世界を旅することを夢見た者たち (ウグり)
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第一話 出会いと始まり
書くのは初めてで正直文才には全く自信が無いですが、読んで頂けると嬉しいです。
プシュー、ガタンゴトン……
「はぁ、この定期健診もだるいなぁ」
とある少年は、一人呟く。生まれつき身体が弱いため、月に一度病院で検査を受け、今日はその日である。
(まぁ、やらなきゃ駄目だってのはわかるけど……あぁ、眠くなってきたわ)
家帰ったらやる事ないしゲームでもすっかな、と思いつつ少年は意識をシャットダウンさせた。
……これから彼の身に起こることなどわかる訳もなく、ぐっすりと。
~~~
「ケホッ……やばい、寝過ごしたか……って、は?」
……少年は目覚める。そして寝起きの頭をフル回転させて現状を把握しようとする。
そしてその寝起きの頭が出した結論は……ありえねーだろこれ。マジありえねーだろこれ?という結論だ。
「俺……あれ、電車で寝てたんだっけか?……え、これは夢か?夢ならつねれば直るのか?」
少年は慌てつつも自分のほっぺたを軽くつねる。
……だが、ただ痛いだけであった。
「ッ!痛ぇ……一体何なんだよ……?」
何故、彼はここまで焦り、驚いているのか。
……それは。
「……電車に乗ってて寝て起きたら周りには綺麗な滝がある洞窟の中にいました、ってか?……納得できるかァァァァゲホァッ!」
咳き込みながらも訳わかんねぇよ、と小言でつぶやく少年。
そりゃそうだ、普通の人間なら電車に乗っていたのにいきなり洞窟にいる、で正常でいられるわけが無い。
そしてこの少年は、現在進行形でその状況に陥っている。
「ゲホッ……とにかく、周りを散策するしかないか?こんな綺麗な滝がある洞窟、聞いたこともねぇぞ……ゲホッ」
俺の身体大丈夫なのか……?と少年は自分を心配する。彼は病弱であまり運動が出来ない身体なのだ。
彼は歩く。そして思う。本当にここはどこだ、と。
「くそ……出口はどこだ、早く外に出たいんだが」
歩いていくうちにだんだん道が狭くなっていく。出口と逆の方向に進んでしまったのか?と彼は思う。
「しかし……なんだ、人にも生き物にもまだ遭遇してないな……そろそろ何かに出会ってもいい……!?」
……なんだ、あれは。冗談だろ?と、彼は感じる。そしてあんなものに出会うくらいなら出会わないほうがマシだ、とも思った。
少年の周りには大量のコウモリが飛び回っている。……それもただのコウモリではないのだ。
彼は、あのコウモリを何度も「ゲーム」の世界で見て来ている。
「あれは……ズバットだよ……な?」
そして少年の頭の中に一つの疑問が生まれる。
……俺はポケモンの世界にいるのか?何故だ、何時からだ、何が原因だ、という疑問だ。
しかし、非情な事に彼に考える時間を周りのズバット達は与えない。
「キィィ!」
「やっべぇ……!気づかれたか!?」
いくら何でも生身の人間が襲われたら洒落にならねぇぞ!と少年は走りながら叫ぶ。
だが、彼は病弱の身。すぐに身体の限界は来てしまう。
「……ゲホッ!くっそ、万事休すか……!?」
「キィィィィ!」
何故ポケモンがいる世界に俺はいるのか、そんな疑問を解消することなく死んでしまうんだな、と少年は思う。
……しかし、ここでさらに予期せぬことが起きる。
「ギャウウウッ!」
「キィッ!?」
突如現れた青いポケモンにより、ズバット達は威嚇され、彼を襲うことなく逃げていったのだ。
さらにさらに、この少年にとって訳がわからないような事柄が起きる。
『ぎゃうっ(大丈夫か?)』
「ははっ……奇跡って起こるもんなんだな……大丈夫だよ、ありが……は?」
おかしい。
何故、今自分はポケモンと会話が出来た?という疑問が一瞬で頭の中に浮かんだ。
(……俺、どこかおかしくなっちまったのか?)
『どうした?やっぱどこか痛むの?』
(やっぱり、こいつの言葉が俺にはわかる。……何故?)
ポケモンの世界に迷い込んだという事実も受け入れ難いが、それはそうと仮定して少年は考える。
……普通の人間なら、ポケモンと喋れる能力があるわけが無い。至極当たり前のことだが。
「いや、そういう訳じゃないんだが……なんで俺ポケモンと喋れるの?」
『あれ、確かに言われてみれば何で……まぁでも俺としては面白いからいいや』
ポケモンと話すことが出来るという不思議な能力を持つ病弱な少年、リョウスケと最初のパートナーである青いドラゴンポケモン、タツベイはここ、りゅうせいの滝で出会った。
……そして彼のストーリーはここから始まる。
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第二話 夢語る
「なぁタツベイ、ここってどこなんだ?」
リョウスケはタツベイにここの場所を問いかける。
まず自分に必要なものは情報だ。何故か案外冷静に慣れている自分が、恐ろしい。焦るよりはマシだが。
『ここか?ここはりゅうせいの滝だよ!』
りゅうせいの滝。リョウスケはその名前を知っている。
(確か……そうだ、ルビサファだっけか。ってことはここはホウエン地方か?)
本当に自分の住んでいた日本ではないんだな、とリョウスケは改めて実感する。
『ってか、お前誰だ?何でこんなところに何も持たずにいたんだ?』
「ああ……俺はリョウスケな。何でこんなところにいたかは……俺が知りたいよ」
事実である。だが、タツベイからすると本当に訳がわからない、こいつ頭がおかしいんじゃないかと思わせるレベルのことを言ってきたので……
『……は?』
と、驚きの一言しか出てこなかった。
「寝て起きたら、ここ、りゅうせいの滝にいたんだよ。……いや、何だよその目は。俺だって変なこと言っているのは自覚してる、だけど事実なんだよ……」
『……リョウスケ、お前面白い奴だな』
やかましーわ、とリョウスケは思ったが自分でも明らかにおかしいことを言っているという認識はあったので口には出さなかった。
「……てかさ」
『うん?どうした?』
「何で、俺を助けたの?」
リョウスケは一つ引っかかっていたことがあった。……このタツベイだって、野生のポケモンなのだ。普通ならリョウスケを狩る側の立場でもおかしくはないはずだろう、と彼は思っていた。
『いやー、なんかさ?』
「……うん?」
『なんつーか、ああいうの見てて苛々したっていうか?』
「……ああいうのって、何だよ」
『……弱いものいじめ?』
弱いもの、というワードに若干カチン、ときたがリョウスケは助けられた立場なのだ。感謝こそすれど、文句を言える立場ではない。
「……サンキュな」
『……ああ、うん?』
タツベイも普段お礼を言われることに慣れていないのか、若干照れながら対応した。
『……それで、どうするの?』
「……どうするって、何が?」
『いや、これからの事』
「あー……」
ほっとしていたせいか、これからの事を全く考えていなかったリョウスケ。当然、食べるものもないのでずっとりゅうせいの滝に居座るわけにもいかない。
「あー、どうしよう?」
『俺に振るなよ』
「だよなぁ……とりあえず出口を見つけて、外に出たいかも」
『……そっか、そうだよな。じゃ、出口案内してやるよ』
そうタツベイは若干寂しそうに言い、出口まで歩くことにした。
~~~
それから出口までの道で、リョウスケとタツベイは色々なことを話した。
「タツベイにはさ、夢ってあるの?」
『ポケモンにそんなことを普通聞くか?……まぁ、そうだな。いつか立派なボーマンダになって、空、飛ぶんだよ。で、世界を見て回りたいかな』
そういや、ゲームのポケモン図鑑にも空飛びたいって書いてあったかな、とふとリョウスケは思い出す。
『そういうリョウスケはどうなんだよ』
「いやー、俺にもあったんだよ。パイロットになって世界を飛び回りたいって夢」
『何か、俺の夢と似てるな。……って、あった?』
リョウスケの言い回しにん?と疑問を感じるタツベイ。
「いや、俺身体が弱いんだ。だから、乗り物に乗って操縦している間に体調を崩して、もしものことがあったら大変だろ?……だからさ、その夢はかなえるのは厳しいんだ」
自身の体調が原因で、夢を諦めることになってしまったリョウスケ。最近は特に考えてもいなかったが改めて思い返すと、寂しくなる。
『ふーん……って、お、出口だな』
歩いてしばらくして、リョウスケとタツベイは出口にたどり着いた。
~~~
「あー、ようやくか……って、誰かあそこにいるな」
どっかで見たことがあるような……?とリョウスケは思う。
「あの、すみません」
「……ん?どうして子供がこんなところに。しかも丸腰じゃないか!?」
「あー、その……」
話しかけたはいいが、何を話していいかわからなくなるリョウスケ。
「……何か訳ありか。君の名前は?」
「あ、俺は……リョウスケって言います」
「リョウスケ君か……俺はセンリって言う。とにかく、事情を聞かせてもらおうか?」
ようやく出ましたね、原作キャラ。
何でこんな所に?って思う方もいるかも知れないですが、まぁそれは後々。
オリジナル展開もありますが、出来るだけ原作沿いで行こうと思っていますー。
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第三話 決意
(センリさんって確か……ルビサファ主人公の父親で、ジムリーダーだったよな?何故、こんな所にいるんだ?)
ジムリーダーが何故りゅうせいの滝にいるのか疑問に思いつつ、リョウスケはこれまでの経緯を話す。
「なるほど……気がついたらりゅうせいの滝にいて、そしてズバットに襲われた所をこのタツベイに助けられ、今に至る、か」
「大体そんなところです。……あの」
「……どうした?」
「こんな事自分で言うのも何ですが……俺の話、信じてもらえますか?」
リョウスケ自身、自分でも明らかにおかしい事を言っているという自覚があるため信用してもらえるか心配なのだ。
……だが、センリはこう答える。
「にわかには信じがたい話ではある。……が、君の目が嘘を言っていないって訴えてくるんでな。信用はしよう」
それを聞いてリョウスケはかなりほっとする。こんな話、信じてもらえるとは思っていなかったからだ。
「君の話はわかった。……で、君はこれからどうしたい?」
「……どう、とは?」
「幸い近くにはカナズミシティもある、保護をする分には問題ないだろう。そこで普通に生活を送ることが出来るということは、私が保証しよう」
普通の生活か、それも悪くないとリョウスケは思った。訳もわからないままこの世界に来て、且つ普通の生活を送れるということは、よほど運に恵まれているのだろうとも思った。
……だけど、せっかくこの世界に来たんだ、それでいいのか?物足りなくはないか?とも思ってしまった。
(俺は……どうしたい?何がしたい?カナズミでのんびり暮らす?それも悪くない……だが、何かが違う)
「……そうだな、他には「待ってください!」……どうした?」
「俺は……」
そうだ、せっかくこの世界に来たんだ、これは諦めかけていた自分の夢をかなえる大きなチャンスではないのか?と、リョウスケは思う。……そして、センリに対してこう言った。
「俺は……ポケモントレーナーになりたいです。」
その言葉を聞いたセンリの目が少し険しくなる。
「……君に聞こう、何故トレーナーになりたいと思う?」
「俺は……生まれつき身体が弱いんです。そして、そのせいで俺は自分の夢を諦めかけてた。……ガキの頃から、夢だったんです、世界を旅することが。」
「……」
センリは無言でリョウスケの話を聞く。彼は一体、この少年の話を聞いてどう思っているのか。
そしてリョウスケもまた、話を続ける。
「言ってなかったですが俺、なぜかタツベイと会話出来たんです。そしてお互いの夢なんか話しちゃったりして、……ポケモンとこんなこと話すなんて変ですかね?って、ああ、そういうことじゃなくて」
『えっ、俺がどうしたって?』
リョウスケは興奮して話をまとめられないながらもセンリに対して語る。
「夢が同じだったんですよ、タツベイと。俺、思ったんです。こいつとなら、夢をかなえることが出来るんじゃないかって」
『リョウスケ……』
「……これが、俺のトレーナーになりたい理由です。なることが、夢をかなえるチャンスに繋がるんじゃないかと思って……」
リョウスケは自分の言いたいことを全てセンリに伝えた。
……そしてセンリはゆっくりと口を開く。
「……一つ言おう。ポケモンはトレーナーの夢をかなえるための道具じゃない」
『……てめぇっ!リョウスケはそんなつもりで言ったわけじゃ』
「タツベイよせっ!」
リョウスケは怒って思わず手が出そうになったタツベイを口で静止する。
自分の為を思って怒ってくれるのは嬉しいが、それと手を出していいかという話は別だ。
「勿論君がそんなことを思っていないということもわかっている。それに今のタツベイの俺に対しての怒りよう、それが君に対しての信頼を証明してるな。だが」
センリは丁寧にはっきりとこう言う。
「君がもしポケモンが道具ではないと心では思っていても、君が未熟ならば道具になってしまう可能性だってある。トレーナーは指示をするだけの存在ではない。トレーナーもポケモンと一緒に戦わなくてはいけないんだ」
「……トレーナーも戦う?」
聞いたことの無い話だ。
ゲームだけでしかポケモンという世界をわかっていないリョウスケにとっては、無理も無いだろう。
「ああ、そうだ。それに、君は身体が弱いと言ったな?」
やはり、駄目なのか。夢をかなえることは出来ないのか。そうリョウスケは思い込む。
「トレーナーになることを諦めろとは、まだ言わない。むしろ君の熱意は俺に伝わった」
「……まだ、とはどういうことですか?」
「俺はとある調査で3ヶ月、このりゅうせいの滝にいるんだ。その間に、君とタツベイを鍛えてあげてもいい、ということだ。俺もポケモントレーナーとしての腕は一応人並み以上に優れている自信はあるつもりだ」
「……その3ヶ月で俺がトレーナーになれるかどうか、見極めるということですか?」
「そういうことだ。……君はどうする?」
(センリさんが人並み以上の実力者というのは事実だろう……ゲームではジムリーダーだったくらいだし)
恐らくこのチャンスを逃したら、夢をかなえる事は出来ないだろう。なぜかリョウスケはそう思えてならない気がした。
『リョウスケ、やろうよ!俺たちでさ、がんばろ?』
タツベイもリョウスケを励ます。そして一緒に頑張ろうと言う。
……その言葉に応えるかのように、リョウスケは宣言する。
「勿論だっての……センリさん、俺、いや俺たちはやりますよ!トレーナーになるための特訓を!」
「……フッ、いい返事だな。衣食住くらいは、俺が用意する。粗末なテント生活だがな」
「提供してもらえるだけでも俺は大感謝ですよ……よしタツベイ、絶対強くなるぞ!ゲホッ」
『無理したらまた体調崩すって……強くなるってのは、勿論だけどね!って、あ、あれ?』
タツベイは何か身体に違和感を感じた。そしてその違和感とは、周りで見ていたリョウスケやセンリのほうが把握出来るような違和感だ。
「ん?どうしたタツベイ?って、何か光ってないか?」
「……進化だな」
「えっ?」
タツベイを強い光が包み込む。そして……
『あれ?コモルーになってる?』
「……何故?戦闘なんて特になかったのに」
進化とは本来、レベルアップまたは特別な道具を与えることによって起きるものだ。
このタツベイからコモルーへの進化の条件は、レベルアップ。そしてレベルアップとは普通なら戦闘で勝利した経験値を積んで起きるもの。
それだけに、リョウスケもこの状況にはかなり驚いている。
「恐らく、強くなりたいという気持ちが進化に繋がったのだろう。……戦闘以外での進化は、稀なケースではあるがな」
センリはこの状況をそう判断した。普通ならほぼありえない現象。だが、強い思いがそれを可能にしたということだ。
「君も、コモルーの意思に答えなくてはな?」
「……はいっ!」
そして、リョウスケのトレーナーになるための特訓が始まる……
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第四話 特訓
それからというものの、リョウスケ達の特訓はかなり厳しいものであった。
午前中はセンリと一対一でのトレーナーの技術的指導、昼間はセンリが調査のため特訓につけないためセンリの手持ちが見張っている中肉体的、精神的トレーニング。日が落ちて、ようやく一日の特訓が終了する。
「今だっ!コモルー、りゅうのいぶきっ!」
『よしっ!』
リョウスケは懸命に指示を出す。それにコモルーに応えようとする。が……
「甘い。ヤルキモノ、こらえる。からのきりさく!」
「ウキャァァッ!」
『ぐあっ!?』
「コモルー!?」
生半可な攻撃は、センリのポケモンに対しては通用しない。
「リョウスケ君、まだ甘い。隙だと思っていたかもしれんが、それは俺が誘い出したに過ぎない。もっと視野を広く持ち、見極めろ!」
「は、はいっ!」
リョウスケはチャンスと思って攻撃を仕掛けたが、あくまでそれはセンリがまいた餌にかかっただけの話なのだ。
こうして、特訓はさらに続いていく――――
~~~
「ゲホッ、うおおおっ!」
今リョウスケは、りゅうせいの滝の起伏が激しい道を走っている。コモルーは、彼のボールの中だ。
『……よくやるね、リョウスケは。身体もよくないのに』
「そりゃ、トレーナーになる為にはやれるだけのことはやらなきゃ駄目だろ?ゲホッ……今ならセンリさんの言ったことがわかる気がする。コモルーに頼るだけでは駄目なんだ。コモルーが最大限の力を発揮できるよう、俺も頑張らないといけない」
今リョウスケと話しているのは、センリからサボらないように見張りにと(リョウスケが野生ポケモンに襲われたときに対処出切るようにとの意味合いもあるのだが)、センリのイーブイである。最初の頃はこのイーブイとリョウスケは話すことなど出来なかったのだが、一ヶ月位すると何故だか話せるようになったのだ。
(そういや何で俺はいつの間にかイーブイと話せるようになったんだ……?ま、細かいことはいいか)
リョウスケもその現象に対して不思議がるが、さほど気にすることでもないと自己解決する。
『……ほらリョウスケ、足が止まってる!ダッシュ!』
「ちくしょー……ゲホッ、やってやるよ!」
元々リョウスケは割と熱血的なタイプではあるのだが、身体が弱いというのもあって、あまり大きなことを成し遂げるような人間ではなかった。だが、今彼は大きなことを成し遂げようとあまり動かない身体を精一杯動かして努力している。
『……頑張れ、リョウスケ』
このイーブイもこの一ヶ月でそんなリョウスケの努力を間近で見ていたからだろう、自然とそんなことをぽろっと小声で言ってしまう。
「……ん?何か言った?」
『……べっつにー。ほら早くしないと、僕が背中に体当たりして気合注入するよ!』
「げ、それだけは勘弁してください……よっしゃ、もう一本だ!」
弱い身体を強くするための特訓。リョウスケは一日一日、弱音を吐くことなく乗り越えていく。
~~~
それから早いもので三ヶ月がたった。
コモルーも戦闘の中で確実にレベルアップし、そしてリョウスケ自身も病弱な身体というハンデを背負いながらも以前とは比べ物にならないくらい動けるようになった。
「さて、約束の三ヶ月がたったな。」
センリの目から見ても、リョウスケは変わったと判断できる。それも、かなりいい方向へとだ。
「……はい。あの、センリさん」
「どうした?」
「……俺、正直ここまで身体を動かせるようになれるなんて思っていなかったんです。」
この三ヶ月間、リョウスケは必死だった。そしてそれを乗り越え、自分でもわかるくらい身体は強くなった。ポケモンバトルも上手くなった。
そんなリョウスケがまずセンリに言いたいことは、一つ。
「……センリさん、その、本当にありがとうございましたっ!」
お礼だ。
この三ヶ月の努力というのも、センリがいなかったらまず努力すらしていないだろう。様々な面で強くなれたのは、センリの指導があってのことである。
「フッ、俺が考えたトレーニング方法だからな。そうなってもらえなくては困る」
「は、はぁ……」
さも当然のように言うセンリに、リョウスケは何とも言い難い声を出してしまう。
「だがな、勘違いするな。方法を教えたのは俺だが、努力したのは君自身だ。俺はただ単にサポートしたに過ぎない」
センリの考えたトレーニング。リョウスケの死に物狂いで頑張ってきた努力。
これらが加わることによって、リョウスケの体力は一般人には若干劣るもののそれに近いものを手に入れたといっても過言ではないだろう。
「……さて、これから二つのテストをする。その二つを見事に突破したなら、君はいいトレーナーになることが出来るだろう」
「……」
「どうした?二つもあると聞いて怖気づいたか?」
センリは少し煽るような口調でリョウスケに問いかける。
勿論センリもリョウスケが怖気づいているなんて微塵も思っていない。それはセンリから見た、リョウスケの目が語っている。やる気に満ち溢れた目だ。
「……いや、確信はないんですけど今の俺とコモルーなら突破できる気がするんです」
「はは、ずいぶんな口を叩くようになったな。だが、そのくらいの意気込みでなくては困る。では、一つ目のテストだが……出て来い、イーブイ!」
そう言ってセンリは腰のボールからイーブイを繰り出す。
「……一つ目はバトルだ。君がどれだけ強くなれたか、このイーブイに全てぶつけて来い!」
『リョウスケ、手加減しないよ!』
「勿論ですよっ!出て来い、コモルー!」
ボンッ!
勢いのある音と共に、リョウスケの手持ちであるコモルーが出てくる。
『上等だ!イーブイ、こっちもリョウスケと俺で勝ちに行くからな!』
「よし、いいな……では、ポケモンバトル、スタートだ!」
センリの宣言と共に、リョウスケの命運をかけた一戦が始まる。
リョウスケの身体の弱さは、ミツルあたりをイメージしてくれれば大丈夫です。
漫画のほうでも、特訓でミツルの身体も短時間で強くなれたしね。
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第五話 試験、そして旅立ち
「イーブイ、影分身!」
まずはセンリがイーブイに指示を出す。
(恐らくコモルーはイーブイより力は強いがすばやさが遅い……コモルーの技を当てるためには俺がうまく指示しなくてはならない)
リョウスケは考える。
(どうする、どうすればいい)
「リョウスケ君、考えていてばかりでは何も出来んぞ!イーブイ、電光石火だ!」
ガッ!
イーブイの電光石火がコモルーに衝突するが、あまりダメージは通っていない。
(コモルーは耐久もあるから何発かは凌げる……だがあのイーブイも相当鍛えられているから何回でも凌げるって訳でもない)
それでもなお、リョウスケは考える。
(真正面から攻撃が来たならカウンター気味に攻撃を与えることも出来るが、そんな甘い攻撃はセンリさんはまずしないだろう)
今の電光石火もコモルーの裏から攻撃を仕掛けたものだった。
(……いや、待てよ?もしかしたら)
ふと、単純ではあるが効果的な作戦をリョウスケは思いつく。
「コモルー!周りの影分身に対して火の粉だ!」
『おっけー!』
リョウスケの指示を受けたコモルーは、周りに大量の火の粉を吹く。だが、
「そんな闇雲な攻撃で当たると思ったか?イーブイ!」
(……来る!)
「隙を見て、とっしん!」
ここでリョウスケは、自分の考えた作戦を実行する……!
「……今だコモルー!後ろに向かって竜の息吹!」
「なっ!?」
『任せろっ!』
リョウスケは何もないはずの所に攻撃するように支持を出し、コモルーも迷いもせず攻撃をする。
ゴォォォォン!!
コモルーの竜の息吹が、「何か」に、炸裂する。
(……どうだ?うまくはまってくれるといいが……)
攻撃の際、出来た煙から出てきたのは……
『……ぐっ』
攻撃を受け、ダメージを食らっていたイーブイの姿だった。
(……よし、作戦は成功した!だけど、仕留め切れなかったのは痛い)
リョウスケとしてはこの一撃で終わらせるつもりだった。そうしなければ、今度はだんだん自分が不利になっていくことをわかっていたからだ。
もうこんな作戦は通用しないだろう。次はどうすべきかと考えていた矢先に、
「……オーケー、ポケモンバトルは終了だ」
センリから突然の終了宣言が、言い渡された。
~~~
(……何故だ?コモルーもイーブイもまだ戦闘不能にはなってないはず……)
まだ勝負が決していないにも関わらず、バトルを中断させた事に対してリョウスケは疑問を抱く。
イーブイを傷薬で回復させ、ボールに戻したセンリはリョウスケに質問した。
「リョウスケ君、何故君はイーブイが後ろから仕掛けてくると読めた?」
「センリさんなら……まず真正面からの攻撃はありえないと思いました。そこで俺は、一つの策を思いつきました」
リョウスケの策。それは
「策、と言っても単純なんですけどね……攻撃を誘って、それに対してのカウンター攻撃です。」
「フッ……あの闇雲に放った火の粉も相手を誘い出すための餌ってことか」
「はい……まぁ、背後から来るか、横から来るかは結構ギャンブルだったんですけどね。あと俺の指示に迷いなく受けてくれたコモルーのおかげでもあります」
火の粉を放ちわざと隙を作り、相手を誘い込む。そして攻撃の瞬間、カウンター気味にこちらも背後に対応する。左右からの可能性もあるので、単純な計算なら三分の一のギャンブルである。……だが、格上のセンリに対して三分の一という確率は、まだバトルに慣れていないリョウスケにとっては割と可能性の高いギャンブルでもあるのだ。
……だが、この三分の一も、もし仮にコモルーがリョウスケの指示に疑問を抱き攻撃が遅れたなら成り立たない賭けでもあるのだ。
リョウスケの作戦、そしてコモルーがリョウスケに対する信頼関係。
これらが重なって、ダメージを通すことが出来たということである。
「随分と危ない賭けをするもんだな、だがイーブイにダメージを与えることが出来たのも事実……フッ、リョウスケ君。一つ目の試験は合格だ」
センリから見てこの作戦が最善の策とは言い難いが、ダメージを与えるという一つの結果を残したのだ。
そしてそれは、合格点に達するレベルであると。
「……!」
『やったなリョウスケ!ま、当然っちゃ当然かな?』
「では次に二つ目の試験だが……」
「え!?すぐに試験ですか!?」
まさかの連戦に、さすがに焦るリョウスケ。自分もコモルーも、クタクタである。
「まぁ、試験と言っても一つの質問に答えてくれるだけでいい。君は、ポケモン……まぁ、君からするとそこのコモルーか。君はポケモンとは何だと思う?」
「ポケモンとは、何か……ですか?」
リョウスケは考える。
ゲームをやっていたときは、遊び道具……いわば玩具だ。まぁ、これはあくまでゲームなのだから仕方ないのだが。
こっちの世界に来てからはどうだ?最初はズバットに襲われかけた。恐怖もした。
だが、コモルーはどうだ?
タツベイの時に出会い、助けてもらい、そして3ヶ月共に必死にトレーニングをした。
今ではリョウスケにとっては無くてはならない存在。
「何でしょうかね……俺の手持ちは、まだコモルーしかいないですけど」
そしてリョウスケははっきりとこう言う。
「友達、ですかね?人間とポケモンなのにおかしい、って言われるかもしれないし、笑われるかもしれないですけど……俺からしたら、大切な友達ですよ」
『そんなことねーよ!それでリョウスケを笑う奴がいたら俺がぶっ飛ばす!』
「……」
センリは黙ったままである。
リョウスケはやべ、間違えたことを言ってしまったか?でも俺の考えに嘘偽りはないから仮にここで認められなくても後悔はしない、と考えた。
……そして、センリがようやく口を開き
「……フッ、友達か。いい答えだ。二つ目の試験も、合格だ。……今言った言葉、絶対に忘れるなよ?」
ここにまた、新たな若いポケモントレーナーが誕生する。
~~~
「よ、よっしゃあああああ!」
『ま、リョウスケなら何とかなると思ってたよ?……いや何だよその目は、マジだって』
「ふっ、まぁお前のおかげでもあるよ。サンキューな、コモルー」
『ああ、これからも、当然よろしくな?』
リョウスケはトレーナーになることを認められたことを喜び、コモルーもそれを自分のことのように喜ぶ。
「おめでとう、リョウスケ君。……しかし、なんだ。今更かもしれないが、よく見ず知らずの俺なんかの特訓なんて受ける気になったな?」
「いやぁ、ははは……」
ゲームでジムリーダーだったから信用できた、何てことも思っているリョウスケであった。
だが、それ以外にも理由はある。
「ほら、見ず知らずの俺の言ってること信じてくれたじゃないですか。それもあって、信頼できる人だなって」
「なるほどな……よし」
センリは腰のボールを一つリョウスケに渡す。
「手持ちがコモルーだけだと寂しいだろう。俺のイーブイを、君にあげよう」
「えっ!?そんな、いいんですか?」
「確か、イーブイと話せるようになったと君は言っていたな?恐らくだが、君がポケモンと話せるように条件はお互いが信頼関係を築けている時だと俺は思っている。このイーブイは、君の頑張りをずっと見ていただろう?頑張っている君を見て、君を信頼するに至ったのだろう」
あくまで仮説でしかないがな、とセンリは付け加える。
「でも……」
「それに、このイーブイも君と旅をしたいんじゃないかな」
「えっ?」
予想外の一言に、リョウスケは驚く。
「俺は最初、君とのバトルにケッキングを出すつもりだった。だがな、ボールの中から闘志がみなぎってたんだよ、イーブイのな。君を気に入ってたがために、試験のバトルも自分が出たかったんだろうな。君を見極めるために」
「……そうだったんですか」
「そして、君はバトルで見事イーブイの気持ちに答えた……と言ってもいいはずだ。そんな君と旅が出来れば、このイーブイもきっと喜ぶだろう」
「……わかりました。これからよろしくな、イーブイ!」
『うん、よろしくリョウスケ!』
と、ボールから元気な声が聞こえてくる。リョウスケの新たな「友達」の誕生だ。
「さて、君も旅に出るなら最低限の道具は必要だろう。このリュックを持っていくがいい」
センリから渡されたリュックには傷薬やモンスターボールなどが入っていた。
「何から何まで……本当にありがとうございます!」
「気にするな。……リョウスケ君、君はいいトレーナーになれる。君の旅がうまくいく事を祈っているよ」
「はいっ!絶対いいトレーナーになります!な、コモルー?……コモルー?」
リョウスケがコモルーに呼びかけたが、そこにいたのは……
『……何か身体が光ってるんだが』
前にも見たような異変を起こしている、コモルーの姿であった。
カッ!!
という激しい光が起きたかと思ったら、その光が収まったところに現れたのは……
『……うお、翼がある』
進化したボーマンダであった。
「……おい、ボーマンダ?」
『つ……』
「……つ?」
『翼だああぁぁぁぁ!イヤッホウゥゥゥゥ!』
「ちょっ、嬉しいのはわかるが火を噴くな……火を噴くなぁぁぁ!」
ボーマンダ、全力ではしゃぐ。
そして怒りながらも、ボーマンダに進化したことが嬉しいのか、どこか笑顔のリョウスケ。
『リョウスケ、早速飛ぼうぜ!夢、かなえてやるよ!』
リョウスケとボーマンダの共通の夢。
それを叶える瞬間が、ここに来たのだ。
「ああ、頼むぞ、ボーマンダ!……センリさん!」
「……どうした?」
「この三ヶ月間、本当に、本当にありがとうございました!今の俺があるのは、センリさんのおかげです!」
「……そんなセリフは一流トレーナーになってから言うんだな。道中、気をつけろよ」
「……はいっ!よし、行こうぜボーマンダ!」
『おう!落ちないよう、しっかり背中に乗れよ!』
リョウスケは、バトルを教えてくれた師匠に別れを告げる。
ゴォォォッ!と、かなりの勢いのいい音を立て、一瞬のうちにセンリのうちから姿を消した。
~~~
「しかし、リョウスケ君か……本当に、彼はいいトレーナーになれそうだな」
センリは、旅立った新米トレーナーのことを思い、そう呟く。
「さて、俺がここで出来るレックウザの調査も終わった……やる事も無くなったし、さっさと移動するか」
センリは思う。
レックウザの調査で家族とも離れ、辛いことしかなかった旅だったが久々に楽しめた、と。
「……俺もさっさと家族の下に帰れるよう、頑張らないとな。」
リョウスケよりも少し年下の自分の子供、ルビーは元気だろうか。そんなことを思いながら、彼はまた別の調査場所へと旅立つ。
はい、ようやく五話目にして旅立つことが出来ました。……この展開の遅さ、うーん。
正直、ぶっちゃけた話本来トレーナーになるならトレーナーIDだの、カードだの必要だった記憶があるんですが……まぁ気にしたら負けですよね、こういうのは勢いで何とかするもんです。←
あと、センリに人がトレーナーになれるかなれないかなんて決める権利もないとは思いますが、まぁそこは、もし仮にリョウスケに実力がなかった場合旅立たせるわけにはいかないので、それを見極めたって感じです。
あと戦闘描写の書き方……難しい。
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第六話 新たなる地方
『リョウスケ、気持ちいいか!?』
「……ああ、最高だ!」
自由に空を飛び、移動するリョウスケ達。
念願の夢がかなって、両者共々嬉しさを前面に出す。
「最高……だけどさ」
『どうした?』
「これ、どこに向かってるの?いや、てっきりホウエン地方をそれとなく回るのかと思ってたけどさ……海しか見えないんだが」
変わらない景色が続き、さすがに少し不安になってくるリョウスケ。
『……え、とりあえず、風の向くままに?』
「なるほど、なるほど。……陸すら見えないんだが」
ボーマンダがはしゃぎすぎて適当に飛び続けていたせいで、今いる場所が全く把握できないリョウスケであった。
「陸はどこだ……陸が恋しい」
『大丈夫だって、かなりのスピードで飛んでるからそのうちどっかに着くって』
「その台詞、何回目だ?」
『……うっ』
かれこれ、海しか見えないところを何時間も飛んでいるのだ。
……これはさすがに、不安にもなるだろう。
『なんだよ!だったら最初に目的地を言ってくれればいいだろ!』
「いや、目的地も何も地理が全く把握できないんだって……でもさすがに海しかないところを飛ぶなんて予想できるかよ!?」
空中遊泳を楽しみながらギャーギャー言い争うリョウスケ達。
だが、その言い争いも終わりを告げる。
「おい、陸見えたぞ!ここはどこだ!」
『……わからん!とりあえずそこらへんの砂浜に着陸するかなっと』
「ちょっ……そのスピードでいきなり止まったら」
~~~
「ふぁぁ……なかなか釣れないなぁ」
のんびりと釣りをしているこの人物、名前はイエローという。レッドという人物を探し、救出すべく旅をしているのだが……
「ピ、ピカピ」
「ん、どうしたのピカ?」
ピカというニックネームのこのピカチュウ、本来はイエローの手持ちではなく現在行方不明になっているレッドのポケモンである。
レッドをイエローと共に探すべく、現在は一時的にイエローのパートナーとなっているが。
「ピカ!ピカピ!」
「いきなり大声出してピカ、一体どうしたの?」
ピカは空を指してイエローに注意を促しているが、悲しいかな、イエローは上空の異変には全く気がつかない。
「あぶねぇぇぇぇ!!」
「ん?今人の声が聞こえたような……って、ええええ!?」
突如空から勢いよく降りてくる少年、リョウスケ。それを間一髪の所でかわすことに成功したイエローであったが……
ズザァァァァッ!
「ゲフゥゥッ!?」
『あ、これはやばい』
思いっきり砂浜にヘッドスライディングをしていくリョウスケであった。
砂浜が無かったら死んで……たかも?
~~~
「え?え?」
いきなりのことに頭が回らなくなるイエロー。
人が空から飛んでくるという誰に話しても信じてくれなさそうな現象が今自分の目の前で起きたのだ、無理も無いだろう。
「……」
(あの人、生きてるのかな……?)
吹き飛んでからピクリとも動こうとすらしないリョウスケを見て、かなり心配になってきたイエローである。
「それにしても……見たことないポケモンだなぁ」
『ぎゃうっ?(誰だこいつ?)』
一体どこから来たんだろ?と不思議がるイエローと、何だこのじろじろ見てくる麦わら少年は?と不思議がるボーマンダ。
「う……ぐぉぉ」
「あ、起きた!だ、大丈夫ですか……?」
空から吹き飛んできた少年を心配するイエロー。
あのスピードで落ちたのだ。大丈夫なはずが……
「大丈夫……だ」
意外と大丈夫だったみたいだ。
「おい、ボーマンダ」
『うん……マジでごめん』
ようやく目覚めるリョウスケ。吹き飛んだ勢いこそ凄まじかったものの、地面が砂浜だったということもあってかそこまで身体に傷はついていなかった。
「いや、まぁ初めての着陸だから仕方ないっちゃ仕方ないが……今度から、降りるときはゆっくり頼む、じゃないとマジで死ぬ」
『おう……俺もテンション上がりすぎてたわ、今度からは気をつけるよ』
「ああ、正直俺もテンション上がってた……お互い気をつけるか」
(な、何だろ?人とポケモンで会話が成立しているような?)
