やはり俺達のギャルゲー攻略はまちがっている。 (ジョニー03)
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プロローグ
今の所話は適当にしか決めていないので、皆さんの感想次第でこれからの話が決まるかも……?
「遊戯部が作ったギャルゲーをテストプレイして欲しい?」
「は、はい……」
「どうか奉仕部の皆さんに、お願いできればと……」
それは正月も終わり、三学期が始まってすぐの頃。
突然奉仕部に遊戯部が訪ねてきたかと思えば、PC用のゲームディスクを俺達に渡し、先程言ったような依頼をしてきたのだ。
なんでも遊戯部の二人は二学期の終わり頃に二人揃ってギャルゲーにハマり、研究していく内に自分達で作ってみたくなり……。という流れでギャルゲーを作成したそうだ。
そしてできたは良いものの遊戯部自身でやるだけでは意味がないので、誰かにやって欲しい。
しかし、知り合い達に発表するのは恥ずかしいという事で……。
「奉仕部の方々にプレイをして欲しいんです。ただパパッとやって、感想を言って貰えれば……」
相模が頭を下げながら俺に向かってお願いをしてくる。
たかが一歳年上なだけの先輩に対して丁寧すぎる態度とも思うが、思えば俺達奉仕部は二人が女で一人が男。
当然女子である雪ノ下や由比ヶ浜にギャルゲーをやってくれなど頼むわけにもいかない。なので、この依頼を受けるか受けないかは実質俺に一任されているのだ。
それを思えば、俺に対する態度もまあ納得できる。
「しかし、ギャルゲーか……」
勿論俺はギャルゲーくらいならやった事がある。ラブプラスはハマり過ぎて母ちゃんに友達でも来たのかと誤解された程だ。
同人作品であろうとも、偏見なくプレイする気位は持っている。
「……しかし、部活として受けるのはなぁ……」
当然、奉仕部の活動として受けるのならば、雪ノ下と由比ヶ浜も無関係という訳にはいかないだろう。
何?俺は女子二人に向かってこのギャルゲーは面白いとか駄目とか語らないといけないの?それなんて拷問?
……しかし、この必死な様子の遊戯部連中の本気の願いを無下にするのも躊躇われる。
悩んだ末、俺の出した決断は……。
× × ×
「で、結局そのギャルゲー受け取ったんですかー?」
「ああそうだよ。受け取っちまったんだよ。どうしたもんかなぁ……これ」
遊戯部が去ってから数分。
いつものように部室に乗り込んできた一色に事情を話すと、ぷーくすくすと馬鹿にしたような表情で爆笑された。
「ていうかー、先輩ってギャルゲーってやったことあるんですかー?あったらマジでキモイんですけどー」
「は、ははははははは!?!?ままままさかギャルゲーなんてそそそそんなもんややややや」
「あーもう良いです大体分かりました」
いきなりの質問に動揺してしまったせいか、アッサリと一色に過去を悟られてしまう。
なんだよその蔑んだ目は。悪いか、男がギャルゲーやってて。
「……で、二次谷君はまさかそのギャルゲーとやらを部室でやる気ではないでしょうね?インクでできた模様が男に媚びる映像を見せられながら読書をする趣味は私にはないのだけれど」
雪ノ下が本を閉じこちらに話しかけてくる。
その顔は呆れかえっているように見えた。こいつもギャルゲー否定派か。ていうかゲームのヒロインをインクの模様とか言うんじゃねえよ。
「安心しろ、俺だって他人がいるところでギャルゲーをやる趣味は無い。こいつは一旦家に持ち帰ってやる」
「そ、そうだね!それが良いかも!……あたしもヒッキーがそういうのしてるの、見たくないし……すっごいキモそうだし……」
由比ヶ浜がフォローのようでフォローじゃない……いやこれ完全にフォローじゃねえわ。途中からただの悪口だわ。どうやらこの部屋に俺の味方はいないらしい。
って、ぼっちマスターであるこの俺にはどこにいってもいないんでした!テヘッ☆
「……いや、小町。小町がいるな。うん、俺には小町という味方がいる。妹さえいれば良い!」
「いきなり何を言いだすのかしらこの生ゴミは……」
このギャルゲー妹ヒロインいるのかなぁ。
× × ×
「……あれ?先輩、何か落としましたよ?」
俺がギャルゲーをやる事を理由に早く帰ろうとした時、貰ったゲームの箱から小さな紙が滑り落ちた。
どうやらゲームの説明書であるらしい。
「一応私達もこういうの読んでおいた方が良いんじゃないですかー?」
「そうかも知れないけど、一色さん。何故あなたが決めるのかしら……」
「ま、まあまあゆきのん……」
一色が説明書を広げ、その左右から雪ノ下と由比ヶ浜が覗き込む。
そして一色が最初に書いてあるらしいゲームの設定を読み上げた。
「『あなたは学園のなんでも屋《お助け部》の唯一の男子部員!無理矢理部活に入れられたあなただけど、そこにはツンツン美少女部長とほんわかアホの子おっぱいがいた!《お助け部》として様々な依頼を解決していくあなた!その中で部員達と仲良くなったり、学園の生徒会長と仲良くなったり、まさかまさかの顧問とも……!?ヒロインのルートもエンドも多種多様!!君だけの青春を駆け抜けろ!!』……だ、そうです、けど……」
……。
…………。
おい、おいおいなんだこの設定。どっかで聞いた事ありすぎるぞ。ちゃんとわたりんに許可取ったの?
