こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー (夜遊)
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○プロローグ『何で俺にはフラグが立たないんじゃーー!』

タイトル通りの物語です。お見苦しい点は多々ございますが、よろしくお願いします。




 

善業と悪業どちらが簡単かと言われたら、僕は圧倒的に善業が簡単だろう、と答える。

 

何ヵ月、何十年、長い期間準備してきた事がたまたま来たヒーローに数時間で壊されては余りにも釣り合いが取れないし、悪業を成し遂げたとしても待っているのは周りからの批判だけだからだ。

 

それに引き換え善業は人を最悪殺害しても最後は皆から誉められ憧れられるという最高の特典がついている。

 

それが僕が正義の味方に身を置いている理由の1つだ。

 

まぁ、ほとんどの人間が同じ意見を持っているだろう、ただ本能的に人助けをする例外はいるが。

 

話は高校生になり一月が経とうとする時から始まる。

 

この日僕は、いや僕達は全力で夕暮れに染まる街中を走っていた。

 

「まてこら!!逃げんな!!」

 

「ふ、不幸だー!」

 

「テメェ!!当麻!!お前にその台詞を言う権利はないからな!!一番不幸なのは偶然巻き込まれた僕なんだからだから言わせて貰う!!最悪だー!!」

 

僕、小野町仁は、親友上条当麻と絶賛数十名の不良達と命をかけた追いかけっこの真っ最中だ。

 

「つーか!!なんでこんなことになってんだ!?当麻オメェ僕がトイレに行った間に何しやがった!?」

 

「しょうがないだろ!!アイツら女の子達に絡んでたんだから!!」

 

「やっぱ女絡みか!?チクショウ!!一人でフラフラとフラグ構築してんじゃねぇぞ!!」

 

「意味わかんねぇ事言ってねぇで走るぞ!!なんか人数増えているし!!」

 

「あぁ!?ってなんだあの人数!?もうちょっとしたフルマラソンじゃねぇか!?」

 

ここで僕の頭に閃きと言って良いほどの名案が浮かんだ!!

 

「よし!!ここは別れて人数を分散させよう!!」

 

「テメェ!!この人数を俺に押し付けて逃げ切るつもりか!?」

 

チィッ!!気が付きやがったな!!だが

 

「いや、よく聞けもう僕もアイツらの標的の一人になっている。だからここで別れてもお前だけを追うはずがない!」

 

「そうか!!よし!!後で合流しよう!!」

 

そして別れる僕達、

 

馬鹿め!!

 

アイツらに絡んだのはテメェであって僕ではない!!僕を追いかけたってアイツらに何も特がないからな!!よっぽどの馬鹿でない限り追ってこまい。

 

「テメェも待てやゴラァ!!」

 

「よっぽどの馬鹿だったーー!」

 

 

 

 

 

あれからどれくらい時間がたったのだろか……

 

日は完全に落ち辺りは暗くなっていた。

 

「お前らいつまで追いかけるつもりだ!?」

 

「テメェ!!いつまで逃げるつもりだ!?」

 

川原付近を全力で走る男達は周囲からどんな風に見られているのだろうか。もしかしたら青春を全力で楽しんでいる様に見えたりするのかもしれない。決してそんな爽やかな場面ではないのだが。

 

携帯から着信音が聞こえる。

 

当麻からだ。

 

『あ、もしもし仁?無事か?』

 

「まだ絶賛追われてる途中だよ……お前は?なんかそっちは静かだな」

 

『あぁなんか知り合いに助けられちゃってな』

 

「……ちなみにその知り合いの性別は?」

 

『ん?女の子だけど?』

 

「死ね!!」

 

僕は携帯を乱暴に切り、足を止めた。

 

「なんだ?諦めたのか?」

 

すぐに囲まれたが取り敢えず無視し、胸の奥底から込み上げてくる感情を叫び声と言ういたってシンプルな方法で爆発させる。

 

「何で……何で俺にはフラグが立たないんじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

「はぁ!?なに言って……うわ!!なんだ!?いきなり暴れだしだぞ!?う、うわー!」

 

そこから数十分ジャンプ漫画よろしく何人もの不良達と死闘を繰り広げたのは別の話である。

 

 

 

 

 

家に帰ったのはすでに日にちが変わっていた。

 

「さ、最悪だ~」

 

口の中には血の味しかなく、鏡を見ると顔中傷だらけになっていた。

 

「明日当麻に会ったらドロップキック食らわせてやる……」

 

鏡を見ているうちにじわじわと傷が治っていく、まるでビデオの映像をスローで逆再生している見たいに。

 

いい忘れたが僕は誰にも言ってない秘密がある。

 

その秘密を話す前に1つ質問だ。

 

化け物を信じるか?

 

そいつはコンクリートを粉砕できる力を持ち、

 

全力で走ると車より速く走れ、

 

ビルから落ちても何事も無かったように歩ける桁外れの回復力を持ち、

 

ビルを簡単に飛び越える脚力を持ち、

 

まぁ簡単な話人間離れした人間の形をした化け物だ。

 

何故そんな話を始めたかと言うと、先日僕は化け物の仲間入りを果たしたからだが。

 

まぁ、詳しく話すとキリがないのでここでは話さないが結果だけ言わせてもらうと、

 

僕は化け物の力をほんのちょっと貰ったちょっと回復力があり、ちょっと体の限界点が上で、ちょっと身体的能力があるただの学生である。

 

そしてとある不幸でフラグをやたらに建てまくるお節介焼きのお陰で正義の味方側に身を置いている悪役だ。

 

 




こんな感じで進めていきます。
こんな話でよければ楽しんでください。
楽しみ方は人自由ですが、お勧めは主人公、小野町仁を馬鹿にすればいいと思います。
ではこれから始まる、欲望に忠実な自分勝手の主人公が、自分の為に悪戦苦闘する哀れな様を鼻で笑ってください。


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吹寄編
吹寄編、プロローグ。悪意あるラブレター


こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインが居ないんじゃー、第一話「吹寄編」始まります。


暗い室内、別に夜と言う訳ではなくただ単にこの部屋のカーテンが閉めきられ、太陽の光が遮断されていることが原因だ。

 

部屋を辛うじて照らすのはパソコンから漏れる僅かな光のみである。

 

パソコンの前に座る少年は何やらブツブツ呟きながら作業をしている。

 

その少年の横の壁には数十、数百ものとある女学生を隠し撮りした写真で埋め尽くされていた。

 

 

 

 

 

吹寄制理というクラスメイトがいる。

 

彼女を簡単に紹介しろと言われて真っ先に思い浮かぶ単語は

 

真面目

 

美人

 

通販

 

暴力的

 

そして、巨乳

 

 

 

 

 

土下座。

 

地面に頭を押し付けるこの行為は謝罪の最終形態であり同士に交渉術最強の術である。

 

そう、今僕らは戦っていた。

 

「「「「揉ませてください!」」」」

 

「いい加減にしろー!!」

 

彼女はしなやかな足を振り上げ、力を貯め降り下ろす!!

 

「ギャー!!」

 

「あ、青ピヤスー!!」

 

友人の青ピヤスが顔面から鼻血を噴出しながら尋常ないスピードで後ろにぶっ飛んで行った。

 

「なぜだ!?吹寄僕達はただ単に興味本意でその素晴らしい乳を揉みたいだけなんだ!」

 

ギラリッと吹寄の目が禍々しく輝いたのは気のせいだと思いたい……

 

十分後、鼻に赤く染まったティッシュを詰めた僕達は泣きながら授業を受けていた。

 

 

 

 

 

「あー………暇だ……」

 

放課後何となく図書館で本を読んでいた。

 

いつもの三人は補習があるらしく今は別の教室に拘束されていた。

 

「小野町仁、貴様がここにいるとは珍しいな」

 

横から声が聞こえた。

 

この方向に顔を向けると二つのメロンが

 

「あー……吹寄か……」

 

「いつにもまして元気が無いな」

 

「んー……ほらあれだ…五月病?」

 

「今日私にセクハラしてきた時は元気があったじゃない」

 

「その場のテンションだよ、つーか吹寄はどうしたの?」

 

「時間が空いたから今日の復習よ」

 

「ふーん…頑張ってね……」

 

「ずいぶん暇そうね……よし、貴様も一緒に復習手伝いなさい」

 

「えー……」

 

「ほら教科書出して!!」

 

「マジでやるの?いいよ僕は――」

 

「はやくしなさい」

 

「最悪だ……」

 

何故か急に吹寄制理講師による勉強会が始まってしまった。

 

まぁ、あれだ、吹寄制理は恐らく控え目に見ても美人の部類に入るのだろう容姿を神より授かっているので、美少女と二人で同じ空間を共有できるのは案外ラッキーなのかもしらない。

 

 

 

 

 

窓の外が夕焼けにより赤くなってきた頃、ようやく僕は吹寄制理講師主催、地獄の勉強会から解放された。

 

今僕達は誰もいなくなった廊下を歩いている。

 

「しかし、あれだな、吹寄って頭いいんだな」

 

「何を言ってるの、日頃から予習、復習をしっかりやってたらこんなの普通よ」

 

「顔は綺麗だし」

 

「おだてても何も無いわよ」

 

「真面目だし」

 

「それはありがとう」

 

「え~と……髪は綺麗だし」

 

「ネタが無くなったのね」

 

「あ!!可愛いオデコ!!」

 

「それは宣戦布告と受け取っていいわね?」

 

「待って!今のは無し!!え~と……あ!やっぱりデカイ胸!!」

 

「やっぱりって何よ!!」

 

右脇腹に強烈な痛みが走る、それが吹寄の身体中の体重を乗せた渾身の一撃だと気づくのには少し時間が掛かった。

 

「私は先に帰るから貴様も速く帰りなさい」

 

その場で悶絶している僕を置いて吹寄は一人足早に帰って行った。

 

「あー…最悪だ…」

 

なんとか立ち上がった時には彼女の姿は完全に見えなくなっていた。

 

「本当に帰ったし……ん?」

 

僕は振り向いた。

 

何故と聞かれても、何となくとしか答えられない、あえて言うなら視線を感じたような気がしたからだ。

 

振り向いた先には当然誰もいない、気のせいかと自分を納得させ僕は下駄箱に向かった。

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

下駄箱に着いたとき吹寄が待ってくれていた。

 

「なんだ待ってくれるなら先に行かなくてもよかったじゃん」

 

「……小野町」

 

あれ?なんか様子がさっきと違う?

 

外は薄暗くなり始めていてよくわからないが顔色が悪い様に見える。

 

「どうした?」

 

「……これ、私の下駄箱に入っていたんだが……」

 

吹寄が何かを差し出してきた。

 

それは実に可愛らしいピンクの便箋で下駄箱に入っていたと言うことは

 

「ラブレターじゃん、へぇやっぱり吹寄はモテんだな」

 

あれ?じゃあリアクションちがくね?普通この手の手紙を貰ったら少しぐらい喜ぶところだと思うが目の前のクラスメイトは何故こんなに青白い顔をしているんだ?

 

「……中身を見てくれ」

 

よくわからないが言われた通りに便箋の中を確認する。

 

それは間違いなくラブレターだった。

 

便箋と同じピンク色の紙にただ一言

 

『イツモミテイルヨ』

 

手紙と一緒に写真が入っている。

 

吹寄を隠し撮りしたであろう写真には彼女以外の人間の顔を赤いインクで塗り潰した真っ赤な写真だった。

 

それは間違いなくラブレターだった。しかし、決してまともではない、悪意に満ちた歪んだラブレターだったが。

 

 

 

 

 

これがこれから起きる事件の幕開け、プロローグだ。

 




いかがでしたでしょうか?

小野町仁の立ち位置は上条当麻の親友、3バカデルタフォースの仲間の立ち位置です。



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吹寄編、ドキドキ!!完全共同生活!!ホロリっもあるよ!!

吹寄編第2話です!!


それは間違いなくまともとはかけ離れたラブレターだった。

 

「………」

 

暗くなった下駄箱の前に僕らは黙ったままだ。

 

「小野町……」

 

吹寄は何かを期待するように僕を見ている。

 

「そんな顔すんな、イタズラだよ」

 

「そ、そうよね!!それじゃ私帰るわ」

 

「………」

 

僕は帰る彼女の後ろ姿を黙って見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

次の日、吹寄は学校を休んだ。

 

 

 

 

 

「………」

 

やはり昨日のラブレターが原因なのか?

 

昨日はイタズラと言ったがあれはそんなもんじゃ無い気がする。

 

まさか今日休んだのは何かあったんじゃないか。

 

そう思い、気が付くと彼女の部屋の前に僕は立っていた。

 

流石に女子の部屋に行くのは抵抗があったが、彼女の性格だどうせラブレターの話は僕にしかしてないだろ。

 

インターホンを鳴らすと聞き慣れた声がした。

 

「……どちら様ですか?」

 

「吹寄俺、小野町」

 

「こ、小野町!?どうした!?何で私の家に!?」

 

「どうしたはこっちの台詞だ、昨日の今日で心配になったから様子を見にきただけだよ」

 

「ま、待て!!今開ける!!」

 

ドアが開き私服姿の吹寄が姿を現した。

 

いつもは制服だけあって私服はなんとも新鮮だ。

 

「よう」

 

「わざわざ来てくれたのか、まぁ入れ」

 

「いや、ここでいいや、さっきも言ったけど別に様子を見にきただけだし」

 

「……また来ていた」

 

「………本当か?」

 

「昨日家に帰ったら郵便受けに入っていたんだ」

 

「やっぱりお邪魔していいか?」

 

 

 

 

 

彼女に送られてきた手紙は昨日下駄箱に入っていた物と同じピンク色の便箋だった。

 

中にはピンク色の手紙に写真が一枚。

 

手紙には

 

『ムカエニイクヨ』

 

と一文しかなく。逆に不気味さを出していた。

 

写真の方は更に不気味で彼女が下校中の姿を隠し撮りしたものでやはり昨日と同じく彼女以外の人間の顔を赤いインクで塗り潰したものだ。

 

「先生に相談したらどうだ?」

 

「小萌先生に余計な心配をかけたくない……」

 

しかし、この手紙の差出人は明らかな異常者だ。

 

僕達にはてに終えない。

 

「私、どうしたらいいんだ?」

 

彼女は確実に弱っていた。

 

普段は強気にしていても、やはり正体不明の相手に不安を隠せていない。

 

そんな彼女に僕は何もしてあげられないのか?

 

彼女の性格だ、こんなに弱った自分の顔は誰にも知られたく無いだろう。恐らく僕にも知られたく無いだろうが偶然、本当に偶然目の前に僕しか居なかったからこうして相談したのだろう。

 

そんな彼女に僕は何が出来る?何をしてあげられる?

 

僕は手紙に視線を落とす。

 

『ムカエニイクヨ』

 

ムカエニイクヨ、むかえにいくよ、迎えに行くよ。

 

明らかに犯人は彼女を狙っている。

 

今、彼女を一人に出来ない。

 

一人に……そうか!!

 

「そう言えばさ吹寄」

 

ある妙案が浮かんだ。

 

「来週小テストがあるんだ」

 

「………は?」

 

「実は俺今回のテストで当麻達と賭けをしていてな、絶対に勝ちたいんだ、だから、その…………住み込みで勉強教えてくれないか?」

 

言って思った。

 

馬鹿だ、僕は。

 

そして後々後悔することになる。

 

 

 

 

 

僕はMじゃ無いかと本気で後悔している。

 

あの日から吹寄は僕の部屋で勉強を見てくれている。

 

若い男女が同じ部屋で夜を共に過ごす。

 

なんともうれしいシュチュレーションだろうか!!

 

とか本気で思っていたのは最初だけだった。

 

「だから、この問題は――」

 

「あの吹寄さん…」

 

「どうした小野町仁、何か質問か?」

 

「もう三時間以上勉強しているのですが、そろそろ終わりにしてよいのでは?!」

 

三日目の夜の出来事である。

 

共同生活は何故か思い描いたものとは全く違う、別物に変質していた。

 

いちいち書くのはトラウマが蘇るのでダイジェストでお送りする。

 

「お邪魔しま――なんだ!?この部屋は!?よくこんな汚い部屋で暮らしているな!!えーい!!掃除機並び清掃道具全て出せ!!」

 

「ギャー!!」

 

「腹へった…」

 

「お疲れさま、夕飯を作ったぞ」

 

「わーい!!………あの……」

 

「どうした?」

 

「凄く緑が多いのですが……」

 

「貴様今まで偏った食生活を送っていたみたいだからな、これを気にしばらくは野菜生活をしよう」

 

「ギャー!!」

 

「そろそろ寝るか」

 

(キター!!フッフッフ!!覚悟しろ吹寄!お前が無防備になった瞬間、念願のそのザ・チチを堪能してやる!!つーか!!)

 

「何故か縛られてる!?」

 

「貴様は油断出来ないからな、保険をかけておいて損は無い」

 

「ギャー!!」

 

「グゥ~……グゥ~…んん~胸……巨乳……ご、ごめんなさい……最悪だ……」

 

「どんな寝言だ……?」

 

「………ありがとう」

 

これが後に僕の中で『吹寄先生完全監修、ドキドキ!!(僕が)共同生活!!ホロリッもあるよ!(僕の涙が)』の一部である。

 

 

 




まだ投稿してまもないのにお気に入り登録していただいた方々ありがとうございます!!

随時ご意見番、ご感想等々お待ちしていますのでよろしくお願いします。


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吹寄編、もうここには居られない

どうでもいいけど、ジョジョが大好きです!


ここで近状報告をしようと思う。

 

僕が吹寄と行動を共にしたお陰で彼女は学校に来れるようになった。

 

同じくあのラブレターは彼女のもとに来なくなった事も関係しているのだろう。

 

彼女との生活は地獄を連想させている。

 

家に帰り、野菜が九割締める健康的な夕食をとってから寝るまで勉強漬け、寝る時には体をロープで拘束され、寝返りもうてない。

 

なにより辛かったのは、四日目の勉強会の出来事だろう。

 

小休憩がてらトイレに行っていた僕は居間に戻ると吹寄が何か教科書以外の本を読みながらわなわな震えていた。

 

それはどこか見覚えがある物で、確か本棚の図鑑にカムフラージュした。そのなんと言うか、大人になるための参考書な訳で、簡単に言えば

 

エロ本である。

 

その後の事は、頬を赤らめた吹寄と大人の関係になる筈もなく、頬を怒りに真っ赤に燃やした吹寄に正座を強いたげられ小一時間説教をくらったのち、他に隠していたその部類の本の隠し場所を洗いざらい全て吐かされ、更に彼女の厳しい家宅捜査で自分でも忘れていた物まで見付けられ、その後目の前でズタズタに引き裂かれた後、ゴミ箱にダストシュートされた。

 

さらば、ありがとう、僕の先生達。

 

さてと話は脱線したが、確かに吹寄のもとにあの気持ち悪いラブレターは来なくなった。

 

しかしこの事件はまだ終わっていないのだ。

 

断言出来る。

 

何故ならば、

 

手紙は今、脅迫状に姿を変え僕に届けられているのだから。

 

 

 

 

 

吹寄が僕の部屋に来た初日から四日目の今に至るまで計三通、一階の郵便受けにピンク色の便箋が届けられていた。

 

初めはまた彼女に宛てられたものだと思っていたが、彼女に知られないようにこっそり中身を確認したら間違いだと気が付いた。

 

『セイリカラハナレロ』

 

『セイリニチカヅクナ』

 

『ケイコクダ、コロス』

 

それぞれの便箋には手紙の他に写真が入っており、それらは僕と吹寄が二人でいる姿を隠し撮りしたものだった。

 

そして写真に写る僕の顔は赤いインクで塗り潰されていた。

 

「怖っ!?さ、最悪だ……」

 

手紙を見せると確実に吹寄を不安がらせてしまう。

 

そう思い、絶対にばれない場所、学生鞄の中にしまった。

 

しかし、不幸にも。

 

 

 

 

 

五日目の下校中、すぐ近くに僕の住むマンションがある場所での出来事だ。

 

「ありがとうな、小野町」

 

急に彼女がお礼を言って来た。

 

普段は強気でいて、少しからかうとすぐに手や足を出す印象を持っている彼女からの突然のお礼に完全に意表をつかれ、手に持っていた鞄を地面に落としてしまう。

 

「え、あ、ありがとう!?吹寄がぼ、僕に?!何!?なんだ!?何かの前触れ!?」

 

「貴様!!人が素直になっている時にふざけるな!!」

 

彼女の顔は夕日のせいもあって真っ赤になって見える。

 

不覚にもその恥ずかしがる顔に、一瞬心が奪われ、心臓の鼓動も速くなる。

 

「その…あ、ありがとう!本当に感謝している。だから今度ちゃんとした礼をするから!!」

 

「お、おう……」

 

気まずい!!

 

気まずい!!

 

気まずすぎる!!

 

なんだ!?この空気?!

 

「じゃ、じゃあ先に帰っている!」

 

空気に耐えきれずに吹寄は走り出してしまった。

 

僕は少し遅れて歩き出す。

 

この時もしもすぐに彼女の後を追いかけて行けば最悪な事態はならなかったはずだ。

 

少し自分の部屋に入るのに躊躇したが、このまま部屋の前の廊下に突っ立ている訳にもいかず、どんな顔をすればよいか考えながら帰宅した。

 

部屋には居間で吹寄が立っていた。

 

何故か彼女の顔はどこか怒っているように見える。

 

「小野町仁、貴様……私に隠していたな……?」

 

「な、なんのことだ?僕には――」

 

「嘘を言うな!!じゃあこれはなんだ!?」

 

吹寄は何かを僕に叩きつけた。

 

それはピンク色の便箋だった。

 

床に落ちた便箋から手紙が出てくる。

 

『ケイコクハシタイノチハナイトオモエ』

 

「さっき帰ったら郵便受けからはみ出るように出ていた……、『ケイコクハシタ』警告とはなんだ!?まだあの手紙は来ていたのか!?答えろ!?」

 

今までは吹寄は郵便受けを開ける事はなかった。

 

しかしはみ出させる事でわざとその存在に気づかせ、吹寄本人に取らせるように犯人はしたようだ。

 

「答えろ!!答えてくれ……」

 

もう隠せない、僕は鞄の奥底に締まっていた三通の手紙を吹寄に渡した。

 

彼女が手紙を見る数分が長く感じる。

 

吹寄は手紙を読み終わると

 

僕の頬を叩いた。

 

痛い。今まで食らった暴力のほうが確実にダメージがあったはずなのに、今受けた平手は何故か頬ではなく心を痛めた。

 

「貴様…これは明らかな脅迫状じゃない!!何で何も言ってくれなかったの!?」

 

「それはお前が不安がると思ったからで……」

 

「ふざけないで……これは私の問題……いや、私の問題だった。それなのに貴様を巻き込んでしまった……」

 

「それは違う!僕が勝手に――」

 

「……もうここには居られない……」

 

吹寄は僕の突き飛ばし、そのまま玄関から走り出してしまった。

 

「吹寄!!」

 

玄関の鍵も掛けず、彼女の後を追う。

 

これから起きる惨劇も知らないで………

 

 

 

 

 




しかしあれだな、昔書いた話だから、違和感が半端無い。

時間があったら直しを入れますので、多少の間違えは目を瞑って下さい。

あと何かアドバイスがありましたら委員長キャラみたいに優しくかつ内心バカにしながら指摘して下さいね!!

次回、小野町仁入院!小野町仁窃盗!小野町仁自宅侵入!の3本立てでお送りします!!

期待せずお楽しみに!

ご意見、ご感想等々お待ちしていますので!!


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吹寄編、僕はお前を守りたい。

吹寄編も中盤に差し掛かって来ました。


浅い川の上にかかる橋の上で吹寄に追い付いた。

 

「吹寄!」

 

彼女は走る足を止めたがこちらを振り向かない。

 

「来ないで……これ以上あなたに迷惑はかけたくない……だから――」

 

「だから見過ごせってか?」

 

まだ肌寒い季節の風が僕らを包む。

 

彼女は振り向きこちらを見た。

 

その瞳には涙が溜まり今にも零れそうだ。

 

「そうよ……貴方に、いえ誰かに相談したのがそもそもの原因だった……私一人で解決しなくちゃいけなかった…貴方に甘えたのがいけなかった!!」

 

正直、その言葉を否定する気はなかった。

 

僕は正義の味方側の人間であるが正義の味方と言うわけではない。

 

白状するがこの話をされた時確かに僕はこう思っていた。

 

心の奥底で確かに迷惑だと感じていた。

 

あの日下駄箱でこんな面倒事を相談されて、正直嫌だった。

 

僕を巻き込むなと言ってやりたかった。

 

そんな感情が確かに小野町仁という人間にはあったのだ。

 

だがそれがどうした!!

 

「馬鹿か、僕はもう巻き込まれているよ、だからこれはお前だけの問題じゃない」

 

確かにそんな考えはあったが僕は自分の意思で厄介事に巻き込まれたんだ、

 

吹寄が学校を休んだ日、彼女の部屋に行ったのは僕自身の意思だ、

 

彼女を自分の部屋に招いたのは僕がそう望んだからだ。

 

確かに嫌がっていた想いもあった。

 

しかしそれと同じくらいに別の想いも確かにあったのだ。

 

それは次第に大きくなり、いつしかそれが本心に変わっていた。

 

だからあえて言わせてもらう。

 

胸を張って言わせてもらう。

 

胸を張って言える。

 

こんなとき親友のツンツン頭なら、あの紛れもない正義の味方ならこんなひねくれた感情なしに手を差し伸べる言葉を言うだろが、生憎そんな芸当は逆立ちしたって僕にはできない。

 

僕は僕の意思を言葉にした。

 

「僕はお前を守りたい、そう願ったから巻き込まれたんだ」

 

「っ!?」

 

そうこれは他人を守る正義ではない、クラスメイトという僕の世界の日常が最悪な形での変質するのを恐れた

 

自分を守る、悪そのものだ。

 

 

 

 

 

吹寄は涙を溜めながら言った。

 

「小野町仁、貴様は間違っている……」

 

「だろうな、自覚してるよ」

 

「……馬鹿だ」

 

「それは否定する、お前のお陰で次の小テストは満点を取れる自信がある」

 

「………ありがとう」

 

「お礼に何かしてもらうがな」

 

「何でもしてやる」

 

「んじゃー楽しみに考えておくよ」

 

「この数日でわかった、私はお前を――」

 

次の言葉は僕の耳には入って来なかった。

 

何故ならば僕の体は突然の想像を絶する強風により空を舞い、空中で身体中の皮膚が引き裂かれたからだ……

 

 

 

 

 

空中を待った僕の体は橋から落ち、浅川に叩きつけられた。

 

皮膚が裂け、血が川の水を赤く濁らせる。

 

落下の衝撃で身体中の骨が軋みをあげ内臓が悲鳴をもらした。

 

それでもなんとか状況を確認できた。

 

「ぼ、僕の制理に近づくなと警告したはずだ」

 

橋の上には吹寄の他に眼鏡をかけた僕らと同じ高校の制服を着た男子生徒が立っていた。

 

「ぐっ……」

 

体のダメージが大きく声がうまく出ない。

 

「お前が悪いんだ!!お前が制理に近づいたから!!」

 

「小野町!!」

 

「制理は僕が守る!!さぁ行こう制理…」

 

男子生徒は吹寄の口にハンカチを押し当てる。

 

そのハンカチには何らかの薬品が染み込まされていたのだろう、暫く抵抗を続けたが急に吹寄は倒れた、まるで眠るように。

 

「テメェ……!」

 

「う、うわぁ!?」

 

まだ僕は動けないだろうと思っていたのか、ゆっくりと立ち上がった僕に驚いている。

 

正直立つのがやっとで口を開くのは遠慮したいのだが、僕は自身の体に鞭を打って男に向け吼えた。

 

「へ!!守る?ふざけんな…!テメェに怯える奴をどうやって守るんだよ……?」

 

「う、うるさい!!」

 

「つーか…手紙やら何やらでねちねちねちねち、怖がらせて…このストーカー野郎!!」

 

「黙れ!!」

 

男子生徒は右手をつき出す。

 

すると先程僕を襲った突風が右手から噴出された!!

 

風は僕の体に容赦なく降り注ぎ体や服を引き裂いていく。

 

血が川の水に落ち、赤い濁りを広めていく。

 

(なんだ!?この力…なんでこんなやつが!?)

 

僕の通う高校はどこにでもある普通の高校だ、能力のレベルも0の無能力者がほとんどでよくてもレベル2止まりのはずだ。

 

なのにこのストーカーの力はそんな下位の威力では無い、たぶんレベル4クラスの物だ。

 

「ぐぅ!!なんだその力?」

 

「僕の能力『空間加速』、回りの空気を凝縮して爆発させるものさ」

 

ストーカーの手のひらに空気が集まっていく。

 

(なるほど、空気を集める時一緒に小石やら砂やらを混ぜ合わせ、それが刃物の役割を担って体を引き裂いていくのか)

 

言わば鎌鼬を人工的に再現したものだろう。

 

風は目に見えないから避けにくく、もとより先のダメージが体を動かせない、立っているのがやっとだ。

 

「僕のレベルはもう4!力無いやつが制理を守れるか!!死ねぇ!!」

 

ストーカーが限界まで凝縮させた風を放って来る。

 

豪音を立て向かってくるそれは、周りの壁や、橋の部品を削り、更にその削られた破片が風により威力を引きあげている。

 

そんな凶悪な攻撃に僕は瞬時に悟り、意外に冷静な感想を頭の中で呟いた。

 

(あ、無理だ)

 

瞬間。

 

僕は鎌鼬をもろに受け身体中の皮膚が引き裂かれる、血が少なくなったのか、意識が薄れていくのがわかる。

 

確かに僕は人より回復が早い、しかしそれには限度があり、時間がかかるのだ。

 

普通の人間が一週間かけて治す傷を僕の場合は三日ほどしかかからないそんな程度。

 

だから僕の体は浅川の上で撃沈した。

 

薄れいく意識の中でストーカーが眠った吹寄をどこかに連れていくのが見えた。

 

助けに行きたいのに体が動かない、

 

彼女の名前を叫びたくても声が出ない、

 

あのストーカーを睨み付けたくともまぶたが重い。

 

(………ちくしょう………)

 

自分の無力感を改めて実感した。

 

ここで僕の意識は完全に沈黙するのだった。

 

 

 

 

 

 




正義と悪の定義は人それぞれだと思います、小野町仁にとって正義とは他人を守る事で悪とは自分を守る事と彼は考えています。

吹寄編もあと3話ぐらいで終わります。

もう少しご辛抱して下さい。

感想、ご意見、その他等々お待ちしていますのでよろしくお願いします!!


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吹寄編、ちなみにその人の性別は?

すみません、サブタイトルを入力し忘れていました。


目が覚めると病室にいた。

 

「……………あれ?」

 

「起きたかい?」

 

目を覚ますと声を掛けられた。

 

白衣を身につけた医者がそばにいる。

 

なんと言うか…失礼だが蛙によく似た医者が。

 

「君は川で血まみれになっていた所を偶然通りかかった通行人に発見されたんだよ」

 

「……ちなみにその人の性別は?」

 

「ん?男性だったかな?」

 

ガッデム!!

 

またフラグを逃した!!

 

最悪だー!!

 

頭を抱えたかったが体が動きにくい。

 

よく見れば、身体中に包帯がぐるぐる巻きになっていた。

 

「しかし、運が良かったね、君が運ばれてきた時は驚いたよ、何しろ全身が切り傷で一杯だったし、皮膚には小石が三十個位突き刺さっていたんだ、全て取り除くのに苦労した、あと出血が酷かったから発見があと少し遅かったら命はなかったよ」

 

「うわぁ…あぶねぇ……」

 

「そろそろ行くけど無理に動かないで寝ていなよ」

 

医者が部屋から出て行った、その足音が遠ざかったのを確認して僕は部屋に干してあった服を来て、病室から抜け出した。

 

「寝ますとも……全部終わったらね」

 

吹寄を助けに行きあのストーカー野郎を殴ろう。

 

さぁ復讐の始まりだ。

 

 

 

 

 

まずはあのストーカー野郎を見つけないとな、計算したら、僕が目を覚ましたのはあれから三時間位経っている。

 

今更街中を走り回ったって見つかる筈がない。

 

「ヒントが欲しいな……」

 

そうヒントが欲しい、ヒント、ヒントヒント―……

 

「ねぇー!!」

 

いや、よく考えろ!!一から順にだな……

 

まずは手紙だ、無理だな、あのストーカー野郎自分で直接郵便受けに入れていたみたいだし。

 

写真?駄目だありきたりな場所過ぎてわからない。

 

あとは顔か。無理だ、探しきれない!!

 

この街何人の学生がいると思っているんだ!!

 

「だーもう!わかっているのはうちの生徒って事だ…け…か…よ?」

 

あれ?待てよ?顔がわかっていて同じ高校?

 

(確かうちの高校生徒の資料なかったか!?顔写真付きの!!)

 

学園都市の学校は能力開発の為に外側の学校よりも正確に生徒の資料を作成保管していたはずだ。

 

当然顔写真付きで。

 

「よし!!」

 

学校に行こう。

 

 

 

 

 

まぁ生徒の資料なんつー個人情報満載な物は厳重に保管されている訳で、しかも時間的に教師も居ない、普通に入手不可能だった。

 

だからまぁ…その……盗みました!!

 

「ヤバイ!!セキュリティ高すぎ!!これ捕まったらどうなるんだ!?やっぱ前科持ち!?ヤバイ!!なんで人助けして前科者にならなきゃならないんだ!!さ、最悪だーー!」

 

体の傷を忘れながら僕はわりと全力で警報が鳴り響く学校から離れた、その手に一枚の資料を握りしめながら……

 

 

 

 

 

斉藤誠、それがストーカー野郎の正体だ。

 

つーか隣のクラスなんだ。

 

「よーし、行くか!!」

 

現在僕は今斉藤が住む部屋の前にいる。

 

このドアの向こうに吹寄がいる。

 

待っていろ吹寄!

 

「ってあら?」

 

室内に人の気配が無い。

 

ドア横の窓にも光がないし、インターホンを押しても誰かが動く様子もない。

 

まさか……

 

「誰も居ない?」

 

おかしい、他にアイツは隠れる場所なんてあるのか?

 

もう手元にヒントは無い、ここで行き詰まりなのかよ!?

 

……………………………よし、もう無茶苦茶に犯罪犯してやる!!

 

僕はドアノブを掴み思いっきり引き抜いた。

 

「力があるって便利」

 

ドア内の鍵の構造を無茶苦茶にし、ドアを強引に開け室内に浸入をはたす。

 

「なんだ……これ?」

 

一見したら代わり映えにない普通の部屋。

 

しかし

 

室内には不気味な箇所があった。

 

壁一面に貼られた吹寄を隠し撮りした、大量の写真だ。

 

その光景は異常を上回り、狂気の領域に達していた。

 

「……マジで危ないなあの男」

 

僕は室内を物色し始めた。

 

しかし、何も見つからない。

 

「くそっ!なんか無いのか!?」

 

ここが最後のヒントだ、ここで駄目なら諦めるしかない。

 

「なんでもいい。何か……あれ?」

 

何かに気付く。

 

机の上にはあのピンクの便箋や写真があった。

 

写真を手に取りよく見る。

 

何か違和感がある。

 

(なんだ……何が引っ掛かるんだ?)

 

写真は吹寄が下校する姿を収めた物だ。

 

しかし、よく見ると…… やっぱり吹寄って胸が凄いな顔も綺麗だしって違う、違う………あれ?

 

「あぁ!!」

 

僕は壁に貼られた写真を再度確認する。

 

「これも!!これも!!これも!!みんな正面から撮られた写真だ!!」

 

普通隠し撮りした写真は後ろ姿がほとんどだ、だがこの写真は正面から撮られたもの、前からカメラを持った人間が近づいたら怪しまれるはずだ、なのに写真の中の吹寄はそんな警戒をしていない。

 

(どうゆうことだ?)

 

前から撮られたのに気が付かった?

 

いや、偶然ならまだしもこんな数十枚写真を撮られていたら嫌でも気付く!!

 

前から撮れて気が付かない場所。

 

普段気にしない方向。

 

「上から撮影した?」

 

そうだ!!上からなら撮影しても気づかない!!

 

普段から上を向いて歩く人間はいないから。

 

「上から、上……ビルの中から?!」

 

上から撮れた写真を全てはがし横に並べる、すると上空から撮影した写真は全て同じ向きで撮影されていた。

 

「ここって大通りだよな?確かあそこ工事中のビルがなかったか?」

 

マンションや会社が並んだ通りに確か何故か工事が中断して中途半端に建っているビルがあったはずだ。

 

確かな感触を持ちながら僕は真実に近づいていた。

 

 

 

 

 

 




補足として、小野町仁の身体はとある事情で化け物染みています。だからドアノブを壊す事ぐらい簡単なんです。

クライマックスも近いて来ました。

またよろしくお願いします!!

ご意見、感想、等々ありましたら書いて下さい。


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吹寄編、僕は悪人。

吹寄編、クライマックスです。


高さ的には十階建てのビルの中は暗く足元にはゴミが散乱していた。

 

なんとかビルに浸入した僕は一階一階、捜索していたのだが、

 

「ぜぇ、ぜぇ……死ぬ!!これは死ぬ!!」

 

工事中と言うことで当然エレベーターなんて便利な物は無いわけで(むしろ電気すら無いのだが)、必然的に階段を使うしかない、さて今の僕は包帯を所々に巻き付け、更に全身傷だらけで今までの移動も自分の足をフル活動してきた訳で、ぶっちゃけ体力がなくなってきていた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ」

 

それでもビルを九階まで調べあげた僕は十階に向かう階段を上っていた。

 

「ちくしょう!!これで最後!この先に姫がいるんだ!!頑張れ、勇者もとい僕!!」

 

そして最後のドアをおもっいきり開けた!!

 

「ジャーン!!勇者様の登場だぁぁぁ――」

 

するとそこには呆気にとられた吹寄と斉藤が!

 

居なかった……

 

「――ぁぁぁあ…?…………居ねぇのかよ!?」

 

僕の絶叫は虚しく無人のビルに響くのだった。

 

 

 

 

 

「もうやだ………」

 

最後の推理がハズレ、更に体力が無くなった僕は床に倒れている。

 

なんかもう恥ずかしい!!

 

よく考えたら別にこのビルにいる保証なかったじゃん!!

 

無駄に体力が無くなったじゃけじゃん!!

 

ヒントはもう完全に無くなった、僕はもう前に進めない。

 

ここじゃないならどこだよ!?

 

写真を見る限りこの近くのはずだし、隣のビル?いや、ここ以外は全部何らかの会社が入っているし……場所が違ったのか?いや、写真の風景があるのはここの一帯だ…………………………………………………………………………………………………もう無理!

 

諦めよう

 

もう僕には無理だ、騒ぎが大きくなるのは吹寄が嫌がるからなるべく避けたが、もうそんな事言ってられない、ここを出たらアンチスキルに連絡しよう、その前に新鮮な空気を吸いたい……

 

ビルは埃が舞い、今の僕には害になるだろう。

 

僕は近くの窓に近づいて身を乗り出した、

 

新鮮な空気が顔を撫で気持ちよい。

 

そこで見たのだ。

 

開けた窓は隣のビルに面した形で設置されていた。

 

隣のビル、

 

その下の階、

 

空き部屋の広告が貼られた窓の向こうの暗い室内に誰かがいる。

 

よく目を凝らせば誰かに似ている。

 

いや、似ているというより、はっきりいって本人だ。

 

ここ数時間僕が必死に探している人だ。

 

それは半裸状態でガムテープで口を塞がれ、

 

同じくガムテープで体を拘束されている吹寄制理と彼女に近づく斉藤誠だった。

 

どうやら神様は僕を見逃さなかったみたいだ。

 

「……見つけた」

 

 

 

 

 

しかし、どうする!?

 

なんか今から襲っちゃうよ雰囲気満載だし!!

 

今から下に降りて、隣のビルを上ってからじゃ遅い!!

 

どうする!?どうする!?どうする!?どうする!?どうする!?どうする!?どうする!?

 

「おい、おい、マジかよ!?なにやってんだ小野町仁!!」

 

僕は窓に足をかけ、身を完全に乗り出した。

 

(下を見るな!!下を見るな!!下を見るな!!下を見るな!!)

 

呪文の様に頭で呟きながら、覚悟を決める!!

 

「南無三!!」

 

窓を蹴り

 

僕は

 

飛んだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

いくら隣のビルと言っても間隔はかなりある。

 

僕の体は重力の力を受け下に落下しながら彼女達の部屋に向かう。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

走馬灯が駆け巡る!!

 

死を覚悟する!

 

だがなんとかちょうど部屋に入れそうだ!!

 

ここで誤算があった。

 

ビルを飛び越える時、力み過ぎた。

 

そう、僕の体は吸い寄せられるように吹寄達のいる部屋の窓に近づいて行った。

 

近づいて来る窓をまるで夢を見ている感覚で眺めていたが、

 

体がガラスに触れると勢いよく砕けちり傷だらけの僕の体を更に切りつけた。

 

更に強い衝撃を受け、意識が一瞬飛んだ僕に追い討ちをかけるかのように、床に落ちた僕の体に鋭いガラスの破片が降り注ぎ、いくつか体に突き刺さる。

 

それでも僕は生きていた。

 

その真実が体の奥底から力が沸き出し、近くにいた、斉藤を殴り飛ばす。

 

「オラッ!!」

 

「ガフッ!?」

 

拳は鼻を直撃し、鼻が折れたのか斉藤は激痛て床を転がった。

 

「吹寄!」

 

吹寄のもとに駆け寄り、ガムテープを外し、体の拘束を解く。

 

「小野町!!お前!!なんで?」

 

「なんでって……助けに来たに決まっているだろ?」

 

この台詞歯痒いな…、それに身体中傷だらけだし、格好つかないし。

 

「とりあえずここを出よう」

 

「そうはさせない……」

 

振り向くと鼻血で顔を赤黒くした斉藤が立っている。

 

「ふざけるな…制理を守るのは僕だ!!貴様じゃない!!僕が制理のヒーローだ!!」

 

斉藤の右手から能力で作られた鎌鼬が噴出する。

 

 

 

 

 

空間加速。

 

その能力は周りの空気を風というベクトルで一ヶ所に凝縮するだけの能力だが、

 

これにより発生し凝縮した空気の塊の一ヵ所だけ少し意図的に壊す事により壊れた箇所から凝縮されていた空気が噴出される仕組みだ。

 

それに空気を凝縮する際小さな異物を混ぜ合わせることで風に乗せ対象を切り裂く、鎌鼬を作りあげる。

 

それが僕が盗んだ資料と体験談をもとに考えた斉藤誠と言うストーカーの能力だ。

 

 

 

 

 

 

背中に激痛が走り、肉が抉られるのを感じた。

 

「……こ、小野町…」

 

鎌鼬が噴出される寸前、僕は吹寄を強く抱き、背中でその攻撃を受ける事で彼女を守った。

 

しかし、ゴツゴツした小石と違い、今回は僕が浸入した際に破壊した窓の鋭いガラス片が風の中に混ぜ合わされていた。

 

ガラス片はより綺麗に鋭く皮膚を裂き、肉を切り、体内で止まる。

 

血が吹き出す。

 

力が入らない。

 

視界が赤く染まる。

 

気が付けば僕は床に倒れ自分の血に沈んでいた。

 

「…、………、…………!!……!!………………………………………………!?……………………!!…………!!」

 

「………!!………!!………!!」

 

斉藤や吹寄の声は耳に入るが脳まで届かない、雑音を聞くような感じだ。

 

そんな中、はっきり聞こえた一文があった。

 

「お願い助けて!!」

 

助けて、彼女が初めてまともに僕に救いを求めた声だ。

 

その言葉を早く、そうあの下駄箱の時に言ってくれたのなら、僕ももっと頑張れただろう。

 

その言葉を言うのに彼女の中でどれほどの迷いや戸惑いがあったか想像はできない。

 

そんな重い言葉が詰まった想い一言を聞き、僕は……。

 

(……駄目だ…まだ、力が……)

 

動けなかった。

 

足らない……やはり僕は悪人だ、助けを求められても力が出ない。

 

上条当麻なら、あの正義の味方なら、その一言で動けるだろう、だが僕は正義の味方側にいるだけであって、正義の味方ではない。

 

他人の為に戦う正義の味方、

 

自分の為に戦う悪人。

 

その違いが今現れた。

 

救えない、だけど救いたい。

 

他人の為ではなく、自分の為に。

 

正義ではなく悪の為に。

 

尊敬ではなく自己満足の為に。

 

何故だ?

 

そもそもなんでこんな目にあって、犯罪を犯してまで、僕は吹寄を助けたいんだ?

 

クラスメイトだから?

 

自分の世界を守りたいから?

 

違う、そんな堅苦しいものじゃない、

 

もっと純粋でより強い願い。

 

ごちゃごちゃした言い訳ではなく、もっとシンプルな思考。

 

(あぁ、なるほど)

 

わかった。

 

瞬間気が付いた。

 

解ってしまった。

 

受け入れてしまった。

 

なんとも僕らしい濁って、ドロドロで、最悪な欲望だろう。

 

全身に力が甦る。

 

同時に世界が戻る、

 

気が狂った見たいに意味不明な言葉を吐き続ける斉藤誠、

 

僕を心配しながら助けを求める吹寄制理。

 

僕は自分の血に滑りながら、ゆっくりと無様に立ち上がった。

 

僕の動きに斉藤は恐怖する。

 

僕の動きに吹寄は希望を持つ。

 

僕は空気を思いっきり吸う、

 

酸素は身体中の細胞を刺激し覚醒させた。

 

「吹寄、さっきお礼になんでもするって言ったよな?」

 

「え、えぇ」

 

「決まったよ、僕がお前にしてもらいたい事は――」

 

拳を握る。

 

指が掌に食い込み血が溢れる。

 

足に力を込める。

 

中の筋肉が膨張し、足の震えが無くなる。

 

斉藤を睨み付ける。

 

霞んでいた視界は斉藤をはっきりと見据える。

 

空気を吸い込む。

 

自分の想いを正直に伝える為に!!

 

「一回抱かせろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

なんとも最悪で醜く汚い欲望を吐き出しながら、僕は斉藤に向かい走り出した。

 

距離は約六歩、しかし一歩踏み込むごとに体が激痛をあげる、

 

それがどうした!?

 

欲望の為に僕はどこまでめも頑張れるのだ!!

 

拳を振り上げ、能力を使われる前に斉藤の顔面に文字道理渾身の一撃を放つ!!

 

拳が斉藤誠の頬に激突する。

 

拳から衝撃がまるで波のように駆け巡る。

 

全身の筋肉、骨、神経、内臓全てが悲鳴を上げ震える。

 

そんなことを実感しながら、しながらも最後まで僕は拳を振り下した。

 

斉藤の体は後ろにぶっ飛び、出入り口にぶつかり、ドアごと廊下に飛び出し、壊れた壁から大量の埃が舞う。

 

埃が舞う中に今回の事件の元凶であるストーカー、斉藤誠が意識を失って撃沈しているのを確認した。

 

吹寄に迫っていた危険を完全に取り除いた事を確認し、

 

そこで僕の意識は完全に無くなった……

 

 

 

 

 




小野町仁にとって正義とは他人を守る事で悪とは自分を守る事と考えています。

彼の本質はここにあり、さらに彼は自分を悪と考えています。しかし彼は正義に憧れていますので皮肉を込めて自分は正義の味方側の悪役と卑下しているのです。

さて!!次回エピローグ!!

お楽しみに!

ご意見、感想、等々お待ちしていますのでよろしくお願いします!!


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吹寄編、エピローグ。最高のハッピーエンド。

吹寄編最終回です。


目が覚めた僕が最初に見たのはまたしても蛙によく似た医者だった。

 

「一日に二回入院した患者は初めてだよ」

 

「あれ?俺は……あ!!吹寄は?!」

 

「あまり騒がないでね…、彼女なら今アンチスキルに事情聴取を受けている、今は君の体を気にしなさい」

 

「あのあと何が起きたんです?」

 

「僕も詳しくは知らないけど君は彼女を救ってすぐに気絶して、そのあとは通報を受けてかけつけたアンチスキルにより保護、ここに搬送されたわけだ」

 

「そうなんだ」

 

気を失う前の事があまり記憶に無いのだが、何か恥ずかしい事を言っていなかっただろうか?

 

「けど君ここを抜け出してなにやっていたんだい?身体中にガラス片が食い込んでいたし、筋肉の疲労も限度を越えていたんだが」

 

この質問に僕は軽く考え、真実を完結に一言で言った。

 

「え~と…、戦っていました」

 

「彼女の為にかい?」

 

「いえ、自分の為にですよ」

 

 

 

 

 

 

その後の事を話そう。

 

斉藤誠は罪を認め、少年院に入れられる事になった。

 

吹寄は元々怪我を負っていなかったので事件前の様に元気に学校に通っている。

 

僕の犯した犯罪行為は一応お咎め無しになった。

 

どうやら子萌先生を筆頭に事情を知った何人かの先生達が頑張ってくれたみたいだ。

 

子萌先生と言えば事件解決後、

誰よりも速くかけつけ、僕と吹寄に泣きそうな顔で「なんで相談してくれなかったのですか!?」的な

実に和やかな説教を行った。

 

僕自身は今現在入院中である。

 

と、言ってもやはり人より治りが早いため、一週間のスピード入院なのだが。

 

その間、治療に専念、空いてる時間で子萌先生が持ってきたプリントをやるという、なんともつまらない単純作業を繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

吹寄は毎日お見舞いに来てくれる。

 

ところで最近、吹寄がおかしい、なぜか顔を背け目を合わせてくれない事が多いのだ。

 

何故だろう?

 

その理由がわかったのは三日目の事だ。

 

昼寝をしていた僕は人の気配を感じ目が覚めた。

 

そこには目と鼻の先に吹寄がこちらを覗き込むように見ていた。

 

「うわぁ!?」

 

「キャッ!?」

 

瞬時に体をベットの隅に飛び移させる。

 

怖っ!?漫画だと女子が近くにいたらドキドキするシーンなのに、地味に怖い!!

 

吹寄の目力は一般的なそれを凌駕しているのも、恐怖心を加速するのに一役買っているのだろう。

 

「び、ビックリした!!なんだよ?」

 

「それはこっちの台詞よ、元気そうね?」

 

彼女は体を離したがなぜか見舞い客用のイスに座らず、ベットに腰かけた。

 

「まぁな、身体中カサブタだらけで痒いよ」

 

「そうか、ところで小野町、約束覚えているか……?」

 

約束?

 

はて?

 

何か僕は約束していただろうか?

 

「そ、そのあの時、私を助ける時に…」

 

あの時?

 

助けた時?

 

………………あ

 

「抱かせろってやつか!?」

 

「声がデカイ!!」

 

「わ、悪い」

 

見れば吹寄の顔が赤い。

 

その顔はまるで、なんといいますか、こう、見ていてムラムラする顔だ。

 

え、えぇ、え?

 

なにこの流れ!?

 

確かにあの時僕とんでもない事を言った気がする!!

 

べ、別に本心じゃないからな!!

 

あればそのモチベーションを出すために仕方なくだな…

 

つーか今まで完全に忘れていたよ!!

 

「そ、その、まだ心の準備ができてなくてな、だから……その……――ぐらいなら…」

 

「え?なんて?」

 

今吹寄は顔を更に真っ赤にし、小さい声で何かを言った。

 

「だから……触るぐらいなら……胸を……」

 

胸?

 

触る?

 

胸を触る!?

 

「ま、マジで!?」

 

「す、少しだけだぞ!!少しだけ……貴様にはそれくらい今回は世話になったのだから」

 

吹寄は胸を触りやすい様に僕に向けた。

 

ゴクリっ。

 

生唾を飲み込む自分の音がまるで他人の様に感じた。

 

「後悔しない?」

 

「しない」

 

「殴らない?」

 

「殴らない」

 

「………………………では遠慮なく」

 

なんた!?この幸運は?!まさか吹寄の胸を触れる機会が訪れるとは

 

最高のハッピーエンドじゃないか!!

 

僕は緊張で震える手をゆっくりと吹寄の胸に近づけ、そして、触っ――

 

「オース!!仁、お見舞いに来たぜ」

 

る前に、突然病室のドアが開き、親友上条当麻が入ってきた。

 

「遊びに来たぜ!!コノっちゃん!!」

 

「お見上げにこの前探していた写真集持ってきたでぇ!!」

 

3バカデルタフォース達の入室により僕と吹寄は一瞬で離れた。

 

それはもう尋常無いくらい素早く。

 

「お、おう!!ありがとうな」

 

ガァ!!こんなときに来てんじゃねぇよ!!

 

空気を読め!!

 

僕はこれから未知の世界にダイブする予定なんだから!!

 

「あれ?吹寄なんでいるんだ?」

 

「私も小野町のお見舞いよ」

 

「しっかし!!元気そうで安心したぜよ」

 

「まぁな」

 

あぁ…土御門、今なら僕はお前と対等に殴り合える自信があるぞ!!

 

「まぁ入院中退屈やと思って、コレ買って来たで」

 

青髪ピヤス……とりあえず吹寄の前でその参考書は出さないでいただこうか、うん。

 

吹寄が青髪ピヤスに制裁を与えているのを見ながら僕は当麻に話しかけた。

 

「やっぱりお前は凄いよ」

 

「なんだよ、いきなり」

 

今回の事件で自覚した。

 

人を守る辛さを、

 

正義の味方になる大変さを。

 

そして自分はどんなに頑張っても正義の味方側の悪人止まりだと言うことを。

 

そんな恥ずかしい事を言う訳がなく、僕はただ一言。

 

「別に何となくだ」

 

当麻は生まれながらの正義の味方なのだろう、今回の事件もこの男ならもしかしたらもっと簡単に解決できたのかもしれない。

 

しかし

 

それでも僕は正義の味方に憧れていくのだろう。

 

何故かその後、青髪ピヤスと共に僕ら三人も吹寄に説教を受け、四人で正座しながら反省をさせられた。

 

いつもの光景、全力で守った日常を実感しながら僕はそんなことを考えるのだった……。

 

 

 

 

吹寄編、完。

 

 

 




とりあえず一言。

終わったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!



今まで読んで頂きありがとうございます!!

次回は番外編と言うことでぐだぐた設定資料らしきモノを話していこうと思います。

とりあえずお疲れ様でした。


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吹寄編、あとがき。

こんなに頑張っているのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー、吹寄編を読んで頂きありがとうございました!!

 

多くのお気に入り登録、評価に感謝の気持ちで一杯です!!

 

何気なくルーキー日和を見たらランキング入りしていてびっくりしました。

 

今回は本編とは関係なくキャラ設定等を話していこうと思います。

 

 

 

 

 

小野町仁(このまちじん)

 

先ずは彼の話をしなければ始まりません。この作品の主人公(笑)の小野町仁です。

 

彼は物語での立ち居ちこそ主人公ですが本質は『正義の味方側の悪役』と言う、微妙なモノになっています。

 

さて彼の能力に疑問を覚えた人も多いと思います。

 

本編でも簡単に説明がありますが、彼は回復力が多少早く、筋力も多少強い能力を持っています。

 

彼の能力について追々話す予定なのでそれまでは皆さんで考察して下さい。

 

今回の話では小野町仁の正義について書きました。

 

彼の思う正義の定義は『他人を助けるのに理由を持たないのが正義、求めるのが悪』になります。

 

今回は吹寄と言うクラスメイトがストーカー被害に遭い、自分の世界に何らかの変化が起こる事を恐れたのが彼が戦う理由になってしまいました。

 

今後も彼の無様でカッコ悪い物語を読んでもらえると幸いです。

 

 

 

 

 

吹寄制理。

 

今回のヒロイン!吹寄さん!!

 

今回の話ではストーカー被害に遭い、小野町仁に助けを求めた彼女ですが原作を読む限りなかなか見られない姿だったのではないでしょか?

 

作者が彼女に持っている印象はクラスのまとめ役的な姉御肌の女子高生です。

 

まだ出来たばかりのクラスで男子にセクハラを受ける&制裁を与えるまでに至る関係を築けるのは彼女以外には難しいのではないでしょか?

 

またこの作品での吹寄制理は誰よりも責任感が強いヒロインと言う風に書かせてもらいました。

 

小野町仁の部屋を飛び出したのは、彼がストーカーから脅迫状を送られている事を黙っていた事に怒ったのではなく、自分の問題に他人を巻き込んでしまった事に責任を感じたからと考えて下さい。

 

最終的にはストーカーを刺激し拉致される事態になってしまいましたが。

 

感想で多くの方に彼女がヒロインでいいんじゃないか!!と言われました。

 

作者自身お気に入りのキャラなのでそれも有りかなと思ったのですが、

 

この作品の題名を見て下さい。

 

そういう事です。

 

まぁまた機会があれば登場させたいキャラなので、それまで楽しみにしていて下さい。

 

最後に彼女が起こした行動については謎として下さい。

 

 

 

 

 

斎藤誠(さいとうまこと)

 

謎と言えばこのキャラも謎がある人物になりました。

 

ストーカー事件の犯人であるこのキャラ。

 

能力は掌に空気を集め回転させる『空間加速(エアアクセル)』。

 

彼はそこから鎌鼬を人工的に作り、攻撃に応用しました。

 

考えたらこの能力、掌に空気を集めるだけなのに、色々と応用が効きそうな能力ですね。

 

書かれていませんが純粋な雑じり気のない風を噴出したら空を飛べるんじゃ…?

 

まぁ大前提にレベルが上位になければならないのですが。

 

レベルと言えば彼の能力を見た小野町仁は驚いていましたが、それは理由があります。

 

本編でも書きましたが彼等の通う学校はレベルの低い学生が大半です。まぁ例外は何人か居ますが、一般的にはよくてレベル2止まりがいる程度の学校なのです。

 

しかし、斎藤誠のレベルはそれを上回っており、小野町仁が驚いた訳です。

 

書かれていませんが斎藤誠の本来のレベルは1となっていました。よって空間加速もビー玉程度の球体を作り出す程度の威力しかありません。

 

なぜ彼が短期間でレベル4クラスの能力を開花させたかそれも追々話す予定です。

 

能力の説明はこれくらいに、次は斎藤誠のキャラ設定を話したいと思います。

 

小野町仁が持つ曖昧な正義の定義とは違い、斎藤誠の持つ正義の定義はシンプルかつ簡単です。

 

彼の正義の定義は『吹寄制理を守る事が正義、彼女を守れない人間は悪』となっています。

 

過去に斎藤誠と吹寄に何があったのか気になりますね。

 

とにかく、吹寄制理を守る為なら彼女自身を傷付ける事も意図はない極めて極端で危険な正義を斎藤誠は持っています。

 

簡単に言えばヤンデレですね。ヤンデレ。

 

彼が何故能力を開花させたのか、彼が何故ストーカー事件を起こしたのか、気になる謎はまだまだあり、今後の物語の核になりますので楽しみにしていて下さい。

 

 

 

 

 

今後の展開。

 

一通り、吹寄編での主要人物を紹介しましたが、如何でしたでしょうか?

 

こんなに頑張っているのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー、吹寄編を楽しんで頂けたのなら幸いです。

 

今後、小野町仁の身に何が起きるのか?また何が起きたのか?作者自身書くのを楽しみにしています。

 

以前はにじファンに掲載しいた作品を再び人様の目に見て頂ける幸運に感謝し、次回の話を書こうと思います。

 

しかし問題が…、この話のストックこれで終わりなんです!!

 

まさかまた投稿する事になるとは考えていなかったので…。

 

よって原点に立ち直り、以前よりもよりグレードアップした作品を書く所存ですので気長に待っていて下さい。

 

できれば『このキャラを出して欲しい!!』等のリクエストがあれば参考にし、出来る限り答えたいのでどしどし言って下さい。

 

長くなりましたが、これにて『こんなに頑張っているのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー、吹寄編』終了です!

 

ありがとうございました!!



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鞠亜編
第2章予告編。


予告編。

 

「可愛い」

 

退院した小野町仁の目の前に現れた一人の少女。

 

一目惚れに近い感情を抱いた小野町仁はお近づきになる為と言う邪な考えでに彼女を助けようとした。

 

それが新たな物語の幕開けになるとは知らずに……。

 

 

 

 

 

 

「お前のメイド服はもはや過去の遺物!!」

 

 

 

「厨二病になったかと思った」

 

 

 

「小町」

 

 

 

「小野町だ」

 

 

 

「何で殴ったの?」

 

 

 

「お兄さん」

 

 

 

「まじかよ」

 

 

 

「ホォアッタァー!?」

 

「不幸だ」

 

 

 

「最悪だ」

 

 

 

「何でここにいる?」

 

 

 

「使うのは僕だ」

 

 

 

「お前は誰だ?」

 

 

 

「我輩か?我輩の名は」

 

 

 

 

 

 

 

こんなに頑張っているのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー、第2章。

 

鞠亜編。

 

近日投稿開始。

 

物語は動き出す。

 

 

 

 

 




明日から本気出す。


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鞠亜編、プロローグ、メイド服、ミニスカートで黄色を主体にした可愛いメイド 服は少し寂しい可愛らしい胸よりは可愛らしい脚の魅力を引き立てるのに十分な 効力を発揮し、胸には可愛いウサギの形……以下略

はじまりました、第2章、鞠亜編。

よろしくお願いします!!


とあるホテルの1室、

 

室内には男が1人、物思いに煙草を吹かしていた。

 

奇妙な男だ。

 

何が奇妙かと言えば、はっきりとは言えない。

 

時間帯も深夜であり、外にいる方が若干おかしい時間だ。

 

服装も少しくたびれた感じはあったが、どこにでもいるサラリーマンの様なスーツ姿だ。

 

しかし、この男は奇妙だった。

 

一見は何処にでもいるサラリーマン、しかし、奇妙でないのが逆に奇妙な感じを引き立てている。

 

まるで目に見えない、外見ではない内側に何かを秘めているように。

 

男は奇妙な空気を醸し出しながら、奇妙にホテルの1室で、奇妙な何かを秘めた、奇妙な眼差しで、目の前の書類と写真を眺めている。

 

その写真にはとある1人の男子学生がビルの窓から隣のビルの窓に飛び出している瞬間が写っていた。

 

 

 

 

 

 

メイド、現在その単語は『萌』の代名詞になっていると言っても過言では無い。

 

可愛らしいフリフリの服にミニスカートで生足が惜しげもなく露出し、しかしスカートの奥の禁断の聖域は決して見ることができないにも関わらず男の目線をそこに誘う。

 

何が言いたいのかと言えば、

 

「お前のその地味なメイド服は最早過去の遺物!時代は清楚かつ若干エロいメイド服に進化しているんだよ!!」

 

「何を!?言いか!!メイドとは本来、人に尽くす事に誇りを持った言わば戦士なんだぞ!!それを今時のメイドモドキはやれエロいだ!!やれ可愛いだ!!やれフリフリだ!!あんなもの本来のメイドに有らず!!」

 

僕は今、道の真ん中でメイド相手にメイドの服装について口論していた。

 

「大体あの姿をした人をお前はメイドと呼ばずしてなんて言うんだよ?」

 

「ただの客引きだ」

 

「身も蓋もねぇな!?」

 

口論の相手は土御門舞夏、彼女いわく本場のメイドだ。

 

 

 

 

 

「そー言えば小町、最近見なかったけど何してたんだ?」

 

「小野町だ、野を抜かすな、なんだ兄ちゃんから聞いて無かったのか?」

 

土御門舞夏はクラスメイトの土御門元春の妹だ。

 

「なんにも小町」

 

「小野町だ、入院してたんだよ」

 

「病気か?小町」

 

「小野町だ、いやちょっとケガをな」

 

「だから手に包帯が巻かれていたのか小町」

 

「小野町だ、なんだと思ったんだ?」

 

「いや、厨二病が再発したのかと」

 

「ちげぇーよ!?お前は僕が厨二病だと思っていたのか!?」

 

「にしても入院なんて事故でもあったのか?」

 

「まぁそんな所だ」

 

正確には事故ではなく事件なのだが、ようやく入院期間が終わり、美人な看護師さんたちと別れるのは若干気が引けたが、めでたく昨日僕は退院したのだった。

 

で、今日の放課後街中で偶然、彼女、土御門舞夏と会い、何気なく始まった「メイド服のあり方」で思いのほか白熱してしまったのだ。

 

「大変だったな」

 

「ところで舞夏、お前こんなところウロウロしていいのか?」

 

彼女の通う学校は確か無茶苦茶忙しいと聞いた事がある。

 

「今は人探しの真っ最中だからいいんだぞ」

 

「人探し?」

 

「雲川ってウチの所の不良生徒でな、今絶賛逃走中なんだ」

 

「へぇ、どんなところにもそんな奴いるんだな」

 

メイド専門の学校での不良生徒とはどんな人物なんだ?

 

「おかしな格好をしているから、見つけたら教えてくれよ小町」

 

「おう、わかった」

 

そこで舞夏とは別れた。

 

「あ!!小野町だぞ、小野町!」

 

もしこのとき、彼女がもう少し僕と一緒にいたら探し人は見つかったのに。

 

 

 

 

 

 

一目惚れに近い感情を僕は感じた。

 

さて、忘れないように言っておかねばならないのだが僕、小野町仁は正義の味方側に属した悪役として生きている。

 

簡単に言えば平和好は好きだが愛していない。

 

いや、他人の平和は好きだが、自分の平和はそれ以上に愛している。と言った方が正確である。

 

ゆえに命をかけるほど他人の平和に価値は無い。

 

それが僕の持論だ。

 

なぜ今こうしてそんな可愛そうな人間の心中を話しているのかと言うと、

 

ナンパの現場に遭遇したのだ。

 

こういう場合、僕のよく知る正義の味方その者、ツンツン頭の親友ならとりあえず助けに入るだろう、しかし、僕はそれほど正義の味方ではないのだからそのまま見ないフリをすることにしようとした、

 

しようとした、

 

そう、僕はナンパに遭い困っている人を助けると言う極めて面倒な厄介事から逃げようと思っていた。

 

彼女の存在を確認するまでは、

 

人目に触れないような、それこそ偶然そこに視線を向かせなければ気がつかない場所に彼らはいた。

 

不良が四人、その子を囲んでいる。

 

からんでいる男の特徴はどうでもいい、問題は被害者の女の子だ。

 

彼女はメイド服を着ていた。

 

先程の舞夏の言葉を借りると、舞夏が清楚な本格的なメイドなら彼女は可愛い外道なメイドになる。

 

可愛い。

 

もう一度言う。

 

可愛い!!

 

ミニスカートで黄色を主体にした可愛いメイド服は少し寂しいく可愛らしい胸よりは可愛らしい脚の魅力を引き立てるのに十分な効力を発揮し、胸には可愛いウサギの形をした可愛い名札に可愛らしい文字で名前が書かれている。その顔もよく見ると整っており、元々が可愛らしいのだろうその顔に、若干ながらも薄く可愛らしく繊細に可愛らしく、まるで計算されたかのように可愛らしいメイクが施され、瞳はまっすぐと可愛らしい瞳をしておりしかしだからと言って可愛い釣り目ではなく、可愛らしくどこか自信に溢れて可愛らしく緩み、可愛らしい釣り目と可愛らしい垂れ目が絶妙な可愛らしいバランスを出し、可愛らしい瞳を持っている。

 

要約すると、

 

むっちゃ!!カワイイ!!

 

何度でも言おう!!

 

凄く!!

 

可愛い!!

 

そんな訳で僕が彼女を助ける為、不良達を追い払うのに十分な理由ができた。

 

さぁ、いざ行かん、カワイイ子とお近づきになるために!!

