本物を探す長い道のり (麒麟人間)
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こうして俺の青春ラブコメは終わりを迎える
原作の進展がない上に最近ssも減ってきたからつい自分で書いちゃったZE☆
あんまり先の事を考えずに勢いで書いていくつもりなので、更新頻度は分からんけど、なるべく頑張る。
時期はマラソン終わった数日後くらいからのスタートです。
話はちょっと重い目な話になってます。
駄文ですが、暇な方は是非どうぞ。
校内マラソンでの三浦からの依頼も無事終了し、葉山と雪ノ下の噂でざわついていた学校もいつもの平穏な日常に戻った。
今日も社畜よろしく奉仕部に出勤する俺。やっぱり帰っていいですかね? よし帰ろう。本当に帰ると平塚先生にどんな目にあわされるか分からないから帰らないけどね。
「うぃ〜っす」
「こんにちは、比企谷くん。あら? 仕事に疲れた40代独身男性の様な腐った目をしているけれど、どうかしたのかしら。……ああ、ごめんなさい。よく考えたらいつも通りだったわね」
部室に入った途端に罵倒してくる雪ノ下。本当に帰りたくなったんですけど、帰っていいですかね? ダメですね、ハイ。
「なんで来て早々に貶められてんの? あと一緒にするなよ、俺は40代になる頃にはバリバリの専業主婦だから仕事なんてしてる訳がない。はい論破」
「貴方そんな事言いながら、結局周りより人一倍働いてるタイプじゃない。……それに彼女も一生出来ない貴方が専業主婦なんかになれる訳がないじゃない。はい、論破」
ここまでいつも通りのやり取りをしていても、以前と違う事がある。
基本的に雪ノ下は人と会話する時には人の顔をしっかり見て話すタイプだが、この間のマラソン大会の後の保健室での一件以降、お互い微妙に意識してしまい、今も顔を背けたままで会話していた。
「……」
「……」
いつもの定位置について小説を読みだしても、微妙にソワソワとしてしまう。
おかしいな。いつもならお互い無言でもまったく気にならないんだが。
「…由比ヶ浜さんは一緒じゃないの?」
「あ? ああ、あいつは三浦たちと喋くってたからもう少ししたら来るだろ。っていうか一緒に来る事なんか殆どなかっただろ」
せいぜいクリスマスイベント前の奉仕部全体がギクシャクしていた時期ぐらいのものだ。
「なら少し話しておきたい事があるのだけれど、いいかしら?」
ようやくこちらを向き、佇まいを直す雪ノ下。
「…なんだよ、改まって。由比ヶ浜が居たらマズい内容なのか?」
「そうね、由比ヶ浜さんには後で私から話すわ。別々に話しておかないと、絶対に喧嘩になってしまうもの」
…何か不穏な単語が聞こえた気がする。
「雪ノ下が由比ヶ浜と喧嘩? 想像も出来んが、内容を聞かんと話が進まねぇな。言ってみろよ」
そこで、雪ノ下にしては珍しく、一瞬目を逸らし、言いにくそうに唇を震わせた。
しかし、直ぐに覚悟を決めたように、こちらに向き直った。
そして、その決定的な言葉を発した。
「比企谷くん。奉仕部部長として、貴方に無期限の活動停止を命じます」
勢いで書いたから短い!
プロローグはここの引きしか考えられないので、次からはもう少し長めに書きます。
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困った時は小町におっ任せ〜!
短いプロローグにも関わらずお気に入りに登録して頂いた5名様には感謝しきれません!
続きに対しての期待に応えるべく頑張りますのでお願い、切らないで!(切実)
今回は雪乃視点→八幡視点→雪乃視点→八幡視点というごちゃごちゃした構成になっていますが、次回からは落ち着くはずです、多分。
……比企谷くんに一方的な部活動停止を告げてからしばらくして、彼は大人しく帰って行った。
普段から猫背ではあるけれど、心なしかいつもより肩を落としているように見えた。
それも当然かもしれない。なにせ、碌な説明もせずに活動停止を言い渡し、問いただしてきた比企谷くんにも、部長命令の一言で聞く耳すら持たなかった。
今回ばかりは彼に愛想を尽かされてしまったかもしれない。しかしそれでも私にはやらなければいけない事がある。
それが、いつも困難な問題を彼に押し付けてしまっていた私に出来る唯一の罪滅ぼしなのだと思う。
由比ヶ浜さんには話すつもりだけれど、なるべく比企谷くんを除く奉仕部の二人で解決しなければならない。
「やっはろー! ゆきのん、ヒッキー! ってあれ? ヒッキーは? 先に来てた筈なんだけど……」
いつもの太陽の様に眩しい笑顔を見せながら由比ヶ浜さんが部室に入って来た。
これから事情を説明しなければならないのだけれど、この笑顔を曇らせてしまう事は間違いないのでどうしても躊躇してしまう。
「……比企谷くんは、その……」
「あ、ジュースでも買いに行ってるのかな? ヒッキー好きだもんね、MAXコーヒー。あんなに甘いのによく飲めるよね〜」
「いえ、彼は……もう帰ったわ」
「ふぇ? あ〜、もしかしてまたいろはちゃんに連れてかれちゃったの? ヒッキーいろはちゃんにはMAXコーヒーくらい甘いもんね」
表情をコロコロと変えながら比企谷くんの事を話す由比ヶ浜さんは、彼の事が好きなのだと、直接聞いた事はなくてもその態度で物語っていた。
しかし、そんな彼女だからこそ、悲しい思いをさせる事になっても協力して貰いたいのだ。
彼女も今まで彼に問題を押し付けていた結果、彼が傷付いていくのを見て、歯がゆい思いをしていたに違いないのだから。
「由比ヶ浜さん。実は……」
*****************
「うぃー。小町ー。ただいまー」
まだ雪こそ降っていないが、それでも外はかなり寒い。こんな時はコタツに篭りながら熱々のマッカンに限る。
「おかえり、お兄ちゃん。今日は早くない? 奉仕部はどしたの?」
玄関までぴょんぴょんと跳ねるように出迎えてくれる大天使小町。あー心がぴょんぴょんするんじゃー。……しかし、奉仕部、奉仕部か。
「いや、それが俺にもよく分からんのだが、雪ノ下に無期限活動停止を言い渡されてな。帰りたいと思ってはいたが、いざ帰れと言われると何だか腑に落ちないというか落ち着かない気分。これが飼い慣らされた社畜の心境か」
「またそんなしょーもない事ばっかり言って。どうせゴミいちゃんが気づいてないだけで何かやったんでしょ? いいよ、今夜雪乃さんにメールで聞いといたげる!」
「……すまん、助かる」
小町は本当によく出来た妹だ。俺には勿体無いが、他の男にやるつもりはない。これからは恩を返すべく、より一層小町に近づく悪い虫を払わねば。特に川崎大志。
*****************
由比ヶ浜さんとの話し合いの後、自宅に帰って来た頃には私の精神は疲れ切ってしまっていて、着替えるのも忘れベッドに突っ伏してしまった。
由比ヶ浜さんは私が比企谷くんを部活動停止にしたと告げると、普段の温厚な彼女とは思えない剣幕で詰め寄ってきた。
しかし詳しく事情を説明すると、今にも涙を浮かべそうな顔をしながらも協力してくれる事、それからこの件を比企谷くんには秘密にする事を約束してくれた。
ようやくこれからする事に目処が立った程度ではあるが、ほんの少しだけ肩の荷が下りた気分だ。
「いけない、夕食の支度をしないと……」
このまま寝てしまいそうになってしまったが、着替えないと制服が皺になってしまうし、食事もしなければならないのでベッドの誘惑を振り切って起き上がる。
食事を済ませた頃、普段あまり使う事のない携帯電話がなった。
「小町さんからのメール? ……比企谷くんの事でしょうね。」
『雪乃さん、こんばんは!
