いないいないばぁ。 (Gasshow)
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いないいない……
いないいないばぁ。


※注意点
・謎を解く遊び見たいな感じで作りました。なので、これは東方の二次小説と言うよりは、東方の設定と世界観を借りた、謎解きです。
・ある程度『東方project』の知識がないと理解できないと思われます。
・と言いつつ、独自解釈や捏造設定がありますが、それは話の中で説明しているので安心してください。
・ここに隠された真実、と言うには大げさですね。裏設定を見つけて下さい。
・正直、文章力0なので、逆に見つけられた方が凄いです。見つけられなくても、それは作者の実力者不足なのであまり気にされる必要はありません。

それらを踏まえられた方はどうぞ。


「………………はぁ」

 

思わず大きく息を吐く。こいしが起きてこない。普段、家にいるのか、いないのかよく分からない子ではあるが、昨日はしっかりと帰ってきたはず。もしかすると、もう既にどこかへ出掛けているのかもしれないが、私は一応姉なのだ。確認くらいはした方がいいだろうと、無駄に長い廊下をコツコツと歩いて妹の私室へと向かう。

 

「どうにも妹には甘くなっちゃうわねぇ……」

 

ふと思った言葉をそのまま口へ吐き出した。昔からそうだ。私は妹には甘い。でもそれは仕方がないだろう。妹が『覚り妖怪』としての本質である『第三の目(サードアイ)』を閉じてしまった時から、私は妹の事が気が気ではないのだ。世界でたった一人の妹。過保護になるなと言う方が無理な話だ。

 

そんな妹に甘い自分に呆れながらも、足は止めずにただ歩き続ける。その途中で、廊下にいるペットたちが、私を見つけると一瞬、立ち止まって姿勢を低くする。他の者が見たら何をしているのか分からないだろうが、心を読める私なら分かる。これは私に挨拶をしている仕草だ。こんにちは、と言う言葉がまるで本当に聞こえるかのように頭の中に入り込んでくる。

 

「えぇ、こんにちは」

 

私もそう返す。数回、そんなやり取りをした後、私は滅多に開かない一つの扉の前へとたどり着いた。三回ノックをして声をかける。

 

「こいし。起きてる?」

 

返事は無い。

 

「こいし?」

 

それから二回ほど同じことを繰り返したが、返事は無かった。

 

「もうどこかに出掛けちゃったのかしら?」

 

いつもの事だ。こいしはいつの間にかどこかへ行って、いつの間にか帰ってくる。むしろ家にいる時間の方が短いのだ。

 

「入るわよ」

 

一つ声をかけて、遠慮がちに中へと入る。地霊殿でも大きな部類に入るこの部屋の端に、これまた大きなベッドがある。こいしが殆ど帰ってこないせいか、ここ数十年変わっていない部屋の配置だ。人形や家具でごちゃごちゃしてはいるが、そのベッドはすぐに見つかった。

私はそっとベッドに近づいて、上から覗き込む。

 

「なんだ……まだ寝てただけなのね」

 

そこにはあどけない寝顔で、すぅすぅと息を漏らしている妹がいた。こいしの寝顔を見れるなんて珍しい。しかし、こうして改めて見るとやはり可愛らしいと感じる。だがもう昼過ぎだ。いつまでもこうしている訳にはいかないだろう。

 

「こいし、起きなさい。いつまで寝ているの?」

 

体をゆさりゆさりと()する。すると突然、パチリと眼が見開き、ぼやけた焦点で私を見た。

 

「……んっ………………あっ……お姉ちゃん……」

 

「お姉ちゃん、じゃないでしょう。全く……」

 

こいしはむくりと上半身を起き上がらせて、髪をすくように頭に手を置いた。

 

「あれ?私の帽子は?」

 

「寝る前に、部屋のどこかへ置いたんじゃないの?」

 

私がそう言うと、こいしは目をきゅっと閉じ、腕を組んで唸り始めた。しばらくそうしていたが、急にそれらを止めて私の顔を見ながら笑顔で言った。

 

「う~ん、分かんない」

 

「あなた……分からないって……」

 

いや『第三の目(サードアイ)』を閉じてしまった弊害(へいがい)で、無意識に行動するこいしならば仕方がないのかもしれない。下手をすると、無意識で帽子を適当な所へ放ってしまってもおかしくはないのだ。

 

「大切な帽子じゃなかったの?」

 

「そうなんだけど、でも多分見つかるよ!」

 

根拠の無い確信と言うか何と言うか、そう言いきる妹に何故か微笑んでしまう。

 

「そうね、きっと見つかるわ。それよりこいし。もうお昼を過ぎてるわ。何か食べた方が良いんじゃない?」

 

私の言葉を聞いて確認するように、こいしは自分のお腹に手を当てた。

 

「うん!お腹すいた!」

 

「なら食堂に行きましょうか」

 

こいしは嬉しそうにこくりと首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い廊下を歩く私の隣には、機嫌が良さそうに鼻唄を歌う妹が一人。そんな姿を見ていると、私も何故か気分が良くなる。しばらくそうしていたが、ふと廊下の奥に、大きな黒い羽を生やした人影が現れた。

 

「さとり様!」

 

「あらお(くう)。こんな所にいるなんて珍しいわね」

 

普段は別館にいることが多いお空と、こんな所で会うとは思わなかった。

 

「確かにそうですね!……ってあれ?私、なんでこんな所にいるんだろう?」

 

「…………相変わらずお空って馬鹿だよね」

 

これには私も同意せざるをえなかった。お空は鳥頭だ。まぁ、概括(がいかつ)に言うと馬鹿なのだ。記憶力も非常に弱い。少し話を逸らせば、ほんの十分前の事でさえ忘れていたりするのだ。

 

「それで、さとり様はお一人でどこに行かれるんですか?」

 

どうやら思い出すのを諦めたらしく、今度は自分の疑問をぶつけてきた。

 

「ええ、実は……」

 

そこで違和感に気づく。

 

「……こいし。貴方、能力を使ってる?」

 

「うん!」

 

なるほど。それで、お空は私にだけ話を振ったのか。そう言えば、始めの挨拶も私にだけに言っていたような気がする。

 

「あれ?こいし様いるんですか?」

 

「ええ、ここに」

 

私は自分の右隣にいるこいしの肩を、ポンポンと叩いた。

 

「私たちはこれから食堂に向かうの。こいしがお腹減ったらしいから」

 

「なるほど、ならお邪魔しちゃ悪かったですね」

 

お空はずれるように道を開けてくれた。

 

「ありがとう」

 

「ありがとうね、お空」

 

「はい」

 

私たちはお空にお礼を言って、先を歩こうと、一歩踏み出した。そこでふと思い出した。

 

「そう言えば、こいしの帽子を知らない?実は無くなっちゃったらしくて困ってるのよね」

 

お空はきょとんと、首を傾げる。

 

「こいし様、帽子を被ってないんですか?」

 

「そうよ。珍しいでしょ?」

 

「う~ん、見たことないですから」

 

そう言えば、私もこいしが帽子を脱いでいる姿を見るのは久々だ。姉の私でさえそうなのだから、お空が帽子を脱いだこいしを見たことが無いのは仕方がないのかもしれない。

 

「それじゃ、こいしの帽子を見かけたら、拾っておいてくれる?」

 

「はい!分かりました!……でもこいし様の帽子ってどんなやつですか?」

 

ここでも鳥頭を発揮するとは。恐らく今言った、私の頼み事さえ、次に会った時には忘れているのだろう。

 

「丸形で、つばが広めの帽子よ。リボンが結ばれていて、確か色は…………黄色だったかしら?」

 

私は確認するように、こいしへ目配せをする。

 

「うん、そうだよ!」

 

どうやら正解だったようだ。

 

「分かりました!見つけたら、さとり様の所へ持っていきますね」

 

そう言って、お空は廊下の奥へと消えていった。それを見送った後、こいしはふと呟くように言った。

 

「この様子だと、あんまり期待はできないね、お姉ちゃん」

 

「…………そうね」

 

私の返事も、長い廊下で溶けるように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも食事を自室で食べる私にとって、食堂と言うのはあまり縁が無い場所なのだ。ここは普段、ペットたちが使っている。だから、どこに何があるのか分からない。食事もペットたちに作らせているので、簡単な物を作ろうにも、その材料の()()が分からないのだ。もう少し前の時間帯なら、食事をしているペットがいただろうに。これでは材料の場所を聞くことすらできない。

 

「お姉ちゃん。諦めてペットたちに作って貰おうよ……」

 

「嫌よ!絶対見つけてやるんだから!」

 

「何か意地になってない?」

 

なっていると言えば、なっているかもしれない。ここまで自分で探しているのだ。戻ってペットたちに聞くと言うのは少し(しゃく)だ。ましてや食事をペットたちに作せるなんて、姉の威厳的な何かが許さなかった。

 

「…………さとり様、何をやってるんですか?」

 

「お、お(りん)!」

 

聞き覚えのある声に振り向いてみれば、そこには私のペットの一人……いや、一匹である火焔猫燐(かえんびょうりん)がいた。

 

「何かガサゴソ聞こえるから、ネズミか何かだと思っちゃいましたよ」

 

「いつ食堂に入ったの?!」

 

「ついさっきですよ。と言うか、何してるんですか?確か昼食はさっきお食べになったはずですよね?」

 

私は立ち上がって、スカートをパンパンと叩く。

 

「私じゃないわよ。こいしが今さっき起きてね。お腹が減ったって言うから、私が何か作ってあげようと思って」

 

「……なるほど。それで……えっと、こいし様はどこに?」

 

これでは話が進まないと思い、私は一つの溜め息をついてこう言った。

 

「こいし、能力を解きなさい」

 

「はぁ~い」

 

元気の良い返事と共に、こいしの能力が解かれる。それでもお燐の視界には入っていない位置だったようで、彼女は首を振り、辺りを見渡していた。

 

「こっちに来なさい」

 

てってってと私の隣へと移動したこいしの肩を持つ。

 

「あぁ、そこにいらしたんですか。相変わらず、こいし様の能力は凄いですね」

 

「えへへ。そうでしょ!」

 

こいしは嬉しそうに、はにかんだ。

 

「それで、確か料理を作ろうとしてたんですよね。なら私に任せて下さい!」

 

「いいえ、駄目よ!料理は私が作る!それぐらい余裕よ!」

 

姉の威厳を見せつけるため、ここで料理くらいはしっかりとできる事を証明しなければ。

 

「お姉ちゃん。もういいよ、お燐に任せようよ」

 

「…………さとり様は、こいし様の前では格好付けたがりますよね」

 

私はその後も主張をし続けたものの、こいしとお燐の説得により、こいしの料理はお燐が作ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

こうして広い所にいるとどうにも落ち着かない。小心者な性格だからだろう。これが食事を自分の部屋で食べる、大きな理由の一つだった。そんな私を尻目に、こいしは調理場に並べられている調理器具をもの珍しそうに眺めている。何とも自由奔放(じゆうほんぽう)な事だ。

 

「それにしても、こいしが突然現れたのに、貴方ってばよく驚かないわよね」

 

それは椅子に座り、長机に頬を預けていた私が、フライパンで肉を炒めているエプロン姿のお燐を眺めながら、ふと(つぶや)いた私の言葉だ。

 

「こう何回もあると、流石にもう慣れましたよ。それに比べて、さとり様はいつも驚いていますよね」

 

「うぅ……だって、驚くものは驚くんだもの。仕方がないでしょう」

 

お燐はハハッと笑って両手を忙しなく動かす。それからは沈黙がその場を包む。お燐が持つフライパンの上で焼かれた肉の焼ける音だけが聞こえる。そして、それを唐突に破ったのはお燐だった。

 

「…………そう言えば、こいし様はどうして心を閉ざされてしまったのですか?」

 

「…………どうしたの?急に」

 

「いえ、ふと気になりまして……」

 

私はちらっとお燐の後ろにいる、こいしを見る。こいしは今でも、調理器具を熱心に凝視している。私は一拍置いて、口を開いた。

 

「…………あれはね、私たちがまだ地底に行く前の話よ」

 

私は記憶を掘り起こす。思い出すのも苦痛な、あの時の事を。

 

「私たちは『覚り妖怪』。他人の心を見通すその存在は意味嫌われて当然。それは『覚り妖怪』としてこの世に産み落とされた瞬間から決めつけられた宿命。生まれて早々、他の妖怪に差別され、迫害され続けたわ」

 

私たちは親がいたわけではない。自分の心を(あば)かれたくないと言う、人間の恐怖によって生まれた存在なのだ。他の覚り妖怪は分からないが、少なくとも私たちはそうだった。

 

「迫害を受ける私たちは点々と場所を移動しながら暮らしてきた。正体がばれては逃げ、正体がばれては逃げと言う形で。でもある日、運が悪かったのね。私たちは捕まってしまったの」

 

普通、当時の覚り妖怪に対する扱いはそれほど過激なものではなかった。今でもそうだが、覚り妖怪は嫌われるものの、決して関わりたいと思う妖怪ではない。心を読まれない為に、遠ざけるのが一般的だ。しかし、その時の妖怪たちは違った。どうやら覚り妖怪に恨みを持つ妖怪たちだったようで、その時の私たちが受けた仕打ちは筆舌に尽くし難かった。

 

「あらゆる暴力を受けて、ボロボロにされたわ。私以上に、こいしが酷くてね。下手をしたら死んでしまっていたかもしれない」

 

恐ろしい。あの時、味わった恐怖は忘れようにも忘れられない。

 

「一生懸命、看病をしたお陰で、こいしは意識を取り戻したのだけれど、その時にはもう、こいしの第三の目(サードアイ)は、心は閉じてしまっていたの。恐らく、自分に向けられる大きな憎悪をたくさん見たからでしょうね」

 

私もこいしがいなければ、そうなっていたに違いなかった。

 

「覚り妖怪と言うのはね、事実から、本当に知りたくないことから目を背けると、()が閉じてしまうの。こいしはもう見たくなかったのね。自分に向けられる、どす黒い感情を……」

 

目をつぶる。もうあんな思いを、こいしにさせたくない。だから自分はこうして地底にいるのだ。

 

「……………………さとり様」

 

するといつの間にか、お燐が私を抱き締めていた。ふと顔を上げると、その目には涙が溢れている。

 

「…………お燐、どうしたのよ?」

 

「今は私がいますよ」

 

ぎゅっとお燐が力を入れる。吸う息が少し苦しくなる。

 

「私だけじゃありません。お空もいますし、他のペットたちもいます」

 

「……………………そうね」

 

私はただそう言った。

 

 

ーーーー暖かい。

 

 

お燐の暖かさが私に伝う。そうだ。昔がどんなに辛くとも、私には今があるのだ。お空が、お燐が、他のペットたちが、そしてこいしが。ならばもういいではないか。もうしばらく、この暖かさに身をまかせていよう。

そう思った時だった……

 

「……何か焦げ臭くない?」

 

それは唐突に聞こえたこいしの言葉だった。お燐の肩から顔を出して、こいしのいる方へと顔を向ける。何やら黒い煙が立ち上っていた。

 

「お、お燐!お肉!お肉が焦げてる!」

 

「へっ?あっ!すみません!今すぐ消します!」

 

そうして出来たこいしの昼食は、少し焦げたものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ。すみません」

 

「もう、お燐の馬鹿。お姉ちゃんも何か言ってやりなよ」

 

お燐は申し訳なさそうにわたしたちに謝っていた。しかし、あれだけ煙が出ていた割には、肉はそこまで焦げていた訳ではなかった。黒い部分を取り除けば、十分に食べられるものだったのだ。

 

「お姉ちゃんの変わりに昼食を作ったのに、これじゃあ意味ないよ」

 

「いや~うっかり、火を消すのを忘れてしまいました」

 

「変な所で抜けてるわね、お燐は」

 

まぁでも、私を慰める為に駆け寄ってくれたのだ。それは少し嬉しかった。

 

「今回は失敗してしまいましたが、次はちゃんと作りますよ」

 

そこでお燐は何かを思い付いたらしく、ピコンと耳を一瞬、真っ直ぐに立てた。

 

「次の機会、私がお二人に料理を振る舞いますから、お二人が共通で好きな食べ物を教えて貰えませんか?」

 

好きな食べ物か……と言ってもお燐の作る料理はどんなものでも美味しいから、私は何でもいい。

 

「こいしは何がいいの?」

 

こいしはう~んと唸った後で、バッと顔を上げてこう言った。

 

「うどんがいい!」

 

うどん?と思わず声を出す。うどんですか?と私に続いてお燐も言う。

 

「前に地上でうどん屋さんを覗いた時に、美味しそうだな~って思って!目玉焼きうどんって言うのもあったんだよ!」

 

うどんか……。地底にもうどん屋はあるが、やはり地上にある店の方が美味しいと言うのはよく聞く話だ。私はまだ地上に行ったことが無いから分からないが…………目玉焼きうどんってどんな料理なのかしら?

 

「良いんじゃないかしら?うどん、私も好きよ」

 

「うどんですか…………うん、何とかしてみます!」

 

「本当に!?やったー!」

 

流石にうどんは作った事が無かったのだろう。それでもお燐は了承してくれた。こいしも嬉しそうに万歳と跳びはねながら喜んでいる。

 

「それじゃ、私は失礼します。姉妹の間を邪魔するのは無粋(ぶすい)ですからね」

 

そうしてお燐は、手をふりふりと振って、部屋を出ようとする。しかし、そこで思い出す。

 

「お燐。こいしの帽子を知らない?」

 

ピタリとお燐は立ち止まる。

 

「こいし様の帽子ですか?………そう言えばこいし様、帽子被ってなかったですね」

 

「えぇ。昨日、どこかに無くしてしまったのようなの。どんな帽子か覚えてる?」

 

「ええっと……」

 

お燐はばつが悪そうに頬をかいた。

 

「あら、お燐まで忘れちゃったの?お空と一緒じゃない」

 

「ちょっと!さとり様!お空と一緒は流石(さすが)に酷いですよ!」

 

心外だとばかりにお燐は大声でそう言った。それに思わずくすりと、ほころんでしまう。

 

「丸形の広いつばで、黄色いリボンが付いている帽子よ。思い出した?」

 

「あぁ、思い出しました!それじゃあ、見つけたらお知らせしますね」

 

「ええ、頼んだわ」

 

そうしてお燐は扉を開けて、部屋を出ようとする。

 

「お燐!」

 

しかし、もう一つ言い忘れた事があったと、再度呼び止める。

 

「はい!」

 

ノブに手を掛けたまま、お燐は私の方へ振り返る。

 

「…………ありがとう」

 

「…………はい」

 

にっこりとお燐は優しい笑みを浮かべて、そのまま部屋を出ていった。

 

「………………さて、こいし。冷めてしまう前にご飯を食べなさい……ってあれ?」

 

私はぐるりと一帯を見渡す。こいしが消えた。さっきまでここにいたはずなのに……。

 

「……………………またなの?」

 

こうしてこいしは突然にいなくなる。無意識で行動する妹はいつもこうだ。目の前に他の興味対象が現れれば、そこに行く。ふとした思い付きに似たようなもので、その行動をする。それが私の妹『古明地(こめいじ)こいし』なのだ。

 

「…………この料理、どうしようかしら」

 

私は机に置いてある。ほかほかと湯気の立つ料理を見て呟く。

 

「…………私が食べましょうか」

 

折角、お燐が作ってくれたのだ。捨てるのは勿体無い。それに、妹の不始末は姉がつけるものと相場が決まっている。私は椅子を引いて、ゆっくりと腰を下ろす。

 

「いただきます」

 

私は手を合わせてお箸を手に持つ。そうして今日、二回目の昼食を食べようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーお姉ちゃん、ごめんなさい。そしてありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こいし?」

 

ふと、こいしの声が聞こえた気がした。

しかし耳を済ましても、何も聞こえない。辺りを見回しても誰もいなかった。

 

「…………気のせいか」

 

私はふふっと笑ってしまった。やはり私はどこか過保護だ。しかし、それでもいいではないか。大切な家族なのだ。やっと手にした日常なのだ。それぐらい何が悪いと言うのだ。

 

「さてと、いただきますか」

 

私は一言そう言って、料理に箸を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

私は今日も生きるのだ、この世界を。

 

 

 

 

 

 




分かりましたか?(分かったらダ・ヴィンチ)分からないと言う方は、良ければこのヒントを読んだ後で、気が乗れば読み直してみて下さい。何か分かってきませんか?下に行くほど、確信に近づいて行きます。どこまでのヒントで謎が解けるでしょうか?この文章力じゃ、全部見ても分からない気がしますが……。



ヒント1 お空はかなりの馬鹿です。何でもすぐに信じてしまうほどに。





ヒント2 さとりはこの話中、全てで本当に心を読めていたのか?




ヒント3 こいしは本当に自由奔放です。さとりによると地霊殿では見かける方が稀だそうで。




ヒント3 会話の中の言葉や、やり取りにに違和感は無かったか?





ヒント4 この話における『覚り妖怪』の設定が鍵の一つです。




ヒント5 お空は気づいていなくて、お燐は何かを隠している(嘘をついている)。




ヒント6 お空やお燐の台詞を適当に流して読むと気付きづらい。一語一句をしっかり読むと分かりやすい(流石に面倒ですね)。





ヒント7 あれ?お燐、お前……ちょくちょく何か忘れてない?





ヒント8 さとりが語った過去の話は本当に全て事実だったのか?






ヒント9 お空はともかく、なぜお燐までもが帽子の特徴を全くと言っていいほど知らなかったのか?







以上です。私、やっぱり話作るの下手ですね。これで分かる人の方が天才です。
いないと思いますが、もしもしも答えが分かったと思ったなら、気分が乗れば、感想なりメッセージなりで教えて下さい。

あと一応確認はしましたが、誤字脱字、そして表現でおかしな所があればご指摘ください。と言っても、わざとそうしている部分もあります。これもヒントですかね。


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きゅうけつ鬼ごっこ

思い付いたので投稿しました。これからも思い付いたら投稿していくことにしました。文字数少なくて済むので……。

話は変わって、皆様が初見殺しだと思うスペルカードって何ですか?個人的な経験で言うと……

一位『正直者の死』

二位『そして誰もいなくなるか?』

三位『きゅうけつ鬼ごっこ』

……です。
あれですよね。これのHard以上を初見でさばき切る反射神経を持つ人は人間ではないと思います。
ちなみに今回の話は難易度Lunaticです。


その場所は数え切れないような本の数々と、それを収納する古木の棚に埋め尽くされていた。空気もどこかこもったような、かび臭さが漂っており、場を照らす光量は十分とは言い難く、薄暗いその様子は、不気味とそう言うには十分だろう。そんな『紅魔館(こうまかん)』の地下に存在する大図書館。そこに唯一、出入りすることができる、大きな扉がゆっくりと開かれた。少し傷んでいるのか、ぎぎっと軋んだ音が図書館内部に響き渡った。

 

「久しぶりね、パチェ」

 

入ってきたのは、まるで子供のような身長と体格を持ち、それに不釣り合いなほど大きな蝙蝠(こうもり)の羽を背中から生やした一人の少女だった。

 

「…………レミィ。私たちは今日、会ったわよ」

 

そう返したのはどこかおっとりとした紫色の服を着た女性だった。やけに白い肌が不健康的で、彼女の目は自身の手に持った本にのみ向けられていた。

 

「おや、こうして親友が訪ねてきたんだ。せめて目線だけでも合わせて欲しいわ。それに私は一応、この館の主人であるレミリア・スカーレットなのだから、少しくらいは礼儀を示して欲しいわ。ねぇ、パチュリー・ノーレッジ」

 

レミリアと名乗った少女は、ククッと笑ってパチュリーと呼ばれた女性が座る、目の前の(せき)へと腰を下ろした。対するパチュリーは、一つ溜め息を溢して本を閉じ、それを机の上へと少し乱暴に置いた。

 

「……それで、何しに来たの?」

 

「暇潰し。日が昇るまでまだ少し時間があるわ。それまで私の話し相手をして欲しいの」

 

それを聞いたパチュリーは、面倒だわとそう呟きはしたものの、目線を上げてレミリアと話をする姿勢をとった。

 

「小悪魔。紅茶を二つ、()れてちょうだい」

 

「は、はい!かしこまりました、パチュリー様!」

 

本棚の陰で姿は見えないが、近くにはいるのだろう。声量の少ないパチュリーの声にちゃんと反応し、返事も返ってきた。

 

「…………ごめんなさい」

 

何故だろうか?そのやり取りを聞いたレミリアは口角を下げ、すまなさそうにパチュリーへと謝った。

 

「…………いいのよ。あの子もきっと本望だったと思うわ」

 

パチュリーは一瞬、呆気に取られたものの、次には優しい笑顔を浮かべた。それから、小悪魔を通してパチュリーはレミリアへと紅茶を渡し、二人はそれぞれ紅茶を口へと入れる。

 

「パチェ、こうしてお前がここに来てどれくらい経った?」

 

「確か……四百年じゃなかったかしら?」

 

「そうね。初めは驚いたものだったわ。いきなりヒョロヒョロな、今にも倒れそうな魔女が(かくま)ってくれと言って、この紅魔館の門を開け放ったんだから」

 

レミリアは愉快そうに笑う。

 

「……あの時は、魔女狩りの全盛期だったから、私も大変だったのよ。逃げて逃げて逃げて逃げた先が紅魔館(ここ)だったの。そこがまさか吸血鬼の住む館だなんて思いもしなかったのよ」

「あんな人が寄り付かない町外れに建っているんだから、普通じゃないと言うことくらい分かるでしょうに」

 

「あの時は必死で逃げ回ってたから、頭が回らなかったの」

 

パチュリーはムスッと()ねた表情を浮かべる。

 

「前から思ってたけど、もう少し体力を付けたらどう?喘息(ぜんそく)も少しはましになるんじゃない?」

 

いわゆる『魔女』と呼ばれる彼女達は、魔法の実験をする際に、トリカブトやヒ素などの有毒な鉱物や薬草をよく使う。それ故に、彼女たちは体が弱り、病弱になってしまうのだ。それはパチュリーも例外ではなかった。

 

「考えてはいるのだけれど、どうも実行する気になれなくてね……」

 

「何なら私が一緒に付き合いましょうか?」

 

「止めてよね。吸血鬼の身体能力に合わせてたら体がいくつあっても足りないわ」

 

それからも、二人はとりとめのない会話をしていく。昔話なんてほとんどしなかったのだろう。その話題は全く尽きることはなかった。

 

「しかしパチェ、貴方がここに来てくれたことは本当に感謝しているのよ。おかげで私は、紅魔館は大きく変わることができた」

 

レミリアは不敵な笑みを浮かべて、真っ直ぐにパチュリーを見た。

 

「…………それはあの時の事を言っているの?」

 

「それも一つね。まさか隙間の妖怪でさえどうにも出来なかったフランの《狂気》を、あの貴方が取り除いてしまうなんてね」

 

それを聞いたパチュリーは、心外だとばかりに机に肘を立てた。

 

「あら。私が貴方の為に長年研究していたのは知っているでしょうに」

 

「くくっ、そうだったわね」

 

レミリアは意地悪く笑う。

そう。レミリアの妹である『フランドール・スカーレット』はある種の呪いのような《狂気》に囚われていた。発作が起こっては、自身の力を持って目に見えるもの全てを破壊していった。それが例え、実の姉であっても。『フランドール・スカーレット』とはそう言う吸血鬼だったのだ。だから彼女は長い間、紅魔館の地下へと幽閉されていたのだ。

 

「しかしあの時は私を抜いた四人で地下に行って、フランを押さえ込むとは思わなかったわ」

 

「レミィは最終防衛線。私たちが失敗した時の為に、地上で待機していて欲しかったの」

 

「そのせいで、フランが《狂気》から開放される瞬間は見られなかったけどね」

 

「地味なものよ。ちょっと光ってすぐ終わり。私が実験に失敗した時の、爆発と似たようなものよ」

 

「何よ。それじゃあ、フランに使った魔法は失敗していることになるじゃない」

 

「何を言ってるのよ。魔法は完璧よ。私を誰だと思ってるのかしら?」

 

「紫もやし」

 

「違いないわね」

 

二人は同時にふふっと笑みを溢した。

 

「でも良かったの?フランの《狂気》は吸血鬼の本質だった。それを取り除いたと言うことは、もうフランは吸血鬼としての全てを放棄したことになるのよ」

 

フランドールを(むしば)んでいた《狂気》は彼女の根源にあるものだった。隙間の妖怪でさえ《狂気》を取り除けなかったのはそれが原因だった。だからパチュリーは《狂気》を取り除こうとする前に、レミリアに言ったのだ。もしかすると《狂気》は取り除けるかもしれないが、吸血鬼の全てを失うかもしれないと。事実、今のフランドールは高度な身体能力や再生能力は消え、更には吸血鬼特有の弱点である日光や流れ水の(たぐい)ですら、何も影響を与えることはなかった。

 

「………………いいのよ。私は咲夜と、美鈴と、フランと、貴方と過ごす日常が欲しかったのだから。フランもきっと、貴方たちに感謝しているわ」

 

レミリアの笑みに答えるように、パチュリーは(うっす)らと笑いかける。

その時だった……

 

 

バンッ!

 

 

と扉が勢いよく開かれて、そこに金髪の少女が現れた。背中にはレミリアのように羽があるが、しかしその羽はキラキラと輝いており、まるで宝石をぶら下げたような形状をしていた。

 

「あっ!お姉様いた!」

 

その少女は走り出すと、レミリアの元へと飛び込んだ。

 

「フラン、どうしたの?」

 

レミリアは、フランの体を受け止めつつそう尋ねた。

 

「だって今日、まだ一回もお姉様に会ってなかったから」

 

「フランは甘えん坊ね」

 

フランはすりすりとレミリアの体に頬を擦り付け、パチュリーは紅茶を飲みながら、微笑ましいものを見るようにそう尋ねる。

 

「いいじゃない。私はお姉様が大好きなんだから。って言うかお姉様とパチュリーは何をしていたの?」

 

言いながらこくりと首を傾げる。

 

「ただの無駄話よ。意味の無い、ちょっとした昔話をね」

 

「えっ!?何それ!?ずるい!私もしたい!」

 

レミリアは目を細め、愛おしそうにフランを見つめた。そう、本当に愛おしそうに……。

 

「……そうね。いっぱい話をしましょう。今からも、そしてこれからも」

 

机に置かれたティーカップは三つとなり、図書館に響く笑い声は何処までもこだました。そうして三人は、朝日が完全に昇りきるまで話をした。それはそれは楽しそうに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回は一瞬で解かれてしまったので、今回は難しめです。ですが、謎のクオリティーは上がっています。自分で言うのもあれですが、初めて納得できる話構成ができた短編です。
と言うことで、ヒントは以下。





ヒント1 レミリアはずっと地上にいた。フランが《狂気》から解き放たれた瞬間は一切見ていない。





ヒント2 なんかこの話のパチュリー高性能すぎない?





