蒼い月光と紅い皇炎 (月詠 秋水)
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第1章 最強の契約者と紅蓮の皇女
~プロロ~グ~


初めまして、月詠秋水です。今回が初投稿なので、生暖かい目で見守って頂けると嬉しいです。まだ至らぬ点があれば、ご指摘など頂けると幸いです!

話数によって長さがバラバラで、世界観の統一性も無いですが、楽しんで見ていただけると感無量という感じです。

あと、誤字脱字もあるかもしれませんがお気にせずに!

後は……自分の趣味や妄想がタップリ詰め込まれていますので、読みながら(あぁ、主はこういうのが趣味なのかな)と思ってください。

また、なるべく投稿は早くすしたいです!


「はぁ……今年から若霧魔法学園に入学かぁ……」

 

馬車に揺られ深い溜息をつく少年、月詠冬風。今年から若霧魔法学園に入るため、色々手続きをするために学園へ向かっている最中である。

 

広大な海のど真ん中に位置する大きな島。人口は約1億人あまりという大規模な島である。

 

名前は(ユスティア王国)

 

この世界では魔力を生まれ持ったものは必ず妖精と契約させられる。魔力を持っていない人間は契約できないため、普通に暮らしていることが多い。少し魔力値の高いものは精霊と契約できる。その魔力を調べる装置を王都で開発し、ユスティアの各地へ送られた。

 

単位はベクル(Bcrx)である。

 

ユスティア国内の王都、フィリアス。それぞれの首都に若霧魔法学園の分校があり、本校はフィリアスに有る。若霧魔法学園とは、生まれ持った魔力の使い方を教えてくれる学校である。その為、魔力を持ったものしか入ることは許されない。そのフィリアスの魔法学園に入学する少年、月詠冬風は生まれながらに計り知れないほどの魔力を内に宿して生を受けた少年である。

 

「……母様、僕はどうしたら良いでしょうか」

 

今にも泣きそうな声で呟きながら、胸元のペンダントのクリスタルを握りしめた。

冬風の故郷では他では取れない鉱石(エーテルクリスタル)という、魔力を吸収し、蓄えておくことが出来る鉱石である。今ではあまり出回っていない希少なクリスタルである。市場では希少なため少数しか出回っていない。

 

冬風が持っているクリスタルは太古に取れたクリスタルということで(エンシェントクリスタル)と呼ばれている。

 

冬風の母、月詠春音はこのクリスタルを家の裏にある山の奥の祠の結界の中で発見し、ネックレスに加工してもらい大切につけていた。しかし春音は重い病を患っており、冬風が3つの時に無くなった。

 

冬風の父、月詠龍彦は冬風の実の兄である月詠秋水が6つに剣術の極意を全て教えた後、急用があるとかで家を出てそのまま行方不明になった。

 

実質冬風と秋水は5つしか離れておらず、母親を失ったことになる。身寄りなどは1人だけ心当たりがあるが、遠くて気軽に行ける所ではない。それなので2人だけで生きてきた。

 

僕は電車に揺られながら、強烈な眠気に襲われた。なぜ僕が若霧魔法学園に入学するかというと、僕の伯父にあたるらしい現ユスティア国王、渚彦道という人が僕に入学を推めてきたのだ。多分原因は……例の事件のことを兄の秋水に聞いたのだろう。伯父様は情報に関しては伝わるのが早いからな……。

 

「……!……ちゃん!」

 

「……んぅ?」

 

「兄ちゃんや、目的の街についたぞ!」

 

冬風は、馬車のお爺さんの声によって眼が覚めた。

 




如何でしたか?
後で見直したら、しつこく押した部分もあったと思います(苦笑)
街の治安の方ですが、至って普通なので御心配なさらずに



それでは、次の話で会いましょう!


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第1章 1頁”最強の契約者と紅蓮の皇女”

どうも、月詠秋水です。


今回からは第○章 ○頁……という感じで進めていきたいと思います。


雅が霊化し、寝起きでぼ~っとしている冬風をリードした。雅は霊化している間は声は出せない、だから念話で話しかけている。

 

……そうすれば心のなかで会話できるからだ。冬風はゆっくりと席を立ち、体を伸ばし背中を鳴らした。ゴキゴキっという快音を放ち、やがて全身まともに動くようになってきた。荷物を持ち、馬車を降りた。外はまだ寒く、鞄の中に入っていた黒いコートを羽織って街の門をくぐった。通りに出てみると、すごく人の多い……まるで中世を思わせる趣のいい街があった。

 

お金は兄である秋水から頂いているし、出発してから1日は経っている。今の時刻は午前の…9時、長旅で完全に腹を空かせていた。冬風はあたりを見渡すとすぐそこにパンを討っている店があることに気付く。そして近くにある店でパンを購入し、急いで食べてから地図通りこの街の中央である王宮へ向かった。王宮の門の前に着くと、門番が冬風を見て通した。

 

 

「これは冬風様、お待ちしておりました。どうぞ、お通りください」

 

冬風は挨拶しながら通った。なぜ冬風のことを知っているかというと、最初に言ったとおりこの国の王様である渚 彦道は冬風の遠い親戚に当たる……いわば伯父様にあたる。なので城の皆は冬風のことを知っている。冬風も城の皆を知っている、ただ冬風が生まれた頃に彦道の息子が結婚し、子供を産んだとかで喜んでいたと秋水が言っていた。冬風はその子には会ったことも見たことも無い、その為どんな容姿でどんな性格なのか分からない。冬風が最後に訪れたのは4年前……小学校を卒業した時に、招かれて以来来ていないのでとても懐かしく思えた。

 

冬風は城の人々に挨拶しつつ、伯父様のいる皇玉の間へと足を運んだ。大きな扉の前で身をと整え、扉番が叫んだ。

 

「冬風様のご到着!!これより扉を開きます!」

 

少しずつ開いてく扉。すると、彦道が椅子に座り待っていた。

 

「久し振りだね、冬風君。まぁ、そこに座り給え」

 

冬風は頭をペコリと下げ、椅子にゆっくりと座った。すると、とても綺麗なメイドが冬風の座っている場所の目の前にあるテーブルの上に紅茶の入ったカップを置いて、そそくさと消えていった。

 

「いやぁ、本当に久しぶりだ。昔は子供っぽかったのに、今では女性顔負けの子に育っておるわ、がっはっはっは」

 

これを言われたのは何度目だろうと心の中で呟く……小さい頃は彦道に合う度に、お約束のようにずっと言われていた。確かに今の冬風の見た目は女性っぽいかも知れない……背中まで伸びている髪を紐で束ね、黒いコートの下は白いワイシャツ、ズボンは黒いスラックスを着用していた。……でも、面と向かって言われるとやはり恥ずかしい。

 

「……そうかもしれませんが、僕は男ですよ伯父様?それとお久しぶりです、相変わらずお元気そうで何よりですよ。」

 

優しく微笑みながら話す、彦道もがははとまるでいびきでもいかてるかのように大口を開けて笑っていた。昔から彦道の性格はとても陽気というか気さくで、病気になっているところなんて見たこと無いどころか想像すらつかない。

 

しばらくそんな話をしていたが、ごほんっと咳払いをすると急に真剣味を帯びた表情に切り替わった。

 

「そうだな、それはともかく……冬風君、お主あの村で散々やったそうじゃな?」

 

やはりその話を聞いてきたか……と、心の中で表情には出さずに少しだけ気を落とす。

 

「はい……仰るとおりです」

 

冬風は俯いた……叱責されると思い歯を食いしばり、膝の上で拳をぐっと固めた。

 

少しの間沈黙の時が訪れた……しかし、叱責は飛んでこなかった。気になり顔を上げてみると、顎の髭を触りながら何か思い悩んだような表情をしたまま口を開いた。

 

「ふむ……それで、そうした理由を聞かせてもらいたい」

 

意外に理由を聞いてくれた。あの村では誰も理由を聞いては来なく、殺した……という結果だけで追いかけてきたのだから。

 

「理由……ですか、伯父様からしてはちっぽけなことと思いますが……僕の幼なじみである子覚えていますか?雨宮忍です」

 

「あぁ、よく冬風君と遊んでベッタリだった子じゃな」

 

冬風と秋水の2人の幼なじみ、雨宮忍という少女が居た。青い髪の子で好奇心旺盛で、面白いことにはとことん素直な女性。小・中学と同じ学校で、登校から下校までずっと一緒だった。周りからは恨まれるほどに仲が良かった。特に冬風の場合はいつも一人で感情も表に出さず無口でとっつきにくいところもあった。それに忍は髪の色が蒼色でとてもではないけど、目立っていた。なので男性どころか、女性ですら忍に近づこうと言う人間は居なかった。お互いに目立つ二人がいつも一緒にいれば、当然風評も悪くなる。それでも忍は僕から離れていく素振りなどは一切しなかった。そして、事件が起きたのは中学3年の冬の事……

 

「はい、中学に入っても忍は僕とずっと一緒でした。ですが、あの日……忍の帰りが遅いなと思い学校へ向かうと、1台の医療用緊急カプセルとすれ違いました。その後に、僕をよく思わないと思っているのを分かっていたから、あえて遠ざけてた先輩方と、僕をずっと睨んでくる同級生たちに囲まれました。そして彼らはなんと言ったと思います?忍を意識不明になるまで殴ったり蹴ったり……暴行を加え続け、動かなくなった後も加えていた、お前と離れていてくれたおかげでやりやすかったぜ……と喜々として語っていました。その時に頭が真っ白になり、気がつけば……血の海でした、彼らの頭と血意外は全て消し飛んでいました。」

 

うむぅ……と彦道は唸った。目を瞑り、腕を組み、椅子に完全に身を委託した状態。

 

「僕はその時覚悟もなく手にかけてしまいました。その結果逃げるはめに……そして家に帰り秋水兄様が謝ったことを知り、自分は叱られるのが……見放されるのが怖くなり、更に逃げ出し家の裏山の奥の祠で泣いていました。泣き疲れようやく落ち着いた頃に、雅と出会いました」

 

雅というワードが出てきた瞬間、彦道は目を見開き、立ち上がり机に手をつき、委託していた体を前のめりにして顔を近づけてきた。

 

「冬風君……雅と出会ったのか!」

 

それはものすごい迫力だった。

 

「えぇ、僕はその時あんな惨劇を繰り返さないよう、雅に力を求めました。そして、契約しました。そして僕は覚悟を決めました。大事なものを守る覚悟、そのために自分を犠牲にしてでも守る覚悟、そして……人を殺す覚悟です」

 

いつの間にか冬風の顔からは先程の優しき微笑みの表情は失せていた。彦道はまるで信じられないものを見た様な、驚愕した表情になっていた。

 

「冬風君、君はやはり春音と同じだな……」

 

落ち着きを取り戻しつつ、ゆっくりと言い放つ。

 

「……母様と?」

 

「春音もな、好きな人を守るために力を求めて雅と契約した。そして、彼女は見事守り、病に冒され死んだ。死ぬ数年前に生まれたのが、君と君の兄だ」

 

思わず冬風も驚愕の表情を浮かべていた。まさか冬風が辿ろうとしていた道は、春音と同じ……?と思ったからだ。

 

「だけど、守るために多くの人を殺めたのもまた事実……君たちにはそうなって欲しくはなかった…」

 

少し悲しそうな顔をする彦道。

 

「……僕は、元天使長であるルシファーとも契約しました。そして、永遠に死ぬことの出来ない肉体になってしまいました。……ですがどうかご安心ください、僕はそこまで人を無意味に殺めるつもりはありませんから」

 

冬風は何処か悲しい思いを瞳に秘めつつも、優しく微笑んでみせた。一方で彦道はルシファーという単語でまた驚きの表情を見せた。

 

「ルシファー……だと?冬風君、君はなぜそこまでして力を欲する?なぜそこまでして……」

 

それから先は、何も言わなくなった。冬風は静かに息を吸い込み、静かに思いの旨を伝える。

 

「先程お話したとおり、僕は守りたい人を守るため…そして殺意を持って向かってくるものには必ず自分が死ぬ覚悟や相手を殺す覚悟があると僕は推測します。そして僕はもうその覚悟を決めました……死ねないけど死ぬほどの苦しみ、痛みを背負う覚悟を……ですから圧倒的な力を求めたのです」

 

淡々としてて彦道は少し困惑していた。顎のふさふさした髭をまた触っていた。

 

「そうか……少し話は変わるのじゃが、君が若霧魔法学園に入学するのは聞いておるな?」

 

「はい、秋水兄様から聞かされております」

 

急に話題を変えられて戸惑ったが、冷静に答えねばっと思い即答する。

 

「それでな、実は儂の孫娘…つまり、この王国の時期国王になる夢依も今年入ることになっておるんじゃよ」

 

初耳だ。しかも、会ったことがないため初対面ということになる。

 

「それで冬風君には夢依を守って欲しかったのじゃ……卒業するまでで良い、あの子の力になって欲しかったんじゃ」

 

「……ですが、僕の力が異常なことはすでにご存知なはずです。その夢依さんにどんな影響が及ぶかもわからないリスクを考えたうえでのお考えですか?」

 

人並みを外れた魔力を持つ冬風が、他の人にどんな影響を与えてしまうか誰も予測がつかない。学園に居るだけでも力を抑えるので精一杯で、守る暇などあるとは思っていなかった。

 

「それに、僕と夢依さんは初対面です。そんな人に、自分を守ることを容認してもらえるとはとても……」

 

そして一番の問題点はそこだ、流石に夢依の感情を無視してまで守る義理などない。

 

「それに関しては問題はない、すでに話は通してある。それにどこの馬の骨かも分からぬ男に、夢依を任せておけぬ故な。ならば親戚にあたり、同い年の君に頼んだほうが安心できるというもの」

 

その話から察する辺り、見も知らぬ男に自慢の孫娘と突き合わせてたまるものか……と。

 

「それに僕は男、万が一といいますか……その、もしかしたら夢依さんにも許嫁がいるのでは?」

 

「それは大丈夫じゃ、夢依には許嫁などおらんし冬風君さえ良ければ夢依をあげても安心というものじゃ」

 

冬風は転けそうになった。しかし学園生活で一番ネックになってくるのは人間関係、特に同性同士の付き合い。噂というのは良いのも悪いのも流れるのはとてつもなく早い、その為悪い噂が流れ相手を不快な気持ちにさせ、誤解が誤解を生み、同性との友好関係を築くのが困難になってしまうのではないかと心配してしまう。

 

「ふむ……誤解も何も、入学した時に教師には説明しておくし、事情を知れば誤解も産まなくなるじゃろ?」

 

「でも……本当によろしいのですか?」

 

再確認のつもりで聞いた。すると、国王ともあろう彦道が机に頭を擦り付けるように頭を下げた。

 

「頼む、夢依の事を守ってやってくれ!夢依は過去につらい目を何度も経験している、だから友達といえるものは一人も居ないんじゃ。」

 

「わ……分かりました、お引受けいたしますから……頭を上げてください、伯父様」

 

冬風は慌て、立ち上がる。国王である彦道が、まさか冬風にこんなに頭を下げるなんて……そんなにも孫娘思いの良き方なんだろう、ただ心配性は昔から変わってない様子だ……と内心苦笑いで思った。彦道は冬風が受けると言うと、まるで安心したかのような表情で手を握ってきた。

 

「おぉ、引き受けてくれるか!有り難い、この際卒業しても護衛……もとい、夢依の伴侶となって欲しいものじゃ」

 

そして子供みたいな無邪気な顔で言われた。

 

「い、いや……伴侶は流石に……僕はそんな立場じゃないですし。そもそも、皇女様である夢依さんと僕じゃ不釣り合いというか、こんなのが相手じゃ夢依さんも不快に思うというか……僕は、自分の意志は後回しで夢依さんの気持ちを尊重してあげたいと思います。なので、出来ることは何でもやるつもりです」

 

「じゃあ結婚も……」

 

「それは夢依さんしだいというか……僕に女生と結婚する資格なんてありません」

 

そういうと、彦道は少し泣きそうな表情をした気がした。すると、冬風の背後から突然、雅が話しかけてきた。

 

「ふふふ……久しぶりね、彦道。相変わらず元気そうじゃない、安心したわ」

 

 

「雅……?」

 

「大丈夫よ、冬風は私とある約束をしたからね」

 

面白そうに笑う雅、すると少し嬉しそうに雅に笑いかける彦道。

 

「おぉ、雅!お主も久しぶりじゃな。そうか、お主達は約束をしておるのか」

 

「はい、これは内緒にして欲しいのですが……その、僕は雅と忍……出来るかわからないけど、雅が言う僕が好きになった女性と笑って話し合い、楽しく暮らしていけるような結末にする……と」

 

冬風は顔を真赤にして説明した。あの時自覚してなかったけど、いざ人に話すと……誂われそうで恥ずかしかった。すると、彦道は誂うどころか微笑んだ。

 

「そうか、それは素晴らしき目標じゃ。なら、存分に励むが良い。そして、儂が作り得なかった世界を見せて欲しい!」

 

その言葉に胸を打たれて、少し泣きそうになった。でも、頑張ってこらえた。

 

「はい、精一杯励みたいと思います!」

 

「私がサポートするから大丈夫、絶対に叶えてみせるわ」

 

自信満々に胸を叩く雅、冬風もより一層決意を固くした。

 

「そして、冬風君が好きになった女性が夢依なことも願うとするか」

 

さり気なく彦道は、冬風と夢依さんをそんなにもくっつけたそうにしていた。



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2頁 予測出来ない出来事

どうも、月詠秋水です。

この前の土曜にインフルみたいなのになり、医者に行ったのですが陰性でした……(´・ω・`)

熱も38度以上あって、頭痛も酷かったし夜寝れませんでした。

それでも頭の中に、この作品の続きが湧き上がったので書いてみました。
今でも少し頭沸いてますが、見てくれると嬉しいです!


