BBちゃんのFate/Zero (火影みみみ)
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番外編:BBちゃんのFate/ stay night 

ちょっと私用で遅れてしまってすいません
もう少し遅くなりそうなので本編より先にアイデアだけあった番外編を投稿します
こっちはプロットがほとんどないので更新は未定になります(もしかしたら設定の見落としとかもあるかもしれません)
感想返しも本編更新時に
ではまた


 目が覚めると暗い洞窟のような、いや人の手が加わったような感じから察するにドームのような広い場所に私はいた。広さはおそらく、ちょっとした中庭程度はありそう。

 冷たい地面の感触、これはコンクリート? 固い地面と冷たい感触からそう思った。

 頭痛がする。頭に手を当て、体を起こしてあたりを見渡す。

 ふと体を見てみると見慣れない制服を着ていた。そのことが私の混乱を加速させる。私がこの服を着た記憶も持っていた記憶もない。一体誰が何の目的でこんなことをしたのだろうか。

 

「ううぅ、何なの……、私は一体」

 

 どうしたのかしら、と続けようとして私は固まった。

 暗さに目が慣れたのか、それともただ視界に入らなかっただけか、どちらかはわからないけれど、今この瞬間、私は【それら】を認識した。

 

 それは蟲だった。虫ではなく蟲と表現したほうが良いかもしれない。

 私が知る限りでは現実には存在しないような奇怪な蟲、その卑猥な形のものから鎧のようなごつごつとした形の蟲が確認した限りではいた。

 それも一匹や二匹ではない。私の周囲一メートル以外の地面はほとんどその蟲に覆われるほどの大量の蟲。百かそれとも千か、それを見た瞬間私は数える気を失った。

 

「何よこれ、本当に何がどうなってるのよ」

 

 私は思ったことをそのまま口に出す。

 そして強く願ってしまった。

 

 『今何が起こっているのかを知りたい』と。

 

 ズキン、と頭痛がした。

 

「え?」

 

 頭痛がした。頭痛がした。割れるような頭痛が頭痛が頭痛ががががががっがががあっがががががっがあっがががが痛い嫌痛い痛い痛いいいいああいい痛たたたったたいいあいたいあい割れ頭が割れ痛い痛い苦し苦苦苦しい痛い死ぬ痛い痛痛たたったたたたた――。

 

「―――――――――――――――――――ッ!!」

 

 私は叫んだ。未知の感覚が痛みと主に私の中に入って来たから。肺の中の空気が空になると思うほど叫んだ。

 それは記憶だった。物心ついたころから高校生の現在に至るまでのとある少女の記憶。

 それは凌辱の記憶であり、苦痛の記憶であり、諦めの入った恋の記憶。それに加え私についての記録もあった。

 それを一度に頭に叩き込まれたからか、耐え難い痛みとなって私にあらわれたのだろう。

 

 だけどすべてを理解した。

 ここがどこで、私が誰で、そして……私に何ができるのかを理解させられた。

 

「ああもう、不愉快極まりないですね」

 

 吐き気がする。現状を理解して心に余裕ができたからか、先ほどの未知への恐怖より怒りと不快感が上回った。

 目を閉じると感じる。私の中にもう一人がいる感覚。いや、むしろ私が彼女の中に生まれたと考えたほうがあっているかもしれない。

 いや完全に乗っ取る形で転生しなくてよかった。もし彼女を消してしまっていたら首をくくっていたところだ。

 今は眠っているようで、自分の体を勝手に動かされているにもかかわらず何の反応もない。まあ、それはそれで好都合だ。

 

「こうなるならもっと早く、それこそ遠坂時代辺りにでも目が覚めてくれればよかったものを、この時代じゃあもうほとんど手遅れじゃないですか」

 

 本当に不愉快極まりない。蟲によって少女は凌辱され尽し、体内には蟲と穢れた聖杯の欠片を埋め込まれ、聖杯の泥によって災害が発生して死者が多数、聖杯の女であったホムンクルスとその夫であった男は死に、その娘は実家で歪められた情報による教育の真っ最中でその上短命ときている。これを手遅れと言わないで何というのだろう。

 ああ頭が痛い。本当に頭にくる。

 今更私に何をしろというのか。このまま眠り続けてシナリオ通りに進んだほうがよかったのではないだろうか。

 

「ああもう!」

 

 怒りに任せ、私は力任せに地面を叩きつける。

 轟音が響き、コンクリートと思われた地面は私の拳を中心にクレーターが生まれたかと思うとクモの巣状のヒビが今場所全体にはしり、壁にも亀裂が生まれる

 その余波で蟲が何割か破裂したが、そんなことは知ったことではない。

 

「……ああそうでしたね、今の私だと力加減を考えなきゃいけないんでしたね」

 

 そう言って叩きつけた拳を開いたり閉じたりして問題がないか確かめる。

 与えられた記録通りのスペックなのか、私の手には傷一つない。

 不用意に物にもあたれないとは不便な体だこと。

 

「何やら騒々しいことじゃ、のう桜」

 

 忌々しい声がした。

 嫌々ながら声のした方へ顔を向けると一番みたくない顔があった。

 坊主頭に和服の老人。杖を突いて部屋の端に設けられた階段の上からこちらを見下ろすその瞳には老人とは思えない程ギラギラとした強い意思が宿っている。

 

「誰かと思えば蟲爺ですか、ほんと見たくありませんでした」

 

 私の、いや桜の口からでた自身に対する反逆ともとれる言葉に、蟲爺が一瞬呆気にとられるが、すぐにいつもの嫌な顔に戻る。

 

「ほう、少し見ぬ間に生意気な口がきけるようになったもんじゃ」

 

 じゃが、少々お仕置きが必要じゃな、と彼は周囲にいた蟲に指示を出し、私を襲わせようとする。いつものように、この少女にやっているように。

 

「なんじゃ、どういうことじゃ……」

 

 しかし蟲は動かない。主である蟲爺の指示に叛き、私に近づこうともしない。

 

「蟲たちはわかっているんですよ、私には誰も逆らえない、私を傷つけることはできないって」

 

 そう私は蟲爺の真横(・・)でつぶやいた。

 それに驚いたのか、蟲爺が勢いよくこちらを振り返る。

 そして攻撃態勢にうつろうとしたのだろうけれども、遅い。

 

「じゃあ、消えてください 」

 

 私は振り上げた拳をこいつに叩きつける。

 今度はちゃんと手加減したけれど、それでもこいつの体をつぶすには十分だったようで、まず頭と地面が一体化して、次の瞬間には大量の蟲の死骸となって散らばった。

 

「ああ、そうでしたね、まだ一匹いましたね」

 

 その蟲の死骸を見て、思い出す。

 十年前ならいざ知らず、今のこの蟲爺の体は偽物、本体は別の場所にいたはずだ。

 そう。

 

「こんな所に害虫が一匹」

 

 そう言って、私は自分の胸に右手を埋める。そう、文字通り肉をかき分け、血液で手を濡らしながら自分の体にその手を埋めていく。

 

 そうして肉をかき分け、心臓に到達するとその一部を引きちぎり、体外に取り出す。

 それは普通の人間には致命傷と呼ぶに十分な傷のはずだった。しかし、彼女はそんなことは意にも介さず、一気に引き抜いた。

 心臓の一部を破壊したにもかかわらず、その傷からあふれ出る血液はあまりにも少ない。いや、そもそも次の瞬間には傷跡さえ存在していなかった。通常の人間が見たら卒倒する光景の数々だが、幸いにかここには普通の人間はいない。

 