ヒント3 なぜ始めの方で、レミリアはパチュリーに謝ったのか?





取り合えず、今回はヒント三つにしました。出そうと思えば十個くらい言えますが、そんだけ出したら多分またすぐに解かれてしまうので。今回は少しだけ推理をしないと解けないようになっておりますので、これを解けた人はシャーロック・ホームズですね。

ヒントや答え、解説が欲しい方はご連絡下さい。


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盃に映る月夜

前回の話がLunaticだと言ったな……あれは嘘だ!
だってあんなにすぐ一瞬で解かれるとは思わなかったので……。私が東方紅魔郷のLunaticをクリアするのにどんだけの時間がかかったと思っているのですか!?なのに……あんな……一瞬で…………だから今回は新Lunaticレベルにしました。今回は流石に正解者は出ない(今回は勝った)!これを解いた人は私のパソコンをハッキングして書かれた答えを盗み見ているとしか思えません!だからこれを正解した人はハッカー認定ですね。


人間が存在する世界から線を引くように、まるで壁に仕切られたような場所。

幻想郷(げんそうきょう)』はその名の通り幻想であり、幻の世界そのものである。多くの妖怪や神、様々な人外が多く存在する世界。

 

その二つの世界の境界に建っていると言われている少し古ぼけた神社、博麗神社。この日、ここで新年を祝う大きな宴会があった。

いつの間にか大騒ぎして始まる不定期なものとは違い、事前に予告しておいたものである。違いはそれだけではなく、普段あまり見かけない妖怪や、決して多くはないが人里の人間も混じっている。

いつもは、大きな力を持つ妖怪や、それに対抗できる限られた人間しか参加しない小さなものだった。しかし、今年は初めて幻想郷の賢者が、どんな小さな妖怪や、何の力もない人間も参加できるように呼びかけた。安全を保証すると、賢者自身が公言したこともあり予想外の数が集まった。様々な者が集まっているだけあって、宴会はかつてない盛り上がりを見せていた。

 

そんな賑やかな風景を宴会とは少し離れた神社の縁側に座り、目を細め、愛しそうに見守る女の妖怪がいた。彼女こそ、幻想卿の賢者であり、この宴会の主催者でもある隙間の妖怪八雲紫(やくもゆかり)。幻想郷の創始者の一人だ。宴会が行われている中心から少し離れてはいるものの、照らされた明かりは大きく、しっかりとその姿を浮かび上がらせていた。そんな彼女はこの景色を肴に一杯呑もうと、持参した酒を紅色の盃に注いでいる時ふと思った。

 

ーーーー何時だったかしら、この風景を見たいと思ったのは。

 

紫がなぜこの宴会を開いたのか……。それは彼女の信頼する忠実な式、八雲藍にさえ教えていない。周りでは彼女が何かたくらんでいるのではないかと、警戒している者もいるようだか、紫はそんなつもりは微塵(みじん)もなかった。自身の式にさえ教えていないのは、その理由が小さな事で、そして、あまりにも彼女らしくなかったから、他人に話すことが恥ずかしく思えたのだ。

ただこの風景が見たいだけ。ただ妖怪や人間達が、種族関係なく賑やかに楽しみ盃を交わす。そんな風景が見たかっただけ。本当に自分らしくない。そう思いながらゆっくりと酒の入った盃を傾ける。季節相応の冷たい風を身に受けながら彼女は只々(ただだた)その風景を眺めていた。

 

「珍しいわね。こんな端の方で呑んでるなんて」

 

突然に後ろからかけられた声にもかかわらず、紫はさして驚いた様子も見せることなく振り向いた。

 

「霊夢こそ、私にかまってくるなんて珍しいじゃない」

 

紫の視界が捕らえた霊夢と呼ばれた少女は、紅白を基調とし、脇がスッキリと切り取られたようなデザインをした巫女服を着ていた。その手には、紫と同じような盃が握られている。

 

「あんたはこの宴会の主催者でしょ。そいつがこんな所で一人酒を決め込んでたら、気になるってものでしょ」

 

「あら、別にいいじゃない。私が一人酒を決め込んでても」

 

紫は微笑んで手招きをした。霊夢は(いぶか)しみながらも紫の方へと近づき、足を止めた。

 

「ほら、どうぞ」

 

紫は徳利(とっくり)を差し出す。釈然としないながらも、霊夢は盃を前へと出した。徳利(とっくり)が傾けられ、その口から、透明な液体が盃へと流れる。宴会の明かりでキラキラと輝きながら、流れ出るその様子は、まるで夜空に浮かぶ星空のようだった。

 

「…………ありがと」

 

霊夢は盃に入った酒を半分ほど飲み干す。

 

「……それで、何をしてたの?」

 

紫の横へと座り、霊夢は言った。

 

「……焦がれ、恋した幻想を見ていたの」

 

「うん。あんたの言うことは相変わらず理解できないわ」

 

霊夢は早々、理解することを諦めて、ただ口を閉じた。二人の持つ盃の中身はゆっくりと、そして()らすような早さで減っていった。

 

「…………この神社も古くなったものね」

 

紫が三杯目の酒を盃に注いでいる時だった。ふと彼女は唐突にそう呟いた。

 

「何回かは建て直したんだけど、それでも資材は再利用しているから、見た目は古く見えるのよ」

 

この博麗神社は昔、大きな地震が起こったときに、何度か倒壊し建て直されたのだが、霊夢の言ったような方法で建て直されたので、その仰々(ぎょうぎょう)しさはあまり薄らいではいなかった。紫は一人、なるほどと納得してふと視線をずらす。その時、近くにある神社の柱の一つに、真っ直ぐ大きな傷があることに気が付いた。何を見ているのかと霊夢は紫の視線を追い、彼女も全く同じ傷が目に入った。

 

「あぁ、それね」

 

そう一つ呟いて、霊夢は続ける。

 

「前にここで宴会をした時に、酔っ払った勢いで妖夢の剣で遊んでたら付いちゃったの」

 

「………………何をしてるのよ、貴方は」

 

「し、仕方がないでしょ!わ、私ってばあんまり酒癖よくないんだから!」

 

それでもこれは無いだろうと、呆れ果ててしまった紫は、それ以上何かを言う気力を失ってしまった。

 

「も、もういいでしょ!とにかく!私は向こうに戻ってるから、気が向いたら紫も来なさい」

 

「はいはい。今度は魔理沙のほうきとか振り回さないようにね」

 

「うっさい!」

 

少し不機嫌そうに去って行く霊夢を尻目に、紫はくつくつと笑う。そして霊夢が人混みの中へ戻って行ったのを確認すると、彼女はまた酒を呑み始めた。盃をくいっと口の節へと追いやる。そこで紫はゆっくりと目を閉じた。

 

 

「……はぁ」

 

目を開く。甘い、痺れるような感覚が紫を襲う。空になった朱色の盃へ向けて、徳利(とっくり)を傾ける。そこに視線を落とすと、盃の中は綺麗な三日月だけが映りこんでいた。そう、そんな美しい情景がそこにはあった。本当に小さな世界。それでもそれはそこにあった。思わず見とれる。今まで目も向けたことがなかったのにと、紫は苦笑した。そしてふと視線を上げた時、柱に付けられたあの傷が目に入った。

 

「……ふふっ、本当に馬鹿な子」

 

思わず紫は微笑んだ。そこでぽちゃりと、一粒の雫が盃の中へと落とされる。盃に注がれている中身が波紋を起こし、そこに映されている三日月がゆらゆらと揺られる。紫はそれをしばらく見つめていたが、その揺れが収まると、一気に盃の中身を飲み干した。もう見ることすらできない、焦がれ恋した幻想と共に。

 

 

 

 

 

 




今回の結末は案外あっさりしています。答えを聞いても、あまり驚かれることは無いかと。恐らく、ふ~ん。程度のリアクションになりますかね。前回みたいな真っ黒な話にはしていません。ではヒントです。


ヒント1 今回の話は、本当に必要最低限の表現しか晒していませんので、本当にしっかり読まないと解けないようになっております。(面倒ですよね)。
さらには比喩などで確信をぼかしたりしています。



ヒント2 今回も題名がヒントの一つとなっています。そこまで大きなヒントではありませんが……。



ヒント3 物語の最初と最後で、変わっているものはないか?



ヒント4 ある地の文で、矛盾が生じています。




ヒント5 場面転換に気をつけてください。




本当に最低限しか書いてないので、ヒントが出しにくいですね。だからもしこれ以上表現を減らしたら、それは推理や予想をすっ飛ばして、妄想レベルの答えしか答えられなくなってしまうんですよね。これを答えられてしまえば、もうどんな問題を出しても正解に導かれてしまう気がします。


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不思議の家の人形劇

さて、前回のリベンジで今回はなんと!
新Lunatic.ver2と言うことで。前回の新Lunatic(笑)より難しい…………はずです!はっきり言って、理不尽なレベル。しかも今回はいつもと形式が違います。問題が全く隠れていません。取り合えず読んでみれば分かります。さてこの話の真相を、解ける人がいるのか?(いるはずがない)。この話を解けた人は、ハバード大学に行けるくらい頭が良いはずです。なので、この問題を解いた人はハバード大学生ですね。


目に射す光で目が覚めた。小鳥の(さえず)りで意識が浮上する。静かだ。耳に障るような音は何一つとしてなかった。

 

「……………………朝か」

 

それが私の発した第一声だった。次第にクリアになる視界が捉えたのは、壁に掛けられた、大きいとも小さいともとれない丸い形をした時計。秒針が規則的に進んでいる中、時刻を表す二本の針は止まっていた。しかし、それが次の瞬間にはカチリと動く。それを見る私はこう思った。あぁ、何てことだ。

 

「……………………寝坊した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法の森にある一軒家。そこで人形に囲まれながら、普段私は暮らしている。魔法使いである私は食事も睡眠も必要としないのだが、そこは人間だった時の習慣が抜けないで、特に矯正もしようと思わなかったので、今も変わらずこんな生活をしていた。それは私が今、食事を作っていることが、裏付けとなるだろう。寝坊をしたせいで、朝食と言うよりは昼食と呼べるそれを作るため、包丁で野菜を切り、調味料を準備している、そんな時……

 

「お邪魔するぜ、アリス」

 

威勢の良い声と共に入ってきたのは、大きな三角帽子の下に金色の髪を生やした可愛らしい少女だった。

 

「………………魔理沙、いつも言ってるでしょ。他人の家に入る時は、まず呼び鈴を鳴らして、家主の了承を得てから入る。常識よ」

 

「私に常識は通用しない」

 

「……そんなんだから泥棒呼ばわりされるのよ」

 

思わず頭を抱えてしまい、一つため息をついて魔理沙に向き直る。

 

「どうしたの?こんな時間に来るなんて珍しいじゃない」

 

「そうか?」

 

「ええ。私の家を訪ねる時は、いつも昼過ぎくらいじゃなかった?」

 

大体が、紅茶やお菓子をたかりに来るのが目的だったが、今日はどうやら違うらしい。

 

「まぁ、確かに。だって今日は昼を相伴しに来たんだからな」

 

「……………………あっそう」

 

そろそろ本気で頭痛がしてきた気がする。

 

「そこに座って待ってなさい。今、作ってる最中だから」

 

どうやらもう少し、野菜を切る量を増やさなければいけないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅茶の入ったティーカップを魔理沙の前へと置く。それはいつも私が自分で飲んでいる種類とは違い、来客用の少し上等なものだ。魔理沙にはいつも私が飲んでいるのと同じものを渡すのだが、今日は何となく、そう言う気分だった。一言で言ってしまえば単なる気まぐれだ。

 

「それにしてもアリス。いつまでこうして食べたり寝たりを続けるんだ?魔法使いのお前にはもう必要ないだろうに」

 

それはアンティークのテーブルを挟んで、正面に座る魔理沙が私に向けた言葉だ。

 

「前から言ってるでしょ。人間だった時の習慣が抜けないって」

 

「でも勿体無いぜ。食事するのにはお金がいるし、睡眠だって時間の浪費だ。それなのにどうして続けてるんだ?」

 

「確かにそうね。でも無駄に過ごす時間と言うのは必要なのよ。こんな体になればこそ余計にね」

 

「そうなのか?」

 

「そうなのよ」

 

魔理沙は納得しない様子で紅茶をすする。そこで私はふと思う。

 

「魔理沙は『捨虫・捨食の魔法』を使おうとは思わないの?」

 

『捨虫・捨食の魔法』。それが種族としての魔法使いと自称魔法使いを別ける大きな壁だった。『捨虫・捨食の魔法』は文字通り、食事や睡眠、そして寿命と言う概念を捨てる事ができる魔法だ。これを成功させた者が、初めて魔法使いという種族として認められる。

 

「 ……『捨虫・捨食の魔法』か。今の私の技量じゃその魔法はまだ早い。あとそれに……」

 

魔理沙はまるで、呆けたように空を見る、そんな表情をしていた。

 

「……使えたとしても使うか分からないな」

 

「…………そう」

 

私はどちらを勧めようとは思わない。ただ魔理沙はこのままでいてほしいと、そう思う。根拠はないが、ただそう思った。それからも私たちはただ無言で紅茶を飲み続ける。痛くも、気持ち悪くもない。むしろ心地好いとさえ思えるこの沈黙。その中では私は一つあることを、思い出した。

 

「そう言えば魔理沙。パチュリーの本、返したの?」

 

「いや、まだ借りてるぜ」

 

「いつまで?」

 

「死ぬまで」

 

なるほど。パチュリーが頭を悩ます訳だ。

 

「それは盗むのと一緒よ。全く、私がパチュリーに会うたびに、魔理沙に本を返せと言っておいてってうるさいんだから」

 

「アリスはパチュリーとよく会うのか?」

 

魔理沙は意外そうに言った。

 

「たまに本を借りにいくのよ。貴方と違って、ちゃんと許可を得てからね」

 

紅魔館にある図書館は、それは膨大な数の魔道書が保管されている。その中には大変興味深い内容もあり、私はそれをたまに借りに行くことがある。しかしあの図書館。そもそもパチュリーが所有しているものではなく、スカーレット家の所有物らしく、彼女が一日中あそこで時間を過ごし、毎日のように読み進めていても、まだ全てを読みきったわけではないらしい。よく考えてみれば、一日一冊と言う驚異的なペースで魔道書を読み、解読したとしても、一年で三百六十五冊。ましてやあの図書館にある全てを解析するのはどれだけの時間がかかると言うのか。

 

「分かった。ちゃんと返すぜ」

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

「いつ?」

 

「死んでから」

 

どうやら魔理沙の性格は一度死ぬくらいしないと直らないようだ。たとえ私がこれ以上言っても無駄に終わるだろう。私が呆れたそんな時、もう一つ思い出した事があった。

 

「あと魔理沙。貴方、昨日私を無視したでしょ」

 

「…………そうだったか?」

 

「ええ。私が家に帰ってる時に、貴方を見かけたわ。全身血だらけだったから、また変な実験して失敗したのかなって思って声をかけたら、急に走って行っちゃうんだもの」

 

「そうか。それは悪かったな。全く気づかなかった」

 

魔理沙は後ろ髪をかいてそう言った。そしてそのまま私を見てこう切り出した。

 

「…………そう言えばさ。昨日、人里で殺人事件があったの知ってるか?」

 

「殺人事件?」

 

昨日、人里に行ったが騒ぎは無かったはずだ。もしかして、私が帰った後に起こったのだろうか?しかしこれまた珍しい。幻想郷にある人里の中では、殺人事件なんて滅多に起こらない。それは人里から一歩出れば、妖怪に襲われることもあるだろうが、人里で人間が殺されるなんてのはよっぽどの事がない限り、起こらないのだ。それはもし誰かが殺しても、有象無象の能力者たちが存在する幻想郷で、ただの人間、もしくは普通の妖怪たちが殺人をしても、殆どの確率で犯人が割り出されると言うのもあるし、そうじゃなくても妖怪たちは知っているのだ。もし人里にいる人間を襲えば、幻想郷の秩序に穴を開けることになると。それは彼らにとっても害としか、なり得ない。

 

「犯人は妖怪?それとも人間?」

 

「いや、それが分からないらしいんだ。殺されたのは宿屋の娘らしいんだが、なんと首と胴体が離れた形で見つかったらしい」

 

「…………奇妙なことね」

 

本当に驚いた。となると犯人は高位の妖怪か、はたまた隠蔽に長けた能力を持つ者か。もし死体に食べられている形跡があれば、妖怪だと割り出せるのだろうが、それならばなぜ人殺しなどしたのだろう?ただの娯楽の一環なのか?私がそんなことを考えている時、ふと視線を感じた。誰でもない。目の前にいる魔理沙だ。

 

「………………何よ。そんなにじっと見て」

 

「………………何か思うことはないか?」

 

何が言いたいのだろうか?魔理沙が私に何を求めているのかが分からない。

 

「いえ、何にも」

 

「…………………………そうか」

 

魔理沙はふうっと溜め息を吐いて椅子にもたれる。相変わらずおかしな娘だ。

 

「……………………アリス。鍋、そろそろじゃないか?」

 

それから少しして、煙が立ち上っているのを見たのだろう。魔理沙が私の後ろにある火鍋を指差してそう言う。そうだった。今はクラムチャウダーを作っている最中だった。

 

「そうね。もうそろそろかしら?」

 

私は席を立って、魔理沙に背を向ける。そうして鍋に向かって足を進めたその時……

 

 

 

 

体が動かない。

なぜだ?まるで全身が粘土で固められたように動かない。私の脳が、体に命令を出しても、手足がピクピクと痙攣(けいれん)するだけ。混乱が頭に廻る中、私は魔理沙へと助けを求めようと声を出す。しかし……

 

「……ガッ…………ガガ……」

 

なんだこれは。声が出ない。私が発したのは声帯を震わす音ではなく、喉の隙間から息が漏れる音。それはまるで壊れた機械のような奇妙さがあった。

そして次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は宙を舞っていた。ぐるぐると視界が回転する。何だ?何が起こっているか分からない。何があった?何をされた?何がどうなった?視界だけではなく、私の頭の中までもがかき回される。ただ一つ、そこで私が見たのは、首の無い自分の胴体と、銀色に光る斧を持った魔理沙。

 

そしてその横で腕を組みこちらを見るーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーもう一人の私の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、今までと違って普通に読んでもホラーですね。この話の全貌が解けた人がいらっしゃるのか?ちなみにヒントは無しです!と言うのも、私はこれから二次試験の勉強をしなくてはいけないので、私が合格するまでに正解者を出したくないと言うのが本音。執筆再開までをこの話で持たせようと言う魂胆です。なので返信が遅れたり、するかもしれませんが、どうかご了解下さい。もし私が執筆を再開して、まだ誰も答えを導けていなければ、ヒントを提示しようかなと思います。ちなみに『捨虫・捨食の魔法』は公式設定です。まぁ皆様なら知っていると思いますが……。

ではまた数ヵ月後に。


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後ろの正面だぁれ?

『きゅうけつ鬼ごっこ』の後に書いた話です。簡単過ぎるなというのと、ちょっと他の話と系統が違うという事で、投稿するの止めたんですけど、せっかくなのでもう全部出しちゃおうと思いました。
難易度はeasyです。文章表現も、余計なものは一切載せていません(フェイクはちょっとだけ入れました)。

あと感想まだ返せてません。返信に凄く時間が掛かるので、落ち着いたらまとめて返そうと思います。申しわけありません。


ネタが無い。

 

射命丸文がそう思い始めて既に数週間が経過していた。自身が執筆している『文々。(ぶんぶんまる)新聞』の購読者を増やすためには何か衝撃的なネタが欲しい。彼女は焦っていた。だからだろう。彼女は新鮮なネタをを探すのを止めて、過去の事件を掘り起こすことにした。そして彼女は、過去の中でも幻想郷に少なからず衝撃を与えた、ある事件に目を付けた。

 

それが『霧雨魔理沙殺人事件』である。

この事件は謎が多く、未だ犯人も判明していない。死因は喉を刃物で掻っ切られたことによる斬殺死。発見場所は彼女の自宅にある地下実験室。第一発見者は被害者の友人であるアリス・マーガトロイドで長期間、姿を見せないことを心配して彼女の家を訪ねた所、地下室に内側から鍵が掛かっており、慌てて強引にこじ開けた先に、血だらけで腐敗した死体が見つかったらしい。これは当時、射命丸が彼女から直接聞いた話だ。

 

今はこれだけしか分からない。分からないからこそ、もしこの事件を解き明かせば大きな注目を得られる。この事件が起こった当初、多くの同僚が調査をしたが、結果がこの情報だけなのだ。だから絶対、何かを掴んでやると意気込んで、射命丸文はとある屋敷へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あやや、申しわけありません阿求さん。突然お邪魔しちゃって」

 

「いえ。ちょうど私も暇してましたし、大丈夫ですよ」

 

二人で使うにはあまりに大きな部屋。そこで彼女たちはそれぞれの湯呑を挟み。対面していた。

 

「それで、今回はどういったご用件でしょうか?」

 

「ええ実は、十年程前に起きた『霧雨魔理沙殺人事件』について、再調査してるんですよ。なのでもし、阿求さんが何かご存じでならばそれを教えていただけないでしょうか?」

 

稗田家には自然と多くの情報が集まる。それは彼女たち『阿礼乙女』が、幻想郷で起きた事柄を記録する使命があるからだ。それ故に、射命丸は真っ先にここを訪ねたのだ。天狗(同僚)たちが知りえない情報でも、彼女なら知っているかもしれないと期待して。

 

「また懐かしい事件を……何でまた?」

 

「お恥ずかしながら、最近は記事にできるような事件がありませんでしたので、こうやって過去の事件でも調べようかなと」

 

射命丸はいや~と唸りながら後ろ髪を掻く。

 

「なるほど。最近の幻想郷は平和ですからね」

 

阿求は納得したように頷いた。

 

「そうですね。射命丸さんならある程度の事はご存知でしょうし、あまり公になってない出来事を話しましょうか」

 

「おお!そんなものがあるんですね!」

 

「ええ。それでも犯人は判明していないので、大した情報ではないかもしれませんが」

 

「いえ!どんな些細な事でも教えてもらえるとありがたいです!」

 

そう言って、射命丸は阿求に食ってかかった。

 

「……分かりました」

 

阿求は一つ、咳ばらいをして話し始めた。

 

「魔理沙さんは殺されるほんの少し前、あることについて調べていました。今のあなたのように」

 

「あること……ですか?」

 

「はい。それは『博麗霊夢が死んだ』と言う事実について」

 

阿求が言っているそれは『霧雨魔理沙殺人事件』のほんの少し前に起きたものだ。ある日、突然に妖怪の賢者がこう言ったのだ。『今代の博麗の巫女が死んだ』と。当然、幻想郷は混乱した。しかしそれは、当然のことだ。博麗の巫女が死んだと言うだけでも一大事なのに、妖怪の賢者がそのことについての詳細を話さないのだから。

 

「魔理沙さんは霊夢さんの不自然な突然死に疑問を持ちました。それはあなたもでしょう?」

 

「……はい。博麗の巫女の死については、天魔様からも不干渉を命じられましたからね」

 

それはそうだ。こないだまで元気だった娘がいきなり死んだと一方的に告げられる。更には詳細も話してはくれない。怪しい。明らかに怪しかった。何かあると、そう推測するのが自然だ。

 

「だから魔理沙さんは幻想郷中を駆け回って霊夢さんの死について調べました。そして最後に、私と出会い、共に考えをまとめたんです」

 

「…………何か分かったんですか?」

 

「いえ、何も。しかし魔理沙さんは何かに気付いたようで、少し思い当たることがあると言って、この屋敷を飛び出していったんです。そして次に私が彼女と再会した時は、もう死体へと姿を変えていました」

 

阿求はしゃべり終えると、手元にある湯呑を持って、自身の口へと運んだ。

 

「私から言える事はこのくらいしかありませんが、為になったでしょうか?」

 

どうやら阿求はこれ以上の事は知らないらしい。

 

「はい!貴重な情報をありがとうございました!」

 

「それは良かったです」

 

そう言って互いに笑顔を見せる。そうしてそれから二人は取りとめない会話をしていった。射命丸が屋敷を訪ねて二時間ほどたったそこで、彼女はゆっくりと足を伸ばし、立ち上がった。

 

「長い事お邪魔をしてすみませんでした。私はそろそろ帰ります」

 

「こちらこそ長く引き留めてしまってすみません。ところで射命丸さん」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「この事件の事は、本当に記事にするのですか?」

 

阿求の問いに、射命丸は少し考えはしたものの、次の瞬間には大きく頷いた。

 

「まだ何とも言えませんが、恐らくそうします。別に真相が分からなくてもいいんです。少しでも事実が浮き彫りになれば、読者は目を通してくれますからね」

 

「なるほど。確かにそうですね」

 

その言葉に射命丸は嬉しそうに笑みを溢し、一つ礼をして部屋の外に出ようとする。

 

「…………ねえ、射命丸さん」

 

しかし、阿求は射命丸が部屋を出る直前に再び声をかけた。ここでお別れだと思っていた射命丸は、キョトンとした顔で阿求の顔を見る。そんな中、ゆっくりとした口調で阿求は呟いた。

 

「魔理沙さんは死ぬ直前に一体、何に気が付いたんでしょうね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

射命丸は自室の執務机に座って今日、手に入れた情報の整理をしていた。

 

「はぁ~。やっぱり、魔理沙さんの事件と霊夢さんの死は繋がっていると考えるのが妥当よね」

 

そうなると、少し面倒ねと愚痴を溢し、今一度として自分の手帳へと目を落とした。

 

 

ーーーーん?

 

 

 

そして察する。

ある事に。

そこで気が付く。

ある事に。

 

 

 

 

 

「…………間違えた」

 

そう一言呟いて、射命丸は後ろを振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




簡単なんで、ヒントはなしで(笑)。というか、ほとんど全てが重要です。
一つ勘違いしてほしくないのは、この話で全ての真相が分かるはずがないという事です。ぶっちゃけちゃうと、題名がまんま問題です。それだけ答えてもらえればもう正解です。なので、回答が分かってもモヤモヤして、すっきりはしないかもしれませんね。


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かえるのうた

この話、本当は四月まで投稿する予定ではなかったんですが、前回のせめてものお詫びと言うことで、投稿することにいたしました。
『いないいないばぁ。』以来の六千文字越えです。これでもどうにかして文字数を削った方なんですよ。

あとは今までで断トツに場面転換が多い話ですかね。世界観も少しだけ違います。

難易度はNominal~Hard。恐らく人によっての難易度のブレが激しい話になるかなと思います。



クスクスと周りから笑い声が聞こえる。机は見慣れない落書きで黒々と染まっていた。ただ意味の無い言葉だけが私の耳へと流れ込んでくる。 蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)とはまさにこの事だ。ただ一刻もこの場所に居たくなかった。今すぐにでも立ち去りたい。酷く歪んだ教室を飛び出して、自分を知る人たちの元へと駆けて行きたかった。だがまだ今日は始まったばかり。

 

そう、これからだった。

 

 

 

 

 

 

 

『緑髪とかキモすぎ。あれ地毛らしいよ』

 

『なんで頭に雑草生やしてるんだよ』

 

『蛙が好きなんだって。意味わかんないよね』

 

『あいつ自分の家では一人で会話してるって聞いたことあるよ』

 

『何それ?こわ~い』

 

『早く死ねよ』

 

『私、席となりなんだよね。気持ち悪いから誰か変わってくれない?』

 

 

 

 

 

 

 

 

『東風谷。教科書はどうした?』

 

『先生!東風谷さん、教科書を無くしたらしいです』

 

『無くしただと?お前は相変わらずの馬鹿だな。頭に生えてる植物に、養分を全部吸いとられたのか?』

 

『『『『『ギャハハハ!!!』』』』』

 

 

 

 

 

 

『東風谷さんって掃除好きでしょ?代わってあげるよ』

 

『へぇ、そうだったのか?じゃあ、これからずっと東風谷に掃除してもらおうぜ』

 

『それ賛成!』

 

『それいいな!』

 

『じゃあ後はよろしくね、雑草お化けの東風谷さん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………遅くなっちゃった」

 

私は箒を掃除の収納箱へと仕舞った。窓からオレンジ色の光が射し込んで、辺りを明るく染めていた。教室の中もそれは例外ではない。それのせいか、黒板に火曜日と書かれた白い文字が妙に目立って感じた。私は教室にポツンと寂しそうに置かれている鞄を持ち上げて、一階にある昇降口まで移動する。階段を駆け降りて上靴を脱ぎ、下駄箱を開いた。

 

ガラッガラッ。

 

何かが雪崩のように落下する。私は視線を下へと向ける。それはパンの袋、いらないプリント、空になったペットボトル。普段はゴミ箱に入れられるような物たちが、押し出されるようにして外へと出てきた。

 

そしてそこから顔を出したのはーーーー

 

《死ね》

 

《学校辞めろ》

 

《キモい》

 

マジックで太く書かれたそんな文字。それらがびっしりと下駄箱の内側に書き込まれている。私はその中に手を突っ込んで、自分の靴を取り出し、それを履く。

そしてそれから上履きを仕舞って、雪崩落ちたゴミをゴミ箱に放り込んだ。私は何とも無しに、そのゴミ箱を見つめる。

 

「……………………早く帰ろう」

 

誰にともなく私はそう一言呟いて、重い足取りで校門へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました!諏訪子様!神奈子様!」

 

「お帰り、早苗」

 

「お疲れ様」

 

私は家に帰って、駆け足でお屋敷の中にある小さなお(やしろ)へと飛び込んでいった。私を出迎えてくださったのは、代々私の家系がお仕えする神様たち二柱『 洩矢諏訪子(もりやすわこ)様』と『八坂神奈子(やさかかなこ)様』だ。この御二人は私にとって親であり、友だちであり、姉妹であり、そして神様なのだ。私が唯一、ありのままの自分を見せることができる存在。

 

「早苗。今日の学校はどうだったの?」

 

私より幾分か低い背の諏訪子様がこちらに寄ってきた。

 

「……はい!とっても楽しかったです!」

 

どう見繕っても楽しいとは真逆の学校生活なのだが、私はこの御二人に心配をかけたくなかった。だから私はいつもこうして嘘をついていた。幸い、このお二人は力の大半を失っていて、神社の敷地内から出ることができないのだ。

 

「そう。なら良かったよ」

 

そう言って諏訪子様は二ッと笑った。それから私は諏訪子様と共に、神奈子様の前へと座る。

 