「さて……すっかり長話になってしまったが、一つ良いかな?」

 

冬風は、聞かれたことに多少戸惑っていた。何故ならば、いつもは彦道の決めた事に異を唱えずに従っているだけだったからだ。

 

「はい、何でしょう?」

 

「冬風君はこれから学園に手続きに行くのじゃろう?ということはやはり寮に入るのじゃな?」

 

「はい……というよりも、寮の方が宿よりも安く済みそうですし」

 

「それでは、制服とかも自分で購入するのか?」

 

「そうですね……秋水兄様からお金は頂いておりますし、どうにかなると思います」

 

実質、学費は秋水が払っている。その金が何処から出てくるのかは謎だけど……。それに制服代に食費も貰っている、冬風は改めて秋水の優しさに胸を打たれた。

 

「そうか……しかし今は2月じゃ、入学式のある4月までどうするつもりじゃ?」

 

そうか、そのことを考えていなかった……といっても、木刀も道着もあるしどこかの宿屋探してそこの庭で鍛錬する以外は無かった。

 

「特には……ただ、そこらの宿屋に泊まり宿の庭で鍛錬する日々になると思います。」

 

「なるほど……よし、ならここの城の一部屋貸してやろう!庭なら好きに使うが良い」

 

意外の言葉に、驚きの色を隠し切れずにいた。

 

「い、いえ…そこまでお世話になるわけには……」

 

若霧魔法学園に入学させてくれるだけでも、かなりお世話になっているというのに……。

 

これ以上彦道に甘えるわけにはいかないと、これ以上迷惑はかけたくないと思っていたからだ。

 

「子供がそんなこと気にするもんじゃない、儂が貸してやるといったのだから貸してやる。毎日3食付き、家事炊事洗濯等は全てメイドがやってくれる……どうじゃ?」

 

(やばい、その条件にはすごくクラっと来る……)

 

ここ暫くまともなガッツリとした食事を取っていないため、栄養不足状態で飢えていたところだ。

 

「そ……そうですか、もしご迷惑にならないというのなら……寮に入るまで暫く部屋をお借りしてもよろしいでしょうか?」

 

冬風は両親が居ない……というよりも、父は行方不明で母は他界してしまっている為、かなり遠慮しがちに育っていると秋水に言われたことある。

 

「あぁ、良いとも!」

 

彦道はフンッと鼻を鳴らしながら、胸をドンッと叩いた。すごく頼りになる。

 

「それじゃ、ご厄介になります」

 

冬風は深々と頭を下げた。

 

「がっはっは、そこまで畏まらんでも良い」

 

笑いながら冬風の頭をわしゃわしゃと撫でていた。懐かしく感じ、胸の奥が暖かくなるような感じがした。

 

こうして話が終わり、冬風はメイドに部屋まで案内されベッドに寝転んだ。

 

「ふぅ~……疲れた、それにこんな豪華な部屋に案内されるとは…」

 

照明はシャンデリア、他にも全て家具は揃っている。ベッドは当たり前のように広いダブル……これが王家の屋敷かと思いつつ、冬風は学園に行かなきゃと思いベッドから起き上がり、書類を持って部屋を出て、彦道に行き先を伝えてから城を後にした。城を出て、すこし遠回りに歩き街を散策しつつ学園を目指した。

 

「やっぱり、賑わっていていい街だな」

 

独り言のように言いながら歩いている内に、いつの間にか学園に着いていた。早速中に入り、いろんな人に聞きながら学園長室に入った。

 

そして、学園長室前で身なりを整え、優しく戸をノックした。

 

「失礼します」

 

中に入った途端、学園長の姿に驚いた。

 

「やぁ、冬風君。久し振りだね、4年ぶりと言ったところか」

 

ここの学園長はまさかの……彦道の執事の河嶋雄斗だった。よく昔に冬風を可愛がっていて、よく誂われた人でもある。見た目は髪が少し短く、男性の割にはすごく可憐と言っても良いくらいだ。

 

「お久しぶりです、雄斗さん。今年からお世話になります」

 

頭を下げると、雄斗は

 

「いいよ、そんなに堅苦しいのは苦手なんだ。先ほど国王様から電報が来てね、城に4月までお世話になるんだってね、これからもよろしく」

 

優しく微笑みながら手を差し伸べてくれた。冬風も微笑んでその手を握った。

 

こうして無事に手続きが終わり、生徒手帳を渡された。どうやらこれは通貨代わりにも成るらしく、自動販売機や食券販売機にかざすと自動で支払いしてくれるらしい。とても便利だ。構内は入学した時に改めて見させてもらうと言い、冬風は学園長室を後にした。外に出てお城に帰ろうとした最中、野次馬が集まっている場所を発見した。

 

「ん……?何か騒がしいな」

 

「冬風、見てみようよ」

 

興味津々で、すごくワクワクしている雅が言った。

 

「分かったよ、だけど面倒事は御免だからすぐに退散するよ」

 

「へーい」

 

全然人の話を聞いていない……そう思い、冬風は行列に近付いた。すると、一瞬自分の目を疑った。制服を着てないから、新入生だと思うのだが……燃えるような紅い眼、眩しいほどの白銀色の髪の少女が、ガタイの大きい男と口論を繰り広げていた。しかも男の方は数人の部下らしきものを引き連れて…耳を澄ませてると、喧騒が聞こえてきた。

 

「おい、人にガン垂れておいてその態度は何だ!」

 

「だから、アンタなんか眼中にないって何度も言ってるでしょ?放っておいて!」

 

「この女……言わせておけば!」

 

あ、やばい……この展開は殴り合いが始まるかも……でも女性に手をあげようとしてる場面を見逃したなんて、兄様に絶対怒られる。面倒くさいけど、助けるか。

 

冬風はあの少女の前に狙いを済ませ、魔力転移をした。魔力転移は、予め決めておいた地点に魔力を消費して瞬間移動する技だ。冬風の場合は、魔力属性が水…しかも高位なため多くの霧が冬風の体を包み込み、消えたように錯覚させる事もできる。

 

「くたばりやがれ!!」

 

「っ…!」

 

大男が拳を振り上げ、少女目掛けて振り下ろした。少女は眼を瞑り明らかにビビっている様子だった。そしてあと少しで少女に届きそうになった瞬間……

 

「はいはい、喧嘩はここで終わり。大体男性が女性に手を挙げるなんて、男性失格だよ?」

 

冬風が転移で間に割って入り、拳を片手で受け止めた。もちろん魔力を手に集めて防御力を高めていた為、痛くなかった。

 

「……!」

 

少女はびっくりしたと同時に腰を抜かした。大男は気に食わない口調で。

 

「おい……お前は何者だ?しかも人の喧嘩に割って入ってきやがって……どうやってここまで来たか知らねぇが、その女の方を持つならお前が代わりにボコられろ!」

 

大男は勢い良く冬風に蹴りを繰り出した。少女は逃げて!と叫ばんばかりに僕に目で訴える。

 

やれやれ……

 

「遅いっつーの!」

 

冬風は拳を片手で受け止め、身を翻しながら大男の腹部に蹴りを食らわせた。蹴られた大男は地面に膝をつき、苦しそうに唸りながら冬風に訴えた。

 

「このっ……野郎!」

 

「ふんっ、君程度なら何十人束になってかかってきても結果わ変わらない。僕に傷一つつけることすら出来ないよ?」

 

冬風は相手の魔力武装や結界、魔法の中の魔力を触れた瞬間に全て奪い取り冬の枝のように脆くして砕くことが出来る。つまり、傷どころかかすり傷さえ与えることは不可能。

 

「生意気言いやがって……この程度で終わったと思うなよ?俺とこの十数人を相手に何処まで強がれるかな?」

 

大男はニヤリと笑った。

 

全く、体は大きいのに器はすごく小さい。

 

「はぁ……雅、少し力借りるよ」

 

そう呟きながら、腰を抜かした白銀髪の女性の前に立つ。

 

「…水神結界」

 

指を鳴らしながら呟くと、薄青色の膜が少女を包む。

 

「こ、これは……何?!」

 

少女がびっくりしたように言う。

 

「その中でじっとしてて、その結界があるかぎり外からの攻撃は一切君に届くことはないから」

 

言い放ちながら振り返る。皆魔力武装を持ちながらゲヒヒッと笑っている。自然と冬風も薄っすら笑いながら指でチョイチョイっとカモンのサインを出した。すると、一斉に武器で切りかかってきた。野次馬はどよめき、悲鳴さえ上げるものも居た。しかし、そんなの気にもとめずに次々と素手でなぎ倒していった。一人一人の魔力武装を破壊しつつ、確実に沈めていった。沈めると言っても、一時的な気絶のようなもの。

 

そして、全員倒し終わる頃には大男もだいぶ回復し、冬風も少し体が温まってきていた。

 

「やるじゃねぇか、大口叩くだけの実力は持ってるようだな。だが、俺が相手な以上お前は終わりだ」

 

大男が魔力武装を開放した。すると、大男は両腕にごついアーマーを、装備していた。

 

「……装備型か」

 

「ご名答、いくぜ……!」

 

笑いながら冬風に殴りかかってきた。それでも、避けようとする動作はなかった。そして大男の拳が冬風の腹部に当たった瞬間、大男の装備していた魔力武装は全て粉々に消え去った。

 

「「はっ……?」」

 

皆信じられないものを見たかのように、冬風を見てくる。後ろの腰が砕けた少女もまた然り。

 

「その程度……?」

 

まるで期待外れかの様な表情を浮かべ、ため息をつく。

 

「ちょ……な、何が……」

 

慌てふためく大男、冬風が沈めた奴らの中でも眼が覚めた奴が居たらしく、そいつらも唖然としていた。

 

「じゃあ……おとなしく寝てて」

 

冬風がにっこり微笑み、大男の懐に一瞬で潜り込み首に手を置いた。その瞬間、大男は意識を失ったかのように倒れた。

 

説明すると、人は魔力を回復する方法は幾つかある。眠るか、他人から分け与えてもらうか。魔力を使い果たせば、回復するのにそれ相応の時間がかかる。起きてても回復はするが、睡眠時より2倍以上の時間がかかる。僕は魔力を移す方を使い、大男の魔力を全回復させてやると同時に溢れさせた。その溢れた分を睡眠薬に変換し、大男の全身に巡らせただけ。

 

冬風は水神結界を解き、少女にそっと言い放つ。

 

「大丈夫か?こいつらの目が覚める前に早く帰ったほうが良いよ」

 

冬風はコートを翻し、去った。少女はその場でポカンっと呆けつつも立ち上がった。冬風は校門を出て、魔力転移で城の前まで帰り、彦道に報告し、自室に戻った。

 

「いやぁ、楽しかったわね」

 

喜々として笑っている雅、冬風は少し疲弊していた。そしてそっと呟く……。

 

「にしても、あの少女から何か懐かしい魔力を感じたのは気のせいなのかな……?」

 

ずっと疑問に思っていた。雅はきっと偶然だよと言うけれど、そんな感じじゃないと思う。冬風は悩みを吹っ切るために、道着に着替えた。

 

「どこいくの?」

 

「中庭、剣術の修行は一日怠っただけで感覚を忘れちゃうからね」

 

冬風は道着のまま中庭に出た、芝生が生い茂り、適度に木が立っておりベンチなどがある。その中の中庭の端っこの方で木刀を素振りしていた。冬風の剣術の鍛錬のメニューは至ってシンプルだ。素振りを1500回した後に雅と木刀で稽古。雅は剣術がすごく上手く、雅のレベルに付いてこられるまで何千回負けたことやら……こうして夕方まで稽古をしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「あ……あなた、なぜここに!」

 

今日の昼出会った白銀髪の少女が、冬風に指さしながら中庭の出入り口で固まっている。気が付いた冬風は修行の手を止め、少女に歩み寄った。少女も冬風に歩み寄った。

 

「君は…学校でびびってた子だ、なんでここに?」

 

「それはこっちのセリフよ!それにあれはビビってないわよ!」

 

「いや、完全にビビッてた」

 

「そうね、ビビッてたわ」

 

二人同時に頷くと、少女は悔しそうにしながら冬風に言い放ってきた。

 

「まぁ、あの時のことは例を言っておきますけど、それとこれは別問題!なぜここにいるか説明して!」

 

「いや、ただ雅と鍛錬するためにここにいるのだが…?」

 

不思議そうに首を傾げた。

 

「大体、ここのお城の人たちは僕が居ることはすでに知っているはずだ。それを知らないってことは……どちら様?」

 

「なっ……?!嘘をつきなさい、そんなことあるわけ…」

 

言いかけた瞬間、一人メイドが通りかけた。メイドは笑いながら

 

「あら、冬風様。ずっとここで鍛錬されてたんですか?」

 

と聞いてきた為、冬風は頷いた。すると、メイドは

 

「あらら、お嬢様もお帰りになってたのですね。それでは、お茶の支度をしてまいります」

 

と頭を軽く下げ、どこかに言ってしまった。

 

え、今あのメイドさん…この少女のことお嬢様って……まさか…

 

「ねぇ、まさか君……夢依…さん?」

 

恐る恐る聞いてみた。すると少女は胸を張っていった。

 

「そうよ、ユスティア第一皇女の渚夢依よ!」

 

う、うわぁ……マジか。

 

「えっと……僕は今年から若霧魔法学園に入学する月詠 冬風だ。4月まで伯父様のご厚意でこの城の一部屋をお借りしている」

 

自己紹介を済ますと、ますます信じられないという顔で見てきた。

 

「伯父様…?あなたの伯父様って誰よ!どうせろくな人じゃ…」

 

「んー……この国の国王様をしている人かな」

 

「え……」

 

「いや、だから…」

 

夢依は思考回路が停止し、固まっている。しばらくした後戻り、何かを思い出したように冬風に指差して言った。

 

「まさか、あなたがお祖父様の言っていた頼りがいのある同年齢の子?!」

 

頼りがいはあるかどうかはともかく……

 

「まぁ、そういうことになる」

 

そういうと、夢依は唖然とした。

 

「ま、まぁ学校にいる間だから……何卒よろしく頼むよ」

 