リョウスケとボーマンダのやりとりを見て困惑するイエロー。……イエロー自身も、ポケモンの気持ちをなんとなく読み取るというトキワの力を所持している。が、それでもあそこまでポケモンと会話を成立させることなど、出来ないだろう。
ボーマンダをボールに戻した後、リョウスケはここがどこかを確かめるためにイエローに問いかける。
「で、えっと……ここはどこだ。あの……そこの麦わら君」
「え?ボクですか?」
「うん、君。……ここってどこかな?」
「えっと、ちょっとした釣りの名所ですけど……?」
「……あー、うん。俺の質問が悪かったな。……ここってホウエン地方?」
あれだけ長い時間空を飛んでいたのだ、ホウエン地方から離れていてもおかしくは無いだろうとリョウスケは考えた。
だが、イエローの回答は想像範囲外の物であった。
「ホ、ホウエン!?そんな遠いところから来たんですか……?」
「遠い……?まぁ、あれだけの時間を飛んでいたらそうなるのかなぁ。……ホウエンじゃないってことは、どこ?」
「えっと、カントー地方ですけど……」
「……は?あの、ごめんもう一度」
「カントー地方ですよ、ここは」
(……マジかよ?)
リョウスケは考える。
今まで自分は『ポケットモンスタールビー・サファイア』の世界に迷い込んでいたとばかり思っていた。しかし、目の前にいる少年から聞いた答えはカントー地方。
(どういうことだ……?今まで俺はポケモンのゲームの世界は初代、金銀はともかくその他は別々の世界だと思っていたが……この世界は、一つの世界として成り立っている?)
「……あの、大丈夫ですか?」
(そもそもゲームをやっていたからこそわかることだが、りゅうせいの滝にセンリさんが何かの調査をしたなんて過去設定なんかあったか……?ポケモンの世界ではあるけれど、微妙に何かが違う気もする)
「あの!」
「あっ、悪い!……少し考え事をしてたわ」
少なからず違和感を感じたが今はそこまで気にする必要もないか、と自己解決をするリョウスケ。
「何か心配かけちゃったみたいでごめんな。えっと、君は?」
「あ、えっと……(ブルーさんにあまり名乗るのはよくないって言われてるけど悪い人じゃなさそうだし……どうしよう)」
実は旅の際、自分を送り出してくれたブルーという人物に見知らぬ人にむやみに自分の名前を教えてはいけない、と忠告されていた。だが
「……おっと、人に名前を聞くときはまず自分から、だよな。俺はリョウスケ、ホウエンから来たんだ。よろしくな!」
と、先に名乗るリョウスケ。それを聞いたイエローも、悪い人じゃなさそうだし大丈夫かな、と思い自己紹介をする事に。
「……ボクはイエロー。イエロー・デ・トキワグローブです!よろしくお願いします、リョウスケさん!」
はい、いきなりですがカントー地方編に突入でございます。
原作では、5~6巻あたりといったところでしょうかね?
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第七話 世界観の違い
必ず読めって程のものではないですが、これからの話に多少違和感を覚える可能性があるかもしれないので、できれば読んでいただけると幸いです。
「なあ、イエローって何で旅をしているんだ?やっぱ、ジムバッチ集めて、ポケモンリーグを目指しているのか?」
「えっ?そ、そんなボクなんかがポケモンリーグなんて無理ですよ!」
「あ、あれ?違うの?」
リョウスケはせっかくトレーナーになってカントーに来たなら、ゆっくり旅をして回りながらジム巡りをするのもいいかな、などと考えていた。
イエローもトレーナーなら同じようにジムバッチを集めて旅をしているものだと思っていたが……
「……実は、人探しをしているんです」
「人探し?」
「はい、幼い頃に野生ポケモンに襲われていたボクを助けてくれた……言ってみれば、命の恩人なのですが」
先程までのぼーっとした顔つきではなく、真剣な顔でイエローは語る。
「その命の恩人が……襲われて行方不明になったんです」
「ッ!?……何だよそれ?」
「襲った連中……四天王というのですが、それを倒してレッドさん……その、ボクの命の恩人を探し出すのが、旅の目的なんです」
(し、四天王?)
四天王、それはゲームでもおなじみのワードだ。
全てのジムを制覇した後、ポケモンリーグで待ち構えるいわばポケモンにおけるラスボスみたいなもの。
(四天王が人を襲った?……全く訳がわからん)
リョウスケ自身の持っているゲームの知識と、さっきからズレが生じている。
(基礎的なポケモンの知識は同じと見ていいだろうが……世界観は全く違うもの、と捉えたほうがいいのかもしれない)
そうと決まればこの地における情報は知れるだけ知っておいたほうがいいだろう、とイエローに聞こうとするが
「……あ」
「ん?どうしたイエロー?」
突如、何かに気がつくイエロー。
(……そういえば一般の人にこんな事言ったら駄目だった!もしリョウスケさんが四天王の正体を知ったなんてばれたら、襲われる要因になっちゃうかもしれないし……やばいやばいやばい!)
▽イエローは こんらんしている!
「……イエロー、どうした?」
「い、今聞いたこと全部忘れてください!いや、むしろボク何も言ってません!」
「はい?あ、あのイエローさん?」
何かおかしくなってしまったイエロー。思わずリョウスケは、さん付けをしてしまう。
「リョウスケさんは何も聞きませんでした!おしまい!」
「お、おいイエロー。よくわからないけど落ち着け、な?」
『ぎゃうっ(何やってんだこいつら)』
『ピー……』
まるで漫才のような二人の会話に、呆れるボーマンダとピカであった。
「いや、それよりもイエローに聞きたいことがあるんだよ」
「な、何ですか?……四天王関連のことは何も言いませんよ!」
(……自分でまた四天王って言ってるじゃねぇかよ)
まぁ、スルーしとけば問題はないか、とリョウスケは思いつつ、イエローに問いかける。
「カントーについて、色々教えてくれない?歴史とか、あるいは最近起きた大きい事件とかさ」
「歴史……事件……そうですね」
う~ん、と考えるイエロー。リョウスケも細かいことでも何かしらの情報は聞けると思っていたが、
「……すみません!歴史とか、全然わからないです」
「……そ、そうか」
「アハハ、本当にごめんなさい、リョウスケさん」
「いや、いいって。いきなり歴史なんか聞いたって、ぱっと浮かぶものでもないかもしれないしさ」
とはいえ何も情報を聞けないのは少し困ったな、と思うリョウスケ。
ゲームとの世界観が違うかもしれない以上、自分の中の常識が通用しないかもしれないため少しでも情報を聞いておきたいのだ。
「あ、そういえば」
「ん?」
「二年前ですが、かなり大きい事件がありました!えっと……ロケット団がシルフカンパニーをのっとって、そこで大きい戦いがあったとか……」
「……シルフカンパニー?」
「あ、いきなりシルフカンパニーなんて言ってもわからないですよね。確か、ヤマブキシティにある大きな会社で……」
(ゲームでもそんなイベントあったな……それが二年前?やっぱり、似ているようでこの世界は何かが違うって認識していたほうがいいか)
「……って、リョウスケさん聞いてます?」
「あ、悪い悪い。途中からちょっと考え込んでたわ」
自分のこれからの行き先を決めるって程ではないが、ゲームの世界観と違うってある程度核心を持てただけでも収穫だったな、とリョウスケは思う。
「リョウスケさんはこれからどうするんですか?」
「ん?ああ、そうだな……」
適当に空飛んでたから、特に何かをするということを決めていたわけではない。
せっかくカントーに来たのだから、自分の実力を測るためにもジム巡りでもしようかな?とリョウスケは考える。
だが、その前に一つ思いついたことがあった。
「なあ、せっかくだしイエロー、俺とポケモンバトルしないか?」
「えっ?」
ポケモンバトルはトレーナー同士の挨拶、それはゲームでもこの世界でも同じだとリョウスケは思っていたが……
「ボク、ポケモンバトルは好きじゃないんです」
「……マジで?」
「……だって、ポケモンが傷ついちゃうじゃないですか?」
確かにイエローの言うことももっともだな、とリョウスケは思った。友達であるポケモンがバトルで傷つくのは、トレーナーである自分も辛い。
「そっか、悪いな無理言って。じゃあ、バトルは無しで「……いや、ちょっと待ってください!」……はい?」
バトルが好きじゃないならてっきり断るのではないかとリョウスケは思っていた。だが、イエローはイエローで少し別のことを考えていた。
(せっかくグリーンさんと特訓したんだ。リョウスケさんとのバトルは、力を試すチャンスかな?)
「お、おーいイエロー?」
「やりましょう!……バトルを」
「いいのか?何か俺が無理やり強制させるみたいになっちまって……」
「いいんです、それに……」
一息置いて、イエローははっきりとこう言う。
「バトルは好きじゃないですけど、ボクには強くならなくてはいけない理由があるんです。だから、リョウスケさん……手合わせお願いします!」
「……勿論だっての。俺だって、負けないぜ?なあ、ボーマンダ?」
『そりゃそうだっての!……あれ、そういやセンリとの特訓以外では初バトルか』
「あれ、確かにそうだな……なおさら負けられないな!」
(……やっぱりリョウスケさん、ポケモンと会話出来てるよね?バトルの後に聞いてみようかな?)
~~~
同じくカントー地方のとある場所。
そのとある場所に、とある人物二人がここにいた。
「はー……」
「ん、どうしたんやブルー?そんなにため息ついて」
この思いっきりため息をついている女性、名をブルーと言う。
イエローをこの旅に送り出した張本人であるが……
「……イエローが人と接触したわ」
「なんやて?ま、まさか四天王の追手じゃ……」
「いや、一般人だからそこは大丈夫よ、マサキ。……ただ」
「ただ?」
この関西弁の男性、名をマサキと言う。
本来ならポケモンの研究者として名高い彼なのだが、事件に巻き込まれたせいで四天王に狙われることになっている、いわば貧乏くじを引いた人物だ。
「四天王のことをべらべら喋った挙句、自分の名前まで思いっきり言っちゃったわ。あれほど言うなって言ったのに、はぁ……」
「……自分の名前はともかく、四天王のことを話したらまずいんちゃうか?下手したら狙われるんじゃ……」
「あまり良くはないと思うけど、それだけじゃまだ狙われないでしょうね。そこまで盗聴されてるとも思えないし」
「さっすが、盗聴のプロやな……」
「誰がプロよ、誰が。……どうやら、この二人ポケモンバトルをするらしいわね」
「あのポケモンを傷つけることを嫌うイエローがバトルを承諾したんか?……珍しいこともあるもんやなぁ」
マサキはその巻き込まれた事件の際に、イエローと共に行動していたからある程度のイエローの正確は知っている。敵のポケモンですら傷つけることを嫌うのだ。……だからこそ、ポケモンバトルをするということ自体を不思議に思っているわけだが。
「あの子の中でも何か変わったんでしょ、きっと♪」
「……やけに嬉しそうやな?」
「ええ、あの甘いだけのイエローがこうやってバトルをしようとすることだけでもかなりの収穫だわ」
いずれイエローも四天王と再び戦うことになる。甘いだけでは絶対に四天王には勝てない。それをブルーは知っているからこそ、このイエローの心境の変化だけでもかなりの成長なのだ。
(ま、バトルが強くなっているかどうかは……そのリョウスケ君とやらで、見極めるとしますかね?)
今作での注意事項
現在、カントー地方編ですがポケモンの技に関しては第三世代(ルビサファ)までの技を使わせてもらいます。
理由としては2つあるのですが、カントーにも関わらずボーマンダというホウエンのポケモンがいるため(第一世代の技に限定してしまうと、使える技も本当にごくわずかになってしまい非常に作品を作りにくくなってしまうため)
また、作者はポケスペの原作を第四章(22巻)までしか所持していないので、作品を完結させるにしてもここら辺の話までが限度なのです。
後付設定みたいになって非常に申し訳ないですが、これからもこの話を読んで頂けるとありがたいです。
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第八話 初めてのポケモンバトル!
「じゃ、ルールだけ決めておくか……一つのバトルにつき出せるポケモンは一体、負け条件は手持ちポケモンが尽きたら、でどうだ?」
「そのルールで大丈夫ですよ。うーん、誰を最初に出そうかなぁ……」
リョウスケの出したルールに賛成するイエロー。最初に出すポケモンを何にするか、イエローは迷っている。
『よしっ、俺が全部ぶっ倒して』
「お前は後。戻れ、ボーマンダ!」
『えっ?ちょっ」
一方、リョウスケのほうは最初に出すポケモンを決めていたのか、自分のボールにボーマンダを戻すリョウスケ。こらー!俺を出せ、リョウスケー!という叫び声が聞こえるが気にしないことにしておこう、と彼はスルーする。
「リョウスケさん、準備はいいですか?」
「ああ、いつでもオーケーだ。……いくぞ、イエロー!」
リョウスケの手がわずかながら震える。
別にバトルをする事に恐怖を感じていたり、緊張したりしているわけではない。
初めてのバトルが楽しみでしょうがない……いわば、武者震いのようなものだ。
「出て来い、イーブイ!」
「いけっ、ラッちゃん!」
ここに戦いの火蓋が、切って落とされた。
~~~
(あのイーブイってポケモンは図鑑で見たことある……えっと、確か複数の形状に進化する珍しいポケモンだっけ)
イエローは以前、ポケモン図鑑からイーブイの情報を見たことがある。
(確かタイプはノーマル……同じノーマルのラッちゃんならタイプ的には互角なはず)
だったら細かい戦術は抜きにして、とにかく攻撃だ。イエローはそう考え
「ラッちゃん、電光石火!」
「イーブイ、こっちも電光石火だ!」
同じタイプのポケモンが同じ技を繰り出す。……だが
『てやあっ!』
ドンッッ!!
「ラタッ!?」
「ラッちゃん!?」
イーブイのほうが、スピードでもパワーでも上回っていた。
「今だ、畳み掛けろ!イーブイ、突進!」
『うおおおっ!』
ガッッ!!!
先程の電光石火よりも強烈な一撃がラッタに直撃する……!
「……」
「……お疲れ、ラッちゃん」
勝負は一瞬で決した。
イエローは戦闘不能になったラッちゃんをボールに戻す。
たった二撃で沈めるイーブイの破壊力。イエローのラッちゃんも決して弱くは無いのだが、元々センリに鍛えられていたイーブイはそれをかなり上回っていたのだ。
「元々このイーブイは俺にトレーナーに育ててくれた人……いわば師匠が旅立つときにくれたポケモンだ」
「……その師匠の手持ちだったってことですか?」
「ああ、だからこいつは相当鍛えられてるよ。……来いイエロー、次だ!」
「旅立つときにくれたポケモンですか……だったら」
イエローは一つのボールに手をかける。
普通のモンスターボールではなく、ジムリーダー専用のスーパーボールに。
「こっちもジムリーダーから頂いたポケモンで行きます!ゴロすけっ!」
「ッ、岩か……」
イーブイのノーマルタイプでは、ゴロすけの岩タイプ相手には相性的にかなり不利だ。
(どうする、ここでボーマンダに……いや、ボーマンダも岩タイプの攻撃には弱いのか)
ボーマンダも飛行タイプが入っているため、岩の攻撃を食らうとかなりのダメージが通ってしまう。
リョウスケはどうする、どうすると考えていたが
『ボクにこのまま行かせてよ!大丈夫、相性は悪いけど……そのくらい!』
「イーブイ……」
そうだ、トレーナーが迷っていてはどうしようもない。
「悪いな、トレーナーの俺が信じないと駄目だよな。……よしっ、行くぞイーブイ!体当たりだ!」
『やあああっ!』
「来るっ、ゴロすけ、丸くなって対応して!」
イーブイの勢いのある体当たりがゴロすけにヒットするが、丸くなるで防御力が上昇していた上に元々の攻撃の効果もいまひとつなのでダメージがほとんど通らない。
「ポケモン交代しないんですね、ボクのゴロすけとは相性が悪いはずなのに……」
「ああ、イーブイが行けるって言ったんだ。トレーナーの俺が信じなくてどうするって思ってさ……イーブイ、もう一度体当たり!」
「ゴロすけ、こっちも体当たりだ!」
ガガガッ!!
体当たりのパワーはほぼ互角で、お互い一歩も動かなくなる。
「くっ……パワーは互角か?」
(ゴロすけはタイプでは勝ってるのに……このままじゃ埒が明かない)
(どうする……イーブイはこのままじゃジリ貧だ)
「(だったら……!)ゴロすけ、じ」
「(まずい、自爆か!?)イーブイ、距離を取れ!」
「(よくわからないけどチャンス!)地震だっ!」
ゴロすけの強力な地震が辺りに広がる。
イーブイも中途半端に距離を取ったせいで地震をもろに食らい身動きが取れなくなる……!
「(やっべ、しくった!)イーブイ、逃げろっ!」
「させませんよっ!ゴロすけ、動けないイーブイにそのままメガトンパンチだ!」
ガンッ!!
動くことが出来なかったイーブイはゴロすけの攻撃をまともに食らってしまい、そのまま……
『……うっ』
「くそっ……わりぃ、俺の完全な指示ミスだ。イーブイ、ゆっくり休め」
戦闘不能に陥った。
「……一つ聞いていいですか?」
「何だ、イエロー」
「いや、何故あそこで距離を取ろうとしたのかなって……」
イエローは一つ疑問に思っていたことがあった。
正直あの時、均衡状態で無理やり地震を起こして展開を変えるという割と無謀な作戦をしようとしたのだが、イーブイが引いたおかげでうまいこと技が決まり成功したのだ。
あそこであのままイーブイに押し切られてたらもしかしたら危なかったかもしれないのだが……
「いや……その、自爆が来ると思って」
ゴローンというポケモンは本来自爆、大爆発といった自己犠牲技を得意とするポケモンである。それを警戒したリョウスケは距離を取ったというわけだが……
(ボクのゴロすけ、自爆も大爆発も覚えてないんだけどなぁ)
ポケモンを大切にするイエローがそんな技を覚えさせるはずも無く。要するに、リョウスケの必要以上の警戒心が招いたイエローのラッキーな勝利であった。
次に切り替えようとしたリョウスケの意思に反応したのか、まだボールが開いていないというのに既に中からガタガタ震えて音がする。
『おい、さっさと俺を出せよ!』
「わかってるっての……ってか、もうお前しか頼れる奴がいないんだけどな、ボーマンダ」
(来る、リョウスケさんの切り札が……!)
リョウスケはボーマンダが入ったボールに手をかける。
「行くぞぉぉっ!ボーマンダっ!」
『っしゃあ!どんな奴であろうと捻り潰す!』
……青い竜が、この戦場(バトルフィールド)に降臨する。
ぬーん、戦闘がなんか上手く書けぬー。
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第九話 初めてのポケモンバトル!2
(こうしてバトルで対峙すると威圧感が凄いっ……!あれは見た目的に恐らくドラゴンタイプのはず、クチバで出会ったワタルのドラゴンポケモンも凄い圧力だったけど……同じくらいのプレッシャーだ)
イエローは目の前のボーマンダを見てそんな感想を思い浮かべる。
ボーマンダは元々、全ポケモンの中でもかなり優れている部類に入るだろう。さらに、リョウスケと共に過酷な特訓を耐え抜き、達成したこのボーマンダの実力はまだ戦っていないイエローですら何かを感じるほどに高い。
(だけど……怯んでなんかいられない!)
トレーナーの自分が怯んでいてはポケモンも力を出せない、だからボクがしっかりしなきゃ駄目なんだ、と戦う意志を強めるイエロー。
「ゴロすけ、いくよ!岩落としだっ!」
指示通りに大量の岩をボーマンダの上に降らすゴロすけ。
当たるかはわからないけど、恐らく動きを制限することは出来るだろうとイエローは考える。……だが
「ボーマンダ!岩をかわしつつ合間から火炎放射!」
『そんなことは朝飯前だっ!おらぁ!』
「なっ、早……!」
何と狭い隙間を避けながら火炎放射を放ってきたのだ。岩を投げたばかりのゴロすけは動くことが出来ず……
ゴォォォッ!!
「ゴロすけっ!」
まともに食らい、戦闘不能となった。
「……お疲れ、戻れゴロすけ!」
(スピードもそうだけど、パワーも凄い……!ゴロすけは炎には強いはずなのに、一撃でやられた)
イエローの手持ちの中ではゴロすけが最も耐久力に優れている。それが一撃で沈められた……つまり、
(ボクの手持ちのポケモンじゃ、一撃食らうだけでアウト……だったら避けるしかないけど)
その時、イエローのボールの一つから強い意志がイエローに伝わる。
(ピカのボールから強い思いが……!?ピカ、戦いたいのかい?)
コクリ、とボールの中のピカが頷く。
(そうだね……ピカのスピードならボーマンダの攻撃にも対応できるはず!)
「行きますよ、リョウスケさん。これがボクの今の切り札です!」
ボンッ、と勢いのある音からピカが繰り出される。
バチバチッっと頬から電気が漏れ出るくらい、やる気は十分のようだ。
(何かわからんが……このピカチュウは今までのポケモンとは違う。イエローが切り札って言うだけのことはあるか)
「ボーマンダ、油断せず押し切るぞ!竜の息吹っ!」
「ピカ、かわして!」
ゴオォッ!!っとボーマンダのブレス攻撃が相手を捕らえようとするが、それを俊敏にかわしていくピカ。
『ちっ、ちょこまかと……!』
「ボーマンダ、カッカするな!」
ピカの細かい動きにだんだん苛立ちが溜まってくるボーマンダ。イエローはそれを見て今が好機!とばかりに指示を出す。
「チャンスだよ、ピカ!電磁波で動きを制限するんだ!」
『ピィカァァッ!』
『ぐあっ!』
「くそっ……!麻痺か」
バチバチッ、と弱い電流がボーマンダに流れる。ダメージこそ通っていないものの、身体が麻痺してうまく動けなくなったようだ。
イエローは電磁波が通ったことによしっ!と小さくガッツポーズする。攻撃を避けているだけでは勝てないので、ピカの攻撃を通すための準備として素早いボーマンダの動きを止める必要があったのだ。
……だが、
「おい、ボーマンダ大丈夫か!?」
『ああ、むしろ……動けなくなったことで冷静になれたぜ』
麻痺状態はボーマンダの興奮状態を覚ます、という点でも有効だった。
一方イエローは相手の動きを封じたと思い、ここが好機とばかりに攻撃の手を緩めない。
「ピカ、今が押し切るチャンスだ!電気ショック!」
バリバリバリッ!と先程よりも強い電流がボーマンダに襲い掛かる。動けないボーマンダは技をまともに食らってしまう……が、
『避けられないのなら……耐えるだけだぁぁ!』
ガアァァァァッ!と雄叫びを上げながら必死に耐える。
『そんな攻撃、効か……ねぇ!』
否、実際にはそれなりのダメージが通っているのだがまるで全くダメージが通っていないかのごとく振舞う。言わば、やせ我慢のようなものである。
……だが、その全く動じない素振りと揺るがぬ眼光は相手を怖気づかせるには効果はあった。
(そんな……ピカの電撃を受けてもダメージが通っていないなんて!)
「(躊躇った、今がチャンス!)ボーマンダ、火炎放射!」
一瞬の隙を突き、リョウスケが指示を出す。
「(まずいっ……!?)ピカ、かわすんだ!」
高威力の炎がピカを襲う……!
『ピィ……カァ!?』
『……ちっ、仕留め損なった!』
麻痺のためわずかに攻撃の始動が遅れたため、炎が直撃はしなかった。しかし、ピカも初動が遅かったのでわずかに掠ってしまい……
『ピィ、カ……』
(掠っただけでもこのダメージ……直撃してたら一発でアウトだった……!)
かなりのダメージを負うことになってしまった。
……だが、ダメージがあるのはピカだけでは無く
『……ぐっ!』
「ボーマンダ!(やっぱさっきの電気ショックのダメージは確かに通ってたか……こっちも体力がそこまで残ってないな)」
『あのピカチュウ……思っていた以上に電気の質が高い』
「なるほどな……それだけ鍛えられているってことか」
電気ショックをもろに食らっていたボーマンダも同様だった。
「(向こうのピカチュウも今のでかなりのダメージを負っているはずだ……だったら相手の攻撃のタイミングにフルパワーのでかい一撃をぶつける!)ボーマンダ!」
「(さっきは全くダメージを受けていない素振りを見せていたけど、今の様子を見る限りやっぱりダメージは入っている……なら、相手の攻撃のタイミングにピカの最大の一撃をぶつける!)ピカ、フルパワーで行くよ!」
両者共にこの展開では早期決着が望ましいという結論を出し、自身のポケモンが持つ最大の一撃を指示に出す……!
「MAXで破壊光線だぁぁぁ!!」
「10万ボルトぉぉぉ!!」
『お……らぁぁぁぁぁ!!!!』
『ピィ……カァチュウゥゥゥ!!!!』
ガァァァァァァン!と両者の一撃がお互いにぶつかり合う……!
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第十話 初めてのポケモンバトル!3
ズガァァァァァァァン!!
「うおっ!?……くそっ、どうなった?」
「うわあっ!?爆発の煙でどうなったか全く見えない……」
両者の技がぶつかり合い大爆発を起こし、煙が巻き上がる。お互い、自分のポケモンの様子が見えない状態だ。
だが、これだけの攻撃がぶつかり合ったのだ。両者ノーダメージ、ということはまず無いだろう。
「ボーマンダ、大丈夫か!?」
「ピカ、大丈夫!?」
両トレーナーが今出来ることと言えば、煙が晴れるまで自分のポケモンが倒れていないことを祈るのみ。
そして、ついに煙が晴れる――――
「……ピィ」
『……』
……現れたのは、戦闘不能になったピカとまだ立ち尽くすボーマンダの姿だった。
「(あれだけの攻撃でもまだ倒れないの!?)ピカ、戻って!」
イエローは倒れたピカを急いでボールに戻す。
イエローの手持ちでは、間違いなくピカが総合力では最も優れている。が、それでも倒しきれなかった。
(ボクの手持ちは後三匹だけど……あのボーマンダを倒せる気がしない)
切り札を破られた今、他では厳しいという考えに陥ってしまう。
……一方、そのボーマンダのトレーナーであるリョウスケは全く逆のことを考えていた。
(あれは……恐らくだが、もう駄目だな。あれだけのダメージを食らってまだ堂々と立てているのが奇跡なくらいだ)
本当に負けず嫌いな奴だな、とリョウスケは思った。……だが、これ以上ボーマンダに無理させるわけにはいかない。
「ボーマンダ」
『ハァ、ハァ……なんだ?』
既に息も絶え絶えのボーマンダ。限界だ。
「(……ったく、もうぎりぎりじゃねーか)終わりだ、ボールに戻すぞ」
『まだやれ……ッ!』
「無理すんな、立ってるのもぎりぎりじゃねーか……戻れ!」
リョウスケはボールにボーマンダを戻す。そして一言、
「サンキュな、最後まで負けない姿勢、嬉しかったわ」
『……チッ』
ボールの中のボーマンダが軽く舌打ちをしたような気がした。果たしてそれはまだ戦えるのに戻されたことに対する怒りか、それとも最後まで戦い抜くことが出来なかった自分への怒りか。
(ボーマンダを戻した……?やっぱりダメージは通っていたのかな?)
次は何を出してくるんだ、と身構えるイエロー。こっちも次に出すポケモンを考える、が
「……おい、イエロー」
「……何ですか?」
そしてイエローからするとありえない一言が、リョウスケから発せられる。
「いやー、負けた。あー、負けた負けた!」
「……えっ?」
そう、リョウスケから聞こえてきたのは、敗北宣言であった。
~~~
「いや俺さ、まだ手持ちのポケモン二匹だけなんだよ。だから、これで全滅ってこと。イエローは、まだ手持ちあるだろ?」
「えっ?えっ、はい、いますけど……」
唐突すぎる宣告に、まだ混乱しているイエロー。これからどう戦おうかと考えているところに、突然勝利が舞い降りてきたのだ。
(でも……全然勝てた気がしないや)
最初のイーブイにも初っ端からやられ、ボーマンダには相当苦しめられた。もしリョウスケが六匹のポケモンを所有していたなら、この勝負はどうなっていたかわからない。いや、むしろ負けている可能性のほうが高かっただろう。
「そーいうことで、俺の負け。……初バトル、勝ちたかったがなぁ」
「あの……二匹なら最初から二対二のバトルってルールでやればよかったんじゃないですか?」
「……あっ」
「……」
リョウスケ、わざわざ自分の首を絞めるようなルールを提案してしまうという痛恨のミス。
お互い無言という微妙な空気が、この場を支配する。
「いや、まぁあれだよ?二匹でどこまで戦えるか、っていう自分を追い込む「絶対嘘ですよね」……はい」
「(チクショウ、確かに二対二でなら、勝ててたか……?何故思いつかなかった、俺)っと、ポケモンの傷の回復やらないとな」
そう言ってリョウスケはボールから戦い終えた二匹のポケモンを出し、バックから傷薬を出そうとするが、
「あ、回復ならボクに任せてください!」
「え?いや悪いよ、傷薬負担させるなんてさ」
「いや、ええと……そういうわけじゃなくて」
イエローがすっと傷ついたポケモン達に手をかざす。するとポウッ、と柔らかい光がポケモンをかざすと同時に傷が徐々にふさがっていく。
「え、え?どうなってんの?」
「やっぱり、初めて見たら不思議がりますよね。ボク、ポケモンの傷を癒す力と何を考えているかなんとなく読み取る力、というのを持っているんです」
「癒す力と読み取る力……?」
聞いたことが無い、そして信じがたい力である。
もし本当なら、非常に強力で、便利だ。
『あー、気持ちいい。あー、そのもうちょい横の翼の傷ついたところも頼む』
「……イエロー、今ボーマンダが思っている事わかるか?」
「えっ?……うーん、こっちの翼の傷を治して欲しいのかな?」
『おっ、マジでわかるのか!』
「すげーな……」
俺は声が聞こえるからわかるけど、その言った希望を理解できたのならそれは本物だ、とリョウスケは思った。
イエローがそんな嘘をつくとは到底思えないし、それに実際に傷を治しているのだから、と。
「あっ!そういえば」
「ん?どうした?」
「リョウスケさん、ポケモンと……その、会話してますよね?」
「気づいた?……まぁ、不思議だよなぁ」
イエローがバトルの前から気になっていたこと。
それはポケモンと会話をすることが出来ているリョウスケの力である。
「ポケモンと会話できるっても、全てではないんだよな。俺の手持ちのポケモンとは会話出来るけど……なんだろ、信頼関係が築かれてる同士なら会話が出来るみたいな?俺も、何で会話が出来るのか自分でもわかってないんだよな」
会話が出来る条件というのも、あくまで推測の域でしかないが。本人ですらこの力が何故あるのか、どんな力なのかということを理解できていないのだ。
『お……傷が癒えた、凄いなこの力は』
『僕の傷も完治した!リョウスケ、イエローにありがとうって言っておいて!』
「……お、もう治ったのか」
無事、体力を回復した二匹のポケモンをリョウスケはボールに戻す。
「イエロー、俺のポケモン達がありがとう、だってさ」
「いえいえ、そんなお礼されるようなことじゃあ……って、リョウスケさんの力、やっぱり便利ですね」
「イエローの力も負けてないと思うけどな、癒しの力か……薬要らずだな」
「そうですね、僕もこの力を持っていてよかったと思います。ポケモンが傷つくのは、やっぱり嫌だから……そういえば、リョウスケさんはこれからどうするんですか?」
「いきなり話変わったな……」
と言われたものの、どうしようかとリョウスケは考える。
(一緒についていって四天王を倒す!なんて言ったらイエローは怒るだろうしなぁ……というか、カントーが今どうなっているのかすらわからないし、色々回って探ってみようかな?)
と、ふとリョウスケは気になることが出てきた。
「そういえばさ、イエロー」
「なんですか?」
「ここってさ、カントーのどこ?」
そう、カントーということはわかるのだがカントーのどこ、ということまではさっぱりわからない。
「えっと、セキチクの少し離れたところにある釣りの名所ですね……あっ、そういえばカントー来たばかりならここら辺の地理、わからないですよね。地図、いります?」
「えっ?お、おう……いいの?」
「地図は旅に出るときに予備に多めに持ってきているので大丈夫ですよ!」
そしてイエローはリュックからガサゴソ、と地図を取り出す。俗に言う、ゲームのタウンマップだ。
「サンキュー、なるほど、現在地はここか……」
地図を見たリョウスケはよし、と一言呟いて
「俺はセキチクに寄ってから、タマムシに行くかな。イエローはどうするんだ?」
「ボクは……これからグレン島に行く予定ですね」
「そっか、ならこれでお別れだな」
「そうですね」
あっ、と呟いてから紙に何か書き出し、それをリョウスケに渡す。
「これ、ボクの連絡先です。何か困ったら、気軽に連絡ください!」
「おっ、そうか?なら、俺も」
リョウスケも同じように紙に連絡先を書き、イエローに渡す。
「困ったときは、お互い様ってな」
「ふふっ、そうですね!じゃあ、これで……」
別れようとした時、突然ボールの中のボーマンダがリョウスケに何かを伝える。
「えっ、何?……おう、ちょ、ちょっとイエロー待って!……ちょっと、行かないで、本当に待って!」
「は、はい!?何かまだありました!?」
慌ててイエローを呼び止めるリョウスケ。
「いや、何かさ……ボーマンダが、そっちのピカチュウはまだ力出せるだろ、10万ボルト以上の……だってさ。」
「10万ボルト以上?ピカが?うーん、よくわからないですけど……」
「うん、俺もよくわからんから大丈夫だ」
10万ボルトとは電圧の強さではあるが、それと同時にポケモンの技の名前である。
以上、と言われてもいまいちピンと来ないものだ。
「でも、伝えるってことは何かあるのかな?……でもやっぱり、リョウスケさんの力は便利ですね」
「確かに、ポケモンの意志をはっきりとわかるってのは便利だな」
「……とにかく、アドバイスありがとうございます!……では、今度こそ」
「ああ、今度こそまたな、イエロー。どこかでまた、会えるといいな!」
こうしてリョウスケとイエロー、二人は別々の道を歩き出すことに――――
関係ない話ですけど、WBCやばいですね。
自分は日ハムファンなのですが、個人で井端選手のファンになってしまいました。
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第十一話 セキチクまでの道中 新たなる仲間
本当に、感謝です。そしてこれからも、この作品をよろしくお願いします!