「ふむ。そう言えば早苗はもう高校生なのだな」

 

「神奈子、それ今さら過ぎない?」

 

私が高校へ入学してもう半年。諏訪子様の言われることはもっともだ。

 

「いや、早苗が生まれてこの日まで、本当に一瞬だったと思ってな。私からしたら、ついこの間まで諏訪子と同じ背の高さだった気がしてならん」

 

神奈子様は私をじっと見た。こう改めてよく見られると流石に気恥ずかしく感じてしまう。しかしそこで、ふと私に一つの心配事が頭をよぎった。

 

「…………あの、神奈子様」

 

「うむ、何だ?」

 

私の神妙な面持ちに神奈子様は少しだけ顔を引き締めた。

 

「あの、神力の方は……どうですか?」

 

「ふむ。まだ全然大丈夫だ。信仰心は年々、減ってるがな」

 

私は思わず眉をへの字に曲げて、広角を下げる。しかしそこで私の腕に諏訪子様が引っ付いてきた。

 

「もう、早苗も神奈子も心配しすぎ。ただ焦っても仕方がないよ」

 

諏訪子様はそう言っているが、諏訪子様は神霊である神奈子様と違い、元となった霊が存在しない。だから信仰心が薄まる事による、影響を一番受けるのは諏訪子様御自身なのだ。それでも私たちの中で一番、楽観的に構えているのは、心配をさせまいとそう振る舞っているのか、ただ単にその性格ゆえなのか。

 

「心配事といえば早苗。まだちゃんと自分の能力を制御できてないんでしょ?無意識に周りを巻き込んでない?」

 

「はい。今のところは大丈夫です」

 

『奇跡を起こす程度の能力』それは一人の人間が持つには過ぎたる能力。生まれついて私は巫女としての才が抜きん出ていた。だから同じ家系でも、家族の中で唯一、私は神様が見える。勿論、両親はその事を信じてくれてはいるが、それでもそのせいか、私と両親の間には少なからず低くない壁があると感じている。

 

「これからもちゃんと修行を続けていけば、自分でその力を押さえ込んで、行使したい時に使えるようになる」

 

「まぁ大丈夫だよ、早苗なら。早苗ってば真面目だもんね~」

 

「はい、頑張ります!」

 

この御二人に迷惑をかけないように頑張ろう。私はそう決心し、この日一日、ずっと御二人と話しをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日も同じ事の繰り返しだった。不条理に向かう刃が私を傷つける。昨日と違う事と言えば、今日は直接的な暴力行為を受けたこと。放課後に女の子三人に呼び出され、身に覚えのない因縁をふっかけられて、私をサンドバッグだと言わんばかりに殴り付けた。 もう嫌だ。私の中にある何かがそう叫んでいる。私が何をした?何が理由でこんなことをするの?そう沸々(ふつふつ)と沸き上がる怒りに似た感情とは裏腹に、悲しみが形となって頬を流れ(したた)り落ちる。

完全下校時間を過ぎて、学校にいる生徒は家へと帰らなければいけない時間。そんな時間になっても私は学校のトイレで一人泣いていた。

 

駄目だ。これ以上、泣いたら神奈子様と諏訪子様にバレてしまう。それにもう時間も遅かった。屋上で暴力を受けたからか、記憶があやふやでいつの間にかここにいた。だから正確な時間は分からないが、個室の暗さと、周りの静けさからもう完全に日は落ちてしまっている。私の両親はそうではないだろうが、加奈子様と諏訪子様は私を心配しているかもしれない。

 

「……………………服を着替えないと」

 

恐らく暴行を受けた時に服が汚れている。少し前、制服をチョークで汚された事があり、その時から私は教室に予備の制服を置くようにしていた。今の時間、職員室に行けば少し面倒なことにはなるだろうが、それでも背に腹は変えられなかった。私は視線を自分の体へと落とした。

 

「…………あれ?」

 

思わずそんな声が出た。なぜだろうか?私の服は全くと言って良いほど汚れていなかった。ただ単に運が良かったのか。疑問には思ったが、考えたところで答えは出ない。とにかく汚れていないならそれに越したことはない。急いで家に帰ろう。私は個室の鍵を開けて、トイレから出た。やはり外は真っ暗だ。

 

「…………神奈子様に怒られるかもしれないなぁ」

 

少し家に帰るのが憂鬱になった私はそっと学校を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから真っ先に家へと帰ったのだが、帰宅時間が遅くなった事には変わりは無い。予想した通り、私は神奈子様に少しだけ怒られた。たけどこの世界で私を叱ってくれるのは神奈子様だけ。そう思うと神奈子様のお説教もなぜか嬉しく思える。遅くなったことは、友達と遊んでいたと出任せを言って、なんとか誤魔化した。

 

そして次の日。今日も私は学校へと向かう。たとえ傷つけられると分かっていても。私には、私を支えてくれる二人の神様がいる。だから私は今日も頑張れる。自分で作った朝食を食べて、ちらりとカレンダーを見る。明日は休みだ。明後(あした)明後日(あさって)は学校に行かなくていい。そう思うと体から元気が沸き上がってくる。

 

「よし、頑張ろう!」

 

私は自分に言い聞かせるようにそう言って、玄関へ向かう。その時だった。よく聞きなれた規則的な電子音が、けたたましく鳴り響く。それは家の中に設置された受話器から発せられていた。私は壁にかけられた丸時計を見上げる。幸い、まだ時間には余裕があった。私は手に持った鞄を降ろして、駆け足ぎみに受話器の前へと移動をし、それを手に握った。

 

「はいもしもし、東風谷です」

 

《突然すみません。私、東風谷さんの担任をしている者です》

 

丁寧な口調で話すその声には聞き覚えがあった。

 

「…………もしかして先生ですか?」

 

《……なんだ、お前か東風谷》

 

先生も自分が話しをしているのが私だと気がついたようで、先程とは急変した、きつい口調でそう返された。

 

「どうされたんですか?こんな時間に」

 

時間にして7時半。遅いとも早いとも言えない時間。だがこんな朝に先生から電話がかかってくるなんて、普通ではない。

 

《ああ、取り合えず結論から言おうと思う。落ち着いて聞いてくれ》

 

そうして次に発せられた言葉は私の思考を停止させた。

 

《うちのクラスの生徒が三人死んだ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、先生は詳しく教えてくれなかった。ただ死んだのは昨日、私に暴力をふるった三人だと言うことと、これからしばらく学校がなくなると言うことを伝えて、詳しいことはまた後にと先生は電話を切った。彼女たちは昨日から家にずっと帰っていなかったらしい。あとこれは後日に知った事だが、死んだ三人は皆、首を切られた状態で自分の席に座らせられており、切り離された頭部はその席の机の上に飾られていたと言う。そしてこれが一番奇妙なことなのだが、彼女たちの胃の中には生きたままの蛙が敷き詰められていたらしく、その蛙たちが鳴くと、まるで三人の死体が蛙の声で歌を歌っているようだったと言う。

 

 

耳に受話器を押し当てたまま先生の話を聞いていた私は、しばらく放心状態だったが、一つの引っ掛かりが私の意識を覚醒させた。私は受話器を乱暴に置いて、駆けるようにしてある部屋へと向かった。

 

「諏訪子様!」

 

勢いよく扉をこじ開けて、お(やしろ)へと駆け込んだ。

 

「ん?どうしたの早苗?」

 

「学校に行ったんじゃなかったか?」

 

呆けるようにして話しかけるお二人を無視して、私は無遠慮に中へと入って言い放った。

 

「今日、学校で私のクラスメイトが三人、死んだそうです」

 

昨日の今日だ。あの三人がこの日にたまたま殺されたなんて、そんな馬鹿な事があるはずがない。そして私が思い当たるのはこのお二人しかいない。

 

「………………案外鋭いね、早苗は」

 

「早苗もそこまで馬鹿じゃないさ。私も気づくはずだって言っただろう?」

 

この口振り。やはり私が思った通りだった。

 

「…………やっぱり」

 

「うんそう。私たちがやった」

 

諏訪子様はあまりにもあっさりと認める。

 

「いや、正確には違うかな。直接手を下したのは私だし、独断で実行したのも私だったしね。神奈子にも、さっき言ったばっかりなんだ。それでさっきまで神奈子に怒られてた」

 

「なんで……」

 

「なんで?それはこっちの台詞だよ早苗」

 

諏訪子様は立ち上がって、私の顔を下から覗き込んだ。思わず私は一歩、後退りをしてしまう。それでも諏訪子様は私の顔を追いかけて、背伸びをしながらこちらをじっと覗いた。

 

「なんでずっと学校での事、黙ってたの?」

 

諏訪子様の言葉にピクリと体が反応する。

 

「そ、それは……」

 

バレてる。なぜ?いつ?どうやって?昨日はしっかりと誤魔化せたはず。それともやはり私の言動は不自然だったのだろうか?いや、もし不自然だったとしても、どうやって私が過ごしている学校での生活を知ったのだろう。考えれば考えるほど、分からなくなってくる。混乱して視界がぐるぐると回る。諏訪子様はそんな私の様子を見て、少しだけ悲しそうな顔をした後、神奈子様と同じ位置まで後ろへと下がった。

 

「早苗はさ、学校でのこと隠し通せてると思ってたようだけど、私たちはとっくの前に気がついてたよ」

 

「…………………………え?」

 

自然とそんな声が漏れた。

 

「早苗。私たちを(あなど)るな。これでも一応、神の座に付く者だ。人間の、それもまだ成人さえしていない娘の嘘を見抜けないはずがないだろう」

 

そう言われてみれば、そうだと納得してしまった。確かにそうだ。神奈子様と諏訪子様は私が生まれる数千年前からずっと生きておられるお方たちだ。そんなお二人からすれば私など子供、いや赤子同然だろう。出任せの嘘をついて、誤魔化せたと思っていた私の思考が能天気だったと言う他ない。

 

「……そんな顔をするな、早苗」

 

「分かってるよ。早苗は優しい子だからね。私たちに心配をかけたくなかったんでしょ」

 

お二人がこちらへと歩み寄って、手をそっと私の肩へと添える。

 

「早苗が自主的に黙っていたから、私たちも気づかないふりをしてたんだけど、昨日は少し様子がおかしいと思って、寝ている間に記憶を覗かせてもらったの」

 

諏訪子様にそんな御力があるなんて知らなかった。だから私の学校生活が露見したのか。そこは納得した。でも私には一つ、どうしても納得できない部分があった。

 

「でも、それでも!」

 

「殺す必要はなかったって?」

 

「っ!!」

 

自分が言わんとしていたことを先に言われ、言葉に詰まる。

 

「これ以上、放っておくともっと過激になって取り返しのつかないことになる。何より私は早苗を傷つけるあの子たちが許せなかった。よく知らない三人の命より、私の家族を守りたかった。ただそれだけだよ」

 

それは…………どうなのだろう?でも私が諏訪子様の立場だったら同じことをしていたのには違いない。全く知らない人、百人の命と、諏訪子様や神奈子様。どちらかを取れと言われれば、私は間違いなく後者を取る。

 

「すまない早苗。私もついさっき、こいつに聞かされたばかりでな。神としてあまり誉められた行為ではないし、何より大々的にお前を直接巻き込んだ。これからお前の高校生活は、一人だけで日々を過ごす孤独なものとなる。危害を与えてくる者もいないし、好意を寄せて来ることもない。不干渉な態度で人に接せられることとなる」

 

私をよくいじめていた三人が一斉に奇妙な死に方をした。諏訪子様の祟りによって殺されたので、この事件は恐らく迷宮入りになる。そうなると私は学校の誰から見ても、気味の悪い存在となってしまう。確かにいじめはなくなるが、これからの学校生活における私の友好関係の構築は絶望的と言ってもいい。

でも、それでも……。

 

「……………………いいんです」

 

「……早苗?」

 

神奈子様と諏訪子様は二人して軽く首を(かし)げた。

 

「諏訪子様は私を思ってそうしてくれた。それだけで充分です」

 

私の為に諏訪子様は動いてくださった。それが私は何よりもの嬉しい。

 

「それにーーー」

 

そっと目を閉じる。胸の中に何か暖かいものが、ポカポカと流れ出てくる。

 

「私には諏訪子様と神奈子様がいればいいんです」

 

「…………早苗」

 

「う~さなえぇっ」

 

神奈子様は優しく微笑んで、諏訪子様はぎゅっと抱きついてきた。そうだ。私にはずっと、これからもこのお二人がいる。この先どんなに辛く、悲しい未来があろうとも、私には神奈子様と諏訪子様がいるのだ。それだけでもこの世界は私にとって優しいものになる。だから私は崇めよう。今も未来も、過去でさえも。私の、私だけの神様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから半年が経った。それだけの時間が経てば、全国紙にさえ載ったあの事件の話題も他の新たな話題へと移動(シフト)していった。もちろん事件は未解決事件。犯人はおろか、証拠の一つさえ見つからなかった。真相を知っている私からすれば当たり前なのだが、世間はそう捉えるはずもない。結果、三人からいじめを受けていた私は、加奈子様のおっしゃっていた通り、ただ一人孤立した。それでもいい。悲しみは無い。

 

「諏訪子様、神奈子様!行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい」

 

「行ってらっしゃ~い!」

 

だって私は一人じゃないんだから。

 

 

 

 

 

 

 




最近、物騒な話が続いていますね。次は一見すると日常に見えるような話にします。

あといじめは駄目ですよ。三人の女の子みたいになっちゃいますからね。まぁ最近はやってる人なんて殆ど見ませんけど。少なくとも私の知る範囲では。

さて、ヒントの時間といきましょう。



ヒント1 火曜日の二日後って何曜日でしたっけ?










ヒント2 いじめていたとは言え、今までで陰湿な行為ばかりをしていた人たちがある日突然、いきなり暴力行為にでるものなんですかね?










ヒント3 きっと事件を調べていた警察の方々は思ったはずです。凶器の一つはおろか、目撃情報さえ全く入ってこない。あれだけ大々的に殺人をしておいて、小さな手がかりの一つも見つからない事件なんて存在するのか?
あったとしたらそれはまるで()()だ………とね。



ヒントの数こそ少ないですが、どれも確信に近いヒントばかりなので、これを全部見たらeasyレベルまで難易度は下がりますかね。ただ注意してもらいたいのは、この話における早苗の能力は人を殺せるほど強大な能力ではありません。まだ制御できてないですからね。これもヒントです。ちなみに【解】の投稿は焦らします。


追記

あれ?意外と皆様、苦戦してらっしゃいます?実は自分が思ってるよりも難しいんですかね?

と言うことで一定時間経過毎に追加のヒントを出そうかなと。




ヒント4 早苗さんは、身に覚えの無い因縁をふっかけられたと言っていますが、本当にそれは身に覚えの無い因縁なのか?早苗さんからしたらそうかもしれませんが、いじめっ子三人からしたら、身に覚えがあるのかもしれません。






ヒント5 初めに早苗さんがいたのは火曜日。そこから日にちをまたいだ場面転換が二回。次の日は水曜日。さらにその次は木曜日。しかし、そうなると明日は学校があることになります。早苗さんの台詞から、次の日がたまたま祝日だった、なんてことはありません。となると、早苗さんの記憶に無い曜日が一つあることになります。









ヒント6 もし早苗さんが放課後に、屋上で暴力を受けて記憶があやふやになったのなら、それは気絶と言う可能が高いでしょう。でも本当に気絶なら、目覚めるのはそのまま放置された屋上か保健室。いや、でももしいじめっ子たちが早苗に暴力をふるった事がバレたくないとするならば、トイレに隠すと言うこともあり得るかもしれません。ですが、流石にわざわざ早苗さんを着替えさるなんてことはしないはず。何よりも、予備の制服があるなんていじめっ子たちは知らないのではないでしょうか?
となると気絶と言う線は非常に薄くなります。じゃあなんで早苗の記憶はあやふやになったのでしょうかね?








ヒント7
Q.そう言えば早苗さん。三人に汚された制服はどうしたの?
A.それが、見つからないんですよね。もし見つけたら教えてくださいませんか?

















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哀々傘

今回、文章が雑です。申し訳ありません。所詮、作者の文章力はこんなものです。

この話の難易度は一応、新Lunatic.ver2改と言うことです。と言っても、Nominalの話を、文章表現で無理矢理難易度上げただけなんですよね。だから思ったより簡単かもしれないです。

恐らくですが誤字、脱字が多いと思うので、よければご指摘をお願いします。


《欲求》と呼ばれる物は大きく別けて三つあるとされている。一つは《睡眠欲》。生きている物は皆、寝なければいけない。それは常識だ。いや、常識以前の問題だ。昔、誰が決めたも無しにいつの間にかそうなっていた。睡眠を必要としない例外の種族もいたりするが、それはそれだ。 生きている者は皆が寝る。寝なければ生きてはいけない。だから人はそれに大きな欲求を感じるのだ。

二つ目は《性欲》。これも種族を残すために必要なこと。概念から生まれた妖怪は、男女のまぐわいで生まれた物ではないが、それでも妖怪とて生き物だ。祖先を残したいと、そう無意識に思うのが普通のこと。これも勿論、重要なこと。しかし。それでも私はあえて言わせてもらおう。大きく別けられた《欲求》の中で、それらは最たるものではないと。ここまで色々と言ってきたが、取り合えず一言でまとめよう。

 

 

 

 

 

 

私は空腹である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私こと多々良小傘(たたらこがさ)は人を驚かす事によって空腹を満たす妖怪だ。詳しく言うと、人間に関するものでと言う方が正しい。だから別に人間の肉を食べても私のお腹は膨れるのだが、幻想郷ではそれをするのが難しい。人間の死体などなかなか手に入れられるものではないのだ。よって私は人間を驚かす。驚かそうとしているのだ。しかし今や人里の人間は子供ですら私に驚いてくれなくなった。駄目だ、このままでは私は空腹に耐えきれず飢えて死んでしまうかもしれない。そんな悩みを抱えながら日々を生きていたそんな時、命蓮寺の住職である聖白蓮(ひじりびゃくれん)が声をかけてきたのだ。曰く、お寺で少しばかり修行をすれば、人間を驚かせる何かが見つかるのではないかと。私一人では行き詰まりを感じていたのも事実。だから私は聖の話を承諾する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は命蓮寺の内観を見ながら、その縁側を白蓮と歩いていた。 自分が歩く木製の床は 、毎日きちんと掃除がされているようで太陽の光を反射して綺麗に輝いていた。

 

「小傘ちゃんが命蓮寺の境内に入るのなんて、本当に久しいですよね?」

 

私の右を歩く聖が、ふと私にこう問いかける。

 

「う~ん、そうかもしれない。私が普段いるのは命蓮寺にあるお墓だからね」

 

あそこは墓地と言うこともあり、人間を驚かすのに最適な場所なのだ。だから私はよく命蓮寺の墓地へ足を運ぶ。そのせいで、私は聖から命蓮寺の一員として認識されているのだが、私自身はそう思っていない。

 

「でもこうして本道の周辺を歩いてると、結構な数の妖怪が命蓮寺にいるんだね」

 

「そうですねぇ。お陰さまで退屈しない毎日を送れています」

 

「まぁ色んなことやってるしね」

 

命蓮寺では人間の墓の管理、葬式、住職が弟子や一般人へ仏法を説く事、逆に人間の話を聞く事や、月一の『夜通し読経(どきょう)ライブ』など様々な事を行っている。命蓮寺に滞在するほとんどが妖怪と言っていいのだが、ここは人里にも大きく関わっているのだ。だから実は人間の訪問者は意外にも多くいる。これは住職である聖が持つ『人妖の平等』と言う理念に命蓮寺全体が従っているからだろう。

 

「さて今日やることですが、まずはお庭掃除、それから写経をして、最後には皆で結跏趺坐 (けっかふざ)をしましょう」

 

「え~面倒くさい」

 

「何を言っているのですか、小傘ちゃん。これくらいは当たり前ですよ」

 

聖がにっこりとした笑顔を私に向ける。

 

「まぁ自分でやるって言ったからにはしっかりやるよ」

 

「偉いです小傘ちゃん」

 

「んにゃ~!頭をわしわししないでよぉ!」

 

聖は私の頭に手を乗せて、そのまま優しくなで回す。なぜだが私は聖のこれがあまり好きにはなれなかった。なぜだかは分からない。ただ子供扱いされているのが、癪に触るのかもしれない。私は少しだけ乱れた髪を手で直し、少し先を行く聖を追う。こうして私の命蓮寺での一日は始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が命蓮寺に来て初日の夜。私を含めた七人は大きな卓子(たくし)を囲んで、様々な料理に箸を付けていた。

 

「それにしても小傘が、私たちと一緒にご飯食べるのって本当に久しぶりじゃない?」

 

私の正面に座るぬえがこちらを覗き込むようにして視線を向ける。

 

「うん、そうかも。と言うか、ぬえと会ったこと自体が久しぶりじゃない?ぬえってば命蓮寺にいないことが多いからさ」

 

ぬえは一応は寺住まいなのにも関わらず、命蓮寺にいないことがほとんどだ。はっきりとした住所は不明。それは『(ぬえ)』という彼女の種族にピッタリだなとそう思う。

 

「そうだなぁ~。本当は今日もここに来る予定は無かったんだけど、なんとも無しにたまたま気が向いたから立ち寄って、そしたら小傘がいたんだよね」

 

「ならこうして私たちが二人して出会ったのは奇跡と言ってもいいのかも」

 

私が命蓮寺でご飯を食べるのが半年ぶり、となると一週間に一度か二度しか帰ってこない、ぬえと同じ日に命蓮寺で出会う確率は相当低くいはずだ。なんとも運が良い。

 

「私も小傘が来るのは久しぶりだと思ってね。今日は張り切って夕飯を作ったのさ」

 

私とぬえの会話に割って入り、ナズーリンはそう言う。

 

「ありがとう、ナズーリン。確かに今日はやけに豪勢だと思ってたんだ」

 

卓子を埋め尽くすほどの皿に、料理が乗っかっている様は、何とも意外にも迫力があるように感じた。前にここで夕食をした時は、もっと質素な精進料理だったのだが、今はそんなの関係なしとばかりに肉料理さえ並んでいる。いや、だがこれは……。

 

「…………お寺なのに肉料理って大丈夫なの?」

 

寺で修行をする身であるならば、酒池肉林(しゅちにくりん)とまではいかなくとも、なるべく酒や肉を口にするのは控えた方がいいのではないか?そんな疑問を私は言葉にして発した。

 

「うむ。まぁたまにはいいんじゃないか?のう、村紗」

 

「…………まぁそうだね。私は絶対に食べないけど」

 

マミゾウにそう返す村紗は、苦味を含んだ笑みを浮かべていた。意外だ。村紗はもっと適当な奴だと思ってたのに、真面目なところもあるのだと少し彼女を見直した。まぁでも代理とは言え、本尊であり毘沙門天様を司る虎丸星(とらまるしょう)が大酒飲みなのだ。今更、肉を食べるなと言われても説得力は無いだろう。そもそもな話、私はここの門徒ですらないのだから、そんな事を気にしていても仕方がないのだ。それに、私の為にナズーリンがこんな豪勢な料理を作ってくれたのに、それを食べないと言うのはかなり失礼な話になってしまう。

 

「じゃあいただくね」

 

「うん。始めはその煮物をなんかどうだ?これは私の自信作なんだ。是非とも食べてほしい」

 

ナズーリンに指された場所を見ると、黄土色の小皿に野菜と肉がバランスよく取り入れられた、煮物があった。私はナズーリンに言われた通り、手前にあった肉の煮物を箸で摘まんでパクリと口の中に放り込む。

 

「お、美味しい!」

 

なんだこれは。こんな美味しい料理は久しぶりかもしれない。いや、もしかすると今まで食べたどんなものよりも美味しいかも……。

 

「それは良かった」

 

ナズーリンは満足そうに微笑みながら、私が食べたものと同じ料理に箸を伸ばした。

 

「ナズーリン。いつの間にこんなに料理が上手くなったの?」

 

「ふむ。まぁ努力したからね。それに今日はいい食材ばかりを使っている」

 

「そうなの?」

 

「ああ。その肉もさることながら、野菜も良いものばかりなんだ。これも聖の人望のおかげさ」

 

そう言えばそうだった。命蓮寺で出される食事のほとんどは、聖が人里から貰ってくるもので作られているのだった。聖は人里でも非常に人気がある。それは聖が人里で多くの慈善活動をしているのからだ。聖が貰う物が、売れ残りや価値の低いものではなく、質の高い上等な物だと言うことが、それをしっかりと裏付けていた。

しかしナズーリンの言葉の通りなら、私がこうして美味しいご飯にありつけるのは聖のお陰と言うことになる。そう言う意味では聖に感謝だ。そうして聖に視線を向けようとしたところで気がついた。

 

「そう言えば聖は?」

 

聖がいない。よく見れば星もいない。

 

「聖は星と少し用事があるからってちょっと前に出掛けて行ったわ」

 

私にそう返したのは雲居一輪。入道といつも一緒にいる妖怪だ。

 

「一輪は何か知ってるの?」

 

「いや、知らない。でもどうせ大した用事でもないわよ」

 

勿体無い。せっかくこんなに美味しい料理なのに。温かい内に食べれないなんて。

 

「まぁいいではないか。聖がいたら面倒な事だしの」

 

「私はよくお行儀が悪いって怒られます」

 

「響子だってがんばってるのにね~」

 

少し愚痴っぽい会話が交わされる。でも私は知っている。ここにいる誰もが、聖を好いてここに集まっているのだと。

 

「……………………私も含めてね」

 

「ん?何かいったのかい?」

 

「なんでもな~い」

 

こうして私は、半年ぶりの賑やかな食事を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命蓮寺の朝は早い。私はそれを改めて実感した。日が昇ると同時に起床して、井戸から汲み上げた冷水で顔を洗う。そこから朝食を食べて、修行を始める。いつもならまだぐっすりと眠っているであろう時間帯。しかしそれでも何故か妙に力がみなぎっているそんな朝に、欠伸(あくび)を噛み殺しながら庭の掃除をしていた時だった。

 

「小傘ちゃん」

 

ふと急に私は後ろから声をかけられた。反射的に振り向き、その人物を確認する。それは私が命蓮寺に行く切欠を作った人物だった。

 

「どうしたの聖?」

 

振り向き様に見た聖の顔は、いつもの優しい笑みの裏に、何か固さを感じさせた。

 

「少し頼みたい事がありまして。よければ着いてきてくれませんか?」

 

「別に良いけど……」

 

何があるのだろうか?聖がこうして私に直々、頼み事をするなんて初めてだ。ちょっとした疑問を抱きつつ、私は聖の後を追って歩き続ける。そして途中で気が付いたのだが、どうやら聖は命蓮寺の外へと向かっているらしい。と言うことは人里にでも用事があるのだろうか?とも思ったが、しかし命蓮寺の外には出たものの、向かう方向は人里ではなかった。

もしかして聖の用事がある場所って……。

 

「ここで少し待っていて下さい」

 

聖の言葉で立ち止まって、辺りを見渡す。そこは間違えようもなく、私が普段、人間たちを驚かす為に足を運んでいる命蓮寺の墓地だった。

 

「…………ここで何をするの?」

 

「……………………………………。」

 

聖は何も言わずに、目線を下へと落とした。そこには何か謎の物体に、大きな白い布が被せられていた。

 

「これは何?」

 

真っ白な布が不自然な盛り上がり方をしている。もしかして私にこれを見せるために、ここまで連れてこられたのだろうか?聖は私の質問にしばらく答えなかった。しばしの沈黙がこの場に流れる。そして、聖は唐突に口を開いてこう言った。

 

「…………これは人間の子供のご遺体ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは私の知らない光景が続いた。私たちが墓地に着いて、三十分後に人里の人間が十人ほど来たのだ。そしてそのまま葬儀と言うよりは、供養に近い事をした。聖が念仏を唱えて、遺体を土に埋める。ただそれだけ。私はてっきり骨だけを埋めると思っていたのだが、それは人間、一人一人の考え方によって違うらしい。命蓮寺が供養する場合は、燃やさないで埋めるのだとか。そして聖が私にしてほしかった事は、それの手伝いだった。と言っても私は特に大した事は、何一つとしてしていないが。しかしそれでも少し堅苦しい雰囲気に疲れたのは事実なのだ。そんな私が一旦落ち着けるようになったのは、人里の人間たちが皆、帰った後だった。

 

「聖がこう言う事をしてたのは知ってたけど、実際目の当たりにするのは初めてだったよ」

 

全ての行司が終わり、私は息を吐きながら地面に腰を下ろしてそう言った。

 

「小傘ちゃんは、もっと古いお墓に行ってますもんね」

 

そう。私が普段、通っているのはもう何年も前に埋められた人間がいる墓地なのだ。だから新しい墓地で行われているこの供養は、事実初めて見ることになる。

 

「もしかしてさ、昨日の夜、しばらく聖と星がいなかったのって、これの準備をするため?」

 

昨日は私たちが全員、食事を終えた頃に、聖と星が帰ってきた。しかしそれからもまだ用事があったらしく、星と交代するようにマミゾウを連れて、また聖は出ていってしまったのだ。なにやら忙しそうだなと思っていたが、こう考えれば十分に辻褄(つじつま)が合う。

 

「そうですよ。昨日は遺体をこちらで預からせて頂いて、念のためにと防腐の術をかけていたりしてましたからね。そのせいで小傘ちゃんと一緒に食事をすることができませんでした」

 

聖は残念とばかりに自分の頬に手を当てた。しかし今日、供養された子供は三日前に亡くなった子だ。何でも階段から落ちて、頭を強く打ってしまったらしい。三日前に死んでしまった子なら、少し防腐の術をするには遅かったんじゃないだろうか?しかしそれは私の考えが及ばない何かの理由があるのだろう。この疑問はそうひとまず置いておけるが、私がずっと思っていたもう一つの疑問は置いておけるものではなかった。

 

「でも何で私をここに連れてきたの?」

 

他にも手の空いている者はいたはずだ。しかも私より場馴れしているに違いなかった。なのにわざわざ私を呼んでここに連れてきたのだろうか?