冬風は頭を下げ、夢依に会釈程度の挨拶した。暫く返事が帰ってこないから少し上げてみると、夢依さんは顔を赤くしながらモジモジしていた。

 

「あの……?」

 

訪ねてみると、すごく慌てた様子。

 

「な、ななな……なんでもないわよ!」

 

そう言ってそっぽ向いてしまった。何か悪いこと言った?と思いつつも首を傾げていると、先ほどのメイドがやってきた。

 

「冬風様、夢依様。ご主人様が及びです、皇玉の間へお越しください」

 

とだけ言ってメイドは姿を消した。冬風と夢依はお互い無口で皇玉の間に向かった。冬風は途中で着替えたため、少し遅れてしまったが。




3頁に続きます。


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3頁 消えない過去

今回は、前話の続きです。




「よく来てくれた、冬風君。こちらが儂の孫娘、夢依じゃ。よしなに頼むよ」

「いえ、こちらこそ」

 

伯父様と僕はお互いに頭を下げた。その状況についていけてない夢依はおどおどしてた。

 

「お祖父様、冬風がなぜここに来たのか教えて下さい」

 

「冬風君はな、事情あって前居た村に入れなくなったのじゃ。それで彼の兄である秋水から、冬風を頼むと電話越しに頼まれてな。」

 

「だったらここじゃなくても……冬風の両親は何をして…」

 

夢依が僕の両親の話に触れようとした瞬間、伯父様は大声で怒鳴った。

 

「夢依!!」

 

その声にビビったのか、少し泣きそうな顔になっていた。

 

「……冬風君の母親は3つの時に、父親はその後すぐに行方不明なんじゃよ」

 

「えっ……」

 

夢依は驚きの表情で僕の方を見た。僕は……暗い表情で俯くことしか出来なかった。

 

「つまり、冬風君は3つの時から秋水と二人きりで生きてたのだ。その事を忘れるな、そしてその話はもうするな」

 

夢依はしょんぼりした顔で、僕に謝ってきた。

 

「その……ごめん」

 

僕は表情を戻し、普通を装って微笑んだ。

 

「気にしなくていいよ、そのうち言うつもりだったんだ……ただその時期が早まっただけだよ」

 

「でも……」

 

「本当に気にしないで……伯父様もお気になさらずに、僕は大丈夫ですから」

 

僕は少し弱々しく微笑んでから頭を下げた。

 

「すまぬな……逆に気を使わせてしまって…ここに呼んだのは二人の顔合わせのためじゃ、他に冬風君に聞きたいことはあるかな?」

 

「特には……」

 

「それじゃ、解散するとするか」

 

伯父様は椅子から立ち上がると、自室に戻られた。僕はそのまま振り返り、自室に戻ろうとしてた。その時…

 

「ふ、冬風…」

 

ん……?僕は振り返った。すると、すぐ近くに落ち込んだ顔をした夢依さんが居た。

 

「どうしたの?」

 

聞いてみた。

 

「あの……本当にさっきはごめん、私冬風の事情を知らないであんな無神経な…」

 

そのことか……

 

「さっきも言ったとおり、気にしてないよ。まだ僕が物心付く前だから、あまり顔も覚えてないしね」

 

……嘘だ、本当は今でも母様の顔は覚えているし、物心もついていた。思い出すだけで涙が出そうになるけど、そんなのこんなところで許されるわけもない。

 

「とにかく、僕は卒業まで夢依さんを守り切ってみせる。だから、気なんて使わなくったっていい、困ったことがあったら頼ってね」

 

そう言って、こんどこそ自室に戻ろうとしてた。すると、また夢依さんに服の裾を掴まれた。

 

「……今度は何?」

 

振り返ると、今度は普通の顔だった。

 

「もし……もし差し障りがないなら、冬風の事……もっと教えて?」

 

……来た、まさかこんなに早く来るとは思わなかった。

 

「……分かった、なるべくなら早いほうがいいもんね。じゃあもし聞くのであれば……夜に僕の部屋に来てくれるかな?その時に話すよ」

 

「分かった……」

 

夢依は僕の服の裾から手を離した。僕はそのまま歩き出し、皇玉の間を後にした。そして自室に戻った。僕は切ないのやら悲しいのやら…そんな感情と闘いながら必死に涙をこらえ、クリスタルのネックレスを握りしめた。

 

「はぁ……まさかこんなに早いとは…」

 

「まぁ、気になることはとことん聞きたい子なんでしょうね」

 

僕がベッドに座り俯いていると、隣に雅が座った。

 

「雅……僕は……」

 

言いかけようとすると、雅は無言で僕を抱いた。

 

「あの時言ったでしょう?辛い時は私を頼ってもいいって」

 

「ごめん……本当のところ、僕は辛いんだ。今でも母様や父様のことははっきり覚えている、顔を思い出すだけでも辛いんだ…そして、忍を守りきれなかったことも……辛いんだ…」

 

僕はいつしか泣いていた。もう泣かないと決めたはずなのに、僕は泣いていた。声を最大限まで殺して泣きじゃくっていた。あの暖かかった時間は、もう帰ってこない。優しく、心を惹かれた母様の笑顔も……憧れで、逞しかった父様も……もう居ないのだから。戻れるなら、あの暖かかった時間に帰りたいと何千回も願った。でも、それが叶うことはもう無い。

 

だから僕は、そういう時間を作ろうと雅と約束した。もし僕が結婚したとして、子供を授かったとして……もうこんな思いを、ましてや自分の子供にこんな思いをさせたくないと強く思った。暫く雅の胸で泣きじゃくり、やがて少しずつ治まってきた。そして、ドアに乾いたノックの音が転がった。

 

「はい……?」

 

返事をすると、メイドらしき人の声が聞こえた。

 

「冬風様、お食事の用意が出来ました」

 

「分かりました。お伺いしますので、先に行っててください」

 

「かしこまりました」

 

足音が遠ざかっていく。僕は涙を拭い、雅の胸から離れた。

 

「ありがと、雅……さぁ、飯食いに行こう」

 

僕は微笑みながら、雅に手を差し伸べた。

 

「ええ」

 

雅は少し笑い、僕の手をとった。こうして2人食堂の方へ向かった。入ると、夢依と伯父様が座っていた。

 

「もう……気分は晴れたか?」

 

すべてを見透かしていたかのように聞いてくる伯父様。流石だ…と感心しながら席についた。

 

「大丈夫です、時間を置いたら落ち着いたので」

 

「そうか……契約したのが雅でよかったな」

 

「本当です…」

 

「ふふん」

 

雅はドヤ顔してた。僕はそれがおかしくて、笑った。伯父様も笑った。でも、夢依は笑わなかった。やはり、気にしているのだろうか…?

 

「やっぱり……冬風は強いね、色々考えてみたけれど…今も何事もなかったようにこうして話してられるもの、強いよ…」

 

夢依は少し声が震えていた。

 

「僕は強くなんか無いよ。心の切り替えは早いけど、結構後まで引きずっちゃうんだからね」

 

「そうなの……?」

 

「うん、僕は昔から泣いてばっかりだったんだ。両親が居なくなった後もずっと部屋にこもって泣き続けてたし、幼なじみがベッドの上から動けなくなった後も泣き続けた。でも、雅と出会って……楽しいことがあって、ようやく楽になってきたんだ。そして、僕は僕の夢を叶える為に…雅と契約したんだ」

 

「……」

 

唖然とした夢依。伯父様は黙って聞いてる。

 

「正直言うとね、伯父様に夢の事言う時怖かったんだ。馬鹿げてるだとか、子供の戯れ言だとか言われそうで……でも、伯父様はちゃんと聞いてくれた、笑って応援してくれた。だから、僕は胸を張ってこの夢を叶える為に頑張るんだ」

 

僕はいつの間にか微笑んでいた。目元に涙を溜めながら。

 

「夢……というのは…?」

 

「……僕の夢は僕や雅、幼なじみの忍や夢依と伯父様……皆が笑って話しあえて、酒を酌み交わせる温かい時間を…そういう時間を作りたい、それが僕の夢だ」

 

「………」

 

夢依は黙って聞いた。そして口を開いた。

 

「……とても、素敵な夢だと思う。叶うと良いわね」

 

その時の夢依の表情は、心の底から微笑んでくれていた気がする。優しい笑顔で。

 

「叶えてみせるさ…」

 

僕は涙を拭い去り、微笑んだ。夢依も微笑んでくれていた。伯父様も笑ってくれていた。雅は僕の隣でクスクス笑っていた。あぁ……そうだ、今みたいな…こんな温かい時間にしてみせる。

 

こうして夕食を済ませ、僕は風呂に入り終わり、自室で髪を乾かしていた。すると、ドアにノック音が聞こえた。僕はドライヤーを止め、返事をした。




4頁へ続く。


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5頁 少し深まる信頼、そして起こる波乱

どうも、テスト期間で投稿がかなり遅れた秋水です。

5話はかなり時間がかかり、しかも後半がかなりグダってます。

でも、これまでのと合わせて13万文字に達して、感無量です!

それでは、めくるめくめまぐるしい謎の世界へ……!


「夢依……だけど、入っていい……?」

 

まさかの来客。僕は一瞬戸惑ったが

 

「うん、どうぞ」

 

と言った。その後にドアが開き、夢依が入ってきた。どうやら夢依も風呂あがりのようだ。

 

「どうしたの?こんな時間に」

 

「その……冬風の事知りたいってあの時言った……え?」

 

言いかけた瞬間、夢依は絶句してた。

 

「……どうしたの?」

 

僕は聞いた。

 

「いや……その、冬風……だよね?」

 

「そうだけど…?」

 

訳が分からず、疑問を疑問で返してしまった。

 

「いや……あまりにも綺麗だったから、部屋を間違えたのかと……」

 

「あぁ……僕の顔立ちは母様譲りなんだ、髪の長さは家訓でね。いつもは縛っているから気づかなかった?」

 

「全く……」

 

僕はすでに髪を乾かし終え、櫛でとかしてた。

 

「それで、要件は?」

 

「あ、そう……冬風があの時言ってた幼なじみの子が、ベッドの上から動けなくなったという事が頭に引っかかって、聞きに来たの」

 

「……そうか」

 

僕は俯いた。だけど、あの時ほど悲しみは襲っては来なかった。今なら……話せるかも、僕は腹を括り夢依と向き合った。

 

「分かった、少し長い話になるけど……ご静聴願うよ」

 

「うん…」

 

こうして僕は夢依に全てを話した。忍の事や事件のことを。そして、ルシファーや雅の事と詳細を。夢依は途中から唖然としていたが、最後まで聞いていてくれた。こうして、僕は全てのことを夢依に話し終えたつもりだ。

 

「……っというわけなんだ、理解してくれたかな?」

 

「……」

 

夢依は無言で頷いた。無言で……涙を目の淵に溜めていた。

 

「な、なんで夢依が泣くのさ……?」

 

「分からないわよ、そんなの。でも……そう、私と同い年なのにそこまで辛い目に会っているのに、そこまで平然と笑っていられる。冬風はやっぱり強いわよ、私だったらとっくに心が折れてるわ。」

 

そんなこと無い、あれだけ泣いていたのだ……僕は泣き虫で何も出来ない、弱い存在だ。そんな感じなことを言おうとしたけれど、うまく言葉にできず黙りこんだ。

 

「でもね……いくら強くてもやっぱり疲れちゃうでしょ?だから…出来ることは少ないと思うけど、私に相談してね」

 

「……ふふっ」

 

僕は少し笑ってしまった。

 

「な、何よ……人が心配してるのに」

 

少しムスッとしてしまった。

 

「いや、雅と全くおんなじ事言ってるな~っと思ってね。でも、ありがとう。まぁ、まさか今日会ったばかりの人にそんなこと言われるとは思わなかったけどね」

 

僕は笑った。可笑しいからではなく、嬉しくて。

 

「僕も、君を守るために尽力を尽くすよ。そのためにはどんな事も惜しまない、全身全霊で頑張らせてもらうよ」

 

微笑みながら親指を立てた。

 

「うん……お願いね」

 

夢依も微笑んでいた。僕は夢依に過去を知ってもらえて、少し肩の荷が降りた気がした。でも、流石に不老不死の事だけは言えなかった。もし言ってしまえば、夢依に心配をかけさせてしまうからだ。

 

「でも、無茶だけはしないでね?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

こうして、僕はここに来た初日で夢依と仲良くなった。最初は僕にツンケンしてたけど、そんなこともなくなり蟠りも無くなっていた。その日から1ヶ月半が立ち、ある日の昼下がりのことだった。僕は少しづつここの生活に慣れ、街をもっと見て回ろうと思っていた。

 

「伯父様、今日は街を散策してみたいと思うので行ってきます」

 

「あぁ、気をつけてな」

 

僕は笑顔で皇玉の間を後にした。

 

「ふむ……ようやく心を開いてくれたようじゃのう、少し時間がかかったがこれで……少し試してみるかの」

 

伯父様は何か考え事をしてたのだろうか、少しぼ~っとしていた。僕が皇玉の間を出ると、夢依が居た。

 

「どこに行くの?」

 

「ちょっと街に行こうかなって思って」

 

「じゃあ、私が案内してあげる」

 

まさかの提案が来た。まぁ、いいだろうと思い僕は了承した。……この後待ち受ける悲劇を知らずに。

 

「じゃあ行こうか」

 

「ええ」

 

僕は夢依と手を繋ぎ、街へ出た。町の人々はいつもどおり活気よく、皆僕達を見ていた。スレ違いに挨拶してくるご婦人もいれば、気にしない人も居た。

 

「そう言えばこの街にきてから思ってたことがあったんだ。こんなに街が大きいところにはあまり自然が……というか、静かな場所が無さそうなイメージがあったんだ」

 

僕がずっと思っていた疑問を聞いてみた。すると、夢依は自信満々に答えてきた。

 

「だったらいい場所があるわ。街の外れにある森の奥に、古い民家があるの。彼処は数百年以上使われてなくて、結構静かよ?」

 

「へぇ…」

 

僕は興味を誘われた。

 

「じゃあ、昼ご飯食べたらそこに行ってみるよ」

 

「もちろん、私もね?」

 

当たり前のようについてくる気だ。まぁ、夢依の案内がなければ僕はそこにたどり着くことすら困難だろう。僕は夢依にお願いした。夢依は快く了承してくれた。こうして僕らは昼食を近くの店で取り、森の方へ向かった。向かってる最中……つまり町外れの森の入口で、高校生らしき人影があった。数はおそらく10人程度だ。僕らは邪魔だと思いながら素通りしようとしたら、案の定……絡まれた。




如何でしたでしょう、今回は物凄い下衆を書きたかったのですがネタ不足ですノω・、) ウゥ・・・

6頁に続きます。


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6頁 芽生え始める不思議な気持ち

どうもお久しぶりです。


「おいおい、なんでガキがここにいるんだよ?」

 

「ここは俺達の縄張りだぜ、踏み込むんだったら……そこの女置いてけ」

 

ヒャヒャヒャと不快な声で笑うこいつら、正直僕は関わりたくなかったから早めにすまそうとした。

 

「悪いけどこの子は渡せない。僕の大切な人なんでね、それにあんたらのテリトリーを荒らすつもりはないさ。ただここを通してくれるだけでいい」

 

「だ~か~ら、ここ通りたきゃ女置いてけっつーのが聞こえねーのかぁ?糞ガキ」

 

随分ガラが悪い。しかも大した魔力持ってないし……

 

「はぁ……言葉が通じない人に何を言っても無駄だな、こりゃ」

 

僕がため息混じりに呟いた。夢依はもう帰ろうっと催促してるけど、僕は正直こいつらに腹を立てていた。

 

「ちっ……生意気なガキめ、ブチ殺すぞ!」

 

「やっちまえ!」

 

こうして、ガラの悪い奴らと僕は喧嘩した。皆魔力武装を持っていたのだけれど、当然のように砕いては殴り砕いては殴り……次々となぎ倒していった。夢依は草むらに隠れさせた。のだったが、不良の一人が夢依を捕まえた。

 

「おいガキ!こいつを返して欲しかったら大人しく動くんじゃねぇぞ!!」

 

お約束のセリフを吐き、夢依を拘束している。首にはサバイバルナイフが当てられている。必死に逃げ出そうとするが、中学生の……ましてや女子の力じゃ、到底敵いっこなかった。

 

「ちっ……」

 

僕は舌打ちをし、どうしようか考えた。僕があいつに攻撃すれば、夢依が危ない。かといってこのまま連れ去られるのを黙ってみているわけには行かなかった。僕はその不良の方に、少しずつ歩み寄った。

 

「なっ……?!お前、こいつが見えないのか!こ、こっち来んじゃねぇ!」

 

言葉は聞こえない。聞きたくもない。夢依に危害が及ぶ前に、こいつを始末すれば良いのだから……そう考えていると、背後から近づいてくる気配に気づけず……僕は後頭部を殴られ、倒れた。

 

「はぁ……はぁ、どうだこいつめ…!」

 

どうやら、金属バッドで殴られたみたいだ。頭からは血が出て、すごく頭が痛い。僕は立ち上がろうともがくが、それをさせまいと数人がかりで僕を殴ってきた。木刀や金属バッド、終いにはナイフで背中を刺してくる始末。

 

「良し、ずらかるぜ!」

 

「おう!……ところで、この娘どうするよ?」

 

「しゃーねーな、森の奥の屋敷でヤッちまうか!」

 

「そうするか、アヒャヒャヒャ!」

 

下劣な言葉が聞こえ、僕は腸が煮えくり返りそうだった。でも、体が動かない。両手足の骨は砕け、肋骨も肺に刺さってる。頭蓋骨にヒビが入り、全身血まみれで服もぼろぼろだ。どうしようかと痛みと格闘しながら悩んでいると、僕の隣に雅が来てくれた。

 

「こりゃぁ……派手にやられたね、大丈夫?」

 

僕は声が出なかった。でも、この状態をどうにかして欲しいと雅に頼んだ。すると。

 

「仕方がない、骨とかはすべて治るけど傷は……治癒に時間かかっちゃうけど、それでいい?」

 

いいわけない。夢依が酷い目に合わされてしまうのに……こんなところで寝てる場合じゃない!!