「へ、へえ〜……。そうなんだ……。じゃあ、俺は帰るから……」
「待ちなさい」
「ちょっと待ってヒッキー」
「先輩ちょっとストップです」
俺が部室から出ようとすると、雪ノ下と由比ヶ浜の鋭い声が聞こえ、一色が素早く俺のブレザーの袖を掴む。
「え、なに、俺早く帰って依頼こなさなきゃなんないんだけど……」
「ここでそのゲームをやる事を許すわ」
「え、は?なんで急にそんな事……」
「なんでも良いから!ほら、やるよヒッキー!こっち座って!」
「わ、おい、ひっぱんなって……!」
由比ヶ浜と一色に引っ張られるままに椅子に座らされ、いつの間にかディスクを奪っていた雪ノ下がPCへゲームを挿入していく。
パソコンの正面に座る俺。
そのすぐ右隣に雪ノ下。近い。
そして左隣には由比ヶ浜が。お前も近い。
そして後ろから覆いかぶさるように一色が……。ってお前が一番近い近い近い!なんか背中に当たってるし!
……由比ヶ浜が後ろじゃなくて良かった……。
「先輩、今なんか失礼なこと考えませんでしたか?」
「奇遇ね。私も今妙な悪意を感じたわ」
「き、気のせいだろ……」
なんだよ、お前ら揃ってエスパーなの?えすのんとえすはすなのん?
やだ、Sのんってなんか卑猥……!まるで雪ノ下がドSみたい……!
って、考えるまでもなく既にドSでしたね。
そんな事を考えている内にゲームのダウンロードが終わり、ウィンドウが開く。
タイトルは『やはり俺の青春ラブコメはまちがえている』
なんだかどっかで聞いたようなタイトルだなーと思いながらもマウスをクリックし、タイトル画面へと移動する。
タイトル画面の背景には、黒髪ロングで貧乳のヒロインと茶髪お団子の巨乳のヒロインが抱き合ってこちらに手を伸ばすような構図でタイトルを挟んでおり、一瞬でこの二人がダブルのメインヒロインである事を察せられる。
しかし、こいつらは余りにも……。
「こ、これ、あたし達だよね……」
「あの遊戯部とやら、少し話し合いが必要のようね……」
「ていうか、この画面に私いないんですけどー」
そうなのだ。このヒロイン達、明らかに雪ノ下と由比ヶ浜に似ている。
そして説明書の名前欄にも、『雪ノ上 雪菜』と『由比ヶ峰 唯』と書いてある。最早明白である。
「なあ、これ本当にお前らの前でやんないと駄目か?流石にモデルの前でこのゲームをやるってのは気が引けるんだが……」
「そ、そうね。流石に私もここまでのパクリだとは思わなかったし……私としても目の前でやられるのはちょっと……」
「うん、そうだね。なんか恥ずかしいし……」
どうやら二人とも納得してくれたようである。
一色だけうんうんと何かについて悩んでいたが、それを無視して俺はPCを片付けにかかる。この空間にもう一秒でもいたくないのだ。
そしてゲームディスクもしまい、さあ帰ろうとした所で、ずっと押し黙っていた一色が口を開いた。
「……先輩ってそのゲーム家でやるんですよね?」
「お、おう。そうだが?」
一色の口がニヤァと割けるように広がる。その笑顔にはなんだか不吉な予感を受け取らずにはいられなかった。
そして一色がすうっと息を吸うと、一気に言い切るように鋭く『その言葉』を言った。
「じゃあ先輩は誰から攻略するか決めてるんですかぁ?」
と。
「!?」
「「!?!?」」
「な、お前、何をいきなり……!」
「えー、だってー。感想を言うには当然いろんなヒロインを攻略しなきゃじゃないですかー。……で、聞いたことがあるんですけどぉ、男の子って最初に攻略する子が一番気に入った子らしいんですよねー?だったらぁ、このゲームのヒロイン中で、誰から攻略するつもりなのか聞かせて貰えればなー、と☆」
一色が指を頬に当てながら話してくる。
その小さな口から漏れる言葉は俺の寿命を削り取る呪詛の様にも聞こえた。
ていうか今現実的に俺の寿命を削っていた。
「い、いや、そんなまだそういうの決めてないし……」
「えー?でもでも、パッと見でこの子良いなーとか思うじゃないですかー。このパッケージとかに写ってる子の中だと、先輩は誰が気に入ったんですかー?」
一色が指差したパッケージの裏側には、メインヒロインやサブヒロインの軽い顔やある程度のCGのサンプルが貼り付けてある。
その中には雪ノ下っぽい奴も、由比ヶ浜っぽい奴も、何故だか一色っぽい奴や平塚先生っぽい奴までまさによりどりみどり。
「……ね、ねえヒッキー。ヒッキーは……どの子が良いと思うの?この、雪ノ上っていう黒髪の子?そ、それとも……この茶髪のお団子の子?」
由比ヶ浜がモジモジと手を組みながら俺に質問してくる。その顔は耳まで真っ赤になっていた。
「いや、それは……」
答えに窮しどもっていると、雪ノ下も追撃を加えてくる。
「わ、私としてもまあ、参考程度に聞いておこうかしら。でも、勘違いしないでほしいわ。私はあくまで部長として部員のゲームのプレイ方法を聞いているだけなのだから。もしかしたら、攻略するヒロインの順番でシナリオの受け取り方がまるで違うゲームかも知れないし。そういう点で気になったら聞いているだけよ。……どの子が、好みなの?」
「え、えぇ……?」
なんだこの状態は。どうしてこうなった。
ええいこんな面倒臭い部屋にいつまでもいてたまるか!俺は家に帰られせてもらう!!
「では諸君!サラダバー!!」
「させないわ!」
「ちょっと待って!」
「止まってください!」
俺が部室から素早く脱出し廊下を走り抜けようとすると、いつの間にやら雪ノ下達が回り込んで横に並んで道を塞いできた。
畜生、なんで今日に限ってお前らこんな一致団結してんだ。
そのまま雪ノ下達は俺にズリズリと少しずつ距離を詰めていく。
後ずさるように追い詰められた俺は、結局また部室のPCの前に座らされていた。どうしてこうなるのん?