お兄ちゃんから停部の話を聞きましたよ(=゚ω゚)ノ。
どうせまたゴミいちゃんが何かやらかしたんだと思いますが、どうか許してやってもらえませんかね?(>人<;)』
メールにはそんな事が書かれていて、事情を知らないままに比企谷くんが悪いと決めつけている小町さんに苦笑する。
「比企谷くんは何も悪くないのよ、小町さん。今回の件は私の我儘みたいなものだから……」
小町さんにも全て明かして協力を求めようかとも思ったが、小町さんは最終的には比企谷くんの事を最優先に考えて行動するから、彼に打ち明けてしまうかもしれない。
そうすれば今までのように予想も出来ない手段で解決してしまうのだろう。
しかし、今回の件はそうやって彼にばかり頼っていたツケが回って来た結果が招いてしまった事態だ。
自分たちが逃げ続けた不始末くらいは自分たちで何とかしなければこれから彼に胸を張って合わせる顔がない。
とりあえず、小町さんには怒っている訳ではない旨だけを伝えて、内容には触れずに返信しておいた。
「それにしてもあの子も由比ヶ浜さんみたいにメールにヒエログリフのようなものを入れるのね。
私も少しは使った方がいいのかしら?」
*****************
翌朝、朝飯を食べながら小町に雪ノ下とのメールについて聞く事にした。
普段なら小町の方から切り出してくるのだろうが、このアホ妹は昨日の事など忘れてしまったとばかりにジャムを塗りたくった食パンを美味しそうに貪っている。
えらく幸せそうな所を忍びないが、こちらが一方的に小町に頼み事をしている以上、自分から切り出すのが当然であろう。
「あー、小町? 昨日雪ノ下はメールで何か言ってたか?」
尋ねた途端、食パンにかぶりつこうとした体勢でピタリと止まり、表情を曇らせた。
ゴメンね、幸せな時間を邪魔しちゃって。ホント誰だよ、俺の小町にこんな顔させた奴は。お兄ちゃんに言ってみろ、とっちめてやる。って俺か。
「んあー?あー、……あ、そうだった! ちょっとお兄ちゃんホントに何したの⁉︎ 雪乃さん怒ってないとは言ってたけど詳しい事は全然教えてくれなかったよ」
ちょっと小町ちゃん? 俺が言い出さなかったら完全に忘れてましたよね?
「雪ノ下が怒ってないって言ってるならそうなんだろうよ。何でいきなり停部扱いにされなきゃいかんのかはわからんが、あいつが意味もなくこんな事言いだしたりはしないだろうしな」
「……ほほーぅ?雪乃さんの事、信頼してるんだね!」
「バカ、ちげぇよ。あいつが大人しく俺を家に帰らせてくれるとかありえないだろ。何かわからんが言えない事情とかあんだろ、多分。知らんけど」
雪ノ下が今更俺を邪魔者扱いした訳ではないだろうし、働きすぎの俺を労って休ませようという粋な計らいでもないだろうから、俺に知られたくない重大な事態が起こっているのだろう。
「一応雪乃さんの後に結衣さんにもメールしたけど、雪乃さんと同じで話しては貰えなかったよ。何度も謝られて小町の方が悪い気がしてきちゃった」
小町は雪ノ下や由比ヶ浜に懐いてるからな。慕っている年上の先輩に謝られると萎縮してしまうのだろう。
「それでお兄ちゃん、これからどうするつもりなの?」
「どうって言われてもな……」
雪ノ下や由比ヶ浜が俺に隠さなければならない事態。隠されると知りたくなるのが道理ではあるが、好奇心は猫を殺すという言葉もある。知らない方が良いと思って隠されているのならば、わざわざ自分から首を突っ込まない方がいいのではないだろうか。
「お兄ちゃん、また一人で色々考えてるんだろうけど、お兄ちゃんはどうしたいの? 雪乃さんと結衣さんには悪いけど、小町はお兄ちゃんがしたい事をするのが一番だと思う。二人が大変なのにただほとぼりが冷めるのを待ってるだけでいいの? まあ、小町はお兄ちゃんがすぐ帰ってきてくれたら、一緒の時間が増えるから嬉しいけど。あ、今の小町的にポイント高い!」
ああ、高い高い、最後のがなければな。ホントあざと…いや、あざといと言うと何処かの現生徒会長を思い出してしまうから可愛いでいいや。ホント小町可愛い!