 




『可愛い』を書きすぎで『可愛い』がゲシュタルト崩壊しました。

ちなみに今回、『可愛い』を約20個ほど書いていました。

鞠亜編は吹寄編よりかは早く終わる予定です。

とりあえず小野町きめぇ!!

ご意見、感想、等々お待ちしています。


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鞠亜編、何で殴ったの?

今回は簡潔に書かせていただきます。


「いや、助かった、お兄さんが来るのが少し遅かったら私は自分のプライドを傷つけていた」

 

殴られた。

 

ナンパしていた不良ではなく、助けようとしたメイドさんに。

 

「そーですか…」

 

「大丈夫か?一応加減はしたんだが?」

 

加減云々の前に殴るなよ…顔面を。

 

「なんで殴ったの?」

 

「いや~、間違えた」

 

「間違って顔面にパンチ入れるなよ!?不意打ちだったから無茶苦茶痛んだぞ!!」

 

「だからこうしてハンバーガー奢っているだろ?」

 

「サイフが無いって会計時に言いやがった口がよく言うぜ」

 

僕とメイドは近くのハンバーガー屋にいた。

 

強引にメイドに引きずられてだが。

 

「口の中血だらけで味がわからねぇよ!!つーかテメェが食いたかったんじゃねぇのか!!」

 

「ははは、面白い人だね、お兄さん」

 

このメイド、只者じゃない。

 

なぜか当初の目的通りにこの可愛いメイドと話ができているのに、何故かあまり楽しくないのだ。

 

まるで彼女が常に何かを警戒しているのが伝わってくるように。

 

「小野町、小野町仁だよ」

 

「私は雲川鞠亜って言う者だ」

 

あれ?どこかで聞いた名前だ。

 

メイド服、

 

雲川鞠亜、

 

メイド、

 

清楚、

 

可愛い、

 

雲川、

 

雲川?

 

「雲川って土御門知ってる?」

 

「ん、なんだ舞夏の知り合いか?クラスメイトだよ」

 

ビンゴ!!

 

こいつ舞夏が言っていた、不良生徒だ。

 

確かに優等生って感じじゃないな。

 

「そのクラスメイトさっきお前を探していたぞ」

 

「そうなのか」

 

「絶賛逃走中とか言っていたな」

 

「んー、どちらかと言えば追いかけてる側なんだがな」

 

追いかけてる側?

 

「なんだ今メイドの間じゃ人探しが流行ってんのか?」

 

「そんな所だ」

 

鞠亜は自分のハンバーガーを食べ終わると僕のハンバーガーに取りかかった。

 

別に食べないからいいんだけど。

 

「よくわからないけど、それ食ったら帰れよ」

 

「おや、心配してくれるのかい?」

 

「ちげぇーよ、このままだと舞夏にどやされそうだからだ」

 

「素直じゃないな、お兄さんは」

 

「本心だ」

 

「ふーん?ま、いいやハンバーガーご馳走さま!!」

 

「よくよく考えたらなんで俺が奢っているんだ?普通助けたからそのお礼とかじゃね!?」

 

「細かいことは気にするなよお兄さん!!」

 

そういって彼女、雲川鞠亜は去っていった。

 

「……なんかメイドも色々大変なんだな…ん?」

 

彼女が座っていたイスの下、そこに何か落ちてる。

 

なんだ?

 

それはビニールの袋だ。

 

ポケットティッシュの空袋か?

 

いや違う。

 

もう少し、一回り位小さい。

 

僕はそれを指で摘まむと目の高さまで持っていく、

 

そして

 

「っ!?」

 

瞬間、僕はそれを自分のポケットにしまった。

 

いや、しまってしまった。

 

全身から嫌な汗が噴き出るのではなく、にじみ出てくる。

 

状況が不意打ち過ぎて、理解ができない。

 

ありふれた日常にあってはならない物。

 

授業で写真は何度も見ているし、その危険性、異常性も知っている。

 

僕が見つけた小さなビニール袋。

 

恐らく先程までその席にいた、雲川鞠亜が落とした物だろう。

 

密封された袋の中に白い粉状の何かが入っていた。

 

僕の頭にある漢字が二文字浮かんでいる。

 

麻薬

 

「……マジかよ」

 

面倒な事になった。

 




と言う事で今回の事件は麻薬です。

まぁ、あと四話位で終わりますでご辛抱を。

そういえば先日、とある魔術の映画を観てきました!
ツッコミ所が多々ありましたが、すごく面白かったです!

ご意見、感想、ご指摘等々ありましたらお願いします!!


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鞠亜編、この裏切り者!!

今回はあの男が登場。


 

 

さて、

 

(どーすんだ!!これ!?)

 

私、小野町仁は現在ポケットに麻薬らしき物を忍ばせています。

 

どうしてこうなった!?

 

落ち着け僕は無実だ、たまたま拾っただけなんだ!!

 

これ、雲川の物だよな、なんでアイツこんな物持ってんだ!?

 

つーかこれ本物なのか!?

 

「よ!!仁!!」

 

「ホォアッター!?」

 

後ろから声をかけられとっさに飛び退いた。

 

「どうしたんだいきなり奇声あげて?」

 

そこにいたのは当麻だ。

 

「な、なんでもねぇですたい」

 

「日本語おかしくないか?」

 

気にすんなよ。

 

 

 

 

 

「不幸だ……」

 

「最悪だ……」

 

なんか、男二人が肩を落とし悲壮感を出しながら歩いているのはシュールだな。

 

「つーかなんでお前まで元気無いんだよ?」

 

はっ!!まさかこいつも何か面倒事を抱えて!?

 

「いや、なんか最近ビリビリ中学生に追われるようになっちゃって」

 

ビリビリ中学生?なんだそりゃ?

 

「ふーん、ちなみにその中学生の性別は?」

 

「え、女の子だけど」

 

「この裏切り者!!」

 

「グハッ!?」

 

なんだよ!?

 

なんです!?

 

なんですか!?

 

なんでこっちは麻薬らしき物をどうするか迷ってんのにこいつは同じベクトルで女の子に追われているのに迷ってんだ!?なんだこの差は!?

 

「この!この!この!この!」

 

「泣きながら殴るのは勘弁しろよ!?」

 

うるさい!!この天然女ったらし!!

 

一番シュールなのは泣きながら親友の肩を殴り続ける僕かも知れない。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「すまない……」

 

一通り当麻を殴ったあと公園のベンチに僕らは座っていた。

 

「その、何か悩みがあったら相談に乗るが」

 

「……」

 

確かに悩むなら一人より二人の方がいい。

 

それにこいつは天然の女ったらしであるが、同時に正義の味方だ、たぶん相談したら喜んで手を貸してくれるだろう。

 

「いや、いいよ」

 

だが、だからこそ僕はこいつに手を借りてはいけない。

 

これは僕の意地だ。

 

昔僕は誓ったんじゃないか、上条当麻に肩を並べられる男になると

 

「そうか」

 

当麻はそれ以上聞かなかった。

 

「なぁ当麻」

 

「ん?」

 

「もし今日初めて会った奴が何か厄介事を抱えていたらお前はどうする?」

 

答えは知ってる

 

「助けるに決まっているだろ?」

 

速答だった。

 

「そうだよな、うん、お前はそうだよな」

 

僕はベンチから立ち上がり、体を伸ばす。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

 

「どこにだ?」

 

その問いにまるでコンビニで買い物するかのように簡単に、気軽に答える。

 

「ちょっくら人助けにな」

 

僕は走り出した、このどうしょうもない天然女ったらしで正義の味方と肩を並べる為に。

 

 

 

 

 

 

「…………………いねぇ」

 

辺りはすっかり暗くなった道を僕は肩を落としながら歩いていた。

 

件の雲川鞠亜を探して走り回っていたのだが、彼女は見つからなかった。

 

「つーかアイツがどこにいるかわからねぇよ」

 

わかっているのは土御門舞夏とクラスメイトで、可愛いメイド服を着ている事だけだ。

 

「メイド喫茶には……いるわけないか」

 

完全下校時間はとっくに過ぎている。

 

「しゃーない、また明日探すか」

 

玄関の前でそう決めるとドアを開ける。

 

「お帰りなさいませ、御主人様!!」

 

玄関のドアを閉めた。

 

「そのリアクションはないと思うぞ、お兄さん」

 

ドアが開けられ中から可愛い黄色のメイドさんが現れた。

 

 

 

 

 

僕の部屋は出掛ける前に比べ綺麗に整頓されている。

 

「いや、なんで?」

 

「汚かったから掃除しておいたよ」

 

「あ、ありがとうございます………ちげぇよ!?なんでお前はいるんだよ!?」

 

僕が散々街中を探しまわった雲川鞠亜は僕の部屋にいた。

 

なんか馬鹿げた話だ。

 

「さっきのお礼に夕飯を作りに来たんだか」

 

今雲川は台所で何か作っている。

 

「あ、ありがとうございます……だからちげぇよ!!……つーかどこから入った!?」

 

「窓から」

 

「ドアからみたいに言うな!!窓ガラス割れてんじゃねぇか!?割ったのか!?」

 

「まぁ落ち着け、近所迷惑だぞ?」

 

「……何しに来たんだよ?」

 

「しかしあれだな、お兄さん僧か何か?掃除してもいかがわしい本が見つからなかったぞ」

 

そりゃそうだ、それらの本は先日某クラスメイトに全て捨てられたのだから、今頃トイレットペーパーかティッシュペーパーかノート辺りにリサイクルされているだろう。

 

「ま、いいや。ほれできたぞ」

 

僕の前に旨そうな料理が並べられる。

 

「へぇ、雲川って料理得意なのか?」

 

「学校で習ったからな、まぁそこいらの料理人には負けないが」

 

いただきますと、箸を伸ばす。

 

味も美味しい。

 

「ところでさお兄さん、聞きたい事があるんだけどいいかな?」

 

「なんだよ?」

 

「クスリ持ってない?」

 

ブゥ!?と僕は吹き出してしまった。

 

「やっぱり持っているんだ、返して」

 

「やっぱり本物なんだな……やだね」

 

「言っておくけどこれはお願いじゃないから、命令だよ」

 

「命令違反したら?」

 

「私のプライドを折らなくちゃならない」

 

それは力ずくという意味なのだろう。

 

正直勝てる気がしない。

 

「お前って麻薬中毒者?」

 

「いや、私はまだ健全な中学生だよ」

 

まだか、これから使う気満々だな。

 

「なんでだよ?こんなのただ体を壊すものじゃないか、何か理由があるのか?」

 

僕はポケットから麻薬を取り出す。

 

「理由を話したら返してくれるかい?」

 

「理由次第だな」

 

「………わかったよ」

 

雲川は一呼吸置いて話し出した。

 

正義の味方の言葉を。

 

「今中学生の間でそのクスリが流行になりかけている、それを私は止めたい」

 

 

 

 

 

雲川の話を要約するとどうやら中学生を中心にクスリが流行り出しているらしい。

 

それを止めようと雲川は単身で頑張っている。

 

クスリを売っている連中はスキルアウトらしい。

 

「いや、なんでお前がクスリを使おうと思っているわけ?」

 

「アイツらは決まった場所ではクスリを売らないみたいでな、どうやら使用者には売人が分かるらしい」

 

「なんで?」

 

「そのクスリには視覚が一時的に活性化する作用があるみたいでな、売人は体のどこかにマークが付けられていて使用者には分かるみたいだ、使用者は皆売人の事を神の使いと呼んでいた」

 

神の使い、ねぇ

 

「それで私が実際に使って売人を探す計画だ」

 

「……よくわかった」

 

「そうかなら――」

 

「だけどクスリは返さない」

 

「な!?」

 

僕はさっき決めた、今回の件では僕は正義の行いをすると。

 

ここで僕がクスリを雲川に返すのはそれに反すると思う。

 

だから、

 

だから、僕は覚悟を決めた。

 

「このクスリを使うのは僕だ」

 




グダグダ乙!!とか言わないでください!!

今回の小野町仁の目的は「可愛いメイドさんとお近づきになりたい」から「上条当麻と共に居られる人間になりたい」に変わりました。

ちなみにお気付きの方はいると思いますがこの時原作では上条当麻と御坂美琴が知り合って少し経った時です。

あ、あと鞠亜の出番はこれで終わりです。

さて、今回はグダグダで終わり、次回は超展開が始まります!!

お楽しみに!!

ご意見、感想、ご指摘等々ありましたらお願いします!!


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鞠亜編、

 

 

「今ど

こにいる?」「えーマジで!?」「ふざけんな!     !」「あり 

 

がとー!!」「腹へった……」「見      っけ」「へぇ」「待ってくれ!?」「さよ          うなら」「でさぁ…」「うけるぅ!!」「お

や、お前は?」「あ、悪い」「兄ちゃん金貸してくれない?」「だってさ」「何か食べに行く」「はっく

 

しょん!!」「キミ可愛いねぇ」「今からいくよ」「馬鹿野郎」「       邪魔だ!!」「でさぁ」「アイツ初めて会った    とき」「知

 

らないよ」「ごめんな          さい」「おい、         邪魔だ!!」「あっちじゃ    ない?」「マナーを守れ

 

よ」「実際に使って」「おい」「こんばんは」「新しい服じゃん」「へへへ」「まだだよ」「もしもし」「さようなら」「なか    なか」「危ないよ!!」「また、危        ない事をし    ているのか」「らっら        っらぁ」「今から一緒に飯でも        どう?」「いやはや」「少年、命は」「キャハハ」「大切にしなくては」「待ってぇ」「だ    からさ」「あ、もしもし?」「仕方な           い」「それマジぃ!?」「おい待てよ!!」「離して!!」「今       

 

回は」「あ りがとうございます」「我      輩が」「無理        無理   」      「少年を     」「ハハハ!!」

 

「助けよう」

 

 

 

 

 

無数の声が僕の耳に激流のように流れ込んでくる。

 

目に見える物は針となり糸となり視界から脳へ直接縫われるような感覚だ。

 

 

     故    こ

 

こ     に    い

 

 る    ?

 

何  故 

 

   歩    

 

      いて  

 

い         る ?

 

何 故

 

生    き

 

て         い る

 

    ?

 

活性化した視界や聴覚とは反対に肉体は衰弱したかに思える。

 

ふらつく体を揺らしながら、それでも瞼は瞬きを忘れ開かれたままだ。

 

頭が痛い。

 

目が回る。

 

吐き気がする。

 

気持ち悪い。

 

誰か助けて。

 

 

 

 

 

気分は最悪な方向に向かっていた。

 

まるで暗闇に支配された砂漠に一人取り残されたようだ。

 



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鞠亜編、運がいいと言える

前回の話はラリった主人公の心情です。

まぁ、当たり障りの無い平凡で一般的で当たり前の事を言わせて貰うと、麻薬ダメ!!ゼッタイ!!

てなわけで今回は超展開です。

先に言っておきますと謎解きとかは神様のメモ帳と言う好きな作品からアイデアを拝借しました。

ではどうぞ!


 

 

あれからどれくらい時間が過ぎたのだろうか?

 

気が付くと僕はビルに背を預けていた。

 

まだ目眩はするが随分マシになったようだ。

 

なんとか雲川を説得して僕がクスリを使ったのだが、思っていた以上に酷かった。

 

気持ち悪い。

 

何故あんなものを好んで使う人間がいるのだろうか?

 

「つーか、神の使いってなんだよ?」

 

中毒者達は売人の事を神の使いと呼んでいたらしい。

 

神の使い……確か神様の使いって天使とかじゃなかったか。

 

「……天使ねぇ」

 

まず思い浮かぶのは頭の上の輪だ。

 

ないな、普通に頭の上に輪っかがあったらすぐにわかるし。

 

背中の羽?

 

いやいや、人間に羽があるわけないだろ、しかも目立つし。

 

あとはなんだ?

 

天使、天使……可愛い顔立ち?

 

あー、ダメだ、頭がまだうまく働かない。

 

可愛い女の子?を探せばいいのか?

 

違うな…なんというかもっと分かりやすい感じの目印があるはずだ。

 

目印、

 

売人だと一発でわかる物。

 

使用した者しかわからないこと。

 

聴覚や視覚が一時的に活性化する時にわかるもの。

 

「ダメだわからない」

 

こうして考えている間も頭がガンガンに痛む。

 

辺りの雑音が考えを阻害する。

 

視覚の情報が集中力を削る。

 

ダメだ、さっぱりわからない!!

 

もう人も少なくなって来ているし、今日は無理か。

 

視覚が活性化しているのはなんか気味が悪い、髪の毛が一本一本見える気がするし、服にいたっては繊維まで見える。

 

あの人なんか繊維が透けて輝いて見えるし………………え?

 

……………………輝いてる?

 

待てよ、

 

待てよ!!

 

待てよ!?

 

中毒者達は売人を神様の使いって呼んだ。

 

羽や輪っかとかの見た目じゃない、もっと簡単だ。

 

光っているのだ。

 

神話とかじゃ神々やらその使いとかは光っていてそれが威厳の役割を果たしている。

 

神々の役割の一つは救い。

 

麻薬を使うのは現実逃避の一つの手段と聞いた事がある。

 

救いを求めて神にすがる。

 

中毒者にとって売人は神と似た存在なのだ。

 

クスリの持つ効果は視力を活性化して自分たちを見つける為のものだったのか。

 

バラバラだったパズルのピースが一つになっていく。

 

僕はふらつく足取りで真っ直ぐ光輝く人へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

クスリの流行を止めることは、売人達を潰す事だ。

 

潰すとはなにも力ずくで殴りあうだけではない。

 

根城を見つけ、それをアンチスキルに通報すればよいのだ。

 

むしろクスリで体がイカれている今の僕にはそれしか出来ない。

 

よって僕は男のあとを尾行するといういたってはシンプルかつ地味な行動をしている。

 

僕はスキルアウトが多数いる地区にいる。

 

男はとあるビルの中に入って行った。

 

「……ここがやつらの拠点か」

 

取り合えずアンチスキルに連絡しよう。

 

しかしなんだ、正義の行いをすると誓ったのにいざ行動を起こすとなんだか卑怯臭いな。

 

(……まぁこんなもんか)

 

「はい、はい、そうです、よろしくお願いします」

 

アンチスキルに連絡を終えた僕はもう用無しだ、早く来いアンチスキル。

 

その時僕は一つの可能性に気が付かなかった。

 

なにもこの件を追っていたのは雲川だけではないことを。

 

 

 

 

 

ぎゃあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

悲鳴。

 

男の悲鳴がビルから轟き響く。

 

「!!なんだ!?」

 

僕は何かに引き寄せられるかのようにビルの中に入る。

 

悲鳴は三階から聞こえている。

 

階段を駆け上がる。

 

なんだ!?

 

何が起きている!?

 

三階に着いた時、悲鳴は無くなっていた。

 

ドアが開いている。

 

(開けるな!!覗くな!!止めろ!!)

 

本能が警告を発する。

 

何か知ってはいけない、いや何か認めてはいけない何かがこの先の部屋にある。

 

しかし、操られているのに似た感覚が僕の体を動かす。

 

止めろ!!止めろ!!止めろ!!止めろ!!止めろ!!止めろ!!止めろ!!止めろ!!止めろ!!止めろ!!止めろ!!止めろ!!

 

僕は、

 

半開きなドアを、

 

開き、

 

中へ、

 

入った。

 

そこには、真実が有った。

 

 

 

 

 

暗い室内にはクスリを製造するためであろう機材がボロボロの机の上にあった。

 

室内は異様な雰囲気で満ちている。

 

人だ。

 

五、六人のアンチスキルが倒れている。

 

立っている者は誰も居ない、

 

いや、

 

一人だけいる。

 

黒い男だ。

 

「おや、少年、もうここまでたどり着いたのか、早いな、運がいいと言える」

 

この男との出会いは間違いなく悲劇だろう。

 




次回、鞠亜編最終回です。


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鞠亜編、エピローグ。我輩か?我輩の名は

鞠亜編、最終回です。


僕はこの状況が理解できていなかった。

 

部屋には犯人らしき人物達が倒れている。

 

怪我も無ければ、争った形跡も無い。

 

しかし、現に彼らは倒れているのだ。

 

異様。

 

この言葉が頭から離れない。

 

その原因の塊であるかのように、室内で立っている男はいったい誰だ?

 

男は少しくたびれたスーツを着ており、口には煙草をくわえている。

 

その男は僕に気が付くと、まるで友人に会ったかのような軽い、しかし異様に重い言葉を掛けて来たのだった。

 

「少年自分の身体はもっと大事に使わなくてはいかんぞ」

 

男が近づいてくる。

 

「だが、無謀、無作法、無茶は、若者の特権だ、その点は若いというのは、羨ましい」

 

暗がりの中、一歩一歩こちらにづくにつれ男の容姿がハッキリしてきた。

 

背丈は高く恐らくは二メートル近い、しかし、体格は痩せており細身だ。

 

「だが羨ましいと言っても、そんなクスリを使ってここを探すやり方は、愚か、と言える」

 

男の纏う空気、雰囲気は、本当に人間なのか疑いたくなるような気持ちにさせる。

 

「しかし川でも思ったのだが、少年は、人間なのか?いや、この場合、普通の人間なのか、と聞いた方が正しいのか、まぁどうでもよいことか」

 

この感じ、まるであの時会ったアイツに似ている。

 

化け物と似ているのだ。

 

「しかし、その様な犠牲を払ってまでここまで来た褒美を与えよう」

 

目の前に男が立つ。

 

「少年、名はなんと言う?」

 

男の問いに僕は自分の名を言った。

 

いや答えてしまった。

 

いや、答えさせられてしまった。

「………小野町仁」

 

「小野町仁、良い名だ、大切にしたまえ」

 

僕と男の間に奇妙な空気が漂っている。

 

まるで自分が知らないうちに別世界に飛ばされたと勘違いする位に。

 

しかしここがまだ自分が知っている世界と辛うじてわかっているのは、気が付いたのは遠くからサイレンが聞こえたからだ。。

 

「ん?あぁ、少年が呼んだのか、ではそろそろ終わりにするか」

 

男が僕の肩に手を置く。

 

「少年、感謝したまえ、

『目が覚めれば少年は自宅にいて体からクスリの悪徳は消えている』

のだから」

 

男がそんな意味が解らない事を言った直後。

 

僕に異変が起きた。

 

急な睡魔が僕を襲ったのだ。

 

何をされた?

 

睡魔は僕の身体を蝕み、それに僕は抵抗ができない。

 

まるで授業中の居眠りに近い感覚だ。

 

しかし、今は授業中でなければ、ましてや教室でもない。

 

目の前には先生ではなく、正体不明の謎の化け物がいるのだ。

 

「あんたは………誰……だ……?」

 

消え行く意識の中ようやく絞り出した言葉がそれだった。

 

その問いに男は一瞬眉を動かし、こう答えたのだ。

 

「我輩か?我輩の名は夜遊」

 

消え行く意識の中で男の声は何故かはっきり聞こえた。

 

「夜遊我世だ」

 

僕の意識はここで消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると自宅のベットの上にいた。

 

「夢?」

 

いや違う、確かに僕はさっきまで謎の男と一緒にいた。

 

体が軽い、クスリは体から完全に抜けているようだ。

 

それがあの男のお蔭なのかただ単に時間が解決したのかはわからないが。

 

回りを見渡すと机の上に書き置きが置かれている。

 

『ありがとうね、お兄さん』

 

誰が書いたか見当がついた。

 

「何がありがとうだよ……」

 

その言葉は僕には受けとる資格はない。

 

この事件、僕は最初から最後まで何もしていない。

 

誰も救えなかった。

 

全て夜遊我世と言う男が終わらせたのだから。

 

初めから僕はいらなかったのだ。

 

無駄足だった。

 

悔しい、僕は何もできない自分が情けない。

 

やはり僕は正義の味方になれないのか。

 

「ちくしょう……!」

 

今回僕は自分の無力を実感した。

 

それでも僕は正義の味方になりたかった。

 

正義の味方の親友と肩を並びたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜遊我世、これからいくども会合する男との出会いは後悔と悔しさから始まったのだ。

 

 

 

鞠亜編、完。




まぁ納得できない終わりかただと思いますが、今回で鞠亜編終了です。

詳しい話は、次回の番外編で話しますのでそれまでご勘弁を。

では!


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鞠亜編、あとがき。

お疲れさまです。

 

この度は、こんなに頑張っているのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー第2章鞠亜編、を読んでいだきありがとうございます!!

 

まずはぐだぐだ&超展開な文になってしまった事を謝罪させて下さい。

 

すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!

 

はい、謝罪終わり!!

 

今回の話は今後の伏線回と思ってくれると幸いです。

 

ぶっちゃけ新キャラを出したかっただけなんですけどね。

 

 

 

 

 

キャラ紹介。

 

夜遊我世(やゆうがせ)

 

新キャラ夜遊我世です。

 

彼の登場は初期段階からありました。

 

最初から最後まで謎のキャラです。

 

今後の物語で中心人物になる予定の彼ですが、能力、所属、彼の考える正義の定義全て伏せさせてもらいます。

 

実は彼、吹寄編ですでに登場済みなんですよね。

 

どこに居たかは探してみて下さい。

 

ちなみに作者と同じ名前なのは理由があります。

 

まず、夜遊と言う名前は単に気に入っている名前だからです。

 

作者の本名を入れ換えて、かつ遊ぶ時間が夜なので『夜』に『遊ぶ』から『夜遊』になりました。

 

ゲームのキャラ名でも夜遊を使っています。

 

それはさておき、今後、彼が小野町仁とどう関わるのか、楽しみにしていて下さい。

 

 

 

 

 

小野町仁(このまちじん)

 

前回、客観的に見たらヒーローに見えなくもない働きをしたこの物語の主人公(笑)。

 

しかし、今回はこいついらなかったんじゃね!?感が半端無いですね。

 

そんな彼の今回の戦う理由として、「可愛い子と仲良くなりたい」と言う理由があり、最終的に「正義の味方と並び立ちたい」と言う理由に変わりました。

 

しかし、結果は散々で、最初から最後まで夜遊我世に美味しい所を持って行かれてしまいました。

 

本当に主人公なのかコイツ?

 

彼が正義の味方になるのにはまだまだ道は遠そうです。

 

 

 

 

 

雲川鞠亜。

 

今回のヒロイン(?)

 

新訳とある魔術の禁書目録から登場した、キャラクターです。

 

原作ではちゃんと能力を使っていましたが、今の作者の力量では彼女の戦闘シーンは難しすぎて断念しました。

 

本当なら、小野町仁の部屋にて彼女とのバトル展開がある予定でしたが、そんな理由でおじゃんになってしまいました。

 

彼女も今後の伏線として登場させているので再登場に期待していて下さい。

 

 

 

 

 

次回の話。

 

さて、次回第3章の話ですが、まだ完成していません!!

 

しかし、ヒロインは決定しているのでそれほど時間はかからないと思いますが。

 

この作品、ヒロインが決まれば後は小野町仁をとことんひどい目に遭わせる話を考えればいいので、楽しいです。

 

ヒロインと言えば、沢山のアイデアありがとうございます!!

 

意外なキャラや考えてもいなかったキャラが出る度に、想像力が培われていく感覚があります!!

 

ですが今後もどしどし希望のキャラを出して下さい!

 

 

では!次回また会いましょう!!

 



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佐天編
3章、予告編。


お久しぶりです!!

ようやく、話がまとまりそうなので、予告編を投稿します。


予告編。

 

「ついに手に入ったでぇ」

 

全ては一冊の書物から始まった。

 

「私達似た者同士ですね!!」

 

小野町仁が出会った少女。

 

仲良くなる二人。

 

しかし

 

『た、助けて…仁ちゃん』

 

事態は思わぬ展開に……。

 

 

 

「コミヤンコミヤン!!」

 

 

 

「今日はハッピーデェーだぜ!!ヒャッホォー!!」

 

 

 

「僕が払いますよ」

 

 

 

「ありがとうございます!!」

 

 

 

「そいつの決め台詞が」

 

 

 

「私達似た者同士ですね!!」

 

 

 

「だってほら!!」

 

 

 

「な、何でだあぁぁぁぁ!?」

 

 

 

『た、助けて…仁ちゃん』

 

 

 

『人を殺してた』

 

 

 

『アンチスキルに通報してみろ』

 

 

 

「はーい!!コミヤン!!」

 

 

 

「俺はスパイぜよ」

 

 

 

「目的はなんだ?!」

 

 

 

「コミヤン、俺はコミヤンに何が起きたか知っている」

 

 

 

「コミヤンのねぇちゃんの事もな」

 

 

 

「逃げ切れるか?」

 

 

 

「逃げろ!!」

 

 

 

「武器は……ある!

 

 

 

「血が熱い」

 

 

 

「仁ちゃぁぁぁん!」

 

 

 

「これからは『BB』と呼ぶ!!」

 

 

 

こんなに頑張っているのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー、第3章。

 

『佐天編』

 

執筆開始。

 

近日投稿予定。

 

「コミヤン……お前は化け物だ。」

 

小野町仁の過去が紐解かれる。

 

 




と、言う訳で次回から新章『佐天編』が始まります!!

本格的投稿はまだ先になると思いますが、楽しみにしていてください。


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佐天編、プロローグ。今日はハッピーデーだぜ!!ヒャッホッーイ!

お久しぶりです!
今回から新章『佐天編』開始します!!


人間は喜んだり、悲しんだり、笑ったり、泣いたりする生き物だ。

 

僕、小野町仁は今呆けていた。

 

理由は簡単。

 

昨日、僕はとあるメイドさんが追っていた事件を半ば強引に引き受けた。

 

ボロボロになりながらも、その事件は解決し、メイドさんから感謝の言葉の手紙を貰った。

 

しかし

 

事件を解決したのは僕ではなかった。

 

犯人達のアジトに最初に居たのは別の人物。

 

そいつが事件を解決した張本人だった。

 

夜遊我世。

 

そのサラリーマンはそう言った。

 

彼との会話中何故か突然、意識を失い、気が付けば今日を迎えていたのだ。

 

あの男は何者だったのか?

 

何が起きたのか?

 

気になる事は山ほどあるが、それ以上に僕は……。

 

むっちゃ恥ずかしかった!!

 

何!?

 

何なの!?

 

これ?!

 

カッコつけて頑張った挙げ句に、他人が解決してました!?

 

イヤイヤ!!

 

確かに何もしなかった訳では無いですよ!?

 

ちゃんとアジトを通報しましたよ!?

 

でもさぁ!!

 

もっとこう、頑張った!!って胸を張れる事もしたかったじゃん!!

 

何かした分余計質悪いわ!!

 

……そんなことを悶々と考えていると気が付けば放課後になっていた。

 

「はぁ……切ない」

 

「何が切ないって?コミヤン」

 

「うぉ!?」

 

目の前に現れたのは青髪ピアスだ。

 

「あんまり驚かれるとショックやで」

 

「悪い、悪い」

 

周りを見ると他のクラスメイトはほぼ教室に居なかった。

 

「で、何か用か?」

 

「つれへんなぁ…折角例の物が手に入ったのに」

 

例の物?

 

僕は記憶を掘り起こしてみた。

 

そしてある1つの可能性に思い立ったのだ。

 

「まさか……アレか!?」

 

「フッフッフ……」

 

不敵な笑みを浮かべ、青髪ピアスが出して来たのは何の変哲の無い紙袋だった。

 

しかし中には包装されたそれが入っている。

 

「そうや、苦労したでぇ」

 

中身を確認するまでもない。

 

数週間前、僕は青髪ピヤスにとある頼み事をした。

 

一般市場には出回る事が無い、幻の名作。

 

文明時代、それも科学技術が外と比べて2、30年は進歩している学園都市で、それは映像ではなく、雑誌でありながらそのジャンルでキングの称号を獲得している正に奇跡の中の幻とまで言われている。

 

『イチャイチャパラダイス!!~僕と彼女達の霞な生活~』

 

エロ本だった。

 

普通では手に入る事は無いそれを青髪ピアスは入手するルートを確立させつつあった。

 

それを聞いた僕は青髪ピアスに頼み込み、彼にそれを回して貰う約束を取り付けたのだ。

 

それの為に、僕の財布は大分軽くなったが、それが与えてくれるであろう恩恵を考えると不思議と損した気持ちにはならなかったのだ。

 

最近、色々有りすぎてすっかり忘れていたが、今正にその本が目の前にある。

 

現在、僕の部屋にはその類いの物は諸事情により、跡形もなく無くなってしまったが、それは今日の本がくれる恩恵をより引き立てる為のスパイスだったのだろう。

 

気が付けば先程まであった悶々とした気持ちは吹き飛び青髪ピヤスの手を握っている僕がいた。

 

(今日はパッピーデーだぜ!!ヒャッホーイ!!)

 

今思い返してみたら、それは完全なるフラグだと言う事に僕は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




時間は二章終了してすぐになります。

では!

ご意見、ご感想、その他ありましたらおねがいします!!


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佐天編、私達似た者同士ですね!!

今回、ようやくヒロインが登場します!!


僕、小野町仁と言う人間はどうやら幸せな事があった時、惚けるクセがあるようだ。

 

そして惚けている間の自身の記憶力は著しく低下する事を知った。

 

惚けている間にどうやら僕は一人の少女に会っていたようだ。

 

「いやー本当にありがとうございます!!小野町さん」

 

とあるファーストフード店。

 

僕は目の前に座りお礼を言う少女との出会いを真剣に思い出していた。

 

青髪ピアから渡された、お宝本の入った袋を手に帰宅途中、小腹が空き、ファーストフード店に入った事は覚えている。

 

で?

 

確か……えーと。

 

前に並んでいた、女の子が会計の時に金額が足りないことに気が付いたようで困っていた。

 

うん、うん、で?

 

基本的に悪役よりの本質を持っているいつもの僕なら見過ごしていたことだろうが、ウキウキアゲアゲだった僕は特に考えもせずに困っていた彼女と店員の間に入り、こう言ったのだ。

 

「僕が払いますよ」と。

 

で、今こうして女の子と二人で食事をしていると言う奇跡に近い状態が完成したのだ。

 

いや、何で?

 

「すみません。今度代金お返しします」

 

少女は佐天涙子と名乗った。

 

 

 

 

 

「でさ!!そいつの決め台詞が『その幻想をぶち殺す!!』なんだよ!!」

 

「アハハ!!そんな人居るわけ無いじゃないですか!!」

 

数十分後、僕と佐天さんは互いの友人の話で盛り上がっていた。

 

「いやいや、だったら涙子ちゃんの頭から花が生えている友達の方があり得ないって!!」

 

「本当に居るんです!!仁ちゃんの方があり得ないって!!」

 

そして何故か互いにちゃん付けで呼び合う仲に発展していた。

 

「まぁ、そう言っても悪い奴とか嫌いな奴じゃないんだよ、むしろ親友?」

 

「あ、私もそうなんです!!お互いを信頼しているから笑えるみたいな」

 

「わかるわかる!」

 

ともかく、過程はどうあれ、僕は佐天涙子と言う女子中学生と仲良くなったのだ。

 

「私達似た者同士ですね!!」

 

会話が一段落した時に急に彼女はそんな事を言い出した。

 

「そうかな?」

 

「お互い親友って呼べる人がいて」

 

「うん」

 

「笑いのツボも似ていて」

 

「そうだね」

 

「歳も近いですね」

 

「それは無いじゃないかな?」

 

聞けば彼女中学1年らしい、高校生の僕とは「歳も近い」とは言えないと思う。

 

そんなツッコミをした所、彼女は

 

「そうですね」

 

と言い、笑った。

 

その笑顔は僕としては少し眩しい感じがした。

 

何故なら彼女は僕と似た者同士と言っていたが、僕はそんなことは思っていなかったのだ。

 

僕は正義の味方側の悪役だ。

 

色で区切るなら正義は白色で悪は黒色。

 

僕はどちらかと言うと灰色になる。

 

極端に仕分ければ僕は白では無く、黒になってしまう。

 

つまりは悪だ。

 

しかし彼女は、純白の中の白。

 

正義の味方と言ってしまえば大袈裟になるが、決して悪ではない。

 

そもそも悪をまだ知らないのだ。

 

彼女の笑顔はそんな白が溢れ出ているようなそんな印象を持ってしまったのだ。

 

「あ、でも、通っている本屋は同じですね」

 

「え?」

 

「だってほら!!」

 

彼女は紙袋を持ち上げた。

 

一瞬、僕の物かと焦ったが、僕の紙袋は足元に置かれたままだ。

 

「実はさっき本屋で本を買ったんです、欲しい本があったんで!!」

 

その為にお金が無くなっちゃったんですけどね。

 

と苦笑いを浮かべる涙子ちゃん。

 

「残念だけど、これは友達の奴に借りた物なんだよ」

 

「あぁ、そうなんですか」

 

「ネタは尽きたかな?」

 

いつしか、共通点を探すゲームになっていた。

 

「うーん、あ!!仁ちゃんってレベル0なんですよね?」

 

「まぁね」

 

「私もなんです!!ほら共通点があった!!」

 

正確には学園都市が管理している図書にカテゴリーされているデータ上の話になるのだが、まぁいいか。

 

「ところでそんなに共通点を探してどうするの?」

 

「え!?え、えーと……その」

 

何気ない疑問を、聞いてみたら急に黙ってしまう彼女に僕は頭に疑問符が出てしまった。

 

「どうしたの?」

 

「言いません!!仁ちゃんの馬鹿!!」

 

何故罵倒されたのだろうか?

 

 

 

 

 

その後、事件が起きた。

 

「わ!!もうこんな時間?!」

 

時計を見れば最終下校時間ギリギリになっていたのだ。

 

話に夢中で気が付かなかった。

 

とにかく、僕達は慌てて身仕度を済ませ急いでファーストフード店を出た。

 

「あ、あの!仁ちゃん……」

 

帰り道少し早歩きで帰宅途中別れ道の近くで突如涙子ちゃんが話掛けて来た。

 

「何?」

 

夕焼けの赤い日の為か彼女の顔はどこか赤らんで見えた。

 

「また会ってくれませんか!?」

 

どこか上ずった声でそんな事を言う彼女が可愛く見える、不思議だ。

 

「いいよ、今日の代金お返して貰わないとね」

 

「う、!!」

 

「冗談冗談、連絡先交換する?」

 

「は、はい!!」

 

互いの連絡先を交換し、僕らは別れの挨拶もほどほどにそれぞれ帰路に着いた。

 

もし、もしもだ。

 

この時僕が手に持っていた紙袋を確認していれば、あんな事態にはならなかったのではなかったのだろか?

 

少なくとも僕が巻き込まれる可能が僅かでも無くなったのではなかったと本気で後悔した。

 

結果だけを言わせて貰うと、彼女と僕の紙袋がいつの間にか入れ替わっていたのだ。

 

つまり、

 

女子中学生にエロ本が渡ってしまった!!

 

 

 




少し強引な展開でしたが、如何でしたでしょうか?

ちなみに、作者が佐天涙子を呼ぶ時は『佐天さん』です。
誰かに『仁ちゃん』と呼ばせたかったんで、片方がちゃん付けだともう片方もちゃん付けがよくね?って考えで小野町仁は『涙子ちゃん』と呼んでいます。

とにかく、今回の小野町仁は気持ち悪かったですね。

ご意見、感想等々お待ちしています!!


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佐天編、あの……仁ちゃん……これ

今回は急展開!!

って前も似たような事を言っていたような?むしろこの作品、逆展開が多すぎじゃね?


異変に気が付いたのは寮の部屋での事だった。

 

「ドアのカギよーし!窓のカギよーし!ティッシュよーし!体調よーし!栄養充電よーし!もしもの時の為の避難用ケータイデータよーし!」

 

いくつものチェック項目をクリアし、いざ魅惑の世界へ!!

 

僕は紙袋に入っているそれを震える手で掴み、取り出した!!

 

そして、

 

時間が止まる感覚を覚えた。

 

『学園都市都市伝説!!完全網羅!!ベスト100!!』

 

なにこれ?

 

あ、あーそうかあれだ!!これはカムフラージュで、表紙だけ別の物になっているんだ。

 

ほら、中身を見れば、あら不思議!!

 

『学園都市にはどんな能力も打ち消せる能力者がいる!!』

 

『身近な物で武器を作れるデータが高額で取引されている!』

 

『幻の虚数学区は実在していた!!』

 

『学園都市の地下にはVIP専用の娯楽施設が存在する!!』

 

あら不思議!!!!

 

「な、何でだあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

まてまて落ち着け!!

 

もしかしたら青髪ピアスの洒落た冗談だったんじゃないかな!?

 

本物は紙袋の底にあります的な!!

 

しかし、紙袋をいくら探しても例の物体は存在しない。

 

「青髪ピアスめ、騙したのか!?」

 

取り敢えず苦情の電話をかけようと携帯を手に取り、騙された可能性とは違う、もうひとつの可能性がある事に気が付いた。

 

『私達似た者同士ですね!!』

 

『だってほら!!』

 

先程会っていた佐天さんは同じ袋を持っていなかったか?

 

そして、僕達は慌ててファーストフード店を後にしなかったか?

 

もしも、

 

もしも、その時、

 

互いの袋が入れ替わっていたら?

 

この本は今日彼女が買った本だとしたら?

 

この本が僕の手にあるということは、現在、彼女が持っている袋の中身は?

 

彼女がエロ本を持っている事になるのではないか?

 

「やっべええええええええ!?」

 

まだ青髪ピアスが僕を騙した可能性があったが、もし彼女と袋が入れ替わっている可能性だった場合の被害に比べたら取るに足らない事だ!!

 

具体的には、女子中学生にエロ本を所有していると知られる可能性が出てくる!!

 

僕は慌てて彼女に連絡をする。

 

まだ彼女が袋の中身を確認していないと言う僅かな可能性を信じて!!

 

数回のコール音の後、彼女が電話に出た。

 

そして、繋がった彼女の声は震えていたのだった。

 

しかし、

 

『じ、仁ちゃん……た、助けて…』

 

これが事件の始まりだった。

 

 

 

 

 

現在、部屋で僕は状況を理解する努力をしていた。

 

『助けて…仁ちゃん』

 

明らかに助けを求める彼女の声は恐怖に震えていた。

 

「どうした?落ち着け」

 

『誰かに……追われている、私……見ちゃったから』

 

見た?

 

追われている?

 

「落ち着いて、今どこにいる?」

 

『第7学区の端の工場付近だと思います』

 

第7学区の端の工場。

 

たしか老朽化で業者が新しい工場に引っ越したから今は無人の工場か?

 

「そこから動くな、追われているって言ったな、誰に?」

 

『わかりません……多分スキルアウトだと思うけど』

 

「……」

 

スキルアウトだと?

 

「いいか。とにかく安全な場所に移動するんだ、今アンチスキルに連絡をするから」

 

『わ、わかりました』

 

震える彼女の声は電話越しでも緊急事態と言う事が伝わってくる。

 

「今から僕もそっちに行くから」

 

『き、来ちゃ駄目!』

 

「え?」

 

何故なんだ?

 

その疑問は次いで出た彼女の言葉が答えてくれた。

 

『あ、あの人達、人を殺していたから』

 

僕はその言葉を聞いた。

 

しかし、その意味を理解する事ができなかった。

 

「……人を殺した?」

 

『偶然、見ちゃったから、私驚いて……それで気付かれて……追われて…』

 

殺人

 

どうやら事態はかなり不味い状態のようだ。

 

だが、彼女を保護しなくてはならない。

 

彼女は今酷く慌てているようだ。

 

何かのドラマで似たようなシーンがあった。

 

もしも、僕まで慌ててしまったら、最悪の事態になりかねない。

 

とにかく今は彼女を落ち着かせよう。

 

僕はあえて今の状況には会わない題材の会話をする事にした。

 

「と、ところで、涙子ちゃん今紙袋持っている?」

 

少し上ずった声で切り出す。

 

『……え?は、はい』

 

「多分僕達の袋中身が入れ替わっているみたいなんだ」

 

『え?あ、ごめんなさい』

 

ゴソゴソ。

 

ん?

 

僕は違う意味で慌てた。

 

電話越しに聞こえるゴソゴソと言う音はまさか袋の中身を確認している?!

 

『あの、仁ちゃん……これ』

 

「いや!!違うのだ!!それはその」

 

『仁ちゃんって勉強熱心なんですね』

 

「はい?」

 

な、何を言っているのだろうか?

 

『過去問題集なんて友達から借りるなんて凄いです』

 

「えーと」

 

あ、そうか青髪ピアスのヤツ本当に表紙は別の本の物に変えていたのか!?

 

「せ、セーフ…」

 

『セーフ?』

 

「こっちの話」

 

何やともあれ、いくらか彼女の緊張は溶けたようだ。

 

後はアンチスキルに連絡をして彼女を保護して貰おう。

 

しかし、問題がまだある。

 

僕はどうしても彼女が持っているエロ本を取り戻したい。

 

彼女がアンチスキルに保護されても、所有物は一時アンチスキルに預かれてしまう危険がある。

 

当然、返して貰えるだろうが、それは僕ではなく、彼女にだ。

 

そんな事になったらどのみち彼女に僕がエロ本を持つ人間だと知られてしまうのだろう。

 

やっぱり、僕が自分で彼女を救い、アンチスキルに気付かれない内にエロ本を取り戻すしかない。

 

「とにかく、今から僕もそっちに行くからね」

 

『だ、駄目です』

 

「今君は殺人犯に追われているんだろ?だったら尚更助けに行くよ」

 

我ながらゲスな人間だと思う。

 

本来の目的は彼女の安全だとわかっているのに、それでも自分の中の優先順位はエロ本を取り戻す事になっているからだ。

 

彼女はその為に助ける過程の1つになっている事に。

 

そして、もし神様がいて、もし僕の考えを知っているのだとしたら、『これ』は僕に向けての罰だったのだろうか?

 

『これ』

 

この場合の『これ』とは彼女に起きている状況をさしているのではない。

 

『これ』とは次の瞬間に起きた出来事をさす言葉だ。

 

『あ』

 

『居たぞ!!』

 

電話越しに突然聞こえた男の声。

 

瞬間、電話にノイズが走る。

 

どうやら携帯を地面に落としたらしい。

 

「涙子ちゃん!!どうした!?」

 

『もしもし?』

 

返って来たのは彼女の声ではなく、男の声。

 

それだけで僕は部屋に居ながら状況がわかる。

 

わかってしまった。

 

彼女が捕まってしまった事に。

 

「誰だお前?」

 

『その様子だと、アンチスキルじゃないようだな?声からしてジャッチメントか?』

 

僕は携帯の録音ボタンを押した。

 

「いいか。彼女に手を出すな……」

 

『心配いらねぇよ、殺すつもりなら今この瞬間にやっている』

 

殺さない、僕はここまで信用出来ない言葉を聞いた事がなかった。

 

「彼女に何かしてみろ……僕はお前を許さない」

 

『この女はヤベェ事を見られたが、問題は無い』

 

声の感じらすると歳はそう離れていないようだ。

 

やはりスキルアウトか?

 

「だったらなおさら彼女を放せはいいだろ」

 

『そういう訳にはいかねぇんだ』

 

「彼女をどうするつもりだ?」

 

『しかるべき処置をして喋らなくした後、コイツも売り飛ばすさ』

 

何分こちらは金欠何でね。と笑う男。

 

ふざけるな!!と感情的に叫びたくなったが、この男を刺激すれば何をしでかすかわからない。

 

予想出来ない。

 

僕はただの学生だ。

 

スキルアウトと言う裏路地を根城にしているような人間が何をするか予想出来ないし想像も、理解も出来ない。

 

『この事をアンチスキルに通報してみろ、それこそこの女の命は保証出来ないぞ』

 

「…………」

 

『お前がどんな人間かは知らない。だが、お前は何も出来ない人間だと知っている』

 

『まぁ忘れろ』

 

ガチッ!!

 

電話が切れた。

 

ツー、ツー、と言う機械音を耳にしながら、僕は暫く、固まっていた。

 

結論から話そう。

 

僕自身を納得させる意味も込めて、

 

佐天涙子は誘拐された。




最近気が付いた事、誤字脱字が多い事。

気を付けているんですがどうしても出てしまいます……。

見つけましたら教えて下さい。

今回の事件は誘拐ですが2話位で簡単に見つけちゃいたいと思います。

次回、あのキャラが登場!


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佐天編、正義の味方側の悪役といっておきながら所詮僕も表にいる人間なのだから。

今回は少し短めです。


僕、小野町仁は考えていた。

 

佐天涙子が誘拐された。

 

エロ本も誘拐された。

 

色々な意味でアンチスキルには通報出来ない。

 

犯人はスキルアウト、そして殺人犯。

 

佐天涙子は殺害されないが何をさせるかわからない。

 

ではどうする?

 

僕は何をする?

 

いや、何かする必要性はあるのか?

 

アンチスキルに通報して全部投げ出してもいいのでは無いのか?

 

しかし、僕は動いていた。

 

根本的にある動力源は佐天涙子の救出。

 

ではなく

 

エロ本の回収と言う情けない辺りが正義の味方側の悪役である僕だ。

 

 

 

 

 

「ここか?」

 

日はすでに落ち辺りは暗く、街灯の光は遠くにある。

 

学区外れの工場跡地。

 

跡地と言っても、まだ建物や機材はそのままで、少し錆び付いているのを除けば、まだ使える様子だ。

 

涙子ちゃんが言っていた場所はここで間違いない。

 

だが、当たり前なのだが、人気は全く感じられず、争った跡すら見つけられない。

 

ここからどうするか?

 

考えられる素材は少ない。

 

何しろ僕が持っている情報はあの電話の僅かな会話しか無いのだ。

 

携帯の録音機能を再生する。

 

『アンチスキルに通報してみろ、それこそこの女の命は無くなるぞ』

 

『まぁ忘れろ』

 

わからない、最後まで聞いても理解できない。

 

限られた情報からさらに詳しく事態を動かせる情報は少ない。

 

やはり、誰かに相談しなければ成らないのか?

 

数が増えれば増える程に情報は集められる。

 

だが、誰に?

 

この場合アンチスキルに通報するのが一番のベストだ。

 

しかし、それこそ一番の最終手段なのだ。

 

しかし、相手はスキルアウト、裏側に生きる人間。

 

そんな彼らの考えを表にいる僕が理解できる筈がない。

 

正義の味方側の悪役といっておきながら所詮僕も表にいる人間なのだから。

 

…………ん?

 

なんだ?

 

今何か違和感があったぞ。

 

なんだ?

 

違和感?

 

違う。

 

これは、閃きか?

 

『正義の味方側の悪役といっておきながら所詮僕も表にいる人間なのだから』

 

『所詮僕も表にいる人間なのだから』

 

『僕も表にいる人間』

 

『僕も表に』

 

『僕も』

 

『も』

 

なんだ?

 

何故僕は『も』と言う言葉に引っかりを持っている?

 

いや、まて!?

 

確かあの電話で、男は何て言っていた?

 

『しかるべき処置をして喋らなくした後、コイツも売り飛ばすさ』

 

『コイツも』

 

『も』

 

何故だ?

 

コイツが示しているのは涙子ちゃんだ。

 

だが、『も』ってなんだ?

 

あの場に居たのは涙子ちゃんだけの筈、他に誰か居たとは考えにくい。

 

じゃあ何でアイツは『も』なんて複数形を使ったんだ?

 

複数形?

 

まさか、

 

「他にも誰か誘拐されている?」

 

そこまで考えて僕の思考は一時停止した。

 

理由は簡単だ。

 

「この段階でそこまで事態を想定できるとは、コミヤン意外に頭いいんだにゃー」

 

背後で声が聞こえたのだ。

 

振り向くと、そこには男が一人。

 

驚いた事にそいつは知らない奴ではなく、むしろかなりの頻度で会っている男だった。

 

「はーい!!コミヤン!!」

 

「つ、土御門?!」

 

僕のクラスメイトでらの土御門元春がそこにいた。

 




実は次の話はまだ完成していないんです……。

少し何で待っていて下さい!

例えるなら、骨組みは完成しているかけど肉付けが出来ていない状況なんです!!

今週中には投稿します!!

あ、余談何ですがこの作品お気に入り数が300を越えました。ありがとうございます!!

では!

ご意見、感想等々お待ちしています!!


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佐天編、コミヤンはどうする?

状況説明回です。

頑張ったらできた。


「いやー退院した次の日にまた事件に巻き込まれるなんてかみやんの不幸属性が移ちゃったんじゃないかにゃー」

 

「……」

 

「ぶっちゃけ驚いたぜよ!!まさか現場にコミヤンがいるんだもん!!しかもこの件に巻き込まれたみたいだし!!」

 

「……」

 

「どうしたのにゃー?コミヤン、元気ないぜよ?あ!!まさか車酔い?」

 

「違ぁぁぁぁぁぁぁう!!」

 

現在の話をしよう。

 

僕は今、キャンピングカーに乗せられて何処かに連れて行かれていた。

 

そして

 

「何でお前が出てくるんだよ!?土御門!」

 

何故かクラスメイトの苦しみ土御門元春が居るのだ。

 

「コミヤン、コミヤン」

 

宥める土御門。

 

「まずは話しておかないといけないだけど、実は僕ちゃんスパイなんだぜ!!」

 

「ちょっと待って」

 

いかん、初っぱなから理解出来ない。

 

「学園都市には様々な理由から裏へ落ちる人間がいる、そんなやつらの溜まり場がこの――」

 

「待った!!それって僕が聞いたら不味い話なんじゃないのか!?聞いたら引き返せない系の危ない話!!」

 

正直に話すと関わりたくねぇー!!

 

聞きたくねぇー!!

 

こっちとしてはまだ、まともで平凡な生活を送りたいんだよ!!

 

「まぁ聞きたくないならいいぜよ、でもコミヤン」

 

「なんだよ?」

 

「学園都市の裏側に身を置いているから俺には色々情報が入って来る」

 

「この際、その『裏側』の事は聞かないよ」

 

「それでいい、でだ。ぶっちゃけるとコミヤンの事はある程度把握しているだぜ」

 

「……はぁ?」

 

ある程度とはどの位なのだろう。

 

「具体的にはあの事故を知っている」

 

「……」

 

あの事故。

 

僕が少しだけ化け物の仲間入りした出来事の事か。

 

「……って事は」

 

「あぁ、コミヤンの体がどうなっているのか、そしてコミヤンのねぇちゃんの事も知っている」

 

「……」

 

全部か

 

何で黙っていたんだ、なんて聞きたくなかった。

 

聞けなかった。

 

あの事故は誰にも知られたくなかったし、それ以上に姉の話は話したくない。

 

それに土御門も土御門で何か訳があるのだろ。

 

僕なんかが踏み込んではいけない何かを。

 

互いの過去に触れない方がいいのだ。

 

「まぁその話は置いておくぜ。問題は『今』だ」

 

そう、僕や土御門の過去に何が起きたか、それは先送りしなければならない。

 

「何が起きている?」

 

どうやら、誘拐されているのは佐天涙子だけではない。

 

もしかしたら僕が考えている以上に事態は大きいのかもしれない。

 

「コミヤンの考えているように今、学園都市各所で誘拐事件が多発している」

 

「犯人は?」

 

「スキルアウト『フロッグ』のリーダー、長谷部差鉄と言う男だ」

 

「『フロッグ』?」

 

「コミヤンもスキルアウトと一言で言っても様々なタイプがいるのは知っているよな」

 

スキルアウト。

 

レベル0の無能力者の集まりであるが、なにも彼等は1つの組織ではない。

 

学校に行かないからスキルアウト。

 

ゴミをポイ捨てするからスキルアウト。

 

夜な夜な遊ぶからスキルアウト。

 

犯罪をしたからスキルアウト。

 

人を傷付けたからスキルアウト。

 

それら全てを総括してスキルアウトと言うのだ。

 

「『フロッグ』は最近設立されたまだまだ小さな組織だ」

 

「そいつ等が誘拐を?」

 

「あぁ、週に何人かを誘拐し、身代金を請求している」

 

「なんだがショボくね?」

 

誘拐は立派な犯罪だが、組織を作ってまでする事なのだろうか?

 

なんだか事態の緊急性が急に下がったみたいだ。

 

「楽観は出来ないぜ」

 

「わかっているよ」

 

緊急性が下がったと言っても、今回は人が死んでいる。

 

その目撃者として涙子ちゃんは誘拐されているのだ。

 

「違うぜ、コミヤン」

 

「え?」

 

土御門の言葉に疑問符が出てきた。

 

「事態はコミヤンが考えている以上にヤバい」

 

どういう事だろう?

 

「コミヤン、まずは根本的な所からだ、何故『フロッグ』は誘拐事件を起こしている?」

 

「お金が欲しいんだろ?」

 

「正解、次の問題だ。何故金が必要なんだ?」

 

「……遊ぶ金欲しさ、とか?」

 

「違うぜ、それなら最も簡単で楽な方法が沢山ある、例えばカツアゲとかな」

 

「じゃあなんだよ?」

 

「資金集め」

 

「何のだ?」

 

「『フロッグ』のメンバーはどいつも、武装派の人間ばかりだ」

 

「……武装派?」

 

ちょっと待てよ?

 

武装派が集まって出来ている組織なら自然とその組織は武装派な組織にならないか?

 

資金集めって事は

 

何かを買う為に金が必要、もしくは何かを作る為に金が必要なのでは?

 

ではその『何か』ってなんだ?

 

武装派の欲しい物。

 

それってつまり、

 

「……武器?」

 

「正解だ、やつらは今特殊な武器を大量に製作している、その材料費の為の資金集め、その資金集めの為の誘拐事件」

 

「待った!!待った!!武器を製作している?ってそれじゃまるで」

 

「まるで争い事の下準備みたいだと」

 

土御門が僕の言葉を引き継いだ。

 

「まさかフロッグの目的って」

 

「フロッグは武装派の組織だ。やつらはこの学園都市にテロを起こそうとしているのだぜ」

 

そこで、僕らを乗せていた、キャンピングカーが止まった。

 

目的地についたようだ。

 

「コミヤン、俺の仕事はテロリストの排除だ」

 

「コミヤンはどうする?」

 




このままいくとかなりの話数になりそうな予感がして来ました。

また次の話が出来ていない状況ですので更新は2、3日開きます。

では!

ご意見、感想、指摘、ありましたら御願いします。


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佐天編、はしゃぎ過ぎだぞ、侵入者

大変遅れて申し訳ない。

ではどうぞ!!


キャンピングカーを降りた僕達を迎えたのは潮風だった。

 

学園都市は地形的に海に面していない。では何故潮風が吹いているかというと、人工的に作られた海が横にあるのだ。

 

学園都市は様々な科学技術に置いて『外』と2、30年の開きを持っている。

 

その分野に当然『海域科学』も含まれている。

 

本来なら海の近くに研究所を設立すればいい話なのだが、学園都市は人工的に海を作ってしまったのだ。

 

だが海と言っても大きさはそれほど大きなものではない、精々巨大な湖程度だろう。

 

「コミヤン」

 

暫く歩いていると隣の土御門が話しかけてきた。

 

「そろそろ目的地だ、決心はついたか?」

 

テロリストの排除。

 

土御門の目的はそれだが、僕は違う。

 

「そっちがどんな目的でも僕は知らないよ、僕は僕の目的を果たすよ」

 

僕の目的。

 

それは情けない話だが、いつもと同じだ。

 

捕まった佐天涙子の救出。とその他。

 

「コミヤンはそれでいい」

 

「あぁ」

 

「まぁ、ぶっちゃけそれほどコミヤンの事は心配していないんだにゃー」

 

とんでもない事を言いやがった!?

 

「ちょ!?お前いくらなんでも薄情なんじゃねぇか!?相手はスキルアウトで武器を持っているんだろう!?そんな奴等相手に――」

 

「今のコミヤンが負ける筈がないだろ?」

 

「は?」

 

土御門はニヒルに笑っている。

 

本当に心配されていないみたいだ。

 

だが、それは薄情ではなく、それどころか全くの逆。

 

信頼されているからだ。

 

土御門は僕が化け物染みた能力を得た事を知っている。

 

この能力は強い事を知っている。

 

少なくても僕が目的を成し遂げる位の力はあると知っている。

 

だから、信頼してここに連れてきてくれたのだ。

 

対して僕は土御門の事は余り知らない。

 

現に先程まで彼が学園都市の裏側にいる事は知らなかった訳だ。

 

しかし、それでも彼は僕を信頼してくれている。

 

「だが、これだけは言っておくぜ、無茶するなよ?」

 

それは悪まで建前の言葉。

 

その裏の裏にある信頼。

 

「それはこっちの台詞だよ、お前も無茶するなよ?」

 

その信頼に僕も信頼するしかないじゃないか。

 

暗い道。

 

音は人工的に作られた海の波の音と僕らの足音。

 

そして暗闇の霧の中、それは現れた。

 

大型の貨物船。

 

スキルアウト『フロッグ』のアジトで誘拐された人が監禁されている場所。

 

特殊な武器を製造する場所。

 

そして、

 

僕達、二人の学生の戦場だ。

 

 

 

 

 

「ぐわっ!?」

 

男が倒れる。

 

「にしても簡単すぎじゃね?」

 

スキルアウト『フロッグ』。

 

土御門の話だと、形成人数は20人前後らしい。

 

船に潜入して30分、倒したスキルアウトはこれで16人目になる。

 

武器を製造していると聞いていたが、それらしき物は持っておらず、人より力強い僕や裏に通じている土御門の敵ではなかった。

 

まぁ殆ど土御門が簡単に素早く相手から意識を失わせていたのだが。

 

「にしてもどこで覚えたんだよ」

 

リアルCQC何て初めて見たぞ。スネークか?

 

「これでも手加減しているんだぜぇ、 必要なのは敵の頭だけだからな」

 

「えーと、長谷部差鉄って言ったっけ?」

 

「あぁ」

 

「今までのスキルアウトを見ていたらそいつも簡単なんじゃね?」

 

類は友を呼ぶって言うし、部下がこんなんじゃリーダーも大した事ないのではないだろうか?

 

「だといいがな」

 

一瞬土御門が苦い顔をした。

 

「それよりも土御門、涙子ちゃんがどこにいるか見当付くのか?」

 

「あぁ、ある程度の監禁場所は予測できるからな」

 

10分後、僕らは1つの扉の前に来ていた。

 

「ここは?」

 

「この貨物船の中でも広めの部屋だぜ、何せ人質はその子だけではないだろうから恐らく1つの部屋にまとめているはずだぜ」

 

「まぁ、開いて見ないとわからないよな……うわっ!?」

 

「どうした?」

 

「悪い、ドアのぶが濡れていてびっくりしただけだ」

 

気を付けて見ると扉だけではなく、壁や床の所々が濡れている。

 

海の水でも漏れているのだろうか?

 

「まぁいいか」

 

再び僕はドアのぶを掴み、ドアを開けた。

 

 

 

 

 

薄暗い、明かりは頭上の切れかけの電球が数個だけ。

 

しかし、それでも部屋の大まかな景色は確認できた。

 

貨物船の中のメインに当たる場所なのだろか?いくつものコンテナが積まれている。

 

その中、部屋の中央にあるコンテナ。

 

それだけは明らかに手を加えられている。

 

本来のドアを外し代わりに鉄棒を何本も取り付けて、それはまるで牢屋をイメージさせた。

 

そしてその中には

 

「涙子ちゃん!!」

 

捕まった少女達がいた。

 

もちろんその中には佐天涙子の姿も確認できた。

 

「じ、仁ちゃん!?」

 

まだ別れて4時間程しか経っていないのだが、彼女の姿を見ていくらか肩の荷が降りたようだ。

 

それがいけなかった。

 

「な、何で?」

 

「助けにきた、待っていてすぐに出すから」

 

もし、僕がこの時警戒をしていたら、もし、僕が鉄棒の1本1本に毛糸が巻かれているのに疑問を持っていたら、もし、僕がこの時部屋に風が吹き続けているのに疑問を持っていたら。

 

なんにせよ、僕は油断していた。

 

鉄棒を引き抜こうと、手を伸ばし、そして鉄棒に触れた瞬間。

 

突然、僕の手が燃え上がったのだ。

 

 

 

 

 

「ぐ、わぁあぁぁぁぁぁ!?」

 

僕の手が燃えている。

 

それは確実に皮膚を燃やし、次第に範囲を広げている。

 

いきなりの展開に狼狽してしまった。

 

「仁ちゃん!!」

 

「コミヤン!!火を消せ!!」

 

土御門のアドバイス通り近くの水溜まりに手を突っ込もうと僕は飛んだ。

 

だが

 

「!!違う!それは罠だ!!」

 

土御門の焦った声を聞いたが、残念な事に、飛び込んだ勢いは消せず、僕は手を水溜まりに突っ込んでしまった。

 

パシャンッ!!

 

水溜まりに手を入れた瞬間。

 

バンッ!!

 

水溜まりが爆発したのだ。

 

「ぐぅ!!」

 

ようやく、この段階で僕は理解した。

 

これは土御門の言う通りフロッグの罠だ。

 

先程からの異様なまでの水溜まり、や壁の濡れ具合。

 

その正体は

 

(オイル……オイルだ!)

 

ライターオイルが初めからこの部屋を中心にばらまかれていたのだろう。

 

ライターオイルは非常に火の付がいい。

 

そして引火の原因は

 

(毛糸……風……静電気か!?)

 

毛糸と指が触れた瞬間、静電気が起き、それが手に付いていたオイルに引火したのか!?

 

「くっ…そぉ!!」

 

僕は火の付いた上着を脱ぎ捨て、上着を勢いよく振るった。

 

上着からの強風で火を消す。

 

だが、火が消えてもヒリヒリと痛む手の火傷は消えなかった。

 

「はぁ…はぁはぁ…」

 

「その声、まさか本当に助けに来るとはな」

 

野太い男の声。

 

視線を上げると、物陰から男が姿を現した。

 

デカイ。

 

とにかく、デカイ。

 

190はあるのではないかと思う長身に筋肉質の肉体。

 

しかし無駄が一切ないスリムな身体。

 

頭は短く刈り上げ、顎にも短い髭がある。

 

その目付きは、獣の様に鋭い。

 

誰かと聞くまでもない。

 

「はしゃぎ過ぎだぞ、侵入者」

 

こいつがフロッグのリーダー。

 

長谷部差鉄だ。

 




いかがでしたが?

色々ツッコミが来そうな展開でしたね。

学園都市に人工的に作られた海があるのは完全な妄想です。
貨物船は海路から直接物資を輸出入する為に何隻もある。と考えて下さい。

ライターオイルからの引火の流れは実際に私が経験したことです。

私はジッポライターを持っているのですが、オイルを入れる際、手にオイルが付いた事に気が付かず、試しに火を点けたら手が燃えました。
いや、マジで…
あの時はパニックになりましたよ……、焦って火が点いたままのジッポを床に落とすわ、袖が焦げるわ、犬が吠えるわ、タンスの角に小指ぶつけるわ、幸い大事にならなかったからいいものの、その経験からより一層火の取り扱いに気を配る様になりました。

まあ、そんなドジな話は置いておいて、次回本格的な戦闘シーンを書こうと思います。

あ、あと私事で申し訳ないのですがこの度私は大学を卒業し、4月から社会人になります。暫くは更新が不定期になる事が予想されますので、気長に待っていて下さい。

では!次回!

ご意見、ご質問、ご感想、その他等々ありましたらどんどん書いて下さいね!!


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佐天編、喉は乾いているか

やっとの思いで完成!!

今回は戦闘がメインになりました。

どうぞ!


