衛宮さんがセイバーじゃなくて抜剣者を召喚しました。 (さわZ)
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プロローグ 衛宮さんがセイバーじゃなくて抜剣者を召喚しました。

 「だ、大丈夫ですか?!肩から血が出ているじゃないですか!」

 

 赤い髪を生やした青年シロウは突如現れた同じ赤い髪をした女性に声をかけられていた。

 忘れ物をしたから学校に取りに行くと赤い槍を持った男に追われて、刺された。そこから気が付けばちょっと時間が経っていて、シャツは血で真っ赤。多少困惑しつつも自宅に戻ると再度赤い槍を持った男に襲われて、自宅にある蔵に逃げ込むもののもう駄目かと半ばあきらめそうになっていたら、突如目の前が光り、赤い髪の女性が自分を見て慌てだした。

 シロウはちょっと特殊な家に引き取られた『正義の味方』を目指していた青年だった。日本人にしては珍しい赤い髪だが目の間の女性の髪は明るみを帯びた、少ない月明かりでもその艶やかな髪は光を弾いていた。よく見ればその毛先はその瞳と同じライトグリーンになっている。

 女性の風貌は赤い上着に上に白いマントのような上着を重ねて着ていた。白いスカートに白い帽子とその髪色を際絶たせるような紅白であり、どこか親しみを持てそうな女性だった。

 

 「ええっと、キッカの実は何処にありましたっけ?ああ、ええっと、これじゃない。あれ?何でサモナイト石が、私持ってきましたっけ?しかも治療用じゃないし」

 

 目の前の女性は自分の容態を見るなり、スカートのポケットやマントに手を入れて何かを探しているようだが出てきたのは白い石だけだった。その白い石に自分の姿が映し出された瞬間に思い出す。そうだ、自分は赤い槍を持った男に襲われている最中だった。

 

 「こ、ここは今危険な所なんです、だから早く逃げ」

 

 逃げて。と、言いきる前に目の間の女性は何かを察知したかのように自分を抱きかかえて蔵の扉の前から離れる。そのスピードは常人では出すことが出来ないほどのスピード。シロウの目からすると赤い風が自分を包み込んだようにも見えただろう。

 その直後に起こる爆音。それと共に崩れ落ちる蔵。落ちてくる瓦礫から逃れるためにあえて女性はシロウを抱えたまま蔵から脱出すると、シロウの前にあの紅い槍が襲い掛かって来たが女性はそれをまるでダンスをするかのように回避する。

 赤い槍の矛先が女性の赤い髪を数本刈り取っただけで何とか事なきを得る。

 

 「・・・へぇー、小僧。お前も聖杯戦争の参加者だったのか。そんでサーヴァントを上手く呼び出したってわけか」

 

 赤い槍を持った青いスーツのような物を着た男性が、崩れ落ちる蔵から飛び出したシロウと女性の方を見てそう呟いた。今の今まで自分を襲ってきた男だ。おそらくこの蔵を壊したのも彼の仕業だろう。自分に襲い掛かって来たスピードに蔵を壊したパワー。どう鑑みても普通の人間に出来そうなことではない。

 

 「貴方ですか、さっきの爆発は!この子が死んだらどうするんですか!」

 

 「殺すつもりで攻撃したんだから仕方ねえだろ。ま、関係ない奴を殺すのは忍びなかったがいまじゃあガッツリ関係しているから少しはつっかえが取れたってところ、だな」

 

 「・・・。っ、聖杯?願望器?って、なんで私こんな事を知っているの?」

 

 不意に女性が頭に手をやり浮ついた様子を見せると、槍を持った男はやれやれと言った具合に話しかける。

 

 「召還されたばかりで、現状が把握できていないみたいだな。そっちの小僧も同じようだから一応説明しといてやる。俺達はな、聖杯っていう願いを叶える為の道具を奪い合う敵ってことだ。そして、それを使うには俺やお前さんみたいな英霊の魂がいるんだよ。まあ、理解出来なくてもいい。ただそういう事が今なお起きているってだけだ」

 

 男はそう言いきると同時に槍を持ち直す。

 

 「俺はランサー。お前の心臓を穿つ者だ。で、お前は・・・。消去法だとセイバー、か?見た所だと剣は持っていないようだが。まあ、さっさと用意しろ。無手の奴を殺すは趣味じゃねえ」

 

 「あの、その殺し合いはどうしても必要なんですか。その願いは聖杯を使わなければ敵わない夢なのですか」

 

 「あのなぁ、甘ちゃんみたいな事を言うなよ。お前にだって叶えたい願いはあるだろう。それを叶えられるチャンスがあって聖杯があれば何でも叶うんだ」

 

 「それでも、それでも話し合いあえばいいじゃないですか。お互いの折衷案を出し合えば殺しあう事なんて・・・」

 

 「お前さんにもあるんだろう願いが。そこの坊主にも。俺はともかく俺のマスターとは絶対に馬が合う訳がねえ。それに俺のマスターと話し合いをしてももっとひどい事になる。お前だけの力でどうこうできるほど甘いもんじゃねえ!だから、セイバー。そんな甘っちょろい考えならここで消えちまえ!この先にまっているのは何人人ものの死が現れる戦争だぞ!」

 

 矛先を完全に女性の方に向けたランサーに対して女性は白の前で見せた白い石を握りしめていた。

 

 「…希望は何処にだって残っています。何故なら私は、私達は生きているんですから」

 

 セイバーは何を思ったのか腰に下げていた剣ではなく、何もない所に手を伸ばす。

 

 「力もなく意志も無いお前にそれを通せるのか?」

 

 「…力はないのかもしれない。だけど、意志はあります」

 

 女性のスカートにあった白い石がほのかな光を放つとその光は彼女手に集まり剣という形を作り出す。

 

 「へえ、やっぱりセイバーだったか。まあ戦闘態勢に入ったのは覚悟を決めたという事か。」

 

 「いきなりの事で未だに理解は出来ていませんが、私はあなたを止めますっ。そしてその上で一緒に戦わないで済むことを探します!」

 

 女性はあくまでも話し合い。そして戦争には非協力的だ。そして、優しい性格をしているからこそここまで自分を引き留めようとしているのだろう。だが、いかなる犠牲を払ってでも願いを叶えたいマスターと英霊がいる。思想、意志、信念、野望。そのどれをとっても自我を通したいという欲に動かされる。女性の『戦わない』もまたそれに含まれている。

 だからこそ赤髪の女性は剣を取る。かつて魂の楽園と言われたリィンバウム。そこにあった『忘れられた島』を知る彼女だからこそ、殺し合いという手段で目的を達成しようとしている存在を許さない。そんな存在にだからこそ彼女は手を伸ばす。別の方法を考えましょう。私も手伝いますからと。

 その島ではまず元軍人だった自分とは分かり合えないと思っていた陽気な海賊たちだった。その次はその島に住む人間を忌み嫌う亜人や妖精といった人ではない存在達。彼等といざこざを起こしながらも自分達は分かり合えた。その島の人達と触れ合う事で自分が受け持った生徒との距離も縮められた。だが、良い事ばっかりじゃないのも確かだ。

 元同僚の。自分が所属していた軍隊がそこに住む住人達を傷つけようとした。それを止めようとした。自分が持つ剣を奪おうとした。軍人である彼女達がそれを欲している事情も分かる。だが、それを明け渡すこと。それは分かり合えた島の住人達を裏切る行為だった。彼等の命を差し出すような事だった。だから自分は剣を取った。何度も話し合おうとその剣を持って彼女達を退くことはあっても決して自分から傷つけようとはしなかった。

 だが、力は力を呼ぶのか、軍人である元同僚との戦いも終え、どうにか和解の席を持とうとした時、法も人情も溝に投げさる存在達が自分達に襲い掛かった。自分と同じ力を持つ存在と何度も戦った。そして、彼女の持つ剣は戦いたくないという心と共に砕けた。

 

 「へぇ、それがあんたの獲物か。だが、そんな生っちょろい剣と甘ったるい思想はすぐに壊れるぜ!」

 

 ランサーが弾かれたように女性の持つ剣にぶつかると同時に白い剣は砕け散った。だが、砕け散った剣の欠片たちは再度彼女の手に集まり再び形を成した。それは彼女が今まで何度もくじけそうになった時、彼女が守ろうとしていた人達が実は自分を支えてくれていたように彼女の持つ剣は何度でも蘇った。

 

 「ちっ。あの紅い弓兵と似たような力か!」

 

 女性と何度も打ちあうランサー。それは赤い槍が白い雪を舞い上げているかのような光景を作り出していた。砕かれるたびに再び手に握られる白い剣は何度でも何度でも彼女の手に集まり形を成す。

 

 「・・・私の考えは確かに甘いかもしれません。世界は優しくないのかもしれません。だけど、私はそれを貫きます!その先に私が守りたい人達の笑顔があると信じて!」

 

 女性の持つ剣が一際大きく輝くと今まで数回の衝突で砕けていた白い剣の光はより濃厚になり、辺り一面を明るく照らしていた。

 

 「だから、ランサーさん。私はあなたを止めてこの戦争を終わらせる!」

 

 自分の剣が壊れた事で自分の心も壊れてしまったと思っていた時、自分が受け持っていた生徒が島を襲ってきた組織の暗殺者がいる危険性も有るのに、砕けた剣の欠片を集めてくれた。剣が壊れたから心が壊れた。それなら剣を直せば貴女の心が治るかもしれない。それぐらいしか思いつく事がなかったと泣きながら抱きついてくる生徒を自分は強く抱きしめた。そうだ、剣が無くなったから戦う事が出来ない。皆を守る事が出来ない。それが怖くてふさぎ込んでいたところで仲間になった海賊。島の皆にお前は剣無しでもよくやった。お前があちこちに顔出してくれたおかげで俺達は分かり合えた。そこに剣は関係ない。

 

 「ふんっ。ならこの槍を受けてもそう言い張れるんだったら考えてやるよぉ!」

 

 男の持つ真紅の槍が赤黒い光を放ちながら凄い力を帯びていくのはシロウにも感じ取れた。それに対峙する女性も自分が持つ剣を魔力で強化するかと思っていたが、それは違う事だった。

 

 「ランサーさん。貴女の攻撃はとても鋭く凶悪です。だからこそ私も切札を使います」

 

 白い剣を構えたままだが女性の体からは蒼の光が零れだすと同時に天へと吹き抜ける。その青い光の奔流の中に一際蒼く輝く宝石で作られたかのような剣が現れた。

 

 「・・・ごめんね。本当はずっとよばずにいれれば良かったんだけど」

 

 白い剣を片手に持ち、空いた片方で青い剣を取ると女性の風貌が変わった。髪は銀の色になり瞳はライトグリーンから青い瞳に。そして彼女の来た洋服の一文も彼女の体に合わせて少しだ変化している。

 

 「準備はいいな?行くぜ、ゲイ・ボルク!!」

 

 「果てなき蒼(ウィスタリアス)!私に力を!」

 

 高速移動するランサーをどうにか目で追った女性だが、ランサーの動きを見た瞬間、早さで放勝てないと思った女性は先程出現させていた白い剣とは別の剣を作り上げ、いや、呼び出した。