しかし、この妹は本当に俺の事をよく理解してくれている。
このまま雪ノ下と由比ヶ浜を放置して、あの二人が悲しむような事になれば、俺はきっと後悔する。
もう自分だけが傷を負うやり方を続けるつもりはないが、どうしても避けられない傷であれば、同じ傷でも三人で受けて痛みを分け合えばいいのではないか。
自分でも柄ではないが、あの二人だと自然にそう思えてくる。
あの二人が苦しむのを見ているだけになるよりは、全てぶち壊しにしてしまって責められる事になってでも、関わっていた方がましだ。
「サンキュな、小町。具体的にどうするかは考えてないが、方針は見えてきた。流石俺の愛する妹だな」
「いえいえ〜、困った事があったら小町にお任せだよ、お兄ちゃん! あとその愛は重いから、お礼は帰りにハーゲ○ダッツでいいよ!」
「愛が現物支給かよ、俺の愛をハー○ンダッツにすると東京ドームが埋まっちゃうよ?」
「うっわぁ、相変わらずシスコンだなぁこのゴミいちゃんは。ってもうこんな時間じゃん! ちょっと急がないと遅刻しちゃうよお兄ちゃん」
ドタバタと食器を片づけながら動き回る小町に心の中で感謝する。
小町にはハーゲン○ッツなんかでは返せないくらいに借りを作ってしまっている。
もし小町に困った事が起きたらすぐに全力で力になってやろう。
まず差し当たっては、川崎大志とかいう毒蟲を駆除する事から始めるか。
安定の小町によって方針を得る八幡。
次回はいろはすと戸塚といろはすと皆さんお待ちかねのいろはすが出てくる予定です。
小説とか書くの初めてなんで、文法がおかしいとか読みにくいとかあれば指摘お願いします。
でも「クソつまんねぇんだよ、ゴミカスワナビーが!」
とかはやめてね。材木座よりメンタル弱いから。
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やはり一色いろははあざと可愛い
いやー、さすがいろはす。書いててキャラが勝手に動いてくれます。
逆に書きにくかったのは結衣です。
考えた事が顔に出るようなアホの子ってむしろ何考えてるのかわからなくてホント難しい。
登校中、さて具体的にどう動こうかと考えては見たものの、これが全く思い浮かばなかったので、教室の机に伏せる。
雪ノ下が頑なな対応を変えない限りは奉仕部に行っても昨日同様進展はないだろう。
とは言っても奉仕部以外で俺に何か出来ることなどあるのだろうか。
何をするにも即座に方針を示し、発生するであろう問題点を先に明示する雪ノ下。
いざ行動すれば、その交友関係の広さと人当たりの良さで周りまで巻き込み、集団行動でのいざこざの緩衝材の役割も果たす由比ヶ浜。
結局の所、俺は一人では何も出来やしないのだ。
散々ぼっちだのなんだのと言っておいて、いざ一人になった途端に問題に対して手をこまねいている。
やはり俺にとって奉仕部というのは思いの外重要な居場所になっていたらしい。
「あ、八幡! おはよう」
その瞬間、先程まで考えていた事は全て消滅した。
苦悩渦巻く世界に君臨せしエンジェル・戸塚。戸塚の顔見ただけで悩みが吹っ飛ぶとかあれだな、やっぱり戸塚がいれば世界に戦争なんてなくなるんじゃないだろうか。
「おお……。おはよう、戸塚。突然だが苗字を比企谷に変える気はないか?」
「え? ど、どういうこと?八幡」
「いや、いい。忘れてくれ。ちょっと考え事してたから変なこと言っちまった」
つい気が動転して口走った台詞にキョトンと首を傾げる戸塚。マジちょーか〜わ〜い〜い〜!
と、話しているうちにふと周りを見渡すと何か違和感があった。
普段ならこんなやりとりをしていた所で、誰も俺の事など気にも留めないのだが、今日に限ってチラチラと、微妙な視線を感じる。
いや、思い返せば今日だけではなかった。ここ最近少しずつ視線を感じる事が増えていたかもしれない。
由比ヶ浜はまだ教室に来ていないようだが、葉山や海老名さんまで戸部や三浦と話しながらもこちらを気にしているのが見て取れた。
この視線には覚えがある。確かあれは文化祭直後の時期だったはずだ。
文化祭実行委員長である相模に暴言を吐いたとして、校内一の嫌われ者のレッテルを貼られていたあの時期。
噂が落ち着くまで、今のように周囲の刺すような視線と、少数の同情の視線に晒されていたのではなかったか。
「八幡? 八幡ってば! ……大丈夫?」
戸塚に呼びかけられまたしても我に帰る。いかんな、また思考の沼に嵌っていたようだ。
「ああ、大丈夫だ、戸塚。ありがとうな気にしてくれてたんだな」
多分、今声を掛けてきたのも周りの空気を感じとっての事だろう。
「ううん、大丈夫ならいいんだ。八幡も何か困った事があったら遠慮なく言ってね。僕で助けになるかわからないけど、力にはなるから!」
そう言って眩しい笑顔を向けてくる戸塚。
俺はこの笑顔を守る為に生まれてきたのかも知れない。
授業も終わり、いつもなら奉仕部に向かう時間。今日の所はとりあえず帰るかとカバンの準備をしていると、背後からコソッと声がかかった。
「ヒッキー、ゆきのんに奉仕部来ちゃダメって言われたんだよね? これからどうするの?」
周りを気にして耳元に囁く由比ヶ浜。近い、近いから!
「どうもこうもねぇだろ。理由は知らんが雪ノ下には拒絶されちまったんだ。帰っていいなら喜んで帰るぞ、俺は」
「あはは、ヒッキーはヒッキーだね。理由はヒッキーには言えないんだけど、あたしとゆきのんでなんとかするからもう少しだけ我慢して欲しいの」
「ああ、問題無いぞ。家には俺の帰りを待ってる小町がいるからな。むしろこうしている間にも帰りたいまである」
「やっぱりシスコンだ⁉︎ ヒッキーのバーカ!」
言うなり由比ヶ浜は教室を出て行った。これから奉仕部へ向かうのだろう。
………………俺も帰るか。
戸塚のエンジェルパワーで暗い考えこそ払拭出来たが、相変わらず具体的には考えがまとまらない。
とりあえず小町に相談しよう、そうしよう。
「あ、せんぱーい。いい所で会いましたね」
その瞬間、俺は普段の数倍もの反射神経でこの場からの撤退を試みた。
風を切り、音速を超え、光に迫るスピードで廊下を駆け抜けて昇降口へ……行こうとしたのだが、既に制服の裾を掴む悪魔の腕によって阻止されてしまった。
「ちょちょ、先輩そんな急ぐとこけちゃうじゃないですか! 廊下は走っちゃいけませんよ?」
「……出たな、妖怪アザトースめ」
「何ですか、それ? こんなに可愛い女の子に向かって妖怪って酷くないですかね」
プンプンとわざとらしく怒ってみせる我らが生徒会長である一色。相変わらずあざとい。
「だってお前、いい所でとか言ってたじゃん。また仕事押し付ける気満々だろ」
「さっすが先輩、話が早くて助かります。実はマラソン大会のせいで他の雑務が滞ってたので、先輩に手伝って頂こうかな、と」
「ヤダよ、それこそ生徒会の仕事だろ。何かしろのイベントで手が回らないとかならともかく」
あれ? ともかくって言っちゃった?
これって逆に言えばイベントなら手伝うって言ってるようなもんじゃね?