長谷部差鉄は軽い足取りで歩き、後ろから数人のスキルアウトが出てきた。

 

恐らく、フロッグの残りのメンバーだろう。

 

「随分と勝手な事をしてくれたな」

 

「お前が長谷部なのか?」

 

「そうだ、フロッグリーダー長谷部差鉄、お初にお目にかかる」

 

ふざけた調子で話続ける長谷部。

 

「動くなよ」

 

現在、僕は手に火傷を負っている。

 

だが、軽い程度だ。

 

先程までの経験からこいつらは十分に相手にできる。

 

「その目、抵抗する目だな」

 

長谷部は腰に付いているバックから何かを取り出した。

 

「喉は渇いているか?」

 

それを空中に投げ、僕に寄越す。

 

「……はぁ?」

 

一瞬、何かわからなかった。

 

長谷部が投げたのは、ペットボトルだ。

 

ペットボトルは放物線を描き僕に向かって来ている。

 

何故このタイミングでそんなことをするのか理解できない。

 

「!!コミヤン!!」

 

先に危険に気が付いたのは土御門だ。

 

彼は僕を引っ張り後ろに下がる。

 

その瞬間。

 

ペットボトルは僕がいた場所に落ち、

 

爆発したのだ。

 

「なぁ!?」

 

「何だ、つまらない」

 

爆発した跡には焦げ目が付き、煙が上がっている。

 

何が起きたんだ?!

 

「ペットボトルボム……それがこいつの名前だ」

 

長谷部は再びペットボトルを投げつける。

 

よく見ると、ペットボトルの中身は黒く、キャップの部分からは火が付いた導火線らしき物が確認できた。

 

(ペットボトルに火薬を詰めて簡易的な爆弾を!?)

 

今度は土御門の手を借りずに落下地点から飛ぶように離れる。

 

瞬間。

 

「ぐふっ!?」

 

着地した瞬間。

 

顎に強烈な激痛が走った。

 

「その位置に来ることはわかっていた」

 

驚く程近くで長谷部の声が聞こえる。

 

聞こえた瞬間、理解した。

 

先程のペットボトルボムはフェイク。

 

本命は長谷部自身の拳による攻撃。

 

そこまで理解して、僕の身体は殴り飛ばされた。

 

「くそっ!!」

 

土御門が長谷部に向かい走り出す。

 

土御門は僕と違い、かなりの肉体の持ち主だ。

 

肉体戦では長谷部と互角以上の戦いができるだろう。

 

しかしそれは、土御門が長谷部に近づけたら、の話だが。

 

「グッ!?」

 

土御門が後ろに下がる。

 

「?」

 

何故だ?

 

僕は土御門通った場所に目を向けた。

 

何だあれは?

 

画鋲?

 

そこには鋭い針を持った画鋲が大量に散らばっていた。

 

まるでまきびしの様に。

 

画鋲が足に刺さり土御門は後ろに下がったのか?

 

恐らく長谷部が僕を殴る時に一緒にばら撒いたのだろう。

 

だが、何がおかしい。

 

何故画鋲は全て針が上に向いているのだ?

 

異様だ。

 

そんな疑問を、長谷部が解決した。

 

「驚く程の事ではない。ダルマを知っているな?あれと同じだ」

 

「ダルマ?」

 

目を凝らして見ると、画鋲はよく目にする、台尻が平面のものではなく、立体的な円形状になっている。

 

「まさか……中に重りが仕込まれているのか?」

 

ダルマの中は意外にも空洞だ、そして下の部分に重りを入れ、傾いても常に上に向く様になっている。

 

それと同じ原理を画鋲にも仕込んでいるのか?!

 

「ダルマバリと、名付けておこうか」

 

時点で僕は長谷部がどんな人間か理解できなくなっていた。

 

何だ!!

 

何なんだ!?

 

この男、何でこんなにも『先』を動ける!?

 

これではまるで――

 

「まるでこちらの動きを読んでいるみたいだ、と、言いたげだな」

 

「くっ!?」

 

「何て事はない。俺はお前達と違い平穏とはかけ離れた世界で生きているのだからな、ケンカの場数も違ってくる」

 

要は経験の成す業だよ。

 

何でもない事の様に話してはいるが、それは少なくても僕の対抗心をごっそりと削る事だった。

 

つまり、長谷部は喧嘩の中で常に先を考えているのか?

 

つまり、それは将棋やチェスの様な先を見る対局と同じ原理をこのスキルアウトのリーダーは喧嘩に応用しているのか?

 

つまりそれは、学園都市が言う能力とは違うタイプの能力ではないのだろうか?

 

「例えば、今、この会話の隙にお前が奇襲を仕掛けて来る事が俺にはわかっていた!!」

 

突然、長谷部が腕を上げた。

 

その腕に後ろから忍び寄っていた土御門の拳が受けられる。

 

「例えば、ガードした拳は実はフェイクで本命が左足からの蹴りだということはわかっていた!!」

 

土御門が瞬時に右足を軸に放った蹴りをもう片方の腕で受ける長谷部。

 

「くそっ!!」

 

「苦し紛れで隠し持っていた拳銃を発砲する事は可能性としてわかっていた!!」

 

拳を引き、腰から拳銃を取り出した土御門の手を掴み、銃口から自分を外す長谷部。

 

「そして、この能力は攻撃にも使える」

 

その言葉を聞くよりも先に僕は動いていた、土御門と長谷部の戦闘に加わる為ではない、長谷部から外れた射線上に僕がいたからだ。

 

長谷部は強引に土御門の指ごと引き金を引いた。

 

銃声音と同時に発射された弾丸は僕の目の前を通過し、壁に被弾し、火花が散る。

 

もし、僕が2人の戦いに目を奪われていたままだったら今頃僕の身体には穴が11つ増えていただろう。

 

安心すると同時に長谷部の戦闘に置けるセンスに戦慄する僕がいた。

 

土御門は一度体勢を立て直す為に長谷部から離れ、僕の隣に立った。

 

「ヤバイな……!」

 

「完全に遊ばれている」

 

結果僕達は牢屋の位置から更に離されてしまった。

 

「くそっ」

 

「ほらほら、どうした?」

 

再び長谷部はペットボトルボムを投げつける。

 

「コミヤン!!一旦引くぞ!!」

 

爆発に巻き込まれない様に逃げる土御門が同じく逃げる僕に言う。

 

情けない話だが、僕らは退却を余儀なくされた。

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

貨物船の船内にて鬼ごっこが行われている。

 

僕と土御門が走る。

 

そのあとを長谷部が追い掛けて来ているのだ。

 

「何だよ!?アイツ!?」

 

「恐らくあれが連中の作っている兵器だろう」

 

「ペットボトルが!?」

 

「それだけじゃないぜ、さっきコミヤンが引っ掛かった罠もその1つだろう」

 

毛糸とライターオイルの罠か。

 

「どうする!?」

 

「とにかく、外に出るぞ!!狭い通路じゃこっちが不利だ!!」

 

その意見には賛成だ。

 

長谷部のペットボトルボムの爆弾範囲は精々1メートル弱と狭い。

 

しかし、現在の狭い通路では回避は難しいだろう。

 

逆に広い外に出れば回避の距離は広まり、攻撃のチャンスも出てくる。

 

だが、僕達はまだ知らなかった。

 

長谷部差鉄という人間がどれ程、戦闘の玄人であるのかを。

 

「出口だ!!コミヤン!!」

 

土御門が先を走り、出口を抜けた。

 

ピンッ。

 

 

何だ?

 

今、何か音が?

 

「コミヤン!!来るな!!」

 

土御門の焦った声が聞こえたが、それに反応するよりも速く、それは起きた。

 

僕が出口を抜ける瞬間。

 

ボン!!

 

出口爆発したのだ。

 

爆発は右側から起き、爆風が僕を襲った。

 

 

 

 

 

「……ミヤン…ミ……ン……コミヤン!!」

 

どこか遠くから呼ぶ声がする。

 

それは次第にはっきりと僕の耳に届き、意外に近くで呼ばれていた事に気が付かず。

 

「……う」

 

「気が付いたか…コミヤン」

 

「ここは?」

 

どうやらまだ船の上にいるようだ。

 

いったいどれくらい気絶していたのだろうか?

 

それを考えるよりも先に身体の右側、正確には右腕から激痛が走り、思考が遮断された。

 

右腕を見ると、僕は絶句してしまった。

 

そこには血塗れの自分の腕がある。

 

所々何かの破片が食い込み、それらから血が流れ出ているのだ。

 

「腕はどうだ?」

 

「……気絶していいですか?」

 

「コミヤンをまた引きずるのは面倒臭いから止めて欲しいにゃー」

 

どうやら、気を失ったのは長くても数分だけのようだ。

 

その間に土御門が倒れた僕を貨物で一杯の船上の物陰に引きずってくれたらしい。

 

負傷した右腕はまだ動かせる。

 

しかし、早く手当てしなければならないだろう。

 

長谷部は、と土御門と同じ様に物陰から顔を覗かせると、こちらを探している姿が見えた。

 

しかし、見つかるのはまだ先のようだ。

 

「やつめ……俺らを追いかける時に仲間に人質を移動するように指示していた」

 

「また、巻き戻しかよ」

 

「こっちの武器は俺の拳銃が1丁、あとは……無理か」

 

土御門が何かを言おうとしたが、言い止まった。

 

「何かあるのか?」

 

「あるが使えない、それにこの状況には出る幕が無いと言った方が適切だろう」

 

どちらにしてもこちらの武器は拳銃だけと言う事か。

 

逆に向こうにはペットボトルボムを初めまだまだ武器を隠し持っている可能性がある、加えて『常に一手先を見る』能力を持っているのだから、不利に違いない。

 

何とかしなくては。

 

このままでは僕達は負ける。

 

負ける、つまりは死に直結するだろう。

 

何か無いのか!?

 

何か!?

 

………いや、待てよ?

 

僕は、不意に過去に起きた事を思い出した。

 

『あれ』は使えないだろうか?

 

同時に僕の脳内に1つの可能性、ビジョンが浮かぶ。

 

逆転の策。

 

策と言うよりかは苦心の抵抗と言った方が正確だろう。

 

この圧倒的に不利な状況を覆す事ができる可能性。

 

「コミヤン?」

 

「土御門……お前は涙子ちゃん達を助けてくれ」

 

「なぁ!?それじゃ長谷部はどうする!?まさか!?」

 

「あぁ、僕がアイツを引き止める」

 

「ダメだ!!コミヤンは今怪我をしているし、何より武器は無いんだぞ!!」

 

武器は無い、確かに僕が土御門の拳銃を借りた所で扱いがわからない物では武器になると所か弱点になってしまう。

 

だけどな、土御門。

 

僕はいたずらが大好きな子供の様に笑みを浮かべてスパイであり、友であり、クラスメイトであり、現在は戦友である彼に言った。

 

「いや……武器はある」

 

 

 

 

 




今回はボコられ回でしたね。

書いていて長谷部つ強さが半端なくなりました。

ペットボトルボム、ダルマバリは適当に命名しています。

では次回、逆転編お楽しみに!

ご意見、感想、指摘等々ありましたら、お願いします!!!

あと活動報告を始めました!!!


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佐天編、僕は……僕は……人間だ!!

ついに主人公の能力覚醒回!!


「武器はある?何を言っているのんだ、コミヤン!!」

 

土御門が肩を掴み問いかける。

 

わざわざ負傷している肩を掴んだのは痛みで僕の考えを改めさせる為か。

 

だが、刺す様な痛みは逆に僕の決意を確実なモノに変えた。

 

僕は再び同じ事を言う。

 

「聞いてくれ、僕が囮になるから、お前は人質の子達を見付けて脱出させてくれ」

 

「……」

 

「頼む」

 

数秒の沈黙の後、土御門はため息と共に頷いた。

 

「……わかった。コミヤン無茶はするなよ」

 

一見無謀な作戦に思えるが客観的に考えるとこれが一番ベストな作戦なのだ。

 

僕にはこの船がどんな構造をしているのか、予想も出来ない、ましてやどこかに監禁されている女の子達の居場所などわかる筈がないのだ。

 

逆に土御門なら大方の予想も可能性の高い監禁場所も簡単に推測できるはずだ。

 

僕は僕にできる事をする。

 

他のスキルアウト達は大方片付いた。

 

残りは長谷部差鉄のみなのだから。

 

だが、

 

この状況。

 

正直、かなりピンチだ。

 

長谷部差鉄の武器、ペットボトルボムは単純な構造故に威力は確実、更に奴は常に一手先を見る事ができる。

 

こちらがもしペットボトルボムを回避しても、そこから生まれてしまう隙を確実に捕らえて来るのだ。

 

こちらの武器は土御門が持つ拳銃一丁だけ。

 

だが、『僕の武器』を使えば活路を切り開く事は難しくとも、裏を欠く事はできる。

 

しかし、

 

(出来るのか?)

 

正直に話せば『僕の武器』は過去にあの化け物がやってのけた事だ。

 

やり方は大体理解できる。

 

いや、正確には『出来る』。

 

それは手を動かす事と同じように、息を止める事と同じように簡単に出来る。

 

はずだ。

 

確定では無い。

 

例えるのなら、見よう見まねの領域。

 

頭で理解しても、実際に体を動かすと極めて困難な事と同じだ。

 

それに、

 

もし、『僕の武器』を使えたとしよう。

 

『僕の武器』を一度使ってしまったら、僕はどうなる?

 

『僕の武器』はそっくりそのまま『化け物の武器』だ。

 

つまり

 

僕は化け物である証明になってしまう。

 

心の中で僕は人間だと防衛線を張っていた。

 

化け物の力を持ってしまい、人間では無くなる事を恐れたからだ。

 

そう考えなければ、僕は化け物である真実に押し潰されてしまうかもしれない恐怖があったからだ。

 

その防衛線を僕は僕の意志で壊し踏み込まなくてはならないのだ。

 

もし、このまま真っ直ぐに走り去ってしまえばどれ程楽だろう。

 

佐天涙子の事、土御門元春の事、長谷部差鉄の事、全てを投げ出せば僕は僕の事を救える。

 

少なくとも、真実から目を背ける事はできる。

 

それはどれ程楽だろう。

 

楽で、

 

幸せで、

 

なんて残酷なんだろう。

 

『助けて…仁ちゃん』

 

不意に佐天涙子の声を思い出す。

 

救いを彼女は僕に求めた。

 

だが、それが僕の戦う動力源になることはない。

 

吹寄の時と同じだ。

 

僕は正義の味方側の悪役であり、他人の為には力が出せない。

 

自分の為にが大前提にならなければ力は出ないのだ。

 

それは、化け物であるが故に起きる考えではないのか?

 

僕は知らない内に心まで化け物になっていたのではないのか?

 

(違う)

 

否定の言葉。

 

否定しないと途端に真実と言う濁流に巻き込まれて戻れなくなってしまう。

 

だから否定する。

 

(僕は……僕は……人間だ!!)

 

真実を否定する。

 

真実を認めない。

 

真実を拒絶する。

 

その為に、

 

真実を拒む為に、

 

僕は、

 

真実を受け入れなければならないのだ!

 

 

 

 

 

僕は隠れていた物陰から飛び出した。

 

目の前には若干驚いた表情の差鉄が。

 

「ほう……無駄な抵抗だと悟り出てきたか?それとも何か秘策を思い付いたか?」

 

「いや、違うね、覚悟を決めたのさ」

 

「どちらでもいい」

 

差鉄は手に持っていたペットボトルボムを点火し放り投げた。

 

差鉄の考えはわかる。

 

ペットボトルボムの爆発範囲は精々1メートル弱。

 

それを知っている人間だったら、凡人でも回避可能な距離だ。

 

しかし、

 

(差鉄は更に一手先を見る!!)

 

僕が回避しても、その位置に拳か更なる隠し武器かわからないが、とにかく次の手を攻撃して来るのだ。

 

それをわかっているのだが、その場合の対処が出来ない。

 

ペットボトルボムを避けた時点で僕は次の攻撃を受ける事が確定してしまう。

 

ボンッ!!

 

ペットボトルボムが爆発する音。

 

だが、

 

次の手は来ない。

 

それどころか、僕はその場から動いていなかった。

 

ペットボトルボムは放物線上の途中で爆発したのだ。

 

「な、何故だ!?」

 

次の手が来ないのは差鉄が事態を飲み込めていない為。

 

「何故、ペットボトルボムは狙撃されたのだ!?」

 

差鉄は常に一手先を見る。

 

見る、とは考える事。

 

確かにその一手先を見る事は脅威になるが、逆に弱点にもなるのだ。

 

理解の範疇を越えた出来事に遭遇した時、人間はまず理解する事に専念する。

 

専念する瞬間は体の動きは無意識に鈍くなるのだ。

 

常に一手先を見る差鉄も例外に漏れず、むしろ人より理解しようと専念する為、その鈍さは長い。

 

ほんの一拍、二拍の僅かな差だが、それでも土御門が動く時間は稼げた。

 

土御門は僕の横を走り抜け別の扉に飛び込もうと飛んだ。

 

「まて!!」

 

ここで差鉄が動くが、

 

「ッ!?」

 

差鉄の顔面スレスレに、『僕の武器』が飛び壁に穴を開けた。

 

差鉄の足が止まる。

 

土御門がドアの向こうに消えて行った。

 

「頼むぞ……土御門」

 

僕はここで差鉄を倒す。

 

 

 

 




能力の説明は次回やります。

結局の所、この主人公は自分の為にしか力が出せない卑怯者と言う事ですね。

では、次回、小野町仁vs長谷部差鉄!!をお楽しみ!

ご意見、ご感想、等々ありましたら下さい。


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佐天編、BB

今回は小野町仁vs長谷部差鉄との戦闘回です。



妙な沈黙があった。

 

僕も長谷部も、互いに睨み合っているだけで、動くうとはしない。

 

人工の海であるためか波は無く、船上に居るのにも関わらず揺れは感じられない。

 

あるのは時折吹く潮風だけだ。

 

先に動いたのは長谷部だった。

 

長谷部は壁に空いた穴を指でなぞり、匂いを嗅ぐ。

 

そして、理解した。

 

「これは……血液か?」

 

「ご名答」

 

僕は長谷部に自分の両手を見せる。

 

普段と変わらない手。

 

しかし、

 

指先には血液が集まりできた、弾丸があった。

 

数は左手に5発、右手に人差し指と中指を除いた3発、両手の指先に合わせて計8発。

 

「『血の弾丸』をお前に撃ったのさ」

 

『血の弾丸』、これが『僕の武器』だ。

 

そして同時に『化け物の武器』。

 

傷口から流れ出た血液が指先に集め、弾丸の形に形成し、発砲する。

 

理屈では理解できないが、経験の上に出来た技。

 

人はそれを能力の開花と言うだろうが、それは違う。

 

そんなわけがない、この技は僕の『化け物』の到着点の筈がない。

 

この技は通過点なのだ。

 

同時に僕が人間だと自分に言い訳できる最後の防衛線。

 

「初めてにしちゃぁ妥協点って感じだな」

 

僕はそんな心情を悟られない様にあえて軽い口調で話す。

 

「そうだな、『血の弾丸』……『Blood Bullet』……よし」

 

僕はこれからこの技で戦うのだ。

 

せめて名前を付けなくてはいけない。

 

「これからは『BB』と名付ける!!」

 

『BB』、これが僕の『武器』だ!!

 

 

 

 

 

 

「そうか、お前も能力者だったか」

 

長谷部は僕を睨み先程とは違う視線を僕に送る。

 

憎悪の眼差しを。

 

「相手が能力者だとわかってしまったら手加減はできないぞ」

 

その声は明らかに殺意が込められており、それだけで僕の戦闘意欲を引かせる。

 

だが、僕にはBBがある。

 

長谷部のペットボトルボムを基準に置いた戦闘スタイルはこの技で封じているのだら怖がる事はない。

 

長谷部が動いた。

 

ペットボトルボムを僕に投げつける。

 

「それはもう意味無いぜ!!」

 

僕は左手の親指のBBを放った。〈残り7発〉

 

BBはペットボトルボムに命中し、ペットボトルボムは空中で爆発、黒い煙だけを残す。

 

しかし

 

「なぁ!?」

 

その爆煙の中から大きな物体が飛び出て来た。

 

長谷部だ!!

 

ペットボトルボムを投げると同時に自分も僕に向かい走り出していたのか!?

 

爆発の中、自分が傷付く事を恐れないで来たのか!?

 

僕はとっさに右手の薬指のBBを放つ。〈残り6発〉

 

「お前が奇襲に驚き、発砲する事はわかっていた!」

 

しかし、長谷部は体を軽く曲げるだけでBBを回避し、そのままのモーションで僕を殴り付ける!!

 

顎に走る衝撃に僕の体は後ろに飛ばされる。

 

「ほらっ!!」

 

長谷部は再びペットボトルを投げつける。

 

今度は引っ掛からない!!

 

爆発した瞬間に爆煙にBBを叩き込んでやる!!

 

右手の小指からBBを発射し、ペットボトルを撃ち抜く〈残り5発〉

 

しかし、

 

「爆発しない!?」

 

ペットボトルは破裂はしたが爆発はしなかった。

 

代わりに液体が僕の体や回りに降り注ぎ、辺りを濡らした。

 

「ペットボトルボムじゃない!?」

 

この液体は何だ!?

 

水では無い、若干の滑りがある。

 

それにこの匂い……!?

 

「気付いたか?洗剤だよ」

 

そう言う長谷部の手には火の付いたマッチ棒がある。

 

「よく聞くだろ?『混ぜ合わせてはいけません』って注意書き……その意味を体で理解しろ!!」

 

長谷部はマッチ棒を投げつけた。

 

「う、うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

僕は長谷部に背を向け全力で走り出した。

 

後ろでは、何種類の洗剤が混ざり合った液体が目には見えない有毒ガスを作り出している。

 

それだけでも脅威なのに、マッチ棒の火が引火したら……

 

ペットボトルボムとは比べ物にならない程の爆発の音と衝撃が僕を襲う。

 

火は僕の服にまで引火し、体を焦がす。

 

「があぁぁぁぁぁぁ!!」

 

服を破り捨て上半身を裸にし、体を転がし、皮膚に引火している炎を消す。

 

長谷部はその行為を、予想していた!!

 

まだ消えない炎の中、僕の向かう長谷部の手には銀色に輝くナイフが握られている!

 

「くそっ!」

 

右手の親指、左手の中指、薬指、小指のBBを連続して放つ!!〈残り1発〉

 

「もはやそれは理解している!!」

 

長谷部は懐から何かを取り出し振るった。

 

たったそれだけで3発のBBが弾かれる!

 

「嘘だろ!?」

 

よく見ればそれは布だ。

 

だがキラキラと銀色に輝いている。

 

距離が近づくに連れその正体がわかった。

 

銀色に輝く正体は針だ。

 

針が無数に布に仕込まれている!

 

BBは針に被弾し、進行方向を強引に変えられたのだ。

 

だが、それでも布自体は3発のBBによりボロボロになっており、もはや意味をなさない。

 

それは製作した長谷部自身も理解しているのだろう、針の布を簡単に捨てる長谷部。

 

「銃を相手にする事を想定していない訳が無いだろが!!」

 

長谷部はナイフを突き刺しながら叫ぶ!!

 

ナイフは真っ直ぐ僕の顔に向かって来る!!

 

「う、うわあぁぁぁぁ!!」

 

反射的、

 

そう言うしかなかった。

 

僕はケンカは慣れているが、戦闘には慣れていない。

 

だから、戦闘時においても、反射的に日常で顔に向かう物を扱う動きをしてしまった。

 

つまり、両手で顔をガードしてしまったのだ。

 

この時、心の中で僕はしまったと後悔している。

 

BBはまだ1発残っていた。

 

左手の人差し指にだ。

 

もしもし左手だけでも動かさなければ、逆転出来たのかもしれない。

 

しかし、それは後の祭りだ。

 

結果、僕は左手、右手の両手を重ねてしまった。

 

ナイフは両手を貫き、そのまま顔に向かって来る。

 

僕はできるだけ体を反らしたが、ナイフは僕の両手ごと右の肩に刺さるのだった。

 

両手、右肩の激痛が僕を襲う。

 

「ぎゃあぁぁぁ!!」

 

ナイフは両手と肩を縫い合わせる形で僕の動きを、左手の人差し指のBBを放つ行動を遮断した。

 

僅か3分間程の戦闘であったが、僕、小野町仁とスキルアウト『フロッグ』リーダー長谷部差鉄との戦いは、僕の敗北で幕を下ろした。

 

 

 

 

 




能力の覚醒回にもかかわらず負ける主人公は主人公では無いと思います。

ここで簡単に『BB』について説明します。
詳しい説明はあとがきで話しますが、BBは血の弾丸を精製し、発砲する能力だと考えて下さい。
拳銃を使う感じです。
逆にまだ付属効果はありますが『血を弾丸の形に形成し、発射する』それだけの能力なんですけどね。

次回は決着回をやる予定ですのでお楽しみに!!

ご意見、ご感想、等々ありましたら下さい。いやマジで!!


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佐天編、革命

お久しぶりです。最近社会人になってしまった夜遊です。
今回は長谷部差鉄の犯行理由を書きます。


僕が小学生の時の話だ。

 

友達だったクラスメイトが能力を開花した事があった。

 

彼は自慢げに他のクラスメイトに能力を見せていた。

 

この時僕はただ興奮して彼の能力を見ていた。

 

だが

 

彼だけでは無い、彼が切っ掛けであるかの様にクラスメイトの何人かが能力を開花する様になった。

 

次第に数が増えていき、クラス替え間近の時期には能力者はクラスの3分の1は能力者になっていた。

 

その時からだ。

 

明らかに無能力者と能力者達との間に壁ができ初めていた。

 

そしてこの時からだ。

 

能力者達の僕ら無能力者達に向ける視線が変わっていったのは。

 

正体がわからない視線に僕は小学生でありなが恐怖を抱いた。

 

この時からだ。

 

つい昨日まで仲がよかった筈のクラスメイトが嫌いになったのは。

 

 

 

 

長谷部差鉄は勝利を確信していた。

 

岩のような顔面の口元が僅につり上がっている。

 

BBを使用した戦闘はこれが初めてだった。

 

使い方がわからなかった。と言い訳をするつもりは無い。

 

むしろ出来ないと言った方が正確だろう。

 

僕はこの能力を初めて使ったがこの能力の全てを理解していたのだ。

 

まるで呼吸をするかのように。

 

BBのメリット、デメリット全てを理解した上でこの結果が起きたのだ。

 

そう、長谷部差鉄が勝利を確信したように、逆に僕、小野町仁も敗北を確信していた。

 

 

 

 

 

灼熱の痛み、と言う表現を小説でよく目にする。

 

実際は比喩表現の1つなのだが、あえてこの状況にはこの表現が一番適しているのだろう。

 

し、灼熱の様に痛ェェェェェェェェェェェェェ!!

 

何!?何これ!?どうなってんだ!?痛い!!とにかく痛い!!手が!!両手が!変な方向に関節とか割と無視して右肩にくっついてる!!右肩も痛い!!ヤバい!!痛い!!肩に両手がナイフで縫われている!?痛い!!痛い!!痛い!!見ても痛いし!!感覚的にも痛い!!あれ?痛く無い?やっぱ痛い!!だって両手の掌貫通しているんだよ!?貫通しちゃいけない部分だよ!?漫画じゃ痛みを通り越して感覚が無くなるって書いてあったじゃん!?普通に痛い!!普通以上に痛い!!痛い!!痛い!!痛い!!見ても痛い!!なんかもうとにかく痛い!!

 

多くの言葉が脳内でスパークし、現状を理解しようとしている。

 

しかし、言葉を発する口から出たのは単純で明白な叫び声だった。

 

「が、があぁぁぁぁぁ!!」

 

貨物のコンテナに背を預ける形で僕は長谷部に抑えつけられていた。

 

正確には長谷部はナイフ1本で僕の両手と右肩を貫き、一ヶ所に止めているのだ。

 

「動かない方がいい。このナイフも兵器の1つだ。当然一般に出回る様な安全な物ではない」

 

そう言うのなら、グリグリ押し付けないでくれませんかね!?

 

「ち、くしょう……強すぎだろあんた…」

 

「……お前達能力者を相手取るんだ、これでは足りない位だな」

 

「何で……あんたそんなに能力者を目の敵にしてんだよ?」

 

正直に言ってこの男ならそこら辺にいる能力者よりも強いだろ。

 

それはこの男自身にもわかっているはずだ。

 

正直ここまで能力者に恨みを持っているのは異常では無いのだろうか?

 

「……お前は知らないのだな」

 

「何が?」

 

勝者の余韻なのか、僕の何気ない質問に長谷部は答えた。

 

「今能力者による…無能力者狩りと言う遊びが流行っていることを」

 

「無能力者狩り……?」

 

「学園都市はレベルと言う差別がある。弱者は強者には勝てないと言う決まりがある」

 

「……」

 

何を言い出すのだ?

 

「そして今、そんな差別を利用した悪遊が密かに流行っているのだ」

 

「……」

 

能力者のレベルは人格的思想は考慮されない。

 

たまたま歪んだ性格の持ち主がたまたま高レベルの能力を手にしたらどうなるのか?

 

その答えが無能力者狩りと言う遊びなのだろう。

 

「それがこんな事と何の関係があるんだ?」

 

「関係か……あえて言うなら正義の為だ」

 

心臓が一瞬止まった。

 

こいつ今何て言った?

 

正義の為だと?

 

「学園都市は力が全てを仕切る。弱者は強者に虐げられる……刈られる。そんな事があっていいのか?ただ運だけで、運がいいだけで力を手に入れた幸運な連中が、運が悪いだけで力を手に入れられなかった不幸な者達を傷付けていいはずが無い!!そんなのは悪だ!!なら弱者は武器にすがり力を欲する事が正義ではないのか!?」

 

「……」

 

長谷部の言葉を聞き、無様にも同感している僕がいた。

 

否定できない。

 

正論だ。

 

僕自身、こんな化け物の能力を手に入れるまで何の力も無いレベル0だった。

 

不意に小学生だった頃の記憶が蘇る。

 

初めて能力を間近に見た時感情。

 

僕は興奮して見ていた。

 

同時に

 

羨ましいと思った。

 

クラスメイトの何人かが能力者なった。

 

妬みがあった。

 

クラス替えの間近、彼らから送られる視線。

 

あの頃は正体がわからず戸惑ったが、今ならその正体がわかる。

 

哀れみ、優越感、至福感、それら全てが混ざりあった視線だったのだ。

 

それはまるで、こう物語っているようだった。

 

羨ましいだろう?可哀想な負け組め。

 

学園都市独特の残酷な選別が小学生の時から僕を攻撃していたのだ。

 

僕は長谷部差鉄の思想がわかってしまった。

 

この貨物船の中にある大量のコンテナの中身がわかってしまった。

 

恐らくコンテナの中身は、全て先程から僕を苦しめている、武器だ。

 

そしてこの男がやろうとしている事は、革命だ。

 

長谷部はこの残酷な選別による現実を無くす為に戦っているのだ。

 

今までの長谷部が使っていた、武器を思い返す。

 

ペットボトルに火薬を詰め込んだ、ペットボトルボム。

 

毛糸の静電気と、ライターオイルの引火を利用したトラップ。

 

針を重しの力でダルマのように上に向かせる、ダルマバリ。

 

混ぜ合わせると有毒な引火性のガスをだす、洗剤入りペットボトル。

 

このナイフもあえて釣り針の様に抜けにくく加工した包丁だ。

 

どれも、特別な物は使っていない。

 

下手したらコンビニやスーパーで簡単に手にはいる物ばかりだ。

 

そして、そんな身近な物で簡単にできる武器で僕は敗北した。

 

長谷部はこの戦闘で証明したかったのだ。

 

能力者程度、こんなガラクタでも簡単に勝てる事を。

 

長谷部は能力者に怯える無能力者達にこう言いたかったのだ。

 

俺らは能力が無くとも、能力者に勝てるんだ、と。

 

長谷部は無能力者を虐げる能力者にこう言いたかったのだ。

 

俺らはお前らの下じゃない、と。

 

ただこの弱肉強食の世界を平等にしたかったのだ。

 

彼は、僕の親友とは違うタイプの、ただの正義の味方だったのだ。

 

そんな彼に対決している僕は、正しく悪だ。

 

 

 

 

 

「は、はははっ……」

 

「……ぬぅ?」

 

「はっはっはっはははっはははははははは!!」

 

僕は笑っていた。

 

今までのダメージや損失した血液、そして何より自分の無様な悪役っぷりを知ってしまったからだ。

 

この男の主張は間違っていない。

 

認めるさ、確かにあんたは正義の味方だよ。

 

僕の正義の定義、『他人の為に戦うのが正義』をあんたはやっているだけじゃないか。

 

そんなあんたは紛れもない正義の味方だよ。

 

それに比べて僕は悪だ。

 

正義の味方を相手にしている僕は悪そのものだ。

 

正義の味方と悪が戦ったら正義の味方が勝つに決まっているじゃないか。

 

そんなの子供でも知っている。

 

…………だけど、

 

何よりもおかしいのは、

 

不格好にも悪である僕が、

 

悪で覆われた真実の中から、

 

自分は正義だと言い訳できる理由を探していることだ。

 

だが、悲しい事に

 

探しても、探しても、僕を正義にする理由が見つからない。

 

佐天涙子の救出。

 

無駄な争いの回避。

 

土御門との約束。

 

等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々………

 

いくつもの言い訳はどんどん出てくる。

 

だげど、正義の革命を起こそうとする、長谷部差鉄の屈強な正義の前では取るに足らない下らない物ばかりだ。

 

だから僕は

 

開き直った。

 

「はっはははは!!はっはははははははは」

 

僕は悪だ!!

 

それでもいい!

 

だが!!

 

「それでも僕は……お前に勝ちたい!!」

 

無様でもいい!

 

カッコ悪くたっていい!

 

僕は自分の目的の為なら、それがちっぽけな目的の為だとしても!!

 

弱肉強食のバランスを均一にする、何て大層な正義を

 

悪で壊したい!!

 

気が付けば自分でも知らないうちに僕は笑うのをやめていた。

 

「………それでもいい……」

 

「何?」

 

「僕はそれでも、あんたは間違っているって言う!!」

 

「……ほう」

 

僕は無様に、まるで子供の我が儘の様に言葉を吐き出していく。

 

「確かにあんたは間違っていない!!だけど間違っている!」

 

無茶苦茶な事を言いながら僕は肩や両手の痛みを隠しもせずに前に進む。

 

ナイフが掌の肉を破り、肩の骨を削る。

 

「あんたの主張はガキの妄言だ!!」

 

違う、ガキは僕だ。

 

「そんなのは小学生で卒業する考えだろ!!」

 

違う、僕は逃げたんだ。残酷な差別に気が付かないフリをしていたんだ!!

 

「それでこんな事をやるなんて、カッコ悪いぜ!!」

 

違う、そんな現実に苦しむ無能力者達を助けようとする、この男は無茶苦茶カッコいい。

 

「僕は」

 

僕は

 

「あんたを倒す!!」

 

正義の味方側の悪役として、戦う事で正義と向き合いたい!!

 

敗者の最後の抵抗とも取れる第2ラウンドが幕を開けた!!

 

しかし、幕引きはすぐに訪れるだろう。

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?

お復習と補足として、長谷部差鉄の正義は『平等』。正確には『弱者が力を求める事は正義、逆に強者が存在するのは悪』となっております。

学園都市独特のレベル分けによる差別、それに納得できない長谷部は身近な物でできた簡単な武器で無能力者達でも能力者達同等の能力があると、知らしめる為に無能力者達による戦いの準備をしていました。
彼等は貨物船の中で大量の武器を製作し、それをばら撒く計画をしていました、しかし、いくら簡単に手に入る物でも大量に必要となれば金額は膨大になってしまいます。その資金を集める為に長谷部は様々な犯罪を犯し金銭を集めていたのです。

作者の中では、能力の開花は精神的成長期でもある小学生から始まると思っています。

小野町仁はそんな正義に共感してしまいますが、同時に心のどこかで間違っていると考えていたのかもしれません。間違っていないのに間違っている、そんな矛盾を解決、または否定する為に最後の抵抗を起こしたのかも知れないです。

では、この辺で!

ご意見、ご感想、ご質問等々ありましたら、下さい。


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佐天編、ようやく

遂に決着!!


人差し指に残っているのは偶然では無い。

 

あえて、人差し指に残しているのだ。

 

理由は簡単。

 

『命中率』だ。

 

BBの発砲した際の進行通路は指先の向き限定である。

 

発砲の際には指先を相手に向けなければならない。

 

手にある、5本の指の中で、肩から一直線に伸びているのは中指と、そして人差し指。

 

この2本の指でのBB発砲の際の命中率は他の3本と格段に違う。

 

そして、中指と人差し指では個人的には人差し指が命中率が上だ。

 

だから、人差し指のBBを残した。

 

確実な勝利の為に。

 

しかし

 

現在、僕の両手は右肩に重ねる形でナイフで止められている。

 

同時にたった1発左手の人差し指に残っている、血の弾丸、BBの発砲も封じられた。

 

だが、

 

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

なにも僕の武器はBBだけでは無い!!

 

「!脚蹴り!?」

 

確かに僕は両手の動きを封じられている。

 

しかしそれは、言い換えれば押さえ込んでいる長谷部も動きを制限されていると言う事だ。

 

加えて、押さえ込んでいる為に長谷部と僕の距離は近い。

 

その場に居れば十分に僕の脚蹴りの射程距離範囲だ。

 

更に僕の体は常人よりも僅かだが強くなっている。

 

その蹴りは当たればコンクリートだろうと、破壊する凶悪な凶器になる。

 

しかし、だが、やはり。

 

「いくらか、恐れなければならない脚蹴りだが、動きは素人の領域を出ないな」

 

当たらなければ意味がない。

 

長谷部はただ後ろに下がるだけで僕の攻撃を回避した。

 

これが僕と長谷部との戦力の差だ。

 

スポーツと同じだ。

 

プロの選手は途方の無い練習を積み重ねその地位にいる。

 

そんなプロに素人が勝てる筈がない。

 

それは『喧嘩』と言うジャンルのスポーツでも同じだ。

 

練習は経験とも言い換える事ができる。

 

圧倒的な経験の差で、僕と長谷部には大きな差がある。

 

よって喧嘩のプロである長谷部には素人の僕の動きが手に取る様に知られてしまうのだ。

 

しかしそれでも、突破口はある。

 

長谷部の常に一手先をみる能力は経験からくる物だ。

 

逆にその範囲外、予想外の展開には反応出来ない。

 

事実、僕のBBの初の攻撃や先程の蹴りは視界・思考の外、両方からの死角からの攻撃には長谷部は読めていなかった。

 

つまり、長谷部の意表をついた攻撃のみ僕の攻撃が通じるかもしれないのだ。

 

(プランは出来ている、後は覚悟のみだ!!)

 

覚悟は出来ている。

 

プラン、現在それは僕の思惑通りに進行している。

 

後は長谷部の動き次第。

 

「怖いか?」

 

「何?」

 

「僕の攻撃、確かに当たらないと意味がない。だけどそれはあんたも同じだ」

 

僕らの距離は2メートル弱。

 

僕の足蹴りによる射程距離範囲ではない。

 

それは長谷部も同じ。

 

長谷部も僕に止めを刺すために近寄らなければならない。

 

つまり、距離を縮めなければならないのだ。

 

確かに長谷部には一手先をみる能力を持っているが、それは確かな事ではない。

 

僕の体はボロボロで足を一歩でも動かせば倒れてしまうだろう。

 

そんな僕を仕留めるには渾身の拳を叩き込まなければならない。

 

渾身の拳を叩き込むのなら回避によるカウンターは力が足らない。

 

一瞬だが筋力を貯める必要がある。

 

その一瞬を僕が見逃すはずがない、長谷部が動きを止めた瞬間、今度は僕の文字通り死力の足蹴りを食らわせてやる。

 

いくら先を読んでも回避できなければ意味がない。

 

だがそれは

 

「悲しいな」

 

長谷部は落胆にも似た哀れみの視線を送ってくる。

 

僕の考えは長谷部にもわかっているのだ。

 

長谷部は全然不利ではない。

 

彼には近接戦闘以外にも攻撃法を持っているのだ。

 

「お前の攻撃を食らうつもりはない、そしてその可能性を僅でもかける義理はない」

 

長谷部は腰に取り付けてあるバックからペットボトルボムを取り出す。

 

そして導火線に火を点火し、笑うのだ。

 

このペットボトルボムが長谷部の最後の攻撃。

 

そして長谷部の戦闘の基礎戦術。

 

長谷部は戦いに生き甲斐を感じる男ではない。

 

このスキルアウトのリーダーが求めているのは確実な勝利だ。

 

怖いのはペットボトルボムではない。

 

確かにペットボトルボムは脅威ではあるが、ペットボトルボムを回避する瞬間に来る長谷部の攻撃だ。

 

この方法なら回避に気を使ってしまう僕が攻撃を出す事はない。

 

よって長谷部は僕の攻撃を気にする事なく、止めを刺せるのだ。

 

僕には2つの選択肢があった。

 

ペットボトルボムを回避し、長谷部に敗北する選択肢。

 

ペットボトルボムを回避せずに長谷部に敗北する選択肢。

 

残念な事にどちらも敗北の選択肢だ。

 

これが悪役の末路。

 

長谷部がペットボトルボムを投げ走り出した。

 

「終わりだ!!」

 

しかし、

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

ペットボトルボムに対し僕が取っ選択肢。

 

それは!!

 

「!!なに?!」

 

僕はペットボトルボムに向かい飛び込んだ!!

 

(どうせ負けるなら!!派手に負けてやる!!)

 

空中で僕の体とペットボトルボムは打つかる。

 

そして

 

ドォォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォン!!

 

ペットボトルボムは本来の威力で爆発し、僕の身体を吹き飛ばした!!

 

 

 

 

 

 

痛みは感じない。

 

赤い閃光が視界を覆い、意識を壊す。

 

散り行く肉片。

 

断面的な意識。

 

僕の戦いは敗北した。

 

悪役の末路はこんなものだ。

 

そして……

 

ここからは……悪足掻きだ!!

 

「Guooooooooooooooo!」

 

消え行く意識を掴み、強引に引き戻す!!

 

空中!!

 

落下中の体からは爆発による煙が上がっている。

 

下は船の外、つまり海の上だ。

 

暗がりで漆黒の海が僕を咀嚼しようと真っ黒の口を開けているように思えた。

 

「Shaaaaaa!!!」

 

身体を捻り長谷部を探す。

 

いた!!

 

船の上で立ち尽くすだけの長谷部。

 

長谷部は頭を使う男だ。

 

そして計算外の出来事には、僕が自ら爆発に巻き込まれる行動力にとっさに動けない!

 

一瞬。

 

この一瞬が僕が狙っていた一瞬だ!!

 

右肩に止められた左手の指を伸ばす。

 

人差し指だ!!

 

地上では、脚が船についている状態では不可能な動きを、空中という自由空間で行っただけなのだが。

 

ようやく!!

 

指先のBBの照準がようやく!長谷部を捉えた!!

 

「HAaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

発砲音によく似た、音を轟かせながら僕の最後の武器、人差し指のBBを発砲した!

 

血でできた弾丸は引き込まれるように長谷部の体に向かいそして。

 

「ぐあっ!?」

 

長谷部に被弾した!

 

ようやくだ。

 

ようやく当たった。

 

BBは通常の弾丸とは違う、

 

そもそも化け物の武器が普通の武器と同じ功績の筈がないではないか、

 

BBは長谷部の左胸に被弾し、

 

皮を破り

 

脂肪を裂き、

 

筋肉の繊維を押し退け、

 

内蔵を破壊する。

 

そして

 

「!!があっ!?」

 

長谷部は被弾の際の力で若干後ろに下がったが、次の瞬間、倒れ込んだ。

 

拳銃による狙撃ではあり得ない現象。

 

何度も言うがBBは『血』でできた弾丸である。

 

血には当然血液型が存在し、他の血液を受けると、拒絶反応が起こるのだ。

 

それに僕の血液は人間の物ではない化け物の血液なのだ。

 

人間が化け物の血液に適合する筈がない。

 

今、長谷部の体内では、化け物の血液が暴れ回っているのだ。

 

化け物は他の血液を攻撃し、内蔵を攻撃し、骨を攻撃し、神経を攻撃する。

 

まるで毒の様な作用をBBは持っているのだ!

 

戦いの幕は降りた。

 

長谷部がピクピクと痙攣しているのを見ながら満足そうに僕は落下していた。

 

そして

 

海に引きず込まれるように深い海に着水していったのだ。

 

ゴボゴボと口に海水が入り込み、呼吸を無くす。

 

虚ろな僕の視界には、僕の血で濁った海水が見えていたが、それもぼやけてしまう。

 

死ぬかも知れない。

 

しかし、

 

そんな恐怖よりも先に僕が思ったのは

 

(ざ……まぁみ……ろ……)

 

そして僕の意識は

 

完全になくなった。

 

わかったていたのは深い深海に僕の体が落ちていく感覚だけだった。

 

 

 

 

 

 




少し強引に終わらせて頂きました。



次回、エピローグです。


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佐天編、エピローグ。ありがとう

やっと。

やっと。

佐天編、終了!


夢を見た。

 

悲しい夢だ。

 

卒業式。

 

「………ごめん」

 

アイツはそう一言だけ言って去っていった。

 

僕はただその背中を見ていた。

 

舞い散る桜の花びらを背に受けたそいつの背中はどこか悲しそうだ。

 

ごめん。

 

その一言にどんな意味が込められていたのかこの時の僕は、いや、今でさえわからない。

 

でも、その一言にどれだけ救われたのかはあの時も今もわかっていた。

 

そいつは初めて能力を開花した僕のクラスメイト。

 

大切で、嫌いになって、大切な大事な友達だった。

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、つい二日前まで見ていた天井があった。

 

病院だ。

 

時刻はすでに深夜を過ぎているのだろうか、窓から差し込む光は月明かりだ。

 

「……うっ」

 

体の自由が重い。

 

この感覚は包帯が巻かれている為か。

 

状況がいまいち飲み込めないがはっきりとしている事がある。

 

つまるところ僕は、

 

「……生きている」

 

「元気そうで何よりもだせ、コミヤン」

 

呟きに返答が来て驚き、辺りを見渡すと。

 

「土御門!!」

 

僕のクラスメイトの悪友、土御門元春がいた。

 

こちらは目立った外傷は無く僕よりもピンピンしているようだ。

 

「どうなったんだ?」

 

「それはどれを聞きたいんだ?」

 

「全部だ」

 

「全部と言うとながくなるにゃー」

 

「いいから」

 

僕に促され土御門があの後の事を話してくれた。

 

 

 

 

 

「取り合えず、テロを目論んでいたフロッグのメンバーは全員逮捕されたぜ」

 

「長谷部は?」

 

「フロッグのリーダー、長谷部差鉄は逮捕当初は病院に搬送されたが、今は意識が回復してアンチスキルに連れて行かれたぜ」

 

「そもそも、何が起きたんだ?」

 

これから先は土御門が話してくれた事を簡潔にまとめたものだ。

 

土御門は涙子ちゃん含む人質にされていた少女達はすぐに見つかり、解放された。

 

その際にフロッグの残党数人と戦う事になったが、難なく撃退。

 

「気になる事があるんだけど」

 

「なんだ?」

 

「フロッグの奴ら、『簡易的な兵器』を作っていたのに何でそれを使わなかったんだ?」

 

あの意表を突いた兵器を使えば多少は僕らと渡り合えたのではなかったのだろうか?

 

「それは推測だが、あの兵器はまだ未完成だったからじゃないかにゃー」

 

「未完成?」

 

「そもそも、あれは言うならば小学生の工作ぜよ、それに安全性とかまだまだ曖昧な部分もあった」

 

「……長谷部か」

 

「恐らく長谷部差鉄は自ら実験体として敢えてあの兵器を使っていたんだろう」

 

仲間に危険な事をさせない為に自らを犠牲にしていたのか?

 

つくつぐ、正義の味方の様な男だ。

 

「……続けるぞ」

 

土御門は彼女達を解放してすぐに僕の元へ駆けつけたらしい。

 

そこで目にしたのが僕が落下中の時らしい。

 

「じゃあ……見ていたのか?」

 

「まぁ……な」

 

「……そうか」

 

「……」

 

あの時の僕は果たして人間だったのだろうか?

 

化け物ではなかっただろうか?

 

そんな化け物の部分をクラスメイトに見られてしまった。

 

怖がられてしまうかも知らない、避けられてしまうかも知らない。

 

一瞬そんな恐怖を考える。

 

「コミヤン……コミヤンは化け物だぜ」

 

「っ!?」

 

「コミヤンは科学ではない、俺の知らない能力を使っていた。それに気が付いていないのかも知れないがあの時のコミヤンの眼は、人間ではなかったぜ」

 

嫌な汗が出てくる。

 

そして土御門は……

 

「なぁーんてなっ!!」

 

急に口元を緩めいつも通りに笑って見せたのだ。

 

「………へぇ?」

 

「やーい!!引っ掛かってやんのー!!コミヤンって以外と寂しがり屋さん?」

 

僕を指差しゲラゲラ笑う土御門。

 

状況が理解できない僕に、ようやく目元の涙を拭いた土御門が言う。

 

「コミヤンは確かに化け物だぜ、だけどなコミヤン……ここはどこだと思ってる?」

 

「……ここ?」

 

「ここは学園都市だぜ?化け物はゴロゴロそこらじゅうにいる。それに俺っちはスパイだからコミヤンの想像出来ない化け物を沢山知っているんだぜ」

 

「…………」

 

「コミヤンは化け物だ、だけどそれがどうしたんだ?」

 

「…………」

 

「コミヤン自身がどう思っていようと、コミヤンはコミヤンだ。俺はそんなヤツと友達で幸せだぜぇ」

 

「土御門……」

 

「なんだ、コミヤン?」

 

こいつはこいつなりに僕を励ましてくれている。

 

そんなやつに言える事は一つしかないじゃないか。

 

「ありがとう」

 

「……いいって事よ」

 

僕はこんなやつを友達に持てて幸せ者だ。

 

「だけど、僕は自分勝手な人間だ」

 

「正義の味方側の悪役か?」

 

「何で知ってんだよ!?恥ずかしいだろうが!!」

 

「だから裏にいると色々入って来るの」

 

「なにそれ、怖い」

 

心の中までわかるって恐怖だろ?

 

「それは置いておいて、多分そっち大丈夫ぜよ」

 

「はぁ?」

 

「これだけはいっておくぜ、正義の味方って言うのは自分と他人が決めるんだぜ。後半分頑張れよコミヤン」

 

謎の問題を残し、土御門が帰ってしまった。

 

その意味を理解したのはもう一度寝て、起きた時にわかる。

 

 

 

 

 

土御門が帰り、一人になった僕はベットで寝ていた。

 

そんな僕が目を覚ましたのは何と次の日の夕方だった。

 

自然に目覚めたのではない、何かが僕の上に落ちてきた衝撃からだった。

 

「グフッ!?」

 

何だ!?

 

訳がわからない!

 

僕の上に乗っているモノは何だ!?

 

それは確かな重さを持っているがそれぼど苦に鳴らない程度の重さだ。

 

大きさはデカイ、僕の身長よりも若干小さい程度だろうか?

 

それに微かに動いている。

 

生き物か!?

 

こわっ!!

 

目が覚めたら、自分の上にデカイ生き物が乗っている状況は寝起きには怖すぎる!!

 

つーか!!

 

これ人間じゃね!?

 

あ、人間か!

 

よかった~……

 

じゃねーよ!!

 

人間だったら、だったで余計に怖いわ!!

 

そんな事を考えて恐る恐るその人間を見ると……

 

「涙子ちゃん?」

 

見覚えのある背中。

 

それはまさしく佐天涙子のそれだった。

 

涙子ちゃんは布団越しに僕の腹部に顔を埋めているだけだ。

 

そして突然顔を上げる涙子ちゃん。

 

「仁ちゃーん!!」

 

彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

 

「え!?ちょっ!!おわっ!?」

 

そしてうろたえる僕に抱きついて来たのだ。

 

「よかった……よかったよぉ……」

 

何だ!?

 

何が起きてる!?

 

何で女子中学生に抱きつかれているんだ!?

 

この状況を誰かに見られたら誤解さらるだろうが!!

 

 

「……」

 

カエル顔の医者あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

何?!

 

今の!!

 

なんか暇ができたから顔でも見に行こうかなって感じで病室に入ったら、いけないタイミングだったかな的な感じで去っていく感じ!!

 

違う!!

 

説明出来ないけど!!

 

これは違うんだ!!

 

そんな事を考えていた僕を余所に、涙子ちゃんはひたすら泣き続け、落ち着いたのは数十分後だった。

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「はい……」

 

目もとが真っ赤に腫れている事を差し引いても、彼女の顔は真っ赤だった。

 

どうやら今になって羞恥心が芽生えたのだろう。

 

しかし、何とも気まずい雰囲気になってしまった。

 

よしここはベターな話題で、年上らしく振る舞うか。

 

「さっきはオドロイタヨ」

 

……どうやら僕も羞恥心が出てテンパっているようだ。

 

「私……心配しました」

 

「ん?」

 

「私が捕まって……仁ちゃんが助けに来てくれて……だけど……火がついて……助かった後で聞いたら入院しているって聞いて……全部………私のせいなのに……ごめんなさい……」

 

そうか、確か彼女が知っているのは牢屋で僕が燃え出した所までだったけ?

 

「いやいや、悪いのは向さんだろ?そんな泣くなよ、それに僕は結局何も出来なかったし……」

 

そして僕は最後には君を助ける事を諦めた人間だ。

 

そもそも、僕があの場所に行ったのは違う目的が有ったんだから。

 

そんな最低な人間にその言葉を受けとる資格はない。

 

「それでも!仁ちゃんは私の正義の味方です!!」

 

「!!」

 

彼女の言葉を受け、ハッとした自分がいた。

 

僕が正義の味方?

 

ありえない。

 

僕は悪役だ。

 

自分の事しか考えていない人間だ。

 

そんな僕が正義の味方だって?

 

一瞬、否定しようと口を開けたが、不意に土御門の言葉が蘇る。

 

『正義の味方って言うのは自分と他人が決めるんだぜ』

 

つまりこういう事なのか?

 

僕がどう思っていたとしても、目線を変えたらまったく違う事に変わるのか?

 

僕、小野町仁は正義の味方側の悪役だ。

 

しかし、

 

佐天涙子にとって僕は正真正銘の正義の味方だったのか?

 

そんなこと考えた事はなかった。

 

「……ありがとう」

 

「こちらこそ」

 

涙子ちゃんの笑顔は明るかった。

 

この笑顔は僕が守ったもの。

 

今回、僕は正義の味方になっていたのか。

 

しかし

 

(それでも僕は正真正銘の悪役だ)

 

今はまだ。

 

(いつか必ず、自分と他人が認める、正義の味方になってやる!!)

 

涙子ちゃんの笑顔を見ながら、そう決意する僕がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この物語は僕、小野町仁が正義の味方になる為の物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言えば青髪ピアスから借りた件のエロ本はどこにいったのだろう?

 

「これが……仁ちゃんの趣味……ふむふむ……長髪の黒髪……巨乳……かぁ」

 

佐天涙子がこの日から髪を伸ばし始めた理由は余り知られていない。

 

 

 

 

 

佐天編、完。




少ししたらあとがきを投稿しまーす。


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佐天編、あとがき

今回は例のごとくあとがき回です。

本編とは何の関係のない話をただ淡々と書いていっているだけですので、興味のない方は読み飛ばす事をオススメします。






本当にいいの?





ではどうぞ!!


言いたいことがある。

 

やっと。

 

やっと。

 

終わったあぁぁぁぁぁぁあ!!

 

長かった!!話数的にも期間的にも!!

 

でも、楽しかった!!

 

 

 

 

 

はい、あとがきはいりまーす。

 

今回、こんなに頑張っているのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー、佐天編 、読んで頂き誠にありがとうございます!!

 

今回も話の簡単な補足をしようと思いますので、よろしければお付き合いお願いします。

 

 

○キャラ設定

 

小野町仁(このまちじん)

 

今回!やっと能力を持った主人公(笑)!しかし、結果は敗北してしまいました。

 

彼の能力、BBは説明すると長くなりますので簡単な事だけを話させて頂きます。

小野町仁が流した血液が弾丸の形に指先へ精製し、発砲する能力です。以上!!

まぁあとは使用制限があったり、一度撃ったら他のBBを撃ち尽くすまで作れないとかデメリットばかりの使い勝手が悪すぎるのが欠点な能力です。

主人公(笑)らしいでしょ?

 

能力の説明は置いておいて今回の小野町仁の物語での立ち位置を説明しますと、ぶれまくっていました。

 

始めはエロ本の為に事件に巻き込まれ、最後には正義とか関係なしに単なる自己満足の為に戦っていました。

 

そんな彼でも結果的には誘拐されていた人質を助けた正義の味方になってしまった辺り世の中上手く出来ているのだと思います。

 

今後、小野町仁が本当の意味で正義の味方になれるのか、どうかはお楽しみに~。

 

 

 

長谷部差鉄(はせべさてつ)

 

正義と言えばこの人、過激派スキルアウトチーム『フロッグ』のリーダー、長谷部差鉄です。

 

キャライメージは渋目のおじさんなのですが年齢はなんと二十歳前の青年なんです。

 

そんな彼が使っていた戦闘法は『簡易的な兵器』で隙を作り、そこに攻撃を行うという、スタイルでした。

 

『簡易的な兵器』についても説明しなければなりません。

 

『簡易的な兵器(イージーウェポン)』とここでは書いていていますが決まった名称はありません、概念として『どこにでもある物で作られた凶器群』となっています。

 

代表例として中に火薬を詰め込んだ『ペットボトルボム』があります。

 

実はこれには元ネタがありまして、ホーム○ローンがこれの元ネタとなっています。

 

子供の柔軟な発想を家ではなく外に持ち込んだ汚い大人達、が作者が持っているこの凶器群のイメージです。

 

まぁ、長谷部はあえてこの凶器群をメインに置かず補助的な使い方をしていました。

 

彼は体を動かすタイプではなく、頭で考える方のタイプでした。

 

将棋やチェスの読み合い見たいな事を長谷部差鉄は喧嘩でやっていたんです。

 

もし違う運命があったら将棋部で大会に出場していたかも知れません。

 

そんな彼の正義ですが『弱い者が力を求めるのが正義、それ以外が悪』となっています。

 

誤解が無いように言いますと、彼は別に『弱者を救う正義の味方』ではなく、『力を求めると言う向上心のある者の味方』なんです。

 

だから平気で誘拐や殺人をやりますし、同じ志を持つ仲間の為にまだ完璧ではない『簡易的な兵器』の実験体になったりしています。

 

良いように言って革命家、悪く言えばテロリスト。

 

そんな曖昧な人間が彼なんです。

 

 

 

佐天涙子

 

みんな大好き佐天さん!!

 

書いていて思ったのですが、彼女上条さんに次ぐ不幸の持ち主なのでは……?

 

最後、彼女が何を読んでいたかは秘密です。

 

とりあえず、レールガン二期が始まり動く彼女が見れて満足です!

 

 

 

土御門元春

 

スパイ、シスコン、陰陽師、能力者、金髪、グラサンアロハシャツ、等々色々キャラ設定が付いているキャラです。

 

魔術を使ったら死ぬかもしれないなんて、厨二心をくすぐるじゃないか!!

 

まぁ、今回は魔術云々はなかったんですけどね。

 

話は少し反れますが、実はまだ魔術サイドの話を書いていません。

 

それには理由があり、まずこの話が原作前で魔術がまだ表立っていないこと、それとは別に『理由』がありそれは追って報告します。

 

まぁ、そんなこんなで魔術サイドの話は当分先になると思っていて下さい。

 

 

○今後の展開

 

また例によって次回の話を書いている途中ですので、気長に待っていて下さい。

 

次回は番外編をやる予定です。

 

予告編を楽しみにしていてください。

 

 

 

○最後に

 

再びこの作品を読んで頂きありがとうございます。

今回は誤字が多く不快な思いをさせてしまいまして申し訳ございません。

日々増えるお気に入り数、感想にドキドキワクワクし、生きる糧となっています。

こんな話ですが、皆様に楽しんで貰えるよう精進する所存ですので今後もよろしくお願いします。

では次回また会いましょう!!



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病院編
4章、予告編。


物語とは様々な人物の視点から成り立つものだ。

 

一人一人の立場、想い、考えが混ざり合い、結末が生まれる。

 

これはそんな話。

 

物語はなにも小野町仁だけが関わっている訳ではない。

 

例えば、小野町仁に救われた『彼女達』にも物語を語る資格は十二分にあるのだ。

 

「入院だね」

 

「ちくしょう!!」

 

とある事情で入院する事になった小野町仁。

 

そんな彼のお見舞いに来たのは?

 

 

 

 

 

「貴様に1つ聞きたいことがあるんだ」

 

 

 

 

 

「仁ちゃんって何者?」

 

 

 

 

 

 

「久し振り!!お兄さん!!」

 

 

 

 

 

「なにその格好」

 

 

 

 

 

「誰だお前?」

 

 

 

 

 

「お前さ、僕の事どう思っている?」

 

 

 

 

 

「看護婦が見える」

 

 

 

 

 

「それじゃ……ダメかな?」

 

 

 

 

 

「ブホッ!?」

 

 

 

 

 

「んー!!ん!!んー!!」

 

 

 

 

 

「何で殴ったの?」

 

 

 

 

 

「帰って来ないだと!?」

 

 

 

 

 

「ちくしょう!!」

 

 

 

 

 

「と、言う訳なんだけど」

 

 

 

 

 

「なにこれ?」

 

 

 

 

 

「ひいっ!!スミマセン!!」

 

 

 

 

 

「だーかーらー」

 

 

 

 

 

「この機会にお前と親密な関係になりたくてさー」

 

 

 

 

 

「あぁあれですか?能力の開花とか」

 

 

 

 

 

「気を付けたまえよ」

 

 

 

 

 

「なにぶつぶつ言ってんだ?」

 

 

 

 

 

「これは義理!!義理なんだ!!」

 

 

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

「おもしろい人だなぁ」

 

 

 

 

 

「ジャンピンク土下座の練習」

 

 

 

 

 

「お前は先生じゃない!!」

 

 

 

 

 

「彼と同じモノを感じた」

 

 

 

 

 

「大丈夫なのかい?」

 

 

 

 

 

「僕はMではない」

 

 

 

 

 

「青髪ー!?」

 

 

 

 

 

「僕はお前のそんな部分が好きだよ」

 

 

 

 

 

「ハイハイ……はいぃ!?」

 

 

 

 

 

「謝って!!」

 

 

 

 

 

 

「刮目せよ!!マグロ唐揚げ弁当!」

 

 

 

 

 

「ごめんなさぁぁぁぃ」

 

 

 

 

 

「若干痛い」

 

 

 

 

 

「寝起きドッキリは勘弁してくれない?」

 

 

 

 

 

「救わないといけないって思った」

 

 

 

 

 

「何でナース服」

 

 

 

 

 

「彼は彼女になった」

 

 

 

 

 

 

「あなたならいいわよ、テヘッ!!」

 

 

 

 

「次からはフロントホックをした方がいいぞ!!て、テヘッ!!」

 

 

 

 

 

「考えは変わったかな?お兄さん?」

 

 

 

 

 

「あ、玄関の鍵閉めとけよ」

 

 

 

 

 

「これならどうかな?」

 

 

 

 

「最悪だ……」

 

 

 

 

 

 

吹寄編、鞠亜編、過去の物語がヒロイン視線で再度語られる!

 

小野町仁はあの時、彼女等にはどう見られていたのか?

 

 

 

 

 

そして

 

「この子がどうなっても知らないゾ☆」

 

新たな事件が始まる。

 

こんなに頑張っているのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー。

 

第4章!!

 

病院編!!!

 

 

近日中に更新予定!!!

 

 

 

 

 

「小野町……いや……仁……私は貴様を……す…す、」

 

「もそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそ」

 

 

 

 

 

 

これは、過去の物語、小野町仁の物語。

 

そして、

 

これから起きる出来事の、事件の、戦いの、悪役の、プロローグだ。

 




久し振りです!

8割方完成したのでそろそろ新しい話を更新します!!

楽しみにしていて下さい!


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病院編、プロローグ。彼は彼女になった

ついに再開してしまった……!

ではどうぞ!


「君治るの早いねぇ」

 

「それが取り柄ですから!!」

 

「傷は塞がっているげと一応包帯は取っちゃだめだからね」

 

「はい!!」

 

「まぁそれくらい元気なら後遺症も心配ないね」

 

「大丈夫です!」

 

「あと1週間で退院だね」

 

「ちくしょう!!」

 

 

 

 

 

僕、小野町仁は入院している。

 

病気ではない。

 

ちょっとした事件に巻き込まれちょっと怪我をしてしまったのだ。

 

「火傷に刺傷、内蔵の損傷、失血……どれもちょっとじゃないね」

 

「でも治っていますよ!!」

 

その胸を伝え、退院の願いを出したのだが、カエル顔の医者に却下された。

 

「治っているのなら、入院の必要なんてないじゃないですか?」

 

そう僕は退院したかったのだ。

 

理由は単純。

 

学校に行きたかったからだ。

 

知っている人は知っていると思うが、僕、小野町仁は正義の味方側の悪役と言う立ち位置にいる。

 

悪役なら学校に行かなくてもいいじゃないか、と思われるだろうが。

 

とんでもない!!

 

はっきりと言うが、僕は学校が大好きだ!!

 

それなのにこの2週間まともに学校に行けていない!!

 

大好きな事ができないなんてなんと不幸な事か!!

 

親友、上条当麻ならこう言うだろ……

 

不幸だー!

 

「その治っているのが問題なんだよ」

 

「へぇ?」

 

「本来なら完治まで半年は必要な怪我が2日で治るなんてどうかしている」

 

「あぁそれってあれですか?能力の開花とかそんなのですか?」

 

「いや、違うね」

 

「いやにはっきりと否定しますね」

 

「君に能力が無いのは知っているしね、測定器には何の反応もなかった」

 

「……」

 

そう、僕は学園都市が行っている『超能力の開発』では何の成果もなかったレベル0の学生だ。

 

しかし

 

僕の身体は現在、人間の基礎構造とは少し違うモノになっている。

 

半分化け物なのだ。

 

人より力があり、回復力があり、そして先日指先から血でできた弾丸『BB』を発砲するまでに至った。

 

至ってしまった。

 

そんな訳で僕はその回復力で常人場馴れしてしまっている。

 

「まぁそれは置いておいて、君の能力には興味はあるけど、今問題なのはその『尋常ない回復により今後どうなるか』なんだよ」

 

「けど、さっき後遺症は心配ないって」

 

「ボクも人間だ、はっきりとした事はわからない、もしもの時なにかが起きちゃ不味いだろ?だから1週間様子見で入院と言う訳だ」

 

「回復力があるのも考えものですね」

 

「嫌みっぽく言わない事だ、それに病院も病院で楽しい事もあるよ」

 

「例えば?」

 

「看護婦を見える」

 

「……」

 

「……」

 

「冗談ですよね?」

 

「残念だ……同士が見つかったと思ったんだか」

 

おいこら、僕を何だと思っている!!

 

それに医者が看護婦フェチとか不味いだろ、色々と!!

 

「……ははは」

 

なんて言えないのが僕の美学だと思いたい。

 

「そう言えば君大丈夫なのかい?」

 

「は?」

 

大丈夫ってなんだろ?

 

身体の事を聞いていないのは確かだが、何を示している大丈夫なのかわからない。

 

「彼女が二人もいて、上手くいくのかい?」

 

「彼女?二人?」

 

本当に何をいっているのだ?

