもつらい・・・

儂は苦渋の決断で次男を呼び、当主とした・・・今思えばこれが間違いじゃったかもしれん。長女夫婦の縁者から養子を貰うか、併合してもらうかすればよかったかもしれん。

しかし儂には併合なんてできなかった。そうなれば御父上に顔向けできん。それにいくら縁が出来たとはいえ、余所の者を入れるには抵抗があった。

だから次男を当主にした。

次男はあまり力を入れて教育をしていなかったせいで、かなり乱暴者になっておった。

儂の間違いはここにもあった。長男に力を入れ過ぎたせいで次男の扱いが雑となり、傍若無人に育ってしまっていた。

妻が生きていたらこんな事には・・・いや、言い訳などすまい。これは儂のせいなのじゃ。

その為に、儂は強く注意を言えなかった。

図に乗った次男は散財の末・・・酒に酔った勢いで階段から落ちて死んだ。

儂は悲しんだが、皆は「自業自得だ」といい、だれも悲しまなかった。

次に継いだには次男の息子・・・現当主じゃ。

長男夫婦の子は遅く生まれたので、必然的にこの現当主になる。

そしてこの当主も父親そっくりじゃった。威張り散らし、金をアホみたいに使い、勝手に日本に出かけて友人が出来たと言えば、そ奴は問題があった放逐された人物・・・もうやになる。

仕事もろくにしないで、遊びほうけているしまつ・・・

長男夫婦が死んで一年・・・たった一年で領地の人口が減り始めた。

税収も減り始めた。領民からの苦情と、抱えている企業からの陳情に追われる日々・・・せめてもの慰めは、孫娘が順調に回復に向かっている事じゃな。

 

「だ、旦那様!」

 

む?なんじゃ・・・人が人心地をついている時に・・・

しかし執事が慌てているところを見ると、またバカが何かやり負ったのか?

どうしたのか問うてみると、執事は深呼吸をして・・・

 

430 :影響を受ける人:2013/04/19(金) 22:47:23

 

「クルシェフスキー卿は覚えておられますか?」

「うむ覚えておる。だいぶ昔の事で、お声はかけてはもらえなかったが・・・それがどうしたのじゃ?」

 

なんじゃろう。儂の感が聞くな!というておる。

だが聞かねばなるまい。

 

「その・・・ご息女のモニカ様は・・・」

「うむ、知っておるが・・・」

 

あの美しい御方じゃな。ラウンズにも選ばれた。ニュースで皇帝陛下と一緒によく見るわい。

あのバカ、まさか知らないでナンパしたとか言うわけでないじゃろうか?

そう思っていた儂の予想は外れた。最悪な方向でだ。

もう顎が外れそうなほぞ絶句した。

クルシェフスキー侯爵家と言えば、男爵なんかに比べれば遥かに大きい大貴族中の大貴族じゃぞ!

それを知らないばかりか罵った!!

しかも騎士候だからと馬鹿にしたぁ!!!

あ、あががががががが・・・

 

「だ、旦那様!しっかりして下さい!!」

「あ、ああ・・・す、すまん」

 

思考停止していた儂は、執事に肩を揺さぶられて何とか現実に帰ってきた。

不味い、非常に不味い!

な、なんと御詫びを申し上げればいいのか全く分からん!!

とにかく儂は事態を把握する為、秘密裏に報告してきた従者にバカを連れて戻ってくるよう指示をだし、更に友人の貴族達にクルシェフスキー侯爵家に通じる人物を探し出すことにした。

そして同時に詫びの手紙を手書きで作り始めた。

あのバカ者が!!

この家を・・・

御父上から継がせていただいたこのロズベルト家を潰すつもりか!!

儂は大急ぎで色々な事をこなしつつ、頭の中で現当主を罵った。

こうして準備はしておるが、相手は大貴族・・・門前払いされる可能性もある。そうなったらこの家は・・・

ああ・・・申し訳ありません御父上・・・もしかしたら駄目かもしれません。

そこまで考えて、ふと思う。

あれ?あのバカの発言、遠まわしに皇帝陛下も罵ってないか?だって騎士候を授けたのは陛下のわけで・・・

 

「ガハァ!!!」

「旦那様が血を吐いたぁ!!医者をよべぇぇぇぇぇ!!」

 

儂は意識が飛びそうなのを抑えつつ、壁にかけた肖像画を見た。

御父上・・・もしかしたらではなく、もうだめかもしれません・・・

そこで意識が途絶えた。

 

結果から言えば何とかなった。御家は何とか守り通す事が出来た。

何もわかっていなかったバカに事情を説明すると、面白いように蒼褪めていくのは面白かった。

そして友人のお蔭でクルシェフスキー家とコンタクトを取る事が出来、幸運にも三回目の接触で当主殿と場を取り持つ事が出来た。

謝罪と交渉の結果、バカは爵位剥奪の上当家から勘当と追放。

そして一時的に長女夫婦が領地も運営し、偶然にも目を覚ました孫娘をしっかり育てて当主に相応しくなるまで、ワシが男爵の地位を再び持つことになった。

この騒動の原因は全てわかっておる。

儂が次男にも目を向けていなかった事じゃ。

そしてちゃんとに注意する事が出来なかった事じゃ。

悔やんでも悔やみきれん・・・

 

431 :影響を受ける人:2013/04/19(金) 22:47:53

以上です。

初めての一人称視点でしたがどうでしょうか?

作品ごとにコロコロ視点を変えたり、作風をかえたりしているので皆様にとっては読みづらいかもしれません。

これには皆様の御意見と、私のおぼろげな知識から制作されているので突っ込み所が多いとおもわれます。

それでも楽しんでいただければ幸いです。

最終更新:2013年05月15日 20:35

 

 

 

 



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モニカ・クルシェフスキーの帰郷 & ジェンシーに乗ろう!!

 

 

 

モニカ・クルシェフスキーの帰郷 & ジェンシーに乗ろう!!

 

 

設定

休日・隠居騎士世界

内容は384-387と前スレの“厄介なプライド”

に関わる話で、モニカが「慣れていなかった」という発言をした後の出来事です。

ラウンズが出来ますが、アーニャとジノは出てきません。

 

 

 

 太平洋上空を飛行する旅客機、日本製【大鷲:765型】がエンジンを唸らせて大気の海を突き進んでいた。

 

「はぁ・・・」

 

 【大鷲:765型】の中でも豪華で、政府専用機としても知られる【タイプ:72‐IT】に溜息をついた張本人、モニカ・クルシェフスキーは居た。

 なぜ彼女がこの旅客機に搭乗しているかというと、きちんとした理由がある。

 まず先日に皇帝陛下から直々に呼び出しがあった。これ自体は半ば予想していたことであり、何ら驚くことではない。

 駐在文官の代わりとしてやってきたジノ・ヴァインベルグに引き継ぎをし、さて行こうかという時に日本の政府高官から「私たちも行くので同行しませんか?」というので便乗することになったのだ。

 が、これも溜息の原因ではない。

 

(嶋田さんに会えなくなるかもしれない・・・)

 

 その思いが原因だった。

 そもそも事の発端は、【ジェンシー】に乗った後の取材だ。

 下宿先である嶋田宅に帰宅して「モニカさんの事が載っていますよ」と渡された雑誌、週刊減退に載せられたその記事は、彼女にすさまじい衝撃を与えていた。

 当初は泣きついて諌めてもらい、別会社の記者に『今回は自分も週刊誌に付いて勉強不足だった』と答えてその日は終わった。

 が、事態が深刻になると理解したのは、翌日の仕事をしている最中だった。

 なんといってもブリタニアは帝政国家、歴史も物を言うが名声等も重要視される。

 そんな中、『ナイト・オブ・ラウンズの一人が、高麗の兵士より下だと認めた』という部分が(一スレ目865-869参照)問題となった。

 あの時の自分は確かに『高麗軍の兵士はラウンズ以上の勇者です』とも、『高麗軍の兵士は私ですら乗りこなせないKMFを乗りこなしていますから』とも言ったが、けして『高麗の兵士はラウンズより強い』だとか、『高麗製KMFは強い』などと言ったつもりはない。

 しかしあの記事を読んだ人間はどう思うだろうか?何も知らないような民間人ならまだいい。しかし、日本の“同盟国”である祖国ブリタニアはどうだろうか?

 その事実に行きついたモニカは、翌日から食欲不振・寝不足・ニアミスが多発し、とてもまともな精神ではいられなかった。

 そして一週間前、本国からの呼び出しがあったのだ。

 嶋田は心配そうに此方を気遣ってくれたが、自国の問題に彼を巻き込みたくなかったため、何も説明せずに出てきたのだ。

 

(嶋田さん。心配している・・・よね・・・)

 

 そんな状態で窓から見える空の情景を、うわの空で見つめていた。

 暫くすると、一人の男性が近寄ってくる。

 普段の彼女なら気が付くのだが、まだ外をボ~っと見しいて、接近する人物に全然気が付かない。

 

「もし・・・」

「・・・(ポ~)」

 

 男性が声をかけたが、視線すら動かない。

 

「あー・・・クルシェフスキー卿?」

「・・・(ポッポ~)」

 

 今度は少し強めに呼びかけてみたが、反応なし。

 仕方ないと思い、今度は肩を揺する事にした。

 

「クルシェフスキー卿!」

「(ビク!)うわひゃぃ!」

 

 さすがに揺すられ、怒鳴る様に呼びかけられた事でようやく気が付いたものの、目を白黒させて淡々しながら男性を見た。

 

623 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:51:13

 

「大丈夫ですかな?」

「だ、大丈夫です。辻さん」

 

 男性、辻正信は「ふむ」というと反対側の席に座った。

 

「何やら上の空でしたが?」

「そ、そうですか?」

 

 モニカは努めて冷静に、それでいてほほ笑みを浮かべて答えたが、微妙にヒックついていた。

 

「まぁいいでしょう。プライベートな話はまた今度ということで・・・」

「よ、よろしくお願いします・・・」

 

 なぜか、お辞儀してお願いしてしまう。そして目の前の人物が、なぜこの機に乗っているのか疑問に思った。

 

「あの・・・」

「私がなぜ、この機に乗っているかですかな?」

「え、ええ。そうです」

 

 辻正信は多忙な人物だ。日本という国の金庫番であると同時に、夢幻界の重鎮の一人であり、政界でも無視できない影響力を持つ。

 前総理である嶋田繁太郎ですら頭が上がらない、と言われるほどだ。

 そんな彼も後継者を育てていて、仕事はもっぱら彼に任せていると聞いていたのだが・・・

 

「清の対応について、ブリタニアで検討会議をするためです。」

「それなら彼でも対応できるのでは?」

「そうかもしれませんがね。色々とキナ臭くなってきたのですよ」

 

 まぁ、その他諸々もありますがね。と言って話を切り上げると、傍を通りそうになったスチュワーデスにお茶を注文した。

 

「辛気臭い話はこれくらいにして、どうです?」

「どう・・・とは?」

「そろそろ昼食時です。一緒に食事でもいかがかなと思いましてな」

 

 なるほど、備え付けの時計を見ればすでにお昼だ。自分がどれだけ心有らずだったかわかり、少し頬を染めた。

 辻はニヤリと笑う。

 

「それとも・・・こんな怪しいおやじよりも、彼の方が良かったですかな?」

「ふぇぇぇぇぇ!そ、そんなことありません!!」

 

 

 彼、と言われて思い浮かべるのはやっぱりあの人で、顔をさらに赤くした。

 

「はははは・・・そんな大声では、他の人物が来てしまいますよ」

「も、もう・・・」

 

 そんなやり取りをしていると、スチュワーデスが紅茶とメニューを持ってきた。

 二人はそれを受け取って何があるかを見る。

 

(政府専用機というだけはありますね・・・ん?)

 

 文字しかないメニュー表を上から見ていくと、下に気になる文字の羅列が入った。

 それは好物となった。

 

(ラ、ラーメン!しかも醤油味!!)

 

 食い入るように見るモニカ嬢。

 

(ど、どうしよう。辻さんは私の趣味(各社カップラーメンを食べる事)を知っているけど・・・)

 

 嶋田宅にいるときはあまり人目を気にせず食べられたが、ここは旅客機。他の人達がいる前でラウンズが「ラーメン下さい」なんて言えない。

 泣く泣く諦めて、その上の“ヒラメのムニエル 北輝次郎のホワイトアスパラガス・ソースを添えて”を注文した。

 そして辻は、

 

624 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:51:49

 

「“極上醤油ラーメン イベリコ豚のチャーシュのせ”を」

「!!??」

「わかりました」

 

 驚愕に内心震わせながら辻を凝視する。何か言いたい、でも言えない・・・プライドと本能(ラーメン食べたい)が鬩ぎ合いただ硬直するのみ。

 メニュー表を下げられた後も辻を凝視しつづけ、見られている辻本人は、そんな視線どこ吹く風とばかりに外の風景を楽しむ。

 

「うう・・・」

「くく・・・」

 

 微妙に笑みを浮かべる彼が恨めしい。

 睨みつけるモニカに辻は(ふむ、前も彼女のような子が居たら・・・萌え~)とか考えていた。

 しばらくすると注文したメニューが運ばれてきて、その際「しばらくこの近くに人を寄せ付けないように」とスチュワーデスに言う。

 

「はい。心得ました」

 

 彼女はそういうと、すぐ近くの内線を取りどこかに連絡をし、その場から離れた。

 居なくなるのを確認すると、辻はちょっと落ち込む彼女の前の食事と自分のラーメンを取り換えた。

 

「え・・・」

「天下のラウンズが「ラーメン下さい」なんて言えませんからね」

 

 先程のお詫びです。というとヒラメのムニエルを食べ始めた。

 モニカは茫然としていたが、すぐに御礼を言うとラーメンを食べ始める。

 

(ラーメン美味しい。そういえば、あれから食べてなかったなぁ)

 

 心の中で感謝しつつその味を楽しみ、久しぶりのラーメンを堪能した。

 その後到着するまでモニカの表情は、まだ陰りは有ったがだいぶ良くなっていた。

 

 

―――――

 

 

 ブリタニア・サンディエゴに到着後、すぐさま国内線に乗り換え移動。

 ブリタニア帝都ペンドラゴン近くの空港に到着し、一行はホテルに宿泊。朝早く起きて二手に分かれた。

 モニカは宮殿内の謁見の間へ、辻正信達の外交メンバーは政庁に向かった。

 

「ふぅ・・・久しぶりに来ると大きいわ」

 

 宮殿内を歩くモニカはこんなにも此処は広かっただろうかと思った。

 日本にいた時、彼女が良く行く国会議事堂は夢幻会の手でだいぶ機能的に作ってあり、そこまで広くなかったのだ。

 だがブリタニアは見得というものと、国民に憧れを持ってもらうために豪華絢爛に作ってある。

 

「あ、Tレックス・・・」

 

 そんな宮殿内を歩いていくと、通路の真ん中に巨大な骨格標本が、デーンと置いてあった。

 最近始められた化石採掘の影響だろう。

 シャルル皇帝陛下は意外と子供みたいな所があり、こういうモノはだい好物だ。以前は日本製の蒸気機関車があったように思う。

 又買ったのかな?そう思いつつ回廊を歩いていく。

 両側には様々な恐竜の骨格が並べられ、回廊を歩く者に対して威嚇しているようにも思える。

 それらを視線だけで見つつ、モニカは目的地の場所まで行く。

 

「・・・っ」

 

 そして目の前に巨大な扉が見えた。

 皇帝陛下、そして皇族・貴族が今回多数集まっているであろう、謁見の間に到着したのだ。

 一度大扉の前で立ち止まり、深呼吸をする。

 

625 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:52:57

(嶋田さん・・・私に勇気と奇跡をください!)

 

 心の中で決意と祈りをささげ、モニカは大扉に向かった。

 大扉は彼女が再び歩き出したのに合わせて開き始めた。

 赤い絨毯が敷かれた道をモニカは歩く。

 皇帝陛下が座る座前まで来ると、その場で跪いた。

 

「ナイト・オブ・ラウンズ・トゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー。ただ今帰還しいたました」

 

 ここまで来るさい、かなり奥の貴族たちが彼女を見てヒソヒソ話していた。

 おそらく、記事に書かれた自分の不用意な発言に、侮蔑と嘲りが起こっているだろうと判断する。

 その程度は先刻承知している。もはやあの失敗は無かったことなどできない。

 覚悟はもうできている。実家の両親に迷惑を掛ける、思い人に会えなくなるかもしれない。

 そう思うと覚悟揺らぎそうになるが、必死にこらえる。

 

「モニカよ。よく帰ってきた。面を上げよ・・・ィッッ」

 

 ん?何か変だった。疑問に思ったが、陛下の命により顔を上げる。

 

「・・・へ?」

 

 思わず間抜けな声が出たが、小さかったので誰の耳にも届かなかったのは幸いだった。

 今までちゃんと見ていなかったシャルル・ジ・ブリタニア皇帝陛下の姿はおかしかった。

 いや、全体像は変わらない。変わっているのは皇帝の首だった。

 

(なんで首にギブスをはめているの?)

 

 何があったのだろうか?一週間前見た時には何ともなかった。

 皇帝陛下の後ろに控える、ラウンズメンバーもなんだか痛々しかった。

 ビスマルク・ヴァルトシュタインは顔中に包帯を巻いている。

 ノネット・エニアグラムは足を負傷しているのか、時折顔をしかめる。

 ドロテア・エルンストは腕を吊るし、ルキアーノ・ブラッドリーはいない。

 予想外の姿に目を白黒させる。

 襲撃があった!?

 ・・・それはない。あったらラウンズである自分にも連絡が来る。

 事故にあった!?

 ・・・それもない。あったら報道機関がうるさくなる。

 

(何があったのかしら??)

 

 モニカが疑問で胸いっぱいにしていると、シャルルは痛そうにしつつも滔々と喋り始めた。

 まずは労いから始まり、日本での活動を誉め、最近の国外(特に清)についてどう思うか?の質疑応答する。

 ここまでは予想どおりなのだが、後半は横に逸れたり戻ったりとおかしい。

 しかも、なかなか例の問題にいかない事ので、モニカは更に疑問を浮かべる。

 それにどうも周りでヒソヒソ話している言葉が「クルシェフスキー卿はよく乗る気に・・・」とか、「あれは仕方ないだろう」とか、「皇帝の首は・・・」「何時もの事でしょ」などと自分に関する事もちらほら聞こえるが、どうも侮蔑や嘲りは聞こえてこない・・・

 むしろラウンズメンバーも同情、勇者を見る目なのだ。いったいなんなんだろうか?

 何が何だか分からなくなり、別の意味で心配になり始めた時・・・

 

626 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:54:06

 

「モニカよ・・・そなたは日本において、一つ失敗しておったな」

「っ!・・・はい・・・」

 

 とうとう本題が来た。回りのざわめきも小さくなる。

 皇帝の声が、この広い謁見の間に良く響き渡る。

 モニカは覚悟を決めて、次の言葉を待った。

 

「そなたの発言により、ラウンズの力は世界中に誤った認識を与えた。そうじゃな?ィッゥ…」

「は、そのとおりでございます。」

「その事について、そなたはどうするのだ?」

「この身に変えても世界にラウンズの強さを示し、誤った認識を正してごらんにいれます」

「そうか・・・」

 

 その答えを聞いたシャルルは目をつむり、考えるように顔を少し上に(痛そうに)向けてしばし沈黙する。

 その間モニカは真剣なまなざしで(内心:痛いならやめればいいのに・・・と思ったことは秘密だ)シャルル・ジ・ブリタニアを見つめる。

 皇帝はゆっくりと目を開いき、モニカの方に顔を向けた。

 

「それについては・・・あ~・・・もうよい・・・」

 

 なんだか歯切れの悪い言い方に、一度は心からいなくなりかけた疑問が再び持ち上がる。

 

「友邦国である日本から、謝罪と御詫びが来ておるし。、自分達でも把握するために、あの紛い物についての調査も、こちらでも再調査を行った。それに、そなたはいままで余の“盾”としてあまり外に出しておらなかったからな。日本の重鎮と、深い交流を持ったそなたを外すことはできぬ。失敗は誰にでもある。」

 

 あまりにも御咎めが軽いことに驚き、周りからも驚きの声が上がる。しかし「だが、」と言葉を発した事で、緩みかけた心を締め付ける。

 

「そなたは若いがラウンズである。余の騎士の一人であり、この国の騎士達の見本でもある。このような失態をした罰は与えねばならぬ」一度咳をし「明日、一度故郷に戻り謹慎せよ。そうじゃな・・・ひと月程度でよかろう。謹慎が解け次第、日本に戻り駐在武官として日本との友好のために尽力するのだ。よいな?ァッッ」

「はっ!寛大なご処置に感謝いたします!このモニカ・クルシェフスキー、日本との友好の懸け橋となるため誠心誠意鋭意努力してまいります!!」

 

 ひと月の謹慎という軽い罰則に、動揺しつつも表情には出さず。深く頭を下げて感謝の意を捧げた。それに頷いた(痛そうに顔をしかめた)皇帝はゆっくりと息を吸った。

 

「では、下がるがよい」

 

 

―――――

 

 

 謁見の間から退出すると、歩きながらしかし急いで、ナイト・オブ・ラウンズが住まう建物に向かった。

 そこは皇帝が住む場所に近く、ラウンズ全員分の部屋がある場所だ。

 モニカはその場所にいるであろう人物を目的に急ぎ、そしてその人物は日本に行く前と同様に仕事をしていた。

 

「ファランクス特務総監、ただ今戻りました」

「ああ、おかえり」

 

 そっけない態度だが、こちらを見るために挙げた顔はニヤリと笑う野性味があふれる笑顔だった。

 

「ベアトリスでいいというのに、クルシェフスキー卿はまじめだな」

 

627 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:54:39

 手を止めて仕事を中断し、お茶を入れるために立ち上がる。

 モニカが代わりにお茶を入れようとしたが、「疲れているだろうから休んでいるといい」と言われ、恐縮しつつそのまま席に座った。

 しばらくすると、紅茶を入れてきたベアトリスがモニカの前に座った。

 ベアトリス・ファランクスは元ナイト・オブ・ラウンズ・ツーだった事もあり、初めてラウンズとしてきた時にだいぶ御世話になった。

 彼女は皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアが鍛えた三人のうちの一人で、事故で負傷しなければ今でも軍部等において、ブイブイ言わせていただろう人物だ。

 そんな頭が上がらない先輩と一緒にお茶を飲みながら、二人は久しぶりの会話を楽しんだ。

 ユッタリとした時間が流れていく中、モニカは謁見の間での疑問をなかなか言い出せなかったが、思い切って聞いてみることにした。

 

「あの「陛下の事か」え・・・えっと、そうです」

「何か言いたげだったからな。帰ってきて早々聞きたがるのはそのぐらいだろう」

 

 ベアトリスはそういうと紅茶を飲み干し、カップにもう一度紅茶を注いだ。

 

「謁見の間で見たのだろう?」

「そうです。陛下はどうされたのですか?それのほかの方々の負傷はいったい・・・」

「あ~・・・それはなぁ。クルシェフスキー卿が呼び出された翌々日の事だ」

 

 

―――――

 

 

5日前

 

 神聖ブリタニア帝国演習場にて、本国に待機しているラウンズが一堂に集まり。その場に置いてある機体を見物していた。

 その機体は【ジェンシー】と呼ばれる機体で、ブリタニアが所有している【サザーランド】に酷似した機体だった。

 

「これが【サザーランド】のデッドコピー品のコピー品ねェ」

 

 金髪の男性、ナイト・オブ・テンのルキアーノ・ブラッドリーは侮蔑がこもった目で、その機体を見上げていた。

 

「そうだ。小癪にも我が国の技術が盗まれ、作られた機体だ」

 

 不機嫌さを隠さず言うのは、ナイト・オブ・フォーのドロテア・エルンスト。

 

「横流ししたのが、我が国の貴族というのも気に入らん」

「その貴族も御取り潰しになった。もう文句は言わなくてもいいだろう」

 

 未だに怒っている彼女に対し、苦笑しているのはナイト・オブ・ナインのノネット・エニアグラムだ。

 その横に黙って立つ偉丈夫、ナイト・オブ・ワンのビスマルク・ヴァルトシュタインがいた。

 口元は笑っていても視線はまるで狩人のように鋭いルキアーノは、顔を向けず視線だけでビスマルクを見た。

 

「んで。陛下はどのようなご命令を?」

「うむ。モニカの一件は知っていよう」

 

 その一言でその場にいた全員が察する。

 

(ようするに、汚名をそそげという事か)

 

 確かにラウンズの評判が落ちては帝国の、ひいてはその人物を選んだ皇帝の能力を危ぶむことになる。幸いモニカは国民受けがいいラウンズだったので、国民は「高麗製だからでは?」と(週刊減退の)情報を鵜呑みにはしていない。

 だが、反帝国主義にとっては良い叩き材料であることも間違いない。

 納得する三人をみながら、ビスマルクは秘めた思いを顔に出さずにいた。

 

(朝の修練で素振りしていたら鞘が抜けて、たまたま歩いていた陛下に当たって入院、仕事漬けになった逆恨みなどとは言えんよなぁ)

 

628 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:55:13

 思いっきり、道連れを望んでいた。

 実は、日本からの高麗製KMFに関する報告書はビスマルクが持っているのだが、まだ全員に見せていなかった。

 なので、病室に呼ばれた際に「ラウンズの汚名は全員でそそぐものです!」と力説し、ジノ以外を巻き込んだのだ。

 

(今更言えん・・・)

 

 罪悪感が襲うが、普段からの鉄扉面の御蔭で誰にも悟られていない。

 目の前で調整を行っていた作業員が離れ、代わりにとある人物が近づいてきた。

 

「どうもラウンズの皆さん。機体は準備万端です。どなたからお乗りになられますか?」

 

 その人物はKGFを作る際に、テストパイロットを二人も病院送り(未だ入院中)にした装置を作った張本人だった。

 ビスマルクの不安が大きくなる。

 

「大丈夫なのか?」

「ええ“大丈夫”です」

 

 大丈夫という所をやたら強調して言う元KGF開発主任は、ヒヒヒヒと笑った。

 ノネットやドロテアも二・三質問をしていたが、まどろっこしくなったのかルキアーノが前に出た。

 

「ここで愚痴愚痴言っても仕方がないだろうが、俺が乗るぞ。いいな」

「む・・・」

「そうだな。まぁ、ヤル気がある奴からの方がいいだろう」

 

 一瞬ビスマルクが引き留めようとしたが、ノネットが同意してしまったので言葉はそのまま喉の奥に消えた。

 ルキアーノは主任から起動キーを受け取ると、そのままウィンチを使って乗り込んだ。

 

(あれ?普通に起動するの?)

 

 案外簡単に乗り込んだ彼の様子を見て、少し安心する。

 乗り込んだ当のルキアーノは、計器類がまんま【サザーランド】と一緒なのに気付き、オリジナリティが無い・改善する気が無いなどと言いながら外部スピーカーを起動する。

 

『起動するぞ。離れていな』

 

 とりあえず警告をして起動キーを差し込もうとした。

 そして外から見ていた一同はサイドに移動し、これから起動するだろう【ジェンシー】を見つめていると、いきなり目の前が爆発した。

 

「「「はぁ?」」」

 

 目の前で倒れる下半身、頭上を吹っ飛んで行った腕、頭はなぜか垂直に飛んでそのまま地面に落下した。

 【ジェンシー】を見ていた視線が、目の前からゆっくりとコクピットが有った方に動き、そのまま先に移動する。

 視線の先、遥か数十メートル先でルキアーノが乗っていたコクピットは有った。横倒しで・・・

 

「え、衛生兵ぃ!!」

「いや、救護班だ!急げ!!」

 

 事態をようやく飲み込んだノネットとドロテアが、慌てて後ろに控えていた衛生兵と救護班に怒鳴った。

 同じように呆けていた彼らだが、怒鳴られると一気に動き始めてコクピットに取りつき、ハッチの強制開放を行い始めた。

 しばらくして、ズタボロになったルキアーノが助け出され、そのまま病院に直行する事になり、その間映像解析をしていた主任が蒼褪める三人の前に立った。

 

「どうやら、起動と同時に脱出機構が働いたようですな」

「「「えぇ・・・」」」

「しかも途中でパラシュートが一つだけ中途半端に開いてブレーキに。その反動で、縦回転で五回回った後、バランスを崩して横向きになり、三回転がったところで停止したようです」

 

 丁寧に説明してくれるのはいいのだが、主任の顔はすっごい笑顔だった。うぜぇ・・・

 

「いやぁ。面白い機体ですな」

「「「どこがだ!」」」

 

 叫んだあと、ノネットとドロテアはビスマルクに詰め寄る。

 

「ヴァルトシュタイン卿!貴方はこれの事を知っていたのでは!!」

「我々を巻き込んだのですか!!」

「う・・・」

 

 睨まれたビスマルクは、あまりの怒気に一歩引いた。

 その態度を肯定と受け取った二人は、更に怒気を上げる。

 溜息をつき、呆れたように首を振ったノネットは、じろりと睨みつける。

 

629 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:55:49

「妙にソワソワしていると思っていたら、これが原因とは・・・見損ないました」

「し、仕方あるまい・・・「ナイト・オブ・ワンともあろう貴公が、いいわけですか」うぐぅ・・・」

 

 ドロテアもノネットに続いて罵る。

 

「付き合いきれません。帰ります」

「エニアグラム卿待ってくれ。頼む・・・」

「私も帰ります」

「エルンスト卿まで・・・一人はさみしいではないか」

「「もう、ルキアーノが仲間入りしたでしょう」」

 

 落ち込むビスマルクを尻目に、言うだけ言って帰ろうとする二人だが、その前に主任が立ちふさがった。

 

「いや、もうちょっといて下さい」

「なんだ、いくらあなたでも私達を引き留める事などできませんよ」

 

 眉間にしわを寄せているノネットの言葉に、ドロテアも頷く。しかし主任の笑顔は崩れない。

 主任はその笑顔のまま、懐から一枚の紙を取り出した。

 

「エニアグラム卿、エルンスト卿、これをご覧ください」

 

 二人は訝しむが、とりあえず取り出された紙を見るとだんだん顔が蒼褪めていくのがわかった。

 ドロテアは間違いがないか奪うように手にとってもう一度読み始め、ノネットは冷や汗をダラダラ流しながら主任に詰め寄った。

 

「え、あの・・・こ、これは!」

「そうです。“皇帝陛下”の直筆の命令書です」

 

 何度も読み返していたドロテアは主任の断言に、この世の終わりのような表情を浮かべてへたり込んだ。

 

「・・・間違いない。陛下のサインまである」

「どうしてあなたが!!」

「どうしてって・・・それはですね」

 

 主任は楽しそうに言った。その顔はまさしく・・・

 

「面白そうだからですよ。皇帝陛下も楽しみにしていますよ。ラウンズの活躍を♪」

 

 悪魔のような、微笑みだった。

 

 

―――――

 

 

三人の前に【ジェンシー】が三機並んでいる。当初「一機しかないようだが直すのか?」とビスマルクが聞いてみたのだが、「大丈夫です。皆さんの分はちゃんとにあります」そう言って主任は軽く手をたたくと、近くのガレージから【ジェンシー】が三人分運ばれてきた。

 三人が更に絶望したのは言うまでもない。

 とりあえず視線をお互いに向けあい、無言の会話が開始された。

 

ビ(さて、だれがどれに乗る?)

ノ(その前に、巻き込んだ張本人なのですから御自分が選んでは?)

ド(そうだな)

ビ(うぐぐ・・・そう言われると反論できん。が!)

ド(が?)

ビ(エニアグラム卿はマリアンヌ様の直弟子だろう。ここで怖気づいたというのが伝わったらどうなるか)

ノ(!!!)

ド(うわぁ・・・)

ノ(そ、それを持ち出しますか!!)

ビ(私はどうせ笑われるだけだ。それならいつも通り・・・)

ノ(ぐぬぬぬぬ・・・)

ド(大人げないですよ・・・)

 

 そんな会話を視線でしていたら、三人の前に主任が手を出してきた。手には棒が三本握られている。

 

「さぁ。お選びください」

「「「え?」」」

「いやな事は、サッサと終わらせた方がよろしいですよ?」ニコニコ

*1)

 

 渋々と三人は一緒に、籤の棒に手を伸ばし一気に引き抜いた。そして他の二人に見せないように後ろを向いてみる。

 

「当たりだ!」「「は、外れ・・・」」

 

 よっしゃぁ!とガッツポーズをとったのはノネットで、他二名はOTL状態となった。

 

「そんなばかな」

「これは・・・悪夢だ」

 

 落ち込む二人を楽しそうにノネットは見下ろした。

 

「ふふふ。どうやら運は私に味方したようですね」

 

 勝利宣言をして、その場から離れようとした彼女の肩を主任がいきなり掴んだ。

 

「じゃ。行きましょうか」

「え?当たりじゃないのか??」

「ええ、当たったから乗るのですよ」

「!!??」

 

 天国から地獄に突き落とされたノネットは脱力してしまい、そんな彼女を主任はいい笑顔で引きずっていき、【ジェンシー】の横に持って行った。

 

630 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:56:43

「どうぞ」

「・・・コレ?(【ジェンシー】を指差す)」

 

 片言になって聞いてみる。

 

「ええ、そうです」

「・・・ノルノ?(自分を指差す)」

 

 もう一度聞いてみる。

 

「乗って下さい」ウェヒヒヒ

「・・・ハイ(諦めた)」

 

 もう逃げられなかった。

 一度深く息を吸って吐き出し、目の前の異物を見る。

 そして心の中で決意を固めようとする。

 

(マリアンヌ様・・・はだめだ。コーネリア、ベアトリス、私に勇気を!!)

 

 思い切ってウィンチを握りしめ、スイッチを押した。

 瞬間、目の前の光景が変わり、体に重力が感じられない。

 なんとなく下を見る。

 下を見ると皆が此方を見上げている。

 ようやく状況がわかった。ウィンチのスイッチを押したら猛スピードで巻き上げられて、そのまま跳ね飛んでしまったのだと・・・

 

(ああ、今自分は飛んでいるのか・・・って!)

 

 このままでは地面に激突してしまう。ならばどうするか・・・

 高さ、おおよそ十メートル。体勢、逆さま。着地予想場所は・・・

 

(【ジェンシー】のコクピット真上か、ちょうどいい!)

 

 それなら高さは大体5メートル半ぐらいだ。落下の勢いもそうでないだろうし、衝撃さえ殺しさえすれば!!

 体を捻って体制を整え、そのまま体を何時でも着地できるようにしている間にコクピットは近づいてきた。

 

(勝負!)

 

 まずは足から着地、屈むように足を曲げて後ろに倒れ込む。次に腰から落ちないよう両手で叩いて横向きに体制を変える。

 ノネットはここまで反応出来て、事態を冷静に対処できる自分を褒めたかった。このまま転がれば助かる!

 しかし神様は無情だった。【ジェンシー】が後ろ向きに傾いたのだ。

 いきなり傾いたことで目測を誤り、背中を強打する。

 

「うげ!」

 

 とても女性が出す声ではないが、ノネットの体は再び宙に舞った。

 突然起きたハプニングに対応できなかった為、体制を今度は整える事が出来ずに落下する。

 幸いにして足から再び着地できたが今度は片足であり、そのまま捻ってしまった。

 

「はぐぅ!」

 

 そしてドベシャァ・・・と、倒れた。腰も強打したようだ。

 ナイト・オブ・ナインのノネット・エニアグラム・・・リタイア。

 

「「・・・」」

 

 目の前で、先程と同じように運ばれていくノネットを見て、二人はすっかり青くなった顔を見合わせる。

 

「二人で一緒に乗ろう」

「ええ、恨みっこなしで」

 

 足取り重く二人は残された二機に近づき恐る恐るウィンチで上がる(傾いた【ジェンシー】は直すのがめんどいので、解体されることになった)。

 問題なくたどりつけてホッとするが、今度は問題の起動だ。

 これまた慎重に、震える手を落ち着かせながら差し込む。

 いままでこんなに緊張感が伴う事があっただろうか?二人はないと断言できる自信を、変な所から持ってきつつ起動させた。

 

「「・・・ハァァァァァ・・・」」

 

 安全に起動できたことに安堵し、今度は機体を動かし始めた。

 その動きはまるで、初めてKMFに搭乗した新兵の様にぎこちなく、ちんたら動いていた。

 

「あのぉ・・・もうちょっと、激しく動いてみてください」

*2

 

 主任がつまらなそうにしているのが、どこか楽しそうな雰囲気に二人はすっごいムカついた。

 二人の気苦労なんて知りません、という感じに主任は色々と指示を出す。

 何回かおかしい故障も発生した。故障は以下の通り。

 

〇モニカの時同様スラッシュハーケンが戻ってこない。

〇右腕を上げるようにしたはずなのに左腕が上がる。

〇ファクトスフィアを起動させたら自分以外敵だった。というか画面真っ赤。

〇スタントンファを構えさせたら両方とも飛んで行った

〇時折ガタガタ揺れる。

 

 などなどあったが、機体は正常であった。

 

「くそ!」

 

631 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:57:16

 理不尽な出来事が沢山起きて、流石にイラついてきたドロテアの操縦はだんだん荒っぽいモノになっていった。

 

『エルンスト卿。落ち着け』

「これが落ち着いていられますか!!こんな、こんな事とても他の騎士や、皇族方に見せられない!」

『そ、それはそうだが・・・』

「テストメニューは終わりました。先に帰ります」

『ああ・・・』

 

 茶番にも劣る喜劇に、もう付き合いきれないドロテアは勢いよくペダルを踏んだ。

 

〔バキッ!〕

「え・・・」

 

 異音が足元からしたので覗いてみる。ペダルがある。足を離してみるとペダルが戻らない。

 機体は急加速を開始した。

 

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

『え、エルンスト卿!ブレーキだ!!』

「りょ、了解!」

 

 パニックになりそうだったがそこはナイト・オブ・ラウンズ、体はしっかりと反応する。機体は反応してくれないが・・・

 

「ブレーキ不能ゥぅぅ!!」

『なんだとぉ!』

 

 もういやだ。帰って寝るんだ。その事だけを考えてドロテアは機体を動かした。

 急加速した機体から逃げるように整備員達が逃げ惑う。その人の合間を滑るように進み、飛んで避ける。

 何時も以上の切れを見せて機体を動かす彼女に、ビスマルクは「人って追いつめられると凄いんだなぁ」と感心した。

 人を避けきると、すかさず目的の場所に向かう。

 向かう場所は演習場にあるプールだ。流石にKMFと言えど、水の中では行動が不自由になる。その間に脱出するのだ。

 全速力で演習場を突っ切っていく【ジェンシー】に、整備員達と主任、ビスマルクは茫然と見送った。

 結果から言えば彼女は無事だった。プールが後1メートルという所で急ブレーキがかかり、頭から突っ込み、コクピットが外れて気絶することになったけれども。

 走り去るドロテア機を呆然と見送り、ユックリと元の場所に期待を収めたビスマルクは感無量の境地にたった。

 なんだろうかこの気持ちは・・・そう、晴れやかに空を見上げる青年のような・・・

 ああ、世界はこんなにもすばらしい!!

 

「ふふふ」

『なんですか?どうしましたか?』

 

 通信機から主任の声が聞こえるが無視だ。もうちょっと味わっていたい。

 

「やり遂げた時のこの昂揚感。達成感は何物にも代えられん」

『ええ、そうでしょうね』

 

 外野が煩いが、スルーする。うむ、うまいギャグだ。

 

「この熱い胸の内を『ええ、熱いでしょう。駆動機関が異常な熱量を持ち始めていますから』・・・なに?」

 

 慌てて起動スイッチを見ると外れている。にもかかわらず駆動音は止まらない。

 すかさず脱出装置を起動させるが反応しない。今度は開閉装置を起動させると、半分だけ開いたので躊躇なくそこから這い出た。

 ラウンズらしくない?そんなことはどうでもいい・・・今は逃げるのだ!

 

「ぬぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 転がる様に地面に着地をして、全力疾走する。

 ガリアの剣という鉄塊を振るうくらい筋力があるビスマルクは、もちろん脚力もある。

 前後に振るう腕は美しい角度と軌跡を描き、大地を踏みしめる足は脈動感と瞬発力を見せていて、今この瞬間ビスマルクは風になった。

 もっとも・・・

 走り出した5秒後に【ジェンシー】は大爆発をし、衝撃波で顔面スライディングすることになるのだが・・・

 

 

―――――

 

632 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:57:46

 事の真相を聞いたモニカは呆れるやら、悲しめばいいのやら、同志が出来たことに喜べばいいのやら・・・わからなかった。

 

「この事件・・・騒動は国が発行している新聞の一面に載ってな。すでに国民全てが周知していると思っていい」

「あぅぅ・・・」

 

 あまりの羞恥心にサッサと日本に帰りたくなる。

 だが、それは真面目な彼女には無理だった。

 すっかり冷え切った紅茶を飲み干し、ベアトリスは立ち上がると執務席に座った。

 

「まぁそういう事だから気にするな」

「そうは言われましても・・・」

「一応罰は受けたのだろう。それでいいと思うぞ?」

 

 いちいち気にするな。そういわれてはモニカも引き下がらず負えない。しかし、良い人であるモニカは、まだどこか気に病んでいるようだった。

 その様子を見て、内心で溜息をつく。

 

(もっとも。無茶を言った陛下も、マリアンヌ様にお仕置きされたのだがな・・・)

 

 苦笑しつつも仕事を再開する。

 

「話はここまでだ。とりあえず、少し書類を手伝ってくれ」

「はい、わかりました」

 

 モニカは日本での生活を、ベアトリスはブリタニアであった珍事を話ながら仕事に励んだ。

 

633 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:59:30

というわけで“モニカ・クルシェフスキーの帰郷 & ジェンシーに乗ろう!!”でした。

この話を思いついたのは“ラウンズメンバー全員をジェンシーに乗せて、ドタバタコメディをしてみたい”という妄想があったからです。

そして、以前スレで貴族の話がありましたが、彼女の不用意な発言で国の威信が傷ついたのでは?と思ったのが骨子となり、この話が出来上がったのです。

本当は前に作ったKGFの話くらいを想定していたのですが・・・長くなりました。

長すぎて、目が痛いやら、指が痛いやら・・・

途中更新されていた休日様や、他の方々のSSが無ければ心の潤いなく、挫折していたかもしれません。この場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。

ベアトリス・ファランクスの存在は承知していましたが、口調等がわからなかったのでACFAのセレン・ヘイズ姐さんをモデルにしました。如何でしょうか?

モニカさんのラーメン大好きは、限られた人しか知らないと思うのです。国の顔の一つですしね・・・

予定・宇宙の奴が進んでいないよ・・・

最終更新:2013年02月24日 21:48

 

 

 

 



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鳩川のト・モ・ダ・チ・・・

176 :鳩川のト・モ・ダ・チ・・・:2013/04/09(火) 22:12:32
鳩川のト・モ・ダ・チ・・・
設定:休日世界
共通話・・・になればいいなぁ
ヤンデレ成分・グロイ表現があります。苦手な方は回避してください。
鳩川などの元ネタの事はわからないので、適当設定です。


 

 

177 :鳩川のト・モ・ダ・チ・・・:2013/04/09(火) 22:13:04

 

 

 

 

 

鳩川雪夫、その言動は子供じみていて「どうしてコイツ政治家なの?」と言われるくらい非常識な人物である。

しかし、彼の母親は政界に影響力を持つ人物で、彼をとても可愛がりながらも政治家に押した人物でもある。

そして文屋にとっては、いろいろ騒動を起こす旨い人物でもあるので、支持率もそこそこあった。

 

「いやぁ~今日の会議は大変だったね。尚人君」

「そうだな。枢木首相もいい加減わかってほしいよ」

 

そういって三羽烏と(悪い意味で)言われる三人、日本公民党代表『剣尚人』 代表代行『大沢二郎』 幹事長『鳩川雪夫』の三人が懐石料理屋で打ち上げをしていた。

今日の会議で枢木総理との直接対決(ただ単に自分達の主張を繰り返していただけ)に勝利した(と思い込んでいる)ので、こうして楽しんでいた。

そんな時、いつもは切っておいた鳩川の携帯が鳴り響いた。

 

「あれ?ごめんなさい。ちょっと失礼します」

「ん?珍しいな。切り忘れるなんて君らしくもない」

「そうですね。友達からの連絡だと思いますけど、少し席を外しますね」

 

鳩川は確かに非常識が目立つが、こういう所はしっかりしていた。

席を立ち、隅の方で話し始めるのを二人はお酒を飲みながら楽しんで見ていた。

だが・・・

 

「はい、はい・・・え!!・・・わ、わかりました。すぐに戻るよ!!」

 

いきなり大声を出したのに驚いて、剣尚人と大沢二郎は顔を一瞬見合わせると大慌てで出ていく鳩川の背中を追いかけた。

 

「どうしたんだ?」

 

剣尚人が問いかけると、足を止めて振り返った彼の表情に息を飲んだ。

彼の顔は五年も老けたようになり、完全に蒼褪めていて病人の様だ。

雰囲気も飄々としたモノからオドオドとしたものに変わり、何か重大なことが起きたのは明白だった。

 

「ま、ママが・・・」

「御母上がどうしたんだ?」

「ママが・・・倒れたって」

「「え!?」」

 

 

 

 

「母倒れる」という緊急報告を聞いた鳩川雪夫は、呆然とする二人に説明をろくにせずに急いで病院に向かった。

病院についた鳩川はすぐさま担ぎ込まれた病室に向かったが、そこには物言わぬ冷たい母親の姿しかなかった。

母は確かに高齢だったが、健康には気をつけていたはず。どうして死んだのか?

そう考えて医者に問いただしたところ、どうも急性的な病気が起き、すぐさま病院に来たが治療途中で息を引き取ったとのことだった。

無論、医者は全力で蘇生措置を施したが、そのまま病院で死亡が確認された。

 

「ママ・・・僕はどうすればいいの?」

 

悲しみに暮れる鳩川をよそに、葬儀は大々的に行われた。

流石政治家だっただけはあり、多くの著名人が訪れ、日本公民党を支持する人達も弔問に訪れた。

鳩川は心有らずという感じであり、葬儀の方は代理の人物が指揮をした。

その様子に、さすがに夢幻会やブリタニアの高官・貴族・皇族も心を痛めた(しかし直接行くのはなんだか嫌だったので、代理を立てて弔問した)。

母親が荼毘にふされても彼の表情は鬱のままで、いつものようにはならなかった。

 

 

 

 

178 :鳩川のト・モ・ダ・チ・・・:2013/04/09(火) 22:13:37

鳩川邸には、主が一人だけ寂しそうにリビングに座り、母親が生前使っていた愛用品を優しくなでていた。

落ち込み続ける彼の元に、剣尚人と大沢二郎などの日本公民党メンバーが激励に来ていたが、彼を元気づける事は出来なかった。

鳩川には何となくだがわかっていた。彼らは心から激励に来たわけではない、日本公民党を存続させるために来たのだと。

だから彼らの言葉にはひかれなかった。彼らは数日訪問したが、彼が使い物にならないと分かるとあっさり手を引いたのがいい証拠だった。

鳩川邸にいる使用人たちも何処か余所余所しかった。

 

「はぁ・・・ママ、だれもママの事を悲しんでいないよ」

『そんなことないよ』

『そうだ。我々は悲しんでいるよ』

 

鳩川の耳に聞きなれた。それでいてここにはいない人たちの声が聞こえた。

 

「そうかな?」

『そうですよ』

『みんな心から悲しんでいる』

 

違う。そう断言できた。そう思うと自分を励ましていた声(幻聴)は途端に聞こえなくなった。

ああ、やっぱりそうじゃないか・・・心から悲しんでいるのは自分だけだ。

鳩川は欲していた。自分と考えを共有できる人物。自分を導いてくれるそんな人を・・・

未だに落ち込む鳩川の元に使用人の一人がやってきた。

 

「あの・・・雪夫様?」

「・・・ん?なんだい」

「お客様が見えられていますが・・・その・・・」

 

使用人はどこか言いにくそうにしていたが、主人が訝しんでいる表情を見て続けた。

 

「見たこともない御客人のようですが、どういたしましょうか?」

「見たこともない人?」

「は、はい。そうです」

 

誰だろうか?こんなときに尋ねてくるなんて・・・

一瞬考えたが、すぐに入れるよう指示を出した。

使用人は「わかりました」と答えるとすぐさま内線電話を取ると二・三話して出て行った。

鳩川邸ではよくあるやり取りだった。

見も知らぬ人物を「僕の考えに同調してくれた人。つまり僕の友達!」といって招き入れていたのだ。

もちろん厳重な身体検査と荷物検査をしてから入れられるので、その辺は大丈夫であった。

しばらくすると扉をノックする音が聞こえた。

 

「どうぞ」

「失礼いたします」

 

断りの返答があった後、中に入ってきたのは見知った警備員と、見知らぬ一人の女性だった。

 

「君は?」

(知らないのかよ・・・)「はぁ・・・どうも、弔問に来たというのですが」

「そうなの?」

「え、ええそうです!鳩川雪夫さん!!」

 

女性の髪は緩いウェーブがかかっており、どことなくナナリー・ヴィ・ブリタニアを思い起こさせた。黒髪だが。

更にいえば、この女性のほうがずっと大人なのだが・・・

 

「そうなんだ。じゃぁ君はもういいよ」

「しかし・・・」

「いいよいいよ」

 

鳩川は渋る警備員を下がらせると、女性を案内した。

女性は仏壇に通されてそのまま冥福を祈った後、客間に通されて二人で紅茶を飲んでいた。女性は口に少しだけ含んだ後飲むという、不思議な行動していたが鳩川は気にしなかった。

 

「いやぁ。まさかそんな遠い所から来たなんてうれしいな」

「いえ。鳩川さんが心配で、いても立ってもいられなかったんです」

「そうなのかい?それだったらどうして最初に来なかったの?」

「・・・実は最近まで入院していまして」

「それは失礼なことを聞いたね」

「いいんです。」

 

和やかな雰囲気に、お代わりを入れに来ていた使用人は不審者だったはずの女性の警戒心を緩め、そのまま出て行った。

それを確認したように、女性はおもむろに切り出した。

 

「鳩川さんは・・・ご結婚しないのですか?」

「結婚?・・・いや、考えたことないな」

「そうなんですか?女性がよってきたりしないですか?」

「いや。みんな友達だからね。そういうのは考えたことないな」

 

実際は鳩川の母親がそういう教育をしなかったせいなのだが、女性はお構いなく話を続ける。

 

「なら・・・私などどうでしょうか?」

「え?」

「病弱ですけど、料理もできますし。きっとお役に立てますよ?」

「う~ん」

 

鳩川は考えたが、どうも自分がお嫁さんをとると言うイメージがわかない。

しかし、お嫁さんをとるならば世界中の人と“友達”になりたい。だから・・・

 

「そうだなぁ・・・ユーフェミア皇女なんかいいな」

「・・・え?」

 

女性の持つカップが軋んだ。

 

179 :鳩川のト・モ・ダ・チ・・・:2013/04/09(火) 22:14:09

「な、なぜですか・・・」

「僕は友達をたくさん作りたいんだ。皆友達になれば争いなんて起きないし、格差もなくなるでしょ?」

 

それが僕の夢なんだという鳩川に対し、女性はわずかに俯いていた。

 

「なら・・・どうして私じゃないんですか?」

「え?・・・だから僕は「どうして私がいけないんですか!!」ひっ!」

 

女性が勢いよく顔を上げたとき、その顔は怒りと笑顔がごちゃ混ぜになった歪なものになっていた。

その顔にびびった鳩川は、椅子に深く座り込んでしまった。

 

「ねぇ・・・鳩川さん・・・」

「な、なに・・・?」

 

女性はゆっくり立ち上がると、鳩川にゆっくりと歩み寄る。

 

「私、独りぼっちだったんです」

「へ、へぇ」

 

一歩、一歩・・・ゆっくりと・・・

 

「でも・・・あなたの演説で私、勇気が持てたんです。覚えていますか?『どんな人物でも、どのような境遇の人でも、どんな事をしている人でも僕の友達です』って・・・」

「そ、そうだったね・・・」

 

女性は横に立ち彼を見るが、彼女の表情が暗くなって見えない。

 

「私一人じゃない。こんな私でも友達になってくれる人がいる。そう思えたんですよ・・・

 もし直接会えたら、この人のために一生をささげてもいいと思いました。

 それなのに・・・あなたは私の申し出を断った!!」

「ひぃぃ!」

「何がいけないんですか!顔ですか!能力ですか!!」

「ち、違うんだ」

 

彼女は怖い、なぜか怖い。

一生懸命なのはわかる。でも・・・

 

「ぼ、僕は世界中の皆と友愛を語りたいんだ。だから世界に通じる人と「だったら私でもいいじゃないですか!!」ひっ!」

「私はあなたの力になりたいんです。

 私はあなたのモノになりたいんです。

 私はあなたの支えになりたいんです。

 私は・・・

 私は・・・

 私は・・・アナタがホシィィィィ!!!!!」

 

怖い、怖い、怖い!逃げなきゃ。これは友達なんかじゃない!別の・・・そう、別の何かだ!!

鳩川は逃げ出そうとしたが、初めて感じる恐怖に足がすくみ、体がまるで動かない。

女性の表情は泣いているような笑顔で、血走った目で自分を見つめている。

もう、息が近くに聞こえるまで接近して・・・

 

「大丈夫ですか!」

 

いきなり警備員が部屋に数人突入してきた。

女性の叫ぶ声に使用人が警備員を呼び、女性の怒声で突入してきたのだ。

やった。流石は僕のトモダチ。

安堵して逃げ出そうとしたのだが、肩を掴まれて強制的に座らされた。

警備員は当初こそ戸惑ったが、女性にを引きはがそうと一斉に動いた。

 

「そう、そうなんだ。だったら永遠に私のモノにするわ」

 

女性がそういうのと同時に、いつの間にか握られていた携帯のボタンを押した。

鳩川にはわからなかった。どうしてこうなったのか、わからなかった。

確かに誰とでも友達になれることは素晴らしいだろう。しかし・・・世の中には友達になってはいけない人もいるというのを、知らなければならなかった。

鳩川の視界は赤い色と白い光に包まれて暗闇に落ちた。

 

 

 

 

180 :鳩川のト・モ・ダ・チ・・・:2013/04/09(火) 22:14:41

その日、日本に衝撃が走った。

政治家が暗殺されたのだから、慌てるのは必然だった。

鳩川邸が何者かに爆破され、粉みじんに吹き飛んだのだ。現場には瓦礫しかなかった。

テロか、事故か・・・原因は当初は判明しなかったが、翌日には爆発現場から唯一生き残った使用人が救出され、使用人が喋れる段階まで回復してからようやく話を聞けた。

証言により事件の全容が明らかになり、一応は決着がついたかに見えたのだが・・・

 

「いやぁ・・・参りましたね」

「辻さん。全然参ったようには見えませんよ」

 

とある高級懐石料理屋(夢幻会所属)で、二人の親父がお酒をチビチビやりながら話していた。

 

「嶋田さん。事件の処理が大変だったのですよ。いきなりの高級市街地での爆発、そして判明した現場に大慌てで人員を派遣したりと、まぁ大変でしたよ」

 

そういって一気に御猪口の酒を飲みこむ。彼らしくない飲み方に、本当に疲れているというのがわかった。

 

「そうですか・・・それで、鳩川は?」

「爆発の中心にいたのは間違いないでしょう。木端微塵に吹き飛んでいますよ。よしんば生きていたとしても、もう死んでいます」

 

何とか肉片見つけてDNA鑑定もしました。といわれ、嶋田は刺身を取るのやめて煮物を箸でつまんだ。

 

「・・・(この野郎・・・)」

「宇宙人みたいな奴でしたが、間違いありません」

「爆発の原因はなんですか?」

「おそらく濃縮流体サクラダイトを体内に隠しておいたのでしょう」

「え!あの劇物を!!飲み物じゃないんですよ。それにいったいどこから・・・」

「おそらくですが、袋に入れて飲んだ・・・ああ、グラップラ〇刃牙のジャッ〇・ハンマがやっていたように、腸詰風にして飲み込んでいたのでしょう。信管ごとね」

「うぇ・・・」

「流石に体内までは調べれられませんよ。入手ルートは現在捜索中です」

 

その話は嶋田も聞いていた。流体サクラダイトは厳重な法律と、製造できる場所が限られている。すぐに流通先がわかるはずだ。

事件の調書もみたが、身体検査は軽く触るだけ(鳩川がいつも入れてしまうので形骸化していた)だったので、判明しなかったのだ。

更に爆死した女性の住所も、何とか残っていた免許を頼りに捜したのだが・・・その部屋は全て切り抜かれた鳩川の写真と記事であり、隣に女性が写っているモノはずたずたに引き裂かれていた。

身震いし、納得しつつ思い出したことがあったので、聞いてみた。

 

「そういえば、村中が動いているようですが?」

「・・・実は、設計には無い地下室が見つかりましてね。捜索してみたところ大当たりですよ」

「それは・・・」

「ええ、そうです。ご想像通り、連中の計画書や、裏側がギッシリとね・・・クククク。これでようやく奴らをどうにかできますよ」

「保存していたのは『友達との秘密の約束だね。いいよ!』と言っていたのかな?」

「大方そうでしょう。何気に約束は良く守る人でしたからね。屁理屈こいて拡大解釈しますけど」

「日本公民党も終わりだな・・・」

 

181 :影響を受ける人:2013/04/09(火) 22:15:33

以上です。

つい、イラッとしていたんだ。それで出来上がったのが鳩川抹殺&日本公民党壊滅SSだったわけだ。

正直言ってうまく書けた自信がありません。ヤンデレ成分が難しいぜよ・・・

後もう一つあります。↓

 

182 :破廉恥なパイロットスーツの理由:2013/04/09(火) 22:16:13

破廉恥なパイロットスーツの理由

設定>>165-167

二二三様の『飛行服=パイロットスーツ=略してパイスーがおかしい件』から思いつきました。

捏造設定があります。苦手な方は見ない方がよろしいです。

 

183 :破廉恥なパイロットスーツの理由:2013/04/09(火) 22:16:43

 

 

 

 

 

山本五十六こといっくんは、プリプリ怒るリーライナの機嫌を取るために彼が良く行く路地裏の居酒屋に来ていた。

 

「ふ~ん。狭いけど、いい感じのお店だね」

「ああ、たまたま知ってな。それ以来、常連だ」

 

今回はお詫びも兼ねているので、お勘定は全て山本が払うのだがメニューがわからない彼女の代わりに食べられそうなものを注文して待つことにした。

 

「それで・・・」

「あ、ああ。あの時は済まなかった。どうにもその・・・な」

「まぁいいけど」

 

私まだ怒っていますという態度に苦笑する。

 

「ははは・・・」

 

それから二人は世間話や、後輩のマリーカの恋愛話に花を咲かせ、ときにKMF戦術の討論に熱中した。

楽しい時は時間が早く経つ。

注文したものは全て食べ終え、飲んだお酒により二人とも上機嫌だ。

そして山本は気になっていたことを聞いてみた。

 

「あ~・・・リーライナ?」

「ん~・・・なぁに?」

「あの時のパイロット姿なのだが・・・少々破廉恥じゃないか?」

「パイロットスーツ?」

「ああ」

 

こてんと、首をかしげて考える仕草もかわいいなと思っていると、リーライナは山本の方に目を向けた。

 

「興奮しちゃった?」

「な!・・・ぬぅ」

 

一瞬、反論しようとしたが事実でもあるので黙った。

その様子にケラケラ笑った後、大丈夫と言った。

 

「肌が見えていたところね。ちゃんとスーツになっているのよ」

「どういうことだ?」

「えっとね。もともとマリアンヌ様が考えたことなのよ。『騎士でありたいけど、女性らしくしたい』っていうことで、自由なファションが出来るように開発された生地を使用しているの。肌色に見える所もちゃんとスーツになっていて、今じゃ、だいぶ薄くできているからその上に服を着る人も多いの」

 

おかげで各騎士団専用のスーツが出来て大変なのよ。と朗らかに笑った。

 

「そうだったのか・・・うちは男女共用だから、そういうのは無い」

「もったいないね~」

 

納得した彼を見て、リーライナも満足したのか微笑んだ。

二人はそのままお店の外に出ると、路地から出ようとした。

 

「おととととと・・・」

「おいおい、大丈夫か?」

「あはははは・・・ちょっと飲み過ぎたかも」

「しかたがないな、家に泊まっていくか?基地には戻れんだろう」

「えっと・・・よろしくお願いします」

 

二人はそのまま並んでその場を後にした。

二人の後姿は、まるで熟年夫婦のように見えたと影の護衛は言った。

最終更新:2013年05月14日 20:37

 



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シュナイゼル・エル・ブリタニアの華麗なる食卓。

367 :シュナイゼル・エル・ブリタニアの華麗なる食卓。:2013/02/07(木) 21:43:58
シュナイゼル・エル・ブリタニアの華麗なる食卓。
設定 休日世界


 

 

シュナイゼル・エル・ブリタニアの華麗なる食卓。

 

 

 シュナイゼル・エル・ブリタニア帝国宰相、彼は忙しい。

 某世界では虚無的な存在だが、この世界では普通に優秀で、なかなか顔に感情が出ないだけのワーカーホリークである。

 今日も今日とて仕事に励む。

 そんな彼の食事を覗いてみよう。

 

 朝はスクランブルドエッグ・食パン・サラダ・豆乳コーヒー(最近のお気に入り)とまぁ普通だ。

 この朝食を食べると政庁に出勤し執務室に入る。

 そしてお昼頃まで仕事をしていると、おもむろに机横のボタンをポチッと押す。

 すると、執務室にある電動湯沸かし器が動きだし、お湯を数分で沸かせる。

 沸いたのを確認すると立ち上がり、ある戸棚に向かった。

 

「さて、今日は忙しいからね。これにするか・・・」

 

 戸棚を開き取り出したのは・・・日清〇ップヌードルだった。

 前途に書いたとおり彼は忙しい、なので簡単に作れるインスタント食品が昼食になるのだ!!

 蓋をピリピリ開いきテーブルに置く、そして沸いたお湯をゆっくり注ぎ込む。

 お湯が一定量はいったら蓋を戻して、灰皿(シュナイゼルは吸わない)で湯気を逃がさないようにする。

 ただ待つのも暇なので、書類を五分間見る。

 書類を横に置き、マイフォークを取り出す。そして灰皿をどけ・・・

 

「・・・いただきます」

 

 執務室にヌードルを啜る音が響き渡る。

 ところでなぜ彼がカップヌードルを食べるようになったかというと、ただ単純に側近であるカノン・マルディーニが食べていたので食べた。それだけである。

 手軽に食べられるのが受けたというのもあるだろう。

 食べ終わると、隣室(御茶なんかを入れる所)にある流しで汁を捨てて、ゴミ箱に入れる。

 そして仕事に入る。

 夜も残業しそうなら、やっぱりインスタント食品に頼る。結果から言えば、今日も残った(原因:シャルルがマリーベルに会いに行った)。

 

「少しおなかに入れておかないとね・・・」

 

 再び食料庫たる戸棚から取り出したのは、〇ヤングギガ盛焼きそばだ。

 

「食べてみたかったんだよね」

 

 ちょっとウキウキしながらお湯を注ぎ、待つ間にカノンが来たので二つ作る事にする。

 そしてお湯を捨てて(カノン用のメガ盛の中身がこぼれそうになったのは秘密だ)、ソースをからめて食べる。

 お行儀が悪いかもしれないが、食べながらスケジュール確認をする(半分はマイ・辛子マヨネーズをからめて食べるのがシュナイゼル流)。

 一生懸命仕事しているが時間的に自分の寝所に帰れない。仕方がないので執務室横の仮眠室で就寝し、翌朝も早くから仕事だ。

 

「よく寝たな・・・体がボキボキ言うけど・・・」

 

 今日帰れたら御風呂の後、運動しようと決める。

 執務室で御餅×3・永谷〇のアサゲの朝食を素早くとって、今日も書類の山と格闘するのだ。

 頑張れシュナイゼル!!帝国の未来は君の双肩にかかっている!!!

最終更新:2013年02月10日 20:40

 

 

 



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憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版

 

 

 

 

259 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:14:15

「ふむ・・・熱いな。」

 

日本に留学中のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと、ナナリー・ヴィ・ブリタニアの護衛隊を指揮するジェレミア・ゴットバルトはこの日、日本の演習場に来ていた。

実は本国から『新しいKMFを作ってみたのだが、乗ってみてほしい』という話が舞い込んできたのだ。

当初は護衛があるので断ろうと思ったのだが、『戦闘機やKMFを操れる貴公にやってほしい』と持ち上げられ、ついつい承諾してしまった。

 

(まぁ、護衛にはヴィレッタやキューエル。アールストレイム卿がいるから大丈夫か。)

 

まぁ、久しぶりに暴れてみたいという思いもあったのは、心に秘めた思いだ。

そんな自分に苦笑しつつパイロットスーツに着替え、演習場のベンチに座って迎えの人を待っていると・・・

知り合いの日本人である倉崎の開発主任が、構内用カートでこちらにやってくるのが見えた。

 

「ジェレミア卿、こちらでしたか。」

「む、あなたでしたか。」

「ええ私です。機体は大型格納庫にあります。こちらへ。」

 

この主任、いろいろやらかすので有名であり、テストパイロットが主任の名前を出すだけで逃げるという逸話もあるのだ。

そんなことは知らないジェレミアは朗らかに挨拶をすると、案内をする主任の運転するカートに乗り込み移動し始めた。

 

「大型格納庫と言いましたが、それほど大きいのですか?」

「ええ、かなりの大物です。」

「試作機だった【ガウェイン】クラスですかな?」

「特別に見せてもらったのですが、そうですね・・・それよりもはるかに大きいですよ。」

「それは・・・」

 

ジェレミアが絶句するのは無理もない。

何せKMFで今現在、最大サイズの機体である【ガウェイン】よりも大きいというは想像できない。

しいて言えば戦闘機などだが・・・

 

「戦闘機ですか。確かに近いですが、重量から言ってご試乗なられる機体の方が重いですな。」

 

という情報に少し不安になる。

それからは終始無言で移動し、目的の格納庫に到着するまで何も話さなかった。

格納庫はだいぶ離れた位置にあり、それなりに機密が守られる場所だった。ブリタニアに考慮しての措置だろう。

 

「この中です。」

 

主任が大扉前でカートを止め、すぐに降りて小さな扉を開いてくぐる。主任に遅れまいと扉をくぐると、ジェレミアの前に異形の機体が出現した。

 

「おお・・・」

 

目を見開いて整備員が取りついている機体を見つめていると、隣に立っている主任が、にやりと口を歪めて声をかけた。

 

「どうです。大きいでしょう?」

「確かに・・・」

 

そこにいたのは・・・大型スピアを機体の各所に取り付け、物干し竿のような大砲が機体下部についている異形の機体、【サザーランド・ジーク】が鎮座していた。

 

「この機体はなんなのですか?」

「それは私が言うより、彼女に聞いた方がいいでしょう。」

 

主任はそういうと一人の人物を呼んだ。駆け寄ってきたその人物はジェレミアもよく知る人物。

 

「お久しぶりですね。ジェレミア卿。」

「クルーミー女史が来ていたのか。」

 

260 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:14:47

 

本国の方で知り合い、浅からぬ付き合いのある人物の登場にちょっとホッとする。

主任はそのまま「別の用事があるので。失礼します」と言うと、そそくさと退散してしまった。この機体の説明は受けていても他国の機体、気を利かせて出て行ったようだ。

そそくさと出ていく主任を見送り、二人は改めて異形の機体を見た。

 

「それで女史、この機体は何ですかな?」

「このKMFはKGF・・・、ナイト・ギガ・フォートレスという分類の機体です。」

「KGF?」

「ええ。敵陣に単身突入し、大火力でもって陣地ごと敵を粉砕する。そういうコンセプトの機体ですね。名前は【サザーランド・ジーク】と言います。

 全高25.02m。全備重量70.24t。推進機関はこの巨体ですので最新のフロートシステムと、電力駆動プラズマ推力機関を併用採用。

 武装は大型スラッシュハーケン×5。ロングレンジリニアキャノンを1門。6連装ミサイルポッドが中央部に、あと電磁ユニットがありますね。

 特殊装備ブレイズルミナスが展開できます」

 

丁寧に説明をしてくれたセシル・クルーミー女史に感謝しつつも、ちょっと疑問があったので聞いてみる。

 

「なんでしょうか?」

「この機体。ロイドが作ったものではないな。」

「やっぱりわかりますか?」

 

どうも彼女の上司が作ったようには見えないのだ。良くも悪くも彼の性格を知っている。セシルはただ、苦笑で答えた。

 

「ええ、そうなんです。これ、別の部署が暴走して拵えたものなんですよ。」

「・・・本国の技術者も“感染”したのか?」

 

この“感染”とは、日本の変態性がうつったのかという問いだったのだが、彼女は困った表情で首を振った。

 

「・・・いえ、元からだそうです。」

「・・・大丈夫なのか?」

「・・・」

 

沈黙が痛い・・・

 

「・・・実はこの機体。元々こんな形ではなかったのです。」

「なに?」

「とりあえずこれを・・・」

 

彼女は腋に挟んで持っていた書類を、ジェレミアに済まなそうに渡してきたので、恐る恐る手に取り読み始めた。あ、写真の機体が実物と違う。元は丸いのかと思いつつ次のページを読む。

 

 

 

製造過程

○とりあえず強襲が前提なので、最高の防御力を持たせる事になった。エネルギー計算をしたところ、通常動力機関では動かないことが判明。

〇動力機関を新たに設計し作成、起動。2分後に爆発した。動力機関はとりあえず機体設計に並行して製作することにした。

〇当初は手足があったが、設計者の一人が「いちいち手に持って撃っていたら面倒だ、無くしてしまえ。ついでに足も」の言葉で頭もなくなった。

〇装甲担当から報告があった。「悪い、装甲厚くしたら射撃武装がのせられそうに無い」。弾薬が誘爆する危険があると思っていたのでOKサインを出す。

〇スリット状の隙間ならできるということで、作っておいた『飛び出せスピア君』を5本装備。

〇動力担当から報告「悪い、大きくなり過ぎた。どこか削って場所確保して」。脱出装置を削ることにした。

〇「色はどうする?」「ん~(食べていた蜜柑を見て)これでいいじゃん」「おk」

○完成。名称決定【ジーク・フリート】

 

 

 

あんまりな内容にがっくりする。

いやいや、仮にも試作兵器だろうが!脱出装置くらい取り付けてくれ!!

一気に暗く沈みそうになる心を叱咤して、次の書類を見る。

 

261 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:15:23

 

 

 

 

 

◎日目

起動1回目

〇まずは地上にて起動。テストパイロットから「熱い、出してくれ!!」との悲鳴があった。冷却機関の見直しを2時間でして解決する。

起動2回目

〇相変わらず熱いようだが、冷房をMAXにしているようなので無問題。『飛び出せスピア君』を動かしてもらう。が、全部一緒に動いて意味がない、改良する。

起動3回目

〇別個に動かせるようにレバーを増やしたら、パイロットが混乱してしまった。解決策を出すまで一時的に起動試験は中止する。

 

▼■日目

起動4回目

〇問題解決策が出来たので早速テスト。「くぁwせdrftgyふじこlp;!!」パイロットが意味不明なことを叫んで気絶入院。中止決定。

〇あと、文句のあった冷却関係は修理が完了した。

 

◆□日目

起動5回目

〇どうやら大量の情報が流れてきたのが原因だと判明したので改良。逃げようとしたパイロット捕獲、搭乗させる。

〇無事に起動した。その際「おはYO鵜ござい真下↑!?」という言葉が出てきた。皆でお早うと言ってあげた。

〇さっそく飛行させると「おお!!celloよぉー!!」と奇声を上げて上昇。上空で奇怪な軌道を取りながら縦横無尽に動く、いいデータが取れた。

 

△●日目

起動6回目

〇殿下に怒られた。安全面を大幅に見直し、精神的影響を無くした。ちなみに起動5回目のパイロットは4回目のパイロットと一緒に、病院に今でも入院中。いいパイロットだったのに・・・また来てくれないだろうか? 

〇パイロットの顔が蒼いのが気になるが実験スタート。順調にテスト項目を消化する。

〇いきなりパイロットが脱出した。機体は落下、地面に激突したが装甲のお蔭で大丈夫だった。

〇原因は電磁ユニットのようだ。自分が壊れてどうする。

 

■△日目

起動7回目

〇電磁ユニットの改良が済んだ。さっそくテストにはいる。

〇今回は無人で操作してみる。今までのデータのお蔭で私たちでも動かせる。なかなか楽しい。超信地旋回は早すぎて酔ったが・・・

〇新たに追加したブレイズルミナスを起動した。なぜか墜落した。ついでに爆発した。

〇ブレイズルミナスが強力過ぎて電波を遮断してしまったらしい。更に動力機関が暴走して爆発。まだ原因がありそうだ。

〇殿下が「ぶるぁぁぁぁぁ!!」と叫んで突っ込んでこられた。めっちゃ怒られた。予算がカットされた。

 

◇◎日目

〇お金が無くて嘆いていると、日本から御誘いがあったので共同開発することになった。ついでに新設計にすることにした。

 

 

 

 

 

変わらないあんまりな内容に、新型機に乗るというワクワク感はすっかりなくなって、もう帰りたいという意志だけが最後に残っていた。

 

「あ~・・・女史。かe「乗って下さいね」了解だ」

 

振り返ってみた彼女の笑顔は、心の底から怖かったので即答で了承した。後で知ったことだが、ジェレミアすら乗らなかったら彼女がテストすることになっていたらしい。

 

262 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:15:54

(ふむ・・・中は意外とまともなのだな。)

 

【サザーランド・ジーク】はすでに外に出ていていつでも起動できる状態であり、ジェレミアも機上の人となっていた。内心不安いっぱいだが・・・

 

〔ジェレミア卿、どうですか?〕

 

セシルはすでに格納庫横に立っている管制塔にいて、こちらを見ている。【ウィンダム】に装備されているという全天式モニターほどではないが、いろんな角度が見れるというのは新鮮だ。

 

「ん?・・・大丈夫だ。計器類の配置は把握した。」

〔そうですか・・・それで“例”の装置ですけども。〕

「もう付けてある。確か“思考感知制御装置”だったか?」

 

そういって頭部につけたヘッドギアを触る。ギアからはコードがたくさん伸びており、少し気になったので頭を大きく動かしてみるが、邪魔にはならないようになっているようだ。今回のテストの最終的な目的となる装置で、テストパイロットがおそれていた装置でもある。

 

〔ええそうです。気分はいかがでしょうか?〕

「問題無い。しかし妙な感覚だなこれは・・・」

〔私もそれだけ試してみたのですが、やっぱり変ですよね〕

「目に見えていないの見えている・・・そんな感じかな?」

〔そうですね・・・〕

 

この装置をつけたら後部カメラなどの映された風景が“なんとなく”わかるようになった。これだけを見てみると、我が国の技術も捨てたものではないと感じる。マッドは勘弁してほしいが・・・

不安を吹き飛ばすように、気合を入れなおす。

 

「よし・・・起動する!」

〔了解。【サザーランド・ジーク】起動してください〕

 

勢い込んで起動キーを差し込むと、動力機関が動いていくのが微振動と音から判断できた。

 

「起動確認・・・これより低空及び徐行飛行に入る」

 

近くに張ったメモを見ながら手順をしっかり確認しつつ動かしていく、その様子を管制塔のセシルは感心してみていた。

 

(さすがね。機体になれるのが異常なほど早い、ってロイドさんが言っていたとおり・・・飲み込みが早いわ)

 

実はジェレミアが直接選ばれた理由はこれだ。共同制作する際に、要求に盛り込まれた脱出装置兼制御装置であるサザーランドだが、コクピット自体は新型に換えられていて初めてでは操れないのだ。だがジェレミアは“どんな機体でも乗りこなせる”という特技があり、この特技のおかげでかなり優秀なパイロットに入っている。

地面から10mほど浮いた機体は滑るように移動していく。次に上昇、上空で旋回等をこなし降下してきた。

地面すれすれまで降下すると今度は急上昇し急旋回、そして急降下、セシルは後ろの管制官が息を飲むのがわかったが、そんなことは知らない操縦席のジェレミアは力強く動くこの機体に興奮していた。

 

(すばらしい!さっきまではどんな恐ろしい機体かと思っていたが、なんと手に馴染むのだ!まるで自分の愛機のようではないか!?)

 

まるで玩具をもらって興奮する子供の様に、ジェレミアは夢中になって動かし続けた。

時間とメニューがだいぶ無くなってきた時、問題のテストとなった。

 

〔さてと・・・残るはこのテストだけです。〕

「うむ。」

〔ジェレミア卿・・・〕

「なんだ?」

 

曰く付きであるこの装置に、知り合いが試すと言うことに躊躇いを覚えていた(半ば脅すようにしたのもある)。

だから試験中止を進言しようとした。

 

〔今ならやめることが「セシル女史」はい?〕

「私は日本に来て技術の高さに目を見張り、それに敬意を払ってきた。」

〔・・・〕

「我が国は“力”と評されているが断じてそれだけではないと、この機体に搭乗し・・・思うようになった。」

〔それは・・・〕

「日本の友に見せてやろうではないか、“ブリタニアも負けていない”とな!」

〔はい!〕

「では最終テストに入る。ドローンを射出してくれ。」

〔了解。ドローンを16機、射出します。〕

 

263 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:16:27

 

最終テストが始まった。後部プロペラで飛ぶドローンは飛行速度は遅いが、ロケットブースターを内蔵しているので緊急加速が出来る。

しかも今回のテストはすべて敵対行動をとる様に設定されているうえに、ランダム軌道になっていた。

ジェレミアはすぐさま上昇中のドローンに突進していく。

その機動にドローンの何機かは避ける様に散開するが、3機だけ向かってきた。

 

「落ちろ!」

 

すぐさまリニアキャノンで2機打ち抜き、残る1機は右側のスラッシュハーケンを射出して貫く。

 

「まだまだぁ!!」

 

貫いていたスラッシュハーケンはそのまま戻らず、機体を振り回した勢いで近くを飛んでいたドローンを破壊する。同時に思考感知制御装置が、後ろから回り込むドローン数機をカメラにとらえた。

 

「む!後ろをback!!」

〔え?〕

 

興奮しているためかちょっと頭のネジが飛んでいるみたいだが、後部に設置されていたスラッシュハーケン2機でもって一気に3機破壊し、先程と同じように振り回す。だが、あたらない。舌打ちする間も無く装置が敵を捕らえる。

 

「おおおおお!!」

 

ロケットブースターで加速して突進してきたドローンを、腕のように動く大型スラッシュハーケンでたたきつぶし。一気に後退。

残りすべてのドローンを視界に入れ、ケリをつける為に思考感知制御装置を用いて照準し、破壊することにした。

 

「爆散!!」

 

左右大型スラッシュハーケンが3機破壊、リニアキャノンが火を噴いて2機貫く、それは残り5機を取り囲むように破壊してあり、同時に放っていたミサイルがすべて直撃し、大空に花が咲いた。

 

 

 

 

 

「ご苦労様でした。」

「君はこれから帰るか・・・忙しいな。」

「データを持って帰るだけですよ。実機は後から持って帰る予定です。」

 

全ての予定をこなし終えたジェレミアは、すでに制服に着替えて門の前に立っていた。その横にセシルが立っている。

 

「今日は有意義な一日であった。」

「それは何よりです。」

 

セシルも問題なく終わったことで気持ちが良いのだろう、いい笑顔だ。

そんな顔を見てジェレミアもいい笑顔になる。

 

「しかしもったいないな。」

「何がですか?」

「【サザーランド・ジーク】だ。あれほどのモノなのに、試作機で1機のみとは・・・」

「それは仕方ありません。ハドロン砲を装備する事も考えられたそうですが、おおざっぱな使い方しかできませんし・・・」

「金がかかるか・・・」

 

なにか言いにくそうに俯く彼女に気が付き、後に続くように言う。

 

「すでに重火力支援機として【ガレス】の正式採用が近いですから。それに、いくら量産機で大量に出回っている【サザーランド】を中核に使っているとはいえ、新機構ばかりで、いくら帝国でも量産なんて無理です。限定生産にするにしても「戦闘爆撃機の方が、コストが安い」・・・そうです。」

 

どの国も平和なら必然と軍の予算が削られる。

軍人にとっては世知辛い話だ。

 

「まぁいいさ。君も無理しないようにな」

「はい・・・ロイドさんに振り回され続けていますけど・・・」

 

二人はそのまま笑いあい、迎えの車が来るまで世間話で時間を潰し、ジェレミアは帰宅の途に就いた。

生まれる新技術、新しい機械、新しい考え、それらがすべてうまく世の中に出ていくわけではない。

拾い上げられるものもあれば、捨てられるものもある。

【サザーランド・ジーク】と、KGFという新しい機種機体は受け入れられないのかもしれない・・・しかし、“無駄”ではないだろう。

それらから得られた経験は、次に生かされる貴重な実証なのだから。

 

264 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:16:58

機体解説

試作KGF【サザーランド・ジーク】

KMFとは違う体系の機体。コンセプトは“敵陣に単身突入し、大火力でもって陣地ごと敵を粉砕する。”である。兄弟機に速度重視の【サザーランド・イカロス】があるが、そちらとは違いこちらは装甲重視となっている。 史実と違い、輻射障壁発生装置がブレイズルミナスに変わっている(ラクシャータが開発に携わっていない為)。また、思考感知制御装置なる装備が登場しているが、神経電位接続を誰もしておらず、だれでも扱えるように改良されている。その為コクピットは新型に置き換わっている。元ネタはSAOのナーヴギアで、カメラに映った映像をイメージにして操縦者に伝え、武装を操る事も出来るようになっている。

 

開発順

【ジーク・フリート(電磁ユニット無)】→【ジーク・フリート(電磁ユニット有)】→【ジーク・フリート(電磁ユニット強化)】→【サザーランド・ジーク】

機体データ

全高:25.02m 全備重量:70.24t 推進機関:フロートシステムand電力駆動プラズマ推力機関

各種武装:大型スラッシュハーケン×5 ロングレンジリニアキャノン×1 6連装ミサイルポッド

防御兵器:電磁ユニット装甲 特殊装備ブレイズルミナス

最終更新:2013年03月10日 13:15

 

 



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憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情

372 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情:2013/08/14(水) 10:02:56
憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情
設定:休日世界
捏造設定あり
ガンダムネタあり
トゥ!へァ!様の応援SSあり


 

 

373 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情:2013/08/14(水) 10:03:59

ギアス世界の日本には、有名な重工業会社『スメラギ・コンツェル』がある。

日本開国から始まったこの企業は、当初は『株式会社・皇総合重工業』と呼ばれていた。

時代が進んで名前を改名したが、日本の主な産業の一つとして有名なのには変わらず。

軍需品を日本帝国軍に卸している会社の中でも最大手であり有名であった。

第一次・聖ブリタニア帝国太平洋戦争で引き分け(※1)られるくらいの技術力は保有する事に成功していたのは、ひとえに『スメラギ・コンツェル』の努力の結果であっただろう。

しかし、富士サクラダイト鉱脈を保有するお蔭で世界的な地位は上のままであった事、大国ブリタニアに引き分けたことによる国民の熱狂、特攻作戦で散った若い兵士を英雄として祭り上げたことによる精神主義の蔓延・・・これらの出来事により技術力の向上スピードが落ちたというのは、企業上層部に怠慢が蔓延していた事実であっただろう。

そんな時に出てきたのが新興企業『倉崎重工』であった。

当初は取るに足らない小さな工業企業だと思われていた。

確かに最初は民生品を取扱い、規模も小さかった。だが、その背後にある謎の集団が暗躍しなければの話であった。

転生者集団『夢幻会』のメンバーは生まれた時期がずれている事、ブリタニアと言うアメリカに変わる国家がある事を知ると「ギアス世界だ。ヒャッハァー!!」と叫ぶもの「ブリタニアが攻めてきたらやばいじゃん!!」などなど各々の反応を示し。

自分達が関わって改変してしまった憂鬱世界からの、『夢幻会』に関わった関係のない人物たちまで転生したことを知ると大急ぎでテコ入れを開始した。

又軍人になる者、企業家になる者、最初から政治家を目指す者・・・さまざまであったが、その芽は確かに発芽して成長していった。

特に著しかったのは『倉崎重工』である。

規模が数年で大きく拡大、更に政治世界に懇意する議員まで作る始末・・・はっきり言って異常な急成長であったのだが『スメラギ・コンツェル』はまだそれほど警戒していなかった。無理をして背伸びをしていると思っていたのだ。

未だに民生品の大半は自分達の子会社が作って業績を上げていたし、軍需品にまで手を伸ばすとは考えていなかったからだ。

 

油断と怠慢。

 

彼等はその代価を支払う事になる。

 

374 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情:2013/08/14(水) 10:04:29

最新戦車の技術で『スメラギ・コンツェル』の出品したのは、従来の戦車のバージョンアップで目新しいものはなかったのだが・・・『倉崎重工』が出してきたのは、“砲身をいちいち真っ直ぐにしないで再装填できる装置”であった。

更に次期主力戦闘機では苦戦していたステルス戦闘機をあっさり出してきた。

この技術力に『スメラギ・コンツェル』の開発陣は目を剥いた。

彼等からすれば、どうして実績もないのにできたのかまったくわからない。

しかし『倉崎重工』からすれば当然の結果だった。

なにせ前の世界では、望む、望まないにもかかわらず世界の頂点に立ってしまい、常に最新技術で身を守らなければならなかったのだからその研鑽がこの世界で生きているのだ。

しかも前の世界とは違い、時代が進んでいたおかげで(※2)開発がより楽に進んでいたのも原因だった。

しかしこの時の『倉崎重工』は、兵器関連の生産状況が整っていなかったために、相変わらず『スメラギ・コンツェル』が主流であることは変わりなかった。

『スメラギ・コンツェル』は安堵した。まだ自分達の土台は崩れていないと・・・

だが・・・のちにブリタニアから発表された『ナイト・メア・フレーム』・・・略称:KMFが根底から変えた。

当初は「あんな人型兵器なんて使えるのか?」「装甲が薄そうで弱そうだ」などと軍部からも疑問視された兵器であった。

その為、熱心に研究はされなかったのだが・・・その有用性を知っていた『夢幻会』と『倉崎重工』はこれらの技術に重点を置いて開発を進める決定を下した。

そして日本のKMF【無頼】完成と同時にコンペが開かれ、演習場に現れた二本足で歩くロボットに、その場にいた関係者はとりあえずその技術力を褒めた。

人間ではない機械に二足歩行させるというのは大変な労力が必要で、間借りにも支障なくすいすい進む【無頼】に惜しみない褒め言葉を上げるのは当然であった。

そして始まった主力戦車六両VS【無頼】三機。想定は市街地戦である。

先制したのは遠距離にいた戦車二両の砲撃だった。

軍人も、『スメラギ・コンツェル』関係者もこれで終わるか、たとえ避けても次で仕留められると思っていた。

広場中央にいた【無頼】が素早く散開するのは想定内、しかしそのスピードに目を見張った。

足で直接走っていくのではなく、ランドスピナーで大地を駆けるという事態に、戦車隊は戸惑い砲身をうまく照準できない。

照準出来た頃には物陰に隠れてしまっていたが、榴弾を放って追い出そうとした。が・・・

思わぬ方向から攻撃を受けて一両が大破した。

攻撃を受けたのは上から、建物上に【無頼】が立って此方にバズーカを向けていたのだ。

僚機がやられて慌てて下がるが、すぐさま照準されて撃破された。

弱点である直上を攻撃されて慌てない戦車はいない。通信を受けて、まだ接敵していない四両はすぐに慎重に移動し始めた。

しかし二両は角から強襲してきた【無頼】に反応できずにスラッシュハーケンと質量刀の攻撃を受けて擱座、その後にバズーカ持ちにやられた。

残る二両も建物内から奇襲で破壊判定を受けて負けた。

この結果に軍事関係者等は茫然とした。

 

375 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情:2013/08/14(水) 10:05:00

今回投入した戦車は一世代前のタイプだったとはいえ、ここまでワンサイドゲームで終わるとは思っていなかった。

その後の試験で【無頼】の活躍は驚きの連続であったが、KMFでも苦手とする地形や戦法がわかり、KMF万能論の封じ込めも兼ねたデモンストレーションは終わりを迎えた。

軍上層部(※3)はKMF導入を決定した。

最新戦車でも複数人必要なのに対し、KMFならば適正は必要だが一人で済む。

発展性も見込まれている為に、この計画は強く押し進められることになった。

このおかげで割を食ったのが『スメラギ・コンツェル』であった。

補助戦力として戦車は生き残ったが、受注量は減った。

更に『倉崎重工』が作るジェット戦闘機の性能が良いのが出てきて、この分野でも割を食うようになった。

 

「新時代に乗り遅れた『スメラギ・コンツェル』は衰退をはじめた」

 

このような事が言われてしまうくらいに『スメラギ・コンツェル』はその影響力を著しく落としていくようになってしまった。

慌てて始めたKMF研究であるが、優秀な技術者を殆ど『倉崎重工』に持って行かれてしまい。思うような研究が出来なかった。

『倉崎重工』が『ダガー・シリーズ』を軍に納入し始め。自分達は訓練機として【無頼】を生産する傍らで、コツコツと研究を進めていった。

その努力が実りようやく『スメラギ・コンツェル』独自のKMF【紅蓮・零式】が完成した。

 

【紅蓮・零式】

形式番号:Type-00 分類:第五世代KMF

所属:大日本帝国 製造:スメラギ・コンツェル

生産形態:試作実験機

全高:4.51m  全備重量:6.22t

推進機関:高機走駆動輪(ランドスピナー)

武装:特殊鍛造合金製ナイフ×2 飛燕爪牙(スラッシュハーケン)×1 チャフ弾 or スモーク弾

乗員人数:1人

 

その出来のよさに関係者は満足していた。しかし・・・二回目のKMFコンペにて【紅蓮・零式】は惨敗してしまう。

接近戦はいい勝負に見えていたのだが、相手が素早く後ろに回った際に振り返る事が足の構造上大回りにならざるおえず。

更に足に攻撃を受けた時、想定外の圧力が加わったせいでへし折れてしまったのだ。

衝撃を受けたKMF開発チームは、改良してもう一度出品しようとしたのだがブリタニアとの同盟が『紅蓮・シリーズ』に止めを刺す事になった。

『紅蓮・シリーズ』のコクピットが共通規格に合わないバイクシート式であったのと、ロイド式フロートシステムの採用により『スメラギ・コンツェル』独自の規格は頓挫されることになった。

結果的に【紅蓮・壱式】は製造されたがコクピットを共通規格に改造し、武装などの試験運用に回されて、【紅蓮・弐式】(※4)は製造さえなかった。

開国以来続いていた繁栄が、後から出てきた若造にとってかわられる。

時代の流れならば仕方がないのかもしれない。

しかし・・・それでも社員を養わなければならない!路頭に迷わせてはいけない!

 

376 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情:2013/08/14(水) 10:05:30

決意を固めた『スメラギ・コンツェル』上層部は、何人かが自主的に引退して後任に新しい人材を入れた。

下でも積極的に意見を取り入れ、民生品に回せるKMF開発に力を入れて努力した。

この努力のお蔭で彼らは『倉崎重工』よりも先に民生KMFの受注と生産に成功している。

更に運が回ってきたのか、一つの会社に開発を任せてしまう事に危機感を抱いた政治家と軍部関係者のテコ入れにより、『倉崎重工』からはぶられているような状態だった二つの開発チームを受け入れられた。

その片割れが持ってきた機体に、スメラギの開発陣は興味が引かれた。

何でも可変機コンペで落ちた機体だというのだが・・・

その細い外見は、角張っているものの【紅蓮】を思い起こさせるものであった。

飛行させるために軽量化された機体【フラッグ】で、すでに旧式に分類される【紅蓮】よりも良い機体であったため、これを元に可変機構を除いて第七世代を目指して製作する事が決定された。

この決定は、移籍してきたチームの実力を見るためのモノでもあった。

 

【オーバー・フラッグ】和名:羽山【ハヤマ】

形式番号:SVMS-01-O 分類:第5.5世代KMF 外観モデル:OOガンダムのオーバー・フラッグ

所属:大日本帝国 製造:スメラギ・コンツェル

生産形態:試作実験機

全高:4.62m  全備重量:5.94t

推進機関:高機走駆動輪(ランドスピナー)

固定武装:特殊鍛造合金製ナイフ×2 スラッシュハーケン×2 チャフ弾 or スモーク弾

装備武装:試作リニアライフル 長刀型・廻転刃刀×1

乗員人数:1人

 

『スメラギ・コンツェル』に移籍したチームが制作した機体。

装甲が薄いという所は『紅蓮・シリーズ』と変わらない。その為か【和製:アレクサンダ】と言われてしまった。

しかしあちらとは違い可変しないので、各部の強度と装甲はこちらが上の機体となっている。

試作リニアライフル・・・『トライデント・ストライカー』は元々独自に試作していた銃であったが、のちにヴァリスに変更されている。

試験起動させて結果を見た開発陣は満足する結果を得た。

この時点で【ロングダガー】【デュエルダガー】に匹敵するほどの能力がある事がわかったからだ。

ならば『フラッグ・シリーズ』の制作をして量産機を制作・・・とはいかなかった。

既に『倉崎重工』が第七世代の量産機を目指して製作を開始していたし、いきなり違う系統の機体であると軍備に影響が出てしまう。

そこで視点を変えることとした。

量産機を作りたいのは変わらない、ならば売る相手を日本帝国軍ではなく別にすればいい。

大清連邦や高麗は論外、中華連邦には【無頼】のライセンス生産のみ許可されている。

となると国外で唯一商売相手として見られる相手はブリタニアぐらいであったが、その中にいるもう一つの勢力に接触を試みた。

接触を試みた相手は比較的良好であったが、どうも信用していないようであった。

今まで量産機、拠点防衛専用機すら作れていない会社からの接触だ。疑られても仕方がない。

しかし交渉の感触は悪くない。

 

377 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情:2013/08/14(水) 10:06:01

彼等ユーロブリタニア王侯貴族は、EUの向上した軍備力(※5)に悩んでおり、ブリタニア本国に第七世代配備を打診していたがまずは本国部隊に配備してからと言う無しの礫であった(※6)。

だからこそ『スメラギ・コンツェル』は売り込むことが出来ると判断していた。

開発陣は意向を受けてユーロブリタニア向けの量産機制作に入っていた。

 

【ジンクス】和名:陣羽【じんば】

分類:第六世代KMF 所属・製造:スメラギ・コンツェル  外見モデル:ガンダム00のジンクス

全高:4.68m 全備重量:7.01t

推進機関:ランドスピナー 簡易フロートシステム ランドローラー

固定武装:スラッシュハーケン×2 合金製クロー 対人機銃×2 スタン・トンファー(椀部固定)

装備武装:ヴァリスⅡ 手持ち式ハドロン砲 MVSソード×2(連結可能) 突撃ランス(ルミナスコーン搭載型も有り) 取り付け形ブレイズルミナス 等

乗員人数:1人搭乗人数:1人

 

本機は【ランスロット】と【ジャスティス】に対する対抗馬になるよう意識して作られて機体である。

ほぼ原形となった【ジンクス】を模した機体であった。開発された新技術と従来の技術が盛り込まれている。

スラッシュハーケンは従来と同じ場所。ファクトスフィアも頭部にあり、使用時は強化ガラス自体がスライドして突き出るようになっている。

盛り込まれた新技術は簡単なもので、ランドスピナーで移動している際に引きずる様にしていた足裏に二輪のローラーを仕込んだことと、腰から突き出た部分と、肩の部分からフロート力場発生機関から微弱な力場を発生させて、機体を半重力で浮せられるようにした事だろう。

結果従来の機体よりも速く移動できるようになり、ジャンプ力の上昇、力場を調整した旋回行動の補助、微妙な着地位置変更・少しの減速加速が可能となっている。

この簡易フロートシステムは飛行するためのモノではなく、機体を僅かに浮かせる機構であった。しかし、常時動かしている為にエネルギーをかなり食う装置となってしまった。

新たな試みとして指先が合金製クローとなっている。

たとえ無手になっても戦えるようになっているが、関節機関に負担がかかるので最終手段として考えられていたが、最終的にはオミットされることが決定された。

他にもヴァリスⅡは、高出力で撃てる様に改良した倉崎の単発式スーパーヴァリスとは違い、連射が可能となっている(射程距離が少し犠牲になっている)。

簡易フロートシステムのせいでエネルギーを食う機体となってしまった為に、ブレイズルミナスは固定装備ではなく装備品になっており、装備するパーツ自体にバッテリーが組み込まれていて本体のエネルギーを使わない方式になっている(突撃ランス・ルミナスコーン搭載型も同様)。しかしバッテリー自体が最長15分しか持たない為、時期量産機にはエネルギー効率を見直してコンパクトにしたのを考えている。

以上で試作機【ジンクス】はとりあえず完成していた。

見る問題点は数多く、しかし確実に採用される点を抑えて試作されていた。

そんな時、ユーロブリタニアの貴族がトライアルをしている場所に赴く事が判明した。

すでに【ランスロット・トライアル】【ストライク・トライアル】がその試験場で動いているという事聞きつけ、品定めに行くというのだ。

これは好機であると判断し、試作運用がまだだったが完成している機体を試験場に送り込むことを決定し、大急ぎで準備を行った。

準備が完了して一番早い便で送り出し、会社上層部は祈るような気持ちで・・・実際祈りをささげて送り出したのだった。

ブリタニアに到着しすぐに運搬、試験場について組み立てつつ動作チェックを行い、連日ハードスケジュールで確認を行った。

見学者が来るまで時間がない。派遣された社員全員が必死に動きつづけ、とうとう見学と言う名のコンペ当日になった。

 

378 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情:2013/08/14(水) 10:06:54

コンペ当日、担当者は目を向いた。

なにせヴェランス大公と四大騎士団長や、ユーロブリタニアのエースが勢ぞろいしていたのだから・・・

一瞬呆然としたが、自分に課せられたことを思い出し気合を入れなおす。

まず、最初に【ランスロット・トライアル】が紹介されその機動動作を見つめた。その表情はまさに真剣であり、隙などなかった。

続いて【ストライク・トライアル】も紹介され同じように動いた時も、その姿勢は変わらなかった。

確かにあの二機は良い機体だ。しかし自分達の機体も負けてはいない。

【ジンクス】の改修機【アドヴァンスド・ジンクス】の資料を見た。

 

【アドヴァンスド・ジンクス】和名:陣羽・改【じんば・かい】

分類:第七世代KMF 所属:ユーロブリタニア 外見モデル:ガンダム00のアドヴァンスド・ジンクス

製造;スメラギ・コンツェル

全高:4.68m 全備重量:7.01t

推進機関:ランドスピナー フロートユニット 内臓型補助フロートシステム

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタン・トンファー

装備武装:アドヴァンスド・ヴァリス MVSブレード×2(連結アリ) MEランス

携帯型ハドロンランチャー 携行式ブレイズルミナス発生装置 etc

搭乗人数:1人

 

問題のあった【ジンクス】の改良機。主に実戦に耐えうるバランスと、安定性を獲得することを主眼に改修がなされていてその性能は高く、ユーロブリタニアへの売り込みも大いに期待されている。

まず改修されたのは、使用すると稼働時間が激減する補助の簡易フロートシステムだった。

ランドローラーを廃止し時発動させておくのではなくジャンプ時や旋回時などだけに発動するようにし完全な機動補助装置とした。

合金製クローも廃止してある。整備性と無手になってまで戦う必要が無いのを鑑みての結果である。

ヴァリスⅡは連射性を上げたためにエナジーの燃費が悪くなっている欠点を発見し、連射性を単発式のライフルと同程度まで下げ(自動小銃くらいの連射速度)

安定性と信頼性を重視した改修を施したアドヴァンスド・ヴァリスに改修した。

試作されていたルミナスコーン発生装置搭載型ランスの、整備性と信頼性の問題から廃止が決定。かわって従来のME加工を施した信頼性の高いタイプに変更された。

これは【サザーランド】や【グロースター】の装備している従来のランスを見直し、燃費と安定性が向上した発展型のMEランスである。

この質量武器はユーロブリタニアでも広く使われているので期待が持てる。

携帯型ハドロン砲も改修。【ジンクス】に装備されていた物よりも照射時間の延長とそれに伴うエナジー消費増の省力化に成功した。代わりに威力が下がったが、問題なしとした。(しかしそれでも装備の中では最もエナジーを消費する武装である)

範囲攻撃装備としては申し分のない、問題の無いレベルとなっている。

携帯式ブレイズルミナス発生装置は、試作された時よりも稼働時間の延長改善に成功。

しかし従来の固定型のルミナスよりは疑似物質の強度が下がってしまった。

だがハドロン砲やヴァリス、大口径大型砲などの大威力の武装以外は大抵防げるレベルでの強度は保持されている(元々小口径対応として考えられていた)。

機体性能その物も機動性と近接戦闘能力を高い水準で保持。【ストライク・トアイアル】や【ランスロット・トライアル】に劣らない高性能機に仕上がっていると自負している。

コクピットのモニターは全天式ではなく、従来型の最新バージョンで落ち着いている(※7)。

 

【ストライク・トライアル】の紹介が終わり、最後に自分達『スメラギ・コンツェル』の番となったのだが・・・

どうも訝しげな表所が消えない。機体説明をするが、疑問が絶えず飛び出してどうにも勝手が違う。

確かにKMF部門では実績などない。しかしそれでも開国以来続いてきた製造部門の中心的存在としてのプライドはあった。

だからこそ耐えた。これさえ乗り切って、実物さえ見せれば・・・

しかし無情な一言が堪忍袋の尾を切れさせた。

 

「実績のない貴社よりも、まだ『倉崎重工』の方がいいのではないかね?」

 

379 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情:2013/08/14(水) 10:07:26

この発言をしたユーロ貴族をヴェランス大公が怒鳴り、謝罪しようと振り返ったとき何かがへし折れる音が聞こえた。

それは説明をしていた社員の指示棒がおれた音であった。

 

「いいでしょう・・・そこまで言うならば【陣羽】の実力をお見せしましょう」

 

低く怒りを抑えているようで滲み出ている声が室内に響き渡る。

倉崎に負け続けだったスメラギの担当者が、怒りを抑えながら提案を挙げた。

【ストライク・トアイアル】と【ランスロット・トライアル】を、それぞれ相手にして完勝するというものだった。

流石に無茶だと思ったヴェランス大公は、前に出て冷静になるよう言おうとしたが・・・顔をあげた担当者の形相にその場にいた全員が気圧された。

 

「スメラギを・・・舐めるなよ!」

 

自社の新機種第7世代KMF『ジンクス・シリーズ』の性能を疑問視していたヴェランス大公と、四大騎士団長の前で啖呵を切った担当者はすぐに電話を取って連絡を取った。

あまりに無謀と言える提案に【ランスロット・トライアル】を制作した側も落ち着くように言ったが、もう撤回できないと判断しているスメラギの担当者に頭を下げられ、渋々同意する事にした。

 

最初に【ランスロット・トライアル】と戦い、次に【ストライク・トアイアル】となったわけだが・・・結果は圧勝だった。

【ランスロット・トライアル】との戦闘は、最初は射撃戦だったが徐々に【ランスロット・トライアル】の分が悪くなっていった。

【アドヴァンスド・ジンクス】の携行式ブレイズルミナス発生装置との差が出てきたのだ。

エネルギーを直接消費してしまうのと、電池を消費してから直接消費できるのと違いであった。

一気に接近戦でケリをつける事選択した【ランスロット・トライアル】だったが、【アドヴァンスド・ジンクス】はそれに付き合わず、そのまま射撃をして撃破してしまった。

次に【ストライク・トアイアル】との戦闘だったが、こちらは最初から接近戦で始まった。

お互いにMVSを叩きつけ合うのだが・・・【アドヴァンスド・ジンクス】独自の機動に戸惑いなかなか決定打を出せない、対して【アドヴァンスド・ジンクス】のテストパイロットは落ち着いて攻撃を捌き、一瞬の隙をついて攻勢に出て撃破した。

この結果に撃破された両機の関係者、ユーロブリタニア関係者全員が唖然とした。

ついでに【サザーランド】12機VS【アドヴァンスド・ジンクス】も試されたが、これも完勝してしまった。

担当者は内心「やっちまった」と思っていたが、結果を見て「どやぁ・・・」とばかりに胸を張った。

すぐにヴェランス大公と四大騎士団長は、すぐさま詳しい内容をもう一度読み始めた。

そして気が付いた。量産する【ジンクスⅡ】は【アドヴァンスド・ジンクス】よりも能力は低いが、充分納得できる範囲に収まっており。

何よりも『グラスゴー・シリーズ』と整備の仕方が似通っていることが分かった。

『ダガー・シリーズ』と『ランスロット・シリーズ』は、『グラスゴー・シリーズ』とは機体構成が違うために整備士をもう一度習熟しなければならないのだが、『ジンクス・シリーズ』はほぼ変わらない位置に主要部品と機器があるため、習熟が短くて済むという利点があったのだ。

生産体制は整っていることも聞き、ユーロブリタニはスメラギと契約を結び発注を掛けた。(※8)

ここで、ようやく『スメラギ・コンツェル』の復興が約束されることが決定となった。

もっとも『ジンクス・シリーズ』はユーロブリタニア向けの機体であるため、日本帝国用の機体はまた別に制作していくことになる。

しかしこの経験は生かされていくだろう。

早くも搦め手として、拠点防衛用KMF【ヴァーチェ】がすでに試作機制作が終了しており。

海中用KMF制作も進められている。

 

「なめるなよ。倉崎重工!!」

 

この言葉を合言葉に『スメラギ・コンツェル』は会長・社長・上層部も社員も含め、一致団結して危機を乗り越えていく。

 

380 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情:2013/08/14(水) 10:08:12

※解説

 

第一次・聖ブリタニア帝国太平洋戦争で引き分け(※1)

原作で詳しく書かれていないので、勝手に命名。

何とか引き分けに持ち込んだが、事実は日本の敗退で終わった戦争。

 

時代が進んでいたおかげで(※2)

それでもサクラダイト技術などの、知らない技術に合わせるのが大変だったという。

 

軍上層部(※3)

この頃にはすでに『夢幻会』がだいぶ浸透しており、政財界にも影響が及ぶようになっていた。

又、精神論を掲げる害のある連中の粛清も進められ、政界でも選定を急いでいる時期であった。

 

【紅蓮・弐式】(※4)

アニメで出てきたような輻射波動を装備していない。

外見上は【紅蓮・壱式】になっている。能力的には【サザーランド】相当【グロースター】未満である。

 

EUの向上した軍備力(※5)

『倉崎重工』で変態技術者たちが頑張ったせいで、世界的に起きた技術ブーストの所為。

この所為で想定していた戦力の見積もりが波状した。

スパイ活動により【アレクサンダ】【オルレアン】【ボーイ】などのコピーを含めた純正KMFの存在と、数を増したMTF兵器の対応に揃えようとして兵器では被害が以前よりも増すことが判明した。

なにせ同じ距離で、同じ銃器を【サザーランド】VS【オルレアン】で射撃させると、【オルレアン】は耐えるが【サザーランド】は撃破されてしまう。

接近戦においては【サザーランド】の方に分がある。それでも、撃破しにくいKMFとして評価されている。

 

本国部隊に配備してからと言う無しの礫であった(※6)

実は、技術供用の全天モニターが一機当たりの価格を引き上げる結果を生み出している為、回してあげる余裕がない。

 

コクピットのモニターは全天式ではなく、従来型の最新バージョンで落ち着いている(※7)

この措置も整備性を意識して作られている。全天式モニターよりも揃えやすく、日本技術者のお蔭で見やすい場所などに配慮してあるため特に問題はない。

ユーロブリタニア貴族が、全天モニターの強度に不安を覚えていたのもリサーチで分かっていた為である。

 

ユーロブリタニはスメラギと契約を結び発注を掛けた。(※8)

一部のユーロ貴族に【アドヴァンスド・ジンクス】を売ってもらえないかと言う打診があったため、少数の限定生産で売却が決定した。

最終更新:2013年09月15日 17:54

 



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憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情Ⅱ

142 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情Ⅱ:2013/10/22(火) 19:39:42
憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情Ⅱ
設定:休日世界
捏造設定あり
ガンダムネタあり
トゥ!へァ!様のSSあり



 

 

143 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情Ⅱ:2013/10/22(火) 19:40:19

ユーロブリタニア向けKMF【ジンクス・シリーズ】を開発し、無事に生産受注できたスメラギ・コンツェルだったが同じようにユーロブリタニア向けの重KMF開発もしていた。

基本は開発していた拠点防衛用KMF【ヴァーチェ】の改良型だ。

【ヴァーチェ】は全天モニターの価格を引き下げるために装備しているが、【ジンクス】同様従来のフレームモニター使用に変更する。

又特徴である可動式アタチッメントを廃止、代わりに固定装備にしたハドロン砲を二門装備させた。

アタッチメントにしなかったため少し大きく、コクピット側に付けてはいない。

 

正式採用機になって廃止された腕部MVSスラッシュソードハーケン×2は、日本製が中剣型MVS×2に変更されているのに対して、こちらはカタールタイプ×2にした。

小さくて取り回しがいい様に配慮した結果だ。装備場所は脹脛の部分で、格納してある。

他にも部品を【ジンクス・シリーズ】や、いまだ配備されている【グロースター】【サザーランド】などからも融通できるようにした。

 

そうしてできたのが【フィジカル・ヴァーチェ】だ。

 

【GN-005/PH フィジカル】

形式番号:GN-005/PH 分類:第七世代拠点防衛型重KMF 外見モデル:OOガンダムのフィジカル・ヴァーチェ

製造:スメラギコンツェルン

生産形態:準量産機

推進機関:背部フロートシステム 踵部大型ランドスピナー

固定武装:腰部・スラッシュハーケン×2 ハドロン砲×2 肩横部・多目的ロケット機構(閃光弾・煙幕弾etc.)

装備武装:カタール型 MVS×2 椀部固定式バズーカ ヴァリスⅠ(折り畳み機構の無い、正規軍使用のタイプ)

特殊装備:ブレイズルミナス

乗員人数1人

 

出来上がりがはまずまずで、【ヴァーチェ】にそっくりだがそれは生産する時の価格を下げるためだから仕方がない。

OOガンダムチーム開発陣は非常に満足していた。しかし・・・生産には待ったがかけられた。

 

待ったのは日本陸軍だ。

拠点防衛型で準生産とはいえ、国防を担う機体が売られるのはよろしくない。

ユーロブリタニアが信頼できるというのはわかっているが、似通った機体が運用されるというのは感心できなかったのだ。

【ヴァーチェ】自体もまだ数が揃えられていないし、渋るのも当然だった。

 

更によくないことは重なるもので、【フィジカル】を整備していた現場から問題があげられてきた。

 

「整備がしにくい」

 

考えてみれば当然だった。

【ジンクス・シリーズ】は【グロースター】【サザーランド】双方使用している共通部品を使用する事を前提とした設計であったが、【フィジカル】は【ジンクス・シリーズ】【ヴァーチェ】【グロースター】【サザーランド】の部品を使用している為、非常に多くなっていたのだ。

点検項目などの問題も発生、この改修に追われることになる。

 

そしてそんな時にユーロブリタニアから「重KMF作ってくれないか?」と言われたのだ。

 

144 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情Ⅱ:2013/10/22(火) 19:40:54

欧州解放後のユーロブリタニアは軍備の整備を前にも増して進めており、これは新たに超大国として確かになったことを示す目的でもあった。

そんな時期に、支援用の重KMFを開発する提案が上がった。

日・ブ共に採用しているのだし。この際ユーロブリタニアでも採用してみてはどうか?と言う意見だった。

そこで候補に上がったのが、主力機である【ジンクス】を開発したスメラギである。

スメラギは既に拠点防衛用の【ヴァーチェ】を開発しており、これを素にした重KMFなどを期待していたのである。

 

しかしスメラギ・コンツェル上層部は、先方に対して非常に低姿勢でいまは出来ない事を告げ、現在改修中であるというのを教えて引き下がってもらった。

あちらとしては実績のある【ヴァーチェ】の改良型を開発していると聞いていただけに、期待している部分が大きかった分ちょっと肩を落とした。

だが、より良いモノを作ってくれるであろうことを期待し、すんなり引き下がった。

 

スメラギが安心しつつ急いで取り掛かったのとほぼ同時に割り込んできた者達がいた。

そう、我らが倉崎重工だ。

彼らは今まで独占していたKMF部門の一部を取られて少し御冠だった。

 

そんな時にスメラギがユーロブリタニア向けの重KMF開発に躓いたという話が舞い込んできたのだ。

量産型第七世代開発の事件により自粛が求められ、【ウィンダム】と【スローターダガー】の生産に追われて重KMFの開発が疎かになっていた。

底を突かれて【ヴァーチェ】が採用されてしまった。

一つの会社に生産を委ねると不味い、と判断した政府の思惑も理解できるが販売できる版図は広い方がいいという思惑もあった。

これ幸いとばかりに彼らは設計図と開発プランと共に、スメラギのお得意様に殴り込を掛けることにした。

実体は「日本の拠点防衛用枠とられて悔しいー!!だったらこっちもやーってやるぜ!」と言う声と「これなら俺等の考えていた機体を出せるかも?」と言うOG派の意見が一致。恐るべき速度で開発が進行していったのだ。

 

KMF【エルアインス】※1

分類:第七世代KMF 外見モデル:スパロボOGの【エルアインス】

製造:倉崎重工 生産形態:準量産機

全高:5.94m 重量:11.09t

推進機関:ランドスピナー フロートユニット

固定武装:スラッシュハーケン×2(腰) ツインハドロン砲

装備武装:アサルトライフル ヴァリス MVS 携行式ブレイズルミナス発生装置

バズーカ(腕) 小型六連ミサイルランチャー(胸回り)

 

倉崎重工がユーロブリタニアの支援用重KMFとして開発し機体。

開発経緯が、スメラギに日本の拠点防衛用KMF枠を取られた腹いせともいう、ちょっと問題がある理由で生まれた。

 

元は日本の主力機コンペように立案していたが案の段階で落選した機体である。

それをいつの日かという希望の元、重KMFとしての再設計案を立案して温めていた。

 

フロート装備による機動性と、背後にフロートと干渉しない形で肩を中心として装備された高威力のハドロン砲が二門。

各種兵装も既存の機体から流用が可能であり、なかなか使い勝手が良かった。

重KMFとしては小型な方で、これは元が主力級のKMFとして立案されていたころの名残とでもいうべきものであった。・・・既に原形は留めていないが。

 

元が主力機を目指していた機体で、共通規格も導入しているため整備性も良好。

生産性や整備性を上げるために、【ジンクス】や【グロースター】などとのパーツの互換性も幾分か融通が効くように設計し直している。

ファクトスフィアは勿論頭部に。

 

しかし整備性、量産性は重KMFの宿命か主力となるKMFほど高い数値ではない。

極力既存の機体からのパーツや装備を流用出来るようにはしているが、それでもそれほど低くできないのが重KMFの現状である。

これはブリタニアの【ガレス】や開発中の【カラミティ】にも言えることである。

今回の件はスメラギが対抗馬を作り上げる前に殴り込み、開発を許可してもらうという賭けに近い考えだった。

 

145 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情Ⅱ:2013/10/22(火) 19:41:25

が、この【エルアインス】は【フィジカル】同様の問題があった。

整備性は確かに【フィジカル】よりも良かったのだが、部品を揃えるのが面倒と言うのは変わらなかった。

また、生産ラインも整っておらず。すぐには生産できない・・・と言うか試作機すらなかった。

さらに別の問題として、コクピットの問題もある。

 

【ジンクス・シリーズ】は全天モニター方式をやめて、従来のフレームモニター方式であり。操縦者が慣れていないことが挙げられた。

そんな中にたった一種類だけ、全天モニターの機種が混じっているというのはあまりよくはない。

日本とブリタニア本国は、次世代型KMFのコクピットを全天モニター方式に切り替えているからいいのであって、ユーロブリタニアには当てはまらないのだ。

 

ならば【ジンクス・シリーズ】を全天モニターにすればと誰かが言ったが、他社の製品を勝手に変える事などできない。

もしするなら再設計しなければならない為、あまり効率がいいとは言えない。

そうこうしている内に政府と軍部から圧力がかかった。

 

「さっさと【ウィンダム】と【スローターダガー】を揃えろ(怒」

「他のKMFも受注していて、独占しているんだから自重しろ(怒」

 

遥か上の人達に睨まれては仕方がなく、開発部はすごすごと引き下がるしかなかった。

 

この報告にホッと一安心したスメラギであったが、いつまた倉崎が来るのかと言う不安が募り大急ぎで開発する事になった。

まずは再設計からであったが、別のOOガンダムチームが作成していた機体をすぐに制作する事にした。

計画の機体は元ネタの機体が角張っている為、生産性が良さそうと言うのも採用のきっかけであった。

 

まずは機体を見ると元ネタの機体とは違い、特徴となる大砲が外されて代わりにスラッシュハーケンが装備されていた。後腰にも装備している。

確かに元ネタの機体にすると、大砲が邪魔をしてあまりいい機体にはならない。

なるべく元ネタを模倣したい彼らにしては良い決断だ。

 

装備するハドロン砲は二門のみ、肩越しに撃ち放つようになっている。普段は後ろ向きで横移動でも縦移動でも前に試行できるようになっている。

後は椀部に近接戦闘用にスタン・トンファーを流用する。

またブレイズルミナスも固定式にした。肩に発生装置を付けてあるが、360°回る仕様になっているので前方でも後ろでも大丈夫になっている。

脚部には踵の方に出っ張りを作ってそこにランドスピナーを設置、空いたスペースに脚部用の使い捨て小型ミサイルポッドなどを装備できるようにした。

頭部には【グラスゴー・シリーズ】特有の四眼カメラを装備させ、スメラギが開発に成功した“ファクトスフィアを露出しないで作動できる防弾ガラス”を取り付けた。

一応被弾時も考えて、おまけ程度のシャッターも装備させた。

そして完成したのが、

 

重KMF【リバプール】 和名:紺盾【こじゅん】

分類:拠点防衛型第七世代重KMF 外見モデル:OOガンダムのGNキャノン

製造:スメラギ・コンツェル 生産形態:準量産機

全高:5.56m 重量:11.53t

推進機関:ランドスピナー フロートユニット

固定武装:スラッシュハーケン×4(胸部と腰横) ハドロン砲×2 スタン・トンファー×2

装備武装:アサルトライフル ヴァリスetc.

特殊装備:旋回式ブレイズルミナス発生装置

 

146 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 スメラギ・コンツェルの事情Ⅱ:2013/10/22(火) 19:42:17

凝り過ぎた【フィジカル】の反省点を生かし、【ジンクス】製作で得た経験を盛り込んだ機体。

整備箇所も大きさに的に変わっている部分があるが、基本は変わっていない。

基本に忠実であるという事を踏まえると、重KMFの中では整備がしやすい分類となっている。

 

腰後ろのスカートは、腰のスラッシュハーケンの巻き上げ機構を入れてあるので無駄になっていない。

しかしフロートシステムがコクピット固定式となってしまった為、そこだけは費用が高くなってしまったのが反省点だ。※2

機体名は元ネタのGNキャノンがパッとしない名前だった為、この世界で不採用となってしまった無人機【リバプール】からちょうだいする事にした。

 

だが、この機体を見たユーロブリタニア貴族は武骨な機体を気に入いった。

火力も申し分ないし、防御力もある。費用に関しては純量産機だから気にしない。

一応稼働試験等も見てもらったがなかなか好評で、客人の不満はない様子にスメラギ重役一同は安堵し、無事に契約を結ぶ事が出来た。

 

今回はスメラギらしい暴走した一面と、倉崎重工の出しゃばりに冷や冷やした部分が多数あった。

どちらも反省すべき点が多く見え、倉崎はこれにより更に自重して日本国内の生産にとどめるようになった。※3

スメラギも過ぎたる事は及ばざるが如し、と反省して精進していくことになる。

 

 

 

 

 

 




※解説
※1【エルアインス】
提督たちの憂鬱×コードギアス ネタSSスレその16の>>377を参照してください。もしくは支援WIKIを参照してください。
※2フロートシステムがコクピット固定式となってしまった為、そこだけは費用が高くなってしまったのが反省点だ。
他の重KMFは全天モニター方式なのに対し、フレームモニター方式になっている為御高くなっている。
可動式コクピットに比べればまだ安い方。
※3倉崎はこれにより更に自重して日本国内の生産にとどめるようになった。
と言っても【シャンブロ】製作の様に突き抜けてしまう所は、今後も発生した。

147 :影響を受ける人:2013/10/22(火) 19:42:50
と言うわけでスメラギ・コンツェルの重KMF第二弾でした。
こちらも難産でしたね。機体自体は決まっていたので、KGFよりかは簡単でしたが・・・
しかしこの【リバプール】はもう活躍しないだろうな・・・採用時期が解放戦争後だし・・・
最終更新:2013年11月03日 16:45


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憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 日本公民党の事情

469 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 日本公民党の事情:2013/12/30(月) 22:48:11
憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 日本公民党の事情
設定:休日世界
捏造設定あり


 

 

 

さて皆様。原作ギアスにて出てきた兵器と言えばなんでしょうか?

第一期でKMFといえば【グラスゴー】【無頼】【サザーランド】【グロースター】

特殊機では【ランスロット】【紅蓮弐式】【ガウェイン】【ジークフリート】だろう。

 

休日世界においては倉崎台頭のせいで生まれなかったKMFもあるが、ブリタニアのKMF関連は数こそ増えたものの基本的に同じである。

そして日本においては変態技術者――変態転生者ともいう――が、己の欲望を満たすためにKMF開発を行っている。

その所為でスメラギ製であるはずの【月下】【斬月】【暁】が生まれていないのだが・・・とある一種類だけ生まれていた。

その機体とは・・・ 【雷光】 である。

 

【雷光】はギアス本編では、初登場では強いというジンクスによりなかなかの強さを見せたが【ランスロット】に敢え無くやられている。

その後はほとんど出てこず。

やっと出たのは後半も終わりごろと言うモノだった。

しかも第二期には出てこない。というか、あんな“欠陥機”は出てこない。

 

何故欠陥機かというと・・・

 

※動きがトロイ。

※大砲の弾丸が大きすぎて総弾数が少ない。

※機体が大きすぎて的にしかならない。

※KMF四機に加速装置がある理由がわからない。

※局地的にしか使えない。

 

とまぁ、挙げれば挙げるほど出てくる。

 

原作では足りない戦力の確保のために製作したのだが、この世界においては違う。

KMF開発に乗り気でなかった倉崎以外の会社は、不信の目で見たり嘲っていたが、試験戦闘にてその強さを見せつけると一変する。

 

471 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 日本公民党の事情:2013/12/30(月) 22:48:44

 

KMFがあそこまで使えるのであれば、自分達も売り込みをかけてみたい!

 

そう思うのは必然だった。

さいわいこの分野に関して、老舗であるスメラギ・コンツェルも同じスタートラインにいる。

最初の倉崎重工はまだ若く、出し抜ける可能性もあった。

 

そんな中、公民党の息のかかった会社にも発注が掛かった。

当初は「KMFを作れ」かと思われていたのだが、どうも違う。

「KMF技術を使った兵器を作れ」であったのだ。

 

困惑して説明を求めると、「KMFは確かにすごいかもしれないが、それを駆逐できる兵器があるならば、そちらを作った方が有意義だ」との事・・・

確かに理屈としては正しいが、本音は倉崎重工のバックにいる政党に対してこれ以上台頭させたくなく、ダメージを与えてあわよくばこれを口実に政権を獲得できないかと言う思惑があった。

振り回される会社としては迷惑だが、自分達のボスからの命令には逆らえない。

 

面白くはあったし、会社としてもスメラギにアッと言わせられるかもしれないという期待感もある。

ヤル気が出てきた会社は、早速倉崎住戸に出向いてデーターを貰う事にしたのだが・・・

公民党の影響を受ける会社という事でストップがかかった。

 

スメラギ・コンツェルはまだいい、政党としてはライバルだがよい関係をきづけている。

しかし公民党はだめだ。

KMF技術はまだ発展できる余地があるし、友好のあかしともいえる技術をあっさり海外の敵性国家に渡されるのは嫌だった。

その為、重要部品を抜いた現物が支給されるにとどまる。

 

もちろん公民党は抗議したが、あっさり正論をいわれて他の政党からも睨まれて動けなくなる。

会社としても御上に睨まれるのは勘弁してほしい。

仕方なく持ち込まれた現物を解析してみることにする。そしてわかったのは・・・恐ろしいほどの耐久性と汎用性だった。

 

粉塵対策、水密対策、亜熱帯の高温多湿にも耐える機構・・・思わず「何このチート」といってもだれも否定できなかった。

これでまだ発展できる、という倉崎重工とスメラギ・コンツェルの言い分が信じられなかった。

いろんなモノに打ちのめされたような気がしたが、気を取り直してKMF技術を解析していく事にする。

 

しかし、公民党は一つ間違いを犯していた。

発注した会社は確かに兵器を作っていたが、それはあくまでも“兵器の一部部品”であった事。

本格的な兵器を作るには少々ノウハウが足り無かった。

その為に時間ばかりが過ぎていき、ダガー・シリーズが作られ、第七世代機開発が始まるまで何にも出来なかった

 

472 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 日本公民党の事情:2013/12/30(月) 22:49:15

 

苛立ち、焦りを覚えた公民党は会社に対して「一機でもいい、すぐに制作に取り掛かれ!」と発破をかけた。

会社は酷く狼狽し開発延長を求めたが、却下されて「これ以上無駄に金を消費するならば、縁を切る!」とまで言われてしまっては、急いで組み立てるしかない。

 

とりあえず戦車以上の火力を持たせるため、レールガンの技術を応用した大砲を中心に、KMF四機分の動力を直結する事により電力を確保。

接近戦を考えていないので火砲を、外側の腕と差し替えで装備させる。

こうして突貫工事で完成にするに至り、公民党幹部はようやく安心して評価試験に臨めることになった。

そして結果から言えば・・・不採用・・・しかなかった。

 

まず試験場で倉崎が用意した動力をつけ、ランドスピナーを装備させたが・・・機動力が恐ろしくない。

歩行もさせてみたが、大砲が重すぎてバランスが取れない。

パイロットも砲手・操縦者と二人なのだが四機分の足を動かすには手が全く足りず、旋回不能。

火砲も打つが、単発式なので接近させられたりすると脆かった。

 

KMF相手でも、戦車相手でも全くの鴨でしかなかった(戦車に至っては、遠距離からの曲射一発で撃破した)。

それでも「狭い場所なら!」と吠えたが、「そんな場所などない。それにこんなデカいのはいらない。普通に戦車で充分との言葉に潰された。

 

【雷光】一機作るのに、【無頼】ならば6機分(内約:脚部4機分・主砲2機分)必要、戦車なら3両余裕で作れる。

経費面から見ても、全くの無駄な兵器でしかなかった。

会社はこれによりKMF開発からは手を引いたが、しっかり解析したおかげで部品製造では倉崎重工とスメラギ・コンツェル、双方から求められるくらい良質のものを提供できたので少しプラスになる。

 

ホッとした社長であったが、【雷光】はあの後すぐに解体して鉄屑として売り払われた。

重要部分はすぐに取り外されたので問題はないだろうし、KMFの部分は倉崎が責任を持って回収した。

問題は主砲部分だが、これは軍が徴集したので気にする事は無いだろうと思う事にする。

 

公民党の思惑は外れたが、彼らはあきらめたわけではない。

一応【雷光】のデーターは会社に提出されすぐに戻した・・・が、“コピー”はとってある。

この情報をどう生かすか・・・彼らは考えていく、アジアの覇者で盟主になれる日を夢見て。

 

473 :影響を受ける人:2013/12/30(月) 22:53:39

以上です。

最終更新:2014年02月22日 17:06

 



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憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 改訂版

 

856 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 改訂版:2013/02/26(火) 21:27:02

憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 改訂版

 

 中華から清が独立して少し時間がたったとき、日本にいる仲間から清のKMF、【ジェンシー】に関する情報を得た中華軍部は焦った。

 自分たちの手元にあるのは従来の歩兵火器、戦車、KMFとは名ばかりの【ガン・ルゥ】のみ。

 これでは到底太刀打ちできないし、隣国の日本はある程度友好的だが、あまり頼りにし過ぎてはならない。

 早急に対抗できる対策と、戦力を整える事がすぐさま議題に出されて即座に決定した。

 

方法:1 他国から輸入

 これは、日本で現在初等練習用として運用されている【無頼】を購入し、自分たちも練習用兼実戦兵器として運用する。

 メリットは作りやすく整備もしやすい、ついでに【グラスゴー】との部品の取り合いもできるのでブリタニアからも購入できる。

 デメリットは国際問題になるという事だ。

 日本が軍事物資に相当する無頼を売る行為は、はっきり言ってまずい。ブリタニアもいい顔はしないだろう。

 さらに金もかかる(大宦官共がだいぶお金を持ち逃げしていた為、少しきつい)。資源もあまりないから(資源調査はまだされていない)、これも輸入しなければならない。

 

方法:2 自国で開発

 これが出来れば苦労しない。自前の工場は中小が主で、大きい工場はあんまりない。宦官が切り取っていった所には、そこそこあるのだが・・・

 何とかできたのは【パンツァー・フンメル】以下の【ガン・ルゥ】である。まぁコイツのいい所は沢山量産できること、故障が少ないこと、大きさの割に意外と小回りが利く所だと思う。

 

方法:3 元かある戦力を増やし、改良して頑張る

 この方法は堅持すべきであると考える。移動要塞と言える【大竜胆:ターロンダン】と【竜胆:ロンダン】は、大宦官が持って行ったのを除いて手持ちに【大竜胆】2基・【竜胆】4基ある。これ以上は作らないので、経費と資源の負担は軽くなるはず。

 一応、対KMF専用歩兵戦術も確立されてきているので、地道にやっていけばいい。下士官から、ガン・ルゥ偵察専用機改装案も出てきていることだし、悪いことではない。

 デメリットは大きな戦力上昇にならない事だけだ。

 

 以上の方法の中でやっぱり気になるのは“自国の純正KMF”だろう。

 未だ発展途上国である中華にとって、これはもっとも気になる大問題だ。まぁ、問題となる奴らが勝手に退去したのでこれから力や知恵を付けていけばいいのだが、数少ない設計士まで連れて行かれたので開発が思うように進まない。

 軍部の誰しもが諦めていた時…ある人物が声をかけてきた。

 

『自分が作ったKMFを使いませんか?』

 

 その言葉に軍部はすぐさま乗った。

 選択の余地などなかった彼等はその人物との連絡を取り合い、その人物が作った機体を急いで見にいった。

 その機体を夢幻会のメンバーが見たら唖然としただろう。何せそこに立っていたのは…

 

 中華風の頭部を持つ青い機体【神虎】だったのだから…

 

 この機体を見た軍部は、すぐに持ち込んできた技術者であるラクシャータ・チャウラーと契約を結び、さっそく量産機の開発に乗り出した…が、

 いきなり壁にぶつかった。

 【神虎】は高性能すぎて乗り手を選んだ。しかも要求されるレベルの部品が高く、とてもじゃないが生産できない。

 意気揚々としていたラクシャータに、軍部は申し訳ない気持ちで以下の注文を付けた。

 

条件01:無頼の製造ライセンスとるので、なるべく共通部品を使ってほしい(要求される部品のレベルが…)。

条件02:飛行能力はいらない、ついでに荷電粒子砲はつけないでほしい(摩耗部品の調達ができない)。

条件03:整備がしやすい様にしてほしい(本格的なKMFは初めてだから)。

条件04:沼地・砂漠などの環境下でも平気で走行できるようにしてほしい(中国大陸はいろんな地形があるのよ)。

条件05:とりあえずサザーランドクラスの強さでいいです(とりあえずジェンシーに勝てればいいです)。

 

 この要求にラクシャータは当然切れて、インドに帰りそうになった。そりゃそうだろう、高性能化の要求はわかるが、低下させて欲しいなんて言う要求は初めてだったのだ。

 彼女の怒りを抑えるために軍部の高官はおろか、政府の人間まで出てきて必死に頭を下げて居残ってもらえるよう説得した。

 最終的に天子まで出てきそうな事態に、ラクシャータは売り込みに来たことを半ば後悔しつつ、結局承諾した。

 その時に、ちゃっかり時期後継機は自分の要求を通せるようにしたのは軽い意趣返しだろう。

 なんやかんやで中華は、独自の戦力を整えるため着実に動き始めた。

 未来をつかむために・・・

 

 




857 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 改訂版:2013/02/26(火) 21:27:34
人物解説:ただ単に、ラクシャータを出したかっただけです。【神虎】はご都合主義で既に完成している状態です。

機体解説:【偵察専用型ガン・ルゥ】
このガン・ルゥですが、武装をオミットして偵察用の道具を積み込んだタイプです。移動しない偵察の時は腹ばいになっています。行動はこそこそして逃げるだけ(笑
最終更新:2013年03月06日 21:52


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憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 続き



811 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 続き:2013/04/30(火) 22:10:23
憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 続き
設定:休日世界
〔共通話4 全ては道具、だがそれ以下も有る〕を使用
時期は紛争前を考えております。


 

 

 

812 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 続き:2013/04/30(火) 22:10:59

中華連邦、それは中華の天子を頂点とした国の集合体である。

大宦官達がいた時は、だいぶ軋轢があったものだ。

しかし最近は彼らが独自の国を持ったおかげで軋轢は解消され、軍備についてもだいぶ融通が利くようにはなった。

だが・・・そんな中で苦労している人たちもいる。

黎星刻『リー・シンクー』は天子に最も近い人物であり(注:1)、どちらかというと武官であるのだが、最近は執務に追われて録に外出もできなかった。

 

「はぁ・・・終わらん」

 

目の前に積まれた資料を見て、溜息をつくと横から御茶が出てきた。

視線を横に向けると、女官が困ったように微笑んでいた。

 

「仕方がありません。こればかりは・・・」

 

苦笑しつついう女官に無言で同意しつつ、お茶を飲んだ。

 

「まさか、あいつらがこれほど人材を連れて行っていたというのは、計算外だった」

 

星刻が頭を抱えている理由はこれだ。

確かに大宦官が出て行って政務などの通りは良くなった。が、彼等は子飼いの部下以外にも、青田刈りの様に使える人材を連れて行ってしまっていたのだ。

しかも、彼らでさえ“足手まとい” (注:2)と感じるのは置いていき、その人物たちはスパイの様に(諜報活動しているわけじゃない。まさしく足を引っ張っているだけ)活動をしてるのだからたちが悪い。

この行動のせいで人材不足に陥り、兼務するのも当たり前の部分が出来ていた。

女官をさがらせて、星刻は目の前の書類を再び片付け始めた。

彼に休みは無い。

 

◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 

813 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 続き:2013/04/30(火) 22:11:32

三人の護衛を連れた周香凛『ジョウ・チャンリン』は、国内初のKMF製造工場を訪れていた。

 

目の前でコクピットのフレームが作られていく、そのフレームに配線がまとわりつき、必要な備品をねじ止めなどで取り付ける。そして最後に外装を取り付けて完成・・・ではなく、コードを取り付けて正常に作動するかを確認する。

これらの行動が、流れ作業で次々とこなされていく光景を頼もしそうに見ていた。

 

「素晴らしですね。工場立ち上げからわずか数か月で・・・」

「いえいえ。彼らは勤勉で、すぐにこちらの技術を習得しました」

 

感心しきりの彼女の横には、日本人の工場長が立っていた。

この工場は、日本とブリタニアが第四世代KMFの供与によってたてられ物だ。

中華は、連邦に所属する国々から技術者や工員を呼び寄せて育成するという建前で人を集めて生産していた。(注:3)

ラインには様々な人種がおり、みんな一生懸命働いていた。

 

「第四世代KMF【無頼】・・・中華名では【猛狼】(注:4)でしたか?基本的な形のKMFですからね。言ってはなんですが、もう型落ちの機体ですから・・・」

「それは承知しています。しかし我々には貴重なものです」

「そ~ねぇ。作れる場所と、運用できる基礎が無いと意味がないモノねぇ」

「ラクシャータ・チャウラー博士・・・」

 

美側の通路から褐色肌の美形の女性がやってきた。

女性は香凛の隣に立つと、流れ作業をしている風景をみる。

 

「この国、一応【ガン・ルゥ】の工場はあっても流れ作業は不完全だし。何気に純正KMFとの部品規格が合わないし。そりゃもう大変だったわぁ」

「は、はぁ」

「本国で「KMFはまだいい。戦車作れ」って言われて、むかついたからここに来たのに作れる基盤がダメダメじゃぁね」

 

愚痴はまだまだ出てきた。折角の高性能KMFを乗りこなせる兵士が一人しかいない。しかも要求されたKMF が性能低下の機体。天子までやって来そうになった騒動。ストレスがたまっているのか、出るは出るわ・・・

 

「も、申し訳ありません」

「いや。あんたに謝られてもねぇ」

 

申し訳なさに頭を下げると、ラクシャータは手をひらひらさせてあげるように言った。

話に出ているようにラクシャータは独自のKMFを作ろうとしていたのだが、インドの上層部が渋った挙句予算をあまり渡さなかったのが、彼女が中華に来た理由だった。少ない予算でも【神虎】を作り上げたのは、彼女の才能と努力の結果だろう。(注:5)

今現在は共同開発という事で、派遣された技術者扱いになっている。

工場長は苦笑しながら二人を見た。

 

「まぁまぁ。それくらいにしましょう」

「そうねぇ。工場長、生産ラインだけど不具合は直したからもう大丈夫よ」

「おお、そうですか!どうですか周さん。新設のラインも見ていきませんか」

「そうですね。拝見させていただきます」

 

三人と護衛は、すぐにその生産ラインから離れて外に出た。工場長は「自分は部外者になるのでここでお別れです」と言って工場の中に戻った。

そして構内移動用カートに一行は乗り込むと、出発した。向かうは新工場だ。

その途中、ラクシャータは香凛に話しかけた。

 

814 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 続き:2013/04/30(火) 22:12:13

三人と護衛は、すぐにその生産ラインから離れて外に出た。工場長は「自分は部外者になるのでここでお別れです」と言って工場の中に戻った。

そして構内移動用カートに一行は乗り込むと、出発した。向かうは新工場だ。

その途中、ラクシャータは香凛に話しかけた。

 

「説明はいらないかもしれないけど、いっておくわね。

 新型は基本的に【無頼】のラインをそのまま流用できるようにしてある。

 そんで注文にあった『どんな地形にも対応可能』だけど、これも解決しているわぁ。

 面白い設計が出来たから、少しは満足ね。

 実力的には・・・【ジェンシー】に何とか勝てるくらいよ。

 しばらくは数を揃えるのが先決ね」

「無茶なお願いを聞いて頂き有難うございます」

「いいわよ・・・もう天子様が出てこない様にしてよね(子供の涙は反則だから)」

「はい」

 

その後も細々とした話をしていると施設に到着し、一考はカートを降りて工場内に入った。

入った場所は腕を制作するラインで、作業している人員は皆中華人ばかりだった。

ここはまさしく中華のための兵器工場なのだ。

 

「本当に、あちらとはあまり変わっていませんね」

「変えすぎると作業者が大変よぉ」

 

感心しきりの香凛に、ラクシャータは苦笑する。

一考はそのままライン伝いに移動していく。

頭部制作・脚部製作ラインを通って組み立てラインについた。

 

「これが【黄虎】(注:6)ですか」

「そうよぉ」

 

完成した機体を見つめていると、目の前の機体が腕をゆっくり曲げたり、屈伸を開始した。

他にも動作をこなして異常がないか調べていく。

頭部が口を開くように開いてファクトスフィアを起動させる。

次に左腕についた盾・・・カイトシールドのようなモノが回転して、定位置で停止するか確認し。

特徴的な脚部から変わった音がして消えた後、ランドスピナーを起動させて移動していった。

彼女の視線は、どのKMFにもない脚部を見ていた。

 

「あの脚部が・・・」

「そうよぉ。あれが新しく開発した『地形対応脚』よぉ」

 

ラクシャータは自慢するように胸を張った。

 

「生産数はどのくらいですか?」

「今月から、本格的に生産し始めたばかりだから・・・18騎ぐらいね」

「今しばらくは【猛狼】に頼らねばなりませんね」

「その【猛狼】も連邦に配らないといけないから、生産はあちらが重視されるわけねぇ」

 

そういって愛用のキセルを吹かした。

 

その後、二人はそのまま別れて香凛は軍部に戻り。

ラクシャータは研究室に戻った。

研究室に戻ったラクシャータはPCを起動させて、ある設計図を呼び出した。

そしてにんまり笑いながら設計に不備がないか調べていく。

 

(政治屋と軍部上層部の爺共はKMFの価値がまだわかっていない。

 欲しがっているのは実際にKMFを見た連中と、先見性のある奴らだけだった。

 中華の連中には悪いけど、アタシの目的を果たさせてもらうわ。

 なんとしてでもプリン伯爵に勝手みせる!!

 あいつに負けるわけにはいかない。

 開発中の『輻射波動』も、完成にこぎつけている。

 こいつを次世代機(注:7)に組み込んで、おどろかしてやるわ!

 うふふふふふふ・・・)

 

思いを募らせつつ目の前の設計図を見る。

彼女の野望は止まらない。マッドに近い彼女はだれにも止められない。

それがこの世界・・・いや、逝っちゃった科学者の共通点だから。

 

815 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 続き:2013/04/30(火) 22:12:43

黎星刻『リー・シンクー』は天子に最も近い人物であり(注:1)

今作では、星刻はあまり天子の傍にいません。代わりにちゃんとした教育係が彼女の面倒を見ています。

武官ですが、最近の仕事は政治関係です。若すぎるため、引退したり追放されたりした人を引っ張ってきて政務をこなしていますが、若い人材を連れて行かれてしまったので、再教育が大変です。できる人物であることが彼を苦しめています。

 

“足手まとい” (注:2)

大宦官でさえ足手まといと感じる人たちです。はっきり言っていりません。ですが人材がいない状態で彼等を切ることはできません。

この辺が中華の抱える新たな問題となっています。もちろんこの状況を作り出すことも高亥の策略です。動いてほしくないので・・・

 

連邦に所属する国々から技術者や工員を呼び寄せて育成するという建前で人を集めて生産していた。(注:3)

〔共通話4 全ては道具、だがそれ以下も有る〕の時に“供与の話がある”と言うのがあったので使用しました。

中華連邦に所属する国とお金を出し合って工場を建設し、技術習得を目指すのが表向きの理由です。

裏向きは清に対抗するために、一時的でもいいから人員を増員して生産力を上げたいというものです。なので、工場建設ラッシュに沸いています。

出来上がったKMFは10作ったなら、2を中華に、残りは1づつ配布します。理由は清が蠢動しているからです。

 

第四世代KMF【無頼】・・・中華名では【猛狼】(注:4)

名前が変わっただけでスペックは変わっていません。

変わっている所を言うなら、中華はスメラギコンツェルンと主に取引をしている関係で(国内は倉崎がある意味独占してしまったので)、近接武器が廻転刃刀であることだろう。

 

話に出ているようにラクシャータは独自のKMFを作ろうとしていたのだが、インドの上層部が渋った挙句予算をあまり渡さなかったのが、彼女が中華に来た理由だった。少ない予算でも【神虎】を作り上げたのは、彼女の才能と努力の結果だろう。(注:5)

以前いろいろ言われていた、ラクシャータが中華に来た理由を考えてみました。

その結果がこれです・・・もうちょい、いい理由が思いつければよかった。orz

 

816 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 中華編 続き:2013/04/30(火) 22:13:13

【黄虎】(注:6)

本作における中華のテコ入れKMFです。スペックは以下の通り。

 

機体名【黄虎】 設計モデル:【無頼・改】 外観モデル:無し

分類:第四世代KMF 所属:中華連邦

製造:中華連邦 生産形態:量産機

全高:4.52m 全備重量 8.14t

推進機関:ランドスピナー 使い捨てロケットブースター

固定武装:スタントンファー×2 スラッシュハーケン×2 対人機銃×1

装備武装:廻転刃刀×1 近接防御盾×1(仕込みスラッシュハーケン×1) マシンガン×1 etc.