 

「頼……む、動けるように……してくれ…!」

 

僕は頼んだ。雅はやれやれと頭を掻き、僕の骨を全て修復してくれた。

 

「とにかく動けるようにはしたわ。でも、応急処置に過ぎない……だから、終わったら安静にしなさい?」

 

雅に礼を言い、森のなかへ走っていった。奴らが言ってた”森の奥の屋敷”は、そう遠くないはず。とは言え、ここの地形には疎い。ならば……

 

「……水紋反響、範囲は……この森全て」

 

水紋反響とは、辺を水面だとイメージして仮想空間を作り出す。そして自分を中心に、荒波を立てる。すると、物がある場所は波を弾く。小さいものは音も小さいが、小屋ともなるとかなり大きな音が帰ってくるはず。僕は森の中を走りつつ、音を探った。傷口は広がり、服にどんどん染みこんでいく。全身がすごく痛むが、そんなことは気にしてられなかった。僕が、夢依を水神結界の中に入れておけば……そんな後悔はボコられてる時に幾度もした、ならば僕は夢依を取り戻すために同じ失敗を繰り返さないだけ。前の失敗は、次に役立てればいい。そうこうしてる内に、近くで大きな音の反応があった。そこに向かってみると、屋敷の中で話し声が聞こえた。耳を澄ませてみると。

 

「こりゃぁ、上物じゃねぇか」

 

「くそっ、あんたらなんかに……!」

 

必死に抵抗しているみたいだけど、数が数だ……仕方ない、様子を見つつ夢依を結界に入れて守る。まずは最優先だ!心のなかで決め、正面口にこっそりと忍び寄った。嬉しいことに扉は開いており、その隙間から覗いた。夢依は大きな柱に縄で括りつけられ、その間を十数人で囲っている。よし、誰も夢依から離れてる。今だ!

 

「……水神結界、範囲は夢依を中心に…奴らに触れない程度で」

 

ひっそりつぶやくと、言葉通りに薄い膜が夢依を包んだ。不良どもは誰一人結界の中に入ってはおらず、皆驚いていた。

 

「何だこりゃ!薄い膜が突然……まぁいい、ぶち壊せ!」

 

不良どもが一斉に壊しにかかるが、傷一つ着く様子はなかった。

 

「この膜は……冬風!」

 

夢依が喜々として喜んだ。不良どもは悔しがった。

 

「畜生!!何なんだこれは……っ!」

 

息を切らしてへばる不良共、僕は頃合いだと思いドアを蹴破った。

 

「「今度は何だ!!」」

 

全員がこっちを見る。そこには……全身血まみれで、微笑んでいる冬風が立っていた。

 

「ごめんね、こんな怖い目に合わせちゃって……こいつらをさっさとぶちのめして帰ろう」

 

「……うん」

 

僕は微笑んで、夢依は泣いた。不良共は舐めるな!死に損ないが!と喚きながら襲いかかってきたが、僕は冷静に一人一人の武器を持っている方の腕の骨を潰していく。

 

「ぎっ……やぁぁぁぁ!!!」

 

あっという間に全員の骨を潰し終わり、後ろからは痛みで悶絶する汚い声が木霊した。

 

「野郎……!」

 

こっそりと刃物を手にした不良共、僕はそれを見逃さなかった。

 

「……遅い!」

 

僕はもう片方の腕を消し飛ばした。全員分。すると煩かった声は鳴り止み、皆気絶した。僕は水神結界を解き、夢依の縄を切った。夢依は泣きじゃくりながら僕にしがみついた。

 

「冬風……っ冬風ー!」

 

余程怖い目にあったのだろう、こんなに震えて泣く夢依は初めて見た。

 

「もう大丈夫だ、帰ろう」

 

微笑んで夢依に言った。夢依は泣きながら頷いた。僕は泣きじゃくる夢依を抱え、森の入口まで魔力転移で移動した。暫く夢依は泣き続けたが、僕はそんな夢依の頭を優しく撫でることしか出来なかった。

 

「馬鹿……馬鹿ぁ!本当に死んじゃったかと……思ったのよ!」

 

「心配させてごめん、でもこの通り…生きてる」

 

「うん……」

 

やがて泣き止む夢依、僕は泣き止んだのを確認すると下ろした。

 

「さて、泣き止んだことだし……城へ戻ろう」

 

「うん……」

 

こうして、僕らは手を繋ぎながら城へ帰った。戻ると、城の皆は大慌てだった。伯父様は驚きながら夢依と僕の無事を確認した。僕が事情を話し、夢依は無傷だと確認すると、ほっとしながら落ち着いた。

 

「申し訳ございません、伯父様。僕があんな所に行こうって言ったせいで……夢依に怖い目を……合わせてしまって……」

 

「いや、君たちが無事ならそれで……って、冬風君!!」

 

僕は意識を失った。全身の傷が開き、血を流しながら。多分血を失いすぎたのだろう……気絶する前に、あの出来事を話しておいて正解だった。



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7頁 最悪の事態

こんにちは、秋水です。

構成変更中、まだ変更前だと1話の途中だということに気が付き内心苦笑でした\(^o^)/


目が覚めると、僕はベッドの上だった。隣には心配そうに見つめる夢依と、伯父様の姿があった。

 

「おぉぉ…眼が覚めたか、冬風君!」

 

「冬風……っ」

 

嬉しそうな伯父様と、夢依が僕の顔を覗き込んできた。僕はどのくらい気を失っていたのかと聞いてみた。

 

「ざっと1日じゃ」

 

つまり、丸一日寝てたわけか……

 

「ご心配おかけして、申し訳ありません……なんと詫びたら…」

 

「詫びなど良い、無事で居てくれればそれで良いのじゃ」

 

落ち込む僕の頭を、伯父様は優しく撫でてくれた。僕は包帯ぐるぐる巻きの体を起こし、微笑んだ。

 

「ありがとうございます、おかげさまでもう良くなりました」

 

立ち上がろうとベッドの端から出ようとした瞬間、夢依が泣きながら抱きしめてきた。

 

「ぐふぅ…っ」

 

勢いが良かったため、腹部がすごく痛んだ。そのため、少し顔を顰めたが夢依は僕の膝にボロボロと涙を零していた。

 

「ごめんね…私が、私が弱いせいで……こんなに痛い目にあわせちゃって……」

 

涙を零しながら、必死に謝ってきた。僕は夢依の頭を撫でながら言った。

 

「大丈夫、夢依のせいじゃないよ。夢依は最後まで諦めずに抵抗してたじゃないか、あそこまで出来れば弱くないよ。それを言うんだったら、僕が弱いせいであんな怖い思いをさせちゃって……ごめん」

 

「冬風のせいじゃない、私のせいよ……」

 

これは……無限に続きそうなので、ここで言葉を切った。かわりに、夢依が泣き止むまで頭を撫でていた。

 

「それで、そのガラの悪い奴らはどうしたんじゃ?」

 

伯父様が聞いてきた。

 

「そいつらなら、片方の腕の骨を潰した後にもう片方の腕を消し飛ばしてきました。切断と同時に血管同士で接続させたため、多量出血で死ぬことは無いと思います」

 

僕は平然と答えた。伯父様は少し驚いてから、そうか…と笑った。

 

「冬風君、君の実力は分かった。是非、これからもよろしく頼みたい」

 

改まって頭を下げてくる伯父様。僕は戸惑いながらも、承諾した。そして、安心した顔で微笑んだ後に、皇玉の間へ戻っていった。仕事があるみたいで、ない時間を縫い合わせて僕の様子を見に来てくれていたみたいだ。伯父様は……本当に昔から優しい御方だ。その頃には夢依は泣き止んでいて、僕のベッドの端の方に座っていた。

 

「……かなり心配かけちゃったみたいだね、ごめん…」

 

僕は謝ることしか出来なかった。誰にも心配をかけたくないという思いとは裏腹に、僕の軽率な判断のせいで迷惑ばかりかかってゆく。でも……あそこで夢依に何かあったら僕はもう、生きている価値が無くなる。守ると言っておきながら守り切れない自分なんて……僕は少し落ち込んでいた。

 

「……今回、多大な迷惑をかけたお詫びに夢依の言うことをなんでも聞いてあげるよ、何がいいかな?」

 

「えっ……いいの?」

 

なんでだろう、さっきまで泣き顔だったのに……あっという間に泣き止んじゃったよ。なんというか……感情のコントロールが上手いのね、夢依は。心の中で感心していると、夢依はまだうぅ~ん……っと唸っていた。余程決めかねているようだ、無茶ぶりが来なきゃいいけどな。そんな期待を、夢依はあっさり裏切ってくれた。

 

「じゃあね……女の子の格好して?」

 

「………?!」

 

僕は驚きのあまり、声にならない声を上げてしまった。まさか男の僕にいきなり女装をしろだなんて……

 

「あのさ、僕は男だよ?それに女性用の衣服もないしちょっと無理があるというか……」

 

僕が色々言ってると、後ろから雅が拘束してきた。

 

「えーい、男の子に二言は無い!なんでもするって言ったんだから女装でも何でもしなさい!」

 

「大体、僕に女装は……」

 

「大丈夫、私と夢依が可愛くしてあげるから!」

 

……そう言い切った雅の顔は、恐ろしく感じるほど清々しい笑顔だった。夢依なんてもう…メイク道具まで持って来ちゃってるし、僕に逃げ場なんて無かったんだ。

 

「はぁ……分かったよ。ただし、女装はこれっきりだからね!」

 

僕はそう言うと、縛ってある髪を解いた。その後に夢依が用意した女性用の服を着用した。セーターに少し短めのスカート、下はパンストだった。別室で着替え終わり、夢依と雅の前に姿を見せた。正直言うと、2人にドン引きか爆笑されると思っていた。しかし現実の反応は違った。

 

「何……これ」

 

「嘘……シャレにならないほど違和感ない。女の子って言われたら迷いなく信じちゃいそうなほどに可愛い……」

 

二人共、僕はまだ化粧すらしてないのに……まさかと思いつつ鏡を見てみた。そこには、僕ではない誰か……可憐な少女が写っていた。

 

「あれ…?鏡って自分の姿を映すものだよね?僕じゃない誰かが映ってるんだけど……この女性誰?」

 

僕は僕自信の姿に驚きを隠せず、自分だということを否定していた。自分で評価してみると……母様から譲り受けた顔立ちとこの髪の長さ、目の大きさや唇の色合いなど……スッピンのままでも女性として認識するには十分だった。夢依に借りたセーターは体のラインを強調するタイプで、パッドを入れているせいか胸が少し苦しかった。一見スラっとしている美少女に見えた。これが僕の率直な感想だ。勿論口には出さないけど。でも、いくら似合ってても僕はそろそろ高校に上がるわけだし……もうやらないと心に決めた時だった。

 

「……今度色んな服を揃えなきゃ」

 

夢依の言葉が初めて恐ろしく感じた。すると、雅が更に怖いことを言い始めた。

 

「ゴスロリや和服……メイド服なんてのも良いんじゃない?」

 

「後は……ナース服とか制服とか後は……」

 

雅の言葉につられて夢依も語りだした。なんでだろう、この先の未来がすごく不安だよ……特にナース服やゴスロリなんてもの着せられた日には、僕は恥ずかしさのあまり爆発四散して消え失せるんじゃないかな、割と本気で。

 

「と、とにかく……もう着替えていい?」

 

少し声のトーンを上げて話してみた。元の声が高いから、少し上げれば少しは違和感も和らぐと思うのだけれど……

 

「駄目!今日一日だけでいいから……その格好で居て?」

 

「うっ……」

 

縋るような眼で見てきた。やめてくれ、そんな目で見られたら……着替えようにも着替えることが出来ないじゃないか。

 

「分かったよ……はぁ」

 

僕は頭を掻きながら、諦めた。こうして僕は、今日一日女装を強いられることになった。自分のせいだとわ分かっていても、何故か悲しくなってくる。男の自分が可愛いなんて言われるのは、心境的にちょっと……来るものがあるけど、夢依が喜んでくれてるなら……まぁいいか。

 

「ねぇ、ちょっとお祖父様にも見せたくなっちゃった。一緒に来て」

 

「え……えぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

僕は返事の有無も聞かずに、手を引っ張り皇玉の間に連れて行く夢依に呆れた。僕の絶叫は久遠の彼方に消え去った。夢依に引っ張られてる最中、多くのメイドの視線が痛かった。

 

「お祖父様、夢依です」

 

「うむ」

 

皇玉の間へ着いて、夢依が扉を開ける。中には王座に座っている伯父様と、執事の雄斗さんが立っていた。僕はその前に夢依と立たされた。

 

「何用じゃ…?それと、その子は……?」

 

「この子は誰でしょう?」

 

夢依はふふふっという含みのある笑いをした。伯父様は首を傾げていた。

 

「はて……?」

 

「むむ……」

 

雄斗さんも流石に唸っていた。

 

「正解は……冬風でした、私が女装させてみました」

 

てへぺろという顔であっさり答えをばらしちゃったよ。僕は腹を括った。しかし、

「「な……何!」」

 

伯父様と雄斗さんの反応が被り、はもった。僕の中では非難の眼が来るんだろうなと、正直怯えていた。

 

「どう、感想は」

 

自信満々に胸を張る夢依。すると、伯父様は厳格な顔つきで雄斗さんに何やら支持を出していた。僕は聞き耳をたてていると……

 

「雄斗、今すぐにナース服の手配を…あと、メイド服も忘れるな」

 

「畏まりました」

 

雄斗さんは頷くと、ものすごい速さで皇玉の間から消えてった。僕は唖然としつつ伯父様に感想を聞いてみた」

 

「あの……やっぱりおかしいですか?」

 

「とんでもない!むしろそっちの方がよく映えるぞ」

 

なんと親指立ててグットサインを出した。予想と違う答えに、僕は転けそうになってしまった。

 

「え……えぇぇ~……」

 