 彼女はその手に握っているのモノを見つめる。

 それは小さな蟲だった。矮小で無様で汚らわしい蟲。それを――。

 

「えい」

 

 という掛け声とともに握りつぶした。

 

「あ、気持ち悪かったので思わず握りつぶしちゃいました……、まあいいですよね」

 

 そう言って手に着いた蟲の体液を嫌そうな顔で振り払い、階段を上る。

 

「桜の記憶によると、……まだライダーは召喚してないようですね、でも令呪が浮き上がって聖杯戦争が始まるのも時間の問題ってところですか、ほんと時間ぎりぎりもはなはだしいですねえ」

 

 ため息をつき、階段を上る。

 

「いっそ大聖杯を破壊しちゃうのもいいかもしれませんが、ついでですしある程度はシナリオに沿って行動していきましょう、目標は……桜が衛宮士郎と恋仲になることでいいですね、ハーレムも可、です」

 

 目指せ、ギャグ時空の士郎。特にカーファン。

 しかし、それには邪魔な奴らがいる。

 言わずもがな、言峰と英雄王だ。あれらがいる限り、この物語に平和は訪れない。

 

「あーでも、どのルートをなぞるべきでしょうか……、HF()ルートは消え去りましたし、|Fate(セイバー)ルートじゃあ衛宮士郎さんの潜在能力を活かしきれません、となるUBW(アチャ男さん)ルートしかないですけど、……やっぱりどのルートでも退場者多すぎですね、もっとこうハートフルにできないのでしょうか」

 

 聖杯戦争を前提からの否定である。もともと殺しあいなのに何を言っているのかということになるけれど、彼らがいたほうが面白い。……バーサーカーさんはどうなんでしょう。あの人一切しゃべらないですし、何を思っているのかわかりません。いざとなったら紳士にしちゃいましょう。めんどいですし。

 

「さてはて、色々考えることが多いですけれど、彼らの生活を生で見れるのはいいことかもしれませんね」

 

 そう思っていると階段を上り切り、扉の前へ着く。

 少しの不安とこれから起こる出来事への期待を胸に、私はその扉を開いた。

 

 




こっちのBBちゃんの性能はステータスが全部EXに変更されているのと
サクラファイブが設定が明かされているものなら使えるという風に強化されています。
ほぼCCCのBBです。


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第1話

 とある屋敷の地下に存在する巨大な空間、蟲蔵と呼ばれその屋敷の住人にも忌み嫌われる場所に彼女はいた。紫色の服に身を包んだ歳は小学生ほどの、短く黒髪にリボンを付けたかわいらしい少女だ。

 幼い彼女の眼下に広がるは蟲。それも幾百、いや下手すると千にも到達しかねないほどの膨大な数の、矮小で劣悪な蟲どもだった。

 怯える彼女の背後に立つのは一人の老人。和服に身を包み、坊主頭で深いしわが刻まれたその顔は見る者を不快にさせるような嫌な笑みを浮かべている。

 その理由は単純だった。

 老人はこれから起こることを知っているから、この少女にこれから口にするのもおぞましい所業を行おうとしているのだから当然である。

 間桐臓硯とよばれる老人は、怯える少女の肩に手をかける。

 それは震える彼女を慰めるためのものではなく、むしろその逆そのままの意味で地獄へと突き落とすためのものだ。

 

 老人は乱暴に、彼女を突き落とす。

 

 彼女は抵抗しようとしたものの彼女の歳は小学生の低学年程度、いくら力がない老人相手とはいえあまりにも幼い過ぎた。

 悲鳴と共に彼女の体は重力に従って、老人の使い魔たる蟲たちの元へ落ちてゆく。

 後5秒もしないうちに彼女は蟲に飲み込まれ、未来永劫その記憶に今日これから起こる出来事を刻んだことだろう。体の隅々を凌辱しつくされ、いじくられ、改造されるのだから。

 

 彼女が蟲の群れに飲み込まれ成功を確信した老人はさらに深い笑みを浮かべた。それもそうだろう。彼から見た限りでは彼女はあることを除けば普通の少女、500年生きた彼を出し抜くことなどできるはずもなかったのだから。現に幾十幾百と同じくことを繰り返したとしても、彼女が助かることなど万に一つもない。

 

 

 

 そのはずだった。

 

 

「……?」

 

 最初に異変に気が付いたのはやはりというか、当然その老人だった。

 少女の悲鳴が聞こえない。余りにも静かすぎる。

 そして注目して視ること数秒、更なる異変を発見する。

 

「なんじゃ、あれは……」

 

 蟲の群れの中央、ちょうど少女が飲み込まれた所が淡く光り輝いているのだ。

 薄い青色の光が蟲たちの間から漏れて……、いや、先ほどまではそうだったが今はその蟲たちそのものが淡く光り輝いている。

 その異変は伝染する。中央から末端の蟲に、蟲蔵全ての蟲に伝播する。

 やがて全ての蟲が輝きを放つようになると、パシャリと水のような音を立てて溶けて弾けた。

 

「馬鹿な、ありえん」

 

 老人は目の前の出来事が信じられない、といったように目を見開いてそれを見ていた。

 それもそうだろう。こんなことが起こりうるはずはないのだから。

 蟲どもに命令を出そうとしても反応がない。それは蟲たちがもう存在していないことを意味していた。

 瞬く間に水へと変化し、全滅してしまった蟲たち。せめて母胎(さくら)だけでも確保しようと新たに蟲を呼び出そうとした時に、それは起こった。

 

 最初に響いたのは激しい水音だ。滝から落ちる水の音と聞き違うような激しい水音が蔵中に響き渡った。

 どうしてそんな音が聞こえたのかはすべてを見ていた老人には理解できていた。

 液体状になった蟲の残骸が、まるで台風のように渦を巻いて中央に収束し始めていたからだ。

 それはすぐに終わり、そこで初めて水以外のものが現れた。

 

 それを見て、老人は訝しげに目を細める。

 渦があった中心にいたのは、先ほど蟲に飲まれた少女だった。

 しかし、先ほどとはその風貌が変わっている。

 短かった髪は長く、黒かった髪は紫色に変わっていることもそうだが、何より目に付くのはその奇抜な恰好だ。

 上半身にコートのようなものを羽織ってはいるが、適正な大きさの胴体とは異なりあまりに長い袖のせいで両手ができってはいない。

 脚部にはか弱い少女の体に似合わず、固い鎧のような防具を纏い、その膝と足はまるで西洋の槍のように近づくものを鋭く突きさすような形状になっている。

 これらも奇抜なのだがそれより目を引くのは下半身、それも股間部だろう。

 

 彼女の胸から股間部までを覆う布、もしくは金属がほとんどないのだ。みっともない言い方をすれば大事な部分以外全部出していると言ったふうに。

 一応乙女の大事な部分は金属のようなモノで隠されてはいるが、それもあまりにも面積が少ない。普通の女の人ならこんなファッションは一部の特殊な場所でしかしないだろう。

 

 それを彼女は恥じることなく堂々としてその場に立っている。

 老人は我を忘れてそのことに驚愕していたが、すぐに思い直して彼女を観察する。

 彼女から漏れる人ならざる気配に見え覚えがあったのだ。

 

「まさか、あれはサーヴァントとだと言うのか」

 