イエローと別れ、海岸沿いを歩きセキチクに向かうリョウスケ。
「えっと、ここからだいぶ真直ぐ歩いてから左に曲がって……意外と距離あるなぁ」
ゲームでは数秒歩くだけで町にたどり着くものだが、いざ自分の足で歩くとなるとそれなりの距離がある。
『おい、面倒くさいから飛んでいこうぜー』
『まぁ、リョウスケも初めての場所だし少し歩いて回りたいんじゃない?そんなに焦る必要も無いだろうし』
『……ま、それもそうか。でもずっとボールの中ってのも退屈だな。おーい、リョウスケー!』
『んー、それは僕も少し共感できるかも。居心地はいいんだけどね』
(元気だなこいつら……ってか、ボールに居たがらないって某アニメのピカチュウかよ)
アニメにいたSトシくんのピカチュウは、ボールに入りたがらない性質なのだ。この二匹のやりとりを見ていると、それに少し被る。
(……でもまぁ、天気もいいしこいつらにとっても初めての場所だから無理もないか)
とリョウスケは思い、
「……お前ら、ボールから出るか?」
『出せー!』
『……僕も出てみたいかな』
「おっけーおっけー。でも暴れるなよ、特にボーマンダ」
『……おい、どういう意味だ?』
『そのまんまの意味でしょ』
『あ?』
『何さ』
(元気だなこいつら……)
そしてリョウスケは二匹をボールから出し、一緒に歩く……のだが、
『おい、何でイーブイがリョウスケの肩に乗ってるんだ?』
ボーマンダは普通に歩き、イーブイはリョウスケの肩に乗っている状態である。
『何でって言われても、居心地がいいからとしか』
(……結構重い)
『甘ったれてるなー、おい。自分の足で歩こうとは思わないのか?本当にセンリに厳しく鍛え上げられたのかよ?』
『いいじゃん、ボールから出てくることなんてそんなに無いんだし。それとも、リョウスケの肩に自分は乗れないからって嫉妬でもしてるの?』
『バッ……馬鹿か!?なわけねーだろ!』
「おい、お前らケンカするな。暴れるなって、さっき言ったばかりだろーが。あとボーマンダ、お前は絶対肩に乗るなよ……主に俺の身が危ない」
リョウスケが口を挟むことで両者はようやくおとなしくなる。心なしか、ボーマンダの表情が少し寂しそうに見えた。
(……ボーマンダ、マジで乗りたかったとか思ってないよな?いや、無いとは言い切れない所が怖ぇ……今後も用心はしようか)
~~~
それからしばらく歩いた後、ようやくセキチクに行くための左に曲がる地点にたどり着いた。
「っと、やっとここで曲がる場所か。……もう夕方になっちまったのか、早いな」
ここでボーマンダはある事に気がつく。
『なぁリョウスケ、あの海岸のところに……やけに傷ついているポケモンがいね?』
「俺からは見えないけど……イーブイは見えるか?」
『僕も見えないけど……』
リョウスケとイーブイはこの現状に全く気がついていない。
ボーマンダも俺の思い過ごしか?と一瞬頭をよぎったが……
『……いや、いる』
思い過ごしなんかではない、あれは確実にいる。そう判断したボーマンダは、
「って、おい!?」
バサァッ!と翼を広げ突如飛び去る。
「ったく、イーブイ、追いかけるぞ!」
『うんっ!』
イーブイも肩から降り、急いで走ってボーマンダを追う事に。
~~~
「ッ、何だよこれ……!」
ボーマンダを追った先にいたのは……身体中にひどい傷を負ったあるポケモンの姿。
「とにかく、傷薬で治療しないと……!この傷なら凄い傷薬とか使っていかないとやばいな」
(何でセキチクのすぐ近くに生息地不明のラプラスがいるのかわからんが……そんなことは今はどうでもいい。とにかくこのままじゃ危ない)
ラプラスとは本来、ゲームではイベントでしか手に入らない珍しいポケモンだ。それが傷だらけの身体で、セキチク近くの海岸に打ち上げられているのである。
『なあ、これならボールで捕まえてセキチクのポケモンセンターで回復したほうが早いんじゃねーの?』
『あっ、確かに……』
ボールに入れてポケモンセンターに運ぶことが出来れば、すぐに全回復させることが出来る。傷を早く回復させるには、その方法が一番効率がいいだろう。
……だが、リョウスケは
「……いや、ダメだ。」
『えっ?』
「今日はここで野宿だ。日も落ちてきたし、ちょうどいい。……ボーマンダ、イーブイ、悪いけどさ、このラプラスが他の野生ポケモンに襲われないように交代で見張りを任せても大丈夫か?」
『おうよ、任せとけ』
「……本当に、悪いな」
『ちょっとリョウスケ?そんな事するより急いで運んだほうが……』
リョウスケの行動に少し納得がいかないイーブイ。
だがボーマンダはそんなイーブイを落ち着かせるかのように、
『おいイーブイ、野宿は決定だっての』
と声をかける。だが、イーブイはまだ納得がいかず、
『……何でさ?ボーマンダもそれでいいの!?』
と少し声を荒げる。
『ま、リョウスケにも考えがあるんだろ、いいんじゃねーの?』
『でも……』
『それにさ、こういう時こそトレーナーであるリョウスケを信じるもんじゃね?よくわからんけど』
『……ッ!』
信じる、という言葉で説き伏せられるイーブイ。
そんな現状を察して、リョウスケも声をかける。
「……イーブイも、悪いな」
『……うん、わかった』
一応のところ納得したイーブイ。
そして今夜はここで、野宿をする事に。
~~~
そして深夜、今はイーブイが見張りの時間だ。
「……ぐぅ」
『ぐぉー……ぐぅ』
『……何でだろ、未だにわからないや』
イーブイは考えていた。
何故リョウスケは、あそこにいる傷ついたラプラスを捕まえないで手当てだけをしてこのようなことをしているのか。
いくら傷薬で応急処置をしたとしても、かなり傷ついていたため完全には治っているわけではない。ポケモンセンターに運べば、すぐに完治できる話なのに、だ。
『ぐぉー……』
『……すぐに信じる、なんて言えたボーマンダが少しうらやましいかも。……ま、くよくよしてても意味無いかな』
切り替えてしっかり見張りをしよう、そう考えた矢先の事。
『……んっ』
『……あ、目が覚めた!』
傷ついて気絶していたラプラスが、ようやく目覚める。
『……ここは?』
『セキチクの近くの海岸だよ、ラプラスはそこに打ち上げられていたんだ。それを見つけた僕のトレーナーが、手当てをしたんだ』
『……』
『……ねぇ、何でそんなに傷だらけになってここにいたの?』
当然の疑問だ。
身体中が傷だらけになって打ち上げられるなんて事は、普通ではありえないことである。
『……あっ、話しにくいかな』
『いえ……大丈夫です』
そしてラプラスは自分の身に起きたことを話す。
『私がいつものように、海を漂っていた時のことです。いきなり羽のマークのついた服を着た人間たちが、飛行ポケモンと共に空から襲撃してきて……』
『……襲撃?なんで?』
襲撃という言葉に何だよそれ、信じられないというかのようにイーブイは問いかける。
『それはわかりません。……ですが、恐らくはただの暇つぶしでしょう。彼らは笑いながら集団で攻撃してきて、私は一匹だったので数人を撃退するのがやっとでした』
『暇つぶし……だって?そんなひどい人間が……』
目的は定かではないが、もし本当に暇つぶしであるならば、かなりひどい話だ、とイーブイは思った。
ポケモンはストレス解消の道具なんかではない。センリも言ってたし、リョウスケだってそんなことを聞いたら間違いなく怒るだろう、と。
『……ええ、私はそれを傷つきながら見て思いました。人間とは、こうも醜いものなのか、と』
『……』
イーブイは言いたかった。全てがそんなひどい人間じゃない、リョウスケのような優しい人間だっている!と。
……だが、今のラプラスにそう言っても通じるかといえば、絶対通じるとは言い切れないとも思ってしまった。それほどまでにひどい仕打ちを受けているのだから。
『……でも』
『……ん?』
『イーブイのトレーナーのような優しい人もいるのですね。見ず知らずの私の手当てをしていただけるなんて』
『……うんっ、リョウスケは僕の自慢のトレーナーなんだ!』
よかった。
まずイーブイはそう思う。自分のトレーナーであるリョウスケを認めてもらえたのもそうだが、ずっと人間を憎んでいるのではラプラスの為にもならないと思っていたからだ。
『それに……私を気遣ってくれたのでしょう?』
『……気遣う?』
気遣うの意味をちょっと理解できなかったイーブイは、反復して問いかける。
『ええ。……こんなことを言うのも何ですが、傷ついた私を捕まえようと思えばすぐ出来たはず。それをしなかったのは……』
『……もしかしてリョウスケは』
『何となくですが、私がこのようにやられたと言うことを予想していたのではないでしょうか?それで人間にやられたところを人間が捕獲したら私の心がもっと傷つくとか考えていたのかも……ポケモン思いと言うか、面白い人ですね』
『あっ、そういうことか……!』
イーブイは理解した。なぜ、リョウスケは最も早い方法で身体の傷を治そうとしなかったのか。
『身体の傷は治せても心が傷つく……そういうことか』
身体の傷を治すことも大切だが、それよりも心のほうを優先したのだ。
心の傷とは、身体と違って簡単に治るようなものではないから。
『とてもいいトレーナーですね、リョウスケさんは』
『うん、今までもいいトレーナーだと僕は思っていたけど……今日でさらにその思いが強くなっちゃったかも』
『ふふっ……楽しそうですね、リョウスケさんとの旅』
その問いに対し、イーブイは笑顔でこう応える。
『うんっ!まだ旅を始めて間もないけど、凄く楽しいよ!それに僕の他にもボーマンダもいるしね。……ケンカばっかりしてるけど』
『ボーマンダ?』
『うん、あそこに寝てる……』
イーブイは寝ているボーマンダを指さすが、
『ぐぉー……イーブイ、お前次調子に乗ったら噛み砕いてやんぞ……ぐぉ』
『……』
ま、まぁ寝言だしね、そんなことにいちいち怒るほど僕は子供ではない、とイーブイは冷静になる。
『ぐぉ……短足イーブイ……』
『……ブチッ』
『……楽しそう、ですね?』
イーブイは思う。
あいつ後で殴る、と。
『っと、そんなことより……ラプラスも僕たちと一緒に、旅しないかな?』
『私も、ですか?』
『うん、きっと楽しいし……それにまだ、僕たちポケモンが二匹なんだ。水、氷の強力な技を使えるラプラスが加われば、怖いもの無しだよ!』
『そうですね……』
ラプラスは少し考える。
リョウスケのことはとても優しい人間であると認めているものの、基本的に人間がまだ憎いという感情のほうが勝っているのだ。そんな自分が一緒に旅をすればリョウスケに迷惑をかけるのではないか、と。
『それにリョウスケなら……』
『リョウスケさんなら?』
『どんな理由があろうとも、絶対ラプラスを歓迎すると思うよ。……きっとまだ、ラプラスにももやもやした感情が残っている気がするんだ。でも、リョウスケはそういうの気にしないと思うよ。むしろ、そのもやもやした感情という問題に、一緒に戦ってくれると思う』
『……』
考えるまでもなかったかもしれない。傷の手当までしてくれて、自分をここまで思ってくれる人間、いやトレーナーがいるのだ。ならばそれに応えるべきだろう。
『ええ、決めました。私は……一緒に旅がしたいです。そして私を手当てしてくれ、守ってくれたリョウスケさんを、守りたいです』
~~~
「ふぁ……よく寝たぁ」
朝になり、目覚めるリョウスケ。
「っと、そうだ。あのラプラスは大丈夫か?」
テントから出て、様子を見に行くが……
「お、いたいた!怪我のほうは大丈夫か?」
『あ、おはようございます。……この度は、本当にありがとうございます』
丁寧に礼をするラプラス。それに対しリョウスケは、
「ああ、いいってことよ」
と笑顔で応える。
『その……お願いがありますが』
「……どうした?」
『私も、リョウスケさんと一緒に旅をしたいです!どうか、お供させてもらえないでしょうか?』
「……なーんだ、そんなことか。お願いって言うからてっきり凄いことでも言うのかと」
リョウスケはさも当然かのように、ラプラスに
「……大歓迎だよラプラス、これからよろしくな!」
と、歓迎の言葉をかけた。
ここに三匹目の仲間であり友達である、ラプラスがリョウスケのパートナーとして加わることに。
……が、リョウスケはあることに気がつく。
「……なあ、イーブイとボーマンダを見なかったか?俺の手持ちのポケモンなんだけどさ」
『えっと……あそこに』
「ん……?」
ラプラスが示した方向、そこには
『てめぇぇっ!朝から俺に殴りにかかるたぁ、死ぬ覚悟は出来てるんだろうなぁ!?』
『そっちこそ、ボッコボコにされる覚悟は出来ているんだろうね?僕の悪口寝言で散々言っておいて』
『はっ、ちょうどいい、あの試験のときは中途半端な終わり方だったからな。完膚なきまでに叩きのめす!』
『それは僕の台詞だっての!』
『は?コモルー時代の俺にやられたくせに進化した俺に勝てると思ってるんですか?しんかポケモンとか言いながら未進化のイーブイくうぅぅぅん!?』
『ゼロ距離突進っ!』
『げふぅっ!?』
ドゴーン、バゴーン、ガゴーンと凄い音を立てながらギャーギャーと朝から暴れる二匹。
「……」
『……あの、止めなくていいんですか?』
「うん、まぁ……好きにやらせとけ」
あいつらの朝飯は抜き、ひっそりとそんなことを考えるリョウスケであった。
話を作っている最中、作者は
(そういえばイーブイって何kgあるんだろう?)
ま、そこまで重くはないだろうな~と軽い気持ちで調べてみたら……
6.5kg
意外と、ありました。
書き終えてから調べたので、修正するのも面倒くさくなってしまい……
(リョウスケの肩筋が凄いってことにしておけば大丈夫かな)
そんなことを重いながら、投稿。
ちなみに、ボーマンダの体重は102.6kgだそうです。
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第十二話 四天王襲撃 カントー地方に迫り来る恐怖
「……着いた!」
ラプラスを仲間にし、再び歩き始めたリョウスケ一行。
そしてようやく、取り敢えずの目的地であるセキチクシティにたどり着いたのである。
『なあリョウスケ、これからどうするんだ?』
声をかけるのはボーマンダ。今はこのボーマンダ含め、三匹とも全員ボールの中である。
「そうだな、まずは……」
着いたはいいものの、特に目的は考えていなかったリョウスケ。
(確かセキチクで大きい施設といえば、サファリゾーンとジムだよな……)
両方行きたいけど、まずはサファリゾーンかな?と最初の目的地を決めたリョウスケは、そこへ向かおうとするが……
〈現在サファリゾーン改築中!オープンは未定。サファリゾーン目的で来たお客様、本当に申し訳ございません〉
……との看板が、サファリゾーン前に。
(……そういや、金銀版ではセキチクのサファリゾーンは使えなかったような。今がその時期とちょうど被っているってことか?)
アンラッキーだけど、開いていないものはしょうがない。そう切り替え、ジムを見に行こうとするが……
〈現在ジムリーダー不在のため、挑戦は受け付けておりません。本当に申し訳ございません〉
……との看板が、ジム前に。
(……俺、何しにセキチクに来たんだろう)
ジムも開いていなければ、サファリゾーンも開いていない。もはや、ここにいる意義すら無くなってしまったかのようだ。
『なあ、どーすんだ?リョウスケが行きたいって言ってたところ、どっちも開いてねーじゃん』
「うん、まぁ……どうするか」
『俺としては、朝飯抜きで腹が減ったから飯を食いたいんだが』
「うーん、どうすっかなぁ……」
『……聞いてる?』
「う~ん……」
『……』
完全にスルーである。
そして何かを思いついたのか、リョウスケはボーマンダをボールから出す。いつもなら元気よくボールから飛び出すボーマンダであるが、腹をすかせているのか元気が無い様子だ。
「とにかく、もうここにいる意味は無いな。タマムシまで飛ぼう」
『俺、腹が減って……』
「……タマムシに着いたら飯でも食うか、ちょうどお昼時だし」
『全力で飛ばさせて頂きます!』
(調子のいい奴だなぁ……)
元気が無く、少しヘナッとなっていた翼も飯、という単語と共にバサァッ!!と元気がよくなる。
……それはもう、周りにいた人たちがびっくりするくらいに。
「よっしゃ、久々に乗せてくれ、ボーマンダ!」
『おっけー!飯のためならどこまでもっ!!』
周りなんてお構い無しに、このコンビはセキチクシティを早々と飛び立つ。
~~~
さて、突然だがこの世界にはほぼどの街にもポケモン食堂と言われるところが存在する。
どのような場所かというと、人とポケモンが共同で利用することが出来るレストランのようなところだ。トレーナーはボールから手持ちのポケモンを出し、一緒にご飯を楽しむことが出来るという場所である。
そして、タマムシに無事着いたリョウスケ達は昼食をここで取るのだが……
『うめぇっ!もぐっ、腹が減りすぎていたせいか、いつもより旨く感じるぜっ』
『ちょっとボーマンダ、もぐっ、食べながら喋るとか行儀悪いよ』
『……お前もじゃねぇか!』
『……うん、もぐっ、正直僕もお腹が減りすぎてて』
『……お二人とも、やっぱり仲がいいんですね』
『『どこがっ!!』』
(うん……今度から朝飯抜きはやめよう、主に昼にみっともないことになるから)
朝食抜きの罰を与えたことを、少し後悔するリョウスケであった。
……とまあ、このようにトレーナーとポケモンが共に昼食を取ることが出来る。
勿論、リョウスケのような旅をしているトレーナーだけでなくその町、ここではタマムシの住民なども当然のように利用している。
「なあ、お嬢様の具合が最近よろしくないってのは本当なのか?」
「ああ、何でもお嬢様のご友人が行方不明らしいぞ。」
(お嬢様……?そんな人がタマムシにはいるのか)
どんな人なんだろう、とリョウスケはタマムシの住人の会話をひっそりと盗み聞きしつつ思い込む。
(そういや、行方不明……?何だろ、最近どっかで同じワードを聞いたような気がするんだが……)
思い出せん、何だっけか……とリョウスケは思考を張り巡らせる。
「それでもよ、相当具合が悪かった時期に比べれば少しはよくなっているらしいぞ」
「おお、それはいい知らせじゃん。……で、回復したからには何か理由があるんだろ?」
「ん?ああ……何でもイエローって子がタマムシに来てから、何らかの事件があってそれを基に回復なされたとか……」
「……事件って何だ?俺、その時用事でクチバまで出かけてたんだよ」
「……すまん、夜に起きた事件らしくて俺は寝ていた。真相も聞きそびれちゃったしなぁ……」
(ん?イエローもタマムシに来たことあったのか。あれ、そういやイエローも行方不明がどうのこうのって……)
タマムシの住人が話していたワードが、一つ一つピースのように繋がろうとしている。
(イエローもその行方不明の人……レッドさんを探している間にタマムシに寄った……そして事件が起きたってことは、その行方不明の人関連の事件か?いや考えすぎか……しっくりこねぇ、そもそも行方不明の人物が同一なのかもどうかもはっきりしてない)
まだ何とも言い切れないが、もしかしたら関連があるかもしれない。リョウスケの出した答えはこうだ。
……だが、また新たに住人が話したワードによってもしかしたら、の確率が大幅に上昇することになる。
「……なあ、その行方不明の人って何で行方不明になってんの?」
「そんな事俺に聞かれてもわかるわけねーだろ……って普通なら言うだろうけど、実は少しだけ知ってることもあるんだよな」
「お、何だよ。もったいぶらずに教えろっての」
「急かすなって。……まぁ、噂だから信憑性が微妙っちゃ微妙だがな。何でも、四天王って軍団が関わっているらしいぞ」
(……四天王?っておい、もしかしてイエローの話してたレッドさんの話と一致してるか?)
イエローの探している行方不明の人物レッドは、四天王に襲われて行方不明になっている。
そしてここのお嬢様の友人も四天王が関わり、行方不明になっているとの噂。……もしこの噂が本当と仮定するならば、この友人=レッドという線が高くなる。
ならばここのお嬢様に聞けば四天王の事、行方不明のレッドの事、今カントーで何が起こっているのかという事を少しでも聞くことが出来るかもしれない。そう思ったリョウスケはすぐに動き出す。
「ってか、その行方不明の人の名前とかわかってたりする?噂でもいいぞ」
「さすがにそこまでの情報はなぁ……って、何だボウズ。俺たちに何か用か?」
「……ちょっとお兄さん方に聞きたいことがあるんだけど」
~~~
タマムシシティジム内弓道場。ジムリーダーであり名家の一人娘でもあり、お嬢様でもあるエリカはここにいた。
「カスミ、今の現状を教えてください!」
「今は被害に合っているのはニビだけで……って、きゃあっ!?」
「カスミ!?」
連絡を取り合っているのはカントー地方正義のジムリーダーズであり、ハナダシティのジムリーダーであるカスミだ。
彼女曰く、ニビシティが突如ポケモンの軍団に襲われ、その緊急の連絡を受けている最中であったが……
(カスミの様子から、恐らくはハナダもポケモンの軍団に襲われたと考えて間違いないでしょう。……そして)
「エリカ様っ!タマムシにも氷ポケモンの軍団が侵入してきました!」
やはりか、とエリカは思考する。
(この軍団は四天王の軍団と見て間違いない。そして四天王の目的は……私たち正義のジムリーダーズの動きを封じること)
この正義のジムリーダーズという集団は、四天王側からすると非常に邪魔な存在であるのだ。
計画を実行するために、ポケモン達に町を侵略させ動きを封じこめるという作戦である。
(相手の作戦通りにいってしまうのは癪ですが……町を守るためにも不用意に外に出るわけには行かない)
「ラフレシア、花びらの舞!」
ラフレシアの攻撃で侵略してきた氷ポケモン達の動きを一気に封じる。
「精鋭軍は一部だけここに残り、他は町のほうの被害を食い止めてください。ジムのほうは私が食い止めます!」
「「「ハッ!!!」」」
(ともかく今は町の被害を最小限に食い止めなくては……!)
一瞬。
他の事を考えた一瞬の出来事だ。四天王の軍団が、攻撃を仕掛けてくる。
「あっ!エリカ様危ない!」
「ッ!?」
油断していたわけではないが、その一瞬のせいで対応が遅れる。
(まずい、やられる……!)
完全に虚を突かれ、一撃を食らうことを覚悟したエリカ。だが、
ガッッ!!という力強い音が、聞こえた。
「……ッ!?」
不思議なことに、自分の身体には傷一つすらついていない。
『てめぇらの……ヘナチョコ攻撃なんて屁でもねーんだよぉぉぉぉ!!』
攻撃を受け止めた青い竜は、その勢いのまま尻尾を器用に振り回し四天王の軍団をなぎ倒す。
……そう、その突如現れた青い竜により、エリカは助けられたのだ。そして青い竜の上には少年トレーナーが一人、乗っていた。
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第十三話 スオウ島上陸!
「大丈夫ですか!?」
ボーマンダの上に乗っていたリョウスケは、間一髪のところで攻撃を喰らいそうになっていたエリカを守ることに成功する。
「ええ、おかげで助かりましたわ。……あなたは?」
「俺はリョウスケ、あなたはエリカさんで合ってますよね?色々聞きたいことがあったんですが……」
「ええ、エリカで合っていますが。……ですが」
この現状、のんびりとお喋りを出来るような場面ではない。
「そんなことを言っている場合じゃないようですね。まずは、この周辺の軍団を片付けましょう!イーブイっ、ラプラスっ!」
「そのようですわね。モンジャラ、ウツボット!」
両者共にボールから全てのポケモンを繰り出し、四天王の軍団と対峙する。
『おらあぁぁっ!!』
『ええいっ!!』
リョウスケが指示を出さずともボーマンダは火炎放射で敵を焼き払い、イーブイは電光石火で次々と敵を倒していく。
この二匹は戦い方というのを知っているのだ。勿論、トレーナーの指示があったほうがスムーズな動きをすることが出来るのだが、そうでなくてもかなり無駄の無い動きをすることが出来る。過去の特訓などのおかげで、戦い方がある程度身体に染み付いているのだ。
そしてリョウスケもそれが出来ると信頼しているため、この二匹に関してはさほど心配すらしていない。問題は、最近加わったラプラスのほうだが……
『はあっ!!』
ごおぉぉっ!と、凄まじい冷気を持った冷凍ビームが敵に放たれる。氷に強いはずの氷ポケモンですら凍って動けなくなってしまうほどの冷気だ。
(……こっちも、俺が心配しなくても大丈夫みたいだな)
こちらも問題無しに動けている。リョウスケは知らないことではあるが元々このラプラス、敵に囲まれて圧倒的不利の状況の中数人を撃退することが出来るだけの実力は持ち合わせているのだ。
……そして一瞬のうちにこの周辺の軍団は全て倒した。
「はぁっ……よしっ」
「取り敢えずのところは、全て片付けることが出来ましたね。……本当に助かりました、お礼を申し上げますわ」
「お礼だなんてそんな……大したことしてないですよ」
「謙遜しなくても大丈夫ですのよ。……さて、確かあなたは私に聞きたいことがあると?」
「はい、えっと……」
そしてリョウスケは自分の気になっていることをエリカに問いただすことに。
「まずは……ここにいきなり現れた氷ポケモンの軍団は、四天王と関係がありますか?」
「ええ、確信というわけではありませんが……十中八九、そう見てもいいかと。何故、あなたが四天王のことを?」
リョウスケはこれまでのイエローに出会いそれとなく聞いたこと、そして噂になっていたことなどの経緯を話した。
「なるほど、あなたはあの少年と出会って……」
「はい、イエローとはあそこで別れましたが俺も今のカントーの状況や四天王などの情報が気になってここに来てエリカさんに聞こうと思ったんです。そしたら……」
「あの四天王の軍団が現れた、ということですね」
コクリ、とリョウスケは肯定の頷きをする。
「私……いや、私たち正義のジムリーダーズで四天王の動向や行方不明になったレッドの情報などを今まで探ってきました」
「正義のジムリーダーズ?」
ジムリーダーは全部で8人いる。原作と違って正義があれば悪もあるのか?そんなことをリョウスケは思った。
「私含め、ニビのタケシ、ハナダのカスミ、グレンのカツラさんの4人のことです」
「……なるほど」
「……勿論、探ってきた中でわかった情報もいくつかはあります。何故、あなたはその情報を求めるのですか?」
エリカは探るようにリョウスケに問う。
「あなたの戦いは先程見ていました。ジムリーダーである私にも引けを取らないほどの、すばらしい動きでした。もしかしたら、四天王にも対応しうる力もあるかもしれない」
ですが、とエリカは一言置いて
「あなたのような少年を、命の危険性のある場所に送りたくは無い。それが私の本音です。もし、あなたがこの情報を聞いて飛び出していくなら、私はこれを教えたくないという気持ちがあります」
「……」
リョウスケは思った。
エリカの言い分も痛いほどわかる、まだ自分のような少年を戦場に送りたくない、これは本心だろう。そして自分のことを気遣ってくれているということも。
だが、リョウスケにも向かう大きなひとつの理由がある。
「カントー地方を救いたい、なんて大きなことは言わないです。……けど、俺にも行きたい理由があります。それは」
「……それは?」
「イエローを助けたいんですよ。うーん、何というか……初めてのポケモンバトルの相手をした、まぁ俺からすると友達なんです。危険なのもわかってます。そしてそれはイエローもわかっているはず。そんな危険を冒す友達を助けたいという理由じゃ、ダメですか」
リョウスケの嘘偽りの無い気持ち、そして台詞。
(この意志……そしてこの目は)
エリカはリョウスケの目を見る。
奥底に潜む揺るがぬ意志、目の奥にはそんなものが潜んでいそうだった。そして、この目は過去に見たことがあるような気さえした。
(レッドの……いや、それよりもどちらかといえばイエローの目に近いでしょうか。決めたことは曲げない、そんな目)
ハァ、と諦めたようにエリカはため息をつく。
「何故、最近出会う子はこうも頑固な子が多いのでしょう?……しょうがないですわね、ただし条件があります」
「条件……ですか?」
「ええ。……イエローもですが、あなたも。必ず、無事に帰ってくること。よろしくて?」
「……勿論ですっ!」
それでは、とエリカは残っていた数名の精鋭達に指示を出し、何か書かれた紙を持ってこさせる。
「これは私たち正義のジムリーダーズが調べた四天王に関する資料です。そして、私たちは四天王の居場所を突き止めることが出来ました」
エリカは、地図のとある島を指差す。
「四天王の本拠地は……ここ、スオウ島」
「……スオウ島?」
ゲームを一通りやっているリョウスケからしても、聞き覚えの無い島だ。
だが、今はそんなことはどうだっていいだろう。
「ここに……四天王がいるんですね」
「……改めて言いますが、必ず帰ってくること。よろしいですわね?」
コクッ、とリョウスケは頷く。
「本当に、ありがとうございました。必ず……無事に帰ってきます!」
そして彼はすぐにボーマンダ以外の手持ちをボールに戻し、タマムシから飛び去った。
「……ハァ」
「エリカ様、あの少年を向かわせて本当に大丈夫だったのでしょうか?」
そう問いかけるのは、精鋭軍の一人だ。リョウスケのような少年を向かわせるのは、誰からしても心配なのだろう。
「あの子は恐らく何を言っても折れなかったでしょう。それに……」
「それに?」
「彼ならきっと大丈夫……そんな気がしますわ」
確信など何もない。
……だが、少しの間だが四天王の軍団と対峙していたときの戦闘、そしてあの意志の強さ。それがきっと大丈夫、と思わせるような要因であろう。
「さて……私たちは私たちで今出来ることをしましょう。町の被害を最小限に食い止めなければ」
「「ハッ!!」」
~~~
夕方、スオウ島。
この地に青い竜に乗ってきた一人の少年ポケモントレーナーが上陸していた。
そしてその少年は勢いのまま、島の内部まで歩いていく。
「本当に……わけわからん島だ」
今までの他のカントー地方の場所なら、ある程度頭に入っていたので楽に移動することができたがここではそうもいかない。
(どちらにせよここは既に相手の本拠地、油断は出来ねぇ。……そういえば)
イエローも既に上陸しているのだろうか?と彼はふと思う。
(そういや、連絡先もらったんだっけな)
今、一応連絡したほうがいいなと考えイエローに電話をする事に。
「もしもし……この番号はリョウスケさんですか?」
「ああ、俺だけど……イエロー、今どこにいる?」
「スオウ島というところです。いる理由までは、話せないですけど……」
やっぱりスオウ島にいるのか、なら合流したほうがいいなと彼は考える。
「そっか。……俺も実はスオウ島にいるんだ」
「ッ!?な、なんでっ」
「そりゃ、手助けに来たんだよ。友達が困ってたら、助けに行くのが普通だろ?」
「で、でもっ……」
イエローは出来ることなら一般人を巻き込みたくは無いと思っていた。勿論リョウスケもあのバトルで仲良くなり、困ったことがあったらお互い相談できるくらいの仲にはなったが、ここには巻き込みたくなかった。
……しかし、そのリョウスケはこの地に来てしまった。自分のことを思ってくれて嬉しいと思う傍らで、やっぱり危険だから引き換えして欲しい、とも思う。
だがリョウスケはそんなイエローの気持ちを読んだかのごとく、
「言っておくが引き返すつもりはねーぞ。イエローが何か凄い敵に立ち向かおうとしてんのは知ってる」
「なら、何で……リョウスケさんも、危険だってわかってて」
「一人より、二人のほうが上手くいく確率は高いだろ?そういうことだ、協力して全て終わらして無事に帰ろうぜ」
これはもう説得しても無理だ、とイエローは思った。これだけの意志を持って来ているのに、帰ってくださいとも言えない。
そして何より思ったのが、
「何だか決めたことは曲げない頑固なところ、ボクそっくりですね」
「んなっ……頑固じゃねーよ!」
何だかんだ、来てくれたならばかなりの助っ人になる。イエローはそう思った。
リョウスケの強さは、戦った自分が一番わかっている。
「とにかく、一度合流しませんか?そのほうが安全な気もするので……」
「ああ、それは俺も思ってた……今、イエローどこにいる?」
「ボクはスオウ島の入り口付近です。辺りが暗くなってから動こうと思っていたので」
「げっ、マジか……俺、もうかなり先のほうに進んでしまったよ。詳しい位置教えてくれ、俺も戻ってそこに向かう」
「了解です。えっとですね……」
突如。
リョウスケの背中のほうが、ゾクゾクッ!!と感じる。かなりの威圧感を与えるものが、すぐ近くにいるのだ。
「わりぃ、後で再びかけ直すわ!」
「えっ、リョウスケさん?……リョウスケさん!?」
プツッ、とすぐに連絡を切る。そして、後ろにいた者がリョウスケに話しかける。
「お前が誰かはわからんが、お別れの返事は済んだのか?」
「……まだ死ぬわけでもないのに、お別れの返事なんていらないでしょう?」
背後の者の質問に、そう応える。
「フフッ、再びかけ直す、か……本当にそんなことが出来ると思っているならば、甘すぎる」
「やらなきゃダメなんですよ。友達を裏切るわけにも、いかないんで」
そして、リョウスケは後ろを振り向き威圧感を与えている者の姿を確認し、
「この四天王ワタルに勝とうと?……面白い冗談だな」
「冗談でも何でもないですよ、俺たちは勝ちます」
「フッ、フフ……フハハハハ……面白い、面白いな君は」
リョウスケと四天王の長ワタル、ここスオウ島にて対峙する。
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第十四話 四天王ワタル登場! スオウ島での戦い
「しかし、だ……」
ワタルはこの目の前にいるリョウスケに対して大きな疑問を一つ抱いていた。
「何故ここがわかったとか、何しに来たか、などのちっぽけな問題はどうだっていい。大方、場所は大きな権力を持っている奴から聞き出し、来た理由なんて俺たちの計画を止めたい、とかそんなもんだろう」
大きな疑問、それは。
「何故、ここに来た?」
リョウスケはよく言葉の意味がわからなかった。何しに来たかという理由と同じではないのか?と。
「不思議そうな顔をしているな。場所を聞いたとき、そいつは四天王の恐ろしさを知っていたはずだ。そして、お前もそれを聞いているはずだろう?」
「……何が言いたいんですか?」
「逃げようとは思わなかったのか?普通なら思うはずだ。そしてこれは予想だが、場所を教えた奴もお前がここに向かうことなど望んではいなかったはずだ。むしろ、危ないから逃げろとか言ってはいなかったのか?」
「……」
「今から尻尾巻いて逃げようとも、別に俺は追いかけたりはしないさ。命が惜しいなら、それも懸命な判断だ」
ワタルの言っていることは恐らく本心だ。
今リョウスケが逃げたところで、追撃をすることも無いだろう。お前なんかに興味も沸かないから逃げたいなら勝手に逃げればいい。目がそう語りかけてきている。
「……友達が」
「ム?」
「友達が、危険に突っ込んでいるのに助けない奴なんてそれは友達なんて言えないでしょう?」
「……賛辞を送りたくなるくらい勇敢なことだな。いや、ここまで来るとむしろ愚かしいほど無謀とも言えるか?」
ワタルの目が変わった。全く興味を持っていなかった目が、少しだけ興味を持つような目に。
「……名前だけ聞いておこうか?」
「……リョウスケ」
「リョウスケ、お前は生き残る手段を自分で捨てたのだ。もう後悔しても遅いぞ?」
「……上等ですよ。俺はここで、あんたに勝つ!」
スオウ島での決戦、ここで幕が開ける――――
~~~
スオウ島入り口付近。
イエローは連絡が途切れたリョウスケが心配でしょうがなかった。
(何故連絡が途切れたんだろう……何かリョウスケさんの身に起きたとしか思えない)
どうしよう、もう内部に進むべきか。そんなことを考えていた矢先に
「なにしょげてんのよ!!」
上空から、聞いたことのある声が聞こえてきた。
「ブ……ブルーさん!……とマサキさん!?」
「そうや来たでえ、久しぶりやな」
「イエロー、あなたの危機を知って追ってきたのよ。この四天王の本拠地スオウ島まで」
新たな助っ人が加わったことにより、気が楽になるイエロー。
「なあイエロー、さっきまで相当表情が暗かったけど……どないしたんや?」
「あの、実は……」
イエローは上陸してから起きたことを二人に話した。
リョウスケがこの島にいること、そして連絡が突然途絶えたこと。
「なんやて?もしかして既に危険に巻き込まれてるんじゃ……」
「多分……四天王の誰かと遭遇したと見て間違いないわね」
その情報から、冷静にブルーはそう分析した。
「そんな、だったら……早く助けに行かないと!」
「慌てないで、慌てても何もいい事は無いわ」
「でもっ……!」
「あなたが言うにはそのリョウスケ君というのは強いんでしょう?だったら、彼を信じましょう」
(盗聴してた癖にリョウスケ君というのはなんてよく言うわ……)
心の中で突っ込みを入れるマサキ。
「どちらにせよ向こうの場所もわからないし、突き進みましょう。それが彼と合流する一番の近道よ」
「……そうですね」
「とにかく、このブルーさんが来たからには敵の好きにはさせないわ」
ブルーはそう言ってとりあえず行動指針を定め、ブルーを落ち着かせる。だが、彼女も
(一般人を巻き込んでいるのは予想外ね……ピカと互角に遣り合える位の実力はあるみたいだし、無事だといいのだけれど)
と内心少し焦っていた。
そしてこちらもまた、スオウ島内部へと進むため動き出す――――
~~~
スオウ島内部のとある場所。
(一匹一匹なんて余裕は無い。最初から全勢力で思い切りいくっ……!)
「ボーマンダ、イーブイ、ラプラスっ!」
ボボボボッ!!と全てのポケモンを出す。
「ホウ?見たことないポケモンだが、そちらも竜を所持しているのか、面白い!プテラ、ハクリュー!」
ワタルもボールからプテラ、ハクリュー二匹をボールから繰り出す。ちょうどお互い、三対三のバトルという形になった。
「(出し惜しみをしている暇なんてないっ!)ラプラス、冷凍ビームでプテラを狙え!ボーマンダはイーブイを背に乗せ、そのまま空を飛ぶっ!」
ゴウッ!と勢いのある冷気を纏ったビームがプテラを狙い打つ。かわされるが、プテラとハクリューを分断させることに成功する。
「フン、プテラとハクリュー達を分けたか……だが、それがどうした?」
プテラは冷凍ビームを避けながらラプラスにそのまま突進してくる。
「ッ!避けろラプラス!」
『くっ!』
間一髪で突進を避けることに成功する。だが、
「たまたま避けれたようだが……何時まで持つかな?」
(まずい……相性では完全に勝っているのにこのままだとラプラスは攻撃を受ける。だったら)
ラプラスには粘ってもらい、その間にまずはハクリューを倒しそしてその後にプテラを倒すしかない。と考えたリョウスケは
「ボーマンダ、空からの勢いでそのままハクリューに捨て身タックル!イーブイも勢いのまま突進!」
『おらあぁっ!』
『てやあぁぁっ!』
「……ム?狙いを変えたか。だが無駄なこと」
ハクリューはそのまま攻撃をかわすことも無く――――受け止めた。
「ッ!?」
「避ける必要が無いということだ。……ボーマンダの攻撃は思ったよりもダメージが深いが。イーブイにしても、思ったよりもダメージが大きいか?」
しかし、と一言加え
「それでも、倒れるほどではない。……このワタルの竜軍団をなめるなっ!ハクリュー、そのままたたきつけろ!」
『ぐぁっ!?』
『ちぃぃっ!!』
ハクリュー達のたたきつけるが炸裂し、ボーマンダは耐えるがイーブイはもろに大きいダメージを喰らってしまった。
「ボーマンダは耐えるか、中々やるじゃないか?だが、イーブイはもう虫の息だろう。そして」
『ぐっ!?』
「ラプラスっ!?」
「そっちのラプラスも粘ってはいたが、そろそろ苦しくなってきただろう?ボーマンダだけは唯一互角に戦えるかもしれないが、この三対一の状況で勝てるわけが無い」
ラプラスも攻撃をかわし続けていたが、何発か小さいダメージを喰らい、それが積み重なり体力がもうわずかしかない。
「なあ、リョウスケ。何故竜は氷を除き、竜同士としか相性がよくないと思う?」
「……?」
「それはだな、竜は竜でしかまともに相手することが出来ないからだ。氷も苦手ではあるが、攻撃が当たらなければどうということは無い。フフ……フハハハ!何が言いたいか教えてやろうか?このワタルの竜軍団に最初から勝ち目は無かったということだよ!フハハハハ!」
「ッ……!!」
竜とはそれだけ絶対的な強さを誇っている。
そしてその竜という絶対的な強さを、ワタルは持っているということだ。
「さて、この状況だ。今一度チャンスをやろう。尻尾巻いて逃げるというのなら、逃げても構わないぞ?」
「くそっ……!」
この現状、ほぼ勝ち目は無いかも知れない。ボーマンダもイーブイもラプラスもこれ以上傷つけたくない。ここで、引き返すしかないのか……?とリョウスケは弱気になってしまった。だが、そこに声がかかる。
『諦めんじゃねぇよ!!リョウスケ!!』
『そう……だって、僕もまだ……やれる!』
『そうです……ここで諦めるわけには行きません!』
「(……俺は馬鹿か、弱気に何かなってるんじゃねぇ)誰が、逃げるかってんだ……!」
「……そうか。そんなに死にたいなら、死ぬがいい。ハクリュー、破壊光線だ!」
ドシュッ!と高威力の光線がリョウスケに飛んでくる。
「まずっ……!?」
直撃は避けることに成功する。しかし余波と飛んできた岩を思いっきり喰らってしまう。
「ガハァッ!?」
「フン、直撃は免れたようだな。余計苦しくなるだけだというのに」
「誰が……ゲホッ、喰らうかっての、ゲホッ」
「ならば、もう一発だ。早く、楽になれ」
再びハクリューの口元にエネルギーが充電される。
『くそ、させるかってんだ……邪魔だどけっ!!』
ボーマンダは阻止しに行こうとするが、エネルギーを充電していないほうのハクリューに妨害され止めることが出来ない。
そしてラプラスもプテラと対峙しているため、そちらに向かうことは出来ない。
(くそ、万事休すか……!?)