 どんな青よりも蒼。海のように透き通り、空の様にどこまで吸い込まれそうな剣が彼女の手に出現した。

 

 お人好しで子ども達の笑顔が何よりも好きだった彼女。誰かを守り抜く。そんな彼女の姿を見て、誰かがそう言い伝えられることになる。異世界で語り継がれる蒼の魔剣を持つ英雄。赤い髪の女性。アティがこう呼ばれるのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 抜剣者(セイバー)。守り、切り開く者。

 その蒼の魔剣は彼女の心で出来ていた。

 




 サモンナイト6が出るという情報を目にしてふと書いてしまった。
 Fateあまり知らんのに・・・。
 セイバーって言ったらアティ先生(もしくはレックス先生)が真っ先に思い浮かんだんで。次回の更新は未定です。
 邪神様も書かんといかんし、ドラクエも・・・。
 他の作品に行き詰ったらローテンションで書いていきますんで更新は気長にお待ちください


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第一話 様々な夢を砕いた英雄

 アティの振るった青の魔剣。ウィスタリアス。それは五つの世界の技術を統合し研磨し、自分の魂を込めたと言ってもいい剣から発せられた剣戟。それは日の光が無いにもかかわらず、月の光や星の輝きがあるにもかかわらず、その剣の軌道上に青空を作り出したかのような一閃だった。

 魔術師としては素人。魔術という存在を知っただけといったレベルのシロウにもその膨大な魔力は槍を持った男ランサーが振り降ろそうとした槍をも押し返さんばかりの風圧にも波にも似た威力だった。

 それだけにランサーは怒った。一時的に夜空に青空を描くという膨大な攻撃力を持った魔力に。その魔力に自分を攻撃する意思が無かったという事に。

 

 「・・・ふざけるなよっ!セイバー!お前は俺を侮辱するつもりか!」

 

 「侮辱するつもりなんてありませんよ。私は最初に言いました。戦うつもりはありません。戦争をこの争いを止める為だけに剣を取った。ランサー、私はあなたの願いを聞きたい。それが受け入れることが出来ない願いでもひとまずは聞きたいんです」

 

 槍を投げつけることを許さなかった膨大な魔力。だが、そこには自分を攻撃する意思はなかった。ただ、戦争を止めたいだけ。争いたくないだけ。ウィスタリアスはそんなアティの想いに応えてランサーが持つ槍だけに魔力を当てた。砕くでもなく、弾くだけでなく、ただ押しとどめる様にアティの放った砲撃にも近い斬撃は戦いたくないという意志が込められていたからだ。

 

 「一度、剣を交えている相手。しかも戦っている最中にそんな事を出来ると思っているのか!」

 

 「・・・それもそうですね」

 

 ランサーの言葉にアティは何を思ったのか。視線は逸らさずに、だが、持っていたウィスタリアスの剣先を下ろすと同時に呼び出していた魔剣を『とある場所』に送還した。

 銀色だった髪は赤に戻り、青に染まっていた瞳も赤いライトグリーンへと戻っていた。それは戦う意思を完全になくしたに過ぎない。それがランサーの逆鱗に触れるという事を知っていながらも。

 

 「何のつもりだセイバー!」

 

 「何度も言っているじゃないですか。貴方の願いは、貴方のマスターの願いは何なんですか。私は何度だってそれを聞くために貴方を止めます。それは本当に『力づく』でも」

 

 優しい声色。だけど意志がこもった瞳と言葉にランサーだけでなくアティの後ろにいたシロウにも感じ取れた。目の前にいる女性は本当に、今も自分を殺そうとしている相手の願いを聞こうとしている。そしてその願いを『戦争という悲惨な過程』を通らない手段を持って叶えたいと思っている、

 

 「ちっ、甘ちゃんが!お前のいた時代はよっぽど力に溢れて楽園だったみたいだな!それこそ殺し合いが無かったみたいに!」

 

 「・・・ありましたよ。多くの人が死んでいくのに!多くの想いが心半ばに散っていく人達に。心から守ろうとした人に裏切られる事に・・・心から死にたがっていた人達に」

 

 ランサーの言葉にアティは昔を振り返るように言葉を紡ぐ。その言葉を発している彼女の表情から嘘は見れない。彼女の言葉に嘘はないとランサーは感じ取った。

 

 「人を唆して利用しつくした挙句に絶望を与え、死者が生者を襲い新たな死者を生み出す悪魔にも。自身の欲を満たすために自分の娘に隷従させた異形の存在との間に生まれた幸せを摘み取る人間を。その人の末路も。たくさんの・・・。たくさんの人達が死んでいきました。私の目の前で、手の届かない所で多くの人が死んでいきました。だからこそ私は聞きたいんです!ランサーさん、あなたの願いは本当にこんな殺し合いを、戦争を犯さないといけない事なんですか!」

 

 まるで夢見る少女のような言葉。だが、戦争というもの。殺し合いというもの。裏切りに地獄といった物を経験したアティに圧倒されそうになるランサーだった。だからこそアティの綺麗すぎるその言葉を汲もうとは思わなかった。

 

 「ふざけるなセイバー!それでは死んでいった者達を侮辱するつもりか!志半ばで散っていった、お前に理想を踏みつぶされ、夢を砕かれた人間に対してもお前はそう言えるのか!」

 

 他人の所為で自分の夢が潰える、そんな事は古今東西、世界が違えどよくある話だ。志が、夢と希望が高尚であればある程にそれを叶えきれる者は限られる。それは器に入れる水が容量を超える量を入れた時に零れるくらいに、ごく当たり前の事だ。

 

 「お前に己の目標を潰された人間がいないとは言わせない!お前ほどの存在に!お前と敵対した存在にもお前はそんな事が言えるのか!」

 

 彼女に己の野望を潰された存在は必ずいる。『正義の味方』と評される英霊と反する存在。いわば『悪役』の存在がある。

 彼の野望を打ち砕いたからこその英雄であり、英霊である。志す者が違うから受け入れられないからぶつかり合い、打ち砕かれ存在がいるからこそアティはこの戦争にいる。彼等の願いを打ち砕いた彼女だからこそ、彼等に絶望を与えた彼女だからこそ聖杯に呼ばれたのだ。そんな彼女だからこそ・・・。

 

 「言いますよ。だって私達はまだ出会ったばかりじゃないですか。お互いの事もよく知らないままでぶつかり合うよりもまずはお互いの事を知りあってからでもいいじゃないですか。もしかしたらその願い。叶うかもしれないじゃないですか。別の手段で叶えきれるかもしれないじゃないですか」

 

 殺し合いというのが前提で始まった聖杯戦争を真っ向から否定するアティ。それは多くの悲劇を見てきた彼女だからこそ同じ悲劇を繰り返させないための手段だと信じている。

 

 「ランサーさん。もう一度聞きます。貴方の願いはなんなんですか。私はそれを聞くまで何度でも剣を取ります。何度だってあなたの槍を止めてみせます」

 

 剣を下したというのに、誰よりも戦意が無いのに。恐らくこの場に居る誰よりも強い力を手放し、誰よりも弱くなったアティがその場を制していた。

 

 「ランサーさん。一人で出来ない事も二人でなら出来る。三人、四人。十や百ともなれば。自分の想いを誰かに打ち明けてそれに賛同する数が多ければ多い程達成しやすい。それは日常でも戦場でも同じことだとは思いませんか」

 

 「それで俺がお前にそれを打ち明けたとして叶うとでも思うか」

 

 「はい。少なくても私の後ろにいる少年を狙わず私だけを攻撃してきた貴方なら。そんな誇り高い貴方と少なくてもこの聖杯をかけた戦争に召喚された私なら出来ることも幅が広がると思うんですが」

 

 腐っても英雄としてよばれましたからね。と付け加えるアティの微笑みは何処までも優しかった。

 

 「・・・ちっ。止めだ。止め。槍を外したら戻れと言うのが俺のマスターの指示だ。他のサーヴァントの気配もある。ここは退いてやる。だが、セイバー。次はないぞ。今度会った時、俺はこの槍でお前の心臓を問答無用で貰い受ける」

 

 「なら私は問答無用であなたの槍を止めますね。私、こう見えても頑固なんですよ」

 

 やる気をなくしたランサーはアティの笑顔を見て戦意を削がれたのか、彼女同様に槍を収めながら彼女を一睨みするが、それを真正面から受け止める。

 

 「ちっ。あばよ」

 

 「あ、待ってください、ランサーさん。私の。・・・行っちゃいました」

 

 ランサーが去る間際にアティは何かを伝えたかったのだがそれを言う前に彼はその場を去った。そんな彼を追う事が出来ればいいのだが自分の後ろには怪我をした少年がいる。そんな彼をおいてランサーを追うという事は出来なかった。

 アティは辺りを警戒しながらずっと背中で守ってきた少年シロウの元に歩み寄る。情けない話だがシロウはアティとランサーの戦いで生まれた衝撃波と魔力の余波で尻もちをついた状態だった。ランサーの槍で負傷したとはいえ初めて見る命のやりとりにただ見惚れていたとも呆然としていたというのも当てはまる。だが、一つだけわかる事がある。目の前にいる英霊。セイバーと呼ばれている女性は自分の夢見る『正義の味方』に近い存在という事だった。

 

 「えっと、とにかく傷の手当てをしましょう。この大きな家はあなたのお家ですか?」

 

 「え、ああ、はい」

 

 「良かったです、手当てをしたいのですが傷薬とかも置いているのなら手当てをしたいのですが」

 

 「あ、置いている。確か台所の辺りに」

 

 「じゃあ、すぐに手当てをしましょう破傷風とかになったら大変ですから」

 

 先程までの凛々しい風格は微塵にも思わせない女性の姿がそこにあった。例えるなら近所の知的で優しいお姉さんといったところか。しかも明らかに日本人じゃない風貌なのに衛宮邸に入る前に靴を脱いでお邪魔しますと言ってからシロウを家の中に入り、招き入れる仕草は日本の文化を知っているようにも見えた。

 台所に繋がる居間でシロウ座らせて救急箱を持ってきたアティはをせっせと彼の傷の具合を見ていく。一応シロウも年頃の高校生なのだがアティの本当に自分を心配している雰囲気を読みとって素直に上着を脱いでシロウの怪我を手当てしていく。そこでアティは思い出したようにシロウに話しかけた。

 

 「あ、そう言えばまだ自己紹介がまだでしたね。私の名前は…」

 

 ピンポーン。

 

 が、アティの言葉を遮るように衛宮邸のベルが鳴った。

 

 

 

 衛宮邸のベルを鳴らした魔術師はこれから対峙するだろうサーヴァントに胸を高鳴らせた。と同時に自分の知人がこの戦争に関与している確認がとりたかった。もし事故で関与しているのなら助けたいし、関係していたとしても正々堂々真正面から宣戦布告をして勝利を勝ち取るのだと意気込んでいた。その隣にいる彼女のサーヴァントはその純粋で気高く、幼さを感じさせるマスターに少し疲れた表情を見せていた。