 

僕に現在、彼女と呼べる相手はいない。

 

そもそも誰かと付き合った事も無いのだが……

 

言っていて悲しくなったぞ、どうしてくれる。

 

「違うのかい?ほら君が入院している時によく来ている二人のお嬢さん達」

 

「あぁ!!吹寄と涙子ちゃんか」

 

吹寄制理、佐天涙子、彼女達は僕が入院する原因となった事件に僕と同様に巻き込まれた被害者達だ。

 

その事件を解決する過程で怪我をしてしまった僕に要らない責任を感じてお見舞いに来てくれた人達だ。

 

このカエル顔の医者は彼女達が僕の恋人に見えたのだろう。

 

「ちげぇよ!!」

 

「おや?違ったのかな?だってほら彼女達別々に色々とやっていたじゃないか」

 

「そ、それは……」

 

過去、彼女達にそれぞれ恥ずかしい事があった事があった。

 

二日前、佐天涙子は僕に抱きつき泣いていた。

 

吹寄制理に至っては彼女の女性的象徴である身体の一部、つまりは胸を触らせてくれると言って来たのだ。

 

「あれ!?何で吹寄との事知っているんですか!?」

 

確かあれは未遂で終わったが、問題はなぜこの医者がそれを知っているのかだ。

 

「……ボクの知り合いにこんな人間がいる」

 

話を変えやがった!?

 

「彼も複数の女性と交際していたのだが、ある日その女性達が鉢合わせしてしまった事があった」

 

「……で?」

 

「結果、彼は全員と破局」

 

「まぁ当たり前か」

 

「『彼』は『彼女』になった」

 

「はいはい、……はいぃ?!」

 

「怒りに燃えた彼女の一人が彼にナイフを持って襲い掛かり、彼の……まだ彼の男性器を切断してしまったんだ」

 

「……」

 

自然に手がある一部に向かう。

 

「で、でもほら!!僕は彼女なんて居ませんし!!吹寄や涙子ちゃんともそんな関係じゃ……」

 

「そう思っているのが君だけなら?」

 

「……!!」

 

「これはあくまで僕の勘の領域で、はっきりと言わないし、彼女達の本心なんてわからないけど、彼女達はもしかしたら君に恋愛的関心を持っているかもしれないよ」

 

そんな訳がない!!

 

のかな?

 

あれ!?

 

イヤでも!!

 

しかし!!

 

「これは仮定の話だけど」

 

カエル顔の医者は続ける。

 

「もしも彼女達が君に恋愛感情を持っていて、同じ思いを持つ人間がいると知ったら……」

 

「知ったら……?」

 

「もしかしたら君は、あの『彼女』のように大切な物を無くすかも知れないよ」

 

「   」

 

「気を付けたまえよ、次に君を治療する時が君を『女性』にする手術なんてやだからね」

 

 

 

 

 

こうして僕の入院生活が幕を開けたのだ。

 

 

 

 




始めに断っておきますけど、今回『は』修羅場回ではありません!!

当初はその予定でしたが、修羅場回をやった日には小野町仁がムカつく程に調子に乗ること間違いなしなので、止めました。

ごめんなさい。



それはそうと、この作品のお気に入り数が500に近くなりました!ただの欲望まみれの悪役が悲惨な目にあうだけの話なのにありがとうございます!!皆さんSですか?

冗談は半分置いておいて、これからも皆様のご期待に答える様、頑張りますので応援よろしくお願いいたします。

ではまた次回お会いしましょう!!




ご意見、感想、ご質問、等々ありましたらお願いします!!


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病院編、もそもそ

たくさんの感想ありがとうございます!!


「小野町……いや……仁……私は貴様を……す…す、」

 

ふ、吹寄!?そんな急に…

 

「ちょっと待ったー!!同級生だがなんだが知らないけど!!仁ちゃんは私のものなんだからね!!」

 

る、涙子ちゃん!?

 

「な!?いや!私の方が彼と長い時間を過ごしている!!」

 

クラスメイトだからね。

 

「大切なのは時間じゃない!!その人をどれだけ好きかと言う事なんだから!!」

 

マジでか!?

 

「だったら私が一番ね、ねぇお兄さん?」

 

く、雲川?!……いや、お前はそれほど僕の事好きじゃないだろ?

 

「ふんっ!!それでも私が勝っているわ!!それに私はあなた達にはない武器があるのよ!!」

 

どうした!?吹寄?!お前はそんなキャラじゃないだろ!?

 

「それは私への挑戦状と受け取っていいんだな?」

 

うん……頑張れ!!雲川は頑張れ……うん。

 

「私だって!!まだまだ成長できるもん!!」

 

そうだね、中学生らしからぬサイズだもんね。

 

あ、あのー…皆さん?

 

落ち着いて……

 

「「「黙ってて!!」」」

 

すいません!!

 

「そもそも問題は貴様が1つしか無いことだ」

 

え?!

 

「そうだよ!!ここは均等に別け合わないと!!」

 

ちょ!?

 

「そー言う事だからお兄さん」

 

ひっ!?

 

み、皆さん?!

 

何各々刃物を持って何を?!

 

「「「バラバラになりなさい!!」」」

 

う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――

 

――――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……あ、ぁぁ……あ、あれ?夢……かぁ……」

 

こうして僕の入院生活二日目の朝を迎えた。

 

 

 

 

 

そもそもの原因は昨日のカエル顔の医者の話だ。

 

あれが原因で昨日の夜は余り眠れず、やっと寝たと思ったら変な夢まで見てしまった。

 

そもそも彼女らが僕を好きになるのだろか?

 

そもそも僕が人に好意を持たれるのだろうか?

 

そもそもこれはカエル顔の医者の予想であって、

 

そもそも本当に何にも無かったら、ただの痛い人になる訳で、

 

そもそも……

 

そもそも…………

 

そもそも………………

 

そもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそもそも

 

「もそもそもそもそもそもそ……」

 

「何一人でもそもそ言っているんだ?お兄さん?」

 

「うわっ!!」

 

いかん、考えすぎて口に出していた!?

 

「って……雲川!?」

 

「はーい!!お兄さん!!お見舞いに来たよ!!」

 

そこには可愛いメイドさん……もとい、雲川鞠亜が若干冷めた目で僕を見ていた。

 

「何その格好?」

 

「可愛いでしょ?」

 

何故か、ナース姿で。

 

 

 

 

 

「何でナース服?」

 

「あれ?嫌いだった?お兄さんこういうの好きだと思ったんだが?」

 

くるりと、その場で回転しながら言う雲川。

 

ナース服……?

 

あれってナース服って言うのだろか?

 

いつからナース服が黄色と黒でカラーリングされるようになったんだ?

 

しかも、綺麗に着こなしているのも不思議だ。

 

そんな彼女に僕は

 

「いや、若干痛い」

 

「……」

 

ボコッ!!

 

……殴られた。

 

「痛てぇ!!何しやがる!!」

 

「ひどいぞ……こっちはプライドを傷付けてこんな格好していたのに……謝って!!」

 

「まずは殴った事について謝罪しろ!」

 

こっちは一応怪我人だぞ!?

 

「ふーんだ!!」

 

部屋の隅で膝を抱えて、背を向ける雲川。

 

「つーか、何で居るんだよ?」

 

「……」

 

「おーい?」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……ごめんなさい」

 

「うん!!いいぞ!!」

 

めんどくさいヤツだな!?

 

沈黙に耐えきれず、謝ったが釈然としない!

 

「で?何で居るんだよ?」

 

「だからお見舞いだって」

 

「それは聞いた。本音は?」

 

「……お兄さん、本当に私の事信用していないんだね?」

 

当たり前だ。

 

こいつは可愛いが、胡散臭い所もある。

 

以前、こいつはどうやってか麻薬を所持していた。

 

それが出来るって事は、こいつ自身『裏側』に何らかの立ち位置を持っている筈なのだ。

 

そんなやつを信用する程、僕はお人好しではないのだ。

 

「……せっかく今日は気合い入れた下着を穿いてきたのにぃ?」

 

「ありがとう!来てくれて嬉しいよ!!……ハッ!?」

 

「うわぁ……言っておくけどパンチラとか期待しないでね」

 

お人好しではないが、下心には勝てないのが僕だ。

 

「ま、まーいいや、でも本当にお見舞いに来ただけか?」

 

「しつこい男は嫌われるぞ?」

 

「うっ!!……もうどうでもいいや」

 

災厄、こいつに何か頼まれても断ればいいだけか。

 

「そうだ」

 

雲川が机に置いてあったバスケットから何かを取り出した。

 

どうやら雲川が持ってきて置いていたようだ。

 

問題はそこじゃない。

 

雲川が取り出したのは、

 

ナイフだった。

 

「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

瞬間!!

 

僕はベットから飛び出し、床に頭を擦り着けた!!

 

「?!ど、どうしたの!?お兄さん?!」

 

これは夢か!?

 

さっきの夢の続きか?!

 

実はまだ寝ているとか!!

 

いや!!違う!

 

だってさっき雲川に殴られた時、無茶苦茶痛かったもん!!

 

これは現実?

 

余計やだ!!

 

だったらまだ夢の中の方が百倍いいや!!

 

「お、お兄さん?」

 

「……あれ?」

 

いつまで経っても何も起きない。

 

恐る恐る顔を上げると

 

「何しているの?」

 

手にナイフを持ち、もう片方の手に林檎を持った可愛いメイドさん……じゃなくナースさんが呆れ顔で立っていた。

 

「じゃ、ジャンビング土下座の練習」

 

その後、雲川の見舞品の林檎を美味しく頂きました。

 

 

 

 

 

「そう言えばさ、雲川」

 

「なんだい?お兄さん?」

 

林檎を食べながら、ふと、気になっていた事を訪ねてみた。

 

「お前さ、僕の事どう思っている?」

 

「ブホッ!?」

 

「汚な!!」

 

こいつ盛大に吹き出しやがった!?

 

お陰でこちらの顔中林檎だらけだぞ!!

 

「お、お、お兄さん!?何でいきなりそんな直球!?」

 

「ん?いやなんとなくだけど?」

 

正直、一度しか会っていないこいつがわざわざお見舞い何てしてくる何て企みかそれこそ『そう言った』感情があるのでは無いかと期待してしまう。

 

なんか企みは無いみたいだから、もしかしたら『そう言った』方を期待してしまうのだ。

 

まぁ、さっきの夢を見た後だからこんな質問が出たのかもしれない。

 

「で?実際どうなの?」

 

「お兄さん……何か今までに見たこと無いくらい違うベクトルで残念だね」

 

「残念言うな!!」

 

「そ、そうだな……うん!!よし!!」

 

雲川が何か気合いを入れている。

 

「お!!告白か!」

 

「違う!あ、いや……告白になるのか?」

 

「いヤッホーい!!」

 

「だから違うって!!その……最初に言っておくけどお兄さんの事は恋愛対象にしていないよ」

 

「……え?」

 

「だから私、雲川鞠亜は、お兄さん、小野町仁を恋愛対象にしていないよ」

 

「わざわざわかりやすく詳細に言い直すなよ!!」

 

「でも嫌いじゃないよ」

 

「ハイハイ」

 

「お兄さん……好きじゃないとわかった途端態度が変わったね」

 

「そうか?」

 

「目に見えてわかるぞ……むしろむかつく位」

 

そうなのか?

 

自分の事だから良くわからない。

 

「えーと……少し昔話をしてもいいかな?」

 

「昔話?」

 

コホン、と軽く咳払いをして雲川は切り出した。

 

「うん……」

 

「いいけど……?」

 

雲川は一度椅子に座り直し、真面目な顔をしてこう切り出した。

 

「あのね……実は私、引きこもりだったんだ」

 

 

 

 

 

 

 




まずは、上でも書きましたが、たくさんの感想本当にありがとうございます!!
皆様の感想が日々の糧となり、この作品が作られています。

あと、多くの誤字脱字報告ありがとうございます……。いやマジで、恥ずかしいです……。一応見直しとかはやっておりますが、作者は大部分をその場のノリで書いているのでかなかな無くなりません。

機会があれば速めに修正をさせて頂きます、

恐らく、確実にこれからも見苦しい箇所が出て来ると思いますが、そのときはまた謝ります。

さて、ここまで見ていただいている読者の皆様はすでにご存知だと思いますが、これがこの作品の主人公(笑)、小野町仁です。

彼は悪い意味で裏表の無い性格で、色々と残念な人格の持ち主なんで、他の作者様が書かれている格好いい主人公達とは人間性が月とスッポンの様なでかい差があるんです!!

あ、

わかっていると思いますが、スッポンがこっちですよ。


今回の物語は実験的に少し今までと構成を変えさせてもらいます。これまでは主人公視線で物語を書いてきましが、次回は別の人物の視点から物語を語らせてみたいと思っています。

実験的な事なので、いくつかお見苦しい点はあると思いますが、ご了承下さい。

では次回またお会いしましょう!!


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病院編、先生

今回は色々詰め込み過ぎて長いです。

どれくらい長いかと言うと、平均の2倍以上あります。

また、この話を読む前に鞠亜編を読み直す事をオススメします。
あと、今回メインは雲川鞠亜視点でお送りしますのでご了承下さい。

最後に告知をします。

ではどうぞ!


私、雲川鞠亜は引きこもりだった。

 

理由はこの際どうでもいい。

 

この話は引きこもりだった私を救ってくれた、恩師の話だからだ。

 

彼が私の前に現れたら時、何かを感じた。

 

家庭教育で学校に行かなくとも勉強で遅れを取らないようにする目的とは別に、学校に行く様に説得する目的だと彼は初対面の私に説明した。

 

その説明を聞きながら同時に何かを感じた私は思った。

 

この人は他の人とは違う、と。

 

事実、それから少しして私は学校に行ける様になる。

 

それが彼がやり手の教師だったのか、私との相性が良かったのかは定かでは無いが。

 

なんにしてもその短い期間で私の中で彼は大きくなった。

 

恩師、尊敬、敬意、好意、感謝。

 

彼を語る上で様々な言葉が出てくる。

 

彼は私を理解してくれた、否定しないでいてくれた。

 

同時に私も彼を知りたいと、思った。

 

しかし、彼を理解する事は最後まで無かった。

 

彼は自分の生い立ちを話してはくれなかった。

 

そして、事件が起きたのだ。

 

久々の学校に向かう途中にそれは起きた。

 

どこにでも居そうな男の子が突然暴れ出したのだ。

 

男の子が私に向かって走り出した、その手に凶器を持ちながら……。

 

気が付いたら(無意識に目を背けていたのかも知れないが)辺りは赤く染まっていた。

 

暴れていた筈の男の子だったモノが地面に転がっている。

 

その傍らに彼はいた。

 

手には何処からか取ってきたのか園芸用のシャベルを握り、いつも着ていたスーツは赤黒く染まり、常に何かを考えているかのような表情はこんな時でも変わらなかった。

 

彼は色々な意味でヒーローだった。

 

ヒーローだった筈の彼がその後行方を眩ませた事は私にとって災厄の事件になる。

 

 

 

 

 

その後、私は姉の真似では無いが、学園都市の裏に精通するようになる。

 

理由は単純。

 

ヒーローだった彼を探す為だ。

 

 

 

 

 

それから、私は『学園都市の裏』に居ることが多くなっていた。

 

能力が開花し、力も知恵も付いた。

 

しかし、未だに彼は見つからない。

 

彼の内側に秘めた考えがわからなかった。

 

そんなある日、私の耳にある噂が入り込む。

 

中学生を中心にとある麻薬が売買されはじめている。

 

まだまだ、被害は少ないが無視をしたら確実に大事件になる話だった。

 

私は単身で調査を始めた。

 

理由は誰かを救いたい、とかそんな大層な動機ではない。

 

ただ、誰かを救うことで少しでも彼を知りたかったからだ。

 

麻薬の効力や販売ルートを調べ、売買している組織を見つける手段がわかった。

 

それは自分自身が麻薬を使わなければならなかった。

 

その事に恐怖や後悔、躊躇は無い。

 

私は麻薬を買った人間を探しだし、コンタクトをとり、ある日の午後に路地裏へ取引を持ち掛けた。

 

ここまでは順調だった。

 

そう、この時までは……。

 

問題が起きたのは取引の段階だった。

 

人通りは少なく無かったが、人目につかない路地裏へ取引相手達を連れて行き、交渉を始めた際に、取引相手のスキルアウトは値段の向上を持ち出し話はおかしくなった。

 

もしもこの時に、相手の言う通りの値段を承諾していたらあんなに時間は取らなかったと思う。

 

これは私のミスだ。

 

プライドを少し傷付ければすむ話だった。

 

とにかく、取引の時間が長引いた為に私は『彼』に出会ってしまった。

 

『彼』が私の前に現れたら時、私は昔、彼に抱いた感覚と同じモノを感じていた。

 

『彼』の名前は小野町仁。

 

彼と同じモノを持ったただの学生だった。

 

 

 

 

 

「何で殴ったの?」

 

どうしてこうなったのか、それは私自身わからなかった。

 

この小野町仁から感じた『彼と同じモノ』に興味を持ったからなのか?

 

この男を知れば彼を理解することができるかも知れないと思ったからなのか?

 

しかし、少し話ただけで、この男は彼と似ても似つかない人格の持ち主だと後悔していた。

 

(これは引き時かな)

 

そう思った私は『ただのナンパされたメイドさん』を装いもう会わないであろうこの男に別れを告げてその場を去る事にしたのだ。

 

しかし、またしてもここでミスを犯してしまった。

 

取引相手からくすねた麻薬が私のポケットから無くなってしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

急いでハンバーガー屋に戻ったら案の定、小野町仁の姿はなく。

 

座っていた椅子の下には何もなかった。

 

考えられる場所はあそこしかなく、あの場に無かったと言う事は、つまりは、この小野町仁が発見し持ち帰ったと言う事だ。

 

私はすぐに小野町仁の住所を調べ、窓を割り室内に侵入した。

 

しかし……

 

「か、帰ってこない……だと!?」

 

何をしていたのか知らないが、約三時間、暇潰しを兼ねて掃除やら料理やらをして時間を潰していたがなかなか件の小野町仁が帰ってこない。

 

することが無くなると残るのは無駄な時間だけだ。

 

時間が有るとどうしても過去の事を考えてしまう。

 

「……先生」

 

私の恩師であり、教師であり、恩人であり、憧れである、彼を思い出す。

 

そこで、今まで考えた事がない考えが浮かんだ。

 

なぜ、あの時私は小野町仁から彼と同じモノを感じたのだろか?

 

わからない。

 

小野町仁はどこにでも居そうなただの学生だ。

 

少し会話しただけで彼とは違うとわかったのに。

 

そんな事を考えていたら、玄関から人の気配がした。

 

ようやく部屋の住人が帰って来たようだ。

 

私は『明るいメイドさん』を装い、玄関を開けたのだった。

 

 

 

 

 

「やっぱり持っているんだ、返して」

 

小野町仁の様子からやはり彼が麻薬を持ち帰ったとわかった。

 

彼自身、こんな面倒ごとに巻き込まれたくないはすだ。

 

だから、このまま私に麻薬を返せばどれ程楽かこの男でもわかりきっている筈なのだが……。

 

「やだね」

 

なぜがこの男はそれを拒否したのだ。

 

この時、なぜが、あの時の事件で彼に感じたモノを再びこの男に感じた。

 

しかし、それを強引に否定する。

 

どうせ、安い正義論や醜い保身の為だろう。

 

ここは少し強めに出るか。

 

「言っておくけどこれはお願いじゃないから、命令だよ」

 

「命令違反したら?」

 

「私のプライドを折らなくちゃならない」

 

これは、お願いや命令ではない、脅迫だ。

 

「何か理由があるのか?」

 

「理由を話したら返してくれるかい?」

 

理由を求められ、仕方なく私はこの事件の事を、自分がどれ程のデカイ事件に首を突っ込もうとしているのか理解させる為、わざと詳細に話た。

 

 

 

 

 

 

「それで私が実際に使って売人を探す計画だ」

 

全て話したあと、小野町仁は少し考えていた。

 

そして、顔をあげると言った。

 

「……よくわかった」

 

「そうかなら――」

 

「だけどクスリは返さない」

 

「な!?」

 

この男、今なんと言った?

 

麻薬を返さない?

 

(しまった!!深く話しすぎたか!?)

 

事が事の為に、私だけでは危ないと判断されてしまったのか?!

 

この男は次に話す言葉は想像できる!

 

危なすぎる。

 

危険だ。

 

アンチスキルに任せよう。

 

君も関わらない方がいい。

 

そんな安易なまるで教科書やマニュアルのような事を言うに決まっている!

 

しかし

 

小野町仁は私の想像を超えた事を言い出したのだ。

 

「このクスリを使うのは僕だ」

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

私は思考、行動共に停止するのを感じた。

 

何を言っているんだ?このバカは。

 

使うのは自分?

 

麻薬を使って何をしたいんだ?

 

「ど、どういう事?」

 

「だから、このクスリを使ってその組織を見つけるって言っているんだよ」

 

「な、何で!!何でお兄さんがそんな事!?」

 

 

「え?そりゃお前……危なすぎるし、危険だし、本当はアンチスキルに任せた方がいいと思うけど、それじゃこのクスリを手に入れた経緯とか聞かれると面倒だし、とにかくお前は関わらない方がいい」

 

この男はバカだ。

 

何がバカって、本来なら正しい事がわかっているのに、それではダメだと理解して、それじゃダメだと理解して、消去法で、自分を犠牲にすることを選んだ事がバカだ。

 

しかも、その決断をあの短い思考で出した所がバカだ。

 

しかも、それではまるで……まるで……

 

(私を助けようとしているみたいしゃないか)

 

普通、今日会ったばかりの人間を助ける為に麻薬を使おうとするか?

 

いや、しない。

 

するはずが無い。

 

そんな事ができるのは正義の味方のような人間だけだ。

 

あの時の先生の様に……。

 

(…………っ!?)

 

瞬間。

 

私は気が付いてしまった!!

 

この男から感じた彼と同じモノの正体を!!

 

この男、小野町仁は、彼と同じなんだ。

 

この男は人を救うためならどんなこともやるタイプの人間だ。

 

あの時私を救うために、身を立場を犠牲にしてくれた先生の様な!!

 

「とりあえず、お前はもう帰れ、舞夏の話だとお前らの学校門限とか厳しいんだろ?」

 

小野町仁が何か言っているが、最早私の耳に届いていない。

 

お前が、

 

お前の様な人間が、

 

彼と、

 

先生と、

 

同じだと?

 

「……ふざけるな」

 

「え?」

 

「ふざけるな!!」

 

気が付けば私は拳を握り、小野町仁に襲い掛かっていた。

 

 

 

 

 

あれからどれだけの時間がかかっていたのだろ?

 

私は乱れた呼吸を整える間に、床に転がっている時計をみた。

 

まだ、10分も経っていない。

 

なぜ、床に時計が転がっているのか、いや、時計だけでは無い。

 

家具や、机、マンガ本まで散乱している。

 

この状況を作り出したのは他でもない私だ。

 

私は壁をみる。

 

そこに居たのは無惨にもボロボロになった小野町仁の姿が。

 

「……う……っ!!」

 

死んではいない、殺すつもりは無かったが、よくあれだけの攻撃を受けて意識を失わないものだと、感心してしまう。

 

「どう?お兄さん、考えは変わった?」

 

「変わったよ……。お前はか弱い女の子じゃ無いって事がな」

 

「じゃあ、あとは私に任せて――」

 

「でも、……救わないといけないって思った」

 

「え?」

 

小野町仁はボロボロになった体を無理やり起こし、私を見る。

 

間違ってもそれは、恐怖や軽蔑の眼差しでは無かった。

 

まだ、その目は、どこかに優しさを持った眼差しだった。

 

「お前は確かに強い……でも、それが助けちゃいけない理由にならない」

 

「ふざけないで!!私は助けを求めていない!!私はもう誰かに助けられたくない!!」

 

「その言葉『先生』にも言えるのか!?」

 

「え?」

 

な、何でこの男は彼を知ってるんだ?

 

「その顔……何でって顔だな……おいおい、お前人様の顔を攻撃する時に言っていたじゃないか…『お前は先生とは違う』『先生と同じなんだ』って」

 

「……」

 

「僕は、その『先生』って人がどんな人物なのか知らない……お前がどんな想いなのか知らない……過去に何があったのか知らない……だけどはっきりわかっているのは、僕はその『先生』じゃない!!僕は小野町仁はただ雲川鞠亜を救わないといけないんだ!!」

 

「っ!?」

 

私はもう動けなかった。

 

彼の言葉に心打たれたのではない。

 

100%彼を信用したわけでもない。

 

彼に任せようと決めたわけではない。

 

ただ気が付いてしまったのだ。

 

小野町仁の眼には私を見ていない。

 

いや、正確には私を助ける事は、ただの通過点であるかのように感じる目線だった。

 

小野町仁は自分の為に私を助けるだけなのだ。

 

そして、その目はあの時私を救ってくれた、先生と同じだ。

 

見付からなかった答えの端が見えた気がした。

 

どちらにしても、私はもう動けなかった。

 

「さてと……行くか」

 

小野町仁はボロボロになった体を動かして玄関に向かう。

 

私はその背中を黙って見ることしか出来なかった。

 

確信は無かったが、この事件は解決すると思う。

 

そう思うだけの雰囲気を小野町仁から感じられた。

 

「あ、出る時は鍵閉めとけよ」

 

彼はまるでコンビニに行くかのような、軽い言葉を残し私の前から去っていった。

 

 

 

 

誰もいない室内。

 

私は散らかった部屋を片付け、その後1枚の置き手紙を残した。

 

『ありがとね、お兄さん』

 

何がありがとうなのか、自分でもわからない。

 

この事件をなんとかしてくれた事にありがとうなのか。

 

私を救ってくれようとした事にありがとうなのか。

 

それとも、

 

少しでも先生を感じられた事にありがとうなのか。

 

私はもう一度考えて、やはり他に言葉が見付からなかったのでそのまま手紙を机の上に置き、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「と、まぁ……そんな感じだ」

 

「…………」

 

「ん?どうしたんだ。お兄さん」

 

き、気まずい!!

 

思いがけない、真面目話だったから、反応に困る!!

 

まさか、あの時の『先生』ってそんなに雲川にとってデカイ存在だったなんて想像できていなかったぞ!!

 

しかも、その『先生』と僕が似ている?

 

いやいや!!

 

違うだろ!!

 

僕はお前の大好きな『先生』なんかじゃないんだから。

 

ん?

 

「あれ?だったらやっぱりお前、僕の事好きなんじゃね?」

 

「ぶっ!?何でまたそんな話が出てくるんだ!?」

 

「いや、だって……お前その『先生』が好きだったんだろ?だったら似ている僕も好きになるんじゃないか?」

 

「……お兄さん、また殴られたい?」

 

「スミマセン」

 

一応、病院何で勘弁して下さい。

 

「……そうだな、うーん……」

 

「く、雲川さーん?」

 

何やら雲川が考え出した。

 

「お兄さん、さっきのは無し」

 

「はい?」

 

「さっきの『好きじゃない』は取り消すよ、あ!!でも『好き』じゃないから!!」

 

先に釘を刺された。

 

「なんだよそれ?」

 

「お兄さんの事はとりあえず、『保留』にしておくよ」

 

「保留?」

 

「うん、まずは私の目的『先生を見つける』事に専念する。先生と会って、私の疑問が解決したら……考える」

 

時刻は、雲川の話を聞いていた内に過ぎていて、窓からは明るい夕焼けが病室を同色に染めていた。

 

そのせいで、今の雲川の頬が赤くなっている様に見え、僕に顔を近づけ上目遣いで僕を見る彼女はまるで、初めからわかっていた事だが……

 

「それじゃ……ダメかな?」

 

最高に可愛く見えた気がした。

 

 

 

 




いかがでしたか?

今回は鞠亜編の補足的な話を書きたくて書きました。

設定として、この時の雲川鞠亜はまだ『先生』の事を引きずっていると考えて下さい。

あの時の雲川鞠亜はこんなことを考えていたんだぁ、ぐらいに思っていただければ幸いです。




あと、報告なのですが、次回からの話は修正箇所が見付かったのでまた少し時間を貰いたいと思います。

予定では来週位には再開するので、その時まで待っていて下さい。





そう言えば最近、このサイトで読者の皆様からオリジナルキャラの募集を行っている作者様をよく見ます。

そこで私も皆様にオリジナルキャラの募集をしたいと思います。

け、決してネタに困っているわけじゃないですからね!!

一応これでも新キャラの案はあるんだかね!!

オリジナルキャラの募集にあたり、失礼ながら注意点をいくつか。

・オリジナルキャラの立ち位置はあくまで『小野町仁の敵』。
・敵なので小野町仁との戦闘を行う。
・若干の修正、変更を加えてもよいものとする。
・できればオリジナルキャラの持っている『正義の定義』を附属する。
・オリジナルキャラの募集なので細かい物語の設定は申し訳ないが受け付けない。

まぁこんな感じですが、簡単な話、好きに書いて下さい。

また、受けとるだけでは申し訳ないので、他に小説を書かれている方、これから書こうと思っている方がいれば、この作品のオリジナルキャラ達を貸し出したいと思います。

貸し出しに対しても注意点を

・貸し出すキャラクターはこの作品のオリジナルキャラ(小野町仁、齋藤誠、長谷部差鉄等)である。
・使用する際はあらかじめ、『使います』と感想、メッセージ等で報告して貰いたい。
・使用するキャラクターはこの作品とは別世界のキャラクターであって欲しい。


以上です。貸し出す理由としては私以外の人が考えた彼等を見たいと思ったからです。

こちらも報告だけして貰えればあとは好きに書いて貰って結構です。


では今日はこれくらいに!

また次回!




この作品は皆様と共に作り上げたい。こんなに頑張ってるのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー制作委員会。


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病院編、だからこれは義理!!義理なんだ!!

お久し振りです!

前回と同様に今回の話を読む前に 吹寄編を読み直す事をオススメします!!

ではどうぞ!


彼の事を簡単に説明せよと言われてまず思い付く言葉は……。

 

クラスメイトの恩人。

 

この言葉に尽きる。

 

私は先日、ある事件に巻き込まれた。

 

その時、私を救ってくれたのが彼である。

 

そんな彼がまた怪我をして入院したと聞いたので、今日はお見舞いに来た次第だ。

 

うん!!

 

そうだ!!

 

これは義理!!

 

義理なんだ!!

 

助けてくれた人のお見舞いに行くのは当たり前なんだ!!

 

別に、彼に恋愛感情的なアレはまったくない!

 

うん!!

 

「だからこれは義理!!義理なんだ!!」

 

「病室の前でなに叫んでいるんだ?吹寄?」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!?」

 

私が病室の前で気合いを入れていると、後ろから声をかけられた。

 

その声は聞き覚えがあり、恐る恐る振り向くと、そこには

 

「うぉっ!?いきなり叫ぶなよ!!あぁビックリしたー」

 

件の男。

 

小野町仁が立っていた。

 

こいつが私のクラスメイトで恩人である男だ。

 

 

 

 

 

「……」

 

「あ、あのー……吹寄さん?」

 

「何?」

 

「いや、その、何?って聞かれましても……その言葉は本来僕が聞く言葉だと思うのですが……」

 

「あぁ!?」

 

「ひっ!!スイマセン!!」

 

あれから数分の時が流れたら。

 

自販機に飲み物を買いに行き、戻って来たところ、何故か吹寄が病室の前でブツブツ言いながら立っていたので声をかけたら、驚かれ、そしてなぜが不機嫌になってしまったのだ。

 

「その、今日は一体どのようなご用件で……」

 

「お見舞いに来た」

 

相変わらず不機嫌なまま吹寄は果物の詰め合わせを出す。

 

「それと……」

 

今度は鞄からプリントを出して来た。

 

「なにこれ?」

 

「今日ホームルームで配られたプリントよ」

 

「あぁ、サンキュー」

 

「にしても貴様、入院しているのに元気そうだな」

 

「念の為入院だからな、暇すぎるよ」

 

「勉強でもしてなさいよ」

 

「やだよ、めんどくさい」

 

「なら、また私が勉強見ましょうか?」

 

「勘弁してください」

 

先日、僕は吹寄に勉強会と言う名の地獄特訓を受けたばかりだ。

 

「…………」

 

「………?」

 

「…………」

 

「…………」

 

き、気まずい!!

 

え?

 

なんだ!?

 

なんだこれ?

 

さっきから何で吹寄は僕の顔をじっと見ているんだ!?

 

「こ、小野町仁!」

 

「は、はい!!」

 

吹寄が声をかけて来た。

 

「貴様に1つ聞きたいことがあるんだ」

 

「なんだよ、改まって」

 

「その……この質問は貴様にとって思い出したく無いものだと思うし、答えたく無いのなら答えなくていい」

 

「はぁ?」

 

なんだ?

 

いつものハキハキした雰囲気が感じられない。

 

一体どんな質問が来るんだ?

 

少しの沈黙の後、吹寄は覚悟を決めたように顔を上げ僕に聞いてきた。

 

「貴様は何故私を助けたのだ?」

 

 

 

 

土下座。

 

それが行われる場面は大きく二つある。

 

まずは、謝罪。

 

何か落ち度があり、大変申し訳ないと思った時にする時。

 

次に、懇願。

 

どうしてもやって欲しい物事があるときに、最終手段で行う時。

 

謝罪と懇願。

 

現在、私に向けられて行われているそれは後者の意味だった。

 

私はそんなに外道な人間ではない。

 

頭を下げられたら、その願いを可能な限りやらなくては、と思える程度の善意はある。

 

しかし

 

「揉ませてください!!」

 

何事にも限度があるのだ。

 

馬鹿どもの馬鹿な願いを私は文字通り一蹴する。

 

まずは、一番近くに居た

 

「あ、青髪ー!?」

 

友人が吹き飛ぶのを目の当たりに他の二人は恐怖に怯えたが、最後の一人は違った。

 

「なぜだ!?吹寄!?僕達はただお前のその胸を興味本意で触りたいだけなのに!?」

 

実のところ、三バカトリオよりも手に負えないクラスメイト、小野町仁だ。

 

私は小野町仁の頭を両手で掴んだ。

 

「え?あれ?吹寄さん?」

 

何かを感じとり小野町仁がようやく、自分がどんな状況かわかったようだ。

 

「小野町仁、貴様」

 

「ちょっ!!待って!恐い!!恐い!!目がマジなんですけどねぇ!?」

 

「私が何を言いたいかわかるか?」

 

「はい!!わかりました!!」

 

「言ってみろ」

 

「『あなたならいいわよ、テヘッ』嘘です!!ジョーク!!ジョーク!!」

 

「この……大馬鹿が!!」

 

私は頭を大きくのけ反らせ、勢いよく頭を降り下ろした!!

 

「グベラッ!!」

 

「じ、仁ー!!」

 

 

 

 

 

昼休み。

 

私の学校はこの時間になると昼食を購買に買いに行く生徒、コンビニで買って来る生徒、お弁当を作って来る生徒の三タイプに別れる。

 

私はコンビニで買って来る派だ。

 

私はコンビニで買って来たパンが入った袋を取り出すと声をかけられた。

 

「なんだか……残念な昼食だな」

 

「人のお昼をいきなり冷やかさないでくれる?」

 

小野町仁はまるで残念な物を見る目で私を見ていた。

 

彼は手にお弁当を持っていた。

 

そして何故か彼は私の前に座りお弁当を広げ始める。

 

「……何しているの?」

 

「昼休みでする事って言ったら昼飯を食べること位だろ?」

 

「だからって何で私の前で?」

 

「おーい……それが友人に取るべき態度なのかい?若干傷付くぞ」

 

「……ごめんな――」

 

「人が折角自前の弁当を自慢しようとしたのになぁ」

 

「……」

 

「おい、その悲しむような、哀れむような目はなんだ?」

 

この男、色々残念だ。

 

「貴様……」

 

「とにかく!!刮目せよ!!今日の弁当は『マグロの唐揚げ弁当』だ!!」

 

私の目線に耐えきれなくなったのか、半ば強引に弁当の蓋を広げる小野町仁。

 

その中には、海苔弁とおかず一品呑みと、シンプルなものだったが、そのシンプルさがおかずの美味しさを引き出していた。

 

いくつかの揚げ物が彼が言っていたマグロの唐揚げなのだろう。

 

「いっただきまーす」

 

「それにしても意外ね」

 

「何が?」

 

「なんと言うか……貴様が料理とか違和感が」

 

「ほっとけ、家の家訓なんだよ。『昼飯ぐらい自分で作りやがれ』って」

 

「なにその家訓」

 

「笑うな、まぁお陰で料理は上達したな」

 

と、唐揚げを頬張る。

 

見ていて、悔しいが美味しそうだ。

 

「ねぇ」

 

「うん?」

 

「あ、味見してあげましょうか?」

 

「別にいいけど?」

 

と、お弁当を差し出す小野町仁。

 

「い、いただきます」

 

私は唐揚げを一つ摘まみ口に運んだ。

 

「うん!美味しい!」

 

衣がサクサクと音を立て、中のマグロのジューシーさに、思わず感想が溢れる。

 

そして、事件が起きた。

 

「んっ!!」

 

唐揚げが彼が喉に詰まったのだ。

 

い、息が出来ない!!

 

「吹寄!?」

 

「んー!!んー!!」

 

私はあまりの苦しさに前屈みになる。

 

心配した小野町仁が駆け寄る。

 

「どうした!?擦った方がいいか!?」

 

「んー!!ん!!」

 

言葉が出ないので、コクコクと頷きジェスチャーする。

 

「よし!!わかった!!」

 

彼は私の背中を擦り始めた。

 

しかし、一向に喉の詰まりが取れない。

 

「ん!!んー!!」

 

「もっと強くした方がいいか!?」

 

彼は更に強く背中を擦る。

 

そして

 

プチっ。

 

何が弾ける音がした。

 

いや、感覚的にその『何が』は私にはわかる。

 

そして、いくらか軽くなった胸元。

 

「………あ」

 

彼も音の正体に何か、気が付いたようだ。

 

彼が背中を擦る手を止める。

 

「……」

 

「……」

 

妙な沈黙があり、彼が一言。

 

「……次はフロントホックをした方がいいぞ、て、テヘッ!!」

 

「まずは、謝れ!!」

 

私は一言叫ぶと、彼の腹部を思い切り殴りつけると、一目散にトイレに向かって走り出したのだった。

 

教室を出る際、背後で「最悪だ……」と小野町仁が倒れる音が聞こえたが気にしないようにした。

 

 

 

 

 

 




今回は吹寄制理の視点から話を書かせていただきました。

あと、弁当ネタは何となく書いてみました。

話も程々にして、前回のオリジナルキャラの募集で多くの意見をありがとうございます!!
感想やメッセージで予想を上回る数のキャラ案がきて、驚きました。

まだまだ募集していますので、これからもお願いします!!

ではまた次回!会いましょう!!


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病院編、これが事件の始まり

文章がおかしいのは勘弁して下さい。


「しかし、あれだな、吹寄って頭いいんだな」

 

「何を言ってるの、日頃から予習、復習をしっかりやってたらこんなの普通よ」

 

放課後、私は図書室で小野町仁と勉強を一緒にしていた。

 

今は帰宅するために、薄暗くなった廊下を二人で歩いている。

 

そして、会話に困ったのか彼が私を誉め始めた。

 

「顔は綺麗だし」

 

「おだてても何も無いわよ」

 

互いに冗談とわかった上での会話。

 

「真面目だし」

 

「それはありがとう」

 

常にまともな行動を心がけている身としては、それほどの誉め言葉は無い。

 

「え~と……髪は綺麗だし」

 

「ネタが無くなったのね」

 

美容師みたいな事を言い出した。

 

本当にネタが無くなったのか、少し考え込む小野町仁。

 

そして、閃いたかのように言った。

 

「あ!!可愛いオデコ!!」

 

「それは宣戦布告と受け取っていいわ

 

ね?」

 

拳を握り締める私。

 

「待って!今のは無し!!」

 

小野町仁は両手を振り、また考え込む。

 

何だろう?

 

今日はコイツとよく一緒に居る事が多かった。

 

別に普段全く交流が無いわけではない、しかし、こうして一緒に歩いて話をする事ははじめてだ。

 

それが楽しい。

 

胸の奥がホカホカと暖まる様だ。

 

コイツとクラスメイトでよかった。

 

友達でよかった。

 

「え~と……あ!やっぱりデカイ胸!!」

 

「やっぱりって何よ!!」

 

やはり、コイツは色々残念な男だ。

 

 

 

 

 

「まったく!!あの馬鹿が!」

 

私はセクハラをした小野町仁を殴り倒し、一人で下駄箱にいた。

 

そして、靴箱を開けた。

 

開けてしまった。

 

「なにこれ?」

 

靴箱の中には私の靴の他に手紙らしき物が入っている。

 

(ま、ま、ま、まさか、ら、ら、ら、ラブレター?!)

 

私も女だ。

 

まだ、恋をしたことは無いが、年相応の興味がある。

 

私は、喜びからか、驚きからかわからないが震える手で手紙を持ち、中身を見た。

 

見てしまった。

 

「………なに……これ?」

 

それは疑うことなくラブレターだった。

 

しかし、

 

『イツモミテイルヨ』

 

中には写真が、入っている。

 

「……っ!?」

 

写真を見たとき全身が震えた。

 

写真には私が写っている。

 

しかし、私以外の人間の顔が赤々と塗り潰し消されていた。

 

これが、事件の始まり。

 

そして、私の中で小野町仁と言う存在が変わった出来事の切欠だ。

 

 

 

 

 

 

結果的に話すと、小野町仁は私をストーカーから救ってくれた。

 

その事は感謝している。

 

彼はボロボロになりながら、戦い、勝利し、私を助けてくれた。

 

しかし、それは本当に結果的な話だ。

 

あの事件が終わり、私の中で1つの疑問が芽生えてしまう。

 

彼はボロボロの体を動かし、犯人に最後の一撃を放った際の言葉が感謝しかない筈の心に一本の楔を打ち込んでいた。

 

『一回抱かせろぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

 

彼はそう叫んでいた。

 

抱かせろ、とはどういう事なのだろう?

 

抱く

 

私は年相応な高校生の女だ。

 

その意味がわからないとは言わない。

 

つまり

 

性行為だ。

 

あの場所で、あのタイミングで、そんな事を要求する精神を疑いたくなるが、問題はそこではない。

 

彼は

 

小野町仁は

 

何の為に戦ったのだろうか?

 

私の為?

 

それなら、この上ない喜びだ。

 

だが、先の言葉がそれを受け付けない。

 

あれでは

 

あれではまるで

 

まるで

 

私の体目当てだったのでは無いかと疑ってしまう。

 

考えてみたら小野町仁は前から私にセクハラをしてきた前科がある。

 

なら

 

私を助けた訳は、

 

あの事件に便乗して、見返りに私の体を?

 

嫌だ。

 

そんな事を考えてしまった私が嫌だ。

 

しかし、彼はそんな人間ではない。と否定出来ない。

 

結局、彼は私をストーカーしたあの男と同じタイプの人間ではないかと思ってしまう。

 

けど、信じたかった。

 

私の恩人がそんな薄汚れた考えを持つはずがないと、否定したい。

 

否定して欲しい。

 

そんな考えで、私は彼に聞いたのだ。

 

「貴様は何故私を助けたのだ?」

 

と。

 

そして、少しの沈黙の後、彼はこう答えた。

 

「イヤーー、実はこの機会にお前と親密な関係になりたくってさぁ」

 

 

 

 

 

その言葉を聞き、私は、何も考えられなくなってしまった。

 

私は彼になんと言って欲しかったのだろうか?

 

お前の為だよ、と言って欲しかったのだろうか?

 

しかし、

 

現実は違った。

 

彼は結局、彼自身の為に私を救ったのだ。

 

胸が苦しい。

 

嫌だ。

 

そんな事を言って欲しくなかった。

 

私の沈黙により、小野町仁は不思議そうな顔をしている。

 

それが当たり前だ。

 

彼は結局、他の人と変わり無い人間だ。

 

こっちが勝手に理想を作り上げ、勝手に幻滅しただけだ。

 

そんな我が儘に付き合わせてしまったんだ。

 

「ふ、吹寄?!」

 

小野町仁の言葉でようやく私は、自分がどれほど沈黙していたのか気が付いた。

 

何か言わないと。

 

「あ……はは…えーと…」

 

言葉が続かない。

 

次第に私の目には涙が溜まり始めた。

 

「……は?」

 

怪訝そうに眉を潜める小野町仁。

 

当たり前だ。

 

変な質問をされて、答えたら、相手が泣き出しそうになったのだから。

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

たまらずに、私は病室を逃げるように飛び出してしまう。

 

後ろから呼び止める声が聞こえたが、今の私にはそれに応じるほどの余裕がなかった。

 

私はそのまま病院の廊下走り―――、

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「あらあら?心の隙間が大きいわね?これなら簡単に入り込めそう☆」

 

 

 

 

 

 




まぁ、今回の章は次回で終わらせる予定です。

今回の問題は小野町仁は本当に自分の為だけに吹寄を救っており、彼には嘘をつく理由は何もない所ですかな?

今後の小野町仁の行動を楽しみにしていて下さい。

最後に出てきた人は皆様が知っているあの人です。

では!


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病院編、エピローグ。僕はベッドに押し倒された

最初に言っておきます。

作者自身、展開についていけてません。


「吹寄!!」

 

僕の呼び掛けに答えず、吹寄は出て行ってしまった。

 

そして、愚かにも自分の失敗に気が付いた。

 

あの時の事件は、最早僕にとって悲しむ出来事ではない。

 

過ぎた事を引きずる暇も無く、新たな事件に遭遇してしまった事もあるが、基本的には終わった事を深く考える程僕は頭が良くないからだ。

 

しかし、

 

吹寄は違った。

 

吹寄制理にとってあの時の事件は未だに解決できていなかったのだろう。

 

だから、あんな質問をしてきたのかも知れない。

 

あの質問で、何かはわからないが、彼女は何らかの形で救いを見付けたかったのかもしれない。

 

それなのに僕は

 

「クソッ!!」

 

何にも考えずにふざけた答えを出してしまった。

 

僕は枕を殴り付ける。

 

そして、

 

吹寄を追いかける為にベットから出て、ドアに向かった。

 

しかし、

 

僕がドアを開ける前に、ドアが開いたのだ。

 

そこに立っていたのは

 

「吹寄?」

 

今さっき出ていったばかりの吹寄だった。

 

「なんだ?」

 

「え?あぁ…いや、その…え?」

 

「あなたは、一応怪我人なんだから、寝てなさい」

 

「あ、あぁ」

 

なんだ?

 

女心は変わりやすいって話があるけれど、こんな急に変われるものなのか?

 

「全く、ほら、林檎剥いてあげるから大人しくしていなさい」

 

吹寄は先程の涙が嘘だったと思える程きびきびしている。

 

僕は頭にクエスチョンマークを浮かべながらも、彼女の言葉に従いベットへと向かった。

 

 

 

 

 

急に話は変わるが、奇跡ってあるんだな。

 

偶然の事が時に人命を助ける事になるとは、驚きだ。

 

この時ほど僕は奇跡に感謝したことはない。

 

奇妙な跡には幸運がある。

 

もしもこの時、奇としてやはり吹寄の様子がおかしいと思わなかったら。

 

もしもこの時、奇としてその事を口に出していなかったら。

 

もしもこの時、奇として振り向かなかったら?

 

そんな色々な奇の跡をたどり、僕は幸運にも命が助かった。

 

振り向いた僕が見たのは

 

果物用ナイフを僕に向け突進してきている吹寄だった。

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉ?!」

 

反射的に僕は両手で、吹寄のナイフを持つ手を握りしめ、彼女の進撃を止めようとした。

 

しかし

 

いくら、女の子と言っても、勢いの付いた衝撃を止められず、僕はベットへと押し倒される。

 

倒れた拍子に彼女を掴む手を離さなかった事に自分を誉めたい。

 

けれども、いくら誉めても事状況、吹寄に殺されかけている状況が変わる事はないので、気は抜けないのだが。

 

「吹寄さーん!?こんな寝起きどっきりは求めていませんよ!?」

 

ギリギリと今度は全身の体重を乗せて倒す力をかけ、ナイフを僕に刺そうとする吹寄、驚いた事に、彼女はこれから人を殺害するのにも関わらず笑っていた。

 

「やめろ!!吹寄!これは洒落にならない!!」

 

そんな僕の言葉に吹寄は笑顔のまま答える。

 

「あらあら?この程度でもう降参なのかしらぁ?」

 

その言葉に僕は冷や汗と共に眉を潜める。

 

僕が知るかぎり、吹寄はこんな言葉使いをしたことが無い。

 

彼女は真面目で、優しくて、人を間違っても小馬鹿にする用な事は言わない。

 

では、目の前で僕を殺そうとしているのは誰なのだ?

 

いや、殺そうとしているのは吹寄だ。

 

しかし現在、目の前にいるのは彼女であって彼女ではない。

 

まるで、意識だけを誰かに乗っ取られみたいに。

 

「能力による……支配!?」

 

「それはわかっちゃう?うふふ、流石は『化け物』さんね」

 

こいつ……、僕の事を知っている。

 

こいつは敵だ。

 

何らかの能力で吹寄を操り、僕を殺そうとしている!!

 

しかし、なぜだ!?

 

僕はあくまでも人の道に外れた事はしていない。

 

そもそも人に殺意を抱かれる理由は無い筈だ。

 

「あらあら?意外そうな顔ね?」

 

「誰だ!?てめぇ!?」

 

「おーしーえーなーい☆」

 

ググッ…

 

吹寄(を操る何者か)が体重を更に乗せてナイフを押し込む。

 

ポタポタとナイフに触れている手から血が垂れてくる。

 

「くっ!!あ……あぁ!!」

 

僕はあえて血塗れの右手を放し、ベットの端に手を伸ばした。

 

支えている手の片方が無くなった事により、ナイフが下がり、首に触れた。

 

「くっ…ちくしょう……」

 

僕は必死にベットの上辺りを右手をばたつかせて、探す。

 

「あらあらぁ?何かお探しぃ?もしかしてナースコール?」

 

そう、僕は必死にナースコールを探している。

 

しかし、いくら探しても見付からない。

 

首を動かしたくてもナイフが触れているので下手に動くと刺さってしまう。

 

「でも残念ねぇ、あと少し届かないわよぉ?」

 

吹寄(を操る何者か)はニヤニヤ笑いながら更に力を加える。

 

もう限界だ。

 

「……だったら、プランBだ!!」

 

「……は?」

 

バシュッ!!

 

発砲音に似た何かが病室に轟き、吹寄(を操る何者か)が持っていたナイフを弾く。

 

ナイフは音を立てて床に落ち、不意を突かれた吹寄(を操る何者か)に隙が出来た。

 

「オラッ!!」

 

その隙を見逃さずに、僕は無防備になった彼女の身体を押し退け、死のラインから脱出した。

 

そして倒れた彼女の喉元を左手で押さえ、右手の中指を突きつける。

 

右手の中指、その先には……

 

「あぁ…それが噂の『血の弾丸』ってやつかしら?」

 

右手から出血していた血液から精製された弾丸が彼女の眉間に狙いを定めいた。

 

「ナースコールを探すフリをしてそれを発射する準備をしていたなんて貴方意外に役者ね」

 

「うるせぇ、お前には聞きたいことがあるんだ、黙ってろ!!さもないと……」

 

「撃ち込むぞっ☆でもそれは不味いんじゃない?」

 

「……」

 

吹寄(を操る何者か)は状況が逆転しているのにも関わらず変わらずに笑っている。

 

「そもそもこの身体は私の身体じゃない、貴方の知り合いのモノよ?この身体を壊しても私には何の損害も無いことはわかっているでしょ?」

 

確かにそうだ、吹寄はただ操られた哀れな被害者なのだ。

 

しかし

 

「……それで?」

 

「え?」

 

「確かにこの身体は吹寄のモノだ、それを壊してもあんたには関係ない……で?それがなに?」

 

「な、何を言って?」

 

初めて吹寄(を操る何者か)が動揺し始めた。

 

確かに今、吹寄(を操る何者か)を攻撃したところで何の解決にもならない。

 

しかし

 

「それでも少しばかり僕の気は紛れるって言っているんだよ」

 

実の所今の僕は理不尽で一方的な展開に巻き込まれた事に、かなり苛立ちを覚えている。

 

「……本気なの!?」

 

「あぁ本気だ」

 

当然嘘である。

 

確かに苛立ちはあるが、それとこれは別の話だ。

 

僕は正義の味方側の悪役であるが、これがもし僕の知らない、関わりの無い、例えば看護師さんとかだったのなら躊躇はするがBBを撃ち込んでいただろう。

 

しかし、

 

残念な事に、吹寄は僕の大切なただのクラスメイトだ。

 

ただのクラスメイトであるが故に、僕は彼女をどんな理由があるにしても傷付ける事は無い。

 

しかし、馬鹿正直に生きていられる程、正直者ではないので、むしろひねくれている方なので、その事は言わないし、気が付かれたくない。

 

大切なのは目の前に居る、吹寄を操って居る何者かの正体を知り、この攻撃にどんな理由があるのか突き止める事だ。

 

そんなことを考えていたら、吹寄(を操る何者か)は溜め息をついた。

 

まるで、予想していた展開で、正直つまらない、と言う様に。

 

「あぁあ、やっぱり貴方はそう言う性格の持ち主なのね」

 

「なんだよ?」

 

「どれだけ人を助けても、所詮は悪役なんだなぁって思っただけ」

 

「……」

 

「ま☆どうでもいいわ☆こっちはもうお役御免だしぃ」

 

「お役御免?」

 

「そ☆私の仕事は今の状況を作り上げること」

 

「……は?」

 

「簡単に言うと『吹寄制理を小野町仁が攻撃しようとしている状況』を作る事が私の仕事」

 

「何を言って?」

 

「あらあら?忘れたの?つい最近の出来事なのにぃ?」

 

僕の中で何かの警告音が鳴り出した。

 

何を言っているんだ!?

 

この状況?

 

僕が吹寄を襲う状況?

 

つい最近の出来事?

 

バラバラの言葉のパズルが繋がっていく。

 

僕の中で次第に嫌な予測がたてられていく。

 

僕は知っている。

 

吹寄を誰よりも大切に思っている人間を。

 

僕は知っている。

 

そいつは吹寄を助けることに異常なこだわりを持っている事を。

 

僕は知っている。

 

僕がそいつから吹寄を助け出した事を。

 

「……まさか」

 

僕が予想を口に出すことはなかった。

 

理由は簡単だ。

 

そいつが現れたのだから。

 

「何をしているんだ!!??貴様!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

叫び声と、ガラスが割れる音、それに気が付いた時には僕の身体は何かにぶつかり、病室の壁に叩きつけられていた。

 

「小野町仁……貴様!」

 

病室の窓を割り、中へ浸入してきた人物は、明らかに僕に向かって敵意の眼差しを送っている。

 

そこにいたのは

 

「……齋藤誠!?」

 

異常性の恋愛者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある研究会機関のレポート1

 

『精神面による能力の変化実験』

 

学園都市に在学する学生の殆どに行われている『能力開発』。

 

現在、そのカテゴリーはlevel0からlevel5の6つに別けられている。

 

学生達の能力は今後の科学時代の進歩に必要不可欠なものだ。

 

しかし、残念ながら、現在の学園都市と言えど、高レベルの能力者の数は限られており、殆どの学生は微弱な能力しか持ち合わせていない。

 

高レベルの能力者の増幅。

 

この課題が今後の科学の発展の最要事項になるだろう。

 

そこで我々が着目したのは、精神面に置ける能力使用時の性能の変化だ。

 

空間能力者を例に挙げると解りやすいが、高能力の使用時は複雑な演算が必要になる。

 

集中力が著しく低下している際、いくら高能力者であっても能力の性能が低下することはよくある話だ。

 

しかし、逆にもしも何らかの理由で意識が著しく向上していたらどうなるのか?

 

これは仮説の域だが、低レベルの能力者でも一時的に高レベルの能力者の領域に到達するのではないのか?

 

そこで我々はある実験を行うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

齋藤誠が小野町仁を襲撃したのと同時刻。

 

彼等は小野町仁が入院している病院の正面にそびえ立つビルの屋上にいた。

 

「おうおう、始まった!!始まった!!」

 

少年は手すりに乗り出しながら、笑っている。

 

「いやいや、楽しみだ、楽しみだ!!」

 

少年はニタニタ笑いながら別に誰に返答を求める訳でもなく言葉を発する。

 

しかし、その答えを求める訳でもない言葉に返答する少女がいた。

 

「そろそろ実験の開始時刻です。とミサカははしゃぐ貴方に若干引きながら報告します」

 

「わーてる!!わーてる!!俺が進化する大切な実験の始まり始まりー!」

 

少年は笑う。

 

その姿はまるでどこかの正義の味方側の悪役によく似ているのは気のせいでは無い。

 

 

 

 

 

 

 

この瞬間、学園都市全体を巻き込む大騒動が静かに、そして激しく、動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

病院編、完。




言いたいことはわかります。

今はなにも言わずに、そっとしておいて下さい。

明後日にあとがきを投稿する予定です。


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病院編、あとがき。

まずは謝罪を。

 

更新が送られて申し訳ありませんでした!!

 

はい、謝罪終わり!!

 

どーも!!夜に遊ぶと書いて夜遊です!

 

今回もこんなに頑張ってるのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー、を読んで頂きありがとうございます。

 

あいも変わらない酷い文ですか、本当にありがとうございます。

 

さて今回の話しは色々と新たな形式を取らせて頂きました。

 

今までは、主人公の一人目線で物語を書いていましたが、今回は別の視点から話を書いてみました。

 

それでわかった事があります。

 

別キャラ目線で書くのは無茶苦茶難しいとわかりました。

 

いや、マジで、自分の力不足を実感しました。

 

さて今までのあとがきでは登場したキャラの説明をしてきましたが、今回は取り立てて説明が出きるキャラがいませんので代わりに淡々と話をしていこうと思います。

 

 

 

○キャラ募集

 

今回初めてキャラ募集をしてみましたが、作者の予想を大きく上回るキャラ案が感想やメッセージから送られて大変驚きました。

 

魅力的なキャラ達をありがとうございます!!

 

お陰様で話の創造力がたくさん付きました。

 

是非ともこの作品で使わせていただきます。

 

まだまだ募集は続けていきますので、今後もお願いします。

 

 

 

○病院編について。

 

この話を書き始めた段階では、今までの女性キャラを出して修羅場回をする予定でした。

 

しかし、書く途中で、この作品の題名を思い出し、慌てて変更し前々から補足したかった鞠亜編と追加エピソードを加えたかった吹寄編を彼女達自身の目線から書かせて頂きました。

 

様はサイドストーリー的なあれですよ、あれ。

 

あとは、ここらへんで大きな騒動……もとい物語を始めたかったのでそのプロローグ的なモノを最後にぶちこみました。

 

 

 

 

○次回の物語。

 

次回は、バリバリのバトル展開を考えています。

 

小野町仁。齋藤誠。そして謎の少年。

 

3人のバラバラな正義と思想をぶつからせ、血塗れグシャグシャなドロドロした展開になると思います。

 

 

 

 

○最近驚いたこと。

 

話しはガラリと変わりますが、最近何気無くインターネットでこの作品を検索してみたら、何と別のサイトでこの作品が評価されているのではありませんか!!

 

ビックリしましたよ。

 

しかも、悪いようには書かれていないのにもビックリしましたよ!!

 

その時の作品の表情はこれです。

 

( ; ゜Д゜)

 

これからも多くの人に見られると言う事を忘れずに頑張ります。

 

 

 

 

 

○最後に

 

こんなに頑張ってるのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー、病院編を読んで頂きありがとうございます。

 

新生活が始まり多くの事がガラリと変わりました。

 

しかし、この作品を書き続ける事は変わり無いので、皆様も変わらずにこの作品を、主人公を冷やかす事を願います。

 

まだ次回の物語の投稿予定はわかりませんが、再び皆様と再会する事を目標に、締めの言葉とさせて頂きます。

 

最後に本当にありがとうございました。

 

では!

 

 




あ、あと近々新作を書こうと思っているんですけど、いくつか案があり、アンケートを取らせて下さい。

1。『シールド・アート・オンライン』
ソード・アート・オンラインの二次創作です。あらすじとしてはデスゲーム中盤で謎のバクによりソードスキルが全部全て壊れてしまったネガティブ思考の主人公が、代わりに手に入れたシールドスキルを駆使してゲームクリアを目指す、そんな物語です。

2。『僕の友人に彼女が出来ました!!……ケッ!!』
オリジナル作品です。あらすじは友人に彼女ができ、面白く思っていない主人公にその友人からデートの手助けを頼まれる。物語です。

3。『今日を脱出せよ!!』
こちらもオリジナル作品……と言いたいのですが考えている能力的にスタンドの様なモノが出てくる能力バトル物です。あらすじは何度も繰り返す『今日』に囚われた少年少女の冒険物語を書こうと思っています。ちなみに小説家になろうに少しだけ投稿していました。

4。『もしも戦隊達の仲が悪かったら?』
一応戦隊物の二次創作です。けれども原作に登場する戦隊ではなく、オリジナルの戦隊になりますが。あらすじとしては本当に仲が悪い戦隊達の仲を何とかしようと頑張る補佐役の物語です。

以上4作品です。

いつかは全て書きたいと思っていますが、なかなか時間がかかりそうなのでアンケート結果で執筆を始めようと思います。

感想やメッセージから投票お願いします。

しかし、この作品が第一としたいのですぐの投稿は難しいと思って下さい。

では!


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御坂妹編
第5章、予告編


スゲー久しぶりに更新です!!

皆さん覚えてますか?




これは罪の物語だ。

 

二人の少年の罪の物語だ。

 

一人は過去の罪に向き合う物語。

 

一人は罪に立ち向かう義務がある物語。

 

彼らはそれぞれの罪を受け入れ、そしていつかそれが、『正義』になることを望む物語。

 

突然襲われた小野町仁。

 

彼の前に現れたのは過去に撃退したストーカー齋藤誠だった。

 

新たな能力を確立させた齋藤誠と戦闘を行う中、彼等に新たな刺客が。

それはなんと小野町仁に瓜二つの姿をした人物だった。

驚きを隠せない小野町仁は容赦なく攻撃をする二人についに敗北してしまう。

その時彼に変化が?!

 

 

 

 

 

「何なんだ!?お前は!!」

 

 

 

 

 

「さぁさぁ!!俺の進化の為に死んでくれ!!」

 

 

 

 

 

「彼女が生きている、それだけが僕の願いだ!!」

 

 

 

 

 

「だって君たち友達だろ?」

 

 

 

 

 

「お取り込み中かよ!!」

 

 

 

 

 

「気持ち悪い」

 

 

 

 

 

「なんだかツンデレみたいで気持ち悪いよ」

 

 

 

 

 

「貴様は殺したいほどに憎い」

 

 

 

 

 

「ミサカは他のミサカとは別の命令で動いています。と、ミサカ××××号は淡々と語ります」

 

 

 

 

 

「正義ってモンは目指すんじゃなくて、後から付いてくるオマケみたいなモンでしょ?」

 

 

 

 

 

「今日からお前の名前は」

 

 

 

 

 

「こうして会うのは初めてだね」

 

 

 

 

 

「だがお互い存在は知っていた」

 

 

 

 

 

「おねぇたん」

 

 

 

 

 

「だからダメだって!!」

 

 

 

 

 

「彼女を守る事が正義だ」

 

 

 

 

 

「存在するのが正義だ」

 

 

 

 

 

「お前らの正義を押し付けんな!!」

 

 

 

 

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 

 

 

 

 

「よぉ『オリジナル』」

 

 

 

 

 

「よぉ『偽者』」

 

 

 

 

 

「来ると思っていたよ」

 

 

 

 

 

「小野町仁……なぜ私を助けた?」

 

 

 

 

 

「僕の為に生きていてくれ!!」

 

 

 

 

 

「お前ら……羨ましぞ!!こんちくしょ!!」

 

 

 

 

 

「はやくこの身体を助けないとダメだぞ☆」

 

 

 

 

 

研究レポート

 

遺伝子研究機関運用レポート

 

 

 

様々な思惑があり、様々な正義があり、多くの人間がいる。

 

これはそんな物語。

 

この戦いは正義と罪の戦いであるが、正義は居ない。そして罪はある。

 

こんなに頑張ってるのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー

 

第5章!

 

御坂妹編!!

 

近日更新予定。

 

「ははっ…スゲーすげー!!これが『力』!『化け物の力』!」

 

「GRIRRRRRRRRRRRRR!」

 

 

 

この日学園都市は約34分間、崩壊を迎えた。

 

 

 

 

 

○○○○○広告○○○○○

 

世界は敵の驚異に貧していた。

 

敵の名は『暗黒帝国』。

 

彼らに唯一対抗できるのは超科学で誕生した『戦隊』だけだった。

 

彼等は無敵だ。

 

しかし、

 

仲が悪い。

 

新作!『もしも戦隊達の仲が悪かったら』同時公開予定!!

 

これはそんな彼らに振り回されるストレスがマッハにヤバイ男の物語である。




まぁ、まだもう少し時間がかかると思いますので気長に待ってて下さい!


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御坂妹編。プロローグ。レポート 『レベル6シフト計画』

大変永らくお待たせいたしました。

御坂妹編開始です!


とある研究機関のレポート2

 

我々は実験を行うにあたり、被験者を見つけた。

 

彼は数日前にとある事件を起こし、逮捕された犯罪者だが、我々は彼の『変質』に目を付けた。

 

彼の書庫でのレベルは1だが、事件当初の調べではレベル4クラスの能力を使用していたことがわかった。

 

残念ながら逮捕された現在では当時の能力は使えなくなっていたがそれでも彼は書庫の能力にはない性能をもっている。

 

そして驚く事にこれまでの研究の結果、彼はレベルの概念が無いとがわかった。

 

つまり、彼、齋藤誠はレベルを持たない能力者になっていた。

 

正確にはレベルは存在するが決まったレベルの性能は持っておらず、彼の精神面の変化で時にはレベル1にもなり、時にはレベル2にもなり、時にはレベル3にもなるのだ。

 

これは我々の研究の理想像であり、齋藤誠少年を研究すればより多くの低レベル能力者が高レベルの能力者にランクアップする架け橋になると我々は結論付けた。

 

残念ながら齋藤誠少年は現在レベル3までの能力しか使えていないが、恐らくこのままいけば一時的にレベル5程度の、いや、それ以上、レベル6にも届く能力者になるのかも知れない。

 

これは私個人の私情でもあるが、現在同時進行されている学園都市第一位の『レベル6シフト計画』とは違う筋からレベル6を作り上げる事も可能ではないのだろうか?

 

よって我々は長点上機学園在住の『能力調整』を齋藤誠少年のバックアップに付け、彼が起こした事件の関係者に偶然を装い接触させ現在、齋藤誠少年が抱えているレベル4への壁を乗り越えさせる実験を行う事を決定した。

 

この実験で、齋藤誠少年自信に何らかの変化、そして進化が起きる事を我々は願う。

 

 

 

 

 

 

とある遺伝子研究機関の経過レポート1

 

私達の研究の最終目的は簡潔だ。

 

『人類の進化』

 

ホモサピエンスから数千年で私達人間は劇的な進化をしてきた。

 

しかし、現在私達人間は進化の壁に突き当たっていると考えている。

 

私達と逆の説を唱える機関も多いがそれは間違っている。

 

このままいけば私達人間は環境の変化により適合ができず絶滅するだろう。

 

それを回避する為に私達人間が必要とするのは劇的な進化を促す法則だ。

 

数ヶ月前、私の前任である夜遊融個博士は1つの可能性を発案した。

 

それが『人魚の涙計画』。

 

表向きは失敗に終わった計画だが、機密にはこの計画はただ失敗に終わった訳ではない。

 

夜遊融個博士はこの実験で一体の完成品を作り上げる事に成功していたのだ。

 

完成品は誕生後、まもなく不慮の事故で死亡が確認されたが、その後の調査でもう一体の完成品が存在している事がわかった。

 

正確には完成品には程遠く、まだまだ完成品と言うには性能不足だが、彼は間違いなく全人類の進化の先を行っている筈だ。

 

彼を研究すれば私達の求める法則を見付けられる可能性が高い。

 

しかし、問題がある。

 

彼の性格を考慮すると私達の研究には非協力だろう。

 

そこで私達は同時進行されている『レベル6シフト計画』を行っている別の研究機関に協力を求め……

 

もう一人の彼を作り上げた。




明日また更新スタートです!