 

「だって、最近は小傘ちゃんとこうして接する機会が少なかったので……。」

 

「…………それだけ?」

 

「はい。それだけです」

 

思わず乾いた笑いが溢れる。

変なところで我がままで子供っぽい。本当におかしな住職だ。

 

「まぁいっか。じゃあ今日はもうこれで私のやることは終わりだよね」

 

「何を言っているのですか?さっきの読経(どきょう)、所々間違えてましたよ。帰ったら私と一緒に覚え直しましょう」

 

「………………………………。」

 

うわ、最悪。と心の中で思ったりもしたのだが、口に出すとまた聖から説教を食らいそうなので、ここは自分の中に(とど)めておく。

 

「はぁ……。じゃあさっさと昼食を食べて、すぐに終わらせよう」

 

「はい。小傘ちゃんと食事をするのは久しぶりなので楽しみです」

 

「私はナズーリンの料理が楽しみ。本当にナズーリンは料理、上手になったよね。特に肉料理は絶品だった」

 

「もう。本当は駄目なんですよ」

 

「いいじゃん。たまにはさ」

 

私たちは笑い合って会話をする。こうして聖とちゃんと話したのはいつ以来だろうか?笑い合ったのはいつ以来だろうか?一緒に歩いたのはいつ以来だろうか?そして、聖の前で素直になれなくなったのはいつ以来だろうか?本当はもっと話したい。本当はもっと甘えたい。しかし私はなぜかそうできないのだ。それは段々と態度にも表れて、そして命蓮寺に行く機会もめっきり減った。でも本当に、たまにならーーーー

 

 

「また顔を出してみるのもいいかな?」

 

「小傘ちゃん、どうしました?」

 

「何でもなぁ~い」

 

そうして私たち二人は、並んで命蓮寺への道を共に歩いて帰った。

 

 

 

 

 

 

 




さて、先ずはこんな稚拙な文章を読まさせてしまい申し訳ありません。取り合えずそれが言いたかったです。本格的な直しをする時間があまりとれなかったのもので……。理系じゃなくて、文系脳に生まれたかったです。

話は変わりまして、今回は私が一から百まで考えた話ではなく、ある東方の漫画さんからアイディアをとって使用させていただきました。と言っても少し参考にした程度で、パクりではないのでご安心下さい。あとこれに騙されないで下さいね。同人作品の漫画なので、《鈴奈庵》とかじゃありませんよ。だからもしかすると、その漫画を知っている方はすぐに解けるかもしれませんね。

ヒントは二つだけ出しましょうかね。







ヒント1 今回はタイトル、話に関係ないですよ。












ヒント2 登場人物の能力を把握していないと解けません。


以上で。かなり軽いヒントですが、まぁ解けると思います。返信はゆっくり返していきます。

あと数回でこのシリーズも区切りをつけようかなと思います。他にも書くべき話がかなりあって、そちらに時間を割かなければならないので。あと作者の頭では、この数の話しか思い浮かばないんですよ。つまりはネタ切れです。これ以外出すと、話のクオリティーが下がるので、それだけは止めたいんですよね。


あっさり解かれてしまったので、【解】の投稿を早めます。

週明けくらい?




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ゆびきり

『いないいないばぁ。』ラストの話です。と言っても、最後に番外の読み物としての話を投稿するので、本当のラストと言うわけではありません。

因みになんと!この話!ラストにして実はコラボ作品なのです!ikayaki様とのコラボ作品で、ikayaki様が話のプロットを考えて下さり、それを私が修正して文章に起こして、そして最後に二人で見直し投稿したものです。なんと言うか、作家と編集の気分的なものを味わえました。本当に感謝です!

そしてこれが前から言っていた理不尽な問題。難易度は新Lunatic.ver2改revolutionZです。ラストですから、折角だと思い難しくしました。もうこれに答えられたら預言者です。わりと真面目に。下手したら少し妄想入らないと無理かも……。ヒントはしっかりと出しますので、それを頼りにしないと不可能ですね。


幻想郷。うつし世の怪異(かいい)たちが数多く住まうその土地で、人を喰らい続ける小さな小さな妖怪がいた。一見、ただの幼い少女にしか見えない彼女は、しかし残虐性を持った人喰い妖怪。人里に住まう人々は対策をしても(なお)、増え続ける被害に二進も三進もいかないと、半ばお手上げ状態だった。しかしそんな彼らの現状を打開する(すべ)として、そしてついには『博麗の巫女』が駆り出された。

 

巫女の力になすすべなく、地面に倒れ付した妖怪の子。お腹が減ってただけなのに、そう呟いた彼女の首を踏み潰そうとする博麗の巫女。しかしそこに飛び込んだのは、一人の小さな人の男の少年。どうかチャンスをあげてくれ。そう懇願する男の子。散々迷った巫女は一言、一度だけだとそう言って、遠くの空へと飛び立った。

 

それから二人は友達に。人里離れた空き地の隅で、彼らは今日も楽しく過ごす。これはそんな少年少女、二人の小さな物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーミア!今日は飴を持ってきたよ!」

 

「おー!ありがとう、美晴(みはる)

 

草花だけが咲き乱れる空き地に、幼い声がこだました。美晴と呼ばれた黒髪の少年は、一人の少女の元へと駆け寄った。

 

「いちご、みかん、ももの三つががあるけどどれがいい?」

 

少年の開いた手には三色それぞれに彩られた三つの飴玉が転がっている。

 

「う~ん。いちごかな?私、果物でもいちごが好きだから」

 

そう言って妖怪の女の子ルーミアは、赤色の飴玉を指先でひょいっと摘まんで口の中に放り込んだ。ころころと口の中で転がる飴玉が、頬に当たる度にその形が浮かび上がる。その様子を満足そうに見ていた美晴は、自身の手からオレンジ色の飴玉を摘まみ上げ、ルーミアと同じようにして口の中へと放り込んだ。

 

「おいしいね!」

 

「うん!」

 

二人はそう言って笑い合う。それからしばらく笑い合ったまま、彼らは飴を舐め続けた。それから下らない話をして、口の中の飴が全部溶けきった頃、ルーミアは美晴へと向き直った。

 

「それで、今日は何して遊ぶ?」

 

それはふとルーミアから切り出された言葉だった。

 

「実は今日ね、あやとりを持ってきたんだ」

 

そう言って美晴は、懐から毛糸で作られた細長い輪を二つ取り出して、ルーミアへと見せた。

 

「あやとり?」

 

「うん。こうしてね……。」

 

美晴は馴れた手つきで次々と指に紐を掛けていき、やがて一つの造形を作り出した。

 

「ほうき!」

 

「おぉ!凄い!」

 

両手の中に収められたそれは、明確な形をしておらず抽象的な造形だ。しかしそれでも問われれば何を指しているのか容易に分かる。それを一つの紐だけでやってしまう美晴にルーミアは感動したのだ。それから美晴がルーミアにあやとりを教える形で今日の遊びは始まった。お世辞にも器用とは言えないルーミアだが、それでも懸命に教え続ける美晴のお陰か、簡単な物なら次第にできるようになっていった。

 

 

「ねぇルーミア」

 

「なに?」

 

二人はそれぞれ自分の手元を見て、懸命にあやとりの練習をしていた。そこでふと美晴はルーミアへと一つの疑問を投げ掛けた。

 

「最近はどう?大丈夫?」

 

これだけを聞いても、何の事を言っているのか分からないだろう。しかしそれでもルーミアは意味をしっかりと取り、元気よく頷いた。

 

「大丈夫。美晴も飴をくれるしね」

 

「…………そっか。良かった」

 

美晴はそう言いながら息を吐いて、安堵し、緩んだ笑みを溢した。

 

「約束だからね。もう人間を食べたりしない」

 

「……分かってる。ちゃんと守ってるでしょ?」

 

ルーミアは仕方がないなと言わんばかりに溜め息を吐いた。しかしそれでも美晴は真剣な目付きでルーミアを見つめ続ける。

 

「約束だよ」

 

再度、放たれた言葉。それはどこか力強い何かを含んでいた。

 

「…………分かった。約束ね」

 

二人は小さな小さな小指を絡める。それは優しく、そして強く結ばれた、幼く強い約束の証しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから日が落ちる前に、美晴は人里へと、ルーミアは離れの森にある一つの小さな小屋へと帰っていった。その小屋は彼女が森を散歩していた時に、たまたま見つけた無人の小屋だったのだが、状態も良く、住み心地も良さそうだったので、それ以来ルーミアはそこに住むようにしているのだ。そして、そんなルーミアの住居とも言える場所に、一人の来客が訪ねて来た。

 

「お邪魔するわよ。状態はどう?」

 

小屋の扉を開けたと同時に、ウサギ耳の付いた頭が、家内と野外との隙間からひょっこりと顔を覗かせる。

 

「はぁ……はぁ…… 鈴仙?」

 

少し苦しそうにうめきながらも、ルーミアはその来客の名を口にする。

 

「また随分と苦しそうね。薬は飲んだの?」

 

「飲んでるけど、もう最近は効かなくなってきた」

 

 鈴仙はベッドに横たわるルーミアの側へと寄ってその側で腰を下ろし、その細い腕に手を当てる。

 

「もう人間の肉を食べないでどのくらい?」

 

「…………そろそろ半年くらいかな?」

 

それを聞いた 鈴仙は、半ば呆れたような表情を見せる。

 

「よくもまぁ人喰い妖怪がここまで耐えれるわね。別に人を襲わなければいいんだから、死肉でも食べればいいじゃない。探せばどこかしらに落ちてるはずよ」

 

幻想郷には事故や自殺で死んだ人間が度々、流れ着いてくる。理性のある妖怪たちは、それを食べて妖怪としての飢えを凌いでいるのだ。しかしルーミアはそうをしようとはしなかった。

 

「………………約束だから」

 

「…………頑固者」

 

ルーミアの状態は言わば人間で言うところの餓死に近いものだった。人間は牛の肉や、野菜を食べれば飢えを凌げる。しかし人喰い妖怪は違う。それとは別に、定期的に人間の肉を摂取しないと、餓えて死んでしまうのだ。

 

「このままだと本当に飢えで死ぬわよ」

 

「…………それならそれで構わない。本来なら私は既に死んでいるから」

 

あまり焦点の定まっていない目で、ルーミアは天井を見つめる。 鈴仙はそんなルーミアの姿を一別したあと、救急箱から錠剤が入った瓶を取り出した。

 

「患者がこうも生きる気力を見せてないと、私としてはやりごたえがないわね。はい、新しい薬よ。これでも一週間もつかもたないか。期間過ぎればまたすぐに飢えを感じるようになるわ」

 

 鈴仙が渡した薬はあくまで飢えを誤魔化す薬だ。決して飢えが取り除かれると言った類いの物ではない。

 

「ふふっ、ごめんね。でも 鈴仙には感謝してる。こんな私に今までずっと付き合ってくれてるんだもの」

 

「まぁ一度、乗り掛かった船ですもの。沈没するまで付き合うわ。海の底まではごめんだけど」

 

 鈴仙の言いぐさに、思わずルーミアは吹き出した。

 

「そうね。 鈴仙は泳げる兎だものね」

 

「…………それ馬鹿にしてる?」

 

「滅相もない」

 

むくれる鈴仙にほろこんだ笑みを見せるルーミア。しばらく愉快そうに微笑む彼女を尻目に、鈴仙は診察道具を片付け始める。しかしその途中でふと鈴仙はルーミアへとこう投げ掛けた。

 

「…………それでどうする気?」

 

「…………何が?」

 

「決まってるでしょ。今は平気かもしれないけど、また飢えが始まれば、いつか貴方は理性を失って、あの少年を襲い喰らってしまうかもしれないのよ」

 

「…………そうならない為の薬でしょ?」

 

「それもすぐに効かなくなる。そう言った筈よ」

 

 鈴仙の紅い目がルーミアを射抜く。鋭く穏やかに光る細目が、まるで浮き上がっているように見える。

 

「………………耐えてみせるわよ」

 

ルーミアは一言そう言った。その言葉にどんな意味が、どんな決意が込められているのか。それは当の本人にしか分からない。しかしただ一つだけ分かることがあるあるとすれば、彼女がもう昔の人喰い妖怪ではないと言う、ただそのことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはある冬の日。美晴は人里の子供たちと遊び、家に帰る途中だった。もう既に太陽は空から消えて、夜の暗さだけが人里を包んでいた。ここまで遅くなったのは、帰り道の途中で妙な女性に道案内を頼まれたからだった。ここ最近、ついてないなと美晴はふと思う。と言うのも半月ほど前から、ルーミアが忽然(こつぜん)と姿を消したからだ。いつも遊んでいた空き地に行っても誰もいない。一週間ずっと通いつめて、日が沈むまで待っていたのだが、それでも一度として会えなかった。仕方がないと、ここ最近は人里の子供たちと遊んでいたのだが、それでも頭の片隅には、ルーミアの姿がいつもあった。やっぱり心配だ。明日は空き地に行こう。そう思いながら美晴は帰路を駆けていった。

 

「ただいま!」

 

家に着いた美晴は、木で作られた横開きの扉を開けると同時にそう言い放つ。丁寧に揃えられた履き物。縁に置かれた花瓶。いつもと変わらない情景。しかしそこでふと違和感に気づいた。いつもなら美晴が帰ると出迎えの言葉をかけてくれる両親の声が聞こえてこない。それだけではない。更には家の中に明かりと呼べる物が何一つとして点いていなかった。不審に思いながらも、どこかへ出掛けているのかとそう美晴は結論付けて家の中へと進んだ。しかし廊下を歩く途中で何やら奇妙な音が聞こえることに美晴は気がついた。どうやらそれは奥の個室から聞こえる。怪しく思いながら美晴は廊下を進み続け、その部屋の前に立ち、そして彼は襖を開けた。

 

まず目に入ったのは金色に輝く綺麗な髪と、それを結ぶ大きな赤色のリボン。それは自分がここしばらく探し続けていた少女のシンボルだ。

 

「……………………ルーミア?」

 

なぜ彼女がこんな所に?当然、美晴の頭にそんな疑問が生まれたのだが、次の瞬間にはその疑問は全て書き消された。なぜなら彼女の周りには痛いほど鮮烈な赤が飛び散っていたからだ。それはルーミアを中心として床は勿論、壁や天井にまで飛び散っていた。そんな光景を前に美晴の思考が完全に停止し、唖然と立ち尽くす中、彼の目が暗闇に慣れ始める。

 

「 うわぁぁぁあぁぁああぁぁぁ!!!」

 

暗闇の奥から現れたのは、血だらけで(はらわた)を飛び散らせ、倒れ伏す両親の姿だった。

 

「父さん!母さん!」

 

そう叫んで二人の側へと近寄った時、美晴は気づいた。両親の側へと座るルーミアが彼らの体へと手を突っ込み、その肉を引き千切り口へと運んでいることに。それで全てを察した。それで全て理解してしまった。そして気づいた時には、ルーミアの首へと手が伸びていた。

 

「お前がッ!……お前が父さんと母さんを!!」

 

美晴は有らん限りの力でルーミアの首を締め上げる。

 

「……ガッ……ギィッ…………。」

 

苦しそうに呻くルーミアは美晴の腕に手を掛ける。しかしその手には美晴の腕を振りほどの力が込められていなかった。

 

「ガッ………ギッ……ガッ……ドッ……。」

 

それが彼女の最後の言葉だった。美晴の腕に掛けられていた手がぶらりと下へ落下する。首がガクリと支えを失う。しかしそれでも(なお)、美晴は手を緩めなかった。いや、もしくは気づいていなかったのだろう。それからしばらくしてルーミアの息が止まった事に気が付いた美晴は彼女の首から手を放した。ぼとりと鈍い音がして、ルーミアの体が地面へと落下する。それをしばらく虚ろな目で眺めていた美晴は唐突に叫び、そして泣き喚いた。喉が裂けんばかりに声を荒げた。それは何に対しての涙なのか。死んだ両親か、はたまた親友だった彼女に向ける恨みなのか。

 

ただその叫び声は暗い闇の中へと沈んでいった。深い深い闇の中へ。

 

 

 

 

 

 

 




初めてのオリキャラ。ただの幼い人間の男の子、美晴君です。本当に何の能力もありません。






ヒント1 いくら空腹で弱っていたとは言え、人間の幼子に妖怪であるルーミアが力負けするものなのか?








ヒント2 ルーミアは最後に何と言おうとしたのだろうか?








ヒント3 登場キャラの能力を把握していないと無理です。





基本こんな感じです。かなり引っかけが多いですので、それさえ気をつければ……いけるかな?【解】は既に書いていますが、今回はむちゃくちゃ丁寧に書いています。解説いらないレベルですね。

最後にこんなむちゃくちゃな作品に付き合って下さり、本当にありがとうございました(まだ番外は続きます)。

因みに哀々傘の解説を載せておりますのでよければ。


ーー追記ーー

【解】は十五日の十二時に投稿しようと思います。延長が必要と感じましたら、気軽にメッセージを下さい。あと追加のヒントは必要ですか?もうあまり重要なヒントは…………あるかないか微妙ですが。


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花の名

報告をするために載せた一話です。本当は投稿するつもりはありませんでした。一つは前から言っていた『Who is the liar.』 が完成しました。良ければ読んで下さい、と言うのと『いないいないばぁ。』が終わってしばらくたったので解説を活動報告に載せます。と言うこの二つを言いたいが為に四千文字を書いたぜ(疲れた)。

ではこの話について。今回は『きゅうけつ鬼ごっこ』並みに綺麗に出来た話かなと思っています。自分で言うのもなんですが、クオリティーは高いと思います。なのにも関わらず難易度は『hard』な感じです(恐らく)。簡単にも出来たんですが、もう自分がこう言ったミスリード的(使い方合ってる?)な話を投稿することは少なくなると思ったので、せっかくだと難しくしました。もう本当にこの話で最後ですかね。こんな話を投稿する暇があったら連載の方を終わらせろ、と言われそうです(笑)。


私がその花を見つけたのは本当に偶然だった。蝉の声がけたたましく鳴り響く人里のど真ん中にそれはポツンと潜んでいた。人々が右へ左へ流れる大通りの端で、自分は居ないですよと言いたげに、なるべく身を(かが)めて姿勢を低くしていた。本来は春に咲く筈のその花の名前は、『御形(ごぎょう)』別名を『ハハコグサ』と言って、春の七草を担う一員でもある。だから当然、その黄色い小さな綿をかき集めたような花が、咲くのは春であるはずなのだが、私がそれを見つけたのは真夏日の昼下がりだった。花のことをよく知る私にとってそれは多少なりとも驚くことであって、あまりのもの珍しさに思わず持ち帰ってしまった。

 

そんな力強い、季節外れの花に貰い手が見つかったのはそれからすぐのことだった。

 

「お花のお姉さん、お花を頂戴」

 

そう言い私の家の扉を開け放った人物を私は見つめる。そこには頭から青色のペンキを被ったような、全身青に染まった子供が立っていた。 幻想郷の中でも『太陽の畑』にあるこの家を訪ねる者は少ない。ましてやそんな子供が訪ねてくることは初めてだった。 しかし私は偶然にもその子を知っていた。天狗が発行している新聞に何度か掲載されていたからだ。確か妖精だった事は覚えているのだが、名前は忘れてしまった。私はどうにか思い出そうとしたが、寸のとこでそれを止めた。べつに思い出したところで、彼女は私から花を貰いに来たのには変わらないのだから。

 

「……お嬢ちゃん、どんな花が欲しいのかしら?」

 

もし彼女がどこの馬の骨か分からない人物だったら、すぐさま追い出すか、消し炭にして花たちの栄養にしていたのだが、私は花たちからこの妖精()が心優しく、自分たちのことを助けてくれたこともある聞いていた。だからこの妖精()ならば私の花を大切にしてくれるとそう思い、花を譲ることにした。

 

「ほら、こっちにいろいろあるわ」

 

私はそう言って彼女を窓の側まで誘導させる。そこには植木鉢に植えられた、数々の花が規則正しく整列されていた。そしてその植木鉢には一つ一つ、植えられている花の名前が書かれたネームタグが付けられている。例えば、鮮やかな色合いと絵に描いたような丸さが印象的なこの花には『勲章菊(くんしょうぎく)』。そしてピンク色の可愛らしい衣装を身に纏い、光に当てられて輝いているようにさえ見えるこの花には『撫子(なでしこ)』。そんな風に、私は自分の育てている花の名前をネームタグで指し示すのだ。それは昔からの習慣で、深い意味は特にない。ただこうした花が家にあると自然と落ちつく、ただそれだけ。そんな私の習慣を表した植木鉢を妖精の()は物珍しそうに眺めていく。そしてちょうど列の半分を見終わった時、彼女はピタリと足を止めた。

 

「……お…………が……た?」

 

彼女はポツリとそう呟く。おがた?そんな花なんて無かったはずだ。私は妖精の娘()の視線の先を追って、ある一つの花へとたどり着く。

 

「…………いえ、お嬢ちゃん。それは『御形(ごぎょう)』と読むのよ」

 

間違えてそう読んだ彼女に、私は即座に訂正を加えた。

 

「でも『おがた』でもあるでしょ?」

 

「まぁそう読めなくもないけど……。」

 

強引に読めば『おがた』とも読めるが、しかしそれは『公園』を『ひろそん』と呼ぶことと同義であり、言葉にすると全く意味が通らない。だが彼女がそう呼ぶならそれで良いかと、私はそれ以上の訂正をしようとは思わなかった。結局、彼女はその植木鉢の代わりに、飴玉を一つ置いていって、私の家から出ていった。ただその飴は、ユリのように白い白いハッカの飴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御形(ごぎょう)ーーハハコグサを私が渡してから、彼女はよく私の元へと来るようになった。話の内容は決まって、全てがハハコグサについてだ。その日その日のハハコグサの状態を私に話し始める。

 

『おがた』に歌を歌ってあげたら喜んだ。

 

『おがた』が今日は寝てばっかりで詰まらなかった。

 

『おがた』がねーー。

 

『おがた』がーー。

 

 

彼女は一方的に私に向かってハハコグサについて喋りたいだけ喋ってしまうと、満足したように鼻を鳴らしていそいそと帰っていく。花を渡した本人である私は彼女の話を多少なりとも嬉しく思いながらも、本を開きながら半ば聞いているのか聞いていないか分からない程度に彼女の話に耳を傾けた。私自身があまりその内容を思い出せない事を考えると、恐らく耳から入った彼女の言葉は、滑り落ちて地面に消えてしまったに違いなかった。私は一度、意気揚々とハハコグサについて語る彼女の様子に、もしかして妖精(彼女)は草花と話をできるのかとそう思い、お嬢ちゃんは御形(おがた)と話せるのか?と聞いた事があった。すると彼女は、

 

「おがたと話せるなんて当たり前。なんでそんな事を聞くの?」

 

と逆に質問されてしまった。私はそれに対しどう解釈したらいいのか分からなかったが、ただそう言うものなのかと一人納得して、その話を打ち切った。

 

 

 

 

彼女の話し方は見た目相応だった。ただ頭から重力に従って滑り落ちた言葉を、喉に詰め込み、舌で弾いて、空気に乗せる。思考や思惑、意識と言った不純物は何一つとして混じっていなかった。まるで屋根にぶら下がる氷柱(つらら)の様に透明で、純真だった。私が彼女の話を覚えていないのはそのせいだった。透明なそれが私の目に映ることはなく、反射された光は形どられた組織の隙間を素通りしてしまう。ただ向こうの景色を透かすだけ、見ることのできないものをどうして思い出すことができようか。しかしそんな話をする彼女でも、ある特徴がある。それは彼女の会話が全て、『おがた』から始まることだ。おはようでもこんにちはでもない。それはどんな日でも例外ではなく、その三文字が彼女の話し始めを告げる合図だった。

 

「おがたがねーー」

 

彼女は家に来て、机越しに私の正面に座るとこう切り出す。その彼女の言葉に私は、

 

「ええ」

 

と決まってそう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は一度だけ彼女を自分の家以外で見かけた事があった。それはふと暇潰しで何ともなしに人里の中を散歩していた時だった。客引きの声、 屋根を修理している大工たちのかけ声、互いに会話をぶつけ合う婦人たちの声、様々な声が共鳴し合う中、それらをすり抜けるようにしてその声は私の鼓膜へと潜り込んだ。それが彼女の声だと、私は直ぐ様気がついた。甘い花に誘われる虫のように、ふらふらと歩きながら声のする方へと向かう。そこでふと気がつく。彼女の声に混じるようにして、他の幼子たちの声も混じっているのだ。そして私はこの近くに寺子屋があること思い出した。それが分かればもう彼女の声を追うようなことはしなくていい。特にこれからの予定もなかった私は少しだけ授業風景を覗き見る事にした。(ふすま)一枚分だけ開けられた隙間から、切り取られるようにして見える教室の風景に、運良く彼女は映っていた。彼女の隣は誰か休んでいるのか空席で、私が知るはずもない誰かが居ないと言うことに、なぜか妙な寂しさを覚えた。彼女はどうやら教本を読まされているようで、他の学友が座っている中、一人だけ立って手に持っている紙束から文字を必死に拾い上げていた。もちろん彼女から五十間(およそ九十メートル)ほど離れたここからではそんなことは確認できないものの、それでもそうだと断言できる程には彼女を知っているつもりだった。それからも私は黙って授業を見守る。そこで分かったのだが、彼女は勉強が苦手なようだ。(ふすま)で隠れて見えないが、今勉学を教えているであろう教師が彼女を叱っている。叱られている本人は、まるで悪戯(いたずら)がばれた子供のように後ろ髪を掻いていた。その表情は今にもペロリと舌を出しておどけそうで、そんな彼女を見た学友が大声をあげて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女と交わした会話の中で、ある一つの会話だけは良く覚えている。普段、受け流すように聞いた筈なのだが、なぜかその日だけは違っていた。それは彼女がいつもなら明るい表情で店に入るはずが、その日はひどく落ち込んだ表情をしていたからかもしれない。

 

「『おがた』がね死んじゃいそうなの」

 

彼女は家の扉を開けてすぐ、いつもの席にも座らないで私にこう言った。ハハコグサは本来、春に咲く花だ。夏のこの時期にまだ咲いていたこと事態が奇跡。それは仕方がないことだった。

 

「…………お嬢ちゃん、それは仕方がない事なの。生き物と言うのは全て終わりがある。御形(おがた)もそうなのよ」

 

「でも…………。」

 

彼女はそれだけを言うと、(うつむ)いて涙を滲ませる。次に出てくる言葉が無いのだろう。その代わりをしようと、眼窩(がんか)を飛び出し、涙腺を這い上がってきた大波が顔を覗かせる。体の奥底から紡ぎ出されたそれは、火傷をしそうなほど熱く、変わることのない現実を突きつける冷たさを持っていた。唐突に吹いた風が、彼女の潤んだ瞳から涙をかっさらうと、それは家内に陳列された花の器によって受け止められた。それから彼女は何も言わずに消え去った。夏の暑さに、溶けて消えてしまうように。ただふと見た家の出口に水玉の跡がポツポツと続いる、そんな気がしただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏が終わった。夏が終わって秋が来る。私は次に彼女が来た時の為に花を用意した。私には分かる。彼女はまたここに来ると。

 

トントン。

 

ほら来た。私は早速用意した花を持って玄関に向かう。もう彼女が『おがたがーー』と言って勝手に家に入ってくることはない。私の手に収まる花が、窓から通る風でゆらゆらと揺れる。光が花を照らし、私の目に反射される。

 

「いらっしゃい、チルノ」

 

私はそう言って扉を開ける。それは私が初めて彼女の名前を読んだ瞬間だった。

 

「お花のお姉さん、お花を頂戴」

 

私はそう言った彼女に微笑み、そして美しくも厳格なそんな花を差し出した。その花はどこまでもどこまでも、どこまでも白かった。

 

 

 

 

 

 

 

 




こう読み返すと「……ムズくね?」と思ってしまいます。でも《解》を見たら、かなりすっきりすると思います。結末はとてもシンプルです。あっ、あとスランプは脱出しました。文章力は多少ましだと思います。

ヒントは……要らないかな。いや、一つだけ言います。これ言っちゃうと難易度がグッと下がるので迷いましたが言っちゃいます。《幽香が寺子屋を覗いた時、なぜチルノの隣の席は空いていたのか》。《解》は出来た次第載せます。その時に『いないいないばぁ。』の解説を全て載せますね。ではでは。



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またね

「なんでもう一話書いた!?もう終わるって言っただろ!」と思われた方、申し訳ありません!と言うのも今回の『花の名』と言う話、投稿して十五分後に正解者様が出ると言うもう過去最速の記録が出てしまい思わずーー

Gasshow「……ワケわからんでほんま」

と本気で呟いてしまいまして、そこでふと私の心にこの『いないいないばぁ。』と言う作品の中で一つの忘れていた思いが再熱しました。それは読者様に「うわ、やられた!」と言わせたい!と言う思い。ストレートに言うなれば、答えが出ていない話が無いのは悔しい!一度くらいは勝ちたい!その想いだけでこの話を書きました。まぁ本音を言うとあの話が最後ではあまりにも呆気ないと思いまして……。

私は二次創作を書く中でやり残しをすることは好きではありません(書いてる意味が無くなるので)。と言うことでこれが『ラストバトル』です!今回の話に慈悲はありません。難易度は新Lunatic.ver2改revolutionZextra(増えたなぁ)!申し訳ありませんが甘さは捨てました。そして【解】を見た時に必ず「うわ、やられた!」と言わせます。強いて言うなればこれがヒントです。



では、デュエル!




