亡霊、彼の地にて斯く祟れり (餓龍)
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外伝
外伝 第四次聖杯戦争IF


SERIO さま、誤字報告ありがとうございます!

お待たせしました。
今回のは本編終了後、八眼童がfate世界にいったらという外伝です。
次話投稿時に章分けして先頭に動かす予定です。

なお、次回更新は本編に戻ります。


 

 それは奇跡的とも呼べる無数の偶然の末、正史から分かたれた可能性の枝。

 平行世界の一つの物語。

 正史との違いは大きく分けて九つ。

 

「えーと素に銀と鉄? 礎に石と契約のー、だいこう! だよな?」

 

 キャスターのマスターとなる殺人鬼が手に掛けた犠牲者が正史よりも多く、より残忍であること。

 

「ぐ、降り立つ風には壁をっ。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路はっ、循環せよ!」

 

 バーサーカーのマスターとなる男の身体が召喚の負荷に耐えきれずに半ば死亡し、それでも精神力のみで召喚を継続していること。

 

「殺せっ殺せっ殺せっ殺せっ殺せぇっ!! 繰り返すこと五回、ただ満たされる命を破壊するっ!」

 

 殺人鬼が召喚しようとしたのが悪魔ではなく、死の神であること。

 

「Anfang……っ」

 

 死の淵にある男の願いが、ある少女の救済のみで占められていること。

 

「つげる? 告げる! 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、あぁもう省略っ!」

 

 殺人鬼に、手に掛けた者達の一部、もしくは所有物をハンティングトロフィーとしてコレクションする性癖があること。

 

「されどっ、汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべしっ! 汝、狂乱の檻に囚われし者、我はっその鎖を手繰る者……」

 

 男が召喚をやり遂げ、同時に死亡すること。

 

「汝死者の言霊を纏う死者の神!」

 

 外部からの干渉を受けていない場合に召喚されていた二騎のサーヴァントが、どちらも生前に強く恨まれ、妬まれていること。

 

「復讐の連鎖よりきたれ、天秤の破壊者よっ!」

「抑止の輪よりきたれ、天秤の守り手よっ!」

 

 そして、彼らの召喚の儀式が同時に完遂されること。

 

  ――汝等の願い、聞き届けたり――

 

 最後に、その世界に界渡りを行う死者の神が訪れていること。

 それらの要素が偶然により揃う。 否、その世界においては必然なのだろう。

 

 魔力が渦巻く。

 

 聖杯から供給される膨大な魔力は過去の英雄を、英霊を現実の従者として顕現せしめる。

 

 はずだった。

 

 膨大にして緻密な、魔法に匹敵する魔術にここではないどこかから干渉が行われる。

 この世界の物ではない法則により行われた介入は召喚に対して行使され。

 改変された術式はしかし、汚染された聖杯により実行された。

 座より招かれるはずだった英霊の分霊は依代へと改変され。

 ここではないどこかにある、この世界にはない何かを注がれ。

 代償に聖杯からの情報的バックアップと、聖杯から供給されるはずの魔力の大半を依代となったサーヴァントの維持により失いつつも。

 界の狭間に在る神はこの世界に顕現した。

 

 

 

 

 

「カッ、カカカカカッ!! 召喚に成功しておきながら死におったわ! 哀れよの、無念よのぉ! みよ桜、これが無能が分不相応に挑んだ結果よ。 これぞまさに無駄死によのぉ!!」

 

 無数の醜悪な蟲が犇めく蟲倉にて。

 哄笑をあげる老爺に連れられて男のサーヴァント召喚を見させられていた少女は、しかし無感動に男の変わり果てた死体を見ていた。

 召喚されたサーヴァントであろう黒い靄に覆われた人影はその場に立ち尽くし、身動きすらしない様はまるでマネキンのよう。

 異様な空間で、わずかに残った興味を刺激された少女は哄笑を上げ続ける老爺の隣から一歩を踏み出す。

 その歩みの先は、サーヴァントの足下で倒れ伏す自身を救おうと無駄な努力の末に命を落とした愚かな男。

 顔の見える場所でしゃがみ込み、のぞき込んだその男の表情は。

 

「わらってる……」

「カカカッ! 大方召喚の成功に気を抜いたところで死んだのであろうよ。

 召喚を行う前にはすでに気力のみで命を繋いでおるようなものであったからな。

 むしろ召喚を成功させたことこそが奇跡よ! カカガッ!? がぁぁああぁあぁあああああ!?」

 

 後ろから聞こえる水っぽい破裂音、無数の咀嚼音を無視して少女は手を伸ばす。

 屍の薄く開かれた瞼を下ろし。 傍らの靄を纏うサーヴァント、その肩の上に立つ少女を見やる。

 

 

  救済を願われし童よ、汝はなにをもって救済とする?

 

 

 魔術も魔力も介さず、直接魂に響く音無き声に少女は答える。

 

「わからない。 でも……」

 

 全身を侵していた蟲のことごとくが死して液状化し、ぼたぼたと地面に落ちる。

 代わりに浸透する、力としか表現しようのない感覚に意識を朦朧とさせつつも少女は屍の側に座り、その頭を抱え込み。

 

「がんばったおじさんをゆっくりねかせてあげたいな……」

 

 そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 ごとり。 くちゃり。 ぶちり。 ごきり。

 

 大男により解体される青年だった物を眺め、ソレはワラウ。

 母の腸で縛られていた姉を解放し、その髪を手櫛で梳かしながら抱きしめる。

 

「私は貴女を護りましょう」

 『私は彼らを許さない』

 

 背後に翻るは、赤黒い血錆に塗れた白き旗。

 

「此度の聖杯戦争による世界の歪みを正しましょう」

 『怨嗟と憎悪を生み出す聖杯戦争を終わらせましょう』

 

 壁に釘で打ち付けられた母の子宮から、半年早く産まれ出た嬰児は母の乳房を喰らい、父の肝を飲み。

 青年に向けられていた怨嗟を、憎悪を啜り。

 この地に刻まれた慨嘆を、無念を呼吸し。

 姉と同じ年頃の姿を得た。

 願う知能を得た。

 感情を得た。

 怒りを。

 

「私は裁定者。 健全な闘争を守る者」

 『私は復讐者。 勝者の歓喜を破壊する者』

 

 聖杯によって召喚された白き清廉なるサーヴァントはしかし、聖杯とこの地に刻み込まれた怨嗟と憎悪により汚染され。

 その身に清浄なる瘴気を纏い。

 その手に不浄なる聖旗を掲げ。

 

「世界の終わりの始まりを防ぎましょう(生者の夢の始まりを終わらせましょう)」

 

 その様を見守る二輪の朱傘に気づかない。

 

 



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本編
亡霊、彼の地にて斯く祟れり


 ある夏の日、多くの人が歩む大通りにて。

 あまりにも唐突にその悲劇は始まった。

 突如銀座に出現した場違いな異世界の軍隊。 そしてはじまる民間人の虐殺。

 人の尊厳を冒され、笑いながら殺され、時には生きながらにしてその身を食われていく。

 

 誰かが思った。 なぜ自分がと。

 

 誰かが誓った。 この子を守ろうと。

 

 誰かが恨んだ。 なぜ殺されねばならないのかと。

 

 誰かが呪った。 なぜ奴らは笑っているのかと。

 

 誰もが願った。 それらの排除を。

 

 恨み、妬み、呪い、殺意、想い。

 それらが渦巻き、その地を満たし、そして。

 

『――――テ――』

 

 “ソレ”は始まった。

 

 最初に気づいたのは一人の兵士だった。

 掴みかかってきた母親を斬り殺し、その後ろでふるえる子供へと振り上げた剣が動かなくなっている。

 疑問に思い、自身の振り上げた腕に視線をやり。

 

「――っ!?」

 

 血塗れの腕“のみ”が剣身を掴み、空中へ固定しているのを見た。

 咄嗟に剣を手放し、その場から逃げようとするその兵士を地から伸びる腕が足首を掴み阻止する。

 倒れ込みながら後ろにいた味方に助けを求めるべく振り向いた兵士の目に映ったのは、無数に湧いた腕に襲いかかられ、半狂乱になって武器を振り回す仲間たちの姿。

 そして、

 

『―ロ――ヤ―』

 

 自身へと迫る靄のような“ナニカ”の姿だった。

 

 

 

 

 その日、その時の光景を目撃した者達は皆黙して語ることはない。

 ある者は手を合わせ、ある者は涙を流し、ある者は視線を逸らす。

 監視カメラや目撃者の記録機器、駆けつけた機動隊や自衛隊が所持していた記録機器には半狂乱になる異世界人の姿しか映ってはいなかった。

 しかし、異世界の軍が何らかの原因により壊乱したことで想定よりも遙かに犠牲者が減少していたことは確かである。

 ただ、侵略者である異世界の軍隊はそのほとんどが精神に何らかの異常をきたし、死や闇を極端に恐れるようになっていた。

 

 

 

 

 異世界の軍による侵攻、民間人の虐殺。 そしてその後の壊乱と謎の多いかの日よりしばらく後。

 異世界と日本を結ぶゲートの向こう側。 異世界ではアルヌスの丘と呼ばれる場所にて。

 

「まったく、なんで俺がこんな目に……」

「隊長、嘆いても仕方ないっすよ。 明るくいきましょう、明るく!」

「まぁそれもそうだな。 よし、いっちょアニソンでも歌うか!」

 

 銀座事件と呼称されるようになったあの日の活躍により、英雄扱いとなったらしい伊丹さんは高機動車の助手席で大きなため息をついていた。

 運転手の人(名前がわからない)と一緒にアニソンを歌い始めた伊丹さんの膝の上、全高30cmほどの和服市松人形(球体関節仕様)に憑依した俺もため息をつきたい気分である。 できないけど。

 

 交通事故で死んだら、なぜか平行世界っぽい日本で幽霊になっていて。

 

 暇なので幽霊仲間と一緒に協力して犯罪者を脅かしていたら、なぜか幽霊仲間のボス扱いになっていて。

 

 異世界の侵略者相手に全力で脅かしたら、なぜか俺単独でも人形を歩かせたり幻覚を見せたりするほどの力を得ていて。

 

 異世界に恨み骨髄な幽霊仲間と一緒にゲートの向こう側へのりこめーしたら、なぜかゲートの向こう側にいた自衛隊さんに精霊扱いされて。

 

 幽霊仲間の成仏のために協力したら、なんか現地協力者扱いされていまさらやーめたとかいえなくなりましたとさ。

 まぁ、移動一つにしろ取り憑いたものと一緒じゃないとできないし、特地では力が増えてできることが増えるし。

 自衛隊さんと一緒のほうが安心できるしで悪いことはないんだけどね。

 周囲に漂う幽霊仲間も伊丹さんがお気に入りらしいし、いろいろ楽しみだよね!

 

「おぉうっ!?」

「? どしたんです?」

「い、いやちょっと寒気がな……(ニンギョウウゴイター!?!?)」

 

 楽しいよね(現在進行形)!!

 




このあと某王都の人達に手紙と幻聴版『私メリーさん』したり、無線機に『着信アリ』してノイズたっぷりな意思疎通したり、各種心霊現象を駆使して暴れまわったり、某亜神に怯えたりする御話。

読みたい!


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炎龍と呪詛と亜神

原作と大きく変化のないシーンはバンバン飛ばしていきます。
原作既読前提なので、ご容赦ください。


 唐突だが。

 我々幽霊にとって縁とは、絶対に欠かせない要素であると思う。

 幽霊になって結構な時間が経つが、その中での経験でそう導き出したのだ。

 

 たとえば、通り魔殺人で殺されたとする。 当然殺した相手を認識するし、許せないと強く思うだろう。

 この時点で強い縁ができ、殺されたほうは殺した犯人に取り憑き、干渉できるようになる。 不安におそわれやすくなったり、体調を崩しやすくなったりするかもしれない。

 

 一方、轢き逃げで殺されたとする。 後ろからぶつかられ、即死すれば相手を認識する暇もない。 なにが起こったかすら気づかない可能性もある。

 この場合は自身を殺した運転手よりも、殺された場所に強い縁ができてしまうことが多い。 地縛霊になった者の影響で、その場所は事故が多くなるかもしれない。

 

 他にも地震・火事・洪水などの災害で死んだとする。 これはそもそも殺されたわけではないので、強く呪う相手がいない。

 この場合は場所よりも、生きている家族や恋人、友人等に強い縁ができる場合が多い。 死の間際に誰かを想えば、それは正負問わず強い縁になる。

 

 当然様々な例外は存在するが、だいたいこんな感じに分類できる。

 そして、何故いきなりこんな説明を始めたかと言えば、この異世界にきてからほとんど2番目と3番目しかみていないからである。

 アルヌスの丘に押し寄せてきた異世界軍を自衛隊が撃破した際は主に2番目が多く、次に3番目で1番目はほとんどいなかった。

 まぁ、中世ヨーロッパみたいな剣とか弓とかの相手の姿がみえる戦いしか知らない奴らが、顔どころか相手の姿も見えない距離から、彼らには理解できない方法で、一方的に殺されればこうもなるのだろう。

 

 そして、その後の周辺の探索で見た物は、そんな戦場ですら生ぬるい物だった。

 

 赤いドラゴンとしか思えない、炎を吐く飛行生物。 そして、そいつを覆う膨大な数の亡霊や、恨みや畏れなどの強大すぎる負の思念、感情。

 ドラゴンに向けられる思念や感情が膨大すぎて、向けられているものを視覚化すれば巨大なドラゴンどころか一帯を覆い尽くし、実体化するんじゃないかと思うほどに。

 日本というか地球でこんなものをむけられれば、どんな英雄でも属する地域ごと破滅しかねないだろう規模だ。

 そんな感情を向けられても平気な顔して飛んでいられるのは、その感情のほとんどが地震や台風などに向ける畏れと同じようなものだからだろう。 恨み、呪いたくても生物としての格が違う存在相手には難しく、天災扱いになっているからだと思われる。

 

 まぁ、そんなの自分には関係ないわけだが。

 

 『血が出るならば殺せる』、『生きているのなら神様だって殺してみせる』。

 創作物から引っ張ってきてはいるが、真理であると思う。

 生きている物はやがて死ぬ。 ならば殺す方法もある。 ついでにいうならば呪殺とか得意分野な亡霊仲間も大勢いる。

 ならば何を恐れようか。 今までのように存分に脅かし、ノイローゼにし、疑心暗鬼に陥らせ、狂い死ねば良いのだ。

 そして、死んでしまえばこちらのものだ。 竜という身体があるから畏れられるのだ、魂になれば多勢に無勢、磨耗して消滅するまでいじめてこき使ってやる所存である。

 大丈夫、地球の西洋の物語では竜は打倒されるべき敵でしかないから。 最近は日本のゲーム『怪物狩人』とかでは素材扱いだし。

 ヒト型でももっと食いでのあるオークとかミノタウロスとか喰っていれば少しは容赦してやったのだが。 いやそんなの居るかはしらんが。

 なにより美形のエルフとかもふもふ獣人とかを集落ごと喰うとか実にけしからん。

 これはしっかりと躾てやらねばと気合いを入れていた。

 

 の! はぁずでしたが!!

 

「NEEe IIDESYOu? TYOUDAIYOu」

「…………(市松人形がそっぽむく)」

「……ネェ、カワッテクレナイ?(小声)」

「ツツシンデジタイサセテイタダキマス!!(小声)」

 

 ゴスロリなナニカに捕まってしまいましたぁーーッ……!!

 こっちの世界ではほとんどの死者が、死の直後に昇天するとしか表現のしようのない消え方をするのが妙だとは思っていたのだ。 この世界の神様か輪廻転生的システムは働き者なのかなぁとか考えてたら、ガチ神様が登場する可能性がめっちゃ高まった件について。

 このゴスロリ、北欧神話のヴァルキリーが肉体を持ったような存在っぽい。 出会った直後から執拗に、日本大好き侵略者滅べ仲間な第二次大戦時の兵士とか、防人の鎧武者とかをドコカに連れて行こうとしてくる。

 アルヌス駐屯地に侵攻してきた異世界軍の兵士の魂が一瞬でゴスロリの身体を通してドコカへ送られたのをみたときは、本気でこれまでかと覚悟した。

 結果的に日本から憑いてきてくれた仲間達は一人も連れて行かせなかったけど、本気でヤバイと感じたのは寺生まれのTさん(ガチ霊能力者)に浄化されかかったとき以来である。

 ……いや、それまでは霊能力者に遭遇することすら稀だった(大抵は自称)し、たまに居る霊能力者も説得なんかで未練とかを解消して成仏させる方式だったからさ。 『はぁっ!!』の気合い一発力業で浄化されかかるとか予想外にもほどがあったし。

 

 閑話休題(それはともかく)。

 

 まぁ出会い頭に仲間が持って行かれるのを阻止したら即座に自分がやっていると見抜かれ、憑いていた市松人形ごと膝に乗せられて今に至る、と。

 伊丹をおしやって助手席の半分を占拠しつつ、ずっと亡霊仲間を寄越せと話しかけてきている(言葉はわからないが亡霊能力で意味は分かる)。

 正直言ってふざけんなであり、ついでにいうなら人形をあっさりゴスロリに引き渡しやがった伊丹マジ呪う(すでに呼び捨て)。

 おら伊丹、目を逸らすな! 助けろ! 動く人形と目があった? 和製『薔薇乙女』やろうが、萌えろ! おびえんな!!

 

 ゴスロリHA☆NA★SE!!

 

 その後ドラゴンが登場して暴れやがったからやつあたり混みで本気の呪詛を打ち込んでやった。 丁度片目の中に恨みのこもった鏃がめり込んでたから呪詛の基点には困らなかったし。

 自衛隊さんが片腕吹っ飛ばした時は、亡霊全員で大歓声だぜ!

 気分も良くなったし、吹っ飛んだ片腕から少し肉片とか鱗の欠片とかわけてもらおう。 本人(本龍?)の一部があるならさらに強力な呪詛を送れるしね。

 こっちきてから溜まりに溜まったストレスをぶつける良い相手ができた!!

 

 

 

 

 

 最初にソレをみた時は、とてつもない違和感に嫌悪すら抱いた。

 死霊の群が平然と生者とともに行動し、なおかつ生者を気遣ってすらいるのだ。 更にはそれら死霊の中でも一等力を持つモノにいたっては、憑依した人形をいともたやすく生きた人間のように動かす始末。

 まるで鳥の卵を割ったら無傷の子犬が生まれたような、木の灰が炎をあげて氷になったような違和感。

 世界の法則を完全に無視したようなその光景は長すぎる生の中でも初めて見るものであり、やがて嫌悪は好奇心に変わり。 英霊と呼ぶべき戦士の魂を主神エムロイの許へ送るのを阻止された時には、好奇心は好意へと変わった。

 そして今は。

 

「……炎龍の腕を吹き飛ばす力は、まだいいとしてぇ。 神であるハーディーの加護を貫いて、古代龍のただの矢傷を悪化させるほどの呪い。 あれはもうダメねぇ」

 

 避難民達に襲来した炎龍を撃退した後、避難民達と別れてアルヌスの丘へ帰還する緑の人が動かす、馬のいない鉄の馬車にて。

 イタミ、タイチョウと呼ばれていたリーダーらしき男の席を半分奪いながら、少女……戦いの神エムロイの使徒、亜神ロゥリィ・マーキュリーは艶めいた吐息を漏らす。

 理解のできない法則を以って、否。 法則があるのかもわからないその呪いは確実に古代龍、それも冥府の神ハーディーの加護を受けた炎龍を蝕んでいた。

 それも呪詛をかけたのは、たとえ異世界のモノだとしても人の死者である亡霊である。

 冥府の神たるハーディーの権能は、死者の魂に関することであれば他の神々よりも遙かに強力だ。 にもかかわらずそのただの人の亡霊がかけた呪詛はあっさりとハーディーの加護を貫き、強靱な魂を持つはずの炎龍を蝕んでいる。

 その事実は恐ろしい推測を呼ぶ。 が、ロゥリィには今は関係がなかった。

 

「ふふっ、ざまぁみろよハーディー? ねぇ、今どんな気持ちかしらねぇ? ただの人、それも亡霊にあっさりとお気に入りを穢された気持ちはどぉう? うふふふふ……!!」

 

 規格外な亡霊の憑いた人形を抱き抱え、髪を梳かしながら上機嫌にくすくすと笑う。

 ここ数百年で一番の驚きと喜びを与えてくれたこの亡霊に免じて、この亡霊につき従う亡霊達にはロゥリィの主神たるエムロイに加護を与えていただけるか伺ってみようかとも考えた。

 何しろ死してなお国を、民を守ろうとこの世にあり続け、現にその強い思念による呪詛だけで古代龍に一矢報いてみせたのだ。 たとえすでに死していようと、異世界の魂だろうとこれほどの戦士はそうはいない。

 なによりいつまでもしつこく言い寄ってきていたハーディーが驚く姿を想像するだけで笑いが止まらない。 これだけでも亡霊達が目的を果たし、この世への執着を失うまで見守るのには十分な理由すぎた。

 

「うふふっ、あなた達はどこへ向かい、なにを求めているのかしらぁ? その先にあなた達の幸福はあるのかしらぁ、それともぉ……。 うふふふふっ!」

 

 あぁ楽しみだと亜神は笑う。

 死後の魂は例外なく神の下へと召されるこの世界で、多少おかしな点があるとはいえただの人の子の亡霊の歩みはどのような軌跡を描くのか。

 なにもなせず、あっさりと神の下へと召されるのか。

 それとも、この世界にはあり得ない『ナニカ』をまだまだ魅せてくれるのか。

 

「ほんとうに、ほんとうにたのしみぃ! ふふっ、うふふっ!」

 

 ロゥリィは婉然と笑い、人形の後頭部にキスを落とした。



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隊長と藁人形と魔法少女

「あぁー、おわったー……」

 

 夜中までかかった避難民達を駐屯地へ受け入れる手続きに関する書類をにやにや笑う柳田に押しつけ、伊丹は自室のベッドへと倒れ込むようにして座り込んだ。

 視界の隅にこちらを心配そうにみる子供の影がよぎるのをみつつ、そのままぶつぶつと愚痴をこぼす。

 この駐屯地では日常的に心霊現象のオンパレードがみられる。 だが割と容易に意志疎通ができる上、基本的に皆日本人に友好的なのもあって自衛隊には受け入れられていた。

 また数度にわたる異世界軍の侵攻や偵察を警告してくれているなど、積極的に協力してくれていることもあり現場判断ではあるが現地協力者として扱うことが暫定で決まっている。

 なお本国から何かいわれるようなら、本物の霊媒師を寄越せといってやるとは狭間陸将の言である。

 伊丹自身も銀座事件において、民間人の受け入れを決めた皇居に向かって感涙しながら敬礼する旧日本軍兵士の姿や、 駐屯地内をぱたぱたと走る子供の足音、たたずむ影に敬礼したら鎧武者だったりなどの経験を経てだいぶ慣れてしまっていた。

 

「なんで俺のとこにくるのかなぁ、ほかの偵察隊でもよかっただろうに。 なぁにが一番好かれてるおまえが適任だ、だ。 ただ憑かれてるだけだろうに。 疲れてるだけにってか? ははっわろす……」

 

 ただし慣れてはいても、常に心霊現象につきまとわれるのは相当な疲労になるのだろう。 愚痴をこぼしていたかと思えば、そのまま前のめりに某燃え尽きたポーズで寝息を立て始める。

 しばらく小さな足音やラップ音などが伊丹の部屋に響いていたが、最後に電灯が独りでに消えると部屋にはベッドに横になった伊丹の寝息のみが聞こえていた。

 

 なお、伊丹が好かれる理由として一番にあげられるのは『わかっている』反応と対応をするところである。

 アニメや小説、マンガ知識とはいえしっかりと霊に対する対応をし、軽く脅かしてからかえば期待した反応をする上に、後に引きずらないところを評価されているのだ。

 よって伊丹が霊達から逃れるべくいろいろすればするほど逆に好かれてつきまとわれるという悪循環に陥っていた。

 

 

 

 

 

 アルヌスの丘から南に約二キロ。 比較的開けた森の中に難民キャンプが出現していた。

 自衛隊により急ピッチで森が切り開かれ、仮設住宅が建てられ、ある程度のインフラが整えられていく。 その片隅にて。

 

「これは……なんという……」

「なぁにこれぇ。 こんな呪詛はしらないわよぅ」

 

 魔法使いな少女レレイと、やっぱり実在する神様の眷属だったゴスロリことロゥリィののぞき込む前で俺は内職という名の藁人形作りに精を出していた。

 自衛隊がドラゴンこと炎龍の左腕を回収した際、その一部を少々分けてもらったのだ。

 『怪物狩人』風にいうなら、『炎龍の棒状の骨片』と『炎龍の軟骨』と『炎龍の骨髄』を炎龍の左腕の形に並べ、『炎龍の筋膜』でくるんで『炎龍の神経』で縛って固定。 『炎龍の筋肉』と『炎龍の腱』を巻き付けて『炎龍の血管』で縛り、『炎龍の血』で濡れた草と土で形を整え、『炎龍の鱗片』を表面にくっつければ完成である。

 こうして言葉にすればなんということもないようだが、実際には『固まりかけの赤黒い血にまみれた市松人形』が、『血塗れの肉と骨とその他生き物のパーツで腕のようなモノを作っている』。 あらためて客観視すれば完全なSAN値直葬モノである。 なるほど、道理でこの二人以外よってこないわけだ。

 そしてなぜこんなモノを作っているのかといえば、それはもちろん炎龍へ呪詛をとばすためだ。 前回は中途半端にしか呪詛が届いていなかったし、届いていない分は帰ってきてしまうので改めてすべて送りつけてやるためでもある。

 炎龍には強力で神様的な守護の力がかけられているらしく、これまで呪詛の基点にしていた眼球内の鏃では炎龍まで届きにくかった。 そこで『守護の力が存在しない炎龍の左腕』を用意し、これを呪詛の基点にすることで守護の力をガン無視で呪詛を炎龍にかけることができるようにしたわけだ。

 神様的守護の力は呪詛を真正面から浄化するものであり、受け流したり返したりするものではないというのも相まって相当強力な呪詛をかけられるはずである。

 最後の仕上げに炎龍と作った左腕、そして自衛隊が分析のために切り刻んでいる左腕を『結べ』ば完成。 あとはこの『左腕』にありったけの呪詛を注いで、肥溜めにでもぶちこんで腐らせれば完璧だ。

 炎龍は存在しないはずの左腕を切り刻まれ、腐り落ちる感覚と傷口を腐敗させる呪詛に苦しむだろう。 やってやったぜ。

 

「終わりぃ? なら早くきれいにしないとぉ。 血は落ちにくいんだからぁ」

「…………。(なすがままに抱え上げられる)」

「これは……。 いやしかし……」

 

 そして達成感に浸っていたらひょいっとロゥリィに抱え上げられてしまった。

 さすがは戦いの神エムロイの使徒、血とかグロとか大丈夫なんですねというかゴスロリ服に血が! 泥が! この人形指が動かないし可動範囲狭いから汚れまくってんだよ! ドレス汚れる!!

 

 HA NA SE!!