今までにこんな困惑したことはない。生まれて初めての感じにすごく戸惑った。女性の眼ならまだ納得がいく。しかし男性の眼で……そんな目で見られると、怖いというか……

 

「この儂が許可する、冬風は今日一日その格好で居るように!……頼む、居てくれ~」

 

なんて威厳の欠片もない台詞……こういうやり取りをしている最中、雄斗さんが戻ってきた。……大量の女性服を抱えて。

 

「ゆ、雄斗さん……脇に抱えてる布は一体…」

 

「勿論あなたに着せるための服ですよ?冬風君……いえ、お嬢様」

 

「お願いですから呼び方まで変えないでください」

 

ため息混じりに言ったせいか、僕の言葉なんて聞こえていないようだ。あっという間に試着室が作られ、僕は大量の女性服とともに突っ込まれた。

 

「あ、あの……何を着れば」

 

「「「まずはメイド服をお願いします」」」

 

まるで打ち合わせでもしたかのように息ぴったりな返答。僕は仕方なく着替えた。

 

~数分後~

 

「着替え終わりましたけど…」

 

顔を赤くしてもじもじしながら出ると、伯父様と雄斗さんは鼻血の海に沈んだ。夢依はめっちゃカメラで激写してきた。

 

「こ……これは…」

 

「凄い破壊力……ですね」

 

地面に伏しながら鼻血を止める2人。僕は顔を真赤にしながら呆然としてた。その瞬間、見計らっていたかのように扉の向こうから城全員の使用人さん達が押し寄せてくる。

 

「な……何なんですか!」

 

あたふたしていると、雄斗さんが口を開いた。

 

「服を借りる際に事情を話したら……皆が見たいと仰るのでつい……」

 

「ついじゃないですよ!どうするんですかこの状況!」

 

僕は恐る恐る後ろに振り返った。すると……

 

「あぁ、まさか冬風様のこのようなお姿が拝見できるなんて……幼少の頃から見守っておりましたが、ご立派に……」

 

「う、美しい……すごく似合ってる」

 

皆の絶賛の声が心に痛い。……母様、僕はどうしたら良いのでしょうか。帰ってくるはずのない問を、心の中で呟いてた。

 

「どうするかのぅ……暫くこの姿で居てもらおうかな?」

 

「その方が宜しいかと…」

 

「私もそれに賛成」

 

そして僕無しで話は勝手に進められ、反論することすら出来なかった。こうして僕は4月の入学式まで、女性の格好をさせられるのでした。その日、僕は文房具を新しいのを買おうと思い出かけようとしてたのに……

 

「あのう、外に行く時だけ女装解いても……」

 

僕の言葉は途中で遮られた。

 

「駄目じゃ」

 

「容認できません」

 

「嫌よ」

 

………

 

「分かりました、それではあまり目立たない服装に着替えます」

 

僕は試着室に戻り、雄斗さんが持ってきた女性服の山を探った。あるのは……(ナース服)と(女性用の水着)と(純白のワンピース)と(ゴスロリ)と(巫女服)と(セーター)……まともなのが少ししかない?!諦めてセーターとスカートを着用し、上からコートを羽織った。

 

「じゃあ、僕はこの服装で少々買い物に行ってきます」

 

「あ、私も行く~」

 

「気をつけて行くのじゃぞ?」

 

「ナンパにはくれぐれもお気をつけを」

 

野次馬の使用人たちの中を、夢依と手を繋いで通って行く。



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8頁 落ち着かない外出

そして、城の外へ出ると……通行人が必ずと言っていいほど僕らを見てくる。流石に外では”僕”だと悪目立ちしかし無さそうだし、”私”に変える必要がありそうだな。通行人の視線を気にしながらも、僕は目的の文房具屋に着いた。中に入ると、色んな文房具があり目移りしてしまう。夢依は少々はしゃぎ気味で、僕に色んな物を進めてきた。

 

「ねぇ、これとか可愛くていいと思うの。あれとか、これとかも!」

 

「わ、分かったからそんなに騒がないでくれ……恥ずかしいから」

 

「分かったわよ」

 

とりあえず、ノートと中学の時に使っていたシャープペンシル。それと、消しゴムを持ちながらカウンターへ向かった。すると店員のおじちゃんは…

 

「おうお嬢ちゃん達、仲がいいみたいだけど姉妹かな?がっはっは」

 

「え、えぇ……まぁ」

 

豪快に笑う店員と、戸惑う僕。緊張しすぎて冷や汗が出そうだよ。

 

「可愛らしいお嬢ちゃん達には、特別にオマケしてやらぁ」

 

そういうと、袋の中に可愛らしい文房具も入れてくれた。ありがた迷惑なのだが……せっかくだから店員のご厚意に甘えようかな。

 

「ありがとうございます、それで代金はお幾らですか?」

 

「700ポッチだぜ」

 

僕は財布の中から1000ポッチを取り出し、渡した。300ポッチをお釣りとして受け取り、財布の中へ。店員に礼をしてから僕と夢依は外に出た。

 

「さて、帰ろうか?」

 

早く帰りたい僕は、城の方向へ足を進めた。しかし、夢依は僕のコートの裾を引っ張った。

 

「せっかくだからもうちょっと何処かに行こうよ……ね?」

 

……無邪気な笑顔だなー。

 

「う、うん…」

 

溜息をつくと、僕は夢依が行きたい所を聞いてみた。

 

「そうねぇ……行きたい場所なら…あっ」

 

何かを思い出したように歩き出す。そして着いたのが……ぬいぐるみショップだった。窓越しに店内を見て見ると、女性客しか居なかった。正直帰りたいと思った瞬間でもあった。しかしそれを許してくれるわけもなく、やや強引気味に夢依と入店した。中は甘い香りのアロマが焚いてあり、客はみんなぬいぐるみに意識が行っている。

 

「それで……何が買いたいの?」

 

「それは今決めるわ」

 

これは……長くなりそうだ。

 

「これいいなぁ…あっ、これも可愛い」

 

色んな種類のぬいぐるみがあり、目移りしている夢依。僕もいろいろ見て回ると、あるぬいぐるみが僕の目に止まった。

 

「………」

 

試しに抱いてみた。すると、ふかふかというかもふもふというか……とても気持ちよくて、欲しくなってしまった。

 

「へぇ……猫ちゃんのぬいぐるみかぁ、可愛い趣味してるじゃないの」

 

僕が夢中になっていると、夢依が隣でニヤニヤしていた。僕は慌てて平静を装った。

まぁ、僕が猫好きなのは別に隠すつもりはないんだけども……なんとなく恥ずかしい。

 

「ちょ……ちょっと買ってくるね」

 

急いでレジに向かった。お金を払い、袋に入れてもらってから夢依の元へ戻った。

 

「夢依は何買うか決めた?」

 

「う~ん……ちょっとまってね」

 

中々決めかねているみたいだ。僕は外の様子を見ようと窓に眼をやると、背後からひそひそ話が聞こえた。

 

「ねぇ……あの子たち可愛くない?」

 

「特に外を眺めている子……レベルが高すぎるわ」

 

……うん、聞かなかったことにしよう。心の中で僕は男ですと謝りながら、景色を背景にぼ~っとしていた。

 

「お待たせ~」

 

「ひゃっ?!」

 

不意に声をかけられて、悲鳴みたいな声が出てしまった。幸いなのが、音量をすごく抑えていたため周りには聞かれてなかったことだ。

 

「どうしたの?」

 

「いや……ぼ~っとしてたからさ、いきなり声かけられてびっくりしちゃっただけだよ」

 

夢依に微笑みながら、出口へ向かった。外に出ると、店内との温度差ですごく寒く感じた。特に足元が。そりゃあスカートにパンストとブーツって……冷えるに決まってる。そう思うと、よく女性はこんな寒い中でも平気だなーと思う。

 

「さ、寒いわねー……近くのカフェにでも行きましょう」

 

「そ、そうね…」

 

周りの人たちも居るため、芝居を続ける。カフェに到着し、夢依はキャラメル・マキアートを。僕はカフェラテを注文した。店内には暖房が効いており、冷えた体が少しずつ温まってきた。注文した飲み物が運ばれ、それをフーフーしながら飲んだ。カフェラテの暖かさが、体内に取り込まれてじんわりと来る。ほぅっと一息つくと、夢依は次行く場所を決めようとしていた。

 

「あ、あのね……私寒いからなるべく早めに…」

 

「次はケーキ屋さんに行きましょ、甘いモノが欲しくなっちゃって」

 

あははと言いながらも僕の案は聞き入れない。まぁ、その後に帰れるのであればお共するけれども。

 

「分かった、じゃあそこを最後にしましょう」

 

「うん」

 

コーヒーを飲みつつ、他愛もないおしゃべりを交わしていた。気が付くとそろそろ日が暮れようとしていた。

 

「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」

 

「そうね」

 

僕らはお金を払い、外へ出た。そして夢依が言っていたケーキ屋を目指す途中、この前学校で夢依ともめていた大男と出会ってしまった。

 

「げっ……」

 

「む……?」

 

僕は嫌な顔をし、別ルートへ夢依を引っ張っていこうとした矢先。

 

「待て、お前ら……貴様は確かこの前の皇女の……夢依だったな、あの時は変な奴が居たが今日は居ないようだな。てっきり貴様の連れかと思ったが」

 

あの……目の前に居るんですけど。

 

「え、えぇ……それで、貴方は私達を呼び止めて何の用かしら。この前の続きでもする気かしら?」

 

「いや、流石にこの場で揉め事すると憚られる。それに、今日は違う連れがいるなと思ってな」

 

「わ……私のことでしょうか?」

 

引きつった作り笑顔で聞いてみた。すると、大男は頷いた。

 

「貴様のそのコート……あの男が着ていたものと似てるが、知り合いなのか?」

 

「い、いえ……偶々似たようなものを着ているだけだと思いますよ」

 

「そうか……知らぬなら仕方ない」

 

そう言うと、大男は溜息みたいなものを発した。

 

「それにしても、貴様らはここで何をしてるんだ?」

 

へっ?なんでそんなこと聞いてくるんだろうと思いつつも、僕はさっきまでカフェでお茶をしてて、その帰りだと言った。

 

「そうか、最近ココら辺に変質者が出るらしいからな、気をつけて帰れよ」

 

「は、はい……」

 

「ふん、貴方に心配される義理はないわ」

 

「相変わらずいけ好かない態度だ。貴様もこの女のように態度を良くしたらどうだ」

 

ごめんね、僕は男だし演技なんだ。本当だったらものすごく無視したいんだけどね。

 

「そ、それじゃ失礼しま……」

 

「貴様、名は何という…?」

 

「へっ…?」

 

「貴様の名だ。」

 

「私…?」

 

ここで本名を応えるわけには行かないな。どうするかと悩んでいると、母様の顔が脳裏に浮かび、とっさに

 

「春音……宮野 春音です」

 

実の母の名を、口に出していた。

 

「春音……か、良い名だ。俺は大道淳だ」

 

「よ、よろしく……」

 

大道は名乗った後、帰っていった。

 

「ほら、早く泣き止んで。ここから立ち去ろう」

 

「うん……」

 

僕らも帰路につくことにした。まさかナンパに会うなんて……ついてないな~。やがて城に着くと、皆が出迎えてくれた。その後に、伯父様にナンパに会ったことを話し、その人達は牢獄に閉じ込められた。



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9頁 聞かされた真実、固めた決意

投稿が遅れて申し明けありません。

第1章はこれにてお仕舞いでございます!

次からは入学編、2章が始まります!


僕は……

 

「え、今日だけと言わずに入学式までそのままでいろ?」

 

「そうじゃよ、ソッチの方も人気じゃからな。城の皆の士気が上がって良いと思うのじゃが」

 

なんと、入学式の日まで女性の姿でいろと言われた。

 

「流石に寝間着は持参してきた奴でも……」

 

「あ、すまぬ。もうすでにここにあるぞ」

 

伯父様の手を見てみると、フリル付きの可愛らしいピンクのパジャマがあった。ゲンナリしつつ、僕は部屋に戻った。すると、雅が笑いを堪えながら愉快そうに話してきた。

 

「お……おかえっ…プククッ……」

 

笑いを堪えている姿は、すごくプルプル震えていた。もう突っ込む気にもなれず、布団に寝転んだ。今日はなんて日だ……と落ち込んでいると、雅が僕の髪を撫でた。

 

「んっ……」

 

結んでいないため、あまり髪の毛の抵抗が少なく気持ちよく感じた。落ち着くような

、懐かしいような……。

 

「まぁ、女の子の格好でも冬風は冬風よ。私の大事なパートナーには変わりないわよ」

 

「ありがとな」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

僕はベッドから起き上がり、雅の方に向いた。僕が微笑むと、雅も微笑んだ。

 

「……入学式まで、あと少しか…早いな」

 

「そうね、人間の感覚だと早く感じるわね」

 

それはつまり、神の感覚では遅く感じられるということか?種族ごとに時の感じ方は異なるのかな……

 

「そう……だね」

 

雅に髪を撫でられながらごろごろしていると、突如ドアからノック音が転がってきた。

「冬風君、少々いいかな」

 

ノックの正体は伯父様だった。僕は即座に起き上がり、ドアを開けて部屋の中へ迎え入れた。

 

「如何なさったのですか?」

 

「もうそろそろ冬風君と夢依も入学式じゃろ?」

 

「そうですね」

 

「それでだ、新入生のリストを見ていたのじゃが君と同じ村……エーテル出身の子の母君がフィリアスの魔法学園に来てたそうなのじゃ、幸い入学はまだしないらしいがの」

 

「……っ!」

 

僕は血の気が引き、冷や汗が出た。呼吸が苦しくなり、息が整えられず僕は膝をついた。

 

「な……どう……して…」

 

「気持ちは分かる、じゃが……なにかおかしいのだ」

 

そう、エーテルにも若霧魔法学園はあるはずだ。それなのに……まるで、僕を追ってきたかのようにフィリアスの方に来るとは。

 

「そう……ですね、なんとなくですが……嫌な予感がします」

 

僕が一番恐れているのは……僕が手をかけた人たちの中の遺族、又は関係者じゃないかということだ。もしそいつが公に僕の過去を話したとしたら……

 

「一応探っては見る、じゃが学校で接触しないとも限らんのでな」

 

「……肝に銘じておきます」

 

「一番簡単なのは、名前を変更することなのじゃが……」

 

「それは多分無理でしょう、何せこの名前で登録しちゃってますし」

 

「そうなのだ、それが……」

 

僕と伯父様は考えた。どうにかしてこの状況を打開できないかと。でも、いい案は生まれず、僕は焦りを感じた。

 

「あ、あの……その人の名前分かります…?」

 

とりあえず名前を聞いた。もしその人が関係者だとしたら、僕は聞き覚えのあるはずだから。

 

「すまぬ、それは極秘機密事項なので話せぬのだ」

 

「そう……ですか」

 

僕はがっくりと肩を落とした。伯父様は(こちらも全力を尽くしてサポートするからな、安心せい)とだけ言い残し、戻っていった。

 

「はぁ……」

 

胸が締め付けられるようで、すごく息苦しい。思い出したくないことを無理やり思い出させられ、これから毎日同じ場所に居なくてはならない。決して逃げることの出来ない呪縛……

 

「忍……今頃まだベッドの上で寝ているのかな、それともまだ……」

 

最悪の結果だけが僕の頭をよぎり、僕を苦しめた。しばらくすると呼吸は少し楽になり、心もだいぶ静けさを取り戻してきた。

 

「……大丈夫?」

 

「なんとかね」

 

危うく泣くところだった。泣き虫なのは変わってないのが少し悲しいところでもある。僕は改めて腹をくくる事にした。でもヤケクソにはならない。皆に過去がばらされても、僕は夢依を守りぬく。ただそれだけだ……それに、伯父様は”母君が見に来てた”と行っただけで、”入学する”とは言っていない。だから接触することは…無いと思う。

 

「それにしても……腑に落ちない」

 

「どうして?」

 

