モノクロウサギよ、狂々回れ (メガネ愛好者)
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第1喰目 「目覚め」
どうも、メガネ愛好者です。
更新再会! ……と思いきや、その実加筆修正版である(尚、作者のモチベが持てばGE3までやる模様)
それでは。
そこは乾いた風が吹く場所でした。
荒廃した土地に吹くその風は、景色と相まってとても物悲しい気持ちにさせられます。
辺りに人影はありません。人がいる気配も感じられません。
あるのは虫食いのように空いたビル群だけ。今や人は住んでいないと思われる居住区が、見るも無残な姿で立ち並んでいます。
とても現実とは思えない……でも、眼前に広がる光景が間違いなく現実だということは、先程肌で感じ取った乾いた風が証明しています。
そんな荒廃した土地に時折響き渡る"ナニカ"の雄叫びが……私の心に恐怖感を抱かせる。正直に言いますね? ……滅茶苦茶怖いです。
……あ、どうも皆さま。いきなりこのような始まり方をしてしまい申し訳ないです。……ですが、許してください。実のところ、私自身も現状に酷く混乱している真っ最中でして……
えっと……とりあえず初めに、私が今どのような状況に陥っているかについて説明させていただきたいと思います。いいですか? ……ダメだなんて意地悪な返しはしないでくださいよ?
まず、私の名前は…………すいません分かりません。
あ、いやっ、おちょくってるわけではないんですよ!? 冗談を言っているとかではなくて本当にわからないんです!! 本当です! 本当ですよ!? 本当なんですよぉ……
自分がどういった人だったのかを思い出そうとしても、何一つ思い出せないんです……これって、話に聞く"記憶喪失"ってものなのでしょうか……?
ある程度の一般常識などはすんなり思い出せるのですが、私に関連する事……思い出とか経験などはサッパリなんです。何なんでこんなことになっているのでしょう?
少なくとも自身の状況や周囲の環境などを見るに……私のこれからの人生がハードモードであることは確定的にあきらかです。
現在、この場所は先ほども述べたように、人が住むにはあまりにも荒廃しすぎています。もう私以外の人は死んでしまったのでは? と思える程の荒れっぷりです。
因みに、私は先程まで崩壊しかけのビルの中で眠っていたようです。起きた時、私はかろうじて原型を留めていたベッドの上に横たわっていました。(起きた瞬間にベッドが崩れるという寝起きビックリに心臓が止まるかと思いましたがね……)
「ここはどこ? 私は誰?」とお決まりながらも言う機会など冗談でしかありえないと思っていた言葉、それを思わず口にしてしまった私を誰が責めようか……
……よし、切り替えていこう! いつまでもジッとしているわけにもいきませんからね!
まず私はどう言った人なのか……は記憶がないから一先ず後回し。なら次は……自分の姿がどうなっているのかを確認してみましょう。
第一に、私は女です。はい、それはすぐに確認出来ました。分かりやすいですしね。
手を見てみます。小さいです。プニプニしています。まるで赤子の手のよう……いや、それは言いすぎかな? あはは。
立ち上がってみます。そこまで低くはないかな? 高くもないですが。
近くの壊れた出入り口の縁で適当に測ってみます。えぇっと……十代半ば程の身長でしょうか? 気持ちちょっと小さめかもしれませんが、多分そのぐらいです。
声を出してみます。
「あー、あー……?」
うーん……自分で言うのもアレですが、透き通るような可愛らしい声でした。簡単に言うならロリボイス。アニメ声ではない。
次は……髪ですね。
ウェーブのかかったロングヘアーです。腰の辺りまであります。……ただ、色が少し奇抜でした。
大部分は白ですね。混じりっ気の無い純白です。周りの砂埃とかで少し汚れていますが、綺麗にすれば本来の輝きを取り戻すことでしょう。
ただ……”大部分”なんですよ。つまり、他の色が混じっているんです。
——黒です。濡れ羽色のようにある種の魅力を内包した漆黒でした。それがちらほらとメッシュのように混じっています。割合で言えば白髪七割、黒髪三割と言ったところでしょうか? その配色のせいで私の髪がまるでシマウマのような縞模様と化しています。どういった工程を踏めばこのような髪になるのでしょう? 謎です。
後は服装です。
白のキャミワンピの上に目元まで隠れる程の大きなフード付きコートを羽織っています。色は黒です。
サイズが合ってないのか、黒コートは私の膝下まで届くほどに大きく、私の身体のほとんどを隠してしまってます。袖も大きいせいで腕まくりしないと手が隠れてしまいますね。
全体的に装飾は少なく、あってもコートの端に白いラインがいくつか施されているぐらいですかね? 必要最低限と言ったところでしょうか。
靴は黒を基調とし、各所に白の装飾が施されたロングブーツを履いています。
靴下も白黒の縞々ニーソで——って、ちょっと待ってください。いい加減言いたいことがあります。
これ、どこまで私を白黒にしたいんですか? 最早昔のテレビみたいにモノクロなんですが……
現状でわかるのはこんなところですかね? そこまでじっくりと見た訳でもないので、後でもう一度詳しく確認してみることにしましょう。
とりあえず、一つ言わせてもらいますと……
私の見た目、なんでこんなモノクロなんです?
いや、狙ったかのような配色に何らかの思惑を感じるのですが? 何があったのですか? 一体全体私の身に何があったらこんなモノクロカラーで統一される事態になるのですか? 最早周囲の光景から浮きすぎて違和感が拭えないのですけど……
□□□□□
ある程度自分の姿を確認した私は、次にこれからのことを考えます。
とは言っても……私はこれからどうすればいいのでしょう? 漠然とし過ぎて思考が上手くまとまりませんね……一先ず、わかる範囲で少しずつ考えていきましょう。
まず前提として、いつまでもこのような場所にいる必要は全くと言っていい程にありません。それならどうするか……
……水場……そう、水場です! 正直に言いますが、今の私、砂埃のせいで服も体も汚いです。お風呂とは言わなくてもせめて身体の汚れを洗い流せるところ、つまりは水場に行きたいですね!
よしっ、そうとなればまずは水場を見つけることから始めましょう! 水場は様々な問題を解決する万能スポットです! 行けばこの状況も何とかなる筈ですよきっと!
……ですが、見たところ目に見える範囲にはそれらしいところはありませんね。それに少し風が強くなってきたせいか、ビルの外はちょっとした砂嵐で砂埃が待っています。下手に出ても余計に砂埃で汚れるだけなのでは?
むぅ……なんだかお腹も空いてきました。見たところこのビルにはさっきの壊れてしまったベッド以外に原型を留めているものはありませんし、きっと非常食もないのでしょう……本当にハードモードです。辛い。
……まぁそれでも探しに行くしかない以上、仕方ありませんね。先ほど聞こえた雄叫びも気になるところですが、このままでは餓死するかもなのです。最低限、飲み水は確保しなければヤバいです。次点で食料ですね。
思い立ったが吉日。私は水と食料を求めてビルの外へと乗り出すのであった。……あ、せっかくですし、フードをかぶっていきましょう。そこそこ厚めの生地のようですし、ある程度の砂埃からは問題なく防いでくれる事でしょう。これ以上、奇抜とはいえ自身の髪を汚すのは躊躇われますからね。女の子にとって、髪は大事なものですから!
そこまで考えたところで私はフードをかぶります。——その時、私はフードの一部に違和感を感じました。
なんでしょうか、これは……? 何やらフードに不安定な重みがあります。気になった私はその違和感のある場所に手を伸ばしてみると——何やら、掴みました。
掴んだものの正体を知るために、一度コートを脱いでフードを確認してみます。……って、はい?
「……兎の、耳……?」
そこには兎の耳を模したかのような装飾——俗に言う”ウサミミ”が取り付けられていました。
はい、ウサミミです。片耳(左)が半分辺りで千切れていますが、間違いなくこれはウサミミでしょう。
よく見たらコートの腰下辺りにもちょこんと丸いものが……これ、尻尾に見立ててあるのでしょうか?
ウサミミにウサシッポをつけた低身長ロリボイスの白黒少女……ダメです、意味わかりません。記憶を失う前の私って一体何者なの……?
……まぁ、いいです。特徴があることは別に悪いことではありません。今は他にやるべきことがあるのですから、服装の事は後程考えていきましょう。……そもそも、別にこの服装が嫌ってわけじゃないですし。
気を取り直して、コートを着直した私は改めてフードをかぶります。では、いざ探索です!
