リリカルなのはStrikerS ~喰らう牙~ (ロンギヌス)
しおりを挟む

第0話 降り立つ牙

『仮面ライダー×リリカルなのは』のクロスです。

もしよろしければどうぞ。


かつて、一度も動く事なく封印された神の列車―――

 

封印から解き放たれし時―――

 

その牙が喰らうのは、過去か、未来か―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一面に広がる、白い砂漠の中。

 

砂漠の上に敷かれた長い線路を、銀色の列車が走り抜けていた。

 

その後部車両にて…

 

「ガツガツガツガツ」

 

ある一人の男が座席に座り、目の前の机に置いてある料理を食べていた。

 

食べているだけならまだ良い。問題はその量だ。

 

彼が既に喰い終わっている料理は、皿の枚数が二十枚である。しかもほとんどは肉料理ばかり。なのにこの男は食べるペースが全くダウンしておらず、次々と料理を喰らい尽くしていく。

 

「ムグムグ………ふぅ」

 

遂に最後の料理も食べ終わり、ペットボトルの水を飲んでから一息つく。

 

「…足りんなぁ」

 

これだけ食べたにも関わらず、男は喰い足りないと不満そうな表情を浮かべる。

 

そこへ…

 

「まだ喰ってるんですか? 牙王様」

 

緑色のトカゲみたいな姿をした怪人が、次の料理を運んで来た。

 

「まだだ。もっとたくさん持って来い」

 

「しかし、これ以上食べるとなると、残りの食料が…」

 

「無くなりそうなら、次の世界に着いてから街で買って来い。金ならいくらでもあるんだ、別に困る事もあるまい」

 

「ハ、ハァ」

 

そう言って男、“牙王”は怪人が持って来た料理を手に取り、再び喰らい始める。

 

彼の食事が終わるのには、もう少し時間がかかりそうである。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、参ったな…」

 

その後、緑のトカゲの怪人“モレクイマジン”は厨房のある車両に移動し、困った様子で頭を掻く。

 

「また食料切れでも起こしたか? モレク」

 

「…コブラか」

 

そんなモレクの下に、青いコブラの姿をした怪人“コブライマジン”がやって来る。

 

「すぐに否定しないって事は、肯定として受け取って良いんだな」

 

「あぁ……このままだと恐らく、あと二日程で綺麗に底を尽くだろうな」

 

「二日? 前に滞在した世界で、何ヶ月分もの食料を買い揃えたってのにか?」

 

「ここ最近、牙王様の食事の量も増えてきている。それに俺達の分も含めれば、食料なんてあっという間に無くなってしまう」

 

「…まぁ、それもそうだな」

 

コブラの脳裏に、牙王が料理を喰らい続ける光景が浮かぶ。

 

「で、お前がまた次の世界で買い出しという訳か?」

 

「お前等に任せると碌な事にならんからな。まぁ、金は腐る程あるからまだ良いんだが…」

 

「悪かったな、俺達が役立たずで」

 

そう言ったコブラは冷蔵庫を開け、冷蔵庫を物色する。

 

「自覚してるなら、少しは努力して欲しいところなんだがな」

 

「残念だったな。俺達にそれが出来るとでも思ったか」

 

「いや、強調して言う事じゃないだろ………それと」

 

モレクがコブラの右手を素早く掴む。

 

「その手に持った物、ちゃんと冷蔵庫に戻せよ?」

 

「…チッ」

 

コブラの右手には卵が二つ。企みがバレたコブラは舌打ちする。

 

「コブラ、そろそろいい加減にしろよ? 毎回卵のつまみ食いしやがって、少なくなった食料をまた更に少なくする気かお前は」

 

「良いだろ、卵の一つや二つくらい。喰わねぇとイライラするんだよ…」

 

「買った卵に麻薬を仕込んだ覚えはない。良いからさっさと戻せ」

 

「…分かったよ」

 

コブラは諦めて卵を冷蔵庫に戻す。

 