 

 衛宮邸から離れた寺院である人影が呟いた。あれは自分が知り得る魔術の中でも群を抜いて純粋で強力な物だと。だが、それ故に手に入れることができると考えていた。その傍にいた剣士はその人影の獰猛さを隠しきれない笑みに呆れながらも強者の覇道のような物を青空色に光った閃光に苛烈な戦いが出来ると思いをはせた。

 

 とある屋敷では、あれはどこか自分達の使う魔術に似ている物だが自分達が持つ物とは正反対の物だ。何かを蝕み力を得るのではなく相乗効果のあるものだ。自分達の使う魔を祓う光りだと恐れた。

 

 またある屋敷では狂っている戦士が懐かしさを感じた方向を見た。それは衛宮邸がある場所を示していた。その戦士の主人も同じ場所を見ては笑みを浮かべていた。

 

 とある施設ではセイバーと相対したランサーと彼の報告を聞いたその主人はその人なりを聞いて呆れ果てていた。自分のついている役職以上に、そして狂っていると判断した主人は取るに足らない存在だと感じていた。

 

 そんな中、

 

 「…良い。実によいぞ。此度の戦争は。聖杯よりもあれは価値のあるものだ」

 

 この世のすべての財は自分の物だと信じて疑わない金の御髪を持った男が衛宮邸から走った光を見て歓喜に震えていた。

 天地にあるすべての財を手にしたとしても天。空自体を自分の物にした覚えはない事に気が付いた。強力な武器や豪華な装飾品。豊かな土地に伝説クラスの食材。美しい光景を見せる土地すらも手にした男は決めた。全てを叶える願望器、聖杯はもちろん自分の物だが今回参戦しただろうまだ見ぬ英霊が持つ宝具。魔剣ウィスタリアスを必ず自分の手中に収めるのだと意気込んでいた。

 

 そんな様々な思惑が渦巻く抜剣者を呼び出した冬木市という町に行き場を失った聖剣がどこかで寂しく光っていた。

 

 



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第二話 英雄になるために必要な物


アティ「シロウ君に足りないものぉ、それはっ。知識、技術、人脈、才能、物資、魔力、笑顔、見識力、物事に対する想定力っ。だが何よりもぉおおおっ」

アティ「●●が足りない!」

シロウ(´・ω・`)……

 ●●はネタバレになりますのでこの辺で。



 

 願いを叶える為に七人の英霊を呼び出し殺し合いをさせて、その魂を用いて願いを叶える為の殺し合い。それが聖杯戦争。

 そんな残酷な戦いに巻き込まれたのだと応接間に通した女性とそのサーヴァントから聞かされたシロウは思わず声を上げた。

 

 「そんな、そんなふざけた事が許されるのか!」

 

 つやのある長い黒髪を持つクラスメート。遠坂リンに簡単に説明してもらったシロウは湧き上がる感情を抑え切れなかった。その戦争で無関係な人間を巻き込まないという保証が無いと聞くとセイバーの方も憤りを隠せずにいた。

 

 「それが魔術師という生き物なの。『目的の為ならどんな犠牲を払っても構わない』という考えを持つ生き物で呼び出される英霊も自分の願いを叶える為の糧としか考えていないのがほとんどよ。あと、魔術が使えない人達を見下している節もあるわよ。ちょっとした選民嗜好を持っているわね」

 

 「むっ、同じような術を使っている私としては受け入れがたい人達ですね」

 

 召喚術。アティがいる世界では響命術と呼ばれる魔術が確立している。それは『目的の為に力を合わせる』というもので、誰かをないがしろにするという考えとは真逆に当たる。

 

 「・・・あまり敵が有利になる情報を漏らさない方がいいぞセイバー。敵は何処にいるか分からんのだからな」

 

 絶対人種の力を持つ令呪でマスターであるリン『私の言うことを聞け』という命令を受けた白髪で肌黒の男性の英霊。アーチャーはその命令をそのまま実行した。『障害は正々堂々真正面からぶちぬく』と聖杯戦争の事を碌に理解していないシロウとセイバーに忠告をした。衛宮邸をくぐる前に奇襲を仕掛けるかマスターに申し込んだが却下されたためである。

 

 「はぁ、そうですか。あと私の名前はセイバーじゃなくてア」

 

 「だから待ちなさいって。見るからにあなたは自分の本当の名前。真名をいおうとしているんじゃないかしら?」

 

 「そうですけど?」

 

 本当に分かっているんだろうか、この目の前にいる知人のサーヴァントは。

 リンはのほほんとしているセイバーを見てため息をつく。

 

 「あのね、これは戦争で、貴方は英雄としてよばれた。いわば私達は敵同士。敵の真名が分かれば文献を調べて対処される。つまり相手にあまり情報を渡さない方が有利に事を進められるのよ。本来ならサーヴァント同士の相性もあるからクラスも明かさないのがいいのよ」

 

 「え、でも、リンちゃんは敵じゃないんですよね。だから大丈夫なのでは?」

 

 「あのね、最初に説明したでしょっ、これは戦争で私達は殺し合いをする敵だって!」

 

 「そうなのかっ?」

 

 「そ・う・よ!だー、主従揃って何でこんなにお気楽なのかしら!」

 

 リンは頭を押さえて用意されたお茶を一気に飲み干した。

 が、今度はリンのサーヴァントのアーチャーが呆れる番だった。

 

 「マスター。敵だと思うならその相手が用意したお茶も飲まない方が賢明だと思うが」

 

 「こ、これはっ。い、いいのよっ、どうせこんなのほほんコンビが出したお茶に毒とか入っているはずがないんだから!ていうか止めなさいよ!アーチャー!」

 

 「次から気をつけよう、マスター。あと、私のクラスも出さないでくれるかな」

 

 「な、あ、くぅううううっ。そこもなにニヤニヤしているのよっ」

 

 自らのミスに気が付き後悔し悶えるリンの姿に、アティとシロウは苦笑しながらリンを見守った。

 ああ、目の目にいる少女はやっぱり敵じゃないと。

 

 「遠坂はやっぱり敵じゃないな」

 

 「そうですね、リンちゃんは優しい子です」

 

 「なんなのよ、なんなのよっ!そんな優しい目で私を見るなぁああああっ!!」

 

 居た堪れないリンの声が衛宮邸に響いた。

 

 

 

 場所が変わって、冬木氏にある教会。リンはアティとシロウをこの聖杯戦争の管理人を務めている神父、言峰キレイ。

 彼に聖杯戦争のなんたるかをセイバー陣営に説明してもらう為にリンは二人を連れてやって来た。あれ以上自分のうっかりを出さないためにもキレイに丸投げしたリン。だが、二人が聞かされたのはリンから聞いた通りの殺し合い。

 リンから聞いたことは冗談ではなく現実。それを改めて知らされたシロウは感情を押さえられなかった。

 

 「何をそんなに憤っているのかな、少年。君の夢がようやくかなうのだ。喜びたまえ」

 

 「なにを、言って」

 

 「君のお父上、衛宮切嗣。恒久平和という願いを受け継いだ君ならば、『正義の味方』を目指している君がこの戦争で勝ち抜き、聖杯を手にすればそれは叶うのだ」

 

 冬木市で起こる聖杯戦争の管理人を務めるだけあってキレイはシロウの情報もある程度掴んでいるようだ。そして彼の夢であり目標であるキリツグの事も。

 

 「何も驚くことはない。魔術師同士のつながりは広く深い。まして、君の義父上は魔術師の中ではとても有名だったからね。そんな彼の養子の君の事も多少なり調べがつくさ」

 

 「・・・じいさんが」

 

 「ちょっと、私には知らせてなかったじゃない」

 

 自分の事が、自分の夢までも目の前の管理人に奔られていることに驚くシロウだが、逆にリンの方はそのふてぶてしい態度をそのまま出した。

 

 「知らせるように言われたわけではないのでな」

 

 「という訳でこのあんぽんたん達に細かい説明して」

 

 「本当にいきなりだな、リン。師が今のお前を見たらどう思うだろうな」

 

 優雅たれ。と常に余裕をもって冷静な判断を持っていた彼女の父親であり、自身の師は今の彼女を見てどう思うだろうか。自分が彼女に魔術のあれこれを指南していた時には見せなかった焦りのような物を感じる。

 そんな時アティはふとキレイに何かを感じ取った。それは自分が戦ってきたランサーの気配にも似た者だが、自分が以前にも感じた気配。それこそ神や王族の放つオーラのような物を感じ取った。アーチャーもリンもシロウも感じ取れなかった何かが自分達を見ているような気がしたのだ。まるで自分達を見定めるような何かの視線を。

 

 「どうかしたの、セイバー?」

 

 「あ、いえ。なんとなくここには居ない何かがこちらを見ているような気がして・・・」

 

 正確にはアーチャーとの念話でアティが何かに警戒している事に気が付いたリンは返ってきた言葉に警戒度を上げた。いくら管理人であるキレイが目の前にいるとはいえ、サーヴァント。人智を超越したとも言われる存在にかかれば一瞬の隙に自分達は殺されるだろう。

 そう言われたキレイもまたこれで話しは終わりだといい、この戦争に関わりたくなければ令呪を手放す手続きをすると切り上げた。

 

 「・・・俺がこの戦争を辞めると言ったらその後のセイバーはどうなるんだ?」

 

 「君の身元の安全は保障しようだが、そちらのサーヴァントは自害でもしてもらうしか他ならないな」

 

 「自害って、死ねって事か?!」

 

 「それは、流石に嫌ですね。外道召喚術くらいに理不尽です」

 

 あれ?でもペン太君とういう召喚術を使っていた自分達はどうなるのだろうか?呼び出されるたびに自爆ないし一家心中を実行させてきた自分達はまさに外道なのでは?と別方向に頭を悩ませるアティの様子にリンとアーチャーは呆れ果てていた。

 

 「それが嫌なら勝ち続ければいい。そして君が聖杯を手にすればそこのサーヴァントも助かり、願いも叶う。喜べ青年。君の願いはようやく叶う」

 

 聖杯を手にすればアティが死ぬことなく、また自分の願いも叶う。だが、それを行うというのはリンとアーチャーと戦争を。殺し合いをするということになる。だが、正義の味方を夢見た自分が戦争などという非道な手段を取っていいのかと悩み苦しんでいると、自分の右手にアティの手が触れた。

 

 「大丈夫ですよ、シロウ君。聖杯なんかなくても貴方の願いはかないますよ」

 

 優しく暖かい。まるで太陽の光のような暖かさを持った笑顔を見せるアティがシロウの隣にいた。

 

 「・・・ほう、『正義の味方』を体現するには巨悪の存在が必要となり、戦争という大舞台があればより際絶つ。今の状況程体現しやすいものがあるのかね?」

 

 「自分よりも弱い存在を守る。それだけで『正義の味方』じゃないですか。それに常日頃平和を守る自警団や軍隊や組織。誰かに知られることなく埋もれていく人達は表舞台でなくても立派な『正義の味方』ですよ」

 