そーっと一色の顔を伺うと悪い事を考えているのが一目でわかるいい笑顔を浮かべていた。
「言質とりましたからね! 次のイベントではよろしくお願いしまーす。まぁそれはそれとして、今回も副会長達に投げだ……任せてたら仕事が溜まっていっちゃったんですよー。奉仕部が暇だったらでいいので手伝ってくれませんか?」
得意の上目遣いでお願いしてるところ悪いが、副会長達に投げ出したって言い掛けてたの聞こえてたからね?
さも他の生徒会役員が不甲斐なくて仕事が溜まったみたいに言ってるけど、多分それ本来一色がやらないといけない分だからね?
「奉仕部は今雪ノ下に停部にされたからな。大人しく家に帰るところなんだよ」
「停部? 先輩がですか? ……何しでかしたんですか?」
「なんで皆俺がなんかやったと決めつけんの? これが絶対悪ってやつなの?」
「まぁいいです。奉仕部に行かないなら暇でしょうし、尚更手伝ってもらいます」
「いや、今からアレだから。家で小町と戯れる予定だから」
「小町? あー、先輩の妹のお米でしたっけ? まぁまぁいいじゃないですか。可愛い後輩の頼み事を聞いてくれても」
「なんだよ妹のお米って、マイシスターは米じゃねえよ。っておい引っ張るな!」
で、結局生徒会室に連れてこられた訳だが……。
「なんで他の役員がいないの? お前実は生徒会でもハブにされてんの?」
生徒会室には誰も居らず、仕事を始めても一向に誰か来る気配もない。
「生徒会でもって何ですか! 確かに一部の女子に嫌われたりはしてますが、基本的には皆と良好な関係を築いてますよ。あと少なくとも先輩には言われたくないです」
「まぁお前最近は前よりあざとくないっつーか会長職だってしっかりやってるし、嫌われるキャラって感じではなくなってきたかもな」
最初会った頃は女子に嫌われる典型のような性格してたもんな、コイツ。
「な、なんですかそれ最近株が急上昇してるからって口説いてましたか調子に乗らないでくださいまだまだ好感度が足りないのでもっと仲良くなってからにして下さいごめんなさい」
「また振られ記録更新しちゃったよ。何なの? 振った回数のギネスでも狙ってんの?」
「せ、先輩が悪いんですよ。大体生徒会長だって先輩がやれって言ったんじゃないですかー。だから先輩が責任を取って手伝うのは当然なんです!」
それを言われると弱い。確かに元々やりたくなかった生徒会長職を、葉山を餌に無理矢理生徒会長にしてしまったのは俺だ。
「いや、それこそ葉山に手伝って貰えよ、今回は重い案件でも重労働でもないだろ」
「葉山先輩にはサッカー部があるじゃないですかー。ただでさえ生徒会の仕事を言い訳にサッカー部のマネージャーをお休みさせて貰ってるのに、これ以上迷惑かけられないじゃないですか」
なるほど、確かに一理ある。マネージャー仕事を無理言って休ませて貰ってるのに、その上生徒会仕事を手伝ってくれなんて言われても、普通なら頼られてる、とか思う前にめんどくさいなコイツ、となってしまうかも知れない。
「まぁ葉山の件はわかった。なら他の役員がいないのはなんでだ? 仕事を放り出して帰った訳じゃないだろ?」
「先輩じゃないんだからそんな事しませんよ……。他の役員の皆さんはマラソン大会からこっち働きづめだったのでお休みをあげました。なので今日はわたしと先輩の二人きりですよ?」
いつも通りのあざとい仕草も最近可愛く見えてきて困る! おかしいな、あざとかわいいは小町の専売特許だったはずなんだが。
「あーはいはい、いいから手を動かせ。お前さっきから全然進んでないだろ。そのペースだと外暗くなるぞ」
「いいですよ、外暗くなってたら先輩に送ってもらいますから。アフターケアまでちゃんとお願いしますね、先輩」
やれやれ、更に面倒を押し付けられてしまった。こうなった暗くなる前に仕事を終わらせるしかあるまい。
「ところで、先輩。先輩が奉仕部を停部になった理由なら一応心当たりありますよ」
仕事を進めるペースを上げようとした矢先、手の動きがピタリと止まる。
「……何か知ってるのか?」
「知ってるというか多分、て感じですけどねー。雪ノ下先輩にも確認しなきゃですけど、間違いないと思いますよ」
ワザと名言を避ける言い回しをする一色。コイツも言う気はないのか。
「心当たりの内容は話せないのか?」
「んー、そーですねー。今回は先輩は大人しくしておいた方がいいと思いますよ? 下手に先輩が動く方がややこしくなるかも知れないです」
「そうか。それだけ聞ければ充分だ。ほれ、こっちの分は終わったぞ。後は一色の分が終われば終了だ」
「え、もう終わったんですか⁉︎ ちょっ、ちょっと待って下さい。えーとこれはこっちで……」
ワタワタと慌てる一色にハァと諦めのため息を吐く。
「ほれ、残り半分貸せ。本当に暗くなっちまうぞ」
これは、奉仕部についての情報と助言をくれた礼だ。だから仕事を手伝うのは当然の対価だ。
残っている分といってももうそんなに大した量ではない。残りの書類の下から半分を持ってくると一色の動きが止まっていた。
「あ、ありがとうございます。結局殆ど手伝ってもらっちゃって」
「いいから手を動かせ、手を。さっさと終わらせるぞ」
そこからは特に会話もなく黙々と仕事をしていた為、なんとか暗くなるよりは前に終わらせる事ができた。
「あーなんとか終わりましたねー。おかげさまで一人で帰れそうです」
「おー良かったな。こっちもやる事が見えてきたから助かったわ」
「? なんの話ですか?」
「いや、こっちの話だ、気にすんな」
そう、一色の助言のお陰で大体見えてきた。
俺に浴びせられる視線、俺には言えないと言っていた由比ヶ浜や一色。
自意識過剰でなければ今回は俺の事が問題になっているのではないか。
であれば、まずは俺を奉仕部から遠ざけようとした雪ノ下の行動にも納得出来る。
校門で一色を見送った後、俺はとある番号に電話をかけた。
「もしもし、材木座か? 俺だ、少し頼みたい事がある」
というわけでいろはす登場回でした。
序盤の戸塚との会話なんて、私は別に戸塚推しでは無いんですが、八幡の思考をトレースしようと試みた結果ああなりました。
ちょろっと出てきて終わりにするつもりが思ったより長引いたので、いろはす登場まで保つか一瞬不安になりましたね。
でもいろはす登場した瞬間にその不安は消し飛んだので良かったです。明日から連休明けるので更新は少し遅れるかもです。
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この事件の真相と犯人はまちがっている
