元駄目人間が異世界から来るそうですよ? ~のび太と問題児の異世界大冒険~ (虎吉戦車)
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プロローグ

プロローグは話の大筋にあまり影響はないのに無駄に長くなってしまったので、後書きに短くまとめたものを投稿します。
なんか、のび太は10年間無人島でサバイバルしてたみたいだけど、この小説ではそこには触れない方向で


「研究の調子はどうかね?ノビタ。」

 

「あ、ジェームズ教授。こんにちは。まだ時間がかかりそうです。」

 

「そうかね。君の研究はこの世界の常識を変え得るものなんだ。気の済むまでやるといい。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

「私は何もしとらんよ。この歳になって名誉より大事なものが分かってきた。それは君のような若者の背中を押してやることだよ。」

 

「僕がこうして心置きなく研究が出来るのもすべて教授のおかげです。必ず成功させてみせます。」

 

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。何か困ったことがあったら何でも言ってくれ。君は私の息子でもあるんだ。」

 

 

僕はジェームズ教授にお礼を言うと再びモニターと向き合った。

 

僕の名前は野比のび太。僕は今アメリカのマサチューセッツ工科大学というところに在籍している。4年生になって今までの研究もいよいよ大詰めという段階だ。

なぜ僕がこんなところにいるのかというと、自分の過去について話さなければならない。

 

 

 

12年前、僕には親友であり家族でもある大切な、大切な『人』がいた。名前はドラえもん。ドラえもんは世間の多くの人から見れば『モノ』と呼ぶべき存在だったのかも知れない。彼は未来からやってきたロボットだった。

でも、ドラえもんと僕は一緒にご飯を食べて、一緒に笑ったり泣いたり、時には喧嘩をした仲なのだ。やはり大切な『人』という表現がしっくりくる。

 

しかし、僕とドラえもんとの別れは突然だった。

 

未来で時空の歪みが観測された。未来の大半には影響がないらしい。なんの対応もされなかったそうだ。

しかし、僕とドラえもんには深刻な問題だった。

 

ドラえもんが教えてくれた。

時空の歪みにより、間もなくこの僕がいる世界だけがドラえもんのいる世界との繋がりが断たれるらしい。

つまり、これからもドラえもんは今まで通り『僕』に会うことが出来る。しかし、それは僕ではない。別の世界の『野比のび太』なのだ。

彼からそれを観測することは不可能だ。今まで通り会うのと全く変わらないらしい。しかし、僕はドラえもんに会うことが出来ない。

僕は目の前が真っ暗になった。ドラえもんが僕を呼び掛ける声が聞こえる。でも、それだけだ。反応出来ない。

 

 

僕は意識を失った………。

 

 

目が覚めるとドラえもんが目の前にいた。

僕は急に寂しい気持ちが込み上げてきて、ドラえもんにすがりついて泣いた。いつもみたいに秘密道具でどうにかならないのか、と。

ドラえもんはただ抱き締めてくれた。それが僕に本当にドラえもんと別れるんだという実感を与えた。

僕が泣き止むとドラえもんは僕に語ってくれた。

 

 

のび太くん。

 

君は臆病だ。

 

でも、君は誰よりも勇敢だ。

 

君は馬鹿だ。

 

でも、君はとても優しい子だ。

 

君ならどんなことでも出来る。

 

親友である僕が言うんだ。間違いない。

 

最後まで君を見ていたかったけど、

僕は君を信じてるから。

 

僕がいなくても、きっと大丈夫。

 

 

僕は褒められてるのか馬鹿にされてるのか分からないドラえもんの言葉に笑ってしまった。ドラえもんも笑っていた。

その夜はいつもより夜更かしして二人の思い出を語り合った。

 

 

次の朝、ドラえもんは未来に帰っていた。

こういうときだけ猫みたいだな、と思って笑った。

寂しくなかったと言えば嘘になるが、それよりこれからはちゃんとしないといけないという気持ちになった。ドラえもんが信じてくれているから。

 

僕は嫌いだった勉強を少しずつやり始めた。

運動も友達に教えてもらいながら、少しずつ出来るようになっていった。

小学校卒業後は、地元の中学へと進学した。

その頃だった。自分でドラえもんを作ろうと思ったのは。

別に、ドラえもんの代わりを作ろうと思ったわけじゃない。ならなぜか、と問われると答えに困るけど…………。とにかく、そういう衝動に駆られたのだ。

僕は、インターネットで世界で最も進んだロボットの研究を行っている人物を調べると、ジェームズ教授の名前が出てきた。

すぐに、習ったばかりの簡単な、おそらく間違えだらけの英語でジェームズ教授にメールを送ってみると、三日後に返信がきた。その要点を纏めると、

『ロボットに情熱を持つ若い人を育てたかった。』

『感情を持つロボットは私も興味がある。』

とのことだった。

 