「ケチな奴め…」

 

「ケチで結構。俺が牙王様から食料管理を任された以上、無駄に減らす訳にはいかないんだ。大体お前という奴は―――」

 

-ガシャァァァァンッ!!-

 

「「……」」

 

モレクが説教を開始しようとした時、他の車両から何かが割れるような音が響き渡る。

 

「…モレク」

 

「あぁ……アイツ等…!!」

 

モレクは背後から黒いオーラを出しながら、鎌の形状をした大型のダガーナイフを手に持って厨房を出て行く。

 

「…ご愁傷様だな」

 

取り残されたコブラは、小さく呟く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんじゃねぇぞコラァッ!!」

 

「んだと、この野郎ッ!!」

 

別の車両では、二人の怪人がド派手に喧嘩をしていた。

 

赤いヤモリの姿をした怪人の方が“ゲッコーイマジン”、紫色のイモリの姿をした怪人の方が“ニュートイマジン”である。

 

本来ならイモリであるニュートが赤であるはずだが、何故か配色が逆である。何故逆になっているのか………それについては謎のままである。

 

「良いぞ~もっとやれ~!!」

 

そして、茶色のサンショウウオの姿をした怪人“サラマンダーイマジン”は、二人の喧嘩を見て一人面白そうに盛り上がっている。

 

何故、ゲッコーとニュートの二人が喧嘩しているのかと言うと…

 

「よくも俺が大事に取ってたショートケーキを食いやがったな!! 今回ばかりは許さねぇ!!」

 

「テメェこそ俺のコーヒーゼリー勝手に食べやがって!! 人のこと言える立場か!!」

 

「よっしゃ~もっと暴れろぉ~!!」

 

どうやらこの二人、単純に食べ物関係で喧嘩しているだけらしい。しかし二人が喧嘩している所為で座席が壊れたり窓ガラスが割れたりと、その被害はだいぶ甚大である。サラマンダーに至っては止めるどころか逆に楽しんでいる。

 

「大体、何で俺じゃなくてテメェが赤色なんだよ、ヤモリの癖によぉ!!」

 

「うるせぇっ!! そんな事まで俺が知った事かぁ!!」

 

二人は遂に互いに武器を取り、より喧嘩が激しくなろうとしたその時…

 

 

 

 

 

「―――何やってんだアホ共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

-ドゴォォォォォォンッ!!-

 

「グボァァァァァァァァァッ!?」

 

騒ぎを聞きつけたモレクによる飛び蹴りが、ニュートの後頭部に炸裂した。

 

「…あ」

 

ニュートが蹴り飛ばされて気絶したのを見て、ゲッコーは顔が青ざめる。

 

「お前等……喧嘩ならここじゃなくて外に出てからやれと、何度言えば分かるんだ? 俺の記憶が正しければ、これでもう注意したのが十五回目なんだが?」

 

「い、いや、これはその…」

 

「ここまで散々破壊してくれてさぁ………ここの掃除をしてるのは一体誰だと思ってるんだ?」

 

「え、えぇっと…」

 

「その謝罪も、結局は口だけだと言うのか? お前等の頭には、努力しようと考える脳ミソすらないと言うのか? ん?」

 

「は、はい、すいません…」

 

「ただ謝るんじゃなくてさぁ……少しは本気で反省しようと思えよ……いちいちお前等の説教をしなくちゃいけない、こっちの身にもなってみろよ、な?」

 

「お、おっしゃる通りであります…」

 

さっきまでの威勢は一体何処へやら。ダガーナイフで肩を軽く叩きながら黒いオーラを放つモレクに対してゲッコーは何も言い返せず、その場に正座して縮こまっている。

 

ちなみにサラマンダーは…

 

「すげぇ……モレクの背中から黒いのが出てやがる…」

 

冷や汗を掻きつつ、座席の後ろに隠れていたりする。

 

「とにかく、口で何度言っても分からん馬鹿には…」

 