人里で大きな権力や財力を持つ稗田家。歴史を刻む為に存在するその家名は、古くから幻想郷に少なからず影響をもたらしてきた。そんな稗田家の現当主が長くない。それは瞬く間に人里全体へと広まった。医師の判断では今夜まで。それ以上はどうあっても無理だと言う。それに対して当の本人の願いは単純な物だった。

 

 

『最後の時は最愛の親友と』

 

 

それが彼女の最後にして、最たる願い。満天の夜空はそれを叶えようとせんばかりに星々が輝いていた。どこまでも深く吸い込まれそうな、そんな夜空にーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大仰(おおぎょう)とさえ言える大きな屋敷の中に、不釣り合いなほど小さな部屋がある。灯篭(とうろう)の火がゆらりと揺れ、それに(ともな)い部屋の壁や床に張り付いていた影も動めき揺らぐ。秋半ばにあるはずの気候が、橙色(だいだいいろ)に照らされるその暖色により、不思議と暖かく感じさせる。そのせいか、母の胎内にいるような心地よさがその部屋にはあった。そんな部屋の中心に一つの布団が敷かれおり、そこに彼女ーー稗田阿求(ひえだのあきゅう)は横たわっていた。そして彼女の側に寄り添い、今自分が握っている手の持ち主を一心に見守っている彼女の親友ーー本居小鈴(もとおりこすず)は自身の表情を心配そうに曇らせる。

 

 

「ねぇ阿求、大丈夫?」

 

小鈴は眉毛を下げて阿求に問いかける。

 

「…………ええ、大丈夫。今とてもいい気分なの」

 

阿求はそう言うが、その顔には無理をして作ったような笑みが溢れており、彼女の全身からは脂汗に似た何か拙劣(せつれつ)な液体がしたたり落ちていた。もしかするとそれには苦痛や倒懸(とうけん)と言ったあらゆる苦しみが混じっているのかもしれない。阿求は目を閉じ浅い呼吸で生を伝え、小鈴は彼女の生を目や耳、手の温もりで実感する。二人の間には静寂があった。いつもは周りが注意する程に和気藹々(わきあいあい)と話をするのに、今の二人にはそんな雰囲気は無く、もし彼女たちを知らない誰かがこの場面だけを見れば二人は初対面だとそう指摘してもおかしくなかった。それは今も変わらず、二人はただ黙ってたたずむだけ。外から聞こえる鈴虫の泣き声が、寂しげに響く。しかし、それらは唐突に萎れたような阿求の声で打ち切られた。

 

「…………小鈴、私の意識が無くなる前に言っておかなくちゃいけないことがいくつかあるわ」

 

「………何?」

 

阿求の声に小鈴はポツリと聞こえるか聞こえないか分からないほどの声量で返事をした。

 

「私が死んだ後、きっと藍さんが貴方の元を訪ねてくる。その時に私が最後に製本依頼した『幻想郷縁起(げんそうきょうえんき)』を藍さんに渡してね」

 

阿求はあまり焦点の定まっていない目で小鈴を見つめながらこう言った。その内容は事務的なもので、死ぬ間際に親友と交わす会話だとは到底思えなかった。しかし阿求の伝えたいことはそれだけではなかったようだ。続けて彼女は切れ切れの息で言葉を紡ぐ。

 

「えっと、私の書いていた日記が机の引き出しにあるの。家の者に見られると恥ずかしいから、貴方が持ち帰って」

 

「…………うん」

 

「それと、永遠亭から貰った栄養剤が、日記の仕舞ってある引き出しと同じ所にあるから貴方にあげるわ。勿体ないから必ず飲んでね」

 

「…………うん」

 

「あと、私の子供と仲良くしてあげてね。稗田家の子供は何かと不憫(ふびん)な事も多いから」

 

「…………うん」

 

「…………それとね…………それと……」

 

阿求は言葉を詰まらせる。次に繋げる言葉が見つからない。うっかり無くした文鎮(ぶんちん)を探すかのように、彼女は言葉を探した。しかしようやく見つけて取り出した言葉(もの)は、空気のかすれたような言葉未満のものばかり。

 

「…………うん」

 

しかしそれでも小鈴は変わらず、何も心配はするなと、そう言っているかのように彼女は頷くのだ。阿求はその様子に思わずほころんで瞳を閉じる。

 

「…………もう、そんな顔をしないでよ」

 

「だ、だっで!」

 

小鈴に握られた阿求の手には、いつしか水滴がぽつりぽつりと滴り落ちていた。彼女の悲しみと言う犠牲から流れる涙はとても危なげで、しかし(はかな)く、そして美しくも感じられた。阿求は自分の手の甲に落ちた涙をそっと袖を伸ばし(ぬぐ)い、それからもう片方の手を今度は小鈴の手の上に重ねた。

 

「…………ねぇ小鈴。私のこの短い人生の中で起きた、最も幸運な出来事は貴方と会えた事なのよ」

 

「…………私と?」

 

小鈴は止まることのない涙を流しながらそう疑問を口にする。

 

「ええそうよ。稗田家の当主として育てられた私には、小さい頃から親しい友達はいなかった。たまの休みに私が人里の子供と遊んでも、彼らはどこか遠慮がちで心の底から私と遊んでくれる子はいなかった。そんな時よ、貴方と出会ったのは 」

 

阿求は瞳を閉じながら、そっと大切な物を取り出すかのように優しく一言一言を発していた。そして閉じていた瞳を開き、濡れた小鈴の目を見つめる。しかし、もうまぶたを開ける力さえも残っていないのか、隙間から覗かれる黒々とした瞳は半分ほどしか見えておらず、もう光を映していないようにさえ思えた。

 

「貴方は私の立場に臆することもなく、私と対等に接してくれた。それは私にとって何よりの喜びだった。唯一の光だった」

 

阿求は息を吸うこと無く続ける。肺から空気を絞り出す。

 

「生きてから今この時まで、私の全てを(さら)せるのは貴方だけ。私と並んで歩んでくれた貴方は私にとってそんな存在なのよ」

 

一気に話し続けたせいで、阿求の呼吸が大きく乱れる。額から流れ出る水滴が、一つまた一つと彼女の肌を滑り落ちる。

 

「まぁただ単に馬鹿なだけだったのかもしれないけど」

 

そんな汗が流れるように、自然に阿求は悪戯気(いたずらっけ)の含む言葉を発しながら不敵な笑みを見せる。始めは呆気に取られたものの、元気に会話していた頃と変わらない親友の悪態に小鈴は思わず微笑んで、くつくつと喉を鳴らした。

 

「ふ、ふふっ。あぁもう、酷いよ阿求」

小鈴は今この瞬間だけ、自分達が人里を駆けずり回っていたあの頃に戻った気がした。木に登って使用人にはしたないと怒られた。一緒に本を読んで過ごした。日が暮れるまでお互いの話をした。そんな頃に。でもそれはもう戻らない。取り返せない幻想なのだ。目の前の阿求(彼女)を見ると、嫌でもそれに気づかされる。

 

「…………ねぇ阿求。もし阿求がいなくなっちゃって、そして私も年老いて死んで、阿求はきっとまた百年後に『御阿礼(みあれ)の子』としてここに現れる。その時、私はどこにいるのかな。転生して幻想郷にいるのかな?それとも外の世界?もしかするともっと遠くにいるのかな?」

 

それはふとした疑問だった。今しがた生まれた疑問。不確かな未来に対する疑問。そんな疑問を小鈴は口にした。

 

「…………それは分からないわ。転生した人間がどこにいくのか、それは人間(わたしたち)には分からない」

 

「………………そっか」

 

その呟きには何の色も無かった。落胆や失望、そんなものは何一つとして含まれていない。恐らくきっと心の中で分かっていた。ただの確認だったのだから。でも、それでももう一つ、ただの確認だとしても聞きたい事があった。たとえ返ってくるのは否定以外の何でもないとしても。

 

「…………阿求。私たち、また会えるかな?」

 

小鈴は体内の隔膜を押し出すようにしてそう言った。自然と彼女の視線が下へと落ちる。その様子は先程と違い、明らかな負の感情が見て取れた。それは予想された返答が分かっていたからだろう。

 

「ええ、きっと会えるわ」

 

しかし、返ってきたのは予想外の返答だった。それに思わず顔を上げ、小鈴は自身の膝を向けていた視線を阿求へと移す。

 

「ほんとに!?」

 

「ええ」

 

「ほんとのほんとに!?」

 

「ええ、必ず」

 

小鈴からすれば全く根拠の無い言葉だったのだが、それが親友(彼女)の言葉だと思うと自然と確信に近い感情が生まれる。たとえ別れ(ぎわ)のただの慰めだとしても、彼女にはそれで十分だった。そのせいだろう。そこで小鈴の限界が来た。溢れ出た感情が、目からそして喉を伝って口から排出される。

 

「私、何回繰り返しても阿求の所に行くから!きっとその時、私たちはお互いの事を忘れちゃってるけど、それでもきっと会いに行く!絶対に会いに行くから!」

 

気づいた時にはそう言っていた。発していた。叫んでいた。感情のままに小鈴は口を開いていた。そんな稚拙(ちせつ)で、素直で純粋な言葉を阿求は笑って受け止めた。そして受け止めたそれを想いと言う形で返す。

 

「…………ええ。でも小鈴、でもそれは少し勘違いよ。追いかけるのは私の方。待つのは貴方」

 

阿求は震える手をゆっくりと上げ、それを小鈴の頬に添えた。

 

「もしかすると次に私が貴方と会った時、貴方は私を殺したいほど憎んでいるかもしれない。いえ、もしかすると単に再会の嬉しさをお互いの笑顔で表すかもしれない。それはその時になってみないと分からない。それでも私は貴方のどんな感情も受け入れるわ」

 

先程までの弱りきった彼女はどうしたのか。そう言って笑った彼女は今まで見たどんな時より輝いて見えた。それは小鈴が彼女と出会ってからの二十年で見せた一番の笑顔だった。

 

「また会いましょう」

 

だから小鈴も笑顔で返す。きっとこれが最後だ。彼女の前にいる間は、この部屋を出るまでは、泣かないで涙を見せないでーー。

 

「うん!また会おうね、阿求!」

 

「ええーー」

 

二人は再会の願いをある三文字に乗せる。二人で遊んだ後にはいつもこう言った。そしてその約束が破られた事は一度たりともなかった。だからきっと次もーー。

 

 

 

 

「またね。小鈴」

 

「うん、またね。阿求」

 

 

 

 

そこで阿求の手が地面へと落ちる。小鈴の頬からするりと滑るようにして抜け落ちた。それを小鈴はそっと見つめる。阿求の指の跡をなぞるようにして頬から涙が伝った。だか小鈴は表情を変えない。泣いたとしても、せめてこの部屋を出るまでは毅然としていようと、小鈴はそう決めていた。だから、涙が流れたとしても、その表情は崩さないーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーその筈だった。

 

「……………………寂しいな」

 

その言葉が、切っ掛けだった。

 

「っ!」

 

忍び泣きが嗚咽(おえつ)に変わる。口から、喉から、全身から溢れる悲しみが、今にも沸き上がらんとしていた。体が動かない。部屋を出るための一歩が踏み出せない。踏み出したら、きっと溢れ出して、流れていってしまうから。だから耐えた。目元に力を入れて、口を結んで。それでも、それでもーー

 

 

 

限界だった。

 

 

 

今まで貯めていたダムが、崩れるようにこぼれ落ちた。声を上げて泣く。声の限り泣き叫ぶ。自分の中にある理性や、摂理。そんなものをすべてかなぐり捨て泣いた。こんな姿を彼女が見たら、呆れ笑われると分かっていても、それでも泣き続けた。

 

 

 

 

 

満天の夜空の下で声にならない叫びが、何時までも涙と共にこだまし続けた。

 

 

 

 

 

 




文章力が欲しい~!スランプ抜けたはずなのに……。かなり落ち込みです。こう啖呵を切ったのにも関わらず、ちゃんと話ができているか心配です。

話は(恐らく)ちゃんと妄想とか無しでいけます。さて、とりあえずもう本当に最後です。この話で正解者様が出たのならばもう潔く諦めます。感想もこの話に関する返信はいたしません。あと解説はこの話が終われば活動報告に載せると思いますので。

ではーー





ーーまたね。




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謝罪文

なぜかできました。まさか投稿するとは……。

難易度はリクエスト通り『難易度Lunatic以上 (理不尽)』です。どうなんだろう?意図的にかなり難しくしたと思うんですけど……これまでを見てると何とも……。

今回はにとりの話。個人的にはこの話、少し遊びを入れたりしたので地味に好きです。




沈みかけた太陽が、空だけではなく森の木々や落ち葉が散らばる地面までもを茜色に変貌させる。三月の終わり頃の暖かいのか寒いのか曖昧な気候が、その光の粒子を受け止める。そんな日だ。上白沢慧音(かみしらさわけいね)が河童の家へと訪れたのは。

 

 

 

 

「どうだいにとり。依頼していた物はできたかい?」

 

二つノックをして、扉を開け放つと同時に慧音は河城にとりへとそう尋ねた。嗅ぎ慣れない、べたりとした空気が慧音の鼻腔(びこう)(くすぐ)り彼女はピクリと鼻を震わせる。

 

「ああ、慧音かい?勿論できてるよ。でも少しだけ待っておくれ。今、別の客を相手にしているんでね」

 

頭部に被って固定する装着形のレンズ越しに、にとりは慧音へと視線を向けた。そうして直ぐに彼女は机に置いている小さな物体をいじくり始める。別の客?と疑問を浮かべて慧音は部屋を見渡す。すると、ゴツゴツとした何の為に使うのか欠片も想像できない機械の横に立つ、一人の人物を発見した。

 

「ああ咲夜か。珍しいな、お前がこんな所にいるなんて」

 

「あら、それはお互い様よ」

 

慧音はあいさつとも取れる一言を言い放ち、咲夜の横に並び立つ。

 

「どうしてこんな所に?」

 

慧音は一人、机の上の小さな物体と格闘するにとりを眺めながらそう言った。

 

「懐中時計が壊れてしまって動かなくなったから、直してもらおうとここまで来たのよ」

 

なるほど、では今にとりが弄くっているのは彼女の懐中時計かと慧音は一人納得する。

 

「お前が物を壊すなんてな」

「あら、形あるものは全て壊れる。どんな有用な人物だって、物を壊さないなんて事はあり得ないわ」

 

それから一拍ほど置いて、咲夜は続けざまに口を開く。彼女の声と同化するように、にとりの手元から発せられる無機質な音が、慧音の耳の奥へとこびりつく。

 

「まぁ直接的な原因はこの間、少し情緒不安定な妹様が屋敷から出て行っちゃってね。その時の戦闘で壊れたのよ。今は大人しくしていらっしゃるわ。雰囲気も少しショボくれてて、流石に少し反省なされたみたい。正気を失った前後は記憶が曖昧になる時もあるから、それが嫌と言うのもあるのかもしれないけど。にしても、永琳がわざわざ来て処方してくれた安定薬で最近は押さえられていた筈なんだけど……。」

 

そう言って咲夜は自分の頬へと手を添える。

 

「なるほどそれで、この有り様か」

 

そこで慧音は思い出したように、手を叩く。

 

「あの子と言えば、お前にあげた日本語の教材は役に立ったか?」

 

「ええ、妹様もやっと日本語の読み書きができ始めたわ。貴方から貰った本は少し古い物だったけれど、まぁ感謝してるわ。英語が通じないのがこの土地の難点ね」

 

そう思うのはお前たちだけだろうと、慧音が苦笑したその瞬間、にとりが勢いよく椅子から立ち上がった。そしてそれから胸を張るように咲夜へと近づいて、そっと懐中時計を差し出した。油でベッタリと汚れた手のひらの上には、にとりの手とは対照的な輝きを持つ懐中時計が腰を据えて鎮座していた。

 

「はい、できたよ!」

 

にとりから銀色に磨かれたそれを咲夜は受け取り、ハンターケースを開ける。中は大小の針が規則正しく、そして互いのペースを尊重しながら足並みを揃えて時を刻んでいた。

 

「すっかり元通りね。ありがとう。報酬は何がいいかしら?」

 

“報酬”と聞いて、にとりは露骨に顔を強張らせる。

 

「報酬か~。別に私としては珍しい懐中時計を触れられただけでもう十分なんだけど……」

 

「それじゃあ私が納得できないわ。何か無いかしら?」

 

咲夜にそう言われて、にとりはしばらく腕を組みながら首を横へと傾かせる。唸りに唸って、頭を絞るようにして思考を掘り下げる。

 

「うーん、人間の体を少しと思ったけどそれは不味いし…………あっ!じゃあ、長細い箱を一つくれないかい?」

 

ポンと手を叩いてにとりが出した報酬条件は、とても奇妙なものだった。それ故に、咲夜も首を傾けて疑問を(あらわ)にする。

 

「長細い箱?」

 

「うん、この箱の代わりをね」

 

そう言ってにとりは机の下からある箱を取り出した。“河童の腕”と真っ黒な墨で大きく書かれた、長細い箱がにとりの手に収まっていた。

 

「“河童の腕”か。確かマミゾウ殿が“猿の手” “人魚のミイラ”と並ぶ幻想郷三大干物の内の一つとそう言っていたな」

 

「な、なにそれ。初めて聞いたよ」

 

“河童の腕”それは河童にとっては相当大事な物らしく、これを人里の人間に拾われた時は、どんな傷をも治す河童(彼女たち)の秘薬と交換をしようと交渉に持ち掛けたほどなのだ。その噂を聞き付けた永琳が、興味を持って欲しがった程の秘薬を、河童たちはあっさりと交渉条件に挙げた。それほどまでに“河童の腕”は大切に大切に河童たちに扱われていた。

 

「しかし、にとり。その箱、まだ使えるように見えるが」

 

慧音の言う通り、にとりの持つ箱は確かに大分痛んではいるが、穴一つ空いていない。まだ箱としての役割は十分果たせそうに見えた。

 

「あ~まぁ確かにそうなんだけど、もう少し木が腐り始めててね。あともって数年ってところなんだ。でも自分でこしらえるのも面倒だから、そこでこの箱の代わりを報酬にってそう思ったんだ」

 

なるほど、と慧音は頷く。確かに箱の一部は黒ずんでいて、相当の年期が入っていることは一目瞭然だった。そんな“河童の腕”が仕舞われた箱について話をしていたその瞬間ーー

 

「さ、咲夜さん!」

 

唐突に切迫詰まった顔をした少女が、扉を乱暴に開け放って、室内へと飛び込んできた。

 

「どうしたの?小悪魔」

 

小悪魔と呼ばれた少女の尋常ではない焦りっぷりに咲夜は、自身の顔を引き締めた。

 

「えっと妹様がまた、正気を失ったまま外へと出られて、それで……」

 

その言葉で全てを察したのだろう。咲夜は手に持っていた懐中時計を急いで懐へと仕舞うと、一本のナイフを取り出して小走りに小悪魔の方へと足を運んだ。

 

「分かったわ。直ぐに向かう。にとり、箱は後で貴方に届けるわ。それまで待ってくれるかしら?」

 

「うん、分かった」

 

にとりの返しに咲夜は一つ頷いて、次の瞬間には小悪魔と共に姿を消していた。嵐が過ぎ去った後のような、独特の静寂がにとりの工房に広まる。ふと咲夜も大変だねぇ~と、にとりが呟いて彼女は慧音に向き直る形で、次の話を始めた。

 

「さてと、じゃあ慧音は頼んでいた“あれ”が完成したかどうかだったよね」

 

「あ、ああそうだ。確か名前は“防犯カメラ”……だったか?」

 

「そうそう、外の世界にある物を私がアレンジしたんだよ」

 

にとりは部屋の隅に設置されたモニターへと駆け寄って、角ばった一つのボタンを押す。すると、モニターが一瞬明るく光り、真上からの日光を受けて輝く鮮やかな深緑が画面へと映り込む。

 

「この妖怪の山麓に幾つかカメラを設置したから、それでどんなもんか見てみてよ」

 

にとりの言った通り、カメラに写る景色は妖怪の山麓の一部分を鮮明に映し出していた。

 

「ほぉ、これは凄いな。これなら人里の警備が随分と楽になるだろう」

 

そう。これは人里の警備団の為に、慧音がにとりに依頼した話なのだ。これがあれば彼らの仕事が楽になる筈だ。慧音はそう思って、この話をにとりに持っていった。そんな慧音の望みを乗せた装置が起動してしばらく、モニターから映し出される景色が次々と変わっていく。それは、整備された山道を、優雅に美しく流れる河川を、そしてにとりの友人である鍵山雛(かぎやまひな)の小さな家を。そんな風に、にとりの作った試作品は様々な場所を映し出す。しかしそこで、本来ここには映らないはずのものが、映ってはいけないはずのものが目の前に現れた。

 

「…………ん?これはーー」

 

にとりは自身の手で握っていたリモコンを操作して別の景色に変わらない内に画面を固定する。よく目を凝らすとモニターの右端に、オレンジ色の明るい着物を着た人間の女の子が映っていた。それもまだ幼さの残る小さな女の子だ。

 

小豆(あずき)!」

 

その姿を見た慧音はモニターに向かって大声で叫んだ。

 

「誰?人里の子供?」

 

「ああ、そうだ!何でこんなところに!?授業が終わった後はよく友達と遊んでいるはずなんだが!」

 

慧音は額に冷たい汗を垂らし、切迫詰まった様子でにとりの方へと顔を向ける。

 

「にとり!カメラを設置しているのは確か妖怪の森の麓だったな!」

 

「そうだよ。でもこれって……かなり不味いんじゃない?」

 

にとりの言った通り、妖怪の山麓には人間にとっては危険な妖怪が多く存在している。まだもっと山頂に近い上方ならば、知性があり規律の厳しい“天狗”がいるはずなのだが、麓には理性のない妖怪も数多くいる。もしそんな妖怪とこの娘が出会ってしまえば、それは彼女の終わりを意味するのだ。

 

「ああ、直ぐ様そこに向かう。にとり、場所は!?」

 

「丁度、ここから山を挟んだ向かい側だよ!」

 

にとりの言葉を聞いて、慧音は(きびす)を返すように、急いで部屋を出るための扉へ向かおうと体を反転させる。しかし、そこでにとりは焦ったように慧音へと声をかける。

 

「ちょっと待って!それだけじゃ細かい場所は分からないでしょ!私はカメラを見て指示を出す!だからこれを、通信機だよ!」

 

急いで駆け寄って来たにとりから、慧音は手のひらサイズの真っ黒な機械を手渡される。不格好に伸びたアンテナが、慧音の焦りを代弁するかのように揺れ動いていた。

 

「ありがとう、にとり。では私は急いで向かう!」

 

慧音は先程までいた咲夜と同じように、扉を壊す勢いで部屋の外へと出て行った。雑に開け放たれた扉の衝撃で、一瞬だけ室内全体が大きく揺れた。

 

「…………全く、皆大変だねぇ」

 

にとりは半開きになった扉を見つめながら、ふとそう呟く。そんな彼女の呟きは、部屋を響かせる機械の重低音に書き消され、押し潰されて無くなった。そして、ふとにとりが見たモニターにはもうあの少女の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

慧音が部屋を飛び出してすぐ、彼女はにとりに指定された場所へと向かったのだが、残されていたのは小豆(少女)が髪を結うのに使っていた真っ赤な紐だけだった。それは持ち主の血を吸ったかのように鮮明で、とても綺麗な物だった。そして後日、行方不明になった子供の両親の元に、封筒に入れられた奇怪文が届いた。その手紙は真っ黒なインクで書かれており、平仮名、片仮名、漢字が織り交ぜられた奇妙な文だった。書かれた字も所々、その文字自体が間違って書かれていたり、文法的にもおかしな部分が多々あった。文面を察するに、恐らく謝罪文なのだろうが、書いてある内容は一切不明で、だれもそれを理解することはできなかった。

 

 

 

 

 

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

ゴメンあサイ ゴメンあサイ

カあイソウ カあイソウ

ワシタの整 ワシタの整、

 

デモシかたヶナカッタ。ドウシテモ

死シ他カッタ。ぢガイリシ食ッタ。

 

手に紙ヲ西ん二、虹に似る何。

読メな、ソレがワシタ。こンナコト

ヲシタノハ紅イ下之子ダと思イマス。

ソレがワシタ。下カラ出て。本ヲ飛ン

出て、メイド二追っ手。キズヲ消

メシカッタカラ、持チ去ッテ食ッタ。

後ロデ様二知ッテ、良心ガイタッタ。

父母心痛ト思ウ。愁傷デス。

 

ゴメンあサイ ゴメンあサイ

ゴメンあサイ ゴメンあサイ

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

 

 

 

 

 

 

 

少女はまだ見つからない。

 

 

 

 

 

 

 

 




これは実際にあった、未解決誘拐事件を参考に作りました。かなり不気味な事件で、個人的に興味を引かれたからです。もう25年も前の事件で“時効”となっています。なんと言うか……いえ、何とも言えませんね。私も身近にいる人たちを普段から気にかけようと思います。

【解】はかなり遅いです。一ヶ月以内には投稿できたら嬉しいですね。

あと最終話に解説を載せました。なぜ活動報告に載せなかったのか……それは見てもらえれば分かります。


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いたずら

今回はNormalなので、謎も文章表現もかなり軽めにしました。いつもと違い最低限の事しか書いてないですね。非常に分かりやすいと思います。



いたずら

 

それは“因幡てゐ”にとってある種の娯楽だった。長く生きる中で適度に娯楽を欲する中、自分に一番合っていると思ったのが“いたずら”と言う自分の背丈に似合った存在だった。

 

そんな彼女のいたずらの一番の被害者と言えば、皆がある一人の人物の名を口に出すだろう。同じ場所に住み、同じ兎である彼女の名をーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里の大通りを歩く兎が二匹。人の林が散らかす騒音の中、彼女たちはそれらを掻い潜るようにして、足を運び進めていた。背の高い方は野菜の入った大きな袋を。低い方は肉の入った小さな袋を持っていた。

 

「そんなもん大量に買い込んでどうするつもりなの?鈴仙。人参なら分からないでもないけど、前もトマトを大量に買って帰ってきたし」

 

ふと背の小さな兎ーー因幡てゐが彼女の隣に並ぶ大きな兎ーー鈴仙にそう尋ねた。

「気分よ気分。たまには良いじゃない。それにトマトは師匠に言われて買ってきたのよ」

 

そう返す鈴仙はいつもと違い、どことなく上機嫌だった。今にも鼻唄を歌いそうなその様子は、てゐを不気味がらせるのには十分な材料であった。そんな様子で彼女たちは大通りを抜けて、いつしか人の行き来が少ない裏の小道を歩いていた。

 

「唐突だけどさ、鈴仙が買い物に誘ってくるのんて珍しくない?」

 

「あーその事なんだけどさ……」

 

鈴仙はバツが悪そうに頬をかく。

 

「私さ最近誰かにつけられてるんだよね」

 

「…………つけられてる?」

 

「うん」

 

「誰が?」

 

「私が」

 

「誰に?」

 

「それが分かったら苦労しないわよ」

 

それもそうかと、てゐは低い声でウーンと唸った。

 

「でね、実はその私をつけてるヤツがいたら、捕まえるのを手伝って貰おうかと思ってね」

 

なるほど。それで私を買い物に誘ったのかと、てゐは一人納得した。

 

「でもさ、鈴仙でも捕まえられない奴を私が捕まえられるかな?」

 

「何もてゐ一人に任せる訳じゃないわ。私とてゐで捕まえるのよ」

 

鈴仙はてゐにそういうが、てゐ自身はあまり納得していなかった。と言うのも、鈴仙をもってしても手がかりすら掴めない人物に、てゐが一人混じった所でどうこう出来るとは思えないからだ。そうなると鈴仙が自分を誘った理由は簡単に推測できる。恐らく鈴仙は不安なのだ。元々彼女は臆病な性格。自分が必死で捕まえようとしているのに何も事態が進展しないことに、多少なりとも不安を抱えているのだろう。それなら今、鈴仙の機嫌が良いことにも納得がいく。

 

そんな自分勝手な推測を経てたてゐは、ふと自分の中にあるいたずら心が芽生えた事を自覚した。てゐはそれを実行に移すため、帰路である竹林の中に自分たち二人が完全に入りきるまで期を待った。そしてこの瞬間だと長年の勘と経験に任せたタイミングで鈴仙に話を切り出した。

 

「あっ!ごめん、鈴仙!私、人里でやらなきゃ行けないことがあるの忘れてた!」

 

「えっ!?本当に?何よそれ?」

 

「実はお師匠様に薬草の発注を頼まれてたんだ。今から戻ってやっておかなくちゃ」

 

それはもちろん嘘で、てゐが鈴仙と離れるためにでっち上げた建前である。

 

「ん~明日じゃだめなの?」

 

鈴仙はてゐに懇願するような視線を向ける。

 

「大丈夫だよ。もう竹林の中でじゃん。確か誰かの視線を感るのは人里の中だけだったんでしょ?」

 

「うーん、まぁそうなんだけど」

 

「なら大丈夫だよ」

 

てゐはなるべく優しい声色でそう言う。すると鈴仙も納得したのか、こくりと一つ頷いて明るい笑顔を浮かべた。

 

「そうよね!まあそれでも現れた時は私一人でもとっちめてやるわよ!」

 

「うんうん、その意気だよ」

 

そう言うてゐだが内心は上手くいったと、一人笑いを圧し殺しながら鈴仙に笑みを送っていた。

 

そうして二人はそれぞれの道を行った。一人は竹林へ、そうして一人は人里へ。だがこの時は二人とも気がついていなかった。まさかこの選択が、一匹の兎を地獄に落とすことになると言うことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙は竹林の中を一人進んでいた。しかしその足取りは慎重で、彼女の目線は自身の足元まで落ちていた。と言うのも、ここら一帯はてゐがいたずらで作った落とし穴が大量に設置してあり、少しでも気を抜くと、その落とし穴の中に真っ逆さまと言う事態に陥るからだ。

 

永琳からもてゐに落とし穴を作ると言う行為を止めるように言っているのだが、普段永琳に対して従順なてゐが唯一断固として許容しないのが、この“落とし穴の作成を止める”と言う命令だった。まあ、鈴仙自身このいたずらに参っていると同時に、これはてゐのアイデンティティーでもあると内心納得している部分もあった。そんなこともあり、鈴仙は永琳と違いでゐに何も言っていない。

 

そんな複雑な地雷地帯に足を踏み入れいる鈴仙だが、ふとあの視線を感じた。敵意でも無ければ、警戒でもない。言ってしまえばカメラのような無機質で何の感情も籠っていないあの目線が。

 

「そこ!」

 

鈴仙は自身の斜め前の茂みに段幕を放つ。しかしその瞬間に、目線の主は一目散に逃げてしまう。

 

「待て!」

 

鈴仙は追いかける。今日こそ、今日こそ犯人を捕まえると意気込みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、てゐは人里へ帰ると見せかけてこっそり鈴仙の後をつけようと彼女が進んでいるであろう林道を駆け足気味に進んでいた。と言うのも自分が鈴仙の言う視線の主に成り代わって彼女を驚かそうと言ういたずらを思い付いたからである。

 

そして、てゐは鈴仙に追い付くため足を動かし道を進む。ここから永遠亭まではかなり距離がある。てゐが鈴仙と別れてから十分。まだ余裕で追い付ける。てゐはそう思っていた。思っていたのだが……。

 

「爆音!?」

 

ふと唐突に前方から爆音が聞こえてきた。 方向は鈴仙の通るはずの道と同じだ。 大きくはない。むしろ耳の良いてゐでなければ聞き逃してしまうような小さな音。しかし聞き間違えではないと、そうてゐは断言できた。

 

「もしかして……」

 

鈴仙に何かあったのか!?そう判断したてゐは先程とは違い全力で地面を駆ける。歩き馴れた竹林の中をぴょんぴょんと跳び跳ねるようにして駆けた。駆けて、跳ねて、そして見つけた。彼女は自分の作った落とし穴の中にいた。深い深い、暗い暗い穴の中に。

 

 

 

「…………れい……せん?」

 

頭から血を流し、ぐったりとした姿で兎は横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 




本来は『いきもの係』を書こうと思ったのですが、少し意見を聞きたくなって間にこの話を挟みました。と言うのも難易度理不尽の『いきもの係』と言うこの話、むちゃくちゃ文字数多くしても構いませんかね?具体的には分かりませんが、少なくとも三万文字は行くと思います。ですが無理矢理に文字数を減らすことも出来ます。恐らく八千文字くらいまで。

どっちの方が良いですかね?私的に三万文字まで行くと、読むの面倒なんじゃ?とも思っています。もしよろしければご意見をお願い致します。どちらにしても次更新するのは相当先です。今の内に意見を聞いておこうと思ったので(でないと書き始められない)……。

あ、あと『謝罪文』の解説を載せました。
それと質問が多かったので『有るか無きかのすずろごと』の考え方も。


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どうか明日が来ませんように

『いきもの係』までの繋ぎ。と言うか、気分転換です。難易度は《unknown》です。と言うのもですね、毎回難易度を言っていると、それをヒントにされてしまうので、今回はそれを言わないでみようと思います。簡単なのに深読みし過ぎたら間違いますし、難しいのに簡単に答えを出しても間違えます。 あと『いたずら』の《解》と解説、もう少し待って下さい!申し訳ないです!