またしても右に雪ノ下、左に由比ヶ浜、後ろに一色のフォーメーションが組まれる。最早どこにも逃げられない。
絶望する俺の事も御構い無しに、ゲームが起動した。
物語が始まり、プロローグが語られていく。
強制的にお助け部に入らされた主人公。
そこにいた美少女部長と悪口を言い合いながらも少しずつ絆を深め、新たに加わったアホの子巨乳も混ざってお助け部の活動は進んでいく。
そして一通りキャラ紹介も終わった頃だろうか。このゲーム最初の選択肢が表示される。
『八幡!今日の放課後は暇?僕、八幡とテニスしたいんだ!』
1、今日は雪ノ上と用事がある
2、由比ヶ峰に勉強を見てくれと言われている
3、家に用事がある
4、生徒会に呼ばれている
5、わかった。やろう!
「……さあ、比企谷君……」
「ヒッキー……」
「先輩……」
「「「どれを選ぶの(んですか)!?」」」
……ああ、やはり俺達のギャルゲー攻略は、前途多難である。
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「……良く出来てますね、このゲーム」
〜前回までのあらすじ〜
遊戯部の二人からギャルゲーのテストプレイを頼まれた。
電源をつけると、そのゲームのヒロインはほとんどどっかで見た顔だった。おのれ遊戯部許すまじ。
そして何故か四方を女子達に囲まれながら、俺比企谷八幡の戦い(ギャルゲー)が始まる……!
× × ×
『 1、雪ノ上と用事がある
2、由比ヶ峰に勉強を見てくれと言われている
3、家に用事がある
4、生徒会に呼ばれている
5、わかった、やろう!』
ゲーム画面には、五つの選択肢が表示されていた。いきなり多いな。
だがまあ、とにかくヒロインが多い事を推しにしているギャルゲーのようなので、沢山の分岐選択肢が必要になるのかもしれない。
さてさて、では俺比企谷八幡が選ぶ最初の選択肢を決めようか……。
黒髪ヒロインか、茶髪ヒロインか、まだ見ぬ生徒会長か、それともこの目の前のテニス男の娘か……。
「……まあでも放課後は家帰るよな」
俺は大して迷う事なくカーソルを3に合わせ……。
「待ちなさい」
「待って!」
「ストップです!」
……合わせようとしたら三方向からマウスを掴まれて動けなくなった。
カーソルはどこの選択肢にも乗らず画面の端をフラフラと漂っている。
「あなた、正気?普通ここで帰る選択肢は選ばないでしょう。私は良く知らないけど、これは女子と仲良くなるゲームなのでしょう?家に引きこもっててどう仲良くなるつもりなのかしらこの引きこもり君は」
「そうだよヒッキー!ここで帰るとかマジありえないしキモイし!」
「……ていうか、このテニス部のキャラ戸塚先輩っぽいんですけど先輩は適当に扱ってて良いんですか?」
雪ノ下が吹雪のような視線を右からこちらに向け、由比ヶ浜が左からむー……と力強い圧力をかけてくる。
一色は声こそ呆れかえっているようではあるが、マウスにかかる力は他の二人に負けず劣らずの量が込められていた。
「いや、あのキャラは戸塚をパクったにしてはなんか微妙でな……戸塚の魅力の半分も表現できてない。戸塚ってのはな、もっとこう……天使で……ふわふわしてて……キラキラしてて、ぽわぽわしてて、癒されて救われて二人で海沿いの家のベランダで笑い合いながら静かに会話して俺がそっと指輪を差し出して下の名前を……」
「あーはいはい戸塚先輩への愛は分かりましたから!そんな事より、いきなり帰宅は無しです無し!!誰か一人ヒロイン選んでくださいよ!!」
「そ、そうだよヒッキー!由比ヶ峰さん勉強わかんなくて困ってるんだよ!早く助けてあげなきゃ!」
「……え、なんで由比ヶ峰限定なん?」
俺が驚いて由比ヶ浜に聞くと、由比ヶ浜はお団子と胸をビクッと震わせて顔を逸らす。
「そ、それは……」
「……由比ヶ浜先輩……?」
「……由比ヶ浜さん。あなたがそういう手段で来るなら……私達も容赦はしないわよ?」
「うっ、だっ、だってしょうがないじゃん!!こういうゲームなら、その……期待するじゃん!!きっかけになるかなとか思うじゃん!!」
「……???」
由比ヶ浜がヤケクソ気味に何かを叫んでいるが、きっかけってなんのきっかけだ?というか今全員何の話をしているんだ?
「……ではこれからお互い、いえ、全員……」
「容赦無しということで良いですね……!」
一色と雪ノ下から謎の炎が燃えている気がした。由比ヶ浜はそれに一瞬怯むも、即座に立ち直り逆に二人を威圧しだす。
……この隙に家に帰る選択すっか……。
「「「甘いっ!」」」
三人が喧嘩していく内に3を選ぼうとしたのだが、流石に見逃してくれなかったようで、またしてもマウスごと右手を掴まれる。勘弁してくれよ……。なんでモデル本人の前でヒロイン攻略しなきゃなんないんだよ……。ぼっちエンドで行かせてくれよ……。
「あぁもう、わかったわかった!ちゃんと選ぶから手を離せ!」
「……」
「……」
「……」
「いや離せよ!」
何故か三人はまるでマウスを離さず、多方向から力をかけられたマウスカーソルはフラフラと画面の中心辺りを漂う。
その度にカーソルが選択肢に次々と重なり、1……2……3……4……3……2……1……とちょっとしたルーレット状態になっていた。
(……て言うか、これってひょっとしてこいつらがそれぞれ別の所に操作しようとしてるのか?)