リョウスケの頭に死という一文字がよぎった。先程諦めるなと言ったはずのボーマンダやラプラスですら、リョウスケがこのままでは死んでしまうと思ってしまった。
……だがここで、奇跡が起きる。
『させるかぁぁぁぁぁ!!!』
絶対にリョウスケを死なせない、そんな決意を表現しているかのようにイーブイの身体が光り始める。
もう少しで、カントー編が終わりそうです。
ここが終わったら、少しオリジナルの番外編の予定。
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第十五話 決着!
「これは……!?」
光るイーブイを見て、リョウスケ、ワタル共に驚く。
「ちっ、進化か?ハクリュー!先にイーブイを仕留めろ!」
ワタルは今にも進化しようとするイーブイを始末するため、リョウスケから狙いを変更する。
だがそれよりも早く進化が完了し……
『やぁぁぁぁぁぁ!!!』
ゴウッ!!と破壊光線と飛んでくるがそれを素早くかわし、
ガァン!!
「ハクリュー!?」
そのままハクリューに突進をかます。進化したことによりパワーアップし、かなりのダメージが通った。
リョウスケは破壊光線で起きた煙が晴れ、ようやくその進化した姿を見る。
「……ブースター!?」
本来ならブースターになるためなら炎の石という進化アイテムを与えなければ進化しない。
なら何故今ここでブースターに進化することが出来たのか。
「……スオウ島の火山エネルギーが炎の石の代わりの役目をしたようだな」
ここスオウ島の中央には大きな火口がある。それも活火山でかなりの炎エネルギーがたまっている状態だ。
そのエネルギーが進化をもたらしたというのだ。
「本当に……そんなことが?」
『……これで、ようやくまともに戦えるっ!』
奇跡のような理由だが、進化したことにより戦力はアップした。
「確かに戦力は上がったようだが、それだけ手負いの状態でこの竜軍団に勝てるとでも?」
「そんなことは……やってみなきゃわからない」
だがまともに戦っても軍配はワタルに上がるだろう。それほどまでにワタルのポケモンは強力だ。
(何か工夫をしないとこの勝負は勝てない……それにブースターも進化したばかりでまだ炎を上手く扱えないはずだ)
進化したからといって、すぐに炎の技を扱えるというわけでもない。
(どうにかこの状況を打破しなければ……そうだ!)
一か八かだが、賭けるしかない。リョウスケは思いついた作戦をすぐに指示した。
「ボーマンダ!ブースターに火炎放射!」
「仲間に攻撃……!?」
ボーマンダは迷わず、炎の攻撃である火炎放射をブースターに放つ。
もしブースターが身体の内部から炎を上手くコントロールできないのなら、外部から炎のエネルギーを与え纏わせればいい。リョウスケの考えた作戦とは、こうだ。
『相変わらず手加減無しだね、ボーマンダ!でも、これで……!』
強力な炎を纏ったブースターはタァン!!とジャンプしながら回転し、炎の勢いを上げそのままハクリューに突進する――――!
「いけぇぇ!!火炎車ぁぁっ!!」
ガァァン!!と大きな突撃音が鳴り響き、一匹のハクリューが吹き飛ぶ。……戦闘不能だ。
「なっ……!?」
「(今がチャンスっ!!)ボーマンダ、プテラに向かって破壊光線っ!!ラプラス、動いたところを狙い打ってハイドロポンプだ!」
「ッ!?」
『らあぁぁぁっ!!』
不意をついてきたようにボーマンダがプテラに向かって破壊光線を撃つ。自慢のスピードでかろうじてかわすが……
『はぁっ!!』
バシャアアァァァッ!!
ラプラスのハイドロポンプが、プテラにクリーンヒットする。相性も良く、一撃でダウンだ。
「……よっしゃ、これで後一匹!!」
三匹のうち二匹を倒し、かなり優位に立ったリョウスケ。
……だが、ここで思わぬ事態が発生する。
「ゲホッ、ゲホッゲホゲホゲホッ!?」
『リョウスケッ!?』
リョウスケが突如かなり苦しそうに咳き込み始めたのだ。
「くそ、こんなとこ……ろで……ゲホッ!?」
ガクッ。
ついに、立つ事が困難になり膝を突いてしまった。
「フフフ……フフフ、フハハハハ!!」
「なに……がおかしい!」
いきなり狂ったように笑うワタル。
「どうやらお前を過小評価しすぎていたようだな。……お前は強いよ、俺が今まで出会ってきたトレーナーの中でもかなりな。」
「な……に……?」
「どうやら、身体にハンデを抱えているようだな。それでいながらあの逆境での強さ、奇抜且つ好判断。俺もかなり驚かされた。……だがな、お前は運が悪かった。何故なら戦っている相手が俺だからだ!」
戦闘不能になっているハクリュー、プテラに手をかざすワタル。すると……
ポウ、と柔らかな光がポケモン達を包み込む、そして瞬く間に……傷が回復する。
「な、それは……!?」
「フハハハハハ!!絶望したか?お前の手持ちはそのボーマンダという竜しかもうまともに動けないだろう?」
ブースターも、ラプラスもかなりのダメージを負って戦闘不能寸前である。まだまともに動けるのは、ボーマンダのみだ。
「それに対してこちらはまだ、全てのポケモンが全快だ。それに俺の手持ちはこの三匹だけじゃない。これでもまだ、お前に勝ち目があると思うか?」
「く……そっ……!」
「……じゃあな、それなりに楽しめたよリョウスケ。これでとどめ……!」
ピー、ピー。
突如何かの通信音が戦場に鳴り響く。ワタルの通信機だ。
「……なんだ、カンナ」
「侵入者が一気に攻めてきたわ。もう、遊びの時間は終わりみたいよ?」
「……チッ、わかった。すぐに移動する。」
プツッ、と連絡を切る。
そして、ワタルは自分の手持ちを全てボールに戻してしまった。
「……運がよかったな。俺はもう行く、じゃあな」
「くっ……!」
「これに懲りたら、自分の命くらいは大事にするんだな。……そうじゃないと、お前の手持ちのポケモンが悲しむことになるぞ?」
そう言って、ワタルはこの場から立ち去る。
……リョウスケは負けた、それも完全にだ。身体は、動く気配が無い。そのまま、地面に倒れこんでしまった。ブースターも、ラプラスも動けそうに無い。動けそうなのはボーマンダだけ。
「戻れ、ブースター……ラプラス……」
わずかに残っている力を振り絞って、ブースターとラプラスを戻す。
「負けちまったよ」
『……ああ』
「……命があるのが不思議なくらいだ、はは……ゲホッ!」
『もう、無理すんな!しばらくそこに寝てろ!』
リョウスケの視界がだんだん薄れていく。身体が耐え切れなくて、意識を手放そうとして楽になろうとしているのだ。
「……?」
誰かが歩いてくる、わずかな意識の中リョウスケはそれを感じた。何となく、黒服を着ているような気がする。
「……」
「誰かわかんないですけ……ど。俺の代わりに、イエローを……助け……て」
それだけ言って、リョウスケの意識は完全に落ちた。
~~~
「……面白いものを見せてもらった」
黒服の男……サカキは意識を失ったリョウスケをよそに、そう呟く。
「ここら辺では見ないポケモンだな……そう睨むな、俺はその少年に何かしようってわけじゃない」
リョウスケに手出しさせるものか、とサカキを睨みつけるボーマンダ。
「途中から見させてもらったが、正直ワタルにあそこまでの戦いが出来るとは思っていなかった。……負けはしたが、善戦と言ったところか。まあ……この戦場に於いて善戦など何の価値も無いのだが」
だが、と一言の後
「良いものを見させてもらったお礼というわけではないが、偶然にも君の願いと俺の目的は一致しているのでな。その頼み、聞いてあげよう。……これ以上ワタルに好き勝手やってもらうのも困るのでな。フフフ……フハハハ」
それだけ言って、サカキはこの場を後にした。
『リョウスケ……』
誰もいなくなったこのスオウ島の内部で、ボーマンダは一人呟く。
『俺、もう絶対に負けねぇ。これ以上……絶対に負けねぇ』
誰も聞かないこの場所でボーマンダは静かに、力強く宣言する。
『とにかく、ここは危ない。どこでもいい、リョウスケを休ませる場所に避難しないと……』
戦い抜いた青き竜は友人を落とさぬよう、リョウスケを丁寧に背に乗せ戦場を後にする。
次の話で、カントー編ラストになる予定です。
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第十六話 まさかの遭遇 そして取り戻した日常
バサッ、バサッ――――
スオウ島から離れたボーマンダは気を失ったリョウスケを連れ、どこかの無人島へと上陸した。
『ここなら、休める。ブースターもラプラスも傷ついてるからさっさとどこかの町にでも行きたいもんだが……』
回復させるためにはポケモンセンターのあるそれなりに大きい町に行くのが手っ取り早いだろう。……だが、
『俺だけじゃ、たどり着ける自信がねぇ……道に迷って、リョウスケの身体に負担をかけるのもまずいしな』
リョウスケが目を覚ましてからでも大丈夫だろう。それよりもまずはリョウスケを休ませることが先決だ。
そう考えたボーマンダは、どこでもいいので休めるところを探していた。……そしてたどり着いたのがこの無人島だ。
『しかし、周り一帯も木、草、木、草だな……ポケモンすら生息してないってのか?』
見回したところ、自然が豊かであるということくらいの感想しか思いつかない。自然だけで、ポケモンの気配も全くしないのだ。
『……ちょっと、探索したいけどな』
まぁリョウスケを一人にするわけにもいかないし、目が覚めるまで待つか。そんなことを考えていた矢先――――
『あれれ、誰?』
『……ッ!?』
気配など全く無かった。突如、それは現れたのだ。
『……なんだ?』
『あ、うーん待ってね。こうすれば、わかるかな?』
そしてそれはまた突如目の前から消えたかと思えばリョウスケの目の前に現れ手をかざす。
『ッ!?、おい何して』
『あー、なるほどなるほど。そういうことね』
何かに納得したかのようにそれは発言する。
『何か、大きな戦いに挑んだんだね?それで、やられちゃったと』
『おい、てめぇ……余計なことしやがったら、ぶっ飛ばすぞ』
『うーん、ボクは何もする気はないんだけどね?君は、その戦いの続き気になる?』
ブォン!!と突如スオウ島での現状を中継した映像が映し出される。
『なっ……!?』
突然のありえない現象に、ボーマンダは驚きの声を上げる。
『ボクの念力で映し出した映像だよ♪あれ、どうやらクライマックスが近いみたいだね?』
『お前……一体何者なんだ?』
遠くの映像を念力で映し出せるほどの規格外の力。そして瞬時にこちらの状況を把握できた謎の力。
これだけでも、何者か?という疑問を抱かせるには十分だろう。
『ん、ボク?ミュウって言うんだよ、よろしく♪ここは自然が美しいからね、ボクだけでここに住んでいるんだ』
目の前のポケモン――――ボーマンダは知る由も無いが、幻のポケモン。
ミュウが住む島。ボーマンダは本当に偶然、この島に上陸したのである。
~~~
一方、スオウ島。
こちらでは最終決戦のクライマックスを迎えようとしていた。
ガッ!!
プテラの攻撃をゴロすけが防ぐ。
「ふふ……、守りの戦い。いつまでもつかな」
「あなたが考えを正すまで!」
「しかし、その前にこいつがバッジのエネルギーを吸収しつくす!エネルギーを吸ったその翼の一振りで、先兵として送り込んだ各地の四天王軍もバッジの影響下におかれる!」
こいつとは、バッジエネルギーを大量に吸う存在……スオウ島の夜明けと共に現れる幻の鳥ポケモン。
「ふふふ、もうすぐだ!見えるぞカイリュー!!これから建国される、すばらしいポケモンの国が!今度こそ人間どもから、ポケモンを解放できる!人間どもからな!」
「く!」
キィィィン、と突如ピカの思考がイエローの頭に流れ込んでくる。
(対抗策……エネルギーの発生は防ぎようが無い。その対策はたった一つ!それ以上の力をぶつけて吹き飛ばすこと!ピカはそれに気づいている。バッジの力を吹き飛ばせば、ワタルの野望を止められるんだ!)
突如。
地上から大きなエネルギーが上空へと流れ込んでくる。
「(これは……、グリーンさんたちのポケモンのエネルギー!)ピカ!」
『ピッ』
「(トキワの森よ!ボクに、みんなを守る力を……!)100万ボルトオオオ――――!!!」
バシュウウウウッ!!
大きな力が、あたりを巻き込む。
「く……、ここまで……か!」
カントー全土を巻き込んだ戦いにも、ついに終焉の時が訪れる。
~~~
こちら、名前もわからない無人島。
決着の瞬間を、ボーマンダとミュウは目をそらさずに見ていた。
『意外な決着だったねぇ、まさか麦わらの子が勝つと思わなかったけど……ってあれ?どうしたの?』
『……』
決着がついたのにも関わらず、ずっとボーマンダは黙っているのだ。
多少なりリアクションを取ると思っていたミュウからすると、少し意外だったようだ。
『さっきそこのリョウスケって子の気を読み取ったけど、あの麦わらの子が勝ったなら君たちにとってはよかったんじゃないの?何でまた、そんな深刻な顔して』
『ああ、終わりよしなら全てよし……なんて言えるかよ。確かに最終的な結果としては申し分の無い結末だ。だがな、現にここでリョウスケは傷ついている』
自分の力不足もあって、リョウスケをかなり傷つける羽目になってしまった。それがボーマンダは許せないのだ。
『何も、無傷で勝とうだなんて甘いことは考えては無かった。でもよ、本当に生きてるのが奇跡なくらいに……危なかった』
『ふーん』
『……聞いといてその反応かよ』
『で、君はどうしたいのかな?どうせ、主人のために強くなりたい!とか言うんでしょ?』
『……わかってんじゃねえかよ。ちなみに、主人って感情よりかはダチだな、友達。他の二匹がどう思ってるかはわかんねーけど』
『うん、それなんだよ』
『?』
何がそれなのか?ボーマンダはミュウの発言に疑問を浮かべる。
『いやあ、リョウスケって面白いよね。さっき、頭の中から色々と読み取ったんだけど』
『……それはプライバシーもクソも無いけど大丈夫なのか?』
ミュウの発言にちょっと……いやかなり心配になるボーマンダ。
『まー、細かいことはいいじゃん。うん、ボクってこう見えても結構珍しいポケモンだからさ、よく人間に狙われるんだけどさー』
『おい、さらっとトンでも無い事言ってるけど』
『そのせいか汚い感情を持った人間ばかり見ててさ、だからこそ思ったってのもあるんだけどね』
『何だよ、もったいぶりやがって』
『いやいや、そこまでポケモン思いの人間も珍しいよねーってさ。勿論、過去にもポケモンを大切にしている人はたくさんいたよ?それでも、群を抜いているというか』
ミュウはさっき、リョウスケの思考を読み取ったときにそれを感じたのだ。気を失いながらも、自分のポケモンを気遣う心。
『うんうん、本当に面白そうだよね。だからさ』
ここで驚愕の一言を、ミュウは口にする。
『ボクも、リョウスケの旅についていこうかなぁー♪』
『……リョウスケの手持ちポケモンになるって事か?』
『いやいや、ボク人のボールの中とか入りたくないし。んー、尾行?』
『……ちょっと何言ってるか』
ボーマンダは頭が痛くなっていくのを感じた。
こいつ、悪い奴ではないと思うが食えない奴だ……と。
『だいじょーぶ、君たちがピンチになったらこっそり助けるからさ、安心してても大丈夫だよ?』
『いや、そういう事じゃなくて……』
『ああ、ボクの事はリョウスケに言わないでね?ポケモンと、喋れるんでしょ?』
『……頭が痛い』
『あ、言ったらそうだなぁ……念力でリョウスケの首をねじ切ったりー♪とか?』
『……はいはい言いません言いません言わないって』
どうせ、嘘でしかない形だけの脅迫だろう、とボーマンダは感じた。そしてミュウも、こんなことをするつもりは毛頭ない。
そしてボーマンダはというと……
(ウザい、面倒くせぇ……)
そんな印象しか受けなかった。
『っと、そうなったら何時までもこんな所にいるわけにもいかないね。もう一つのボクのお気に入りの場所へ、テレポート♪』
『……ん?』
『あ、慣れてないと気持ち悪くなって気を失うかも?』
無人島に居たリョウスケ、ボーマンダ、そしてミュウの姿が一瞬で消えた。
~~~
全てを終え、無事帰る事が出来たイエロー。
今はレッドの家でレッド、グリーン、ブルーと共に小さなお祝いをして、ちょっと外の空気を吸いに来た、という状況だ。
「やっぱり、マサラの空気は綺麗だなぁ」
四天王の野望を阻止し、目的であったレッドも見つかり、こうして平和を取り戻すことが出来た。
……だが、一つ気がかりがある。
「リョウスケさん、どうなっちゃったんだろう……?」
自分と同じくスオウ島に上陸していた人物、リョウスケ。
あそこで連絡が途絶えてから、帰還してからも何度か連絡を入れているが繋がらない。
「ブルーさんも、あまり気にしすぎないほうがいいって言ってたけど……」
気にしすぎないほうがいいと言われても、どうしても気にしてしまうのだ。
「ん?」
何だろ?と目の前にいるポケモンを見る。見たことのない、ピンクの色をしたポケモンが宙に浮いているのだ。
「ッ!?」
自分が手を触れていないのにもかかわらず、突然頭の中に感情が流れ込んできた。
「えっ?……ひ・ま・つ・ぶ・し?って、あれ?」
その目の前のポケモンは既に姿を消していた。暇つぶしとは何だったのか?あのポケモンは何だったのか?色々な疑問が残る。
「今のポケモン、何だったんだろう?……って、あれ」
あそこで寝ているポケモン、そして人を自分は知っている。
ついさっきまでずっと心配していた、その本人だから。
~~~
「んっ……」
自分はどれだけの間気を失っていたのだろう。そしてここは、どこだろう。
様々な疑問が、リョウスケの頭の中をよぎる。
「少なくとも、スオウ島ではないな……」
隣にいるボーマンダの姿を見る。とても、気持ちよさ……いや、何故か気持ち悪そうに寝ている。
「お前が、安全なところに俺を運んでくれたのかな?」
寝ているため返事は無いが、きっとそうだろうと自己解決する。
「……ともかく、これからどうしよ「リョウスケさあぁぁぁぁん!!!」な、何ですか!?」
目覚めの一発と言わんばかりの自分を呼ぶ大声。思わず敬語で、反応してしまう。
そしてあることに気がつく。この声は、どこかで聞いたことがあるようなと。そして、声のする方を振り向くと――――
「リョ、リョウスケさあぁぁぁぁん!!!」
「イエ……ロー?」
声、姿共に見覚えのある麦わらの子が、こちらへ走ってくる。
「はぁ……はぁ……」
「……」
少しの沈黙が流れる。そしてその沈黙も、
「……わりぃ」
リョウスケの一言で、破れる。心配をこんなにもかけたのだ、怒鳴られてもしょうがないな。そんなことを、リョウスケは思った。
「ッ……。確かに、凄く心配しました。けど……」
「……」
「リョウスケさんが無事なら、それで大丈夫です。……だいじょう、ぐずっ」
「……え、ちょっとイエローさん?」
怒鳴られるどころか、泣き出してしまったではないか。これはリョウスケもさすがに予想外である。
「うわ~~ん!!こっぢは凄い心配してたんでずよぉ!?いっだい、なに、して」
「わー、わかった、ごめん!泣き止んで、マジで!イエローさん!」
……こうして、無事カントーの日常を取り戻すことができた。
『……おえぇ、気持ちわりぃ……あの野郎、こんなことになるなら先に言えよ……おえっ』
……取り戻すことができた?
カントー編終了。
漫画のラストのシーンの一部(多少改造)を書いてみましたが、文で書くとすごく迫力が激減しますね。文才のある人なら、上手く書ける方もいるかもしれませんが……
次からはオリジナルの章に入る予定です。それから、金銀編へと移行の予定。
……オリジナルと言っても、元ネタはある(漫画ではないですが)のでもしかしたらわかる方もそれなりにいるかも?
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第十七話 旅行?
このネタはポケスペ内には出てこないネタであり、オリジナル展開でございます。
……と言っても、勿論元ネタはあり知っている人も多数いると思いますが。
四天王との激闘が終わってから半年後。
カントー地方では町によっては一部破壊されていたりする場所等もあるが、人々やそのパートナーであるポケモン達によって、徐々に元の町並みを取り戻しつつあった。
人々は人同士、またポケモンと共に励ましあい、少しずつ元気を取り戻してきている。
そしてそのカントーを救った人物である、イエロー。
「ふあぁ……朝だ」
寝起きのため、まだ目の焦点が定まっていない様子である。
……そしてしっかり目を覚ますどころか、
「……でもまだ眠いから……おやすみ」
……こんな様子ではあるが、カントーを救った張本人なのだ。
再び眠りに着こうとした、その瞬間。
プルルルルルッ!!
「ふわぁ!?で、電話?」
全く、眠いのにー。なんてちょっと愚痴をこぼしながら電話に出るイエロー。
「おはようございます。お宅はイエロー様で合っていますよね?」
「はい、そうですけど……」
「イエロー様が抽選に当選しましたので、商品を送らせて頂きました!商品のほうはご確認頂けましたでしょうか?」
「は、はぁそれはご親切に……商品?」
何だろう、そんなのあったっけと考えるイエロー。
自分の記憶では、全く身に覚えが無い。
「お宅のポストに送らせて頂きましたが、その様子だとまだご覧になっていないようですね……最近多いんです、そういう人。だからこそ当選者にこのように連絡をしているわけでございますが」
(そういう人って……絶対ボクみたいな人のことだ)
……でも少しおかしいな?とイエローは思う。
いくらたまにしかポストを確認しないからって、さすがにいつかは見るのだ。別に、このような連絡も必要ないのでは?と。
「期限が明日までなので、連絡して正解でございました。こちら側としても、やはり当選したお客様には楽しんで頂きたいので……」
「き、期限?」
商品に期限って何だろう?そもそも、どんな抽選に希望したかすら忘れているイエローなのだ。
「ええ、期限です。二泊三日のペア旅行の」
「……えっ?」
「……とにかく、ご確認頂きます様に。イエロー様が、お楽しみ頂けます様こちらも願っていますので」
そう言って電話はプツッっと切れてしまった。
「……ポスト」
急いで、ポストの中身を確認しに行くことに。
「ポスト、ポストっと」
ポストの中身を見ると、何やらチケットのようなものが二枚入っていた。
「あっ……あーっ!!」
何かに気がつき、とんでもない声をあげるイエロー。中には……
「これ……あー、そうだ、思い出した!」
水の都アルトマーレ二泊三日旅行券があった。
~~~
「確か、どうせ当たらないだろうと思いながら適当に応募した奴だ……当たってたんだ」
そして、ペア旅行である。
つまり、もう一人誰かを誘うことが出来るという事。
「出発場所はクチバ……明日だから……急いで準備しなきゃ!」
せっかくだし誰かを誘おうとイエローは考える。
「レッドさんは、うーん。いつもどこにいるかわからないし……」
最初に思い浮かんだのはレッド。
常に修行してそうなイメージがあるので、もしかしたら邪魔になるかもしれないのでやめた。
「他に……あっ」
身近にいたじゃないか、とイエローは思う。
半年前からトキワに住んでいる少年がいる、と。
~~~
場所は変わって、トキワの森。
ここで一人の少年が、ポケモンと共に特訓をしていた。
「ブースター、火炎放射!」
ゴウッ!!と自分の相手である野生ポケモンを激しい炎が一直線に襲う。
周りには木がや草が生い茂っているので、それを燃やさずに仕留める。炎のコントロールの特訓だ。
『ふう、こんなもんかな』
「……よしっ、今日の朝特訓は終了だな。家で、朝飯でも食べるか」
『うんっ、オッケー!』
特訓をしていた少年、リョウスケ。彼は半年前からトキワシティに住んでいた。
騒動の後、イエローと出会って色々(一方的にイエローが泣いていただけとも言う)話し合ってから、彼はレッド、グリーン、ブルーに合った。
その後にイエローが家に帰ると言って、じゃあ自分もそこまでついていきますと言ってイエローに付き添ってトキワシティまで歩いた。
この時まではまだイエローが家についてから自分もどこか旅に出かけようかな、とリョウスケは考えていた。
だが、トキワシティは予想以上に町が被害に遭っていた。……これはトキワに限った話でもないが。
その様子を見たリョウスケはこれを見過ごすわけにはいかないと思い、ここに住むことに決めたのだ。
(しかし……異変が起きているおかげとはいえ、ここはかなりの特訓場所だよなぁ)
リョウスケは町の復興を手伝う傍ら、自分の特訓をすることを決めた。あの戦いでまだ自分がかなり未熟だということを知ったからだ。
そしてたまたまではあるが、トキワの森に凶暴なポケモンが生息するようになり、リョウスケの特訓にはちょうどよかった。
また、リョウスケも元々トキワの森で静かに暮らしている野生ポケモンをできるだけ傷つけたくはないので、町の人に指定された追い出して欲しい凶暴なポケモンのみを特訓の対象としている。
「今日は何食べたい、ブースター?」
『うーん、そうだなぁ……』
などと普通の会話をしながら、森から町へと戻ってきた。
そして家に戻り……家の前で誰かが呼び鈴を何回も何回も……鳴らしすぎじゃね?と思うくらい押している友達の姿を、見つける。
いつも見ている、麦わら帽子を被ったご近所さんだ。
「イエロー……何してんの?」
「あ、リョウスケさん!おはようございます!あ、森で特訓してたから家にいなかったんですね」
「俺になんか用事か?ってか、呼び鈴鳴らしすぎだろ……」
「あ、それがですね……」
何やらチケットをポケットから取り出すイエロー。
「じゃーん!なんと!旅行券です!二泊三日!」
「……え、どうしたのそれ?」
何かものすごい笑顔でいきなり旅行券とか言われても訳がわからないので、思わずそんなことを聞いた。
それにリョウスケからイエローに対する旅行のイメージが全くもって無いので、本当に不思議なのだ。
「何か、抽選にたまたま当選してしまったみたいです。で、ペアだったので……リョウスケさん、もし都合がよければ一緒に行きません?」
「え……俺なんかでいいの?」
いきなり旅行なんて言われてかなり嬉しいことは嬉しいが、何故自分なのか?と疑問を抱くリョウスケ。
「いやいや、友達じゃないですか!いつも、リョウスケさんだって言ってるじゃないですか」
「うん、それはそうだけど……他にも人、いるだろ?レッドさんとか」
リョウスケもこういうことを誘うならレッドじゃないか?と思っていただけに、少し不思議に感じた。
「あの、レッドさんはあまり連絡が取れ無い事も多いですし……それに」
「それに?」
「町の人たちもこんなことを言ってました。あのリョウスケって奴は本当によく町のために働く少年だな、たまには休んでもいいんじゃないか?」
「え、ああ確かに言われたことあるかも……」
「町の人もそう思ってますし、ボクもそう思ってるからいいんですよ!たまには、ぱーっと遊びに行きましょう!」
イエローもずっと復興作業を頑張っているリョウスケを見てきた。仲がいいというのも理由の一つだが、少しはこの旅行で息抜きをしてほしいという考えもあったのだ。
「……そうか、そうだな!」
特に復興作業の見返りを求めていたわけではないが、こういう幸運が訪れたのは素直に嬉しい。そしてたまにはいいか、とイエローの意見に賛成し、一緒に遊びに行くことにリョウスケは決めた。
「で、その旅行は何時なの?準備とかもしなきゃいけないだろうし」
「あー、そのー……明日」
「ふーん、明日……明日ぁ!?いやいやいや、おかしいだろ!」
「あの、実はこのチケット見つけたの今日なんです。あはは……」
……これは、まずいとリョウスケは感じる。
何時でも旅に出れるように最低限のものくらいは家にあるが、遊びに行くための道具などは特に持ち合わせていない。
「……お昼にタマムシにでも行って買い揃えるか。あっ、イエローももしかして……何も準備してなかったりする?」
「はい、実は……」
それなら、とリョウスケは考え
「一緒に買い物に行くか?タマムシはちょっと遠いけど、ボーマンダの背中に乗れば割とすぐだから」
「そうですね……お願いします!」
「じゃ、お昼に俺の家にまた来て」
「はい!じゃ、また後で!」
そう言ってイエローは自分の家に戻る。
……そして、横で黙って話を聞いていたブースターに問いかける。
「旅行か……ブースターは、センリさんと一緒に旅行とか行った事ある?」
『あの人は特訓だらけだったからなぁ……色々な地方の色々なところは旅したけど、遊び目的でどこかに行ったことは、ないかな』
「ボーマンダもラプラスもそんな経験は無いだろうしな。……そっか、旅行かー。ここ最近はずっと、作業とか特訓ばかりだったからなー」
今回の旅行に、かなり期待が膨らむリョウスケ。
最近まともに遊んだりすることが減っていたため、かなり楽しみにしているのだ。
「二泊三日か。たまには、俺もポケモンも思いっきり遊ぶとするか!!」
……こうして、イエローとのアルトマーレへの旅行が決定した。
この水の都で、この二人はどのように二泊三日を過ごすのか。
はい、新章アルトマーレ編でございます。
映画ネタですね。ポケモン歴代では人気がない方らしいのですが、作者は歴代の映画で一番好きです。そして自分が映画館に見に行った最後のポケモン映画でもあるので、思い入れが少し強いですね。
これは小ネタですが、アニメのポケモンで唯一瀕死ではなく、ポケモンが死亡した作品でもあるらしいです。
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第十八話 到着!水の都アルトマーレ
「……着いたー!長かったー!」
「うわぁ、ここがアルトマーレですか……綺麗なところですね!」
リョウスケとイエローの二人はクチバからの長い長い船旅を終えて、ここアルトマーレにたどり着いた。
ちなみにクチバを出たのが午前中で、現在はもうすぐ夕方を迎える時間帯だ。
「しかし、疲れたなぁ……俺、実は船旅なんて初めてだからさ」
「ボクも何回か乗ったことはありますけど、未だに慣れないですね」
慣れない船旅を終えて、二人ともクタクタである。
「あれ……今日のこれからの予定ってどうなってるの?」
「えーっと……今日は、特に無いみたいですね。明日がこの町の名物とも言える水上レースで明後日の午前中がポケモンバトルの大会、お昼に船で帰るって感じみたいです。ほら、ここに」
イエローは手に持っていたパンフレットをリョウスケに見せる。
「どれどれ……おっ、本当だな。んじゃあ、今日の残りの時間は自由行動って感じかな?」
「そうですね、せっかくですしこの町を色々見て回りたいです」
「俺もその意見には賛成だな。……んじゃ、さっさと荷物置いて観光と行きますか!」
こうして二人は、指定された宿へと向かうことに。
~~~
二人はようやく宿に到着しお互いの部屋を探す、が。
「……ん、どうやら同じ部屋っぽいな」
「まぁ、さすがにペアでの当選ですからね。別々の部屋って訳にもいかないでしょう」
「それもそうか」
リョウスケとイエローはそれぞれ荷物を部屋に置く。
(あっ……!?)
……そして、この時一人は頭に電流が流れたかのようにとんでも無い事に気がついてしまった。
その一人、とはイエローである。
むしろ何故、今この瞬間まで気がつかなかったのか。イエローは困惑する。
(……ああああああっ!!お、同じ部屋って……同じ部屋って!何でこんなことを今までスルーしてたんだろう、ボクの馬鹿!)
このようにイエローが焦っている原因、それは。
(お、男の子と女の子が同じ部屋って……まずい、まずいです!)
……結論から言うと、リョウスケ、男。イエロー、女。
元々イエローは、トキワの力を除けば町に住んでいる何の変哲も無い女の子だった。……だが、レッドを探す旅に出る際、ブルーに女であることを隠したほうがいいと言われ一人称を私からボク、そしてポニーテールを隠すように麦わら帽子を常備するようになった。
事件が解決してからも、イエローは癖が抜けなくなったのか一人称もボクのまま、外に出るときは肌身離さず麦わら帽子を被っている。
パッと見だけなら、普通の麦わら少年だ。半年間トキワに住んでいるリョウスケでさえ、現在のところは完全に男だと思って接している。
(えーっと、どうすれば……この状況……いや、リョウスケさんなら別にやましいことは考えないはず……ってそんな問題じゃなくて)
色々と混乱しているところに、
「イエロー?」
「ひゃ、ひゃい!?」
リョウスケがイエローを呼びかけた。本来なら何の変哲も無い呼びかけなのだが、現在のイエローに対しては効果が抜群だったようで……とんでもない声が出る。
「……なんか、ごめん?」
何をしたのかわからないけど、色々と凄かったのでとりあえず謝っておくリョウスケ。
「え、えーと?何ですか?」
「いや、そろそろ出かけないか?って言おうとしたんだけどさ、やけに驚かせちゃったみたいで」
「あ、そそそそうですね!時間もあれですし、行きましょう!」
(……なんでイエローこんなに落ち着きがないんだ?)
問題は後回しにして、とにかくまず外に出て切り替えよう、とイエローは考えたのであった。
~~~
「それにしても、本当に綺麗ですよね!ここは」
特に目的も無く町を歩く二人。
イエローは何とか、一応落ち着きを取り戻したようだ。
「そうだよな、海の上に町があるって感じだよな……不思議な町だよなぁ。ってか、さっきから俺たち綺麗だ綺麗だしか言ってないよな?」
「言われてみれば確かにそうかも……でも、本当に綺麗ですからつい」
「そうだよなぁ……そしてこの夕日がまた、うん綺麗だ」
さっきから綺麗しか言ってないこの二人。
現在はちょうど夕日が出ているところで、それがまたこの元々美しかった水の都を、別の美しさへと変える。
……二人が綺麗しか言わないのもしょうがないのかもしれない。その綺麗という、シンプル且つ最大限の評価しか、出てこないような町なのだ。
「えーっと、地図によればこの道を抜ければ大きな広場に出るみたいですね」
「確かに水の流れている場所を見ているのもいいけど、町の内部も見てみたいな」
「あっ、そこの角を左に曲がります……って、あれ?」
曲がり角の先で何かを見つけるイエロー。
「ん?どした?」
「あそこで……ポケモンバトルやってません?」
「えっ、マジか!?」
イエローは先に歩いていたためリョウスケよりも早く広場で起きていることを見ることができた。そしてバトルという言葉に勢い良く食いつくリョウスケ。
半年特訓はしてきたが、人とバトルする機会はあまりなかったのだ。たまにトキワシティの同年代くらいの人とバトルをすることはあるが、結構圧倒してしまうことが多く物足りなさを感じていたのだ。
イエローともバトルをすることはあるが、切り札だったピカが抜けて、リョウスケが勝つ確率がかなり増えている。
「イエロー、早く行こうぜ!」
我慢しきれないのか、リョウスケは広場のほうに思いっきり走った。
「ちょっ……リョウスケさん!?ふふっ、本当にバトルが好きなんだなぁ」
イエローもまた、リョウスケの後を追いに広場へと向かっていった。
~~~
「ほおー……これで十連勝か、すごいなぁ」
「こりゃ明後日の大会に出るなら、確実に優勝候補だな」
広場でバトルを眺めていた人たちは、その強さを目の当たりにし率直な感想を述べていく。
……一方、その十連勝をしている人物といえば。
(……ちっ、バトル自由だったから暇つぶしのつもりだったけど……その暇すら潰せなかったね)
この人物は強い人物とバトルがしたく広場で戦っていたが、相手はどれもこれも雑魚ばかり。何も面白くも無かったということだ。
(あーあ、面白くないったらありゃしない。今日はさっさと宿で、寝るとするか……)
そしてその人物は広場を後にし宿へ向かおうとする――――が。
「お、少年もバトルをしにやってきたのか?」
「いいぞー!面白いバトルを見せてくれー!」
どうやらまた誰かが来たらしい。
「あなたがさっきまでずっと勝ってた人ですか!?俺ともバトルしてください!」
(……あー、面倒くさ)
もう休みたい、とも思ったが周りの盛り上がりがそれをさせてくれない。そして相手が少年だったということもありバトルをしてあげないというのも大人気が無いな、とこの人物は思った。
だったら、適当にバトルしてさっさと終わらせよう、と。
「……しょうがない。キュウコン、適当に遊んであげな」
ボールから自分のポケモンを出し、低いテンションのまますぐに終わらせようとした。相手も少年だし、どうせすぐに終わるだろうと。
……だが、この人物は思わぬものを目の当たりにする。
「ブースター、電光石火!」
ガゴォォォン!