乗員人数:1人

解説:中華連邦の純正KMF。しかし基本的な所は【無頼】とあまり変わっていないため、口の悪いものは「模造品」という。

頭部が口のように開き、ファクトスフィアが出てくることである。四つに分かれて開くよりも二つの方がいいだろうという事でこの形になった。以降、中華KMFはこの形が定着する。

胸部装甲はEUの【ボーイ】と同様な措置がとられている。

もっとも特徴的なのは脚部で、『地形対応脚』と呼ばれている。つま先が長く反り返っていて、サンドボードのような役割が出来る。ランドスピナーのタイヤも改良されており、使い捨てロケットブースターを使えば水上を滑走できる(使用時間は最短で5分、短くても8分である)。

開発において悪路対策はできたが、接地面積拡大により通常移動が困難になった。

ラクシャータの発案により、微振動を足裏の一部から発して地面を叩いて浮きながら進むという事が出来た(種のスケイルモーターを参考にしました)。

移動音が独特となり、すぐにわかるのが難点。

中華独自の兵器として近接防御盾がある。カイトシールドの様に三角形の形をしており、先端が鋭くなっていてスラッシュハーケンの様に飛ばせる他、先端部を前に突き出して相手に突き刺すこともできる(グリップもついているので、固定式のトンファーともいえる)。

特殊な脚部のせいで、少々背と値段が高くなったがきたいされているKMFである。

【ジェンシー】を意識して製作されていますが、ジェンシー1騎に対し【黄虎】1.5騎を想定します。

 

次世代機(注:7)

ラクシャータ待望のKMFです。ですが、名前なし出番なしです。

能力的には【月下】を考えていましたが、面倒になったので書きません。設計段階の機体ですし。

ついでにスメラギコンツェルンが主に来ているおかげで、『輻射波動』が完成できるようにしてみました。

最終更新:2013年05月17日 21:49

 



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憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編

462 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編:2013/04/20(土) 23:16:20
憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編
設定:休日世界
68様の『大反抗』の直後
捏造設定あり、お嫌いな方はお戻りください。


 

 

 

463 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編:2013/04/20(土) 23:17:38

怒声を最後に、電話をたたきつけるように置き、いつもの栄養ドリンクを飲み干し高亥は大きくため息をついき呟いた後、眉間をほぐした。

 

「ふぅ、まったく・・・」

 

この清で一番よく働いている男、高亥は最近の睡眠時間を思い浮かべて渋い顔になった。

戦争が勃々して以来、気の休まる暇はなかった。

最初こそ順調だったものの、EUの粘り強さと冬将軍のせいで反抗のための戦力を作られてしまった。

しかも新型までいる始末・・・

 

「どうにもこうにもならぬ」

 

他にも高亥を苦しめる要因はある。

無能な他の宦官達だ。

こいつらさえ切ってしまえば、その財産を没収して財源に充てられるのだが・・・

飽く迄も最悪の場合である限り切らないつもりだ。なぜなら彼らは清国の悪意を集めるための生贄なのだ。

こいつらが消えて、政治に問題があれば自分のせいになってしまう。

それを避けるための措置なのだ。

いつまでも悩んでいても仕方がない、気分転換を図るべく外出をすることにした。

 

◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 

464 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編:2013/04/20(土) 23:18:12

高亥が向かったのは工場地帯だ。

ここは彼がもっとも力を入れた地域で、失業者などを放り込み、一大工業生産地区としている。

生活に必要なモノから軍需品まで、あらゆる物を生産している。

機能的に建てられたマンション群を抜け、しばらくすると煙突が立ち並ぶ工場群に入っていった。

 

(ふむ。日本では工場ツアーなるものがあると言うが、武骨な機能美というのもわかる気がするのう)

 

等と考えていると、目的地に到着したのか車が止まり、ドアが開かれた。

SPに囲まれつつ外に出ると、そこには工場長と社長の二人が立ち、その後ろには社員がずらりと並んでいた。

 

「出迎え、ご苦労である」

「はっ!有難うございます。ではこちらへ・・・」

 

社長が応対し、それについて行く。

長い裾が少々気になるが、引っ掛かるような場所はないので安心だ。

工場に入る前に帽子をヘルメットに取り換え、一応マスクをしてゆく。

工場内は喧騒に包まれており、金属音が響き渡っていた。

社長は一時的に手を止めさせようとしたが、高亥はそれを止めた。

今は戦争中であり、一分一秒でも惜しいのだ。

だったら来なきゃいいじゃないかと言われるかもしれないが、この工場には在る機体がごく少数ながら生産されているのだ。

今回はそれを見に来た。

とりあえず【ガン・ルゥ】の制作現場を見て、【ジェンシー】流れ作業を見た。

 

「順調であるか」

「はい。占領地区から採掘された鉱石(注:1)が、今月に入ってから豊富に入ってきていますので、問題はありません。貴金属についても第三国経由で・・・これは高亥様の方がお詳しいですね」

「うむ」

「【ガン・ルゥ】の改装(注:2)も進んでおります」

「良い所はどんなモノでも取り入れねばならぬ。そこを、おこたるではないぞ」

「・・・はい」

 

既に【ガン・ルゥ】は古い機体に分類されるのだが、戦争序盤で改造【パンツァ・フンメル】の頑張りが当初想定されていた損害を上まっていたこともあり、自分達も同じ様な機体を制作していた。

まだまだ【ガン・ルゥ】には頑張ってもらわなければならない。

そして、最近作られた工場にやってくると高亥の笑みが深くなった。

通路を抜けて最終検査場に来た時、その機体は有った。

 

「おお、これが・・・」

「はい。最新鋭の、文字どおり清の純正KMF【夏候】(注:3)です」

 

高亥の目の前にある機体は、どこのKMFにも似ていなかった。

なにせこのKMFはあまりにも大きな頭部を持っていた。これは地形捜査能力を高めた結果なので仕方がない。

カメラセンサーは中央部に四つ、両サイドに二つ。対人機関砲も頭部に移動している。

ファクトスフィアは中央部が口を開くように開くと、そこに鎮座している。

出力は習熟のお蔭で新型機関部が作れて、操縦性も【ジェンシー】を上回り、積載量も上がった。

大きな頭部のせいで大砲を担ぐ様にはできないが、肩のアタッチメントを使用することでその問題は解決している。

そしてその洗礼された機体は高亥に力強さを与えた。

 

「素晴らしい・・・」

「気に入って頂ければ光栄です」

「よくぞ作り上げた!!」

「はっ」

 

高亥は興奮するように機体を見つめる。

 

(EUの連中もようやく新型が出てきた。そしてわが清も新型を作り上げた。

 今はまだ少ないが、機首転換などをすればなんとかなる!

 そもそもワタシが【サザーランド】を望んだのは【グラスゴー】ではすぐに追いつかれるからだ。

 無理をして買い付け、極秘裏に生産して置いた甲斐があったというものだ。

 あのバカ貴族も、少しは美味しい思いが出来たのだから別にいいであろう

 これと“あの二つ” があればこの戦争、何とかなる!!)

 

465 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編:2013/04/20(土) 23:18:45

 

◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 

少し時間を巻き戻す。

 

衝撃的な報告を受けた曹将軍は部下を急いで招集し、状況を分析させた。

 

「つまり。フレイヤのような爆弾ではなく、超大型サイズのロケット弾だという事か?」

「はい。現場にいた兵士などから情報を収集したところ、そのようです」

「いずれの現場からも、大型の爆撃機が認められています。おそらくですが、あまりにも巨大なので、このサイズの爆撃機にしか搭載できないのではないのでしょう」

「ふむ・・・だとすれば、それはこちらの戦闘機でもって防衛すればなんとかなるか?敵の方にはまだその爆弾があると思うか?」

 

曹将軍が問うと、すぐに返事が来た。

 

「戦闘機で防げるかの問いついてですが、可能です。爆撃機は鈍足ですし、一機でも抜けられれば必ず撃墜できます。

 ただ今回の様に、囮も兼ねた他の爆撃機もいるため完全にとはいかないかもしれません。

 敵の大型ロケット弾・・・仮称【ノドン】ですが、おそらくそれほど数は無いと思われます。

 証拠としてですが【竜胆:六番艦】が敵に奇襲占領されたという事実です。

 陸上戦艦はEUには存在しませんので、利用する価値があまりないと思われます。

 我々と同じように支援として使う事も考えられますが、弾薬や口径といった問題がありますので、すぐに使い物にならないと思われます。

 鹵獲して分析するにしても・・・ここから運ぶには労力的に見合うとは思えません」

「それはわからんぞ。EUはブリタニアを警戒している。もしかしたら利用価値があると思っているのやもしれん」

 

部下がああでも無いこうでも無いという姿は曹将軍には頼もしく思えた。

そもそもにおいて、曹将軍はここまで戦域を広げるつもりなどなかった。

貴重な資源が眠る場所を奪取し、そこをしっかり守れるところまで攻め入り、その後は防備を固める予定だった。

だがその予定が崩れたのは、高亥と微妙に対立し始めた他の宦官が派遣した将軍たちの行動だった。

一応総大将として曹将軍がいたのだが、彼らは表向きの理由(注:4)を掲げてこちらの指示を無視して戦域をむやみに広げたのだ。

しかも部下の中に、どうやら他の宦官のスパイがいたらしくこちらからの報告が捏造されていることがわかった

 

(捏造の犯人には逃げられた。恐らくだが、もう処分されているだろうから証拠はない。くそ、こうも手足を縛られているような状況ではどうにもできん。

 しかし、これは利用できるかもしれん。幸いにして襲われた所は、大体足を引っ張っていた連中の陣営だった(注:5)。死亡して混乱しているところもある。

 奴らを部隊再編と称して大きく後方に下げる。その後は子飼いの部下たちで防衛線をはる。その為には・・・“あの兵器”を使おう。

 死蔵していては意味がない。今回の様に【竜胆】があっけなく潰されたようにはさせん!!)

 

曹将軍は己の主人を守るために動き出した。

 

◆◆◆

 

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490 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編 >>466の差し替え用:2013/04/21(日) 10:59:12

「ふう・・・前回は肝が冷えたが、今回はだいじょうぶかな?」

「大丈夫ですよ。以前の作戦は、奇襲の為に少数の護衛でしたが今回は多数います」

 

超重戦略爆撃機【レヴォリューツィア】の機内で、機長と副機長が若干緊張しながら話していた。

本機はEUの期待を一身に背負った爆撃機であり、生産してそれほど経っていない新鋭機であった。

パワフルなエンジンのお蔭で大容量の積載量を誇り、輸送機型も生産されている優秀な機体である。

機銃でもなかなか落ちない頑丈さは、パイロット達に好評だ。

そして今回も彼ら【レヴォリューツィア】16機編隊は、陸上戦艦【竜胆】を潰しに行く途中だった。

 

「しかし、科学者の考えることはわからん」

「なにがです?」

「ほら、一機だけ鹵獲しただろ?なんに使うんだか」

「うちでも作る気なのでは?」

「その陸上戦艦を潰せる爆弾を抱えて飛んでいるのにか?」

 

二人が苦笑すると、護衛の戦闘機から通信が入ってきた。

 

『ボマー01。こちらイーグル01』

「こちらボマー01。どうぞ」

『レーダーに敵戦闘機を補足した。すでに先遣隊と交戦している模様』

「こちらでも確認した。派手にやっているようだな」

『まぁ、今まで遅滞行動の支援をさせられていたんだ。派手に暴れて取り戻したいんだろう』

「そういえば先遣隊の大半は、ここ等の出身が多いと聞いたな」

『そういうことだ。俺も陸軍の友人を無くしている。こr「機長、大変です!」ん?』

 

いきなり会話に割り込んできた副機長に、機長はけげんな表情で視線を向けた。

彼の様子は尋常ではなく、かなり焦っていた。

 

「どうした。落ち着け」

「は、はい!」

「なにがあった。別働隊でも見つけたか」

「違います。先程ボマー02と03が・・・撃墜されたそうです」

 

撃墜された。その事は確かに衝撃的だったが、戦場でよくある事だ。連中もバカではないから迎撃ぐらいする。

そう訝しんでいると、更に副機長は口を開いた。

 

「撃墜の原因がわからないそうです」

「なんだと!?戦闘機にやられたんじゃないのか!」

「い、いえ。情報が錯綜していてわかりませんが、戦闘機に撃墜されたわけではないようです」

「なんだと・・・それは」

 

どういうことだと言葉を続けようとした時、前方で何かが光り左翼側を何かが通過して、僚機の2機が爆発と共に消し飛んだ。

そして同時に凄まじい衝撃が機体を襲ってきた。

パイロットは慌てて機体を安定させようと奮闘した。この機体には【超大型誘導ロケット爆弾T-20:セント・ジョージ】が積まれているのだ。

下手に動かすと誤爆してしまう。

パイロットが安定させようと奮闘する間にも、機長の視線はレーダーを凝視する。

機長の視界にはどう見ても13機しか映っていない。左翼の3機はどこに行った!?

その時、右翼の僚機から報告が入ってきた。

 

『今のはなんだ!左翼の2機が消し飛んで、1機が潰れて墜落したぞ!!』

『こちらコート05!先程の衝撃波によりエンジントラブルに発生!済まない、引き返す!!』

「わからん!兎に角、高度を上げろ!!コート05了解した。危ないと思ったら爆弾と機体を捨てて脱出しろ!」

『コート05了解。武運を・・・』

『りょうk』

 

通信の途中で今度は右翼の1機が爆発して消し飛び、近くを飛んでいた1機が潰れて墜落し、途中で爆発した。

訳が分からない、自分達はどのような攻撃をされているのか全く分からない。

危機を感じた機長は通信機に叫んだ。

 

「全機、全速力で退避だ!!この空域から離脱する!!」

 

機長の行動は早かった。

全機がバラバラに避退してくのをレーダーで確認し、護衛をしてくれている戦闘機に退避する旨を伝えた。

通信を受けた戦闘機群は、爆撃機隊が原因不明の攻撃を受けて後退し始めたのを確認すると同時に、追撃しようとする清の戦闘機を押しとどめた。

爆撃隊はその後、誰も脱落せずに基地に戻る事が出来た。

 

491 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編 >>466の差し替え用:2013/04/21(日) 10:59:44

 

爆撃機隊撤退の報告を受けた司令官は、乗艦する陸上戦艦の強さを知った。

 

「砲撃で狙い撃ってみたが、やはり当たらんな。」

「仕方がありません。衝撃波だけで5機撃墜はなかなかのものである思われますが?」

「護衛の戦闘機に、進入路を限定するように伝えたのも功を奏したな。しかし・・・素晴らしいなこの新型は」

「ええそうですね」

 

素直な感想に艦長の男は頷いた。二人はCICの様な所にいて、周りでは女性オペレータがせわしなく動いていた。

そして彼らの乗る新型陸上戦艦【芳珠】(注意:6)は、今しがた撃った砲身の冷却中だった。

 

「日本の“友人”から送られた情報をベースに新造した量産型です。コンセプトは〔超長距離からの砲撃による敵基地粉砕〕でしたか?」

「そうだ。確か超電磁砲と言ったかな。今までの【竜胆】よりも遥かに長い射程を誇る主砲を搭載した陸上戦艦だ。

 難点は今日みたいに高出力で放つ時は、近くに水辺が無いと冷却が追い付かないという事だな」

「しかし、それを補ってあまりある艦です。以前問題のあった対空装備も充実しています」

「そうだな」

 

指令が頷き、戦域図を見た。

指令の視線は、もう一つの新兵器が投入される戦場を見ていた。

 

 

467 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編:2013/04/20(土) 23:19:48

◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 

KMF【ジェンシー】が銃撃をしている横から両機が飛び出して、銃撃を避けている【ボーイ】に中華刀を叩きつけようとするが、別の【ボーイ】がそうはさせまいとマシンガンを放って牽制する。

中華刀を装備した【ジェンシー】が飛びのきつつスラッシュハーケンを、邪魔をした【ボーイ】に放って頭部を粉砕する。

頭部がなくなって慌てる僚機を庇うように、銃撃していた【ボーイ】が間に割り込んで牽制の弾丸を放つ。

僚機はそれに感謝しつつ退却する。戦場は入り乱れていて、センサーが無いととても戦えないのだ。

その交代に合わせるように閃光弾を手で投擲し、自分も下がる。

閃光弾を爆弾だと勘違いした【ジェンシー】は、慌てて後ろに下がるが閃光弾はその前に爆発し、カメラが一時的にいかれてしまった。

一時的に硬直したその2機めがけ、茂みに隠れていた【パンツァー・フンメルⅡ】が両腕のバズーカを放って粉砕する。

【パンツァー・フンメルⅡ】はすぐさま横に移動するが、スナイパーライフルを装備していた【ジェンシー】に数発撃たれた。

装甲で何とか耐えたが、急いで下がっていく・・・

その様子を、隠れてみていた【ジェンシー】はスナイパーライフルを抱えなおして物陰から出てきた。

 

「ふぅ・・・」

 

溜息をついたパイロットはなんと女性であった。

彼女の視線は撃破された友軍を見る。

彼女はスナイパーとして戦場を動いていたのだが、支援できる位置に移動している間に友軍を殺されてしまった。

その事に憤りを感じるが、すぐさま冷静になる。

EUの使うKMFは数種類あり、初期の機体と先程逃げた機体、そしてカモにしている機体の他は、どうにも装甲が厚いのだ。

もっとも同じところに数発当てれば撃破できるのだが、それでもあの新型・・・【オルレアン】は硬いという印象があった。

【オルレアン】はKMFの中でも、生存性を重視して製作されていた。

その為、普通に中華刀で切りかかってもあまり食い込まないという事が続失している。

 

「自分には関係ないけどね」

 

一人ごちったあと、彼女は愛機を移動させた。

敵軍は時間が経つにつれて強くなってきている。回避行動もだいぶうまくなった。

戦場で淘汰されて、生き残った兵士たちは更に生き残るべく努力する。

たいしてこちらは初戦であまりにも勝ちすぎたために、いまだに舐めているところがあってどうにもならない。

人海戦術はいいのだが、ベテランがだいぶ減ってきていた。

【ジェンシー】ではもう対抗できないのかもしれない。

 

「そろそろ、新型がほしいわね」

 

ふむ、ここならよさそうだ。射点に到着し、機体を物陰に隠して敵を待つ。

水を補給し、簡易携帯食料をかじっていると獲物がやって来た。

 

「【爆弾】様御一行ね・・・」

 

愛称【爆弾】・・・【シュトゥルムフント】で編成された部隊だ。

鹵獲に成功した機体を調べた所からの情報によれば、かなり危険な溶液を使用しているらしく「これじゃぁ歩く爆弾だ」という感想がでていた。

こちらにしても、たった一発で爆発し周りに被害を与えるので重宝するし、体当たりで簡単に潰れるからカモとして余計に狙われていた。

搭乗者はおそらく犯罪者が使われているのだろう。貴重な兵士を乗せるより終身刑の受刑者や、死刑が確定している者を乗せて「戦争が終わるまでに生き残っていたら釈放してやる」とでもいえばいいのだ。

さっそく一発撃って誘爆させてやろうと思い、少し身を乗り出してライフルの狙いを定めた。

そしてトリガーに指を掛け・・・通信が急に入ってきた。

せっかくのチャンスなのに邪魔をされて不機嫌になるが、確かめねばなるまい。

構えを解いて、物陰に隠れる。

 

「何かしら・・・撤退?」

 

通信は撤退命令だった。

しかもどこまで下がるか指定されている。時間まで指定されていた。

防衛作戦ではなかったのだろうか?だからこそ皆踏ん張って戦っているというのに。

釈然としないが、命令は命令だ。従う事にする。

 

「でも・・・いいわよね」

 

撤退する前に一撃を加えることにし、再びライフルを構えた。

【シュトゥルムフント】の部隊は慎重に移動している為、あまり動いていなかった。

前方の機体に狙いをつけて引き金を引く。

狙いは見事に的中し、機関部を撃ち抜かれた機体は爆発四散、更に誘爆で3機が消し飛んだ。

 

「次!」

 

今度は後方を狙い撃つ。

前後の味方が撃破されて、中央部の機体は右往左往している。その敵集団に容赦ない射撃を浴びせて全滅させてしまった。

 

「さて、急がなきゃ」

 

結局一撃ではなく全滅させてしまい、いけないとは思いつつも全速力で後退しはじめた。

 

468 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編:2013/04/20(土) 23:20:23

全速力で移動し終えた彼女は山の麓に来ていた。

そこには友軍がおり、自分が所属している狙撃専門の部隊もいたので、共に補給して待機していた。

 

「ふぅ・・・さてこれからどうなるのか」

 

受けた命令は一定のラインまで下がり、補給をして待機せよであった。

最前線では大量の煙幕と、妨害電波発生装置、一時的に大量に放たれた誘導ミサイルにより、敵軍は混乱して後退していた。

だからこそ、こんなところで補給しているのだが・・・

 

「ん?・・・なにかしら」

 

モニターの一つに何かが映った。

高速で移動するそれは、真っ直ぐに敵軍に向かっていた。

急いでカメラを上に向けると、高速飛翔する大型ミサイルが見えた。

それはあっという間に山陰に隠れてしまった。

なんだったんだと思いつつ、愛機の状態を確認する作業に入った。

 

 

 

女性兵士が見かけた大型ミサイルは、山ギリギリを飛行して敵地に向かっていた。

ミサイルは未だに混乱する最前線を抜け、敵軍が集まる場所まで飛翔した。

それはあらかじめ入力された座標に向かっているだけだったのだが、目標に到達したときには四発のミサイルが合流していた。

ミサイルに気が付いたEU軍は、迎撃をするため弾幕を放つが高速飛翔するミサイルに当たらない。

そしてミサイルは敵軍上空に到達すると、外装をパージして中身をさらけ出した。

もし夢幻会のメンバーが見れば、「板野サーカスでもやる気か!」というくらいに弾頭らしきものがギッシリ積み込まれていた。

それらはパージが完了すると共に一斉に発射され、EU軍に降り注いだ。子機ミサイル?の後方からはピンク色の煙が空中に拡散していくのが見えて兵士たちは叫んだ。

 

「ど、毒ガスだ!!」

 

悲鳴に慌てて後退しようと動き出したが、全軍が一気に動いてしまった為に、殆ど身動きが取れなくなってしまった。

降り注いだ子機ミサイル?は、陣地の大体の部分に広がり、数秒後に一斉に信管を起動させた。

それは一瞬ではあったが、小型の太陽の様に光り輝きあらゆる物を燃焼させた。

周りにあった酸素を奪いつくし、衝撃波をまき散らして陣地にあるものを一切合財焼失させた。

地震のような揺れさえ起こしたミサイルは、清が開発した新型弾頭搭載の気化爆弾型ミサイル(注:7)だった。

この攻撃により、より一層混乱した生き残った敵軍に対し清は攻撃を加えてより深いダメージを与え、構築予定の防衛ラインまで全軍を下げて持久戦の構えを取る事になる。

 

469 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編:2013/04/20(土) 23:21:24

占領地区から採掘された鉱石(注:1)

高亥が求めていた鉱山の鉱石である。占領してすぐに工事機械を入れて採掘に乗り出した。

安定した採掘は『大反抗』の少し前から。今はここの防衛が重要となっている。

 

【ガン・ルゥ】の改装(注:2)

EUの【改造パンツァー・フンメル】に影響を受け、こちらも総弾数増加、射程強化、などを施してより支援機らしくする計画。

すでに、折りたたみ式の銃身をやめて総弾数増加と、射程強化を図った機体が出回っている。

一部KMFとの部品相関性を上げているので、生産力が若干上がっている。

 

清の純正KMF【夏候】(注:3)

分類:量産型KMF 所属:大清連邦 外見モデル・ガサラキのISHTAR MK-Ⅱ(イシュタル マーク2)

製造:清の重工業 生産形態:量産型

全高:4.4m 全備重量:7.51t

推進機関:ランドスピナー 補助推進機関:使い捨てロケットエンジン

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタントンファー 対人機銃×2

装備武装:マシンガン アサルトライフ バズーカ 重斬刀 etc.

乗員人数:1人

解説:清の新型KMF。転生者集団『夢幻会』の影響を受けたのか、なぜか外見がガサラキのISHTAR MK-Ⅱによく似た形状になった。

しかし原作とは違い、接近戦に強い機体となっている。新しい接近戦武器の重斬刀は鉈の形をしたヘビートップタイプとなっている(イメージはマブラヴのフォルケイトソード (FalcateSword)に近い)。

更に違う所は腰に関節部がある事、【ガン・ルゥ】のようなスリットタイプのカメラを持ち、全体的に太く見える。

頭部に二連装の対人機銃(夢幻会曰くバルァカン!だそうだ)があり、その位置関係のせいで『土蜘蛛』『アラクネ』と言うコードネームで言呼ばれている。

大きな頭部はセンサー類がたくさん積まれていて、保護も兼ねている。しかしその頭部のせいで“担ぐ”という動作が苦手となっており、両肩側面に大型武装を補助するためのアタッチメントが付いている。アタッチメントには他にも武装が付けられるが、大抵は追加装甲にしている。

背部にも打ち上げ式のミサイルや、投擲砲なども装備できるので攻撃力が上がっている。

実力はサザーランド以上、グロースター未満と言ったところ。

配備数はまだ少ない。現在機種転換中の機体が全てで、前線に出るのは先である。機体名は末永くこの国を支えてほしいという事から、三国志の曹操に仕えた夏候惇からとられた。

 

表向きの理由(注:4)

清国承認の、国際会議の際言った領地拡大をするため。高亥以外の宦官はそれを信じている為に苦悩中。

裏の理由は知っての通り。

 

492 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編>>470の差し替え用:2013/04/21(日) 11:00:30

幸いにして襲われた所は、大体足を引っ張っていた連中の陣営だった(注:5)

【竜胆】は補給地点の他に、指令部としても使われていた。その為、貴重な士官が戦死している(宦官子飼いの将軍はどうでもいい)。

 

新型陸上戦艦【芳珠】(注意:6)

分類:陸上戦艦 所属:大清連邦 外見モデル:アーマード・コアのギガ・ベース

製造:大清連邦  推進機関:ホバーとキャタピラの複合型

武装:単装超電磁砲×2 副砲×4 機関砲×26 ミサイルサイロ×1(一基の総弾数×6) 単装ミサイル発射装置×6(自動的な再装填が可能)

特殊装備:KMF搭載×10

解説:【大竜胆】と【竜胆】の中間的な陸上戦艦。日本の“友人”から貰い受けた超電磁砲理論により完成した。

船体は主に右舷・中央・左舷の三つで構成されている。右舷と左舷はほぼ同じような台形をしており、推進機関部も両舷にあってホバーで浮いている。武装の副砲が前後についていて、対空兵装の機関砲と単装ミサイルもこちらについている。

中央部の形は長方形で、主砲が前後についており、中央部にミサイルサイロがある。ここの推進機関はキャタピラである。複合推進を採用している為、片方が壊れると身動きできなくなる。

超電磁砲の長距離射撃が可能だが、精度はかなり落ちてしまう。弾頭加速装置に過負荷を掛ければ【大竜胆】よりも射程がさらに伸びる(もっとも砲身の熱量が放熱効率を上回ってしまうため、近くに水場が無いといけない)。この砲撃をすると砲身の寿命が短くなってしまう。また二門同時砲撃もできない(交互撃ちしかできない)。

前進後進はいいのだが、旋回が苦手で主砲を打つ際は止まって撃たないと、船体に負荷がかかりすぎるという欠陥もある。また砲撃中は電力の大半を主砲に回してしまう。砲撃中は電磁バーストのせいで、レーダーが役に立たなくなるという欠点も報告されている(これは後に解決する見込みがあるが、今のところはない)。

面白い機能として、中央部がやられると爆発ボルトで連結部をパージし、両舷が逃げ出せるようになっている(そのため両舷にはCICと操縦室がしつらえてある。中央部は重量の都合上どうやっても逃げられない)。

限定生産だが、今の所3基のみが確認されている。

 

新型弾頭搭載の気化爆弾型ミサイル(注:7)

偶然にも発見された加工サクラダイトによる気化爆弾。粒子状になったサクラダイトは空気より重く拡散しやすいのだが、同じような粒子が近くにある時は引き寄せあうという特質をもち、ある一定濃度からは絶対に拡散しない。無味無臭で高濃度の時はピンク色に見えるが、拡散していると見えなくなる。

その威力はナパーム弾の比ではなく、一発で通常気化爆弾の六倍の威力を誇る。燃焼温度も高く、中心部にいれば人間は蒸発してしまう。

噂によれば【Mk6・シュトゥルムフント】の溶液がヒントになったとか・・・

こちらも製法が特殊で、装填にも注意が必要なため生産性は悪い。

 

471 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編:2013/04/20(土) 23:22:33

おまけ

 

【アントノフAn-220 レヴォリューツィア】

解説

革命の名を持つ、搭載量50tを超えるロシア州空軍開発の最新戦略爆撃機。

その優秀な機体は頑丈さが売りで、巨体の割には素直に言う事を聞いてくれるのでパイロット達からは高評価を受けている。

輸送機タイプも存在しているが、殆どは爆撃機として就役している。

搭載する爆弾で最も特殊なのが、超大型誘導ロケット爆弾T-20「セント・ジョージ」である。通称「戦艦殺し」。

使われている技術は使い古されたものばかりだが、その威力は陸上戦艦【竜胆】の装甲を打ち抜くほどである。

 

ドイツ製KMF

機体名:【Mk6・シュトゥルムフント】

分類:軽KMF

武装:アサルトライフル(弾数30・銃剣着用可) ロケットランチャー(弾数:四発)

固定武装:7.7㎜対人機銃・スラッシュハーケン×2

解説

EUドイツ製のKMF。彼らが作った初のKMFで、機体のコンセプトは、「早い、安い、うまい」である。製造と運用にカネのかかる【アレクサンダ】や、【オルレアン】を「ハイ」として、この機体には「ロー」の役割を担わせよう狙った機体。量産は安価かつ容易を目標にしている。さらに機体の様々な部分を簡略化、デザインも量産性を重視した無骨なものとし、ひたすら低価格を目指している。

軽量化最大の問題となった機関部においても、開発主任であるポルシェ博士は革新的な動力システムで応えた。ユグドラシルドライブにおいてコアルミナスを浮かせておく溶液を改良した。彼の発明した仮称「P液」は従来用いられてきた液体に数倍する発電効率を生み出すものであり、このため動力ユニットは在来機に比べて小型化、軽量化されている。

この機体の欠点は、「P液」は揮発性・引火性が非常に高く、その特性上慎重な扱いが求められた。加えてコストと機動性を優先して、装甲をほぼ「無いよりマシ」というレベルまで削ったため、被弾すれば即引火爆発し「ワンショット・ライター」・「移動する棺桶」・「自走爆弾」と皮肉られるような代物になっていた。

タイヤも簡易化されて悪路走破性が落とされた。装甲も、とりあえず歩兵の銃程度では撃破されないだけの厚さはあるが(脚部とコクピット付近のみ)、【ジェンシー】と戦うには「6対1でなければ勝てない」とまで言われている。

機体特徴

頭部が無く、イメージは「ボトムズ」に出ていたトータス系ATを思浮かべて頂ければ幸いである。基本構造は【グラスゴー】に似ているが一回り小さい。

コスト削減の為にファクトスフィアと脱出装置が無く、ランドスピナーも足のサイドではなく踵付近に装備している。

 

 




472 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 大清連邦編:2013/04/20(土) 23:28:05
以上になります。
非常に趣味が入った文章になってしまい、68様に何と言っていいやら・・・
清に対するテコ入れはこれ以上しません。
登場させる兵器については、元ネタが有ったほうが想像しやすいかと思い、拾ってきては採用していますが、今後はやめた方がいいでしょうか?

後、のせてから気が付いた補足ですが、新型陸上戦艦と新型機化弾頭は共に製造コストが高いので、それほど配備されないという設定です。

お楽しみいただければ幸いです。         戦闘シーンが大変だった。はぁ・・・
最終更新:2013年05月15日 20:50


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憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 EU編  改訂版

 

858 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 EU編  改訂版:2013/02/26(火) 21:28:52

憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 EU編  改訂版

 

 清が正式に独立国として決まったとき、EUのしっかりとした危機感を持つ政治家・軍人は当然慌てた。

 いくら【ガン・ルゥ】がこちらの【パンツァー・フンメル】より弱いとはいっても、圧倒的数というのはそれだけで力を持つ。

 しばらくしたら、更に【ジェンシー】なる機体を配備したという話が流れてきた。いくらブリタニアのサザーランドより弱い(あくまで予想)とはいえ、これまた数をそろえられたらまずい。

 【パンツァー・フンメル】は近接攻撃に弱く、運用方法が固定砲台ばかりで意味がない。

 日本にも開発に出遅れ、ブリタニアもすでに更新し始めている。

 技術は日進月歩とはいえ、いくらなんでも自分達は遅すぎる。

 一応、【アレクサンダ】という機体が開発されているが、新技術ばかりでまだ完成しているは言えず、試作段階だ。

 悩んでいると、ブリタニアと日本のスパイから興味深い話が舞い込んだ。

 

『ブリタニアでKMFを開発していた技術者が、自分の機体を作りたいからと中華に渡った』

『日本の軍部で、新しいKMFを決めるために何機種か設計士に出させ、採用したらしい』

 

 という話だ。

 最初の方の内容は、ロイド・アスプルンド伯爵の【ランスロット】が採用されそうだと分かったラクシャータは、あっさり見切りをつけて中華に渡って天子派とコンタクトを取り、交渉して見事成功したらしい・・・という報告。

 対して日本の方は慎重に裏付け調査をさせた。その報告によれば、コンペには様々な機種か出てきたらしいのだが、そんなに多くの種類を作る気はない日本は、【ウィンダム】を含め3機種くらいに絞ったらしく、後はお流れしたようだ。

 

 ならばラクシャータのように“日本の技術者でも同じように、自分が開発した機体を売り込みたいと考えていてもおかしくない人物がいるはず!”と判断した。

 さっそく条件を絞って探させてみると、なんとか一人だけ該当した。

 彼はロボットに対する情熱がすごかったが現実的で、飛行させることにあまり熱心ではなかった。

 

『陸戦兵器なのだから、陸戦を主体に考えた方がいい』

 

 そう言ったものの、軍部の意向には逆らえずに落選した。完全な新設計で、相関性が無かったのも原因だった。

 しかし、彼は機会があれば自分の案を生かしてみたいとも同僚に話しており、勧誘すれば行けるかもしれない可能性があった。

 

『今すぐ交渉するのだ!』

 

 この指令はすぐに現地に飛んだ。

 日本に気取られると不味いが(機密漏洩に当たる)、それでもダメもとで交渉させた。

 設計士は悩んだようだが、一人身で両親はすでに他界していて、実家は兄がすでに継いでいる。

 決断した彼は秘密裏に辞職願を郵便で出し、資料を鞄に詰め込んで「少し旅行に行きます」と上司に言うと、すぐさまEUに向かった。

 夢幻会がこの事態を察したときにはすでに遅く、後の祭り(古株から新しい人物に交代している時期でもあった)で彼はすでに亡命していた。

 それから数か月後…EUは二機種の新型KMFの発表をした。

 一つは【パンツァー・フンメル】を流用した後継機。

 もう一つは夢幻会から見たそれはどう見てもパワードールズの機体で、装備機構がアーマード・コアに近かった。

 彼は夢を、遠くの地で実現させていた。

 

859 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 EU編  改訂版:2013/02/26(火) 21:29:35

人物解説:〔彼〕

比較的若い転生者。夢幻会のことは知っているが、前世でもあまりかかわっていなかった。採用されたのがガンダム系列の機体だったので、愕然としていた時に声を掛けられて決断した模様。ガンダムは嫌いではなかったらしいが、動くパワーローダーを見たいと欲求に負けたようだ。

今は充実した生活をしている(EUは夢幻会の事も知りたかったらしいが、彼は殆ど知らなかった)。

 

機体解説01:【パンツァー・フンメルⅡ】

砲戦能力を高めた支援機。足を四脚型ランドスピナーに変更し、腕を完全な大砲にして総弾数と火力を上げた。

胸部分を長くして真ん中に可動式の機銃を取り付けている(イメージはAC3のCCL-02-E1)。椀部は更に大口径砲を取り付けることもできるし、大型機銃×2に変更できる(要は武器腕)。

偵察型(アンテナヘッド)も存在する。

補足:【パンツァー・ヴェスペ】はまだこの時設計段階であり、改造して中途半端にするより完全に支援機として製造することに計画を変更した。【パンツァー・フンメルⅡ】の名前を【パンツァー・ヴェスペ】変更する可能性もあり。

 

機体解説02:【オルレアン(仮称)】

PCゲーム『パワードールズ』のX3装甲歩兵パワーローダーを外観基準とし、椀部換装・頭部換装が出来るようになっている。

KMFの特徴であるランドスピナー・スラッシュハーケン、飛び出した背部のコクピットもあるが、大きな特徴としてACのようにアタッチメントが

多くあることだ(場所は両肩・両肩内部・両前腕部・背部二箇所・両脚部・両大腿部は弾薬格納庫)。

背部武装は、コクピットの両側に取り付けられるようになっている。大きさに比例したパワーと装甲は【グロースター】よりも高く、以外に機敏に動ける。

コクピットブロックは近くに火器を配置するので、大分装甲が厚くなっている(飽く迄も他のKMFに比較して)。空挺もできるので、汎用性は高い。

しかし、第五世代を上回るのを目標にいろいろ欲張った設計がされているため、機体は5mと巨大化しているのが気になるところだ(装甲の増加と、後付武装の重量が原因)。

今後は生産効率化・機能オミット等で機体は小さくなる可能性がある。

最終更新:2013年03月06日 21:54

 



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憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 EU編―Ⅱ  変更版

782 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 EU編―Ⅱ  変更版:2013/05/30(木) 22:09:42
憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 EU編―Ⅱ  変更版
設定:休日世界


 

 

EUの情勢は不安定だ。

既に末期と言ってもいい・・・

だが、それでも諦めきれないのが人間であり。欲深い人間である。

 

EUに所属する国の大統領が資料で見るKMFの性能に唸った。

 

(ふむ・・・この資料が本当だとすると、今の【パンツァー・フンメル】では太刀打ちできないな。よくていいカモだ)

 

大統領が見ているのは諜報員が送ってきた日本とブリタニアのKMF分析だった。

その性能は主力としているKMFモドキ【パンツァー・フンメル】の上をゆく性能であり、うらやむことだった。

 

「まったく・・・極東のサルと思っていた日本が、ここまで技術力を底上げするなど誰も考えていなかったからな・・・」

 

シゲタロウ・シマダの手腕が良かったのだろうか?そう思っていたが、そんなことを理由にはしたくない。

資料を置き、眉間をほぐす。

 

「さて・・・どうする?」

 

【パンツァー・フンメル】の砲力を上げた改造機の案はあるが、そもそもKMFは接近戦が強みであり。接近戦のできない自分達の機体ではお話にならない。

まさに八方塞だ。

しかも忌々しいことに、シーランド王国にちょっかいを掛ける国まである。

今ブリタニア本国にいる、ヨーロッパから追い出した時代遅れの貴族達とって、格好の材料になるのわからないのだろうか?

最近では水中用KMFまで出てきている始末・・・

一応KMF【グラスゴー】のコピー機の生産は、細々とではあるが始まっている。

諜報員をブリタニアに送り、長年にわたって行われた成果と言っても良かった。

溜息をついた大統領は、気の休まらない日々を憂鬱に思った。

 

が、その憂鬱はある日少しだけ和らいだ。報告があったのだ。

 

「なに?日本人技術者が亡命貴族共に売り込みに行っただと?」

 

◆◆◆ 

 

◆◆◆ ◆◆◆ 

 

◆◆◆ 

 

『ある日本人技術者が、ユーロブリタニア貴族にKMF売りつけに行った』

 

この情報はすぐさま本国に送られて、きわめて細かに調べられた。

そして判明したのは・・・

 

倉敷重工所属の技術者である。

日本製KMFは【ダガー】で統一生産している為、自分がデザインしたKMFが作れなかった。

思い切って倉敷重工をやめてブリタニアに渡ってくる。

ユーロブリタニア貴族にKMFを売りに来た。

 

であった。

これにより諜報員は、単身渡ってくるこの人物に着目し、追跡した。

彼は必死に貴族にあたりを付けたが、どの貴族も受け取らなかった。

彼はユーロブリタニア貴族がいるというのは知っていても、彼等が『質実剛健』であることは想定外だった。

そのため、彼のKMFは受け入れがたかったのだ。

失意に打ちひがれた彼はそのままやけ酒を飲んでいた。

そこに女性が寄ってきて、ベロンベロンに酔っぱらっていた彼は、女性に言われるままホイホイついて行ってしまった。

女性と一晩の甘い夢を見た後、寝込んでしまった彼がもう一度目を開けた時、一人ポツンといる高級ホテルの一室だけだった。

甘いひと時を見せてくれた女性はおらず、さみしく日本に帰った。

 

783 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 EU編―Ⅱ  変更版:2013/05/30(木) 22:10:14

 

◆◆◆ 

 

◆◆◆ ◆◆◆ 

 

◆◆◆ 

 

「そうか、確保できたか」

 

喜ばしい報告に大統領はホクホク顔だ。

久々の良い報告に、書類を処理するスピードも上がりそうだ。

 

『資料はすでに研究所の方に最優先で送りました』

「ふむ・・・それで、もう一つの方はどうだ?」

『はい。そちらも何とかなりそうです。ある貴族がKMFを横流ししているようなので、便乗して動力機関に関するモノを確保致します』

「わかった。よろしく頼む」

『了解です』

「ご苦労だった」

 

そう言って受話器を置き、椅子に深々と座る

日本人技術者が持っていたカバンにはKMFの設計図があった。

嬉しいことに【サザーランド】クラスの実力はある機体であり、より生存性と抗耐性を考慮した代物だ。

大統領が欲していたKMFそのものだ。

設計図には発動機に関する部分など、重要な部分が無い為にこの通りにはならないだろう。

しかし生存性と抗耐性があれば、兵士の命がだいぶ助かる。

大統領は知らなかったが、彼を簡単にハニートラップできたのは理由があった。

 

単身で渡ってきた事。

日本では夢幻会の入れ替え人事があって、対処が一時的に疎かになっていた事。

それほど有名ではなかった事。

ACチームに所属していたが、モブ1的な扱いだった事。

ほとんど内緒で来ていた事。

 

等々・・・理由はあるが、まさに天の助けだった。

EUに持たされた設計図は、さっそく研究に使われることが決定した。

ハニートラップにかかってしまった日本人に同情はするが、為政者として清濁併せ持たなければならいない立場として断固とした態度をとる。

そしてしばらくした後にEU製KMF【オルレアン】は作られることになる。

 

◆◆◆ 

 

◆◆◆ ◆◆◆ 

 

◆◆◆ 

 

『EU製が純正KMFを制作中』

 

その情報が伝わった日本では、ひと騒動があった。

無論、例の単身渡った技術者が問い詰められた。

彼は国家に重大な損失を与えたという事で、刑に服する事が決定した。

幸いなのは【オルレアン】は【グラスゴー】に、ACみたいな装備をさせて外観をいじったような簡単な代物であり。

特に重要となる部分の流出が全くなかったのが慰めだった。

最終更新:2013年09月08日 13:47

 



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憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情


680 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情:2013/08/31(土) 22:58:46
憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情
設定:休日世界
独自設定・独自解釈有
トゥ!ヘァ!様製作の設定を、多少変えて使用しております。



注意事項
MTF・・・Muscle Tracing Frame.【マッスル・トレース・フレーム】
この機種はサクラダイト技術を使わない、既存の技術のみで制作された機構機械の総称である。
このロボット兵器はKMFの台頭により生まれたモノで、サクラダイト技術が発展していない、もしくはサクラダイト鉱脈が無いなどの事情により生まれた機械。



 

681 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情:2013/08/31(土) 22:59:21

クレマンインダストリー。

この会社は古くからEU国内にあり。常に優良企業10位以内に入りながらも首位には一度もならなかったという企業である。

しかし堅実で何気に実用的なモノを作り続けた実績は高く、政界にも広く浅く干渉する程度ではあったが「低くても安定して支持が得られる」とも知られていた。

これは腐敗が進んでいたEU国内において、下手に政界に乗り出したり首位を独走すると必ず妨害が入って業績が落ちたりマイナスイメージが付いてしまうため、身についた処世術でもあった。(※01)

 

そんな会社ではあるが、一応兵器関連も取り扱っていた。

と言ってもメインではなく、細々とした部品関連ではあったが・・・

そんな会社を運営する社長の一人娘、アンナ・クレマン女史は最近立ち上げたロボット部門の開発メンバーで期待の星だ。

 

彼女は幼少時から、女の子にもかかわらず虫が大好きでよく手にとっては観察し、スケッチを取ったり飼育したりしていた。(※02)

更に機械いじりも好きと言う、一風変わった子供であった。

娘の趣味に、社長は当初「もう少し普通になってほしい・・・」などと考えていたが、KMFが世界に登場したことで変わっていくことになる。

 

クレマン社長は国に呼び出され、訝しみながらも向かうとそこは軍事施設であった。

そこの格納庫に入ってみると、そこには見たこともない人型兵器・・・KMFが格納されていた。(※03)

軍の高官が言うには、この機体はブリタニアで制作された兵器で戦車に変わる代物だという。

その発言に主に陸軍装備を扱っている企業が、懐疑的な声を上げて証拠を見せろとわめいた。

軍の高官は表情を動かさずに(内心イラついていただろう)、ある記録映像を見せる。

それはどう見ても隠し撮りされたものなのだが・・・映像の中で人型兵器が戦車を易々と屠っていくのが映されていた。

 

その能力に呻いた各企業の社長達は改めてKMFを見る。

これに対抗できる兵器を作れと言うのが、軍部からの依頼であった。

実物はここに格納されている三機のみ。軍で解析したデーターを貰いつつ、各企業は共同で調査して制作していくことになった。

 

クレマン社も他の企業と共同で一機貰い、自社の研究所に搬入して調べていくことにした。

この時、偶然にもまだ小さかったアンナ・クレマン女史が遊びにきて道に迷い、KMFが格納されている場所に来てしまう。

そして未知の機械を見た彼女の眼はランランに光り輝き、近くのドライバーを手に取った。

 

娘のアンナが遊びに来ていると知った社長は慌てて探しに出かけ、途中いきなり館内放送で呼び出された。

内容は娘が見つかった事と、研究ラボで大変なことが起きているというものだ。

開け足でラボに向かい、扉を開くと・・・そこにいたのは嬉々としてKMFを解体している娘と、困り果てた研究員の姿であった。

 

何が起きたか説明を受けた社長は、とんでもない事をした娘を叱りつけた。

が、アンナ嬢は「わかった。なおす」と言うと、時間を掛けながらも一つの部品も余らせずに組み上げてしまった。

これにはそこにいた大人達は呆然とした。

最初に意識を取り戻した社長は恐る恐る彼女に聞いてみた。

 

「全部わかるのか?」

「どれがどういうものなのかはわかならない。でも、こうぞうはだいたいわかる」

「そうか・・・」

 

682 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情:2013/08/31(土) 22:59:55

アンナ・クレマン女史の人生はこの時決まった。

社長は思い切って機械工学関連の書物を娘に与え、苦痛にならないように配慮しながら教育する事にした。

この子は将来科学者になる。いや、して見せよう!!(※04)

こうしてアンナ・クレマン女史は機械工学の道を驀進する事になる。

 

KMFの解析は順調に消化され、コピーながらも一部生産が始まった。(※05)

クレマン社もコピーを生産する事になったのだが、高度なサクラダイト加工技術が発展していなかったEUにおいてコピーとはいえKMF制作は骨が折れるものだった。

そこで軍は「KMFは高い。やすく、それでいて機動力のあるモノを作れ」と言う無茶ぶりを言った。

さすがのクレマン社長も、いきなりそんなことを言われても対応出来ない。

この時クレマンインダストリーは、コピー機から純正のKMFを作るべく研究していたし、娘の発案で山岳地帯や不整地で使用できる特殊車両の設計に入っていた。

 

アンナ・クレマン女史が中心となって開発していた特殊車両は普通の車両ではなく、虫のように歩くことが可能であった。

昆虫はどんな場所でも踏破できる足を持っており。それを模倣したモノを作っていた。

通常の車両が移動できない凸凹した場所や、踏ん張りが必要な斜面において、ただのタイヤよりも効率がいいと思っていた。

この特殊車両こそ、後にMTFの中で傑作と言われた【スピオトフォズ】の前身であった。

 

多脚式特殊車両・・・【アント・ワーカー】(※06)と言う名前で開発されていたが、元々作業用と災害救助用として開発されていたものであり。

間違っても戦闘などに使われるような代物ではなかった。

兵器に転用できないか?と聞いてみたが、アンナ女史は関節などの強度が足りないし、今の技術じゃ無理という回答だった。

社長は肩を落として軍からの要求を断るしかなかった。

もっとも、一番軍に卸している企業が【パンツァー・フンメル】を作って納入する事が決定したので、さほど問題にはならなかった。

多脚式特殊車両【アント・ワーカー】は極少数のみの生産が可能となり、主にEUロシア方面に向けて販売されていくことになる。

 

アンナ・クレマン女史は【アント・ワーカー】の生産が始まってすぐにKMF開発の方に入った。

軍部はこの時まだKMFの能力に懐疑的な部分が多く、【パンツァー・フンメル】程度でいいと思っていたので、必要な予算が張ってこなかったがそれでも開発を続けた。

彼女としては、虫の持つポテンシャルをKMFに付与したいと思っての開発だった。

社長も開発に成功しなくても、KMF開発は日進月歩であり、経験は生かされると考えていた。

 

そしてEUにとって運命の戦争・・・シベリア戦争が起きることで状況に変化が出た。

 

中華連邦から分離独立した大清連邦が、シベリアの地に眠る手付かずの資源を求めて進行を開始したのだ。

EU政府は大清連邦が進行してくるのは事前に察知していて、予算を多くしてKMF開発を進めさせていた。

主に【グラスゴー】のコピー機【ボーイ】の生産であったが、諜報部の活躍により入手した【オルレアン】の配備も開始していた。

そんなか、高性能な特殊機として注目されたのが、クレマン社が作成していたKMF【アレクサンダ】であった。

 

目を付けた軍部の高官と政治家が視察に訪れ、【アレクサンダ】を見たが・・・実機は装甲などが無い剥き出しの状態だった。

しかしそれでもインセクトモードなどの機構や、運動性を見せると彼等も頷くほどの出来だった。明らかに【オルレアン】よりも高性能だと分かったのだ。

すぐに装甲に関する手配を行ったが、【アレクサンダ】のあまりにも高性能な能力に危機感を覚えた他の企業の横やりのせいで、価格を下げるという名目で装甲の厚みが下げられるというあり得ない事態が発生した。

無論社長とアンナ女史は軍に猛抗議したが、妨害した企業と癒着していた軍高官の圧力に屈し、【アレクサンダType01】が完成し、納入されることになった。

この間にも【パンツァー・フンメル】の大移動が行われ、一部政治家から【パンツァー・フンメル】の改造依頼(※07)を受注するなど忙しい日々を送る事になる。

 

683 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情:2013/08/31(土) 23:00:27

そして戦争開始からしばらくした後。

アンナ・クレマン女史開発陣にある注文が入った。

多脚式特殊車両【アント・ワーカー】の改良と、その大量生産だった。

 

EUロシア方面に販売されていた【アント・ワーカー】が通常通れない場所を通って撤退を助けたり、軍需物資を知られないように運び込んだり、現地改造で偵察機に改造された機体が思いのほか活躍したことによる大量注文だった。

社長はこれ幸いと軍部と政界に対し【アレクサンダType01】の正式量産機【アレクサンダType02】の装甲増強を願い出て、これを勝ち取った。

もっとも“多少厚くなった”程度ではあったが・・・

 

この報告に気をよくしたアンナ・クレマン女史は、鼻歌交じりで改修に乗り出した。

色々と変更し、以前よりも経験を積んだ技術でクレマン社初のMTFが完成した。

 

量産型多脚MTF:【スピオトフォズ】

分類:多脚型MTF 所属:EU各州軍※ 外見モデル:攻殻機動隊のタチコマ似※

全高:3.22m 全幅:4.07m 全備重量5.9t

推進機関:多脚による高速移動・ホバー移動

武装:リニアアサルトライフル リニアレールキャノン 二連ミサイルランチャー

搭乗人数:1人

 

EUロシア州と北欧各州が中心となり開発した多脚型MTF。

かつてよりロシアなどの氷の大地は、春の雪解けなどになるとそこら中が泥沼になり、通常の兵器では移動が困難だった。

そこで考案されたのが泥沼や湿地帯、不整地でも問題なく移動できる【アント・ワーカー】を改良したMTFの開発であった。

 

【アント・ワーカー】の秀でた能力は、従来の戦力と違い沼地や湿地帯に即座に展開可能な能力で、不整地でも安定する機動性と走破性である。

しかしロシア州だけでは改良と開発が困難だったため、この機体の開発には製作元のクレマンインダストリーが関わることとなった。

改修には【アント・ワーカー】を基本設計・開発した天才科学者アンナ・クレマン女史が中心となり、多岐にわたって行われた。

 

最初に始めたのは足を六脚にすることだった。

【アント・ワーカー】は作業用という事もあり、足が遅く装甲もない、足も安定性を得るために八脚と言う多さであった。

一対減らすだけでも制作費用は安くなるし、幸い四脚で這い回る事が可能だった【アレクサンダ】の経験が生かされ、ついでに追加機能としてホバー機構を取り入れてみた。

湿地帯や沼地の移動の際にはふくらはぎ部分に合成強化ゴム製のエアクッションが設置し、推進装置として大型の可動式プロペラが胴体側面に設置した。

これにより沼地や湿地での走破性だけではなく、川や湾岸地帯などでも限定的ながら水上戦闘が可能となった。

しかしホバー移動時には通常よりも多くのエナジーを消費してしまう欠点が出来てしまったが、基本地上兵器で長時間水上移動するわけではないのでたいした問題ではない。軍部としては移動の幅が広がったのは、朗報であった。

 

追加された頭部は、アリの様な形状で、ここに一部センサー類が搭載した。分散したのは被弾破損を考慮したためである。

足を六脚に改修した事により大改修した胴体部分は、側面のプロペラと接触しない形で上部に可動式のアタッチメントがある。

これは軍部の強い要望で付け加えられた機構で、パンツァー系統の武装腕装備やKMF装備であるアサルトライフルなどが装備できる。

この結果MTFとしては高いコストが武装面で下がり、丁度フンメル一機に近いコストになったという。(それでもフンメル一機よりは多少高い)。

 

稼働時間延長を考え、胴体内部には稼働に必要なエナジータンクやエンジンも内蔵してあり、この周りの装甲はより固く厚めに設計してある。

しかしその影響で、他部分は機体の軽量化の為にある程度薄めになった。(コストダウンとホバー形態での高機動化のために。)

次に前部にあった【アント・ワーカー】を操縦席は、大改修の際に完全に撤去して【ボーイ】のコクピットを尻尾に当たる部分に持ってきて脱出可能にした。(※08)

完成した機体を見たEUロシア関係者はスペック等を聞いて、早速【スピオトフォズ】と名付けて発注した。(※09)

ちなみに【スピオトフォズ】は露語でアルコール運搬機の意味であり、これは胴体内部のエナジータンクに由来していると思われる。

 

生産ラインを増やし、一部部品は【パンツァー・フンメル】と共用しているので整備もしやすい。

現場からの声はだいぶ好評であった。

その間にも正式量産機【アレクサンダType02】の生産は少ないながらも順調に行われて、エースが操れば【ジェンシー】を五機連続で撃破も可能であった。

EUの大反抗作戦時には【アレクサンダ】は敵軍の虚を突き、【スピオトフォズ】は縁の下の力持ちとしてEU軍を支えた。(※10)

 

684 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情:2013/08/31(土) 23:00:59

大清連邦との戦争が終わり、一息つけるぐらいまでになったときにクレマン社長は軍部に徹底的な回収をした【アレクサンダType03】の制作を持ちかけた。

だが、軍部はそのまま【アレクサンダType02】の生産を望んだ。

EUは大反抗ですでに虫の息に近くなっており、予算確保が出来ないでいたのだ。

流石にそれでは無理を言えないと悟り、おとなしく引き下がった。

 

実はおとなしく引き下がったのには理由があった。

極秘に入国したユーロブリタニアの使者が接触していたのだ。

その時どういう会話がなされ、どういう密約をしたのかはわからない。

しかしクレマンインダストリー社が、どちらが勝っても負けてもいいように準備を整えたのは間違いなかった

 

そして始まった電撃シーランド王国占領作戦・・・失敗・・・それに続く欧州解放戦争が立て続けにヨーロッパ地方を覆った。

しかし密約のお蔭で深く癒着していた企業が消えていく中、生き残る事に成功していた。

その戦争の最中にクレマンインダストリー社が作った【アレクサンダ】と【スピオトフォズ】は、ユーロブリタニアに驚きと能力の高さ見せつけて瞠目させた。

【アレクサンダType02】はエース級の腕前と運用さえよければ【ジンクスⅢ】を撃墜できたし、MTFと侮っていた【スピオトフォズ】による不整地移動攻撃と、隠密偵察には手を焼かされた。(※11)

 

ユーロブリタニアはクレマンインダストリー社を接収したが、それほど縛らずに運営を行わせた。

その際に【アレクサンダ】の改修を要望し、ユーロブリタニは親ユーロブリタニア各国に売れるかもしれないと思い許可を出した

許可を得たクレマンインダストリー社は、さっそく改修を行った。

 

アレクサンダ改修機【ユーロ・アレクサンダ】

分類:第七世代相当KMF 所属:ユーロブリタニア 親ユーロブリタニア各国

全高:4.41m 重量:6.97t

固定武装:スラッシュハーケン ウルナエッジ

椀部装備武装:大型ライフル【ジャッジメント】 アサルトライフル MEナイフ トンファー

背部装備武装:小型ミサイルランチャー【ザッテルバッフェ】 ケイオス爆雷 etc

 

【アレクサンダType02】を欧州解放戦役後にユーロブリタニアから許可を得て独自に強化改良した機体である。

生産性を上げるために曲線が多かった前機体構成を改めて、全体的に角張ったデザインとした。

 

【アレクサンダType02】は【アレクサンダType01】共に満足できるほどの装甲が無く、特に正面装甲が脆すぎた。

なので、まず前々から考えられていた全体的な防御能力の強化をすることとなった。

ブリタニア経由で新素材の装甲が手に入り、総合防御能力が30%アップしたと計算されている。

 

そして各関節の強化。(※12)これはインセクトモードや近接格闘戦でも十分耐えられるようにするための改装である。

この改装のお蔭で、前よりも重い武器が所持できるようになった。

お粗末なレーダーしかなかった頭部に、ファクトスフィアを搭載して索敵能力を強化した。

背中部分のアタッチメント部分も、ユーロブリタニアのKMF兵装と互換性が利くように改修し直した。

 

開発がうまくいっていなかったルミナスコアも、輸入により従来のものよりも出力が向上している。

そのため装甲の強化により上がった重量も物ともせず元以上の機動性の確保に成功している。

 

685 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情:2013/08/31(土) 23:01:34

思っていたよりも出来が良くなった本機を、ユーロブリタニアは特殊作戦部隊に配備する事を決定し、主に敵後方の攪乱や破壊工作に運用され好成績を収めた。

もちろん親ユーロブリタニア各国にも輸出されており、各国独自のアタッチメントパーツが作られるほどよくできた機体となっていた。

 

【スピオトフォズ】も戦闘用から作業用に用途を変更した改修機が改めて出てきたり。

最前線の部隊から要望のあった索敵強化型も製作した。

 

【スピオトフォズ】索敵強化タイプ【タランチュラ】

分類:多脚型MTF 索敵強化型 所属:スカンジナヴィア王国軍 親ユーロブリタニア諸国各軍

全高:3.32m 全幅:4.07m 全備重量6.3t

武装:12.7mm機関砲。 煙幕各種 ジャミング

推進機関:多脚による高速移動・ホバー移動

登場人数:2人

 

元々開発はEU時代から行われており、通信・索敵能力を特化させた改修機である。北欧も積極的に参加して開発は勧められた。

レドームを背負ったような見た目であり、頭部には強化された各種センサーが搭載されている。

エナジーフィラーも搭載量が改善され、稼働時間の延長にも繋がっている。

これは高性能なセンサーを装備しているためエナジーを通常より消費しやすいためである。

ステルス性も各関節部などの縮音性を上げるなどして幾分強化されている。

 

武装は最低限の自衛用に装備された機関砲だけ。偵察専用なのでこの程度でよかった。

レドームなどを外せば索敵能力が下がる代わりに、通常のスピオトフォズと同じ様に各兵器からの武装の流用が出来る。(しかしそれでも通常型よりは通信や索敵能力が高い)

アタッチメント装備の中にはジャミングタイプの装備も存在している。

因みに通信や索敵に用いるレドームや装備のせいで全重量と全高が少し上がってしまった。しかしながら、機動性はそのまま高い水準を保持する事は出来た。

 

独立戦争時には特殊部隊ネームレスや、その他の北欧・スカンジナヴィア王国や親ユーロブリタニア諸国で運用されている。

戦後はその使い勝手の良さから、親ユーロブリタニア各国に同じモデルの機体が沢山生産されてベストセラー機になった。

通称「毒蜘蛛」だったがこれは敵の情報を盗み取り、不幸と言う毒を相手に送りつけるためにつけられた名称だった。

 

【タランチュラ】の開発に関わった北欧は、【アレクサンダ】の改修も行っていた。

 

686 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情:2013/08/31(土) 23:02:10

北欧版【ユーロ・アレクサンダ】改修機【アレクサンダS(スカンジナヴィア)】

分類:第七世代相当 所属:スカンジナヴィア王国軍 

全高:4.41m 重量:6.97t

固定武装:スラッシュハーケン ウルナエッジ

椀部装備武装:大型ライフル【ジャッジメント】 アサルトライフル MEナイフ トンファー

背部装備武装:小型ミサイルランチャー【ザッテルバッフェ】

狙撃用アタッチメントユニット「モシン・ナガン」

近接戦闘用アタッチメントユニット「スコーピオン」

重爆支援用アタッチメントユニット「B&K(ボフォース&カールグスタフ)

 

【ユーロ・アレクサンダ】の北欧使用機。基本的なメインカラーは白である。

主な改修は、北欧の環境でも稼働率を上げる為に耐寒使用に改修したこと。

そしても独自の装備も扱えるようにアタッチメント部分を少し弄っただけである。

 

その独自の武装システムと言うのが「アタッチメントユニット」である。

これは従来のKMFが武器を運用する際に必要な装備を一纏めにした装置である。

 

狙撃用アタッチメントユニット「モシン・ナガン」

これは文字通りの狙撃に必要な装備を一纏めにした装備である。

大型狙撃銃「モシン・ナガン」がメイン武装である。

右肩には索敵・ロックオンに必要な大型センサーを装備。

左肩に敵機の詳細な映像を得るための高性能光学三点カメラが装備。

背部(この際コックピットの両側)には専用のバッテリーが装備されている。

なおバッテリーは耐衝撃・爆発対応されておりちょっとやそっとでは誘爆したりなどしない。

 

近接戦闘用アタッチメントユニット「スコーピオン」

これは少し変わった装備である。

背部に変形時に問題にならない形でハサミの付いた尻尾のようなパーツが付いている。

これが自在に動かせる近接攻撃尾「スコーピオン」である。

強力な膂力で敵の関節部や腕・足などを断ち切ることが可能。鈍器としても運用可能である。

扱い切れば三本目の腕となりえる武装だ。

左右の肩にはこれを補助する意味で、センサーユニットが増設されて取り付けられる。

ただとても扱いにくい武装であり、使用するパイロットを選ぶ代物である。

しかし慣れてしまえば接近戦で不意をつける為、熟練パイロットには好まれた模様だ。

 

重爆支援用アタッチメントユニット「B&K」

文字通り重爆装による支援を目的とした装備である。

Bはガトリングガン「ボフォースM8」のB。

Kは無反動キャノン砲「カールグスタフM3」のK。

右肩にガトリングガンの為の供給ベルトとドラムマガジンが装備されており、

左肩には射撃補助のためのセンサーユニットが装備されている。

なおこの装備では機動力が下がるので注意が必要である。

 

これらのアタッチメントユニットはどれも全パージ、部分パージ可能であり、【アレクサンダS】以外のKMFでも運用可能な装備である。

アタッチメントユニットはEU時代から設計・開発されていたが、予算もそう多くなく技術的問題もあり成果は芳しくなかった。

そして多数の州が成果の上がらない研究に見切りを付け、次々に離脱していった。

 

しかしながら独立計画発足時に政府高官の一人がこれに目を付け、予算を追加して研究を推し進めていった。

途中から秘密裏に日本からの情報・技術支援なども受け装備の開発に成功するに至った。

着込み式KGFなどよりもコンパクトで、機体機動の邪魔にならない設置位置と大きさなのが特徴だ。

なにより武装のパーツは大抵が既存のパーツの流用品なので費用が安いのが特徴である。

勿論、武装も個々で装備可能である。

 

687 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情:2013/08/31(土) 23:02:43

後にこれらを元に親ユーロブリタニア諸国やシーランドでは各国ごとの装備が幾つか開発された。

ここまでいろんなタイプと装備が開発された【アレクサンダ】であったが、その可変機構によりどうしても特殊任務寄りな機体であった為に価格も高く、少数生産であることには変わりなかった。

そこでアンナ・クレマン女史は新設計で、持てる技術を全て使い、新しいKMF開発に乗り出した。

もちろん可変機構は取り入れない。

しかし能力は下げないのを目標に取り組んだ。

 

同じ時期、北欧は独自にKMFを開発しようと計画していたが、予算や技術の問題に悩まされていた。

ブリタニアや日本から提供された技術があると言ってもそれも所詮第五世代止まりで、KMF開発も【ユーロ・アレクサンダ】を独自に改良したくらいしか実績がない。

予算も元からの国土の復興、開発や第二次欧州解放戦役により新たに得た領土の開発。

そして新たに主力となるグロースターなどを購入するために資金を使っており、そこまで余裕があるわけではない。

ぶっちゃけ「予算&技術不足」であった。

 

しかし、そこで声をかけてきたのがフランスに本社を置くクレマンインダストリーである。

曰く「ウチと一緒に共同開発しません?」だった。

【アレクサンダ】を独自に開発、生産した実績を持つので信頼はできる。

予算も共同開発となれば幾らかは安くなる・・・ので共同開発案に即答した。

一応は新主力KMFを開発したい北欧と、新たに市場とお得様が欲しいクレマン社の思いが一つになった瞬間である。

もっとも開発を行っている女史には思惑はわかっても気にしなかった。

予算がちゃんとに下りるなら、別に良かった。

 

【ボーイ】を作り続けた経験と、【アレクサンダ】から学んだ各部の関節強度、たまたま触る機会に恵まれた【ジンクス】から得た情報を元にKMF制作は順調に進んだ。

流石に第七世代機はまだ作れない。しかし第七世代に相当の機体ならば作れる。

そして将来は独自の第七世代機を作れることを目指して、北欧と協力してこの機体は制作された。

 

688 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情:2013/08/31(土) 23:03:17

北欧次世代主力KMF【ラファール】

分類:第七世代相当KMF 所属:スカンジナヴィア王国 トルコ シーランド王国

製造:クレマンインダストリー 外見モデル:スパロボOGの「量産型ヒュッケバインMk-II」

全高:4.57m 重量:7.02t 

推進機関:ランドスピナー

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタン・トンファー

椀部装備武装:アサルトライフル 大型アサルトラフル【ジャッジメント】 リニアライフル(見た目OGのフォトンライフル似) MEランス MEソード

背部装備武装:大型キャノン 肩装備型ミサイルランチャー各種 各種ユニットセット

 

索敵は、頭部に装備したファクトスフィアにより高い水準に保たれている。

近接戦闘能力は各種武装とハーケン、トンファーにより落とさずに済んだ。

射撃能力も各種武装の充実により高い能力値に。

武装面は新型の武装に加え、従来の武装も流用出来る。

整備性も流通している従来の機種と幾分かの互換性を持たせて現場の苦労をなるべく減らした。

【ジンクス】から教訓得た整備箇所の共通性を持たせることも、達成された。

操縦性も従来機とそこまで変わっているわけではなく、癖もない素直な機体であった。(※13)

KMFらしい高機動性を誇りながらも日本やブリタニアの技術も反映し、防御能力も十分なものになった。

 

総じて高い水準に能力が纏まった量産機である。

超大国三国以外の国のKMFとしては開発時点では最高の性能と言っても過言ではない仕上がりだった。

開発後は北欧のハイを占める機体として順次配備され、未来において第七世代機が配備されるまで前線にあり続け、完全退役するまで高等練習機として現役をはり続けた。

 

名前の由来はフランス語で疾風と言う意味で、試験起動を見た関係者が「まるで風を裂いて動いているようだ」と言うコメントからきている。

ライバルがいなくなり、伸び伸びと会社を育てられるようになったクレマンインダストリー社は、まさに勝ち組と言ってよかった。

 

689 :憂鬱×ギアスにおけるKMF関連 クレマンインダストリーの事情:2013/08/31(土) 23:04:02

※解説

下手に政界に乗り出したり首位を独走すると必ず妨害が入って業績が落ちたりマイナスイメージが付いてしまうため、身についた処世術でもあった。(※01)

当時のEU社会では普通にあった事。下手をすると倒産まで追いつめられることがあった。

 

スケッチを取ったり飼育したりしていた。(※02)

この時の観察眼が、後の【アレクサンダ】開発につながっていく。

 

そこには見たこともない人型兵器・・・KMFが格納されていた。(※03)

社長令嬢だったが、ラボまで侵入されるとは思っていなかった。ばれない様に警報装置や監視カメラをいじった形跡が見られ、この時から高い水準の腕前であったとわかる。

 

この子は将来科学者になる。いや、して見せよう!!(※04)

普通に親馬鹿www

 

コピーながらも一部生産が始まった。(※05)

極秘生産だったためにそれほど生産はされなかった。生産はかなりユックリだったという。

 

多脚式特殊車両・・・【アント・ワーカー】(※06)

八脚の脚を持つ作業用機械。その為アントではなくスパイダーと言われてもいた。スピードは無いが抜群の安定性を誇り、積載量もあった。

 山岳救助には急な斜面でもしっかり上り、不整地の調査にも活躍した。しかし使われる場面が限定的であったため、それほど沢山生産はされなかった。

【スピオトフォズ】が生産されてからは完全にこちらに移行されて、消えてしまった。

 

【パンツァー・フンメル】の改造依頼(※07)

火砲腕の他に、マシンガン腕・接近戦用質量刀腕などの開発生産だった。

 

【ボーイ】のコクピットを持ってきて脱出可能にする。(※08)

これも大量生産による価格低下を狙ったもの。むしろ脱出装置つきであることが現場には喜ばれた。

 

【スピオトフォズ】と名付けて発注した。(※09)

アンナ・クレマン女史は【drone beetle】・・・ドゥロン・ビートル和名【カナブン】と名付けたかったようだ。

 

【スピオトフォズ】は縁の下の力持ちとしてEU軍を支えた。(※10)

大清連邦の『高亥の賭け』により損害を被った部隊を、人員のみ鈴なりで機体に乗せて撤退支援した時もあった。

 他にもクレーンの代わりに、穴に嵌まって擱座した戦車を数機がかりで引っ張り上げたりしていた。

 

MTFと侮っていた【スピオトフォズ】による不整地移動攻撃と、隠密偵察には手を焼かされた。(※11)

嘘か真かわからないが、ユーロブリタニア軍も鹵獲した【スピオトフォズ】を偵察機として運用していた部隊もあったようだ。

 

各関節の強化。(※12)

【アレクサンダ】のインセクトモードから通常モード素早い変形、激しい機動戦にも耐えられるように研究して言った結果。世界でも有数の間接機構最優会社になった。

 

癖もない素直な機体であった。(※13)

第七世代機相当の機体は大抵癖が強いのだが、この【ラファール】だけはそんな事は無く。高い評価を受けた。

 ユーロブリタニア関係者も「もし、技術レベルがブリタニア・日本レベルであったならEUは早々に第七世代機を手に入れていただろう」と言うほどクレマンインダストリー社は高い評価を受けている。

最終更新:2013年09月20日 14:53

 



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憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版

 

 

259 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:14:15

「ふむ・・・熱いな。」

 

日本に留学中のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと、ナナリー・ヴィ・ブリタニアの護衛隊を指揮するジェレミア・ゴットバルトはこの日、日本の演習場に来ていた。

実は本国から『新しいKMFを作ってみたのだが、乗ってみてほしい』という話が舞い込んできたのだ。

当初は護衛があるので断ろうと思ったのだが、『戦闘機やKMFを操れる貴公にやってほしい』と持ち上げられ、ついつい承諾してしまった。

 

(まぁ、護衛にはヴィレッタやキューエル。アールストレイム卿がいるから大丈夫か。)

 

まぁ、久しぶりに暴れてみたいという思いもあったのは、心に秘めた思いだ。

そんな自分に苦笑しつつパイロットスーツに着替え、演習場のベンチに座って迎えの人を待っていると・・・

知り合いの日本人である倉崎の開発主任が、構内用カートでこちらにやってくるのが見えた。

 

「ジェレミア卿、こちらでしたか。」

「む、あなたでしたか。」

「ええ私です。機体は大型格納庫にあります。こちらへ。」

 

この主任、いろいろやらかすので有名であり、テストパイロットが主任の名前を出すだけで逃げるという逸話もあるのだ。

そんなことは知らないジェレミアは朗らかに挨拶をすると、案内をする主任の運転するカートに乗り込み移動し始めた。

 

「大型格納庫と言いましたが、それほど大きいのですか?」

「ええ、かなりの大物です。」

「試作機だった【ガウェイン】クラスですかな?」

「特別に見せてもらったのですが、そうですね・・・それよりもはるかに大きいですよ。」

「それは・・・」

 

ジェレミアが絶句するのは無理もない。

何せKMFで今現在、最大サイズの機体である【ガウェイン】よりも大きいというは想像できない。

しいて言えば戦闘機などだが・・・

 

「戦闘機ですか。確かに近いですが、重量から言ってご試乗なられる機体の方が重いですな。」

 

という情報に少し不安になる。

それからは終始無言で移動し、目的の格納庫に到着するまで何も話さなかった。

格納庫はだいぶ離れた位置にあり、それなりに機密が守られる場所だった。ブリタニアに考慮しての措置だろう。

 

「この中です。」

 

主任が大扉前でカートを止め、すぐに降りて小さな扉を開いてくぐる。主任に遅れまいと扉をくぐると、ジェレミアの前に異形の機体が出現した。

 

「おお・・・」

 

目を見開いて整備員が取りついている機体を見つめていると、隣に立っている主任が、にやりと口を歪めて声をかけた。

 

「どうです。大きいでしょう?」

「確かに・・・」

 

そこにいたのは・・・大型スピアを機体の各所に取り付け、物干し竿のような大砲が機体下部についている異形の機体、【サザーランド・ジーク】が鎮座していた。

 

「この機体はなんなのですか?」

「それは私が言うより、彼女に聞いた方がいいでしょう。」

 

主任はそういうと一人の人物を呼んだ。駆け寄ってきたその人物はジェレミアもよく知る人物。

 

「お久しぶりですね。ジェレミア卿。」

「クルーミー女史が来ていたのか。」

 

260 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:14:47

 

本国の方で知り合い、浅からぬ付き合いのある人物の登場にちょっとホッとする。

主任はそのまま「別の用事があるので。失礼します」と言うと、そそくさと退散してしまった。この機体の説明は受けていても他国の機体、気を利かせて出て行ったようだ。

そそくさと出ていく主任を見送り、二人は改めて異形の機体を見た。

 

「それで女史、この機体は何ですかな?」

「このKMFはKGF・・・、ナイト・ギガ・フォートレスという分類の機体です。」

「KGF?」

「ええ。敵陣に単身突入し、大火力でもって陣地ごと敵を粉砕する。そういうコンセプトの機体ですね。名前は【サザーランド・ジーク】と言います。

 全高25.02m。全備重量70.24t。推進機関はこの巨体ですので最新のフロートシステムと、電力駆動プラズマ推力機関を併用採用。

 武装は大型スラッシュハーケン×5。ロングレンジリニアキャノンを1門。6連装ミサイルポッドが中央部に、あと電磁ユニットがありますね。

 特殊装備ブレイズルミナスが展開できます」

 

丁寧に説明をしてくれたセシル・クルーミー女史に感謝しつつも、ちょっと疑問があったので聞いてみる。

 

「なんでしょうか?」

「この機体。ロイドが作ったものではないな。」

「やっぱりわかりますか?」

 

どうも彼女の上司が作ったようには見えないのだ。良くも悪くも彼の性格を知っている。セシルはただ、苦笑で答えた。

 

「ええ、そうなんです。これ、別の部署が暴走して拵えたものなんですよ。」

「・・・本国の技術者も“感染”したのか?」

 

この“感染”とは、日本の変態性がうつったのかという問いだったのだが、彼女は困った表情で首を振った。

 

「・・・いえ、元からだそうです。」

「・・・大丈夫なのか?」

「・・・」

 

沈黙が痛い・・・

 

「・・・実はこの機体。元々こんな形ではなかったのです。」

「なに?」

「とりあえずこれを・・・」

 

彼女は腋に挟んで持っていた書類を、ジェレミアに済まなそうに渡してきたので、恐る恐る手に取り読み始めた。あ、写真の機体が実物と違う。元は丸いのかと思いつつ次のページを読む。

 

 

 

製造過程

○とりあえず強襲が前提なので、最高の防御力を持たせる事になった。エネルギー計算をしたところ、通常動力機関では動かないことが判明。

〇動力機関を新たに設計し作成、起動。2分後に爆発した。動力機関はとりあえず機体設計に並行して製作することにした。

〇当初は手足があったが、設計者の一人が「いちいち手に持って撃っていたら面倒だ、無くしてしまえ。ついでに足も」の言葉で頭もなくなった。

〇装甲担当から報告があった。「悪い、装甲厚くしたら射撃武装がのせられそうに無い」。弾薬が誘爆する危険があると思っていたのでOKサインを出す。

〇スリット状の隙間ならできるということで、作っておいた『飛び出せスピア君』を5本装備。

〇動力担当から報告「悪い、大きくなり過ぎた。どこか削って場所確保して」。脱出装置を削ることにした。

〇「色はどうする?」「ん~(食べていた蜜柑を見て)これでいいじゃん」「おk」

○完成。名称決定【ジーク・フリート】

 

 

 

あんまりな内容にがっくりする。

いやいや、仮にも試作兵器だろうが!脱出装置くらい取り付けてくれ!!

一気に暗く沈みそうになる心を叱咤して、次の書類を見る。

 

261 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:15:23

 

 

 

 

 

◎日目

起動1回目

〇まずは地上にて起動。テストパイロットから「熱い、出してくれ!!」との悲鳴があった。冷却機関の見直しを2時間でして解決する。

起動2回目

〇相変わらず熱いようだが、冷房をMAXにしているようなので無問題。『飛び出せスピア君』を動かしてもらう。が、全部一緒に動いて意味がない、改良する。

起動3回目

〇別個に動かせるようにレバーを増やしたら、パイロットが混乱してしまった。解決策を出すまで一時的に起動試験は中止する。

 

▼■日目

起動4回目

〇問題解決策が出来たので早速テスト。「くぁwせdrftgyふじこlp;!!」パイロットが意味不明なことを叫んで気絶入院。中止決定。

〇あと、文句のあった冷却関係は修理が完了した。

 

◆□日目

起動5回目

〇どうやら大量の情報が流れてきたのが原因だと判明したので改良。逃げようとしたパイロット捕獲、搭乗させる。

〇無事に起動した。その際「おはYO鵜ござい真下↑!?」という言葉が出てきた。皆でお早うと言ってあげた。

〇さっそく飛行させると「おお!!celloよぉー!!」と奇声を上げて上昇。上空で奇怪な軌道を取りながら縦横無尽に動く、いいデータが取れた。

 

△●日目

起動6回目

〇殿下に怒られた。安全面を大幅に見直し、精神的影響を無くした。ちなみに起動5回目のパイロットは4回目のパイロットと一緒に、病院に今でも入院中。いいパイロットだったのに・・・また来てくれないだろうか? 

〇パイロットの顔が蒼いのが気になるが実験スタート。順調にテスト項目を消化する。

〇いきなりパイロットが脱出した。機体は落下、地面に激突したが装甲のお蔭で大丈夫だった。

〇原因は電磁ユニットのようだ。自分が壊れてどうする。

 

■△日目

起動7回目

〇電磁ユニットの改良が済んだ。さっそくテストにはいる。

〇今回は無人で操作してみる。今までのデータのお蔭で私たちでも動かせる。なかなか楽しい。超信地旋回は早すぎて酔ったが・・・

〇新たに追加したブレイズルミナスを起動した。なぜか墜落した。ついでに爆発した。

〇ブレイズルミナスが強力過ぎて電波を遮断してしまったらしい。更に動力機関が暴走して爆発。まだ原因がありそうだ。

〇殿下が「ぶるぁぁぁぁぁ!!」と叫んで突っ込んでこられた。めっちゃ怒られた。予算がカットされた。

 

◇◎日目

〇お金が無くて嘆いていると、日本から御誘いがあったので共同開発することになった。ついでに新設計にすることにした。

 

 

 

 

 

変わらないあんまりな内容に、新型機に乗るというワクワク感はすっかりなくなって、もう帰りたいという意志だけが最後に残っていた。

 

「あ~・・・女史。かe「乗って下さいね」了解だ」

 

振り返ってみた彼女の笑顔は、心の底から怖かったので即答で了承した。後で知ったことだが、ジェレミアすら乗らなかったら彼女がテストすることになっていたらしい。

 

262 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:15:54

(ふむ・・・中は意外とまともなのだな。)

 

【サザーランド・ジーク】はすでに外に出ていていつでも起動できる状態であり、ジェレミアも機上の人となっていた。内心不安いっぱいだが・・・

 

〔ジェレミア卿、どうですか?〕

 

セシルはすでに格納庫横に立っている管制塔にいて、こちらを見ている。【ウィンダム】に装備されているという全天式モニターほどではないが、いろんな角度が見れるというのは新鮮だ。

 

「ん?・・・大丈夫だ。計器類の配置は把握した。」

〔そうですか・・・それで“例”の装置ですけども。〕

「もう付けてある。確か“思考感知制御装置”だったか?」

 

そういって頭部につけたヘッドギアを触る。ギアからはコードがたくさん伸びており、少し気になったので頭を大きく動かしてみるが、邪魔にはならないようになっているようだ。今回のテストの最終的な目的となる装置で、テストパイロットがおそれていた装置でもある。

 

〔ええそうです。気分はいかがでしょうか?〕

「問題無い。しかし妙な感覚だなこれは・・・」

〔私もそれだけ試してみたのですが、やっぱり変ですよね〕

「目に見えていないの見えている・・・そんな感じかな?」

〔そうですね・・・〕

 

この装置をつけたら後部カメラなどの映された風景が“なんとなく”わかるようになった。これだけを見てみると、我が国の技術も捨てたものではないと感じる。マッドは勘弁してほしいが・・・

不安を吹き飛ばすように、気合を入れなおす。

 

「よし・・・起動する!」

〔了解。【サザーランド・ジーク】起動してください〕

 

勢い込んで起動キーを差し込むと、動力機関が動いていくのが微振動と音から判断できた。

 

「起動確認・・・これより低空及び徐行飛行に入る」

 

近くに張ったメモを見ながら手順をしっかり確認しつつ動かしていく、その様子を管制塔のセシルは感心してみていた。

 

(さすがね。機体になれるのが異常なほど早い、ってロイドさんが言っていたとおり・・・飲み込みが早いわ)

 

実はジェレミアが直接選ばれた理由はこれだ。共同制作する際に、要求に盛り込まれた脱出装置兼制御装置であるサザーランドだが、コクピット自体は新型に換えられていて初めてでは操れないのだ。だがジェレミアは“どんな機体でも乗りこなせる”という特技があり、この特技のおかげでかなり優秀なパイロットに入っている。

地面から10mほど浮いた機体は滑るように移動していく。次に上昇、上空で旋回等をこなし降下してきた。

地面すれすれまで降下すると今度は急上昇し急旋回、そして急降下、セシルは後ろの管制官が息を飲むのがわかったが、そんなことは知らない操縦席のジェレミアは力強く動くこの機体に興奮していた。

 

(すばらしい!さっきまではどんな恐ろしい機体かと思っていたが、なんと手に馴染むのだ!まるで自分の愛機のようではないか!?)

 

まるで玩具をもらって興奮する子供の様に、ジェレミアは夢中になって動かし続けた。

時間とメニューがだいぶ無くなってきた時、問題のテストとなった。

 

〔さてと・・・残るはこのテストだけです。〕

「うむ。」

〔ジェレミア卿・・・〕

「なんだ?」

 

曰く付きであるこの装置に、知り合いが試すと言うことに躊躇いを覚えていた(半ば脅すようにしたのもある)。

だから試験中止を進言しようとした。

 

〔今ならやめることが「セシル女史」はい?〕

「私は日本に来て技術の高さに目を見張り、それに敬意を払ってきた。」

〔・・・〕

「我が国は“力”と評されているが断じてそれだけではないと、この機体に搭乗し・・・思うようになった。」

〔それは・・・〕

「日本の友に見せてやろうではないか、“ブリタニアも負けていない”とな!」

〔はい!〕

「では最終テストに入る。ドローンを射出してくれ。」

〔了解。ドローンを16機、射出します。〕

 

263 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:16:27

 

最終テストが始まった。後部プロペラで飛ぶドローンは飛行速度は遅いが、ロケットブースターを内蔵しているので緊急加速が出来る。

しかも今回のテストはすべて敵対行動をとる様に設定されているうえに、ランダム軌道になっていた。

ジェレミアはすぐさま上昇中のドローンに突進していく。

その機動にドローンの何機かは避ける様に散開するが、3機だけ向かってきた。

 

「落ちろ!」

 

すぐさまリニアキャノンで2機打ち抜き、残る1機は右側のスラッシュハーケンを射出して貫く。

 

「まだまだぁ!!」

 

貫いていたスラッシュハーケンはそのまま戻らず、機体を振り回した勢いで近くを飛んでいたドローンを破壊する。同時に思考感知制御装置が、後ろから回り込むドローン数機をカメラにとらえた。

 

「む!後ろをback!!」

〔え?〕

 

興奮しているためかちょっと頭のネジが飛んでいるみたいだが、後部に設置されていたスラッシュハーケン2機でもって一気に3機破壊し、先程と同じように振り回す。だが、あたらない。舌打ちする間も無く装置が敵を捕らえる。

 

「おおおおお!!」

 

ロケットブースターで加速して突進してきたドローンを、腕のように動く大型スラッシュハーケンでたたきつぶし。一気に後退。

残りすべてのドローンを視界に入れ、ケリをつける為に思考感知制御装置を用いて照準し、破壊することにした。

 

「爆散!!」

 

左右大型スラッシュハーケンが3機破壊、リニアキャノンが火を噴いて2機貫く、それは残り5機を取り囲むように破壊してあり、同時に放っていたミサイルがすべて直撃し、大空に花が咲いた。

 

 

 

 

 

「ご苦労様でした。」

「君はこれから帰るか・・・忙しいな。」

「データを持って帰るだけですよ。実機は後から持って帰る予定です。」

 

全ての予定をこなし終えたジェレミアは、すでに制服に着替えて門の前に立っていた。その横にセシルが立っている。

 

「今日は有意義な一日であった。」

「それは何よりです。」

 

セシルも問題なく終わったことで気持ちが良いのだろう、いい笑顔だ。

そんな顔を見てジェレミアもいい笑顔になる。

 

「しかしもったいないな。」

「何がですか?」

「【サザーランド・ジーク】だ。あれほどのモノなのに、試作機で1機のみとは・・・」

「それは仕方ありません。ハドロン砲を装備する事も考えられたそうですが、おおざっぱな使い方しかできませんし・・・」

「金がかかるか・・・」

 

なにか言いにくそうに俯く彼女に気が付き、後に続くように言う。

 

「すでに重火力支援機として【ガレス】の正式採用が近いですから。それに、いくら量産機で大量に出回っている【サザーランド】を中核に使っているとはいえ、新機構ばかりで、いくら帝国でも量産なんて無理です。限定生産にするにしても「戦闘爆撃機の方が、コストが安い」・・・そうです。」

 

どの国も平和なら必然と軍の予算が削られる。

軍人にとっては世知辛い話だ。

 

「まぁいいさ。君も無理しないようにな」

「はい・・・ロイドさんに振り回され続けていますけど・・・」

 

二人はそのまま笑いあい、迎えの車が来るまで世間話で時間を潰し、ジェレミアは帰宅の途に就いた。

生まれる新技術、新しい機械、新しい考え、それらがすべてうまく世の中に出ていくわけではない。

拾い上げられるものもあれば、捨てられるものもある。

【サザーランド・ジーク】と、KGFという新しい機種機体は受け入れられないのかもしれない・・・しかし、“無駄”ではないだろう。

それらから得られた経験は、次に生かされる貴重な実証なのだから。

 

264 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:16:58

機体解説

試作KGF【サザーランド・ジーク】

KMFとは違う体系の機体。コンセプトは“敵陣に単身突入し、大火力でもって陣地ごと敵を粉砕する。”である。兄弟機に速度重視の【サザーランド・イカロス】があるが、そちらとは違いこちらは装甲重視となっている。 史実と違い、輻射障壁発生装置がブレイズルミナスに変わっている(ラクシャータが開発に携わっていない為)。また、思考感知制御装置なる装備が登場しているが、神経電位接続を誰もしておらず、だれでも扱えるように改良されている。その為コクピットは新型に置き換わっている。元ネタはSAOのナーヴギアで、カメラに映った映像をイメージにして操縦者に伝え、武装を操る事も出来るようになっている。

 

開発順

【ジーク・フリート(電磁ユニット無)】→【ジーク・フリート(電磁ユニット有)】→【ジーク・フリート(電磁ユニット強化)】→【サザーランド・ジーク】

機体データ

全高:25.02m 全備重量:70.24t 推進機関:フロートシステムand電力駆動プラズマ推力機関

各種武装:大型スラッシュハーケン×5 ロングレンジリニアキャノン×1 6連装ミサイルポッド

防御兵器:電磁ユニット装甲 特殊装備ブレイズルミナス

最終更新:2013年03月10日 13:15



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とある大統領(苦労人)と亡命博士(趣味に走る人)

209 :とある大統領(苦労人)と亡命博士(趣味に走る人):2013/03/08(金) 22:08:18
とある大統領(苦労人)と亡命博士(趣味に走る人)
設定
『総統閣下と愉快な仲間たちinEU』の便乗ネタSS
休日世界モニカ+紛争ルート


 

 

 

 

まだ清が戦争を始める前、某所にて大統領が頭を悩ませていた。

 

「むぅ・・・成り上がりで盗賊の清め・・・もはや戦力を隠そうともせんか」

 

見ているのは衛星写真で、そこには大兵力を集めて進行せんとする軍団があった。

噂のKMF【ジェンシー】も多数見受けられる。

 

「ロシアの配備数は一応増やしてはあるが・・・」

 

元々怪しい行動をとっていた為、戦力の移動をだいぶ前から進めていたが・・・その数は少ない。

どこから力が働いていたのも利用して戦力増加したが、どこまで戦えるか心配であった。

大統領は少し考えた後、受話器を取り、とある場所につなげた。

少しの間コールが続き、望みの人物とつながった。

 

「博士、私だ。」

『これは大統領。どうかなさいましたか?清が動きましたか!?』

 

その人物は日本から亡命してきた人物で、今現在EUのKMF開発に関わっている日本人だった。

 

「いや、まだだ。だが、数か月以内には動くだろう」

『そうですか・・・』

「それで【アレクサンダ】と【オルレアン】、【パンツァー・フンメルⅡ】の整備状況を聞きたいのだが?」

『【アレクサンダ】は限定正式生産で現在10騎(脱出機構付きのType-02)。正式量産機【オルレアン・Ⅱ型】が、改修で遅れてまだ生産に乗れず60騎。【パンツァー・フンメルⅡ】は大体の施設が流用可能でしたが、それでも新型になるようなものなのでまだ30騎ぐらいですね』

「すくないな・・・」

『ドイツの方でもKMF制作がされているとの事ですが?』

「そちらはまだ形にもなっていない」

 

一応技術協定により、派遣なども行われていて恩恵はある程度あるのが唯一の慰めだ。彼も納得したのか次の話題を出す。

 

『【ボーイ】は、すでに各国で量産され始めているとも、お聞きしましたが?』

「【ボーイ】はうちでも作っている。だが、あれは【コピー・グラスゴー】だ。同じコピー品の【ジェンシー】は、少なくとも【グラスゴー】よりも強いだろう」

 

何しろ質もだいぶ劣っているのだ、数を集めてもどうにもならない。

 

「それに【ボーイ】の数もそろっておらん。すぐにでも戦力を送りたいのだ。何とかならないかね?」

『う~ん』

 

電話向こうで唸っていた彼だが、すぐに何か思いついたのか手をたたく音がした。

 

『【パンツァー・フンメルⅡ】に装備予定の武器腕が、【パンツァー・フンメル】の椀部接続部とほとんど相違ありません。なので、武器腕のみ先行して作って現地で取り付けてもらうか、こちらから送る機体に取り付ければよろしいかと』

「それはすぐに可能かね?」

『機体本体の生産を落とし、武器腕の生産能力を上げればなんとかります。既製品を多く流量していますし、弾薬と整備の心配もありません。試作椀部もこの際まとめて送りましょう。これで少しは、ましになるかと思います』

「多少は、ましか・・・」

『ええ“少しは”です』

 

大統領は少し悩んだが、すぐに頷いて彼にOKを出し。受話器を置いた。

そして少し窓の外を見る。

この国は・・・EUはすでに限界点を迎えている。しかしそれでも彼はあがき続ける。それが国民の代表となった彼の責務だからだ。

 

210 :とある大統領(苦労人)と亡命博士(趣味に走る人):2013/03/08(金) 22:08:50

限定生産機【アレクサンダ Type-02】

解説

〔亡国のアキト〕に出てくる【アレクサンダ】の量産機タイプ。いろんなテコ入れ(例の憂鬱世界ドイツ転生技術者など)により、脱出機構付きで正式化される。

特徴的なインセクト・モードも可能で、その神出鬼没性と、高性能な運動能力に期待がかかっている。

しかし、あまりにも高価な機体になったため、限定生産でしか生産されない。現在10騎生産され、二個小隊・予備機2騎で編成されている。

 

 

正式量産機【オルレアン Type-02】

解説

現場からの指摘(読者の駄目だし)により色々オミットし、正式に量産された機体。具体的には椀部換装・頭部換装の簡易換装措置を無くし、大きな特徴としてACのようにアタッチメントが多くあったが、場所は両肩内部・両前腕部・背部二箇所・両脚部の部分は無くし、さらに近接武器としてトンファー(【アレクサンダ】と共通武器)を装備。装甲が不要な所の軽量化。部品の共通化などでだいぶ性能は落ちたが、それでもサザーランドと対等に戦える機体であると言える(当初仮想敵として予定されていた【グロースター】の対抗はやめた)。

しかし、正式量産している国が(予算が足りない為)少なく、60騎程しかまだ生産されていない。現在、訓練中。

 

【パンツァー・フンメル改】

解説

【パンツァー・フンメルⅡ】の武器腕を使用した改造機。火砲しかない【パンツァー・フンメル】とは違い、いろいろな装備により清軍を苦しめることを期待されている。更に背部武装をしている機体もいる。なおTV版の【パンツァー・フンメル】を初期型、〔亡国のアキト〕に出てくる【パンツァー・フンメル】後期型とする。

 

武器腕一覧(一部)

機関砲椀部:文字どおり機関砲の椀部。連射が効く上に総弾数も多く、大分使い勝手がいい。

改良型火砲椀部:総弾数と防御力を向上された椀部。外観モデルはAC4のバズーカ武器腕。

斬刀椀部:分厚い鉄塊の鉈を取り付けたネタ武器。重量と勢いで敵を引き裂くのを目的としており、【パンツァー・フンメル】初の近接格闘壁でもある。

防楯椀部:分厚い楯状の腕。これで敵を殴る事も可能だが、基本的には見方を守るための腕。

スラッシュハーケン椀部:【ジーク・フリート】のように、スピア状のスラッシュハーケンを装備した機体。突いてよし、射出してよし。

ドリル椀部:工兵用の椀部。敵に使うな。ミンチになる。

 

背部武装

連装ミサイルランチャー:二発のみのミサイルだが、有線により誘導が可能。

四連装ミサイルランチャー:四発搭載のミサイル。先行入力をしておけば弾道を制御する事も可能だが、基本的に打ちっぱなし。

六連装ロケットランチャー:再装填機能付きのロケットランチャー。総弾数12発だが、斉射しかできない為二回攻撃しかできない。

単装機関砲:機関砲椀部と同じ機関砲。総弾数は下がっているが、使い勝手がいいのは変わらない。

ガトリング砲:さらに大型の弾丸を発射する機関砲。総弾数は少ないが、掠っても相当な被害が出る。ばら撒き専用。

スラッシュハーケン:何回も使える武器と言うコンセプトの武器。貫いて使うもよし、引き寄せるために使うもよし。

投擲砲:山なりの弾道をえがく砲。歩兵が使う投擲砲を改良したもので対歩兵専用。そこそこの弾数があり、地形によっては脅威。

無反動砲:バズーカを背負い式にした武器。これといった特徴は無い。

スナイパーキャノン:レールガン機構を持った“貫く”武装。射程・弾速ともに最高だが、総弾数が10発しかないうえに、折りたためない。通称名「物干し竿」

 

【ボーイ】

解説

外観はACNXに出てきた初期機体(各部位の大きさはKMF4に準ずる)に似せた【コピー・グラスゴー】。外装だけこうしたのは国際批判を避けるためだが、見る人にはどう見ても【グラスゴー】にしか見えない。能力も【グラスゴー】と代わり映えが無く、突出したものはない。しいて言えば、脱出機構の噴射孔を守るための装甲があり、噴射炎を下に逃がす措置が取られているくらい。名前の由来はAC3の【アップル・ボーイ】から。

 

211 :影響を受ける人:2013/03/08(金) 22:11:14

以上です。内容に、幾人かの作者の影響が入っています。

もし「これはだめでしょう」と思われたなら削除依頼を出します。

最終更新:2013年09月20日 15:12



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シーランド王国防衛用KGF計画『アイランド・ガーディアン・プラン』

 

シーランド王国防衛用KGF計画『アイランド・ガーディアン・プラン』

設定:休日世界 モニカルート

 

 

この計画は、EUの戦力見積もりがKMF及びMTF配備により変わってしまい。

さらに清によるロシア方面侵攻により、政情が変化して予断を許さない状況により計画が持ち上がった。

計画自体は清による侵攻が冬将軍により頓挫する前に企画され、勝つにしろ負けるにしろ製造されることが決まっていた。

コンセプトは『艦隊を撃退できるほどの火力・短期間でも艦隊相手に耐久できる・救援まで守護できる』であった。

その為『一回動ければいい・予算度外視・運用に関しては二の次』という、軍事的予算的にありえないぐらいぶっ飛んだものだった。

そんな開発で生まれた超弩級のKGF【シャンブロ】が誕生したわけだが、その他にももちろんある。

今回はそれを一部紹介しよう。

 

 

KGF【ノイエジール】

分類:拠点防衛型KGF 外見モデル:ガンダムのノイエジール

型式番号:AMA-002 所属:シーランド王国

建造:聖ブリタニア帝国・大日本帝国・ユーロブリタニア

生産形態:特殊機

推進機関:フロートユニット 高圧縮水流ジェットエンジン

武装:頭部装備:ガトリング砲×2

   胸部:荷電粒子砲×1 ハドロン砲×4 魚雷×4(総弾数16)

   椀部:スラッシュハーケン×4(肩アーマー内にある隠し腕風椀部×4) 大型クロー×2(内臓式コイルガン×2) 拡散構造相転移砲×2

   後部:ミサイルランチャー×8(総弾数24) コイルガン×4

特殊装備:ブレイズルミナス発生装置

搭乗者:二名

 

没になった理由は、水中・空中共にあまり速力が出なかったのと。

空中に出ると良い的にしかならなかった事だ。

その他にも動力を二基備えるには、少々細身過ぎたのもあった。

 

KGF【グレート・ジオング】

分類:拠点防衛型KGF 外見モデル: SDガンダムGジェネレーションスピリッツのグレート・ジオング

型式番号:MSN-03-2 msn032.jpg 所属:シーランド王国

建造:聖ブリタニア帝国・大日本帝国・ユーロブリタニア

生産形態:特殊機

推進機関:フロートユニット 電力駆動プラズマ推進モーター ランドスピナー×6 

武装:頭部装備:四連装ハドロン砲

   胸部:ガトリング砲×2 ハドロン砲×2 荷電粒子砲×1

   椀部:ハドロン砲×4 大型クロー×2 コイルガン×4(右腕に二門、左腕に二門) 拡散構造相転移砲×2

   後部:ミサイルランチャー×8(総弾数24) 折り畳み式レールガン×2

特殊装備:ブレイズルミナス発生装置

搭乗者:二名

 

元ネタにあった機体の様に分離はしないが、地上で活動させるにはあまりにも大きすぎる上に、シーランドの特殊な戦場においては足手まといにしかならない事が判明。

さらに飛行速度が鈍足で、地上走行は推進機関全て使って、ようやく通常のKMFと同じ速力が出せた。

 

KGF【ラフレシア】

分類:拠点防衛型KGF 外見モデル: ガンダムF91のラフレシア。

型式番号:XMA-01 所属:シーランド王国

建造:聖ブリタニア帝国・大日本帝国・ユーロブリタニア

生産形態:特殊機

推進機関:フロートユニット 高圧縮水流ジェットエンジン

外部武装:連装ハドロン砲×2 可動式ガトリング砲×2 コイルガン×4 拡散構造相転移砲×1 ミサイルランチャー×4(総弾数12)

本体武装:荷電粒子砲×1 ハドロン砲×8 魚雷発射管×8(総弾数24発)

特殊装備:ブレイズルミナス発生装置 テンタクル・スライサー×40(バインダーに×8本)

搭乗者:三名

 

主に水中を戦場とする事をメインに考えられたが、水中の移動速度が【シャンブロ】よりも遅い為、反対側に敵が現れるとどうしようも出来なくなる。

更に搭乗者は三名と多く、元ネタの機体とは違い操縦席が内側に作られており、構造上脱出装置が設けられなかった(元ネタの操縦席は荷電粒子砲になっている)。

 

以上の機体以外にも候補はあげられていたが、経常的に【ヴァル・ヴァロ】に近かった【シャンブロ】を採用するに至った。

【シャンブロ】は基本的にブリタニア本国で製造され、国家と企業間に垣根を越えて制作された。

世界でただ一つの・・・ロマンが詰まった超兵器として誕生する。

KGF開発は下火になっていくが、この【シャンブロ】だけはいつまでも世界に名前をとどろかせることになった。

 





541 :影響を受ける人:2013/12/21(土) 22:17:59
以上ですね。
急いで書いたから、かなり荒い。
最終更新:2014年02月22日 16:04


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日本のKMF開発

553 :日本のKMF開発:2013/02/16(土) 22:38:44
日本のKMF開発
設定
休日世界使用
ユフィ・モニカ両ルート共通話
色々クロスしています。



 

 

 

 

ギアス世界の日本に生まれた憂鬱メンバーは、現状の把握とともに前世界においての仲間を纏める事に奔走した(同時に前世界での不穏分子の排除・拘束も行った)。

その時に転生者ではなかったメンバーが転生していることに気が付いた(山本や村中の事)。

どうやら前世界において夢幻会に所属する事になった、夢幻会に関わるようになった改変世界メンバーが転生しているようだ。

そしてギアス世界の知識があるメンバーが、夢幻会メンバー全員にこの世界の説明をして対策に乗り出すことになった。

以前の世界より資金に余裕があるので通常戦力の充実はすぐにできる。

問題はこの世界特有の戦力・・・“KMF”だった。

なにしろ人型兵器なんて作ったことなどない。いくらチートメンバーがそろっている倉崎でも制作は困難を極めた。

しかし、世界情勢が明るみになるにつれ、KMF問題はその緊急性を低くしていった。

 

“綺麗な神聖ブリタニア帝国と皇帝シャルル”

 

この事実がわかると開発スピードは落ちていった。

が、黙っていられないのはロボット大好きチーム(KMF開発において頑張っていたヲタク共)だ。

折角人型ロボットが存在できる世界、前の世界ではアニメーションの世界でしか出せなかった。

しかしこの世界では違う。ヲタク共は萌え・・・燃えた。

暴走しそうだった彼らを止めたのは、もちろん大蔵省の大魔王辻正信である。

まず彼は消去法でスーパーロボット関連を全面的に却下した。

「アイディアはいいです。しかし無茶はさせられません。乗せる兵士を育成するのも只ではないのですよ」

頷く陸軍と海軍。

陸軍としては一人で運用できる兵器としてほしかったし(予算が少ないので)、海軍としても上陸作戦時の戦力や工作機としてほしかった。

だが無茶はさせられない、彼らは本当の戦争を経験し、最前線の兵士達の気持ちもわかるのだ。

残ったリアルロボットチームもそれぞれチーム毎に分かれ、制作と検討に入った。

 

554 :日本のKMF開発:2013/02/16(土) 22:39:16

しばらくして機体制作がそれぞれ軌道に入り始めた時、辻正信は外務省と共同でブリタニアと交渉し、なんと【グラスゴー】を8機購入したのだ(すでに配備がある程度済んでいて、サザーランドを制作中だった)。

原型となる機体が手元にあるなら話は早い、とばかりに4機が解体分析され、残りの4機は教導隊に送られてマニュアル作成に着手した。

日本流の改良がくわえられた【グラスゴー】・・・【無頼】は、わずか半年で倉崎から準生産ながら部隊に配備され始めた。

そしてサザーランドが生産された始めた頃に日本純製KMF【105型・ダガー】と【ストライク・ダガー】が生産される事が決定された。

名前が洋風なのは「最初にKMFを制作したブリタニアに配慮した」との事だったが、ただ単に外見モデルが【ストライク・ダガー】だったからだ。

この機体が決まるまで、激しいぶつかり合いがもちろんあった。

当初はナデシコチームの押す【エステバリス】が有力だったが、キャタピラの寿命が短いのと、道路を傷つけやすいので却下された。

次に上がったのはガンダムチームだ。彼らは二種類に分かれていた。

ファーストガンダムチームは【ジム】と【ザク】を、もひとつのSEED・OOガンダムチームは【ストライク・ダガー】を押した。

激論は三日三晩続き、最終的に辻の判断で【ストライク・ダガー】に決まった。理由は「ザクは配線が外に出ていますし曲線が多すぎです。ジムは・・・なんか噛ませ馬になりそうです」との事だった(水陸両用機にズゴック系が有力視されていたのもあるだろう)。

こうして【ストライク・ダガー】は生産されることになり、【無頼】は配備わずかな期間で初等練習機になった。

【ストライク・ダガー】はSEEDでもあった発展性と拡張性を見せた。

【ストライク・ダガー】から【デュエル・ダガー】に、【デュエル・ダガー】から【ロング・ダガー】になった。

他にも砲戦使用・格闘戦使用・隠密使用など、使い勝手がいい機体になっていた。もしかしたらリアルロボット路線にしたことで、因果関係が流れ込んだのかもしれない。

扱い安い機体は試乗したブリタニア兵にも好評で、KMFベストセラーに載るほどだった。

ダガーシリーズが注目されるその陰で、割に食った企業もある。スメラギコンツェルンである。

彼らも独自にKMF制作をしていたが、開発に乗り遅れた上に二回目のコンペで自信を持って送り出した【紅蓮・零式】が【ロング・ダガー】に敗北してしまった。

その所為で彼らは一時的にKMF関連を諦め掛けたが、【無頼】とダガーシリーズの部品製造で何とかKMF関連にしがみ付くことになる。

それからしばらくして、ハイである【ウィンダム】と、ローの【スローター・ダガー】が正式採用される前に事件は起きた。

SEEDチームとOOチームが喧嘩別れをして離反、OOチームはなんとスメラギコンツェルンに合流して支援機として外装モデル【GN-005 ガンダムヴァーチェ】

を基本とした砲撃専用KMF【ヴァーチェ】を開発、発表した(事の発端はいつまでたってもOOのモデル機体を制作しなかったから)。

これ以降、倉崎所属ファースト・SEEDチームと、スメラギコンツェルン所属OO・AGEチームとの激しい闘争が開始されることになる。

最終更新:2013年02月24日 21:23



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日本の航空戦闘艦開発

37 :日本の航空戦闘艦開発:2013/03/02(土) 16:51:32
日本の航空戦闘艦開発。
設定
休日世界使用
色々クロスしています。

38 :日本の航空戦闘艦開発:2013/03/02(土) 16:52:07


 

ギアス世界に来てKMFを開発した日本は、次に空を目指した。

無論、技術者たちと一部の軍人等(ヲタク共)の暴走が起こるのは明白だ。

もちろん歯止めを掛けたのは大魔王辻正信である(本人いわく「この世界来てからどうもストッパー役になっている気がする」との事)。

まず最初に話し合いが行われたのは、軍部からだった。

陸軍、海軍、空軍の重鎮(夢幻会所属)が集まって話し合いを開始したが・・・どこも押し付け合いばかり。

 

陸「空を飛ぶのなんてうちの所属じゃないよ。いまはKMFを揃えるので精一杯(泣」

海「うちは大型艦があるから大丈夫とか言うなよ?メンテナンスとか大変なんだ。これ以上増やせないよ(辻さん怖いし)」

空「うちも機体だけ渡されても・・・陸軍との共同運用がメインだろうけど、新型戦闘機に誘導兵器を作れば、正直いっていらない気がする(一部の本音)」

 

とまぁこんな感じであったが、結局ゴリ押しにより空軍所属が決定して、さっそく実験艦が制作されることになった。

この決定に再び暴走があるかと思われたが、意外なことに何事もなくどこが作るか決定した。

既に初代ガンダムチームが提示していたものがあり、前回一致で決定したのだ。

他チームが「大物が作りたいから最初は譲る」つもりだったのと、初代ガンダムチームが色々欲張って設計していた為、どれも中途半端なものがあった為にKMF採用に落ちたのが効いて「せめてこれだけでも」と主張したのもある(ズゴックが採用されそうなのは嬉しいらしいが)。

KMF開発時からいろいろな方面に手を出していた初代ガンダムチームは、さっそく実験艦製造に着手すると共に、全チームの航空戦闘艦艇開発班と合同でフロートシステムと、電力駆動プラズマ推力機関の開発に乗り出した。

この二つの技術が無ければ、航空戦闘艦など夢に終わる(特許もうまいし)。

フロートシステムは技術交流していた為か、バタフライ効果によりロイド・アスプルンド伯爵が先に開発し、電力駆動プラズマ推力機関の開発の方は日本が特許を取得できた。

そして二つの技術が合わさり、実験飛行艦艇【コロンブス】が完成した。

 

実験飛行艦艇【コロンブス】 外装モデル:1stガンダムのコロンブス 全長:35m 全幅:20m 乗員:2~3名

 

外観こそガンダムに出てきたコロンブスだったが、コクピットは突き出した艦橋の所全部が使われていて頑強に作ってある。両側の部分は殆どが観測装置で埋められ、まさしく実験艦だった。

飛行システムが一応人に影響がないかは証明されており、関係者を呼んでの初実験となった。

出だしは順調、ふわりと浮き上がりその場にいた全員が喜んだ「これで開発に弾みが出る」と・・・しかし前に進み始めると妙にフラフラし始めるのに気が付いた。

慌ててテストパイロットに聞いてみると、どうも機構自体は正常なのだがなかなか安定しないのだという。

「なんだか抵抗のない水中を進んでいるみたいだ」との不安な発言に、安全性を優先した研究班は直ちに中止を呼びかけ旋回して戻ってくるように指示した。

開発は遅れるかもしれないが仕方がない、原因を野放しで採用なんかあり得ないからだ。

パイロットから了解の返事が返ってきて、安心したときに事件は起きた。

旋回するために機体をやや傾けた【コロンブス】は・・・曲がらなかった。

いや、曲りはした。ただそれは電力駆動プラズマ推力機関の出力調整で、かなりの大回りでドリフトするように、である。はっきり言って、海に浮かぶ船の旋回よりもすさまじく大きくなるのは見た目でわかった。

 

39 :日本の航空戦闘艦開発:2013/03/02(土) 16:52:44

じれったくなったのか、パイロットは電力駆動プラズマ推力機関の出力を調節してかなり強引に曲がろうとした。その瞬間【コロンブス】は勢いよく回り始めた。

ドリフトするように、空中を勢いよく回りながら滑っていく様子が見物していた窓からよく見え、関係者は慌てふためいた。

パイロットは慌てて体勢を立て直そうとしたのだろう、しかし慣れない操作のせいで旋回は止まらない。

ここに至ってテストパイロットは脱出を決意し、パイロットが脱出した無人の【コロンブス】は回転しながら滑るように移動して、近くの格納庫の屋根に衝突して止った。

格納庫には幸いにして人はおらず、パイロットにも怪我一つなかった為関係者はホッとした。

原因究明はすぐさま行われた。

そして意外なことにその原因はすぐに判明した。

今回フロートシステムは“浮く”為に使われ、“電力駆動プラズマ推力機関”は進むために使われた。

問題があったのは “曲がろうとした”事であると結論付けられた。

確かにフロートシステムは“浮く”と“進む”、“電力駆動プラズマ推力機関”は“進む”ができる。だがパイロットが言っていた「抵抗のない水中を進んでいる」と言っていたように、抵抗が圧倒的に少ない空中において推進能力のみだった【コロンブス】はいわば、安定板のないロケット弾のようなものだったのだ(それでも地面から一定の高さに浮いていられる分、まだましなのだが)。またフロートシステムだけでは旋回させようにも、反重力作用が旋回させるには向かないのもあった。

これによりわかったことは「飛行中の安定性と、旋回能力を確保するためにも翼は必須」であった。

船体後部に安定のための尾翼を取り付けると、【コロンブス】は安定して進み、旋回自体も容易にこなせるようになった。

この結果に、【ナデシコ】を作ろうと思っていたエステバリス・チームを含めた数チームが脱落。

有力候補は“マクロスチーム”“初代ガンダムチーム”“エウレカチーム”“エスコンチーム”の四チームだ。ちなみにSEEDチームがいないのはKMFの更新設計を大忙しでしている為なのと、KGF関連での設計をしている為に参加できないからだ(原作で飛行している艦艇が少ないのも理由)。

睨み合いを始めた四チームに対し、空軍は暴走を抑えるべく条件を述べて吟味してもらうことにした。

 

条件1:砲塔搭載可能で、戦闘機も着艦できる実験艦を一隻か二隻作る事。

条件2:本採用の戦艦型はガンシップ運用と強襲空挺作戦もできる強襲機が望ましい。

条件3:本採用の空母型には戦闘機も搭載できる事。

条件4:空母型を護衛できる護衛型もあるといいな(望みとしては戦艦型が守る)

条件5:それほど多く作るつもりはありませんのであしからず。

 

この条件に純粋なマゼランを作りたかった初代ガンダムチームはガックリと肩を落とし、マクロスチーム(ウラガ級護衛宇宙空母は大きすぎると思い断念)とエスコンチームは合同で設計を開始し、エウレカチームはどれがいいか吟味し始めた。

とりあえず初代ガンダムチームは大型試作艦(弱・中武装)としてマゼランを作ることを決定。

 

大型試作艦・戦艦型【マゼラン】 外装モデル:1stガンダムのマゼラン改

武装:主砲・連装レールガン×2 副砲・連装コイルガン×5 単装機銃×10

 

40 :日本の航空戦闘艦開発:2013/03/02(土) 16:53:21

マクロス・エスコン合同チームは空母型と護衛型を狙って制作に入った。

 

大型試作艦・空母兼護衛型【ギュゲス】 外装モデル:エースコンバット6のP-1114 ギュゲス (P-1114 Gyges)

武装:連装コイルガン×18 ミサイルランチャー×6 搭載機:VTOL×6(又はKMF×8)

 

それぞれ元の大きさから比べるとかなり小さく作られているが、その建造予算に空軍は目を剥いて大魔王の方を向いた。大魔王の額には青い筋があった。

一応目的は、主砲のレールガンは主に底部でもちゃんと打てるか、副砲は上下左右前後に向けられるか、ミサイルの装填が可能か、効率的な機銃の配置はどうか、VTOLとはいえ、ちゃんと発艦・着艦・整備・弾薬詰め込みが出来るか。KMFに代わってもすぐに対応できるか等々・・・いくらでも試験項目はあるので忙しい日々が来た。

ついでに、ブリタニアでも試験艦として【アヴァロン】が建造されたという情報が入った(こちらは初めから翼付き)。

これは急がねば!夢を実現できるだけの努力をしてきた研究者たちは不眠不休で実験を繰り返し、どの艦艇がいいか選別をし、武装を選んで行った。

度重なる実験により、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開され(予算確保に動き回る空軍が主)、そして・・・とうとう建造艦艇が決定し、製造されることになった。

結局その維持費に軍部は泣いた。まぁこれ以降製造が無いのが救いではあるが・・・(ついでにある程度陸軍海軍からも予算が入ってきた)。

この技術検証はKMF用フロートシステムに対し、大いに参考となりKMFでも容易に曲がれる装置の開発に目途が付いたのも朗報だった。

 

41 :日本の航空戦闘艦開発:2013/03/02(土) 16:53:52

正式採用艦

 

強襲支援航空戦闘艦艇一番艦【ムーンライト】 外装モデル:エウレカの【月光号】

武装:単装レールガン×4 ミサイルランチャー×6 連装対空コイルガン×12 搭載機:KMF×8

同型艦:二番艦【サンフラワー】三番艦【スターチェリー】建造予定 四番艦【スカイガンナー】建造予定

解説

建造された航空艦の中で、最速の速度を持つ戦闘艦。敵地に拘束侵入し降下空挺部隊を支援するのが目的。その為KMFはあまり搭載せず、主砲のレールガンで対地攻撃するガンシップ的な役割が主である。のちにブレイズルミナスを装備して艦底部からの攻撃と後部からの攻撃に対処できるようになる(全艦艇装備)。

KMFは機首の根本下部から発進回収が可能。主砲は前方真ん中寄りに2門、その後方な斜めに2門設置されている。

当初の予定では戦艦型になる予定だったが、今現在の技術と戦術において意味が無いとの結論により流れた。

 

強襲突撃装甲輸送艦艇一番艦【アンティータム】 外装モデル:1stガンダムのアンティータム級補助空母 

武装:連装対空コイルガン×10 搭載機:KMF×26(無理をすれば+4搭載可能)

同型艦:二番艦【スリガナル】三番艦【エリクソン】建造予定 四番艦【バレンタイン】建造予定

解説

実験艦【コロンブス】の頑強な構造を流用した艦体で、建造された艦艇の中でも引かく的安い(あくまでも比べてみてである)。

強襲支援航空戦闘艦艇【ムーンライト】共に敵地に突撃して、敵基地に強襲着陸して味方を放り出して壁になのが役目。その為装甲を重視してあり、搭載機数は予定の数よりも少なくなったが、あまり気にしていない。

 

航空管制兼空母型航空艦艇一番艦【アイガイオン】 外装モデル:エースコンバット6のP-1112 アイガイオン (P-1112 Aigaion)

武装:連装コイルガン×24 大型ミサイルランチャー×6 小型ミサイルランチャー×10 単装砲×8 搭載機:戦闘機×24(又はKMF×42) 

同型艦:二番艦【アガシオン】建造予定

解説

前線に張り付いて航空機を収容して再び送り出す航空空母艦。どちらかと言うと中継ポイント的な役割を担っており、搭載機はあくまでも予備機か自分の護衛機であるため、定数である24の半分しか搭載しいていない。敵に見つかったらひたすら逃げるので緊急加速装置もある(焼け石に水程度だけど)。

原作と違い、陸上にも着陸できるのが最大の特徴だろう。建造にかかった値段も一番である。

 

護衛型航空艦艇一番艦【リオレイア】 外装モデル:エースコンバット6のP-1114 ギュゲス (P-1114 Gyges)

武装:連装コイルガン×18 ミサイルランチャー×12 搭載機:VTOL×4(又はKMF×6)

同型艦:二番艦【リオレウス】三番艦【ギュゲス】四番艦【ディアブロス】五番艦【グラビモス】建造予定 六番艦【ベリオロス】建造予定

【アイガイオン】を守るための護衛艦。原作同様守るのが任務だが、やっぱり見つかったら共に逃げる。

ただ違うのが【アンティータム】【ムーンライト】と行動を、共に行動をすることがある(ミサイルによる支援)。

実験艦【ギュゲス】からデザインを流用しているので、比較的よく知られた航空艦艇でもある。

 

42 :日本の航空戦闘艦開発:2013/03/02(土) 16:54:24

おまけ

 

試作実験艦

 

実験飛行艦艇【コロンブス】 外装モデル:1stガンダムのコロンブス 全長:35m 全幅:20m 乗員:2~3名

解説

外観こそガンダムに出てきた【コロンブス】だったが、コクピットは突き出した艦橋の所全部が使われていて頑強に作ってある。両側の部分は殆どが観測装置で埋められ、まさしく実験艦。のちに翼が付けられ「こんなのコロンブスじゃない」と初代ガンダムチームが嘆いていた。

 

大型試作艦・戦艦型【マゼラン】 外装モデル:1stガンダムのマゼラン改

武装:主砲・連装レールガン×2 副砲・連装コイルガン×5 単装機銃×10 

解説

外観こそ【マゼラン】だが艦橋は大きめで、横にある艦橋ぽいモノは巨大な翼に代わっている。主に武装面の実験艦で、艦底部に大砲を装備させるのに苦労した。

装備した後も、圧力により砲身が異常が出ないかなどの調査が必要で、連装砲がうまくいかなかったせいで【ムーンライト】は三連装砲を諦めて単装砲に変更された(戦艦型が建造中止になった理由の一つ)。これ以降も様々な実験に貢献することになる。

 

大型試作艦・空母兼護衛型【ギュゲス】 外装モデル:エースコンバット6のP-1114 ギュゲス (P-1114 Gyges)

武装:連装コイルガン×8 ミサイルランチャー×4 搭載機:VTOL×6(又はKMF×8)

解説

原作とは違い中央部にVTOLが着艦できる部分が作られ、微妙に【アイガイオン】に似ている。こちらは機体搭載によるバランスなどの実験模索が主。

高速飛行と安定性もこの実験艦で調査された。その気になれば海上にも着水できる優秀機として知られるようになる。

 

御召艦【斑鳩】 外装モデル:コードギアスの斑鳩

武装:単装コイルガン×8 KMF×4

解説

ブリタニアに対抗して作った皇族の御召艦。居住性を重視し原作よりも快適な空の旅が可能。一応武装もあるが威嚇用と割り切ってある。

基本的にブレイズルミナスの重防御使用のうえ、高速飛行が可能になっている。

皇族の公式訪問に使用される。艦首には菊の御紋がある。

最終更新:2013年03月07日 21:45



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日本の特殊KMF及びKGF開発 海洋編

632 :日本の特殊KMF及びKGF開発 海洋編:2013/03/17(日) 22:13:26


 

 

日本の特殊KMF及びKGF開発 海洋編

 

 

日本は海洋国家である。よって軍備において海軍も無視できない。

KMF開発時に海軍からの要請により、KMF開発に地上用とは別に海専用の開発を命じられた。が、当初開発陣は難色を示した。

と言うのも、ロボットネタに海洋物が少ないのが原因だ。

それでも候補に挙がったのが初代ガンダムチームとSEEDチームの他にゾイドチーム・マイナーロボチームが出てきたが、どうもパッとしない。

ただ単にネタが少ないのが原因なのだが・・・、「それでも作れるならば」と奮起する事にした。

製作に伴い、海軍は以下の注文をしてきた。

 

主に上陸作戦・特殊工作作戦での使用を考慮。陸上でも使用可能。

できうるならば追尾魚雷等の無効化が望ましい。

脱出機構付きが絶対条件。

 

この注文に対し、「そんな無茶な・・・」と言う泣き言を言いそうになった開発チーム(ヲタク共の暴走を抑制するためのだが)は、まずは試作機から制作する事になった。この時、ガンダムチームが主導を取る事になった。

 

使用するのは【105型・ダガー】であった。ダガーシリーズ・・・通称ダガー・プロジェクトの中には水中対応機も含まれていた為、割とすんなり設計は進んだ。

最初はただ単に防水処理を施し、水中用のスラスターを取り付けて行動させてみる。が、水の激しい抵抗によりどうもうまく動作しないし、スピードも思ったほど出せない(この時制作された防水仕様のダガーは、少数ながら生産が決定する)。

更に、ある程度の対水圧も考慮に入れると角張っている形はやはり望ましくないとの結論に、ダガー・プロジェクトのメンバーはガックリと肩を落とした。スピードもある程度必要なので、結果的に丸みを帯びた機体に変更された。

 

水中用試験型KMF:【ゴッグ】

分類:試作KMF 所属:日本帝国海軍海洋兵器研究所 外見モデル・初代ガンダムのゴッグ

製造:倉崎重工 生産形態:試作機 生産数:3騎

全高5.23m全備重量7.48t

推進機関:ランドスピナー 水中用推進器

武装:スラッシュハーケン×2 合金製クロー

乗員人数:1人

 

633 :日本の特殊KMF及びKGF開発 海洋編:2013/03/17(日) 22:13:58

 

史実の【ゴッグ】との違いは伸縮しない腕、メガ粒子砲の飛び道具が無い、装甲が薄いなどがあげられる。しかしKMF初の“モノアイ”が搭載されたこの機体は、開発陣(主にジオン系列)の涙を誘った。

あくまで水中における動作確認と、必要武装の見極めるための機体である。なお、水中武装に手持ち武器の搭載は見送られた。水中で銃を打つのは大変難しく、この世界は電気式なのでより大変だったのだ。

それでも開発は進み、特徴的な合金製クローも改良が進んだ。

蛇腹腕の抗論、コクピットと水中用推進器の配置、現代技術にもあった鮫肌を流用した特殊塗装、ランドスピナーの位置等々・・・

思考錯誤の末、ようやく初号機が誕生した。

 

水中用試験型KMF:【ズゴック】

分類:第四世代KMF 所属:日本帝国海軍海洋兵器研究所 外見モデル・初代ガンダムのズゴッグ

製造:倉崎重工 生産形態:量産機

全高:4.89m 全備重量:6.23t

推進機関:ランドスピナー 水中用推進器

武装:スラッシュハーケン×2 合金製クロー 小型魚雷×6(総弾数18) コイルガン×2(椀部固定)

乗員人数:1人

 

【ズゴック】の特徴は、水中を移動する際にコクピットが水平方向に稼働し水中抵抗を可能な限り下げる工夫と、ランドスピナーが脹脛に完全格納されていて、地上移動時に引き出すように現れるようになっているうえに、丸い足裏にもタイヤが付いている。スラッシュハーケンは肩の装甲がスライドして隠せるようになっている。【ゴッグ】から継承された“モノアイ”も健在である。

注意点として合金製クローは確かに“引き裂く”事はできるが、“貫く”事は出来ない(爪は三本で、挟み込むように握る事が可能)。また、前面に向けられる武装がコイルガンとスラッシュハーケンしかない。【ズゴック】のコイルガンは、開発陣の努力により水中でも撃てるが、射程が5~6メートルと短いため対艦兵装としては頭部装備の小型魚雷が主力となる。

さっそく海軍は採用したが、【ズゴック】のコクピットは対水圧使用の特別なモノの為、予算がかかるのが難点だった。それでも揚陸不可能のようなところからの上陸し、奇襲などに貢献できるとして必要経費と割り切られた。のちに後継機として【ズゴック・E】が制作されることになる。

そして機体は日本のみならず新国家『シーランド王国』にも供与が決定された。

『シーランド王国』設立の経緯は様々な思惑により、その存在が大きくなり。ただの掘立小屋の海洋国家ではなくなりつつあった。

その防衛に当時最高峰の【グロースター】【ロング・ダガー】(両機とも背中に大型ファンを取り付けて、海上を滑走するタイプ)と海洋兵装として【ズゴック】【ポートマン】が贈られた。

海賊(過激な民主主義者の襲撃)の撃退に【ズゴック】【ポートマン】は活躍したが、意外な天敵は駆逐艦よりも小さな対潜兵器を搭載した船舶だった。

高速ボートによる遠距離戦・一撃離脱戦法で、【ズゴック】の速力不足の不利が目立つようになった。

だが【ズゴック】の後継機はすでに決定していて、水中速力の上昇はすぐには無理だった。

この報告を受けて日本の開発陣は、【ズゴック】は対高速艦攻撃に向かないとして、対高速艦を想定したKGFの開発にGOサインが押された。

が、KGFチームに集まったチームは、当初のような協力的な雰囲気はなく、むしろ敵対的だった。

原因はゾイドチームとモビルアーマー愛好チーム(以降MALチームと呼称)との対立だった。

ゾイドチームの言い訳は「もうKMFでMSモドキ作っているんだから、こっちに仕事を回せアホ介!」

MALチームの言い訳は「人型はそうかもしれんが、あの特殊で独特な形状の機体が作りたいんじゃボケ!!」

と言う子供の様な応酬があった。

しかし、現実問題として現代科学の粋を集めた兵器の一つである対潜魚雷などの対潜兵器の対策は、必須だった。

まずはオーソドックスに電波攪乱と、デコイで対抗することを考えた。

これは防御回避対策としてはよく知られている方法なので問題はない、次の問題は攻撃方法だ。

魚雷で攻撃するのは双方一致したが、残りの攻撃方法はどうするかでまた論争が起きた。

が「そんなに議論するならば、それぞれ作ってみるといい」と言う海軍の太っ腹発言に、両チームは競うように試作機の製造に入った。

 

634 :日本の特殊KMF及びKGF開発 海洋編:2013/03/17(日) 22:14:33

 

水中用試験型KGF:【シンカー】

分類:試作KGF 所属:日本帝国海軍海洋兵器研究所 外見モデル・ゾイドのシンカー

製造:倉崎重工 生産形態:試作機

推進機関:水中用推進器×1基

全長:10.8m  全高:3.0m 最高速度:19ノット(非武装状態)

武装:スラッシュハーケン×2 小型魚雷×2(総弾数8)魚雷×4(もしくは大型魚雷×2)

乗員人数:1人

 

水中用試験型KGF:【グラブロ】

分類:試作KGF 所属:日本帝国海軍海洋兵器研究所 外見モデル・初代ガンダムのグラブロ

製造:倉崎重工 生産形態:試作機

推進機関:高圧縮水流ジェットエンジン×4基

乗員人数:1人

全長:37m 全高:24m 最高速度:15ノット(非武装状態)

武装:三連装噴進魚雷発射管×2(総弾数18) 対空ミサイルランチャー×2(総弾数6)合金製クロー

 

それぞれの技術者たちは、機体の満足な出来に喜んだ。

【シンカー】はKGFの分類ではかなり小型であり、小回りが利いて量産性もある程度考慮出来た。ただ重防御とは言い難く、出撃できる艦艇を選んだ。原作では水中翼の羽は折りたためたが、こちらは素材の強度不足によりできないのが難点だ。また航続距離も短く、使いどころに悩む。

【グラブロ】はKGFらしい大きさであり、装甲面も満足できた。しかし巨体の割には武装が少なく、合金製クローも水中で展開するとすさまじい抵抗にあい、速度が著しく落ちた。新設計の高圧縮水流エンジンもまだ信頼性が高くない為、整備泣かせの機体になりそうだった。

どちらも試作機だから仕方がなかったが、この二つの機体を見た海軍はどちらも渋った。

「なんで!」と聞いてみると、「魚雷対策は良いのだが、対高速艦対策はどうした?もっと水中速力を増やしてほしい」と言う無茶ぶりを言われた。

愕然呆然としたが、気を取り直した彼らは新設計に入った。

とりあえず試作機が2騎あるので、試験するには問題がない。小型と大型の双方で再び研究が始まったが、問題はすぐには解決しなかった。

だがどうしても速力上昇がうまくいかない。

あらゆる方法を考慮し、試したのだが20ノットから上に行かない。

一応気泡で機体を包み、水中抵抗を減らすことも考えたが・・・武装が限定されてうまくいかない。何よりも巨体のせいで水中推進が難しくなるのだ。視認されやすいというのも問題である。

そんな時、航空艦艇で“電力駆動プラズマ推力機関”が開発され、副産物である“電磁装甲” が出てきて開発陣の一人が「電磁装甲で水が弾けないか?」といった。

すぐさま両チームはいがみ合いをやめて共同で開発に乗り出し、機体余裕のない【シンカー】をやめ【グラブロ】に変更して試験を開始。

それにより“電磁界装甲”が完成した。そして日本初KGFも完成した。

 

水中用KGF:【ヴァル・ヴァロ:VAL-WALO】

分類:水中用 KGF 所属:日本帝国海軍 シーランド王国 外見モデル・OVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』のヴァル・ヴァロ

製造:倉崎重工 生産形態:限定生産機

推進機関:高圧縮水流ジェットエンジン×3基

乗員人数:1人

全高:21m 全長:67.5m

武装:スラッシュハーケン×4 大型合金製クローアーム 魚雷×4(総弾数12) ハドロン砲×3(機体機首と椀部固定)対空ミサイル×2(総弾数6) モーターガトリングガン×2

特殊兵装:電磁界装甲 緊急脱出用KMF【ゼーゴック】

 

この機体は完全な流線型であり、原作の機体には無い水中翼がある。またリーダ部分が、緊急脱出用KMF【ゼーゴック】が格納されている部分に変わり、この機体の目玉である“電磁界装甲”は磁界により極限まで水中抵抗力の低下を成功させた。“電磁界装甲”はあくまで水中抵抗力を減らすためのもので、防御力を上げるものではない為、攻撃を耐えるのはあくまで装甲の厚さである。ステルス性もない。

しかし水中にいながら魚雷艇以上のスピードが手に入り(驚くべきことに、魚雷を後から追い抜いたという話もある)、尚且つ短時間程度ならば水中翼を使った水上飛行(水面効果による短時間飛行)が出来る。

高速移動している際に魚雷を放てる機構も装備してある。機首のハドロン砲は両側に開くのではなく、嘴のように開くよう改良されている。

この機体をシーランド王国が使用した際、単騎で旧型駆逐艦を含む艦艇7隻を撃沈するという戦果を挙げた(なおEUはこの事件の関与を否定している)。

欠点は巨体の為搭載する艦艇を選ぶことに加え、“電磁界装甲”のせいで活動時間が巨体の割には短いことである。

 

635 :日本の特殊KMF及びKGF開発 海洋編:2013/03/17(日) 22:15:05

 

おまけ

 

緊急脱出用KMF【ゼーゴック】

分類:水中用KMF 所属:日本帝国海軍 シーランド王国 外見モデル・初代ガンダムのズゴッグ

製造:倉崎重工 生産形態:限定生産機

全高:4.89m 全備重量:5.78t

推進機関:水中用推進器

武装:スラッシュハーケン×2 合金製クロー 小型魚雷×6(総弾数12) 

乗員人数:1人

解説:水中用KGF:【ヴァル・ヴァロ】に搭載された脱出用KMF。武装こそ一緒だが脚部が丸ごと推進装置に変わっている。

遁走用であり、武装も貧弱(椀部のコイルガンもオミットされている)であるため。戦うことは考慮されていない。しかし可能な限り長く活動できる工夫はされている。

 

636 :影響を受ける人:2013/03/17(日) 22:16:30

 

なんというか駆け足で制作してしまいました。とりあえず水中KMFがこれで出てきました。

そして出したかった【ヴァル・ヴァロ】・・・・・・とっても満足です。

しかしこの話、実は一回大がかりな改定が入っています。本文中にも出てきたシーランド王国です。この王国が出てきたので思い切って水中用KGFを出しました。

当初の予定では【ヴァル・ヴァロ】は試作機扱いで、空を飛んでいたのですよ(汗

このシーランド王国ですが、個人的に考えている裏設定があり。その為、日本とブリタニアは巨額の金を出して整備しているということにしています。

まぁ海洋研究のための拠点としての方が、このシーランド王国の本質になっていくことでしょう(裏では違うけれど・・・くくく)。

荒い仕上がりになりましたが、どうでしょうか?そして新技術“電磁界装甲”が出てきました。出してよかったかな?(汗

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MMDの「サイバーサンダーササビー」を見ていたから遅れたなんて言えない・・・

最終更新:2013年03月17日 22:34



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日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機

365 :日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機:2013/05/26(日) 12:28:24
日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機
設定:休日世界
ガンダムクロス有
捏造設定あり。
半島に出てきた機体の設定固めでもあります。

366 :日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機:2013/05/26(日) 12:28:55


 

ギアス世界にはロボットがある。

と、言うか作れる。

このことに気が付いた厨二病共は、こぞって科学者や設計者などの部門に情熱を向けた。この情熱をちゃんとしたことに向けられればいいのにby嶋田。

 

開発KMF『支援機』

 

国産KMF【ストライク・ダガー】和名:武刀【ブジン】(注:1)を作り出した後、ダガーシリーズはその後の日本を支える機体として有名になっていった。

この機体シリーズにはもちろん発生機が存在した。

世界初の支援専用KMF【バスター・ダガー】和名:撃頼【ゲキライ】(注:2)である。

開発経緯はむろん主力KMF【ダガー】支援ではあるが、当初は戦車や戦闘ヘリなどがこれを支援する事を考えていた。

だがKMFの進撃速度が戦車よりも高く、戦闘ヘリをずっと上空に張り付かせておくわけにもいかなかったために、開発がすすめられた。

ちなみに・・・支援機の案で【ガンキャノン】【ザメル】【アンフ】といったモデルが持ち上げられたが、辻の「今は発生型のKMFでしのぎます。専用的に作るのはまた今度で」一言で潰された。開発陣は魔王を呪った。

【バスター】は【ダガー】の部品を多用しているが、装甲強化・搭載量増加を重視して再設計されていた。

支援機として開発された機体で、小型ミサイルやロケットランチャーを最初からアタッチメント装備する事が可能になった初のKMFでもある。

また特徴として、大きくされたタイヤを装備したランドスピナーと、爪先の固定用クローがある。

支援機として優秀な成績を収め、バージョンアップする【ダガー】と共に【バスター】もバージョンアップしていき、搭載量も増加した。

だが」、その支援機の開発は本編同様、第六世代以降の開発に躓いてしまった。

KMFは倉崎が専門に生産開発していたが、一部のヲタク共が離反してスメラギコンツェルに亡命(?)し、倉崎が悪戦苦闘している間に重支援KMF【ヴァーチェ】和名:弁慶【ベンケイ】を制作して次期支援KMFとして採用されてしまうという事件が発生した。

【ヴァーチェ】が採用されてしまったコンペには、慌てた倉崎も支援KMFを出していた。

試作支援KMF【ヴェルデ・バスター】和名:撃針【ゲキシン】だったが、【バスター】の改良型に準ずる能力しかもっていなかった事と、【ヴァーチェ】が専用武装・連装ハドロン砲が他武装に換装できるなどの汎用性(注:3)を示したために、お蔵入りとなってしまった。

倉崎の開発陣はこの出来事に衝撃を受けて、【ダガー】からの発生機ではなく一から作り上げることになった。

KMF【カラミティ】和名:轟【トドロキ】(注:4)である。火力は申し分なく、胸部の荷電粒子砲(注:5)も特徴的な機体に仕上がった。

スメラギコンツェルが出す【セラヴィー】(注:6)と熾烈な争いをするようになる。

 

368 :日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機:2013/05/26(日) 12:29:26

開発KMF『可変機』

 

KMF【ダガー】の生産が落ち着いて、可能性を見出した時に当然のごとく提唱された分野である。

もっともマクロスチーム・Zガンダムチーム・ZZガンダムチームの面々は、一部の機体製作を模索したがKMFの高さ5~6mという小ささが仇となり、断念した。

気を取り直した開発チームは、まず課題を決めることにした。

まず言われたのは可変機構の単純さであった。

複雑に変形するマクロスはもちろん、Zガンダムのような物はさっさと切り捨てられた。

かわって可能そうだと言われたのが【メタス】【ギャプラン】【ハンブラビ】【メッサーラ】【ガザ・シリーズ】【ズサ】【ガ・ゾウム】【ジャムルフィン】等々・・・

出るは出るはで場の収集が付かなくなりそうだったので、まとめ役が「とりあえず全部設計してみて、強度計算をしてみよう」という事になった。

開発チームは勢い込んで設計に入ったものの、やっぱりKMFの大きさが原因となる弊害が発生した。

例を挙げるならば【メタス】は圧倒的に強度が足りなかった。簡略された機構は良かったが、各フレームの強度が足りないことが判明。地上戦で旋回すれば腰が分解する・・・とういうか地上に立てない。飛行させても急降下で分解する可能性があるとなっては、諦めざるをえなかった。

【ガ・ゾウム】と【ジャムルフィン】は良い所まではいったが、【ガ・ゾウム】は特徴的な足の機構のせいでランドスピナーが取り付けられないことが判明し、【ジャムルフィン】は足を翼のように展開した時に、もがれたらどうするのだ?というのと、前に突き出した腕がかなり不自由すると判明して断念した。

このように可変機は消去法のごとく、次々に設計段階で消されていった。

その中で生き残ったのは【ギャプラン】【ハンブラビ】【メッサーラ】【ウィング・G】【フラッグ・シリーズ】の五機種だ。

五機種ともまだ問題はあったが、解決策を出されては軍の方も頷かなければならなかった。

各チームは機体製作をすぐさま開始していきったのだが、可変KMFの運用方法を研究していた軍部からまったが掛けられた。

開発陣は文句を言いたかったが話を聞く事にし、話し合いの場に赴いた。

軍部からの話は開発陣にとって衝撃的であったが、同時に納得もしていた。

 

可変KMFは、どうあがいても純正の戦闘機にはかなわない。

 

このことには薄々気が付いていた。

外観モデルの元ネタの世界ならともかく、ギアス世界には“ミサイルを無効化する何らかの要因”なんてそんなものはない。だから大空はジェット戦闘機群の庭であり、可変KMFはその用途を制限されることになった。

対ジェット戦闘機戦でカモにされる射撃戦を行えないとなると、格闘戦を考えたほうがいい。

飛行能力は地上奇襲を行うためのもので、KMFでも越えられない地形をスルーするためのモノと割り切った。

となると射撃戦を想定していた【ギャプラン】【メッサーラ】は没となる。(注:7)

残った【ハンブラビ】【ウィング・G】【フラッグ・シリーズ】の三機種に力を注いで開発がすすめられた。(注:8)

 

370 :日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機:2013/05/26(日) 12:29:57

【ハンブラビ】和名:飛影【ヒエイ】

分類:試作KMF 所属:大日本帝国 外見モデル・Zガンダムのハンブラビ

製造:倉崎 生産形態:試作機

全高:6.1m 全備重量:8.9t

推進機関:ランドスピナー フロートシステム 電力駆動プラズマ推力機関

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタントンファー

装備武装:無し

乗員人数:1人

 

【ウィング・G】和名:鶯翼【オウヨク】

分類:試作KMF 所属:大日本帝国 外見モデル・ウィングガンダム(初期型)

製造:倉崎 生産形態:試作機

全高:5.4m 全備重量:7.1t

推進機関:ランドスピナー フロートシステム 電力駆動プラズマ推力機関

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタントンファー

装備武装:特殊大盾

乗員人数:1人

 

【フラッグ壱型】和名:飛山【ヒザン】

分類:試作KMF 所属:大日本帝国 外見モデル・OOガンダムのユニオンリアルド

製造:倉崎 生産形態:試作機

全高:5.7m 全備重量:6.0t

推進機関:ランドスピナー フロートシステム 電力駆動プラズマ推力機関

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタントンファー

装備武装:無し

乗員人数:1人

 

三機種とも試作機のため最低限の武装しかしていなかったが、それぞれ電力駆動プラズマ推力機関と翼兼用のフロートシステムの位置がちがった。

【ハンブラビ】はフロートシステムと電力駆動プラズマ推力機関が一体化しているのを、背中に装備している。

【ウィング・G】はフロートシステムを背中に、電力駆動プラズマ推力機関を脚部に装備している。

【フラッグ壱型】はフロートシステムを腰に装備、電力駆動プラズマ推力機関脚部に装備していた。

コクピットは水中用KMF【ズゴック】和名:鋼鮫【コウエイ】の可動式コクピット(注:9)を採用しているので、特に問題はなかった。

完成し、それぞれ動作チェックをした後慎重に飛行させたが、【フラッグ壱型】の挙動がどうも安定しなかった。

原因は機体の重心と、推進機構とのバランスが悪いことだった。このため【フラッグ壱型】はテスト初期段階で廃案となったが、開発を担当していたOOチームがスメラギコンツェルに移動した際に後継機の原型となった。

残った二機はパイロットが中々慣れなかったが、回数をこなすうちに比較的安定して飛行していた。

そして慣れてきたところで問題の空中可変になったとき、今度は【ウィング・G】に問題が発生した。

【ウィング・G】は機首になる特殊大盾を取り付けるのだが、盾の取り付けに苦労し、その間にだいぶ高度が下がってしまったのだ。

この結果にZガンダムチームは喜んで、軍部に結果を提出した。

しかし軍部は【ハンブラビ】よりも【ギャプラン】の方に関心があった。

【ギャプラン】は可変構造がブリタニアの【トリスタン】に近いこともあり、こちらの方が、実現性が高いのでは?と思われていた。

たしかに【ギャプラン】は構造的にも良い機体ではあったが、接近戦に難があるという機体でもあったので諦めざる、負えなかった。

こうして【ハンブラビ】は試験生産される事が決定し(注:10)、戦闘航空兵団に編入されることになった。

【ハンブラビ】の特徴的な機体は各国に注目され、ブリタニアでも【ブラッド・フォード】で試験を行いつつ、先行生産機として民間用KMF【MR-1】を使用した最軽量の【サマセット】を試験配備するなど行われた(注:11)。

【ハンブラビ】での運用経験は、後に作られるKMF【レイダー】和名:大鷹【オオタカ】(注:12)にフィードバックされていくことになる。

 

371 :日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機:2013/05/26(日) 12:30:27

『特殊機』

変態技術者が増えた憂鬱ギアス世界日本において、手綱を取るのは大変だと辻正信はいった。

だが、前世界とは違いKMFは完全に未知の領域であり、沢山の機体が作られては不採用の烙印が押されていった。

試作機の中にはまともな人型もあれば、へんてこな機体も存在した。

 

『特殊機・逆関節』&『特殊機・ホバー』(注:13)

 

脚部開発にはだいぶお金を掛けられた。

その中で最も注目されたのがこの二つである。

逆関節は純関節と比べてどうなるか?ホバーにしたらどうなるか?である。他にもキャタピラタイプもあるのだが、今回はこの二つにしぼる。

逆関節は比較的初期段階で検証されていた。

開発は比較的容易に制作できた。昆虫の足も対象に放っていたが、最初のモデルは鳥の足にしていた。

かなり異形の足に、テストパイロット達は不安に顔を見合わせていたが、搭乗してみると比較的好評だった。

足先が長く、最初からサンドボードを装備しているような状態にできたために、地上走行試験はうまくいった。

さらに、移動時のバズーカなどの反動が強い武器を打っても中々ぶれない安定性も、見せつけた。

この結果に気をよくした逆関節大好き愛好家チームだったが、この足には弱点が存在した。

歩行とジャンプだ。

高速移動する際はスキーのように移動できたのだが、歩く時は長い脚先が仇となってベッチンベッチン進む姿に頭を抱えた。

更にジャンプしようにも爪先立ちになろうとすると、地面に突き刺さって転倒事故が多発し、反省を生かし先端をそり返してみたが耐久力が低すぎて話にならない。

さらに逆関節は通常脚に比べて大きくなり、関節機構も共用できない事が判明した。

その結果、逆関節は細々と研究が続けられることになる。

 

ホバー脚はACチームとジオンチームとの共同制作物だった。

【ダガー】などのKMFは、サンドボードなどを使用して砂地・沼地などの足場が不安定な場所でも移動ができるが・いつでも装備できるわけではないのでこれを解決するための研究だった。

研究班は、最初は単純に空気で浮くスタンダードなタイプを制作したのだが・・・出力が全然足りずに浮かない。

外部供給で出力を上げてみると、今度はオーバーヒートして使い物にならなかった。

思い切って腰から下をホバー機構そのものしてみたが・・・「これじゃぁ戦車モドキにしかならない」との事で中止。

フロートシステムが出てきて、KMF専用の電気ジェット推進装置も出てくると、あきらめずに制作したが・・・

フロートシステムはうまくいったものの、エネルギーをやたら食う機体に変貌。

電気ジェット推進装置の方は、巻き上がった砂が吸気口に進入して推進器を御釈迦にした。

彼らの研究はKMF装備としては実らなかったが、その教訓は他の研究に生かされた。

もっとも彼らは喜ばなかっただろう。彼らのチームは解散してしまったのだから。

 

372 :日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機:2013/05/26(日) 12:30:58

『特殊機・盾』

 

盾を装備する事。それは防御力の上昇でもあった。

この課題は、どのチームも考えていたものだった。各ガンダムチームは、機体を再現するならぜひ盾を装備させたいと考えていた。

銃弾を防ぐためにはそれなりの厚さが必要であり、機体を覆うぐらいの大きさは必要だった。

しかしKMFはかなり小さい機体であり、盾を装備すると途端に動きが鈍くなった。

なので、頭を悩ませる問題であった。

 

新素材を使う?・・・コストに見合うか?

KMFはどちらかと言うと白兵戦が得意分野・・・必要ない?