モレクがダガーナイフをギラつかせる。

 

「たっぷり、お仕置きしないとなぁ…!!」

 

 

 

 

数秒後、ゲッコーの断末魔が響き渡ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

列車の先頭車両。

 

列車の操縦席として中央に固定されたまま、自動で動いている一台のバイク。そのバイクの正面にあるモニターには、外の映像が映っている。

 

「このままいけば、問題はないか…」

 

厨房から戻って来たコブラはモニターを見て呟き、手に持っているタッチパネルを視線を移す。

 

「順調のようだな」

 

「! 牙王様…」

 

食事を終えてやって来た牙王が、コブラの横に並ぶ。

 

「もう、良いんですか?」

 

「本来なら、まだまだ喰い足りねぇところだがな」

 

(…まだ食べる気か)

 

コブラは内心呆れ果てる。

 

「それはともかく……そろそろか?」

 

「はい。あと五分程度で、次の世界です」

 

二人はモニターを見る。

 

列車が進む線路の先が、丸く真っ白な穴へと続いていた。

 

「さて…」

 

牙王がバイクに跨る。

 

「次の世界こそ、当たりだと良いんだがなぁ…!!」

 

 

 

列車の走るスピードが上がり、そのまま白い穴へと突き進んでいく。

 

 

 

この時、コブラが持っていたタッチパネルには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多次元世界の一つ、“ミッドチルダ”の名前が表記されていた。

 

 




次回でミッドチルダに到着。

感想お待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 ミッド到着・機械粉砕

『駆ける怪刃』のストックが元通りになるまでの間、しばらくはこちらを更新します。

それでは第一話、どうぞ。


ミッドチルダ首都、クラナガン。

 

そのクラナガンから遠く離れた深き森林にて、突如空間に白い穴が出現する。

 

-プァァァァァァン-

 

その中から現れた列車は地上に降り立ち、そして停止する。

 

「いやぁ~着いた着いたっと」

 

「おぉ? ここ何処だ?」

 

「おいおい、よりによって森の中かよ」

 

停止した列車の自動ドアが開き、中からゲッコーやニュート、サラマンダー達が降りる。厨房のある車両からはモレク、そして先頭車両からは牙王とコブラが降り立つ。

 

「ミッドチルダ……ここが“当たり”だと良いんだがな…」

 

牙王が手に持ったトウモロコシに噛り付く中、コブラがタッチパネルを操作する。

 

「距離はだいぶ離れてはいますが、ここから東にミッドチルダの首都であるクラナガンがあります。しかし…」

 

「管理局、とか言う連中か」

 

「…はい」

 

コブラがタッチパネルを操作し、その画面に“時空管理局”という組織に関する様々なデータが写し出される。

 

「管理局地上本部が、このミッドチルダにあります。迂闊に動く訳にはいかないかと」

 

「…面倒な」

 

牙王はトウモロコシの残りカスをその場に放り捨て、唇を指で拭う。

 

「ん?」

 

その時、辺りをうろついていたサラマンダーが何かに気付く。

 

「どうした?」

 

「…何か来るぜ」

 

「「「「「!」」」」」

 

サラマンダーの言葉に、一同はサラマンダーの向いている方向に振り返る。

 

『ピピピピピ…』

 

『ウィィィィィィィン…』

 

「…何だコイツ等」

 

木々の中を抜けて現れたのは、カプセル状の姿をした灰色の機械が複数。

 

後に“ガジェットドローン”と呼ばれる存在だった。

 

「ロボットか?」

 

「何だってこんな所に…」

 

『ピピピッ』

 

複数のガジェットの中、その内一機のセンサーらしき部分が光り出す。

 

「ん? 何か光って―――」

 

-バシュウッ!!-

 

「ぬぉうっ!?」

 

「!?」

 

「サラマンダーッ!!」

 

疑問を抱いた直後にガジェットがレーザーを発射し、直撃したサラマンダーを大きく吹き飛ばす。

 