 キレイはアティの言う言葉に興味を引かれた。身なりは神父然とした彼にとってアティのような綺麗事を並べるのは妄想のような物だと考え、どのような考えを持っているかと興味を引かれたからだ。

 現に世界は争い事が絶えない。現在進行形で行われている聖杯戦争や遠くの地で巻き起こっている民族紛争から殺人や強盗事件。それらをどう解決するのかと問うてみた。

 愛というのだろうか、仲間だというのか、それとも力というのか。さて、このサーヴァントはどう答えるのかと。

 

 「それはですね。・・・一応最後まで聞いてくれますか?」

 

 何やら自信なさげに言う彼女も戸惑った。いや、その答え自信をいうべきか悩んでいるようだ。

 

 「『いや、やっぱ言うなあああっ!』とか言うのも無しですからね?」

 

 「やけに念押しするわね。一応最後まで聞いてあげるから言ってみなさいって」

 

 リンとアーチャー。キレイはここまで来たなら最後まで聞いてやるかとアティの妄言に付き合おうと思った。このお人好しというかのほほんとした存在が『平和に必要なものは何か?正義の味方に必要な物は何か?』という答えを待った。

 それは彼女のマスターでもあるシロウも同じ。自分の理想に、自分の養父が夢描いた存在が、彼女のような存在に必要なものは何かと。自分に足りないものが何かを示してくれるそんな気がしてならないのだ。

 

 「平和に必要な物。そして正義の味方なるために必要な物。それは」

 

 「それは?」

 

 「お金です!」

 

 「「いや、やっぱ言うなあああっ!」」

 

 シロウとリンのツッコミが冬木市にある教会に響いた。

 アーチャーとキレイももう少しでツッコミをするところだった。

 

 「いえ、ですね。短期的、中期的、長期的に考えてお金は必要なんですよっ」

 

 短期的。

 まず争いをする輩を鎮圧させるために傭兵や組織といった力を得るために使うお金。これは言い換えてみればお金が無くてもそれだけの戦力があれば別になくてもいい。力が足りないなら人(お金)で賄えばいい。また、その被害に遭った人達の衣食住を提供するにもお金が必要となる。強奪や略奪など本末転倒であり、報酬が出ればその分やる気も出てより良い物が出来上がる。

 

 中期的。

 争いの原因となった物の解決案や妥協案。物資や貧困の格差などお金自体が争いの引き金になったのならそれを解決するための専門家を募って話し合いを行い実施させる。また、それらについて不備が無いようにその地域に学校のような物を立てて知識の底上げを狙う。宗教的な問題は別にして。というか誰かと争うような宗教っていらないよね?

 また、この争いが起きないように、もしくはその予防策を自分達で練り上げる為の知識と技術を提供させるためにも、その施設の開発、人材、環境を整える為にもお金が必要だ。

 ただ与えるのではなく自分達で生み出せるようにしてあげるのが狙い目。

 

 長期的。

 短期・中期で積み上げて来た物を持続させるために費用。そして、それを奪いに来ようとする存在から自分を守るための防衛力を養い持続させるために必要な物。やっぱりお金。

 そしてそのお金を捻出できるだけの知識や技術。人脈などを維持するためにもお金がかかる。

 

 

 「と、まあ。簡単に言うとこんな感じですね。『英雄』というのはこの短期的平和を成就させた人間で、中期的平和を完遂させた存在を『教育者』、長期的な平和を持続させる存在を『王族・貴族』または『政治家』という存在で彼等皆『正義の味方』と私は認識してますね」

 

 いつの間にかメガネをかけたアティが分かりやすく説明していた。

 なるほど彼女はロマンチストではなくリアリストだった。一見すると守銭奴のようにも聞こえるが彼女はお金の使い方まで説明している。

 

 「私はどちらかといえば中期的平和。と胸を張って言いたいんですけど、ちょっと力をつけすぎた所為で、あまりできていないんですけどね」

 

 とほほ。と若干涙目になりながら説明したアティに対してシロウは戸惑いを隠せなかった。そんなシロウに対してアティは優しく微笑んだ。

 

 「シロウ君。貴方が思い描いた『正義の味方』は今説明した中には無かったかもしれません。だけど、知っていてほしいんです。貴方が思い描いた『正義の味方』以外にも『正義の味方』がいることを。そしてそれが間違いだと思ったのならその間違いを一つずつ潰していってください。そうやって残った物が貴方の『正義の味方』です。自分がよしとしたモノだけを取って行ってください。否定するだけじゃない。肯定するだけじゃない。いろんなところからいろんな人達の経験。歴史。知識。技術の良いところを取り込んでいってください。悪く言えばいいとこ取りですね。でも、それが貴方の『正義の味方』なんですから。あ、でも自分より弱い存在を苛めるのはいけませんよ。特に何も知らない子ども苛めるなってもってのほかです。もしそうしようとしたら私はあなたの前に立ちふさがりますからね」

 

 優しく諭すようにアティは告げた。自分の言う事を受け入れて欲しいが受け止めなくてもいい。そう言った彼女は最後に付け加えた。

 

 「あ、あと最後に誰かを助けた後、誰かを助け続けたいと思うのなら心の底から助けられてよかったという笑顔でいてください。助けた人達に心配されている用事じゃ半人前以下ですからね。私もそれを校長先生に怒られました。それ以上に情けなかったんです。子ども達に『先生に笑顔を返してください』と子ども達がお祈りしている所はとても情けなかったなぁ・・・」

 

 これだけ自分の好きなようにしてもいいと言っておいて最後にこう締めくくるアティはきっと、子ども達にとっての『正義の味方』なんだろう。

 アティが注意する姿は自分が今まで聞いて来た英雄然とした威厳が全く感じない。どちらかといえば優しいお姉さん。または先生の様にも感じ取れた。だが、シロウはそんな彼女だからこそ改めて『正義の味方』になろうと思うのであった。

 




シロウが夢見る『正義の味方』が漠然としすぎて分からない。
この作品で出てきているアティ先生の持論は作者が色んな漫画から見た『正義の味方』とはというものに基づいております。原作のアティ先生ならもっとわかりやすくいんでしょうけど、作者的にはこれが精いっぱいです。


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第三話 英雄と『王』の謁見

リアルの忙しさとスランプで更新が遅れてすみません。

ふと思うんですけどシロウ君は英霊と言われるほど伝説の人物や王様と出会ったのなら多少なりに礼儀を尽くすべきなんじゃないでしょうか?という考えで書いた第三話です。
重ねて更新が遅れて申し訳ございません。め、目指せ完結(吐血)!



 キレイからの忠告を受けてなお戦う事を選んだシロウはアティに一緒に戦ってくれるように頼みこんだが彼女の答えはNOだった。

 戦うのは自分だけでいい。正直に言うとシロウ君は足手まといだからとピッチャー返しどころかデッドボールを受けた感じがした正義の味方志望者。

 なおも食い下がろうとしたが結局はアティに論破され続けた感情的になりやすいシロウに対して一つずつ事細か良い点と悪い点を出すから困る。肯定し続ければ聖杯戦争参加を認めなければならない。一方的にシロウの要求を拒めば彼は尚更頑固になり参加をするだろう。

 だが、アティはそれが分かっていたのかその間を取ってシロウの参戦を拒んだ。その意志は一番大事だと優しく肯定されれば文句が出にくい。今まで自分の夢を馬鹿にされることが多かったシロウに対して理解者のような者が現れたのは嬉しい。その為、彼女の言葉を受け入れるしかないのだが、自分にもやれることがあるはずだと悩んでいた。

 

 「衛宮君、一応言っておくけど令呪を使ってセイバーを無理矢理従わせることも可能だとか考えないでよ」

 

 「・・・そんな事は考えていないよ」

 

 「どうかな。その顔には躊躇いみたいなものが見え隠れしているぞ」

 

 「駄目ですよ、シロウ君っ。子どもが戦争参加なんて大人の面目丸つぶれです。というか戦争なんてしている時点で駄目なのかもしれないですけど」

 

 アティは知っている。戦争には大きく分けて二種類ある。

 一つは生存戦争。いわば『やりたくないけどやらなければならない戦争』。国や村といった群れの存在が別の存在を犠牲にしないといけない。生き残りをかけた戦闘。

 もう一つは概念戦争。これは『やりたいからやる戦争』という宗教概念や思想といった快楽的戦闘。

 アティが当時の仲間達と共に繰り広げてきた戦争は自分達が生き残る為に、そして自分達の友人達を救う為に繰り広げた戦闘や戦争だ。

 『忘れられた島』から始まり、『狂界戦争』、『傀儡戦争』でもアティは戦う力を持たない人達を『やりたいからやる戦争』から守る為に魔剣を振るい続けた。その戦争以外にも様々な争いが起きたが彼女はその時にも陰ながらサポートや時には共に戦うなどをして『魔剣の英雄』となった。

 そんな英雄が『やりたいからやる戦争』に『止めさせてやりたいから戦争』に参加しようとするのを何としてもやめて欲しかった。だが、もう深夜の時間帯だ。これ以上ここに留まってらちがあきそうじゃないから一度落ち着いて考えてもらうためにも一晩落ち着いてもらおうと考えた。そんな時、協会の主であるキレイの後ろ。教会の最奥の階段から一人の男性が下りてきた。

 

 「面白い女だな。醜くも基本的な事を正しく理解し、茨の道をも笑顔で渡りきろうという気概。気にいったぞ」

 

 「…お、恐れ入りますっ。し、シロウ君、ダメですよ頭を下げてください」

 

 「ちょ、セイバー、何を」

 

 白地のシャツの上に黒のジャージを着た金色の髪をした男が階段の陰から出てきた。その姿を数瞬アティは自分の左胸に右手を当てて、即座に膝をつき礼をした。その後すぐに男の出現に呆然としていたシロウの膝の裏を叩いて慌てて頭を下げさせた。その時彼女がかぶっていた帽子がふわりと地面に落ちたがそれを回収することなく礼をし続ける。

 アティは階段から出てきた男の持つ雰囲気から彼が今まで自分が見てきた英雄や王族に近しい存在だと感じ取った上でほぼ条件反射で例の姿勢を取る。これは彼女が今までそのような存在と何度も接してきた経験に基づくものだ。アティはリンやアーチャーにもそれをするように言おうとしたが、金髪の男がそれを制した。

 

 「構わん。今は正式な場ではない。むしろこの我を見て即座に礼を取れる貴様が見事と言わざるをえん」

 

 「寛大なお心遣いに感謝いたします」

 

 「ちょ、セイバー。おうっ?!」

 

 「ちょっと、あんた誰よ。って、アーチャー?」

 

 「・・・リン、下がっていろ。あいつはただものじゃないぞ」

 

 シロウが抑えられた頭をあげようとしたがその容姿からは考えられないほどの膂力で押さえつけられた。王族と対面した時は礼を尽くす。そうでなければそれは禍根となり、国と国との交流に亀裂を生む些細なきっかけになる。理不尽な輩にそこまで礼を尽くすことはないが目の前にいる王族はそこまでの輩ではないとアティは判断した。同時に彼のバック。はたまた彼自身は強大な力を持っていると感じ取った彼女はまずは礼をすることにより相手への敵対心を可能な限り減らしたかった。アーチャーもまたアティと同じように目の前の男の力を感じ取ったのかリンの前に出て男の視線から隠すように立つ。