簡単な防御力UPにはなる・・・でも重量が・・・

 

結局この盾の問題は、極一部で研究されることが決定した。

様々な盾候補が出てきたがどれも微妙であり、輻射波動の防壁を思い出した研究者(注:14)もいたがうまくいかなかった。

解散も危ぶまれたとき一人の研究者が言った。

 

「そうだ、盾を自分で持たなければいい」

 

この発言に全員が「はぁ!」とあきれた驚きをあげた。

しかし発案者は皆に説明した。

その説明を聞いた研究者たちは次第に「これはいけるか?」と言う顔つきになり、さっそく設計に入った。

設計自体はうまくいき、さっそく試験機の制作に入った。

こうして製作されたのが特殊KMF【フォビドゥン】和名:飛盾【ヒジュン】(注:15)であった。

 

特殊KMF【フォビドゥン】和名:飛盾【ヒジュン】

分類:第八世代 重KMF 所属:大日本帝国 外見モデル・種ガンダムのフォビドゥン・ガンダム

製造:倉崎重工 生産形態:試作機

全高:5.11m 全備重量:13.4t

推進機関:ランドスピナー フロートシステム 電気ジェット推進装置

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタントンファーorコイルガン(椀部固定)

装備武装:ヴァリス 重刎首鎌(じゅうふんしゅれん)【ニーズヘグ】和名:鎌足【カマタリ】

特殊装備:機動防壁×2

乗員人数:1人

 

テストベッドとして制作された機体ではあったが、基本的な素体は【ダガー】と変わらない性能だった。

しかし特徴となるのは二枚の大型の盾である。

二枚の起動防壁の大盾は、フロートシステムを内蔵しており、手に持たなくても浮き上がって防御できる利点があった。

が、常に浮かせておかなければデッドウェイトにしかならず。バッテリーを組みこんでも量産型よりも低い活動時間しか得られないという結果になった。

一応試験として、大盾は電磁装甲型・ブレイズルミナス付与型・強電磁界装甲型・特殊金属多層構造型と言った発生機があった。

しかしモノになる機体は一つもなく、結局盾の役目はブレイズルミナスの様な防御力場が担っていくことになる。

製作はされたが量産される事は無く、あくまでもテストベットの機体として最後まで過ごすことになった。

 

373 :日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機:2013/05/26(日) 12:31:32

国産KMF【ストライク・ダガー】和名:武刀【ブジン】(注:1)

和名図鑑

【ストライク・ダガー】和名:武刀【ブジン】

【105型ダガー】和名:刀頼【ジンライ】

【デュエル・ダガー】和名:戦刀【センジン】

【ロング・ダガー】和名:永頼【ナガヨリ】

【スローター・ダガー】和名:武刀【ブジン】

【ヴァル・ヴァロ】和名:岩蟹【イワガニ】

【ズゴック】和名:鋼鮫【コウエイ】

 

【バスター・ダガー】和名:撃頼【ゲキライ】(注:2)

分類:第五世代KMF 所属:大日本帝国 外見モデル・種ガンダムのバスター・ダガー

製造:倉崎重工 生産形態:量産機

全高:4.42m 全備重量:7.61t

推進機関:ランドスピナー

固定武装:スラッシュハーケン×2 対人機銃×2 スタントンファー(椀部固定)

装備武装:マシンガン ガトリング・ガン バズーカ クレネード・キャノン等

乗員人数:1人

設定:倉崎が作った世界初の支援専門KMF。

【ストライク・ダガー】の発生機であるにもかかわらず、高い防御力と積載量を誇る。

後付装備として小型ミサイルやロケットランチャーを、アタッチメント装備する事が可能になった初のKMFでもある。

アタッチメントがあるのはコクピットの両側、腰の両側である。腰の装備は軽いのしか装備できないが、椀部固定バズーカとグレネード・キャノンの四門砲撃も可能である(重量がありすぎて移動が困難になるので、普通はしない)。

特徴として大きくしたタイヤを装備したランドスピナーと、射撃徒弟用の爪先にある固定用クローがある。

装甲は硬いが、さすがに大口径砲はさけなければならない。

 

【ヴァーチェ】が専用武装・連装ハドロン砲が他武装に換装できるなどの汎用性(注:3)

正式採用された後の改良で、汎用性を上げた。

 

KMF【カラミティ】和名:轟【トドロキ】(注:4)

分類:第八世代重KMF 所属:大日本帝国 外見モデル・種ガンダムのカラミティ・ガンダム

製造:倉崎重工 生産形態:試作機

全高:6.21m 全備重量:12.9t

推進機関:ランドスピナー フロートシステム

固定武装:スラッシュハーケン×2 対人機銃×2 スタントンファー(椀部固定) 胸部荷電粒子砲

装備武装:マシンガン ガトリング・ガン バズーカ クレネード・キャノン等

乗員人数:1人

設定:倉崎が作った試作KMFで、ガンダムタイプ。

今まで作ってきたノウハウをつぎ込んだ機体。

両肩の突き出た部分にファクトスフィアを装備しているという特徴を持つ。

最初からフロートシステムを装備しているが、重KMFの分類なので速度は遅い。

腰の両側にナイフを装備して近接能力をある程度上げてあるが、基本射撃タイプなので最終手段となっている。

電粒子砲(注:5)

【神虎】とはちがい溜め時間が短いが、射程が短く近距離用となっている。

この装備のせいで稼働時間が短くなっている。

 

374 :日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機:2013/05/26(日) 12:32:05

 

【セラヴィー】(注:6)

スメラギが出す【ヴァーチェ】の次世代機。しかし設定は無い。

 

【ギャプラン】【メッサーラ】は没となる。(注:7)

このうち【ギャプラン】は後にもう一度検討されて、機体を制作されるが正式採用にはならなかった。

しかし【ギャプラン】で開発されたドラムフレーム(アドバンス・ゼータのモドキ)は、後々いろんな分野で注目されることになる。

 

 

三機種に力を注いで開発がすすめられた。(注:8)

今回の開発は陸海空全部署が注目していた為、開発費用は豊富だった。

なので、一気に三機制作に入った。

 

可動式コクピット(注:9)

日本独自のコクピットで、ブリタニアにも秘密となっている。

このコクピットの費用は、通常の二倍はする。

【ズゴック】の制作費用の半分はコクピットだ、と経理に言われてしまうくらい有名。

 

【ハンブラビ】は試験生産される事が決定し(注:10)

本格生産されるとはなかったが、50騎程生産されて運用された。

【ハンブラビ】和名:飛影【ヒエイ】

分類:第七世代KMF 所属:大日本帝国 外見モデル・Zガンダムのハンブラビ

製造:倉崎 生産形態:限定生産機

全高:6.1m 全備重量:8.9t

推進機関:ランドスピナー フロートシステム 電力駆動プラズマ推力機関

固定武装:スラッシュハーケンクロー×2 スタントンファー

装備武装:マシンガン アサルトライフル 等

乗員人数:1人

設定:日本初の可変KMF。

日本が制作したKMFの中でも異形と言われる機体で、主に運用試験が行われた機体。

可変する時は移動時のみ限定とし、基本的に二本の足で戦っていた。

飛行するために積載量が低いのが弱点ではあったが、ファクトスフィアの機能を三か所に分けたおかげで展開しなくてもよくなった(代わりに索敵範囲が少し小さくなった)。

【レイダー】が登場するまで、現役でいた機体である。

 

ブリタニアでも【ブラッド・フォード】で試験を行いつつ、先行生産機として民間用KMF【MR-1】を使用した最軽量の【サマセット】を試験配備するなど行われた(注:11)

日本の開発に触発され、バタフライ効果で天空騎士団構想が前倒しに検討された結果。

開発中心人物はウィルバー・ミルビル卿である。

 

375 :日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機:2013/05/26(日) 12:32:42

KMF【レイダー】和名:大鷹【オオタカ】(注:12)

分類:第七世代KMF 所属:大日本帝国 外見モデル・種ガンダムのレイダー・ガンダム

製造:倉崎 生産形態:試作機

全高:5.24m 全備重量:8.41t

推進機関:ランドスピナー フロートシステム 電力駆動プラズマ推力機関

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタントンファー コイルガン×2

装備武装:マシンガン アサルトライフル 等

乗員人数:1人

設定:倉崎が作った【ハンブラビ】にかわる可変KMF。

直線を多用する事で生産コストを抑え、【ハンブラビ】で培われた経験を生かしてある。

可変機構は更に単純化し、脚部にはドラムフレームが使われている。

積載量も上がり、可変時にでも撃てるコイルガンを装備できるようになった。

コイルガンはモデルとなった機体の『短距離プラズマ砲』の所に装備されている(コイルガンの代わりにスラッシュハーケンを装備する機体もある)。

この機体も基本的にKMF状態で戦う事を前提とされていて、可変時の発艦はできない。

 

『特殊機・逆関節』&『特殊機・ホバー』(注:13)

逆関節のモデルはAC4の【アリシア】、ホバーは【ドム】です。

 

輻射波動の防壁を思い出した研究者(注:14)

ラクシャータ独自の技術にしたいので、制作できなかったことにします。

 

特殊KMF【フォビドゥン】和名:飛盾【ヒジュン】(注:15)

二二三様の半島シリーズで出てきたので、予告通り設定を考えましたが・・・使えない子になってしまった。

お、おそらく半島シリーズでは増装をつけて出撃していたのでしょう。

そして書かなかった大きな特徴は・・・あの特徴的な被るモノをつけていない事です。

だって、背中にコクピットが有るのにどうつけろと!? しょうがないので、起動防壁は背中から出ています。

フロートシステムも装備していますが、推進能力が足りないので電力駆動プラズマ推力機関も装備しています。

想定していたよりも、遥かにエネルギーを食う子になってしまった(汗

 

 




377 :日本のKMF開発 支援機&可変機&特殊機:2013/05/26(日) 12:34:45
以上ですね。
自由開発記は、皆様のご意見を参考にして書いていくことにしています。
なので、もうちょっとお待ちください。
色々設定のは決めてあるので・・・
相変わらず低クォリティでしたが、楽しんでいただければ幸いかと…
最終更新:2013年09月28日 18:33


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日本及びブリタニア帝国のKGF開発 大空編

503 :日本及びブリタニア帝国のKGF開発 大空編:2013/10/12(土) 20:02:08
日本及びブリタニア帝国のKGF開発 大空編
設定:休日ルート



 

 

 

KGF開発・・・日本にとってはロマン、ブリタニアにとっては戦局を一時的にでも変える役割を期待している。

日本で有名なのはもちろん【ヴァル・ヴァロ】である。しかし、早くも戦力として投入できるレベルにできたのはこの機体が初めてであり。

ブリタニア帝国はまだだった。

 

【ヴァル・ヴァロ】のシーランド王国における活躍は、ブリタニアの開発部に大きな衝撃を与えた。

少し前から開発は行われていたが、まだこの時KGFは金食い虫あつかいであり、KMFや通常兵器で賄った方がいい共まで言われていたのだ。

しかし【ヴァル・ヴァロ】の戦闘力を垣間見た軍部は、さっそく開発部に発破をかけて予算を工面した。

陸海空軍すべてから期待を寄せられたKGF開発だが、日本が直面した問題に彼等もぶつかった。

 

“専門とする兵器に、KMF・KGFは勝てない”

 

空ならジェット戦闘機の庭、陸ならKMF相手ならば戦車も状況次第で勝てるがKGFではいい鴨・・・と言うか陸上戦艦にしかならない、海については艦隊が展開できる沖合ではお話にならない。

いわゆるKMFは器用貧乏で専門に突出した兵器にはかなわず、費用的に見ても専門兵器に任せた方がいいという結論だ。

KGFは火力・防御力はあるが、運用がかなり限定されてしまうためになかなか悩み所だった。

 

試作兵器【ジークフリート】は実験中に事故を起こして【サザーランド・ジーク】に改修されたものの、近接戦闘主体だったせいで攻撃能力に疑問がもたれて一機のみの生産で終了。※1

防御力を犠牲にして、速度を重視したウィルバー・ミルビル率いる開発チームが作った【サザーランド・イカロス】もただ一機で生産終了していた。

しかし【ヴァル・ヴァロ】の活躍を見て、もう一度ウィルバー・ミルビルに製作が命じられた。

 

彼は悩んだが、第七世代可変KMF【イゾルデ】の開発が順調で、可変機特有の火力の足りなさをKGFで補う事を考える。

さらに開発費用を抑える為、【サザーランド・イカロス】を元に製作をすることを決定した。

 

基本的に武装は変えないが、大型メギドハーケンの使いどころがない為この機構は取りやめた。

主翼を少し大きめに変更し、ウェポンベイの搭載量を増加させる。

下に大きく張り出した安定翼を廃止し、機体後部に増設させて過積載状態でも滑走して基地から離陸できるようにする。

フロートシステムと短距離加速装置・蒸気カタパルトの併用により空母からの発艦も可能にした(この場合過積載状態では離陸できない)。

 

翼兼用だった大型メギドハーケンは飛ばせなくなったが、二対三枚に分割するのをやめて二対四枚にする。

また、展開翼をいちいち前に向けるのではなく、最初から前に向けることにする(イメージはグラディウスのビッグバイパー)。

さらに機首にハドロン砲を装備させて火力を上げる

脱出用KMFは【サザーランド】をやめて、フロートユニットに換装した【サマセット・Ⅱ】※2に変更。

他にも細々とした改修はあったが、おおむね納得できる形になったので軍部に見せることになった。

 

504 :日本及びブリタニア帝国のKGF開発 大空編:2013/10/12(土) 20:02:40

機体名:【ダイダロス】 形式番号:FFB-02

所属:ブリタニア帝国空軍 製造:ブリタニア帝国

生産形態:限定量産機

全高:10.28m 全備重量:21.3t

推進機関:フロートシステム 電力駆動プラズマ推進モーター

固定武装:ミサイルポッド×8(総弾数24発) 展開翼内臓コイルガン×8(一翼二門×4) 電磁装甲 ハドロン砲

特殊武装:爆撃用コンテナ(気化爆弾・クラスター爆弾・通常爆弾etc.) ミサイルコンテナ(対艦ミサイルetc.) 対地攻撃用ガトリング砲

特殊装備:ブレイズルミナス

乗員人数:1人

 

機体名の【ダイダロス】は、【イカロス】が縁起悪いという事で元から考えられていたものである。

【イカロス】よりも装甲を厚くして耐久力を上げたが、それでも心許ないのでブレイズルミナスを追加で装備した。

火力も軍部が納得するレベルであり、敵地に突撃する天空騎士団には待望の、一緒に帯同できる重火力支援機として期待された。

問題だった空戦はある程度できるという低いレベルではあったが、ジェット戦闘機よりも同じ場所に対空でき、戦闘ヘリよりも頑丈と用法に沿ったものに仕上がった。

正式採用がウィルバー・ミルビルに伝えられたとき、「ようやく、天空騎士団ができた・・・もう仕事したくない」と言ったとか言わなかったとか?

以降、【ダイダロス】はブリタニアで少数ながらも生産されて、その火力を敵対国に見せつけることになる。

 

この動きは、日本でも察知していた。

と言うよりも、【ヴァル・ヴァロ】が建造される事が決定する前からあった。

しかし最優先で進められていたのは海洋型KGFであり、その他のKGF建造は後回しにされていた。

 

海洋型とは違い、こちらは積極的に意見が出された。

海中に隠れて地味になるよりも、大空で自分達の趣味を生かしたいという録でもない理由からだったが・・・

 

ともかく、アイディアはいくつか出されていた。

 

ガンダム系列から・・・

【アッザム】【グロムリン】【ノイエジール】

【デンドロビウム】【アプサラス】【ザザムザー】

【ユークリッド】【トリロバイト】【アルヴァトーレ】

【ガデラーザ】【エンプラス】【レグナント】※3

 

マイナー所からは、

【AMX-07ドゥラ】【プロト・カオス】

【ファントマ】【フェブラル】

 

MGSPWから、

【クリサリス】

 

とんでもないモノでは、AC関連から、

【グレイクラウド】【ファンタズマ】【レビアタン】【MG-AOxx/131α】【アンサラー】

 

MA形態でもいいのでは?との意見から、

【ガンダムアシュタロン・ハーミットクラブ】

 

等々・・・

出るわ、出るわ、で大混乱だった。

だから恒例のダメ出し審査が行われることが決定した。

この選抜は、KMF制作で何時も見られた光景なので普通である。

そのうちの一つ【アプサラス】を抜粋するとこうなる。

 

505 :日本及びブリタニア帝国のKGF開発 大空編:2013/10/12(土) 20:03:30

Q:ザクヘッドにしたい!    A:ダガーヘッドになる。

Q:脱出機構はつける!     A:頭のすぐ下が大砲なんだが?

Q:主砲は荷電粒子砲だ!    A:一門だけでどうする。

Q:コ、コイルガンもつけるよ! A:どこにだよ。

Q:ならばミサイルだ!     A:冷却装置は?

Q:下の球体は必要だよな!   A狙われたらおしまいだな。

Q:翼など不要!        A安定性が無いから駄目だな。

 

とまぁこんな感じだ。

使用方法にて、“近接格闘戦はあまり想定されていない”との事なので、中距離から遠距離戦を意識したモノになる。

更に強襲に使うか、防御用に使うかで絞られる。

 

次に問題となったのは“予算的にKGFをあまり揃えられない”と言うわけなので汎用性があるか、火力重視かも議論の課題になった。

汎用性があれば防御にも侵攻にも使える。ただし、火力がパッとしないかもしれない。

火力重視にすれば敵殲滅は楽になる。ただし、防御力に問題が発生する。

 

あーだ、こーだ、議論が交わされる中、ブリタニア帝国がKGF採用の報が舞い込んだ。

機体は【サザーランド・イカロス】の改良機【ダイダロス】。その機体を見て「ビッグバイパーじゃん」と言ったとか言わなかったとか?

しかしこの報に触発されたのは間違いなく、設計に一気に進む。

候補は・・・

 

拠点防衛用火力重視で【ザザムザー】。

汎用性と取り回しの良さを重視する【ユークリッド】。

飛行速度と小型KGFを目指した【エンプラス】。

特殊性と、換装機構を組み込む実験機として【プロト・カオス】。

機動性と生産性を考えた【クリサリス】。

 

この五機種だ。

それぞれテーマを決めての設計で、無論脱出用KMFを組み込む予定だ。

最も脱出用KMFは可変機を充てる予定はない為、【ダガー】※4を改造したモノを用いることになった。

 

この中で早く設計が済んだのは【エンプラス】だった。

 

型式番号:GNMA-Y0001  機体名【エンプラス】和名:白瓦【しらかわ】

分類:第八世代機 所属:大日本帝国 外観モデル:ガンダムOOのエンプラス

全高:11.9m  全長:45.2m  重量:61.45t

推進機関:フロートシステム 電力駆動プラズマ推進モーター

固定武装:機首ハドロン砲 ガトリング・モーターガン×2 スラッシュハーケーン・クロー×2

特殊装備:ブレイズルミナス

 

かなり武装が少ないのが気になるが、小型化を目指したと思えば納得できる。

ブレイズルミナスの体当たりも考えられていて、スラッシュハーケーン・クローは【サザーランド・ジーク】で使われている大型スラッシュハーケン:スピア型を参考にしていた。

航空機の様に運用で来て、整備された場所からならばどこでも発進できるのが魅力的にうつった。

しかし採用までにはいかなかった。

“攻撃力が足らない”これに尽きる。

 

506 :日本及びブリタニア帝国のKGF開発 大空編:2013/10/12(土) 20:04:03

ミサイル搭載も考えたのだが、翼内にフロートシステムとブレイズルミナスの装置を組み込んであるため外せない。

胴体中央部は切り詰めたせいで搭載できない。

かといって大きくすれば小型化の意味がない。

【エンプラス】はここで終わった。

 

次に終わったのは【クリサリス】だ。

だが設計が終わったのではなく、使用法に問題が出て設計中止になったのだ。

原作を知っている方にはお分かりかもしれないが、使用法がどうしても戦闘ヘリに近いモノになってしまい、意味がないモノになってしまったのだ。

 

そして同じように没になったのが【ザムザザー】である。

爪を格納してハドロン砲を打つ、という機構を再現したかったのだが無理だというのが判明。

妥協して爪の中にと言うのもあったが、【ヴァル・ヴァロ】ほどの強度持たせると腕が巨大化しかねなかった。

更に形状のせいであまり高く飛べないことも判明。

設計チームは落ち込んだ。

 

残ったのは【ユークリッド】と【プロト・カオス】だ。

 

型式番号:TS-MB1B 機体名【ユークリッド】Euclid 和名:角蝸【かくず】

分類:第八世代機 所属:大日本帝国 外観モデル:ガンダムSEED・Dのユークリッド

全高:18.98m  全長:47.2m 全備重量:78.9t

固定武装:七連装ガトリング機関砲×2 コイルガン×1 高出力レールキャノン×2 機首ハドロン砲 小型ミサイルポッド×4(総弾数20発)

特殊装備:多層式ブレイズルミナス×2

 

型式番号:XMF-P192P 機体名【プロト・カオス】PROTO-CHAOS 和名:貫弩【ぬぐど】

分類:第八世代機 所属:大日本帝国 外観モデル:ガンダムSEED・Dのプロト・カオス

全高:17.43m  全長:48.11m 全備重量:91.61t

固定武装:機首ハドロン砲 大型合金製クロー×2 六連装ガトリング機関砲×2

特殊武装:EQFU-5X 機動兵装ポッド×4

     固定ポッド内容(気化爆弾・クラスター爆弾・通常爆弾・対艦ミサイル・対地攻撃用ガトリング砲etc.)

     有線誘導ポッド内容(誘導ミサイル×12・大型ヴァリスetc.)

 

507 :日本及びブリタニア帝国のKGF開発 大空編:2013/10/12(土) 20:04:50

【ユークリッド】は原作同様の部分武装を施し、追加でハドロン砲と小さくて射程は短いが、連続発射可能なミサイルポッドを装備した。

火力も申し分なく、打ち破られることも想定して多層式の試作のブレイズルミナスを装備させた。

これは発生装置を両側に二つ積み込んで、右左と交互に展開する事で衝撃を分散するという方式だ。

カバーを開くと、更に強化されたブレイズルミナスを前方に展開し、相手を吹き飛ばすような突進も可能。

地上攻撃と後方攻撃用にコイルガンを装備させて死角をなるべく潰すようにした。

 

【プロト・カオス】も原作よりも強化されている。

本体の武装は【エンプラス】に準じているが、追加装備できる武装ポッドのお蔭で戦術の幅が広がった。

が、ポッドを投棄するとだんだん速さが落ちていくという欠点が発覚した。

速力の一端をポッドが担っていた。その所為だった。

 

【ユークリッド】はその後順調に建造され、限定生産として【ヴァル・ヴァロ】よりも少ない配備数となった。

最高速度は【ダイダロス】には及ばなかったが、旋回性能では負けておらず。

価格も若干こちらが低いことに開発陣は少しだけ喜んだ。

しかし【ユークリッド】は【ヴァル・ヴァロ】よりも有名になる事は無かった。

これも海洋国家である日本帝国と、実際に運用しているシーランド王国での知名度の所為だろう。

対して【プロト・カオス】で設計された有線誘導ポッドは、実験第八世代機【レジェンド】帝釈天に引き継がれて研究されていくことになる。

 

 

 

 

※解説

【サザーランド・ジーク】に改修されたものの、近接戦闘主体だったせいで攻撃能力に疑問がもたれて一機のみの生産で終了。※1

以前私が書いたSSのネタです。

 

【サマセット・Ⅱ】※2

頭部を胴体一体型に変更してより流線的に、後はフロートシステムを搭載したくらいで変わらない。しかし頭部を一体型にしたことで、初見ではどこに操縦席があるかわからないようになっている。

 

【トリロバイト】【アルヴァトーレ】【ガデラーザ】【エンプラス】【レグナント】※3

OOGチームの頑張りがここに表れています。しかし不採用になってしましました。なんて言うか・・・不幸にしてごめんね(汗

 

【ダガー】※4

原作の【サザーランド・J】同様脚部がフロートシステムになっている。椀部が武器腕になっていて【サマセット】同様に銃撃できるが、弾数が少ないので牽制用である。名称は【ダガー・エアー】である。

 

508 :影響を受ける人:2013/10/12(土) 20:05:21

ようやく完成しました。大空を行くKGFです。

皆様の御意見を参考にいろいろ考えた結果【ユークリッド】を採用する事にしました。

他にも【プロト・カオス】なども出てきましたが、採用できずに申し訳ありません。

【アプサラス】は以前に作る事が出来ない。もしくはSSに書き起こしているような理由からできませんでした。

申しわけありません。

最終更新:2013年10月21日 13:50



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嶋田一繁、ゲーセンに行く

279 :嶋田一繁、ゲーセンに行く:2013/07/13(土) 23:32:05
嶋田一繁、ゲーセンに行く


 

 

 

嶋田一繁ことシゲチーは、今日友人たちを連れてゲーセンに来ていた。

やるのはKMFオンラインバトルである。

これはインターネット通信により対戦が可能であり、時には大規模な戦闘もできるという今人気のゲームだ。

家庭用もあるが、ゲームセンターだと操作法がコクピット式になってダイナミックに動かせられるのも人気の一つだ。

もっとも会員制で、お値段もちょっと高いのだが・・・

そんなゲームに新しくミッションが入ったという事で挑戦しに来たのだ。

開いていたので早速挑戦する。IDカードを入れてお金を投入し、ステージを選択・・・お、あった。

えっと何々・・・内容は、シーランド防衛とほぼ同じか・・・KGFが混じっているのが難易度アップだな。

しかし“高麗戦争”で型遅れの【グロースター・カスタム】で駆け抜け 。

“シーランド防衛”で【ポートマンⅡ】でイージス艦を撃沈できた俺に死角はない!!

 

 

 

そう思っていた時期もありました・・・

 

 

 

まず自分の機体は【グロースター・カスタム】。

武装はオーソドックスにマシンガン・四連装ロケットランチャー・連装:熱源ミサイル・重斬刀だ。

友人A【グロースター・カスタム】武装:通常ライフル・追加スラッシュハーケン×2・MVS・追加エネルギーパック

友人B【グロースター・カスタム】武装:バズーカ×2・三連装ロケットランチャー×2

友人C【ストライク・トライアル】武装:ハドロン砲・ハンドガン×2・重斬刀

友人D【ポートマンⅡ】武装:コイルガン×2・垂直発射ミサイル・使い捨て三連装グレネードランチャー

だった。

 

水上戦という事で一人だけ水中用KMFを入れて作戦開始した・・・が。

散開した直後、隣の人工島がいきなり溶融して大穴があいて爆散した。

 

『『『『「はっ?」』』』』

 

呆然としていると今度はミサイルの雨が降ってきた。

慌てて物陰や海中に逃げ込む。

凄まじい猛爆撃の後、レーダーを見たら尋常じゃないKMFの数が表示されていた。

友人Dはその数に恐れおののいたが、「ふ、ここが俺の死に場所らしい。先に逝くぜ!!」と言った直後、KGF【ヴァル・ヴァロ】の高速クローアタックにより二秒で撃破された。

このゲームは予め機体コストが決まっていて、復活できる回数が決まっている。

少しお安い【ポートマンⅡ】ならあと六回は復活できるのだが・・・確認できた【ヴァル・ヴァロ】十数機を見ただけで怖気づいてしまった。ドンマイ。

この後上陸してくる敵水中用KMFを銃撃したり、斬撃で叩き落としたりしていたが、敵KMFが少ないと例の謎の砲撃とミサイルが飛んできて、さじ加減が大変だ。

弾薬は尽きても、そこら中に補給ポイントがあるので回復が出来るのが唯一の救いだった。

友人Aは足場にしようとしていた友軍戦闘艦に飛び移ろうとした際に、【ヴァル・ヴァロ】に目の前で掴まれ足場にしようとしていた戦闘艦にぶつけられ。

友人Bは退避が間に合わずに例の砲撃で足場諸共溶融爆散し、友人Cはフロートユニットを見つけて換装し、例の砲撃の主を見ようと偵察に赴こうとして謎の怪光線乱射を浴びて撃墜され(半ば高いHPのせいで海中に行くまで生きていて、その後なぶり殺しにあっている)、友人Dは・・・皆から『少しでも敵を削るためだ。すまん!!』と言われて海に蹴り出されていた。

 

そして今現在、ちまちま攻撃して全ての敵KMFを撃破、KGFを沈めた。

しかし当初の意気込みはもうなく・・・ただ、疲れ切っていた。

最後に残った人工島に終結したおれたちは、補給ポイントに身を寄せてただ待っていた。

なにを?

もちろん例の砲撃をする奴さ。

せめて、その面だけでも見てやる!

その意気込みだけで俺は待っていた。

そして・・・奴は現れた。

 

280 :嶋田一繁、ゲーセンに行く:2013/07/13(土) 23:32:38

機械の異音を響かせながらまず出てきたのは三本の爪・・・次に異様に太い腕だ。

同じ様なモノがもう一つ出てきて人工島のふちを掴む。

もうこの時点で俺たちは腰が引けていた。

だって・・・【ヴァル・ヴァロ】よりも大きく見えるんだぜ。その爪がさ・・・

異音が一時的に低くなったかと思えば、爆発音とともにそれは飛び上がってきた。

 

シーランド近海に溶け込むように塗られた塗装。

 

巨大な爪と肘をつくような独特な形を持つ腕。

 

肩のアーマーは異様に大きく、より機体を巨大に見せて頑強に見えた。

 

後部は見えない、前部だけでもかなりの巨体で見えないのだ。

 

そして・・・【ヴァル・ヴァロ】のような巨大な頭がモノアイを光らせ。

 

荷電粒子砲を覆っていたカバーを咆哮するように開いて、全身から駆動音を威嚇のように響かせた。

 

もう大怪獣の咆哮でいいんじゃない?自分はそんなことを考えつつも、拾っておいた電磁スピア―を構えた。

ああ、“シーランド防衛”ではよほど追いつめられないと出てこない“シーランドの守護獣”が、今目の前に敵として出てきた。

その圧倒的存在感に俺は・・・ただ乾いた笑いをするしかなかった。

 

「やってやるよ・・・こんちくしょぉぉぉぉぉ!!!!」

『そのデカい図体で、俺の華麗なステップをみきれるか!!』

『火力だけじゃない、技量を見せてやるぜぇぇぇ!!』

『とって置いた超重実体剣“要塞殺し”・・・貴様にくれてやる!!』

『いいか、小さくても俺の爪は凶悪なんだよぉぉぉぉ!!』

 

俺達は勢いよくラスボス・・・【シャンブロ】に突っ込んでいった。

もう報酬とか、達成率とか、そんなのは関係ない。

ここまで来たらしとめるしかねぇじゃねぇか!!

だから俺たちは遮二無二突っ込んでいった。

後先考えずに・・・

 

 

 

なんだよサクラ姉、内容が知りたいから言ってやったのに。

え、結局どうなったかのかって?

ええ負けましたよ。

笑うなよ!!

攻撃が全然効かないんだぞ!!

ブレイズルミナスは硬すぎるし、もう修理コストもなかったし、補給ポイントが早々に潰されたのもある。

兎に角ひどい戦いだった。

もう一度挑むのかって?・・・難しすぎるっていうクレームがあったせいで、あの難易度ではもう挑めないな。

まぁ、今度は勝手見せるさ。

おっと、明日も学校だ。おやすみ~。

最終更新:2013年09月09日 01:05



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父の日のサプライズ

958 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:13:50
父の日のサプライズ
設定:休日世界

キャラがおかしいかもしれません。
ホンワカを目指します。
ネタ的に季節はずれです。
AAネタ有り
憂鬱成分少な目
それでもよろしければお読みください

959 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:14:21


 

神聖ブリタニア帝国首都。

この国を治める皇族が住む館の一つに、ある少女が豪華なベッドの上ですやすやと眠っていた。

窓の外はすでに太陽が昇り始め、早い人はすでに仕事に出かけている。

そして眠っている彼女は今日、ある事をするために早く起きる予定であり、目覚ましを仕掛けて・・・

 

 

 

[06:29:43]

    /    /´       `ヾ、 _, \

   /     /            ∨   ヽ

 ノ ,     / ,.,.,  __ _ _         |

´:::: /  ,     // _ _     `ヽ、、     |

:::::

:: 

;:    /    ヽ`ニ==,  Yノ -‐'´ |

 :::|::::: |;:   /     ‐-',、ニ=、`ミ i/_-== }

 \::: |::::  /     \ヾ夕ンノ  `´rュ` /、

   \::|::::  { ヽ         /   |::`ソ | ヽ、.

    \::::: ヽ `、       ,,    |   |:: \\

      \::: ヽ ヾ     / ` ̄''::::ノ、  /::::  \\

        `丶:::|      ,_ _ _  ` //::::::   \ \

:::      r‐´ `} , , ,-‐=´-‐― ―ヽ  /::::::::::    ム、 \

ヽ::::::   〃::::::::::: }'i '   -‐´ :::::::丶 ,、}::::::::::::r-‐´ ハ  \

  `ヽ:::::{::::::::::::::::/└、  /|  /\ i\l ゙イ::::::::〃:::::::::::::  ヽ   \

   r-‐ヘ::::::::::::ノ 、 `' '´ └┘  ヽ_lヽ /ヽ:::{: : : : : : : : ノ    冫

 /    l::::::ノ r´`i ヽ、     _    l  ム、: : : : : : ノ r' ' ´ `ヽ

「・・・・・・・・・」

 

 

え・・・えっと・・・目、目覚まし?

 

960 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:14:54

 

 

[06:29:54]

    /    /´       `ヾ、 _, \

   /     /            ∨   ヽ

 ノ ,     / ,.,.,  __ _ _         |

´:::: /  ,     // _ _     `ヽ、、     |

:::::

:: 

;:    /    ヽ`ニ==,  Yノ -‐'´ |

 :::|::::: |;:   /     ‐-',、ニ=、`ミ i/_-== }

 \::: |::::  /     \ヾ夕ンノ  `´rュ` /、

   \::|::::  { ヽ         /   |::`ソ | ヽ、.

    \::::: ヽ `、       ,,    |   |:: \\

      \::: ヽ ヾ     / ` ̄''::::ノ、  /::::  \\

        `丶:::|      ,_ _ _  ` //::::::   \ \

:::      r‐´ `} , , ,-‐=´-‐― ―ヽ  /::::::::::    ム、 \

ヽ::::::   〃::::::::::: }'i '   -‐´ :::::::丶 ,、}::::::::::::r-‐´ ハ  \

  `ヽ:::::{::::::::::::::::/└、  /|  /\ i\l ゙イ::::::::〃:::::::::::::  ヽ   \

   r-‐ヘ::::::::::::ノ 、 `' '´ └┘  ヽ_lヽ /ヽ:::{: : : : : : : : ノ    冫

 /    l::::::ノ r´`i ヽ、     _    l  ム、: : : : : : ノ r' ' ´ `ヽ

「・・・・・・・・」

 

 

 

あ、あの?

 

961 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:15:24

[06:30:00]〔ピッ〕

 

                 __

           .   ァ  -‐‐- 、`丶、

           ´_,ノ´ -‐==ミ、 \ 、 ヽ、

       /   /   -‐rf≠ミミ、   } }  、

, -‐‐…ァ′  イ   ⌒ ≧込}、}ルレ' /∠厶

     {  //         -‐ ´  {=≠=ミミ、

      \{´     / __r'    〉ト弋}  }

  -‐‐-   、   //, -‐   ー / ハ`ーイ

      `ヽ}〉 { / 厶-‐─‐‐- 、 ⌒ヽ   }

          ∨/{ |iル'´ ̄ ̄ ̄`丶\ i   ,

         }′ {|K⌒ヽ、_   〉 〉} | 厶_

        .イ    |ト、_    `ヽくイ / /  _≧x

`ヽ     / ノ   ヽー‐-- 、__  ヽ/ / / /    `ヽ

  マニア─く/{,ィ,イ_ >ァ=≠ミ≧′ / //        ',

   }/ }.イ } / { {′ ( ̄/{ ‐-ト、 rfイ  { {

  /  /: | j { | /    ヽ{ \_j ヽi }  从         }

  .'  /: :/ /⌒Y´{    ‐┘  _ノ   从_/⌒ヽ     /`丶、

イ  /: :/ /⌒Y⌒1  _  -‐‐- _  ノ个: :{  {  }   / . -=ミ、

ノ , ' : / /   l  └≦三三三三≧、 

: :

トi ト-  /       ヽ

/: : / /     }       `ヽ、     斗: : |  |:| |   /        }

「!!!!!!!!!!!!!!!」

 

962 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:15:56

『ブルァァァァァァァァァァァッッッ!!』

 

凄まじい怒声が、ごつい目覚ましから鳴り響く。

 

『起きるのだぁぁぁぁぁぁ!!』

 

とにかく煩い。

轟く音声に少女も起きたのか(起きない方が可笑しい)、もぞもぞと移動して目覚ましに近づいていく。

 

『早くせんと遅刻するぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

 

すぐそばまで移動し・・・

 

「んむ・・・」〔ポチ〕

 

目覚ましの頭を軽く押した。

 

                 _,.‐''"´ ̄ ̄`` ‐、

               /  _,. ‐ 、 _,. ‐- 、  \

              / /         \  ヽ

             /  /      、   ,    _ヽ  ヽ

           , イ  , "- _   l  /  _ ‐'`` 、  ト、

          / l  l ___二ヽヽ/,-´____  l  l :、

         ,l´ :.  、 >  < (::::)ヽ-' '- ´(::::) }  ,! , ' :: ヽ

        l´ :. ::.  _ヽ、    ̄       ̄   >、 .::: :: `、

       /::: :::. ::l´:::::) |             |(:::::::l::: .::: :: l

      l:: :::  :::: ,..:::::、'    ,-―――‐-、     ll:::::::.、.:::: .::: :l

      l::: ::::.. ::l::::::::/ヽ‐, 、_'   ----   `_,l 、‐,(::::::::):: .:::: .::l

      `、:. ::::l´::::、´ll\`ヽ /l_/ ヽ__l\/ / ll`l:::::ヽ:::: ..::/

       \:., ´::__/_| |  \_______/  ∥ 、_::::l、..:::/

           ,\__/―ヘヘ   ∥     ll 、 、  ∥l ̄ ヽ__ イ

        /      |ヘ / 《      ll  \∥ l       ヘ

        >‐―――┤     \/ \∥     └―――‐<

       / /       /l    __l<コD l      //   \  l

       / /      / l  ‐‐┼--\-/___/ / ヽ     ヽ ヽ

       / /      l   l ‐‐┼--- ⊥\__//   l     ヽ ヽ

      / /       l   l  ‐‐┼---⊥___  ヽ  l     ヽ ヽ

    / l      l  ,/ /―--\-⊥____  ヽ  l     l  l

    / ├- ___l / /    _,.――‐ 、 _   ( ,-  l_____l  l

    /  l ヽ_  l | /`´  _,. ''"  /^、   ``‐、 、- ヽl_i ̄ __, l l  l

   l   l    `-´ /  /     / ^ ヽ     \ ' ' l `- '   l  l

  ,l    l      l /       l    l       \ l      l   l

  ,l    l     l/,―‐、     l     l    /― , >l      l   l

  l    l_,.‐''" ̄\/     \ _,.‐'''――'、_/    l / ̄ ̄`‐、l    l

  l     l      l       /        l      <     l    l

  ``‐、  l、    /     /        ヽ       \   l´   /´

     \__l   、_____/          ヽ____>  / /

『ぬ、起きたか。今日も一日がんばるのだ』

「・・・はい。お父様♪」

 

少女・・・マリーベル・メル・ブリタニアは、大好きな父親をかたどった目覚まし時計に微笑んでから起き上がった。

ちなみにこの目覚まし時計。モデル本人が即承認した商品で政庁のみ販売している。

必ず起きられる上にかなり頑丈と、一部の人間から好評を得ている。

 

963 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:16:27

時間通りに起きたマリーベルは、すぐに身支度を整え食事をする。

食後に今ままでこなしてきた対テロの書類を作成し、自らの騎士を連れてアポを取っておいた場所に向かう。

 

慌しい移動の中、幼馴染であり信頼する騎士オルドリン・ジヴォンは、目の前で小さく欠伸をする己の主を苦笑してみていた。

 

「マリーも忙しいわね」

「仕方ないわ。帰国できたのが昨日の夜九時ぐらいだったのよ。艦内でも書類は作っていたけど、本国でやらなきゃいけないこともあるのだから」

 

普通なら気安く話しかけるオルドリンは咎められる筈だが、二人は幼いころから一緒であったので心を許して話せられる大切な友人であった。

マリーベルはすこしぷっくりして親友をにらみつける。

 

「大体今回の書類は、オルドリンが壊した分が大半だったのよ」

「あ、あははははは・・・」

 

力なく笑う様子を見て、マリーベル嬢は少しだけ笑った。

 

「そのおかげで人質全員救出できたから、まぁ・・・いいけど」

「今度は気をつけるわ。そうしないと・・・」

「陛下「お父様に怒られてしまうものね」」

 

はもって言うと、二人共年相応の笑顔で笑い。運転手は二人が何を話しているのか気になったが、その笑顔に自分も笑った。

ひとしきり笑うと、予定を確認する。

 

「まず、最初はギネヴィア様のところね」

「ええ、昨日のうちにアポとったら午前中なら大丈夫みたい」

「大丈夫かしら?公共施設の老朽化の更新で忙しいみたいだけれど?」

「大まかなところは終わっているそうよ。各貴族当主と地域住民の意見のすり合わせが大変だったみたいだけれど、その調整もひと段落して後は解体と建築に入るみたい」

「ギネヴィア様も大変ね。最近は日本文化も取り入れるところが増えて、ドウジョウ・・・だっけ?専用の稽古場をつくる要望もあるみたいだし」

「ええ、それも取り入れての改築みたい」

「で、次が・・・」

「カリーヌと昼食を同席して話し合いよ」

「えっと・・・その次がオデュッセウス様」

「ええ、午後のご趣味の時間に入れることができたわ」

「とりあえず、それで何とかなるかな?」

「何とかするのではないわ。絶対するのよ!」

 

マリーベルはそういって気合を入れ、オルドリン嬢も一緒に気合を入れる。

 

「「兄弟姉妹そろって『父の日』を祝うために!!」」

 

◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

◆◆◆

 

964 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:16:59

「なぁ、わが友よ」

『なんでしょう?』

「最近、ルルーシュを筆頭に子供達が冷たいのだが・・・」

『(ああ、またか)そうなんですか?』

 

とある執務室で、ロールケーキのような髪形をした男が電話片手に仕事をしながらぶつくさ言っていた。

 

「うむ。シュナイゼルはやれ仕事しろとせっついて来るし」

(それはいつも理由をつけて逃げるからでしょ)

「カリーヌは触ろうとすると微妙に逃げるし」

(加齢臭が気になるのかな?)

「ギネヴィアに見合い写真を送ってみるが音沙汰ないし」

(それは彼女が仕事の女だから・・・)

「ルルーシュにいたっては、会いに行っても強制的に送り返されるうえにナナリーにも会えん」

『いや。いきなり来られると国として困ってしまうので、ちゃんとした理由で来て下さい』

「そう言って以前、会談が終わって時間が余ったから会いに行ったのに・・・邪険にされたのだぞ!」

 

「ワシ悲しい!!」といって嗚咽交じりに受話器を放さず、仕事の書類に涙や唾をかけないよう器用にこなしている。

電話の相手、島田繁太郎は毎回聞かされる愚痴に付き合っているのだが、大体パターン化されているので対応には困らない。

 

『大丈夫ですよ。ついこの間、ナナリーちゃんからクッキーが送られたでしょ?』

「おお!あれはうまかった!!」

『本当に嫌いなら送りませんよ。ルルーシュ君も手作りのモノを送ったといっていましたし』

「うむ、手編みのマフラーであった。冬場にはいいかも知れん。しかし、だんだんルルーシュは女々しくなっていくような気がするのだが・・・」

『気のせいではないですか?まぁ趣味が女性的であるのは間違いないですが、リーダーシップもありますし。陛下のように即断即決もなところもあります』

 

こうしてプラスの面で持ち上げることにより、彼のモチベーションが上がって早く会話が終わるのだ。

モチベーションが駄々下がりだと、一日中話す事になってしまう。

それは避けなければならない。

上機嫌になったシャルル皇帝は最後に、ハウス栽培のメロンを贈るといい受話器を置いた。

それからも仕事はだいぶ進み、明日出してもいい書類が残っているだけとなった。

シュナイゼルが見たら、「いつもこのぐらいしてくれればいいのに」と愚痴りそうだ。

判子をおいて肩を軽く揉み、首をゴキゴキ鳴らす。

 

「ふむ・・・もうこんな時間か」

 

ちらりと時計を見るとすでに時刻は午後五時を回っており、きりがよかったので今日はお仕舞いにする。

シャルル皇帝はたくさんの妻を持ち、必ず夕食はローテーションで決められた妻と共に食事を取るようにしていた。

しかし今日は違う。

久しぶりに帰ってきた娘と食事を取る予定だ。埋め合わせは買い物に付き合うことで決着している。

あの子だけは自分から離れず邪険にもしない。

だが・・・最近は「結婚できるかなぁ」という心配があった。

自分の子供であるからには幸せになってほしい。そう思うのが親心だ。

何せ今は危険な仕事に従事している。

メールで頻繁に連絡を取っているとはいえ、最初のころは気が気でなかった。

何度軍を派遣しそうになったことか・・・(この間、シュナイゼルとビスマルクはよく胃痛で倒れた)。

書類を片付けていると、皇帝直属部隊の近衛兵がドアをノックをし、入室を許可すると入ってきて敬礼をした。

 

「どうした」

「はっ!マリーベル・メル・ブリタニア様がご到着になられたとご報告にあがりました!!」

「おおそうか、わかった。報告ご苦労であった」

「はっ!失礼いたします!」

 

近衛兵はもう一度ビシッと敬礼をして出て行った。

さぁ、久しぶりの親子水いらずだ。

 

◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

◆◆◆

 

965 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:17:31

マリーベルは現在不機嫌だった。

というのもアポをとった人物が、どれも不調に終わったのだから。

 

ギネヴィアの場合

 

『父の日?・・・ああ、お父様を日ごろの感謝をこめてお祝いしようと・・・

 でもねぇ。仕事の目処はついたけど、忙しいのは変わらないのよ。

 え?せめて贈り物を・・・そうねぇ。メロンが好きだからメロンでも送ろうかしら。

 誠意がこもっていない?といってもねぇ。

 本当なら今日一日休みたいのよ?でも、あなたがどうしてもというからこうして場を設けたの。

 ああもう、わかった。前向きに善処するわ』

 

カリーヌの場合

 

『父の日・・・ねぇ。

 育ててもらった恩はあるし。今やっている仕事の便宜もはかってもらった。

 感謝はしている。

 でもいきなりって言うのは無理よ。

 お父様だって予定があるのよ?

 いくらあなたが同席しても良いと言っても、ほかの兄弟の予定が会うとは思えないわ。

 お祝いしたい気持ちはよくわかるわ。

 でも今回は都合が悪いの。ごめんなさい。』

 

オデュッセウスの場合

 

『いやぁ久しぶりだね。

 今回の救出作戦は聞いたよ。手ひどくやられたそうだけど、無事で何よりだ。

 え、父の日かい?

 ああ、それならもう品を送ったから大丈夫だよ。

 違う?

 みんなでお祝いを・・・すばらしい考えだけれど、それはできないな。

 なるほど、カリーヌにも言われたんだね。

 そういえばクロヴィスも前に言っていたような・・・ああ、やっぱりね。

 しかしいきなりは無理だよ。

 護衛をする人たちもその日の予定をあらかじめ聞いて動くんだ。

 わかっているよ。

 僕は反対じゃないけど、皆の意見を取りまとめないといけない』

 

と言う感じで、まるで駄目だった。

 

「マリーよ・・・いい加減機嫌を直したらどうだ」

「お父様・・・」

 

プリプリ怒るその様子を見ていたシャルルは苦笑する。

マリーベルも忙しい仕事の合間に、せっかく会えた父親との空間を大切にしたいと思って気持ちを切り替えてほほ笑んだ。

 

「わかりましたわ。もう気にしません」

「うむ。それで・・・」

 

二人が並んで楽しそうに話し始めたのを、リムジン(防弾使用の装甲車)の奥の方から二人の騎士が見つめていた。

 

「ふむ・・・相変わらず陛下がお好きなのですな」

 

シャルル・ジ・ブリタニアの選任騎士ビスマルク・ヴァルトシュタインが呟くと、うれしそうにオルドリン嬢も頷く。

 

「自分の父親を嫌う子供なんて早々おりません」

「そうであるな」

 

心温まる光景を前にして、二人は微笑して見つめていたが、ふとオルドリンの表情が曇った。

 

「・・・どうして他の御兄弟はお会いにならないのでしょうか?せめて一言でもあれば・・・」

「うむ。それは受け持っている仕事が忙しいのもあるだろう」

「たとえそうでも、少しだけも時間を作れば・・・」

 

目を少しだけ伏せた彼女をちらりと見た後、ビスマルクは談笑する親子見ながら口を開いた。

 

「・・・子供は何時か親から自立していくもの。

 いつまでも子供のままではいられない。それは皇族だろうと平民だろうと変わらない事だ。

 親にとって子供はいつまでも己の子供だろう。

 しかし子供は大きくなり、親に認めてもらいたいと思うようになる。

 大人であると主張する。

 それなのに小さいころと変わらない対応されたら、さすがに傷つくだろう。

 親はそれを認めなければならない・・・

 それがとても寂しいことであろうとも、巣立っていく子供を見送らねばならない」

 

オルドリンは黙って話を聞いている。

言っている事はよくわかる。

だが、それでもあの寂しそうな顔はどうしても忘れられないでいる。

 

966 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:18:01

「私も養子ではあるが、育てている。いつかあの子たちが旅立つ事考えると・・・とても寂しいだろう。

 手放したくないと思うかもしれん。

 しかしあの子たちが決めた道ならば、私は応援していくつもりだ。

 それが、親の責任だろうと思っている」

 

苦笑する帝国最強の騎士を、オルドリンは少し驚いた顔で見た。

自分にも厳しく、まさに騎士と言う評判の彼だが、内心の弱さを見せるというのは珍しいことであった。

見つめられているという事に少々恥ずかしくなったのか、ポリポリと顔を掻く。

その様子に苦笑すると、急に外の風景が変わった事に気が付いた。

あれ?と思ってよくよく見てみるが、やはり違う。

シャルルも気が付いたのか少し外の様子を見ている。

 

「ヴァルトシュタイン卿・・・」

 

緊急事態であると判断し、手を懐の拳銃に添えると運転手がいる方向に目を向けた。

が、声を掛けたビスマルクは全く動じていない。

その事にすぐに気が付くと、信じられない表情になった。

シャルルも動じていない己の騎士に気が付いたのだろう、厳しい視線を向けてきた。

隣にいるマリーベル嬢も同じ様に目線をむけてくる。

そしてシャルルが口を開く前にビスマルクが穏やかな表情で三人を見回した。

 

「申し訳ありません。少々込み入った事情がありまして・・・

 予約してあるレストランは明日行くように変更されております」

「ビスマルクよ。それはどういう事だ」

 

皇帝としての威厳が満ちた声が車内に響き渡った。

内心動揺しているはずだが皇帝として、娘の前でみっともない姿を見せない威厳に満ちた表情と貫禄がにじみ出ていた。

それでもビスマルクは穏やかな表情で答えた。

 

「いえ。私は頼まれただけでして・・・

 今日、この日の為にいろいろ準備されていたそうですよ。

 危害は絶対にお加えしません。

 お叱りもお受けいたします。しかし・・・

 驚かれると思われますよ?それまでは詳しい詳細はふせさせていただきます」

 

そう言ってだんまりを決め込んだ騎士を見ていたが、覚悟を決めたシャルルはもう一度どっかりと席に座り直し、マリーベルを安心させるように少し微笑んだ後、目を閉じてその時を待つことにした。

マリーベルとオルドリンもいつでも対応できるように座りなおした。

 

◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

◆◆◆

 

967 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:18:31

三人の緊張はいい意味で裏切られた。

進路を変更した一行は、よく知っていて、最近来ていない場所に来ていた。

一時呆然としたが、先導するビスマルクについていく。

そこは昔、兄弟姉妹が一度は集まって仲を深めていた場所だった。

最近は奥方の社交場に使われたりしている。

扉をくぐり、通路を進んでいく。

静寂に包まれた通路進んでいくと、ビスマルクが昔遊びまわっていた中庭に通じる扉の前で止まった。

 

「私が同行できるのはここまでです。では、中へ・・・」

 

そう言って扉を開けて促す。

オルドリンが前に立ち、シャルルの横にいつでも庇えられるようにマリーベルが付き添って進む。

扉をくぐると後方で閉じる音が聞こえ、目の前にはなぜか暗い中庭があり・・・沢山の人がいることに気が付く。

冷や汗を流しながらオルドリンが拳銃を確かめると、奥の方から電灯が点き始めた。

 

「えっ」

「ぬぅ」

「・・・ぇ」

 

電灯が全て点き、中庭全体が照らされ・・・そこにいたシャルルの子供達が全員笑顔で三人を迎えていた。

 

「「「「「「「「「「「「「お父様!!」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「父上!!」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「何時もありがとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」」」」

 

一斉にクラッカーが鳴らされて、三人はなぜだか知らないがすこし下がった。

 

「え・・・え?これはいったい・・・」

 

混乱するマリーベルにカリーヌが答える。

 

「サプライズよ。サプライズ!」

「たまにはこうしたイベントもいいね」

 

オデュセウスが楽しそうに笑うと、ギネヴィアが苦笑して同意した。

 

「今回ために、態々シュナイゼルも協力してくれたしね」

「だからと言って、毎回できませんわ」

「久しぶりに驚いた父上を見れたな」

「ほんとね」

 

談笑する兄弟姉妹たちに、ようやく状況を飲み込んだマリーベルはワナワナ震えながら問うた。

 

「さ、最初っから・・・こうするつもりだったんですね」

「ええ、そうよ。発案者はルルーシュだけど」

「準備は去年から始まっていたんだよね」

「皆、役割分担して奔走したのよ」

「でも、これない兄弟も多いけどね」

 

ワイワイ喋るカリーヌ等に、蚊帳の外であったことを知ったマリーベルは怒り心頭で叫んだ

 

「なんで黙っていたんですか!!」

「だって、言ったらウッカリお父様の前で喋りそうだし」

「うぐ!」

「率先として働きすぎて、倒れられたりしたら迷惑だし」

「ぐぐ!」

「なんか細かく指示してきそうだし」

「・・・クスン」

 

さんざん言われていじけてしまったマリーベルを、オルドリンが慌てて励まそうと駆け寄った。

その横で黙っていたシャルルは、顔を俯かせてプルプル震えていた。

その様子を見ていたオデュセウス達は「ヤベ、怒らせたか?」と思っていると、勢いよく俯いていた顔をあげたシャルルの顔は・・・涙と鼻水でクシャクシャにしていた。

 

*1))))))

 

ちょっと引いてしまった子供達に気が付かないシャルルは、感動に体全体に打ち震わせていた。

子供達がこんなにも集まってくれた。

しかもこんなサプライズで!

あまりの感動に落ち込んでいるマリーベルを置いて走り出す。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「あ、陛下!マリー、陛下が行っちゃうよ!!」

「え・・・ああ!お父様、待ってください!!」

 

慌てて後から追い掛ける二人を尻目に、シャルルはその年齢にあわない速さで中庭に向かった。

もう、ビスマルクが騙してここに連れてきた事なんてどうでもいい。

儂、感動し過ぎて死んじゃう!!

うひょぉぉぉ!待っていてくれ、我が子らよぉぉぉぉ!!

そんなこと考えながら猛然とダッシュし、突等に足元の感覚が消えた。

 

「お?」

 

下を見ようとしたが、それよりも早くシャルルはドボンと落ちた。

その瞬間を後ろから追いかけていた二人は見ていた。

あともう少しで中庭という所で足元のシートが勢い良く沈み、そのまま地面に吸い込まれるように落ちてくのを。

 

「お父様ぁぁぁぁぁ!!」

「陛下ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

968 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:19:03

◆◆◆

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

◆◆◆

 

落とし穴に落ちたシャルルが泥水をしたたらせながら自力で抜け出て、掘った主犯をお得意の怒声で探しつつ追いかけまわし。

その様子を皆が笑って見て。逆に追いかけられて。

シャルルと汗を流した男子全員が備え付けたお風呂に入っている間に、女子メンバーが総出でテーブルと食事を用意し。

みんなでワイワイ食事をとり。

その間にロール髪ではなくなったシャルルの髪を、女子メンバーがいじって遊んで男子メンバーが噴出して笑って。

日本から取り寄せた家族ゲームを、チームを組んで遊び始めた。

 

そんな夢見ていた光景を目の前に、マリーベルとオルドリンは心ここに非ずと言う表情で、ワインをチビチビ飲みながら座っていた。

そんな二人の横にカリーヌとギネヴィアが座った。

 

「どうしたの。たのしくないとか?」

「え・・・えっと」

 

詰まるマリーベルに、近くにあったサンドイッチを摘まみながら不機嫌そうにギネヴィアが鋭い視線を向ける。

 

「元々このために今日、会いに来ていたのでしょ」

「そうなのですが・・・」

 

確かにそうだった。

父であるシャルルを皆で労いたい。その思いで駆けずり回っていた。

結局その思いは通じなかった・・・そう思っていたが、こうしてみんなも考えていてくれていて正直ホッとはしていた。

しかし、何か違うと思っているのも確かだった。

 

「・・・自分でやりたかったの?」

 

カリーヌが問う。

 

「・・・そうかもしれません」

 

力なく答える。

 

「ならさ・・・来年はマリーがやってよ」

「え?」

「いやぁ、今回の集まり。ホント皆無茶して調整しているのよね」

 

驚くマリーベルを尻目に、カリーヌは陽気に喋った。

 

「アタシもね。今夜中に移動して、明日の午前中には現地に到着して、視察して、会議して、書類整理しないといけないんだけど、午後に調整してもらったのよ」

「私の方もそうね。明日も宮殿にいるけど、今日の夜までには終わらせないといけない書類を、徹夜で終わらせてクタクタなのよね」

 

ホントはもう寝たいんだけど、と言う腹違いの姉をまじまじと見つめていると目が合った。

 

「なに?」

「これはお礼を言えばよいのでしょうか?」

「言わなくていいわよ。腹違いだけど“姉妹”でしょ」

 

その一言を言って恥ずかしくなったのか、そっぽを向いてしまったギネヴィアにマリーベルとオルドリンは少しだけ笑った。

 

「そうですね。来年は私が主催でこの団欒を開こうと思います」

「次はこれなかったルルーシュ様とナナリー様。コーネリア様とユフィ様もお呼びしましょう」

「おお、それは良いわね。次回も参加するつもりだから、楽しくやりましょう」

 

笑いあう三人の横で、姉が苦笑しながらワインを飲んだ。

ゲームをしていたシャルルチームが敗北したのか、雄叫びをあげて号泣しているのを見て、笑い合っていた四人は勝利したオデュセウスチームに挑むべく席を立って兄弟の・・・家族の仲に入っていった。

 

969 :父の日のサプライズ:2013/07/26(金) 23:19:33

 

 

 

その後・・・

夜遅くまで遊んだ彼らは、大きな部屋でまとまって寝た。

そして翌日にはいつものようにバラバラになって仕事に向かっていった。

しかし、彼等の懐には最後に皆でとった集合写真があり。

どんな時でも一緒であるという、確固たる礎が心に刻まれている。

マリーベルの寝台の横には、大好きな父を模した目覚まし時計と家族集合写真が飾られるようになった。

 

 

 

余談だが、某帝国宰相は参加できなかった。

父親の調整を秘密裏に行ったおかげで、彼は四轍をしてようやく眠りにつけたという。

 

970 :影響を受ける人:2013/07/26(金) 23:20:59

以上であります。

父の日ネタで制作していたのですが、完全に時期ズレです(汗

使用したネタは

 

初めてのAA使用

目覚まし時計・ザ!・皇帝

マリーベルの父の日

異母兄弟説得

皇帝陛下嶋田に愚痴る

異母兄弟たちのサプライズ

嬉しくて駆ける皇帝陛下をはめる罠

皆との会

 

でした。

戦闘物でもなく、恋愛ものでもなく、家族モノでしたが・・・キャラを動かすのが大変でした。

どれだけ、ああでも無い、こうでも無い、と悩んだか・・・

最後の方ですが、本当はもう少し続ける予定だったのです。

しかし挫折してしまいました・・・

そして今回初めてAAを使用しました。使うのはおそらく最初で最後でしょう。

最終更新:2013年09月15日 15:41



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機体名【クシャトリア】

584 :影響を受ける人:2013/08/03(土) 09:25:38

ゲリラ投稿

 

機体名【クシャトリア】

分類:ナイトオブラウンズ専用KMF 第8.5世代機 外観モデル:ガンダムUCのクシャトリア

製造:ブリタニア&日本 共同制作機

生産形態:ナイトオブシックス専用機

全高:5.56m 本体重量:7.84t 全備重量:17.86t

推進機関:ランドスピナー フロートシステム〔ラクシャータ式〕

本体武装:胸部・シュタルクハドロン(連装ハドロン砲×2)脚部・小型ミサイル×4(総弾数・8) 椀部・中型MVS スラッシュハーケン×2

装備武装:アサルト・ヴァリス×2

特殊装備:ブレイズルミナス  バインダー・ユニット×4(コイルガン×4) 隠し腕×4

乗員人数:1人  搭乗者:アーニャ・アールストレイム

設定:モニカに続いて日本に長く滞在していたアーニャに送った共同開発機。

彼女の要望で、火力を十分に意識した機体。

第九世代機【フリーダム】に使われている最新の動力を用いつつ、既存の武装での効率化を目指した。

以前の機体で問題となっていた近接攻撃付与、単調な攻撃を回避するための武装の付与、そして何よりも大きく成長した彼女の能力に応えられるのが問題であった。

椀部のMVSは、普段は袖の中にしまわれているが引き出して使用する事が可能である。

火力は絶大だが、いちいち構えるのが面倒になっていたシュタルクハドロン砲は、胸部左右においてエネルギーを素早く供給出来るようにし、リロードを早めることに成功した。むろん拡散砲撃も可能である。

全体的にミサイルの弾数はかなり減じられており不満そうであったが、代わりに装備させられたバインダー・ユニットによる弾幕に機嫌を直したという。

ブリタニア製KGF【サザーランド・ジーク】に使われた思考感知制御装置が搭載されており、視点移動と合わさって各バインダーに仕込まれたコイルガンが動いて個別に銃撃する事も可能である(イメージはマクロス0のミサイル迎撃シーン)。

ブレイズルミナスは各バインダー・椀部・脚部に仕込まれており。前よりもより強固となっている。

巡航速度よりも旋回能力を取ったため、フロートシステムは〔ラクシャータ式〕となっている(翼はしっかり折りたためられる)。

隠し椀部はそれほど握力は無いが、武器を持っての射撃はできる。

アサルト・ヴァリスは通常の単射タイプと弾丸三発を素早く打てるバーストタイプに切り替えが可能である。

シミュレーター実績ではあるが、二個大隊規模の敵を数分で全滅させたという。

開発陣は有線のファンネルを構想していたが、どうやって浮かすのかが難題であった為に諦めたという経緯がある。

最終更新:2013年09月15日 16:16



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機体名【レジェンド】和名:帝釈天【たいしゃくてん】

628 :影響を受ける人:2013/08/03(土) 14:42:59

再びゲリラ投稿

 

機体名【レジェンド】和名:帝釈天【たいしゃくてん】

分類:試作重KMF 第8.5世代機 外観モデル:ガンダム種死のレジェンド

製造:倉崎重工

生産形態:試作機

全高:5.52m 本体重量:6.91t 全備重量:16.64t

推進機関:ランドスピナー フロートシステム〔ロイド式〕

本体武装:腰・コイルガン×2 固定式MVS(右腕装備)

装備武装:アサルト・ハドロン砲 MA-V05A・複合兵装防盾システム

特殊装備:ブレイズルミナス  バインダー・ユニット×2(有線式コイルガン・インコム×6) 

乗員人数:1人  

設定:日本の試作重KMF。

本器は原作にて腕を飛ばしていた【聖典八極式紅蓮】を見本にして製作された機体。

どちらかと言うと倉崎の技術者達(ヲタクともいう)が、ファンネルを使いたいがために製作された。

本機は【プロヴィデンス】を当初目指していたが、コクピットの関係上【レジェンド】に変更された。

腰のコイルガンと、バインダーに装備されているコイルガンは同じ形状である。しかし原型とは違って先端に銃口がある(原型の円錐形タイプはない)。

腰のコイルガンは前後に振りむけることが可能になっている。

『MA-V05A・複合兵装防盾システム』は原型と同じ名前を持っているが、外見は全く違う。

どちらかと言うと、物理ランス+ブレイズルミナスと言う複合武装になっている。

アサルト・ハドロン砲は単射・拡散・砲撃を手持ち武器でもおこなえるように調整された試作武器。

カートリッジ方式を採用しており、一つで単射8発・拡散4発・砲撃1発となっている

バインダー・ユニットは【モルドレッド】と同じ搭載方法を取ったために、スラッシュハーケンは装備できない構造になってしまった。

目玉の武装である有線式ファンネル・・・インコムシステムは最大30メートル延ばすことが可能であり、ほぼオールレンジを実現している。

しかし運用には思考感知制御装置の併用が必要で、熟練者でもその操作は困難となってしまった。

簡易AIも搭載したが、運用の難しさは変わらない為に本機のみの生産となっている。

コイルガン・インコムは小型化に成功したフロートシステムを搭載しているが、浮遊時間が五分弱しかなく・・・コイルガンの弾薬もフロートシステムのせいで五発しか詰め込めず。バインダーに改修された際に補給しなければならない。

もし全力を発揮できれば、帝釈天に相応しい活躍が期待されている。

 

以上です。ある程度無理のない機体になったかと思われます。

アイディアのみが決まっていた機体だったので、さっさと書き上げました。

皆様の議論の材料になれればと思います。

最終更新:2013年09月15日 16:23



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【マスラオ】

566 :影響を受ける人:2013/09/28(土) 00:54:07

スメラギの第九世代の話が出てきて、ティンときた!アイディアが出てきたので纏めてみますね。

 

【マスラオ】

形式番号:GNX-U02X 分類:第九世代KMF 外見モデル:OOガンダムのマスラオ

所属:大日本帝国 製造:スメラギ・コンツェル

生産形態:試作実験機

全高:5.15m  全備重量:8.5t

推進機関:ランドスピナー エナジーウィング 加重力空間圧縮推進機関『トライ・パニッシャー』

武装:MVS・カタールタイプ×2 椀部固定短銃新型ヴァリス×2(総弾数60発)スラッシュハーケン×2

特殊装備:ブレイズルミナス フロートシステム・フィールド

搭乗方法:遠隔操作

設定:スメラギが世に送り出した第九世代機。

火力の【フリーダム】・技巧の【ランスロット・アルビオン】・速力の【マスラオ】と言われる三大KMFの一機。

ライバル視する倉崎を脅かすため、急いで設計された。

元の機体は【オーバー・フラッグ】を使用し、今までにないアイディアを盛り込むことにする。

と言っても手詰まり感が強く、何を目標にすればいいかわからなかった。

一応倉崎が【フリーダム】を制作する事は耳に入っていたが、どうせなら【ランスロット・アルビオン】にも勝てる要素が欲しかったのだ。

とりあえず攻撃力重視なのは変わらずに機体設計に入ったものの、設計と武装が【ランスロット・アルビオン】にモロ被りであり、更に開発陣を悩ませた。

かといって、安易にハドロン砲をつける気にもならず悶々としていたのだが・・・一人の技術者が言った。

 

「そうだ。【ジンクス・Ⅰ】でやった試みを、コイツで試せばいい」

 

【ジンクス・Ⅰ】に搭載された簡易フロートシステムのようなものを搭載させる。

そこに目標を定めた開発陣は、フロートシステムとエナジーウィングをもっと理解するために勉強し、どのような方法をとると変化するかを見た。

そしてある一人が思いだすようにつぶやいた。

 

「そういえば・・・ナナナのアリスの能力って、加速だったよな。加重力の・・・」

「ああ、そうだな」

「だったら。重力をマイナスにするんじゃなくて、プラスにしたらどうだ?」

「・・・重力推進か!!」

 

このアイディアが提示されると技術者たちは寝る間を惜しんで没頭した。

くしくも完成した機構は倉崎が開発した『クラッシュ・ブースター』に近いモノであり、同じようにエネルギーを食う代物になった。

しかし実験機なので問題ない。

 

567 :影響を受ける人:2013/09/28(土) 00:54:37

機体は順調に建造され、特徴的な足先にはランドローラーがほぼ剥き出しにセットされ。ランドスピナーは【紅蓮・シリーズ】の様にセットされた(ただし、足の内部に格納されるのではなく、剥き出しの状態で固定されるようになっている)。

椀部にはとある理由で固定武装が取り付けられ、ある程度射撃戦と格闘戦が出来るようになっている。

エナジーウィングは二対・四翼であるが、一翼がエネルギー翼一枚分しかなく、展開すると蝶のように見えるので【バタフライ・ソードマン】とも呼ばれた。

ファクトスフィアは両肩に移動してある。

あの特徴的な角も、理由が出来たので有効活用された。

そして目玉の加重力空間圧縮推進機関『トライ・パニッシャー』は、元ネタの機体とは違い腰のあたりから支えを伸ばして設置されている。

『トライ・パニッシャー』は一対であるが四つの爪が閉じるようになっている。

機構を作動させると花を開くように展開するのだが、この時爪と爪との間にあたかも筒の様にエネルギー力場が形成され、そこに加重力がくわえられる。

その間爪は圧縮され続ける重力を、指向性を持たせるために一定の開きのまま待機する。

そして加圧された重力は空間をゆがませていき、開いている方向・・・推進させたい方向に衝撃波と共に逃げだしていく。

この現象を利用したのが加重力空間圧縮推進機関『トライ・パニッシャー』である。

クラッシュ・ブースターが力場臨界崩壊させた衝撃で移動するのとあまり変わらないが、こちらは常に起動し続けるのと崩壊させない所が違うため、まぅたく違う機構ともいえる。

『トライ・パニッシャー』は自由にある程度稼働できるように設計され、前後左右に振り動かせて、敵前で爪を全開に開くと元に戻ろうとする空間の衝撃波が敵に襲い掛かり吹き飛ばしてしまう副産物も発見できた(イメージはACFAのアサルトアーマ―)。

このように書くと大変便利に思えるのだが、もちろん欠点はある。

他の二機種よりもとんでもない加重力が、搭乗者にかかってしまうのだ。

【フリーダム】【ランスロット・アルビオン】が最大でも1~2Gかかるとして、【マスラオ】は実に5Gはかかる。

加速力もそうだが急減速・急カーブのGも凄まじい為、とても人が乗れるものではなかった。

そこで遠隔操作方式に変更された。

更に曲がるためには通常の翼ではだめで、エナジーウィングで操作しなければならない。

機体にかかる負荷もとんでもない為、研究段階で生まれた副産物であるフロートシステム・フィールドを用いることにした。

このフィールドは、エナジーウィングのエネルギー力場を面状ではなく、立体的に薄く広く展開させるもので、加重力の軽減に用いられて機構は胸部に入れられた。

しかし【ジンクス・Ⅰ】の呪いなのか、第九世代の宿命なのか稼働時間が短く、『トライ・パニッシャー』を起動させて戦闘すると10分でオーバーヒートし、残り稼働時間も15分にしかならなかった。

こうして完成・・・まぁ、一応完成【マスラオ】であったが、見学をしていたユーロブリタニア関係者からは「やりすぎ」「こんなの乗れないよ」「もっと性能落として(汗」などと言われ、人が乗れる機体として【スサノオ】を建造する事になった。

 

まだまだ、第九世代以降の道は遠い・・・・・・

ちなみに模擬戦において、アキト氏が率いる混成部隊三個小隊(ジンクスⅢ・Ⅳ)を、制限時間内に全滅させている。

 

 

 

いかがでしょうか?あくまでもこの資料は暫定的なもので、本決まりではありません。

皆様の討論の資料になればと思います。

最終更新:2013年10月21日 12:54



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【アルケー】

31 :影響を受ける人:2013/10/20(日) 20:56:30

予告していたゲリラ(?)投稿だい。

 

 

 

【アルケー】ARCHE 和名:赤袴【あかばかま】

型式番号:GNW-20000 分類:第八世代KMF 外見モデル:OOガンダムのアルケーガンダム

所属:大日本帝国 製造:スメラギ・コンツェル

生産形態:試作実験機

頭頂高:6.3m 重量:14.59t

装備武装:ENバスターソード MVSショートサーベル×2 携帯式ブレイズルミナスor椀部固定式コイルガン×2

特殊装備:半誘導有線式スラッシュファング×8

推進機関:フロートシステム 電力駆動プラズマ推進モーター

搭乗者:一名

スメラギが制作した重KMF。

通常の重KMFが遠距離から中距離戦を意識しているのとは反対に、接近戦を意識して製作されている。

と言うのも聖ブリタニア皇帝の騎士ビスマルク・ヴァインシュタインが、重KMFながら接近戦を意識した【ギャラハッド】に搭乗しているという事で検証機として制作された。

重KMFらしく大きいが細身のある機体で、試作実験型という事もありフロートシステムと、コクピットは固定式になっている。

そして長い腕が特徴的な機体である。

この長い腕と肩の装甲部分にはフロートシステムの簡易版が仕込まれており、ENバスターソードを振るう時にお互いに力場を干渉させて反発させ、腕の振りを早くするために設置されている。

更に試験導入された半誘導有線式スラッシュファングは腰のバインダーに設置してあり、コンセプトはスラッシュハーケンを操縦者が自由に操作できるというものだ。

と言っても半誘導と書いてある通り、おおざっぱな誘導しかできない。

スラッシュファング自体は小柄ロケットを噴射しながら突進するのだが、これに誘導できる羽を追加してあり敵機突入時には羽が格納されるようになっている(それでも壊れるときはある)。

小型化に成功している電力駆動プラズマ推進モーターを装備しているので、【ジャスティス】の様に一気に接近できるためなかなか期待できると思われた。

しかし予想に反し、ENバスターソードを振るう前に懐に潜り込まれて切られ。

エネルギー問題が発生し、許可を貰ってライセンス制作した思考感知システムを導入するも半誘導有線式スラッシュファングが期待したとおりに行かなかったため。

結局“重KMFで接近戦をさせてみよう”と言う野心的な計画は倒れてしまった。わかったのは、超人的な操縦者じゃないと意味が無いという事だけだった。

スメラギと、ヲタクな開発者たちの努力はまだまだ続く。

最終更新:2013年11月03日 16:40



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宇宙に行く・・・

818 :宇宙に行く・・・:2013/03/23(土) 18:16:55
宇宙に行く・・・

設定
休日設定
戦争無しです。中華が大人しく発展。
シュナイゼルが綺麗?というか性格改変かな?



 

819 :宇宙に行く・・・:2013/03/23(土) 18:17:36

宇宙開発、それは夢幻会にとっても最も労力を使う事業である。

宇宙開発は当初、各国バラバラで行われ纏まりというものが無かった。そもそも宇宙開発というより軍事目的の衛星打ち上げがメインだった。

しかし、日本とブリタニアが同盟を締結させると宇宙開発は一気に進む。

主導したのは辻正信とシュナイゼル・エル・ブリタニア。

 

「今資源があっても、いつかは枯渇する。そうならない為にも、新しいフロンティアは必要である」

 

二人の主張は一致し、二国間での本格的宇宙開発がスタートした。

まず開発されたのは昔ながらの多段ロケットでの有人機の打ち上げだった。

なにせ、衛星は打ち上げの実績はあっても人を打ち上げたことなどないのだ。必然的にデータ収集が必要だった。

しかしいきなり人ではなく、モルモット(サル等)を乗せての打ち上げであったが・・・

そのデータ蓄積により初となる有人ロケット打ち上げは宇宙開発開始から二年後であった。

この時、宇宙飛行士はこれまた初となる大気圏外から「地球の青い海が見える」と言う発言を世界中に発信した。

これに気をよくした開発陣は、スペースシャトルの開発を開始。三年後に実用化に至るが・・・その試用期間は短かった。

理由はフロートシステムと電力駆動プラズマ推力機関の登場があったからだ。

これにより航空艦艇の建造を両国で開始、そのノウハウを持って宇宙開発に注力した。

初めは無人に改造されたスペースシャトルを利用しての実験で、成層圏まで上がった状態から発進させたり、地上から追加ブースターを取り付けて途中で再加速などの実験を実施。

それにより単独大気圏離脱突入艦【ザンジバル】※注1が完成した。

輸送艦として建造された本機はその能力を生かし、大量の物資と実験施設を宇宙に送り届け。ムーンプロジェクト※注2にて退役していた【航空実験艦:アヴァロン】を改造した月面調査艇を乗せて月に赴くなどの活躍を見せた※注3。

有人ロケット打ち上げ・帰還成功。宇宙実験ステーション建造。そして月の到達・・・二ヶ国は着実にその足を延ばしていた。

EUは月に至ったのを知り、この時になって初めてプロジェクトに参加してきた。続くように遅れまいと中華連邦も参入してきた。

そして数か国が関わりはじめた巨大プロジェクトに、シュナイゼルが温めいた計画が発表された。

 

「今ある宇宙ステーションは小さい。地上で巨大建造物を作り、宇宙に持ち上げよう」

 

各国は度肝を抜かれた。

何せようやく月にも実験棟を建設し始めたばかりだったのだ。シュナイゼルの計画に全員が渋ったが、一考の余地はあった。

宇宙ステーションはスペースシャトルの時とは違い、大容量の【ザンジバル】のお蔭で巨大化をしていたが実験施設の枠を超えられなかった。しっかりとした工業施設を作るとなると、確かに一理はあった。

シュナイゼルもわずか数年で完成するとは思っておらず。長期的な計画だった。

計画は『ダモクレス計画』とよばれ、世界中の科学者が集まって計画に参加した。

必要な施設建設に基づき算出された船体は、まさしく圧巻ともいうべきものだった。いかにフロートシステムを使おうとも、簡単には浮かない。

しかし彼らはあきらめずに仕事をこなした。

計画は二十数年の歳月をかけて完成、宇宙航行居住施設一番艦【ダモクレス】※注4は宙を舞い、宇宙に出て行った。

この時期には単独大気圏離脱突入艦【ザンジバル】は新型※注5に変わっていて、月にも工業用施設が出来ており、誰しもが無駄なものをと思っていたが、【ダモクレス】は使用用途を変えて運用された。

 

火星調査計画の母艦としてだ。

 

【ダモクレス】は食糧を自給自足できる施設を持ち、尚且つ娯楽施設もあり船員が快適に、かつ安全に行ける船になった。後に星間航行艦の原型となり、5度の星間航行※注6に従事した後解体された。

コロニー建設も進み、アステロイドベルトの工場施設などが進み。太陽系に人類は広がった。

そして人類は視線を外宇宙に向けた。彼らは生きる。その為進んでいく・・・人類は冒険者のように宇宙に挑み続けた。

 

820 :宇宙に行く・・・:2013/03/23(土) 18:18:06

単独大気圏離脱突入艦【ザンジバル】※注1

分類:輸送艦 外見モデル:初代ガンダムのザンジバル

艦級:ザンジバル級

所属:日本帝国 神聖ブリタニア帝国 Euro Universe 中華連邦 等々

全長:255m 全幅:221.8m 全高:70.5m

本体重量:22000t 全備重量:24000t

推進機関:フロートシステム 電力駆動プラズマ推力機関

解説

宇宙開発の際に開発された大型スペースシャトル。輸送艦として設計され、大容量の積載能力を誇る。宇宙開発の中核的存在として人々に知られた。

基本的にスペースシャトルの拡大版といった趣が強いが、フロートシステムと電力駆動プラズマ推力機関のお蔭で単独での大気圏離脱と突入が可能になり、再利用の為にロケットを回収する必要性がなくなった。

五番艦【リリー・マルレーン】が制動用に使っていたフロートシステムの故障によりあわやとなったが、無事に着陸できた事件などもあった。

全部で24隻建造されて、すべて元ネタの名前が付いた。

 

ムーンプロジェクト※注2

当初は小型探査艇で行く予定だったのだが、安全性を危惧したため断念。【ザンジバル級八番艦:ケルゲレン】がのちに【月面調査艇:アヴァロン】を乗せて月軌道上まで行く計画になった。

 

月に赴くなどの活躍を見せた※注3

運命のいたずらなのか【月面調査艇:アヴァロン】の艦長がニール・アームストロング(ブリタニア出身の軍人、年齢は40歳)と言う名前の別人であったが、「地球は丸く、宝石のように青い」と月面から見た地球の感想を述べている。また有名な「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」もいった(公式に記録されている)。

 

宇宙航行居住施設一番艦【ダモクレス】※注4

原作とは全く形が変わっている。円筒状のモノを束ねたような形で、一番下は駆動推進区画になっており、中心に居住区画・実験区画・食糧生産区画・などが周りに配置されている。また隕石対策にブレイズルミナスが張り巡らされており、降下艇として【ザンジバル】が搭載されている。当初は工業設備を持ち上げる為だったが、順調である宇宙開発により計画が変更されて星間航行を目的としたモノになった。地上で建造されたのはネームシップの【ダモクレス】だけであり、残りは月面で建造された。後継艦は全て伝説の武器の名前が付いた。

 

単独大気圏離脱艦【ザンジバル】の新型※注5

外見モデルが『ADVANCE OF Ζ 刻に抗いし者』の【ケラウノス】になった新型艦。物資輸送艦としての他に、人員輸送艦としても使用された。生産数は最終的に57隻建造された。

 

5度の星間航行※注6

一度目:火星に一年かけて航行し半年にわたり調査を行い帰還。

二度目:船体を改修した後もう一度火星に赴き今度は二年滞在して帰還する。

三度目:二番艦【エクスカリバー】とともに水星調査に赴き、帰還途中で機関トラブルを起こすも無事に地球に到着。

四度目:木星に三番艦【トール】と共に向かい、半年軌道上にとどまり帰還。【トール】は金星に向かっうのを見送った。

五度目:火星に向かった二番艦【エクスカリバー】のSOS信号を受け取り全速力で航行、衛星道上にいた【エクスカリバー】を修理しそのまま重力カタパルトで帰還するも耐久年数が過ぎたものとして解体された。

 

821 :宇宙に行く・・・:2013/03/23(土) 18:19:14

以上であります。TVでダモクレスを廃棄したとき「もったいないな」と思ったのが始まりでした。

ですがもともと兵器として造られたので、再利用が難しかったのも事実でした。なのでお蔵入りになりそうだったのですが、ここを見つけて投稿する気になり、ちょこちょこ書いて言った末にこうなりました。

本当は物語風にしたかったのですが・・・無理でした(泣 短くて済みません(土下座る

こんな駄文ですが、お楽しみいただけたら幸いです。

裏話になりますが、KMFとして出番があるのは【ガン・ルゥ:作業用】と【パンツァー・フンメル:作業用】だったりします。

最終更新:2013年04月07日 11:17



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嶋田一繁、ゲーセンに行く

279 :嶋田一繁、ゲーセンに行く:2013/07/13(土) 23:32:05

嶋田一繁、ゲーセンに行く

 

 

嶋田一繁ことシゲチーは、今日友人たちを連れてゲーセンに来ていた。

やるのはKMFオンラインバトルである。

これはインターネット通信により対戦が可能であり、時には大規模な戦闘もできるという今人気のゲームだ。

家庭用もあるが、ゲームセンターだと操作法がコクピット式になってダイナミックに動かせられるのも人気の一つだ。

もっとも会員制で、お値段もちょっと高いのだが・・・

そんなゲームに新しくミッションが入ったという事で挑戦しに来たのだ。

開いていたので早速挑戦する。IDカードを入れてお金を投入し、ステージを選択・・・お、あった。

えっと何々・・・内容は、シーランド防衛とほぼ同じか・・・KGFが混じっているのが難易度アップだな。

しかし“高麗戦争”で型遅れの【グロースター・カスタム】で駆け抜け 。

“シーランド防衛”で【ポートマンⅡ】でイージス艦を撃沈できた俺に死角はない!!

 

 

 

そう思っていた時期もありました・・・

 

 

 

まず自分の機体は【グロースター・カスタム】。

武装はオーソドックスにマシンガン・四連装ロケットランチャー・連装:熱源ミサイル・重斬刀だ。

友人A【グロースター・カスタム】武装:通常ライフル・追加スラッシュハーケン×2・MVS・追加エネルギーパック

友人B【グロースター・カスタム】武装:バズーカ×2・三連装ロケットランチャー×2

友人C【ストライク・トライアル】武装:ハドロン砲・ハンドガン×2・重斬刀

友人D【ポートマンⅡ】武装:コイルガン×2・垂直発射ミサイル・使い捨て三連装グレネードランチャー

だった。

 

水上戦という事で一人だけ水中用KMFを入れて作戦開始した・・・が。

散開した直後、隣の人工島がいきなり溶融して大穴があいて爆散した。

 

『『『『「はっ?」』』』』

 

呆然としていると今度はミサイルの雨が降ってきた。

慌てて物陰や海中に逃げ込む。

凄まじい猛爆撃の後、レーダーを見たら尋常じゃないKMFの数が表示されていた。

友人Dはその数に恐れおののいたが、「ふ、ここが俺の死に場所らしい。先に逝くぜ!!」と言った直後、KGF【ヴァル・ヴァロ】の高速クローアタックにより二秒で撃破された。

このゲームは予め機体コストが決まっていて、復活できる回数が決まっている。

少しお安い【ポートマンⅡ】ならあと六回は復活できるのだが・・・確認できた【ヴァル・ヴァロ】十数機を見ただけで怖気づいてしまった。ドンマイ。

この後上陸してくる敵水中用KMFを銃撃したり、斬撃で叩き落としたりしていたが、敵KMFが少ないと例の謎の砲撃とミサイルが飛んできて、さじ加減が大変だ。

弾薬は尽きても、そこら中に補給ポイントがあるので回復が出来るのが唯一の救いだった。

友人Aは足場にしようとしていた友軍戦闘艦に飛び移ろうとした際に、【ヴァル・ヴァロ】に目の前で掴まれ足場にしようとしていた戦闘艦にぶつけられ。

友人Bは退避が間に合わずに例の砲撃で足場諸共溶融爆散し、友人Cはフロートユニットを見つけて換装し、例の砲撃の主を見ようと偵察に赴こうとして謎の怪光線乱射を浴びて撃墜され(半ば高いHPのせいで海中に行くまで生きていて、その後なぶり殺しにあっている)、友人Dは・・・皆から『少しでも敵を削るためだ。すまん!!』と言われて海に蹴り出されていた。

 

そして今現在、ちまちま攻撃して全ての敵KMFを撃破、KGFを沈めた。

しかし当初の意気込みはもうなく・・・ただ、疲れ切っていた。

最後に残った人工島に終結したおれたちは、補給ポイントに身を寄せてただ待っていた。

なにを?

もちろん例の砲撃をする奴さ。

せめて、その面だけでも見てやる!

その意気込みだけで俺は待っていた。

そして・・・奴は現れた。

 

280 :嶋田一繁、ゲーセンに行く:2013/07/13(土) 23:32:38

機械の異音を響かせながらまず出てきたのは三本の爪・・・次に異様に太い腕だ。

同じ様なモノがもう一つ出てきて人工島のふちを掴む。

もうこの時点で俺たちは腰が引けていた。

だって・・・【ヴァル・ヴァロ】よりも大きく見えるんだぜ。その爪がさ・・・

異音が一時的に低くなったかと思えば、爆発音とともにそれは飛び上がってきた。

 

シーランド近海に溶け込むように塗られた塗装。

 

巨大な爪と肘をつくような独特な形を持つ腕。

 

肩のアーマーは異様に大きく、より機体を巨大に見せて頑強に見えた。

 

後部は見えない、前部だけでもかなりの巨体で見えないのだ。

 

そして・・・【ヴァル・ヴァロ】のような巨大な頭がモノアイを光らせ。

 

荷電粒子砲を覆っていたカバーを咆哮するように開いて、全身から駆動音を威嚇のように響かせた。

 

もう大怪獣の咆哮でいいんじゃない?自分はそんなことを考えつつも、拾っておいた電磁スピア―を構えた。

ああ、“シーランド防衛”ではよほど追いつめられないと出てこない“シーランドの守護獣”が、今目の前に敵として出てきた。

その圧倒的存在感に俺は・・・ただ乾いた笑いをするしかなかった。

 

「やってやるよ・・・こんちくしょぉぉぉぉぉ!!!!」

『そのデカい図体で、俺の華麗なステップをみきれるか!!』

『火力だけじゃない、技量を見せてやるぜぇぇぇ!!』

『とって置いた超重実体剣“要塞殺し”・・・貴様にくれてやる!!』

『いいか、小さくても俺の爪は凶悪なんだよぉぉぉぉ!!』

 

俺達は勢いよくラスボス・・・【シャンブロ】に突っ込んでいった。

もう報酬とか、達成率とか、そんなのは関係ない。

ここまで来たらしとめるしかねぇじゃねぇか!!

だから俺たちは遮二無二突っ込んでいった。

後先考えずに・・・

 

 

 

なんだよサクラ姉、内容が知りたいから言ってやったのに。

え、結局どうなったかのかって?

ええ負けましたよ。

笑うなよ!!

攻撃が全然効かないんだぞ!!

ブレイズルミナスは硬すぎるし、もう修理コストもなかったし、補給ポイントが早々に潰されたのもある。

兎に角ひどい戦いだった。

もう一度挑むのかって?・・・難しすぎるっていうクレームがあったせいで、あの難易度ではもう挑めないな。

まぁ、今度は勝手見せるさ。

おっと、明日も学校だ。おやすみ~。

最終更新:2013年09月09日 01:05



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嶋田一家シーランド旅行 一繁【シャンブロ】に会う

68 :影響を受ける人:2013/10/05(土) 17:20:10
KGF機体設定で詰まってしまい、気晴らしに書きました。
SEEDの【ユークリッド】とあとなんにしよう?



 

嶋田一家シーランド旅行 一繁【シャンブロ】に会う

 

 

 

今日俺は父さんに連れられて、シーランド王国に来ている。

昔に国王様に助けられて、それから付き合いがあるらしく、今回久しぶりにいくのだそうだ。

本当は行きたくなかったのだが、ばb・・・母さんのお小遣いUP交渉に付き合ってくれるというので渋々行くことにしたのだ。

 

「おひさしぶりですね」

「いやぁ。本当にお久しぶりですな」

 

今目の前で国王様のヴィーツ王に親父が挨拶しているが、普段家にいる姿とは違い、スーツを着こなしまさにできる漢と言う印象を受けた。

悔しいけど大人な雰囲気と、上に立つ人特有の覇気と言うモノが見える・・・気がする。

しばらく二人で話していたが、客室に案内されてからは自由行動になった。

上の姉二人はそれぞれ軍事区画や、物資積載区画の港にある市場に行くそうだ。市場に行くのは美味しい海産物でも食べる気か?

サクラ姉はよく食うからな(それなのに太らないなんて、それだけ母さんのしごきが凄いのだろう)。

俺はゲームセンターと博物館だ!

なぜ博物館かって?

ふふふ・・・そこにはKMFとKGFが展示させられているからさ!

日本にも展示されているけど、塗装が違ったり、細かな改修が違ったりするから面白いんだよ。

さて、いくかな・・・宿代は只だし、父さんから「お金に困らない様に渡すが、節度を持って使いなさい。どうせ母さんにばれるからな」といってカードを渡してくれた。

母さんは実家に寄っているので今はいない。後で合流予定だ。

さぁ!遊ぶぞ!!

 

 

 

ゲームセンターは面白かった。

日本には無いゲームが合ったり、シーランド王国と欧州各地を結んだネットKMF対戦ゲームがあった。

ミッションも目新しいものがあったので楽しめた。

会員登録制なのは変わらなかったけど、同じ会員カードが使えたのは良かった。

 

あと・・・無理やり教えられていた外国語が役に立った。

片言に近かったけど、コミュニケーションが取れる、取れないだけで違うんだなぁと実感したよ。

辻のおじさんの言うとおりだったな・・・これからはもっと勉強して置こう。先生が言うには、ユーロブリタニが解放されてから外国の人が良く渡航してくるようになったから、必須事項だ。

 

そして俺はいま博物館にいる。

それにしても海上にいるのに、シーランド王国は揺れない。

最新技術で建造されたというからなんだろうけど、世界にある海上プラントの基礎になったともいわれているからなぁ。

絵画なんか自分には価値観や意味はわからない。でもそのまま多りすぎるのもなんなので、気になったモノの前だけ足を止めて見入る事にする。

 

そしてしばらく進むと機械的な入り口が見えた。

流石にここら辺は子供連れが多い。

あとは、カメラを抱えたヲタクのような奴か?

そんなのは気にせずに俺は中に入っていった。

そこで俺は・・・出会った。

 

ゲーム内ではよく出会っていた因縁の相手。

最初に蹂躙された記憶は今でも思い出せる。

圧倒的な火力は大怪獣に相応しい。

 

大きな通路の横には、まるで王を守護する騎士の様にKMFが並んでいた。

 

【グロースター】が、

【ロング・ダガー】が、

【バスター・ダガー】が、

【ガレス】が、

【ポートマン】が、

【ポートマン・Ⅱ】が、

【ズゴック】が、

【ズゴックE】が、

【アレクサンダ】が、

【グラスゴー】が、

 

ずらりと並んで、入ってきた者を威圧するように台座に並んでいた。

一応日本とブリタニアに分けられて並んでいるようだが、天井から差し込む陽光のせいで荘厳に感じられる。

息を飲んでゆっくりと歩いていく。

 

69 :影響を受ける人:2013/10/05(土) 17:21:13

周りで子供がはしゃいでいるけど、全く耳に入らない。

なぜなら視線は真っ直ぐ前に向いているからだ。

“そいつ”の両側には 【ヴァル・ヴァロ】と【ファイバー】が守護騎士の様に並び立ち、こちらを睨みつけているように見える。

 

二機ともKGFで、有名な機体だ。

【ヴァル・ヴァロ】の曲線は陽光に光って煌めいている。

【ファイバー】はKMF【フライルー】を中心に装備された武装で、ゴテゴテ感があるけど高い位置に機体があるせいか存在感がある。手に持ったハドロンランチャーが今にも火を噴きそうだ。

でも・・・その二機よりも大きく、存在感と威圧感がある“そいつ”の周りではさすがの子供達も黙ってしまっている。

 

単騎であげた戦果ではKGFの中で一番、まだ抜かれていない・・・抜かれる事もない記録を保持し。

『守護神』『破壊王』『殲滅獣』『恐怖の権化』とまで言われ、最強で最恐の最凶KGF【シャンブロ】が鎮座していた。

 

頭部がわずかに下がってモノアイがこちらを見つめる様になっている。

肘をつくような腕に踏まれて床はひび割れ(そうして見せているだけだろうけど)、KMFなんて簡単に握りつぶせる爪は、右は床に突きたてられて左は天井の梁を掴んで握りつぶしそうだ。

両肩のアーマーの重量感はゲームの比じゃない。

後ろに回れるみたいなので回り込むが、巨大な機体は重厚感でもって周りを威圧している。

 

そしてまた前に出て【シャンブロ】を見上げる。

この機体がこの国を守った。

それだけじゃない何かを、この機体から感じ取ったような気がする。

周りをちらりと見れば、【シャンブロ】を敬意の目で見上げている人が何人かいた。

恐らくだけど、シーランド王国の人だと思う。

 

俺はそのままその場を去った。

その際何度も振り貝絵って【シャンブロ】をみた。

今にも動き出して、その口にしまわれている荷電粒子砲をこちらに向けて打ってきそうだった。

 

客室に帰ってからも、胸の内に生まれた何かを持て余していたせいで帰ってきた姉たちにからかわれた。

畜生・・・

でも今回は来てよかったという思いになっている。

うん、明日からなんか変われそうだ。

 

そう思ってベッドに寝転んでいると、扉がノックされた。

なんだろうと思って扉を開けると、そこには・・・

 

「一繁、成績が落ちたそうですね」

 

鬼がいた。

や、やめて!

旅行先まで勉強したくないよぉぉぉぉぉ!!

 

 

 

以上です。

KGFに関して、皆さまから御意見を伺いたいのですが宜しいでしょうか?

とりあえず大空を飛ぶのが前提です。SEED以外から後一機種選びたいと思っています(いい機体があれば追加します)。

この後出かけるので、宜しくお願いします。

最終更新:2013年10月21日 13:29



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没兵器:№01

473 :影響を受ける人:2014/01/13(月) 22:11:31

ルルーシュの女装か・・・無印種の主人公も女性だったらいいのにと考えるダメ男が、ゲリラ投稿します。

 

 

 

没兵器:№01

設定:休日世界

 

 

転生者が数多くいるこの世界。

成功を呼び込むモノもあれば、失敗するモノもある。

KMF制作も試行錯誤(主にネタ兵器が実用化できるかどうかの検証)しており、それは武装にも及ぶ。

その中で先んじて成功した武装“可変弾薬反発衝撃砲”ことブリタニア名“Variable Ammunition Repulsion Impact Spitfire”、略称名“VARIS”和名“ヴァリス”などは最も評価できる成功例だろう。

エネルギー兵器開発では“非物質物理干渉障壁”こと“ブレイズルミナス”などもある(開発者コメント:ん?なんとなく弄っていたらできた)。

このように成功したモノは武装面でも多く、手先が器用な日本人の一品はブリタニア帝国でも評価が高い。

しかし、中には失敗作も当然含められている。そのうちの一つを紹介しよう。

 

正式名:Blade Weapon System-3 略称名:BWS-3 通称:要塞級殺し【フォートスレイヤー】

 

この武装はKMFよりも若干大きい重質量刀である。

大きさもさることながら重量も質量刀の中では最大級であり、KMFは各関節にパワーアシスト補助を取り付け、他の武装を一切取り付けない状態でようやく保持可能という馬鹿げたものだった。

しかも【サザーランド:後期型クラス】以降のKMFでなければ持てないというオマケ付き・・・

なんでこんなものを?と思いだろうが理由はちゃんとある。

この質量刀の対象は、陸上戦艦【竜胆】や海洋を航行する戦闘艦。

 

敵の懐に飛び込んで、一機に切り裂く。

 

確かに構想としては良いかも知れないが、結局重量が仇になった。

ロボット兵器至高主義者主導のもとに製作された“要塞級殺し”であったが、製造数僅か三本で打ち止めとなり。

一本は博物館行き、一本は一応試験部隊に配備(誰も使わない)、最後の一本は来日してこ惚れ込んだ一番の男が購入するに至る(基本的に飾ってあるらしい。時折KMFで振るっているとも・・・)。

 

このように、日夜思考錯誤をしている兵器開発部。

その思考は基本的にロマンであり、欲望だ。

彼等を御するかどうかが、この日本の未来を決めるだろう。

 

 

こんなお茶濁しじゃなくて、ちゃんとしたの投稿しないとなぁ・・・

最終更新:2014年02月22日 17:34

 

 

 



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ある者の悩みと考え

393 :影響を受ける人:2014/02/01(土) 20:23:28
設定:休日世界モニカルート
独自解釈・独自設定が出てきます。
記憶力の低い頭で考えました。
それでもOKという方はお進みください。



 

 

 

 

 

 

 

ある者の悩みと考え

 

 

『高亥』原作を知るものでは「出落ち」とも呼ばれる彼だが、以外にも才能があり、「贅沢をするために努力は惜しまない」という異色の人物であった。

自ら贅沢と楽をするために努力する。そんな彼だが、だからこそ部下の信頼は厚かった。

何せ決断力はあるし、ちゃんとに部下の言い分も聞いてくれるのだ。

そんな彼でも宦官排除の動きを止める事は出来なかった。

そこで一計を案じ、“清”を作って独立してしまった。

 

彼以外の宦官の働きもあったろうが、大部分は自分の功績だと誇っている。

“ジェンシー”もその一つだ。

多大な出費だったが、自国でKMF制作が出来るのは何よりも大きい。

それでも満足せず、油断なく動いた。

 

 

シベリア戦争

 

 

高亥はEUに攻め込んだ。

狙いは・・・未発掘のサクラダイト鉱山。

 

EU内部は主にアフリカ方面の資源に頼っている面も有り。冬は厳しいこの地方の開発は、田舎というイメージもあって全く進んでいない。

そこに高亥が秘密裏に内情探るべく、密偵を放っていたのだが・・・「赤く光る石を見たことがある」という酒場の与太話を仕入れたことにより、“清”の発足は早まった。

慎重に、慎重に調べ上げ、未発掘のサクラダイト鉱脈・他鉱山をみつけだすことに成功し。

その鉱山を手中に収めるべく手勢を動かした。日本や、ブリタニア帝国に依存しないサクラダイトを求めて・・・

 

国際的に何か言われるのを避け、宣戦布告をしっかり行ってからの戦争は、かなり順調な滑り出しであり。

連戦連勝、“清”の国民が高揚すると同時に、ここまで整備した高亥も満足する。

少し気がかりなのは―勝ちすぎている―事だけ。

 

懸念は現実となった。

総大将の曹将軍を無視して進撃する部隊が続出したのだ。

それは他の宦官の手勢であり、戦争当初は完全に後方にいた連中だった。

曹将軍が防衛戦構築の為に進撃を緩めたのを好機に、内部工作をしてまで進撃をする。

 

完全に暴走状態となった軍を高亥は激怒し、後のEU大反撃で曹将軍を更迭しようとまでした(後に高亥の情緒不安定も彼等の策だと判明)。

高亥自身も他の宦官に対して軍を引かせるよう要請したが、表向きの理由に賛成して拡大しているのに、なぜ抑えるのかと反撃した。

彼等は高亥が鉱山を得るために戦争を起こしたことを実は知っており、自分達が“占有”できる鉱山があるかもしれないという思いを持って拡大を指示している。

その所為もあって泥沼の戦争になりつつあり、最悪な事に冬将軍が到来してしまう。

 

両軍が動けないその間にEUは立て直し、猛烈な反撃を受けた。

これに宦官の手勢は大打撃を受けて大きく後退し、ようやく高亥の手に主導権が戻ったのだった。

そして新型KMF【夏候】・新型陸上戦艦【芳珠】そして偶然の産物、最悪の気化爆弾を投入して敵軍に対して大ダメージを与え、占領した土地の防衛線構築に成功する。

 

―――

――――――

―――――――――

 

394 :影響を受ける人:2014/02/01(土) 20:23:58

 

シベリア戦争後、高亥は寝る間を惜しんで働いた。

軍の立て直しもあるが、国内整備も忙しい。

新たな土地に入植した者達は鉱山で懸命に働き、それに見合った報酬を得て暮らしている。

 

ただ富を溜めるのではなく、適度に配ればさらに冨が集まる。

 

これを実感した高亥は、積極的に配分している。

もっとも、高亥以外はまるでしていないのが現状だが・・・

 

そんな彼も、大宦官同士の会議は疲れる。

今日も今日とてお互い腹の探り合いに終始し、ほとんど進まずに終わった。

 

「はぁ…まったくあ奴らは…」

 

いっそ切り捨てるか。そうつぶやくが、貴重な政治のスケープゴート。そうそう簡単に切り捨てられない。

切り捨てるにも時期がある。そう・・・思っておこう。

護衛が周りを固める中移動し、すでに車が玄関前に待機しており。車の前で一人の人物が彼を待っていた。

小柄で、目が細めで、メガネをかけ、冷たい印象がある。

 

「待たせた。ゆくぞ。」

「はい。了解しました。」

 

一つ声をかけて中に入ると、待っていた人物も乗り込んでドアが閉まった。

 

「どうだ。なれたか?」

「はい。曹将軍も、私に慣れつつあるようです。」

 

車がゆっくり動きだし、しばらく走ったところで声をかけた。

対面式の車内で、お互いに見える位置に座っている。

高亥の前に座る若い人物、背はそんなに高くなく、体の線も細い。

顔の表情は変わらず、動かない。

 

「ソナタを見つけられたのは幸運であった。」

「それは買いかぶりです。」

「くく…相変わらず硬いのう。もうちょっと柔らかくなれば、自分の後継者となろう」

「…恐縮です」

「精進せよ。蘭」

「はい」

 

蘭と屋ばれた人物は女性で。

今年の文官採用試験の際に目に留まった人物で、面接試験の時にマジックミラー越しに受け答えを聞いてみた。

その回答はなかなかに独創的であったが、高亥の「贅沢をするために努力する」と言う信条に近いものを持っていた。

 

最近後継を考えていた高亥は、思い切って彼女を傍に置いたのだった。

腹心と言える曹将軍は当初戸惑ったが、何とか後継者として受け入れてくれているようではあった。

そうこうする間に高亥の住居に戻り終え。

二人はそのまま大会議室に向かう。

これからが“本当の会議”である。

 

入室すると、その場にいた高官・文官・武官が立ち上がって頭を下げた。

軽く手を挙げ、頭を上げさせると上座に座り。蘭は資料を取り出して右後ろに待機する。

 

「では、はじめようか。」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 

号令をかけると左側手前の一人を除いて全員座った。

 

「まずは人口面です。戦争により一時的に減っていた人口ですが、中華方面から職を求めて流民が相次で入国しています」

「ほぅ…間者などは?」

「おそらくいるでしょう。そこは情報部と協調して対処しています。ですが…」

「わかっておる。だが、警戒は言にせよ。それと、職につけるのはこの国に定住する者のみとすることを怠るでないぞ。」

「承知しております。」

 

報告が終わり、座ると変わって右側手前の高官が立ち上がる。

 

395 :影響を受ける人:2014/02/01(土) 20:24:30

 

「農林水産についてです。一部機械化が進み能率が上がっています。また、以前よりのテコ入れによりさらに今年は上がりそうです。」

「働き手はどうじゃ? 足りておるのか?」

「戦争にだいぶ持って行かれましたが、先程の流民を一部と要する事で何とか補いました。後は彼等の定住化が進めば安定するものと思われます。」

「…暴動が起きないよう注意せよ。」

「他の、宦官の方の動きには注意しております。ご安心を。」

 

報告を終え、彼も座る。この後、他の細々とした報告がなされ、その度に質問し、蘭からは必要な書類を見せてもらって納得していく。

 

「曹です。EUの大反撃を受けて消耗しましたが、戦線の防御には成功しました。

 以前の戦線よりも後退しましたが、鉱山等を守るのに必要な、防衛戦を張れる場所は確保できました。

 当面は大丈夫でしょう。

 陸上戦艦【芳珠】の配備は遅々として進んでいませんが、デリケートな面も多い為に今は早急な配備は望んでいません。」

「【夏候】の配備はどうじゃ?」

「それは順調です。すでにKMF全部隊の75%を変えています。また余剰となった【ジェンシー】は国境警備に回すなどをし、他の面の戦力向上にも努めております。

 さらに【ガンルゥ】についてですが、一部のライン以外は新しい機体にしています…他国はMTFと呼びますが…【岩洞】【岩蜘蛛】に変更しています。

 【岩洞】は【ガンルゥ】の後継機で、コストを抑えるべく【ジェンシー】の部品を主に使えるように設計してあります。

 【岩蜘蛛】は敵から鹵獲した多脚兵器を解析したものです。平地ではあまり活躍はありませんが、起伏にとんだ場所では戦車よりも活動でき、KMFでも歩行困難場所でも安定して移動できます。

 なにぶん新設計なので、生産は少し抑え目です。」

 

説明に頷く高亥をみて少し安心する曹だったが、次の説明はどうにも気が重くなる。

 

「続いてエース用として限定生産している【夏候・弐型】ですが…やはり整備性が悪いと不評です。」

 

高亥の眉間に皺がよるのが見えた。

無理もない。本来ならば時間をかけてシェイプアップしなければならないのを、無理やり性能を上げる工夫をしているのだ。

【夏候・弐型】は【夏候】の改良機だ。関節機構や動力を弄って性能アップを図ったが、その為の部品が完全オーダーメイドで、手作りの上に生産するのが難しいときている。

整備する側も大変だろう。

それもこれも多脚兵器と同じように鹵獲した、第七世代相当の機体のせいである。

 

その機体はEUにおいて【アレクサンダ】といわれているがこの際は置いておく。

第七世代機相当のKMFの性能はずば抜けていた。

装甲が薄いという面を覗けば、【夏候】よりも性能がいい。

しかも市街地戦や、地形が不安定な場所での奇襲などの特殊戦に強いのも上げられる。

一部の報告では、たった一機に【ジェンシー】が全滅させられたという話も聞く。

 

396 :影響を受ける人:2014/02/01(土) 20:25:57

 

「…こちらの開発はどうなっている?」

「はい、それなりに進んでいます。ですが…」

 

【夏候】開発終了から、開発班は二つに分かれた。

一つは改良する為、もう一つは次世代機。

その次世代機開発が猛烈な勢いで進められている。

 

清の純正KMF【呂布】

分類:第七世代相当KMF 所属:大清連邦 外見モデル・ガサラキの壱七式戦術甲冑 雷電(ライデン)

製造:清の重工業 生産形態:限定生産型

全長:4.6m 本体重量:6.8t

推進機関:ランドスピナー 補助推進機関:使い捨てロケットエンジン

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタントンファー スモークディスチャージャー(閃光弾等にも変更可能)

装備武装:マシンガン アサルトライフ 75mm低圧砲 50mmグレネードランチャー 重斬刀 etc.

乗員人数:1人

 

これが、次世代機として開発が進められているKMFだ。

【夏候】に比べて軽量化がなされており、随所に【アレクサンダ】からの教訓を生かしている。

最も可変機構はいらいないと判断されているので、関節機構は頑丈になっている。

生産性を優先しているせいで首の可動部分はなし、対人機銃もなし、スラッシュハーケンは射出部から上下に先端を動かすだけで54°角が限界。

未だ設計段階であり。実機すらない状況。

 

「仕方あるまい。しっかりやるように申し付けよ。故障だけは無いようにな…」

「高麗とは違います。お任せください」

 

溜息をつきたいのを我慢しつつ曹将軍に言うと、再び細々とした報告受け、それらに指示と新たな方針を告げていく。

会議は少し遅くまで続いた。

 

―――

――――――

―――――――――

 

会議が終わり、自室で軽くお酒を飲む。

その姿は某苦労性の元首相を思い起こさせた。

 

「ふぅ…」

「…」

 

溜息をつく自分の上司を、ただ変わらぬ細目で見る。

蘭は只己の実力を示すために努力する。その努力に見合った報酬を得るのは当然という思いもある。

女の身の上ではあるが、同じように努力する者を馬鹿にする事は無く、最大限努力し地位を維持している高亥は尊敬に値する人物だ。

だが・・・最近は物思いに耽ることが多い。

理由はわかっている

 

397 :影響を受ける人:2014/02/01(土) 20:26:28

EU崩壊の速さ。

 

当初の見積もりではシベリアを取られたぐらいでは揺らがないはずだった。

確かに政治不安な所はあったが、それでも猶予はあると判断していた。

だが予想に反しEUの内情はガタが来ていた。

 

その為、ブリタニアに居候しているユーロブリタニアの動きが活発化している。

もし彼らが動けば日本も動くだろう。友邦を助けるために。

それにつられて他の宦官が余計な動きをするかもしれない。

馬鹿な高麗が動くかもしれない。

EUが打倒されれば・・・次はこちらだろう。

奪われた土地を取り戻すという大義名分があちらには在り、しかもそこには旨味のある鉱山すらある。

排除されるの恐れ、その前に“清”を建国したのは間違いだったのだろうか?

 

「否…それはない。出なければ今頃は絞首刑台の上だ」

 

先程浮かんだ疑問を力強い言葉で否定する。そうでなければ今までの自分を否定する事になるから。

だが、どうする?

あの連中と心中する気はない。

さりとて・・・

 

「高亥様」

「なんじゃ」

 

再び考えに沈みそうになったが、蘭が中断させた。

普段はけしてそういう事をしないので、少し驚くと同時に不可解に感じる。

だが、普段しない事をしたのだ。何か思う所があるのかもしれない。

顔と体を向けて話を聞く体制をとる。

 

「高亥様が悩んでおられるのは、あの寄生虫共の事ですか?」

「そうだ。」

 

確かに日本・ブリタニア帝国・ユーロブリタニアは脅威だ。

だがそれも、こちらにちょっかいを出さなければいいだけの事。

上記に挙げた理由だけでは少し弱い所もある。

なので問題は足を引っ張る連中となる。

 

「策ならばあります。恐らくは考えられているとは思いますが…」

「ならば言うてみよ。」

「はっ。では失礼して…」

 

蘭は策を話す。その顔は相変わらず無表情で冷たい

話の内容は高亥が考えている策と全く同じだった。

 

「…以上です。」

「…」

 

話し終り、もう一度酒を飲む。

そして酒器を置くと天井を仰ぎ見る。

 

「やはり、それしかないか…」

「高亥様が生き残るには最善かと」

 

やはりままならない。

この国に、愛着を持ってしまった今では苦渋の決断を強いることになる。

何度考えてもこの考えが離れない。他に最善の策はないか考える。

しかし・・・かわらない。

 

「ままならぬな…」

 

高亥は酒を注ぎなおして今度は勢いよく飲んだ。

旨い最高級品のはずなのに、酷く不味く感じた。

 

398 :影響を受ける人:2014/02/01(土) 20:27:29

以上になります。

オリジナルキャラ“蘭”を登場させてみました。

彼女のイメージは侍スピリッツ・アスラ斬魔伝の羅刹ナコルルです(私の趣味丸出し)。

彼女は高亥の後継者で、冷徹な判断を下せます。しかし努力する者は誰であれ、身分関係なく認め称賛します。

反対に驕れる者に対しては限りなく冷徹に見ます。もしくは道具にしか見ません。

まだ若い所為か、硬い面がみられるために柔軟な思考が身につくよう指導されています。

曹将軍は女性が後継者と言う面に戸惑いましたが、自分も高齢になりつつあるので納得しています。

話の内容は、ほとんど今までの議論纏めでしかありません。

 

清の純正KMF【呂布】

出てきた清の第七世代相当のKMFです。

しかしながら【アレクサンダ】よりも生産性が悪く、扱いづらい機体となっています。

完全にエース中のエース向けです。

もし時間があれば外見が【壱七式戦術甲冑改 震電(シンデン)】で、名前も【高順】となり、生産性は多少向上してエースに配備されます。

それでもそれでも整備性は・・・

最終更新:2014年02月22日 19:13



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ユーロブリタニアin夢幻会世界

175 :影響を受ける人:2014/05/03(土) 22:36:41
設定:ユーロブリタニアin夢幻会世界
捏造設定あり
作者の勘違いあり?
ブレイクブレイドのネタあり



 

 

 

ユーロブリタニアによる日本侵攻。

それは、日本とブリタニアに生まれた夢幻会メンバーによる苦肉の策だった。

原作に近いこの世界で、比較的平和裏に(無論少なからず戦闘はあり、人は死んでいる。)収めた戦闘により、日本の権益は守られつつ天皇家も存続している。

これにより、理想的な足掛かりを得たユーロブリタニは約束を守り、夢幻会も少しだけ安心できた。

ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアにとっては面白くない結果であったが、実際に先陣を切り、血を流したのは彼等であるために強くは出れない。

 

これによってラグナロク計画の大幅な遅延が認められた。

夢幻会はどちらかと言うと此方がメインで、日本存続は同列でありながらも二の次にしなければならなかった。

協力の見返りに、ユーロブリタニは独自のKMF【イノセント】【ジンクス】と言う強力な機体を得るに至った。

豊富な資源、安定が確保された後方基地により、ユーロブリタニはシベリア方面から侵攻していく。

それを、危機感と共に見ている国があった。

 

中華連邦

 

かの国は、大宦官が己の欲を満たすために蠢き、疲弊していた。

それを何とかしようと、若き武官 黎星刻(リー・シンクー) は奔走していた。

そんなある日、秘密の会談を持ちかけられた。

 

―――

――――――

―――――――――

 

「ひさしいの。元気であったか?」

「・・・はい。」

 

星刻は自制していた。

目の前に座る男、大宦官の一人 高亥(ガオ・ハイ) が秘密会談の相手だった。

彼の後ろには護衛の様に 曹(ツァオ) が立っている。

自分の後ろには 周香凛(ジョウ・チャンリン) が立っている。

この場にはこの四人しかいないが、見えない物陰には、御互いの護衛が隠れている。

 

「ふふ、警戒するでない。」

「・・・」

 

それは無理な相談だと思う。

相手は魔窟と言える場所で、実権を握る人物だ。

軽快しない方がおかしい・・・

もしや、クーデターの件が漏れたのだろうか?

 

「昨今の情勢はわかるか?」

「ええ・・・日本はブリタニアに負け、後方基地に成り果てています。」

「うむ。そうであるが少し違うのう。

 正確にはユーロブリタニアの後方基地じゃ。

 かの者達はEU解放に夢中で、こちらに目が向いていない。

 だからと言って安心はできん。ブリタニアが安全をとると言って、日本から侵攻する事も有ろう。」

 

それは無い。

確信できる根拠は、戦力を多く残しての敗戦だ。

恐らくはユーロブリタニアと秘密裏に裏で手を結んでいたのだろう。

でなければあれほど迅速に処置が行われるはずもない。

 

「ふぅ・・・」

 

少しだけお茶を飲み、こちらに視線を向けている相手を睨む。

表情からは小さな笑みが見えるだけで、余裕そうにしか見えない。

魑魅魍魎の世界で生きている相手に油断はできない。

 

176 :影響を受ける人:2014/05/03(土) 22:37:13

「クーデターでもするか?」

「・・・何のことでしょう。」

 

後ろで僅かに反応したのがわかる。

気付かれていた事に少しだけ焦りが浮かぶが、表情は動いていないはず。

 

「くくく、そう警戒するな。器が知れるぞ?」

「・・・」

 

高亥はそういうと少しだけ身を乗り出した。

 

「自分も参加してやろうか?」

 

どういう意味だろうか?

同胞を売って・・・いや、同胞と言う意識は無いはず。

己の保身のために、他の宦官を売りつけるつもりか?

それとも・・・別の理由か?

 

「自分が行っている事は、把握しておらんのかな?」

 

知っている。

最近・・・と言うか、大分前から金の流れが変わっているのには気が付いていた。

どこからか流れているか調べたら、目の前の人物だった。

だからこそわからない。

 

「ワタシはな、最近考えを変えたのだ。」

「・・・?」

「ワタシは贅沢が好きだ。

 だからその為には労力を惜しむつもりはない。

 しかし・・・ただ集めているだけではいかん。

 富を集めると同時に恨みも集めてしまう。

 故に、一部に少し流してみたのよ・・・そうしたらどうじゃ?

 潤い始めた民は自分に感謝し、更に富をくれるようになった!

 広く浅く・・・民が求めるモノをくれてやれば、その見返りは大きい。

 しかしだ、今まで積み上げてきてしまった悪名はどうにもならぬ。

 一時は国を割る事も考えたが・・・今となっては愚策よ・・・

 だから取引をせぬか?」

「取引・・・だと?」

 

長い話の果てに持ちかけられた取引に、少しだけ困惑する。

今の話が本当ならば、高亥は今更ながら民に富を還元している事になる。

それも己の欲望のためにだ。

欲のために努力するというのは否定し辛い。

自分とて、この国をよくしたいという考えを持つが、それもまた欲と言えば欲だからだ。

 

「そう、取引じゃ。

 ワタシがクーデターの情報を知っているのだぞ? 他の宦官が知らぬと思うか?」

「・・・っ!」

 

高亥は嗤う。

 

「隙を見せれば、ブリタニアは容赦なくやってくるぞ?

 ワタシとてそんなことは望みたく無い。

 たとえ我等宦官がこの国を売ったとしても・・・ブリタニアでは生きていけん。

 勝手が違う人の家で、どうこう動けんからのう」

「・・・断ったら?」

「くくく・・・言わなければいかんか?」

 

断ったらこいつは何もかも置いて逃げるだろう。

そして国を割り、ブリタニアではなくユーロブリタニアにつくはずだ。

コイツが富をばらまいている場所は、その付近であるから間違いない。

更に悔しい事に、こいつは人事で優秀な人材をその地方に飛ばしている。

当初は只の左遷だと思っていたが、今の話が本当ならば計画的で、非情な青田刈りもいい所だ。

 

177 :影響を受ける人:2014/05/03(土) 22:38:03

星刻は悩みに悩んで結論を出した。

やはりコイツと対話したのは間違いだった。

だが、考えを変えて保身を第一に考えているならば、これ以上の裏切りはしないはず。

もし裏切るならば・・・自分が斬ればいい・・・

 

「わかった。協力してほしい。」

「うむ。お主が話がわかる者でよかった。」

 

微笑んでいる高亥の顔は、全てを飲み込む毒蛇の様だった。

 

―――――――――

――――――

―――

 

中華連邦のクーデターは極秘に進められ。

短期間のうちに終わった。

各国は驚き、情報を求める。

だが、各国が態度を決める間もなく終結してしまった為に漬け込む事が出来なかった。

知り得たのは僅かな事だけ・・・

 

腐敗の温床だった大宦官の中で、高亥が心を入れ替えて対立し始めたのが切っ掛けで、大きな口論が発生したらしい。

その抗論の不用意な発言のせいで、高亥を除く大宦官の全員が天子により敵と見定まれてしまったのだとか。

慌てた彼等はこの判断をした天子を偽物とし、新たな天子を担ぎあげようとしたが行動が遅かった。

クーデターの事は知っていたが、まさか高亥がクーデターと組するとは思ってもいなかったのだ。

電撃的な行動により、大きな混乱もなく国の正常化を図る事が出来た。

 

まだ細かい所はあるが、地方に飛ばされていた能力のある人物を招集してこれに当たる。

軍事部門も大幅に変えられた。

MTF【ガンルゥ】は、人道に反するとして新たな機体製作を命じられると共に、正式なKMF制作を開始した。

まず始められたのは【グラスゴー】のコピーだ。

高亥は別ルートで【サザーランド】を輸入していたが、部品がストップしている為にこれは次世代機の為に見送られた。

 

中華連邦初のKMF【鷲羽】は、大元となった【グラスゴー】に比較すると出力が低かったが、練習機と習熟の為と思えば文句はない。

【鷲羽】は連邦を構成する各国の技師を呼び込み、大急ぎで生産された。

製作された機体はすぐに配備され、習熟を急ぐ。

EUロシアを、ユーロブリタニアが殆ど飲み込んだ時、ようやく第五世代機が誕生した。

 

機体名:【鷲嘴】

分類:第五世代KMF  外観モデル:ブレイクブレイドのファブニル

所属:中華連邦 製造:中華連邦

生産形態:量産機

全高:4.34m  全備重量:7.52t

推進機関:ランドスピナー

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタン・トンファー

装備武装:ケイオス爆雷[6] 対ナイトメア重斬刀(青竜刀型) 対ナイトメア重量斧(ハンドアックス型) アサルトライフル×1 マシンガン 大型キャノン(ロケットランチャー) スモークディスチャージャー チャフ弾

乗員人数:1人

 

対【サザーランド】を意識した機体で、性能的にも劣ったりはしないが上回る事もない。

生産性を意識して作ってあり、直線が多い。

頭部にあるファクトスフィアは性能が低いが、小隊にレーダを強化した機体を一機入れるか、索敵用に改造した【ガンルゥ】を運用するので問題なしとされた。

そして同時に、この機体の上位機体も開発されていた。

 

機体名:【鷲爪】

分類:第五世代KMF  外観モデル:ブレイクブレイドのエルテーミス・ネオス

所属:中華連邦 製造:中華連邦

生産形態:量産機

全高:4.34m  全備重量:7.63t

推進機関:ランドスピナー

固定武装:スラッシュハーケン×2 スタン・トンファー

装備武装:ケイオス爆雷[6] 対ナイトメア重斬刀(青竜刀型) 対ナイトメア重量斧(ハンドアックス型) アサルトライフル×1 マシンガン 大型キャノン(ロケットランチャー) スモークディスチャージャー チャフ弾

乗員人数:1人

 

出力を強化した機体で、【鷲嘴】に比べると少しだけスッキリしている。

こちらは【グロースター】を意識していて、整備性は少々悪いが機動性は良い。

一応【鷲嘴】と共通部品を多くしてあるので、整備泣かせと言うわけではない。

両機体とも性能が劣る部分があるが、戦闘に関しては問題がないように仕上がっている。

技術が成熟していけば、引けを取らない機体になっていく筈だ。

 

【鷲爪】を元にした第七世代相当の機体製作も始まっている。

抜かりはないが、後発組であるだけに遅れが目立ってしまう。

国内の事は星刻の一派に任せ、高亥は国外に目を向ける。

世界から一度でも視線を離せば置いていかれてしまう。

贅沢のためとはいえ、今日も彼は奮闘するのだ。

 

178 :影響を受ける人:2014/05/03(土) 22:38:37

 

 

 

以上で中華連邦、ユーロブリタニアin夢幻会のKMF制作となりました。

どの機体も大元機体に比べると少々劣りますが、ガチンコでぶつかれば遜色ないものと思っています。

ですけど、さすがに第七世代は無理だろう、という事で書いておりません。

作るなら【デルフィング】かな?

突っ込み所が多いモノになってしまったかな?最後は急ぎ足気味だったし・・・

最終更新:2014年05月14日 20:28



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戦ヴァルルート

お詫びのSS
戦ヴァルルート
独自解釈
独自KMF
等が含まれます。
ぶちゃっけ地形わかんないので地名は出てこないです。
見てもどこがどう?と言う感じなので・・・
こんなへっぽこ作者ですが、よろしいでしょうか?
良ければ見ていった下さい。


 

 

 

 

北欧の国家が独立宣言をした。

屋台骨がぐらついていたEUにしたがっても、諸共滅びるだけと判断した彼等の決断だった。

無論そんなことを許すEUではない。

しかし陸上戦は先制攻撃により出鼻をくじかれる。

ネームレスと言う“存在しない”特殊部隊の活躍もあった。

 

しかし陸戦はどうにもなっても、海上戦がネックだった。

ろくな鑑定を持たない北欧諸国では、EU海軍を押しとどめることなど不可能だ。

ならばどうするか?

彼等は考えた脛にある事を思いつく。

 

「そうだ、ユーロブリタニアの力を借りよう!」

 

思い立ったが吉日。さっそく彼等は行動に移った。

 

――

―――

 

宣戦布告を受けた同日。

軍港に停泊していた艦艇はどれも忙しく動き始めていた。

 

「まさか北欧が独立するとはな・・・」

「EUも御終いかねぇ?」

 

等と言う会話もちらほら聞こえるが、兵士達は皆、自分に課せられて仕事をしていく。

水中用MTF【キャンサー・ドローン】を乗せた警戒艦艇が出向していく。

どこも忙しく、一番忙しいのは大型正規空母だろう。

シーランド戦争でKGF【シャンブロ】に二隻も喰われたEUだが、まだ他にも保有している。

ここにいる空母も、そのうちの一隻だ。

 

各艦の艦長、提督たちが集まりブリーフィングには行った時・・・襲撃は始まった。

沖合から大量のミサイルが発射され、それをレーダーが感知した。

慌てつつもマニュアルに従って迎撃する。

だが全てを撃墜できるわけではない、迎撃できたのは全体の二割。

残りは目標に向かって着弾した。

 

目標は主にレーダー、格納庫、各種設備だ。

不思議な事に、何発かはそのまま会場に着水してしまう。

この直後に異常を検知したのは、くしくも試験運用していた新型水中用KMF【パイシーズ】六機だった。

 

「なんだ、この酷いノイズは!」

『ザッ…隊長……』

「くそ、ヘンリー応答しろ! バイルでも構わん!!」

『ザっ…ザザァッ………』

 

通信機から聞こえてくるのは雑音のみ。

舌打ちをしてレーダーを確認するが、取り合えず近距離ならば味方判断できた。

兎に角この場にいては危険だ。

そう判断し、自分達が使っている艦艇に収容してもらおうと移動しようとした時、レーダーに何かが映った。

 

「む?」

 

訝しんでもう一度確認しようとした時、豪快な金属音が鳴り響いた。

同時に爆発音がして、発生した水流に押されて機体が揺れる。

 

「ヘンリー大丈夫か?!」

 

答えは返ってこない。

だが何かがいるのはわかった。

モニターを注視して敵襲に備える。

だから気が付いた。

真正面から突撃してくる見たこともない機体に。

 

「うぉぉぉ!」

 

咄嗟に機体を動かして手刀の攻撃を避ける。

反撃する為、そのまま肩の魚雷発射管を向け発射。

しかし相手も中々の物、咄嗟にこちらを蹴り上げて照準が上を向いてしまう。

体勢を整えようとするが、こちらの頭部を掴んで格闘戦に移行してきた。

 

「こなくそ!」

 

一応格闘戦も出来る【パイシーズ】だが、経験の不足により苦手である。

軋みを上げて頭が潰されそうになる。

苦手と言えど引き離さないと自分がやられる。

腕を振り回して振り払う。

相手も酷い損傷を負いたくないのか、暴れ始めたところで放して離れた。

 

そこでようやく相手の姿が見えた。

長い頭部、大きな両腕、短足に見える足。

見たこともないKMFだ。

まるで・・・二脚歩行を覚えたトカゲのようにも見える。

 

「どんな相手であれ、やるきゃねぇ!」

 

水中用推進器を動かし、八本の爪による攻撃を仕掛ける。

対する相手も三本の爪で相手をする。

内側から払われたが、反対の腕を振りかぶる。

丸い棍棒のような腕はこういう風にも使える。

ダメージは小さくとも、確実に入る。

 

相手がそれを迎撃せんと下から掬いあげる様に手刀で突いてきた。

丈夫さには、同じように定評がある【オルレアン】よりもある。

だから大丈夫・・・だったはずだった。

 

「あんだとぉ!」

 

迎撃された腕は、その部分から切断されている。

相手の腕が光っていた。

その光を見たことがある。

かろうじて逃げられて戦場で見た光る盾・・・

呆然とそれを見ていた男は、同じ様に肩に装備されていた魚雷を受けて爆発四散した。

 

それを見届けた新型水中用KMF【ウロッゾ】和名:水虎(すいこ)は、すぐに仲間と合流すべく手足を後ろに向けて固定すると、最大速力で突き進む。

男は知らなかったが、抵抗で来ていたのは自分だけ。

後の仲間は奇襲で破壊されていた事に・・・

 

―――

 

軍港は大騒ぎになっている。

ミサイルは既に第五派まで来ていた。

数が少なくなっているから、おそらくこれで最後だろうが、被害は被害だ。

消火をすべく人員が移動していく。

だがそんな暇など与えるつもりなどない

 

次の一手が襲いかかってきていた。

一隻の警戒艦が爆炎を上げて沈んでいく。

ミサイルの中に紛れ込んでいた妨害装置により、ここまで接近できたKGF【ヴァル・ヴァロ】五機による襲撃。

強大な火力を有する彼等は、縦横無尽に暴れまわる。

 

連携できない艦隊など獲物でしかない。

ハドロン砲が火を噴き、ミサイルと魚雷が戦闘艦を抉る。

二機の【ヴァル・ヴァロ】が空母に突進していく。

魚雷を放たられるが、魚雷を置いていくほどのスピードを誇る彼等には無意味。

真正面から来たのはデコイや、海上に飛び出して避ける。

 

この五機の【ヴァル・ヴァロ】はユーロブリタニアのではなく、シーランド王国の所有物を兵士ごと借り受けたものだ。

戦場を経験し、手練れの彼等は勇猛果敢で大胆だ。

流石に超大型KGF【シャンブロ】は持ってこれなかったが(使用した際の費用を見て諦めたともいう)、それでも二機の猛攻に大穴があき、大火災を起こして沈んでいく。

 

その様子を見ていた陸上の警戒部隊は歯噛みするしかない。

【オルレアン】を中心とした混成部隊は、急いで岸壁に来ていたが何もできない。

 

「くそ! 無事な奴は無いのか?!」

『どいつもこいつも悲鳴しか上げていませんよ。』

 

悪態をつく隊長に、副隊長が呆れた声で返答する。

 

『バズーカでも撃ちます?』

「アホ言え。ここからじゃ、どうあがいても当らん。」

 

流石に冷静な判断が出来ているようだ。

それに安堵した副隊長はあたりを見回す。

今この場にいるのは【オルレアン】が四機、【ボーイ】が六機、支援用の装備をした【スピオトフォズ】が二機だ。

【オルレアン】が二機、【ボーイ】が三機、【スピオトフォズ】が一機の編成で、二隊に分かれている。

 

『ここにいてもしょうがないです。別の場所に行きましょう。』

「そうだな、とりあえず、消化の手伝いを・・・ううん?」

 

同意して移動しようとしていた隊長の視界に何かが映った。

何かは海面下を進んでいるように見える。

何だろうと思い、画面をズームさせよとした時・・・そいつは海から飛び出してきた。

 

「な、なんだこいつは!?」

 

飛び出してきたのは【パイシーズ】を葬った【ウロッゾ】だ。

海中から飛び出し、高速移動形態をやめて両手足を広げて着地する。

異様な体躯をした敵機に自然と息を飲み、次の瞬間には前にいた【オルレアン】二隊が左右に広がり、【ボーイ】が構え、【スピオトフォズ】が少し下がった。

 

「撃てェェ!」

 

指示を飛ばすよりも早く射撃を改板が問題ない、相手は飛び出して来たばかりで無防備。

集中攻撃すれば・・・

しかし【ウロッゾ】はそれをあざ笑うかのように両腕を前に掲げた。

そして・・・光の盾が出現する。

 

「おい、おいおい!」

『コイツ盾持ちなのか!』

 

EU兵士の隠語〔盾持ち〕はブレイズルミナスを装備した機体全般を指す。

【ジンクス】は取り外しが可能な物を装備していたが、【ウロッゾ】は腕に直接仕込んである。

【パイシーズ】の腕を切り落としたのは、手の先に、スコップのように展開したブレイズルミナスのお蔭だ。

この盾はほぼ無敵と言っていい。

最大火力を持つ副隊長がバズーカを構える。

 

『くらえ!』

 

引き金を引いて撃つ。

砲弾は真っ直ぐ【ウロッゾ】に向かい、ハドロン砲で迎撃されて副隊長ごと貫かれた。

 

「な、なんなんだよ・・・こいつ・・・」

 

隊長は非常識な攻撃に射撃も忘れて後ずさる。

【ウロッゾ】が放ったハドロン砲は・・・頭部と思われた部分から発射されていた。

頭部は見せ掛けで、本命はハドロン砲なのだ。

なら頭部はどこだ?と思われるかもしれないが、実は胴体部に頭部に必要なものが収納されている。

まぁそれはともかく度肝を抜いた【ウロッゾ】は、脹脛からランドスピナーが出てきてい一気に加速する。

何とか現実に復帰した隊長は、副隊長の仇を討つべく攻撃しようとした。

 

しかし更に六体の【ウロッゾ】が飛び出してきて混戦になってしまう。

苦手な接近戦に悪戦苦闘している部下を見て一瞬迷ったが、すぐさま最初の敵に向き直る。

 

「うぉぉぉぉ! 斃れろやぁァァァ!!」

 

銃を撃ち放ち、攻撃する。

【ウロッゾ】はこれ以上のエネルギー消費を嫌ったのか、右に避けて左腕の手の平からコイルガンを放つ。

元々水中でも撃てること考慮したものだ。火力は通常の物に比べて低い。

それでも大量に吐き出される弾丸に、隊長も避けざるおえない。

 

「くそ! 鈍重そうな感じなのに速い!!」

 

素早く回避し続ける敵に悪態をつくが、後方に下がれないのでこのまま射撃するしかない。

だが、その決意は無駄となる。

後ろから衝撃を受けそのまま倒れ伏す。

何だと思って後方を映すモニターを見れば、味方は全滅、敵は全て健在で損傷なし。

 

「畜生・・・上のあんぽんたんが・・・」

 

隊長は最後まで悪態をつき、コクピットを破壊されて息絶えた。

一思いに死ねるように叩き潰した【ウロッゾ】は、仲間達と共に破壊を免れた施設に向かっていく。

のんびりしている暇はない。

海上で目を引いて囮となってくれている【ヴァル・ヴァロ】の奮闘を、無駄にするわけにはいかないのだ。

 

軍港施設に向かい、ランドスピナーを起動させて突き進む。

侵入はすぐにばれるだろう。

だから急ぐ。

 

―――

――

 

作戦はすべて完了した。

負傷者は出たが、出撃したKMF・KGFは全て帰還した。

特に最新鋭のKMF【ウロッゾ】の初陣は素晴らしく、量産型でありながら標準のKMFとさして変わらない重量。

強力な火力は魅力的であり、制作したスメラギ・コンツェルには更に発注がかかった。

 

作戦成功により海軍は半身不随となり、余裕をもって時間稼ぎができるようになった。

北欧はこの成功を心より感謝して、気を引き締める。

 

“勝って兜の緒を締めよ”

 

日本にはこんなことわざがある。

それを思い出した政府の人間は、ネームレス部隊などを用いて慎重に、特に邪魔なものを排除していく。

全ては国民の自由と安全の為。

そして誇りの為に・・・

 

 

 

以上です。

書いた割にはあっさりしたものになったかと思います。

地名などを一切いれていないので、自由に想像可能です。

そんで、新しく出した新型KMF【ウロッゾ】ですがスペックはこんな感じ。

 

 

 

【ウロッゾ】和名:水虎【すいこ】

分類:第七世代KMF 量産形態:量産機

所属・製造:スメラギ・コンツェル  外見モデル:ガンダムAGEのウロッゾ

型式番号:ovw-dc 全高:5.19m  重量:8.5t

推進機関:水中用推進器 ランドスピナー

固定武装:飛燕爪牙×2 合金製クロー ハドロン砲 コイルガン×2(水中発射:可能 射程:短 威力:低)

特殊武装:ブレイズルミナス

乗員人数:1人

 

解説:スメラギ・コンツェルに移ったAGEチーム初の制作物。

量産型と重量型はOOチームに任せ、可変KMFと水中用KMFの制作をしていた。

だが中々モノにならず、ちょっと腐っていたのだが、【ズゴック・E】よりも多少低予算で制作可能となった量産水中用KMF【ハイゴック】を見て思いついた。

会社に働きかけ、【ハイゴック】のライセンス生産を勝ち取ると早速研究に入った。

 

まず考えたのは水中移動速度の向上。

初期の水中用KMFコクピットは、斜めになるよう押し倒すという大胆なものだったが。

今では横に少しだけ幅を広げて余裕を持たせ、コクピットシート自体を動かす方法に変わっている。

そうすれば水中抵抗をあまり考えなくていいし、直立不動の体勢で移動するから都合がよかった。

しかし【ハイゴック】は違う。

 

どちらかと言うと潰れた感じがする機体だ。だから彼等は両手足を後ろに向けて航行させる方法を思いつく。

動かない様に固定化できるようにもし、水中移動速度は上がったので、倉崎重工も採用した。

これにより準備が整ったチームは早速試験制作に入った

以外に水中の抵抗を考慮せねばならず。悪戦苦闘に日々だった。

 

【ゴメル】和名:水連【すいれん】

分類:第六世代KMF 量産形態:試作機

所属・製造:スメラギ・コンツェル  外見モデル:ガンダムAGEのゴメル

型式番号:ovw-cc 全高:5.47m  重量:8.9t

推進機関:水中用推進器 ランドスピナー

固定武装:飛燕爪牙×2 合金製クロー

特殊武装:ブレイズルミナス

乗員人数:1人

 

装備武装が極端に少ないが、試験・試作用なので問題ない。

飛燕爪牙は、スラッシュハーケンを格納するのが面倒で、【ハイゴック】から流用で使用している。

【ウロッゾ】【ゴメル】両機とも水中用推進器は脚部に仕込んであり、邪魔にならない場所にランドスピナーが格納されている。

原型機のスリットは全てなくなっており、装甲で覆われている。

蛇腹状の腰は、【ハイゴック】の様にピッタリくっ付いていて、屈むのが少し苦手だ。

 

腕もちゃんとした間接になっており、肩の部分は武装するために若干大きい。

そしてなんといってもブレイズルミナスを標準装備にし、ハドロン砲を後に搭載した事がこの機体の特徴となっている。

もともと頭部にはファクトスフィアが搭載される予定だったのだが、(ヲタク)技術者の一人が「ヴェイガンの機体ってトカゲみたいで好きなんだよね」との一言で、「なら、ブレスみたいに発射したら面白いのでは?」との事できまった。

 

爪はさすがに妥協して三本に変更し、固定二本・稼働一本にした。

ブレイズルミナスの攻撃方法はアニメでも見ていたので簡単に終了。

こうして完成したのが【ウロッゾ】であった。

早速売り込みかかったスメラギ・コンツェルだったが、あまり受けはよろしくなかった。

正直言って今後海上戦が行われるかわからないし、今の所聖ブリタニア帝国から輸入している【ポートマンⅡ】【ポートマン】で間に合っている。

 

だが、試験運用して動いているのを見た一部のユーロ貴族の受けがよく。

その働きかけによって正式採用が決まった。

何気に第七世代の技術を使った、初の水中用KMFと言うのも受けた要因だろう。

 

 

 

です。

ちと暴走してしまったかな?(汗

一応ムルマンスク襲撃も考えてみました。

 

KGF【フライルー】の突撃→敵が【フライルー】二週痛したところで潜水艦群による攻撃→KGF【ヴァル・ヴァロ】も突撃→【フライルー】撤収→潜水艦群と【ヴァル・ヴァロ】の撤退援護→【フライルー】回収後離脱

 

こんな無茶な作戦誰がやるんだ(汗

これだけでも一本作れてしまう(滝汗

最終更新:2014年08月18日 16:45



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血の紋章事件(笑)

休日世界観でネタを一つ。
キャラが壊れていると思います。ギャグ満載です。
夢幻会要素・・・提督の憂鬱要素が殆ど無いです。
それでもよろしければどうぞ。


 

 

 

 

血の紋章事件(笑)

 

 

 

ある日の休日、嶋田繁太郎は庭の縁側でのんびりと過ごしていた。

その隣には最愛の女性、ユーフェミアが座って同じようにのんびり過ごしている。

 

「いやぁ・・・いい天気だな。」

「そうですね。」

 

どこの熟年夫婦だろうか?

二人の雰囲気は若々しくも、なんというか・・・老いているようにも見える。

間に置いてあるオボンに乗った煎餅をとって、がぶりと噛り付く。

うむ、濃い醤油の味が良い。

 

ユーフェミアは金平糖をとって食べる。

コロコロと口の中で転がり、溶けては甘い糖分を舌の上に残す。

ああもう・・・

この二人の雰囲気、嫌になっちゃう。(一人身はさみしいもんだ。)

 

「ああ、そういえば。」

「ん?」

「血の紋章事件・・・というのをご存知ですか?」

 

いきなり何を言い出すのだろうか?

突然話を振られた嶋田は硬直してしまう。

取りあえずお茶を喉に流し込んで、醤油の味を消す。

 

「いきなり何を言い出すんだ?」

「えっと、ですね・・・これから繁太郎とは夫婦になるわけですし。

 一応知っておいた方が良いと思いまして・・・」

「自分が知っているのは・・・

『多くの貴族が負傷した事』

『ラウンズが9人やめた。』

『当時のナイト・オブ・シックスが事態を解決した。』

『当時のナイト・オブ・ファイブが、ナイト・オブ・ワンに推薦された。』

『なんかシャルル皇帝がした。』

 くらいかな?」

 

首をひねって思い出すが、これくらいしか思い出せない。

事件発生当時、かなり強い規制が入って内容が伺いしれない状態だったのだから。

 

「おおむね間違っていません。

 当時の方々は苦笑と共に言葉を濁すのですけどね。」

 

そう言って彼女は語りだした。

 

―――――

 

当時、シャルル皇帝は執務室に缶詰めになっていたそうだ。

というか、缶詰にされていたと言ったほうが正しい。

たまりにたまった書類を終わらせるために、ラウンズ総出で見張って厳戒態勢だった。

更に面会にくる貴族一人一人に会わねばならず。

大変に忙しい時期だったそうだ。

 

ちゃんと仕事していればいいのに・・・

だがまぁ、理由もちゃんとにあるのだ。

何せその時は妻たちの出産ラッシュ。

子供大好きなシャルルとしては、現場に立ち合いたいのが本音。

なので度々お忍びで病院に行くのだ。

 

だがそれに激怒したのは当時の宰相。

血管が切れそうなぐらい顔を真っ赤にして、皇帝陛下を土下座にして説教していたらしい。

ウソかホントかはわからないが。

 

「いい加減にして下さい!」

「いや、しかしだな・・・」

「しかしも、ヘッタくれも、ありません!!!」

「(´・ω・`)」

「そんな顔しても駄目です!!」

「(´;ω;`)」

「泣いても駄目です!!」

 

遂にシャルルは閉じ込められてしまった。

必死に書類を片付けるが、どんなにこなしてもなくならない。

宰相としては、

 

「ここで逃したらいつまた仕事ができるかわからない。

 今のうちにできうる限りやろう。」

 

と張り切っていたそうだ。

だが・・・閉じ込めて仕事漬けを強いていたのが仇になった。

 

シャルル皇帝が暴走したのだ。

 

子供や妻達に会えず、神経を削る仕事に嫌気がさし、絶えず監視されている状態が暴走させた原因だ。

 

「ぶるゥゥゥああああァァァァァァぁぁ!!!」

「「「「「ウワァァァァァァ!!」」」」」

 

最初の犠牲者・・・犠牲者達は陳情に来ていた貴族達。

ボーリングのピンのように薙ぎ倒されていったらしい。(でも軽傷。)

 

「陛下を止めろ!」

「灼熱のバーンストライク!(その辺の物を投げる)」

「「「イテテテテ!!」」」

「微塵に砕けろぉ!(ただの体当たり)」

「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」」」

 

ラウンズ三人脱落。

 

「こ、これはまずい・・・」

「六人がかりで行けば!!」

「死ぬかぁ!(ただの右ストレート)」

「ごはぁ!」(石柱にぶつかって退場)

「消えるかぁ!」

「アイキャンフラーイ!〔ドボーン〕」(噴水に投げ込まれて退場)

「土下座してでも生き延びるのかぁ!」

「「ウボァァァァ!!」」(伸ばした手を掴まれて台車輪後投球、汚物を吐きながら退場)

「ビスマルクはどこだ!「先程トイレに・・・」しかたがない。儂が止める!!」

「貴様の死に場所は!ここだぁ!ここだ!ここだ!ここだぁぁぁ!!」

「げふっ!ごふっ!がはっ!ぐわぁぁぁぁあぁ!!」(デンプシーロールを受け、退場)

 

あっと言う間に五人やられ、最後のラウンズが呆然自失に陥ってしまった。

 

「そ、そんな・・・ラウンズが、たった数分で・・・」

「男に後退の二文字はねえ!」

「いや、ちょっ、まだ逃げ・・・ぎゅあぁぁぁぁ!」(アイアンクローからの大車輪投球、退場)

 

という感じでやられてしまったらしい。

ラウンズぇぇぇ・・・・・・

鼻息荒く爆走し始めた皇帝陛下を止めるものなどいない!

見な絶望しかけたその時だった。

 

「待ちなさい!」

 

当時のナイト・オブ・シックスでありマリアンヌが壁になる様に飛び出したのだ。

しかしシャルル皇帝は止まらない!