 サーヴァント。それはとある儀式において召喚される歴史上の人物たちの総称だ。

 その力は現代の人間とは比較にならない程強力で、サーヴァントにただの人間が勝つことなど余程の偶然がない限りありえない。

 しかし、引っかかることがあった。

 まず、あの少女にはサーヴァントの主の証たる令呪が発現していなかったはずだ。蟲蔵に入れる前に入念に身体検査をしたのだから間違いがない。

 それにサーヴァントというものは実体を持ってこの世に顕現する。

 見たところあの少女以外に変化はなく、まるであの少女こそがサーヴァントだとでも言うように仁王立ちしている。

 だかそれはありえない。あれはただの人間だったはずだ。そう自らが考えたことを否定する。

 

 その一瞬が、老人にとって命とりだった。

 

「はじめましておじいさま、そしてさようなら」

 

 その声は、すぐ近くから聞こえてきた。

 瞬きをするくらいの一瞬の間に、少女は老人の目の前まで距離を縮めていた。

 少女が何をしたかと言えば簡単だ。ただ走っただけ。その走りが目にも止まらぬほど早さだっただけのことだ。

 

 彼女は膝に付けられた突起で、老人を突き刺す。

 老人は動くこともままならずに、胸の中央をその突起で貫かれる。

 しかし、その老人には恐怖の表情はない。なぜか? それは老人の体の秘密にあった。

 500年の長い時を生きる彼には人間としての体は既になく、老人の体は先ほど消えたのと同じ蟲でできていたのだ。本体とも呼べる蟲を殺されることがなければ、老人の体は何度でも別の蟲を代用して復活することができる。だからこそ、老人は余裕を保てた。

 

 今さっきまでは、の話だが。

 

「なんじゃと!?」

 

 体の、体中の蟲の制御が効かない。それどころか蟲が消えて、いや溶けていっている。

 ここに来て初めて老人の顔に恐怖の色が現れる。

 体を蟲にしてまで生き長らえた老人にとって死とはもっとも忌諱するものであった。

 ここで死ぬかもしれないという恐怖が老人を支配する。

 

「まあ、ここで殺しはしないわ。だってあなたは色々と使えるもの。桜のためにこの後の人生……蟲生?を使いなさい」

 

「貴様、い、たい……」

 

 もはや人間としての体を保つことができなくなった老人は服を残して文字通り崩れ落ちる。

 老人が最後に見たのは妖艶にほほ笑む、彼女の姿だった。

 

 

 

 

 

 




私の文章力はここで尽きた!
どうもクトゥグア信者です。
今まで別名でやってたのですがずいぶん前にエタッてしまいまして。
その間に新しい設定やらが出てきたり、考えがまとまらないうちに別のアイデアが出たりして、とりあえず別名で出すことにしました。

更新速度とかは未定です。
就職出来たら安定するかもしれません。

とりあえず何が言いたいかと言いますと、シリアスな文面はおそらくここだけになります、
あとはギャグやら一人称やらが多くなるので。
では、また会える日を願って。
また近いうちに。


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第2話 前編

「うえぇ……初変身が蟲蔵で、初ドレインが蟲&蟲爺とかマジで泣けてくるんですけど」

 

 蟲爺を消しさり、蟲蔵をあとにした私はそのままシャワーを浴びるべく屋敷の中を歩き回る。

 姿は変身したまま、少し恥ずかしかったので下半身をそこらのカーテンの一部を拝借して隠している。蟲爺の衣装? 使いたくないわ。

 

「あの光景はほんとトラウマものよね、桜が気絶してくれてよかったんだけど、後でなんとかしないとね、やっぱ子供に見せるものじゃないわ」

 

 さっきの光景を思い出して軽く気分が悪くなる。アニメ版とか漫画版とかゲーム版とか見たことあったけれど、あれはないわ、ほんとないわ。

 

「にしても、確か今が1990年代で桜が養子に出されてすぐだから……、だいたい一年後に第四次開戦ってところかしら、詳しい年代や日付は忘れてしまったけどやらないわけにはいけないわよね……」

 

 もうすでに物語からはだいぶ外れている。私がいて、蟲が全滅して、桜が助かって。もうこの時点でステイナイトには至らない気がする。

 蟲爺を消しちゃったからカリヤーンは死なないし、桜の体が改造されることもなければ黒桜になることもない。みんな幸せで良いことづくめ、に思えるがそうではない。

 まずステイナイトやZero共通の大型爆弾として大聖杯が残っている。もし私が何もしなければステイナイトにならないどころか冬木市が地図から消える事態にもなりかねない。あれをなんとかしなければこの後の人生にかかわる。

 

 もう一つの悩み、というよりかはこちらが本命且つもっとも重要な課題である。

 それは桜のこと。

 桜が救われたのよかったのだけれど、代わりに今後の桜の人生が大きく制限されてしまう形になってしまった。

 断言してしまうと、桜はもう一般人として過ごすことはできない。

 もし少しでも油断しようものなら、すぐに執行者がやってきて桜を監禁してしまうことだろう。

 そう断言できるだけの確証はある。まずは桜自身の魔術属性が【架空元素・虚数】であること。これはかなり珍しい属性で公式曰く『ちゃんとした魔術師の家にいないとホルマリン漬けが確定』してしまうくらいには珍しく貴重な属性らしいが、私たちにとっては厄ネタ極まりない。

 そんな厄介ごとに火に油どころか原油をタンクローリーごと叩き込む位に事態を悪化させているのが、私の存在だ。

 

 

 

 私のことを語るには、少し過去にさかのぼる必要がある。

 

 

 

 私意識が覚醒したのは桜がまだ遠坂と名乗っていたころだった。

 楽しそうにはしゃぐ二人の子供の声が私を目覚めさせた。

 

(ん、あれ? ここは?)

 

 どこまでも暗い、ただ暗黒が広がるそんな世界に私はいた。

 光はなくただどこかから外から聞こえているのであろう騒音や風、子供の声が聞こえた。

 ふと自分の体を確認して、驚いた。

 子供だ、それも3・4歳ほどの幼い子供の体たった。

 光のないはずの世界で私はそれをはっきり知覚することができた。

 

「ん~? どうなってるのよ、これ」

 

『だれ?』

 

 独り言を呟いた途端、誰かの声が返ってきた。

 驚いて辺りを再度見渡すが、誰どころか何もない。

 

『えっと、あなたはだれ? 妖精さん?』

 

 そう思っているとあちらから話しかけられてしまった。

 

「いや、私は妖精みたいなファンタジーな存在じゃないよ、ところであなたは今どこにいるの?」

 

『わたし? わたし今ね、お姉ちゃんと遊んでたの』

 

 なるほど、と私は顎に手を当てて考える。

 先ほど子供の声はおそらくこの子たちのものだろう。そして、二人は私と違ってこんな謎空間ではなく、ちゃんとした外があるところで遊んでいるのだと思われる。

 

「ねえ、ならそのお姉さんにも私の声って聞こえているのかしら?」

 

『お姉ちゃんには聞こえないみたい、さっきからきょろきょろしてるの』

 

 となると声が聞こえるのはこの子だけということになる。

 普通ではない状況に、普通では聞こえない声。私はその子の姉が聞けて、その姉に聞こえない私の声。

 不可解な出来事に頭を悩ませる。

 そう考え込んでいると、また新しい声が聞こえた。

 

『桜ちゃん、凛ちゃん、久しぶり』

 

『かりやおじさんだ!』

 

 若い男の声と、遠ざかる子供の声。

 

『あ、まってー』

 

 そしてそれを追いかける子供の走る音と荒い呼吸の音、風を切る音が耳に伝わる。時折肌に風が吹いているかのような冷たさが伝わってくる。

 