ブースターの電光石火が炸裂しキュウコンは近くの壁へと吹き飛ぶ。
(なっ……!?)
「おお、あの少年すごいぞ!」
「連勝をストップさせるかー!?」
この相手、今までの人物とは違う。
この一つの攻防だけで、すぐにそう感じ取った。
~~~
「舐めないでくださいよ」
リョウスケは感じた。相手は適当にこの場を終わらせようとしていたと。
だがリョウスケはお互いに全力でのバトルがしたいのだ。自分のやりたいことはこういうバトルではない。
「ふっ、ふふ……」
相手が静かに笑い声をあげる。
「いやあ、すまないね?……実は、十連勝なんていっても歯ごたえの無い奴らばかりだったのさ。でもアンタは……さっきまでの雑魚とは違うみたいだね?」
さっきまでやる気の無い目をしていたこの人物も、一気に目が変わる。相手もまた、強者を探していたのだ。
「ようやく、全力で焼き尽くせるような相手が見つかったよ……アンタ、名前は」
「……リョウスケです」
「リョウスケか。……あたしはカガリ、じゃあさっそくやり合うとするか!」
一気に場を纏う空気が変わる。そしてリョウスケは感じる。このカガリという相手、強者だと。
「ふっ……ふふっ」
リョウスケもまた、静かな笑い声をあげる。俺、こんなキャラだっけ?なんて思いつつも、自然に出てしまったのだ。
それだけ久々に凄く楽しみということである。半年前に敗北してから、しばらく強い相手と戦うことは無かった。せいぜいイエローくらいのような物だ。そのイエローも、バトルを本気で戦うような相手かといえば、少し違う。
この半年間、かなりの特訓をしてきた。それを試したくてしょうがない。
「……行くぞ、ブースター。この半年間の特訓の成果だ!」
『うんっ!!』
ここアルトマーレの広場にて、熱い炎ポケモン同士の戦いが幕を開ける。
カガリさん登場。
ここで出るなんてん?って思った人もいるかもしれないですね。
ちなみにカガリは、ポケスペでも個人的に好きなキャラの一人です。
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第十九話 熱き炎の戦い! VSカガリ
「はぁっ、はぁっ……リョウスケさん走るの速いよ」
バトルをやっているのを見るや否や、すぐさま全速力で走り抜けていったのだ。
とても過去は病弱だったとは思えないほどの体力だ。イエローは少し鈍くさいところがあるので、置いていかれてしまった。
「たくさん人がいるなぁ……リョウスケさんどこにいるんだろう?」
気のせいか、先程よりも人が増えているような感じがするのだ。しかも周囲には背の高い大人もいるので、中心で行われているバトルの様子がわからない。
……それが普通のバトルならば。
「うわぁぁっ!?」
突然、中心から大きい……という言葉だけでは足りないくらいの炎が燃え上がった。
「うおぉっ、すげえバトルだ!」
「炎ポケモン同士の戦い……これは熱いですね」
炎ポケモン同士の戦いということは、この大きな炎はお互いの技がぶつかり合って生まれた炎なのだろうか。そうイエローは考えた。
「しかし、突然来たあの少年もかなり凄いな……10連勝をして圧倒的と思われた彼女相手に負けないほどの戦いをしている」
(突然来たあの少年……?それって、もしかして)
イエローは心当たりがありすぎた。恐らくリョウスケだろう、と。
だが、背の低いイエローは炎が一部燃え上がってきていることくらいしか把握できない。
「んー、こうなったら」
イエローは自分の持っているボールの一つに手をかける。
「ピーすけ、お願い!」
自分の手持ちであるバタフリー、ピーすけを出して少しだけ空を飛び、バトルの様子を見る。
「あっ、やっぱり……リョウスケさんだった」
思った通り、あの戦っている少年はイエローがよく知るリョウスケであった。
このままピーすけに飛んでもらいながらのんびりバトルでも見ようか、そう思った矢先に……
「あ、危ねぇっ!!」
「熱っ!?」
(ん?……って、うわぁっ!?)
高レベルなバトルの影響か、周囲に火の粉が飛び散ってきたのだ。
地面に立っている人たちには勿論、飛んでいるイエローにも。これでは、のんびり見れるなんて余裕などない。
「こんなところにまで火の粉が飛んでくるなんて……?お互い、凄い威力だなぁ」
バトルを見るだけでも危険だな、そうイエローは思った。そして、それだけ熱いバトルが行われているということでもあるのだが。
~~~
ゴオォォッ!!
何度もお互いの炎技がぶつかり合い、その度に大きい炎が燃え上がる。
「ははっ、いいねいいねぇ!あたしはこういう戦いを望んでたんだよ!」
カガリの声と共鳴するかのようにキュウコンの炎も激しくなってくる。
「こっちも……こんな熱い戦いは久しぶりですよ!ブースター!!」
こちらもリョウスケの呼び声と共にブースターの炎が強くなっていく。
炎は何度も何度も衝突し、勢いを失うということを知らないかのようにさらにさらに燃え上がる。
「マジで熱い戦いだなこりゃ!」
「見てるほうも熱くなってくるな……いやもうそれは物理的に」
「このまま、お互いごり押しでスタミナ勝負か……?」
「体力勝負なら、少年のブースターのほうが小柄だし不利になってくるのか?」
周りの観客もそのバトルを見ながら様々な感想を述べていく。
そしてバトルのこれからの勝敗については、大体の人がこのまま炎のぶつかり合いの力勝負、そしてスタミナ勝負になると感じていた。
……だが、当のバトルをしている本人たちは。
(ったく、雑魚共が適当なことをべらべらと……このバトルの勝敗のポイントは、そこじゃない)
(相手はどう考えているかわからないけど……俺は体力勝負で決着がつくとは思えない)
お互いが、別のことを考えていた。
(見ている連中からはわからないかもしれないけど……あたしのキュウコンは、あのブースターに力で負けている)
カガリ自身、自分のキュウコンは相当の火力を持ち、そこらのポケモンにはまず負けることは無いだろうという自信を持っていた。
だが目の前にいるブースターは、その自分のキュウコンよりも強い火力を持っているのだ。
(……はっ、こんなガキのポケモンに力負けたぁ、情けないったらありゃしない。ま、とは言っても……)
キュウコンというポケモンには、とある利点がある。そのおかげで、力でも互角に戦えているように見えるのだ。
(あたしのキュウコンは尻尾から九つの火球を放てる。そのおかげでお互いが同時に放つ炎パワーの総合力では、互角に戦える)
そう、キュウコンとは名前の通り尻尾が九つある。そして全ての尻尾から火球を放つことが可能なので、手数が多い分力が上乗せされるのだ。
(さーて、この膠着状態にも飽きてきたね?向こうも、どうしてくるやら……)
……一方、リョウスケも
(くそっ……力では上回っているはずなのに押し切れねぇ!)
この炎のぶつかり合いという緊張状態に、何とも言えない歯がゆさを感じていた。
(相手……カガリさんもごり押しのように見えて、多くの火球をコントロールして威力を上げている。炎の使い方がかなり上手い)
この大味な力勝負に見える裏には、細かいテクニックによるものがあるのだ。
(とにかく、この膠着している状態をどうにかしなきゃならねぇ)
リョウスケは考える。どうすれば相手に大きいダメージを通すことが出来るか。
(炎以外の攻撃で攻めるか?だったら……!)
リョウスケはここで、初めて炎以外の別の指示を出す。
「ブースター!影分身だっ!」
『うんっ!』
指示を受けたブースターは周囲にいくつもの分身を作っていく。
「(ここで影分身……?)そんな小細工をしたところで、全部燃やせばいいだけの話になるけどねえ!?」
カガリの言う通り、キュウコンには手数があるのだ。分身を作ったところで、全てに攻撃するというのは簡単な話である。
「まだですよ!ブースター、そこから電光石火!」
「ッ!?面倒くさいことをするねえ!!」
全ての分身が高速で動いていく。これでは、攻撃を当てることすら容易ではなくなる。
……だが、
「……ふっ」
この状況ですら、カガリはどこか余裕を見せているのだ。
「そんな余裕を見せていていいんですか?」
「焦るよりは、マシだろう?」
リョウスケからすると、出来ればこのトリッキーな作戦で少しでも焦ってほしかった。それがリョウスケの狙いでもあったからだ。
(何故、余裕なのかわからないけど……ここは攻めるしかない!)
そしてその意志を受け取ったかのように、ブースターはついに攻撃を開始する。
ガアァァァン!!と、大きな音が鳴り響いた。ブースターの攻撃が、ヒットした音だ。
「……どうなった!?」
「凄い音がしたな……」
周りの観客も緊張状態が終わり、攻撃が通って今の状況に対してかなり気になっている。
「……ッ!?」
そしてリョウスケは、思わぬものを見た。
「はんっ、すばしっこいブースターをようやく捕まえたよ!……どうして、って顔してるねえ?」
あれだけの素早い攻撃をしていたというのに、ブースターがキュウコンに捕まっているのだ。
リョウスケも思わず、驚きが顔に出てしまう。
「簡単な話さ。最初っからこっちは一発を喰らうことを覚悟していたのさ。別に影分身をしたからといって本体が増えるわけじゃあない。来るとわかっているなら、それなりの対応は出来るってことさ」
キュウコンはブースターの一撃を喰らうことを前提に動いていたのだ。カガリのキュウコンほどの実力があれば、その喰らう覚悟さえあれば対応することは出来るということ。
これがもしスピードに躊躇していたならば、上手くブースターのヒットアンドアウェイ攻撃に翻弄されていただろうが。そしてそれこそが、リョウスケの策でもあったわけである。
「さてキュウコン、こっちも一撃喰らったんだ。……でかいの一撃、返してやりな!破壊光線っ!」
「……くっ!」
ゴオォォォッ!!と大きな光線をブースターはもろに喰らう。
『……』
さすがに耐え切れず、気を失い戦闘不能だ。
「おお、キュウコンが勝った!」
「これで彼女の十一連勝か!!」
周りの人々も、完全にキュウコンが勝利したと思った。そしてリョウスケも、ブースターが敗北したと思った。
「……おいおい、何が十一連勝だって?よく、目凝らして見てみるんだね」
ドサッ。
何と、カガリのキュウコンも倒れているのだ。
「……はっ、覚悟はあっても身体は正直、ってか?思った以上に、ブースターの一撃が重かったみたいだねえ?……引き分けってとこか」
「ブースター……」
……この現状を見て、自分の策さえしっかりしてたら勝てた勝負だったな、とリョウスケは思った。
そして、まだまだ反省するべき点は色々あるな、とも。
「お疲れ、戻れ!」
ねぎらいの言葉をかけ、ブースターをボールに戻す。そしてカガリもキュウコンをボールに戻す。
「おい少年、お前すげえな!」
「ああ、お互い熱いいいバトルだったぜ!!」
「俺火傷した」
バトルを見ていた人々も、その熱さに感動し勝敗に関係なくリョウスケを称える。
そして、一方のリョウスケと言えば。
「はぁー……」
と、深いため息を一息ついた後
「あぁー、すっげー楽しかったあぁぁ!!……でも、勝ちたかったなぁ」
喜んだり、しょんぼりしたりと忙しい様子であった。
ここに熱きバトル、終焉する。
~~~
「……うーん、見ているボクも熱くなるようないいバトルだったな!」
リョウスケ対カガリのバトルを見ていたイエローは、感想を率直に述べる。
イエローも、少なからずいい刺激を受けたのだ。
「さてと、バトルを終えたリョウスケさんの所へっと……って、ん?」
イエローは現在飛んでいるため、大きな通りから路地裏の細かいところも見える。
「ああ、そうだ。わかった、明日だな……」
そして路地裏のところに、何やら羽のマークがついた怪しい人がこそこそと電話をしているのだ。
(……まぁ、特に気にするようなことでもないかな?)
と、イエローはあまり気にはせずその場を後にする。
まさかこの羽のマークのついた連中が、後にアルトマーレで騒動を引き起こすとは知らずに。
小ネタ
影分身→電光石火のコンボ……これ、実はゲームのコンテストでのコンボなんです。
カガリは過去にコンテストに挑戦していた、という実績があります。このコンボの対策をすぐ思いついたのも、そういう理由から……ということです。
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第二十話 修羅場
「リョウスケさーん!!」
バトルを終えたリョウスケの元へ、イエローは駆けつける。
「お、イエロー!……俺のバトル見てた!?」
非常にいいバトルを終えたせいか、満足気で笑顔のリョウスケである。
それに対し、イエローは。
「それはもう、ずっと見てましたよ!あんな周囲に火の粉飛び散らすくらいですから……というか、ボクのこと走って置いて行かないでくださいよ!」
「あ、わりぃ……」
リョウスケはバトルがやっていることを知るや否や颯爽と走っていったので、そのことに対してちょっと怒っているイエローであった。
「ん、お友達かい?」
「あ、はいそうです……あの、バトル楽しかったです!ありがとうございました!」
カガリに対し、いいバトルが出来たことに対してお礼を言うリョウスケ。
それを聞いたカガリは、
「……フン、こっちも楽しめたよ。じゃあね」
とだけ言葉を残し、その場を後にする。
「あー、しっかし……疲れたなぁ」
「そりゃ、あれだけのバトルの後ですからね……時間もちょうどいい頃ですし、そろそろ宿に戻ります?」
「そうだな……今日は、ゆっくり休むか」
リョウスケとイエローもまた、宿に戻ることに。
「おう、少年!明後日の大会出てくるなら、楽しみにしてるぜ!」
「そうだそうだ、明後日出ろよ!」
周囲の人々は、今のバトルを見て明後日に行われる大会にリョウスケが出ることを願って、声をかける。
周りも、リョウスケの実力を完全に認めたということだ。
「はい、是非出たいです!……じゃ、戻るか」
「そうですね!……おいしい食べ物とか、たくさん出てくるのかなぁ」
「俺も……腹が減ったな」
これからの楽しみを二人で語りながら、その場を後にした。
~~~
そして、リョウスケとイエローは宿に着いた。
二人は少し部屋でくつろいだ後に、レストランに向かい豪華な食事が出てきたことに、とてもおいしい、そして楽しい時間を過ごした。手持ちのポケモン達も同様だ。
食べることに関しての時間だけでも、お互いかなり有意義な時間を過ごすことが出来ただろう。
しかし、こんなすばらしい、楽しい時間もついに崩壊の時がやってきた。……主に一人だけだが。そう、イエローである。
事の発端は、こうだ。
「さて、飯も食ったし一緒に風呂入りに行くか!!」
なんてことを、部屋でリョウスケが言い出したのだ。
……いや、これは友達と一緒に宿、あるいはホテル特有の大きい風呂に入りに行くぞー!的なテンションが上がってはしゃいでいる子供にはよくある、普通の台詞である。
リョウスケは、特に間違ったことを言っているわけでもない。……普通なら、の話だが。
「……」
「……どした、イエロー?さっき、食べ過ぎて少し体調が悪くなったとか?」
特別イエローが食べ過ぎたわけでもないし、体調が悪くなったわけでもない。……ある意味泣きそうではあるが。
今、イエロー……彼女は、この場をどうするべきか真剣に、真剣に悩んでいるのだ。
(リョウスケさんには、特別隠していたわけでも無いんですけど……)
結果的にだが、自分が女であることを隠してしまっている。
これまでの生活からすると多分ではあるが、リョウスケは自分のことを完全に男だと思い込んでいるだろう。そうイエローは思っている。
「……リョウスケさん」
「ん、どした?」
彼女は一つの覚悟を決める。
「今から見せること……そして話すこと……驚くなって言うほうが難しいかもしれないですけど」
「……何だよ、急に改まって?」
自分が隠してきた秘密を、明かす覚悟を。
「……いきます!!」
パサァッ、と自分の被っている麦わら帽子を脱ぐ。……そこからは、女の子のかわいらしいポニーテールが、露となった。
「……えーと」
「」
「あの……リョウスケさん?」
「」
「ちょっと……リョウスケさん……?」
今のリョウスケの顔面状態及び精神状態を表すとするならば……ポケモンがこおり、まひ、こんらんといった状態異常を同時に受けているような感じである。
それほどまでに、ひどい。……いや、ひどいの一言で済むレベルではないかもしれない。
「お……」
そんなリョウスケであるが、約5秒というイエローからすると何分もの時間に感じる時を経て、ようやく口を開く。
「おおおお女ぁ!?女の子!?イエロー!?ボク!?え、え?」
……明らかにぶっ壊れてしまった感は否めないが。
「……リョウスケさん」
(いやマジかマジでかイエローが女の子……!?うぇぇぇぇ!?しかも結構可愛いし何だ何だ一体何がどうして」
「へっ!?か、可愛い……!?」
「!?」
あまりの動揺に、思わず心で思っていたことが口に出てしまったリョウスケであった。
……しかも、その言葉で二人はさらに動揺してしまう。
「ボク、そんな事言われたことほとんど無かったのに……」
「待て待て待て!俺今何て言った!?」
あまりの動揺っぷりに少し前のことすらちゃんと覚えていないリョウスケ。
「えっと、言っていいんですか……!?」
「お、俺何かイエローを傷つけるようなこと言っちゃったかな!?」
動揺しすぎて何かひどいことを言ってしまったかもしれないとリョウスケは物凄く焦る。
……ある意味では、ひどいことを言っているかもしれないが。
「い、いや、そういうわけじゃないんですけど……あの、その……か、可愛い、って」
「……」
突然黙ってしまうリョウスケ。
……だが、いきなり彼は動き出す。
「うおおおぉぉぉっ!!」
「え、ちょっと……ちょっとおおお!?リョウスケさああん!?」
突然、ベッドの枕元に移動したかと思えば枕に思いっきりヘッドバッド連続をぶちかましているのだ。
「俺のばかああぁぁぁぁああ!!!」
「お、落ち着いてくださあぁぁぁい!!」
……恐らくこの二人、生まれてきてから最も大声を張り上げた日となっただろう。それはもう、テレビでやるような大声選手権でぶっちぎりのトップになれるほどの。
~~~
「はぁ……はぁ……」
「お、落ち着きました?って、ボクが言えることでもないんですけど……」
イエローも秘密を暴露する際は、かなり落ち着きの無い状態だった。
……だが、そんなイエローが可愛いくらいにリョウスケの焦りっぷりは半端ではなかった。
「……よし、落ち着いた」
そんなリョウスケも何とか、いつもに近い状態を取り戻す。
「えーと、イエローは……女、でいいん……だよな?」
「……はい」
「うん。……でも、何でわざわざ?」
「?」
「いや、その……」
リョウスケが特に気になること。それは何故イエローが、今まで女であることを隠してきていたのかだ。
……しかし、もしかしたら聞いたらまずい事情でもあるんじゃないかと思ったリョウスケは、なかなかそのことを聞き出せない。
「え、えっとじゃあ……何故、ボクが隠してきたのかを……話したほうがいいです……よね?」
「……話しにくいなら、無理しなくても大丈夫だぞ」
「あ、別に物凄い言いにくい理由とかじゃ無いですから……そこは、大丈夫ですよ!」
「そ、そうか?……なら、聞きたい……かな」
そしてイエローは何故これまで女であることを隠してきたのかを話した。
レッドを探しに行く旅の最初にブルーに言われたこと。
そして気がついたらそれが色々と癖になってて、隠していたつもりではないが結果として隠し続けてしまっていたこと。
「……あー」
話を聞いたリョウスケは、そんなため息にも近いような一言を漏らした。
「ど、どうしました?」
「いやー、何と言うか……色々と納得は出来た、出来たんだけどさ……」
自分の見に染み付いたものは、なかなかすぐに直せるようなことではない。そしてそれはリョウスケも、わかっている。
でも、それでもだ。
「この半年間……どっかで……言えなかった?」
「うっ……それはその……」
リョウスケはこの半年間でのイエローへ対する様々な行動を振り返った。
完全に……イエローのことを男として接していた自分がいた。その行動を恥ずかしいとも思ったし、イエローに対して申し訳ないという気持ちも出てきた。
(まぁ……でも)
それでも、時間はかかってはいるがイエローは言ってくれた。その事実が重要である。これだけの時間がたっていたのだ、言うだけでもかなりの勇気が必要だっただろう。
「……リョウスケさん」
「……ん?」
「その……ずっと、今まで、言えなくて……ごめんなさいっ!」
「……はぁ」
「えっ!?な、何でため息ですかっ!?」
「だってさぁ……」
呆れ顔で、リョウスケは言う。
「イエローが謝る必要、どこにもないじゃん?……むしろ、こんな言いにくいことよく言えたな、イエロー」
「えっ……」
「いいんだって、ちゃんと勇気振り絞って言ってくれたんだろ?確かに、ちょっと……いやかなりびっくりはしたけどさ」
「リョウスケさん……」
「何だろ……こういうとき、なんて言えばいいんだ?えーと……」
何か難しい良い言葉があったような、そんなことを考えるリョウスケ。
……だが、結局は、
「いや、変な言葉はいらないな。要するに……これからもよろしくな、イエロー!」
シンプル且つ、リョウスケが思いついた言葉の中で最も良い言葉。
色々と驚きはしたが、結局のところイエローはイエローなのだ。これからの接し方も……まぁ、多少は変わることはあるかもしれないが何もこれで友達をやめるとかの話ではない。友達であることに、変わりはない。
それを聞いた、イエローは。
「……ありがとうございます、リョウスケさん。そして……これからも、よろしくお願いしますね!」
先程までの不安そうな顔はどこへやら、笑顔でそう応えた。
「お、おぅ……」
いきなりの笑顔に不覚にもかなり可愛い、そんなことをちょっと思ってしまったリョウスケであった。
「……でも、ボクって言うのだけでも直せないの?」
「あはは、完全に癖になっちゃいまして……昔は私ってちゃんと言えてたんですけどね、今なら意識しないとボクって言っちゃいますね……」
「……ボクっ娘」
「ち、違いますよ!いや、違わないかもしれないですけど!その言い方、何か嫌です!……ちょっと、ニヤニヤしないでくださいよっ!」
まだまだ、旅行先の夜の時間は続く――――
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第二十一話 温泉~女湯編~
イエローが秘密を暴露してからしばらくたった後。
お互い、色々なことを楽しくお喋りなどをして時間を潰していたのだが……
「ようしっ、風呂行こうぜ!」
と、声を出す男が一人。そう、リョウスケである。
「えっ……?」
「いや……ちげーよ!別に一緒にとかじゃないから、そんな顔するなって!?」
……こんなやりとりもあったり。
「……ほら、今日一日疲れただろ?だからさ、しっかり風呂入って疲れを取ったほうがいいだろ?」
「それはそうですね……あっ、ここの温泉」
「ん?……おお!」
……さて、突然だが大きな温泉施設になると、ポケモン浴場というものを置いていたりする施設もある。
具体的には男(♂)と女(♀)で、人間とポケモンが共に利用することが出来るといったものだ。常に身体から電流を放出している電気タイプのようなポケモンや、自分で体温をコントロールできない氷ポケモン等は一部利用が制限されていたりはするが。
そして、リョウスケとイエローがいるこの宿も、このポケモン浴場というものが設置されているのだ。
「俺、ポケモン浴場ある施設初めてなんだよなぁ」
「ボクもです!何か、これだけでも旅行に来てよかったって思えますね」
二人ともこのような大きな施設を利用するのは初めてである。それ故に、お互いワクワクするところがあるのだろう。
「じゃ、これ頼む」
「ん?ラプラスのボール?」
「そ、俺のラプラスは♀だからさ。女湯へ向かうイエローに預けるってことで」
本来なら男一人で来た場合、♀のポケモンは受付に預けることとなっているが、男女で来た場合は信頼の置ける人物なら、男が女に♀のポケモンを預けるといった行為は許可されている。逆も然りだ。
「あっ、了解です!じゃ、これも」
イエローも同じように腰のボールをリョウスケに預ける――――全部、である。
「えっ?」
「ボクのポケモン、全部♂なんです。リョウスケさん、お願いしますね!」
「お、おう……」
まさかの事態に、リョウスケは困惑していたり。そんなこんなで、お互い別々の浴場へ向かうことへ。
~~~
女湯――――
欲求に飢えている男からすれば、まさに桃源郷。……まぁ、そんな幻想を除けば設備も何も男湯と変わらないものではあるが。
そして男湯としっかりと区切られているので、何かを期待している人からすると残念ではあるが、特に変な?イベントは期待できない。
「うわぁ……!」
浴場を利用している人がたくさんいるのは勿論のこと、辺りに様々な種類のたくさんのポケモンもいる。
「そうだ、ラプラス!」
イエローもリョウスケのラプラスを出す。
「……ん?」
ラプラスも嬉しそうに出てくるのかと思いきやそうではなく、ちょっと複雑な表情をしているのだ。
(……どうしたのかな?)
イエローもその表情が気になって、ラプラスの気を読み取る。
「ラプラス……大丈夫だよ?」
イエローが読み取った気、それはまだラプラスの心に残っている人間への不信感だ。トレーナーであるリョウスケや友達のイエローは信頼できるのだが、このような大きな施設には危ない人間もいるのではないかという思いがどうしてもよぎってしまうのだ。
「ほら、ここにいるポケモン達の表情を見てごらん?」
どのポケモンも、楽しそうだったりくつろいでリラックスしたような顔をしている。
「危ないトレーナーがいたら、ポケモン達もあんな表情は出来ないから。ここにいるポケモンのトレーナーは、きっと良い人たちばかりだと思うよ!……だからさ」
未だ複雑な表情をしているラプラスに、イエローは一言。
「ラプラスもそんな顔しないで……せっかく来たんだから、楽しもう?」
イエローのラプラスにも楽しんで欲しいという純粋な気持ちからの一言である。
その一言でラプラスの気持ちに変化があったのか、表情も柔らかくなる。
「じゃ、早速露天風呂にでも行こう!……あっ、その前にちゃんと身体洗わないとね」
イエローは自分の身体を洗った後ラプラスの身体を洗ってあげて、お互い露天風呂に行くことに。
~~~
露天風呂――――に限った話ではないが、ここポケモン浴場では大型のポケモンも利用できるように、通常の温泉施設よりも大き目の広さに作られている。……さすがにホエルオーのような大きすぎるポケモンは無理ではあるが。
この露天風呂でも、人を背中に乗せるほどの大きさであるラプラスでも利用できるくらいの広さはあるのだ。
「あー……気持ちいいなぁ……」
あまりの気持ちよさに、ちょっぴり腑抜けてしまっているイエローである。
「ラプラスも、気持ちいい?」
その問いに、こくんと首を縦に振って返事をするラプラス。
「うん、それならよかっ……たぁぁぁー……」
ちょっぴりどころか、完全に腑抜けてしまっているイエローであった。
「ぁぁぁ……あれ?」
「ん?あれ、アンタは……」
イエローはどこかで出会った事があるような、そして相手も同じことを考えていた。
「確か、リョウスケと一緒にいた……」
「あっ、リョウスケさんとバトルしてた人だ!」
その相手とは、夕方にリョウスケとバトルをしていたカガリである。
「……」
「……えっと?」
会話が続かず、気まずい空気が流れる。とりあえず会話をつなげようと思ったイエローは、
「あ、そういえばお互い名前わからないですよね!ボクはイエローです!」
と、とりあえず自己紹介をする事に。
「ふーん、イエローねぇ。あたしはカガリ……いやあ、男だと思っていたけどまさか女だったなんて。さすがのあたしもわからなかったよ」
「あぁー……はい。実は、さっきまでリョウスケさんにも言ってなくて」
「……は?」
「そりゃ、さすがに驚きますよね……ちょっとした、事情があったんです」
「はーん……まぁ、あたしはアンタの事情なんて興味はないけど」
何故かカガリはニヤニヤしながらイエローに問う。
「男女仲良く旅行ってことかい、それはそれは楽しそうだねえ?」
「いや、カガリさんが思っているようなことじゃないですってば!確かに、楽しいですけど!」
「……あたしは何も言ってないけど?」
嵌められた!とイエローは思った。自ら、墓穴を掘ったような感じだ。
そして、それとは別に先程の会話に少し違和感を感じていた。
「あれっ、何でカガリさんはボク達が旅行に来ていると?」
ここは旅館ではあるが大きな施設がたくさんあるので、地元の人も利用する人が多い。それにも関わらずカガリは旅行、と言い切ったのだ。
「なあに、簡単なことさ。この町はそれほど広い町ではない。リョウスケのようなバトルの強い少年がもし地元にいたら、普通なら周りもわかるはずだろう?」
「あっ、周りはリョウスケさんのことを初めて見たような反応をしたから……」
「そういうこと。だとしたら考えられるのは、他の地方から来たって事くらいだろう?ここに他の地方の人が来る目的なんて、観光旅行くらいなもんさ」
「はぁー……なるほど」
イエローは素直に感心していた。バトルが強いトレーナーというのは、バトル以外でも洞察力が優れていたりするものなのかな、とイエローは思った。
「で?」
「……はい?」
「色々事情はあったのかもしれないけど、男女で旅行に来るくらいだ。アンタ、ぶっちゃけリョウスケのことどう思ってるんだい」
「えっと……?」
……まぁ、確かにこのような会話の流れになるのもしょうがないのかもしれない。仮にこんな所で本音を言おうが言わなかろうが、結局リョウスケに伝わることはないだろう。
だが、忘れないでほしい。ここが、どこであるのかを。そう……ポケモン浴場である。
そして……ここにはリョウスケのポケモンである、ラプラスがいる。
『(何か聞いても私は聞かなかったことにしたほうがいいのでしょうか……?)』
さらに言えば、本来ならばポケモンに聞かれていようが聞かれていなかろうが、関係無いだろう。
だが……リョウスケならば、関係がある。そう、彼はポケモンと話すことが出来るのだから。
そして、イエローもそのことに気がついていた。
(ボクが言ったことラプラスに聞かれたら……色々とまずいのかな?)
イエローはもう一度改めてリョウスケのことを考える。
出会ってから約半年が立った。自分で思うのもなんだが、親友と言ってもいい関係にはなっているだろう。
そして今日、女ということを明かした。男女としてはどうだろうか?と。
(うーん……うーん?)
イエローが出した結論は、こうだ。
(……いまいちわからないや)
今までリョウスケはリョウスケとして見てきたわけで、あまり男として意識したことは無かった。いきなりどうとか考えても、わからないのも仕方ないだろう。
……今日で今までとは多少は考え方が変わったというのは否めないが。
(はぁー……年端もいかないガキが、何必死に考えているんだか)
複雑そうに考えるイエローの表情を見て、カガリはそう思った。こういうことを必死に考えているということイコール、本人がよくわかっていないということだ。
「あー……いいよ、そんな必死に考えるくらいならさ。こういう質問って、パッと答えられなきゃ面白くないし」
「あっ、すみません……でも、これだけは言わせてください。リョウスケさんは、大切な親友です!」
「……親友ねぇ」
その時突然、プルルルッ!と電話音が鳴り出した。カガリの対防水式ポケナビだ。
「っと、何だってんだい人がくつろいでいる時間に……じゃあね、イエロー。また会えるといいね?」
愚痴りながらも、カガリはポケナビを持って風呂から出て行った。
「……はぁ」
ため息の主は、イエローだ。リョウスケのことをどう思っているかとの質問をされて、自分でもいまいちわかっていないということを考えさせられたからだ。
「まぁ、いっか」
だがお気楽思考のイエロー、そこはあまり気にしなかった。
「ラプラスは、どう思っているのかな。……そっか、ラプラスはリョウスケさんのことが好きなんだね」
イエローは手をかざしラプラスの気持ちを読み取った。この好きとは、愛情ではなく好意のほうであるが。多少の憧れや尊敬といった感情も混じっていた。
「んー……難しいことを考えるのはやめようっと!せっかくだし、思いっきり楽しまないとね」
もうちょっとゆっくりしてから風呂から上がるかな、そんなことをイエローは考えた。
~~~
「ったく、こんな時間に掛けて来なくてもいいんじゃないの?こっちは、温泉に浸かっていたんだからさ」
「ハハ、それは悪いな。だけどそっちの都合なんて知らねえっての」
カガリは浴場から出て、電話の相手と話していた。
「で、用件は?」
「まずは一つ、グラードンの調査についてだ」
「はっ、そんな情報こんな場所にあるかっての。リーダーだってそう思っているだろうし、アンタだってそう思ってるんだろう?」
カガリは、マグマ団団員……それも幹部である。現在アルトマーレにいるのは、単なる観光何かではなく任務で来ているのだ。
そしてこのカガリの電話の相手もマグマ団団員であり、同じく幹部であるホカゲ、という男だ。
「まぁな。でもいいだろ、半分遊びに行けたようなもんなんだからよ」
「結構退屈だったけどねぇ……まあ、今日は久々に面白かったけど」
「……何かあったのか?」
「ただ、バトルの強い奴を見つけただけさ。それもガキと来たもんだ。しかも、実力もかなりのものさ。戦ったけど、引き分けだったよ」
「……へえ、珍しい奴もいるもんだな」
ホカゲもカガリと長い付き合いであり、性格もよく知っている。
まずカガリが興味を持つというだけでも珍しいことであり、バトルで引き分けるほどの実力を持っているということもさらに珍しいことだ。何せ、ホカゲはカガリの実力を知っているのだから。普通なら、まず負けないほどの実力は持っているということを。
「ま、そっちの話も気になるが、もう一つ……スカイの連中についてだ」
「……スカイの連中がどうかしたってのかい?」
スカイの連中とは、ホウエン地方にある組織の一つ、スカイ団というものだ。
ホウエンにはマグマ、アクア、スカイといった組織があり、それぞれが自分たちの目的のために活動をしている。それが犯罪に近いような過激な活動であってもだ。
「アルトマーレに何人かいるといった情報を手に入れた。近いうちに何か動きがあるかもしれねえ」
「ふーん……で、あたしにそいつらをぶちのめせと?」
「……大きな動きがあるならな」
「はいはい、気が向いたらね」
「フン……そっちは任せたぞ」
そこでホカゲとの連絡は途切れる。
「はぁー……めんどくさ」
基本的には自分の興味のあることしかやらないカガリ、かといって放っておくわけにもいかない任務なのだ。
疲れたから今日は寝よう、そう考えたカガリはさっさと着替えて自室へと戻っていく。
~~~
「はぁー、いいお湯だった!」
ラプラスをボールに戻し、幸せそうな足取りで自室へと向かうイエロー。
「リョウスケさんは、戻っているかな?」
男の人の風呂と女の人の風呂ってどっちのほうが早いんだろう?とよくわからないことを考えながらイエローはドアを開けるが、
「あ、リョウスケさん戻ってたんですね!って、あれ?何で元気ないんですか……?」
先に戻っていたリョウスケ。だが、風呂から戻ってきたばかりだというのに何故か元気が無いように見えるのだ。普通ならばイエローのように、元気になるはずなのに。
「お、おうお帰り……いや、7匹のポケモン管理しながらなんて……ゆっくりしてられねぇ」
「……あっ」
圧倒的に♂ポケモンのほうが多かったために、リョウスケの負担が大きかったのだ。
「いや、まぁイエローのポケモンはまだおとなしかったからいいんだ……問題はこいつらだな」
リョウスケは自分のボール、ボーマンダとブースターを指差す。
「ボーマンダは浴場で俺以上にはしゃぐしブースターはそれを止めようとしてお互いケンカになるしで……疲れた、マジで疲れた」
「はは……お疲れ様です?」
「だからといってこいつらばかり見てるわけにもいかなかったしな……イエローのポケモン全てをチェックするのにも骨が折れた。……あぁ、何でこんなに疲れたんだ?」
自分のポケモンには悪いけど、明日の風呂の時はリョウスケにポケモンを預けるのは遠慮したほうがいいな、そんなことを考えたイエローであった。
さてさて、感想を頂いた中で質問がいくつかあったのでこちらでも答えます。
※イエローとの恋愛はあるのか?