 

「ぶるぅあぁあぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!」

「ふんぬぅぅ!」

 

勢いよく突っ込んできた皇帝を、マリアンヌはなんとそのまま両手を突きだして止めてしまった。

その光景を見た者は奇跡の様に見えたという。

それでも勢いのせいで一メートルほど下がってしまった。

 

「邪魔をするかぁぁぁぁ!」

「ええ、しますとも! 奥方にも言われているんです。」

「な、なぬぅ!?」

「しっかり仕事をしている姿も見たいと!」

 

その言葉を聞いてシャルルの勢いは完全に消えた。

愛する妻がそういうのであれば仕方がない。今逢いに行っても迷惑にしかならないだろうと・・・

そんな思いを皇帝がしているのにもかかわらず。マリアンヌは「チャ~ンス」とばかりに足払い。

 

「おりょ?」

「せいやぁぁぁぁぁ!!」

 

一本背負いの様に投げた。

見ていた人達、驚愕のあまりに開いた口が閉まらない。

放物線を描いて飛んでいく皇帝陛下。

そんな時、投げられた先から一人の人物が出てきた。

 

「あ~、すっきりした。いがいとおおきかったな~「ぬぁぁぁ!ど、どけぇぇ!」へっ?」

 

ナイト・オブ・ファイブだったビスマルクが手を拭きながら声のした方を見ると、皇帝陛下がこちらに飛んできていた。

事態が全く分からないビスマルクは避ける事もできずにそのまま衝突、気絶してしまった。

 

―――――

 

「これが顛末なんです。」

「なんとまぁ・・・」

 

これは確かに知られたくない。

とんでもない珍事だ。

 

「この事件のせいでラウンズの方が辞職したそうです。

 なんでも・・・「護衛対象に負けるとか、瞬殺されるなんて・・・自信が無くなりました。」・・・だったそうです。」

「あ、うん。しょうがないね。」

「なので、もしそんな話がせれそうでしたら。話を変えて頂ければと・・・」

「ああ、わかったよ。」

 

原作ギアス世界ならともかく、この世界のシャルル皇帝とは友と呼べる間柄だ。

そんな無粋な事はしない。

一息つくために御茶を口に含む。

 

「よかった。お父様とヴァルトシュタイン卿が、その時にキスしちゃったことも黙っていてくださいね。」

「ごほぉぉぉ!!」

 

最後の最後に爆弾を投下され、気管に御茶が入って盛大に蒸してしまった。

愛しい女性ではあるが、こういう爆弾は勘弁してほしい。

そう思う、平和なひと時であった。

 

 

 

急にギャグが書きたくなった。

反省も後悔もしていない。

最終更新:2014年08月18日 19:41



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休日世界×戦ヴァル=237様の作品 支援SS

ちと思いついたので書いてみる。
休日世界×戦ヴァル=237様の作品 支援SS



 

 

 

森に潜んでいた砲戦型KMFが火を噴き、敵となる基地に砲弾を降り注ぐ。

その砲火の中を近接戦闘主体の部隊が駆け抜け、慌て出てきたKMFを迅速に、冷静に仕留めていく。

そのKMFの中でひときわ目立つ戦果を叩きだしている機体がいた。

 

【ユーロアレクサンダ】

 

【アレクサンダ】を改良した機体で、難点だった防御力を改善してある。

他にも向上している部分があり、襲撃している部隊―ネームレス―のエースとして相応しい活躍と言える。

ただし・・・その攻撃が激烈かつ、容赦ない無慈悲であるという点を考慮に入れなければ。

 

「おっと」

 

後方から射撃して接近してくる【ボーイ】二機の攻撃を簡単に避け、反転してこっちから突撃する。

戦闘に立っていた【ボーイ】は、後方の僚機に左に出るよう指示し、自分は右側に曲がる。

左右に分かれての挟み撃ちにしようという腹だろう。

 

確かに相手が並なら有効だったかもしれないが、【ユーロアレクサンダ】の操り手であるリエラにはまるで意味が無い。

すぐに足元に転がっていた石を左のトンファーで跳ね飛ばし、右の【ボーイ】の顔面に叩きつける。

更に戻す勢いでトンファーを左の敵に投げつける。

 

武器をあっさり手放し、まるで恐れを知らないかのように突撃を敢行したリエラに対し、左側の【ボーイ】は一時硬直した。

だが、それでも飛来するトンファーをはねのけたのは褒められる事だろう。

ただし、それが回避行動をとらせるための時間を潰してしまい。

 

右のトンファーを真正面から叩き込まれ、コクピットまで無残に押しつぶされなければ・・・

石をぶつけ、カメラを一時使用不能にさせた方も、時間を与えずにさっさと仕留めて一息つく。

 

「もう、いないみたいだね。」

 

レーダーを起動させて確認し、ホッとする。

先程まで鬼神のような動きで敵を蹂躙していた人物だとは思えないほど、彼女の微笑みは綺麗であった。

リエラは不幸な戦歴を持つ。

 

過酷な戦場で、何時も生き残っているというのは上辺から見ればすごい事だ。

しかし、代償として自分のいた部隊がいつも全滅していると知れば、評価はまるで変わる。

 

『死神』

『塩撒き』

『マンイーター』

 

有り難くない異名が彼女について周り、精神を追い詰めていった。

そんな中で会ったのがクルトである。

彼は彼女を献身的に支え、そして死ななかった。

 

クルトに救われた彼女であったが、仲間の死を異常に怖がるのは変わっておらず。

敵を必要以上の攻撃で殺してしまうという行動原理は変わらない。

敵は殺す。徹底的に殺す。降伏などさせない。後ろから撃たせない。

 

その為か、部隊の中でも浮いている存在だ。

皆を守れればそれでいい。

索敵をやめ、武器を拾って合流しようと機体を動かしたその時。

 

―バァン!―

「っあ!」

 

銃声が鳴り響いて【ユーロアレクサンダ】の右肩の装甲が吹き飛んだ。

 

(そんな!)

 

僅かな殺気を感じ、急いで回避したのに当てられた。

その事実に驚愕する。

そして攻撃を当てた犯人が、目の前の建物から降りてきた。

 

別に格好つける為ではなく、次の瞬間にガンスリンガーナンバーの砲撃を受けて、狙撃ポイントが吹き飛ばされるのがわかっていたからだ。

降り立ったのは【オルレアン】。

狙撃銃を左手に、右手にマシンガン。

 

右肩に六連装ロケットランチャー、右肩には珍しく質量刀を装備している。

不味いことに大型ライフル【ジャッジメント】は残り半分で予備弾倉無し。

MEナイフはすでに無く、ケイオス爆雷も無い。トンファーは手持ちに一つ、転がっているのを回収すれば二つになるが、目の前の敵が許すはずもない。

 

だが、リエラは躊躇せずに突進する。

直感でこいつは強いと判断したからだ。

 

「あアアああァァァァァァぁ!!」

 

中で獣の様に咆哮しながら機体を操る。

前に飛び込むように形態を変形させ、四肢でもってさらに跳躍する。

不規則に、縦横無尽に動き回るその姿は毒蜘蛛の様だ。

 

だが相手も只者ではない。

その動きに幻惑されることなく射撃をたたき込む。

狙撃銃が右足の装甲を削り、マシンガンがリエラの行動を邪魔をする。

 

使い捨てのロケットランチャーを、至近距離に近づいた【ユーロアレクサンダ】に、躊躇なく叩き込んできた時には肝が冷えた。

いくら装甲に定評がある【オルレアン】とはいえ、いくら何でも無茶くちゃだ。

その証拠に狙撃銃が壊れたのか、投げつけてきた。

 

それを変形しながら避けようとすると、マシンガンで狙撃銃を破壊して暴発させる。

悲鳴を押し殺して体勢を立て直すと、用済みのロケットランチャーをパージした【オルレアン】が、左手に持ち替えたマシンガンを乱射しながら突撃してきていた。

 

「くっ! このぉぉぉ!!」

 

負けじと残り少ない弾丸を【ジャッジメント】をたたき込む。

数発が【オルレアン】に命中するものの、厚い装甲に阻まれて撃破できない。

しかしそれでも接近してくるにつれてダメージが無視できなくなったのか、少し横に避けた。

 

そのわずかな間に人型になり、とうとう空となった【ジャッジメント】を意趣返しとばかりに投げつける。

既に弾が無いとわからない【オルレアン】は銃で叩き落とすのではなく、右手に持った質量刀でもって叩き落とそうとする。

 

―ドガン!―

 

投げつけられた【ジャッジメント】は見事に落とされた。

しかしリエラはそれを見越して、残っていたトンファーを投げつけてマシンガンを破壊する。

そして急いでもう一つのトンファーを取りに向かった。

 

最後の銃器を破壊された【オルレアン】は、急いで止めを刺そうとするが、それよりも先にトンファーを回収されてしまった。

ご丁寧に【ボーイ】のトンファーも回収して二刀流だ。

 

「仕留める!!」

 

【ユーロアレクサンダ】は【オルレアン】に向かって走り出す。

変形機構は狙撃銃暴発により故障している。

故にランドスピナーの移動しかできない。

 

相手はそんなことは知らないだろうが、答えるように接近してくる。

急速にお互いの距離が縮まる。

ぶつかりそうになるまで接近した両機は、リエラが上に飛ぶことで衝突は回避された。

 

リエラはそのままコクピットを狙う。

【オルレアン】はそうはさせまいと質量刀で庇い、更に無理な関節機動で避ける。

潰せなかった事に舌打ちをし、着地に備えて体勢を捻って整えようとするが、庇う動作から右回転上段切りに移行した斬撃が襲いかかる。

 

「っく!」

 

衝撃が機体に走り、左に吹き飛ばされる。

何とか防御が間に合ったが、負荷がかかった右腕が着地と同時にだらりと下がる。

リエラの無茶な戦闘に耐えていた【ユーロアレクサンダ】だったが、さすがにこのダメージは大きかった。

 

もう右腕は使えない。

距離が離れた【オルレアン】を見据える。

【オルレアン】自身も無茶が祟って、右腕から火花が散っている。

 

質量刀を左に持ち替え、右にスタントンファが出現する。

どうやら、この機体の主は少しひねくれているようだ。

今までにない強敵に、リエラは自然と息を飲む。

 

そして一拍の後・・・砲弾が近くに落下したのをきっかけに再び接近する。

今度は真正面からの攻撃だ。

機動力にものを言わせて【ユーロアレクサンダ】が襲いかかる。

 

堅実でありながら時折セオリーガン無視で対抗する【オルレアン】。

二機の戦闘は基地司令部が降伏するまで続く。

その戦闘光景を見る事が出来たネームレス隊員は、「まるでダンスしているようだった。」と証言する。

 

『戦闘を中止せよ。この基地は降伏した。戦闘を中止せよ。』

 

この通信が入ったとき、二機はボロボロになっていた。

【ユーロアレクサンダ】の右腕と、左太腿の装甲がなく。右足のランドスピナーは切り落とされてどこか行った。

頭部の損傷もひどく、良く外が見えているなと言える。

 

【オルレアン】も右腕を損失。装甲もボコボコで、隠していた左のスタントンファがへし折れている。

更に起動を停止させる前に膝がとうとう壊れ、そのまま膝をついてしまった。

その【オルレアン】にネームレス隊の歩兵部隊が取り囲む。

 

あれほどの戦闘をした人物だ。警戒もする。

クルトもすぐにやってきてリエラをねぎらい、部下に指示を出す。

 

「コクピットを開いてくれ。」

『ああ、分かった。』

 

取り囲むのが終わり、出る様い要請をすると割と簡単に答えが返ってきた。

 

―プシュゥ…―

 

ロックが外されて、操縦席が後ろにせり出す。

 

「あ~・・・くっそ、コイツの操縦は硬くて肩が凝ったぜ」

「え・・・」

 

出てきた兵士がいきなりそんな事を言って、肩をほぐし始めた。

敵に囲まれているのに恐ろしくないのだろうか?

あまりにも大胆な男の行動に一同唖然とする。

 

そんな一同の中、たった一人だけ呆然としていた人物がいた。

出てきた兵士の顔を凝視する。

ぼさぼさの髪の毛、汚い無精髭。

 

くたびれたサラリーマンという風貌の男に、リエラは見覚えがあった。

そう、あのシーランド脱出の時の・・・

 

「お。おじさん・・・?」

「俺はおじさんじゃねぇ! まだわか・・・い・・・?」

 

叔父さん発言に気に障り発言者を睨む・・・が、すぐに何かを思い出しそうとまじまじとリエラを見る。

そして、

 

「ああ! あん時のお嬢ちゃんじゃねぇか!!」

 

「やっぱりおじさんなのぉ!!」

 

驚愕する二人に、事情が分からないクルトがリエラに聞く。

話を聞くとこの男はシーランド事件の際に、リエラと知り合った兵士だった。

彼女とは別の部隊だったが、無茶な空挺作戦でバラバラとなった際に機体を捨て、そのまま脱出しようとした時に出会ったらしい。

 

「いやぁ、あんときは死ぬかと思ったぜ。」

 

男はケラケラと笑うが、リエラは涙目で睨む。

 

「あの時嘘ついたの覚えているんだから! 何が脇腹をかすめただけよ! 思いっきり撃たれていたじゃない!!」

「でもなぁ・・・あん時、ああ言わないとお嬢ちゃん。なっとくしなかったろ?」

「重症だったのに、輸送ヘリ運転する方がおかしい!」

「ちゃんと飛べたからいいじゃない。」

「こっちはいつ落ちるか冷や冷やしたの!!」

「今生きてるだろ?」

「そういう問題じゃない!!」

 

何時になく怒りまくるリエラに、部隊メンバー全員が唖然とする。

この子はこんな表情もするのか。そういう心境だ。

クルトは何とか状況を整理し、発破をかけて部下を動かす。

 

リエラはまだ文句が言いたそうだが、予備の機体を取りに行かせた。

男はとりあえず拘束しておくが、図々しく煙草を要求するのはどうかと思う。あげるクルトもクルトだが・・・

たばこを吸って一服しているのを横目にしながら聞いてみる。

 

「えっと・・・それで君はどうする?」

「そうだな・・・」

 

男は、ボーっと空を見上げると考える。

 

「なぁ・・・優秀な奴欲しくないか?」

「欲しいですね。」

「タバコと酒くれるならついていくぜ。」

「何が出来ます?」

「機械類なら何でも運転できるし、整備できる。」

「では採用します。」

 

男は「よろしく」と言うと、そのまま手錠を外してKMFが集まっている場所に向かった。

 

「・・・手先は器用みたいだな。」

 

なんというか、自由人と言った男にクルトは苦笑するしかなかった。

 

 

 

以上になります。

リエラと対等に戦えた男ですが、リエラはまだ伸び代があり、最終的に追いつけません。

そしてシーランドに彼女が参加したという話を思い出し、「一人じゃ脱出できないはず。だったらもう1人追加すればいいじゃない」ということで登場させてみました。

で、リエラは脱出した後、男が緊急搬送された後の事は知りません。

なので久々の再会となったわけです。

237様の制作意欲向上につながればと切に願います。

最終更新:2014年08月18日 20:39



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237様への戦ヴァル支援ss02

237様の支援SS
導入を考えている作品を少しだけ書いてみる。


 

 

 

 

要塞の司令官に銃を突き付けているイムカの機体を、遠くから見つめる目が有った。

【ユーロアレクサンダ】のコクピットの主、リエラの表情は冷たく、普段の明るい顔からは想像もできない殺気を放っていた。

元々リエラは明るい子だった。

しかし戦争が全てを変えた。

数えきれない悲劇は明るさを殺し。

 

親しき者の死は、涙を枯らせた。

クルトが出会った時にはすでに、敵を殺すためだけの〔殺人機械〕となっていた。

だが、献身的なクルトの世話により何とか回復。

普段生活する分では以前の明るい少女としてふるまっている。

しかし・・・彼女が話すのは真に心を許したものだけ。

 

殆どの人間を無視していってしまう。

戦場ではよくあるネーム〔死神〕・・・

仲良くなったものが自分を庇って死ぬ。

それはリエラのトラウマの一つとなり、特定の人間以外を拒絶するものだった。

 

『おい。なんだありゃ?』

「・・・ん?」

 

ふいに通信から、偵察隊の声が入った。

気になって耳を澄ましてみると、どうやら新手が現れたようだ。

 

『まずいぞ! 全員に伝えろ、爆弾野郎〔ボンバーマン〕が出て来たってな!』

「・・・え?」

 

〔ボンバーマン〕。

 

これは通称で正式には【シュトゥルムフント】という。

サクラダイトを使わない、MTFのようなKMFだ。

EUが清に襲撃され、反抗作戦の時に投入された機体で、当初は正規の兵士が乗る予定だった。

しかし搭載されているP液が最悪の液体火薬のような代物で、早々に別の“人間”が割り当てられた。

乗せられた“人間”は重罪を犯した犯罪者達。

 

彼等は消耗品として扱われ。

出撃して帰ってこれるのは全体の三割から二割とまで言われた。

そして・・・リエラのトラウマの一つだ。

 

「ぁ・・・ぅぁぁ・・・!!」

 

〔ボンバーマン〕の符号を聞いただけなのに、彼女の体は委縮し、先程までの殺気は消えうせて泣き出しそうな子供の様になってしまった。

頭をかかえ、足を縮める。

今だ戦場に会って致命的な行動・・・

しかしそうするしか彼女は抑えられない。

 

『くそ! こいつらどこから出てくるんだ!』

『こちらスカー隊。〔ボンバーマン〕を近づけさせるな! 遠距離で仕留めなさい!』

 

通信からは仲間たちの怒声が聞こえるが、もう彼女には聞こえていない。

その通信に、見知らぬ声が割り込んできた。

 

 『はぁい。名無しの皆さん、お元気ぃ?』

『なんだ? 誰が話している?』

『通信に割り込んでる!』

 『もぅ・・・誰も答えてくれないのねぇ。』

 

なんだか楽しそうに話すその声に、ゆっくりとおびえた目のまま顔をあげる。

 

 『リエラちゃぁん。いるんでしょぉ?』

「どう、して・・・」

 

殺したはずなのに・・・その言葉は続かなかった。

何故なら笑い声が響き渡り、再び小さくなってしまったからだ。

 

 『あなたにやられて、火傷が疼くわぁ。 でぇもぉ、気持ちいいのよこれがぁさぁ!!』

「・・・っ!」

 『あははははは! どぅぅ? このプレゼント、気に入ってもらえたかしらぁぁ?!』

「ひっ!」

 

どこかたがの外れたような笑い声が響き渡る。

 

 『あなた、本当に素敵になったわよねぇ! だって私が知っているあなたなら・・・』

 

“操縦席を叩き潰す”

 

 『なんて、惨たらしい事しないわよねぇェェぇ!!』

 

ゲラゲラと壊れた笑い声が彼女に襲い掛かり、意識が強制的に落ちた。

 

――

―――

 

夢・・・

夢を見る。

昔・・・ともいえないけど、だいぶ前。

クルトに会う前。

まだ、〔死神〕と呼ばれる前の夢だ。

 

私はまだ新米で、でもKMFに乗れるのが嬉しかった。

女の子らしくなかったけど、ロボットを動かすというのが楽しかった。

でも・・・戦場に出て、楽しさは消えた。

戦わなきゃ、殺される。

戦わなきゃ、仲間が死ぬ。

 

人殺しが辛かった。

逃げ出したかった。

でも、戦えない人のために手を汚し続けた。

だだけど・・・あの人は違った。

あの人は・・・・・・

 

笑いながら人を殺せる人だった。

楽しそうに人を殺す人だった。

誰よりも残虐で強く、卑劣なまでに賢く、恐ろしかった。

 

―――

――

 

戦闘終了後。

思わぬハプニングがあったものの、滞りなく引き継ぎが終わって撤収した。

しかし、部隊には重い沈黙が落ちている。

原因はリエラだ。

 

イムカが全く動かない相棒の【ユーロアレクサンダ】を発見し、近寄って話しかけるが応答がなく。

その時はあふれ出てきた【シュトゥルムフント】の対処に追われ、気にしつつもその場においていった。

全て撃破し、他の機体で彼女をKMFごと回収し、落ち着いたところで操縦席を強制的に開いた。

中にいたのは・・・子供の様に丸まった。リエラがいるだけだ。

誰が呼びかけても動かず、小さく呻だけ。大急ぎで戻ってきたクルトが話しかけても同じだった。

 

部隊のエースが原因不明で動けない。

この事実は瞬く間に広がってしまった。

それを払拭するには原因を探らねばならない。

いや・・・原因はわかっている。

 

「例の声の主・・・知っていると聞いたが?」

 

クルトが話しかけたのは、以前【オルレアン】でリエラと渡り合った兵士だ。

長く戦場にいて、いろんな話を聞いているというので来てもらっていた。

 

「ああ、知っている。」

 

椅子にどっかりと座り、タバコを吸いながら答えて思い出すように上を少しだけ見る。

 

「あいつは【味方殺しのアイフェ】・・・アイフェリア・イリミスっていうんだが・・・」

「だが?」

「おそらくは偽名だろう。なんせあいつ、かなり前に別の名前を使っていはずだ。」

「そうですか・・・それで、なぜ【味方殺し】などと言う異名が?」

「それはアイツが所属していた部隊が問題なのさ。

 あいつ・・・元督戦隊でな。重罪人で構成された【シュトゥルムフント】を、後ろから撃つ役目を担っていたのさ。

 才能があったのか、KMFの操縦はピカイチ。

 おそらくお嬢ちゃん並みか・・・それ以上と考えていい。」

 

驚きで目を見開く。

リエラはこの部隊で随一の操縦者だ。

それよりも強いというのは想像できない。

 

「そんで話を戻すが、指揮も巧くて上の憶えも良かった。

 ただ一つの欠点さえなきゃなぁ・・・」

 

タバコが斬れて新しいのを出す。

火をつけ、ちょっとだけ吸って続けた。

 

「・・・とんでもないサディストだったんだよ。

 一応訓練では味方は殺さなかったんだが、それに近い状態まで言った事があるらしい。

 闇討ちも一度や二度じゃなかったが、前部返り討ちにして再起不能にしちまった。

 そんな事だらけだから督戦隊に言ったんだが・・・そこで最高のおもちゃを見つけたんだ。」

「【シュトゥルムフント】・・・ですね。」

「ああ・・・

 指揮が旨いって言ったろ?

 その式で懐深くまで突撃させて・・・後ろから『バン!』だ。

 もしくは囮にして・・・

 そんな感じで楽しそうに人殺しをしていたみたいだ。」

「的にも見方にもおそれられ、そして彼女は・・・」

「誰かに撃たれた・・・おそらく例の通信から判断してお嬢ちゃんだな。」

 

クルトは大きくため息を吐く。

彼女のトラウマは数多くあり、全てを把握しているわけではない。

それでもこの部隊に来てからは、だいぶ打ち解けてきたと思っている。

そこに過去から悪夢が帰ってきた。

目の前でそんな惨劇があり、優しかった彼女は、必死に止めたのかもしれない。

 

だが相手は狂人。

逆に精神的に追い詰められ・・・後ろから撃った。

 

「アリガトウございます・・・」

「いやなに、気にすんな。」

 

そう言って立ち上がると、クルトに背を向けて歩いていく。

ドアノブに手をかけて少しだけ振り向き、

 

「あの嬢ちゃんを癒せるのはアンタしかいない・・・頼むぜ。」

 

と言って、扉を開いて出て行った。

残ったのはクルトただ一人。

外から響いてくる整備の音が、静かになった執務室に響く。

リエラはイムカが献身的に世話をしている。

彼女を癒す方法は只一つ・・・【味方殺し】を消す事だけだ。

 

 

 

以上です。

まだ導入部分であり、手直しが必要かもしれません。

連載もあるので、こちらはまだ未定です。

不評批判待っています。

最終更新:2014年08月18日 20:41



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休日ギアス世界グルメ旅

休日ギアス世界です。
ルートは固定していません。
夢幻会はほんのちょっとしか出ません。



 

 

 

夢幻会の秘密(?)会議場で、議題が終わって皆駄弁っていた。

そんな中で、辻は資料をめくっている。

 

「仕事熱心ですね。」

「ええ。どうも前世から同じ仕事をしているせいか、仕事をしていないと落ち着かない時がありまして・・・」

「ああ、わかります。」

「働いている老人は、メリハリがあるから積極的に動いた方がいいからな。」

「なにかずれていますよ・・・」

 

上から嶋田・辻・東条・倉崎・南雲だ。

まぁ、倉崎重蔵の言いたい事もわからんではない。

二度目の老いに、ああだこうだと辻を間に挟んで話していると、急に辻が資料の写真に目を近づけた。

 

「どうしたんですか?」

 

気になった嶋田が声をかけると、辻は無言で資料の写真を指差した。

覗き込んでみるが人ごみの様にしか見えない。

しかし、その資料は最重要人物に関するもの。

よくよく指先を見てみると、そこには髪が緑色の女性が写っていて・・・

 

「「「「CC!!」」」」

 

ギアス世界のメインキャラの一人。それが写っていた。

平和なこの世界、ブリタニアに接触すれども影も形も見当たらなかった人物が、監視網に引っ掛ったのだ。

 

「あれ? この資料・・・CCに関するものじゃないですよね?」

「ええ・・・ 写真のこんな端っこに移っているなんて気が付きませんよ。」

「何しに来たんだ?」

「案外、グルメ巡りだったりして!」

 

南雲が言うと、皆「ないない。」と言って否定した。

取りあえず、極秘観察対象として監視するように指示を出すことにした。

 

――同時刻――

 

「へっくしゅ!」

「・・・汚いなぁ。」

「うるさいぞVV。きっと私の事を噂しているに違いない。」

 

一軒家の主、少年のようなVVの前には、噂になっていたCCが座っていた。

 

「それで、泊めてもらえるか?」

「・・・無理やりにでも泊まる気でしょ。」

 

迷惑そうな顔のVVだが、本音は久しぶりに会えた友人にちょっとだけ嬉しく思っている。

それを見透かしているのか、テーブルに頬杖をつくCCは中身を知らなければ美しい。

 

「まあな。」

「まったく・・・ 同居人二人が今いないからいいけど・・・」

 

同居人二人は小旅行で北海道の方に行っている。

玉城は意外なほど友好関係が広く、友人の一人が北海道での仕事を手伝ってくれとお願いをしてきたのでいない。

クララ・ランフランクもお供としてついていった。

 

「で、日本のピザを食べに来たの?」

「無論だ。」

 

CCは偏食家だ。

いくらコードの恩恵で太らないとはいえ、美味しいと感じた物をひたすら食べ続けるのはVVには理解できない。

飽きないのだろうか?

そんな思いを抱きつつも久しぶりの会話を楽しむ。

すると、台所の方からいい匂いが漂ってきた。

 

 

「できましたよ~」

「おお! 待っていたぞ!!」

「君も大変だね。」

「もう、慣れました。」

 

台所から食事を持って来たのは、CCと共に旅をしているマオと言う名の青年だ。

小さい頃にCCに拾われてからずっと御付をしている。

御付と言うよりも、専属コックのような感じなのだが・・・

マオは苦笑しつつ御盆にのせていた食事をテーブルに並べる。

 

「あれ、カツ丼? ピザじゃない??」

「ふっ・・・最近はこっちも食べているんだ。」

「サイトを見て、ここに来たら作ってくれって言われていまして・・・」

「ふ~ん。」

 

日本にいる間は、丼物を中心に食べる気なのだろう。

日本にはいろいろ丼物があるし、チェーン店も含めればかなりある。

自分も時折食べているが、お店ごとに特徴がって面白い。

取りあえず食事を開始する。

彼が作ったカツは絶妙な加減で揚げられており、サックリ感を残しつつもだし汁がしみていて旨い。

玉子も好みのトロトロ状態・・・

出汁がしみたご飯を食べれば、もういう事無し!

 

(腕上げたな~)

 

お新香はこの家に有ったモノなので仕方がない。

しかし御味噌汁まで作るとは・・・注文が煩いCCの要望を、健気にこなしているせいだろう。

あっと言う間に食事は終わり、秘蔵の御酒とおつまみ(玉城製)を取り出して酒宴に突入した。

ちなみにマオは御酒が飲めないらしく、洗い物を済ませてそのまま逃げた。

 

「それで、大陸はどうだった?」

「なにも異常なしだな。オセアニアの奴らも、直接占領しない限りは手出しするつもりは無いのだろう。」

「ならいいけど・・・」

「だが・・・ギアス保持者とは戦闘に入った。」

 

おつまみを取ろうとした手が止まった。

 

「調査隊?」

「おそらくな・・・奇襲で潰しておいた。」

「・・・」

 

飄々と話すが、VVは表情を暗くして考え込んだ。

あの国は良くわからない。

潜入調査したいのだが、あちらもギアス能力者でスパイを駆り出すのでろくに成果が上がらない。

かと言って属国に潜入させたとしても・・・

コード持ちが一人、あちらにいるのは間違いない。

真剣に考え込んでいる友人の前で、CCは呑気にお酒を飲む。

 

「今は大人しくしている。それで良いじゃないか。」

「そうはいうけどね・・・ はぁ、根無し草に言っても仕方がないか・・・・・・」

 

呑気すぎる古き友の態度に、溜息しか出ない。

その夜はこれでお開きとなった。

 

――後日――

 

CCは結局二月ほど滞在してからふらりと姿を消す。

途中帰ってきた玉城と酒飲み友達となったが、偏食家であるCCの食事にはついていかなかったようで「もう丼物とピザは良い・・・」とげんなりしていた。

夢幻会は嶋田経由の情報により警戒度を少しだけ下げた。

その後は只、監視するだけにとどめて出国まで見届けた。

コードを押し付ける気のないCCは、今日も今日とて美味しい物を探して旅をする。

 

 

 

 

 

いじょうです。

飯テロしたかったけど出来なかった・・・

ホノボノしか書けんな・・・

最終更新:2015年05月24日 22:21



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名無しさん作
待ち合わせ


 

待ち合わせ

 

 

 

寒いな

 

 

ブリタニアのペンドラゴンやニューヨークと比較しても甲乙着けがたい巨大都市。大日本帝国帝都 東京

 

その耐震ブロック構造と林立するビルディング群のはざまでぽっかりと穴の空いたような広場に俺は立っていた

 

 

氷点下に近いが、季節がら都心で氷点下は珍しくはないか?

天気予報では強めの寒気が降りてきていると言っていた

この分だと明日は雪だろうか

 

この寒さの中で俺は何故に待ち合わせスポットであるこの広場に立っているのか?

 

挙げれば簡単。理由もなにも、待ち合わせスポットに立っていることが理由。そうだよ、俺は人を待っている

 

歩いては来ないだろう

この場所に程近い道路に車が横付けされるだろう

俺は雰囲気を大切に歩いてきたが、特別必要とは思えない私服の人たちが張り付いていた。無論少し離れた位置で

それでさえ渋られたくらいだが

表舞台に置いては引退選手の俺でもこれだ。彼女ならこれでは済まないだろう

 

いつも俺の家……と言えるのか? うんまあそうだな。屋敷とそう呼ぶべきかもしれない俺の家へ来訪するときも黒塗りのリムジンや公用車で乗り付けてそのまま家へ、といった体制なんだ、仕方無いと言えね

 

ああ、そんなことを考えているとほら

 

彼女がやってきた

 

渋滞に引っ掛かることなく来れたようだ

ま、都内な上に都心に構えられたブリタニア大使館から直行となれば渋滞とはそも無縁か

 

桃色の金髪? 普通にあり得ないがこの世界では普通である桃色の長い髪を風に揺らせながら彼女は駆けてくる

 

「ハァ、ハァ、お待たせしましたシゲタロウ」

 

走ってきたからだろう、息があがっている。それでも十代後半の彼女の息はすぐに整う。若さとは羨ましいものだ

 

「わざわざ走って来なくても俺は逃げないよ。待ち合わせ時間までまだあることだしな」

 

ユーフェミア、ユーフェミア・リ・ブリタニア

我が大日本の親邦たる神聖ブリタニア帝国の第3皇女たる彼女の名だ

 

そして、この寒い冬でさえも暖かい春へと季節を変えてしまいそうな笑顔が印象的な少女。齢六十となる俺の、年の離れすぎた婚約者の名だ

それが彼女。俺の待ち人

 

「だって、早く会いたかったんですもの」

 

「早くって、な。ユフィとはかなりの頻度で会ってるじゃないか。それこそ昼寝をしているときにも遠慮なく勝手に上がり込んで」

 

「あら? でもそれは当然です。だって私はシゲタロウの妻ですもの」

 

悪びれもせず良く言うなぁ。強情で強引なのは他ならぬ俺が一番よく知ってはいるけど参ったものだ

 

「うちの家政婦や守衛もユーフェミア第3皇女様だけはチェック無しの素通りをさせるものだから困りものだよ。自分の寝顔なんてあまり人には見せたくないものなんだぞ?」

 

「ウフフ、ですから私は妻ですもの。見ても別に問題無しだと思われますわ」

 

強引に行く

 

以前宣言した通り、婚約してからの、ああ婚約前からだったか? ともあれこの皇女様はぐいぐいと心の中まで踏み込んできて、はぁ

だがまあ悪くはないな。そういう女性と相思相愛となったのだから。これも一つのスキンシップか?

 

「さて、それでは皇女殿下。今宵はわたくしめがエスコートさせて頂きましょう」

 

宜しいですか?

 

右手を差し出す

 

「まあ、なんて素敵な殿方でしょう。私も、是非とも今宵はあなた様と共に楽しみたいと存じます」

 

差し出す右手へユフィのたおやかな手が静かに重ねられる

 

「メリークリスマス。ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女殿下」

 

「メリークリスマス。シゲタロウ・シマダ伯爵様」

 

手を取り合った俺とユフィは、ただ二人そっと引き合い互いの背を腰を抱き寄せ る

 

「ん」

 

小さな声が白い息と共に漏れでる

 

こうして静かな口付けを交わしながら、俺たちはこの聖夜の逢瀬の始まりを告げた

 

 

 

 

 

 

 

離れた場所に日ブの黒服さんたちがいるのは、ね。ま、ご愛敬だろう

最終更新:2018年03月24日 08:29

 



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待ち合わせ2

 

 

待ち合わせ2

 

 

 

 

 

まだ17時過ぎか

 

家の柱に立て掛けられている大きな柱時計。短針は5を過ぎたところを指し示し、長針は3を指し示していた

 

さてどうしようか?

 

うーむ

 

縁側へ続くガラス戸。季節が冬であるためにと付け替えられていた暖色系のカーテンを、少しだけ開いてみる

 

これは寒そうだなぁ

 

外の様子を伺えば庭の木々がさわめきしなる様が見てとれた。強い寒気が降りてきているのは知っていたが、どうやら天気予報の予想よりも早い足で、冬の将軍閣下はお越しになられているようだ

 

『早めに終わればとりあえず帰宅するようにね』

 

今朝がた出勤前の彼女には言い含めておいた待ち合わせ時間の問題だ。歩いて行ける距離ながら、もし彼女の公務時間に何かしらの変動が出ていれば生真面目な彼女のこと。早く終わろうと関係なく待ち合わせ場所へと向かうこと必至だからね

この寒いなかを女性に待たせるのは男として恥ずかしい。たとえ俺が齢六十で人生折り返しの近付いた年代で、彼女が俺より四十ほども年下の若者で仕事柄体力が有り余っている人であってもね

 

しかし連絡がない。予定通りまだお仕事中なのかな?

 

基本決まった時間に彼女の公務は終わる

公館が、大使館がそうそう閉鎖時間に変動があってはたまらない

ブリタニア大使館にて大使館付き駐在官、まあわかりやすく言うと駐在武官に着いている彼女モニカ・クルシェフスキーは真面目な女性だ

真面目で珍しいくらいに正義漢溢れるそんな女性だ

 

正義とはそれぞれ立場によって異なるもの

 

我が大日本には大日本の

彼女の祖国ブリタニアにはブリタニアの

日本勢力圏に隣接する四国。中華・ユーロピア・清・高麗にもそれぞれの

長年のあいだ日ブ勢力圏と対峙しているオセアニアにはオセアニアの

それぞれの正義がある

 

彼女モニカさんの変わっているところ。特徴的な考え方は。そんなあらゆる国々に住まうすべての人々に対し、正義は等しく降り注がれなければならないといった考えを持つところだろうか?

 

困っている人、理不尽にさらされている人を彼女は見捨てることができない

 

彼女の故郷ブリタニアの西海岸に広がるクルシェフスキー侯爵領の領民

 

ブリタニア帝国臣民

 

いずれは環太平洋の連合国家を目指して仲を深め会う大日本帝国の臣民

 

両国の勢力圏の人々

 

中立国や敵国の人々

 

無論すべてがすべて一般人が対象なんだろうけどね

 

まるでアニメで見た正義の味方を志す少年のようだ

 

弱肉強食を国是とし、その頂点に君臨するブリタニア皇帝シャルルさん直属の同国最強騎士ナイトオブラウンズの12席次とは思えない

 

まあそんなブリタニアにもしっかりと救済措置はあるし日本と同様に国民皆保険制度や、社会福祉制度は太平洋戦争以後少しずつ形を整え整備されてきていたが

 

貴族と平民の関係も至って良好で、モニカさんがたまに口にする

 

『貴族とは平民を領民を臣民を守る剣であり盾であらねばならないのです』

 

この言葉、貴族としての在り方を、真っ当な貴族は熟知し実践している

言葉だけのお題目ではなく、現実にそうしている

それ故に絶対君主・貴族制にありながら、ブリタニアは2000年もの長きにわたり国が続いてきた

君主や貴族は臣民を助け、臣民は君主や貴族を支える理想の関係だ

 

それに引き換え、我が日本とは形態こそ違えども同じ民主主義国であるユーロピアのなんと情けないことか

 

会合で話題に上るユーロピアの情勢を耳にするたびに全員が『民主主義国に面汚しだ』と吐き捨てていた

 

汚職蔓延る衆愚政治、誰も正すことなく喪われてしまった民主主義としての自浄作用、中央と地方間・人種間に横たわる無用な差別意識。もはや末期も末期。死に体としか言えない

なんでもユーロピアを"もともと知っていた人たち"いわく、あの国は何も変わってないそうだ

 

はぁ、まあそんなユーロピアをモニカさんもよく見知っている。貴族であり騎士であり軍人なのだ。仮想敵国の内情を調べあげるのも当然だろう

 

すべての人々に正義を

 

なんて甘さもある彼女だが、それでもニュースや情報に伝え聞くユーロピアの現状や、痩せ細っていくユーロピアの事実上の植民地アフリカ大陸の情勢などといった現実も見据えていた

救えない命もあり、救えない人間もいることをきちんと理解していた

それは、ね。彼女も大人だ。割り切る強さもあわせ持っている

 

救いたい、弱者を救済したい、実家の事情やお国柄もあるだろうが、結果として弱き人々を守るために騎士となった彼女にとりその上手く行かない現実はもどかしいものだと思う

ましてや相手は自国でもない仮想敵国。彼女にはどうすることもできまい

 

衆愚政治の温床と化したディストピアな欧州とアフリカ。これらの解放を目指す欧州の元王侯貴族ユーロブリタニア

 

いまは国ではなく日ブへの亡命政府扱いとなってしまっているこの組織に、もしもモニカさんが欧州系貴族なら参加していたこと間違いなしだろうな

 

吹き荒ぶ冷気纏う風にざわめく木々を見つめながら、俺は一人そんな彼女のことを考えていた

 

 

ふと、柱時計を見る。短針は5と6のはざま、長針は6をぴたりと指している

 

 

…出るか

 

 

まだ早い。待ち合わせにはまだ一時間以上の時間がある

しかしそれでも俺は家を出ることにした

なに、彼女の性格やあり方などを思い返して、真面目な彼女がもし三十分前に待ち合わせ場所へと着いていたら格好がつかないと、そう思っただけさ

彼女が遅れるぶんには問題ない。男たる俺が遅れることが問題なのだ

時間に遅れるという意味じゃなく、女性より遅く到着するということがな

 

 

 

 

門を出る、守衛に出掛けの挨拶をする、そして必要のないと小市民感覚の俺が思うダークスーツに身を包んだ屈強な男性たちが付いてくる

 

別に対した距離でも無し、大袈裟なことこのうえない

 

しかしこれも彼らの仕事なのだ。俺が勝手に拒否するわけにもいかないから困りもの

どうせ見えない場所にも黒服さんは張り込んでいるのだろう。救国の大宰相たなんだと喚ばれようとも未だ抜けきらない神崎くんな俺の感覚が、自然と自分自身に気を張らせてしまって落ち着かない

 

と。

 

針の寧ろならぬ、担ぎ上げられた神輿の上に立つ気分に浸らされていた俺の周囲から、一人二人と離れていく黒服さん

なんだろうか? まさかこのタイミングでお手洗い・・・なわけないよなぁ

 

待ち合わせ場所に近づくにしたがい人が増えてきたから目立たぬように遠くよりの護衛に切り替え、交代要員として私服の護衛が来るのかと思えば、そうでもない。

 

恋人はサーンタ

生真面目なサンタさーん

 

どこかで耳にしたような曲の流れるなか、人混み。恋人混み?

 

それら人だかりを抜けていくと

 

そこだけが一際輝いて見える、街灯や店頭の灯りに照らされ煌めく金色の真っ直ぐな髪の女性が見えた

 

腰の下まで流れる長く真っ直ぐな髪は寒気のもたらす強い風を受けて靡き、靡く髪を押さえながらその女性は一人そこに立っていた

 

上下共に白い衣服。下はタイトなスカートで腰部までのスリットが入っているために寒いだろう。黒いロングブーツは膝まで、膝からスカートの間は素肌をさらしたままなので余計に寒そうに見える

寒さを凌げるのはそんな彼女が身に纏っていた足首までを覆う表地が明るい緑色、裏地が紫色のマントが風を防いでいるからかもしれない

 

俺が軽く手を挙げると、彼女も気付いていたのだろう。黒いグローブに包まれた手を大きく振っている

 

「嶋田さ~ん!」

 

う、ちょっと声が大きい。僅かばかりの幼さやあどけなさを残しす彼女の容貌は控えめに見ても美女としか形容できない

だから注目を浴びること必至で、目立ちたくない俺としては少々困りものだ

 

さっさと合流してしまおう

 

足早に駆け寄る俺は、定番の待ち合わせ言葉とでもいうべきひとことを投げ掛けた

 

 

「やあ、待った?」

 

しかし疑問もあるのでそのまま続けて聞いてみた

 

「というかさ、俺、今朝君が出勤するときに伝えていただろう。早く終わったなら直帰してほしいってさ」

 

いや、それはそうだろ。まだ待ち合わせ一時間以上前なんだから。早く仕事が終わったのなら家に帰ってくるよう伝えていたのになんで?

なにもこんな寒いなかをひとりで待たなくても

 

「ちゃんと聞いておりましたよ? ですが嶋田さん、今日は聖なる夜です。家に帰ってから顔合わせなんて、なんだか寂しくありませんか?」

 

あどけなさの残る可愛らしい微笑みを浮かべながら、彼女モニカさん、ナイトオブラウンズのナイトオブトゥエルブの称号を持つ麗しい女性は、俺の前に片ひざを立てて仰ぎ見てきた

 

「騎士モニカ・クルシェフスキー、今宵は我が主君嶋田繁太郎様のエスコートをさせて頂きたく馳せ参じてございます。今宵、この身この名は主君を守護せし剣となり盾となる所存。いかなる輩の刃も銃弾も通さぬことをお誓い申し上げます」

 

ナイトオブトゥエルブじゃなくて、騎士モニカ・クルシェフスキーとしての名乗りと宣誓

 

「お、おう?」

 

た、確かにモニカさんは俺のためにひとりの騎士として剣となる誓いを立ててくれていたが、こ、これは恥ずかしい

 

早く立ってもらわないと、羞恥プレイか!?

 

「き、君の忠誠のほどはとくと理解したよ我が騎士モニカ。と、とりあえず立ってほしい」

 

「はっ!」

 

促してあげるとおとなしく立ち上がってくれたので助かった~

しかしなんだ、彼女は恥ずかしくないのかな?

 

「あの、さ。こういうこと訊かれるのは嫌かもしれないけれどさ、恥ずかしくないのかい?」

 

「恥ずかしい? いいえ、恥ずかしくなんてありませんよ。騎士としてごく普通のことですので」

 

とか言いつつ体の前に流した二房の髪の片方を弄りながら、もう片方の手では頬を掻いている

 

「恥ずかしくはないのですが・・・その」

 

ごにょごにょと小さな声で聴こえない。うん、本当に聴こえないぞ?

 

「あ、ああ良いんだ。君が気にしていないなら俺も気にしないからな」

 

モニカさんが気にしていないならまあ良いか。俺はちょっとした羞恥プレイに感じてしまったがまあ文化の違いだよ文化の違い

 

「ん? あれ、それじゃ公務が早く終わったのに家に帰らず待ち合わせ場所にいたのはもしかして」

 

「はい。臣下が主君よりも後に来るなんてあり得ませんから、それで絶対に嶋田さんよりも早く来てお待ちしていようと」

 

うん合点がいった。確かに主君よりも後に向かう臣下は無いな

だけどさ、そもそも

 

「俺とモニカさんは主君と臣下じゃないよ。主君と剣だ。モニカさんは俺なんかには勿体ないほど美しく輝く宝物、謂わば宝剣なんだから、たとえ主君と臣下の間柄であろうと俺と君は対等の立場なんだよ」

 

ナイトオブラウンズとしてシャルルさんに支えるナイトオブトゥエルブじゃない

モニカは俺のナイトだ。男と女の立場が逆転してるがそこはねぇ、まあ、モニカさん滅茶苦茶強いし

体術も剣術も騎士として最高峰の高みに到ったひとりだから。年を取ったいまの俺は当然として、現役の帝国海軍軍人時代だった俺でもかすり傷ひとつ負わせられずに敗北するだろう

 

「君は強い、世界最強の騎士のひとりなんだ当たり前だね。でもなぁモニカさん。今夜は俺の騎士としてであっても、ひとりの女性として傍に居てくれないか? なにかあったら俺が君を守る! そう言わせてもらいたい、こちらはまあひとりの男としてのお願いだ」

 

実際に某かのことがあればモニカさんに任せるべきだろう。俺じゃ彼女の足手まといだからな

ただ、今日くらいは格好をつけさせてほしい

 

「し、嶋田さん」

 

髪を弄る指が止まらない。俺は静かにその指に手を伸ばして絡めてみた

 

「ああ、このリボン」

 

「え? あ……やっと、気づいてもらえました?」

 

体の前に流された彼女の横髪を纏めてできた二つの髪の毛の房。それを形作った青いリボン。それは以前俺が彼女に贈ったプレゼント

 

「似合ってるよ。とても」

 

指を絡めてみた右手はそのままに、うん、や、少し強めに握りしめて

余る左手を右の房に伸ばし

 

「あっ・・・」

 

そーっと房を掴み、右の房そのものをマントの留め具の上より外に出しては指を差し入れながら撫で下ろしていく

 

「嶋田・・・さ、ん」

 

手入れの行き届いた金色の房の中を泳がせる指にはたださらりとした触感だけが伝わり、髪の毛そのものが指を止めることはない

房に巻き付けられた青いリボンだけが、指の行く手を阻むように触れてくる

それも僅かな抵抗のみで、巻き付けられたリボンの方がほどけていく

 

「いつものようにさらさらしてるね。金色に煌めいてとても綺麗だよ」

 

巻き付くリボンはほどけても、大元は肩の辺りでしっかり結び縛っているために、房がばらけることはない

 

「でも、冷たいね。とても冷たい・・・」

 

房の中で髪に絡ませながらすべり下ろしていく指は、やがてその冷たい金色の川の中より外へと出ていく。後ろ髪は腰より下まで更に伸びて金色の流れは楽しめるだろう。でも横髪の房の先端は腰の辺りまで。ここで流れより抜け出ることになる

金色の清流より抜け出た指を、手を、更に伸ばしたのはマントの外側

位置は変わらずの腰の辺りだ

 

「髪がこんなに冷たくなるなるほど、ここで待っていてくれたのかな」

 

川の水、は言い過ぎでも。ひんやりとした冷たい髪の毛はそれだけのあいだ冷気の風にさらされていたことを証していた

 

さて伸ばしたこの手をどこへ?

 

決まってるさ、このまま彼女の腰に回し、マント越しに彼女の腰をぐっと引き寄せる

 

「わ、たしは、嶋田さんの、騎士です、から」

 

彼女の白い頬が紅く色づいた。言葉がたどたどしく絡まる

右手は彼女の腰に回し、左手は彼女と手のひらを付け合わせたままに肩まで掲げ挙げながら双方の指の間に指を握り混ませて

 

静かに自然のままに口づけた

 

「ん、う」

 

重なりあう唇。大きく手を開かれた彼女の瞳。澄みきった深い碧がとても、とても、綺麗だ

 

その碧い瞳が、目が、まなじりが、静かに下がっていく

 

「うっ・・・ん・・・」

 

合わせて俺の目も閉じていき

 

「…………」

 

二人同時か? 丁度目が閉じきったころ。重なる唇もより強く

 

そうでありつつも優しく

 

俺はモニカさんを

モニカさんは俺を

 

ただ、求めあっていた

 

それからどのくらい経ったころか? 触れ合わせていた唇を離したときにすっと開いた視界は彼女の白から紅へと色を染め替えた頬と潤んだ碧い瞳をとらえていた

 

「唇も冷たかったよ我が騎士モニカ。なによりも大切な宝物である君がこんなに冷たいなんて、俺はその方が嫌だな」

 

大切な。そうだ、大切な宝物なんだ彼女は。俺にとってけして代わりなどいない、この世でただひとりの大切な

いつ頃からかはわからない。意識もしていなかったに違いない。ただ気がついたときには自然に大切な宝物となっていたんだ

 

「し、嶋田、さん」

 

「なにかな?」

 

「そっ、そそ、その、わ、わた、わた、私、恥ずかし、です」

 

…あっ

 

や、やってしまった。空気に飲まれて、流されるままに

 

モニカさんに指摘されて正気に戻ると自分がいかに恥ずかしい行為に及んでいたのかに気がついた

 

気づけよ神崎くんっ!

て俺だそれ!

 

ちらっ

 

周りを見る

 

それなりに人の目が集まっていた。しかしそれは批難する感情からのものではない歓迎ムード

よく考えるとここは待ち合わせスポットで今日は聖なる夜。ここにいるのは所謂リア充ばかりで、つまりカップルだらけ

 

うう、いかん、これは、これは駄目だ、羞恥プレイかってほざいていた俺が羞恥プレイだぞ

 

だが俺とモニカさんの空気に充てられたのか。すぐ後にはそこかしこで口づけを始めるあたりリア充の適応力は凄いなー

 

そんな中、俺の襟元をくっ、くっ、と引っ張る力が働いた

目の上あたりで切り揃えられた前髪の下から覗く上目遣いの碧い瞳

 

「そ、そろそろ、移動なさいませんか?」

 

モニカさんはそわそわしている。周りの雰囲気のせいだろうたぶん、おそらく

 

「そ、そうだね、あんまりここに居ても、ね」

 

こちらも年甲斐もなくそわそわしてきた。周りの雰囲気のせいだろうたぶん、おそらく

 

「と、その前に、いいかな?」

 

訪ねておきながら返事を待たずに始めたのは、ついいまさきほどに俺がほどいたモニカさんの髪の毛。その左の房のリボンの手直し

自分でやったのだからこれは自分直さなきゃならないだろ

 

「こ、これを、ああええっと、髪に巻き付けていくだけでよかった?」

 

女性の髪というのはいざ意識して触ると扱いにくいものだな

触り心地は良いんだが、ただ繊細さも求められる。乱雑に扱うなどもってのほか

俺はできる限り丁寧に彼女の髪の房を扱いながら、ゆっくりゆっくりとリボンを巻き付けてみる

 

「は、はい。リボンの余り紐を左右交互にして房に巻き付けて、」

 

螺旋状に巻いていく簡単なお仕事か。しかしなんだな俺も、よくもまあこんな平然と女性の髪の毛を触れるものだな人前で

キスまでしてて今更感ありありだが

 

「こ、う……かな? 右を巻き付けて、左を巻き付けて、順番に、と」

 

「そう、です」

 

「そ、それにしてもこんな寒いのにどうしてこのリボンを?」

 

房にリボンを巻き付けながら聞いてみた

普段の彼女は元々持っている暖色系である赤色のリボンを今のように横髪を体の前に流して纏めている。ツインテールやポニーテールにしているときもある。後はそうだな、編み込みにしてセ○バーみたいな髪型にしているときもあった

その際に使うリボンの色は青のときもあるにはある。だが青いリボンは家のモニカさんの部屋にある彼女の机の引き出しに宝物のようにして大切に仕舞ってあることが多い

 

つまりモニカさんが常時髪に使用しているのは暖色系の赤色のリボンだ。そして今日はというと吐く息も白くなる。水が凍りそうなほどに寒いのに青いリボン

寒いのに青だと余計寒く感じるものではなかろうか。まあ似合ってるけど

 

するとリボンを綺麗に巻き付け終えるのを待っていたかのように、モニカさんははにかみながら俺の唇に右手の人差し指を押し当て

 

「ふふ、だって嶋田サンタがやってくる日は今夜のはずですので」

 

「・・・!」

 

 

さぁーー

 

冷たい風が吹き抜ける。恥ずかしそうに微笑む俺だけの騎士モニカ・クルシェフスキーの明るい緑色のマントが翻り、その長い金色の髪が風にたなびく

 

金色の髪と、表地のライトグリーンに裏地が紫色のマントが描き出すコントラスト

 

それに合わさる騎士服の白色

 

「綺麗だよ、モニカさん・・・本当に綺麗だ」

 

反射的に引き寄せていた。その輝きを放つ宝石を。真珠もダイヤモンドも色褪せてしまう美しい宝石を

 

今度は彼女も俺を抱き締めてくれた

 

 

きっと目立つだろう

きっと注視されるだろう

普通の日のこの場所ならば

 

だがしかし。今日はイブの夜

周りも皆同じ様に抱き合う恋人たちばかり

年は離れていようと紛れてしまえばそれほどでもない、はずだよな?

そうは言ってもモニカさんは美人だからなにもしなくても目を集めてしまうが

しかもいまは騎士服にマントだから

 

まあとはいえ東京、特に都内でブリタニアの騎士を見かける機会は多いのそう珍しくないから大丈夫か

 

「騎士モニカ」

 

「はっ」

 

「少しの間、こうして暖め合わないかい? 君が、君の体が冷たいのは主君としてとても苦しく辛い」

 

「嶋田さ、ん」

 

感極まったように嬉しさのにじみ出た表情で彼女に見つめられた

なかなか、こそばゆいな

 

「はっ、我が君がお望みとあらば」

 

どうやら受け入れてくれたようだ。嬉しいね

 

「じゃあ俺は個人としてのモニカ・クルシェフスキーが望むなら、にしておこうか」

 

「もちろん私は、そのお言葉に甘えますよ?」

 

「じゃあ好きなだけ甘えてくれ」

 

「はいっ!」

 

俺は両手でモニカさんを抱きしめ、モニカさんが両手で俺をかき抱く

 

強く、強く、思うがままに強く

頬をすり合わせ、体を暖め合う

 

こうして始まったのは俺と、大切な宝物騎士モニカさんとの、二人だけの夜

 

俺たちのイブはまだこれからだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、そういえばいつの間にか消えていた黒服な人たちはこの意味を理解しているのだろう

離れた場所から警護しているとも考えられるけど、この麗しい女性が俺個人に宛がわれている警護要員を全員合わせた戦力よりも強い最強の警護員だということを

 

どうしてかって、それはまあ。モニカさんが俺と一緒に居るときはいつも黒服さんが居ないから

 

実際上、黒服さんの警護よりモニカさんひとりに守られてる方が安全が保証されてるわけだ。まあ知らないはずもない。彼女はナイトオブトゥエルブとして有名だからな

 

いやまあ、でもねそれは別として感謝してるぞ。いつもありがとう黒服さんたち。ただ今夜はもうゆっくりしていてくれ。たぶんこの後も俺はモニカさんと、ずっと一緒なので

最終更新:2018年03月24日 08:37

 



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12月12日

 

 

12月12日は恒例のモニカの日

 

 

12月12日

 

 

「シゲタロウさん」

 

「ん?」

 

自分を呼ぶ声に振り向くと寒い夜風にたなびく金色の髪が見えた。

 

「今夜は一段と冷えますね」

 

小走りで近づいてくる彼女を嶋田はそっと抱きしめる。

 

「冷えてるな 君の体も」

 

「シゲタロウさんこそ」

 

老齢ながらも年を感じさせないたくましい胸板に彼女は体を預け頭を寄せた。

 

「厚手のコートがこんなにも疎ましく思えたのは初めて」

 

「寒いからね」

 

「アナタの冷たい体を暖めるのは私の役目だというのに」

 

木枯らしに冷えた体がぬくもり始める。

嶋田もモニカの背に手を回して暖めてあげるべく抱きしめる 彼女の身を包む黄緑色のマントの下へと手のぬくもりが届くよう力をこめて。

 

「任務ご苦労様と云うべきなのかな?」

 

「どの任務についての お言葉なのでしょうか?」

 

「もちろん 俺を暖めてくれようとするこの任務についてだよ」

 

円卓の12騎士の12位。

そして嶋田に剣をささげた大切な女騎士を彼は労う。

これがなによりも大きな贈り物となる彼女は雪に濡れた主の肩へ頬をつけた。

 

「つめたい・・・・・」

 

これはいけない。

任務失敗などナイトオブトゥエルブには許されないのだ。

 

「どのくらい お待ちだったのですか?」

 

「5分くらい かな」

 

「・・・・・」

 

うそだ こんなに濡れていて5分はない。

 

「・・・・うそ」

 

肩から離した頬が濡れている。

気づいた嶋田は抱きしめていた手を彼女の体から離し 濡れた頬を両手でつかむ。

 

「うそじゃないよ」

 

拭うとウールの手袋が湿り また手は冷える。

 

「うそ」

 

モニカがその手を外側より押さえる。

 

「うそつき・・・・・」

 

レインボーブリッジに虹色の光が駆け抜けて暗がりを照らす。

一瞬の虹色にそれでも嶋田の目に映るのは虹ではなく金色の柔らかな髪と透き通る蒼。

 

「うそじゃないさ 君は主君の言葉を信じられないのかい?」

 

また走る虹色模様。

色とりどりの光に見とれる人々の中 モニカの目には黒しか映し出されない。

 

「イエスマイロード」

 

はい 我が主。

信じられないということだ。

 

「ふ・・・・俺の騎士は不忠者だな」

 

「うそつきな主をお諌めするのも騎士たる者のつとめ 主君シゲタロウ様への忠誠の証です」

 

「ものはいいようか」

 

12月12日。

偶然夜の港を散歩することにした主と騎士は24時の時報と共に互いの距離を0とした。

 

「さ いこうか我が騎士モニカ」

 

「イエスマイロード」

 

2時間近くの間行き交うカップルを見送っていた老紳士が金の髪をなびかせる黄緑色のマントを着た美しい騎士と手をつなぎ歩き始めたのは そんな雪の振る夜もふけた頃のことであった。

 

 

 



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マダ男はやっぱりマダ男

玉城×マリー・クララです


 

 

 

マダ男はやっぱりマダ男

 

 

 

まるで駄目な男玉城真一郎はやっぱり駄目な男だった。

色々諦めてBARのマスターになったまではいい。

客足も伸びて結構な繁盛具合 VVも足繁く通い彼の伝手で大勢のVIPも使う隠れた穴場となっていた。

 

店を開いて約二年が過ぎる頃。

VVの愛娘もやっと成人になる年頃。

彼はかねてより気は進まないまでも愛娘クララを真面目に仕事をするようになった玉城に託そうと考えていた。

クララ自身の自由意思が一番大きな要素だが とにかく玉城のことが大好きな娘の心変わりは結局無理だと分かったから。

 

今年 彼と今年中には腹を割って話し合うつもりだった。

 

そんなあるとき。

叔父である自分を頼って姪の一人がやってきた。

姪はいっぱいいっぱいいーっぱいいるVVだがその姪とは裏側の関係からもちょくちょく連絡を取り合う間柄だった。

 

マリーベル・メル・ブリタニア。

 

現在ブリタニア正規軍とは指揮系統の異なる独立軍 大グリンダ騎士団を率いるようにまで成長したブリタニア皇家の勇猛な姫騎士だ。

彼女 以前から結婚適齢期ながらまだ特定の相手を見初めずに周囲をやきもきとさせていた。

メル家の長女なのだから婿取りしないと駄目だよ 口を酸っぱくしてVVも有力貴族との見合いや縁談話を持ち込んだりしたことがある。

しかし彼女はすべて頭から拒否しては 私にはすでに幼き頃より心に決めた方がおりますの の一点張り。

ではその方とやらを教えろと言っても教えない。

 

そしてある時彼女は父シャルルに訊いたという。

平民とであっても皇族は結婚できるのか?

いままで訊いてこなかったのは自分が彼に相応しいくらい成長を遂げてから彼を捜し我が家に連れ帰る。

メル家に連れ帰るという壮大な無茶計画を立てていたからだというからVVは頭が痛くなった。

 

31: マダ男はやっぱりマダ男 :2016/12/14(水) 17:49:46

 

 

「それでシャルルはイエスと言ったんだろう」

 

「なぜわかりましたの叔父様」

 

「ノーって言えないだろう 自分の正妻が平民庶子出身なのにさ 特殊ではあるんだけどね」

 

さて事はマリーベルの思惑通りに運んだとなる。

それでは彼女の心に決めた人を探すのに自分の力でも借りに来たのかと思ったVVは続く彼女の言葉を聞いてこたつ台に頭をぶつけてしまうのだった。

 

「真おにいさまを私の婿としてください!」

 

ガツンっ

 

響くこたつ台の音。

額にはたんこぶができてしまった。

 

「な なんだって? だれがだれにだれをくれだって?」

 

「私が 真おにいさまの保護者代わりだという叔父様に 真おにいさまをくださいと言いました」

 

「なんで?」

 

「昔 お写真を見せて戴いた折りに真おにいさまが写っておいでだったこと覚えておられますか?」

 

「あったねそんなこと」

 

家族写真に写っていた他人駄目男の姿になぜか異様に反応したマリーベルがこの人は誰か? 会わせて下さい!

力説したことがあった。

会わせてやったりもした。

マリーベルは昔玉城に会った事があるらしく そのとき交わした約束がいまの対テロ部隊創設への心の力の一つとなったのだという。

以降 ときどき玉城のBARに訪れては仲良く話していたり。

VVの家で偶然にも顔を合わせた時は出掛けたりしていた もちろんその際には愛娘のクララもくっついていったが。

 

なにもないだろう。

そう考えていたのだ。

どうすればまるでだめなあの馬鹿とこの優秀過ぎる勇猛果敢な姪がどうこうなるというのかと。

 

32: マダ男はやっぱりマダ男 :2016/12/14(水) 17:50:30

 

 

「昔から お慕いしておりましたのにいさまのこと」

 

ガツンっ

 

もう一発こたつに頭をぶつけてしまった。

二つに増えたたんこぶをさすりながらVVは諦めろ。

君とあの駄目男とでは一族が ブリタニア帝国という国が猛反対する。

日本からも絶対に変な目で見られる事になる。

 

直球ではなくそれとなしにやんわりと説得を試みた物のマリーベルは諦めない。

 

すべては再会後の交流が原因だった。

遊びに行ったり話をしたりして共有する時間が増えたことが彼女の思い出を美化させた上に恋心にまで膨れあがらせていたのだ。

玉城が何気なく口にした台詞なんかにも問題があったのだろう。

口だけはべらべら動いて勇ましいことばかり言うから。

 

あの駄目男なんてことしてくれてるんだ。

クララには知らせられない。

知らせたら駄目男になにかするかマリーベルに憎悪を抱くかどちらにせよ碌な事にならない。

ここはまず一旦マリーベルを帰らせてさっさとクララと祝言を挙げさせほとぼりが冷める頃に。

いやいやそれでは解決にならないからマリーベルとクララのどちらを選ぶのか僕の前で決めさせる方が。

 

最終結論は穏やかにクララに伝えマリーベルにもクララの抱く長年の玉城への恋心を親として無碍にはできないからと伝えることにした。

 

「お姫様の泥棒っ お兄ちゃんはクララのお婿さんになるって昔から決まってるんだから勝手に出てきて嫁宣言しないでよドロボードロボードロボーお姫様のドロボーっ!」

 

「泥棒とは失礼ですねっ 恋は過ごした時間ではありませんっ 運命の出会いで決まるものなのですっ!!」

 

「うわぁぁぁぁんお兄ちゃんの浮気者ォォォォォ!!」

 

「それはこちらの台詞です散々おにいさまを自由にしておいて今の今更っ 本当に愛しておられるのなら私から奪うくらいのことなさったらどうですのっ!」

 

33: マダ男はやっぱりマダ男 :2016/12/14(水) 17:51:19

 

 

 

「言ったわねお姫様・・・・ だったら だったらクララだって容赦しないよ マリーベル・メル・ブリタニア――」

 

「こちらこそ奥の手を使わせていただきますわクララ・ランフランク――」

 

言い合いを始める二人にうんざりするVV。

どっちも我の強い娘だから絶対にこうなるとわかっていた。

そして双方が目を光らせた瞬間にこたつ台に飛び乗って拳骨を喰らわせギアスの発動を強制的に止めた。

危うく血の雨が降るところだ。

 

「いたいよォ~パパぁ 心が痛いよォ」

 

「痛いですわ・・・・ 胸が とても・・・・」

 

珍しいくらいにむかっ腹が立つ。

大切な娘と大切な姪の喧嘩の原因があのクソ馬鹿だと思うと自分の手で絞め殺したくなってきた。

 

「ねえルルーシュくぅん シンイチロウくぅんはどこいったのかなぁ?」

 

態度に出ていたのかびくっとしたルルーシュは敬愛する叔父に事実のみを伝えた。

 

「にっ 逃げましたよ 叔父上には暫く店を休むとか伝えてほしいといって」

 

 

その頃の玉城は人知れず上野発の夜行列車に飛び乗っていたらしい。

店も軌道に乗っていたおかげでたんまり稼げた。

しばらくの間の逃亡資金はあるとか呟いていたとか。

カードは危ないから現金でというところだけは無い頭を使ったらしい。

 

もちろん彼を追うのはVV ブリタニアの裏の皇帝である。

 

どこまで逃げられるのかわかったものじゃない。

 

34: マダ男はやっぱりマダ男 :2016/12/14(水) 17:52:59

マダオくんは当然捕まるよ。

クララかマリーを選びなさいと迫られることになるよ。

 

 

 



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優しすぎる人

 

 

優しすぎる人

 

 

 

 

世の中には性善説と性悪説の二つの説が存在する。

 

性善説とは人間の本性は生まれながらに善であり仁・義を先天的に具有すると考え それに基づく道徳による政治を主張した孟子の説。

つまり人間は皆善人である。

どんな悪人も犯罪者も心の奥底では然の心を持っておりその心こそが本当の心であるという考え方だ。

 

性悪説とは人間は欲望を持つためその本性は悪であるとして礼法による秩序維持を重んじた。

孟子の性善説に対立する説。

つまり人間は生まれながらに悪である。

どんな善人も聖職者も心の中では皆自我の欲望のみを重んじ追求し生きているのだという暴論。

 

どちらも暴論と言えば暴論には違いないが どちらも正解であって間違いでもない。

人間とは生まれながらにその二つを内包しているからだ。

 

しかしそれで片付けられないような善の側に偏りすぎた存在も極希に現れることがある。

 

「君 着る服はないのかい? なら私の着ている服でよければ是非着てくれないかい サイズが合わないなら売ってもいいよ」

 

「お金に困っている? じゃあ君達みんなに私の財布を預けるから好きに使って良いよ 貸すだけだからね返済はそうだなあ10年に1ポンドでどうだろう」

 

「クリスマスはみんなで祝おうよ ブリタニア中の子供達にはきっとサンタさんからプレゼントが届くよ」

 

「ユーロピアアフリカの人たち生活が大変らしいが私の私財を寄付したいと思うんだがどうだろう ってもう寄付の手続きは済ませてしまったからどうもこうもないね」

 

「オセアニア圏との長く続く冷戦が世界を混乱させているのは確かなのですから盟主であるオセアニアとの日武対オセアニアで三者による首脳会談を開きたいと考えているのです 冷戦終結と和平実現のために伏見宮殿下 近衛卿 嶋田卿 どうかご協力いただけませんか?」

 

「政治に苦しめられている民がかわいそうだよ プレトリアユーロピアになんとか内政干渉できないものだろうか」

 

「高麗との国交を回復させたいのだがどうだろう いくら礼節を弁えない国ではあっても対立続きなのは良いことではないと思うのだが 皆の意見を参考にしたい」

 

「皇族みんなでトウモロコシ狩りをしよう 貴族や平民問わずみんな参加してほしい 申し訳ないが参加費は自腹で自分の思う金額をお願いしたいんだ 恵まれない子供達への寄付のために」

 

 

後に絶対平和の君主として歴史に名を残す男の一部の言葉の数々が性善説の証明となった。

 

性善説の男オデュッセウス それは彼の慈愛の皇女ユーフェミアすら霞ませてしまうほどの大善人。

 

歴史家はそう語っている。

 

 



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戦略的幸せ

 

 

戦略的幸せ

 

 

 

モニカ・クルシェフスキー。

ブリタニア皇帝の騎士ナイトオブラウンズのトゥエルブの階級を持ち 駐日ブリタニア大使館の駐在武官という立場の女性である。

任命したのは唯一命令権を持つブリタニア皇帝シャルルであった。

 

日本という国はブリタニアにとって特別な国。

世界で唯一対等の同盟関係を結び 過去のルーツとしては同一国家であったことまで判明しているが為に 将来は一つの国 連合国家を目指しているそんな途上にある国であった。

であるからして 駐在武官と言っても並大抵の階位の者などに着かせようはずもなく 結果ラウンズに白羽の矢がたったのであった。

そして当時飛び級で士官学校を卒業し優秀なる成績を収め 御前試合の席で見事トゥエルブの称号を授けられた最年少騎士 モニカ・クルシェフスキーがこの大役を仰せつかったのであった。

 

来日後 なぜか皇帝シャルルまで付き添いで着いてきたが その脚で向った先が大使館でも領事館でもない。

かつて大日本帝国を率い 今でも帝国の影の支配者であるとまことしやかに囁かれている嶋田繁太郎邸だったのだ。

なんでも皇帝の幼馴染みで誰よりも信頼できる人物であるからと 大切な自らの剣の一振りたるモニカを嶋田氏に預けようという腹積もりであったという。

この独断専行には思うところはあった物の皇帝命令は絶対。

皇帝の12の剣の一振りとして従うべきだと判断し彼女は嶋田邸にご厄介する形となったのである。

 

自己紹介は簡潔だった。

 

ライトグリーンのパーソナルカラーであるマントを着用し 真っ白な騎士服を着たモニカが 好々爺然とした嶋田に鯱張った型どおりの硬い挨拶をして。

嶋田が楽にして良いよ自分の家だと思ってねという柔らかな挨拶をするという正反対の第一印象を抱く結果となる出会いだった。

 

型にはまらない嶋田の行動に真面目な堅物であるモニカがイライラさせられたり 時にモニカを思い遣っての行動が彼女のトラウマ的な物を呼び起こして険悪な間柄となってしまったり 二人の関係は中々上手く行かなかった。

嶋田は真面目だが堅物ではない モニカは真面目だがかなりの堅物 侯爵家跡取りとしての英才教育を受けてきた為か かなりお堅い考えを持っていた。

 

しかしやがてある時を境にして雪解けは訪れる。

それが日本食とも言える庶民の味だったことが今となっては笑い話になってしまう出来事だったが それでも嶋田にもモニカにも良好な関係が訪れた事は良いことであった。

 

そして時は進み皇暦2020年代。

日本としても欧州戦争参戦が決まり緊張の続く中 人知れず嶋田家とクルシェフスキー家は合意の元に嶋田繁太郎とモニカ・クルシェフスキー両名の婚姻関係を結ばせていた。

戦争に突入した場合事後処理と政治的な話も含め今後暫く余裕が無いという事で強引に推し進められたのだ。

 

40: 戦略的幸せ :2016/12/14(水) 18:08:34

 

 

それもまさかの合同結婚式という予想外の展開まで着いてきた。

 

山本五十六とリーライナ・ヴェルガモン。

 

南雲忠一とドロテア・エルンスト。

 

そしてまさかの枢木スザクとナナリー・ヴィ・ブリタニアの結婚。

 

中華天子とブリタニア皇族の結婚まで。

 

日武中の重要人物達の結婚式を合同で行うという無茶振りに各方面は大わらわとなった。

 

山本家 ヴェルガモン家 南雲家 エルンスト家 枢木家 ブリタニア皇族ヴィ家 中華天子 ブリタニア皇家の一家。

そして日本の支配者だのと噂されている嶋田家にブリタニア西海岸の盟主クルシェフスキー家の合同結婚だ。

準備も調整も来賓もいと恐ろしい面子ばかりが集まることとなり 世界は一時戦争処ではなくなってしまった。

これにキングジョージとギネヴィア・ド・ブリタニアの結婚が正式発表された物だから欧州は戦慄した。

日武に加えて中英シーランドに中東の日武寄りの国々から一気に包囲される形となったのである。

 

政略結婚による外交でユーロピアは完全包囲されてしまったのだ。

 

世界合同結婚式。

 

後に呼ばれるこの歴史的な合同結婚は一つの戦争を終わらせたことでも歴史に名を残す事となった。

 

 



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クルシェフスキー家の家令

 

 

 

クルシェフスキー家の家令

 

 

 

 

 

 

嶋田繁太郎。

彼はモニカ・クルシェフスキーと結婚し彼女がラウンズを引退するまでの間は嶋田家の当主を勤めていた。

しかし寄る年波もあり ラウンズ引退後はクルシェフスキー侯爵として家督を継ぐ妻に付き添いブリタニアに渡る都合 家督を親族に譲り日本を発った。

 

到着したクルシェフスキー領はとても広く国一つが所領のような広大さ。

 

この土地をこれから妻と共に治めることになるのかと考えると また政治家時代に逆戻りしたような気分だった。

 

「シゲタロウ どうですか我がクルシェフスキー領は 肌に合うでしょうか?」

 

モニカは心配だった。

長年一緒に暮らしてきて夫のことは誰よりも知っていたが 違う土地 違う風土や気候になじめるだろうかと。

日本はうらやましいほどすべてに恵まれていた。

長らく日本で過ごしてきたからわかる。

たまに帰るブリタニアにいるとなぜか日本が恋しくなると。

モニカにとって日本はすでに故郷と同じなのだ。

第二の故郷という単純な概念ではなく本当の故郷であるブリタニアはクルシェフシキー領と同じくらい日本に郷土愛を抱いていた。

それだけに日本生まれの生粋の日本人である嶋田がクルシェフスキー領に合うかどうか不安なのだ。

自分の故郷を愛する夫 嶋田繁太郎にも好きになってもらいたい 愛してもらいたい。

そんな気持ちがモニカにはあった。

 

だが嶋田は事も無げにいう。

モニカの心配や不安など無用の長物であるように。

 

「問題無いよ 所変わったくらいで心身が折れるようならば政治家なんか務まりはしないさ」

 

総理大臣とは激務だ。

軍人時代も激務だったが総理の頃の方が心労で倒れそうだったほど。

たかだか別の国に来たくらいでやっていけないことになることなどあるものか。

それに第一ブリタニアは別の国とはいえ日本と家族同然の国。

なんども来たことはあったし風習についても各地方毎にほぼ網羅している。

 

とくにクルシェフスキー領は日本からの移民も多く 日本の風習が改良されたような物も見受けられる地域。

慣れるもなにも 最初から心配事なんて露程もなかった。

嶋田は一目でクルシェフスキーの土地を気に入っていた。

風土風習人柄 すべてにおいて日本と 慣れ親しんだ東京と同じくらいに。

ここに骨をうずめることも もう決めている。

でなければ日本を出ることはなかっただろう。

愛するモニカと共に一生を送りこの地で眠る。

年齢を鑑みれば自分のほうが先に逝くことは如何ともしがたいところだが それでも彼女と共にこの地で眠るのだ。

そう決めてここまでやってきた。

 

51: クルシェフスキー家の家令 :2016/12/14(水) 19:09:03

 

 

 

愛するモニカと モニカ・クルシェフスキーと共に。

 

「俺は一生を君と共に生きるよ 辛い時も幸せな時も 君が好きだから 君を モニカだけを愛しているから」

 

「シゲタロウ 私もあなたを守り共に生きます この命果てるそのときまで」

 

しばし抱き合い 口づけを交わす嶋田とモニカ。

車の運転手は気が気ではなかった。

己の主人たちが抱き合ってキスしてるのだ。

そりゃ気も使うしできればこの場を退散したいところである。

だが残念なことに運転中の車でそれはできない。

気になるからミラー越しに見てしまう。

嶋田の唇とモニカの唇がしっかり重なり合っている場面を。

 

んう・・・・・

 

合間に聴こえるモニカの声はキスを受けてのつぶやき。

美しい主人の喘ぎにも似た声に運転手は緊張しっ放しだった。

その声 本来なら聴いていいのは嶋田卿ただ一人。

ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーのハートを射止め 結婚した夫である彼だけが聴いてもいい許される声。

その声を聴いている罪の意識が運転手にはあった。

何分くらいだろう?

 

とにかく長い長いキスだった。

嶋田の頭や背中に回した手で彼の髪や背広を握りしめるモニカ。

 

モニカの頭に背に回す手で彼女の長い金髪やマントを撫でたり握りしめたりする嶋田。

 

見てきた中では疑いようもなく最愛の夫婦による愛の交換のとき。

 

神聖にして不可侵の夫婦だけの時間を運転手はちらちら見てしまう自分が悪いことをしているような気分になっていた。

 

やがて静かに離れた唇には熱いキスを意味する糸が伸びて嶋田とモニカの間をつないでいた。

 

「キス・・・・どうしてもしてしまいますね」

 

ほほの赤らむモニカがいうと。

 

「私こと嶋田繁太郎はモニカ・クルシェフスキーを愛しておりますものでどうしても口づけを交わしたくなるのです・・・・・・・で 満足かい?」

 

「うふふ 罪深いおひとですねあなたは 私の心をさらって離しません ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーも 嶋田繁太郎の前でだけはひとりの女となってしまいますもの」

 

「はははっ 離すだって? それは無理だ 君に出会ったときにはもう離れられなくなってしまったからね」

 

「嘘ばっかりです 最初は私のことなんて年下の娘 孫娘 くらいにしかみてなかったくせに」

 

「いまは愛する女性だよ というわけで昔のことは勘弁してほしいな」

 

「ふ~んです」

 

甘い甘い夫婦の時間。

触れ合ったままに続く濃密な時間だった。

ただ車で移動しているそれだけだというのに。

二人は共に過ごす時間はどうしても甘くなってしまう。

新婚だから? 違う 嶋田繁太郎とモニカ・クルシェフスキーだからに決まってる。

 

52: クルシェフスキー家の家令 :2016/12/14(水) 19:13:16

 

 

「まあそのあたりはさておきとして 領地の風土が合う合わないの前にそれより俺はモニカがそのマントと騎士服のままなのが不思議な感じがするよ ラウンズを引退したというのにどうしてまだその騎士服とマントを脱がないのかな?」

 

モニカはいまもってラウンズ時代の騎士服とマントを公務用の制服としていた。

ブリタニアにはこの手の公務服を着用している貴族が多いのでさほど気にすることでも無かろうが それでも気になる物は気になる。

彼女はこれより騎士ではなく領主になるというのに。

ラウンズ時代と変わらない格好を自分の制服としているのだ。

 

まあさほどに難しい話でもない。

モニカはラウンズであリ騎士。

それも嶋田だけのと誓ったただ一人の。

 

「領主は領主でも騎士は騎士です 私はあくまでも騎士なのですから それに私にはシゲタロウの剣としての役目がありますので騎士である自分を辞めるわけにはまいりません」

 

シゲタロウの剣。

ずいぶん昔捧げてくれた彼女の剣はいまでも自分を守ってくれているようだった。

 

「・・・・・・・そう そうだったよ そうだったな すまないね・・・・モニカという個人は俺だけの剣であることを 俺が失念しちゃいけないことだった モニカ・クルシェフスキーは俺だけの剣だというのにごめん」

 

「もう しっかりしてくださいね我が主 私はあなたをお守りする剣 昔も今もこれからさきもずっと」

 

微笑むモニカ。

間もなくクルシェフスキー邸に到着だ。

 

やがてポートランドから少し離れた郊外まで来ると見えてきた宮殿。

欧風の大きな宮殿が彼女の生家クルシェフスキー邸らしかった。

 

車が到着。

 

第一歩を踏み出す嶋田。

 

「これからはここが新しい家というわけか」

 

門の中には騎士や使用人達が新領主と新領主の夫を出迎えるために整列していた。

 

「堂々と歩かないとな 政治家時代のように」

 

「参りましょうシゲタロウ」

 

「ああ行こうかモニカ」

 

二人は並んで門を潜り邸の真正面である大きな扉に向い歩いて行く。

嶋田は上下黒のスーツで決め モニカは白い騎士服にライトグリーンのマント 長い金色の髪には赤いリボンを巻き付けるといったラウンズ時代の出で立ちで。

 

堂々と歩むその様はまさしく主たるの姿。

領主 王 クルシェフスキーの主人として相応しい二人の晴れ晴れしい姿だった。

使用人や騎士達は彼等二人が通り過ぎる瞬間 深く腰を曲げ 或いはクルシェフスキー家の家紋が描かれた領旗を高く掲げ歓迎の意を示す。

 

今日から新領主夫妻による新体制が始まるのだ。

そして玄関である大扉の前まで来るとモニカの父と母が出迎えてくれた。

 

「お久し振りにございます父上 母上」

 

モニカが挨拶をしシマダが続く。

 

「お久し振りですクルシェフスキー侯爵閣下 クルシェフスキー侯爵夫人」

 

「嶋田卿も御壮健でなによりです 我が娘共々 宜しくお願いします」

 

目上の相手を立てる挨拶に嶋田は止めに入った。

 

「おやめくださいいまの私は娘婿の立場であり大日本帝国元宰相でも嶋田伯爵でもないのですから」

 

こうして滞りなく和やかに進んでいく嶋田のクルシェフスキー家入りとモニカのクルシェフスキー侯爵継承。

そして場が落ち着いた頃 嶋田は家令だという男性を紹介された。

 

「・・・・・え?」

 

顔にかけられた丸い眼鏡がとても印象的。

妖しい空気を醸し出しつつ モニカの父の紹介ではなんでも淑女を育てるのが生き甲斐だという どこかで見たことのあるような男性。

 

「初めまして旦那様 クルシェフスキー侯爵家家令 マーク・ツ・ジーンと申します」

 

嶋田は感じた。

胃が痛くなるような予感をなぜかこの瞬間に感じたのだった。

 

 

 



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守りそして守る間柄

 

 

12月24日

 

 

世間一般にはクリスマスイブを祝うこの日 厳めしい雰囲気の丸坊主をした60前後の男がいたのはホテルでもレストランでも ましてや自宅でもない人型戦闘装甲騎 通称KMFの駐機場であった。

このKMF専用駐機場には帝国陸海軍のKMFは元より いざ有事とあらば日本駐留の同盟国軍ブリタニア軍のKMF基地としても合同で使われるような仕様となっており ブリタニア軍用のスペースも確保されている。

同様にブリタニア帝国本国の既知にも日本軍専用スペースが確保されており通常の同盟国とは違う軍事的にも一体化している同盟関係を両国は既に築いていた。

この当たりの交渉などには当坊主頭の男も関与してきたことがあり良く知っている事情であった。

 

この一角に丁度そのブリタニア軍のKMFが駐機していたのを彼は自分を呼んだ男と共に見上げていた。

 

「白 黄 緑 紫 黒とはこれまた派手な彩色なことだな」

 

坊主男は隣に立つ丸い眼鏡の男に話し掛ける。

こんなにも目立っていては自ら敵を引き付けているようではないか。

自機の位置を晒して良いことなど一つもないというのに何故だろうか。

丸い眼鏡の坊主男と同じ年代の如何にもインテリらしき人物に坊主男 山本五十六は問い掛けた。

 

「あれでいいらしいんですよ彼の機を操る御仁は ルキアーノ・ブラッドリー 闘うことが滅法好きな人物なんですから」

 

ブリタニアの吸血鬼等と渾名されることもあったという。

相手の持つ大切な物を奪う事がこの上もなく快感を覚える一瞬。

命は一瞬であり一つしかないから美しくそれを奪う瞬間が。

 

常人には理解しがたい精神の持ち主だろう 狂気に塗れた人物像を描いていたが山本は実物の彼にあったとき狂的な中にも彼なりの理知的さや矜持も垣間見ていた。

 

「冷徹なようでいて自らの部下は大切に思い 命を奪う事を快楽としながら覚悟の定まらぬ者へは戦場に出ぬよう自ら説得する かといって同じラウンズに対しては仲間意識の欠片も持たずヴァインベルグ卿やクルシェフスキー卿といった所謂善人な 悪く言えば甘さを持つ人物に対しては平然と無礼な言葉を発し挑発もする まるで狂気と独善と優しさが同居し融合してしまったかのような男だ」

 

「山本さん的にはどうでしたかお会いしてみて」

 

「そうだなやっかいなと言おうか距離の取り方が難しい男だな 悪のように振る舞っておるが悪い男ではない 彼には彼なりの正義があるのだろう 裏表がない分案外付き合いやすいかもしれん」

 

貴様よりはと言い掛けて止めた。

辻とまともに付き合える人間など宮様や嶋田くらいなのではないだろうかと 長い時を彼らと共に肩を並べながらも未だに考える事がある。

辻政信 かれも悪い男ではないのだが謎が多く裏でなにをやっているのかわからない怖さが常に付きまとうため彼の前では迂闊な発言が出来ないのだ。

 

「しかしいま山本さんが仰ったのは我々の知るルキアーノです 我々の知らない道を歩んできた彼にはまた別の面もあると思うんですよね」

 

「例の知識とやらか」

 

136: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:15:52

 

 

初めて聞いたときにはとても信じられないことばかりだった。

だが考えても見れば彼等の所行は未来予測そのものだった。

確実に予見されうる未来への事象へと的確な対処を施し日本に降りかかる災厄を回避してきた。

いまにして思えばできすぎ ありえん その答えがいまの自分だということなのだろう。

 

「転生か 自分で体験するまでは信じられなかったよ となれば辻や嶋田も俺より年上の大先輩 かなわんわけだ」

 

「はっはっは ですが我々は素人が多かったのです その道その道においてはプロでもね 帝国海軍軍人山本五十六には同じ土俵でやり合えば負けますよ」

 

「それこそ詭弁にしかきこえんよ 散々打ち負かされた身としてはな」

 

絶対に聞かれてはならない最上の機密事項を事も無げに話せるのは 誰が聞いても与太話の類にしか聞こえないからだ。

周りにはこの世界の人間しかいないので尚更に意味不明な話に聞こえよう。

 

「ほう 歴戦の勇士 大提督イソロク・ヤマモト閣下をも打ち負かされるとは シマダ卿やツジ閣下の実力とは如何ほどのものなのかを是非見聞しとうございますねェ」

 

己たの立つ後ろから歩いてきた男が先の話に割り込む形で問い掛けてきた。

ふっと振り返ると写る男の姿はまさに慇懃無礼を絵に描き額縁に貼り付けたような男だ。

とても目上の者と相対する態度であるとは思えぬ男は堂々と歩き己らの背後に控える感じで立ち止まる。

オレンジの派手なマントにオレンジ色の髪の色 態度は慇懃無礼で彼のKMFの操縦者であると教えられればそうかと納得してしまえる そんなブリタニア人の男だった。

 

「なに つまらん昔話だよブラッドリー卿 なにも知らぬ小僧が知識豊富な大人と喧嘩して負けたというだけのな」

 

「うん? 失礼だがヤマモト卿とシマダ卿やツジ閣下は御同輩なのでは?」

 

「言葉のあやというやつだ 気にしないでくれたまえ」

 

事情を知らないブラッドリー卿を軽くいなしながら彼の周りを取り囲む女性達を見る。

ラウンズが個々人に持つという親衛隊員だろう 皆同じKMFパイロットスーツで揃えられていたがその服には思い切り見覚えがあったのだ。

 

膝上大腿までの黒いロングブーツ 胸部から腹部にかけてと腰回りが大きく肌の露出した全面部が紫 背面部が黒 スカートは後ろ側だけに広がる奇抜な意匠。

ぴったりと肌に適合した動きやすさを重視したのであろうこのパイロットスーツ。

 

「リーライナと同じスーツか・・・・むう やはり破廉恥 いいやもっとも効率の良い形らしいのだから同盟国とはいえ他国人である俺が口をさしはさむことではない」

 

呟きが聞こえたのだろう ブラッドリー卿が即応した。

 

「そういえばヤマモト卿は以前私の親衛隊に所属していたリーライナとは懇意であるとお聴き致しましたが なるほどそれで ああこれは失敬 インペリアルガード仕様のパイロットスーツは通常部隊のスーツと比較して上質で動きやすくより戦闘向きであると言えますのでね」

 

それで駐日ブリタニア大使官警備部隊配属後もリーライナは個人的に継続仕様しているということか。

しかしこのスーツばかり着た女性を周りに幾人も引き連れていると・・・・

 

「山本さん あなたハーレムか夜のお店の常連さんみたいだと思ったでしょういま」

 

口を挟んできた辻は失礼な事柄なので小声で伝えくる。

心の考えを言い当ててくるなっ。

 

137: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:18:30

 

 

いっくん!!

 

 

他愛ない話を辻やブラッドリー卿としていると今度はよく知る声と共に話題にしていたパイロットスーツに身を包んだ女性が ブラッドリー卿の派手な色合いのKMFパーシヴァルと反対側に駐機していたヴィンセント群のほうより駆け寄ってきた。

腰までの長い金髪を靡かせながらエメラルド色の瞳を輝かせつつ一直線に俺の元へと駆けてきた女性は その勢いに任せて飛び付いてきた。

 

「うおっと」

 

柔らかい体をがっしり受け止める。

年は取ろうが日本男児 俺とて恋慕う女性を受け止められないようなことにはならないよう常日頃より身体も足腰も鍛えているのでそこらの若僧には負けん体力くらいあった。

 

「いっくんいっくんいっくーんっ!!」

 

「こっこらよさんか!!」

 

飛び付き抱き着いたままに頬を付け擦り付けてくるリーライナ・ヴェルガモン。

俺からみるとまるで思い切り歳の離れた娘か あるいは孫みたいな年齢差なのだがこうみえても相思相愛の恋慕寄せ合う女性なのだ。

 

「だって今日はせっかくのイブなのに乗騎の起動テストと何戦にもわたっての模擬戦と久方振りに御来日なされたブラッドリー卿への謁見とご挨拶にと 本来の警備の公務とは無関係のお仕事が詰まっていっくんと会えないかもしれなかったんですもの」

 

まくしたてながらリーライナは俺の首に回した腕をぎゅううっと力の限り締めては接吻を試みているのか顔を近づけてくる。

なにをしようとしておるのだこの娘は 待ったをかけるに決まっとるだろう。

 

「わかったわかった おまえの気持ちはよぉくわかったからこんなところで接吻などしようとするな破廉恥にもほどがあるぞ!」

 

「破廉恥じゃないわよ いまこの駐機場には人がいないの私以外に」

 

「ひとならおるわい! 後ろを見てみいっ!」

 

「へっ後ろ?」

 

いつの間にかかあなり離れたところまで下がっていた辻 そしてブラッドリー卿と彼の親衛隊員四名。

 

「ブッブラッドリー卿!? ツジ閣下も!??」

 

態々気を利かせようとしてくれたのか離れられたのが逆効果だった。

抱き着いてきよるまではいいとしてまさか接吻までしようとしよるとは・・・・・

こういう所をみられてはならん辻のやつにみられたのがまた頭の痛いところだ。

 

138: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:26:12

 

 

 

「おっ・・・・おっほほほほこれはブラッドリー卿 お見苦しいところをお見せ致しました」

 

「くッくくくく ハーッハッハッハッハ まさかリーライナ 卿にもこういうところがあるとはよもや思いもしなかったぞ? 嚮導学校から選抜されたエリートパイロットにしてかつては我が親衛隊のエースでもあった そしてヴェルガモン伯爵家の令嬢であり次期当主たる卿が周りも見えず誰かに抱き着きよもや口づけを迫ろうとは・・・・・ くっくく はっはっはっはっはッ!!」

 

「うっくぅぅぅぅ・・・・ま まあ私とて ひとりの女ですものッ あっ愛する殿方の前では少しくらい心の枷も外れてしまいますわ」

 

「ほう 失礼を承知で申し上げるがヤマモト卿とはずいぶんと年の差があるようだが?」

 

「年の差など愛の前には関係ありませんわっ 真面目も真面目っ 大真面目でございますことよっ! いっく ヤマモト卿と私は結婚の約束まで交わしておりますものっ!」

 

「これはこれは中々に言い切るものだな よほど良い巡り会いをしたようだが それならばこそリーライナ 卿には忠告しておかねばなるまい もしもこの先国際情勢が大きく変化し ユーロピアやら清国 ましてや彼の南半球の支配国家合衆国オセアニアと戦端が開かれたりするようなことあらば」

 

「肝に銘じておりますわ 戦いとは命の奪い合い 殺意の喰らい合いに里心や恋慕の介在する隙はない ブラッドリー卿の親衛隊に入隊した頃 まだ新米だった私が賜った訓辞 忘れてはおりません」

 

「・・・・・・ ならば良い 無論そうならぬことがもっとも良いことなのだがな」

 

言葉遣いも仕草もまるで変わったリーライナをみながらブラッドリー卿との話をきいているとまだまだしらない彼女の姿がありそうな気がするな。

そう思ってみているとまたいつの間にか辻が来ていた。

 

「どうでしたか日武共同基地の視察とブラッドリー卿との会談と メインディッシュたるヴェルガモン卿との逢瀬は」

 

「誰がメインディッシュだ誰が メインは基地視察と模擬戦の見物にブラッドリー卿との会見だろうが」

 

「いやー私なりのクリスマスプレゼントですよ ほら今日はイブでしょう だというのにヴェルガモン卿がお仕事でいっく 失礼山本さんとお会いできないのはお寂しいと思いセッティング致しました 丁度この時間に彼女がこの駐機場でひとりで最終点検なさると基地指令にお聴きしておりましたので」

 

ブラッドリー卿と彼の親衛隊が現れたのは偶然ですだと辻の言。

 

「そしてすべては滞りなく終わりましたのであとは帰参するだけなのですが 辻サンタは山本さんにもう一つプレゼントを用意しています」

 

辻がなにやら取り出す。

それは都内三つ星ホテルの宿泊券だった。

 

「どうぞ」

 

「これをどうしろというんだ」

 

「野暮ですねえ リーライナさんとお二人でどうぞお使い下さい」

 

普通にお泊まりをするも。

某かの熱い一夜を過ごすのも。

すべては山本さん達次第です。

 

離れた場所ではリーライナとブラッドリー卿がまだ何事かを話している。

 

そして俺は辻から宿泊券を受け取り向こうの話が終わるのを待った。

 

139: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:27:24

 

 

 

====

 

 

 

 

俺は夜景の良く見えるロイヤルスイートにいた。

ひとりではなく彼女リーライナ・ヴェルガモンという淑女と共に。

 

「和服が多いから珍しい感じがするわ」

 

自宅では浴衣など主に和服を着る俺だがここではスーツを着ていた。

 

「君もな そういったドレス 社交の場以外ではあまり着ないだろう」

 

髪を結い上げたリーライナは腰まで切れ込みの入った濃い紫色のドレス姿だ 相変わらず胸の空いた大胆なドレス。

 

「ええ 実家では毎日ドレスだけれどね もっと落ち着いてるわよこういう雰囲気の場所だから こういうの誂えたの」

 

なるほどな。

こういったホテルではむしろ大胆な方が合っているのかもしれん。

 

「さて それでは誰でも思い付くような味気ない台詞で恐縮だが リーラ 君のエメラルドの瞳に」

 

「それじゃ私は 私に会いに来てくれたいっくんに」

 

 

乾杯。

 

 

二本のグラスに入った赤いワイン。

俺とリーライナのグラスが接触し。

 

チン。

 

小さな音を立て中身が揺れる。

一口含み 飲み込む。

喉を通るワインの感触。

酒にはそこそこ強いので熱くはならないが程良い感じだ。

 

リーライナも飲み慣れているのだろうがまだまだなようで グラスを空ける頃には頬が紅く染まっていた。

 

「戦いとは命の奪い合い 殺意の喰らい合いに里心や恋慕の介在する隙はない 親兄弟や恋人を想いながら戦場に立つと死ぬ」

 

彼女は酔っているのか。

眼下の夜景を見下ろしながら事も無げに呟いた。

 

「昔 ブラッドリー卿に教わった戦いに赴くときの心構えなの」

 

独り言のように続ける彼女を俺はただみていた。

 

「そのときの私には親族しかいなかったけれど いまは」

 

言葉を切りこちらを向く。

 

「あなたがいる いっくん 私はあなたを想って戦ってはいけないのかしら」

 

重い重い彼女の言葉は あの彼女の元上司からの訓辞だという。

耳で聞き 心で聞き そして感情に問い掛けてみた俺は 彼の言葉がけして間違いだとは思わなかった。

恋慕の情 親愛の情 それは戦場で力にもなれば油断にもなる。

いのちの奪い合い殺し合いの場で情を持ち戦うのは不利なことも多い。

ただ殺し ただ殺し ただ殺し続ける 機械のように もっとも効率の良い戦い方。

または憎しみだ 肉親が恋人が友が 大切な者達が奪われたたったひとつの命。

それを奪って奪って奪い尽くす。

 

そういう戦い方もあるだろう。

そういう強さもあるだろう。

それもまた正解なのだろう。

 

だが俺は。

 

「俺は甘い男だ 女々しい男だからな 陛下のために 国民のために 家族のために それら大切な者を守るために戦う 戦ってきた」

 

「でも それじゃ」

 

「勝てない 死ぬかも知れない 感情が足枷となって ・・・・・だがな それが俺の戦い方だ」

 

「っ!!」

 

「君がどう戦うかそれは君の戦い方であり君の自由だ だが宣言しておく」

 

そう俺は決めている。

 

「俺は君を想い 君を守るために戦う いま告げた通りの守りたい者達 守るべき者達に加えてリーライナ・ヴェルガモン 君を守るために戦う これだけは覚えておいてほしい」

 

140: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:28:30

 

 

 

 

彼女を愛したときからもう決めていたことだ。

国のため 国民のため 陛下のため 友のため 守るべき存在など山ほどある。

だがいまきら星の如く輝く眼前の女性を俺は守りたい。

彼女を守りたいから戦いそして勝ちをもぎ取る。

安心して平和に平穏に 彼女とのときを過ごす。

ただそれだけのために。

 

次がれる赤。

血の色の入るグラス。

それは俺のものではない彼女のもの。

彼女は俺の話を静かに聞き入っていたリーライナは その赤をぐっと煽った。

 

さらにもう一度グラスに注ぐ。

さすがに速いペース。

止めようとした手は 彼女の手に止められた。

 

ぐぐっと煽られたグラス。

口に含まれた赤い液体はまだ喉を通っておらず。

どうしたのかと疑問に想う余裕さえないほど素早く。

 

それは俺の喉に通されていた。

 

「んくっ」

 

接触した唇を通して。

力を込めて密着させられた口を通して。

口づけという手段を以て俺の喉に彼女のワインは通されていた。

 

「んくっ こくっ」

 

熱くない。

そう感じていたはずのワイン。

たった10数度のワインがもの凄く熱く感じた。

まるでそう バーボンやウイスキーのロックでも飲んだときのような。

彼女のワインはそれほどに熱く甘美で そして極上の酒だった。

 

 

飲まされ 飲み干し 離れた唇は 彼女の意思を紡ぎ出した。

 

「ねえいっくん 私も 私にもあなたを想って戦わせて」

 

俺と同じ意思を彼女は俺に訴えた。

 

「私も いっくんを想って いっくんを守りたい 山本五十六を守りたい」

 

俺が抱く自らの戦い方と同じ戦い方を 彼女の元上司の訓辞と組み合わせたような戦い方を欲して。

 

「私にあなたの命を奪わんとする国からあなたを守る戦い方をさせて あなたを想い守る戦い方を あなたを奪おうとする者を憎む戦い方を」

 

たったひとつの命を たったひとつの命と共に。

 

「いっくんを想って戦いたい いっくんとひとつになって私は戦いたい ひとつしかない命でもふたりで戦えばふたつだもの」

 

ひとつの命をふたつに。

 

グラスを煽る。

赤い液体を口に含み。

 

「んっく」

 

俺は彼女に飲ませた。

彼女が俺にそうしたように。

 

喉を通っていくワインは俺のワインだったもの。

それがいま彼女の一部と成った。

俺の中にも同じ様に彼女のワインがある。

二人でひとつのワインをいま俺達は共有した。

 

「リーラ俺は君が俺を想って戦えるように 俺が君を想って戦えるように もしも戦が起きたとき どこにいてもひとつであれるように毎日を過ごしたいと思う」

 

窓側の席を立ち 向かいに座る彼女を立たせ抱き上げる。

 

降ろした場所はロイヤルスイートに相応しい大きな寝具の上だ。

俺もその上に。

 

ふたつをひとつに ひとつをふたつにするために。

スーツを脱ぎ彼女のドレスを脱がせた。

 

夜景を見下ろせる部屋に切ない声が響く。

綺麗に結い上げられていた髪が崩れ流れ落ちる。

その金色の清流に指を入れて梳きながら俺は静かに彼女の顔へと両の手を移動させ行き。

頬へ優しく添えながら静かに唇を落とした。

 

 

イブの夜。

 

明くる聖夜の朝まで続く時間はただゆっくりと過ぎていった。

 

141: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:31:32

 

メリークリスマス山本五十六 リーライナ・ヴェルガモン!

 

メリークリスマス世のリア充諸君!

 

メリークリスマスこの蒼の混沌掲示板のリア充あーんど非リア充諸君!

 

 



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こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主

玉城とマリー・クララの話


 

 

こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主

 

 

 

 

「で?どちらを選ぶんだいクソニート」

 

「ニートじゃねーよもう立派な酒屋のマスター様だっつーの!!」

 

「うるさいよ恋愛面では総受け身の鈍感ニートの分際で生意気な口を叩くんじゃないっ キミのしでかした小さな一つ一つがいったいどれだけ大きな影響を及ぼしているのか自覚してるの?!」

 

珍しく怒っていた。

とても珍しくも温厚で有名な叔父様が激怒なされておいででした。

 

「単純計算で最悪日本3億強ブリタニア約10億の 計13億人もの人々に影響を及ぼす事になるんだぞっ! これに保護国や衛星国の国民への精神的な動揺を加えれば20億じゃ利かなくなってしまう! 市場の動揺に円もポンドも暴落してオセアニアドルが高騰でもして政情不安に繋がっていけば第二次太平洋戦争 いや第一次世界大戦の引き金を何処かの国が引くことになったりする事態にも繋がりかねないんだっ」

 

とても物騒なお話しでした。

 

日武とその衛星国家群。

オセアニアとオセアニアの衛星国家群とそれに加えてイラクを中心としたイラクの傀儡政権を立てられている中東の共産主義の国々。

およびオセアニアの体の良い操り人形にされているプレトリアや オセアニア側に付くだろう清国高麗国による二大勢力が起こす空前絶後の大戦争が巻き起こる可能性が出ているのだ。

 

連邦の一角を成すインド軍区ことインド帝国は最悪の事態に備えて内密にブリタニアへと接触を図ってきている。

インドの目的はブリタニアに日本との仲介をお願いできないかというもので すでに実務者協議に入っていた。

インドも日中戦争でインド海軍を全滅に近い形にされていた為に日本を恐れて付かず離れずの外交を行って来ていたが ここにきて日武同盟に参加したいとの打診をしてきていた。

 

《無論のこと日武同盟とは 他の同盟とは異なる真に日武間にのみ適用される最重要条約と条項そして各種の機密の塊 残念なことですが 我ら日武同盟に加えられる余地があるのはヴェランス大公と欧州北アフリカ連合王立政府首相アドルフ・ヒトラー卿が率いているかつてのユーロブリタニア 現在のAEUのみ ですのでブリタニアにできるのは インド帝国の日本との仲介とその先に在る平和条約締結へと至る道筋を付けられるかどうかだけとなります》

 

V.V.に報告してきた協議担当者も これには日中の国民感情が深く関わっていることを厳に知っている為に苦しい答弁に終始していたとか。

 

インドに遅れて方針の定まらない中華連邦中核国たる中華帝国も 事ここに至り日中平和友好条約の締結仲介をブリタニアに打診してきていた。

中華連邦がオセアニアに勝てないことを自分が一番よく理解しているからだ。

 

215: こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主 :2017/02/09(木) 19:52:32

 

 

 

《一方で中華帝国内部には反日派も数多く いまだ意見が定まってはおりません もちろん第二次日中戦争など現在の日中両国の国力差を鑑みれば中華帝国含めた連邦全土が焦土と化すこと必定なために 日本との戦争などについては考えてはおられないでしょうが それでもオセアニア圏 南側諸国の大北進が現実のものとなれば中華連邦も抗しきれず 連邦の一部の国が対日強硬派と共にオセアニア側へ付くか降伏 のち日本と開戦 などという愚かな選択をしないとも限りません》

 

中華帝国の密使と協議した担当者は苦渋の色を滲ませていた。

 

《このなにも持たずなにも成し遂げず生きてきたむしょ・・・・失礼フリーターにして日本の平民青年と我が国が誇る戦姫マリーベル殿下がご結婚なされるという話になれば ブリタニアはまともな政治感覚のない国との疑念を持たれて協議が打ち切られる可能性もございます 最悪はアジア全土をオセアニアに掠め取られかねず 四千年と続いた中華王朝も滅び去るでしょう そして中華の遺跡や力も物にしたオセアニアは南側諸国と共に日武にまで宣戦布告し第二次世界大戦の引き金となりましょう》

 

「すべてキミの軽はずみな言動や行動が引き起こした事態なんだぞ一体どう責任を取ってくれるんだっ!!」

 

怒鳴り散らしながらも ランペルージ家社長令嬢との結婚がどうして世界大戦に繋がるのかといった 事態の詳細など自分たちの素性など話せない相手に対してV.V.はただ苛ついていた。

 

 

話を聞いていたのはマリーベル・メル・ブリタニア。

彼女は色々と考え始めた。

 

温厚な叔父様が私とにいさまの結婚についてこんなにも真剣にお考えになり 尚かつ日武両国臣民の皆様への配慮までなされる御発言。

にいさまの隣で粛々と聴き耳だけを立てている私はただにいさまのお言葉をお待ち致しておりました。

 

マリーに決まってんだろクソジジイっ!

 

きっとこう述べられるはずですもの。

運命の出逢いを経て再会を果たした私たちなのですから 私たち二人が力を合わせれば打ち破れぬものなど何処にございましょうか。

オセアニアなにするものぞ 日武の いいえ真にいさまの激励によって私が創設した大グリンダ騎士団の力を用い まずは先兵たる高麗国を打ち破って御覧に入れますわ。

 

「違う違うっ こんな無効な選択は無視して元々の予定通りにクララとお兄ちゃんが結婚すればそれで八方丸く収まることだよっ」

 

なにか雑音が聞こえますね。

私とにいさまの闘争が始まる前章としてはまったく以て相応しくない雑音が。

 

「お黙りなさいなピンクチビさん あなたがこの私に勝てるとでも仰いますの?」

 

低身長 普通より少しくらい大きく御成長なされた・て・い・ど・の・でしかない胸部。

教養 血筋 武芸一般すべてにおいて完璧な私に対してたかが諜報を兼ねた暗殺者でしかないおちびさんに私が負ける要素など まったくを以て皆無でしたわ。

 

216: こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主 :2017/02/09(木) 19:54:43

 

 

「ピンクチビって呼ばないでくださいおひめ マリーお姉ちゃん! それいってもいいのはお兄ちゃんだけなのっ!!」

 

マリーベルのにっこり微笑む視線に微かな優越感を感じ取っていたのは V.V.の愛娘にして玉城とは年の離れた幼馴染みクララ・ランフランクだった。

彼女は心中を吐露していく 当然心中内で収めながらに。

 

パパの言うとおり御自分のお立場を理解されているのかいないのか分からないお姫様の一方的な勝ち誇ったあの態度。

あのね 実は態度は普通なんだけどその目がもうクララを思いっきり見下してた。

選ばれるのは自分だってもう確信してるその目が見てて頭に来ちゃった。

 

そりゃね 背はクララよりずっと高い ハイヒールがとても似合うおみ足も長いし胸なんか勝負にもならないモデル体型。

ギアス無しの一対一の戦いじゃまず勝てないし剣技なんかもうからっきしなクララじゃ一撃で負けちゃう。

容姿だって幼いって言われるクララよりもずっと大人っぽくて綺麗だし美人度数でいっちゃえば逆立ちしてもかないっこないよ。

 

ただひとつ嬉しいことに 最近はお兄ちゃんもクララのことを女の子としてみてくれるようになってきたのか「おまえってやつぁあのクソチビ親父に似てどうしようもねーくれーのガキっぽい女だがよ そのなんだ普通にしててもな 普通に可愛いんだからな 変な化粧とかすんなよ? ぜってーすんなよ似合わねーから」なーんて褒めてくれたりしてくれたりなんかしてくれちゃってるんだけど~♪

 

それでもお姫様みたいな美女相手じゃね お兄ちゃんてば非モテの童貞の分際で 年上モデル体型の美女が好き だとか舐めたことをいっつも言ってるから時々怖くなっちゃう マリー姫様とかコゥお姉ちゃんにはどうやったって勝てないんだもん。

身体的に勝負できるところなんて髪くらいしかない。

クララの髪は膝まで届く真っ直なストレートの桜色でお兄ちゃんはよく褒めてくれる 本当は桜色っぽいところに反応してるだけかも知れないけれどね。

でもお姫様の濃色ピンクか薔薇色か そんな色の髪もふわふわウェービーな腰下までのロングヘアですっごおく綺麗ではある。

綺麗ではあるんだけど結構目立つんだなあ御髪の痛み具合が 戦ってばかりだからそうなるんだろうね~。

 

217: こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主 :2017/02/09(木) 19:55:20

 

 

 

命懸けてさ 民のために剣を振るう騎士姫様には仕方ないことなんだけどさ そういうのにクララのお兄ちゃんを巻き込まないで欲しい。

悪いけど 日常とか平凡とかお馬鹿こそが似合うお兄ちゃんには相応しくないんだよお姫様は。

皇帝陛下直轄の機密情報局でさえも同盟国「日本帝国の真の支配者らしい」だなんて噂の段階を超えられない不確定な人物 大日本帝国前宰相閣下も うちに来た時にパパと縁側でお話しをしながら平凡や日常はいいものだと言っている。

その宰相閣下が最近結婚した超年下の奥さんが実はうちの国の陛下の娘 要約しちゃうとこのうだうだとうざいお姫様と同じくお姫様 我がブリタニアの第三皇女様だったりする。

 

この空気読めないお姫様の腹違いの妹様でユーフェミア・リ・ブリタニア殿下 クララはユフィお姉ちゃんと呼んでるそのお姫様は直系の祖先にあの英雄帝クレアがいるらしい。

幼いころ コゥお姉ちゃんにリ家の家系図を見せて貰ったことがあるんだけど ずっと辿っていったところに確かにクレア・リ・ブリタニア 救国の英雄帝の名前が記載されてたのを覚えてる。

でもユフィお姉ちゃんにはその血の片鱗が見えないから嘘だって思わず口走っちゃったよそのときは。

でもねしっかり受け継がれてるんだよ 武人のコゥお姉ちゃんにね。

まね 旦那さん日本元宰相閣下ってパパと同じくらいのお爺ちゃんらしいから観てると祖父と孫みたいにみえちゃうんだけどさ 実はもう子供まで生まれちゃってる。

結婚したその年の内に生まれてたからユフィお姉ちゃんのご懐妊は元宰相閣下のリ家への婿入り前だったりするのよね 英雄帝も破天荒なひとだったらしいからそっちの血はユフィお姉ちゃんが引き継いだのかな。

 

ああもう 大日本帝国前宰相閣下とユフィお姉ちゃんの話なんかいまは関係無いの。

問題はお姫様を選んじゃったり お姫様に盗られちゃったりしたら お兄ちゃんはまず間違いなく血生臭い経験をすることになるって事が問題なの。

 

立場上クララだってたくさんひと殺してきてるよ? 血も付いてるよ? でもそれにお兄ちゃんを巻き込んだりしたことなんてこの長い付き合いの中で一度だって無い。

好きな人っていうのはね クララたちみたいな 私たちみたいな裏側のお仕事をしている人間はその裏側の世界からね できるだけ遠ざけて置かなくちゃ駄目なんだよ。

それなのにお姫様ってば巻き込む気まんまんじゃない だから相応しくないっていってんのクララは。

 

だからもうクララも我慢しない 運命だとかわけわかんない出会いだけじゃ不可能な時間ってものを教えてやるんだから。

 

218: こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主 :2017/02/09(木) 19:55:51

 

 

 

「はい質問お兄ちゃんの初恋の相手は誰でしょう?」

 

「え? と・・・・クララさん? 唐突になんです?」

 

「お兄ちゃんの渾名はなんでしょう? お兄ちゃんの脳みそは何ビットの容量でしょう?」

 

「え? え?」

 

「お兄ちゃんは捨てられた動物を拾って上げましたがその動物とはなんだったのでしょう? またなにを目的として拾ったのでしょう?」

 

ほーら答えられないじゃんなーんにも。

クララは全部知ってるもん。

お姫様がそれを知らないってことはね それだけお兄ちゃんのことやお兄ちゃんの人生を知らない証拠なのだ。

お兄ちゃんはお姫様みたいな生活はしてません そんな環境でもありません 普通の家庭に生まれて普通に生きてきた普通のひとなんです。

そんなふうに人生を生きてきたお兄ちゃんにはいまの生活かクララが養うかしか選択肢は無いの 血生臭いお姫様のいくさばになんて誰が連れて行かさせるものですかっ!

 

「お姫・・・・マリーお姉ちゃん お姉ちゃんの選択次第で世界は大きく動くんだよ?」

 

「・・・・・」

 

答えないお姫様。

ああもういいや どうせお兄ちゃんに聴かれたって意味分からないだろうし。

明後日の方むいて鼻ほじってるし。

 

「パパの言った通り株価の変動が起きたりするかも知れない 原理主義組織討伐の先兵たる大騎士団の長にして戦姫の異名を持つお姫様が こーんななんにも考えずに生きてるようなアホを婿にするなんて国中混乱するし落胆しちゃう 日本だってもしかしたら信用度を下げてくるかも」

 

「誰がアホじゃ誰が!」

 

鼻ほじりながら突然ばっと反応して怒り出すお兄ちゃんには注意していなす。

ごめんね マジモードのいまは構ってられないの。

 

「邪魔だから黙っててねお兄ちゃん」

 

笑顔を浮かべて。

暗殺するときのあの薄ら笑いを浮かべてお兄ちゃんを突き放す。

 

「・・・・」

 

お兄ちゃんは黙ってくれたけどこんな顔見せたくなかった。

はじめてだったんじゃないかな裏の顔なんて見せたの。

 

お兄ちゃんが唾を飲み込む音 はっきりと聞こえたよ。

 

・・・・・・・・嫌われちゃったら 避けられるようになっちゃったら やだな・・・・・・

 

219: こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主 :2017/02/09(木) 19:56:31

 

 

 

 

そのあとはまた大変だった。

 

もちろん自分預かりの直属としてお兄ちゃんを鍛えると言い出すお姫様。

 

このバカには無理だというパパ。

 

コゥお姉ちゃんやルルお兄ちゃんまで交えての話になり そのうち日本元宰相シマダ卿は来るわ ユフィお姉ちゃんも御子をお抱きになって付いてくるわ ツジ閣下とか なぜかヴィンセントも飛んできたり すごいのばかりがやってきた。

ああ 途中から私は抜け出したよお兄ちゃんと二人でね。

 

「なっなあよークララぁ」

 

「ん~?」

 

「おめえ選ぶかマリーの嬢ちゃん選ぶかの話になんであんな集まってぎゃあぎゃあやかましくいわれにゃならねんだよ」

 

あれだけの話をしていてもランペルージ家の正体は疎か 自分の国の政治家のこともまともに覚えていないお兄ちゃん。

馬鹿を通り越して鈍感の天才なんじゃないかなって最近思いはじめてる。

もうこれってさ 気付かない方が異常な段階に入ってきてるよ?

失敗続きの人生でネジが100本くらい飛んじゃってるのかなあ。

2ビットの脳が1ビットに欠けてきたとか。

 

まあいいや クララは当たり障り無く説明することにした。

 

「うちってね 国際的なグループ会社で 日武勢力圏を中心に欧州中東アフリカ中華まで手広く商売してるでしょ? それでまあ色々あるの」

 

「はぁ なんかよくわからん説明をどうも」

 

「わかんなくっていいんだよお兄ちゃんはね♪」

 

「さいですか・・・・」

 

あとお兄ちゃんは悪運がもの凄く強い 昔ルルお兄ちゃんとナナちゃんと私と三人に 保護者役のジェレミア卿やヴィレッタ卿と出掛けていたとき 暇を持て余していたお兄ちゃんがうちを訪ねてきてそのまま一緒に連れて行ったことがあった。

そこで運悪く発砲事件 ルルお兄ちゃんからジェレミア卿までお兄ちゃん以外よりどりみどりのターゲットが連れだって歩いてるんだからこれは予想できたことだったんだけど それが自動小銃コイルガンによる数十にも渡る連射弾がちょうど私たちの真ん中にいたお兄ちゃんを中心にして全弾外れちゃったんだ。

日本にも民主共和制原理主義過激派がいることは知ってたし そのあとの対応も早く警護の日本のSPやヴィ家親衛隊が素早く対処して制圧した。

 

うん まあなんていうのかな 悪い目に合う星の下にいるんだけど決定打は全部回避するひと?みたいな。

苦心にて揃えた一生掛かっても出ないかも知れないロイヤルストレートフラッシュが1円とか10円賭けてる時にだけしょっちゅう出るとかそんなの。

 

220: こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主 :2017/02/09(木) 19:57:06

 

 

 

「それよりおまえってあんなコエー笑い方する事あんだな・・・・・ちょっとさびびったわ ありゃ平気でひと殺せるやつの笑い方だぜ?」

 

昔反政府のテロの現場にいたときにそんなのを見たらしい。

 

「シマダ内閣の時代?」

 

「そうそう んでそいつ全天に秩序あるなんだかんだ叫びながら宰相閣下の車列に突っ込んで自爆しやがった」

 

幸い無傷だったらしいお兄ちゃん。

幸いで片付けて良いお話でもないような気がするけど。

 

「そんときのそいつの笑い方とな かぶったんだよ」

 

クララの笑い方のことだ。

やっぱり変に思われてたんだ。

 

うんそれはそうだよね。

だってさっきのアレ 平気でヤるときの お仕事のときの顔・・・だもん。

 

俯く私 まともに見られない 身体が震える。

もし この事が切っ掛けとなってお兄ちゃんに避けられたらって・・・・・でも。

 

ぽん。

 

気が付くと頭に手を置かれていた。

怖々見上げた先には私の直ぐ真上で笑うお兄ちゃんの顔がある。

ワイルドで不良っぽい感じに髪の毛を逆立てて顎に無精髭を生やした人相の悪い顔が笑っていた。

 

「んまぁクララにゃ関係ねーか 単なる企業オーナーのお嬢ってだけだもんな」

 

「・・・・・・・・お兄ちゃん」

 

「あん?」

 

「やっぱりお兄ちゃんって馬鹿だよね」

 

でも大好き。

 

「うっせ締めんぞくそガキャ!」

 

「うわ~んお兄ちゃんがいじめる~っ そんなお兄ちゃんに勇者クララは反撃だぁ~っ ちゅっ」

 

「んむっ!? おっおまえまたキスしてっ」

 

「えへへーもう何回目かなぁ奪っちゃったのはぁ」

 

うわぁお兄ちゃんトマトさんになってるよ。

きっとクララもだけれどね。

 

221: こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主 :2017/02/09(木) 19:57:42

 

 

 

そんなことしてたら。

 

「にいさまお消毒ですわァァーーっ!! ちゅっ」

 

「んむうっ」

 

横から背中の羽をマント状に広げて靡かせながら走ってきたお姫様が勢い止めずにお兄ちゃんにキスしてきた。

あんたの話をしてるのに抜け出して来るなぁっ!!

 

「んっんふぅ」

 

しかもちょんって触れさせるに止めず重ねた唇塗り込んじゃってるよお姫様。

 

「駄目ぇぇぇぇっっ」

 

それは駄目 許さない。

だから身体でぶつかって引き剥がしてやったもん。

 

「きゃあっ もうなにをなさいますのクララさんっ」

 

「うるさいこのキス魔の間女っ」

 

「間女ですってこのわたくしがっ?! 赦せませんわいまの御発言は撤回なさいっ!!」

 

「いやっ絶対にいーやっ!!」

 

ひっつかみあいの喧嘩を始めるクララとお姫様だったけど喧嘩その物は仲裁された。

お兄ちゃんにまあまあって抱き寄せられて。

 

でもそのあとお兄ちゃんってば逃げちゃった。

最低だよそれっ! 逃げ足も早っ!

 

このときばっかりはクララもお姫様と共闘したよ?

だってさあ 同じ馬鹿で駄目な男に惚れちゃった女同士だもん。

どこかで似てるんだよきっと。

 

けどほんと不思議だなって思う。

さっきお兄ちゃんが話したシマダ元宰相閣下がそこにいるのにやっぱり気付いてなかったし。

鈍いんじゃ無くって本当に正真正銘の馬鹿なのかなあ。

 

それでまあクララより脚も長ければ鍛え上げられた脚力を持つお姫様がお兄ちゃんをひっつかまえてはきたんだけど 結局結婚話は一時棚上げになっちゃった。

クララなら問題無いんだけれど ブリタニアの裏の顔にも通ずるメル家のお姫様が出て来ちゃうと どうしても外交の話に直結してくるからこの場では決められないんだってさ。

 

ほんと余計な事してくれるお姫様。

 

お兄ちゃんはね クララとお日様の下でのんびり暮らしてる方が絶対に幸せなんだよ。

 

奥様は暗殺者くらいならちょうどいいし 許してくれるよね?

 

222: こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主 :2017/02/09(木) 19:58:22

 

 

 

そのときの嶋田とユーフェミア。

 

 

「でもマリーにもクララさんにも幸せになっていただきたいものですわ」

 

「いやそれ無理だろう 皇女殿下と暗殺者と一般市民だぞ どんな組み合わせだ」

 

「わたくしたちはお爺ちゃんと孫くらい年齢差のある夫婦ですわ わたくしたちもどんな組み合わせだと仰られてしまう関係ではございませんか? ヤマモト卿とリーライナさんも ですがわたくしたちはこんなにもラブラブでしょう」

 

嶋田に抱き着くユーフェミアからの口づけ。

嶋田は静かに受け止める。

 

「ん・・・・」

 

塗り合せるように動く唇は20秒ほどで離れた。

 

「俺達と彼等ではまた事情が違うだろう 皇女と暗殺者となんの実績も功績もないそこらの平民の重婚なんて そんなのが成立すると思ってるのかユフィは」

 

「愛があればこそ ですわ」

 

「やれやれ強情だな」

 

抱き合う二人はもう一度口づけを交わす。

このあいだ ユーフェミアの腕に抱かれていた赤子はコーネリアが抱いていた。

 

223: こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主 :2017/02/09(木) 19:59:04

 

 

 

そのときのコーネリア。

 

「我が妹ながらあんな甘い夫婦の接吻をこの場でやってしまうとは 剛胆なのか周りが見えていないだけなのかわからんな・・・・おまえもそう思うか?」

 

抱いている姪に語りかけても寝ている姪は返事をしない 0歳児の赤ん坊なので起きていたとしても返事はできないわけだが。

 

「物心付く頃にはあんなのを毎日見させられるのだから この子には軽はずみに接吻などするなと私が教育しておかねばな」

 

 

 

 

そのときの辻とV.V.。

 

「クララとマリーベルとシンイチロウの重婚だって? そんなの全皇族全貴族の猛反対に遭うに決まってるじゃないか シンイチロウなんだぞシンイチロウ 馬鹿に馬鹿って言われてしまうほどの馬鹿で調子乗りなシンイチロウなんだぞ? 国民感情も最悪な事になっちゃうよ よしんば僕の皇籍復帰が認められてシンイチロウを僕の養子にしてマリーベルと結婚させても周囲からの反発は必至だ 結婚は出来るからマリーベル本人は幸せなんだろうけど批難受けるこっちの身にもなってほしいよ それにクララから一生恨まれるし下手すればあの子シンイチロウのこと殺しかねないんだぞ そんな事態まで想定して動けって 僕は結婚相談所の相談員じゃないってのにみんななにを考えてるんだよまったく 外交も緊迫してるし ううっ 不死身なのに胃が痛くなってきた」

 

「恋愛は個々の問題とは云え中々難しい物ですねぇ 嶋田さんや山本さんのときは一発でゴールインしたのですが あっ胃薬要りますか?」

 

「なんでそんなの常備してるんだい?」

 

「ユーフェミア殿下が現れるまで年がら年中胃痛の重症患者を診ておりました物で」

 

「一発で誰のことかと分かってしまう回答をありがとう」

 

辻 心の声《原作の玉城くんを知ってるから少し心配ですよ余計な事にならなければいいのですがね》

 

224: こうなったからにはもう駄目男は卒業させるbyギアス嚮団嚮主 :2017/02/09(木) 20:00:01

 

 

 

そのときのヤマモトとリーライナ。

 

「いっくんシマダ閣下とユーフェミア様が接吻しておりますわよ?」

 

「だからなんだ なにがいいたいんだ」

 

「うふふふっお分かりなのでしょうに誤魔化しますの~?」

 

仏頂面のヤマモトへにこやかに微笑むリーライナはヴァルキリエのパイロットスーツを着ていた あの紫色の露出箇所の多いレオタードみたいなスーツを。

V.V.邸の緊急脱出用VTOLポートに駐機しているのは彼女のヴィンセントで ちょっとした皇族貴族間での意見交換がしたいからというV.V.の召集に態々駐日ブリタニア軍の駐機場から駆け付けたのだ。

ちなみに駐武日本軍のKMFパイロットの女性用飛行服はブリタニア軍のように露出が少なく あちらではその違いについての意見交換や文化の違いが話し合われているとかいないとか。

 

「10秒だぞいいな?」

 

ひとこと注意したやまもとはリーライナの腰を抱き寄せてそのレオタード風のパイロットスーツに包まれた肢体を力強く抱き締めながら 宣言した10秒の間だけしっかりとした口づけを交わした。

 

「んうっもう少し」

 

「駄目だ場を選べと言っておるだろういつものことだが恥ずかしいのだぞ人前での接吻など」

 

顔真っ赤な山本に抱き着いたまま肢体を押し付けて離れないリーライナを彼も放さない。

二人は見つめ合ったまま話し合う。

 

「いっくんはどうお思いですのあの方々の とくにマリーベル殿下の婚姻について」

 

「訊くまでも無かろう 国益と国民感情を考えればマイナスにしかならん 皇国では絶対に成立させんぞとくにあの辻がな」

 

「まあ国益を考慮致しますと確かに致し方ございませんわね あとはどうなるかですが議題が貴族会議に上がればわたくしお父様は反対票を御投じになられることでしょう」

 

「だろうな 俺でもそうする 個人としてはまあ可哀想だが 結局のところはV.V.氏と兄君のシャルル皇帝陛下次第だな 皇国側に意見を求められるようなことがあれば御上も伏見宮殿下も反対に回られるとだけ言っておこう」

 

 

 

 

 

 

 

終わりだぜい。

 

 

 



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我が輩に秘策有り

 

 

我が輩に秘策有り

 

 

 

 

「はっはっはっは これで我が輩もグロースター持ちになれるというものだねぇ」

 

とても濃い髭を蓄えたスズキ・ルイ・106世は大笑いをしていた。

 

「まあ確かにグロースター持ちですねえスズキさん」

 

そこへやってきたのはひとりの日系人。

 

「おおっこれはこれはシマダ閣下 このたびはクルシェフスキー侯爵閣下へのお口添えをしていただきましてありがとうございました」

 

「いえいえ私はただ全機種のヴィンセント導入にあたり 南ブリタニアの衛星国家に払い下げる予定のクルシェフスキー騎士団のグロースターを一騎ほど欲しいと妻に伝えただけのことですので」

 

シマダ大日本帝国伯爵は謙遜気味に返答しながら手を振った。

日系のスズキ子爵と話してるのだから日本人同士が会話しているようにしか見えない二人だが シマダ伯爵は暦とした日本人だ。

結婚した相手がブリタニアのクルシェフスキー領領主モニカ・クルシェフスキーだったというだけにすぎない。

だから口添ができたのと スズキ子爵が昔の自分の世界にいた芸人と瓜二つだから余計に気になりお近付きになっただけのことなのだ。

 

「しかし私がいうのもなんですがヤグチ男爵を通さずにグロースターの購入などされて大丈夫なのですか?」

 

シマダが心配しているのはスズキ家の全般を取り仕切っているヤグチというスズキ子爵の執事のこと。

前より子爵のグロースター導入計画に大反対してきた人物で武術の達人でもある。

ヤグチカッターと呼称される技はなんでも手刀で丸太を切り裂けるとか。

 

「はっはっはっは いやあもう買ってしまえばこちらのものですよ閣下 ナイトオブトゥエルブでもあらせられるクルシェフスキー侯爵に一度買った物を返品するなど無礼なことはできませんからねえ もう勝ったも同然ですよはっはっはっはっは」

 

大笑いの子爵。

もう買ったともう勝ったを掛け合わせたギャグまで披露する。

 

「モニカ・・・・クルシェフスキー侯爵の了承がまだ出ていないのが私としては妙な気もしますが」

 

「侯爵閣下もお忙しいのでしょう わたくしめ如きの雑事は後回しが当然であります故に それに我が輩 この度は秘策を用いておりますので万に一つも失敗などございません」

 

「秘策とは?」

 

「ふっふっふ 同時進行っ! これこそが秘策です クルシェフスキー侯爵閣下より一騎払い下げいただく他にも アッシュフォード公爵閣下 シュタットフェルト辺境伯閣下 ソレイシィ辺境伯閣下 ヴェルガモン伯爵閣下 それぞれに一騎ずつ払い下げを願い出ておりましてですねえ 名付けて【一騎ずつ購入願い出ればバレナイヨ作戦】を実行しておる次第なのですよ はっはっはっはっは ま~さ~に ルネッサ~ンス!!なひらめきでしょう?」

 

(秘策ねえ・・・・・モニカの反応を観る限りヤグチ卿が手を回していそうな気がするんだが・・・・・)

 

手にした大きなワイングラスを高々と持ち上げて叫ぶスズキの姿は 勝利を確信して最後は処刑されたナポレオンを思い起こさせた。

 

493: 我が輩に秘策有り :2017/02/26(日) 17:45:47

 

 

 

現在大諸侯の騎士団はヴィンセントやヴィンセントカスタム仕様といった第七 第八世代機へとKMFの更新をしていた。

というかもう更新しきっていた となればもう中古機のグロースターに用は無い といって持っていても仕方がないので帝国政府を通じて南ブリタニア諸国に払い下げをしているところなのだ。

これは盟邦大日本帝国も同じ 衛星国の東南アジアに 独自で友好関係を築けたペルシャ インド 遠くは日武より唯一最恵国待遇を与えられているシーランドにまで払い下げている。

欧州に帰った諸王国は日武に学びながらも独自開発をしているためにヴィンセント以上の機体を開発中なので除かれる。

とくにハイランド大公とヒトラー欧州宰相が いずれは失ったままのロシアと南アフリカをも取り戻さなければならないとしてKMFのみだけに止まらずあらゆる分野で開発を推し進めていた。

 

ではブリタニア国内はどうか? 中規模の貴族ならヴィンセントやグロースターを導入しているところはある。

 

しかし弱小貴族となると話は変わり金食い虫のKMFより 使い勝手のいいグラスゴーや無頼で充分としてそれほど必要とはされていなかった。

 

弱小オブ弱小のカンザスの端の端の超田舎貴族ロズベルト男爵家 通称馬鹿男爵家など一騎だけグラスゴーを所有しつつ【グラスゴー持ちの大貴族】と自称しているらしいが 手の施しようのない馬鹿なので領民にも相手にされていないらしい。

それも馬鹿男爵はモニカ リーライナへのかつての侮辱から両家傘下の諸侯より経済制裁を喰らっているためブリタニア国内で完全に孤立 昔は千人以上いた領民数は現在たったの百人ほどだとか。

頼みの綱だった日本の米内にまで見捨てられて邸の中でぶつぶつと独り言を喋っているとか 気味の悪い噂まで立てられている有り様だった。

 

まあ馬鹿の話はどうでもいいとして髭子爵はそれでも一万超の領民を抱えている貴族。

弱小には違いなくとも領民を守るために そして我が輩が欲しいという理由もあるためにどうしてもKMFが必要だったのだ。

 

「はっはっはっはっはっはっはっは」

 

(失敗しそうだとは言わん方がいいか 束の間でも喜べるのなら)

 

シマダは高々と掲げられたワイングラスの赤を見ながら優しく見守っていた。

 

494: 我が輩に秘策有り :2017/02/26(日) 17:51:18

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「おかあさま~ ヤグチというおひとからおでんわですよ~」

 

小さな子供が舌っ足らずで知らせる相手はモニカ・クルシェフスキーそのひと。

その子供は女の子で 異様なほどモニカとそっくりな容姿をしている

髪も同じ髪型 身体の前に流した金色の髪にリボンをくるくるまきつけている。

 

「ありがとうございますサクラ」

 

内線で繋いでみるモニカ 受話器を取ると予想通りの声が聞こえてきた。

 

『これはこれは侯爵閣下 ご機嫌麗しゅう存じ上げます』

 

「ごきげんようヤグチ卿 もう話の予想は付いておりますのでこちらで差し止めておきましたよ」

 

『お手数をお掛け致します 子爵さまにも困った物ですよ まさか私の目を盗んでシマダ閣下を通されてグロースターの導入を図ろうなどとは』

 

「夫もひとが良いので私にスズキ卿の口添をして差し上げたのでしょうが グロースターなど購入なされても」

 

『ええ 我がスズキ家には分不相応にして金食い虫となってしまいます故に私めを始め家臣一同と致しましても導入については大反対です 先頃よりリーライナ・ヴェルガモン伯爵様の方にも注意をお願いしているところなのですが本当に困ったおひとです』

 

「スズキ卿も諦めの悪い方のようですからね ルーベン・アッシュフォード公爵閣下にカレン・シュタットフェルト辺境伯やマリーカ・ソレイシィ辺境伯にまで一騎ずつ打診なされているようなのでお気を付け下さい とにかく社交界では話題になっておりますからねあの方のKMFオタクぶりは」

 

『注意喚起までしていただきまことにありがとうございますクルシェフスキー侯爵閣下 無論各々様方にもすでに先回りして手を打っております スズキ子爵様よりグロースターの購入話を持ち掛けられても一切お断り下さいと』

 

「さすがのお手並みですね」

 

『かっこいいものスペックが高いもの とにかく昔からそういう良い物を欲しがる子供のような悪い癖がございますので 家臣一同が勝手知ったるという状況となっておりましてお恥ずかしい限りでございます』

 

髭子爵の秘策など ヤグチ男爵以下スズキ家家臣団にはとっくに見抜かれているのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

髭子爵の名前ってスズキ・ルイ・106世であってたよね?

 

 

 

 

 



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へーあんた

 

 

へーあんた。

 

 

 

 

「学校の先生かよ」

 

逆立てた髪を赤いバンダナで止めた時代遅れのヤンキーみたいなファッションの男は 偶然隣り合った天パーみたいな髪型の青年に絡んでいた。

絡み酒というわけでもないのだが お世話になっている子供みたいな老人に説教されてふて腐れながら行った競馬で万馬券を当てたので誰かと飲みたかったのだ。

悦びを分かち合おうという気持ち わからないでもない。

しかし 絡まれた天パーの青年 学校の先生とか言う青年には迷惑その物であった。

 

「ええ 教師は長年の夢でしたので・・・・ あとはお付き合いを経て結婚してくれるような女性が居れば」

 

望みを言う学校の先生。

それは本心からの言葉で 実際に夢を叶えられた もう一つの夢を叶えることが今の目標らしいのだが こちらは相手がいなかったのだ。

 

「わかるっ! わかるぜ先生よおっ! 俺もなぁ 女欲しいんだよ 人生=女無しな寂しい男でなぁ ちくしょーどっかにいい女いねえもんかなあーっ!」

 

これはヤンキーにも欲わかった。

なにせ年齢がそのまま彼女居ない暦だ そろそろ彼女のひとりもほしくなる。

 

「あなたもですか?」

 

俄然 絡まれて嫌になっていた先生は喜びの表情を浮かべるようになっていた。

いつの間にか 自然に やはり自分と同年代の彼女居ない男が傍に居ると安心するようだ。

いやいや 先生は安心していた もうすぐ三十路がやってくるのにどうしようかと焦っていたぶんだけ。

バンバンと肩を叩かれて馴れ馴れしいヤンキーが不思議と同志のような感覚になってくる。

同じ事 同じ境遇 たったそれだけで先生は嬉しかったのだ。

周りの同僚が次々と結婚していくなか 自分だけが取り残されていく。

この現状にもう心が 精神がどうにかなってしまいそうになっていた。

 

そこへ現れた独身を地でいくヤンキー。

先生は失礼ながら考えてしまった。

 

こんなクソヤンキーに彼女が ましてや結婚相手が出来る筈はないと。

 

馴れ馴れしい 育ちの悪さを感じさせる言葉遣い 見た目も悪く酒癖は最悪だ。

自分たちの周りの席には誰も居ないことがヤンキーの為人を表しているではないか。

 

コイツには勝てる。

コイツより先に彼女は作れる。

 

無根拠ながらそう思った先生は・・・・・・しかし 次の瞬間見たくないものを見させられてしまった。

 

誰に?

 

もちろんそのヤンキーにだ。

 

772: へーあんた。 :2017/04/09(日) 10:00:52

 

 

ガラガラ。

 

居酒屋の入り口の扉の開く音。

またひとり人生に疲れた客がやってきたのかと扉の方を見た先生が見たのは 酷く場違いな少女だった。

ブリタニア系と思われる少女は膝くらいまでの長さの薄いピンク色の髪を靡かせながら とことこと歩いてくる。

こっちに向って。

 

「おーにーいーちゃーん もう帰ろうよーっ」

「んだっうっせーなー 気持ち良く飲んでるとこに声掛けてくんなよ未成年よお うだうだ言わずにもうちょっとだけ待ってろた いやならさっさと帰りやがれピンクチビ」

 

どうやらヤンキーの知り合いであるらしい。

見ればアッシュフォード学園という名門校の制服を着ているではないか。

一流校の教師としては一応胸を張れる立場だがアッシュフォードには適わないと 先生はどう見たって縁の無さそうなヤンキーと女子校生のやり取りを見守る。

 

「気持ち良く飲んでるそのお金は誰のおかげで得られたとおもってんの? クララが競馬の予想してあげたからそんなヨユーで飲み食いできるんじゃん」

「おめーが予想してくれて当たったても軍資金出したのは俺なのわかる? だーかーらー 俺がヨユーぶっこいてもいいわけ うひゃひゃひゃひゃ!」

 

そう言いクララという少女の肩を抱き寄せてビールを飲ませようとするヤンキー。

 

「ちょ ちょっとクララはビール飲めないよお」

「いいじゃんいいじゃん 半分はおめーの取り分なんだからよお だから遠慮無く飲めっ ほら飲めっ」

「ダメだよーおにーちゃーん」

 

ヤンキーはクララ少女を抱き寄せたまま彼女の口元にビールを押し付ける。

さすがこれには先生も教育者として見過ごせなかった。

 

「きっきみっ 彼女嫌がってるじゃない――」

 

だがしかし。

 

「――か?」

 

少女は笑っていた。

恥ずかしそうに嬉しそうに。

でも未成年故にビールに口を付けることはなく絡み合ってるだけ。

じゃれてるだけ。

 

そうだあれはじゃれていた。

少女がヤンキーに抱き寄せられて悦び ヤンキーは面白がってるだけだが少女の想いが感じ取れた。

 

 

 

 

店の店主がいう。

 

あの糞なごくつぶしっぽいのとララちゃんはねえララちゃんのお父さん公認の仲なんだよ。

ただごくつぶしのほうが煮え切らなくってねえ。

年上のグラマーがいいとかなんか贅沢なことばかりいってララちゃんみたいな美少女を袖にしてるんだよ。

最近はなんだかララちゃんの魅力に気が付き始めたみたいで抱きつかれた時には顔赤くしてるんだけどねえ。

おっちゃんや常連客らはみんなララちゃんのお父さんには一方ならず世話になっててねえ二人の仲を応援してるのさ。

まあ時間の問題なんだがねえ。

ほら ララちゃんは見ての通りのめんこい子だろう?

ララちゃんの親戚の人たちもみんなグラマーな美人でねえ。

あと数年もすりゃあそれはもうとんでもない美女になること間違いなしだ。

そうなったらあのごくつぶしも簡単に落ちるだろうってよく話をしてるんだ。

 

なにせ仲いいからねえ二人とも。

幼馴染だからねえ。

信じられるかい?

ララちゃんが小等部のころからあのごくつぶしとララちゃんは付き合いがあるんだ。

光源氏じゃあないが子供心に恋しちまったのが今でも続いてるのさ。

健気な女の子だろう?

 

 

 

 

 

話を聞いて席に座り直した先生はそのじゃれ合う姿を見ながらヤンキーを心の中で罵っていた。

 

 

 

 

 

 

 

この裏切り者!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日都内の一流校の扇先生が二日酔いで出勤し 教頭先生に怒られていた。

出勤途中でみたグレーのロングヘアをしたグラマラスなブリタニアの軍人らしき人物に目を奪われて電車に乗り遅れたのだとか。

 

 

 

 

 

 



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いつか訪れる未来と 永遠に変わらない人達

 

 

534: 名無しさん :2017/12/07(木) 05:05:27

トーゴー氏のシゲチールートでSS書いたんで投稿します

 

535: いつか訪れる未来と 永遠に変わらない人達 :2017/12/07(木) 05:09:36

だいぶ久しぶりな投稿なのでハンネ無しで行きます

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

これはなんだろう?

 

どうしたことなのだろう?

 

事情を飲み込めない俺は気が付いたとき、ただ一人空中に浮かんでいた

空中に浮かびながら眼下に広がる情景を眺めていた

 

眼下には人が集まっている。見知った人、見知らぬ人、どこかで見たことのあるような感じを抱く老人と老女が

真っ先に目に付いたかの老女は、一人静かにベッドへと横たわる老人の手を握りながら、溢れ出る涙をこらえるように笑いかけている

その姿に俺はある人の、大切な人の名を思わずして口に出していた

 

 

・・・ソフィー?

 

 

どうしてだろう?

なぜなのだろう?

 

俺はかの美しい老女を、俺の知らないはずの老女を、ソフィーであると認識していた

 

そんな馬鹿な

ソフィーはまだ学生で、俺と同じ生徒会にいて

 

でも、それでも俺には分かってしまったのだ

かの老女がソフィーであるのだと

 

誰よりも彼女を、ソフィー・エル・ブリタニアを知るからこその確信に満ちた認識だった

 

では彼女がその手を優しく握り締めているベッドの老人は?

 

そんなの、深く考えるまでもなく分かる。だって、それほど愛されている自覚が俺にはあるから

 

決して自惚れなんかじゃない。俺は、俺ことカズシゲ・シマダ・リ・ブリタニアは、彼女とずっと一緒だから分かるんだ

彼女がその柔らかな瞳を向ける相手は俺だけなのだと

 

でもどうして俺と彼女は年老いているのだろうか?

それに周りにいる人がなぜ皆俺とソフィーに似た容貌の壮年男性や壮年女性、少年少女ばかりなのだろう?

 

そしてその中にはいま現在の俺の知っている人達の姿もあった

 

536: いつか訪れる未来と 永遠に変わらない人達 :2017/12/07(木) 05:11:48

『・・・父上? 母上?』

 

シゲタロウ・シマダ・リ・ブリタニア。俺とソフィーの面影を持つ壮年男性と壮年女性と少年少女達の輪の一番外側で、いつもの公務服、そう荘厳に着飾るブリタニア皇族・貴族では珍しくも皇族なのに上下揃いのスーツを着て、老齢を表すような黒い中に白が入り交じる髪を綺麗に整え、父上は立っている

 

その父上の隣には、父上に寄り添うようにして、まるで薄桃色の羽を思わせる意匠が後ろ側に施されたタイトな白いスカートと、桃色のふわりとした長い髪の毛をポニーテールを大きくしたようにして頭の後ろに束ね、耳後ろの髪はお団子状に纏めている、父上と同様いつもの公務姿の母上ユーフェミア・シマダ・リ・ブリタニアの姿があった

 

不可思議なことに、その父上と母上の姿は、いまの俺の知る父上と母上の姿と何一つ変わらない

 

いやもっと言えば。より深く掘り下げれば、父上と母上の姿は、父上と母上が出逢った頃から何一つ変わらずの姿であることを今更のことながらに思い知らされた

 

俺は知っている。父上と母上が思い出のアルバムとして二人きりの時にだけ観ているらしい、友邦ならぬ親族の邦と書き親邦、大日本帝国で生活していた時代の

姿を

いまと、そしてこの情景の中でもまったく年を取っていない二人の姿を

他にも翌々考えても見ればおかしかったことはある

 

いつかうちの学院の学生服を着てお忍びで訪問してきた母上のことを学院生と間違えていた子がいたことは明らかにおかしいはずなのに、いつもリ家分家たる我が離宮で毎日顔を会わせていたからか気が付かなかった

 

父上も母上も肉体年齢と実年齢に齟齬がありすぎるのだということに

 

どうしてなのか?