「おい、お前ら……」
「黙って」
「良いからヒッキーは」
「マウスをクリックしてください」
「いや、おい……」
これもう俺の意思関係ないじゃねえか。完全にお前らの意思じゃんアゼルバイジャン。
……しかし、ここで俺はある事に気づいた。三人が鬩ぎ合う選択肢ルーレットの中で、主に揺れているのは1〜4の選択肢の間。
つまり、俺が選びたい『3、帰る』が間に入っているのだ。
これは俺の目押し技術が試される時が来たな……。
つまり俺は上手いこと由比ヶ峰の選択肢と生徒会の選択肢の間にカーソルが入った瞬間に人差し指を動かせば良いのだ。
……見ろ、白いカーソルの動きを。
……予測しろ。不規則に動く矢印の行く先を。
(そして掴み取れ、帰宅への未来を!!)
33333333333333333333……!
(111111111111111111……)
(2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎)
(444444444444444444‼︎!!‼︎!!)
カチッ……!
× × ×
『八幡:すまん冨塚、今日は生徒会に呼ばれてるんだ。テニスはまた今度な』
『彩華:そ、そっかぁ……。じゃあしょうがないね。また誘うから、今度こそ行こうね八幡!』
『八幡:ああ』
「よっしゃあ!!」
「くっ……」
「うぅ……」
「ちくしょおおおおおおおお!!!」
「イヤなんで先輩が一番悔しがってるんですか!?」
俺の帰宅への願いは届かなかった……!
ちくしょう!どこまでも!どこまでも俺の願いを打ち砕く気かぁ!!いろはすぅ!!
「うぅ、そんなぁ……よりによっていろはちゃんなんてぇ……」
「よ、よりによってって酷くないですか!?」
「くっ、こんな事ならやっぱり私が生徒会長をやっておけば……!」
「今更そんな台無しな事言わないでくださいよ雪ノ下先輩!!」
「……ああ、帰りたかった……」
「……先輩の落ち込み方は最早意味が分かりません……」
一色が呆れきった表情で俺を見る。まるで養豚場の豚を見るかのような眼だ。可哀想だけど明日にはお肉屋さんに並ぶのねって感じの……。
「ばっかお前。俺の帰宅欲を舐めんなよ。いついかなる時も帰りを待ってくれる場所があったから俺は頑張れたんだ。俺の家マジあったかハイム」
「……私としては、その暖かい家とやらがあなたが混ざる事でどれ程涼しくなるのか気になってしまうわね」
「おいおい、俺の家を馬鹿にするなよ?俺程度の清涼剤がいても余裕で南国レベルで暖かいっつーの」
特に小学生だかの時に、教師に三者面談で『比企谷君はクラスで孤立してしまっていて……』ってバラされた後の母ちゃんとかマジあったかかった。暖か過ぎて眼から汗が出たレベル。
「自分が清涼剤なのは認めちゃうんだ……」
「純然たる事実だしな」
ああ、それにしても帰りたい……。
俺は早く幸せな家に帰りたかっただけなのに……。
「……ていうか、ゲーム内の先輩が帰った所で先輩の現実は変わりませんよ?」
「……あっ」
気にしないことにした。
× × ×
『恵里奈:せんぱーい!こっちですこっちですー!』
ゲームを進めていくと、少し気になる事があった。
「このヒロイン、一色さんみたいだけど名前が擦りもしていないわね……。どういう事なのかしら?」
「このヒロインの上の名前は?」
「芥川恵里奈(あくたがわ えりな)ちゃんだってー。これ、ホントにいろはちゃんと関係ないね。どういう事なんだろ?」
「……うーむ……」
俺は一旦集中して名前の由来を考えてみる。
適当という事も考えられるが、これまでの法則的に全く無関係という事は無いはずだ。
何か、何か無いのか?
芥川恵里奈……?
芥川、恵里奈……。
芥川、恵里……。
芥、恵里……。
「あっ」
ドリンク繋がりかよ。寒っ!
「え?ヒッキー分かったの?」
「ああ。分かったよ。超どうでもよかった。真面目に考えて損したわ……。ああもう、とっとと進めるぞ」
俺は「おしえてー、おーしーえーてー」と駄々をこねる由比ヶ浜を無視してゲームを進める。ええい鬱陶しい可愛い邪魔くさい。
ちなみに雪ノ下は一瞬ピクッと何かに気づいたかのように震えたかと思うと、そのまま突っ伏して肩を震わせていた。
ゆきのん、ダジャレに弱いのね……。
まあ、名前とか腕に当たるおっぱいの事とか放っておいてゲームだ柔らかいゲーム。雑念を捨柔らかいてて集中す柔らかいるんだ。……集、ぐにっと形が歪んだボールがヒットアンドアウェイで柔らかい柔らかい柔らかい……。中!!
よし、集中できたな!!
「……比企谷君。後でお話があります」
「……な、なんの事ですか?」
「自分の胸に……自分の腕に聞いてみなさい。……くっ」
女の子がくっとか言うんじゃありません。
× × ×
『恵里奈:先輩、最近女の子と仲良くしてますか?私が先輩が周りの女の子とどのくらい仲が良いか教えてあげますね!!』
台詞を幾つか消費して行くと、突然あくえり(今命名)がそんな事を言い出した。
……ちょっと待て、その台詞は普通ヒロインの台詞じゃ無いだろ。モテないけどハイスペックな親友ポジがやるべき役目だろ。
って、あっそうか。俺親友いないんだ。
『恵里奈:これが今の女の子達の先輩への好感度です!』
あくえりがヒロイン達の好感度が記されたメモを渡してくる。
そしてその中に、彼女自身の名前は無かった。
「これ、要するにこいつは攻略ヒロインじゃないって事みたいだな」
「えー、なんですかそれー……」
「(良しっ!)」
「(やたっ!)」
あくえりが渡してきたメモを良く見ると、幾つかメモに不自然な空欄が見て取れた。
どうやらまだ会ってないヒロインの欄らしい。今の所俺があっているヒロインは雪ノ上と、由比ヶ峰と、冨塚と……。
『雪ノ上 167
由比ヶ峰 138
冨塚 82
平月112 』
えっ、全員軒並み高っ!?