 嫌な予感がした。先ほど呼ばれた三人の名前もそうだが、今私がどこにいるのかわかってしまったかもしれない。しかし、その答えはあまりにも非現実的で、さらに最悪と言っていいほど非常事態だ。

 

 私は両手を口に当て、一言も話せないように息を殺す。

 私の考えが正しければこんなの無駄なのだろうけれど、そうぜずにはいられなかった。

 

『二人とも、そうはしゃがないの』

 

 優しそうな女の人の声がする。それもとても近い距離でだ。

 私のそばには誰もいない。いや、私の視界なんて関係ないのだ。

 

『あのねおじさん、さっき桜が変な声がするって言ってたの』

 

『変な声、それってどんな声だい?』

 

 

 外から私のことを話している声が聞こえる。

 大丈夫、落ち着くのよ。深呼吸でもいいから意識をちゃんと保ちなさい。

 

 私は意識を集中する。目を閉じ体の感覚を鋭敏にする。

 すると世界が少し明るくなったような気がした。

 近い。そう思った次の瞬間、外の世界の風景が私の視界に広がった。

 

 急激な変化に少し戸惑ったものの、私は不自由な視界の中で三人の人物を目撃する。

 一人は黒い髪の成年、一人は母親と思しき緑色のような髪の女、そして見覚えのあるツインテールの幼女。

 そう、三人だけ、私と話した後の一人はどこか? そんなの決まっている。

 

『えっとねえ、女の人の声だったの、今は聞こえなくなっちゃったけど』

 

 私の口がそう話す。私の意志に反して言葉を紡ぐ、いや違う。もとから彼女の体で、異物は私のほう。

 

 

 

 私は彼女、遠坂桜の中にいるのだから。

 

 

 

 

 その日の夜になり、桜が寝付いたあとから私は体を動かすことができた。

 混乱も時間をかければおさまり、今では冷静に状況を分析することができた。

 まずは私は転生したということ、前世の性別とかはあいまいだが知識だけはしっかりあるので、ここが型月の世界だということは認識できた。

 

 問題は私が桜の中にいるということ。

 おそらく二重人格のような形で私が転生したと思われるのだが、何もこんな厄介極まりない形で転生しなくてもいいだろうに。

 手を握っては開いてを繰り返し、感覚を確かめる。異常はない。

 

 しかし、未来(これからおこること)を考えると憂鬱だ。間桐にどなどなされた後に蟲爺の調教が待っている。これが憂鬱でなくて何だというのだろう。

 

 悲しい気持ちになり、ふと視線を別の方向へやると鏡があった。

 そこには物憂いげに目を細めるみんながよく知る間桐桜の姿があった。

 それを見て、ああ本当に転生したんだなという実感が持て……いやちょっとまて。

 

 もう一度深く鏡を見て、改めて自分の姿を見て気が付く。

 姿が変わっている。それもはっきりとした形で変化が生じていた。

 髪の長さと色、虹彩が変化している。

 短かったはずの髪は地面に届くかというほどの長髪になり、凛と同じ色だった目と髪の色は両方とも淡い紫色へと変わっている。

 

「これは、一体」

 

 この姿になるのはまだ10年以上先のはず。まだ桜は爺の調教を受けてないのに体が変化するはずもないし、髪が一日足らずでこんなに伸びることもない。

 となれば、これはおそらく私が原因だと考えたほうがいい。私が表に出た時だけ、桜の体が変化するのだろう。

 そうすると、私には秘められた力的な何かが存在しているのかもしれない。ただ変身できるだけとか残念すぎるからそう思いたい。

 

「あら?」

 

 そう思って適当に腕を振ると、何らや鞭のような物が私の手の中に納まっていた。

 ああ、なるほどね。それを見た途端、私はそれの使い方と、どうして見た目が変化したのかを理解できた。

 

「桜は桜でも私はエクストラの桜、というわけね」

 

 しかもBBの方である。チート万歳。これで未来は安泰かな、と思い自身のステータスを確認しようと何度も念じていると、それっぽいものが脳内に浮かんだ。

 ワクワク気分で私はそれを見て、驚愕した。

 

 

 【真名】間桐桜

 

 【ステータス】筋力:D 耐久:E 敏捷:D 魔力:A 幸運:B 宝具:?

 

 【スキル】黄金の杯:B

      自己改造:B

      十の王冠:B

      百獣母胎(ポトニア・テローン):B

 

 【宝具】C.C.C.(カースド・カッティング・クレーター):使用不能

     サクラファイブ:二体まで使用可能

 

 

 目に見えて劣化していた。まあ十分と言っちゃ十分なのだけれど、元から考えるとすごい劣化だった。元となったキャラはすべてEX以上だったのだから。

 それに見慣れない宝具もある。桜ファイブ? そんな宝具は存在しなかったはずだけれど……。

 意識をサクラファイブと呼ばれるものに集中してみると、さらに項目が現れる。

 

 

 

 サクラファイブ:【メルトリリス:変身可能】【パッションリップ:変身可能】【使用不能】【使用不能】【使用不能】

 

 

 

 なるほど、だいたい理解した。

 つまりはこれは変身宝具なのだろう。私が選択することでどこぞのプリズマよろしくアルターエゴと呼ばれた彼女たちに変身できる、と言ったところか。

 早速試してみたいところだけれど、ここは場所が悪い。

 遠坂時臣がいる。あいつにばれたらきっとろくでもないことになるだろう。最悪凛が間桐にドナドナされるかもしれない。

 それでは後味が悪い。桜が助かって代わりに凛が不幸になるようでは意味がない。

 

「……まあ時間はあるし、ゆっくり考えるとしますか」

 

 そう結論を先送りにして、私はベッドに横たわる。

 幼いからだ故か、睡魔はすぐに襲い掛かり、私は眠りについた。

 

 



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第2話 後編

 私が目覚めて数日が過ぎた。と言っても私は何をするでもなく、ただただ桜の視界から彼女の送る1日を眺めているくらいしかすることがなかった。

 アルターエゴの性能は概ねccc通りのスペックとなっているようで、宝具もステータスもそのままなのはありがたかった。こちらまで弱体化していたら本当に余裕がなくなっていたかもしれない。ただ、問題がなかったわけではない。

 cccやその前作のエクストラは現実ではなく電脳空間での聖杯戦争を行っているため、こちら側つまりはステイナイトやZeroとは形式がかなり異なる。

 パッションリップはあまり変化がないが、メルトリリスは違う。

 彼女は電脳空間そのものにハッキングを仕掛け、自分を無敵化したりレベルを上限の999まで上げるというチート行為を得意としてきたが、こちら側ではそれはできないだろう。

 

 それを考えると私の基本ステータスやスキルが大幅に弱体化したのもうなずける。

 あれはBBが電脳空間で行った自己拡張や他のサーヴァントを吸収した結果なので、最初から生まれ持つことはない。むしろここまで残っていることが幸運かもしれない。

 

 それにしても、と私は思う。

 

 毎日を幸せそうに送る二人や、それを優しく見守る父と母、ついでにカリヤーンを見ていると、ここが本当にZeroの世界なのか疑わしくなる。

 この少女があんな悲惨な目にあうのか、父は魔術師らしい魔術師なのか、雁夜はぼろぼろになった末に死ぬのか、疑わしくなる。

 いや、きっとそうなるんだろう。

 注目してみればわかるが父の、遠坂時臣の桜と凛を見る視線に何か悩んでいるといったような感情が含まれている。

 考えるまでもなく、あれは悩んでいるのだろう。桜か凛、どちらに後を継がせるべきなのかを。ま、結局は凛が継ぐことになるけどね。凛の魔術属性のほうが扱いやすいし。

それに時臣は嫌いだけど凛は大好きよ、私。遠坂の跡取りになったからステイナイトの凛がいるわけだし、そう言う意味では両親に感謝している。

 