ウサギの容姿はデート・ア・ライブに登場する四糸乃の白黒カラーを思い浮かべて貰えればと。
ただし、服装につきましては本編通りのものに変わっております。テーマは「荒廃した世界に必死で生きる兎」です。
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第2喰目 「散策」
どうも、メガネ愛好者です。
一つの話を何分割かに分けました。文字数を少なくすることで投稿ペースをアップ! ……出来ればいいなぁ
それでは
まずは周囲の状況を改めて確認しましょう。
案の定、外はかなり荒れ果てていますね。……なんだか哀愁を感じさせる光景です。ですが、不思議とそれが"当たり前"のことなのだと認識してしまいます。何故でしょう? 明らかに普通とは思えない光景の筈なのに……
ですが、そんな環境でも私の気持ちは自然と明るくあり続けている。と言うのも……知らない所を歩くのってなんだか冒険をしているみたいでワクワクしてきませんか? 正直私はワクワクしています!
……私はこの状況下で、なんでこうも楽観的に楽しんでいるのでしょう? もしかしたら死んじゃうかもしれないような状況下で……気が緩み過ぎじゃないでしょうか?
どうやら私、危険な状況でもお構いなしに楽しんじゃうような性格なのかもしれません。私ってもしかしてクレイジー? そんなぁ……
……いえ、駄目ですね。例え私の本質が一般的なそれではないとしても、こんなことで一々落ち込んでいるわけにはいきません!
何より暗くなっていてもいいことなんかありませんからねっ! それならそれで、開き直って明るく元気にはしゃいでしまおうじゃありませんか!
……うん、やっぱり私は少し頭の螺子が抜けた人間なのかもしれませんね。もうこの件については触れないようにしましょう。
そして現在、私は呑気に鼻歌を溢しながら、辺りを眺めつつ探索しております。ほんと呑気ですね私……
きっと、行けども行けども代り映えの無い景色に飽きてきたのでしょう。何かトラブルに見舞われるのも嫌ですが、逆に何もないとそれはそれで暇になってくるものです。人としての性なのでしょうね、これは。
そうしていくらか探索しつつ、始めにいたビルからある程度離れた辺りで——
——突如として、周囲の空間をも震わす爆音が響き渡りました。
「おお?」
遠くから響いた爆音に、私の意識は引っ張られます。思わず変な声が出ちゃいました。恥ずかしい……
それにしても、ビルでも崩れたのでしょうか? ……いえ、そう言った音ではありませんでした。現に今しがた聞こえた爆音は絶えず聞こえてきます。
次から次へと響く炸裂音。更には地面が砕けるような地響きまで聞こえてくる始末。終いには先程から微かに聞こえていた、大気が震える程の"ナニカ"の咆哮までもが私の耳に届いたことで、ビルの崩壊による音という考えは脆くも崩れ去りました。
そんな爆音やら咆哮やらが響き渡る中、私はというと……
「何なんだろう……ちょっと行ってみようかな?」
何と私は、無防備にも音の発生源まで向かうことにしたのです。
無鉄砲にも程がありますね私。普通、爆音やら何やらが響き渡る場所に近寄ろうとする人なんていないんじゃないでしょうか?
『やはり私の頭の螺子は抜け落ちている』——みたいな? ……なんでこんな他人事なんだろう。自分のことなのにね……
□□□□□
ある程度進んだところで私は音の発生源へと辿り着きました。
何があるのかわかりませんので、一先ずは物陰に潜みながら移動しています。流石に堂々と歩いて死に行くようなおバカさんではないですからね私。そこまで頭の螺子は抜けていません! ……多分。
何はともあれ……ではでは、拝見させていただきましょう。
音の発生源まで辿り着いた私は物陰から少し顔を出して覗いてみます。
すると……そこには私の知識にはない怪物と、大きな武器(?)を持った男女三人組が戦っておりました。
大きな管状の器官を背中に携えたお猿さん。額に管状の角を生やした大きな口を持つお魚さん。翼に拳を持つ二足歩行の鳥さん等、様々な特徴を持った常識離れの怪物達が視界の先にいます。その怪物達は様々な攻撃手段を持って三人組を襲っていました。
しかしそんな怪物達の攻撃をものともせず、三人組は果敢にも攻めていきました。よくあんな怪物達と戦う気になれるものですね……って、え?
そこで私は、目を疑う光景を目の当たりにします。
「サクヤ! ソーマ! そっちは頼むぞ!」
「了解!」
「フン……」
黒髪の男性が所々で指示を飛ばし、それに黒髪の女性とフードの青年が応答する形で連携を繋いでいます。
黒髪の女性は銃らしき武器でお魚さんの角を撃ち抜いたり、フードさんは大きな鋸のような武器でお猿さんの体を引き千切ったり、黒髪の男性も鳥さんの翼をチェーンソーのような武器で切り裂いたりして圧倒していきます。……その光景に、私は唖然としてしまいます。
……とても、人間の動きとは思えません。
あの人達は本当に人間なのでしょうか? あれ程までに大きな武器を軽々しく振るっているのもそうですが、そもそもあれ程の質量のものを持った上で動き回るなんて、どういった膂力しているのだろう? 明らかに人の限界を超えている気がするのですが……
そうこう私が考えていると、一際大きな咆哮——いえ、断末魔が響き渡ったことで私の意識が戻されます。
視線を戻すと、丁度黒髪の男性が鳥さんを真っ二つにして絶命させていました。他の二体も近くで横たえており、一向に動く気配がありません。死んじゃったのかな?
……おや? 鳥さん達の体から黒い煤みたいなのが出ています。あれはなんでしょう?
そんな鳥さん達を囲むように、警戒をしながら近づいて行く三人組。黒髪の男性が鳥さん達の亡骸に近づき、後の二人は周囲の警戒を始めました。何かやるのでしょうか?
そして黒髪の男性が鳥さんに向けて剣を掲げ……その後の光景に、私の思考が停止しました。
なんと、黒髪の男性が持つ武器から黒くて禍々しい
なんですかあれ……剣から大きい口みたいなのが生えてきたのですが? ……ちょっとカッコイイかも。
黒髪の男性はそれを鳥さんに向けます。すると大きな口になった武器は鳥さんを貪り始めました。
うーん……エネルギー補給とかですかね? 食べるってことはそもそもが何かを摂取することを意味してますし……でもそれにしては原始的ですね。もしかすると、他にも何か違う目的があったりして……
そんな非現実的な光景を目の当たりにしていた私は、すっかり周りのことを忘れていました。
「——っ、そこにいるのは誰だ!」
ついつい考えることに集中していたのが悪かったのか、フードさんに見つかってしまいました。
油断しちゃいました。まさか見つかってしまうとは思いもしませんでしたよ……あ、いえ別に見つかってもよかったんですけどね?
あんな怪物がいる以上、一人でいるのは危ないでしょうし……できれば保護してもらいたいなーと考えていましたからね。身体能力がバグっているとはいえ、見た目は人間そのものですから話は通じる筈ですし、あわよくば衣食住を提供してくれるかもしれません。
……まぁこの風景を見る限り、そこまでの余裕が相手側にあるかどうかまではわかりません。それでも此方の事情を知れば無下にはしない……と願いたいです。基準になるかどうかはわかりませんが、あの人達の身なりはそこそこ整っていますからね。希望は持っても良いと思います。
あれやこれやと私が考えている一方、フードさんは徐々に私の隠れてる瓦礫へと近づいてきている。一気に来ないのは私に警戒しているからでしょうか? 他の二人もフードさんに次いでこちらに武器を構えながら歩みを進めています。
とにもかくにも、まずは話をするべきでしょうか? そう考えた私はフードさん達がある程度の距離まで近づいてきたところで——
「——ッ!? 待て!」
——脱兎のごとく逃げ始めました。ウサギだけに。
主人公、まさかの逃走。(そして未だに名前が明かされていないという)
ソーマは(周囲の気配に)敏感だった。
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第3喰目 「出会い」
どうも、メガネ愛好者です。
会話文が多くあるせいか文章が長く感じる不思議。
それでは。
——現在私は全速力で逃げていました。
いえ、よくよく考えてみてください? こんな怪物さん達がうようよいるであろうこんな場所に、変わった身なりをした少女がいたらどう思います? ……まず間違いなく不審に思いますよね?
その上、私は記憶がないのです。素性が分からない得体の知れない人間をすんなり受け入れてくれるでしょうか? 私が少女の姿をしていても微妙なところですよね?
ですから逃げます。今は逃げます。話し合うとしても、ある程度は相手のことを知っておかなければ話し合いにもなりません。一先ず彼等を撒いた後、情報収集してみようと思います。……え、手段? 後で考えます。人間、やろうと思えばどうとでもなりますよきっと!
とにかく今は逃げるのです! ……決してフードさんの声にビビって咄嗟に逃げちゃったわけではありません! 違うったら違います! 違ってなくてもそれは急に声を掛けられたことによる条件反射と言うものであって他意はないぃぃぃーッ!!
「止まれ!」
「ひうッ!?」
そんなことを考えながら逃げていた私は……気づけば回り込まれていた。……逃げ始めた場所からそう距離も置かないところで。
嘘ですやん。さっきまで後ろにいたじゃないですか……なんでもう前にいるのですかフードさん? 早すぎません?