奉仕部二人の出番がほとんどないのはあっちはあっちで動いているからもう少し出てきませんが、その補填は考えているのでご勘弁。
携帯からの投稿の為、改行などで問題があればご指摘お願いします。
『むほん、八幡か、して我に頼みとはなんだ。我が同胞の頼みとあらば聞かぬ訳にはいくまい……述べてみよ!』
プチッ…ツー…ツー…ツー
トゥルルルルルルルルル、ガチャ
『何故切るのだ八幡⁉︎』
「い、いや悪い。あまりのキモウザさについ切ってしまった。それで頼みなんだが、校内で悪い噂か何か出回ってないか調べて欲しい。出来るか?」
『ふむ、それはもしや八幡についての噂ではあるまいな?』
「やっぱりあるのか?」
『うむ、我がいつものように図書室で執筆に励んでいる時に、見知らぬ生徒が八幡の名を語っていたのでな。聞き耳を立てていたのだ。確か文化祭がどうのと言っておった気がするぞ』
「なるべく詳しく知りたい。どんな噂か、それとどの学年を中心に広まっているかをなるべく正確に調べて欲しい。厳しいだろうが頼む」
『…………ふぅむ』
さすがの材木座も唸りを上げる。唐突にこんな頼み事をされても困るだろう。既に外は日が沈みかけ、部活動に励む連中もそろそろ片付けを始め帰宅しようという時分だ。
『………………時に八幡よ』
いつものようなふざけた声色ではなく、珍しく真面目な声で話す材木座。
やはり今回ばかりは如何に材木座でも難しいか。
『調べろ、というが、別に今話してしまっても構わんのだろう?』
「お前それが言いたかっただけだろ。真面目に聞いて損したわ! っと待て、もう調べがついてるのか?」
台詞自体はネタだが、内容は聞き捨てならない。
『うむ、実は最初に噂を聞いてからちらほらと八幡の名を耳にするようになってな。もしや我を差し置いて人気者になったのではないかと危惧して調べまわっておったのだ』
「この噂の何処に人気者の要素があるんだよ。だがまぁ話が早くて助かった。聞かせてくれ」
材木座の話によれば、主な内容は
・文化祭で実行委員長に暴言を吐き、そのせいで閉会式にて支障が出た
・体育祭で不正を働いてまで勝とうとした
・修学旅行で告白しようとしている男子に割り込み、嘘告白で空気を壊した
・部外者なのに生徒会が他校と合同で行っていたクリスマスイベントに乱入し準備の妨害をしていた
・マラソン大会でテニス部を脅してトップ集団をブロックさせた挙句、葉山を妨害して足止めした
材木座の話を要約するとこんなところだった。
文化祭の話は前にも出回っていたので内容も特に変わりはないし、体育祭や修学旅行の件に関しても、個人の特定がされていなかっただけで実際に俺がやった事だし、目撃者がいたのだから公になっても納得出来る。
しかし後の二つは明らかに尾ひれがついているし、マラソン大会なんてつい数日前の事だ。噂になるにしても早すぎる。
やはり誰かが意図的に噂をばら撒いていると考えるのが妥当だろうか。
自分に悪意が向く事には慣れている。そもそも尾ひれがついていようが、殆ど自分がやった事には違いないし、周囲に非難されても文句は言えない。
だが、雪ノ下や由比ヶ浜が動いている以上、この噂が自然消滅するより先に噂を広めている犯人が特定されるのは間違いないだろう。
『あ、あとやはりというべきか、噂が広まっているのは二年の女子が中心のようだな。我は女子と目を合わせられない故、リボンの色を見ておったので間違いない』
「いや、そんなヘタレトークは要らないから。……しかし、二年女子ね」
自分に悪意を向けて来そうな女子なら心当たりは沢山ある。例えばさっき下駄箱ですぐ近くをすれ違った女子とか。名前知らないけど、すごく嫌そうな顔してたし。
とはいえ、わざわざ噂を掘り返して広げようと行動する程に嫌われているとなると限られている気がする。
好きの反対は無関心。というように、真のぼっちとは認識すらされないからぼっちなのである。
とりあえず材木座には引き続き噂の内容と出処の調査を頼み、今日のところは引き上げる。奉仕部ないって言ってたのに遅くなってしまって、小町もさぞかし心配している事だろう。
「小町ちゃーん。お兄様のお帰りですよー」
玄関から声をかけてもシンと静まり返った廊下に響くだけ。
おかしいな。鍵は開いてたから家には居るはずなんだが…。
「小町ー? 部屋に居るのかー?」
呼びかけても返事がない。すわ事件かと焦りが生まれた頃に、ドタドタと足音が聞こえた。
良かった、ちゃんといるじゃないか。
「小ま……」
「お兄ちゃんうるさい! 小町勉強してるんだから集中乱さないで!」
そうだった。昨日は機嫌が良かったから忘れていたが、今小町は受験勉強も最後の追い上げの時期だ。
時々こんな風にイライラしたり当たり散らしたりするようになっていた。
「小町部屋に戻るけどご飯まで話しかけないでね!」
言うなり来た時同様ドタドタと足音を立てて部屋に戻っていく小町。
「………………晩飯でも作るか」
小町に相談しようと思っていたが、今の様子だとまともに話が通じないだろう。
それに元々受験生を面倒ごとに巻き込む方が間違っていたのだ。せめてお詫びの意味も込めて美味しくてスタミナのつく秘伝の夕食をご馳走しよう。
朝、黙々と朝食の支度をする小町をチラリと盗み見る。
さて、今朝の機嫌はどうだろう。
「……何?」
はい、まだ荒れてらっしゃる。別に特別俺に対して怒っている訳ではないはずだが、普段元気いっぱいの小町が発する低い声はそれだけで心胆を寒からしめる。
「ああいや、何だ。手伝う事あるか?」
「いい、座ってて」
普段なら俺が手伝おうとすると、「一緒に朝ごはんの準備なんて新婚夫婦みたいだね! あ、今の小町的にポイント高い!」とか言いそうなもんだが、全く取り付く島がない。
受験のストレスは俺にも分かるし、こういう時は邪魔をしないようにしつつ、優しく見守ってやるしかないだろう。
昨日よりもあからさまに増えた視線の中、教室まで辿り着く。ふぅ、人気者はつらいぜ。
「やあ比企谷。中々困った事になってるじゃないか」
今日は葉山か。戸塚を出せ、戸塚を。
「何しに来たんだよ。お前と違って悪い噂で持ちきりな俺を嘲笑いに来たのか?」
「違うよ、君が噂について知ってるのかカマをかけに来たのさ」
それはつまり、俺に友達がいないから噂になっていても気付いていないのではないかという事か。昨日まで知らなかったから当たっているが、やっぱり馬鹿にしに来たんじゃないか。
「まぁ何とかな。俺のステルスが無効化される程視線をむけられちゃ流石にな」
「それで、君は今回はどう対処するつもりなんだ」