 

それは俺には分からない

父上と母上は色々と俺の知らない顔を持っているから

 

『・・・やめよう』

 

どんなに考えたって分からないものは分からない

ただ、いま分かることが一つだけある

 

537: いつか訪れる未来と 永遠に変わらない人達 :2017/12/07(木) 05:16:04

『これって、もしかしなくっても、いつか来る、体験する俺の未来なのかな?』

 

随分と年を取ってしまい老いた自分

老齢となってなお眩しいほどに美しいソフィー

取り囲んでいる人達はひょっとして

 

『俺とソフィーの息子や娘、孫達なんたろうか?』

 

可能性は高い。俺とソフィーのいまの姿と似た年齢と容貌の少年少女がたくさんいるから

 

『俺とソフィーには、将来こんなに大勢の子供や孫達ができるのか』

 

これもまたほぼ確信に近い感じを覚えていた

俺は時々変わった夢を見ることがある

いつか見た平行世界の自分自身と出逢い語り合った夢なんかもその代表格だ

平行世界の俺の母上はかのナイトオブラウンズで十二の席の称号を授与されている、モニカ・クルシェフスキー卿なのだという

 

『とても想像できないなあ』

 

俺の母上はブリタニア皇室の中でも武門の名家、リ家の分家当主、ユーフェミア・シマダ・リ・ブリタニアしかいないから。あくまでも俺に取っての生みの母上はこの母上だけ

平行世界の俺と母クルシェフスキー卿の関係を一度見てみたいような、しかし怖いような

騎士の家系で領地も広大だから彼も場合によっては大変だろう

クルシェフスキー卿の生家は侯爵家。いかな部屋住まいの三男坊的な自由な身分であれ、そこは侯爵家三男としての立ち振舞いを求められる

モニカ・クルシェフスキー卿といえばそれはそれはとても真面目で曲がったことが嫌いな人である。平行世界の俺にも当然ながら厳しい躾や貴族としてのあり方を叩き込んでいることだろうなあ

武門の名家に生まれるとそれだけで厳しい鍛練が待ち構えているわけだ

 

もっとも俺の母上については武門出とはいえど、騎士とか戦士とか、闘う人に非ずな感じの穏やかな人だけれども

ただ心だけは俺の知る誰よりも強い人だ

武門の名家としての役割を継ぐ本家当主のコーネリア叔母上よりずっと強い心の持ち主で、ほんわかした中にもとんでもなく頑固な一面を隠し持っている・・・らしいのだ、父上からの又聞きではね

 

538: いつか訪れる未来と 永遠に変わらない人達 :2017/12/07(木) 05:17:51

 

色んなことを考えながら思考の海に沈みつつも夢、という形で変わったなにかを体験する俺は、いま体験している夢を忘れないようにじっと部屋の様子を見ていた

 

『ここは』

 

そこで思い至る。俺が空中を漂うこの部屋はリ家分家離宮の俺の部屋だということに

 

『それじゃあやっぱり』

 

あの老齢に差し掛かりながらこの夢の時間内においてはもう二百歳を超えてるはずの父上も

 

精々十六歳から十八歳、十代の後半にしか見えない母上も

 

年老いてもなお輝きを喪うどころか、益々美しく光輝いている俺の誰にも譲れない譲らない宝物であるソフィーも

 

俺とソフィーの子供達や孫達らしき人々も

 

『みんな、リ家分家の直系の人達で、あの父上と母上も俺の父上と母上で間違いないということなんだな』

 

俺はそんな人々が見つめる中心にいて、みんなの輪の中にいて、そこでソフィーの手を握り返しながら、父上と母上を呼んでいるようだ

口の動きでなんとはなしに理解した

 

(父上、母上、私は、私はソフィーを、子や孫達を残していくことが気掛かりです)

 

弱気な言葉を紡ぎ出す年老いた俺

 

539: いつか訪れる未来と 永遠に変わらない人達 :2017/12/07(木) 05:19:33

 

(なにを言っているのですかカズシゲ。あなたはまだまだ元気ではありませんか。しっかりしなさい)

 

春の陽光のような、母上の笑顔をそう称してやまない父上の言うその微笑みが俺に向けられる

日ブの平均寿命が百五十年以上に延びているいまよりも未来なら、もう二十年くらい延びてそう

そうならこのどこをどう見ても十代の後半にしか見えない母上も二百歳近いってことか

 

『老いた俺が十代後半にしか見えない母上より優しい叱責を受ける、か』

 

なんだかシュールだよ

そしてそんな母上に続くように外見年齢は俺より若い初老の父上。推定年齢二百五十歳が励ましてくれた

 

(カズシゲ、ユフィの言うとおりだ。俺とユフィは例外だから親より先に逝くのが親不孝とは言わない。俺とユフィは新たに作り出されたとある刻印の影響で年を取らないからな。必要だったからこそ俺は志願し、ユフィも共に志願した。それ以上でも以下でもない。だが平均寿命よりも短い命で人生を終わらせるのなら話は別だ。それこそが親不孝だぞ?)

 

父上と母上が出逢った年に完成を見たという日ブ最重要機密の共同研究の成果。永遠

 

だがそれは普及してしまえば人類種その物を衰退させゆく劇薬だ

同時に家族友人知人を時の果てに喪い続ける地獄でもある

 

しかし人は間違う。一度反省してもまた繰り返す

だから人類、いや日ブの行く末を見ていく者達が必要だと判断されたのだろう

 

(私達に話しても良いのですか父上母上。その話は私も噂程度にですが耳にしたことがありますが、確か日ブがこの先も道を誤らぬよう調停者、助言者として時間の中に残り続けることを国家大計として実施していると)

 

(なに、構わんよ。終わらないことがどれだけ辛いのかを俺は知っている。終わらないこと、というものがあることもな。そしてコードというものを受け入れずとも俺は時間と世界を旅してきた。その旅が少しばかり形を変えているだけだ。その旅にユフィ他幾人かが加わった。この世界で形を変えてね。世界の管理者だの監視者だのといった大袈裟で傲りあるものでもない。いまと大層変わることなく俺はただユフィとゆっくり終わらない時間を歩くだけだよ。そうして国が道を誤らないよう時々お節介を焼くことにしよう)

 

笑顔の父上、母上も

うん、まあこの父上と母上が傲慢になることはないだろうな

 

平穏をこよなく愛する大日本帝国救国の元宰相

神聖ブリタニア帝国の慈愛の皇女

 

傲慢やら見下すといった人種とは圧倒的なまでに方向性が異なる二人だから

父上達のようなメンバーの選別にもその人と成りに、熟考に熟考を重ねて選び抜いたのだと思う

 

540: いつか訪れる未来と 永遠に変わらない人達 :2017/12/07(木) 05:21:39

 

それにしても、とんでもない機密を知ってしまった。家族である限り父上母上の異常を誰もが知るところになるからと、それなら先に言っちゃいましょうなんて母上がにこにこしている

 

声は聞こえない

音も聞こえない

でも口の動きで俺自身とソフィーと父上母上の言葉だけは聞き取れた

 

少しばかり薄情であるかもしれないけど、いまの俺にはまだ見ぬ子供と孫達の言葉は読み取れない

これは接してきた時間の長さだと思う

 

(再度申し上げますわねカズシゲ? 平均寿命を下回る人生の終焉は私もシゲタロウと同様に親不孝と見なしますわ)

 

(母上・・・)

 

(弱気になってはなりません。まだあなたには闘える体力があるでしょう? それに私もシゲタロウも、ソフィーも。そして)

 

病床なのだろう俺を母上は子供達の、孫達の名を挙げながら激励してくれる

握られていた手には力がこもり、溢れそうだった涙はどこかへ消したソフィーも俺を見ている

 

父上も、息子や娘、孫達も俺を見ている

いつの間にか生徒会の元メンバー達や、こちらも父上と変わらなく初老のままの父上の親友ヤマモト閣下や、母上よりほんの少しばかり年上で、でも実年齢より若すぎる二十歳くらいに見えるリーライナ・ヴェルガモン伯爵

ヴェルガモン伯爵はおそらくお子様やお孫さんに閣下譲られているだろう

話を聞いてると母上もリ家分家の家督についてはかなり前に譲られていまは母上から見た孫の代、俺の子供の誰かが継いでいるみたいだ

 

そういえばこういうときにはよく駆け付けてくださっていたコーネリア叔母上夫妻、義父シュナイゼル殿下夫妻がお見えにならないのは多分そういうことなのだろう・・・

 

541: いつか訪れる未来と 永遠に変わらない人達 :2017/12/07(木) 05:24:47

 

『・・・俺は、こんなに愛されているんだな』

 

存命ならばきっとコーネリア叔母上夫妻や義父シュナイゼル殿下夫妻も駆け付けてくれていた、俺はそのことを考えると体もないのに胸と目頭が熱くなって、いつの間にか泣いていた

 

最後にソフィーの顔を見たところで、いまと変わらないあの微笑みでベッドの俺を迎えてくれていた

 

うん、大丈夫だ。俺はきっとまだまだ生きられる。もしこの光景がいつか来る未来であったとしても

 

だって、未来の俺は、父上母上を始めとしたこんなに多くの人達の愛情を受けているのだからな

 

そして、なによりもそう

 

俺の宝物であり女神であるソフィーが傍にいてくれて、先に行くなんて、絶対に嫌だから。その強い思いはきっと病気なんてはね除けてくれる

 

漠然とした考え、されども確かな未来の予感に俺は不安を覚えるどころか、不安を吹き飛ばされながら、浮かんでいた俺の意識も一緒に、ゆっくりと浮上していった

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「・・・知ってる天井だ」

 

俺の部屋なんだから当たり前だよ

 

「また変な夢を見ちゃったな」

 

夢だけど、夢じゃない夢

いつか来る未来の夢

そんな予感がする

確実に来る予感が

 

だってさ

 

「早く起きなさいなカズシゲ。そんなでは学校に遅れてしまいますわ。生徒会の一員としての自覚を持ちなさい」

 

薄桃色の羽を思わせる意匠が背中側に施されたタイトな白いスカートをした公務服と、桃色の長い髪の毛を大きなポニーテールにして頭の後ろに束ね、耳後ろの髪はお団子状に纏めている、公務姿の母上ユーフェミア・シマダ・リ・ブリタニアの姿があったから

 

「あの、母上」

 

「なんですの?」

 

「母上って、お年を召されることが無かったりしませんか。ずっと若いままで寿命が無いとか? 父上もですが」

 

「っっ!?」

 

ほんわかした母上がなんか両手で口を押さえて絶句してしまった

 

こ、この反応。やっぱりコードとかいうので寿命が無くなってる?!

俺やらかした!?

 

「カズシゲあなたどこでそれを!」

 

「い、いえあの母上がいつまでもお若くお美しいので、どうしてなのだろうかと疑問に思ったらまででしてっ、」

 

「そ、それは・・・び、美容と健康に気を使っていれば若さを保つことも可能なのです!」

 

無理ですよ。母上もう三十代後半ではありませんでしたか?

 

「と、とりあえず私とシゲタロウとあなたと三人でお話をしなければなりませんので今日は直帰なさい! いいですわね!」

 

「はっ、はいっ!! 母上っ!!」

 

母上・・・自爆してますよそれ

 

 

 

 

終わり

 



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なんかつまんねー

 

590: なんかつまんねー :2017/12/07(木) 23:23:46

 

日本にはGWという連休週間がある。ブリタニアにはない週間だ。国違わばお休みも違う。至極当然のことだ。日本では大日本帝国憲法記念日が祝日となっても、ブリタニアでは休みではない。ブリタニアではブリタニアの憲法記念日こそが国民の休日となる。だからこれは偶然

 

偶然に VV 邸に住まうブリタニアの皇族と、他エージェントや皇族護衛騎士たちが、個々の事由により本国へ帰還しているときのことであった

 

「おっさーん!おーいおさーん! 俺だよーおっさーん!」

 

バンバンバンっ

ドンドンドンっ

 

苦情が飛んで来るか通報されそうなほど大きな声で、近所迷惑も顧みずに帝都東京の高級住宅街の一軒の家の門をグーパンチでどつきまわしているヤンキー丸出し、つまりその物ズバリ不良丸出しな男がいた

 

「聞こえてんだろゴラァー! 開けろっつてんだよクソジジイッッ!!」

 

高級住宅街に住まう紳士には到底ほど遠い、赤のバンダナで逆立てた髪を、がしがし掻きながら普段から悪い目付きをその門に集中させて、ひたすらに家の主をよびつけている

 

いったい何様のつもりかとご近所さんからは顰蹙を買うだろう男、玉城真一郎は遠慮も配慮も諦めることも無く、普段は警護要員に守られている正面玄関というべき門を、猿みたいに叩き続けていた

 

ほどなく門は開く

 

正面玄関の門ではなく、門のすぐ横の勝手口がぎぃぃぃっと音を立てながら

 

勝手口から出てきたのは、憮然とした表情を張り付けながらも、冷静その物な空気を漂わせている小学生くらいに見える少年だった

 

 

「おっさん家ん中でもマント着てんだな」

 

VVの黒いマントのことを指差したり

 

「もうちょいだけ髪の毛伸びたら歩ってるだけで廊下掃けるな。全自動二足歩行掃除機なんちゃって? わはははっ!」

 

伸びに伸びたVVの髪の毛を指差しては適当な文言をぶちこみつつ 、とにかくVV と真正面から向き合うことを彼は避けていた

 

下心や申し訳無さがまざまざと感じられるその様相にこれは百パーセントお金だとの確信を持った VV は、ぺらぺら回る鬱陶しい口が黙るのを待つ。そうしてある程度待っていると、やはりと言うべきなのだろう。急に

 

パンっ!

 

思い切り両手を合わせて拝み倒すようにしてあることを頼み込んできた

 

「おっさん!なにも言わずに俺とコインの裏表勝負してくれっ! 倍率は十倍の即払いの取っ払いで頼んますっ!」

 

大当たりの予想、そして玉城は必死だった。ま、必死になりもするだろう

 

実はこの男、昨日から本日にかけて、競馬とパチスロに生活費までを注ぎ込んで大敗

にっちもさっちも行かなくなってしまい、残りわずか四千円の金であと二週間を送るはめにまで金銭的に追い詰められていたのだ

 

591: なんかつまんねー :2017/12/07(木) 23:25:25

 

いったい何十年切っていないのだろうかと誰しもが疑問に思う色素の薄い金髪を踵まで伸ばしたとんでもなく長い髪の持ち主

目は紫色で、美形と確実に言えるその端整な表情には静かな苛立ちを湛えながらも無表情に近いとにかく日本人離れした外見の少年だった

 

が、実はこの少年。少年に見えて実年齢は六十五を超える老齢の男性である

 

玉城が呼びつけていた"おっさん"とは、この少年のことであった

 

「うるさい、やかましい、静かにしろ、何時だと思ってるんだよくびり殺すよクソガキがっ!」

 

少年、いやさ初老のおじさん VV は、夜中の十時を回った住宅街の静けさのなかを叫び続けていたクソガキこと、玉城に怒り心頭だった

 

「少し位と無理は言わない、せめてミドリムシかミジンコほどでいいから人の迷惑を考えろ君は。そんな力一杯門をぶっ叩いて呼ばなくてもインターホンを押せば出ていくに決まってるだろいい加減にしろッッ!」

 

怒るVVに特定の二人から無条件で愛されてる、見た目残念ヤンキーにして、無自覚なリア充、玉城真一郎は『俺ってミドリムシかミジンコ扱いかよ?!』そう叫びながら、素直で率直にして失礼極まる言葉を返していた

 

「だーってよーっ、おっさん子供みたいだからもう寝てるんじゃねって感じしたからさー」

 

見上げる形で睨み付けてくる VV の肩を馴れ馴れしく遠慮無くひたすらにバンバン叩きながら、へらへら笑いを浮かべて悪びれずに言い訳を始める玉城は完全に酔っていた

 

「なんかしんねーけどさぁ、いーっつもデデーンと壁みたいに突っ立てる厳つい門番もいねーし、ヴィレッタとかいうクッソコエーネーちゃんやらキューエルっつームカつく美形ニーちゃんも出てこねーし、そんじゃこっちとしちゃ誰に取り次ぎ頼んだらいいかわっかんねーんだもんよぉ」

 

「普通にインターホン押せ馬鹿。君には常識というものがないのかまったく」

 

VV はごめんちょーと、フザケながら謝る玉城の手を力一杯、それこそ握り潰してやるくらいの力で掴みあげると、こんなところでいつまでも話していたら近所迷惑だと言わんばかりな勢いのまま、無礼千万な訪問客を家の中へ連れて入っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なにさ? こんな時間に電話もメールも無しにいきなり訪ねてくるなんて」

 

アポなし適当。気が向いたり困ったり娘が連れてきたり

もう半分くらいVV家の住人と化していた玉城に、たぶん今夜は金関係だと先読みする VV は玉城を居間まで連れて来ては問答無用で座らせながら用件を聞き出していた

 

有無を言わせずというVVの様子に目をキョロキョロ、キョロ充となって誤魔化す玉城は、それがまったく意味のない行為であることにも気がつかない。所詮馬鹿に付ける薬は無いのである

 

592: なんかつまんねー :2017/12/07(木) 23:27:06

 

一通りの話を聞いた VV は「いつもの自業自得じゃないか」と一蹴

 

でもその傍ら話には乗ってあげることにした

 

景気づけ勢いづけで飲んできた為に現在の彼の所持金、残り三千を取り上げてたまにはお灸を吸えてあげようと考えたわけだが、いい大人が情けない話ではないか

 

物には節度というものがある

 

翻って玉城真一郎という男には節度が足りない

 

というか節度その物が無い

 

だから節度を教えてあげるためにもVVなりの考えのもと、彼の提案を受け入れたのだ

 

「わかった、賭けに乗ろう」

 

「オッシャァ! さっすがおっさんは話がはえーぜ!」

 

「ハイハイわかったから、君はいくら賭ける?」

 

「三千!」

 

「ああ、そう・・・」

 

馬鹿にもほどがある。残金全額を二分の一、勝率五十%に賭けようというのだ。負けた場合明日からどうやって生活していくのだろうか?

やはりただの考えなしのすることはろくでもないし、恐ろしい

 

「じゃあ僕も三千円、コインはこの新品の十円硬貨でいいかな。どっちが投げるの?」

 

「おっさん! おっさんでいい! てか絶対におっさんが投げてくれ!」

 

自分は投げたくない!

 

玉城の思いだろうそれは切実な様相だった

 

(はぁー、さもありなん、かな)

 

自分で賭けたレースは全敗。自分が座った台はまったく出ない大ハマり。今日の俺には運がない。もうまったくと言ってもいいほどに搾りカスですら

ならばここは一つ他人の運に任せた方がいいに決まってる!

 

全力のアピールでしてこんな馬鹿な考えしか持てないとはもうギャンブル狂いも末期であった

 

593: なんかつまんねー :2017/12/07(木) 23:28:25

 

 

(はぁ、なんといったらいいのやら)

 

これにはさすがに冷静なVVとはいえ、ため息も溢れよう

こんないい加減な生き方をしている男がよもやの自分の息子になる日がやって来る可能性高しなのだからまいったものである

 

(当時は幼かったクララの遊び相手にしたのはいま思い返せば痛恨時だったかも)

 

娘クララの幸せは、願いは、この阿呆と結婚して自分が養ってあげること

 

VVには、いや誰から見てもズレ過ぎた娘の愛情を矯正することもできない父親として悩まされるばかりであった

それでも娘が惚れたのだ。子供達には基本的に自由意思で歩きなさいと教育しているVVとしては言い訳もできない事態である

 

(これでこの阿呆が真性の悪人だったなら親馬鹿全開で引き離してやるところだけど、根は友達思いのいいやつだから始末に終えないんだよね)

 

多少オラついていてもむやみやたらに喧嘩を売ったり因縁を付ける男ではないし、悪ぶっていても本性はお調子者でいい加減なだけの男だ。悪人という訳ではない

クララの方が恋心を抱いてしまった以上は口出しするのは野暮だろうと、VVとしては見守る親の立場を一度たりと崩したことはなかった

ただ、どうしようもなく馬鹿なのだ。それだけが心配の種

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ああ、そういえば最近心配の種が増えたんだった・・・)

 

VVの懸念する増えた心配の種。それはブリタニアの皇族が一家、メル家のマリーベルが玉城真一郎という方に会わせてほしいと申し入れてきていることだ

 

(どうしてこの阿呆にあの娘は会いたいと言うんだろう?)

 

理由が分からない。問い質してもマリーベルが口を閉ざすから

 

しかし数多の人を観察してきたVVの長年の感が、玉城とマリーベルを引き合わせると、お家騒動級の難事が降り掛かりかねないと警鐘を鳴らしている

 

だからこそマリーベルへの返答を引き伸ばして時間稼ぎ戦略に出ていたのだ

 

それを解決するにはなんとなくだがこの阿呆がクララへ想いを寄せてくれることが大前提となるだろう。そんな予感がVVにはあった

 

幸いにして玉城は最近になりクララを気にかけ出していた

玉城は昔からの妹分という親愛の情より一歩進んだ感情をクララに抱き始めている

娘の幸せ、「お兄ちゃんはクララが養うの!」なるVVにはとても理解できない娘の幸せをVVはVVなりに父親として成就させてあげたかったのだ

 

(まあね、ここはその手の懸念事項は置いておくとして)

 

懸念事項とは無関係ないまの玉城の話に乗るか乗らないか?

返事はもう伝えていた。乗るである

 

594: なんかつまんねー :2017/12/07(木) 23:31:26

 

 

「わかった僕が投げる。はぁ、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきたよ。まあいいや

、それじゃいくよ?」

 

ピーン

 

VV の人差し指と親指に乗せられた鈍く輝く十円玉が空中を回転しながら飛ぶ

真上に飛び上がり、頂点に達した十円玉はクルクルクルクル落ちてきて

 

やがてVV の小さな左手の甲に落ち、彼の右手に押さえられた

 

「さあシンイチロウはどちらを選ぶ?」

 

「お、おっさんがお先にどうぞ」

 

せまるVV 、しかしここでも運がないからとひよった玉城はまたまた彼に先に選ばせていた

 

「酒飲んで酔っぱらって勢いつけてきた割にはずいぶんと臆病だねぇ。敗けが込むと君のような楽天家でも自分で選ぶことが怖くなっちゃうものなのかな」

 

「うっせーんだよ! おっさんみてーな金持ちにゃわっかんねーんだよ貧乏底辺のこの焦りは!」

 

「なぁにが貧乏底辺だよアホらしい、自業自得に金持ちも貧乏もないよ。ギャンブルに生活費まで注ぎ込むような自制の利かなさなんて知りたくもないね。ああ僕からだったね。そうだな、僕は……それじゃ僕は裏で」

 

「な、なんだよ、なんか根拠でもあんのかよ裏って。ま、まさかいかさま」

 

「してないよ疑い深い子だなあ」

 

じーっと覗きこむ玉城。顔を近づけて覗きこむ玉城。 ブリタニア皇家に多い特徴的なVVの紫色の目を見つめながら、額をコツンと当てて玉城はVVを覗きこみ続けた

 

VVも負けじと当たる額を押し返す。ごりごりと音がしそうなくらいに玉城と額を押し付けあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっざ」

 

激しく、果てしなく、ただただうざい

 

(うう、これが、こんなのが、まがりなりにもジ家の出である僕の家系に入ることになるのか・・・激しく恨むよクララ)

 

任務で大グリンダ騎士団と行動中の愛娘への恨み節を込めつつ、自分の手から三万円を踏んだくった玉城をじとっとした視線で見つめるVVは、深い深いため息を漏らす

 

VVの一声とクララの意思の尊重により玉城をクララの婿として迎え入れるという話はほぼ決定している・・・かに見えて

 

本当のところは、ルルーシュやマリーベルを筆頭に、姪であるクララのことを思って反対する声も多いのだ。もちろんマリーベルは違う理由だろうが

 

とにもかくにもVVに近しい皇族や貴族、暗部の事情や存在を知っている者達の間では、お調子者の玉城の名前は広く浸透してしまっている

 

ブリタニア皇家にしても、ルルーシュやナナリー達ヴィ家の人間

コーネリアやユーフェミアといったリ家の人間

マリーベルを始めとするメル家の人間等々、知れ渡っている範囲は広く、とにかく面倒な男であった

 

若かりし日にブリタニアの皇位継承位を返上して、現皇帝にして双子の弟であるシャルルのサポートに回り、皇籍を離脱していたVVとはいえ、影よりブリタニアを支えている皇室に連なるジ家の重鎮には変わりない

古代技術管理部門の長としての顔も持っているために、普通ではない方法でありつつも彼の血を引いているクララを暗部で活躍する皇帝家ジ家の姫の一人として

数えている人間や組織はそれなりに多い

 

ジ家の姫、口に出すと違和感でいっぱいだが、皇帝の兄の娘と考えれば、クララ・ランフランクがジ家の姫の一人であることに偽りはない

実際に皇室へ絶対的な忠誠心を持つジェレミア・ゴッドバルトやキューエル・ソレイシィ、ヴィレッタ・ヌゥら、ヴィ家の親衛隊からは「VV様はクララ姫様とあのような男の仲をお認めになられるのですかっ!?」といった苦言を呈されていた

 

その都度、恋心を抱くのは他でもないクララの自由だからと言い聞かせるのが大変であった

 

595: なんかつまんねー :2017/12/07(木) 23:36:38

投稿失敗。うっざの部分の間の抜けてる文章を投稿します

 

 

 

 

 

 

「し、信じるかんな? まじこれ一発であと二週間の俺の命運が決まるんだかんな?」

 

「博打で命運を決めるんじゃないと注意しておいてあげるよ。僕はしないけど、ギャンブルにのめり込んで身を滅ぼしたやつ結構知ってるから」

 

「きぃつけ……られたら、きぃつける。表だぜ」

 

VV の忠告を聞いてるのかいないのか、玉城は祈る気持ちで表に賭けた

 

はたして結果は

 

「・・・ふぅ、人任せ勝ちというところかな?」

 

「裏ァァァァ!? なんでぇーっ?? なんで裏なんだよちくしょーめぇぇ! ああーっおわった俺オワタ! あと二週間も文無しで過ごせとか死ねってか?! いや絶対に死ぬね!!」

 

VVの小さな左手の上に伏せられていた十円玉を見た玉城は頭をかきむしりながら、居間の畳の上をごろごろごろごろ転がりつつ、この世の終わりが来たみたいな叫び声をあげていた

 

その光景がすこしばかり面白かった VV が、自分の財布から三万円を取り出すまで

 

「やれやれ僕の負けか、確率五十%に負けるとは相当ついてないや。他人の運任せにした君の作戦勝ちだよ。ほら、三万円」

 

「は、はえ?」

 

ごろごろご

 

転がり続けていた玉城が止まった

まるでなにが起きたのか理解できてない風に

 

「え? あの、な、なんで?」

 

「なんでって、君の勝ちだからだよ」

 

「え、や、これ、裏じゃん? 俺表に賭けたんだけど」

 

VV の左手にある十円玉は平等院鳳凰堂の側だった

 

「見ての通り表だよ」

 

「いやいやちょい待ち、裏だろこの、なんとかかんとか堂って絵のほう」

 

「君はっやつは・・・勉強不足というか常識知らなすぎというか。あのね、耳をかっぽじってよーく聴きなよ? 君が裏だと思い込んでるこっちがこの硬貨の表なの」

 

「い、いつから?」

 

「昔から。ついでに教えておくと、他の硬貨も数字が全面に描かれている面が裏だから。数字面を表だと嘯いてるとそのうち恥じかくことになるよ?」

 

お灸を吸えることに失敗した VV の手には約束通り三万円。一拍おいた玉城はまたまたキョロキョロとキョロ充になったあと、ようやく自らの勝利を自覚したようで、「やったぜぇーっ! さっすが俺様っっ!!」と飛び上がり

 

「見たかよオラァ!」

 

満面のドヤ顔で VVに向けサムズアップならぬ、親指を下側に向けた敵を下したり挑発したりするポーズで勝利宣言

 

596: なんかつまんねー :2017/12/07(木) 23:38:19

 

 

「うっざ」

 

激しく、果てしなく、ただただうざい

 

(うう、これが、こんなのが、まがりなりにもジ家の出である僕の家系に入ることになるのか・・・激しく恨むよクララ)

 

任務で大グリンダ騎士団と行動中の愛娘への恨み節を込めつつ、自分の手から三万円を踏んだくった玉城をじとっとした視線で見つめるVVは、深い深いため息を漏らす

 

VVの一声とクララの意思の尊重により玉城をクララの婿として迎え入れるという話はほぼ決定している・・・かに見えて

 

本当のところは、ルルーシュやマリーベルを筆頭に、姪であるクララのことを思って反対する声も多いのだ。もちろんマリーベルは違う理由だろうが

 

とにもかくにもVVに近しい皇族や貴族、暗部の事情や存在を知っている者達の間では、お調子者の玉城の名前は広く浸透してしまっている

 

ブリタニア皇家にしても、ルルーシュやナナリー達ヴィ家の人間

コーネリアやユーフェミアといったリ家の人間

マリーベルを始めとするメル家の人間等々、知れ渡っている範囲は広く、とにかく面倒な男であった

 

若かりし日にブリタニアの皇位継承位を返上して、現皇帝にして双子の弟であるシャルルのサポートに回り、皇籍を離脱していたVVとはいえ、影よりブリタニアを支えている皇室に連なるジ家の重鎮には変わりない

古代技術管理部門の長としての顔も持っているために、普通ではない方法でありつつも彼の血を引いているクララを暗部で活躍する皇帝家ジ家の姫の一人として

数えている人間や組織はそれなりに多い

 

ジ家の姫、口に出すと違和感でいっぱいだが、皇帝の兄の娘と考えれば、クララ・ランフランクがジ家の姫の一人であることに偽りはない

実際に皇室へ絶対的な忠誠心を持つジェレミア・ゴッドバルトやキューエル・ソレイシィ、ヴィレッタ・ヌゥら、ヴィ家の親衛隊からは「VV様はクララ姫様とあのような男の仲をお認めになられるのですかっ!?」といった苦言を呈されていた

 

その都度、恋心を抱くのは他でもないクララの自由だからと言い聞かせるのが大変であった

 

597: なんかつまんねー :2017/12/07(木) 23:42:46

 

終わりですー。途中投稿が上手く行かなくてすみません・・・

 

まあようはこのスレでよく見かける玉城SSですー

後編も玉城とVVの続きですが読んでくれてる方にはしばらくお待ちのほどを

まだ書いてもないんで

 

 



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1月終わりの深き愛

 

 

さてそれでは嶋田さんとユフィの短い濡れ場だけどもちろんR16ながら際どいです

そしてあと14日後にはブラックレインが降りますね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1月終わりの深き愛

 

 

 

 

 

 

 

 

時は1月。新年の月終わり

 

「んっ・・・っ・・・」

 

帝都東京中枢より少し離れた住宅街。多きな門構えの邸宅が軒を連ねる一角にある嶋田邸内はその寝室に

 

「んっ・・・・・・あぁ・・・っ」

 

常の声質からして高い声音の女性が精悍な体つきをした中年過ぎの男性と真正面から抱き締めあい、男性を受け入れながら、常よりもさらに高い声音をあげていた

 

上気した肌は白から赤に染まり

潤む瞳の端からは涙が一筋流れ落ちる

 

男性の押し込みを受けると、膝裏まで届かん桃色の長い桃色の髪が波打つ

頭の高くで緩やかにもしっかりと束ねられたポニーテール風の髪束が大きく揺れる

 

「ユフィ・・・、ユーフェミア・・・」

 

男性の囁きが右の耳に入る

 

「シゲ、タロウ・・・」

 

男性シゲタロウ。嶋田繁太郎の耳も彼女ユーフェミアの、ユーフェミア・リ・ブリタニアの高い声音にくすぐられる

 

しっかり抱き合う二人の腕は双方の腰に回されて離す事なく互いを引き寄せ

 

嶋田は揺ったりとした浴衣着。ユーフェミアは白いタイトなスリットスカートに、ピンクの腰羽根スカートが付いたワンピースタイプの公務用衣服を共に着崩す事なく互いを正面にとらえて向かい合い

 

熱くも静かな逢瀬を交わしていた

 

667: 名無しさん :2018/01/31(水) 19:49:47

 

事の始まりは温かく

 

事の最中には熱く

 

事が終われば脱力を

 

「道理なのかな?」

 

嶋田に抱き寄せられながら、髪を手櫛で撫でられていたユーフェミアは彼の呟きに反応する

 

「道理、ですの?」

 

まだ体は火照り気だるさを残している

 

「愛し合えばこの留められた髪の束のように緩く」

 

大きな髪止めで大きく緩く結わえられた桃色のポニーテールを触り撫で

 

「静かな夜のこの部屋のように静寂を纏いながらも温かく始まり」

 

差し入れた指を毛束の中ですきおろして

 

「中場に入れば汗も滴り落ちるほどに熱く」

 

彼女の髪の流れを通り抜けた先でそのたおやかな腰を手に抱く

 

「終わりを迎えてしまえば祭りのあとの熱気を残しつつも」

 

そしてユーフェミアの唇へ一つ唇を重ねて離す

 

「名残惜しさと寂しさだけが残される」

 

668: 名無しさん :2018/01/31(水) 19:50:30

 

変わらず着衣の乱れはない。着衣を乱さぬように静かにいながら熱く体で語り合っていたゆえに

 

脱げばいいじゃん

 

どこぞのデリカシー無きバーテンなら無遠慮にも余計な一言を付け加えそうだ

 

ブリタニア本国への出張。といえばブリタニアの姫君にはおかしいが。本国へと数日間帰国していたユーフェミアは、日本到着と大使館でのお仕事を終わらせたその足で着替えもする事なく専用リムジンを嶋田邸に走らせたのだ

 

"愛は止まることを許さずとはよく言うがおまえも嶋田卿もよくやるな"

 

リムジンにひとり残された駐日大使にして第二皇女コーネリアは、妹であり第三皇女でもあるユーフェミアを嶋田邸に預けたまま大日本帝都での拠点にして、我が家。VVの邸宅へと去っていった

 

そして残されたユーフェミアは数日振りの再会と逢瀬を嶋田と交わしていたわけである

 

寝室で床につこうとしていた彼を引き留めて。嶋田邸の家人は就寝につく旦那様には知らせずにユーフェミアを通していた。この家はユーフェミアにとっても自分の家であるのだからと

 

「ええ、確かにシゲタロウがいま仰られましたように寂しさも名残惜しさも残されてしまうものでしょうね。それはいつもの事ですもの」

 

道理だ。ひとは愛に愛を重ねる為にお互いを掻き抱き情愛を交わさん

しかして後に残されるのは愛の分だけの寂しさ。愛するがゆえの儚さ

 

669: 名無しさん :2018/01/31(水) 19:51:05

 

「ですけれども、それで愛の炎が消えてしまう。そんな道理はありません。愛と愛。二人の愛を一つにすれば自然のままに熱く激しく燃え上がります。いま、残された寂しさに身を晒しながらも私たちの炎が大きくなっているように」

 

「ユフィ・・・」

 

「うふふ、まるでお米を炊いているような道理ですわね」

 

「ああ、ふふ。確かにな。炊き始めは冷たく、中場になれば温かく、炊き上がれば熱く柔く、美味しく食べてしまえば空の茶碗。しかし体の熱量となり生きるエネルギーに変わる。ユフィに注ぎ、俺に注がれくるユフィからの愛はまさにそれに似ているな」

 

「お食べになりますか? お代わりは如何ですかシゲタロウ」

 

「・・・・・・温かく美味しい料理に腹中半な俺がいただかない道理はないかな」

 

「わかりました。それでは旦那様、どうぞ舌鼓を」

 

今度はきちんと剥いてからだがね

 

言うと嶋田はユーフェミアの髪留めをぱちんと外して広がり散る桃色の流れを目にしながら、彼女を布団へ横たえた

 

布団や枕に大きく広がる桃色の長い髪

 

20にもならないというのに熟した美しき肢体

大きな二山を抱き、なだらかな曲線を描きながらすらりと伸びた手足はしっかり成熟した大人の体つきをしていた

 

腹中半

腹半分

 

愛のお腹はまだ愛を欲している

 

それはユーフェミアとて変わらずに

 

「私もまだ腹八分にはほど遠いですわシゲタロウ。数日何も口にしておりませんもの」

 

数日、シゲタロウの愛をいただいてはいない

 

言葉を交わす程度で空きっ腹が満たされるものか

 

触れあうだけでお腹はいっぱいになるわけがない

 

一度のお食事で餓えはしのげやしない

 

それで充分なのは普段から口づけを、普段から触れ合いを、普段から言葉を交わし顔を合わせて生活をしているから

 

数日離れて愛の栄養分が不足したこの心も体もまだ愛を欲している

 

「なるほどね。愛の栄養が足りないから愛の栄養を補給したい。これもまた道理かな?」

 

「シゲタロウよりの愛に限ります」

 

「わかってるさ。俺もユフィからの愛に限るからね」

 

話はここまで。次の瞬間には二人静かに体を重ねて頬を合わせながら互いに互いへと口づけていた

 

670: 名無しさん :2018/01/31(水) 20:01:35

嶋田さんとユフィのえちーは掲示板ネタと別物なのでwiki掲載いいですよ

 

ただwiki纏め人さんでしたか?

 

あの方昔自分の書いたSSをwikiに掲載していいですか?と訪ねてこられたので良いですよとお返事したのですが、後々になり掲載されなくなられたので正直信用してません

 

wiki纏め人さん?wiki管理人さん?申し訳ありませんが、掲載する気がないなら一々掲載許可なんて聞きに来ないでください

 

 

 



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鬼は外 服は家

 

 

 

節分ネタかな?

鬼は外に放置

 

 

 

 

 

 

鬼は外 服は家

 

 

 

 

 

焦げ茶色の短髪を威勢よく逆立て、アゴヒゲを蓄えた目付きの鋭い男玉城真一郎はVV邸の中と庭を走り回っていた

 

首もとを細いリボンで締め、腰にはベルト代わりに白の大きなリボンを回して結んだ黒いゴシックドレス風ワンピースを着。膝まで伸ばした薄めのピンク色のストレートヘアを靡かせながらクララ・ランフランクは走り回っていた

 

「アハハハお兄ちゃんクララを捕まえてごらーん」

 

「まてまてークララ~」

 

これはノリである

 

片や26の大人

片や17,8の高校生

 

追いかけっこするような年でもない

 

では何をしているのか?

 

単純明快、徒競走である

 

寒い冬

 

お休みの日には博打してるか家でお布団にくるまりながらテレビを視ているかネットしてるか

 

さもなきゃクララの家

つまりVVのお屋敷に上がり込んでいるかな玉城くん

 

休日が重なればよくクララと遊んでいた

 

二人は昔からの遊び相手。クララからすれば少しお兄ちゃんな幼馴染みである玉城と遊ぶのは高校生になってからも変わらない

 

玉城からしても彼女がまだ幼い頃より遊んであげていたので、クララと遊ぶのは昔からの日常だった

 

そんな仲良しな二人はこれまた仲良く居間のこたつに並んで入りながらテレビを視ていたさっきまでは

 

705: 名無しさん :2018/02/03(土) 15:13:34

 

ことの始まりは自分の家が寒いからと玉城が遊びに来たところから

 

VVは仕事があるのに平気で遊びに来る玉城はやはり玉城なのだ

 

そして彼はクララと二人でおこたに入った

最早こたつ目的としか思えない素早さであった

 

寒いものだから肩まで入ってぴったり引っ付き虫になっている

 

家主のVVは付けっぱなしは良くないとして時々エアコンを切ってしまう

 

VVの屋敷はすきま風が通るようなボロ屋でもなし、少しくらい暖房を停めても問題ないのだ

 

こうなると二人は困る。避難先は部屋の真ん中にででんと置かれたおこた以外に無く、顔を見合わせては一も二もなく二人してこたつに避難していたのだ

 

「君たちは揃って不健康優良児なのかい。昔はさ、子供は風の子なんて呼ばれていてね。僕らが子供の時代には寒くても外を走り回っていたものだよ」

 

呆れ気味なVVに二人は抗議した

猛抗議である

 

「パパは昭和中期の世代じゃん! クララとお兄ちゃんは平成っ子なんだから昭和の世代と一緒にしないでくれないかな!」

 

「そだそだ言ってやれークララ。俺達若者とテメーみたいな老人を一緒にすんなって」

 

梃子でもこたつから出ないと亀の子になっている玉城とクララ

 

この様子にやれやれと肩を竦めたVVは、風の子ならぬ火の子供な二人を放置してネットでの仕事に取りかかるため一人パソコンに集中し始めた

 

706: 名無しさん :2018/02/03(土) 15:14:10

 

あの頃はーな昭和世代と違う二人はこたつ亀なままにテレビでも視ることに

 

「これつまんねーわ。クララ~リモコ~ン」

 

チャンネルを変えるためと玉城はリモコンを欲する

リモコンの場所はこたつから出ないと取れない位置なのだ

そんなことはクララもわかってる

 

「やだよーぅ寒いんだもん。お兄ちゃんが取ってー」

 

だからクララも取りに行かず玉城に任せた

返された玉城も取らない、だって寒いから

 

「ち、ケチなやつめ。ちょっとこたつから出てすぐ入るだけだろ」

 

「お兄ちゃんの方こそけちんぼだよ。大人の癖に」

 

終いには仲間割れである

 

寒いというのはそれだけで仲間を敵にしてしまう恐ろしい現象なのだ

 

「んじゃもうこのままのチャンネルでいいわ」

 

「クララもいいよ。こたつから出たくないもん」

 

駄目な大人と駄目な女子学生である

二人は肩を押しくら饅頭のようにして押し寄せ合ってはもっと体を暖めようとする

どれだけ寒いから逃げたいのか

 

テレビには動画で観たバカデカイKMFが国際テロ組織ペンタゴンの基地に一斉砲撃を加えている映像が映っていた

 

「しかしいつ観てもでけーよなぁ10円玉みたいな色したあれ。クララおまえああいうの詳しくなかったか?」

 

クララは変な知識を盛りだくさん頭の中に入れている

どこで仕入れたのか知らない玉城だが、暗殺者にして諜報活動もしている彼女ならではといえる情報だ

 

「実物が映ってるしカタログスペックも公開されてるよ? お兄ちゃんのスマホでも調べられるんだけど」

 

707: 名無しさん :2018/02/03(土) 15:14:58

 

「めんどい。クララ解説員頼むわ。知らんなら別にいいぜ」

 

どこまでも人頼みな駄目男である

 

「最近国営放送で目にすること多いから気になってさぁ。マリーと似たお姫さんが乗ってるんだろ」

 

「うん。横入りドロボーと似たお姫さまがね」

 

「なんだそのドロボーって?」

 

「しーらなーい。お兄ちゃんはクララだけ見てればいいの♪」

 

「はー、そうですか」

 

国営放送チャンネルは政治や紛争の話を取り扱うことが多い

いま扱っているのは、国際テロ組織ペンタゴンの南ブリタニア最後の拠点を潰すために大グリンダ騎士団が行っている制圧作戦の生中継だ

 

「えーそれではクララちゃん解説員が説明しまーす。あれは機体識別type-X2/Z-01TX ELPHABAエルファバと言います」

 

「マリーの言ってた名前だな。んで?」

 

「カタログスペックだけ説明するとー、全高27.26m重量74.73tといった超大型KMF、正式にはKGFナイトギガフォートレスと呼びます。フォートレス、まさに要塞級のナイトメアだね」

 

「ほー、で?」

 

「武装はスラッシュハーケンが2、MVSメーザーバイブレーションソードが2、ハイパーハドロン砲が1、拡散ハドロン砲が10、他大量のミサイルを搭載しているミサイルポッドやハイパーハドロン砲と換装可能な大口径リニアライフルも装備してて、防御機構にはブレイズ・ルミナスまであるオールアラウンドの戦略用KMFといっても過言ではありません。ただーし! これはカタログスペックだね。実際には倉崎重工や三菱重工、スメラギコンツェルンの重工業部門もそれぞれ研究して手を加えてるだろうからカタログ以上の性能があると思うよ? 」

 

「バケモンだな」

 

「そうバケモンです。でもこれを倉崎重工とスメラギ重工業部門は量産してるんだ。日本はいまtypeの違う2機種を30機くらい持ってたはず。日本て技術力が半端ないからいっつも先に造っちゃうんだよね。実際KGFを先に造ったの実は日本なんだよ」

 

「あー俺知らないわ。戦艦とか軍艦には興味あるんだけど陸戦て日本にゃあまり縁がないだろ」

 

「あれは陸戦仕様にして空戦仕様。そして海の上でも戦えるオールラウンド機でもあるんだけどね。ああそれと日本だって陸戦には縁があるよ? 神坂・千琴の北日本最北端がユーラシアと陸続きだもん。だから日本陸軍があれだけの戦力を揃えてるんだから」

 

「ふーん」

 

708: 名無しさん :2018/02/03(土) 15:15:36

 

そこで話は途絶えた

 

ふーんのひとことで話を終わらせる玉城さすがである

そして二人の意識はまたこたつに向く

 

「あったかいねお兄ちゃん」

 

「おおーマジでな。もう出たくねーよ」

 

こたつは良いものだ

冷たくなった足を入れてよし!

体ごと入ってよし!

寝そべってよし!

 

色々使える便利アイテムだ

いや神様だ

 

そうしてこたつに籠っていた玉城とクララは仰向けになると、こたつ周りに置かれていたクッションをひとつ取り寄せて二人仲良く眠りについてしまった

 

 

 

 

いくつかの取り引きや、情報交換を終えたVVが背伸びをしながらパソコンデスクから立ち上がる

 

さっきまで騒いでいたのに静かになっている二人がなにをしているのか気になり様子を窺う

 

「寝てるし・・・」

 

こたつに入ったままひとつのクッションを使い頭をくっつけて寝ていた

 

「お互いに仲良しなのは良いし、おでこにほっぺにとくっつけ合って眠るのもまあ良いよ。でもね、こたつの中で寝るのは良くないんだーーよっと!」

 

布団を剥いでやるVV

急なヒヤッとした空気にぐっすりすやすや眠り込んでいた二人の目が覚める

 

「もうーパパなにするのもうー!」

 

「ジジイテメー死ぬかと思ったわ!」

 

飛び起きて抱き締め合いつつぶるぶる震えながらまた猛抗議

 

「大丈夫だよこのくらいの温度差なら」

 

軽く受け流す小さなお父さんは、さあ出ていった出ていったと、だらけ切っていた二人をこたつから追い出した

 

709: 名無しさん :2018/02/03(土) 15:16:31

 

「さみーよクララー」

 

「寒いーお兄ちゃ~ん」

 

追い出された二人は抱き合ったままである。体を離すと余計に寒いから。別に変なことする気などないわけで、寒さをしのげればなんでもいいのだ

 

嬉はずかしの体制だというのに暖かいこたつを追い出された寒さからそんなことも考えられないクララ。玉城も最近胸部がふくよかになってきた彼女に抱き着かれると割合慌てふためくはずなのに煩悩が消えている

 

寒いからだ

すべては寒いのがいけないのだ

 

そこでクララは思い付いた

 

そうだ!

徒競走をしよう!

 

「どこですんだよこの寒いなかを」

 

「まずは屋敷の中で一周二週して、次にお庭を全速力で走る。すると無事お兄ちゃんとクララは暖かくなれると。どうかな?」

 

「どうってなあ~。おまえマリーみたいに体力ねーだろ。途中でへたるぞ」

 

「へたっちゃってもいいんだよ。だって体を暖めることが目的なんだもん。じゃお兄ちゃんクララちゃんと勝負だよ?」

 

「勝ったらなんかくれ」

 

女子学生にタカる大人、果てしなく駄目男である

 

「じゃお兄ちゃんが勝ったら1000円あげる。クララが勝ったらそうだなぁ、頭を撫で撫でしてもらおうかなぁ~?」

 

タカりを許す女子学生、駄目男製造機である

 

「俺は良いとしておまえはそんなので良いのか?」

 

「良いよ? お兄ちゃんに頭を撫で撫でされてもらうと心地いいもん」

 

「昔っから散々頭撫でてやってるだろ」

 

「撫でられたりることはなーい! というとこで、それじゃよーい、スタート!!」

 

710: 名無しさん :2018/02/03(土) 15:17:12

 

こうして玉城とクララのかけっこという冒頭へと戻るのだが、この勝負に勝者はいなかった

 

屋敷を走り回った二人がVVに注意されることはなかった

 

しかし庭を走ったときにVVが大切にしている盆栽の鉢を割ってしまったのだ

 

怒ったVVはしばらくの間、罰として二人を庭に立たせていた

 

クララは普通に立たされただけであったがしかし玉城は違った

 

「さ、さ、さ、さみーぃ! おいジジイコラ! なんで俺だけパンツ一丁なんだよ!」

 

「お、お兄ちゃ~ん! クララが暖めたげるから死んじゃ駄目だよ~っ!」

 

玉城はVVに服を脱がされてパンツ一丁で立たされたのだ

 

「女の子のクララに服を脱がさせるわけにいかないだろ。それにほら、今日は2月3日で節分だ鬼ごっこみたいに走り回っていた君たちは鬼として鬼は外、服は家だ」

 

「オヤジギャグかよ!」

 

「ま、しばらくそのまま反省してるんだね。ったく、僕の大切な盆栽が大惨事じゃないか」

 

怒って屋敷の中に入ってしまったVV

残された玉城とクララはまた抱き締めあって寒さをしのぐことに

 

ただ、玉城はパンツ一丁

端から見れば変態に抱き着かれる美少女の図である

 

そして悪運が煮詰まったような運勢をした玉城くん。運の悪いことにこのタイミングでルルーシュとロロが帰宅したのだ

 

無論、言うまでもなくルルーシュとロロのダブルキックが玉城の尻に打ち込まれて、慌てたクララが事情を説明するも玉城が悪いのひとことの下に処断され、ひとりお庭に放置されてしまった

 

711: 名無しさん :2018/02/03(土) 15:17:58

 

「あの、大丈夫ですか玉城くん」

 

「あ、ああ、やべーっすよ辻さん、俺凍え」

 

そんな玉城を救ったのは所用で訪問したVVの友人辻政信だった。玉城、辻が前政権のNo.2であったことを知らないので普通に話しかけ接することができるのだ。どこまでもお馬鹿さんである。そして持ち前の悪運と併せて物凄い人物たちと知らぬ間に人脈を築いてきたのだが

 

しかし今回ばかりは悪い方に力を発揮した悪運がクララを呼び寄せてしまい

 

「あ、辻おじさんこんにちは」

 

「これはどうもクララさん、こんにちは。何かあったようですがどうしました?」

 

「う、あの、お兄ちゃんのことなんだけど、ちょっとクララと二人で破目を外して家とお庭で競争していて、パパの大切な盆栽を壊しちゃってパパに怒られちゃったんです・・・」

 

「ふむ」

 

「それでお兄ちゃんだけが服を脱がされたから、お兄ちゃんが風邪を引かないようにってクララが抱き締めて暖めてあげていたんです。ただルルお兄ちゃんとロロが・・・で、でもお兄ちゃんはまたクララが暖め直してあげるから大丈夫だよ!」

 

要約すれば女子高生とパンツ一丁の男が抱き合っていたという最悪の説明である。しかも余計なひとことまで添えて

パンツ一丁でクララと抱き合っていたことが辻にもバレてしまった瞬間だった

 

「ほう? それは玉城くん貴方いけませんねぇ。クララさんは女子高生ですよ? いくら仲が良くても流せない話もありますので・・・」

 

「ち、違うんす! クララは了解してたんすよ! それで」

 

「さ、クララさんはお気になさらず家の中へ。お父さんには私が取り成して差し上げましょう」

 

「あ、あの辻おじさん、お兄ちゃん、は?」

 

「淑女の味方である私がパンツ一枚で貴女に抱き着いていたという変態さんをまさか擁護するとでも?」

 

ひとり残された鬼=玉城は一時間後家に入れてもらった

 

当然玉城は風邪を惹いた

 

 



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福は内と恵方巻き

 

 

なんとかぎりぎり即興的に間に合わせられた節分ネタ2

嶋田さんとモニカさんは特別な日には甘可愛く恥ずかしい関係だと思うんだ

 

 

 

 

福は内と恵方巻き

 

 

 

 

 

 

 

2月3日

 

 

大日本帝国では節分にあたるこの日

 

嶋田家でも節分の行事の様なもの。昔からのある風習的な事が行われていた

 

 

「鬼はー外!」

 

日本に訪れ、駐日ブリタニア大使館駐在武官という任に着任してより早いもので数年

 

大日本帝国の同盟国。神聖ブリタニア帝国の皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの専任騎士ナイトオブラウンズはナイトオブトゥエルブの称号を持ちながらも、今では大日本帝国前宰相にして

帝国を影より操る等と噂される嶋田繁太郎の専任護衛まで任されていると諸外国からは受け止められていた彼女、モニカ・クルシェフスキーは

腰の下まで届いている癖のない真っ直ぐな長い金髪を風に靡かせながら、福豆=大豆を嶋田邸の内より、手入れの行き届いた庭へと元気な声でばら蒔いていた

 

モニカは日本特有の風習である事からなにを勘違いしたのか

騎士服に明るい緑色のマントを着用した正装で豆まきをしている

 

勿論、ここ何年もの間にモニカ風の豆まきを目にしてきた嶋田は

 

(なにか違う。モニカさんはなにがしかの勘違いをしている)

 

気づいていながらも一生懸命な彼女の姿が妙に可愛らしくて好きにさせていた

 

720: 名無しさん :2018/02/03(土) 22:35:53

 

それが今年も訪れた

 

そういう季節。季節の分かれ目の日がやって来たと考えただけで態々正装で豆まきを行う必要などないことについては暖かく見守るだけに留めていた

 

「嶋田さん」

 

ぼうっとモニカの姿を眺めていた嶋田は不意に彼女から手を握りしめられた

 

「どうかしたかいモニカさん?」

 

「ほら一緒に豆まきをしましょう。日本とブリタニアのこの一年の繁栄と、嶋田さんと、その・・・わ、私の仲がもっと良くなるように・・・」

 

消え入りそうな声音でうつむくモニカ

眉が隠れる位置にて切り揃えられた前髪が彼女の顔を隠す

 

嶋田はふとそんな彼女の手を自らも握り返した

 

モニカの顔は赤い。嶋田の顔も赤い

赤い赤い顔をした二人は熱が出たような顔色のまま見つめあった

 

「ん、わかった。そ、それでは俺も豆まきをしようか」

 

握り合う手のひら。その中にはモニカが手にしていた豆がある

 

嶋田の右手

モニカの左手

 

二人が合わせた手の内に豆まき用の豆は確かに収まっていた

 

「じ、じゃあモニカさん一緒に蒔こうか?」

 

「は、はい、合図はいっせーのーせで行きますよ?」

 

「よしきた」

 

嶋田とモニカは強く握りあった掌を下に下げてスタンバイ

 

721: 名無しさん :2018/02/03(土) 22:37:01

同時に叫ぶ

 

いっせーのーせ!

 

共に叫び合わせたままの手を勢いに乗せて上方へと向かい解き放つ

 

『鬼はー外!』

 

ハモる二人の意識は声

 

ぱっ

 

宙に巻き散る肌色の粒たち

 

豆は嶋田邸の庭に放物線を描きながら各々地面へと散っていく

 

「嶋田さん、これで今年の鬼さんもお外へと放逐されましたね」

 

開いた手を再び握り締めたモニカは赤い頬のままその美麗な顔に微笑みを浮かべながら隣に立つ嶋田を見る

 

「そうだね。今年も最強の騎士モニカさんがいるから俺は安心だよ。鬼も裸足で逃げ出すナイトオブトゥエルブが護衛に着いていてくれるのだからね」

 

嶋田は嶋田で彼女の手を握り返して笑う

 

「も、もう嶋田さんっ!」

 

ぷうっと膨らむモニカの頬。マリンブルーの瞳がちょっと怒った感じに嶋田を見つめた

 

「だけど嘘のような本当の話だ。モニカさんがいてくれるだけで他のSPさん達が休憩に入れる程だからね」

 

「私でも銃弾は受け止められませんよ? 剣で受けたり避けることなら可能なのですけれど」

 

「そ、それ普通はできないから。モニカさんや、枢木さんの息子さんのスザクくんや、ナイトオブラウンズといった超人だけだから」

 

やはりモニカ・クルシェフスキーという女性は嘘のような本当の実力者なのだ

 

722: 名無しさん :2018/02/03(土) 22:37:34

 

「さあ次は福は内ですよ嶋田さん」

 

モニカの手は離れない

嶋田も手を離さない

 

これでは福は内の豆を蒔けないが、嶋田はこれで良いという。いや、これで良いのだ

 

「福は内。この手に、目の前に福はあるから必要ないよ」

 

「え?」

 

「モニカ・クルシェフスキーという名の俺だけの幸福の女神が、ね?」

 

ぼっ!

 

赤がより赤くなって茹で蛸

いや茹でモニカの出来上がりだ

 

そんな彼女に嶋田は追い討ちを、いや本心のままに彼女を抱き締める

 

「し、嶋田さーーー」

 

言葉につまるモニカは赤い顔のまま、背後から自身を抱き締め来た嶋田に意識を向けていた。ブリタニア帝国の最強たる証。ブリタニア帝国軍の頂点に立ち、ブリタニアのカーストにおいても皇帝、皇族に次ぐナイトオブラウンズが、誰かに後ろを盗られる。それはあってはならないこと

 

だがこれは仕方ない話だ。モニカにとり嶋田繁太郎とは後ろを盗られる唯一のひとなのだから

 

「いきなりごめん。だけど明るい緑色のマントを見ているとサラダを思い出してね。モニカさんは知ってるかなサラダ巻き」

 

「は、はい存じ上げておりますけれど」

 

「そのサラダ巻きを思い出してね。モニカさんのマントは黄緑色。マントの内生地の色は紫色だけど其処はこの際抜きにしてね、節分に食べる恵方巻きーーーならぬ、恵方モニカさんをやってみたのさ。どうかな?」

 

自分で説明していて顔を熱くしている嶋田も嶋田で世話はない

もっともモニカの方はもっと熱くなり顔から火を吹きそうになっていたが

 

「ふ、ふにゃ、も、もにゅかまき~~~っ!」

 

噛んだ。嶋田的にはとても可愛らしく感じた

ただ、いまのモニカはとても可愛いが、可愛いと言えない羞恥が嶋田にもあるので二人はそのまま立ち尽くす事に

 

月と星の下

 

嶋田繁太郎とモニカ・クルシェフスキーはどこまでも甘く恥ずかしい関係を互いに晒し合っていた

 

 

 



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モニカ・クルシェフスキーだけは嶋田さん分が足りない

日本・ブリタニア首脳会談に際して幼なじみのシャルルを迎えに行った嶋田さん

しかし同じくシャルル陛下を出迎えに来ていたモニカさんは嶋田さんが好き過ぎて好き過ぎて周りが見えないようです
嶋田さんとモニカさんだけが二人の世界で砂糖まみれで、他大部分が血の臭いに苦しみます



 

 

モニカ・クルシェフスキーだけは嶋田さん分が足りない

 

 

 

 

 

 

モニカさんと暮らし始めてもう数年か

 

色々あったな

 

最初の頃は貴族らしいのか騎士らしいのか

生真面目で真剣な顔ばかり。どう接すれば良いのか正直困っていたものだ

 

真面目な貴族

 

お堅い女性

 

鉄面皮な騎士

 

膝の裏にかかるくらいの長く真っ直ぐなさらりと流れる金髪に、おとなしそうでいて笑顔が似合いそうな碧い瞳を持った稀に見るほどのせっかくの美貌が勿体なく感じていた

 

振り返ればあまり良い印象ではなかったようにも思える

 

ブリタニアの駐日武官として、ブリタニア皇帝の騎士として、ブリタニア帝国軍の頂点に立つナイトオブラウンズとして

恥ずかしくないようにと自らを演じていたのかと

 

そう考えていた時期もあった

 

しかしあるとき。やたらとカップ麺を気にする彼女に家の非常食という名目の俺のオヤツだったカップ麺を食べてもらった辺りから妙に表情が解きほぐれてきたような気もする

実際にはカップ麺なんて切っ掛けでしかなく、彼女の悩みや侯爵家次期当主としての御家事情と、モニカさんなりに抱えていた事があったんだけど

 

打ち解けてからは柔らかい微笑みが印象的な。でもやっぱり真面目な女性という感じに変わったのだと思う

 

薄くにこやかに笑う彼女の笑顔こそが、彼女本来の表情なのだろう

 

見ているだけでも心癒されるモニカさんの笑顔、俺は好きだ

 

最近ではまた別の顔を見せてくれるのが俺としては嬉しいかな

 

お菓子作りが苦手なのに一生懸命頑張って作ったり

 

俺に食べてほしいかららしいがまあ独特の味付けながら慣れると普通に美味しくて

 

751: 名無しさん :2018/02/06(火) 20:12:16

 

 

 

モニカ・クルシェフスキーは嶋田さん分が足りません

 

 

いきなりそんな事を口走ったかと思えば、恥ずかしいだろうに俺を抱き締めては頬をすり付けてきたり

 

これについてはこちらもこちらで恥ずかしいがでもこちらは受け止めてあげるしかなく、柔らかく抱き締め返しては頭や髪を撫でてあげながらモニカさんが満足するのを待つ

 

騎士服にマントといったナイトオブトゥエルブとしての正装姿でも遠慮なくやられたりする。あるときには、たまたま場所が秋葉原であったことも手伝い「コスプレ女性に抱き着かれてるおじさん」感が半端なかった

 

いまもそう

 

そうなんだ

いまもそうなんだよ

 

騎士服に黄緑色のマントな正装モニカさんが真正面より俺を抱き締めたままその柔らかい右頬をこちらの右頬に重ね合わせて、すりすりと擦り付けてきていた

 

「あの、ちょっと、まだかなモニカさん」

 

すりすり

柔らかくきめ細やかな肌をした暖かい頬をすりつけられるその音までもが耳に聞こえてる

 

「まだ35%です。私が動くには全然足りないエネルギー量です」

 

35%てそれ全然たまってないんじゃ・・・?

 

「シマダ卿・・・モニカはシマダさん分が足りないと動けないそう・・・いつも言ってる。食事は摂らなくてもシマダさん分が無いと疲れが酷いと」

 

モニカさんの後ろには二股に別れたピンク色のポニーテールが綺麗な、小柄も小柄な体つきをした中学生くらいに見える無表情な少女がいる

あれが彼女の騎士服なのだろう。すこしばかり露出の多目な衣服に、濃いピンク色のマントを着用した少女が棒読み声で伝えてくる

 

「モニカの至福の時間だから」

 

ナイトオブシックス。アーニャ・アールストレイム卿

 

モニカさんより少し後に日本へ派遣駐日ブリタニア大使館に配属されたナイトオブラウンズのひとりだ

体つきだけを見るととても思えないが、モニカさん同様にかなりの剣術を扱える個人戦闘力の高い方らしい

 

「そ、そうなのですか?」

 

「そう。だから、シマダ卿・・・モニカの好きにさせてあげて」

 

口数少なに好きにさせろって

 

いやあの、しかしちょっと困るんだが

モニカさんはお構い無し。周りの声など聞こえないとばかりにすりすりと頬をすりつけ続けている

 

752: 名無しさん :2018/02/06(火) 20:12:46

 

 

 

「クククッフハハハっ! お耳にしてはおりましたが実物を目にすればこいつはお笑い物だ。 よもや天下のクルシェフスキー侯爵家次期当主にしてナイトオブトゥエルブの称号をお持ちのクルシェフスキー卿が借りてきた猫のようだ。ずいぶんと彼女を躾られたようですねぇシマダ卿?」

 

「シマダ卿とモニカに失礼。それにシマダ卿は日本の裏ボス」

 

裏ボスて・・・俺はRPGの登場人物か

 

内心考えながら小柄な少女の隣に目を移す。抑揚の無い声で話すアールストレイム卿の隣にはもうひとりいるのだ

 

逆立てられたオレンジ色の髪に目付きの悪い・・・ああ失礼。肉食獣の如く目付きの鋭い野性味ある視線を向けてくる、不良のような印象の青年が

 

上下とも裾は長い白一色の騎士服

マントは夕日のように鮮やかな明るいオレンジ色

 

ナイトオブラウンズのナイトオブテン、確かルキアーノ・ブラッドリーといったか。その青年は実に不快なにやにやした顔でこちらを見ていた

 

「不快、ですね」

 

口に出てしまう。にやにやしている事が不快なのではない。モニカさんを「躾ている」と罵るような発言が不快だ

 

「おや、これは失礼を」

 

優雅に一礼してくるブラッドリー卿はだが謝ってなどいない。微塵も謝罪の意思を感じられない

 

俺に謝ってどうするね。君が謝らなければならない相手は俺に抱き着いているこの淑女だろうに

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

実に不快だよルキアーノ・ブラッドリーくん

 

 

 

気がつけば俺は彼をくん付けで呼んでいた

 

753: 名無しさん :2018/02/06(火) 20:13:32

 

 

 

空気が変わった

 

和やかだった空気が戦場よりもなお重苦しい空気に

 

発生源はシマダ卿

 

思わず手足から力が抜けそうになるのを踏ん張る事に力を入れてしまった

 

この空気を作り出した原因はルキアーノの不用意な発言

 

ルキアーノは悪い男じゃない。でも誰彼構わず見下したり、非礼な発言をしたり問題ばかりな男でもある

 

ラウンズ内でもヴァルトシュタイン卿以外には平気で気分を害するような余計なひとことを発する男

 

いま、たぶんこの空気に気づいていないのはモニカだけ

 

モニカはシマダ卿に甘えるその時だけは周りが見えなくなるから気づかない

 

ん、そもそも気づかない方が幸せだと思う

 

声だって聞こえていないと思う

 

でも、それでいい。これはきっとシマダ卿もモニカに知られたくない顔だとなんとなしに思うから

 

周囲は。私の親衛隊やルキアーノの親衛隊はみんな息を飲み込んでいる

 

殺気とかじゃない。空気その物が違う

 

そう、これは私達ラウンズには馴染み深くて、でもこれだけの濃厚な臭いは初めて

 

鉄錆びの臭い。血の・・・臭い

 

ふと、ルキアーノの顔を見る

 

「・・・」

 

言葉もなく真っ青になっていた

 

「ルキアーノくんは人殺しの天才だそうですが」

 

くん・・・ルキアーノを子供扱いするなんてまるで陛下のよう

 

でも

 

だけど

 

いま私は、シマダ卿が怖いと感じていた

 

754: 名無しさん :2018/02/06(火) 20:14:19

 

 

 

「一人殺せば殺人犯。百人殺せば英雄と申しますね。才能とは人それぞれ異なるもの。しかし人殺しの才能を誇るのはあまり誉められませんよ」

 

ところでルキアーノくん。貴方は何人殺しましたか?

 

「・・・っ!!」

 

ルキアーノの顔色が真っ青を通り越して白くなっている

 

血の臭いが好きなこの男がこんなになるなんて思ってもみなかった

 

「も、申し訳ありません、でした。シマダ・・・卿」

 

「私に謝ってどうされるのです? 私は私への侮辱や非礼など一切気にしない人間なので謝るのでしたらば」

 

顔中から汗を吹き出させながらルキアーノは謝罪していた。でもシマダ卿は自分に謝られても困るとだけと伝えてモニカの髪を撫で下ろしながら、明らかに誰に対して謝罪の言葉が欲しいのかを指し示しつつルキアーノの反応を待っている

 

するとルキアーノは

 

「も、申し訳なかった、クルシェフスキー卿・・・き、貴殿を侮辱した事をここに謝罪を・・・」

 

モニカに謝った

正解。私でもそうする。この血の臭いには耐えられない

 

でも

 

「嶋田さん分50%です。私にはまだ足りません」

 

「も、モニカさん・・・ちょっと話を聞いてるのかな君は」

 

「すりすり」

 

「すりすりってモニカさん口に出してそんなこと」

 

「すりすり・・・嶋田さん分補給中ですただいま50.01%です」

 

「全然増えてないよモニカさんっ!」

 

モニカはシマダ卿の話も聞かずただひたすらにシマダ卿の頬に自分の頬をすりつけながら抱き着いて離れない

 

「すりすり~っ、嶋田さんすりすり~っ」

 

「ああ~もうわかりましたよモニカさん。必要な栄養分でもなんでもお好きなように補給してください・・・ハァ」

 

それと、鼻を付く鉄錆びの、濃厚に過ぎる血の臭いは、シマダ卿がモニカがすりつけている自分の頬に意識を向けた時にはもう消え失せていた

 

755: 名無しさん :2018/02/06(火) 20:20:05

 

 

モニカが満足するまで周りは今の空気は一体なんだったのかと顔を見合わせている

 

腰を抜かして尻餅を着いているグラウサム・ヴァルキリエ

 

私個人の親衛隊員も

 

みんな一様にあの重苦しく息も詰まる血の臭いから解放されて安堵し、それでいながら不安な表情を浮かべていた

 

「あ、アールストレイム卿・・・」

 

そのひとり。ルキアーノが私に話しかけてくる

 

「クルシェフスキー卿は、いつもあの御仁と共に?」

 

いつも?

 

それはない。モニカも任務中は駐日ブリタニア大使館に積めているからいつでもシマダ卿と一緒な事なんてあるはずがなかった

 

「いつも一緒なわけじゃない。でもモニカはシマダ卿の家に住んでいる。そういった意味では一緒なのかも知れない」

 

モニカは日本に赴任した時よりシマダ卿と一緒に住んでいた

陛下のご紹介だとも聞いていた

その意味ではモニカはシマダ卿といつも一緒なのだと思う

 

モニカはシマダ卿を一人の女として好意を寄せている

 

見ていれば分かる

 

そうでなければ今みたいに私達の目の前でシマダ卿に抱き着きながら「補給」とかいう行為などしないだろう

 

「は、はは・・・なる、ほど・・・。由緒正しく、お行儀の良い、正義感強く弱者に甘いあのお嬢様が、よくも、あ、あのような・・・」

 

 

バケモノと

 

 

幾百万、幾千万、或いは億にも届かん血の臭いを帯びた御仁と共に生活ができるものだ

 

自分なら気が狂う

 

 

 

 

ルキアーノの言葉がどこまで真実なのか。私には分からない

 

ただ。シマダ卿がそれだけの人間の血を直接にまた間接的にも浴びた記録はない

 

きっとまた言い負かされたルキアーノの悔し紛れか言い訳か

 

私はそう結論付けながらシマダ卿を抱き締めては頬をすりつかせているモニカを

自分に抱き着いて離れないモニカの頭や髪を優しそうな顔をして撫でているシマダ卿を見て、ひとり安心感を覚えていた

 

シマダ卿の抱える何かはモニカや幼なじみのシャルル陛下がストッパーになって止めている

 

何かについては分からない

 

モニカはいつもいつでもシマダ卿だけを見ている

 

シマダ卿はモニカを包み、モニカはシマダ卿を包み込みながら、お互いを必要としている

 

それはきっと良いこと

 

誰にとっても良いこと

 

もう間も無く、浮遊航空艦専用駐機場に降り立ったログレスより陛下が降りてくる

 

陛下はシマダ卿にすりついている時のモニカに付いてはなにも言わないから大丈夫

 

けれども、腰を抜かしてしまったロイヤルガードを目にしてなにを思うのだろうか

 

ルキアーノは未だひとり汗を吹き出させて直立していた

 

 



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絶対に作ってはいけないバレンタインチョコレート

バレンタインチョコレートらしいです



 

 

 

絶対に作ってはいけないバレンタインチョコレート

 

 

腰の下まで届く癖の見当たらない真っ直ぐなさらっとした長い金色の髪・・・を、いまは赤いリボンでポニーテールに結わえた碧い瞳の女性

 

ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーは、いま絶対に立ってはいけない場所に立っていた

 

マントの色である明るい緑色のエプロンを着けて立っていた

 

立ってはいけない場所に、そうキッチンに

 

いまではもう嶋田家の家人といっても過言ではない彼女。先の極東戦争、大日本帝国VS清・高麗バックにオセアニアの、地域大戦争では、ブリタニア義勇軍司令官として高麗本土を急襲

高麗首都平壌で第9世代ナイトメアフレームの性能を如何んなく発揮して一騎掛けを行い平壌を陥落させ"戦女神"の二つ名を頂いた、神聖ブリタニア帝国最強の騎士である

 

その腰よりも長い絹糸のような金糸のごとき髪

 

碧い瞳に眉を隠すくらいで切り揃えられた前髪と、その下に浮かぶ柔らかい微笑みといった万人が認める美しき容姿

 

貴族の令嬢らしい、女性らしい所作と言葉遣い

 

正義とはあまねく全ての人々の上に降り注がれなければならないといった騎士の鏡のような信念と本質

 

そんなモニカ・クルシェフスキーとは、いついかなる時であろうと、体の何処を見やろうとも、完璧なる淑女だった

 

「今日は2月14日です。聖バレンタインデー。女性より愛する殿方へとチョコレートをお贈り差し上げる大切な日」

 

瞳を閉じて想い人を脳裏に浮かべるモニカ。恋する乙女はその常より美しき様相を愛する男性を想うことで更に美しく輝かせていた

 

そうだ。モニカ・クルシェフスキーは美しき可憐なる乙女であり淑女

ナイトオブトゥエルブとしてあらゆる敵を切り裂くブリタニア皇帝の最強の剣であり、そして同時に彼女の想い人にして相思相愛にある婚約者、嶋田繁太郎の剣である

 

これは事実の話、ブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの言葉として、ナイトオブトゥエルブモニカ・クルシェフスキーは我が剣であると共に、我が生涯の友たる大日本帝国伯爵嶋田繁太郎を守護せし剣でもある。ブリタニアの将兵は皆これを心得よ。と訓辞を出しているのだ

 

878: 名無しさん :2018/02/14(水) 16:30:19

 

つまりモニカ・クルシェフスキーはブリタニア皇帝の騎士であるが嶋田繁太郎個人が持つ剣であると世界に向けて宣言したわけだ。他ならぬブリタニア皇帝の口で

極東戦争にてその圧倒的なる個人戦闘力を発揮した彼女がよりにもよって日ブを完全に繋ぐ役目を担った

世界はそう考え、いよいよ大日本帝国と神聖ブリタニア帝国によるかつてない大連合帝国の誕生を予見し戦々恐々と、或いは歓喜していた

 

しかし、いまその彼女の動向に歓喜も戦々恐々ともしていない人物がいる

 

それこそが、モニカ・クルシェフスキーが、我が身と剣を捧げし主君、嶋田繁太郎である

 

それはもう無我の境地に到達した達人のごとき静けさを以て、こちらは戦々恐々としているモニカを除いた嶋田家の家人達の眼差しを一身に受け止めていた

 

頑張って下さい旦那様

 

(なにを頑張ればいいんですか?)

 

モニカ様の愛を受け止める御方はこの世でただひとりなのです

 

(言われんでもわかってるよ)

 

旦那様はモニカ様を愛しておられます

 

(だからわかってるよ。俺はモニカさんだけを愛しているさ、婚約もしてるさ)

 

頑張って下さい

 

(だからなにを頑張れと言うんだよなにを!)

 

嶋田はチラ

キッチンを見る

 

見るというよりもチラ見だ

あまり長く見ていると目が痛いから

実際に目が痛い。しばしばしてくる

 

モニカの長いポニーテールがさらり、さらり、と揺れている

彼女の某かを作る動作に併せて金色の長い尻尾が揺れている

 

普通に絵になる

 

綺麗だと思う

 

嶋田はこの世で最も美しいのは彼女の笑顔と喜びと、彼女が努力している姿であるとの確信を持っていた

 

輝いているのだ

 

なによりも、誰よりも、女神よりも、モニカ・クルシェフスキーという女性の姿は尊いと知っていた

 

知っているからこそ言えないこともある

 

あの、ブクブクと音を立てて泡立つ紫色の何かはなんだろうかと

 

モニカのマントはライトグリーン。だがマントの内側の生地は紫色をしている

 

だがしかしそのマントの紫色はとても綺麗で鮮やかな色だと思う

 

寒い日には傍らに立つモニカにマントの中へと誘われ、二人仲良く彼女のマントにくるまれる事もある

 

その時によく見る紫はやはり綺麗だった

 

なにを考えているのかスリットスカートの白い騎士服とあのマントを身に付けて、その騎士服の上からまた黄緑色のエプロンを身に付けるといった実におかしな格好を彼女はしていた

 

家政婦さんの誰かがモニカに大切な時には勝負服を。といった言葉を完璧なまでに勘違いした姿であった

 

879: 名無しさん :2018/02/14(水) 16:30:51

 

(それでいいのだろうかナイトオブトゥエルブモニカ・クルシェフスキー)

 

嶋田は思う。絶対に意味を間違えている

勝負服を本当に戦いの意味での勝負服、戦装束にしている点でもうおかしい

 

いやまだそこまではかろうじて良いとしよう

 

(モニカさんはチョコレートを作ってくれてあおるんたまよなぁ? なんだろうかあれは。なんかマントの内側の生地とはまったく異なり毒々しい紫色の物体は)

 

仮称物体Xとでもしよう

嶋田は彼女から数回チョコレートを戴いている

好意も寄せあい今では婚約者として一緒に生活をしている

 

嶋田は知っているからこそ悩んだのだ

 

モニカ・クルシェフスキーは料理が苦手だ

貴族の淑女ながら、当主として育てられてきたからか

騎士として教育されて来たからか

士官学校で料理を学ぶより前にナイトオブトゥエルブの称号を賜ったからなのか

それは知らない

 

どんな道を歩んできても、できることはできるようになるだろうし

できないことはできないなりの成果となって身に付く物だ

 

そういった意味においてもモニカ・クルシェフスキーは致命的に料理が下手であった

 

しかし嶋田はそれを気にしない

どの様な不味いものであれ、それがモニカの手によって作られた物であるのならば不思議と美味しく感じるのだ

 

好きな女性の手料理

 

美味しくないわけがない

 

だがあれは

 

(違う! あれは危ない! 警鐘が止まらない!)

 

モニカは長いポニーテールを振り振りしながら軽快に、楽しそうに、嬉しそうにその物体X、いまや物体Zと化してきているそれを作っていた

 

「嶋田さん、喜んでくれるでしょうか」

 

ニコニコ微笑みながらの呟きが聞こえてしまった

この時点で嶋田の『モニカさんのチョコレートだから今すぐ食べるなんて勿体ない。後でゆっくりといただくよ』作戦は破綻してしまった

 

愛する女性が、最愛のモニカが、あんなに嬉しそうに食べてもらおうとしている

これを食べないなどという暴挙は嶋田自身が出来やしないのだ

 

「完成、しました・・・!」

 

やりきったといったモニカは爆発も破裂もしなかった紫色から更に変色した固形物を持ってきた

騎士服にマントにエプロンにミトンの手袋

もう服装のチョイスというか、めっちゃくちゃである

 

880: 名無しさん :2018/02/14(水) 16:31:26

 

「あの、嶋田さん」

 

モニカはテーブルに"それ"を置くと、顔を寄せてきた

嶋田は

 

「モニカさん、嬉しいよ」

 

それだけ告げてモニカに顔を寄せていく

 

「んーー」

 

重なる唇。甘い甘い口づけ

モニカのポニーテールに結わえた髪が、嶋田の頬をこすり、更に身を乗り出し寄せくる彼女の体に併せて揺れながら髪の香りを嶋田の頬に、肩に、体になすりつけるようにして彼の背へと金色の長い尻尾が流れ落ちていった

 

「ん、あむっ」

 

甘い口づけは続く

1,2,3,4,5,6,7と、分刻みで甘くて深い、唇の重なりに終わらぬ舌の絡み合いは続いていく

 

いっそこれで終わりなら

 

嶋田がそう思ったとき、無情にもモニカの上気して赤色に染まる頬が離れた

背に流れていた長いポニーテールも彼女の体が離れると共に嶋田の背を肩を滑りながら離れていった

 

残されたのはそう

 

"あれ"

 

"あれ"だけだった

 

"あれ"とか"それ"以外に言い表せる言葉の見つからない物体Zだ

 

それが、嶋田の腹と接するテーブルに鎮座していた

甘い味わいを与えてくれたモニカはというと、テーブルを挟んだ向かい側に座ってただただ期待に満ちたはにかみようでこちらを見ていた

 

さあ食べてください

 

その碧い瞳は物語っている

 

私からのバレンタインチョコレートです

 

・・・・・・この物体Zが?

とは口が裂けても言えない嶋田は今度は自らモニカを一度抱き寄せる

 

嶋田の肩にモニカの頭が

モニカの肩に嶋田の頭が

 

交差する形で載せられた

 

「食べる前に少し、モニカさん分をくれないかい?」

 

嶋田は肩と肩とで互いの頭を載せ合い見つめるモニカと瞳を交わらせてまたキスをした

 

「んっ、んぅ、」

 

キスをしながら頬をすりよせてモニカさん分を補給していく

いつも彼女が行う嶋田さん分の補給の逆パターンだった

 

「こうして頬をすりよせあうと、君を感じられるね我が剣モニカ・クルシェフスキー」

 

「は、い・・・嶋田さんにも、分かりますか? 私がどうして嶋田さん分が必要なのかが」

 

「ああ勿論だよモニカさん。君と俺は互いに求め合わないと駄目なようだね」

 

「・・・はい!」

 

笑顔、眩しいまでの笑顔

モニカの笑顔を見ながら眩しいと思った彼にはモニカさん分は感じられたがきっと、モニカの求める嶋田さん分ほどには理解できてない

 

なにせ彼女を求めた理由が、このブクブクボコボコ泡立っていた物が固まったモニカのマントの内側生地の紫とは似ても似つかぬ毒色な紫の物体を食べる勇気がほしかったからだ

 

「ありがとうモニカさん。これからもモニカさん分を求めても、いいかな?」

 

「も、勿論です嶋田さん・・・我が愛しき主・・・」

 

もう一度、頬を重ね合わせた嶋田とモニカ

そして、すっと離れるモニカの頬

 

嶋田は今ほどモニカと触れ合う事が愛しいと感じたことはなかった。彼女が離れれば待っているのは物体Xを超越した物体Zだからだ

 

(いや、モニカさんだって貴族の娘。まさか食べられないものを作ったりは)

 

物体Z。なんだか変な顔が浮かんでいるようにも見える

 

(これ、チョコレートだよな? な! そうだよなモニカさん!)

 

モニカを見る、モニカは待っている

彼が食べてくれるのを待っている

 

(う、うう、うあぁ・・・くそっ行くぞ俺ェェェ!!)

 

嶋田は、モニカが作った物体、その名も無き毒紫の物体Zを一気に口へと書き込み咀嚼した

 

881: 名無しさん :2018/02/14(水) 16:32:08

 

「う、」

 

「う、なんでしょう? う、なんでしょうかっ!?」

 

「うまい! いや、最高に美味しいよ! なんて美味しさなんだ君の、モニカさんの想いが込められたチョコレートは! この世で食べたどんな物も色褪せてしまう美味しさだ!」

 

嶋田は叫んで立ち上がるとモニカを力強く抱き締めた

 

「あ、ありがとう! ありがとうっモニカさん! 君のような女性を妻にするなんて、幸せで"死にそう"だ!!」

 

モニカを妻にするのが幸せで死にそう

合ってる

モニカへのお礼と最高の食べ物

合ってる

 

「嶋田さんっ・・・! わ、私は、モニカ・クルシェフスキーは貴方を主に持ち、貴方と添い遂げられる事を誇りに思いますっ!!」

 

感極まって涙を流すモニカ

嶋田はそんなモニカに頬を寄せすりつけた

 

モニカも感じていた。嶋田の感じているだろう幸せを

涙を流すほどに自らとの結婚を喜んでくれていることを

感極まり体を"震わせていることを"

 

モニカ以外は嶋田の、主人の顔が見えていた。モニカと出会えた喜びと、モニカと想い寄せ会えた喜びと、婚約者としてやがては夫婦となる本当に心から幸せな嶋田の表情と

 

 

 

 

 

毒紫色に染まり汗を垂れ流す苦悶の表情を

 

 

 

モニカ以外の嶋田家の全家人が見つめていた

 

もちろん、空気を読んで誰も言葉を発っさなかったのは語るまでも無きことである

 

 

翌日から嶋田は、嶋田家家人の自称他称『インフルエンザ』で約10日間ほど寝込んだ

戦女神モニカの嶋田への献身振りは誰から見ても夫婦と呼べる間柄にある者同士であったことも言うまでもないことであった

 

ただ、一点

 

こうなった原因を他ならぬモニカが知らない事を除いて

 

知らずにすめばそれでいい

 

嶋田は回復後にそう呟いたとかなんとか

 

 

 

 

 

 

酒飲んで危機回避?

 

 



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いつまでも甘いおふたりさんに題名のないネタながら付けるなら『いつまで子供つくるの?』

 

 

 

いつまでも甘いおふたりさんに題名のないネタながら付けるなら『いつまで子供つくるの?』

 

 

 

 

 

皇歴2XXX

 

 

2XXX年代、火星は大日本帝国と神聖ブリタニア帝国により開発されて久しく。両国が東西に分けて統治していた

 

そんな火星。どこ行っても火星。日本領だろうがブリタニア領だろうが両国人間では行き来自由な火星でブリタニア皇族ユーフェミア・リ・ブリタニアは日本領で第88子を生んだ

 

 

 

皇歴2XXX年代

 

ブリタニア帝国領エウロパ

 

木星圏に到達した大日本帝国と神聖ブリタニア帝国。テラフォーミングされた木星四大衛星のうちカリスト・イオが大日本帝国領

 

ガニメデ・エウロパが神聖ブリタニア帝国領となる。そのエウロパはブリタニア皇族リ家のいくつ目になるのだろう離宮で桃色の長い髪の柔和な表情の女性ユーフェミア・リ・ブリタニアは、隣に立つシゲタロウ・シマダ・リ・ブリタニアと二人で先月生まれた赤ん坊第238子をあやしていた

 

 

皇歴

 

30XX年、土星、天王星、海王星と居住可能にテラフォーミングし次々に開拓していったそれぞれの大型ガス惑星の衛星群

 

やはり大日本帝国と神聖ブリタニア帝国が一番乗りしていた為にかなりの衛星を自国領土として編入していた両国の大日本帝国天王星トリトンの中央都病院で、ブリタニア帝国リ家皇族ユーフェミアは、汗を流して苦悶の表情を浮かべながら、最後に叫び大きな吐息を吐き出した

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、し、シゲタロウ、」

 

夫を求める彼女の手にシゲタロウ・シマダ・リ・ブリタニア。旧名嶋田繁太郎は強く握り返して妻の闘いに賛辞を述べた

 

「よく、よく頑張ったなユフィっ!」

 

嶋田とユーフェミアが歓喜の表情を浮かべながら、ユーフェミアは闘い抜いた女闘士の表情で、手を握り合う

 

「シゲタロウ様、ユーフェミア様、元気な皇女様でございますっ」

 

立ち会い親王を取り上げたリ家の御殿医も顔を綻ばせる

リ家の看護師が殿医に続いた

 

「500番目の御子様誕生にございます。シゲタロウ様、ユーフェミア様、おめでとうございます」

 

84: 名無しさん :2018/02/21(水) 23:42:49

 

そして暫くのち

 

 

 

 

肌を重ねて抱き合うように眠るシゲタロウ・シマダ・リ・ブリタニアこと嶋田繁太郎と、ユーフェミア・リ・ブリタニア

 

二人は冥王星の衛星カロンのブリタニア領リ家離宮、小惑星帯にも構えている為にいくつになるのか個人では本当にわからなくなってきた離宮のなか、嶋田が欲しいからと言って設計された和室から暗い外の、カロンの空に広がる星々を眺めていた

 

「ユフィ、なんだか悪いね俺の子を生んでもらってばかりで」

 

嶋田は側室を持たない。地球より続く長き皇家の中には側室を持つ者もいたが、嶋田はユーフェミアだけを愛すると誓い今まで生きてきた

 

であるが故に嶋田の子、リ家の皇子皇女777人は、ユーフェミアがひとりで生んできた

 

嶋田の愛を受けて

 

嶋田の愛を受け入れて

 

嶋田の

 

「ヒロユキの子を生むのはわたくしだけの特権ですもの・・・」

 

秘密の名を知るユーフェミアだけが、ただひとえに嶋田を愛するが故に

 

「近く懐妊となれば今日の睦事なのでしょうね」

 

ユーフェミアは嶋田の胸に頭をすり付ける

 

「今日の愛はここ最近の中でもっとも・・・深く・・・熱く・・・わたくしもその日ですしね」

 

「すまなかったね・・・今夜はどうも自分を抑えられずにユフィを」

 

別にいい

 

どうでもいい

 

ただこうして二人だけの愛が紡がれて行くのなら

 

嶋田もユーフェミアも考えることは同じだった

 

同じであるが故に

 

「アッ・・・」

 

ユーフェミアは嶋田にまた始められることを

 

「ユーフェミア・・・」

 

「ん、あ・・・シゲタロ・・・!」

 

嶋田はまたユーフェミアを愛することを

 

カロンの星々の下で理解し合っていた

 

85: 名無しさん :2018/02/21(水) 23:46:57

 

 

 

神聖ブリタニア帝国皇家リ家会議

 

 

どこか嶋田に似たところのあるリ家の重鎮のひとりが言った

 

「高祖父様と高祖母様が和室に入ってよりかれこれ5時間になるか?」

 

また嶋田に似たリ家の重鎮が応じた

 

「いや、7時間ではないのか?」

 

更に別の重鎮が繋いだ

 

「違う8時間23分と57秒、58秒、またリ家内の皇家が増えてしまう事になるのか・・・はぁ、」

 

いっぽうユーフェミアに似た女性のリ家重鎮が話す

 

「構わないではありませんか。高祖父様と高祖母様はリ家分家始祖様ですもの。誰もその御方針、御行動に対し口をさしはさむ事など許されることではありません。それに、新たなリ家分家の分家たる皇家がひとつ増えるだけですわ」

 

「御貴殿は簡単に申されるが、リ家分家の分家はすでに777家なのですぞ?」

 

「とわたくしに申されましても高祖父様と高祖母様はコードユーザーです。永劫を生きて行かれる方々同士のその崇高なる愛を止めるなど誰にできましょうや。ロマンチックですわぁ高祖父様と高祖母様の愛の物語は」

 

ユーフェミアに似た女性は手にした恋愛物語を開く

それは地球時代の嶋田とユーフェミアの出会いから結婚に至るまでの道程が描かれし女子必須の恋愛小説として、今では映画にまでなっていた甘いあまーい物語の書籍である

 

 

こうして、リ家の会議は夜を跨いで続けられた

 

そして神聖ブリタニア帝国リ家分家始祖の片割れ、高祖父と呼ばれる嶋田繁太郎=シゲタロウ・シマダ・リ・ブリタニアと

嶋田と同じリ家分家始祖の片割れ、高祖母と呼ばれるユーフェミア・リ・ブリタニアの長い夜も終わらない

 

 

 



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とある皇女と輝ける星

こんなやり取りだってあるんじゃないかなあと思った


 

 

 

とある皇女と輝ける星

 

 

 

 

常に鋭さを隠さずにいる眼差し

野性味ある逆立てられた頭髪

ブリタニア人の父とスペイン人の母の間に生まれたその美丈夫は、現状の欧州惹いては祖国スペインの為に立ち上がった男のひとりであった

 

フェルナンド・ノリエガ

 

スペインの反ユーロピア共和国連合組織マドリードの星のリーダーである彼は、なにかと便宜や軍事教練の場を与えてくれている神聖ブリタニア帝国大グリンダ騎士団の最高司令官と会っていた

 

ブリタニア最優の盟邦

ブリタニアの家族

神聖ブリタニア帝国のただひとつの対等な関係を持つ同盟国

 

南ブリタニアで見せたように時に苛烈な顔も持つ彼のブリタニアと並び立ち

技術の名を冠し

南太平洋の一部

北太平洋からベーリング海

果ては北氷洋の一部までの広大な海域を支配下に収める大海洋国家

 

大日本帝国

 

帝都東京の電脳街秋葉原で

彼はスカートの裾に沿い二筋の黒いラインの入った白いワンピースに身を包む

濃い朱の長髪を頭の右後ろで一纏めにした、美しさと麗しさを湛えた女性を前に深く頭を下げていた

 

「度々となる格別なご配慮、マドリードの星を代表して感謝申し上げますマリーベル・メル」

 

頭を下げて日頃よりの感謝を述べようとする

それはだが当の相手によって止められた

 

「ストップです」

 

彼女は自分の名前を口にした

 

「マリーベル・メル某さんではありません。わたくしはマリーベル・ランペルージです。お間違えなきよう」

 

迂闊な事は避けてほしい

暗にそう告げている

 

「公務外で日本にいるとき、わたくしと親族は皆ランペルージです。ですので、そのように」

 

そしてマドリードの星の名も出してはならない

ユーロブリタニアから支援され、大グリンダからは訓練の場を与えられているマドリードの星だが、太平洋経済圏では腐り果てたユーロピアを打倒するレジスタンスとして

欧州圏では国際テロ組織に指定されている有名な組織の名前であるから

 

「失礼した。危うく見知らぬ相手と間違えるところだった」

「お願いしますね。日本はランペルージという名義でなら自由に寛げるオアシスのような国なのですから」

「オアシスか。大変ですねあなた方ではなく、あなた方を御守りする立場にあられる方々にとっては」

「承知しておりますわ。皆には一族揃って迷惑をかけていると」

 

マリーベルはいたずらっ子のように微笑む

彼女の一族ときたら揃いも揃ってランペルージだからを言い訳に日本ではのびのびと羽を伸ばしているのだ

 

「日本にいると自分が如何に堅苦しい場所で仕事をしているのか分かるのです」

 

自由がない

 

マリーベル・ランペルージ

マリーベル・メル・ブリタニアはフェルナンドを前にため息をひとつ吐いた

 

「自由が無い故に自由に憧れを持つ。あなた方一族や尊き立場の方々が常々口にされているな。持つ者と持たない者は立場変われど持つ者と持たない者という事ですか」

「ええ」

 

皇族や貴族が持つ物

平民が持つ物

互いに相手は持っていて自分は持たぬそれに憧れを抱かずにいられない

人間とはつくづく我が儘な生き物だと二人は笑った

 

286: 名無しさん :2018/03/06(火) 15:38:35

 

「それでフェルナンド。あなたは態々わたくしへお礼を述べる為だけに日本へ?」

 

それならこんな人目につくカフェテラスではなく駐日ブリタニア大使館に顔を出してほしかった

マリーベルとしては目立って正体がバレては堪らないと抗議の意を載せた言葉を投げ掛けたつもりだったが

 

「まさか。それも目的のひとつですがね」

 

ランペルージを名乗ろうがブリタニアの皇女。繰り出されるジャブを正面から受け止めるには重すぎると、フェルナンドにあっさりかわされてしまった

 

「もうひとつは尊き方からのお呼びだしです」

 

フェルナンドが尊き方と呼びその名を隠すビッグネームは、現日本政府の後ろ楯である夢幻会との交渉に赴くため来日していたユーロブリタニア宗主ヴェランス大公の事だった

腐れた野心家や我欲にまみれた三百人委員会の支配下にある欧州の解放に備えて爪を研ぐ世界最大の反ユーロピアレジスタンス組織の長

 

「尊きお方は何と?」

「欧州の夜明けに向けて血気に走りそうな若者を多く抱える我々に対して決して先走るな。歩調を合わせよ。と釘を刺されました。新たな援助の確約と、各レジスタンス間の最終的な合流も視野に入れた会談を明後日赤坂で行う故に」

「参加せよと」

「はい。あなたも勿論?」

「いいえ。こちら側の代表はわたくしの兄ですわ」

 

名前は出さない

出さずと分かる名を出す必要もない

マリーベルの話で彼女の兄とはブリタニア帝国の宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアであると察したフェルナンドは緊張を隠せずにいた

 

「日本側からも前任者の中より交渉事に長けた方がお二人参加なさるというお話です」

 

カチャ

 

皿に載せられたカップを皿事手にし、言葉を切って紅茶をひとくち

涼しげに言うマリーベルにまたフェルナンドの緊張が増し、浮かんだ汗が雫となって頬を伝う

日本側の前任とは、いずれも名高き者が揃い踏みの前内閣の事だ

そこから二人も参加する

 

「それは、また。・・・大物ばかりだな」

 

矮小な自分は場違いだと自らを嘲るフェルナンド

 

「いいえそれは違いますわフェルナンド」

 

だがマリーベルは左右へ首を降りフェルナンドの発言を封殺した

 

「あなたもまた欧州を憂うおひとりです。立場は違えど尊き方の同志であると申せましょう。ですから我が祖国もわたくしもあなた方への支援をしている。日本もそうです」

 

凛とした青い瞳がフェルナンドを射抜き、彼の心胆にヴェランス大公もフェルナンドも。

ユーロブリタニアもマドリードの星も同列なのだとマリーベルは出さない声で轟かせた

 

「そう、か」

「はい」

「そう、だな」

 

そうなのだヴェランス大公はその地位も立場も三百人委員会の在り方を否定していた欧州大統領のひとりアドルフ・ヒトラーと共に欧州を束ねる盟主となるひとだが、今はまだブリタニアという家に居候している根なし草

三百人委員会こそが欧州であるとしている今のユーロピアではテロ組織扱いの異端者マドリードの星のリーダーである自分と同じような立場なのだ

 

「明後日の会談が実りある物となるよう、わたくしも祈っておりますわ」

「ありがとうございますマリーベル、ランペルージさん」

「お気になさらず」

 

対テロ特殊作戦軍の長が欧州ではテロ組織に指定されているグループのリーダーとお茶をする不思議な昼の光景だった

 

287: 名無しさん :2018/03/06(火) 15:40:15

 

ブブブブ

 

話終えたタイミング

絶妙な時を見計らうかのようにしてマリーベルの携帯が震えた

画面を見る彼女

 

「なんでしょうこのような時間に」

 

青い瞳がまたフェルナンドを捉えた

柔らかそうな表情からは喜怒哀楽の喜の感情を感じさせられた

 

「すみませんフェルナンド。少しお電話を」

「い、いや構わない」

 

すわシュナイゼル殿下かと思ったフェルナンドだが

 

「はいマリーです。はい、はい・・・え、50000円貸してほしい?」

 

これはシュナイゼルではないと悟った

 

(いったい誰なんだろうか)

 

ブリタニアの皇女殿下からお金を借りようとして気軽に電話をかけてくる

彼にはその相手が何者を想像すらできなかった

 

「はい、はい、無利子無催促で?」

 

なんだその厚かましさは

 

漏れ聞こえたマリーベルの携帯からの声は「頼む! 後生だ!」だった

 

「ええ、はい・・・まあそれは。うふふ・・・ええ、構いませんわ。はい。それでは16時にお部屋へ伺います。はい、ごきげんよう」

 

(マリーベル殿下が部屋へ・・・それほどに親しいのならやはり身内なのか?)

 

益々以て分からなくなるフェルナンドであった

 

 

 

 

 



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日雇い作業員

 

 

日雇い作業員

 

 

 

 

 

 

その日、嶋田繁太郎は家でのんびりしていた

 

のんびりしている家は広さからして、一般的には屋敷と呼ばれるくらいの敷地面積を持つ家で、同居人や家政婦以外にも、多数の警備員や同居人の親衛隊の一部が常駐していた

 

当たり前のこと、門番もプロフェッショナルな警備員だったりする

 

これらは嘗て嶋田が日本の宰相だったからということも大いに関係していた

 

嶋田の家には庭もある

 

庭園と呼べる広い広いお庭だった

 

嶋田は余暇をのんびり過ごしながら、お庭を眺めていた

 

お庭には草むしりをしている人がいた

 

「いつもすまないねえ」

 

ぺこり

 

嶋田の声に草むしりをしていた人が頭を下げた

 

310: 名無しさん :2018/05/17(木) 18:52:01

 

 

モニカ・クルシェフスキーは昼前に書類仕事を終えていた

駐日ブリタニア大使館で駐在武官を務めている彼女には、彼女専用の仕事場、部屋がある

 

モニカはデスクから立つと、その自分のお部屋から外に出た

 

部屋の外は出鱈目に広い

 

超大国日本の帝都東京には、仮想敵といえどもユーロピア大使館や、日本との破綻寸前だった関係修復について焦っている中華連邦など、鎖国をしているオセアニアを除いた世界に名だたる大国の大使館が集中している

大国にはそれぞれに大きな大使館があったが、中でも日本の同盟国ブリタニアの大使館は、他国の大使館と比べると、一線を越えた広大な敷地面積と官邸を構える大大使館となっていた

 

だから廊下も出鱈目に広いわけだった

 

モニカはその広い廊下を歩きながら休憩をとる為に庭へ向かう

 

道すがら、廊下をこちらへ歩いてくる人がいた

 

掃除道具を持っている

 

モニカは足を止めてその人に声をかけた

 

「いつもご苦労様です」

 

ぺこり

 

モニカに挨拶をされた人は小さくお辞儀をすると、廊下の突き当たりへと消えていった

 

311: 名無しさん :2018/05/17(木) 18:52:36

 

ブリタニア大使館には大使館だけあってもちろん大使の執務室がある

 

駐日大使はなんとブリタニア帝国の第二皇女で、その大使の補佐をしているのは同国の第三皇女だった

 

大使館で駐在武官の任に就いているモニカ・クルシェフスキーは同帝国最強の騎士にして、最上位の貴族でもあるナイトオブラウンズという階級にあり、更には同国の皇族自らが大使館に勤めている

 

その一点だけでブリタニアという国と日本がどれだけ強い結び付きにあるかを示していた

 

コンコン

 

その日本においてのブリタニア帝国最上位者の二人はノックされた部屋扉へ声をかける

 

「入れ」

 

「お入りください」

 

その声に応対する形で人が入ってきた

 

「ああ、お前か」

 

第二皇女のコーネリア大使は入ってきた人に一瞥を寄越す

 

「いつも通り私やユーフェミア補佐官のことは気にせず作業をしてくれ」

 

ぺこり

 

入ってきた人は声をかけてきたコーネリア大使に頭を下げた

 

「いつもありがとうございます」

 

ぺこり

 

入ってきた人はユーフェミア補佐官にも頭を下げた

 

312: 名無しさん :2018/05/17(木) 18:53:11

 

 

夕刻

 

「んー、今日も一日何事も起こらなかったわね」

 

駐日ブリタニア大使館の警備責任者リーライナ・ヴェルガモンは、西の空へ沈み行く夕日に翡翠色の瞳を向けて呟いていた

 

その彼女の後ろへ一人の人が静かに歩み寄ってきた

気配に振り返るリーライナは、その人が誰かに気付いて力を抜いた

 

「あら、あなたでしたの」

 

リーライナの言葉遣いが良家の子女のごとき口調へとあらたまる

 

ぺこり

 

作業着を着たその人は彼女に頭を下げた

 

「今日も一日お疲れ様でした」

 

退館の挨拶に来たその人をリーライナは労った

 

そこへ

 

「あの、お待ちくださいな」

 

突然ユーフェミア補佐官がやってきた

 

「ユーフェミア様」

 

ビッとブリタニア式の敬礼をするリーライナと、ぺこりとユーフェミア補佐官に頭を下げるその人

 

「ヴェルガモン卿、申し訳有りませんが少しだけ席をお外しください」

 

「イエスユアハイネス」

 

少し離れたリーライナは聞き耳を立てる

 

『あの、クルシェフスキー卿に変わった様子はございませんでしたか?』

 

「?」

 

なんのことか分からないとふるふる首を降るその人に、ユーフェミア補佐官は、ホッとしたように胸にてを当てて「そうですか」とごちていた

 

そば耳を立てていたリーライナはまたかと思った

 

「ユーフェミア様とモニカ様の争いはシマダ卿がシャルル陛下のようにお二方とも娶るとかの結論を出さなければ終わらないのかも知れないわね・・・。ほんと、私はいっくんと一対一の恋でよかったわぁ」

 

313: 名無しさん :2018/05/17(木) 18:53:47

 

 

夕暮れ時、一目見た感触では柄の悪そうな印象を受ける男、東京にあるBARの店員玉城真一郎は、開店前の店内を掃除する人に声をかけた

 

「おい、おせーぞ。もうすぐ開店時間だっつーのにいつまでモップがけやってんだよ」

 

玉城は一人、カウンター席に腰掛けながら、掃除をしている人に急ぐようにと指示を出した

 

ぺこり

 

その人は謝るように頭を下げると、言い訳ひとつせずに手際よく仕事をこなしながら、なんとか開店前に作業を終わらせていた

 

「おう、まあ合格点だな」

 

どや顔で決める玉城にその人はぺこり

 

「平店員の分際で偉そうだねお兄ちゃん」

 

そこへ別の声がかかる

それは一人の少女のものであった

 

「うっせーよ、学生がこんなとこ来てんじゃねー」

 

店の奥の勝手口から入ってきた少女のことを玉城は注意する

しかし少女はそれを平然と受け流してみせた

 

「パパの言い付けでお兄ちゃんの勤務態度を見に来たんだけどさ、お兄ちゃんはいつから人を扱き使えるほど偉くなったのかなあ? クララお兄ちゃんの勤務態度を報告しなくちゃいけなくなるかも」

 

「うぐっ」

 

黙らされた玉城は、黙らせた少女クララに口答えができなかった

 

「い、いや、あれだよな。ちょっとじゃれてただけだよな? な?」

 

助けを求めるような玉城にその人はぺこりと頷いた

 

「お兄ちゃんを庇わなくってもいいんだよ?」

 

ふるふる

 

その人は庇ってないよと首を降った

 

「ふーん、まあそれならいいんだけどね。じゃ仕事前のチュー」

 

背伸びをして玉城にキスをしようとするクララ

 

「うおっ、やめろ馬鹿っ」

 

その人はぼーっと眺めながら、逃げようとした玉城の背中を後ろから押していた

 

ちゅ

 

「てめっ、なにするだーーっっ」

 

「うふふふ、お兄ちゃんの唇GETだね。ナイスアシストだったよ―――くん」

 

ぺこり

 

その人はクララに頭を下げて作業終了を伝えると店から出ていった

 

314: 名無しさん :2018/05/17(木) 18:54:28

 

 

ある日の早朝、日曜日

 

嶋田屋敷ほどではないにしろ、広いお庭で、その人は草むしりをしていた

そこはある元大物政治家で、嶋田繁太郎と同等の華族位を持つ者の邸宅であった

 

その人は、庭と面した縁側に姿を現したこのお屋敷の主で、件の大物政治家にして昔は帝国海軍の将帥だった山本五十六と出会した

そして、週に二日、清掃員の一人として呼ばれるブリタニア大使館で、顔見知りとなっていたリーライナ・ヴェルガモンとも出会した

 

「あっ、朝早くから御苦労」

 

焦る山本は浴衣着姿で少し汗ばんでいた

長距離マラソンをしたように顔が紅い

 

「お、お疲れ様です、こ、ここでもお仕事をなされていたのですね」

 

焦るリーライナは、何故かレオタードのような黒と紫紺のKMFパイロットスーツ姿で、こちらも金色の髪が汗に濡れてほつれている、顔も紅色で珠のような汗が幾筋か流れた痕跡があった

 

二人に共通しているのは、息を切らしている様子と汗ばんだ感じに、着衣まで濡れた様子。

 

「・・・」

 

日曜日、時間は早朝。その人が二人と出会したのは偶然だが、二人が交際していることは周知の事実として誰でも知っていた

 

あまりニュースを観ないその人も、それくらいのことは知っている

 

ぺこり

 

非常に丁寧なお辞儀をして、固まったままでいる山本邸の家主と同様に固まるブリタニア大使館の警備員を務める騎士を見つめたその人は、無言のままスタスタとその場を離れた

 

その人は思った

 

着衣でのこともあるだろうと

 

315: 名無しさん :2018/05/17(木) 18:55:00

 

 

同じ日の午後、その人は眼鏡をかけた壮年紳士が見ている中でせっせと草むしりをしていた

 

眼鏡の紳士は辻政信という

 

日本のお金事情に精通しており、財界とも深いパイプを持つ大物政治家だった

 

「急なお呼び出しですみません。この季節、少し雨が続くとこのようになってしまいますので」

 

辻は真新しい雑草の生えた庭を見回しながらその人に言った

 

「寡黙でお仕事熱心な貴方になら万事任せられますね。急な呼び出しでしたので、給金には色をつけさせていただきますよ」

 

316: 名無しさん :2018/05/17(木) 18:55:39

 

 

僕は倉崎の研究所、の敷地に呼ばれていた

 

真由とのデートだったのに、主任に呼び出されてどうしてもって頼み込まれてしまったからだ

 

そのお詫びとしてネズミーランドと、帝国スタジオジャパンの年間フリーパスをもらえたけど、見返りは大きくても真由との約束を破る形になったのは辛かった

 

「いや、ほんとに呼び立ててごめんね。テストパイロットの一人が体調不良で人員に穴が開いてしまってね。高度なKMF操縦技術を持つテストパイロットとなると、君くらいしか思い当たらなくて」

 

主任は申し訳ないと謝る

 

「いえ、僕しか代役が務まらないのでしたら仕方がありませんし・・・」

 

こう、平身低頭に謝罪されたら怒るに怒れない

 

「じゃあ、説明するよ。今日乗ってもらうのは第九世代機の量産タイプでね。強大な敵機を向こうにどこまで戦えるのかを検証したいんだ。知っての通り我が倉崎の開発したフリーダムや、ブリタニアのアルビオンはその高すぎる性能と開発費の為に量産が難しい。いや、量産できるだけの予算はあるんだけど乗り手の方がね。君や、クルシェフスキー卿、他には枢木総理大臣のご子息のスザクくんくらいしかいない。だから性能を落とした謂わばロータイプの、熟練者ならば誰でも操ることが可能な第九世代機を開発できないかと検討されて、プロトタイプだけど数機作り上げたんだ。『我が開発チームが』」

 

数機、フリーダムと似た機体に、まったく外観の異なる見たことのない機体

もう一機はウィンダムと似ている機体と、三種類あった

 

「それで僕が、ですか」

 

「そう君が必要だった。KMFの性能をフルに活かしきることのできる君がね。ただし、今回の対戦相手は以前君が戦ったクルシェフスキー卿と同じくらいに難しい相手だよ」

 

そう言って紹介された対戦相手はパイロットじゃなかった

間をおくことなく、研究所の飛行場がある方から飛んできた、とんでもなく大きな胴体だけでできたような赤銅色の機体と、同じくらいに大きな黄色のボールみたいな機体だった

 

「紹介しよう、というか知ってるだろうね。あの赤い機体の名はエルファバ。もう一機は知らないだろうが機体名はジークフリート。二機ともにナイトギガフォートレスと呼ばれる機体だ。パイロットは」

 

「わ、分かってます。エルファバのパイロットはブリタニアのマリーベル皇女殿下ですよね?」

 

あの大きな機体を乗り回しているブリタニアの姫は有名だから

 

「そうだよそのマリーベル皇女殿下だ。ちょうど日本に来訪されていてね、ナイトギガフォートレスの乗り手としては間違いなくプロフェッショナルであらせられる殿下に協力を取り付けたのさ。そして、もう一機のジークフリートの方のパイロットのかたには少し事情があって話せないんだがね」

 

そう言って、主任は僕をフリーダムと似通った機体に乗るように指示をした

 

ブリタニアのお姫様に協力を取り付けるなんて主任はすごい人だな

顔見知りじゃないとできないよね?

 

でもまさかブリタニアの皇女殿下と模擬戦をすることになるとは思ってもみなかった

あと、ジークフリートっていう機体には誰が乗っているんだろうか

 

尽きない疑問に皇女殿下を待たせるなんてできないと僕はフリーダムに似た機体に乗り込んだ

向こうは二機でこっちは三機

なんだけど、パイロットがいない

 

317: 名無しさん :2018/05/17(木) 18:56:50

 

どうしたんだろうと思ったら、もう乗り込んでいたみたいだった

 

ああ、本当に急なことだったんだな

待機状態で僕の到着を待っていたなんて

 

主任、皇女殿下に対して不敬なんじゃ・・・

 

無線から主任の声が聞こえる

 

『さてと、それじゃマリーベル皇女殿下。Vつ・・・と、ブイさん。お願いします』

 

主任に続いてエルファバのマリーベル殿下が軽く挨拶をなさって、僕、じゃなく、僕の隣にいる実証機の人に話しかけていた

 

『了解いたしました・・・ウフフフ、私お聞きいたしておりますの・・・。あなたがッ!クララとお兄様をキスさせたことをッ!』

 

急加速して突撃してくるエルファバ

すごい殺気だった

 

怖い、この感じは知ってる

真由が怒ってるときとそっくりなんだ

対して僕に向かってくる丸っこいジークフリートは、普通の速度と軌道で来た

 

『君のことは倉崎主任から聞いているよ。悪いね急な呼び出しになっちゃってさ』

 

ジークフリートの人の声はまるで子供みたいな声音で感情を感じさせないだった

けれども、僕を気遣ってくれるその台詞はどこかしら親戚のおじさんとか、そんな雰囲気で。

 

『いえ、これもお仕事ですから』

 

『そう言ってくれると助かるよ。ああそれとね、あっちはもう無視したらいいから』

 

あっちって、皇女殿下をあっちって言ってしまうなんて、この子供みたいな声をした人は何者なん―――

 

 

 

 

『覚悟なさいませヒロシさんッ!!』

 

 

 

 

ヒロシって誰ェェェェーーー!!?

 

 

 



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アッシュフォード新聞部 超常現象特集

 

 

 

191 :202:2013/07/05(金) 14:53:16

 

 

アッシュフォード新聞部 超常現象特集

 

 

 

特集! 帝都東京に住まう鬼ババアの怪!

 

 

UFO 宇宙人 幽霊 超能力 兎角この世には不思議なことが多いもの。

世界最先端を行く日本の科学力を持ってしても解明できないこれらの中に 年を取らない怪人の情報がある。

 

今日は危険を顧みず取材を受けてくれたシゲチー氏(仮名)にお話しをお伺いしたいと思います。

 

 

「どうも こんにちは」

 

「こんにちは」

 

「今日は編集部にまで足を運んで頂きましてありがとうございます」

 

「いえ 歩いてこれる距離ですから大した事はありませんよ それより僕の名前・顔・住所・年齢・素性 全て非公開でお願いしますよ」

 

「それについてはご安心下さい シゲチー氏に関する一切の情報は外部に漏らさないよう 万全の体制を整えておりますので」

 

「ならいいのですが」

 

「では早速 シゲチー氏は年を取らない怪人を御存じであると耳にしたのですが これは事実なのでしょうか?」

 

「はい事実です 今日も顔を合わせたのですが ハッキリ言って化け物です」

 

「ば 化け物ですか? ではその人物というのは怪物のように恐ろしい顔をしていると?」

 

「ええ鬼のような老婆です 世界で三本指に入ると推測される戦闘力を持つ恐るべき老婆です」

 

「な なんと それは恐ろしい」

 

「人間には限界というものがあるのは御存じかと思われますが この老婆は若い頃に 確か二十代の前半にどうしても必要に駆られて肉体改造まがいの訓練を受けて限界を超えてしまい

 以来 一騎当千は疎か 一騎当万の力を身に付けたらしいのです」

 

「では 元は普通の人間だったと?」

 

「いいえ違います 元より超人の類であったのですが 殻を破って怪物に変貌してしまった生き物なのです・・・・ そして外見がまた恐ろしいのひと言」

 

「外見? 確かに先ほどお伺いした鬼のような老婆というなら恐ろしいのひと言に尽きますが そうではないと?」

 

「はい 普段はまったく別の姿をして油断を誘っていますね ひと言で言うなら女子大生です」

 

「女子大生? まさかとは思いますが 女子大生に見えるくらいお若いとか?」

 

「その通りです 外見的な特徴としては長い金髪に碧い目 背丈は高くもなく低くもない二十代のブリタニア系日本人女性かブリタニア人と言ったところですが しかしその実 今年で還暦を迎える老人なのです」

 

「還暦でありながら見掛けは二十代 まさに年を取らない怪人ですね それでいてとてつもない怪力を持つ化け物 これは一度直に見てみたいものですが?」

 

「止めた方がいいです 命の保証が出来ません その代わりといっては少々物足りないと思いますが 写真があります」

 

「どれどれ 拝見させて頂きます・・・・ こ これは・・・」

 

「どうです若いでしょう これで六十歳の老婆なんです」

 

「お美しい方ですね 思わず見惚れてしまいそうですが」

 

「しかし ひとたび荒ぶると それは恐ろしい形相で襲いかかってくる恐怖の鬼ババアなのです!」

 

「成程 この見掛けはまさに食虫植物と同じだと しかし何故年を取らないのでしょうか?」

 

「これが未だもってわからないんです 科学で解明できない事もあるとしか言えない状況でして」

 

「人間を超えた怪力を持ち年を取らない鬼ババア・・・・恐ろしい」

 

「そう この恐るべき鬼ババアはこの帝都東京に潜み 今この時も獲物を探しているのです」

 

192 :202:2013/07/05(金) 14:54:26

 

 

「シゲチーくんお疲れ様」

 

「お疲れ様」

 

「どうだった報道関係テイストなインタビューは」

 

「思った以上に緊張したよ~ まさか新聞部の手伝いをさせられるなんて思いもしなかったから」

 

「でも鬼ババアの怪なんて突発でよく思い付いたね」

 

「ま モデルがいるからね お陰ですらすら答えられたよ でも超常現象特集であの内容はつまんなかったかな?」

 

「ううん 上出来だよ 大体学校の校内新聞で本物と同じような出来を求められても困るし でもあの写真って口に出来ないけど・・・・その・・・侯爵様・・・・」

 

「ああ~うん それは大丈夫だよ 名前も写真も載せないなら誰のことかなんてわかんないし」

 

「でもさ 六十歳ってのは幾ら何でも言い過ぎじゃないの?」

 

「だいじょぶじょぶ! 校内新聞なんだから面白可笑しくするほうがいいじゃん それより取材料のほど宜しく」

 

「わかってるよ さすがに現金はマズイからクルシェフスキー系列の商品券二千円分でいい?」

 

「いいよ 放課後にでも金券ショップ寄って現金に換えるから 今月小遣い減らされちゃって困ってたんだよね」

 

「シゲチーくんってよくお小遣い減らされてるけど何やってるの?」

 

「主にテストの点数かな? その他の理由としては母さんがケチというのがある」

 

「ケチって・・・・ 侯爵様はお金持ちなんでしょ? それにお父さんだってお金持ち」

 

「まあね 自慢じゃないけど金持ちではあるよ 下手すりゃ南ブリタニアとか中近東の王族並の財産はあるみたい でもケチなんだ だって僕の今のお小遣い一日五十円だよ? 高校生にもなって五十円は無いよ~」

 

「それならバイトしたら?」

 

「バイトはダメなんだ 母さんの勅令でバイト禁止 勉強に専念して成績を上げてから判断するとのお達しが出ててね」

 

「それはキツイね」

 

「だからいい小遣い稼ぎになったよ 一撃二千円! うちの系列の商品券なら金券ショップで交換しても千九百円にはなるし」

 

「考えてみたらシュールだね 自分とこの商品券を金がないから売る侯爵家の息子って」

 

「これも全部母さんのケチが原因だ」

 

「でもクルシェフスキー侯爵様って日本でもブリタニアでも好感度高いよ 自らは質素倹約しながらも領内にお金回して領地経営しっかりしてるから 最近のクルシェフスキー領移住者や移住希望者の数知ってるかい」

 

「知ってるよ 母さんは庶民の味方全開な貴族だから その僅かでも僕に振り向けてくれたらな~ と思わないでもない今日この頃」

 

「だけど領地経営めちゃくちゃで領民を路頭に迷わせた伝説の大貴族を知ってるから オレみたいな平民の家庭に生まれたヤツとしては侯爵様みたいな貴族は神様のように感じるなあ」

 

「伝説の大貴族?」

 

「うん 昔オレの父さんが住んでたカンザスの端の端の端にある 小さな男爵領の領主だった自称大貴族で 領地経営ほったらかしで遊び歩いては貴族の権威を笠に着て横暴な振る舞いをしてた通称 バカ男爵

 アイツのせいで首を括り掛けたって父さんから聞いた事があるよ」

 

「へえ~そんなヤツがいたんだ 平民を大切に が合い言葉のブリタニア貴族としては珍しいね でも“いた”って事は失脚したの?」

 

「うん 何でも先代の男爵領領主様が先代のクルシェフスキー候 つまりキミのお爺様に掛け合って相談した結果 爵位剥奪と領地追放処分になったらしいんだ よく知らないけどペンドラゴンの大通りで侯爵様を侮辱したとか」

 

「母さんを侮辱? ブリタニアの貴族で母さんを侮辱するヤツなんていたんだ 度胸あるなそいつ」

 

「違うよ 度胸あるじゃなくて無謀で物を知らないバカなんだよ だから付いた渾名がバカ男爵 爵位剥奪されたあとも男爵様って呼ばれてたらしいけど バカ男爵って意味の男爵様だったらしいよ」

 

「うわ~ そんな貴族とお近付きにだけはなりたくないな 鬼ババアとバカ男爵ならまだ鬼ババアの方がいいや」

 

「侯爵様とバカ男爵を比べるのがそもそも間違ってるよ キミもさ いい加減な生き方してたらバカ男爵みたいになっちゃって 説教とか小遣いの減額程度じゃ済まなくなるよ?」

 

「お 脅かすなよ! いくら僕でもそんなバカみたいにはならない!」

 

「冗談だよ それにキミの場合はそうなる前に侯爵様の手でクルシェフスキー騎士団に放り込まれて 一から性根を叩き直されるから大丈夫!」

 

「絶対に嫌だそんなの!」

 

「ま キミの将来がどうなるのかはさておき そろそろ行かないと店閉まるよ」

 

「あ そうだった じゃあ僕行くね それとまた手伝いがあったら声掛けて 商品券千円以上で引き受けるから」

 

「がめついなあ」

 

「タダで引き受けるわけ無いだろ 貧乏人なめんなよ」

 

193 :202:2013/07/05(金) 14:55:17

終。

最終更新:2013年09月09日 00:46

 

 



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都内の名店扱いとなった玉城BAR。

 

 

休日とASUKA版ギアスエンディングシチュの部分クロス。

 

 

 

 

都内の名店扱いとなった玉城BAR。

 

各種の名酒を多く取り扱っている隠れた名店には日々変わった客の姿。

 

「しまらさんッ!」

 

またあの客だ。

最近よく来る歳の離れた二人連れ。

聴くところによると二人ともかなり偉い身分なんだとからしいが俺はしらない。

黄緑色のマントを着た女の方はブリタニアの偉い騎士らしい 侯爵がどうとか聴いたが侯爵って貴族がどんだけ偉いのかしらん。

真っ赤な長リボンを巻き付けた金色の長髪に蒼い目をした内心お近付きになりたいと思うくらいの目が覚めるような美人だ。

男の方は中年から初老のくたびれたサラリーマン風で 昔何処かで会ったような気もするアフターファイブの飲み屋街で部下と歩いていそうなオヤジ。

 

「しまらさんはいったいいつになったらわらしと結婚しれくれるのれすか!!」

 

今夜はまた凄い剣幕だ。

こっちの耳までキーンとなるくらいの怒声。

信じられないことにあの超絶美人はくたびれたオヤジに惚れてるらしい。

あんなオヤジより俺のが百倍イケてるのになんでモテナイくんなのか納得いかない。

 

「飲み過ぎだよモニカさん」

 

オヤジの方はアルコール耐性が強いかペース配分を心得ているのか女みたいに呂律が回らなくなっている所を見た事がない。

代りにああやって酔いの回った女に絡まれるのがパターン化していたが こっちについてはいつもタジタジで対処に困っている。

 

「わらしをキズモノにしたクセに責任を取らないつもりなのれすか!!」

 

デカイ声で猥談手前の話をはじめた女にオヤジも大変だ。

慌てて口を塞いでいる。

 

「事実は事実だがあれはキミが俺を押し倒しての話だろう 不可抗力だ」

 

「なるほろ いいわけれすか・・・ そんないいわけをされるのれすか? ああそうれすかそうれすか! しまらさんにとっれわらしなんて所詮お遊びの女らったのれすね!」

 

女の言い分に反撃したオヤジだが また女が仕返し。

 

「こ コラッ なんてことを言うんだキミはッ」

 

事実無根と言い張るオヤジの方が多分正しい。

あのオヤジが連れの坊さんみたいな頭した こっちも金髪ロングの超絶美人を連れたオヤジと飲みに来たときにしていた話を偶然聞いていたからしってる。

酒に弱いあの女がなにかの打上げのときに進められるまま飲んで泥酔してオヤジを押し倒してナニをやっちまったんだと。

清純そうなお貴族様でも酔えば別人ってか?

けどよ なんであのオヤジなんだよクソったれ。

あのオヤジだけじゃない。

あのオヤジの連れらしい坊さん頭のオヤジなんかは いっくん リーラ なんぞと砂糖吐きそうな甘い愛称で呼び合ってたしなにか? 最近は中年から初老のオヤジどもが超絶美女にモテル世の中になってるのか?

 

まあクソムカつく事実だがどちらかと言えば責任を取るのはオヤジではなくあの酔っぱらい女の方だろう。

 

「よくわかりましたいいれしょう しまらさんが責任逃れをしようとしれそんなたいろをとるろなら・・・ このわらしが責任をとっれしまらさんをもらいましゅ!!」

 

おおおーー!!

 

姉ちゃん痺れるほどカッコイイぜーーー!!

 

店にいた他の客も席を立ってマントを翻しながら拳を振り上げている酔っぱらい女の宣言に拍手。

呂律の回らない酔っぱらいの話なのに勝利を掴んだみたいな姿が無駄にカッコイイ。

オヤジはオヤジで恥ずかしいからやめなさいと女を抑えている。

押さえ込まれた女は暴れるかと思いきやオヤジに抱き着いてしまった。

 

「じゅうで~ん しまらさんぶんじゅうで~ん」

 

「だからやめなさいと言ってるだろう!!」

 

「いやれす~ モニカのみみは愛の言葉しか聞こえないのれす~」

 

くそォ うらやましい。

なんであのオヤジはあんな美人に好かれて抱き着かれて嬉しそうにしないんだ。

俺なら絶対にお持ち帰りしてやるってのに!

 

「おにいちゃんつんつ~ん」

 

なんか背中に当たる冷たいもの。

先が尖って光っている。

 

「オイ止めろコラ! 血が出たらどうするんだ!」

 

「あは そのときはクララが舐めて止血するからだいじょ~ぶだよ~」

 

最近顕著になってきたアルバイトのいたずらが怖い。

なにが嬉しいのか刃物で遊ぶんだよコイツ。

酔い潰れた女性客を介抱してたときにされたことがあるいたずらは本気でやばかった。

 

髪の毛が付いてるよ? 死ぬ?

 

手にしたナイフを首にぴたぴた当ててきてそれはもうマジ怖かった。

刃物で遊ぶのはやめてくれと言いたいぜ・・・・

 

「ボトル一本追加~!」

 

「は~い!」

 

客の注文に愛想良く返事したバイトは俺の背後から離れていった。

ふう 人手が足りないからってアイツに頼んだのは失敗か?

でもアイツのおかげで客も増えたし店も軌道に乗ってる。

アイツには金も借りてるしアイツのオヤジには世話になりっぱだから今更になって止めさせるのもまずいしな。

あのヘンないたずらさえやめてくれたら文句ないんだが どうにかならないか。

 

「クララちゃんよく働くな でもあの子まだ未成年だろ? 大丈夫か?」

 

心配してくれたのは店の常連で俺の飲み友の南。

BARをやるって知らせたら早速来てくれるようになったいい奴だ。

 

「女いるほうが店もはやるんだよ それに俺アイツに金借りてるしアイツのオヤジにも世話ンなってっから断れないんだ」

 

見てくれはいい方だから客寄せには貢献してくれてるし 誰にでも愛想いいから常連作りにも一役買ってる。

 

「ただあのいたずらだけはやめて欲しいんだけどなぁ」

 

「いたずらってアレか 例のつんつんか?」

 

「それ以外になにがあるってんだ?」

 

「・・・・・・・玉城 おまえ女好きだったよな?」

 

「たりめーだろ 女嫌いな男のが少ないって」

 

「・・・・・・いや やっぱり止めとく おまえデリカシーの欠片もないから女の気持ちについてあれこれ語ったところで理解できないだろうしな」

 

なんだそれは?

いきなり失礼な奴だ。

 

「なにが言いたいんだよ?」

 

「モテナイくんのお前でも嫉妬深い例外がいたから気を付けろよってことだ ヤンデレって言葉がアニメにはあってな」

 

「おおそれはしってるぜ! 怖いよなアレ? でもイケメンのモテ夫くんがムカツクからイイ様なパターンもあって結構オモシロイんだ!」

 

「駄目だ・・・・・もうなにも言わん」

 

なんだよコイツ 人が折角話に乗ってやったのによ。

 

「しまらさはぁ~ん しまらさんはわらしがもらいますぅ~」

 

「だからこんな人の多い場所でそういうことを言うなと何度言えば!!」

 

あの金髪美女とオヤジまだやってるよ。

 

「ああいう清純そうなお嬢様っぽいのがヤンデレるんだよな でも俺があのオヤジの立場なら絶対大丈夫な自信があるぜ!」

 

「玉城 後ろ見ろ」

 

なんだよ南さっきから溜息ばかり付いて。

後ろ見たらボトルを入れ替えてきた髪も目もピンク色のバイトが立っていた。

 

「おうサンキューな!」

 

「ねえおにいちゃん クララ役立ってる?」

 

「それはもう大いに役立ってるぜ この店の客半分はおまえが引っ張ってきたようなモンだからな」

 

「じゃあよく頑張ったって褒めて」

 

「よォ~しよし よく頑張ったなぁ~」

 

まじで客の五割はこいつのおかげだ。

残り四割がこいつのオヤジで最後の一割が俺。

ああそこ考えると益々頭あがらなくなる。

 

 

今日も商売繁盛の俺の城にはいろんな客が来る。

マスターは俺 玉城真一郎。

看板娘のバイトくんは俺の友達クララ・ランフランク。

オーナーはVVってジジイ。

 

オーナーの伝手で仕入れた銘酒を取り揃えているBAR TAMAKI。

日本の銘酒は言うに及ばず ブリタニアの銘酒もほぼ全ての銘柄を取り揃えてる。

 

そこの企業戦士 もしくは騎士様 良けりゃ帰りに一杯どうだ?

 

可愛い店員とイケメン店主が精一杯のお持て成しで迎えるぜ?

 

営業時間は18時から27時。

可愛い店員目当てなら22時までに来店頼む。

あいつは一応学生なんでな。

常連さんはこれからもご贔屓に願うぜ。

一見さんも大歓迎だ。

 

BAR TAMAKI。

東京03-××××-××××。

多くのご利用 お待ちしてます。

BY おにいちゃんの嫁。

最終更新:2015年06月14日 15:54

 

 



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劇場版コードギヤス 復讐のウリーシュ

 

 

438 :劇場版コードギヤス 復讐のウリーシュ:2013/01/12(土) 17:00:35

 

 

劇場版コードギヤス 復讐のウリーシュ

 

あらすじ

 

李・瓜酒

 

世界の中心地にして人類発祥の地である 母なる大地高麗に生まれた絶世の美男子。

彼は世界中の男という男を引き離す眉目秀麗な容姿と 歴史上の天才を赤子扱いに出来るほどの賢さを持っていた。

世界最強最大の国でありながらも平和主義を掲げる大高麗帝国の地にて明るく元気に育った彼は

十六歳の誕生日の日にその全てを奪われてしまった。

 

平和で豊かな高麗に妬みを持った遥か東方の大国ビリタニアが突如大軍を率いて攻め寄せてきたのだ。

 

無論 最強最大の国 大高麗帝国ならばビリタニア軍など一掃できる圧倒的な戦力を備えている。

全長三百メートルを超える超巨大浮遊航空艦ドクード。

全長二百メートル級の飛行戦艦セジョディワン。

世界を引き離す超高性能第12世代KMFケイワン。

 

これらの兵器に叶うような戦力はビリタニアには無い。

 

だが徹底した対話による解決を望む国と民の声により これら全てを封印した。

話せば分かり合える。

平和的に語り合おう。

大高麗帝国はそう呼び掛けた。

しかし ビリタニアは卑怯にも丸腰の高麗に軍事力を持って攻め込んだ。

平和の使者は銃弾に倒れ 地上の楽園は卑怯なビリキ達によって踏み荒らされた。

 

 

戦火に焼かれた首都セウル。

美しかった町並みは焼かれ瓦礫となり 至る所に焼け焦げた死体が転がっている。

そんな地獄のような街で 彼は生きていた。

絶世の美男子 最高の天才 平和の申し子 李・瓜酒は生きていた。

 

「僕たちは 僕たちはただ平和に楽しく真面目に生きてきただけだっ!! それなのにっ それなのになぜこんな仕打ちをっ!!」

瓜酒は叫んだ。

神を呪った。

「返せっ! 父さんを 母さんを 妹を 返せっ!」

そんな悲痛な叫びを聞いた神は一人の少女を地上に遣わした。

「私K.K.神に選ばれし偉大なる民族のために遣わされた使者」

「K.K.…?」

「瓜酒 力が欲しいか?」

「欲しい……力が欲しいっ ビリタニアを倒せる力がっ!!」

「いいだろう では私と契約しろ お前に絶対無敵の力 ギヤスの力を与えよう」

 

彼はギヤスの力により絶対無敵となった。

始まる彼の復讐。

激しい戦いの中 彼はビリタニアの王女と出会う。

 

慈愛の王女 ユーフェリア。

大高麗帝国の隣国でイルボーン王国の人質となっていたビリタニアの王女。

互いを知らずに出会った二人はたちまち恋に落ちる。

 

だが運命は残酷だった。

 

 

 

 

高麗・清・日本・ブリタニア・中華・EU・東南アジア諸国にて同時公開。

 

コードギヤス 復讐のウリーシュは架空の物語であり 登場人物 国家は全てフィクションです。

実在の人物・国とは一切関係ございません。

 

 

 

 

嶋田繁太郎氏・ユーフェミア・リ・ブリタニア殿下

ご成婚 真におめでとうございます

スタッフ一同 心よりお祝い申し上げます

最終更新:2013年02月10日 19:20

 

 

 



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報道ステーション23司会の古井館 伊知郎です

 

 

564 :名無しさん:2013/01/17(木) 18:55:39

 

 

「報道ステーション23司会の古井館 伊知郎です まず最初のニュースは六カ国協議についてです 来週開催されることになりました六カ国協議ですが議長国に高麗共和国が選ばれました

 参加国には日本・ブリタニア・EU・中華連邦など名だたる大国が揃っておりますが これらを退けて高麗が議長国に選ばれた理由は何故でしょうか? 解説の矢田さんお願いします」

 

「はい まず高麗が選ばれた理由ですが第一に考えられるのは清にとって唯一の友好国というのが大きいでしょう その他の参加国は皆 大なり小なり清と軋轢を抱えています

 この状態で高麗以外の国が議長国を務めるなれば 清一国だけが不利な立場におかれてしまいます そういった意味でも高麗が選ばれたのだと考えられますね」

 

「なるほど」

 

「第二にですが 高麗が選ばれたのは他の参加国が高麗を大国として見始めたのではとの意見が強いです」

 

「大国ですか?」

 

「はい でなければ世界四強といわれる国々を差し置いてというのは説明が付きません ご存じのように高麗は人類発祥の地として有名ですが今まであまり話題になることはありませんでした

 しかし各種文献を紐解いた結果 徐々にですが間違いないだろうとの意見が多数派になってきたのです これを各国とも重要視し始めたのではないかと思われます」

 

「では 世界四強の国々は祖先を敬う気持ちから高麗こそが調停者に相応しいとの結論に至ったと?」

 

「間違いないかと思われます」

 

「はぁ~ 祖先を敬う心というのは世界共通 ある意味歴史の原点に立ち返る意味でもあったのですね~」

 

「あと これは噂の域を出ないのでこの場で申し上げるのはどうかと思いましたが 高麗政府がブリタニアの代表としてコーネリア殿下かユーフェミア殿下を是非にと指名しましたが」

 

「はい」

 

「その理由というのが高麗の李王朝とブリタニアのリ家が何かしらの繋がりがあるのではないかと言われているのです」

 

「繋がりですか? それはどういった繋がりなのかお聞きしても?」

 

「申し訳ありません この場で申し上げるにはあまりに恐れ多いことなので差し控えさせていただきます」

 

「それは残念です」

 

「ただ やんごとなき事情がある とだけ申し上げておきます」

 

「やんごとなき事情 気になるところですがお話しするのが難しいようですね とにかく李王朝とリ家に秘密がある ということですね?」

 

「確実とは言いませんが秘密があるのは間違いないかと」

 

「そうですか」

 

「それ以外の理由としては我が国の嶋田元総理とユーフェミア殿下が御婚約なされ 近くご結婚なされることが決まっておりますが 

 ユーフェミア殿下へのご指名はそのハネムーンとして高麗へご招待するという意味合いであり 特使は別に選ばれているという話もあります」

 

「ほう それは素晴らしい話ですね 平和のための六カ国協議開催国高麗に 御婚約なされたばかりの嶋田氏とユーフェミア殿下が平和の特使として招かれる

 しかしながらその本当の理由は婚前旅行としてのご招待 さすがは並み居る列強国に認められた国だ 心配りを忘れてはいない」

 

「心配りというよりも 純粋な祝福の気持ちだと思います それだけ高潔な心を持つ素晴らしい国と民族なのでしょう」

 

「では嶋田氏とユーフェミア殿下の婚前旅行は高麗で決まりかもしれませんね」

 

「古来より人への思いやりを第一とする良心の国ですから 慈愛の皇女とも呼ばれるユーフェミア殿下との親和性を考えれば可能性は高いと思われます」

 

「そのような国を隣国に持てたことは大日本帝国にとって本当に幸せなことですね 次のニュースです 

 近年続いております地球温暖化の原因はサクラダイトの大量使用との関連性が指摘されており―――」

最終更新:2013年02月10日 19:15

 

 

 



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週刊減退 超々特別増刊号

 

 

893 :週刊減退 超々特別増刊号:2013/01/28(月) 21:31:58

 

 

 

週刊減退 超々特別増刊号

 

世界最強と謡われる騎士! ナイトオブラウンズが恐れる高麗共和国軍の実力とは!?

 

 

 

 

このたび取材に応じてくれたのは高麗共和国陸軍のエース キム・ヨンイル少佐。

高麗軍きってのイケメンとして注目を浴びるエースパイロットは KMFの操縦だけではなく 戦車 戦闘機の操縦 果ては海軍艦艇の操舵までこなすオールラウンドファイター!

 

 

「取材に応じてくださりありがとうございます」

 

「いえ 国を守る兵士の実力というものを国民のみなさんに知っていただきたいだけです」

 

「はぁ~なるほど まさに兵士の鏡とでもいうべきお言葉!」

 

「早速ですが ここ最近話題になっている件について質問させていただいてもよろしいですか?」

 

「ええかまいませんよ」

 

「では 現在隣国の日本に駐在武官として赴任中のモニカ・クルシェフスキー氏が“高麗軍の兵士はラウンズ以上の勇者”と発言なされたことについてお聞きします

 クルシェフスキー氏といえばブリタニアはシャルル皇帝の騎士 ナイトオブラウンズのおひとりで ナイトオブトゥエルブの称号を持つ世界最強の騎士のひとりですが

 そのクルシェフスキー氏が御自分よりも高麗兵の方が上と発言されたこと これはなにを意味するのでしょうか?」

 

「そのままの意味ですね」

 

「というと」

 

「高麗軍の兵士 つまり高麗軍は全軍がラウンズ以上の実力を持っている ということです」

 

「そ それはまたすごいですね」

 

「まあ今更のことなのですがこれは当たり前の話なんです 高麗人というのは世界一優秀な民族であり他国と比べることがそもそも不可能 

 そんななか軍に入り 己を磨き鍛え続けている兵士が ブリタニアのラウンズを超える戦士になってしまうのは仕方のないこと

 クルシェフスキー氏はそんな高麗の兵士に敬意を表し また己よりも強い世界最強の戦士であるとお認めになったのでしょう」

 

「なるほどー 高麗民族が世界一優秀なのはもう常識の話ですが それを他国は認めようとしませんでした 今回のクルシェフスキー氏の発言は最早認めざるを得ない事実を知ってしまったが故の発言なのですね」

 

「そう受け取れますね 氏を含めるブリタニアが 今まで高麗の優秀さを認めなかったのは 自分たちが惨めに思えてしまうからなのでしょう 努力では越えられない壁 それを感じていたが故に認めたくなかったのです」

 

「高麗民族は存在しているだけで他国に羨望と嫉妬を与えてしまうのですね」

 

「はい 優秀すぎる というのも罪なのです」

 

「ではそれをふまえてキム少佐がクルシェフスキー氏と一騎打ちをすればどんな感じになるとおもいますか?」

 

「はああ お答えしなければなりませんか?」

 

「できればお願いします 高麗国民と日本国民がいま一番しりたいことなのですから」

 

「・・・・・・ わかりました お教えしましょう」

 

「おお ありがたい!」

 

894 :週刊減退 超々特別増刊号:2013/01/28(月) 21:32:52

 

 

 

「五秒です」

 

「は?」

 

「持って五秒です クルシェフスキー氏が私と戦えば五秒で墜ちることになります」

 

「そッ それはすごいッ! 五秒ですか!」

 

「ええ 残念ながらこれが私とクルシェフスキー氏との実力差なのです 氏は私を前にすればなにもすることなく死を迎えることになるでしょう」

 

「では仮に! 仮にです! クルシェフスキー氏がシャルル皇帝と同じく剣を捧げると誓った日本の嶋田元総理を討ち取れなどという命令があれば」

 

「たしかクルシェフスキー氏は嶋田氏を“命に代えても護る”と発言されているらしいですね 申し訳ないですが私にそのような命令が下されれば誓いを護ることはできないでしょう」

 

「キム少佐が強いのは存じていましたが どうやら自分の認識はまだまだ甘かったようです」

 

「いえ それが普通なんですよ ああ一応誤解の無いように言っておきます 私がクルシェフスキー氏と戦う可能性は万に一つもありません 高麗は日本やブリタニアと大きな紛争を抱えていないので

 それに 実力差がわかった以上 クルシェフスキー氏も私を恐れて戦う勇気など持てないでしょう」

 

「実に頼もしいお言葉ですね ありがとうございました」

 

 

 

 

 

今回のキム・ヨンイル少佐との対談は巻頭特集となっており 付録としてイケメンエース キム氏のブロマイド付き!