『ピピピッ』

 

『ウィィィィン』

 

一機目が攻撃したのを合図に、他のガジェット達も一斉にレーザーで攻撃して来た。

 

「おいおい、何なんだコイツ等!!」

 

「いきなり攻撃して来たぞ!?」

 

「くっ…!!」

 

「チィ…ッ!!」

 

ゲッコーやニュートはその場に伏せて、モレクとコブラは大きくジャンプして回避する。

 

『ピピピッ』

 

ガジェットのレーザーが、今度は牙王に向かって発射される。

 

「!? 牙王様ッ!!」

 

コブラが叫ぶ。しかし…

 

「―――フンッ」

 

-パシィンッ!!-

 

牙王は左手を振るうだけで向かってきたレーザーを弾き返し、弾かれたレーザーはそのまま他のガジェットに命中。爆発を起こす。

 

「下らねぇ…」

 

牙王はペットボトルの水を一口飲んでから言い放つ。

 

「この程度で怯んでんじゃねぇ。こんなポンコツ共、さっさと片付けてしまえ」

 

「は、はいっ!!」

 

コブラ達も素早く態勢を立て直し、襲い来るガジェット達を迎え撃つ。

 

 

 

 

「フッ!!」

 

モレクは大きくジャンプし、ガジェットを次々と踏みつけて破壊していく。

 

『ピピピピ…』

 

-ピュウンッ-

 

「遅い」

 

ガジェットのレーザーをも難なく回避し、モレクは口から長い舌を伸ばして三機のガジェットをまとめて貫き、破壊する。

 

「退屈過ぎてイライラしてたんだ……ストレスを解消させて貰おうか!!」

 

コブラは首を回してゴキゴキ鳴らしつつ、迫り来るガジェットを大剣で斬り裂いて破壊。他のガジェットをその場で蹴り落としてから大剣で貫き、機能を停止させる。

 

「何だ、どいつも歯応えのない……シャッ!!」

 

コブラの口から毒液が飛び、それを浴びたガジェットの機体が溶け、あっという間に消滅する。

 

「ゲ~ケケケケケケケッ!!」

 

「どうしたぁ? 他にも何かしてみろよ!!」

 

ゲッコーは剣をガジェットに突き刺してショートさせ、ニュートは二本ある小型の鎌でガジェットを滅多切りにする。

 

「ほらほら、暴れんじゃえぇよ……っとぉ!!」

 

「そ~らぶっ飛べっ!!」

 

そして二人同時にガジェットを蹴り飛ばし、二体が直撃して爆発する。

 

「オラオラオラァッ!!」

 

先程吹っ飛ばされたサラマンダーもすぐに戦闘に加わり、踏みつけたガジェットに柄の長いハンマーピッケルを叩きつける。

 

「ゴミクズの分際で……さっきはよくもやってくれやがったなぁっ!!」

 

機械に攻撃されたのが気に入らなかったのか頭に血が昇っており、何度もハンマーピッケルを叩きつけてガジェットを粉々に粉砕する。

 

『『『ピピピ』』』

 

『『『ウィィィィィン』』』

 

「まだいやがるか……なら」

 

サラマンダーはハンマーピッケルを納め、代わりに鎖付き鉄球を取り出す。

 

「コイツでも喰らっとけやぁっ!!」

 

サラマンダーが鉄球を振り回し、ガジェット達を粉砕していく。

 

「ちょ、危な!?」

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

しかし怒り狂っている所為か、ガジェットだけでなく周りの木々も次々となぎ倒しており、ゲッコーやニュート達にも危うく当たりそうになる。

 

「おいサラマンダー、こっちにまで当てようとしてんじゃねぇ!!」

 

「オラァッ、纏めて潰してやらぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「そして聞いてねぇし!?」

 

ゲッコーの声も、ぶちキレたサラマンダーの耳には届かず。

 

そして遂に、事故は起きた。

 

 

 

 

「ん――――ごはぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「「「「…あ」」」」

 