 だけど、だけどね。どうしても桜の境遇には納得いかない。

 確かにあの設定と境遇は必要だったのかもしれないし、HFは最高と言っていい。

 けどね、桜の境遇は悲しすぎると思うの。純潔を蟲なんぞに奪われて、体を改造されて、ワカメにいじめられ、HFルートでは思いがかなったものの大虐殺しちゃうし。

 

 だからこそZeroの二次創作界隈では桜救済が一つの目標になってたりするけれど、現在進行形でタイムリミットが迫っている私は一体どうしたら良いのかしら……。

 

 読んだり見るのはまだ感情移入する程度で済むけれど、桜の中にいる私はその感覚がダイレクトに伝わってしまう。体を共有しているわけだから当たり前なわけで、桜のピンチ=私のピンチというわけ、泣けてくるわね。

 あの拷問は小さい桜だったからステイナイトまで耐えることができたわけで、ある程度の感性と価値観を持ち合わせている私だと耐えられる自信がない。蟲は嫌いだし。

 

 となると私自身がどうこうするしかないのだが、一つ問題が発生する。

 

 この世界には魔術協会と言った組織があることは型月ファンなら周知の事実だけれど、その中に厄介なものが存在している。

 それは【封印指定】とよばれ、それは魔術師にとっては最高の栄誉であり、同時に厄介ごとでもあるという。細かいことは省くけれど、それを受けてしまうとその人は永遠に保護という名の監禁をされてしまう。研究第一な魔術師にとってはたまったものではない。

 そして、その指定される条件は単純で【一代限りで受け継がれることのない希少な能力を持つ】こと。作品内の例を上げるなら最高の人形師である蒼崎橙子が有名かしら。

 このことを念頭に置いて今の桜の状況を考えてみてほしい。

 

 ①架空元素・虚数の資質をもつ。

 ②私という人格はサーヴァントクラスのスペックを持ち、失われた神格の能力を有している上に、さらに規格外のスキルや宝具を持つ。

 

 ①だけでもホルマリン漬けクラスだというのに、②の事実が露見したらどうなるか、考えるまでもないと思う。

 素人目にみても、危うい。ホルマリン漬けどころか一生監禁コースが確定する未来しか見えない。

 

 だからこそ私は秘密裏に動く必要がある。できるかぎりスキルも使いたくはないが、蟲爺相手にそれは流石に無理があると思う。あれを始末するにはメルトリリスで溶かすのが一番効率的と言える。あの蟲どもの相手にはメルトリリスの蜜が理想的なほど相性がいい。本体を探すのに一匹一匹潰すよりも全体を一気に溶かして吸収してしまえるのだから使わない手はない。

 あとはそれを蟲爺に叩き込む手段なのだけれど、私はギリギリまで、具体的には桜が蟲蔵に入れられるくらいまでは表に出ずにチャンスを伺うつもりでいる。そうして桜をただの母胎として認識させ、油断したところにメルトウイルスを全力で叩き込むことにした。

 確認したところによると、メルトリリスの敏捷はA+。五次ライダーやバサクレス以上、アサ次郎や四次ランサーと同じクラスの速さということになる。いくら蟲爺でもこれらの英霊から逃げきれるほどの強さはないはずだと思う。

 なので作戦としては蟲蔵でメルトリリスに変身して叩く、が大雑把な道筋になる。

 タイミングだけはその場に合わせる必要があるが、当てれば即勝負が決まる。

 それまでに私ができることは、自身の能力の把握と私という存在の隠蔽だけだった。

 

 

 

 

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 はい、回想終わり。

 まだまだ桜がドナドナされるまで一年近くの時間があったけれど、私は主に観察か寝てたか、適当に自分のスペックの確認しかしてないからバッサリカットよ、面白くないわ。

 けど大体私のことに関しては理解できたはずよ。

 私は爆弾、それも超大型の爆弾なの。使い方を間違えば、桜まで危険にさらす超危険物体よ。

 

 それに視点を現代に戻したのにも理由がある。

 それはこれからのしなければならないことがたくさんあるからだ。

 

 物事というものは一つを解決すれば万々歳というものでもなく、新しい問題が発生してくる。

 箇条書きにするとこれらのこと。

 

 ・桜の魔術

 ・第四次聖杯戦争

 ・龍之介の抹殺or逮捕

 ・ウェイバー君とコネを結ぶ

 ・衛宮陣営を助ける

 

 といった感じ。

 これは重要な事柄を上から順に並べたもので、まず桜には魔術師になってもらう必要がある。

 私が魔術を学んでもいいのだけれど、それだと桜の時間を多く奪うことになりかねないし、何より役割を分担したい。桜が魔術と日常を、私が戦闘と参謀と言った感じにだ。この割と理不尽な世界で何が起こるかわからないし、何より今の私じゃあ絶対に勝てない相手が少なくとも地球に何人もいる。だから桜にももしもの時にそなえて力をつけていてほしいのだ。

 

 そして次に重要度が高いのがこれ、第四次聖杯戦争。

 これに関しては説明はいらないと思う。

 

 なので飛ばして次、シリアルキラーの龍之介。漫画版の所業は絶対許さない。あれを放置するほど私は冷酷にはなれないので聖杯戦争開始前までには始末をつけたい。

 

 これから下二つはできれば程度に考えていること。

 

 ウェイバー君のことに関しては彼の将来が重要になる。

 彼は成長し、ロードエルメロイⅡ世と呼ばれるほどに重要人物になるのだけれど、彼は教え子を成長させることが天才的にうまく、彼の教え子は全員が大成するといった具合だ。そんな彼はライダー陣営で第四次聖杯戦争に参加するために冬木にやってくる。これを機に彼とコネを結んでおけば将来の桜の手助けになるかもしれない。

 

 衛宮陣営のことについてはたぶん誰もが思うことだと思う。

 まずアイリスフィール・フォン・アインツベルンの生還と、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの救出は二次創作ではよく見かけているし、最初から願いの叶わないケリィなんて哀れというほかない。

 なので余裕があればこれも助ける気でいる。まあ、優先度は一番低いけれど。

 

 

 と、そこまで考えたところで足を止める。

 

「……そう言えば桜に私のことを話さなければならないのよね」

 

 蟲爺や周りを警戒していたあまり、大切なことを忘れていた。

 あちゃー、と私は片手を頭に当て天を仰ぐ。ある程度のことは伏せて話すにしても近いうちに話し合う必要がある。

 しかし、私の真名はステータス欄によれば【間桐桜】らしい。桜に桜がダブってややこしい。

 

「ま、とりあえず私はBBと名乗ることにしましょう」

 

 能力的にそっちがしっくりするし丁度良い。そう思って私は再び足を進めるのであった。

 

 




うーん、文章力が低い。しかも説明会だから進展しない。
まあ、次からは聖杯戦争の準備だとかである程度進む、と思います。
ではここでBBちゃんのステータスを解説付きで載せておきます。
では、また

【間桐桜(BB)】
 間桐桜の中に現れたもうひとりの人格、転生者。
 通常の性格はBBというよりかはむしろメルトリリスより。
 ただし、変身後の姿によって口調を変える傾向がある。
 桜のことを一番に考え、それ以外はノリと勢いと適当に行動する。

【ステータス】
筋力:D 耐久:E 敏捷:D 魔力:A 幸運:B 宝具:?