 

 

 

 

 

 なにやらじたばたと抵抗する人形をロゥリィが水場へと運んでいった後もレレイは動かず。 じっとその場に残された炎龍の死肉で作られた、人間の腕と同じぐらいのサイズの『炎龍の左腕』を見つめていた。

 伊丹が炎龍の一部のはいった箱と共に人形を抱えてきたときは何事かと皆集まってきたが、人形が炎龍の死肉で工作のまねごとを始めてからまず最初に精霊の友たるエルフのテュカが『精霊がおびえている』と言って離れ、それにつられるように一人、また一人と離れていった。

 独りでに動く人形が死肉をいじっているという光景も理由の一つではあったが、一番の理由は腕が完成に近づくにつれて、本物の炎龍のような威圧感を放ち始めたのが一番大きなものだろう。

 現に今も、決してお世辞にもうまくできているとは言い難いはずのその腕は、炎龍そのものの威圧感を放っている。 まるで炎龍そのもののように。

 

「……興味深い」

 

 ふとこちらをみている視線を感じて顔をあげると、たくさんの子供達に囲まれた妙齢の女性と眼があう。

 会釈してくる『すぐ後ろにある馬車の屋根よりも背の高い、貴族風の白い服をまとった女性』におもわずレレイも会釈を返し。 顔を上げたときには数人の子供達を残して消えていたことに眼をぱちくりとさせた。

 人形を独りでに動かしたり幻覚を見せたりするのは魔導師にも可能である。 可能ではあるが、アルヌスの丘を覆い尽くす範囲で何の意味もない、しかもそれぞれ自分の意志を持つかのような動きをするそれらを維持し続けるのは不可能だ。

 『意志を持ち独りでに動く人形』『不思議な服装をまとう人々の幻影』『時折聞こえる音だけの住人』 緑の人達と出会ってからよくある現象ではあるが、レレイをはじめとした門のこちら側の者達にとっては不思議極まりないものである。

 当然知識の探求者たるレレイは伊丹をはじめとした緑の人に聞いてみたが曖昧な笑みで濁され。 エムロイの使徒である亜神ロゥリィには察しがついているらしいが、自分で考えなさいと微笑まれてしまっていた。

 そして、それら現象とは別に確固たる技術として確立しているのが見て取れる『大きな音と共に遠くから攻撃する鉄の杖』『牽く馬を必要としない鉄の馬車』『押し当てるだけで木を削り伐る鋸』『工事を遙かに短縮できる強力な鉄の魔物達』

 これら未知に満ちたこの地はレレイの知識欲を強烈に刺激し続けていた。

 

「おぉ、あれは……!」

 

 そして顔を上げた先に『移動式調理施設』とそこで調理をしている緑の人をみつけたレレイは、さっそく質問すべく小走りに突撃を開始するのだった。




なんか伊丹が書きづらい。
なんでだろう?


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街と森の娘と亡霊

今回は早く書けました。
自分にびっくり。

今回と次回は主人公(と亡霊仲間)無双になります。
次回も早めに投稿できそうです。

それと評価と感想ありがとうございます!
とても励みになります。
これからものんびりにはなると思いますが、頑張って楽しく書いていきたいと思いますのでこれからもまたよろしくお付き合いいただけますようお願い申し上げます!


 どうしてこうなった。

 

「あらぁ、だいじょうぶイタミィ?」

「早急に横にするべき。 揺らしてはだめ」

「扉の向こう側ぐらい確認してあけなさいよ! あぁあ精霊が嘆いてる! お願い静まって!」

 

 イタリカという街へ翼竜の鱗を売りに行くレレイとテュカ、送り届けるついでに商取引などの情報収集をおこなう伊丹達、そしてなぜかついて行くロゥリィとその腕に抱えられた人形こと自分。

 道程は何事もなく順調に進み、目的地たるイタリカの街がどうみても戦争中なので情報収集のためいつもの三人娘と伊丹が門の前まで近づいて。

 勢いよく開いた扉に激突した伊丹がぶっ倒れたのだ、が。

 

「ひっ、こっこれはだな、ぴぃっ!?」

 

 戦場に満ちる怨嗟と諦観と哀悼の想念にあてられて不安定になっていたところにお気に入りの伊丹が倒されたことでつい暴発。 扉の向こう側へ亡霊仲間が殺到してしまったのだ。

 結果直接扉を開いて伊丹をノックアウトしたThe.姫騎士な少女はアワレ亡霊の群に取り憑かれ、強引に波長をあわされた結果亡霊の姿がある程度見えるようになってしまった模様。

 こちらから見せようとするならある程度姿を整えられるが、直接認識なんてしようものなら。

 

「ひ、姫、どうされましたか? 尋常ではない様子ですが」

「おぉおまえ達には見えんのか!? し死体が、顔が溶けた化け物が、あ、あぁあああ……!!」

「姫、どうされました? 姫!?」

 

 あまりみせられたものではない姿を認識してしまうのである。

 とりあえず、なにやら仲間らしい少女騎士とおじさん騎士に落ち着かされている姫騎士から亡霊仲間を呼び戻して街に満ちている怨恨と怨嗟を集めてきてもらおう。 そしてほかの亡霊仲間にもしばらく姿を隠してもらうしかないだろうな。

 更にいうなら、この街に満ちる想念はざっとみたかぎりそのほとんどが無念や恐怖のものばかり。 つまり襲撃者には殺される際に満足して死ぬという異常者がそれなり以上の数おり、更に街の様子を見る限り襲撃もまだ終わっていない模様。

 実にめんどくさいことこの上ない状況に、街の想念に当てられてヤバイことしそうな亡霊仲間を引き留めつつ大きなため息を吐きたい気分だった。

 

 

 

 

 

 テュカにとってソレラはよくわからないものであり、そして精霊を騒がせるよくないものであった。

 緑の人と共にあるそれらは時に幻覚や幻聴を見せてくるが、その本質は未だ見えていないのではないか。 そしてその本質はみてはいけないものではないかと感じている。

 膝枕をしたイタミの顔に水筒の中身をやつあたり気味にぶっかけながら、周囲に満ちる『よくないもの』から必死に視線を逸らす。 それを見れば何かが終わってしまうような予感がして。

 

「姫様、なにもおりませんから大丈夫です。 それよりも……」

「ほんとうか? いないのか? というかわ、妾か? 妾なのか!?」

 

 よくない何かに怯える精霊達に必死に呼びかけて矢除けの加護を維持することに集中しているうちに、イタミに扉をぶつけ、昏倒させてよくないモノ達の敵意を買ってしまった女性騎士が立ち直っていた。

 周囲の部下達にうながされ、狼狽しつつも何事かと集まってきた野次馬達を散らしはじめる。

 そのうち膝の上のイタミが口に入った水にせき込みながら目を覚まし、状況を確認し始めた。 それをみるともなしにみつつ、いつのまにかどこかへいっていたよくないものの気配に大きく息を吐く。

 それがどういう意味ででたものか。 なんについての安堵なのか。 それらから目をそらして女性騎士へと抗議の声を上げ始めるテュカへ、ロゥリィの流し目が向いていた。

 

 

 

 

 

 どうしてこうなったテイク2。

 

 あのあと姫騎士こと帝国皇女ピニャ殿下から、元連合軍の盗賊集団からイタリカの街を守護する要請を受けた伊丹達は、一度突破された南門の守護を任されたそうな。

 そして一度突破されたということは死者がでたのもその大半が南門周辺であり。 例によって霊はほとんどいないが残留思念がすごいことになっていた。

 とんでもない規模の嘆きやら怨みやらで暴走しそうになるのを何とか押さえてはいるが、亡霊仲間も俺ももう限界が近い。

 正直、一時期調子に乗って悪霊やってたら寺生まれのTさんにぶっ飛ばされたのがトラウマなので、できるならザ・悪霊な感じで目立ちたくはない。

 それにこの世界には神がいる。 不浄な亡霊は滅せねばならないとかいって問答無用で浄化してくる神官が出てこないとも限らない。 今度こそ浄化されて消滅するかもしれないのだ。

 死んで、死後の世界があることを知った。 だからといって魂が浄化されるのが怖くないなんてことはあり得ない。 消滅は、死は二度と体験したくない絶対の恐怖なのだから。

 

「ねぇ、あなたはなぜここにあるのぉ? そしてどこへいくのかしらぁ。 これからなにをしていくのかしらねぇ?」

「…………」

 

 そして夕日を浴びながら城壁に座っていたら、伊丹となにやら話をして上機嫌になったロゥリィがこちらにも質問してきた件について。

 ふーあーゆー、だっけか。 難しいことを聞く。

 

 何の意味もなく、あっけなく死んで。

 

 なぜか家族も知り合いもいない平行世界の日本で幽霊になっていて。

 

 まともに会話ができるほど理性の残っている亡霊達に仲間にしてもらい。

 

 亡霊仲間の未練解消ツアーとか企画してたらいつのまにかリーダーになっていて。

 

 成仏して、すり減って消滅して、仲間が減って。

 

 浮遊霊やら地縛霊やらを未練解消ツアーに勧誘して、仲間が増えて。

 

 それなりに長い時間を亡霊やってきたけど、なんの夢も目的もなかったことに今更気づく。

 にもかかわらず成仏も消滅もしていないのは何とも不思議だ。

 だが、まぁ。

 とりあえず、だが。

 

「…………(街へ振り返り、歩き出す)」

「あらぁ? どこへ、いく、のぉ……?」

 

 今までどおり、未練解消ツアーを続けようと思う。

 元々ゲートのこっちにまで乗り込んできたのは銀座事件の被害者の未練を解消するため。 アルヌスの丘へ異世界軍が侵攻してきた時に自衛隊が豪快に撃退した際、大半の霊は成仏して地球側へ還っていったから、次の行き先に迷っていたところだったのだ。

 この異世界では霊はすぐに神の下へ召されるけど、残留思念や呪詛なんかはそのまま残っている。

 このままなら何の影響もなく消滅するだけだが、自分たち亡霊はソレを力にすることができる。

 なら、なにもなせずに成仏した彼らの代わりに自分達がそれらを相手へ送り届けてあげよう。

 しっかり包装して、お届け先へ一直線に。

 

 あつめてもらっていたものを仲間から受け取って、すくい上げて、飲み干した。

 

 

 

 

 

 からん、ころん。 くすくす、うふふ。 きちち、きいきい。 あはは、えへへ。 くるる、ちちち。 くちゃくち、ずぅるずり。

 

 下駄の音。 囁き声。 さえずり。 摩擦音。 錆びた音。 鳴き声。 滴り。 溶けて、灼けて、削れて、千切れて、潰れて。

 

 わたしのなかまはみんな、みんなひかりがだいすきだ。

 

 命は明るくて、暖かくて、世界は暗くて寒すぎる。

 

 なのにあなたたちはさむくなりたいっていう。

 

 ころして、ころされたいっていう。

 

 なら、ね、いらないなら、ね。

 

 ソレ、ちょうだい?




主人公、亡霊です。

亡霊です。

仲間も亡霊です。

あとはわかるな?


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百鬼夜行

なんかもう本当にありがとうございますとしか。
自分のペースを保っていきますので、のんびりお付き合いいただければ幸いです。

微グロ注意


 イタリカの街へ進軍している彼らのなかでソレに最初に気づいたのは、精霊に働きかけて矢除けの加護を盗賊集団にかけている亜人の女性だった。

 まるで怯え、嘆くようにいうことを聞かなくなった精霊達に困惑し。

 

 くすくす  ふふっ

 

「ぇ……? あっ、あぁっ……!?」

 

 『声』に気づき、ソレを見つけた。

 否。

 みてしまった。

 『朱い柘榴』をかじる少女を。

 『白い飴玉』をなめる少年を。

 それらをなくした仲間の姿を。

 

 みえる?  みえた? きれい  ほしいな   ぴかぴかしてる

 

   あめだまふたつ   きらきらみっつ あまいかな

 

すっぱいかな しょっぱいかな

 

  ちょうだい あめだまちょうだい   いっこちょうだい ふたつあるでしょ

 

 わたしはふたつ  ぼくはひとつ   よんこちょうだい

 

     ねぇ  ちょうだい

 

「……ぁっ、ぁぁっっ!!」

 

 彼女は反射的に後ずさり、足をもつれさせてしりもちをつき、離れた位置にいたはずの子供達に顔をのぞき込まれ、怖気の走る『白い枝』で頬をなぞられ、くすくすと、くるくるとささやかれて。

 咄嗟に腰に提げていた袋に入っている干し果実をおもいだし、必死になって袋ごとつきだした。

 

「あぁ、あまいよっ、あまいのあげるから、だからっ……!!」

 

 ふるえる手で差し出した袋をみた子供達は顔を見合わせ、そして。

 

  いちじくかな  ぶどうかな いちごかな   くこかな ざくろかな

たべよう もらおう  いただきます あめだまほしいな   いいな

 ちょうだい    ぼくにも あたしも  ちょうだい

   ちょうだい あたしも    くこちょうだい

 いちじくちょうだい  ちょうだい りんごちょうだい

 

 死角から無数にわき出した手に、気配に、声に、姿に。

 眼を覆われ、腕を掴まれ、首をしめられ、足をかじられ、腹を撫でられ、耳をひかれ。

 恐怖でもはや呼吸すらできなくなった彼女の意識はそのまま闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 彼ら盗賊達……元連合諸王国軍の敗残兵達は、アルヌスの丘にて近代兵器により蹂躙され、逃げ延びた者達だ。

 そして盗賊へと身を落とし、帝国を怨み、徒党を組んでやがて集団は狂気を宿した。

 帝国への意趣返しというやつあたりに等しい理由を掲げ、手段である戦争が目的にかわり。

 なにをされたのかもわからぬうちに吹き飛ばされるのではなく、剣で、槍で、矢で、石で。

 殺し、殺される戦争をしようという目的の下、イタリカの街へと攻めかかっていた。

 そう。 いたのだ。

 しかし。

 

「いやだ、たすけてくれ! 死にたくない、死にたくないんだ、死にたくなっ……!!」

「これは夢だ、痛くない、なにもない、腕がないんだ、ないんだ、腕が、さがしてくれ、俺の腕が……」

「あぁ、あぁあああぁ……」

「ははっ、おまえは死んでなくちゃいけないんだよ、こっちくんな、な? 死ねよ、死ねよなぁ!?」

「おいそいつをとめろ、とりおさえろ! 殺せ! 殺せっ殺せぇっ殺せぇええええ!!」

 

 本隊の後方中央から広がり始めた白い濃霧に触れ、飲まれた者達に異常が起こっていた。

 

 ある兵士はなにかにおびえ、蹈鞴を踏んで転び、そのまま死んだ。

 

 ある兵士は霧に触れた腕がボトリと落ち、そのまま出血多量で死んだ。

 

 ある兵士は滂沱の涙を流し、全身の穴という穴から腐った体の中身を垂れ流して死んだ。

 

 ある兵士は唐突に仲間に襲いかかり、数人殺して殺された。

 

 ある兵士は殺した仲間の頭を何度も何度も地面に叩きつけ、仲間の頭と自身の肘から先を挽き肉にしてから舌を噛みきって死んだ。

 

 正気を失い、体の一部を失い、命を失い。

 

 仲間を失い、尊厳を失い、魂を失い。

 

 そして後方から迫る霧と狂気に追い立てられ、イタリカの東門へと殺到していた先頭集団は門を破壊し、中へと一斉になだれ込み。

 

「うふっ、ふふふっ、あはっ!」

 

 二重の柵と土塁を飛び越え、フリルを重ねた神官服をまとい、ハルバードを掲げて着地したロゥリィと。

 

 くすくす くすくす く ふふ はは ひははは

 

 『そこにあることになった』人形のようなナニカの姿に硬直し、静寂が生まれた。

 後に残ったのは風を断続的に叩く音に、重厚なオーケストラの調べ。

 そして、嘲笑とともに門が爆発、炎上した。

 

 

あ は  は は   は は

 

 はは  は   は  は    は

 

は  は  は は は  は は

 

 

 重厚なオーケストラ。 のびやかなアルトの女声による歌声。

 

 断末魔の絶叫。 恐怖の悲鳴。 仲間を押し退けようとする怒声。 神への祈り。

 

 そして、戦場至る所から響くこの世のモノとは思えない歓喜の笑声。

 

 わらう。

 

 笑う。

 

 ワラウ。

 

 臆病で逃げようとした兵士の足が折れて骨が飛び出す。 その兵士に躓いた後続を含めて爆発で飛び散る。

 

 勇敢な兵士が弓に矢をつがえ、空をゆく鋼の天馬へと向ける。 矢は届かず、自身の位置を教えた兵士は頭を弾けさせる。

 

 狡猾な兵士が柵を越え、民兵に潜り込もうとする。 ナニカに首を掴まれ、口から炎を吹き上げて身体の内側から灼け死ぬ。

 

 兵士が死を迎えるたび、笑い声があがる。

 老婆が、幼児が、青年が、老爺が、少女が、女性が。

 嘲笑を浴びせ、歓喜の声を上げ。

 やがて門の前の広場、そのぽっかりと空いた空間に朝日が射し込む。

 燃え上がる門と兵士の死体、朝日に照らされて延びる人形の影。

 ゆらり、ゆらりとゆれる影はやがて無数のヒトガタにちぎれ。

 ふわりとその姿を消した。



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亡霊と隊長

すでに書いておりますが、地震直撃でした。
なんとかやっております。
気晴らしにもなりますのでこの続きは書いていく所存です。


感想、評価ありがとうございます!!
とても励みになっています。


黒祇式夜 様、誤字報告ありがとうございます!
とても助かりました!


 

 これはひどい。

 

 まさに襤褸雑巾と化している伊丹の姿に亡霊仲間が激高し、突撃しそうになるのを押さえながらの感想である。

 怪談オンパレードの百鬼夜行で盗賊集団にカチコミをかけ、自衛隊がワーグナー流しながらやってきたのに爆笑しながら空襲をやりやすいように逃げる奴から優先して処理するようにして。

 掃討完了したところで自衛隊とピニャ殿下が協定を結んで。

 自衛隊の本隊が先に空路で撤退し、伊丹達と一緒に陸路で帰還を始めて。

 帰還途中で薔薇騎士団とやらに捕まり、伊丹が一人残って皆を逃がして。

 捕虜輸送という名の虐待にぶちぎれた亡霊仲間が暴走しようとした瞬間に伊丹の一声で『縛られ』て。

 で、ピニャ殿下が激高する亡霊仲間に卒倒。 起きあがると同時に薔薇騎士団の隊長さん達につかみかからんばかりに詰め寄っている、と。

 元々市松人形は伊丹の提案で自衛隊が地球から持ち込んだもので、ほかにも色々と便宜を図ってくれていた、んだけども。

 その際に伊丹が「おとなしくしてくれ」とか、「これあげるから暴れないでくれ」とか言っていて、それを聞いて自分たちは受け取り、利用していたわけだ。

 このときに効力は弱いけれど契約のようなモノが結ばれていたらしい。 一瞬とはいえ亡霊達の動きをたった一言で妨げてみせたのだから。

 そして動きを止めたという事実により、伊丹の声には亡霊達を縛る力が宿ってしまった。

 つまり。

 

 伊丹はこの異世界において現状唯一、亡霊達をある程度コントロールできる存在になってしまったということ。

 

 亡霊達が伊丹に愛想を尽かして離れていけば効力を失う程度の緩い束縛ではあるが、初めて自分以外に亡霊に言うことを聞かせられる人ができたというのはとてつもない衝撃だった。

 それはもう、この場は全部伊丹だけでいいかなと偵察隊の許にある市松人形にいこうとするぐらいには。

 そしてきびすを返そうとすると、見えないはずの自分の方をしっかりとみて懇願するような視線を送ってくる伊丹。

 これはあれだよね、やって良いってことだよね?

 伊丹が止めたから皆を引き留めてたんだし、イラッとした分脅かすぐらいなら構わないよね?

 

 苦情なシね?

 

 やっちゃうヨ?

 

 セーの、

 

 ばぁ。

 

 

 

 

 

 伊丹は本気で神様とやらを呪いたくなっていた。

 薔薇騎士団とやらからの不遇な扱いでもなく、貧乏くじを引きまくる自分でもない。 自分に憑いているどう考えてもヤバイ亡霊達を成仏させずにこの世に残している地球の神様を、である。

 薔薇騎士団の宝塚なお嬢様方へナニカが向かうのをみて咄嗟に制止し、実際に止めてしまったからだろう。 伊丹には自身の周囲に漂うソレ等の姿がある程度明確に見えるようになってしまっていた。

 旧日本軍のような兵士。 背に旗指物をした鎧武者。 座敷童子にしかみえない子供。

 病人服を着た男性。 モンペにハチマキな少女。 平安時代な貴族服の男性。

 五徳を逆さにかぶって牛の刻参りスタイルな老婆。 眼や腕、足などの身体の一部しか明確な姿を持たないナニカ。 エトセトラエトセトラ。

 そしてソレ等を率いる、ナニカとしか表現のしようのないヒト。

 もはや男なのか女なのか、はたまた子供か老人なのかすら判別のつかないソレはしかし、明確な意志を持って伊丹をみていた。

 顔どころか眼球も曖昧なのにしっかりと感じる視線に脂汗を流しつつ、伊丹はメイド長と自分付きだというメイド達をみる。 そしてこちらに向ける軽く畏敬を帯びた表情をみてひきつった笑みを浮かべた。

 現実逃避に実にモンスター少女なメイド達から視線を逸らして天井をみつつ、伊丹はため息をつく。

 

 どうしてこうなった、と。

 

 いや、わかってはいるのだ。 自分の軽率な行動が理由の一つだと。

 それでも予想なんてできるかと伊丹は思う。

 亡霊達を率いているソレが、ヤバイ感じになっている亡霊達をおいてどこかにいこうとしたのをみて、思わずおいていかないでくれと視線を送っただけで。

 

 一瞬で部屋が『ホラーハウス』になるだなんて誰が予想できるだろう。

 

 そのとき部屋の照明が一瞬薄暗くなり、明るくなると部屋が一変していた。

 壁はシミが浮き血文字が現在進行形で書き込まれ、窓ガラスはのぞき込むナニカと手形で満たされ、床には血塗れの肉片と大量の長い髪がぶちまけられ、声や悲鳴に破裂音が響き、少女騎士全員をヒトとすら呼べないナニカが取り囲み、のぞき込んでいたのだ。

 まるでリアル福笑いのような頭を至近距離で見せられた少女騎士達は一瞬硬直。 直後に気絶、混乱、失禁と大混乱に陥り。

 我に返った伊丹の一言で再び何事もなかったように部屋は元に戻っていた。

 当然伊丹がやったと勘違いした周囲に丁重に扱われつつ、伊丹は思う。

 

 どうしてこうなった、と。

 

 そしてメイド達につれられて部屋に入ってきた部下達と三人娘+αの姿を見て。 正確にはロゥリィの腕に抱えられた表情固定のはずの市松人形の笑顔をみて、伊丹は再度思う。

 

 どうしてこうなった、と。




次話はすでに半分書けているので、早めに投稿できると思います。


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悪霊と国会と踊る人形

評価、感想ありがとうございます!

そして黒祇式夜 様、誤字報告ありがとうございます!

そして出来たので投稿!
ただし次はちょっと時間かかる予定です。
まぁ、来週中には大丈夫かと。


 ゲートのこちら側、日本の国会にて。

 

「貴女お馬鹿ぁ?」

 

 参考人招致で国会に呼ばれた三人娘と伊丹に対する質疑応答に溜まっていたストレスをそのまま代弁するようなロゥリィの一言に、亡霊仲間が一斉にうなずくのを感じた。

 ゲートの銀座側で出迎えてくれた亡霊仲間の集団にピニャ殿下が泡吹いて気絶したり、伊丹が必死に現実逃避をしたりしているのを亡霊仲間皆で笑ったり。

 ピニャ殿下がおびえすぎない程度に亡霊仲間に隠れてもらって、久しぶりの再会で話に花を咲かせたり。

 ゲートを通してある自衛隊の物理回線を伝って、亡霊仲間がゲートを自由に行き来できるように『結んだ』りしたりして楽しい時間が続いていただけに、相変わらずな政治家にイラッときていた亡霊仲間もだいぶ落ち着いたようである。

 その後ロゥリィ達の年齢やら種族やらをレレイが説明していると、ふと伊丹があちこちをちらちらと焦った目で見ているのに気づいた。

 視線をたどってみれば、なにやらフリーダムな亡霊仲間の姿が!

 幸原議員をはじめとした自衛隊に害意を向けていた議員達を至近距離でのぞき込むモノ、中継カメラをいじくるモノ、マイクに憑いてみるモノ、議員がテュカを撮影した携帯などをいじくるモノ。

 そして、こちらに期待したような視線を向けるモノ。

 あぁ、なるほど。 これは期待に応えなきゃいけないでしょうね!

 亡霊仲間達に合図をして中継カメラをはじめとした電子機器に干渉を開始!

 ぶすっとして座っているロゥリィの腕の市松人形から『腕』を出して。 ちょうどロゥリィが亜神であり、やがては肉の身体を捨てて霊体の使徒に、そして真なる神になると説明をしているレレイの後頭部に添える。

 あとはちょいとレレイの喉を借りて。

 

『“ソう、そシて神にナる”』

 

 久々に『悪霊』、してみようか。

 Tさんにぶっ飛ばされない程度に、だけど。

 

 

 

 

 

 その瞬間、ざわめいていた議事堂が一瞬で静まりかえった。

 誰もが誰かに、否。 『ナニカ』に見られていると感じたからだ。

 静謐に満たされた議事堂の中、驚愕の表情を浮かべ自身の喉に手を当てつつもそれ以上動けないレレイの口から、年齢も性別も定かではない声が多重に響く。

 

『“ナんじら忘れし人の子ラよ、異界に神はあル”』

 

 朗々と、無感情に。

 飄々と、嘆くように。

 滔々と、歌うように。

 軽々と、穿つように。

 淡々と、唸るように。

 

『“そしてコの世にも神はアる”』

 

 中継カメラ越しに議事堂を見ていた視聴者は、唐突に自身の側に現れた『ナニカ』の気配に硬直した。

 振り向きたくても金縛りのごとく動かない身体に、視線は映像に向けられたまま動かせない。

 

『“忘れるなカれ、隣人を”』

 

 映像の中心にうつる銀髪の少女を取り巻くように『ナニカ』が現れては消える。

 ソレは人のようにも、獣のようにも見えた。

 

『“謳歌せよ、生ヲ”』

 

 そしていわゆる『霊感』を持つ者には、ソレは『無数のナニカを無理矢理ヒトガタに固めた』ように視えた。

 

『“畏れヨ、死を”』

 

 皆が見ている前で花瓶に挿してある花が枯れ落ち、机の上に転がった種が芽吹き、成長し、花を咲かせ、枯れて跡形もなく崩れ去った。

 

『“そして遺志に祝福を”』

 

 最後にゆらりとナニカが揺らぎ。

 まるで夢から覚めたかのように、何事もなかったかのようにすべてが元に戻っていた。

 しばらく混乱した後、枯れたはずの花瓶の花がそのままだったりなど何の痕跡もなかったことから、まるで狐に摘まれたかのような顔をしつつ質疑応答に戻っていく議事堂にて。

 しばらくの間腕に抱えていた市松人形とにらめっこをするロゥリィとレレイの姿が見られたそうな。

 

 

 

 

 

 マイクロバスを威嚇追跡していた車が自損事故をおこし。

 市ヶ谷園にて焼身自殺未遂が発生し。

 丸の内線で飛び込み自殺未遂が発生し。

 東京駅前で転んで脳震盪なチンピラとぎっくり腰な駒門さんが救急車で運ばれて。

 

「え、まじで? まじでこの人形動くの? 怖っ!」

「…………(部屋中の人形の首動かす)」

「ひぇっ!? ちょ、まじで!? ちょっとこのフィギュア動かして! 雌豹のポーズで!!」

「おまえなにいってんの!?」

 

 元伊丹の奥さんな梨紗(呼び捨て)の家に避難して、疲れ果てたのだろう皆が寝静まった後。 伊丹が梨紗に、地下鉄でビビるロゥリィに抱き壊された市松人形を修理してもらおうとしたらすごいこと要求された件について。

 試しに動かしてみているが、フィギュアの関節が某回転軸のみで自然な格好を再現する関節だったがために苦戦している。

 

「…………(うねうねカタコト)」

「うわぁ、なんかすごいことになっちゃったぞ」

「フィギュア間違えた。 これはひどい……」

 

 生き物の関節構造じゃない人形を生きている人間のように動かすのは無理だな(諦め)!