「おいおい、どうなってんだこれ……早速バグか?こんなもんもう堕ちてるも同然じゃねえかよ」
「……あ、先輩先輩。説明書に好感度の上限は400って書いてありますよー?」
「400ぅ?なんでそんな中途半端な……。まあ、兎に角バグじゃないってことだな。じゃあま、進めるか」
「そうですねー。……うん?これ、は……」
一色が説明書を見ながら動きを止め、「雪ノ下先輩、由比ヶ浜先輩、ちょっと」と俺から離れるように二人を呼ぶ。
二人が近づくと、一色はヒソヒソと何かを話し始めた。その声は当然俺には届かないため、気にせずゲームを進行して行く事にする。
「(これ、『※ヒロインの好感度は現実にも関係します☆』って書いてあるんですけど……)」
「(えっ、何それ……。て、ていうかそれが本当だったらゆきのん!?)」
「(……あの遊戯部とやら、一度制裁する必要がありそうね)」
おお、こいつは主人公とは別の男が好きなのか。そして主人公と協力してその男を落とそうとしている、と……。本当にどっかで見た設定だなー。
「(こ、これ見てください。製作者の所で、『シナリオ監修:比企谷小町』って……)」
「(小町さん、何してるの……。道理で私達に関して詳しすぎると思ったわ……)」
ふむ、意中の男とのデートの練習を俺でしたいのか。まあこのキャラのルートは友情ルートっぽいし、行ってやるか。
……ていうか、このキャラならストーリーを進めても気不味くないんじゃね?おお、来たぞ!この状況を打破する光!
友情ルートなら、なんか変な雰囲気になる事も無いはずだ!
「(……ゆ、ゆきのん。これ、『総監督:雪ノ下陽乃』って書いてあるんだけど……)」
「(…………どうやら私達は、とんでもないパンドラの匣を開けてしまったようね)」
まあ、選択肢はOKで良いか。今日の放課後デート?急だな……。
「……って、私達が話してる間に何勝手に進めてるんですかぁー!!」
「え?だってお前らの方が勝手に離れてったんじゃん……。つーか、別にこのヒロインは攻略キャラじゃないみたいだし、そんなに注視する必要もないんじゃねえの?」
「ありますよ!全然あります!だって私がモデルのキャラじゃないですかー!気になりますよぉー!」
一色がぶーぶー言いながら俺の肩に顎を乗せて画面を覗いてくる……って、近い近いこれまでにないくらい近い!!頬っぺちょっとくっついちゃってんじゃん!!
「……ヒッキー早く進めて」
「そうよこのノロマ。早くしなさい。……あと一色さん、調子に乗りすぎよ?」
いつの間にか定位置に戻っていた雪ノ下達が冷水のような声を浴びせかけてくる。
て言うかゆいゆい、そんな声も出せたのね……ギャップのせいでマジで怖いからやめて。
「ま、まあとにかく今はこのキャラとデートの練習中だな。なんでもこのキャラが好きな男が別にいて、それの練習台に主人公を使ってるんだと。好感度が無いのも多分そのせいだな」
「……へぇ〜。なんだか……」
「何処かで聞いた事のある話ね……」
「……えぇ〜?何の話ですかぁ〜?」
なんだか部屋の空気がピリピリしてる気がする……。
現実逃避をするかのように、俺はマウスをクリックした。
『恵里奈:先輩先輩、次はボウリング行きましょうよー!木山先輩が好きだっていう情報を掴んだんです!』
『恵里奈:先輩先輩、次はご飯食べましょう!何でも良いですから、先輩が決めてください☆』
『恵里奈:せーんぱーい……超疲れましたぁー。そこのカフェで休憩していきましょうよー。あそこ結構良い雰囲気のお店で……あ、その、木山先輩が好きそうなお店だなーって、行く時の予行演習に!』
『八幡:(いつも何かを勘違いしてしまいそうになる俺だが、こいつにだけは勘違いが起きそうもない。まあ……先輩として、できるだけ協力してやるか)』
『恵里奈:先輩、今日はそれなりに楽しかったです。また行きましょうね!……先輩も、参考にしてくださいね?』
『八幡:おう、まあ行く奴なんていないけどな』
『恵里奈:……だったら、また私が誘ってあげますよ』
『八幡:あん?』
『恵里奈:な、何でもありません!』
『八幡:……良いぞ、また誘え。暇だったら行ってやる』
『恵里奈:え?何ですかそれ口説いてるんですかごめんなさい一回デートしただけで彼氏面とか図々し過ぎるので聞こえないふりなんてしないで普通に誘ってもっと回数を重ねてからにしてください』
『八幡:うん、俺は何回お前に振られれば良いんだ……』
「……よ、良く出来てますね、このゲーム」
「ホントだね、うん……。ていうか手口がそっくり……」
「ええ、本当にね。本当にリアル……」
なんだか女子三人がやたら辛そうな声を出している。
原因は分からないが、何にせよ俺は安パイを見つけたのだ。
この友情ルートを進めていけば、安全にこの時間を進めることができる……!
やったねはっちゃん!