【スキル】
黄金の杯:B
バビロンの大妖婦がもっていた聖杯
転生の影響でランクが落ち、今は魔力を供給することしかできない

自己改造:B
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。

十の王冠:B
転生の影響でランクが落ちている。
ランクB以下の事象をなかったことにすることができる。

百獣母胎(ポトニア・テローン):B
万物を生み出す女神の権能
転生の影響でランクが落ちている。
それ相応の魔力などを消費して使い魔や無機物などを生み出すことができるが、
人間やランクより上の神秘を生み出すことはできない。
また生み出した生物は桜に逆らうことができない。

【宝具】
C.C.C.(カースド・カッティング・クレーター):使用不能

サクラファイブ:【二体まで変身可能】
自身のうちに存在する5体のアルターエゴに変身できる能力。
背丈や大きさは今の年齢に合わせて変化するものの、
スペックは原作のアルターエゴと相違ない性能を誇る。
ただし、それぞれの特性と共に弱点も受け継ぐことになるため、
運用には危険が伴う。
『例:メルトリリス→神経障害、パッションリップ→認識障害など』


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第3話

「……あれ?」

 

 桜の意識が覚醒し、同時に私も目を覚ます。

 彼女はあたりを見渡すが、そこは見慣れない部屋、その広いベッドの上に彼女は寝かされていた。

 

「昨日のあれは……、夢だったの?」

 

 桜は自分の体を抱きしめ、小刻みに震えている。

 それも当然かもしれない。あんな蟲のプールに落されるなんて夢でもトラウマものだし。

 

 

『いいえ、夢ではないわ』

 

「誰ッ!?」

 

 少し考えて、私は桜に声をかける。と言っても彼女に姿は見えないから、声だけが聞こえていることになる。そう考えると少し怖い。

 

『私はあなた、もう一人の桜』

 

「もう一人の、……私?」

 

『そう、ややこしいから私のことはBBでいいわ』

 

「BB? ……その声どこかで聞いたことがある気がする」

 

 あら、結構前のはずなのに覚えてくれたのは素直にうれしい。

 

『まあ私のことは置いておいて、今のあなたのことを話し合いましょう』

 

「私の、こと?」

 

『そう、あなたのこれからのこと、そしてこれから始まる戦いのことよ』

 

 

 

 そうして私はいくつかの出来事を桜に話した。

 魔術師としての桜の才能のこと、間桐の魔術のこと、そしてこれから始まる聖杯戦争という出来事のこと。

 私のことは理解できるようにかみ砕いて話した。いろいろと省略してしまったけれど、不思議な力を持っている見えない妖精、ってことで納得してくれたのはよかった。

 

「それで……」

 

『ん?』

 

「それで私は、どうしたらいいんですか……」

 

 うつむいて、ぎゅっと膝の上の布団を握りしめる。

 流石に幼い彼女が判断できるようなことではない。わからないのは当然だった。

 

『今は私が色々と手助けしてあげるから安心していいわ、ただその間は体を借りることになるけどね』

 

「?」

 

 よくわからないと言った感じに首をかしげる彼女。

 

『試してみると、こんな感じね』

 

 そう言って、私は体の主導権を奪い取る。

 言い方だけでは物騒かもしれないけれど、一度見せたほうが早い。

 

『え? ええ?、……えええええええええええ!?』

 

「こうやって、私があなたとして動くこともできるのよ」

 

 そう言って私はベッドから降りる。

 

「桜に会わせたい人もいることですし、ついでだからこのまま食堂まで歩かせてもらいましょう」

 

 未だ脳内で騒ぐ桜を聞き流して、歩みを進める。

 間桐の家は遠坂並みに豪華な装飾をしていて、小さい私たちにとっては少し住みづらい。

 館の端から端まで歩くのも一苦労しそう。早く高校生くらいになりたい、歩幅が小さすぎて不便極まりない。

 

 そうして大人よりも長い時間をかけて食堂に到着する。

 そうして扉を開けると、一番先に目に入るものがあった。

 

『!?』

 

 それを見て、桜が息をのむのが伝わってきた。それもそうだろう、彼女からすればまだ昨日の出来事で、あれからは恐怖しか感じていない存在だから。

 

「随分と遅い目覚めじゃの、桜」

 

 蟲爺ことマキリ・ゾォルケン、日本名だと間桐臓硯がそこにいた。

 

「仕方ないでしょう、昨日はちょっとはしゃぎ過ぎちゃいましたし、子供の体ですと疲れやすいんですよ」

 

 私は気にせず椅子を引いて、彼の対面に座る。

 

「朝食と言ってももう昼じゃろうから適当に出前でも取ろうかのぅ、鶴野は要望通り追い出した、じゃから今ここにいるのは儂と主の二人だけじゃ」

 

「あらそうでしたか、まあいないほうが都合がいいですけど」

 

 そう言って私は臓硯が取り出してきた出前のチラシを見る。

 

「桜はどっちがいい? それとも適当にコンビニで買ってきたほうがいいかしら?」

 

『えっと、私は……じゃなくて!』

 

 いいノリ突っ込みがはいる。少しは元気が出てきた証拠かしら。

 

『えっと、あのおじさ……、お爺様って昨日の、あの……』

 

 何が言いたいのはだいたいわかる。桜はあのあと気絶してしまったから、彼女視点だと自分にひどいことをしようとした人と一緒にいるのは不安でしかないのだと思う。

 

「大丈夫よ、今はもう(私たちには)無害だから安心なさい」

 

 そう桜に言って、適当に注文を決める。それを臓硯に伝えて電話をしてもらう。

 あの蟲爺が電話を使って出前を取る光景なんて、本性を知る人たちから見れば何とも言い難いものがある。まあ、あれはあれで外面はよかったはずなので、これも処世術の一種なのかもしれない。

 

「それで、街の監視状況はどうですか? 一応魔術くらいは使える(・・・)ようにしたはずですが」

 

「カッカッカ、魔術の行使は左程も問題はありゃせん、新しい使い魔どもの配置も今日中には終わるじゃろう」

 

 そう言ってこちらを見る老人の目には鋭い光が宿っている。ちょっと怖い。

 

 桜には話していないけれど、そこにいる老人は一度死んで生まれ変わったようなもの。

 メルトリリスの蜜で一度全てを溶かしつくし、新しい躰に移し替えた間桐臓硯マーク2と言うのが近いと思う。

 彼の望みはFateを知っている人間なら誰でも知っていると思うけれど、不老不死だ。

 彼の過去は知らないけれど、長い年月で魂が劣化、いろいろあって望みが自身の延命になったと記憶している。

 桜を間桐の家に時臣が送り出した理由は桜が魔術師になるためと、そうでもしないと桜はホルマリン漬けの危機になってしまうからだ。

 だからもし私が間桐の家を滅ぼしてしまえば、結局は遠坂を出る前の状態に逆戻りということになる。間桐を潰せばそれでいいというわけではないということ。

 じゃあ蟲爺をつぶす? それもいいかもしれないけれど、後継ぎが影の薄い兄とカリヤーンでは不安しかない。ほかの魔術師を頼るのはNG。できる限りこのことは間桐内で始末してしまわなければ、私という存在が露見する可能性がある。

 だったらどうしたらいいか、そのことを考えて、一つの方法を思いついた。

 BBとしての私のスキルと、メルトリリスの能力を合わせて初めて可能になるこれならば、安全に蟲爺を運用できると思えた。

 