後ろからも黒髪コンビに追い付かれています。そうして三人は私を逃がさないとばかりに周囲を囲んで退路を断ちました。その間、僅か数秒。迅速な対応ってやつですね。
ぐぬぬ……フードさんはまだ然程歳は離れていないでしょうけど……黒髪さん達、貴方達はもう大人でしょう? 小さい子供をよってたかって追い詰めるもんじゃありませんよ? ……だからその武器、私に突きつけないでください震えが止まりませんごめんなさい許してくださいもう逃げませんから勘弁してください止めて助けてまだ死にたくないぃぃいいーッ!!
「ちょっと待ってリンドウ。……彼女、怯えてるわ。神機を向けるのは流石にやり過ぎよ」
「いやぁ、俺としても心が痛むんだがな? もしかしたらってのもあるからよ、部隊を率いる隊長として油断は出来ないんだ。悪いな嬢ちゃん」
「変な
いえ、謝らなくていいですよ黒髪さん。不審者に対して警戒するのは当たり前のことです。間違ってないです。……傍目から見れば、見た目幼い少女に大の大人が武器を突き付けるというヤバ目な絵面ですが、仕方がないことです。私は許します。……怖いですが。
後フードさん、変な姿だなんて言わないでください。確かに最初は私も奇抜だなーって思いましたし、何だったら
以前の私がどうであれ、今はこれが私なんです。記憶を失う前などもうわからないのですから何事も受け入れる寛大さは大事なのです。
それに、探索している途中にあったガラス窓で姿を確認しましたが……今の私、結構可愛いんですよこれが。
顔立ちは年相応な童顔でしたが目つきが少しキリッとしていました。瞳の色は日本人特有の黒です。自画自賛になってしまいますが、おそらく私は美少女の部類に入ると思うのですよ! ……そんな訳ですからあまり変な姿だと言わないでくださいよ。なんだか否定されてる気がして悲しいです。
——それはそうと、今気になる単語がありましたね。
「……アラガミ?」
「ん? どうした嬢ちゃん」
「アラガミって……なんです?」
私は疑問に思ったことを聞いてみました。
そう、"アラガミ"です。フードさんは、私のことを見てアラガミと言いました。それが何を意味するのかはまだ確証が持てないですが……予想としては、先程の怪物達。
そんな私の疑問を聞いた三人は……まるで予想外と言わんばかりの呆けた顔を私に向けてきました。……え、なんで? 私、何か可笑しなことでも言いましたか?
「えっと……貴女、アラガミを知らないの? 本当に?」
「あの、その……さ、さっきの鳥さん達みたいな生き物が、そうだったりします?」
「あぁ。他にも様々な姿形の奴等がうようよいるが……その様子だと、今初めて知りましたって感じだな?」
「えっと……ダメ、でしたか?」
「いやダメって訳じゃないが……アラガミを知らないって、このご時世にあるもんなのか?」
「何か事情があるんじゃないかしら? ……ねぇ貴女、ご両親は? この近くにいたりするのかしら?」
私の反応に不可解な物を見たと言わんばかりに顔を歪める黒髪コンビ。因みにフードさんは静かに私達のやり取りを見ています。……若干私を睨むかのような目つきで視線を向けてきていますが、我慢です。今は我慢なのです……だから震えを抑えてください私の身体! もしもあの目つきがフードさんのデフォだったら失礼ですよ!
と、とりあえず私は彼等の問いに素直に答えていくことにした。彼等の雰囲気から、あまり嘘偽りを交えて話すのは得策じゃないと感じましたので。……そもそも私はあまり嘘を吐くことが出来ません。多分苦手です。ポーカーフェイスとか特に。
そんな嘘偽りのない私の発言が……余計に場を混乱させてしまうことになるのでした。
「どうでしょう……さっき起きたばかりですので、何とも言えないです……」
「……ん? さっき起きたって……ここでか?」
「は、はい。私、あっちのビルの中にあったベッドで眠っていたから……」
そう言って私は先ほど目覚めたビルがある方に指を指しながら答えます。……改めて自分が言った内容を思い返すと、自分でも「何言ってんだコイツ」って思いますね。ホント何言ってるんですか私……
案の定、御三方はどういうことだと顔を顰めます。要領を得ない返答をしてしまい申し訳ないです。
「眠ってたって……そりゃまた、何て言うか……よくこんな場所で眠れたもんだな?」
「正直、私にもよくわからないんです……気づいたらあの場所で眠ってて、なんであそこにいたのかもわからなくて……」
「その言い方だと、自分の足でここに来たって訳ではないのね?」
「はい……そもそも、ここは何処なんです? 私にとって、ここは見覚えのない場所で……これからどうすれば……」
改めて自分の状況を振り返るごとに、私の中にあった不安がどんどん膨れ上がってきました。
先程までは頭が現状に追い付いていなかったから、あそこまで楽観的な考えでいられたのでしょう。ですが今は、こうして他人と話すことで冷静に物事を捉えることが出来、結果こうして不安感が拡大してきたのでしょう。
……なんだか先のことを考えるのが怖くなってきました。これから私はどうなるのだろう? どうやって生きて行けばいいのだろう? 今まで無意識化に溜まっていた負の感情が私に圧し掛かる。気づけば私は顔を俯かせていました。
そんな私の様子を見て思案する御三方。
「……どう思う?」
「今のところ……捨て子って線が一番妥当かしら? もしくはこの子を隠してご両親がアラガミの注意を引き付けて……」
「そうか……」
俯いた私に聞かせまいと静かに意見を交わす黒髪コンビ。……ですがごめんなさい。私に聞かせまいという気遣いが身に沁みますが、どうやら私の聴力はそこそこ良いみたいで……バッチリ聞こえてます。
ですが私は空気を読める少女。あえて聞こえてない体で俯いたまま黙します。
私が聞こえているとも知らずにどうするかと話し込む黒髪コンビ。ある程度話し合った末、私に次の質問を投げ掛けます。
「あー……一応聞いておくが、お前さんどこに住んでたんだ?」
あ、ここだ。ここで私の事情を言うべきですね。
「……ごめんなさい、わかりません」
「……は?」
「あ、あのですね……信じられないかもですが……わ、私、起きる前の記憶がないみたいなんです。ある程度の知識とかはある、とは思うんですけど……思い出とか、家族や友人のこととか……全然、思い出せなくて……その、多分私……」
「……記憶喪失?」
「えっと……はい……」
「「「………」」」
私の独白に硬直する御三方。無理もないですよね……
でも、うーん……このタイミングだと思ったんだけど、流石に突飛すぎましたかね? でも相手の質問には真摯に答えないとですし、このまま隠し続けるなんてことも出来そうにないですし……
もうっ、しょうがないじゃないですか! 他にどう説明しろというんです? 子供だからわかりません! 逆ギレしてすいませんっ!
「……本当にか?」
「はい……」
「……どうする?」
「……とりあえず、保護しない事には始まらないわね。いろいろと疑問は尽きないけれど、民間人の保護も私達の役目。このまま見捨てて帰るなんて出来ないわ」
「そうだな。とりあえず帰投した後、一旦落ち着いてからもう一度事情を聴くとするか。帰れば姉上もいるだろうし、その辺りのことは俺達よりも適任だろう。嬢ちゃんもそれでいいか?」
「私としては、行く当てもなかったので願ったり叶ったりです……けど……いいん、ですか?」
「ま、困ったときはお互い様ってやつさ。少なくとも、取って食ったりなんかはしねぇから安心しな」
や、やりました! 無事保護されました! これで勝つります!(何に?)
保護してくれるということは、私一人増えても支障がない程度の生活ができる環境があるってことかもしれないというわけですね! 欲張り言うなら、できればお風呂があるといいなぁ……
「あ、そうそう……自己紹介がまだだったな。俺の名前は雨宮リンドウ。そっちにいるのが——」
「橘サクヤよ。よろしくね?」
「んでそっちのボッチオーラ漂わせてるのがソーマだ」
「おい、人に不名誉なあだ名作ってんじゃねえ。俺はボッチじゃ——」
「誰か親しい奴いんのか?」
「……」
保護してくれるということで私が内心舞い上がっていると、皆さんが自己紹介をしてくれました。……お一人不名誉極まりない紹介になってしまいましたが、私は気にしませんから落ち込まないでくださいね? これから増やせばいいんですよ! 何だったら私が友達になりますよフードさん!
「とまぁ、そんなところだ。それでお前さんは……って、そういや記憶がないんだったな。名前も覚えてねぇのか?」
「は、はい……あ、でも、不便かと思って、一応考えてた名前はあるんですよ? 今の私の見た目にピッタリな名前です!」
はい、実はこの容姿をみて思いついた名前があるんですよ。……まぁ名前とは言えないかもしれませんけど。
どちらかと言えばあだ名やコードネームにならありそうな名前ですが……うん、いいんです。なんとなくしっくりときましたから!