「だって、入学するのであれば当の本人も来なければならないはず、なのに母君だけ来たということは……」

 

「おそらく、入る確率は低いと…?」

 

「うん」

 

そう考えると、少し気持ち的に楽になった。僕はその後夕食を済まし、風呂に入り自室に戻った。いつもどおり髪を乾かし、櫛でとかす。そして寝ようとしたが、心がもやもやして眠れなかった。時刻を見ると、夜の11時を示していた。僕は眠くなるまで

中庭に出ることにした。中庭に出ると、涼しい風が柔らかく吹き草木の匂いがする。月は満月で、すごく綺麗だ。

 

「そうか、今日は満月だったのか…」

 

「綺麗ね……」

 

雅と一緒に中庭のベンチに腰を下ろした。皆が寝静まってるからであろうか、雑音が全く聞こえない静寂な夜。すると雅が、服の裾から盃と酒を取り出した。

 

「冬風、ちょっとだけ付き合ってよ」

 

盃を手渡され、その中に酒が注がれた。盃の中に月が映しだされ、水紋と共にゆらゆらと揺れている。

 

「それじゃ……」

 

「乾杯」

 

盃と盃をコツンとくっつけた。雅はクイッと飲み干したが、僕は少しずつ飲んだ。やはり酒というのは飲むと喉が熱くなる。少し程度なら僕も飲める様になったようだ。

「これからどんな学校生活が始まるんだろうね…」

 

僕は雅に問いかけた。

 

「それは冬風次第よ、夢依以外にも仲良くするもよしだし」

 

「う、う~ん…」

 

僕は男友達を作ったことはなく、あまり人と接するのは苦手なのだ。特に学校ともなると、人目が多く気配も多い。落ち着ける場所など限られているのだ。

 

「大道……だっけか、あいつは結構良い奴だったよ。あの時僕達を助けてくれたしね」

 

「ふ~ん、やっぱり人は見かけによらないって事だね」

 

ニヤニヤしながら僕を見てくる。

 

「何笑ってんだよ、全く」

 

ため息混じりに月を見上げる。綺麗な満月と、それを取り囲むような小さい星々。幻想的で、僕は見入ってしまった。

 

「そう言えば冬風は夜空を眺めるのも好きだったわね」

 

「うん、こんな広大な宇宙で綺麗に輝いてる。力強く、儚げに輝いてる姿は……幻想的だよ」

 

中庭に出てからどのくらいの時間が経ったのだろう、僕の中のモヤモヤはすっかり消え失せ無くなっていた。

 

「さ~てっと、スッキリしたことだし部屋に戻ろうか」

 

「そうね」

 

僕は両腕を思いっきり伸ばし、中庭への出入り口に足を向けた。するとそこには、夢依が立っていた。

 

「……何してたの?」

 

どうやら僕達が中庭に居るのが気になり、様子を見に来たのであろう。

 

「ちょっと夜風に当たってただけだよ」

 

「そっか……そう言えばそうよね、今日はいろんな事があったんだし」

 

少し元気が無い感じだった。

 

「どうしたの、どこか具合でも?」

 

訪ねてみると

 

「ううん、ただ……冬風の事が心配になったの。学校でも上手くやっていけるかどうか」

 

「大丈夫だよ。それに僕は夢依を守ると約束したでしょ?だから僕は逃げない。これ以上逃げてもその先は……何も無いからね」

 

苦笑いしながら肩を竦めた。夢依は少し不安そうな顔をした後、微笑んだ。

 

「そう、ならお言葉に甘えて……お願いね、冬風」

 

「お任せを……夢依」

 

僕も微笑んだ。こうして少し話した後、僕達は解散して各部屋に戻った。

 

「うぅ……少し長居しすぎたかな?」

 

長く外に居たせいか、凍えていた。僕は素早く布団に入り、暖を取りつつ眼を閉じた。

父様の消息はまだ不明、秋水兄様の容体も分からない。忍の容体も……そんな不安と闘いながらも、大丈夫なことを祈りながら眠りについた。

 

澄み切った夜空に浮かぶ白い満月と無数の星々。星の数だけ出会いと別れがあると聞いたことがあるけれど、僕は未だに分からないままだ。だって、出会いは運命で別れも運命なのだから。現実は残酷で容赦なくて酷いけど、それも運命なのだと言うのなら……僕は逃げずにそれと向き合わなければならない。真実から目を背けるのはもう終わり、今度からは……ちゃんといろんな事に向き合って行こう。

 

そして、胸を張って生きていけるようになりたい。人間の強さは力だけじゃない、精神面的な意味も含んで初めて強いと言える。今のこんな僕じゃ、父様に嘲笑われるだけだ。もっと強くなり、今度こそ大切な人を守り切れる自分になりたい。あの時月を見て願ったのはそれだ。

 

~星々に願いを込めて、祈りを託す。それが廻りて星となり、光り輝く。~




1章いかがでしたか?

あまり時間が無いので、そこまで凝ったことは出来ませんがあしからず(苦笑)


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第2章 1頁 遂に膜を開ける学園生活

こんにちは、秋水です。

この話から2話(2章)となります。

若干R要素が隠しきれては居ませんが、どうか生温い目で見守ってください(苦笑)


若霧魔法学園入学式の朝、僕はいつもより早く目が覚めた。時計を確認してみると5時半という微妙な時間であった。入学式は8時からで、ここを7時半過ぎに出れば余裕で間に合う距離だ。かといって二度寝をしてしまったら確実に間に合わない。どうしようかな……と考え込んでいると、雅が僕の布団の中から出てきた。

 

「おはよう、雅……まさかずっと僕の布団で寝てた?」

 

「おあよ……そうだけど問題でも?」

 

「い、いや……別に問題はないんだけどね」

 

問題大ありだと思う。男性が寝ていたベッドの中から女性が出てきたら普通の反応は驚くはずだ、特に雅の事情を知らない人が見れば尚更……。苦笑いでそんな事を思っていると、雅に言っておこうと思っていた事を思い出した。

 

「そうだ……学校に行く前に雅に言っておこうと思う事があったんだ」

 

「ん、なになに?」

 

「学園に通ってる間は、神ということを伏せておこうと思うんだ。皆にバレちゃうと色々と面倒臭そうな事になりそうだからね」

 

そう……僕は面白いことは好きだけど面倒事ははっきり言って御免被る、特に生徒会の人とかに目をつけられた日には……とてもではないがかったるくなりそうだ。

 

「う~ん……分かったわ、じゃあ契約精霊ってことにしておくわね」

 

「それでお願い」

 

(後で伯父様達や夢依にも伝えておこう。)

 

なんて思いながらふと時計を見てみると6時になっていた。

 

(朝飯の時間まで後30分はある、何をしようかな……)

 

時間を潰す方法を考えていると、1ついい案が浮かんだ。

 

「ねぇ……朝飯の時間まで結構あるからさ朝練する?」

 

僕は木刀を2つ持ち、片方を雅に渡しながら言う。

 

「そうね、ちょうど体を動かしたいと思ってたのよ」

 

望むところだっと言わんばかりに不敵に笑いながら木刀を受け取る雅。僕は道着に着替え雅とともに中庭に出た、そしていつものところで剣術組手を始めた。いつもは調子が出るまで時間がかかるのだが、今日は結構早く調子が出た……いつもより早起きしたからだろうか、剣筋がいつもよりはっきり意識できる……そして雅の剣筋もはっきり見える。

 

「へぇ……あの頃に比べると随分強くなったじゃない」

 

「そりゃあいつも雅に鬼みたいにしごかれてりゃ……ねぇ」

 

静かな朝の中庭に木刀の打ち合う音が鳴り響く。打ち合ってから数分後、僕達は少し休憩した。

 

「はぁ、はぁ……あ~ちょっと飛ばし過ぎたかな、もう動けない」

 

「ふぅ……」

 

流石といったところか、雅は汗どころか息一つすら乱れていない。何事もなかったかのようにゴロンと寝転がる僕の隣に静かに腰を下ろす。

 

「はぁ……今日は確か魔力測定があるんだっけか、嫌だな」

 

「何で?魔力量が大きければ皆から尊敬されるじゃん」

 

「尊敬されると同じくらいに嫉妬や妬み……ましてや前みたいなことが起きそうだから怖いんだよ。それに魔力測定機に嘘はつけない、魔力属性や魔力量の数値化……ましてや契約してる精霊の魔力まで調べられちゃうんだよ、不安しか無い」

 

「それは怖い……」

 

不安を口にしていると、不意に後ろから声が聞こえた。

 

「何の話?」

 

「うわっ?!」

 

僕はびっくりして起き上がった。振り向いてみると、夢依がそこに立っていた。

 

「い……いつからそこに?」

 

「尊敬がどうとか……そんな所からよ?」

 

つまり話の内容は殆ど聞かれてたというわけか。

 

「そういえば、夢依の契約者を見たことがないんだけど……?」

 

「私の?私は炎を司る精霊(サラマンダー)よ、結構頼りになるのよ……おっさんだけど」

 

苦笑いを浮かべる夢依、雅も苦笑いになった。

 

「あいつか……」

 

ボソッと何か言った気がしたが、僕には風のせいで聞こえなかった。

 

「そう言えば、どうしてここに?」

 

訪ねてみた。たいてい予想はついてるけど……。

 

「木刀の音がしたから、様子を見に来たのよ。それにもうそろそろ朝ごはんよ?」

 

そうか……もうそんな時間か。

 

「了解、僕は汗かいて気持ち悪いからシャワー浴びてくるよ」

 

「はーい」

 

僕は駆け足で自室に戻り、換えの下着と制服を持って大浴場へ向かった。中に入ると広い更衣室があり、そこで衣服を全て脱いでかごの中へ入れた。するとふと隣の籠に衣服が入ってることに気付く。

 

(この服は……男性物かな、おそらく伯父様が入っているのだろう)

 

ここの大浴場は男女混合であり、女性が入浴している時には立て札をかけておくという決まりがある。そうじゃないと大変なことになるからだ。僕は腰にタオルを巻き扉を開けた。すると……中には雄斗さんが浴槽に使っていた。

 

「あれ、雄斗さん奇遇ですね」

 

僕が何気ない一言をかけながら扉を締めた。すると、雄斗さんの姿が少しずつ見えてきた。ただ気になったのは、雄斗さんが顔を赤くして慌てているということだ。別に男性同士なら恥ずかしいことなんて無いと思うのだけれど……。

 

「な、ななな……なんで冬風君がここに?!」

 

「どうしてそんなに動揺しているんですか……汗かいたからシャワー浴びに来たんですよ。ちょうど外に立て札無かったから空いてると思って」

 

「そ、そうか」

 

何故かいつものような冷静さがない。それを疑問に思いつつ僕はシャワーを浴び、頭を洗った。その後体を洗ってる最中、不意に雄斗さんが後ろから僕の背中に触れてきた。

 

「ひゃっ?!」

 

急に触れられたためすごく情けない声を出してしまった……ものすごく恥ずかしい。

「す、すまん……背中を流してあげようかと思って」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

僕は雄斗さんに背中を洗ってもらうことにした……そして洗ってる最中こんな話題が出てきた。

 

「わぁ……冬風君は子供の頃から綺麗な肌をしているね、どんなケアをしているんだい?」

 

「特に大したケアはしてませんが……」

 

「ケアしてないのにこんなにきめ細かい肌をしているのかい?羨ましいな……」

 

なんかいつもより雰囲気が……というか、声質が違うような違和感みたいなものに襲われた。

 

「雄斗さんだって綺麗な肌してるじゃないですか、執事という大変な仕事柄上結構荒れそうなのに」

 

「わ、私は特に……寝る前に保湿クリームとか塗っているだけですから」

 

「そうなんですか?」

 

「う、うん……」

 

雄斗さんの話し方がぎこちない、なんでだろう……と意識していると、不意に曇った鏡に写った自分の姿の後ろに視線が言った。それは……胸の当たりをバスタオルで隠してて、顔を赤くしながら僕の背中を洗っている雄斗さんの姿が。そして僕の顔色も青白くなっていく。

 

「雄斗さん……まさか!?」

 

「は、はい?!」

 

びっくりした声で雄斗さんがが叫ぶ、僕はその声にびっくりして体がビクッと跳ね上がり、椅子から転けそうになる。

 

「あ……」

 

泡だらけの体じゃまともに受け身すら取れない為、頭を打たないよう手を地面に伸ばしかけた瞬間……。

 

「危ない!」

 

後ろから雄斗さんが僕を抱きしめ、支えてくれた。

 

「あ……ありがとうございます」

 

体制を立て直し、雄斗さんの方に向かいお礼を言おうとすると……やはりいつもと違う雄斗さんだった。いつも縛っている髪を解き、体つきは本当の女性……バスタオルで前を隠していた。

 

「きゅ、急にこっち向かないでくれ……私だってまだ……心の準備が」

 

(まさか……まさか……)

 

自分の顔が明らかに熱い、赤くなっている証拠だ。

 

「雄斗さん……まさか、女性……だったんですか?」

 

恐る恐る聞いてみた。

 

「……そうだよ、私は正真正銘女だ」

 

「………!!」

 

慌てて自分の顔を隠した。

 

(なぜ気付かなかった、あの動揺さと言い物言いといい……。)

 

僕は罪悪感と申し訳なさに思いきり深く頭を下げた。

 

「す、すいません……ごめんなさい……で、でもどうして?」

 

少し気になった、なぜ女性の雄斗さんが男性の仕事の執事をしているのかと。

 

「……私の家系では、代々王族の執事を務めていた。それ故に皆男性だった……でも、私が女性に生まれてきてしまったために……。だから、私は姿や声質を変え国王の側にお付きすることを決めたのだ」

 

思いもしないほど壮大な物語に僕は黙って聞くことしか出来なかった。そして大変そうと言う気持ちとは裏腹に僕は、本当の雄斗さんを知ることが出来て少し嬉しかった。

 

「そうだったんですか……。でも、それを聞いて納得しました」

 

「何がだい?」

 

不思議そうに首を傾げる雄斗さん。

 

「今まで何故男性で執事である雄斗さんが、こうにも可憐で美しいのか疑問でした。でも、それを聞いて何故か納得しました。」

 

僕は苦笑い気味でお茶を濁した。雄斗さんも苦笑いをしてた。そして少し話した後に時計を確認すると、7時を越えようとしていた。

 

「あ……そろそろ朝飯の時間ですし、上がりましょう」

 

僕は立ち上がり手を差し出した。雄斗さんは少しためらったが、僕の手に捕まり立ち上がった。もちろん着替えは別々の場所でした。更衣室から出ようとすると、後ろからいつもの雄斗さんが話しかけてきた。

 

「あの……冬風君、さっき風呂で見たものは……」

 

「はい、僕の心の中にずっと仕舞っておきますよ」

 

微笑んでそう言うと、心なしかホッとした表情を見せてくれた。その後いそいそと伯父様の元へ向かっていった。僕も更衣室を後にし、自室へ戻り衣服とかを片付けてから食堂に行った。入るとそこには、夢依と伯父様が話していた。そして僕に気付いた。

 

「おぉ、遅かったのう。」

 

「待ちくたびれたわよ」

 

僕は"ごめん"と言いながら椅子に座った。すると雄斗さんが朝食を持ってきてくれて、それぞれのテーブルへ置いてくれた。雄斗さんの顔に少し視線を移すといつもよりすっきりとした顔をしていた気がした。朝食を済ませ、僕と夢依は学校へ向かった。夢依は制服の上に赤いコートをはおり、赤いマフラーを巻いていた。僕はいつもどおり黒いコートに身を包んでいた。まだ寒さが残っているせいか、息が白くなり道端には霜が降り積もっている。

 

「うぅぅ~……寒い~」

 

夢依が手を擦り合わせ、息を吹きかけていた。身震いしているところを見ると、かなり寒そうに見えた。

 

「そうかな、少し暖かくなってきているように見えるけど……?」

 

「それは冬風が寒さに強いからよ……はぁ~」

 

僕が住んでいた村……エーテルは、冬になるとかなり厳しい寒さに見舞われる。そんな環境で慣れているせいか、フィリアスの寒さには動じなかった。

 

そんな中歩いていると、桜が咲きかけている場所があった。それは満開に咲くと桜通りなるらしく、道の両端に平均的に桜の木が植えられている。花見とかにはもってこいの場所だった。桜通りを進むと、校門が見えてきた。

 

「ほら、校門が見えてきたよ。あと少しだから頑張って」

 

僕が微笑みながら励ますと、夢依は

 

(うん、頑張る)

 

と意気込んだ。校門を通りぬけ暫く歩いて行くと……。

 

「……よう」

 

玄関前で待ち受けていたのは、壁にもたれて腕を組んでいる大男……大道淳がいた。

 

「おはよう」

 

「お……おはよう」

 

普通に挨拶する夢依の後に、少し戸惑いながら挨拶する僕。

 

ぶっきらぼうに挨拶を返してくる淳。

 

(少し不機嫌そうに見えるのは僕だけなのかな……?)