これに関してですが、期待していた方がいましたら申し訳ないですが、無いです。元々イエローは好きなキャラでオリジナル要素の中にも出番を多く増やす予定もありましたが、恋愛要素というものを作る予定はなかったので。あくまで、リョウスケの友達といった形ですね。ただ、リョウスケもイエローが女ということを知り、多少お互いに意識する描写はこれからも出てくると思います。
そしてオリジナル要素、スカイ団。ちょくちょくそれっぽいものは今まで書いていたのですが、ようやく名前を出せました。……まぁ、これはすぐにわかるかと思いますがマグマ=グラードン、アクア=カイオーガ、スカイ=レックウザといった感じですね。4章は絡みませんが、5章(ラスト)に大きく絡んでくる予定です。
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第二十二話 ボーマンダの夜のお散歩
それと気がついたらお気に入り100件越え+UA10000越え……正直ここまでこの作品を読んでくれる人がいるとは思ってなかった。感謝です。
旅行初日も時間が流れ、現在の時刻は――――12時。
くたくたになった子供なら、普通ならぐっすり眠るような時間だろう。……普通ならだが。
「……ぐぅ」
(イ、イエローは寝たかな?)
疲れているはずなのに眠れていない少年が一人、そう、リョウスケである。まだ子供とは言え男の子なのだ、同部屋に女の子がいてちょっぴり意識してしまうのも無理はないのかもしれない。
……一方のイエローだが、ベッドに入り込むや否や、すぐに眠りについてしまった。流石、寝ることに関しては一級品である。
(……眠れねぇぇぇ!!くそっ、こういうときは……メリープが一匹、メリープが二匹……)
よくある寝る為の方法である。ここで羊と言わずにメリープと言うところが、この世界にリョウスケが慣れてきたというのもあるのかもしれない。
~~~
時刻は過ぎ――――12時半を迎えたところ。
「……ぐぅ」
「ぐぉー……」
二人とも、眠りに着いたようだ。何だかんだ結局そこまで意識しないあたり、まだまだ子供という所であろう。
カチッ。
突然、何かが開くような音が鳴る。モンスターボールの開閉スイッチだ。
『……あ?』
ボンッ!という音を立てて中から出てきたのは、ボーマンダだ。普通なら開閉スイッチの音が鳴って、さらに体長がかなり大きいボーマンダが出てきたのだ、リョウスケかイエローが気がついて起きてもおかしくはない。
『……ちっ、またアイツか』
それでも、周りは気がつかない。まるで、何かに音が遮断されているかのように。
『ったく、超能力で防音ってか。わざわざ俺をボールから出したってことは……外に出ろってか?面倒くせぇ……俺だって寝てたのに』
何か身に覚えのあるような振る舞いを取るボーマンダ。しょうがねぇな、と一言呟き外に出ることに。
~~~
『あ、来た来た♪』
『こんな事するのって、やっぱりお前しかいないよなぁ……ミュウ』
アルトマーレの深夜の外。
この時間帯にわざわざボーマンダを呼び寄せたのは……ミュウである。
『やっほー、久しぶりだね!何ヶ月ぶりくらいだろ?』
『俺は出来れば会いたくなかったけどな……』
笑顔のミュウとは対照的に、既に疲れたような顔のボーマンダ。いかに過去に、ボーマンダがミュウに振り回されていたかわかるだろう。
『……で、何で呼び出した?俺、もう寝たいんだけど』
『まぁまぁ、そんな事言わずに。ちょっとね、面白いところがあるんだよ?』
『……面白いところ?』
それはミュウからしてなだけであって俺からすると面倒くさいだけではないのか、そんなことをボーマンダは思った。
『そ、ついてきて!』
と、一言だけ言ってふわっと空中に浮きながら移動するミュウ。それに対しボーマンダは、いかにも重い足取りでのっしのっしとゆっくり歩いていくのだった。
~~~
ミュウの跡を追い、暗い暗いアルトマーレの夜道を歩いていくボーマンダ。
『しかし……こんな道もあるんだな、まるで迷路じゃねぇか』
今歩いているのは、表の大きい道ではなく、普段人があまり出歩かないような……裏道だ。
表道が綺麗な道と言うならば、この裏道は不思議な道といった言葉が合うだろう。
『……ん?』
ミュウを追ってたどり着いた場所。それは……
『何だここ……植物園か何かか?』
周りには様々な草が生い茂り、昼間にはポッポのような野生ポケモンが周囲を飛び回りそうな場所だ。今は深夜なので、ホーホーがおとなしく木に止まっているだけだが。
『あ、来た来た。こっちだよ、こっち!』
『こっちって……壁じゃねーか。ぶっ壊した先に何かあるってのか?』
『そんなわけ無いじゃん。馬鹿?』
『……』
怒りをこらえろ、あいつのペースに乗るな。ボーマンダは自分に言い聞かせ冷静を保とうとする。
普段割と短気なボーマンダがこのような思考になるということは、過去によっぽどミュウに対して懲りていることがあるのだろう。
『さってと。じゃあ、行くよー♪』
ヒュン!!と、壁に向かって勢い良く飛び込むミュウ。普通なら激突するはず。だが、激突どころかミュウは壁をすり抜け消えてしまったのだ。
『……はぁ!?』
目の前に起きたことが信じられないボーマンダ。とりあえず、壁を調べる。
『……おぉ』
ボーマンダは自分の足を何度も壁に出し入れして確認する。足が壁にすり抜けたり出てきたりするその光景は、なかなか奇抜なものだろう。
『とりあえず……入ってみるか』
ずっとここにいても仕方が無いので、ボーマンダは壁の向こうの世界へと進んでいく。
~~~
壁の向こう、短い暗い通路を抜けた先。そこでボーマンダが見た光景とは。
『……すげえ』
一言しか出ない。夜ですらその美しさがわかる幻想的な自然あふれる場所だ。入り口よりも草木が生い茂り、さらに噴水がその美しさを引き立てている。昼間なら、もっと綺麗に見えていることだろう。
『で、結局ここはどこなんだ?……それと、ミュウの野郎はどこ行きやがった』
本当にわからねぇ、ここに呼んだ意図すらもわからねぇ、そうボーマンダは思った。
『……せっかくだし、色々と探索してみようか』
ずっと止まってても、暇だしなーなんて事を考えながらボーマンダは歩き出す。
……だが、ここでボーマンダからすると予想もつかないようなことが身に起きる。
『んー、草ポケモンとか水ポケモンとか住みやすそうだな、ここは。ここもいいけど、俺みたいなポケモンだったらやっぱり洞窟とかのほうガァッ!?』
ドォォォン!!と、ボーマンダの大きな身体が思い切り吹き飛ぶ。見えない何かが突然ボーマンダに突進してきたのだ。
『……ってーな、クソがぁ!!いきなり何しやがるってんだぁぁぁ!!』
と、大声を張り上げながらボーマンダは周囲を威嚇する。
『(雑魚ならこれだけで戦意を喪失するはずだ。最も、油断していたとはいえあそこまで強烈な一撃をぶちかましてきた奴が戦意を喪失するとは思えねぇが……!?)』
ビュンッ!!と、再び見えない何かがボーマンダに向かってくる。……が、
『見えなくてもなぁ、ある程度戦意が伝わってたら余裕で避けられるっての!!』
素早い動きで、見えない何かの攻撃をボーマンダは軽くかわす。
『どうせ見えなくなるのも何かしらの力を使ってるんだろ?俺には通用しねぇ。とっとと姿現して攻撃に全ての力つぎ込むとかしろっての。なめてんじゃねぇぞ!』
この姿を消すということにも、力を使っている。つまり、姿を消しながらの攻撃は全力で攻撃をすることが出来ないのだ。ボーマンダは、それを瞬時に見抜いた。
ただでさえリョウスケの手持ちでは最も強かったのだ。それでいてさらに、ボーマンダのレベルはこの半年間でアップしている。
そしてボーマンダの呼びかけに応えるように、姿を消していたものがその姿を現す。
『……お前は何故ここに来た?何が目的だ?』
姿を表したその青いジェット機のような翼を持った存在が、ボーマンダに対し問う。
『あ?知らねーよ、そんなもんはこっちが聞きたい位だっての。俺だって早く帰って寝たいんだよ』
『……訳がわからんな、お前は。だがな、ここに無断で来た以上はいそうですか、何て帰す訳にも行かない』
この存在……ラティオスは、この場所を外部の者に知られただけでも相当困るのだ。万が一、ということもある。ラティオスからするとこのボーマンダが本音でそう言っているとは限らないため、簡単に帰す訳にもいかないのだ。
……だが、ボーマンダからするとそんな事は知ったこっちゃ無い訳で。
『は?んなもん知らんって。俺は別に荒らしに来たわけじゃないの、わかる?』
『……馬鹿と話すのは疲れるな。どちらにせよ、しばらくの間お前をここから出すわけにも行かない』
『あー、これだから頭のお堅い奴は面倒くせぇ。いいよ、別にこの場所を荒らすつもりは無いけどよ……てめー個人には苛々してんだよ』
そのボーマンダの言葉が皮切りに、両者共に突っ込んでいく。ガァァン!!と、お互いぶつかった音が鳴り響く。
『短気な奴め……』
『あ?』
両者の力が拮抗し、競り合いの状態が続く。
『お前は野生か?』
『ちげーよ、ちゃんとしたトレーナーがいるっての!』
ブンッ!!と力任せにラティオスを吹き飛ばす。しばらくしたところで、ラティオスは空中で静止する。
『フン、お前の様子を見る限り大したトレーナーでもなさそうだな。そんな短気なのも、トレーナーが大したことないからだろう?』
ラティオスは別にボーマンダのトレーナーのことを知っているわけでもないし、本気でそういったわけではない。相手を怒らせるための、ただの挑発である。
……だが、挑発とは時にとんでもない地雷を踏むこともあるのだ。この場面がそうである。ラティオスは、ボーマンダの踏んではいけない地雷を踏んでしまった。
『……ふざけんじゃねぇぞ、コラ』
『(……あのボーマンダの威圧感が上がった?)』
怒り、といった一線を越えたような状態である。それをラティオスも、肌で感じる。
『てめぇは言ってはいけないことを言った。正直、一発ぶん殴ってそれで終わらせようと思ってたんだがなぁ……』
そしてボーマンダの鋭い目つきが空中のラティオスを捕らえたかと思えば――――目に見えないような速さで飛んで行き
『ガハァッ!?』
ボーマンダのドラゴンクローが、ラティオスの腹部に炸裂する。その勢いでラティオスは地面に吹き飛んだ。
『予定変更だよ、半殺し確定だ。五体満足で終われると思うなよ』
今にも燃え盛りそうな青き竜の目。この竜は、今何を思いながらラティオスを見ているのか。
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第二十三話 秘密の場所での出来事
『ガフッ……ハァ……くそっ』
腹部に大きな傷を負ったラティオス。ダメージもかなり大きい。
突如パアァ、とラティオスの身体を優しい光が包み込む。……ラティオスは自己再生が使えるのだ。
『……ちぃっ』
とは言っても、全回復とまではいかない。応急処置程度のものだ。それに、喰らったのが一発とはいえ強烈な一撃だったので、傷はまだ残っている。
『……フン』
ラティオスは思う。あのボーマンダは悪しき心を持った奴ではないと。何故ならあのボーマンダが怒っている理由に、自分のトレーナーを侮辱されたからというところがあるからだ。
信頼関係が無ければあそこまで激怒はしない。その信頼関係が生み出されるのは、良いトレーナーと良いポケモンでしか生み出されない。
『(……少し、申し訳ないことを言ってしまったかもな)』
この状況を見て、勢いのまま出てきた言葉とはいえラティオスも言ってはいけない事を言ってしまったという自覚はある。そしてその事は詫びなければいけないということも。
だが、些細な事ではあるが言い争いからこのバトルに発展している。そしてこのまま引き下がるというわけにもいかない。……単なる、♂(オス)の意地だ。
『おいこら、まだ勝負は終わってねぇぞ』
『……こっちとしても、勝負を終わらせたつもりなど微塵も無いっ!!』
そして引かない理由にもう一つ。単純に、ラティオスがボーマンダのことを気に食わないからだ。……最も、それはお互い様なのかもしれないが。
『そうかよ。……だったら、さっさと動きやがれ!』
ゴォォッ!!と、ボーマンダの火炎放射がラティオスに向かって一直線に放たれる。ボーマンダはこれを相手が避けると核心している。そして避けた方向に向かって追撃をしようと始動の準備をするが……
『フン……こんなものぉっ!』
キラン、とラティオスの瞳が光る。そして放たれた炎の軌道が――――ラティオスを避けるように曲がる。超能力……サイコキネシスだ。
『……なっ!?』
予想外の攻撃の避け方をされるボーマンダ。そしてその気の動きが、わずかながら隙を作る。
『フンッ!!』
『……ぐおっ!?』
その隙を突いたラティオス、お返しと言わんばかりのドラゴンクローが炸裂しボーマンダを吹き飛ばす。
さらにラティオスは攻撃の手を緩めず、超能力で周囲の草や葉を操り吹き飛んだボーマンダに向かって高速で飛ばしていく。言わば、葉っぱカッターのようなものだ。
『……痛えぇぇ!?』
ズバズバズバッ!!とボーマンダの身体に無数の切り傷をつける。そして吹き飛んだボーマンダがようやく起き上がる。
『……ってーな、この野郎が』
『チッ、体力だけはあるらしいな』
『こっちは普段から鍛えてるんだよ……まだ俺の気は済んでねぇぞおらぁぁぁ!!』
~~~
……それからというものの、お互い一歩も引かず徐々にダメージが蓄積されていく。
ボーマンダが力でどんどん押していき、ラティオスが超能力をうまく使いトリッキーに攻めていく。攻撃のタイプこそ違うものの、お互いここまでは拮抗している状態だ。
『ハァ……ハァ……』
『ハァ……ちぃっ、さっさとテメーもぶっ倒れやがれ!』
お互い、既に限界に近い。だが、その眼に宿る闘志はまだ燃え上がっている。
『(ちっ、どうする……?)』
ボーマンダは一つ考えていたことがあった。
『(この技を使えば絶対に奴を潰せる。……だが、俺自身がこの技をコントロールできねぇ)』
確実に決めれると核心している技をボーマンダは持っている。だが、自身がコントロールできないため使うことをためらっているのだ。
『(どうす……ッ!?)』
『……おおおおおおッ!!』
ラティオスが今までに無いほどのエネルギーを溜めているのだ。それを見たボーマンダは、決心する。
『……迷ってる暇はねーな』
お互いの最高の一撃を放とうとする。そこで決着がつくと思われた――――が。
『兄さんやめてっ!』
『んー、それだけお互い力を解放するとこの場所が危ないんじゃない?』
ラティオスを兄と呼ぶポケモン――――ラティアスと、一体どこからやってきたのか、ミュウの介入により……思わぬ形で、バトルは終了する。
~~~
『……で、』
現在バトルを終え、ミュウがどこからかわからないが持ってきた大量の傷薬によりボーマンダとラティオスは一応のところ応急処置は終了した。
だが傷は回復してもボーマンダの苛々は収まらない。
『おいこらミュウ、お前どこにいやがった』
『んー、何かちょっと目を離した隙にバトルが起こってたからさ、避難しながら止めるためにラティアスを呼んだ、みたいな?』
『……お前絶対確信犯だろ?』
このバトルもわざとミュウが仕組んだに違いねぇ、と思うボーマンダであった。
そして一方、ラティオスとラティアスといえば……
『兄さんったら、こんなに暴れて!いくら怪しいからって、それがこんなに暴れていいって理由になると思ってるの!?』
『……だけどなラティアス、そうでもしないと止めようがなかった』
『言い訳はいらないっ!!』
『……はい』
一方的な説教をラティオスが受けていた。それを見たボーマンダが、内心でざまぁと思っていたりとか。
『でもさー、君思っていたよりも強かったんだね?ボクより強いんじゃない?』
『あ?……さぁな』
ミュウがボーマンダからすると思いもよらぬことを口にした。だがボーマンダもミュウの奥底知れぬ力を実感しているため、自信満々に当たり前だろ!とは口には出せなかった。
『ただ、最後にやろうとしてたのあるじゃん。多分、あれ使ったなら君が圧倒してだだろうけど、制御できずに辺りがぐちゃぐちゃになってたんじゃないの?』
『……多分そうだろうな。あの力を制御するのが当面の俺の課題だ。と言っても、上手くいかないんだけどな』
自分でもわかっている強大な力の制御。ボーマンダは次の強さのステップを踏むための過程は理解しているが、なかなか上手くいっていない。
『……お?』
説教をされ終わったのか、ラティオスがこちらへ向かってくる。
『……何だよ?』
『いや、これだけは言っておこうと思ってな……すまなかった』
『……ん?』
ボーマンダからすると、何について謝られているのかわからないのだ。……心当たりがありすぎて。
『お前のトレーナーを侮辱したことだ。お前があそこまで怒ったということは……よっぽどお前が信頼しているトレーナーだったからだろう』
『あ?あぁ……まぁ、うん、謝ってくれるんならいいよ』
『……だが』
と、一言ラティオスは言ってから
『お前自体は気に食わん』
『……あ?』
『短気だし、馬鹿だし、戦っててこっちが苛々してくるんだよ、お前は』
『……その台詞、そっくりそのまま返してやろうか?』
……お互いの相性が悪いのだろう、とにかく性格が合わない。
『はぁ……兄さんったら』
『……まぁ、ケンカするほど仲が良いって言うくらいだしいいんじゃない?見てる分には面白いし』
その様子を見ているラティアスは呆れ、ミュウは面白半分に見ていた。
『しかし、だ……ここ最近邪悪な気配を感じていたからお前もその仲間かと思っていたが違ったようだな』
『俺が邪悪に見えるってのかよ?』
『ああ、特に目つきが』
『……おい』
自分の目つきの悪さは自覚しているので、言い返せないボーマンダであった。
『ってことは何だ、俺にいきなり攻撃を仕掛けてきたのは嫌な予感がしたからで、普段ならおとなしくしてたってのか?』
『そりゃそうだ……おい、お前は俺がそんな物騒な奴だと思っているのか?』
『うん』
『……』
ラティオスも何か言い返そうと思ったが、現に先に攻撃を仕掛けたのは自分のため言い返せないのであった。
『……まぁいい、お前はポケモン性はともかく一応無害みたいなもんだからな、忠告はしておく』
『……そこは無害って言い切れよ』
『近いうちに、ここアルトマーレで何かが起こる可能性がある。良く無い事がだ』
『何でそんな事がわかるってんだ?……ってか、お前は一体何なんだよ?』
ボーマンダは疑問に思っていたことがあった。ラティオス、そしてラティアスは何者なのか。そしてこの場所は何なのか。
『俺……ラティオスと妹のラティアスはこの島の守護者だ。そしてこの場所には大切な物が置いてある。だからだよ、ここに知らない人やポケモンを寄せ付けたくないのは』
『なるほど、守護者なぁ……って、大切な物?』
『心の雫という宝石だ。……今は関係の無い事だが』
ふーん、と一言だけ返事を返すボーマンダ。別にボーマンダ自身は宝石などに興味もないため、あまり気にしなかった。
『ま、どうせ俺と俺のトレーナーがいるのもあと二日だけだし?用心だけはしておくわ』
『話は終わった?』
『って、いきなり出てくるなよ、びっくりしただろ』
ボーマンダとラティオスの話のキリが良くなったと見るや否や、話に割って突然出てくるミュウ。
『……お前の素性は何となくわかった。が、こいつは一体何なんだ?』
『ん、ボクのこと?』
ラティオスの疑問、それはミュウが一体何者なのかということ。
ボーマンダに関しては色々話をしていくうちにわかった面もあるのだが、このピンクの生物に関しては全くわからない。しかもボーマンダをここに誘い込んだのもこのミュウというのだから、不思議でしょうがないのだ。
『……ラティアス、お前は何かわからないのか?』
『兄さんごめんなさい、ただあそこで暴れてるから止めて、と言われただけで……』
ふむ……と一言呟いてから、ラティオスはボーマンダのほうをチラッ、と見る。それに対しボーマンダはため息をつきながら、
『……まぁ、なんだ。ミュウは怪しい奴ではあるが、悪意があるわけではないと思う……多分』
と応えた。
『ねえ、そこははっきりと大丈夫な奴だって言えないの?』
『お前の普段の行動からどうやって大丈夫な奴って言えるんだよ』
と、今度はボーマンダとミュウが言い争いに発展しそうな勢いになってしまった。それを見たラティオスはキリがないと思ったので、
『お前ら……もういいから帰れ。これ以上あーだこーだ言っても、キリがない。とりあえず、お前らが怪しいって訳ではないって事はわかったから』
とボーマンダとミュウを止めることに。
『ああ、言われた通りに帰るとするよ。俺はもう眠い』
『えー、ここ出た後にもう少し遊びに行かない?』
『やかましいっての!何で、いつも俺ばっか巻き込むんだよ!』
またもやギャーギャー騒ぎ出す二匹であった。そしてそのまま、帰るルートを歩んでいく。
『……さっきも言ったがお前たちにもう一度だけ忠告しておく。アルトマーレに邪悪な気配があるから用心しろ……って』
『兄さん、あの二匹はもう帰っちゃいましたよ』
ラティオスの忠告を聞くこともなく、二匹ともその場から立ち去ってしまったのだ。
『……ハァ』
『兄さん、かなり疲れてますね?』
『そりゃそうだ。まさかあんな奴らと絡むことになるとは思ってなかったからな……精神的に、きついものがある』
『……肉体的にも、ですよね?』
『……そんな訳ないだろ?』
『兄さんったら……意地っ張りですね』
『……あー、そうだ。どっちかというと肉体的負担のほうが大きいよ。自己再生しようにも、あの一撃は重すぎた』
ラティオスの身体は既にクタクタである。話をするのも疲れたというのも理由の一つだが、それよりも戦いの際に受けた傷だ。
戦いの中で色々な傷を負ったが……その中でも特に、ボーマンダを挑発した時に受けたドラゴンクロー。その傷がかなり大きいのだ。
『傷薬等で回復はしたが、それでもまだ若干痛むくらいだ。あれは力もそうだが、相当思いがこもってないと出ない一撃だな……そういった意味では、アイツはかなりの善だ』
『……ふふっ』
『……何だ?何がおかしい』
『いえ、散々言い争ってたにも関わらず善だなんて言うから……ちょっと意外で』
『……アイツ自体が気に食わんのは今も変わらん。だが、それとこれとは別問題だ』
ラティオス自身、ボーマンダの実力を認めている部分もある。その実力とは力だけではなくトレーナーとの信頼感など、様々な要素だ。それをトレーナー無しで感じることが出来たのだから大したものである。
『さて、アイツ等の話はいいとしてだ。最近この町にある気配についてだ』
ラティオスがボーマンダに対して過激に攻撃を行った原因でもある、最近のアルトマーレにある怪しい気配。
『しばらくはこの場所だけでなく町の様子もしっかり見ておいたほうがいいかもしれない。どちらかがここに残って、どちらかが町を見回ろう』
『人間に擬態して見回るということですか?』
『ああ、そんな感じだ。……悪いが、ラティアスがここに残ってくれないか?俺が町を見回る』
『良いですけど……何で兄さんが?』
『ラティアスは人間に擬態しても、人間の言葉を話すことは出来ないだろう?だけど俺はそれなりには人間の言葉を話せる。色々見回るなら、話せたほうが絶対楽だろう?』
ラティアス、ラティオスはいくつかの特殊能力がある。人間に擬態する、というのもそのうちの一つだ。そしてラティオスは、ラティアスと違い人間の言語を話せるというのだ。
『……本当に悪いな。危険かもしれないが、ここを頼む。何かあったら、夢写しで教えてくれ。俺もそうするから』
この夢写しというのも特殊能力の一つで、ラティアス、ラティオスが見ている景色をお互いに共有することが出来るというものだ。なのでお互いに離れていても、お互いの現状が把握できる。
『兄さんは心配性なんだから……大丈夫ですよ、任せてください』
『ああ、頼んだ。まぁ、何もないに越した事はないのだが……』
この守護者達――――二匹の護神の心配が現実に起こるのか、それとも何も起きずに済むのか。どちらにせよ、アルトマーレに不穏な空気が流れているのは、間違いない。
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第二十四話 動き出す組織と命がけの下っ端
ようやく少し、まとまってきた感じです。あと、今回オリキャラ多め。
「ふあ~あぁ……ねみぃ」
「ねぇタク、そんな大きな欠伸しないでよ?やる気がそがれるじゃない」
「んなこと言ってもなぁ……マイ、この時間帯だぞ?眠くたってしょうがないだろ」
「気持ちはわかるけども……」
アルトマーレの深夜のとある夜道、愚痴をもらしながらも何かの任務をこなすタクという男とマイという女の二人組。羽のマークのついた、緑の装束を纏っている。
「でもよぉ、何でこんな事深夜にやんなきゃいけねぇんだ?アルトマーレの地理を知っとけってのはわかる。わかるが……別にそれを調べるのって昼でもよくないか?わざわざ、深夜にする必要ある?」
「そんな事言っても……ショウ様が深夜のほうが雰囲気出るだろっ!なんて子供のような命令をするから。下っ端は結局幹部の命令を聞かなきゃいけないのよ。それにショウ様も、ギャラは高くするって言ってたでしょ?」
「まぁ……そうだけどよ」
この二人、スカイ団の下っ端である。そしてショウという幹部の命令を受け、わざわざこの深夜にアルトマーレの地理の調査をしているのだ。
「あと、ショウ様こんなことも言ってたわ……」
「……何?」
「ぶっちゃけ、深夜の調査とか楽しそうでたまんねぇーよなぁー!幹部なんて地位じゃなかったら、俺が率先してやってるくらいだぜ!……って」
「……あの人馬鹿だ、馬鹿だよ、馬鹿ですよね?」
「タクの謎の三段活用はどうでもいいとして、馬鹿なのは否めない……わね」
下っ端にすらここまでボロクソに言われる幹部がいるらしい。だが、マイはでも、という言葉を付け足して言う。
「私はあの人が幹部のS部隊で、本当によかったと思ってるわ。だって他の部隊なんて、腐ってるもの」
「あー、まあな。K部隊は他人を傷つけて喜ぶようなクズばっか、Y部隊は団員の俺たちですらやってることがわからないくらい謎だしな」
「その点、ショウ様は下っ端である私たちですら気遣い、任務で他人を傷つけるようなことをするときも最低限で済ませようとしている」
「……任務で他人を傷つけてるっていう結果は変わらないがな。自分で言うのもなんだが、何であんな人がスカイ団なんかにいるのかなぁ?何かを傷つけるとき、何時もショウ様は苦しそうにしている」
「それは最終的な理念に一番賛同しているのも恐らくショウ様だからじゃないかしら。目的に多少の犠牲はつき物とはよく言うわね。あの人は、まさにそんな感じよ」
……スカイ団とは、3つの部隊に分かれている。
ショウが率い、タクやマイがいるS部隊、他の幹部がそれぞれいて、そしてその下に下っ端がいるK部隊、Y部隊。SKY――――スカイだ。
そのそれぞれの部隊によって、かなりの温度差というものはあるらしいが。
「っと、無駄話はここまでにしましょ。さっさと、この面倒くさい任務を片付けないと」
「そうだな……しかしこの町は迷路か?調べるのも、面倒だな」
「でも、この裏道には人が住んでいないってのがわかっただけでも収穫でしょ?っと、次のところを曲がって……ッ!?」
いきなり、ピカァァッ!!と、光線が光っているのが見えたのだ。そして何かに直撃したのか、轟音が近くに鳴り響いた。それをタクとマイは、察知した。
「……おい、今の音は何だよ。人はいないはずだよな?」
「私にもわからないわよ。……どうする?」
「どうするってそりゃあ……調べに行くしかないだろ。危険かもしれんが……気をつけて行くぞ」
下っ端の二人は、光の方向へと向かうことへ。
~~~
タクとマイが光を見た少し前……ボーマンダとミュウはまだ言い合いながら深夜の夜道を歩いていた。
『おい、帰らせろ……マジで。バトルで疲れたし、それに眠いんだよ……』
『いーじゃん!暇なんだし♪』
『……暇なのはお前だけだろうがっ!マジで帰らせてください、俺は明日も観光で忙しいんです』
内容としては、帰りたいボーマンダ、帰らせないミュウである。ミュウはともかく、ボーマンダは明日もボールの中とはいえリョウスケと共に回ることになるので、本気で身体を休めたいのだ。
『んー、じゃあボクと簡単にバトルしてボクが勝ったらまだ遊ぶ、ボーマンダが勝ったら帰ってもいいってことで』
『おい、何勝手に決めてやがる。俺は疲れてるんだっての……』
普段はバトルジャンキーに近いものをもつボーマンダだが、流石に疲れている上に眠いという相乗効果がプラスされ、バトルには乗り気にはなれない様子だ。それを見たミュウが、すかさずボーマンダを挑発するかのように言う。
『あれ?普段ならバトル大好きなはずなのに、おっかしいなぁー。……あ!さては、負けるのが怖いんだー♪だから、疲れてるなんて言い訳をして』
『……あ?』
『あ、やる気になった?』
『……上等じゃねぇか、ただし俺が勝ったらさっさと帰らせろよ』
『それは勿論♪』
ミュウは簡単に挑発に引っかかったボーマンダに対して内心本当に単細胞だなぁ、とほくそ笑っていたり。ボーマンダはボーマンダで、何だかんだやる気にはなっている。
『で、どうすんだ?ここでやるのか?』
『うん、ここはちょうどいい具合に空き地になっているからね。人もいないし』
『……そうかそうか』
ちょうどいい場所、という言葉を聞いてニヤリ、とボーマンダは笑う。そして不意を付くように――――破壊光線を放つ。
ピカッ!!と光ったかと思えば、ドォォォォン!!という轟音がすかさず鳴り響く。破壊光線の放つ対象であるミュウは……その場から消えた。
『ちっ、どこ行きやがった』
ボーマンダからすると、軽い挨拶程度のジャブのようなものである。……周りからすると、重いストレートのように見えなくも無いが。ボーマンダも何かされてもすぐに対応できるように、身構える。
~~~
一方、光った方向へと駆けつけているタクとマイの二人。彼らはその場所の近くまでたどり着いた。
「この……近くよね」
「ああ、そうだ。すぐに対応できるようにここからはさらに慎重に行こう」
「この曲がり角を進めば広い空き地に出るのだけれど……」
マイは角の先の様子を慎重に覗いていく。……そしてそこから、思いがけぬ攻撃が飛んできた。
「この先に何が……きゃあっ!?」
「ッ!?」
空き地の方向から、火炎放射が飛んできたのだ。幸い、慎重に行動していたためマイはかろうじて直撃を避けることが出来た。
「……何だ今のは!?マイ、あの先に何が?」
タクは先に様子を見たマイに何があったのか問いかける。
「あれは恐らく……ボーマンダよ」
「ボーマンダだって!?何でこんな深夜に、そんな凶暴なポケモンがここにいる!?」
「そんなの私だってわからないわよ!とにかく、思っていたよりもかなり危険な状態だって事は間違いない……ッ!?」
ギャオオオオオッ!!と、ボーマンダは雄叫びをあげる。その様子に、二人はよりいっそう警戒心を強める。
……最も、ボーマンダはそこにいねぇのかよチクショウッ!!と叫んでいただけなのだが。
「よくわからないけど……相当興奮状態よ、あれ。この時間帯にいるって事は多分野生ポケモンでしょうね……」
「あれだけすぐに攻撃を仕掛けてきたって事は……他の何かの野生ポケモンと戦っているのか?」
「そうかもしれないわね……」
タクは野生のボーマンダが何らかの敵と戦っているため、少しの気配にでも敏感になっていると予想する。だからマイが少し覗こうとしただけで攻撃を仕掛けてきたのだ、と。
そしてその予想はほぼ的を得ている。……ボーマンダが、野生ではないということを除けばだが。
「少し物音を立てるだけでも危ないかもな。……俺としては、ここに来たことを既に後悔している」
「私もよ……ってか、あんなボーマンダがここにいるなんて普通予想できないわよ!」
「そりゃまあな……あっ」
「今度は何よ?」
タクはこの場所におけるあることに気がついた。……危険な事にだ。
「ボーマンダが何かと戦っていると仮定するなら……その戦っているポケモンがこの近くにいるのは間違いないよな?」
「仮定が正しければ、ね」
「だったら……ボーマンダだけじゃなくそのポケモンが俺たちに気がついて、襲ってくる可能性もあるよな……?」
「……」
タクとマイはお互い目を合わせ、話さずともテレパシーのごとく意志が伝わりあった。早くこの場から逃げよう、と。
だが、思いもよらぬ出来事が起きる。しかも二人からすると……不幸な出来事が。
ピリリリリリッ!!
