fate/GO カスタマイズ (章介)
しおりを挟む

第1話

初投稿です。よろしくお願いします。


聖杯戦争

7人のサーヴァントが聖杯を求めて互いにあらゆる手段を用いて殺し合い聖杯を降臨させる魔術儀式。

聖杯には別段興味がない。というよりもどの記録を詠んでもマトモに使われた試しがない。まあその気になれば人類史を崩壊させる様な品だ。抑止が動かないはずがない。使わせて貰えないという意味では成る程、確かに人の手には余るものなのだろう。

だが、サーヴァントーーー英霊については話は別だ。彼等は個人に一騎当千、いやさ宝具によっては一国すら容易に堕とし得る力を与える。また、彼等そのものも人の輪から生み出されたためか外部から直接干渉された記録が非常に少ない。しかも令呪という首輪付きだ。力を欲している連中からはとても扱いやすい存在だ。

私にとって幸運なことに、その力を得る手段が身近に、しかも比較的容易に噛める位置に存在する。

その名は人理継続保障機関・カルデア。何をトチ狂ったかは知らんが、未来の安全保障だなどというものを追求する組織とのこと。馬鹿馬鹿しい。アトラス稀代の天才錬金術師の末路を考えればその行いが何処に向かうかは想像着くだろうに。案の定突然「2016年人類の滅亡」が証明され、安全保障どころか寧ろ滅びに向かわせたのではないかと突き上げられているそうだ。窮した連中は過去への干渉という禁じ手に出た。それだけでは飽き足らず、天秤の守り手たる英霊まで巻き込んだようだ。

守護英霊召喚システム・フェイト。私がこんな下らない茶番劇に付き合う最大要因。彼等との邂逅の時まで、精々薄い猫の皮を被り、尻尾を振るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーさて。

所長殿の下らない演説を終えて退出する。大胆にも遅刻をやらかし、尚且つ悪びれる感情がないのか、居眠りまでするとは変わった候補者も居たものだ。まあ、これから会いに行く人物の機嫌を著しく損ねてくれたのだから、私には迷惑以外の何物でもないのだが。

 

「失礼、オルガマリー所長」

 

先程の件を引きずってか未だ肩を怒らせて歩く女性に後ろから声を掛ける

 

「・・・何かしら。この大一番の前だっていうのに私を呼び止めるなんて、問題児はもう一人いたの?」

 

失礼な、私はあそこまでハッスルしてないし、時間の無駄を感じているのはお互い様だ。

 

「大変申し訳ありません。しかし、この世紀の大一番にどうしても所長にお願いの儀がありまして・・・」

 

途端に此方へ向き直り口を開く所長。

 

「・・・話してみなさい。内容によっては考えてあげる。ただし、つまらないことなら相応の報いを受けてもらいます」

 

・・ちょろい。碌に付き合いもない女だが、実に分かりやすい思考回路をしている。彼女は極度に頼られること、評価されることに飢えている。その方面で攻めれば実に話が早い。

 

「ありがとうございます。実はお願いというのが、レイシフトを第一陣と第二陣に分けて頂きたいと思いまして」

 

「どういう意味かしら。我々カルデアの作り上げたシステムが欠陥品だとでも?」

 

おっと。これで逆鱗に触れるか。想像以上に余裕のない人だな。

 

「滅相もありません。しかし今回の試みは何もかもが手探り。加えてその行いも人知を超えたもの。であればあらゆる事態を想定して限られた人材を万一に備えて分散すべきかと思いまして」

 

なんて言ってはみたが、これが通るとは欠片も思っていない

 

「・・・悪いけど事態は切迫しているの。貴方の言う限られた人材とやらを遊ばせておく余裕も、出し惜しみしている暇もないの。臆病風に吹かれたのなら今すぐここから去りなさい」

 

やはりな。そもそもぽっと出の半部外者の意見で左右されてたら世話ないしな。それに此方の本命はこれからだ。

 

「では、せめて保険として一人残して下さい」

 

「しつこいわね。でも、一人位なら別に構わないわ。丁度良い数合わせ君も居たことだし」

 

待った待った、やっぱり馬鹿か、こいつ

 

「お待ちを。万一の保険に一般人を置いてもどうにもなりますまい。なので、私を残らせて下さい」

 

そういうと所長はあからさまに侮蔑の笑みを向けてきた。うっとうしい。

 

「やっぱり臆病風に吹かれたんじゃない。そんなのが残っても保険になるのかしら?」

 

「・・少なくとも48番より13番の方がマシかと」

 

さて、どうなるかな?

 

「良いわ。そこまで言うなら二人残してあげる。その代わり何事もなければ今回の貴方達のレイシフトは禁止します」

 

「構いません。その時は人類史に残る偉業を指を咥えて見ていることとします」

 

私の返しに満足したのか、振り返ることなく所長は去っていった。私の方も大満足だ。まさかここまで都合の良い展開に運べるとは。

この数分は我ながら人に見せられない笑みを浮かべていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いざ運命の瞬間。カルデア内の誰もが固唾を飲んで世紀の一瞬を見守る中、当然私もその輪の中にいるーーー筈もなく、全ての視線が一箇所に集まるこの瞬間、私はとある場所に来ていた。

 

「ふむ。召喚触媒がない、か。当たり前だがな。しかし現地で召喚とは正気とは思えんな。歴史が狂う程の異常事態に裸一貫で挑むとは。ともかく、霊脈と装置があることだし、問題ないな」

 

そう、私が居るのは守護英霊召喚システム・フェイトが設置された部屋。

 

「ーーー告げるーーー」

 

さあ、ここから私の計画がはじまる。

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

「あら、かわい・・くはないけど、そこそこ見所のありそうなマスターね」

 

 

 

 

えーと、これは何とも言えない第一声を上げたサーヴァントを嗜めるべきか、英霊に見所があると言われたことを喜ぶべきか。

・・・後者かな。

 

「これはこれは。神代にその名を馳せる魔術師メディアに見込まれるとは光栄だな」

 

「・・・何故一目で私の真名を?貴方何者なのかしら?」

 

あ、これアカンやつや。元々隠すつもり皆無だけど言わないと消される。

 

「詳しくは後程語るが、私は『石詠み』という異能持ちでね。かつて極東で起きた儀式についてその土地の遺物から記録を覗かせてもらった。貴方の腕前も名もその時に刻ませてもらった」

 

「・・『石詠み』ねえ。成る程。過去という概念の薄い神代では存在し無い現代ならではの奇跡ね。嘘を吐いている訳でもなさそうだし。まあ良いわ。それより、聖杯戦争が起きた訳でも無いのに、何故私は現代の地に?」

 

「ああ、それについてはーーー」

 

言い掛けたところで、直後、

ーーカルデアが揺れたーー

 

「とある目的で貴方の助力を願いたかったのだが、優先順位が変わったらしい。取り敢えず私が呼ぶまではずっと霊体化し、状況を俯瞰して欲しい」

 

「構わないけど、理由を聞いてもよろしくて?」

 

「なに、すぐにわかる」

 

事態の全容はさっぱりだが、上手く使えば損なだけでは終わらなさそうな状況にほくそ笑む。

 

「取り敢えず指示には従って上げる。けれどその代わりその顔は私に見せないで。その気が無いのが分かっていても保身に走りたくなるわ」

 

うん。取り敢えず俺は心から笑ってはダメみたいだ。取り敢えず生き残りがまず向かいそうな場所に行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーおお!13番君!?良かった!無z「挨拶は後で。とにかく状況を」 あ、ああそうだね。掻い摘んで言うと正体不明の爆発事故だ。所長と48番君、それからマシュ君がレイシフトに巻き込まれて特異点に異動した。取り敢えず今は生き残りを掻き集めて彼等と連絡を取る手段を早急に整えているところさ」

 

ふむ。何も分からん状態か。しかし、こうなると・・・

 

「では私がこれからすべきは」

 

「うん。今すぐレイシフトの準備を整えるから特異点へ異動。所長達と合流して欲しいんだ」

 

まあ、そう来るだろうな。というよりこの事態を想定して俺がここに残ってる設定だからな。働く事には異存は無いが、この博士、テンパり過ぎて色々抜けてないか?

 

「その前に一つ大事なプロセスが抜けている。貴方は私に無手で死地に迎えと?」

 

「え?・・・あ、ああ!も、勿論だとも。サーヴァントの召喚だね。忘れてなんかいないよ。ただ、召喚の触媒がマシュ君と一緒に向こうにあるからなぁ」

 

やはり向こう側か。まあ、現地での召喚を考えていた訳だし当然か。だが妙だな。何故計画の最重要遺物を所長クラスではなく一職員に?

 

「問題ない。触媒については私が何とかする。時間がないので速やかに移動しよう」

 

「あ、あちょっと!ねぇ、何で召喚できるの!?ていうかフェイトの場所知ってるの!!? お願いします。移動するから話を聞いて〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そういう事ね。緊急事態にかこつけて召喚するだけでなく、初手からサーヴァント2騎で挑みたいから私の存在を秘匿したのね』

 

『他にも理由は幾つかあるが、これが主な理由だ。ただ、キャスター。この施設にもサーヴァントが常駐している。特異点に移るまでは念話も控えよう』

 

姿は見えないが何となく首肯したのは気配で感じた。

 

「それではこれより英霊召喚を始める。少し離れていてくれ。分かっているとは思うが、余計な干渉その他何某は勘弁してもらうぞ。下手な詮索もだ。他人の魔術への追求はプライバシー以前の問題だからな」

 

念の為釘を刺しておく。こいつらも科学者風だが中身は魔術師気質だからな。

 

「分かってるよ。今この状況で君と決裂するのはマズいからね。君が僕等に協力してくれている以上は僕としても君とは良い付き合いでいたいね」

 

「僕としては」か。上からの指示や状況何如では反故にするということか。こいつの言は話半分で聞いて置くべきだな。どうにもこの手合いは信用できんな。抜け作面の下で何が飛び出てくるかわからん。まあ、ともかく公式上では私にとって初の召喚を行うとしよう満ちる。

 

『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

 

されど汝はその身に影を羽織りて侍るべし。汝、現世の闇に沈みし者。我はその明暗から掬いし者

 

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!』

 

満ちる。光が、音が、魔力が、部屋を満たして溢れていく。さあ、我が手に来たれ。暗殺者の英霊よ!!

 

『ーーーゲッ!?』

 

うん?キャスターから女性が出してはいけない声をキャッチしたが、いったい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう?私が召喚される側になるとは驚きだ。ただ問いかけることしか能のないこの身に英霊などという称号は役者不足も甚しいのだが・・・。成る程。故あって出てこれぬ英霊の代用品というわけか。これはこれで愉しめそうだ。」

 

そう言ってゆっくりとこちらにやってくるのは紫のカソック、さらにその内側には傍目からも分かる程の筋肉に身を包んだ男。歳は明らかに全盛期ではないが、衰えを微塵も感じさせない覇気が頬を伝う。

 

「サーヴァント・アサシン、ここに現界した。真名は 李 書文・・・ではなくその役と能力を引き継いだ凡俗だ。人であった頃の名は 言峰 綺礼 だ。私の愉悦が君の趣向に合えば良いのだが。君が私のマスターかね?名は何と言う?」

 

・・・なんか凄いのが来た。

 

「私の名前は蘇芳。 蘇芳 漸次だ。貴方を召喚したマスターに相違ない」

 

「・・・・」

 

おい、何とか言え。お前が聞いてきたんだろうが。ていうかさっきから後ろに控えてる(多分)キャスターから殺気と警戒を感じる。やめろ、それ以上はお前の存在がバレる!

 

「被るな・・」

 

( ゚д゚)

 

「1人称が私と被る。読者への配慮が足りんな。迅速かつ完璧な対応、あと泰山の麻婆を所望する」

 

・・・どういうことなの?

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

 

「しかし、この地獄絵図をもう一度拝むことになるとはな。私の求めた答え以外でこの光景を生み出されるのは業腹だな。そんなことより、ここまで壊れてしまっては泰山の麻婆には有り付けん。この私の至福の一時を台無しにしてくれた連中には一足一倒などでは足りんな」

 

「・・・予想は着いたけどこの男はこの惨状を見てもっと他に言うことはないのかしら。ここに居たのはほんの僅かな時間だったけれど、色褪せない思い出が多過ぎるわ。それはそうとマスター!次召喚するサーヴァントにはティーチャーなんてどうかしら!?侮っていたとはいえ騎士王にすら膝をつけさせるその御技、誠実なお人柄、あの方が英霊の肉体を得たのならこの戦い勝利したも同然ですわ!!」

 

うん、懐かしのホームに戻ってきたせいか色々と弾けているな、この2人。

 

「・・何から突っ込めば良いのやら・・・。取り敢えずアサシン、人理定礎が済めば元通りの冬木に来れるからそれまで我慢しろ。あと、キャスター。英霊召喚は狙ってどうこうできないし、ティーチャーなんてクラスはない。ただそこの神父みたいな例外はあるし、召喚していけばその内会えるかもな。あのチート具合なら英霊はともかく、サーヴァントとしては十二分だからな。確証はないが」

 

「先を急ぐぞ、蘇芳漸次。今の私はバーサーカー相手に100km走を勝ち抜けるばかりに気力が充足しているぞ」

 

「・・・ふふふふ。マスター。奪い取った聖杯は私たちのものよね。そうよね。だってあと7つは最低あるんですもの。相応の戦力増強は当然よね。そして当然といえば聖杯を扱うのはこの私でしょ?だって私以上に聖杯を操れる魔術師はこの場にいませんものね」

 

しまった。エンジンにガソリンじゃなくてニトロを投入してしまった。果たしておれはこの2騎の修羅に着いていけるのだろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。具体的にはレイシフト直後。

『・・・それじゃ頼んだよ、蘇芳君。君達には速やかにマシュ君達と合流し、特異点の修正に当たって欲しい。彼女達は現在、現地のサーヴァントと協力体制を作ることが出来たみたいで、今はマシュ君の宝具開帳を手伝ってくれている』

 

「了解した。座標との距離からすると、何もなければ30分程で合流出来るな。道中なんらかの情報を得られれば言うことなしだがな」

 

「現地のサーヴァント・・か。私の記憶通りなら、見ず知らずの、それも未熟なサーヴァントに気に入ったからだなどという理由で助成する者はそうはいない。これは愉しみになってきたな。」

 

『え、もしかして君冬木の聖杯戦争の関係者?呼び出されたサーヴァント?』

 

「いや、そのように大それた者ではない。この時間軸の10年前に同規模の大火災を引き起こしただけだ」

 

「いや、十分大それた人物だろ、それ。それよりロマン博士。すまないが緊急時かこちらの要請以外は通信を切ってもかまわないだろうか。一言一句筒抜けでは無用なストレスを抱えてしまいそうだ」

 

『おっと、それはすまない。少し配慮が足りなかったね。分かった、こちらはそれでも構わないよ』

 

そこで通信を切って歩みをを進める。お互いに無言で歩き、道中の骨や魔物もどきはサクッと片付ける。この神父マジで強い。防御されようが何されようが諸共打ち砕いてる。一撃で木っ端微塵にされ、弓兵は矢に番える暇すらなく黒鍵で穴開きにされる。しかも何だかんだ俺に向かってくる攻撃もきっちり捌いてくれている。性格には難があるが、仕事はきっちり仕上げてくれる良サーヴァントだな。性格はともかく。

そんなこんなで雑魚を蹴散らしながら進むこと15分。開けた場所で休憩を装って座り込む。

『キャスター』

 

「問題無いわ。あの後も続けて使役されていた干渉の魔術は無効化しておいたわ。」

 

キャスターが現界する。こちらも流石だ。念話などせずとも此方の意図を汲んでくれる。やはり良妻系サーヴァントは違うな。

 

「ご苦労だった。やはり音声収集は続けていたか。どうせついうっかりしてた、とかいって言い逃れる心算だったんだろうがな。」

 

やはり信用はしないほうが良いな。これが信用から不審に変わるかは奴等の動き次第だが、時間の問題だな。

さて、キャスター達に向き直る。色々棚上げしていたことを今の内に解消しておこう。

 

「さあ、ようやく面倒な監視もない場所に来れたことだし、色々後回しにしていたことを済ませよう。改めて聞くけど疑問に思ったことか聞きたいことあるか?」

 

ふむ。メディアは最初から決めてあるのか、不動のままか。綺礼は・・・此方も変わらず胡散臭い笑みを浮かべている。

 

「私の方は2つね。まず、何故マスターがあのカルデアとかいう連中をそんなに警戒しているか、もう一つは貴方の言う『石詠み』ね。現代ならではの奇跡はやはり興味深いわ。」

 

「ふむ。2つ目から先に応えよう。

 

『石詠み』とは、過去への憧憬、夢想、知新、そして憎悪をある種の信仰、奇蹟にまで昇華したものだ。そして物質に染み付いた想念、残滓を触媒として星の記録を拝読する術だ。長所は過去限定で言えば理論上あらゆる術を識ることができる。特に魔術や奇蹟は過去へと遡る程にその神秘は強大なものになり、武術とは異なり知っているだけでもアドバンテージは相当なものだ。

さらには『石詠み』の素質が高い者は武具や装飾品など身に付ける物から持ち主の記憶や人生を追体験することすら出来る。武芸に秀でた者なら技術の疑似的な投影、優れた錬金術士なら喪われた技術を再現し放題、なんてことも夢ではない。

欠点としては、詠む記録の選別が出来ない所だな。例えば高名な英霊の記憶を疑似体験すれば、その人間の葛藤や苦痛、絶望まで体験してしまう。そんなことを何度も繰り返せば感情が鈍化したり、精神が老成し過ぎて腐ってしまうことすらある。

 

と、こんな所だがここまでで何か質問は?」

 

「・・・・」

 

「おーい。キャスター?期待していた程でもなかったか?」

 

「あ・・・、ごめんなさい。現代魔術とは思えない出来だったものだから。質問は特にないわ」

 

「? そうか。ならもう一つの方だな。これは連中とは雇い雇われだからそもそも信頼関係がないというのがあるが、それ以上にスパイ対策としての面が大きいな。」

 

「ほう?既に人類の未来の破却は大方終わらせ、尚且つ此方側の動きを制限しておいてまだ間諜を忍ばせておく理由があるのかね?」

 

「無論だ。そもそも今回の人理定礎には国連がバックに着いている。近代魔術界では例のない表の世界からの干渉だ。どんな思惑が絡んでいてどう作用しても不思議ではない。他には、カルデアが今の体制に入る前から特異点を作れるほど干渉出来る連中が今になって、まるでこの瞬間を待ちわびたかのように大掛かりな騒動を起こしたという点だ。此方の動きにこそ事件進行の主導権があるのなら、逸脱しないよう監視する役目は不可欠だろう。根拠としてはこんなところだが、この位貴方ならとっくに考え付いてるだろ」

 

「さて、それは買い被りというものだ。この身は遍く神の僕に過ぎない。この様な非常事態では、ただ状況に流されるより他に術など持たんよ」

 

「「嘘だ(ね)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって現在

 

「さて、良い感じで士気を上げてくれている所に水を差して悪いが、この面子で本丸に向かうには、決定的に欠けているものがある。それをどうにかしたい」

 

2人が一通り欲望に駆られて爆走した後で一声掛ける。うん、次からは彼等の琴線を無闇に刺激するのはやめよう。アレがなかったら逸れているか、引きずられてもみじおろしになってたな。

 

「肉壁、ではなく身代わり、でもなかった。盾役の不在か」

 

「おい、似非神父。前の2つが不穏過ぎるぞ。まあ、その通り壁役がいないんだ。俺は論外。2秒で融ける自信しかない。キャスターを殴り合いに出すとか正気じゃないし、アサシンは気配遮断とニノ打ち要らずの強襲が最大の売りだ。それに雑魚ならともかく、セイバー等の脳筋相手は耐久の方が不安だ。どっかに良い感じのサーヴァントが落ちてないかな?」

 

「・・はぁ。気持ちは分かるけど現実逃避はお止めなさい、マスター。だいたい、万一居たとしてもどう手懐けるのです?そういう手合いの為の対策が本末転倒に「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!!!!!」・・・ゑ?」

 

「ほう?妙な影が邪魔で見え辛いが何処ぞで会った暴れ牛か。」

 

「〜〜〜〜〜〜っ!!!???(声にならない叫び)」

 

「・・・・」

 

眼前に降ってきたのは聳え立つ山脈を思わせる風格と筋肉。全身が黒い霧もしくは影の様な物に包まれながら、それでも尚その覇気には一片の翳りも見えない。大分歪んでしまっているが、狂鬼というよりは野生の化身だな、これは。

 

「しかし、今し方願ったものが現れるとは、君も戦場で常に幸運を味方につける質かね。喜べ、少年。君の願いはもうすぐ叶う」

 

「馬鹿言ってる場合じゃないでしょアサシン!?