暗に普段は全く注目されていないという自虐ネタもスルー。やっぱり自虐ネタは毒舌女王様がいないとすべるな。
「今回も何も、こないだのはお前が自分で解決したんだろうが。別にどうもしねぇよ、文化祭の時みたいにほっときゃそのうちみんな飽きて忘れていくさ」
マラソン大会前の葉山と雪ノ下が付き合っているという噂は、葉山が三浦と一色を特別扱いするという方法により一応は解決を果たした。
だが、今回は悪意にまみれた噂であり、その中心人物である俺が何をしようと悪い解釈しかされず、新しいネタを提供するだけに終わってしまう。
本来なら本当に何もしないのが一番なのだ。……雪ノ下たちが動かなければ。
あいつらに俺の事で悪い噂に巻き込まれたり、悲しい思いはして欲しくない。
「そうか、君は本当に変わらないんだな。だが君が何とも思っていなくとも、君の悪い噂を聞いて辛い思いをする人もいるんだ。その人たちの事も少し考えてやってくれないか」
そんなやついねぇよ、と返そうと思っていたのに視線がつい由比ヶ浜の方を見てしまった。
先ほどからケータイをいじる振りをしてこちらをチラチラと気にしている由比ヶ浜。バレバレだからね。
あと隣で周囲とは違う意味で熱い視線を送ってくる海老名さん。その視線は熱いのに寒気がするのはなんでですかね。
「ああ、まぁ何とかするよ。少なくともお前の手は借りんから気にすんな」
「そうか? 別に俺は協力してもいいんだけどな。今だってクラスの中の空気がギスギスしててあまりいい気分じゃないしな」
言いながら、今もこちらを見てクスクスと笑い声を上げている相模たちの方を気付かれないようにチラリと見る葉山。
やはりこの噂が文化祭の件を原点としている事を考えると、噂を撒いているその中心が相模やその取り巻きたちである事は間違いないだろう。
「それと、今回の事はもしかすると俺にも責任があるかもしれない。もしそうなら……」
「ねぇよ。お前が何をしたか知らんが、噂になっているのは俺で、その内容も俺が仕出かした事だ。自分が原因で他人が動くなんて自惚れんじゃねぇ」
葉山が何を以って自分に責任があると言い出したのかは分からない。
けれど、俺が陰口を叩かれているのは全て俺の自業自得であり俺の責任だ。簡単に人の責任を負おうとする葉山にどうしようもなくイラついてしまった。
「……すまない。まぁ何か力になれる事があれば言ってくれ。俺にできる事なら協力するよ」
そう言って戻っていく葉山。柄にもなく声を荒げてしまった。陰口には慣れていると思っていたが、自分でも気付かれない内に精神が摩耗して来ているのだろうか。
奉仕部の二人の事もあるし、解決するなら早めに手を打たなければならない。
はいそこ、やっぱ相模かとか言わない。
八幡に明確な悪意を向けてくる名前あるキャラはコレしかいないんですよね。
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ぼっちとぼっちは引かれ合う
少しキリが悪かったので分割した分、尺が短いです。
昼休み、いつものベストプレイスに行くと見知らぬ生徒たちが既に陣取っていた。
一年生らしき彼ら彼女らは俺がいつもここで昼飯を食べている事も知らないだろうし、別にわざと邪魔している訳でもないだろうからここは年上らしく場所を譲るとしよう。
せいぜいベストプレイスの居心地を味わうといいリア充共が。
さてそうなるとどこで昼飯を食べるか。
教室に戻って食べる選択肢はない。いつも昼休みにいない俺の机は、知らぬ誰かに占領されている恐れがある。
そうなると自然と行き先は限られてくる。
屋上か保健室かトイレだ。だが保健室は養護教諭が居れば飲食は禁止されるだろうし、トイレでのぼっち飯は中学のトラウマを思い出すので最後の最後の選択肢だ。
となると屋上か。この時期なら寒くて他の生徒もほとんどいないだろう。
「うぅー、さ、寒ぃ!」
他の生徒が使わないくらい寒いという事は、当然俺にとっても寒い。
流石にこの寒さの中で昼飯を食べるような訓練されたぼっちが俺以外にはいないだろうと周りを見渡す。
いた……!
長い髪を自作のシュシュでポニーテールに纏め、キツめなつり目に泣きぼくろ。
その名は……なんだっけ? 川…崎大志の姉の川崎沙希だ。大丈夫、忘れてない。
向こうも俺が来たことに気づいてこちらに近寄ってくる。しかしあいつこの寒さの中あの格好で大丈夫なのか?
流石にブレザーこそ着ているが、シャツの襟首のボタンは外され、スカートの下もストッキングなどを履いていないので生足が眩しい。
「あんたもここに来たんだ」
ぶっきらぼうにそう言うが、ドアを挟んだ反対側の壁に腰掛けたあたり、歓迎されていない訳ではなさそうだ。
てっきり、「ここはあたしの縄張りだから出てけやゴラァ」とか言われるかと思った。
「ああ、いつもの場所が占領されてたんでな。お前はいつもここで食べてんのか?」
話しながら俺は購買で買ってきたパンを開ける。川崎は弁当派のようで可愛らしい柄の弁当箱をつついている。
「寒くなってきてからは教室で食べてたんだけどね。今は変な噂とか聞こえてきて気分悪いから」
「……ご迷惑をお掛けします」
こんなところにまで噂の弊害が発生しているとは。
「別に。悪いのは知りもしないのに噂に乗せられて騒いでる奴らだからね。あんたが気にする事じゃないよ」
そっけなく言うが、その顔には噂している奴らに対してのイラつきが感じられた。
「で、どうすんの? あんたが何とかしてくれんでしょ?」
その台詞からは俺なら何とか出来るという信頼、ではなく、どうにかしてカタを付けろと命令されているようだった。
「ああ、まぁどうにかするわ。まだどう動くか考えてねぇけどな」
噂を広めているその中心に相模がいるのはほぼ間違いない。だが決定的な証拠がない以上、正面から問い詰めてもしらばっくれるのがわかりきっているし、いくつか腑に落ちない点もある。
考えている内に食べていたパンが消滅していた。
いや自分で食べただけなのだが、いつのまにか食べ終わっていたので物凄く物足りない。
もう一つ買ってこようか、でももう残ってないだろうなと考えていたら横から鋭い視線を感じた。
川崎は何か言いたそうに目を細めてこちらを睨みつけている。なんだろう、仲間にして欲しいのかな? そんなわけないか。
しばらくそうしていたが、ふぅ、とため息を一つすると、手に持っていたタッパーを持ったまま近づいてきた。
「あんた、そんなパン一つじゃ足りないでしょ。朝昼はちゃんと栄養取らないと頭も回んないよ」
そう言ってタッパーをこちらに突きつけてくる。え? 何コレ?