 キレイはというとなんで今出てきたのかと眉間にしわ寄せながらも男の方を無言で見ていた。

 

 「許す。面をあげよ」

 

 目の前の男性から顔を上げる許可を貰ったアティはシロウの頭から手を放しながら顔をあげた。

 

 「ほうっ、見た目では蝶よ花よと育てられた生娘のようだが、清濁を併せ持つ器量を醸し出す気概。そして何より礼を取りながらもこの我がいつ『襲い掛かってきても迎撃できる』ようにしている必要最低限の魔力運用。非礼ながらも礼を尽くす腹芸も多少出来る」

 

 「…見事なご慧眼。そして我が非礼をお許しください。今は戦時故に私自身も気を張らねばなりません。貴方に礼を尽くせるだけの非才をどうかお許しください」

 

 自分が行っていた非礼な対応をも見抜きそれを許す彼の力を戦争の素人であるリンやシロウも思わず息をのむ。すぐ近くにいるアティの姿勢は仕方ないとしても魔術使う者としてアティが自身の強化に使っていた魔術の気配に気づくことが無かった。そしてシロウも自身がようやく行う事が出来る強化の魔術を文字通り肌に触れているにも関わらず感じ取ることが出来なかった。

 

 「ふん、許す。貴様はこの聖杯戦争ではバーサーカーから最も離れた存在。セイバーに近い礼儀を知り、キャスターの様に頭もまわる、かと思えば今もアサシンの様に不意を突く。突かれても対応できるような姿勢。全てのサーヴァントの資格を有しているやもしれんな」

 

 「身に余るほどのお言葉。恐縮であります」

 

 アティはシロウに召喚される際に押し付けられるように知らされた聖杯戦争の事情からある程度知っていた。

 

 自身の能力を知性と引き換えに強化した狂戦士、バーサーカー。

 膂力を上げ軽快に戦場飛び回る事の出来る槍兵のランサーや騎士のセイバー。

 ロングレンジの攻撃に対応したアーチャーに、魔力的な資質を底上げするキャスター。

 気配遮断と言った暗殺向きの暗殺者アサシン。

 戦車といった戦場を駆け巡る物を扱う事で能力を上げることが出来るライダー。

 

 実はサーヴァントとしての資質や可能性をアティはすべてを有しているが敢えてそこは語らない。それは彼女の持つ剣。『果てなき蒼』。ウィスタリアスが四つの世界の力とそこから集った技術や人材たちとの触れ合いを持った彼女だからこそとも言える。実は自分は一時知性を無くし戦闘に特化した存在。狂戦士、バーサーカーになった事があるのだ。

 とはいえ、彼女はそのウィスタリアスが無ければ先の戦闘で戦ったランサーに傍にいるアーチャー。まだ見ぬサーヴァントと肩を並べることは出来ない。それを肌で感じ取ったアティは最悪を回避するためにも相手の敵対心を煽らないようにしなければならなかった。

 目の前にいる王族もまたまだ見ぬサーヴァントなのではないのかと、警戒せずにはいられなかった。

 

 「この我が目の前にいるからといって気を張らなくても良い。何も自害しろとは言わん。戦場には戦場の華の愛で方というものもある。貴様はその華やもしれんな。精々足掻くがいい」

 

 言うだけ言って再び教会の句へと引っ込んでいった男の後ろ姿が完全に見えなくなるまで見送ったアティは大きく息を吐きながら立ち上がった、これまでにも自分が関わったことがある王族の中で彼はとびきりに危ない存在だった。その気になればこちらを圧殺できる何かを感じさせたからだ。

 

 (・・・王族といってもスバル君とは大違いね。)

 

 アティは鬼の王族である教え子の事をふと思い出した。子どもの頃からヤンチャな彼は王族というよりもガキ大将。大きくなってからは少しは落ち着いたがそれでもあそこまで威圧的かつ強力な雰囲気は持ち合わせていなかった。他にも『王族』や『王』。果ては『神』という存在をも知っているがそのどれもが先程の男性から感じられ、それ以上の何かを感じ取ったアティが思わず大きくため息をつくのは仕方のない事だった。

 リンがキレイにあの男のことを聞いてきたが彼は自分と同じようにこの聖杯戦争で一般人被害及ばないように動く『抑止力』なのだと。そこからは詳しく追従しようとしたリンだが既に深夜。あと五時間もしないうちに朝日が昇る時間帯だ。一度落ち着いて状況を把握するためにも一同はそれぞれの家路につくことにした。

 道中でリンとアーチャーが襲い掛かってきたらどうするんだと問いかけてきたがアティとシロウの答えはリンがそんな事をするはずがないという曖昧な、だけど二人にはそうとも確信していた。リンは自分が舐められているのかと憤慨したが正々堂々と自分達に宣戦布告してきた相手が不意打ちなどするものか。と、

 自分の事を全て知られているように感じたのか今度は違う意味で顔を赤らめたが今度顔を合わせた時は完膚なきまでに叩きのめしてやるんだからと言い放つ直前に重く響く金属音と共に少女の声がシロウ達の耳に届いた。

 

 

 

 ―やっと召還したんだね。オニイチャン―

 

 

 

 同時刻。

 とある寺にいたキャスターは盛大に愚痴をこぼしていた。

 寺の陰でその姿は完全に見ることは出来なかったがキャスターは全身を覆うローブからも見て取れるように体全体で息をしていた。

 そんなキャスターに近寄る影。その陰は東洋でいう着物という物と刀と思われる長い棒状の何かを持っていた。

 

 「なんなのあいつはっ!本当にバーサーカーなの!?あれはまるで」

 

 「はっはっはっ。どうしたマスターよ?そんなに息を切らせて」

 

 「アサシンッ!貴方はアサシンよね!小次郎!」

 

 「どうしたのだマスターよ、もしや私の事を忘れられたのか?そもそも私を呼び出したのはそなたではないか。その通り私がアサシンだ。よもや偵察に行っている間に何かあったのか?」

 

 アティのウィスタリアスが放った一撃を調べに出たキャスターは道すがら銀の少女とその少女の後ろに立つ巨大な黒い影から攻撃を受けた。

 

 「そうよ!アサシンじみた攻撃を受けてのよ!それなのにあの荒々しい魔力はバーサーカー!同時に二つのクラスを持つサーヴァントなんて聞いたことが無いわ!」

 

 「サーヴァントを呼び出すサーヴァントも珍しいがな」

 

 そう、本来なら言葉を交わすこと自体が珍しい。躱すとしても互いに殺しあう戦場であるはずのアサシンがキャスターに向かってマスターなどというのには彼女。キャスターがアサシンを召喚したからに過ぎない。本来なら殺しあうはずの敵を手ごまにした偉業を成し遂げたキャスターがこんなにも慌てて逃げ帰ってくるなど珍しいとアサシンは思わず声をかけたのだ。とある事情からアサシンは寺から離れることが出来ない。その為キャスターは使い魔的存在である彼を偵察に向かわせることが出来ないので自身で調査に赴くしかなかったのだ。

 

 「黙りなさいっ!ああ、もうあれは何の英霊!いえ、あれはどちらかといえば『宝具』その物よ!」

 

 宝具。

 その英霊が持つ武器や能力であったりする者で、その英霊の代名詞とも言われる存在。

 アティならウィスタリアス。ランサーならゲイ・ボルグと言った彼女達の武器がまるで一人でに戦っているように感じたからだ。

 そんな時に出会った。銀の少女と黒い人型サーヴァント。されどサーヴァントからは人の柔らかさというか質感を感じさせない重厚な鎧を纏っても滲み出る人という気配を全く感じ取れなかったキャスターは困惑の末、撤退せざるを得なかった。

 

 「『宝具』自体が。ふむ、面妖な。まるで妖怪や物の気といった存在か」

 

 「・・・妖怪。そう、ね。その考えはあるかもしれないわね」

 

 日本という国にはそう言った伝承がある長く使われ続けてきたものには魂が宿る。それは時として担い手もいないのにその役目を果たす為動き出すという。まさに自分を襲ってきた『妖怪』ではないだろうか。

 

 「アサシン。貴方が知り得る限り言いなさい。その妖怪という物。特に、『動く鎧』について詳しく、ね」

 

 サーヴァント達の夜はまだ終わらない。

 




 プリズム・イリヤで、もしルビーがイリヤよりもアティ先生と出会っていたら?

 ルビー「成人女性であるにもかかわらず魔法少女力が880だ、と?」

 アティ「な、何ですか、この杖?サプレス、いえ、シルターンの妖怪でしょうか」

 ルビー「僕と契約して魔法少女になってよ。なぁにちょっと全裸になって恥ずかしい格好をするだけのお仕事さ!」

 アティ「い、いやですよう、そんな恥ずかしい事なんて…」

 ルビー「魔法少女力1、1380…。恥じらう事で萌え度を上昇させているのか。もしやあなたが伝説のスーパー魔法少女。脱衣していく毎に戦闘力が増していくあの魔法少女!」

 アティ「どの魔法少女ですか?!」

 みたいな? 
 馬鹿な事を考えるのは全然苦にならないんですけどねぇぃ・・・。


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第四話 英雄と狂った守護者

 少女は不幸の渦中にあった。幼い頃に母とは死に別れ、助けに来ると思っていた父は来ず、不気味な術式や儀式が生活にリズムに組み込まれた。そして、聖杯戦争が起こった。だが、少女程人生の殆どを費やしたというのに彼女の呼び出そうとしたソレはガラクタの山だった、それは西洋の騎士の物だと思われる黒い籠手。兜。鎧といった物が無造作に転がっているだけだった。正道に近い色合いをしていたそれらのガラクタはまるで彼女の実の父親を思わせるカラーリングだった。

彼女が閉じ込められていた洋館。その際奥で行われたサーヴァント召還だったが故に彼女とその時目にしていた者達は失望と絶望が織り交ざった物を見せていた。

 

少女が願ってやまない『カゾク』への想いがこの『黒いガラクタ』を呼び出したのかと。

 よく見ればガラクタの中に細長い棒のようなもの混ざっていた。剣にしては細すぎる。槍にしては短すぎる。ナイフや短刀にしては少しばかり長い。そもそも殺傷能力になりそうな『刃』が無かった。

 

 少女の召喚の一部始終を見ていた者達。魔術師たちは彼女を始末することにした。やはり道具は道具として『ヒト』を混ぜるものではないのだと、処分することにした。処分されると知った少女は屋敷から飛び出した。それが無駄だとはわかっていても地獄のような生活をしていても微かに残っている優しい母親とほんの僅かだが優しく接してくれた父との思い出が少女を突き動かした。だが、その生きたいという衝動も計算のうちなのか彼女に処分を下した者達はせめて自分達が調教。いや、魔術で生き物としてではなく道具として能力を調整した猟犬の実験体にすることにした。誰もが今ここで少女の命が尽きるのだと思っていた。魔術とは非情なものだと。用済みは処分する。だからこそ気が付かない。