マスター!!ここは私達が受け持ちます。早く離脱を!!!」

 

「・・・・・しい」

 

「ま、マスター?」

 

「欲しい!!この戦力は是が非でも加えたい!アサシン、キャスター。何としてもこいつをゲットするぞ!!!」

 

「な、なななんですって〜〜〜〜!!!!??」

 




「ところでアサシン。特異点が冬木だと知った途端飛び出していったが、何してたんだ?」
「なに、苦にならぬ徒労とでも言ったところだ。往返徒労になるやもしれんが、アレのことだ。きっと私を悦ばせようと生き残っているはずだ。実に愉しみだ
「???」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話

今回は主人公とは別視点です。なので地の文も三人称視点でお送りします。


(in大聖杯の空洞)

 

 

 

 

「ーーー極光を呑め!『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!!」

 

 

「宝具、展開します!!ーーーッ!?う、あああああぁぁ!!!!!」

 

黒の閃光と無色の盾が激突する。凄まじい魔力と暴風を撒き散らしながら、それでも盾の英霊はその死の稲光を余すことなく受け止める。何もかもを掻き消す衝撃の後、マシュ達は自分達の無事に安堵の息を吐く。

 

『よし、やったぞ禅城君!防げ「『約束された(エクス)ーーー」え!?』

 

ーーーしかし、間髪入れず黒に濡れた聖剣が再び威を放つ。騎士王は再び溢れ出る黒を掲げ真名を謳う

 

 

「!マズイ!?令呪解放、マシュ!!」

 

「く、うぅっ。ロ、『ロード・カルデアス』展開!!!」

 

「ーーー勝利の剣(カリバー・モルガン)』!!」

 

轟音と共に再度ぶつかり合う剣閃と巨盾。しかし、結果は同じにはならなかった。令呪によるバックアップこそあれど、宝具の連続発動という前代未聞の事態に身体が着いていかず、不完全な起動を遂げた盾は受け切ることなく霧散した。幸い、向こうもチャージが足りなかったこと、そしてキャスターが咄嗟に防御のルーンを敷いたお陰で、全員軽傷とまでは行かないが、重大な負傷を負うことはなかった。

 

「〜〜〜っ!!はぁ、危機一髪だったな坊主。あそこで即座に切札を切れるとは大した・・・・・。」

 

言葉は最後まで続かなかった。三度目の正直と言わんばかりに『黒』が洞穴を埋め尽くしていく。しかもまるで勢いは変わらない。悪い冗談の様にその脅威は衰えを見せない。

 

『そんな、馬鹿な!?幾ら聖杯で魔力を補えても、あれだけの神秘を連続して発動したら、身体の方が持つはずが・・・』

 

「その通りだ。宝具開帳とはただの神秘ではない。その英霊が生涯を賭けて辿り着いた極致。代償は魔力だけではない。正直なところ私も限界が近い」

 

頭上から降るのは騎士王の名に相応しい凛とした声。だがそれにも少し翳りが見える。良く眼を凝らせば僅かだが呼吸も乱れている。

 

「本音を言えば貴公等のその興味深い宝具と武芸をもっと堪能したかった。だが、私の『直感』が今すぐ事を進めろと喚くのでな。」

 

ーーー『直感』。誰しもが偶に見せる閃きや悪寒、条件反射。だが、英霊のスキルにまで昇りつめたそれは時に未来予知のレベルに至る。

自分で言うのもアレだが、今の自分達に彼の騎士王を突き動かせる程の戦力はない。ではいったい?

黒髪の少年ーーー禅城 切嗣ーーーは思考を巡らせるが長くは続かなかった。騎士王がまた聖剣を掲げたからだ。

 

「 貴公等には感服する他無い。まさか我が宝具を二度に渡り凌ぎきるとは。

キャスター、貴公が私にこのまま倒され聖杯戦争を終わらせるというならば、其方のメイガス達の無事は約束する。その業と勇猛さに敬意を評して、我が剣に賭けて誓おう」

 

騎士王は高らかに言い放つ。その眼にも、その声にも嘘偽りは見えず、これだけを見ればかつての彼女と変わらないだろう。しかし、颶風と共に周囲を彩る漆黒が恐怖と恭順を強いる。

迫られた二択。しかし結末はどちらも大差ない。もしキャスターが彼女の言葉に首肯する、または彼女の前に躍り出れば禅定達は生き残るだろう。しかし、その時点で人理定礎を修復する手段は完全に消滅し、人類史は2016年で滅びを迎える。かといって、それ以外の行動に出れば彼女は迷わず聖剣を振り抜き、聖杯戦争を終結させる。自分達が死ぬのが遅いか早いかの差で、状況は絶望的である。

 

「へっ。こいつはマジでヤバいな。諦めるなんざ死んでも御免だが正直なところ手詰まりだ。窮鼠猫を噛むといきたかったが、まさか獅子の方が窮していたとはな。想定外も良いところだ」

 

確かに、当初は聖杯戦争の後を想定して闘うであろうセイバーに相性の利を押し付けて流れを掴み、そのまま押し切る算段だった。実際相性の方は想像以上に良く、あの対城宝具を二度に渡り凌いで見せた。しかし、最初から全力以上の捨て身でこちらを仕留めに来るなど誰が予想しただろうか。しかも、かの有名なアーサー王が無名の英雄たるデミ・サーヴァント相手に。

 

現存戦力はキャスターとマシュと自分の3名。キャスターは幸い軽傷で魔力供給で傷は癒えている。宝具に関しても何時でも撃てる。しかし問題はマシュだ。令呪の補助と治癒魔術の恩恵で辛うじて戦闘に支障は出ないが、宝具はもう使えない。騎士王すら3度目の開帳で身体が限界に至るのに彼女にはそれは不可能だろう。令呪2画と彼女の五体満足を棄てればあるいは、だが彼にはその選択肢は選べない。彼にとって犠牲とは理想を追い求めてもなお溢れ落ちた存在であり、強いられるものでも、ましてや望まれるものではない。犠牲を代償にした未来など彼にとって無価値に等しい。それにーーー。

 

「ま・・だ・・・・まだ、です」

 

少女が立ち上がる。宝具の反動で喀血し、盾を杖代わりにした満身創痍の身で、それでも眼に強い意志を宿らせて騎士王と対峙する。

 

「限定的な未来予知すら可能にする『直感』が危機を知らせているなら、例え討ち果たせ無くても、必ず勝機が訪れるはずです。センパイの令呪はあと2画。キャスターさんもほぼ万全。私達はまだ負けてはいません!!」

 

それにーーー彼女が、マシュが諦めていないのに、折れる訳にはいかない。あの頼りなさそうでとても強い彼女を一人で闘わせるわけにはいかない。

 

「ったく。マスター運は最悪だってのに、英霊になってからこの形、こと女でハズレくじ引いたことは一度もねえな。あの嬢ちゃんといい、月のそっくりさんといい、現代の嬢ちゃんはみんな英霊予備軍なのか?これじゃ嫌でも格好付けたくなってきたなあ!!」

 

キャスターにも覇気が戻る。いや、これまで見た中でも最高の力を感じる。圧倒される気迫、全身に漲る闘志、セイバーの魔力放出にも負けない魔力の奔流。これがクランの猛犬と言わしめたアイルランドの光の神子か、と思わせる立ち姿である。

 

「そうか、それが貴公らの返答か。惜しくもあるが、嬉しくも感じる。ならば我が渾身の一振り。見事越えてみせろ!!!」

 

ーーー極光すら呑み込む『黒』が逆巻く。現状彼等になす術はなく、ただ蹂躙される他ない。けれど、最後の最後まで諦めはしない、と3人は覚悟を決める。

 

「『約束された(エクス)ーーー』っ!?何だ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、騎士王目掛けて数多の紫の弾丸が飛来、着弾と同時に大爆発を起こす。数十発にも及ぶ魔弾はしかし、そのどれもが彼女を傷付けることができない。

 

「これほどの数の大魔術を?けれど、西洋の魔術では私を傷付けることなど出来ない」

 

そう、彼女の対魔力はAランク。キャスターのような呪術ならともかく、西洋魔術では例え神代の魔術でも意味を成さない。それが分かっているから騎士王も泰然としている。しかし、間もなく異変が表れる。

 

「これは・・毒?竜の因子を持つ私にすら効く毒とは見事だが、この程度では指一本緩めることは無いーーくっ!?」

 

「■■■■■■■!!!」

 

突如、煙幕と化した土煙の中から狂鬼が姿を見せる。それはかつて彼女が降し、配下とした中でも最強の一角。未だ紫の煙に包まれながらも、完全にセイバーの支配から放たれ、その脅威を示す。咄嗟に鍔迫り合い、これを押し返す。宝具開帳のための魔力は四散したが蓄えられた力と類稀なる剣才は狂戦士の不意打ちを捌ききるには充分だった。しかし、彼女にとっての脅威はそれだけでは無い。

 

「馬鹿な、貴様どうやって聖杯か・・あ・・・?」

 

瞬間、身体の内側から雷が落ちたかの如き衝撃が走る。後ろに立つのは平行世界で幾度と無く相見えた『神すら問い殺す男』。

 

「衰えたな、セイバー。如何な騎士王と雖も数多の無辜の返り血にはその御霊も錆び付いたと見える」

 

英霊の能力と名を借りた神父は嘗ての仇敵に嘲笑とも憐れみとも取れる笑みを浮かべる。当然この瞬間にも狂戦士の斧剣が迫る。騎士王は為す術なく崩れ落ーーー

 

「貴様が何故、いや、そんなことはどうでも良い!」

 

ーーちることなく暴風を巻き起こす。全力全開の魔力放出。今まさに両断しようとしていたバーサーカーはたたらを踏むことすら出来ず吹き飛ばされる。そして、何事も無かったかのように(・・・・・・・・・・・・)立ち上がる。

 

「聞き捨てならん!必殺の一撃を決め損ねる貴様が私を錆びたと断ずるか、外道神父!!」

激昂し、そのまま聖剣を一閃する。何故彼女が即座に復帰出来たかと言えば、神父の放った宝具と彼女の能力による。

二の打ち要らずと謳われた李 書文の宝具たる絶招『无二打』 は西洋魔術風に言えば、相手の魔術回路に自信の魔力を打ち込み破壊し、霊核を機能停止にする業。なので直撃さえ避ければ肉体その物のダメージは少なくなる。そして彼女には高ランクの『耐久』ステータスと『直感』がある

つまり、一撃を食らう直前に察知して打点をズラし、竜の因子と聖杯からの魔力供給で瞬時に傷を修復したのである。

 

迫り来る剣閃。この距離では圏境を使おうとも直感スキルで察知され、それが無くても魔力放出によって大幅に攻撃範囲が増大している剣閃を前にしては死ぬより他は無い。

にも関わらず、神父は先程の笑みを浮かべたまま、一言言い放った。

 

「ところで騎士王、先程の直感の警報とやらは未だ鳴り響いているかね?」

 

「ーーーーえ?」

 

思考が白く塗り潰される。この闘いが始まる前から感じた今迄に無いほどの悪寒。何としてでも事を進めろ、それしか無いと急き立ててきたそうおんが今や何も言ってこない。

それはつまりーーー?

 

「既に避け得なくなった『幕引き』にはさしもの『直感』も働きはしない。つまりはそういうことだ」

 

 

 

 

その言葉を最後に彼女の視界は光に掻き消え、意識も消え去った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます。
え、バーサーカー戦はって?
あ、えーと、はい。主人公のネタバレ防止という名のカットです。どっかの紅茶と同じです(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

 

side 禅城

 

ーーー訳が分からない。

この場にいる殆どの者がそう感じているだろう。つい先程まで絶体絶命の窮地に立っていた筈なのに、気が付けばその元凶たる騎士王は腹に風穴を開けて仰向けに倒れている。霊核は完全に破壊され、竜の因子によって辛うじて息をしている。未だ現界している事自体奇跡としか言えないが、それも時間の問題だ。そう遠くなく彼女は消滅する。それにしても先程のアレは一体何だったのだろう?まるで体内に爆薬でも仕込まれたかのような内側からの魔力の爆発だった。あの一瞬の間に、どうやって騎士王にすら気付かせずにやってのけたのだろうか?

 

面を上げて辺りを見回す。紫のローブに身を包んだキャスターと思わしき女性は心底残念、とでも言わんばかりの表情で伏した騎士王を見つめている。その姿は未熟な我が身でも分かるほどの魔力と底知れなさを醸し出しながらもまるで王侯貴族のような気品も感じさせる。さっきから「せっかくの着せ替えモデルが・・・。あれだけ頼んだのに、マスターのイケず・・・。」とかブツブツ聞こえてくるけど気の所為だろう。きっとそうに違いない。

 

次に、騎士王に見事な一撃を叩き込んで流れを引き寄せたあの神父らしきサーヴァントは何処に行ったのだろうか?父母には到底及ばないが、多少は場数を踏んでいるのである程度は気配も読める。しかも相手は歩く神秘の塊ともいうべきサーヴァント。それが何一つとして察知出来ないということは、気配遮断スキルを持つアサシンのサーヴァントなのだろうか?

 

残るは、自分から一番遠くで佇んでいるとても影を衣のように纏う巨漢の男。先程は鬼を思わせる咆哮と覇気、暴風の様な連撃を振るった狂戦士は役目を終えたとばかりにピクリとも動かず、主の新たな命令を待つばかり。

 

味方なのかどうかは兎も角、敵意はなさそうなので一息吐いて今度は仲間達の方を見やる。マシュは・・・あぁ、良かった。今は自分の足でしっかりと立ち上がっている。先程は相当な無茶をさせてしまい心配していたが、サーヴァントの回復力故かパッと見は後遺症等は無さそうだ。勿論、戻ったら有無を言わさず即刻メディカルチェック行きだが。

 

所長はあまりの状況の変化具合に頭が付いてこないのか、呆然としたままだ。いつもならこんな事になった時点で癇癪起こしてる筈なのに。此方も無傷のようで安心した。もし何かあったら事後処理g(ry・・・コホン、今後の進退に関わる重大な危機になるところだった。いや、良かった、良かった。

 

ロマンもまた同様に沈黙している。どうやら掛ける言葉が見つからないようだが、何故だろう?この冬木の地は俺達が来た時点でキャスターを除いて完全に制圧されていた。そんな中で僕達に加勢してくれたという事は、彼等が前にロマンが言っていた援軍なのだろう。ならば彼等の動向を何故知らなかったのだろう?

 

「センパイ、この状況はいったい・・・。彼等がロマンさんの言ってた・・?でも、」

 

「あぁ、マスターの姿が見えない。セイバーを倒せた以上あとは特異点を正常化させるだけ。なのにまだ警戒してるということは、よほど用心深い奴なのか、それとも此方を全く信用していないのか。まあ、それは後々改善していくとして、と」

 

「センパイ?あの、何を・・・?」

 

いったん面倒ごとを思考の端へ放り投げて、この真面目なコウハイの頭を撫でる。全く、義務感や周りへの気遣いは尊いことだけど、もうちょっと自分を大事にして欲しいものだ。

 

「あの、センパイ。これは・・その・・・///」

 

「うん?どうした、顔が随分赤いけど調子が悪いのか?ま、まさか連続宝具の反動が今頃!?」

 

「いえ、違います!!確かにまだ少し違和感はありますが、その、体調は寧ろ・・・今ので・・良くなったというか・・その・・(ボソボソ)」

 

何だか良く聞こえないけど、真っ赤になって俯いてしまった。どうしたんだろうか?

あ、そうか!これだけの面々の中で子供扱いされたことに照れているのか。これは悪い事をしてしまったな。

 

「・・・はあ。どうしてこうウチの組織の男共はこう女心が分からないのかしら。マシュのこれからが心配になるわね」

 

うるさい、がっかり所長。大事なところで役に立たない人に残念なモノを見る目なんてされたくない。

 

「ちょっと!何も言わないからって分からないと思わないで頂戴!!あなたの目は無駄に色々かたるのよ、主に悪い方に!!!

・・て、あなた・・何をする気?」

 

とりあえず、所長は置いておいて、俺はセイバーの元へと近寄る。まだ意識があるのは驚きだが、喋る事すら億劫なのか視線を向けるだけに留まる。

 

「ーーーAnfang(セット)・・・・!」

 

「え!?センパイ、まさか!?」

 

「治癒魔術!?あなた、一般人からの筈じゃ・・・。!じゃなくて、あなた何のつもり!!?」

 

「大した事じゃない。気休めにもならない小手先の治癒だ。それにここまで壊してしまってはどうにもならない。が、少しばかり終わりを長引かせるのと会話できる程度なら何とかなる。マシュ達は本当に良くやってくれた。ここからは、というかここからが俺たちの仕事だ。」

 

「せ、センパイ?あの、仕事とは?後は、特異点の修正だけでは・・」

 

「システムは一人でには狂わない。必ずそこに理由と道理がある。それを知っているのは彼女だけだ。

 

さて、君は言ったな?『見られている。だから案山子に徹した』と。ならばこの事態は君自身の望みだけでなく、他の連中の思惑も混じっている訳だ。その大元を叩けなければ、例え人理定礎全てを修正出来たとしても、イタチごっこだ。君の苦痛をただ長引かせる外道染みた手段だが、こっちも人類史を2015年で終わらせる訳にはいかない。答えてくれ」

 

「・・・なる程。落ち着いて良く見れば面影がある。そう・・・。あなたは自分を好きになる事ができたのですね、◼︎◼︎◼︎・・・・」

 

最後はノイズが入ったかのように聞き取れなかった。けれど、どうやら俺ではなく、俺を通して誰かを見ているようだ。

 

「良く聞いてください。これからあなた達はグランドオーダー ーーー聖杯をめぐる闘いに身を投じなければならない」

 

『「「!!!」」』

 

「冠位指定・・・ですって!?」

 

「7騎のサーヴァントで殺し合うのではなく、7騎のサーヴァントが殺しに来る。今の貴方達の戦力では到底勝ち目はない。それでも挑むというなら、これを・・・」

 

「?これは・・石?とペンダント?」

 

「貴方なら、必ず『彼』を召喚できるでしょう。彼の真眼と戦いの上手さは大きなアドバンテージになる筈。そして、あの男を必ず止めて下さい。始まりの御三家が生み出した妄念を・・・・!!?ぐ、あぁ・・・」

 

「!!セイバー!!?くっ・・!?」

 

一瞬だった。セイバーの伏せていた大地が漆黒に染まり、底無し沼の様に彼女を引きずり込んだ。余りの早さに即応できず、自分を逃すだけで精一杯だった。一体何が?

 

「傀儡風情が、あんまり余計なことを喋って台本を汚さないでくれませんかね?」

 

「いや、まさか君達がここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの計容外だ」

 

二人の男が立っていた。一人は、カルデアをふらついていた時にロマンさんと会った緑の紳士服に身を包んだ男。そしてもう一人。年恰好は自分より少し下、群青色の西洋合羽に顔の上半分を覆う仮面を着けた、そして・・・銀髪に緋色の眼をした少年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧頂きありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

 

side 蘇芳

 

みなさん、お久しぶりです。ここ2話ほど出番皆無だった蘇芳です。現在、2騎のサーヴァントを先行させ、セイバーらしき黒いのを潰したのは良いが、そこから息つく暇もなく急展開。私は全く面識がなかったが、カルデア所属にしてオルガマリー所長の腹心のレイ何とかが今回の爆発の黒幕とのこと。今もキャスターとのパスを通じて会話は全て押さえているが、敵は馬鹿なのか阿呆なのか器が小さいのか、先程からかなり重要なキーワードを垂れ流し続けている。「複数に渡る聖杯」、「今回も『また』君の責任で」「王の寵愛の消失による破滅」、「フラウロス」か。こんなうっかり八兵衛が幹部では、こいつの言う「我が王」とやらの底も知れるな。

 

それは兎も角、この状況はマズイな。残念所長は馬鹿ウロスの懐に入るせいであの「他称:一般人」が動けないな。何とか隙を突こうと伺っているが、あの仮面のチビが邪魔だな。アレは馬鹿ウロスと違って慢心も油断もしていない。面と向かってではどんな奇襲でも即応してくるだろう。先程のセイバー(仮)を地面に引きずり込んだ魔術の事もある。手の内が分からない内から此方の手札は切りたくない。

 

・・・む?どうやら馬鹿ウロスが飽きて所長の始末にかかったな。正直アレがどうなろうが知った事ではないが、あれでも一応クライアントだ。依頼そのものは取り敢えず終わらせてからでないと気持ち良く手を切れないな。それに状況が状況だ。人手は幾らあっても足りん。幸い「容れ物」についての充てはある。あの逸般人も捨て身で動くようなら、此方も少しばかり助太刀と洒落込もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 禅定

 

くそっ!!何とかならないのか!?所長はあの間合いでは逃げようがない。彼女の身体は喪われているらしいが、知った事じゃない!此の儘手をこまねいて見ているより悪い事はない!