「えっ?」
タクのポケナビから突然連絡が入る。普段なら連絡が来たところで何も悪いことなど起きはしないだろう。だが、この絶対に大きな音を出してはいけない場面だ。そこで……悲しいかな、大きな音が鳴ってしまった。
「……おい」
「……わかってるわよ」
二人は腰のボールに手をかける。既に、焦りなどから手汗でベトベトだ。
「逃げろぉぉぉぉっ!!ピジョンッ!!」
「助けてぇぇぇ!!ホーホー!」
手持ちの飛行ポケモンで、何とかその場からの離脱を試みようとする。……が、
「まずいまずいっ!!口にエネルギー溜めてる!」
「破壊光線が来るわ、ホーホー、もっとスピードを上げて、お願いっ!!」
既に攻撃態勢に入っているボーマンダ。恐らく、このまま逃げていても破壊光線の射程圏内であろう、そう二人は最悪の展開を考えた。
「くそっ、やられ……ッ!?」
思わぬ展開が起きたのだ。それはやられる事を予想していた二人にとっては、僥倖と言えるような事だ。
何故かはわからないが、ボーマンダからの攻撃が来ないのだ。それどころか……スパァァァンッ!!といった思い切りのいい音が響いたかと思えば、ボーマンダがズゥゥゥン、と崩れ去る。
「どういうこった……!?」
「わからな……ッ!?見てっ、あそこ!!」
マイはその異変の直接の原因かどうかはわからないが、ボーマンダの近くにいるものを察知した。
……さて、これはスカイ団員に限ったことではないが、幹部下っ端含め全てのポケモンをある程度認識する、ということを組織では行っている。これは野生でもトレーナーのポケモンでも、すぐに状況判断が出来るようにというものだ。
例えば、ボーマンダを例に挙げよう。ボーマンダは近距離からでも遠距離からでも相当の破壊力を持ち、スピード、守備力も共に申し分の無いものを持つポケモンである。幹部クラスはともかく、下っ端となると遭遇した場合は無理に攻めずに様子見、最悪撤退してもよいというのが基本のセオリーだ。
一般的なポケモンから、伝説級の珍しいポケモンまである程度の知識を団員たちは持っている。そうでもしなければ、自分の身が危ないからだ。
だが今回、マイが見たポケモンとはイレギュラーすぎるものである。情報が少なすぎるために、セオリーが通用しないポケモンだからだ。
「あれは……ミュウ!?」
「ッ!?何でこんな所に!?ボーマンダは、あのミュウと戦っていたということなのか……!?」
何故?といった疑問が二人の中で芽生える。それは当然だ、ミュウなんて生きているうちに見られたらかなりレアと言われるくらいで、そもそもどこに生息しているのかすらわからないのだから。
そんな疑問を持ちながら、二人は必死にその場から撤退していく。
~~~
『んー……』
ミュウにとっては珍しく少し困惑していた。まさかこの場所をこの時間帯に見られるとは思ってもいなかったからだ。……だがそのおかげで、勝手にそっちに注意力が行ったボーマンダを呆気なく仕留める事が出来たわけではあるが。
『……ま、いいかな?』
でもそこは普段から適当に生きているミュウ、あっさり流した。
『いやー、それにしても……こんなに気持ちよく攻撃が当たるなんて……普通だったらこんな技、当たらないよ?』
ミュウが何をしたのかというと……テレポートでエネルギーを溜めていたため隙だらけのボーマンダの背後に回りこみ、超能力で作ったサイコハリセンで頭部めがけて思い切りスパァァァンッ!!である。
その結果、ボーマンダは一撃で伸び、今の状態である。
『勝っちゃったはいいんだけど……うーん、良く考えたら気絶してるんじゃ意味ないや。ボクも眠くなってきたし……ふあぁぁ、リョウスケのボールに運んでボクもどっかで寝よう……』
何だかんだで、時間も過ぎてミュウも疲れているのだ。早く寝るためにさっさとしなきゃ、何で勝ったボクが何て愚痴をもらしながらもテレポートでボーマンダを運びながら移動する。
~~~
「はぁ……はぁっ」
「い、生きた心地がしないわ……」
必死に逃げてきたため息も絶え絶えのこの下っ端二人、ボーマンダとミュウのいた場所からかなり離れた所の地面に腰を下ろしている状態だ。
「何で……あんなピンポイントなタイミングで連絡が来るんだよぉ……」
「で……誰からだったのよ?結局は」
「ん?……ああ、まだ確認はしてなかった。……あー」
タクのポケナビに表示された名前は……ショウ。自分の部隊の幹部の名前だ。
「誰よ?……ああ」
「もうやだ……この人……」
何にせよ自分の上司から連絡が来ていたのだ。こちらから連絡をし直さなくてはいけない、とタクは嫌々ショウへと連絡を入れる。
「もしもし……ショウ様でしょうか」
「ん?おお、タクか!こんな深夜でお前らのテンションが下がっててもあれだからな、俺が励ましにと連絡をしたんだが」
「こっちは……余計テンションが下がりましたよ……」
「ん?それは悪かったな。何かあったのか?」
タクははぁー、と大きなため息をついた。それでも一応状況報告はしなくてはならない。自分の幹部であるショウに、任務中にボーマンダに遭遇して大変なことになったことを報告した。
「なにぃ!?ボーマンダがいたって!?」
「はい、それでこっちは逃げるのに必死で……もう大変でしたよ」
「そうかそうか、お前らでは荷が重いだろうしな。ま、生きてて何よりだ」
「はぁ……ありがとうございます」
「しかし、お前らの報告を聞く限りではやっぱり楽しそうだな。深夜にそんなハプニングがあるとは!」
「……今の報告で俺たちが楽しそうに感じるなら、それは頭が逝っていると思います」
「……おい、それは上司に対する口の聞き方じゃないだろ」
こいつもうダメだ、とタクは上司に思いながら報告をしていく。すると横で聞いていたマイが、タクに一言告げる。
「ねえ、ボーマンダもそうだけど……あのこと言わなくていいの?」
「ん?何か俺報告足りないところあった?」
「あー、じゃあポケナビ貸して。……もしもしショウ様、電話代わりました」
「おお、マイか!お前も生きてて何よりだな」
「お気遣いありがとうございます。……実は私たち、ボーマンダ以外にも見たものがあるのです」
「ん?何だ」
「あの……にわかに信じがたい話ではありますが……見たんです」
「見たってなんだ、お化けでも見たのか?」
アハハ、と笑いながら電話をするショウ。だがマイから来た報告は、自分の想像をはるかに超えた報告であった。
「あの幻のポケモン……ミュウを」
「……は?マジで言ってるのか?」
マイの横であぁー、と一言漏らすタク。電話の相手であるショウも、先程とは違ったトーンの声になった。
「……何か、証拠的なものはあるか?写真とか」
「すみません、逃げるのに必死でしたので……そのようなものは」
タクもマイもそんな余裕はなかったため、決定的証拠を撮ることなどは出来なかった。
「んー、そうか。だったら報告とかは別にしなくてもいいかなー」
「……面倒くさいからでしょうか?」
「違ぇよ!俺だって報告くらいちゃんとするわ!……ほら、そんな滅多に無い話、見たんだよ!って言われて信じる奴なんてそんなにいないだろ?いや、別に俺が信じてないわけじゃないんだけどさ」
あぁ、なるほどとタクとマイはうなずく。証拠があるならまだしも、一生の内に見られれば凄いってレベルだ。それを見た!って言われるだけじゃ月にウサギがいたんだよ!って言うくらい信じるのは難しい話だろう。
「ま、とりあえずのところはわかった。報告お疲れ、お前らは休んでていいぞ」
その言葉を聞いてマイはピッ!と通話終了ボタンを押す。そしてタクにどうも、と一言告げてからポケナビを返した。
「はぁー、散々な一日だったな」
「そうね、でも何とかなったから結果オーライじゃないかしら?……さ、私たちも身体を休めましょう。さすがに疲れたわ」
下っ端二人も取り敢えずのところ任務を終了させ、あらかじめ取っておいた宿に戻り身体を休めることに。
~~~
時刻は朝を迎え――――ホウエン地方のとある場所、スカイ団アジト。
「……んっ!ふわ~あぁ……」
ここで一人の男が目覚める。スカイ団幹部の一人、ショウだ。
「……さってと!俺もアルトマーレに向かわなきゃな。それにしても、ミュウとはなぁ……マジで言ってるのか?あいつら」
任務の途中に会えたらいいなー、何てのんきなことを考えるショウ。そして腰のボールに手をかけ、何かのポケモンを出す。
「っし!今日も頼むぜ相棒!」
そのポケモンは翼を広げ、そしてショウはそれに掴まりアルトマーレに向かって飛んでいく。
動き出すスカイ団の団員達。これからアルトマーレに、何をもたらしていくのか。
最近はちょっとずつですが一話の文字数が増えてきた感じです。
序盤は2000字くらいだったのが、最近では4000字くらいにはなるようになってきました。これがいいことなのか、悪いことなのかはわかりませんが(笑)
増えてきたことに伴い、やっぱりちょっと更新が遅れちゃったりすることがありますねー……皆さんは更新早くて文字数少なめ、更新遅くて文字数多め、どっちのほうがいいんでしょうかね?(特に文字数が増えたからって文才が伸びた、とかではないです。間違いなく、ないです)
ちなみにこの話は、6800字程度っぽいです。
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第二十五話 水上レース!
「んっ……!」
時刻は朝を迎え、外では野生のポッポが飛び出し鳴き始める。リョウスケもそれにつられるかのように、目を覚ます。
「っと、イエローは起きて……ないな」
隣にあるベッドを見ると、まだぐっすり眠っているようである。イエローが寝坊して時間が過ぎていくのもあれなので、リョウスケは身体をゆすってイエローを起こそうとする。……が、
「う~ん、ムニャムニャ……」
「……だめだこいつ」
全く起きる気配が無い。流石イエロー、寝ることに関しては達人の域と言ってもいいくらいだ。
「っと、俺のポケモン達も起きてるかな」
リョウスケは自分の腰から三匹のポケモンを出す。ブースターは元気良くおはよー!と、ラプラスは礼儀正しくおはようございます、と挨拶したのでリョウスケもそれにおう、おはよーと返す。
……だが、明らかに一匹おかしい奴がいる。
『……うぇぇ』
かなり元気が無いポケモンがいる。そう、ボーマンダである。ブースターもそれを見てシャキッとしなよ!といいながらボーマンダの腹をげしっげしっと何度も軽く蹴る。
『ちょっ……マジでやめて』
普段ならブースターにこんなことをされたならば怒っていてもおかしくは無いのだが、今回は本当に元気が無いのだ。それを見たブースターが心配そうに大丈夫?と問うがボーマンダはおぅ……と力なく応えるだけ。
「おい、ボーマンダ……大丈夫か?」
『リョウスケ……悪い、もう少し寝れば治ると思うから……』
それを聞いたリョウスケはそうか、ゆっくり休めとだけ言ってボーマンダをボールに戻す。
「っと、何でボーマンダが元気が無いのかわからんけど……っと、そうだ。ラプラス、氷作れない?手のひらサイズくらいの」
『作れますけど……何に使うのですか?』
「ま、それはいいじゃん。……っと!冷てっ!」
ラプラスに氷を作ってもらい、それをリョウスケは手にする。そして……
「えいっ」
それを寝ているイエローの首につける。
「……ひぎゃあああああぁぁぁ!?!?つっ、冷たい!?」
「お、おはようイエロー!いい目覚めっぷり」
「最悪の目覚めですよ!何、人の首に氷つけてるんですか!」
「だって、イエロー起きないんだもん」
朝っぱらからギャーギャー叫びまわるこの二人。アルトマーレの旅は、まだまだ始まったばかりである。
~~~
それから二人はちょっと口喧嘩をした後に、あっさり和解、それから身支度をしてご飯を食べてアルトマーレの町を歩いているという今に至る。
「今日は水上レースといった大きなイベントがありますね!」
「そうだな、俺もラプラスでエントリーするつもりだよ。俺とラプラスのコンビならいい所まで行けるかな……?」
「ラプラスなら水上ならかなり強力ですしね。……うーん」
イエローは迷っていた。
この水上レースは人が丸い小型ボートに乗って、それを水ポケモンが紐を引っ張って行くといった競技だ。つまり、人を乗せるほどの波乗りが出来なくても、紐を引っ張れて泳げればいいのである程度の水ポケモンならエントリー可能である。
「ボクもせっかくだし、オムすけで出てみようかな?」
勝てはしないだろうけど記念になるしなぁ、なんてイエローは考えていた。ところがリョウスケが意外なことにそれに反論する。
「……イエローは出ないほうがよくないか?」
「えっ、何でですか?」
「いや、だって……危ないだろ」
この水上レース、なかなかハードなもので毎年参加者がカーブの際に壁にぶつかったりして怪我をしたりしている。そして参加案内のパンフレットにもそれは注意書きに出ているくらいなのだ。
「んー、どうしようかな……」
「俺としては……女の子が危ない目にはあってほしくない……かな」
「えっ?」
リョウスケはイエローにはあまり危ない目にあってほしくないのだ。それは友達だからという点も勿論あるが、イエローが女の子だとわかって、それを意識している部分も少しある。
「ふふっ、そうですか。じゃ、ボクはリョウスケさんのために精一杯応援しますよ!……だから、勝ってくださいね!」
「イエロー……おう、勝ってやるよ!なあ、ラプラス?」
ボールの中のラプラスもそれに頷く。こうしてリョウスケだけがレースに参加し、イエローはそれを応援することに。
~~~
「……特に怪しい気配は今のところは無いか。今日は水上レースがある日だから人通りが多いからな。変な動きがあっても見逃してしまう可能性があるのが厄介だな……」
ラティオスは人間の姿に擬態して町の中を見回りしている。何か怪しいことが無いか調べるためだ。
「一応、色々な人に聞き込みをしておいたほうがいいか……?」
あまり動きすぎて俺が目立つのも厄介なんだが、とラティオスは思う。現在、ラティオスは大きな橋の上にいる。ここからはレースの終盤が良く見え、大きなモニターで中継を見ることが出来るので人通りがかなり多くなっている。
「大人に聞いても不審に思われるかもしれないな……子供に聞いたほうが、何かあった時でも確実に聞きだせるか」
そしてラティオスは麦わらの帽子を被った少年?が目に入る。彼に聞こう、とラティオスは思い声をかける。
「なあ、君ちょっといいか?」
「……ん?ボクですか?」
「ああ、そうだが……って何でそんなにボールを持っているんだ?」
その少年……もとい少女であるイエローにラティオスは声をかけたのだが、何故かイエローは腰のボールの他にさらに手元にボールを持っているのだ。ちなみに、ラティオスは女の子であることは全く気づいていない。
「あ、これですか?今、友達がレースに出るんで、手持ちを預かっているんです」
リョウスケの他の手持ち……ボーマンダと、ブースターのボールをイエローは持っていたのだ。レースの際にボールがどっかに飛んでしまわないように、とリョウスケがイエローに預けたのである。
「ああ、なるほどな……」
「えっと、それでボクに何か用でしょうか?」
「おっと、そうだな……ちょっと聞きたいんだが、この近辺で怪しい人とか見たりはしていないか?」
「えっ、何かあったんですか!?」
「ん?いや、この人の多さだからさ。どさくさに紛れて何か悪いことをしている奴がいるかもしれないだろ?だから俺は、それを警備しているんだ」
勿論これは、咄嗟に出たラティオスのでたらめである。それを聞いたイエローはうーんと少し考えた後、無いですねといった答えを言う。
「ん、そうか。協力ありがとな」
「あの……ちょっといいですか?」
その場を離れようとしたラティオスをイエローが引き止める。どうした?とラティオスは聞くが、ちょっと、とだけイエローは言ってラティオスを人通りの無いところへ呼び寄せた。
「ここに何かあるのか?」
「いや、何かがあるってわけではないんですけど……」
そしてイエローが腰のボールに手をかざす。ポウ、とそのかざしたボールを光が包み込む。ラティオスはそれを見て驚いている状態だ。
「うーん、ボク達のポケモンも特に見ていないって」
「……何だ?今の光は」
「あ、ボクポケモンの考えていることがわかるんです。でも今のように光が出ちゃうから、人通りの多いところだと目立っちゃって」
「なるほどな、だから俺を人通りのいないところに呼び寄せたのか」
「はい、そんな感じです……っと、一応リョウスケさんのポケモンも……うーん、ボーマンダもブースターも何も見ていないかぁ」
「……ん?」
ボーマンダ、という単語を聞いてラティオスは反応する。ついこの前の深夜に、ボーマンダと戦ったばかりであるからだ。
「あ、レースが始まっちゃう!」
「っと、すまないな。ま、何も見ていないって言うのならそれはそれでいいことさ。協力してくれて助かったよ」
「いえいえ、ボクは大丈夫ですよ!見回り頑張ってください!」
と言って、イエローはその場を走り去っていく。
「ボーマンダ……まさかな?」
その友達の持っているボーマンダがあの荒々しいウザったい腹立つボーマンダであるなんてラティオスは信じられない。
「ま、別のボーマンダだろうな。……っと、俺ももっと警戒せねば」
何かが起きてからでは遅いんだ、とラティオスはさらに気を引き締めアルトマーレの町を見回ることに。
~~~
《さぁぁぁぁてっ!!!待ちに待っている皆ぁっ!!!いよいよ、レースが始まろうとしているぞぉっ!!!!!》
ついにレース直前。実況の一声でさらに町全体が盛り上がりいたるところで歓声があがる。
《今回もたくさんのトレーナーが参加してくれたぁっ!全員、怪我をしない程度に死ぬ気で頑張ってくれぃっ!》
(いよいよか……!)
リョウスケもやや緊張はしているものの、始まる瞬間を今か今かと待っている。
《参加者には一度道をテストで通ってもらったが、念のためもう一度説明だ!!今回の大きなポイントは三つだ!最初はジグザグの道が長く続いていく場所、二つめに大きなUの字カーブ、ラストには観客が待っている橋の下をくぐったあとに再び直角カーブだ!それを超えて真直ぐ進めばゴールが待っているっ!!》
水上レースは毎回道が変わるのだが、必ず難所といったものが存在する。今回のレースでは、三つのポイントがその難所である。そこを上手く通れるかどうかが、勝つための秘訣だろう。
「ラプラス、絶対に勝つぞ!」
はいっ!とラプラスからの返事がくる。両者共に、気合は十分だ。
《いよいよスタートの時間だぁっ!!参加者の皆、準備はいいかっ!?》
実況からもうすぐ始まるとの声がかかる。その声でリョウスケ含め、参加者達はさらに一斉に気が引き締まる。
《位置についてっ!!よーい……》
パァン!と、アルトマーレの町全体に大きな音が響く。その音と同時に、参加者は皆勢い良く飛び出していく。アルトマーレ名物、水上レースの始まりだ。
~~~
「よしっ!ラプラス、ナイススタートだ!」
スタートダッシュが成功し、リョウスケとラプラスのコンビは現在トップ争いの集団の中にいる。地上ならともかく、水上ならかなり素早く動けるラプラス。直線での争いは、かなり有利だ。
《さあ、トップ集団が間もなく最初の関門、ジグザグの道に入ろうとしているぞぉっ!!》
「(スピードを緩めて安全に行くか……?いや、ここは……!)ラプラス、次のジグザグは全力で行くぞっ!!」
リョウスケを含めたトップ集団が、ジグザグの道に入る。そこでリョウスケは……あえてスピードを緩めるという選択はせず、今のスピードを保ったまま進むことを選択した。
「とっ、とと……よしっ、いいぞラプラス!」
《おおっ!さすがトップの集団だ、レベルが高いぞぉ!……おおっと!?大丈夫かぁ!?》
十数人いたトップ集団の内、半分近くがスピードを緩めず強行突破を選択した。その結果、その中の何人のボートがひっくり返りトップ争いはリョウスケ含む五人となった。
「あ、あっぶねぇー……」
『リョウスケさん、まだまだ飛ばして行きますよっ!!』
「おう、どんどん飛ばせ!」
まだまだ安堵なんてしている場合ではない、とリョウスケ、ラプラスコンビはさらに気を引き締める。
《さあ、二つ目の関門、Uの字カーブだ!ここは減速せずに曲がりきるのは難しいぞ!》
「……ラプラスっ!」
コクリ、とラプラスは頷く。言わずともわかっている、そんな感じの様子だ。
《……!?凄い、凄いぞぉぉぉ!!リョウスケ&ラプラスのコンビ、スピードを緩めることなく曲がりきったあぁぁ!!まるでプロのF1レーサーのドリフト走行のようだっ!!これで、単独トップに躍り出たぞぉっ!!》
「っし、ナイスラプラス!」
何と普通なら減速しなくては曲がれないようなカーブを、ラプラスは大きな身体を器用に動かしてそのままのスピードで曲がりきったのだ。他のトップ集団で減速せずに曲がりきれた選手はいなかったので、リョウスケとラプラスのコンビは一気に単独トップとなった。
《これはかなり有利になったぞ!だが、最後にまだ直角カーブがある!まだまだ勝負はわからないぞぉっ!!》
「油断せずに飛ばすぞ、ラプラス!」
『勿論ですっ!』
~~~
《さあ、間もなくトップがここにやってくるぞ!現在のトップは、リョウスケ&ラプラスコンビだ!》
「リョウスケさん、頑張れー!!」
橋の上から応援するイエロー。彼女はまだ走り続けているリョウスケ達に、必死に声をかけ続ける。
《……おおっと!やってきたぞ!リョウスケ&ラプラスコンビだぁー!!》
そしてようやく、リョウスケ達がこの橋の目の前までやってきた。イエローは凄い凄いリョウスケさん!と言ってはしゃいでいる。その場にいたイエロー以外の人も、あの少年凄いな、とか流石にこの距離なら優勝は堅い、などと賞賛の声をあげる。
そして橋の下をくぐり抜け、最後の関門の直角カーブを曲がろうとした瞬間。
「えっ……?」
思わぬそれは突然、起こった。
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第二十六話 起きる騒動と動き出す人々
「っと、ラプラス、橋が見えてきたぞ!あそこくぐれば、あと少しだ!」
リョウスケ達はトップを維持したままこの橋の手前付近までやってきた。この勢いを持続すれば、トップは堅いといった感じのリードだ。決して油断をしているわけではないが、リョウスケもそれを徐々に実感してきた。
だが……そこに、思わぬ落とし穴が存在した。
『――――ッ!!』
「おい、どうしたラプラス?って、ちょ、おお!?」
《……どうした?様子がおかしいぞ!?》
ラプラスは見たくはないものを見てしまった――――かつて、自分に集団で暴力を振るってきた集団。緑の装束。……スカイ団を。
そしてその動揺がいけない状況を生んでしまった。ボートに乗っているリョウスケは勿論、実況者や一般の見ている人達ですらわかる。動きが明らかにおかしく、ボートの動きがぶれているのだ。
《――――ッ!!まずい、あの状況で直角カーブに向かってしまってはっ!!》
「まずっ……!?」
危ない動きのまま橋をくぐり、直角カーブに到達する。だが、動きが明らかにおかしくスピードが落ちないまま曲がり切れないという状況になろうとしている。そんなことが起きたら……リョウスケが物凄い勢いのまま、壁に激突する。
『ッ!!リョウスケさん!!』
それでも何とかラプラスはリョウスケを守ろうとする。曲がり切れないのなら――――自分がリョウスケの壁になるしかない、と。
《な、なんとぉっ!!ラプラスがリョウスケ選手の盾になるかのように壁に激突してしまったぁっ!!》
ガツンッ!!と大きな音が鳴り、壁にはラプラスが思いっきりぶつかったためひびが入る。モニターで見ていた人も、大丈夫なのか?と心配の声があがる。
「……げほっ!!おい、ラプラス!ラプラス!?」
リョウスケも盾になったラプラスにぶつかり多少身体を痛めはしたが、それでも壁に思いっきり叩きつけられるよりは相当マシだ。リョウスケとラプラスはその勢いのまま水の中へと落ちていった。
「早くボールに戻さねぇと……!」
身体にダメージを負い動かなくなったラプラスをボールに戻し、リョウスケは何とか陸に上がる。
「はぁ……はぁ……!」
《リョウスケ&ラプラスコンビ、無念のリタイアだぁっ!!だが、最後にラプラスがトレーナーを守る姿勢、感動したぜっ!!》
周りからも、よくやったぞー!や、感動した!などの声と共にかなりの拍手がリョウスケ達に送られる。リョウスケはラプラスの入ったボールを見る。何故、あそこでラプラスが変な動きをしたのかはリョウスケにはわからない。だが、そのような状態でありながらも自分のトレーナーであるリョウスケをラプラスは身体を犠牲にしてまで守ったのだ。
「……サンキューな、ラプラス」
一言、ねぎらいの声をかける。リョウスケもずっとここにいないでイエローと合流しなきゃ、と動き出す。あと旅館に戻ってラプラスの回復と、自分の服も着替えなきゃな、と。
~~~
「……アルトマーレに来たはいいんだが」
ちょうどレースが終わろうとしていた時間。スカイ団幹部、ショウは人通りの無いところで一人寂しげに呟く。
「どこにあるんだよ、お目当ての心の雫とやらはよ。……いいなぁ、俺もレース見たかったなぁ」
はぁー、とため息を吐くショウ。任務で心の雫という宝石を持って来いとボスに命令されたはいいものの、何に使うかも検討が付かないし、アルトマーレのどこかにあるということ以外の情報は全くわからない。
自分の部下を先に派遣させたはいいものの、昨夜は色々なハプニングもありまともに調査が出来ていないといった状況だ。
プルルルルルッ!!
と、突然ショウのポケナビが鳴る。どこからか、連絡が来たようだ。
「……あ?切るぞ」
「うおーい!ちょっと、その反応はおかしーい!」
「お前からの連絡なんていつもロクな事がねーんだよ、カナミ」
「どうせやる気なかったんでしょー?カナミがわざわざ、ショウのやる気スイッチを押すためにわざわざ連絡を入れてやったのだっと!」
カナミ――――年は十二歳で且つ女の子でありながら、スカイ団幹部であり、K部隊のリーダーである。
「……あ?やる気スイッチ?」
「ふふん、とっておきのやる気スイッチだよ!」
「何だよそれ……ッ!?」
その時、ショウですら予想していなかったことが起きる。ボガァァァン!!と、突然町のどこかで激しい爆発の音が鳴ったのだ。その音は一つだけじゃない。町のあらゆるところで、何度も、何度も。町の人達はキャアアッ!!などと悲鳴をあげる。
「カナミのK部隊を向かわせて、ある作戦を命令していたのだよっと!その命令は……好きに暴れちゃって♪」
「おい、てめえ……!」
「お、やる気出たかな?ちなみに本来の任務である心の雫を手に入れたら、K部隊は引き下がるように言ってあるからね。無駄な犠牲を出したくないショウなら、これで早く任務を終わらせなきゃってなったでしょ?あ、ちなみにカナミ、心の雫のありかを知っていたり!」
「……だったら、さっさと教えやがれっ!!」
「ふふーん、そんな怖い声出さないでっと。えっとね、その在り処は……」
カナミはショウに心の雫の在り処を教える。その間にも……スカイ団K部隊は暴れまわり、あらゆるところで騒動が起こっている。
「わかった?じゃ、頑張ってねー♪」
ピッ、と連絡が途絶える。ショウは一人、クソッたれ……!とだけ、一言漏らしやり場の無い怒りを静めるためにガンッ!と壁を拳で一発殴る。
そして彼はすぐに連絡を入れる。……自分の部隊の部下にだ。
「あ、ショウ様!こちらタクです!……今の爆発は!?」
「……K部隊の奴らだ」
なっ!?とタクは驚きの声をあげる。ショウも知らなかったのだ、S部隊の下っ端がK部隊の下っ端がこうして騒動を起こしていることに気がついていなくても無理は無いだろう。
「いいか、俺はすぐにやるべきことがあるからお前ら全員に連絡を入れて指示をしている時間はねぇ。だからタク、お前が俺の指示をまわせ」
「はっ!S部隊はどうすれば!?」
「お前らは……何もするな」
ショウの言っている言葉の意図が読み取れず、タクは思わずは……?と間の抜けた声をあげてしまう。だが、ショウは立て続けにこう言う。
「暴れているのはK部隊だが、第三者から見たら全部同じスカイ団に見えるだろ……お前らが変に出てきたところで、鎮圧されて捕まる可能性だってある。お前らが動いたところで、損しかねぇんだよ。だから……どっかに隠れでもしてじっとしてやがれ」
ショウはS部隊の隊員に悪いことが起きることを望んでいない。それを聞いたタクもようやくショウの言っている意図がわかり、直ちに伝えます!とだけ言って連絡を切った。ショウもフゥー……とだけ一息ついて、
「俺も……急がねぇとな」
と言って、目的の場所まで全力で走っていく。
~~~
騒動が起きる少し前、場所は変わって旅館。
ここにはレースを終え着替えるために戻ったリョウスケ、それと合流したイエローがいた。
「いやぁ、それにしてもリョウスケさん凄いレースでしたよね。もう少しで優勝出来たじゃないですか!」
「ああ、俺もいけると正直なところ思ってたんだけどなぁ……ってかさ」
換えの服に着替えながら、リョウスケは一言。
「いや、ここまで戻ってくるときにレースお疲れ!とか凄かったぞ!って言ってくれるのは嬉しかったんだけどさ……人多すぎだろ!こっちは濡れて早く着替えたいのに、色々な人に囲まれて」
帰り際の出来事にちょっとした愚痴をもらすリョウスケに対してアハハ、と苦笑いをするイエロー。リョウスケのすぐに旅館に行きたいという気持ちとは裏腹に、なかなかそれが出来なかったのだ。
「でも、それだけいいレースが出来たってことじゃないですか?人を感動させるって、なかなか出来ないことですよ!」
「そうだけどさ……うーん」
いまいち表情が冴えないリョウスケ。何か引っかかるところがあるのだ。その表情を見たイエローは、
「どうしたんですか?……あっ、ラプラスですか」
と声をかける。それに対しリョウスケもそうなんだよ、と返事をする。快調に飛ばしていてトップだったのにも関わらず、突然様子がおかしくなったことをリョウスケは気にしている。
「なーんで、いきなりあんなことになったのかなぁ……」
その答えはラプラス本人しか知らない。リョウスケもラプラスが元気になってからその事を聞くつもりだ。今は大きなダメージを受けているので、旅館の近くにあったポケモンセンターに預けている。
「とりあえず……今は、この話はいいか。うーん、イエロー、これからどうする?」
レースは午前中に開催され、現在は昼間である。昼からの予定は特に無かったので、言ってみれば暇な状態ということになる。
「そうですね、昨日はリョウスケさんがバトルに熱中しちゃうから中々街の中を歩けませんでしたし……ボクは、中心部を見たいかな?お土産も買いたいです!」
うっ、とリョウスケは口ごもる。バトルが長引いて街を歩けなかったというのは事実である。リョウスケもそれを自覚していたため、今日はイエローのやりたい事を優先させるつもりでいた。
「そうだなー、じゃ、早速出かけるか?」
はいっ!とイエローは返事をする。
……だが、その時不審な音がかすかに聞こえてくる。
「……なあ、イエロー。今遠くで変な音聞こえてこなかったか?」
「え?ボクは聞こえなかったですけど……」
うーん、気のせいかな?とリョウスケは考える。……だが、その音は遠くだけではなく。
ボガァァァンッ!!!!
「……ッ!?」
「……何ですか今の音!?」
鈍くて嫌な音が、このリョウスケとイエローのいる旅館の近くでも鳴り響いた。リョウスケもイエローもすぐに嫌な予感を察知し、
「外に出るぞ、イエロー!」
「はいっ!」
頼りになる自分たちのポケモンを持ち、外の様子を見に行く。
~~~
「ハァ、ハァ……ここか」
スカイ団幹部、ショウはカナミから連絡があった場所にようやくたどり着いた。かなり息を切らしていることから相当急いで来たことがわかる。だが、その間にもアルトマーレでの被害は確実に増えている。
「チッ、その心の雫ってのは……どこにありやがる」
早く見つけてさっさと終わらさねぇと、とショウは呟く。通り抜けられる壁など、ショウにとっては興味を引くものもあったのだがそんな余裕は彼にはない。手当たり次第に、この秘密の場所の怪しそうな所を探っていく。
「……おい、カナミ!」
ショウはポケナビでカナミと連絡を繋げる。ポケナビからどったの?などと陽気な声が聞こえてきた。
「その秘密の場所までは来た。心の雫ってのはどこにある?」
「えー、そんなことまではわからないのだよっと。あ、でも一つ注意したほうがいい事もあるかな?」
「注意だあ?」
ショウは最低限の警戒は保っていたが、それでもこの秘密の場所には特に何かがいるわけでもなかった。せいぜい、おとなしい野生のポケモンが少しいるくらいだ。だが、カナミが言うからには何かがいるのだろうと、ショウの中の警戒レベルを強めた。カナミはいちいちショウにとって癇に障るようなことをよくする存在ではあるが、基本的に嘘をつくようなことはしない。
「うん、あのね――――」
と言ったところで見えない何かがゴォォォッ!!と猛スピードでショウに向かって突撃してくる。それをショウは――――間一髪のところでかわす。警戒レベルを上げていたことが幸いした。
「そこには、守護者がいるんだって。だから、いくらショウといえど気をつけていたほうがいいよ?」
「……言うのおせぇっ!!」
それだけ聞いて、ショウはポケナビの連絡を切る。何かがいる、というのは感じた。姿は見えないが、それだけで十分だとショウは考える。
「……来るな」
再び、見えない何かがショウに向かって突撃してくる。それに対し、ショウはボールを――――構えるだけである。まだ、ポケモンを出さない。
(もっと、もっと……もう少しだ……今っ!!)
そしてようやく、ボールから何かが出てきて――――ガッ!!という大きな音だけが鳴り響き、出てきたポケモンはそのままボールに戻る。その動作だけだ。
「悪いな、出来るだけ傷つけたくはねぇんだが……」
ドサッ!!と見えなかった何かが姿を露にし、そして崩れ落ちる。ラティアスは、ショウの繰り出した何か、に一撃でやられたのだ。
「こうしている間にも意味のねぇ犠牲が増える。さっさと探して終わらせ……ッ!?」
突如。ヒュンッ!!と火球がショウの頬を掠める。いきなりどこからか飛んできたのだ。そして、その火球を飛ばすことを指示したトレーナーが姿を現す。
「あれ、おしいねえ。……上手く当てたつもりだったけど、ぎりぎりかわされた、ってか?」
「てめぇ……その装束、マグマの連中か?」
「ま、そーなるわな。そういうそっちは、スカイの連中だろ?」
「……お前も心の雫を狙いに来たってのか?」
「ん?そんなものには興味は無いよ。ただ、スカイの連中が何かをやらかすって情報だけはあったんでね、それを邪魔しに来たのさ。……それにしても、よっぽど焦ってるみたいだねえ?こっちの尾行に、全く気がつきもしないなんて」
チッ、とショウは舌打ちをする。何時もの自分なら気がつけたはずなのに、それを出来なかったのだ。目の前の相手が言うように、ショウはかなり焦っている状態である。
「さっさとアンタをぶっ潰して、こっちは早く帰りたいんだよ。ってことで、一応名乗っておこうかねえ?あたしはカガリ、マグマ団三頭火の一人さ」
「……どっちにしろ、お前を潰さなきゃ何も始まらねぇらしいな。俺はショウ、スカイ団三幹部の一人、S部隊のリーダーだ!」
ここアルトマーレ秘密の場所で、ホウエン地方の巨大組織の幹部同士の戦いが始まろうとしている。
だが、この時ショウもカガリも気がつくことは無かった。ラティアスが最後の力を振り絞って、目を光らせて何かの行動をしていたということには。
オリキャラ登場。二人目の幹部です。
何か自分の考えを持ちながら動くような幹部もいれば、純粋な悪意をもつ幹部もいてもいいんじゃないかなぁと。
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第二十七話 スカイ団心の雫入手任務
「ッ……どうなってんだ!?」
リョウスケとイエローは旅館から外に出て今何が起こっているのかを見た。緑の装束の連中が……好き勝手に街中で暴れているのだ。それで傷ついている建物や一般人も数少なくない。
「あれは……」
そしてそれに対を成すように騒ぎを止めようとしている連中もいる。その連中は赤い装束を纏っている。そしてその連中を、リョウスケは知っている。
(マグマ団だよな……!?緑のほうはわからないけど、あれは絶対にマグマ団だ、見覚えがある)
ゲームでも出てきた組織、マグマ団だ。
(ゲームによっては敵だったり味方だったりしたが……!?)
カセットのカートリッジによって、マグマ団は悪の組織か、または悪の組織を止める側の味方だったりした。今目の前にいるマグマ団が、どちら側なのかはわからない。
「リョウスケさん!あの暴れている人達を……止めましょう!」
考えていたリョウスケにイエローから声がかかる。今考えるべきはそこじゃない、とにかくこの騒ぎを止めることが第一だ、とリョウスケは考えを切り替えた。
「……ああ、行くぞイエロー!」
~~~
「ハッハァー!!」
街中でスカイ団員数人が暴れ、それを止めるようにマグマ団員が戦っている。スカイ団員はズバットといった飛行タイプのポケモン、マグマ団員はポチエナやドンメルといった地上のポケモンを出している。
「ドンメル、火の粉!」
マグマ団員も敵を倒すべく指示を出す。が、攻撃は簡単にかわされてしまう。
「そんなノロい攻撃当たらねーよ!ズバット、吸血だ!」
「ちぃっ……!」
相手のポケモンの火力も低いから決定打には至ってはいないものの、このままではジリ貧だとマグマ団の一人は考える。こちらの攻撃が中々当たらないからだ。
「ブースター、火炎放射!!」
「オムすけ、冷凍ビーム!」
ならば次の手はどうしようか、そんなことを考えていた矢先にどこからか物凄い勢いで炎と冷気が飛んでくる。それもドンメルが放ったような火の粉とは段違いのスピードでだ。
「ギィッ!?」
あっさりとズバットは打ち落とされる。突然の出来事に、マグマ団も、やられた側であるスカイ団ですら一瞬呆けてしまう。そしてマグマ団の一人が気がつく。バタフリーが、空を飛んでいた。
「ッ!?身体が痺れっ」
そのバタフリーがスカイ団員の上空から何らかの粉を撒き散らしていた。様子を見る限りあれは痺れ粉であろうか、とマグマ団員は思う。
「大丈夫ですかっ!?」
気がつけば、子供二人がこの場に来ていた。
~~~
リョウスケとイエローは暴れていたスカイ団員を鎮圧した。そしてそれを止めるべく戦っていたマグマ団員に大丈夫かと声をかけた。
「ああ……って、一般人のガキだあ?」
ガキ、という言葉にリョウスケとイエローは少しカチンと来たのか、不機嫌そうな表情を見せる。それに気がついたマグマ団員もはは、悪いなと言って、
「ガキだろうが大人だろうが助けてもらったことには変わりねーわな、素直に感謝する。……だが、何で来た?」
何で来た、という言葉には組織同士の争いに何で来た、なのかそれとも危険から逃げずに何で来た、なのか。リョウスケにもイエローにもそれはわからない。
「何でって……旅館にいたら、いきなり爆音が響いて……それで暴れている連中がいたから、それを止めに来たんですよ!」
ただ、リョウスケもイエローも自分の意志のままに来た。止めたいから、ここに来た。それだけのことである。
「へっ……勇敢なガキだな、そういうの俺は嫌いじゃあないぜ」
「あの、あいつらは何なんですか?……あと、ガキって言わないでくださいよ!俺にはリョウスケって名前があります!あと、こいつはイエローです」
麻痺している緑の装束の集団に指差しながら、リョウスケはマグマ団員に問いかける。その際についでみたいに言わないでくださいよっ!何て声がイエローから聞こえてきたがリョウスケはスルーする。
「あいつらはスカイ団って連中でな、何の目的かはわからんがあいつらが暴れていたのはリョウスケもイエローも見ただろう?んで、俺らはそれを潰すようにうちの幹部から命令されてるってわけ」
あ、俺らの組織はマグマ団って言うんだけどな。って下っ端のマグマ団員は付け足すように言う。リョウスケもイエローも何が目的だろう……?と考え込む。その時、マグマ団員が動き出し、
「おう、スカイのクソ共。ここで暴れていたのは何が目的だ?あ?」
と、痺れているスカイ団員に脅しをかける。横にはドンメルがいつでも攻撃できるように準備している。
「ッ……ただ、暴れていればいいって幹部からの命令で」
「ふーん、それで暴れるだけならず、一般人から金品まで奪い取ってたってわけか。救えねぇクズだな。……おい、お前ら。こいつらの目的がわかったぞー」
どうせお前らも何が目的か知りたかったんだろ?とマグマ団員はリョウスケとイエローに言う。こういうところが慣れているのは、マグマ団といった組織に身をおいている故なのだろうか。
「で、お前達はこれからどうするんだ?俺達マグマ団がスカイの奴らを制圧しておくから、お前らが無理する必要はねーんだぞ?」
ま、俺達下っ端は実力が無いから制圧に時間がかかるかもしれないがな、とマグマ団員は笑いながら言う。それに対しリョウスケとイエローは、
「俺も……こいつらを止めます。俺らが動くことによって少しでも被害が減るところもあるかもしれないし」
「ボクもリョウスケさんと同意見です。こんな綺麗なアルトマーレの町を破壊するなんて許せないです!」
二人ともこの騒動を止めるという意見で一致した。正義感の強い二人からすると、見過ごせない事であるだろう。それを聞いたマグマ団員は、
「そっか、正義のヒーローもいいが無理はすんなよ」
俺はお前らみたいなガキは嫌いじゃねぇんだ、と一言。リョウスケもイエローもそうと決まったらすぐに動き出す。
「とりあえずありがとうおじさん、頑張って!」
と、リョウスケは去り際に一言。散々ガキと言われたことへの仕返しだろうか、マグマ団員も俺はおじさんなんて年じゃねぇ!と叫んでいた。
~~~
「おらァ!!」
リョウスケ達がスカイ団やマグマ団と遭遇した時、秘密の場所では幹部同士による戦いが繰り広げられていた。
カガリはキュウコンの尾から放たれる火球による圧倒的手数による攻撃、一方のショウは……まだボールからポケモンを出してすらいない。ひたすらに、攻撃を避け続けているのだ。
「ほらほらぁ!さっさと手持ちのポケモンを出さないとあんたが黒焦げになっちまうよぉ!」
ショウは攻撃のタイミングを取っているのだ。一撃で仕留められるタイミング、をだ。……だが、このまま自分の足だけでキュウコンの攻撃を避け続けるのは流石に無理である。自分が攻撃を喰らう前に、隙を見つけなくてはいけない。
(くそっ、攻撃が緩くなるタイミングがなかなか取れねぇ……)
まだ慎重に攻撃をしているのか、大きな攻撃こそ無いもののカガリの攻撃には全く隙が無い。
「……あー、じれったいねえ。ただ避け続けてるだけってか。いい加減苛々してくるねえ!?」
ポケモンを出さずに避けだけに専念していたショウに対し、ついに痺れを切らしたカガリ。元々、気の長いほうではない。
「だったらポケモン出させる前にお別れだよ。こいつで逝っちまいなあっ!!」
(……来るっ!!)