「頼みがあるぅ~?」

 

そんな面倒だと言う内心を隠そうともしない声が、人里の中心部にある寺子屋でこだました。

 

「ああ、そうだ」

 

厳格な固い声と返事。対照的とも言えるそんな声色を持つ二人、愽麗霊夢と上白沢慧音は互いに向かい合って話をしていた。それは霊夢が人里に降りて買い物をしていた時、唐突に慧音に声をかけられた結果、生まれた状態だった。

 

「あんたから頼みごとなんて、珍しいと思うのと同時に厄介事なんじゃないかと勘くぐってしまうわね」

 

「まぁ厄介事かどうかは分からないが、少なくともそんな大事と言うわけではないんだ」

 

慧音の言葉を聞いた霊夢は、僅かにいぶかしみながらも一つ息を吐いて話を聞く姿勢を整えた。

 

「まぁ聞くだけ聞いてあげるわ。ほら、言ってみなさいよ」

 

そんな霊夢を見た慧音は安心したように、強張らせていた顔を緩めて話を始めた。

 

「頼みと言うのは他でもない、とある少年を尾行してもらいたいんだ」

 

「はぁ!?」

 

自分が予想した斜め上を行く話に、霊夢は思わずすっとんきょうに声を荒げた。しかし慧音は霊夢が口を挟む隙を与えないがごとく、流れるようにして話を進める。

 

「その少年は私の生徒でな、とても寡黙で頭も賢く、さらに運動の得意な男の子なんだが、最近ちょっとした噂が出回ってるんだ」

 

「噂?」

 

「ああ。しかし噂と言うには少し大袈裟だが。そうだな、私への報告くらいが妥当か」

 

なるほど。言うなれば教師である慧音に舞い込んで来た、教え子の話と言うことかと霊夢は一人納得する。

 

「まぁとにかくだ。人里のとある住人が言うには、なんでも彼が時おり人里を抜け出して、森の奥深くへ足を運んでいるのだそうだ」

 

「それはまた、随分と危ないことをしているのね」

 

慧音はこくりと頷いて話を続ける。

 

「そこでだ、彼が何の目的でそんな所へ一人で行くのか。その目的を私に教えて欲しいのだ」

 

なるほど。それで尾行かと霊夢は納得する。しかし、そこでとある一つの疑問が生まれた。

 

「理由は分かったわ。だけどそんなの、貴方が直接その少年に聞いた方が早いんじゃないの?もしくは止めるように言うとか」

 

慧音は忙しいので、自分が尾行をすることができないと言うのは分かる。しかし、何故わざわざ尾行をするのか?と言う部分について霊夢は納得できなかった。

 

「実はな、そのどちらとも既に試したんだ。何のためにこんな事をしているのか?と尋ねたり、死ぬかもしれないぞと脅しをかけたりもしたが、ずっと(だんま)りでな。最後は結局、先生には関係ないですから、と言われて終わりだ。良くも悪くも賢いんだ、あいつは」

 

子供であることを最大限に利用した黙秘。なるほど、これは厄介だなと霊夢は眉を潜める。

 

「頼む霊夢!あの子は昔から危なっかしい奴で見てられないんだ!寺子屋を卒業する前に、本当にあの子が私の前から消えてしまいそうで不安なんだ!忙しくて調査できない私の為にどうか頼まれてくれないか?」

 

慧音は切羽詰まったように、がばりと勢いよく頭を下げる。そんな必死な様子を見た霊夢は、ふぅと息を吐いて、それから優しい微笑を浮かべた。

 

「…………分かったわ。被害が出てからじゃ遅いものね。愽麗の巫女である私にとっても無関係ではなさそうだし……」

 

そこで霊夢は挑発的に口角を上げーー

 

「報酬は期待していいのよね?」

 

とそう言った。

 

「ッ!ああ、期待してくれ!」

 

そうして霊夢は人生で初めての尾行をすることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慧音の話を聞いた霊夢は、少しその少年に興味が湧いた。何に対してそう言う感情を抱いたのか、それはよく分からない。強いて言うならば、子供らしくない子供とそう評した慧音の言葉が、霊夢の好奇心をくすぐったのかもしれない。ただこれ以上考えても仕方がないかと、霊夢は自身の感情を気まぐれと納得させて胸へと押し込んだ。

 

しかしそうなると、霊夢は尾行をする前にその少年と話してみたくなったのだ。自分が尾行をする少年が一体どんな言葉を発し、どんな表情を浮かべるのか。だが霊夢には面識のない人物一人と自然に一対一の話に持ち込める程のコミニュケーション能力は無かった。ならばすることは一つ。

 

「ちょっと、そこの少年。御菓子おごってあげるから私に付き合いなさい」

 

「………………………………。」

 

そんな不審者の常套句(じょうとうく)のような、直球どストレートな台詞を切っ掛けにするしかなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が他人に物を奢るなんて、なかなかない事なんだから感謝して食べなさいよね」

 

「は、はぁ」

 

気の抜けた返事が漏れる、人里にある比較的安い茶屋。そこで霊夢と少年は、一杯のお茶と三本の団子を自身の目の前に置いて向かい合っていた。半ば強引に連れ去られた少年は、まだ僅かに狼狽しながらも恐る恐ると言った具合に団子を手にして口の中へと放り込んだ。肘で頬を支えながら、そんな少年を観察する霊夢。彼女の視線により、少年は何とも言えない、居づらい空気を感じていた。そしてもう我慢ならないと言った具合に、少年は口を開くことによって、その雰囲気を打ち破ったのだった。

 

「…………もしかして愽麗の巫女さんですか?」

 

「あら、よく分かったわねわ」

 

「いえ。凄く分かりやすいと思うんですけど」

 

少年が言うように、流石の幻想郷と言えども、巫女服を着ている人物は限られている。となれば、真っ先に思い浮かぶのが『愽麗の巫女』であり、少年がそう質問するのはある意味で必然と言えなくもなかった。

 

「あの、巫女さんって暇なんですか?」

 

言うなれば、こんな人里に居る何の変てつもない少年一人と話をするほど愽麗の巫女は暇なのか?と言う意味であった。

 

「そんなわけないでしょ。ほんと毎日忙しくて忙しくて大変なのよ。分かる?私の苦労が」

 

霊夢は辛そうに顔を歪めて、回した肩に手を当てながらそう言った。しかしそんな様子を見ても、少年はただ細目で霊夢を怪しげに見つめるだけだった。そして少年はそれを疑問と言う形で本人にぶつけた。

 

「…………昨日、何してたんですか?」

 

「昨日?昨日はお茶を片手に縁側で空を眺めていたわ」

 

「…………なるほど。お疲れさまです」

 

少年は呆れた口調でそう言った。そしてそこで一旦、会話が途切れる。二人は互いに湯飲みを手に取り、それを傾けて中身を口へと流し込む。安い割には香りが優しく、そして程よく温められた渋い味に、霊夢は満足そうに喉を鳴らした。

 

「…………慧音先生に頼まれたんですか?」

 

一見ゆったりと時間が流れているように感じる。そんな沈黙を破り、口火を切ったのは少年の方からだった。

 

「そうよ」

 

この少年に対して、変な誤魔化しを使ったとしても意味がない。そう判断した霊夢は正直に答えを出した。先程の質問も、恐らく自分を取り巻く周囲の状況を客観的に見て、そしてそこに愽麗の巫女が現れたと言う推測からの質問もなのだろうと、霊夢も分かっていたからだ。

 

「…………慧音先生には悪いと思っています。孤児である僕にとても良くしてくださって、とても感謝しているんです」

 

それは本当に申し訳なさそうに、そして重い言葉を口にするかのような口調だった。

 

「感謝しているからこそ、僕は……」

 

そこで少年は言葉を切る。これ以上は失言だと思い止まったのだろう。しかし少年が語る言葉の中に、霊夢はある引っ掛かりを覚えた。

 

「貴方、孤児なのね」

 

「はい。稗田家のお屋敷の前に捨てられました。大きな竹箱の中で、布に包まれながら眠っていたそうです」

 

「と言うことは……」

 

「はい。今は稗田家の使用人として置かせてもらっています」

 

言われてみれば納得だ。この年にして一つ一つの動作が綺麗で丁寧過ぎる。その佇まいは、稗田家で育ったと言う確かな証明となっていた。霊夢は自信が少年に接触した目的を一つ達成できた事に満足し、そしてもう一つの目的を達成させようと懐から一枚の薄い紙を取り出して、少年へと突き出した。

 

「はい、妖怪避けの札。これを持っておきなさい。少しは身の安全が保証されるわ」

 

白い紙に赤い文字が書きなぐってあるだけに見えるそれは、完璧にとまではいかなくとも下級の妖怪からはある程度身を守れる代物だった。

 

「止めはしないんですね」

 

少年はポツリと呟く。

 

「もう止めるのは無駄だと慧音も思ったんでしょうね」

 

その言葉に少年は納得したように、軽く首を縦に動かした。しかし納得したのは、自分を止めないその理由だけ。お(ふだ)を受け取る事については、違うらしい。

 

「…………お札はいりません。大丈夫です。護身用にナイフを持っていますから」

 

「駄目よ。これは強制。お(ふだ)を受けとらなかったら、私は力づくで貴方を止めるわ」

 

そもそもナイフを一本だけ持ったところで、人間の子供が妖怪に抵抗できる筈がないのだ。そこも少年自身、理解していたのか、それともただめんどくさく思ったのか、しかし結果として少年は分かりましたとそう言ってから、渋々そのお(ふだ)を受け取った。

 

「……用件はそれだけですか?」

 

「ええ、それだけよ。気を付けて行ってらっしゃい」

 

霊夢の言葉を聞いた少年はゆっくりと丁寧に席から離れた。

 

「では、ありがとうございました」

 

そうして少年は一言お礼の言葉を口にしてから、そっとその場を離れる。少年は背を向けて、道を行く。ただ一人。たった一人。霊夢から見える少年の背中は、とても小さく、そしてどこか寂しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店に残された霊夢は離れていく彼をしばらく見続けた後、少年の通った道をなぞるようにして森の中に入った。霊夢が少年に持たせた札は、魔除けの力を持つと同時に少年の居場所を知らせる発信器の役割を果たしており、それにより少年の後を追うことは霊夢とって容易なものとなっていた。

 

たとえ後ろを振り向いたとしても、少年には霊夢の尾行がばれることはあり得ない。霊夢が少年の姿を視界に捉えるのは、彼の足取りが完全に止まった時だけだ。

 

しかし尾行する中で霊夢には一つの懸念が生まれていた。それは少年の足取りが、一定方向を進み続けるものではなく、まるでどこかに寄り道をしているかのように、大きく蛇行していると言う部分だ。更には細かく動いたり、止まったりを繰り返している。

 

「何かを探しているのかしら?」

 

それならば蛇行していることにも納得できる。少年は何かを見つけるために、森の中へと入っているのかもしれない。では何を?命を危険に晒してまで見つけなければいけない物。そんな物などあるのだろうか?霊夢がそんな疑問を頭に浮かべた時だった。

 

「…………止まったわね」

 

少年の足取りが完全に止まった。目的の物を見つけたのか、もしくは目的の場所へとたどり着いたのか。それは分からないが、とにかくその場所へ行くしかないと、霊夢は慎重にその位置へと移動して、こっそりと木々の影から顔を出した。しかしそこに少年の姿はなかった。あるのはただ地面に落ちている見慣れた一枚の紙だけ。

 

「札を捨てたのね」

 

しかしあせる必要はない。少年が近くにいることには変わりないのだ。霊夢はそう思いながら、木々を縫うようにして低空飛行で少年を探す。これまで進んできた方向とパターンから推測して、一つ一つ隙間を潰すように探していく。

 

そしてその甲斐があった。少年は見つかったのだ。ただ少年は一人だけではなかった。

 

少年と共にいるのは白狼天狗の犬走椛。いや、共にいると言うのは語弊(ごへい)がある。何故なら椛が少年の首を締め上げて、それを上へと持ち上げているからだ。このままでは少年が死んでしまう!そう判断した霊夢は急いで懐から一本の長い針を取り出すと同時に、それを椛の頭部へと放つ。そしてその針は、吸い込まれるかのようにして、椛の頭を貫き、彼女の命を終焉へと導いた。

 

それに伴って少年はバタリと地面へ落下する。首にかけられていた圧迫感から解放された少年は、ゲホッゲホッと大きく喉をえずかせる。そんな少年に駆け寄り、背中を(さす)りながら霊夢は、先程自分が殺した天狗に視線を向ける。

 

「…………彼女、こんな所にいたのね」

 

犬走椛。数年前に妖怪の山から、天狗と言う組織から追い出された謎多き白狼天狗。何かしら天狗の禁忌を犯したと言うが、霊夢はその詳細を知らないでいた。いや、恐らく霊夢だけではない。天狗以外は誰も知らないであろう。何をして天狗の輪から追い出されたのか、それはいくら考えた所で分からない。

 

それでも天狗から外れた事は事実間違いない。でなければ、流石の霊夢も殺すまでには至らない。後に天狗から何かしらの警告が来るからだ。しかし既に組織を抜けた身であるなら、それはただの妖怪。その妖怪が人を殺そうとするならば、霊夢は愽麗の巫女としてそれを処理しなければならない。

 

「貴方、大丈夫?」

 

霊夢は少年の背中を(さす)る中で、ふと彼が震えている事に気がついた。

 

「…………………………………………。」

 

しかし返事は返ってこない。余程、怖かったのだろう。もう少しこうしていようかと霊夢がそう判断した瞬間、彼女は大きく目を見開いた。視線を落とし少年に、それからもう一度だけ椛の死体に目を向ける。霊夢はふと慧音の言葉を思い出す。

 

理解する。全てのピースが当て()まり、一つの結論を生み出す。そうして霊夢は一言こう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ああ、そう言うことだったのね」

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと主人公メインの話が書けたぜ!《解》は恐らく次話投稿と共に載せます。前回と違い、答えに関する感想の返信は行いません。申し訳ないです(いきもの係まてでの繋ぎですので)。

感想見ててたまに思うのですが、皆様ってこれまでの話の中でどれが一番好きですかね?個人的には『いないいないばぁ。』なんですけど。と言うのも、東方キャラの能力を上手く使えたので。

あと『いきもの係』は他とは違ってかなり物語要素が強く成ります。言うなれば、番外の『Who is the liar.』っぽい感じです。謎解きと言うより、読み物のミステリー小説臭がしますので、読者様の期待を裏切る形となるかもしれません。申し訳ないです。


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……ばぁ
いないいないばぁ。【解】


『いないいないばぁ。』の答え?的なものですね。これを見ても分からないと言う方は、感想欄を見ていただければ、真実が見えてくるはずです。


私はゆっくりと扉を開けて、食堂から外へと出た。どこまでも真っ直ぐに伸びる廊下を見据えて、そっと扉を閉める。こつこつと歩き始め、足元から発せられる乾いた靴音が廊下を反復するように響いてくる。そんな中で私は長い長い廊下をただ無心で歩き続ける。

 

その時だった。私の目の前に、大きな影が急に飛び込んできた。目を見開く。曲がり角にいた誰かにぶつかりそうになる。体に急ブレーキをかけて、自分の動作を停止させる。危機一髪。一切の接触もなくその場を切り抜けた。一体誰なんだと、引き気味の顔を目線ごとその人物へ向ける。

 

「あっ、お燐!」

 

意外も意外。それは私の同僚である 霊鳥路空(れいうじうつほ)だった。普段はお空と、そう言う愛称で呼ばれている。

 

「……なんだ、お空か」

 

それを聞いたお空はムッと表情を曇らせた。

 

「何だとは何よ!」

 

お空はぷくっと頬を膨らませる。怒っているにしてはまた随分と可愛らしい。しかし駄目だ。お空は怒らせると面倒になる。取り合えず話を逸らそうと、私は今適当に思い付いた質問をお空へと投げかけた。

 

「ごめんごめん。ところで何でお空はこんなところにいるの?」

 

「…………何でだっけ?」

 

全くこの子は……。

いつまでたっても鳥頭。覚えたことも、次に聞いた時には忘れてしまう。そして何よりも単純に馬鹿。それがお空と言う娘だった。

 

「……あっ!思い出した!」

 

「思い出したの?」

 

お空が一度忘れた事を思い出すなんて珍しい。

 

「うん!私、探し物を探してるんだった。さっきまで本館にいて、それで次は別館に行こうと思ってたの」

 

「探し物?」

 

「えっとね。こいし様の帽子を探してたの」

 

その答えに思わず表情が固くなる。

 

「…………こいし様の帽子ね。それなら私が見つけとくから、お空は気にする必要はないよ」

 

「えっ?でも二人で探した方が絶対に早いよ」

 

お空の言うことは正しい。でもそれは探すだけ無駄なのだ。今日一日。いや、これから死ぬまでずっと探し続けても見つかりはしない。

 

「実は私、今朝こいし様の帽子を見かけたから当てがあるんだ」

 

「本当に!?ならお燐に任せるよ!」

 

お空は嬉しそうにしながら、私に笑顔を向けてきた。その場でピョンピョンと跳ねる無邪気っぷりに思わず笑いそうになる。

 

「あっ、そう言えばお燐に聞きたい事があったんだ」

 

お空は急に跳びはねていた足を止めて、私に向き直おり、そう元気良く言った。

 

「何?」

 

「えっとねーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー私、こいし様って言う人を()()()()()()()()()()()()()んだけど、一体どんな人なの?

 

 

 

 

 

 

 



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きゅうけつ鬼ごっこ【解】

数少ない窓から光が射し始める。埃がそれを映し出し、一本の光の線を作り出す。無数に地面に突き刺さる光の柱が、薄暗いこの空間を明るく照らしていた。そんな幻想的な風景が織り成す図書館で、一人の少女が終わりの合図を告げる旗を挙げた。

 

「今日はこの辺でお開きね」

 

「えぇ~!お姉様、私はもっとおしゃべりしたい!」

 

吸血鬼姉妹による応答が、大きな室内に広がった。

 

「もう、我がままを言わないの。夜更かししてると、体が成長しないわよ」

 

「お姉様だって小さいじゃない」

 

その返しにパチュリーはくすりと笑みを溢した。

 

「もう、揚げ足を取らないの。とにかく私はもう寝るわ」

 

レミリアは背を向けて、扉へと向かって行く。

 

「じゃあねフラン、パチェ。おやすみなさい。フランも早く寝るのよ」

 

親友と自分の妹へ手を振り、レミリアは扉へと手をかけた。

 

「はーい!」

 

「じゃあね、レミィ」

 

バタンと扉が閉まる。急に森閑になり、辺りはしんと静まりかえる。物音一つしない。まるで時が止まってしまったかのように錯覚させられる。永遠に続くとさえ思えたその空間を破り、唐突に声を出したのはパチュリーだった。

 

「…………レミィと上手くやってるようね」

 

辺りが静かなせいか、普段から聞いている彼女の声よりも、少し聞き取りやすい声だった。

 

「うん!だってお姉様ってば優しいんだもん!」

 

フランは手元にあったティーカップを持ち上げて、その中身を一気に口の中へと流し込んだ。カップの三分の一までしか満たされていなかった、褐色の液体は全て彼女の口へと吸い込まれて行く。

 

「……それは良かったわ。でもそれは置いておいて、レミィの言う通り。早く寝なさい」

 

しかし、パチュリーの言葉にフランは反感を示すようにして勢いよく立ち上がった。

 

「えぇ~!いいじゃない!ここに来るのは久々なんだから」

 

そう言ってフランは手を後ろに組みながら、ゆっくりとした歩調で歩き回る。その姿は妙に様になっており、どこか慣れたような足取りだった。

 

「…………まぁ確かに。そうかもしれないけど、貴方はもう見慣れているでしょうに」

 

パチュリーは呆れたと言わんばかりに、大きく口から空気を漏らす。

 

「そうでもないよ。まだまだもっと見ていたい。私はそこまで図書館について詳しくないから」

 

「何を言ってるのよ。貴方は私の次にここを熟知しているでしょうにーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーねぇ、()()()

 

 

 

その言葉にニヤリと、小悪魔(フランドール)は口を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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盃に映る月夜 【解】

なんか感想欄で無意識に連繋して私をフルボッコするの止めてもらいたいですね(涙目)。

くそ~今回は行けると思ったんだけどなぁ~。
いつかリベンジします。



何も無いその空間。あるとしたらならば、大きく円を描くように削られた細長い月から降りる明かりと、耳に心地よく流れる甲高い虫の()だけ。そんなどこにでもある陳腐(ちんぷ)な場所に、ふと一本の細い隙間が姿を表した。それは段々と広がるようにして大きくなっていく。開けた隙間の中には無数の目玉が(うごめ)いており、その一つ一つはどうにも生気を失っているように見えた。そしてそこからひょっこりと顔を出す金髪の女性。彼女の名は『八雲紫(やくもゆかり)』。妖怪の賢者と呼ばれている大妖怪だ。

 

「…………ここに来るのは久々ね」

 

紫はゆっくりと隙間から降りらポツリとそう呟いた。辺りは何処までも暗く、そして静かだった。緩やかな風が吹き、紫の髪を撫で上げ、舞い上がらせた。透き通った虫の音と、風の(むな)しい音だけが耳へと届く。そんな中で紫は、風化して今にも崩れそうな神社の前に立っていた。大きく縦に亀裂が走った柱に、雨風によって磨り減った屋根。そのどれを見ても、かなり古いものだと一目で推測できる。紫は無言でそんな神社の縁側へと腰を降ろす。ギシリと不気味に軋む音が鳴ったが、規則正しく組まれた木々は、紫の体重をしっかりと支えていた。

 

「…………こんな所に来ようと想うだなんて、もう私も年かしら?」

 

最近、独り言が増えたと紫は自分の頬へと手を添える。しかしそれは仕方がない事。なにしろ喋り相手が昔より少なくなったのだ。そうなれば、独り言が増えるも道理と言える。そう無理矢理に自分を納得させ、紫は隙間から朱色の盃と、小さな徳利(とっくり)を取り出す。しばらくそれを眺めてから、盃に酒を注ぎ込む。空から射す弱々しい月明かりを、盃の中が反射して紫の目に入る。自分の手元には、ゆらゆらと揺らめく、小さな月が握られていた。それを見てふと気がつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーそう言えば、あの時もここに座っていたわね。

 

 

 

大きな切り傷がある柱の近く。別に故意にここに座った訳ではない。自然と、そして無意識に私はここに座った。いや、もしかすると何かしらの因果が働いているのかもしれない。そんな根拠もない考えが、紫の頭に思い浮かぶ。馬鹿馬鹿しいと思いながらも、全てを否定できない。こんな事を思うなんてやはりもう年だなと思いながら、紫は盃を傾けた。

思い出す、あの時の事を。

思い思い()せる、あの存在を。

思いめぐらす、あの幻想を。

 

 

そうして紫はそっと酒を煽った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それはそう、焦がれ恋したあの日のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




それと、ここから投稿はしばらくお休みするのですが、もし皆様の中でも自分がやっているような感じの短編を思い付いて、私に力を貸してもいいといってくれる人はそのアイデア教えて下さいませんか?設定に無理が無ければ、受験明けに是非とも投稿したいと思います。それを小説になおせるかは分かりませんが……一応。


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不思議の家の人形劇【解】

ゴロリと足元に首が転がる。その顔は頬を地面に寄せて、まるで異次元を覗き込んでいるかのように、部屋の一方向を見ていた。目と口は大きく見開いていて、奥に見られる光はなく、どこまでも深い闇があった。少しだけ無機質に感じる肌が、その不自然さを増倍させていた。ガラリと横にいた魔理沙が音を立てて崩れ落ちる。その目も肌も、私が切り飛ばした自分自身と全く同じものを感じさせた。

 

「……自分で自分の首をはね飛ばすなんて、やっぱり良い気分はしないわね」

 

端から見ていたら自分で自分を殺している異常性満載の光景に、今の現実を疑うだろう。夢で見たら悪夢以外の何にでもない。私ならベッドから飛び起きて、冷や汗をかいているに違いない。そしてその嫌な汗と、ネガティブな気分を洗い流す為にシャワーを浴びるところまで想定できる。

 

「……はぁ~」

 

私は大きく溜め息を吐いて、転がっている私の頭部へと歩み寄った。ちょうど頭が足元に来たところで、膝を折り曲げてその場にしゃがむ。しばらくじっと私の頭を見る。

 

「どこで間違えたのかしら?」

 

地面に転がる頭を撫でながら、誰に言うでもなく私はそう言った。ふと撫でる手を止めて、両手で頭を持ち上げる。ずっしりとした重さが私の腕へと伝わる。くるりと手に持ったそれを回転させて、切断部分を覗き込んだ。しかし、それで原因が分かるはずもない。

 

「…………あれ?」

 

そこで初めて自分が動揺していることに気がついた。そしてその事に驚きを隠せない。どうやら私は自分で思っているより落ち込んでいるらしい。まぁ確かに、これが完成した時は私も随分と浮かれていた。明日の朝が待ちきれず、夜間をそわそわとした気持ちで過ごしたのも事実だ。そう思い返してみれば、少しだけ恥ずかしい気もする。まるで翌日に誕生日を迎える小さな子供のようだ。だがしかし、それだけ今回は期待していたのだ。長年の目標と言うよりは、夢とさえ言える私の集大成。それが完成した時の達成感は計り知れなかった。今回こそは行ける。今回こそは完璧だ。私はそう思って、今日の朝を迎えたのだ。しかし結果は惨敗。これが落ち込まずにいられようか?

 

「…………いつまでも落ち込んでたって仕方がないわね」

 

今回が駄目ならまた次だ。次こそは成功させる。この結果を引きずっていても良いことはない。切り替えよう。だが切り替える前に最後、一言だけこう言おう。

 

 

 

 

 

 

ーーーー今回も失敗かぁ。

 

 

私は少し大きな声でそう言って手の中にある()()()()を指でつついた。

 

 

 

 




『きゅうけつ鬼ごっこ』からずっと、少し難しい問題が続いた思うので、次からしばらくは簡単な問題を投稿しようかなと思います。そして所々で勝負玉を投げようかと。ところで一つ、皆様に質問したいのですが……正直言ってこのままいくと、作者は全く勝てる気がいたしません(いつから勝負になった?)。今回で確信しました。これでも駄目なのかと……。なので、本当に理不尽な問題を一つ、いつか投稿してもよろしいでしょうか?今まではしっかりと辻褄を全て合わせ、それらが分かるような表現を細かな所も全て含めて、どこかに隠してきました。それはこの話を読んでくださった、読者様が答えを見て「納得できない」と感じられることが、なるべくないようにと思いそうしてきました。しかし!それでは勝てない!一度でいいから勝ちたい!せめて一日で、答えが出ないような問題を一つ!投稿して瞬殺されるのはもう懲り懲りだ!と思ったのです。なので、私の中にある良心をかなぐり捨てた問題を一つ、作ってもいいですかね?


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後ろの正面だぁれ?【解】

実はこの『いないいないばぁ。』と言う作品について。これ以外の解説を見ていただければ分かる通り、かなりの変更点がございます。詳しいことは、活動報告に全て書きましたので、それを見れば全てが分かるようになっております。


部屋と言うにはあまりにも大きすぎる。言ってしまえば広間と全く変わらない。畳がどれだけの数敷かれているのかさえ、少し見ただけでは全く分からない。そんな場所で一人、筆を持ち書物に何かを書き込む小さな少女がぽつんと静かに座っていた。

 

「………………出てきたらどうですか?紫さん」

 

「あら、気づいてらしたの?」

 

彼女の真正面。そこの空間がぱっくりと裂け、ゆっくりと女性が一人降りてきた。そんな奇妙な光景にも全く動じず、少女は目の下の書物にただひたすら文字を書き続ける。

 

「よく言いますよ。隠す気もなかったでしょうに。そもそも紫さん。貴方を呼んだのは私なんですよ」

 

少女に紫と呼ばれた女性は、膝を組み直し、姿勢を正した。

 

「そう言えばそうだったわね。それで阿求、いきなり呼び出すなんて珍しいじゃない。何かあった?」

 

「ええ。また十年前のあの出来事を調べる者が現れたのでご報告をと……」

 

阿求の言葉にピクリと紫は反応する。

 

「それは誰?何で今更?」

 

「射命丸文。目的はネタ不足。これだけ言えば、分かるはずですよね。妖怪の賢者様」

 

阿求の嫌みな言い草を、紫は眉一つ動かさず済ました様子で受け流す。

 

「また面倒ね。そんな軽い動機で突っ込んでほしくないものだわ」

 

頭が痛いとばかりに紫は額に手を当てる。

 

「それで、どうします?天魔を通じて止めさせますか?」

 

「いや。こうなっては仕方がないでしょう。十年前と同じようにやるわ」

 

その言葉に、阿求は初めて筆を止める。

 

「……結構、決断早いですね。もうちょっと様子を見るのかと思いました」

 

「どの口が言ってるのよ。十年前、魔理沙を追い詰めたのは貴方でしょ?」

 

阿求の口が三日月のように大きな弧を描く。その様子は楽しさ、喜び、快感そう言ったものを含んでいるように感じた。

 

「あれは魔理沙さんがあまりにも必死だったので、手伝ってあげたに過ぎませんよ」

 

呆れたとばかりに、紫は両手を少し上げて手首を外へと向けた。

 

「まぁいいわ。私は面倒な事になる前に、この件を終わらせる。貴方も充分、気をつけなさい」

 

「ええ。ご忠告感謝します」

 

既に誰もいなくなった場所に向け、阿求はそう言う。それから彼女は何事も無かったかのように、再び筆を持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱさりと地面に一つの手帳が落ちる。

声は聞こえない。

音は聞こえない。

何も聞こえない。

何も無い。

 

いや、あった。

ただ一つ。

ただ一つだけあった。

 

さてそれはどんな存在(もの)

後ろの正面だぁれ?