 

流れを引き寄せられるだけの切札はある。けれど問題は目の前の仮面の少年だ。口元はにまにまと子供の様な笑みを浮かべているが、注意は一度も揺らがせていない。此方が切札を切ってレフ・ライノールを所長から引き剥がしても、確実にこいつは安全圏に逃げ切るだろう。そして次からは確実に警戒される。

 

マシュも迂闊には前線に出せない。あの騎士王の対魔力を何も無かったかのように無視して引きずり込んだあの影。あれは魔術ではなく、対サーヴァントに特化した『ナニカ』だろう。もしそんなものにデミ・サーヴァントの彼女が触れたら・・・。

 

 

 

「まだ誰にも認めてもらえてない!!唯の一度も褒められてないのに!!!」

 

 

 

ッ!マズい!?もう時間がない、手段を選んではいられないか!こうなったら一か八か!!

 

即座に前へと飛び出す。後ろの後輩からの制止の声も無視して一気に接近する。やはり仮面の男が動いた。足下から無数の影が肉迫する。触手などと可愛らしい規模ではない。アレではまるで黒い海だ。くそ、足を止めていては間に合わない。ならば、こうだ!

 

ich bin (体はーーー)

 

撃鉄を起こすイメージ。一気に魔術回路をフル回転させ最大級の弾丸をブチかます!狙いを絞り、想像を創造へと昇華し、トリガーを弾く。そしてーーー。

 

 

「「「!!???」」」

 

 

ーーー瞬間、視界が「紅」に染まった。血よりも禍々しくてドス黒い「紅」。其れだけでも相当な異常だが、当然それだけでは無かった。

 

 

「ぐ、かっはああぁ!?ゴボッ!!」

 

「〜〜〜〜!?こ、これは魔力を・・引きずり・だして!!?」

 

突如として眼前の敵達が苦しみ出す。どうやらこの赤いのは魔力を奪い取る結界らしい。統制が取れなくなったのか、それとも魔力切れなのかあの影は消え去った。もう前を塞ぐものはない。あとは所長の手を掴んで離さないあの薄汚い裏切り者の腕だけだ!!

 

ich bin das Bein von meinem Schwert(ーーー体は剣で出来ているーーー)

 

引き鉄を弾く。俺のナカから弾き出された一振りの途轍もなく長い太刀。余りの長さから、物干し竿とか言われたらしいが、詳しい事は良く知らん!必要なのはこの切れ味とこの必殺の魔剣!

 

「・・秘剣ーーー」

 

呟きに反応したのか、仮面の男が距離を取る。あの状態であれだけ素早く動けるとは、身体能力はあの外見とはかなり剥離しているらしい。

だが今はそんな事にかまっていられない。今すべきは、この太刀に刻まれた記憶のままに身体を任せること・・・。

 

「ーーー燕返し!!!」

 

一呼吸に二振りの斬撃が同時に襲い掛かる。一の太刀で腕を断ち切り、ニの太刀で裏切り者を斬りつけ吹き飛ばす。

本来の秘剣からは遥かに劣るが、その速さと鋭さは何とか形に出来た俺の切札その一。暗示に死ぬほど弱い父の記憶をチューチューして記録し、夜も寝ないで昼寝して習得した我が必殺技!所長の窮地を救い、さっきからマジでイラッ☆とさせてくれた馬鹿ウロスをバッサリ出来たし当に一石二鳥!

・・・・・・・成功して良かった(ぼそっ)

 

「うっっっギャアアアァァァ!!!!!??腕が、私の腕があぁぁ!!

貴様、貴様、きさま、キサマアァァァ!!!」

 

・・・うわ、凄く荒ぶってらっしゃる。だが、良い感じに我を忘れている。このまま何とかこちらのペースに乗せられれば。

 

「コロス、コロス、キサマはこのワタシが八つ裂きにs「うるさいですよ」ブフゥッ!?」

 

今正に飛び掛らんとしていた馬鹿ウロスの前に現れたのは先程まで退避していた仮面の男。しかも来たと思ったら黒い触手でいきなり馬鹿を引っ叩いた。なにごと?

 

「舐めきっていた相手に良いようにされただけでも赤っ恥なのに、そんな我を忘れた状態で挑んで君の大好きな王様の顔に泥を塗りたいのですか?どうせ暫くは君の仕切りなんだから、後でゆっくり報復したらどうですか?」

 

「〜〜〜〜〜っ!!!」

 

物凄く表情を歪めているけど、何とか踏み止まったようだ。まぁ、手負いの状態で『これ以上煩わせたらぶっ殺す』って雰囲気で言われたら流石に止まらざるを得ないか。

 

「殺す、貴様は私自らコロしてやる。くだらない人間の分際で、くだらない計画を立てに乗ったことを死ぬ程後悔させてやる!」

 

・・・うん、まごうことなき三下台詞を吐いて消えていった。まるで融けるように。これも聖杯とやらのチカラか。やっぱり規格外の魔力だな。今度は突然の強襲も警戒していかなければな。

 

「・・・やれやれ。身内の醜態を晒して申し訳ありません。しかしこれで彼も少しは慢心せずにキビキビと仕事に励んでくれることでしょう。鼻っ柱を折って下さりありがとうございます」

 

こちらに向き直り、慇懃に頭を下げる仮面の男。馬鹿が消えた今、たった一人で複数のサーヴァントに囲まれているというのに、まるで恐れることなく、何時でも勝てる、と言わんばかりの風貌だ。

 

「・・・さて、合理的にいくならあなた達をこの時空の修正に呑み込ませてしまうのが正解でしょう。しかし、あの逆境を誰一人欠ける事なく乗り越えたあなた達の散り様には相応しくない。僕があちら側に帰して差し上げましょう」

 

まるでその一言が合図とでもいうかの如く、突如地響きと共に街が消えていく。そんな中でも我関せずとばかりにマイペースに何かの端末のような機械を仮面が弄ると、視界がゆっくりとホワイトアウトしていく。

 

「・・・どういうつもりです。あなた達にとって我々は敵対する不確定要素なのでは?」

 

俺たちは警戒を最大限にして様子を伺う。こちらからしてみれば放っておけば修正の波に消える連中にわざわざ手を伸ばすというのだ。罠を疑わない方がおかしい。

 

けれど、目の前の少年は本当に可笑しそうに微笑みながら何でもないことかのように呟く。

 

「ふふっ、そんなにピリピリしないで下さい。だって僕の趣味半分、利害半分ですから。ほら、僕の周りって皆あんなのですから、例え敵側でも人間さんがいるのって新鮮で面白いですもん。それに退屈な一人遊びよりも煩わしくても誰かとの真剣勝負の方が燃えるでしょ?ライノールさんとかその典型ですけど、彼は王様には忠実で熱心でも王様からの仕事には割と不真面目ですし。不穏分子が居てくれた方が捗って良いんですよ」

 

そういって丁寧にお辞儀してから、何処か遠くへと振り向いて手を振る。この仕草だけなら友達を見送る子供のようだ。燃え盛る廃墟の景色と黒い影がそれを台無しにしているが。

 

「じゃあね、優しいお兄さん達。おっかない方のお兄さんには今度にでも顔を見せて欲しいな。その時まで貴方達が生けていればだけど、僕にお鉢が回って来た時は、いっぱい遊ぼうね(殺し合おうね)!」

 

辺りが白に包まれて自分という存在が一度世界から消える感覚。こちらに飛ばされて来た時と同じだ。どうやら本当に罠とかではないらしい。

ーーーこうして、俺たちのファーストオーダーは幕を降ろした。何とか犠牲は出なかったが、次もこうだとは限らない。何とか一つでも対抗手段を見つけていかないと。

それに、陰から加勢してくれた、俺以外の唯一の候補者。彼の腹積りは分からないが、何とか協力関係は確立させないと。碌に手の内は分からなかったが、それでも彼の一手はどれもズバ抜けて強力だった。彼の協力無くしては俺たちはこの特異点ですら生き残れなかっただろう。何とかして取っ掛かりを作りたい。問題は山積みだが、一つずつ解決していこう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・あれ?何か、というか誰か忘れているような??

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。

次回、もしくは次々回はちょっとこじつけ回というか、ご都合回があります。申し訳ありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

投稿遅くなりました。な、難産でしたorz


 

side 禅定

 

「・・・知らない天井だ」

 

ハッ!?何か変な電波が脳から口を伝って漏れ出たぞ!?何故かこう言わなければならないと命令染みたなにかが。『天啓』スキルなんて持ち合わせてないんだが。

 

それはともかく、見覚えのある近未来的な機械の室内から察するに、どうやら無事に戻れたようだ。いや、戻してもらえた、というべきか。

 

正直今回生還できたのは奇跡に等しい。援軍の絶妙な支援のタイミング、敵の油断、そして初戦という相手への情報の不足。どれか一つでも欠けていたらここには帰ってこられなかった。少なくとも大なり小なり犠牲は出ていただろう。逆に言えば、大急ぎで戦力を今以上にしなければ、今度は必ず犠牲者が出る、ということだ。

 

「フォーウ!(モフッ)」

 

「やあ、お目覚めかい。それは良かった。今回は仕方ないが、人を待たせるのは感心しないよ」

 

・・・身体を起こした瞬間、毛玉に飛び付かれ見知らぬ人が待ち構えていました。あなたならどうする?

 

1.「あなたは・・・?」

 

2.「・・・おはようございます?」

 

3.モフる。兎に角モフる。ただ無心にモフる

 

 

迷う迄も無い。3番一択だ。さあ、いざ夢のモフモフ天国へ、と思ったら即座に逃げられました。解せぬ。

 

「おや、それだけ機敏に動けるなら心配はなさそうだね。それじゃあこっちも遠慮なくいかせてもらおうか。君には聴きたいことがいっぱいあるんだ。場合によっては告知義務違反にガッツリ引っかかるものだからしっかりじっくりとね」

 

あ、これダメなパターンだ。昔よく見た時計塔の連中の目に良く似てる。こういう時は逃げるに限るな、うん。

 

腹を括ったら魔力を流して刻印を起動、脚腰に強化の魔術を掛け、後転倒立の要領で飛び上がり壁を三角跳びして立ち塞がる女性(少し違和感を感じるが)を乗り越える。幸い武闘派ではないのかそれともやる気がないのか反応は鈍い。そのまま出口目掛けて全力ダッシュ!!

 

「おぉっと!どこに行くんだい。メディカルチェック(という名の尋問)を受けないと外出許可は出せないよ!」

 

ーーーと思ったら扉番が配備されていた。寝起きの疲労した子供相手に逃走対策を用意していたとは、あの女性(?)はやり手の策士に違いない。

 

だがしかし、彼女は重大なミスを犯した。それは、ロマン(インテリもやし)に殿を任せたことだ!!

 

「え?ちょ、止まっt『ゲシッ!』ひでぶっ!!?」

 

一瞬足りとも止まることなく(勿論手加減はしたが)勢いの乗った蹴りを鳩尾に叩き込む。彼は犠牲となったのだ。俺の逃走という犠牲にな。え?憂さ晴らし?人が必死に闘ってる中高みの見物してた八つ当たり?サテ、ナンノコトヤラ。

 

まあ、そんな些細なことは置いておいて、あれが派手に吹っ飛んだことで注意を引いてくれている隙にトンズラだ。とりあえずどこか空き部屋か倉庫を見つけて工房化すればこっちに有利にできる。少なくとも一方的な尋問なんて出来n『ムギュッ』・・・ゑ?( ゚д゚)

 

「せ、センパイ!落ち着いて話を聞いて下さい。逃げたくなる気持ちは分かりますが私達はセンパイと事を構えるつもりはありません!」

 

なん・・だと?。最強の門番(シールダー)の二段構えとは。全速力で突っ走る男に接触するなんて怖かっただろうに、それでも必死に俺の腕にしがみ付いてくる。これは投了だ。こんな健気なコウハイを振り払うなんて非道、俺には出来ない。

 

「ゲホッ。あ、あのさ。僕の扱い酷過ぎないかい?ウエップ。」

 

知らん。起き抜けを狙って人の神秘に土足で踏み込んで来るような失礼な輩に慈悲は無い。せめてこの可愛いコウハイのように対等な話し合いをする誠意を見せなさい。

 

「あっはははは!少し揶揄うだけのつもりだったけど、随分面白いものが見られたね。しかし、随分早とちりするんだね。カルデアが現在保有するたった二人の戦力を無下に扱う訳無いだろう?」

 

ケラケラと笑いながら近づいてくるけど、さっきのあなた方、目がマジだったぞ?

 

「うぅ。こんな緊急事態でふざけたのは悪かったと思うけど、君にも非はあるんだよ。素人の一般人って触れ込みだったのに、見た事も無い魔術で起死回生してみせるんだもの。あんな芸当、時計塔の魔術師でも出来る奴はそうはいないよ」

 

う、それを引き合いに出されると弱い。ただ、こっちだって悪気があって黙ってた訳じゃないし、そもそもこんな『魔術使いらしい』依頼内容でもなかったし。

 

「その事は悪いと思ってます。けれど、此方も身内の恥を晒すようであまり話したくないですから。まあ、事情が事情ですから、不安材料は早目に解消しようというのは賛成です。」

 

「ああ、それは良かった。話が早くて助かるよ。でも、それなら何で逃げようとしたのさ?」

 

「あのままだと何でもかんでも喋らされそうだったからです。こっちにも色々話せないことがあるんで、対等な対話が出来る場を整えたかったんですよ」

 

「まあ、自分の魔術を秘匿するのは魔術師としては当然だけど、君の力はとても強力だ。単にマスターってだけじゃすまない。充分戦力に数えられる。これからに備えて情報共有は大事だと思うけど」

 

ロマンさんが不満そうに返してくる。確かに俺の魔術は色々と融通が効く。人間の貧弱さを差し引いても役立つだろう。サーヴァントならともかく、魔物やゴーレム程度ならどうとでも出来る自負もある。しかし・・・。

 

「世界を救った返礼が封印指定行きホルマリン着じゃ笑えませんよ。勿論いざという時にまで出し惜しみなんてしませんが、後で自分の首を絞めるような事はしたくないですね」

 

「あ・・・」

 

マシュは想像ついたようだ。俺が考える最悪のシナリオに。

基本、魔術師なんて生き物は利己主義が服着て歩いているような人種だ。只ひたすら自分の研究に没頭し、必要なら他人の成果を簒奪したり、神秘の秘匿の範囲ならどれだけの犠牲も許容してしまう。むしろカルデアのような自分以外の誰かの為に何かをする連中の方が相当珍しい。

さて、そんなロクデナシ達が自分の関係の無い所で勝手に命を賭けて、知らない内に世界を救った奴を配慮することがあるだろうか?それどころか、世界を救える程の力を研究資材にしようとこぞって掠め取りにかかるだろうな。

 

「・・・何を馬鹿なことをペラペラ喋っているのかしら。貴方、この私と私のカルデアを随分安く見ているのね」

 

「まあ、予測出来る全てに警戒を持つのは及第点がやれるが、自分の手札を把握しきれていないのは減点だな」

 

突然、扉から入ってきたのは一組の男女。一人はつい先程まで、行動を共にしていたオルガマリー所長だった。良かった。何とか助けることができたのか!でもどうやって?肉体は既に爆発によって消滅したと、ライノールは言っていた筈なのに。

もう一人は初めて見る男だ。短めの黒髪に薄い黒縁眼鏡、顔立ちは恐らくかなり整っているのだろうが、痩けた頰に眉間に寄り過ぎた皺の所為で魅力よりも陰険さが前に出てしまっている。

後ろには紫衣のキャスターが控えている所を見ると、彼があの時のマスターか。

 

「貴方は飛び入りとはいえ、このカルデアと正式な契約を結び所属しているマスターなのよ。雇用者を守るのは当然の努め。少なくとも、人類規模の危機を対岸の火事扱いするハイエナ達の餌なんかにする気はないわ」

 

「・・・魔術師の雇用理念が当てになるかはさて置いて、この機関は国連の肝入りな上、サーヴァントという強力且つ我々独占の手札もある。外野に関してはそれ程気にする必要は無い。それに」

 

一呼吸置いて今度はロマン博士の方に向き直る。僕の見間違いだろうか。彼の目付きがさっきよりさらにキツくなったような気がする。

 

「あんたも聞きたいのはこれからの戦力の筈だ。それなら聞き出すのは基本戦術と得意魔術で充分だ。切り札についても秘匿で良いだろう。俺たちがレイシフトしている間に先日の要領で次元を繋がれて強襲、その後は拷問なり洗脳魔術なりで情報漏洩、なんてのは避けたいからな」

 

「正論ね。貴方達なら任せられるって事は分かったんだし、こっちはそれで構わないわ。良いでしょ、ロマン?」

 

所長がそう言うとロマンさんはやや不満そうだけど納得してくれたみたいだ。魔術師って色々とアレな人種だから、どう切り抜けようかと悩んでいたが無事何とかなってよかった。

 

それにしても随分と所長の対応が丸くなった気がする。側から見て気付かなかったけど、ライノールにあの時何かされたんだろうか?

 

「失礼ね!?私だって命の恩人相手に義理を通すくらいするわよ!

・・・それに正直嬉しかったのよ。マシュから聞いたけど私を助けるのにかなり無茶したんでしょ?そうまでしてくれる人がいるって思わなかったから」

 

何だろうか、これが幻術か何かに思えてきた。それとも夢か?

ロマンさんも信じられないものをみているかのようだ。つまり、何が言いたいかというと、

 

「デレ期?」

 

「鬼の霍乱?」

 

「普段からそうしていれば嫁のm(ry「貴方達そこに直りなさいぃ!!」アベバーッ!!?」

 

 

 

〜〜〜〜しばらくお待ち下さい〜〜〜〜

 

 

 

 

「さて、落ち着いた所でお互い見せられる分だけだけど情報共有しよう。」

 

とりあえず話を元に戻してみる。幸い二人掛かりでロマンさんを所長の盾にしたので、俺たちの損耗はそれ程じゃない。所長のストレスも発散されたので会議をするのに丁度良い。

 

もう一人のマスター ーー蘇芳 漸次ーー も一人何事か思案していたが、呼びかけにすぐ応じて顔をこちらに向けている。今この場に居るのは俺、所長、蘇芳、マシュ、ロマン、それとダ・ヴィンチの6人。

 

「改めて自己紹介から。俺は禅城 蘇芳。マスター候補48番目の一般人枠からカルデアに参加した。得意戦術は宝石魔術による範囲攻撃と投影魔術による白兵戦かな。よろしく」

 

とりあえず質問は最後に回すように言い含めている。とりあえずこれから死ぬ気で働かされる現場担当の自己紹介から始めてみた。

 

「マシュ・キリエライト、カルデア所属。今はあるサーヴァントと融合しデミ・サーヴァント化しています。原因は不明です。よろしお願いします」

 

ふむ、マシュはとても簡潔な紹介だな。そして頻りに蘇芳の事に視線を向けている。どうやら彼を警戒しているようだ。

 

「最後は私か。蘇芳 漸次だ。俺の家はアトラス院所属の錬金術師の家系だった。知っている方もいるだろうが、アトラス院は初代院長が遺した終末世界の回避に血道を上げている連中だ。ただ、二代前の当主から脱退しているが、何だかんだ腐れ縁が続いていたんだろう。俺にカルデアに一口噛んで繋がりを作れと依頼してきた。得意戦術は東西から掻き集めてきた魔術と錬金術による礼装のオールレンジかな」

 

へー。知識として魔術を収集してるだけじゃなく、その殆どを戦闘で使えるって凄いな。アトラスの錬金術師は魔術回路が少なく本人の戦闘力は低いって言われているのに。なら、セイバーに使った爆発やあの紅い結界も彼が?いや、セイバーの対魔力を突破したり、一工程(シングルアクション)で結界魔術を成立させるなんて可能なのか?