いつもの酷い駄文ではありますが、お付き合い願います。



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御坂妹編、本当か!?よっしゃあぁぁぁぁぁ……あ

何だかひさびさに小野町仁の語りを書いた気がします。


始めに話しておこう、この物語は罪の話だ。

 

2人の少年達がそれぞれの罪に向き合う物語だ。

 

1人は愛する女性を傷付けた罪。

 

1人はある罪を解決する義務がある罪。

 

2人の少年達の罪は大勢の人を巻き込む事になる。

 

これはそんな物語。

 

 

 

 

 

出会いは突然やってくる。

 

よく聞く言葉だ。

 

そして僕はこうも思うのだ。

 

再会も突然やってくる。と。

 

僕は今、とある人物と再会していた。

 

「貴様……!!」

 

それが少なくとも僕にとってプラスになるとは思えない再会だが。

 

僕は現在、とあるストーカーと再会をはたしていた。

 

そのストーカーの名前は、齋藤誠だ。

 

 

 

 

 

(なんだ!?何が起きているんだ!?)

 

この数分で訳がわからない事がどんどん起きて、正直僕の頭は考える事を放棄したがっていた。

 

しかし、弱気な考えをしていても状況が変わる訳がないので取り合えず最優先の問題から解決することにした。

 

つまり

 

齋藤誠の迎撃だ。

 

僕は吹寄(を操る何者か)を脅す為に残しておいた右手の中指にあるBBを窓に立つ齋藤誠に向け、放つ。

 

会話は無い。

 

むしろ今の齋藤誠に言葉で会話する事は出来ないと理解していた。

 

放たれたBBは真っ直ぐに齋藤誠に向かい進行していた。

 

しかし、

 

BBは途中で何かに阻まれた。

 

「……はぁ!?」

 

よく見ると齋藤誠の周囲に何かがある。

 

大きさはビー玉程で半透明だ。

 

それが齋藤誠の周囲に無数に存在していた。

 

そしてその一つにBBが阻まれているのだ。

 

そして僕は思い出す。

 

齋藤誠の能力を。

 

(空間加速…!?)

 

そうだ!!

 

以前、この男は周囲の空気を集める能力者だった。

 

しかし、その時は手のひらにのみ空気を集めるだけだった筈。

 

こんな無数に、しかも範囲を拡大して能力は展開できていなかった筈だ!!

 

僕がそんなことを思っていたのが間違いだった。

 

「『W.A.L.2』!」

 

齋藤誠はそんな僕のスキを突いて次の攻撃を繰り出してきたのだ。

 

彼が行ったのは右手を振るう事だけだった。

 

それだけの動作で、齋藤誠の周囲に無数に存在していた空気の塊はまるで弾丸の様なスピードで僕に向かって来た。

 

「ちょ!?」

 

僕はとっさに病室を飛び出し、空気弾の嵐から逃れた。

 

ズガガガガ!!

 

空気弾の嵐は壁に当たり小規模だが弾け飛ぶ!!

 

(ぎゃぁあぁ!!なんだ!?何です!?何ですか!?)

 

どうして齋藤誠はあんなことができる?!

 

以前のヤツは人工的に鎌鼬を作る、それだけの能力だった。

 

しかし、現在進行形で齋藤誠の能力は基礎は変わらないがその攻撃手段は大きく変わっている!

 

(吹寄は!?)

 

空気弾の嵐は尚も続いている!

 

病室にいる吹寄はどうなった!?

 

まさか、あの攻撃に巻き込まれたんじゃ!?

 

「へぇ~ふぅーん……精神的に不安定でもこの体は傷付けないように調整はできるんだ」

 

不意に空気弾の嵐が止んだ。

 

理由は簡単だ。

 

吹寄(を操る何者か)の場違いな調子の軽い言葉があったからだ。

 

僕はドアから顔を覗かせ、室内の様子を伺う。

 

齋藤誠の攻撃により病室は無茶苦茶な惨状だったが、吹寄の回りは何もなかったかのように変わっていなかった。

 

齋藤誠は吹寄(を操る何者か)を睨み付けている。

 

「……小野町仁は確かに憎む相手だけど、それとは別に貴様もその対象なのはわかっているのか?」

 

「別にいいじゃない?なんなら助けてくれたお礼に抱き締めてあげましょうか?」

 

明らかに挑発的な言葉。

 

僕だけではなく、齋藤誠にも向けられた敵意。

 

その敵意を受け齋藤誠は、

 

「?!本当か!?よっしゃあぁぁぁぁぁ!!………あ」

 

「おい」

 

齋藤誠は全身で喜びを現すかのように全力でガッツポーズをした。

 

先程までのシリアスな空気が崩れた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

空気が凍り付いた病室で齋藤誠はすぐに己の失態に気が付き、あわてて取り繕う。

 

「べ、別に、き、貴様が操っている、か、彼女に抱き締められても、う、嬉しくなんか、な、ないんだからな!!」

 

「嘘つけ!!ぶれまくっているじゃないか!!」

 

僕は始めてこんなにキョドっている人間を見た。

 

「黙れ!!わかっているのか!?あの制理の口から『抱き締めてあげましょうか?』なんて言葉が出てきたんだぞ!?人間なら例えそれが嘘でも、喜ぶだろ!!」

 

き、気持ち悪い!

 

吹寄(を操る何者か)もこんな反応に無茶苦茶引いているじゃねぇか!

 

「状況を考えろ!!馬鹿!!」

 

「馬鹿とはなんだ!?馬鹿とは!?そもそも貴様が制理を脅していなかったらこんなことにはならなかったんだぞ!!」

 

「殺されそうになってたんだぞ!?」

 

「いいじゃないか!!あの制理に殺されるなら本望だろ!!」

 

「んなわけねぇだろ!?」

 

き、気持ち悪い!!

 

こいつこんなに気持ち悪い人間だったのか!?

 

「ねぇ?」

 

「大体何でお前がここに居るんだよ!?捕まっていた筈だろ!?」

 

「うるさい!!貴様に話す義理はない!!」

 

「ねぇてば」

 

「それくらい話せよ!!こっちは訳がわからない事がどんどん起きて、混乱しているんだから!!」

 

「黙れ!!下手人!!」

 

「下手人はそっち!!僕は被害者!!」

 

「……あ、あのー」

 

「「うるさい!!」」

 

「ひっ!!……ごめんなさい」

 

なぜだろう、齋藤誠と話すとどんどんこいつを嫌いになっていく。

 

「……じゃないわよぉ!!」

 

そして、なぜだろう?吹寄(を操る何者か)もイラついているのは?

 

吹寄(を操る何者か)はようやく自分のペースに持ち込めた事に喜びながら、話を始めた。

 

吹寄(を操る何者か)は吹寄の身体を操り、左手を腰に当て、右手を目元に持っていき、横にピースをして、舌を口端からペロリと出した。

 

「これからゲームをはじめまーす☆」

 

一瞬だが、吹寄の眼に星形の光が灯された気がした。

 

「……は?」

 

「ぐはっ!?」

 

そしてそのポーズに興奮したのか、隣にいた齋藤誠は盛大に鼻血を噴出したのだった。

 

 

 

 

 




斎藤誠のキャラは本来のこんな感じです。


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御坂妹編、レポート『実験』

今回は短いので2話連続で投稿します。


とある研究機関のレポート3

 

我々が行う実験の詳細はこうだ。

 

齋藤誠少年の能力を最大に発揮する環境を故意的に作り齋藤誠少年のトラウマを刺激し、能力を使用させ、それをモニタニング、計測すること。

 

問題点としてはこの実験の詳細を齋藤誠少年自身が知っていると、我々の望んだ数値がでない事だ、よって我々は齋藤誠少年に実験の詳細は知らせず、ダミーの実験内容を伝えて本来は故意的な実験を偶発的に起きた事件と齋藤誠少年には思わせる事とする。

 

齋藤誠少年のトラウマを、刺激する出来事は日数が近いあの事件の被害者を利用する事とし、被害者を襲う人間を我々で用意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

とある遺伝子研究機関の研究レポート2

 

私達はこの実験を行うに辺り、とある筋から同時期に完成品に関わりのある人物が実験を行う事を知った。

 

そこで私達はその実験にサプライズで介入することにした。

 

その為にとある人物にコンタクトを取ることにする。

 

私達の行うことは、その実験の基盤になった少年が起こした事件の再現。

 

つまり

 

吹寄制理の誘拐だ。

 

 

 

 

 

 

 

とある研究員の日記1

 

なんと言う事だ。

 

私は安全を何よりも重んじる性格だと自負しているのに、あの女の口車に乗せられてしまったなんて!!

 

あの機械は今後の学園都市をより豊かにする為に設計していた筈なのに。

 

まさか、あんな化け物の為に役立ってしまうとは!!

 

こんなことなら、あの機械を作らなければよかった!!

 

こんなことなら、あの機械を破壊すればよかった!!

 

狂気の沙汰だ!!

 

あんな子供にあんな事をするなんて!!

 

しかし、悔しいことに最早計画は止められない!!

 

学園都市をより豊かにする為に設計していた機械は、学園都市を、いや、世界を壊しかねない悪魔の兵器になってしまった!!

 

私に残された選択肢は2つ。

 

1つはあの機械を破壊する事。

 

しかし、これは行えない。

 

これは私自身の完全なる私情であるが、ここ数年間の私の血と汗と努力の結晶であるあの機械は私の子供のような存在だ。我が子を殺す事は出来ない!!

 

それでは、もう1つの選択肢を選ぶしかない。

 

あの子供を殺すしかない!!

 

私には無理だ。

 

ならば、誰かに殺ってもらうしかない!

 

※ この日記は殺害された研究員の隠し金庫の中に残されていた。彼はその日ある人間と接触していたことがわかっているがその人物はまだわかっていない。

 

補足だが、研究員の遺体には高電磁波の電流が流れたらしく、体は黒焦げ、髪は逆立ち、舌は爆発し、眼球は破裂していた。

 

 

 

 

 




はい、次!!


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御坂妹編、てめぇは一体にゃんにゃんだ!?

今回は2話連続投稿なので先に前の話を見た方がいいですよ?








まぁ、では本編どうぞ。


「……ゲームだと?」

 

僕と齋藤誠は互いに吹寄(を操る何者か)を見ていた。

 

「ルールは簡単☆『私を助けなさい』」

 

吹寄(を操る何者か)が言っている事がわからない。

 

私を助けなさい?

 

なんだそれは?

 

この状況で間違いなく優位に立っているのは彼女自身のはずだ。

 

それなのに、助けなさい?

 

「……?」

 

「もちろん、この身体の事を言っているんだけどね☆」

 

あぁそう言う事。

 

「……」

 

「ルール2☆『制限時間は24時間』。それを過ぎると……私は自殺しまーす☆」

 

「なに!?」

 

「だって、この身体は今私の支配下に置かれているんだよ?このまま舌を噛みきったり~窓から飛び降りたりできるしね☆」

 

吹寄(を操る何者か)は冗談ぽく舌を出し歯を噛ませる。

 

「てめぇ」

 

「ここからおもしろくなるんだよ?ルール3☆『私を助ける事が出来るのは一人だけ』☆」

 

「一人だけ?」

 

「そうそう☆例えばそこにいる飛び入りゲストさんと協力して助けにきたらこの身体を自殺させまーす☆」

 

「……」

 

「まぁ頑張って……グェ!?」

 

突然、吹寄(を操る何者か)が何かの力で壁に叩きつけられた。

 

僕はなにもしていない。

 

つまり

 

「『W.A.L.3』……だったらここで貴様を拘束すれば問題ないな」

 

犯人は齋藤誠だ。

 

「ぐ、……あ……あぁ!!」

 

吹寄(を操る何者か)は苦しそうに声をあげる。

 

よく見ると吹寄の身体は壁と『何か』に挟まれているようだ。

 

「空気をガラスのような平面形にして彼女の身体を拘束した」

 

「い、痛い!!この身体を潰すつもり!?」

 

「おい!!」

 

「何を驚いている?こうしなければ制理は死ぬんだぞ?自殺させる?ふざけるな、だったら俺の手で殺すまでだよ」

 

正直にゾッとした。

 

この男はあの時と変わっていない。

 

いや、それ以上に、根本的な部分がおかしくなっている。

 

人として大切な何かが欠けているのだ。

 

「ふざけるな!!」

 

僕はBBを精製し齋藤誠に向け、構える。〈残弾10〉

 

しかし、発砲するより先に出来事が起きた。

 

「はいはい~ドーン!!」

 

「グフッ!?」

 

何者かの声が聞こえた。

 

齋藤誠が壁に叩きつけられた。

 

それが出来事。

 

しかし

 

僕が驚いたのは第三者の介入ではない。

 

齋藤誠が殴り飛ばされた事ではない。

 

驚いたのはその声に聞き覚えがあったからだ。

 

その声は毎日聞いている。

 

その声は誰のものではない。

 

そもそも、誰と他人行儀な表現をすることが間違っている。

 

その声は

 

僕、小野町仁の声によく似ていたのだ。

 

そして、更に驚く事に突然現れた襲撃者は

 

髪色がオレンジ色な事を除けば、

 

僕に完全に似ていた。

 

「よーよー、『オリジナル』」

 

 

 

 

 

僕はこの日、『罪』を目にした。

 

 

 

 

 

 

僕は目の前に現れた『僕』をただ呆然としている自分が不思議でしょうがなかった。

 

疑問が次々に頭に現れては消え、消えては現れ、その繰り返しで思考が自分でも理解できていないからだ。

 

それでも僕は言葉を出していた。

 

答えを期待している半面、答えを聞きたく無い自分もいた。

 

目の前に僕とよく似た『僕』がいる。

 

その理由を知ってしまうと、僕は、小野町仁の人生は崩壊してしまう気がするからだ。

 

しかし、それでも僕は言葉を出していた。

 

「お、お前は……誰…だ……?」

 

その言葉に『僕』は少し呆然として、

 

「おいおい『オリジナル』さんよ~確かに確かに気持ちはすごーくわかるよ、うん!!わかるわかる。でもさ、空気読もうぜ空気」

 

『僕』は呆れながら肩を下ろし、僕によく似た声で溜め息をつく。

 

それが、その行為全てが僕の中に言い様の無い不快感を植え付けていくのだ。

 

「今、あんたの目の前には自分によく似た自分がいる。それが不思議で理解出来ないのは知っているよ……でもさ」

 

『僕』は手を前に突き出し、言葉を続けた。

 

「俺が敵って事ぐらいわかっているだろ?」

 

瞬間、『僕』のかざした手が輝いたと思った時には僕の身体に衝撃が走り、全身の筋肉が痙攣を起こした!!

 

(な、なんだ!?)

 

見えなかった。

 

明らかなのは目の前の『僕』に攻撃された事。

 

『僕』の手から何かが放射された事。

 

しかし、それが何かがわからなかった。

 

認識した時にはすでに攻撃を受け身体が床に倒れていたのだ。

 

「にゃ…にを……した?」

 

僕は自分の言葉に疑問を持つ。

 

予め言っておくが僕に猫属性はない。

 

舌が痺れて上手く言葉が出ないのだ。

 

……痺れて?

 

「おやおや~?気付いた?気付いた?」

 

『僕』は僕の顔を覗き込みながら話す。

 

その全身から青白い火花が散っている。

 

(電気系の能力者……?)

 

「『オリジナル』は血液を弾丸にして発砲する戦闘法だったな?けど、それは『受け継がれなかった』からさ、変わりにもう一方の能力を使うしかなかったわけだよね」

 

「?」

 

何を言っているんだコイツ。

 

受け継がれなかった?

 

何を。

 

「まぁ、ここでは殺さないよ、『オリジナル』は腐っても俺の『オリジナル』なんだ。死に場所はもっとカッコいい場所がいいだろ」

 

『僕』はそう言うと、僕の肩に手を置いた。

 

「少し痛いけど、安心しろ、スタンガン程度の威力に押さえておくから」

 

「て、テメェ……は一体にゃん……にゃんだ?」

 

瞬間、僕の身体に文字通りの電流が走り、僕の意識は完全に沈黙したのだった。

 

薄れる意識の中で僕は『僕』の声を聞いた。

 

「俺は『歩夢』。オメェの偽物だよ」

 

 




新キャラ『歩夢』の登場です。

こいつはこいつでかなり癖のあるキャラになると思います。

ではまた明日!


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御坂妹編、レポート『能力』

今回は斎藤誠と歩夢の能力について説明しまーす。


とある研究機関のレポート4

 

斎藤誠少年の能力『空間加速』は風力系の能力者に分類される。風力系の能力者は学園都市にとってそれほど珍しい能力ではない、しかし、斎藤誠少年の価値はその『レベルの変則』にある。

 

先も述べたように斎藤誠少年の能力レベルは彼の精神面で変化する、本来書庫に登録されている斎藤誠少年のレベルは1なのだが、この変則によって実際のレベルは推定3まで確認されている。

 

この変則を研究し、解析すれば論理上はレベル5級の能力を発現するのも夢では無いだろう。

 

しかし、問題がある。それは常に変則を続ける能力に斎藤誠少年自身が制御出来ていない点だ。

 

このままでは、能力の暴走に繋がる恐れがある。

 

そこで我々は、問題解決の為に2つの対抗策を行った。

 

1つは『能力調整』による外部からの能力制御。

 

そして、もう1つは、あえて能力を制限する事にする、内面からの能力制御である。

 

内面からの能力制御、それが『W.A.L.システム』である。

 

Air.Accelerate.Level。略して『W.A.L.』。

 

仕組みとしては漫画やアニメで使われる『技名』に当たる。

 

あえて技名を言葉にして口から発することにより脳内のパーソナリティーをより明確化し能力のイメージを硬め、制御をしやすくする事が目的だ。

 

余談だが、斎藤誠少年は当初このシステムを使うことにかなりの拒絶反応を示していたが、彼の行動動力であるワードを提示したところ、渋々だが説得に応じてくれた。

 

『能力調整』と『W.A.L.システム』の外と内からの制御により斎藤誠少年はようやく実戦に扱えるほどの能力を獲得した。

 

しかし、それでも『弱点』はまだまだ有り、それらの解決が今後の我々の課題となるだろう。

 

 

 

 

 

とある遺伝子研究機関の研究レポート3

 

私達は完成品のクローンである模造品の開発に成功した。

 

しかし、シスターズ計画でも問題点だった『オリジナルとの能力差』の点がやはり模造品にも起こってしまった。

 

模造品のスペックは完成品とはかなり劣化しており、更には本来学園都市第3位のクローンの為の装置に強引に別人の遺伝子を積み込んだせいで、模造品の外見は完成品と学園都市第3位との外見が交わった姿になってしまった。

 

しかしその副産物で模造品に学園都市第3位の能力である電子系の能力が付属された事が唯一の幸いだろう。

 

模造品はシスターズが持つ『欠陥電気』とは違い、電力を蓄積、帯電、放電する『蓄積電気』を獲得した。

 

この能力は自身では電気を生成することは出来ず、外部から電力を充電しなければならないが、私達はこの『充電』

に目を付けた。

 

現在進行中の宇宙エレベーター開発『エンデュミオン計画』で使われている『ツリーダイアグラム試作2号機』を模造品にワイヤレスで接続し、模造品に膨大な電力と知識を供給する事にした。

 

これにともない、問題点だった『戦闘時の精神攻撃には向かない機械的な喋り』は解消され、一時的だが学園都市第3位とも並ぶ電気能力を使用可能になった。

 

しかし、別の問題点が発生する。

 

ツリーダイアグラム試作2号機の電力をダイレクトに模造品に送ると模造品の脳に深刻な負担がかかってしまうのだ。

 

これの解決策として私達はシスターズの一人を彼の補助に付け、彼女を経由し、模造品に電力を送る事にする。

 

余談だが、これにともない本来20000体のみの生産予定だったシスターズが20001体に変わったがそれほど問題では無いだろう。

 

また、経由するシスターズには脳の拡張をしなければいけないため、成長を他の個体よりも進め、外見的年齢を高校生程に調整した。

 

これでようやく模造品は完成品との戦闘における最低基準を越えたのだ。




因みにW.A.L.は『ワル』と読んでください。にしても斎藤誠からにじみ出る厨二臭が半端ない。

そして、歩夢は歩夢で……なんだがねぇ……。

次回!……は目を覚ました小野町仁の話から入ります!!

あと、以前募集したキャラ案の中から新キャラが登場です!

お楽しみに!!






エンデュミオンが出てきたのは、別に劇場版のDVDが販売された訳ではありません!!

偶然、偶然ですよ~。


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御坂妹編、「変態ストーカー」「殺すぞ」

今回は募集したキャラが登場します!!

ではどうぞ。


「あんたは逃げなさい」

 

「っ!!ね、姉ちゃんは?」

 

「オレはアイツを食い止める」

 

「無理だ!!あんな化け物に敵うわけない!!」

 

「それでもよ、あの化け物はこの世に残してはいけない、あの化け物を残していたら必ずこの世界は壊れてしまう」

 

「だ、だったら俺も戦う!!姉ちゃんだけを残して行けない!!」

 

「ダメよ」

 

「何でだよ!?俺は正義の味方だ!!ここで逃げたら、俺じゃない!!」

 

「たくっ、正義の味方だなんだって言ってもあんたはオレの『弟』なんだよ」

 

「だったら尚更だ!!姉ちゃん!」

 

「馬鹿ね……『姉』は『弟』に生きていて欲しいに決まっているでしょうが」

 

「くっ……」

 

「行きなさい、そして、生きなさい。それがオレの望みで願いなんだから」

 

「姉ちゃん……姉ちゃぁぁぁぁぁん!」

 

 

 

 

 

「目が覚めたかい?」

 

目を覚ました僕が見たのは蛙顔の医者だった。

 

「病院で怪我されると評判に関わるからやめて欲しいんだけどね」

 

「ここは?」

 

周りを見渡すとどうやら病室の1つらしい。

 

「君達が暴れた病室の1つ下の階の病室だよ」

 

『君達 』と括られた事にひどく遺憾の意を唱えたい。

 

よく考えてみたら、いやよく考えてみなくとも、今回僕は完全に被害者だ。

 

病室で寝ていたらクラスメイトを操った何者かに殺されそうになるし、抵抗したらしたらで、今度はそのクラスメイトのストーカーが乗り込んで来るし、極めつけは『歩夢』とか言う僕の偽者まで現れる始末だ。

 

そこまで考えて僕は1つの疑問を出した。

 

それは始めに出てもおかしくない疑問の筈なのに、出なかったのは恐らくその疑問を覆い隠す程の出来事が起こりすぎた為だろう。

 

とにかく僕はようやく疑問を口にした。

 

「あのあとどうなったんだ?」

 

 

 

 

 

「ボクも詳しい事は知らないよ」

 

蛙顔の医者はそう切り出して言った。

 

しかし、それは確かになんの情報にもならない話だった。

 

そもそもが蛙顔の医者が騒ぎを聞いて僕の病室に向かい、着いた頃にはもう騒ぎは終わっており病室に僕が倒れていたらしい。

 

「まぁ、君の体はそれほど酷くなかったよ。元々の怪我に加えて外傷は手の切り傷だけだったしね、彼に比べれば何て事はない」

 

「……彼?」

 

その時である。

 

不意に声が聞こえた。

 

どうやら隣の病室からで、なにやら騒いでいる男の声だ。

 

「離せ!!俺は行かなくてはならないんだ!!」

 

聞き覚えのある声である。

 

と、言うよりも今回の被疑者の1人の声だった。

 

「……彼は不死身かい?肋骨2本骨折に左薬指の骨折、右肺の損傷に、身体中あちこちの骨にヒビがはいっているのに意識ははっきりしているし、なによりあの元気は普通にあり得ない、いったい何が彼を支えているのか医者として気になるね」

 

「……愛の力じゃないですか?」

 

つうか、そんな身体なら大人しく寝てろよ。

 

むしろしばらく意識不明で牢屋にでも居てくれよ。

 

頼むから。

 

「それはそれたして、あんなに騒がれちゃこっちとしても営業妨害だからさ、君から彼を説得してはくれないかな?」

 

「何で?」

 

その蛙顔の医者は当たり前のように、僕にとっては非常に否定したいのだが、こんなことを言いのけた。

 

「だって君達友達だろ?」

 

 

 

 

 

と、言うわけで僕は今、件のストーカーが騒いでいる病室の前にいる。

 

「?」

 

扉の前に立ち、ようやく僕はあることに気が付いた。

 

斎藤誠の病室で騒いでいるのは彼だけでは無いようだ。

 

もう1人いる。

 

と言うよりも騒いでいる斎藤誠を落ち着かせようと言い合っているようだった。

 

『いいか!!俺は彼女を助ける!!』

 

『だーかーらー!!ダメだって!!ボクの補助がなかったら君は役に立たないんだから!!』

 

『だったら早くしろ!!』

 

『ダメだって!!実験は終わったの!!だからボクは君を補助しないし出来ないの!!』

 

『そんなの知るか!!』

 

どうやらお取り込み中らしい。

 

しかし、それはそれ、これはこれ。

 

はっきり言って僕が斎藤誠に気を使う義理もないし、するつもりはもっとない。

 

よって、僕はノックもせずにドアを開けた。

 

そこで僕が見たのは

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「……本当にお取り込み中かよ!?」

 

斎藤誠と女の子が抱き合っていた。

 

 

 

 

 

「お前さ……吹寄命みたいな感じなのに彼女持ちなの?」

 

「ふざけるな、俺は制理を愛している」

 

「ふざけるなはこっちの台詞だよ!!そう思わない君!?つーか誰!?」

 

「うるさい」

 

「何か嫌われてる!?」

 

女子学生は肩までかかった髪をいじりながら僕をなぜか敵意剥き出しの目で見ていた。

 

「……おい、ストーカー」

 

「ストーカーと呼ぶな、馬鹿野郎」

 

「馬鹿野郎って言うな、あの子誰?」

 

埒が空かないので、斎藤誠に聞くことにした。

 

「……彼女は大村義、俺のパートナーだ」

 

「パートナー?」

 

「人生のね」

 

「実験でのパートナーだ」

 

「むー…」

 

「……」

 

なんだろう、女の子、もとい、大村義さんから斎藤誠に向けられる視線が明らかに実験のパートナーとは違ったそれを感じるのだが。

 

しかし、それと同時に気になる単語が出てきた。

 

「実験って?」

 

「……仕方ない、話してやる」

 

斎藤誠は本当にイヤそうに、実際にイヤなんだろうが、実験について話してくれた。

 

「彼女の能力の名は『能力調整』、俺の能力『空間加速』の調整の為に協力してくれている」

 

「調整?」

 

「あぁ、俺がlevel5になるためのな」

 

「はぁ?」

 

level5になる為の実験?

 

何言ってんだコイツ?

 

そもそもコイツのレベルは下から数えて2番目のevel1だった筈だ。

 

それを最大数のlevel5に変える何て途方もない事だと思う。

 

「どうやって……」

 

「貴様にこれ以上話す義理はない、次はこっちの質問に答えて貰おうか」

 

 

話を遮られ若干ムカついたが、確かに今はそれは置いておいたほうが良いかもしれない。

 

「なんだよ?」

 

「なぜ、貴様は制理を脅していた?」

 

その後、僕は斎藤誠と大村義に事の顛末を話した。

 

吹寄を操っていた何者かの話になり、僕は1つの疑問を斎藤誠に聞いた。

 

「そう言えばお前さ、吹寄が操られているって気が付いていなかったか?」

 

「当たり前だ、俺をなんだと思っている?」

 

「変態ストーカー」

 

「殺すぞ?」

 

「まぁ、間違っていないわね、彼の部屋知ってる?あの女の子への恋文がどっさりあるのよ」

 

「気持ち悪!?」

 

「ふんっ溢れんばかりの好きと言う気持ちを紙に書いているだけだ、何せ俺は小学校の頃から制理を見ていたからな、間近で見てすぐに制理が操られていると見抜いたさ」

 

それはすごいことなのだが、気持ち悪いものは気持ち悪いぞ。

 

以前、とある事情で斎藤誠の部屋を訪れたことがあったが、その時の気持ち悪さをまだ忘れた訳ではないのだ。

 

「話を戻すぞ、貴様が気絶していた時の事だ」

 

そして、斎藤誠はあのあとの事を話し出した。

 




御坂妹編、新キャラ出過ぎじゃね?

今回、阿吽様から頂きました『大村義(おおむらよし)』が登場しました!!

阿吽様、ありがとうございます。

まだまだキャラ案は募集しておりますので皆様何かいいキャラ案がありましたらどしどし教えてください!

次回は小野町仁が気を失っていた時の話です。

では!


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御坂妹編、あれは……誰……なんなんだ!?

今回は斎藤誠中心に、小野町仁が気を失っていた時の話です。



時間は少し前後入れ替わるが、これは小野町仁が襲撃者、歩夢に倒されたすぐあとの出来事である。

 

小野町仁が床に倒れる音を聞きながら斎藤誠の視線は襲撃者に向けられていた。

 

「さてさて、あんたはどうスッかな?」

 

歩夢と名乗った男は斎藤誠を見て聞いてきた。

 

しかし、本当に、見れば見るほど、似ている。

 

忌々しい程に歩夢は小野町仁と似ている。

 

しかし、そんなことは斎藤誠にとって2の次だった。

 

問題はこの吐き気を催す悪が、吹寄制理に何か危害を加えないかどうかだ。

 

よって、

 

「『W.A.L.3』!」

 

「あ?!」

 

斎藤誠は周囲の風を板状に凝縮し、歩夢を上から下へ、押し潰した。

 

しかし、

 

バシュ……

 

「……あ?」

 

「?!」

 

無惨にも、風の壁は霧散に散ってしまう。

 

歩夢が何かしたわけではない。

 

その証拠に歩夢はなぜ攻撃が止んだかわからないようだ。

 

一方斎藤誠は

 

(クソッ!!『時間切れ』か!?)

 

悔しがっていた。

 

本来、彼の能力は扱いが難しく、大村義による『能力調整』が必要不可欠なものになっている。

 

調整の手段は、彼女に肉体的接触が必要であり、しかもその調整には制限時間が儲けられているのだ。

 

それを過ぎてしまうと、斎藤誠の能力はただ風を吹かせるだけという、お粗末なものになってしまう。

 

それが原因なのは明らかだった。

 

だが、風を吹かせるといっても最大でlevel3程度の威力を出せるので、下手にそれを受けてしまうと、無傷ではすまないのだが、斎藤誠はそれを行うことはないだろう。

 

理由は簡単だ。

 

先にもあるように斎藤誠の能力は現在扱いが難しいものになっている。

 

もしも彼が調整無しに能力を使用した攻撃を行ったとしたら、確実に目の前にいる全ての人物に被害が及ぶだろう。

 

つまり、歩夢の他に、倒れている小野町仁や成り行きを見ているだけの吹寄制理(を操る何者か)にもその被害が及ぶのだ。

 

斎藤誠にとって小野町仁がどうなろうと、どうでもいいのだが、問題は吹寄制理に被害が及ぶ事、その一点に限る。

 

数分前、彼は吹寄制理の体を攻撃していたが、それは仕方のないこと(少なくとも斎藤誠個人にとって)だった。

 

そもそも斎藤誠の中で吹寄制理の存在は大きい、いや、全てと言ってもいいだろう。

 

好きで好きで好き過ぎて、吹寄制理の為ならば、斎藤誠は手段を選ばず、殺人も異問わない、そんな覚悟がある。

 

それと同時にもしも、吹寄制理が生死の危機に遭遇し、そしてどうしようもなく、死に向かうのならば、斎藤誠自身が彼女の生命を終わらせる覚悟を勝手に持ち合わせている危険人物だ。

 

よって、現在、彼が残された最後の手段である、『能力の暴走による突風』を使わないのは、厳密には『吹寄制理に被害が及ぶ』事に躊躇しているのではなく『本当に吹寄制理の命に危険が及んでいるのか』と考えているからである。

 

(コイツの、コイツらの目的はなんだ?)

 

斎藤誠自身、本来実験の下準備の為にこの病院を訪れ、偶然に小野町仁が吹寄制理 を脅している場面を目撃し、小野町仁の病室に襲撃しただけなのだ。

 

そして、小野町仁と同じく斎藤誠にもこの現実を理解出来ていなかった。

 

だが、現実は待ってくれない。

 

「なんだなんだ?ひょっとしてそちらさんも『制限持ち』なんですかぁ?」

 

歩夢はニヤニヤと笑いながら斎藤誠に近づく。

 

「えーとえーと、まぁ、あれだ。理由はどうあれあんたは俺を『攻撃した』つまりはつまりはあんたは俺に攻撃される理由を作っちゃったって事でいいんだよね?」

 

瞬間、歩夢の体からバチバチと火花が散る。

 

斎藤誠は壁に叩き付けられた際のダメージに耐えながら、戦闘体制を取ると……。

 

「なーんてな」

 

不意に歩夢はまるでイタズラが成功した子供の様な笑顔を浮かべ、先程まで迸っていた火花を止めたのだ。

 

「……?」

 

「いやいや、俺は別に戦い血生臭い殺人者じゃないわけだし、無意味に人を傷付け対訳じゃないわけでさ、あんたがそのままなんにもしなければ、俺もあんたに何かしないよ」

 

歩夢は少し考えてこう付け加えた。

 

「そこにそこに転がっている『オリジナル』の『本質』に救われたね」

 

その瞬間、斎藤誠の脳裏にある可能性が浮かび上がった。

 

それは突拍子のない、有り得ない可能性だが、その可能性で歩夢と小野町仁を結び付けると、なんとなく『納得』した。

 

しかし、それを深く考えている時間は彼等にはなかった。

 

彼等には。

 

つまり、斎藤誠はもちろんの事、歩夢にもなかったのだ。

 

「……GUr」

 

 

 

 

 

 

声。

 

いや、声と言ってよいのか、唸り声なのか、判断に迷うのだが、その音を2人(正確には3人)は確かに聞いた。

 

その音の発生源に目を向けると、その視線の先は

 

「おいおい!?マジかよ!?マジかよ!?」

 

倒れていた筈の小野町仁が起き上がろうとしているだった。

 

だが、それ事態はそれほど驚く事ではないのだ。

 

小野町仁と戦った経験がある斎藤誠は以前にも似たような状況を知っている。

 

小野町仁は普通の人間なら起き上がる事が出来ない様な負傷を負っていたのにも関わらず、2度も立ち上がった事があるのだ。

 

よって、立ち上がったからといってそれほど重要な事ではない。

 

問題は別の事にある。

 

(あれは……誰……なんなんだ?!)

 

斎藤誠が『誰』ではなく『なに』と考え直したには理由がある。

 

そもそもその2つは迷う筈がないのだが、それでも彼は迷ってしまった。

 

それほどまでに今の小野町仁は異様だったのだ。

 

まず、目についたのは小野町仁の目。

 

小野町仁の目は真っ赤に染まり、真っ直ぐに斎藤誠と歩夢の2人の敵を睨み付けており、

 

次に口元。

 

口元からは歯を覗かせる程に歪み、その奥の喉からは先程のうねり声が漏れていた。

 

そしてなにより、小野町仁から漂う、オーラというか、雰囲気というか、つまりそれに類するモノが違った。

 

まるで、見た目は小野町仁、人間ではあるが、内側にいるのは全くの別物であるかの様な、そんな言い知れない恐怖が有ったのだ。

 

何も知らない斎藤誠と違い、恐らくある程度は知っているであろう歩夢は違った反応を示していた。

 

だから何か知っている分、歩夢はこう呟くのだ。

 

「こんなにも早く『外れる』のかよ………」

 

その呟きが引き金になったかの様に、小野町仁は叫んだ。

 

「GRIRRRRRRRRRRRRR!!!!!!」

 

小野町仁は、叫び声と共に2人に向かい飛び掛かって来た!!

 

「チッ!!」

 

歩夢は舌打ちと共に先程、小野町仁に放った攻撃を再び行った。

 

歩夢の右手から何かが放出し、小野町仁に命中する。

 

「GAF!?」

 

しかし、今度は驚く声を上げたが、先程のようなダメージは入っていないようだ。

 

そして、その攻撃により小野町仁はターゲットを歩夢に絞る。

 

小野町仁は体制を低くし、歩夢を睨み付ける。

 

その姿はまさに獣のそれだった。

 

「おいおい……なんだその姿は?情報じゃあまだそんな酷くなかったぞ?」

 

「SIeee……」

 

「ふーん、意識が無くなってそっちが『目覚めたか』。この『化け物』め」

 

歩夢は軽い口調で話してはいるが、汗のかきぐわいから見ても、動揺、緊張しているのはわかる。

 

「たくっ、本来なら『化け物』との戦闘は予定されていないのによ」

 

そう呟く歩夢の右手が輝き出した。

 

この段階で、斎藤誠は歩夢の能力にある程度の予測を立てていた。

 

歩夢の能力、それは

 

(発電系の能力者、そして特性は『放電』か)

 

そう、歩夢は体内に電気を精製(斎藤誠は知らないが正しくは充電)し、それを

外へと放電するのだ。

 

歩夢の放電は自然界で言う雷に近い動きをしている。

 

つまりは速い、、積雷雨が地面に雷を落とすかの様に、まさに光速の攻撃速度を誇っているのだろう。

 

言わば歩夢は人間型の雲、それも電力を秘めた雷雲なのだ。

 

そんな歩夢の右手が輝き出しているのは恐らく、高密度の電流が流れている証拠だろう。

 

明らかに先程まで持っていた優越な立ち振舞いからは逸脱している。

 

それほどまでに今の小野町仁は危険な存在なのだろう。

 

病室内には言い知れない緊張感が支配していた。

 

本来なら襲撃者二人の内どちらかが支配している筈の恐怖感は、襲われた筈の住人によって略奪されてしまったのだ。

 

しかし、そんな緊張感はすぐに終わった。

 

「ちょっと!もう時間よ!!」

 

こちらも本来なら助ける筈のヒロイン的な立ち居ちでありながら。明らかに敵側にいる吹寄制理(を操る何者か)言葉で状況は大きく動く。

 

「……へぇへぇ。わかりましたよ」

 

歩夢は高電圧の右手を下ろし、吹寄制理に向かい動き出した。

 

そして、

 

彼女を抱き抱えたのだ。

 

瞬間。

 

プチッ!!

 

斎藤誠の何かが切れた。

 

彼は今まで迷っていた事や、状況を理解しようと考えていた事、その他もろもろを全て『後回しにして』、『取り合えず』、制御できない能力であるlevel3程度の威力を誇っている突風を歩夢、小野町仁、そして吹寄制理の3人に向かい放ったのだ!!

 

その時の彼の思考を考えるのは容易い、彼はこう考えていた。

 

(彼女に触るな!!)

 

その為のだけに斎藤誠は守りたい筈の吹寄制理を傷付ける事も異問わずに、攻撃を行ったのだ。

 

「よっと!!」

 

暴風の驚異から逸速く離脱したのは歩夢と、そして、幸いの事に彼に守られていた吹寄制理だ。

 

歩夢は窓に足を駆けギリギリ射程範囲から免れる。

 

一方、小野町仁は突風に体を押され壁に叩き付けられた。

 

「『オリジナル』もぶっ飛んでるけど、あんたも同じくらい、いや、それ以上にブッ飛んでるねぇ」

 

「……チッ!!」

 

「まぁまぁ落ち着きなよ、コイツはまだ生かしておくよ、『まだ』ね」

 

「さっき言っていた『ルール』はまだ適用しているから頑張ってね☆」

 

睨み付けら斎藤誠に対して2人はそんなことを言う。

 

そして、窓から飛び降りた。

 

「まて!!」

 

慌てて窓の外を見た斎藤誠が目撃したのは、華麗に地面に着地した歩夢と

依然として彼に抱き抱えられたままの吹寄制理(を操る何者か)がそのまま走り去っていく姿だった。

 

(一体何が起きているんだ?)

 

そんな事を考える余裕はなかった。

 

「・・・jireee」

 

そのうねり声を聞き、恐る恐る斎藤誠が振り向くと、そこには彼を睨み付ける赤い目が2つ。

 

斎藤誠にターゲットを変えた(正確には彼しか居なくなったが為に)小野町仁の姿だ。

 

「……マジかよ?」

 

瞬間、斎藤誠の意識は小野町仁の攻撃により削り取られたのだった。

 

彼にとって幸いだったのは、命があった事だろう。

 

 




書いていて思いましたが、斎藤誠はどこかズレていて、そこが彼の危険性とか気持ち悪さとかその他のマイナス面を引き立てているんだなぁ~と思いました。



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御坂妹編、学園都市は何も制理の様な聖母ばかりではない、貴様の様な 悪人もいれば、俺の様な道を踏み外した馬鹿も多くいる

どうでもいいのですが、フェブリが可愛いです。


「……その、なんかゴメン」

 

「謝るな気持ち悪い」

 

斎藤誠の話を聞き終えた僕は、色々と考えさせられていた。

 

どうやら僕が思っている以上に僕は化け物として着々と進歩しているらしい。

 

「…………」

 

あ、なんかヘコんできた……。

 

なにこの感情?

 

「別に貴様がどうなろうと知ったことじゃないが、問題は制理だ」

 

コイツは人を気遣う術を知らんのか?

 

「なんだその目は?化け物だろうとなんだろうと貴様は俺にとって恨みの対象であって、殺したいほどに憎いそれは変わらない」

 

「お前……」

 

「誠、なんだかそれってツンデレみたいで、気持ち悪いよ?」

 

「うん、気持ち悪い」

 

僕とさっきから黙って聞いていた大村義さんの2人からの指摘に斎藤誠は苦虫を噛み潰した様な顔をした。

 

「と、とにかく!!貴様の問題は放っておく!!」

 

「へいへい」

 

確かに、こいつから心配されたらそれはそれで気持ち悪いモノがある。

 

それにこいつ自身なんだが理解できない能力を獲得しているしな。

 

これは互いに聞かない方がよいのだろう。

 

それにこいつは意外に頭が固いかも知れない、何となくだが、場の空気とか読むのが得意では無いのだろう。

 

「それで貴様のクローンについてだが」

 

「はぁい!?」

 

ほら、な。

 

 

 

 

 

斎藤誠の話はこうだ。

 

あの謎の襲撃者、歩夢は僕のクローンらしい。

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!?」

 

なに言ってんだよ!?このストーカーさんは!?

 

クローン!?

 

僕の??!!

 

「有り得ないって!」

 

「いや、あり得る話だ」

 

「ねぇーよ!!」

 

「じゃあ貴様はあの男が貴様と似ている訳を知っているのか?」

 

それはあれだろ?

 

ほら、あの……

 

よくある、あれだ!!

 

「た、他人の空似?」

 

「ボクもそれは無いと思うよ」

 

ですよね~。

 

「まぁ正直、俺自身確証している訳ではない、貴様と同じ顔をした人間が2人もこの世に存在しているなんて地獄だが、あり得る話だ」

 

「そもそも、僕のクローン何て作った所で何の特にもないだろ?」

 

「……そうでもないな」

 

またしても斎藤誠は苦い顔をした。

 

「屈辱的だが、俺を襲った時の貴様の姿、いや、力は脅威的だった」

 

「だから?」

 

「学園都市は何も制理の様な聖母ばかりではない、貴様の様な悪人もいれば、俺の様な道を踏み外した馬鹿も多くいる」

 

こいつの中で吹寄のランクがみるみる上がって行くのはこの際目を瞑ろう。

 

「それは科学者にも例に漏れない、考えて見ろ、貴様の様なあの化け物を量産して兵士に出来たら途方もない戦力になる、俺の考えはそれを実現しようとした馬鹿が本当に実現しちまったと考えている。あの襲撃者はその第1号と言う訳さ」

 

「……」

 

馬鹿げてる。

 

クローン何てモノはSFの中の空想でそんなの簡単に出来るわけがないのだ。

 

しかし、

 

だが、

 

もしも、

 

もしも、100歩、200歩譲ってそれが本当だとしたら、

 

僕は何と考えるのだろうか?

 

答えは簡単だ。

 

許せない。

 

僕の中の化け物はこの世に居てはいけない代物だ。

 

それがこの世に2体も存在するなんて、いや、これかも増えるなんて、あってはならないのだ。

 

「……誰がそんなことを?」

 

「さぁな、流石に俺でもそこまではわからない」

 

「あ、ボクはわかるよ」

 

「「………はい?」」

 

大村義さんの言葉に僕達は固まった。

 

「ついでに、誠ご執心の女の子の行方もわかるかもしれないかな?」

 

大村義さんは程よくある胸を張りながらそんなことも言い出した。

 

「どこだ!?言え!?」

 

そして、食い付きぐわいが気持ち悪い斎藤誠の問い掛けに大村義さんは頭を掻きながらこう言った。

 

「正確にはわかるかも知れない場所を知っているって言えばいいかな?」

 

「だから、どこだ!!」

 

「誠の実験を提案した研究所だよ」

 

 

 

 

 

それから2時間の時間が流れた。

 

そして、僕達は現在。

 

「し、死ぬ!!社会的にも!!生命的にも!!」

 

「大村!!貴様の話は本当なのか!?ヤバイ!!『W.A.L.2』!!」

 

「うわっ!?テメェコラッ!!アブねぇだろ!?」

 

「うるさい!!早く構えろ!!次の警備ロボが来たぞ!!」

 

「ぎゃぁ!?」

 

「そもそも、誠が実験の前の調整の為に病院に行くって事がイレギュラーだったんだよ、調整はボクがいれば成り立つ訳だし」

 

「なんか巨大ロボ出た!?」

 

「離れて……いや!!そこにいろ!!『W.A.L.3』!!」

 

「テメェ!!僕ごと潰す算段だろ!?」

 

「多分、誠の予想外の暴走も視野に入れて、予想してあの病院に向かわせたんだと思う」

 

「き、貴様!!その血の弾丸の射程に俺を捕らえてないか!?」

 

「気のせいだ!!死ね!!」

 

「確信犯だろ!!『W.A.L.1』!」

 

「だから研究所のデータをハッキングして本当の実験の内容を調べれば何か糸口が見つかるんじゃないかな?」

 

「なんだ!?風の弾丸!?このパクり野郎!!」

 

「違う!誰が貴様とお揃いの能力なんて欲しがるか!!」

 

「……あれ?なんだろこれ『遺伝子研究レポート』?」

 

「おいちょっとまて!!なんだあれ?!」

 

「ん!?ひ、人型ロボットだと!?」

 

「重火器のオンパレードじゃないか?!」

 

「ヤバイ!!ヤバイ!!ヤバイ!!ヤバイ!!ヤバイ!!」

 

「……?!これって!」

 

「「何でもいいから早くしてくれませんかね!?」」

 

警報が鳴り響く研究所で数百体もの警備ロボと戦闘を行っていたのだった。

 

 

 

 




さて、物語もようやく折り返しを迎えました。

次回は歩夢視点の話になります。




やっぱり、斎藤誠、気持ちわりぃwww


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御坂妹編、考えて、考えずに、彼は行動した

今回は歩夢視点の話になります。



宇宙エレベーター建設地点。

 

完成を間近に控えたそこの下腹部に小野町仁のクローン、歩夢はいた。

 

下腹部と言っても最上階が宇宙であるエレベーターであるため周りのどのビルよりも高い位置にいるのだが。

 

「…………」

 

歩夢は窓から夜景を眺めながらを何かを考えていた。

 

しかし、そんな事をお構いなしに彼に近寄る女性が一人。

 

「また考え事ですか?とミサカ××××号は貴方に問いかけます」

 

彼女のナンバーは××××号、とある事情で歩夢の補助を任された為に彼女の同個体の本来の製造目的であるはずの事柄から、強引に引き離されたシスターズである。その為に本来なら付けられる筈のナンバリングが無く『××××』と言うナンバリングがつけられているのだ。

 

他の個体と違うのは何もその存在理由だけだは無い。

 

学園都市が誇る演算装置、『ツリーダイアグラム』の補助の為に開発された『試作2号機』。

 

そこから膨大な量の情報や電力を受信している歩夢だが、その膨大な量故にいかに歩夢といえどダイレクトに受信し続ければ脳が耐えられない。

 

その解決策としてミサカ××××号を変圧器として代用し、彼女を通して歩夢は様々な恩恵を受信しているのだ。

 

その為にミサカ××××号は他のシスターズと違い脳の発達が必要であり、外見年齢が高校生に近いものとなっていた。

 

「ん~、まぁな」

 

「『心理掌握』が離脱しました、とミサカ××××号は貴方に報告します」

 

「あの巨乳ちゃんの準備は?」

 

「そちらは問題ありません、事前に拘束後意識をシャットダウンしましたので、これから8時間は何が起きようとも目は覚めないとのことです、また、今回の実験開始の前1時間程の記憶は消したとも言っていました、とミサカ××××号は『心理掌握』に言われた事を簡易的に貴方に報告します」

 

「りょーかい……りょーかい」

 

「あと、伝言が1つ、とミサカ××××号は『心理掌握』から貴方に向けて言われた事を、付け加えます」

 

「?」

 

「こほん。『目的は果たしたし、何かつまらなくなったから私は帰るぞ☆』とミサカ××××号は今度は一時一句間違いなく、貴方に伝言します」

 

「はいはい」

 

「ジィー……」

 

「……何?」

 

報告を終えたミサカ××××号は歩夢をじっと見ている。

 

「何を考えているのですか?とミサカ××××号は今後の実験に支障がないか確認を取ります」

 

「別に別に、対した事じゃないよ」

 

「ほら話してみなさい、とミサカ××××号は貴方の言葉を無視して回答を求めます」

 

「いや……だから」

 

「ほら、とミサカ××××号は貴方に近づき再度問いかけます」

 

「逆に聞くけど、何でそんな聞きたがるの?」

 

「それはミサカは貴方の身の回りの世話から、能力補助まで様々なサポートを任されているからです、とミサカ××××号は巷で言うところのおねぇさんキャラ的な事を言います」

 

「あっそう」

 

「で?とミサカ××××号は……」

 

「わかったわかったから何度も聞くなよ『ねぇちゃん』」

 

「!!な、なんでしょう?今胸がキュンとしました!!これがいわゆるブラコン!?とミサカ××××号は驚愕します!!」

 

「いや……違うと思うぞ?」

 

「も、もう一度!もう一度だけ『おねぇたん』と言って下さい!とミサカ××××号は貴方にお願いします!!」

 

「そんな事は言っていない、……はぁ、あんたらの事を考えていたんだよ」

 

「ミサカ達の事ですか?とミサカ××××号は『おねぇたん』と言われなかった事に落ち込みながら、首を傾げます」

 

「俺はお前たちの開発システムを利用して作られたクローンだ、その目的は『生きる事』。じゃあお前達の目的はなんで『死ぬ事』なんだ?」

 

「それはミサカ達の本来の実験目的である『レベル6シフト計画』の事ですか?とミサカ××××号は聞き返します」

 

「うんうん、そもそも、お前達死ぬのが怖くないの?」

 

「別に、としか答えられません、とミサカ××××号は本心を口にします」

 

「……そんな考え方は俺は持っていねぇや」

 

「何が言いたいのです?とミサカ××××号はこの会話の真意について問います」

 

「いや、特に意味は無い、だけど」

「だけど?とミサカ××××号は答えを渋った貴方に回答をつづけるよう要求します」

 

「スゲーグイグイくるのな?」

 

「当たり前です、とミサカ××××号は速答します。ミサカの役割は貴方のサポートですから、とミサカ××××号は回答します」

 

「本当にそれだけ?」

 

「……そ、そうです、とミサカ××××号は……」

 

「お前って嘘が下手なんだな」

 

「ギクッ、とミサカ××××号は意外に鋭い指摘に驚きを隠せません」

 

「なんだよ?」

 

「そうですね……さみしいから、とミサカ××××号は一番答えに近い回答をします」

 

「さみしい?」

 

「先程研究機関から連絡があり、貴方の脳の成長を視るにもう『試作2号機』からの受信に耐えられるまで変化している事がわかった為、ミサカを本来の実験に戻すとの事です、とミサカ××××号は貴方に通達します」

 

「……てっことは、お前は死にに行くの?」

 

「はい、そうです、とミサカ××××号は回答します」

 

「……………」

 

歩夢は自分の胸に芽生えた『何か』がわからなかった。

 

しかし、彼はあくまで科学的に作られた人工な人間である為に、その事を深く考える程、道徳心は持ち合わせていない。

 

先程から考えている、シスターズが持つ、いや、持っていない『死』に対する恐怖心はなんなのか?そもそも『死』とはなんなのか?その問題も短い会話で答えを得られる筈もなかった。

 

しかし、

 

それでも、

 

歩夢は行動した。

 

考えて、考えずに、彼は行動する事しかできなかった。

 

「話は変わるけどさ、その『××××号』って言いにくく無い?」

 

「?いきなりなんですか?とミサカ××××号は急な話題の変化に驚きます」

 

「いやいや、正直あんたが構わなくてもさ、こっちは言いにくいわけよ」

 

「はぁ……とミサカ××××号は貴方の曖昧な言葉に曖昧な回答しかできません」

 

「でさでさ、アダ名つーの?名称つーの?そんなのを考えた訳よ」

 

「別に好きに付けて構いません、とミサカ××××号は答えます。で、なんですか?とミサカ××××号はちょっと興味を持ちます」

 

「バツコ」

 

「…………はい?」

 

「だから『バツコ』だって!!『××××号』『×が4つ』『×掛ける4』『×4』『×子』『バツコ』よくない?」

 

「えぇ……とミサカ××××号は………」

 

「ノンのん!!バ・ツ・コ!」

 

「………バツコは貴方の残念なネーミングセンスにがっくりとうなだれます」

 

「少なくてもさ俺の前だけでもいいから、今日からお前はバツコだ、はい!!決定」

 

「まぁ、しょうがありません、と……ば、バツコは仕方なく承諾します」

 

「でさ、バツコ、まだ実験には時間かかるよな?」

 

「そうですね……予測している時間には確かにまだ余裕がありますね、とバツコは答えます」

 

「そーか、そーか」

 

歩夢はバツコに近寄り、その顔に手で触れた。

 

「何しているのですか?とバツコは貴方に問いかけます」

 

バツコの問いに今までに無いぐらい簡単に、淡々に歩夢は答える。

 

「今からお前の顔を『焼くから』」

 

「はい?とバツコは――」

 

ミサカ××××号改めバツコの言葉が途切れた、理由は簡単だ。

 

バツコの顔に触れていた歩夢の手が高電圧を帯び、バツコの顔を焼き出したからだ。

 

叫びもなかった。

 

ただただバツコは気絶に近い感覚で意識を奪われ、顔面を焼かれたのだ。

 

歩夢は肉が焦げたような嫌な臭いに顔をしかめる。

 

「……まぁまぁ、こんな時はこう言うんだよな?いままでありがとう『ねぇちゃん』」

 

歩夢はバツコの身体を抱えると、歩き出した。

 

歩夢の中で何がどうなって、こんな所業をしたのか?

 

それは歩夢本人にもわからない。

 

彼はただ何となく「こうした方がいい」と思い、行動しただけだ。

 

それを直感だと言う人もいるだろうが、そんな推考なものではない。

 

あえて言うならば、ただの「気紛れ」に過ぎないのだ。

 

果たして歩夢の気紛れはバツコを「救った」のか「救わない」のか、その「結末」を語るのはまだ早い。

 

「結末」を語るのは決まって最後になるからだ。




またしてもオリジナルキャラ、御坂妹改めバツコの登場です。

彼女がどうなったのたのか、それはエンディングで。

歩夢は歩夢で小野町仁とは違う正義を持っているのかも知れないです


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御坂妹編、これは『正義』と『罰』の物語。

ようやく一段落つきそうです。


斎藤誠は身体中が優しく包まれる感覚を感じていた。

 

暖かい。

 

安心する。

 

そんな感覚を繰り返し繰り返し感じているのだ。

 

「約束守ってよ?」

 

後ろから声が聞こた。

 

大村義の声だ。

 

斎藤誠は大村義により能力を調整されていた。

 

その為かわからないが、現在2人は誰もいない室内で、詳しく説明すると小野町仁の部屋で上半身を裸に大村義が後ろから斎藤誠を抱きしめている。

 

因みにこの部屋の本来の住人である筈の小野町仁は部屋の鍵を奪われた後、別行動を強制され、この場にいない。

 

研究所から資料を強奪した3人は、ようやく、事の真相にたどり着いた。

 

斎藤誠の能力限界の向上の為の実験。

 

小野町仁のクローン。歩夢の進化の為の実験。

 

2つの狂気染みた実験が起こした今回の事件。

 

それはそろそろ終盤を迎えようとしていた。

 

いや

 

少なくとも斎藤誠と小野町仁は終わらせるつもりだった。

 

そして、吹寄制理奪還の準備をしているのである。

 

準備と言ってもそれほど大掛かりな事はない。

 

小野町仁にとっては身体1つだけあれば事足りるし、斎藤誠は大村義の調整を受ければいいだけなのだ。

 

だが、その調整が問題あった。

 

大村義は個人的に吹寄制理と面識があるわけでもなく、ぶっちゃけ彼女がどうなろうと知ったことではないのだ。

 

ではなぜ、現在斎藤誠に調整を施しているかと言えば、ある条件を提示された他ない。

 

大村義と言う女子はどちらかと言えば、自分に得する事のみ動く人間だ。

 

そもそもこの実験に協力する動機には斎藤誠の存在が大きい。

 

しかし、斎藤誠が大村義と出会ったのはこの実験が開始される時、つまりまだ1日も経過していないのだ。

 

それでも、大村義は斎藤誠の味方をした。

 

果たしてそれは彼女にとって何が『得』になるのか?

 

その答えを知っているのは当然ながら大村義本人しかわからない。

 

 

 

 

 

そして、斎藤誠はそんな目的がわからない大村義に現在、命を預けているのだ。

 

彼女の気持ち1つで斎藤誠の能力はその真価を発揮するかどうかが決まる。

 

これから起こるであろう戦闘でそれは命に関わる問題だった。

 

しかし、それでも一切の不安を感じずに斎藤誠は大村義に命を預けているのだ。

 

斎藤誠にとって最も大切な事は、今までに何度も話しているが、吹寄制理の平和だけである。

 

彼女が現在囚われの身になっているのならどんなことでもやってのける。

 

斎藤誠と言うストーカーはそんな人間だ。

 

しかし、その行動の動力源にあるのは、何も吹寄制理に対しての大きすぎる愛情だけではなかった。

 

大半は確かに愛情が占めているのだが、もう1つ彼が動く動機がある。

 

それは

 

(……『罪』だ)

 

(これは俺の『罪』『赤印』『後ろめたさ』『償い』それら全部だ)

 

彼は何も初めからこんな異常者ではなかった。

 

初めはただ人に恋するどこにでも居る少年だった。

 

好きな人がいるだけで心が踊った少年だった。

 

好きな人と話せるだけで幸福な気持ちになる少年だった。

 

しかし、

 

何かが狂ってしまった。

 

狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って

 

少年は好きな人を事もあろうに深く傷付けてしまった。

 

逮捕された時に斎藤誠の心にあったのは罪悪感と後悔のみだった。

 

斎藤誠は確かに異常者であり、異常なストーカーだ。

 

だが、それでも彼はまだまともな精神を持ち合わせていた。

 

それが彼にとって不幸な事だった。

 

もしも、そんな後悔やら何やらの思いが無ければ彼はまだ前を見ていられただろう。

 

だがしかし、

 

彼は完全な異常者になりきれていなかったのだ。

 

(彼女を……救う!!それが俺の『罪』そして『罰』!)

 

斎藤誠に吹寄制理が心開く事はこれから先あり得ないだろう。

 

斎藤誠は吹寄制理を傷付けた、そんな人間がいくら後悔しようと、心入れ替えようとも、もはや彼の想いが彼女に届くと言う幸せな未来などない。

 

少なくとも斎藤誠はそう考えている。

 

ではなぜ、吹寄制理を救うのか?

 

簡単だ。

 

例え異常者になっていても、

 

例え自分に振り向かなくとも、

 

斎藤誠は吹寄制理に幸せになって欲しいからだ。

 

例えその幸せの中に自分がいなくても、吹寄制理には笑っていて欲しいからだ。

 

例えその幸せに自分がいなくても、彼はただ彼女を救う為に戦う。

 

それが斎藤誠に残された愛情表現であり、罪滅ぼしなのだから。

 

だから、彼は自分が死ぬ事になっても構わなかった。

 

もしも、大村義が裏切り、彼の能力を調整しなくとも、この腐り切った実験から刺し違えても、相討ちになろうとも、最終的に自力で大切な人を救う覚悟があるのだから。

 

 

 

 

 

斎藤誠と大村義。

 

出会ってまだ1日も経過していない2人の関係はそんな事で繋がっているのだ。

 

 

 

 

 

そして、もう1人。

 

正義の味方側の悪役も、とある覚悟を決めて、戦場に向かっていた。

 

 

 

 

 

これは『正義』と『罪』の物語。

 

しかし、そこに『正義』は無く、あるのは自分勝手な悪達が自業自得に招いた『罪』のみが蠢き、打つかり合う。

 

そんな物語。

 

そして、その物語はもうすぐ終わりを迎えようとしている。

 

 




これでようやく一段落です。

彼等の胸の内には正義があり、罰がある。そんな彼等の中で女神が微笑むのは果たして誰なのか?

次回はもう少し待っていてください。

大体2来週頃には再開します!!

では!


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御坂妹編、生きる事

久しぶりです!!

今回は戦闘回です。


時刻はすでに夜を迎え、学園都市はビルや街灯の明かりで、色鮮やかな夜景を生み出していた。

 

その中で一際輝きを出しているのは宇宙エレベーター『エンデュミオン』だ。

 

その入口の橋を歩く少年が1人。

 

少年は橋の中腹部でその足を止めた。

 

なぜならば、声が聞こえたからだ。

 

「ようよう、どうした?どうした?」

 

少年はエンデュミオン入口に目を向けると、夜景の淡い光を受け、こちらに向かい歩いて来る歩夢がいた。

 

「危ない危ない、ちょっとちょっと寄り道していただけなのに間に合わなくなるところだったぜ」

 

少年は何も返さない。

 

あるのは目の前にいる悪を睨む目だけだ。

 

「しっかししっかし、意外だな」

 

歩夢はそれを気にしない様子で続ける。

 

「てっきりルール無視して2人で来るかとばかり思っていたんだが、お前だけ?まぁ、あんなルール今さらだけどさぁ、それに実験は俺が誰であれ戦闘をすればいいらしいから別にいいんだけどさ、………ところで」

 

歩夢はここで始めて、自分を睨みつける目を真っ直ぐに見ながら聞いた。

 

「『オリジナル』はどこにいるんだ?」

 

その問いに、

 

少年は、

 

斎藤誠は答える。

 

いや

 

答えない。

 

彼は自分がここにいる目的のみを叫ぶ!!

 

「制理はどこだ!?クソ野郎!!」

 

こうして、クローンとストーカーの戦闘が始まった!!

 

 

 

 

 

「『W.A.L.1!』」

 

始めに動いたのは斎藤だった。

 

彼は技名を叫ぶと脳内のパーソナルリアリティに強制的にインプットされた能力、この場合は指先にある空間を加速し発砲する『W.A.L.1』を発動し放つ!

 

風の弾丸は真っ直ぐに歩夢に向かい弾丸の速さで進行していく!!

 

対して歩夢のとった行動は簡単だ。

 

確かに歩夢はクローンやら電力系の能力者やらその他諸々の大層な肩書きを持ってはいるが、そのスペックは普通の人間と大差なく、

 

特別頑丈ではないし、

 

特別痛みに耐えれる訳ではないし、

 

何が言いたいのかと言えば、

 

痛いものは痛いのだ。

 

よって歩夢は全力で、全身で風の弾丸を避けた。

 

歩夢の頬を風の弾丸が掠り、そのまま後ろに流れて行く。

 

だが、

 

しかし、

 

歩夢は腐っても、クローンで電力系の能力者で、その他諸々の大層な肩書きを持っている。

 

そんな彼がただ回避するだけで終わるわけがないのだ。

 

歩夢は倒れながれも、身体中に充電されている電力を右手を突き上げる事で放出する。

 

放出された電力は雷と同等の速さで、光速の速さで、真っ直ぐに、所々曲がりながらも、斎藤誠に向かい進行していた。

 

斎藤誠はストーカーで能力のレベルを持たない、異質で、異様で、イレギュラーな存在であるが、別にそんな肩書きが雷を回避する訳もなく、現に彼は歩夢の攻撃に気が付く事が出来ないでいた。

 

彼は雷を回避することは出来ない。

 

だけれども、

 

そもそも回避する必要事態がなかったのだ。

 

雷はなぜか斎藤誠を撃ち抜かずに、異常なほど急に曲がり、斎藤誠の隣の橋の手すりにぶつかったのだ。

 

「……はあ!?」

 

(なんだなんだ?雷があんなイレギュラーな動きをするなんて有り得ないまるで……)

 

歩夢の思考はそこで途切れた。

 

理由は斎藤誠の呟きがあったからだ。

 

「………忌々しい」

 

「?」

 

呟きはどんどん大きくなっていき、すでに叫びに変わったていた。

 

「あぁ忌々しい、忌々しい!!なんだ貴様!!驚く声!!驚く表情!!それによりにもよって!!まだ勝てると確信している心境!!何がなにまで!!なんであの男とそっくりなんだ!!」

 

「お、おい……?」

 

「死ね」

 

「はい!?」

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 

ガクンッ!!

 

と歩夢の身体は突然きた重さに耐えきれずバランスを崩す!!

 

「がっ!?こ、これは?!」

 

「……『W.A.L.3』。そのまま潰れろ」

 

斎藤誠の能力、空間をガラス状に加速させ相手を潰す、W.A.L.3が歩夢の身体を容赦なく地面に押し潰す!!

 

「ち……くしょうがぁ!!」

 

歩夢も負けじと手から雷を放電する。

 

が!!

 

しかし!!

 

やはり、歩夢の雷は斎藤誠に届かず、あらぬ方向に霧散していくのだった!!

 

(なんなんだなんなんだなんなんだ!?)

 

その時である。

 

歩夢は目撃する。

 

街の明かりが妙な事に斎藤誠の回りだけぶれているのだ。

 

それはまるで、斎藤誠を中心に何が覆っているのかのように。

 

「く、空気の……玉!?」

 

斎藤誠の能力、回りに空気の弾丸を無数に作り出す、W.A.L.2だ。

 

W.A.L.2は本来は無数に作り出した空気の弾丸を一斉に放ち、W.A.L.1よりもより広範囲により連写的に攻撃を行う能力なのだが、それだけではない。

 

そもそも、空間加速とは風を一ヶ所に集め回転させながら、加速していく能力だ。

 

風とは詰まるところ空気。

 

詰まるところ、斎藤誠は無数に空気の層を作り出しているのだ。

 

こんな体験は無いだろうか?

 

走っている車の窓を開けると、窓から風が押し押せて来る経験は?

 

風は動く事により質量を持ち、更に回転させる事により更に質量を増加させる。

 

まさに目に見えない物体なのだ。

 

これが、小野町仁のBBや歩夢の雷を防いだ理由である。

 

そして、これが斎藤誠の能力の本性。

 

空間加速とは空気に質量を持たせる能力なのだ。

 

これにより空気の弾丸や空気の壁を作り出して相手を攻撃していた。

 

風を使う斎藤誠と雷を使う歩夢。

 

風と雷。

 

これまで相性が悪いモノはない。

 

 

 

 

 

逆もまたしかり

 

 

 

 

 

「な、舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

歩夢の身体から、雷が放電する!!