それから、何通もメールをやり取りするうちに、中学を卒業したらアメリカに留学しないか、という話になった。学費も生活費も全額負担してくれるという信じられないような条件で。

僕は、申し訳なさよりもジェームズ教授のもとでロボットを作る最先端の技術を学ぶことが出来るという喜びのほうが勝り、すぐに両親に相談した。

両親はとても驚いていたが、同時にとても応援してくれた。しかし、学費も生活費も全額負担はあまりにジェームズ教授に申し訳ないということで、生活費は両親が、学費は僕が卒業した後に少しずつ全額支払うと言った。このことはジェームズ教授も了解してくれた。

僕は勉強、とくに英語と理系科目を猛勉強し、アメリカ留学へと備えた。

 

そして、中学卒業と同時にいよいよ僕はアメリカへと渡った。

ジェームズ教授は、空港で出迎えてくれた。直接会うのは初めてだったが、そんな感じはなかった。

ジェームズ教授の家で下宿みたいな形でお世話になることはあらかじめ決めていたが、実際に家にくると、驚くほど大きくこちらのほうが衝撃的だった。

 

入学した高校では、最初は不安だったが、日本からの転校生ということで、たくさんのクラスメイトが話しかけてくれ、すぐに友達になった。

高校の授業は、最初は意味が分からなかったが、だんだん理解できるようになり、勉強で分からない部分はジェームズ教授に聞いてどんどん知識や思考を広げていった。

猛勉強した結果、二年生の時点では学年トップの成績になった。

もちろん運動することも忘れておらず、高校で入ったベースボールクラブでは一応レギュラーとして試合に出させてもらっていた。

 

あっという間に高校生活は過ぎ、ジェームズ教授のいるマサチューセッツ工科大学に入学が決まった。教授は自分の研究生を自宅に招いて盛大なパーティーを開いてくれた。照れくさかったけど、先輩と仲良くなることができた。

 

大学に入ったばかりは慣れないことが多すぎて大変だったが、パーティーで仲良くなった先輩がノウハウを教えてくれたおかげで半年もたつと自分の研究を始めることが出来た。

大学にいる間、感情を持つロボットを本当に作ってもよいのか、という議論がたびたびなされたが、その都度、僕と教授で丁寧に説明していった。

2年、3年と月日が経ち、気がつくとあっという間に4年生になっていた。まだ実用段階にはほど遠いが、確かに人間の感情に近いAIも持ったロボットを作ることにほとんど成功していた。

 

そうして、今日に至る。

 

作業していたモニターから目を離し、数日後には研究成果を発表出来そうだと、ほっと一息つき、思いっきり伸びをする。背骨のポキポキという音が心地よい。

個人用のPCをみると、ちょうど日本の友人からメールが来たようだ。小学校から今もずっと親しくしている友人たちは、皆それぞれの道を歩んでいる。今回のは、その友人たち皆で今度アメリカに行くから案内してくれ、という内容だった。すぐに『いいよ。』と答える。

そうして、友人と再開する光景を思い浮かべ、笑みを浮かべていると、もう一通メールが届いていることに気がついた。

なんだろう、と思ってメールを開いてみると、

 

 

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

その才能を試すことを望むのならば、

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

我らの”箱庭”に来られたし』

 

 

 

 

瞬間、視界が暗転した。

 

 

 




時空の歪みによってドラえもんと永遠にお別れしてしまったのび太は、ドラえもんに胸を張って生きようと決心し、嫌いだった勉強や苦手だった運動を頑張り始める。
中学生のときに、自分でドラえもんのようなロボットを作ろうと思い、世界で最も進んだロボットの研究をしているジェームズ教授にメールでコンタクトを送ったところ、中学を卒業したらアメリカに留学しないか?という誘いがきた。
のび太はこの誘いを受け、猛勉強し、アメリカに渡り、アメリカの高校でも猛勉強し、マサチューセッツ工科大学に入学して自分のロボット研究を始めた。
4年生になってようやく感情のあるAIを作り出せるというときに、PCに1通のメールが届く。



『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その才能を試すことを望むのならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの”箱庭”に来られたし』


瞬間、視界が暗転した。
どうでもいいですが、このジェームズ教授は正史ではドラえもんのもととなるロボットを開発する人だった、という設定があります。
開発したあと技術を企業に売った感じですね。


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第一章

今回はセリフも地の文もほとんど原作準拠です。
そのため、めっちゃ長くなりました。


 

「…………うまく呼び出せた?黒ウサギ」

 

「みたいですねえ、ジン坊っちゃん」

 

小さな体躯に似合わないダボダボなローブを着た少年と耳の生えた扇情的な格好をした十五、六歳ほどの少女が言葉を交わす。

 