 

「それじゃあ、誰か質問・・・」

 

ありませんか、まで言えなかった。無茶苦茶素早く所長とロマンさんが挙手してらっしゃる。それじゃ、所長どうぞ。

 

「禅城。貴方一般人枠で入った筈よね?なんで魔術を使えるの?いえ、使える、なんてレベルじゃないわ。確実に実戦で使えるように仕上げられたものよ、あれは。どういうことなの?」

 

う、やっぱり聞かれたか。あんまり話したくないんだけどなぁ。

 

「えーっと、身内の恥といえば良いのか。実は僕の苗字って母方の親戚から借りていて、本名は別なんですよ。ただ俺は母と違って理論よりは感覚派だからある程度学んだら現場で修行しようってことになりまして。それで父母よりも協会に繋がりの強い禅城の世話になってます。父母も大分時計塔関係で世話になったから奉公も兼ねてですね。」

 

「あら、そうだったの?一般人って先入観があったから気付かなかったけど、確か禅城家って嫁いだら嫡子に秀才以上が必ず出来るって持て囃されている名家よね。

それは分かったけど、じゃあ何で魔術師として参加しなかったの?貴方の実力と禅城の力なら何も問題ないでしょう」

 

「あ、なんていうか、その。僕の実家って凄い天然というか、うっかりというか。カルデアの件を了承する手紙の住所を『うっかり』間違えて出したり、それで機密情報が漏洩しかけたっていう時計塔から大目玉食らったり、その騒ぎに乗じて実家の成果を掠め取ろうとする馬鹿を潰したりしていて連絡が遅れ、その頃の俺は禅城のお祖父さんの知己に頼まれて封印指定の真似事に地球の裏側まで行ってたから更に遅れて。正規枠はもう締め切っていて、下手に関係の薄い魔術師に借りを作ると洒落にならないことになるかもしれないから母の協会での後見人って人に頼んで無理矢理一般人枠を作って貰いまして」

 

と、ここで一旦言葉を切って見渡してみる。うん、皆さん『何言ってんだ、コイツ』みたいな顔してらっしゃる。だから言いたくなかったんだよなぁ。とりあえず早い所話題を変えないと、また所長が暴れ出しかねない。人が人命をかけてやってる事業に願書出し損ねた受験生みたいなことしたなんて、喧嘩売ってるとしか思えないもんな。

あれ?みんな呆れてるかと思ったら蘇芳だけ難しい顔してる。あ、挙手した。じゃあ、どうぞ。

 

「一つ尋ねたいのだが。・・・お前、歳は幾つだ?」

 

・・・・・・・・・・・・ゑ?

 

「禅城家の嫁に宝石魔術、先祖伝来のうっかりとくれば、日本の『冬木の御三家』の一角だろう。確か現当主が2004年に時計塔に入った筈だ。『聖杯戦争の勝利者が鳴り物入りで入学する』というのは結構当時は賑わったからな。いつ君をこさえたかは知らんが、どう逆算してもその形と釣り合わんのだが」

 

「・・・え!?セ、センパイ!一体どういうことですか!?ま、まさか危険な儀式に手を出したんですか!!?クトゥルー的な何かですか!!!??」

 

落ち着け、マシュ。俺は人間辞めた覚えは無いぞ。というより、何でアトラス側なのに協会関係に詳しいんだ?この人。

 

「たまたまさ。私も冬木の地に来れなければ至らなかったさ。まあ、此方ばかり手の内を晒させてはアレだから、タネについては後で教えてやる。それより、どういう仕組みでその姿をしているんだ?」

 

うーん。まさかこれにまで勘付かれるとは思わなかった。本当にこの人何者?それよりも、分かってもらえるかな?かなり荒唐無稽な話だし、もし逆の立場なら確実に冗談にしか聞こえないだろうし。

 

「・・・あの、怒らないで聞いてほしいんだけど。7代を数える俺の生家伝来のうっかりがとうとう第二魔法にまで届いたというか」

 

「・・・・・・・・・はい?」

 

「いやー。母さんとくっついて色々と余裕が出来た(らしい)父さんが有り得ないスピードで主夫スキルと人タラシスキルを跳ね上げていくのに色んな意味で危機感を持ったのか、母さんが全身全霊で虫除けスプレー《対タラシ用宝具》創ろうとしたのが始まりなんだけどね。それをどうやらかしたのか、平行世界運用の鍵になっちゃうわ、さらにうっかりやらかして俺にぶっかけるわ。下手したら大量流入してきた力で破裂しかねなかったんだけど固有結界とか大師父なんかのサムシングで一命を取り留めて、けど完全には抑えきれなかった分を器を成長させる形でどうにかなった、かな。まあ人より数年歳食っただけで年齢が追いつけば問題ないから」

 

いや、あれには本当に焦った。もう宝石魔術なんかほっといてあの『うっかり』を研究した方が早く『根源』に到達できるんじゃないかな。本当に、心の底からそう思う。

 

あれ?みんなそんなに震えてどうしたの?流石にこんな話、信じてもらえないかな??

 

「いや、こんな時にこんな状況で法螺を吹くような奴じゃないのは理解しているから心配無用だ。ただ」

 

ただ?

 

「「「「「魔術舐めてんのか、ゴルアァァァー!!!!!!」」」」」

 

なんでさ〜〜〜!!??俺何にも悪くないのに〜〜〜!!!!

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。

前回のこじつけについてですが、これは原作主人公の年齢です。もう隠す気もない感じなのでバレバレな両親ですが、彼らの聖杯戦争が2004年。fate/GOが2015年。聖杯戦争後直ぐに子供こさえた訳もないので、どう考えても10歳以下。ビジュアル的にもありえねーだろ、どうすんだよ、と後になって気付きまして。事前準備って大事ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間1

幕間1

 

side 蘇芳

 

 

「・・・戻ったか。成る程、敵はこうやって時空を渡っているのか。興味深いな。機械も礼装も使わない転移。大いに研究する価値があるな」

 

今回の人理定礎復元は突発事件だった割にかなり有益だった。最初は巻き込まれる形で手札を切らされるかと戦々恐々としていたが、実に良い目くらましのお陰で『〜〜〜!?』事無きを得た。加えてカルデアの連中に売れる恩も手に入った。

 

さて、次の戦闘はどうなるだろうか?先のセイバーらしき女のやり取りを見ている限り、奴らは聖杯を使って定礎破壊の主犯を生み出しその陰で色々『〜〜〜!?』動いているようだ。そこに何処まで干渉しているかにもよるが、こちら側の反撃は折込み済みと考えるべきか。戦力分散の愚は犯さずの総力戦になるか?

そうなると此方が圧倒的に戦力不足になるか?いや、冬木の様な実際に起きた騒動に脚色した位なら兎も角、『〜〜〜!?』歴史そのものを改竄する様な干渉に抑止が動かない筈はない。敵の敵は味方などと都合良くいくかは分からんが追加の戦力候補の取り込みには力を『ン〜〜〜!!?』・・・はぁ。

 

「アサシン、其処の簀巻きにされている蒼いのは何だ?」

 

「さて、聖杯の落し物、といったところか?君の介入で空気になっていたのでな。キャスターから(無断で)借りてきた道具(ルルブレ)で拾ってきた。ただ返すには勿体無い狗、いや肉盾、いやいや戦力だろう?」

 

うん、貴方が此奴をどう見ているのかだけは良く分かった。あと宝具は元の持ち主に返してきなさい。

それはそうと、これはまた思わぬ収穫だ。アイルランドの光の神子とは、大した大英雄だ。欲を言えばランサーとしての彼が欲しかったが、まあ良い。彼とは禅城達の方がウマが合うだろうが、折角の駒をくれてやる気はない。契約は此方で向こうには援軍兼監視として送り込むか。恩を売れて手札も覗けて、漁夫の利も得やすい。一石何鳥だろうか。

 

「・・・マスター。また酷い顔になってるわよ。私がつい指先を向ける前に元に戻して頂戴」

 

おっと、キャスター。貴方も無事でなによりだ。それと例の件は?

 

「ええ、あなたから借りた道具でしっかり確保してあるわ。でも本気?これを後付けの器で現世に定着させるなんて芸当、私の居た時代でもそう出来るものじゃないわよ?」

 

問題ない。この時代にも化け物呼ばわりされる使い手はそれなりにいる。そいつらのやる事は深く星に爪痕を残してくれるお陰でしっかり『詠む』ことが出来た。使えそうな業は揃っている。死者の蘇生とかでも無し。『死んだ後残った霊魂』ではなく、『生きたまま身体が無くなってしまった魂』だからこそ出来るものだな。しかし、着任前から工房の機材を移して置いて良かった。流石に事前準備無しはキツイ。

 

さて、手早く終わらせて合流するか。そろそろ他の連中も目を覚ますだろう。それともう一つ。

 

「あぁ、そうだアサシン。前に言ってた・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

side 禅城

 

皆さんから謂れのないツッコミと言う名の暴力を喰らった後、何故か蘇芳さんのアサシンに連れられて彼の自室にお邪魔している。なにやら夕飯を作るそうだが、それが彼が絶賛する一品らしい。折角なので一緒にどうか、とのこと。会わせたい人物がいるので是非、と言われたが成る程。これは嬉しい再会だ。ただ、あの笑みを見ていると俺の何かが『殴ッ血KILLれ』と叫ぶのは何故だろう?

 

「・・・・・(ソワソワ)」

 

「それにしても、キャスターさんもこっちに来ていたんですね。良かった!たくさんお世話になったのに御礼も言えなかったので嬉しいです!」

 

「・・・・・(ソワソワソワ)」

 

「・・・・・・・おう、お前さん方に会えた『のは』俺も嬉しいぜ」

 

「・・・・・(ソワソワソワソワ)」

 

今テーブルに居るのは俺、マシュ、キャス兄貴、紫衣のキャスター、アサシンの五人。蘇芳さんはキッチンで調理中。多分晩御飯は中華かな?此処からでも凄く良い匂いがする。本格的な中華って作るの大変だよね。俺は料理からっきしだから素直に凄いと思う。

・・・そしてアサシンがさっきから物凄く目を輝かせている。死んだ目なのに輝いて見えるってどういうことだ?『気配遮断』が完全に仕事してない。あと、匂いが強くなる度兄貴の顔色が悪くなっている気がする。中華嫌いなのかな?

 

「あら、こんなのに気を配るなんて優しい坊やね。同じ戦場に立つ同僚が顔や腕だけじゃなくて良かったわ。こっちのお嬢さんとお似合いのコンビね。(二人とも見た目も中身も可愛くてドストライクだわ。どうせ長い付き合いだし、2、3回着せ替え人形にしても良いわよね♪)

あぁ、安心して?そっちの蒼いのにはちゃんと他の食べ物も用意してあるから」

 

そう気さくに話しかけてくれたキャスター。その傍にはバスケット一杯のホットドッグ。あ、兄貴の顔色が更に悪くなった。何故か兄貴には凄く冷たいな。一応蘇芳さんから真名は聞いてるけど、この2人接点ない筈だよな?何かあったのかな?

 

「接点なんてもんじゃないわよ!私がDVパートナーに捕まってボロボロになりながらも何とか縁切りしたところを獣の様に襲い掛かってきたのよ(うるうる)」

 

「「・・・・・・・・・・ゑ?」」

 

「ハァッ!!!?何訳わかんねぇこと言ってやがる!!!」

 

驚愕の事実が飛び出してきた。本当に何があったの!?教えて、神父さん!

 

「やれやれ、キャスター。意図的に言葉のニュアンスを変えて事実を捻じ曲げるのはやめたまえ。君達も、彼がそんな事をする男だとでも?」

 

「アサシン・・・」

 

「そ、そうですよね。この方がそんな事をする筈無いですよね!?もう、キャスターさんも意地が悪いですよ!」

 

「こ、言峰・・・・・ッ!?(まて、まさかこいつ!?)」

 

「そう言えば少年。其処の男は君のお父上を学校で押し倒し自慢の太くて硬いブツで貫いただけでは飽き足らず、住居までストーカー行為を行いもう一度コトに及ぼうとしたのだ。さらには君のお母上とも二股を掛けていたのだから気の多い奴だ。流石はアイルランドの光の神子。英雄色を好むとはよく言ったものだ」

 

「言峰ぇぇぇぇ!?やっぱテメエそういう腹かよ!!誤解に誤解を絡めて余計にややこしくしてんじゃねぇよ!!!!」

 

「何を言うクーフーリン。ランサーとして呼ばれた君は神秘の秘匿の為に学校に居たあの男を自慢の槍で刺したは良いが何故か死んでおらず、トドメを刺そうと再び強襲した。主の要請で我が妹弟子と二重契約擬きをしていた。何か間違っているかね。嘘を吐いた覚えは無いぞ」

 

「だったら最初からそう説明しろやあぁァァァ!!!!

つか、今からでもすぐ!この誤解を解きやがれ!!!!」

 

「説明するのは構わんが、恐らく無駄骨だろう。アレを見たまえ」

 

 

 

 

「・・・母さんが・・二股・・・・?嘘だろ?・・でも・・・・(ブツブツ)」

 

「・・・・センパイのお父さんがキャスターさんと・・・・?まさか、センパイのことも・・・そんな・・・・・」

 

 

 

 

「あの様子ではもはや此方が幾百言葉を並べようと聴こえはしまいな」

 

「何他人事みてぇに言ってんだコラァ!!おい、坊主に嬢ちゃん!まさかあんな野郎の言うこと信じてねぇよな!?俺がそんなことする様な奴じゃないって、一緒に戦場を駆けたお前らなら分かってくれるよな!!?」

 

「・・・・・令呪三画を持って命じる。『これから出て来る料理全部を』『一口残さず』『美味しそうに』お食べ、クー」

 

「嘘だろぉぉぉ!!!?? 坊主、目が、目が家畜かなんかを見てるソレだぞ!?つか、何で契約繋がってないのに令呪効いてんの?どゆこと!?」

 

「さて、恐らく令呪を『命令』としてではなくより攻撃的な『呪い』として昇華したのだろう。令呪は実はかなり応用が利く。空間転移等のサーヴァントに直接効果を与えるだけではなく、魔力源等のマスターへの補助としても使える。ならばサーヴァントへの攻撃や妨害に使えても不思議ではないな。もっとも、貴重な令呪をその様なことに使うマスターはそうはいまい」

 

「そんな冷静な返答誰も望んでねぇよ!!やべぇ、このままじゃマジで殺られる。取り敢えずあいつらが落ち着くまで逃げt「出来たぞー」イヤァァァァァァァ!!!!!」

 

 

「・・・何事だ?」

 

「気にするだけ無駄よ、マスター。私は先に工房に戻らせてもらうわ。劇物を食べる趣味はないし、貴方の作ってくれたホットドッグを美味しく頂くわ」

 

「だから別に作らせたのか。じゃあ、何で麻婆20人前も作らせたんだ?」

 

「・・・12年前の仕返しよ」

 

 

 

 

〜〜〜〜約一時間後〜〜〜〜

 

 

 

「か、辛かった・・。まだ口の中が痛い。寧ろ痛くない場所がない」

 

「センパイ凄いです、私は一口でもうダメでした。あれは食べ物じゃないです。辛さの概念武装です」

 

「・・・・・(チーン)」

 

か、身体中の血管が沸き立ってる。これ以上食べたら破裂するんじゃないかな?こんな時、両親から仕込まれた『食べ物を粗末にしてはいけない精神』が憎い。いや、二人とも料理が上手だっただけに残すという選択肢が俺になかったのが辛い。それに引き換え・・。

 

「いや、美味かった。辛味って此処まで際立つものなんだな。うん、良いレシピを紹介してくれたな」

 

「ふっ、生前得られなかったこの至高の味の理解者を今になって得られるとは思わなかったぞ。作ってもらっておいて失礼だが、オリジナルはこれを更に上回る美味だ。が、この味はそれを彷彿とさせるまでに届いている。流石は我がマスター。この味が私の忠誠を確固たるものとした。わが四肢存分に使いたまえ」

 

あっちは主従の絆を深めているようだ。いや、良いことなんだけどさ、何であんなに平気なの?何で美味いとか言えるの??

 

「まあ、慣れだな。『石詠み』の弊害の一つに、詠む記録を選別出来ない事は前に教えたな?外道魔術師は下劣な分その域に達しなければ修められない術を持っている事が多いので格好の獲物なんだが、趣味趣向まで下劣な奴も少なくない。」

 

・・・というと?

 

「様々なゲテ物料理を『食べた記憶』を強制的に持たされている、ということだ。蟲食、カニバリズム、etc。お陰で『ちゃんとした』食物であれば大概美味く感じるし、味の違いも分かるつもりだ」

 

・・・oh。便利なだけのものはないってことか。

 

 

 

 

 

 

 

side メデイア

 

チグハグな人。それが私のマスターへの印象ね。私でも目を見張る様な秘術を持っているこの時代では十分規格外の魔術師。でも、『持っている人間』特有の傲慢さは見られない。それどころか、英霊とはいえ、所詮使い魔の私達に敬意は払ってくれる。なのに同じ人間や年上相手には結構辛辣。英霊なんて規格外のものに頼らないといけない程の目的があるのに、形振り構わないという危うさはない。裏切られる心配がないのは安心だけれど。

 

中でも特に危険なのはあの『石詠み』と『黄金杯(・・・)』。あれは異端に過ぎる代物。あんな物が生み出され世界に許容されているという事実そのものが今がとても危険な状況なのでは、と思わせる。

 

幸いな事に私個人としては彼は嫌いではないし、あちらも私のことは信用してくれている。彼の事を見極めるのはこれからね。

 

『キャスター。片付けが終わったらデータの解析を手伝ってくれ。非常に興味深いし英霊召喚にも応用が効きそうだ。上手くいけば前に言ってた、何とかいうサーヴァントの召喚も現実味を帯びてくるな』

 

・・・追記。この男は結構人をその気にさせるのが上手い。

 

『ちょっとマスター!そんな大事なことはもっと早く知らせて頂戴。40秒で支度して工房に帰ってきて。片付けなんて暇な外道神父か狗にでもさせておきなさい』

 

それと、宗一郎様との夢の新婚生活の為にも、何としても彼を五体満足で生かさなければならないわね。

 




此処までご覧いただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間2

幕間2

side 蘇芳

 

「「新戦力(ですか)?」」

 

はい、こんにちは。蘇芳です。カルデアに帰還して早1週間。あともう数日でサポート側の準備が整うとのことなので我々肉体労働側は束の間の余暇を楽しんでいる。ちょうどデミサーヴァントが差し入れにクッキーを持ってきたのでコミュニケーションをとっていたところ、現存戦力についての話題が上がった。

 

此方はほぼ陣営が完成している。切り込み隊長兼盾役のヘラクレス(シャドウ版)、超理不尽な初見殺し持ちの癖に三騎士相手に普通にゴリ押し出来る万能チートスペックの言峰神父、大魔術を第一工程でしかも弾幕張れるわ陣地作成で神殿作れるわの歩く後方支援要塞のメディア。攻防共にバランスが取れた理想的なパーティだ。欲を言えばヘラクレスの一撃を必中に出来たり、言峰への注意を無理矢理逸らせられるような、数で攻められるサーヴァントがあれば尚良い。竜牙兵でも十分だが、サーヴァントの宝具ならより強い敵でも押し留められるからな。

 

それに引き換え、禅城の陣営はデミとクーフーリンの2騎。シールドで敵を足止めしてからのルーン魔術による爆撃。相性は良いが、如何せん火力不足だ。強力な対魔力持ちには途端に打てる手が無くなり、攻防一体で相手を留めるクラスでは無いので、数や俊敏に物を言わせて来られればかなり厳しい。

 

マスターを戦力に数えるのは論外だ。禅城がかなりの実力者なのは周知の事実だが、所詮人間。火力がいくらあっても耐久が絶望的だ。それに全サーヴァントの生命線たるマスターを前線出すのはリスクがデカ過ぎる。彼に実力を奮ってもらうのは、サーヴァントだけではあと一歩届かないという時だけだ。初見殺しの切り札は多い方が良い。

 

「うーん、戦力拡充は願っても無いことだから大賛成だけど、どうやって召喚するんだ?それに、母さんから触りだけ聞いたけど、サーヴァントを複数召喚したり使役したりは魔力的にもルール的にも無理じゃないか?」

 

ああ、彼は色々と馬鹿らしい理由でこの方面の知識は皆無だったな。それなら問題ない。

確かにカルデアの英霊召喚のシステムは冬木の聖杯を元にしている。しかしどちらかというとシステムそのものは『遥か遠くにある方の聖杯』に近いな。デミサーヴァントの盾を触媒に、カルデア全体の召喚装置を依代として現界させマスターに契約を譲渡する。本来ならそれを何十にも重ねて無敵の軍勢を作って人理定礎の復元を試みるはずだったんだがな。魔力の方もカルデアの動力で賄われているから問題ない。

 

「へー。カルデアにもびっくりだけど、冬木の他にも聖杯ってあるんだな。そっちにびっくりだな」

 

まあな。冬木のアレすら人の手で生み出されたものだ。他に誰かが作れても不思議じゃない。現に聖堂協会に数多くの聖杯認定された神秘がこの世には数百も存在している。尤も万能の願望機、英霊召喚の器として機能し得るだけの物なんてそうそう作れやしないがな。冬木の聖杯は確か第三魔法、そしてその担い手の魔術基盤を材料にしていた筈だ。そんな超弩級の神秘をそうそう用意は出来まい。

 

「・・・あれ?それではミスター蘇芳。カルデアでは無限にサーヴァントを用意出来るのでは?それならセンパイに沢山召喚して貰えば今後の闘いを万全の備えで挑む事が出来ます!」

 

・・・ほう?なかなか良い着眼点だなデミサーヴァント。だが残念ながらそれは無理だ。サーヴァントを召喚するためには相応の縁と材料が必要だ。等価交換を無視した魔術は抑止が即効でカチ込んで来るからな。だが其れだけのリソースをカルデアから捻出してしまうと通信やら電力やらに支障が出る。私の様に他にアテがあるなら兎も角な。

 

「・・・へ?じゃあ、どうやって戦力を増やすんだ?英霊の材料って、もしや死体とか生贄とか?」

 

・・・はあ。持ってるだろうが。それともまさか回収せずに放ってきたのか?この虹色の無駄に四方八方尖ってる石を。

 

「あ、そういえば拾ったな。確かサーヴァントを倒したら何か出てきたような。もしやこれが?」

 

そうだ。この石そのものが英霊の材料、受肉するための器の欠片のような物だ。記録には聖杯戦争でこの様な物質が検知されてはいない。大方、後天的でかなり無茶な事象改変による影響か若しくは抑止の助成か何かだろう。4つもあれば召喚には充分だな。幾つある?