× × ×
……うふふ、すっかり安心しちゃってぇ。馬鹿な比企谷君♪そんな比企谷君にはこの言葉を送りましょう。
曰く。
ー そこで私という安パイが伏へ、……ふくよかな癒しとなるわけじゃないですかぁ? ー
……と。
一色ちゃん、だったかな?間接的とは言えこの子の作戦が成功しちゃってるし、雪乃ちゃん大ピンチかなー……?私が何とかしなくちゃいけない?
大丈夫ですよ陽……H監督!小町におっまかせ!
あら?こ、……Kちゃん。あなたが何とかしてくれるの?
はぁい!小町、未来のお義姉ちゃん候補の為なら何でもしちゃいますよー!
ん?今何でもするって……。っていうかKちゃん。名前言っちゃってる言っちゃってる。
あっ!
H監督……一体何乃さんなんだ……。
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「異論は認めん」
〜前回までのあらすじ〜
あくえり可愛い。
× × ×
『恵里奈:先輩、お昼ご飯一緒に食べましょうよー!今日お昼休みも使わなきゃ間に合わない仕事があるんですけど、それを手伝うついでに!』
『八幡:はあ?なんだそりゃ、何で俺がそんな事……』
『恵里奈:ダメ……ですか……?』
『八幡:……はぁ。はいはい、あざといあざとい。……別に手伝ってやらんとは言ってないだろ。ほら、とっとと行くぞ』
『恵里奈:……!はーい♪』
「……このキャラ可愛いなー」
それでいて攻略キャラじゃないってのが最高だわ。いや、普通なら残念に思う所なんだが、事この状況に関してはそれがありがたい。
「か、可愛い……ですか。このキャラ、可愛い……ですか……。えへ、えへへ」
「……や、何でお前がニヤニヤしてんだよ」
「……え!?に、ニヤニヤなんてしてないですよ先輩のバカ!!」
何故だか怒られてしまった。どう見てもニヤニヤしてたと思うんだけどなあ……。
「ま、マズイよゆきのん。このままじゃ……!」
「ええ。早急に手を打つ必要がありそうね。ゲームも、現実も……」
何やら真剣な表情で話す雪ノ下と由比ヶ浜。
ちなみに、こいつらに一色も合わせた三人は未だマウスを仲良く握りしめたままである。
右手だけ暖かくてなんだか落ち着かん……。
「あの……そろそろ手を離してもらえると助かるのですが……」
「無理ね」
「いや」
「ダメです」
少し不平を言っただけなのに拒絶のジェットストリームアタックを食らってしまった。
正直右手の熱が全身に流れてるみたいでかなり体が落ち着かないのだが、もうこいつらに何を言っても無駄なようなので、諦めてゲームを進める事にする。
落ち着け八幡。そうだ、この手を握る人間が異性を意識する相手ではないとイメージすれば良いのだ。
良い?落ち着いて八幡!この手を握るのは、小町、戸塚、鶴見留美……小町、戸塚、鶴見留美……。
……ダメだ、もっとドキドキしてきた……。
「……ふふ、先輩?心臓の音、凄いことになってますよー?」
「……横にいる私達にも分かるくらいにね。全く、何を興奮しているのかしらこの男は、……ふふっ♪」
「ヒ、ヒッキー。こういうのが好きなら、その、あたしに言ってくれれば……!」
「あっ、ちょっ」
「由比ヶ浜先輩ズルい!」
……どうやら俺の心音は周りにいて体をくっつけあっていた彼女達にも伝わってしまったようだ。
しかし、なんで今日のこいつらはこんなに喧嘩が多いんだ?
「……ああ。その、なんだ。恥ずかしい事に、今この手を握るのが小町や戸塚ならって思ったら、ついな……」
「……」
「……」
「……」
「……え、なに」
「死ね」
「キモい」
「埋まれ」
「え、なに!?」
何故そんな唐突に人に冷たくできる!?
っていうかいろはすがサラッとタメ口で死ねとか言ってきたんですけど、葉山さんあなたの所の後輩教育どうなってるんですか?
「あーはいはいそんな事言ってる間にまた選択肢ですよー。とっとと恵里奈ちゃんとのイベント進めてくださーい」
一色の声が冷たいのん……。
まあ、でも一色がこのキャラとのイベントを進めるのに賛成なのはありがたい。
他の二人は自分と同じ顔をしたヒロインを俺に攻略されるのは嫌だろうし、友情ルートらしい恵里奈ルートを一色が平気なら、この女の前でギャルゲーという拷問はいくらか楽になってくる。
『八幡:今日の放課後は……』
1、部活に行こう
2、生徒会に行こう
3、帰ろう
さて、ここに三つの選択肢が出現した。
普通なら今進めている2の選択肢、生徒会に行くの方を選ぶのだろうが……。
「離してください先輩方……!先輩が困ってるじゃないですかぁ……!」
「これ以上、あなたの好きにはさせないわ……!」
「ヒッキーは、奉仕部の物なんだからね……!」
現在マウスが操作不能なためどの選択肢も選べない状況になっている。
ていうかさ、このゲームもうほとんどお前らがやってんじゃん。俺の意思関係ないじゃん。もうこれ俺帰って良いんじゃないの?
「ほら、先輩!今です!今クリックしてください!」
「「させない!!」」
「あぁやっぱりダメです先輩!まだクリックしないでぇ!!」
……俺は静かに目を閉じ、身体からだらんと力を抜く。
雪ノ下、由比ヶ浜、一色の怒号混じりの声を聞きながら、俺の意識は異次元へと飛んだ。
現実逃避である。
もうどうにでもな〜れ☆
……カチッ!