サラマンダーが怒りのままに振り回していた鉄球が、ちょうどガジェットを破壊していたモレクの後頭部に直撃。吹っ飛ばされたモレクは地面を大きくスライディングしてしまった。

 

「「「……」」」

 

 

 

やっちまったよコイツ。

 

 

 

そう言うかのような目で、コブラ達がサラマンダーに振り向く。

 

「あ、あははははは…」

 

流石のサラマンダーも一気に頭が冷え、目の前で起こった事故を見て顔を青ざめる。

 

「…サラマンダー」

 

「は、はぃぃっ!?」

 

後頭部を押さえつつも何とか立ち上がるモレクの声に、サラマンダーがビクつく。

 

「お前…」

 

 

 

 

 

「今日の晩飯、覚悟するんだな」

 

「Noooooooooooooooooooooooo!!!」

 

そして、サラマンダーに極刑が申し渡されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コイツで最後か」

 

破壊されたガジェットを踏みつける牙王の周りでは、ガジェット達がただの残骸となっていた。

 

「で、そっちは終わったのか?」

 

「はい、こっちも終わりました…………肉体的ダメージを少量と、精神的ダメージを大量に負ったのがそれぞれ一名ずついますが」

 

コブラの振り返った先には、強く打った後頭部を手で擦っているモレクと、体育座りの状態で沈んでいるサラマンダーの姿。

 

「…なら、さっさとずらかるぞ。管理局に勘付かれると面倒だ」

 

「(思い切りスルーしたなこの人)は、はい。じゃあ今すぐに列車へ…」

 

コブラ達が列車へと移動する中、牙王も同じように移動する。

 

「…ん?」

 

その時、地面に転がっているガジェットの破片を見た牙王がある事に気付く。

 

「これは…」

 

牙王はしゃがんで拾い上げ、確認する。

 

(この世界の言語……ミッド語か。今までの世界にも、似たような言語はあったが…)

 

「牙王様! 早く列車に!」

 

「…あぁ、今行く」

 

文字を解読しようと挑んでみた牙王だったが、コブラに呼ばれたので断念する。

 

(恐らく、誰かの名前なんだろうが…)

 

「まぁ、どうでも良いか」

 

牙王は破片を放り捨てる。

 

「相手が誰であろうと、敵なら俺が喰らい尽くしてやるだけだ」

 

そう言って、彼も列車へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに…

 

「お前の今日の晩飯、小魚一匹だけな」

 

「すんませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

(((おぉう……機嫌悪いなぁアイツ…)))

 

列車では、こんなやり取りがあったりなかったり。

 

 




まだ変身はしません。変身してでの戦闘はまだ先です。

それでは感想、お待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 強奪・破壊

第二話、投降しました。

それではどうぞ。


牙王達が立ち去ってから、数分後…

 

 

 

「何だこれ…」

 

「…酷いものだな」

 

赤いゴスロリのような服を着た赤毛の少女“ヴィータ”と、桃色の髪を靡かせた剣士のような風格を持った女性“シグナム”の二人が森林に到着した。二人の目の前では、無惨に破壊されたガジェットの残骸が散乱している。

 

「これ、例のガジェットって奴だよな。それが何だってこんなに…」

 

「ガジェットには、何故かは分からんがAMFの機能が搭載されている。並の魔導師ではガジェットを倒すのは容易ではない筈だが…」

 

「うげぇ……見ろよシグナム、こっちなんか機体が溶けて煙出てんぞ」

 

溶けて煙の上がっているガジェットを見て、ヴィータは気持ち悪そうに煙を手で払う。

 

(これだけの数を破壊するとなると……質量兵器を持った次元犯罪者によるものか?)