だから私は、今日からこの名を名乗らせていただきますね?
「初めまして、皆さん。私のことは——"モノクロウサギ"って呼んでください!」
ゴッドイーターからは逃げられない←
そしてようやく主人公の名前が……え、これ、名前?
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第4喰目 「事情徴収」
どうも、メガネ愛好者です。
現在は原作から二年前ほどの時代です。
それでは。
どうも、モノクロウサギという者です。
現在私は……小さな個室にて、厳しそうな雰囲気を醸す女性と対面しています。
「……まさかここまでとはな」
「すいません……」
軽く溜息を吐く目の前の女性、申し訳なさで思わず頭を下げてしまいます。
机を挟んで対面している光景は、さながら警察に事情徴収を受けている重要参考人または犯人みたいですね。彼等の気持ちがわかったような気がします。
さて、何故私がこのような状況に陥っているのかといいますと……まぁ私が原因であることは間違いないですね。誠に面倒を掛けさせてしまいすいませんでした。
——時は数十分前まで遡ります——
あの後、リンドウさん達に保護された私はここ"フェンリル極東支部"——またの名を"アナグラ"——へとやってきました。……まさかこの場所に来るのにヘリで移動することになるとは思いもよりませんでしたね。あのまま接触していなかったら後を追って情報収集するどころの話ではなかったかもしれません。見つかっていてよかったですね私。……逃げたことについては触れないでください。若気の至りってやつです。
極東支部につきロビーにやってきた私達。そこでリンドウさんは私にその場で待つよう声を掛けてから横のエレベーターへと入っていきました。どうやらこの支部をまとめている支部長さんのところに向かったとのこと。
その間、私は一緒にいたソーマさんとサクヤさんの傍で大人しくしていました。何せ私は部外者ですからね。一時的に保護されて着いてきただけであって、本来ここは彼等"ゴッドイーター"の活動拠点……無暗に歩き回るのも邪魔になるでしょう。ジッとすることが出来ないほど、私は子供ではないのです!
ですが、ただ待つだけなのも時間が勿体ないですし、せっかくの機会ですので二人と交友を深めようかと思った次第です。
「……今後、死にたくなければ俺には関わらないことだ」
「え? なんでです? 別にソーマさんが何かする訳じゃないんですよね?」
「……いいから関わるな。二度は言わん」
「そうなんですか……残念です。せっかく友達になれたと思いましたのに……」
「……おい、いつ俺とお前がそんな関係になった。まだ初対面だろうが」
「あっ、その……ダメ、でしたか?」
「……………………もういい、勝手にしろ」
「——っ! はいっ、それなら勝手にしますね♪」
あれやこれやと話し込むうちに、そう時間もかからず私達は意気投合していきました。……何故かその時、ソーマさんが心底疲れたような顔をしていましたが何故でしょう? サクヤさんはふふふっと穏やかに微笑むだけでどうしてだか教えてくれませんでしたし……まぁ、いっか。
二人と話すこと数分、エレベーターへと消えていったリンドウさんが戻ってきました。……隣にリンドウさんと何処か似た印象を抱かせる女性と共に。
その方こそ、今机を挟んで私の目の前にいるお姉さん——雨宮ツバキさんです。
その場で簡単に自己紹介を済ませた後、ツバキさんは私の事情を聞くために一旦落ち着ける場所へと誘導してくれました。その場所と言うのがこの部屋という訳ですね。
尚、その時の状況や補足をするためにツバキさんの後ろにはリンドウさんが控えています。……ですが、出来れば煙草を吸うのはやめてほしいなぁ、なんて。正直に言いますとその匂い……私はあまり好きじゃないです。
「……リンドウ、煙草を吸うなら外で吸え」
「おっと、すまないな姉上。ちょいとニコチンが足りなくなってきてな」
「ここはほぼ密室だ。煙も籠る。もう少し子供への配慮をしろ。……後、ここでは上官と呼べと言っているだろう馬鹿者」
「ふぅ……了解」
あ、ツバキさんが止めてくれました。どうやら私が煙草の煙に参っていることを察してくれたらしい。ありがとうございます。
□□□□□
さて、では話を戻しましょう。
そもそも私にはある程度の予備知識がありました。……ですがそれは、本当に日常で使うような知識ばかりだったのです。
本は読むためのもの、ペンは書くためのもの、寝室は寝るところなど、そう言った日常生活に支障が出ない程度のことしかわかりませんでした。
ですからアラガミという存在を私は知りませんでしたし、現代の情勢も知りません。私達人類が今、どのような状況に立たされているのかさえも……
「では確認するぞ。今は西暦2069年、昨今も変わらずアラガミによって人類は滅亡の危機に瀕している。アラガミには既存の兵器は通用せず、当時対抗手段を持たなかった人類は一方的にアラガミに蹂躙されていった……ここまではいいか?」
「……はいです」
「続けるぞ。そんなアラガミに対抗するため生まれた組織がこのフェンリルであり、アラガミを打倒するために生まれた人間達のことをゴッドイーター、または神機使いと呼ぶ。お前にわかりやすい例えを挙げるのなら、アラガミはお前が見た異形の怪物達、ゴッドイーターはリンドウ達のことだ」
「だから、リンドウさん達はあんな動きが出来るんですね……」
「そうだ。そして、今の現状は残された人々が"対アラガミ装甲壁"という防壁の内に集まり、アラガミの脅威から逃れている状況が続いている。……しかしそれでもアラガミとは常に進化する生物だ。対アラガミ装甲壁に使われている"偏食因子"をも喰らうアラガミが現れてしまえば防壁も意味をなさず、それ故アラガミが侵入することも少なくはない。その対処として、対アラガミ装甲壁を強化する一方でアラガミから人々を守る為にゴッドイーター達が日夜戦っているのが現状だ。わかったか?」
「………はい」
……正直に言うと、頭が追い付きません。
アラガミ、フェンリル、そしてゴッドイーター……
ツバキさんから告げられた情報は、私の持つ常識を粉々に打ち砕かんばかりのものばかりでした。そんな現状に自然と眩暈がしてきます。
到底信じられない事ばかりでしたが……実際にアラガミに立ち向かうソーマ達の姿を目の辺りにした以上、否が応でも信じるしかありません。私の人生、どうやらハードモードどころの話ではなかったようですね……まぁ私だけがハードモードって訳じゃないんですけど、常識知らずの記憶喪失持ちと言う点を見れば他よりも圧倒的に難易度が上がっているのは確定的に明らかっていう……
「さて、現状の説明は以上だ。本来であればこのまま居住区の方に送られるところだが、お前には現状預かり先がない……そこでだ」
まるで悪夢のような現実に打ちひしがれていると、一旦話を区切ってツバキさんが提案してくる。なんだろう?
「丁度、今は使われていない部屋がある。身寄りのないお前には特例としてそこに住まう許可が下りた。しばらくはこのフェンリルで保護する形になるだろう」
「え……いいん、ですか?」
驚いた。まさかここに住まわせてもらえるだなんて……
話を聞くに、ゴッドイーターは軍人のようなものだ。階級とか部隊とかある辺り正に軍隊と言えよう。だからこそ、何の関係もない一般人(?)を態々引き留める必要があるのだろうか?
そんな私の疑問を目敏く感じ取ったのか、ツバキさんは諭すように語り掛けてくる。
「まぁいろいろと想うところはあるだろう。見たところ、お前は無知であっても無能ではなさそうだからな。……しかし、だからこそ今はゆっくりと休め。いいな?」
「はい……お気遣い、ありがとうございます」
私の心情を察してか、少し穏やかな表情を浮かべながら気を遣ってくれるツバキさん。正直なところ、とてもありがたい話だったりする。
本音を言いますと、未だに私は現状を受け止め切れていないのだと思います。……でも、記憶がないからと今の現状を受け止めないのは、現実逃避した愚か者のすることです。現実を目の当たりにした以上、記憶喪失なんて何の言い訳にもなりません。
ですが……
(これから、どうすればいいのかな……)
それでも、この現実は……過酷すぎるのではないでしょうか?