 

「え、えーっと。1.2.3.4.5・・・マシュ、今何時かな?」

 

「え!?今の時間は・・6時です。センパイ」

 

「7、と。全部で7個あるぞ」

 

・・・・6つだな。俺は2つ持ってるからこれで2騎召喚してこい。上手く需要のあるサーヴァントを引ければ良いがな。

 

「おぉ!!ありがとう!・・・借りがどんど増えて取立てが怖いけど。需要のあるってどんな奴が良いかな?」

 

そうだな。取り敢えず優先したいのは範囲攻撃出来る奴、それからアサシン若しくはランサーだな。前者は先程言った数の暴力対策兼デミのサポートだな。多少耐久に難があってもスキルでカバー出来てより一層前衛が手厚なる。クーフーリンや君の魔術を十全の状態で通せる。後者は其処から俊敏や気配遮断による伏兵だな。英霊による魔術や白兵戦は確実に相手の注意を惹きつける。其処から最速の一撃まで迫られて無傷で居られる奴はそういない。仮に倒しきれなくても此方のアドバンテージは計り知れない。

 

「なるほど。まあどっちも確実に引ける方法なんてないし。善は急げだ。早速召喚してみよう!」

 

 

 

 

〜〜〜数分後〜〜〜

 

 

 

「さて、言われた場所まで来てマシュの盾もセットしたけど、これからどうやって召喚するんだ?」

 

後は大したことはない。機械が作動したら石を放り込んで魔力を注いだら終いだ。色々と小細工をするなら他にも手間が掛かるが、初心者マスターがあれこれ考えても失敗の元だ。一番簡単な方法で良いだろう。

 

「分かった。でも、英霊召喚ってこんなに簡単なものなんだな。少し意外かな」

 

そうだな。だがオリジナルも簡単な魔法陣と詠唱、後は英霊を繋ぎ止めるだけの魔力があれば完成だったからな。魔法陣も詠唱も機械と盾がやってくれる。文明の利器様々だ。

 

そんな感じで雑談しているとシステムが作動し本格的に部屋中の機械が唸りを上げる。盾を中心に雷が迸りその勢いは加速度的に強まっていく。其処に石を8つ放り込む。どうやら2回に分けなくても一回で2騎ちゃんと召喚してくれるらしい。無駄に親切設計だな。上位世界では心折設計だが。

 

なんて下らないことを考えている内に光が最高潮に膨れ上がり視界を白で埋め尽くす。それも徐々に収まり、クリアになっていく。座に立ち尽くしているのは・・・。

 

「・・・・・・・・・あ」

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ・・・なん・・だと・・・?」

 

出て来たのは紅い外套に身を包んだ浅黒い白髪の男。だが、様子がおかしい?

 

「え、いや、でもまさか・・嘘だろ?」

 

禅城の方も見たことも無いくらい動揺している。上手く言葉に出来ない、と言わんばかりの状態だな。デミも訳が分からずオロオロしている。

 

「そんな・・・どんな夫婦喧嘩したら皮膚が黒人みたいになっちゃうの!?」

 

・・・・・・・・・はぁ?

 

「何でその発想に着地するんだ、戯け!!?」

 

うん。訳が分からん。暫く考えるのを止めよう。

 

「はぁ。どうやら私は随分と残念なマスターを引いたらしい。恐らく父親の教育の所為だな。きっとそうに違い無い。だが安心したまえ。初心者マスターの相手は慣れたものだ。何処ぞの三流似非ヒーローではなく、私が指導をs「とうっ!」アダッ!?いきなり何をする!!?」

 

「一体どうなってるんだ。あのほんわか主夫を地で行ってたのがこんな微妙にイラっとくる喋り方になるなんて、何をしていたんだ未来の俺!!!?」

 

「ええい、少しは落ち着け!そして五体投地で打ち拉がれるな!謎の罪悪感を植え付けるな!!」

 

「そうだ!そんなことより、何だって英霊召喚からとう「その呼び方は止めたまえ。私にそう呼ばれる資格は無い。」・・・なんで!?」

 

「私は君が良く知っている男と同じ名と躰を持っていても別の存在なんだ。それどころか、八つ当たりした挙句に返り討ちに遭った情け無い男だ。非常に遺憾だが、泣かせることしか出来なかった私では、幸せにしてやれたアイツと同じ呼び名は相応しくない。アーチャーと呼んでくれれば・・・いや、それでは他の弓兵が来た時に不便だな。では、エミヤ、と呼んでくれ。あいつはもうこの名を名乗ってはいないだろうからな」

 

「・・・・・・・・・わかった。でもその代わり、マスターとしてガンガン命令だすし、無茶振りしまくるから覚悟しとけよ!!」

 

「ふっ、では期待に応えるとしよう」

 

おーい、良い感じに話進めてる所悪いが、もう一人のサーヴァントの方にも返事してやってくれ。

 

「「あ、しまった!!?」」

 

忘れてたな、こいつ。ほら、そっちの伊達男も何か言ってやって。

 

「いや別に、そっちの紅いのと違って俺地味ですし?忘れられたってどうもないですけどね」

 

そうはいっているが、かなり不貞腐れているのが丸わかりな男。服装は全体が緑一色。獲物が見えないが、戦士や魔術師ではないな。修羅場を経験した独特の緊張感を持っているが、騎士というより狩人だな

 

「そいじゃまあ、改めて自己紹介と行きますか。俺の名はロビンフッド。いや本当は違うんすけど、そういう事にしといてくんな。旦那がそう呼んでくれたからには、ハッタリでもそう名乗らなくちゃな。あ、二心を働くつもりは無いんで、よろしく」

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 第1章 邪竜百年戦争

 

side 禅城

 

「・・・・・・前途多難、ですね」

 

うん、全くだね。戦力増やしたは良いけど、不安材料まで増えてるなんて笑えないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでマシュと二人で遠い目をしているかというと、我が素晴らしい陣営の人間関係がとんでもなく悪い、ということだ。

 

気持ちを新たにレイシフトを行い、やって来たのは百年戦争期のフランス。見渡す限り一面の緑なんて実に絵になる風景、と言いたかったが深々と残る戦渦の爪痕が痛ましい。なんて言っていたら爪痕どころか絶賛戦渦拡大中の様子。今の時期だと戦争は一時的とはいえ、停止している筈とロマンは言っていた。

 

ならこれは後天的に歪められた事象であることが濃厚。早速調査だ、と意気込んだは良いけど、敗色濃厚な兵士さん達に敵だと思われて襲われるわ、明らかにこの時代から外れた怪物達までいるときたからさあ大変。

 

まあでも、この位なら問題じゃない。その程度のトラブルなんてとっくに覚悟していた。じゃあ何が問題かというと最初に言った人間関係だ。

 

何を馬鹿やっているのか、今絶賛戦闘中だって時に思いっきり喧嘩してやがります。どいつもこいつも良い大人なのにね。それどころか、エミヤが前線で兵士さんの攻撃を捌いていたらクーが諸共に呪いぶち込もうとするし、怪物相手にクーがルーンぶつけようとしたら、丁度詠唱が終わって発動ってタイミングでエミヤが剣の雨で魔術ごと敵を吹き飛ばした。『おっとすまない、あんまり君がのんびりしているものだからよかれと思って蹴散らしてしまったよ』なんてドヤ顔で言うものだから加速度的に雰囲気が悪くなる。

 

ただこの二人、主義信条で反りが合わないだけで、相性そのものはそう悪くないんじゃないかな?だってどれだけいがみ合っていても、僕への防御とマシュへのフォローに関してだけは完璧にこなしている。普通本当に相性が悪いなら足の引っ張り合いになりそうなのに、どちらもお互い何処までやれて何処が間に合わないかを把握して合わせて動けてる。これで二人がもっと大人の対応をしてくれたら良いんだけどな。

 

「大将、そいつはちょっと厳しいんじゃねぇの?ありゃてめえのこ理屈押し通してなんかやり遂げて、ついでにそれのせいでくたばった連中だ。折り合いなんて概念ハナからなさそうだぜ」

 

こらこら、君もトラブルメーカーその3なんだよ。この時代の兵士さん達囮にスナイプしたり、周りの迷惑アウトオブ眼中で『破壊工作』スキル使いまくるから二人を何度もキレさせてるでしょ?

 

「だってそーでしょ。人理定礎って致命的にやらかさなきゃ後で上手いこと書き直してくれて無かったことになるんでしょ?なら限られた手札は有効活用ってもんでしょ。そら正義や誇りで敵がくたばりゃ結構だが、俺は使えるもんで仕留めるリアリストなんすよ」

 

・・・話を聞いているとやっぱりロビンは弓騎士じゃなくて狩人なんだな、て思う。基本狩りでは不意打ちや撒き餌は戦術や手段ですらなく、迷彩や消音などのような『当たり前の所作』だ。ここら辺の意識の違いが、矜持に背かないのが前提の騎士や、邪道外道を弾劾する正義の味方との軋轢になるね。どうにかなんないかな。

 

それはともかく、エミヤやクーは兎も角、ロビンまでこんなに精力的に動いてくれてるのは意外だね。何かやる事はキッチリ仕上げるけど、それ以上は面倒って印象だったから。世界の為、未来の為ならなんのそのってキャラじゃないし。

 

「ま、確かにそーなんすけどね。正直顔も知らない誰かさんの為にまで熱くなんてなれねぇし、俺は所詮村一つ守るので精一杯な優男だし?

けど、人間はもうつまんねぇから消えろ、みたいな理屈はちょいと我慢ならなくてな。『旦那』の生き様全否定されてるみたいで反吐が出そうなんだわ。

・・・あと、俺が夜も寝ないで昼寝して、必死こいて働いてんの誰の所為だと思ってんのさ?」

 

・・・・・へ?どゆこと?

 

「あのなぁ、おたくはこの時代の住人じゃねぇでしょ!腕が捥げようが、毒でくたばろうが、修正力は何にもしてくれねぇの。そんでもって、おたくが殺られりゃあ俺たちも世界とサヨナラ、人理直せる奴も他にいないし、皆揃って御陀仏なワケ。後でやり直しがきく奴らとどっちを優先するかなんて言うまでもねぇだろ」

 

 

・・・・・・・・ハァ。何でうちの男サーヴァントは捻くれた奴の集まりなんだろ。男のツンデレ×3とかショウジキナイワー。

 

 

「「「誰がツンデレだ!!!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーあれ?意外と問題なくね?

 

『キリツグ君、いきなりどうしたんだい?現実逃避したくなるのはわかるけど、蘇芳君は既に精力的に動いているみたいだ。頭が痛いだろうけど、何とか彼等を纏めて状況を把握して欲しい』

 

簡単に言わないでよ、ロマン。あいつらをキャッキャウフフさせるのは万能の願望器でも無理だと思うんだ。

まあそれは兎も角、颯爽と別行動に移った蘇芳に迷惑掛ける訳にもいかないしさっさと進みますか。あの人適当に暴れて現地勢力に恩を利子つけて押し売ってくるそうだ。兵士さん達、うん、まぁ、頑張れ。僕らの動きを目立ちにくくするためとか言ってたけど、あれ絶対他に何か企んでるわ。

 

・・・なんて呑気に構えていたら、最近見た某ヒロインのそっくりさんとそこはかとなくする嫌な予感、そして荒ぶる兵士さん達と遭遇した。救いは無いんですかね。

 

「センパイ、やっと人理定礎復元のヒントを得られましたね!」

 

うん。君も本当にブレないね、マシュ。僕も君を見習って前向きに考えなきゃね。パーティとしてはこのレイシフトがデビュー戦なんだし、信頼や絆はこれから作っていくものなんだ。きっと一月もすれば『あぁ、こんな馬鹿な事やってたなぁ』なんて笑いあえる時代が・・・

 

「おいコラ弓兵!!効率だの状況判断だの無駄に無駄口叩いときながら女の助太刀は我先にってのはどういう了見だ!」

 

「誤解を招く言い方はやめたまえ!彼女がサーヴァントなのは我々なら一目で分かるだろうが!彼女は間違いなくこの状況の重要人物、味方に引き入れようとするのは当然だろう。

大体、真っ先に動いたのは私ではなくそちらの緑茶だ!というか貴様、諸共に毒をばら撒くのは止めろ!後で話が拗れる!!」

 

「ちょっ!?おたくらの馬鹿馬鹿しいやり取りに俺を巻き込まんでくれません!?

あっちの嬢ちゃんも兵士さん方も味方になるって誰が決めたんだよ。そんなら解毒剤を餌にした方がよっぽどスマートに事がすすむってなもんだ」

 

「あ゛!?敵かどうかもわかんねぇ奴に不意打ちカマした挙句に脅迫だぁ?んなふざけた真似誰がーーー」

 

「はあ?おたく頭大丈夫か?凡ミスすら許されねぇ状況で、んなことーーー」

 

 

・・・笑える時代が、来るの・・かな・・・?

 

 

はあ、もう疲れた。今夜の晩御飯は蘇芳のマーボ「「「すいませんでしたああぁぁ!!!」」」・・・あれ?




ここまでご覧いただきありがとうございました。
ロビンまで麻婆嫌がったのは、ムーンセルでうっかり口にしてしまったことと、召喚されたあとがっつり洗礼をうけたせいです(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話

 

side 蘇芳

 

「・・・ふーん。そう、じゃあ結局収穫は酷くスケールダウンしたルーラーだけで、肝心の情報は全く得られなかったのね?それどころかルーラーが原因で原住民と碌に接触すらできなくなったですって?」

 

『えーっと、はい。その通りです、面目無い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんにちは、蘇芳です。今私達は別行動を取った禅城と情報交換をしています。

やり方はメディアに通信魔術をハッキングさせて無理矢理パスを向こうに繋げている。これでカルデア側にデリカシーの無い盗み聴きをされる恐れもない。

 

しかし向こうは初っ端から躓いているな。まあ原住民にロクに恩を売る前から歩く地雷状態の聖女を保護したら聞ける話も聞けなくなるか。それとこっちが派手にやった所為で向こうの魔物が減ったのも不味かったな。分かりやすく味方だとアピールがし辛かったかな。

 

「じゃあこっちの方が仕入れた情報は多いな。ジャンヌ・ダルクが竜の魔女として蘇った、異形の怪物の出処もそいつら、オルレアンの首都は既に制圧されている、詳しい情報は戦った連中が皆殺されているので不明、ワイバーンは使役というよりは大ボスの首根っこ捕まえて操っている、以上5点か。」

 

実を言うともっと色々情報は仕入れてある。しかし、その方法を聞かれると面倒なので伏せておく。どうせ後で知っても大差はないさ。

ちなみに仕入れた情報とは、敵には他にも6騎、もしくはそれ以上のサーヴァントと目される存在がいる、ということだ。

以前『石詠み』については説明したと思うが、今回用いたのは、『物から情報を詠み取る』能力だ。この『物』についての解釈は曖昧で、私が物だと思えれば全て適応できる。そう、生きていた存在であっても(・・・・・・・・・・・・)、だ。

流石に生物そのものを『物』として認識出来る程外道じゃないが、もの言わぬ屍体なら精々生き物の役に立ってくれと思える程度には非道だ。そいつらから惨劇の一部始終から最期の断末魔までしかと拝見させてもらった。残念ながら雑魚に宝具を開帳する酔狂な奴は二騎しかいなかったが、それでもしゅうかだ。それと、明らかに狂化が駄目な方向に作用している奴が多いというのも目ぼしい成果かな。こんなこと、この矢鱈と正義感の強い連中には言えんな。ウチの陣営が合理的判断が優先の面子で良かったと心底そう思う。

 

 

『凄いな、こっちはジャンヌが二人いる事とそいつがワイバーンを使役している事位しか分かってないのに。

俺たちは急いで近隣の村を周ってみるつもりだ。もし敵の首魁が本物のジャンヌならクラスはルーラーである可能性が高い。もし抑止側からサーヴァントが召喚されているなら各個撃破されかねない。蘇芳はどうする?』

 

ふむ、我々も周囲の街には行ってみるが、もし仮にサーヴァントが居た場合は其方に向かってもらう。中途半端な戦力は我々には邪魔だ。メディアの魔術やヘラクレスの怪力の巻添えになられては堪らん。引き換え、そっちは技量自慢が中心だから問題ないだろう。これから本丸が突っ込んで来るんだ。戦力は幾らあっても足りんぞ?

 

『・・・あの、ミスター蘇芳。今凄く不安になる一言が聞こえたのですが、どういうことですか?』

 

 

ん?いや、その黒ジャンヌもサーヴァント探知出来るんだろう?なら、他の有象無象は兎も角、自分がもう一人いるなんて知ったら普通即座に事実確認するだろ?史実のジャンヌダルクはかなり行動派の様だし自分の目で確かめる位しそうだし。

 

 

『・・・えっと、もし本当にそんな事態になったら・・・・』

 

当然、組織のトップに単独行動なんてさせんだろうから、護衛にサーヴァントやワイバーン大量、最悪騎馬代わりに竜の大ボス迄出張って来るだろうな。

 

『・・・つまり?』

 

早く野良サーヴァント掻き集めて来い、死ぬぞ?