 しかたないので部屋の隅に置いてあった球体関節人形を二体動かしてテーブルの上で斬新なポーズになっているフィギュアを片づけ、テーブルの上で雌豹のポーズとおまけにジョジョ立ちをさせてみせた。

 なお、人形は両方とも服を中途半端にしか着ていない。 いわゆる下着のみである。

 

「…………(連続ポーズ変更)」

「おぉ、おおぉおおお……! さいっこう!! 新時代キタコレ! 次コレ! コレやって!!」

「うわぁ。 うわぁ……。 どうすんのこれ。 どうなんのよこれ」

 

 死んだ眼でぶつぶついってる伊丹はともかく、梨紗のテンションが急上昇するのが楽しくてさらに小道具運搬用人形を一体追加。 片方でエロポーズを追求し、もう片方でジョジョ立ちその他のかっこいいポーズを追求してゆく。

 

 夏の祭典に参加しようとして銀座事件に巻き込まれた亡霊仲間を筆頭に、オタク系亡霊仲間達の補助で加速度的に洗練されていく人形操作能力。

 深夜テンションも相まって要求がとんでもないことになっていく梨紗。

 完全に眼が死に、そのまま後ろ向きに倒れて夢の世界に旅立つ伊丹。

 そして遠い眼をしながらそれらを見ていた富田は、そっと視線を逸らした先ですっかり熟睡しているボーゼスとピニャを見て心がほっこりした。




これじゃない感がありますが、これ以上はうまく表現できないのでこれで。
うまく主人公に神格持たせないと……。


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防人と亡霊と不審者

お待たせしましたー!

kuzuchi さん、黒祇式夜 さん
誤字報告、ありがとうございます!


 

 彼らにとって『ソレ』は便利で、頼りたくないモノだった。

 

「こちらランサー、命中。 次のポイントへ向かう」

 

 ごく小さな声で咽頭マイクに報告すると、彼は次のポイントへと移動を開始する。

 仲間を殺され、彼の移動した後の場所へ銃を向けた敵の眼前を蛍のような光がすいっと横切り。 つい引き寄せられた視線の先に不自然な影を見つけてビクリと全身を一瞬硬直させた。

 直後にその敵は彼の仲間に頭を撃ち抜かれ、夜の闇に紅を撒き散らす。

 その光景を視界の端にとらえつつ、彼はポイントに到着。 膝を突いて射撃体制を取り。

 『ナニカ』に気を取られて無防備にさらされた敵の頭部に照準をあわせ、発砲。 紅い花を咲かせる敵を見ることもなく次のポイントへ移動し、再び射撃体勢を取り、ナニカに気を取られて動きを止めた敵の頭部を弾けさせ、次のポイントへ移動する。

 特殊部隊並の練度である敵に一瞬とはいえ動きを止めさせるほどのナニカ。 スコープ越しに見えた、ナニカをみた敵の恐怖にひきつる表情を振り払いつつ彼はポイントへつき、射撃体勢を取り、敵の命を終わらせて。

 次のポイントへ移動しつつ、彼は祈る。

 せめて、魂は死者の信仰する神の下へ召されることを。

 蒼い燐光、『ウィル・オ・ウィスプ』の漂う森で。

 

 

 

 

 

 皆が午前一杯の短い休暇を満喫し、集合して向かった山海楼閣にて。

 温泉で命の洗濯をし、女性陣が酒盛りに突入。 男共を引きずり込んでさらに騒ぎ、ほとんどがぶっ倒れたあと。

 

「ふふっ、ひどいわよぅ。 こんなに戦士の魂がいるのにエムロイの御許へ召されることもないなんて蛇の生殺しよぉ。 どうしてくれるぅ?」

「いや、どうしてくれるっていわれてもな」

 

 自分たち亡霊集団は山海楼閣を目指して侵入してくる3つの国の特殊部隊と日本の特殊作戦群が戦っている(もちろん特殊作戦群に協力中)際に発生する死者の魂をロゥリィから遠ざけつつ、部屋の片隅で新しい人形に正座をさせて気配を殺していた。

 最近できるようになった思考分割。 これでロゥリィが伊丹を誘惑するのをわくわくして正座待機しながら、特殊作戦群の隊員達に協力する亡霊達をまとめつつ、招かれざる客を『歓迎』している亡霊達を応援できるようになった。

 今は視界を4つで行動が1つが限界だが、この調子で強化が進めば分霊までできそうなほどである。

 正直昨日の国会騒動でここまで強化されるとは思わなかったが、将来的には冗談抜きで祟り神になれそうなのが何ともいえない。

 

「ふんっ」

「危なかったぁ……」

 

 なんて考えてたらお米の国の圧力で日本は特殊作戦群を撤退させるようだ。

 ちょいと遠いし縁も弱いんで『アイサツ』程度になるだろうけども、イラッときた護国の鬼さん達を大統領にけしかけておこう。 早めに発散してもらわないと総理の方に突撃しそうだし。

 鬼さん達を見送った後であらためて特殊部隊達をみれば、すでに3チームとも半分近く召されているようだ。

 それでも特殊作戦群が撤退したのを察知したのだろう、3チームともが前進を開始した模様。 あきれ果てた敢闘精神である。

 

「さぁ、いくわよぅ。 はやくしなさいねぇ?」

「…………(袖を引かれて立ち上がらされる)」

「えーと、どちらに?」

 

 なんてひとりうなずいてたらロゥリィが臨戦態勢な件について。

 ひょいと部屋の隅に置かれていたハルバードと一緒に抱えあげられるのをなんとかかわそうとし、結局捕まってロゥリィが肩に担ぐハルバードの柄に座らされた。

 以前の市松人形より関節数が多くて自由度が高い分、操作が複雑でまだ十分に慣れていない新しい人形では1mの高さからの着地も怪しい。

 浮かせるとはいかずとも落下速度の軽減ができればいいのだが、物を浮かせるのには力が足りない。 せっかく手に入れた新しい人形だ、入手早々に壊したくはないのである。

 

「くるんでしょう? しっかり歓迎して差し上げなくちゃねぇ。 ふふっ!」

「…………(伊丹に手を振る)」

 

 諦めて上機嫌なロゥリィにドナドナされつつ、亡霊仲間に呼びかけて力を借りるとする。

 それにロゥリィは自分から襲撃者達へ向かっていくようだし、近くにいた方がロゥリィに魂をとられないようにするのは楽なのだ。

 正直ロゥリィに近づけないようにするより、おいしく『魂喰い』でもして自分の力に変えてしまった方が楽なのだが。 それをやるとTさんに今度こそ浄化されてしまうのでできないし。

 なにやら襖をスパーンとあけて走り出したロゥリィが向かう先で、ちょうど3チームが鉢合わせするように軽く誘導しておこう。

 鬼さんこちら、手の鳴る方へ。

 なんてね。

 

 

 

 

 

 彼らは、高度に訓練された精鋭の工作員である。

 そして当然ながらあらゆる状況下において成果を持ち帰ることができるよう、様々な状況を想定した訓練を積んでいた。

 その血のにじむような訓練はこれまでの工作活動において彼らを裏切ったことはなく。 常に一定の成果と自信を与えてくれていた。

 

 そう、これまでは。

 

 侵入中に日本の特殊部隊に捕捉され。 一人、また一人と殺されていった仲間達はすべて、なにか恐ろしい物を見たような凄まじい形相をして死んでいた。

 当然限界まで警戒を強めたが、それでも仲間は死んでいく。 死の直前にナニカを見つけてしまったように硬直し、無防備に頭を撃ち抜かれて。

 それでも『上』の取引によって日本の特殊部隊が撤退した後は季節外れの蛍以外にはなにもなく、ターゲットの宿泊する旅館へと到達していた。

 彼らは、高度に訓練された精鋭の工作員である。

 しかし、血のにじむような彼らの訓練には想定されていない要素があった。

 それはすなわち、

 

「ふふっ、鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪」

「ぐぎぇっ!?」

「くそっ、化け物め、化け物めぇっ!!」

 

 地球の人間ではあり得ない身体能力をもつ亜神を相手にすること。

 そして。

 

「クソガキッ、そこをどげぇっ!?」

「…………」

 

 姿を視認するだけで甚大な影響を及ぼし。 発狂、衰弱させてやがては死に至らしめるだけの力を持つ亡霊を相手にすることである。

 

 まるで踊るように工作員達の中心へと踏み込み、ハルバードをふるって惨殺死体を量産するロゥリィ。

 戦場となった旅館の庭の石灯籠に腰掛け、逃げようとした工作員から優先して二度と覚めない悪夢へと誘う亡霊の憑いた人形。

 季節外れの蛍のような蒼い燐光が舞い飛ぶ中。 ハルバードによりばらばらにされ、誰の物ともしれない銃弾で撃ち殺され、蒼い燐光に触れて発狂死し。

 最後の一人が冷たくなるのには、そうたいした時間はかからなかったのだった。

 

 そしてこれ以降、日本で活動する工作員は付け焼き刃の亡霊対策講習を受けることとなる。 が、当然付け焼き刃程度では何の意味もなく。

 本格的な亡霊対策を講じるまで、日本での工作員達は襲い来る心霊現象群に悩まされ続け。 ノイローゼによる多数の再起不能者と自殺者をだすこととなる。




あとちょっと、あともうちょっとで書きたいシーンがやってくる……!
そして原作をある程度大きく改変します。

そのシーンを書きたいがために続けてるのは内緒(小声)。


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亡霊と鎮守

お待たせしましたー。
そしてかなり短いです。
なお、次は長め、の予定です。

黒祇式夜 さん、いつも誤字報告ありがとうございます!


 

 その日、銀座は空前規模の人だかりであふれかえった。

 

 人の群は路上にまであふれ、誰もが異世界からきた少女達を一目見ようと前へ進もうとする。

 しかし、献花台への一本道だけは誰も整理する人間がいないのに道があけられ、ロゥリィ達は余裕を持って通ることができていた。

 献花台で献花をすませると、ロゥリィの声に応えるように銀座の時計塔がチャイムを鳴らし始める。

 チャイムが鳴り終わるまでしばしの黙祷を捧げ、その後ゲートへと帰っていった。

 

 その裏では。

 

「うぁー……。 マジであせったー。 ホントもうだめかと思った」

「なによあれぇ、伊丹の世界ではあんなところにまで神がくるのぉ? あんなの反則よぉ」

「興味深い」

「うぅー……」

「こわいいやだこわいいやだこわいいやだこわいいやだ……」

 

 伊丹はゲートを通過すると同時に座り込み、ロゥリィは伊丹にすがりつき、レレイはSAN値直葬な眼でつぶやき、テュカはしゃがみ込み、ピニャは幼児退行を起こして壁に向かって体育座りでぶつぶつつぶやき始めた。

 そして自分も、ロゥリィ達が持ち込んだ荷物の上に人形を座り込ませると同時に思いっきり伸びをして寝転がりたい気分だった。 できないけど。

 群衆がすごいことになっていたので亡霊達の協力の下モーゼごっこをしようとしたら、献花台の横にTさんがスーツを着て立っていらした件について。

 作務衣のほうがお似合いですよっていうかぶっちゃけ前から人間にはあり得ない力を行使してたからもしかしたらとは考えてたけども。

 

 地球、というより日本を代表する御方達の全面バックアップとかなにそれこわい。

 

 本気で消滅を覚悟しましたとも。 いやまじで。

 視線を向けられたのは自分だけだったにも拘らず、余波だけで亜神ロゥリィがガチでビビってた。

 霊的存在を感知できる皆も一般人の見ている前だから取り繕っていたけど、ゲートを越えて支配領域からでた瞬間全員が崩れ落ちている。

 わからないはずの栗林達も冷や汗を拭っているところを見るに、やはりあの方達は本物だったのだろう。

 横を通り過ぎるときに自重しろとつぶやかれるだけですんだところを見るに、釘を刺しにこられたのだろう。

 亡霊の皆も余波で数人浄化される程度だったし、もう大丈夫かな。

 

 んなわけねぇだろ。

 

 どうすんのあれ!? ガチだよ? つまり次はないぞってことだよね!?

 うわぁぁあああぁあぁぁああぁああああ!!??

 いやだよもうあんなのやだぁー!!(幼児退行)

 おうちかえる! おうちないじゃん!(セルフつっこみ)

 やばい。 とにかくやばい。

 うぁー、たとえ大丈夫だとしてもしばらくは日本に行きたくないなぁ……。

 もう、ね、ね。

 

 うぼぁー。

 

 

 

 

 

「いいんですかい? 結構気合い入れて準備されてたんでしょう?」

「いいんですよ。 これでしばらくはこちら側にはこないでしょう」

 

 ゲートの向こう側へと去っていく異世界人達を見送る漢の背中に駒門が声をかけると、その姿に違わぬ渋い声で返答が返ってきた。

 横に並んでみれば。 優に180cmはある身長と鋼のように引き締まった肉体であるにもかかわらず、どこか安心感を感じさせるその姿は実に大きく感じる。

 あの国会討論の直後から、やんごとなき御方方面からの圧力と推薦を持ってやってきたこの男がいうところによれば。

 銀座事件を切っ掛けに、最近までおとなしくしていた亡霊が活発化しているというのだ。

 駒門にとってみれば正直言って眉唾物の話ではあったが、外国の工作員達が次々と不可思議な現象におそわれて病院送りにされているのをみれば納得せざるを得なかった。

 

「すまないが、これで失礼させていただこう」

「おう、ごくろうさん。 ……あぁ、そうそう。 聞き忘れてた。 亡霊って言ってたけど、名前はあるのかい? こう、将門公的な」

「ふむ……」

 

 ゲートの向こうへ完全に見えなくなったのを確認すると去っていこうとするのをふと呼び止めて聞いてみれば、男は立ち止まり首だけで振り返る。

 その眼光に背中に汗をかきつつ答えを待つと、再び前を向いて歩き出しつつぽつりとこぼすようにつぶやいた。

 

「名はない。 ……名を持っていれば今頃は社が一つ増えていたであろうよ」

「それはまた……。 難儀だねぇ」

 

 そのまま去っていく背中を見送り、駒門はふと思う。

 つまり、今回の騒動で誰かが付けた名前が一般化してしまった場合。

 名を得た亡霊は、新しく建立した社で鎮守する必要があるほどの存在になると言うことではなかろうかと。

 気づいてしまった事実に空を見上げつつ、駒門は白い息を吐いた。

 

「本当に、難儀だねぇ。 伊丹よぅ」




活動報告でアンケートというか、主人公の名前を募集しております。
うまい名前が思いつかないのでー。
必ず採用するとは限りませんが、ぜひともアイディアの欠片でもいただきたく。
今後ともよろしくお願いいたします!


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怨霊と皇女

書きたい! シーンが! 近づいてまいりました!

そろそろ原作との差異が出始めますー。

そして、主人公が決断。


 

 正直に言おう。 俺は異世界をバカにしていた。

 

 まさにファンタジーであり、機械技術どころか自然科学すらろくに発達していない世界などなにするものぞと考えていたのだ。

 

 地球舐めるなファンタジー、なんて。

 

「かーごめかごめ、かーごのなーかのとーりーはー……」

 

 考えるべきだったのだ、人の悪意を。

 思い出すべきだったのだ、銀座事件で完全装備の軍隊を送り込んできていたということを。

 気づくべきだったのだ、ゲートは異世界側から開かれていたということを。

 過去に人知れず開かれていた可能性を。

 

 情報収集のために拉致、誘拐されている日本人がいる可能性を。

 

「いーつーいーつーでーやーるー……」

 

 帝国皇女であるピニャに『招かせる』ことで帝都の領域に入った私たちは、領域にはいると同時に感じた日本の縁に絶句した。

 そして帝都に、帝国に満ちる瘴気としか表現のしようのない負の遺志に絶望した。

 縁をたどって見つけた日本人の末路に、自分は決めた。

 

「よーあーけーのーばーんーにー……」

 

 我は神となろう。 そして神域を得よう。 そうすれば神隠しが可能になる。 この娘を救い出すことも可能となろう。

 人の遺志を知らぬこの世界の冥府の神、ハーディーを脅かす死の神となろう。 さすればすでに死した大和の魂を取り戻すことも可能となろう。

 我等は帝国の大魔縁となろう。 なにを敵に回したのかをこの世界に知らしめよう。 さすれば悟るであろう。 自らがなにを生み出したのかを。

 

「ねぇ、『』さま。 いつむかえがくるの?」

「……そっか。 大丈夫、待てるよ。 帰りたいから。 帰りたいから……」

 

 今の俺では彼女たちに幻覚を見せて安心させて、その姿を一時的に『隠す』のが精一杯。 だから、そう。

 すぐにでも力を手に入れなくっちゃ。

 でも、おこられないようにしないと。

  たべちゃだめだよね。

 

 ならころそう

いっぱい。

 

   きれいにさかせよう

 

あかくしよう   あおくしよう

 はなそう かなえよう

 

くやしいね かなしいね  さみしいね くるしいね   いたいね つめたいね

 

あついね   さむいね ほしいね

 

 みんなかわりにしてあげる

 

 みんな

 

 みぃつけた

 

 

 

 

 

「……はっ!? あぁ、寝とらんぞ?」

「殿下、こちらを。 少し休憩なされてはいかがでしょう」

「そうか? そうだな。 うむ、そうしよう」

 

 執務机でうとうとしていたピニャの頭がカクンと落ち、はっと眼を覚ます。 その眼の下にはくっきりとした濃い隈ができていた。

 部下のハミルトンからティーカップを受け取りつつ糸杉の清々しい香りを胸一杯に吸い込んで頭をすっきりとさせたピニャは、日本の外交官である菅原から聞いた話を思い出してふっと何ともいえない笑みを浮かべる。

 

「そういえば知っているかハミルトン? ニホンでは植物それぞれにハナコトバというものがあるそうだ。 そして糸杉のハナコトバは『死・哀悼・絶望』だという。 帝国へあの神を呼び込んでしまった私の居館に近い場所に、糸杉が多い東の森があるのは何という皮肉だろうな」

「殿下……」

 

 日本からアルヌスへ、そして帝国の首都である帝都へ帰還したピニャは皇帝への謁見で帰還の報告をし。

 その瞬間、自身の肩からナニカが離れたように少しだけ軽くなるのを感じ、同時に謁見の間を一瞬だけ黒い風のような物が過ぎ去ったのをみた。

 猛烈にいやな予感に襲われたが、その場にいた誰も気づかなかったようなのでそのときは気のせいだと思うことにしたのだが。

 その日から帝都では不気味で不可思議な現象が多発し始め、様々な噂が流れ始めたのだ。

 

 ある貴族は眠るたびに火刑に処される夢を見た。 起きれば全身の火傷が日増しにひどくなっていき、最後は赤黒い肉の塊となって死んだ。

 

 ある商人は日毎にひどくなっていく首と局部のかゆみ、そして首に浮かぶ手形の痣に悩まされ、最後は首が一回り細くなるほど肉ごとかきむしって出血多量で死んだ。 かきむしった首の傷口からは大量の蛆虫があふれ出てきたという。

 

 ある連続娼婦殺人鬼は路地裏にてミイラになって発見された。 最後に目撃されたのは前日の夜、その路地裏へ虚空に話しかけながら入っていく姿だったという。

 

 ほかにも人のはいることのできない隙間からこちらをのぞく人影、死んだはずの人が目撃される、歩いていると足音が一つ増える、誰もいない部屋で聞こえる囁き声、誰もいないのに視線や気配を感じる、まるで現実に誰かが殺された瞬間の追体験のような悪夢。

 

 そして、それらの現象や噂話の舞台となった場所の近くでは。 必ずと言っていいほど異国の装束を着た子供の目撃談が語られていた。

 

 これを聞いたピニャとあの日イタリカへ赴いた薔薇騎士団の隊員達が想起したのは、記憶に焼き付いて離れない『旗のようにヒラヒラした袖で前あわせの服を着た人形』だった。

 急遽自衛隊のいるアルヌスへと早馬をとばして事態を知らせ、相談という名の救援要請を出したのは当然の流れといえよう。

 派遣されてきた伊丹や使徒ロゥリィによれば、日本で神と認められた亡霊の仕業であるという。

 死者の怨みや未練を晴らし、日本を守護する神であるらしいその存在がなぜ帝都で猛威を振るっているのかまではわからなかった。

 だが、その性質上多くの死者から怨みを買っている者を呪うのが主であり。 それ以外の者については偶然目撃してしまって恐ろしい目に遭う以外に実害はないということが判明したため、薔薇騎士団の団員達の大半はほっと胸をなで下ろした。

 侵略国家であり、膨大な死者を築き上げて拡大してきた帝国の皇女ピニャ・コ・ラーダは顔面を蒼白にしてイタミへとすがりついていたが。

 結局その場は、帝国への窓口の維持のためにも身を守る手段を用意すると約束をして伊丹達は帰還。 その後日本国の使者として帝都へ訪れた外交官の菅原から渡された守り刀をピニャは真剣に受け取り、寝台から湯浴みにまで持ち込んでいた。

 幸い全長20cm程度の長さに白木の鞘であり、抜くことができないように鯉口を固定する飾り紐なども相まって、変わった装身具としてパーティーなどにも持ち込めてよかったとはピニャの談である。

 なお、副次効果として霊視能力などをある程度抑える効果を持つ。

 この効果がなければ、霊視能力が常に全開なピニャでは帝都での生活は不可能だったであろう。

 

「わらわもこのマモリガタナがあるから無事なようなもの。 最近では皇宮内でも目撃され、神官どもの祈りも効果がないというではないか」

「なぜ陛下は殿下の報告をくだらぬと遮られたのでしょうか。 異界の神とはいえ、あれほどの力を持つ神です。 なんらかの対処をしておけばここまでの事態には……」

 

 ハミルトンの疑問に、懐の守り刀を撫でながらピニャは首を傾げつつ考える。

 報告を途中で遮るなどということをされるのは少ないとはいえないが、そういえば機嫌が悪かったような。

 

「うぅむ、陛下は神や亡霊などと言ったものが嫌い、ではなかったはずなのだが。 やはり機嫌が悪かっただけなのだろう」

「そう、ですね。 陛下に限って話だけで恐れるとは思えませんし」

 

 その後少々話し込み、執務を再開した二人の死角、机の側板にて。

 眼のように見える木目が生物のようにギョロリと動き、ふたたび木目に戻っていた。




うしろのしょうめんだーぁれ


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掲示板と守り人

掲示板回です。

そして すごく これじゃない。

うぅむ、違和感ガガガ……。


仕事が残業アンド休出だらけなので更新はかなり遅くなりそうです。
そして帝都地震で悩んでます。
地震の描写を限界まで削れば大丈夫かな?


 オカルト板

 

 【祝】オトナリ様について語るスレ17柱目【御社建立決定】

 

 

1本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

このスレは銀座事件や国会騒動を起こしたオトナリ様についてまったり語るスレです。

議論等は特地板の

 

【頑張れ】オトナリ様を信仰するスレ35柱目【日本代表】

 

 

【宗派は?】特地の神について語るスレ29回目【ゴスロゥリィ派です】

 

など多くあるのでそちらへどうぞ。

950を踏んだら宣言をして新スレをお願いします。

 

 

2本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

>1乙

 

 

3本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

乙!

 

 

4本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

乙ー

スレタイ見て知ったけど、とうとうオトナリ様は御社までできちゃったかー。

 

 

5本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

>4

結局名前はどうなるんだっけ?

いくつか候補がでてて、陛下自らが選ばれるって話じゃなかったっけ

 

 

6本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

そうそう、日の本の民を救い、自衛隊とともに日本を護っている名もなき神に名を奉じるってやつ。

で、なんか神道に仏教にといくつも名前をつけるらしいね。

 

 

7本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

オトナリ様は性質的には御霊信仰が近いけど、はっきりしたところはわからないみたいだしねー。

てか特地板やばいw

また落ちるんじゃね?w

 

 

8本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

うおまじだやべぇ。

ざっとみたところまーたアクマガーアクリョウガーて騒ぐ奴らがいるのな。

日本の宗教関係はどこも否定してないってのに。

近所の国カナー?

 

 

9本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

肯定もしてないとこも多いがな!

 

 

10本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

>日本の宗教関係

ただし民間宗教は除くですねわかります。

先週もトクチニワザワイヲーテンバツヲーって騒いでた奴らが捕まったばかりだし。

 

 

11本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

あぁあれなw

たまたま近くでみたんだけど、超胡散臭い格好した奴らが分けわからん名前叫びながら銀座の献花台に向かってバッサバッサ棒振り回してんのw

よく近づけたなーって思うけど、その努力と執念をほかのことに使えよとっっw

 

 

12本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

てか特地板の奴らってオカルト板にもオトナリ様スレがあるのにこないよな

なんで?

 

 

13本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

特地関係はあっちのほうにまとめてあるんだし、こっちは特地以外も多いしねぇ。

にぎやかしや荒らしも人の多いあっちに移動してるし、ここに残ってるのはそれこそのんびりオトナリ様について語りたい奴ばっかでしょ。

荒らしがいないのは大歓迎だけどね。

 

 

14本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

とりあえずオトナリ様の名前予想でもしようぜー

俺はヒルコとかマガツとかつきそうだとおもう。

 

 

15本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

それは確定じゃね?

そうだなー、オトナリ様って結構浸透してるし、漢字当てはめて御徒那裏命とか?

 

 

16本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

禍津黄泉命とかどうよ。

かっこいいだろ?

 

 

17本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

いやいやここは幽徳院なんてどうよ。

陛下につけてもらうならこういう方向性じゃね?

 

 

18本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

>17 それはそれであかんとおもう……

祟徳院とならべて違和感ないとかあかんやろ……

 

 

19本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

いやいや、オトナリ様幼女説から八目童子!

目撃された依代の人形が全部子供の格好だって言うし、視える奴が言うところによればなんか目が一杯見えたんだろ?

ならこれだろう!

 

 

20本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

いやいやw

人形ってもあれ市松人形だから中身が幼女とはかぎらんだろうにwww

 

 

21本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

いや、参考人招致で特地の人が日本に来たときに買い物してるのが目撃されてるんだよ。

で、ドール系専門店で特地の人の対応した店員が言うところによれば、いろんなドールパーツや関連商品を買ってたけど、そのほとんどが子供頭身だったらしい。

んで依代として使うんだから中の人(中の神?)もそういう姿なんじゃないかなって話。

 

それに幼女神とか萌えるやろ?