いつ死ぬかもわからない恐怖。先が見えないほど暗い未来……それらが私の不安を駆り立てます。
私の気持ちは……まだ、まとまらない。
ウサギさんは無能ではありません。ただ、難しいことは苦手です。
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第5喰目 「これから」
どうも、メガネ愛好者です。
事情徴収のその後です。
※一話から四話まで加筆修正しております。よければご覧ください。……といっても、一話から三話は旧一話の三分割、四話は旧二話の序盤の話なのですが……
ですので、覚えている方がいるかどうかはわかりませんが、暫くは何処かデジャブを感じる話が続くと思います。……まぁいろいろと修正入って内容が変わってたりもしますけどね。今回みたいに。
それでは。
「リンドウ、部屋に案内してやれ」
「了解しました上官殿。それじゃあ行くぞ? さっさと休んで落ち着くこった」
「はい……」
ある程度の事情説明を終え、私は用意された部屋へと向かうことになりました。どうやら案内してくれるようです。
リンドウさんの呼びかけに私は重い腰を上げるかのように席を立ち、リンドウさんの後をついていきます。……その間も、私は先程の話を繰り返し思い出していました。
……ツバキさんとの対談は、私に決して小さくない衝撃を与えました。
この世界の過酷さに、私は自然と言葉を失ってしまいます。それ程までに、今の惨状は私の理解の範疇を越えるものでした。とても一人で生きていけるような生易しい環境ではないのです。
……なるべく早く、今後のことを考えないといけませんね。部屋を用意してくれたとはいえ、いつまでもそこに住める訳じゃないことはわかっています。……だから、ここを出た後のことを考えなければいけません。
でも……あぁ、ダメですね、これは……上手く頭が回らないです。
考えても考えても上手く考えがまとまらない。数多くの情報が複雑に絡み合って、自分が何を考えているのかさえわからなくなってきます。
どうしたら、いいのでしょう? 私は、どうしたら……どうすれば……
「あー……おい、ウサギ?」
そんな私を見かねてか、部屋に向かう道中でリンドウさんが私に語り掛けてきました。
「心情は察する、なんて気易くは言えねぇが……あれだ、あんまり深く考えすぎんなよ?」
「……え?」
リンドウさんの言葉の意味を何とか理解した私は呆気に取られてしまう。
考えすぎるな? 一体、どういうことでしょう?
リンドウさんの言っていることの意図がわかりません。そう私が疑問に思っていると、顔に出ていたのかリンドウさんが付け加えるように答えます。
「お前さんがどういった理由であんな場所にいたのかはわからないが……見たところ、お前さんはまだ子供だ。自分の力だけで何かを成すにはまだ早い。それなら、
「——っ!」
……目から鱗、とはこの事でしょうか?
何故、私は一人でどうにかしようと考えていたのでしょう? 明らかに私一人の手には負えない事態だというのに、周りに頼ろうともしないでどうにかしようなどと——
……いえ、わかっています。
何故私一人でどうにかしようと考えていたのかなんて、私自身本当はわかっているんです……
ただ私が……彼等に"遠慮"しているだけだってことは。
(めんどくさい人ですね、私は……)
どうにも私は、あまり人に迷惑をかけたくない性格のようです。それに伴い、どうしても一人で目の前の問題を解決したがる傾向にあるようで……だから無意識の内に頼ることを度外視し、例え相手側が良くてもその好意を素直に受け止められないでいる。
そんな、めんどくさい人間みたいです。
「……いいんでしょうか?」
そんな私だから、リンドウさんの好意を素直に受け入れられないでいる。リンドウさんの気遣いを無碍にしようとしている。過ぎたる遠慮は逆に失礼だとわかっていても、それでも私は……拒んでしまう。
しかしそんな遠慮する私から、リンドウさんは一歩も引こうとしなかった。
「当たり前だ。そんな年から下手に遠慮なんてすんなって。頼れるときに頼っとかねぇと後々苦労するぞ? だから今は、思う存分頼っとけ」
「で、ですけど……私などより優先すべきことはたくさんあると思うんです! 記憶喪失だからって、私が優遇されるのは……違うと思うんです……」
「うーん、こりゃ参ったなぁ……」
どうしても受け入れようとしない私に、リンドウさんは困り顔を浮かべてしまう。同時に、癖なのか自然な流れで頭を掻く仕草を取っている。
ごめんなさい、困らせるつもりはないんです……でも、それでもここで頼ってしまえば……そのままズルズルと頼り続けてしまいそうで、怖いんです。
人に頼るばかりで、自分では何も出来ないだなんて……そんな人間には、なりたくないんです……
そんな私の心情を知ってか知らずか、リンドウさんは一旦話をやめて何かを考えこんでしまう。顎に手を添えて考えるリンドウさんに、何を言うつもりなのかと緊張してしまう私。
「……よし、じゃあこうしよう。ウサギ」
「な、なんですか?」
そしてリンドウさんは何か思いついたのか、私の目線に合わせるよう屈み……その大きな手のひらを私の頭に乗せた。
「ウサギ、お前に頼みがある」
「え……? わ、私にですか?」
「あぁ、お前さんにだ」
「頼みがある」……その言葉に、一瞬ドキリと胸が高鳴った。
何故だかはわかりません。ですが……その言葉はまるで、私が待ち望んでいた言葉のように思えてなりませんでした。私は……頼ることよりも、頼りにされることを望んでいるのでしょうか?
そんな自身の奥に潜んでいた奉仕精神を垣間見た私を余所に、リンドウさんは話を続けていく。
「いいか……今から言うことは、決して忘れるなよ」
リンドウさんは私の様子を伺いつつ一旦そこで言葉を区切ると、私の頭に乗せていた手のひらをゆっくりと動かし始め……そっと一言、私の心に刻み込むよう告げるのだった。
「お前が心から信頼出来ると感じた相手——"パートナー"と共に支え合って生きていく姿を俺に見せてくれ」
「パー、トナー……?」
「そうだ。何だっていい。同性でも異性でも、友人でも恋人でも、上司でも部下でもいい。とにかく「コイツだ」って思えるような相手を見つけて、そいつと一緒にこの世界を生き抜いていく姿を俺に見せろ。いいな?」
「一緒に……」
リンドウさんの頼み……それは、本当に頼みなのかと疑問に思うような内容でした。
私が信頼する誰かと共に、生きていく姿を見せること……それは、本当に頼みと言っていいものなのでしょうか? その姿を見せたところで、リンドウさんの得となることなど何一つ無いように思われますが……
「言っておくが、相手に尽くすだけじゃパートナーだなんて言えないからな? 勿論頼りにされることは大事だが、頼ることだって大事なんだ。どちらか一方だけで成り立つ関係を"信頼してる"とは言わねぇ。相手に頼り、頼られる関係になって初めて
どういうことかとリンドウさんが告げた頼み事を理解するために熟考していると、唐突に私の頭に乗せられていたリンドウさんの手が大きく動き始めました。
「その凝り固まった頭をこうして解すことになるからなー」
「あうあうあうあう~!?」
冗談めかしに告げた言葉と共に、リンドウさんが私の頭を鷲掴みにして揺らし始めます。あまりの揺れに思わず情けない声を出してしまいました。
……と言うか、あの、リンドウさん? これ、解してるって言わないですよ? 揺らしてるって言うんですよ?
そんな指摘をする余裕もなく揺さぶられ続ける私。……うぷっ……あ、あまりの揺れに少し酔ってきました……ちょ、ちょっとストップですリンドウさん。このままだと私っ、女として取り返しのつかないことになりそうです~!