 

すると、彼を押さえ付けていたW.A.L.3が音もく、しかし確実に崩壊していった!!

 

「!?」

 

空気分解。

 

我々が吸っている空気は何も酸素だけで構成されている訳ではない。

 

二酸化炭素、車の排出ガスその他諸々……色々な物質で構成されているのだ。

 

そして、それらを分解できる代表的なものは『電気』である。

 

電気分解で分解してしまえば、いくら質量を持っている空気も、ただの酸素に変わるのだ。

 

歩夢が行ったのはそれに近い。

 

「はぁ……おいおいおいおい勝手な事言ってくれるじゃないの?やっぱあんた相当ぶっ飛んでるな」

 

「ふんっ!!貴様よりかはマシだ。クローン」

 

「まぁまぁ、ここにいるんだから大体の状況はわかっているわな」

 

「俺としては貴様の方が相当にヤバイと思うがな」

 

「いやいや、俺は簡単だよ、だって他にすること無いし、わからないんだから」

 

「わからない?」

 

「俺の製造目的は人類の進化だっけ?まぁまぁそこはいいんだよ。そんなのは知っちゃこっちゃないし、そもそも俺は人間じゃないわけだしな」

 

「だったら貴様の目的はなんだ!?なぜ制理を誘拐した!?」

 

「……生きたいからだよ」

 

「……なに?」

 

「俺は生きたい、勝手な理由で産まされたとしても!!生きていたい!!それが生き物の目的だろ!?こんな実験は興味はないが!!取りあえず実験していれば俺は生きている!!」

 

「……」

 

斎藤誠は歩夢の気持ちはわからなかった。

 

いや、そもそも普通に産まれた人間には歩夢の気持ちはわからないだろ。

 

これはクローン特有の『望み』なのだから。

 

学園都市第3位の遺伝子から産み出された妹達はそう言ったモノを初めから消されているが、歩夢はほぼ何も植え付けられていないし、消されていない。

 

完全無垢なクローン人間だ。

 

そんなクローンの考えなど誰が理解出来ようか?

 

「まぁまぁそんなわけだから、取りあえず実験に付き合ってくれや」

 

歩夢はただ単純に斎藤誠に向かい走り出した!

 

「っ!『W.A.L.2』!!」

 

斎藤誠は瞬時に風の玉の集合群を作り出し歩夢を迎え撃つ!!

 

しかし!!

 

「ダメダメ!!ダメだろ!!」

 

歩夢は再び身体から雷を放電し電気分解を行い、風の玉1つ1つを霧散していった!!

 

そして、

 

「クソッ!!『W.A.―――」

 

「させねぇよ!!」

 

風の玉の集合群と言う殻を強引に分解し剥き出しになった斎藤誠を、雷を放電し続ける右手で殴り付けた!!

 

斎藤誠の腹部に雷を放電する拳がぶつかった瞬間、彼の身体に文字どおり電流が流れ、

 

身体の内側から肉を焦がし、

 

斎藤誠の身体は本人の意思とは無関係に、

 

雷により痙攣した全身の筋肉の動きにより、

 

後ろに飛び退いた!!

 

歩夢は放電を止めると、ただ呟く。

 

「『オリジナル』風に言わせて貰うと、あれだあれ」

 

「俺にとって生きる事が正義なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大体後5話位で終わらせるつもりです。

ではまた明日。


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御坂妹編、彼女がいること

久しぶりです、今回は斎藤誠と歩夢の戦いの決着です。


御坂妹編、彼女がいることも要らない……。

 

欲しいのは愛だけだった……。

 

ただそれだけだった……。

 

彼女を愛すればそれだけでよかった……。

 

「君に『力』を与えよう」

 

だからあの人に願ったんだ……。

 

「君は

『愛する人を守れる力を持っている』

のだから」

 

そうだ……。

 

俺は……。

 

彼女を守る……守れる!!

 

 

 

 

 

 

 

空間加速。

 

何度も言うが斎藤誠の能力である空間加速は空気を回転させる事により質量を持たせる能力だ。

 

そして質量を持っている空気は空気抵抗により電撃を拡散させる性質を持っている。

 

歩夢の雷を放電する拳が斎藤誠にぶつかった際、斎藤誠の回りの空気玉は電気分解で霧散していた。

 

しかし。

 

それはあくまで前方の話である。

 

つまり、後方の空気玉はまだまだ健全しており、一瞬だが後ろに飛ばされた斎藤誠はその空気玉に触れていた。

 

一瞬、この一瞬が奇跡だった。

 

斎藤誠の身体に触れたいくつかの空気玉は彼の身体に入り込んだ雷を吸出し、そのまま拡散していたのだ。

 

斎藤誠の身体に入り込んだ雷は瞬間的ではあるがいくらか彼の身体から抜け出していた。

 

何が言いたいのか言えば、

 

つまり、

 

即ち

 

斎藤誠はまだ生きていた。

 

「…………ガバッ!!」

 

 

 

 

 

目の前で血ヘドを吐き、うずくまる斎藤誠を歩夢は驚きの眼差しで見た。

 

「うわ!?は!?え!?マジで!!マジかよ!?」

 

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

斎藤誠が命を取り止めたのは、本当に偶然だ。

 

歩夢と斎藤誠はなぜ助かったのか、その訳がわからないでいた。

 

だが、

 

「くそ……」

 

「あらら?」

 

いくら命が助かっても、斎藤誠にはもはや戦うほどの体力は残ってはいない。

 

彼は今、全身の内臓が焼かれているのだ。

 

呼吸をするのも辛いはずだ。

 

そして、戦えないのは歩夢も同じこと。

 

正確には、これ以上の戦闘は避けたいのが歩夢の本心だった。

 

彼は始めて行った電気分解で体内に充電されていた電力の約7割を消費している事に気が付いていた。

 

(こいつはもう戦えない……。だが何をするかわかったもんじゃない)

 

この短い間で歩夢は斎藤誠と言う人間を理解する。

 

この男は危険だ。

 

もし、この場を逃したら次は歩夢が痛い目を見ることは明らかだった。

 

歩夢は身体に残った僅かな電力を削り右手に溜める。

 

今度は確実に、

 

皮膚を焼くとか、

 

内臓を焦がすとか、

 

そんなあまっちょろい事はしない。

 

確実に、確定に、確信に、この男を殺す。

 

「1つ聞きたいんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「あんたの事は余り知らないだけどさ、何があんたをそこまで掻き立てるんだ?」

 

「決まっている。制理が生きているからだ」

 

「制理?……あぁあの巨乳ちゃんね。……え!?それだけ!?それだけであんた死にそうになっているの!?」

 

「当たり前だ。俺は彼女が生きていればそれでいい。生きているだけでいい」

 

「馬鹿なのか?」

 

「そうかもな、自分勝手だと理解しているし、間違っているなんて百も承知だ。だがそれでも、俺は彼女が好きだ」

 

「好きで好きで好きで好き過ぎて、こんな力を持ったのかもな!!」

 

斎藤誠は最後の力を振り絞って能力を発現させる!!

 

風が不規則にあり得ない動きをする!

 

だが!!

 

電気分解できる歩夢には効かない!!

 

歩夢は身体から雷を放電し、電気分解を開始させながら前に出る!!

 

違う事と言えば先とは比べられない程の電力を右手に溜めている事だ!!

 

触れれば、容赦なく殺せる右手を!

 

しかし!!

 

だが!!

 

(!!……なんだ!?この風の動きは!!)

 

風の動きは止まらない!!

 

歩夢には斎藤誠が何をするつもりかわからない!!

 

この風の動きは今までのW.A.L.1、W.A.L.2、W.A.L.3、どれとも違っていた!!

 

風は、溜まる!!

 

それは指先ではない!!

 

それは身体の周りではない!!

 

それはガラス状ではない!!

 

溜まるのは!!

 

斎藤誠の右手の掌だ!!

 

「彼女が居ること!!それが俺の正義だ!!」

 

「『W.A.L.4』!!」

 

斎藤誠の掛け声により脳内のパーソナルリアリティがある1つの事柄に固まる!!

 

掛け声に反応し、右手の掌から風が噴出した!

 

それはただの風では無い!!

 

周りに転がる破片を巻き込み、刃に変える!!

 

電力分解できる範囲を越えた攻撃!!

 

そもそも分解でどうにかなる事では無い!!

 

(新たな能力の開花!?違う!こいつレベル4になりやがった!?)

 

歩夢は焦る!!

 

しかし、この場に小野町仁がいれば別の意味で焦って居ただろう。

 

それは過去に小野町仁が受けた攻撃方法。

 

人工的に鎌鼬を作り上げる能力。

 

過去の斎藤誠が戻って来た。

 

狂って狂って狂って!!

 

狂い通して、一周りして戻って来た人格異常者の斎藤誠が!!

 

鎌鼬は勢いを無くすこと無く、容赦なく、歩夢の身体を引き裂いた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斎藤誠は最後の力を振り絞って出したW.A.L.4が歩夢の皮膚や肉を切り裂きながら飛ばすのを確認すると、その場に倒れこんだ。

 

(……終わった)

 

斎藤誠はそう確信したが、

 

驚く事が起きた。

 

「ぐぅ……ま、まだ安心は早いんだなぁ……」

 

「……な!?」

 

歩夢は全身の皮膚や肉を切り裂かれ、激しく出血しているが確実に着々と、しっかりとその両足で立ち上がった。

 

「ヤバかった……本当にヤバかった……辛いし……痛いし……苦しい。だがそれでもいい。もう容赦なんてしない」

 

W.A.L.4は強力な能力だ。

 

鎌鼬は常人なら死の可能性も視野に入れなければならない。

 

しかし

 

歩夢はかけ離れていても、過去に小野町仁がそうであったかのように、その遺伝子を模作した化け物なのだから、無事ではすまなくとも、そこから死に繋がる事はなかった。

 

ともあれ歩夢は生きている。

 

「殺す……、俺の正義の為に、お前の正義を殺す。諦めろ!!ストーカー野郎!!」

 

歩夢は雷を放電する右手を前に出しもはや戦う事が出来ない斎藤誠に向かい走り出した!!

 

この瞬間、斎藤誠は死を覚悟した。

 

(………あぁ、ちくしょう……)

 

斎藤誠に残っているのは激しい後悔の思いのみだったのだが。

 

それは

 

突然、

 

やって来た。

 

「まだ諦めるのは早いぜ!!このストーカー野郎!!」

 

そんな声と共に、歩夢と斎藤誠の間に大きな何かが空から落下し、土煙を挙げ彼らの視界を奪う!

 

土煙の中には大きな何かのシルエットが浮かび上がっており、更にその上に何者かが立っているシルエットも確認できた。

 

その何者かは斎藤誠に語りかける。

 

「別に、僕はお前の事を許さないし、殺したいし、理解するつもりもない。お前らの勝手な正義を押し付けるな!!僕は僕のしたいことをする。だから助ける。だから助けろ!!」

 

土埃は次第に晴れていき、何者かの姿が確認できた。

 

しかし、歩夢も斎藤誠も驚く事はなかった。

 

彼らが思ったのは、あぁやっぱりな、的な事を考えていたのだから。

 

その何者かは今度は歩夢に語りかける。

 

ただ簡潔に、一言だけ語った。

 

「よう……『偽者』」

 

その返しに歩夢も一言だけ語る。

 

「よう……『オリジナル』」

 

ようやく、

 

この戦場に、

 

正義の味方側の悪役が。

 

小野町仁が参上した。

 




ようやく主人公(笑)登場。

次回、小野町仁の卑怯な戦いを見下げて下さい。

では!


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御坂妹編、ぷっ!!

超展開です。


「よう……『オリジナル』」

 

歩夢は突然現れた小野町仁の姿を睨み付けながらも、どこか、安堵の感情を抱いていた。

 

そう、これでなくてはいけない。

 

歩夢は『生きる』事によりその存在が確定されると信じている。

 

そして、絶対の強さを示さなければ生きていられないと考えていた。

 

もしも、自分のベースである小野町仁が臆病風に吹かれてこの場に現れなければ、そのクローンである歩夢もそうであると思われソレが揺らいでてしまう。

 

そしてこの実験とは違い、歩夢には別の目標が挙げられていた。

 

それは、『オリジナル』である小野町仁の撃破。

 

『オリジナル』が居なければ、自然と自分が唯一の『小野町仁』になれる、と考えていた。

 

だから、今の歩夢の状況は絶望的だった。

 

先の斎藤誠との戦闘で、歩夢の体内に残された電力は残り僅になってしまっていた。

 

(まずは充電だ)

 

歩夢の特性『充電』。

 

学園都市人工衛星、『ツリーダイヤグラム』。その補助2号機。

 

歩夢はそこから膨大な情報と電力をワイラレスで充電するのだ。

 

現在、小野町仁はこちらを気にしながらも斎藤誠と会話していた。

 

それはなぜか?

 

決まっている。

 

油断だ。

 

斎藤誠にはすでに、電力が少なくなっている事は伝えていた。

 

そこらか、歩夢が弱っていることは簡単に予測できるだろう。

 

そこから来る油断だ。

 

小野町仁と斎藤誠は具体的な充電の方法は知られていない。

 

それに、資料には歩夢の充電には第3者、ミサカ××××号改めバツコの補助が必要とされていたが、

 

現在、歩夢の脳はその補助が必要要らない程に成長していた。

 

彼等が最も注意しているのは、充電する際に呼ぶであろうバツコが来るかいなかだ。

 

そして、そのバツコが現れない所から、まだ歩夢は充電しない、出来ない、と予測していたのだろう。

 

そこが、油断だ。

 

歩夢は充電を開始する。

 

 

 

 

 

 

「アイツは今弱っている」

 

斎藤誠はそう言った。

 

確かに、資料には、なんだっけ?あぁそうそう妹達とか呼ばれる人間が必要だと記載されていたっけ?

 

その妹達とか呼ばれる人はまだ姿を見せて居ない。

 

ならば、奴が充電しようとするのはまだ先の筈だ。

 

だから、今はやるべき事をやる。

 

「貴様……今までどこに居て何をやっていたんだ?」

 

「宇宙エレベータの中で色々とね」

 

「!!せ、制理は!?」

 

「居なかった」

 

「……なに?」

 

「だから上の方には居なかったんだ」

 

「ならば……どこに?」

 

「多分……下の……地下とかじゃね?」

 

ここに居るのは間違いない。

 

だったら地下とかだ。

 

上に居ないのなら、下だろ。

 

「くそっ……地下でもアイツを何とかしなくてはならないのか」

 

「大丈夫じゃね?弱っているし」

 

「馬鹿か貴様、ヤツにはまだ充電と言う切り札があるんだ」

 

「だから大丈夫だって」

 

「………妙に根拠があるな?」

 

「当たり前だろだって―――」

 

その時である。

 

「な、何でだ!?」

 

驚き、困惑。

 

そんなモノが色々混ざったような声を出したのは、歩夢だった。

 

「何で……『充電出来ないんだ』!?」

 

「ぷっ!!」

 

おっといかん。

 

ついつい、吹き出してしまった。

 

 

 

 

 

「いやーまさかこんなにもうまくいくなんて、ついつい笑うしか無いな!」

 

小野町仁がなぜこんなにも笑っているのか、歩夢には理解できなかった。

 

ありえない、

 

今までこんな事はなかった。

 

なぜ、充電が出来ないのか?

 

先の斎藤誠との戦闘で充電機能が壊れたのか?

 

違う。

 

充電は言わば歩夢にとって命綱だ。それが壊れたのなら真っ先に気付く。

 

ではなんだ?

 

…………決まっている。

 

小野町仁だ。

 

この男が何かしたに違いない。

 

そう考えると、当たり前の疑問が出てくる。

 

そもそも小野町仁はなぜこのタイミングで、ここに居る?

 

吹寄制利を救う為?

 

小野町仁にとってそれは重要な事だ。

 

だが、違う。

 

小野町仁は総合的に見れば悪だ。

 

確かに助け出す事は重要だが、その動機はあくまでも、自分自身の為。

 

間違っても、ヒーローのような誰でも助ける事はしない、出来ない。

 

そう考えると、がらりと事柄が変わってくる。

 

人質を助ける事を優先するのなら、この場には現れない。そのまま吹寄制利の、捜索を続ける筈だ。

 

だが、違う、この男はこの場に居る。

 

それはなぜか?

 

決まっている。

 

確実な目的の為だ。

 

目的とは、吹寄制利を救う事。

 

それを達成する為に、例え吹寄制利を見付けたとしても、その場は見逃す筈だ。

 

ならば、奴がここに居るのは、その障害になる、歩夢自身を無力化する為。

 

無力化するには……。

 

「……まさか!?」

 

そこで歩夢は気付く。

 

小野町仁と共にこの場に現れた、大きな機材の存在。

 

それは、ボロボロで、最早原形を止めていないが、間違いない可能性。

 

「大変だったぜ?何せ道具なんて無いんだし、頑張って拳で殴り付けるしか手が無かったんだから」

 

ほらっ、と小野町仁が両手を見せる。

 

彼の両手は皮膚が裂け血が流れ出ていた。

 

「貴様!?試作機第2号を破壊したのか!?」

 

「あったりー!お前はコイツしか充電する術が無かったんだよな?妹達?ワイラレス?関係無いね!!面倒だから充電機その物を壊させたもらったんだよ!!」

 

そして、と小野町仁は言葉を繋げる。

 

繋げながら、歩夢に歩み寄る。

 

「お前は果たして動けるのか?無理だな!!BBを防げるか?無理だな!!だったら簡単だよな?僕はこうやってゆっくり近づいてお前の眉間にBBを1発撃ち込めばお前は死ぬんだよな?そうだよな!!」

 

すっ、と小野町仁が右手の人差し指を伸ばす、その先には当然ながら拳が裂けた事により出血した血液で形成された弾丸が1発。

 

「く……」

 

こんな結末は望んでいなかった。

 

「く……」

 

歩夢が望んだ結末は勝敗がどうあれ拳と拳がぶつかり合う『戦闘』だった

 

「卑怯だとか言うなよ?僕は完全に巻き込まれただけなんだから、付き合ってやっているだけでも、良しとしやがれこの野郎」

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

発砲音によく似た音を轟かせながら、小野町仁の指先からBBが発砲された。

 

それは真っ直ぐに、歩夢の眉間に向かい、皮膚を破り、脂肪を焦がし、頭蓋骨を破壊し、脳を破損させながら、歩夢の身体を後ろに倒れさせたのだった。

 

こうして、小野町仁のクローン。

 

歩夢は……死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クローンID『ayumu』ノ心配停止ヲ確認……

 

同時ニ脳器ノ破損ヲ確認……

 

第1計画『人工化ヶ物育成計画』ノ継続不可能……

 

第2計画『The・Walk』ノ継続可能……

 

第1計画ヲ破棄……

 

第2計画ヲ実行申請……

 

……………申請受理確認……

 

第2計画『The・Walk』発動……

 

コレニ伴ウ学園都市ノ被害予測……

 

The・walk活動中ノ学園都市ノ全テノ電力供給ノ停止……

 

コレニ伴ウ学園都市ノデメリット……

 

……………………………………………………………………………学園都市ノ崩壊………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ……実験の始まりだ」

 

 




ここまで、この小説を読んで頂いた読者様はわかっていると思いますが、小野町仁は悪である立ち居ちを嫌っていながらも、それを平然とやってのける卑怯者なんです。

それを踏まえて言わせて下さい。

小野町仁超卑怯(笑)!!

そして当然ながら、卑怯者に勝利などあり得ません。

次回、学園都市が崩壊します。

では!

ご意見ご感想お待ちしています!!



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御坂妹編、化け物

久しぶりです。

最近忙しくてヤバイ


「……ありゃ?」

 

携帯の電源が入らない。

 

初めは自然と電源オフになってしまっていたのかと思ったのだが、そうではないらしい。

 

なぜならばいくら電源ボタンを押しても、一向に電源が入らないのだ。

 

「おい、ワリィ今何時だ?」

 

どうやら携帯が壊れてしまったのだと思い、斎藤誠に時間を聞く。

 

しかし

 

「知らん、携帯が壊れている」

 

こいつも携帯が壊れている?

 

そんなことあるのか?

 

「……なんだ?時計が動いていない?」

 

斎藤誠は次に腕時計を確認しようとしたのだが、どうやらそちらも壊れているようだ。

 

僕も腕時計を確認する。

 

………?

 

こんな事あるのか?

 

僕の腕時計はデジタル時計なのだが、その電子画面まで映っていなかった。

 

2人も男子高生が居て、その2人の携帯が同時に壊れて、時計も壊れてしまう事なんてあるのか?

 

「……ちょっと待て」

 

おかしい。

 

そんなことあるのか?

 

「……おい、待て!!」

 

「なんだよ?」

 

小さな事から始まる異変。

 

そこから伝染する異変。

 

ドンドン気付く異変。

 

「何でこんなに暗いんだ!?」

 

「何を言っている?今は深夜だぞ?暗いのは当たり前――」

 

「そうじゃない!!何で街灯も!ビルの明かりも!信号機も!『電源が入っていない』んだ!!」

 

暗闇。

 

気が付けば僕らは暗闇の中にいた。

 

遠くを見るとここを中心として、どんどん夜景の明かりが消えて行ってしまう。

 

そもそも、今僕らがいる宇宙エレベータは夜になると綺麗な青色のライトアップがされて、ちょっとしたデートスポットになっていると聞いたことがある。

 

しかし、今ではその明かりは灯っていない

 

その時である。

 

爆音。

 

ここではない。

 

離れたら所を見ると、そこだけ薄明かるい赤色の光が見えた。

 

「交通事故?」

 

「見ろ!!信号機が全部止まっている!?」

 

学園都市が暗い。

 

いや、夜だから当たり前なのだが、街の明かりと言う明かりが完全に消えてしまっていた。

 

それだけならまだいい。

 

停電とかよくある話しだ。

 

だが、僕が違和感を、異質を覚えたのはそこではない。

 

携帯や時計まで『電線を通さない機械』までもが電力を無くしていることに、恐怖を覚えているのだ。

 

その時である。

 

「………っ!?」

 

斎藤誠が僕を見て驚いた顔をした。

 

いや、違う。

 

斎藤誠の視線は僕では無く、その後ろに向けられていた。

 

ガサリ……。

 

僕の背後でナニかが動いている。

 

これもおかしい事なのだが、僕は『驚く斎藤誠の顔』を見れていた。

 

辺りから明かりと言う明かりが消えているのにも関わらずだ。

 

僕の背後に光源がある。

 

学園都市に現在残されている、明かり。

 

答えは出ていた。

 

しかし、その答えを僕自身が否定している。

 

無意識に僕の指先には10発のBBが精製されていた。〈弾数10〉

 

これはこれから起こるであろう戦いの為にだ。

 

しかし、それは『勝つ』為ではない。

 

『生き残る』為の準備だった。

 

僕は振り向く!!

 

そして、目視した!

 

「Girrrrrrrrr………」

 

そこに立っていたのは

 

身体から大量の電気を放電している歩夢だった。

 

歩夢?

 

あれが果たして歩夢なのか!?

 

今の今までそこに居たのだから、そこに居るのは歩夢の筈だ。

 

だが、僕はソイツを歩夢と自身を持って言えるほどの根拠が無かった。

 

そこに居るのは歩夢と言う、僕のクローン。

 

言い換えれば、化け物のクローンだ。

 

そう、僕はこうやってもう一人の化け物と邂逅したのだった。

 

「……スゲーsugeスゲーsuge!!これGa『力』…!『化け物の力』ka!?」

 

そして、確信して言えるのは、この化け物は僕のような『手に終えない化け物』ではなく、『歩夢と言う1体の化け物』だと言う事だった!!

 

 

 

 

 

小野町仁の考察には些か間違いがあった。

 

彼らの目の前に居るのは確かに歩夢だ。

 

しかし、それは外見的であり、中身、具体的に、抽象的に言えば『心・精神』は全くの別物に変化していたのだ。

 

ソレは空っぽだった。

 

そこに何かを組み入れようとして手っ取り早く一番近い『歩夢と言うクローンの精神』を真似したに過ぎないのだ。

 

よって今の、他に言える言葉が無いので『歩夢』は先程までそこに居た歩夢ではなく新たに誕生したアユムだ。

 

そしてアユムは考える。

 

自分の存在理由を。

 

そして答えを出した。

 

全てを壊そうと。

 

まずは目の前にいる自分に良く似た何を持つ人間を、壊そうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、失礼します!!」

 

ドアが開かれた。

 

入ってきた男はよく知っている。

 

俺の部下だ。

 

確か名前は……忘れた。

 

だが、仕事をこなす割に緊急事態には物凄くキョドる男だ。

 

そしてキョドった男は上司である俺を無視して話捲し立てた。

 

「が、学園都市との連絡がと、途絶えました!!か、確認したところが、学園都市の電力が全てす、ストップしているようです!!ぱ、バソコンから携帯電話までで、電波を関した電気器具がす、全て!」

 

さて………。

 

「……フム」

 

俺は、一人の人間としてまずは目の前にいる人間を落ち着かせなければならないようだ。

 

「……珈琲」

 

「は、はい!!こ、珈琲!!……は?へ?」

 

「珈琲を飲まないか?」

 

「え!!は、はい!!い、いただきます!!」

 

俺は椅子から立ち上がり、男に珈琲を淹れる。

 

そうしながら話を切り出した。

 

「学園都市の『中』と『外』では2、30年の科学の開きがある、しかし、それは決して『プラス』ではない、なぜかわかるかね?」

 

「え……と」

 

「答えは簡単だよ、『科学の進歩』は『問題の進歩』と平行して進んでいるのだ」

 

「は、はぁ」

 

「言い方を変えよう、科学の進歩は決して『正義』ではない、極論で言えば『悪』に部類しているのだよ。科学の発端は『戦争』から始まった。そしてそれは今でも変わらない」

 

「あ、あのぅ?」

 

「わかっている、今の問題は学園都市の広範囲の停電だったね?確かに『ありえない』だがあの街ならば『ありえる』事ではないか?だって『科学の最先端の街』なんだから『科学の最先端の災害』が起きてもなんら不思議ではない」

 

「わ、我々の対策は?」

 

「何もしなくていい。勝手に解決するだろう、今までもそうだったように」

 

俺は珈琲を男の前に置き、自分用に淹れた珈琲を飲む。

 

そして、話を変えた。

 

「ところで……『彼女』は見付かったかね?」

 

「い、いただきます……は?あ!!はい!!そ、それがまだ見つかっていません」

 

「そうか、残念だ……早く会いたい」

 

「あ、あの……し、失礼ですが……『彼女』の捜索には何か重要な意味が?」

 

「…………」

 

さて困った。

 

俺がこの『職』に就いて密かにある『指示』を部下に命じた。

 

それは『ある少女の捜索』。

 

『彼女』の捜索の『理由』を話しても、この男には信じないだろ。

 

だったら、『嘘』を言うしかない。

 

『嘘』とは『悪』であって、『正義の味方』である俺は『嘘』を付きたくないのだが。

 

これは特例だ。

 

『正義の嘘』だ。

 

「確かに『重要』ではない、しかし、極一般的に、『俺個人的』には『重要』な事なんだ」

 

「そ、それは」

 

「…………『俺の娘』だ」

 

「!?!?!?!そ、それは!!あ、貴方はだ、だってど、独身で!ま、まさか!?」

 

「そうだよ俺の『隠し子』だ、わかっている。『俺の立場上』それが世間に出てしまうと大変な『問題』になる事は……軽蔑してくれてもいい、批判してくれてもいい、だが『父親が娘に会いたい』願いだけは汚さないでくれ」

 

勿論…『嘘』だ。

 

「わ、わかりました!!ぜ、全力で探させていただきます!!」

 

急に男がやる気になった。

 

なぜだ?

 

あぁ……そう言えばこの男には家族が居たな。

 

どうやら今の『嘘』で下らない『親心』を刺激したらい。

 

よかった。

 

『嘘』が『正しい方向』に向かった。

 

やはり、今の『嘘』は『正しかった』。『正義』だった。

 

男は出口に向かい、俺に一礼する。

 

「で、では失礼します!!吉村正『総理大臣』!!」

 

俺は吉村正。

 

くそったれな学園都市のお陰で成り立ってしまっている愚かな国の総理大臣だ。

 




携帯を見る前に時計を見ろよってツッコミは止めてくださいね。

最後に出てきた人間は……まぁわかるでしょ?

次回!小野町仁に襲い掛かるアユム、そして斎藤誠は?

その前に、少しこの小説全体を編集しようと思います。何をやるかと言うと全話を前編と後編に区切りたいと思います。

ではまた次回で!


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御坂妹編、裏切りやがった!!

今回は短いです


逃げる!!

 

現在、僕、小野町仁は斎藤誠と共に宇宙エレベーター『エンデュミオン』の内部を逃走していた!

 

追っ手は化け物と化した歩夢だ!!

 

何故に先程まで優勢だった僕らが、逃げているのかと言うと、

 

「クソッ!!BB!」

 

発砲音に似た音を轟かせながら発射されたBB。〈弾数6〉

 

しかし!

 

「Girrr!」

 

それは歩夢に届く寸前で歩夢の体から放電される電気により消し炭にされてしまう!!

 

「なんだ!何です!?何ですか!?」

 

「クソッ!!『W.A.L4』!」

 

今度は斎藤誠が能力を発動し、近くに有った休憩用ベンチを吹き飛ばす!!

 

って!『W.AL.4』!?

 

何それ?!

 

と言うかそれって!!

 

僕の困惑を無視して吹っ飛ばされたベンチは歩夢に激突!

 

したかと思ったが、やはりと言うか先のBBと同様に空中で分解され、細々した部品に成り変わっていた!!

 

「クソッ!!『電気分解』……いや『電気崩壊』と言った方が適格か!?」

 

僕らはこの短時間の逃走劇で今の歩夢の攻撃方法を解析していた。

 

電気崩壊。

 

自分に向かって来るありとあらゆる物体を高電圧の電気により分解、崩壊させる能力。

 

しかも、厄介なことに恐らくその発動時間は無制限だろう。

 

何故ならば高電圧の電気を発生するのに必要な電力は学園都市全域の電波や電線を介した全ての電子機器から供給しているに違いないからだ!!

 

このままでは話は僕らだけではなく学園都市に住む全住人にも被害が及ぶ恐れがある!

 

「ほraほら!!doした!逃げてiruだけか!?aあ?」

 

「うるせー!!クソッ!!なんか無いのか!?」

 

「……無理だな」

 

隣を走る斎藤誠がそんなことを呟いた。

 

「今のアイツを相手取るのは俺らじゃ無理だ、アイツは今学園都市全ての電力を手にいれた!!勝てない!!」

 

「妙に諦めが早いじゃないか?」

 

「貴様はこの状況を引っくり返す策を何か持っているのか?持っていないだろ?強大な敵を前にして奇策や強運で場を乗りきるのはあり得ない事だ!!」

 

「だったら諦めるのか?」

 

「冗談じゃない」

 

ここで斎藤誠は笑った。

 

そう言えばこいつが笑った事なんて初めて見たな。

 

「確かに『勝てない』だが『逃げる』算段は付いている」

 

「マジか!?どうやって!?」

 

「こうやってだ!!」

 

斎藤誠は僕に向けて手を向ける。

 

ん?

 

まさか!?

 

「『W.AL.4』!」

 

「テメェ!!」

 

こいつまさか!?

 

僕の思考よりも先に斎藤誠の掌から風が噴出された!!

 

先程のベンチを吹き飛ばすように僕の身体は突風により、飛ばされる!!

 

風の音に紛れながら、斎藤誠の声が聞こえた。

 

「精々、俺が制利を助け出す時間は稼げよ?」

 

こいつ!!

 

この状況で!!

 

裏切りやがった!!

 

 

 

 

 

僕は飛ばされる!!

 

「おiおi?!なんDa!なんでsu?何ですka?!」

 

歩夢はそんな僕をまるで迎えるかのように両手を広げる。

 

(あの高電圧の電気を生身で受けたらどうなるんだ!?)

 

決まっている!!

 

先程のベンチ同様に分解されるのが目に見えているじゃないか!!

 

「ちくしょう!!」

 

僕は飛ばされる身体を無理矢理捻りながら両手に残っているBBを全て発砲した!

 

「それは効かneって!」

 

歩夢の言う通りだ!!

 

BBは歩夢に被弾することなくヤツの身体に触れる寸前で消し炭に替わる!!

 

だが!!

 

「あa?」

 

突然歩夢と僕の間に何かが降り注いだ!!

 

それの正体は、天井にぶら下がっていた照明ライトだ。

 

僕は先程のBBの数弾を歩夢ではなく天井に向けて発砲していたのだ。

 

この宇宙エレベーターの内部の電灯が壁に埋め込まれているタイプで無くて助かった。

 

何はともあれ、僕はようやくただの瓦礫と化した照明ライトにぶつかる事で歩夢にぶつかるという最悪の事態を回避した訳だが、

 

身体に照明ライトの破片やら何やらが無理矢理に身体に埋め込まれてしまい、涙が出てきた。

 

(さ、斎藤誠は?!)

 

この事態を引き起こした張本人の姿は既にどこにも無く、完全に彼が僕を裏切り、吹寄を救う為にこの場を退いた事は明白だった。

 

ちくしょう!!

 

そして、この場には、僕と僕のクローンである歩夢二人しか存在しない。

 

狩る者と狩られる者、その二人しか存在しない世界だ。

 

「あれこれ、死んだんじゃね?」

 

僕はこれから学園都市全ての電力を手にいれた化け物に一人で戦わなければならなくなった。




更新が遅れて申し訳ありません!!

最近、風邪を引いてしまいまして…、皆さんも体調には気を付けてください。

さて、次はいつになることやら。


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御坂妹編、獣の様に化け物だ。

久々に更新です!

今回は、いつも通り主人公が負けます(笑)


僕、小野町仁は化け物である。

 

この事ははじめから話していることだ。

 

こうなった経緯は色々あったが、確実なことは、この化け物の力は僕だけのモノだった。

 

驚異的とは言えないが、回復力を持ち、日常生活には必要以上の怪力を保有し、詰まる所、

 

無敵だった。

 

僕は佐天涙子救出の際、少しだけこの化け物を受け入れた事によりBBを手に入れたが、まだまだ完全な化け物では無いと安心していた。

 

何も僕は化け物になりたいわけでは無い。

 

化け物であることに後悔している方だ。

 

しかし、この時、僕のクローン、化け物のクローンである歩夢と対峙した時、初めて、心から…………

 

半端な化け物の自分に後悔していた。

 

完全な化け物である歩夢に半端な化け物である僕が勝てる筈が無いと心から本能的に思い、この時初めて、僕は力を、化け物を欲していた。

 

確かに、

 

歩夢を倒さなければ、吹寄はおろか学園都市が危険になってしまう。

 

だが、

 

そんなことはどうでもいい。

 

やはり、

 

僕は正義の味方側の悪役だ。

 

本心で思っているのは、恐れているのは、人とか街とか、そんな他人の事では無く、それらが無くなった事による自分の世界が壊れる恐れが怖かった。

 

僕は臆病者だ。

 

臆病で卑怯で最悪な、悪だ。

 

他人の為に力を奮う正義ではない、

 

自分の為だけに、手段として、それらを都合のいい言い訳にして力を奮う正義の味方側の悪役だ。

 

だから、

 

僕は、

 

目の前にいる化け物を倒す。

 

 

 

 

 

「Gishaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

僕は吠える!!

 

同時に瓦礫を崩壊させながら歩夢も吠える!!

 

二人の、いや、二体の化け物は互いを睨み付けながら威嚇してタイミングを見る!!

 

そこに居るのは、最早人では無いだろう、人の形をした化け物達の激突が始まった!!

 

「GAA!!!」

 

始めに動いたのは僕だ!!

 

僕は飛び上がる!

 

今のアイツには近付くだけで万物を崩壊させる力がある!

 

そんな相手に殴り合いは、接近戦は通じない!!

 

そこで僕は先程とは違う照明ライトの一つを引き千切り、渾身の力で放り投げた!!

 

轟音を響かせながら近付く塊を見ながらアイツは笑う!!

 

「MうDa!muだ!!」

 

僕は更に一つ、もう一つ更に追撃で照明ライトを投げ付ける!!

 

しかし!!

 

アイツはそんなものをお構いなしに全てを崩壊させて行く!!

 

「Jarashaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

次に僕は天井を足場に踏ん張り、床に向け飛び出した!

 

接近戦は駄目!!

 

遠距離からの砲撃も駄目!!

 

ならば!!

 

僕の拳は床をぶち抜き、そのフロアの全ての床を崩壊した!

 

当然、床の上に居たアイツは重力に逆らう事は出来ないので落下していく!!

 

アイツが出来るのはあくまで崩壊呑み!!

 

ならば上から落ちて潰れちまえ!!

 

その時である!!

 

同じく落下中の僕に近付く気配があった!!

 

誰だ!!!?

 

決まっている!!

 

アイツだ!!

 

どうして!!

 

その時僕は目撃した!!

 

落下していく床の瓦礫やら一緒に落下しているベンチやらを踏み台にしてアイツは僕に向かい猛突進しているのを!!

 

「Oれが!鈍い動きwoすると!!思っtEいたのか!?」

 

アイツは拳を握り締め下から振り上げた!!

 

この戦いにおいて、僕が守らなくてはならない境界線、生命線である距離。

 

それはあっさりと簡単に越えられてしまった!!

 

激痛!!

 

まだ拳は僕を捕らえていない。

 

ではなぜこんなにも激痛が来るのか!?

 

決まっている!!

 

アイツに近付いた事により僕の身体が崩壊し始めたからに決まっているじゃないか!!

 

そしてついには、アイツの拳が僕の胸に激突し、僕の身体が悲鳴をあげた!!

 

「Ghaaaaaaaaaaaaa??!!」

 

僕は激痛を越えた激痛に叫びを上げながら上に上に殴り飛ばされる!!

 

途中で天井に当たったがそれを無視する勢いで僕は閉ざされる!!

 

三回ほど天井をぶち破りようやく僕の身体は勢いが無くなり、止まった。

 

しかし、今度は自然の法則に従い落下が始まる!!

 

「Jareryaaaaa!!」

 

 

 

 

 

アユムはこの短い時間の中で、考えた。

 

知識は歩夢が獲得していた情報をそのまま引用している。

 

(思考1。目の前に戦っている自分に良く似た男、小野町仁。思考2。小野町仁は『化け物』の能力を有している。思考3。自分はその『小野町仁』と『化け物』のクローンである。思考4。自分は学園都市全域の電力を全て吸収している。。思考5。自分に近付く全ての万物は放電した電気により分解される。以上の考察から導きだした結論。小野町仁は自分には勝てない。)

 

 

 

 

 

僕は今、化け物になっている。

 

いや、いつもそうなのだが、なんと言うか、今現在の身体の状態を的確に言うならばそうなるだろう。

 

この状態の時、僕は考える事よりも先に行動を起こしている。

 

本能的と言えばいいのか。

 

とにかく、この状態中の僕は『思考』と『行動』が別々になって、いるのだ。

 

まるで、身体を別の何かに支配されている感覚に近い。

 

さながら、今の僕の身体は獣の様に化け物だ。

 

なぜ、今そんなことを説明しているのか。

 

獣が、動物が高い所から落下していて、ソイツの落下先に何か別の生き物が居るとしたらソイツはどうするか?

 

決まっている。

 

ソイツは本能的に、無意識に、攻撃をするはずだ。

 

無意識で繰り出した攻撃が果たして決まるものか?

 

いや、決まらない。

 

それを意識してやるならまだしも、そんな心の籠っていない攻撃が的確に決まる筈がない。

 

下手をしたらその攻撃が隙になって、カウンターをされてしまうかもしれない。

 

そして、僕と言う化け物もそうだった。

 

僕の意識を無視して、僕の化け物は左手を歩夢に向け振り上げた!!

 

そして、当たり前に、決まっている様に、

 

酷いしっぺ返しを食らってしまった。

 

「……………」

 

歩夢は何も言わない、しかし、ヤツはまるで紙か何かを払うように手を振っり、僕の身体の左手を払っただけだった。

 

ただそれだけで、

 

僕の左腕が肘からブツリと切断されたのだ。

 

「!?Ghaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaあaaaaaaaaaaaaあaaaaaaあaaaaああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

激しい痛みと、激流の様に流れ出ていく血液の音の中に僕の叫び声がひどく混じりあってその場を埋め尽くした。

 

 

 

 

驚異的とは言えないが、回復力を持ち、日常生 活には必要以上の怪力を保有し、詰まる所、

 

無敵だった化け物。

 

だった。

 

そう、無敵なのは過去の話。

 

だった。

 

そう、だったんだ。

 

 




ようやく、この章の終わりが見えて来ました。

もう少しで終わりますのでその時までお付き合い願います。

あと、どうでもいい話ですが、この話とは別に新たに新作を執筆中だったりしています!!

タイトルは『この未成熟な物語は毒にも薬にもならないことを作者は知っている』(未定)です。

簡単なあらすじを話しますと以前投票した作品の数々に加えふと考えた事などを載せた短編集的な何かです。

まだ先になるかと思いますが投稿した際にはよろしくお願いいたします。

さて、次回は命乞いです、主人公(笑)の無様な命乞いをお待ちください!!


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御坂妹編、僕は生きたいんだ!!

お久しぶりです!!

いい加減終わらせろよ、と皆様の声が聞こえる気がします。


僕、小野町仁は正義の味方側の悪役である。

 

他人の為ではなく、自分の為にしか力を奮えない悪でありる。

 

そして、僕は知っている。

 

そんな他人の事を気にもしない生き方をしていればいつか、酷い報いを受ける事を……。

 

それが今なのかも知れない。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?!?!?」

 

この時、歩夢に左腕を切断された僕は只只叫んでいるだけだった。

 

腕の切り傷から夥しい量の血液がまるで洪水の様に流れ出ていく。

 

脳はすでにある1つの事のみを考えていた。

 

それは、『死』。

 

そうだ。

 

僕は死ぬ、死んでしまう。

 

(逃げなくては!!)

 

僕は恥も外聞も殴り捨て、逃げ出す!!

 

右手で左腕の切断面を握り、止めどなく溢れ流れる血液を止めようとしたが、余り意味がなく、それでも握る。

 

足は左右交互なんて律儀に動かす余裕もなく只、前に行こうと動いている。

 

痛みを越えた激痛が僕の両目から涙を流し、鼻水も出てきた。

 

常に叫んでいるせいで、開きぱなしの口からは涎や唾が垂れ流れる。

 

それでも僕は逃げる!!

 

もう、吹寄や斎藤誠やら、歩夢やら、学園都市やらその他の諸々の事情は関係ない。

 

あるのは、生にしがみつく、醜い考えのみだった。

 

「ガブゥッ!?」

 

転ぶ。

 

これでなん十回目かわからないが、転んだ。

 

しかし、今までと違ったのは、転んでそのまま動けなかった事だ。

 

まるで、両足が何かに挟まれたかのように動かせない。

 

何が足を挟んでいるのか確認しようと、足元に目を向けた瞬間、僕は絶句してしまった。

 

足が『無かった』

 

、腰から伸びているであろう、人体の足が、根こそぎ『無かった』

 

そしてそこからも大量の血液が流れている。

 

僕は気が付いた。

 

足は『挟まれた』のではない。『無くなってしまった』のだ。

 

なぜ?

 

決まっている。

 

切られたのだ!!

 

誰に?

 

決まっている。

 

「Aわれだna……。本当に憐れDa……」

 

無理矢理視線を上に上げると、そこには、僕の左腕と、両足をまるでおもちゃを壊すかのように切断した歩夢と言う化け物が、僕を哀れみの目で見下げていた。

 

そして、僕は、ただ叫びを挙げるしか無かった。

 

「あ、あ……あぁ!!」

 

 

 

 

 

アユムは目の前に転がる小野町仁を見下ろしながら、考える。

 

哀れ

 

それがアユムの抱いた感想だった。

 

無理もないかもしれない。

 

クローンの考えはわからないが、自分のオリジナルである小野町仁がこんなにも簡単に、呆気なく、地べたに這い、醜く、情けを掛けたくなるほどに生にしがみつく様を見せられたら、アユム自身さえも同様に写ってしまうかもしれないのだ。

 

それがクローンであるアユムには許せなかった。

 

許せない。

 

それがアユムには怒りに直結したのだ。

 

だから

 

やはり

 

当然に

 

アユムは小野町仁を殺害する。

 

両足を切断した小野町仁の首を掴み、持ち上げる。

 

左腕と、両足、三本の手足を切断した小野町仁の身体は驚くほど軽く、片手で軽々と持ち上がる。

 

小野町仁が何かを叫んでいるが最早雑音でしかない、そしてその雑談出さえもアユムには苛立ちに変わっていた。

 

掴んでいる首から徐々に崩壊が始まり、小野町仁の首の皮膚は裂けそこから血が滲み出る。

 

このまま掴んでいるだけでそのうち首が千切れるだろうが、それを待つ時間さえも惜しかった。

 

アユムは唐突に掴んでいた手を離す。

 

当然、小野町仁の身体は自然の重量により落下し始めた。

 

アユムは右手を握り締めそこに電力を溜める、

 

そして、何の躊躇も無く小野町仁の胸ド真ん中を殴り貫いた。

 

貫いた。

 

そう、アユムの拳は電気崩壊と化け物の怪力により繰り出されるスピードで簡単に小野町仁の服を破き、皮膚を裂き、脂肪を燃やし、肉を焦がし、骨を砕き、内臓を破壊した。

 

小野町仁の口からはすでに叫び声は出ず、代わりに大量の血液が吐き出された。

 

アユムは拳を小野町仁の身体から引き抜いた。

 

その手は血にまみれ、赤く、黒く、赤黒く染まっていて、その手の中には、小野町仁の心臓が握られていた。

 

心臓は微かに動いていたが、これは本来の機能ではなく、ただの痙攣だ。

 

アユムは興味深そうに心臓を眺めていたが、わずかな痙攣もしなくなった為に、それを小野町仁の目の前で握り潰したのであった。

 

 

 

 

 

小野町仁は微かに残っている意識で考えていた。

 

痛みはない。

 

正確には痛みを感じる事が出来ないくらいの重症を負っているのだが、それすらも小野町仁は気がついていない。

 

感情より先に情報が彼の頭を支配していた。

 

歩夢に倒された事は知っている。

 

それより先が遅れて脳内に流れていた。

 

左腕を切断された。

 

両足を切断された。

 

首を掴まれた。

 

首を離された。

 

身体を貫かれた。

 

心臓を引き千切りられた。

 

心臓を握り潰された。

 

そして、

 

(僕は……………死ぬのか?)

 

死ぬ。

 

たったそれだけの事を思い出した瞬間。

 

小野町仁の意識が世界に呼び戻されたのだ。

 

(嫌だ……………死にたくない…………死にたくない………死にたくない……死にたくない…死にたくない死にたくないしにたくないシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイ)

 

小野町仁の肉体は常識的に考えたら、即死してもおかしくない。

 

即死が普通だ。

 

それなのになぜ未だに彼は死んでいないのか?

 

簡単である。

 

小野町仁は化け物だからだ。

 

化け物の力により彼はまだ死を迎えていないだけに過ぎない。

 

しかし、いくら化け物であろうと、不老不死ではない。

 

ただ普通の人間よりも死が遅れているだけだ。

 

このままでは彼は確実に死ぬ。

 

何かしなければ彼は死ぬのだ。

 

しかし、それは微かな希望に過ぎない。

 

しかし、それでも、小野町仁は抗う。

 

頭の中で繰り返し呟かれる言葉はやがて、口から発せられていた。

 

「死にたくない!死にたくないしにたくない!!嫌だ!!死にたくない!生きたい!!」

 

その様子に彼を殺害したアユムは驚きを隠せないでいた。

 

当たり前である。

 

アユムの持つ知識は世界のネットからかき集められた物だ。

 

言い換えれば常識の塊である。

 

普通、心臓を握り潰された人間は死ぬのが当たり前で、万が一もそこから生き返る事などあり得ない。

 

だが、現にアユムの目の前で死を迎えているはずの小野町仁は喋り、蠢いているのだ。

 

それは確実な恐怖だ。

 

アユムが恐怖の感情に支配されている時、小野町仁はまだ言葉を喋り続けていた。

 

「助けろ!!化け物!僕はお前のせいで死ぬんだぞ!!ふざけるな!!死にたくない!お前なんて疫病神じゃないか!!返せよ!!僕の人生を!!お前なんて受け入れなければよかったんだ!!」

 

小野町仁の精神は壊れ始めていた。

 

間違いが無いように記述させてもらうと、『小野町仁』と『化け物』は別々の存在ではない。

 

あくまでも両者はイコールで結ばれている存在だ。

 

それなのに小野町仁は化け物に助けを求めた。

 

それは言い換えるのならば、自分に自分で助けを求めている事と変わらないのだ。

 

それでも小野町仁は求める。

 

「死にたくない!死にたくない!僕は死にたくないんだ!!まだ生きていたいんだ!!助けてくれ!何で僕が死ななくちゃいけないだ!!もっとしにくちゃいけない人間なんて山ほどいるじゃないか!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!」

 

「僕は生きたいんだ!!」

 

その時である。

 

変化が合った。

 

「――――あ?」

 

突然、小野町仁の言葉が途切れた。

 

彼は何かを見ている。

 

彼の視線の先は、身体に残った右手の人差し指だ。

 

正確にはその先。

 

指先。

 

そこには小野町仁の能力であるBBが生成されていたのだ。

 

 

 

 

 

たった1発の血の弾丸が、この物語の幕を降ろす。

 




次回、ようやく終わります。

正確にはエピローグを入れてあと2話です。

…………終わるよな?


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御坂妹編、Blood Bullet Villain

やっと、終わり!!


小野町仁は化け物である。

 

これまでの彼は化け物の力を十二分に発揮していなかった。

 

それはなぜか?

 

純粋に、

 

ただ純粋に小野町仁は化け物になることを認めていなかったのだ。

 

彼は自身が言うように正義の味方側の悪役だ。

 

好きな事は平和。

 

より正確には自分自身の平和である。

 

では彼の言う平和とは何なのか?

 

結論としては小野町仁は平凡な人生がそれに当てはまっていた。

 

そして、化け物の力は平凡とはかけ離れた存在だったのだ。

 

しかし、この時ばかりは違った。

 

決定している死を前にして、小野町仁は受け入れた。

 

いやこの場合はすがったと言うのだろう。

 

生き残る為に彼は自身が嫌っている化け物の力に恥も外聞も無く、受け入れて、すがって、飲まれたのだ。

 

そして、新たな力が発現した。

 

 

 

 

 

アユムは考える。

 

小野町仁の指先に彼の攻撃方法である血液の弾丸が何故出現したのかを。

 

まだ小野町仁に戦う意志が残されているのか?

 

違う。

 

小野町仁はすでに手遅れだ。

 

戦う意志があるのならばもっと前、少なくても左腕を切断された時に行動しなくてはおかしい。

 

何故だ?

 

そして、アユムは考えた。

 

「……自殺ka?もうそれsiか無いよna」

 

苦しむのならば自分の手で終わらせる。

 

それならば納得できた。

 

「いいzo、もうお前niは興味ha無くなったからな」

 

「最後Da、俺が看取ってyaるよ」

 

小野町仁はそれを聞き、本当に聞いているのかはわからないが、行動したのだった。

 

彼は血液の弾丸を自分のこめかみに向けそして、

 

発砲音によく似た音を轟かせながら発射した。

 

 

 

 

 

静寂。

 

この静寂の中アユムは考える。

 

小野町仁は死んだ。

 

幕引きは自殺と言う呆気ないものだったが、それでもアユムの心の中では歓喜に満ち溢れている。

 

その感情は歩夢から引き継いだものなのかも知れないが、アユムにはその感情は自分の事のように嬉しかった。

 

次第にそれは大きさを増していき、しまいにはアユムの口から笑い声として溢れ出てくる。

 

それが終るとアユムは考える。

 

次はどうするか?

 

手始めに殺そう。

 

あの風を出すレベル不定の男を、次は人質にしている女を。

 

その次は?

 

この建物を出て近くに、最初に会った人間を殺そう。

 

その次は?

 

その次は?

 

その次は?

 

その次は?

 

その次は?

 

そう繰り返していき、学園都市全ての人間を殺害したら?と言う所まで考えた時である。

 

アユムは考えるのを止めた。

 

理由は簡単だ。

 

アユムの耳に何かの音が聞こえたからだ。

 

何が這うような音。

 

アユムは再び考える。

 

何の音だ?

 

まだこの建物の中に誰か居るのか?

 

それとももう一人の侵入者が来たのか?

 

それともこの戦闘の音を聞き付け誰かが様子を見に来たのか?

 

そこでアユムは再び考えるのを止めた。

 

今度は違和感があったからだ。

 

音は1つではない。

 

この場全ての方向から音が聞こえる。

 

既にアユムの近くにその音の発生源が居ても可笑しく無いのだが、アユムには誰の気配も感じられなかった。

 

その時である。

 

アユムは気が付く。

 

音の発生源は人ではない。

 

それは、あるいはそれらはそこら中に撒き散らした小野町仁の肉片やら血液からだった。

 

小野町仁の肉片やら血液はまるでアメーバの様に意思を持っているかの様に蠢き進んでいた。

 

それの向かう先。

 

それは小野町仁の死体だ。

 

(……まさka)

 

まるで元に戻るかの様に、全ての肉片やら血液が小野町仁の死体に向かっていき、そして遂には彼の死体の中に侵入し始めた。

 

(……Maさか)

 

右腕や両足といった大きな部分がくっついた時には小野町仁の死体は完全に傷1つ無い綺麗な身体になっていた。

 

なっていた。

 

小野町仁の死体は傷さえも無くなり代わりに傷や肉片が繋がった繋ぎめには黒い渦が蠢いている。

 

その渦の正体を考えるよりも先にアユムは驚く。

 

「カハッ!!」

 

小野町仁が息を吹き返したのだ!!

 

小野町仁はゆっくりと立ち上がる。

 

先程までバラバラだったと思えない程にスムーズな動きだ。

 

そして小野町仁は自分の身体に起きている現象を理解していた。

 

「危なかった……本当にヤバかった……そして、『ヤバイ』。本当に『ヤバイ』。こんな力、『化け物の力』は『ヤバイ』」

 

「……あの時no、最後に自分ni撃った弾丸……『完全治癒能力』なのか!?」

 

小野町仁が自殺するために撃った弾丸は自身のダメージを完全に回復する為だったとアユムは予測し忌々しく吐き出す。

 

しかし、

 

「『違う』……『半分違う』」

 

小野町仁はそれを否定した。

 

「BBは……化け物の力は『進化した』。僕の……俺の欲望を叶える為に『進化した』んだ……これは最早『最悪』な能力だ……」

 

小野町仁は答えているが半分は自分に言い聞かせる様に喋る。

 

「『進化したBB』がこんな……『回復する』だけの能力だと思っているのか?……違う……『これから終るんだ』」

 

小野町仁の身体に蠢いている傷跡が変化した黒い渦が彼の体を這う様に動き出した。

 

それらの向かう先は小野町仁の頭部。

 

正確には小野町仁が言う『進化したBB』が着弾した右のこめかみだ。

 

そこにも黒い渦が蠢いている。

 

全ての渦がそれに吸い寄せられるかの様に這い、1つになっていく。

 

「『Villain』……『Blood Bullet Villain』……俺はこれからこの最悪の能力を『BB-V』と名付ける!!」

 

小野町仁の身体に有った全ての渦がこめかみの渦と1つになり、ついにはその渦が小野町仁の右手の向かい動き出した。

 

「だからどうsiた!!『新しい能力』?!『進化した能力』!?関係無iだろう!貴様no攻撃は全部!!いやどんな攻撃出さえ俺には届かnaい!!」

 

「じゃぁ試してみるか?このBB-Vが本当にお前に防げるのか!!最後の勝負だ!!歩夢!!」

 

両者の叫び声と同時に小野町仁の右手に移動していた黒い渦が小野町仁の右手から発射された!!

 

渦はBBの様に真っ直ぐには飛ばず発射と同時に地面に落ちたが、今度は地面を這う様に進み、アユムに向かい蠢き出した!!

 

アユムは身体から電気を放電し、今までと同じ様に渦を崩壊させようとする。

 

しかし、

 

バチッ!!

 

電撃は確かに渦を直撃した。だが、渦は崩壊しない!

 

変わり無くアユムに向かい進行を続けている!

 

「何!?」

 

「無駄だ……無駄なんだ!!これは『結果』!誰かが負わなくてはならない『結果』!決定している『結果』は何者にも『壊すことが出来ない』!!」

 

その言葉を聞き、アユムはこの能力の正体を予測した!!

 

そして、初めてアユムはこの行動を取る!!

 

つまりは逃走!!

 

もしもアユムの予測した能力ならば、彼は絶対にこの能力を『受けてはならない』!!

 

アユムの逃げる方向に渦は一定の速度を保ったまま蠢き追尾していく!!

 

「この場にha……oれと奴しか居なi……クソッ!!自動的にoれに来るのか!?」

 

アユムは逃げる!!

 

逃げながらも電撃を放電し、渦の崩壊を試みるが依然変わらず渦は崩壊しない。

 

「クソッ!!クソッ!!クソッ!!クソッ!!クソッ!!クソッ!!ふざけるna!なんだ!!この能力は!?」

 

そして、ついに

 

「……ちkuしょう……!!」

 

アユムの足に渦が触れてしまった。

 

「ちくsiょう!!」

 

アユムは渦をはたき落とそうとするがまるで霞みを払うが如く渦は取れない。

 

「ちくしょうおぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

渦は蠢くのを止め、そして弾けた!!

 

その瞬間!!

 

アユムの身体は霧散に散ったのだ!!

 

まるで、そう先程までの小野町仁がそうだった様に左腕や両足、胸の心臓までもが飛び散る!!

 

「………『BB-V』……『生命が受けたダメージを別の物体に負わせる能力』……『他人を犠牲にしてでも生き残りたい』そう願った為に発現した『悪役』の能力……」

 

小野町仁は呟く。

 

そのまま彼は倒れ込んでしまった。

 

そして小野町仁は気を失った。

 

 

 

 

 

こうして、悪達の長い夜の戦いは幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 




ようやく悪達の戦いが終わりました。

次回はエピローグです。

小野町仁の新しい能力はあとがきにて詳しく話そうと思います。

では次回!


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御坂妹編、エピローグ。それぞれのエピローグ

長かったこの話も終わりです。

エピローグが一番長いってどうゆうことよ?


それぞれのエピローグ

 

さて、突然だが僕小野町仁は現在、非常に気まずい状況に陥っている。

 

「…………」

 

「…………」

 

あの後気を失った僕が次に目を覚ましたのはまたしても病室であった。

 

いつもと違うのは今回は個室ではなく二人部屋であり当然の事だが病室には僕の他にもう一人入院患者が居る訳だ。

 

問題はそのもう一人の患者である。

 

まぁ、考えてみたらコイツも全身がボロボロな状態だったみたいだから病院に入院していてもおかしく無いのだが、よりによって何故僕と同室にしたのかが酷く疑問だ。

 

「………何かの用か?小野町仁」

 

恐らく僕と同じ事を考えているであろう同室の入院患者、斎藤誠が酷く不機嫌に聞いてきた。

 

「別に」

 

「そうか」

 

「…………」

 

「…………」

 

はい、会話終了。

 

そもそも、コイツとはそれほど面識があるわけでは無いし、顔を合わせる状況では互いに互いの命を狙っていたから気まずいのだ。

 

そんな僕らに会話と言う高度なコミュニケーションが図れる訳が無いだろ?

 

よって現在、僕と斎藤誠が居る病室は酷く空気が重かった。

 

(ヤベー!!考えてみたらコイツ完全に僕を殺そうとしている節があるんじゃなかったか!?つーか!!加害者と被害者が同じ病室なんてあり得ないだろ!?あっちゃいけないだろ!?)

 

「………おい、小野町仁」

 

「な、なんだよ?」

 

「貴様に1つ確認しておきたい事がある」

 

突然の問い掛けに僕は面を食らった。

 

コイツが僕に質問?

 

しかし、当の本人はそもそも僕の回答がどうあれ質問を切り出したのだ。

 

「その……貴様と制理はどんな関係なんだ?」

 

「………はい?」

 

「付き合っていたりするのか?」

 

「……は?」

 

「別に、俺は制理が幸せならそれでもいい。だが、貴様は確実に制理を幸せにできるとは思えない、それは断言できる。貴様は人を幸せにできるとは思えないしな」

 

「おい、何で途中から罵倒に変わってんだ?」

 

「……俺は制理が好きだ」

 

「うん、ドン引きするくらい知っている」

 

「だが、俺は彼女を傷付けた、釈明の余地無くな」

 

「…………」

 

「謝っても彼女は許してくれないだろ、それでいい。だが、俺は彼女を守らなくてはならない、それがただ1つ残された罪滅ぼしだからだ、彼女が誰かと付き合って居るのならそれでいい。だが、その相手が彼女を幸せに出来ないと確信したら俺はソイツを殺すだろ」

 

とんでもない事を言い出しやがった。

 

コイツ、一周回って父親みたいな保護欲を出して居ないか?

 

「怖いこと言ってんじゃねぇよ、それに吹寄は誰とも付き合っていないぞ」

 

「そうか……なんだと?!付き合っていないだと!?」

 

「あ、あぁ。ほら吹寄ってそんなキャラじゃないだろ?むしろ『不純異性行為はダメだ』ってキャラじゃん」

 

「ふざけるな!!貴様!!あの制理が誰とも付き合っていないだと!?何をやっているんだ?!見る目無しか!?ああん!?」

 

「お前はどうしたいだよ?!」

 

「制理を幸せに出来る人間を探し彼女と付き合わせ、そしてそれを阻止したい!!」

 

「なんだよ!?その無茶苦茶な行動!?」

 

訳がわからない、コイツはどうしたいんだ?

 

「…………すまん、取り乱した」

 

「なぁ、その吹寄を幸せに出来る人間ってのはお前じゃダメなのか?」

 

もうめんどくさいから自分でその理想な彼氏になればいいのに。

 

「だから俺は彼女を傷付けた、謝罪しても許されない程にな」

 

「でも謝っていないんだろ?吹寄は何だかんだで許しちゃうと思うけどな、まぁ時間が掛かるとは思うけどな」

 

また今回の様な事を起こされてもたまらない。

 

そこで僕はある決心をした。

 

斎藤誠と吹寄を仲を取り持つ計画だ。

 

別に恋人にするわけじゃない、確かにコイツはどうしょうもないストーカーだ、だが、先にも言ったが吹寄は何だかんだでコイツを許すと思っている。

 

それには時間が掛かるだろうが、手始めにメールやら手紙やらで交流を持たせ、最終的には『恋人未満、友達未満の知り合い』程度の仲になれば両者納得するんじゃないかと思っている。

 

流石に、いきなり顔を合わせると言うギャンブルをするほど僕も馬鹿じゃない。

 

そうすればコイツに恩が売れるし、これまでのような敵意も少なくなるだろう。

 

そう思っていると、僕らの病室のドアが空き誰かが入って来た。

 

「小野町仁、お見舞に来たぞ」

 

瞬間、僕は病室の窓を開け飛び降りようとする斎藤誠を押さえつけなければならなかった。

 

その様子を、来訪者、吹寄制理は不思議そうに目撃したのだった。

 

 

 

 

 

『冥土帰しの日記』

 

『今日は大変な1日だった。

ここ最近入院と退院を繰り返している少年がまた問題を起こしたのだ。

今回は彼の友人が病室を無茶苦茶にし、何故か全身ボロボロな状態で倒れ混みその後2人とも病院から逃げ出してしまうと言う事態が発生したのだが、彼は以前にも似たような逃走を行った前科があるから前回と同じ様にここに運ばれて来るのだろうと予測していた。

それから一時的に(正確には34分間なのだが)学園都市全域で電力が止まってしまい、病院内はパニック状態に陥って僕も走り回っていた時である。

彼女を発見した。

彼女は顔面にまるで雷を受けたような酷い火傷を負い、気を失っい玄関に倒れて居たところを発見した。

すぐに応急処置を行った、顔面は焼けただれて、最早元の顔に戻すのは不可能な状態で、そもそも元の顔を知らないので、彼女が意識を取り戻したら別人の顔に整形手術する必要があると言わなくてはならない。

深夜、脱走した少年二人が再びこの病院に搬送された。驚いたのは入院中だった少年の傷跡がすっかりと完治していた事だ。一体彼らは外で何をしていたのだろう?