 

 

22本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

てめぇw 最後の言いたかっただけだろww

 

合法ロリ(神)……!!

 

 

23本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

おまえらいいかげんしろよー。

 

ロゥリィー! 罵ってくれー!!

 

 

24本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

まったくw

ここはオトナリ様スレなんだからオトナリ様について語ろうぜー。

 

ところでロリババァとショタとかいいと思いません?

 

 

25本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

て め え ら wwwwww

 

のじゃロリですね、わかります。

 

 

26本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

どこも変わらないねぇ。

 

神社の境内で手鞠歌はジャスティス。

 

 

27本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

質問。

いいかな?

 

 

28本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

お? おkおk、皆暇してるしどんとこいよー。

 

 

29本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

バッチこいやー

 

 

30本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

ありがと!

結局オトナリ様ってなんなのさ?

神様として奉られるみたいだけど、どんな権能をもってるん?

 

特地板で聞いたらオカルト板で聞けっていわれてねー。

おしえて! えろいひと!!

 

 

31本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

えろいwwwひとwww

 

 

32えろいひと20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

よっしゃw

 

・オトナリ様とは?

 おそらく、亡霊の集合体。

 これまでの行動からしてただの亡霊とは違い、目的意識を持って行動できるっぽい。

 外見は視える人いわく、無数の何かをヒトガタに固めた感じ。

 銀座事件で有名になり、オカルト板の皆で調べた結果かなり昔から存在するらしいということが判明。

 現代版怨霊として暴れまくった結果、荒御霊として今回奉られることになった。

 

・オトナリ様の権能(予測)

 まず確実なのが「護国鎮守」。

 銀座事件で特地の軍隊を祟ったり、特地の人に近づこうとした外国人が爆竹みたいな破裂音(たぶん懐の拳銃暴発)とともにうずくまった(のち病院搬送)のを目撃している人も複数いたところから、日本に不利益をもたらそうとしたら攻撃対象っぽい。

 次に有力なのが「死者の未練の解消」。

 実はこれまでにもオトナリ様っぽい噂話や体験談ってちょくちょくあったのね。

 そのなかでほぼ共通しているのが、死者の為に行動していること。

 一番ふるいのが大戦後すぐなんだけど、まぁ今は関係ない。

 あとは死者に関することの権能なんじゃないカナーってここでは言われてる。

 

 

33本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

おぉ、わかりやすい。

 

 

34本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

この短時間にw

 

 

35質問した人20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

ありがとう!

おー、なんというかやばいとしかいいようがないねぇ。

てか銀座事件の前にもオトナリ様の話ってあったの?

 

 

36えろいひと20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

あったよー。

ただ、集団霊で死者のために目的を持って行動しているという共通項があるだけで、べつの話なんじゃないかってされてたね。

で、銀座事件だろ? 国会生中継であれだろ?

これはそういう存在がいるんじゃないかって調べたら意外と関係してる話が多かったって奴だね。

 

そういえばオトナリ様のwikiって詳細書いてないよね。

そっちに俺が知るだけのを編集しとくから詳細はそっちで読んでくれい。

じゃ、ROMに戻るぜー。

 

 

37本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

あぁ、それは一時期編集合戦がひどくてな。

最低限の情報だけ残して編集ロックされてたのよ。

ロック解除されてるなら俺も協力するかね。

 

 

38本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

ありがたい。

過去ログすごいことなってるから調べるのも気が遠くなってたところなのよ。

 

 

39本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

丁寧にありがとう!

さっそくwikiにいってきますw

 

 

40本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

いてらー。

 

 

41本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

で、オトナリ様幼女なん?

 

 

42本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

まだいうかwww

 

 

 

 

 

「……で、ぶっちゃけこれどこらへんまでが本当なんです? トンネル火災のとかもう幽霊のできる範囲を超えてる気がするんですがねぇ」

『残念ながら、大半が事実だな。 トンネル火災についてはたまたま居合わせた同業者が青い顔をして転職したがっていたからよく覚えているよ』

「そらまた。 ご愁傷様であってますかね」

 

 窓から献花台の見えるオフィスビルの一室、現在は警備員室となっているその部屋にて。

 駒門はコーヒーをすすりつつパソコンを眺め、携帯に話しかけていた。

 

「で、間に合いそうなんです? 特地の帝都が死都になるかどうかの瀬戸際なんでしょう?」

『間に合わせる、としか言いようがないね。 恐ろしいなんて言葉じゃ言い表せないくらいにはご立腹だ。 せめて場所が違えばまだ救いはあったんだろうけどね、特地では死後の安寧は祈っても死霊の対処法は存在しないらしい』

「そりゃぁ、なんとも。 ……間に合います?」

『間に合わせてみせるとも』

 

 力強い、実に頼りになる返答をもらった駒門は通話を切ると次の番号を打ち込み始める。

 すでに何度も打ち込んだ結果スムーズに入力できるようになった番号にかければ、予想したとおり相手は数コールで出た。

 

「よう、伊丹。 送った資料は役に立ちそうかい? そりゃぁいい、ぜひとも活用してくれい。 あん? いいってことよ、なんならこっちに戻ってくるときにでも一杯やろうや。 そんときに土産話でも聞かせてくれりゃぁいいさ。 おう。 じゃぁな、気をつけろよ?」

 

 通話を終えると駒門は大きく息を吐いて伸びをし、全身の力を抜いて天井を見上げた。

 そのまま窓の外へ視線を向ければ、献花台の前に人が立ち、祈りを捧げているのが見える。

 視線を机の上に戻せば、ノートパソコンの隣にちょこんと座り込んだヌイグルミのボタンの目と視線があったような気がした。

 ひょいとヌイグルミを持ち上げてしげしげと眺めてみる。

 フェルトの身体、ボタンの目に毛糸の髪。 かわいらしい人形だ。

 しかし。

 

「おまえさん達、いったいなににそこまで怒ってるんだよ? もうちょい自重してくれないと交渉どころではないんだがねぇ」

 

 神として奉られることが確定した亡霊に、特に気に入られた者達に渡された人形のひとつでもある。

 日本人形、西洋人形、ヌイグルミ、キーホルダーサイズの編みぐるみ。 一つとして同じ物のないそれら人形は、さる筋から渡されたものだった。

 なんでも、過去に亡霊が騒動を起こした際に実際に取り憑いていた人形だそうな。

 気に入られた以上、周りをうろうろされて怪奇現象を頻発されるよりは。 明確な依代を用意して、近くにいることを許可することでよけいな自己主張を抑えられる。 らしい。

 実に胡散臭いとは思うが、ときおり人形から何ともいえない視線を感じることからさっそく役に立ってはいるようだ。

 無機質でどこかズルリとした視線をこちらに向け始めたヌイグルミをそっと机の上に戻すと、駒門はそそくさとコーヒーのお代わりを貰いに給湯室へと向かった。

 

 さわらぬ神に祟りなし。

 

 至言である。



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虜兎と巫女見習いと宮司見習い

お待たせしました!

何を考えてたのか帝都地震を先に書いてまして。
おかしい話がつながらん。 あ、ひとつ前の話書いとらん。
で時間かかりましたw
次は半分以上書いてるので早めに行けると思います。


 帝国皇太子ゾルザルの奴隷であるテューレはゾルザルの部屋からでると、ボロボロの裸身に行為で汚れたシーツ一枚の姿でふらふらと歩き、自身に割り当てられた独房のような部屋へとたどり着く。

 足下のおぼつかない自身に舌打ちしつつもたどり着いたテューレは出迎えたノリコという黒髪の女性に支えられつつ座り込んだ。

 

「大丈夫? 痛みのひどいとこはない?」

「……うるさい」

 

 たどたどしい口調でかけられた言葉につっけんどんにかえすも、テューレはノリコにシーツの比較的きれいな場所で身体を拭われるに任せる。

 全身を痛めつけられ、失神するほど首を絞められながらの行為はひどく体力を消耗するのだ。 仕方のないことなのだと誰に言うでもなく考え、ふと壁際に人影を見て視線をあげる。

 

「どうしたの? やっぱり痛む?」

「……いや、なんでもない」

 

 どこから調達したのかシーツを裂いた端切れを水で濡らして体を拭いてくれるノリコから視線を逸らし、できるだけ壁際をみないようにする。

 

 ノリコが奴隷になってここにきた際、言葉の通じない彼女の世話をしたのはほかの人間種の奴隷達だった。

 虐げられている人間は同じ境遇の者同士で結託するか、自身よりも弱い立場の者を作ってその上に立とうとする。

 ここにいるゾルザルの奴隷のうち、人間種ではないのはテューレだけであったからほかの奴隷達は人間種だけで結託し、テューレをはじき出していた。

 すでに人間種そのものに絶望し、憎悪の炎を燃やしていたテューレは別に気にしていなかったが。

 しかし、それはノリコの祖国であるらしいニホンへの侵略軍が惨敗して撤退してきたという噂が流れ始めるまでだった。

 ゾルザルの奴隷は帝国に侵略されて滅ぼされた国の出身がほとんどであり、万全を期して進撃した帝国を即日で壊滅させて撤退させた国出身のノリコへ、どのような態度をとればいいかわからなくなったのだろう。

 そしてアルヌスの丘を占拠したニホンの軍に対し撃破すべく進撃した帝国軍と連合軍が壊滅したという噂が流れ始めれば、ノリコは人間種の奴隷達の中で孤立するようになっていた。

 逆に帝国を撃退できる国の出身というところに興味を持ったテューレは最初、何かの役には立つだろうと言う気まぐれでノリコに軽く手を貸し、懐かれた結果。

 

「あ、ありがとうございます。 あとで取りに行きますね」

「(だから何と会話してんのよ、あんたはぁーっ!?)」

 

 帝都で怪奇現象が発生するのと同時期にノリコは虚空に話しかけ始め。 当然それをすぐ近くで見せられる羽目になっていた。

 他人を精神的、肉体的に追いつめることに快楽を感じるゾルザルの奴隷には壊された者も多く(そして壊れたら廃棄される)、狂人への対応そのものは慣れてしまっている。

 が、本人は正気のまま、そして認識できなくとも実在するとしか思えない怪奇現象が多発する場合の対処法などテューレは知らない。

 ましてやノリコを認識できなくなったゾルザルや、気味悪がってノリコを排除しようとして行方不明になった者達がいるのだ。 現状維持以外の対処法など思いつきもしなかった。

 最近は実体のない人影の気配や持ち主のいない視線まで感じるようになり。 眠れば誰かの記憶のようなリアルな悪夢を見るようになってしまっている。

 なぜかノリコの近くにいると人影以外の現象は発生しないため、やたらと世話を焼きたがるのを利用してノリコの方から近づいてくるようにし向けているのだが。

 

「(だから! なんで! こっちくんのよ!? 過保護なのよノリコは大丈夫だからなにもしないからゾルザルの馬鹿の方に行きなさいよ帝国潰しなさいよこっちくんなばかぁー!!??)」

「やっぱり痛む? ロー○軟膏とか消毒スプレー、なんてないよね。 せめて氷があれば冷やせるんだけど……」

 

 当然ノリコが近づいてくるということは人影や気配、視線が近づいてくるというわけで。

 激烈にそれが『よくないもの』であると訴えてくる本能と、なぜかもわからないが猛烈に逃げ出したくなるほどの恐怖に襲われていた。

 それでもノリコの側でなければ悪夢で眠ることもできないためなんとか恐怖を抑え込み、最近ノリコがどこかから手に入れてきた厚手の大きな布にくるまって身体を小さく丸める。

 頭まですっぽりと収まってころりと横になれば、疲労の極致にあった身体はすぐに睡魔に襲われる。

 背中をゆっくりと叩く手を感じながら、テューレは眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

「へへー、いいでしょう。 これかなり上等な生地でできてるし、動きやすいんだよー!」

「へぇ、結構似合ってるじゃない! 私も着てみたいなー」

「いたみぃ、いいのぉ?」

「んー、まぁありなんじゃない? もう二、三着用意してもらっちゃおうか」

「やったぁ! イタミありがとう!」

 

 アルヌスの丘に建設された自衛隊駐屯地の南。 元難民キャンプなアルヌスの街の東側の外れ、森のそばに新たに自衛隊の手で建設された建物がある。

 赤く塗った丸太を門のように組み合わせて単独で立たせた『トリィ』に、屋根を木の皮で葺いた高床式の建物『ホンデン』。 正面入り口側のトリィから建物までの間は大きめの石で道を作り、それ以外の敷地内は砂利が敷き詰められていた。

 ニホン式の神殿であるらしい『ジンジャ』の敷地内では、ニホンの神に仕える神官服である『ミコショウゾク』を着込んだ鳥の亜人であるセイレーン種のミューティがくるくるとテュカとロゥリィ、そして『グージ服』を着たイタミに自身の姿を見せている。

 イタリカの街を襲った盗賊集団の仲間だった彼女はなぜか亡霊の一部に気に入られ、取り憑かれた結果両目が白濁して視力を失い。 かわりに霊的な視界を手に入れていた。

 

「でもよかったの? 宗教なんだし、しっかり考えた方がいいんじゃない?」

「いいんです! それに本来あそこで死んでてもおかしくなかったんですし、こうして加護をいただいてしまってますし。 それに、この方達もあたしを気に入ってくれてるみたいですし、こちらからお願いしようかと考えてたところなんです」

 

 最近まではアルヌスの街の警備員の一人として霊視能力を生かし、亡霊に話を聞くなどして働いていたが、今回アルヌスの街にもニホンの神の神殿を置くということでそこに勤める神官として働かないかとイタミに話を持ちかけられていた。

 そして宗教が関係することなのだから難航するだろうと予測していたイタミに対し、逆に食いつくようにして改宗を申し出たミューティはその言葉通り異界の神には感謝すら覚えていた。

 神に求められ、それに応えることができるというのはとてつもない栄誉なのだ。 その神が自身を必要とし続けてくれると言うのであればなおさら。

 さっそく今日からアルヌスの丘の自衛隊駐屯地内にある方の神殿にて研修を受けられると聞いて俄然やる気になり鼻歌を歌えば、周囲で一緒にくるくると踊っていた子供達もまた歌を歌い始めた。

 聞き慣れない言葉であり意味はよくわかっておらずとも、耳によくなじむその歌は最近のミューティのお気に入りである。

 いつの間にかトリィの真ん中で『木と紙でできた朱い傘をさす少女』の歌声も混じり、合唱になっていたことに驚きつつもミューティは明るく笑う。

 

 あぁ、この神へ仕えよう。

 すべてを差しだそう。

 だって、こんなにも負を払い、生を与えてくださるのだから。

 

 

 

 

 

「いたみぃ、この歌の歌詞、もしかしてぇ?」

「あー、そうだよ。 その想像であってると思うよ」

 

 伊丹はロゥリィの戦慄する声に投げやりに返しつつ頭をガリガリと掻くと神に昇格した亡霊から視線を逸らし、本殿に掲げてある神の名を見る。

 

 『禍津蛭子命(まがつひるこのみこと)』、『異門不空羂索神(いもんふくうけんさくしん)』、そして『幽徳院(ゆうとくいん)』。

 

 ピニャが本国へ帰還した頃からいきなり荒れ狂い、しかし自衛隊や善良な者には手を出さずに犯罪者へ全力な祟りをおとしまくる亡霊達。

 突貫工事な神社と宮司に任命された伊丹、そして日本から呼び寄せた専門家達の昇神の儀と加持祈祷。 それを日本と特地側とで同時に行うことでなんとか鎮めることに成功した神の名である。

 

 その後伊丹達が何とか意志疎通ができないかといろいろ試した結果、こっくりさんのように五十音文字を書いた紙を人形で指さすことで示された文字列で判明した激怒の原因。

 それは、帝国に囚われて非道を受けている日本人が存在するという事実だった。

 

 日本側に激震が走った。

 

 アルヌスの丘に駐屯している自衛隊は即座に救出部隊を編成し、作戦立案には空挺降下まで盛り込まれていた。 が、ここで本国からのストップがかかる。

 上の方では『神の言葉』で告げられたということに相当に苦慮しているようであり、確たる証拠または日本人本人の確認がとれない限りはこれまで通りの活動を続けるようにとの指令がくだったのだ。

 今は現状可能な限りの手を使っての調査中である。

 だが、日本人がいるとわかった瞬間に迅速に救出作業に移れるよう現在も即応体制は継続中であった。

 

「ほんと勘弁してほしいよ。 とりあえず一発全力でぶん殴ってやる」

「ほんとうねぇ。 これほどの神の怒りを受けるのですものぉ、帝国が滅びかねないわねぇ」

 

 伊丹はちゃっかりすり寄ってくるロゥリィを押しのけるように飛びついてきたテュカの肩に手をかけて引きはがそうとするが、ふとみればすごい冷や汗と青い顔にそのまま背中に手を回してぽんぽんと叩いてやる。

 これ幸いとまるで逃げ込むかのように懐に潜り込んでくるロゥリィと軽い攻防を繰り広げながらミューティの方を見やれば。 ミューティを中心に小柄な影が輪になってくるくると回っていた。

 影の持ち主は見えず。 されど影と気配はあるその光景に大きくため息をつきつつ、いい加減慣れてきた自分に危機感を持つ伊丹。

 

 まだまだ突貫工事であり、とりあえず神を鎮める最低限しかそろっていない神社には『籠女籠女』の歌声が楽しげに響いていた。




主・(‘∀‘)お? えらく恨まれとるな。 しかも冤罪っぽい。
  協力せんか?

兎・(:_;)こっちくんなばかー! カエレ!

主・(´・ω・`)


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帝都地震

nicom@n@ さま、黒祇式夜 さま。
誤字報告ありがとうございます!

そして岸田 和魔 さま、推薦ありがとうございます!
まさか自分がいただけるようになるとは思いもしませんでした……。

そしてまさかまさかの日間ランキング2位。
それもこれも皆様の御支持のおかげです。
本当にありがとうございます!

というわけで書きたいシーンの一つである帝都地震編です。
前回投稿時点ですでに半分書けてたんですが、筆が乗ってしまい少々長めになってしまいました。
お楽しみいただければ幸いです。


 

 帝国皇帝であるモルトは目の下にひどい隈をこしらえ、真っ青な顔色で自身の寝室にて頭を抱えている。

 部屋の外から聞こえる神官達の祈りの声を聞きながら、なぜこうなったのかと分かり切ったことを考えながら現実逃避していた。

 

 最初におかしくなったのは、アルヌスの丘を占拠している異世界の軍隊を偵察に出ていたピニャが帰還し、報告を聞いているときである。

 報告を始めたピニャの姿が一瞬揺らいだかと思えば、微かな笑い声とともに一陣の風が吹いたのだ。

 そのときはそれだけであり、ピニャの語る荒唐無稽な話にあきた彼は話を遮って執務室へと帰った。

 執務室へと帰り、受け取った最初の書類の端に『アルヌス』『みつけた』と朱い走り書きを見つけた時はなんの嫌がらせかと眉を寄せる。

 瞬きをしたら消えていたので気の所為だとそのまま執務を続け、紅茶をワゴンに乗せて運んできたメイドの顔に朱い走り書きで『イタリカ』『まってて』という文字を見つけた時におかしいと気づいた。

 その後も彼にしか見えない、場所と時間を問わずに現れる走り書きは地名と一言であり、地名はアルヌスの丘から帝都へとだんだん近づいており。 付随する一言も次第に長文へと変わっていく。

 地名が帝都近郊の町になった時には付随する一言はもはや壁一面を覆い尽くす長さになっており。 内容もまるで要領を得ない、要約すれば『今からいく』で済むものになっていた。

 その頃には帝都中に同じような怪奇現象があふれかえっており、神官達の加持祈祷も何の意味も成してはいない。

 今となっては時間が経とうとも文字群が消えることはなく、部屋の天井や床を含めた壁中を埋め尽くす狂気を感じさせる光景に眼を閉じることでしか対処できないでいた。

 

 そして。

 

 数日前から帝都は東の森から発生した奇妙な白い濃霧に覆われている。

 霧はその内に誰かの影をみせ、飲まれた者はその場から離れた場所に現れる。 稀に帰ってこないこともあった。

 この霧は、誰かが招き入れない限りその領域へ入ってこないという特徴を持っていた。 しかしその特徴が判明するまでのあいだに帝都の大半が霧に飲まれ、宮殿もまたそのほとんどが霧に包まれている。

 皇帝の寝室もまた霧に侵入されていない部屋であり、この部屋に閉じこもることで近づいてくる何かもまた防ぐことができていた。

 

  あけて?  おうさま あけて   あけてちょうだい

 

「……きた、か」

 

 こんこん、とんとんというノックの音とともに聞こえてくる声は警戒心をそぎ落とすような子供の声。

 数刻前は息子の一人であるディアボの声で、その前は死んだはずの母親の声で。 さらにその前は臣下の声で扉を開けさせようとしていた。

 当然これまでのように無視して去るのを待てばいいとベッドに横になり。

 

 

   あけて あけて  あけて  あけて   あけて あけて

 

 あけて あけて あけて  あけて  あけて あけて  あけて

 

 

 こんこんという音が殴打にかわり。

 がりがりとドアを掻き毟る音が加わり。

 子供の声はひび割れて音の羅列にかわり。

 

 そして。

 

 部屋そのものが大きく揺さぶられた。

 

 

 

 

 

 その夜、帝都を襲った地震は震度4から5弱程度。

 地震大国日本であればそこそこ大きいなぁと驚くことこそあれ、取り乱すことはまずない規模の地震である。 が、安定した地盤の大陸国家である帝国首都の帝都では大地が揺れるなどということはあり得ないと考える者が大半であったために大恐慌に陥った。

 昼の時点でここ数日帝都を覆っていた濃霧が晴れ渡っており、怪奇現象もこれで収まるかもしれないと安堵した直後の地震は帝都の人間に決して癒えない大きなトラウマを刻み込むこととなる。

 そして今、皇宮の謁見の間にて。

 

「馬鹿野郎っ! ぶっ殺してやるっ!」

 

 伊丹の全力で助走をつけて繰り出された渾身の右ストレートが、帝国皇太子ゾルザルの顔面をとらえて文字通り殴り飛ばした。

 錐揉み回転しながら一瞬宙に浮くほどぶっ飛ばされ、後頭部を床に強打してのたうち回るゾルザル。 呆気にとられて硬直する周囲を無視して自衛隊員はウサギの亜人の女性を支えていた日本人の女性を保護すると小銃を構えて周囲を威圧し、菅原は皇帝へと改めて向き直る。

 

「さて皇帝陛下。 ただいま皇子殿下が門の向こうから攫ってきたと仰られましたが、これは一体どういうことでしょうか? そしてピニャ殿下。 この件、ご存じでいらっしゃいましたか?」

「きっさまぁっ!」

 

 慇懃無礼に皇帝へと尋ねる菅原の背後でゾルザルが激怒し、ゾルザルの取り巻きと兵士達が日本組を鎮圧すべく武器を構え。

 

「撃ってよし。 あぁ、殿下には聞かなきゃいけないから殺すなよ?」

「了解」

 

 自衛隊とは思えない弾薬の大盤振る舞いにより一瞬で殲滅された。

 自衛隊員がその場から一歩も動いていないのにもかかわらず、連続する破裂音とともに装備ごと身体のどこかをはじけさせて死んでいく取り巻きと兵士達。

 そして、武器を持っている者が誰もいなくなった後。

 

「繰り返し尋ねましょう、ピニャ殿下。 この件、ご存じでいらっしゃいましたか?」

「ぴぃっ!?」

 

 背後に質問へ罵倒を返したゾルザルへの凄惨な拷問風景を背負いつつ、何事もなかったかのように問い直す菅原にピニャは腰を抜かして座り込んだ。

 自衛隊員が小銃を構えた段階で皇帝の盾になるべく前に出ていたピニャが座り込んだことで、大量の死体が転がる中心で自らの息子が筆舌に尽くし難い仕打ち(しゃべれるように喉と胴体だけは無事)を受けている光景がよく見えるようになった皇帝は、この世には怒らせてはいけない存在が居るということをトラウマとともに刻み込まれた。

 しかしその惨劇も、マルクス伯を初めとした大臣や将軍達、そして地震の動揺から復帰した近衛兵達が入ってきたことで一時的に中断される。

 まともに言葉すら発せないゾルザルに拳銃を突きつけつつ、再度尋問を開始した伊丹。

 

「ふむ。 では皇帝陛下。 ご存じでしたか?」

「……知っていたとも。 女一人、男四人。 女は情報を得た後はそこなゾルザルに下げ渡しておる。 男はすべて奴隷として流した。 そこから先はわからぬ」

 

 大臣達が現れてもやはり何事もなかったように問いかけてくる菅原に、皇帝は半ば死んだ眼で正直に答える。

 皇帝は菅原の態度にここではぐらかしたりでもしようものなら、たとえ皇帝である自身であっても躊躇なくゾルザルと同じような目に遭わせるという凄みを感じていた。

 

「お答え頂きありがとうございます、皇帝陛下。 歓迎の宴を開いてくださるとのお話でしたが、それは我が国より拉致された国民をすべて返還されてからと致しましょう。 陛下がどのような神を信仰されているかは存じませんが、彼らが生きていることをどうぞお祈り下さい。 ピニャ殿下。 後でその者達の消息と、どのように返して頂けるかを聞かせて頂けるものと期待しております」

「待て、貴様等「やめよ」! っ陛下!?」

 

 それだけ言うと菅原と伊丹達は帰ろうとし、謁見の間でこれほどの狼藉をされてこのままでは返せぬと大臣と兵士達がそれを制止しようとし。

 それを皇帝の一声が遮った。

 皇帝は理解したのである。 何度繰り返そうとこちらが蹂躙されるだけで終わるということを。

 

「スガワラ殿、確かにニホンの兵は強い。 しかし、戦争とは兵士の強さだけでは決まらぬもの。 貴国には弱点があるぞ」

「弱点、でしょうか」

「民を愛しすぎることよ。 義にすぎることよ。 信にすぎることよ。 強い敵とは戦わねばよいのだ。 古より高度な文明を誇る大国が蛮族に滅ぼされる話は枚挙に暇はない」

 

 菅原は皇帝へと向き直り、応じた。

 

「我が国は、その弱点を国是としています。 我が国の自衛隊は、その国是を守るべく鍛えられています。 そして我が国はその国是を肯定する神々によって、守護されています。 お試しになりますか?」

 

 からん、と。 ころん、と。

 下駄の音とともに朱い和傘をさし、紺に朱で彼岸花の染め抜きの着物を纏い。 白地で無貌のお面をつけた童女が謁見の間の中央に『居た』。

 

 くすくすと。 ころころと。

 笑い声とともに白い帽子を押さえ、白いワンピースを纏い。 天井に届きそうな身長の女性が壁際に『居た』。

 

 くきかきかけけけかかきききき、と。

 哄笑とともに編み笠を抱え、襤褸装束を纏い。 折れた刀を死体に何度も何度も突き刺し続ける老爺が『居た』。

 

 全く統一感のない姿で、全く違う所作で、全く違うことをしながら。

 しかし、まるで『最初からこの場に居た』かのようにそこにあった。

 

 そして。

 

 座り込んだままぴくりとも動かないピニャの背中へ、皇帝の座る玉座の後ろから伸びる爪がはげ、血塗れの指で文字を書き込んでいる異様に長い腕が『在った』。

 書き込まれている文字列は、二つ。

 『あなたの後ろ』、そして『おわり』。

 

「皇帝陛下。 我々もわきまえているつもりです。 平和とは、次の戦争の準備期間でしかないことを。 和平の交渉は、戦争行為を停止させる理由には成り得ないということを。 我が国は、そして我が世界は帝国を遙かに超える年月、血塗られた道を歩み続けております。 和平の交渉中に、この帝都が灰燼に帰すことを、是非恐れて頂きたい」

「……うむ」

 

 ひりつく喉を引きはがすようにうなずいてみせた皇帝へ、菅原は一礼してみせるときびすを返す。と同時に余震が襲ってきた。

 揺れる大地といつの間にか現れていた怪異の群にその場に居た特地の人々が恐怖に怯える中。 日本人達は平然と歩いて退出していく。

 怪異達もまた、余震が収まるのにあわせるようにひとつずつ、姿を霞ませるようにして消えていく。

 やがて最後のひとつとなった和傘の少女は周囲を見渡すと無貌の白面をわずかにずらし。 霧のように姿を薄れさせて消えていった。




うぅむ。
あまりこわくないなぁ。
ホラーな文才がほしい。

あ、主人公の名前の読み仮名は、

『禍津蛭子命』「まがつひるこのみこと」

『異門不空羂索神』「いもんふくうけんさくしん」

『幽徳院』「ゆうとくいん」

という感じになっております(あってるはず)。
ルビの振り方がよく分かっていないため、前回のにルビを振るのは少々お待ちくださいませー。


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祟り神と虜兎

SERIO さん、誤字報告ありがとうございます!
まさかのロウリィじゃなくてロゥリィだったとは。
今まで素でロウリィだと勘違いしてた……。

あとあんまり進んでません。


 数メートル離れたら見えなくなるほどの濃霧が立ちこめ、鳥居がまるで合わせ鏡のように無限に並んでいる石畳の参道にて。

 今一番のお気に入りの人形(なんと人間国宝クラスの職人製!)で歩きつつ、後ろに付いてきている伊丹達をみる。

 菅原さんは眼が死んでるし、伊丹は頭抱えて上見上げてるし、伊丹の部下二人は紀子の相手に手一杯だし。

 

 うん、ひどいな!