「まあ、あとは運任せノリ任せって奴でございますね。あまり悲観的になると良くないですよ?表面上は素敵な場所だと取り繕わないと。初対面で『実は私達のコミュニティ、全壊末期の崖っぷちなんです!』と伝えてしまうのは簡単ですが、それではメンバーに加わるのも警戒されてしまうと黒ウサギは思います」

 

おどけたようにコロコロと表情を変えながら力説する黒ウサギに、は同意するように少年は頷いた。

 

「何から何まで任せて悪いけど…………彼らの迎え、お願いできる?」

 

「任されました」

 

ピョン、と椅子から黒ウサギが跳ね、ドアに手をかけ出ていこうとすると、少年は不安そうな声をかけた。

 

「彼らの来訪は…………僕らのコミュニティを救ってくれるだろうか」

 

「………。さあ?けど”主催者(ホスト)”曰く、これだけは保証してくれました」

 

クルリとスカートを靡かせて振り返る。

おどけるように悪戯っぽく笑った黒ウサギは、

 

「彼ら三人は………人類最高クラスのギフト所持者だ、と」

 

 

 

 

視界は間を置かずに開けた。

嫌がおうでも自分が異常な高度に身をおいていることを理解させられる。

 

「うわああああああああああああああああああああああ死にたくないいいいいいいいいいいいいいい」

 

ドラえもんとの楽しかった思い出が頭を駆け抜ける。

あぁ、これが走馬灯なんだね………

 

そんなことを考えていたら、幾重もの薄い水膜がその身の衝撃をやわらげ、辛うじて怪我をしないスピードで湖に放り出された。

今度も理解が追い付かないが、息をするために必死に水面へと浮かぶ。

20秒ほど息を吸ったり吐いたりしていたら、冷静さを取り戻してきた。

周りを見渡すと、自分の他に三人のー恐らく自分より年下な少年少女がそれぞれ悪態をつきながら、既に陸地にあがっていた。

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

「………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

金髪の不良っぽい少年と気の強いお嬢様という感じの少女が弾丸のようなトークをしている横で、三毛猫を抱えた少女が

 

「此処………どこだろう?」

 

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?まず、間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは”オマエ”って呼び方を訂正して。――私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

「………春日部耀。以下同文」

 

「そう。よろしく春日部さん。じゃあ、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとうよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

「そう。取り扱い説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

なんだかヤバそうな人達だ…………。

 

「最後に未だに湖に使っている冴えない雰囲気の貴方は?」

 

「へ?僕!?」

 

「貴方以外誰がいるのよ」

 

「あ、え、えーっと。野比のび太です。22歳です」

 

「そう。よろしくのび太さん」

 

「一番頼りにならなさそうな年長だな、ハハ」

 

二人の辛辣な言葉が耳に入る。

うう………僕って未だに冴えないように見えるのかな?

 

 

 

心からケラケラと笑う逆廻十六夜。

傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

我関せず無関心を装う春日部耀。

そして、ようやく陸地に上がった野比のび太。

 

そんな彼らを物陰から見ていた黒ウサギは思う。

 

(うわぁ…………なんか問題児ばっかりみたいですねえ…………)

 

召喚しといてアレだが………彼らが協力する姿は、客観的に想像できそうにない。黒ウサギは陰鬱そうに重くため息を吐くのだった。

 

 

 

十六夜君は苛立たし気に言う。

 

「て、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 

全くだよ!なんで三人ともそんなに冷静なの!?

僕は現在進行形で状況が掴めてないけど!?

 

そんなことを考えていると、ふと十六夜君がため息交じりに呟く。

 

「―――仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にても話を聞くか?」

 

え?

 

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの猫を抱いてる奴も気づいてい

たんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「…………へえ?面白いなお前」

 

え?どういうこと?なんでみんな一斉に茂みのほうを向いたの!?

 

そう思っていると、茂みから可愛らしいウサギ耳の女の子が現れた。

その女の子は三人の視線にやや怯みながら、

 

「や、やだなあ皆さん。そんな狼見たいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

どうやら、このウサ耳の女の子がこの状況を説明してくれるらしい。この世界が何処なのかというとこや元の世界に戻る方法が分かるかもしれないので、重要な情報を聞き逃すまいと身構えていると、三人は

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪」

 

即答で拒絶した。

 

え?何してくれちゃってるの?

 

僕が動揺していると、耀ちゃんが不思議そうにウサ耳少女の隣に歩みより、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

力いっぱい引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

今度は十六夜君が右から掴んで引っ張る。

 

「………。じゃあ、私も」

 

「ちょ、ちょっと待――――!」

 

今度は飛鳥ちゃんが左から。

 

「そこの眼鏡のお兄さん!黒ウサギを助けて、助けてください!」

 

さすがにいじめ……だよね?

止めたほうがいいのかな?