 

『どうしたんですか、禅城さん?早くお休みに『今すぐ発つぞ、急いで次の街へ!!』へ!?ちょっと落ち着いて下さい!貴方はあまり無理が出来ないんですから適度な休息をって待って!?お願いですから話を聞いて下さ(プツン)』

 

 

・・・良し。彼等への尻に火も付けた事だし、もう少し派手に暴れても戦力を分散出来るな。

 

「あの、マスター?態々連絡を取ったのはその為に?」

 

いや?勿論それもあるが、ちゃんと彼等が現状の危機を正しく認識出来るようにするのが目的だ。もしその黒ジャンヌとやらが私が考えている通りなら尚更だな。

 

「ほう?是非君の推察を聞かせて欲しいな。敵にも参謀役がいても可笑しくはあるまい。サーヴァント戦なら兎も角、旗頭を前線に出すものかね?」

 

まあ、貴方の好きそうな展開だよ、神父。

恐らく蘇芳と共にいるのが正規の召喚が成されたジャンヌ=ダルク、そして黒ジャンヌは『誰か、もしくは何処かの国から悪性として見た』ジャンヌ=ダルクだ。ならば相当の精神汚染かそれに類するスキルを付与されている事だろう。

自分でも抑え切れない破壊衝動と憤怒に生来の道徳心や心が悲鳴を上げながらも何とか自身の行いを肯定している中で、まさかの正常で清浄な自分が現れたときた。

内心荒れ狂っていることだろう。自身のやってきたことは誰かに指向性の施されたもの、自分は誰かに都合の良い存在として生み出された偽物なんじゃないのか、とな。

 

「なるほど。それはさぞ痛ましい姿を晒していることだろう。まさしくアイデンティティークライシスの一歩手前だな。それで理性をかなぐり捨てて彼等の元に参じる、と」

 

まあ襲来を予測しているなら、手練れ揃いのあの面子なら逃走出来るだろうが、呑気に構えている所を不意打ちでは危険過ぎるからな。彼等にはまだまだ馬車馬の様に働いて貰わなくてはな。少なくともこれで此方側に全戦力の投入は避けられたし、上手く斥候か牽制でサーヴァントを派遣してくれたら確実に各個撃破出来る。欲を言えば、合流させた野良サーヴァントが上手く立ち回って敵の神経を逆撫でしてくれたら、以前の騎士王の様に最高のタイミングで横合いから思い切り殴り付けられる。

 

「火中の栗を拾うのは飽くまでカルデア側の人間だけで、此方はリスクを可能な限り押し付けて尚且つ恩も売れる。悪いマスターですこと」

 

君達を触媒無しで召喚できる時点で私の人間性はお察しさ。こんな所で無駄に危険や悪目立ちのリスクを背負いたくはない。これ以上予定を狂わされては堪らん。

 

いやそれにしても、実に都合の良い展開だ。最初はあの煩わしいワイバーンを派手に蹴散らした所為で無駄にリスクの高い真っ向勝負を仕掛ける必要があったのに思いも寄らないジョーカーを向こうが引いてくれたものだ。誰が聖杯を使役しているかは知らんが、曲がりなりにも頭に戴いている女を揺るがせられるなら幾らでも隙がある。我々に取って最上の戦略で盤を進めよう。




ここまでご覧いただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話

少し投稿が遅れてしまいました。私のスマホにまさかのクリストフ伯爵がお出でになられたので育成にラミアを数え切れないほどハンティングしてました。すいません。

では、本編どうぞ!


 

 

side 禅城

 

 

「ーーーこんな小娘に縋らなければならなかったとか、この国はネズミの国にも劣っていたのね!」

 

 

 

こんにちは、禅城です。今絶賛大ピンチです。

蘇芳からアドバイスという名の死刑宣告を受けてから慌てて行動を起こしたは良いものの、まさか目的地のラ・シャリテでその処刑人達とカチ会うなんてな。街が襲われている事に意識を割き過ぎて、肝心のルーラーの探知能力への警戒を疎かにしたのは失態だった!

けど、まだ万策尽きた訳じゃない。一番警戒心の強いロビンが予め『顔の無い王』で姿を消してくれていたおかげでノーマークだ。此方のハンドサインでいつでも動ける様に待機してくれてる。アレはどうやら探知関係のスキルを無視出来る様だ、凄い便利。

 

「ーーー何とも強欲な女だな。それでは魂は余が戴こう!その高潔さ、その意思!値千金の宝玉にも勝る代物よ!!」

 

「魂等得て何の意味があるのです?例え宝玉程の価値があろうと、私は至宝よりも私を宝以上に輝かせてくれる物の方を選びますわ」

 

 

おっと、連中も折り合いを付けて仕掛けてくるらしいな。眼前に立つのは2騎のサーヴァント。一人はあからさまに貴族、それも相当位の高い人物だと窺わせる威風堂々とした武人。もう一人は、明らかにアレな感じの風貌に、其れでも微かに気品を感じさせる女性。貴族に怪物とくれば、真名の候補は限られてくるが、問題はそこじゃない。

 

先程黒ジャンヌも言っていた、『バーサーク』という単語。ここから察するに、どうやら敵陣営は全員、もしくは多くが狂化のスキルを植え付けられている。敵サーヴァントの能力との兼ね合いにもよるが、数の暴力にサーヴァントの桁違いの性能に狂化が追加されるのは厳しい。もし蘇芳の勧めで2騎の戦力が無ければ絶望的だっただろう。

 

「やれやれ、500年も過去に来たというのに、やる事は化け物退治とは芸が無い。良い加減マンネリは御免なのだが」

 

「ハッ!英霊の仕事なんざ怪物退治とゴミ掃除以外に何があるんだよ。そこらの人間にやれる用事が廻って来る筈もねぇし、ありゃ化け物っつうより悪霊か亡霊の八つ当たりだろ?おめぇもあともうちょい捻くれりゃあ、アレの仲間入り出来たのにな」

 

「これは耳が痛いな。呑気に自分の筋を通した果てに、自分で立てた誓いを破らされて死んだ男の言う事は一味違うな」

 

おうコラ敵の前で喧嘩すんな。明日から三食麻婆食わすぞ。

 

「マズイな。我々の自爆スイッチにマスターの指が掛かったらしい」

 

「・・・そういや、俺たちよりLUC値低そうなあの坊主も来てるんだったな」

 

やれやれ。頼むから最中にまで喧嘩するなよ。

とりあえず作戦は各個撃破。クーは仮面の女の足止め、エミヤとマシュ、それからジャンヌは槍持ちを速やかに仕留める。狂化で技量の落ちた攻撃なら戦巧者のエミヤが相性が良い。でも怪物補正と狂化補正に任せて相打ち狙いで攻撃を当ててきそうだからマシュとジャンヌは際どい攻撃に対して加勢。攻撃で上手く相手の態勢を崩して欲しい。

クーは相手を縫い止めて欲しい。別に倒しても良いし、あの仲なら連携は先ず無いだろうけど、片方を囮に不意打ちされるとマズイから何もさせ無いよう努めてくれ。

ロビンは静観。恐らくここで敵を仕留めるのは不可能だろう。流石に旗色が悪くなれば他の3騎が動く筈だ。此方の戦力がこれだけと思い込んでいる隙を狙って強襲。それを頼りに離脱する。第一目標は当然全員の生還。次に敵戦力の把握。最善は後衛に割り込ませずに首級を上げること。全員、戦闘開始!来るぞ!!

 

「「「「『了解!!』」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶叫せよ!!!」

 

「疾ッーーー!」

 

ランサーとエミヤ、互いの獲物がぶつかり合い火花を散らす。人ならざる豪腕から扱き出される幾槍もの刺突を双剣を持っていなし、払い、受け流す。確かにランサーらしき怪異の暴力は脅威的だ。マシュのように受けて凌ぐ使い手ならば碌に身動きも取れずに振り回され、盾より先にそれを担ぐ腕を駄目にされた事だろう。

けど、エミヤは殊更格上相手の戦闘に関して経験豊富であり、力で劣る手合いにどう凌ぎ合えば良いかは身体に染み込ませてある。相手の猛攻を裁く所か、隙を見て反撃をする余裕すらある。

だが、眼前に居る怪物はその利を持ってしても厄介極まりない。注目すべきはその耐久性、エミヤの反撃に対して怯むどころか一番攻撃されたくないタイミングーーー既に深く踏み込んでおり、此方の攻撃は必中だが向こうの攻撃もまた躱しきれ無い状況ーーーで槍を推し進めてくる。自爆以外の何物でも無い行動にエミヤも対応が遅れる。

はっきり言って正気を疑う行動だ。確かにあのタイミングなら確実に一撃を喰らわせられるが、エミヤクラスの使い手にその隙は致命的だ。どれだけ必殺足り得てもその前に急所を貫かれる。

 

「なるほど。これが聖杯を取るための戦いと、聖杯を奪うための戦いの差異か。無尽蔵の魔力を相手取るのは骨が折れる」

 

しかし、その不可能を可能にしているのがランサーのスキル『戦闘続行』と聖杯だ。あのスキルにより霊格を完全に破壊でもしない限り致命傷でも消滅せず、そのタイムラグの間に聖杯からの膨大な魔力供給によって強引に傷を塞いでしまう。何とも凶悪な組み合わせだ。唯の英霊ならこうはいかない。正しく怪物の特性を活かした戦術だ。

 

迫り来るランサーの凶槍。エミヤの一閃が先に首に届いたというのに微塵も乱れることなく振るわれる一撃は当に必殺。しかしエミヤは不敵な笑みを少しも揺らさない。まだ短い付き合いだが、彼女達に寄せる信頼は決して小さくはない。

 

「させません!!」

「そこです!!」

 

マシュが低姿勢から抉りこむ様に全身のバネを使って盾を突撃させる。人間の態勢を維持する上で重要な腰を斜め後ろから衝撃で無理矢理崩しに掛かる。流石の凶戦士も態勢が乱れ、その隙を逃さずジャンヌが追撃する。旗を棍の如く振るい足元を払う。唯でさえ乱れていた重心により、ジャンヌの筋力でも派手に崩れ落ちるランサー。勿論この絶好の好機をのがすエミヤじゃない。既に手元の双剣を手放し、愛用の弓に切り替え、必中を狙える準備を整えている。

 

「喰らいつけ!赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

うわ、エゲツない。絶対避けられない態勢の相手に更に念を入れて追尾型の矢を打ち込んだ。更に宝具の一撃であり、仮に気合いで多少逸らしたとしても十分霊格を破壊出来る一発だ。後ろにいた敵サーヴァントが色めき立つがもう手遅れだ。全員が一秒先の戦果を待ち侘びる中ーーー

 

「ーーッ!?何だと!!」

 

ーーー 一発の黒い光弾により、その未来は打ち砕かれた。妙に背後の戦闘音が小さいと思っていたが、どうやらもう一騎のサーヴァントは自分の使い魔の屍兵を展開しただけで碌に戦闘もせず、ランサーをダシに戦闘を俯瞰していたようだ。しかも妨害を悟られないよう俺達の視界から外れる位置から仕掛けてくる念の入れようだ。短絡的で好戦的かと思いきや、かなり狡猾な性格のようだ。クーなら相性的にも問題ないと油断した俺のミスだ!

とはいえ、魔力その物は大して強力ではないのか、狙いを逸らされ、威力を僅かに減衰されこそしたが、ランサーに強力な一撃を喰らわせられた。あれなら暫く動けないだろう。

尤も、倒せたのと重傷を与えられたのでは此方のモチベーションに大きく違ってくるが。

 

「あら、悪魔(ドラクル)と謳われた吸血鬼(バケモノ)がこんな小娘達に遅れを取るとは、もしや恩情をおかけになったのかしら」

 

「・・・ドラクル、か。成る程、道理で手強い訳だ。かの串刺し公が御相手だったか」

 

やはり、候補には上がっていたが最悪だな。ドラキュラーーーかつて小説家ブラムストーカーが狼男をモデルに生み出し時代性によりいつの間にか狼男を上回ってしまった、想像が現実を塗り替えてしまった事例の最たる存在。そして人々により染み付いた吸血鬼というイメージが本来の姿たらしめる信仰を捻じ曲げられた男。それはルーマニアの救国の英雄、ヴラド3世を置いて他に居ない。

さて。となるともう一騎の方は恐らく・・・。

 

「・・・不愉快だ。よもや衆目に余の真名を晒すとはな。流石は鼠に逃げられ破滅したチェイテの血の伯爵夫人、いやさカーミラよ。後先を考える能力は未だ得られなんだらしい」

 

やはりか。血の伯爵夫人エリザベート・バートリ、何十人と罪のない少女の血を湯水の如く浴びたと言われる稀代の悪女。あの後ろに引きずる鉄の処女から割と丸分かりだが。

しかし彼女に関しては魔術関係の逸話は無かった筈だから、あの魔術擬きは恐らく『無辜の怪物』としての面を強調されたことによって身に付けたものか。道理でヴラド3世程のプレッシャーはない訳だ。

彼女の力は串刺し公の武勇と異なり、実際には存在しない虚飾の力だ。どれだけ知名度補正や怪物補正が有っても本物には劣る。さらにアサシンというクラス補正からも直接戦闘は得意とは言えないだろう。まあ拷問による犠牲者の苦痛を、余すことなく味わうために磨かれた観察眼に折角の好機を潰されて置いて言えたことじゃないが。

 

「・・・正直、油断していました。そして私の落ち度です。血を啜るなどという目先の目的の為に貴方達が手心を加える可能性を考慮するべきでした。アサシンが予想外に冷静でいてくれたお陰で優秀な手駒を失う所でした。もはや僅かなミスも許されません。目下最大級の目の上のタンコブが健在である以上、これ以上の戦力低下は望ましくありません」

 

・・・やばい。向こうが本気になったらしい。ていうか蘇芳サーン。あなたどんだけ派手に暴れてるのー?この人達の警戒心を無駄に上げないで。せめて上げるなら後始末をこっちに投げないで!?

 

などと若干現実逃避しながらロビンに撤退の合図を送ろうとしたところ、突如戦場に突き刺さった一輪のガラスの薔薇。・・・へ?薔薇?ガラスの?この時代にこんなふざけた代物作れませんよね?てことはまさか・・・。

 

「ーーー優雅ではありません。この街の在り様も、その戦い方も、思想も主義も、あとついでに先程この窮地を教えて下さった殿方の顔色と魂のイケメン力もよろしくないわ!!」

 

この窮地(脱出手段は確保してある)に駆け付けた新たな人物は、混迷した状況に光を指してくれる導き手か、それとも事態をより面倒にして頭を抱えさせてくれるトラブルメーカー(回避手段不明)なのだろうか?

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話

早いもので初投稿からはや2ヶ月!そしてお気に入りは60件!!さらにはUAは既に6000オーバー!!!
こんな拙作にお付き合いいただき本当にありがとうございます!これからも『fate /GO カスタマイズ』をよろしくお願いします!!


 

side 蘇芳

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・ねぇ、マスター?この躾の悪いケダモノ何回殺せば良いのかしら?私の記憶が正しいならもう400回は消し飛ばした筈なのだけど」

 

「何度でも蘇るのなら、何度でも殺し返す。単純な話だ。幸い此方の戦力は充実している。しかしこれでは千日手のようだ、打開策はあるかね蘇芳?」

 

・・・こんにちは、蘇芳です。今リアル情け無用組手の真っ最中です。この状態に陥って既に半刻。 どうしてこうなった。

 

 

 

 

きっかけはメディアの簡易探査網に妙な反応があったことだ。どうみてもサーヴァントなのだが、小競り合いに出てきた奴らの様な狂った気配はまるでしないときた。不思議に思い接触してみたら、其処に居たのは何とも地雷臭溢れる非戦闘系サーヴァント2人組。つい「チェンジで」と言った私はきっと悪くない。どうしてこいつらなんだ?繋がりなんてフランス以外ないだろ?何で敵は脳筋集団なのに抑止側に武闘派が居ないんだ?おかしいだろ!?

まあ其処らの雑魚よりはマシな様なので溜飲を下げられたが、もしこれがNDKしか出来ない駄目サーヴァントだったらついその骸を触媒にして召喚をやり直そうとしたかもしれん。

それは兎も角、頭数はまともになったのでそろそろ禅城達と合流しようと思ったら妙な反応その二がやって来た。正直邪魔だったので、例の弱そうな2人は禅城の方に押し付k(ry ーーーゴホン。救援に向かって貰い、此方で確かめることにした。そしたら突然地面から影で製作しましたと言わんばかりの、獣を象った真っ黒クロスケが大量に現れた。その数ザッと300以上。中には明らかに自然界に居ないだろお前、て叫びたくなるような珍妙で無駄にゴテゴテした怪物も見受けられる。

どうみても友好的ではないので先手必勝で纏めて吹っ飛ばしたのだが、幾らやっても数が全く減らない。いや、ちゃんと殺した数だけキッチリ殺されてくれているみたいなのだが、その死骸を材料にしているのかのように五体満足になって再構築される。なら100回位ブチ殺せば消えてくれるかなと思い、実践してみたところで現在に至る。正直飽きたので切り上げよう。

メディア、あのクロスケのリサイクルのタネは割れたか?

 

「ハァ。出来ればもっと早く言って欲しかったわ。あれはどうやら相当質が悪いけど、キチンと循環出来てる半永久機関ね。

魂の色と所有権を限りなく希薄化させることで単なるエネルギー体に限りなく近くしているのよ。だからあの形になっているのも獣の因子のみでエネルギーをそれっぽくしているから。

『命』として扱われないからそもそも『死なない』し、潰されても形が乱されるだけで元通りにするのに殆ど魔力を必要としない。そんなとこね」

 

ほう。それだけ聞くと理想的な循環サイクルだが、何故粗悪品なんだ?

 

「ほとんど制御出来てないのよ。それぞれの魂が自己保存の為に勝手に行動して、所有権がないから制限したり中断させたり出来ない。そもそも、此れだけ無色の魂を内包したら自我も存在も混濁して単なる獣の集合体に成り果てるだけ。将来性も未来もない術式なんて欠陥以外の何物でもないわ」

 

ふむ。しかし、単純な足留めや耐久レースには最適だな。それに実際に術式が編まれたという事は、その欠陥其の物に魔術師が目的とするだけの何かがあったということか。

それはさておき、此れだけ露骨に消耗戦、もしくは時間稼ぎか、をされると向こう側の雲行きが怪しいな。メディア、此処は此方で何とかする。貴方は禅城達と今すぐに合流、必要なら加勢してくれ。ヘラクレスと神父は合図と共に戦闘を中断。バーサーカーは霊体化、神父は気配を絶って離脱。もし術者もしくは援軍のサーヴァントが尻尾を出すようなら縊り殺せ。ただ、メディアの探知に掛からん程の手練だ。少し様子を見て何もないなら引き上げてくれ。

 

「承知した。しかし君はどうするつもりかね?連中は獣の因子を持っている。いや、それしか持たない分ただの獣より感覚は鋭かろう。半端な迷彩では看破されてしまうぞ?」

 

そっちは問題ない。貴方達のマスターだぞ?其れ相応の切り札は持ってる。サーヴァント戦なら兎も角この程度、ピンチの内に入らん。誰かの手を借りる迄もない。

 

「解りました。では合図は任せて頂戴。飛び切りの一矢で連中の目を眩ませてあげる」

 

メディアも神父も此方に不必要に言葉をかける事なく行動を開始する。それが無言の信頼の様で少しばかり嬉しく思う。

さて、宣言通り特大の目眩ましだな。先程までの小競り合いが児戯であるかの様な空からのレーザーの絨毯爆撃。一網打尽を恐れてか、堪らず獣共は距離を取るがあれは全て虚仮威し。どれ一つとして殺傷能力を持たない、それっぽく見せただけの光の雨だ。爆音と光の氾濫が数秒場を支配した後、此処に残されているのは無数の獣のみ。我々の姿は何処にもない。

さて、とっととトンズラして蘇芳達と合流しよう。それにしても何だったんだろうか、こいつらは。メディアの言から察するに連中は宝具の類いでは無く何らかの魔術らしいが、サーヴァントでも唯の魔術であのクオリティはまず無理だろう。しかもかなりの遠隔操作と来た。無数の獣を従えた伝承の英雄に心当たりもないし、いざ戦いが佳境に入ったという時に再び現れられては迷惑だ。恐らくその時はかなり戦力を割けさせられるだろう。私達マスターはサーヴァントのアキレス腱に等しい。物量作戦の上に対無限沸き耐久レースなんて悪夢だ。面倒事がまた一つ増えたな、ハァ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

「・・・逃したか。早々馳走に預かれん、我が肉体に相応しい逸れ者だったが」

 

「あちゃー。でも、まぁ良いや。此処と次のはおじさんの仕切りだし、面白い玩具にはアテがあるしね。あっちのお兄ちゃんと遊ぶのも楽しみだなー。

あ、ごめんね。無駄骨折らせちゃって」

 

「構わん。相応の報いは用意されているというのだ。多少の徒労は甘んじて受け負うとも。飢えが貴様の制御を上回らぬ限り、この身は貴様の従僕だ」

 

「そうだね。おじ様の望み、相応しい末路に辿り着く、だっけ?僕等に時間の概念は無いに等しい。貴方が最後まで残り続けたなら、聖杯なんか無くても自力で辿り着けるよ。だから頑張って『生』にしがみ付いてねー。人間だった頃以来の感覚で忘れてるだろうけどね」

 

「クッ。怪物ですら無くなってから、人だった頃の感覚に頼らねばならぬとは皮肉なものだ。だがその矛盾もまた我が身には相応しかろう」

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話

投稿がすごく遅れてすいません。保存しておいたストックが丸ごと吹っ飛びましたorz
次はなるべく早く登校したいと思います。
それではどうぞ!