 

 まぁ、今回の地震はありがたかった。

 正直特地の神様にはまだ喧嘩売れないので神殿とその支配下の領域には直接入れないから、そこらへんごまかすのも含めて霧で帝都を覆うのが限界だったからね。

 ピニャ殿下が皇宮に自衛隊ごと招いてくれたし、これで皇宮に入れないとこはなくなったな!

 後は今回のでこうして皆を自分の神域に隠せるほどの力が手に入ったから、すでに見つけている残りの二人を隠して連れて帰ればあとは冥府の神ハーディ相手の魂奪還だけ。

 ……うん、二人だけ。 二人、だけ。

 紀子の恋人君と少年の一人は、もう死んでしまってた。

 まだ生きてる少年とおじちゃんは、絶対に死なせない。絶対にだ。

 

「八眼様? どうされましたか?」

「うぇっ!? オトナリ様じゃないのってか紀子さんはそう呼んでんの?」

「はい。 眼がたくさんある子供の姿で出てきましたから、八眼童(やつめわらし)って呼ばせて頂いてます。駄目でしたか?」

「いやオトナリ様がいいならいいんだけども」

 

 そして紀子にはそのことはもう伝えてる。 銀座事件で家族が入院してることも。

 日本に帰ったらまず家族のとこに行くんだと笑顔で語った紀子には、英霊な仲間達が全力で守護についてるし、こうして保護できたしもう大丈夫かな。

 ……うん、だからね? まだ着かないのかなーって期待した純粋な目で見ないで?

 

 神域からの出口が開けないんだから……!!

 

 仕方ないでしょう!? こう、最近空気というか空間というかがうにぃーって感じで引っ張られるみたいに歪んできてたから、それに便乗してここではないどこかにある神域への入り口を開きやすくなってたんだから!

 実験も日本人拉致への報復と、協力してくれてる亡霊仲間への労いをかねて悪人の神隠しで成功するまで繰り返したし!

 地震の前後に空間のゆがみがそれなりに大きく揺らいでたから、更に入り口開き易くなってたし!

 まさか神域に入れたはいいけど出せなくなるとか! ごめんなさい!!

 

「…………(振り向かず、和傘をくるくる回してごまかす)」

「えーと、そうだ! テューレさんだっけ? 気にしてたみたいだったけど、彼女はどんな人?」

「あ、はい。 彼女は私が奴隷仲間の中で孤立してた時に、ぶっきらぼうでしたけど色々助けてくれてたんです。 でも八眼様がゾルザル殿下から私を隠して下さっていた所為で、地震で怯えるテューレさんを落ち着かせようと私がした話を、殿下はテューレさんが独り言でつぶやいていたと認識したみたいで……」

「あぁ、それで紀子さんだけ鎖で繋がれていなかったのね。 本当、耳も毟っとけば良かったかしら」

「あはははは……」

 

 なんか後ろで盛り上がってるけど今は放置!

 

 うぉおおおぉぉひぃらぁけぇぇええええ!!!!

 

 全! 力! 全! 壊!

 

 どっこいしょぉぉおおおお!!

 

 ひらけごまぁぁああああ!

 

 亡霊のみなさんも応援してないで手伝って! え? 神としての力を得てるのはおまえだけ? がんばれ?

 その手に持ってる奉納された御神酒はなんじゃ! あとでよこせ!!

 あ。 奉納されてる人形に分霊宿らせて現世側からも開けば良いじゃん。

 んじゃ、英霊のみなさんから好評だった『飛行甲板を模した板と巻物を複数所持し(スピリット・オブ・)弓矢を携えたお艦の人形(マザーホウショウ)』はたしか自衛隊駐屯地の社にあったはずだからそっちにも分霊宿らせてー。 現世の境界を揺らがせるために霧立ちこめさせてー。 自衛隊駐屯地にある鳥居に縁をつなげてー。

 せぇのぉ、

 

 あ、開いた。

 

 

 

 

 

「テューレ様、ボウロでござりまする」

 

 疲れ果て、粗末な寝台に横臥するテューレの真下からくぐもったしわがれ声が聞こえてくる。

 

「……で?」

「やはりアルヌスへ手の者を送り込むのは難しいようでござりまする。 送り込んだ者は皆、常に恐怖を感じさせるモノに監視されていて滞在すらできぬと申しておりまする。 流石は帝国を一蹴したニホンということでございましょうなぁ」

「そう」

 

 今のテューレ唯一の部下であり、忠臣であるボウロの報告にもどこか心ここにあらずで返すテューレ。 成果を上げられなかったボウロも報告すべきことも無く褒美をよこせとも言えず、しばし部屋に沈黙が満ちる。

 ふと気配を感じて視線を向けてみれば、部屋の隅に不自然な影ができており小さな白い手がこちらへ手招きしていた。

 

「……帝国を滅ぼす。 このまま放置しても滅びそうだけど、より確実に。 絶対に滅ぼす。 もうそれしか私にはないのだから」

「それならば良い考えがございまする。 残りのニホンジン奴隷を始末致しまする。 さすればたかが一人の同胞を救うために帝都を死の都市にしようとした者共は怒り狂い、今度こそ確実に帝国を滅ぼそうとしましょう」

 

 テューレは自身が影にまとわりつかれていることを認識できないボウロの声を聞き流しながら、頭上からのぞき込んでくる子供の眼と合った視線を逸らせずにいた。

 一切の生気が感じられない眼にまるで自身の奥底まで暴かれるような心地を味わいつつ、しかしそれ以上の干渉がないことに気づく。

 まるで自分が何を言うかを待っているかのような。

 

「私は帝国を滅ぼしたい。 父と母と弟と一族の故郷を滅ぼしたゾルザルを、帝国を絶望のうちにたたき落とし、存在ごと消し去りたい。 その為になら私は私の全てを捧げましょう。 お前の望みを叶えましょう」

「畏まりましたテューレ様。 乏しい知恵を絞りましょう。 ですからそのお約束、何卒お忘れ無く」

 

 虫の形をした影に這い回られながらぐふふと笑うボウロを完全に意識の外にやったテューレは子供へと宣言し。

 ざわりと形を崩した子供の影に飲み込まれた。



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集合と崩壊

長さが短すぎる気がする。


 やたら頼もしい嘉納さんが主要国外相会議で、ロシアや中国を初めとした『門』が欲しい国を相手に大活躍しているその横で。

 嘉納さんの携帯ストラップにぶら下がる人形に憑いてきた自分も、外国の霊的存在相手に話をしていた。 まともに会話をしてくれない相手も結構いたけども。

 あとどの国も霊的、宗教的な話は一切話題にすら出してないのは意外だったな。

 宗教及び霊的なことは政治に関係させないっていう不文律があるんだろうなぁ。

 まぁ、裏ではわかったもんではないんだけども。

 

「…………(じとー)」

「「…………っ!?」」

 

 それにしてもと各国の大使の側に控える補佐官を見つめれば数人が視線を逸らし、数人がそれぞれの作法で返し、残りは気づいてもいない。

 自分のやらかした影響で世界的に霊的存在を認識しやすくなったからか、各国それぞれの対処をしてきている。 補佐官としてその道のプロを連れてきているところもあった。

 

 アメリカを初めとした、護りどころか攻性防壁レベルでやたらガッチガチに固めて、むしろ喧嘩を売ってきているとしか思えない国。

 

 中国を初めとした、国が用意した護りが杜撰で、むしろ個人で信仰している方に頼った方がマシな国。

 

 イギリスを初めとした、隣人に対する対処が的確で、こちらを尊重した上でやんわりと干渉を防ぐ国。

 

 そして主要各国の補佐官として参加した、その国を支持する国の代表。 その中には、自分たち異教の霊的存在を排除すべき障害としか認識していない者も居る。

 正直言ってとんでもなく迷惑な話である。 同じく迷惑している外国の神の使徒や、妖精に精霊などはある程度の協力を約束してくれたので対処には困らないだろうけども。

 それに会議室の輪になっている机の中心で妖精達が遊び、むっすりと天使が守護する人の後ろで浮かび、やたら大物感出してるけど妖精にも劣る力の超新人祖霊が腕を組み、立派な髭を蓄えた英霊神と煌々と輝く剣を携えた王様が日本の宗教観について興味津々に聞いてくる。

 こんな光景を見て自分たち霊的存在をどうにかできると考えてしまうのは逆にすごいけどな!

 

 え? 日本に来てみたいから招いてくれ? お前ならできる?

 いやぁ、止めた方が良いんじゃないかなぁ。

 いやだって、ねぇ?

 女体化とか、剣からビーム出るようになっちゃうかもよ?

 うちの国、魔改造とかすごいから……。

 

 

 

 

 

 柳田の言葉に最近のテュカの様子が思い出され、膨れ上がる嫌な予感にテュカの部屋へと駆けつけた伊丹。

 扉をノックし、開けてくれたロゥリィに続いてみたものは。

 

「なんなのだこれは……どうすれば良いのだ……! なぜ此の身はこんなにも不運なのだ……。 まるで意味が分からんぞ、これ以上どうしろというのだ。 どうすれば良いのだ……」

「おちつく。 はやまっては駄目」

 

 部屋の隅で四肢を床につき、orzな体勢で際限なく落ち込みながら床に連続で頭突きを繰り出すダークエルフな女性と、それをやめさせようとするレレイの姿!

 

「父さん、父さん、父さん、父さん、父さん……!!」

「えっ、ちょっ、あたしっ、ちがっ、くるしっ!?」

 

 そして寝台から起きあがるなり寝台の端に腰掛けていたミューティを力一杯抱きしめ、ひたすら『父さん』と連呼するテュカの姿が!!

 

「えーと、どういう状況?」

「そこで転がっているのがテュカにお前の父親は死んだって言ってぇ、わたしがヤツメに本当に死んだのか確かめさせてぇ、ヤツメがテュカと父親を夢で会わせたみたいよぉ?」

「ヤツメってオトナリ様だよな? おーけー、把握した。 ほら、苦しいって」

「父さんっ、父さんが生きてるってっ……!?」

「ぜはー……。 たすかったー」

 

 うちも八眼様で統一するかなぁとか言いつつ、伊丹はひとまず締め落とされそうなミューティをテュカから引き剥がす。

 そして勢い余って伊丹に父さんと呼びかけたテュカがシーツを被って蓑虫になった。

 

「で、あんたは何してんの?」

「此の身は何の為に……緑の人なら……だが無理と……炎龍に……無意味だ……力が……神は答えてくれない……おぉ、冥府の神ハーディよ……神は救わない……滅べと言うのか……生きるのが無駄だと……ならばもう……」

「ん? おぁっ、ちょっ!?」

 

 ぷるぷる震えるシーツお化けになったテュカをミューティが落ち着かせているのを横目に何やらぶつぶつと呟いていたダークエルフの女性に話しかけてみれば、唐突に腰の剣を引き抜き、自らの首を掻き切ろうとする。

 伊丹が反射的に手首を掴んで止めたことで首を浅く切った程度で済んだが、それでも結構な量の血が流れ始めた。

 

「ちょっ、落ち着いて!? 話せばわかる! 死んでも意味ないって!」

「そうだ、死だ。 死こそが救済なのだ。 これまでの不幸も、早く死ねという神の言葉だったのか。 死をもたらさなければ。 全てを……」

「だぁーっ、もう! 手伝ってくれぇっ!!」

 

 自らの血で服を朱く染め上げながら、喚き散らすでもなく、ただ冷静に死のうとするダークエルフの女性をなんとか取り押さえる。

 動けないとわかるや躊躇無く舌をかみ切ろうとしたので口に指をつっこみ、何かに頭を叩き付けようとするのでしっかり胸元に抱え込む。

 仕舞いには首の筋力だけで自分の首を折ろうと試み始めたあたりでレレイの魔法によって眠らされ、大人しくなった。

 

「あー、びっくりしたー……。 なんでいきなりこんなこと」

「理由は推測可能。 ダークエルフの集落が炎龍に襲われている。 使者としてこのヤオが緑の人に救援要請に来たが、集落が国境を越えたところにある為、緑の人は動けない。 その際、イタミなら何とかできるかもと。 テュカを壊すことで炎龍討伐をイタミにさせようとしたが失敗。 結果、絶望して自害しようとしたものと思われる」

「詳しい説明ありがとね。 にしてもどうするかね……」

 

 とりあえず首の傷を押さえて止血しつつ、伊丹はトラウマをゴリゴリ刺激されて痛む胃を押さえる。

 今回は八眼童という神頼み(比喩でない)で対処できたが、いやむしろ崩壊しかけていたテュカの精神を救うことができたのでいいことではあるのだが。

 完全に絶望しきり、自棄になったのではなくむしろ理性的に死のうとするほど追いつめられているヤオが今後何をしてくるのか。

 目の前で見せつけるように自殺してくるのならまだマシで、周りを巻き込んで破滅しようとするであろうことは確実だった。

 伊丹はひっきりなしに襲い来る嫌な予感に大きなため息を吐いた。

 

 

 

「ところでロゥリィさん? 何で怒ってらっしゃるので?」

「別にぃ?」




テュカのとは言っていない。


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祟り神の独白

244 さま、誤字報告ありがとうございます!


熱中症からの夏風邪コンボを食らいました。
皆様も水分と塩分補給、適度な休憩をお忘れなく!


 うん。

 

 正直すまんかった。

 

 ダークエルフのヤオが社に特地式の祈りを捧げているのを見つつ、月を背に鳥居の上で足をぷらぷらさせながらの感想である。

 ちなみにこのヤオ、自衛隊に断られた絶望から奮起した直後から、自殺しようとしたところまでの記憶を失っている。 いや、失い続けていると言った方が正しいところか。

 毎日毎日、色々な手を使って故郷を救ってもらえるよう努力し。

 眠りにつき、目を覚ますと自衛隊に断られた絶望から奮起したところまで記憶が巻き戻っているようなのだ。

 なので毎日毎日、多少の違いはあれど前日と同じようなことをし、前日と同じ人間に同じように頼み込んで回り、せめてもの信頼を得ようと街のあちこちで手伝いに励んでいるのだ。

 前日と同じような失敗をし、前日話した相手に初めましてと挨拶をし、テュカとミューティとロゥリィを認識できない。

 そのことを誰かが指摘しても、聞き取ることができない。

 

 うん、壊れてますねこれ。

 

 流石にアルヌスの街中を普通に亡霊が歩き回っているのはいかんかったかな?

 それとも祟り神に昇神しても気軽にあちこちふらふら歩き回ってたやつかな?

 境内の中限定だけど、日本からのお客に人形を貸し与えていたやつもかな?

 

 

 伊丹とミューティが日本からきたTさんにスパルタ方式で教えられているのを見つつ、参拝しにきた狭間陸将にお艦で御酌する。

 えらく恐縮してるけど、自衛隊の活躍は英霊さん達も大満足なんだから胸張っても良いのよ?

 イーグルパイロットも海鷲を初めとした空の英霊に夢の中で一杯奢られたからか、参拝に来てるから人形軍団で歓迎してる。

 

 その人形に英霊さんや神様が入ってるって知ったらどんな反応するのやら。

 

 それと狭間陸将が言うところによれば、なんでも上の方の一部がなんとかして特地に来ようとしてるんだそうな。

 神秘に満ちた特地ならできることも多いから、こうして英霊や神様の分霊を人形に宿らせたりもできるからね。 神様と直接会話ができるとか考えたんじゃないかなぁ。

 まぁ、それに答えるかどうかは英霊さん達や神様達次第なんだけどねー。

 自分には強制力なんてありません。 ただ、こうして協力してもらっているだけ。 ただの亡霊だった頃からずっと続くスタンスですな。

 

 

 テューレがダウンしているのを横目で見つつ、朱塗りの大杯を回して中身を揺らす。

 呪い(しゅ)を酒(しゅ)に変え、祟り神を酔わせる神酒にする。 テューレに連なる恨みやらなにやらが膨大だったため、ちょっと工夫してみたら祟り神にとって最高のお酒ができたのは予想外の収穫だったね。

 

 まぁ、ただのヒトには香りだけでアウトな代物っぽいけども。

 

 テューレにはその未来と引き替えに、縁とその内容を僅かだけ読みとる力をあげた。

 ちなみに僅かだけなのは、それ以上読みとろうとすると発狂しかねないから。 帝都で手に入れた材料で実験したから確かだね。

 その力で自身の境遇の原因とか色んなことがわかったみたいで、結構色んなものを吹っ切れたみたい。

 帝国を滅ぼす力が欲しいって言い出したから、神酒飲み干せば大魔縁に成れる代わりに君は全て終わるよーっていいながら神酒を瓢箪から杯に注いだらその時点でダウンしちゃった。

 仕方ないから神酒は瓢箪に戻しとこう。大杯から零れた神酒が不自然に瓢箪へ吸い込まれていくのを見つつ、角付きの頭を傾げる。

 

 それにしても日本の神様は愉快なのが多いと思う。 

 お酒で瓢箪といったら鬼だよね! なノリで丁度奉納された人形もあったことだし酒呑童子様に許可を貰いに行ったところ、人形に分霊宿すならOK(分霊通して見るだけで手は出さないそうな)と快く許可をもらったしね。

 てか最近のサブカル信仰の影響が大きいのか、女体化してたのは吹いたけど。

 外見だけだし、自分で切り替えられるし、楽しめるのが増えたと笑ってたのは流石の鬼だなぁ。 ……周りの部下っぽい鬼がやつれてたのは気にしないでおこう。

 ちなみに東のと月のがひとつずつ人形が奉納されてたけど、東のは角が大きすぎて大変だったので月のにしました。

 

 

 そして触手で襲いつつ、襲われて悶えさせつつ思う。 自分何やってんだろうと。

 なにやら大興奮で舐め回すように片手でビデオ撮影しつつ、同時進行で携帯に人形制作に必要なものを注文してる梨紗をみる。

 なんかやたらサブカル人形が、それも動かしやすい球体関節のが大量に奉納されたのでなんぞやと調べてみれば、そこには梨紗の名前が!

 なんでもあの夜(人形ポージング劇場)が忘れられず、かといってまた人形劇場やってくれと神になった相手に言うわけにもいかず。 一人考えた挙げ句、とりあえず奉納してみることに決めたらしい。

 で、尋ねてみた自分にそんなことを涙ながらに力説されたので、こちらの欲しい人形の用意と引き替えに撮影会の開催をすることに。

 

 まさか漢の人形を触手責めする羽目になるとは思わなかったが。

 

 そして次は外宇宙変形ロボット同士の絡みが待っているということまで思い出してしまい憂鬱になった。

 

 

 それにしてもと修復され、炎龍の血に塗れた服を仕立て直された帯を締める市松人形が安置される本殿で一人(いや、もう一柱か?)思う。

 こうして複数の場所で、別に存在して行動する自分達とかいう状態にも慣れてきた。

 分霊を作るというのは自分を薄める代わりに広げるという感覚だったけど、信仰や畏敬なんかがそれを補ってくれている感じがする。

 案外、信仰が薄れるのを神様が恐れるのは広がっている自分が薄くなっていくのが恐ろしいからじゃないかな。

 薄まり、消えていくなんてのはかつて経験したあの終わりの感覚に近いかもしれない。

 だからわかるつもりですよ。 その恐怖は。

 でもね。

 

 あなたのやりかたは許さないし、協力するつもりもございません。

 お引き取り下さいな、『    』様。



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苦悩の守り人と生かされた王

hate04548 さま、nicom@n@ さま。
誤字報告ありがとうございます!

なお、前回のお酌をする「お艦」とは艦これにおいて鳳翔を指す造語であり、ややこしいのですみませんでした!

そしてなかなか炎龍討伐に出発しない。
あれー?


「くそったれめ……」

 

 パソコンに向かって報告書を作成しつつ、伊丹は小さく呟く。

 テュカが妙に伊丹を自身の父親と間違えるので、そのことを最近挙動不審なミューティに問い質した結果。 とんでもないことが判明したからである。

 なんとテュカの父親は生きてはいるがここから遠く離れた地におり、しかもテュカの母親とは違う女性とよろしくやっているというのだ。

 未だ八眼童の影響が届かない遠方の地であるというのも影響し、これでは下手に夢の中であわせれば父親を父親と認識できなくなる最悪の事態になるかもしれないと考えたミューティは八眼童の協力の下。 テュカに生きている父親と会話するという夢を見せる際、父親の情報が足りないところを伊丹で補っていたのだという。

 結果、夢で見た父親に伊丹の面影が混じってしまい間違えてしまうようになったというのだ。

 

「なにやってんだよテュカの親父さんは。 娘を井戸に突き落としてでも守り抜いたんだろ? しかもそのあと炎龍から逃げ延びたんだろ? なのに娘を捜しもせずに遠くまで旅した挙げ句に現地妻作っていちゃいちゃしてるだとぅ? ふざけんなよ!?」

 

 ぷるぷる震える手を握りしめ、キーボードをぶっ叩きそうになるのを堪える。

 毎日毎日初めましてから始め、必死で炎龍の討伐を依頼しにくる壊れたヤオ。

 治りかけの壊れた心を真綿で包み、ふとした時に狂気の片鱗を零すテュカ。

 命を懸けて救った娘を迎えにくることもなく、遠く離れた地で新しい女性と愛を囁くテュカの父親。

 たまたまなのであろうが、なぜ自分の知るエルフはこんなにも問題だらけなのであろうか。

 伊丹は大きなため息とともに机に突っ伏し、だらりと全身の力を抜いた。

 

 

 

 

 

 彼は月明かりの中、定位置のベンチに腰掛けて目を瞑っていた。

 しかし、昼間の喧噪が嘘のように静謐に静まりかえった夜の風に混じる衣擦れの音にすっと薄く目を開く。

 

「……また来られたか。 異界の神とは、こちらの神々とはまた違うようですな」

「…………(微笑む)」

 

 いつの間にか数歩離れた距離に現れていた小柄な子供ほどの大きさの女性型人形に、彼は小さく息を吐いた。

 彼がこの異界の神と初めて出会ったのは、緑の人の偵察班が瀕死の彼を発見する直前であった。

 死そのものとしか思えぬその姿に、とうとうハーディの御許へいくのかと覚悟をした彼だったが、緑の人たちの医療技術によって見る見る回復。 医師の話では失った左の手足すら、作り物の手足をつければ日常生活ができるときた。

 そして、歩き回れるほどに回復した頃に人形を依代に再び現れたその神は、ただ近くに来てまるでこちらの言葉を待つようにたたずみ、気づいたら姿を消すという行動を続けている。

 何度も問いかけた。

 何故救ったのか。 何が目的なのか。 何故、何故、何故……。

 それらの言葉を、ただ無言で、じっと耳を傾けるように立ち尽くし。 そして姿を消している。

 

「貴方様は求めぬのですな。 いや、求められるのを待っておられるのか。 求めに応じる神、であられるのか」

「…………(たたずむ)」

 

 肯定も否定もせず、ただその場でこちらを見つめるガラスの瞳に、彼は自らの心を覗き込んだような気がした。

 自然と姿勢を正し、神へと向き直る。

 

「……今日の昼に、ヤオというダークエルフの者が参りました。 故郷であるシュワルツの森に炎龍が現れ、同胞が今も食われているという。 そしてシュワルツの森があるのはエルベ藩王国の国土内。 ……儂の、国であります」

 

 神へと、述べていく。

 

「緑の人。 ジエイタイは帝国以外の他国の領地であるということで手を出せぬと聞いております。 しかし、今の藩王国を支配しておるのは継嗣の王太子。 儂を疎ましく思うておった奴のこと、儂が何を言おうと黙殺されますでしょう」

 

 否、胸の内を曝してゆく。

 

「儂の国の国土が、民が炎龍に蹂躙されております。 しかし、儂等ヒトには炎龍に抗う術がござらぬ。 どうか伏してお願い申しあげまする。 民を救っては下さらぬだろうか」

 

 地に膝を突き、頭を下げる。

 帝国首都を死都へと変えかけたこの神であれば、炎龍をもどうにかできると信じて。

 地面へと向けていた視界にゆらりと揺らぐ影が被さり、冷気のようなものがあたりに漂い。

 視界の端に、見覚えのある鎧姿の者が膝を突いた気がした。

 

「お……おぉ……!」

 

 反射的に視線をあげ、周囲を見渡す。

 そこにはかつて、共に戦場を駆け抜けた戦士達が。

 自身が左の手足を失って動けぬ中、自らも致命傷を負いながらも引きずるようにして戦場から逃がしてくれた副官が。

 腹から腸を零しながらも、馬の背に自身を乗せて安全な場所まで駆け抜けた部下が。

 生前の姿を取り、異界の神から自身を遠ざけるようにしながら祈りを捧げていたのだ。

 そして。

 

 

  民に求められし王よ  死者に生かされし者よ

  吾は死者の願いを果たせし神 死者の神

 

 

 直接耳元へ囁かれるように響く声に、ビクリと身体を硬直させた。

 

 

  故に生者の願いは対価を求む

 

 

 まるで愛でるように。愛を囁くように。

 

 

  何を差し出す 何を求める

 

 

 魂を手に取り、舌を這わせるように。

 

 

  龍の命の対価に何を差し出す

 

 

 底なしの闇からのぞき込むように。

 

 

「儂、は……」

 

 気づく。

 命の対価は死、そして魂であると。

 悟る。

 ここで肯定すればこの身の魂は輪廻からすらはずされ、永劫にこの神の物になると。

 思う。

 ここで魂を差し出せば炎龍は死ぬだろう。 だが、それでは何の為に彼らは死んだのかと。

 彼らに生かされた命は、ここで捨てるに値するものかと。

 本当にできることはないのかと。

 

 

  生者の王よ 賢明なる者よ

  吾は待とう  求められる日まで

  死ぬまで生きよ

 

 

 硬直し、動かすことのできぬ身体を強引に動かして。

 最初の位置から動いていない神へ視線を向けた瞬間、ガクリと全身の力が抜ける。

 倒れ込む寸前になんとか姿勢を立て直せたが、その時には既に周囲には何も居なくなっていた。

 神も、戦友も、副官も、部下の姿も。 最初から存在しなかったかのようないつもの静かな夜の風景。

 再びベンチに腰掛け、月を見つつ思う。

 彼の神には、土壇場で生にしがみついた自身の心を読まれていたのだろうと。

 その上で、どうするのかと試しにきたのであろうと。

 右手で顔を覆い、空を仰ぎ。

 生かされた王はしばし動きを止めていた。




この二次作品では、王様を自衛隊が発見し、回収するのが少し早くなっています。
死亡した部下の人が残した思念を主人公が読み取り、それをたどって偵察隊の人が捜索していたため。
そのため、原作とは違い貴族かそれに値するほど地位が高く、少なくとも部下が命と引き換えにしてでも守ろうとした人間であると自衛隊が認識してます。


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疲弊した守り人と祟り神

yelm01 さま、244 さま、誤字報告ありがとうございます!