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週刊減退は高麗共和国と大日本帝国・神聖ブリタニア帝国との末永い平和が続くことを祈っております。

最終更新:2013年02月10日 20:10

 

 

 



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クリスマスだからリア充とは限らない

 

 

 

 

 

クリスマスだからリア充とは限らない

 

 

 

仕事は時間内に終える物。

 

常々自らに言い聞かせていようとも立場上多くの案件を抱えることがある身の上なだけに思い通りには行かない。

 

「師走は何かと忙しいものですが何故今日に限って」

 

せっかくのクリスマスが台無しだ。

気分が落ち込むので考え置くに止めたモニカは持ち帰っていた書類に目を通しながら自らのなすべき作業を続ける。

 

「処理しても終わらない作業が今日ほど苦行に感じたのは初めてです」

 

12月25日は恋人と過ごすべき夜だというのにどうして書類作業に専念しなければならないのだ。

軍での訓練も侯爵家後継者としての教育も険しく苦しかったが 今日のは別種の苦しみを感じさせられる。

好きな人とクリスマスを過ごせない。

恋する乙女としてこんなに辛く苦しいことはない。

降りかかってきた理不尽に世を恨む。

 

「枢木さんはさぞや楽しい聖夜の夜を満喫していることでしょうね」

 

日本の量産型第7世代KMFウィンダムの最終テストともいうべき模擬千で知り合った大日本帝国首相枢木ゲンブの子息 枢木スザク。

ブリタニア帝国皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニアの事実上の恋人たる彼との会話に混在する甘い話は羨むべきものばかりだった。

 

いついつにデート。

どこどこへデート。

手を繋いだキスをした抱擁を交わした。

好きあっているから遠慮無く行える触れ合いは この聖夜に集大成を迎え更なる関係発展へ繋がっていくは必定。

こんなにも辛い私を差し置き彼はナナリー殿下との甘い夜を過ごしている。

 

リア充に天罰を。

 

スザクのことは恋に悩む者同士として応援してはいるが今日だけは嫉妬が勝ってしまった。

雪の降る寒いイブの24日 続く今日25日に行われていた大規模な反クリスマスデモに参加して叫んでやりたい。

恋人関係が成立しているスザクと 嶋田と恋人関係にはないモニカでは同じ恋する者としての立場が違うのだ。

仕事があろうとなかろうと嶋田と過ごすクリスマスは親しい者同士が過ごすクリスマスであって恋人同士で過ごすクリスマスには成り得なかった。

それでも一緒に過ごせれば世の恋人達など気にならないくらい心に余裕が出来るのだが今日はその限りではない。

 

「嶋田さん・・・・」

 

目を瞑り思い浮かべた初老の男性は変わらぬ笑顔を向けてくれる。

妄想でカバーするしかないのが腹立たしくも 妄想するだけで少し高揚する自分に呆れてしまった。

 

「失礼致します」

 

大使館の職員の声にモニカは妄想を掻き消した。

せっかく気分が良くなってきたところを現実に引き戻そうとは無粋な輩だ。

 

「モニカ様 今日はそろそろ」

 

まただ また来た。

これで何人目だろうか 上がらせてくれと申し出た人間は。

そんなに恋人と過ごしたいのか。

仕事よりも恋人優先か。

お前達それでも由緒あるブリタニアの騎士か。

 

「リア充は爆発しなさい」

 

「は?」

 

「なんでもありません 帰宅しても構いませんよ」

 

恋にうつつを抜かす軟弱な騎士など必要ない。

 

「はっ! それではお先に失礼させて頂きますっ!」

 

「お疲れ様でした」

 

なにが失礼させて頂きますだ。

 

「失礼だと思うのならば私の仕事が終わるまで職場待機するくらいの気概を見せて欲しいものです」

 

忠誠心厚き我がインペリアルガードの大半が主よりも先に帰宅とは笑いたくとも笑えない。

 

りり・・・ん。

 

いらいらしてきたところに響く内線のコール音。

取るまでもなく用件はわかっている。

此方へ足を運ぶ者もいれば内線で伝え来る者もいるから。

 

りりん。

りりん。

りりりーん。

 

「・・・・・」

 

出るのも腹が立つので放っておこうとしたモニカであったが一向に鳴り止まないコールに渋々受話器を手にする。

 

「なにようです?」

 

不機嫌丸出しのモニカの声は受話器の向こうにも伝わっていたが相手は意を決して切り出した。

 

「モニカ様・・・・ そろそろ私も」

 

「帰りたいのならば勝手に帰りなさいっ!!」

 

「なあおっさ~ん」

 

「なんだい?」

 

「なんで俺にはクリスマスを一緒に過ごしてくれる女がいねぇんだろ?」

 

「そんなのボクに聞かれてもしらないよ」

 

世のリア充が我が世を謳歌するこの日ほど虚しい日はない。

女どころか年金貰うようなジジイの家で飯喰ってるのが悲しいと玉城真一郎は思った。

 

「家ん中静かだけど誰もいねぇのか?」

 

「いない クリスマスだからってみんなして出掛けてるよ ボクは仕事の報告待ちで自宅待機してるだけ」

 

「仕事って おっさんマンション経営してる以外無職みたいなもんだろ?」

 

「まあ無職の隠居老人に近いけど完全な無職ってわけでもないよ 色々とあるのさ」

 

見掛けは小学生にしか見えないのに60代。

このへんちくりんな老人VVとの付き合い長い玉城はよく食事をたかりに来ていた。

クリスマスのこの日でさえも。

本音は何が悲しくてジジイと飯喰うクリスマスをすごさなけれればならないのかと失礼な事を考えていたが金無し彼女無し職無しだから仕方が無い。

 

「ああちょっとごめん」

 

VVが耳に手を当てる。

連絡だと言っていたが携帯の受話器らしき物が見当たらない。

 

「あの頭に付けてるカチューシャみたいなのが電話だったりすんのかよ」

 

足首に届くやたらと長い髪の毛を抑えているそれ以外に電話の可能性があるものはないので まあそうなのだろうと当たりを付けた彼はこたつに置いてあるみかんを勝手にとって食べ始めた。

家主のVVが咎めることもないからと好き放題。

怒られたら怒られたときに謝ればいいのだ。

 

「うん そう へえそれは面倒だったみたいだね で? うん 結局キミが片付けたのかい? うんなるほど わかったよご苦労様 ルルたちと合流するって? わかった行っておいで 寒いから風邪引かないようにね」

 

どうも電話が終わったようだ。

 

「何の電話だ?」

 

「仕事の 待っていた報告の件だよ」

 

「片付けってどんな仕事だよ やっぱあれか? 家賃滞納で部屋追い出したみたいな?」

 

「まあ 色々とね」

 

ぶーん

今度は玉城の携帯が鳴る。

バイブレーションにしていても静かな家ではよく聞こえた。

 

「今度は俺に電話か」

 

ジーパンのポケットに手を突っ込んで取り出したスマートフォンの液晶画面にはクララと書いている。

 

「おっさん クララからだけど」

 

「出てあげれば? というかボクの電話じゃないんだからボクに振らなくても良いよ」

 

「へいへい」

 

娘が男に電話を掛けたら普通気になるだろと思って聞いたのだが。

玉城なりの気の使い方であった。

 

「よォどうした?」

 

「メリークリスマスお兄ちゃん 浮気してないよね?」

 

「何が浮気だアホか お前俺のなんなんだよ」

 

「嫁っ!」

 

「で? 実際なんの用事だよ」

 

「ひどっ!」

 

こういうのは華麗にスルーが基本だろう。

 

「まあいいよ 用事はね クリスマスをひとりさみしく過ごしているお兄ちゃんを気遣う恋人コールに決まってるじゃない」

 

「恋人じゃあねぇだろ」

 

「間違えたゴメンナサイ 嫁だったよね」

 

「それも違う」

 

「あはっ 照れなくてもいいと思うんだけどなぁ」

 

「はいはいわーった好きに言っててくれ 悪いけど俺いま一人じゃねぇからあんまし長電話は困るんで用がないなら切るぞ」

 

飄々とした受け答えをしていたクララの声が瞬間感情を感じさせない冷たい印象に変わる。

 

「ねえ・・・・・・・一緒にいるのって女じゃないよね?」

 

なにかまずいこと口走ったのだろうか。

 

「女だったらいいんだけど生憎男でジジイ」

 

「ふ~ん ならいいよ・・・・ え? ジジイ?」

 

「VVのおっさんに決まってるだろ」

 

「じゃあお兄ちゃんいま家に来てるの?」

 

「まあな」

 

「またたかり?」

 

「うるせぇよ! 年末はいっぱい買うモンあって余裕ないんだからしゃーねーだろっ! つーわけでもう切るぞ」

 

「あ まってまってお兄ちゃん! だったらクララが帰るまで家にいてね!」

 

「なんでだよ?」

 

「いいから! 渡したい物があるの!! 絶対に帰っちゃ駄目だよ? 帰ったら酷いよ?」

 

「わかったわかった じゃーな」

 

どうせ帰ってもひとりだ。

電気代の節約で暖房も付けられない部屋では凍えてしまう。

それならここでのんびりしていたほうがよっぽどましだろう。

 

「なんて?」

 

「なんかしらねぇけど帰るまで待ってろってさ 待たせてもらってもいいか?」

 

「別にいいけどルルたちと合流して食事に行くらしいから遅くなると思うよ」

 

「そんときゃ泊まらせてくれたらいいし」

 

「どんどん厚かましくなっていってるような気がするのはボクの気のせいかな」

 

「気のせい気のせい 序でに風呂もいいか?」

 

「・・・・・いいよ」

 

「サンキューさすがは心の広い大屋様! お背中流させて頂きますってな!」

 

「まったく調子の良い奴だよねキミって奴は」

 

結局今年のクリスマスも彼女はなく過ごす羽目に。

 

「ああ悲しいぜ俺の青春 クリスマスだってのに大家のちっこい爺さんと風呂に入って背中流して・・・・ くそっ 来年こそは絶対にムッチムチナイスボディな女とホテルに行ってやるからな!」

 

「弱いよ もっと強く」

 

「人使い荒いぞおっさん」

 

「キミが背中流すって言ったんだろう?」

 

「とほほ」

 

 

 

 

「ふんふんふ~ん お兄ちゃんにプレゼント~♪」

 

精一杯のおめかしをするクララは仕事を終えてヴィ家の皇子皇女と合流するところだったが 食事の後が本日のメインだとして気合を入れていた。

 

「あれ?」

 

鏡に写る自分の顔は完璧ながらその下 襟元に赤い染みついている。

 

「うわ最悪 服汚れちゃったじゃない」

 

襟元の白い生地には本来赤いものはついていない。

となればさっきの仕事でついたものだろう。

 

「まったくもう! これだから大切な日に機情の仕事なんてしたくないんだよね!」

 

大切な日にお兄ちゃんと会えるようになったのは偶然だったがそんなの関係ない。

会える日に仕事を割り振ってきた機情が悪いのだ。

クリスマスなのにパパに無理を言ってクララを指名してきた向こうの責任だ。

 

「こんな汚れてたらお兄ちゃんに会えないよ あ~あ いつも以上に離れて発動させればよかったかな~」

 

聖なる夜に仕事を終えた少女は着替えをどうしようかと頭を悩ませるのであった。

最終更新:2015年06月14日 15:55

 

 



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VV「愛娘と義理の息子になるだろう馬鹿の行く末が心配」

 

 

 

VV「愛娘と義理の息子になるだろう馬鹿の行く末が心配」

 

 

 

 

ふらりと顔を出すなり居住まいを正した彼がめずらしく真剣な顔つきで向き合ってきたので耳を傾けてみようと思ったのはほんの気まぐれ。

表企業経営と裏の顔であるギアス嚮団嚮主としての仕事時以外は自宅にて隠居生活を送る傍ら愛娘や甥姪の成長を温かく見守る事を生き甲斐としている今日この頃。

その中にこの馬鹿が入り込んできたのはいつ頃のことだったろうか。

己の分を弁えずに官僚から政治家への道を目指すという無謀な挑戦を生温かく見守ってきた。

見守る必要もないのに見守らざるを得ないのは愛娘がこのお馬鹿に惚れてしまったから。

対象者の身体を操る強力なギアス能力の持ち主であり優秀な暗殺者ながら男を観る目がない娘はこのお馬鹿を婿にするといって聞かない。

 

(恋愛は自由だからと放置したのは間違いだったかな)

 

悪人ではないがこの分を弁えない男は将来何かしらのトラブルを持ってきそうなので親としては不安極まりないんだ。

今更反対するつもりもないけど誰かが見張っていないと変な方向へと進みかねない危うさが見て取れるので娘の婿として相応しいかといえば難しいところ。

 

(あの子に見張られてるような物だけどね)

 

しかし娘は良い悪い関係無くこのお馬鹿の味方をするので少しくらい道を誤っても見過ごしてしまうといった懸念がある。

特にこういう時期の時は要注意だろう。

気まぐれで話を聞いてあげたのはやはり正解だったようだ。

 

「東京都議会議員選挙に立候補するだって?」

 

大学はどうした大学は。

叱り付けてやろうかと思ったけどいつもの優柔不断な悪い癖に付き合っていたらキリがない。

 

「また国政は難しくても地方議会選挙なら当選するかもなんて甘いこと考えてるんじゃないだろうね」

 

「んなわきゃねーだろ 俺だってなあ勝算もなく立候補しようなんざ考えたりしねーよ」

 

「ふーん勝算? 勝算ねえ」

 

コネはない。

人脈はない。

魅力はないし頭悪いし顔も悪い。

簡単に流される優柔不断な性格というオマケ付き。

 

(それなのになんなのこの自信)

 

根拠のない自信は昔からだから気にしないけど勝算があるという確信の部分は捨て置けない。

 

「じゃあその勝てるっていう理由を聞いてもいいかい?」

 

「へっ おっさんはいつも夢想だのと馬鹿にしてくれてるがなぁ 分かる奴には分かるんだよ俺の才能が」

 

悪い予感は見事に的中した。

 

「公民党の大沢先生の秘書の部下ってやつが俺を指名してくれたんだよ 我が党から立候補してみないか 大沢先生が全面的にサポートすると約束している我々には君の才能が必要なんだってな いやぁ参っちゃったぜ俺」

 

(なるほど公民党がね)

 

日本公民党。

野党第一党にして売国政党として名高い日本政界の病巣だ。

清と繋がっていたブリタニアの売国貴族の日本版といっても過言ではなく腐っても大政党な分余計たちが悪い。

そんな連中がこのお馬鹿に声を掛けてくる それも大幹部の大沢二郎の関係者が。

 

(狙いはボクやルルーシュたちとの接触かな?)

 

ボクとボクの親族についてなにも知らないこのお馬鹿にもそれなりの利用価値はある。

こちらとの接触やパイプを築くための橋渡し役としてのね。

同盟国の皇族との繋がりを持てば発言力が増すとでも考えているのだろうけど 生憎ブリタニア皇家は日本の与党と友好関係にある以上公民党に目はない。

ボク個人としても公民党とはお近付きになろうともなにかに利用してあげようとも思わないし ましてや娘や甥姪にちょっかいを掛けさせるつもりもない。

日本の皇室や夢幻会から睨まれている彼等の事態打開の策としての日本在住のブリタニア皇家と繋がりを持ちたいという考えは分からないでもないけど そのためにこのお馬鹿を担ぎ出そうとはご苦労なことだ。

 

「五月からは玉城センセーになってるかも知れないけど気にせず今まで通り接してくれたらいいからな」

 

おめでたいね。

そんなだから売国奴に利用されるんだ。

ほんとに馬鹿は気楽でいいよ。

 

(クララぁ ボクだけどちょっといいかな)

 

〈なーにパパ?〉

 

コード保持者とギアスユーザーの間でだけしか成立しないのが難点だけど離れていても会話ができるのは普通に便利だ。

聞かれたくない相手に聞かれる心配もなく盗聴される恐れもない。

 

「玉城センセー ああなんていい響きなんだ」

 

(このお馬鹿に接触を試みている人間の身辺を洗ってほしい 可能なら不正の実態を自白するように誘導してもいいから)

 

公民党は叩けば幾らでも埃の出る身体をしている クララの持つ身体命令権を奪うギアスやその上位互換である絶対遵守のギアスを用いるまでもないほどに。

そのぶん蜥蜴の尻尾切りも上手いようで幹部が捕まらないけど 不正を働く輩は誰もが皆捕まるリスクを考えて対策しているから仕方が無い。

それに目に余るような段階になればマサノブたちも動くだろうし そうなった時は日本中に逃げ場はなくなる。

皇家と夢幻会が本格的な排除に乗り出せばこちらも相応の対処を採ることになるからブリタニアへ逃げる手段も封殺されEU圏、中華圏、オセアニア圏へ逃げるしかない。

 

(お馬鹿が道を誤らないようにしてあげて)

 

クララが捕まえた獲物を手放すような子じゃない以上はこんなのでも近い将来ボクの息子になるだろうからね。

 

「ふ ふふふふ俺が議員先生 この俺が政治家先生に!」

 

〈はーい でもさパパ〉

 

「都議会議員玉城真一郎センセーの華麗なる一歩がいま踏み出されるんだ!」

 

〈べつに死んでもらっちゃってもいいんだよね?〉

 

「都議の給料っていくらだっけ?」

 

(ダメだよ勝手に殺しちゃ なんども言っているように相手が日本の公党である以上は日本の法で裁かれるか日本の暗部に処理してもらうか または日本側に許可をもらってからでないと外交問題になる)

 

「手取りで月100万くらいあんのかな?」

 

〈りょ~か~い でもお兄ちゃんを利用しようとするなんて許せないなあ お兄ちゃんって馬鹿だからすぐに利用されちゃうしそこをついてるとしたら卑怯だよぷんぷんっ!〉

 

「美人で巨乳な秘書が玉城センセーに惚れて」

 

(利用したところで殆ど意味はないんだけど一応の後見人であるボクへの接触は可能になるから)

 

このお馬鹿だけなら自己責任で無視してもいいけどこの子が家族と見なしている以上はそうもいかない。

この子の家族と見なす者への執着心はボクの想像を超えている。

万が一にもお馬鹿が公民党の汚泥に飲み込まれたりすればこの子の暴走を招くだろう。

ボクの言う事も聞かずにギアスを乱発させて関係者の不審死が相次ぎ日本の面子を潰すことにも繋がる。

 

〈そうだパパお兄ちゃんにいっておいてね〉

 

(なにを伝えるんだい?)

 

〈巨乳な秘書とかいう女に浮気したら殺すって 殺してクララだけの物にするからって〉

 

(・・・・)

 

殺せば永遠に自分の物。

浮気されることもなければ他の女に盗られる心配もない。

この子はボクや兄妹たちに抱く家族愛とは別に女としての感情を彼に向けているから本当にやってしまう可能性がある。

性格的にもやる方向に向いかねない。

でも自分で殺しておいて自分の物にした気になった後きっと泣きじゃくる。

泣きじゃくって殻に閉じこもりそして最後は手に掛けてしまったことの後悔に死ぬまで苛まれることになるだろう。

この子は好きな者を殺してでも自分だけの物にしたい思いと 好きな者と一緒にいたい思いの二つを持ち合わせているから。

最悪後追い自殺まで有り得るだろう せめて自分と一緒に死んでと殺したりしたその後に。

親としてそれだけは避けたいものだ。

この子には幸せになってもらいたいし この子の幸せにはどうしても彼が必要だというのならボクは彼との結婚に反対するつもりなんてない。

それには彼の心をこの子に向けさせないとダメだけどさ。

親としての贔屓はあるけどクララは充分可愛い 身体も歳相応に成長もしてきたことだし脈はあるだろう。

この馬鹿はクララに興味なさそうに見えても時々この子に接触されて照れているし この子を異性として意識し始めてるんじゃないかと思うんだ。

 

(大丈夫だよ この底抜けのお馬鹿に本気で惚れ込むのはキミくらいなものさ)

 

マリーベルだけは怪しいけど多分大丈夫だろう。

仮にあの子までがこのお馬鹿に好意を抱いていたとしても自分の身分と立場を理解しているから気持ちを封印するはずだ。

それに殺したいほど好きだというこの子の思いの強さに勝てる人間はそうそういないと思う。

狂愛っていうのかな? 恋愛に対してここまでの思いを持つのは知る限りマリアンヌとユーフェミアくらいだろう。

マリアンヌはシャルルへの。

ユーフェミアはシゲタロウへの。

共に強い愛情を抱いている。

クララとの違いは二人ともに愛する相手と結ばれていることくらいだ。

 

まあマリーベルには早く婚約してもらえると心配事が一つ減って助かるというのは本音だけどね。

 

(キミは魅力的だしキミと張り合えてシンイチロウが浮気できるような女なんてそうはいないよ)

 

〈ホント?お兄ちゃんが浮気できるような相手はいない現れないってパパはホントにそう思う?〉

 

(絶対とは言わないけど多分大丈夫 それに今から美人秘書を作れないようにするんだから浮気がどうのと考える必要なんてないじゃないか)

 

いずれにしてもお馬鹿には気を付けてほしいものだ。

 

「うわははは!玉城センセー万歳だぜ!」

 

キミがしっかりしてくれないとクララが悲しむことになるんだから。

いい加減にしてくれないとボクの堪忍袋の緒もキレるよ?

 

統一地方選挙。

都道府県知事 政令指定都市市長。

都道府県議会 政令指定都市市議会。

合計立候補者数三万人以上。

 

市区町村議会の席を掛け戦うこの選挙はチュコト・アリューシャンから台湾・南洋までの全地方の地元が戦場となるのだ。

帝都東京の都議会議員選挙も与野党共に候補者の選定を急ぐなか清国、高麗との繋がりを指摘され公安にマークされついでに此処最近の不祥事続きで苦戦が予想される野党第一党日本公民党では使えそうな者。

またコネの有りそうな人間ならば誰でもいいから掻き集めろという党執行部と代表剣尚人の檄に党員サポーターたちがかけずり回っていた。

 

そして最高幹部の一人代表代行の大沢は帝都の住宅街に佇む一軒の家に出入りしている一人の男を担ぎ上げようとしていた。

 

 

「この間抜け面がブリタニア皇家と近しい関係だというのは本当なのだろうか」

 

大沢の公設秘書は写真付きリストに載る赤バンダナを巻きガンを飛ばしているやから丸出しの男を候補者として勧誘しろとの指示を下した大沢と執行部に ネット上の公民バッシングでとうとうぷっつんしたのかと疑いの目を向けていた。

 

「大沢先生は間違いないと仰っていたがこんなのを口説き落とせなどと 狂ってるとしかいえんよ」

 

小中高共に成績は並以下。

大学受験に落ちること複数回。

政治家志望でありながらなにを学んできたのか政治経済には疎く歴代総理経験者の名前すらまともに記憶していない馬鹿。

政治を語らせることなど不可能 犬の方がまだ利口。

官僚を目指しながら日本の政治機構について何も知らない意味不明な男。

事前の調査結果では正真正銘バカの王様としかいえない散々な人物像があげられていた。

 

 

しかし命令は命令だとして部下を接触させ某料亭で会食の場を設けたのだがいつまでたっても来ない。

 

「遅い!」

 

約束の時間は一時間前だというのに一向に来る気配を見せないフリーターの男にエリートたる彼は苛立たしさを覚えていた。

 

「大沢先生の第一秘書であるこの私を待たせようとはいったい何様――」

 

苛立つ彼が煙草に火を付けたとき。

 

「こんにちは」

 

部屋の障子を静かに開いてピンク色の長い髪と目を持つ可愛らしい少女が入って来た。

ブリタニア人らしき少女は無論知り合いではない。

この店の関係者かという線も少女が着ているアッシュフォード学園の制服からして違うと思われる。

 

「だ 誰だねキミは」

 

待ち人の間抜け面ではなく自分の知り合いでもない正体不明のその少女の右目に赤い光が浮かび上がる。

 

「○○さんですよね?」

 

「ああそうだが キミは誰――」

 

 

〈さようなら○○ あなたが知ってる公民党の不正を証拠付きで全て警察に喋った後 舌をかみ切って死になさい〉

 

 

日本公民党大沢二郎第一秘書が警視庁にて公民党の汚職の一部を謳い舌をかみ切り自決したのはそれから間もなくのことであった。

 

「~~♪ ~~♪」

 

少女が歩く。

闇夜を歩く。

長い髪を夜風になびかせながら鼻歌交じりで歩き行く。

 

「あはっ♪ 警察できちんと喋らせたことだし 殺っちゃってもいいよね」

 

てくてくと帰路に就く少女は理由を付けて正当化する。

 

「それにどうせ喋っちゃった以上は日本の暗部か公民の幹部に始末されちゃうんだから罪を悔いての自白と自殺のほうが名誉も保たれるだけましってものだよ」

 

私はいいことをしたのだ。

お兄ちゃんを利用しようとした人間を始末し 始末した人間にも花を持たせてあげた。

 

「パパは不正の実態を自白させろっていったけど 自白させたうえでの始末なら日本の面子も保たれるし万事オッケー♪」

 

自分に都合よく考えながら微笑みてくてく歩く少女がパパに怒られるまであと三十分。

お馬鹿のお兄ちゃんががっかりするまであと三十分。

 

大沢二郎第一秘書が公民党の不正を自白し自殺した事件。

この影響をもろに受けた公民党は統一地方選挙にて多くの地方議会で現有議席を失い離党者が続出し党勢は大きく衰退した。

最終更新:2015年06月14日 15:58

 

 

 



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辻「まだ寝る時間ではないのですよ」

 

休日ギアスユフィルートorユフィルートしげちー

 

 

 

 

 

 

辻「まだ寝る時間ではないのですよ」

 

 

 

 

各種の案件に関する報告書に目を通しながらふと気になり時間を確認してみると 時刻は既に一般的な終業のときからして大きく後ろへずれ込んだ午後九時前。

 

「ん もうこんな時間ですか」

 

今時珍しいとの指摘を受ける懐中時計を内ポケットに仕舞い込みつつ部屋を出る。

向う先は一足先に公務を終わらせていた同僚の部屋。

正しくは同僚と同僚の婚約者の部屋でしょうか?

 

おとずれた部屋の前には屈強な騎士が二人門番のようにして張り付いています。

 

「ごくろうさまです お変わりはありませんか?」

 

「はっ 特に異変などはございません」

 

異変があったら大問題なのですがね。

 

「失礼します 私です辻ですが宜しいですか?」

 

扉に向けて声を掛けます。

いきなり入るような失礼なことはしませんよ?

 

中からはなにやら「ちょっと待ってくれ」と返事がありましたがずいぶんバタバタされているようで 重厚な扉がすぐさま開くことはありません。

時刻は午後九時に差し掛かっていましたが はて? 就寝中だったのでしょうか?

 

 

 

 

「お お待たせして申し訳ありません」

 

衛士の方々とお話しをしながら待つこと五分ほど。

鍵の開く音と共に扉が開かれ顔を出したのは柔和な雰囲気の老年に差し掛かったくらいの日本人男性。

夢幻会での同僚 嶋田繁太郎さんです。

 

「す 少し取り込んでいるところでしたので」

 

そういって嶋田さんの隣に立っていたのは十代後半の年若く麗しいブリタニア人女性。

我が日本の盟邦神聖ブリタニア帝国の第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア殿下です。

 

ふむ 嶋田さんはスーツでユーフェミア殿下は公務服。

パジャマでも部屋着でもありませんので就寝中ではなかったと?

 

嶋田さんについては焦り気味以外には普通な装いでしたのでふとユーフェミア殿下を注視してみました。

 

「はぁ・・・・ はぁ・・・・」

 

額が汗ばみ両頬は朱く上気。

左手を胸に当てながらの運動後のような過呼吸気味の息遣い。

大きな留め具で纏められた髪は少し乱れ気味。

 

(なるほどそういうことですか)

 

合点がいきました。

就寝中ではないほうの「寝ていた」だったのですね。

おおかた大慌てで服を着替えたというところですか。

 

このお二人は近く婚姻関係を結び夫婦となる間柄なのです。

歴史が異なるとはいえコードギアスという名のこの世界。

予期される悲劇を我々夢幻会が一丸となって回避した先で 原作におけるスザク君ではなく嶋田さんと出会ったユーフェミア殿下。

奇しくも原作のスザク君と似通った経緯でユーフェミア殿下と出会った嶋田さん。

惚れた腫れたの経緯をたどり相思相愛となったお二人の背中を押したのはなにを隠そうこの私なのですが まさか僅かな期間でここまで深い仲になるとは予想外でした。

お二人の幸せを願う私は個人的にも押してはおりますが 我が国としてみた場合もまたお二人の婚姻はとても有益なのですよ。

太平洋戦争という断絶後 友好関係の再構築から続く我々の代で同盟関係にまで到達させた日ブ関係は現時点においても家族と呼べるほどにまで進化していましたが このお二人の婚姻をもち名実共に親族関係となります。

大日本帝国嶋田伯爵家当主嶋田繁太郎伯爵と神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア殿下の結婚は両国関係をより強固なものとするのは疑う余地もありませんので。

さらには日本の皇室からは皇女皇神楽耶殿下 皇族分家筋の枢木スザク君と続く日本皇室とブリタニア皇室との婚約が後押しとなりやがては連合帝国へと至る道筋まで見え始めるという良い意味での大誤算まで。

 

(安定した良好なる日本の未来は嶋田さんとユーフェミア殿下の結婚によって確定的)

 

前世からずっとですが嶋田さんには本当に物事の中心点がよく似合う。

 

「いえいえ構いませんよ 明日以降の日程の確認をするだけなので」

 

私は現在リ家の離宮を訪問しているのですが 明日よりラプラタ戦争戦勝記念式典に参列するためアラウカニア・パタゴニア王国王都ペルケンコに向う予定なのです。

嶋田さんもですが今回嶋田さんには夢幻会とも日本とも異なる別のお仕事の都合上 ペルケンコでの式典の後もリ家に留まることになっているので今後の調整もしなければいけないのですよ。

留まる理由はもちろん嶋田さんのリ家入り後に備えた各方面との協議や顔合わせ。

そうです 嶋田さんはユーフェミア殿下との婚姻をもち日本を離れ入り婿としてリ家に入るのです。

日本とブリタニアでは多少違いますが皇族と伯爵家では格式として皇族のほうが上位となりますので ユーフェミア殿下が皇族として仕事を続ける以上は嶋田さんがリ家に入らなければなりません。

これは両国両家ともに合意済みのこと。

つまり嶋田さんは私の手から離れてしまう これは正直寂しいものです。

なにをするにも一蓮托生でやってきましたからね。

夢幻会所属は変わらなくともリ家入りとなればブリタニア皇族としての仕事に追われて会合に出られる回数も減りますし 嶋田さんのポストを埋められる人材も発掘しなくてはならないと忙しくなります。

 

「はぁ・・ ふぅ・・・」

 

ユーフェミア殿下はまだ呼吸が整わないようですね。

 

お二人の秘め事もリ家の分家としての大切な世継ぎをもうける必要な公務の一環ともいえますか。

これは早々に退散したほうがよさそうです。

 

「おや ユーフェミア殿下大丈夫なのですか? 顔が朱く息も苦しい御様子ですがご体調がよろしくないのでは?」

 

「いいっ?!」

 

まずいところを指摘されたとでもいう顔。

ふふふ嶋田さん ナイスな反応ですよ。

ユーフェミア殿下も赤らんだ顔から火が出そうになっています。

 

「い いいえっ わたくしはっ べつに体調が悪いというわけではございませんっ わたくしはただシゲタロウと」

 

秘め事を行っていたなどというわけもなくされども体調を崩しているわけでない殿下はどう二の句を継ぐおつもりなのでしょうか。

と思いきや頼りがいのある旦那さんがテンパる彼女を止めに入りました。

 

「ユフィっ!」

 

「もがっ!」

 

否定しかけた殿下を羽交い締めにして口を塞ぐ嶋田さんでしたが しかしそれ一歩間違えると暴漢ですよ?

 

「むぅぅーっ ムーーっ」

 

〈しーッ!頼むから暴れないでくれっ〉

 

嶋田さんあなた小声でおっしゃってますがまる聴こえなのです。

といいますか 美少女を手篭めにしようとする怪しいおじさんにみえます。

婚約者でなければ通報ものですよ。

いずれ夫婦となるお二人なのですから秘めたる行為をおこなっていることについて知る私を前にそこまで焦らずともよいものであると思われるのですがどうなのでしょう。

そもそもお二人の初行為を促したのは他ならぬこの私なのですよ?

水臭いといいますか疎外感を覚えてしまいます。

 

「そ そうなんですよっ 実をいうとユフィはどうも先程より熱があるようでして顔が朱くなり息切れをしてましてねっ ですから早々に休ませてあげないと明日に差し障りますので申し訳ありませんが今夜のところはお引取りくださると助かりますっ」

 

口を押さえられてもがくユーフェミア殿下を背後から抱き締めたまま私のボールを投げ返してきた嶋田さんは 明日の早朝に今後の予定の調整を話し合おうとこちらの思惑通りに動いてくれました。

 

「そうですね 殿下の身になにかあってはよろしくありませんので それではまた明日の早朝にお訪ねします」

 

「すみません」

 

「いいえ おやすみなさい」

 

 

部屋を後にし衛士の方々に挨拶した後再び懐中時計を取り出します。

 

「九時一〇分」

 

まだ寝る時間ではない。

これから嶋田さんとユーフェミア殿下はお世継ぎをもうけるために励むでしょうし私はどうしますかね?

 

「そうですね ここは一ついっくんの部屋でも訪ねてみましょう」

 

 

いまリ家には私と嶋田さん以外にもう一人日本から来た人間が泊まっています。

彼も元海軍大臣としてアラウカニア・パタゴニアのラプラタ戦争戦勝記念式典に出席するため私たちと来ているのですが。

 

「そういえば彼もユーフェミア殿下の警護員さんと深い仲でしたね」

 

私の情報網には彼と 殿下の警護員であるブリタニア帝国ヴェルガモン伯爵家のご息女の関係も引っ掛かっておりましてね。

 

「リ家の姫殿下あるユーフェミア殿下とその婚約者である嶋田さんのお二人ならいざ知らず 他人であるいっくんとユーフェミア殿下の臣下であるヴェルガモン家のご息女まで睦事を行っているということはさすがにないでしょう」

最終更新:2015年06月14日 16:00

 

 

 



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玉城「ロケット飛ばせる中華とEUがなんで弾道ミサイル持ってねーの?」

 

 

 

甘いのに挑戦続くしてみたがこれはミサイルの疑問から思いついた。

 

 

 

 

 

 

玉城「ロケット飛ばせる中華とEUがなんで弾道ミサイル持ってねーの?」

 

 

 

玉城真一郎 ブリタニアファミリーの日本での拠点であるファミリー家長VVの屋敷に入り浸るダメニート。

最近では就職するかいっそ店でも開こうかと思い巡らせては食費の節約にVV宅で晩飯を喰う図々しい男は今日も今日とて晩飯と風呂に有りつくと 帰るどころか座敷に寝そべってテレビをつけていた。

 

「明後日まで生テレビ司会の権田原総一郎です 今夜はミサイル問題をテーマとしていますがさっそくですが大壁さん」

 

軍事評論家の大壁いさく氏に質問が飛ぶ。

 

「つい先日も中華連邦とEUがロケット発射実験を行いましたね?」

 

「はい」

 

「ロケットといえば大気圏外まで物を運ぶ宇宙開発になくてはならない技術ですので我が国含む列強の間で開発競争が激化していますが 衛星打ち上げ用の大型ロケットは兵器転用も可能です」

 

まあそうだろうなと何とはなしに玉城は同意した。

 

「EUが使う大型ロケットを使用した敵地後方への強襲輸送技術なんかもそうです」

 

権田原が説明したのはKMFのような陸戦兵器をロケットに搭載して敵地後方に送り込むEUの無茶苦茶な戦法。

初めて観たときは宇宙旅行できるんじゃね?と玉城は考えた物だ。

 

「そこでお聞きしたいのがこれは疑問を感じていらっしゃる方が多いかとは存じますが なぜ大国中華とEUに弾道ミサイルがないのか これについてどういった見解をお持ちですか?」

 

ほかに大型ロケット転用の兵器といえば代表的な物として弾道ミサイルがある。

これは多段式のロケットを用いて一度大気圏外まで本体を上昇させたあとに弾頭部に搭載した飛翔体を切り離して大気圏に再突入させ目標目掛けて放物線落下させるといった まあ簡単にいえばそんな代物。

玉城の残念な頭では打ち上げて敵に落とすといった程度の理解できないがそれもまた正解だ。

しかしこの弾道ミサイル技術を保有しているのは現代のロケットやミサイルの基礎となる奮進弾や推進機構を開発した技術超大国日本と 日本に遅れながらも開発したブリタニア 両国を猛追するオセアニアのたった三ヵ国だけ。

 

「そうですね まず第一に固体燃料の開発に手間取っていることがあげられるでしょう」

 

「お兄ちゃんど~ん!」

 

「ぐべっ!」

 

固体燃料ってなんだと説明を聞き入っているところを背中にから押し潰された。

腹這いで寝そべっていた玉城の背中にクララがダイブしてきたのだ。

小柄ながら女子高生 数十キロの体重が一点に掛かればダメージもデカイ。

 

「なにすんだーーっ!」

 

「図々しくもこんなところに寝そべってるお兄ちゃんが悪いんだよ このあいだルルお兄ちゃんに邪魔だって蹴り飛ばされてたのに学習力ないんじゃないの?」

 

自分の家じゃなくよそ様の家でやたらと態度がでかく図々しい玉城はこの家の人間になにをされても文句は言えない立場だというのを忘れている。

クララはそのまま玉城の背中でオンブバッタの子のようにして寝そべってしまった。

 

「重いんだよさっさとどけこのクソガキ」

 

「うわぁ 相変わらず口悪~いし顔もわるっ」

 

「よけいなお世話だバカ野郎!」

 

クララは梃子でも動かない。

両手で玉城の肩を掴み猫の子のように擦り付いている。

 

「おっぱい当たりまくりだぞ」

 

だからいやらしいことを言って退かせようとした玉城であったが。

 

「お兄ちゃんにだけ特別サービス クララちゃんのおっぱいを思う存分味わいなさい」

 

退かないばかりか胸部に力を入れて押し込み胸の膨らみを態と押し付けてくる。

 

「やめろよおい!」

 

クララは玉城真一郎の好みのタイプではない。

彼はコーネリアみたいな年上のお姉さまが好みなのだ。

妹属性のクララには荷が重い。

しかしそんな彼女も女子高生となり出るところも出てきたので多少彼の理性を揺さぶれるようになっていた。

 

巨乳には遠いが確かな膨らみを二つ背中に感じる。

 

(ううん やわらけェ)

 

クララの白いブラウスの下には膨らみ始めた実がなっていて。

 

「そ それよりもテレビだテレビ」

 

だんだん理性が負けてクララを退かせることを諦めるより背中に擦り付けられる柔らかい膨らみを堪能したくなってきた玉城はテレビをみることで誤魔化した。

 

「次ぎに費用対効果でしょうね いくら長射程の弾道ミサイルを開発したところでミサイルだけで敵国との戦争に勝利することは不可能です あれは広範囲破壊兵器とセットになって初めてその真価を発揮できますのでこれを持たない中華やEUには莫大な費用を費やしてまで導入するメリットが無いのでしょう」

 

でもでも頭の悪い玉城には軍事評論家のお話しを聞いてもちっともわからない。

 

「な なあクララ 広範囲破壊兵器ってなんのことだ?」

 

そこで名門校に通うクララに聞いてみることにした。

柔らかいもののぬくもりにちょっとよろしくない心境になってきたのは内緒にして。

 

「広範囲破壊兵器ね~ 大量破壊兵器のことだよ」

 

「・・・・・タイリョウハカイヘイキッテナンデスカ?」

 

「ニュークリア バイオロジカル ケミカル」

 

「・・・・クララセンセイ ニホンゴデオネガイシマス」

 

「ねえお兄ちゃん本当に高校卒業したの?」

 

「なんだそのアホの子を見つけたみたいな言い方は!」

 

高校は卒業している。

成績良くないし低ランク高校だったが。

 

「まあいいや 原子力兵器と細菌 う~んお兄ちゃんには病原菌兵器といったほうがわかりやすいかな?それと化学兵器は毒ガスとかそういうの」

 

「毒ガスはわかるけど病原菌ってインフルエンザみたいなのか?あんなの兵器になるのかよ?」

 

「なるよ ボツリヌス菌 天然痘 炭疽菌 強毒性で人人感染を容易におこなえるよう改良したインフルエンザなんかもそう 感染力殺傷力ともに強力だから都市部でばらまけばその威力は絶大 風邪って人から人に移るよね?お兄ちゃんだって経験あるでしょ?」

 

「人に移されたことはあるな」

 

「うん じゃあそうやって簡単に移る風邪で致死率50%以上ならどうなると思う?東京やペンドラゴンでばらまかれたりしたら」

 

「感染者続出で学級閉鎖だ」

 

「50%の致死率なんだからそんなので済むわけないでしょ 東京とペンドラゴンには軽く1000万を超える人が住んでる 単純にその半分が死ぬと考えたらいいよ」

 

両都市を取り巻く経済圏を考えればさらに人口は多くなる。

 

 

「やべえなそれ」

 

「うんやばいよ でもま避難したり隔離されたり細菌兵器そのものの効力についても不確定要素が多いから実際の死者数はもっと少なくなるかもだけど」

 

それでもスペイン風邪や香港風邪での死者数を考えれば病原菌の力は馬鹿にできない。

 

「じゃあさ原子力兵器ってのは?」

 

「ちょっと説明しづらい」

 

「なんでだよ」

 

「説明はできるんだけどお兄ちゃんに話しても理解できないと思うから」

 

「お前やっぱりオレのことアホの子だと思ってんな!」

 

「思ってないってば でも核分裂とか物体消失とか話してもわからないでしょ?」

 

「?? ???」

 

「ほらわかってない それじゃあ簡単に説明するわ 原子力兵器っていうのはもの凄い威力の爆弾のこと」

 

「なんだそのテキトーな説明」

 

「実際には使われたことないし実験も非公開だから不明な点が多いの そして弾道ミサイルはこの原子力兵器と組み合わせることでもっとも強力な抑止力になりえる」

 

そこでクララは肩を掴んだ手に力を入れて体を少し前方へと持ち上げ玉城の肩越しにひょっこり頭を出してきた。

 

「じ じ じゃあ なな なんでEUは弾道ミサイルを開発できないんだ」

 

「専門家じゃないからよくわからないんで燃料と技術の問題としかいえないね~」

 

左肩に出した顔をぺたっとくっつけてくるクララに玉城の心拍数は増大中。

 

(か・・・顔が近い つーか顔くっついてんじゃねーかよ)

 

緊張からどもってしまう玉城にクララはす~りす~りと猫みたいに顔を擦り寄せていた。

その拍子に流れたさらさらの髪の毛が首にまとわりついて肌とすれぞわっと鳥肌が立ち興奮の度合いが増す。

悪気なくいつもみたく懐いてくるだけなのに体勢が手伝ってよくない感じだった。

 

「きっと弾道ミサイル用の固体燃料がそれだけ作るの難しいんだよ 液体燃料ロケットは弾道ミサイルに不向きだし生物化学兵器は使い勝手悪い EUや中華に原子力兵器はないし開発の目処も ふ~っ」

 

耳元で答えながら息を吹きかけてくる。

クララ本人は悪戯気分でも玉城にはたまったもんじゃない。

 

「ふああっ!な なな なにしてんだ!」

 

「耳にゴミが付いてたから吹き飛ばしてあげたんだけど なになに?ひょっとしてそんなクララちゃんに興奮しちゃったのー?」

 

「お お~お~乳臭いガキの分際でなにいってやがるんだかねェこのお子ちゃまは これだからガキは困るんだよなあちょっとしたことで勘違いすっから」

 

強がる玉城の暴言。

 

「うわっ ちょっとムカーってなっちゃった!」

 

これに怒ったクララは玉城の耳に齧り付いた。

 

「痛ってェェェェェーーーー!」

 

 

 

 

顔をくっつけられて首に髪がまとわりついて背中には柔らかい膨らみが押し付けられて耳に息まで吹きかけられて噛まれた。

 

(こ これで相手が年上のお姉さまだったらオレの理性は完全崩壊していた)

 

相手によって接し方を変えてくるクララは親しい相手には子供っぽいのでクララといえば子供のイメージがあり結果として助かったわけだ。

 

(クララ相手に欲情したら負けだよな~)

 

欲情していたのに認めない玉城はクララを背中に乗せたオンブバッタの体勢のまま明後日まで生テレビを視聴。

ミサイル談義に興じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原作EUの弾道ミサイルモドキはどうなってるんだろ あんな技術あるならって思ったが燃料の関係で弾道ミサイルとしては使えんのかね?

なにが原因であんなイミフな使い方をしてるんだ。

休日の弾道ミサイルはなにを燃料にしてんのかも気になる。

 

オズを読み返してからこちら休日の玉城×クララに嵌りすぎてつらい。

脱出の名手って以外うざいだけの玉城とギアス持ちの暗殺者クララのカプなんてよく思いつかれたもんだと脱帽。

最終更新:2015年06月14日 16:08

 

 



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モニカ「今日はエイプリルフールなのでしたね」

 

 

南雲とドロテアSSでの休日モニカ

 

 

 

 

 

モニカ「今日はエイプリルフールなのでしたね」

 

 

所用で参上していた皇宮内のサロンで物思ったのはパーソナルカラーである黄緑色のマントを着た金髪碧眼の美貌のラウンズ。

彼女は嘘つきの日という特段興味があるわけでもないイベントにつきあってみようかなと考えた。

 

「どうせなら人を不快にさせる嘘よりも気分が良くなる嘘にしましょう」

 

彼女の考え出した嘘は不本意ながら彼女自身のプライドが傷つくものだ。

でも事実は事実なのでどうしようもない。

 

「なんだか悲しくなる」

 

落ち込みながら向った先は調理器具の集まる地にして喫緊の課題が山積みの料理を作る調理場であった。

 

 

 

 

 

 

「クッキーを焼いてみましたのでどうか召し上がってください」

 

サロンから出ていったと思えばしばらくして帰ってきた檄まず料理妖怪金髪赤リボン黄緑マント。

その手には皿が乗っていて皿の上には美味しそうに見える色とりどりの毒物 自称クッキーが載せられている。

焼かれたばかりのクッキーに見える毒物を目にしたナイトオブテンルキアーノはすぐ隣で談笑していたナインのノネットとフォーのドロテアに小声で囁いた。

 

(で誰が毒味するんだ?)

 

問われたノネットは答える。

 

(正露丸味のクッキーなど私はいらないぞ)

 

続くドロテア。

 

(私は数日間味覚が戻らなかった)

 

三人は共に食べたくないと思った。

なにを進んで毒物など食べたいものか。

 

生贄をもとめて視線をさまよわせるとスリーのジノはいつのまにやら耳にイヤホンをつけて音楽に聴き入り 聞かなかったことにしていた。

 

(ヴァルトシュタイン卿は不在 ではあの毒物の処理は)

 

三者の目は自分達はイヤだとばかりに別の誰かを捜す。

ラウンズの専用サロンとはいえ執事やらメイドといった皇宮の使用人もいるのだ。

生贄候補には事欠かない。

しかし誰もが皆あさっての方向を向いたり聞こえないふりをしている。

はっきり言ってしまうと金髪赤リボン黄緑マントが作った食関係のものは皆 ま・ず・い。

紅茶やインスタント食品なら大丈夫でも一から作った料理は例外なく美味しそうに見える毒物とかしてしまうわけで 皆からは嫌煙されていた。

 

結婚したから少しは上達するかと期待したら期待するだけバカだったと自省を促されるという結果でそのときに食べたものがノネットが食べた正露丸クッキーである。

 

「みなさん遠慮なさらずに召し上がってください」

 

遠慮してんじゃねーよ!!食いたかねーだけなんだよ察しろ!!

ルキアーノ ノネット ドロテア ジノ 控えている使用人達。

全員が心の声を揃えて叫ぶ。

 

そんな生贄を求めていた者達のところへとやってきたのが「・・・・」ピンクマントの無口少女シックスのアーニャ・アールストレイムだった。

 

 

「あ 丁度いいところへ」

 

「?」

 

檄まず料理妖怪金髪赤リボン黄緑マントはそっと手に持つ皿を差し出す。

 

「クッキーいかがですか?」

 

「・・・・」

 

とくになにも答えずに無口な少女は手だけを動かし皿に載る焦げ茶色のクッキーを取ると ひょいと口に放りこんだ。

 

*1)))

 

「もぐもぐもぐ」

 

表情は変えずに口だけ動かし咀嚼するアーニャはそのまま飲みこむ。

 

「お味のほうはどうでしょう?」

 

「・・・・おいしい」

 

*2)))

 

アーニャは無口だが物事をストレートに言う人だ。

檄まず料理妖怪金髪赤リボン黄緑マントことトゥエルブのモニカ・クルシェフスキーによるラウンズ内でのクッキー初披露でも 「個性的な味」など当たり障り無い感想を述べる他のメンバーに対しはっきり「まずい」と答えていた。

そのアーニャがおいしいというからには本当においしいのだ。

 

ルキアーノは驚愕。

 

(ま まさかアールストレイム卿がうまいと口にするとはな)

 

ノネット半信半疑。

 

(い いやまだわからんぞ 一枚だけ奇跡の味に仕上がったとか)

 

天を仰ぐドロテア。

 

(まさに未知との遭遇だ)

 

三者三様だが揃いも揃ってひどいことを考える三人はまずルキアーノが動いた。

 

「で ではクルシェフスキー卿 私もひとついただかせてもらうとしよう」

 

「どうぞ」

 

手にしたクッキーは見掛けが美味しそう。

今まで幾度も見てきた美味しそうに見えるだけの毒物と同じ。

 

(ええいままよ!)

 

覚悟を決めて口へ放りこむ。

 

「もぐ」ひと嚼み「もぐ」ふた嚼み「もぐ」み嚼み「ごくん」最後は飲みこみ。

そのお味のほどは。

 

「う・・・・」

 

「「「「う?」」」」

 

「ううう」

 

「「「「ううう?」」」」

 

「うまい!」

 

ルキアーノは神の奇跡がこの世にあるということを この日初めて実感したような気がしていた。

 

続いて真偽を確かめるためにノネットとドロテアが さらに無視を決め込んでいたジノにその他の使用人達がひとつずつ食べ同じ感想を持った。

すなわち「おいしい」という。

 

(これはシマダ卿への愛が毒物を変換させ壁を打ち破る原動力となったのだろうか?)

 

いま自分で確かめたにもかかわらずしつれいなことを囁くルキアーノはどう思う?とノネットへパス。

 

(娘が生まれたことから母親として進化しなければならんと本能が働いたのではないか?)

 

ノネットもしつれいだった。

 

(恋する心が女を変えるのだな そういえば私も最近料理の腕が上達してきたような気がする 女とは斯くあるべきなのだろう)

 

(ん?ドロテア 卿は女を捨てたのではなかったのかな それともナグモ卿への愛がお前の女性的なところを進化させたか)

 

(うるさいだまれ!)

 

ドロテアは女だった。

 

 

しかしサロンにいたメンバーは誰もが失念していたことがある。

4月1日の今日はエイプリルフールこと嘘つきの日であることを。

クッキーは彼女が作ったものではなく皇宮の料理人が作ったものだった。

プロが作ったのだからおいしくて普通なのだ。

 

(喜んでもらえる嘘は誰も傷つかないからいいけれど複雑な心境です)

 

人が喜ぶ嘘をついたかわりに妻そして母親としてのプライドが大崩壊。

 

(どんなに味が悪かろうとも私の料理を心からおいしいといってくださるのはやはりシゲタロウだけなのですね・・・・)

 

人に優しく自分に厳しいモニカのなんともほろ苦いエイプリルフールだった。

最終更新:2015年06月14日 16:10

 

 

 

 

 



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正義はすべての人の為に

 

休日世界 名無し様

 

 

 

 

 

 

よく分からないモニカネタ

嶋田さんも寒いとぐずる事あるでしょう

 

 

 

 

正義はすべての人の為に

 

 

 

 

 

 

モニカ・クルシェフスキーは赤茶けた夕陽の光にも似た光源に満ちる世界に一人立っていた

 

立っていた?

 

浮かんでいるようにも感じる

 

此処は何処?

 

深く考えるまでもなく出る答え

 

 

人間は空を飛べない

 

こんな夕陽の光みたいな物に照らされた世界など知らない

 

自分が嶋田と一緒に仲良く布団に入り寝た記憶はある

 

着ている服も違う

いまモニカはラウンズとしてのライトグリーンのマントを着用した正装姿だが、騎士スタイルではなくお風呂上がりの浴衣で寝床に入ったはずだ

 

嶋田家に帰宅してすぐに服は着替えている

今日は寒かったので長袖のファーの部屋着に半纏を着込んで、嶋田と二人でおでんを食べながらドリフの○爆笑を観ていた

ドリフが終わってからお風呂に入って、歯を磨いて、明日の朝も早いからと寝たのだ

 

なら夢しかないだろう

 

なにより夢だと思ったのは、自分の前方にもう一人同じ顔をした人間がいたから

鏡写しのように向かい合って彼女は立っていた

敷いて違うところを挙げるのなら、向き合う自分は自分と同じ癖の無いストレートの長い金髪を頭の左右に赤いリボンで結わえ、ラウンズのパイロットスーツを着ているところだ

 

ナイトオブラウンズ

ナイトオブトゥエルブ

モニカ・クルシェフスキー

 

彼女を示す称号

彼女を表す階級

彼女の名前

 

それは自分と同じ存在

この世に似た人は数人存在するという

しかし同じ人間など居はしない

 

だが目の前に立つのは同じ存在

自分自身であると意識的に理解できた

 

彼女もこちらに気付いたのか話しかけてきた

 

「あ、あなたは、私?」

「そう言うあなたこそ…私は、モニカ・クルシェフスキー。ナイトオブトゥエルブです」

「私もモニカ・クルシェフスキー、ナイトオブトゥエルブです」

 

着ている服さえ合わせればまるでドリフの鏡ネタのようだった

 

夢だと気付いたモニカは、恐る恐る彼女と向き合い話を続けた

 

「ラウンズのマントに騎士服と、こんな姿では信じて頂けないかもしれませんが、私は寝るところでした」

「寝る、ところ?」

「ええ。ドリフ大○笑という日本のバラエティ番組を嶋田さんと二人で観た後にお風呂に入って、歯ぁ磨けよ! と言われたので歯を磨いて」

 

くすっ

思い出し笑い

 

他人の前では変に思われるからしないよう気を付けても、自分自身が相手ならいいかな?

面白そうに話すモニカに彼女は告げた

信じられない話を

 

 

「なん、ですか、それは?」

「なにとは?」

「あなたがエリア11にいる事です! シマダ? 誰ですかそれは?! なぜ悠長に笑ってなどいられるのです?!」

 

要領を得ない

なにを話しているのか理解できない

彼女は混乱したように叫ぶ

 

「あ、あの~?」

「私はっ、私は皇帝陛下を殺害し世界に混乱をもたらし帝国臣民を苦しめている偽帝ルルーシュを討つ為に出撃したところでしたっ! それが気が付けば此処にっ…此処はっ、あなたは誰なのですっ!」

 

混乱は間違えだ

錯乱していた

 

皇帝陛下を殺害した偽帝ルルーシュ?

 

誰だろう

 

「ち、ちょっと待ってください落ち着いて!」

 

自分で自分に落ち着けとは

コント番組を観たからこんな夢を?

モニカはモニカで混乱してきた

 

「ルルーシュとはルルーシュ殿下の事でしょうか?」

 

普通の質問に彼女は怒りを湛えた瞳でこちらを見てきた

 

「殿下などと…! あの新皇帝を騙る偽帝、悪逆帝に殿下などという敬称は不要っ! いまも帝国臣民が傷付いているというのに…!」

 

わめき散らす彼女

取りつく島もない

 

(夢の私は過酷な戦火の中に身を置いているのでしょうか?)

 

反論せずに聞いているとエリアや極東事変という単語が何度か出てきた

 

(エリア…確か昔ブリタニアが国土拡大政策へ取り組んでいた頃に当時植民地だった北ブリタニア北部地域、中央ブリタニア全域、南ブリタニア北部地域を呼称していた呼び名ですね)

 

ブリタニアの国力を考えるなら、拡大主義政策が続いていれば南ブリタニア全土までがブリタニア帝国領となっていただろうと歴史家は結論付けていた

ただし拡大し過ぎた国土の開発に時間を摂られて今よりも国力・技術力共に低い国となっていたとか

そして忌むべきあの太平洋戦争で世界最先端を爆進していた大日本帝国と相討ちとなり、ブリタニア帝国は崩壊していただろうと歴史研究家は語っていた

 

なにせ大日本帝国は太平洋戦争当時にはもうプラズマモータージェット戦闘機を開発量産配備していたのだ

弾道ミサイルや巡航ミサイルの他、対ブリタニアの決戦兵器だったと目されている超重戦略爆撃機『富嶽』も万単位で用意されていた

やろうと思えばブリタニア全土攻撃が可能な体制が整えられていたとなる

 

後世の歴史家は語る

 

日本は数百年を掛けてブリタニアやオセアニアといった巨大国家を叩き潰す為に先を見てきたのではないかと

 

陰謀論を唱えるともうオカルトの世界に入ってしまうが、史実としてブリタニアが対日講和へと傾いたのは、日本との戦争が長引いていればの最悪ケースで国家崩壊が確実視されていたからだ

 

それだけの技術力、それだけの国力を大日本帝国は持っていた

その技術力は今も尚世界最先端を進み、総合的国力に置いてもブリタニアの国力を射程に収めている

フレイヤの小型化、多弾頭システム化など日本でなければできなかっただろう

 

現在でこそブリタニアの最優にして唯一対等なる友と呼ばれている日本だが、たった一つだけでもボタンをかけ違えていれば双方相打つ形となり、歴史に幕を閉じていた

 

「私はっ、私はあまねく臣民の為っ、すべての人々の為にも」

「正義を降り注がせようとして戦ってきた…ですか?」

「えっ?! 」

 

思考の海、歴史のもしもに思いを馳せていたモニカは、彼女の叫びに言葉を被せた

 

「どう、して…あなたが」

 

彼女は戸惑う

自分の持つ譲れない信念を言い当てられたから

だがそれは当たり前なのだ

 

「どうしてって、あなたはモニカ・クルシェフスキーなのでしょう? ならばその信念は同じ物を持っている。私はそう思いましたし当たったでしょう」

「…」

 

モニカ・クルシェフスキーの譲れない信念

 

強者弱者の区別なく、あまねく臣民の為に戦う騎士となる

正義はすべての人に降り注がれなければならない

その為に必要ならばこの身を剣として戦う騎士となろう

 

 

嶋田には理想主義な考えと諭された

しかしその志は何物にも優る輝きを放つ宝石だと讃えられた

 

「弱者を見捨てない。正義とはすべての人々に必要である。本土に住まう人々にも、海外領土に住まう人々にも、世界中に生きとし生ける人々にも正義は降り注がれなければならない…私の信念です。あなたは誰の為にその剣を振るうのですか?」

 

譲れない信念だからこそ自分の言葉を聞きたい

同じ信念を持つ自分ではない自分は誰の為に?

 

「私は…私はブリタニア帝国本土の人々もエリアとなってしまった地の人々にも、平等に正義は必要であり、区別などない臣民であると考え己の剣を振るってきました…剣を主君に捧げながらも、主君であるシャルル陛下の為にだけではなく、あまねく臣民の為に…故に、主君を殺害し、国に民に混乱をもたらす…悪逆帝ルルーシュを…!」

 

夢の私は主君を喪っている

主君シャルル陛下を討ったルルーシュ殿下を討つ為に出撃した

 

モニカは彼女の置かれている状況を把握しながらも、その信念は変わらずな自分が誇らしく思えた

 

「あなたはとても大変な状況下にあるようですね。それでも信念を曲げない…そんなあなたを私は誇らしく思います。何処であっても、苦しみや悲しみ、悔しさの渦中にあっても尚、自らの信念を曲げないモニカ・クルシェフスキーを」

「…」

 

そして一つの言葉を贈った

 

「ある方は言いました。『すべての人々に正義を、それは不可能な願いであり、立場たがえば空々しく聞こえる事も往々にしてある理想主義だ』どうやらあなたの世界では拡大主義政策に歯止めが掛からなかったようですね」

「それ、は」

 

言い澱む彼女にモニカはブリタニアの在り方は弱肉強食が基本だから仕方がないとも伝えた

 

「こちらでも同じですよ。祖国ブリタニア帝国は弱肉強食を国是としておりますので。しかし国内での弱者救済措置、腐敗貴族の浄化作用などは上手く働いています。何よりも我が国には信じられる盟邦が存在します。切磋琢磨を繰り返しながら互いに互いを高め合い、背中を預け合える盟邦が」

「信じられる盟友…羨ましい、話です…我が国には…」

「そうですか…。それは悲しい事ですね…」

 

モニカの祖国神聖ブリタニア帝国には背中を預けて戦える友がいる

だが彼女の祖国神聖ブリタニア帝国には背中を預けられる友がいない

 

悲しい事

 

寂しい事

 

その孤独の中で彼女のブリタニアは足掻き続けてきたのだろう

そして彼女もまた己の信念と国是の間で苦しんできたに違いない

 

「ですが、それでも、あなた個人が抱く信念は、きっとあなたに必要な事です。あなたがあなたで、私が私で、モニカ・クルシェフスキーがモニカ・クルシェフスキーである為に」

「私は、間違って、ない?」

「間違いでも正解でもありません。ナイトオブトゥエルブたる私が剣を捧げた主君シャルル陛下は、国内でモニカ・クルシェフスキーの信念に近い政策を採り続けて参られましたが、過去のブリタニアが行ってきた性急なる拡大主義の爪痕は消えません。先頃までブリタニアは南ブリタニア諸国から恐れられていましたよ。また拡大主義に舵を切るのではないかと。私も、駐日ブリタニア大使館附駐在官として大日本帝国へと派遣され暫くした時、私の在り方をその方に聞いて戴きましたが、その回答が先の不可能な願いだ、でした。ブリタニアの過去は拡大主義に継ぐ拡大主義でしたので…」

 

彼女の現状を聞きながら、モニカも自分の現状を話す

自分が駐日武官である事

大日本帝国とは過去相討ちとなりかけた程の血で血を洗う大戦争を行った事

怨讐を乗り越え、二度と過ちを繰り返さぬよう相互安保条約を結び、協力して互いの技術を一つにしていく努力を行ってきた事

 

「私達の願いにして信念とは何処まで行っても理想主義だそうです。しかし、彼の方はこうも仰せでした『理想主義で不可能、でも俺は良いと思うその信念。曲げず、挫けず、ひたむきに、自分の抱いた信念を貫き通す。すべての人々に正義を降り注がせたいと頑張るたった一人の騎士。俺だったら応援したいなその騎士を』と。ですから私はいまも諦めてなどいませんよ。正義をすべての人々に」

「…平等に、降り注がれなければならない。そう、ですね。…私も、捨てません。諦めませんよ己の信念を貫き通す事を」

「頑張ってと軽々に申し上げる事はいたしません。無理をなさらずあなたのペースで、あなたはあなたの信念を貫き通してください私」

「はい。あなたもご無理をなさらずに、あなたのペースで歩いてください私」

 

歩み寄ったモニカとモニカは強く抱きしめあった

 

「あなたにお言葉をくださったその方は、もしかしてラウンズではない私モニカ・クルシェフスキー個人が剣を捧げた方なのでは?」

「ふふ、分かりましたか? 近い将来私の旦那様となる…予定の方です」

「気が早いですね私…でも、羨ましいな」

「あなたにも見つかりますよ私、急いては何も見出だせません」

「ふふ、そうですね」

 

ラウンズとしての正装

黄緑色のマントに騎士服姿のモニカ

 

ラウンズのパイロットスーツ

体にフィットした白いパイロットスーツを着たモニカ

 

二人は抱き合ったままで別れを告げた

 

「それでは」

「ごきげんよう」

 

『私』

 

次第に薄れてやがて消えたパイロットスーツのモニカ

 

夕陽の中にあるような世界

立っているような、空中に浮いているような不可思議な世界で出会ったもう一人のモニカ・クルシェフスキー

 

その刹那の邂逅が何をもたらし何を変えるのか?

 

それは夢を見たモニカ当人にも分からない

 

「私も帰りましょう」

 

ライトグリーンのマントを翻して歩くモニカ

帰り道など分からない彼女だが、なんとなくこの方向こそ、寝床の自分がいる方向な気がした

 

「嶋田さんの匂いがしますからね」

 

夕陽の世界で一人歩いていたモニカも、やがてパイロットスーツのモニカのように姿を薄れさせて消えていった

 

★★★

 

 

 

「んっ…」

 

三月に入り暖かくなってきたかと思えば季節が逆戻りしたかのような凍てつく寒さに目を覚ましたモニカは、目覚めて早々に布団から身を起こすとボーッとしていた

 

「んーう…ん、朝、ですか」

 

起きると隣に嶋田が寝ていた

 

「う~ん、んっ! さあ、今日も一日頑張りましょう!」

 

ピシャリ

自らの頬を叩いた彼女の視線は自然隣に向けられた

 

「嶋田さん、起きてください嶋田さん」

 

仕事の無い引退選手な彼はまだ寝ていたが、今日は彼も起こさなければいけない

今日は日ブ共同開発の最新型浮遊航空艦就役の式典がある

朝が早いとはモニカに限らずな理由だったのだ

 

「んー、なんだいモニカさん…。まだ、こんな時間じゃないか…」

 

モニカに揺すられて眠たそうに目を擦る

年を取ると朝が早いというあれにもどうやら個人差があるようだ

 

「あー、さむっ…。ダメだこりゃ、寒い。また明日…おやすみ」

 

ぐずるようにして布団に潜ろうとした嶋田であったがラウンズの彼女には勝てず

 

「ダーメーでーすーっ」

 

引きずり出されてしまう

 

「今日は一緒に倉崎重工まで行くんですよ」

 

嶋田は大日本帝国元宰相

モニカは駐日ブリタニア大使館附駐在官ナイトオブトゥエルブとして

来賓として呼ばれているのだ

 

「あ~っ、そうだった…やだなぁこんな寒い日に」

「やだも案山子もありません。起きてください」

 

彼女は力任せに引っ張る

 

ぐいっと引き上げられる嶋田の体

 

華奢なモニカだがラウンズなのだ

普段から鍛えている現役騎士の力には抗えない

 

「老人を労ってくれ」

「60で年寄りなどと下手な言い訳にしか聞こえませんよ。今の世60はまだ人生折り返し地点に差し掛かった辺りなのですから」

 

前合わせの浴衣着同士での引っ張りっこ

 

どこかの旅館の風景にも見えるが、嶋田家は嶋田とモニカの寝室での出来事である

 

「昨日は暖かかったのに…倉崎まで出向かなにゃならないとは」

 

モニカに無理矢理起こされてしまった嶋田がぶつぶつ文句を呟くも、モニカはクローゼットより手早くぱっぱと騎士服とライトグリーンのマントの掛けられたハンガーを取り出して着替える準備を始めていた

 

「文句を言っても始まりません。嶋田さんも早く着替えてください」

 

彼女は言うだけ言うと先に顔を洗って来ますと出ていった

 

「……俺も顔洗うか」

 

 

 

くぎ煮、焼きのり、焼き鮭、そして卵かけご飯

 

二人でシンプルイズベストな朝食を食べた後、上下紺のスーツでビシッと決めた嶋田繁太郎は、モニカのマントの留め具を留めてあげていた

 

「こんな感じか、いいかなモニカさん」

「はい、これでいいですよ。嶋田さんもネクタイが」

 

彼女は彼女で嶋田のネクタイの歪みを整える

 

「曲がってたのかな」

「曲がってましたよ。服装の乱れは精神の乱れです。これでよし。さあ、参りましょう」

「寒いのに…」

「元宰相閣下が寒さで日ブ共同開発の新造艦艇完成式典をドタキャンなんて許されませんよ?」

 

そんな二人の後ろに続く嶋田家の家政婦は玄関まで見送ると頭を下げた

 

「旦那様、モニカ様、行ってらっしゃいませ」

「行ってきます。後の事はお願いしますね」

「はい旦那様」

「行ってきます。今日はまた急に寒くなりましたので風邪など惹かないようお気をつけください」

「はい、お気遣いありがとうございますモニカ様」

 

紺のスーツに帽子を被った嶋田

白い騎士服に黄緑のマントを着用したモニカ

主君と騎士なのだが家政婦から見る二人はなんだか新婚夫婦みたいだった

最終更新:2018年03月11日 09:41

 

 

 



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結局水中用KGFもガンダム勢に持って行かれたゾイドチーム

 

668 :名無しさん:2013/03/18(月) 21:00:07

影響を受ける人さんのSSを元に書かせていただきました、

こんな技術もあったよねというのを元に書かせていただきます。

あと個人的な趣味?も結構入っています

お気を悪くされたらすみません

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

結局水中用KGFもガンダム勢に持って行かれたゾイドチーム、

このままではゾイドの命脈は絶たれてしまうのではないかという危惧を感じていた。

そこへある者が妙な入れ知恵を始めた。

 

まずはじめに装甲表面に施す処理によってどれだけ速力を稼げるかの研究のため、

放置してあった試作機のシンカーを解体、「ウォディック」をモデルにしたような魚体型潜水艦へと作り替えた。

このことにゾイドチームは少なからぬ不満を感じたもののこれもゾイド型KGFを作るためと我慢、

この試作潜水艦(?)「ウォディック」の装甲には水分子がぴったりとはまるサイズの微小な窪み(注1)が全体に設けられており、

これにより水の抵抗を極めて低い状態に持っていくことに成功、「ヴァル・ヴァロ」に匹敵するする速力を得ることになる。

 

とは言え速力的に「ヴァル・ヴァロ」に匹敵するだけではダメだと、

次にシンカーの強化用パーツとして開発を始めておきながらもリソースの集約のため未完成のまま放置された、

ヴァイキングランスのランスパーツを転用して新たなパーツを作り始める。

これに際して先に建造した「ウォディック」をゾイド的な動きが可能になるように改修、

完成した「ウォディック」を元にしたパーツとランスパーツを元にしたパーツを組み合わせて完成したのが、

「スティルアーマー」(注2)と呼ばれるKGFであるこのKGFは先頭部にMVSランスを用いることで水分子同士の結合を緩めさらなる抵抗の軽減(注3)に成功した、

「水を空気に近い粘度」へと変換したのだこの結果「スティルアーマー」は正規水中用KGF「ヴァル・ヴァロ」を凌駕する速力を手に入れたのである。

もっともMVSランスは膨大な電力を必要とするため稼働時間の減少を招いた。

結果、シンカー、ウォディックでは武装を収めていたエリアまでタンクにすることで稼働時間の延長を計るはめになり

武装が大幅に少なくなり兵器としては微妙な機体へとなってしまった。

 

669 :668:2013/03/18(月) 21:00:51

ところでこのような結果を引き起こした張本人はというと

MVSに多大な電力が必要になることが判明した時点でガンダム系宇宙世紀チームと接触を図り、

「ウォディック」で得られた極小の窪みによる水抵抗軽減ほかいくつかの技術を盛り込んだ水中用KMFの研究を唆していた。

 

まず手始めに始めたのは「廉価版ズゴック」の開発である。

この「廉価版ズゴック」では各機能をユニット化することでファミリー化しやすくすることも考えられた、

とりあえず母体として水中用でできれば安価で使い易い機体を目指して作られたのが、

「アッガイ」である、本機には「ウォディック」で得られた仮称「マイクロディンプル」を機体を覆う無反響タイルに施すことで

水中での活動能力を高めるとともに無反響タイルによって目視以外で捉えることは難しいと言う優れた隠密性を持つに至った

また各部位をファミリー化を前提に作ったことによって副次的に高い整備性得るにことになる。

ちなみに本機が完成した時の一部の有志は「次はマミたんのジュアッグだろ」「いや、男らしくアッグだろう」「いやいやキュートにベアッガイだ」等と話されていたと噂される

 

「アッガイ」により亜人型でも「マイクロディンプル」が有効であると確認されたため、

正規水中用KMF「ズゴック」と「ゴッグ」をベースとした高性能水中用KMFの開発を始めた

「ハイゴッグ」と名付けられた機体は「マイクロディンプル」をほとんどの装甲部分に施すことで、

水中での活動能力を高め、さらに大型化された椀部には出力を強化したコイルガン、クローはシュロッター鋼製へと強化された、

また内蔵式だったスラッシュハーケンは飛燕爪牙へと、コクピットもライディング型に変更された

さらに椀部にはいくつかのハードポイントが追加され武装の選択肢も多少なりとも強化された。

最もシュロッター鋼製のクローは生産コストを高めることとなり量産の際には特殊合金製のクローへと戻されることとなった

 

水中用試験型KMF:【プロトハイゴッグ】

分類:第四世代KMF 所属:日本帝国海軍海洋兵器研究所 外見モデル・ポケットの中の戦争のハイゴッグ

製造:倉崎重工 生産形態:試作

全高:4.89m 全備重量:8.73t

推進機関:ランドスピナー 水中用推進器

武装:飛燕爪牙×2 シュロッター鋼製クロー 小型魚雷×4(総弾数20) コイルガン×2(椀部固定)

乗員人数:1人

 

水中用KMF:【ハイゴッグ】

分類:第四世代KMF 所属:日本帝国海軍海洋兵器研究所 外見モデル・ポケットの中の戦争のハイゴッグ

製造:倉崎重工 生産形態:量産機

全高:4.89m 全備重量:8.73t

推進機関:ランドスピナー 水中用推進器

武装:飛燕爪牙×2 合金製クロー 小型魚雷×4(総弾数20) コイルガン×2(椀部固定)

乗員人数:1人

 

オプション装備として大型ロケット(ハンドミサイルユニット)、外付け式小型魚雷×4、外付け式コイルガンなどがある

 

ちなみにこれだけやった張本人は現在00チームに接触して何か話しているらしい、

なんでも「レ  ント」なんて単語が聞こえたそうだ。

 

注1:テレビからたこ焼きラバーという名前を頂いた水着に使われている技術です

注2:スティルアーマーのドリアスピス形態ですがゾイド名を優先してこの名前です

注3:たしかガンダムSEEDのグーンの外殻がこんな機能を持っていたと思います

 

掲載OKですが掲載出来るのだろうかコレ

最終更新:2013年09月20日 19:30

 

 



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モニカはラーメン通

 

614 :モニカはラーメン通:2013/02/19(火) 18:29:40

倉崎のKMF開発責任者、通称主任から、またぞろ技術実証機のテストをお願いされたモニカは、テスト終了後に、倉崎のテストパイロット枢木スザクと、暇潰しについてきたナイトオブシックスのアーニャ・アールストレイムらと入った行きつけのラーメン屋さんで豚骨ラーメンを食べていた。

 

「替え玉をお願いします」

 

「お、さっそくかモニカちゃん、硬さは?」

 

「柔で」

 

「はいよ!」

 

「……モニカ、替え玉ってなに?」

 

替え玉を注文したモニカに首をかしげて尋ねるアーニャ。替え玉がなにか知らないようだ。

 

「アーニャは替え玉知らないの?」

 

「うん……」

 

アーニャが護衛に付くことが多いブリタニアのルルーシュ皇子やナナリー皇女といつも行くラーメン屋さんには替え玉というメニューが無かった。

 

「替え玉っていうのはね、麺だけのおかわりよ」

 

「麺だけ?」

 

「そう、スープを残して麺だけを注文するの」

 

「じゃあ柔っていうのはなに?」

 

「麺の硬さだよ」

 

矢継ぎ早の質問に答えたのはアーニャの隣で醤油ラーメンを食べているスザク。

 

「硬さ?」

 

「うん、柔らかい順に、柔、普通、硬、バリカタ、ハリガネってあるんだ。地域や店によって差はあるけどね」

 

「そう……じゃあ私もおかわりする」

 

「嬢ちゃん硬さはどうすんだい?」

 

「硬いのがいい」

 

「あいよ!」

 

「僕も硬で」

 

「おう!」

 

各自替え玉を注文して黙々と食べていく、中でもモニカは柔、普通、硬、バリカタ、ハリガネと順番に注文して、その全てを平らげていくという豪快な食べっぷり。

 

「モ、モニカさん、ちょっと食べ過ぎじゃないですか?」

 

流石に食べ過ぎだろうと指摘するスザクに、モニカは「ここのラーメンはとても美味しくて、つい食が進んでしまうの」とホクホク笑顔。

 

「太りますよ?」

 

「そこは大丈夫、私は太らない体質ですから」

 

モニカは自信たっぷりに言い切って、最後の替え玉を注文。

 

「替え玉、粉落としで」

 

「おう!締めだな!」

 

「粉落とし?そんなのあるんですか?」

 

「ああ、あるぞ。ただウチで注文するのはモニカちゃんだけだがなあ」

 

ラーメン屋のおじさんは「麺入るよ!はいあがり!」と僅か数秒で麺を持ってきた。その異常な早さに驚くスザクを尻目に、モニカは「この硬さがいいのよ」と、黙々と粉落とし麺を食べている。

 

「スザクも知らない硬さ」

 

「というか、あれ生じゃないのかな?」

 

アーニャは、日本人のスザクが知らない替え玉を知っているモニカを不思議に思い、スザクは、殆ど生麺の替え玉を注文して食べる、モニカのラーメン通ぶりに唖然としていた。

 

 

その日の夜、風呂上りのモニカは脱衣場でムンクの叫びをあげていた。

 

「に、2キロ太ってる……」

最終更新:2013年02月24日 21:36

 

 



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ブログチェックで甘々


金曜の夜といえばスウィートナイト。
スウィートはあまい。

ソキア「そんなネタらしいさぁ」

ネタ元は42スレのブログ語りのレスで影響を受ける人とトーゴーの人の案。
いっくんの砂糖。
スレ42の参考レス
影響を受ける人氏。
個人的にアーニャ上のブログは見てみたいな。日本にいると「おいしいもの食べた。今日はこれ」っていう感じに紹介されていそう。
トーゴー氏。
ジノの弟分とその婚約者の日々を観察したブログなんてどうでしょう?
ジノはレオンもマリーカも匿名にしてるから問題ないだろとレオンからの抗議をあしらっているものの、
関係者から見たらあの二人のことだとすぐ分かってしまうような。
では投下。




 

 

 

ブログチェックで甘々

 

 

 

 

四角い画面だけで構成された携帯電話を操作しながら某かの確認を行うリーライナの手元をみていた山本は感心していた。

 

「よくもそんな自由自在に扱えるな」

 

彼女がいま使っているのは一般的に普及してるスマートフォン。

世界中で爆発的に広がり業界の9割を独占している携帯端末だ。

でも最近ガラケーから乗り換えたばかりの山本にはどうにもこの平たいタッチパネル式携帯端末が上手く操作できない。

 

(嶋田も辻も宮様も皆それを自在に使いこなしているというのに)

 

夢幻会の構成員達が平然と操れるのは彼等がギアス世界以前の昭和世界の更に前の平成世界でこの端末を扱い慣れていたからであり

昭和世界の物品しか与り知らない彼は完全な素人である。

ギアス世界では発売されてからかなりな年月が過ぎていても最近使い始めたばかりの昭和世代には何かと不便に感じる。

実際は便利でも操作性の違いから感じる不便さは慣れるまで消えそうにないようだ。

山本自身の学習能力は高くとも、60代ともなれば知識の吸収率も落ちてくるし

ガラケーとは異なる操作性が災いして短文メール一つでもやっとこさ。

リーライナや嶋田達のようにぱぱっと扱えないので非常に苦労する。

 

「いつまでもガラケーのままじゃいられないんだし、いい加減スマホくらい扱えるようにならないと時代に乗り遅れるわよ?」

 

「お前はそう言うがな、俺達世代の人間には進むのが速すぎてついて行けんのだ」

 

発展著しいITと電子関係の品物は一年経てば先に進む。とくに日本の開発速度はこと科学や技術の面では驚異的な速度だ。

総合的には超大国第二位の地位に甘んじるも、技術の面ではブリタニアすら追い抜く世界一。

誰が呼んだか技術の日本と称されるようになって久しい日本の先進性に、当事者である日本の指導者が追い付けないとは滑稽だった。

 

「これだから昭和のおじさんは困るのよ」

 

椅子から立ち上がったリーライナは溜息を一つ。

山本が座る反対の席の長椅子に腰を下ろし身体を引っ付けた彼女は彼の手を取る。

一見して祖父に甘える孫娘か歳の離れた父にかまってほしいいつまでも親離れできない大人の女性の図。

そう考えると微笑ましいがその実が単なる恋人同士だと知られれば激しい嫉妬を買いそうな密着体勢だった。

 

「少しくっつきすぎじゃないか?」

 

ここは喫茶店でお茶飲む店。

山本の指摘に余裕の笑みを浮かべて応じたリーライナは言った。

 

「いいじゃない。このままキスとかしていちゃつこうというなら迷惑な客だけどそういう事するんじゃないし。ほら使い方教えてあげるんだからいっくんの携帯貸して」

 

「昭和世代だと思って馬鹿にしているな?いまさらお前に教わらんでも俺とてある程度使えるわ」

 

「電話かけてメールするだけ。メールの返事が思いっきり遅い。そんなことである程度使えてるなんて言えないわよ。シマダ卿なんか完璧に使いこなしてるんでしょう?」

 

「彼奴は、お前と同じくらい普通に使えてるが嶋田は嶋田、俺は俺だ」

 

「同世代に差を付けられて悔しくないの?」

 

「リーラ達のようなネット世代でないからあまり気にならんよ」

 

「ギャンブルの情報もネットには多く載ってるけれど」

 

関心を示さない山本に軽く振ってみただけのリーライナであったがこれが彼の琴線にドストライク。

命と彼女と国家を除外すれば断トツ一位の大切な分野を刺激されては動くしかない。

 

「せっかくだから教えて貰おうか」

 

「・・・・ほんとにギャンブルが絡むと変わり身早いんだから」

 

小一時間リーライナ指導の下スマホの使い方を教わった山本は一朝一夕にはいかないことをあらためて実感した。

 

「タッチパネルは扱いづらい」

 

「慣れよ慣れ。知り合いのブログを視に行ったりコメントを書いている間に自然と身についていくものよ」

 

山本の肩にこつんと頭をもたれかからせたリーライナはタッチパネルを操作する彼の指先にエメラルドの目を向けたまま言う。

 

「ギャンブルが強い人って手先が器用だというし、いっくんなら本気で打ち込み出せば短期間の内に使いこなせるようになると思う」

 

「そうだといいが」

 

彼女に教えられたブログの閲覧に取りかかる山本の親指と人差し指が忙しなく動き日記がクリックされる。

内容は日本語で書かれていた。

 

††††

 

 

モルドレッドさんのブログ

 

 

☆今日の夕飯☆

 

仕事終わりに帰ろうとしていたら食事へ行こうと誘われた。

誘ってきたのは同僚。

付き合いが長いので食事のジャンルがすぐにわかってしまった。

 

同僚の部下が運転する車に乗って移動。

ついたところはやっぱり日本食といってもいいほど日本のイメージが強い麺料理のお店。

同僚はこのジャンルで間違えたりしないので安心していたらとんでもないものを食べさせられた。

普通のもあったし美味しそうな匂いがしていたから私はそっちがいいと言ったのに。

「普通に美味しいものを食べるのは通とは言えません」なんだって。

私は通じゃないのに求められても困る。

 

食べたというよりも食べさせられたその麺料理は自称日本一まずいらしいの。

完食した感想として「まずい」のコメントだけしか言えない。

同僚は「珍しい物を食べました」なんて満足していた。

なにかおかしいと思う。

おかしいと言えば同僚は激辛な挑戦メニューの麺料理まで食べて完食していたからびっくり。

 

あしたは普通に美味しい物が食べたいな。

 

[コメント]ナナさん 5月20日 22:08

 

拝読させて頂きましたらご同僚の麺料理にかける意気込みの凄さが伝わってきました(^^;)。

ご同僚の方共々にくれぐれもお身体を大切にしてください。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 22:19

 

いつも楽しく読んでます。

行ったことありますのでそのお店知ってますよ。

まずいですよねあそこの拉麺。

同僚の方と同じで好奇心を刺激された人で賑わってますので待ち時間長かったでしょう?

 

[コメント]黒のゼロさん 5月20日 22:34

 

日本一まずいなら世界一まずいでも通用する。

日本一辛いならやはり世界一辛い麺となる。

世界最強の騎士よ!よくぞ完食した!!

 

だが、無理するなよモルドレッド(>_<)

 

[コメント]名無しさん 5月20日 22:56

 

今日は美味いもんじゃなく不味いもんかぁ。

モルドレッドさんの美味いもん日記を参考に色んなもの食べてるからプチグルメになってきたんで

グルメ的に不味いもんも挑戦した方がいいのかな?

 

[コメント]ぶいつーさん 5月21日 00:21

 

辛い店の麺は今度弟に食べさせてあげてよ。

少しは静かになりそうな気がするんだ喉焼いたりなんかして。

 

[コメント]クララ・クランさん 5月21日 01:47

 

お金無いお金無い言ってるお兄ちゃんなら余裕で美味しいって言いそうだね☆

 

[コメント]名無しさん 5月21日 04:13

 

モルドレッドさんの同僚さんが何気に凄いんですけど(^^;)

通というより悪食?

 

[コメント]アイラブ生徒会長さん 5月21日 10:29

 

日本一!とか

世界一!とか

そんなの聞いたら逆に食べてみたくなるなあ

今度友達誘って行ってみようかな?

 

[コメント]朱鳥さん 5月21日 11:40

 

僕も麺料理好きだけど極端なものは食べたことないね。

好きな子を誘うにも誘えないし、でも興味はあるかな?

僕、身体は人一倍頑丈だし激辛の挑戦メニューを食べてみるよ。

 

[コメント]名無しさん 5月21日 12:26

 

喰った。

死ぬ。

舌が焼ける。

 

[コメント]モニモニさん 5月21日 12:55

 

ごめんなさい・・・・

 

[コメント]モルドレッドさん 5月21日 19:38

 

ナナさん

いつも気づかいありがとう。とっても嬉しい。

今度美味しいお店に食べに行こう。

 

名無しさん

一時間近く待った。

待った末に食べたのが日本一を冠するまずい麺という。

 

黒のゼロさん

伝説の騎士モルドレッドでも胃の方は最強でもなんでもないの。

激辛麺食べたらたぶん死ねるの。

 

名無しさん

色々食べて舌の感覚を鋭くしていくと、今まで食べていたものでも違う味を感じ取れたりして楽しいね。

まずい物を食べてみるのも一興かも。でも自己責任。

激辛麺は真の自己責任・・・

 

ぶいつーさん

駄目。あの方は大事な方です。

でももっと大事な人達よりかは優先順位が劣る。

そんな私は不忠者。

 

クララ・クランさん

大家さんに迷惑ばかりかけてるっていう例の人?

今度たかりにきたら連れて行ってみるといい。

 

名無しさん

同僚は麺通だから麺料理ならなんでも食べる。

美味しいとか不味いとか重要じゃなくて麺が重要なんだって。

同僚の好きな人が作ったカップ麺を食べたことが麺通になった切っ掛けって聞いた。

だからどんな麺でも恋の味がするのかもしれないね。

 

アイラブ生徒会長さん

挑戦するのはいいこと。

でも気を付けて。日本一は半端ない・・・・(-_-)

 

朱鳥さん

外が頑丈でも内側はどうかわからない。

鍛える術もないから挑戦するなら気を付けて。

 

名無しさん

おお同志よー。

傷は浅・・・・・深いぞー。

 

モニモニさん

珍しい体験ではあったから謝らなくてもいいよ。

また一緒に食事へ行こう。

 

††††

 

 

「これ誰のブログなのか教えてあげましょうか?」

 

「教えてくれんでもリーラの知り合いでHNモルドレッドとくれば大体分かる。それにしても日本一か、そういわれると食べてみたくなるのが不思議だな」

 

「今度一緒に行ってみる?」

 

山本の肩にもたれる頭が強く押し付けられ長い金髪が揺れる。

 

「それもいいが希望を言わせて貰えるのならば」

 

彼女の肩を抱き、その髪に指を通しながら山本は自らの希望するところをあげてみた。

 

「俺はお前の料理が食べたい」

 

「プロの腕前には勝てませんわよ?」

 

「どんなプロの料理人もお前の料理には勝てんさ」

 

「ふふ、いっくんにそこまで言われたら」

 

掴んでいた山本の腕から手を離したリーライナは彼の頬にそっと手を添えてみる。

 

「腕を振るわないわけにもまいりませんわ」

 

そのまま接吻、とはならず。

 

「したくとも我慢だな」

 

「迷惑なバカップルじゃないんですもの」

 

日本の最高指導部夢幻会の顧問山本五十六。

ブリタニアの貴族で名家の息女リーライナ・ヴェルガモン。

立場が立場なだけに場くらい弁える。居酒屋で酔いに任せて気持ち良く口付けることはあっても日の高い時間の喫茶店でなど。

空気が整っていたときはもちろん別とする。

 

「さあイソロク君、いつまでもおしゃべりなんかしてないで続きといきましょうか」

 

「リーライナ先生の授業再開か」

 

リーライナの髪を愛撫する山本の手に変わり今度は彼女の空いている側の手が携帯を掴む。

そして山本のフリーな側の手が彼女の持つスマホの画面へと伸び、二人で一つのスマホを操作しながらの検索。

検索するワードは「トリスタンの三男坊」。

さっきのブログは日本語だったがこっちはブリタニア語で書かれている。

 

「ここもお勧め。弟分観察記っていうのがあってね」

 

「弟分観察記?」

 

「みてみればわかるわよ」

 

††††

 

 

トリスタンの三男坊

 

 

弟分観察記

 

 

 

本日私の弟分ジークハルトが婚約者のリカ嬢と抱き合っていた。

偶然の事故だったから意図せずしてのラッキースケベかと思った物だが、彼奴男の子していたぜ。

あの気弱で頼りない奴が男になろうとしてるのをみた兄としては子の成長を見守る親みたいな心境だ。

 

詳細はこんなの。

 

ジークの姿をみつけたリカ嬢がジークを呼び止め高いところから話し掛けていた。

リカ嬢と久しぶりに顔を合わせたらしいジークは照れながら彼女と話す。

そこでジークの一言に憤慨したのかリカ嬢が飛び跳ねて、その拍子に高い場所から落ちたわけだ。

幸い下にいたジークに抱き留められて無傷だったんだがそこで思わぬアクシデントが!

リカ嬢にはずっと「さん」を付けてたことは前々から観察記の中で触れてたけど

彼奴このとき「リカ!」って初めて呼び捨てにしたんだな。

受け止められたリカ嬢の顔がタコみたいに真っ赤にゆであがって、ジークはジークでリカ嬢の腹部に顔が埋まって。

みてたお兄さんまで恥ずかしかったぜ(*^_^*)。

それでその時きこえた会話がこれ。

 

リカ嬢「ジークハルト・シュナイダー」

 

ジーク「なんでしょうかリカ・レイシー」

 

リカ嬢「・・・輿入れ前です」

 

ここでジークがリカ嬢を下ろす。

見つめ合って一拍。

 

ジーク「いっ!いやその!?危険があぶないと思ったら咄嗟に身体が!!別にやましい気持ちがあったわけでは決して…っ!!」

 

ジークの奴焦りまくって文法が滅茶苦茶。

でもなんか凄く嬉しそうなんだよ。エッチな意味じゃなく純粋に。

リカ嬢に怪我が無くて良かったって強い気持ちが遠目にも伝わってきていい雰囲気だった。

そのあとは。

 

リカ嬢「約束 覚えていますか?」

 

手を組んでジークを見つめるリカ嬢がそう言って。

 

ジーク「はい 楽しみにしています」

 

みてたのはここまで。

これ以上は無粋だろうと思ってさ。

 

ちなみにラッキースケベだって言った意味。

リカ嬢の服装がもう露出多くてすごいのなんの。

腹部、胸部、ふともも、あちこち丸見えな服装でジークと抱き合いぴったんこな事故が起きたから

だからラッキースケベと言ったんだ。

リカ嬢の名誉のために言っておくが彼女は露出趣味じゃない。仕事の制服の一つがそんなので。

 

今日はこんなところ。

 

また文句言われるな(^_^;)。

 

弟分応援BBS

 

 

[コメント]クラッシャーさん 5月20日 03:51

 

そんなことがあったとは・・・・

なんちゅうラッキースケベだにゃーwww。

でもやっとこ呼び捨てにできたのは素晴らしいぜい。

なんせまあ亀さん進行な二人だから見守ってるこちとらとしちゃあイライラがマッハで溜まるからにゃー。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 3:54

 

やったじゃんこのラッキースケベぇぇぇぇぇぇぇ#

 

[コメント]名無しさん 5月20日 3:59

 

三男坊さんのブログで一番好き。

なんか人生ウォッチングしてるみたい。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 4:08

 

まるでエロゲな神展開www。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 5:26

 

美少女ゲーではここでなにかしらの試練が訪れる。

アニメなら美形のライバルキャラがリカさんに擦り寄るところだ。

頑張れジーク!負けるなジーク!

 

[コメント]メルさん 5月20日 06:02

 

早起きしてブログ確認を致しましたが驚きましたわ。

あの奥手なジークがついにリカ嬢を呼び捨てたなんて狐の嫁入りに遭遇してしまいそう。

たった一つの事故が仲を深める起爆剤となるやもしれませんわね。

まだまだ道半ばですがこれからも力を合わせてサポートしてまいりましょう(*^_^*)

 

[コメント]名無しさん 5月20日 6:46

 

彼女持ち羨ましい。

恨やましい。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 6:58

 

こんなの作り話に決まってるだろ。

エロイ服装の美少女が飛び跳ねて足滑らせて落っこちてこれを華麗に受け止めて腹部に顔埋めるラッキースケベって

現実じゃありえませんわアホらし。

 

[コメント]メルさん 5月20日 08:07

 

こんなの作り話に決まってるだろ。

そうお思いならばわざわざ書き込みなさらなくともよろしいのですよ。

人の真剣な恋路の話に水を差されるなど無粋です。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 8:18

 

メル

おまえカマってちゃんなネカマだろ?

キモイ喋り方すんなよクソネカマ。

上から目線でむかつくんだよ。

 

[コメント]クラッシャーさん 5月20日 8:45

 

言葉遣いに気を付けて変な決めつけは無しにしようぜい。

そんでジークのコイバナに興味ないならバイバイしてくれるとお互いの為になると思うんだにゃー。

だってここジークの恋を見守る掲示板なんだぜい?

(言えない・・・・メルさんへの暴言吐いた名無しがピンチになるかもなんてとても言えないにゃ(>_<)

 

[コメント]名無しさん 5月20日 8:57

 

おまえカマってちゃんなネカマだろ?

カマってちゃんはお前だろ。メルさんはここの最古参のコテハンさんなんだぞ無礼者め!

荒し目的丸出しなお前こそムカツクわ!

 

[コメント]名無しさん 5月20日 9:06

 

荒しは放置。これ鉄則。

あまりに酷いようならブログ主さんが対応してくださる。

燃料与えるのが一番良くない。

 

[コメント]オズさん 5月20日 12:41

 

よォーし!これでまた一歩前進ね!

あとはあの優柔不断男の悪い癖を矯正してあげないと。

 

おまえカマってちゃんなネカマだろ?

おまえ殺すわよ。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 12:57

 

はい殺害予告きました!通報しました!

 

[コメント]クラッシャーさん 5月20日 13:45

 

オズー相手しない方がいいにゃー。

(通報してヤバイのは自分だってのに(-_-)

 

[コメント]名無しさん 5月20日 14:04

 

オズさん放っておきましょう。

どうせただの暇を持て余した可哀想な奴なんですからいっそ哀れんであげてください。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 15:43

 

放置っすよ放置。

無視してたら消えますって。

 

[コメント]メルさん 5月20日 16:07

 

オズさん、私は気になどしておりませんので。

 

[コメント]オズさん 5月20日 16:21

 

メルさんがそう言うなら。

我慢する。

 

リアルだったら斬り捨てたけど。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 16:35

 

それでこそ大人の対応。

よけいな一言も我慢できれば満点でしたが(^^;)

 

[コメント]クラッシャーさん 5月20日 16:49

 

オ~ズ~愛してるぜい~。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 17:01

 

本当は気にしてるんだよねネカマちゃんwww。

強がってるだけなんだよね(笑笑笑。

 

[コメント]オズさん 5月20日 17:07

 

やっぱり殺す!!

 

[コメント]ティンカーベルさん 5月20日 17:13

 

ジークは良い男だよ。他人思いで心優しくて。

目移り癖さえなければ。

リカ嬢を泣かせないためにも我々で頑張ろう!

 

オズさんもそういう輩は無視してください。

 

[コメント]クラッシャーさん 5月20日 17:20

 

もうやめやめー!いいかげんにしきゃ血の雨が降るにゃ!!

オズも構うんじゃないにゃ!!

 

[コメント]リーラさん 5月20日 20:39

 

最近あまり会えてないと三男坊さんのブログで存じ上げておりましたけれど

会えなかったそのぶんだけ一気に進展したような気がしますわ。

このままゴールインを目指して私たちも気を引き締めながら支援を続けてまいりましょう。

リカ様も本当にお幸せな一時でいらしたのでしょうね(*^_^*)

 

††††

 

 

「ほーう、なるほどなぁ」

 

「誰かわかった?」

 

「リカ・レイシーはマリーカ・ソレイシイ卿。ジークハルト・シュナイダーはレオンハルト・シュタイナー。マリーカ嬢とレオン君だ」

 

「当たり」

 

「男女のそれらしい話をちっとも聞かんので心配していたが少しずつ前に進んでいるようじゃないか」

 

「本当に少しずつね。婚約者同士なんだからこれじゃ遅すぎるって周りがやきもきしてるらしいけど、恋って結局は本人達の意思で進めていくしかないのよ」

 

「惚れた腫れたは周りが決めることではないからな。我々がしてあげられるのは応援のみだ。しかし」

 

何度か同じ記事に目を通しながら山本は言う。

 

「あの純朴なレオン君がマリーカ嬢を抱き留めたか。このブログで書かれている露出の多い服装とはリーラの飛行服と同じあの服だろう?紫と黒のあれだ」

 

「うんそう、あの服」

 

あの姿のマリーカ嬢を抱き留めた彼の焦りは尋常ではなかったはずだという山本に「いっくんは平気?」とリーライナが聞く。

 

「俺はお前の祖父と近い年代なんだぞ。積み上げてきた人生経験が違う」

 

「ああー、言われてみればそうよねー」

 

祖父と孫。見た目はそう受け取られても当然なくらいの年齢差が二人の間にはある。

 

「じゃあ私としばらく会ってなくて、マリーカ達と同じシチュエーションが生まれたとしても経験豊かないっくんなら欲情しない?」

 

「実際に置かれてみなければはっきりしたことは言えんが、・・・・・欲情はするだろうな。レオン君のように不必要なまで取り乱したりはせんが」

 

「なんだそれじゃあいっくんもケダモノじゃない。経験豊富なお祖父様的包容力を期待してたんだけどざ~んねん」

 

「男は誰しも皆同じだ。老いも若きもない皆ひとしく己の内にケダモノを飼っている」

 

男というのはそういう生き物だ。

 

「愛する女と長らく会えないでいたとあればその時間が長い分だけあつく燃え上がる」

 

山本は美しい金の髪に顔を埋める。ブログに書かれていたレオンのように。

レオンは腹部で彼は頭。姿勢、視点の両面で共にレオンの方が大胆なのに

彼等よりもずっと完成された性的で妖しい雰囲気を醸し出している。

身体の接触もただリーライナが山本にもたれているだけで他には彼の指が彼女の髪に触れているだけだというのにとても蠱惑的だ。

 

「いっくんがそんなだと流れに任せて大人の情熱になっちゃうわよ?」

 

汗に塗れた濃密で情熱的な燃え上がり方。

そこには可愛らしさも感動もなんにもない。

 

「マリーカとレオンは年齢に似合わない小学生の恋みたいな燃え方で可愛らしいけれど私達の場合まったく正反対の大人の」

 

「マリーカ嬢と違いお前は大人だろう。俺も大人の女を相手にしては大人の燃え方しかできん」

 

スマホを持つ二人の指が絡まる。

絡まる親指はまるで一人の人間の意思によって動いているかのように次なる検索ワードを打ち込んでいた。

 

 

 

 

END。

最終更新:2015年06月14日 15:37

 

 

 

 

 



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「東条閣下!我々は大変お待ちしていました!

 

828 :名無しさん:2013/03/24(日) 05:13:23

大日本帝国は高麗に上陸して以来、破竹の勢いで進撃していた。

高麗の首都まで後わずかに来ていた、ある前線の一つでお客様を迎えていた。

 

「東条閣下!我々は大変お待ちしていました!」

「うむ、御苦労。最前線と聞いていたが、部隊の様子はどうだ?」

「はい!部隊の損害はそれほどなく、敵の首都陥落も間近とあって、大変士気が高いです」

 

 

 

 

東条が前線に慰問をしていた頃、高麗の最前線では

 

「少佐!最前線に大日本帝国軍総司令官の東条大将が慰問しているという情報が入りました!」

「何!?本当か?誤報じゃないんだな?」

「はっ!私の確かな筋です」

「そうか・・・よくやった。場所はどこだ?」

「場所は・・・・」

その士官は細かな情報を少佐に報告する

 

報告を聞いた少佐は、現時点の位置・最前線から入った部隊数・敵司令部の位置を地図上で確かめる

地図をしばし見つめていた少佐だが、やがて決意したかのように顔を上げると

「皆を呼んでくれ・・・・作戦を伝える・・・・」

 

士官・ベテランパイロットを集め、作戦の要領を伝える。

まず、陽動を起こし、敵司令所周辺の戦力を薄くした所で、側面から強襲するという単純明快な作戦であった。

(・・・・だが、これは)

問題があるとすれば、敵戦力が集められる、陽動部隊がどうしても被害が大きくなるということだ。

この危険な作戦の指揮は立案者が行うべきだろう

 

「なお、陽動部隊の指揮は「少佐!私に任せていただけないでしょうか!」大尉・・・・」

少佐の言葉を遮ったのは、少佐の右腕と頼りにしていた大尉であった。

 

「危険だぞ?」「戦場に安全な場所なぞありません!」

「生きる可能性が低いぞ?」「少佐の方が危険です!」

「・・・・」「私は死ぬために行くのではありません!少佐の・・・祖国の為に行くのです!」

「そうか・・・俺は良い部下を持ったな」「はい!」

 

そういって、少佐は手を差し出し、大尉もそれを握り返し、がっしりと握りあう

 

「生きて帰ってこい」「少佐もお気を付けて」

 

そして、少佐は周りを見回す。周りにいる人たちも大尉と同じ顔をしていた。

それを見た少佐は誇らしげに思いながら、言葉を告げる

「最初で最後のチャンスだ。祖国を救えるのは今しかない!総員出撃!」

 

 

 

 

大日本帝国軍司令所から少し離れた森の中で、3機のダガーが偵察に出ていた

 

「あーあ、最近のチョン(高麗のこと)は、すぐに逃げ出すから、倒しがいがないなあ」

「そうぼやくな、首都陥落間近なんだから、もうすぐ帰れるぞ」

「そうか?清が残っているだろ?」

「それでも、帰れるかも知れんぞ」

「すぐそこにチョンがいたりして」

 

そういうと、どっと笑い声が広がる

 

「まさか、こんな・・・・うぐぅ」

 

無線からうめき声が聞こえたので、慌てて振り返ってみれば、背中から中国刀が生えたダガーだった。

 

「て・・・!」

 

慌てて、ライフルを構えようとしたダガーだが、上から、中国刀を振り下ろしたジェンシーによって、右腕が切断された。

それを見た、隣のダガーはナイフを取り出す時間も無いと、咄嗟にライフルの銃床で殴ろうとしたがかわされて、右腕を切断される。

切断された衝撃で、後ずさりするダガーに後ろから別のジェンシーが中国刀を突き刺す。突き刺されたダガーは僅かに痙攣した後に沈黙する。

そして、すかさず、スラッシュハーケンを発射して、もう片方のダガーを貫かせて撃破する。

 

1分に満たない短時間に終わった戦闘だった。

 

829 :名無しさん:2013/03/24(日) 05:14:15

「クリアー。・・・少佐、敵の偵察部隊を片づけました」

「ごくろう、静粛状態で進撃する」

 

森の中から、十数機のジェンシーが静粛行動で移動し、やがて、最前線付近に到達する

目の前には、多くの戦車と共にウィンダムが駐機していた。

 

「少佐」「あわてるな、もうすぐ時間だ」

少佐は時計を見ながらつぶやく。効果は目の前に広がっていた

 

 

 

 

その歩兵は心をうきうきしていた。

 

東条大将の拝謁に加えて、故郷からの手紙を楽しみしていたからだった。

その楽しみは数秒後には破られる

 

甲高い、風切り音がしたかと思う、陣地が突然爆発した。

「敵襲!」

歩兵は、長年の経験から、咄嗟に伏せることによって、怪我を抑える事が出来た。

 

これは、少佐の部隊の重砲隊で、大日本帝国・ブリタニア基準では旧砲であったが、最前線では十分通用した。

航空部隊などで、潰された砲も多かったが、少佐の部隊は隠蔽が上手かったなどもあって、纏まった数を所有していた。

その重砲が今までの恨みを晴らさんばかりの勢いで次々と弾丸を発射する。

 

塹壕に直撃すれば、隠れていた歩兵ごと消滅し、待機状態だったKMFに直撃すれば大爆発を起こし、至近弾で戦車のキャタピラが吹っ飛ばされる

 

「隠れてろ!まだ、攻撃が来るぞ!」

 

そう叫ぶが、次の攻撃は奇妙だった。

 

砲弾が弾着すると共に、視界が真っ白に染められたからだ

「何だ?」「何も見えないぞ!?」

「毒ガス攻撃かもしれない!速くマスクを付けるんだ!」

「落ち着け、ただの煙だ!」

色々な声が飛び交うが、歩兵は返事できなかった。

なぜなら

 

 

煙の向こうから、歩兵が大声を出しながら吶喊し、キャタピラに轟音と共に戦車が現れ

そして、最後に見た光景がランドスピナーを回しながら疾走するKMFだった・・・・・

 

 

 

 

 

「前線部隊から報告です!敵KMF・戦車部隊の混成部隊が前方の部隊に攻撃してきました。

ただし、数が多くて至急支援を頼む!とのことです」

部隊を謁見し終えた東条達がコーヒーブレイクを楽しんでいた所の報告だった。

 

「そうか、左翼・右翼の部隊を最低限の数を残し、前方に集中せよ」

「了解!」

敬礼をしながら去っていく兵士を見送りながら東条は尋ねる

「大佐?そんなに簡単に兵力を動かしてもいいのでしょうか?」

「なあに、高麗軍は突撃するしか能がないのですよ。前方さえしのげば勝手に逃げてくれますよ」

(はたしてそう、うまくいくかな?)

東条は長年の経験から危険だと感じていたが、何も言わない・・・・・

 

 

 

 

「急げ!急げ!俺達が到着する前に、前方部隊が前部喰い終わっちまうぞ」

3機のウィンダムが飛行しながら、現場へと急いでいた。

 

彼らは、自軍有利に進んでいたと思っていたからだ。

 

だが、目に入った光景は、彼らの想像を裏切った。

 

1機のウィンダムが3機のジェンシーの連携によって撃墜され、あちこちで潰走する自軍だった

 

830 :名無しさん:2013/03/24(日) 05:15:38

「おいおい、我が軍が勝っている戦争じゃなかったのかよ」

「そんなことはどうでもいい!俺達もいく

彼の声は途中で途切れた。

 

なぜなら、大空で突然爆発を起こしたからだった。

 

慌てて、回避行動をとると、1機のウィンダムの頭部が吹き飛ばされ、1機のウィンダムは右腕を吹き飛ばされた。

 

 

「1機撃墜、2機撃破・・・・悪くない」

そうつぶやくのは、ウィンダムが飛行していた高度よりも高高度で飛んでいた、輸送機に乗った大尉からの狙撃だった。

パクリと何かと悪名高い高麗製兵器において、唯一自国で開発できて、列強に並んだ兵器が大尉が使う狙撃銃だった。

少佐の要望で密かに開発された銃だが、他国が開発した狙撃銃よりも軽く、弾道性能が良好だったのである。

ただ、惜しらむは量産軌道に乗る前に開戦となり、空襲などで大尉の狙撃銃しか残らなかったのである

 

「第3小隊突出過ぎだ!少し下がれ!第4小隊は第5小隊の援護に回れ、重砲隊、ポイント4-6を攻撃せよ」

大尉は指揮を執りながら、その合間に狙撃を繰り返す。

 

「少佐・・・・ここまで部隊の目を引きつけました。後は宜しく頼みます」

 

 

 

 

「少佐!時間です!」

「よし、総員突撃だ!」

前方部隊の陽動に成功したのか、少佐の前にいた部隊のほとんどが移動し、前方は僅かなウィンダムが残ったのみだった。

 

少佐たちは、まずハンドグレネードを投げて、爆発を起こさせてひるまさせる。

そして、黒煙が残っている内に突撃を行う。

 

ウィンダムのパイロットは驚愕した。黒煙の向こうからジェンシーが躍り出てきたからだ。そして、次の瞬間には斬り飛ばされていた。

 

ウィンダムのパイロット達が事態を理解するまでには、次々と撃破され、ジェンシーは疾風のように通り過ぎた。

 

 

 

 

司令部では苛立ちが募っていた。いつもなら、逃げる高麗軍がこの時ばかりは、立ち向かってきて、乱戦にもつれ込むことで

フレンドリーファイアを恐れて、効率的な支援が出来ず、更には時折煙幕で視界を遮ることで指揮を混乱させてきたからだ。

 

そんな司令部に驚愕の報告が入って来た。

「馬鹿な!右翼に突然1個中隊のKMFが現れただと!」

「はい、そして、右翼の部隊は壊滅状態になったそうで、敵のKMF部隊は真っ直ぐ司令部に向かってきているそうです」

凍りつく司令部

 

なぜなら、右翼の部隊が阻止できなかったとしたら、もはや遮る壁がないのだ。

左翼の部隊は、左翼からの奇襲に備えて引き抜く事が出来ない。

苦戦している前方の部隊から引き抜く事も論外だ。

 

うろたえだす司令部、ある者は癇癪に叫び、ある者は責任論を押し付けだそうとする、見るに耐えられない出来事が生み出されそうになった、その時

 

「うろたえるな」

 

静かな、しかし、力強い言葉が響き渡った。その言葉に男たちはピタリと止まり、東条に注目した。

東条は、最初から変わらぬ姿勢のまま言葉を紡ぎ出す。

「こうなった事を悔やんでも遅い。それよりもみっともなく死ぬよりも、毅然とした戦いぶりを

敵に見せつけようではないか!おい!ヘルメットと武器を持ってこい!」

 

司令部は再び動き出す。全員がヘルメットをかぶり、ライフル・パズーカを抱えて、各地に散らばって待機する。

 

831 :名無しさん:2013/03/24(日) 05:16:35

最後に残された東条は思う

(すまない・・・・――――。こんなことなら結婚を申し込めば良かったな)

 

走馬灯が走りだした東条に伝令がやってくる

「報告です!――――

 

 

 

 

平原を駆けるKMF部隊があった。

それは、先ほど右翼部隊を壊滅させた少佐が率いる部隊だった。

 

「もうすぐ敵司令部だ!各機注意を怠るな!」

「「「「「「了解!」」」」」」

注意を出しながら、少佐は思う。

 

(もう少しだ。東条を捕虜もしくは戦死させる事に成功すれば、敵の侵攻を中止することが出来るかもしれない)

 

そう考えた少佐は、このようなリスクの高い作戦を考えたが、今のところ成功しつつあった。

 

(あとすこ・・・!)

「散開!」

 

少佐が叫ぶと同時に散らばるジェンシーだが、1機が爆散した。

 

「くそ!今の攻撃は!?」

 

みれば、左の方角から、数機のウィンダムとヴィンセントが飛んできており、先頭には紫色にカラーリングされたKMFがあった。

 

そのまま、戦闘に入ったが、先ほどのように一瞬で勝つことなく、こちらも撃墜されるなどの被害が出始めた。

 

「くそ!後少し・・・後少しだったのに!」

 

もはや、作戦が破綻した事を悟った少佐は、緑の信号弾を打ち上げ、引き上げに入った。

救助部隊もそれを悟ってか追撃は行われなかった。

 

 

 

 

「大尉!敵司令部の方角から緑の信号弾が上がりました!作戦失敗です!」

「そうか・・・・少佐も無事なのだろうか?」

 

前方部隊は混乱から取り戻したのか、息を吹き返えつつあった。

 

支援の要だった、重砲隊もステルス戦闘爆撃隊によって潰され、大尉が乗った輸送機も撃墜された。

大尉は直前に降りる事に成功し、そのまま前線で指揮を執り続けたが、作戦が失敗に終わった事を悟ったのであった。

 

 

「これ以上の戦闘は無意味である。総員引き揚げに掛かれ。ただし、俺は殿として残る」

そういって、敵の方に向きあうと、いつの間にか数機のジェンシーが大尉機の周りにいた。

 

「おいおい・・・俺は引き揚げろと命令したのだが?」

「あいにくと耳が悪くなったので、最初の命令しか聞こえませんでした」

「それに、時間稼ぎなら1機よりも、複数機の方がいいっしょ」

そういって笑い声が聞こえる。

 

「まったくお前らときたら・・・・よし!俺に地獄までついてこい」

「「「イヤッハー!!」」」

彼らは、そのまま敵部隊の真っ只中に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少佐の賭けは失敗した。

 

少佐の部隊は半数が撃墜されたが、少佐は辛うじて帰還に成功する。

しかし、陽動を担当した部隊は60%が未帰還となり、大尉も帰らぬ人となり、壊滅状態になった。

これが原因で、少佐の部隊に死守命令が出される要因となった。

 

 

 

なお、風の噂では救助部隊の指揮官が東条に抱きついたという噂が出たが、真相は不明である。

最終更新:2013年04月07日 10:45

 

 

 



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プロジェクトアドバンスト「F」

 

 

517 :名無しさん:2013/07/14(日) 23:05:35

プロジェクトアドバンスト「F」

ファイバーの廃止が決まった当初研究スタッフの一部から密かにこんな声が上がった

「「俺たちの飯の種が減る」」

「ファイバー」の廃止は「弾道強襲を目的とした機動兵器」というジャンルの廃止とも言える事態でこれにより開発費用の圧縮が行われるわけだが、

当の研究スタッフからすれば「席が減る」「研究費が減る」「自分のロマンを実現する場所が減る」

と夢幻会に属しているメンバーを中心にそれなりの人数がファイバーの流れを汲む機動兵器の開発停止を止めるため、

アドバンスト「F」という企画を立ち上げた。

本企画を立ち上げた際に危機感を持っていた研究者や、これをチャンスと見た企業や研究者(※1)が協力して横断的協力関係を作り上げ開発に当たった

開発に当たりチームは2つに分かれ(※2)新型の開発を行った

 

518 :名無しさん:2013/07/14(日) 23:06:31

KGFユニットチーム(通称:ファイバーチーム)

まず取り掛かったのは変形の際などにコアKMFにかかる負荷を減らせないか?

ということだった、これは実戦投入されたファイバーはすべて戦闘後にオーバーホールとも言うべき整備を受けなければならなかったためであり、これによる整備費用の高騰が廃止の一因であったためだ。

これに対する対応策は比較的に用意に準備することができた、補強用の補助フレームの追加である。

これによりKMFにかかる負荷を軽減することに成功、この時コアKMF側の研究は全くと言っていいほど進んでおらず仮称:ファイバーユニット改のテストに際してユーロブリタニアに納入されたものと同じジンクスIIIが使用された(※3、4)

この試験の結果コアKMFに必要な強度が第7世代のフレームを少し強化すれば問題ないと判明したのも大きな前進とも言えた(※5)

この結果KGFユニットチームはユニットの行くすえを模索するために2つにチームを分割した。(※6)

片方はさらなる武装強化もう片方はフライルーとは異なるコアとしての運用を前提とした簡易KMF(MTF)の開発である

これに前後してスメラギもさらなる技術力向上のために自分の得意分野であるサクラダイト精製技術の向上とKMFの根幹であるユグドラシルドライブ高性能化、小型化に力を入れる、

これによって新型の高出力小型ユグドラシルドライブを作ることに成功する、

このユグドラシルドライブは通常のドライブの約半分のサイズでありながら、出力に関しては第7世代用として利用可能と破格のものであったが

エナジーフュラーの投入量が時間単位当たり一定量を超えると急速に変換効率低下するという致命的な欠点を持っていたこれによりこのユグドラシルドライブは欠陥品(※7)としてそのまま廃棄されるはずだったが、

ここに目をつけたのが武装強化チーム

「メインで使えないのならサブドライブとして使えばいいじゃない」

とファイバーに搭載これによりファイバーユニットは単独でブレイズルミナスの展開とハドロン砲の運用が可能になった。

この段階でファイバーユニットの開発チームは完成形を「ミーティア」とした、(※8)

第二コアKMF開発チームもこのユグドラシルドライブを利用し小型のMTFを開発、

あくまでもコアユニットであると限定した設計のためKMFの胴体に申し訳程度の四肢が付いた程度といった奇妙な風貌の機体となった

 

519 :名無しさん:2013/07/14(日) 23:07:36

コアKMFチーム(通称フライルーチーム)

対応策として機体の強度の向上を目的に研究を開始したが劇的にフレーム強度を高める手段がなく様々なアイデアが出たがどれも決め手とはなり得なかった

そんな停滞の中ファイバーユニットチームは第7世代を核に運用可能な仕様に仕上げたため、

フライルーチームの解散も考えられたそこでフライルーチームは本来の目的と異なる方向に舵を切った、

フライルー、フラッグを母体としたスメラギ製可変KMFの開発である

「競争のない社会は腐る」という判断の元密かにGOサインが出された

GOサインの下開発チームはギャプランをベースにフラッグの空力を取り込めないか試行錯誤が続いた(※9)

そんな中ファイバー側は最終形となるミーティアの完成にこぎつけた

この時、小型高出力ユグドラシルドライブを見た研究者の一人が

「そうだ、フルドドを作ろう」

と言ったところから設計は大きく進むこととなる

小型高出力ユグドラシルドライブを肩に装備そこから折りたたみ式の翼をつけることにしたのだ、これにより機体の出力にも余裕が生まれ重武装化可能となった

その後試作したところ全性能が既存の可変KMFを凌駕するものとなったが

製造コストも既存のKMFを凌駕してしまったため試作機1機で本機の計画は幕を閉じることとなる

 

520 :名無しさん:2013/07/14(日) 23:08:06

※1:シェア拡大のために少しでも技術開発を行いたいスメラギや自分の好きな機体を作る機会が無かった研究者たち、特に夢幻会系の研究者にこの傾向が強かったらしい

※2:フライルー系の存続を前提としたチームとオプションパーツの研究がしたいチームがいたためという

※3:これはスメラギが主に取引しているユーロブリタニアにオプションパックのみで売り込めないか調べるためのテストの側面もあった

※4:またこの時使用されたジンクスIIIには左肩にSUPERBIAとマーキングされておりスメラギ内の転生者のいたずら心が伺える

※5:この後テストに使用されたジンクスIIIはフレームを強化されジンクス用の各種オプションのテストベットとして長く使用されていくことになる

※6: KGF開発計画に流れていたチームなどが合流しておりメンバー数が多かったことがこの判断を後押ししたものと考えられる

※7:この小型高出力ユグドラシルドライブは変換効率的に言えば第7世代用を少し上回る高性能なものだったが単位時間あたりの投入量によって出力されるエネルギー量(出力とは違う)の上限が通常型の半分ほどと第7世代用として使うにはエネルギー量において不足することが判明したため廃棄という判断がくだされた

※8:ミーティアが第7世代相当のフレーム強度を持つ機体であれば原則運用可能であるためだ、これはグロースターやサザーランド、場合によってはグラスゴーであってもフレーム強度を第7世代相当にすれば運用可能ということであり、名前のもととなった機体同様に出力機関を搭載していることから名付けられた。

※9:フラッグをベースとする案もあったがフライルーの能力を付与しようとするとバランスが崩れてしまうため母体としてフライルー、ギャプランが選ばれることとなった

 

521 :名無しさん:2013/07/14(日) 23:09:55

ミーティア

高出力小型ユグドラシルドライブを2基搭載したファイバーユニットの最終形

ハドロン砲2門を標準搭載し各慣性制御用可動肢には複数のハードポイントが存在し

さらなる火力の増強を実現している

 

朱雀(ミーティア非装備)

ミーティアを装備することを前提とした可変MTF

KMF技術を下地にしたMTFという奇妙な出自ながらミーティアを運用することに特化し、

不必要になる機能のほとんどを排除した異形の機体

高硬度金属製スラッシュハーケン6基、フロートユニット、ブレイズルミナス

と第7世代に準じる装備をしている

スラッシュハーケンやブレイズルミナスは普段は使用せず緊急時のみ使用する

その形状と名前から「デブ雀」という不名誉なあだ名をつけられる

 

第7世代アドバンストフライルー

非常に珍しい可変重KMF、機体サイズは一般のKMFに比べ両肩の分高くそして重い

しかし機動性能は同じ第7世代と互角でありまた火力は第7世代重KMFと互角という破格の性能を誇るがユグドラシルドライブを3基も搭載している関係上製造コストが非常に高く試作機が一機製造され実働テストされるに留まった

 

第9世代アドバンストフライルー

アドバンスト「F」の最終段階で提出されたペーパープラン

第9世代最速の名を持ち単独で大気圏を離脱し3日で月を周回し地球に戻ってくるという荒唐無稽な開発計画であった、

また航空機形態は当時としては珍しい重戦寄りの設計思想で設計されており単独で要塞の破壊も可能という甚大な火力を併せ持った、他の第9世代とは毛色の異なる機体だったのとコストの関係もあり建造されることはなかった

 

 

とアイデアはあったけど完成してなかったものは以上です

あと高麗の第7世代のアイデアがありますのでそれがかけるといいなぁと思ってます

最終更新:2013年09月15日 16:18

 

 

 



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奴は突然現れた

 

 

620 :名無しさん:2013/08/03(土) 13:42:03

奴は突然現れた

『くそっ出てこい』

僚機が銃弾をばら撒くが姿を現す気配がない

「全員、円陣を組め、場合によっては離脱する」

ファクトスフィアで探そうとした機体は、

ファクトスフィアを破壊された上でパイロットのみを殺害された。

まともじゃない、

高麗製ジェンシーに意識が向いているあいだに2機やられた。

やたらと高速で動き回る2mに満たないモノ、おそらく人間だ。

高麗製ジェンシーを見つけた時には確認できなかった事から生身の人間だと思うがこの短時間で3機もやられるとは思ってもみなかった

『っひゅ・・・・死にたくねぇ・・・』

「あっ・・バッ・・・てっ・・・くそっ」

逃走を始めた僚機に向かって人間とは思えない跳躍をする影

慌ててトリガーを引いたが人影は途中で進行方向を変え

銃弾は逃亡をかけた機体に命中することとなった。

「全員緊急脱出、責任は俺が取る」

 

「ふむ・・・脱出されたか」

「大尉」

「回収は出来そうか?」

「最後の仲間に撃たれた機体は・・」

「基地に戻ってバラせばいい、総員引き上げるぞ」

ジェンシーを1小隊やられたが最新鋭が3機手に入るなら安いものだ

「置いていった4機も回収しておけ」

「「全てはお嬢様の為に」」

 

621 :名無しさん:2013/08/03(土) 13:43:12

―――――数日後―――――

『僚機をやられた救援を頼む』

「あのガラクタにか?」

『不意をうたれた、こっちもダメージがあるらしくうまく動けない』

「了解、即座に向かう」

「救援に向かうぞ」

 

 

 

『無事か?』

「問題ない」

ヴィンセント・・・だったかな?釣れたのはブリタニアか

「そしてさようなら」

『なっ!』

 

「作戦終了、残敵いません」

『ご苦労、中尉』

「本来であれば大尉が乗るべきものを」

『KMFとは相性が悪いのでな、相性が良く腕もいい中尉に任せておけば大丈夫だと思っただけだ』

『ところでそいつの乗り心地はどうだ?』

「極上、と言ったところでしょうか?ジェンシーとは段違いですね。」

ごっ

『では帰還するとしよう、中尉乗せてってもらうぞ』

 

622 :名無しさん:2013/08/03(土) 13:44:37

―――――同日日本―――――

「これは・・・」

「厄介ですね」

「「立体機動装置(※1)」」

「まさか高麗がこんなものを投入してくるとは・・・」

「さしずめ我々は巨人ですか」

「この動きを見てる限り否定しきれないのが辛いところですね」

「はじめにやられた2機は?」

「強制排出装置(※2)を利用されたようですね」

「まさか兵士を救うための機能が兵士を死に追いやるとは」

「対処は?」

「とりあえず専用工具が必要な形に変えましたが」

「鹵獲されていると思われる機体は?」

「見る限り完全な状態で2機、多ければ10機」

「近いエリアで消息を絶った小隊・・・・ですか」

「解析されるとは思いませんが」

「嶋田さん、辻さん、ヤられました」

「どうしました南雲さん」

「負傷したダガーの救援に行ったヴィンセントがダガーに撃破されました」

「それは・・・色々な意味でやられましたね」

「紅月首相が弁明していますがあまり旗色はよくありませんね、

馬鹿な政治家はこれを機に日本は独自の路線をなんて息巻いていますが」

「鹵獲された機体の情報とコノ厄介者の情報もブリタニアに提供しましょう、ブリタニアまで同じことをやられたらコトですから」

 

623 :名無しさん:2013/08/03(土) 13:46:51

あとがき

散々迷走して活躍がうまく書けなかった上に

キャラ描写もイマイチ

とりあえず腕のいい部隊で日本のKMFを鹵獲して使ってる奴が居るというのがかけたんで満足かな?

整備に関しては共食いオンリーなので戦中しか存在しない設定です

あと首相は彼です、もし変わってたらおかしいようならしゅうせいかな?

 

 

 

 

 

※1鞘はないがその姿は明らかに立体起動装置だった(見てくれと機能、構造はよく似ていた)

※2脱出した兵士が何らかの負傷で意識がない場合に外部からの操作で兵士をコクピットから引っ張り出す装置

最終更新:2013年09月15日 16:22

 



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ラウンズの戦場に敗北はない→条約がなければ戦えない→戦場に立てなければ敗北もできない→外交にラウンズの戦場はないっ!!


トゥヘァ氏や休日氏やトーゴー氏やスレ住人の世界観をごちゃまぜ参考にした休日系。
ただし休日=平和ってますが戦争もされてるっす。
オセアニアがはっちゃけまくってるっす。
コメディとシリアスが入り混じりまくってまっす。
日武がどう動くのかは御想像にお任せしまっす



 

 

 

ラウンズの戦場に敗北はない→条約がなければ戦えない→戦場に立てなければ敗北もできない→外交にラウンズの戦場はないっ!!

 

 

 

 

 

ナイトオブラウンズとは 神聖ブリタニア帝国代々の皇帝を守護せし皇帝直属の騎士たちのことである。

彼等は�・ごとに与えられるインペリアルガードの更に直属として受け持つ部隊と併せて 一個人にして一軍と言わしめし強者揃いだ。

多くの特権を持ちブリタニアの国家内階級ナイトとしては異例ながらも大公爵よりも一階級上位の階級として扱われていた。

 

階級も 立場も 実力も すべては有事の折りに皇帝と臣民を守護するために持ちし彼等は命を捨てて戦わねばならないこともある。

その有事が 長き平穏を引き裂いてついにこの世界で起きたのである。

 

有事を引き起こした国の名は合衆国オセアニア。

 

俗称南側と呼称されるオセアニアの衛星国群に とうとうオセアニア衛星国に含まれてしまったプレトリア民主共和国連合という名に国家名称の改名まで行った赤道以南アフリカを国土とする旧E.U.が 同盟国のイラクや高麗共和国。

第二次宦官革命など蔑称で呼ばれる 大宦官が一人高亥宦官を高麗を通じて繋がるという他の宦官とオセアニアの陰謀によって追放に追い込まれる暴挙の果てに南側同盟に加わった大清連邦。

 

オセアニアは 東アフリカ イエメン 南ニューギニア イラク 清 高麗と七カ国連合軍を以て中華連邦に攻め込んだのだ。

しかし戦争とは外交の敗北 或いは外交の延長線上で起きうる最終最後の手段であり なにもなく起きることなどあり得ない。

歴史上の戦争を解析しても近代に近付くほどに国益と外交とが密接に関わった末に起きていることであり 此度の戦争にも明確なる名目が存在していた。

 

まず先兵としてイラク社会主義共和国とイエメン民主共和国が 合衆国東アフリカの精鋭軍と共にサウジアラビアを始めとした中東の中立国連合に攻め込み わずかひと月の内にクウェート以外の中東諸国を攻め落としてしまったのだ。

小国クウェートが難を逃れたのは超大国大日本帝国の傘の下に入っていたかrのことでけして偶然でもなんでもなく 南側は日本との全面戦争の可能性だけは避けた。

日本一国ならばまだしも南側の全力を持てば共倒れにまでは持ち込めよう そうなる前に講和交渉と名となるのが関の山で損害を鑑みればやるだけ無駄。

 

しかも日本と事を構えるなら日本以上の超大国ブリタニアまでもが日本側から参戦してくる これもブリタニア一国が相手ならば損害を考えて結局は講和となろう。

しかし日本とブリタニアが同時に相手とならば話は反転してしまい講和では済まず全面降伏を迫られることに繋がってしまうだろうことすでに明白。

 

だいたいが此度の大戦争 第二次が後の世にあるとするのならば第一次となるこの世界大戦では 中核国オセアニアは日本ともブリタニアともことを構えるつもりはなかった ヒトラー ヴェランスの統治下に置かれた現欧州とも。

 

ではどこが相手となるかだがもう決まっている ロシアンE.U.とか名乗る旧ロシア州を含めたユーラシア大陸全土。

事細かく説明するのなら中華連邦加盟国すべてとロシア 中東という広大な戦場となろう勢力相手の大戦であった。

さてその戦争理由に話は戻る。

 

まず中東だが クウェートを除いた中東全土は元々イラクが統治するべき土地であると明言して サウジアラビアなどへの全面侵攻を開始したのだ。

もちろん 直近の中華連邦ペルシャ軍区 ペルシャ帝国がどういった動きを取るのかわからないためにいままでは避けていたが バックに合衆国オセアニアが確実に付いたいまは遠慮などしないイラク共産党書記長サダム・フセインは ついに悲願であった中東全土の制圧をたったのひと月で成し遂げたのである。

要約するなら失地回復戦争だったのだ 彼等的にはという疑問が投げ掛けられようが。

 

それを言い出せば世界は超古代文明国が統治していた 超古代文明国時代にはオセアニアの起源勢力との争いに勝利していた日本とブリタニアにのみ世界を支配する権利があるとも云えるわけで収拾が付かなくなる。

プレトリアはロシアを 清は中華をそれぞれ失地回復を宣言して オセアニアが全面支援をするとし 南ブリタニア大陸紛争以来久方振りに本国艦隊と 太平洋戦争以来となる本国の全軍を動かしたのだ。

ときは2027年 以前よりも強大化したオセアニアが中東陥落後 中東方面よりオセアニア陸軍とイラク赤軍 現地重用した元中東各国の軍などをペルシャに向けて当方国境沿いからの全方位侵攻をさせて 自らは本来の相手日武にぶつけるためにと開発配備していた約二万発の長中距離弾道ミサイルを凡そ一割の二千発の単位で発射するなど初手より大攻勢に打って出た。

 

ペルシャへはテヘラン イスファハン タブリズ シーラーズ カンダハル マザリシャリフ カブール。

インドにはカラチ ハイデラバード ラホール イスラマバード デリー ニューデリー ベンガル カルカッタ ダッカ。

ビルマにはラングーン マンダレー。

中華帝国には洛陽 北京 南京 成都 香港 広州 重慶 上海 武漢 威海衛。

その他の軍区にもアシガバット ドゥシャンベ タシケント ビシュケク サマルカンド。

さらにロシアに対してもモスクワ エカテリンブルク ヤクーツク ウランウデ グラスノヤルスク ノヴォシビルスク オムスク。

 

首都や大都市 戦略的要衝への容赦なき通常 BC弾頭搭載のミサイル攻撃に加えて 南方方面より実に自国の現有機動部隊十六個の半数となる 八個空母打撃群と同数の四万t級強襲揚陸艦やその他の揚陸艦から編成された遠征打撃群を第二波とする全方位侵攻を開始。

むろんこれには南側各国海軍プレトリア四隻 東アフリカ二隻 イエメン一隻も加わるため。

総計十五個の空母打撃軍が 世界初となる弾道ミサイル攻撃を撃破方法もなくまともに受けてしまい 多くの犠牲者と損害を受けたばかりのペルシャとインドへ襲いかかった。

とき同じくして東側からは百五十万の大清連邦軍と六十万の高麗軍 計二一〇万となる大軍を以て中華連邦中核 中華帝国へと雪崩込むみ 清国からは八十万の 高麗からは五十万の重用戦力を別途シベリア防衛への任務に就かせた。

 

オセアニア発案の作戦名は 正しき所有者。

 

攻撃される側を小馬鹿にしたような名称だが失地回復を名目とするからにはあながち間違いでもなかった。

注意点としては中華帝国と西モンゴルのみが清国の失地回復の地と認めてその他はオセアニアの傀儡とさせる予定という点だろう。

ペルシャ軍区についてはイラクに支配権を譲り遺跡周辺のみをオセアニア領として割譲させることで話が付いていた。

彼等は国や土地など第二目標に過ぎない 本当の目標は中華とロシアに眠る超古代遺跡なのだ。

 

 

ペルシャ帝国軍

 

「司令っ西方より押し寄せてくるイラク赤軍が首都テヘランより西方六十㎞の地点で進軍を停止しましたっ!!」

 

大混乱をきたす連邦ペルシャ帝国軍。

仕方が無かろう まさか主要都市や要衝に加えてペルシャ帝国首都 ペルシャ軍区行政府が置かれているテヘランにまで百を超える大型ミサイルの弾頭らしきものによる一斉攻撃 無差別爆撃を受けていたのだ。

ミサイル攻撃はペルシャのみに及ばず連邦軍区全土にE.U.ロシアにまで及び 推計で二千発を超える大型ミサイルが成層圏を越えた彼方の空より降り注いだという。

落下し爆発した弾頭にはサリンやマスタードと思わしい効果を持つガスを撒き散らした物があり 一部都市では突然の熱病に倒れる市民が続出していた。

 

そして歩調を合わせるかのようにペルシャと国境を接するイラク社会主義共和国よりイラク赤軍が侵攻を開始した つい三ヶ月前には東アフリカやイエメンと共にクウェートを除く中東全土を攻め落としたイラク赤軍が ペルシャ軍区にペルシャ帝国に進軍を開始してきた。

ペルシャを恐れて第一次中東戦争によりヨルダンとサウジアラビアに侵攻しその後領土を拡大したものの動かなかったイラクがついに動いたのだ。

 

「停止だと? テヘランを迂回して別の場所へと戦力を迂回させるつもりなのか?」

 

ペルシャ軍前線司令部 司令は思っていた これはとてつもなく大きなバックアップがあるに違いないと。

予想は的中した イラクの進軍と時を同じくして空からの攻撃が来たのだ これを無関係であると考える阿呆はこの司令部にはひとりもいなかった。

やったのはどこか? イラクの如き野蛮な共産主義かぶれの小国の支援をしたのはいったいどこの国なのか? 答えなどひとつしかない この様な大規模戦略攻撃を可能としている国はこの世界には三国だけしか存在しないのだから。

大日本帝国に神聖ブリタニア帝国 そして超大国に次ぐ強大国等と前記二国の国民より揶揄されていた合衆国オセアニアだ。

そして三国の内で中華連邦を単独撃破しうるため動く可能性があったのはただ一国のみ。

 

《オセアニアだっ クソォっ!! フセインめっ オセアニアに縋り付きやがったんだっ!!》

 

攻撃を受けて初めて理解した この三国と他国ではこれほどまでに国力と軍事力技術力に差が開いていたのだとして戦慄を覚えた。

日本の駐中華ペルシャ軍区担当大使は第二次中東戦争でイラクが勝利したときより中華連邦に対して警告を発していた。

 

《第二次中東戦争がおままごとに見えてしまうほどの大規模な戦略攻撃が近く帰国を襲う可能性があります 阻止するには日中平和友好条約を締結するなり軍区ごとの 貴国ペルシャが独立宣言を発するなりして自国行動を起こし日本でもブリタニアでもいい どちらかの傘の下に入るしか回避する道はございません》

 

等警告してきた担当大使はひと月前に日本より召還命令が下り帰国することになった 日中関係がいま以上に悪化したわけではないというのにだ。

世話になった挨拶をと帰国前テヘランにて一杯飲んだときも。

 

《もう時間はありませんよ ペルシャ軍区 ペルシャ帝国首脳部にお早く訴えかけてください これが最後の警告です このままでは中華連邦は早晩滅亡いたします》

 

そう哀しそうな声音で伝えてきたことを司令は思い出していた。

 

「司令っ! 如何致しましょうっ! 赤軍に占領された血の奪回作戦を行いますかっ?!」

 

進言してくる部下に司令は待ったを掛けた。

 

「いいやっ これより我が部隊は続く進軍に併せて行動をするっ! それまで待機だっ!」

 

イラク赤軍が止まったのは偶然ではない何かがある。

撤退も前進も転進も いまは身動きひとつできなかった。

 

このころ指揮系統の混乱していたペルシャ海軍は 南方より侵攻を開始してきた東アフリカ海軍とイエメン海軍を相手に戦いながら 格下の両国に苦戦を強いられていた。

東アフリカは手強いがイエメンなど目にも映らないペルシャ海軍がである 理由はひとつ 両国海軍の後方より姿を現せた とてつもなく巨大で 海を覆い尽くすような大艦隊が迫ってきて交戦状態に入った為であった。

巨大艦隊の戦闘艦に翻る軍旗を確認したペルシャ艦隊司令官は叫んだ。

 

「てっ! 敵はっ! 敵の首魁は合衆国オセアニアだっ!!」

 

ここにはいないインド海軍とビルマ海軍にも伝えろと伝令を出す艦隊司令 いまの世界 空から見えると言ってもまさかその空 宇宙からのミサイル攻撃等 巡航ミサイルや大型電磁砲が長距離攻撃の基本であるこの世界の国々には想定外であった。

インドもペルシャ同様中核都市に化学兵器を搭載した弾頭や 細菌兵器を搭載した弾頭を打ち込まれて情報が錯綜し もはや首脳部が生き残っているのかもさえ確認できない状態にあった。

東よりは大清連邦に高麗共和国軍が連合して攻め寄せてきており 西モンゴルも中華帝国も同じ超長距離高々度ミサイルによる攻撃を受けていた為 まともな対処が出来なくなっていると伝え聞いていた。

中華帝国は弱りすぎてもうあてにならない 自分たちが食い止めるしかない そうでなければ中華連邦は滅亡する そう判断したペルシャ艦隊司令だったが 彼はその闘いに参戦する間もなく次の瞬間 オセアニア艦隊の放った長距離超電磁主砲レールガンの艦橋直撃により蒸発して消えた。

 

中華帝国

 

 

洛陽は瓦礫の山と化していた。

誰も想像しなかったことだ 空から二百に迫る鉄塊が降り注いでこようなど。

 

「星刻・・・・」

 

不安な声を上げているのは長い銀髪の幼さを残す少女中華連邦天子 蒋麗華。

彼女が不安な顔を向ける相手は名目上中華連邦軍の最高司令の地位に就く青年星刻。

 

「大丈夫です天子様 必ずや 必ずやこの所行に対する罰を我が手で下して見せましょう そして」

 

星刻は小さな少女の前に片膝を付き その手をとった。

 

「あなた様を 御護り致します」

 

悲壮な決意だった。

この小さな少女ひとり守ること適わずという結果を招くやもしれぬ事態であった。

東からは宦官と高麗の連合軍が 西方南方からはイラク軍と南側諸国 そしてこの惨状を引き起こした首魁である合衆国オセアニアが攻め寄せてきている。

十五個空母打撃軍に十五個遠征打撃軍を中核としたペルシャからインド ビルマ沿岸を覆い尽くしながら進撃中だという。

中華連邦海軍総力を挙げてもこの数にはとても対抗できない上に オセアニア本国にはまだ八個艦隊の控えがいる。

いずれも八万トン級から十万トン級の航空母艦を中核とした十六個空母打撃軍をオセアニアのみで保有していた これにプレトリア四隻や東アフリカ二隻にイエメン一隻 南ニューギニア一隻 清国の新たに開発した新型艦一隻を加えた二隻と 大中小機動部隊が加われば総数は二十六個。

中華連邦には全軍併せても八万トン級から十万トン級十個 それも個艦性能ごとにオセアニアの艦よりも性能が劣る とても二十六個もの機動部隊を迎え撃つことなど。

ましてこのミサイル攻撃を第一波 続く大侵攻を第二波とするなら いまペルシャ軍区で見せているという不穏な動きが第三波である可能性があり それがいったいどういう攻撃なのか見当すら付かない状況なのだ。

 

そして最終的には中華連邦の降伏に終わることはもう目に見えていた。

 

 

《反日派を抑えることが出来ていたならば》

 

悔やまれるのはこの事だ。

オセアニアの侵攻は日武の手の及ばない場所に来る。

簡単な話で三国が全面戦争でもすれば いまの彼の国々が保有する戦略兵器を使用すれば 人類滅亡の危険性さえあるからだ。

すでに日武は公開実験を行っていた おそらく二十年も前には開発完了していたのだろう恐るべき戦略兵器 消滅兵器フレイヤの実験を。

そして日武の大使はいつも口にしている やつらも開発に成功した可能性は極めて高いと。

日武の言うやつらとはオセアニアの事だろう 原理不明のこの兵器を彼の国が保有した可能性に星刻は戦慄を覚えて事を思い出していた。

といって今ここで日本との友好条約となれば 四千年の歴史を持つ中華帝国は超古代国家日本の臣下となったという謗りはまぬかれまい。

 

「それでも私はっ!」

 

この小さな少女だけは命に替えても守り抜く。

決意を新たに彼は南側諸国 イラク 清国 高麗 そして首魁オセアニアを迎え撃つべく朱禁城を飛び立っていった。

 

 

ともかくも世界は大きく揺れ動いている。

たとえいまは自国や将来連合国家として親族国として 歴史にも記されていない大昔のようなひとつの国となる予定の日本に直説的な災いがないといっても いつどうなるかわからない情勢であった。

 

褐色肌の緑がかる長い黒髪を三つ編みにして纏めている妙齢の美女 ナイトオブラウンズ�・4 ドロテア・N・エルンストはだからこそいま自分が動かなければと必死になって引き剥がそうとしていた ブルーのマントと白い騎士服に着替えようとする従者やメイドたちを。

 

「ええいはなせきさまらっ! いまは国家の重大事の時なのだぞ!」

 

ラウンズ�・4の私がのんびりと休暇をしているなど悠長であってもいいのかと叫ぶドロテア。

夫のチュウイチ・ナグモ・エルンストは日本での対策会議に出ているため邸にはいない。

そのことが彼女の義憤を大きくしていたのだ 夫は国の為に動いているのに自分だけどうしてと。

 

「ドロテア様にはお子をお守りなされる大切な次期なのですっ! 家臣一同いまのドロテア様にその騎士服を身に纏うようなことだけは断じて許容することはできないのですっ!」

「子供? それが陛下の座する間に馳せ参じぬ理由となるかっ! �・12のモニカを見よっ! もうすでに陛下の召集に応じ子を残してクルシェフスキー領を出立したというではないかっ!」

 

同僚にして後輩ナイトオブラウンズ�・12 トゥエルブの称号を持つモニカにも子はいた。

モニカの夫シゲタロウ・シマダ・クルシェフスキーも日本を真に動かす組織の召集に応じて日本へと帰参している。

似たような立場にイソロク・ヤマモト・ヴェルガモンや、リーライナ・Y・ヴェルガモンなども子を残して緊急召集に応えていた。

 

「そんな中 私だけ邸に引き籠もっていろとでも言いたいのか貴様等っ!!」

 

彼等彼女等はその子を理由に召集に応ぜずなどといった不忠を行ったのかとドロテアは息巻いた。

 

 

とーっても とーっても! 大きなお腹とマタニティドレス姿で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クルシェフスキー卿もヴェルガモン卿もすでにお子をお生みになられてよりしばらく経っておられますっ!! 現在ご懐妊中にて間もなく臨月を迎えるドロテア様とはお立場が違うのですっ!!」

 

怒り心頭 いい加減にしろよこの小娘がっ!!

妊娠中のお腹で陛下の御前に立てるのかっ!!

あのお優しいオデュッセウス陛下にお気を使わされるのかっ!!

嶋田や自身の主人である南雲達と同世代の老執事は言う事を聞かない孫をどやしつけた。

 

「黙れっ それをこそしてでも馳せ参じる忠義が私にはあ」

 

るのだと言い掛けた所で電話が鳴った ドロテアの電話だ。

相手は�・12モニカ・S・クルシェフスキー。

 

「なんだモニカ私は忙しいんだっ」

 

《あのエルンスト卿 まさか陛下の召集に馳せ参じようとされているのではないのですか?》

 

「なっなぜわかった」

 

《夫とサクラ ああ私の子の名ですが 夫と子を持つ母でありラウンズでもある者としての感 でしょうか なんとなくわかるのですよ》

 

「聡いな我が後輩 ではおまえも私のペンドラゴン行きに待ったをかけたりはすまいな?」

 

《いいえ 私は待ったをかけさせていただきますよエルンスト卿》

 

「なぜだっ!」

 

話ながらドロテアは怒る。

おまえは私と同じ立場のはずだというのになぜ裏切ると彼女は食って掛かった。

 

《同じだからです》

 

モニカは静かに語る。

自分の経験談を。

 

《愛するひとからの愛を受けて子を授かる 女として生まれてきてこれほどの幸せを私はあのとき始めて知りました・・・・ですから あなたの身に負担の掛かるようなことは避けて欲しいのです あなたにもあの幸せを知って欲しい そう願うからこそ それに陛下も同じお気持ちですよ? 召集令が届かなかったラウンズはあなたおひとりだけ それは陛下の意思です》

 

ラウンズには皆緊急召集がかかった。

中東侵攻に続くロシア 中華連邦各国への大規模なミサイル攻撃という前代未聞の事態に対して。

弾道ミサイルの技術はこの世界には無い。

持ち込んだのは日本のある人達だがそれも友邦ブリタニアにのみフレイヤ KMFといった各種の技術と同盟など各種条約の引き替え材料の一つとしてだ。

これを独力で開発してきたのがオセアニアであり近くインド洋でフレイヤ実験を行う可能性まで示唆していた。

その弾道ミサイルを約二千発も発射して罪なき民間人を大虐殺したのだから 優しいオデュッセウス皇帝はあまりの怒りに声を荒げて批難したという。

そのオデュッセウス皇帝 ドロテアにだけ召集令を掛けてないのだ。

 

「妊娠中の彼女に遠くペンドラゴンまで来させるなんて僕にはできないよ」

 

オセアニアが相手だ 世界中どこにでも攻撃が可能な彼の国の前には安全など無い。

言葉は悪いがエルンスト領はエニアグラム領と同じでどちらかと言えば田舎の方。

オセアニアの大規模ミサイル攻撃の目標はすべてが都市圏だった

せめて少しでも安全な自宅と所領にて静かにしていてほしいという彼の願いだった。

 

《そういうことであなたは所領にて待機 安静に待機すること 私の望みでもあり陛下の願いでもあります》

 

ドロテアは先輩だ。

年齢としても武人としても自分より経験豊富な先輩。

その先輩を諭す後輩のモニカだが。

 

《母親としての経験値は私のほうがエルンスト卿よりもずっと先輩なのですから》

 

後輩の先輩としての助言と望み。

陛下よりの優しさと温情を前にドロテアは承知したと頷くしかなかった。

 

所変わって帝都ペンドラゴンの皇宮。

 

 

 

「ふうっ なんとかといったところですね」

 

携帯を切りライトグリーンのマントと長い金糸を翻しながら陛下の待つ間へと歩むモニカ。

説得に失敗したら不敬にも陛下にお願いして貰うしかなかったが上手く行って良かったという顔で。

 

「ははっその感じでは妊婦さんは大人しく引っ込んだのだな?」

 

背後より歩んできた短い浅葱色の髪に紫のマントを着用した年上の女性が話し掛けてきた。

 

「エニアグラム卿」

 

「ノネットでいいと言ってるだろう」

 

「性分ですので」

 

「まったく可愛い顔して頑固な女だよおまえは 前皇帝陛下や現皇帝陛下への忠誠心でおまえに適う人間はラウンズの中にはいないぞ? 遊び心がないというか硬い お堅いお嬢様といったところだね」

 

「陛下はすべてを治め統治なされる御方・・・・この国その物とも云える御方ですので私には忠義を尽くさぬ理由など欠片ほどもありません」

 

「んん?それは嘘だな モニカにはもう一人いるだろう忠義を尽くす方がさあ」

 

鋭い指摘にびくんと震えるモニカの肩。

マントも長い金髪も震えに併せて波打ち心の動揺が身体に出てしまったことをしっかり語っていた。

 

「んなっ!? ちっ違いますその方にはモニカ・クルシェフスキーとしての忠義を尽くしているのであってラウンズとしてではっ」

 

「あっはっは わかってるさねそんなこと でもねえ個人として忠義を尽くす相手の方が実はマジに大切な相手だってのもあるんだぞ?」

 

言われて真っ赤になったモニカは俯く。

 

「し、シゲタロウさんは私のすべてです・・・・・ それだけです」

 

嶋田繁太郎。

もうひとつの名をシゲタロウ・シマダ・クルシェフスキー。

モニカの愛する夫。

 

「けどまあたしは最初驚いたもんさ 恋に年は関係無いっていうがモニカとシマダ卿みたいに孫と祖父並に年の離れた恋愛が上手く行ってさ 結婚して子供まで生まれたんだから ドロテアにしても元インペリアルガードのリーライナ・ヴェルガモンにしてもだけどさ あれかい マジの恋をすればどんな障害も超えていけるってやつかい?」

 

「そんな 深い話では ありません 私が 私がシゲタロウさんをお慕いするようになって シゲタロウさんがこの恋に応えてくださった それだけのことなのです」

 

「いいねぇ~ そういうの いやあたしは好きだよそういう純愛っての? こんな落ち着きのない世界情勢だからさ尚更いいようん」

 

にかっと笑うノネット。

豪快な性格の彼女はいつもながらに明るく笑う。

 

「ああそういやあ訊きたかったんだけどねえサクラちゃん あの子を生むときってやっぱり痛かったのかい?」

 

子を生んだことのない女性ならばだれでも気になることだろう。

ノネットはその気になったことをズバッと訊いていた。

 

「し 出産の時の事ですか? あの あれは痛いとか そんな言葉で表現できるものでは・・・・・ そうですね 喩えるのならば剣で腹部から下肢にかけての身体の内側を滅多切りにされるような痛さとでも言いますか お腹の中で爆弾が爆発」

 

「いいっ! いいっ! やっぱやめとくよっ! すっごく痛いってのはわかったからその視線を外して身体振るわせて語るのはやめてくれないか」

 

そして二人は皇帝の間。

皇帝個人の部屋へと着く。

入る。

 

 

「なるほど 国民意識の問題ですか」

 

「ええっ厄介なものでしてに日中戦争からこちらの宦官による反日教育が原因でいまも三割少しの反日論者が中華にはおりますし日本にも一時期反中教育に染まった時期がありまして似たようなところが」

 

入ると政治を語っているオデュッセウスとモニカの夫 嶋田繁太郎。

 

「狙いは中華とロシアの遺跡だろうね 中東がサウジの一地域の支配権をオセアニアに譲る形でイラクに統一される方向に話が進んでいるところをみても しかし一度に二千発もICBM IRBMを発射するなんて驚いたよ 多弾頭もあるだろうから二千五百前後の弾頭が中華連邦とロシアに落下したって事か」

 

「そういえばサウジにも小規模の遺跡がありましたね やはりイラクを倒してでも早めに確保しておくべきでしたか このままでは近くペルシャ帝国とインド帝国が善戦した後に降伏を余儀なくされます 東南からは南側連合軍 東からは南側と同盟を結んだ清と高麗 ・・・・・フレイヤに類する兵器の所持も疑われる最新鋭の兵器で揃えたオセアニア主力軍が相手では KMF擬きと世代の劣る戦車にインド海軍ペルシャ海軍を撃破後に総力を挙げて本格的な上陸作戦および地上戦が始まれば ロンダンやターロンダンを以てしても中華では技術力に差が開きすぎておりますし 最悪の場合向こう数年内に中華連邦全体の陥落が有り得ます 私はオセアニアがフレイヤに類する兵器を保有しているかどうかをもっとも懸念しているのです 良くも悪くも時代も進みましたのでね」

 

「あの世界を蝕む毒虫共めぇ まぁだなにかを企んでおるのかぁ」

 

「シャルルおじさんシャルルおじさん そういう国だよ私たちの・・・・・・明確なる敵ってさ」

 

前皇帝にして上皇シャルルにシャルルの兄君で本来なら上皇の地位に就くはずであったV.V.殿下と殿下のご息女クララ・ランフランク。

周囲をラウンズと日本夢幻会の直属SPが囲み そして嶋田自身の友人達が数人集まっていたそんな裏事情満載の光景。

 

「おっクルシェフスキー卿来たね」

 

手を上げておいでおいでと誘導するオデュッセウスにモニカはなにがなにやらと誘導されるままに嶋田の椅子のすぐ隣に立たされる事になった。

 

「第一に守護する人はシマダ卿だろう?」

 

「でっですが」

 

「かまわぬ モニカには儂よりナイトオブゼロとしてラウンズを超えるラウンズの立場を与えておるのだからな」

 

ナイトオブゼロ。非公式だった嶋田の騎士モニカ・クルシェフスキーにのみ与えられた自由裁量権で 後にはラウンズであり嶋田家またはクルシェフスキー家出身であること そのうえで時のラウンズ中での実力がもっとも高いこと といった条件を満たした者にのみ特例として与えられる事となる位階のことだった。

現在ではビスマルクをも凌駕する実力を身に付け名実共にラウンズ最強となったモニカにトゥエルブと兼任する形で与えられているナイトオブラウンズその物の指揮権限位でもあった。

ブリタニア軍の最高司令官は言うまでもなくオデュッセウス皇帝が司令官だが その皇帝代行としてラウンズの指揮権までが与えられるという特別な地位。

体面上はビスマルクと同等の地位ながら 意見が割れた際には彼女の意見が採用される特別地位であるために無論責任も重大だ。

 

「・・・・・わかりました上皇陛下 皇帝陛下 イエス・ユア・マジェスティ!!」

 

さてことは日本に帰っているはずの嶋田が何故この場に居るのかになるが簡単な話だった。

 

「日中平和友好条約の締結・・・・上手く運べばいいのですがねえ」

 

予てより懸念されていたことだ。

日中の不仲はまだ解消されておらず 日中戦争の講和条約を結んだ後でも平和友好は結んでいない いまだ取り除かれていなかった事項であった。

今回のオセアニアの中華 ロシア 中東への全面的大侵攻はあるやなしやとこれ自体が意見の分れていた事項であったが とにかく日中間 武中間では防衛に対しての条約がない。

 

国民感情の問題もある。

 

日本にはたかが中華如き弱国がいつまで楯突くのかといった 宦官政治時代に残されていた感情が燻っていたのだ。

そこをブリタニアが仲介して日中平和友好条約をといった流れに付かせたい というのが今回の議題だった。

オセアニアを止めるにはいまのところそれくらいしかない。

 

日武同盟で戦ってもオセアニアとその同盟 衛星国家群との総力戦ともなれば甚大な被害が出る。

勝つには勝ててもダメージが大きいのだ 相手方より手を出されなければ国内世論も非戦を選ぶだろう。

フレイヤ弾頭を無効化する技術も開発済みではあるのだが。

 

「日武に対してそれぞれ数千発のミサイルが発射されたとして すべてに対処することは出来ないしねえ」

 

表情を暗くするオデュッセウス だから相手側から手を引かせる 日武とオセアニアは非戦を通す お互いの国力が分かっているから連中も手を引く そのための条約だ。

連中の狙っているものが連中の手に渡ることがあまりに危険を伴うからこそなんとかしなければならなかった。

 

「大日本帝国では現在第一級警戒態勢を陸海空海兵隊四軍にはすでに出させています 場合によってはアジアの衛星国防衛を名目に衛星圏内の各国への本格的な進駐まで視野に入れて」

 

嶋田が言うと。

 

「こちらも陸海天空騎士団と特別騎士団にインペリアルガードまですべて準戦時体制を取らせています 南ブリタニア諸国と連携進駐を模索しながら」

 

オデュッセウスが言う。

 

あとは外交だ。

日武中三ヵ国の事前協議を何処でどの機会にどれだけ具体的にやるかだった。

 

日中間の国民感情次第だがそれが為に国益を損ない犠牲を生むのだけは避けなければ。

 

嶋田は肩に暖かみを感じた。

目だけで見遣ると隣に立つライトグリーンの目に優しい色をしたマントに金色の長い髪の女性が毅然と立ち前を見据えていた その身体を嶋田に触れさせる態勢で。

マントとその下の長袖の騎士服越しでも暖かい己の騎士としてのモニカの姿。

 

素直にかっこよく頼もしい。

 

感じた嶋田はふっと目を伏せ彼女を感じながら続く議題に口を開く。

 

ここはラウンズの戦場ではない。

彼女はだからマントの下に隠された剣を抜き放つことはない。

その本領もKMHの技量も発揮することはない。

ただ守るべき主の傍らにて佇むのみ。

 

しかしこの会談の一週間後 テヘラン中心部を起点にして 周囲五十㎞を砂漠に変えてしまうという天の光のような大爆発が起き事態は急展開を擁す 残った都市や軍は奮闘しているようだが中華連邦ペルシャ軍区の陥落は間もなくだろう。

そうなれば次は海上戦で物量技術両面で端から圧されっぱなしのインドでも地上戦が始まる。

インドもまたオセアニア要する南側に抗しきれず脱落する可能性が現実味を帯びてきた。

 

だがライトグリーンのマントを身に付け風に翻し、流れるような金髪を靡かせながら隣を歩く自分の騎士と共に 国会は貴族院議会議場へと歩みを進める嶋田には微塵ほどの焦りもなかった。

すでに予期されていたことに一々慌ててどうする?