今まで一球一球別々に飛んできた火球が、全て同じタイミングで飛んできて一つの火球となる。単純計算なら、威力も大きさも尾の数である九倍だ。
「……へっ、そいつを待っていたぜ!」
だがそんな強大な攻撃に怯むどころか、むしろニヤリ、と笑みを浮かべるショウ。そして彼のボールの開閉スイッチを押し――――
「ッ、キュウコン、横に飛べ!」
ショウの笑みの意味を理解したカガリはキュウコンに指示を出す。が、時既に遅し。ボールから飛んできた何か、の攻撃を喰らい思い切り吹き飛ぶ。
「ちぃっ、最初からこれが狙いだったってかい。上手いことやられちまったよ。だが、アンタも無事ではないようだねえ?」
ショウも無事ではなかった。大きい火球を避けきることは出来ず、腕に火傷を負ってしまったのだ。しかも、完璧に攻撃が決まったわけではなかった。
「最後にちょっと反応しやがったな……チッ、一発で仕留めるつもりだったんだがな。そう甘くは無いってか」
ムクリ、とキュウコンが起き上がる。……厳密には、時既に遅かったわけでもなかったのだ。カガリがショウの意図をぎりぎりで読み取り、ぎりぎりのところで避ける指示を出した。そして、キュウコンは攻撃を喰らったものの致命的な急所を避けることは出来たのだ。
「だったら……こっからは正攻法で潰させてもらうぜぇぇ!!」
そしてショウは攻撃を放った後空中に飛んでいた自分のポケモンに指示を出す。
「……クロバット、翼で撃つだ!」
ショウのポケモン――――クロバットが、目にも止まらぬスピードで翻弄する。
「あーあー、全然見えない、とんでもないスピードだねえ?……だけどよお、考えられることは一つ、だ」
カガリはクロバットの驚異的なスピードにも全く焦る表情を見せない。
「そこから繰り出されるものは物理攻撃……それがわかってりゃあ、対処の方法なんていくらでもある」
そしてクロバットがついにキュウコンを捕らえ――――
「キュウコン、炎の渦!!」
られなかった。キュウコンが自分の身体の回りに炎の渦で防御壁を張ったのだ。
「クロバット!……くそっ!!」
逆に炎の渦に突っ込んでしまったクロバットが大ダメージを負ってしまった。炎の渦という防御であり、攻撃手段を予測できなかったショウは悔やんでしまう。……が、すぐに切り替え、
「物理は効かねえってか……なるほどな、それは厳しいな」
「はっ、諦めでもついたかい?」
「んなわけあるか……俺のクロバットは物理だけじゃねえ!」
「フン、それならそういうところを見せてもらおうかい。……それまでにくたばって無かったらの話だけどねえ!」
キュウコンの火球を何とかかわしていくクロバット。だが既に身体に大きなダメージを負っているため、先程までの圧倒的機動力はなくなっている。このままでは、いつかキュウコンの攻撃を喰らってしまうだろう。
「お望み通りに喰らわしてやるよ……クロバット、エアカッター!」
クロバットの四枚の翼から放たれる空気の刃。確かに飛んでくるスピードは中々のものだが、キュウコンが避けられないスピードというわけでもない。
カガリは最初の一撃急所を狙ってくるような作戦を取ってくると思っていただけに、この普通すぎる攻撃は意外だった。何も脅威ではない。次への攻撃の布石か?などと色々な思考を張り巡らせるが、この攻撃自体にはそこまで意味がない、そうカガリは解釈した。
「気をつけな、俺のクロバットのエアカッターは……曲がる」
キュウコンが動いた直前、四つの刃がランダムに変化したのだ。当然、そんな事は予測も出来なかったキュウコンは四つの内二つの刃をズバズバッ!!ともろに喰らってしまう。
「ッ!?」
「誰も直線のまま飛んでいくとは言ってねーぜ?そして……」
再び四つの空気の刃がキュウコン目掛けて飛んでくる。次も曲がってくるだろう、そう読んだカガリはキュウコンに動くな!の指示を出した。だが……今度は刃の四つの内二つは曲がらずに直線のまま飛んできたのだ。勿論、動かなかったキュウコンはズバァッ!!と攻撃を喰らってしまう。
「わかっていても避けられねえ、それが俺のクロバットのエアカッターだ」
「ちぃぃ、随分と面倒くさい切り札持ってるんじゃないのさ……だけど、そっちのクロバットもさっきの攻撃でかなりダメージを負っていたようだねえ?」
クロバットも空に浮遊することが厳しいくらい体力が削られている。身体中が火傷していて、徐々に体力が奪われていってしまったのだろう。
「とは言っても、こっちのキュウコンも相当ダメージを喰らってしまっているけどねえ……お互い、あと一撃喰らえば完全にダウンってとこか」
「……上等じゃねーか、勝つのは俺達だ!」
クロバットもキュウコンも最後の力を振り絞り、攻撃を繰り出そうとする。
……が、ある存在がそうすることを許さなかった。
『ギィッ!?』
『キャンッ!!』
「なっ、キュウコン!?」
「おい、クロバット!!」
見えない何かの攻撃を喰らい、共にダウンする。お互いすぐに自分のポケモンをボールに戻し、現状把握をしようとする。そして……見えない何かが姿を露にした。
「あれは……」
「ラティオス!?」
実はラティアスが気絶する前、最後の力を振り絞って夢写しでこの場の現状をラティオスと共有し、伝えていたのだ。そして、ピンチと知ったラティオスは猛スピードでこの秘密の場所に戻ってきたというわけである。
ラティオスは怒りのままに……自分の最大の技、ラスターパージを放つ。まばゆい光が開放されたかと思ったら、辺りがゴォォォッ!!と爆発し吹き飛ぶ。ラティオスにとっても大事な場所なはずなのにこの手加減のなさだ、相当きている証拠だろう。
「……くそっ、撤退なんてみっともない真似は嫌いだけどね……これは流石にまずいね、逃げさせてもらうよ!」
キュウコンが倒れ自分の身が危ないと感じ、すぐにその場から撤退するカガリ。
「なっ……おい、ちょっと待て!」
その場に取り残されるショウ。そしてラティオスの目線は……ショウ、ただ一人に向けられている。
「ちょっ、もうこれ任務とかの話じゃねえ……俺の命の危機いいぃぃぃ!!!」
続けざまに攻撃を繰り出すラティオス、だが悪運が強いのか奇跡的に攻撃をかわしていくショウ。秘密の場所から去ったことを見るや否や、追うことをやめた。ラティオスからすれば、逃げた小物よりも倒れているラティアスの介抱の優先順位のほうが圧倒的に上である。
……こうして、スカイ団心の雫入手任務は見事失敗に終わった。
ゲームでは明らかに弱い技なのに、文に書いてみたり、実際に起きたら強そうって技、ありますよね。
エアカッターも、炎の渦もゲームでは使った記憶が無いですし、弱かったイメージがありますが現実で起きたら何か強そうな気がします。
逆に、ゲームではかなり強いのにいざ書こうと思っても書けない技なんてものもあります。
……波乗りとか、どうやって攻撃手段として書けばいいんだ(笑)水ポケモンの技で書くとしたら、ハイドロポンプとかなら書きやすいんですけどね……
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第二十八話 騒動、その後
出来るだけ更新速度を速くしたいものです……
アルトマーレの人目が無いような裏道、そこにぼろぼろになった男一人が息を切らしながら歩いていた。
「はぁ……はぁ……撒けたか?」
さっきまでラティオスに攻撃を喰らい続けるもぎりぎりの所で避け続け、何とか逃げ切ることに成功したようだ。尤も、任務には失敗しているわけではあるが。
「ふぅー……」
一息呼吸を整え、ポケナビを操作する。とある人物に連絡を取るためだ。画面に表示された名前は――――カナミ。プルルルッ、と四度のコールが鳴った後、少女の声が聞こえてきた。
「……あ、ショウ?どうだったの?」
「……任務は失敗、大失敗だよ。俺のクロバットもやられ、俺も正直死を覚悟した」
「えっ、冗談でしょ?」
カナミは正直驚いている。カナミ自身が、ショウの実力の高さを知っているからだ。ラティオス、ラティアスといった守護者がいることは知っていたが、それでもショウが任務を失敗することはないだろうと踏んでいた。
……だが、ショウからは任務失敗の一言。そして自分の問いに対して無言ということは、冗談ではないということを示しているのだろう。
「ふーん、とりあえずカナミからボスに伝えておくよ。ショウがまたポカやらかしました!ってね。とりあえず、K部隊も必要ないみたいだね、撤退の指示を出しておくよ」
「……さっさと撤退させとけ。これ以上無駄に一般人を巻き込むな」
「やっぱショウは優しいんだね。言われなくてもすぐに撤退させるのだよっと」
そんじゃあねー♪と、カナミからの連絡が途絶える。ショウもスカイ団が撤退するということを聞いて安堵したのかふぅっ、と地面に腰を下ろした。
「あぁー……もう、無理くせぇ……」
腰どころか、地面に横になってしまった。疲労と安心感、両方から来たものであろうか。ショウはそのまま、意識を手放した。
~~~
「……何だ?」
「スカイ団が……引き下がっていく?」
その後ショウとイエローは共にスカイ団の暴走を食い止めていた。だが、そのスカイ団が突然引き下がっていくのだ。
「一体どうしたんでしょう?」
「恐らく撤退の指示が出たんだろうよ」
「「!!」」
よう、また会ったなと話かけてくる男は先程出会ったばかりのマグマ団の下っ端。
「あ、さっきのおじさん!」
「おじさんじゃねえよ!……っと、まあ結局お前らはだいぶ騒動を止めてくれたみたいだな。感謝してるぜ」
「でも、何で撤退の指示が出たんですか?」
イエローが問う質問。それはリョウスケも思っていたことで、何故先程まで好き勝手暴れていたスカイ団が突然引き返したのか。問いかけられたマグマ団の下っ端は、こう応える。
「んー、まあ俺も詳しいことはわかんねえが……そもそも何故、暴れていたのかって話だよ」
「?」
「お前らガキに言ってもわかんねえかもしれねぇが……おかしいとは思わないか?いくらスカイの野郎共が破壊活動が大好きだからってよお、わざわざこんな地で意味も無く好き勝手暴れると思うか?」
「確かに……意味も無く暴れていたように見えたかも。……何で暴れてたんですか?おじさん」
「だからおじさんじゃねえっての!何かを求めて暴れていたんじゃなくて、暴れること自体に意味があったのかもしれねえってことよ。……陽動っていう言葉があってな、他への注意をそらすためにわざと目立つことだ。つまりだな……」
「じゃあ、あいつらが暴れていたのって……」
「何か、他の大きな目的があったから……!?」
リョウスケとイエローはここでマグマ団員の言いたいことを察する。町で暴れていたのは、別の目的を実行させるためということかもしれないということを。
「……まあ、あくまで俺の仮説でしかねえがな。で、撤退したってことはだ……奴らの作戦が成功したか、それとも逆に失敗して引かざるを得なくなったかってとこじゃねえかと俺は考えているわけだが」
それを聞いたリョウスケもイエローも難しい顔をしている。自分たちのした事が、もしかしたら無駄だったことかもしれないからだ。その表情を見たマグマ団員は心配すんなと声をかけ、
「お前たちのやってきたことは無駄にはならねえよ、現にこの町の人達を少しでも助けることが出来たんだろ?」
ガキはそれくらい真直ぐなくらいがいいんだよ、と声をかける。その言葉が若干慰めになったのか、リョウスケもイエローも少し明るい表情になる。……その時だ。
「ったく、何時からうちの組織はガキの力を借りるような腑抜けた組織になったんだい?」
どこからか聞いた事のあるような声が聞こえてきた。……そう、カガリだ。彼女は少しぼろぼろになった赤い装束を身に纏い、この場に現れた。
「カガリ様!何時からここに?……それとやけにぼろぼろですが大丈夫ですか!?」
下っ端が焦ったように声を荒げる。自分の上司がぼろぼろの姿でその場に現れたのだ、無理もないだろう。
「お前が長ったらしい仮説を喋りだした頃からさ、それと身体は問題ないよ。っと、リョウスケにイエロー、久しぶりだねえ?」
「カガリさん……マグマ団だったんですか?それに、様って……」
リョウスケが初めてカガリと出会ったときは赤い装束ではなく、私服姿だったのでマグマ団ということはわかっていなかったのだ。
「あ、そっか。お前たちと出会ったときはこの装束着ていなかったからねえ」
それと私はこれでも一応幹部なんだよ、とカガリは付け加えた。リョウスケもイエローも突然の事実に、びっくりしている。
「っと、スカイの奴らが引き下がった理由だけどね……多分向こうの幹部がやられたから、作戦が失敗して撤退ってことでいいんじゃないかな」
「カガリさんは向こうの幹部と遭遇したんですか?」
「ああ、あとさっきそこのおじさんが言っていた仮説だけどね」
だから俺はおじさんじゃないです!って上司にも突っ込みを入れる下っ端。そんな突っ込みは見事にスルーして、カガリは話す。
「陽動ってのとは、ちょっと違うね。本来陽動ってのは、予備隊が注意を引きつけて本隊が作戦を実行するってのが主流なんだが……あいつらの目的地には、幹部一人で来たんだよ」
おかしいとは思わないかい?とカガリは問いかける。陽動ならば、予備隊よりも本隊のほうが手薄となるケースはあまりない。なのに今回の騒動における本隊は、幹部とはいえ一人だったのだ。陽動なら、下っ端を大量に引き連れていてもおかしくはない。
「まあ結局のところあいつらが何を考えていたのかはわからないけど……結局は押さえ込んだんだ。もう、どうでもいいわな」
はー、疲れたとため息をつくカガリ。そんな話が終わりのムードが流れる中、リョウスケが気になっていたことを問いかける。
「あの……ちょっといいですか?スカイ団のことばかり気になってて聞くの忘れてたんですけど……マグマ団って何ですか?」
リョウスケはゲームで何となくのことは知っているが、それでもやっぱり聞いておきたい。マグマ団とは、何なのかということを。ゲームのような、悪の組織なのか。イエローもあれ、そういえば何なんだろ?といった表情を浮かべる。
「何ですか、ねえ……じゃあ、逆に聞くけどリョウスケには何に見える?スカイ団を追い払った正義の集団にでも思えるかい?」
逆に質問を質問で返すカガリ。そしてリョウスケは思考する。確かに、スカイ団を追い払ったのは事実ではあるが……下っ端の相手に対する脅し、その他色々を見ても正義、というような風には見えない。だからといって、悪と言われたら少し違うような気もするが。
「……そうだねえ、一言で言えば馬鹿、それも大馬鹿の集団さ」
あたしも含めてね、と付け加える。その時に下っ端がえっ、というような表情をしていたとかしていなかったりとか。
「ただ単に暴れたいだけなのさ。今回はスカイ団が気に入らないから潰した、それだけの話。その行為が善だろうが悪だろうがあたしたちはそんなことに興味はないんだよ、暴れるならそれでいいしね」
今回はスカイ団を追い払った結果、今回の行動に関しては善であるマグマ団。だが、状況によっては悪にもなりうることがあるということだ。
「……おっと、そんなの間違ってるとか思ったかい?だがそんな他人の思考、意見なんてものもどうでもいいのさ。あたし達はあたし達のやりたいことだけをやる、それだけさ」
「一つ……いいですか?」
意外にもここで口を挟んだのはイエロー。リョウスケもカガリも、少し驚いた表情をする。
「あなた達にとって、ポケモンって何ですか?」
突然そんなことを聞きだすイエロー。カガリは思わずへぇ、と声を出す。そんな事は間違っている!とか甘ったれた事を言うのかと思っていたから少し意外に感じたのだ。
(……そういえばセンリさんも、同じ事を言っていたかな)
修行の際にセンリに言われた事を思わず思い出したリョウスケ。その時センリはポケモンはトレーナーの道具ではない、ということを深くリョウスケに教え込んだ。
「ふーん、面白い事を言うもんだね。下っ端共はどう思っているかは知らないけど……そうだね、あたしにとってキュウコンは相棒って感じかな。苦行を共に乗り越えてきた、パートナーさ」
ポケモンを相棒と呼んだカガリ。下っ端も俺もドンメルは相棒だぞ!と大声で言う。
「……で、それがどうしたっていうんだい?」
「もし……マグマ団が何か悪いことをしたなら、ボクが止めにいきます!」
「……はぁ?」
いきなりイエローによくわからない宣言をされたマグマ団。カガリからも思わず、呆れ声が出る。さらにおいおい、喧嘩売ってるのか?などと下っ端から声が挙がる。
「でも……ボクにはそこまで悪には見えないです。何となく、ですけど」
かなり野蛮には見えますけど、と多少毒を吐くイエロー。リョウスケはさっきからイエローの発言についていけず、ただただ呆然とするばかり。
「……何を根拠に言ってるんだかねえ。さっき言っただろ?あたし達は悪にもなりうるって」
「根拠なら、ありますよ?」
カガリの問いかけにも、それを否定するかのように自信たっぷりに発言するイエロー。イエローは確固たる根拠を持っているというのだ。
「だって、ポケモンを大切にしているじゃないですか?」
先程、カガリも下っ端も自分のポケモンを相棒と呼んだ。自分がポケモンに対して信頼していなければ出て来ない言葉である。
「ちょっとの悪さはするかもしれないですけど……カントーのロケット団という組織に比べたら、あなた達は悪には見えない。確信ではなく、ただの予想ですが」
ロケット団はポケモンを道具として扱う極悪集団だ。だがこのマグマ団という組織は少なくとも自分のポケモンは大切に扱っている。目の前のカガリとその周りの下っ端に限ってはだが。
他には、過去にイエローが対峙した四天王は確かに人間を滅ぼそうとし、街を滅茶苦茶にしたりとひどい集団ではあった。だがイエローの目から見たワタルやカンナは、純粋な悪には見えなかったのだ。ほんの少し、考え方が間違っていただけなのだ、と。そして少なくとも、四天王は自分のポケモンを大切にしていた。
「……ふっ」
カガリの口から笑い声が少し聞こえたかと思えば、
「あーっはっはっは!!はー、笑った。いやあ、あまりにも面白すぎて……」
大爆笑するカガリ。これには思わずイエローも、何ですか!と少し声を荒げる。
「いやあ、そんな考え今まで聞いたことなかったからねえ。ふーん、なるほどね。ポケモンを大切にしてる……か。イエローはそういう奴に悪い奴はいないと思っているのかい?」
そのカガリの問いに対してイエローはコクリ、と頷く。
「……確かに、言われてみればそうかもね。あたしもこの下っ端共も、非情になりきれないかもね。あるラインを行き過ぎたら、もしかしたら引き返したり留まったりするかもしれない」
暴れるのは大好きだし、それで周りがどうなろうと知ったこっちゃないというのがカガリ含むここにいるマグマ団員の持論ではあるが、それでも無意識の内にストッパーをかけるかもしれないということだ。
「いやいや、イエローの事を過小評価しすぎていたようだよ。ただリョウスケのお友達ってだけかと思ったら……負けず劣らず面白いじゃないか」
「え?いや、ボクなんか大したこと……」
「謙遜しなくてもいいさ。過去に色々なものを見てきたからこそ今の意見が言えた、そうだろう?」
リョウスケも挫折や向上心でポケモンと一緒に心身共に強くなってきたが、イエローはイエローで成長している面がある。旅の前、旅の後でイエローも色々な物を見てきて、触れ合ってきた。だからこそ出てきた、今の意見である。
突然カガリが何かを紙に書き出したかと思えば、リョウスケとイエローに手渡す。
「そいつはあたしの連絡先だよ。アンタ達は気に入ったからね、何かあったら相談くらいは受けてやるよ。組織とか関係無しにね」
「「はぁ……」」
「ま、今回はこれでおさらばって事で。また縁があるといいねえ?」
そう言ってカガリとマグマ団員はその場から立ち去っていった。残ったのはリョウスケとイエローとカガリの連絡先である。カガリに何か連絡をする日は、来るのだろうか。
「んー、疲れたぁ……でも、被害を出来るだけ抑えれてよかったですね」
「……イエローってすげーなぁ。適わねぇわ」
「え、何がですか?ボク何時もリョウスケさんに負けてばっかりで」
「……いや、バトルとかの話じゃなくてさ」
リョウスケはマグマ団を完全に悪側であると判断していた。……イエローの話を聞くまでは。リョウスケはここにいたマグマ団員の表面しか見えていなかったのだ。だがイエローはあの野蛮なマグマ団員の内面をも見ていた。何となくの域であったとしてもだ。
「うん……イエロー、すげーわ」
「だからさっきから何の話をしてるんですか!?」
俺もこいつみたいに視野を広げよう、とリョウスケはこっそり思った。
~~~
場所は変わって、アルトマーレの路地裏。
「あっ、ああー!いた!ショウ様ぁぁ!!」
こちらでは連絡を取っても全く応答しなかったショウを必死に探すべく、スカイ団S部隊の下っ端達が必死に捜索していたのだ。そして今下っ端の内の一人、タクがそれを見つけた。
「ショウ様、しっかりしてくださ……意識がないぃぃぃ!?」
ただ単に寝ているだけなのだが、団員服が物凄くぼろぼろなのが目立つせいかタクには何らかの際に意識を失ってしまったかのように見えてしまったのだ。
「くそっ……しょうがない、こうなったら!すみません、ショウ様!」
スパパパパーン!!!何とタクはショウの顔面に往復ビンタをぶちかましたのだ。思わずショウもふおぉぉぉぉっ!?という謎の奇声を発しながら目を覚ます。
「な、何だぁ!?……おお、タクか。今何があったか見てなかったか!?」
「……さっき、いたずら者の野生のプリンがショウ様の顔に往復ビンタをぶちかましていました!」
嘘である。プリンなんていなかった。これはひどい捏造。
「そ、そうか……」
「それよりショウ様、よくご無事で……!任務のほうは、どうでしたか?」
「ん?ああ、失敗失敗」
「……そんな軽く言ってもいい事何ですかね?」
何事も無かったかのようにさらりと任務失敗を伝えるショウである。流石に、これには部下のタクも不安である。
「ま、しょうがないさ。……とりあえず、お前らは今日中に帰れ」
「……もしかして何か任務の続きが?それなら俺達にも手伝わせてください!」
突然真面目な表情をしたショウに対し、何かあったのかと思い込むタク。……だが、
「いや、実は明日ポケモンの大会があるらしくてよ。お前らいた所で意味ねーし?ってことで帰った帰った。俺はもう一日ここに泊まってふぐぉっ!?」
部下に思いっきり殴られるショウ。本当に彼は、幹部なのだろうか。
「な、何すんだてめー!」
「こっちは心配してずっと探してたのに……!久々に真剣な顔してたから大変な任務かと思ったのに……!」
「久々に真剣な顔って、それ自分の上司に言う台詞か?……ま、心配かけたのはすまなかったな。俺のことはいいから、お前らはゆっくり休んどけや」
今回の件でショウは単独行動に出た。それで自分のところの部下を心配させたことは事実であり、それはショウもわかっている。そして部下はマグマ団に狙われる対象であり危険だったのにも関わらず自分を心配して探してくれた。だからこそ、ショウは部下にもう休んでほしいのだ。
「あー後よ、俺のこの糞汚え団員服、俺の部屋にぶん投げといて。あ、これ鍵ね」
ちゃっかり部下をパシらせるショウであった。
「はぁー……気をつけてくださいね。今スカイ団だって事ばれたら、この町の住人にぼこぼこにされますよ?」
「ま、団員服着てなきゃわかんねーだろ。へーきへーき」
じゃ、俺達は帰りますと言ってその場を後にするタク。そして再び、ショウ一人となった。
「はー……明日面白い奴と当たったりしねーかな?」
ワクワクしながら明日を期待するショウ。組織という中での勝負ではなく、一トレーナーとしての勝負は久々なのだ。
「……あっ、俺今日どこに泊まればいいんだ?」
しかし、まだショウの苦難は続く。
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第二十九話 温泉~男湯編~
「……ふぅ」
ポケモン浴場――――人間とポケモンが共に利用できる温泉施設。そしてその男湯には、リョウスケと二匹のポケモン……ボーマンダと、ブースターがいる。
ちなみにイエローの♂ポケモンは前回多すぎて管理しきれなかったので、今回は遠慮してもらったという形だ。
「ふぅー……」
『リョウスケ、さっきからため息ばっかりだな。幸せ逃げるぞ?』
「うるせー……」
『リョウスケもさっきのを見て悩むこともあるんじゃない?単細胞のボーマンダと違って』
『……あ?ケンカ売ってるのか?』
(マジでうるせぇ……)
リョウスケが先程のマグマ団に関して色々悩んでいるのにも関わらず、相変わらずのこの二匹である。ちなみにブースターは炎タイプではあるが、お風呂は嫌いじゃない。むしろ好きである。
……炎タイプといっても、様々な種類が存在する。ヒトカゲやマグマッグのような炎が身体の一部であり、身体の外部に炎エネルギーが存在する炎ポケモン、ロコンやガーディのような身体の内部に炎エネルギーを溜め込んでいる炎ポケモン。ブースターは後者である。
前者は水などの液体そのものがアウトではあるが、後者は水は苦手ではあるがお風呂のようなお湯は好きといった炎ポケモンも存在する。
「お前ら、ケンカするならもう出すぞ」
『『すいませんでした』』
一応、前回はしゃぎすぎたという自覚がボーマンダにはあるらしい。そして過激に反応しすぎたという自覚がブースターにはあるらしい。
「……ん?」
ガラララッ、と浴場のドアが開く。
「あぁ~あっこがれーのーポケモンマスタぁにぃ~」
(う、うるせぇ……!)
新しい人が入ってきたかと思えば、大声で歌を歌いながら入ってきたのだ。迷惑極まりない。
(ってか、この人……)
リョウスケはその人物を見てあることに気がつく。
(全身、傷だらけじゃねーか……!)
重症、という程ではないが擦り傷、切り傷といった痛々しい跡が身体中にあるのだ。
「なりたいなぁ~ならなくちゃぁ~」
その人物は歌を歌いながら身体をさっと洗い流し、
「絶対なってーやるー!」
(何故、俺の隣に来た……!?)
ザバァッ!と、リョウスケのいる温泉に勢い良く入ってきた。
「……あん?」
(何だっていうんだよ面倒くせぇ……!)
その人物はリョウスケの方を向き、何かに気がついたような表情を顔に出す。リョウスケとしては、こんな変人できるだけ関わりたくないというのが本音だ。
「お……?すげーな!このボーマンダとブースター!」
『……あん?俺?』
『……この人誰?』
何故かボーマンダとブースターを絶賛するのだ。リョウスケも少しん?と首をかしげる。確かに、ボーマンダというポケモンもブースターというポケモンも伝説とは比べ物にはならないが、全体のポケモンの中では比較的珍しい部類の方に入るかもしれない。
だが、この人物はボーマンダとブースターが凄いのではなく、「この」ボーマンダとブースターが凄いと言ってきたのだ。
「もしかして、君がボーマンダとブースターのトレーナーか?」
「はい、そうですけど……?」
聞かれたからには、流石に素直に応えなければならないとリョウスケはしっかり対応する。
「……えっと、何が凄いんでしょうか?」
「ん?……いや、凄いだろ。かなり鍛えられてるだろ?この二匹は」
「わか……るんですか?」
「ああ、俺くらいになるとな。攻撃力だけじゃねえ、色々な面で強さを持っている気がする」
確かにリョウスケは今まで自分のポケモンと共に特訓をしてきた。それも攻撃だけではなく、制度、精神など色々な面でだ。それをこの人物は見ただけで見抜いてきた。
「っと、悪いな。俺の名前はショウって言うんだ。君は?」
「ショウさんですか、俺はリョウスケって言います!」
最初は変な人かと思ったけど意外と凄い人なのかもしれない、リョウスケは会話をしているうちにそう思ってきた。
「リョウスケか、よろしくな。明日の大会には出るつもりなのか?」
「はい、出ますよ。勿論狙うは優勝です!もしかして、ショウさんも出る予定なんですか?」
「ああ、その予定さ。……でもよ、実はさっき俺のポケモンがやられちまってさ。明日までには回復するだろうが、温泉に入れてやれなかったのが残念でしょうがねーな……」
「やられたって……もしかして」
先程までの騒動、そしてショウの身体中にある真新しい傷跡。そこからリョウスケが導き出した答えは。
「ショウさん、さっき暴れていたスカイ団を追い払っていたんですか!?それで、ショウさんもポケモンも傷ついて」
「……へ?いや、その……うん」
「?」
明らかに目が泳いでいるショウを見て、リョウスケは少し疑問を抱く。
「ま、まあ……そんなとこだ!」
いや、あんな雑魚連中にやられるはずではなかったんだがなー、油断したぜなどと呟くショウ。まだ、目は泳いでいたとか。
「話変えるけどよ。さっきスカイ団が暴れてたけど、リョウスケは大丈夫だったのか?」
「はい、友達と一緒に鎮圧してました」
「そ、そっか……」
暴れていたK部隊の奴らの自業自得とはいえ、同じ組織の人間がやられているのに複雑な心境になるショウであった。
「……けど」
「ん、どうした?……何か悩み事があるなら俺でよければ聞くぞ?」
「悩みって程でもないとは思うんですけど……」
リョウスケは先程のマグマ団との話、そしてイエローの事をショウに話した。
「ふーん、なるほどねえ……確かにそのイエローって子の観察眼はすげーな。俺でもその話を聞いただけならそのマグマ団ってのが悪に思うわ」
「……やっぱ、そうですか?イエロー、凄いですよね」
「何だ?悩みって、その凄さに嫉妬でもしてる事なのか?」
「……そうかもしれませんね」
「え、マジ?」
冗談で言ったのに、とショウは一言加える。
「俺、過去にボロクソに負けた事があるんですよ」
四天王ワタルに完膚なきまでに叩きのめされたリョウスケ。
「その時に、友達のあいつを泣かせてしまったんです」
奇跡的に生きて帰る事は出来た。だが、その時にイエローにかなり心配をかけてしまった。大泣きしたのが、その証拠である。
「そして思ったんですよ。負けて悔しいって思いもあったんですが、それ以上に俺の周りに心配をかけないくらい、強くなるって」
イエロー含め、自分の周りの友人、知り合いといった人達に二度と心配をかけたくなかったリョウスケ。その為には、それだけ強くならなきゃいけないと。イエローが女の子と知って、泣かせちゃいけないという気持ちがさらに高まっていたりもする。
「ふーん、なるほどなぁ。そんな決意を持っているんなら、リョウスケもリョウスケのポケモンも、強くなるわなぁ」
「……でも、イエローはまだ俺よりも強いのかも」
「ぶわぁーか!」
「……えっ」
いきなり暴言を吐き出すショウ。突然すぎて、リョウスケもポカンとした表情を浮かべる。
「……ったく、ガキが何大人ぶってやがるんだ」
「別に、大人ぶってるわけじゃ……」
「いーや、大人ぶってるね。ガキはガキらしくしてろっての」
「……さっきから、何が言いたいんですか」
自分の思いを否定され、さらにはガキと連呼され、少し苛々してきたリョウスケ。そんなリョウスケに、ショウは言う。
「リョウスケの決意、そしてその決意が揺るがずに強くなってきた、確かにすげえ。だけどよ、イエローの凄さを見て嫉妬だあ?馬鹿か?ぶわぁーか!」
「ちょっと、いい加減に……」
「いい加減にしねえよぶわぁーか!ああ、そのままの考えなら何度だって馬鹿にするさ。結局リョウスケは、自分だけしか見てねえ」
「なっ……」
またもリョウスケを馬鹿にするショウ。リョウスケもどんどん苛々がたまっていく。
「いいか、人間誰だって得意不得意ってのはあるもんだ。バトルなら、今ならリョウスケはイエローよりも強いんだろ?だが観察眼といったところは今回の話を聞く限りでは、イエローのほうが優れているのか」
「それが、どうかしたって言うんですか?」
「つまりだ、俺が言いたいのはな」
ここでショウが、結論を言う。
「もっと、周りを頼れってことだ」
「!!」
「リョウスケにもイエローにも得意なものがあるんだよ。だったらお互い助け合っていけばいいだろ、簡単なことじゃねえか」
どんなに凄い人間でも、どんなにダメな人間でも得意なもの、不得意なものというのは存在する。しかしそれを助け合って埋めていけば、どんどんいい方向へ向かっていくということだ。
「ガキはガキらしく頼れ、頼っていけ……まあ、ガキに限ったことじゃねえのかもしれねえけどな、大人ぶる必要はねえ」
「……」
ショウの言葉を聞いて思うことがあったのか、リョウスケは無言でそれを聞き思考する。
「誰かのために孤独で戦うってのは本当の大人になってからでいい。……今はそんな事しなくていいんだ」
「……えっ?」
切なそうな表情を見せながらショウはそんなことを言う。リョウスケもその表情に気づく。
「っと、変に説教ぶって悪かったな。明日の大会、楽しみにしてるぜ!」
ザバァッ!と、勢い良く温泉から上がるショウ。それを見たリョウスケは、
「変な人だったな……」
と呟く。だが、リョウスケもショウからこの短時間で学ぶことはかなり多かった。それだけ過去に色々な経験をしているのかもしれないと、リョウスケは思った。
「明日の大会、あんな人が出るんなら楽しみだな」
そんな経験豊富なら、バトルもかなり強いのかもしれない。リョウスケは自分のポケモン達と、期待を膨らませながら温泉に浸かる。
~~~
「ふぅー……」
風呂から上がって部屋に戻ってきたリョウスケ。
「あ、リョウスケさん!」
既に部屋にはイエローが戻ってきていた。
「おう、イエロー。イエローのポケモン達、浴場に連れていけなくて悪いな」
「いえ、昨日が昨日でしたから……リョウスケさんを、これ以上疲れされるわけにもいかないですし」
「あ、それと……」
先程ショウとの会話で思ったこと、それを一つの言葉にしリョウスケは口に出す。
「イエロー、これからもよろしくな!」
「えっと……?」
いきなりそんなことを言われるものだから、イエローもちょっとびっくりする。だが、すぐに
「はい、こちらこそお願いしますね、リョウスケさん!」
と、元気良くお互いにとって最高の言葉を返す。
「あ、そういえばラプラスはどうなりましたか?」
「ちゃんと回復したよ。ボールも返してもらってきた、ほら」
リョウスケは元気になったラプラスの入ったボールをイエローに見せる。
「よかったですね、元気になって」
「ああ、無事でよかったよ。だけど、一つ確かめなくちゃならない事もある」
ボン!と部屋の中でラプラスをボールから出す。傷は、見当たらない。
「なあラプラス、何があったんだ?」
『……』
少し表情を強張らせるラプラス。それを見てリョウスケも少し悟ったのか、
「……言いにくいことなら、今は無理しなくていい」
と、声をかける。
「……でもいずれ言ってほしいんだ、ラプラスのためにも。何時でも、トレーナーであり友達である、俺を頼ってくれよ」
『!!』
ついさっき、学んだことだ。周りで助けあい、頼るという事。何かで困っているならそれを一緒に乗り越えていけばいい。
『いえ……今、言います』
「大丈夫か?」
『はい、私は大丈夫です。……私があそこで動揺したのは、見たからです。私を傷つけた緑の装束の集団……スカイ団を』
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