ともかく今日は大変な1日だった。

 

追伸、顔面に酷い火傷を負い倒れていた少女が目を覚ました。しかし、僕の説明を受けた瞬間、彼女はなにかを理解したかのように泣き出し、自分には記憶が無いと嘘を言った。僕はその嘘を聞くのは何だがいけない事だと思い、あえて追及しなかった。彼女は自分の名前だけを明かしてくれた。

彼女の名前は「バツコ」。

これは僕の予測に過ぎないのだが、バツコに火傷を負わせた誰かは彼女を新しい顔に変え、新しい生活を送らせる為に顔を焼いたのではないか、バツコを助ける為にあえて非道な行いをしたのではないかと予測した。

しかし、当の本人が語らない以上、僕に追及する資格はない。

僕はこのバツコがまともな生活を送れる様にこれからサポートするつもりだ』

 

 

 

 

 

窓の無いビル。

 

その内部にその人間は居た。

 

その人間を『人間』と表現するのは少し難しいかもしれない。

 

それは外の人々と違い、円形でガラス状の装置に並々と入った液体に体の上下を反転させ漬かっているからだ。

 

その人間は液体の中で漂いながらも、学園都市全ての情報を取得し、操作していた。

 

人間、アレイスター・クロウリー。

 

学園都市総括理事会会長。

 

科学の発展した街の頂点に君臨する人間。

 

そんなアレイスター・クロウリーは現在、液体とガラス越しからある映像を見ていた。

 

それは報告書だ。

 

今回の実験における2つの報告書。

 

それを眺めながら、アレイスター・クロウリーは何気なく、呟いた。

 

「そろそろ来ると思っていたよ」

 

アレイスター・クロウリーの視線は部屋の奥、暗がりに向けられている。

 

すると突然暗闇に変化が起きた。

 

暗闇は霞の様に歪み、その霞は人の形に凝縮し最後には一人の男がそこに現れたのだ。

 

男は長身で、黒いシャツに少しくたびれた黒いスーツ。

 

その全身からは、言い得ない雰囲気を醸し出し、あえて言うのならば『奇妙』と明記しておこう。

 

「こうして会うのは始めてだな」

 

「しかし互いに存在は確認していた」

 

アレイスター・クロウリーは言葉を区切り、男の姿が完全に目視出来るまでまった。

 

「そうだろ?夜遊我世」

 

男は、夜遊我世は頷き、言葉を発した。

 

「なら、我輩がここに訪れた理由もわかっている筈だ」

 

その言葉は全身を凍らせる様に冷たく、同時に心臓を業火で燃やすように熱かった。

 

「もちろん」

 

常人なら言い得ない不安を欲する言葉もアレイスター・クロウリーには気にしない。

 

「小野町仁……正確には『化け物』の話だろう?」

 

「そうだ、今回の実験の発案者は貴様だろ?」

 

夜遊我世の問いにアレイスター・クロウリーは返す。

 

「実験ではないよ、言うならばこれは選考だね」

 

「……選考?」

 

「私のプランは知っているだろ?そのプランを行うに辺り適応する人材を選らんでいるのだよ」

 

「……『幻想殺し』の事か?」

 

「そう、全てを打ち消す『幻想殺し』と全てを破壊する『化け物』。打ち消す力と破壊する力どちらもプランには必要不可欠だ、しかし、両方は要らない」

 

「納得しかねるな、そもそも少年は」

 

「偶発的に産まれた力」

 

夜遊我世の言葉を遮る様にアレイスター・クロウリーは言う。

 

「確かに初期の段階では『幻想殺し』をそのプランに加える事になっていた、しかし、酷似した『化け物』が現れプランの変更する可能性が出てきたのだよ」

 

アレイスター・クロウリーは科学者だ。

 

科学者は常に実験の最高値を求める。

 

アレイスター・クロウリーの言うプランの結果が更に良くなる可能性があるのならそれを試さなくてはならないのだ。

 

「その為に我輩に依頼したのだな?」

 

「君は実にいい働きをしてくれた『化け物の成長を促す為の相手』を見繕ってくれたのだから」

 

「斎藤誠に能力を与え、長谷部差鉄に製作書を売り、そして今回は本来ならあり得ない歩夢に力を振り込んだ」

 

「……」

 

「結果、『化け物』の性能は比較的に向上し擬似的に『奇跡と贄』が発現した、なおかつ所有者の精神向上に繋がったのも喜ばしい事態だ」

 

「……」

 

「よって私のプランは変更無く『幻想殺し』を使う事にする」

 

「……ほう」

 

「確かに『化け物』をプランに加える事は簡単だろ、しかし、彼の根本に問題がある」

 

「根本?」

 

「『正義の定義』だよ、小野町仁にはそれが些か欠如していると見ている。人を助けようとしない彼をコントロールするにはその点が非常に困難だ」

 

「確かにそうだな」

 

「だが、使い道はある」

 

「何?」

 

「君の本来の仕事を潰す為には『幻想殺し』よりも『化け物』の方が適任だろ?」

 

アレイスター・クロウリーの言葉に夜遊我世は僅かに眉を潜める。

 

「別に驚く事ではない、そもそもの話……君はそうなることを望んでいるのではないか?」

 

「何が言いたい?」

 

「私も『ヤツ』の存在は知っているさ」

 

「我輩は仕事をしただけだ、クライアントが望む物を提供する事が我輩の仕事」

 

「結果、私のプランを、破壊する事になってもかい?」

 

「その為に『化け物』を作ったのだろ?」

 

「『幻想殺し』は未だに消すだけの力、『ヤツ』に対抗出来るのは破壊する力を持つ『化け物』だけだからね」

 

「『ヤツ』は必ず『彼女』を無き者にしようとする、それを食い止める可能性があるのは『化け物』しか居ない」

 

人間と人間は互いに相手を見ながら、ここに居ない化け物の話をする。

 

「さて……これから忙しくなる。我輩は失礼するぞ」

 

夜遊我世は振り向き歩き出す。

 

アレイスター・クロウリーはそんな彼に問い掛けるのだ。

 

「これからどうしたらいいかな?」

 

学園都市の全ての表と裏を支配する人間の問い掛けに、夜遊我世は歩みを止めて最後にアレイスター・クロウリーを見て呟く。

 

「さぁ何せ我が輩は

『ここには居ない』

のだから」

 

瞬間、夜遊我世の姿が無くなった。

 

霧のように消えたとか、影が薄くなるとか、そんな前置きもなく、ただ突然と、最初からそこに誰も居なかったかのように、消えたのだ。

 

再び一人になったアレイスター・クロウリーは呟くのだった。

 

「さて……本当にどうしたらいいかな?『化け物』もクローン……いや、『ザ・ウォーカー』も……そして『夜遊一族』も」

 

「………まずは『化け物』を学園都市から追い出さなくてはいけないな」

 

 

 

 

 

気まずい!!

 

なんだこれ?!

 

なにこれ?!

 

なんなんだよ!?

 

吹寄の登場により、僕らの男子2人は完全に正気を失っていた!!

 

と言うよりも、斎藤誠がヤバかった!!

 

コイツ吹寄を見るや窓から飛び出ようとしやがるし、今も何故か布団を頭から被っていやがる。

 

「おい、なんのつもりだ!?出てこい!!」

 

「ふざけるな!!貴様!!あ、あ、あ、あ、あの制理が居るんだぞ!!俺は居ないもので扱え!!」

 

「テメェ!!こんな状況でなにしていいのかわからねぇよ!!」

 

「おい、貴様ら……」

 

「吹寄!取り合えず今日は帰れ!!」

 

「ふざけるな!!なんだ制理に対してその言葉は!!」

 

「だったらテメェは布団から出てきやがれ!!」

 

「おい」

 

「ふ、ふざけるな!!どうやって顔を合わせればいいかわからん!!」

 

「ピュアか!?ここに来て変なキャラ建て止めろ!!気持ち悪い!」

 

「お」

 

「止めろ!!制理の前で俺を侮辱するな!!何だが恥ずかしいだろ!!」

 

「知るか!!」

 

「いい加減にしろ!!この馬鹿ども!!」

 

「吹寄!?何で僕に拳を振り上げて……ゴフッ!?」

 

吹寄の拳が僕の頬に食い込み、そのまま僕は壁に叩き付けられた。

 

何で?

 

「貴様もだ!!いつまで布団に隠れている!!出てこい!!」

 

「せ、制理!!いや吹寄さん!!や、やめてくれ!!………ありがとうございます!!」

 

吹寄は斎藤誠を布団から出し、そして斎藤誠も殴り付けた。

 

殴られた事に対して感謝した斎藤誠が気持ち悪かったが気にしない事にする。

 

「貴様ら、正座しろ!!」

 

そして、僕らは仲良く床に正座する羽目になった。

 

……だから何で僕まで?

 

 

 

 

 

部屋をノックする音で俺は目が覚めた。

 

いつの間にか机で寝てしまったらしい。

 

「……入れ」

 

「し、失礼します、総理」

 

ドアを開け入って来たのは部下の……名前が思い出せない、名前を何度も聞くのは相手に失礼な事だ。

 

だから俺はこの名前を忘れてしまった部下の名前を聞く事はしない。

 

それが彼のためだからな。

 

「どうした?」

 

俺は眠気を覚ます為に目を擦りながら聞いた。

 

「く、件の少女が見つかりました!!貴方の娘さんです!!」

 

「………娘?……あぁ。本当か?」

 

一瞬、娘と言われてなんの事か疑問に思ったが、そう言えばそんな嘘を付いた事を思いだし、少し慌てた。

 

「えぇ!!え、衛生カメラや監視カメラの映像から特徴が酷似した人物が見つかりました!!ば、場所は――」

 

「学園都市周辺だろ?」

 

「え!?そ、そうです!!」

 

この時の俺の感情を言い表せるのは難しい。

 

長かった、本当に永い年月だった。

 

そして、俺はこの時を待っていたのだ。

 

「この件を知っているのは君だけだね?」

 

「え、えぇ、し、調べるチームにも詳細は知らせていません!!」

 

「そうか……よくやった」

 

俺は両手で部下の肩を叩き、労を労う。

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「ありがとう……さようならだ」

 

そして

 

「え?総理?なにを―――――」

 

これは『平和の為』に『必要』な事だ。

 

『平和の為』、引いては『正義の為』、よってこれは『悪行ではない』。

 

すべては『正義の為』、この『世界の平和の為』。

 

俺は『正義』だ。

 

その為にこの残虐な行いを『後悔してはならない』。

 

それは部下の男の犠牲を『侮辱』する事になるからだ。

 

だからこの計画をすることに『後悔』はない。

 

彼女に手を掛ける事は『必要な事』だ。

 

「やっと会えるな……『禁書目録』」

 

全ては『正義』の為、犠牲は『平和』の為に。

 

 

 

 

 

「あの~僕は外に行きましょうか?」

 

「貴様はここに居ろ」

 

「そうだ、ここに居ろ!!いや、居てくれ!!」

 

嫌だよ……だってこの二人と同じ空間にいると胃に穴が空きそうなんだもん。

 

最近、病院の存在意義を疑いたくなってきた。

 

だってここに居るといつも怪我しているぞ。

 

「………斎藤誠だったな」

 

「……そうです」

 

「ふ、吹寄……その……」

 

「貴様は黙っていろ」

 

「……はい」

 

なにこの拷問?

 

居ろだとか、黙っていろだとか、この場面に僕は本当に必要なのか?

 

とにかく、この場には重々しい空気があった。

 

それを破ったのは、吹寄だ。

 

「何だか昨日、また、私は事件に巻き込まれていたらしな?」

 

疑問系なのは、吹寄には昨日の出来事に関しての記憶が無いらしい。

 

どうやら昨日僕を襲った吹寄を操る何者かが彼女の記憶を消したらしいのだ。

 

「私はまた助けられたらしい、小野町仁と……そして貴様に」

 

「………」

 

斎藤誠は黙っている。

 

「その事については礼を言わせてくれ、ありがとう」

 

「せ、……吹寄さん、俺は……」

 

「だが私は貴様に誘拐されたらしいな」

 

斎藤誠の言葉を吹寄が遮る。

 

………ん?『らしいな』?

 

「生憎、その時の記憶も抜けてしまっていてな……だから『もういい』」

 

「え?」

 

「……吹寄?」

 

「『あの時』の事は『忘れた』だから『もういい』」

 

その言葉の意味を理解するのに少し時間が掛かった。

 

その言葉の重みを受け入れる事は僕にはできなかった。

 

その言葉の真意は理解できた。

 

「…………」

 

斎藤誠は僕以上にそれらを考えている。

 

『その言葉』はどれ程の価値があるのか本人しかわからない、もしかしたら、望んでいないのかも知れない。

 

そして、斎藤誠は

 

「っ!!」

 

突然飛び上がり、窓を開け飛び降りた!!

 

「?!」

 

僕達は驚き、外を見たら叫び声を挙げながら走り去る斎藤誠の姿を見ることが出来た。

 

何で無事なんだよ?

 

ここ5階だぞ?

 

「変な奴だな」

 

「お前には言われたくないだろうな」

 

「うるさい」

 

「『忘れた』?ねぇーだろ」

 

「止めろ」

 

「まぁ……吹寄はそうだよな『何だかんだで許す』奴だよお前は」

 

「……小野町」

 

「何だよ?」

 

「殴る」

 

「はぃ!?何で?!」

 

「ムカついた、目を閉じろ」

 

「無茶苦茶じゃないですか!?」

 

「早くしろ!!」

 

こうして僕は何故かまた吹寄に殴られる事になってしまった。

 

酷くね?

 

なにこれ?

 

しかし、痛みを堪える為に目を瞑ったがいつまで経っても痛みがこない。

 

代わりに

 

僕の身体は何か柔らかい物体に包まれた。

 

「???!!!ふ、吹寄!?」

 

吹寄が僕に抱き付いている!?

 

何で?!

 

「……お願いだ……少しだけ……」

 

吹寄を引き離すのは簡単だ。

 

しかし、僕はそれをしなかった。

 

別に彼女の豊満な何かを楽しむ訳じゃないぞ!!

 

そ、それとは別に、

 

吹寄は震えていた。

 

彼女にとって斎藤誠を許す事は何を意味していたのだろう。

 

過去に自分を傷付けた人間を許す事はどれ程勇気がいることなのだろう。

 

僕ならば許さない。

 

一生許さない。

 

しかし、吹寄は許した。

 

それは何故か?

 

今回、斎藤誠は歪みに歪んでいたが、それでも全身がボロボロになりながらも、吹寄を救う為に頑張った。

 

その恩義が、彼女には伝わったのだろう。

 

それしかない。

 

誰かが言ったのかわからないが、もしかしたら、頭がいい吹寄の事だ、一人で真相にたどり着いたのかもしれないが、

 

彼女はその恩義の為に過去の過ちを許したのではないだろうか?

 

義理堅い彼女のことだ、十分にあり得る。

 

しかし

 

許したと言ってもまだ後悔しているのかもしれない。

 

人間は簡単に割り切れる生き物ではないのだ。

 

一言許したと言ってもまだ許さない思いもあるはずなのだ。

 

許したのに許さない。

 

そんな後悔やら戸惑いやらが今の吹寄には渦巻いているのだろ。

 

まぁ、そんなことはわからない。

 

僕は人の心を見る術が無いのだから。

 

だから、今僕の腕の仲で震えている女の子が落ち着くまでこのまま何もしないのが正しいと思ってしまう。

 

「小野町仁……これでよかったのかな?」

 

吹寄の言葉に、僕は答える。

 

「知らねぇよ」

 

「薄情者……」

 

「そうですよ~……でも……」

 

「?」

 

「僕は吹寄が笑えるのならそれでいいよ、笑えるまでは付き合うからさ」

 

これは、吹寄と斎藤誠の問題だ。

 

僕が答えを、僕の考えを押し付けていい訳が無い。

 

だから、僕が出来るのは彼女が納得するまで見守ることしか無いのだ。

 

「………ありがとう」

 

「その言葉を聞くのは2度目だな……今回は無報酬でいいぞ」

 

「バカ」

 

「最近、学校に行っていないから真面目にそうかも知れないなぁ」

 

「また勉強見てやるわよ」

 

「ヤダよ、スパルタだもん」

 

「……ふふ」

 

「ハハハ」

 

所で吹寄さんいつになったら離して貰えますかね?

 

もうね、ヤバイの。

 

何がとは言わないけど、ナニがね。

 

「……小野町仁、1つ聞きたい事がある」

 

「何だよ?」

 

「貴様はあの時なぜ私を助けた?」

 

昨日と同じ問い。

 

彼女を傷付けた答えの問い。

 

その問いに僕は答えなければならない。

 

 

 

 

 

この物語は正義と悪の物語。

 

しかし正義は無い。

 

あるのは自業自得の罪の物語。

 

しかし……。

 

それでも得るものは有った物語である。

 

ある者は過去の許しを得る。

 

ある者は一人の人間の未来を救えた結果を得る。

 

そして、僕は

 

「お前は僕の大切な友人なんだ、僕の為に頑張っただけだよ」

 

過去の失敗を帳消しにするチャンスを得た。

 

 

 

 

御坂妹編、完。

 

 

 

 

 

 

通知書。小野町仁殿。

 

貴殿の学園都市における問題の数々に対して、我々学園都市学業管理委員会は、貴殿をこれ以上学園都市に在籍させるのは困難だと判断しました。

 

よって貴殿を学園都市から退学する事を決定し、貴殿の学園都市の籍を剥奪いたします。

 

貴殿には今後、学園都市の外にある『地上ノ星学園』にて学業と調整を行います。

 

詳しくは付属の資料を参照してください。

 

貴殿の今後の学業がより豊かになることを願っています。

 

以上。

 

 

 

「………………………はい?!」

 

 

 

 

 

こんなに頑張っているのに何で俺にはヒロインがいないんじゃ、小野町仁の物語。

 

最終章『禁書目録編』始動。

 

 

 

 

 

 




少ししたらあとがきを書きますのでここでは今の思いを書かせてもらいます。

やっと終った!!

長過ぎだろ!?

それにグダグダの連続で何人もの人から指摘される始末!!
てでもこんな話でも見放さなかった方々、本当にありがとうございます!!

あとはあとがきで書きます!!

では!


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御坂妹編、あとがき

病院編からこの御坂妹編まですごく時間がかかってしまい申し訳ありませんでした!

 

自分でもまさかこんなに長くなるとは思っていませんでしたね。

 

うん。

 

さて、今回は紹介キャラが多いのでチャッチャとやらせてもらいます。

 

 

 

 

○斎藤誠

 

今回は第1話の敵キャラ『斎藤誠』を再登場させました。

 

初期に比べて、気持ち悪さが格段に上がって無茶苦茶気持ち悪かったですね。

 

さて、一番の変化はこいつの能力でしょう。

 

W.A.L.システム。

 

本編ではわかりにくかったと思うので補足説明をします。

 

夜遊我世の手引きにより『特定のレベルを持たない能力者になった』斎藤誠は小野町仁に敗北後その大きすぎる能力を扱えなくなっていました(正確には暴走状態ならば使える)。

 

それの解決策として使用されたのがこのシステムであり、『数ある能力の応用』を捨て『限られたアクション』を組むことにより暴走を押さえる役割を担っています。

 

レベルに応じた能力による攻撃方法が特徴的で斎藤誠の『言葉』をスイッチに脳内のパーソナルリアリティに組み込まれた能力を発動する仕組みになっています。

 

まぁ、人の脳がそんな簡単に設定できる訳が無いので、外部からの補助として大村義による『能力調整』が必要になるんですけどね。

 

現段階ではレベル1からレベル4までの性能が使用可能になっており、おさらいとして一つ一つ説明をします。

 

まずは本編で2回ぐらいしか使われなかった『W.A.L.1』です。

 

シンプル・ザ・シンプル!!

 

この能力は指先に空気の球を作って発砲するだけの、簡易的な拳銃みたいなものですね。

 

『空間加速』本来の『風を集め加速させる』能力を純粋に行っている能力です。

 

 

お次は『W.A.L.2』。

 

この能力は『W.A.L.1』の風の球を大量に制作し、自身の身体の回りに漂らせ、一斉に発射させる、マシンガンみたいな能力です。

 

おまけに、漂っている状態ではバリヤみたいな役割を担っていて、攻撃と防御どちらもこなせる能力になっています。

 

そして、防御を重点に置いた能力として『W.A.L.3』が有ります。

 

これは球体ではなく板状に空気を集め操作する能力であり、まさしく防御壁の役割なのですが、斎藤誠はこの能力を防御ではなく、相手を押し潰す為の攻撃方法として使用していました。

 

形がより複雑になった為に動きは遅いですが、その代わりに強度が格段に上がっています。

 

そして『W.A.L.4』。

 

これは初期の人工的に鎌鼬を作り相手を切り刻む能力です。

 

能力とは別に精神的にも変化を付けました。

 

今まで同様に吹寄制理を想う心はありますが、それ以上に彼女を傷付けた事に対して後悔をしています。

 

まぁ、調子に乗っていて、落ち着いたらやらかしたと思うような感じです。

 

当初の予定では斎藤誠が主人公になる予定でした。

 

好きな人を守る為にどんな犠牲も払う覚悟があり、なおかつその精神状態で能力が変化するキャラなんていかにも主人公ポイでしょ?

 

しかし書いていく内に『好きな人を好き過ぎる』をどう表現したらいいか考えていくうちに、「誘拐すればいいじゃない?でも流石に主人公が犯罪は不味いか?じぁ敵にしよう!!」って感じに今のポジションに収まりました。

 

さて、最後に許しを貰えた彼が再登場するのはいつになることやら?

 

 

 

 

大村義

 

斎藤誠サイドの新キャラ大村義です。

 

このキャラクターは以前募集したキャラ案から採用させて頂きました。

 

阿吽様ありがとうございます。

 

詳しい設定を提供して頂きましたが今回で全ての設定を出すことができずに申し訳ありません。これからも彼女は登場予定なのでその話で残りの設定を出させて頂きます。

 

さて、大村義ですが彼女の能力は『能力調整』と言う少し変わった能力です。

 

斎藤誠の補助役を勤める彼女ですが素性は謎に包まれ、わかっていることは斎藤誠に想いを寄せていて、小野町仁には悪意に似た想いを持っている、と言う所です。

 

今後の彼女の登場に期待してください。

 

 

○歩夢/アユム

 

今回の敵、歩夢です。

 

しかし正直に話すとコイツを『敵』と言うのは難しいかも知れません。

 

シスターズのクローン技術を借り作られた、言わば小野町仁と御坂美琴のクローンである彼ですが、知識、感情は一般的な人間と変わりありません。

 

しかし、言葉遣いは少し機械的で頭の言葉を2度繰り返す事になりました。

 

例として『それにそれに』や『なんだなんだ』とかですね。

 

そんな彼の能力は御坂美琴の遺伝子から電気系の能力を持ちますが、自身には発電能力が無いために外部から充電しなければならない『充電電気』になっています。

 

それが進化したのが、物体を分解する『電気分解』です。

 

これにより斎藤誠の能力で作られた空気を分解し、彼にダメージを与えました。

 

しかし、体内の電気が無くなり、その後現れた小野町仁に、止めを刺され彼は敗北を迎えました。

 

そして、新たに登場したのが、別人格、化け物の能力を大きく現したアユムです。

 

歩夢が人間のクローンと言うのならばアユムは化け物のクローンと考えてください。

 

歩夢とアユムは『生きたい』と望んでいます。

 

しかし、『実験に協力すれば生き続けられる』と考えている歩夢と違い、『自分以外が死ねば自分は生き続けられる』と考えているのが、アユムです。

 

両者とも似た者で、能力もほぼ同じですが、アユムの残忍な思いが能力の性能を向上させています。

 

ツリーダイヤグラム試作2号機からのみ充電を行っていた歩夢ですが、アユムは学園都市全体で充電を行いました。

 

その範囲は電線から携帯や時計と言った隔離した電力までおよび最早充電と呼べなく、『略奪充電』と言った方がいいかも知れません。

 

それに加え常時発動形の『崩壊電気』まであるので、手に終えません。

 

彼等は小野町仁に、殺害されましたが。

 

………学園都市では死んだ人間も簡単に甦るので、もしかしたら………ね。

 

 

 

 

 

○バツコ

 

ミサカ××××号、×が4つ、××4、バツコです。

 

歩夢サイドの新キャラ、姉属性のバツコちゃんです。

 

歩夢はまだ誕生してまもなく充電する為の脳がまだ完全ではありませんでした。

 

それを補助する為に作られたのが彼女です。

 

ツリーダイヤグラム試作2号機からバツコを介して歩夢に電力が供給される仕組みです。

 

まぁ、それも歩夢の脳が完全に充電に耐えられるまで成長するまでの間でしたので、それが終われば本来の目的に戻される予定でした。

 

つまりは一方通行の実験の為に死ぬ運命でした。

 

しかし、歩夢の『計らい』によって新しい生活を与えられました。

 

彼女のその後の生活が幸せなものになることを祈ります。

 

 

 

 

 

○小野町仁

 

………特にありません。

 

巻き込まれて、自分以外の化け物が居ることが嫌だから頑張った主人公でした。

 

あと、BB-Vとか言う新しい能力を発現しましたが、この能力使いずらいですね。

 

確かに『ダメージを他の物体に移す』能力は魅力的な点ですが、大前提に『自分が出血していなくては使えない』『自身に使う際はそれ相応なダメージを受けていないと使え無い』点がネックになっています。

 

まぁ、自分が助かりたいが為に他者を犠牲にする思いで発現した能力なので、こんな使い所が限られているモノになったんでしょうが。

 

 

 

 

○今回の話

 

さて、まずは謝罪をさせて頂きます。

 

今回の話はグダグダに加え長くなってしまい。

 

何人かの人から厳しい指摘を受けました。

 

その中でも多かった言葉は

 

『方向性がない』

 

『御坂妹編と言うのに肝心の御坂妹が出ていない』

 

この二点です。

 

作者自身もその事は承知しており、自身の力不足を痛感しています。

 

申し訳ありませんでした。

 

しかしながら、少しだけ言い訳させてください。

 

まずは『方向性がない』と言う点ですが、今回は私事ですがまずは『斎藤誠の再登場』と『小野町仁のクローンの登場』がやりたく今回ような構成にさせて頂きました。

この話以外に『黒子編』や『初春編』も考えていたのですが、それでは色々とごちゃごちゃになってしまう恐れが有ったので没になりました。

 

感覚的には劇場版とか特別編とかそんな感じにとらえてもらえたら幸いです。

 

次に『御坂妹編と言うのに肝心の御坂妹が出ていない』と言う点ですが、

 

実の所今回のタイトルは当初『クローン編』になる予定でした。

 

しかし、それでは少し普通過ぎると思い、クローンでまず連想される『御坂妹』を使わせてもらいました。

 

まぁ、今考えると『御坂妹』って『御坂10032号』の事なので、どちらにしても間違ったタイトルでしたね。

 

指摘してくれた、VAN様ありがとうございます。

 

 

 

 

 

○最終章を迎える前に

 

さて、今回の最後に書いたようにこの小野町仁の物語も最終章を迎えようとしています。

 

そこで最終章前に数話挟みたいと思います。

 

それは『小野町仁が化け物になった経緯』です。

 

今まで小野町仁がなぜ化け物になったのかその経緯は伏せさせてもらいました。

 

次回の話ではそれを書こうと思います。

 

タイトルは『小野町編』です。

 

あらすじといたしましては、原作の二ヶ月前のこの物語の更に前、小野町仁が中学生の時になるまで戻ります。

 

そして、今まで伏線として出てきた小野町仁の姉が登場し、更には『あの4人』も登場予定です。

 

誰かって?あの4人ですよ。

 

まぁ、それが終わってもあと1つ書きたい話があるので、最終章はあと2話程かかる予定です。

 

最終章のタイトルはもう書いたように『禁書目録編』。

 

ようやく、彼女が登場し、魔術サイドも関わります。

 

 

 

 

 

○最後に

 

今回は多くの読者様に混乱をさせてしまった話で申し訳ありませんでした。

 

この物語もあと少しで、一区切りを迎えるので、皆さまも、もう少しだけお付き合いして頂けたら幸いです。

 

今年もあと僅かになってきましたが、来年も変わらないお付き合いができたらいいと思っています。

 

では、最後はこんな言葉で締め括ろうと思います。

 

よいお年を!!

 



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小野町仁編
6章、予告編。


さてと。気が付いたら約一年ぶりの更新です。

…………覚えてる?


困難な状態に陥った時の解除法を知っているか?

 

この問題に答えはない。

 

あるにはあるが、それは誰しもが当てはまるわけでないのだ。

 

彼女の答えはこうだった。

 

「バラバラに壊す」

 

それが彼女だ。

 

彼女だった。

 

 

 

 

『化け物』と彼は呼ばれている。

 

彼は自分を『化け物』と自覚している。

 

『化け物』は全てを平等に、破壊する。

 

それが彼だった。

 

彼の名前は、

 

このまちじん。

 

小さい野の村、そして仁義の仁。

 

『小野町仁』。

 

これは『小野町仁』の話だ。

 

『小野町仁』と言う、『化け物』の話だ。

 

『化け物』の正体を探る物語。

 

間違いだらけの思惑の陣頭劇。

 

そして、一人の少女が成長する物語。

 

 

 

 

 

「うーいーはーるー」

 

 

 

 

 

 

「佐天さん?!」

 

 

 

 

 

 

「アッハッハッ!」

 

 

 

 

 

「笑うな‼」

 

 

 

 

 

「ツンデレってやつ?」

 

 

 

 

 

「王子さま見付けちゃった」

 

 

 

 

 

「オレの名前は」

 

 

 

 

 

「透けてます‼透けてます‼」

 

 

 

 

 

 

「BB-G」

 

 

 

 

 

「美しい」

 

 

 

 

「はいもしもし!?」

 

 

 

 

「悪いな、仁」

 

 

 

 

 

「窓があるじゃないか」

 

 

 

 

「お揃いだ」

 

 

 

 

「不味いことになった」

 

 

 

「あのストーカーを?だったら」

 

 

 

 

「『結果』だけを擦り付ける」

 

 

 

 

「君が無事でよかった」

 

 

 

 

「質問があるのは僕の方なんだ」

 

 

 

 

 

「お別れだ」

 

 

 

 

 

「『化け物』の正体は――」

 

 

 

 

「危ない‼」

 

 

 

 

「さてと」

 

 

 

 

「王子さま見つけちゃった」

 

 

 

 

 

「デェヘッヘ」

 

 

 

 

 

 

「可哀想な人ですね」

 

 

 

 

 

 

「小野町、『小野町仁』?」

 

 

 

 

 

 

「逃げられた」

 

 

 

 

 

 

「仮初めの平和」

 

 

 

 

 

 

「平和に、普通に生きたい」

 

 

 

「駄目に決まってんだろ?!」

 

 

 

 

「だー!これ俺のじゃねぇーか?!」

 

 

 

 

「魔術師」

 

 

 

 

「ぎぁあぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 

 

 

 

 

「確かに『無』だな」

 

 

 

「取れろ‼取れて‼お願い!」

 

 

 

 

「貴様を生かしているのは必要があるからだ」

 

 

 

 

「特技は速読」

 

 

 

 

 

「ルービックキューブ」

 

 

 

 

 

「痛いね」

 

 

 

 

 

「美しいものが好き」

 

 

 

 

 

 

「間違っている」

 

 

 

「私は『無』だ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せろ」

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な敵だなぁ‼」

 

 

 

 

 

「『押花刺繍(フラワータトゥー)』」

 

 

 

「そんなに呑んで」

 

 

 

 

「おーい、このお宝本貰っていい?」

 

 

 

 

 

「解除コード」

 

 

 

 

 

「死んだ人間」

 

 

 

「それでもやれ」

 

 

 

 

 

「循環生命(ライフリサイクル)」

 

 

 

 

「アッハッハ!」

 

 

 

 

「あんたは僕に似ている」

 

 

 

 

「痛て!?」

 

 

 

 

「諦めろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼べ……『小野町仁』を」

 

 

 

 

 

 

これは間違いだらけの物語。

 

『小野町仁』の物語。

 

『彼女達』の物語。

 

そして、

 

間違いの中から一つの真実が芽吹く物語。

 

間違った愛の物語だ。

 

 

 

 

こんなに頑張っているのに何で俺にはヒロインがいないんじゃー‼第6章!

 

『小野町仁編』

 

近日更新予定。

 

 

 

 

 

「貴方が、『小野町仁』さん?」

 

「え?あんた誰?」

 

 

『小野町仁』、そして『化け物』その正体が暴かれる!




今回は最初から最後まで書き終えたので1日1話でいけると思います。

問題は元旦に投稿するか、クリスマスに投稿するか、その場の気分でやります‼

楽しんで頂けたら幸いです。


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小野町仁編、プロローグ

さて、開始です。約2週間よろしくお願いいたします。


困難な状況に陥った時の解決法を知っているだろうか?

 

この問に答えは無い。

 

正確には答えはあるが同時に無いとも言える。

 

誰かの解決法を聞かされて、それを真似ても効果が無いのだ。

 

それの答えは個々個人の独自のモノになってしまう。

 

だから答えはあるが答えが無い。

 

それを踏まえた上で聞いて欲しい。

 

『彼女』の解決法はこうだ。

 

『バラバラにして作り直す』

 

バラバラに壊して。

 

始めから作り直す。

 

壊して変える。

 

それが彼女の答えだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻はまだ夕方くらいだろう。

 

しかし、建物の最奥部にあるこの場所に夕焼けの鮮やかな朱は訪れていなかった。

 

そこには女が二人。

 

一人は小柄で簡単に傷つけられそうな程小柄で、地面に這いつくばり、身体のあちこちに奇妙な刺青が彫られている。

 

もう一人は少し大人びた線の細い体つきをしていた。

 

彼女は静かにその女を冷めた目差しで見下ろしていた。

 

「諦めろ……」

 

見下ろしている女は言う。

 

「貴様を生かしているのは必要な事があるからだ。私の能力『押花刺繍』は貴様を殺せない……しかし、苦しみは味わって貰う」

 

女は言う。

 

「呼べ……『あの男』を。そうすれば能力を解除してやる」

 

這いつくばる少女は答えない。

 

いや、

 

答えられない。

 

女は今、全身から熱く焼ける様な痛みに耐えているからだ。

 

女から発せられるのは呻き声のみ。

 

女はなおも言う。

 

この事件の核となる言葉を。

 

「呼べ……『小野町仁』を」

 

 

 

 

さて、始めに言っておく。

 

今回の物語は僕、小野町仁の学園都市に置いての最後の物語になるだろう。

 

しかし、断っておくが今回の主人公は僕ではない。

 

僕、小野町仁が中心ではあるのだが主人公は僕ではない。

 

僕、小野町仁の化け物になった経緯を辿っていく物語であるが主人公は僕ではない。

 

今回の主人公は一人の女の子だ。

 

僕は彼女の事はあまり……イヤ、全く知らない。

 

何が好きで何が嫌いかとか、得意な科目は何で不得意な科目は何かとか、好きな音楽とか、癖は何かとか内面的と言うかそう言う知り合いの関係から一歩踏み込んだ情報は知らない。

 

逆に知っていることと言ったら外見的な第一印象位で、彼女は中学一年生であり、頭部に花を多く使ったカチューシャを着けている事ぐらいだ。

 

あとは彼女の名前くらいだ。

 

後から聞いた話だと学生で構成された警備組織『ジャッジメント』に所属したばかりらしい。

 

彼女の名前は初春飾利。

 

今回の物語の主人公は僕、小野町仁では無く、中学一年生で、ジャッジメントに成りたての、花を多く使ったカチューシャを着けている少女。

 

初春飾利の話だ。

 

 

 

 

 

よってこれから語る人物は彼女に委託する。

 

 

 

 

 




活動報告にも書いてありますが、これからは感想は見ない方向で、自分勝手にやっていくので、ご了承して下さい。


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小野町仁編、透けてます‼透けてます‼

7月12日。

 

この日、学園都市は稀に見る豪雨に見舞われていた。

 

交通機関の一部は完全にストップし、その為か通学に電車やバスを使う学生が多く居る学校の中では休校になった所も少なくない。

 

それ以外、つまり歩きで登校できる学生は傘を差し、強風に持っていかれながら通学しなくてはならない苦行を強いたげられていた。

 

初春飾利もその一人だ。

 

彼女は横風から吹き抜けた雨によりビショビショになりながら下駄箱でため息を吐く。

 

その目の下には少し隈が出来ていた。

 

昨夜、彼女は徹夜である仕事をしていたのだ。

 

学生の治安を監視する組織『ジャッジメント』、初春飾利もその組織に属していたが昨日夜遅くに彼女でなければ片付けられない事件が発生しそれをなんとか解決した為である。

 

豪雨と徹夜での仕事、この二つは初春飾利の気持ちを下げるのには十分すぎる要因だった。

 

「うーいーはーるー……おはよう……」

 

後ろから声をかけられた。

 

親友の声だ。

 

初春は咄嗟に自分のスカートを押さえる。

 

この親友は、とても良い人物なのだが、挨拶の代わりに自分のスカートを捲るという、大変迷惑な人物だ。

 

別に同性にスカートを捲られるのは百歩譲っていいとしても、周りの目がある。

 

流石に同年代の男子に毎回自分の下着を見られるのはキツいものがあるのだ。

 

しかし、今回は違った。

 

聞こえが悪くなってしまうが、いつまで経っても親友のスカート捲りが行われない。

 

不思議に思い、初春は振り向くと、そこには親友の佐天涙子の姿があった。

 

だが、驚くことに佐天の姿は初春以上に雨に濡れ彼女から滴る雨水が床に小さな水溜まりを作っていたのだ。

 

「佐天さん!?どうしたんですか!?」

 

よく見ると佐天の手には傘が無い。

 

佐天はこの豪雨の中傘を差さずにここまで来たようだ。

 

「……途中で傘、持っていかれちゃった」

 

「とにかく!!これで拭いてください!!透けてます!!透けてます!!」

 

初春は自分のポケットからハンカチを取りだし佐天に渡す。

 

初春達の学校は先日から衣替えで夏服に代わっており、薄いシャツは雨を含み白い色に、うっすらと肌の色が見えてしまっている。

 

もっと言うならば、男子は必要ない胸部にある淡い水色の下着まで見えてしまっているのだ。

 

更に言うならば、スカートも水分を含み皮膚に張り付いているので足や臀部と言った部分もハッキリと見えてしまう。

 

流石に親友の恥ずかしい姿をそそまま去らすのは何故か罪悪感を拭えない。

 

自分は常日頃から下着を周囲に見られているのにも関わらず、その犯人の恥ずかしい姿を隠そうとする辺、初春飾理のお人好し加減がわかってしまう。

 

しかし、ハンカチと言う小さな布切れでは彼女の惨状をなんとか出来るわけないのであまり意味がなかった。

 

どうするか迷っていると、またしても後ろから声が掛かる。

 

「オース!!二人とも!!」

 

そこに居たのはクラスメイトの男子だ。

 

「アッハッハ!!今日ヤバイな!!この雨!!」

 

「ま、円君!!見ないでください!こっち見ないでください!」

 

彼の名前は円順。

 

クラスのムードメーカーで、巻き毛の癖っ毛で、背の高いいつも笑っている男子だ。

 

「どうした……おわっ!?佐天お前……」

 

「見ちゃダメです!!忘れて下さい!軽蔑しますよ!!」

 

「アッハッハ!!なんかお化けみたいだな!!」

 

「へぇ?お化け?」

 

円の言葉にキョトンとしてしまう。

 

確かに、佐天の髪は長くこちらも当然の事ながら、雨に濡れ身体に張り付いており、主に顔とか表情も見えにくい程に隠れている。

 

おまけに自分の現状に落ち込んでいる為、少し俯いているので、確かに幽霊みたいに見えなくもなかった。

 

「アッハッハ!!傘無いの?え?壊れた?アッハッハ!!ヤベーじゃん!!アッハッハ!!」

 

「笑いすぎだ!!」

 

朝の下駄箱には円の笑い声が響く。

 

笑われている佐天はついにキレて円に掴み掛かった。

 

「アッハッハ!!痛え!!アッハッハ!!悪かった!!アッハッハ!!ごめんごめん……プッ!!」

 

「笑うな!!」

 

「アハハ、ごめんごめん。じゃぁこれは詫びの印に、ホイッ」

 

円は鞄から大きめのタオルを取り出すと佐天の頭に被せる。

 

「か、勘違いするなよ!!べ、別にお前の為に持ってきた訳じゃないんだからな!!俺が使うと思って持ってきたんだからな!!……ぷっ!!アッハッハ!!どうよこれ?ツンデレキャラ?アッハッハ!!」

 

「自分で言わなかったならポイント高いですね」

 

「アッハッハ!!だよな!!アッハッハ!!じゃお二人さんまた教室で!!佐天早くジャージに着替えろよ!!他の男子が見たら鼻血もんだから!!アッハッハ!!」

 

円は笑いながら先に教室に向かってしまった。

 

そんな円の後ろ姿を見ながら初春はタオルで身体を拭く佐天に言う。

 

「佐天さんもスミにおけませんねぇー」

 

「え?何が?」

 

キョトンとする佐天に更に言う。

 

「今の円君ですよ!!絶対佐天さんに気があるみたいじゃないですか!!」

 

「そう?円って誰に対してもあんな感じじゃない?」

 

初春は少し考える。

 

そして答えた。

 

「確かに……」

 

円順は不思議なクラスメイトだった。

 

彼は女子の間では『警戒しないで済む男子』と言う評価を下されているのだ。

 

これは別に円順が特別モテていると言う訳ではなく、ただ単に『気軽に接する事が出来る』と言うだけである。

 

そんなことはどうでもいいので、二人も円順の後を追うような形で教室に向かったのだった。

 



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小野町仁編、歳は19才で、常磐台大学に籍がある。好きなモノは『美しいモノ』で、特技は速読術、苦手なモノは料理だ、胸は無いが脚には自信がある

「佐天さんって最近運が無いですよね」

 

昼休みの教室で、初春が言った言葉である。

 

まだ外はバケツをひっくり返した様な豪雨が続 き、普段なら外で食べるなり、遊ぶなりしてい るクラスメイト達も大人しく教室に残っている ので、昼休みの教室は普段に比べて人が多く居 る印象があった。

 

そんな中、初春飾理の話題にも満たない、不意 な思い付きの様な言葉である。

 

その言葉で佐天涙子は口に運ぶ途中だったサンドイッチを止め、初春をマジマジと見た。

 

表情は少しムッとしている。

 

誰でもツイていないと言われたら多少思うとこ ろがあるだろう。

 

「失礼だな初春は、そんなこと無いよ」

 

「そうですか?だって佐天さんここ最近事件に 巻き込まれすぎじゃないです?」

 

ここで確認しておかなければならないのは、佐天涙子は中学一年である。

 

そんな彼女達の会話から『事件に巻き込まれ過 ぎ』と、まるで『テスト当日に勉強したか』の レベルで出て来るのは少し異様な事なのだ。

 

しかし、実際佐天涙子は先日学園都市を揺るが す『とある事件』に係わり昏睡状態になると言 う穏やかでは無い経験をしていた。

 

「その後は春上さんの事件とかありましたし、 今日もこんな雨の中で傘を壊しましたね」

 

「た、確かに……」

 

「あれ?確か佐天さん1ヶ月位前に誘拐されそ うになったて言ってませんでしたっけ?」

 

「あ、あれはいいの!!あれは損なんじゃないか ら!!トータル的にはプラスになったからいい の!!」

 

「プラスになった?」

 

佐天の言葉に初春は少しニヤついてしまう。

 

最近の事件でバタバタして忘れそうになってい たがそれらの事件が起きる少し前に初春は佐天 から気になる事を聞いていた。

 

『どうしよう初春……王子さま見付けちゃっ た』

 

少し興奮した様子でニヤニヤしながらそう言っ た佐天の言葉はとても印象的だったのを覚えて いる。

 

その時は詳しく聞けなかったが、佐天涙子に とって『その事件』で誰か大切な人でも出来た のだろうか?

 

佐天涙子は明るい性格で恐らく彼女に想いを寄 せる男子も少なくない筈だ。

 

逆に、佐天からはそんな話は聞いたことはな かった。

 

初春自身も現在、想いを寄せる男子は居ないの だが、やはり彼女は女子で、女子はその類いの 話題は興味深々なのだ。

 

よって話題は『佐天涙子の運が悪い』から『佐 天涙子の恋話』に速やかに変動した。

 

「佐天さんの王子さまってどんな人なんです か?」

 

「ムグゥ!?ど、どうしたの初春?!な、なんの ことかな?アハハ」

 

初春の問にサンドイッチを喉に詰まらせながら 狼狽する佐天。

 

その姿に初春は内心ニヤけてしまう。

 

「ほら、前に話してましたよね!!王子さまを見 付けたって。あれって結局誰のことなんで す?」

 

「教えない」

 

プイッと頬を若干紅く染めながらそっぽを向く 佐天。

 

否定は無い。

 

これはつまり、『自分には好きな人が居ます』 と言った様なモノなのだ。

 

初春は控えめな性格だが、恋話、それも親友の 恋話であれば本能的に前に出てしまう。

 

「教えて下さいよ、せめて名前だけでも!!」

 

「い・や・だ!!」

 

頑なに想い人の名前を明かさない佐天。

 

これは手強そうだと、内心舌打ちをする初春。

 

名前だけでも判れば後はジャッジメント経由で 『書庫』にアクセスして調べられるのに、それ が出来そうにない。

 

その後は「教えて」「教えない」の攻防が続き 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってし まったのだった。

 

結局、佐天涙子の想い人の情報は手には入らな かったが、そんな話題を続けていくうちに佐天 の顔はまるで茹でたタコのように真っ赤に染ま り、挙動がモジモジと動き、そんな親友の姿を 終始ニヤニヤしながら観察出来ただけで初春は 満足だった。

 

 

 

 

 

 

放課後、初春は再び溜め息を吐く。

 

今日はジャッジメントの仕事も無く、自宅でゴロゴロしようと思っていた矢先、携帯に着信があり、ここファミレスに呼ばれたのだ。

 

初春は傘をビニールに入れながら店内に入ると周りを見渡した。

 

初春を呼んだのはジャッジメントの先輩隊員。

 

と、言っても面識は無く、どんな人物なのかは見当も付かなかった。

 

「ん?オーイこっちこっち!!」

 

その時、奥の席で初春を呼ぶ女性が一人。

 

近付くとその女性の全身が見えてくる。

 

美人な人だなぁ。

 

と、初春は正直に思った。

 

可愛いとか綺麗だとか、そんな一般的に言われる女性の評価ではなく、『美人』とストレートに思ったのは仕方ないのかもしれない。

 

それほど目の前の女性は同性の初春からみても美人だった。

 

整った顔に鋭い眼差し、短めの髪は後で縛られている。

 

スカートではなくパンツ姿でスラリとした脚線が服の上からでもわかる。

 

そして何より印象的なのは彼女から漂う自信に満ちたオーラだ。

 

失敗をしたことの無いような、何事も結果は成功になるような、そんな自信に満ちたオーラを初春は感じていた。

 

「座ったらどうだい?」

 

「え!?あ、はい!!」

 

女性に声をかけられ初春は女性と反対の席に座る。

 

女性は初春の為に紅茶を注文してくれ、それが運ばれるまでニコニコと優しい眼差して初春を見ていた。

 

初春にはそれが自分を観察されているような気持ちになり、身体を固くした。

 

「さてとそろそろ自己紹介しなくちゃな。オレの名前は礼子。街乃木礼子だ。よろしく。初春飾利ちゃん」

 

街乃木礼子と名乗った女性はにこやかに手を差し出す。

 

そして自己紹介をしてくれた。

 

「歳は19才で、常磐台大学に籍がある。好きなモノは『美しいモノ』で、特技は速読術、苦手なモノは料理だ、胸は無いが脚には自信がある」

 

「う、初春飾利です……」

 

「そう緊張しないでよ、喋りすぎたオレが恥ずかしいじゃないか……そうだな。本題の前にちょっと遊びをしないか?」

 

「遊び……ですか?」

 

そうだ、と街乃木が取り出したのはルービックキューブだ。

 

それを初春に渡すと街乃木はこう言った。

 

「見ての通り面がバラバラだ。今からそれを揃えてみてよ。ただし制限時間は3分」

 

「3分?!無理ですよ!!そんなの!!」

 

「はーいスタート!!」

 

初春の声を無視して街乃木は開始を宣言した。

 

仕方ないので初春は言われるがままルービックキューブをカチャカチャと動かすが当然上手く面が揃わない。

 

その慌てふためく姿を満足そうに見守る街乃木。

 

3分後、そこにはいまだに面がバラバラのルービックキューブがあった。

 

「はい、残念。難しかったかな?」

 

「当たり前ですよ」

 

「じゃぁ今度はオレだ」

 

街乃木はルービックキューブを取るとおもむろにこう切り出した。

 

「実はこれオレ独特の心理テストなんだよ」

 

「心理テスト?」

 

「そうだ、『困難な状況になった時の対処法』ってね。飾理ちゃんは『決められた手段で解決するタイプ』みたいだ」

 

それを聞き初春は少しムッとしてしまった。

 

「ん?あぁ……ごめんごめん。別に君を否定する訳じゃない、それが『正解』だ。多分他の人がやっても君と同じことをするだろう、だから恥じることなんて無いんだ」

 

「それじゃまるで貴女は違うって聞こえますけど?」

 

「そうだね、オレの場合はこうするかな」

 

そう言った街乃木は片手を初春に見せる。

 

そこにはどこにでもあるような針が1本。

 

そして。

 

「えいっ!!」

 

もう片方の指先に針を刺したのだ。

 

「……痛いね」

 

「あ、当たり前です!!なにやってんですか!?」

 

突然の行動に狼狽する初春だが、街乃木はそれほど気に止めない。

 

「まぁ見てなって」

 

街乃木は血が流れる指先を下向きにして、少し待つ。

 

当然血は指差に溜まり、そしてとうとう重力に逆らえずに指先から離れ落ちた。

 

筈だった。

 

「……え?」

 

初春は驚きの声をあげる。

 

街乃木の指先から離れ落ちた血は下に落ちること無く指先から少しだけ離れた場所で停滞していた。

 

それだけでなく、僅かだが電気を帯びていたのだ。

 

そして、街乃木は手をまるで拳銃のような形にし、ルービックキューブに狙いを定めた。

 

そして

 

パンッ!!

 

拳銃の発砲音に似た音を轟かせ、血液を発砲したのだ。

 

血液は当然ルービックキューブに被弾しルービックキューブをテーブルから弾く。

 

カラカラと音を鳴らしながら床に転がったルービックキューブはピース一つ一つがバラバラに分解されたのだった。

 

突然の事に言葉を失う初春に街乃木は言った。

 

「これがオレの能力。Blood Bullet……正式名称は『補助結晶(パワーストーン)』。Blood Bullet Gemstones……略して『BB-G』だ。」



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小野町仁編、初春は少し考えて、紅茶を啜る。

「……ってごめんごめん。驚かせちゃったかな?」

 

街乃木は笑いながら床に転がったルービックキューブのピースを拾う。

 

「い、いえ……はい、ちょっとは」

 

だよな、と街乃木は全てのピースを拾うと再び席に着き、まるでパズルの様にルービックキューブを組み立て始めた。

 

「ちなみに、オレの解答は『バラバラにして作り直す』だ。ほらっ」

 

街乃木は初春にルービックキューブを見せる。

 

そこには6面全てが揃っていた。

 

「オレの『BB-G』は被弾したモノを『調整する』能力なんだけど、この場合はルービックキューブを『分解しやすい物質に調整した』んだ」

 

「ズルいとか思わないでくれよ?これはあくまで遊びなんだからね」

 

笑う街乃木に初春は少しだけ恐怖を覚えた。

 

何がとはハッキリとはわからないが、街乃木と言う人間の奥底には何か自分では踏み込んではいけない『何か』があるように思えてしまう。

 

「でも何で急に能力を見せてくれたんです?」

 

「んー?そうだな。まずはオレ達の関係性についてハッキリとしよか」

 

「関係性?……ですか」

 

「そうだ。君はこの場合『初対面の先輩』って感じだろ?」

 

「はぁ…」

 

初春は間違っていないので生返事をするしかなかった。

 

「じゃぁ今度はオレの場合の話だ」

 

「それは……『初対面の後輩』じゃないんですか?」

 

「……『頼れる仲間』」

 

「はい?」

 

街乃木は少し間を置くと呟くように言うのだ。

 

仲間と。

 

初春は疑問に思う。

 

「君のプロフィールは見させてもらった、君にはオレに必要な能力を持っている」

 

「えーと……?」

 

初春はまた疑問に思う。

 

確かに自分にも能力はあるが、ここ学園都市では取るに足らない能力だ。

 

だとしたら、残るはパソコンのスキルの能力だろうか?

 

「正解だ。オレには君のネットワーク解析の能力が必要なんだ」

 

「でもそれで何で能力を?」

 

「これから君にお願いするのは君の仕事の範囲外になるからだ、そこからはただの上下関係ではカバーできない領域になっている。だから『仲間』としてお願いするんだ、だから『一歩近付く』為、関係を一度バラバラに壊す為、『信頼』を見せた」

 

初春は三度疑問に思う。

 

何故、ここまで言い切れるのだろうか?

 

一体何をお願いされるのだろうか?

 

「別に断ってくれると助かる、もしも『上下関係から断るのは無理』と言う思いで引き受けると互いに後悔するからな、今この時は『対等』で答えてくれ」

 

初春は少し考えて、紅茶を啜る。

 

そして、砂糖とミルクを入れ忘れた事を思い出し少しだけ後悔しながら、顔をしかめる。

 

砂糖とミルクを入れ忘れた紅茶はそれ本来の味わいがした。

 

少しだけ苦味があり、それでいて微かな甘味を含んだ紅茶は目の前の街乃木の様に思えた。

 

違う。

 

街乃木がこの紅茶の様な人物なのだ。

 

見た目や態度、そして自信に満ちたオーラは苦味があるが、こちらの心情や思いを考慮する甘味を僅かに匂わせる。

 

それが初春から見た街乃木の人物像だ。

 

「わかりました、引き受けます」

 

街乃木は悪い人では無い。

 

少なくとも初春を対等に見てくれている。

 

初春は思うのだ。

 

こんな人の手伝いが出来るのは嬉しい事なのだと。

 

そして、街乃木礼子はその答えに嬉しそうに、本当に心底嬉しそうに、ありきたりだが、それでいてシンプルに伝わりやすい言葉でこう言った。

 

「ありがとう」

 

と。

 

 

 

 

 

あれから一時間後、初春は自分が所属している一七七支部の自分のデスクに座りパソコンを操っていた。

 

もちろん、街乃木礼子の頼みの為である。

 

『君は昨日あるハッキングを阻止したと思う。実はお願いとはそのハッキングを仕掛けた連中あるいは人物を探して欲しいんだ』

 

初春飾利の仕事は基本的にデータの保守だ。

 

そこから犯人を特定するのは自分等ジャッジメントではなく、アンチスキルの仕事になる。

 

確かに自分の仕事の範囲外に及ぶのだが、たまにアンチスキルと共同して犯人を検挙する事があった初春にとってはあまり珍しく無い仕事だった。

 

昨夜見た画面がデスクトップに表示され、そこからハッキングを仕掛けたパソコンをリンクを辿り見付けて行く。

 

五分後にはハッキングを仕掛けたパソコンを見付けてしまっていた。

 

あまりにも簡単で、いつもと同じ事だったので初春は少し落胆してしまった。

 

あんな正々堂々と対等だの何なのと初春を持ち上げておいて仕事はいつもと変わらないのだ。

 

初春は溜め息を吐く。

 

もしかしたら街乃木礼子とは物事を大袈裟に言う人物だったのでは無いのか?

 

そうも思えてしまった。

 

ハッキングを仕掛けたパソコンを突き止めた以上、初春は街乃木に連絡を取る手筈になっていた。

 

初春はパソコンの画面を最初の、ハッキングを仕掛けられた時の画面に戻し携帯を手に持つ。

 

そして疑問に思うのだ。

 

(あれ?住民表のプロフィール画面?)

 

そこには学園都市に住んでいるありとあらゆる人物のプロフィールが事細かに保存されているページだった。

 

初春が疑問に思ったのはそこに記載されている人物。

 

それだけではあまり疑問に思わないだろう。

 

問題はその人物が『場違い』なカテゴリにあったからだ。

 

特Aクラス。

 

役員や政治家、有名企業の社長など学園都市での重要な役割を任されている人物が多く居るカテゴリだ。

 

その人物は学生であるのにもかかわらず、そこの更に上位に組み込まれていたのだ。

 

確かに珍しいが決して無い話ではない。

 

これまで初春は探ろうとは思わなかったが、自分とそう歳が変わらない年代の学生がセキュリティレベル上位の保護を受けているのは知っていた。

 

しかし、彼等はそれ相応の知名度を持っていたりしているのだ。

 

例えば、初春の友人に御坂美琴と言う人物がいる。

 

彼女は学園都市で8人も居ないレベル5の電気系能力者だ。

 

彼女自身は気にも止めていないが、プロフィール管理の厳重度はそこにあった。

 

そんな重要人物の中に、ただの学生である筈のその人物がいるのだ。

 

高校も普通。

 

レベルも0。

 

本当に普通の学生である。

 

普通が故に異常なのだ。

 

初春は興味本意で、ほんの少しだけなら、と言う思いで詳細のボタンをクリックした。

 

その人物の係わりのある資料が幾つか表示される。

 

初春は呟く。

 

何も考えていないが、自然と口から発せられた言葉だ。

 

「小野町……『小野町仁』?」

 

 

 



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小野町仁編、小野町礼儀はこの喜びを弟の仁君に伝えたいと笑顔で答えてくれた。

名前:小野町仁

 

能力:『自己再生』

 

レベル:無能力者(レベル0)

 

追伸:『化け物』

 

 

 

 

 

「『化け物』?」

 

大雨が窓を打つ音を聞きながら初春はプロフィールに書かれた最初の数行、より正確には名前と能力の欄を読み首を傾げた。

 

まずは現在初春が閲覧しているページは本来なら学生である筈の彼女には、ジャッジメントであることも含めても閲覧出来ないレベルの物であることを明らかにしておかなければならない。

 

しかし、真実として彼女は興味本意でそれを読んでいる。

 

普段の彼女を知る人物がこのことを見たら驚くだろう。

 

しかし、初春はまだ少女だ。

 

まだまだその辺りの危機感は少ない。

 

そして、見てはならないページが見れる状況と、もし誰か来ても「犯人を調べる為」と言う言い訳があるこの状況で、初春は「ちょっとだけなら」と思ってしまったのだ。

 

だから、まるで幼い子供がクリスマスでサンタの正体を知ろうと親に黙って夜更かしをしているレベルで初春はパソコンの画面を見ていた。

 

「なんか抽象的な能力名ですね……」

 

初春は独り言を言う。

 

「能力が『自己再生』って事は回復力があるって事ですよね?もしかしたら筋肉の細胞が活性化するタイプの能力で副産物的に身体能力が格段に上がるとか?」

 

一言で『自己再生』と言っても様々だ。

 

細胞を活性化させて皮膚を再生する方法。

 

血液の血小板を操作し傷を埋める方法。

 

等々。

 

この『小野町仁』も何らかの方法で傷を再生することが出来、その副産物で身体能力を向上することが出来るのではないか?

 

しかし

 

でも、と、初春は続けた。

 

「無能力者……か……」

 

無能力者、学園都市の能力開発で何の成果も無かった者達の事だ。

 

能力はあるが発現することが少なく、出来たとしても微々たる事しか出来ない。

 

初春は先日、この『無能力者』について深く考える事件に関わった。

 

その事が一瞬頭を過る。

 

しかし、それを気にしたら話が脱線してしまうので初春は再びパソコンの画面と向き合う事で考えを再開した。

 

無能力者は極端に言ってしまえば何も出来ない。

 

つまり、この『小野町仁』が『自己再生』を使っても効果はほぼ無く、その副産物で身体能力が格段に上がるなどと言う事はあり得ないのだ。

 

「……じゃぁ何で?」

 

次に初春の目に止まったのはファイルだ。

 

そこにはこう題名が付いていた。

 

『小野町仁の調査報告書』

 

初春は少し考える。

 

そして、そのファイルをクリックした。

 

 

 

 

 

小野町仁は特殊なサンプルだ。

 

学園都市ではありふれた無能力者だが、『人魚の涙事件』以来、彼には特殊な能力が備わったからである。

 

 

 

『        』

 

 

 

 

「『人魚の涙事件』?」

 

初春は首を傾げた。

 

ジャッジメントになった当初、学園都市で起きた有名な事件は目を通したのだがこの事件の事は知らなかったからだ。

 

「『人魚の涙事件』なんだかメルヘンチィックな名前ですね」

 

とにかく、『小野町仁』はこの『人魚の涙事件』で何らかの、『化け物』の能力を発現したのだろうか?

 

次の行を読む。

 

 

 

 

 

小野町仁は当初、彼の姉に付き添う形で研究所に訪れた。

 

その時彼は中学を卒業し、春休みを迎えていた、だから彼の姉と一緒に研究所に来れたのだろう。

 

 

 

 

 

「姉?『小野町仁』には姉がいた?」

 

初春は呟いた。

 

どうでもいい情報なのだが、なぜかその姉と言う単語に興味を引かれたのだ。

 

「『付き添う』って事はこの『姉』さんがメインで呼ばれたのでしょうか?」

 

だとしたら、有名な人物なのかもしれない。

 

初春はふと、パソコンの画面を切り替え、ネットの画面を呼び出した。

 

そして検索欄に『小野町』と打ち込み、クリックを押した。

 

すると幾つか情報が出てきたのだがその量は意外に多く、目的の情報にたどり着けそうになかった。

 

初春は考え、隣に『学園都市』と打ち込んだ。

 

するといつくかの情報が出てきた。

 

「えーと……『小野町正氏、最高年者で、エベレスト登山成功』『小野町剛、防衛省初のプロボクサーになる』『ピアニスト小野町香さん結婚!お相手は防衛省の役員』……あ、『小野町礼儀氏、最年少で博士号取得!!』…………あ、この人かな?」

 

初春の目に止まったのは『小野町礼儀』と言う人物だった。

 

最年少と言う事もあり、もしかするとこの人物が『小野町仁』の姉に近いのかも知れないからだ。

 

記事には、『小野町礼儀』が、中学3年の時に書いたレポートが学会で評価され、博士号を取得した。と書かれていた。

 

だが、写真も無く、今一決定に決まらない。

 

初春が諦めかけた時、記事の最後の行にこう書かれているのを発見した。

 

 

 

 

 

小野町礼儀はこの喜びを弟の仁君に伝えたいと笑顔で答えてくれた。

 

 

 

 

 

「『弟』……やっぱりこの人が『姉』なんだ……。」

 

話をまとめると、この『小野町礼儀』と言う人物が呼ばれた『人魚の涙』と言う実験に付き添う形で『小野町仁』も行き、そこで何らかの事件が起き『小野町仁』は『化け物』の力を手に入れたのだろうか。

 

「うーん……見れば見るほどわからなくなってきますね」

 

結局今ある情報では『化け物』とはどんな能力なのかさっぱりわからなかった。

 

それどころか事件についてもわからない。

 

あえて『事故』ではなく『事件』と物騒な呼び名を使っているのには何か理由があるのだろうか?

 

初春はまるで小説を読むような気持ちになっていた。

 

読めば読むほど先が気になる、そんな感

じだ。

 

しかし、彼女がこの先を読むことは無かった、なぜならば不意に声が聞こえたからだ。

 

「何やら楽しそうなモノを見ているじゃないか」

 

その軽やかな呼び声と同時に後ろから背中を叩かれ、初春は短い悲鳴を挙げる。

 

そしてすぐに後ろを振り向くとそこには……。

 

街乃木礼子が微笑みながら立っていた。

 

 



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小野町仁編、マチノギレイコ

「好奇心、探求心は『美しい』」

 

街乃木礼子はにこやかに初春を見る。

 

「街乃木さん……『街乃木礼子』?」

 

初春は思い出す。

 

『バラバラに壊して作り直す』

 

街乃木の言葉だ。

 

街乃木礼子。

 

マチノギレイコ

 

マ チ ノ ギ レ イ コ

 

コ ノ マ チ レ イ ギ

 

コノマチレイギ

 

小野町礼儀。

 

「……え?」

 

「気付いたようだな……改めて自己紹介しようか。オレは小野町礼儀。お姉ちゃん、又は御姉様とでも呼んでくれ。あぁ姉ちゃんはダメだそれは弟の特権だからな」

 

街乃木……いや、小野町礼儀は微笑みながら言うのだが、その軽やかな態度が逆に初春には恐怖に感じた。

 

「偽名を使っていたのはとある事情があったからだ、ん。安心しろ別に君に名前を教えたくなかった訳じゃないからな」

 

「あの……」

 

「何か言いたそうだね?」

 

「えーと……街乃木……じゃなくて小野町さんはどうしてここに?確かあの喫茶店に居るって……」

 

「事情が変わったからだ」

 

「事情ですか?」

 

「『それ』だよ」

 

礼儀は初春の前に置かれたパソコンの画面を指さした。

 

「簡単な話。『奴等』が1枚上手だったのさ」

 

「『奴等』?」

 

『奴等』とは今回のハッキングの犯人の事だろうか?

 

「オレは思い違いをしていた、正直に話すと『そういう』のは苦手でな、とにかく『奴等』の狙いから間違っていたんだ」

 

初春は礼儀の言葉を繰り返し頭に浸透させる。

 

確か『奴等』の狙いは『小野町仁のプロフィール』だ。

 

それが間違っていた?

 

つまりはどう言う事だろうか?

 

「狙いは弟じゃない。『小野町仁の仲間』だったんだ」

 

「どう言う事なんです?」

 

「弟は最近『無敵』になった。それに書いてあるだろ?『化け物』になったって」

 

「具体的にはっきりして無いですよ『化け物』が『無敵』になるんですか?」

 

「『化け物』は能力の名称じゃない。『無敵』って言ったののもそれが一番しっくりくるからだ、じゃあ『無敵』って具体的にどう言うものなのかわかるか?」

 

無敵。

 

つまりは敵が無いことだ。

 

どんな相手にも勝てる力があることだ。

 

「正解……じゃない」

 

「え?」

 

「どんな相手にも『勝てる』じゃない『負けない』って事さ。弟は『化け物』になってどんな相手にも『負けない』能力を手に入れた」

 

「何が違うんです?」

 

「じゃあ『負けない』ってどう言うものなのかわかるか?『負けない』とは敗北は無いこと。格闘ゲームで言えばHPが常にマックスな状態になるのか?弟はそれ以上にヤバイ」

 

「何がです?」

 

「また格闘ゲームで例えるならばそうだな……。『基本スペックが高くて、ダメージを受けないチートキャラ』って言えばいいのか?とにかくそれぐらいヤバイやつなんだ」

 

「基本スペックが高い?」

 

「そうだ、弟はビルから落ちても平気だし、その気になれば車と同じくらい速く走れて、コンクリート程度ならば殴れば破壊できる位の身体を持っている」

 

「……流石に嘘ですよね?」

 

「本当だ」

 

「言ってしまえば嘘臭いですよ、そんなのただの憶測じゃないんですか?」

 

「真実だ」

 

「何を根拠に……」

 

「実験されたからな」

 

「……え?」

 

「君も見た筈だ『人魚の涙実験』。あれは最終的に弟、小野町仁の非道な人体実験を行うものになったからだ」

 

「じ、人体実験?!」

 

「……話はここまでだ。待たせるのも悪いしな」

 

小野町は話を切り上げると入り口に目を向けた。

 

つられて初春もそちらを見ると同時に入り口のドアが開き誰かが入って来た。

 

小野町は言うのだ。

 

「『奴等』が来たぞ」

 



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小野町仁編、小野町礼儀の言葉に初春のアイスが静かに溶けていった

侵入者は小柄で髪を腰まで伸ばしている。

 

外見からは大人しそうな雰囲気を印象付けるが、その眼には燃えるような闘士が伺える。

 

まるで、そう。

 

これから殺人を犯す犯人のような眼だ。

 

「逃げることをおすすめする」

 

小野町は初春に言う。

 

「あの子の眼は『美しい』。目的の為なら殺人を異問わない、決意がある真っ直ぐな眼だ。そんな眼をしている人間は強い、飾利がどれ程の身体能力を持っていようと苦戦は確実だ」

 

「でも逃げるって言ったって入り口は塞がれて通れませんよ」

 

「あるじゃないか?窓が」

 

「はい?」

 

「オレを信じろ、それっ来たぞ!」

 

言うのが速いか小野町は初春の手を掴むと窓に向け飛び込んだ。

 

同時に初春の身体は空中に投げ出され、重力により地面に引っ張られたのだ。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「落ち着けよ。固い地面ならば柔らかくすれば問題ない」

 

同じく落下中の小野町は自分の指を噛み、血を流す、そして流れ出た血液をBBに整形すると地面に向け発砲したのだった。

 

固いアスファルトの地面に触れた瞬間、初春の身体は優しくまるで綿に包まれるかのように柔らかくなった地面に呑まれた。

 

「逃げよう、まだ君は危機を脱していない」

 

小野町に引き上げられ、言われるがままに初春は走る。

 

降り注ぐ雨を気にするほど初春には余裕が無く、ただただ彼女は走るのだった。

 

 

 

 

 

そんな初春の姿を侵入者の少女は窓から見ていた。

 

そして、携帯を取り出すと、電話をかける。

 

『どうした?』

 

電話の相手の男の声に少女は簡潔に報告する。

 

「逃げられた」

 

少女の報告を電話相手の男は繰り返す。

 

『「逃げられた」?「初春」にか?』

 

少女の報告は続く。

 

「話が違う。あの女の子の他にもう一人女が居た。ソイツの仕業」

 

『……「初春」の他に誰か居たのか?そこには今日は誰もいない筈だ。他のジャッジメントは居ない』

 

男は少し考えて、結果を話した。

 

「でも居た。大学生位の女だ。」

 

『……「初春」の知り合いで該当する人物は居ない、しかし、もしかしたらその女の方が「ターゲット」かもな』

 

「『小野町仁の知り合い』?」

 

『そうだ、そっちの方が「しっくり」くる』

 

「じゃぁその女を探せばいいの?」

 

『いや……女は差鉄が探す。朱はそのまま「初春」を探せ』

 

朱と呼ばれた少女は内心で舌打ちをした。

 

『朱の能力は尋問向けだ。「初春」を捕まえたら「謎の女の事」と「小野町仁の事」2つについて尋問しろ』

 

「了解した。でも一人で探すには疲れる」

 

『わかった。誠をそっちに向かわせる』

 

男の指示に不服を漏らした。

 

「あのストーカーを?だったら差鉄の方か貴方がいい」

 

『ダメだ……この機会だ、お前たちも仲良くしろ、それがチームの利益になる』

 

チーム、その言葉に朱は、前から気になっていた事を聞くことにした。

 

「……『例外者(イレギュラーズ)』。囚われない者達を集めてなにがしたいの?」

 

朱の問いにイレギュラーズのリーダーの男は最初に少女がした報告の様に簡潔に答えた。

 

『笑う為だ……』

 

そこで通話が終了し、朱は溜め息を吐き捨てる。

 

 

 

 

 

「相手の目的は飾利とかオレだ」

 

ショッピングモールの服屋。

 

そこの更衣室で小野町は言った。

 

その言葉をカーテンの外で待っている初春は受け取る。

 

現在彼女が身に付けているのは学校の制服ではなく、カジュアルな黒を主体にした服装だった。

 

少し彼女の趣味に合っていないのは、この服装は小野町がチョイスしたからだ。

 

大雨の中、傘を射さずに逃亡した為に、気が付いたら二人ともビショビショに服が濡れてしまっていた。

 

小野町に引きずられる形でこの服屋に入り、着替えを宛がわれたのだった。

 

「相手の最終目標はまだわからないが、弟の仁が関わっているのは確定した、だが……何でオレ達を狙う?」

 

「私が弟さんのプロフィールを見たからじゃないんですか?」

 

「違う」

 

キッパリと小野町は初春の予測を否定した。

 

「そもそも、君が見ていたのは連中が知った情報だ、奴らは情報を守る側では無く、暴く側の筈。今更君が見たからと言って攻撃する理由にはならない」

 

だが……。と小野町は続けた。

 

「『君が見たから』と言う着目点は正しいのかもしれない」

 

「はい?」

 

小野町が更衣室から出てきた。

 

彼女は初春と同じような、黒を主体にしたカジュアルな服装に身に纏っている。

 

「ペアルックだ、デェヘッヘ」

 

初春は小野町がどんな人物なのか少しだけわかってきた。

 

 

 

 

 

 

「んー~!雨でジメジメした時に食べるアイスがこんなにウマイなんて知らなかった!!」

 

服屋から出てきた初春達はフードコートでアイスを食べていた。

 

「あの、さっきの話の続きなんですけど」

 

初春は先程の話で出て来た話を促した。

 

「ん?狙われているのはオレと飾利どちらかって話かい?そのままの意味だ。まぁ……飾利の方が狙われやすいとは思うがな」

 

「な、何でです?」

 

「まずは…飾利のバニラ味のアイスを食べさせてくれ」

 

「はい?」

 

小野町はそう言うのが早いか、スプーンで初春のアイスをすくい、更には自分のチョコ味のアイスをそれに混ぜ合わせた。

 

「まずは情報を共有することから始めよう」

 

ミックスしたアイスを味わった小野町はそう言う。

 

「オレは君が知らない事を知っている。だから教える。まずはそうだな……。『奴等の目的について』教えよう」

 

「……『目的』」

 

初春は繰り返す。

 

『目的』、先程も言っていたが、『小野町仁のプロフィール』ではなく『小野町仁の仲間』の事だろうか?