 

ここは俺達政治家の戦場だ。

言葉と言葉で戦う言論闘争の戦場なのだ。

 

この世界大戦で世界中の政治家に知らしめなければならなかった。

 

日本の政治家に敗北は無いことを。

 

嶋田繁太郎の戦場には敗北などないことを。

 

 

 

 




あとがき
うむ 書き終えてなんだがなにを中心に書きたかったのかわからんなあこれじゃ。
あいかわらず数字の統一もできとらんし困ったちゃんだわ。
んーでもこの過疎が続くようなら次は100レスとか1000レス分のネタでも用意して一斉投下するしかないかね?
盛り上げるためにさ。
しょうもないネタや短編のネタなら思い付きでいくらでも書けっし。
最終更新:2017年04月02日 19:23


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眠たいの

 

嶋田モニカのイチャラブ言うか寝てるだけ

 

 

 

 

眠たいの

 

 

 

 

その日、書類仕事も激務であると改めて思い知らされた日

 

疲れを隠さずに駐日ブリタニア大使館を退館したモニカ・クルシェフスキーは、帰宅後間も置かず、嶋田分の補給を行っていた

 

「嶋田さん…」

 

すり付ける頬

なすり付ける自分の匂い

 

モニカは大日本帝国赴任後から、自分がとても我が儘で独占欲の深い人間になったと考える

人は誰かを愛するとき、どこまでも強く、どこまでも弱くなれると彼女はこの国で学んだ

 

それが嶋田繁太郎を愛した自分の事だとよく自覚していた

 

嶋田繁太郎とは、モニカ・クルシェフスキーが恋慕の情を寄せ、自身の愛に応えてくれた老紳士の事であった

平均寿命120年のいま、彼とは60年ほど連れ添える

愛しき人、民を愛し、国を支える為に在るべき貴族騎士としてナイトオブトゥエルブとなったモニカ・クルシェフスキーではなく

実も録も無きモニカ・クルシェフスキーという個人として剣を捧げた人

 

激務の為に遅くなる

 

仕事上の問題や気疲れ

 

溜まる疲労を回復する時、モニカは嶋田繁太郎から採取できる嶋田分の補給を必ず行う

 

「モニカさん、仕事疲れた?」

「疲れました」

 

疲れたからこうして抱き着き頬擦りするのだ

60を越えても瑞々しい嶋田の肌に、モニカはすりすりを続け、別の要望も出す

 

「嶋田さん、私の頭を撫でてください。髪を撫でてください。背中を撫でてください」

 

厚かましくも頼み事ばかりだ

嶋田分の補給は満タンでも足りないくらいに減少中なので頼まざるを得ない

でもモニカは彼がこの要望を断らないと知っていた

 

「わかったわかった。よーしよし、モニカさん、いい子いい子」

「んふー♪」

 

右手が体を抱き止め

左手が頭から髪を撫でる

 

気持ちいい

 

一日の疲れが彼の手に吸い込まれていくように消えていく

 

「にゅ~です」

「にゅ~ってなに?」

 

時々口走る彼女の寝言だが、まさかもう寝るのかと嶋田は焦る

 

「眠たいですぅ」

 

頬擦り、抱き着き、抱きしめ返され、頭撫でられ、髪撫で透かれ

これでは嶋田分の過剰摂取だ

 

過剰摂取はモニカの体に優しい

彼女の体に優しいから眠たくなる

 

「眠たいって」

 

嶋田は蛍光灯に照らされて輝く、真っ直ぐに臀部まで伸びる黄金色の長い髪を撫で下ろしながら当惑

モニカは帰宅したばかりで夕飯もまだ食べてない

日課の嶋田分補給とか話して抱き着いてきたと思えば、頬をすり付けながら眠い眠いと呟くのだから困ったものだ

 

「騎士服もマントも着替えなきゃダメじゃないか。皺になるよ」

「眠たいです~」

「お~いモニカさん起きてるか~い?」

「寝てますぅ~」

 

起きてるじゃないか

 

といってもこれはもう半分寝ているようなもの

条件反射で応えているだけで寝てるも同然だった

 

 

 

嶋田は彼女の頭と髪を撫で撫でしていた手を止めて、彼女を横抱きにする

 

「こ、腰にくるんだがなぁ」

 

美女をお姫様抱っこ

 

聞こえはいいが、嶋田としては腰にくるお年頃

抱き上げるだけでも大変である

 

しかし家人は誰も手を貸さない

見ていても見て見ぬふりで温かく見守るだけ

 

嶋田とモニカのいつものスキンシップに口や手を出すような野暮な人間など嶋田家にはいなかった

 

 

「よいしょっと」

 

二人の寝室までやって来た嶋田はお姫様抱っこしていたモニカを静かに寝かせる

 

白い敷布団に広がる彼女のマント

マントの裏側生地が紫色だから綺麗だ

敷布団の白、マントの紫、騎士服の白には纏められた横髪が金色の清流を二本作り、流れに巻き付く赤いリボンが螺旋模様を描いている

 

「色合い的には綺麗だな」

 

一つ欠けても完成しない絵画のようだと嶋田は笑い彼女から離れようとする

 

「嶋田さん~」

 

もう寝言となっていた彼女の言葉に、広げられていた手が嶋田の首に回された

 

「うわっ」

 

引き寄せられた嶋田は黄金色広がる枕に顔を叩き付けられた

 

「ぶふっ?!」

 

洗濯された枕からは太陽の匂い

広がる金色の髪からはシャンプーの匂い

 

ちょうどいい案配でミックスされた香りが嶋田の鼻をくすぐっていた

 

(い、息がっ、柔らかいしちょっとモニカさんっ、)

 

首を引き寄せられ、顔を髪の毛広がる枕に押し付けられた嶋田の息が詰まる

胸板には彼女の柔らかい二つの山

彼の体重に押し潰されながらもモニカの胸は柔らかさを失わないで彼を受け止めていた

 

(空気、空気をっ、)

 

せめて空気を吸うためと、嶋田は強引に枕を引きずりモニカの方に顔を向けた

 

「はぁ、はぁ、く、苦しかったっ、」

 

荒い息の嶋田にモニカは何処吹く風

彼の存在を感知して頭を彼の側に向きな押させながら、もう寝ていた

 

「むにゃむにゃ」

「夕飯…どうするんだ」

 

せっかく作ってもらったのに

 

勿体ないと考えた彼だが、襖から覗く家政婦の顔にはお任せくださいという文字が浮かんでいるように見えた

 

「晩飯無し、か」

 

仕方ない

 

ブリタニアの現役最強騎士ナイトオブラウンズの一人であるナイトオブトゥエルブのモニカに捕まっては抜け出したくても抜け出せない

 

単純な力の差である

 

行儀悪く足でひっぺがした掛け布団にも、手ばかりか足を伸ばしても届かなくなっていた

こうなると掛け布団無しである

 

抜け出せない

抜け出せないから晩飯食べられない

抜け出せないから着替えもできない

掛け布団無しで寝なければならない

力量差から離れるにも離れられない

 

嶋田は諦めて自分も部屋着のまま寝ることにした

 

「部屋の暖房は、よし」

 

着いていた

 

「しかしこの体勢って寝れるのかな俺」

 

モニカの体に覆い被さるようにしたままで寝なければならない

暖房は着いていたので、寒さで風邪を引く心配こそ無いが、首だけ左に向けて体はうつ伏せで彼女に被さり寝る

 

役得のように見えて中々辛い体勢だった

最終更新:2018年03月10日 00:11

 

 



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暮れましてお悔やみ申し上げますby善良なるバーテンダー

 

 

 

暮れましてお悔やみ申し上げますby善良なるバーテンダー

 

 

 

暮れましてお悔やみ申し上げます。 VV 様におかれましては旧年中大変お世話になりました

 

顔を会わせれば説教、説教、また説教の毎日で、わたくしめは非情に大きな苦痛とうざさを募らせられてしまいまして、正直を申し上げまして胃の痛い一年となっておりました

 

それもこれもどれもすべてがすべてランペルージグループ会長様であられますあなた様の責任でございます

 

わたくしめが精神的に病んでしまったしまったそのときには損害賠償日本円で1兆万円、ブリタニアポンドで100億万ブリタニアポンドを請求させていただきますのであしからず

 

 

 

つーかよぉコラぁクソジジイ!

 

てめえ大金持ちな上にもう年金もらってんだろうがオラァ!

 

いまを生きてる純情で清廉潔白なこの俺様からちまちまと家賃ぶん盗ってんじゃねえよ糞が!

 

たかだか半年程度の滞納で取り立て屋まで寄越しやがってアア?

 

しかもなんだプルートーンだあ?

 

エレクトーンみたいな名前しやがって舐めんじゃねーぞクソッタレ!

 

あとアレだよ蕎団とかなんとかカルト宗教みたいな連中まで来やがったぞ?!

 

蕎主VVに対する日頃の非礼とクララ姫様に対する傲岸不遜にして無礼極まりない態度は赦されるべからず罪業だのなんだの、わっけわっかんねーことばっかのたまいやがって、どうせおっさんとこの会社の警備部みたいなやつだろーが!

 

びびくらかしやがって責任とりやがれジジイ!

 

精神的慰謝料請求してやっかんな覚えてやがれ!

 

おっさんはなー、そんな小ちゃいことばっか気にしてやがるからてめぇの背が伸びねーんだよバーカ!バーカ!アッカンベー!ギャハハハハ!

 

だいたいクララは俺様の味方で借金はある時払いの期限なしの催促なしって約束してんだよ

 

親バカ精神発揮してクララが俺に貸してるくれてる借金まで回収しようとしてくんじゃねーよ!

 

アッハッハーなんか最高だぜえ!

新年は無礼講だかんよー?

普段ためてるぜーんぶを吐き出してやったぜー!

 

無礼講なんだから起こっちゃやーよー?

 

ギャハハハハ!

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「なに、これ?」

 

「さ、さあなんだろうねー、お兄ちゃんの悪のりかなぁーってクララは思うんだーうん。だ、だからねパパ、そ、そんな怖い顔をしないでよ、ね?ね? たぶんお兄ちゃんのことだから酔っぱらってるだけだと思うし少しくらいね大目に見てあげてくれないかなぁってクララは思う。あ、クララは気にしてないよ?だってクララは催促なしのある時払いでいいよってお金貸して」

 

「ねえクララ。このバカは新年の挨拶に喧嘩売ってきてるんだよ?自分の立場もわきまえずに。いくらね、温厚なボクでも怒るときは怒るよ?」

 

「えっ、ええと……」

 

クララ、玉城へとメールを打つ

 

『お兄ちゃんパパブチキレちゃってクララが訴えても止まりそうにないからいますぐ家から逃げてーっ!!』

 

クララの必死の警告メールを見た玉城がまともに反応できたのか?それはわからない

なにせビール500㎜缶を12本も飲んで泥酔していたからだ

調子に乗りまくっていた彼がVVへの茶目っ気メール

失礼極まりない新年の挨拶メールを打ったのはそういう理由があったから

 

その事の玉城がどうなったのかはクララ以外には、玉城と飲んでいた彼の友人だけが知っていた・・・

最終更新:2018年03月24日 08:40

 

 



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とある新伯爵領開拓の一幕

 

 

 

とある新伯爵領開拓の一幕

 

 

 

 

 

ゴゴゴ、ガコン、ガガガガ

 

鳴り響く重機の音

 

ガチン。キュイイイイー

 

続いて鳴り響いたのは甲高いモーター音

 

ここは神聖ブリタニア帝国領カンザスにある辺境の未開地

 

中心部は未開地ではなく新たに封ぜられた中央官僚の子爵、現在は下位の伯爵となった人物が領主となって治めている

この新伯爵領は以前に中心地のみを領地として治めていたとある男爵家の当主が無能なばかりか馬鹿の極みであった

 

馬鹿の男爵家当主はあろうことかクルシェフスキー侯爵家の次代当主にして現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの騎士が一人

 

ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー

 

続きヴェルガモン上位伯爵家次代当主リーライナ・ヴェルガモン

 

以上二人をそうとは知らずに罵声を浴びせて公然の場にて不敬を働いたのだ

 

ブリタニアという国は絶対なる階級社会

当然主家を侮辱されたと受けとる西海岸諸侯と五大湖諸侯からの経済制裁を受け、男爵家は財政破綻の憂き目に合う

 

男爵家は先代当主が爵位の返上と謝罪行脚に回る日々を送る事となってしまった

だが土地には家臣がおり領民もいる

 

天領として召し上げる事も考えた時の皇帝シャルルはしかし、中央省庁に勤めるある有能な子爵に目をつけて、子爵を下位の伯爵とし、旧男爵家領と周囲の天領の計約100平方キロメートルほどの地を下賜し治めるようにと命じたのだ

 

ゆえに周囲の天領を含む地を領主として下賜された新たな伯爵領主はまず旧男爵家領地域の建て直しに奔走する事となり、辺境ゆえの人手不足もあって自領となった旧天領にまで手が回らない状況に置かれていた

 

旧天領であった土地には手付かずの場所もある

そのために切り開くべき土地は切り開かなければならない

しかし伯爵領としてはまだ発足したばかりで正確には伯爵はまだ代官の身であった

 

人は足りない、物は足りない、旧男爵家の一族への対処に、旧男爵家当主の残した負の遺産の処置

また旧男爵家と敵対関係となったクルシェフスキー侯爵家と西海岸諸侯への対処

ヴェルガモン伯爵家と五大湖諸侯への対処

シュタットフェルト辺境伯家とソレイシィ辺境伯家への対処等々で伯爵はいっぱいいっぱい

 

そこへ中央省庁時代の上司でもあり後見人でもあったとある男性と女性が第0次、非公式の開拓団として自身の家臣を率いて開拓に来てくれたのだ

 

それが

 

「ふぅ、こんな大型ユンボを動かすなんて久しぶりだから楽しいね」

 

この顎髭を蓄えた暢気で明るい笑顔が印象に残る美丈夫と

 

「わたくしも作業用とはいえ久方ぶりとなるKMFの騎乗と操縦はなかなかに楽しいものがあると思います」

 

この少しとうの立つ三十路ほどの妖艶な美女であった

 

「しかしなんだねー。彼もいきなりの任命には慌てた事だろうねぇ。父上の無茶振りは昔からの事だけど、領地経営をした経験のない法衣貴族の彼を領主とするだなんて」

 

「わたくしも優秀な部下である彼を勝手に引き抜かれて少々腹立たしく、先日より父上とは顔も会わせておりませぬ。無論口など聞いてもおりませんわ」

 

「あっはは、君まだ根に持っていたもんねえ父上に婚約を破談に持ち込まれたこと。おかげで未だ行きおく」

 

「そこから先をお言葉になされますと如何な兄上と言えどもわたくしの作業用KMFローズでユンボの操縦席を叩き潰しますよ?」

 

「あ、ああごめん、ごめんよ"ギネヴィア"悪かったよ・・・ しかしねぇ君、無骨なスタイルのKMFにローズって名前は合わないんじゃないかなぁ」

 

「使っている間に愛着がわいてきましたのでこれは以後ローズと呼ぶことにいたしました」

 

ギネヴィアと呼ばれた作業用KMFを操縦する女性は、常日頃冷たい美女だのお局様だの説教皇女だのと呼ばれるブリタニア帝国第一皇女ギネヴィア・ド・ブリタニアであった

 

そして

 

「それよりも早くお手を動かしてくださいませんか? 残業などしてしまうと我々の家臣も我々に気を使い心労が貯まってしまいますよ"オデュッセウスお兄様"」

 

そんな彼女が兄と呼ぶユンボを操縦する美丈夫こそブリタニア帝国皇太子にして第一皇子オデュッセウス・ウ・ブリタニアであった

 

丁度長期休暇を与えられていた彼等は、自分たちにとり直臣でもある新伯爵が領地開拓やら事後処理やらに追われているだろうと思い、休暇を利用して手伝いに来ていたのだ

 

私人としての身分であるランペルージグループの社長一族の身分を使った

 

オデュッセウス・ランペルージ

 

ギネヴィア・ランペルージ

 

として

 

 

 

そこはとある新伯爵領

手付かずの土地の開墾に度々皇族が訪れる不可思議な地域であった

 

とある新伯爵

 

ああもう来てくださるのはありがたいし、助かるけど、殿下方にお怪我でもされたら大変なのに

 

あの方々にも頭が痛い

 

それにせっかくならギネヴィア殿下には事務関係をお願いしたいのになんで慣れない現場作業を率先してやってるんだろ

 

中央から辺境に来て早速の仕事がたまりにたまった書類整理とはたまらないよ

やってること中央省庁勤めのときと変わらないじゃないか・・・

 

これから測量もしなきゃならないし

 

領民の意見も聞かなければならないし

 

西海岸諸侯と五大湖諸侯との協議もあるし

幸いにも中央時代からモニカ・クルシェフスキー卿にリーライナ・ヴェルガモン卿とはパイプがあるからそこからなんとか捩じ込んで

 

移民や開拓民もたくさん来てもらいたいし

 

人手不足にもほどがあるし

 

なんだよこれ、問題抱えすぎだろうロズベルト男爵め

 

 

 

 

 

と考えていたかどうかは本人のみぞ知ることであった

最終更新:2018年03月24日 09:49

 

 

 



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辺境の新伯爵は悩む

 

 

 

辺境の新伯爵は悩む

 

 

 

 

 

所領などをいただいた身ながら中央以上に悩み事ばかりだ

 

問題が多くてなにから手を着ければいいのやら、書類整理にばかり手を取られている場合ではない

 

ああ問題と言えばこのひと達も問題の種なのだ

頭が痛い半分はこのひと達がいるからだ

 

トウ・ヘア子爵改めトウ・ヘア伯爵は開拓に従事している人々と焼き魚を食べながら談笑に耽る輪を開かれた執務室の窓から見ていた

 

「労働の後の食事は美味しいね。ちなみにこの魚は川で僕が釣ってきたんだよ」

 

「おおオデュッセウス殿下が」

 

「カラレス公爵オデュッセウス殿下ではありませんよ。オデュッセウスさんですオデュッセウス・ランペルージが兄上の今のお兄様の名なのですからね。私はギネヴィア・ランペルージ。オデュッセウス・ランペルージの妹です。ギネヴィアさんとお呼びなさい」

 

「ハッ! しからば私めのことも公爵ではなくカラレスと。トウ・ヘア伯爵領へ出稼ぎに来たただのカラレスにございます」

 

「はっはっはっ、皆様、いや皆さん面白い発想ですね。では私も出稼ぎ労働者のhamと。侯爵や卿などと間違っても敬称をつけないでください」

 

「それなら私はリヒテンラーデ侯爵改めひゅうがですね」

 

「リヒテンラーデ卿おっと、ひゅうが殿は名前だけ聞けば日本人ですな。ひゅうが殿は四国の地理にお詳しいとお聞きしましたが、本場四国のうどん屋巡り旅行を今度考えておりまして」

 

「カラレスさんはほんとうどん好きですね。話に聞く限りではまるでうどん食の達人みたいですよ」

 

「日本のうどんは最高ですからな」

 

そこへ女性がひとり割って入った

 

「いいえカラレス卿、ではありませんでしたカラレスさん。日本でもっとも素晴らしいのはラーメンです」

 

「クルシェフスキー卿、いやモニカさん。なにを仰るかうどんこそ至高なのですぞ! 年明けうどんとか!」

 

そこへまたひとりの女性が割って入った

 

「そういえば私も年明けうどんのお話は最近になり聞いたことがありますわ」

 

「ヴェルガモン卿も、じゃないリーライナさんもご存じでしたか」

 

「ええカラレスさん。私が日本へ赴任したときには既にお聞き致しておりましたわ」

 

今度はリーライナと呼ばれた女性の隣に接するように座る坊主頭の男性が口を開いた

 

「麺で終わり麺で始まるか。今年はひとつ年明けうどんとやらを食べてみるかなリーラ」

「ええいっくん」

 

いっくんと呼ばれた男性に今度はモニカと呼ばれた女性の隣に寄り添う凡庸を絵に描いたような男性が話しかけた

 

「山本は海軍カレーが合いそうだがな」

 

「それなら嶋田も海軍カレーだろう」

 

「「はっはっはっ」」

 

何してるんだこのひとたちは?

 

皆が皆、天の采配か連休の重なったやんごとなき人々がロズベルト邸の庭で焼き魚を食べながら話し込んでいるのだ

ロズベルト男爵との因縁ではおもいっきり当事者だったり、某かの関係があったり、トウ・ヘア伯爵自身と関係のあるひとたちばかりが一同勢揃いである

 

もちろんここは旧ロズベルト邸

庭で盛り上がる一同の姿はロズベルト一族にも見えている

 

おや?

 

現実逃避をするようにロズベルト一族へ目を移していた伯爵は、一族より小さな少女が自称第0次開拓団を名乗っている面々に向けて歩き寄り、面前まで進み膝を付いていた

 

 

「オデュッセウス皇太子殿下、ギネヴィア第一皇女殿下、ナイトオブトゥエルブモニカ様、ヴェルガモン伯爵家御息女リーライナ様、カラレス公爵閣下、リヒテンラーデ侯爵閣下、ham侯爵閣下、大日本帝国華族シマダ卿、大日本帝国華族ヤマモト卿、折り入ってお願い致したき事がございます」

 

面々の名をひとりずつ呼び某かを願うロズベルトの少女の脚も小さなその身体も、全身が怯えるように震えていた

 

お願い

 

彼女のその願いの察しはついている

あの面々に当事者たるモニカ・クルシェフスキーとリーライナ・ヴェルガモンがいる以上、自分に頼み込んできた事と同じ事を願うのだと

モニカ、リーライナ両名への謝罪

ロズベルト先代当主の謝罪に続きロズベルト一族からの二度目となる公式の謝罪を当事者へと行った小さな少女は、一族を滅亡させた男への決闘の許可を願い出ているのだ

 

伯爵は既に許可を与えていた。フランク・ロズベルトの法に抵触する行いの確認がとれ次第と

 

これを補強・強化する意味もあるのだろう

 

ブリタニア皇太子に皇位継承権上位者のギネヴィア皇女。高位貴族のカラレス卿にひゅうが・リヒテンラーデ卿・ham卿。フランクに貶められた当事者モニカ・クルシェフスキー卿とリーライナ・ヴェルガモン卿

そして大日本帝国の華族シゲタロウ・シマダ卿にイソロク・ヤマモト卿にも後援者、後見人、見届け人になっていただこうとしている

 

様子を見ていたトウ・ヘア伯爵は静かに窓を閉めた

 

 

「はあ、ハードだ領地貴族」

 

問題だらけだ

しかし仕事は仕事

いまや一国一城の主

 

決闘など柄ではないが、少女の願いひとつ分くらい仕事が増えてもいいだろう

 

そうして伯爵は執務机に着き、自分の仕事に戻った

最終更新:2018年03月25日 12:13

 

 

 



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玉城「仮想現実シミュレーター?」

 

 

 

視点コロコロ変わるし適当すぎる内容で玉城っぽい玉城

 

 

 

 

 

玉城「仮想現実シミュレーター?」

 

 

 

 

スメラギと倉崎の先進技術開発室とランペルージグループが共同研究の末に作り上げた仮想現実シミュレーターなる機械があった。

どういったものかを簡潔に説明するならば脳に直接刺激を与えて意識を仮想空間にダイブさせ 現実と同じ様な感覚を体験することを可能としたゲームマシンだ。

便宜上はゲームといってもKMFの仮想訓練や催眠学習までもこなす軍事的な技術を盛り込まれているので一般にはまだ出回っていない。

たとえばインプットされた歴史上の事件や 動き次第で歴史に影響を及ぼしかねない人物が「あのときこうなっていたら」といったパラレルな歴史と現実を追体験することもできる。

 

「つまりキミが官僚になっていたらのもしもな状況も体験できる優れ物なんだよ」

 

体は子供 中身は年金受給者のやたらと長く伸びた淡い金髪の男VVが説明してくれたのはそんな機械の話しだった。

 

「ボクの話きいてる?」

 

「きいてるきいてる 聞いてますって」

 

本当は半分聞いてない。

隣で似たような説明を受けている女が気になってジジイの話しを聞くどころではないのだ。

 

「以上 説明を終えますがなにかご質問は?」

 

隣では倉崎の開発主任だか知らんがやたらエラソーな肩書きを持つ男が 日がな一日ぼーっとしてそうな平凡を絵に描いたオヤジと丸坊主のオヤジと。

体にぴっちり張り付いたとてつもなくエロいレオタードを着たブリタニア人ぽい女二人を前に意見を募っている。

 

オヤジ二人はどうでもいい。

ついでに目の前のちんまいジジイと倉崎主任とかいう男についても眼中にない。

興味をそそられるのは黒と紫の超ハイレグなレオタードを着た金髪ロングの女と もう一人こっちは少し露出が控えめな白いレオタードに金髪をツインテールにした女だ。

二人とも巨乳で美人だから周囲にロリっこ女子高生しかいない身としては目の保養になることこの上なし。

特に黒と紫の超ハイレグ美女のほうは胸元からへそまで素肌が見えていて胸の谷間が丸見え。

加えてふとももから腰までも丸見えで何度生唾を飲み込んだことか。

 

(くっそーー!最高のアングルだってのにあのクソ坊主が邪魔してしっかりみえねえーーっ!)

 

しかし一番手前に立つ丸坊主のオヤジが邪魔でよく見えない。

自分から視て並びは順に丸坊主オヤジ 黒紫のハイレグレオタード美女 ツインテールレオタード美女 平凡オヤジ。

 

(このクソ坊主がーー!てめえもちったあ気ィ利かせやがれよ!)

 

坊主が体を動かしたりハイレグ美女の体が動くとちらちら見えるがそれだけ。

一瞬のチラリズムに用は無い オレはこの目に焼き付けたいんだ。

 

(トイレ行ってスマホを自動録画にして隠し撮りしてやろうかな)

 

善は急げとも言うし。

 

「おっさんちょっと」

 

「なに 質問かい?」

 

「ゲーム機のモニターやる前にトイレ行きてーんだけどよ」

 

「キミねえ そういうのは先に行っておきなよ」

 

「んなこといったって出るもんは出るんだからどうしろってんだよ」

 

「ふう わかったよ行っておいで」

 

 

「それではご質問をよろしいですか?」

 

「ああどうぞ」

 

ハイレグ美女が質問している。

手を挙げた瞬間に腋が見えた。

 

(写真撮りたかったぁぁ)

 

しかしなんだってこんなとこにアイドルやモデルでもそうはいない超のつく美女が二人もきてんだよ。

こんなのがきてるってしってたら最初から声掛けてたっつーの。

意見交換かなんかで至近距離で話もできそうだし胸の谷間を視たい放題できたってのにちきしょーー!

美人でエロい女がすぐそばにいるのにこれじゃ生殺しだぜ。

 

「・・・・」

 

トイレに行っちゃったよ。

別にいいんだけど人の話くらいきこうと言いたい。

ボクの目も見ないで隣ばかりちら見してほんとなに考えてるんだかね。

 

「VV様」

 

一人ぽつねんと取り残されちゃったボクに向こうで主任から説明を受けていた娘に話し掛けられた。

 

「なんですのあの失礼極まりない男は」

 

「え ああごめん彼はいつもあんなだから でもボクは気にしてないよ いい加減の塊みたいな男の態度を一々気にしても意味ないし」

 

何年たっても落ち着きがないしいい加減なシンイチロウの態度に目くじら立てるだけで損した気分になる。

ボクはもう呆れの境地に達して悟りを開いてるから気にならないだけで あれを全面的に許せるのはクララくらいだろうね。

 

「そういうことではありませんわ VV様がよろしくても私がよろしくありませんもの」

 

「キミが?」

 

ボクが良くてもこの娘がダメなんだって。

 

「なんで?」

 

「なんでって あの男さきほどより私の体を舐め回すように視ていらしたんですのよ? あれは視姦ですわ」

 

「え 彼そんなことしてたの?」

 

馬鹿だからと思ってわかりやすいように細かく説明することに集中していたせいで気付かなかったよ。

ぷりぷり怒るこの娘の体をよく見てみる。

背丈 一般的な成人女性。

胸部 クララが哀れに思える大きさ。

手足 すらっとしていて肉付きもいいんじゃない?

うんまあ シンイチロウの好みに合致してるね。

 

「ふむ 視姦とは穏やかではないがなんだそのリーラ お前のその飛行服姿ではあまり責め立てられんぞ」

 

「なによそれどっちの味方をしてるのよ!いっくんわたしあの男に視姦されたのよ!」

 

「し しかしこう素肌が見えていては男の本能が働くというものだろう あの青年もけしからんがお前の飛行服が飛行服だから」

 

イソロクの意見は案外間違っていないと思う。

ボクはあんまり興味無いけどこの娘みたいな格好をしてたら大抵の男は無反応ではいられない。

欲望に忠実なシンイチロウじゃ気になって気になってしかたないだろう。

ユニットがKMFの操縦席を模している都合で実験に参加してもらうメンバーはみんなパイロットスーツなんだけど男性陣が普通なだけに余計目立つような。

こういうところブリタニア軍のパイロットスーツ採用基準ってどうなってるのやら。

 

「もういっくんのバカ 私の体をみてもいいのはいっくんだけなんだから」

 

体を寄せてくっつく娘。

 

「いっくん以外の男に凝視されるのは・・・・ いやなの」

 

イソロクの胸元に顔をすりつけて。

 

「リ リーラあまりくっつくな」

 

「ダメ くっついちゃう」

 

「人前なんだぞ」

 

「人前っていってもみんな私たちの関係をしっているじゃない それにいっくんの体にもたれてるだけよ」

 

「しようのないやつだ」

 

イソロクもくっつく彼女を抱き締めて。

もたれてるじゃなくあれじゃ立派な抱擁なんだけど。

 

「あのー すみませんがここでラブらないでください っていうかVVさんも嶋田さんも黙ってみてないで止めてくださいよ!」

 

倉崎主任は注意して。

ラウンズの娘はハートマークでも飛ばしてそうなくらいにちゅっちゅするイソロクと娘を前に口元を抑えながらシゲタロウをちら見。

視線を受けるシゲタロウは苦笑いでボクをみる。

 

「すみません 山本は一見堅物に見えて想いを寄せる女性にはけっこう甘いところがあるので」

 

「べつに抱擁交わして接吻するくらいいいんじゃないの?」

 

「私が良くないんです!私独身で彼女いないんで心に毒なんです!」

 

独身貴族といえば聞こえはいいけど寂しいもんだよ。

ボクも独身だからそれはなんとなくわからないでもないかなあ。

 

「なるほど それで以前私とモニカが似たようなことになったときに止めろと注意されたのですね」

 

ふーん シゲタロウとラウンズの娘も主任の前でねえ。

 

「いいえ嶋田さんたちのほうがましです あれはもう蹴り飛ばしたくなります」

 

するとシゲタロウをちら見していたラウンズの娘がつま先立ちになって。

 

「VVさん 嶋田さんとモニカさんまでラブり始めたのですが蹴り飛ばしてもいいですか?」

 

シゲタロウは宥めてるけどイソロクたちの雰囲気にあてられたラウンズの娘からは逃げられない。

ラウンズなだけあって力強いし。

 

「・・・・人選はいいと思うよ?」

 

政治家シゲタロウ 海軍提督イソロク 現役ラウンズモニカ 軍人リーライナ シンイチロウは一般庶民枠。

立場を異にする人間 それもそれぞれその分野のエキスパートに仮想シミュレーターのモニターになってもらおうと声掛けたんだけど 無限とも言える可能性をコンピュータが導き出す形だから誰がどんな人生や世界観を体験するのかわからない。

駄目人間のエキスパートシンイチロウだけはもしも官僚になれたらをインプットしてあるから大方の展開は予想できる。

 

問題となるのは全員の意識を同調させてのシミュレート。

同じ世界観に意識を飛ばす形だからできればチームを組んでうまくやってもらいたいんで仲良しこよしの深い仲じゃないと連携取れないと思って。

シンイチロウだけ余るけどクララの枠も用意してるから問題無い。

シンイチロウと一番仲良いのはクララだろうしさ。

 

「でも見事なまでに男女カップル そのうち二組は本当にカップルだしこれじゃリアル恋愛シミュレーションだね」

 

ボクとそう年が違わないシゲタロウとイソロクがこう場所も問わずにラブるなんて。

環境や意識ってその時々で変わるから興味深いよほんと。

 

 

「ただいまーいって うおっ!どうなってんだよおい!」

 

トイレから戻ってきたシンイチロウが驚く。

まあねそれは驚くよ。

 

「なにを期待してるのか知らないけどさ あの娘たちはとっくの昔に売約済みってことさ」

 

「なにィィィーーー!?なんであんな老いぼれジジイ共にあんな美女たちがぁぁぁーーー!?」

 

ひどい言い方だけどあの二人はキミが目指していた道の頂点まで上り詰めた人間だよ。

どうして自分の国の元大宰相と大臣を知らないのか逐一問いつめたい。

そんな常識以前のこともしらないでよくもまあ官僚に政治家にって大きな口を叩いてくれてたものだ。

 

「人それぞれさ 少なくともあの二人はキミよりずっといい男だよ」

 

男としてみた場合のシンイチロウは論外。

論外なんだけどそんな論外な男に愛娘のクララは惚れ込んでいるしもう一人疑いのある姪もいる。

ただどうせシンイチロウにはクララを幸せにはできない。

性格から言っても無理だし普通の親なら猛反対してるところ。

でもクララ曰く「パパわかってないなあ お兄ちゃんがクララを幸せにしてくれるわけないじゃん クララがお兄ちゃんを幸せにしてあげるんだよ」だそうな。

クララが腹を決めてるからボクにはもうなにも言えないんだ。

 

「あれ?」

 

なんか項垂れたと思ったら急にイソロクたちのほうを向いたまま胸ポケットを押さえて黙りこくったし。

 

「胸ポケットのスマホ カメラのレンズは外向きですか なるほどラブると隙ができるから盗撮し放題ですな」

 

「え なに? なんのこと?」

 

「いいえまあ モニカさんはまだしもリーライナさんのパイロットスーツは刺激的ですからな」

 

「・・・・・」

 

主任の話しで意味がわかった。

 

「へっ あんな美女がジジイとねんごろなのにはムカついたが まあ夜のオカズには使えるぜ」

 

「・・・・」

 

最低だよこのバカは。

発想が下劣すぎる。

クララはこういうところも承知してるんだろうか?

 

そのあとに開始したシミュレート。

最低のバカは官僚シミュじゃなくてランダムに設定しなおしてやった。

少しは頭冷やしなよ。

 

まあそんなこんなでハイレグ美女のエロい姿をしっかり動画に収めたオレは官僚になる仮想現実を楽しもうと意気込んで実験に参加したわけなんだけど。

 

「よっしゃあ 官僚玉城真一郎サマの活躍を」

 

わけなんだけどなぁ そこちょっとどころか全然違ったんだわ。

 

「エリア24?」

 

どっか外国みたいだがどこなんだよエリア24って。

大グリンダ騎士団ってなんだ?

 

ここでオレはどこかで見たことがあるような女と出会う。

自分が気に入らないからと人を殺しまくる狂ったその女との出会いは妙なデジャブを感じた。

最終更新:2015年06月14日 16:03

 

 

 



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玉城inキスver.クララ

 

 

玉城inキスver.クララ

 

 

 

「る~るる~~♪」

 

クララが畳の上でうつ伏せになり足をぱたつかせながらのんきに鼻歌を歌っている。

 

(俺コイツになんぼほど借りてんだっけな?)

 

困ったときのクラえもん。

古くからずうっと続いている夢の猫型ロボット漫画をみて大きくなった日本の子供の例にもれずみて育ったから知っている。

 

(クラえも~ん今月ピンチだから金貸してくれ~なノリで借りまくってっからなァ クララのやつもことわらねーしつい頼っちまうンだよ)

 

彼女に頼み事をするとき自分がいじめっこに泣かされる猫ロボの友人になったような気分になる。

漫画の猫ロボはしょうがないなあと口走りながらも情けないダチを手助けするのだ。

彼女も漫画の猫ロボと同じで頼むといつでも金を貸してくれる 無利息に無期限で青天井といった借金するやつには最高の条件で。

調子に乗って借りてばかりいたから相当な額にまで膨れあがってきたと思われるもなんのその やっぱり頼めば頼むだけ余裕で貸してくれる。

 

(借用書無しの信用貸しは助かンだけど気軽に貸してくれるから積もりつもってやべェ金額になってそうで怖ェェ)

 

親しい間柄な以上に彼女の父親が金持ちだからか借金でトラブルにもなったことがない。

金の貸し借りには小うるさい父親とちがって金に重きを置いてないらしいクララが借金に寛容だったところも揉めない要素の一つだ。

借りてる物はいずれ返そうと思ってる でもクララがとくに催促してこないので総額がわからなくなっていた。

 

(素直に聞くか)

 

わからないならそうするより他ない。

サラ金の姉ちゃんでもあるまいしうそっこな金額を口に出したりしないだろうといった感じに気軽に話し掛けてみた。

 

「なあなあクララさんや 俺の借金っていまどれくらいになってんですかねえ?」

 

漫画のページをめくりながらポテチをかじっているクララはさらっと教えてくれた。

もうテキトー 投げやり どうでもいいみたいにボソッと。

 

「100いってるよ」

 

げッ?!

 

「ひ ヒャクエンっすか?」

 

ちょっと誤魔化してみた。

100円なわけありゃしないが真実100エンだったらうれしいなと思って。

でもそんなもんが通用するわけない。

 

「はぁぁ~?なにヒャクエン?クララのことなめちゃってんの~~?ヒャクマンエンにきまってるじゃんヒャクマンエン もっとはっきりさせるなら108万円だよバータレ」

 

煩悩の数と同じだけの借金が三桁の大台にてできておりました。

30万くらいだと本気出せば簡単に返せるぜと勝手に思い込んでおったとさ いやァめでたしめでたし。

 

「ってめでたかねーーよおおっ!!」

 

「きゃっ!」

 

現実逃避したくなった一人ツッコミにクララが驚きの悲鳴をあげた。

 

「もーっ急に大きな声出さないでよびっくりするじゃない」

 

「悪い 100万までいってるとは思わなくて なあマジで俺そんなに借りてた?」

 

100万円も借りた覚えはないと言い張ってみる。

でも駄目だった。

 

「マジで借りてるよ 何年何月何日何時にいくら貸したかまで覚えてるから細かく説明したげようか?」

 

社会経験のない女子高生のクセして無意味なくらいに記憶力がいい。

借用書がないので忘れてくれてたらいいなとずるい考えに到達してしまえる俺とは大違いだよゴメンナサイ。

 

「でも俺ちゃんと返してンじゃん それなのになんで三桁もいっちまってんだよオイ おめーは悪徳高利貸しかクララさんよォ」

 

バーカーヤーローウ。

俺だってなあ 俺だってちゃんと毎月返してンだよ。

借金踏み倒して開き直ってるクズたァデキが違うンだよ。

たまる一辺倒のはずねーんだよ。

出るとこ出てやってもいいんだぞくらぁ。

 

「確かに返してくれてるねぇ~ でもお兄ちゃんお金返してくれてもすぐにまた貸してっていうしぃ 返しては元より多く借りての繰り返しだしぃ」

 

一撃で論破!?

 

「クララは毎月ちゃんと貸してあげてるんだよ 100万なんてあっというまだよ エラソーな言い訳するヨユーがあるんなら出るとこ出ちゃってもいいんだよバカたれ」

 

「ゴメンナサイスミマセンクララお嬢様どうか勘弁してくださいませ」

 

駄目なやつといわれる自分の現実をこれでもかと教えられた。

 

どうォすんだよこれェー!

VVのおっさんからもなんぼか摘んでるしなんでこんなに借金しちまってンだよ俺ェー!

借金が借金を生み出す借金スパイラルを無利子の借金でやっちまってる。

気付いた時には手遅れだったとならないのは相手がサラ金でないからであって構図は借金の大連鎖と変わらない。

もう気分は某パズルゲームの必殺技ばよえ~んを連発で喰らったときのような絶望的な気分だった。

しかも何に使ったかまったく覚えてねー。

 

「クララちゃん 俺ってやつは人として終わってると思いますか?」

 

正直に答えてくれといってみた。

 

「ウン終わってる 馬鹿なのはいいんだけどそれ以外が全部終わっちゃってる」

 

正直に答えられました。

 

「優柔不断だしお金にだらしないし無計画だし借りたお金で競馬競輪競艇いってるし不細工だし馬鹿だしエラソーだし」

 

人間失格だそーです。

 

「クララじゃなかったら縁切られちゃってるよ 反省してから死んだほうがいいくらいに終わっちゃってるよ」

 

ズバッといわれたら逆にすがすがしい。

思い出してみると確かに競馬いってた。

競輪も競艇も日本で合法なギャンブルは全部やってる。

一攫千金は男の夢なんだから大目にみような?

 

「借金でするなっていってんの」

 

はいそうですねクララ様のゆーとーりでごぜーますですね。

 

「普通縁切るよな ツレを選ばない俺でもそんなダチとは縁切るぜ・・・・ハァ 鬱だ」

 

だってそんなやつはまず絶対にたかってくるから。

自分が金無いのに金無いやつにまでたかってくるやつなんざこっちから願い下げだ。

俺は俺みたいなやつとは絶対友達にはなれねェわ一生無理だわむしろ死ねやってゆーわ。

でもって俺みたいなやつと変わらず仲良くしてくださるクララサマのお心の広さに平伏してしまいますですよ。

 

「わかってるなら正していかなきゃ とくに借金でギャンブルしてるのがよくないね パパにしられちゃったらクララでもかばえないもん」

 

クララの言うとおりあの親父に知られたら俺まじでヤバイっすわ。

いつも俺の味方を公言してるだけあってクララはしょうがないなあで許してくれるんだがしかーしチビ親父様は別なんだぜ。

 

「おっさん怒らせたらアパート追ん出されて野宿生活に転落するよな」

 

「たぶんね パパは容赦ない人だからバレたら今すぐにでも家なき大人誕生だよ リュウはいないからひとりぼっちくんでがんばってね」

 

「うへぇ~~いやだソレ~この年でのさまよう自由人は勘弁してくれェ~死にたくなる~」

 

「じゃあ切り札使う?使えばクララからの借金についてはチャラになるよ パパから借りてる分だけは自力でなんとかしてもらうよりないけど」

 

えっマジ!?

 

「そんなもんあンのか?!」

 

「あるよーとっておきの切り札 お兄ちゃんにしか行使できない裏技がねー」

 

クララは風呂上がりで着替えていたパジャマのポッケからなんぞ取り出してきた。

 

「じゃじゃーんトクセイレイカード~~!コレにサインするだけでなんとぉぉ-!お兄ちゃんの借金がチャラになりますっ!すごいでしょっ!」

 

クララちゃん金融代表取締役のランフランク社長サマが取り出してきたのはお役所に出す用の紙っきれ。

名前を記入する項目にはもうクララ・ランフランクと書かれている。

あとはもうひとつの空白に玉城真一郎と書けばそれだけで借金は清算されるのだという。

わーいやったぜこれで俺サマもキレーな身に生まれ変われるんだぜ!

 

って・・・ざっけんなァァァーーーー!!

 

「バッカやろそれ婚姻届だろうがッ!」

 

婚姻届だった。

名前書いて役所に提出すれば夫婦になれる契約書だ。

 

「いえ~す こ・ん・い・ん・と・ど・け でも徳政令カードでもあるよ クララと結婚してくれるなら借金は帳消しにしたげる」

 

飢えた狼クララが借金羊のか弱い俺に飛び掛かってくる。

 

「えーい!!」

 

「うわっ!」

 

無理矢理にでもサインさせようというのか小柄な体で馬乗りになってきた。

 

「さあお兄ちゃんは大人しくコレにサインしなさいッ!借金チャラにしてムコにもらったげるから!」

 

女の子あいてに乱暴できない俺は簡単にマウントポジションの体勢へ持ち込まれてしまった。

どけええークソガキーー。

 

「ふっふっふっ さあさあなにも難しく考えることはないよ判子ひと捺しでいいんだよひと捺しすればそれだけで借金は帳消しで晴れて自由の身になれるんだからあとはパパへの返済だけになるし楽勝でしょ」

 

クララは満16を超えてるんで俺がこの紙っきれに捺印すりゃ有効となる。

 

「ほら捺せいま捺せどんと捺せ 自由のためにポンだよポン」

 

自由になれるどころか捺したら人生の墓場行きじゃねえか。

物しらんなりにでもそんくらいしってるっつーの。

 

「ンでおまえと結婚せにゃならねェンだよボケっ」

 

信じられんがコイツ本気で俺のことが好きらしいんだ。

女に好かれたことなんか一度だってなかったから嬉しいっちゃ嬉しくはあるんだがでもな俺にだって好みがあんの。

コイツの従姉のコーネリアみたいなボンキュボンがいいの。

いくら美少女でも幼児体型のちびっこなんかお呼びじゃねーのよアホンダラ。

 

「ほらほら~押したら借金チャラなんだから押しちゃえ~」

 

「い~や~だ~ッ!俺サマは年上のボインな姉ちゃんがいいんだって前から言ってンだろ貧乳!」

 

「だからもうちょっとしたらクララだってボンキュボンになるって言ってるじゃない!お兄ちゃんだってここ最近クララが引っ付いたら嬉しそーにしてるくせにぃぃ!」

 

ぺったんこが育ってきたのは間違いじゃねえ ぴとだったのがムニュにもなってる。

乳くせェガキの匂いからいっぱしの甘い女の匂いを漂わせるようになってきたのも確かだ。

貧乳つったが撤回 いまや微乳を超えて普乳に近付いてきてる 身長のほうもまあそれなりに伸びてきてる。

んなコイツに引っ付かれてくらっとなってっこともある。

認めますよ ええ認めてやりますともクララさんよー。

でもなー でもいっこだけ絶対おまえにゃあねーモンがあんだよ。

このいっこがすっげー重要なの とってもとっても重要なんでごぜーますの。

 

「おまえガキっぽくて全然色気ねーもん 色気ムンムンな姉ちゃんが好きな俺にどうしろっつーのよ」

 

どこまでいってもガキはガキだ。

クララには色っぽさの欠片もない。

ふっ 所詮おまえはお子サマなのさ。

 

「ムっ ムカツクぅぅぅぅぅ!!好きだって言ってるのになんでそんな腹立つ言い方ができるのッ!?」

 

「おまえが俺のこと好きでも俺おまえのこと女としてみれねーンだもんよー みれねーもんはしかたねーだろぉ」

 

「借金大王のくせして生意気いうなーーーーッ!!!」

 

ノーリスクの借金にもとんだ落とし穴がある。

ひとつ学び賢くなった俺様なのであった。

 

 

もいっこだけ撤回。

絶対コイツにゃいわねえけどよ。

やわらけーし あったけーし。

やっぱいい匂いしてやがるわ。

 

 

 

―――

 

 

結局サインしてくれなかった。

名前を書けば終わり。

全て清算してあげるといってるのに。

 

「お兄ちゃんのバカ」

 

寝ている 手足を伸ばして無防備に。

 

「いいよ ひとまずのところは引いてあげる だけどね 自分が誰のものなのかはそろそろ自覚しよ?」

 

口を開けていびきを掻くお兄ちゃんの顔を電灯の光から隠すのは私の肩から流れる桜色のカーテン。

 

「んがーッ んがーッ」

 

「ばーかばーかあほー」

 

ムカツクことばっかり言ってさ。

ホント乙女心をわかってくれないんだから。

 

「んがーー・・・・」

 

睡眠時無呼吸症候群のように止まるいびき。

一拍の間だけ酸素を取り入れられなくなる。

かわって取り入れられるのは肺の中で処理された二酸化炭素と僅かに粘性を持つ水分。

外部から入る二酸化炭素は肺に 水分は胃に それぞれ染み渡っていく。

送り出すのはもちろん私 お兄ちゃんの顔を隠す桜色のカーテンも二酸化炭素も水分も全部私のもの。

私が覆い隠すお兄ちゃんっていう人そのものが私だけのもの。

 

「どれだけつけてきたかわかる?」

 

唾をつける 匂いをつける 所有者として当然の行い。

長い時間をかけて胃と肺の隅々まで染みこませてきた。

解剖して検査をすれば私のDNAが検出されるくらいには唾液を飲ませきてる。

しらないのは当人だけで私が触れてない場所なんてもうない。

 

「お兄ちゃんはもうクララだけのものなんだよ」

 

だらしなくいびきを掻いているこの唇にも散々唾をつけてきた。

 

「クララの匂いがしない場所なんてないんだから」

 

ここまでしてるのにまだ名前だけがつけられないというのはもどかっしい。

 

「シンイチロウ・ランフランク 玉城クララ ねえお兄ちゃんはどちらがいい?」

 

お兄ちゃんの頭を抱え込むと逆立つ髪の毛が頬をちくちく。

 

「はむっ」

 

二酸化炭素を吐き出していた器官でお兄ちゃんの聴覚器官を噛む。

起こさないように甘く噛む はむはむ噛む 噛んで噛んで噛みまくっても飽きないから噛み続けてあげる。

血が出たら舐めるよ バイ菌が入らないように舐めるよ お兄ちゃんの血を飲んでクララはお兄ちゃんと一つになるよ。

そのかわりクララの唾も血も飲ませてあげる。

クララの傘の下で一生平穏無事に過ごせるようにもしてあげる。

 

「かぷっ」

 

おいしいなあ。

お兄ちゃんの味とってもおいしいよ。

世界でいちばんおいしい味だよ。

 

「・・・」

 

おいしいのによけいな匂いがついてるのはよくないなあ。

味が落ちて気分悪いんですけど。

 

「クララだけの耳なのに他の女の匂いをつけてくるなんてなに考えてんの?」

 

女の匂いがした。

キャバクラやスナックに飲みに行ってるのはしっていたけど勝手に匂いをつけないでほしいな。

そういうとこ行くのは別にいい ああいうとこの女って商売でしてるだけだから脅威になったりしないもん。

ヘンなことしたら許さないけどお兄ちゃんみたいなヘタレじゃそうそうヘンなことにはならないし。

でも時々ヘンに接触して匂いつけてくるからいつもこうして消毒するはめになるんだ。

消毒するのは好きだよ?だけど他の女の匂いがお兄ちゃんの体についているのはやっぱり気に入らない。

 

「あーもういやんなっちゃうなぁ お兄ちゃんを好きに触っていいのはクララだけなのに」

 

お兄ちゃんはクララのものなの。

だから勝手に触っちゃ駄目なの。

いくら商売でも人のものに手を出すのは悪いことだよ?

しかも今日の香水の匂い中々取れないしひさしぶりに殺意覚えちゃった。

現場をみてたらギアス使ったかも。

 

「お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ クララって者がありながら平気で他の女の匂いをつけてきちゃったりしてさ」

 

お兄ちゃんにも困ったものだ。

 

「ああもうムカツクからもういっかい消毒しておこうっと」

 

チュっ

 

 

彼女はグチグチ言いながらも唇を合わせたまま幸せなひとときを楽しんでいた。

最終更新:2015年06月14日 16:11

 

 



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最高

 

 

最高

 

 

 

 

 

 

(伯父さまが雛祭りだからと喚んでいる)

 

(ユフィからの電話で知っていたことだが まさか自分にまでお呼びが来るとは)

 

嶋田はV.V.の家で寛ぎながら 彩り鮮やかなちらし寿司と日本酒に舌鼓を打ち。

集まっていた面々を一通り見回していた。

 

(しかしなんともまあ)

 

V.V.と同じ膳に着く嶋田の隣に座るユーフェミア。

ルルーシュやナナリー達と一緒に座るコーネリア。

ルルーシュやナナリーの護衛も兼ねているアーニャ。

向かいの膳に座るマリーベル。

マリーベルと睨み合うクララ「うっはー! この酒サイコーっ!」

 

(見事なまでの同色系統ばかり)

 

全員に共通しているのは紫から薄い桜色までの髪の色。

雛祭りだから場に見合うと言っちゃあ見合っている。

 

「シゲタロウ」

 

「ん どうしたんだユフィ」

 

「如何なさいましたの? コウ姉さま マリー姉さま クララ アーニャばかり見て」

 

雛祭りに合わせて誂えたであろう 艶やかな赤系統の振り袖を着たユーフェミアが 不機嫌そうに眉根を寄せていた。

妻の目の前で他の女性に目移りなさるなんて そんな文句を口に出しそうにして。

 

(ああ これは俺が悪かったな ユフィの前で他の女性ばかり見ていたら勘繰られもするか)

 

「なんでもないんだ みんな楽しんでいるなと思ってね 落ち着かないのさ 俺は男だから」

 

三月三日の雛祭りとは女の子 女性の行事 男だけに場違いな気もする「秘技っ! 中トロ二貫喰いっっ!!」

 

ただの誤魔化しだが まったくの嘘でもない。

女性の園に迷い込んだ男の気分が有るのも確かな事だからだ。

 

「気にしすぎですよ」

 

ユーフェミアは春間近の時節にあって 春を先取りしたような香りと微笑みを保ち嶋田の手を取る。

 

「殿方が雛祭りを楽しんではいけないという法はございませんもの 女子会ではありませんし男性はシゲタロウの他にもたくさん招待されてます もっと気楽になさって」

 

それもそうだ 雛祭りが男子禁制という事もない。

ルルーシュだってスザクだって山本だって辻だってこの部屋には居る。

 

「さっ シゲタロウ 一献どうぞ」

 

差し出されるお銚子。

頭の上で一つに纏められている彼女の濃桃色の髪と振り袖の裾が揺れた「ごっほ! げっほ! がっふ!」

 

「これはどうも」

 

夫婦でおかしなやり取りをしている。

 

細君ユーフェミアの手ずから夫嶋田の持つ杯に注がれる酒「喉詰まった酒っ! 酒っ! ぷっはーっ!」

一杯に注がれた酒を仰ぐと喉の奥から胃にかけて熱を帯びたように熱くなる。

 

「ご返杯といきたいところだがユフィはまだ未成年だから無理だな すまない」

 

ブリタニアの法ならばユーフェミアも成人かもしれないが だがしかし日本の法だと国内外を問わず二十歳までは皆未成年。

駐日ブリタニア大使を務めている姉コーネリアの妹にして大使補佐官 ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミアと言えども 一歩大使館を出れば日本の国法に従わなければならない「このブリとかもスゲェンだろーなぁ でも二貫喰いしちゃいます!!」

だから彼女はお酒を飲めないのだ だから返杯はできないとなる。

 

「代わりにと言ってはなんだが」

 

嶋田は膳に置いてあるちらし寿司より桜の形をした蒲鉾を一つ箸で摘むと ユーフェミアの口許へと運んだ。

彼女も小さく口を開けては差し出されたそれを食べる。

皇女という身の上からか上品に咀嚼して飲み込んだ彼女の笑みが深まった。

澄んだ紫色の優しい瞳が細まり 酒を飲んだかのように頬も朱が射し込み色を変えた「ごほっ ごほっ うぐぐ クララ マリー ざげざげっ また喉つま」

 

「注意されたからじゃないけどな 俺はユフィの事を一番見ていたよ キミの振り袖姿を見るのはお正月以来だからね」

 

「シゲタロウ……」

 

なにやら良い空気 良い雰囲気が醸成されてきた。

そんな空気に身を任せた嶋田は 引力に引き寄せられるようにして。

ユーフェミアも磁石に引き寄せられるようにして。

お互いに伴侶の肩を抱きながら「ハアハアっ あーっ 死ぬかと思った」「なにやってんのお兄ちゃん」「そんなお急ぎにならずともお料理はまだ」「こんな高級な酒にメシをちんたら食ってられっか!! たらふく食って食い溜めしとくんだよ!!」

 

二人の顔が 唇が。

 

静かにゆっくりと 近付いていった。

 

「―――」

 

声も音もなく重なる嶋田とユーフェミアの唇。

 

「―――」

 

湿り気を帯びながらも温かい唇の感触。

 

それは紛う事なき確かなる口付け。

 

「―――」

 

夫婦なのだからして何らおかしな事ではない。

嶋田の家 ユーフェミアと二人で住むあの家で夜毎愛を確かめ合っている間柄だ「あれ? なんだよもう切れちまってんじゃんよー お~いっ! お銚子一〇本おかわりーっ!」

 

特にここしばらくはユーフェミアの大切な日である事も関係して 時間を懸け愛を交わしていた。

日を跨ぎ 暁を迎える手前まで愛を囁き合いながら。

互いの仕事に支障をきたさない程度に。

加減こそ無くとも程良い時間で愛しさと切なさに包まれて眠りに就く。

 

今更キスの一つ二つで恥ずかしがる物でも。

 

重ねられた瞬間のように静かに離される唇。

 

「キミの唇の味がとても美味しいよユフィ」

 

「あなたの唇からはお酒の味がしたわ」

 

「ユフィ」

 

「あなた」

 

離れた唇がまた戻ろうとしている。

 

夫婦の愛を紡ぐ その為に。

 

だがそれは寸前の処まで来て適わず止められた。

宴席の主催者でもあったV.V.によってだ。

 

「ん゛ん゛っ!」

 

咳き込むような声にハッとした二人は俊足を以てして身体を離した 離れたといっても肩と肩はぴったんこ「んぐんぐっ! ごくごくっ! うめー酒っっ!!」

 

「仲睦まじいねキミ達」

 

V.V.の声に周りを見渡してみれば全員の目が二人へ向けられていた事に気が付く。

頬を抑えている者 息を呑んで見ている者 顔を赤くしている者 興味津々で息を抑えている者 お相手が居る者はお相手と見合って黙り込む。

 

いま此処で夫婦関係が成立している者は嶋田とユーフェミアのみ。

 

(嶋田卿とユフィはよく愛情表現をしているらしいが 夫婦とはそう言う物なのか? ならば俺もミレイにもっと積極的にならなくては駄目なのだろうか?)とはルルーシュの声。

 

(兄さん よければ僕が場をセッティングしてみせるよ)とはロロの声。

 

(ひ 人前でキスというのはどうなんだろう いまナナリーにキスをしたらナナリーはどう思うかな)とはスザクの声。

 

(む むう シゲタロウ ユフィ このような衆目の場であっても互いを想う愛情は隠さないのか ギ ギルフォードよ お前ならばどうする)(ひ 姫さま 私なら 私ならっ うっく 人目のある場所であってもっ い いえしかしっ)とはコーネリアとギルフォードのひそひそ話。

 

(キス 熱いキス 記録)とはアーニャの声と撮影。

 

(ふわあ シゲ兄さまとユフィ姉さま 皆が見ている場所でキスなんて ス スザクさんならどうなされるのでしょう?)とは羞恥に赤くなるナナリーの声。

 

(ヴィレッタ ここは一つあやかるべきではなかろうか)(ジ ジェレミア卿 ジェレ ミア……わた…し)とは酔いも手伝いキスをしてしまったジェレミアとヴィレッタのひそひそ話とキス。

 

(くっ 何故ジェレミアばかりが良い思いをするっ! ヴィ家親衛隊のマドンナたるヴィレッタを奪われただけでも腹立たしいのに私には相手すら居ないんだぞっ! マリーカ――は相手が居るから私の気持ちなどわからんだろうなぁ)とはキューエル心の叫び。

 

(いっくんちゅー)(よ よさんかリーラっ!)とは山本に迫る酔ったリーライナと迫られるほろ酔い山本のキス模様。

 

(これはチャンス! お兄ちゃんキッスっ キッスしちゃおうっ!)(さっさせませんわよクララ・ランフランクっ! あ わたくしにはお情けをくださいませ兄さま)とはクララとマリーベルの女の闘いと どさくさ紛れでバカにキスをしようとする企て。

 

「うンめェーっ! 極上の酒うンめェーっ! 値段の無い寿司うめェうめェーーっっ!! ぎゃはははっ!! おっ手伝いさぁ~ん大吟醸もう一本っっ! おかわりおかわりーーっ!! こりゃおみやにも期待だぜェーーーっっっ!!」とはクララとマリーに迫られても気付かないほど泥酔してさっきから騒ぎまくっているバカの絶叫。

 

あやかろう 気になる 恋愛先達者の不意な行為に皆興味が尽きないといった御様子。

三者三様 様々な好奇の視線が嶋田とユーフェミアの二人に注がれていた。

 

「ん゛ん゛っ!!」

 

二度目の咳払い。

またV.V.だった。

 

「シゲタロウとユフィ それと幾人かの相乗りに告げるよ? 夫婦恋人仲良しはけっこうけっこうだ だけどね そういう事を行うのなら情操教育上の配慮もしてほしい 若年者であるナナリーやアーニャの眼前で披露されるのは困りごとだ」

 

小さな最年長者の仰有ることは一々ご尤もであった。

 

更にもう一人が追い打つ。

トレードマークの丸眼鏡をくいっと上げて辻が注意した「これもうめェっ! ほらクララよ大トロっ! 大トロ食え食えっ!! あーんしろあーんってッ!!」「あ~ん もぐもぐ」

 

「皆さん 酒は飲んでも呑まれるな お忘れ無きように」

 

面目無さそうな嶋田とユーフェミアであったが「オラっマリーも遠慮すんなよ俺が酒注いでやっからさあっっ!! うははは今日は無礼講だぜっっ!!」「無礼講って 伯父様のお代で」「硬い事言うなよマリーちゃんよォ! ほれあ~んあ~ん!!!」「あ あ~ん」

注意喚起に回った主催者と幹事の視線はピンク気分なカップルに回った後 一人騒いでいるバカに向けられていた。

 

「シンイチロウ(玉城くん)キミは(貴方は)飲み過ぎだ(飲み過ぎです)」

 

ボカッ

バゴッ

 

バカの頭にはWパンチがお見舞いされた「ぐはァっ!!」

最終更新:2018年03月11日 22:28

 

 

 



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成功?!

 

 

 

成功?!

 

 

 

 

 

 

「領主様 日本からいつお戻りに?」

 

「各員傾注! クルシェフスキー侯爵閣下に敬礼!」

 

「モニカ様 シゲタロウ様はいずこへ」

 

「閣下 シアトルでの新リゾート施設建設計画ですが」

 

「カズシゲ様また叱責を受けたとお耳にしましたよ」

 

誰も彼もどうして気付かないのでしょうか 私がクルシェフスキー侯爵領領主 モニカ・クルシェフスキーではない事に。

 

「姉さんも大変だな」

 

私の隣を歩く弟 嶋田一繁 クルシェフスキー領ではカズシゲ・S・クルシェフスキーだけが私が誰かと気付いていた。

 

「貴方の所為でしょう」

 

皆が皆弟が悪いと転嫁できれば楽なのですが弟の頼みを断れない私にも責任があります。

宿題の無い春休みにお屋敷で勉強ばかりしていたら脳細胞が死滅する だから俺を連れ出してよ。

その実お母様より出されている課題をサボりたいだけ。

お母様の名はモニカ・クルシェフスキー 此処 領都ポートランドの外れに居を構える神聖ブリタニア帝国クルシェフスキー侯爵領領主を務めている貴族です。

元ナイトオブラウンズの十二席次として日本で駐在武官や戦争も経験してきたお母様は厳しい御方です。

私も幼少時より侯爵家の次期当主としてお母様より鍛えられて参りましたが お怒りの時に感じる恐怖が今も頭にこびり付いております。

 

本日そのお母様は所用が重なり お父様嶋田繁太郎と二人 明日までポートランドにはお戻りになりません。

弟はポートランドの領民が事情を知らないのを良い事に 街へ繰り出そうぜと私を誘ったのです。

クルシェフスキー家家令も お休みの日までお部屋に缶詰なのは可哀想と胸の内に止めてくださいましたが その他大勢の家臣団は誤魔化せない。

そこで弟はお母様がお出掛けになられてよりきっかり一時間後 私をお母様に仕立て上げてお屋敷からの脱出を計りました。

 

計画内容は単純明快。

忘れ物を取りに来たお母様が一繁の様子を見に行くとあら不思議 課題を終えた後でした。

実は徹夜で課題をこなしておりました。

だから一時間で課題が終了した そしてお母様と連れだって外出 お外でお別れ。

ちなみにここで言うこのお母様とは私ことサクラ・S・クルシェフスキーの事なのですが。

 

一繁命名【偽モニカ脱出作戦】

見事に成功してしまいました。

 

一繁の課題?

妹の忍が絶妙な案配で態と間違えながら次々と解いています 正解ばかりでは勘繰られてしまいますからね。

間違える場所を間違えていれば流石のお母様でも一繁本人が解いたのだと考えるでしょう。

お母様は躾に厳しい御方ですが努力してできなかった事まで怒りません。

なので課題を忍に解かせて後は間違えるようにする。

 

計画の要は私だったのですが 癖のない真っ直ぐな長い金髪 瞼の上にて切り揃えられた前髪はお母様と同じくらいの髪の長さと髪型。

目鼻立ち容姿は双子と間違えられるほどお母様と瓜二つ 身長も㎜単位で同じほど。

私の変装道具はお母様がいつも身体の前に流している部位の髪を結んでらっしゃる物と同じ色をした赤いリボンだけ。

リボンを二本髪に結び巻き付けているだけなのです。

たったこれだけの事 変装にもならないアイテムで一繁の悪巧みを見事に成功へと導いてしまったのです。

 

誰も気が付きません。

領民は勿論 一繁や忍でも見分けが付かないのです。

この変装をしているときに私がサクラだと気が付くのはお父様だけ。

お祖父様やお祖母様でも見抜けません。

父 繁太郎だけが私とお母様の違いに分かるそうです。

愛の深さ故になのでしょうか お父様とお母様は万年ラブラブで熱いです。

 

「姉さん裏路地に入ったらリボン解けよ 少しはババアと分からなく……なるわけないか」

 

なりません。

幼少期の憧れから私はお母様と同じ色のマントを着ておりますので余計に。

普段着で街中を歩いても モニカ様 領主様 なんてお声を掛けられるのですよ?

 

「騎士団は大丈夫なの?」

 

「本日は私も休暇です」

 

「だっけ?」

 

「そうですよ」

 

でなければ三姉弟そろい踏みの手の込んだ悪巧みに手を貸したりはしません。

私も忍も なんのかんのと弟には甘いですね。

 

「ハルカに一任しておりますので問題はないでしょう」

 

騎士団はハルカに任せてあります。

ハルカとはクルシェフスキー領に多く住んでいる日系ブリタニア人の血を引く子で クルシェフスキー騎士団の副団長です。

私の部下なのですが年が一緒の弟の友人でもあります。

 

「あいつな あいつなら大丈夫だろう」

 

なにか納得しておりますが弟は騎士としてのハルカの事など何もしらないのでしょうに。

 

「でも姉さんがいるおかげで護衛無しなのは助かる」

 

「お屋敷の方々にお母様だと勘違いされていたからでしょう」

 

ラウンズの元十二席次だったお母様はブリタニア最強の騎士でもあったのです。

戦歴 伝説 逸話の数々が今でも語り草にされているほどですよ。

ですから護衛は必要ないと考えられております 出掛けるときにもSPらしき方の姿は見た事がありません。

親衛隊がSPであると捉えられるのならそうかも といったところでしょう。

 

「そうかなあ 姉さんすっごく強いじゃん」

 

「お母様には遠く及びませんよ」

 

「ババアと比較されたらそりゃブリタニア国中探しても無理だろ? ナナリー殿下の旦那様のスザク様くらいじゃないのババア級なんて化物」

 

「ババアババアとお母様に対して口が過ぎますよ」

 

「いないからいいじゃん 姉さんだってチクったりしないでしょ」

 

「告げ口はしませんが あなたも嶋田伯爵家嫡男 クルシェフスキー侯爵家嫡男でもあるのですから言葉遣いには気を付けなさい」

 

「嫡男嫡男っても俺なんて予備じゃないか クルシェフスキー家はサクラ姉さんが 嶋田家は忍姉さんが当主になるんだから 姉さんまでババアみたいな事いうなよなあ」

 

「そのババアを怖がっているあなたにそれを言う資格はありません」

 

「姉さんだって怖がってんじゃん」

 

「当たり前です お母様は淑やかな御方ですが怒らせると鬼ババアなのですよ」

 

私の実力はお母様に太鼓判を押されております。

ですが残念な事にお母様には遠く及びません ラウンズになれるとまで褒められておりますが 断然お母様とは格が違いすぎます。

 

 

オデュッセウス陛下からラウンズとして引き抜きたいとのお言葉も頂戴してはおりますが なまじお母様と瓜二つなだけに比較されて辛いのです。

 

母は偉大です 偉大な母の後を継ぐ私は何かと比較対象にされてしまいます。

いつの日かあの大きな背中に追い付けるよう 私も鋭意日々の鍛錬を怠らないようにしなければなりませんね。

 

ん?

 

服のポケットに入れていた携帯電話がブルブル震えています。

 

「ひッ!」

 

な なんでしょういまの寒気は。

 

「どっ どうしたんだよ姉さん」

 

「お 悪寒が走りました」

 

「おいおいやめてくれよなそういうの 姉さんの悪い予感はかなりの頻度で当たるんだから」

 

当たります。

よく当たるのです。

私の悪寒は悪い事の知らせのように。

 

「一繁 私の胸ポケットの携帯を取って見てくださいませんか?」

 

この悪い予感は携帯電話から伝わってくるのです。

見てはいけない予感と 見なければ死ぬ強迫観念が私を襲います。

 

「なんだ自分で見ればいいじゃん」

 

一繁の手が私の胸ポケットから携帯電話を引き抜きます。

 

「んーとなに ああ忍姉さんからだ」

 

「忍から?」

 

なんでしょう。

 

「……」

 

「し 忍はなんと言っているのです」

 

「姉さん逃げて……だって」

 

……逃げて? 私に?

 

「うッ も もう一通来たこれメール……」

 

「つ 次のはなんと?」

 

「に……」

 

「に?」

 

「逃げたらわかってますね――だって」

 

ごしごしごしごし目をこすります。

 

「……」

 

もう一度目をこすります。

 

「……:-)」

 

分かりました 目をこするの止めましょう。

 

「ね 姉さんポートランドで匿ってくれる友達いない?」

 

「いない事もありませんが領主に追われているとしられたら蹴り出されます 昔お母様から逃げてるときに実際蹴り出されました」

 

「……だめじゃん」

 

「向き合いましょう現実と」

 

私は道路を走っていた一台のタクシーを止めました。

 

「りょ 領主様?!」

 

タクシーの運転手さんは私を見てお母様と勘違いをなされましたがどうでも良いのです。

いまは一分一秒を争うとき。

 

「大至急シアトルまでお願いしますッッ!!」

 

こうして始まった私と一繁の逃避行。

なのだったはずなのですが ポートランドから出る前にクルシェフスキー領直轄のナイトメアポリスの検問で引っ掛かって終わりました。

 

「そのお顔 ご確認を取らせて戴くまでもありませんがサクラ・S・クルシェフスキー様とカズシゲ・シマダ様ですね? 侯爵様の要請に従いお二人の身柄を拘束させて戴きます」

 

くッ どうして発覚したか悪巧み 忍が裏切るとは思えませんが。

思い当たるところは……あ 一つだけありました それは弟の考えた脱出作戦の成功回数がゼロである事です。

失念していました……。

 

「ど どうしよう姉さん」

 

「ご安心なさい 私はクルシェフスキー騎士団長なのですよ」

 

しかし今は余計な考えに気を取られている時ではないのです。

さっさと逃亡するのです 偉大な母の怒りが収まりほとぼりが冷めるまでシアトルに住む友人宅へGOです。

決意した私 何としてもポートランドを脱出しなければ。

気分は魔王から逃げる勇者です。

 

「お手向いなさるおつもりか それならば致し方有りますまい」

 

粋がる警邏の方に タクシーを降りてマントを翻しながら私は剣を構えます。

この方も実力者のようですが私には及ばないようです ですが慢心は致しませんよ。

 

「思い上がらないでください あなた方にこの私を拘束できるとでもお思いなのですか?」

 

峰打ちで済ませますのでご安心の程を。

 

「頼もしいぞ姉さんッ!!」

 

ふッ 弟よ 姉の勇姿を目に焼き付けておきなさい。

そして刮目せよ! クルシェフスキー騎士団長にしてラウンズ候補にもなる我が実力を――!

 

「サクラ様が御抵抗なされた場合モニカ様御自らのお手にて一月の強化訓練を科すと仰せでありますが 御抵抗なされたとの御報告を差し上げてもよろしいのですかな」

 

「ごめんなさい<(_ _)>」

 

「姉さん折れるの早ッ!」

 

お母様手ずからの訓練は地獄です。

帰っても地獄です。

 

一縷の望みを掛けてお父様に泣き付きましょう。

お父様ならば私達を守ってくださるはずです。

寄らば大樹の陰なのです。

最終更新:2018年03月11日 22:17



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守りそして守る間柄

 

 

12月24日

 

 

世間一般にはクリスマスイブを祝うこの日 厳めしい雰囲気の丸坊主をした60前後の男がいたのはホテルでもレストランでも ましてや自宅でもない人型戦闘装甲騎 通称KMFの駐機場であった。

このKMF専用駐機場には帝国陸海軍のKMFは元より いざ有事とあらば日本駐留の同盟国軍ブリタニア軍のKMF基地としても合同で使われるような仕様となっており ブリタニア軍用のスペースも確保されている。

同様にブリタニア帝国本国の既知にも日本軍専用スペースが確保されており通常の同盟国とは違う軍事的にも一体化している同盟関係を両国は既に築いていた。

この当たりの交渉などには当坊主頭の男も関与してきたことがあり良く知っている事情であった。

 

この一角に丁度そのブリタニア軍のKMFが駐機していたのを彼は自分を呼んだ男と共に見上げていた。

 

「白 黄 緑 紫 黒とはこれまた派手な彩色なことだな」

 

坊主男は隣に立つ丸い眼鏡の男に話し掛ける。

こんなにも目立っていては自ら敵を引き付けているようではないか。

自機の位置を晒して良いことなど一つもないというのに何故だろうか。

丸い眼鏡の坊主男と同じ年代の如何にもインテリらしき人物に坊主男 山本五十六は問い掛けた。

 

「あれでいいらしいんですよ彼の機を操る御仁は ルキアーノ・ブラッドリー 闘うことが滅法好きな人物なんですから」

 

ブリタニアの吸血鬼等と渾名されることもあったという。

相手の持つ大切な物を奪う事がこの上もなく快感を覚える一瞬。

命は一瞬であり一つしかないから美しくそれを奪う瞬間が。

 

常人には理解しがたい精神の持ち主だろう 狂気に塗れた人物像を描いていたが山本は実物の彼にあったとき狂的な中にも彼なりの理知的さや矜持も垣間見ていた。

 

「冷徹なようでいて自らの部下は大切に思い 命を奪う事を快楽としながら覚悟の定まらぬ者へは戦場に出ぬよう自ら説得する かといって同じラウンズに対しては仲間意識の欠片も持たずヴァインベルグ卿やクルシェフスキー卿といった所謂善人な 悪く言えば甘さを持つ人物に対しては平然と無礼な言葉を発し挑発もする まるで狂気と独善と優しさが同居し融合してしまったかのような男だ」

 

「山本さん的にはどうでしたかお会いしてみて」

 

「そうだなやっかいなと言おうか距離の取り方が難しい男だな 悪のように振る舞っておるが悪い男ではない 彼には彼なりの正義があるのだろう 裏表がない分案外付き合いやすいかもしれん」

 

貴様よりはと言い掛けて止めた。

辻とまともに付き合える人間など宮様や嶋田くらいなのではないだろうかと 長い時を彼らと共に肩を並べながらも未だに考える事がある。

辻政信 かれも悪い男ではないのだが謎が多く裏でなにをやっているのかわからない怖さが常に付きまとうため彼の前では迂闊な発言が出来ないのだ。

 

「しかしいま山本さんが仰ったのは我々の知るルキアーノです 我々の知らない道を歩んできた彼にはまた別の面もあると思うんですよね」

 

「例の知識とやらか」

 

136: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:15:52

 

 

初めて聞いたときにはとても信じられないことばかりだった。

だが考えても見れば彼等の所行は未来予測そのものだった。

確実に予見されうる未来への事象へと的確な対処を施し日本に降りかかる災厄を回避してきた。

いまにして思えばできすぎ ありえん その答えがいまの自分だということなのだろう。

 

「転生か 自分で体験するまでは信じられなかったよ となれば辻や嶋田も俺より年上の大先輩 かなわんわけだ」

 

「はっはっは ですが我々は素人が多かったのです その道その道においてはプロでもね 帝国海軍軍人山本五十六には同じ土俵でやり合えば負けますよ」

 

「それこそ詭弁にしかきこえんよ 散々打ち負かされた身としてはな」

 

絶対に聞かれてはならない最上の機密事項を事も無げに話せるのは 誰が聞いても与太話の類にしか聞こえないからだ。

周りにはこの世界の人間しかいないので尚更に意味不明な話に聞こえよう。

 

「ほう 歴戦の勇士 大提督イソロク・ヤマモト閣下をも打ち負かされるとは シマダ卿やツジ閣下の実力とは如何ほどのものなのかを是非見聞しとうございますねェ」

 

己たの立つ後ろから歩いてきた男が先の話に割り込む形で問い掛けてきた。

ふっと振り返ると写る男の姿はまさに慇懃無礼を絵に描き額縁に貼り付けたような男だ。

とても目上の者と相対する態度であるとは思えぬ男は堂々と歩き己らの背後に控える感じで立ち止まる。

オレンジの派手なマントにオレンジ色の髪の色 態度は慇懃無礼で彼のKMFの操縦者であると教えられればそうかと納得してしまえる そんなブリタニア人の男だった。

 

「なに つまらん昔話だよブラッドリー卿 なにも知らぬ小僧が知識豊富な大人と喧嘩して負けたというだけのな」

 

「うん? 失礼だがヤマモト卿とシマダ卿やツジ閣下は御同輩なのでは?」

 

「言葉のあやというやつだ 気にしないでくれたまえ」

 

事情を知らないブラッドリー卿を軽くいなしながら彼の周りを取り囲む女性達を見る。

ラウンズが個々人に持つという親衛隊員だろう 皆同じKMFパイロットスーツで揃えられていたがその服には思い切り見覚えがあったのだ。

 

膝上大腿までの黒いロングブーツ 胸部から腹部にかけてと腰回りが大きく肌の露出した全面部が紫 背面部が黒 スカートは後ろ側だけに広がる奇抜な意匠。

ぴったりと肌に適合した動きやすさを重視したのであろうこのパイロットスーツ。

 

「リーライナと同じスーツか・・・・むう やはり破廉恥 いいやもっとも効率の良い形らしいのだから同盟国とはいえ他国人である俺が口をさしはさむことではない」

 

呟きが聞こえたのだろう ブラッドリー卿が即応した。

 

「そういえばヤマモト卿は以前私の親衛隊に所属していたリーライナとは懇意であるとお聴き致しましたが なるほどそれで ああこれは失敬 インペリアルガード仕様のパイロットスーツは通常部隊のスーツと比較して上質で動きやすくより戦闘向きであると言えますのでね」

 

それで駐日ブリタニア大使官警備部隊配属後もリーライナは個人的に継続仕様しているということか。

しかしこのスーツばかり着た女性を周りに幾人も引き連れていると・・・・

 

「山本さん あなたハーレムか夜のお店の常連さんみたいだと思ったでしょういま」

 

口を挟んできた辻は失礼な事柄なので小声で伝えくる。

心の考えを言い当ててくるなっ。

 

137: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:18:30

 

 

いっくん!!

 

 

他愛ない話を辻やブラッドリー卿としていると今度はよく知る声と共に話題にしていたパイロットスーツに身を包んだ女性が ブラッドリー卿の派手な色合いのKMFパーシヴァルと反対側に駐機していたヴィンセント群のほうより駆け寄ってきた。

腰までの長い金髪を靡かせながらエメラルド色の瞳を輝かせつつ一直線に俺の元へと駆けてきた女性は その勢いに任せて飛び付いてきた。

 

「うおっと」

 

柔らかい体をがっしり受け止める。

年は取ろうが日本男児 俺とて恋慕う女性を受け止められないようなことにはならないよう常日頃より身体も足腰も鍛えているのでそこらの若僧には負けん体力くらいあった。

 

「いっくんいっくんいっくーんっ!!」

 

「こっこらよさんか!!」

 

飛び付き抱き着いたままに頬を付け擦り付けてくるリーライナ・ヴェルガモン。

俺からみるとまるで思い切り歳の離れた娘か あるいは孫みたいな年齢差なのだがこうみえても相思相愛の恋慕寄せ合う女性なのだ。

 

「だって今日はせっかくのイブなのに乗騎の起動テストと何戦にもわたっての模擬戦と久方振りに御来日なされたブラッドリー卿への謁見とご挨拶にと 本来の警備の公務とは無関係のお仕事が詰まっていっくんと会えないかもしれなかったんですもの」

 

まくしたてながらリーライナは俺の首に回した腕をぎゅううっと力の限り締めては接吻を試みているのか顔を近づけてくる。

なにをしようとしておるのだこの娘は 待ったをかけるに決まっとるだろう。

 

「わかったわかった おまえの気持ちはよぉくわかったからこんなところで接吻などしようとするな破廉恥にもほどがあるぞ!」

 

「破廉恥じゃないわよ いまこの駐機場には人がいないの私以外に」

 

「ひとならおるわい! 後ろを見てみいっ!」

 

「へっ後ろ?」

 

いつの間にかかあなり離れたところまで下がっていた辻 そしてブラッドリー卿と彼の親衛隊員四名。

 

「ブッブラッドリー卿!? ツジ閣下も!??」

 

態々気を利かせようとしてくれたのか離れられたのが逆効果だった。

抱き着いてきよるまではいいとしてまさか接吻までしようとしよるとは・・・・・

こういう所をみられてはならん辻のやつにみられたのがまた頭の痛いところだ。

 

138: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:26:12

 

 

 

「おっ・・・・おっほほほほこれはブラッドリー卿 お見苦しいところをお見せ致しました」

 

「くッくくくく ハーッハッハッハッハ まさかリーライナ 卿にもこういうところがあるとはよもや思いもしなかったぞ? 嚮導学校から選抜されたエリートパイロットにしてかつては我が親衛隊のエースでもあった そしてヴェルガモン伯爵家の令嬢であり次期当主たる卿が周りも見えず誰かに抱き着きよもや口づけを迫ろうとは・・・・・ くっくく はっはっはっはっはッ!!」

 

「うっくぅぅぅぅ・・・・ま まあ私とて ひとりの女ですものッ あっ愛する殿方の前では少しくらい心の枷も外れてしまいますわ」

 

「ほう 失礼を承知で申し上げるがヤマモト卿とはずいぶんと年の差があるようだが?」

 

「年の差など愛の前には関係ありませんわっ 真面目も真面目っ 大真面目でございますことよっ! いっく ヤマモト卿と私は結婚の約束まで交わしておりますものっ!」

 

「これはこれは中々に言い切るものだな よほど良い巡り会いをしたようだが それならばこそリーライナ 卿には忠告しておかねばなるまい もしもこの先国際情勢が大きく変化し ユーロピアやら清国 ましてや彼の南半球の支配国家合衆国オセアニアと戦端が開かれたりするようなことあらば」

 

「肝に銘じておりますわ 戦いとは命の奪い合い 殺意の喰らい合いに里心や恋慕の介在する隙はない ブラッドリー卿の親衛隊に入隊した頃 まだ新米だった私が賜った訓辞 忘れてはおりません」

 

「・・・・・・ ならば良い 無論そうならぬことがもっとも良いことなのだがな」

 

言葉遣いも仕草もまるで変わったリーライナをみながらブラッドリー卿との話をきいているとまだまだしらない彼女の姿がありそうな気がするな。

そう思ってみているとまたいつの間にか辻が来ていた。

 

「どうでしたか日武共同基地の視察とブラッドリー卿との会談と メインディッシュたるヴェルガモン卿との逢瀬は」

 

「誰がメインディッシュだ誰が メインは基地視察と模擬戦の見物にブラッドリー卿との会見だろうが」

 

「いやー私なりのクリスマスプレゼントですよ ほら今日はイブでしょう だというのにヴェルガモン卿がお仕事でいっく 失礼山本さんとお会いできないのはお寂しいと思いセッティング致しました 丁度この時間に彼女がこの駐機場でひとりで最終点検なさると基地指令にお聴きしておりましたので」

 

ブラッドリー卿と彼の親衛隊が現れたのは偶然ですだと辻の言。

 

「そしてすべては滞りなく終わりましたのであとは帰参するだけなのですが 辻サンタは山本さんにもう一つプレゼントを用意しています」

 

辻がなにやら取り出す。

それは都内三つ星ホテルの宿泊券だった。

 

「どうぞ」

 

「これをどうしろというんだ」

 

「野暮ですねえ リーライナさんとお二人でどうぞお使い下さい」

 

普通にお泊まりをするも。

某かの熱い一夜を過ごすのも。

すべては山本さん達次第です。

 

離れた場所ではリーライナとブラッドリー卿がまだ何事かを話している。

 

そして俺は辻から宿泊券を受け取り向こうの話が終わるのを待った。

 

139: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:27:24

 

 

 

====

 

 

 

 

俺は夜景の良く見えるロイヤルスイートにいた。

ひとりではなく彼女リーライナ・ヴェルガモンという淑女と共に。

 

「和服が多いから珍しい感じがするわ」

 

自宅では浴衣など主に和服を着る俺だがここではスーツを着ていた。

 

「君もな そういったドレス 社交の場以外ではあまり着ないだろう」

 

髪を結い上げたリーライナは腰まで切れ込みの入った濃い紫色のドレス姿だ 相変わらず胸の空いた大胆なドレス。

 

「ええ 実家では毎日ドレスだけれどね もっと落ち着いてるわよこういう雰囲気の場所だから こういうの誂えたの」

 

なるほどな。

こういったホテルではむしろ大胆な方が合っているのかもしれん。

 

「さて それでは誰でも思い付くような味気ない台詞で恐縮だが リーラ 君のエメラルドの瞳に」

 

「それじゃ私は 私に会いに来てくれたいっくんに」

 

 

乾杯。

 

 

二本のグラスに入った赤いワイン。

俺とリーライナのグラスが接触し。

 

チン。

 

小さな音を立て中身が揺れる。

一口含み 飲み込む。

喉を通るワインの感触。

酒にはそこそこ強いので熱くはならないが程良い感じだ。

 

リーライナも飲み慣れているのだろうがまだまだなようで グラスを空ける頃には頬が紅く染まっていた。

 

「戦いとは命の奪い合い 殺意の喰らい合いに里心や恋慕の介在する隙はない 親兄弟や恋人を想いながら戦場に立つと死ぬ」

 

彼女は酔っているのか。

眼下の夜景を見下ろしながら事も無げに呟いた。

 

「昔 ブラッドリー卿に教わった戦いに赴くときの心構えなの」

 

独り言のように続ける彼女を俺はただみていた。

 

「そのときの私には親族しかいなかったけれど いまは」

 

言葉を切りこちらを向く。

 

「あなたがいる いっくん 私はあなたを想って戦ってはいけないのかしら」

 

重い重い彼女の言葉は あの彼女の元上司からの訓辞だという。

耳で聞き 心で聞き そして感情に問い掛けてみた俺は 彼の言葉がけして間違いだとは思わなかった。

恋慕の情 親愛の情 それは戦場で力にもなれば油断にもなる。

いのちの奪い合い殺し合いの場で情を持ち戦うのは不利なことも多い。

ただ殺し ただ殺し ただ殺し続ける 機械のように もっとも効率の良い戦い方。

または憎しみだ 肉親が恋人が友が 大切な者達が奪われたたったひとつの命。

それを奪って奪って奪い尽くす。

 

そういう戦い方もあるだろう。

そういう強さもあるだろう。

それもまた正解なのだろう。

 

だが俺は。

 

「俺は甘い男だ 女々しい男だからな 陛下のために 国民のために 家族のために それら大切な者を守るために戦う 戦ってきた」

 

「でも それじゃ」

 

「勝てない 死ぬかも知れない 感情が足枷となって ・・・・・だがな それが俺の戦い方だ」

 

「っ!!」

 

「君がどう戦うかそれは君の戦い方であり君の自由だ だが宣言しておく」

 

そう俺は決めている。

 

「俺は君を想い 君を守るために戦う いま告げた通りの守りたい者達 守るべき者達に加えてリーライナ・ヴェルガモン 君を守るために戦う これだけは覚えておいてほしい」

 

140: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:28:30

 

 

 

 

彼女を愛したときからもう決めていたことだ。

国のため 国民のため 陛下のため 友のため 守るべき存在など山ほどある。

だがいまきら星の如く輝く眼前の女性を俺は守りたい。

彼女を守りたいから戦いそして勝ちをもぎ取る。

安心して平和に平穏に 彼女とのときを過ごす。

ただそれだけのために。

 

次がれる赤。

血の色の入るグラス。

それは俺のものではない彼女のもの。

彼女は俺の話を静かに聞き入っていたリーライナは その赤をぐっと煽った。

 

さらにもう一度グラスに注ぐ。

さすがに速いペース。

止めようとした手は 彼女の手に止められた。

 

ぐぐっと煽られたグラス。

口に含まれた赤い液体はまだ喉を通っておらず。

どうしたのかと疑問に想う余裕さえないほど素早く。

 

それは俺の喉に通されていた。

 

「んくっ」

 

接触した唇を通して。

力を込めて密着させられた口を通して。

口づけという手段を以て俺の喉に彼女のワインは通されていた。

 

「んくっ こくっ」

 

熱くない。

そう感じていたはずのワイン。

たった10数度のワインがもの凄く熱く感じた。

まるでそう バーボンやウイスキーのロックでも飲んだときのような。

彼女のワインはそれほどに熱く甘美で そして極上の酒だった。

 

 

飲まされ 飲み干し 離れた唇は 彼女の意思を紡ぎ出した。

 

「ねえいっくん 私も 私にもあなたを想って戦わせて」

 

俺と同じ意思を彼女は俺に訴えた。

 

「私も いっくんを想って いっくんを守りたい 山本五十六を守りたい」

 

俺が抱く自らの戦い方と同じ戦い方を 彼女の元上司の訓辞と組み合わせたような戦い方を欲して。

 

「私にあなたの命を奪わんとする国からあなたを守る戦い方をさせて あなたを想い守る戦い方を あなたを奪おうとする者を憎む戦い方を」

 

たったひとつの命を たったひとつの命と共に。

 

「いっくんを想って戦いたい いっくんとひとつになって私は戦いたい ひとつしかない命でもふたりで戦えばふたつだもの」

 

ひとつの命をふたつに。

 

グラスを煽る。

赤い液体を口に含み。

 

「んっく」

 

俺は彼女に飲ませた。

彼女が俺にそうしたように。

 

喉を通っていくワインは俺のワインだったもの。

それがいま彼女の一部と成った。

俺の中にも同じ様に彼女のワインがある。

二人でひとつのワインをいま俺達は共有した。

 

「リーラ俺は君が俺を想って戦えるように 俺が君を想って戦えるように もしも戦が起きたとき どこにいてもひとつであれるように毎日を過ごしたいと思う」

 

窓側の席を立ち 向かいに座る彼女を立たせ抱き上げる。

 

降ろした場所はロイヤルスイートに相応しい大きな寝具の上だ。

俺もその上に。

 

ふたつをひとつに ひとつをふたつにするために。

スーツを脱ぎ彼女のドレスを脱がせた。

 

夜景を見下ろせる部屋に切ない声が響く。

綺麗に結い上げられていた髪が崩れ流れ落ちる。

その金色の清流に指を入れて梳きながら俺は静かに彼女の顔へと両の手を移動させ行き。

頬へ優しく添えながら静かに唇を落とした。

 

 

イブの夜。

 

明くる聖夜の朝まで続く時間はただゆっくりと過ぎていった。

 

141: 守りそして守る間柄 :2016/12/24(土) 20:31:32

 

メリークリスマス山本五十六 リーライナ・ヴェルガモン!

 

メリークリスマス世のリア充諸君!

 

メリークリスマスこの蒼の混沌掲示板のリア充あーんど非リア充諸君!

 

 

 



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バレンタインは永遠に

 

 

バレンタインは永遠に

 

 

 

 

 

 

ユフィ。もし今のまま永遠に生きられるとしたら君はどうする?

 

仮に俺と二人で永遠を生きるとなればユフィはどうする?

 

 

分かりません

 

分かりませんが、シゲタロウが傍に居て下さるのでしたらわたくしは生きていくことができるかも知れません

 

 

わずか半年前の問答

そしてその答え

 

辻さんは言った

 

『愛するものを失えばやがて精神は磨耗していく』

 

コード

 

永遠を得る古代技術

完成したその技術を我々は使用するに及んだ

 

使用したのは上皇となられる帝と、伏見宮殿下や神楽耶殿下を含む現皇室である宮家のほぼ全方々に加えて会合メンバー全員

ただしギアス能力者を安易に産み出してはならないとする秘密の条文も同時に作った

皆が目指すのは高級平和と宇宙へ向けての歩みだしだ

 

皆知りたかったのだろう

人類の行く末と、まだ見えない未知なる宇宙を

 

コードを生み出すとき、時の政権や時の帝、時の民への道標の役目は100年後までと定めた

以後は時の人々の手に委ねる

過ちへと向かいそうな時のみ介入するに留め、見守る立場となるだろう

 

コードユーザーには誰もがなれるわけじゃない

偶然にも現皇室の方々と親戚筋の枢木家、現会合メンバー全員に素養があっただけのことだ

 

それはブリタニア側にも言えた。ブリタニア側もギアスユーザーとなる素質のあるものは皆コードユーザーとなれた

シャルルさん然り、マリーベル皇女然り、ルルーシュ殿下然り、ギアス嚮団のギアスユーザー然り、そしてユフィ、ユーフェミア第三皇女にも素質があったのだ

他にもビスマルク・ヴァルトシュタイン卿やモニカ・クルシェフスキー卿、アーニャ・アールストレイム卿といったラウンズの一部

リーライナ・ヴェルガモン卿や、トウ・ヘア伯爵といった古い貴族には素質のある者が多くいた

 

むろん素質のある者が希望すればコードユーザーとする

それが日本とブリタニアの方針であった

永遠の恐ろしさを考えてあえて辞退した者も数多くいる

 

そして始めの話に戻る

 

ユーフェミアはシゲタロウが永遠を受け入れるのならば、わたくしも共に受け入れ傍らで支え続けると日本の神根島にて俺と一緒にコードユーザーとなった

 

 

 

 

こうして時は流れ

 

868: 名無しさん :2018/02/14(水) 09:25:21

 

リ家分家の離宮の離れにて

 

 

「ん・・・?」

 

まだ薄暗くなっていた執務室で俺は目が覚めた

 

「ゆめ、か・・・」

 

どうやらあの頃を夢に見ていたようだ

影に日向に大勢の人々と生きてきたあの200年前の時代を

 

「お目覚めですかシゲタロウ」

 

右隣から聞こえた優しそうな声色に顔だけを振り向かせる

 

「ああ、ちょっと昔の夢を見てたんだよ」

 

そこに立っていたのはそう。あの200年前と容姿も背丈も何も変わらない、昔から着ている意匠のままな公務服姿のユーフェミア。ポニーテール風に結い上げられた元々長い桃色の髪だけがあの頃よりも少し長くなったくらいか。そう、同じ永遠を生きるV.V.さんのように。といってもV.V.さんみたいに足首まではないがな

 

そうなんだ。ユーフェミアは、ユフィはあの頃と何も変わってない。年だけを重ねて220歳を目前としているだけで体は18,9のまま停まっている

 

「素質があり無事コードユーザーとなったひと。またこれも無事コードユーザーになれなかったひと。みんなが揃っていたあの200年前の夢だよ」

 

永遠は幸せなのか地獄なのか

いまでも考えるときがある

 

皆が皆、それぞれに別れを経験しながら歩むいまがあって、先を夢見て、実現していく未来を楽しみ、未知なる宇宙へと飛び出していく人類を見つめながら過ごす毎日は幸せなのか地獄なのか

 

永遠を持てなかった者は永遠故の苦しみや寂しさを知らずに逝けるから幸せなのか死ぬことはやはり地獄なのか

 

感じ方はひとそれぞれで異なるのかもしれない

ただ、ユフィは、ユーフェミア・リ・ブリタニアは俺と、嶋田繁太郎、神崎博之と歩く道を選んだ

永遠の苦しみを先達から説明されても彼女の答えは変わらなかった

 

『シゲタロウが永遠を歩くのならば、わたくしはシゲタロウに付いていくのみです。ずっと一緒、そう、お約束致しましたもの』

 

それは何にも変えがたいかけがえのないことだった

 

「この200年、色々ありましたね」

 

ユフィは静かに手を重ねてくる

 

「ああ色々あった。ありすぎて覚えられないくらいだ」

 

ユーロブリタニアの欧州制覇

 

オセアニアによる南ブリタニア大陸を除いた南半球の統一によるEUの完全消滅

 

イラク・サウジアラビア戦争

 

ブリタニアの仲介による日中平和友好条約交渉最中にオセアニア率いる南側と中東の共産国家が手を組み中華連邦への侵攻を開始し、連邦が中華・インド・ペルシャ・中央アジアに分裂したこと

 

オセアニアによるフレイヤ使用とペルシャ・中央アジアの占領

 

中華・インドと日本の個別的な友好条約締結

 

日ブ率いる太平洋ユーラシア同盟とオセアニア率いる南半球経済圏の長きに渡る、いまなお続く冷戦

 

大清連邦の指導者高亥没後にオセアニアが糸を引いた中清、中高戦争の勃発

 

続く日清戦争・日高戦争の勃発と日本による清・高麗の委任統治

 

清国南シベリアのユーロピア王国連合ロシア帝国への返還

 

清国東モンゴルの中華モンゴルへの返還

 

世界は塗り絵のように勢力図が変わり続けた

 

日ブとオセアニアによる宇宙開発競争

 

人類の月面居住と火星開発

 

869: 名無しさん :2018/02/14(水) 09:26:42

 

「様々なできごとがありましたけれども、日本とブリタニアがいま平和であることこそがわたくしはなによりも嬉しいです」

 

「そうだな」

 

色々あったその中には別れという必然もたくさんあった

 

永遠を持つものとしての宿命C.C.さんが、V.V.さんが言っていた

 

まさか、息子や娘を見送ることがあれほどまでに辛いことだったとは

 

「素質のない。素質はあれどもコードユーザーとならなかった兄弟姉妹も皆、鬼籍に入りました」

 

「ユフィ・・・」

 

「ですが、わたくしは悲しくありません」

 

ユフィは寂しさを打ち消して春の暖かさを運ぶようなあの笑顔を向けてくれ、俺を掻き抱いた

 

「シゲタロウ、あなたがいてくださればわたくしは共に永遠を生きていけますもの」

 

「そう、だな。俺もユフィがいれば・・・ん? あ、そういえば、今日は2月14日バレンタインじゃなかったか?」

 

バレンタイン。昔はユフィと二人でよくデートをしたものだ

お菓子屋さんの戦略に乗せられてだが、チョコレートもいっぱいもらったな

 

「バレンタインは永遠に、か。不老不死の俺とユフィのバレンタインには終わりがないんだが、今年はどうしようか」

 

「バレンタインだからと特別なことはせず、孫や曾孫達と過ごすのもよろしいですわね」

 

「しかしなあ、去年にお祖父様とお祖母様は仲が睦まじすぎて見ているだけでもお腹いっぱいです。なんて言われなかったか?」

 

「ウフフ、言われてしまいましたわね。それではいつかのような風の向くままの気ままなデートをなさいますか」

 

ユフィが顔を近づけてくる

俺はユフィの肩を抱いて口付けた

 

「んむっ・・・ん」

 

200年経って自然にできるようになっても恥ずかしいものは恥ずかしいな

 

ユフィの薄く開いた瞳が見える

俺も薄く開いた瞳で見つめ返す

ユフィの紫色の瞳が、虹彩が、綺麗だ

 

そのうち口付けはそのままにお互いを強く抱き締めあっていた

ユフィの背に回した手に触れるのはポニーテール風に結い上げられた彼女の桃色の長い髪。色艶があり照らされた光沢が薄暗い執務室でも煌めいている

触れた背の温もり。人肌の温もり。ユフィの温もり。愛する女性の、愛する妻の温もりが俺の体に熱を帯びさせていく

 

「ユフィ・・・」

 

「シゲ・・・タロウ・・・」

 

長く生きていると人恋しさが増すのか

俺は昔よりもいまの方が益々ユフィを求めようと体を突き動かすように感じることがある

 

870: 名無しさん :2018/02/14(水) 09:30:56

 

背中に回るしなやかな腕と手の温もり

 

ユフィの指が俺の頭を捕らえて撫で回してくる

 

彼女も俺と同じなのだろう

血を分けた兄弟姉妹や親族が逝くそのたびに強く俺を求める。きっとそうだ、ユフィも俺がユフィを恋しがるように、ユフィも俺を恋しがるのだろう

 

「ユフィ、ユー、フェミア・・・」

 

「シゲタロウ、シゲ、タロウ・・・ヒロ、ユキ・・・」

 

俺はユフィの背に触れつつ、手にあたる、纏められている彼女の髪を、彼女が俺の頭にするようにして返礼とばかりに撫で回し指を差し入れてはすいていく

 

「ん、ユーフェミア、」

 

「ヒロユキ、」

 

お互いに呼び合う本名

 

こうなるともう共に自分を抑えられなくなる

 

今までがそうだった

 

ユーフェミア・リ・ブリタニア

 

俺という男の本当の名前を知るただひとりの女性

 

嶋田繁太郎として接しながらも、神崎博之としての自分で接することができるただひとりの愛しい女性

 

「ユフィ、今日はチョコレートはいい」

 

「まあ、もうお作りしちゃいましたよ?」

 

「あとの楽しみに取っておくよ。その代わりに、・・・君をもらいたい」

 

席をたち、俺はユフィをお姫様抱っこにしてあげた

 

「お姫様をお姫様抱っこだから洒落にはならないかな?」

 

「うふふ、わたくしは皇族ではあってももう姫ではありませんよヒロユキ」

 

「いいや、俺にとってはいつまでもお姫様だよ。さて、ユーフェミア姫様。続きを寝室にて行いたいと平民の神崎博之は具申いたします」

 

「承りましたわヒロユキ。ふふ」

 

 

 

 

 

 

それと、たぶんこの日がそうだっただろう

 

10ヶ月と少しのちの話だが、俺とユーフェミアは久々となる子宝に恵まれた

 

もちろんユフィの妊娠がわかったのはもっと早かったが、孫達からは祝福の声と共に

 

『これでまた私達は年上の甥や姪になってしまうわけですねシゲタロウお祖父様、ユーフェミアお祖母様?』

 

なんてため息をつかれてしまった・・・

 

 

 



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バレンタイン関係ないひと?1

 

 

 

バレンタイン関係ないひと?1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー、今週中には退院だなぁ~

 

俺氏ちと憂鬱。だって、ナースの涼子ちゃんがもろ好みのタイプだったんだもんな

まさかマリーと観ていた無職に借りた深夜アニメのくりそつさんが看護婦やってるとか予想外もいいとこだろ

 

名前も浅倉涼子で読みはおんなじ。名字の漢字が一字違いだけで髪型も容姿もまるでそっくり。ま、別に本人な訳ねーし?

宇宙人でもヒューマノイドインターフェースでめねー極々普通の人間だけどよ

出身地は関西とか、キャラクターもろかぶりで色々聞いちまったんだよ

 

そしたら『うんそれ無理』じゃなくてさ、『す、すみません、プライベートな事は』だって、逆に引かれちまったよ

 

それでもルルの姉貴のコーネリアにギネヴィアといった最強の好みのタイプ次くらいに好みだったからモーションかけてたわけでさ

 

まあまあ、見事に玉砕よ。涼子ちゃん(23)は配置替えで別のナースが付いたのさ

でまあこのナースが駄目だった。鉄の女つーのかな?

 

検診に尿検査にテキパキとまーさーにー。ザ・仕事って感じでさあこなすんだよ

 

もう付け入る空きはねーっ、て言わんばかりの鉄壁ガード。機械みたいに仕事してさっさと出ていっちまうんだ

俺、さすがに寂しいぜ

 

最近はマリーだけでなくクララまで来なくなっちまってるし、来るのは大家の子供爺さんと名無しの無職だけなんだぜ?

 

男なんぞ要らん!

 

ま、来てくれるだけありがたいと思う謙虚さも学びながらケツデカイナースのねーちゃんが来たら事故装ってちょーっと悪戯したり?

 

いや、睨まないでくれよ。俺、怪我人。全治三ヶ月オケー? welcomeオケー?

 

てな感じにまあそこそこいい思いをさせてもらってたのよ

てもなあ、その辺おっさんやら辻さんにつげぐちしやがんの

ちっ。ちょっとくれーいいじゃんか減るもんじゃなし

 

そんでま、そのあとも何回か~?

事故お触りしちゃったんだよなー

 

そしたらまずおっさんから変な注意をされた

 

『君の動向ね。クララに筒抜けなんだよ? 知ってたかい』

 

知るかよんなの。大体だなあ、来ねーやつが知ってるわけねーだろ

てまーね、返してやったんだけどな

 

『荒事が苦手なクララにだって耳くらいはあるよ? あんまり舐めたことしてると右手か左手の一本落とすはめになるぞ』

 

なんてコエー事を平然と言いやがんの

つーかさ腕落とすとか要は打撲だの折れるだのそんなだろ?

ないない。俺があんな小柄な女子高生にやられるかってんだ

 

で、その翌日よ。俺氏無職に無理言って検診も全部終わってからアイツに酎ハイストロング一本頼むって小遣い渡してまで買ってきてもらったわけよ

そんでま、個室じゃん? 悠々自適に飲み干してイーイ感じにできあがってたの。わかる?

そこにまあ見知った桜みたいな色した頭がツカツカ入ってきてたわけ

なんか知らんが無職のやつガッタガタ震えやがってさ。そんなに近いなら遠慮なんかせんで行けよってトイレ直行させてやったんだ

 

そしたらよく見る黒ゴシックドレス着た桜頭ちゃんクララがなんか俯いて聴こえねー声でブツブツいってんのよ

 

ほらさ、俺氏暗いの嫌いじゃね?

 

だからまあクララの事をさ思いっきり抱き締めてやったわけなんよな

 

883: 名無しさん :2018/02/14(水) 18:14:17

 

「クララァ~なんで来なかったんだよ~っ! 俺寂しくて死にそーっ!」

 

やーらかい。いやーやーらかいっす

まじ抱き枕にしてーくらあかにやーらかいんだよ

女らしくいい匂いもするしさー

 

「お、お兄ちゃん! クララはそんなことでっーーんぅぅ!? んうううーーーっっ?!」

 

だからなぁ、もうぶっちゃけ唇と唇をくっつけてやったぜ

いゃー、一回やでるど、ハードルひきこや?

あや。。なんーかうまく言えなくなてやら、炉、

あーねみ

 

ろれつ回ってね

 

もういよ、クララおまえ抱き枕決定!!

 

「クラマクラパートつーだあ」

 

「ひあ、ああう。お、にい、ちゃ!」

 

「だはははークララだいちゅきー」

 

「んうっ?!」

 

あー、なにやってんのかわかんね

寝よ

かゆい

クラマクラ気持ちいい

 

終わり

さいなら

 

 

 

 

「し、シンイチロウっ、こ、これはどういうことかなぁっっ!!」

 

次の日の朝。なんかハァハァ息切れしてるおっさんにものすんげー剣幕で怒鳴り付けられて頭思いっきりどつかれた

 

「ってーなジジイっ! いきなりなにすっだ!」

 

「そ、それは、こっちの台詞だっ、」

 

ピクピク青筋でも浮かべてそーなおっさんの後ろでなんか、もじもじしてる可愛いのがいるんすけど・・・

 

「き、昨日の夜クララが髪も服も乱れて帰ってきたんだよ、聞いたら君に抱かれてあちこち触られたって言うじゃないか?! 殺すよこのクソガキ!!」

 

「し、してねーしてねーしらねーよ!」

 

「ふ、ふーん、知らないね? なら君の枕に落ちてるピンク色の長い糸はなんだい?」

 

そんなもん落ちてーーーるしぃぃぃぃっっ!?

 

「く、クララ、俺なんもしてないよな? 抱き締めてただけだよな?」

 

「ま、まさぐったよ、お兄ちゃんクララの体を面会時間ギリギリまで。で、でもクララは嬉しいから別に怒ってなんてないから!」

 

おお?

オオオウっ!

クララ、おまえは神だよ神様だよぉぉぉ!

クララ大明神様ぁ、なんかわけわからんことで殴られそうになってる俺を助けーーーぐべぇぇ!

 

後頭部をグーで殴られましたよおじさんに

 

「クララ? 僕は怒ってるんだよイイね?」

 

ヤバい。なんでこんな怒ってんのおっさん

クララは良いって言ってるじゃんかよ!

 

「腹は不味いよね刺されたし。でも頭は良いよね元々馬鹿だし2bitだしぃ?!」

 

「よ、よくねーよ! なんで殴られにゃ!」

 

「うるさい! 一度ならず二度までもクララを、だ、抱き枕がわりにしてたとか許せるかぁ!!」

 

で、俺は頭を5発殴られた

俺がなにしたっつーのよなぁクララ?

 

「クララの体をまさぐったよ。顔も唇も手も脚も、む、胸もお腹も、首も・・・う、はぅぅぅ・・・」

 

その告白にもう3発イカれた

 

なんでよ?

 

 

 



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有るだろう欧州解放の動きと報道、そして立ち食い屋さん

 

 

有るだろう欧州解放の動きと報道、そして立ち食い屋さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーロブリタニア軍。ブリタニア帝国北東海岸、東海岸、カリブ海沿岸のブリタニア海軍貸与基地に艦隊を集結!

南ブリタニア大陸各国政府ユーロブリタニア軍の同盟軍として対ユーロピア戦争への参戦を決定!!

ギアナ公国・アルガルヴェ連合帝国・アラウカニア=パタゴニア王国各国に租借しているユーロブリタニアの軍産複合体企業、全工場を全力稼働!南ブリタニア各国に特需発生か?!

 

ユーロブリタニア宗主オーガスタ・ヘンリ・ハイランド大公、大日本帝国最北領千琴、アリューシャン地方の一時的な通過と日本海軍基地使用の協力を請願!

大日本帝国吉田茂対ユーロピア交渉全権特使、大日本帝国今上帝陛下および政府の意向に沿う形で後日回答申し上げるとユーロブリタニア側へ伝える!

大日本帝国、ユーロブリタニアへ軍事的経済的協力を確約!欧州王国連合を見据えた更なる先行追加投資か?!

 

神聖ブリタニア帝国、大日本帝国、ユーロブリタニア亡命政府各国諸侯へ王政復古後の新欧州王国連合との友好条約締結を発表!

 

ユーロブリタニア、王政復古後には連合王国体制への移行を発表。長年に渡るブリタニア帝国・大日本帝国の協力に対し、旧ブリタニア本土ブリテン島・旧ブリタニア領アイルランド島および付随諸島の神聖ブリタニア帝国への返還。極東ロシア地方の大日本帝国帰属を確約!

 

現ユーロピア共和国連合、ドイツ州・イタリア州・スペイン州・スイス州・フィンランド州他数州、ナチスユーロピアを名乗りユーロピア共和国連合からの離脱とユーロブリタニアとの連携を発表!

予てよりの計画であったとドイツ州アドルフ・ヒトラーユーロピア大統領が宣言!

ユーロピア共和国連合所属各国への動揺拡大!

 

ユーロピア共和国連合三大統領の一人フランス州大統領、ヒトラー大統領による王政復古宣言は民主主義に対する重大なる背信行為であり連合所属各国への裏切りであるとこれを糾弾!

ロシア州ユーロピア共和国連合大統領、フランス大統領の発言に追随せずユーロブリタニアとナチスユーロピアの動向を静観!

 

ユーロブリタニア、オーガスタ・ヘンリ・ハイランド大公『ヒトラー大統領とはかつてより盟友関係にあった』と爆弾発言!ユーロブリタニアとナチスユーロピアの深い繋がりを示唆!

ナチスユーロピア、ユーロピア共和国連合による腐敗政治に幕を閉じると宣言!

ナチスユーロピア、今の腐ったヨーロッパを作り上げてきた諸悪の根元としてユーロピア共和国連合フランスへ宣戦布告後、軍事侵攻を開始!

ナチスユーロピア大統領アドルフ・ヒトラー氏、ユーロブリタニアと共闘、ユーロピアを平定した後ユーロブリタニアと合流し新生ユーロピア、ユーロピア王国連合の設立に言及!

 

ユーロブリタニア宗主・諸侯、ユーロブリタニアとナチスユーロピアは共にありと宣言!

 

『ハイル・ハイランド! ハイル・ヒトラー! ジーク・ハイル・ユーロピア!!』

 

この唱和を初めて各国報道関係者の記者会見の場にて熱唱!!

ブリタニア帝国東海岸に集結中の艦隊の内、4個空母打撃群と6個遠征打撃群がユーロピア共和国連合フランス州へ急行させる為に各軍港より出港!

 

ユーロブリタニア宗主オーガスタ・ヘンリ・ハイランド大公、ナチスユーロピア大統領アドルフ・ヒトラー氏、電話会談

 

『我が友、我が盟友よ、パリで会おう』

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

(ハイル某やジーク某はヒトラーのやつが吹き込んだな。まさかブリタニアの地でユーロブリタニアの宗主がジーク・ハイルと叫ぶとは世界変われば世も変わり人もまた変わるということか)

 

駐ブリタニア武官、南雲忠一はアドルフ・ヒトラーが自分たちの知る昭和世界のアドルフ・ヒトラーであることを知っていた

ナチスユーロピアを名乗るユーロピアドイツ特命大使が日本との交渉を求めて来日した時に出た『アメリカ分割統治』発言で隠すつもりすらないことも分かっていた

あの発言には未来を知るかのように上手く行きすぎている日本の動向についてヒトラー、ムッソリーニ、フランコ、マンネルヘイム等の政治家や軍人たちが気づいていた為に日本もそうであるのかと試してみた、そう"ラインハルト・ハイドリヒ"は話していた

 

916: 名無しさん :2018/02/16(金) 18:23:24

 

『御貴殿たちも御承知のように今の欧州は腐りきっている。総統閣下・・・失礼。大統領閣下は欧州を土台ごと変えてしまう腹積もりの御様子でね。ユーロブリタニアに相乗りなさるようでしてね。 ずいぶん昔からユーロブリタニアのヴェランス大公とは接触していたのがその証明とも言えるでしょう』

 

御貴殿がたならば我らの動きなどとうに察していただろうがな

尊大に言い放ったラインハルトに夢幻会は誰一人動揺することなく首肯していたらしい

 

らしいというのは日本のブリタニア駐在武官である南雲には会合に参加する機会がなかったからだ

杉山などはマンネルヘイムとも接触していたようだが、南雲はお役目上ブリタニアに縛られていて何もできない為に事のすべてが事後報告ばかりとなる

 

まあ見知らぬ世界に生を受けた彼等からしてみれば、同じ世界の出身者と確信できる行動ばかりしてきた日本の動きに郷愁のような感情が働き、静かな敵対よりもむしろ積極的な協力体制を築きたいとの意図を持ったとしても不思議ではない

 

(とくにあのEUの腐り果てた惨状を現地で視ていれば白人優越論やアーリア人至上主義思想もぶち壊しになるだろうからな)

 

なにせ腐ったリンゴがそのアーリアやら白人やらなのだから幼い頃より視ていれば考え方も変わるだろう

 

発展し続けるブリタニアは日本系ブリタニア人を含め肌の色などに左右されることなく、ただ強力なるカーストと絶大なる絶対君主が君臨する国

 

異常発展し続ける日本はブリタニア人のみの移民を認めて黄色、白色、黒色、混合の雑多な人種が同じ日本人としてブリタニア系の臣民も、日本が得てきた海外領土に住まう臣民も差別なく餓えることなく繁栄を謳歌しながら、ブリタニアと共に世界に君臨している

 

最高指導者を=神と崇め至上の存在とし、神に選ばれた者の中から選挙を通して指導者を選出する原始民主制度と共通点を見出だせる政体のまま巨大化していくオセアニアもまた白人至上主義ではない

それどころか日本人、ブリタニア人、オセアニア人の先史前人種とも呼ぶべき超古代人以外などすべからく類人猿扱いしているくらいだ

かつて世界を支配した先史前人種から見ればユーロピア人など動物園の猿園に住まわせてやっているホワイトモンキー程度にしか見られていないだろう

 

(ユーロブリタニアとナチスユーロピアが合流すればまた一大経済圏が一つできあがる)

 

ヒトラーも今度はアーリア人至上主義は唱えられないだろうから、欧州王国連合が建国されれば、欧州人は新人類の突然変異種で、かつての先史前人種に近い人種であるとかトンチンカンな論説を書いた本を何処かの誰かに書かせて出版させたりしてな

 

(ブリタニアで永住な自分には関係無いか)

 

会合に出られない

知己はブリタニアでばかり出会う

帝都ペンドラゴンの日本大使館での仕事は忙しいが、ドロテア・エルンスト卿という美しき貴婦人とも出会えた

 

(社交界や舞踏会の雰囲気にも慣れてきた)

 

今世の生涯はこちらで送る

 

それもまた悪くはない

 

言葉が通じなければ苦労するところだが、日ブは共に日本語とブリタニア語必須科目として幼等教育から始められている為に日本人でブリタニア語を話せない書けない者などいないし、ブリタニア人で日本語を話せない書けない人もまたいない

日本語とブリタニア語さえあれば太平洋経済圏の国々で言葉の壁はないと言えよう

 

917: 名無しさん :2018/02/16(金) 18:24:01

 

「お待たせ致しましたナグモ卿!」

 

ペンドラゴンの往来でひとの名前を叫ぶな!

そう言いたくなりそうな大声で声を掛けてきたのは残念なことに交際を始めた麗しの君たるドロテア・エルンスト卿ではない

赤茶色の髪とむさい髭面がマッチした少し年下のムキムキマッチョなおっさんだ

 

「申し訳無い。今朝の報道で私のペンドラゴン邸宅にも報道関係者が詰め掛けて来ましてな。一つ一つ回答して抜け出すのに苦労しました」

 

呆れた。この男、終わらない報道関係者の質問に対し律儀に全回答していたらしい

 

「そんなことをなされていては切りがありませんぞカラレス公爵」

 

名をカラレス。レスラーでもやれば似合う風貌に見えてこれでも法衣貴族で公爵位を持つ男だ

昔からの腐れ縁だ。ラプラタ戦争時に共闘した際に贈った蕎麦を艦橋で食べていた立ち食いのプロフェッショナルみたいな輩だ

並み居るブリタニア諸侯の中でもナイトオブフォードロテア・エルンスト卿やブリタニア西海岸の盟主クルシェフスキー侯爵の次くらいに親しい友人でもあった

 

「報道関係者が名前を連呼して回答を求めようとする時、その行為に終わりなどありません。抜け出さねば朝から晩までまとわりつかれておったことでしょうな」

 

「そ、それは、しかし貴族の義務として臣民が見知る主な媒体には答えねばなりませんので」

 

「誠実なのはよろしいことですな。まあ、こんなところで問答をしていても仕方がない。とりあえずご案内いただけますか?」

 

「お任せくださいナグモ卿! 今宵の立ち食いは初めて、私がプロデュースした初挑戦の立ち食いですので」

 

この男、立ち食いが好きすぎて自分で立ち食いそば屋さんや立ち食いラーメンや、色んな立ち食いを経営し始めていたのだ

最早経営とは言えない趣味の域だが

 

「ほうそれは楽しみですな」

 

初挑戦ということは日本にもない可能性がある

 

「本日のわたくしめがご案内させていただきます店の名はナポリです!」

 

・・・・・・はあ?

 

「名は体を表す。その名の通り立ち食いナポリタンです! むろんナポリタン以外にもペペロンチーノやカルボナーラ、ヴォンゴレにペスカトーレ、ミートソースなど多彩な種類を取り揃えております!」

 

立ち食いスパゲッティか!?

なんでも立ち食いにすればいいという物じゃないぞ?!

 

「そして目玉はカントウの濃い目な出汁に茹で上げたばかりパスタを入れて油揚げを載せたキツネ蕎麦風スパゲッティ! またかき揚げを載せたかき揚げ蕎麦風スパゲッティ! カンサイの生姜天を載せた生姜天風スパゲッティです!」

 

カラレス公爵は美味ですぞと力説してるが誰がそんなもん食べたいんだよ!

普通にパスタだけでいい!なんで蕎麦の出汁にパスタつけてんだ?!

 

「反対にミートソースに蕎麦をつけて食べるミートソースかけそばなども」

 

駄目だこの男・・・

 

918: 名無しさん :2018/02/16(金) 18:24:49

 

ドロテア・エルンストは愛機パロミデスに騎乗して模擬訓練を行っていた

 

ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインやナイトオブフォーである自身

ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグにナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー

ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム

 

更には全ロイヤルガードまでも含めた、その場のラウンズとロイヤルガード全軍を僅か15分で撃滅判定にしてしまった、己の後輩たるナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーとの圧倒的なる実力差を少しでも埋めんが為に

 

かつてのモニカの愛機であった機体を遥かに凌駕する機体

 

日本で産み出された絶大な性能を持つあの自由の名を与えられし蒼空色と白銀の翼を広げた美しい機体フリーダム

 

現在では第9世代強化改装機とでもいおうか、一から作り直してしまったような全高8m超9mに届きそうなナイトメアフレーム、フリーダム・フローレンスを自在に操り、ラウンズなど敵ではないとでも言わぬばかりの機動性と砲撃力、剣さばきを見せたモニカに僅かでも良い、追い付くために

 

「といって、レーダーにも捕捉できぬほどの性能を持つ機体に勝てと言われてもそうそう勝てはしないか」

 

標的機と訓練相手である自身の親衛隊総員を撃墜判定に下しながらパロミデスより降り立つドロテア・エルンストは、女性騎士の更衣室へと足早に赴いた

 

 

 

ジーっと音を立てながら彼女のパイロットスーツのジッパーが開いていく。ラウンズの女性騎士専用更衣室に男などいない

ゆえに、たわわと実る豊かな乳房を惜しげもなく気もなく晒しながらスーツを脱ぎ捨て、結い上げていた長い黒髪をほどてブラシを通しストレートの髪型へ戻す

 

ついで騎士服へと着替え、ナイトオブフォーのパーソナルカラーである青いマントを着用しつ、瞑目しながら考えていた

 

皇歴2020年には日本の陸・海・空・海兵隊4軍の一部のエースや、ブリタニアのラウンズの機体はすでにエナジーウィングを標準搭載された第9世代機に企画統一されていたが、しかし技術の日本のクラサキが製作を手掛けたモニカのフリーダムだけはクラサキの手によって幾度ものチューンアップを、改造を施され、名を変え姿を変えて、初期の同機とはまったく違う性能を持っていた

ドロテアたちラウンズが使用しているスーパーヴァリスなど飾りに見えてしまうようなハイパーヴァリスや、高威力小口径6連ハイパーハドロン砲等という馬鹿げた兵装まで彼のフリーダム・フローレンスには搭載されていた

 

同じ第9世代機でも天地の差があるとはこのことだ

とある眼鏡の銀髪伯爵が2018~19年に設計製作したフリーダムと同時期の機体であり現フリーダム・フローレンスと同じ様にキャメロットでチューンアップを繰り返されてきたランスロットアルビオンでさえも撃墜判定させている

 

アルビオンに搭乗していたのはナナリー・ヴィ・ブリタニア殿下の騎士でありヴァルトシュタイン卿さえも下して見せた枢木スザク卿だが。そうなると最早モニカに1体1での戦いを挑み勝てる者などこの世に存在しないことに・・・

 

モニカはいったいどの様な修練を積み重ね、全世界の騎士の頂点へ掛け上り君臨してしまったのか?

 

モニカの訓練、ラウンズを越えるラウンズとなるための強化訓練は日本でもブリタニアでも実施され、やはり天性の素質や努力の末に辿り着いた者でなければ第9世代という名の暴れ馬を御すことなど不可能であったことを知った

その暴れ馬を御せた者たちこそが、今の日本のKMFエースパイロットであり、ブリタニアのナイトオブラウンズや、皇族の専任騎士たるナイトオブナイツといった面々だが

 

「その全てがモニカ・クルシェフスキーの敵足り得ない、か」

 

口惜しい。思ったときにドロテア・エルンストの携帯電話が鳴動した

 

「ナグモ卿っ?!」

 

更衣室に彼女の叫びが木霊する

 

とくん

 

胸の高鳴りが響く

 

騎士たる身として女など棄てたと色恋に興味のなかったドロテアが生涯独身を貫こうとすることを阻んだ、ドロテア・エルンストが好意を抱き、交際を始めた日本の駐ブリタニア駐在官

南雲と交際を始めたとき、いいや出会ったあの舞踏会の場で初めて、自分も女だったのだと自覚させられた

それからも女としてドロテア・エルンストは随所で見られるようになっていたがその全てに南雲忠一武官が絡んでいることは、宮中や貴族の誰もが知る公然の事実となっていた

その南雲からのメールに、ドロテアの胸のドキドキが治まらない

治められるはずがないだろう。ドロテア・エルンスト、彼女もまた恋をする一人の乙女であるが故にだ

 

919: 名無しさん :2018/02/16(金) 18:25:31

 

To:ドロテア・エルンスト

sub:チュウイチ・ナグモ

 :画像

 

親愛なるドロテア・エルンスト卿。唐突なメールで失礼致します。御貴殿との交際も早三月となりますが、貴女という至高の宝石と出会えたことは運命であると感じている毎日。貴女は私になにをお感じなのでしょう? もし貴女が私と同じ様に感じてくださっておられますれば、これに勝る幸せなどございません

 

ところで、本メールに されている意味不明な麺類が出る店ですが、貴女をお誘いするコースとして相応しくないと考えますが如何でしょうか?

もしもお好みでしたのならば申し訳ございません。謝罪の言葉もございませんが

 

なにか意味の伴わないメールとなってしまいましたが、それでは私の愛しきドロテア嬢、季節の変わり目ですがお病気やお怪我などなされぬよう、日々をお過ごしくださいませ

 

またメールやお誘いをさせていただきます

 

 

チュウイチ・ナグモ

 

 

これに対するドロテアの返信は直ぐ様渡された行く。彼女の愛しき殿方へ

 

 

To:チュウイチ・ナグモ

sub:ドロテア・エルンスト

 :画像

 

親愛なるチュウイチ・ナグモ様。わたくしは貴方よりのお誘いならばそこがロッキーの山中であれ、戦火渦巻くユーロピアであれ、何処へなりともお供させていただきたく存じます

時に貴方をお守りし、時に貴方へ尽くす貞淑なる淑女たらんことをお近い申し上げます

 

なんだか結婚式での誓いの言葉のようですね(照)

いつの日か近い将来、ナグモ・・・チュウイチ様と添い遂げる伴侶となれるよう、わたくしも女としての自らを磨きあげて参ります

 

さて、いただいた画像の件ですが

わたくしもあのお料理につきましてはあまり食欲を抱くことができません

チュウイチ様がどうしてもと仰有るのでしたならば話は異なりますが、チュウイチ様もお好みでないようでしたのなら、デートコースよりお外しくださっても構いません

 

それではまだ寒い日も多いことかと存じますが、チュウイチ様もどうかお体にはお気を付けて、任務に励んでくださいませ

 

あ、あなたの、ドロテアより(〃艸〃)

 

 



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家路

 

 

家路

 

 

 

 

 

 

絶妙なさじ加減を持ち日本の舵取りを行う夢幻会の会合メンバーたちは、ブリタニアのジ家双子の兄V.V.とは面識を持つ者が多い

 

伏見宮を皮切りとして近衛、辻、山本、東條、阿倍、倉崎、杉山と、挙げていけば何れも名だたる大物ばかりが幾人も名を列ねている

 

V.V.はギアス嚮団の嚮主として日本との連携を密にしてきた実績から会合メンバーのお食事会に呼ばれることもあり、ひとり、またひとりと面識を深めてきたのだ

 

皆それぞれ個々の間でも交遊関係を築いてきたV.V.だが、一番の仲良しは言うまでもなく幼なじみの嶋田繁太郎であった

嶋田もV.V.の親友であり幼なじみは自分しかいないと考えていたし、その実その通りであるのだから何をや言わんや

 

今夜も今夜とて会合メンバーとV.V.はお食事会という名のごく普通な飲み会の為、都内の料亭に集まり、難題から馬鹿馬鹿しい話まで多岐に渡る話題で場を盛り上げながら食べて飲んで楽しみ、そしてお開きとなった

 

「嶋田、V.V.殿下それでは失礼するぞ」

 

少しばかり呂律がおかしな丸坊主の寒そうな頭をした男が手を上げてお別れの挨拶をしている

元海相と国防相を歴任した山本五十六

ニューギニア戦争では一艦の喪失もなくオセアニア海軍のニ個機動部隊を撃滅した事から国内外より現代を生きる軍神や英雄などと呼ばれる事もある海の男だった

彼はふらつきながらも迎えの車に乗り込んだ

 

「ちょっと飲み過ぎよいっくん」

 

車中に見えるのは金髪の長髪をした美麗な容姿の外国人女性の姿

山本の婚約者リーライナ・ヴェルガモン

彼女は山本が特別な飲み会に行くとき、自らは出席できないその会合に、せめて送り迎えだけはと毎回のように自家の車を出しては料亭まで山本を出迎えにくるのだ

できた妻である

軍神、英雄と呼ばれる山本だが彼女には弱い

いつの世も女性は強いようだ

 

「ちょっと飲み過ぎただけだ。ちょっとだけにちょっと。はっはっはっ」

 

ご機嫌な山本はリーライナのちょっとに掛けてくだらない駄洒落を口にしている

あれはちょっとどころの酔いかたではない

山本はこのお食事会でかなり飲んでいた。気分的に飲みたい気分だったそうだが、酒には強いほうな彼がいい感じに酔うほど此度のお食事会は雰囲気も何もかもが良かった

それは見送る嶋田にしてもV.V.にしても同じ

彼等も等しく楽しい酒に酔っていた

 

「じゃあな山本」

「気を付けてねイソロク」

 

リーライナにもたれかかるようにして体の力を抜いた山本は応とだけ返事をして、頭を下げる彼女の膝に寝落ちまでしてしまった

 

「もう、いっくんたら」

 

そんな声だけを残して扉は閉まり、ヴェルガモン家の運転手が車を出して遠ざかっていった

 

 

「我々も帰りましょうか」

「そうだね」

 

今夜参加したメンバーの最後のひとりである山本を見送った嶋田とV.V.は帰路につく

宴席の料亭が偶々彼等の邸宅と近かった事もあり、二人は歩いて帰ることにした

余談だが二人の家は互いに近く、気軽に歩いて遊びに行ける範囲内にある為に、よく遊んでいた

共に齢六十を数える、V.V.は肉体年齢こそ十つほどであるも、実年齢では六十五となる初老に差し掛かっている

そんな二人ながら、昔からの幼なじみとして違和感なく遊んでいた

 

「とりあえずどうぞ」

 

肩を組むにしては背が違いすぎる二人は、年齢通りの肉体な嶋田の側が背丈は高く、嶋田はしゃがむとV.V.をおんぶしようとする

 

「君ね、僕のが五つほど年上なんだって事を忘れちゃいないか?」

 

厳に子供扱いするなと語るV.V.に嶋田は運動不足ですのでと譲らない

 

「やれやれ。兄の立場な僕が弟分の君にこんな事をされる日がやってこようとは。時の流れは無情だ」

 

肩を竦めたV.V.が嶋田の背に乗る。手を彼の首に回して子供が親の背におぶさるように

 

230: 名無しさん :2018/03/02(金) 13:01:42

 

 

 

「よいしょっと。昔は僕の方が背が高かったのにすっかり追い越されてしまったな」

 

背にのし掛かる小さな体躯と体温に、V.V.がおぶさってきた事を感じ、立ち上がりながら嶋田は笑った

 

「今更でしょう。お兄さんは不老不死なんですからずっとお若い。羨ましいですよ」

「だったらコード解析終了と新規コード開発の暁には君も不老不死になればいい。実現化まで間近に迫ってるんだ。シャルルは辞退したよ。愛する我が子が先に逝くのを見続けて行けばいつか心が壊れてしまうってね」

 

寂しそうにV.V.は笑う

双子の片割れは供に歩んではくれないらしい

 

「私は条件が整えばお付き合いしますよ。私…僕もお兄さんをひとり残して逝くのは忍びないですしね」

「ははっ、義兄弟みたいな君の方が兄思いだね」

「心技体とも、シャルルさんよりかは強いつもりです」

「それシャルルに言ったらまた殴り合いになるよ」

「海軍で成らしてきた僕は皇宮で過ごしてきたぼんぼんにゃあ負けませんよ」

 

嶋田はシャルルをシャルルさんと呼ぶ

子供の頃はシャルルくんと読んでいた

しかしV.V.の事はお兄さんと呼ぶ

今でも昔語りをしている時や、二人で遊んでいる時にはお兄さんと呼ぶ

 

「シャルルさんとお兄さんは根が強いか弱いかに差がありますからね。根が弱い元もやしっ子のシャルルさんをお兄さんとは呼びたくありません」

「違いないや」

 

えっちらおっちら歩く嶋田

嶋田の背に乗り彼の首へと腕を回してしがみつくV.V.

 

「しかしなんですね。遊ぶって言葉が今でも続いている。それがなんだか変な感じがしますね」

「どうしてだい?」

「いや、確かに僕とお兄さんとシャルルさんは幼なじみでよく遊んできました。いっぱい馬鹿もやっては父やお二人の世話係の方に怒られました。でもそれは子供の頃の話です。遊ぶって子供の頃によく使うじゃないですか。僕らもう六十台ですよ」

 

V.V.は肩の後ろから首を前に出して嶋田を覗く

 

「さっきの今だけどそれこそ今更じゃないか? 六十台でも幼なじみは幼なじみだよ。僕は遊びたいんだ。もっとたくさんね。シャルルは立場上気軽に遊べないけど、僕らは遊べるからさ」

「ははは、お兄さんの仰るそれもまた真理ですねえ。昔も今も私たちは変わらない三馬鹿トリオですか」

「うちの家の侍従に言われたねえそれ。ご貴殿方は三人で馬鹿ばかりやって! ご自身のお立場を少しはお考えくださいませこの三馬鹿トリオ! なんてさあ」

 

こてん。嶋田の右肩に頭を寝かせて昔を思い出しながらV.V.は目を閉じる

 

「あの方容赦ありませんでしたね。三人してげんこつ落とされて」

「今にして思えばあれは愛情だったのかな」

 

ああそうそうとV.V.は続けた

 

「愛情と言えば僕さ、昔君が女の子なら嫁にもらってるところだって話したよね」

「ああ~ありましたありました。あれ告白みたいで僕も強張りましたよ」

 

嶋田は当時を思い出す

あれはジ家の離宮の広大な庭での事だった

V.V.がシゲタロウはどうして男なんだろうと話はじめた事から出た恥ずかしい思い出だ

 

「あのお話がどうかなされました?」

「うん。いやね。あれさ、もし君がじゃなくって、僕が女の子だったなら君はどうしたかなって思ったのさ。君は僕を異性として好きになってくれていたのかなあーって」

 

右肩に乗るV.V.の頭

年月を感じさせる彼の長すぎる長髪が一房はらりと肩越しに、嶋田の体の前へと垂れ落ち、歩く振動にゆらゆら揺れている

 

「そうですね。お兄さんがお姉さんだったのなら、僕も異性として好意を寄せていたかも知れません。年上で面倒見のいい姉貴分、憧れますよそういうの」

 

V.V.が女性であったのなら有り得た未来

想像してみれば滑稽ながら、今でも仲良く遊んでいる事を考えれば強ち無いとも言い切れない未来だった

 

「そうなんだ?」

 

こてんと乗る右肩の小さな顔の眼が開く

 

「ええ」

「惜しいな。僕か君が女の子だったならよかったのに」

「よしてくださいよそんなご冗談。私もう婚約者がいるんですから」

「でも、そのもしもが現実だったなら僕は君の事を離さなかったと思うよ? 君もご存じのように僕は嫉妬深くて執念深いからね」

「そこはご心配なく。もしもが現実だったなら僕はお兄さんの婿か嫁かになっていたでしょうからこちらこそ離さなかったところでしょう」

「酔ってるねシゲタロウ」

「酔ってますよ。そちらこそ酔ってますねお兄さん」

「酔ってるよ」

「少し遠回りしますか?」

「そうしよう。僕も息子や娘や甥姪にその親衛隊達、ついでに半同居人の馬鹿にこんな姿を見せたくないから」

「威厳ある叔父でありたいと。それは意地ですね」

「意地さ。僕がありのままの姿を見せられるのは君とシャルルの前くらいだから」

 

酔い醒ましとばかりに昔話に花を咲かせながら、二人は遠回りをして家路についた

 

 

 

 



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桃の節句だし桃色は当然だよね

 

 

 

桃の節句だし桃色は当然だよね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何をするのも人それぞれ個々に違う

趣味嗜好、性格好み、ありとあらゆる物事は人によりけり

髪型をどうするのかもまた人それぞれ

 

「寒くないの?」

 

腰にかかるほどの絹糸のような金の長髪を寒風に曝しながら、黒い厚手のコートを着たリーライナ・ヴェルガモンは腕を組んで歩く隣の男を見て話す

具体的には彼女の恋人である山本五十六の、その何もない頭を見て

 

「寒くないかと問われただけでは何のことか分からんが体を鍛えているから寒くはないとしか言えんな」

 

暗に昨今の若者とは違うと言いたげの反論にリーライナは立ち止まると、女性の必須アイテムの一つ手鏡をバッグから取り出した

 

「これでいっくんの頭を映します」

 

何のことだ?

山本には意味が分からない

 

「はい。いっくんの頭、見えるでしょう?」

「ああ見える」

 

いつも変わらずな坊主頭だ

海軍時代、前世から変えた事の無い頭がリーライナの鏡に映っている

 

「寒くないの?」

 

鏡で頭を見せて寒くないかと問われる

 

「なんだそんなことか」

 

山本は納得と息を付くと、これの事なのだろうと伝えるようにしてリーライナの髪を撫でた

 

「寒くはないかと問われればやはり寒くはないな。年季が違う。何十年坊主頭と付き合っていると思うんだ」

 

手触りのよいリーライナの髪に、手櫛さながら五指を通して、自分の一厘と全くの逆位置な髪の毛を確かめるように触る

 

「おまえのは冷たいな」

 

寒風に曝されていた暖かそうな色をした金髪はしかし冷たい

 

「それは寒いもの」

 

手鏡を仕舞ったリーライナが自分もと手を伸ばしたのは山本の一厘頭を求めてさまよい、触れた

 

「いっくんも冷たいですわ」

「リーラ、おまえが丁寧な言葉遣いをすると変な感じだぞ」

「まあ淑女に対してなんて失礼なお言葉ですこと」

 

ざりざり

山本がリーライナの髪を撫でても音はしないが、彼女が山本の髪を触ると音がする

 

「冷たい」

「それは寒いからな」

 

同意語の応酬

三月でも上半期は寒い

寒いから頭も冷たくなる

 

「ショッピングモールのベンチにでも座らない?」

「いい案だ。といってまた膝枕を強制して来ながら俺の頭を触りたいだけなんじゃないのか」

「ふふふ、当たり」

 

冷たくなった坊主頭を意地でも暖めたいらしい

 

「こっちは恥ずかしいんだが」

「私がいっくんだけを感じているように、いっくんも私だけを感じるようにしていれば恥ずかしくないわ」

「簡単に言ってくれるな」

 

260: 名無しさん :2018/03/04(日) 11:39:42

 

 

冷たくなった頭を暖めたいと言うリーライナは自分の考えを実行へ移すにあたり条件をひとつ付けた

 

「いっくんも私のこと膝枕して暖めてくださいましね」

「人前でそういう事は苦手なのだが、まあ善処しよう」

 

行き先のショッピングモールに入った二人

早速休憩コーナー代わりのベンチに腰かけると、意外にも山本から膝を叩いてリーライナに膝枕をしてあげた

 

「めずらしい」

 

山本からのエスコートを彼女も嬉しげに受け入れて、彼の膝に頭を載せて目を閉じる

 

「いっくんからのお誘いなんて」

「なに、たまには反対から始めても構わんだろう」

「ここがいっくんの家なら耳掻きをお願いしてるところね」

「家ならな」

 

リーライナの冷たい頭を包み込む山本の大きな手が彼女の顔にかかる髪を払い、頬を探り当ててはすべすべと撫でる

 

「頭も髪の毛も体もみな冷たいぞ」

「寒いもの。でもいっくんの手は暖かい」

「人肌は暖かいものだ」

 

その通りだと思うリーライナは、それが山本からもたらされているからこそもっと暖かいのだと小さな幸せを感じていた

 

 

 



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クララにメダパニ

 

 

桃色の節句は続く

クララにメダパニ

 

 

 

 

 

玉城は大人しくしていた

寒いから大人しくしていた

 

馬鹿でも寒いと元気をなくす

元気がないと無茶苦茶もできない

 

んな感じの彼の部屋に少女が一人遊びに来ていた

 

あるときはアッシュフォード学園高等部生徒

あるときは甘えん坊症候群発症患者

しかしてその実態はどこまでも残酷な殺しを実行可能な暗殺者にしてシークレットエージェント---クララ・ランフランクであった

 

但し普段は嫉妬深くて妄想癖ありで好きな人が離れたら自分の物だけにしたいと殺しかねない、ただの無害な女子高生である

 

無害な?