炎龍戦までもう少し!

あと今回予約投稿初挑戦です。
うまくいくかなー?


「本当にもう、どういうことなんだよっ……!?」

 

 休憩スペースにおいてある長椅子に腰掛けた柳田は頭を掻き毟り、呻き声を上げた。

 特地における資源探索とダークエルフのヤオの炎龍討伐要請(巨大ダイヤモンド付き)を組み合わせ、テュカの仇討ちという動機を伊丹に与えて偵察隊の部下を率いて向かわせる。

 伊丹であれば、少人数の偵察隊でも特地での人脈や八眼童の協力も得易いだろうから、炎龍を相手にしても十分な勝算があるだろうとふんでいたのだ。

 その為に色々手を回して根回しをしていたし、二科長の今津一等陸佐には『数人の幹部自衛官と現地協力者を雇った護衛を一チームとした資源探索チーム』という構想も受け取っている。

 あとは特地に妙に人脈のある伊丹に前例を作らせ、複数チームを編成して特地における資源探索に乗り出す。 はずだったのだが。

 

「なんなんだよっ、伊丹にはなにかあるのか!? なんであいつはこうっ、あぁもう!!」

 

 何故か自衛隊の診療施設に入院していた、エルベ藩王国の国王が自衛隊に炎龍討伐の協力と、現在エルベ藩王国を支配している王子から実権を取り戻す支援を要請してきたのだ。

 これに対し自衛隊側は、自衛隊の国境通過および各種地下資源の採掘権に免税特権を引き替えに提示し、同意を得られている。

 これによって伊丹には正式に『自衛隊本隊の到着までに現地での各種資源の事前調査、及び現地住民への可能な限りの各種支援』という名目の、現地住人の避難支援が命令されることになった。

 ちなみに伊丹の直属の部下である第三偵察小隊は現在帝都への物資輸送任務に就いており。

 資源探索チームという名の炎龍偵察班の現地協力者の護衛を募ったところ、見事にロゥリィ、テュカ、レレイ、ヤオと実力的に申し分ない(むしろ賊などの人間相手には過剰戦力)が女性ばかりというハーレム状態になっている。

 そこに八眼童が一体人形を同行させたので、炎龍相手ですら積極的に交戦しようとせずに逃げに徹すれば確実に逃走可能。 場合によっては撃退も可能という、もはや強行偵察部隊と化していた。

 そしてそんな彼らを送り出そうとしたその場に、切羽詰まった様子のヴォーリアバニーのデリラが登場。 錯乱した様子であり、伊丹に押しつけられたこともあり、とりあえず落ち着かせる為に静かな場所で話を聞かれないアルヌスの街にある八眼童の神社に向かい。

 『フォルマル伯爵家からの紀子暗殺指令』なんて爆弾を告白されたのであった。

 

 つまり、こういうことである。

 伊丹には命の危険の高い場所に自分からついてきてくれる人(しかも美人で能力も高い)が複数おり、しかもどうしようもなくなった時に伊丹ならと頼られ(しかも美人でry)、組織の上層部にも『伊丹ならしょうがない』といわれてなんだかんだで色々な支援や便宜を図ってくれ、護国の祟り神とその麾下の英霊や亡霊達のお気に入り(これはあまり羨ましくない)と。

 どこの小説の主人公だ、という話だ。

 

 とにかくデリラを駐屯地に連れて行き、然るべき部署に任せ(行かないでくれとごねられたのでまた後で来ると言ってしまった)、伊丹の資源探索チームとエルベ藩王国の国王実権回復とその他諸々の書類仕事を済ませ、紀子暗殺指令についてを報告し、そのことについての対策会議の資料をとりあえずで作成し、デリラに会いに行き、調書を取り、フォルマル伯爵家に確認の手紙を作成し、明日からアルヌスの街での各種調査の為の書類を作成し……。

 ようやく一段落つき、もう今日は寝ようと時計を見れば大分前に今日は昨日になっていた。

 

「もう本当になんなんだよ。なんなんだよもう。なんなんだよ……」

 

 もはや眠気やらなにやらで意識も朦朧としてきた柳田は最後に空き缶をゴミ箱へシュート(弾かれた)し、そのままベンチへ倒れ込んで寝息を立て始めた。

 ころころと転がる空き缶を拾い上げる手も、そっとシーツをかける手も知らないままに。

 

 

 

 

 

 がたごとと揺れる高機動車の車内で、ロゥリィに抱き抱えられつつ思う。

 

 どうしてこうなった、と。

 

 いや、呪詛で炎龍を殺し切れてなかった自分が原因なんだけども。

 土地にかけたなら街が一つ地図から消えるレベルの結構やばい呪詛をかけていたし、これで十分だろうなんて油断していたので気づくのが遅れてしまった。

 炎龍との縁が綺麗さっぱり消失していることに。

 こうして今も探っているのだが、欠片も縁が見あたらない。

 それこそ今も同胞が食われているヤオに、襲撃されて多数の同胞や仲間を失ったテュカとレレイ。 そして炎龍の一部として自衛隊に借りてきた鱗(以前作った『腕』は汚物と一緒に埋めていたので放置)。

 すべて、炎龍との縁だけが綺麗に消えているのである。

 

 まるで、異なる世界に隔離されているかのように。

 

 これは面倒なことになったものである。

 こんな単純だがまず不可能な対策をしてくるあたり、炎龍に加護を与えていたハーディとは随分と大雑把な神なのだろう。

 縁を遮るとか、自然に生え替わって剥がれ落ちた鱗に誘導するとか、もっと簡単で楽な方法がいくらでもあるのにも拘らず『物質的には現世に存在するが、魂などの縁が繋がる先を異界に隔離する』とかいう頭悪い方法を選ぶセンスには苦笑も出ない。

 ロゥリィ曰く、自分の力を見せつける為なのではないかという話だが。

 正直、それならそれでもっと他に方法があると思う。

 何故こんな無駄に遠回りで面倒くさい方法を選んだのか……。

 

「イタミぃ、そろそろ野営の準備をした方が良いんじゃなぁぃ?」

「んー、そうだな。 ならあそこの広くなったところに止めよう。 テュカとレレイは水と火の用意をお願いな」

「はーい」

「了解した」

「こっ、此の身にもできることはないだろうか!?」

「あー、なら荷物下ろすの手伝ってくれる?」

「承知したっ!!」

 

 街道沿いの休憩所らしき広くなっている場所に高機動車を乗り入れ、野営の準備を始める皆の邪魔にならないように端に寄る。

 伊丹にまとわりつくようにしながら手伝っている(まとわりついているのに邪魔になっていないのはすごいと思う)ロゥリィ。 テュカとレレイはきびきびと湯を沸かす準備をし、積極的に重い物を運ぶなどして働くヤオ。

 実にハーレム系ファンタジーの主人公パーティーの図であった。

 そこに祟り神の宿る人形を加えるのはどうなのだろう? 最近のラノベでは神様がハーレムの一員なんてのは珍しくもないらしいし、ありなのだろうか?

 祟り神の自分もハーレムの一員なら、伊丹の死後の魂狙いなんて設定になっていそうだが、実際にはロゥリィが持っていくことになりそうだ。

 出発前にロゥリィから伊丹と『眷属の契り』という契約をしていいかと聞かれたので、伊丹がそれを望むならいいよと答えたからである。

 まぁ、伊丹が望まないのに無理矢理契約したりしたら亜神だろうとその魂ごと喰ってやると釘を刺しておいたし、ひどいことにはならないだろう。

 

「どうしたの? 薪ならまだあるけど」

「あーいや、携帯燃料あったんだけどなー、と。 まぁ、節約できるとこは節約すれば良いか」

「節制は大事」

 

 ヤオが集めてきた薪に、レレイが魔法で火をつける。

 ゆらゆら揺れる火をみて、ふとあっちこっちへ思考が飛んでいくのをあらためて自覚した。

 ここ最近、恨みや呪いなどの負の感情や縁を大量に回収して呪詛に変え、神酒としてため込んでいるからか思考が安定しないのである。

 もう少し神酒として安定させれば問題ないのだろうけども、これだけ膨大な呪詛を扱うのは初めてなのだ。 時折揺らいでしまうのは仕方がないと言えると思う。

 ちなみに日本で挨拶まわりをしている市松人形の自分は、呪詛の扱いについて先輩方に教えをもらうのも担当していたりする。

 習うより慣れろな神も居れば、しっかりと教えて頂ける神も居たり、よっしゃ見本を見せてやろうと張り切る神を宥める羽目になったりと大変ではあるが。

 

「ヤツメワラシ様への供物などは良いのであろうか? 神であられるならば、用意をせねば……」

「あの方は大丈夫よぉ? 求める者に対価は求めてもぉ、必要以上の崇拝は求めていらっしゃらないようだからぁ」

「八眼様はなぁ、正直何を供物として求めているのかわからないんだよなぁ。 結構俗な人形を好んで使ってるみたいだし、梨紗の趣味にも付き合って下さってるみたいだし」

 

 おっとまたどっか飛んでいっていた。

 なにやら伊丹達は食事の用意が済んだみたいだし、自分も一応手は合わせておくか。

 

 いタだきます、ってね。




いろいろため込んでます。
いっぱい、いっぱい。


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会敵と祟り神

ううむ、7月中の投稿は間に合わなかったかー。


 

  くるよ

 

 

 それは、その場にいた全員の脳裏に直接響いた。

 シュワルツの森の側、ヤオの同胞が避難しているロルドム渓谷にて。

 

「何だ今のは! 貴様か!?」

「違うけど、良いからとにかく隠れろぉっ!!」

 

 渓谷の入り口にて、ヤオが同胞へ知らせに走っている間。

 渓谷入り口にて警備を担当していたダークエルフ8人とともに待機していた伊丹達は大慌てでゴロゴロそこらじゅうに転がっている岩の影へと飛び込み、突然脳裏に響いた声に混乱した男のエルフが伊丹へと弓を向けて詰問し。

 直後、巨大な顎に噛み砕かれた。

 

「くそっ、炎龍だとっ!?」

「走れっ! 一カ所に固まるな、とにかく走り続けろっ!!」

「こっちくんなぁっ!」

 

 エルフ達は即座に散開すると弓を構え、常に移動しながら釣瓶打ちを始める。

 炎龍は飛来する矢の群をうっとおしそうに振り払うと、今度は言うことを聞かない身体を叱咤して岩の影へと這うようにして隠れようとしているテュカへとその顎を開き。

 ロゥリィの思いっきり全身の力を込めた一撃に顔面をひしゃげさせつつ吹っ飛んでいった。

 

「すげぇ……」

「すまんちょっとどいてくれっ! あとエルフの女の子をこっちに連れてきてくれ頼む!」

「えっ、あ、あぁ。 わかった!」

 

 思わずと言った様子でぽつりとつぶやいたダークエルフの女性を押しのけるようにして高機動車へと走る伊丹の背後では大地を転がる炎龍が立ち上がろうとして躓き、その真上をすり抜けたレレイの爆轟波の奔流が隆起した岩壁を深くえぐる。

 地上での不利を悟ったのだろう、追撃してくるロゥリィへ炎を吐きかけて眼眩ましからの右鉤爪で距離をとると空へと舞い上がった。

 レレイが再度連環円錐を展開するも、すでにそれを脅威と見なしたのだろう炎龍はその射線上からすぐに逃げ出してしまう。

 

「くそっ、炎龍の情報を聞き出したらあとは逃げるだけの簡単な任務じゃなかったのかよ!? LAMそんなに持ってきてないぞ!」

 

 高機動車からすぐに使えるようにしてあるLAMを引っ張り出すと安全装置を解除し、先端のプローブを引き出して捻って固定する。

 先ほどのダークエルフの女性がテュカを背負うようにして走ってきたのを高機動車の影へ誘導し、自身は素早く周囲を見渡して地形を把握。

 ロゥリィからの攻撃が届かず、レレイの攻撃を余裕を持ってかわせる高度の空中から悠然とこちらを観察する炎龍から死角になり、なおかつ射線の通る場所へと走ると炎龍へとLAMを構えた。

 

「あたれぇっ! ……っ、駄目かっ!!」

 

 照準し、発射するも弾頭はわずかにそれて炎龍の背後へと飛んでいってしまう。

 有効打になるLAMは単発である以上連射はできず、これで炎龍が逃げ出さなければ再び高機動車まで走って次のLAMをとりださねばならない。

 祈るように睨みつける中炎龍は咆哮をあげ、きびすを返そうとして。

 

 

  おいで

 

 

 ふたたび脳裏に直接響いた声にビクリと勢いよくこちらへ振り向いた。

 

 

  おいで

 

 

 響く声はとろけるように甘く、やさしく、そして。

 

 

  おいで

 

 

 有無を言わせない力があった。

 

 

  おいで

 

 

 ギシリ、と。

 何かがきしむ。

 

 

  おいで

 

 

 変化してはいけない何かがゆがみ、ひずみ、曲がり、捻れ、うねる。

 

 

  おいで

 

 

 大地どころかその場にあるすべてが、大気も、木々も、自身の肉体さえもが揺さぶられるかのよう。

 伊丹も、レレイも、ダークエルフ達も誰もが立つことすらできずに大地へと倒れ込み、起きあがることすらできない。

 例外はハルバードを杖に立つロゥリィと、未だ空にて羽ばたく炎龍。

 そして。

 

 

  おいで

 

 

 いつのまにか高機動車の屋根の上に立ち、炎龍へと招くように両手を広げる人形のみ。

 やがてゆらぎが世界を覆わんと広がり、気の弱い者から次々と気を失い。

 伊丹も視界がブラックアウトする中、最後に聞き取ってしまった言葉にあきらめの境地に至った。

 

 

  あぁ、くやしや くちおしや  いまだとどかず チカラたりず

 

  喰らわねば あつめねば  呪いを  想いを たりぬ

 

  もっと もっと  もっと    もっと もっと

 

   もっと もっと もっと もっと  もっと もっと  もっと

 

  いッパい たくさん  すべテを

 

  神の呪を

 

 

「(あ、これあかんやつや)」

 

 

 

 

 

 すっごい速さで逃げていく炎龍を見送りつつ、思う。

 

 やりすぎた。

 

 いやだって、炎龍を護るとんでもない力からすっごいドヤ顔な思念を感じたんだもの。

 イラッミ☆ ってきておもわず全力で異界に隔離されてる炎龍の魂魄引きずり出そうとしちゃったよね。

 空間グニャグニャ歪みまくって、あっこれアカンと揺らぎにカウンター当てて相殺しようとしたら一瞬で修正されたよね。

 空間を修正した力からドヤ顔な思念を感じるよね。

 

 キレルヨネ。

 

 というわけでもう容赦しませーん♪

 手段を選びませーん!

 皆ー! お仕事の時間だよー!!

 いっぱい、イっぱい集めてきてね!!

 全部呑むから!

 呑んじゃうから!!

 

 やったろうじゃねーかコンチクショー!!

 

 てかぶっちゃけ亜神であるロゥリィ喰ってこちらの正式な神格さえ手に入れれば権能の乗っ取りも可能だと思うんだよ。

 Tさんから、当人が自身から差し出したモノ以外の魂は喰っちゃ駄目って怒られてるから我慢してるけども。

 なりふり構わず喰っていいなら、帝都祭りの時点でロゥリィ喰って、帝都の人口半分にするぐらい喰って、ついでに神官喰えば神喰らいの神になれたと思うんだ。

 

 まぁ、ロゥリィ喰った時点でこちらの神の妨害を受けなければの話だけども。

 

 今のところ炎龍への加護以外はこちらの神々からの妨害はないようだけど、実際に妨害をかけてくるならどんなことが可能なのかわからないのが怖い。

 いきなり二つ目のゲートをとんでもない場所とつなげてくる(太陽表面と東京とか)、逆にゲートを閉じてくる(世界間移動は神域利用しても物質を通せない)、地球人のみがかかる致死率100%の空気感染する伝染病。

 少し考えるだけでいくらでも可能性は考えつくし、慎重にやらなければいけないのはわかっているけども。

 

 あぁ、身体が欲しい。

 こう、本気出せば惑星破壊できる比類無き物理攻撃力を持った「退治機械七号」的な。

 炎龍にかかっている加護、呪詛は完全遮断だけど物理はガンスルーなんだよね。

 正直頭に大型爆弾一つで一発なんじゃなかろうか。

 つまり完全に自分に対する対策なんだよね。

 呪詛完全遮断とか物理攻撃ができない自分に対する完全なメタ対策じゃないですかやだー!!

 

 ……うん? つまり物理ならOK。 物理なら自衛隊にまかせればいいじゃん。

 

 よし、自衛隊に頼ろう。



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荒神と朱杯と神格

zeke01 さま、ブルーフレーム さま。
誤字報告ありがとうございます!

盆休み? なぁにそれぇ……。


少々加筆しました。
まぁ、ダークエルフたちがこの時点で炎龍にハーディーがかかわっていると知る程度ですが。

修正しました。
ダークエルフは9人でした……。


 高機動車のそば、揺れる大きな焚き火の『炎の上端』に立ちつつ思う。

 行き着くとこまで来てる感があるなぁと。

 

「ヤツメぇ? そろそろこっちみなさいよぉ」

「…………(振り向く)」

「っ!? わるかったわよぅ……。 ……そろそろいぃかしらぁ?」

「…………(首を振る)」

「うぅ、ごめんなさぁぃ……」

 

 ロゥリィ正座(足の上にハルバード)で反省中である。

 どうやら喰おうとしたのに感づいたらしく、いささか説明不足の状態で伊丹と契約したのでお仕置き中なのだ。

 というより伊丹と契約することで喰いづらくするより、率直に喰われたくないと言えばよかったのに。

 そんなに信用ならないのだろうか、自分は。

 

「うぇっ!? ちょっ、無理無理無理! こっちはまともな装備無いんですよ!? 缶詰投げつけてどうにかなるとでも!?」

 

 そして神域をとおして電波を届かせている無線機で自衛隊本隊と連絡を取っている伊丹には悪いが、伊丹には炎龍のところまで自身を送り届けてもらわねばならないのである。

 必死に抗議していらっしゃるところ悪いが、そういう運命だとあきらめてくれ。

 大丈夫、姿だけを『隠す』ぐらいなら苦もなくできるようになったから。

 まだ物質を神域に『隠す』のは、多くの人間に認識されている状態だと厳しいけども。

 いけるいける、レンジャーだろ?

 それに自衛隊が炎龍を確殺できる布陣を敷くまで、ハーディーに自衛隊から注意を逸らさせる必要があるんだ。

 いきなり自衛隊の目の前と太陽表面をゲートでつないでジュッ! とかやられる可能性は限界まで下げないと。

 そのためには少数精鋭での龍殺しとかいう英雄的行動()をするのが一番なんだよ。

 神様は英雄が大好きだからね。 いろんな意味でね。

 

 君は英雄になろうとすることを! 強いられているんだ!!(集中線)

 

「動きを止める威力を持たせると当てられない。 当てられるようにすれば威力がない。 むぅ……」

「うぅ、怖い、けど皆の仇。 がんばらなくっちゃ。 お父さんにも……あれ? お父さんなんでいないの? お父さん、どこ? お父さんにあわなくっちゃ。 お父さん、どこ? お父さんと一緒に戦わないと。 皆が燃えちゃう。 お父さん……」

「うぉっ、大丈夫か!? ……寝ている、のだろうか?」

 

 なんて伊丹煽ってたら、ジレンマに悩むレレイと一緒に焚き火にあたっていたテュカがヤバい感じになり始めたのでちょいと眠ってもらった。

 とりあえず幸せな夢を見て心の平静を取り戻してもらおう。

 ちょうどヤオがこっち来てたし、こてんと倒れ込むテュカを任せる。

 てかマジテュカの父親ギルティ。 なにやってんのだよマジで。

 支配領域に捉えたら絶対になにかしら天罰下してやる。

 具体的にはそう、

 

 槍を二度と使えなくする感じで。

 

 あぁそうそう、ダークエルフ達には完全にハーディーと敵対する異界の神として崇められちゃいました。

 なんかダークエルフ達が信仰していたのがハーディーだったらしくて、炎龍討伐を阻んでいるのがハーディーだって言われて超動揺してた。

 

 まぁ、信仰しているダークエルフ達には加護の欠片も存在してなかったんですけどね!

 

 てかこの世界の神様、信仰に対する見返りとしての加護を与えてる神様の方が少ないんじゃね?

 明確な加護を得てるヒトをみるの超少ないんですけど。

 

 んでまぁ炎龍への対応を願われたんで、炎龍の鱗渡して『炎龍に恨みを持つ者すべてに少しずつ削らせ、酒杯を作れ』って指示を出したらとんでもなく時間かかっている件について。

 てか今様子を覗いてみたら、大人の頭ぐらいのサイズがあった鱗が手のひらより少し大きいぐらいのサイズになってるし。

 鱗は超頑丈だから呪を込めて爪で削れるぐらいにしてるんだけど、どんな勘違いしたのか皆さん爪で削っていらっしゃる。

 爪割れて血が出てる? いや、指先を切って血を付けたうえで爪で削ってるのか。

 しかもこめられてる怨嗟がすでにやばい。

 まだまだ順番待ち(なんかほかの種族混じってね?)がいるし、これ最終的には単体で龍殺しの可能な呪詛を湛えた神器になりかねんぞ。 使用者ごと滅ぼす道連れタイプの。

 亡霊仲間が集めている怨嗟や呪詛も、すでに以前炎龍への呪詛に使用したのとほぼ同等の規模になってるし。

 呪詛の対象を炎龍のみに絞って、なおかつ煮詰めて練り上げて一つの純粋な呪にまとめ上げないと。 これじゃ溢れた余波だけで山一つ分の命が無くなりかねん。

 焚き火の上に立っているのも、呪を酒に変えて神酒にする際に溢れる微量な呪(触れるだけで皮膚が爛れる)を炎という浄化の象徴で周囲に拡散しないようにして回収するためだしね。

 

 まさか纏う呪の層だけで炎に引火しないどころか熱も通さないとは思いもしなかったけども。

 

 なんの方向性も与えられていない呪にもかかわらず、浄化の象徴である炎を寄せ付けないレベルとか。

 これ、本格的にシールドみたいに纏えば炎龍のブレスぐらいなら耐えられるんじゃなかろうか。

 いやさすがに試したくはないけども。

 なんて考えてたら亡霊仲間がお代わりを持ってきた件について。

 え、まだあるん?

 遠出してたのが戻ってくる?

 マジかー。

 炎龍、どんだけヒト種を狙って襲ってんのよ。

 

 なイわー。

 

 ほんとナいわー。

 

 

 

 

 

 炎龍の襲来から数日後。

 

 ロルドム渓谷の入り口に集まった種族も様々な人々は、炎龍の巣へと旅立つ者達を見送りに来ていた。

 ジエイタイの鋼の天馬によって運ばれてきた『鉄の逸物』を一人一つずつ持ち、大きめのバックパックを背負い整列するのは九人のダークエルフの戦士達。

 彼らの前に並ぶのはエルフのテュカ、魔導師の少女レレイ、亜神のロゥリィ。

 異界の神の神官にして、単独での行動を認められた兵士であるイタミ。

 

 そして。

 

「酒杯はここに。 現在ここに集まることのできた者すべてにより整形しましてございます。 どうか、お願い申しあげまするっ……!」

 

 異界の神を宿す、異様な雰囲気を纏う白面を被った人形が、くるりと木と紙でできた紅い傘を回して立っていた。

 人形は代表してダークエルフの長老が差し出した酒杯を受け取ると、軽く太陽へかざして吟味するように眺める。

 やがて満足のいく出来だったのか一つうなずき、酒杯を掲げ。

 

「おぉっ……!」

「色が、変わっていく」

「これは……なんというっ……!!」

 

 ざわり。 とうごめくような何かの気配とともに、酒杯が変化を始めた。

 拳ほどのサイズであった灰色の酒杯は直径を広げ、手のひらほどの皿のような形状に。

 さらに色はまるで内側からにじみ出るような鮮紅色へと。

 やがて変化を終えた酒杯は装飾らしい装飾もない、しかしそんなものはなんの関係もない美しさがあった。

 そう、まるでこの世の物ではないかのような……。

 

  よきかな

 

 変化が終わり、艶やかに光を照り返す酒杯をもう一度眺めた神は酒杯を懐へ入れる。

 同時にその場にいた全員の脳裏に響いた声に、柏手を打ち、祝詞をあげるイタミ以外の全員が膝を突いて祈りを捧げた。

 それは特地において初めて。 異界の神が神として信仰され、部族単位の特地の人間に祈りを捧げられた瞬間だった。

 

 そう。

 

 そしてそれは、異界の神がこの世界における神としての神格を得た瞬間でもあった。




とうとう、特地での神格手に入れちゃいました。

世界間のありようの差で出せなかった(本人気づいてなかった)本気、出せるようになっちゃいました。


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炎龍 彼の地にて斯く戦えり

お待たせしました!

黒祇式夜 さま、ほんといつも誤字報告ありがとうございます!

車椅子ニート さまに絵を頂きました!


【挿絵表示】


今度こそ表示されてる、かな?