「ふう、ここまでくれば十分だな。ここなら迎撃するのに適してるし。それじゃあ各自休憩に、それと二人一組で見張りに入ってほしい。後、キャスタークラスの人は感知のみで良いから簡易結界を作ってくれ」

 

「あら、そんな些事私一人で十分よ。三流の魔術を見せられても不快だし」

 

「・・・まあ、神代の英霊様と比べられてもね。僕の本業はあくまで音楽家だしね」

 

 

はい、こんにちは、禅城です。今日だけでかなりの出来事が起きました。

 

あの後、辛くも黒ジャンヌたちから逃れることができたが、追撃として一気のサーヴァントが迫っていた。その真名はマルタ、聖女マルタとして名高い、ドラゴンバスター(笑)だ。さすがに聖女と呼ばれるだけあり、狂化に抗い、人理の焼却に抵抗してくれた。最も、結局全力で戦うことになったんだけどね。どうして昔の人って試練に託けて人を死ぬ気で戦わせるのかな。

 

それはともかく、彼女は最後にとても重要な情報を提供してくれた。それはこの時代に竜殺しのサーヴァントが召喚されていること、そして敵に狙い撃ちにされ、満身創痍である、ということ。

 

黒ジャンヌは通称「竜の魔女」だ。ならば彼女の切り札は、翼竜などではなく、本物の竜種、もしくはそれに類するものだと考えられる。なるほど、マルタが竜殺しの生存にすべてが懸っている、といったのもうなずける。・・・まあ、あの細身の魔術師ならそんなの知るか、の一言で何とかしそうだけど。

 

その後、幸い竜殺しの英霊―――ジークフリートと合流することができた。しかし、彼は強力な呪いに侵されており、現存勢力ではどうすることもできなかった。ジャンヌが言うには、あと一人聖人がいれば完全に祓うことができる、とのこと。それでも彼は、俺たちのわずかな浄化と治癒で立ち上がってくれた。マシュとジャンヌの宝具でも成す術がなかった邪竜を宝具の一振りで撤退させて見せた。

 

そのあとは全速力で撤退、その途中でメディアとも合流、現在に至る。え?オペラ?メディアが瞬殺しましたけど何か?

 

滅ぼされた村を触媒に結界と使い魔擬きのグールを作成したようだが、メディアに結界とのつながりそのもの上書きされ、主導権を奪われたようだ。かなりの量の魔力と生気を用意して待ち構えていたようだが、自身を滅ぼされるために使われるとは皮肉だな。

 

決してオペラが弱かったわけではない。そもそもこっちの戦力がわかってて短期で挑んできたことから、時間稼ぎが目的だろう。もしメディアとあっていなければ相当時間がかかっただろう。しかし相性が悪すぎた。相手はキャスター寄りのアサシンだったのと、神代に名高い魔術師と近代の怪人では地力に差がありすぎた。

 

 

 

「マスター。あまり離れないようにしてくれ。キャスターの結界といえど、一級の気配遮断能力で迫られたならば万が一もある。君の消失は我々全員の敗北だと自覚したまえ」

 

相変わらず小言を言いながらあらわれるエミヤ。でもいつもと違ってこちらを窺うような表情だ。強行軍続きだったから、心配かけたかな?それよりも・・・。

 

「父さんだと思ってた人が実はオカンだった件にt『スパンッ!』い~~~ッ!?」

 

「何度も言わせるな。私は借り物の理想に奔走した愚か者のなれの果てであって、半端に正義を目指して尻に敷かれている男とは別人だ。後、だれがオカンだ。行儀の悪い物言いはやめたまえ」

 

・・・どっから出した、そのハリセン。投影?そんな馬鹿馬鹿しいものに?封印指定待ったなしの業使ったの?ていうか突っ込むとこ其処かよ。

 

「いたたた。そんな冷たいこと言わないでよ。俺嬉しかったんだよ?最後に会ったのなんて2年も前だし。お互い中々予定が合わなかったし、どっかの誰かさんがうっかりやらかすし」

 

「それは・・ご愁傷様としか言えんな」

 

「うん、ありがとう。それでさ、もし俺が失敗したら、このまま二度と二人に会えなくなるって思ったら、急に怖くなった。冬木に行った時は正直其処まで頭回らなかったんだけど、帰ってきてからはそれが頭から離れなくて」

 

「・・・・」

 

本当にあの時は手の震えが止まらなかった。今まで協会の依頼とか受けたこともあるし、それなりの修羅場も経験あるけど、もう会えなくなるなんて覚悟は一度もしてこなかった。何とかあの時心が折れなかったのは、俺を信じてついてきてくれたマシュ、後ろから支えてくれたロマンや所長、そして同じ状況でも揺れることなく前に進み続けた蘇芳が近くにいてくれたからだ。

 

「だからエミヤと会えてすごく嬉しかったんだ。父さんとは一度も隣で戦えなかったから。母さんには『あんたにはまだ早い』って言われ続けてたからさ」

 

「・・・ふっ、そんな殊勝な対面だったかね?確か君は五体投地していたと記憶しているが」

 

あ、珍しい。こんなに気安く笑っているの初めて見た。でも懐かしいな。見た目はもちろんだけど、いろいろ違う二人なのに、二人ともとても安心する。

 

「うるさいな、仕方ないだろ。いきなり知ってる父さんと真逆の方向に突っ走ってる人に会ったから混乱したんだよ。エミヤだって立場が逆ならきっとああなるよ」

 

「ふむ(切継の真逆か、

和服→コート

人畜無害→キャリコ片手に爆破スイッチオン

正義のヒーロー→暗殺、毒殺、旅客機を標的ごとボン)ブフォッ!?

た、確かに冷静ではいられないな」

 

うん、そうだろう、そうだろう。誰想像したか知らないけど見慣れてる人の豹変って結構な精神攻撃だよな。

 

「それはともかく、高々14,5年で夫婦生活がおしまいとかさすがにかわいそうだし、俺も禅城に行かされて長いから、家族交流が全然し足りないんだ。だからサーヴァントのみんなを過労死させてでも世界を救って見せるから、頼りにしてるぜ、エミヤ」

 

「そうか、ではせいぜい期待にこたえることにしよう、これからもよろしく頼む、キリツグ。しかしなるべく早くしてくれよ?あの御嬢さんの性格だ、平行世界運用(第二魔法)を行使してでも戻ってくるぞ。そしたら後始末に駆り出されて間違いなく私は過労死するだろう。君のわがままで止めておきたいものだ」

どちらともなく握手を交わす。昔のアルバム見せてもらったけど、よくここまで巨大化したよな。すごく力強い大きな手、俺もこうなれるかな?

 

「―――やれやれ、無粋な連中だ。マスター、敵襲だ。どうやら何の策も講じることなく正面から向ってくるつもりのようだ。すでにロビンとメディアが先手を打っているはずだ。万全の態勢で迎え撃てる」

 

エミヤの知らせに踵を返してみんなの所へ向かう。これからは一層気が抜けない。もしメディアと合流できてなかったら、きっとオペラから連戦になっていたはずだ。そしたらどんな犠牲が出たかわからない。俺の最優先の務めは戦力を失うことなく敵を撃退し、決戦をも乗り越えることだ。やることも考えることも盛りだくさんにある。

 

はは、正義の味方(父の追い求めた理想)はまだまだ遠いな。

 

 

 

 

Side 蘇芳

 

「―――む?」

 

「気づいたかねマスター?ここら一体にうろついていた気配が消えた。そして、」

 

「ああ、向こうのサーヴァントの気配が増大した。れいじゅ?いや、まるで存在自体を書き換えるかのような力はない。一瞬だけ人知を超えるためのものにすぎん。・・・いやな予感がするな。合流を急ぐぞ、神父。最速で案内してくれ」

 

「それはかまわないが・・。幼子ならばともかく、大の男では絵面が悪すぎないかね?」

 

「そんなこと言ってる場合か。俺の足より何倍も速い。・・・まあ、他の奴に見られてないだけましと思おう」

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話

Side エミヤ

 

信じられなかった。古く、色褪せたはずの悪夢を全て招きよせたかのような光景だ。

見覚えのある術式、かつて見たことのある銀細工、忌まわしき妄執の残滓。自身にとって最悪以外の何物でもないそれらが縁深い彼の騎士王の臣下を飲み込み、別の何かへと組み換えていく。

 

誰もが言葉を発さない、否、発せないまま立ち尽くす。あるものは眼科の惨たらしさ故に、ある者はその規格外の魔術故に、ある者は憤怒を抑えているが故に。

 

嘗ての罪を見せつけられているようだ。最も、私は感傷に浸るような生やかな精神など持ち合わせていないがね。英霊の座について唯一良かったと思える点だな。今私がすべきは自虐ではなく、己の主を守ること。あとは、まあそうだな。戯れに父親ごっこでもしてやるくらいだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始まりは敵の襲撃だった。魔弾の射手は大層悪辣な罠を仕掛けたのだろう。敵が辿り着いた頃には、先陣を切ったであろう全身黒鎧のサーヴァントはかなり損傷していた。続いて現れたのは中世を思わせる、品はあるが喪服染みた黒ずくめの青年と、以前対峙した女吸血鬼。

 

数に劣る連中は能力が最も高い黒鎧と連携を組んで当たるつもりだったようだが、飼い犬の手綱が緩すぎたな。声にならない叫びをあげながら突然ジャンヌに切りかかる狂戦士。後ろの連中は面食らったのか全く反応できていない。カーミラは当然だが、青年の方もどうやら生粋の戦人ではないようだな。クランの猛犬や規格外の航海士なら反射で合わせてきただろうに。後衛を無視した突出した兵など、実に狩りやすい獲物でしかない。

 

すでに仕込みは済んでいる。待機させて置いた投影宝具を一斉掃射する。接近速度からかなりの敏捷ステータスであることは把握している。マスターからの魔力供給も十分。出し惜しみなしで面攻撃をお見舞いする。

 

今更援護に動こうとした2騎はメディアに釘づけにされている。魔術で歯が立たず、そもそも空中高く飛翔しているせいで剣も届かない。かといって余所を向けば、女神ヘカテ―直伝の大魔術によって一瞬で灰にされる。さすがは神代の魔術師なだけはある。かつては相当手を焼かされたが、味方だと実に頼もしい。おかげで各個撃破に集中できる。

 

しかしここで予想外のことが起きた。今まで剣の雨を捌ききられたり、避けられた経験はあるが、まさか第一射を掴み取り、そのまま後続を切り払われたのは初めてだ。会話も制御もままならないほどの狂化を施されておきながら、技量だけ衰えないとは恐れ入る。だが生憎だがそれは私に対しては悪手だぞ?

 

―――〈壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)〉。英霊の象徴ともいうべき宝具の内包する魔力を暴走させ爆破する捨て身の業。威力はともかく、それだけの神秘はたやすく治せないため、まず再取得は絶望的と、およそリスクと実利が破綻している手段だが、ほぼ無数に投影できる私にとってはランクの下がる贋作の威力を底上げする生命線だ。私の投影宝具を掴むということは、自爆寸前のダイナマイトを拾い上げるに等しいわけだ。戦士の勘で咄嗟に手放したようだが、ゼロ距離での爆発だ、無傷には程遠い。

 

さらに地面に突き立たせたままの宝剣も合わせて爆破させる。前後左右からの爆風に曝され身動き取れない黒鎧に一線の弾丸が突き刺さり、さらに一際デカい爆発が起こる。おいおい、大火力は母親譲りか。

 

 

「やるじゃないか、マスター。ずいぶん手の込んだ仕掛けのようだが?」

 

妙だな。マシュから聞いた話では剣術に明るいと聞いていたが、手に持っているのは身の丈以上の大砲、いやあれはレールガンか? 

魔術の秘匿故に答えは期待していなかったが、当の本人は目を輝かせて口を滑らせている。しっぽがあれば振り切れているな、あれは。

 

「そうかな!これは俺が夜も寝ないで昼寝して作り上げた『宝石魔術搭載型携行電磁砲 ハーキュリー』! とにかく軽く、一発撃てて暴発しなけりゃそれでいいって構想で作り上げて、弾丸にもしっかり細工してあるんだ!反動は強化と弱体魔術で軽減してあるから負担は軽いよ。弾頭はトリックダイヤに内部の光を魔力に還元する刻印を刻んだものを、銃身にはとある依頼の報酬でもらった『理想の人体図』のガルバリズム機関を組み込んでさらに魔力を注入してぶち込む仕様になっております!!」

 

・・・・・なんだ、そのバカと冗談を総動員した兵器は。いくら何でもやりすぎだ。というか、一から作ったのか、それ。

 

だが発想は悪くない。遠坂の宝石魔術は宝石そのものを投擲して攻撃に用いていたはずだ。だが、サーヴァントや死徒を相手にそんな悠長にしていては回避されるか距離を詰められて殺されるだけだ。その欠点を投擲から射撃に転化することで克服した訳だ。しかもレールガンときた。これなら不意打ちで打てばサーヴァントでも避けられまい。威力に関してはそもそも心配していない。彼の母親はまだ未熟な学生の身空でギリシャ屈指の大英雄を殺って見せた。修行中とはいえあれだけ工夫を凝らした弾丸なら同等以上の火力はあるだろう。

 

「まあ、代償に耐久が紙だから一発でまず壊れるし、丹精込めて作った弾丸も消耗品だから費用対効果は最悪なんだけど、そこは、ほら」

 

「・・・ふむ。我々なら、『それがどうした』というわけか」

 

やれやれ、あれもまたずいぶん面倒な物を継がせたのだな。聖剣に塗り替えられる前の、アレ本来の固有結界が遺伝したか。神造兵器は無論、宝具の投影も不可能だが、英霊が使っていた無銘の武具くらいは作り出せる、といった所だな。だがそれ以上に汎用性の高さと、それすべてにその道具が経た経験まで投影できることが最大の強みか。

 

いくら宝石を作り出せても、遠坂お家芸の魔力の循環が十分になされた状態で出せなければ唯の石ころに等しい。トリックダイヤにしても十分に光を貯め込んだそれを投影しなければ効果は薄い。しかし彼は、自信が記録したものを、その状態まで合わせて引っ張り出せるのか。

 

・・・これはこれで知られるといろいろ周りが騒ぎ出しかねんな。少量の魔力で、十分に魔力が込められた宝石を呼び出すなど収支があべこべで破綻した、まさしく常識破りだ。それにすぐ爆破してしまうから、維持に莫大な魔力を食う投影魔術とうまく噛み合っている。

 

 

 

 

「お・・王よ、お許しを。わが身に裁きを、あなた自身の御手で断罪を・・」

 

む?マスターと騒いでいる間に話が進んでいたようだな。勿論ちゃんと聞いてはいたが、思いっきり注意が逸れてしまっていたな。

 

しかし相手はあの湖の騎士、サー・ランスロットだったとは。つくづく世界は狭いと思わされるな。聖杯戦争とはいえ、時代も人種も違うのに知り合いの知り合いに会うなど、私くらいだろうか?

 

 

 

「あぁ・・私は・・わt 『お終い?じゃあ、殺しちゃうね。』 !!?が、があああああぁぁAAaaaaaaa!!!!!?」

 

 

「 「 「 「 「 「 !? 」 」 」 」 」 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――瞬間、どこかで見た『黒』と『銀』が騎士を飲み込んだ。

 

 

黒―――あの黒鎧よりもドス黒くまるで泥か影かのようなそれは騎士を隅々まで染め上げ、侵食し、彼を彼でないものへと造り替えていく。暗い、増殖したそれは傷つき欠損した部位を補填し、簒奪し、異形の存在へと変化させる。

 

 

銀―――まるで煙のようにも見えるそれは、まず騎士の右腕へと集まり、それを黒が貪り、黒銀の矛となり腕と一体化した。次に騎士の腰あたりから、鎧の隙間を抜けて飛び出した、二本の硬質な触手の先端へと集り、まるで機関銃、いやガトリングガンへと姿を変えた。残りは奴を守護するように、周りをヴェールのように漂っている。

 

 

『Gruaaaaa!!!!?』

 

突然飛びのいたかと思えば、奴はカーミラが呼び寄せたと思わしき翼竜に飛びついた。そして触れている部分から黒が一斉に抑留へと押し寄せ、緑の鱗は瞬く間に濁った黒へと染まり、騎士の足が埋め込まれるように沈み丁度跨るような状態で融合した。

 

もはやどこにも並びなき騎士の面影はなかった。今目の前にいるのは人が作り出した、規格外の怪物に他ならない。

 

「気をつけろ、マスター。あれはバーサーカーであって、バーサーカーではない。外装、能力をそのままに、肉体を別の何かで補ったのだろう。もはやランスロットとしての意識はあるまい。一切の躊躇なく仕留めるぞ!」

 

「ハッ、珍しく意見が合うじゃねえか、弓兵!ありゃ相当イカレてる。いろんなモンが振り切れてなきゃああはならねぇよ。残しておいても百害あって一利なしだ。とっとと片付けようぜ!」

 

「あー。ありゃ厳しいっすわ。毒効くのか、アレ?ま、やるだけはやってみますけど、正直手に負えないんで、邪魔になんないよう控えときますわ。ないだろうが使い手探してるほうがナンボかましだ」

 

「む?そっちは良いのか?連中にはこの上ない好機だろう。全員で当たるわけにはいくまい」

 

「あー何か知らねぇが、尻尾巻いて逃げてったよ。俺らに背を向けてでも全力で引いていきやがった。こりゃあいつらにとっても不測の事態らしい。」

 

「・・それでも漁夫の利を得ようとうかがっていても不思議じゃない。ロビンは二次被害が出ないよう、隠れながら周囲を索敵。残る皆であいつを叩く。マシュ、敵の戦力が分からない以上、君の守備が生命線だ。どんな状況にも対応できるよう注意して!」

 

「はい、センパイ!私の後ろから離れないでください。絶対にあなたに近寄らせるわけにはいきません」

 

「同感だ。実力はともかく、君の体は英霊の暴威には耐えられん。だが安心したまえ、君のサーヴァントが優秀でないはずがない。いつも通り、我々を勝たせることだけ考えていてくれ」

 

良し。顔つきが大分落ち着いてきたな。この戦い、全霊を賭して挑まなければ早々に敗北する。感情で動きを鈍らせるわけにはいかん。

 

 

 

「作戦会議は終わった?なら遊ぼう!怖い顔のお兄ちゃんには途中で逃げられちゃったから、お兄ちゃん達は最後まで付き合ってね。それじゃあ―――――殺っちゃえ、バーサーカー」

 




はい、今回と次回は少しオリジナル戦闘が入ります。戦闘描写は苦手ですが、頑張って書いていきます。

ここまでご覧いただきありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話

 

Side エミヤ

 

 

状況は悪い。相手は豊富な飛び道具に制空権の確保と、流れを維持する条件を抑えている。しかもそのどれもが高い水準の装備になっている。

 

特にあの銀の煙。あれはどうやらかつて見たアインツベルンのシュトルヒリッター(コウノトリの騎士)の改良版のようだ。あの煙の一粒一粒が魔力を生成し、レーザーを放ってくる。まるでどこぞの地球(のみ)防衛軍のきしめんレーザーだ。

 

さてここで問題だ。我々の耐久力はどれくらいだろうか?

・私(エミヤ) アミュレット程度の対魔力と低耐久ステータス

・蒼狗(笑)  魔力はともかく、レーザーそのものの物理破壊力で即ミンチ

・マスター   論外。人間が生身であれを受けたら一瞬すらもたない

・マシュ    悲しいことに最年少の彼女が最も耐久に富んでいる。しかし、あの攻撃密度では反撃するまもなく押し切られる

 

さて、この後我々がとる行動とは?