 

 自分達とはある意味正反対の位置に存在している『黒いガラクタ』。その兜の瞳にあたる部分に緑色の光が点灯した事に。

 

 走る走る。ひたすら走る。自分の命を脅かす存在から逃げる為に靴も履かず飛び出した少女が見たのは雪原の白とかれた森の木と地面の土茶色。朝でも夜でもないまるで灰色の夜空だった。

 灰色の空から降ってくる雪で少女がいた洋館の外は雪原が広がっていた。雪で皮膚が凍傷を起こしたのか、それとも雪の下にある石か枝で傷つけたのか白い雪原に点々とついている少女の足跡に赤い血が混ざっていた。

 誰か来てっ。まだ死にたくない。誰か私を守ってと。だが誰も助けはしない。彼女を助けようとする『人間』も『元人間』も、自分を助けてくれる信じていた父も自分の叫びには答えなかった。だが、答えてくれる存在があった。

 少女を守るかのように抱きかかえたのはあの『黒いガラクタ』だった。あのガラクタの山は彼女の助けていう『想い』と、彼女が呼び出したモノに限度がある奇跡を執行させる紋章。『令呪』の一画を消費して短距離ワープを思わせるような現象を引き起こし、彼女を助け出したのだ。その思いと力は『黒いガラクタ』を全長二メートルはある『騎士甲冑』へと変貌させたのだ。

 少女の喉上にあと一歩の所まで迫っていた猟犬の牙はその起こされた奇跡により文字通り召喚された騎士甲冑の籠手にあたる部分で塞がれた。本来なら人の腕だけでなく警棒や現代比べて粗雑に作られた中世の籠手などもかみ砕けるその牙が召喚された籠手に噛みついたことで逆に砕けた。それと同時に少女に噛みつこうとした猟犬を騎士甲冑が吹っ飛ばす。

 突如現れたその騎士甲冑から滲み出る人で出せないだろう威圧感に猟犬達は後ずさる。それは甲冑の肩に乗せられた少女すらも驚いていた。何故ならこの騎士甲冑の中に人と思える物ではなくまるで車のようなエンジン音が静かにだが熱く鳴り響いていたから。

 その驚きと共になんと騎士甲冑から声が聞こえた。目の前にいる。いや、接している甲冑の中からではないまるで鎧の外。表面上から聞こえてくる声に少女や猟犬。その異常事態に気が付き現場へとやって来た少女を処分しようとしていた人間達が目を剥いた。あれは何だ。まるで、意志を持った鎧かと。

そんな驚きも数秒、猟犬達はその騎士甲冑の警告も無視して、自分達に下された命令を実行するために少女と少女を守る騎士甲冑に襲い掛かるがその分厚い小手とすね当て。兜によって殴られ蹴られ頭突きでその牙や爪を砕かれる。分厚いその鋼鉄の塊を見に纏っているのにまるで嵐の様にだがその中心にいる少女はまるで被害にあっていない。あっていると言えば目の前に広がる雪のように白い髪がその勢いで巻き起こった風によって髪が乱れたくらいあろうか。

その光景に驚き恐怖した魔術師の一人が宝石を用いた魔術で出来た魔弾『ガント』を撃ち込もうとした瞬間、甲冑からカタコトな言葉が聞こえた後、銃による発砲音が雪原に広がった。基本的に魔術師は文明の利器をあまり利用したがらない。その為、魔術ではなく科学で作られた銃などは無粋と考えているのでそれが銃から聞こえた音だと認識するのに時間がかかった。何よりその出所がおかしかった。何故ならばそれは騎士甲冑の肘にあたる部分から聞こえたのだから。その証拠に微かに黒い黒煙が騎士甲冑から立ち上っていた。

 その撃ちだされた物。場所。そしてその狙撃により自身の体に激痛が走り悲鳴を上げた自分達の仲間の一人が負傷した。次は自分が目の前に現れた元『黒いガラクタ』にやられるかもしれない。そう考えた瞬間に魔術師たちはまだ無事な猟犬に命令を下し、自分達も魔術を使い目の前の障害を排除しようとした。そこからあまりにも一方的な虐殺激。いや、駆除が行われた。

 

 少女が召喚した『黒いガラクタ』は彼女を地面に降ろすと彼女を背にして迫りくる魔術を正面から受け止め、猟犬達の爪と牙を受けた。だが、無傷。これがサーヴァントという物か。それとも彼が身にしている鎧の性能か。迫りくる魔術を、牙を、爪を。その身一つで砕き粉砕する。それだけで猟犬は命を散らした。魔術師は『黒いガラクタ』が持つ銃によってその武器である魔術を中断され、その全員が撃ち殺されることになった。奇しくもそれは少女の助けと少女が持つ令呪によって命じられた救いを求める言葉を体現するものとなった。そして、それはまるで自分が助けを求めていた父親の背中に想いを乗せていた頃の自分の夢を体現していた者だった。

 

 その時から彼女の生活は一変した。

 まず自分を調整してくれた輩と場所を自分が呼び出したサーヴァントと共に一掃した。信じられる者達を傍に置き自分の世話を焼かせた。それにより陰鬱とした魔術とは程遠い、まるでお嬢様のような生活が始まった。そこから少しずつ自分は本当の意味で笑えるようになったのかもしれない。それは自分が呼び出した『黒いガラクタ』、サーヴァントのおかげ。

 それは戦力的な意味も兼ね備えているがそれを実感したのは呼び出したその日だけ。自分が今の生活を確立させた頃になんとサーヴァント自ら少女と彼女が自ら選んだ従者の二人に『お手伝い』を願い出たのだ。だが、その『お手伝い』が役に立ち、楽になったから少女が笑えたのではない。むしろその逆であり、少女やその従者を困らせ怒らせたからだ。

 二メートル近いその巨体からは見た目通りの不器用さとその風貌にあるまじきうっかり癖を見せて手伝いを申し出たその日にベッドシーツを二枚、お皿を十枚、何故か何もないところで躓き、豪華なテーブルといすを一つずつ破壊。頑丈なはずの屋敷の内壁どころか外壁を突き破り、整備していた花壇を一面にまるで昔の漫画の様に人型の穴を形成する。その所業に少女の従者のみならず、命の恩人であるはずのサーヴァントに怒る少女に縮こまるそれはまるで大きな弟を叱りつけている小さな姉のような光景だった。

 だが、自分の感情をそのまま出すことに繋がり少女は笑うようになった。

 この聖杯戦争とそれに関与する魔術師の所為で自分の運命は狂った。だけど同じく狂ったサーヴァント、狂戦士(バーサーカー)に助けられた。この狂った世界と運命のおかげで自分は新しい家族と強いけど手のかかる素直な弟を手に入れた少女は幸せだった。

 我が身に宿る困難は山ほどあるが自分が呼び出した弟と従者がいるのならこの戦争も勝ち残れる。なにせ、自分が呼び出した存在は魔術とはかけ離れている存在だが、とても優しく強い。遠近両用の戦いが使い分けることが出来る最高の戦士だと感じ取ったから。自分の願いは叶うのだと信じていたから。

 

 また呼び出された『黒いガラクタ』、バーサーカーにも願いがあった。その願いは自分を召喚した少女を守る事。彼女の願いを叶える事だ。まるで忠誠を誓う騎士そのもの。本当にこの存在は狂っているのかと疑わずにはいられない存在だったが、その実、ある意味バーサーカーというにふさわしい存在。ある意味狂っているからこその願いであり存在である彼。

その根本にあるのは自分を助けてくれたあの人の意志。あの人の力になりたいと思いながら心半ばで消えていったはずの自分の存在を召喚という形で機会をくれた少女への恩返しもあっての事だ。そう、あの人の事を自分はこう呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 『・・・教官ドノ?』

 

 「・・・もしかしてヴァルゼルド、ですかっ?!」

 

 数百年以上の時を越えてバーサーカー。狂った機械。ヴァルゼルドは自分が守りたかった人と冬木市で聖杯戦争という舞台の上で再び出会う。

 



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第五話 最優の英雄

老害は悪い文明!
私情により投稿が大変遅れました。
よろしければどうぞ


 宵の時間も過ぎた冬木の地で巡り合った機械兵士と抜剣者の二人はお互いのマスター及び未確認勢力のアーチャーとリンの事を忘れ、自分達の腕をこれでもかと広げてお互いに駆け寄った。

 数多くの人を助けてきたアティだが助けられなかった者達もいる。ヴァルゼルドという機械兵士は助けることが出来なかった者の中の一人だ。ヴァルゼルドもまたそんなアティに心残りを残したまま逝ってしまった存在だ。

そんな二人だからこそ聖杯戦争という血で血を洗うような悲劇の中で巡り合えた二人だからこそ歓喜に打ち震えた。

 

 『教官ドノォオオオオッ』

 

 「ヴァルゼルドォオオオオッ」

 

 だからこそ起こった。

 ウッカリトラブルメイカーな機械兵士。そして何故かトラブルの先かその最中に抜剣者。

 舗装されている道で小石も無く、かといってヴァルゼルドの自重で道が陥没したわけでもない。それなのに躓く機械兵士。お前は本当に機械なのかと問いただしたい。

 車も人も急には止まれない。それは機械兵士も抜剣者も同じである。止まるんじゃねえぞぉ。

 

 『ア』

 

 「え?」

 

 ヴァルゼルドの駆けだしたスピード+ヴァルゼルドの装甲強度+妙に尖ったヴァルゼルドの兜部分の額+無防備・無警戒のアティの額。

 

 まずその勢いと質量と勢いを一点に集中した一撃で体力の七割。

 その一撃に堪えて支えることも出来ずに押し倒されるアティ。実質、超重量級ともいえるヴァルゼルドのボディプレスを受けて体力の二割近くを削られる

 

 『教官ドノッ、無事デアリマスカッ』

 

 「・・・ヴァルゼルド、貴方に会えて、良かっ、た」

 

 慌ててアティの上からどくヴァルゼルドだったが、彼女はどこか満足そうな、どこかやり遂げたような顔を見せながら体から淡い蒼い光を放ちながら体が透けていくような気配を見せていた。抜剣覚醒まであと3。

 

 「・・・がふっ」

 

 『教官ドノ?!教官ドノォオオオオオオッ!』

 

 冬木の町で機械兵士が叫ぶ。シロウとリン。ヴァルゼルドを召喚した少女のマスター三人が目を点にする。アーチャーが今のうちにアティとヴァルゼルドを倒してしまうべきかと考える。冬木の夜は長い。

 ちなみにこの場にアティやヴァルゼルドが追い払ったランサーとキャスター。まだ見ぬアサシンやライダーがいたら迷わず二人にトドメをさしていただろう。

 

 

 

 

 場所が分かって再び衛宮邸。

 ヴァルゼルドが頭突きからのボディプレスでアティをKOしてからしばらくして正気に戻った両方のマスター。片方はトドメを刺せという言葉と何をするんだと止める言葉が行きかう中、ヴァルゼルドはアティを助けて欲しいと言う。リンはとりあえず何やら最近感じた何とも言えない疲労感にアーチャーはまたかとため息をついた。