川崎とタッパーを交互に見て困惑していると焦れた様に声を荒げる。
「だからっ、あげるって言ってんの。あんたがちゃんと解決してくんないとあたしも落ち着いて教室で食べてらんないし。……別に、他の意味とか、……ないから」
勢いに飲まれて受け取ってしまった。後半ボソボソと何か言っていたが、難聴系主人公である俺にはよく聞こえなかった。え? なんだって?
受け取ったタッパーの中身を見る。見たところ鶏肉のようだが、周りに黒い物が混ぜて焼いてある。
川崎の事だから由比ヶ浜みたいな事にはならないだろうと思って一口齧ってみる。
「うめぇな、コレ。この黒いのはひじきか?」
「うん、ひじきの煮物作ったんだけど、それだけだと家の子たちは喜ばないから。鶏肉のミンチに混ぜてつくねにして焼くだけで大喜びで食べてくれるようになってね。その……自信作なんだ」
少し顔を赤らめてそう言う川崎の表情には、弟妹たちへの愛情が見て取れた。
「これ、川崎が自分で作ってんのか。お前マジで料理上手いよな。和食作らせたら雪ノ下とも張りあえるんじゃないか?」
「どうだろうね。家族に喜んで欲しくて作ってるだけだから、どっちが上手とか興味ないよ」
相変わらず家族想いな奴だ。しかしホントうめぇなコレ。
「あー、ちょうどパンだけじゃ足りなかったんだ。サンキュな、川崎」
素直に川崎に礼を言ったら、マジマジとこっちを見た後にフイッと顔を逸らされた。
「別に、クリスマスの時にけーちゃ……京華の面倒見てくれてたでしょ。その礼もあるから」
京華……ああ、川崎の妹か。クリスマスイベントの時、一色について近所の保育園に行った時に会って、やたらと懐かれていた覚えがある。
「ああ、けーちゃんな。礼を言われるような事はしてねぇよ。暇してたところだったからちょっと話してたら、なんか懐かれちまっただけだよ」
「それでもだよ。け……けーちゃんは家だと元気だけど、保育園だと少し人見知りするみたいで大人しくなっちゃうんだよ。だから外で初対面のあんたと楽しそうに話してるの見て嬉しかったんだ」
そう言う川崎はもはや姉というより母親のように見える。実際両親共働きで世話の殆どを任されているらしいから、その愛情もひとしおだろう。
そう言えば川崎は件のけーちゃんからなんと呼ばれていただろうか。……ああ思い出した。
「じゃあどういたしまして、だな。”さーちゃん”」
一瞬で瞬間湯沸かし器のように顔を沸騰させながらこちらを睨みつけてくる川崎。
「っ殴るよ⁉︎」
「冗談だから拳を掲げたままにじり寄ってこないで! 殴られたら八幡死んじゃう!」
川崎はしばらく掲げた拳を振り下ろそうか迷っていたが、俺のあまりのヘタレっぷりに怒りが冷めたのか、食べ終わって空になったタッパーを持って戻っていった。
「まぁいいよ、その代わり教室のウザい奴らはあんたがちゃんとケリ付けときなよ、”はーちゃん”」
「っっっっっ⁉︎」
思わず振り返ったが、そこには耳まで赤くして屋上から出て行く川崎の横顔しか見えなかった。
完全にしてやられたが、川崎の悪戯に成功した子供のような横顔は、まぁ、なんだ……年相応に可愛らしく見えた。
という訳でサキサキ回でした。
相模について思い出す為に6.5巻読んでたらサキサキのテンションが上がってしまったのでちょっと甘々になり過ぎた気がします。
アニメ版しか見てないけどこの子イイね、と思った方は文化祭の辺りから読むと良いです。
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真相と深層の迷走
原作だと八幡は結構隠喩とか回りくどい言い回しを使ったりして、直接表現を避けて話す感じがあるのですが、そういう頭のいい会話を書くのが難しいのでちょっと八幡っぽくなくなってる気がします。
今日のお勤めも終わり、時は放課後。
昨日溜まっていた書類は終わらせたし、今日こそ一色に捕まらずに早く帰れるよねっ、とルンルン気分で校舎を出る。
そうだ、小町に甘いものでも差し入れしよう。これで少しは機嫌が直るといいんだが。
マスタードーナツでドーナツをテイクアウトし、ついでにコーヒーの一杯でも飲んで一休みするかと注文したところで、遭遇したくない人ランキング一位の人物に出会ってしまった。
「比企谷くん、ひゃっはろー」
「すみません、さっきの注文キャンセルで」
すかさず逃走を図ろうとしたが、なにせタイミングが悪かった。
注文したコーヒーは既に準備されているところだったし、何より今から逃亡しようとしても、この人と目が合ってしまってはメデューサのように体が動かなくなる。まさに蛇に睨まれたカエル状態である。
「こらこら、そんなに逃げることないでしょー? お店の人にも迷惑だし」
「……何か用ですか、雪ノ下さん」
「ちょーっと君と話したい事があってね。少しいいかな?」
仕方がないのでキャンセルをキャンセルし、大人しくテーブルに着く。ここで逆らったとて、この人からは逃げられないので諦める。
知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない!