 

 

「 「 「 「ギャアアアアアアアア!!!!!??」 」 」 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答え みんなで仲良く全力回避

 

 

 

 

 

 

「ちょ、この攻撃量はやばいヤバい!何とかしてエミやん!!」

 

「無茶を言うな!?こう攻め立てられては剣はともかく、盾の投影などしている暇がない。それに半端な狙いでは奴に当てられそうにない」

 

「つっても、どうにかするしかねぇだろ!!。 ――ッ!おい弓兵、あのボロ屋!!」

 

「ああ、合わせろ!マシュ、君も頼む!!」

 

「はい!行きます!」

 

目標 前方の木造家屋。基本骨子、解明。構成材質、補強。

 

 

 

同調、開始(トレース・オン)!」

 

「ステータスアップ!これで凌ぎます!」

 

アルギス(防御)!!」

 

よし、私が強化の魔術で家そのものの強度を上げ、クーフーリンが『保護』のルーンを刻み、マシュがその上から『時に煙る白亜の壁』を張った。これなら少しはもつか?

 

勢いを殺さず全員飛び込むように家屋に入る。外からは凄まじい轟音が鳴っているが、少しなら時間が稼げそうだ。

 

 

「マスター。先ほど逃げながら解析したが、どうやらあの煙のような礼装は、ミクロサイズの蟲をあしらった使い魔のようだ。空恐ろしいことだが、あれの使い手は億を超える使い魔を手動で制御し、魔力を自動精製させ攻撃と武器化を行っているようだ」

 

「はぁ!?んなもん神代どころか、影の国ですらできる奴はいねぇぞ!どうなってやがる!?」

 

「考えるのは後だ。今すべきはそんな馬鹿げた芸当を乗り越え、やつを撃破することだ。目下の悩みはあの翼竜だ。先ほどまでとは比べ物にならんほど素早い。あれに当てられる獲物の用意と正確に狙う隙を・・・ !?逃げろ!!」

 

 

―――瞬間、先ほどまでびくともしなかったはずの壁が粉々に吹き飛ばされる。良く見れば先ほどの豪雨のようなレーザーではない。丸い弾丸のようなものが無数に向かってくる。そうか、あの触手に備えた武装か!宝具化されるとここまで威力が上がるのか!?

 

間一髪裏口を蹴破って脱出する。と同時に崩れ落ちる家屋。くそ、まだ打開策はできていない。我々はともかく、マスターの体力は知れている。あれだけの弾雨を回避していてはすぐにスタミナ切れを起こす。かといって英霊といえども、あの砲火を誰かを背負って避けきるのは無理だ。

 

 

「こうなったら・・・。私が宝具で時間を稼ぎます。その隙に状況を打開してください!『仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』起動!!」

 

 

一刻の猶予もないと察したのだろう、彼女は我々への全幅の信頼から、躊躇なく宝具を発動させる。立ち止まった彼女は数秒後には魔弾の雨に曝されると知りながら、だ。

 

全員で踵を返し反撃へと頭を切り替える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――瞬間、居てはならないものを見た。宝具を展開し、仁王立ちで構えるマシュの、吐息すら感じられるほどの距離にあの怪物は迫っていた。一瞬すら遅いと感じる速さで結界を迂回し、彼女の心臓へと黒銀の矛を突き出すしていく。

 

 

「(回避は・・ダメ!間に合わない!!)」

 

「(投影、弓、令呪・・・。くそ、どれも間に合わん!!)」

 

「やめろおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

マスターの叫びもむなしく、敵の一撃は吸い込まれるように彼女へと向かい、そして―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■―――――――!!!!!!!」

 

 

―――――突如、空間を突き破り現れた影の巨人に阻まれた。

 

 

『GALAAAAAAAA!!??』

 

矛は巨人に深々と突き刺さったが貫通することはなく、そのまま腕ごと捩じ切られた。・・・やれやれ。万事休すと思ったが、あの魔術師への借りがどんどん増えていくな。とりあえず、この好機を逃すわけには――。

 

 

Funf(五番)、,Drei(三番)、,Vier(四番)……!

 Der Riese(終局) und brennt(炎の剣) das ein Ende(相乗)――――!」

 

 

―――訂正、既に仕掛けておられる。我等がマスターは相当お冠のようだ。主に出遅れるわけにはいかんな。(出遅れたら令呪で何されるか・・・)

 

 

「喰らいつけ、赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

 

私の保有する剣の中で、最も追撃に適した武具を放つ。無数の宝石弾丸と一陣の矢がひるんだ隙を穿ちに殺到、致命傷とはいかずとも手傷は残してみせる―――――!?

 

 

『ヴオオオォォォン――ザアアアアァァァ―――――――!!!!!!!!』

 

 

くっまたあの銀煙か!弾丸はすべて叩き落された、赤原猟犬(フルンディング)は・・・ダメか。チッ、レーザーと弾幕は耐えても、減衰されては再生したばかりの矛でも防がれるか。くそ、こちらは仲間を窮地に追いやったというのに、全くの仕切り直しか!

 

 

「いや、Fin (終曲)だよ 『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!!!」

 

 

矢も弾丸も撃ち落し、高高度まで飛び上がった直後、奴の周囲に死の旋律が群れとなり襲い掛かった。ダメージはほぼゼロ、しかし、音が奴の耳を通り、内部で混ざり呪詛へと変わる。

 

 

『GU!?GRUAAAAEEEEE!!!!』

 

 

硬直は一瞬か、どれだけの抗魔力を付与しているんだ、奴の使い手は!?

 

 

「何してやがる!早く逃げろってんだ!!!」

 

 

クーフーリンの叫びをかき消すかのように弾幕が稀代の作曲家へと降り注ぐ。いや、彼だけではない。あそこにいるのはもう一人―――。

 

 

「あら?気持ちはわかるけど、演奏中のブーイングはマナー違反よ!『Belle princesse(麗しの姫君)』!!」

 

「マリー、ブーイングはどんな時でもマナー違反だよ!?」

 

 

すごいな。あれほどの攻撃が、彼女の輝きにかき消されるように消失していく。彼女の天性のカリスマは、魔術すらひれ伏すのか。

 

 

「というより貴様ら、今の今まで何をしていた!!?」

 

「いやー、さっきまでいた吸血鬼とは、二人そろって相性悪かったし、会いたくないやつもいたしで隠れていたのさ。まあそこの鎧クンには気づかれていたはずだけど、何故か見向きもしなかったからね、最高のタイミングで横槍入れさせてもらったよ。さあ、毒は専門外だけど、不浄っていうか呪いならこんなものさ。後は頼んだよ緑茶クン」

 

「その呼び方はよしてくれませんかねぇ。ま、美味しいとこ頂いたんで、文句も言えねぇけど・・・。そんじゃ一丁、いきますか! 

 

弔いの木よ、圧制者への毒となれ!!『祈りの弓(イー・ボウ)!』  」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・決着、か。急転直下の内容だが、最上に近い勝利だったな。今回の戦いは脱落者が出ても何ら不思議ではなかった。

 

さて、マスターは・・・・む?

 

 

「どうしたマスター?眉間にしわを寄せて。大口叩いていた割に空気だったクーフーリンへの不満についてなら同意するが 『オイッ!!』 」

 

「いやいや!不満とかないから!!みんな本当に頑張ってくれたから、むしろ感謝でいっぱいだから!!!

・・・たださ、ロビン。さっきの宝具ってさ、他に同じようなの持ってる英霊っている?」

 

「はい?確かに俺はいろーんな伝承のごった煮英霊『ロビンフット』ですからね、もしかしたら同じ境遇の別人のロビンもいるかもしれませんね。けど、歩いてきた軌跡は千差万別だし、同じ宝具を持ってる奴なんてのは考えにくいですねえ。武器というより伝承宝具の類だし?」

 

「そっか・・・じゃあ、あの時の爆発は一体・・・・?」

 

 

・・・?どうやら私が呼ばれる前に何かあったらしいな。心当たりは、今しがた借りが増えた魔術師殿くらいか?確かに現代の魔術師にしては破格の実力者だg(ry『GAAAAaaaaaa!!!!』!?な、あれだけ食らってもまだ動くのか!!?

 

 

「みんな落ち着いて!相手はもう機動力も火力もない。一気呵成に「アンコールは無しだ、さっさと失せろ」・・へ?」

 

 

! な、何だこの魔力量は!? 宝具?いや、伝承保菌者であっても、それを十全に起動させる為の魔力は術者持ちだ。これは・・・一体。

 

 

「ぼさっとすんな弓兵!伏せろ、来るぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

――――瞬間、全ての色、全ての音、全ての光が塗りつぶされた。この時、ほんの一瞬だが、世界は確かに焼切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ???

 

「も~~~!遊びに誘ったらそっぽ向くくせに、他の人と遊んでたら邪魔してくるってどういう神経してるんだよー!!!」

 

「・・・」

 

「まあ良いや。相手の戦力もスタイルもまあまあ把握できたし。僕のバーサーカーの敵じゃないって再確認できたし!」

 

「今回と次まではフラウロスの仕切りだし、今回はこんなところかな。あーあ、人の仕事盗っちゃダメっておじいちゃんが言うから見逃したのに、あいつらさっさと潰して置いたらもっと愉しめたのになー。あ、ビーストも、次は食べて良いからね」

 

 

「無論だ。私も生きの良い餌を前にして飢えを抑えられるほど若くはないのでな。次は・・イタリアか。昔から食に気を遣う国だ。さぞ喉越しが良いだろうな」

 




これにてランスロット戦終了です。
ここまでご覧いただきありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話

 

Side 蘇芳

 

 

「・・・なんだ、もうカタはついていたのか。余計な世話だったか」

 

 

はい、こんにちは。そう言えばこれがフランス勢との初顔合わせの蘇芳です。メディアとの感覚共有で見た感じだと随分押され気味だったから令呪を切ってバーサーカーを突っ込ませた。そのあとは爆風やらなんやらで見えなくなったので急行したが、取り越し苦労だったようだな。

 

 

「いやいや、本当に助かった!危うく大切な仲間を失うところだった。後、こうして誰も欠けることなく再会できて嬉しいよ!ただ、その姿は・・ちょっと・・・。」

 

 

・・・うん。まあ確かに絵的にきついだろうな。身長190以上の大男が、痩せ身とはいえ大の男を背負って現れるというのは。しかもその神父が不満げでも不快そうでもなく、ただ真顔で淡々と背負い続けているのがまたシュールだ。これが少女とかなら違和感ないだろうが。あとそこの元槍兵。笑いすぎだぞ・・・。

 

 

「・・・おい其処の駄犬。お前への絶対命令権、だれが握っているか忘れたか?」

 

「ぎゃはははは・・・・・・ハッ!!?」

 

「まあ、帰還した後楽しみにしていろ。優秀な(愉悦の)助手も今回はさぞ腕を振るってくれるだろうさ」

 

「すいませんでしたああああぁぁ!!!!」

 

 

おお、凄まじいまでの躍動感溢れるDO・GE・THE!!だな。だが却下だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れて、現在聖人求めて三千里。おっと、掻い摘みすぎたか。奴らのこの物量戦法の要である飛龍を束ねているのが、神話に名高い『邪竜ファフニール』とのこと。あまり詳しくは知らないが、確か西洋版桃太郎(大人の醜い欲望添え)?に登場する、見た目は巨竜中身は老人のやられ役だったはずだ。そいつを倒せる戦力が複数の呪いに侵されて役立たずと化している。

 

こちらの手持ちに代役がいないのが痛い。メディアは竜使役のスキルを持っていないし、幻想種最強の竜種では魔術は無効化されてしまう。

 

神父も無理だ。存在の規模がまるで桁違いの竜の『氣を呑むこと』など不可能だ。中華拳法も、対門宝具クラスにまで昇華させた絶技ではあるが、アレ相手では心許ない。対城宝具とかあれば話は別だが。

 

ヘラクレス・・・もし彼が本来の姿であれば、ヒュドラ殺しの宝具やら何やらを用いて倒すことが出来たかもしれない。しかし、私が使役しているのは冬木の地で頂戴してきたシャドウ・サーヴァント。実力も一回り落ちており、当然宝具も使えない。

 

よって、非常に面倒なのだが死にかけの竜殺しを何とかするために、戦力を分散させてでも聖人のサーヴァントを探すことになった。王女様の気まぐれでくじ引きなどという計画性皆無な組み分けで、だが特に反対はしなかった。エミヤやメディアは私が何も言わなかったことに不思議そうにしていたが、もちろん理由はある。

 

政治家や貴族なんかは魑魅魍魎が跋扈する魔窟が戦場だ。そんな地獄で生き残れるような奴は嗅覚や勘働きが尋常じゃない。その中でもマリー・アントワネットは一流の部類だろう。何せショワズール公やデュ・バリ夫人といった曲者揃いの、失脚暗躍何でも御座れのパリで頂点に立てたのだからな。そんな人物の思い付きは意外と良い方向に向かいやすい。もちろんそれが滅んだ原因でもあるから過信は禁物だが。

 

そういう訳で、厳正なるくじ引きにより決定されたフランス西廻り組(仮)は4名。私にメディア、それからジャンヌとアントワネットだ。戦力が向こうに偏りすぎに感じるかもしれないが、向こうにはこちらの生命線にしてアキレス腱であるジークフリートがいる。あれを殺られたらこっちは詰む。それに禅城の面子は中・後衛が中心だ。数の暴力を押し返せる神父とヘラクレスを張り付けておいたら万全だ。

 

 

「―――うん、やっぱりジャンヌは綺麗よね。すごく、すごく、すごく―――美しいわ。ねえ、そちらの殿方もそう思わない?」

 

「ちょ、ちょっとマリー!?からかわないでください」

 

ん?二人で仲良く相合傘をして話しているかと思えば、私にも振ってきたか?前振りを全く聞いてなかったが、真正面から口説かれる状況っていったい・・・。

 

「からかってなんていないわ。だってもし、わたしがジャンヌの立場だったら・・・“竜の魔女”の話を、たぶん受け入れているもの」

 

 

ああ、そういう話か。てっきり彼女はそういう趣味の方かと思った。色事や見た目ではなく、その精神性について、か。

 

 

「わたしはわたしを処刑した民を憎んでいません。それは九割の確証を持って言える事実です。けれど、わたしはわたしの子供を殺した人たちを――少しだけ、憎んでいる。ほんの少しだけれど、確実に」

 

・・・私の時代でも、彼女の人物像は最悪だった。世界三大悪女、だなんて学校で教わることもあるくらいだ、つい最近までは。それくらい当時の反マリー派の人間は人心操作を徹底して行っていた。それ故に、市民の扇動は止まることを知らず、ギロチン刑を叫ぶ声は遂には王家皆殺しにまで突き進んでいった。ただ―――。

 

 

「けれどジャンヌはそうじゃないでしょう?それはとても凄いことで、とても綺麗なこと。そしてそれは怯えでも拒絶でも、欠落してるからでもない。ジャンヌは――人間が好きなのよね?」

 

 

彼女は気づいていないのだろう。肉親がこの世の地獄を味あわされ、散々甘い汁を啜った連中は文字通り蟲のごとく四散していって尚、フランスを愛し続けられることが、どれだけ凄いことなのかを。

 

 

「はい。次に相対するときには、彼女にきちんと伝えられると思います。あ、そういえばそろそろ連絡をしなくては」

 

「あら、つい話すのに夢中で忘れていたわ。それにしてもわたし、晴れているのに雨が降っているなんて光景初めて見たわ。確か東洋では狐の嫁入り、とか言ったかしら」

 

「そうですね。私も初めてです。しかし急に振り出しましたね。向こうは大丈夫でしょうか」

 

 

心配無用だ。振らせているのはここら辺りだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ええ、大丈夫です。こちらもサーヴァントを探知できました。これからコンタクトします」

 

「ふう。丁度雨も上がったわね。なんだったのかしら」

 

 

さらに十時は進み、目的地へと辿り着いた。通信から察するにこちらが本命のようだな。面倒臭い。聖人君子の相手はあの主人公気質のほうがよほど適任だろうに。

 

 

「・・・では、私たちと共に来て戴けませんか?あの複雑に絡み合った呪いを退散させるには、貴方の協力が不可欠なのです」

 

「事情はわかりました。町の避難もじき終わります。そちらの御仁のおかげで既に8割方済んでいます。終わり次第出発しましょう」

 

 

おい、こっちに振るな!話をややこしくするな!ほら、女性人二人がさっさと説明しろと目で語りだしたぞ。

 

 

「先程までの雨は貴方の魔術ですね?どういう絡繰りかは分かりかねますが、周囲を徘徊していた魔物の反応が突然消失しました。お陰で早い内から避難を進めることが出来ました。彼らの分も礼を申し上げます。本当にありがとうございます」

 

 

「ウソ!?あの雨は貴方だったの!でも、雨は出発してからすぐに振り出したわ」

 

「もしあの雨がなければ、魔物を避ける道程探しなどで避難がずっと遅れていました。まさか、あの時からこの状況を?」

 

「・・・もしそうなったら、避難が優先だとか言って動こうとしなかっただろう、アンタは。どうせ人理の修復でなかったことになるというのに、だ。綺麗事と目の前のことばかりで、後の責任を放棄するのが聖人という人種だからな」

 

「な、ムッシュ蘇芳、それはいくらなんでも――」

 

「いえ、彼の言っていることは正しい。もしその状況になったなら私は決して逃げることは無かったでしょう。私が聖人でありたい、という願いのために。もし私が倒れれば、彼の竜殺しが再起不能となり、その結果私が助けた市民諸共世界が焼却される、というのにです」

 

「あっ・・・・」

 

そうだ。今現在最優先保護対象は竜殺しと聖人の2人だ。それ以外も勿論重要だが、この面子だけは代用の仕様がない。さっきも言ったが、後で死そのものが無かった事になる連中とは、言い方は悪いが比べるまでもない。だがこいつはそれを言っても決して首を縦には振らん。生き方に人生を食われた奴に何を言っても無駄だ。なら無駄にならないことをするのは当然だろう。

 

 

 

 

―――だが、結局無駄になったようだがな。

 

 

 

 

 

 

「―――っ!?敵襲です!!この感覚は・・・“竜の魔女”・・・!!」

 

「何ですと・・・!」

 

「撤退しましょう!避難はもう終わっています。この距離なら十分逃げられます!」

 

「・・・確かに我々ならば逃げ切れましょう。しかし、その時には竜の魔女は、その矛先を道中の民に向けることでしょう。最後まで残っていたのは老人や病人でした。彼らが竜の魔女が此処に着くより早くにフランス軍と合流できているとは思えません」

 

「でも――「それなら、そいつ等が逃げ込めるまでの間、黒いのの相手をしてやれば良いんだな?」――え?」

 

「・・・やはり貴方ならそう言うのでしょうね」

 

「勝手に買い被るな。さっきも言っただろう、優先順位の話だ。竜殺しさえ動かせれば、もう小細工に出る必要はない。総力戦に必要なのはサーヴァントであって人間じゃない。それだけの話さ」

 

「しかし・・・」

 

「いけません!貴方を犠牲にして逃げるなど私にはできません!」

 

「勝手に殺すな。なに、町を守れとか、一歩も引くなという訳じゃない。それにあの連中には散々嫌がらせをしてやったからな。隠れているだけでもかってに釣れてくれる。いざという時の策もある。生き残る算段はつけてあるさ」

 

「・・・あなたがそこまで仰るならば、もう私には何も言えませんな」

 

「スオウさん、貴方を見誤っていましたわ。その細身の体からは想像もつかないほどの魂のイケメン度。わたし、感動してしまったみたい」

 

「・・・大体何を言い出すのかは予想がつくが、邪魔になるようなら切り捨てるぞ」

 

「! はい!マリー・アントワネットの名に懸けて。」

 

「え・・?まさか、マリー!」

 

「ええ、私はきっと、こういう時のために召喚されたの。憎しみや打倒ではなく、人々の命の守り手として。あ、でもアマデウスには謝っておいてくださいね。演奏会には遅れそうだって。それと、素敵な殿方と一緒に向かいますって」

 

「うん。・・待ってますから。ムッシュ蘇芳、彼女をよろしくお願いします」

 

「さっき切り捨てるといったんだがな・・・。まあいい、さっさと行け」

 

「ええ、すぐに追いついてくださいね。・・・御武運を」

 




ここまでご覧いただきありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。