 方法としてはまず蟲爺をメルトウイルスで溶かしつくす。本体が逃げだしては意味がないので徹底的に溶かして一旦吸収するけれど、私のものにはしない。ただ保管するだけ。

 次にそれの外装を作り上げる。BBとしてのスキルにある【百獣母胎】はランクが落ちてはいるが使い魔や鉱物などを生成できるスキルだ。

 【百獣母胎】は劣化していても私の思い通りのモノを生み出してくれた。私が生み出したのは水銀のように体を自在に変化させることができ、鏡のように体色を変化させることができる使い魔だった。この使い魔には脳にあたる部分がなく、その部分に臓硯を融合させることで彼でもこの使い魔を自在に動かせるようにした。使い魔というよりかは合成獣に近い生物で、魔術回路も存在している。

 何よりもこれのいいところは私がいる限り何度でも取り換えが効くというところだ。蟲に堕ちてまで生きながらえた彼であったが、それでも半年に一度は体を取り換えないと死の危機にあった。しかしこれにそんな弱点はなく、私や自身の魔力がある限りは生き続ける。

 つまり、現状臓硯には半年の時間制限もなく、私がいる限りは不死に近い状態になる。

 

 私はそれを材料に取引したのだ。その躰を与える代わりに桜に服従することを。

 

 無論、安全面を考えなかったわけではない。臓硯が反逆した場合に備えて、彼の中と使い魔の中に私の分身を入れてある。これもメルトウイルスの力になる。

私の意に反する行動をとったり、桜に危害を加えようとすると、即刻臓硯を溶解して、今度はそのまま吸収してしまう仕組みになる。

 完全に安全かは保証できないけれど、こいつの知識とコネを利用しない手はない。だから私は今は彼を生かしている。一応いろいろ禁則事項を設けてはいるけれど、それを桜には知らせない。まだ小さすぎる。

 

 

「もうすぐ第四次聖杯戦争が始まってしまいますから、準備することにこしたこはないんですが……、やはり参加しないのは不安すぎますか」

 

 聖杯戦争の参加者は御三家から優先的に選ばれる。今の桜は私の影響か魔術回路が開いている状態にあり、私の魔力を含めればサーヴァントを維持する魔力は十分にある。

 

「触媒じゃったらいつか使うつもりでいた、湖の騎士由来の物があるが?」

 

「最悪それでもいいんですけど、どうせでしたら私と相性がいいのをよびだしたいんですよね……」

 

 それに口にはしないが、実は私はバーサーカーかキャスターの召喚しか考えていない。

 それの理由は原作の流れをできるだけ維持したかったからでもある。

 原作を順守するという意味ではなく、私が知る話からかけ離れてしまうとその分予測ができなくなってしまう事態が起こりかねない。

 だからこそ、本来呼び出される予定のバーサーカーや最後に呼び出されたキャスター以外のクラスは考えてはいない。

 

 はてさて、どうしたものかしら……。

 

 そう考えながら私は足を子供のようにぶらぶらとふり、出前が届くのを楽しみにしていたのであった。

 

 

 




お知らせ:2/23

ちょっとプロットを練り直します
主人公の性格がちょっとおかしいという意見をいただいたんですが
それ以上に外道なことをやらかす予定でしたので
ちょっとマイルドにします。
具体的には混沌-悪から中立-中庸くらいまで、
投稿が確定しましたら該当部分を削除して投稿再開します
まあ、いつか外道版も投稿したいですね


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第4話

あれ? ちょっと見ないうちにUA:19000以上 お気に入り:1000以上って何があった!?
これが噂のFateパワーなのだろうか
多少の不安はありますが、第4話投稿になります。
聖杯戦争序盤、いよいよ英霊の召喚になりますが、一体誰が召喚されるか楽しみにお読みください。
では、始まります。


 桜が間桐の家に引き取られて大体一年が過ぎたある日、桜の左手の甲に令呪が現れた。形は桜のような三つの花弁、要はステイナイトの桜の令呪と同じもの。ここまでは予定通りとして一つの問題が私の前に立ちふさがった。

 

 そう、聖杯戦争において最初にして最大の問題、サーヴァント選びである。

 

 私は桜の中でずっと考え続ける。

 間桐家の問題を片づけ、今の桜の生活は安定していると言える。

 加え、臓硯に桜の魔術師としての教育を、途中でやってきた雁夜に生活面を丸投げしているので、私がすることは今はない。

 私が最初にいた空間で一人、ずっと第四次聖杯戦争をどうするか考えをまとめている。

 

 この空間は桜の心の中と言って等しい。この中であれば彼女と私の記憶にあるものならばそのまま再現することができる。

 その性質を利用して、私が生まれた時には殺風景だったこの空間も、今ではどこかで見たような旧校舎風に改変している。

 今は私がいるのは図書室、私の記憶に存在するあらゆるサーヴァントを一覧にして、どのサーヴァントを呼ぶべきなのか吟味しているところになる。

 

「……やっぱりキャスターorバーサーカーだと、選択肢が少なすぎて嫌になるわね」

 

 普通ならば五次のキャスター、バーサーカーを呼べば安定するかもしれないけれど、ここにはあの太古の英雄王が参加してしまう。

 あの英霊には普通の手段なんて通用しない。特に神性を持つ者に対しては凶悪とも呼べる宝具を持ち合わせている。あの宝具を使われれば神性そのものであるアルターエゴや太古の女神を持つ私などはひとたまりもない。

 だからこそできるだけ神性を持たないサーヴァントを選ぶのが望ましい。

 しかし神性を持たずに強力なサーヴァント、尚且つキャスターかバーサーカーに絞るとなると既存のサーヴァントではどれも心もとない。

 五次キャスターはなかなかいい線行くと思うけれど、それでも不安は残る。

 彼女の宝具は強力だけれども使える相手が今回の場合だと限られてしまうからだ。

 セイバーは五次のように抵抗され、英雄王は言うこと聞く気がしない、ディルムッドもおそらく性格上抵抗されるだろうし、アサシンは見つけられる気がしないし、征服王には使いたくない。

 となると召喚されるバーサーカー(予定)に使うことになると思うけれど、何が召喚されるかわからない上に、呼び出すのは恐らくあのサイコパスになることから魔力切れで自滅する可能性が高い。

 そう考えると彼女を呼ぶのが正しいのか疑問に思える。

 

 バーサーカーについて考えるなら神性を持たないで強力なサーヴァントなら誰でもいい。しかし狂化して理性が失われていることと宝具の内容が変化する恐れがあるなどデメリットも存在する。佐々木小次郎をバーサーカーで召喚したなら弱体化しそうだと思うし。

 

 となると別の候補を考える必要がでてくる。

 そして私が知ってる中で今回の聖杯戦争で中々よさそうなサーヴァントは【ナーサリーライム】か【ランスロット】くらいかしら。一応五次キャスターも選択肢に入れて三つ。……せめてアーチャーのクラスが空いていて日本の英霊ありなら魔人アーチャー呼んでたのに、趣味と実益を兼ねて。

 

「……まあ、彼女がベターかしら」

 

 そう言って私は彼女の、【ナーサリーライム】の記憶を手に取る。

 現状彼女と呼んではいるけれど彼女は【ナーサリーライムと言う絵本のジャンル】、つまりは【概念がサーヴァントになった存在】になる。その性質はマスターになる人物によって変化し、エクストラに出てきた時は強大な力を持ったキャスターとして召喚されていた。それになりより彼女は子供の英雄、きっとどんな姿で召喚されたとしても桜の味方になってくれるに違いない。

 