× × ×
三人の声が止んだ。
一体俺はどの選択肢を選んだのだろう。薄っすらと目を開けると、そこには。
『八幡:今日は家に帰るか……』
希望への未来(帰宅)が、広がっていた。
まあ、現実の俺には何も関係がないんですけどね。
「くっ、一色さんルートへの阻止はできたけど、奉仕部の方へカーソルを行かせられなかった……!」
雪ノ下の悔しそうな声を聞きながら……っていうかお前の言ってる内容、全部現実の用語に変換されてるじゃねぇか。
大丈夫?このお話はゲームだって分かってる?
『八幡:たでーまー』
俺の不安はどこ吹く風と、ゲームの中の主人公が家へと到着する。
それを出迎えたのは……。
『小町:おかえりー!お兄ちゃん、今日は部活はどうしたの?(声あり)』
『八幡:今日は休んだ』
『小町:えー……。それって小町的にポイント低いなー。未来のお義姉ちゃん候補の元へはちゃんと行ってもらわないとー!(声あり)』
「「「「……」」」」
「なんでこいつだけフルボイスなんだよ……!」
「小町さん、声優も兼任していたのね……。と言うか、このキャラだけ名前も捻りが無いのだけれど……」
「そ、そのまんま小町ちゃんだね……」
一体どんなコネクションを使って遊戯部に擦り寄ったのかは不明だが、どうやらこのゲームの作成には小町が関わっているらしい。通りでやたら俺達の事情に詳しいと思った……。
『小町:さてさて、そんなお兄ちゃんは、最近女の子と仲良くしてるかな?小町の情報網で、お兄ちゃんがどれだけ女の子に好かれてるか教えてあげる!』
突然、ゲームの中の小町がそんな事を言い出した。
ん?でも、この台詞は……。
「あれ?この流れって……」
「わた……恵里奈ちゃんの流れと同じですねー。キャラの好感度を教えるっていうの。もしかして、そういうキャラがこのゲームには……ふた……り……」
言いながら、一色の声量がどんどん下がっていく。
そして、何かに気づいたようにハッと口に手を当てた。
「み、見ちゃダメです先輩!このメモは見ちゃダメぇ!!」
「……はっ、そうか!由比ヶ浜さん、一色さんを二人で抑えるわよ!!」
「……っ!うん!!」
雪ノ下の合図で二人が俺から離れ、一色の腕を片方ずつ掴み、後ろへと引きずっていく。
「は、離してー!離してくださいぃー!先輩助けてー!」
「気にしないで比企谷君はゲームを進めなさい。そして真実を知りなさい」
「そうそう!あたし達の事は気にしないで!」
「いや、この状況気にするなってのが無理だろ……」
まーたこいつらはいきなり喧嘩しだして……。このゲームが来てから急に仲悪くなったな。何が理由なんだろうか。
(マズイマズイマズイマズイ!!きっと小町ちゃんの好感度メモの方には『全てのキャラ』の好感度が書いてある……!)
(となれば、今まで隠されていた一色さんのキャラの好感度が割れる。そうすれば……)
(友情ルートだと勘違いしているヒッキーも、間違いに気づくはず。なら、これ以上ヒッキーはイベントを進めようとはしない……!)
『あ、そうそう!お兄ちゃんは恵里奈さんから好感度メモ貰った?あれってねー。実は全くの嘘っぱちなんだよ!数字も完全ランダムで、その時々によって変わっちゃうしね!』
「えっ、じゃああのイベント丸々俺を引っかけるためだけの物なのかよ」
なんでそんな無駄な事を。さっぱり意図がわからん。何か俺を勘違いさせたかったとか?
「……ふっ、やっぱりね。私を模したキャラがあんなにチョロく好感度が上がる訳がないもの」
「えっ」
「えっ」
「……えっ?」
「……雪ノ下先輩、それ本気で言ってるんですか?」
「……?」
「いや真顔で首傾げられても……」
何やら後ろの馬鹿三人組が馬鹿な会話を繰り広げていた。
……まあ、何にせよ、いつまでもあいつらに付き合っていたら一生ああやってじゃれ合ってそうなので、俺はとっとと台詞を進める。
そして、小町からキャラの好感度メモが渡された。
一色の「って、あーーーー!!」という叫び声を聞きながら、俺はその内容を確認する。
『雪ノ上 雪菜 301
由比ヶ峰 唯 301
芥川 恵里奈 378』
「さんびゃくななじゅうぶはっ!?」
一色が噴き出すように声を上げる。おい、その声全然可愛くねえぞ。もっとキャラ安定させろ。
「ち、ちがうもんちがうもん!わたし、そんなに先輩のこと好きなんかじゃないもん!!嘘だもん!!」
「ふふ、どうやら化けの皮が剥がれたようね、一色さん。今に現実の方の皮も剥いであげるわ」
「……ていうか、あたしもゆきのんもかなり行ってると思うんだけど……」
そうですね。俺の方もぶっちゃけあくえりよりそっちの方が気になってました。
『小町:あ!ちなみに、キャラの好感度はMAX400で、現実の好感度が300まで、ゲーム内の好感度が100までの数値を足し合わせた数値だよ!』
「え、じゃあこのゲームのキャラ軒並み300超えてるんですけど……?」
それじゃあ全員現実の好感度がMAXって事になってしまうんだが。…………まあ、どうせ小町のおふざけか。話半分どころか話一割に受け取っておこう。
……あれ?なんで後ろの方々はそんなに顔を赤くしているんです?