 

「違う違う、もっと根本的な事だ」

 

小野町は話始めた。

 

「今回の奴等の目的は弟の『小野町仁』が関係している、と知ったのは偶然と予想からだった。そして、昨日のハッキング事件。まずはそこから話そうか」

 

ハッキング事件。

 

つまりは初春が阻止した事件だ。

 

「奴等は『小野町仁』を知っていたのにどうしてハッキングしてまでプロフィールを知る必要があったのか?喫茶店で飾利と別れてふと思ったことだ。そして考えた。もしかしたら『妨害される事を計画してやったのではないか?』ってな」

 

「『妨害されるのを前提にやった』?」

 

「簡単な質問なんだが、何で初春は『妨害したんだ』?」

 

「それは……それが仕事だからですよ、アラートがなったから仕事をしただけです」

 

「当たり前だ、でも『奴等は知らなかった』」

 

「『知らなかった』?」

 

「奴等は『学園都市での小野町仁の重要度』を知らなかったのではないかとオレは見ている『自分達だけが小野町仁の重要度を知っている』と思っているのではないか?」

 

「えーと……?」

 

「考えて見ろ、もしも『小野町仁』が一般向けの保護を受けていたら、君はどうした?多分妨害はするだろうし、そのあとの検索もする。だけどそれは最優先される事ではなかった筈だ」

 

「……そうですね。確かにハッキング自体はそれほど珍しい事ではないです、中には自分の腕を試そうって理由で仕掛ける人間もいるくらいですから」

 

「だが、実際は『24時間以内に見付けた』」

 

「それは貴女が依頼したからじゃないですか?」

 

「そうだ、それはオレのミスだった。あの時のオレは『弟を守る』と言う単純に目の前の事柄だけで行動してしまっていた。だから、奴等の『真の目的』にはまってしまったんだ」

 

「そろそろその『真の目的』を教えて下さいよ」

 

初春の言葉に小野町はたっぷりと考えて言った。

 

「『小野町仁の重要度を知っていて、それでいて小野町仁を守る為に行動した人物』つまりは『小野町仁を仲間に入れる為の人質になりうる仲間の発見』だ」

 

小野町礼儀の言葉に初春飾利のアイスが静かに溶けていった。



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小野町仁編、斎藤誠は珈琲を吹き出しそうになるのをグッと堪えた

斎藤誠は珈琲を吹き出しそうになるのをグッと堪えた。

 

(おいおい!!なんだ!?俺らの狙いバレているじゃないか!!)

 

現在、斎藤誠がいるのは初春達から少し離れた休憩所のベンチだ。

 

離れた初春達の会話が聞こえているのは彼の能力『空間加速』を応用している。

 

簡単に言ってしまえば盗聴だ。

 

原理はわからないが風を操作し風向きを初春達から斎藤誠側に流れるようにし、風から乗せられた会話を聞きやすくしているのだ。

 

断っておくがこれは本来の空間加速ではない。

 

本質的に攻撃的な斎藤誠がこんな落ち着いた使い方が出来ているのは彼の右隣に座っている女性が関係していた。

 

「ちょっと大丈夫?」

 

髪を短くカットした彼女は先程から斎藤誠の手を握っている。

 

大村義。

 

『能力調整』と言う他人の能力を操作する能力を持つ女子高生である。

 

彼女に触れられた能力者は、能力を文字通り調整される事ができ、簡単な話が1つの能力を2人で操作する事ができるのだ。

 

最も調整するには皮膚に触れなければならず、調整した能力も個人や内容で制限時間がついてしまうデメリットはあるが。

 

斎藤誠は特定のレベルを持たず、能力の性能がその精神状態でブレてしまう、学園都市では珍しい能力者だ。

 

しかし、その威力は凄まじく、論理上ではレベル6になりうるかもしれないと言われる反面、大村の能力調整が無ければ自身にさえも被害が及んでしまう。

 

何やともあれ現在、風を操作し盗聴をしているのは斎藤誠ではなく、彼の能力を調整している大村義だと言った方がいいだろう。

 

彼等はエンデュミオン事件後『イレギュラーズ』のリーダーに誘われこのチームに入っていた。

 

理由は簡単だ。

 

斎藤誠は実験で、大切な人を巻き込む恐れがある組織に居るのに我慢できず、脱走した。

 

しかし、そうしたら戻るところといったら過去に犯した罪で少年院になってしまうので、代わりの組織として身を保証する力を持つらしい『イレギュラーズ』に入った訳だ。

 

大村義はもっと簡単で単純に斎藤誠の近くに居たいだけと言う理由で一緒に入っていた。

 

それはいい。

 

問題は彼等ではない。

 

(……赤沙汰朱。コイツ一体なんなんだ?)

 

斎藤誠は大村義と反対に座る少女を見る。

 

赤沙汰朱は斎藤誠の視線を気にしていない様で、クレープを頬張っていた。

 

初春達の襲撃に失敗した彼女は斎藤達と合流し、この場に居るのだが、両者に会話は無かった。

 

一体何の理由でこの組織に入ったのか、彼女の能力はどんなものなのか、それすら知らない斎藤誠は若干赤沙汰朱に警戒をしている。

 

対して、赤沙汰朱も斎藤誠に警戒をしているのだが、どうやらその理由は少し違うらしい。

 

なんと言うか、軽蔑を含んだ視線を送っているのだ。

 

まぁ、斎藤誠はどれ程言葉を綺麗にしても本質的には『ストーカー』で、女の敵として見られているのかも知れないが彼自身はそれはもはや常識になっているので、その考えは思い付いていなかったりしている。

 

斎藤誠達の任務は初春達の確保と尋問なのだが、どうやらその理由は盗聴ですみそうなのだ。

 

別に無理に拷問にかける必要はないのでは無いのか?

 

どう聞いても初春と言う少女が『小野町仁』と関わりがあるとは思えなかった。

 

そんな考えすら斎藤誠の頭にはあった。

 

その時である。

 

携帯が鳴った。

 

「……もしもし?」

 

『見付かったか?』

 

その声はイレギュラーズのリーダーのモノだ。

 

「あぁ、だがあの女の子を尋問する必要があるのか?なんかアイツとは関わりが無いと俺は思うんだが?」

 

『……そうか。確かに俺も「初春」は「小野町仁」とは無関係と思っている』

 

「だったら……」

 

『だが、それでもやれ』

 

「……は?」

 

『「初春飾利」は「小野町仁」とは接点は無いだろう。もはや彼女には人質としての価値は無いだろう。だが、「もう一人の女」はどうだ?俺はその女こそ「小野町仁」の交渉になりうる人物だと見ている。ならばその女の事を尋問しろ。俺達は知らなくてはならない。俺の予想通りなら女はそれ以上の価値があるのかも知れないのだ。今現在、その女の情報は「初春飾利」しか知らない。だからやれ』

 

「……大村。能力を戻せ、赤沙汰。準備しろ」

 

斎藤誠は少し考えた。

 

そして、二人の女子に命令する。

 

いい忘れていたが、過去に『小野町仁』と一悶着あった斎藤誠個人としては宿敵とも言える彼を同じチームに入れることにどう思っているのだろうか?

 

そして、斎藤誠はその事を考えているのか?

 

『小野町仁を仲間として向かえ入れようとしている』斎藤誠は果たして本心で動いているのだろうか?

 

 



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小野町仁編、救う者の眼

初春は考える。

 

今置かれている状況を。

 

そして、『小野町仁』と言う会ったことの無い人物を。

 

こんなに周りが騒ぎ、もはや争奪戦にも取れる状況になっているこの騒動の中心部にいる『小野町仁』の事を思っている。

 

何らかの実験の事故で『化け物』と呼ばれる様になり、非人道的な人体実験を行われ、それでも現在ではまともな生活を送っている『小野町仁』。

 

彼の心には何があるのだろうか?

 

そして、『小野町仁』は人質を取られると犯罪チームに入ることに了承するのだろうか?

 

そんな回りくどい手口を使わなくては仲間になることは無いだろうと言う『正義の心』を持っているのだろうか?

 

初春は考えて、無意識に呟いた。

 

「……可哀想な人ですね」

 

「オレも同意見だ」

 

「ハヘッ!?」

 

気が付くと『小野町仁』の姉、小野町礼儀が初春を覗き込むように見ていた。

 

その時初春は自分が呟いた事に気付き、頬を赤らめる。

 

「オレは姉として弟には幸せな、違うな、普通の生活を送って欲しいと思っている。いや、本当ならそうならなければならないんだ。だが、周りが騒いでそうさせない。可哀想なヤツだよ。勝手な事ばかり言われて、誰にも相談出来ない、孤独なんだよ弟は、だから幸せになりたい、平和に生きたいそう思っているんだろう」

 

小野町礼儀の言葉に初春は黙って聞いた。

 

(この人は、強い人だ)

 

初春は小野町礼儀にそう言う感想を抱いた。

 

この人は自分が危険になる可能性を知りながらも弟である『小野町仁』を守ろうとしている。

 

兄弟の居ない自分には判らないが、他の兄弟の人達もそうなのだろうか?

 

初春は親友の事を考える。

 

彼女にも兄弟が居る、もしもその人物が危険になったらどうするのだろうか?

 

決まっている。

 

助けようと必死になる筈だ。

 

親友はそう言う人物だ。

 

だが、全ての兄弟がそうするのかと考えると、否定するのも事実だ。

 

きっと彼女らは特別なのだろう。

 

自分には無い絆が強さになり、正しい道を歩む力になり、それが勇気に変わるのだろう。

 

(うらやましいな)

 

初春は少し落ち込んだ。

 

自分にはそんな勇気は無い。

 

けれども、それに似た強さを持ちたいと思った。

 

これに似た感覚を初春は過去にも持った事があった。

 

小学生の時、初春は郵便局強盗に巻き込まれた事がある。

 

その時に、自分と同い年の少女が見せた強さに初春は憧れ、風紀委員になる決意をしたのだ。

 

今回もそれに近い事だと初春は無意識に確信していたのだ。

 

巻き込まれたと言えば簡単だ。

 

だが、自分はなんだ?

 

人を守る風紀委員ではないのか?

 

周りが勝手に騒ぎ、本心とは逆の道に争いに巻き込まれる『小野町仁』。

 

そして、弟をその状況から救いだそうと必死に抗っている小野町礼儀。

 

彼等に必要なのは誰かの助けだ。

 

そして、自分はそれに憧れて風紀委員になったのだ。

 

だったら答えは簡単だ。

 

この兄弟を助ける。

 

この時の初春の眼にはもう、弱さの欠片が無く、あるのは救う者の眼になっていた。

 

 

 

 

小野町礼儀はその眼を満足そうに受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

「さて、オレはちょっと失礼する」

 

突然、礼儀が立ち上がり、初春に背を向けた。

 

「え!?ど、どこに?」

 

「なぁに、ちょっと電話をかけるだけだ。……そろそろアイツにも動いて貰わないとな」

 

「アイツ?」

 

「大丈夫だ、すぐに来る。他ならぬオレからの呼び出しだ。10分以内で必ず来るさ」

 

それ以上何も言わず、礼儀はどこかに、誰かに電話をかけに行ってしまった。

 

その時。

 

残された初春に声をかける少女が一人。

 

「あれ?初春?」

 

初春が振り向くと、そこには見知った親友が居た。

 

「……佐天さん?」

 

初春の戸惑いを知らない佐天涙子は無邪気な笑顔を向け続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

『はい!!もしもし!!ちょっと悪いんだけど!!後でかけ直してくれませんかね!?』

 

数回のコール音の後、アイツが電話にでた。

 

電話の向こう側では何やら騒がしい。

 

『オーイコノオタカラボンモラッテイイ?――駄目に決まっているだろ!?そのお宝本は零からコツコツ始めた僕の血の結晶何だぞ!?――オレッチハコノ「イモウトパラダイス」ヲモラウゼ!――話を聞けボケ!!――ダー!?オマエコレオレノホンジャナイカ!?オマエガモッテイタノカ!?――さー?知りません。それってお前が餞別にくれたんじゃ無かったけ?――フザケンナ!?――フザケテイルノハキサマラダロ?トクニキサマショブンシタノニマタフヤシテイタノカ!?――ちょっ!!落ち着いて!!テメェ等部屋の端に避難しているんじゃねー!!あ!!ちょっと!止めて!!ぎぁぁぁぁぁぁ!!』

 

どうやら電話が落ちたのだろうか?

 

ゴトッ。と言う音の後何人かの悲鳴が聞こえまたアイツが電話に出た。

 

『すいません、本当に後でかけ直してくれません?ちょっと本当に今忙しいんです』

 

「学園都市第七学区のショッピングモールに来い。出来るだけ早くな」

 

『はあ?何言って……ちょっと待て……その声どこかで……』

 

「仮初めの平和に満足し始めたらそれが壊れ、どうにも出来なくて最後の時間を楽しんでいる所悪いな『弟』よ」

 

瞬間、電話の向こう側ではアイツが慌てて出ていく音が聞こえ、取り残された人間の呼び止める声だけが残った。

 

『お、おい!?貴様どこに行くんだ!!小野町仁!!』

 

その声を聞き、小野町礼儀は電話を切った。

 

そして呟く。

 

「悪いな……仁……本当は巻き込みたく無かった。だが『仮初めの平和』に満足するんじゃなく、『真の平和』をお前自身が手に入れなくては意味が無いだろう?」

 

 

 

 



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小野町仁編、押花刺繍

話は少し前に遡る。

 

佐天涙子は自宅にて雨に濡れた身体が冷えないようにシャワーを浴びていた。

 

「もー……初春ってば勝手な事ばかり言って!」

 

彼女は昼休みに初春に恋話についてしつこく聞かれたことをいまだに腹をたてている様だ。

 

「そりゃ……あの時は浮かれていたけどさ……あぁ!!もう!何であんなこと言っちゃったのかな!?私!?よりにもよって『王子さま』なんて!!」

 

彼女の頬が紅いのは何もシャワーの熱だけではないだろう。

 

その時である。

 

「あれ?メール?」

 

浴室の側に置いていた携帯電話がメールの着信音を鳴らした。

 

「誰だろう?」

 

彼女は浴室の扉を開け身体を軽く拭きながら、携帯電話を開き、差出人の名前を見て驚いた。

 

メールにはこう書かれていた。

 

『大切な話がある。学園都市第七学区のショッピングセンターに来てくれ。小野町仁』

 

「あわっ……あわわ!!大切な話があるって?!??それって!!こ、こ、こ、こ、告は!?いやいや!!え!!仁ちゃんが!?あわわ!!」

 

気が付けば佐天涙子は傘を手に持ち、家を飛び出していた。

 

今、『本物の小野町仁』は自室で引っ越しの作業に追われていて、メールなど打つ暇がないのを知らずに。

 

 

 

 

 

屋内に居る初春の耳に雷鳴が聞こえた。

 

外の豪雨がますます酷くなったようだ。

 

その証拠に私服に着替えた佐天の服は今朝ほどではないが、雨に濡れており、傘だけではカバーできなかった部分はビショビショになっている。

 

「どうしたんですか?佐天さん」

 

「あー……ちょっとね。って初春こそどうしたの?確か風紀委員の先輩に呼ばれていたんじゃなかったけ?」

 

歯切れの悪い様子で佐天は話をはぐらかす。

 

まるで、誰かに見られてはいけなかった事を思い出したかのような様子だった。

 

初春は佐天のこの様子に覚えがあった。

 

確かあれは、クラスメイトに告白された時の様子にそっくりだったと、初春は思い出す。

 

まさかまた誰かに告白された、もしくはそれを言う為に呼ばれたのでは無いのだろうか?

 

(考えすぎですかね)

 

初春はここまで考えて、考えるのをやめた。

 

理由は簡単だ。

 

いや、簡単と言ってよいのかわからない事が起きた。

 

「……あれ?なにこの花びら?何かのイベント?」

 

「……え?」

 

初春は視線を上に向けた。

 

そして、自分達を中心に無数の花びらがまるで花吹雪のように降り注いでいることを知る。

 

綺麗だった。

 

彩り様々な花びらはまるで幻想的に思える。

 

他の客達も脚を止め、この幻想的な場面を楽しんでいた。

 

しかし、

 

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

突如それは悲鳴に変わるのだった。

 

 

 

 

 

 

「っ?!」

 

何が起きたのか?

 

初春は辺りを見渡す。

 

始めに悲鳴をあげた、女性は踞り自分では歩けないみたいだ。

 

悲鳴は女性だけでは収まらなかった。

 

女性の悲鳴を皮切りに至るところで悲鳴が上がり始めた。

 

何が起きたのか、初春には理解できなかった。

 

(能力による無差別な攻撃!?でも何で!?どうやって!?)

 

「え?な、なに?初春どうなっているの?」

 

隣では同じ様に佐天涙子が戸惑っている。

 

(……え?『戸惑っている』)

 

おかしい。

 

こんなに大勢が何らかの攻撃を受けているのになぜ自分達は無事なのか?

 

その答えは初春の後ろから答えた。

 

「『押花刺繍(フラワータトゥー)』これが私の能力の名前だ。無闇に動くなよ?花びらはすでに貴様の周りを包囲している。あれに触れたら貴様も激痛を与える事になるんだからな」

 

初春が振り向くと、そこには先程自分達を襲った侵入者の少女がこちらに歩いていた。

 

少女の周りにも花びらは舞っているが、少女に当たる事はないようだ。

 

「これでようやく話せるな」

 

「あなたは……何者なんですか?」

 

「ふんっ、貴様に言ってもわからないだろうさ、それに貴様はすでに『質問することは許されない』状況であると気付かないといけない」

 

少女は次に佐天の方を向いた。

 

「お節介なリーダーだな……。この女を呼んだのはこうする為なのか?」

 

「こうする為?」

 

「さてさて、問題だ。『何で私は貴様達には攻撃しないと思う』?」

 

「?……」

 

「無言は不正解だと見なすぞ、答えは『貴様を逃がさない為だ』」

 

その言葉で初春は理解してしまった。

 

佐天涙子は騙され呼ばれたのだ。

 

人質として!!

 

敵は今度は初春を逃がさないつもりだ。

 

元々、『小野町仁』に対する人質を求めていた連中だ。

 

汚い手を平気で使って来るに決まっている!!

 

同じ事、つまり『交渉の為に人質をとる方法』を初春にもしたのだ!!

 

初春は周りを見渡す。

 

辺り一面に吹雪く花びら、あれに触れると、周りの人のように激痛がはしるのか?

 

ここで少しでも初春が相手の意に添わない行動をしたら後ろに居る佐天にもあの激痛が起こる筈だ。

 

少女が次に取った行動、それは初春には意外な事だった。

 

少女はポケットから携帯を取り出すと初春に見せる。

 

どこにでもある携帯電話だ。

 

携帯電話の画面は通話中を現しており、さらにスピーカーになっていた。

 

拡大された音声が叫び声で溢れている筈のホールに埋もれることなく初春の耳に届く。

 

『こんな形を取ったことはすまないと思う』

 

それは男の声だった。

 

『初春飾利、君は今とてつもない価値があるのを知っているか?』

 

初春はこの電話の向こうに居る人物が自分達を追っている、引いては『小野町仁』を仲間にする為に人質を探している、組織の中心だと理解した。

 

「あ、あなたは勘違いしています!!」

 

『……ん?』

 

初春の震える声に男は疑問を出す。

 

「わ、私はあなたの思っている人材ではありません」

 

『何?』

 

「私は『小野町仁』さんとは全く面識はないんですよ!!だから人質としての価値はないんです」

 

初春の言葉でなぜか後ろに居る佐天が驚きの言葉を出したが、今はその事を気にする余裕は無かった。

 

初春はこの言葉で電話の男が狼狽すると思っていた。

 

しかし、電話の男は笑い声を漏らしたのだ。

 

『ふっふっふ……なるほど……そうか。君は勘違いしているな』

 

「な、何がです?」

 

『言った筈だ、君は今とてつもない価値があると』

 

「だからなにがです?」

 

『……あぁ。そうか。通りで話が合わないわけだ。面白い。両者とも全く違う事を考えていたのか……。なるほど』

 

「だから何だと聞いているんです!!」

 

こちらを無視して何かを呟き出す電話の男に初春はつい、強い口調で声を荒げた。

 

『……君はこう思っているな、「あのハッキングを止めた人間は小野町仁の仲間で俺達はソイツを人質として捕まえようとしている」と』

 

「ち、違うんですか?だって現に今あなた達は私を追い詰めて居るじゃないですか!?」

 

初春は混乱した。

 

今更、人質を求めていないと言われたのだ当然だろう。

 

ではなぜ初春は追われているのか?

 

『ん?言い方が悪かった。俺達は君を人質としてではなく別の目的で欲していると言ったほうがよかったな』

 

電話の男が何の躊躇もなく言った言葉に初春の頭は真っ白になった。

 

「……え?」

 

『初春飾利、君は俺達に必要な事を知っている、だから君を捕らえなければならないんだ』

 

 

 

 

 



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小野町仁編、馬鹿な敵だなぁ!?

小野町礼儀は壁を殴る。

 

(油断した!)

 

彼女は自分の楽観さを悔やみながらも物陰から初春と侵入者の少女、(正確には少女らのリーダーだが)とのやり取りを見ている。

 

(油断した!油断した!油断した!油断した!油断した!油断した!油断した!油断した!油断した!)

 

小野町は繰り返す。

 

狙いは人質ではなかった。

 

そもそも、人質なんていらなかった‼

 

狙いは『小野町仁』だ。

 

正確には『小野町仁の化け物の力』だ。

 

そこには『小野町仁』は必要なかったのだ!

 

本当に必要だったのは『化け物』だ。

 

『化け物』の産み出す破壊こそ奴等が欲しがっていたモノだったんだ!

 

と、そこまで考えて小野町礼儀は考える。

 

 

 

 

 

さて、考えよう。

 

今回の事件は一体何だ?

 

弟、愚弟、愛する弟、愛おしい弟である『小野町仁』が狙われている。

 

それは間違いない。

 

うん、間違いない。

 

で、何でだ?

 

考える。

 

決まっている。

 

『化け物』

 

それしかない。

 

弟とか、知り合いとか、そんな事を抜きにして考えてみると『小野町仁』個人にはそれほど価値がある人間ではない。

 

だったら欲しいのはそれしかない。

 

『化け物』がもたらすメリットはなんだ?

 

考えた。

 

破壊……そうか。

 

破壊だ。

 

ありとあらゆる、万物を全て壊す破壊だ。

 

ん?

 

何をだ?

 

何を破壊するんだ?

 

待て待て。

 

そこじゃない。

 

何を破壊するかは、知らない。

 

そもそも、敵の情報なんて知らないし、会った事のない組織の目的なんて予想すらできないではないか。

 

だから、その問題は置いておく。

 

ここで考えなければならないのは、『何を破壊する』のではなく、『どうやって破壊するのか』だ。

 

オレは『化け物』の破壊を見た。

 

壊すとか、破るとか、裂くとか、それら全てをごちゃごちゃにして、無茶苦茶にした『破壊』。

 

アレはそう言うモノだった。

 

ではなぜ『小野町仁』はそれをしなかった?

 

違う。

 

出来なかったんだ。

 

知らなかったんだ。

 

何かが『化け物』を押さえている。

 

それはなんだ?

 

『鍵』だ。

 

間違いない。

 

学園都市が『小野町仁』の『化け物』に『鍵』をかけたんだ。

 

………それが狙いか‼

 

敵の狙いはそれだったんだ‼

 

敵は気付いた‼

 

初春飾利が狙われたのは『人質』ではなくなっていたんだ。

 

学園都市の書庫にハッキングしたのは、初めは『小野町仁の仲間を人質にするため』だった。しかし、今は変わった。

 

敵は気付いたんだ。

 

『化け物』を縛る『鍵』。

 

それはどんな物か?

 

人間のリミッターを開けるには物理的な物は必要ない。

 

非物理的な物。

 

それはなんだ?

 

『言葉』だ。

 

特定の『言葉』が『小野町仁』を『化け物』に完全に表に出させる『鍵』になるんだ‼

 

学園都市はその『言葉』をどこに隠した?

 

データ?

 

『化け物』は公は愚か他の裏にいる人間にも知られてはならない物だ。

 

ご丁寧に最高級の警備データに置いてはいけない。

 

ならばどこだ?

 

プロフィールに有ったんだ。

 

恐らくプロフィールに『言葉』を隠したんだ。

 

初春はそれを見た‼

 

あー……無いな。

 

うん。

 

あり得ない。

 

百歩、いや、それ以上妥協して『データ』がプロフィールにあるとして、初春飾利がそれを見たのか?

 

隠されているんだから見たかもしれないが、それが初春飾利には知る筈がないのだ。

 

あーよかった。

 

………間違いだった。

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あれ?

 

そもそも、今回の敵って間違えてばっかじゃないか?

 

「馬鹿な敵だなぁ‼」

 

 

 

 

 

 



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小野町仁編、何故なんだ?

初春飾利は混乱した。

 

自分が追われていたのは人質にするためではなかった?

 

『小野町仁』に眠っている『化け物』の解除コード?

 

何の事だ?

 

確かに初春はプロフィールを見た。

 

だが、それはハッキングを仕掛けた敵が見たものと同じ物だ。

 

知らない。

 

初春は知らない。

 

考え付かなかった。

 

問題はそれではなく、解除コードを知っていると勘違いされていることだ。

 

『……どうした?何を考えている?この瞬間で「知りません」なんて嘘を言うなよ?お前は今逃げているんだ。それは知っているからではないのか?単に人質になるのを恐れていたら逃げる必要は無いんだからな』

 

それは違う。

 

本当に初春は人質になるのを恐れて逃げていたのだ。

 

と、考えたが、それも違うと初春は思う。

 

そうだ。

 

逃げたのは初春の意思ではない。

 

あの時、小野町礼儀が逃げろと言ったから初春は逃げたのだ。

 

つまり、逃げた事で初春は弁解のチャンスを逃がしてしまっていたのだ。

 

(れ、礼儀さーん!?)

 

初春はここにいない礼儀に、不服を漏らした。

 

考えろ‼

 

考えるんだ‼

 

初春は必死に思考を巡らせ、この状況を何とかできないか考える。

 

その時、

 

『仕方ない……やれ。赤沙汰』

 

電話の言葉に赤沙汰朱は素直に従った。

 

悲鳴。

 

それは誰のモノなのか、初春は知っていた。

 

振り向くとそこに居たのは踞る佐天の姿が。

 

彼女の首筋には周りで悲鳴を挙げている被害者たちと同様の刺青が彫られていた。

 

「や、止めてください‼」

 

『ならば言え。解除コードを言わなければその女の子が苦しむことになるぞ』

 

冷酷な言葉に初春は恐怖する。

 

どうすれば?

 

どうすればいい?

 

そんな質問が繰り返し、頭に響く。

 

その時、

 

「リーダー。不味いことになった」

 

今まで何も言わず、ただ従っていただけの赤沙汰が報告した。

 

「あの女が居る。こっちになにかを仕掛けている」

 

初春は赤沙汰の視線の先を追って気が付いた。

 

花吹雪の外に居る女性に。

 

女性はこちらを指差す様にしていた。その指先には血液が弾丸のような形に精製されていている。

 

BB-G

 

彼女の能力である血液の弾丸で、被弾した物体を好きに調整する能力。

 

彼女は、小野町礼儀はそれを赤沙汰に向け、発砲したのだった。

 

 

 

 

 

発砲音に似た音を響かせながらBBは花吹雪をもろともせずに真っ直ぐに進んでいく。

 

しかし、

 

「くっ‼」

 

BB-Gは着弾した。

 

それは赤沙汰ではなく、先程まで手に持っていた携帯電話にだ。

 

BB-G事態には破壊性能はない。

 

あくまでもそれは調整するだけの能力であって、壊すことには向かないからだ。

 

しかし

 

着弾した携帯電話は弾けとんだ。

 

まるで内際から膨張したかのような弾けかただった。

 

そして、急な攻撃により、赤沙汰の集中力が切れたのか花吹雪が止んだ。

 

礼儀はただ漂う花びらに当たらない様に気を付けながら歩き出す。

 

「!!『調整』する能力!それに『血の弾丸』!まさか本当に小野町礼儀なのか!?」

 

「その様子だとオレの自己紹介はいらないみたいだな?彼女を解放しろ。それからお前たちのリーダーの所に案内して貰おうか?」

 

小野町礼儀は初春の側に立つと、再び指を構えた。

 

「BB-Gはどんな物体も『調整』できる。先程は携帯電話だったが、次は無いな。美しいモノを壊すのは良心が痛むんだ。だから抵抗するな」

 

赤沙汰はそんな礼儀に対して、

 

微笑んでいた。

 

 

 

 

 

「……なんなんだ?」

 

「何がだ?」

 

赤沙汰の顔にもはや驚きの表情はない。

 

あるのは、戸惑い。

 

「私は『小野町仁』の資料を読んだ。『人魚の涙事件』。あの実験の事をだ」

 

礼儀は黙ってBB-Gを構えている。

 

「『人魚の涙事件』。アレはただの調査だった。『とある生物』の調査だった。間違っても『小野町仁』の非人道的な人体実験ではなかった。なんだ?私は予想した。『小野町仁』は実験で『化け物』になったんではないと、『化け物』になったから実験をしたんだと」

 

「……え?」

 

初春は驚きの声をあげる。

 

それに答えるように赤沙汰は続けた。

 

「『化け物』の正体は『ウィルス』だ」

 

ウィルス。感染。

 

感染するのは肉や内臓ではない。

 

最も『ウィルス』が潜みやすいのは『血液』だ。

 

考えてみればそうなのだ。

 

『小野町仁』の『BB』は血液を媒体にしている。

 

『小野町仁』の身体能力は言い換えれば血液の循環がもたらす産物だ。

 

『小野町仁』の回復力は血液の中に含まれる血小板の異常繁殖が起こす物だ。

 

『ウィルス』は内臓を包み、内臓を徐々に変えていった。

 

それが『小野町仁』が宿す『化け物』の正体。

 

「そこは問題ではない。おかしいと思わないか?」

 

「何がです?」

 

「聞くな‼」

 

礼儀が叫ぶ。

 

同時に彼女の指先からBB-Gが放たれた‼

 

ブワッ‼

 

BB-Gは花びらの束により阻まれてしまう。

 

「そこにいる小野町礼儀はなぜ弟である『小野町仁』を助けずにいた?」

 

「……え?」

 

初春は混乱した。

 

確かに矛盾している。

 

小野町礼儀と過ごした時間は少ないが、それでも彼女が『小野町仁』を助ける為に全力を尽くしているのは理解した。

 

だったら何故?

 

何故、目の前で非人道的な人体実験を行われている『小野町仁』を助けなかったのか?

 

答えは赤沙汰が出した。

 

「助けなかったではない。助けられなかった。小野町礼儀、お前は……死亡した筈だ。何でここにいる?」

 

赤沙汰は繰り返す。

 

「死んだ人間が何故ここにいる?」



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小野町仁編、オ・シ・エ・ナ・イ

小野町礼儀はどこにもいない学生だった。

 

常に成績は上位に君臨している癖に、勉強方法はパラパラと教科書を捲るだけ、それも試験開始の5分前にやるだけと言うふざけた勉強法でだ。

 

それに外見も整っており、非常にモテており、それを鼻にかけない。

 

運動も出来て、とにかく絵に書いたような完璧超人だった。

 

しかし、彼女にも人より劣っている部分はあった。

 

弟はこう言う。

 

「アイツは変態だ」

 

と。

 

それが家族として行動を共にしている故に見える部分なのか、小野町礼儀のあまりにも美人力に周りの目が曇ってしまっているかはわからないが、とにかく100人が100人1つの感想を抱くわけでなく、1人はその99人とは違う事を言っていると理解して欲しい。

 

 

 

 

 

赤沙汰朱はどこにでも居る少女だった。

 

成績は中の中、勉強方法はテスト1ヶ月前に徐々に復習をしていると言ういたって普通の勉強法だ。

 

外見は整っているが、少し……女性を象徴する2つの内上の部分が一般的より若干……いや少し……、いや……かなり成長が遅れており、実年齢よりも幼く見られていた。その事に本人は全くのご立腹だった。

 

しかし、彼女をよく知っている人物はこう『騙る』。

 

「あー、アイツはあれだ。ツンデレ?いや違うな。嘘つきだ。本当はしたく無い癖にワザと冷酷に見せている。だからツンデレってヤツなんだと俺は思う」

 

……。

 

ツンデレらしい。

 

 

 

 

 

『小野町仁』はどこにでも居て、どこにも居ない男子校生だ。

 

彼は特筆する才能は無いが代わりに卑下する行いも無かった。

 

良く言えば『普通』。

 

悪く言えば、『無個性』。

 

テストでは赤点は無いが、高得点を取ることは少なく、体育も彼が『化け物』の力を得る以前は他の生徒と変わり無かった。

 

彼の姉はこう語る。

 

「弟は美しく無い。だから無様に必死にもがいている姿勢が美しい」

 

兎に角、彼は良く言えば努力家な性格だ。

 

悪く言えば、無駄足掻きをする人間だ。

 

 

 

 

 

さて、物語は14ヵ月、一年と2ヶ月前まで遡る。

 

まず始めに結果と過程だけ、終わりと始まりだけ、終末と再生だけ、エピローグとプロローグだけ、語らせて貰おう。

 

小野町礼儀は死亡した。

 

何故?

 

どのように?

 

どうして?

 

いくつかの疑問はもちろんだが、本質はそこではない。

 

人魚の涙事件。

 

彼女の死亡した事件はこう命名された。

 

彼女の死亡した経緯は正確には遺族には言われなかった。

 

知っていたのは、その場に居た弟である、『小野町仁』のみだ。

 

姉の死は『小野町仁』にとって衝撃的だった。

 

同時に、彼に生きる活力を与えた。

 

姉と弟の間に何が起きたのか?

 

それは当人同士しか知らない事だ。

 

彼等が語らなければ永遠に知られないだろう。

 

結果だけ言うと、『超人』の姉が死に、弟が『化け物』になっただけだった。

 

何度も言おう。

 

姉は死んだ。

 

小野町礼儀は死んだ。

 

死んでいた。

 

いた。

 

過去形なのは、知っての通り、小野町礼儀は生きているのだ。

 

死んでいるのに生きている、

 

その矛盾を孕んでいた女性が今、この場に居るのだ。

 

そして、『超人』と呼ばれた人間が『化け物』と呼ばれている人間を救う為に頑張っていたのだ。

 

姉が弟を助ける為に頑張っていた。

 

それだけだ。

 

それだけで、初春は疑問を捨てた。

 

 

 

 

 

「っ!?何!!」

 

赤沙汰は目を疑った。

 

初春は踞ったままの佐天に駆け寄ると、肩に手を回し、真っ直ぐに進み出した‼

 

赤沙汰とは反対の方向。

 

つまりは彼女らを包囲している花吹雪の壁の中に向かって‼

 

「何をしている!?『押花刺繍』に自ら突っ込むだと!?」

 

「わ、私には礼儀さんのような大切な人を『守る』力はありません‼ですが大切な人を『助ける』事は出来るんです‼今私に出来ることはこの場から一度逃げること‼そうすれば礼儀さんの助けになるから‼」

 

初春はとうとう、花吹雪の中に侵入する。

 

そして、花弁が彼女の柔肌に触れ、そこから毒々しい紫の刺繍が彫られ始めた。

 

瞬間、これまで経験した中で一番痛いと思う程の激痛が初春を襲う。

 

筈だった。

 

「初春飾利。君の意志は美しい。だからその美しさに敬意を払ってオレは甘えよう‼君にBB-Gを撃ち込んだ‼君は今激痛を感じないように調整した‼さぁ逃げるんだ‼」

 

「何でだ……何で?」

 

「赤沙汰朱と言ったな?今の君は美しくない」

 

初春の逃走劇を目にして赤沙汰は狼狽した、そんな彼女に小野町は幼子を諭す様に言うのだ。

 

「礼儀さんも早く!」

 

初春は花吹雪の外に飛び出すと呼び掛ける。

 

初春はこう思った。

 

小野町礼儀自身にも調整を施せばいい、と。

 

しかし、

 

「……ここでお別れだ」

 

小野町礼儀は残念そうにそう告げた。

 

 

 

 

「え?」

 

初春は小野町の言葉を素直に受けとることができない。

 

今、なんと言ったのだ?

 

お別れ?

 

何でこのタイミングで?

 

「あぁ、お別れだ。勘違いするなよ?別にこの娘に倒されるからじゃないからな。ただ……『時間切れ』だなぁ」

 

「な、何いって?」

 

「さて、残された時間は後僅か、やることは沢山……よかった、アイツを呼んでよかった、後は任せるとしよう」

 

もはや小野町は初春を見ていなかった。

 

まるで自分自身に言いように呟くのだ。

 

「だったらオレがやることは?決まっている」

 

小野町礼儀は指を構えた。

 

指先には彼女の血液で形成された弾丸が一発。

 

BB-G。

 

この世の万物を己の好きなように調整する能力。

 

その照準は

 

「オレは美しいモノが大好きだ。それの為ならもう一度死んでもいいと思っている。だから彼女を逃がすのさ」

 

自身と赤沙汰が内部に居る花吹雪で出来たドームだった。

 

拳銃の発砲音によく似た音を轟かせながらBB-Gが発砲される。

 

血でできた弾丸は花吹雪にぶつかるとそのまま霧散し花吹雪に飲まれてしまった。

 

だが、

 

それだけでは終わらない。

 

勢いよく回転を繰り返していた花吹雪に異変が起きた。

 

止まらない。

 

止まらない。

 

徐々に勢いが増していき、次第には花吹雪自体が見えなくなるほどの、勢いになっていく。

 

初春が何か叫ぶがその声は内部の礼儀には届かなかった。

 

そう、小野町礼儀は逃げる事を諦めたのだ。

 

赤沙汰朱と小野町礼儀には決定的な戦力差は無い。

 

だからあえて、彼女は選択したのだ。

 

負けることを、初春を逃がす為の殿を。

 

「小野町礼儀……貴様は何なんだ?!」

 

その問いに小野町礼儀は、意地悪に、嫌らしく、答えた。

 

「オ・シ・エ・ナ・イ」

 

初春は、戸惑ったが、自分のやるべき事をやるために外に向かい歩き出す。

 

「待っていてください‼必ず戻って来ますから!」

 

その声が小野町礼儀に届いたか定かではない。

 

しかし、これが初春が小野町礼儀を見た最後の姿だった。

 

 

 

 

 



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小野町仁編、任せろ

「初春?!そこに居るのは初春か?!」

 

あれからどれくらいの時間がたったのだろうか?

 

いや、まだそんなに時間は経っていない。

 

精々5分から10分位の間だ。

 

今初春は赤沙汰の能力『押花刺繍』を受け、意識が混濁している佐天の肩を抱きショッピングモールの出口近くまで来ていた。

 

どうやら赤沙汰の能力は能力者が近くに居ないと効力が弱くなる様だ。

 

礼儀に対抗物質を調整された初春と違い、能力を諸に受けた佐天の顔色が良くなって来ているのがその証拠だろう。

 

人通りは疎らだ。

 

それはいまだに赤沙汰が作り出し、礼儀が強化した触れると激痛が襲う刺繍を彫られる花弁のドームが健在だからだ。

 

皆、逃げる為に出口に向かっている。

 

ほんの少しだけ前ならばここでも大勢の人が行き交っていたはずだ。

 

そして今は避難が遅れた人がいるだけだろう。

 

その中で、初春は呼ばれたのだ。

 

声の主は今朝会話した男子生徒の物だった。

 

「円君?」

 

「大丈夫?って!担いでいるのは佐天か?ハハ……笑えねぇー」

 

円順は二人に駆け寄ると空いている佐天の肩を取った。

 

「ハハ……。他の男子が見たら殺させるかな。で?何があった?」

 

「ま、円君‼佐天さんの事任せていいですか?!外に二人で避難してください‼」

 

「え?!ちょ‼初春?!ハハっ‼待てって‼」

 

初春は円に言うと彼の静止の言葉を無視して走り出したのだ。

 

(これで佐天さんは大丈夫‼間に合って下さい‼礼儀さん‼)

 

初春はただ駆ける。

 

元来た道を。

 

 

 

 

 

初春に取り残された円は仕方ないので、佐天を外まで連れ出していた。

 

まだ雨は降っている。

 

しかし雨脚は弱くなり、少ししたら晴れるのではないのだろうか?

 

「ちょ……っと……円!戻し……て‼初……春が危……ない‼」

 

「ハハハ。ダメに決まっているだろ?!佐天お前今凄く辛そうだぞ‼無理に決まっている‼」

 

「でも……!行かなく……っちゃ‼あの……子また無茶し……ようとして……いるから‼」

 

佐天の体は手を離すとすぐに地面に倒れるだろう。

 

それほどのダメージがあるに違いなかった。

 

しかし、彼女はそれでも戻ろうとしている。

 

友人の為だけにそれほどの力強い意志が感じられ円は感心してしまった。

 

さて、どうしたものだろうか?

 

円は考える。

 

ここは普通に考えると、風紀委員やらアンチスキルに任せるのが得策だろう。

 

しかし、佐天はそれで満足する様には見えない。

 

彼女を現場に向かわせる訳にはいかない。

 

ならばどうする?

 

そこまで考えて、円は考えるのを止めた。

 

「……涙子ちゃん?」

 

視線の先にはここまで走ってきたのだろうか?

 

雨で濡れた肩で息を切らせている高校生の男がこちらを、正確には佐天を見ながら人混みの中に立っていた。

 

「――っ‼」

 

佐天はその男を見るやいなや、円の手を払い、ボロボロの身体を無理やり動かし、男に駆け寄った。

 

そして、普段の彼女からは考えられないことに、その男に抱き付いたのだ。

 

男は訳がわからない様子だったが、佐天を抱き寄せる。

 

「……助けて」

 

佐天は恥も外聞も気にせず涙を流し、呟く。

 

次第にその声は大きくなり、最後には叫びに変わっていた。

 

「助けて……助けてよ‼初春が!初春を!助けて‼――」

 

そこで円は気が付いた。

 

雨が、

 

今まで散々に降っていた雨が、

 

止んでいた。

 

「――助けて、仁ちゃん‼」

 

夕暮れの赤々しい光を浴び、佐天はその男に助けを求めた。

 

 

 

 

 

「助けて」

 

彼にその言葉は禁句に近いモノだった。

 

彼は性格上その言葉で力を、行動意義を見出だせない。

 

だが、

 

それは悪まで彼の利益に繋がらない場合だった。

 

彼は訳がわからないまま、問題を突き出され、ここまで来ただけだった。

 

今彼の胸で泣きじゃくり助けを求める少女。

 

その少女が何を思い、何を抱えているのかそれは彼にとってどうでもいい事だった。

 

しかし、それでも、彼女にとっての『救い』が彼にとっての『答え』を得る過程に近いモノだと本能的に見出だしたのだ。

 

だから、

 

彼は、

 

正義の味方側の悪役は、

 

この騒動の核になっている男は、

 

『小野町仁』は、

 

小野町仁は言った。

 

「―――――任せろ」

 

と。

 

 

 

 



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小野町仁編、信念

『押花刺繍(フラワータトゥー)』。

 

野ばらの花弁を散らし、触れた人間の皮膚にタトゥーを彫る能力。

 

タトゥー自体には脅威は無い、赤沙汰から一定の距離を離れる、もしくは、毒と同じで数時間もすれば綺麗サッパリに効力が切れるからだ。

 

しかしタトゥーが彫られている間は、激痛が絶え間なく襲い、被害者は止むことの無い痛みに耐えなけらばならない。

 

決して人を殺害しない反面、死と言う安らぎを奪う能力。

 

それが『押花刺繍』。

 

……果たしてこれは科学と言えるのだろうか?

 

 

 

 

 

『パパァー‼』

 

『おぉ‼朱‼』

 

『お帰りなさい‼』

 

『貴方無事で何より、イギリスはいかがでしたか?』

 

『あぁ、いいところだったよ。そうだ!朱と同じくらいのシスターさんに会ったよ』

 

『本当に?同い年の子?』

 

『少し年下かな?まぁ朱と友達になれるんじゃないかな?』

 

 

『貴方‼またそんなに飲んで‼』

 

『うるさい!……チクショウ‼嘗めやがって‼俺達は名家の赤沙汰族なんだぞ‼あんなポッと出の夜遊一族なんかに重要任務を任せやがって‼お陰で朱に任せる筈だった禁書目録の任もあの子に取られてしまって‼』

 

『……パパ』

 

 

『……いいか?朱。よくお聞き。これからお前は学園都市に行ってもらう』

 

『私イヤだ、ここに居たい』

 

『これはチャンスなんだ。もしもお前が上手く学園都市の情報を手に入れたら赤沙汰一族は過去の栄光を手に入れられるんだ。大丈夫。お前は完全記憶能力を持つ、選ばれた子だ。それに能力開発を受けなくてもいいように書類は改竄しておいた。拒絶反応は心配しなくていい』

 

『……貴方』

 

『大丈夫だ。この子にだけに重みは負わせない。俺も違う方向からアプローチするさ』

 

 

『お父さんが失敗しました。もう教会は私達を完全に無いものにしたようです。貴女には苦しい思いをさせてしまってごめんなさい、もう貴女と会うことは出来ないでしょう。貴女はこれから自由に生きて下さい。母より』

 

『……う、嘘。嘘だ‼じゃぁ‼これから私は何を信じればいい!何をやればいいんだ‼』

 

 

『……誰?』

 

『確かに空っぽ。「無」だな。なぁ、赤沙汰朱。俺の仲間にならないか?』

 

『仲間?』

 

『そうだ、「例外者(イレギュラーズ)」と俺は名付けた。俺にはある目的がある。もしこれが完了したらお前の一族はまた栄光を手に入れられるんだ。悪い話じゃないだろ?』

 

『………取り戻せる?』

 

『あぁ、「無」から「有」になるんだ。それには他人が「無」にならなければならないがお前にはその覚悟があると信じている』

 

『貴方は何者?』

 

『俺?そうだなリーダーって呼べ。本名は教えないが能力は教えよう。「生命循環(ライフリサイクル)」それが名前だ』

 

 

 

 

 

赤沙汰朱はどこにでも居る女の子だった。

 

どこにでも居る娘で、

 

どこにでも居る恋する乙女で、

 

どこにでも居る発育を気にする娘で、

 

どこにでも居る旧家の長女で、

 

どこにでも居る学園都市に送り込まれたスパイで、

 

どこにでも居る、

 

魔術師だった。

 

 

 

 

 

 

赤沙汰朱と小野町礼儀は彼女達の能力が作り出した花弁のドームの内部に居た。

 

彼女達は互いに考える。

 

「やってくれたな?」

 

赤沙汰は睨み付けながら小野町礼儀に言った。

 

「私の『押花刺繍』を逆に強化し、私自身にも制御出来ない程の現象を作り上げるなんて、狂っている」

 

「そろそろ、答え合わせをしようか?」

 

「何?」

 

答え合わせ、小野町礼儀はそう言った。

 

「…オレには時間がない。多分あと少ししたら『消える』だろう。次はいつ来られるかわからないからな、後腐れ無いように知っておきたいのさ」

 

「……何が聞きたい?」

 

赤沙汰は考えた。

 

このドームは自分の手を離れた犬と同じだ。

 

この場で小野町礼儀を倒しても、強化している元凶が無くなるだけで、既に暴走している能力自体はすぐには消えない。

 

ならば、体力を温存する意味でこの女の戯言に付き合うのも一つの手だろう。

 

「……赤沙汰朱。君は何のために戦っている?」

 

「何を言っている?その答えは明白だ。私は小野町仁を仲間にしようと――」

 

「それは違う」

 

「――何だと?」

 

「……さっきオレは君は美しく無いと言った。

その意味はわかるか?

それは君に『信念』が感じられないからだ。

何のために?

リーダーが決めたから?

そこに君の信念はあるのか?

無いだろ?

『信念』は『前に一歩踏み出す勇気』だ。

それがある人間は老若男女、善悪共通して『美しい』!

君にはあるのか?

彼女にはある‼

オレにはある‼

だが君にはない!

だから美しく無い‼」

 

詰まる所、これが小野町礼儀だ。

 

彼女は死んでいるとか、弟の平和の為にとか、そんなことはどうでもよかったのだ。

 

小野町礼儀は美しいモノが好きでそれが見たいだけだったのだ。

 

正義なんて考えてなかった。

 

ただ、偶然的に正義の味方側に居ただけだったのだ。

 

彼女も小野町仁と同じく、正義の味方側の悪役なのだった。

 

そんな彼女に対して赤沙汰朱は、

 

「……ふざけるな」

 

キレていた。

 

「お前に何がわかる!?何も無い!?あぁそうだよ!私には何も無いさ!」

 

赤沙汰朱は吠えた。

 

「私は『無』だ、『無』なんだ。だから私は『有』を求めた‼その為なら周りが『無』になることも必然だ‼」

 

「何があったかは知らないし、知る時間がない。多分君は君で何かを持っていたんだろ、そう納得するさ。願わくは君に美しさが戻ることを祈っておこうか」

 

小野町礼儀はそう言った。

 

そして、

 

消えた。

 

逃げ出したとか、その類いの比喩ではなく完全に、完璧に、もともとそこに居なかったかのように姿が無くなったのだ。

 

言うならば先程から彼女が言っていた様に「時間がなくなった」のだろう。

 

言えることは、小野町礼儀は自分の為に現れ、満足したから消えたのだ。

 

まるで未練が有ったらそこにいて、満たされたから成仏する幽霊の様に。

 

だが、それでも物語は続く。

 

「ふざけるな!わかったような口を!」

 

残された赤沙汰朱は怒っている。

 

しかし、それをぶつける相手は居ない。

 

「礼儀さん‼」

 

気が付くと、いつの間にか花弁のドームは崩れていた。

 

当たり前か、と赤沙汰は思う。

 

暴走させていた元凶は消えたのだ。

 

こちらも『供給』は既に切っていた。

 

思いの外、崩れたのは速かったが、もう、自分を閉じ込めていた檻は消えたのだった。

 

「ふざけるな!だったらやってやる‼目の前の仕事をやってやる‼それが貴様が言っている『信念』ってヤツならばなぁ‼」

 

赤沙汰朱は、睨み付ける。

 

この件で最も蚊帳の外で事情も飲み込めていない少女に向かって‼

 

そして、吠えた。

 

「『broad076』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻はまだ夕方くらいだろう。

 

しかし、ショッピングモールの奥にあるこの場所に夕焼けの鮮やかな朱は訪れていなかった。

 

そこには女が二人。

 

魔術師、赤沙汰と、風紀委員、初春だ。

 

初春は地面に這いつくばり、身体のあちこちに奇妙な刺青が彫られている。

 

赤沙汰は静かにその女を冷めた目差しで見下ろしていた。

 

「諦めろ……!」

 

赤沙汰は言う。

 

「貴様を生かしているのは必要な事があるからだ。私の能力『押花刺繍』は貴様を殺せない……しかし、苦しみは味わって貰う」

 

赤沙汰は言う。

 

「呼べ……『あの男』を。そうすれば能力を解除してやる!」

 

這いつくばる初春は答えない。

 

いや、

 

答えられない。

 

初春は今、全身から熱く焼ける様な痛みに耐えているからだ。

 

初春から発せられるのは呻き声のみ。

 

赤沙汰はなおも言う。

 

この事件の核となる言葉を。

 

「呼べ……『小野町仁』を!!」

 

 

 

 

 

 

無理だったのか?

 

初春は自問する。

 

やはり自分には誰かを守る事なんて無理だったのか?

 

初春の頭の中には、何故先程まで居た筈の小野町礼儀が居ないのか?、一体自分は何の能力でこんな目にあっているのか?赤沙汰朱の能力は何なのか?

 

等々。多くの疑問が犇めき合っていた。

 

しかし、それでも心の奥底に、最上位にあったのは自分の非力に対する悔しさだった。

 

確かに自分は弱い。

 

だが、それでもやれる事はある筈だった。

 

しかし、現実は非常だった。

 

結果、初春は負けた。

 

火を見るよりも明らかな結果が、当たり前になっただけの事だった。

 

せめて勝てないまでも、一泡吹かせる事が出来ると思い込んでいた。

 

自分は弱い。

 

一体自分は何を勘違いしていたのだろう。

 

これまでの経験で初春は自分自身を過剰評価していたのかもしれない。

 

後悔。

 

初春は自分を軽蔑し、罵り続けた。

 

赤沙汰朱は壊れていた。

 

何故だかわからないが壊れてしまっていた。

 

小野町礼儀が何かをしたのだろうか?

 

それすらわからない。

 

わかっているのは赤沙汰朱は自分を攻撃し、小野町仁を誘き寄せようとしている。

 

それは無理なことだ。

 

結局、初春は小野町仁の事を知っているが、逆は無いのだから、

 

小野町仁は助けてくれない。

 

(……ごめんなさい)

 

初春はここに居ない人物に謝罪した。

 

(ごめんなさい……、助けられなくて、ごめんなさい……小野町仁さん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼んだか?」

 

 

 

 

 

 

 



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小野町仁編、うん、まぁ、チラリと?

小野町仁はどこにでも居るような普通の男子だった。

 

化け物だとか諸々聞いていた初春やそれ以上の情報を持っている筈の赤沙汰でさえそう思うのだ。

 

だが、異常だった。

 

小野町礼儀の連絡を受けショッピングモールに赴いたり、佐天の頼みでこの場に来た事を彼女らは知らない。

 

そして、小野町仁もまたこの状況を全く知らないのだ。

 

それでも、小野町仁は行動した。

 

それは一瞬。

 

初春が認識出来た時には、小野町仁が急に目の前に現れ、赤沙汰が後ろに下がった時。

 

小野町仁は迷うことなく、赤沙汰朱に攻撃したのだ。

 

そして、彼はこう言った。

 

「『花畑の頭にピンクと白のシマシマ』うん。間違いない!君が初春だな!」

 

一瞬、初春は何を言われたかわからなかったが、その意味を理解して、痛みを忘れて顔を真っ赤にした。

 

「み、見たんですか?!見えたんですか?!」

 

「うん、まぁ、チラリと?」

 

小野町仁は悪びれもせず、物凄くいい笑顔を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

「小野町仁……!!」

 

赤沙汰は混乱していた。

 

なぜこのタイミングで小野町仁が出てきたのだ?!

 

計画ではこの男は登場するはずがなかった!

 

誰かが呼び出した?

 

でも誰が?

 

「…っ‼小野町礼儀‼」

 

そうだ、そうに決まっている‼

 

赤沙汰の脳内に小野町礼儀の意地の悪い笑顔が浮かぶ。

 

それだけで頭の中でアドレナリンが駆け巡るのを感じた。

 

赤沙汰はそれを払いのけ、目の前の小野町仁を睨み付けた。

 

(そうだ、何にしてもターゲットがのこのこ現れたんだ!この場で拘束してリーダーの所に連れていけば問題ない‼)

 

大量の花びらが舞う。

 

それらは大きな波のように形を変え、猛攻と、小野町仁に襲いかかった!

 

対して小野町仁が取った行動はシンプルだ。

 

彼は初春の腰に手を回し、砲丸投げのように、軽々と彼女を花びらが及ばない範囲まで投げただけだった。

 

瞬間、小野町仁の身体は花びらの大群が襲う‼

 

それだけで、赤沙汰は勝利を確信した。

 

だが!

 

「痛ってえぇぇぇぇぇぇ!!何?!何なの?!これ‼クソっ痛い‼何なんだよ?!」

 

花びらの中から小野町仁が飛び出したのだ‼

 

『押花刺繍』は激痛を産み出し、動きを阻害する術だ。

 

それなのに、小野町仁は痛みを受けながらも、喚きながらも、動き立ち上がったのだ‼

 

この異常事態に赤沙汰は狼狽した、そしてそれが彼女の命取りになったのだ‼

 

「テメェも食らいやがれ!」

 

そう叫ぶと、小野町仁は自分の手の甲にかぶり付く‼

 

皮膚が破れ、そこから血が噴き出すが赤沙汰はそれが何を意味するか知っている。

 

血の弾丸、BB!

 

そして、進化系のBB-V!

 

対アユム戦において終止符を打った小野町仁の能力、その効果は相手に自身が負ったダメージを問答無用で押し付ける能力‼

 

すでに小野町仁の右手の人差し指に吹き出した血液が集まり弾丸の形に精製されている‼

 

「グァッ‼」

 

小野町仁は自らの左腕に弾丸を発砲するが、変化はすぐに訪れた!

 

小野町仁の全身から正確には『押花刺繍』で出来た刺青全てから黒い渦が噴出し始め、次第に着弾した左腕の弾痕に集まった、渦が動いた後には刺繍は綺麗サッパリ無くなっている‼

 

「喰らえっ‼」

 

とうとう小野町仁が黒い渦を赤沙汰に向け投げるかのように振るった!

 

黒い渦は地面に落ちるが、動きを止めない‼

 

這うかのように、生き物かのように、赤沙汰に向かって来たのだ‼

 

だが、赤沙汰には対抗策があった!

 

「は?」

 

赤沙汰は走り出した!

 

向かう先は、

 

黒い渦に向かって‼

 

(自分のダメージを相手に擦り付けるなんてなんて自分勝手な能力だ、だが!だからこそ‼私には無意味なんだよ!)

 

黒い渦が赤沙汰のつま先に触れた瞬間、彼女の身体を這い上がり、胸の辺りまで来たところで、弾ける‼

 

ゾワッ‼

 

感覚がガラリと変わるのを赤沙汰は感じた!

 

自身を見ると、身体中あちこちに刺青が彫られてしまっている。

 

それを確認した瞬間、身体中を激痛が襲う‼

 

「がぁ……あぁぁぁぁぁぁ!」

 

叫び声を挙げる赤沙汰。

 

だが、それだけだった。

 

「なんだよ?自分には効きませんってオチ?――」

 

小野町仁が眉を潜めながら言った言葉は半分正しい。

 

この魔術を使う事を前提に置いていたから、この魔術の恐ろしさを誰よりも知っていたから、

 

赤沙汰はあえて小野町仁の能力を受ける覚悟をしたのだ。

 

わかりやすく言えば毒を武器に使う人間がその毒の解毒薬を懐にしまっておくのと同じ事だ。

 

赤沙汰は『押花刺繍』の対抗魔術をすでに発動していた。

 

だが、それでも『押花刺繍』の効力を半分以上受けてしまったのは、小野町仁の『化け物』の力が付属していたからだろう。

 

何にしても、赤沙汰は耐えきった!

 

あとはこの場で小野町仁の手足を縛るなりして、動きを封じ、もう一度能力を使えなくすれば、この戦いは勝てるのだ‼

 

「――そんなことだろうと思ったよ」

 

「……え?」

 

ドンッ‼

 

何かが赤沙汰の脚に触れた。

 

赤沙汰は視線を下に向ける。

 

その先は、

 

黒い渦が這い上がっていた。

 

「な、なんだと?!」

 

「なんかあんた僕に似ている、何を犠牲にしても何かを得ようとする姿勢とかな。だから僕は考えた、それで気付いたんだ、どうせ対抗策を隠しているって――」

 

ありえない‼

 

小野町仁の能力は発動前提にダメージを受けていなければならない筈だ‼

 

一度能力を発動してしまったら、完全に自身のダメージは無くなるのだから‼

 

「――あんたが何でBB-Vの事を知っているのかとか知らないし興味はないよ?でもさ、情報不足だったんじゃないか?――」

 

「クソっ‼取れろ‼お願い!取れて‼」

 

赤沙汰は這い上がり続ける黒い渦を払おうともがくが、変わらずに黒い渦は進行を続けた。

 

「――誰が能力は僕だけにしか使えないって言ったんだよ?――」

 

(まさか?)

 

赤沙汰は小野町仁を見た。

 

正確には小野町仁の後ろ、

 

そこには、

 

初春飾利が無傷で立っていたのだ‼

 

(この 黒い渦は初春が受けたダメージ?!)

 

「――さて、確かに一発目は耐えたな、で?『二発目』は耐えられるのか?」

 

黒い渦が弾ける‼

 

瞬間。

 

赤沙汰は本来受ける痛み以上の激痛を味わい、気を失った!

 

 

 

 

 



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小野町仁編、エピローグ

生命循環は反省する。

 

「やはりうまくはいかないな。まぁ大半の原因はお前のお陰だかな、円順」

 

円順は笑う。

 

「ハハハ、おいおい、アンタ自分の現状を考えて行動を起こすべきだったな?常にアンタが『表』に居る訳じゃないんだから、だったらアンタが『裏』に居る内に邪魔をするだけさ」

 

生命循環は苛立つ。

 

「クソっ!元はバグで産まれた人格の癖に途中で混乱を生むような指示を出しやがって‼お陰で催眠をかけていた斉藤誠や長谷川砂鉄に気付かれる始末。無茶苦茶だ‼」

 

円順は笑う。

 

「ハハハ。おいおいおかしな事を言うなよ?そもそもどっちがベースだったか互いに忘れているんだ、そんなこと笑って忘れろよ」

 

生命循環は溜め息を吐く。

 

「……やはりままならないな、貴様の存在は。すぐに消さなくてはならないのに出来ないのは」

 

円順は笑う。

 

「フフフ、それはお互い様だよ、『本当の敵は自分』とは俺らの為にある言葉だよな。なぁ?『俺』?」

 

生命循環は笑う。

 

「あぁ、全く能力の弊害で生じた障害、『多重人格』が敵とは良くできた話だよ『俺』」

 

円順(生命循環)は歩き出す。

 

片方は学園都市の闇を壊す為に暗躍し、もう片方はそれをそれを阻止する為に活躍する為に。

 

 

 

 

 

初春が目を覚ましたのは、病院のベットの上だった。

 

時刻は夜。

 

カーテンの隙間から月明かりが綺麗に入り込んで室内を明るく照らしている。

 

「……あれ?私?」

 

「ん、気付いたんだ?」

 

「はわっ?!」

 

ベットの横に誰かいた。

 

彼は、小野町仁は初春の奇声に驚いた表情を浮かべているが、また優しい笑顔に戻る。

 

「悪いな。BB-Vはダメージを受けた『結果』を擦り付けるだけで受けた『真実』は変わらないんだ、だから身体の疲労感は拭えないみたいなんだよ」

 

初春は自分の身体を確かめる。

 

確かに『押花刺繍』による刺青は無くなっているが、確かあれは時間が経てば自然に消えるものだったようなので、どちらにしても外傷は残らなかったのだろう。

 

初春は小野町仁を見た。

 

(この人が、小野町仁さん)

 

「医者が言うには単なる疲労から気を失っただけだって、驚いたよ、あの娘が倒れたと思ったら君まで倒れるんだもん」

 

あの娘。

 

その言葉で初春の意識は完全に覚めた。

 

「そ、そうだ‼赤沙汰朱は!?て言うか何であなたがあそこに!?っんん!?」

 

疑問を投げる初春の唇を小野町仁は人差し指で抑え黙らせる。

 

「聞きたいことがあるのは僕の方なんだ、と、言うようり僕は全然蚊帳の外だったんだから、そういう疑問は他の人に聞いてくれ」

 

「う……」

 

「確認したいことがある。君は小野町礼儀を知っているか?」

 

「むしろ一緒に行動していました」

 

小野町礼儀。

 

目の前の小野町仁の姉。

 

すでに死んでいるらしい人間。

 

「そいつは、本物か?誰かが成り済ましていたとか無いのか?」

 

「その、わかりません」

 

確かに、そうなのだ。

 

初春は今回始めて小野町礼儀と会った。

 

彼女が小野町礼儀と言う証拠は無いのだ。

 

「だよな……だったら何が起きていたか聞かせてくれないかな?」

 

それくらいなら、と初春はこれまでの経緯を簡潔に小野町仁に伝える。

 

そして、それを聞いた小野町仁は、

 

頭を抱えていた。

 

「……多分それは本物だよ、本物の小野町礼儀だ」

 

「そうなんですか?」

 

「学園都市の中で同姓の可愛い女の子に世話とちょっかいを出すのは僕の姉くらいだからな。よく無事だったな?服とか脱がされなかったか?キスとかは?」

 

「されていませ………あ」

 

思えば、雨の中を走らせて服を濡らされ、替えの服を買うのに身体を触られたような?

 

思えば、二人でアイスを食べた時スプーンをワザワザ初春のを使って食べ合わせていたような?

 

「まぁ、今回は時間が無かったとかだろうな、もう少し余裕があったら危なかったね」

 

さてと、と小野町仁は立ち上がる。

 

「そっか、居たんだ。たくっ、だったら少し位顔を見せやがれってんだ」

 

「あの?」

 

「ありがとう、明日には退院出来るって蛙顔が言っていたから、今日はお休み。君が無事でよかった」

 

「~~~っ」

 

不覚にも、初春は自分の安否に安心した小野町仁の笑顔に、心を震わせてしまう。

 

そして、彼が出ていった扉を見ながら呟くのだ。

 

「……王子さま見付けちゃった」

 

 

 

 

 

小野町仁編、完

 



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