 テュバ山の中腹にあいた洞窟から上った先、火口付近にて。

 ロゥリィは襲い来る怖気と寒気に腕をさすりつつ、そっと洞窟入り口にたたずむ人形の様子を見る。

 それは陽炎のような色のない歪みを纏い、キチキチと音を立てて目に見えぬ蟲が這い回る気配を引き連れて。

 もはやただの亡霊人形とはとうてい呼べない、神としての瘴気を溢れさせている。

 

「(恨むわよぉ、ハーディー。龍に挑めるのは英雄のみだなんて理想を押しつけて)」

 

 イタミ達と共にこの場に到着し、いざ侵入しようとした瞬間に人形のみを阻む膜のような物があらわれ。

 異界の神をはじき出したのだ。

 

 英雄譚には亡霊など必要ない、という思念と共に。

 

 ほんの一瞬だけ溢れた呪詛が地面を『死なせ』て粉塵と化す。

 恐慌に陥りかけたイタミ達をなんとか落ち着かせ、炎龍の巣への偵察に出発させたあともこうしてずっと洞窟入り口を見ているのだ。

 そして共に残ることになったロゥリィにとってはむしろ炎龍に早く登場してもらいたかった。

 少なくともこの『死』そのものの注意がそちらだけへ向くのだから。

 

「(うぅー、まったくハーディーったらロクなことしない……)あらぁ?」

「…………(振り仰ぐ)」

 

 そうして腕をさすりながら考えたのが原因か。

 巨大な翼が大気を打ち下ろす音が響き、炎龍が登場した。

 

 

 

 

 

 住人(?)不在の炎龍の巣にて、100kgというバカじゃねーのという量のプラスチック爆薬を仕掛けた伊丹達は洞窟入り口近くの岩陰に散開して隠れて様子をうかがっていた。

 すでにダークエルフ達が構えるLAMはすべて先端のプローブが引き出されており、あとは安全装置を解除して撃つだけ。

 爆薬も信管を差し込み発破母線を敷設済みで、あとは伊丹の持つ発破器のボタンを押すだけで火山の噴火のごとき爆炎が爆心地を焼き尽くし、吹き飛ばすだろう。

 そうして準備万端整え、待ちかまえて。

 集中力が続かずにふっと意識がそれた瞬間。

 

  ちりりぃ……ん

 

 伊丹の持つお守りにさがる『中身が空で振っても音のしない鈴』が澄んだ音を立てた。

 

「きたぞっ、かまえろぉ!!」

 

 そしてその直後、高空より急降下からの急停止で炎龍が現れた。

 急停止で止まりきれず勢いよく着地した衝撃と羽ばたきの轟風が吹き荒れ、その場にいた者達をひるませて。

 炎龍の吐き出す業火がダークエルフのバンを隠れていた岩ごと焼き尽くした。

 

「ぐぁぁあああっ!」

「バン!? ちくしょうっ、喰らえぇっ!」

「落ちろぉっ!!」

「あ、あれっ!? 撃てない!?」

 

 コムとクロウが発射したLAMの弾頭は地面に這い蹲るように体勢を低くした炎龍の頭上を通過し、火口の内壁に大輪の業火を咲かせる。

 時間差で発射しようとした慌て者のノッコは安全装置の解除を忘れ、命中させる千載一遇のチャンスを逃し。

 横一線に振り抜かれた尾によってLAMごと壁に叩きつけられ、原型もわからぬ紅いシミとなって即死した。

 さらに炎龍の側面をとるべく壁際を走っていたナユへ右腕での追撃。

 かろうじて直撃は免れたが、抉られた岩壁が崩壊し崩れ落ちる岩と粉塵の中へとナユの姿は消えた。

 

「くそっ、炎龍をなんとかして巣の中心へやってくれ! これじゃ爆破しても十分なダメージにならない!」

「承知した! 此の身が囮になる、コムもこいっ!」

「承知したっ!」

 

 伊丹の声に撃ち終わった発射器を投げ捨てたクロウが返し、コムと共に炎龍の足下へと走り寄ってゆく。

 足下に近づいてきたクロウ達へとブレスを吐きかけるべく首をもたげた炎龍の顎先に、伊丹が発射したLAMがかすめるように着弾すると爆炎で炎龍の顔面を覆った。

 絶叫をあげる炎龍の足下へと到達したクロウが手を組んで腰を落とし構え、コムが組んだ手に飛び乗ると同時に投げあげる。

 高く飛び上がったコムは炎龍の膝に飛び乗るとそのまま駆け上がり、黒く変色して腐り爛れている左肩の断面へと剣を突き立てた。

 

「どうだぁっ! 我らの恨み、思い知れっ!!」

「もういいっ、早く降りてこい!」

「まだっ、うわぁ……!?」

「馬鹿者がぁっ!!」

 

 ぐずぐずになっている傷口を抉られ半狂乱になったように全身を振り回す炎龍に、突き立てた剣を頼りにしがみついていたコムが岸壁との衝突で叩き潰される。

 その様を見ていることしかできなかったクロウは悪態をつき、至近距離で当てようと近づきすぎて炎龍の尾に下半身を吹き飛ばされたメトのLAMを拾うと炎龍の巣の中心へと駆けだす。

 続いて放たれたセィミィのLAMは頭部を守ろうと広げた右翼へと命中し、半ばからへし折った。

 炎龍は飛行手段を奪われながらも周囲を怨嗟のこもった瞳で見渡し、離れていくクロウの背中を見つける。

 猛然と駆けだした炎龍は巣の中心を踏んだクロウへと瞬く間に追いつき、クロウの振り向きざまのLAMをもはや翼膜でぶら下がっているだけの右の翼で防ぎ、大きく顎を開いて。

 

「頼みましたぞイタミ殿っ!!」

「まてぇっ!?」

 

 クロウは引き抜いた剣を炎龍の半ば崩壊した下顎の先へと突き立て、そのまま上顎に捕らえられて地面へと叩き潰された。

 伊丹はその一部始終を見、しかしギチリと歯を食いしばり、発破器を握りしめて。

 

「くたばりやがれぇえぇっ!?」

 

 作動させたはずの発破器がなんの結果も起こさないことに愕然とした。

 おそらく炎龍が暴れている間に発破母線を踏み千切ってしまったか、LAMの破片かなにかで切れてしまったのだろう。

 

「トラブルだっ!! もうすこしだけ押さえていてくれっ!!」

「承知したっ!」

 

 伊丹は発破母線をたぐりよせその長さから切れてしまった場所を特定すると、駆け寄って地面に埋まっている発破母線の切れている断端を掘り出す。

 被覆を剥き、リールから引き出した発破母線に接続し、母線を繰り出しつつリールを抱えて走り。

 

「イタミ殿ぉっ!!」

 

 セィミィの絶叫に視線だけを後ろにやり、こちらに背を向けて剣を盾のように構えるセィミィの後ろ姿と。

 そのすぐ目の前に迫る炎龍の右腕を見た。

 




明日も、というより今夜も投稿しますです。


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炎龍 彼の地にて斯く散れり

連続投稿予約実験終了です!


「あぁ、あぁああぁっ……!」

「イタミっ!?」

「このっ、喰らえぇっ!!」

 

 セィミィと共に炎龍の右腕によってすくい上げるような一撃を受け吹き飛ぶ伊丹の姿に、洞窟に退避していたテュカとレレイの悲鳴が上がる。

 すぐにその一撃によって巻き起こった土煙で隠されたため詳細は不明だが、伊丹の盾になろうとしたセィミィの腕のみが土煙の外まで飛ばされているところから見て生存は絶望的といってもいいだろう。

 二人の護衛として残っていたヤオが反射的に発射したLAMは土煙で隠されて炎龍も気づけなかったらしく、左膝を大きく抉り飛ばした。

 膝頭を破壊され、うまく立てなくなった炎龍が倒れ込む。

 千載一遇のチャンスに、最後のLAMを構えたフェンが確実に頭部へ命中させるべく接近し。 炎龍が吐いた自身を巻き込む規模の炎の海に飲み込まれる。

 それでもフェンは火達磨になったまま突撃。 炎によって眼も肺も焼かれ、爆炎によって鼓膜も破られながらも執念でLAMを炎龍の脚へと撃ち込んだ。

 

「そう、そうか。 それならばやれる。殺せるっ! くたばりやがれ、トカゲ野郎っ!!」

 

 魔法の剣を拾い上げ、投射していたレレイの頭に囁きのような直感がよぎる。

 それは炎龍をここまで追いつめたLAMに使用された基礎原理であり、異界の進んだ技術を支える知識、その一部。

 爆発による物体の加速。

 瞬間的な爆発の力を一点に収束させることによる剛体の突破方法。

 そして飛行する物体を安定させる方法。

 これらの応用によって魔法の剣を飛ばし、柄尻に付加した小型の連環円錐によって発生した爆発の力は柄尻を破壊するほどの力で魔法の剣を前方へと射出し。

 音速を軽く超えた魔法の剣は立ち上がろうとした炎龍の腕へと突き刺さった。

 

 

 

 

 

「ぐっ、くぅー、いってぇっ……!!」

 

 伊丹が再び意識を取り戻したときに初めに戻ってきたのはわき腹の激痛だった。

 直後に全身からも激しい痛みが襲いくる。

 伊丹はしばらく身体を震わせることしかできなかったが、やっと落ち着いてくると周囲を確認する余裕を取り戻すことができた。

 どこかへ飛んでいってしまったヘルメットが守ってくれたらしく、全身満遍なく激痛が襲う身体と比べれば頭は強いめまいだけで済んでいる。

 頭を押さえつつ体を起こし、その際に視界に入った火の粉に視線を引かれ。

 その先に倒れる、袈裟懸けに下半身と片腕を失ったセィミィをみつけた。

 

「……すまん。だが、ありがとうな」

 

 最後にこちらを庇うようにして飛び込んできたセィミィの姿を思い出し、こちらへと手を伸ばすセィミィの眼を撫でるようにして閉じてやる。

 一瞬の黙祷の後、改めて周囲を確認すれば炎龍は巣の中心近くにて大量の剣が全身に突き刺さりつつも這うようにして立ち上がりつつあり。

 洞窟の入り口近くにはふらふらと苦しげに揺らめきつつも数本の剣を背後に浮かばせたレレイと、それをかばうように剣を抜くヤオの姿。

 見る限りもう誰もLAMを持っておらず、頼みの爆薬も発破器がどこかにいってしまったうえ発破母線ももうまき散らされた炎のなか繋ぎ直すことはできないだろう。

 伊丹はぎしりと歯を噛みしめ、せめてレレイとヤオ、洞窟内にいるはずのテュカだけでも助けようと一歩踏みだし。

 

「……イタ…ど…の……」

「っ!? おい、どこだっ? もう少し大きな声を出してくれっ!!」

 

 背後からかすかに聞こえた声に勢いよく振り返り、叫んだ。

 途切れがちな小さな声を頼りに壁際に積み重なった岩の隙間をのぞき込み、一抱えはある大きな石をどかしていく。

 やがて瓦礫の中から現れたのはLAMを抱え、右腕を肘のあたりから失い気絶しかけているナユの姿だった。

 

「おい大丈夫かっ!? その腕は、いや動けるか!?」

「腕、は、潰されたので、断ち切、りました。 それより、これをっ! 此の身、ではもう使えまっ、ごほっごふっ!!」

「少ししゃべるな、まずは止血が先だっ!」

 

 ナユは落下して積み重なった岩や石にわずかにできた隙間にはまり、助かったのだろう。

 しかし完全に潰された右腕は肘から先を失い、止血も片腕では不十分だったのかぼたぼたと血が滴り落ちている。

 伊丹は改めてしっかりと止血すると、ナユの状態を確認していく。

 しかし。

 

「(側頭部が少し陥没してる、肋骨も折れてるというより砕けてるな。 息は浅く、胸が膨らんでるということは外傷性気胸の可能性もある。 しかも出血がひどい。 くそっ、すぐにでも医者に見せないと手遅れになるぞっ!)」

「此の、身はここにっ、おいていってくだされっ、炎龍をっ……!」

「黙れっ、とにかく生きろ! まだ生きてるんだ、死ぬまであがけよっ!!」

 

 伊丹の怒号にびくりと硬直したナユの左腕を担ぎ立ち上がり、正真正銘最後のLAMを炎龍へと向ける。

 最後の力を振り絞ったのだろう。 倒れ込むレレイを抱えて洞窟入り口へと走るヤオの背中を追うようにして首を伸ばす炎龍が、大きく半壊した顎を開き。

 

「今度こそ終わりだっ!!」

 

 伊丹の発射したLAM弾頭が炎龍の側頭部を捉え、左半面を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 テュカは洞窟入り口にて、岩の陰に腰を落としていた。

 

「(倒した、のよね? 炎龍を、みんなの仇をとれたのよね?)」

 

 自身に寄りかかるようにして座り込むレレイを支え。 こちらへと歩いてくるイタミとナユを迎えに走っていくヤオの背中を見送る。

 テュカには、未だに炎龍を倒したという実感がわいていなかった。

 渾身の一矢はまったく歯が立たず、かといってほかに何かできるわけでもない。

 ただ、安全な場所から死闘を見ることしかできなかったからだろうか。

 

 次々と倒れていくダークエルフ達の姿を。

 

 吹き飛ばされたイタミの姿を。

 

 哄笑をあげながら無数の剣を飛ばすレレイの姿を。

 

 すぐにでも飛び出したいだろうに自分たちを守るためにとどまったヤオの姿を。

 

「(そう、倒した、殺したはず、なのに、これはっ!?)」

 

 未だ続く精霊の警鐘に暴れる鼓動を押さえつけ、周囲を見渡し、そして。

 頭蓋骨の露出する左半面とは違い、未だ形を残す右目が力を失っていないことに気づいた。

 

「っ走ってぇっ!! はやくっ!!」

 

 テュカの絶叫に反射的に走り出したイタミ達の背後、炎龍が再び大きく首をもたげる。

 口元どころか頭ごと覆い尽くさんばかりの炎がその咥内に溢れ、眩い光を放つ。

 まるで自身の命ごと全てを燃やし尽くさんとばかりに燃え上がるあれが放たれれば、その獄炎の奔流はイタミ達を飲み込み、洞窟の中にまで到達するだろう。

 

「(させないっ!)teruymmun! hapuriy!」

 

 その瞬間、テュカはそのもてる限りを振り絞って雷撃の召喚をおこなった。

 テュカの手元から天へと走った小規模な稲妻は次の瞬間、あきらかに強力すぎる極大規模の落雷を引き起こす。

 炎龍への落雷で発生した衝撃波によってイタミ達が洞窟内へ倒れ込むのをテュカは受け止め。

 直後、落雷によって信管が弾けた爆薬100kgの爆圧により、洞窟の奥へとまとめて押し飛ばされていった。



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戦士と神の使徒

244 さま、誤字報告ありがとうございます!


ちょっと不満ですが、ここで引っかかると続きが書けなくなりそうなので投稿です。


*冒頭に少々追加。


 

 ふっ、と。

 

 すでに幾度も訪れた感覚が間を置かず再び訪れたことに、きしりと人形の身をきしませる。

 ある種の契約をした人の死はやはりつらいものだ。

 それが自分を信じ、頼ってくれているならなおさらに。

 

「あきらめて一緒にきてくだせぇませっ! 主上さんもお待ちなんですから!」

「だからぁ嫌だっていってるでしょぉ!?」

 

 懐に入れた朱(呪)塗りの杯へと魂から引き剥がされた呪詛が流れ込むのを感じながらも、時折襲いかかってくる爆散するように飛び散る小石や砂をよそへ流す。

 伊丹達が待ち受ける巣へと炎龍が飛び込むとほぼ同時。 堂々と正面から現れたハーディーの使徒ジゼルと炎龍の子供である新生龍二頭とロゥリィとの戦いは、ロゥリィが押し気味だが決め手に欠けたまま今まで続いていた。

 

 が、唐突にロゥリィのわき腹が裂け、首の骨がゴキリと砕ける。

 

 即座に片手で首を支えつつハルバードを振り回してジゼルを弾き飛ばしたロゥリィ。

 縁から伝わってくる伊丹の生命力といえる力が一瞬枯渇しかけたところからみるに、炎龍との戦いで伊丹が負った致命傷をロゥリィが引き受けたのだろう。

 

「なんだかしらねぇが今だっ、いっけぇええ!」

「ちょっ、ヤツメぇっ、いい加減手伝いなさいよぉ!」

 

 治りきる前に連続攻撃でたたみかけてくるジゼルと新生龍達にじり貧のロゥリィには申し訳ないのだが、今の自分には物理戦闘能力は皆無なのである。

 呪詛関係もハーディーの加護でガッチガチに固められていて手が出せない。

 せめて相手に直接触れて、流し込めれば話は別なのだが。

 なんて考えてる内にロゥリィが大鎌の一撃を受け流し損ね、右太股を半ばまで切り裂かれて洞窟脇に立つ自分のところまで吹き飛ばされてきた。

 どうやらそろそろなにかしら悪足掻きでもしないとヤバいようだし、とりあえず霧でも出してみるかね?

 クルリと傘を回し、霧を呼び起こそうとした瞬間に空へと『召喚』の稲光が走る。

 咄嗟にいつでも使えるように用意していた呪詛を俄に立ちこめた雷雲へと飛ばす。

 膨大な呪詛を流し込まれた黒い雷雲は、次の瞬間閃光と共にとんでもない規模の落雷を振らせる。

 

 そしてその直後。

 

 眼がぁー眼がぁーとうめく落雷の閃光を直視したらしいジゼルと新生龍達が、洞窟から噴出した大地を揺るがす大噴火のような土煙の奔流をもろに喰らっていた。

 

 

 

 

 

 ゆらゆらと揺らぐ視界の中。 自分達の崇める神ハーディーの使徒であり、亜神であるジゼルへと切りかかるヤオの背中をナユはただ見ていた。

 直前にそのジゼルから明かされた真実を理解し、しかし実感できずにいる。

 

「(炎龍を起こしたのはハーディーの意志。 しかし炎龍に襲われた我ら信徒の祈りは神には届いていなかった……いや、認識すらしていなかったというのか。 我らの祈りは、信仰は、想いは。 なんの意味もない、価値もないものであると仰せなのか)」

 

 信じる者は救われる。

 

 そんな認識ですら怠惰であり、愚考であると言われたようなものだ。

 ならば今までの信仰はなんだったのか。

 神への祈りそのものが無駄であるというのか。

 外傷性気胸により肺が圧迫され、満足に呼吸すらできず酸欠に陥るナユは出血多量もあり、もはや筋道立てた思考もできずにただ想う。

 

 なぜ、なぜ、なぜ、と。

 

 ゆえに戦闘を開始したイタミ達を背景に歩み寄る異界の神に、問いかけてしまったのだ。

 

 救ってはくださらないのか、と。

 

 そして神の声に答えてしまったのだ。

 

 差し出してしまったのだ。

 

 願ってしまったのだ。

 

 死を。

 

 

 

 

 

 ぴたり、と。

 

 その場にいた者達の全てが動きを止めた。

 炎龍の子供である新生龍二頭もまた上空へと舞い上がると、警戒のうなり声をあげる。

 

「はっ、一体、なんだってんだ……?」

 

 ジゼルが金縛りを無理矢理解くようにしてぎしりと周囲を見渡せば、あからさまに不自然な勢いで周囲を濃霧が包み込み。 ほんのわずかな距離でも視界が利かなくなっていく。

 イタミと名乗った男達が霧に飲まれるとその気配も急激に薄まり、やがてなにも感じられなくなる。

 

 否。

 

 人間程度の気配などたやすく覆い隠し、消し去ってしまうほどのおぞましい瘴気としか思えない神気が充満していた。

 

『“……ぉ、おぉ。 これが身体の感触か、これが鼓動か、これが呼吸か、これが生きているということか。 すばらしい。 生ある者のなんとよきことか”』

 

 徐々に濃霧が薄れ、その帳の向こうに揺らぐ人影から老若男女様々な人間の声が多重に聞こえてくる。

 ジゼルにはその内容よりも、ソレが纏う気配そのものが今すぐ排除すべき危険にしか思えず。

 身の丈を超す大鎌を構え、低空を高速で滑空するようにして無言で魂を刈り取るべく攻撃を繰り出し。

 あっさりと鉄錆のように朱い腕に鎌刃を掴み止められた。

 

「っはぁ!? 触れれば魂を冥府に持っていかれる主上さんの加護付きだぞ! なんで触れられる!?」

『“知れたこと、我らが同胞の魂を異界の神に譲るわけがなかろうに。 否、それよりも、だ”』

「おわぁっとぉ!?」

 

 『鎌刃が半ばまで錆屑になった』大鎌を引き戻し、後方へと滑空して飛び下がろうとしたジゼルへと追いかけてきた人影が繰り出す朱い右腕の一撃を大鎌の長柄で弾くようにして防ぐ。

 が、バランスをとろうとはばたいた翼を褐色の左腕に掴まれ、受け身もとれずに地面へと叩きつけられた。

 ジゼルを救うべく上空から突撃をかけた新生龍二頭はしかし、攻撃に振り向きざまの朱い右腕の一撃をあわせられ、突撃とほぼ同じ勢いで後退させられる。

 

「くっそ、てめぇなにもんだっ!? ほかの使徒がくるなんて聞いてないぞ!!」

『“我らは使徒ではない”』

 

 すぐさま跳ね起きると距離を取り、大鎌を構えながらジゼルが誰何する。

 一連の攻防により吹き散らされた霧の合間から姿を現した歩み寄る人影はしかし、右腕のみが一回り大きく長いアンバランスな姿をしていた。

 その姿は基本的にダークエルフの女性の物。 しかしその額からは角が伸び、右腕もまた赤黒い甲殻に覆われた龍種によく似た物になっている。

 そしてもっとも特徴的なのは、全身を覆う常に変化する文様である。

 文字のようにも蟲のようにもみえるそれらは本来褐色のはずの肌を墨のように黒く見せていた。

 

『“我らは貴様等にとっての異界の神。 死者の神。 死者の未練を払い、安息をもたらす神なり。 ゆえに”』

「はぁ? なにいってぇっ!?」

 

 まるで誰かに背中を押されたように不自然な急加速とともに突撃しての左の一撃をかろうじて大鎌の柄で防ぎ、しかしかちあげられて隙をさらしたジゼルの腰につながる左翼を右腕に掴まれ。

 

「がぁぁあああぁ!? はなぜぇっくそがぁぁああああああ!!!!」

『“汝等とは対立する神なり”』

 

 流し込まれた呪詛により、ハーディーの加護ごと左翼を『殺された』。

 細胞一つ一つを『殺される』激痛に硬直した身体を再び地面へと叩きつけられ、今度は身動きする暇もなく後頭部を掴まれて宙づりにされる。

 大鎌を遠くへ蹴り飛ばされ、残った右翼をも『殺された』ジゼルは抵抗をあきらめたようにだらんと四肢を伸ばす。

 

「あーくそっ、殺せよ、ちくしょう」

『“殺さぬ。 冥府の神ハーディーへの言伝を頼まねばならぬ”』

「あぁそうかい、歯牙にもかけてねぇってかちくしょうめっ!」

『“ハーディーに伝えよ。 我らが大和の民の魂を返せ、と。 伝えよ、我らの力を。 そして”』

 

 離れた位置でこちらに飛びかかろうと新生龍二頭が身を沈め。

 直後に直上から降り注いだ鋼の豪雨と火を吹く短槍に大地へ叩きつけられた。

 

「はっ? なにが……」

『“刮目せよ。 これが我らが守護せし日の本の国。 大和の民の力である”』

 

 新生龍を襲う暴力になんの『力』も感じ取れなかったジゼルが呆然と見るその眼前で。

 新生龍は大地ごと吹き飛ばすような連続爆発に叩き潰され、いつの間にか近づいていた鋼の天馬から放たれた火を噴く短槍により跡形もなくその身を弾けさせる。

 たとえ不死身の使徒であろうとも殺しきりかねないと感じさせるほどに執拗に、かつ無慈悲に蹂躙された新生龍達はただの細切れになった肉片と化した。

 

「ははっ、マジかよ、ただの人の身でこれだけの力があると? ふざけんなよ、ありえねぇ……」

 

 後頭部を捕らえる腕から解放されたジゼルはへたり込んだまま、もはや肉片と化した新生龍のいたクレーターを見つつ力なく笑う。

 振り仰げば異界の神と名乗るダークエルフの、眼球の代わりに光を反射しない闇を詰め込んだような眼と視線が合った。

 

「魂を返せ、だっけか? 主上さまは気に入った魂は離さないからなぁ。 異界の魂なんてレア物、わかんないぜ?」

『“ならば力を以って奪い返すのみ”』

「力ねぇ。 主上さまは古い神だし、神としての力なら負けはないぜ? どうすんだよ」

 

 後頭部を押さえながらも不敵に笑うジゼルに、異界の神は裂けるような笑みを返す。

 

『“神ならば民からの信仰を奪えばよい。 民を守らぬ神は捨てられ、忘れ去られて死んでゆく。 信徒を使い、他の神の信徒を攻め滅ぼさせるか。 文化的侵略で信徒を改宗させるか”』

 

 背景にジゼルを捜すロゥリィと鋼の天馬より降下する兵士達を背負い、異界の神は笑う。

 歌うように。

 まるでそうあれと願うように。

 ぎしり、と、歪な笑みを浮かべて。

 

『“あるいはこの世界ごと壊せばよい。 滅ぼせばよい。 侵せばよい。 消せばよい”』

 

 腕を広げて。

 

 空を見上げ。

 

『“であろう? 世界を繋げる神よ。 ハーディーよ。 我らはこの世界へ『招かれた』ぞ。 この世界の民に『願われた』ぞ”』

 

 世界を見据えて。

 

『“神の死を”』



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生きた神器と亜神の使徒と祟り神

いよいよハーディーとの激突に向けて足場固めなどの本格始動です!