 

そう思った瞬間、何を思ったか分からないけど淳が僕の腕を引っ張り校舎裏へ共に消えてった。

 

「ちょっとこっちへ来い」

 

「え、えぇぇぇぇ?!ちょっ……!」

 

いきなりの出来事に、唖然とすることしか出来ない夢依。僕は校舎裏の木々が生い茂っている場所へ連れてかれ、そこでようやく淳の足が止まった。

 

「なんでこんな場所へ……」

 

「あの皇女が居ると、話しづらいことだからな」

 

なにか嫌な予感がする。予想が外れていることを願いつつ、聞いてみた。

 

「話し辛いことって……?」

 

正直、僕の心臓ははちきれそうなほどに早くなっている。とてつもない緊張感だ。

 

「実は……思うことがあるんだ。お前とこの前あった女性……皇女と一緒に居た、春音という女性のことだ。今思い出して見比べてみると……瓜二つなんだ」

 

(そりゃあ春音は僕ですから……そう思うのも不思議じゃないと思うよ。でも、僕に女装癖があると思われても不快だ。ここは嘘を突き通さねば……)

 

内心苦笑いしつつも、言い訳を考えてた。そして考え抜いた結果……。

 

「春音……さん?へぇ、夢依にそんな友達が居たんだ。僕は今はじめてそのことを聞いたよ?」

 

「………」

 

シラを切ることにした。暫く僕の顔を見つめられたが、冷や汗をかきながら苦笑いする僕……そのせいかかなり怪しまれている。

 

「そうか……別人ならいいんだ、ただお前だったらどうしようかと思ってな」

 

「う、うん」

 

(どうするんだろう……)

 

と思う裏腹に、頭を下げて僕は謝った。ごめん、あれ……僕なんだよ。でも気づかないでくれてありがとう。

 

「話はそれだけ?」

 

早く夢依の所に戻りたい僕は、逃げるように歩き出そうとすると……また腕を掴まれた。

 

「待て、話はまだ終わってない」

 

「次は何の話?」

 

淳は僕の腕を離し、僕は淳の方に振り向いた。

 

「今日入学式の後にある魔力測定、それで勝負だ」

 

(……はぁ?」

 

僕は唖然としてポカンと口を開けてしまった。それどころか心の声と実際に出た声が重なった。

 

「な、なんで唐突に勝負なんか……」

 

「決まってるだろう、この前勝てなかったのは俺の油断のせいだ。魔力武装を破壊することなんて、魔力武装同士で打ち合った時にしか考えられない。お前の強さには何か裏があるはずだ、それを今日暴かせてもらおう!」

 

別に裏なんて無いんだけどね、ただ魔力武装に宿ってる魔力や加護を一瞬で奪い取り、冬の枝木の様に脆くして砕く……ただそれだけの単純作業なのだ。

 

「う~ん……正直乗り気じゃないけど、挑まれたのなら受けて立つよ。正面から叩き潰したげる」

 

僕が少し殺気を放って言うと、大道が喉を鳴らしながら硬直してるのが分かった。僕はすぐに殺気を解いて笑う。

 

「……ふふ、そんなに警戒しなさんな。只の魔力測定じゃないか」

 

「……っ」

 

殺気から解き放たれた淳は、冷や汗をかきながら片膝を着いた。そこまで強い殺気を放っていたわけじゃないんだけど……。

 

「ご、ごめん……大丈夫?」

 

慌てて手を差し出すと、凄く汗ばんだ手で僕の手を掴み立ち上がる。

 

「あぁ……問題ない」

 

立ち上がるとすぐに僕の手を離し、ポケットに入れる。

 

「じゃっ、僕は夢依の所に戻るね」

 

「……あぁ」

 

僕は淳に背を向けて歩いて去っていく。早く戻らないとなんか言われそうだしね……。




次回の登校は未定となっております、まだまだ続きますのでよろしくお願いいたします!!


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2項 魔力測定!

こんにちは、秋水です。

今回は、魔力測定のお話を綴ってみました!

正直単位はどうだって良かったんですが、単位があったらなんか良いかなと思い付けてみました。

変かなとも思ったんですが、もうこれでいいかなとも思えてきました(苦笑)


こうして玄関の所に戻ると案の定

 

(遅い!)

 

と言いたげな顔でこっちを見てくる。そして……。

 

「もう、遅いわよ!」

 

「ごめん、思ったより話が長引いちゃって」

 

これは事実だ。冬風は苦笑しつつも、夢依の所へと歩を進めた。

 

(まぁまぁ)

 

と夢依を宥めた。

 

「……それで、何の話をしてたのよ」

 

「いやぁ……宣戦布告されたよ。なんか魔力測定で勝負だ……なんて言われちゃってね」

 

「へぇ」

 

一瞬興味無さそうな顔に見えた。多分夢依にとってはどうでもいいことなんだと思う。

 

「まぁ……そんな感じだよ。それより早く体育館に行こう」

 

「そうね」

 

少し早足で体育館に向かった冬風と夢依。体育館のドアを開けると、大人数の人たちが居た。大体……4~5百人くらいは居るだろうか……すると、皆夢依の所に集まってきた。

 

「お、皇女様だ!」

 

「とても美しい……!」

 

その声を聞き、夢依は鼻を鳴らした。

 

「夢依、気分が良いのはわかるけど……とりあえず席に座ろうよ」

 

「そうね」

 

冬風と夢依は雄斗に指定された席に向かい座り、その数分後に入学式が始まった。式の最中も周りの視線が夢依に集中し、先生の話なんて聞いてなかった。冬風はと言うと、は普通に聞いていた。ただ……男性陣の

 

"何だあいつ?"

 

とか

 

"なんで皇女様の隣にあいつが居るんだよ"

 

とか言う鬱陶しい奴も多かった。逆に女性陣の場合は

 

"あの人男性?全くそんな風には見えないけど"

 

とか

 

"皇女様に負けず劣らず……同じくらい可憐"

 

なんていう人達まで居た。確かに見た目だけすれば、冬風は女性にしか見えないのかもしれない。……男物の制服着ているが。

 

周りの視線やヒソヒソ声に鬱陶しさを抱きつつも、無事に入学式は終わった。周りに意識が行っていたせいかとても早く感じた。

 

「終わったみたいだね。じゃあ早速クラス表見てこようよ」

 

僕が夢依に手を差し伸べると、少し恥ずかしそうに僕の手を掴んだ。

 

「う、うん」

 

こうして冬風と夢依は体育館を後にし、外に貼ってあるクラス表を見に行った。歩いている最中殺意の視線と、嫉妬の視線が冬風にずっと向いていたせいでいつもより疲れていた。

 

「あ、私冬風とおんなじクラスだ!」

 

嬉しそうにはしゃぐ夢依。

 

「そうだね。しかも席も隣みたいだよ?」

 

「本当?やったー!」

 

本当に無邪気に喜んでいた。冬風は内心で雄斗に感謝しつつ、教室へ向かい自分の席に座り、その隣の席に夢依が座った。冬風の席は窓側の一番後ろの席、その右隣が夢依だった。窓側の席は僕にとっては好都合で、一番目立ちにくい席である。

 

「ふぅ……」

 

疲れたように溜息をつくと、満面の笑みの夢依が話しかけてきた。

 

「どうしたの、もう疲れちゃった?」

 

「まぁね……こんなに人が多いとね」

 

目を細めてあたりを視線で見渡す、皆の視線はこっちを見ていた。特に男性陣は夢依を、女性陣は冬風を見ていた。男性陣の中で冬風に殺意の視線を送ってる奴も居たが、少し睨んだらすぐに目を逸らした。

 

「全く……この先が思いやられるよ」

 

そんなこんなで会話していると、教室のドアが開く音がした。皆がそこへ視線を向けると、少し若い大人の女性が入ってきた。その人は教卓の前までつかつか歩くと

 

「全員静かにしろ!そして席につけ!」

 

いきなり大声で喝を入れてきた。ものすごい気の強そうな人だなと思ったのが冬風の第一印象だ。夢依はその感じに少しビクッとしたけど、平然とした顔で教卓の方に体を向けた。

 

「私がここのクラスの担任になることになった、渡辺琴珠だ。一年間よろしくな!」

 

元気よく挨拶をした。クラスの皆はその人に気圧されたのか分からないが、皆も大声で返事をした。琴珠の見た目は、少し茶色がかった髪で長さは肩に少し掛かるくらい。身長は恐らく170はあると思う。全身スーツで、いかにもどこかの情報員というか……OLが似合っていそうだ。

 

「うむ……それじゃ、1番の奴から順番に自己紹介していけ」

 

一番の人に指差すと、その人は

 

"はい!"

 

と緊張を帯びた声で立ち上がった。それから着々と自己紹介が進んだ。途中、大道もいて驚きもした。そして順番は夢依に回ってきた。

 

「えっと……ユスティア王国第一皇女、渚夢依です。こんな身分ですが、蟠りなく接してくれると嬉しいです。」

 

ペコリと頭を下げると皆騒ぎ出した。

 

"うぉぉぉぉぉ!"

 

とか

 

"可愛い!"

 

などの声が聞こえる。そして順番巡り、いつの間にか冬風の番になっていた。

 

「月詠冬風です。よろしく」

 

そっけないというか、ぶっきらぼうな自己紹介をした後、ゆっくりと座った。皆の視線を見てみると

 

"変なの"

 

みたいな眼でこっちを見ていたのだが、意外と気にならなかった。別に皆と仲良くする必要が無い以上、愛想を振りまく必要なんて無いと思っていた。冬風はただ夢依を守るだけだと思っているのだから。

 

ともかく、これで全員の自己紹介が終わった。

 

「よ~し、全員の自己紹介も終わったことだし……全員講堂に集まれ」

 

ついに来た……魔力測定の時間だ。何故講堂かというと、機材が大きくて他のところじゃ入りきらなかったらしい。そんなこんなでクラスの皆全員で移動した。

 

「それじゃあ魔力測定をします。出席番号順なので、1番から図ってください!」

 

白衣を着た男性が声を上げる。そして1番の人から次々と図っていった。冬風の見ている限りでは、精々頑張っても3~4百ベクルが限界な人が多かった。つまり皆妖精としか契約できていないということになる。そんな中結構な魔力数値を叩きだしたものが居た。

 

そう、大道淳だ。彼は750ベクルという数字を叩き出し、魔力属性は土系統だ。契約精霊は(グノーム)。それがモニタリングされた瞬間、皆驚きの色を隠せてなかった。

 

淳は冬風の方をチラッと振り向き、鼻を鳴らしているように見えた。そして順番巡って、夢依の番になった。

 

「それじゃ、この金属を腕につけて……」

 

白衣の男性の指示に従い、テキパキと準備をしていく。そして魔力数値を測った

時……。

 

(1200ベクル 魔力属性:炎……契約精霊:サラマンダー 3000ベクル 魔力属性;炎)

 

とモニターに映し出された。炎の魔力属性を持つ人は多く居たけど、これほど高いのは初めて見た。ちなみに、今まで冬風が見た属性系統は(炎:風:土)の3種類だけだ。まだ他にも(水:雷:闇:聖)の属性が存在する。本来一人の人間には属性は1つしか宿らないが、一応僕は全属性を扱えるが、普段使っているのは(水)系統しか使ってない。魔力属性の変更には、少し時間がかかるからだ。例えば系統を水→雷にしたい時は

 

(属性変更、水の属性から雷の属性へ)

 

と唱える必要がある。正直言って面倒くさい。いろんな事考えてたら、あっという間に冬風の番になっていた。金具を付けてる最中後ろからヒソヒソ声で

 

「次はあいつだぜ」

 

「低かったら笑いものにしてやろう」

 

とか聞こえてきた。正直まともに図れたことがなかった……まだ幼稚園に上がるくらいの頃、何度か図ったことがある。結果は

 

(測定不能 魔力属性:不明)

 

だった。それを異質に見られて、人から距離を置くようになった。不用意に接すると、危険な目にあわせてしまう恐れがあるからだ。僕は息を整え、金具が付け終わるのを待つ。

 

「はい、それでは魔力を放ってください」

 

その声が聞こえると、冬風は少しずつ眼を開けながら魔力を開放した。開放するのは少しでいい、図るのは魔力原の方なのだから……。

 

そしてモニタリングされた僕の結果に、僕は言葉と血色を失った。

 

(測定不能 魔力属性:不明……契約者:不明 測定不能 魔力属性:水)

 

……またこうなってしまった。どうしてこうなってしまうんだろうかと思ってた。特に機械が故障しているわけじゃない、ただ冬風の魔力が得体のしれないだけなんだ…周りを見てみると、皆モニターを見て呆然と立ち尽くしているだけだった。夢依や淳ですら呆然としていた。

 

「はぁ……またか」

 

金具を外そうとした時、白衣の男に止められた。

 

「ま、まって。さっきのは表示バグかも知れない。もう一回図りなおそう」

 

僕は頷いた。しかし、何回図っても表示されるのは…

 

(測定不能 魔力属性:不明)

 

の文字だけだった。何回かすると突然こんな文字が移された。

 

(Warning これ以上の測定は機械が故障してしまう危険があります。直ちに中止してください。)

 

この表示を見て、白衣の男たちも黙りこんでしまった。

 

「……もう良いですよね、どうせこんな結果しか出ないんですから」

 

するりと金具を外し、夢依のところへ戻った。歩いてる最中、周りの視線は(殺意)からいつの間にか(畏怖)やら(恐れ)へと変わっているのに気がついた。夢依の側に立つと、夢依が優しく微笑んで慰めてくれた。

 

「大丈夫、冬風の強さなんて数値化出来ない。間近で見たものにしか、本当の強さは分かりはしない」

 

その言葉に泣きそうになった。なんでかは知らない……別に自分の結果に期待してたわけでもない、最初から分かりきっていたことなんだから。それでもやっぱり、自分の力を表せないと……少し自分でも恐怖を覚える。そして周りの視線やそれから感じる感情に心を削られていた。

 

「……ありがとう」

 

夢依に礼を言った……と言うよりもそれしか言う言葉が見つからなかったからだ。そして教室に戻り、自分の席で外を眺めていた。周りの視線が凄く痛く……どんどんと心が削られていくのが目に見えてわかりそうな程に、凄く心が痛んでいた。初日から凄く嫌な気分になり下手したら自暴自棄になっていたかもしれない。そんな中冬風の席に淳が近寄ってきた。

 

来るだろうと分かっていた冬風は、出来るだけ無表情で彼にこういった。

 

「測定お疲れ……僕の結果は見ただろう、昔から測れなかった。機械が……なんて言い訳はしないけど、そのせいで周りの人からは畏怖の眼で見られ、悍ましいとまで言われるこの始末……現状だってそうだ、あんなに敵意むき出しだったのにあの結果を見た途端……このザマだ。所詮君もあいつらと同じように軽蔑し、罵倒しに来たんだろ?勝負の件は無かったことにしてくれ……」

 

なるべく無表情で言い放った……はずなのに、淳に顔を向けることが出来なかった。理由は……彼も軽蔑のような眼差しで見てると思ったから。だから怖くて向けなかった。

 