「……うん? おっと、少しやりすぎたか」
「や、やりすぎですよぉ……うぅ、気持ちわるいぃ……」
「ははっ、すまんすまん。どうも加減がわからなくてな」
ある程度揺らしたところで私の顔が青くなっていることに気づいたリンドウさんは、そこでようやく腕の動きを止めてくれました。そしてリンドウさんは目を回している私の姿を見て愉快気に笑います。……なんだか少しイラっときました。こっちは気分が悪くなって辛いというのに……
非難気にリンドウさんへと視線を向けると、流石にやりすぎたことを理解してくれたのか申し訳なさそうに頭を掻きながら謝ってきます。なんだか納得いきませんが……まぁ、一応反省はしているようですし、今回は水に流します。次やったら許しません。
「まぁなんだ。お前さんを見てるとどうにも危なっかしく感じてな。……自分のことなんてお構いなしに無理して、余計に周りを心配させるタイプだ」
「うっ……」
「だからこそ、お前さんにはパートナーが必要だ。無茶するお前のハンドルを握る相手がな。そんな相手がいれば、俺も安心できるってもんさ。……だからこその頼みだ。俺に、お前さんの生きる姿を見せてくれ。それまでは一人で生き急ごうとすんじゃねーぞ?」
「……はい」
リンドウさんの頼みに私は頷くことしか出来ませんでした。ここで渋ってしまえば、それこそ迷惑になると思いましたので……
それにしても、パートナー……ですか……
何をどのようにすればパートナーなのか、漠然とし過ぎて想像もつかないですね……頼りにされるだけでは駄目なのでしょうか? リンドウさんはそれでは駄目だと言いますけど……うーん、難しいです。
「……まだ、リンドウさんがいうパートナーと言う関係がどういった関係なのか、私にはわかりません」
「今すぐわかろうとしなくたっていいさ。時間はあるんだ、焦らずゆっくりと自分が納得いくまで考えてみるんだな」
「はい……ありがとうございます」
「いいってことよ。まっ、人生の先輩のタメになる話だと思ってくれればいい。とりあえずは……そうだな、これからどうすればいいかわからないんなら、いっそのこと周囲の流れに身を委ねるのもありかもな」
「身を委ねる、ですか?」
「おう。いくら姉上からいろいろ教えてもらったとはいえ、まだまだ知らないことはたくさんあるだろ? それなら今は、周りの声を聞くのも一つの手だ。流石に聞いたこと全てを鵜呑みにするのは良くないが、これからのことを決めるのに何かしらのヒントを掴めるかもしれないぞ?」
「……そうですね。まずは、知ることからですよね」
何をするにも、今の私には圧倒的に知識が足りませんからね。自分に出来ることもそうですが、まずは周りの事を知っていかなければやりたいこともやれませんし、私の無知が周りに迷惑を掛けるかもしれません。
リンドウさんの言うよう、知ることから始めていきましょう。それがきっと、今の最善なのでしょうから。
ウサギさんは本能的に奉仕することに喜びを見出すタイプ。そのせいで自分のことを蔑ろにするような子です。
つまり、決して悪人に騙されてはいけないタイプの子です。(フラグ)
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第6喰目 「お風呂」
どうも、メガネ愛好者です。
サブタイで察した方もいるでしょう……
今回、ウサギさんのサービスカットあり。
それでは。
リンドウさんからこれからのことについてアドバイスを貰っている内に、気づけば私達は用意された部屋の前に辿りついていました。途中、出会う人達に不可思議なものを見るような目で見られましたが……まぁ仕方がないですよね、こんな姿ですし……
あ、姿と言えばそうでした。今の私、砂埃塗れじゃないですか。
うぅ……思い出してしまったせいか気になってきちゃいました。早くお風呂入りたいです……あれ? そもそもここってお風呂あるのでしょうか? 聞いてみましょう。
「リンドウさん、その……厚かましいことかもしれませんが……部屋にお風呂って、あります?」
「ん? あるとは思うが……あぁ、そうだな。まずは風呂に入って一息吐くといい」
私の問いかけにどうしたのかとリンドウさんが此方を振り向くと、私の身なりを改めて見て納得したかのように肯定する。どうやら察してくれたらしい。そしてお風呂もあるらしい。やった! 今はこんなことで喜んでる場合じゃないですけど、それでも喜ばせてください!
「ただ着替えはどうするよ? 一張羅なんだろ、それ」
「あっ……そ、それは……」
しかし、次いで返ってきた言葉に私は言い淀んでしまう。
そ、そうでした……私、これ以外の服持ってないじゃないですか……
流石に体を洗った後、この砂埃塗れの服を着る気にはなれません。この服を洗うにしても、その間ずっと裸でいる訳にもいきません。流石に私用の服まで用意されてるとは思えませんし、どうしましょう……
どうしようかと困り果てる私。そんな私の前に……救いの女神が舞い降りました。
「……あら? リンドウ、それにウサギちゃんじゃない。どうしたのこんなところで」
「あっ、サクヤさん!」
「おっ、いいところに来たな。サクヤ、ちょいと頼まれてくれないか?」
「何かしら?」
頭を悩ませていると、なんと通路の向こうからサクヤさんがやってきました。どうやらちょっとした用事を終えて、今から自室に戻るところだったようです。
そのことを聞きリンドウさんは、丁度いいとばかりに私をサクヤさんに押し付けつつ事情を話していきます。すると……
「そうねぇ……あっ、なら一度私の部屋に来ない? お下がりになるけど、昔着ていた服が確かあったからそれをあげるわ」
「えっ、いいんですか?」
「えぇ。今はサイズ的に着れないし、どうせ捨てることになるなら誰かに使ってもらった方がいいと思って。まぁ貴女が嫌じゃなければだけどね?」
「そ、そんなっ! 嫌なんかじゃ全然ないです! 寧ろ有難くて頭が上がらないぐらいですよ!」
「そう? ならよかったわ」
サクヤさんの言葉に慌てて肯定する。ついまた遠慮しそうになりましたが……先程リンドウさんと話したこともありますし、何よりここで断ってはサクヤさんの服が嫌だと言っているようなもの。それは流石に失礼です。……やっぱり直さないとですね、この悪癖。
サクヤさんの提案を受け入れた私は、一旦そこでリンドウさんと別れてサクヤさんの部屋へと向かいます。「案内はしたし、ここから先は俺の出る幕じゃないな」とのこと。後は「また何か悩み事でもあったらいつでもこい」とも言っていましたね。とても頼りになる方です。
そしてサクヤさんと会話を挟みつつ向かうこと数分、サクヤさんの部屋の前まで来た私達は、そのまま部屋の中へと入っていきます。
サクヤさんの部屋の中は、隅々まで整理整頓が行き届いており、とても清潔感に満ち溢れた部屋でした。……部屋の一角に干されている下着は見なかったことにします。
しかし、そんな綺麗な部屋を汚す存在がいます。……そう、私です。
私が歩く度に服についた砂埃が部屋を汚していきます。部屋が綺麗な分余計に目立っちゃっています。ヘリに乗る前にある程度の汚れは落としたつもりでしたが……どうやら私が思っていた以上に汚れは残っていたようです。
「あの、すいません……こんな格好で部屋に入っちゃって、しかもそれで部屋を汚して……」
「もう、少し汚れた程度で咎めたりしないわよ。汚れたならまた綺麗にすればいいだけじゃない。……それと、部屋を綺麗にすることよりも、まずは貴女を綺麗にすることの方がさーきっ♪」
「えっ、わわっ!」
そう言ってサクヤさんは私の手を引っ張り脱衣所へと連れ込みます。そして、そのままの勢いでサクヤさんは有無を言わさず私の服を剥ぎ取っていくのでした。
ウサミミと尻尾がついたコート、キャミワンピ、質素な下着と縞々ニーソを一気に剥ぎ取られ、気づけば私は生まれたままの姿に。あっという間に脱がされてしまいました……
私から剥ぎ取った衣類をまとめていくサクヤさん。一方、現在進行形で裸体を晒している私はと言うと……未だに服を脱いだ場所から動かず、立ち呆けていました。
「……」
「あら? どうかしたのかしら?」
いつまでも浴室へと入らずにいた私にサクヤさんは気づき、どうしたのかと声をかけてきます。そんなサクヤさんに、私は口をもごもごとさせながら答えるのでした。
「いえ、あの、その……」
「……あ、もしかしてお風呂の入り方がわからないとか?」
「そ、そういうわけではないのですが……」
「なら早いうちに入りなさい。そのままだと風邪を引いちゃうわよ?」
「で、でも……」
「もうお風呂は湧いてる筈だし、服はこっちで洗っておくから入っちゃいなさい。ここまで来て、遠慮なんて今更よ?」
「……はい、ありがとうございます」
「ふふっ、どういたしまして。それではごゆっくり」
その会話を最後に、サクヤさんは脱衣所から出て行きました。
「…………」
サクヤさんが出ていくのを確認した私は、少し間を置くと恐る恐る浴室へと入っていきます。
浴室に入った私は湯船を前にして、まず近くに備えつけられていたシャワーを手に取り身体の汚れを落としていく。石鹸やシャンプーなども気にせず使ってと言われていますので、心の中で感謝を告げながら必要最低限の量を使って身体を綺麗にしていきます。
その時、浴室に備え付けられていた姿見で改めて自分の姿を確認します。
身長は大体150㎝……もないですね。それよりも少し小さめです。
髪と瞳は以前に確認した通りのもの。強いて言うなら洗ったことで、白黒の髪に艶が増したぐらいですかね?
全体的にほっそりとした身体つき。胸は……ほとんどないと言っていいですね。まぁ仕方がないのでしょう。今の私の年齢はわかりませんが、多分歳相応のサイズだと思いますし、別に私はサイズにそこまでこだわりはありませんし。
肌にはこれといって大きな傷痕などはありません。交じりっ気のない白肌ですね。水分を得たことで肌に少し潤いが満ちた感じがします。
……とまぁ、私の姿はこんなところですかね。奇抜な配色の髪以外は、何ともまぁ面白味の無い身体です。
そうして改めて自分の姿を確認しつつ、隅々まで身体についた汚れを洗い流した私は……湯気が立ち昇る浴槽に
「ふあああぁぁぁぁぁ~♪」
湯船に浸かった瞬間、そんな気の抜けた声が私の口から上がってしまう。
表情を綻ばせ、気の緩んだ顔を晒しながら湯船の中で全身を可能な限り伸ばし、張り詰めた気持ちをほぐしていく。
ここで一言。
「お風呂……サイコーですぅ……♪」
……この時の私は、"遠慮"と言うものを完全に忘れ去っていたのでしょう。
というのも、直前までお風呂を借りることに躊躇いを感じていた私ですが……いざ目の前にお風呂があるのを視認した途端、我慢の限界を迎えました。
実のところ、脱衣所で立ち尽くしていたのも今か今かとうずうずしていただけでした。形ばかりの謙虚さを示したところで、心には嘘を吐けません。どうやら私は自分が思っていた以上にゲンキンな性格だったようです。意固地なまでに遠慮しておきながら、目先の誘惑に対してのこの手のひら返し……自分の浅ましさに恥ずかしい限りです。
でも、抗えません。
恐るべしお風呂の誘惑。まるでそれは冬場のお炬燵、お布団と同等の吸引力です。逃れられません……っ!