 ヴァルゼルドに甘いのか、アティを助けて欲しいと何度も懇願する彼に折れてとりあえず今は戦わないであげるわとヴァルゼルドのマスターもため息をついた。シロウもまたヴァルゼルドがアティをわざと傷つけたわけではないとわかり、安心のため息をついた。

 そのままアティが快復するまで彼女を介抱しようとしたが、ヴァルゼルドのマスターはまたドジをしたらいけないわと離れた所で待機していた自分のメイドを呼んで介抱させた。無表情で無骨な格好なのにどこか無力感と頼りなさを感じさせる雰囲気を醸し出すヴァルゼルドの背中。

 そんな背中を見向きもせずメイドが準備した車の後部座席に乗せられるアティとシロウ。貴女も来るとリンを誘う。まぁ怖かったら別にいいけど。と言葉も添えて。

 売り言葉に買い言葉。乗ってやろうじゃないのっ。車に乗り込むリン。今日で何度目になるか分からないため息をつくアーチャーも乗り込んだ。さすがにヴァルゼルドでは人間サイズの車には乗れない。そう思った矢先ヴァルゼルドの着込んでいた甲冑をパージさせていく。パージされたパーツは零体化し、残ったのは手甲、脛当てにあたるプレート四枚と子どもの頭くらいの大きさの球体。黒いマスコットに小さな天使を思わせる小さな羽が二枚を生やしたライザーと呼ばれる種族と同じ姿になって少女の腕の中に納まり助手席に乗った。その光景にシロウとアーチャーは男心をくすぐられた。

それからシロウの案内の衛宮邸へとたどり着いた。

 

 「うう、危うく抜剣覚醒するところでした」

 

 『誠ニ申し訳ナカッタデアリマスッ』

 

 衛宮邸につき、客間に運ばれる間にヴァルゼルドは再び元の機械兵士の姿に戻り、アティを担いだメイドの後に続く。客間に用意されたテーブルに座る面々。ヴァルゼルドのマスターのメイドたちは少女とヴァルゼルドを挟むように立っているが。

 衛宮邸に用意された客間で三陣営のマスターとサーヴァントはお互いに状況とこれからどうするかを説明した。

 

 「私はこの戦争を止めたいと思っています」

 

 「俺も戦争反対だ。だからこそこの戦争に参加した。願いがあるとするならこの戦争を止める」

 

 「私はこの戦争に勝ちたいだけよ」

 

 「・・・私は記憶が無いのでね。叶えたい願いも思い出せないな。ただ、この戦争に呼ばれたからには叶えたい願いがあったという事だ」

 

 つまり今のところはこの四人に叶えたい願いはない。だから今のところは休戦。ゆくゆくは同盟を組んでいこうとアティは言うがリンとアーチャーは否定的だ。そして、

 

 『・・・スミマセン、教官ドノ。本機ニハ叶エタイ願イガアルデアリマス』

 

 「私にもあるわよ」

 

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。イリヤでいいわ。そう名乗った少女はヴァルゼルドのマスター、イリヤはスポーツマンシップのような言葉を鼻で笑った。意志の弱い奴がこの戦争を生き残れるとは考えられないからだ。

 

 「そんな・・・。ヴァルゼルド。貴方には殺し合いをしてまでも叶えたい願いがあるんですか?」

 

 アティがヴァルゼルドの言葉を聞いて悲しそうな表情をするその表情を見るとヴァルゼルドの意志も崩れそうになる。だが、それを崩さないように、そしてアティを悲しませないように言葉を紡ぐ。

 

 『・・・スミマセン。教官ドノ。ダケド、ケシテ、決シテ。本機ハ貴女トハ戦イマセンッ。教官ドノノ教エニ背イタリナドシナイデアリマスッ』

 

 「ヴァルゼルド・・・。貴方の願いというのは何ですか?」

 

 『ソレハ「ストップよバーサーカー」、・・・マスター』

 

 自分のバーサーカーの言葉を打ち切るイリヤ。これ以上喋られると不利になると感じたから止めた。だが、

 

 「ちょっと待ちなさい!そいつがバーサーカー?!というかどこ出身の英霊よっ!思いっきりロボットじゃないっ!」

 

 「ヴァルゼルドはバーサーカーだからヴァルゼルドなんですよ」

 

 「意味わかんないから。というかあんた達顔見知りなのね」

 

 バーサーカー。狂戦士のクラスを得た英霊は理性を無くして他のステータスの上昇、戦場をかき乱す。それなのに目の前のヴァルゼルドは狂っているようには見えない。まあ、確かに平衡感覚が狂って転んだようにも見えるが・・・。

 ヴァルゼルドの本来の性格は文字通り機械じみた性格だ。命令があるまで無言で待機し、命令を受ければ何の感情も無く淡々と任務をこなす機械だ。だが、そんな誤作動が生じた。そんなバグから生まれたのが今のヴァルゼルド言う人格だ。

 アティとヴァルゼルドの出会いは忘れられた島。そこに流れ着いたアティはその人格だけではなく人間でいう所の神経に関する機能にバグもあって動けない所でそれを何とかしようと奔走し始めたアティを『教官ドノ』と慕い始める。だが、修理を重ねていくというのはヴァルゼルドの本来の人格が蘇り、バグである人格を消し去るという事。

 本来の人格を取り戻したヴァルゼルドは暴走しアティとその仲間達に襲い掛かった。何とかそれをやり過ごしバグである人格のヴァルゼルドが現れる。そして言う。自分という人格を消してその体をアティ達の役に立ててほしいと、

 バグである自分という人格は修理をすればするほど消えていく。だが、自分という人格を消さない限りまた暴走してアティ達を傷つける。そうなるくらいなら自分の人格を消してせめて体だけでも役立てたいと願い出た。

 アティは悩んだ。だが、ヴァルゼルドの意志を汲み取り彼の人格を消し去り真っ白な状態。機械じみたヴァルゼルドに自分達を仲間だと設定し直して体だけはアティ達と共に戦った。

 つまり、今のおっちょこちょいなヴァルゼルドはバグの人格。バグ。狂った人格。

 イリヤがヴァルゼルドをバーサーカーというクラスで召喚しなかったら今のヴァルゼルドはなかった。

 

 「というか貴女がセイバーかどうかも怪しいのだけれど・・・」

 

 そもそもリンが召喚した英霊。アーチャーも出自不明なんだが。

 セイバーは最優の英霊。理性を失わない。バーサーカー程のステータス向上は見込めないが上昇はする。理性があり、バランスよくステータスを上昇させることが出来るからセイバーというのは最優の英霊とも言われる。

 

 「あ、あはは。たしかに最優とは言いづらいですね」

 

 アティは恥ずかしそうに自分の後頭部を掻く。確かに自分がそんな優れた被召喚者ではないなと自嘲した時だった。

 

 「イイエ、教官ドノハ確カニ最優ノ英霊デアリマスヨ」

 

 ヴァルゼルドは語る。自分がイリヤの元に召喚されてからこの世界の英雄・反英雄の事を自分の体からインターネットを通じて様々な知識を得た。

 確かに教官ドノはそこに記されていた英雄・反英雄の戦果・戦力は劣るかもしれない。だけど。

 

 『教官ドノハドノ本機が知る英雄ノ中デ誰ヨリモ優シイ。最モ優シイ英雄デアリマス』

 

 「っ。ありがとう、ございます。ヴァルゼルド。英雄なんて呼ばれるよりも、その言葉。とても、とっても、嬉しいですよ」

 

 ヴァルゼルドの言葉が本当に、心の底から嬉しそうな笑顔を見せた。それは異性ならだれしもが見惚れてしまう笑顔を浮かべていた。

 まるで恋人同士のような雰囲気にリンとアーチャーは耐えられないのか席を立つ。

 

 「やれやれ、つきあってらんないわ。アインツベルンの人がいるならこの戦争の詳しい事もわかるでしょ。帰るわよ、アーチャー。ああ、あと同盟の方はパスね」

 

 「ふむ。そうだな。これ以上お人好しのたまり場に居るとこっちまで腐抜けてしまいそうだ。同盟など組んだらすぐに敗退しそうだ」

 

 アーチャーの皮肉にアティはしょぼんとし、シロウは憤ったが、その空気を一変する事をヴァルゼルドが返した。

 

 『ダカラコソ教官ドノノ周リニハ多クノ仲間ガ集マルノデアリマス。誰カノ為二走レル教官ドノ周リニハ教官ドノヲ支エタイ人達ガ集ウノデス』

 

 アーチャーは何も言えなかった。

 ただ一人で走ってきた男がいた。誰かの為にと走った男がいた。だがその男の周りには・・・。

 

 「どうしたの、アーチャー?帰るわよ」

 

 「・・・ああ」

 

 シロウとアティに玄関まで見送られたリンはアーチャーに抱きかかえられ超人じみた力跳躍し、夜の街の中へ消えていった。

 

 「はー、やれやれ。あのアーチャー私のヴァル、じゃなかった。バーサーカーに言い負かされてやんの、ぷーくすくす」

 

 『本機ハ教官ドノノ事ヲ話シタダケデアリマスヨ?』

 

 「なんでイリヤが偉そうにしてんの」

 

 「シロウ君、空気読んでください。コミュニケーション能力も正義の味方に必要な物ですよ」

 

 サーヴァント達に言われ咳払いをするマスター達。

 

 「さーて、何を教えて欲しい?教えたら殺し合いだけど」

 

 「え?嫌ですけど?」

 

 「え?嫌だけど?」

 

 『エ?嫌デアリマスケド?』

 

 「あんた達戦争する気あるのぉおおおおっ!」

 

 そしてツッコミ役がリンからイリヤにバトンタッチした。

 




アティ先生は史上最高のヒロイン兼英雄だと思うんです


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第六話 お見送りの英雄

更新おくれてすいません。
最近、生活リズムが変わってなかなか投稿できなくて、それでもちょくちょく投稿していこうと思います。


 肩まで伸ばした紫色の髪を持った女子高校生、マトウ・サクラはほぼ日課になっている自分の通っている部活の元先輩だったシロウの家まで行き、共に登校するつもりで自宅を出た。

 ここ最近、自分の環境が大きく変わった恐らくこれからはこのように通うことは難しくなる。後ろ髪を引かれる気持ちだが区切りをつけなければならない。これから自分は平和とは程遠い環境におかれるのだからと。今は自分の義兄を中心に今までのように彼と接することが出来なくなる。それが終わるのは少なくても一週間以上。下手すれば一年以上はかかるだろう。

 自分が今までのように接することが出来なくなればシロウは心配してこちらの方へと近寄ってくるかもしれない。今はそうなる事は避けたい。だからこそ今日からしばらくそちらへ伺う事は出来ないと伝える為に衛宮邸の門まで歩いていくと、

 

 「うわああああんっ!女子力、先生力、戦闘力で負けたぁあああっ!」

 