だが…

 

「いや、俺はそんな眼でお前を見たりなんかしない。お前が強くて、凄い奴だということは拳を交えた俺だからこそ分かる。罵倒や軽蔑なんてのは本当の実力も知らず、思い通りに行かなかった奴らの悔し紛れの台詞さ」

 

冬風は心底驚いた表情で淳の顔を見た。すると淳の表情には(畏怖)や(軽蔑)と言った感情は全く無く、ただ真っ直ぐで……真剣な表情が冬風に向けられてた。その表情を見てそれがお世辞なんかじゃないってことは……一目瞭然だった。

 

「全く……君は馬鹿なんだか純粋なんだか……。でも、そう言ってくれる人は夢依と君だけだよ……ありがと」

 

心なしか、冬風の表情は柔らかく微笑んでいた。だが……視界が凄くぼやけていた。頬に何かが伝って落ちる感触がある。冬風は……泣いていた。淳と夢依、そして皆の前で……それに気づくと急いで涙を拭った。

 

「は、ははは……見苦しいところを見せてゴメンな。全く、泣き虫のまんまじゃないか……僕は」

 

拭っても拭っても溢れ出る涙。冬風は教室から逃げるように飛び出し、誰もいない屋上のドアの前で泣いた。声を殺しつつ、堪えながら……すると、背中に誰かが抱きつく感触がした。

 

「冬風」

 

抱きしめた人の正体は、夢依だった。淳も一緒に居た。2人共後を追ってきたのだろうかと思った。

 

「夢依……ごめん、こんな恥ずかしい所見せちゃって……泣くつもりはなかったんだけど、勝手に……出ちゃうんだ」

 

袖で涙を拭い去り、溢れる涙を必死に抑え微笑んだ。そして、夢依も微笑んでくれた。

 

「人間は誰だって泣きたい時くらいあるわよ。それに決して泣き虫は恥じゃない、泣き虫は心がすごく優しいって証拠なの。だから……泣きたい時に泣けばいいのよ」

 

そう言って頭を優しく撫でてくれた、淳も(元気出せ)と言って冬風の頬を引っ張ってきた。ちょっと痛かったけど、それが彼なりの励まし方なのだろう。すると、雅が出てきて優しく頬を撫でてくれた。

 

「……ありがとう、2人のおかげで元気が出てきたよ」

 

「いいんだ、困ったこととか苦しいこととかあったら迷わず俺に言えよ。出来る限りのことはしてやれるつもりだ」

 

「私にも言ってね、何時でも相談に乗るから。だから……さ、重荷を全て自分で抱え込もうとしないで。私も一緒に背負うから」

 

「俺も背負ってやるよ」

 

「前にも言ったと思うけど、私も背負うわよ。約束を果たす前に壊れられちゃったら悲しいもの」

 

普通だったら冬風が夢依に言う立場なはずだったのに……何故か逆転しちゃっていた。

 

でも、凄く嬉しい。ここに来て初めて、仲間が出来た気がした。

 

「ありがと……でもそれだと先に2人が参っちゃうよ。だからさ、重荷は3人で……いや、雅も含めて4人で背負っていこう」

 

「ふっ……まさか俺達の心配までされるとはな」

 

「冬風らしいわね」

 

「全く……ね」

 

皆に苦笑いされた。冬風はキョトンとした表情で

 

(え、何か可笑しいことでも言った?)

 

と呟いた。

 

「だがまぁ……そうだな、そうするか」

 

「いつも守ってもらってばっかではいけないもの、少し位自分で何とか出来るように頑張ってみるわ」

 

「私の力を信じなさい、それに貴方自身の力も……」

 

「うん……!」

 

僕は心の底からの……満面の微笑みで答えた。

 

夢依も淳も雅も僕が僕が守る……いや、守ってみせる。

 

新たにそう決意を心に固め、ようやく落ち着いた冬風は

 

(さぁ、教室に戻ろう)

 

と言った。




3頁の投稿は、翌日を予定しております


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3頁 新たな巣

今回は、ちょっと中途半端な所で区切ってしまったかな?と思っています。

ですが、次回も中途半端になりそうなんですよね……(苦笑)




雅は神界へと戻っていき、3人で教室に戻っていった。教室に入ると、皆の視線が少し柔らかくなった気がしていた。気のせいかもしれないが、とにかく胸を張って頑張ろうと思った。

 

……誰も認めてくれなくったっていい、僕は僕の決意を貫くだけだ。

 

そう冬風は、心の中で別の決意を固めた。

 

 

こうして今日の学校でのイベントは終わった。なんか今日はドッと疲れた感じがしたなと思いながらも、冬風は鞄に荷物を詰め込み夢依の方に向かった。

 

「ようやく終わったね……確か今日から寮生活だっけ?男性寮と女子寮は反対側だから、流石に女子寮までは行けないけど校門近くまでなら送るよ」

 

「そうね、何なら冬風も女子寮に行く?」

 

「ごめん……その冗談は冗談に聞こえないからやめて欲しい」

 

「むぅ……」

 

冬風が苦笑いして即答すると、少し不機嫌そうな顔をした。

 

「冬風ならバレないと思ったのに……」

 

なんて怖い呟きながらそんな感じなことを話し合っていると……淳が僕の側に寄ってきた。

 

「別にいいだろ、女子寮の中まで送る必要はない。玄関口まで送ってやれば」

 

「その案があったわ!」

 

う~ん……と冬風は首をひねらせた。確かに玄関口までは良いのかもしれないと微かに思った。

 

(いや待て……でもそこまで行った場合、夢依に強引に中まで連れて行かれそうなんだよなぁ。そうなった場合僕はこの学園で変態扱いされてしまう、それだけは阻止せねば……)

 

心の中で考えていたが、他に策はないと思い条件付きで了解した。

 

「分かった、送るよ……ただし”玄関口まで”だからね?」

 

玄関口までをを強調すると、夢依が少し顔をしかめた……恐らく冬風の推測は当たっていたのだと思う。正直こう言えてホッとしていた。淳も苦笑いしてたのを見ると、察してくれたようだ。

 

 

「とにかく行こう」

 

「そうね」

 

「あぁ」

 

こうして3人で教室を後にした。冬風達は外に出て、校門のところまで行った。そこで淳が待っていてくれるらしく、冬風は夢依と女子寮の所まで歩を進めた。

 

歩いてる最中後ろの髪に違和感を感じた。気になって触ってみると……いつの間にか髪を留める紐が無くなっており、髪がふわふわと風に揺れているのを感じた。

 

別に髪を留めなくても良いんだけど……なんか落ち着かないな。

 

周りを見回してみると、夢依が

 

(ふふん)

 

と鼻を鳴らしながら、冬風の髪留めの紐を握っていた。

 

そうか、犯人はこの人か。

 

「ちょっ……なんでここで取るのさ、返してよ」

 

「えぇ~……どうしようかな~」

 

少し困ったような表情を浮かべながら言うと、楽しそうな顔をしながら焦らしてくる。

 

完全に遊ばれている……。

 

「それが無いと本当に困るんだよ……いざという時に動きづらいし、それに周りの視線が……」

 

辺りをぐるっと見回した。すると……大勢の女子が冬風と夢依を囲っていることに気付く。

 

「はぁ……良かったね夢依、人気者で」

 

多分本人も気づいていると思うが、あえてこう言った。本当なら夢依を守るための人が当の本人より目立ってはいけないと思ったからだ。周りの声を聞いていると、明らかに冬風のことを言ってるように聞こえた。

 

「皇女様と一緒にいらっしゃる人……男の人の格好をしているけど女性なのかしら?」

 

「女性にしては胸の膨らみがないわね……」

 

「サラシでも巻いているのでは?」

 

「「あぁ~」」

 

……ここにいる人たちの視線が痛い。だって皆僕の事を

 

(男装女子)

 

という視線で見てくるんだもん。夢依の方を見てみると、楽しそうに微笑んでいた。

 

(いやいや、普通は夢依が注目されるべき人なんじゃないかな~……)

 

そんなことを思っていると、一人の女声が冬風に話しかけてきた。

 

「あ、あの……貴方は……男装している女性なのですか?」

 

「いえ、男性ですよ。夢依を寮の玄関まで送り届けてる最中です」

 

微笑んで即答した。その微笑みの裏には困惑や戸惑いなどの感情も含みながら……そういうと、全員が驚いた。

 

「「「え、えぇぇぇ!!??」」」

 

「皆驚き過ぎだよ……」

 

本当にどうしてこうなったし……。

 

「ねぇ、僕ってそんなに女性に見えるの?」

 

さっき訪ねてきた女性に、今度は訪ね返した。夢依だけの評価じゃ少し不安が残っていた。

 

「あ……はい、それは……その、ものすごく……美しいと……思います」

 

そう言われた瞬間、僕の口からはため息が溢れていた。訪ねた女性に礼を言い、ゆっくりと眼を閉じた。腕を前に伸ばし掌を上に向けて顕現を口にする。

 

「……エーテルオブジェクト作成、材質は水、形を形成。形をそのままにし材質を水から糸に変更……生成」

 

夢依や周りの人達は不思議な顔をしながら冬風の方に視線を向けた。すると掌に水が集まってきているのが分かる。その水が紐状に形成され、魔力を加えると水が糸に変わった。その瞬間、驚きの声で包まれた。

 

「何あれ……錬金術?」

 

「それとも魔力で作ってるのでしょうか……」

 

確かに疑問に思う人が多いかも知れない。冬風は生成した紐を咥え、両手で後ろの髪を集めた。片手で集めた髪を持ち、もう片方の手で咥えた紐を取りそれを髪に巻きつけ縛った。

 

「これは多少魔力が多い人で、尚且つ質量のことを分かっているなら誰でも出来るよ。自分の魔力で形を形成し、それを魔力で違う素材に変える。ちょっと消費が激しいけど、問題ないはずだよ」

 

縛りながら言うと、皆納得したような、出来ないような顔で見てきた。

 

まぁ……見たからってそう簡単に出来るようなものじゃないから少し練習は必要だと思うけどね……。

 

内心そう思っているが、それを隠し優しく解説してあげた。

 

「この技術に必要なのは……錬金術の仕組みとちょっとの知識と、自分の属性の把握……あとは想像力だ。頭の中でイメージ出来ないと、形すら作れないからね」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「難しそうですわ」

 

えぇ~……簡単に説明したつもりなのだが、それすら理解してもらえないのか……。

 

「と、とにかくこのままじゃ日も暮れちゃうし……歩きながら説明するよ」

 

こうして冬風は歩きながら説明するはめになっていた。

 

夢依はと言うと……。

 

「………」

 

何を作ろうとしてるのか見当も付かないが、真剣な表情で解説を聞いていた。後が怖いと内心思った冬風……。

 

話しながら歩いていると、時間が過ぎるのが早く感じる。あっという間に女子寮の前まで来てしまった。

 

道中で説明できることはしたし、これでようやく開放される……と思った矢先。

 

「……っと、まぁこんな感じだよ。おっと……もう女子寮に着いたから、僕はそろそろこの辺で男子寮に戻らせてもらうよ……?」

 

冬風が校門に戻ろうとすると、夢依が服の裾を引っ張ってきた。

 

「ちょ……夢依?僕早く戻らないと……淳待たせているから」

 

困惑しつつ言った……のだが、夢依は離してくれない。嫌な予感がする……。

 

「ねぇ冬風……折角ここまで来たんだからさ、私の部屋の片付け手伝って欲しい

な……?」

 

甘えるような声で、上目遣いでしがみついてきた。

 

そんな顔をされると非常に断り辛いのだが……今回ばかりはそうは行かない。

 

「だ、駄目だよ。男性の僕が女子寮に足を踏み入れたら、色々まずい事に…」

 

「大丈夫、皆冬風の事女性と見てるから。言わなきゃばれないわよ」

 

「そういう問題じゃないの、体つきとか法的にというか……そんなことしたら、伯父様に怒られてしまうよ」

 

実質そのとおりだと思う。まだ付き合ってるわけでもないのに、女性の部屋に無闇に足を踏み入れたりなんかしたら……世間的にも死んでしまうし、恐らく彦道に怒られてしまう……と咄嗟に言ったが、これは嘘だ。多分あの方はそういうことは気にしない人だからだ。

 

「そっか……お祖父様に怒られるのはちょっとやだな」

 

少し俯きながら呟く夢依。冬風はその頭を優しく撫で、提案を出した。

 

「もし手伝いが必要なら、雅が良ければ雅に行ってもらうことにするよ。多分暇してると思うし」

 

そういった瞬間、背後から雅の声が聞こえた。

 

「夢依の部屋の手伝い?別にいいわよ……?」

 

「そうか、じゃあお願いするよ」

 

「任せなさい」

 

ドンッと胸を叩き夢依の所に行った。夢依は渋々了解してくれて、冬風はようやく自由になった。回りにいた女性たちは、夢依と一緒に中に入っていった。

 

「さて、早く戻らなきゃ……」

 

呟きながら早足で校門の方へ戻った。戻ると、淳がいかにも待ちくたびれたという表情で話しかけてきた。

 

「遅いぞ……かなり話が盛り上がっていたと見えるが?」

 

「あぁ……うん、しかも多くの女性に囲まれて、しかも玄関先で夢依に部屋の整理手伝えって言われて……結局雅に任せたけどね。雅なら女性だから、入っても何の問題もないと思うし。」

 

「お、おう……」

 

話を聞いてる淳も、思わず苦笑いしていた。恐らく容易に想像できたのであろう。

 

「じゃあ、僕達も寮に戻りますか!」

 

「だな」

 

冬風達は2人で校門前を後にした。道中さっきの話を細かく説明してると、話の最中に数人の男性が声をかけてきた。

 

「おや、今日は彼女連れっすか?羨ましいですね~」

 

「でも、男の服装来ているみたいっすけど……まさか、淳さんそっちの趣味が……?」

 

よく見ると、冬風が夢依と初めてあった時に倒した人たちだった。

 

「いえ、僕は女性ではなく男性ですよ」

 

そういうと、さっきの女子達と同じ反応をしていた。

 

「「「えぇぇぇぇ?!まじか~!!」」」

 

いい加減この反応も見飽きてきたと、内心思っていた。冬風は思わず苦笑いに、淳も苦笑いだった。

 

「いいから先に戻ってろお前ら。こいつのことは後でこいつ自身に聞け」

 

「え……」

 

今度は冬風が驚いた。なんで本人に振るのか……解せなかった。

 

(確かに自分のことは自分しか知らないって言うけど、大まかなことは淳が説明しても平気なはずでしょ……?)

 

と思いつつも、頷くことにした。淳の手下らしき人たちはそれで納得すると、早々に寮へ戻っていった。2人も戻り玄関に入りそのまま行くと、掲示板と寮内図が貼ってあった。大浴場があるのを見る限りじゃ、個々の部屋には風呂はついてないようだ。部屋の数は全部で(30号室)まであるらしい。

 

さらにこの寮は旅館と同じ仕組で、部屋への扉を開けると靴を脱ぐスペースがあるらしい。靴を脱いで少し進むと、右手にトイレがあるらしい。まっすぐ進むと部屋だ。スペースは16畳半らしく結構広いと思う。寮の1Fには食堂があり食 事はそこでとるらしい。

 

2人は一通り寮内図に目を通し、玄関の端にある(管理人の窓口)と書いてある小さな出窓をノックした。すると中から若い女性の人が出てきた

「は~い……もしかして寮に入る人?なら……はい、これ鍵」

 

その女性は笑いながら鍵を渡してきた。

 

冬風の部屋は(24号室)、淳の番号は(25号室)

 

だった。つまり隣の部屋だ。ここの寮は来た人順らしく、これで25号まで埋まったことになる。

 

「私は管理人の秋疾真珠よ、よろしくね」

 

元気に自己紹介してきた。2人も自己紹介を済ませ、各部屋へ向かった。




次回は、出来るだけ半端にならないように頑張りたいと思います。


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