 

そうしてゆっくりと()()は閉じていった。

 

 

 

 

 



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かえるのうた【解】

今回が一番、回答率が低かったです。あれ?そんな難しくは作ってないと思っていたのですが……もしかしてそれは作者だけがそう思っていたのでしょうか?思ったより複雑だったのでしょうか?感想欄を見てみると、考えれば考えるほど、どつぼにはまっている感じがしました。と言うか感想を見てて正直、もうこれだったとしても全然問題ないと思える回答がいくつかあったんですよね。もう正解扱いにしたいところではあって、非常に迷っております。




行ってきますと、そう少女は言う。それは相手に今から出かけると、そう伝えるための言葉。しかしそれに返す者は誰一人としていなかった。いや、言葉を返す者はいないが、視線を送る者はいた。その人物は唐突に現れ、ゆっくりと地面に足をつけた。

 

「あれが現人神になれる器を持った人間ねぇ……」

 

地面に降りてすぐ、その人物はそう呟く。女性特有の、高く透き通った綺麗な声。だがそれは何の感情も無いような、そんな真っ白な声色だった。

 

「あそこまで()()()いたら、幻想郷に招くのは少し危険かしら」

 

眉間にシワを寄せて、そう呟く。

 

「でもこれ以上、あの娘を人目に晒し続けるのも良くはない。まだはっきりとは気が付いてないようだけれど、もう腕力ですら人間のそれとは比べ物にならないほど強くなっているはず」

 

彼女は少女が消えていった道を見る。その道に人影は無く、ただ真っ直ぐな通路が延々と続いているだけだ。

 

「まぁ取り合えず。二人共に会ってみないことには始まらないわね」

 

そう言って彼女は右手に持っていた布袋を持ち上げる。それからそっと、その布袋を開き、中身を取り出した。それは日数が経ち、赤黒く変色した血によって染められた女子制服。血の付いていない部分が無いと思えるほど、その制服は本来あった色合いを失っていた。

 

「これが落ちていたのは彼女が通っている学校の裏の林。そんな無造作に捨てられたのにも関わらず、よくもまぁ半年も見つからなかったものだわ」

 

自覚はあるのに無意識だと言うのが尚更たちの悪い。小さな事ではあるが、物事が彼女の都合の良いように動いている。

 

「奇跡と言うよりは、運が良いと言った方が適切かもしれないわね」

 

これは言わば、コイントスをして十回連続で裏が出たのと同じような現象だ。決して不可能ではない。十回のコイントスで、十一回も裏が出せるような。そんなかぐや姫が出した無理難題を解決(クリア)する力は無い。本当に小さな力。それでも、ただの人間にとっては充分大きな力となり得た。

 

「他にも探したら、色々と出てきそうね」

 

まぁ探す気はないのだけれど。彼女はそう言うと最後。その姿はどこかへと消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

緑の髪のかえるの少女は、三つの虚像(うそ)と共にいる。一つは自分の良識を乗せて。自分を支え、自分を押し上げ、自分を正す。そんな大きな柱を一本。それを彼女の右側に。もう一つは自分の願いを乗せて。自分を癒し、肯定する。優しく包み込んで、覆い尽くす、そんな小さな帽子を一個。それを彼女の左側に。最後の一つは感情を。押し留めず、溢れ出す。流し流され抵抗せず。あるがままに生き続け、自分の裏に居続ける。そんな深い影を一つ。それを自分の裏側に。

 

四人が歌う、四重奏(しじゅうそう)。だけどよく見て聞いてみて。それはホントにカルテット?小さな小さな合唱は、はたまた何の叫びなのか?

 

淋しい淋しい、かえる(ソロ)のうた。

 

 

 

 




皆様が苦戦しておられたので、あえて【解】も分かり難いように書きました(そっちの方が面白いと思って)。でもそれだとあまりにも不親切なので、この話はシリーズが終わった後にでも解説を載せようかなと思います(たぶん)。

あと『哀々傘』の【解】の投稿を早めます。週明けくらいに。しかしなにかと急なので、もう少し待ってと言う方が一人でもいらっしゃれば、延長します。


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哀々傘【解】

予想通りの瞬殺でしたね(笑)。
【解】を書いてて思いましたが、今回は綺麗に話を作れました。真相もこれ以外はあり得ないと思います。

少し文章表現に違和感がありますけど、許してね。エヘヘッ。


雲一つ無く、月が真ん丸と浮かぶ、今日はそんな夜空が広がる。星々が輝き、暗闇を照らし、宙を彩る。それらを見上げながら一人、酒を煽る化け狸が一匹。そしてそんな狸に声をかける、一人の幽霊がいた。

 

「こんな所で一人酒なんて、何とも寂しいじゃない、マミゾウ」

 

普段から清掃され、綺麗に磨かれた縁側に座るマミゾウへ向けて、幽霊である村紗はそう言う。

 

「一人で飲む酒も悪くないものじゃぞ」

 

マミゾウは口角を少し上げてそう返す。それに村紗は呆れたような笑みを浮かべ、マミゾウの隣へと腰を下ろした。

 

「お主もどうじゃ?」

 

マミゾウはどこから取り出したのか、自分の持っている物とは別の杯を持って、村紗へと突き出した。

 

「ん、ありがと」

 

村紗はそれを受け取り、マミゾウはその中に酒を注ぐ。 そして杯が酒で満たされたと同時に、村紗はそれを口へと運んだ。少量の酒が流し込まれる。それから杯から口を離し、そのまま村紗は一つの話題を切り出した。

 

「小傘が来て、聖はやっぱり嬉しそうだったね」

 

「そうじゃな。聖は何かと小傘に気を掛けておるからの」

 

二人の話題はつい先日、半年ぶりに命蓮寺へと来た小傘についてのものだった。

 

「小傘も小傘だよね。聖の事が好きなくせに、素直になれない。見ているこっちがやきもきするよ」

 

「まるで互いの距離感が測れない親子のようじゃな」

 

からからとマミゾウは笑う。

 

「それでどうじゃ?小傘の餓えは解消されたのか?」

 

「多分もう当分は大丈夫なんじゃないかな?夕食にちゃんと()()()()を食べたんだし。それに元々、それが目的で聖は小傘に声をかけたんでしょ?」

 

私はあんまり良い感じはしないけどね、と村紗は付け加えた。

 

「まぁお主は元人間で、今は幽霊じゃからな」

 

マミゾウは苦笑しながらそう言う。

 

「でも改めて思ったけど、マミゾウの変化は凄いよね」

 

「まぁ化け狸じゃからの。と言ってもお主が思っとるほど、便利なものじゃないぞ。ある程度、物が似ている物でなければ化かすことはできん」

 

例えば、とそう言って空になった自身の杯を指差した。

 

「これを石ころに変化させる事はできるが、花束にと言われれば流石に無理じゃ。材質から素質まで似通っているものは何一つとしてないからの」

 

それを聞いて村紗は何か納得したのか、あぁと唸って両手をぽんと叩いた。

 

「だから今までずっと、わざわざ鹿とか鶏とかを使ってたんだね。なんでもっと安上がりな物を使わないんだろうって思ってたから、妙に納得しちゃったよ」

 

曇が晴れたような、すっきりとした顔でそう言う村紗を尻目に、マミゾウはあくまでも自分のペースを崩さず、ただ酒を扇ぎ続けた。そんなマミゾウは、ふと思い付いたように村紗に一つの提案をした。

 

「実はこれから、明日に支障をきたさない程度に呑もうと思うのじゃが、お主もどうじゃ?」

「いいね!あっ、じゃあさ明日もやろうよ。小傘も呼んでさ」

 

「おお、それはよいな」

 

二人は月を見上げながら、更ける夜の中で酒を呑み、話を続けた。明日の夜はきっと、今日よりも楽しくなると、そう期待しながら。

 

 

 

 

 



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ゆびきり【解】

予約投稿なので正解者様がいらっしゃるか分かりませんが、多分いないと勝手に思い込んでます。その理由は本文を見ればお分かりになるかと。

…………流石に勝ったでしょ。








と思っていた時期が私にもありました。


森の中にある一軒の小さな小屋。木々の隙間から漏れる光が、その小屋を明るく照らす。辺りが静かなせいか、昼下りに鳴く小鳥の鳴き声が妙に響いて聞こえてくる。

 

「よいしょっと。……まぁこんなものよね」

 

そんな森の奥深く、鈴仙はそう独りでに呟いて手を払った。彼女の目の前には地面を掘ったような跡と、その上に置かれている漬け物石ほどの大きさの岩が置かれていた。

 

「…………ホント、最後まで私に迷惑かけたままなんだから。後始末、むちゃくちゃ大変だのよ」

 

 鈴仙はしゃがんでその岩の前へと手をかざす。そして目を閉じる。瞼の裏には、とある日のやり取りが鮮明に映っていた。

 

 

 

 

 

それは鈴仙が定期的にルーミアの様子を確認しに来た、そんな日だった。

 

「…………耐えて見せるって、そんなの不可能よ」

 

 先ほど発せられた根拠のないルーミアの言葉を鈴仙は真っ先に否定した。

 

「いいえ、大丈夫。もう少しだけだから」

 

しかしルーミアはそれに笑顔で返した。相変わらずの様子に、鈴仙は顔をしかめて口を開く。

 

「…………そんなにあの子と一緒にいたいなら、死肉くらい食べればいいじゃない。それに子供のふりなんかしちゃって、よく分からないわ」

 

「いいのよ。良くわからなくて」

 

ルーミアのその言葉を最後に、部屋には沈黙が訪れた。決して気まずい沈黙ではなかったが、それでも居心地の()い沈黙でもなかった。そんな静けさがしばらくのあいだ続いたが、しかしそれを唐突に破ったのはルーミアの一言だった。

 

「…………あのね鈴仙」

 

「…………何よ?」

 

少し不機嫌そうに鈴仙は答えるが、それを気にもせずにルーミアは話し始めた。

 

「私、人間に優しくされたのって初めてだったの」

 

間入れずルーミアは続ける。

 

「私ね、生まれた時からずっと人喰い妖怪だったから、人間の友達なんていなかったんだ。かと言って妖怪に親しい友人もいなくて、ずっと一人だったの。だから嬉しかった。あの男の子が震えながらも私を庇って、そして友達になろうって言ってくれたことが」

 

それは鈴仙が初めて聞いた、ルーミアの心の内だった。

 

「だからね鈴仙。そんな大切な友達と交わした約束だから、最後まで守りたいの」

 

馬鹿だ。その言葉がはじめに鈴仙の頭に浮かんだ。そんな約束一つの為に、自分の命を捨てると言うのか?それに、もしそれでその子を喰らってしまえば元も子もない。

 

「それでね、 鈴仙。一つ鈴仙にお願いがあるの?」

 

「…………何?」

 

 鈴仙は(いぶか)しげに答える。

 

「もし私の理性が限界に達したら、 鈴仙の能力であの子の両親の死体を映してほしいの。そしてそれをわたしが食べているふりをする。その姿をあの子に見せたいの」

 

今度ばかりは意味不明だと、 鈴仙は首を横に振る。

 

「…………それって何の事が意味があるのよ?それこそ意味分からないわ。と言うかそんなことしたら貴方、その子に殺されちゃうわよ」

 

それはただ、その光景を見せているだけで実際は死んでいない。(のち)に両親が生きていることを知ったあの少年は、一体心にどんな傷を残しながら日々を生きていけばいいと言うのだ。

 

「いいのよそれで。 私はもうすぐ死ぬ。本当は何もない場所で一人で消えるのが一番なんだけど、最後はどうしてもあの子の前で死にたいなって思ったの。あの子は心に深い傷を負うかもしれないけど、私は博麗の巫女でもなく、彼に退治して欲しい。妖怪は自分の欲望に忠実だから、これは私の最後のわがまま」

 

 鈴仙は溜め息を吐いて、頭に手を当てた。その様子を見たルーミアがくすりと笑う。

 

「それにあの子は好奇心が旺盛(おうせい)で、それでいて妖怪に対してあまりにも無防備だから、幻想郷でそんなんじゃすぐに殺されちゃう」

 

「…………だから身をもって教えようと?」

 

ルーミアは無言でこくりと頷く。

 

「そんな事の為に貴方は死ぬの?」

 

「いいの。あの子に拾われた命だから、あの子の為に使いたいのよ」

 

それを聞いた鈴仙はしばらくの間、考える素振りを見せて、諦めたように口を開いた。

 

「…………分かった、引き受けたわ。だからもう眠りなさい。寝た方が楽よ」

 

「……うん。ありがとう鈴仙」

 

ルーミアは嬉しそうに笑って、瞼を閉じた。その表情は穏やかで、とても餓死状態にある者の寝顔とは思えなかった。 鈴仙はその寝顔を一頻(ひとしき)り見た後、荷物を持って小屋から出ようと、扉のノブに手を掛ける。

 

「……次は、人間の女の子に……生まれたいなぁ」

 

家から出る直前に鈴仙が聞いたのは、そんな一人の少女が持つ、(はかな)(あわ)い一つの願いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方の死に顔は、何ともまぁ穏やかだったわね」

 

 追想を打ち切った鈴仙は立ち上がり、スカートに付いた塵を払った。

 

「じゃあね、ルーミア。また来るわ」

 

そう一言言い残し、鈴仙は墓石に背を向け歩きだした。

 

緩やかに吹く風が、木々の葉を撫で音を鳴らす。一陣の風が、落ち葉を運んで空へ舞う。そんな風が止んだ頃、彼女の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 




そんな感じの真相でした。解説はいらないですよね。因みに、今回の話は題名が少しだけですがヒントになっていましたね。『ゆびきり』ですから、約束が重要なテーマになっていました。予約投稿なので、分かりませんが、私の見立てでは、『 鈴仙がルーミアの狂気を操って、両親を殺させた』と言う答えにたどり着いた方が何人かいらっしゃるはず。その方は、まんまと私とikayaki様が作った罠に引っ掛かったと言うことですね。これだと鈴仙はただ理由も無く人を殺す鬼畜兎になってしまいます。私が唯一、理不尽なレベルと豪胆しているの話なのに、そんな簡単な訳ないじゃないのですか!それでも現時点で既に正解している方がいる。まさかです。

と言うことで今まで本当にありがとうございました。これでメインは終わりとさせていただきます。最後に『Who is the liar 』と言う読み物と、ラストの締めの話を書いてこのシリーズを完結と言う形で。取り合えず一段落ですね。本当にありがとうございました。

『Who is the liar 』についてですが、この話は今のところ四話構成の読み物になっておりまして、そうなると章のどこに入れればいいのか分からなくなると言う問題が発生しました。結果、この話は『いないいないばぁ。』とは分裂した形で投稿したいと思っております。タイトルの訳が『嘘つきはだれか』と言うことなので、せっかくエイプリルフールが近いので、四月一日に投稿したいと思います。

あっ、まだ次話にまとめの話がありますので。


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花の名【解説】

絶対にヒント要らなかったな~。久しぶり過ぎて少し読者様を嘗めていたようです。この文は最後の段落(?)の前に挟み込む感じの文章です。なぜ幽香が花を用意したのかの説明の文ですね。



【解】

 

あの妖精の()は泣いたあの日以来しばらく家に来なかった。少なくとも今日までの七日間は来ていない。もう夏が終わるこの時期に、私はハハコグサを見つけたあの場所に来ていた。あのハハコグサは私が持ち帰ってしまったが、もしかするとまた新たな芽が出て大きくなっているかもしれない。季節外れの花に私は一方的な期待を抱いてそこへ向かおうと思い至ったのだ。今日もこの大通りには多くの足たちが皆、競い会うようにして追い越し、追い越されと競争していた。勝者の決まらない不毛な勝負。そんな(ぬか)に釘を打ち続けている競争会場を横切って、私は目的の場所を見下ろした。そこには何も無かった。いや、無かったと言うのは語弊(ごへい)がある。ただ生きたものが無かったのだ。私の足元には屍が転がっていた。本来ある筈の血色は失われ、茶色の地面と一体化するように横たわっていた。風化したその屍は一見しただけではもう何か分からないが、それでも私は確信できる。この屍はこの夏に、私が見つけ拾ったものだと。しばらく屍を見つめる。不思議と何も思わなかった。悲しみ、落胆、空虚、そう言ったものは一切浮かんでこない。私はしばらくその屍を見た後、そっと振り返り来た道を戻る。

 

ただここ数日前に、寺子屋に通っていた『緒形(おがた)』と言う名の人間の子供が病気で亡くなり、その葬式がその日行われていると知ったのは、それからすぐのことだった。

 

 

 

 

 

 

【解説】

 

答えは《チルノが言っていた『おがた』は人里の子供のことだった》ですね。筋はチルノは寺子屋で自分の隣に席にいる『緒方(君?ちゃん?)』が病気になり、そのお見舞いの花を幽香に貰いに行く所から物語ははじまります。そこでチルノはその『緒方』と同じ読み方ができる花を見つけます。「面白い!きっと緒方も元気が出る!」とチルノはそう思いその花をお見舞いの花にと決めます。それから花を貰った幽香に『緒方』の様子を伝えるのですが、幽香はチルノの話をしっかりと聞いていなかったのでそれを『御形(ごぎょう)』だとそう思い、会話を聞きます。しかし幽香はその後にチルノの話していた内容が人里の子供の一人だと知り、おそらく彼女が供養の花を欲しがるだろうとそう思い、花を用意して待っていた。みたいな感じですかね。

 

あとこれは言うつもりはなかったのですが、指摘された方がいて折角ですので言います。ハハコグサの花言葉は『忘れない』『優しい人』『いつも思う』等々。そういう意味も含めて、この話にハハコグサを使いました。それ以外の花は特に選んだ理由とかはありません。最後に揶揄した花も含めて特に何も決めてません。これは供花だと言う意味だけを込めて『白い花』と表記しました(供花は基本的に質素な花であれば何でもよいとされている)。途中でハッカの飴がユリのようだと言ったのはそれを分かりやすくするために入れただけです。感想の中で白い花がエーデルワイス(花言葉は『大切な思い出』)と言う素敵な指摘もあったのですが、残念ながら私はそこまでは裏設定を作り込んでいませんでした(と言うか正直エーデルワイスにしとけば良かった)。

 

久しぶりに投稿したからかもしれませんが、非常に多くの正解者様がいらっしゃりました。と言うか久しぶりの投稿で皆様の実力を見謝った結果ですね(笑)。

 

ちなみに、『御形ーーハハコグサ』のヒントを出したのは、「チルノの隣がたまたま休んでただけだろ!『おがた』かどうか分からないじゃん!」と言われるかな~と要らぬ心配をしたからです。まぁ正直、このヒントを出さなかった所で結果は変わらなかったと思いますが……。




最近、純文学ばっかり読んでいるせいで文章表現が分かりずらいですね。申し訳ありません。なんかこうエセ純文学みたいになってます(笑)。

あと実はもう一話載せました。その理由は最新話を参照で……。


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またね【解】

違うなぁ~違うわぁ~。私がやりたかったのこれじゃないわ~。「べ、別にあんたのために最速記録を出すチャンスをもう一回あげたかったわけじゃないんだからね!か、勘違いしないでよね!」と言うことをやりたかった訳ではないんですよ。なんで前回の十五分を上回る十三分で解いちゃうかな~。しかもその後のフルボッコ感はんぱないッスね(泣)。流石に完敗です。あと皆様考え過ぎでしょ。感想見たときに

Gasshow「………………ワロス」

これに尽きます。凄すぎて乾いた笑いが浮かびました(笑)。逆にこれくらい考えさせるような話にしなければ皆様には勝てなかったと言うことでしょう。嘗めてたなぁ~。まだ細かく感想を読んでいなので、改めて深く読ませていただきます。

感想一杯書いてくださって嬉しかったです(ボソッ)。



稗田阿求(ひえだのあきゅう)はいつの間にか黄泉の河を渡る舟の上にいた。ああ、自分は死んだのかとそこで理解する。辺りに漂う真っ白な霧がそれを強く証明していた。そこでふと阿求は目の前に一人、ある人物が立っていることに気がついた。

 

「……あら小町さん。お久し振りです」

 

阿求の乗る船は、一人の死神によって動かされている。それが今、阿求に背を向けて舵をとる彼女ーー小野塚小町(おのづかこまち)であった。

 

「………………………………。」

 

小町は阿求の問いには答えないで、ただ黙って舟を漕ぐ。

 

「答えてくれないと寂しいですよ、小町さん」

 

阿求はフフッと笑ってそう言った。

 

「………………あんた、自分がしでかした事の大きさを分かっているのかい?」

 

阿求の要求に答えるように、小町は口を開けた。その声質には少なからずも怒気が含んでいるように感じる。

 

「と言うと?」

 

しかし変わらず阿求は笑う。まるで上手くいった。私の思い通りだと言わんばかりに。小町はそんな阿求の笑い声を後頭部に受けながらゆっくりと口を開く。

 

「分かるだろ。一人の人間を輪廻の輪から外したんだ。ここまで残酷なことはない。あんたはそれをしでかしたんだよ」

 

息を切らさず小町は続ける。

 

「覚悟するんだね。あんたに閻魔様がどんな判決を下すか、私に分かりはしないけど」

 

そんな脅しに代わりはない小町の言葉に身じろぎすらしないで、阿求は歪んだ口をさらにねじ曲げた。

「関係ありませんよ。どんなことがあっても、次に生まれる『阿礼乙女(あれいおとめ)』に罪は無い。私がそうである以上、私は百年後に戻ってくる。彼女が待つあの場所へと」

 

それを聞いた小町は大きく溜め息を吐いて、後ろを振り向いた。やっと二人の目線がぶつかる。

 

「前の代では、あんたがこんなことをするような奴には見えなかったんだけどねぇ」

 

「そうなんですか?私は転生したら記憶は殆ど抜け落ちてしまうので、先代の阿礼乙女の事など知りもしませんよ」

 

阿求の崩れない態度に再び溜め息を溢した小町は、前を向き懸命に舟を漕ぎ始める。霧が晴れ始め、岸が顔を出す。もうすぐで彼女たちの短すぎる船旅が終わろうとしていた。そして舟が岸に着く直前、小町は改めて忠告する。

 

「とにかくあんたには然るべき罰が下されるよ。本来なら阿礼乙女がする転生までの準備期間は閻魔の手伝いだけなんだけど仕方がないね。なにせあんたは一人の人間をーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 




解説を載せると言ったのですが、まだ整理できてないのでもう少しかかります。申し訳ありません!

あとこれで最後だと言ったのですが、もし私が再びこう言った形式の文を書きたくなるかもしれないと言う保険の為に一応言っておきます。

気分が乗ればまた投稿します!……と(たぶんしない)。

まぁ投稿したとしても一年後とかそんな単位になると思います。ネタはあるんですが、今は他の小説を書くのが楽しいので、そちらに気が行っています。




・ 難易度Lunatic以上 (理不尽)
『謝罪文』or『いきもの係』

・難易度Hard
『幼き魔女の呪い』or『四姉妹』or『外へ』

・難易度Normal
『いたずら』or『方程式』

・難易度Easy
『屍を敷かねば』or『嫌い』


もし良ければ一つ()()()を選んで下さい。恐らく投稿するかは分かりませんが(たぶんしない)、もしまたこう言った形式が書きたくなればこの中で多かったやつを投稿します。難易度の下にあるのは今のところの私のメモにあるプロットができている話です。内容は言えないのでタイトルだけ載せました。良ければ参考に。

あと追加の話の正解者様も発表しているので、見たい方は活動報告のあとがきを見てください。


では今までご愛読していただき、本当にありがとうございました。


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謝罪文【解】

解説と正解者様はまだ載せておりません!申し訳ないです!また後日に載せます!

今回、色んな解釈があって凄く面白かったです!相変わらずの感想で、毎回感嘆させられます。


その部屋はいつどんな時でも小刻みに震えていた。何の恐怖を感じていたのか、それともただの癖のような物なのか。それは誰にも分からなくて、誰も知ろうとはしなくて、そして誰もそんなことには気づいてはいなかった。ただ一人だけ、部屋の所持者である彼女だけはその事をよく理解していた。部屋である以上、“恐怖”など全く感じることはないのだと。しかしその部屋はずっと震えて揺れていた。まるで誰かの震えがその部屋に伝わっているかのように。

 

 

 

「…………全く、皆大変だねぇ」

 

にとりは半開きになった扉を見つめながら、ふとそう呟く。そんな彼女の呟きは、部屋を響かせる機械の重低音に書き消され、押し潰されて無くなった。そして、ふとにとりが見たモニターにはもうあの少女の姿は無かった。

 

「…………にしても、まさか腕一本分だけ木材が足りなくなるなんてね」

 

にとりはモニター横にあるリモコンを手に取って一つのボタンを押し、しばらくして今度は先程押したボタンの隣にある小さなボタンを押した。そこでモニターに映る映像が()()()()()()()()()。そして、にとりはある部分でピタリと映像を止めた。そこには一人の少女を捕まえて引きずる彼女自身ーーにとりの姿が映っていた。にとりはその映像を見てクヒヒと薄気味悪く笑い、モニターの電源をそっと消した。

 

「あいつ、油断ならないから少し怖いけど、まぁ共犯者だしね」

 

そう言って、にとりは机の上に置かれた“河童の腕”と書かれた、黒ずんだ箱を開けてそこから一本の腕をそっと取り出す。その腕は幼くまだ生気を含んでいるようなーーまるでまだ腕だけが脈を打ち、呼吸しているかのようなそんな錯覚さえ感じさせる生々しさがあった。にとりはそんな腕に頬ずりをしながら、部屋のある小さな扉に目線を向けながらポツリと呟く。

 

「ほんと、貴方の腕は綺麗だね」

 

 

 

ーー小豆ちゃん。

 

にとりはそう言って、取り出した腕を元の箱へと戻して、机の引き出しから一枚の紙と筆を取り出した。椅子を引いて腰を降ろす。木材でできたその椅子が、彼女の体重によってけたたましく(きし)んだ。手に持った筆を墨に浸して、それを紙の上に乗せる。彼女は手紙を書くのだ。宛先は『八意永琳』。

 

その内容はこう。

 

 

『次、紅魔館に行く時、以下の文を貴方が読んで、フランドールにそれを文字に起すように頼み、その紙を私に渡して欲しい。その時に私も薬を渡そう』

 

 

そこでにとりは一旦、筆を置く。それからニヤリと笑って、また文字を書き始める。そんな残虐で残酷で残念なほど空っぽなその初めの書き出し、それはーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

“ごめんなさい ”

 

 

 

 

 

 




まぁ普通に理不尽でしたね(笑)。正解の基準は、文の中で分かる範囲での正解を出していた方と言う部分ですので、少し外してても全然正解にいたします。

次、書くか分かりませんが一応聞いておきます。一応、ネタは十近くあるんですがその中からとなると色々大変なんで、完成度の高いものを三つ厳選しました。

・いきもの係 (Lunatic以上 理不尽)

・ワタシノハナシ(Hard)

・いたずら(Normal)

どれがいいです?


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有るか無きかのすずろごと


締めの話です。


「ーーーーって言う話でした。どう?中々に良い話でしょ?」

 

ちゃぶ台を囲んで座っている四人と、ちゃぶ台の上にいる一人にそう言って、博麗の巫女である霊夢は得意気な顔でそう言った。

 

「まぁ霊夢さんにしてはまともでしたね」

 

「霊夢にしてはな」

 

「霊夢にしてはね」

 

早苗、魔理沙、咲夜の三人はそう言って霊夢を見る。

 

「ちょっと、私にしてはってどう言うことよ!」

 

お前たちは普段、どんな目で私を見ているんだと、憤怒する霊夢。

 

「わ、私は良い話だと思いました!」

 

「そうよね!私の味方は針妙丸だけよ~!」

 

そう言って霊夢は針妙丸を掬い上げて、頬擦りをする。体格さ故に、針妙丸が若干苦しそうな顔をしているが、霊夢からは全く見えていなかった。

 

「でも皆さん、よく即興でこんな話を作れますね」

 

 霊夢によってふらふらにされながらも 針妙丸は一つの質問をした。彼女は自分だけが話をしていないので、そんな疑問が浮かんだのだろう。しかし返ってきた答は予想外のものだった。

 

「作ったと言うよりは、元々知ってる話を知り合いに当てはめてるだけですよ。皆もそうですよね?」

 

妖夢の返答に四人はコクりと一斉に頷く。そう言うことかと、針妙丸は納得したように唸った。

 

「まぁこんな事になったのは霊夢のせいだよな。始めは怖い話をしてたのに、いきなりこっちの方面に持ってくからさ」

 

「幻想郷で怖い話なんかしても面白くないでしょ?しかもこの面子で」

 

そう言われればそうだなと、魔理沙は苦笑いをした。

 

「でもこれって本当にあった話も混じってるんですよね?」

 

「あぁ、私が話した話なんてそうだな」

 

魔理沙は自分が話した、アリスについての話を言葉で指し示した。しかしそこで、話を打ち切るようにして早苗が咲夜に食ってかかった。

 

「そう言えば咲夜さん!何で私があんなに頭おかしい子になっちゃってるんですか!?私が外の世界にいた頃は、髪を染めてましたし、それに皆とも仲良くしてましたよ!」

 

「それは貴方が紅魔館を悪く言ったからでしょ?たとえお嬢様の為と言っても、パチュリー様は妹様を手にかけたりなんかしないわ」

 

バチバチと二人の間に火花が散る。そんな二人の間に入るようにして、霊夢は彼女たちの顔を手で押し退けた。

 

「まぁまぁ、ただの暇潰しだったんだからいいじゃない。それにもう遅いわ。今日はもう帰りなさい」

 

外から見える太陽は沈みかけ、辺りは薄暗く変化していた。

 

「そうね。もうすぐお嬢様様が起きてしまうわ」

 

「じゃあ、解散しましょうか」

 

早苗の一言が合図で彼女たちは一斉にそれぞれの場所へと帰っていった。しかし魔理沙だけはそこに(とど)まり霊夢の側で座っていた?