俺が不思議に思い三人を見ていると、雪ノ下が「い、いいから進めなさい」と言ってきた。まあ、女子には何か男子にはわからない事情があるのだろう。忘れることにして台詞を流す。
『小町:このゲームのヒロインは好感度をMAXにして初めて固定ルートに入れる条件が満たされるゲームだよ!……でもぶっちゃけほとんどのキャラは最初の時点で300になってるし、基本楽勝!!部長に部員に生徒会長、教師に先輩クラスメイトまで大体チョロインだよ!むしろもう堕ちてるよ!!』
おいおい、ゲーム開始から大体のキャラが堕ちてるってどんなギャルゲーだよ。ギャルゲーの醍醐味全カットじゃねえか。
「あとまあ、さっき判明したが、あくえりって攻略キャラだったんだな……。俺てっきり友情ルートだと思ってやってたわ……」
「せ、先輩!そんなの関係ありませんよ!どうせここまで来たんですから、攻略しちゃいましょう!!」
俺が呟くと、拘束から抜けた一色が抱きつくように定位置に戻って来る。ええい近い抱きつくな心臓破裂するかと思っただろ。
ちなみにいつの間にか雪ノ下と由比ヶ浜も戻ってきていた。なんなのおたくら、黒い三連星かなんなかの?
「いいじゃ無いですか、折角378まで攻略したんですよ?今更他のキャラに乗り換えるのも骨でしょう!このまま行きましょう!」
一色がやけにあのキャラを推してくるが、俺としてはやはり気が乗らない。何故なら……。
「……いや、でもなぁ……。お前らの前でやるって事だけじゃなくてさ、このキャラ好きな奴いるんだろ?そんな奴と恋人になるって間接的にNTRしてるみたいでなんか気分がなぁ……」
「え?……は、はぁ……」
「(……現実で似たような事をしている男が何を言っているのかしら……)」
「(まあまあ、ヒッキーには自覚ないし……)」
俺が悩んでいると、ゲーム内の小町の一際明るい声が部室内にまた響く。
『小町:あ、そうそう!小町が今一番好感度が高い女の子について教えてあげるね!今一番好感度が高いのは〜……芥川 恵里奈さんだね!通称あくえりさん!』
あ、その名称公式なのね。
『小町:あざとい外面の中に小悪魔な本性を持つ後輩キャラだよ!現実主義者で計算高いけど、実はロマンチストで乙女な部分もあるかも!素直に優しくしてあげると、素の好意を示してくれるかもね!』
「……ですって、先輩」
「え?急になに?」
「『素直に優しくしてあげると良い』、ですって、先輩。……先輩も、その、素直に優しくしてあげるべき人が……近くにいるんじゃないんですかー……?」
一色が少し蠱惑的な声で俺の耳に言葉を吹きかけて来る。その顔は暖房でも効きすぎているのか少し赤い。
……しかし、ふむ。俺が素直になるべき人間か……。
「……ああ、そうだな。俺も、たまには素直になるべきかもしれん」
「せ、先輩……!」
「ヒッキー!?」
「比企谷君!?」
「……いつもなんだかんだでぞんざいに扱っちまう小町に、偶には愛してるって言ってやるべきなのかもな」
「せ、先輩ぃ……」
「ヒッキー……!」
「比企谷君……!私、信じていたわ!あなたがそういう人だって……!」
何故か一色の声のトーンがガクッと下がり、雪ノ下と由比ヶ浜がキラキラした目でこちらを見てきた。
「まあとにかく、一旦これであくえり攻略は終了だな。俺は年下は苦手じゃねえが、流石に略奪愛ってのは罪悪感が」
『小町:ちなみにこの人のルートには擬似妹プレイがあるよ!』
「よっしゃ恵里奈ルート攻略じゃああああああああ!!!」
「……ヒッキー……」
「……比企谷君……」
「わたし、信じてました!先輩がそういう人だって……!」
今度は何故か一色からキラキラした目を向けられてしまった。何故。
× × ×
「とにかくこれからの方針はいもう……恵里奈ルートを攻略していく。異論は認めん」
「くっ、このシス谷君め……!」
「流石です先輩!その潔さ、尊敬しますぅ!」
役二名の恨めしそうな視線と約一名の明るい視線を胸に、俺はこれからのプレイの方針を固めた。
そう、俺は擬似妹プレイをしたい……じゃない、俺は可愛い後輩を攻略したいのだ。本当だ。
この決意は揺るぐ事は決してな……
『小町:そうそう、妹と言えばこのゲームはこの私、小町のルートもあるよ!攻略したいお兄ちゃんがいたら是非家に帰ってね!!』
「これからの方針は小町を攻略していく!!異論は認めん!!!絶対にだ!!!」
「「「…………」」」
あれ?恨めしそうな視線が約三名様に増えたぞ?
まあ良い、そんな事より妹だ!!
× × ×
えへへ、た、たまには愛してるって言おう、なんて……。お兄ちゃんったら、もう、ふへへぇ……。
……ねえ。
しょうがないなぁ本当にお兄ちゃんったらぁ……。ふひぇへへへへぇ……。
おい。
は、はいぃ!?
こま、……Kちゃん。あなた、さっき自分にお任せとかなんとかしますとか言ってたわよね?
はい……、陽……H監督。いえ、H様。
私としては、雪乃ちゃんとフラグが立つように誘導するようなシナリオになっているのかなー、とか思っていたんだけど、そこの所どうなの?何か状況が変わった?
い、いや、小町の方としてもどちらかと言えば奉仕部の方々有利なシナリオにしたはずなんですけど、あのごみいちゃんの行動が今一予測しきれなくて……。
ふーん……。
あ、あぁいや、その……。
……ねえKちゃん。私がどうしてこんなに怖い顔してるか分かる?
そ、それは、お兄ちゃんが雪乃さんのルートの方に進もうとしないから……?
うん、それもあるわ。それも。でも、それだけじゃあ決して無いのよねぇ……。
は、はい……。
一番の理由は……。
ごくり……。
……なんで妹のあなたが雪乃ちゃんよりも誰よりも比企谷君を誘惑できてるのよぉーーーーーーーーーっ!!!!!
ひ、ひえぇ〜〜〜!!ごめんなさ〜〜い!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
二人の陰謀は続く……。
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