 

深く考えては駄目だ

 

彼女の愛は極めて純なる心から形作られている

 

自分の物だけにならないなら殺したくなるほど一途に思うピュアな心の持ち主なのだ

そんな純愛なる狂気を宿す少女に好かれている男こそ誰あろう、いい加減男の代表選手玉城真一郎であった

 

「元気ないねーお兄ちゃん」

「こんなさみーのに元気が出るかよ」

 

三月三日は桃の節句

春が近いのにまだ寒いと玉城は布団にくるまっていた

 

「遊ぼーよう」

「寒いから無理だな」

 

大体どこで遊ぶんだと彼は言ちる

 

「おまえ寒くねーのかよ」

 

クララは白いブラウスに黒のワンピースに黒ニーソ

一応ジャンパーこそ着ていたがこの寒いのにワンピースの下はスカートである

 

「慣れっこだからダイジョーV!」

「スゲーよ。俺なら風邪引くわ」

「お兄ちゃんだと変態さんになっちゃうよ?」

「そりゃそーだ」

 

玉城は改めてクララを見た

見て思った

 

「おまえ見てると雛人形っぽいイメージが沸いてくる」

「どうして?」

「髪の毛ピンクじゃんか。桃の節句だけに桃色」

 

262: 名無しさん :2018/03/04(日) 13:01:32

聞いた瞬間クララは固まる

 

「くっだらな」

「うっせ」

 

ギャグにもなってない親父ギャグ

玉城はポンコツだが寒いからかポンコツに磨きが掛かっていた

 

玉城はまたクララを見る

クララはこの畳の部屋でちょこんと座っている

目の上で切り揃えた前髪

横髪は顎に届くくらいで後ろ髪は膝にかかる長さ

姫カットとか呼ばれるやつだった

黒いワンピースに薄めのピンク一色の明るい髪色が映えていた

小柄な事も手伝って人形のようである

 

「クララってなんか人形みたいだよな」

「えっ?」

「小柄で可愛らしくてあれだよ。ブリタニア版雛人形って感じがするぜ」

 

ぽっと紅くなるクララ

人形みたいに可愛らしいと言われたら嬉はずかしむず痒いである

 

「か、可愛らしい、の? クララが?」

 

玉城がクララを率直に可愛いと評するのは珍しく、彼女も少し困惑気味だった

 

「おお可愛らしいぜ。ちょっとそのままでいろよ」

「う、うん」

 

くるまっていた布団から出た玉城は、床に放りっぱなしでいたスマホを手にクララの正面から構える

彼女の口許が強張り引き締まる

緊張している証だ

 

カシャッ

 

狭い部屋に響くシャッター音

 

カシャッ

カシャッ

 

更に数回シャッター音は続けざまに響いた

 

「よっし完璧。ほら見ろよ」

「え? あ、うん」

 

玉城はクララの隣にしゃがみこむと、彼女の肩を気軽に抱き寄せながら、いま撮ったばかりの写真を見せてあげた

画面には緊張した面持ちのクララが写っていた

 

「ほらな。ブリタニア版の雛人形みてーだろ?」

「ん、ん? や、えっとわかんない」

 

そんな事を言われても自分では分からないものだ

クララは画面の中の緊張した自分と、体を抱き寄せられて緊張した自分に、自分で自分が分からなくなりどぎまぎしていた

 

「せっかくだしおっさんと南と吉田に送っとくか」

「はっ?! や、やだっ、やめてよお兄ちゃん!! パパはともかくどうしてヨシダさんとかミナミさんにもっ??」

「なんでってそりゃダチだから。等身大ブリタニア版お雛様ってな」

「や、やめてーっ!!」

 

可愛らしいと言われて嬉しい

写真撮られて恥ずかしい

何人かに観られると知って大混乱

 

そんな玉城とクララの攻防は、V.V.邸で雛人形を前にお寿司を食べると彼女が口走り、聞いた玉城がたかりに行こうと彼女と連れたち部屋を出るまで続けられていた

 

263: 名無しさん :2018/03/04(日) 13:19:08

うん、甘過ぎるぞ!おまえたち!!

 

 

 



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山東半島は高麗固有の領土

 

 

流れに任せて投稿すつる

ルート混ぜ混ぜ噂・主張・事実色々

 

 

 

 

 

 

山東半島は高麗固有の領土

 

日本は鳳凰級前期型を近代化改修

インドネシアへの売却を計画している

インドネシア海軍は日本からの巨大空母購入計画を正式に認める

 

在日ブリタニア軍基地には騎士がいるが、在ブリタニア日本軍基地にはサムライがいる

 

日本人は未来を見る超能力を持っている

 

日本・ブリタニアは世界征服を計画しているが、オセアニアは世界調伏を計画している

 

大日本帝国は帝国なのに民主主義のエリートで、名実ともに民主主義のEUは民主主義の落第生だった

 

ブリタニアの宰相シュナイゼルが高麗を大国と認めた

 

高麗議会が中華連邦避難を採決

 

高麗共和国は中華連邦による皇暦1448年-1948年までの500年間に渡る植民地支配の反省が足らないとして天子に恒久的謝罪と恒久的賠償を要求

第一次請求額は日本円にして637兆4600億円

 

天子声明、中華連邦は日本との国交正常化を望んでいる

 

天子声明?中華連邦は高麗との国交正常化を望んでいない?

 

ブリタニアは中華連邦から日本との国交正常化交渉仲介を依頼されている

 

清国は極東に宝の山を見つけている

 

ブリタニアのマリーベル皇女が日本の一般人とお付き合いしているらしい

 

ブリタニア貴族は村八分が好き?西海岸諸侯・五大湖諸侯に潰された小貴族がいる

 

実は高麗人は日本人が好き

 

実も何も日本人は高麗人が嫌い

 

大日本帝国官房長官の澤崎敦はストレス性胃癌で余命一年?

 

人類最古の皇室、日本の帝は不老不死?

 

日本にはブリタニア皇帝の兄が住んでいるらしい

 

ブリタニア皇帝とルルーシュ皇子は親子喧嘩している

ナナリー皇女の「枢木スザク様とお付き合いします」発言でブリタニア皇帝緊急入院

マリーベル皇女には好きな人がいる噂にブリタニア皇帝緊急入院

ユーフェミア皇女と嶋田繁太郎の結婚にブリタニア皇帝意識不明で緊急入院

ギネヴィア皇女破談「お父様嫌い」発言でブリタニア皇帝緊急入院、意識不明の重体

 

ブリタニア皇帝の親バカ伝説、子供達の護衛専門部隊として日本在住の皇子・皇女各ひとりにつき一個騎士団15000人編成を付けようとして「護衛の為だけに国軍を私物化するな」と当の子供達から怒られた

日本政府は在日ブリタニア軍基地になら受け入れてもいいが、個人邸宅周囲に軍隊を張り付けるとかやめてくれる?と断る

 

357: 名無しさん :2018/03/11(日) 17:25:36

 

大日本帝国国防予算案200兆に辻政信元大臣キレる

 

週間空母 大日本帝国の超巨大空母特集13万t大鳳型へ至る道

週間大和 巨大電磁砲の最大射程は1000㎞超え?

 

中華連邦モンゴル軍区が大日本帝国に清国攻撃日本による併合を依頼?

モンゴル軍区行政官が中華連邦は信用できない発言

 

ユーロブリタニアマグレブ王国軍司令官のグラサン宰相は旧マグレブ王国王族最後の血族?

ユーロブリタニア諸侯はマグレブ司令官に強い恩義を抱き続けている

 

日本人、ブリタニア人、オセアニア人は大昔は同族だった

 

実録高麗人は昔世界を支配していた!

 

実はオセアニアとEUは秘密の同盟関係

 

実はEUはオセアニアの半属国

 

実はオセアニアと高麗は同盟国?

 

実は高麗はオセアニアに相手されてない

 

高麗大統領府が我が国にも太平洋経済圏に入る権利があると発言

高麗が日ブを見ている

日ブは高麗を見ていない

 

辻政信が澤崎敦をいじめている

 

枢木ゲンブ総理大臣のロリコン疑惑

 

日本には何か色々スゴいバーテンがいるらしい

 

EUは近い将来分裂する

 

EUスペインレジスタンス組織マドリードの星「腐りきったユーロピア解放のため」ユーロブリタニア軍へと合流

 

欧州労働者党とEU軍の一部がクーデターを計画している噂

EUクーデター計画の中心人物はH大統領とS将軍?

 

EUはオセアニアに逆らえない

オセアニアはEU人を白豚扱い

超古代人至上主義者は新人類を劣等種扱い

 

358: 名無しさん :2018/03/11(日) 17:26:11

 

シーランド王国には超秘密兵器が山盛りの噂

人工島国家シーランド王国はまだまだ拡大していく

 

大日本帝国がEU侵略併合を計画している

EUフランス大統領は日本からの西征に怯えている

 

大日本帝国とEUの全面戦争でEU滅亡?

 

スメラギコンツェルンのオーナーは大日本帝国の帝?

 

ランペルージグループの経営者一族はブリタニア皇族の噂

 

大日本帝国は謎の秘密結社に支配されている

謎の秘密結社と倉崎には繋がりがある

 

ペンドラゴンタイムス記者ベンジャミン・フルホードの先祖はベンジャミン・フランクリン

 

ギャンブル全戦全勝の山本五十六最強伝説

山本五十六欧州カジノ制覇、仕上げはシーランドのカジノ

シーランド王国が山本五十六の同国カジノの出入りを禁止

シーランド王国カジノ組合の対山本最終兵器はブリタニアの騎士リーライナ・ヴェルガモン

 

超富国強兵内閣を率いた嶋田繁太郎とナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーのスイート話

 

モニカ・クルシェフスキーの味音痴伝説

日本一不味いラーメンを最高に美味しいと評価

日本一辛いカレーを最高に美味しいと評価

石鹸で洗ったお米を美味しいと発言

メシュラン総評、美味いの反対は不味いではなくつらい

勇者嶋田自伝モニカ食体験日記 愛さえあればなんでも美味しい

 

ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキーはシマダ分が無くなると・・・

 

モニカ・クルシェフスキーはラーメン中毒者

 

高麗危機! 合衆国オセアニアがフレイヤ搭載中距離ミサイルを高麗に秘密配備

オセアニア圏へ高麗加盟の噂

 

 



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紅桜

 

 

皆さん花見行かれました?

 

 

 

 

 

 

 

紅桜

 

 

 

 

在日本ブリタニア大使館には、よく大日本の大物政治家や財界の重鎮が訪れる

在ブリタニア日本大使館にも同じ事は言えようが、ブリタニア大使館の側は明らかに目立っていた

 

その理由として、万人に周知の事実がある

 

それは駐日大使と、駐日大使の補佐官が、共にブリタニアの皇族である事に起因していた

 

ブリタニア大使館の主たる大使は彼の国の第二皇女コーネリア・リ・ブリタニア

大使補佐官は同国の第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア

 

いずれも神聖ブリタニア帝国の皇位継承権上位の皇女がその任を務めている

 

それが故に大日本側も、ブリタニア側も

緊密な連携を取る都合

環太平洋経済圏という世界最大の経済規模を誇る経済圏の話などをする両国のみの秘密会談などに彼の大使館を使用しるケースもままあった

 

嶋田はその日、伏見宮や辻・山本たちと表敬訪問しつつコーネリア・ユーフェミア、お忍びのマリーベル、お忍び中のお忍びである超VIPのS・Z・B氏との会談の為に同大使館を訪れていた

 

S・Z・B氏はただ日本在住の娘、息子たちとお花見をする為に訪れており、共に訪れていた妻たちを伴い子供たちに何処にて花見をするかを日本側の重鎮と話していただけ

正確にはそれだけが総てであるS・Z・B氏にコーネリア大使、ユーフェミア大使補佐官、伏見宮を始めとした嶋田たち日本の重鎮は呆れ返っていたわけだが、そんな意味不明な主張にS・Z・B氏の兄、正妻のM妃が「いい加減にしろ」と合いの手を入れたところで会談は一時休憩となっていた

 

その中、大使館の庭に足を踏み得れていた嶋田は己が眼に映るその光景に一人静かなため息をついていた

 

焦げ茶色の太い幹

 

広く伸びた枝に沢山の桜色の花を咲かせながら立つ一本のソメイヨシノの前、一人佇むタイトなスカートをした公務服姿の女性は、緩く束ねあげた大きなポニーテールを風に揺らせ、宙を見上げている

 

風にそよぐ長い髪は濃い桜色

 

背景には白が薄く桃色に色づいたソメイヨシノ

 

白桃と濃桃の調和が織り成す一つの美

 

"綺麗だな"

 

つぶやきが背中越しに聴こえたのだろう

美しい絵画を描き出していた女性、ブリタニア大使補佐官であり、嶋田の妻でもあるブリタニア第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアは、はたと後ろを振り返った

 

"シゲタロウ"

 

如何なさいましたの?

 

花見を目的に日本を訪れた非常識な父との会談に訪れていた嶋田に、彼女はそう問いかける

 

サア――

 

流れる風に舞い散る花びら

風にそよぐ彼女の濃桜色の髪

 

嶋田はユーフェミアの問いかけに答えることなく庭に歩を進めると、ユーフェミアを、愛しい妻を抱き締めた

 

"シゲタロウ?"

 

どうなさいました?

 

柔らかく抱き締められたユーフェミアは、夫・嶋田繁太郎の腕に収まりながらもう一度問いかけていた

 

彼は窮することなくその問いかけに答えた

 

"紅桜の様に綺麗だから風に散らないようこの腕に抱き締めたかった。それだけだよ"

 

ユーフェミアのそよぐ髪、紅桜

見立てたそれを優しく撫でながら嶋田は紅桜その物であるユーフェミアを腕の中に入れ、花びら舞い散らせるブリタニア大使館のソメイヨシノを彼女と二人で見上げていた

 

 

 



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調子乗りなだけにもしもな兄弟関係

 

 

野球で盛り上がってるとこに投稿し辛いですが、嶋田玉城間の一レスネタ

調子乗りなだけにもしもな兄弟関係

 

大日本にこの人ありと謳われた稀代の政治家、元大宰相

下手をすれば太平洋戦争を上回る規模での大戦となり得たであろうニューギニア戦争を、大戦にまで至らせずに乗りきり、重ねて見事な大勝へと導いた時の内閣を指揮していた救国の英雄、嶋田繁太郎、彼は政界引退後の皇歴2020年春に結婚した

 

お相手は、彼が予てより交際していた、同盟国ブリタニア帝国の第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニア

 

慈善事業や、戦災孤児への手厚い福祉事業などに取り組んでおり、慈愛の皇女と呼ばれ、日ブ両国民や、世界中の両国の保護国民からも慕われている、優しさに満ち溢れた女性であった

 

二人の結婚は、両国民より大変歓迎されており、本人たちは内々だけで良いというのに、国をあげての盛大な結婚式となってしまった

そこにはただ二人を祝福したいという、純粋なる思いとは別に

世界一位、二位の、二大超大国の大日本とブリタニア、両国それぞれの元大宰相と、上位継承権を持つ第三皇女との結婚ともなれば国の威信に関わるからという思惑も多分にして働いていた

内々に済ませる事など元より不可能な話の結婚式を無事に終え、二人は晴れて夫婦となっていた

 

そのちょうど一月後のことだった

 

ブリタニアの皇女がまた一人、日本の男性と結婚した

 

その皇女とは、ユーフェミアの腹違いの姉であり、戦うお姫様の通り名を持つ第八八皇女、マリーベル・メル・ブリタニアだった

 

ただ、マリーベルの結婚については、本当の内々で済ませられ、公にはされておらず、公式には独身のままであるといった結婚であったのだ

 

マリーベルのもう一つの身分である、マリーベル・ランペルージとしての彼女が結婚したのだ

 

この結婚が隠された理由は単純明快だった

 

それは、お相手の男性が正真正銘の一般人という、皇女マリーベルとあまりにも身分が違いすぎた為

身分は元より、素行にも少々問題のある人物で、とても公にすることはできなかったのだ

 

ほぼ同時期に娘が二人結婚した事で大いに動揺していたロールケーキヘアー親父の精神が大変なことになっていたらしいが、そこは割愛

 

マリーベルの結婚の陰で一人の少女が哀しみの涙に濡れ、マリーベルに対して略奪してやると宣言するという不穏な出来事があったりもした

 

多分に問題をはらむそのマリーベルの旦那様、玉城真一郎という、調子のよさが形になったような男と、嶋田は、前から少々の付き合いがあった

 

「嶋田のおじさん、お疲れさまっす」

 

「え、いいんすか奢りって。あざーっす」

 

「俺、帝大行って幸せになるんすよ」

 

いくつかの発言からも見てとれるように、嶋田に対してかなり下手、子分みたいに敬語を使いへりくだっていた

お調子者で馬鹿、玉城を表す代名詞にふさわしからぬ態度は、そこは彼も目上の者にはといった一般常識があったのだ

嶋田とユーフェミアが結婚したあとも、もちろんその態度に変化はなかった

 

「まさか嶋田のおじさんがユフィと結婚するとか思わなかったっすよ。おめでとうございます! よかったなユフィ!」

 

ブリタニアファミリーにはランペルージという世を忍ぶ身分がある

ユーフェミア・ランペルージとは知り合いな玉城は、こんな感じで二人を祝福していた

わけだったのだが、その一月後、ユーフェミアの腹違いの姉である妻のマリーベルと結婚した、その日から態度が一変してしまうのだった

 

『玉城くんのことですが、嶋田さんへの接し方がこれまでとは180度変わるかもしれませんので、まあそういう青年ですから 』

 

マリーベルの結婚式後の事、嶋田は辻から聞かされていたのだがまさかの変わり身であった

 

「おう兄弟~!」

 

「繁太郎、おまえこれどう思うよ~」

 

「なあなあ繁太郎、ちょっと聞いてくんね?」

 

「なんだよ水くせーじゃんよ弟!」

 

いきなりの呼び捨て

 

礼もなにもあったものじゃないタメ口のオンパレード

 

馴れ馴れしすぎる態度

 

嶋田は辻の言葉の意味がわかった

 

友人のV.V.がよく言っていた話も身に染みてわかった

 

うざい

 

この一言に尽きたのだ

 

 



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五月五日とは端午の節句

 

 

 

 五月五日とは端午の節句。

 端午の端とは「はじめ」を意味し、「端午」その物は、五月初めの午の日のことを意味している。

 そして、午は文字の音が五と同じくしていることもあり、古くから五月五日が端午の節句として日本では定着していた。

 

 時の移ろい、時代の移り変わりにより、貴族と並び立ち武家が台頭してきた中で、菖蒲の音が武家の役目たる武事や軍事を意味する「尚武」と重なるところから、端午の節句は尚武の節句として、祝われるようになっていた。

 主に生まれたときから家のお世継ぎとして定められる男子の成長と、その家の一族繁栄の祈願として執り行われるこの祝い事の由来や経緯から、五月五日は端午の節句、男の子を祝う日として扱われるようになり、現代へと至る。

 

 五月五日は男の子の日で、こどもの日である。

 これはもう日本とも大変な友好関係にあるブリタニア人にも広く知れ渡り、常識ともなっていた。

 日本華族とブリタニア皇族間で婚姻関係が結ばれる世なのだ。

 その身内のブリタニア人にも、端午の節句祝いをしようと考える者が、いたりもするだろう。

 

 その場所がブリタニアの大使館内で、公務中であったとしても。

 

「さて お前はどちらを選ぶのだ?」

 

 紫の髪をした鋭い視線の美女が、来客用のソファに並べられた日本の武家風の兜と鞘に納められた刀、ブリタニアの騎士風の兜と鞘に納められた西洋剣、最後にナイトメアフレームの起動キーを前にして、自らが抱いていた子供がそれらを見やすいようにと、ソファへ身体を寄せていた。

 返事はない。

 

「だあ だあ だう!」

 

 それはそう。彼女の抱いている子供が、子供と呼ぶにはまだ幼すぎる赤子なのだからしょうがない。むしろ返事をしたら天才だ。

 

「御公務の最中によろしいのですか?」

 

 こんなことしてて、と言ったのは。鋭い目付きをした美女とは違い、目付きの柔和な女性であった。

 しかしその異なる二人の面差しは、どことなく似ているところがある。

 

「ふっ 此処の最高責任者である私が良いと言ったのだ なにも問題はあるまい」

 

 大使館の責任者である鋭い目付きの女。ブリタニア第二皇女コーネリアは、自分の権限で了承したから良いのだと俺様理論を持ち出しながら、傍らにいる目付きの柔和な桃色髪の女性に、大使館�・2の地位に在る妹の第三皇女ユーフェミアに対して言い放つ。

 

「それにいまは休憩中だ 誰にも文句は言わさん」

 

 公私混同も甚だしいところなれど、赤子に夢中のコーネリアは気にすることなく、ソファに並べた贈呈用の品々を男児の赤子に選ばせようとしている。

 

「いえそうではなく この場にこの子を連れてきていることがです」

「構わん 大使でありこの子の叔母である私が構わないと言っているのだぞユフィ」

「お姉さま……」

 

285: 名無しさん :2018/05/15(火) 19:37:24

 

 

 

 

 そんな姉を困った顔で見るユーフェミアは、しかし彼女も彼女で、姉の抱く子が何を選ぶのかについて興味はあるところだった。それはコーネリアの抱いている子が、他ならぬ自分の息子であるからこそだ。

 

 ==シゲタロウ 今日はカズシゲを大使館で預かるぞ==。

 

 早朝、コーネリアはユーフェミアの夫の繁太郎に、出勤する妹に子供を連れてこさせるようにと伝えていた。

 

 繁太郎とユーフェミアの子、カズシゲ・リ・ブリタニアは男の子である。

 

 五月五日で端午の節句だから丁度良い。武門のリ家の者として相応しき男に育て上げたいと、妹と妹婿を余所に張り切るコーネリアは、贈り物として日本ブリタニア両国の武に精通する品を用意して待っていたのだ。

 いまは兜二つに刀と剣がそれぞれ一振りずつ、ナイトメアフレームのキーが一つソファに置かれているだけだが、彼女はこの日のために日本の武士甲冑と、ブリタニアの騎士甲冑まで用意している。

 なんとなれば、ダールトンとギルフォードにそれぞれ甲冑を着せて参上させても良い、といった具合に考えて二人を控えの間に待機させたりしていた。

 

「だ~う だぁ」

 

 カズシゲはコーネリアの期待に応えるように手を伸ばした。

 

「ふふふ見よユフィ やはりこの子は武門の皇家たる我がリ家と 同じくして武門のシマダ家の血を引く子だ 品々に興味を示しているぞ」

「お姉さま 赤子は目の前に初めて視る物があれば何にでも興味を示すものですよ」

 

 繁太郎と結婚し、お腹の中に子を授かったときより子育てについて学んできたユーフェミアは実体験を通して知り得たことを姉に伝えた。

 

「ほう なるほど母親としての体験談か 参考になるな」

 

 コーネリアの婚約者ギルフォード卿は婿入り前。

 子供を授かるのはまだ一年以上は先の話。

 やがては経験する事柄を伝えられることは、彼女にとって先々のためにも勉強になる。

 

「子育ては思う以上に難しいことです お姉さまも頑張ってくださいね」

「そう急かさないでくれ 子供もなにも私はまだ結婚前なのだから」

「うふふ そうは仰られても事が進み始めると案外と早い物なのです 結婚 妊娠 出産と まるで景色の移り変わり行く車窓からの眺望のような目まぐるしさでした」

「そんなものか? だがお前とシマダ卿 シゲタロウの場合は早すぎるだけにも思えるがな お前達が付き合い始めてからこの子が生まれるまでに二年も掛かっていないではないか」

 

 コーネリアは納刀されている日本刀に手を伸ばすカズシゲを抱き直し、言った。

 

「一年半ほどだったかな 父上と背比べの早さであった」

 

 ユーフェミアは繁太郎との出逢いより僅か二年以内に結婚、お世継ぎ作り、出産子育てと、全てを経験していたのだ。早いと言えば早い。しかし彼女達の父親と比べれば差ほど大きな差はないとも言える。

 百人以上の妃を持ち、今も尚新しい妻だ愛人だと騒がれる父親のケースと比較するのは無理もあろうが、もっとも身近にある父と比較するのは、それはそれで正しい娘の姿であった。

 

286: 名無しさん :2018/05/15(火) 19:37:57

 

 

 

「愛あればこそです」

「一言で片付けたな いや単調でありながらもそれこそが唯一の真実なのかもしれん」

 

 コーネリアの腕の中の赤子がまた手を伸ばす。

 触れた物は順に、日本の兜とブリタニアの兜。

 次いで、刀と剣。

 最後にナイトメアフレームの起動キー。

 

「ふむ これはどう見るべきかな?」

 

 用意された品々にカズシゲの手は余すことなく触れていた。

 どれか一つではなく、どれにも等しくだ。

 

「カズシゲ あなたはどれが気に入ったのですか」

 

 ユーフェミアは腰を低くしてしゃがみ、姉の抱いている我が子に目線を合わせると、言葉も分からない我が子に問い掛けていた。

 

「兜ですか? 刀剣ですか? それともナイトメアのキーですか?」

「だ~う だ~う」

 

 赤子カズシゲは話し掛けてくる母親の顔をぺたぺた触りながら「だぁだぁ」としゃべっている。

 言葉になっていない言葉で母ユーフェミアに話し掛けている。

 何かを伝えようとしているのか、そもその言葉に意味など無いのかただぺたぺたとユーフェミアの頬を触っては、口を開いていた。

 

「或いはそのどれも全部か だとするならやはりこの子は武を重んじるリ家の申し子だな かつて分裂寸前であったブリタニアを再統一なされた高祖クレアのような偉業を成し遂げるやもしれぬ」

 

 コーネリア、ユーフェミア姉妹の高祖、クレア・リ・ブリタニアは、日本の支援を受けつつもブリタニア大陸全土に広がっていた戦乱を終わらせた大皇帝だった。

 この時代でのクレア並みの武の偉業ともなれば、それこそ数百年来の対立関係にある合衆国オセアニアと、それに追随する民主共和制原理主義勢力の完全討滅の達成くらいであろう。

 

「お姉さま わたくしはカズシゲが戦乱に巻き込まれることを望みません」

「まあそれは確かに無論のこと起らぬに越した事は無いが しかし時として戦とは否応なしに始まってしまう事もあろう 近年のオセアニアの大軍拡を目の当たりにしているとな また或いはだが現在の冷戦的対立構造を打ち崩し 新たな世界秩序の構築を平和理に成し遂げるその騎手にこの子が立てばやはり高祖クレア並の偉業となる」

 

 妹の子だからとカズシゲを過度の期待の目で見るコーネリアに、ユーフェミアは苦笑いを浮かべて言った。

 

「わたくしと致しましては 大きな何かを成し遂げなくてもいいので この子には普通の人生を普通に生きていってもらいたいものです」

 

 母と叔母の話を意味も分からず聞いていた0歳児は、変わらず母の顔をぺたぺたしていた。

 

「だうだ~う」

 

 



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部下からの相談を受けてます

 

 

部下からの相談を受けてます

 

 

 

「どうしたら良いのでしょうか?」

 

 

 

 

 

ナイトオブトゥエルブ=モニカ・クルシェフスキーは、ラウンズ12席次の親衛隊員で、自らの部下・・・の知り合いの、家の問題での相談を受けていた

 

受けていた、話をされていたと言う言い方が適切だろうか

 

何せ彼女は騎士にして軍人。何れはブリタニア帝国クルシェフスキー侯爵領の領主となることを運命付けられている身ではある物の門外漢であったから

 

しかし、彼女は部下の話に真剣に耳を傾けていた

 

「その知り合い、祖父が昔に日本に帰化したブリタニア系日本人の三世なんですが、50年以上も昔に建てた家の老朽化が激しくて、雨漏りは7年ほど続いていて、雨樋やトタン外壁等は昨年の台風で壊れたり剥がれたりして、かなり危険らしいんです」

 

「危険とは、具体的にはどの様に?」

 

「そんなに長く持たないかもしれない、倒壊危険家屋らしいんですよ。国や市からの勧告はまだらしいのですが、自治体の役人からは以前に転居を進められていたとか。ただその友人、生まれも育ちもその家らしくて、中々踏ん切りがつかずに、御兄弟から指摘を受けて漸く動き出すほど決められない男でして。ああ、こちらは補足となりますが、友人はかなり収入も低くとても修繕費用が出せなかったらしく現状になるまで放置してきたようです」

 

「なるほどそうですか。では、それなりの緊急性のような状況下にあると」

 

「は、そこでモニカ様に何か生活についての、具体的には公営住宅への入居ができるようになればなどの、その・・・、ご、ご助成をいただけないものかと」

 

優しくも厳しい上司へと部下が口にしたそれは、理由はあれどもそう、口利きであった

 

「・・・」

 

これを受けたモニカは、少し言葉を切り、口を開く

 

「申し訳ありません。私は月並みな助言以上のことは残念ながら致しかねます。確かに私の持つ権限、ナイトオブトゥエルブではなくクルシェフスキー侯爵家の次期当主としての権限を使えば某かのご助成は敵うのかもしれませんが、それは完全なる不正行為に当たります。ましてやブリタニア貴族として法を遵守すべき立場にある私がその様なことを行っては、ブリタニア人は日本の法を軽んじていると受け取られますよ? 日本の法治主義を無視した主権侵害にもあたります。アーネスト、貴方の仰らんとしていることは私を動かしての口利きであり不正です。ご友人へのお気持ちはわかりますが、これは日本の自治体の判断、そしてご本人の判断がすべてであって、私が口を差し挟んで良いことではありません」

 

日本の法に乗っ取って対処をしていくべき案件だとモニカは部下を諭す

 

「しかし、個人的には動くこともできましょう」

 

諭しながらも、手を差しのべた

 

「どういうことですか?」

 

「例えば、私個人の縁としてですが、あなたもご存じの嶋田さ・・・嶋田卿の知り合いであり私も知っている民間人の方が都内で不動産業を営まれています。その方へ、賃金との兼ね合いが取れ、早期に入居できそうな良き物件はないかと、ご相談はできますよ。まずは、貴方のご友人の話を、ご本人の口よりその不動産業を営んでらっしゃるお方にご説明をしていただかなくてはなりません。よろしいですか?」

 

にっこり微笑んだモニカに、部下は顔を明るくさせながら、大きな声で、イエスマイロードと返事をした

 

 

 

 



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モニカは不思議な夢を見た

 

 

 

モニカは不思議な夢を見た。

それは、嶋田さんと夜戦を終え眠っていた時だった

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば、殺風景で何もない荒野の場所に立っていた。

「ここは・・・?」

 

モニカが周りを見回していた時だった

『ようやく会えました』

「・・・っ!誰ですか!?」

 

振りむいたモニカは驚いた。

そこにいたのは

 

『初めまして、私はモニカ・クルシェフスキー。あなたが私の中に入った人です』

「え・・・・わ・・・・私?」

もう一人の自分がいた。

ただし、もう一人の自分はとてもくたびれており、悲しい目をしていた。

 

 

落ち着きを取り戻したモニカはどうしてそのような目をしているのかと訳を聞く

 

『・・・・私はあなたがフローレンスを操り、叛逆の騎士が乗るランスロットアルビオンとの戦いを

中から見ていました。とても見事な腕で私では到底及ばない領域でした。まるで伝説の騎士がその場に蘇ったかのようでした。

そして、記憶の一部も拝見させていただきました。守るべき人もいる。

 

だから、私は悔しくて修行を積み、ランスロットアルビオンとの仮想シミュレーションも繰り返した。

・・・しかし、私は腕が上がらなかった。何度もやっても秒殺で終わってしまいます。ジノやアーニャは数分戦闘出来たというのに・・・

 

私は落ちこぼれで、皇帝すらも守れなかった騎士です。

あなたが・・・・あなたが・・・・!!とても羨ましくてたまらない!!

守るべき人もいて、強いあなたが!!どうして!!あなたばかりが!!』

とうとうモニカは泣き崩れ墜ちた。

 

 

それを聞いたモニカは�壓太郎に出会う前の自分のように見えた。

かっての自分はクルシェフスキー家の騎士として育てられ

虐待とも見られる教育を受け、仮面をかぶるようになった。

騎士の義務感と貴族の矜持だけで生き、多くの人を傷つけた。

無表情で機械のような自分。

 

そんな自分の凍てついた心を解かし、自分を本物の騎士へと連れてってくれた。

そして、勝手な騎士の誓いも�壓太郎は受け入れてくれた。

 

 

だから、私は強くなれた。

�壓太郎を守りたいから

 

 

 

 

「立て」

私はもう一人の自分に声を掛けます

 

「立て。剣を取れ」

この私の殻を破壊するために

 

513: 483 :2018/05/30(水) 22:35:27

 

 

 

数時間後、二人のモニカは対照的だった

一人は地面に倒れ、一人は立っていた

 

『はぁ・・・・はぁ・・・・・』

「・・・これほどですか?あなたの剣は」

 

 

モニカは激怒した

これほどまでに情けない自分がいることにだ

 

 

「あなたの剣は軽すぎる!!力も技術も!!なにより信念がない!!

だから、あなたは弱いままなのよ!!」

『好き・・・・・勝手に・・・・言ってくれるわね・・・・』

もう一人のモニカがえづきながら言う

 

『私だって・・・・信念はあった!全てを・・・・・皇帝陛下をお守りするという信念が!!』

「違う!それは周りからの押し付けた信念だ!!あなた・・・自身の心からの信念じゃない!!」

モニカは剣を突き付け

 

「あなたも信念は持っていたはずです。弱者を守りし、降りかかる災厄を自分の身でもって守ると

小さなものであっても、見つけて来なさい。例え笑われるような物でも私が全力で肯定します。

自分の心に従って見つけなさい」

『あなたは・・・・』

もう一人のモニカが言う

 

『見つけたのですね、その答えを』

「ええ。�壓太郎と共にいます。例え祖国が敵になろうと彼と共に最後まで騎士としてあり続けると」

『私にも・・・見つかりますか?』

「さあ?こればかりは運命としか言いようが無いでしょう。

ですが、誰かが自分を必要とするこそ、この世に生まれ、生きている。

だから、あなたも見つかるでしょう。運命の主を」

 

 

モニカは剣を収めながら背を向けて歩き出す

 

 

「行きなさい。答えを見つけたらもう一度手合わせしましょう。

それまでに私は楽しみに待ってます」

『・・・・・ええ!待ってなさい!その首を洗っててな!』

「いい宣言です。もし、私に勝ったら・・・・・」

 

 

モニカが何かを言ったが、それが覚える前に

夢は唐突に終わり、新しい一日が始まるのだった・・・・・

 

 

 

 

 

その後

モニカは目覚めたかのように腕前がメキメキと上がり

フジ決戦でこれまた鹵獲されたアレクサンダリベルテを

第八世代機までに改修されたフェンリルで駆け抜け

 

多くのエースを落とし、スザクとの一騎打ちも長時間に及び

最終的には撃破されるも、ランスロットアルビオンの大部分を破壊し

カレンとの戦いを完封に持ってきた要因となる

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

ナナリー皇帝の騎士モニカの傍らに日本人と思しき男性と

付き合っているという情報がミレイに捕まり

毎日、ドタバタ騒ぎをしているという

 

 

 

おまけその2

どこかのラーメン屋で顔がそっくりな金髪女性二人が

ラーメンをモリモリ食べていた。

 

514: 483 :2018/05/30(水) 22:36:14

終わり

ちょっとモニカがモニカと出会ったらどうなってたんだろうなあと思って。

もう一人の自分との会話って意外に難しい。

 

なにかいいさくひんあるかな?

 



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現実に疲れていた

 

 

現実に疲れていた

 

僕の心境をあえて言葉にするのならそんな感じだった

辛いこと、逃げられない責任、生きづらい現実

何かをしようと考えて行動すれば行き詰まり

前向きになろうとすれば視たくない現実がそこにある

 

相談はした、知り合いに、知人に、友人に

みんな解決に向けての話や、こうすればああしてみればとアドバイスをくれた

でも現実が怖くて、何かしようとすれば物事を考えすぎて

 

どうにもならない

 

時々考える

 

死ねば楽

 

死ねば現実の問題もなにもかも、解決するから

 

でも、自殺に思いを巡らせると怖い

死ぬのが怖い

楽に死ねる方法はないのか?

安楽死を認める認めない以前に、死に対する恐怖を無くさせる教育がなぜこの日本にはないのか?

 

中学時代の先輩が羨ましくなる

なにも考えてない馬鹿な人だから

 

最近、偶然にも夜の街頭で出会って、飲みに行こうと誘われた

相変わらず何も考えていない人だった

それでも、その時は楽しかった

悩みを話しても、俺には何にもできない、気にしすぎなんだよ、楽に生きようぜって、そんな、そんな解答にもなってない返事をくれたりしただけだったけど

 

酔っ払った先輩は衆議院選挙に立候補するとか叫んでいた

馬鹿な先輩

 

馬鹿な人だけど、馬鹿楽しい人

悩み事とは無縁な人

お迎えだとか言って現れて、先輩を連れていった、女子高生くらいの女の子と仲良さげだった先輩

 

悩みがあればコイツに話せ

 

なんて、先輩は言っていたけども、僕は初対面の、それも年下のまだ高校生くらいの女の子に自分の抱えてる悩みを話せるほど楽天家じゃないので、見送るだけだった

 

僕は悩んでいる

現実から逃げたい

死にたいと、死ねば楽になれると考えながらも死ぬのが怖い自分を情けなく思いながら

 

先輩みたいに楽天家だったら

 

考えずにいられない

 

楽天家で人の迷惑を考えないあの人みたいな性格だったのなら、迷惑を省みずに争ったりふてぶてしくいられるのに

 

でも現実には弄っていたスマホで検索するのは決まって自殺とか、そんな単語ばかり

 

出てくる検索結果は自殺はダメ

楽に死にたいとか甘えるな

生きなきゃいけない

 

お約束のワードばかりだ

 

そんなとき、僕はスーサイドアタックと検索をかけたりする

国際公用語の日本語とブリタニア語だけど、日本は「その手のこと」に関連した検索は特に厳しいから日本語で検索するとお目当ての動画が中々出てこないんだ

 

映像が映る

 

『ユーロユニバースに栄光あれっ!』

 

『民主主義魂◯億総玉砕!』

 

流線型の飛行機がルイ・シャルルと読み仮名を振られた平たくも巨大な船に突撃していく

正統EU、ユーロピア共和国連合の少年兵による自爆攻撃の、プロパガンダ動画だ

 

実際にはAEUユーラシア条約機構軍の総旗艦とも呼べるルイ・シャルル級航空母艦ルイ・シャルルは自爆攻撃なんて受けたことはない

 

切り貼りされた映像がそこにある

でも、現実の映像がそこにはある

 

彼ら少年兵はどんな思いで自爆、自殺しているのだろう

楽に死ねるのかな

怖くないのかな

 

最近よく視るこの動画に、僕は自分の嫌で逃げたくて、でも逃げられそうにない、迷惑をかけたくない、他人の目を、噂話を、色々気にせざるを得ない現実を重ね合わせていた

 

「ユーロピア共和国連合軍・・・外国人部隊に志願したら楽に死ねるのかな・・・」

 

逃げられない現実を前にして戦う少年兵のように死ぬのが一番はや道な逃げ場なのか

馬鹿の先輩みたいに何もかも吹っ切って適当に生きればそれが一番なのか

 

今日も僕は逃げたい現実の中で部屋に一人、言葉も発さずに考えていた

 

 



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男も女も人は必ず一度くらいは恋をする

 

 

男も女も人は必ず一度くらいは恋をする

 

普通の人も

 

危険な人も

 

自分を知ってる人も

 

自分を知らない人も

 

みんな恋をする

 

身近な異性に、身近な同性に、或いはテレビの向こうのアイドルや俳優さん、女優さんに、またアニメや漫画の男性に女性に

 

私も恋をしている

 

一度目の恋だ、初恋だ、そして最初で最後の恋だと確信できるほどに私はその人の事が好きだ

 

愛している

狂おしいほどに

気が変になりそうなほどに

毎日毎時、心を占めるざわざわやドキドキに苦慮していた

 

極端な話、殺してしまいたいほどに愛している

 

だって、殺してしまえば彼は永遠に私だけのものになるもん

 

でも、反面それは嫌でもあった

彼を愛している私を見てほしい

彼を愛している私を彼にも愛してほしい

 

好きと好きになりたい

 

理屈じゃないんだ

好きなんだもん

 

「お兄ちゃんだーい好き!」

「うおったぁ、このやろまーた抱き付いてきやがって・・・ちょっとドキッてするくらいに胸部も膨らんで来てンだから、こんな気軽に抱き付いて来ンなよなぁ」

「好きなんだもん! 悪い? クララに抱き付かれるの嫌? クララの事嫌い?」

 

こんなことを尋ねるのは怖いこと

だって、嫌いって言われたら、嫌だって言われたら・・・・・・・・・・・・殺して自分のものだけにしたくなっちゃうもん

 

殺しちゃえばマリーお姫様のものにもならない

コーネリアお姫様のものにもならない

未来永劫永遠(とこしえ)にクララだけのものになるから

 

でもね

 

そんなの、やだ

 

私は、クララはお兄ちゃんに愛されたいもん

お兄ちゃんがクララを愛してくれるのなら、クララは他に何もいらないもん

お金も地位も嚮団での何もかもも

全部なげうってお兄ちゃんに愛される理想の女の子になるよ。ううん、なってみせるよ?

 

「べ、別に嫌いとか嫌ってわけじゃねーけど、なんだほれ、お前ももう高校生なんだし、ちったぁ慎みってもんをだな」

「慎みの意味知ってて言ってるのかな。あー違うか~、どうせお兄ちゃんの事だもん知ってるはずないよね~♪」

 

ほら、お兄ちゃんってば照れてる

クララに抱きつかれて照れてるよ?

ほら、クララの事を意識してる

幸せ

幸せいっぱいだよ

 

ね、お兄ちゃん。だからクララだけを視ていてね? じゃないとクララ、

 

 

 

したくないことをしちゃうかもしれないから

 

 

 

マリーお姉ちゃんが目下の敵かな

ブリタニア第88皇女といった立場にあるのに何にもない一般人のいい加減が服を着て歩いているようなお兄ちゃんを好きになるなんて

しかも愛してるとか

立場をわきまえてよね

 

でも誰が相手であっても渡さない

 

お兄ちゃんは、玉城真一郎はクララ・ランフランクだけのものなんだから

 

81: 名無しさん :2018/06/30(土) 00:54:43

コーネリアひまだしもマリーってライバルがいるとクララちゃんも精神的に不安になりもしますでしょという話

 

 



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七夕遅れ

 

 

七夕遅れ

 

 

 

 

 

その日、嶋田繁太郎は朝、仕事に出かける同居人の背中へ声をかけた

 

「モニカさん、今夜は一緒に過ごそう」

 

振り替えるモニカ・クルシェフスキーの長い金の髪が翻り、揺れた

 

「・・・は、はいっ! 我が君っ!」

 

上擦った声音は、いってらっしゃいと告げるいつもとは異なる嶋田の送り声に無意識に反応してしまったが故に

今日は七月七日の七夕

きっと何かの意味があると思ったが為のものであった

 

 

嶋田は、我が君と呼ばれて面食らう

モニカは普段そうした形式を嶋田には使わないからだ

使わない言葉を使う

見せない姿を見せる

彼女がそうするときは某かの特別な意識化に置かれている時であると彼は経験から察していた

 

気付かれている

 

僅かな違いにまごうことなく気付かれていると彼は悟った

嶋田は確かにいつもと違う言葉を意識して投げ掛けていた

今日は七月七日の七夕であるから

 

年甲斐もなく彦星である自身が、織姫であるモニカと会瀬を重ねる日、などと勝手に考えてしまったのだ

 

そうして互いの意図が察し合った二人はその場で別れた

 

彦星と織姫のように、会えない365日へと突入するかのごとく

 

 

 

 

 

 

「すみません嶋田さん山本さん、今日の会合ですが最後までご同席願えますか?」

 

「え?」

「なに?」

 

夢と幻と会うと書いて夢幻会

その会合の最中、嶋田、そして彼の友人である山本の二人はどうしても最後まで残るようにと辻から告げられた

 

突然にだ

 

「いえ、お二人に対しての重要議題がありまして、お残りいただかなくてはならないのです」

 

そんな話は聞いていない

嶋田は抗議の声を上げようとした

それを制止したのさ場の最高権力者であった

 

「すまんな嶋田くん。そして山本くん。第一次嶋田政権時代のことで少しな。残ってはくれないか?」

 

伏見宮博恭王。大日本帝国を影から支える最高権力者から頭を下げられては、さしもの嶋田も山本も、声を上げられなかった

 

 

 

 

 

 

クルシェフスキー卿、今夜は悪いが残業となります

 

「え?」

 

駐日ブリタニア大使館の自身の執務室で、ブリタニア帝国最強の騎士、円卓の騎士ナイトオブラウンズの末席にいるナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーは、自身の副官より告げられた残酷な一言に己が眼を点にしていた

 

「先日よりのオセアニアの不穏な動きに対しクルシェフスキー卿よりの見解を畏れ多くもV.V.殿下よりお聞きしたいとV.V.殿下御自ら大使館へ足をお運びになられておりまして」

 

V.V.、モニカが仕える主たるシャルル・ジ・ブリタニアの実兄にして、神聖ブリタニア帝国影の権力者

彼女はその名と、その内容に碧い瞳を揺らめかせながらも、そんな話は聞いていないと内心で叫びつつ、副官へ「イエスユアハイネス」と答えた

 

263: 名無しさん :2018/07/08(日) 23:51:19

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅くなってしまった

 

嶋田は焦る

 

焦りながら汗を流して走る

齢60の身には短距離といえども全力疾走は堪えると分かりながらも走っていた

いつも彼女と過ごす、平和な自宅の居間へと

 

 

 

遅くなってしまった

 

走る、彼女は走る、騎士の最高峰に立つラウンズたる己が身には対した距離ではないと分かりながらも焦りによる汗を流しながら

 

モニカは、平和な日常だけがある嶋田邸の中でも最も暖かな場所である、彼の居間へと

 

 

 

「モニカさん!」

 

壮年の男は汗を飛ばして叫んだ

 

「嶋田さん!」

 

若き大騎士は金の髪を振り乱し叫んだ

 

時は同時

 

間を図ったかのように一秒のタイムラグもなく、二つの扉が開かれた

 

嶋田、いや、彦星の瞳には黄緑のマントを羽織、長い金砂の髪を靡かせた碧い瞳の織姫の姿が映り

 

モニカ、いや、織姫の瞳には白交じりの髪を撫で付けた、グレーのスーツ姿の男が映る

 

 

 

 

時は午後11:59分

 

 

静かに自然に抱き締め合った二人は、1分という七月七日に間に合ったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

「予想されてましたか?」

 

丸い眼鏡を人差し指であげながら、男は二人に話しかけた

 

「まさか」

 

「流石にないな」

 

短い少年のような声音と、同じく短い渋味のある声が否定の意を示した

 

「クルシェフスキー卿と嶋田くんが11:59分ちょうどに落ち合うなど」

 

「計算の埒外さ」

 

問われた二人はさも愉快そうに微笑んだ

 

「く、確かに。山本さん側まで同じくのタイミングともなると、これはかなりの低確率となるでしょうしねぇ」

 

丸い眼鏡の男も、少年のような男も、壮年の男も、三人とも楽しげに笑った

 

 

夜空に広がる天の川を見上げながら

 

 

 



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愛・七夕 嶋田繁太郎とユーフェミア・リ・ブリタニア編

 

 

 愛・七夕 嶋田繁太郎とユーフェミア・リ・ブリタニア編

 

 

 

 

 七月七日の七夕は、天の川を挟んで織姫と彦星が年に一度の逢瀬を重ねる日である。

 七夕にまつわる昔話は、現代になっても色褪せることなく語り継がれていた。

 

 しかしだ。

 もしも織姫と彦星が年に一度という制約無くいつでも逢えるとしたら?

 

 

 んう――シゲタ……ロ――っああ……

 

 

 それはもう目を覆うほどの愛を交わし合う事疑いなし。

 

 

 ユ、フィ――――……

 

 

 好きであるからこそ、愛を交わさずにはいられない。かつては海軍軍人として海の男でもあった、老齢に差し掛かってもなお逞しい胸板や体付きを持つ者。

 嶋田繁太郎に、優しくでいて、それでいながらも熱く愛される、長い濃色の桃色髪を波打たせつ、彼の名を口にした者ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 

 いつでも一緒だからこそ、いつでも愛を交わし合う。

 仕事や、一人で何かをしている時を除けば仲良く寄り添う夫婦なだけに。

 

「織姫は待つに非ず。彦星は観るに非ず。常に共にいればこその求め合わずにはいられない愛の有り様ですか」

 

 日本の唯一無二の同盟相手、神聖ブリタニア帝国の皇族、第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアの下へと婿入りした嶋田を訪ねていた辻政信は、リ家の離宮の空へ大きく広がる煌めく夜空を眺めながら、手にしたカップを口にした。

 

「背中を押した者としては喜ばしい限りですが、これは早くもリ家に皇子か皇女がお生まれになりそうですね」

 

 彼がここにいたのは何もデバガメをする為ではないのだ。リ家へ婿入りしたとはいえども嶋田は夢幻会に属したまま。何かの定例会合の決定や、会合の経過があれば、知らされる立場に在った。

 秘匿回線での通信会談でも大丈夫だろう、と、考える事もできる。しかし、万が一は起こり得るとして話が漏れでないように誰かが直接赴くのだ。連絡員の誰かでも居居。無論、夢幻会直属の。

 ただ、偶然にも辻がブリタニアに用事があったために訪ブしていたので、彼が自ら伝えに訪れた、という話であった。

 幸いにもユーフェミアも嶋田の秘密や夢幻会の秘密を知る立場に在った。だから話はすんなりと通る。

 そうして訪問した時間に、ユーフェミアの執務室へと案内されかけて、偶々室内より情交の気配が漏れ出ていたのを知っただけのこと。

 辻を案内した侍女も己の主人達が執務室に鍵を掛けて、情交に及んでいるとは露程も思っていなかったようで顔を赤くして、辻の訪問を扉越しに告げたのである。

 

310: 名無しさん :2018/07/11(水) 21:39:21

 

 

 10分後、嶋田とユーフェミアは揃って執務室の扉を開いて応接室へと姿を現した。

 嶋田はきっちりスーツを着こなし、ユーフェミアは昔と変わらぬ公務服を着用している。

 

「お、お待たせ、しました、辻さん」

「ツ、ツジ卿、お久し振り、です」

 

 嶋田のスーツの下に見えるワイシャツが汗ばみ、彼自身の息が荒く。

 ユーフェミアの纏められた髪がしっとりと濡れていて、タイトなスカートの裾にしわが出来ていることについては目立った。

 ついでに上げるのならば二人とも胸元が少し乱れている。

 

「お久し振りですね嶋田さん、ユーフェミア殿下」

 

 辻は息も絶え絶えで、呼吸の一定しない二人を涼しげに見遣る。

 隠せている、と考えていそうなところがこれまた哀しみと、そして、微笑ましさを誘った。

 

「世の男女の誰しもが羨み羨望の目を向けられそうなその仲の良さは相変わらずのようですね」

「うっ」

「ユーフェミア殿下もお早く親王様を授かるとよろしいですね」

「はうっ」

 

 きっちりとバレテイタ、思い至るに声が良くなかったのかも知れない。

 七夕の風習の雰囲気に流されて、流されるままで着衣のままに、ソファで、執務用の椅子で、愛を紡いでしまったのが良くなかったのかも。

 元が上気して赤い顔の二人が、辻からの指摘を受けて更に顔を真っ赤っかにしていた。

 

「よろしいことじゃないんですか。織姫と彦星が夫婦としていつも一緒にいるのですから、偶にはこうして七夕愛に耽るのも」

 

 辻がカップを一つ口にし、涼しげに語ると。

 

「それはそれでまた別種の風情を感じます」

 

 真っ赤っかな二人は。

 

「つ、辻さん用事があって来たんでしょうがそういうお話しはちょっとっ!!」

「ご、御用向きは夢幻会での会合の事についてではないのでしょうかっ!? じ、重要なことですわっ、私たちの事などどうでもよい事だと思いますっ!!」

 

 必死になって話を逸らそうとしていた。

 

311: 名無しさん :2018/07/11(水) 21:40:07

 

 

 辻が帰った頃。

 

「ふう、一時はどうなるやらひやひやものだったが」

「何とかなりましたわね」

 

 何ともなってない。

 バレた段階でもう詰んでいた。

 

 だが嶋田とユーフェミアの二人は、それ以上プライベートな話へと発展しなかった事を良しと考え、割り切ることにしたのだ。

 そもそも初めて愛を交わした日、二人の背を押してくれたのは他ならぬ辻政信なのだ。

 今更この手のお話しについて、少々の事を聞かれたり、話されたりしたくらいで、一々恥ずかしがっていては身が持たない。

 

「シゲタロウ、私は織姫なのでしょうか」

 

 ユーフェミアが切り出す。

 

「ユフィがそうなら俺は彦星となるな、が、俺達は毎日一緒だから織姫と彦星よりも余程に幸せ者なんだと思うぞ」

「――ん」

 

 嶋田はユーフェミアの腰を引き寄せる。

 スーツと公務服、けしてその様な行為に至らせる姿ではない二人はそっとキスを交わした。

 

 すれる唇。紡ぎ合う唇。

 啄み、絡ませ、混ぜ合わせた唾をワインのように飲ませ。

 お互いの背中に腕を回して強く引き寄せながら、背を擦り、体を擦り寄せては。

 

「ふっ、う――」

 

 熱いベーゼを交わし続ける。

 

312: 名無しさん :2018/07/11(水) 21:40:44

 

 

 嶋田の左手は彼女の体を抱き寄せたそのままに、右手だけが纏められた長い濃桃色の髪の中に差し入れられた。

 束ねられたそれは、まるで川のようにも、滝のようにも見える、そういう何かを連想させた。

 

 天の川。

 

 ふと過ぎった思いに嶋田は僅か、重ねられていた唇を離す。

 絡まる舌が滑り離れて、その間に川に掛かる橋のような糸を残した。

 

「もう、おしまいなのですか?」

 

 少し不満そうなユーフェミアを、嶋田はいやと宥める。

 

「君のこの髪がふと夜空に輝く天の川を連想させてね。束ねているから天の川を流れ落ちる滝のようにも見える」

 

 妻を宥めながら、その髪を静かに梳いていく嶋田は、この髪が天の川であるのならば、君はまさしく織姫だという。

 

「ふふ、毎日見て、触って、それはそれは珍しくもない天の川もあったものですわね。そして、私という織姫も珍しくないものとなってしまうわ」

 

 ユーフェミアは自分の髪を天の川と、天の川に流れる滝であると見立てた彼の感想に、嶋田の背へと回していた腕に力を込めた。

 珍しくもない天の川に珍しくもない織姫。となれば、この夫は珍しくもない彦星となる。

 

「貴方という彦星も珍しくないも彦星です。毎日この目に納めておりますもの、それを以て珍しいなどととても申し上げられません」

「なあに、珍しくなくたっていいじゃないか。むしろ珍しくない方がずっといい。この天の川に触れるのも、この織姫様に触れるのも、いつでも触れられる方が俺には大事な事なのだからね」

「私も、珍しくない彦星様の方が良いですわ。だって、いつもいつも……ん、こうして、触れられるのですもの」

 

 七夕とは一年に一度。それなら自分達にはいらないものだ。

 お互いに見つめ合い、口付けを繰り返しながら、頬を寄せ合う二人は思った。

 七夕は七夕として楽しむも、自分達が触れられないのは一刻でもあってはならない事だと。

 嶋田繁太郎と、ユーフェミア・リ・ブリタニアにとっては、大切な夫婦として互いがいつでも共にいる間柄。

 

 それが基本としてあるのだから。

 

313: 名無しさん :2018/07/11(水) 21:41:35

終わり。

嶋田さんとユフィって愛し合ってるのが辻さんにバレることが様式美のように感じる。

だって二人が結ばれる最後のひと押しは辻さんのひと押しだったからな。

 

 



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愛・七夕 山本五十六とリーライナ・ヴェルガモン

 

 

 

 

 愛・七夕 山本五十六とリーライナ・ヴェルガモン

 

 

 

 梅雨も明け、夏真っ盛りにならんとする七月初頭の七の日。

 山本五十六は自宅に非ず、近しくも遠い地と言えようブリタニアは五大湖の一つ、ミシガンの湖畔に立っていた。

 

「これは、見事なものだな」

 

 ミシガン湖。そこはブリタニア帝国の上位伯爵ヴェルガモン家がその半分を領地として治めている湖だが、ヴェルガモン家と言えば同国でも有数の大貴族である。

 その総人口は領民だけでも770万人達し、五大湖工業地帯に多数のヴェルガモン家傘下の企業群が軒を連ね、日本の企業体も数多くが進出している一大経済圏を有す貴族領だった。

 常時6乃至7個騎士団を編成可能な戦力も備えた、いわば領地全体が一つの国といっても差し支えのない大貴族家ヴェルガモン伯爵家。

 

 ミルウォーキーを始めとした大都会のイメージが強い同領地だが、なにも領地全土が大都会というはずもなしである。

 

 このミシガン湖畔には貴族や富裕層の別荘地が多く、とくに山本の立つ場所には、見渡す限りの広い原生の地と、手入れされた樹木が広がっているだけ。

 人口的な明かりなどほとんど無く、少し遠くに目視可能な一際大きな別荘が、その内部より光源を漏らしているのみだった。

 

「前世より、東京に出てからというもの、都会の明かりに消されてしまった夜空になれてしまった所為か、こうして夜空の本当の姿を観られるのが殊の外貴重に感じてしまうな」

 

 すっかり都会人になってしまった山本は、この満天の星空を眺めながら誰に聞かせるでもない呟きを漏らしていた。

 

「いっくんって、時々おかしな事を口走りなさいますわね」

 

 しかし、聞かせるでもない言葉を聞いていた者がその場に降り立つ。

 5mほどの鉄の巨人だった。ナイトメアフレーム、KMFという名を持つ鉄の巨人だ。そのヴィンセントという名を持つKMFの後部ハッチが開いて、搭乗していた者が姿を現せた。

 

「前世とか、まるで幻想の世界に生きる住人のようですわよ?」

 

 腰まで届く金色の長い髪が一陣の風に舞った。

 その身を包むのは、体にフィットした黒と紫紺色のレオタード風の衣装。

 胸元は開き、臍までが見えてしまう三角状の大きな露出部が目立つ、エメラルドグリーンの瞳を持つ世の男性諸氏が思わず目を奪われるほどの、美しい女性であった。

 

 リーライナ・ヴェルガモン。

 

 この美しき夜空を魅せるミシガン湖西部一帯を望む、広大な領地を持つヴェルガモン伯爵家の息女にして、次代の当主となる女性。

 そして、他ならん山本の婚約者でもあった。

 

317: 名無しさん :2018/07/11(水) 21:52:22

 

 

 

「まあ、気にするな。意味のない独り言にすぎん」

 

 言えない。伝えたところで信じられない話は無意味な戯れ言と同じである。

 山本はそう思い、ほどなく妻となる遙か年下の女性からの言葉を受け流した。

 

「それよりも、俺としてはその言葉遣いの方をどうにかしてもらいたいのだがな、むず痒くて仕方がない」

 

 昇降機を使いKMFヴィンセントより降りてきたリーライナは、黒いサイハイブーツに包まれた脚を前に出し、歩を進め、夫となる年嵩の坊主頭の男性に目を移しながら伝えると。

 

「まあ、淑女らしく振る舞っておりますのに……いっくんには、こっちの方が良いの?」

 

 口調を変えたリーライナは微かに微笑み、山本の傍へと寄り添った。

 

「ああ、楽だからな。堅苦しいのは苦手だ」

 

 山本は、リーライナの肩を抱き。

 

「――」

 

 小さく、軽い、口付けを落とした。

 

「ん」

 

 甘い口付けだ。深くもなく、荒くもなく、ただただ静かで優しい、触れるだけの口付けだ。

 啄み合いはしても、それ以上には進まない。それでありながらも大切な愛おしい者を想う、想いのこもった口付けであった。

 

 静かに離れるお互いの唇。

 体は密着させて抱き締め合ったままに。

 山本はリーライナのエメラルドグリーンの瞳を。

 リーライナは山本の黒い瞳を。

 視線反らさずに固定させたまま口を開いた。

 

「ちょうど頭上には天の川が広がっているわね」

「そうだな」

「なんだか今の私、いっくん彦星との待ち合わせに遅れてきた織姫のような気分だわ」

「気にするな。散歩がてらに先に別荘を出ていたのは俺なのだからな。それにリーラを相手になら待ちぼうけとなってしまっても怒りは出て来んぞ」

 

 彼女の背を引き寄せていた山本の片手が、彼女の頬に宛がわれる。

 

「安心してよ、待ちぼうけになんてさせないわ。いっくんがいるところに私は必ず駆け付けるもの」

 

 彼の背を捉えていたリーライナの片手が、その紫色の手袋に包まれた指が、山本の唇を静かになぞる。

 

「どうミシガン湖の夜は。ここで迎える七夕は」

「無論、気に入ったとも。ここが同じヴェルガモン領でも大都会のミルウォーキーなどでは東京と変わらん夜空だろうから残念に思うところだったがな」

「嬉しい、私の家を気に入ってくれて」

「お前の家か、確かに貴族の領地はその地を治める貴族の私有地。ずいぶんと大きな家だが領民含めて皆が家族か」

「ええ、そうよ。都会で働く領民達も、工業地帯で働く領民達も、農場で働く領民達も、我が家の家臣達も皆大切なヴェルガモン家の家族だわ」

 

 そしてと含み。

 リーライナは。

 

「彦星のいっくんは私の旦那様」

 

 彼の唇に触れていた指を彼の頬へと移して、一つ唇を重ねていた。

 

318: 名無しさん :2018/07/11(水) 21:53:37

終わりです。

いっくんとリーラは支え合う関係な感じがします。

 

 

 



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馬鹿な願い

 

 

 馬鹿な願い

 

 

 

 ブリタニア皇帝の兄という、世間にはあまり周知されていない顔を持つ、体は子供、年齢だけ初老というV.V.は、フロント企業を幾つも経営する社長さんでもある。

 その社長さんは、夜の8時という、すっかり暗くなった空の下を歩いていた。

 目的地は都内某所のアパート。

 元はオンボロアパートだったのをV.V.が買い取って立て替えをし、直接の貸し主として経営している持ちアパートであった。

 

 一応満室だ、それはそう、都内一等地に建つそれなりの平米数を持つ新築アパートでなんと家賃が3万円。

 敷金礼金無しといった異常な安さの上に、事故物件等でもないのだ。

 

 そんな好条件のアパートが埋まらないはずもない。

 経営は本当のところ赤字なのだが、半分ボランティアでやってるようなものだから別に構わなかった。

 しかし、あくまでも経営は経営。ビジネスとしてもやっている不動産業。他のマンションもたくさん運営していたが、取るべき物はキッチリ取る。

 ましてや代理でも仲介でも専任でもない直貸しの赤字経営アパートで、家賃未払いなど看過しない。

 当然ながら安い家賃、どこの部屋の住人も遅れなく払ってくれているし、遅れるときも礼儀を通して頭を下げに来る。

 だが、問題は一軒の部屋にあった。一軒の部屋の住人に問題があるのだ。

 

 その住人、男なのだが、この男がこれがまた酷く、俺とおっさんの仲じゃんかと悪びれもせず家賃を滞納するのだ。

 今日、V.V.がやってきた理由は、来月からその男の給料から溜まった家賃を天引きしていく話を伝えに、直接出向いてきたわけだ。

 幸いにも、その男が働いている職場も、これまたV.V.の経営する店であった。

 

 最早有無は言わせない――

 

 温厚なV.V.でも怒るときは怒る。

 そうしてやってきたアパート。

 

「あいつ、今日という今日は逃がさないからな」

 

 その男の部屋の扉の前に立った。

 そして扉を叩いた。

 

321: 名無しさん :2018/07/11(水) 21:55:20

 

 

「シンイチロウ今月分までの貯まりに貯まった家賃を払え! 払わないなら来月の賃金から天引きにしていくからな!!」

 

 返事は――無い。

 

 かちゃ。

 

「うん? 扉が開いてる」

 

 返事のない男の部屋の扉は鍵が開いていた。

 不用心なと思いながらも、開いてるなら開いてるで直接問いつめればいいと考えを改めた彼は、扉を開いて中に入った。

 すると。

 

「星よ願いを叶えてくれぇっ!! 宝くじ一等三億円当たってくださいお願いします織姫様彦星様可哀想な俺様をお救いくださいませいっ!!」

 

 頭に紙で作った星を巻き付けてどこからかっぱらって来たのか、笹に向って祈りを捧げていた。

 見れば、その男こと、玉城真一郎の隣ではまだ学校から家に帰ってきていなかった制服姿の愛娘クララの姿まである。

 クララもクララで頭に紙の星飾りを巻き付けて大きく手を広げながら、大声で叫んでいるではないか。

 

「星よお兄ちゃんのお願いを叶えたまえ~っ! アブラカタブラ・ラーメン・そーめん・ワンタンメン・ひやそーめん・お煎餅にキャラメル・キャンディーっ!!」

 

 出鱈目なお願いの仕方で笑顔で祈っている娘のアホな姿に、V.V.は頭を抱えてしまった。

 良く良く目を懲らして見れば更にアホな事に、笹に吊されたり、結ばれたりしていたのは短冊ではなく、まさかの宝くじであった。

 何十枚という宝くじが笹に掲げられていたのだ。

 

 二人の姿を見たV.V.はそっと扉を閉じて、外に出た。

 

「来月までは待ってやろう……」

 

 良くも悪くも、娘クララ・ランフランクは純粋。残酷な一面でも、良い子の一面でも純粋にすぎる。

 更には、あの男に好意を寄せているからというファクターもあり、彼に釣られてあんな事をしていたのだろう。

 

 だが、あの男は違う。純粋でもなく普通の社会人の大人なのだ。ただし底抜けのお馬鹿なのだ。

 

 V.V.はあの醜態があまりにも哀れすぎて、玉城真一郎に対する家賃の強制徴収を行うのも馬鹿馬鹿しくなってしまった。

 

322: 名無しさん :2018/07/11(水) 21:55:59

終です。

玉城とクララって普段こんな馬鹿やってそうな気がするんだ

 

 



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日本のKMF開発 高性能機編 又は【フリーダム】誕生

538 :日本のKMF開発 高性能機編 又は【フリーダム】誕生:2013/06/09(日) 12:23:54
日本のKMF開発 高性能機編 又は【フリーダム】誕生
設定:休日世界モニカルート
ガンダムクロス有
個人見解と捏造設定あり。

539 :日本のKMF開発 高性能機編 又は【フリーダム】誕生:2013/06/09(日) 12:24:28


 

ブリタニア皇帝にはアーサー王に倣った十二人の騎士達がいる。

個性豊かな騎士達は得意分野も違うため(注:1)、どのように扱うかも皇帝の腕の見せ所でもあった。

 

殲滅戦が得意なルキアーノ・ブラッドリー

砲撃戦が得意なアーニャ・アールストレイム

機動戦が得意なジノ・ヴァインベルグ

 

その一人であるモニカ・クルシェフスキーは何が得意かと言うと・・・集団戦闘である。

円卓と言うのは文字通り円状に騎士たちが座るわけだが、トゥエルブ・・・12を関する彼女は皇帝の左側に位置する。

皇帝の右腕で絶対的な剣たるナイト・オブ・ワン『ビスマルク・ヴァルトシュタイン』に対して、若くして皇帝の盾を任されたのが彼女だった。

全てにおいて完璧にこなせる超人ビスマルクであったが、戦場を俯瞰して捉えられるモニカの指揮は防衛線において、彼も一目置く手腕を要していた。

そんな彼女は第七世代における専用機開発(もしくは方向性の模索)に、あまり積極的ではなく・・・モニカ専用機【ユーウェイン】は通信能力を強化した【グロースター】の改造機の範疇から出ていなかった(注:2)。

そんな時、モニカは同盟を結んだ日本に向かうよう皇帝に告げられた。

 

◆◆◆ 

 

◆◆◆ ◆◆◆ 

 

◆◆◆ 

 

日本滞在は、彼女の人生において多大な影響を及ぼし、ブリタニアにおける日本の印象向上に貢献する。

そして駐留からしばらくした時、懇意にしている倉崎重工からある提案が持ちかけられた。

 

「私達が専用機を御作りしましょうか?」

 

日本と、ブリタニアの橋渡しに貢献してくれたお礼として提案されたのだ。

 

「確かに専用機は欲しいとは思いますが・・・」

「そうでしょう。我が国では専用機など作る意味がありません。作ってせいぜい試作機か特殊機です」

 

提案は魅力的ではあった。

なにせ今まで【ユーウェイン】から乗り換えた事は無く、対して不自由もしていない。

しかし、彼女以外のラウンズは既に専用機を有しており、専用機を乗り回している他のラウンズを見ると、正直羨ましくなるのは事実ではあった(注:3)。

個人的には欲しい気持ちがある。だが自分はラウンズ・・・ブリタニアの騎士だ。いくらなんでも他国の・・・同盟国とはいえ作ってもらっても良いのだろうか?

提案は一時的に保留にさせてもらい、本国で検証してもらう事になった。

まぁ、すぐに回答は来たのだが・・・

 

「うん。いいんじゃないかなぁ。これも日本との繋がりを強化する機会でもある。積極的にやるのだぁぁ」

 

とのお言葉にモニカは淡々と、内心喜びで踊りながら倉崎重工に返答した。

 

さて、日本は第七世代検証機体製作をどのように作るか、初めから設定が決まっていた。

何せギアス本編を知っている、カンニングのようなチートなのだ。初めから【ランスロット】を意識して作ればいい。

もっとも、KMFのなんたるかを知らなかった時に製作した【MSモドキ:ストライク】は苦い経験ではあったが、良い経験にはなった。

既に開発の中心となっていたSEEDチームが提案したのは、主人公機の片割れ【ジャスティス】だった。(注:4)

 

 

KMF【ジャスティス】和名:陣風【ジンプウ】 

分類:第七世代検証機KMF 所属:大日本帝国 外見モデル:ガンダムSEEDのジャスティス

製造:倉崎重工 生産形態:実験機

全高:4.81m 全備重量8.07t

推進機関:ランドスピナー 電力駆動プラズマ推力機関

武装:MVSソード×2 背部固定式ヴァリス×2 スラッシュハーケン×4 特殊鋼ナイフ×2

特殊装備:ブレイズルミナス

乗員人数:1人

 

 

575 :540の差し替え用Ⅱ:2013/06/09(日) 20:49:19

少し背が高いのは鶏冠のせいだが、能力的には問題ない。

【ランスロット】との共通点は、脱出ブロックが無い、胸部にファクトスフィアがある、スラッシュハーケンの位置が一緒くらいだ。

違いは、MVSソードが最初から連結可能であること、ナイフを装備している事、ヴァリスが背部固定である事、翼があって電力駆動プラズマ推力機関で飛行可能であったことだ。

MVSソードは配置に迷ったが、【ヴィンセント】の様に装備する事で解決が出来た。

ヴァリスは機構こそ出来たのだが少し大型になってしまい、コクピット横上部に固定装備させた。おかげで通常の武器も使えるようになった。

ナイフに関しては、MVSソードがエネルギーを食うのでその代りである。

ブレイズルミナスは腕ではなく、肩に発生装置が置かれた。椀の軽量化が目的だったのだが・・・

 

「邪魔で横に撃てない」

「横にしか展開できないので、前が不安だ」

 

テストパイロットからは不評だった。

そして単独飛行装置である電力駆動プラズマ推力機関だったが・・・余計にエネルギーを食う装備になってしまった。

しかし、地上滑走する際の加速装置としては優秀であり、パワフルな機体となった。

もっとも原作同様、搭乗者を選ぶ機体になってしまったが・・・誰も気にしていなかった。

 

この機体を元にして性能を落とした機体【ストライク・トライアル】が作られ、さらに【ウィンダム】が制作されることになる(注:5)。

反対に、さらに高性能化で追及されたのが【デスティニー】であった。

 

KMF【デスティニー】和名:鬼臣【キジン】

分類:第九世代検証機KMF(実質第八世代) 所属:大日本帝国 外見モデル:ガンダムSEEDのデスティニー

製造:倉崎重工 生産形態:実験機

全高:5.17m 全備重量9.15t

推進機関:ランドスピナー エナジーウィング

武装:MVSソード×2 ヴァリス・改 スラッシュハーケン×2 ニードルブレイザー×2 ハドロン砲 レールガン

特殊装備:ブレイズルミナス クラッシュブースター(注:6)

乗員人数:1人

 

製作された【デスティニー】であったが、どちらかと言うと装備武装や特殊装備の検証機体としての機体である。

初めて装備されたエナジーウィングは、展開するとエネルギー膜が発生して従来機よりもかなりの高速移動と、機動戦闘が可能になった。

ニードルブレイザーは椀部に装備されて殴るように叩きつけられる他、防御にも使えた。

特徴として、第五世代機が肩のあたりにスラッシュハーケンを装備していたが、その巻き上げ回転機構を利用してハドロン砲とレールガンを後ろから脇に通すように持つことが可能だった。(注:7)エナジーウィングはコクピット上部に装備されているので、干渉しないように考慮されていた。

そして最大の目玉が『クラッシュブースター』である。

ACチームが開発した技術だが、通称が『人殺し装置』であった。

この装置は肩に装備されているのだが、機構が動作すると肩の張りがせり出して上下に割れる。

そしてそこにエネルギー力場が展開されるのだが・・・この非実体エネルギー力場をワザと暴走崩壊させることにより衝撃波を発生させて瞬間的な横移動が可能と言うとんでもないものだった。

確かにいきなり横移動で避けられれば、敵は動揺するかもしれないが・・・デメリットが多すぎた。

 

※横移動のGが凄まじいことになり、普通のパイロットには耐えられない。

※機体にかかる負荷が尋常ではない。

※暴走崩壊までタイムラグがある(10~15秒)。

※使用すると必ず壊れるので、一回しか使えない。

※エネルギー消費量が泣きたくなる。

※瞬間移動できる距離は3m。だが、制動を掛ける必要があるのでさらに滑る。

 

と言うもので、とても実戦で使えるような装備ではなかった。

一度見学に来ていたモニカもこの実験(注:8)を見て、さすがに蒼褪めて後悔した。

 

「これ・・・大丈夫ですか?(載せないよね!)」

「大丈夫です(載せます)」

 

569 :541の差し替え用:2013/06/09(日) 20:28:10

【デスティニー】は様々な問題を開発陣に提示し、大いに悩ませていく。

 

機関部の出力不足・・・

冷却が追い付かずに熱暴走・・・

エナジーウィングの不調・・・

 

徹夜をすることもしばしば有り、モニカ嬢も頑張る開発陣に差し入れをしたりと、配慮を見せた。

結果・・・何とか正式な第九世代機【フリーダム】の開発に取り掛かれることになった。

 

【フリーダム】の機体本体の開発は順調だった。

【ランスロット・アルビオン】と同じように大きくなったが許容範囲だ。

新技術も搭載させて、まさしく新時代の先駆けとなる機体になる!・・・はずだったのだが・・・

 

「すごい武装ですね」

「まぁ。これくらいは無いと」

「・・・でも、エネルギー持ちますか?」

「えっと(再計算中・・・完了)すみません。ちょっと外しますね」

「え・・・ちょ、ちょとぉ!!」

 

新要素のお蔭で、色々外す羽目になった。

再調整に泣かされること数日後、【ランスロット・アルビオン】よりも先に【フリーダム】(注:10)は完成した。

 

KMF【フリーダム】和名:蒼空【ソウクウ】

分類:第九世代KMF 所属:日本 ブリタニア 外見モデル:ガンダムSEEDのフリーダム

製造:倉崎重工 生産形態:ナイト・オブ・トゥエルブ専用機

全高:5.2m 全備重量:9.58t

推進機関:ランドスピナー エナジーウィング

武装:MVS×2(連結可能)トランス・ヴァリス(注:9) レールガン×2 ハドロン砲×2 スラッシュハーケン×4

特殊装備:ブレイズルミナス クラッシュブースター

乗員人数1人 搭乗者:モニカ・クルシェフスキー

 

この完成した機体を見た彼女の感想は、

 

「綺麗・・・」

「そうでしょう。なにせ世界初の第九世代機です。このくらいはしないと」

「あの青い翼はどういう意味が?」

「“幸せを呼ぶ青い鳥”と清らかかなる流れをイメージしています」

「なるほど(感心)」

「ええ、そうです(違うんだけどね)」

 

かなり好感触であった。

さっそく搭乗したかったが、その前に機体性能と武装、特殊装備の説明を受けることになった。

 

「まず【フリーダム】は最新のユグドラシルドライブを使用しています。少々大きくなりましたが、許容範囲内です。

 機体についている武装は、スラッシュハーケンは両腕と胸部にあって合計4つです。ああ、胸部の方は前を基準にして上35度、下40度まで可能です。

 レールガンは二つ折りのタイプで両腰に装備していて、砲撃時は真っ直ぐに伸ばして攻撃します。弾数は片方で20発。

 ハドロン砲は普段は後ろの方に向いていますが、砲撃時には肩越しに放てるようになっています。

 単発砲撃と照射砲撃が選べます。照射砲撃の方は最大照射時間が10秒です。

 装備武装のMVSですが、脇下から掴む部分をせり出させるようにしました。不都合がありましたらおっしゃって下さい。すぐに変えます。

 トランス・ヴァリスは、ブリタニアで開発中の【ランスロット・アルビオン】にハドロン砲も打てるスーパーヴァリスが装備されるという事で、差別化を図りました。

 通常は単発撃ちのライフルですが、射程を犠牲にしたマシンガンモード、銃身を伸ばしてより遠くを狙い撃ちできるスナイパーモードがあります。

 次にエナジーウィングは、通常移動時は羽が閉じている状態で四枚の力場を発生させて移動します。

 羽を展開すると合計10枚の力場を展開して高機動戦闘が出来ますが、エネルギー配分には気を付けて下さい。

 エナジーウィングはコクピット側についています。ハドロン砲と干渉する事は無いと思われますが・・・これもご不満がありましたら変えます。

 ランドスピナーに関しては足裏にもう一つ小さなスピナーを取り付け、地上移動時にスムーズに移動できるようになっています。スパイクも展開できるので、急ブレーキなどにお使いください。

 最後にクラッシュブースターですが・・・あの実験の時よりも70%ほど臨海崩壊するエネルギー総量を減らしましたので、負担は少なくなっているはずです。

 起動に7~8秒かかり、移動距離は1m~1.5m程です。回数は2回までです。が・・・リミッターを解除すれば、一回のみですが2~3m程、機体を吹き飛ばせます。

 むろん搭乗者、機体もろとも負荷がかかるので、使用にはご注意を。」

「クラッシュブースター・・・取り付けたんですか(泣きたい)」

「ええ、負けるわけにはいかないので(エッヘン)」

 

542 :日本のKMF開発 高性能機編 又は【フリーダム】誕生:2013/06/09(日) 12:26:02

機体説明を受けた後、パイロット姿になろうとしたのだが・・・

 

「済みません。こちらに着替えて下さい」

「え、何時ものではだめなんですか??」

「対Gの負荷が通常機よりもありますので、万全を期すためにも・・・それに、いくら肌色の生地を使っているからと言って、殿方に見せるのは・・・」

「!!そ、そうですね。そうします。」

 

最後の方は小声で言われたが、嶋田氏と付き合うようになったので最近は気にしていた恰好を、これを機に改めることにした。

これ以降モニカ嬢のパイロットスーツ姿で眼福する事は無くなり、特定人物たちの嘆きを呼ぶことになるが、関係ないので割愛する。

新しいスーツに着替えて【フリーダム】に搭乗すると、まずは地上を移動してみる。

何時もは足裏を引きずるような形で移動するのだが、追加の小型スピナーがあるお蔭でだいぶスムーズに移動できる。

カーブを曲がる際は小型スピナーが引っ込み、足裏全体でブレーキがかかるので従来機と変わらない曲がり方が出来た。

続いてスラッシュハーケンによる攻撃は、いつもよりも早く攻撃で来て正確に狙える。

 

(胸部ハーケンの移動範囲が制限されているのが気になるけど、単独飛行できるようになっているから気にするほどでもないかな?)

 

試験は続き、ハドロン砲とレールガンの砲撃試験・トランス・ヴァリスの射撃・MVSの抜刀と納刀を行い、お楽しみの飛行試験に入った。

飛行試験も特に問題はなく、地上で行った試験を空中でもできるかを試したが、特に問題は起きなかった。

通常飛行状態でも感じたのは、多少ではあるが自分が機体に振りまわされているという感覚があった。これは慣れていくしかない。

そして高機動飛行状態試験に突入した時、座席に体が一気に押しつけられた。

 

「ぐっ!(す、すごい!!今までのとは全然違う!!)」

 

戦闘機にも搭乗し、Gの経験をしているためにたいした事は無いが、フロートユニットでは経験できない加速とGに興奮し始める。

旋回して一気に上昇、急降下をして地面擦れ擦れを勢いよく飛行して行く。

 

(すごい、すごい!!まだ振り回されている所があるけれど、これが私の機体になるんだ!絶対に乗りこなして見せる!!)

 

己の能力に応える機体に夢中になり、微笑が浮かび頬が少し高潮する。

モニターに映る興奮気味の様子に、管制室に詰めていた開発設計陣は必死に呼びかけていたが、トリップ状態になった彼女の耳には入っていなかった。

一人が慌てて緊急停止ボタンを押そうとしたが、主任がそれを止めた。

 

「面白いから自由にやらせてみよう」

 

そう言って主任は【フリーダム】に進路を表示させた。

画面に進路指示が映ったことに首をかしげたが、特に疑問にも浮かばずにすぐさま移動させる。

移動した先にあるのは、障害物が立ち並ぶ特殊なエリアだ。

そして指示はA地点~B地点に移動する事・飛行限界高度が指定された事・仮想敵(注:11)を可能な限り撃破する事、制限時間がある事だった。

把握して口をなめて湿らせ、最高速度のまま障害物エリアに突入した。

侵入すると同時に仮想敵【ジェンシー】がハンドミサイルの雨を叩きつけてきた。

すぐさまトランス・ヴァリスをマシンガンモードで連射し半分を撃墜し、空いた部分に機体をねじ込ませて突破。

レールガンで手前の敵を撃破し、奥の敵を単発式のハドロン砲で狙い撃ちにする。

撃破されると同時に右隣のビルから、隠れていた仮想敵が飛びかかってきた。が、レーダーで確認していたので、すぐさまライフルモードで打ち抜く。

撃破した瞬間に衝撃を感じ、近くの物陰に機体を飛びこませる。

 

(狙撃、どこから!?)

 

543 :日本のKMF開発 高性能機編 又は【フリーダム】誕生:2013/06/09(日) 12:26:32

狙撃から身を隠すため、機体を地面におろして地上を走りながら予測をつける。

場所は・・・北側にある2ヶ所のどれかの様だ。

 

(北西は少し遠い、北東の方が近いけれど・・・)

 

考えている間に目の前に数機の【ジェンシー】が出てきた。2機が接近戦を挑み、残りは障害物の上と横にぶら下がって援護射撃をする。

距離が近すぎて接近戦を挑む一機は銃撃で撃破できても、もう一機が切りかかってくる。援護射撃は的確で退路が無い。

だが悩む事は無なかった。

ヴァリスを放り投げ上げると、MVSを引き抜いてエナジーウィングを通常起動して加速。

すれ違いざまに2機を一気に切り払い、動揺した残敵を照射砲撃で薙ぎ払う。

そこに再び狙撃がきた。しかし今度は予測していた為に回避する事が出来た。

回避すると同時に落ちてきたヴァリスを掴み、スナイパーモードで北東側の高い障害物を見る。

狙撃者を見つけると射撃、そして今度はジャンプで飛び上がって北西側を見ずに再びハドロン砲で砲撃する。

北東側の【ジェンシー】はコクピットごと機体を打ち抜かれ、北西側は退避する前に倒壊する障害物に巻き込まれていった。

 

(やっぱり両方にいたわね)

 

着地してエネルギー節約の為に地上を移動していると、今度は重低音が響いてきた。

急ブレーキをかけると同時に左腕のスラッシュハーケンを左側の建物に打ち込み、機体を横に向けると再びダッシュする。

撃ちこまれたスラッシュハーケンは建物に食い込み、巻き上げると【フリーダム】はその先の角を一気に抜け去る。

後方で榴弾が落ちる音を聞きながら、モニカは障害物の谷間を抜けて、榴弾を放った重砲部隊を殲滅しに行った。

 

◆◆◆ 

 

◆◆◆ ◆◆◆ 

 

◆◆◆ 

 

敵を撃破し、障害物にスラッシュハーケンを打ちこんでアクロバティックに急カーブを曲がり、曲芸のように障害物の間を移動していた。

トランス・ヴァリスが弾切れになり、敵にぶつけて怯ませた後MVSで両断して一気に駆け抜ける。

ゴール地点まであと少し。

はやる気持ちを抑えつつ、モニターで確認いていると・・・ゴールには一機しかいない事に気が付いた。

なんだろうと思っていると、ゴール地点に出る。

そこは広場の様になっており、その真ん中である機体が待っていた。

移動をやめて、相対するために制止する。

 

「ジャスティス・・・」

 

日本の【ランスロト】がそこで待っていた。

つまり、ラスボスだ。

エネルギー総量を見ると、あと2・3発はハドロン砲を打てるがMVSを使用するとなると心もとない。

レールガンは弾切れ、ヴァリスは先程捨てた。

残り時間も少ない。

頼みの綱となりそうなのは・・・

 

(クラッシュブースター・・・使えるのかしら)

 

 

570 :544の差し替え用:2013/06/09(日) 20:28:44

いままでこの機構を使用してはいない。

使用しなくても十分だった。だが相手の性能は知っている。油断できる相手ではない。

【ジャスティス】はライフルを装備していたが、それを腰にしまうとMVSを引き抜いた。接近戦を挑む気だ。

【フリーダム】も両腕にMVSを装備して、構える。

両機の間に沈黙が流れ・・・モニカ嬢が先に動いた。

一気に接近し、右腕を袈裟懸けに降り下げる。

【ジャスティス】は左腕のMVSでガードし、右で刺突する。

刺突の切っ先を左のMVSでずらして回避、同時に間合いを取るために後ろに跳躍する。

【ジャスティス】が追撃にハーケンが撃ち込むが、同じようにして胸部のハーケンを打ちこんで弾き飛ばす。

着地してお返しとばかりに両腕のハーケンを放つが、余裕で回避されて電力駆動プラズマ推力機関併用の突進を仕掛けてきた。

今度は迎え撃つ側になり防御に専念する。

 

右・左・近距離でハーケン・回避・こちらも放つ・剣の柄で迎撃される・再び連撃・・・

 

数合切りつけ合い、蹴りまで放っての応酬をみた開発陣は何時かの【ウィンダム】搭乗を思い出した。

それと同時に、次第に【フリーダム】に慣れていく彼女のデータに狂喜乱舞していた。

喜んでいる開発陣とは裏腹に、興奮していたモニカは冷静になって強敵である【ジャスティス】を見据える。

 

(強い・・・いったい誰のデータが組み込まれているの?)

 

目の前の機体は量産機ではなく試験機で、【デスティニー】が開発された後も【ウィンダム】の為のデータ取りや、改修した装備の試験にも用いられており、エースが乗ればまだ最強と言える能力を有している。

これを倒さなければ・・・自分は真に【フリーダム】に乗る資格が得られる。そう思った。

しかし、彼女の疲労は限界近くに来ていた。

僅かな操作ミスにより、MVSが空振りしてしまう。

 

「あ!きゃぁぁぁぁ!!」

 

そんなミスを【ジャスティス】は見逃さなかった。すぐさま膝蹴りをお見舞いして、フロートシステムで浮きあがりつつ回し蹴りを放つ。

もろに食らい、吹き飛ぶ【フリーダム】。

 

「くぅぅぅ・・・」

 

呻いて倒れた機体を起こそうとし必死に操作する。だが敵は容赦しなかった。

モニターには、MVSを構えて向かってくる赤紫色の機体が映っていた。

思わず思考が逡巡しようとしたとき、とっさにある機構を作動させた。

同時に地面についている腕とは別の腕でハーケンを放ち、時間差で胸部のハーケンも放つ。

最初のハーケンはMVSで弾かれたが、絶妙な時間差で放たれた胸部の方はジャンプして避ける。

飛び上がった【ジャスティス】に、起動させたハドロン砲を照準もつけずに発射する。

【ジャスティス】は咄嗟に機体を横に向け、肩のブレイズルミナスで単発発射されたハドロン砲を受け、地面に着地。

しかし、卓越した突進能力を持つこの機体には無意味だ。

爆発的加速を見せて、一気に接敵する。

【ジャスティス】は至近まで接近してMVSを振りかぶったとき、機体を斜めにしていた【フリーダム】を仕留めたと思っていた。

が、目の前にいた敵機体は忽然と消えていた。

目の前の信じられない光景に驚くと同時に、轟音と衝撃波が襲ってきた。

思わずたたらを踏んでしまい、後方に下がりつつ反射的に腕を交差させて防御する。

その両腕が切られた。

なぜ。そう思いMVSが振られた方向を向くと、そこに【フリーダム】が両足で立っていた。

 

545 :日本のKMF開発 高性能機編 又は【フリーダム】誕生:2013/06/09(日) 12:28:02

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

コクピットのモニカ嬢は荒い息を整えつつ、吐き気と眩暈をこらえていた。

時間を稼ぎ、クラッシュブースターをとっさに作動させたのは良いが、体験した事が無い瞬間加重力と疲労によりだいぶ参っていた。

だが、敵は両腕を失った。残るは背中にある固定式のヴァリスだけ。しかも切られた勢いでのけぞっている。

すぐさま止めを刺そうとしたとき、モニターに『試験終了』の文字が浮かび上がった。

ここでようやくモニカ嬢は、今やっているのが搭乗試験であるというのを思い出した。

そして機体のエネルギーが切れつつあるのにも気が付いた。

振り上げたMVSをよく見ていると、帰還用のエネルギーを残すために起動が停止している状態だった。

これでは切り抜くことはできない。

 

「アハハハハハ・・・はぁ・・・」

 

疲労困憊となり、深くシートにもたれかかった。

その時通信が入った。

 

『ご苦労様です』

「えっと・・・あなたは」

 

画像通信に出てきたのはよく知るテストパイロット(注:12)だった。

困惑していたが、だんだん理解し始めると同時に蒼褪めた。

もし【ジャスティス】がデータの存在であったなら、あそこまでの蹴りの衝撃は無かったはずだ。

吹き飛ばされることもない。その事実に気が付いたのだ。

自分は実物の【ジャスティス】と戦っていた!

 

「もしかして・・・目の前の【ジャスティス】には・・・」

『ええ。自分が乗っています』

「わ、私とんでもないことを・・・!!」

『申し訳ありませんけど・・・最初からどちらもMVSは作動していませんよ?』

「へ?」

 

テストパイロットが言うには、最初からMVSは遠距離操作で起動がカットされており、別に叩きつけても問題なかったようだ。

安心して力なく苦笑するモニカ嬢に、主任にいきなり呼び出されたテストパイロットも苦笑した。

こうして試験は終わりを迎えた。

 

 

 

初回にいきなり無茶をやったモニカ嬢は、当然のごとく開発陣から怒られた。

無茶な体勢でクラッシュブースターを起動させた結果、計算よりも機体負荷がかかってしまい、いきなりオーバーホールする事になった。

このせいで納入がかなり遅れることになったが、その間にモニカ専属の整備士達に教育が出来たのは救いだった。

モニカ嬢はしばらく筋肉痛と、吐き気に襲われて体重を激減させ、好物のカップラーメンすら食べられなくなり。嶋田繁太郎に心配された。

そして・・・彼女が再び【フリーダム】に触れるようになったのは、二か月後の事だった。

 

571 :546の差し替え用:2013/06/09(日) 20:29:23

個性豊かな騎士達は得意分野も違うため(注:1)

これは私個人に感じたことです。なので、TVから見た印象により得意分野を決めさせていただきました。

おかしいと思われることがありましたら変えていくか、設定付け加えで行くしかないと思います。

 

通信能力を強化した【グロースター】の改造機の範疇から出ていなかった(注:2)

こじ付けです。恐らく【グロースター】が出てきた時は、ラウンズ全員が【カスタム・グロースター】に搭乗していたのでは?

この妄想が働き、個人戦が強いメンバーは早々に入れ替えましたが、モニカ嬢だけは遅れていた事にしました。

あと、自由奔放な皇帝陛下確保に忙しかったせいでもあります。(そんなアホなww)

 

羨ましくなるのは事実ではあった(注:3)。

他人が持っていて、自慢するモノは欲しがると思います。嶋田さんに出会う前は表に出さなかったでしょうが・・・

 

主人公機の片割れ【ジャスティス】だった。(注:4)

無難な装備に落ち着きました。

なお、【ジャスティス】が【ランスロット】よりも早く完成したため。ロイド博士が盛大に悔しがって、腹いせにフロートシステムが早期に完成するというバタフライ現象が起きています。

それ以前の【ジャスティス】の主翼は大きめで、ジェットのみで飛行していました。

改修によりフロートシステムが搭載されて主翼が小型化、手持ち式・カートリッジタイプのハドロン砲も装備されました。背中のヴァリスと連結させることでハドロンブラスターが放てますが、劇中に出てきた【ジャスティス】は通常のライフルを装備していました。

 

性能を落とした機体【ストライク・トライアル】が作られ、さらに【ウィンダム】が制作されることになる(注:5)

既に書かれる方がおられるので、おまかせです。楽しみに待っております。

 

クラッシュブースター(注:6)

元ネタは御存じのとおりAC4及びACFAです。しかし普通の機体でも最強にさせてしまう装置なので、デメリット多くしました。

これは批判続出かもしれません(汗 一応フロートシステムの様な、力場発生装置の臨海崩壊暴走による装置になりました。

ちなみに【デスティニー】のは改修されて単発式だけどすぐに発動できるタイプになり、劇中後の【ジャスティス】にはすぐ発動できるし四回発動できる、けどそんなに早くないし移動距離が短いタイプを装備しましたが、使いにくいのは変わらないので一般機には装備されない事が決定しました。

 

572 :547の差し替え用:2013/06/09(日) 20:30:15

ハドロン砲とレールガンを後ろから脇に通すように持つことが可能だった。(注:7)

【デスティニー】らしくするための機構ですが、正直苦しいと思っています。折り畳み式ではなく、真っ直ぐな状態です。

この機構のせいで、残り武器を装備する場所に悩みました。

MVSは腰にあり、スラッシュハーケンはコクピット上部に装備して肩越しに放てる事にしました。無茶な配置に泣きたい・・・

あと掌からビームを撃つのは無しにして、殴りつけるようにニードルを叩きつけるようにしてみました。

よくよく考えてみると、腕が重くなる(汗

 

この実験(注:8)

実験は人が乗っていない状態でやっています。流石に無茶なので・・・

鍛えていない人が作動させると死にます。

鍛えていても堪えます。

 

トランス・ヴァリス(注:9)

【ランスロット・アルビオン】のスーパーヴァリスとの差別化を図った結果、値段的には変わらない装備になりました。

【フリーダム】はすでにハドロン砲を持っているので必要ないのですよね。

 

【フリーダム】(注:10)

種本編の【フリーダム】とは違い、羽と主砲が一体化していません。個別になっていて高機動状態でも放てますが、エネルギー消費は早いです。

 

仮想敵(注:11)

当初は【ダガー】にする予定でしたが・・・【ジェンシー】ならモニカさんも遠慮しないだろうという事で、的になって頂きました。

画面上の標的なので実際にはいません。なので衝撃とかは機体がデータに基づいて挙動しただけです。

 

テストパイロット(注:12)

この方は誰でしょうか?皆さんのご想像にお任せいたします。

 

 

548 :影響を受ける人:2013/06/09(日) 12:30:39

やっと完成しました。

かなり無茶な設定を考えてしまい、さらに戦闘シーンまで・・・疲れた。

モニカ嬢の機体に【フリーダム】が割り当てられ、そこから色々ありました。

ある意味、集大成と言っていいかもしれません。

ですが、納得しがたいと思われる方もいらっしゃるかもしれません。その場合は大幅な改定をします。

生み出されたキム大佐とリム少佐。

ライバル機の【ガイスト】。

そして少佐VSモニカを書かれた作者様に感謝です。

 

改めまして、皆様に多大な感謝をいたします。ありがとうございました。

 

さぁ・・・次はシーランドにしよう。

最終更新:2013年09月08日 14:30



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みんな見たかもしれない不思議な夢

 

みんな見たかもしれない不思議な夢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチン

 

音が聞こえる

 

パチン

 

鋏で木を切る音が

 

パチン

 

切られているのは小さな枝

 

パチン

 

切られているのは盆栽

 

パチン

 

切っているのは小さな少年

 

パチン

 

足首まで伸ばされた淡い色をした金髪で、黒いマントを着た少年

 

パチン

 

少年の姿をした、初老のはずの男

 

パチン

 

「なあ」

 

パチン

 

「なに?」

 

パチン

 

「あのさぁ」

 

パチン

 

「だからなに?」

 

パチン

 

「これはさぁ、夢の事なんだけどさぁ」

 

パチン

 

「また事務次官に俺はなる!かい? それとも総理大臣に俺はなる?」

 

パチン

 

「ちげーよ」

 

パチン

 

「ふん、無謀な夢についての皮肉を言っても怒らないんだ?」

 

パチン

 

「その夢じゃねーからな」

 

パチン

 

「だったらどんな夢かな」

 

パチン

 

「胸くそ悪い夢だ」

 

パチン

 

「気分悪い夢かい?」

 

パチン

 

「ああ、あのな・・・・・・」

 

パチン

 

 

 

 

おっさんが死んでる夢なんだ

 

 

 

パチ・・・

 

切られている枝葉に食い込んだ鋏が止まった

 

「・・・・・・」

 

無謀な彼の、玉城真一郎の夢ではない。ひとが見る夢の話に盆栽を切る少年の姿をした初老男性の手が止まった

 

「頭からだくだく血ィ流してどっかの洞窟みたいなとこで死んでんだよ」

 

珍しくも真面目な顔で話すその夢の話に、少年姿の男V.V.は黙って耳を傾けた

 

「胸くそ悪ィ夢なんだ」

 

玉城の話は続く

 

「豪華でデカイ車の下で腹を刺されたルルーシュが死んでんだ」

 

いつも玉城を無視するか腹を据えかねて怒るかする黒髪の少年も耳を傾けた

 

「KMFの操縦席みたいなとこでキューエルが沸騰して体爆発して死んでんだ」

 

いつも玉城に厳しい目を向けているヴィ家の親衛隊副隊長のキューエルが耳を傾けた

 

「クララがさ、胸と顔と拳銃で撃たれて死んでんだ」

 

いつも玉城が大好きだと彼への好意を隠しもしない桃色の長い髪の少女クララが

玉城へ後ろから抱き着いたまま耳を傾けた

 

「マリーがさあ、デカイKMFみたいなやつの上で胸刺されて死んでんだ」

 

クララを玉城から引き剥がそうとしていた紅色をした長い髪の少女マリーベルが手を止めて耳を傾けた

 

「ユフィがさあ、機関銃で日本人殺しまくった後で黒仮面に胸撃たれて死んでんだ」

 

日本茶を淹れていた長い桃色髪の少女ユフィの手が止まり耳を傾けた

 

 

「死んでるのかどうかわかんなかったんだけどさ、時々ここに来るモニカとかいうラーメン好きな金髪ねーちゃんがよ、KMFみたいなのの操縦席で爆発に巻き込まれてたんだ」

 

話に耳を傾けていたユフィが急須の蓋を取り落とす

 

「 俺の大切なダチとかダチっぽいやつらもよお、何人も何人も死んでんだ」

 

いまV.V.邸にいる皆が耳を傾けていた

 

「ナナちゃんは死んでるルルーシュに抱き着いて泣きじゃくって、コーネリアは辛そうにしてて、ダールトンのおっさんもとっくに死んでてメガネやろーも失明して俺の大切なやつらがみんなみんなヒデェめにあったり死んでたりすんだよォォっっっ!」

 

ドガァァァっ!!

 

膳を叩きつける大きな音がした

拳を叩きつけた玉城の手の皮膚が裂けて血が滴り落ちる

 

「・・・・・・真一郎」

 

植木鋏を置いたV.V.が彼の傍に歩む寄る

 

「んでなんか俺はダチを裏切ったりルルーシュを裏切ったり信用してなかったりしてヘラヘラしてやがんだ! 日本もあんたらの国も滅茶苦茶な事になってんのに俺は俺以上のテキトー野郎ないい加減野郎なんだよ!なんであんなヘラヘラしてやがんだよ!なんで簡単にダチを裏切ってんだよ!わけわかんねーよクソ野郎な俺ぇっ!」

 

振り下ろした拳を玉城は握りしめて声を震わせ泣いていた

泣きながらその拳で自分自身を殴ろうとしていたそのとき

 

「真一郎!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「真兄様!」

 

V.V.がクララがマリーベルが、それぞれ玉城の肩や手を押さえて止めた

名前をあげられたルルーシュもナナリーもキューエルもユーフェミアもいつになく厳めしい顔つきで涙を流している、始めてみる彼の取り乱す様子に、心配そうな意外そうな顔で見つめていた

 

「あっ・・・?」

 

V.V.に握られた手

強く抱き締めるクララの腕

肩を抱くようにしてくるマリーベルの手

 

それぞれ違う三つの温もりに玉城は呆けたような声を漏らす

 

「真一郎、それは夢・・・ それは夢なんだよ。君の目の前にはいま誰がいるかな? 鬱陶しい説教ジジイの僕がいるだろう? 僕は死んでるかい? 生きているよね」

 

無表情と呆れ顔の多いV.V.が珍しくも微笑みながら玉城を落ち着かせている

 

「君の後ろから抱き付いてるのはクララで、君の後ろから肩を抱いてるのはマリーベルだ。あっちにはほら、ユーフェミアもルルーシュもナナリーもキューエルもみんないるしみんな生きているよね。ユーフェミアがお休みなだけでコーネリアやダールトンだって職場で元気にしているよ。みんないる、君の友達だってそうさ。誰か亡くなったって連絡でもあったのかい? ないよね? だから大丈夫だよ。だからね、それは、夢なんだ」

 

「ゆ、め・・・?」

 

「そう夢。君が始めた夢の話だ。夢は夢。現実じゃない。夢は夢でしかないんだ。きっとひどい夢を見たんだね。大丈夫、大丈夫だからね真一郎。僕なんて殺されたって死なないしぶとい爺さんなんだからさ、ね?」

 

子供ではないが、子供らしい笑顔で玉城を落ち着かせているV.V.ははたと気付いてポケットを探っていた

 

(・・・正信にもらったあのドロップがない)

 

菓子の皿に間違えて入れていたのかも知れない不思議なドロップがなかった

 



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いつもとちがう

夢ネタの人の嶋田さんが起きたあとを勝手に想像。
モニカ視点。


 

 

 

 

 

いつもとちがう

 

 

 

 

「おはよう」

 

目覚めると共に声を掛けられた。

 

「おはようございます」

 

優しげな表情の老紳士。私の旦那様シゲタロウ。

いつものように先に起きたシゲタロウが私の起床を待っておはようという。

私のほうが早いときはその反対で私がシゲタロウの起床を待つ。そんな私達の朝。

いつもと同じ変わらない朝のひとときだというのに、違和感を覚えたのはそう。

彼が私の頭を撫でていたから。

 

身体を起こすと離されたその手は、眠っている間中ずっと頭を撫でていた?

 

これがいつもとちがう朝の始まりだった。

 

 

違和感はまだ続く。

起床後に顔を洗い終わる私の顔をタオルで拭いてくれたのだ。

 

「んっ、シゲタロウ、自分でやりますので」

「ついでだよ」

 

柔らかい生地が水滴を拭い去り、窓から吹き込む清涼な朝の空気に無防備な肌をさらさせる。

いったいなにのついでなのだろう。

御自分の顔を拭くついでだとしてもいつもはそのようなこと・・・。

 

「なんだというのですか?」

「なにがだい?」

「なにがってそれは私が」

 

聞きたい。

けれども敢えて聞かずにおいた。

 

「・・・なんでもありません」

 

 

 

つぎに感じたのは食事の後。

普段はひとりで身支度を調える出勤前。

いつもなら鏡台の椅子に座る私の手に握られているはずのヘアブラシがなかった。

ブラシを握っているのは別の人の手。

嶋田家の家政婦ではない。身の回りの世話係として実家から出向しているクルシェフスキー家のメイドでも。

ブラシを握るのは旦那様だった。

 

「あの、ですからなにを」

 

椅子に座る私の背後に立つ彼。

首の後ろから持ち上げられた私の髪が丁寧に梳かされていく。

 

「見てわからないか?」

 

髪を梳かしているんじゃないか。

自分の身体が邪魔して鏡ごしには見えないシゲタロウの顔はきっと微笑みの表情を浮かべていることだろう。

 

「わかりますけれど」

「だったらなにも聞くな」

「そうではなくっ」

「じゃあどうではあるんだ?」

「どうではと、そのようなことを尋ねられましても」

 

聞きたいのはこちらなのに。

それでも私は先と同じく理由を聞かなかった。

聞いたところでまたはぐらかされることは目に見えてわかる。

シゲタロウの応対は尋ねられることを由としたものではない一方的なものだから。

 

「こうして君の髪を梳かしてあげるのも本当に久しぶりだな」

「いわれてみれば、そうですね」

 

撫でられはする。若かりし頃の彼の戦いを寝物語に聞かされながら。

彼のほうから持ち出してくるといった類の過去の自慢話ではない。

強請ってでも聞きたいという私への返事としての寝物語だ。

夜ごと変化を見せる物語はシーランドの国王に救出されたときの詳細や。

大国オセアニアとの全面戦争へ発展することを懸念する国民世論を受け、難しい舵取りを迫られたニューギニア戦争の裏話。

返礼として求められる私の幼少時の話や、ラウンズ就任よりも前の士官学校時代の話など。

出し合う箪笥の引き出しを探り探りおこなわれる寝物語が終わりを迎えるそのときまで、彼の手は私の髪の中を泳ぎ続ける。

しかし梳かしてもらうのは本当に久しぶり。

慈しみの込められた丁寧なブラッシングには心地好さを感じた。

 

髪を梳かされた後もまだ続く。

 

私は仕事の制服である騎士服へと着替える。

着替えるのは自分で着替えたが、しかしここでまたいつもと違うことをされた。

 

「髪、結うの手伝うよ」

 

今度はリボンで髪をまとめられたのだ。

私は前髪をのぞいて髪を伸ばしている。

後ろはもちろん横も自然のままに。

鋏を入れたことはほぼ無きにひとしい。

なにをせずとも身体の前に流れる横髪はまとめておかなければ邪魔になる。

 

「こうも長いと使いにくいな」

 

彼がいったのは髪のことではなくリボンの長さ。

このリボンは一本に伸ばすと本当に長い。

 

「しかし君の髪にはよく似合っている。むかし送った物もそうだが短いと似合わないからね」

 

つぎは髪の長さ。

 

「このあたりで切ってしまうととくにね」

 

首元をなぞる指が具体的なまでに切る位置を示していた。

彼の言葉通り、そこまでバッサリと髪を切ればこのリボンも鏡台の奥で大切に保管されることになる。

愛着の深い赤と、彼に送られた二種のリボンは、たとえ役目を終えたとしても私の宝物だから。

 

「切りません」

 

だがとくに切る予定も必要性もない。

だからこの三種のリボンは、これからも変わらずにずっと使い続けることになるだろう。

髪ではなくリボンが切れてしまわないかぎりは。

 

「・・・そうか」

 

切らないといって安堵されたように感じたのは気のせい?

髪の長さに拘りを持つ人ではなく、短いのはどうでしょうと聞いたときにも「君にはどんな髪型でも似合いそうだ」そういっていたのにどうして。

 

「リボンのあまりが均等になるよう髪に巻き付けて、ここでいちど強くしばり留めると」

「・・・」

「あまったリボンは房に巻き付けてできあがり、これでいいか?」

「いい、ですけれど」

 

右が終われば左の房へ。

 

「ブラッシングよりもこのリボンを取り扱うほうが手間取るな」

「・・・」

 

男性には殆ど縁がない。

縁がないと扱い方も下手以前の話で。

 

「よし。左もできたぞ」

 

シゲタロウの手で綺麗にまとめられた房が二つ、身体の前で揺れる。

 

「お上手なのですね」

 

ずっとそばで見ているからか自分でまとめるときとそう違わなかった。

 

「君の髪は触り慣れてるからね。でも、お気に召してもらえたようでうれしいよ」

 

彼の不可解な行動はまだ終わらない。

 

「ほらモニカ」

「・・・」

 

私のマントをシゲタロウが持っている。

広げてたたずむのは着せてあげるからおいでという無言の合図。

私は広げられたマントを持つ彼の腕の中へ身を進めた。

ふわり、肩にかけられるマントがなにか違うものを着せられているように感じる。

 

「ええっと、留め具はこれかな?」

「・・・ええ、それです」

 

ブリタニアの政治家や騎士にはいつものことでも日本ではマントという衣装は一般的でない。

 

「君には騎士服とマントが一番似合う。煌びやかなアイドルの衣装よりも、黒一色の礼装よりも」

 

騎士服とトゥエルブのパーソナルカラーを持つこのマントはラウンズの証であり私の誇り。

そしてシゲタロウの騎士モニカとしての誇りでもある。

 

「これこそが君らしくていい」

 

似合うと褒められるのはうれしい。でもどうしてこうも執拗なまでに異質な私の姿をたとえに出すのだろう?

髪の短い私。アイドルのように煌びやかな衣装をまとう私。まるで喪服をたとえているかのような黒の礼装に身を包む私。

私自身考えもおよばない想像の範疇外な姿ばかり。

髪はずっと長いままでこれからも変わらないだろう。

アイドルではない私が夜会や社交の場以外にドレスを着る機会はない。

そもそも夜会のドレスとはアイドルの衣装とまったくの別物だ。

婚礼や葬儀の際にも喪服ではなくラウンズの正装で身を整える。

 

「なにか、あったのですか?」

「・・・いいやなにもない。・・・なにもな」

 

羽織らされたマントの留め具を慣れない手で留めてくれるシゲタロウの姿に唯々戸惑うばかりだった。

 

出掛ける前。玄関で最後の違和感に直面した。

 

「あ――!」

 

ぐっと手を引かれ、身体ごともっていかれる。

引き寄せられた先にはシゲタロウがいて、少し強めに抱き締められた。

 

「明日は休みだな」

「は、いっ」

 

背中へと回された手に力が入る。

ドキドキして嬉しさを感じるのに胸が圧迫されて苦しい。

シゲタロウの息が耳にかかる緊張感。

けれど彼の様子が気掛かりで、ただこの悦びを噛み締めるということができないでいた。

 

「明日一日、身体を空けておいてほしい」

「どうしたのですか?」

「なんでもない・・・ ただな、明日は一日モニカと二人だけですごしたいんだ。

 なにか特別な予定があるわけでもないんだが、ただ君と二人っきり・・・夫婦水入らずで・・・。

 日向ぼっこでもお昼寝でもして、すごしたいだけさ」

「・・・シゲタロウ」

 

本当に今日はどうしてしまったというの。

 

 

 

 

 

 

終わり。

 

 

 

 

夢の人の夢SSモニカさんとしたずっとそばにいるという約束。

ひとりぼっちの彼女の夢をみたことによる不安感を表したもので

砂糖もなくビターもないけどでも優しく、そして悲しさの残り香ただよう朝の一幕でした。



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ブログチェックで甘々

金曜の夜といえばスウィートナイト。
スウィートはあまい。

ソキア「そんなネタらしいさぁ」

ネタ元は42スレのブログ語りのレスで影響を受ける人とトーゴーの人の案。
いっくんの砂糖。
スレ42の参考レス
影響を受ける人氏。
個人的にアーニャ上のブログは見てみたいな。日本にいると「おいしいもの食べた。今日はこれ」っていう感じに紹介されていそう。
トーゴー氏。
ジノの弟分とその婚約者の日々を観察したブログなんてどうでしょう?
ジノはレオンもマリーカも匿名にしてるから問題ないだろとレオンからの抗議をあしらっているものの、
関係者から見たらあの二人のことだとすぐ分かってしまうような。
では投下。


 

 

 

 

ブログチェックで甘々

 

 

 

 

四角い画面だけで構成された携帯電話を操作しながら某かの確認を行うリーライナの手元をみていた山本は感心していた。

 

「よくもそんな自由自在に扱えるな」

 

彼女がいま使っているのは一般的に普及してるスマートフォン。

世界中で爆発的に広がり業界の9割を独占している携帯端末だ。

でも最近ガラケーから乗り換えたばかりの山本にはどうにもこの平たいタッチパネル式携帯端末が上手く操作できない。

 

(嶋田も辻も宮様も皆それを自在に使いこなしているというのに)

 

夢幻会の構成員達が平然と操れるのは彼等がギアス世界以前の昭和世界の更に前の平成世界でこの端末を扱い慣れていたからであり

昭和世界の物品しか与り知らない彼は完全な素人である。

ギアス世界では発売されてからかなりな年月が過ぎていても最近使い始めたばかりの昭和世代には何かと不便に感じる。

実際は便利でも操作性の違いから感じる不便さは慣れるまで消えそうにないようだ。

山本自身の学習能力は高くとも、60代ともなれば知識の吸収率も落ちてくるし

ガラケーとは異なる操作性が災いして短文メール一つでもやっとこさ。

リーライナや嶋田達のようにぱぱっと扱えないので非常に苦労する。

 

「いつまでもガラケーのままじゃいられないんだし、いい加減スマホくらい扱えるようにならないと時代に乗り遅れるわよ?」

 

「お前はそう言うがな、俺達世代の人間には進むのが速すぎてついて行けんのだ」

 

発展著しいITと電子関係の品物は一年経てば先に進む。とくに日本の開発速度はこと科学や技術の面では驚異的な速度だ。

総合的には超大国第二位の地位に甘んじるも、技術の面ではブリタニアすら追い抜く世界一。

誰が呼んだか技術の日本と称されるようになって久しい日本の先進性に、当事者である日本の指導者が追い付けないとは滑稽だった。

 

「これだから昭和のおじさんは困るのよ」

 

椅子から立ち上がったリーライナは溜息を一つ。

山本が座る反対の席の長椅子に腰を下ろし身体を引っ付けた彼女は彼の手を取る。

一見して祖父に甘える孫娘か歳の離れた父にかまってほしいいつまでも親離れできない大人の女性の図。

そう考えると微笑ましいがその実が単なる恋人同士だと知られれば激しい嫉妬を買いそうな密着体勢だった。

 

「少しくっつきすぎじゃないか?」

 

ここは喫茶店でお茶飲む店。

山本の指摘に余裕の笑みを浮かべて応じたリーライナは言った。

 

「いいじゃない。このままキスとかしていちゃつこうというなら迷惑な客だけどそういう事するんじゃないし。ほら使い方教えてあげるんだからいっくんの携帯貸して」

 

「昭和世代だと思って馬鹿にしているな?いまさらお前に教わらんでも俺とてある程度使えるわ」

 

「電話かけてメールするだけ。メールの返事が思いっきり遅い。そんなことである程度使えてるなんて言えないわよ。シマダ卿なんか完璧に使いこなしてるんでしょう?」

 

「彼奴は、お前と同じくらい普通に使えてるが嶋田は嶋田、俺は俺だ」

 

「同世代に差を付けられて悔しくないの?」

 

「リーラ達のようなネット世代でないからあまり気にならんよ」

 

「ギャンブルの情報もネットには多く載ってるけれど」

 

関心を示さない山本に軽く振ってみただけのリーライナであったがこれが彼の琴線にドストライク。

命と彼女と国家を除外すれば断トツ一位の大切な分野を刺激されては動くしかない。

 

「せっかくだから教えて貰おうか」

 

「・・・・ほんとにギャンブルが絡むと変わり身早いんだから」

 

小一時間リーライナ指導の下スマホの使い方を教わった山本は一朝一夕にはいかないことをあらためて実感した。

 

「タッチパネルは扱いづらい」

 

「慣れよ慣れ。知り合いのブログを視に行ったりコメントを書いている間に自然と身についていくものよ」

 

山本の肩にこつんと頭をもたれかからせたリーライナはタッチパネルを操作する彼の指先にエメラルドの目を向けたまま言う。

 

「ギャンブルが強い人って手先が器用だというし、いっくんなら本気で打ち込み出せば短期間の内に使いこなせるようになると思う」

 

「そうだといいが」

 

彼女に教えられたブログの閲覧に取りかかる山本の親指と人差し指が忙しなく動き日記がクリックされる。

内容は日本語で書かれていた。

 

††††

 

 

モルドレッドさんのブログ

 

 

☆今日の夕飯☆

 

仕事終わりに帰ろうとしていたら食事へ行こうと誘われた。

誘ってきたのは同僚。

付き合いが長いので食事のジャンルがすぐにわかってしまった。

 

同僚の部下が運転する車に乗って移動。

ついたところはやっぱり日本食といってもいいほど日本のイメージが強い麺料理のお店。

同僚はこのジャンルで間違えたりしないので安心していたらとんでもないものを食べさせられた。

普通のもあったし美味しそうな匂いがしていたから私はそっちがいいと言ったのに。

「普通に美味しいものを食べるのは通とは言えません」なんだって。

私は通じゃないのに求められても困る。

 

食べたというよりも食べさせられたその麺料理は自称日本一まずいらしいの。

完食した感想として「まずい」のコメントだけしか言えない。

同僚は「珍しい物を食べました」なんて満足していた。

なにかおかしいと思う。

おかしいと言えば同僚は激辛な挑戦メニューの麺料理まで食べて完食していたからびっくり。

 

あしたは普通に美味しい物が食べたいな。

 

[コメント]ナナさん 5月20日 22:08

 

拝読させて頂きましたらご同僚の麺料理にかける意気込みの凄さが伝わってきました(^^;)。

ご同僚の方共々にくれぐれもお身体を大切にしてください。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 22:19

 

いつも楽しく読んでます。

行ったことありますのでそのお店知ってますよ。

まずいですよねあそこの拉麺。

同僚の方と同じで好奇心を刺激された人で賑わってますので待ち時間長かったでしょう?

 

[コメント]黒のゼロさん 5月20日 22:34

 

日本一まずいなら世界一まずいでも通用する。

日本一辛いならやはり世界一辛い麺となる。

世界最強の騎士よ!よくぞ完食した!!

 

だが、無理するなよモルドレッド(>_<)

 

[コメント]名無しさん 5月20日 22:56

 

今日は美味いもんじゃなく不味いもんかぁ。

モルドレッドさんの美味いもん日記を参考に色んなもの食べてるからプチグルメになってきたんで

グルメ的に不味いもんも挑戦した方がいいのかな?

 

[コメント]ぶいつーさん 5月21日 00:21

 

辛い店の麺は今度弟に食べさせてあげてよ。

少しは静かになりそうな気がするんだ喉焼いたりなんかして。

 

[コメント]クララ・クランさん 5月21日 01:47

 

お金無いお金無い言ってるお兄ちゃんなら余裕で美味しいって言いそうだね☆

 

[コメント]名無しさん 5月21日 04:13

 

モルドレッドさんの同僚さんが何気に凄いんですけど(^^;)

通というより悪食?

 

[コメント]アイラブ生徒会長さん 5月21日 10:29

 

日本一!とか

世界一!とか

そんなの聞いたら逆に食べてみたくなるなあ

今度友達誘って行ってみようかな?

 

[コメント]朱鳥さん 5月21日 11:40

 

僕も麺料理好きだけど極端なものは食べたことないね。

好きな子を誘うにも誘えないし、でも興味はあるかな?

僕、身体は人一倍頑丈だし激辛の挑戦メニューを食べてみるよ。

 

[コメント]名無しさん 5月21日 12:26

 

喰った。

死ぬ。

舌が焼ける。

 

[コメント]モニモニさん 5月21日 12:55

 

ごめんなさい・・・・

 

[コメント]モルドレッドさん 5月21日 19:38

 

ナナさん

いつも気づかいありがとう。とっても嬉しい。

今度美味しいお店に食べに行こう。

 

名無しさん

一時間近く待った。

待った末に食べたのが日本一を冠するまずい麺という。

 

黒のゼロさん

伝説の騎士モルドレッドでも胃の方は最強でもなんでもないの。

激辛麺食べたらたぶん死ねるの。

 

名無しさん

色々食べて舌の感覚を鋭くしていくと、今まで食べていたものでも違う味を感じ取れたりして楽しいね。

まずい物を食べてみるのも一興かも。でも自己責任。

激辛麺は真の自己責任・・・

 

ぶいつーさん

駄目。あの方は大事な方です。

でももっと大事な人達よりかは優先順位が劣る。

そんな私は不忠者。

 

クララ・クランさん

大家さんに迷惑ばかりかけてるっていう例の人?

今度たかりにきたら連れて行ってみるといい。

 

名無しさん

同僚は麺通だから麺料理ならなんでも食べる。

美味しいとか不味いとか重要じゃなくて麺が重要なんだって。

同僚の好きな人が作ったカップ麺を食べたことが麺通になった切っ掛けって聞いた。

だからどんな麺でも恋の味がするのかもしれないね。

 

アイラブ生徒会長さん

挑戦するのはいいこと。

でも気を付けて。日本一は半端ない・・・・(-_-)

 

朱鳥さん

外が頑丈でも内側はどうかわからない。

鍛える術もないから挑戦するなら気を付けて。

 

名無しさん

おお同志よー。

傷は浅・・・・・深いぞー。

 

モニモニさん

珍しい体験ではあったから謝らなくてもいいよ。

また一緒に食事へ行こう。

 

††††

 

 

「これ誰のブログなのか教えてあげましょうか?」

 

「教えてくれんでもリーラの知り合いでHNモルドレッドとくれば大体分かる。それにしても日本一か、そういわれると食べてみたくなるのが不思議だな」

 

「今度一緒に行ってみる?」

 

山本の肩にもたれる頭が強く押し付けられ長い金髪が揺れる。

 

「それもいいが希望を言わせて貰えるのならば」

 

彼女の肩を抱き、その髪に指を通しながら山本は自らの希望するところをあげてみた。

 

「俺はお前の料理が食べたい」

 

「プロの腕前には勝てませんわよ?」

 

「どんなプロの料理人もお前の料理には勝てんさ」

 

「ふふ、いっくんにそこまで言われたら」

 

掴んでいた山本の腕から手を離したリーライナは彼の頬にそっと手を添えてみる。

 

「腕を振るわないわけにもまいりませんわ」

 

そのまま接吻、とはならず。

 

「したくとも我慢だな」

 

「迷惑なバカップルじゃないんですもの」

 

日本の最高指導部夢幻会の顧問山本五十六。

ブリタニアの貴族で名家の息女リーライナ・ヴェルガモン。

立場が立場なだけに場くらい弁える。居酒屋で酔いに任せて気持ち良く口付けることはあっても日の高い時間の喫茶店でなど。

空気が整っていたときはもちろん別とする。

 

「さあイソロク君、いつまでもおしゃべりなんかしてないで続きといきましょうか」

 

「リーライナ先生の授業再開か」

 

リーライナの髪を愛撫する山本の手に変わり今度は彼女の空いている側の手が携帯を掴む。

そして山本のフリーな側の手が彼女の持つスマホの画面へと伸び、二人で一つのスマホを操作しながらの検索。

検索するワードは「トリスタンの三男坊」。

さっきのブログは日本語だったがこっちはブリタニア語で書かれている。

 

「ここもお勧め。弟分観察記っていうのがあってね」

 

「弟分観察記?」

 

「みてみればわかるわよ」

 

††††

 

 

トリスタンの三男坊

 

 

弟分観察記

 

 

 

本日私の弟分ジークハルトが婚約者のリカ嬢と抱き合っていた。

偶然の事故だったから意図せずしてのラッキースケベかと思った物だが、彼奴男の子していたぜ。

あの気弱で頼りない奴が男になろうとしてるのをみた兄としては子の成長を見守る親みたいな心境だ。

 

詳細はこんなの。

 

ジークの姿をみつけたリカ嬢がジークを呼び止め高いところから話し掛けていた。

リカ嬢と久しぶりに顔を合わせたらしいジークは照れながら彼女と話す。

そこでジークの一言に憤慨したのかリカ嬢が飛び跳ねて、その拍子に高い場所から落ちたわけだ。

幸い下にいたジークに抱き留められて無傷だったんだがそこで思わぬアクシデントが!

リカ嬢にはずっと「さん」を付けてたことは前々から観察記の中で触れてたけど

彼奴このとき「リカ!」って初めて呼び捨てにしたんだな。

受け止められたリカ嬢の顔がタコみたいに真っ赤にゆであがって、ジークはジークでリカ嬢の腹部に顔が埋まって。

みてたお兄さんまで恥ずかしかったぜ(*^_^*)。

それでその時きこえた会話がこれ。

 

リカ嬢「ジークハルト・シュナイダー」

 

ジーク「なんでしょうかリカ・レイシー」

 

リカ嬢「・・・輿入れ前です」

 

ここでジークがリカ嬢を下ろす。

見つめ合って一拍。

 

ジーク「いっ!いやその!?危険があぶないと思ったら咄嗟に身体が!!別にやましい気持ちがあったわけでは決して…っ!!」

 

ジークの奴焦りまくって文法が滅茶苦茶。

でもなんか凄く嬉しそうなんだよ。エッチな意味じゃなく純粋に。

リカ嬢に怪我が無くて良かったって強い気持ちが遠目にも伝わってきていい雰囲気だった。

そのあとは。

 

リカ嬢「約束 覚えていますか?」

 

手を組んでジークを見つめるリカ嬢がそう言って。

 

ジーク「はい 楽しみにしています」

 

みてたのはここまで。

これ以上は無粋だろうと思ってさ。

 

ちなみにラッキースケベだって言った意味。

リカ嬢の服装がもう露出多くてすごいのなんの。

腹部、胸部、ふともも、あちこち丸見えな服装でジークと抱き合いぴったんこな事故が起きたから

だからラッキースケベと言ったんだ。

リカ嬢の名誉のために言っておくが彼女は露出趣味じゃない。仕事の制服の一つがそんなので。

 

今日はこんなところ。

 

また文句言われるな(^_^;)。

 

弟分応援BBS

 

 

[コメント]クラッシャーさん 5月20日 03:51

 

そんなことがあったとは・・・・

なんちゅうラッキースケベだにゃーwww。

でもやっとこ呼び捨てにできたのは素晴らしいぜい。

なんせまあ亀さん進行な二人だから見守ってるこちとらとしちゃあイライラがマッハで溜まるからにゃー。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 3:54

 

やったじゃんこのラッキースケベぇぇぇぇぇぇぇ#

 

[コメント]名無しさん 5月20日 3:59

 

三男坊さんのブログで一番好き。

なんか人生ウォッチングしてるみたい。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 4:08

 

まるでエロゲな神展開www。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 5:26

 

美少女ゲーではここでなにかしらの試練が訪れる。

アニメなら美形のライバルキャラがリカさんに擦り寄るところだ。

頑張れジーク!負けるなジーク!

 

[コメント]メルさん 5月20日 06:02

 

早起きしてブログ確認を致しましたが驚きましたわ。

あの奥手なジークがついにリカ嬢を呼び捨てたなんて狐の嫁入りに遭遇してしまいそう。

たった一つの事故が仲を深める起爆剤となるやもしれませんわね。

まだまだ道半ばですがこれからも力を合わせてサポートしてまいりましょう(*^_^*)

 

[コメント]名無しさん 5月20日 6:46

 

彼女持ち羨ましい。

恨やましい。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 6:58

 

こんなの作り話に決まってるだろ。

エロイ服装の美少女が飛び跳ねて足滑らせて落っこちてこれを華麗に受け止めて腹部に顔埋めるラッキースケベって

現実じゃありえませんわアホらし。

 

[コメント]メルさん 5月20日 08:07

 

こんなの作り話に決まってるだろ。

そうお思いならばわざわざ書き込みなさらなくともよろしいのですよ。

人の真剣な恋路の話に水を差されるなど無粋です。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 8:18

 

メル

おまえカマってちゃんなネカマだろ?

キモイ喋り方すんなよクソネカマ。

上から目線でむかつくんだよ。

 

[コメント]クラッシャーさん 5月20日 8:45

 

言葉遣いに気を付けて変な決めつけは無しにしようぜい。

そんでジークのコイバナに興味ないならバイバイしてくれるとお互いの為になると思うんだにゃー。

だってここジークの恋を見守る掲示板なんだぜい?

(言えない・・・・メルさんへの暴言吐いた名無しがピンチになるかもなんてとても言えないにゃ(>_<)

 

[コメント]名無しさん 5月20日 8:57

 

おまえカマってちゃんなネカマだろ?

カマってちゃんはお前だろ。メルさんはここの最古参のコテハンさんなんだぞ無礼者め!

荒し目的丸出しなお前こそムカツクわ!

 

[コメント]名無しさん 5月20日 9:06

 

荒しは放置。これ鉄則。

あまりに酷いようならブログ主さんが対応してくださる。

燃料与えるのが一番良くない。

 

[コメント]オズさん 5月20日 12:41

 

よォーし!これでまた一歩前進ね!

あとはあの優柔不断男の悪い癖を矯正してあげないと。

 

おまえカマってちゃんなネカマだろ?

おまえ殺すわよ。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 12:57

 

はい殺害予告きました!通報しました!

 

[コメント]クラッシャーさん 5月20日 13:45

 

オズー相手しない方がいいにゃー。

(通報してヤバイのは自分だってのに(-_-)

 

[コメント]名無しさん 5月20日 14:04

 

オズさん放っておきましょう。

どうせただの暇を持て余した可哀想な奴なんですからいっそ哀れんであげてください。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 15:43

 

放置っすよ放置。

無視してたら消えますって。

 

[コメント]メルさん 5月20日 16:07

 

オズさん、私は気になどしておりませんので。

 

[コメント]オズさん 5月20日 16:21

 

メルさんがそう言うなら。

我慢する。

 

リアルだったら斬り捨てたけど。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 16:35

 

それでこそ大人の対応。

よけいな一言も我慢できれば満点でしたが(^^;)

 

[コメント]クラッシャーさん 5月20日 16:49

 

オ~ズ~愛してるぜい~。

 

[コメント]名無しさん 5月20日 17:01

 

本当は気にしてるんだよねネカマちゃんwww。

強がってるだけなんだよね(笑笑笑。

 

[コメント]オズさん 5月20日 17:07

 

やっぱり殺す!!

 

[コメント]ティンカーベルさん 5月20日 17:13

 

ジークは良い男だよ。他人思いで心優しくて。

目移り癖さえなければ。

リカ嬢を泣かせないためにも我々で頑張ろう!

 

オズさんもそういう輩は無視してください。

 

[コメント]クラッシャーさん 5月20日 17:20

 

もうやめやめー!いいかげんにしきゃ血の雨が降るにゃ!!

オズも構うんじゃないにゃ!!

 

[コメント]リーラさん 5月20日 20:39

 

最近あまり会えてないと三男坊さんのブログで存じ上げておりましたけれど

会えなかったそのぶんだけ一気に進展したような気がしますわ。

このままゴールインを目指して私たちも気を引き締めながら支援を続けてまいりましょう。

リカ様も本当にお幸せな一時でいらしたのでしょうね(*^_^*)

 

††††

 

 

「ほーう、なるほどなぁ」

 

「誰かわかった?」

 

「リカ・レイシーはマリーカ・ソレイシイ卿。ジークハルト・シュナイダーはレオンハルト・シュタイナー。マリーカ嬢とレオン君だ」

 

「当たり」

 

「男女のそれらしい話をちっとも聞かんので心配していたが少しずつ前に進んでいるようじゃないか」

 

「本当に少しずつね。婚約者同士なんだからこれじゃ遅すぎるって周りがやきもきしてるらしいけど、恋って結局は本人達の意思で進めていくしかないのよ」

 

「惚れた腫れたは周りが決めることではないからな。我々がしてあげられるのは応援のみだ。しかし」

 

何度か同じ記事に目を通しながら山本は言う。

 

「あの純朴なレオン君がマリーカ嬢を抱き留めたか。このブログで書かれている露出の多い服装とはリーラの飛行服と同じあの服だろう?紫と黒のあれだ」

 

「うんそう、あの服」

 

あの姿のマリーカ嬢を抱き留めた彼の焦りは尋常ではなかったはずだという山本に「いっくんは平気?」とリーライナが聞く。

 

「俺はお前の祖父と近い年代なんだぞ。積み上げてきた人生経験が違う」

 

「ああー、言われてみればそうよねー」

 

祖父と孫。見た目はそう受け取られても当然なくらいの年齢差が二人の間にはある。

 

「じゃあ私としばらく会ってなくて、マリーカ達と同じシチュエーションが生まれたとしても経験豊かないっくんなら欲情しない?」

 

「実際に置かれてみなければはっきりしたことは言えんが、・・・・・欲情はするだろうな。レオン君のように不必要なまで取り乱したりはせんが」

 

「なんだそれじゃあいっくんもケダモノじゃない。経験豊富なお祖父様的包容力を期待してたんだけどざ~んねん」

 

「男は誰しも皆同じだ。老いも若きもない皆ひとしく己の内にケダモノを飼っている」

 

男というのはそういう生き物だ。

 

「愛する女と長らく会えないでいたとあればその時間が長い分だけあつく燃え上がる」

 

山本は美しい金の髪に顔を埋める。ブログに書かれていたレオンのように。

レオンは腹部で彼は頭。姿勢、視点の両面で共にレオンの方が大胆なのに

彼等よりもずっと完成された性的で妖しい雰囲気を醸し出している。

身体の接触もただリーライナが山本にもたれているだけで他には彼の指が彼女の髪に触れているだけだというのにとても蠱惑的だ。

 

「いっくんがそんなだと流れに任せて大人の情熱になっちゃうわよ?」

 

汗に塗れた濃密で情熱的な燃え上がり方。

そこには可愛らしさも感動もなんにもない。

 

「マリーカとレオンは年齢に似合わない小学生の恋みたいな燃え方で可愛らしいけれど私達の場合まったく正反対の大人の」

 

「マリーカ嬢と違いお前は大人だろう。俺も大人の女を相手にしては大人の燃え方しかできん」

 

スマホを持つ二人の指が絡まる。

絡まる親指はまるで一人の人間の意思によって動いているかのように次なる検索ワードを打ち込んでいた。

 

 

 

 

END。



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お風呂の帰り道

 

 

お風呂の帰り道

 

 

 

VVアパートには風呂がない。

だから風呂に行ってきた玉城くん。

どうしてか家に風呂があるはずのクララちゃんも行くといってついてきたので一緒にお風呂へ入ってきました。

もちろんクララちゃんのお父さんも同伴です。

クララちゃんはもちろん女湯でひとりぽっち。

お父さんは玉城くんと二人で男湯へ。

 

れいのごとく家賃を払えない玉城くん。

お父さんの背中をゴーシゴシ。

お父さんの毛はとっても長いです。

長いクララちゃんの毛よりも長いです。

だから玉城くんに洗わせます。

ガシガシ洗おうとしたらお父さん怒ります。

玉城くんのおめめに洗剤アタックです。

 

「ぎゃああああああーーー目がっ目がっああああああ」

 

某大佐さんのように転げまわる玉城くん。

ほかのお客さんも笑ってます。

いつものことなのです。

 

「通称ばるす攻撃 きみのようなだめっこニートの髪洗うんじゃないんだからもっと丁寧にするんだ」

 

「男のくせにこまけーんだよちっちゃいおっさんっ だいたいなんでそんなくそなげーんだよっ いいかげん切れよっ クララもすっげーなげーけどおっさんの毛地面すれすれじゃねーか ばかじゃねーのっ」

 

「ひとの勝手だ きみだって年中髪逆立てて粋がってるじゃないか たいして喧嘩も強くないくせにひとのこといえないねくそニート」

 

なんか喧嘩してますが実は喧嘩になってません。

小さいお父さんは小さいけれど年金もらうような歳なのです。

ですから玉城くんは手のかかるお子ちゃまのようなものでいつもかるーくあしらっています。

簡単に言うとこれでもお父さんは玉城くんを息子のように思っているのです。

立派なひとなのです。

 

そうして流しっこをしながら湯船につかります。

 

「ちゃんと100数えるんだよー」

 

「ガキかオレはっ」

 

「ガキだよ僕の半分も生きてないお子ちゃまじゃないか」

 

「ぐぬぬぬ」

 

言い返せません玉城くん。

だって戸籍に実年齢が出ているのでどうしようもないのです。

 

さあお風呂からあがりました。

さっさと服着て帰ります。

しっかり拭いてひとつにまとめたお父さんの髪の毛。

水気が多くてとっても重そうですが平気そうです。

ずっと長いから慣れてるのです。

 

「おーにーちゃん パパーっ」

 

女湯から出てきたクララちゃんも髪の毛をまとめてます。

お父さんが後ろでまとめてるのとは違くクララちゃんは肩から垂らしてます。

やっぱり長くて濡れてて重そうです。

でもクララちゃんもお父さんと同じで慣れてるから平気です。

 

「おおっいいタイミングだぜ」

 

玉城くんは髪の毛下してます。

いつも逆立ててる髪の毛を下してるとなんだか根暗な坊ちゃんのようです。

玉城くんだけ短髪だからとっても頭かるそうです。

頭の中身が本当にかるいので実は短髪と相性がいいのかもしれませんね。

 

と帰り道を歩く三人。

前を玉城くん 玉城くんのすぐ後ろをクララちゃん。

そして二人を見守るようにもう少しだけ後ろからお父さん。

 

玉城くんとクララちゃんは楽しそうにお話ししながら歩いてます。

お父さんは無表情でぼんやり歩いてます。

対照的ですが仲良しな家族です。

 

あら なにやら白いものが空からちらりちらり。

 

「つめたっ」

 

お鼻にあたったクララちゃんがびくっと震えて目をしばたたかせます。

寒い夜 空を覆う厚い雲 今夜の天気予報は雪。

三人の帰り道に重なって振ってきたようです。

 

 

「おおー雪だぜ雪ー 東京にはめったにつもんねーからふれふれー」

 

「クリスマスに降ればホワイトクリスマスなんだよーおにいちゃん」

 

「なんだそれって」

 

「恋人たちを祝福してくれるんだよー」

 

それだけ伝えてクララちゃんは玉城くんの背中にがしっとしがみつきました。

クララちゃんは強制おんぶを試みたのです。

 

「重っ っきなしのっかってくんなよ」

 

「えへへー だーっておにいちゃんのお背中はクララだけの特等席なんだもーん」

 

「だーれが決めましたかだーれがええー?」

 

「もちろんクララが決めたもんねー」

 

「勝手に決めんなばーか ・・・・・ま 寒い夜にゃあったけーから許してやっけどよ」

 

なんだかんだと文句の多い玉城くんですが幼馴染のクララちゃんにはとっても優しいのです。

だからクララちゃんがなにをしてもたいてい許してます。

さいきんは体が大人になってきたクララちゃんにドキドキしていることも多いようです。

 

「(*´▽`*)おにいちゃんツンデレー」

 

「はいはいつんでれつんでれ あったまるついでにこのまんま走んぜっ しっかりつかまってろよぉーっ」

 

「おおーっ いけいけおにいちゃーん(^ω^)/」

 

ニートの玉城くんとにこにこして幼い感じでかわいいけれど実はとっても怖い秘密組織の暗殺者だったりします少女クララちゃんは雪の中を走り抜けます。

玉城くんはクララちゃんの怖い真実を知りません。

でもそれでいいのです。

二人はそれで幸せなのです。

少なくともクララちゃんは大好きな玉城くんに自分の秘密を知られたくありません。

だって。

 

「おにーちゃん だーいすき!」

 

ですからね。

お風呂の帰り道 幸せな夜の一幕はこんなふうにすぎていきました。

 

幸せな夜をお楽しみにね。

 

 

「はっくちょん・・・・・ さむい 雪とか寒いからたまんないよね・・・・・」

 

お年寄りのお父さんには。

ちょっぴりつらい穏やかな夜だったようですね。

 

 

 

あとがき

玉城くんの声優さんがお亡くなりになられましたからね。

なんかね 玉城くんのね ほのぼのとしたね 幸せな夜でもみてみたくなったのね

 

 

 

 

 



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憂鬱×ギアス×種の思い付き書きなぐり。

 

憂鬱×ギアス×種の思い付き書きなぐり。

 

 

 

 

 

 

もしこの世界を文明圏で分けるのならば三つに分れることだろう。

一に日本ブリタニア文明圏。

二に中華帝国インドペルシャを混合した中華連邦文明圏。

そして最後に合衆国オセアニアとユーロピア共和国連合を筆頭とした文明圏。

細部までを論えば更なる分化もやむなしの国際情勢はこの三つが主立った色分けをされる勢力圏として君臨していた。

 

異なる文明圏同士は今日の勢力図を形作るまでに幾度となく矛を交えてきたがそれはいまも変わらずであった。

豪欧は日ブと対立しつつ中華侵蝕を計画し。

日ブは領域を侵されない限り自ら手を出すことなく。

過去から尾を引く日中対立が豪欧の策動を前にしても両国世論の硬化を招き。

ブリタニアは日中対立解消のため自国が仲介役として双方に交渉のテーブルへ付くよう働きかけ狭間で揺れ動く政情不安定な中華は南北からの脅威に守勢一辺倒。

続く対立は人間が人間である以上はそれこそ致し方なしという他ない。

危ういところで均衡のとれていた三分世界はコズミックギア暦二〇二〇年四月に入り大きな曲がり角を迎える。

 

豪欧のフィクサーであるオセアニア国家評議会ザフトクライン派とユーロピア三百人委員会をアズラエル派と二分するロゴスジブリール派の積極的平和主義 武力を背景とした他勢力への恫喝外交に眉をひそめていた日ブに対し当事国の豪州から会談の申し入れがあったのだ。

場所は両勢力の最前線と称すべき欧州の最小国シーランド首都シーランド島の迎賓館。

共和国と名の付く国ばかりの中にぽつんと存在する人工島群王政国家はその地理条件にありながらも国家成立の過程から君主制国家群から形成された日ブの文明圏に所属しており建前上日ブに譲歩する豪欧の体裁が整えられていた。

 

会談の提案者はまさかのラクス・クラインオセアニア国家評議会議長本人。

日付が四月一日だったこともありブラフではなかろうかとの意見も出ていた物の本人が国営放送を通じて日ブ両国との会談を望んでいることを発表する奇手まで用いたことから本気であるらしいことがわかり両国は対応に追われた。

相手は日ブと同等の技術力および国力を持つ大国の国家元首 無碍に断ることもできずさりとて世界を一つにして人々から争いを無くすといった思想を力尽くで強制するような人物が平和というキーワードで繋がったブリタニア第三皇女ユーフェミアとの一対一での個別会談まで条件に持ち出してきたことからどうしたものかと頭を抱えたのだ。

 

陣羽織にも似た白い装束に身を包み桃色の長髪を編み組のポニーテールにした女性が一礼する。

 

「お目にかかれて光栄ですわユーフェミア殿下」

 

対して白のタイトスカートという公務服姿のユーフェミア殿下も一礼した。

 

「こちらこそ光栄ですクライン議長閣下」

 

こちらもポニーテール風のひとまとめに結わえた殿下の桃色髪が流れる。

 

「以前より存じておりましたがこうしてお言葉を交わすのは初めてですわね」

 

相対する二人は先にクライン議長が握手を求め手を差し出す。

 

「クライン議長のお噂も我が国に伝わっております」

 

席に着く二人。

私はクライン議長を見る。

 

「私のお噂というものがどのようなものかお訊きしても?」

 

「はい 世界平和のため積極的に行動する平和の使者と」

 

まるで姉妹なのではと見間違えるほど似通った背格好に髪型と髪色の二人は言葉遣いまでも同じ。

服の色や瞳の色までも。

しかしなにかが違う。

決定的なまでに。

ユーフェミア殿下とクライン議長が似ても似つかない別人だと人間を見慣れている者ほど気付く違和感を覚えるのだ。

 

「ですがあまり良い意味ではありません」

 

「良い意味ではない? なぜですの?」

 

「平和を求めても応じない者へは力を行使し争わせないようにする 他国へと出向きその土地を侵し血を流してまで押し付ける平和に意味などあるのかと」

 

目を伏せる殿下は閉じた目を見開いた後も厳しい表情を崩さず。

議長はだがそんな殿下に向けた笑顔を絶やすことなく殿下を見つめている。

 

「私も臣民と同じ意見を持っております 争いを無くす為に争うのは本末転倒というものですわ」

 

糾弾に近い。

ユーフェミア殿下は争いが嫌いである 日ブに属する誰しもが既知の事柄。

だからこそ言葉で訴える争いのない世界を望んでいるというのにクライン議長は口では平和を謳いつつ自ら争いの種を撒き散らしている 殿下にはそれが許せないのだろう。

 

「残念ですわ御理解いただけないのは 同じく平和の旗手であるユーフェミア殿下にならわかっていただけるものと思っていたのですが」

 

議長は訴える。

 

「できることならば私も力の行使などしたくはないのです しかし世界はいまだ弱肉強食を是としております」

 

世界平和を望み声を上げても無くならない争いを無くす為にはときに武力も必要である。

 

「これを打破し世界平和を構築するには大きな力を持ちながらも平和を望む勢力による世界の統合が必要なのです」

 

それがオセアニアでありユーロピアジブリール派である 日ブも是非その輪に加わって欲しい。

 

「旧態然とした世界情勢を良しとする中華連邦も 平和に纏まるユーロピアを割ろうとしているムルタ・アズラエル派も両者とも放置しておけばやがて世界に災いをもたらします」

 

共に世界平和を目指すため日ブ両国指導部への橋渡し役となって欲しい。

 

「ユーフェミア殿下はブリタニアの高位皇族であり日本の導き手夢幻会の中心人物シマダ卿の御内儀 そんな貴女にお力をお貸しいただければ真の世界平和に大きく近付けるのです」

 

殿下のお立場なら両国指導部を説得できるとクライン議長はいう。

 

あまりにも傲慢だ。

両国国民はもとより世界中のあらゆる国家を無視した発言に怒りを覚える。

まるで自分の言葉に酔っているようにも聞こえた。

 

「クライン議長閣下・・・・・それは平和ではなく世界征服を目指すという非公式の宣言なのですか?」

 

私も思ったことを殿下はご質問くださった。

すると。

 

うふふ。

 

確かにそう含み笑いをもらしたクライン議長はおっしゃった。

 

「違いますわ 世界を一つにし二度と争いの起らない体制を構築することのどこが世界征服というのでしょうかユーフェミア殿下?」

 

「━━っ!??」

 

予想外の回答に言葉を失う殿下に相も変わらず微笑みを絶やさない議長が私には恐ろしく感じられた。

 

平和な世界を創るため。

 

そんな大義名分を掲げてこのユーフェミア殿下と良く似ているようで似ていても全く違う人はこれからなにをしようというのだろうか。

 

日ブ豪欧四カ国会談とは別に設けられていたユーフェミア殿下とクライン議長の会談に立ち会った者のひとりとして会談冒頭の一幕をここに記す。

 

 

 

 

コズミックギア暦二〇二〇年四月八日午前 シーランド王国首都島迎賓館にて大日本帝国先進技術省シーランド王国特派員××ヒビキ。

 

 

 

あとがき

コズミックギアってのはコズミックイラとギアスを掛け合わせた暦っす。

 

 

 

 



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