 

「どうしたのよ?魔理沙」

 

それを不審に思った霊夢は、ふと魔理沙にそう尋ねる。

 

「…………なぁ霊夢。久々に二人で人里に食べに行かないか?ここから夕飯の準備をするのも面倒だろ?」

 

「…………そうね。たまにはこう言うのも悪くないわね」

 

霊夢はにっこりと笑ってそう言う。魔理沙もそれに対し嬉しそうな笑みで返した。それから二人は共に外へと向かった。

 

「で?どこに行くのよ?」

 

「そうだな……うどん屋なんてどうだ?目玉焼きうどんが久しぶりに食べたいなと思って」

 

「うわ!本当にあったのね、それ」

 

こうして二人は沈む太陽に向かい消えていった。

 

それはこれからも、彼女たちが紡ぐすずろごと。

 

 

 

 

 

 




まとめの後書きは活動報告で。

解説あります。


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解説

か、活動報告って五千文字が限界だったのか……。やむ負えずここに投稿します。


恐らく作者本人である私も忘れていたりして、抜けている伏線が多くあると思います。あくまで参考としてお使いください。

 

 

 

 

 

『いないいないばぁ。』

 

この小説の中で、『古明地こいし』と言う妖怪は存在しません。すでにこいしは死んでいます。(こいしファンの方、申し訳ありません)。さとりが語ったあの過去で妖怪のリンチにあった時、一命を取りとめたのではなく、こいしは死んでしまったのです。それを受け入れられずに、さとりは空想の『古明地こいし』を自らの中に作りました。それも《無意識を操る程度の能力》と言う、自分を騙すのに都合の良い能力を付けて。

 

地霊殿のペットたちは、『古明地こいし』などいないと分かっていながら、何か事情があると察し、さとりの為にこいしがいるように演技しています。しかし馬鹿なお空だけは、本当にこいしがいると思い込んでおり、さとりに「こいしが帽子をしていないなんて珍しいでしょ?」と聞かれても「う~ん、(こしい様を)見たことないですから」と正直に答えました。お燐にしても、言わなければいけない場面で、こいしの名前を所々で抜かしていたり、こいしが突然に現れても驚かなかったり、更には(見たことないから)こいしの帽子を知らなかったり、そもそもこいしの台詞を飛ばして読んでも、さとりの台詞だけを聞けば、会話が成立していたりと、ちらほら伏線を仕掛けておきました。

 

さとりが言っていました。 「覚り妖怪と言うのはね、事実から、本当に知りたくないことから目を背けると、()を閉じてしまうの」と。だから、こいしが一緒にいる間は、さとりも第三の目(サードアイ)を閉じてしまっていて、お空やお燐の心が読めないでいたんですね。(目を開いたら、こいしが死んだと気づいてしまうから)。大まかな説明はこんなものですかね。

 

 

 

 

 

 

 

『きゅうけつ鬼ごっこ』

 

結論から言いますと、この話に出てくる『フランドール・スカーレット』は、パチュリーの魔法によって姿を変えた小悪魔です。フランの《狂気》を取り除けないと知り、パチュリーは思います。このままいけば、フランによって、咲夜や美鈴、レミリアまでもが命を失いかけないと。レミリアも、『フランドール』と言う呪縛から永遠に開放されることはない。だからパチュリーは考えたのです。これら全てが解決する方法を。それはフランを殺して(フランちゃんファンの方、申し訳ありません)その代わりに、フランの姿に形を変えた小悪魔をレミリアの妹と言うポジションに置くこと。そのためにレミリア以外のメンバー。咲夜、美鈴、小悪魔と結託して作戦を練りました。それは、まずフランを《狂気》から救う事ができる魔法を開発したと言って、吸血鬼の特性が消えると言う副作用についてレミリアに刷り込みをする。続いて理由を付けてレミリアを地上で待機させ、フランを殺す。そして小悪魔の姿をフランと同じにする。最後に小悪魔が戦闘で死んだと言えばこの状況にすることができる。作戦は見事に成功し、こうなったと言うわけです。そもそも《境界を操る程度の能力》をもつ紫ですら分離出来なかった物を、魔法程度でどうこうできるとは思えませんからね。

 

フランドールに成り代わった小悪魔では吸血鬼の特性など持っているはずもなく。そして、レミリアもフランのせいで初代小悪魔(今、図書館で秘書をしているのは再度召喚した別の小悪魔)が死んだと思っているので、別個体の小悪魔の声が聞こえてきた時に、思い出してすまないと謝ったんですね。

 

ちなみにこの話の題名である『きゅうけつ鬼ごっこ』は実際にあるスペルカードから取りました。正式な読み方は《きゅうけつおにごっこ》なのですが、私は昔これを、《きゅうけつきごっこ》と間違って読んでいました。実はそこからこの話を思い付いたんです。なので、答えがまんま題名になってしまいました(苦笑)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『盃の中の月夜』

 

答えの方ですが『幻想郷は存在しない』でした。単純に言うと、幻想郷が滅んでしまってから、紫が博麗神社に来て、過去の回想をしている話なんです。実はこれ、紫が博麗神社に訪れる場面をまんま抜いたような形になっています。だから始めから回想なんですよ。途中で目を瞑って、溜め息を吐いて、そして目を開けた場面がありましたよね。あそこが回想と、そうでない部分の分かれ目です。ぼかしたんで一見、繋がってるように見えるんですけどね。見分け方は何個かあって、まとめると《途中で盃の色が紅色から朱色に変わっている事》《地の文で、焦がれ恋した幻想を見たと書いてあるのに、後半ではもう見ることさえできないと言っている矛盾》《前半では紫の全身を照らすほど光が強いのに、後半には月だけが映っていると書いてある。それだけの光なら、盃に宴会で生じている光も映っているはずなのに映っていないのは不自然》とまぁこんな感じです。あと柱の傷は、前半部分が実際にあった出来事だと証明するために付けました。

 

大勢の人妖たちが宴会をする光景を恋い焦がれた幻想と比喩されています。ので、それがもう見れないと言うことは、もう宴会を開けないと言うこと。なんで幻想郷が滅んでしまった……と解釈して貰えると嬉しいです(心配)。『月』を強調したのはフェイクです。そっちに目が行くかなと思い書いたのですが、それはあまりに理不尽かなと思い、ちょっとしたヒントにもしました。タイトルをヒントと言ったのは、盃に目を向けろと言った意味だったのですが(色の変化)、まさか月夜の方が注目されるとは……ヒントどころかフェイクに目を向けさせてしまいましたね。申し訳ありません。

 

 

なんかこの話だけ、間違い探しみたいになっていると思ったのは私だけだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

『不思議の家の人形劇』

 

取り合えず結末を言うと《アリスが完全自立人形のテストをしていた》と言うことですね。流れから言いますと、アリスは長年の研究の末に、ある程度のクオリティーを持った完全自立人形のを作り上げる事に成功しました。そして、その性能を確かめる為にある一つのテストをするわけです。 それはまず、完全立律人形であるアリス人形に、自分の記憶と、昨日魔理沙が血だらけで不振な行動をしていたと言う記憶を植え付けます(手段は何でもいいです。魔法的なことでもいいし、実際に動かして見せるとかでもいいです)。そして、アリス人形を普段の自分と同じような生活をさせて、協力を頼んだ魔理沙orアリス本人が操る魔理沙人形(文脈では判断できない。作者は魔理沙人形にしました)に自分が殺人事件の犯人と思われるような話をします。しかし結果は惨敗。思考能力(魔理沙を全く疑わない)に欠点はあるわ、途中で動きが停止するわで散々な失敗作だったのです。そして実験中に故障して異常が発生した人形の暴走を恐れたアリスは、アリス人形の首を切り落として終わります。簡単な流れはこうなります。

 

まず最初に気がついて欲しいのは、語り手のアリスが人形だと言う点。斧で首を切られても、斧については銀に輝くとしか書いてません(血についての表現がない)。あと、アリスの動きが止まった時に、壊れた機械のようなと表現している所から、そう推理していだだけると。それともう一つ、この語り手のアリスの察しが異常な程に悪いと言うこと。普通、帰り道に血だらけで帰ってる奴を見かけたその日に殺人事件があったら、ほんの少しでも疑いますよね。それをアリスは普通にスルーしました。しかしそうなるとおかしいのは魔理沙。そんな姿を目撃されているのに、遠回りに探りを入れるならまだしも、自分からストレートにそう切り込むのは明らかに無用心。東方projectをある程度知っている皆様なら、この二人がそんな馬鹿なはずがないとすぐ分かると思います。魔理沙がため息を吐いたのはこの人形が失敗作だったと判明したからですね。決して安堵の溜め息ではありません。それに殺人なんて勿論、起こってませんよ。アリスが実験の為に言った嘘です。細かい裏設定を言うと、アリス人形がいつもより遅い時間に起きたと知覚したのは、アリスが実験の準備をしていたからとか、まぁ色々あるんですが、それはただ単に自分の自己満足なので、分からなくて当然です。気になさる必要はありません。

 

本来ならアリス人形を故障させなくてもよかったのですが、どうしても首をはねられて終わりと言う感じにしたかったので、故障させました。失敗しただけなら別にわざわざ首をはねる必要はありませんからね。

 

 

 

 

 

 

『後ろの正面だぁれ?』

 

後ろの正面だぁれ?『八雲紫』と言う事ですね。まぁ 今回の結論は簡単です。 『射命丸文が、調べてはいけないことまで調べてしまった』と言うだけです。十年前、霊夢の死を怪しく思った魔理沙は、それについて詳しく調べます。しかしそれは、《妖怪の賢者や、天魔までもが隠そうとする何か重大な事》。それに気がついてしまった魔理沙は、紫に殺されてしまったんですね。しかし、そうなると阿求も怪しい。阿求も紫と結託していると考えるべきです。可能性としては二つ。魔理沙が事実に気がついたのを確認するために接触したのか、わざと魔理沙に気がつかせて妖怪の賢者に殺させたのか。後者だったら阿求さんマジで狂ってますけどね。それに途中で気がついた射命丸は、このままこの事件を調べては不味いと思った。

《そして察する。ある事に》

しかしその瞬間、自分の背後に誰かの気配があることに気づきます。

《そこで気がつく。ある事に》

射命丸はもう既に遅かったと後悔するんですね。

《間違えた(この事件を調べること自体)》

何か射命丸文さんにしては馬鹿だなと思われるかもしれませんが、まぁそれは話の流れでスルーしといて下さい(別にはたてでも良かった)。

 

要点は射命丸が最後に言った台詞と、天魔からも止められていたと言う証言。あと地下室の鍵が内側からかかっていたと言うか部分。地下室の鍵が内側からかかっていて、魔理沙を殺せるとなると(この話の中では)三つの可能性が出てきます。

・アリスが人形を地下室に設置していて後から操って殺した。

・紫に殺された。

・魔理沙の自殺。

これら三つを考えていくと、まず一つ目はアリスが殺す理由が見つからないので却下。二つ目はあるかもしれないが、文面からは確定的な推測が全くできないのであり得ない(する理由が見つからない)。そうなると、他のと比べると三つ目は可能性として十分にあり得ますよね。

 

今回は話のまんまだったのですが、皆様が思ったより『霊夢の死』について深く考え込んでしまうような文章を作ってしまいました。申し訳ありません。この話での霊夢の死は《紫が隠している何かヤバイこと》としての役割しか果していません。なのでそこに深い意味は存在しないのです。簡単にしようと思って、文字数減らしたのですが、それが逆に説明不足になってしまいましたね。勉強になりました。これからは注意します。

 

 

少し感想を見て思ったのですが、私が今まで出してきた問題がかなり裏設定まで作り上げて、練った問題だったので、この話で深くまで裏をかかれた方が数多くいらっしゃりました(笑)。

しかし!最初に言いましたが、これはeasyレベルをイメージして作りました。なんでそんなに深くまで読み取らなくても分かるようにしています。ですがそれが仇となって、皆様があまりに普通すぎる結末を思い付かなかったのではないのかなと。

 

実は私は問題を作るにおいて、ある程度の自分で作ったルールがありまして、それは『基本的に推理ではなく、妄想レベルに達する答えは作らない』と言うことです。なので、皆さんが霊夢の死に食いついてらっしゃいましたが、この話で霊夢の死んだ理由なんて、いくらでも捏造できるので、そこはあまり推理に関係ないようにしています(いくらでも拡大解釈ができてしまうので)。

 

本当は、霊夢の死んだ経緯とか理由とか別の場面で書こうと思ったんですが、それだと文字数が多くなって難易度高くなるかなと思って、そこは全部消したんですが…………それが余計でしたね。こうなると簡単な問題を作る方が作者にとっては難しいかもしれません。

 

 

 

えっ?霊夢が殺された理由ですか?その部分は一度書いたので、もちろん考えてありますよ。

 

それはですねーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

『かえるのうた』

 

今回の話。取り合えず真相を言ってしまうと、《早苗さんが二重人格だった》。あと諏訪子も神奈子も存在いたしません。形は違いますが『いないいないばぁ。』同様に実在しないものとなっております。

 

この話の早苗について順を追って話しますと、早苗さんは日々のいじめで精神を浪費して、色々とおかしくなっていきます。始まりははいじめに耐えかねて、自分の理想とする母親であり、父親であり、友達であり、姉妹である二人の神様を無意識に作ったことから始まります。(文脈では正確に把握できないので、『いないいないばぁ。』みたいな妄想でもいいですし、早苗さんの力で虚像を作ったとかでも何でもいいです。作者は後者的な感じにしました)いつの間にか、自分で作り上げた神様で早苗は自身を慰めます。しかし、それでもなお、いじめは続いていきます。そして自分を圧して、我慢した結果、今度はそれらを発散するもう一人の自分を作り上げました。そんな欲望に沿って忠実に行動をする裏早苗さん。まぁ俗に言う二重人格です。これは、そんな早苗さんが起こした事件なんですよ。

 

話の始まりは、とある日の火曜日。掃除を押し付けられ、一人で掃除をして帰宅。神奈子と諏訪子としゃべりその日は終わります。しかし掃除を押し付けられると言う新たなスタイルのいじめを受けたストレスにより、裏の早苗さんが水曜日に出てきてしまったんですよね。その裏早苗さんが学校に行き、よく自分をいじめている三人に日頃の仕返しをします。結果、早苗ごときにやられっぱなしは嫌だと言うことで、翌日の放課後にその三人から報復を受けるのです。しかし、その途中で暴力がトリガーとなり裏の早苗さんが再び現れます。現人神に近い存在である早苗さんの力に、一般人である女子三人が敵うはずもなく、そのまま教室で殺されてしまいます。今までの恨みとばかりに蛙を胃袋に敷き詰めて、首をもぎ取り、あとは本文と同じ感じに。蛙はどうやって集めたんだ?とかはまぁ都合良く解釈して下さい(笑)。そうですね、もう全部早苗の能力でたまたまかえるが一杯見つかったとかで(早苗の能力万能説)。ぶっちゃけるとこれは、女子三人を諏訪子が殺したと思わせるために、作者が書いただけです。あとそれからは裏の早苗さんが制服を着替えて、血を被った制服は裏の林に捨てます。それからトイレで肌等にに付着した血を落として、あとはもう話の通りです。蛇足として、早苗が作った諏訪子が早苗に都合の良い話を言ったのは、犯人である早苗の真相心理がそうさせたのかもしれませんね。

 

簡単に経緯をまとめます。

 

火曜日

・早苗さん。虐められて帰宅。

水曜日

・裏の早苗さんが登校。いつもいじめている三人に何らかの仕返しをする。

木曜日

・早苗さん。屋上に呼び出される。昨日、早苗に仕返しをされたままが嫌な三人は、いつもより酷い仕打ちを早苗に。それが切っ掛けで、裏の早苗さんが出てきて、三人を殺す。証拠を隠滅して、トイレで戻る。

金曜日

・朝を向かえる。三人が死んでる事を知らされる。終わり。

 

個人的には早苗の記憶にない曜日がある。諏訪子は神社の境内から出ることができないのに、首を跳ねられると言う物理的な殺され方をしている。となると犯人は早苗さんしかいないんじゃない?と言う風に簡単に予測されると思ったのですが、案外そうでもなかったようでした。

 

*正解者様が少なかったので、以下は細かい解説。面倒な方は読まなくて結構です。

 

気づくポイントは、いくつかあり、まずは曜日についてですね。ヒントがあるので全て割愛しますが、なんで一日だけ記憶がないんだと言うことに気がついてほしいです。それからは神奈子と諏訪子が神社の敷地内から出られないと書いてある事に気がつけば、もう女子三人を(直接手を下して)殺したのは早苗しかいないと言うことが分かると思います。それは制服のが着替えられている点からも分かりますかね。後の細かい根拠は全文を参考で。

 

証拠が見つからなかったのは単に早苗さんの能力です。もうヒントのまんまですね。ちなみに細かい事を言うと、早苗が諏訪子と神奈子を作る際に、信仰心が無くて今は殆ど力を失っていると設定した方が、何の違和感もなく存在できると思ったんですよね。そりゃ自分の脳内or虚像の存在が、マジの神様レベルの力を発揮できるはずがないですからね。

 

 

まぁ真相はこんな感じなのですが、皆様の感想を見ていると、諏訪子と神奈子が本当に存在していて、早苗の体を乗っ取るor操って殺させるとかでも全然、辻褄は通るんですよね。

 

これだと一応、諏訪子に人の体を乗っ取る力があるなんて東方の設定にない等の疑問や、何で急にいじめが暴力化したのか等、回収できない伏線はあるのですが、それでも全く違和感はないので、これも正解かなと思いました。

 

この話、もう少し文字数増やした方が良かったかなと今更後悔しています。確か六千文字少し上くらいだったのですが、ここまで場面を跨ぐならその倍くらいがちょうどよかったのかもしれません。素材は良かったので、ちょっとした本格的な推理物にできたなと、自分の力量を再確認しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

『哀々傘』

 

答えは《寺で出されている食事は人間の肉だった》と言うしょうもない話です。

経緯は簡単です。妖怪が多くいる命蓮寺は、人間の肉が必要になってきました。しかし、人間の肉は滅多に手に入る物ではない。そこで考えた訳です。葬儀に見せかけて、死体を入れ換えればいいんじゃないかと。だから聖は前日に生身の死体を受け取ったんですよね。念仏を唱えるとか適当言って、人間の死体とダミーを入れ換える時間を確保するために。ダミーを用意するのは簡単です。マミゾウさんですね。命蓮寺が火葬しないのは、マミゾウさんが人間の代わりとして化けさせた動物の骨がでてきてしまうのを防ぐためです。そこら辺を踏まえて、小傘の食事シーンを思い出せば、真相は出てくるとおもわれます。さらには翌朝には体に力がみなぎるとも言っていました。ちなみに村紗が肉料理を食べなかったのは、真面目だからとかそんなのではなく、それが人間の肉だからです。妖怪なら別として、幽霊は基本的に人間の肉は食しませんから( 幽々子さまなら食べそうだけど )。その証拠に、【解】では寺とか関係なく普通にお酒を呑んでいました。

 

話としては、餓えに苦しんでいた小傘を助けるために、聖が人間の肉を食べさせたと言う話です。普通に言っても、聖の施しなんか受けるかよ!的な感じで断られると思った命蓮寺の面々は、内緒でこっそりと小傘に人肉を食べさせようとする。そんな流れです。ですので、わざわざ小傘をツンデレっぽい性格にしたんですよね。じゃないと話に違和感が出るかなと思ったので。

 

文を省いたり、ダミーを多く入れたのにも関わらずの瞬殺でしたね(笑)。

 

 

 

 

 

 

 

『ゆびきり』

 

これは《ルーミアは少年との約束を守るために死んだ》ですね。幼い故に美春君は良かれと思ってルーミアと人間を食べないようにと言う約束をしますが、彼は『妖怪の餓え』と言う苦痛や『人間の肉を食べないと死んでしまう』と言った妖怪の原則を知らなかったのです。しかし美春君から貰った命をルーミアはその約束を守るために使い、せめて彼に殺して欲しいとそう思って鈴仙の能力でルーミアが自分の両親を殺したと言う幻覚を見せて、美春君に殺して貰った。流れはこうですね。

 

推理をするとしたらまず、ルーミアが異常(自分の命以上)に約束に固執している所と、タイトルで『約束』がテーマになっているのかな?程度に思って貰えるだけで、少しは見えてくるかなと言った感じです。ルーミアが自殺と言う部分は、いくら弱っていたとは言え、人間(美春君両親)の肉を食べた直後の彼女が彼に力勝負で負けるはずがないと言った所ですね。そもそも本当に肉を食べていないので、そこら辺も根拠になるかと。あと美春君が帰り道に道案内を頼まれた女性は鈴仙ですね。その時に彼女が美春君に能力をかけて幻覚を見せたのです。あとルーミアが喉を手で捕まれているので何と言っているのかは分かりずらいですが、最後に言ったあの台詞は「(いままで)ありがとう」と言っています。

 

 

この話に関しては【解】を最近書いたので、解説に書き忘れている伏線が多々あると思います。思い出したらまた付け足していきますので、そこはご了承ください。

 

 

 

 

 

 

 

『花の名』

 

答えは《チルノが言っていた『おがた』は人里の子供のことだった》ですね。筋はチルノは寺子屋で自分の隣に席にいる『緒方(君?ちゃん?)』が病気になり、そのお見舞いの花を幽香に貰いに行く所から物語ははじまります。そこでチルノはその『緒方』と同じ読み方ができる花を見つけます。「面白い!きっと緒方も元気が出る!」とチルノはそう思いその花をお見舞いの花と決めます。それから花を貰った幽香に『緒方』の様子を伝えるのですが、幽香はチルノの話をしっかりと聞いていなかったのでそれを『御形(ごぎょう)』だとそう思い、会話を聞きます。しかし幽香はその後にチルノの話していた内容が人里の子供の一人だと知り、おそらく彼女が供養の花を欲しがるだろうとそう思い、花を用意して待っていた。みたいな感じですかね。

 

あとこれは言うつもりはなかったのですが、指摘された方がいて折角ですので言います。ハハコグサの花言葉は『忘れない』『優しい人』『いつも思う』等々。そういう意味も含めて、この話にハハコグサを使いました。それ以外の花は特に選んだ理由とかはありません。最後に揶揄した花も含めて特に何も決めてません。これは供花だと言う意味だけを込めて『白い花』と表記しました(供花は基本的に質素な花であれば何でもよいとされている)。途中でハッカの飴がユリのようだと言ったのはそれを分かりやすくするために入れただけです。感想の中で白い花がエーデルワイス(花言葉は『大切な思い出』)と言う素敵な指摘もあったのですが、残念ながら私はそこまでは裏設定を作り込んでいませんでした。と言うか正直エーデルワイスにしとけば良かった。と思いました。

 

久しぶりに投稿したからかもしれませんが、非常に多くの正解者様がいらっしゃりました。と言うか久しぶりの投稿で皆様の実力を見謝った結果ですね(笑)。

 

ちなみに、『御形ーーハハコグサ』の

ヒントを出したのは、「チルノの隣がたまたま休んでただけだろ!『おがた』かどうか分からないじゃん!」と言われるかな~と要らぬ心配をしたからです。まぁ正直、このヒントを出さなかった所で結果は変わらなかったと思いますが……。

 

 

 

『またね』

 

真相は《阿求が小鈴に蓬来の薬を飲ませた》ですね。文章中にある ーー

 

「それと、永遠亭から貰った栄養剤が、日記の仕舞ってある引き出しと同じ所にあるから貴方にあげるわ。勿体ないから必ず飲んでね」

 

「…………ええ。でも小鈴、でもそれは少し勘違いよ。追いかけるのは私の方。待つのは貴方」

 

(不老不死になった小鈴の元に、百年後会いに行くため)

 

「もしかすると次に私が貴方と会った時、貴方は私を殺したいほど憎んでいるかもしれない。いえ、もしかすると単に再会の嬉しさをお互いの笑顔で表すかもしれない。それはその時になってみないと分からない。それでも私は貴方のどんな感情も受け入れるわ」

 

この三つの台詞から“蓬来の薬”と言う部分に行き着いて貰えるかと思います。後は文章中にある阿求が見せた、小鈴に対する異常な執着。これも少しでも話の筋を通すためにと思い書きました。

 

この三つの台詞を文章中に隠すため、かなり意味のない話を挟んだりしたんですが、普通に解かれましたね(笑)。あと感想を読んでいて、皆様が恐ろしく考えて出した感想が非常に面白かったです。声を挙げて「お~」と唸ってしまいました。鉄血☆宰相様の感想とかは私好みで「パネェ!」となったので、ちょっと興味があれば読んでみるのも面白いと思います。

 

 

『謝罪文』

 

では解説です。これは《少女を拐ったのはにとり》と言う落ちでした。流れを話すと、にとりは何かの目的でどうしても生きた生身の人体が欲しかった。しかしそれはそう簡単に手に入るものではなく、入手は困難だった。そこでにとりはばれずに人里から人間を拐う方法を模索する訳です。

 

そしてある日、上白沢慧音がにとりに“防犯カメラ”作成の依頼をしてきます。それを利用してにとりは子供を拐う計画を立てました。それは『録画した映像を防犯カメラでリアルタイムに映している映像と思わせて、アリバイを作っておきつつ子供を拐う』と言うものでした。

 

その詳細は、その日の午前中に目当ての子供を妖怪の森麓へと連れ出して、そこから彼女を一人にさせてその映像を録画します。そして少女を拐って、慧音を自宅に呼び出し、その映像をリアルタイムだと思わせて見せる。

 

しかしまだ弱い。にとりは思いました。もし自分が人里の子供を拐ったとばれれば、それはもう人里との関わりを断ち切られるどころか、幻想郷で肩身の狭い思いをすることになる。

 

そんなことを考えていた時に訪ねて来たのが八意永琳。どこからか“秘薬”の話を聞きつけ、それを一つ貰えないだろうかと相談を受ける。そこでにとりは永琳に協力を求めることにした。

 

永琳は紅魔館へ行き、妹の狂気を押さえられる薬ができたと言って、しばらくそれを処方する。しかし実はその逆、狂気を促進させる薬を渡して何度かフランを暴走させます。

 

そして予め永琳と決めていた日にフランを暴走させ、もしばれたとしても自分に疑いが行かないように仕向けたと言う訳です。

 

謝罪文は、にとりが内容を作って永琳を使いフランに書かせた(治療の一貫などと言って)のですが、永琳はそこでにとりに無断で内容に手を加えます(謝罪文解読に記載)。これはもしにとりと自分が共犯だとばれても、「自分はやむ無くやった。本当はやりたくなかったが仕方がなかった。だから手紙にヒントを入れた」等適当を言って逃げるための保険が欲しかったからですね。

 

 

 

 

ちなみに“河童の腕”は鈴奈庵のネタです。

 

 

謎を解くための大きな要点。

 

・ 「ええ、妹様もやっと日本語の読み書きができ始めたわ。貴方から貰った本は少し古い物だったけれど、まぁ感謝してるわ。英語が通じないのがこの土地の難点ね」(咲夜談)

 

・《 沈みかけた太陽が、空だけではなく森の木々や落ち葉が散らばる地面までもを茜色に変貌させる。》と言う文で現在が夕暮れを指しているのに、《 にとりは部屋の隅に設置されたモニターへと駆け寄って、角ばった一つのボタンを押す。すると、モニターが一瞬明るく光り、真上からの日光を受けて輝く鮮やかな深緑が画面へと映り込む。》と防犯カメラには昼間が映っている矛盾。

 

・ 「うーん、人間の体を少しと思ったけどそれは不味いし…………あっ!じゃあ、長細い箱を一つくれないかい?」(にとり談)

 

 

・謝罪文の一文に《 父母心痛ト思ウ。愁傷デス。》と書いてあるが、日本語を勉強したてのフランが書いたのなら“愁傷”などと言う難解な単語を使うはずがない。

 

・手紙は墨でなくてインクで書かれていた。

 

・ “河童の腕”それは河童にとっては相当大事な物らしく、これを人里の人間に拾われた時は、どんな傷をも治す河童彼女たちの秘薬と交換をしようと交渉に持ち掛けたほどなのだ。その噂を聞き付けた永琳が、興味を持って欲しがった程の秘薬を、河童たちはあっさりと交渉条件に挙げた。それほどまでに“河童の腕”は大切に大切に河童たちに扱われていた。(地の文)

 

 

 

 

 

*以下 謝罪文解読例

 

 

 

ごめんなさい ごめんなさい

かわいそう かわいそう

私のせい 私のせい

 

でも仕方がなかった。どうしても殺したかった。血が欲しかったから食った。

 

手に紙ヲ西ん二、虹に似る何。

(これは『てにがみをにしんに、にじににるなに』これに“にとり”ーーつまり“に”を抜くと『手紙を信じるな』になります)

 

読めるなら、それが私だ。こんなことをしたのは紅い下の子(つまりレミリアの妹であるフラン)だと思います。それが私。下(地下)から出て、本(図書館)を飛び出し、メイドに追われた。傷を治したかったから、持ち去って食べた。後でお姉様に知らされて、良心が痛んだ。あの子の両親には心痛なことだと思います。ご愁傷です。

 

ごめんなさい ごめんなさい

ごめんなさい ごめんなさい

 

 

 

 

 

『有るか無きかのすずろごと』

 

これは正解とかは存在しないので、ちょっとした考え方を提示します。皆様がどう捉えるかと言った話です。

 

この『いないいないばぁ。』と言う短編集。オチとしては《霊夢たちが披露した遊び話》と言う事ですが、そうなると気なる部分があります。それは『いないいないばぁ。』一話で言っていたこいしの台詞とさとりの思考。

 

「前に地上でうどん屋さんを覗いた時に、美味しそうだな~って思って!目玉焼きうどんって言うのもあったんだよ!」

 

 

私はまだ地上に行ったことが無いから分からないが…………目玉焼きうどんってどんな料理なのかしら?

 

 

つまりこれはこの話の話し手が言った台詞と言うこと。

 

 

そして“有るか無きかのすずろごと”で言っていた霊夢と魔理沙のやり取り。

 

 

「そうだな……うどん屋なんてどうだ?目玉焼きうどんが久しぶりに食べたいなと思って」

 

「うわ!本当にあったのね、それ」

 

 

さらには『いないいないばぁ。』の“こいしはさとりの妄想”と言うオチ。

 

 

その他にも言っていた皆の台詞。

 

 

「まぁこんな事になったのは霊夢のせいだよな。始めは怖い話をしてたのに、いきなりこっちの方面に持ってくからさ」

 

つまり霊夢が一番最初に話を始めた。さて、では霊夢が始めに話した話はどの話なのか?

 

 

 

 

「でもこれって本当にあった話も混じってるんですよね?」

 

 

 

 

 

ここで「ん?」と気づいていただければ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いないいないばぁ。

 

 

 

彼女が顔を出すのか出さないのか(本当にいるのかいないのか)

 

 

 

 

 

 

 

『有るか』 『無きか』

 

 

 

 

 

 

 

いないいないーー。

 

 

 

 

 

その続きはあなた方に(ゆだ)ねることと致します。

 

 

 

 

 

 

 




恐らく色々納得できない部分もあるかと思いますが、取りあえずはこれで勘弁して貰えるとありがたいです。所詮はこんな物しか書けない作者なんで……。あともう少し解説を分かりやすく書き直した方がいいですかね?ちょっと雑い気がしました。


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