よし、いくぞ………

 

「や、やめr」

 

「兄ちゃん。これはいじめじゃねーぜ。コミュニケーションをとって親睦を深めてるだけだ」

 

「あ、はい。そうですか。ごめんなさい」

 

「唯一の希望がーーー、諦めたらそこで試合終了ですヨーー!!」

 

黒ウサギちゃんの悲鳴が近隣に木霊した。

 

 

 

「――――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

「いいからさっさと進めろ」

 

結局僕は三人の黒ウサギちゃんに対する一方的なコミュニケーションを止められなかった。

黒ウサギちゃんは目に涙を浮かばせながらも、僕達に話を聞いてもらう状況に成功したようで、気を取りなおして咳払いをし、両手を広げて

 

「それではいいですか、皆さん。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ、”箱庭の世界”へ!我々は皆さんにギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆さんは皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその”恩恵”を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギちゃん。飛鳥ちゃんが質問するために挙手をした。

 

「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う”我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「Yes!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある”コミュニティ ”に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの”主催者(ホスト)”が提示した商品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

「………”主催者(ホスト)”って誰?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが”主催者(ホスト)”が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。”主催者(ホスト)”次第ですが、新たな”恩恵(ギフト)”を手にすることも夢ではありません。

後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて”主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者は結構俗物ね………チップには何を?」

 

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑むことも可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――――ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

黒ウサギちゃんは愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる。

挑発ともとれるその笑顔に、同じく挑発的な声音で飛鳥ちゃんが問う。

「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」

 

「どうぞどうぞ♪」

 

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 

飛鳥ちゃんは黒ウサギの発言に片眉をピクリとあげる。

 

「………つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

お?と驚く黒ウサギ。

 

「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などってのほか!そんな不逞な輩は悉く処罰しますーーーーが、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということですね」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし”主催者”は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

黒ウサギちゃんは一通りの説明を終えたのか、一枚の封書を取り出した。

 

「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが………よろしいです?」

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

清聴していた十六夜君が威圧的な声を上げて立つ。その顔にいままでのような軽薄な笑顔は無くなっており、黒ウサギちゃんも構えるように聞き返した。

 

「………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

 

「そんなものはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

十六夜君は視線を黒ウサギから外し、他の二人を見まわし、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。

彼は何もかもを見下すような視線で一言、

 

「この世界は…………面白いか?」

 

「――――――」

 

他の二人も無言で返事を待つ。

彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。

それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、三人にとって一番重要な事だったみたいだ。

 

「――――Yes。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証します♪」

 

三人はその言葉を聞きそれぞれ、フッと笑みを溢した。

僕抜きで凄くいい感じに盛り上がっている。これがコミュニケーションをしたものとしなかった者の差なのかな?

でも、こればっかりは聞かないではいられないよね?

意を決して手を挙げる。

 

「あのー………」

 

「え?あ、忘れてはいなかったのですヨ。質問でしょうか?」

 

「えっとですね……僕、”恩恵(ギフト)”ていうのに全く心当たりがないんですけどぉ…………」

 

瞬間、世界が停止した。

 

「え、ええ、冗談でございますよね?箱庭について書かれた手紙を受け取ったのでございますよね?」

 

「パソコンのメールでなら届きましたけど………。僕昔は勉強も運動も苦手で、才能といったら昼寝か射撃、あ、あとあやとりくらいですかね。修羅神仏のギフトというとやっぱり思い付かないです」

 

「ええええええええええええええええええええええええ」

 

黒ウサギちゃんの今日一番の驚きの声が響いた。

 

 




何故今回の話を原作準拠にしたかというと、のび太が登場人物にあまり大きな影響を与えてないので、これが一番それぞれにとって自然かな?と考えたからです。しかし、次回からはのび太が加わったことにより二次創作ならではのオリジナルな展開があるので、どうぞお付き合いください。のび太が今は、残念なキャラですが、きちんと活躍の場を与えるので安心してください。


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第二章

大変遅くなりました。リアルが少し落ち着きそうなので、これからはもう少し早く投稿できるよう頑張ります。


『ええええええええええええええええええええ』

 

黒ウサギちゃんの叫び声が聞こえる。

他の三人も驚いた様子で僕をみる。

 

「え、あ、あのっ………のび太さんはどのようなメールを受け取ったのですか?」

 

僕のもとに届いたメールの文面を思い返してみる。

 

「えっと、確か

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

その才能を試すことを望むのならば、

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

我らの”箱庭”に来られたし』って書いてありました。」

 

「確かに文面は我々のコミュニティが送ったものに相違ありません。しかし、我々は三人分しか手紙を用意していなかったはずなのです。手違い……にしても召喚は手続きを要するものですので考えにくいです。」

 