 道着を着てオレンジ色の髪を短く切った20代の女性が衛宮邸の門から飛び出してきた。そして、サクラの事を見つけると同年代の女子と比べて大きい部類に入る胸に顔を埋める様に抱きついてきた。オレンジ色の髪の女性。自分達の通う教師も務めているフジワラ・タイガは衛宮邸で様々な敗北感を植え付けられて飛び出してきたのだ。

 

 「サクラちゃんっ、もうあなたしかいないわ!見せつけてやるのよっ、その女子力と後輩力を持ってあの女狐達からシロウを取り戻すのよ!」

 

 「え、えぇ?」

 

 いきなり泣きついてきたタイガにサクラは困惑していた。更にその後ろからパタパタとサクラが先輩と慕うシロウが追ってきた。

 

 「藤ねえ、いきなり外に飛び出すと危ないぞ」

 

 「そう言って私よりもあの家庭教師感がプンプンのあの人の方がいいんでしょ!シロウの浮気者!謝って!私とサクラちゃんに謝って!」

 

 「なんでさ」

 

 「何さ、こう見えても私だっておっぱい結構あるんだぞ!ヒップだってっ!う、ウエストだってぇ」

 

 最後の辺りはしりすぼみになるタイガ。タイガはある女性のボディラインに嫉妬したのだろう。彼女が敵対視している女性は彼女のいた世界でもナイスバディに当てはまる。ぶっちゃけ、タイガよりも出るとこ出ていて引っ込むところは引っ込んでいる。更にはタイガよりも教師としての経歴も成果も比べるのもおこがましい。更には外見から滲み出る保護欲・被保護欲に駆り立てられるような容姿と性格。その上、朝ご飯をたかりに、もとい食べに来たタイガが見た物はシロウと道場で稽古をつけている彼女の実力と指導力をまざまざと見せつけられたのだ。

 体つき、性格、指導力の三連敗を喫したタイガはそこにいるのが辛くなって飛び出したところにサクラがいたので飛びついただけなのだ。もはや勝てる見込みがあるのはサクラの家事力。女子力しかない。この時点でタイガは自身で勝つことを放棄している。完全敗北である。

 

 「あ、あのタイガさん。私はこう見えても貴女よりも確実に教師歴が長いのでそう気落ちしなくても・・・」

 

 「タイガー、そう気落ちすることも無いわよー。この人、伊達に『教官ドノ』と呼ばれてないんだから」

 

 シロウの後から遅れて出てきた赤髪の女性、アティと体の殆どを霊体化させたライザーの形をしたヴァルゼルドを抱えた白髪で小柄な少女イリヤが顔を出してきた。サクラの目から見てもその二人は美女、美少女といっても過言ではないほどの女性達だった。更によく見ると後ろの方で見慣れない白い服を着た女性が二人いた。勿論こちらも美形だ。

 

 「・・・先輩、少しお話があります」

 

 勿論前もっていた自分の家庭事情ではない。どうして一夜にして四人もの女性がこの衛宮邸に来たのか話してもらうためだ。この時点でサクラの目から少し光が消えていた。

 

 「・・・なんでさ」

 

 シロウ少年の受難は続く。

 

 

 

 居間に集められたサクラとタイガは畳の上に置かれたテーブルを挟んで向き合うように座っているアティとヴァルゼルドを抱えたイリヤ。その後ろにメイドの二人が佇まい、シロウはお客様達の為にお茶出しに出ていた。

 

 「へー、セイバーちゃんとイリヤちゃんがあのキリツグさんのおしりあいだったとはねー」

 

 「ちゃん付けですか。ちょっと恥ずかしいですね」

 

 リンと別れてから少しだけ仮眠を取ったシロウ達は取ってつけたような偽りバックストーリーをタイガ達に話した。

 アティはシロウの養父、キリツグの知り合いの知り合い。イリヤはアティの親戚でメイドさん。セラとリーゼリットはその付添い。そしてイリヤが抱えているライザー(ヴァルゼルド)はお気に入りのお人形だそうだ。見た目が少女のイリヤに対して彼女のサーヴァントであるヴァルゼルドにはそれがぴったりのポジションだろう。昨日の夕暮れにやって来た彼女達をそのまま泊めて、早朝にシロウが武術の心得があると聞いたアティが実際確かめてみようという事で稽古している所をタイガが目撃し、そして今にいたる。

 

 「あ、私はあはうっ」

 

 「ごめんね、お姉ちゃん」

 

 アティが自分の名前を言おうとした瞬間にイリヤが抱えていたヴァルゼルドをアティの膝にぶつけるように落とす。見た目通りというか軽いが堅いその体をぶつけられたアティは小さく悶える。いい加減諦めたらどうだ思うイリヤと諦められないアティ。いつか絶対に自分の名前を言ってやると誓うのだった。思えばヴァルゼルドも教官ドノであり真名。クラスで呼ばれど、未だに本名で呼ばれていない。というかヴァルゼルドがいる時点で彼等には呼ばせてもいいんじゃないかと思うが、(アティ達が)不利になるから駄目と敵側であるイリヤに止められている。まあ確かに名前を知られるだけでも不利になるような術。リインバウムにも妖怪といった化生が住む世界、鬼妖界シルターンの呪術の中に似たような物があるので分からないでもないが諦められないアティだった。

 

 「うう、はい。私はセイバーです」

 

 「あはは」

 

 シロウとしても自分のサーヴァントなんだから名前を知ってもいいんじゃないかと思っていたがイリヤに簡単な魅了の魔法をかけられてあっさり陥落した。シロウがアティの名前を知ると簡単に漏洩することが分かり断念した。と、なんやかんやあったがイリヤ・ヴァルゼルド組とは同盟とまでは行かなくても停戦までこぎつけたのがアティらしい粘り勝ちだった。

 しかし、粘るのも当然。アティ・シロウ組は弱かった。アティは自分の切札のウィスタリアスを召喚しなければイリヤ・ヴァルゼルドに完封されるのはもちろん。リン・アーチャー組にも負ける。話し合いによる停戦が出来なければ完全に手詰まりなのだ。

 サーヴァントは呼び出される際に最も力を有した時期で呼ばれる。戦士なら一番力を有していた若い時期で呼び出される。

 ヴァルゼルドならとあるダンジョンにあるロボットとごくごくわずかの人間住むSFじみたシロウ達にとっては未知の世界、機界ロレイラルの技術で作られた装甲ヴァテック125という特殊装甲を装備している。これは大砲の弾を至近距離受けようとも傷がつかないアティの扱うシャインセイバーでも傷つかず、アーチャーやランサーの攻撃でも余程力を籠めないと傷がつかないだろう。更に麻酔銃といった結構身近に感じる物があるがこれの弾丸にあたれば象はもちろん巨大な昆虫。下手すればクジラすらも昏倒する威力を持つしかも後遺症無し。と、ふざけた能力だ。そして近距離装備に『勇者ドリル』。これまたふざけてんのかと思われがちだがそのドリルに穿てぬ物はなし。当たれば間違いなく必殺の一撃になる。それにプラスしてマスターであるイリヤの魔力の補助を受けてその防御力・対魔力。攻撃力はそうかして今のヴァルゼルドはかなり強化されている。正直な話こいつ一人でとある無限ダンジョンも下層までなら余裕じゃね?と言われるくらいに最終決戦装備である。

 対してアティはというと装備品がシャインセイバーのサモナイト石と私服のみ。しかも自分が呼ばれた時期が『教師としての』力を最も有していた時期であり、自分が戦闘していた時の黎明期に比べると戦闘力はかなり見劣りする上に装備品が貧弱。たまの教師としての休みも好物であるフルーツパフェを食べているか釣りをしている。剣を握るのもごくたまにとある悪魔についていって炎の獅子に見てもらう程度だ。

 ちなみにこの悪魔と獅子、二つ名ではなく正真正銘の悪魔と炎のライオンであるが、アティは悪魔に対してはさん呼びだがライオンに対しては様付け。理由はライオンなのに剣の指導ができるって凄すぎぃ。ってことらしい。さらに言うならいきなり別世界に召喚されても落ち着いているのはこの二人が自分がいない事に気が付いて探しに来てくれると信じているからである。よってアティがすることは二人が来るまでに今起こっている聖杯戦争をどうにかするために奔走するだけである。聖杯にかけたい願いも無いわけではないが誰かを殺してでも叶えたいわけではない。

 

 「それじゃあ皆さんはしばらくの間先輩のところにいるのですか?」

 

 「あはは、しばらくはうちで預かるつもりだ」

 

 サクラはシロウに視線を合わせて彼女達のこれからについて質問する。が、それに対しての答えは未だに出ていない。聖杯戦争。戦争という概念からも拠点は重要になってくる。遠坂邸を然り、イリヤの住んでいるアインツベルン城。ヴァルゼルド達と交戦したキャスター陣営も立派な拠点を持っているが衛宮邸は心細いことこの上ない。ぶっちゃけ丸裸な拠点だ。そこで以外にもイリヤのメイド。リーゼリットが同盟を結ぶんならうち(イリヤ)の城にこればいいと言った。それに関してヴァルゼルドとアティは大賛成だったが、アティに対して警戒心がまだ残るイリヤとセラは反対した。シロウもよそ様の家に厄介になることに抵抗を見せたシロウ。そもそもまだ同盟が結ばれていない。なら結びましょうよ同盟。とサーヴァントの二人の要求(申請中)に実は負けそうなイリヤだった。ヴァルゼルドに関してイリヤとセラ、リーゼリットは実はすごく甘くなっている。アティに対する不信感が無くなればすぐにでも首を縦に振るだろう。

 

 「って、もうこんな時間か、藤ねえにサクラ。部活に遅刻するんじゃないか?」

 

 「あ、本当ですっ、急がないと藤村先生」

 

 「えー、もうそんな時間。じゃあシロウも一緒に行く?」

 

 「あー、俺は」

 

 シロウはまだアティとイリヤと話し合って同盟を組むかの話がしたかったのだがアティがそれを止める。

 

 「一緒に行ってきたらどうですか?学生は学業が本業ですし。あと私も一緒に行ってもいいでしょうか?」

 

 先生としての生徒の学ぶ姿勢を崩したくないアティ。ついでにこの世界の学校というのも見てみたい。別世界から来たことは上手くぼかして伝えるとタイガはそれを了承。サクラもそれに追随するように促していく。最後にイリヤもシロウの通う学校というのを見てみたいと言いだしそれに折れたシロウは結局女性六人と機械兵士一名に見送られることになる。

 校門前まで登校するシロウ達に幾人もの視線が集まっていくが当人たちはそれに気が付かない。サクラとタイガはいつもの通りだがそれにプラスしてアティやセラ、リーゼリットといった美女にイリヤという美少女がついていくのだ。なんだこのハーレムは。

 

 「タイガ先生。サクラちゃん。シロウ君。お勉強頑張ってくださいね」

 

 優しい微笑みで送り出されたシロウ。その笑顔に登校途中の男子生徒は誰もが見惚れ、そして。

 

 「「「死ね、エミヤァアアアアアアッ!!」」」

 

 「なんでさぁあああああっ!」

 

 全男子生徒が嫉妬した。

 

 




アティ先生に笑顔を向けられたら私(作者)だって嫉妬する


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