 

シグナムが思考を張り巡らせるが、残念ながら答えは出ずじまいだった。いや、出ない方が自然なのかもしれない。

 

今回のガジェット破壊は魔導師や次元犯罪者ではない。

 

首領である一人の人間と、複数の異形で構成された盗賊団による仕業なのだから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方。

 

一度、時の砂漠へと撤退していた時の列車。

 

その後部車両にて…

 

「ハァ~…」

 

座席に座ったサラマンダーが、とてつもない負のオーラを放ちながら沈んでいた。モレクの後頭部に流れ弾を直撃させてしまったが故に彼からある意味での処刑宣告を喰らったのだから、当然と言えば当然なのだろう。

 

その向かいの席に座っているゲッコーとニュートがヒソヒソ喋る。

 

(凄ぇ落ち込んでんな、サラマンダーの奴…)

 

(そりゃまぁ、晩飯が小魚一匹になっちまったんじゃ、誰だって落ち込むだろうよ)

 

(…ま、そうだよなぁ)

 

二人がサラマンダーの方に振り返って見る。サラマンダーから滲み出ている負のオーラは、当分消え失せそうにない。

 

「いやぁ~それにしても、俺がそんな目に遭わなくて良かったぜホント」

 

「全くだ。個人的には、お前がそうなっちまえば良かったのにな」

 

「…ちなみに俺は、お前に喰われたショートケーキの恨みを忘れちゃいねぇぜ」

 

「そう言うお前こそ、俺のコーヒーゼリー勝手に喰ってくれやがったよな」

 

「それだけじゃねぇぞ。俺が飲もうとしたコーラを、一人で全部飲み干したやがって」

 

「俺が取っておいた冷凍ピザを勝手に喰い散らかした、お前が言える立場か?」

 

「「……」」

 

 

 

 

「「やんのかテメェッ!!!」」

 

「やめろアホ共」

 

-ガッゴッ!!-

 

「あべし!?」

 

「ぶげら!?」

 

再び喧嘩に突入しようとした二人だったが、モレクのパンチによって強制阻止。

 

「痛ぅ~……ゲッ、モレク!?」

 

「い、いつからここに!!」

 

「たった今だ。分かりやすく言うなら、ゲッコーの「いやぁ~それにしても」の辺りからだな」

 

「「ほぼ最初辺り!?」」

 

「うるさい」

 

-バキッドゴッ!!-

 

「また!?」

 

「何で!?」

 

「声がでかいんだよ馬鹿共」

 

再びモレクからパンチを受ける、しかもうるさいという理由だけで。だいぶ理不尽である。

 

「まぁ、それは別にどうでも良い。お前達にはある事を伝えに来たからな」

 

「…ある事?」

 

「あぁ……お前等の晩飯も、小魚一匹だ」

 

「な~んだ、そんな事かよ」

 

「あぁ、何かと思ったじゃねぇか…」

 

 

 

 

 

「「―――ハァッ!!?」」

 

モレクから突然発せられた一言に、二人は驚きの声を上げる。

 

「おいおい、いきなり何だよそりゃ!!」

 

「納得いかねぇ!!」

 

「おいおい。お前等まさか、さっき派手に大暴れして、車両をメチャクチャにしてくれたのを忘れちゃいないだろうな」

 

「「…あ」」

 

そう言われて、二人は顔を青ざめる。

 

「い、いやぁ~その、モレク……お、俺だって、好きで暴れてた訳じゃないんだぜ?」

 

「そ、そうそう! 元はと言えば、こいつが俺のショートケーキ喰いやがったからであって…」

 

「あぁ!? テメェだって俺のコーヒーゼリー喰いやがっただろ!!」

 

「うっせぇ!! お前が先に喰わなきゃこんな事にゃならな―――」

 

-ズドンッ!!-

 

「「どぇい!?」」

 

言い訳をし始めた二人の顔の間に、ダガーナイフが深く突き刺さる。

 

「理由なんてどうだって良いんだ、言い訳を聞く気もないからな………そう。元はと言えば、お前等がそう何度も同じ事を繰り返さなきゃ済む話なんだ」

 

「「う…」」

 