「……だからって、のぼせるまで浸かってる子がいるかしら?」
「め、面目ないです……」
……はい、という訳で、調子に乗って長風呂した結果……のぼせました。
長風呂にしてはあまりにも遅いとサクヤさんが様子を見に来てくれた時には既に手遅れでした。浴槽で目を回して項垂れる私の姿を確認したサクヤさんは、慌てて私をお風呂から引っ張り出し救出してくれたのです。
そして現在、私はサクヤさんのベッドに寝かされております。服はサクヤさんが子供の頃に来ていたもので、花柄のパジャマを頂きました。
「お手数おかけしてすいません……」
「そう思うなら、次からは気をつけてね? 私がいたから大事にならなかったけれど、貴女一人だったら大変なことになってたんだから」
「はい……次からは気をつけます」
サクヤさんの言うことは最もなので、次が無いよう心掛けるようにしましょう。今回はタガが外れてしまいましたが、何事も限度が大事ですからね。
ただ、のぼせたことを抜きにすれば、いい気分転換になったと思います。何せ先程まで悩んでいた事もスッカリ忘れて堪能してしまいましたからね。そのおかげで今の私は晴れやかな気分に満たされています。心も少し軽くなった気がしますね。
今の気分を例えるなら、そう……抑圧されてた何かが解き放たれた感覚——なるほど、これがバースト状態というものですか!?
「違うわよ」
「あれ?」
□□□□□
あれから数分、体調が元通りにまで回復した私はサクヤさんからお下がりの服を数点頂きました。
因みに服装は綺麗になった元の服に着替え直しています。どうやら私がのぼせて寝込んでいる間に洗濯も終わっていたようで、私のウサギコート一式(私の初期衣装の総称)は今や新品同様の輝きを取り戻しています。まぁ左耳の千切れた部分は直してませんが、これはこれで味があっていいでしょう。
「お風呂に洗濯、それにおさがりも頂いちゃって……サクヤさんには頭が上がりませんね」
「別に気にしなくてもいいわよ。困ったときはお互い様なんだから、助け合うのが当然なの。またいつでも来てね?」
「はいっ、ありがとうございます!」
サクヤさんの言葉に素直にお礼を述べる。なんだかお風呂に入ったおかげか、少し前向きな思考になった気がします。お風呂効果、侮れませんね……
もしもこの先、また暗い気分になって私の悪癖が表立つようになったら、一度お風呂に入って頭をスッキリさせることにしましょう。その方が、なんだか上手くやっていける気がしますからね!
「あ、まって、ウサギちゃん。ちょっといいかしら?」
「はい? なんです?」
サクヤさんから頂いたおさがりを両手に持って部屋を後にしようとした私でしたが、部屋を出る直前にサクヤさんに呼び止められる。
何だろうと思って振り返ると、サクヤさんが何かを差し出してきました。
「さっき貴女の服を洗おうとしたときなんだけど、貴女のコートの裏にね? 隠しポケットがあったの。そこに入ってたわ」
そう言ってサクヤさんが渡してきたものは……封筒でした。
グシャグシャに折れ曲がり、皺だらけとなった薄汚れた封筒。元は白色だったのでしょうが、砂埃のせいか所々が土気色に染まっています。
そして、おそらくは入っているであろう手紙と、それとは異なる膨らみがある封筒に、私は不思議と目が引かれてしまいます。
「……ごめんなさい」
「え?」
「こういうのはマナー違反なのはわかってる。でも、立場上無視することは出来なかったの。……先に中身を見てしまったわ」
「っ!」
私が封筒に目を奪われていると、サクヤさんが急に謝罪の言葉を溢してきました。
どうやら私の許可なく中身を見てしまったことに、後ろめたさを感じて頭を下げてきたみたいです。ですがそれは……
「……気にしないでください。当然のことですよ、身元もわからず記憶喪失だというなら、その手掛かりとなるであろう物を確認しない訳にはいきませんからね」
「……汚い大人だって、幻滅したかしら?」
「いえ、全く。寧ろ黙っていれば気づかなかったことを正直に言って、その上で頭を下げてくれたんです。立派な大人だと思いますよ?」
「……ありがとう」
申し訳なさそうに暗い表情を浮かべていたサクヤさんに、私は気にしないでと朗らかに笑いながらそう告げます。
そうです。サクヤさんの行動は間違っていません。こう見えてサクヤさんも一人のゴッドイーター……軍人です。
確かに
それに加え、例え見た目が幼い少女でも……得体の知れない人物の持ち物を確かめない訳にはいきません。もしもそれが自分達に悪影響を及ぼす何かであれば、見過ごす訳にはいきませんからね。
だからこそ、こんな私に真摯に対応してくれたサクヤさんに不満を持つなんてことはありえません。自身の立場と公私の分別をきちんと理解している立派な大人だと私は思います。
「えっと……今、中身を確認した方がいいですか?」
「出来ればそうしてもらえるかしら? もしもそれが貴女の記憶を呼び覚ますものだったとき、記憶が戻った貴女がどんな行動に出るかわからないから……」
「それもそうですね、わかりました。……私に何かあった時は、すみませんがお願いします」
「えぇ、任せて」
サクヤさんに確認を取り、私は封筒の中身を取り出します。
「……………………」
……封筒の中に入っていたものは、二つ。
一つは二つ折りにされただけのシンプルな手紙。封筒同様にしわくちゃで、所々破れていますがどうやら中身は無事みたいです。
もう一つは黒く縁取りされた白銀のドッグタグ。そこには何も刻印されておらず、唯一小さな擦り傷のみが伺えます。まるで刻印を打つ前に渡されたかのような真新しさを感じました。
……私は、そっと手紙を開いた。
そこに記されていたのは、たった一言——
『君の行く末に光があることを、私は願おう』
——気づけば私は、涙を流していた。
ウサギさん、お風呂の誘惑には勝てなかった模様。
そしてラストに唐突なシリアス展開。手紙の主は一体誰……?