「触媒は適当な絵本でいいわよね、不思議の国のアリスとかそう言うのを適当に雁夜に買いに行かせて魔法陣の中央においておけばなんとかなるかしら」

 

 そう私は図書室から出て、意識を外に移す。

 外では桜が雁夜と買い物に出ているところだった。最近は家にこもってばかりだったので久々の外に桜は楽しげに笑っている。

 ついでだし雁夜に絵本を買ってもらおう。外出しているしちょうどいい。

 

 

 

 ……そう言ったら『そっちの桜ちゃんも子供なんだね』と言われた。解せぬ。

 

 

 

 街を監視していた臓硯から報告が入った。

 私が監視するように言っていたとある外国人夫妻の家に、見知らぬ少年が現れそのまま居候し始めたらしい。不審に思い監視し続けたところ、昨夜鶏の血を用いて魔法陣を描き、筋骨隆々な男のサーヴァントを呼び出したらしい。

 

 それを聞いて、私はいよいよ聖杯戦争が始まるのだなと実感した。

 私がその家を監視させていたのはその少年、ウェイバー・ベルベットを監視するためと彼がライダーを召喚するタイミングがセイバーやアーチャーと同じ時間だったため、そこより後、一日後くらいに召喚すればキャスターを召喚できると考えたからになる。

 

 となれば今夜、桜が寝ている時間になるけれど、深夜に召喚してしまおう。触媒(絵本)は手に入れた。後は陣を描き、詠唱するだけ。

 間違ってバーサーカーを呼んでしまったり、エクストラが来ることも考えられるけれど、それは考えてもしょうがない。触媒と自分の運を信じるだけ。

 

 ……大丈夫、私の幸運はBクラスだった。いける、きっといける、BBちゃんファイト!

 

 そう言って自分を納得させる。……一応念のために体内にしまってある黄金の杯を出して魔力供給をやっておくとしましょう。何があるかわからないし念には念を入れることに越したことはない。

 

 

 

 そうして、運命の夜はやってくる。ただ遠坂の血筋なのか、それともBBのうっかりミスだったのか、最大の間違いを犯していることにまだこの時点では気が付いていなかった。

 

 

 

 夜、桜は眠り体の主導権は今は私が握っている状態になる。召喚場所は元は蟲蔵で今はただの広い空き部屋となっている場所。そこに私と臓硯はいる。

 召喚はどうしても目立つのでこの場所はそう言うのを隠蔽するにはちょうどいい。

 

「何か不調などはないか?」

 

 臓硯がそう聞いてくる。最近なんだかどんどん角が落ちて丸くなってきているような気がするが、もしかしてホロウのようにボケたりしてないだろうか。

 

「万全です、魔力も十分、何の問題もありません」

 

 そう言って魔法陣の形に掘ってある溝に近づく。このままで詠唱してもサーヴァントを呼ぶことができない。水銀なり血液なりで溝を満たし、魔法陣を描く必要がある。

 ちなみに雁夜は外に締め出してある。これから起こる出来事は彼には少し刺激が強すぎるから。

 

「まずは、魔法陣、ですね……」

 

 私は体内から取り出した黄金の杯と絵本を隣に置き、左手を溝にかざす。

 すると手のひらから黒い液体状の何かが溢れ出し、溝へと落ちてゆく。

 その液体は強い魔力を含み、それらで満たされた魔法陣は淡い光を発する。

 

「さあ、始めましょう」

 

 十分に魔法陣を描くことができたら、詠唱を始める。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

 詠唱を始めながら、私は思う。

 私が聖杯戦争に参加することになるなんて、きっと覚えていないけれど前世の私は考えてなかったでしょうねと、そう考えると少し気がまぎれる。

 

「降り立つ風には壁を、四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 詠唱を続けると魔法陣が強く輝き始める。

 まるで今の今まで呼ばれるのを待っていたかのように強く、眩しく光を放つ。

 

閉じよ(みたせ)。 閉じよ(みたせ)。 閉じよ(みたせ)。 閉じよ(みたせ)。 閉じよ(みたせ)。 

 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 風が吹く。私の詠唱が進むにつれて風が強くなる。

 これが英霊を召喚するといことなのだろうか、未知の出来事に少しだけ不安になる、

 

「告げる」

 

 一度目を閉じ、そして息を深く吸い込み、目を開いて言葉を紡ぐ。

 先ほどの弱気を吹き飛ばすかのように、強く、はっきりと告げる。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」

 

 まあ、私に勧善懲悪なんて似合わないけどね、と心の中で舌を出す。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 詠唱が終わると、今までよりも強い光がこの辺り一帯を包む。

 眩しすぎて私も目を閉じてしまったが、ゆっくりと目を開ける。

 

「え?」

 

 そして、一瞬頭の中が真っ白になった。

 

 そこにいたのはかわいらしい子供でも、ましてや桜の形をした英霊でもない。

 

 綺麗な金色の髪をもち、ドレスのような独特な赤い服を身に纏い、綺麗な緑色の瞳はこちらを見つめている。

 

「問おう、そなたが余の奏者(マスター)か?」

 

「は、はい、私があなたを召喚しました」

 

 混乱する頭で必死に答える。

 どこでミスをしたのか、なぜこの人が出てきたのか。

 

「ふむ……、何の因果か魔術師の英霊として呼ばれたが、そんなことはさしたる問題ではない、余は万能の天才だからな、これくらいたやすいことよ」

 

 私は彼を、いや彼女を知っている。

 彼女がセイバーならまだしも、キャスターとして召喚されるなんて想定外すぎる。

 

「我が剣は原初の情熱(ほのお)にして、剣戟の音は(ソラ)巡る星の如く。

 聞き惚れよ。しかして称え、更に喜べ。余は至高にして至上の名器」

 

 そのサーヴァントは高らかに謳いあげる。その声からは小さな子供のように思えるが、違う。

 

 

 

      「ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスである!」

 

 

 

 彼女は手に持った赤い剣を天高く掲げ、そう告げた。

 

 なお、彼女の登場によって今まで考えていた計画をダストシュートに投げ捨てたことは言うまでもないと思う。

 

 




プロットを大幅に変えちゃったのでちょっと遅くなりました
英霊選びはかなり悩みましたが、これで行きます。
赤様が召喚されたのでもうBBは悪いことはできませんし、それどころじゃありません
召喚された理由はありますし、彼女のキャスターとしてのデータは用意していますが、公開はまた別の機会ということで
……さて、問題はあのローマを再現できて尚且つちゃんと動かせるかなあ(遠い目



【没ネタ】

バサクレスを召喚
圧倒できるもののどうしても目立つ上に金ぴか相手だと相性負けする

モードレッドをバーサーカーで召喚
アポクリファを読んでないで性格がわからない、どうしてもコハエースよりになってしまう

カルナさんをバーサーカーで召喚
……狂化できる気がしないのと、あの皮肉を再現できるか不安

メディア・リリィを召喚
グランドオーダーやってないからいまいち性格がつかみづらい
宝具が無機物にも効くなら召喚してたかもしれない、アンリとか聖杯とか汚染とか
まあ、効いたら効いたで結局普通に聖杯戦争するだけなのでリリィでは不利になりますが
早く携帯買い替えてグランドオーダーやりたい

ナーサリーライムを召喚
桜の趣味、絵本、スキルや使い魔の設定を考えるとほぼオリジナルになる。
確かマスターによって性能やらいろいろ変わったはずなので。
グランドオーダーのほうは知らないです。

メディアorランスロットを召喚
こいつらのどちらかが召喚されたらそれは外道版で


オリキャラを召喚
BBちゃん(仮)だけで十分です……



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