「そうなんですか。じゃあ、僕はコミュニティに必要ありませんよね。向こうの世界でやり残したことがあるので、早めに帰りたいんだけど……」

 

そうだ。感情のあるロボットの実現はすぐ間近なのだ。

しかし、黒ウサギちゃんは慌てた様子で

 

「だ、ダメです!帰るには困難な試練にクリアしなければならないのです!ギフトをお持ちでないのび太さんがそれをクリアするのは不可能です!!」

 

と言った。

うーん、でも………

 

「それっておかしいよね?」

 

十六夜君がニヤっとした笑みを浮かべたのが見えた。

 

「兄ちゃん、冴えなさそうな面して意外と頭の回転早いな」

 

む、失礼な……

 

「確かに昔は勉強とかからっきしだったけど、今はそれなりに凄い研究をしてたんたぞ!」

 

「ハハッ、そいつは悪かったな。今度なんか奢ってやるから許してくれ」

 

「あら、私もおそろく耀さんも気付いてたわよ」

 

「当然」

 

そもそも僕が年上なのにどうして奢られることになるんだろう………

まぁ、友達として対等に接してくれるに超したことはないけど。

みんなでワイワイしていると、黒ウサギちゃんが顔を青白くして恐る恐る僕たちに尋ねた。

 

「あの……黒ウサギの説明におかしなところがあったでしょうか」

 

十六夜君が楽しむような声音で答える。

 

「おかしいも何も。オマエ、なにか決定的な事をずっと隠しているよな?」

 

「…………なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」

 

「違うな。俺が聞きたいのはそういうことじゃない。のび太、お前から言ってやれ」

 

初めて十六夜君に名前で呼ばれた。呼び捨てだけど。

でも、いまの十六夜君の話に対する黒ウサギちゃんの反応で疑いは確信に変わった。

 

「じゃあ……黒ウサギちゃん。まどろっこしいのは抜きで聞くよ?」

 

息をすうっと吸い込む。

 

「黒ウサギちゃん達のコミュニティは崖っぷちなんだよね」

 

黒ウサギちゃんは動揺を隠しきれない様子だった。

なんだか可哀想だけど、これは知る必要が僕たちにはあると思う。

だから、重ねて問う。

 

「黒ウサギちゃん達はどうして僕たちを呼び出したんだい?」

 

「それは………言ったとおりです。のび太さん達にオモシロオカシク過ごしてもらおうと」

 

「僕も最初はそういう理由なのかなって思った。でも、それならギフトを持たない僕がもとの世界に帰ることは何の問題もないはずだよね。そもそも僕は勝手に呼び出されて、しかも間違いの可能性も否めない状況なのに、僕には黒ウサギちゃんが必死で僕を引き留めようとしてるように思えるんだ」

 

黒ウサギちゃんは何も言わない。

さらに話を進める。

 

「これは僕の想像に過ぎないんだけど。黒ウサギちゃんのコミュニティは崖っぷちの状態にあって、だから僕たち……僕は含まれないかな?十六夜君達をコミュニティの強化のために呼び出した。そうやって考えるとさっき黒ウサギちゃんが僕を必死で引き留めようとした理由に説明がつくと思うんだけど。どうかな?」

 

「っ………!」

 

僕の言葉は黒ウサギちゃんの痛いところを突いたようで、黒ウサギちゃんの綺麗な顔が歪む。

それを逃すまいと十六夜君が追い討ちをかけるように言葉を紡ぐ。

 

「んで、この事実を隠してたってことはだ。俺達にはまだもとの世界に戻るなり他のコミュニティを選ぶなりする権利があると判断できるんだが、その辺どうよ?」

 

「…………」

 

「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ。それとも他のコミュニティに行ってもいいのか?」

 

「や、だ、駄目です!いえ、待ってください!」

 

「だから待ってるだろ。ホラ、いいから包み隠さず話せ」

 

十六夜君は近くの木に寄りかかり黒ウサギちゃんの次の言葉を待った。

 

「ま、話さないなら話さないでいいぜ?俺達はさっさと他のコミュニティに行くだけだ」

 

「………話せば、協力していただけますか?」

 

「ああ。面白ければな」

 

十六夜君はケラケラ笑うが、その目は笑っていなかった。

 

「………分かりました。それではこの黒ウサギもお腹を括って、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状を語らせていただこうじゃないですか」

 

コホン、と半ば自棄っぱちに黒ウサギちゃんは語り始めた。

飛鳥ちゃんも耀ちゃんも真剣な眼差しで黒ウサギちゃんを見つめる。

 

「まず、私達のコミュニティには名乗るべき”名”がありません。よって呼ばれるときは名前のないその他大勢、”ノーネーム”という蔑称で称されます」

 

「へえ………その他大勢扱いかよ。それで?」

 

「次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」

 

「ふぅん?それで?」

 