「…それなのに、お前等二人は毎回派手に喧嘩して暴れまくって、しかも理由が「ケーキを食べられたから」とか「ゼリー喰われたから」とか、実にどうでも良い理由ばかりで、毎度同じような言い訳を聞かされる俺はどれだけウンザリしているのか、知らんだろう? お前等は」

 

「「は、はい…」」

 

モレクがダガーナイフを抜く。壁には刃物が深く刺さった後が残り、ゲッコーとニュートは思わず戦慄する。

 

「…まぁ、単に食料が少なくなってきたから、量を少しでも減らそうと思っただけなんだがな」

 

「「「本音そっち!?」」」

 

いきなり本音を曝け出したモレクに、ゲッコーとニュート、そして復活したサラマンダーが同時に突っ込みを入れる。

 

「そういう事だ、最早お前等には何の拒否権もない。潔く諦めるんだな」

 

「そ、そんなぁ~!?」

 

「そこを何とか!!」

 

「「「モレクの兄貴~ッ!!」」」

 

「引っ付くな気持ち悪い!!」

 

-ドカッバキッベシッ!!-

 

「ぐほえっ!?」

 

「ごぶはっ!?」

 

「ぼげふっ!?」

 

泣き付いてきた三人の顔面に、モレクの強烈なパンチが炸裂。三人をノックアウトする。

 

「全く…」

 

「随分と苦労人だな、モレク」

 

倒れた三人を足蹴にするモレクに、コブラがコップに入った卵の黄身を飲みながら呼びかける。

 

「忙しい事ばかりだな、気分はどうだ」

 

「本当に、胃薬と頭痛薬が欲しい気分だな………そしてお前は何当たり前のように卵のつまみ食いをしとるか!!」

 

モレクが飛び蹴りをかますが、コブラには難なく回避される。

 

「いちいち突っかかるな。別に卵の一個くらい、許容範囲でも良いだろう?」

 

「良い訳ないだろ。アホかお前は。お前の晩飯も小魚一匹にしてやろうか、」

 

「好きにしろ、どうせまたつまみ食いするだけだ」

 

「そのつまみ食い癖はどうにかならんのか」

 

「どうにか……残念、ならんな」

 

「一回死んで来い!!」

 

「だが断る」

 

モレクがダガーナイフを振るい、コブラはそれから逃げ続ける。

 

そこへ…

 

「面倒なもんだな、管理局ってのも」

 

「「!! 牙王様…」」

 

先頭車両にいた牙王が、串団子を喰いながらタッチパネルを持って現れる。牙王が姿を見せた事で、モレクとコブラも追いかけっこを止めて彼に向き直る。

 

「目的が、定まったので?」

 

「ここから先、調べ物をするには他の次元世界の事なんかも一通り把握しとかにゃならん。管理局から隠れつつ、他の次元世界の事も調べていく事にする」

 

「次元世界、ですか…」

 

牙王がタッチパネルを操作し、研究所らしき映像を映す。

 

「これから向かう先に、管理局に属する研究所がいくつか存在する事が分かった。まずはそこから攻め込む」

 

「攻め込む? 牙王様、一体何を…」

 

意図の読めないコブラが牙王に問いかける。

 

「おいおい、俺達は盗賊なんだ。元からやる事なんて、二つしかあるまい」

 

「「?」」

 

首を傾げる二人に、牙王が言い放つ。

 

 

 

 

 

「強奪、そして破壊だ。全てを喰らい尽くすぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

次元世界、とある研究所…

 

-ビィー! ビィー!-

 

研究所に、警報が鳴り響く。

 

「何事だ!?」

 

「主任!! 入り口にて、複数の侵入者が!!」

 

「複数だと!? 一体何処の輩だ!!」

 

監視カメラの映像には…

 

 

 

 

 

 

「食事の時間だ。思い切り、喰らいついてやれ」

 

牙王率いる、盗賊団の姿が映し出されていた。

 

 




さて、また暴れさせましょうかね。

感想お待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。