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第7喰目 「身体検査」
復活。
久しぶりに書くから主人公の口調がよくわかんね。
複雑な気持ちだった。
手紙に記された一文。私のこれからを案じるだけの一言に、私の心は様々な感情で満ち溢れていった。
最初はとても辛くて、悲しくて、寂しくて……そして、心細かった。
その手紙の送り主が誰なのかはわからない。名前も顔も知らないけれど……それでも、心が苦しくなった。
それは、なんとなく確信があったから。————もう
それが理由の一つ。涙を流した最初の理由。
そして、もう一つの理由は……
「これで、よしっ」
あれから一晩が経った。
今、私は身嗜みを整えていた。寝起きの為残っている寝癖を手早く直し、先日の内に洗濯しておいた服一式を身にまとう。後は細かなところをチェックしつつ姿見を見やれば、そこには埃やら汚れなどが落ちて綺麗になったウサミミコートを羽織る私の姿が映されていた。
「……見れば見る程、不審者ですね。私って……」
成人にも満たない幼い少女が、妙な身なりでアラガミが蔓延る場所を一人で徘徊していた。それだけならただの遭難者で済む話が、記憶喪失で身元不明という特異な事情によって少々話がややこしくなっているそうだ。
先日、サクヤさんから今の自分の立場を少しだけ教えてもらった。どうやら私が呑気にお風呂を堪能している間に
身元不明のせいで家族と引き合わせることも出来ないようですし、孤児院に預けるにしてもこのご時世、人一人増えるだけでも多大な負担が掛かるのは目に見えています。たった一人、されど一人。誰とも知れない赤の他人を養う程の余裕がないぐらい切羽詰まっている現状で快く受け入れてもらえるかと言われれば……まぁ言葉に詰まりますよね。
結論を言うと、今の私は経費や資源を減らすだけの穀潰しでしかないのです。
成り行きからこの場に留まっているものの、場合によってはすぐに追い出されるかもしれない危うい立場である。何かしらの理由で残留する可能性もあるかもしれませんが……そうなった場合、周囲からの視線は決して良好なものにはならないでしょうね。別に私は貴族でもなんでもないただの浮浪児です。そんな私が何もしていない癖に恩赦だけ受け取っていれば、周囲に不和をまき散らす原因にもなりかねません……
「何かの役に立たないと……ですよね」
現状、記憶喪失で身元不明の私が身を寄せられる場所は
私をここに留めておくに値する"価値"。私を手放すには惜しいと思わせるほどの価値が、今の私には必要なんだす。……まぁそんな都合よくあるとは思えないんですけどね。
「……頑張ろう」
何はともあれ、今はとにかく頑張るしかない。
目の前のことに必死になって、自分の価値を見出して、そうしてなんとかしていくしかありません。
不安は、勿論あります。目の前が真っ暗になるほどの大きな不安が。————でも、それに怯えて縮こまるだけじゃ、きっとダメなんです。
「大丈夫……やれる、頑張れる……」
目を瞑り、首に掛けた白銀のドッグタグを両手で優しく包み込む。すると、先程まで感じていた不安が徐々に収まっていった。
手紙と一緒に送られたドッグタグ。身に覚えのない、でも何故だかとても大切なものだと思えるそれを握り締めて————私は決意する。
生きるんだ。
生きて、そして自分の未来を掴むんだ。
私は————諦めない。諦めちゃ、ダメだから……
□□□□□
「やあ、キミがウサギ君だね? 初めまして、私の名はペイラー・サカキ。ここ極東支部にてアラガミ技術開発の統括責任者という立場のものだ。以後よろしく頼むよ」
「は、はいっ! モノクロウサギです! 変な名前でごめんなさい! 別に全然ふざけてないので許してください!!」
「いやいや、ユニークな名前で良いじゃないか。それに失礼だと思いつつも名乗るということは、それだけ気に入っているということなのだろう?」
「ぇ、えぇと……はい」
「なら、何も恥じることはない。個性というのは大事だよ? その者がその者たらしめる重要なアイデンティティさ。胸を張りなさい」
「は、はい! ありがとうございます!」
「————ただまぁ、これは私の考えであって、他の者が君の名を聞いてどう受け取るかはその者次第ではあるけどね?」
「上げて落とされましたぁ!?」
よくわからないけど確実に偉い立場の人に自分が決めた名前を言った瞬間、私は反射的に謝ってしまっていた。
いやだって、しょうがないじゃないですかぁ……ノリで決めたとはいえ一応自分の名前ですし、名乗らないわけにもいかないですし……でも普通に考えてふざけてるようにしか思えない名前ですよねコレ? ほら現に隣でツバキさんが呆れたような顔でこっち見てるぅ!!?
————早朝の決意から半刻後、ラボラトリにあるサカキ博士の研究室にて起きた一幕であった。
暫くして落ち着きを取り戻した私を確認すると、改めてサカキ博士は語り掛けてきます。
「さて、それでは本題に入るよ。まずは何故君がここに連れてこられたかというと、なんてことはない。メディカルチェックを受けてもらいたかったからさ」
「メディカルチェック、ですか?」
サカキ博士の口から告げられた言葉に私は内心で疑問を浮かべる。
メディカルチェック。簡単に言えば身体検査のようなもの。それをなんで私に受けさせようとしているのかでしょうか? 別にこれといって不調というわけでもないですし、何よりソレに費やす時間やら費用などを考えると……遭難者の自分を態々受けさせる必要性がわかりません。
そんな私の疑問を目敏く察したのか、サカキ博士は再び言葉を紡ぎ始めました。
「必要なことなのだよ。何せ君は経緯がどうあれ、アラガミが跋扈する危険区域を一人彷徨っていたことになるからね。それに加えて記憶喪失だ。もしも目覚める前に何らかの事態に見舞われていたとして、果たして君の身体は正常のままだと言えるかな?」
「それは……」
言えなかった。私が気付かないというだけで、実は内面化で何かしらの異常が起きているかもしれないと考えると、とてもサカキ博士の言葉を否定することは出来ませんでした。
「これは君自身の為でもあり、私達の為でもあるのさ。何の前触れもなく君の体に異常が起こり、それによって君の命はおろか、私達の身の危険に繋がるかもしれない。その原因にアラガミないしオラクル細胞が関わっていたとなれば尚更さ。……お互いに不安の種を残さないためにも、必要なことだと理解してもらいたい」
「……はい、わかりました」
サカキ博士の言い分は正しい。アラガミの細胞————オラクル細胞は未だに未知の部分が多大に残されているみたいですし、それなら何が起こっても不思議じゃありません。もしかしたら私の記憶が無いのもオラクル細胞が関わっているかもしれませんし、そういった可能性が僅かでもある以上、慎重に事を運ぶのは当然の帰結でした。
「あぁ、でもひとつ言わせてもらうと、此度のメディカルチェックはどちらかと言えば君の為のものだということを前提にしてもらいたい。決して君を危険視しているのではなく、君の身の安全を確認する意味合いの方が強い」
「……え?」
「だからそう深刻な顔をする必要は無いさ。不安にさせてしまったのなら申し訳ない。例え危険因子が見つかったとしても、君を見放すようなことはしないと約束しよう。それでどうか安心してはくれないだろうか?」
どうやら顔に出てしまっていたのか、私の不安を見変えてサカキ博士が言葉を補足しました。そこには確かな信憑性と何処か頼もしい力強さがあり……不思議と安心感がこみ上げるのでした。
「それじゃ始めようか。ツバキ君」
「……はい。では後のことは任せます」
そんな私の心持ちを察しているのか、サカキ博士は一度頷き、私の傍で今まで一言も話さずに控えていたツバキさんに言葉を投げかけます。それを受けたツバキさんは、同じく一度返事をした後私を残し退出するのでした。
……その際、ツバキさんは何だか「妙なモノを見た」と言わんばかりの顔を
「因みに、本来であれば昨日の内に済ませておくのがベストではあったけど、保護されたばかりの君に休みも無くメディカルチェックを受けてもらうには少々酷だと思ってね。心身ともに過大な疲労を残したままでは検査結果も著しくはないだろう。加えて幼い君に負担を強いてまで受けさせるのも、此方としても心苦しいものでね。それ故に一晩の休息を挟むことにしたんだ。ご理解いただけたかな?」
「そ、それはもう……なんだか余計な心配をかけさせちゃったみたいですいません」
お、おぉ……なんと言いますか、ここまで気にかけてもらえると余計申し訳なく感じてしまいます。
そうして私はサカキ博士に頭が上がらない思いでメディカルチェックを受けていくのでした。
□□□□□
「……やはり、か」
モノクロウサギのメディカルチェックは無事に終了した。
一先ずウサギは与えられた部屋に戻り、検査結果が出るまで待機。沙汰は追って伝えるとのこと。
そして肝心の検査結果————メディカルチェックを実施したペイラー・サカキは、得られた情報を自身の知識で補うことで……
辿り着いて、しまった。
「ヨハン、君は……」
暫く思考を巡らせた後、サカキは
通信はすぐに繋がった。————まるでサカキから通信が来ることをわかっていたかのように。
『何かな、ペイラー』
「単刀直入に言おう。……ヨハン、君は知っていたね?」
『ふむ……"知っていた"とは何のことか、聞かせてもらっても?』
「先日保護した子のことさ。君のところにも報告が行っているだろう?」
『あぁ、彼女のことか。……それで?』
「……あくまで白を切るつもりかい?」
サカキの声に鋭さが宿る。そこには数十年来に渡る友人に向ける気安さなどは無く、あるのは————
やがてサカキの剣幕に降参したとばかりに口元を緩めた
『……フッ。あぁそうだな。知っていたとも。
「……………………そうかい」
ヨハン————ヨハネス・フォン・シックザール支部長の肯定に、サカキは長い沈黙と簡素な返事をもって受け取った。
記憶喪失の少女。そんな彼女を
「
『まぁ多少、想定から外れた結果にはなったがね』
つくづく思い通りにはならないものだと自嘲気味に言葉を溢しつつ応えるシックザール支部長に、サカキは問う。
「……彼女も、ゴッドイーターにするのかい? ————
『勿論だとも。
さも当然だと述べるシックザール支部長に、サカキはこれで最後だと淡々と確認を取る。……
「————君は、"誰の子"に手を出したのか……わかっているのかい?」
『人類存続の為だ、ペイラー。例えこの身が地獄へ落ちようとも、私はそれを成さねばならん。……それが、あの忌まわしき事故を生き延びた私の"義務"であり"使命"に他ならない』
————その為の、必要な"犠牲"だ。
これ以上は時間の無駄だと早々に通信を切る支部長。サカキはそれを前に暫し硬直したままジッと通信画面を見つめ続け————
——————ガァアンッ!!
次の瞬間、ディスプレイに向けて無言で
「価値が見いだせそうだよ! やったねウサギちゃん!」←
早速どころか既に支部長にロックオンされていた模様。
尚、サカキ博士……?
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