「”名”と“旗印”に続いてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っていません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加できるだけのギフトを持っているのは122人中、黒ウサギとジン坊っちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」

 

「もう崖っぷちだな!」

 

「ホントですねー♪」

 

黒ウサギちゃんはウフフと笑うと、ガクリと膝をついて項垂れる。黒ウサギちゃん達のコミュニティは本当にピンチなようだ。

と、そこへじっと話を聞いていた飛鳥ちゃんが黒ウサギちゃんに質問する。

 

「それらはすべてギフトゲームによって奪われたものなのかしら?それだったら、追い詰められる前にゲームを受けることを拒否することも出来たのではないかしら?」

 

「通常のゲームならそうしたでしょう。しかし、私達のコミュニティの相手は箱庭を襲う最大の天災――『魔王』だったのです。」

 

マオウという、余りにも物騒な響きに僕は少し恐ろしくなった。このマオウという存在が、1つのコミュニティを崖っぷちにまで追い込んだのだから。

しかし、この場にいる他の人達は違ったようで、

 

「魔王!なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねえか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」

 

「魔王……1度対面してみたいものね」

 

(マオウさんとは友達に成れるのかな………)

 

全員、がっつり食い付いた。

黒ウサギちゃんは少し引きぎみに、

 

「皆さんが思い描いている魔王とは差異があるかと思いますが、倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させることも可能ですし」

 

「へえ?」

 

「魔王は”主催者権限(ホストマスター)”という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断ることができません。私達は”主催者権限”を持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは…………コミュニティとして活動していく為に必要な全てを奪われてしまいました」

 

今度は僕から黒ウサギちゃんに質問する。

 

「コミュニティの名前とか旗印とかって、新しく作り直すことは出来ないの?」

 

「そ、それは」

 

黒ウサギちゃんは少し言い淀んで胸に手を当てる。

 

「か、可能です。ですが改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも………仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから………!」

 

黒ウサギちゃんの言葉は、心からの声に聞こえた。

彼女は“魔王”とのゲームによってバラバラになったコミュニティを必死に、それこそ異世界から同士の召還という手段を用いてまで守ろうとしていたのだ。

 

「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し…………何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには皆さんの力を頼るほかありません!どうか我々のコミュニティに力を貸していただけないでしょうか………!?」

 

黒ウサギちゃんは深く頭を下げる。

もっと、早く本心を表に出してくれたら良かったのに。

この黒ウサギちゃんの思いを聞いて、僕の…僕達の心は決まった。

 

「いいな、それ」

 

「―――――………は?」

 

「面白そうね……乗ったわ」

 

「私も」

 

「え………あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?」

 

「皆、黒ウサギちゃんの力になりたいんだよ。僕なんかがお役に立てるかは分からないけど、コミュニティの再建に協力させてくれないかな?」

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

黒ウサギちゃんは、嬉しそうに跳躍すると、

 

「それでは、皆さん!黒ウサギ達のコミュニティへとご案内いたします!」

 

 

僕達の異世界の冒険は始まったばかりだ。

 




最初の、のび太が手紙の内容を一言一句暗唱してみせたところに成長が見てとれるのではないかと思います。
今まで筆者は、皆さんが投稿なさる小説を読むだけでしたが、今回自身初の二次創作を投稿し、自分で読んでも拙い文章ではございますが、こんなに沢山の皆さんに読んでいただけて、とても嬉しいです。日々増えるお気に入り登録や励ましのお言葉にニヤニヤさせていただいております。
本当にありがとうございました。
つぎもぜひ、ご覧いただければ幸いです。


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第三章

すみません。朝の3時とか4時までゲームをする生活をしていたら体調をくずしてしまったので、ちょっと前から日付が変わる前に寝るようにしたら、小説を執筆する時間が減ってしまい、投稿が遅くなりました。


「皆さんもうすぐ箱庭に到着しますよー!」

 

僕たちが召還された場所から10分ほど歩いた頃だろうか。

すっかりご機嫌な様子の黒ウサギちゃんに連れられて、僕たちは森を進んでいた。

 

「見えて来ました!あれが箱庭二一零五三八零外門です」

 

そう言って黒ウサギちゃんが指を指した先を見ると、とてつもなく巨大な門とその先に延びる天幕のようなものが見えてきた。それを見て、改めて箱庭のスケールが地球のそれとまったくかけ離れていることを実感した。

 

「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れて来ましたよー!」

 

黒ウサギちゃんが大きな声で言うと、奥からダボダボのローブを着た幼い少年がやって来た。

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの御三人が?」

 

「はいな、こちらの御四人様がーーー」

 

クルリ、と振り返る黒ウサギ。

カチン、と固まる黒ウサギ。

 

「…………え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から”俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」

 

「ああ、十六夜君のこと?彼なら”ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「だって、一瞬でどっかいっちゃったし」

 

本当である。

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「”黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御三人さん!」

 

「「うん」」

 

まぁ、否定はしない。

黒ウサギちゃんはガクリ、と前のめりに倒れる。

そんな黒ウサギちゃんとは対照的に、ジン君は蒼白になって叫んだ。

 

「た、大変です!”世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に”世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ちできません!」

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?………斬新?」

 

「冗談を言っている場合じゃありません!」

「冗談を言っている場合じゃないよね!?」

 

僕とジン君は一緒になって叫んだ。

僕が面倒くさがって十六夜君のことを黒ウサギちゃんに言わなかったから、いま十六夜君が危険にさらされているじゃないか!