しばらくして、雪ノ下さんも注文した飲み物を持ってやってきた。
「相席していいかな?」
「ダメって言ったら離れて座ってくれるんですかね」
「あっはは、ダーメ。もー、そんな事言っちゃうなんてお姉さん悲しいぞ!」
そう言いながら雪ノ下さんは何故かテーブルの向かいではなく隣に座った。
しまった! ぼっちの習性で奥の席に座った事が災いして、反対側は壁があるから逃げ場がない。
キレイなお姉さんが密着して隣に座っている状況を端から見るとどう見えるだろうか。さぞかしリア充に見える事だろう。
しかし今は呑み込まれるのをただただ震えて待つカエルの気分。代われるものなら代わってほしい。
「あの、こういう時って向かい側に座るものじゃないですかね」
「えー? いいじゃないのー、うりうり、お姉さんから逃げようとした罰だぞー」
暗に離れてくれと言っても、尚も距離を詰めてくる雪ノ下さん。もう密着し過ぎていい匂いがしてくるからやめてくれませんかね。
「で、話したい事って何ですかね。雪ノ下の事なら今はちょっとわからないですよ」
もう何を言っても離れてくれないので諦めて本題に入る。この人の話題は大体雪ノ下関連だから間違ってはいないだろう。
「知ってるよー。雪乃ちゃんに奉仕部追い出されちゃったんでしょ? あっはは、雪乃ちゃんも大胆な事するなー」
「……雪ノ下から聞いたんですか?」
つい一昨日の話なのにこの人は何で知ってるんだよ。
何でも知ってる羽川さんなの? 何でもは知らないよ、知ってる事だけ。
「んー、雪乃ちゃんは私にはそういう事言ってくれないかなー。今回は隼人から聞いたの」
葉山かよ。ていうかあいつも何で知ってんだよ。由比ヶ浜かな、由比ヶ浜だな。くそ、あの口の軽いおバカさんめ。
「まぁそれはいいです。で雪ノ下がそんな暴挙に及んだ経緯を聞きに来たんですか?」
「違うよ、それは大体予想出来るから。聞きたいのは、比企谷くんがこれからどうするかってこと」
大体予想出来るとな。この人は本当にどこまで把握しているのだろうか。
「どうするっても雪ノ下がいいと言うまで待つしかないでしょう。部長権限で停部にされた以上、俺が何をした所で素直に撤回してくれるような奴じゃないですし、あいつ」
「ふーん? じゃあ雪乃ちゃんが噂を止めてくれるまで見てるだけなんだ?」
「噂の事まで知ってるんですね」
「あ、うん。だって噂が流れるように仕向けたの私だし」
「………………は?」
今なんつったこの人。
「文化祭の時実行委員長やってた何とかちゃんに隼人から聞いた比企谷くんの色々な話をアレコレ吹き込んで、ついでにちょこっと思い出させてあげただけだよ」
思い出させたというのは文化祭の時の俺への不満や怒りの事だろうか。
文化祭とは逆の立ち位置で体育祭の実行委員長を務めあげた事で、多少の落とし所が見つかったと思ったが、時間と共に失われてしまったようだ。
やはり人間の本質というものは、少し大変な思いをしたぐらいでは変わらないらしい。
「何でそんなことしたんですか。今回は今までと違って周りに影響を与え過ぎじゃないですかね」
今までも雪ノ下さんがちょっかいをかけてくる事はあった。しかしそれはいつも雪ノ下に関しての事であり、雪ノ下の為の事だった。
だが今回はあまりにも無関係な人を巻き込んでいる。雪ノ下との関係が薄い相模を始めとして、クラス、学年、延いては学校全体をも巻き込んでいる。
「らしくないじゃないですか。相模を使って俺の噂流す事が雪ノ下の為になるとは思えないんですけどね」
相模を利用したのは単純に適役だっただけで、俺の噂を広める事が狙いだったはずだ。
だがそれは狙いであって目的ではない。
しかしその目的が想像出来ない。俺を貶める事で雪ノ下さん、いや雪ノ下に影響があるとは思えない。
「自分の悪い噂が広まったところで雪乃ちゃんには関係ないって思ってる顔だね。君は自分が雪乃ちゃんに与えてる影響をちゃんと理解した方がいいよ」
考えている事まで読まれてる! この人の底知れなさは底なしだ。本当に人間なのかしら…。妖怪
「雪乃ちゃんへの影響はちゃんとある。そしてそれが私の目的。一応比企谷くんには悪い事しちゃったかなって思ってるんだよ? だからこそこうやって種明かししに来たんだし」
「悪いと思ってる人の態度じゃないですね。俺はともかく、誰かの陰口を聞いて不快に思う奴だっているんです。種明かしと言うなら最後まで付き合ってもらいますよ」
「いいよ、何でも聞いて。あー、でもお姉さんの3サイズは秘密だゾ!」
「ハハハハ。……で、この先何をするつもりなんですか。まさか噂流して終わりじゃないでしょう?」
「ぶー、つまんないの。この先なんてないよ。雪乃ちゃんが動いた時点で私の目的は達成。動機は今の雪乃ちゃんを見てたらわかると思うけどなー。実際、隼人はすぐに気づいて問い詰めてきたし」
葉山の野郎、そんなことまでしていたのか。教室で葉山が言っていたのは、この人に色々と話してしまっていた事だったのだろう。
なるほど、噂の中心が相模であるにしては、クリスマスイベントやマラソンの事まで詳しく知りすぎていると思っていたが、そういうルーツか。
葉山にしても、普段グループで話している分、由比ヶ浜から奉仕部の話が出ることもあるだろう。
由比ヶ浜から葉山に、葉山から雪ノ下さんに、雪ノ下さんから相模に流れていたとすれば、奉仕部で俺がしてきた事など筒抜けになっていても不思議ではない。
「今の雪ノ下、ですか。まぁ由比ヶ浜のおかげで会った頃に比べれば大分角は取れたんじゃないですかね」
「ガハマちゃんの、ね。こりゃー重症だね。よし、これは次までの課題だね。質問タイムはおしまい! 雪乃ちゃんの変化に気付いてあげること。いい?」
言うが早いか、雪ノ下さんはそのまま店から出ていってしまった。
何でもって言ったのにもう終わり? まだひとつしか聞いてない……。
予定より大分遅くなったが、小町へのお土産を提げて帰路につきながら考える。
雪ノ下の変化。それは雪ノ下に限った話ではない。
俺も、由比ヶ浜や雪ノ下本人ですらかすかに抱いていたであろう違和感。
しかし今まで他人との馴れ合いを排除してきた俺はそういうものだと思っていたのだ。
雪ノ下の優しい微笑。由比ヶ浜の空元気。そして何よりそんな違和感を感じながらも、居場所を失うのを恐れて受け入れようとする俺。
何かが間違っているとわかっている筈なのに、それでもまだ失いたくはなかったのだ。
だがそんな違和感を、きっと雪ノ下さんは見逃してはくれなかったのだろう。
お前が欲しいのはこんなこんなものなのか、と。
真犯人雪ノ下陽乃さん登場でした。
ようするに原作のバレンタインでの絡みを一月前倒しして、更に攻撃的になった感じです。
相模本人は前会ったことある人にたまたま会ったから世間話した程度にしか思っていません。なので大事になっても責任は全て相模で、陽乃は痛くも痒くもありません。
どういう話術を使えばそうなるのかとは思いますが、そこは陽乃さんクオリティということで。
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