すぐに追いかけよう、とみんなに提案しようとして、先ほど駆け出して行った十六夜君のスピードを思い出す。僕の常識ではありえないスピードに追い付く手段が思い付かなかったから。

 

十六夜君が危険にさらされているのにどうしようもない。僕は焦っていた。

すると、黒ウサギちゃんが、

 

「はあ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「分かった。黒ウサギはどうする?」

 

「問題児を捕まえに参ります。事のついでにーーー”箱庭の貴族”と

謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

などと言うと、黒ウサギちゃんの髪は艶のある黒い髪から淡い緋色に染まっていき、

 

「一刻ほどで戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

 

弾丸のように飛び去り、あっという間に視界から消え去ってしまった。

 

「………黒ウサギちゃんって足がとっても速いんだね」

 

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」

 

なるほど。ここでは常識は無意味みたいだ。

十六夜君も黒ウサギちゃんも僕のいた世界の人間では想像もつかないような速さで移動するとなれば、恐らく十六夜君と同じように正規の手紙を受け取って召還された飛鳥ちゃんと耀ちゃんは同等のギフトを持っているのだろう。

格好つけて黒ウサギちゃんの前でコミュニティに入ると言ってしまったが、僕は完全に要らない気がする。

というか、

 

「黒ウサギちゃんがそこまで強いなら、ギフトゲームも問題ないんじゃないの?」

 

と僕がジン君に尋ねると、

 

「それは、黒ウサギが”箱庭の貴族”であるためできません。彼女らは”主催者権限”と同じく”審判権限(ジャッジマスター)”と呼ばれる特権を所持できます。”審判権限”を

持つものがゲームの審判を務めた場合、両者は絶対にギフトのルールを破ることができなくなり…………いえ、正しくはその場で違反者の敗北が決定します」

 

「じゃあ、黒ウサギちゃんと共謀して負けないようにはできないの?」

 

「できません。ルール違反=敗北なのです。彼女らの目と耳は箱庭の中枢と繋がっています。つまり彼女らの意思とは無関係に敗北が決定して、チップを取り立てることが出来るのです。”審判権限”の所持はその代償として幾つかの”縛り”があります。

一つ、ギフトゲームの審判を務めた日より数えて15日間はゲームに参加できない。

二つ、主催者側から認可を取らねば参加できない。

など、他にもさまざまなものがあり、また黒ウサギの審判稼業がコミュニティの唯一の稼ぎだったので、必然的に黒ウサギがゲームに参加する機会はほとんどなかったのです。」

 

なるほど。だから、ギフトゲームに参加する強力な人材を求めていたわけだ。

 

「さあ、立ち話もなんですし、どうぞ箱庭へ入ってください。あ、申し遅れました。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。皆さんの名前は?」

 

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」

 

「春日部耀」

 

「そして、僕が野比のび太」

 

ジン君が礼儀正しく自己紹介をすると、僕らはそれに倣って一礼した。

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

飛鳥ちゃんはジン君の腕を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐっていった。

 

 

 

――――箱庭二一零五三八零外門・内壁。

僕たちは石造りの通路を通って箱庭の幕下に出る。すると、天幕によって光が遮られていふはずの頭上に眩しい光が降り注いだ。

 

すると、耀ちゃんが猫に向かって、

 

「………本当だ。外から見たときは箱庭の内側なんて見えなかったのに」

 

耀ちゃんは変わった子だなぁ。

なんて考えていると、ジン君が説明してくれた。

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」

 

だ、そうだ。見たところ科学技術というよりは、他の何か不思議な力によって出来たもののようだ。

 

「光を直接受けられないというと、この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

 

「え、居ますけど」

 

「………。そう」

 

なんとも複雑そうな顔をする飛鳥ちゃん。

その脇では、耀ちゃんがまたしても三毛猫に対して、

 

「うん。そうだね」

 

「あら、何か言った?」

 

「………。別に」

 

やっぱり変わった子だ。

 

今、僕たちがいる噴水の広場にはお洒落なカフェテラスが幾つもあった。

 

「お勧めの店はあるかしら?」

 

「す、すいません。段取りは黒ウサギに任せていたので………よかったらお好きな店を選んでください」

 

「それは太っ腹なことね」

 

僕たちは飛鳥ちゃんが選択した”六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに座る。

すると、店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出てきた。

 

「いらっしゃいませー。ご注文はどうしますか?」

 

「えーと、紅茶二つと緑茶を二つ。あと軽食にコレとコレと」

 

「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね」

 

え?なんで急にネコマンマ?

横をみると、飛鳥ちゃんもジン君も不可解そうに首を傾げている。だが、それよりもっと驚いた顔を見せているのは耀ちゃんだった。

 

「三毛猫の言葉、分かるの?」

 

「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよ!」

 

三毛猫がニャーニャー、と返事をすると、

 

「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」

 

と、猫耳の店員さんは長い鍵尻尾をフリフリと揺らしながら店内に戻っていく。

その後ろ姿を見送った耀ちゃんは嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。

 

「…………箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

 

え?つまり?

 

「ちょ、ちょっと待って。貴女もしかして猫と会話ができるの?」

 

珍しく動揺した声の飛鳥ちゃんに、耀ちゃんはコクリと頷いて返す。ジン君も興味深く質問を続けた。

 

「もしかして猫以外にも意志疎通は可能ですか?」

 

「うん。生きているなら誰とでも話は出来る」

 

「それは素敵ね。じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

 

「うん、きっと出来………る?ええと、鳥で話したことがあるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど………ペンギンがいけたからきっとだいじょ」

 

「「「ペンギン!?」」」

 

僕と飛鳥ちゃんとジン君の声が重なった。

 

「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」

 

「そうなんだ」

 

「はい。一部の猫族やウサギのように神仏の眷族として言語中枢を与えられていれば意志疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意志疎通は難しいというのが一般です。箱庭の創設者の眷族に当たる黒ウサギでも、全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」

 

「そう………春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」

 

笑かけられると、困ったように頭を掻く耀ちゃん。対照的に飛鳥ちゃんは憂鬱そうな声と表情で呟く。僕たちは出会って数時間の間柄だけど、それでも飛鳥ちゃんの表情が彼女らしくないと感じた。

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」

 

「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」

 

「私?私の力は………まあ、酷いものよ。だって」

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ”名無しの権兵衛”の

リーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

と、そこへ突然品のない上品ぶった声が割り込んできた。振り返ると、2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変な男がいた。

ジン君は顔を顰めて男に返事をする。

 

「僕らのコミュニティは”ノーネーム”です。”フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだーーーそう思わないかい、お嬢様方」

 

ガルドと呼ばれた男が僕を無視して飛鳥ちゃんと耀ちゃんに話しかける。

あー、なんか今日は異世界に召還されたり、歩き続けたりしたから、疲れて眠気がするなあ。今のうちにお昼寝しよう、と。

 

「失礼ですけど…………」「おっと失礼…………」「烏合の衆の」 「ってマテやゴラァ!!…………」

 

何か声が聞こえるが、僕は後で聞かせてもらおう。

おやすみ。

 

 

 

 

 

 

 

………ん?何やら騒がしいな。起きてみるか。

 

目を擦りながら音がする方に向けると、

 

「黙りなさい。」

 

「喧嘩はダメ」

 

少女二人が2mの巨体の男をねじ伏せていた。

飛鳥ちゃんは楽しそうに笑いながら

 

「さて、ガルドさん。私は貴方の上に誰が居ようと気にしません。それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した”打倒魔王”だもの」

 

その言葉にジン君は大きく息を呑んだ。そして、

 

「………はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。今さらそんな脅しには屈しません」

 

「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」

 

「く………くそ……!」

 

どういうこと?状況が掴めないんだけど。

 

すると、小柄な耀ちゃんに組み伏せられ身動きができず地に伏せている。

ガルドの顎を飛鳥ちゃんは悪戯っぽい笑顔を浮かべながら足先で持ちあげると、こんなことをいい始めた。

 

「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度のことでは満足できないの。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。―――ーそこで皆に提案なのだけれど」

 

嫌な予感が走る。

飛鳥ちゃんは足先を離し、今度は女性らしい細長い綺麗な指先でガルドの顎を掴み、

 

「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の”フォレス・ガロ”存続と”ノーネーム”の

誇りと魂を賭けて、ね」

 

僕が昼寝している間に何があったのか。

早急に説明を求めたい。

 




前回の投稿から急にお気に入り数が増えてびびっております。まさか日間ランキングに載るとは…………
だんだんと、本編にオリジナル要素が増えていき、取り敢えず1巻のラストで一区切りつくようにします。
ただ、そこまでいくのにゆっくりゆっくり話をすすめていきたいなぁ、と思っているので気長にお付き合いしていただけると嬉しいです。


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