そして ワンコ派 さまより挿絵を頂きました!!
いい意味で閲覧注意かもしれませんw
主人公八眼童の憑依した絡繰り人形だそうで、実に雰囲気がいいです!
これは負けられない!w


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 部族総出での見送りをうけ、身の回りの世話係として年の離れた妹のユタをつれて、主神ヤツメワラシの神殿があるアルヌスの丘へ向かうジエイタイの鋼の天馬内にて。

 席に座りベルトを締め、窓から外を眺めているナユはゆっくりとこれまでとこれからについて考えていた。

 あのときヤツメワラシに全てを捧げて願い、意識が暗転したときにはこのようなことになるとは思っても見なかった。

 再び目覚めたときは此の身を神に受け取ってもらえなかったのかと勘違いしてひどく落ち込んだものだ。

 此の身が目覚めるのを待たれていたヤツメ様に対価は受け取り、願いは叶えようと告げられた際に感動のあまり泣いてしまったのは恥ずかしい思い出である。

 

「……やはり動かせないか。 戴いた腕だというのに使いこなせないとは情けない」

 

 無意識のうちに左手で撫でていた『炎龍の左腕』に力を入れようとし、動くどころか感覚すらないことに落ち込む。

 たとえ動かせる物ではないと言われていたとしても、神に預けられた物を十全に扱えないというのはやはり悔しいものである。

 

 現在のナユは、身体も魂も命も全てをヤツメワラシに捧げている。

 

 その影響か全身の感覚は鈍いし、思考もどこかおぼろげでなかなかまとまらない。

 ヤツメワラシが降りている間の記憶もなく、まるで自分の身体ではなく他人の身体を服のように着込んでいるようだった。

 そしてナユにはわからないが、すでにナユの身体は神殺しを為すための神器と化しているらしい。

 神の存在を否定する神呪に満たされたナユの身体を維持するため、必要なとき以外はその身体の維持と管理のために一時的にナユに貸し出されている状態だった。

 

「……痛むの?」

「いや、大丈夫だ。 おまえは休んでいなさい」

 

 落ち込んでいたのが痛みを耐えているように見えたのだろう。

 隣に座る妹のユタが見上げてくるのを頭を左手で撫でてあやしつつ、ナユは再び窓の外を眺める。

 イタミを初めとした他の炎龍討伐に参加した皆にはすでにアルヌスの街や、ヤツメワラシの話をおおまかにだが聞いている。

 新天地でのこれからの生活に期待している自分を恥じつつも、ナユはガラスに映る自分に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 アルヌスの街、その食堂にて。

 フォルマル伯爵家のジエイタイへの全面協力により、一時帰還を許可されたデリラが部屋へ荷物を取りに行き、食堂の職員に挨拶をしようと顔を出し。

 

「うぅー、いきたくなぁぃ……」

「そんなこといってもエムロイ様からの神託なんでしょ? むしろ早く終わらせた方がいいんじゃないかねぇ?」

 

 酒をあおりつつ管を巻くロゥリィに捕まっていた。

 なんでも主神エムロイからの神託を受け取り、異界の神ヤツメワラシに伝えることがあるが今のヤツメワラシには近づきたくないのだそうだ。

 理由を聞けば、今のヤツメワラシは冥府の神ハーディーとの全面衝突に備えておりピリピリしているのだそう。

 そしてその神がこの世界で初めてとなる明確な神殺しの力を持つ神であることから、ヤツメワラシの神域には神を威圧する力が満ちているらしい。

 未だ真の神ではないが神格を持つ亜神であるロゥリィには、神域に踏み込むことすら難しいことなんだそうな。

 

「そういえばアルヌスの丘周辺に足下をぎりぎり覆うぐらいの薄い霧がでてるって聞いたけど、ヤツメ様の仕業なんかねぇ。 隊商のおっちゃんが気にしてたよ」

「たぶんハーディーの『門』を封じる霧でしょぅ。 おかげで息苦しいったらないわぁ……。 ただの人にはなんの効果もないから安心なさぁい」

「おかげで走り回るこっちの身にもなってほしいですけどねー。 見つけましたよお姉さま!」

 

 デリラの質問に憂鬱に答えたロゥリィは、コップの底に残った酒を一息にあおり。

 後方から聞こえてきたジゼルの声に思いっきりむせた。

 

「ぇほっ、ちょっ、ジゼルぅ!? よくもこれたわねぇ!?」

「ちょまっ! 待ってくれ、いや待ってくださいお姉さま!? オレは主上さんに書状の配達と異界の神への神託を任されただけで戦うつもりはないって! ないです!!」

「問答ぉ無用ぉ!!」

「だから嫌だったんだ主上さんー!?」

 

 ロゥリィはむせながらもカウンターに立てかけていたハルバードをとりあげ、振り向きざまの振り下ろしの一撃をジゼルは鎌刃のついていない大鎌の長柄で防ぐ。

 そのまま押し合いになり硬直状態になったジゼルは必死になって弁解する。

 ぐいぐいと押し込まれるハルバードの刃にかすめた前髪が数本切れ、皮膚も薄く切れて血がたらりと流れていく。

 ジゼルの腰の翼が中途から途切れて布をまかれ、額の傷口が塞がらずに血が流れ続けているのをみたロゥリィはハルバードを滑らせてジゼルの体勢を崩させると、前蹴りの一撃で食堂前の道まで蹴り飛ばした。

 

「ねぇ、翼はどうしたのぉ? それにぃ傷の治りも遅いみたいだしぃ」

「げほっ、あの神の呪いのせいだっつの! 亜神の不死性を流し込まれた呪詛が邪魔しているせいで回復しないんだよっ、主上さんは呪詛を取り出してくんねぇしっ!」

 

 追撃をせずに食堂入り口に立ったまま聞いてくるロゥリィに答えると、ジゼルは長柄を地面に突き立ててどっかりとその場にあぐらをかいた。

 

「だから早くお務め終わらせて主上さんに呪詛を取り除いてもらわないといけねぇんだ。 お姉さま、取り次ぎをしてくれねぇ、いやしていただけないでしょうか? オレ独りだとどうなるかわかったもんじゃないっ」

「そうねぇ……」

 

 そのままぐいと頭を下げるジゼルにロゥリィは頬を押さえて考え込む。

 しばらく考えていたが、やがてにんまりとした笑顔を浮かべると一つうなずき。

 

「いいわよぉ。 わたしぃも主神エムロイからの神託を伝えなきゃいけなかったしぃ、一緒にいきましょうかぁ」

「ありがてぇっ! 恩に着るぜお姉さま!!」

「(あっ、道連れにする気だ)」

 

 にっこり笑ってジゼルに手を差し出すロゥリィの姿に、カウンターの影に飛び込んだデリラは察するのだった。

 

 

 

 

 

「((どうしてこうなった!)のよぉ!)」

 

 アルヌスの街にある神社にてアポを取ろうとした亜神二人組は、そのまま本殿へと通され。

 八眼童IN 紅い和傘を携える人形とのスピード会談へと挑む羽目になっていた。

 ロゥリィのエムロイからの神託は口頭で伝えられ、ジゼルが差し出したハーディーから八眼童への書状はその場で開封されて読まれている。

 そして読み進めるごとに強まる圧力に、いまだ神ではない亜神二人組は屈しかけていた。

 

「えーと、ロゥリィ聖下。 戦いの神エムロイからの宣言、理解したとお伝えくださいだそうです。 ジゼル猊下。 冥府の神ハーディーの主張は理解した、故に……神殺しは遂行されるとお伝えください、だそうです……」

「わかったわぁ」

「わかった。 ……なに書いてたんだよ主上さんはっ!?(小声)」

 

 巫女装束のミューティを経由して伝えられる八眼童の言葉にロゥリィはほっとした表情でうなずき、ジゼルは絶望の表情でうつむいた。

 戦いの神エムロイが神々の戦いを認め、世界に大きな悪影響がない限り中立を保つと宣言したのに対し。

 冥府の神ハーディーの、特地での死者の魂は例外なく特地の物であるという主張にはさもありなんという反応であった。

 日本に攻め込んできた特地の生命が日本で死んだ際の魂は亡霊だったころの八眼童が特地へ返還しているのだが、ハーディーは日本で死したのなら特地の魂だろうが日本で管理しろといってきている。

 ある意味一貫しているが日本の宗教観的にはわりとアウトである。

 

 なお、ハーディーの書状では炎龍の被害者や、ハーディー信徒の暴走による自衛隊隊員傷害未遂についてはいっさい触れられていなかった。

 

 本殿より退出する亜神二人組を見送りつつ、八眼童はハーディーからの書状に別途付加された招待状をみる。

 危険とわかっていながらも自らの本拠地であるベルナーゴ神殿へ『招いて』まで直接話し合う必要があることとはなんなのか。

 薄々感づいていながらも、八眼童は話し合う前に一発ぶちかますのを撤回する気はなかった。

 なぜならばその身は祟り神にして死者の最後の願いを叶える神。

 

 たかが世界の危機でその行動を縛れるわけがないのだから。



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祟り神の進捗

SERIO さん、244 さん、誤字報告ありがとうございました!

わんこ派 さまとねこです。さまにイラストを描いていただきました!

まずはわんこ派さまです!
あ、いい意味で閲覧注意ですね。

まずはナユが意識を取り戻した後のようです。

【挿絵表示】

実に美人さんですね!

次はオトナリ様ですね。

【挿絵表示】

一言を読んで爆笑してしまいましたw

続いてねこです。さまからの頂きものです。

両方八眼童ですね。

【挿絵表示】


【挿絵表示】

一枚目はどこかイヌカレーな雰囲気ですね。
二枚目は印象だそうでw

本当にありがとうございます!!


 帝都南苑宮で開催されている日本からの使節団を歓迎する午餐会にて。

 壁の天井近くの装飾に腰掛けつつ、賑やかな眼下の様子を見ながら中身入りの大盃をクルリと回す。

 自分が炎龍討伐直後に宣戦布告をした時から、ハーディーは冥府の神としての権能をフルに使っているのだろう。

 アルヌスの丘やイタリカの街、ダークエルフ達の集落などの完全な支配領域以外では気を抜けば亡霊仲間達を冥府に奪われかねないので、祟りや心霊現象の激減した帝都は以前の活気を取り戻し始めている。

 それにともないハーディーの神官が帝国でもてはやされており、異界の神恐れるに足りずなんてぶち上げているのまで出てくる始末だ。

 

 まぁ、ナユの『神の存在を否定する神呪』で祟れば神官だろうが使徒だろうが祟り殺せるのだが。

 

 こんなところで神呪の無駄遣いをする必要はないし、正直帝国を滅ぼすのに必要なので放置している。

 それに皇帝モルトは馬鹿ゾルザルに主戦派を、皇女ピニャに講和派を率いさせることで一時的に帝国を割り。

 後に講和の邪魔をするゾルザル率いる主戦派を、日本の後ろ盾を得たピニャ率いる講和派に鎮圧させることで様々な問題を解決しようとしているようだ。

 そして自分は皇帝位をピニャに譲り、その後ろから操ろうと考えている。

 

 正直嘗めるのもいい加減にしろという話である。

 

 こちとら『死者の最後の願いを叶える祟り神』なのである。

 というより複数の国や種族を攻め滅ぼして虐殺してきた帝国への怨嗟や怨念は、当然ながら複数の国や種族を祟り滅ぼせる規模で溜まっているのだ。

 最低でも現皇帝には死者が納得する形で責任を取ってもらい、帝国そのものも国号を変えるぐらいしないと呪詛が残りまくってしまう。

 その意味でも一度帝国には滅んでもらうか、その一歩手前ぐらいにはなってもらわねばならないのだが。

 もちろん日本に侵攻した戦争責任も取ってもらわねばならないので完全には滅ぼさない。

 滅んで楽にしてなどやらない。

 絶対にだ。

 

「ノリコの暗殺は実行犯が自首して失敗、ニホン人奴隷は落盤で両方行方不明。 で、今度は大丈夫なのよね? また失敗したら……」

「言い訳のしようもございません。 今度こそ万全を期すためハリョの精鋭を呼び寄せましてございまする。 ウクシ、カクシ、コルメの三名にございまする」

「なら結果で示しなさい。 確実な結果で、ね」

 

 なんて考え込んでいたら皇帝と馬鹿とピニャが入場してた。

 入場口にてテューレと豚が会話してるが、それ自衛隊に筒抜けですから!

 ていうかテューレの服に盗聴器ついてる(なお潜入中の自衛隊員にテューレ自身が接触し、日本への情報提供を志願した模様)から!

 ついでにいうと落盤で死んだのは犯罪奴隷と、不当に奴隷を酷使したり体罰とか色々やっていた現場監督のみ。

 日本人の二人は落盤直前に神隠しからの神域を介した長距離移動で、アルヌスの丘の自衛隊基地に送り届けて救出完了済みである。

 宣戦布告をした後では地下に当たる坑道の日本人を救出できなかったろうから、順番を間違えなくてすんで一安心だ。

 

 

 足踏み。

   機関始動。

 胴造り。

   機体の最終確認。

 弓構え。

   タキシング開始。

 打起し。

   滑走路脇の待機場で待機。

 引分け。

   滑走路への誘導、滑走開始位置へ。

 会。

   加速、滑走開始。

 離れ。

   十分に加速した機体がふわりと浮かび、離陸。

 残心。

   上空へと舞い上がる機体が旋回し、上空を舞う僚機と翼を連ねて編隊を組んだ。

 

 アルヌスの丘の自衛隊基地、その滑走路脇に造られたミニ飛行場にて。

 お艦人形で矢をつがえずに弓を引き、放つことでラジコン模型飛行機に宿らせた英霊に加護を与えて再び空を舞わせる。

 目に見えず触れられず聞こえもしない電波で操るラジコンであれば、操作の簡単さもあり英霊一柱だけでも少しの加護を与えるだけで生前のように操縦できるようになるのだ。

 ラジコン飛行機で初めて飛ぶ英霊達は特性を理解する為なのか様々な飛び方を試しており、機体によってはすでに曲芸飛行にまで挑戦していたりする。

 そしてすでに前日に飛んでいた英霊達はドッグファイトをしてみたり、地上すれすれを地形追従飛行してみたり、急降下からの引き起こしで地面ぎりぎりを攻めたり、ラジコンヘリや撮影用ドローンなどに挑戦してみたりしている。

 滑走路脇のスペースでは、私物として特地にこれらラジコン軍団を持ち込んでくれた自衛隊員達がラジコン飛行機の準備や補給に整備をしたり、非力なラジコン飛行機になんとか武装や偵察機器を搭載するべく試行錯誤をしていたり、英霊達の操るラジコン飛行機達を見上げて歓声を上げたりしていた。

そして。

 

「ぬぅぉぉおおお! たとえ護国の英霊だろうと負けられるかぁ!」

「左後方より隼、零! 右上方から零の逆落としくるぞ!」

「おうっ!」

 

 わざわざ特注で特大サイズの最高級ファントム型ラジコン飛行機を発注し、さらに整備班を代表する有志が魔改造を施したファントムを操って、英霊のなかでもさらに優れたエースの操縦するラジコン飛行機相手に奮戦する神子田と久里浜の姿があった。

 キャノピーの位置に複数の小型カメラを設置して前方に左右後方、上方と四枚のディスプレイに表示。

 廃棄予定の本物のコックピットのパーツを使った操縦席型魔改造コントローラに乗り込み、英霊の搭乗する編隊を相手に奮闘する神子田を椅子の後ろから乗り出すようにして久里浜が補佐。

 そんな馬鹿二人を非番の自衛隊員達が取り囲んで声援をあげていた。

 実に馬鹿ばっかである。

 まぁ、声援をあげている自衛隊員達をさらに上回る数の英霊達も声援をあげているのだが。

 

 

 がぎぃんとロゥリィのハルバードに弾かれた反動に逆らわず、『肩を押されるままに』後方へと跳躍。

 ハルバードを構え直す隙を与えずに『背中を押されて』前へと進むが、突き出された柄に『炎龍の左腕』を盾にして防御。

 『肩を横に押されて』側転して距離をとり、仕切り直した。

 

「その動きぃ、やっかいなのは認めるけど人の動きではないわぁ。 きもちわるぅいわよぉ?」

『“これが我等だ。 我等は集団にして群、軍ぞ。 我等が戦うのに単独で戦うわけがあるまい”』

 

 ナユの身体を使った戦闘訓練につきあってくれているロゥリィに返しつつ、今度は正面からではなく翻弄するような一撃離脱に切り替える。

 アルヌスの丘一帯を満たす自分から実体を持たない腕だけや脚だけの分霊を生みだし、ナユの身体を押したり引いたりして予備動作の一切無い急激な加減速を実現させる。

 見鬼の才持ちにはホラーな光景を生み出しつつも縦横無尽に駆け回り、すれ違いざまに右手で引っかけるようにブン殴っていく。

 さらに手を組んで足を乗せて投げあげたり、足裏をあわせての真下への跳躍、空中疾走と上下の動きを組み合わせ。

 しかし、ロゥリィの防御を越えられずにいた。

 

『“よきかな、よきかなっ!! 戦神の使徒が底、いまだみえず! やはりヒトの紡ぎし業はただの力を易々と越えてゆく! よきかなっ!!”』

「いうほど余裕があるわけじゃないのよぉっ!? 付き合わされるこっちの身にもなりなさいよぉ!!」

 

 たとえ『神の存在を否定する神呪』や呪詛を使わなくても、暖かで力強い生命に溢れたナユという器であれば。

 (元亡霊で祟り神なので)苦手な正の加護を施し、(元亡霊でry)苦手な直接物理干渉による補助だけでも頑張ればロゥリィに焦らせるぐらいならできるのではないかと考えていたのだ、が。

 

 実に甘い考えだった。

 

 甘すぎて慢心しすぎて油断しすぎていて。

 いつのまにか自身を超越者であると考えていたことに気づいた。

 死して停滞する存在のくせに、未来へ向かって歩むことのできる生者のつもりになっていた。

 これはいけない。

 自身は死者。 すでに死した、過去へ還る者。

 ただ出自のおかげで生前のように思考し、行動に移せるだけの亡霊である。

 たとえ世界に拒まれた生きる死者であり、世界を跨ぎ繋ぐ神であり、冥府へゆくまでの旅路を守護せし死者の神であろうとも。

 常によりよき未来へと歩み続けるヒトの紡ぎし業に、ただの力任せの暴力でかなうはずもないのだ。

 

 ゆえに。

 

 死者でも変われずとも得ることができることはすでに証明されている。

 ならば得ればいいのだ。

 ヒトの業を操りし経験を。

 神の御業を繰りし資格を。

 

 

 毒をあおったモルトがぶっ倒れるのを見つつ嘲うテューレを見下ろしつつ、大盃に乗せた供物を取りあげる。

 テューレの縁を通して怨嗟や憎悪を集める際、彼女たちには互いの記憶を夢としてみるように呪をかけた。

 テューレはその呪を通してみる同胞の記憶を、ただの悪夢であるとして切り捨てることで目をそらし、精神の安定を図っているが。

 奴隷として生き地獄のただ中にいるテューレの同胞の中には、この悪夢が同胞の記憶であるということに気づいた者達もいた。

 そして、その中にはテューレの記憶の夢も含まれていると見抜いた者もいたのだ。

 テューレとともに幼少期を過ごし、他の者よりもテューレについて詳しかった彼女はテューレのやりたかったこと、今どんな環境にあるのか、そして今なにをしているのかに気づき。

 テューレの夢で知った異界の死者の神である自分に対し、こう願ったのだ。

 

『彼女の死後、その魂が輪廻の輪に還り救われますように』、と。

 

 生きている身で自身の心臓を捧げて対価とし、心臓を失ったことによる死後に死者の最後の願いとして。

 夢を通しての限定的な情報のみで、ここまで的確に最大の願い方を実行するその知恵と度胸。

 そしてその献身故にその願いは聞き届けられるだろう。

 たとえテューレ本人に死後の魂を捧げてでも叶えたい願いがあろうとも。

 すでにハーディーの冥府を飛ばし、輪廻の輪に還った彼女の身体に傷一つつけずに抜き取った心臓を喰らい、胸元に垂れる暗紅色の血を拭い。

 

 ワラウ。



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隊長と陸将と霊媒師

かなり短いですがお待たせいたしました……!!
いやもう転職したい感じで忙しかったのでポメラ開いてる暇もありませんでして。
これからものんびり続けていきまする。

また絵を頂いておりました!
寺生まれのTさんだそうでw

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なんともはやw


 

 第三偵察隊の隊長職を解かれ、次に伊丹が与えられた任務は特地における資源状況の調査であった。

 いつもの三人娘にヤオを加えた四人を護衛として率い、今回は八眼童の人形の同行は無しで高機動車に乗り彼らが向かう先は学都ロンデルの街。

 伊丹が求める特地の資源関係の情報を集めるに当たり、レレイのすすめで特地の学者の協力を求めるために向かっている最中である。

 なお伊丹の中ではレレイの導師号への挑戦のほうが優先であり、資源状況の調査は無理せず時間をかけてやっていくつもりであった。

 道中レレイが病気にかかったり(八眼童の協力でレレイの家から薬のロクデ梨を取り寄せてスピード完治)、同じ病気にかかった村を救うために迷宮にあるロクデ梨を入手するべく攻略(壁を爆破解体でショートカット)したり、ロゥリィをもぐもぐ(食事)した迷宮の守護者を討伐してリアル『七匹の子山羊』したりと冒険を繰り広げつつ旅を続けている。

 大小さまざまな障害があったが、普段から八眼童と行動をともにする羽目になっていた伊丹にとっては、祟り神の気配が身近にないだけでも精神的な面で余裕を持てているこの旅はよい息抜きとなっていた。

 

「これ、いつも思うけど中身大丈夫なの? 結構な勢いで落ちてるけど……」

「大丈夫だって。 今までも中身は壊れてなかったろ?」

 

 今回で何回目かになるCー1輸送機からの物資投下で投下された木製コンテナが軽く破損している(壊れることで中身を保護している)のをみて不安げにつぶやくテュカに伊丹は笑ってかえす。

 レレイが運転する高機動車が木製コンテナの側に停車すると、助手席から降りた伊丹はまず減速用パラシュートを手早く畳んで片づけ、解体用のバールで手際よく木製コンテナを解体していく。

 いわれずとも釘抜きで解体された木材から釘を引き抜き、それぞれまとめて高機動車に積み込んでいくヤオに一言礼を告げつつ、伊丹はコンテナ内に積み込まれていた補給物資を分別してテュカと共に高機動車へと積み込み始めた。

 

「いよっと。 ガソリンはいつものとこに、食料と水もいつものとこでよろしくな」

「わかった」

「ねえぇ、これはなぁにぃ? いつもはこんな大きな革の鞄なんてはいってなかったわよねぇ?」

「うん? あぁ、それは丁重に頼むよ。 ロンデルへの荷物だそうだけど、一度中身を確認するようにいわれてるから助手席においといてくれ」

「わかったわぁ」

 

 高機動車の荷台でロゥリィが荷物を受け取り、レレイが所定の位置へと並べていく。

 やがてすべての積み込みが終了すると、伊丹は助手席のドアを開いたまま座席を占領している大きな旅行用の革鞄の鍵を開ける。

 のぞき込んでくるロゥリィに少し下がってもらいながら革鞄のデザインに既視感を覚えつつ、ひょいとふたを開けたその中身は。

 

「oh……」

「あらぁ? ヤツメの人形じゃないのぉ。 やっぱりついてくるのねぇ」

 

 某薔薇な乙女のごとく、膝を抱えた八眼童の人形が入っていた。

 予備パーツや換えの和服に小物なども詰められた中身を一緒に入っていたリストと照らし合わせて確認しつつ、伊丹は思う。

 

 これ、みなかったことにして降神の儀式をせずに片づけられないだろうかと。

 

 伊丹にとっては残念ながら、常に八眼童の加護を受けている以上無視をしても催促がひっきりなしにくることは確定なのだが。

 伊丹は空を見上げ、短かった自由を懐かしんだ。

 

 

 

 

 

 湯気を上げる湯飲みを机に置き、一礼して自身の斜め後ろへ下がっていく人形を見つつ狭間陸将は思う。

 

 どうしてこうなったと。

 

 英霊達の憑依するラジコン飛行機への武装搭載について、搭載可能重量の関係でまともな武装が搭載できないと判明。

 自衛隊の保有する装備類の供与もできないため、少量で絶大な威力を発揮する高性能爆薬を使用した投下爆弾も使用できない英霊達は、ラジコン飛行機そのものを弾頭にした体当たりを前提にした攻撃を自衛隊側に提案し。

 

『生者の相手は我々生者にお任せください。

 それに、たとえその身に何の影響もないのだとしても。

 私は貴官方に、二度と片道の旅路を歩んでほしくはないのです。

 還ってきて、ほしいのです』

 

 狭間陸将による言葉に、ラジコン飛行機に搭載されるはずだった体当たり用追加加速ロケット(模型ロケットの固形燃料使用)は純粋な機体加速用に。

 そしてほぼすべてのラジコン飛行機は武装の代わりに偵察機器のカメラなどを搭載し、英霊達の内の一部は狭間陸将の指揮下へと参加を希望。

 当然狭間陸将はなんとかやんわり断ろうとしたが、八眼童により夢にて英霊達との会談を持たされ、承諾。

 こうして狭間陸将の部屋に、従卒として小柄な女性サイズの人形に宿った英霊達の代表が控えるようになっていた。

 

(ううむ、なれん。 が、偵察についてありがたいのは事実。 ここはいかにして本国に英霊の集めた情報を利用することを認めさせるかが問題か)

 

 狭間陸将は知らない。

 すでに本国でも八眼童が英霊達を引き連れて自衛隊及び政府上層部の夢枕に立ち、英霊の自衛隊指揮下への参入を宣言していることを。

 ただし、英霊達自身が認めた者の指揮下にはいるということを。

 その代表として狭間陸将の名前が挙げられているということを。

 彼は知らない。

 

 

 

 

 

「うぇへへへへ、かゆ……うま……」

 

 バレリーナな青い人形が作りかけの赤い人形を片づけ、里沙がブレイクでジャズダンスな黄色の人形に布団に運ばれていくのを見送り。

 目前に座るフラメンコな緑の人形に宿る八眼童に彼は問いかける。

 彼女がそうなのかと。

 

 神は答える。

 彼女が望むならと。

 

 彼は続けて問う。

 こちらでもおこなうのかと。

 

 神は答える。

 それを人々が望むのならと。

 

 彼は深く深くため息をつき、禿頭を抱える。

 どうしてこんなになるまで放っておいたんだと。

 どうして自分がと。

 どうして、と。




次は日本のになると思います。


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『勇者』と掲示板

ちょくちょく書いてたらできたので投稿です。
なお、『この小説はフィクションであり、現実の団体及び国家とは何の関係もございません』


 

 彼は歩く。

  正義を為すために。

 

 肩から下げた大きな円筒形のスポーツバッグを抱えなおし、彼は歩き続ける。

 

 彼は故郷を愛し、奴らを憎み、蔑視していた。

 

 奴らはまともに謝罪すらできぬ、後追いしかできない劣等民族だと彼は信じていた。

 

 奴らが不当に占有している『門』は社会のために広く公開され、その権利は自らの故郷にも当然のように分配されるものだと考えていた。

 

 奴らが『門』の向こうに軍隊を送り込んだのは侵略のためであり、犯罪者の亡霊を送り込んだのは奴らが欺瞞を取り払って軍国主義の本性を表したのだと想像していた。

 

 奴らの本性を世界に公開し、『門』の権利を正当なる者達へ返還するために行動を起こした自身は正義の使者なのだと盲信していた。

 

 奴らが崇拝する軍国主義の象徴、犯罪者どもを祭り上げる場所を爆破、焼き払い。

 正義の鉄槌を下すのだと息巻いていた。

 

 奴らの手から『門』を取り戻し、世界に貢献した自身の名は語り継がれていくことになるだろうと妄想していた。

 

 彼は歩く。

  トンネルのように無数に鳥居が並ぶ、無限に続く参道を。

 

 彼は歩く。

  飢え、乾き、疲労の極致にあろうとも。

 

 彼は歩く。

  たとえ足の感覚がなくなるほどの時間、膨大な距離を歩いていても。

 

 彼は歩く。

  荷物が次第に重くなっていこうともしっかり抱え込み。

 

 彼は歩く。

  参道の外からのぞく視線の群を無視して。

 

 彼は歩く。

  後ろからついてくる音を意識しないようにして。

 

 彼は歩く。

  立ち止まり、参道から逸れ、駆け出し、荷物を捨てた同士達の末路を想い。

 

 彼は歩く。

 

 

 

 

 

 オカルト板

 

 【御社一般公開まで】オトナリ様について語るスレ58柱目【秒読み開始!】

 

            ・

            ・

            ・

 

75本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

いやぁ、それにしても長かったねぇ。

被害者家族やらの参拝が許可されて、次が一般公開だろ?

楽しみで仕方ないんですが。

 

 

76本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

いやむしろこの短期間でよく一般公開までこぎ着けたって言うべきじゃね?

特地で暴れてるオトナリ様に信仰のパワーを送るためにも早い内の一般公開が必要とはいえ、よくこんな短期間でできたよ

 

 

77本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

その分今の御社は小さいみたいですけどねー

まぁ今のは仮で、本格的な御社は絶賛建設中らしいけど

 

 

78本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

そういえばまたテロ未遂があったってほんと?

本命の方の御社で小火騒ぎがあったって聞いたけど

 

 

79本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

たぶん本当。

犯人はいつものように逮捕されたみたいだけどね。

 

 

80本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

いつものようにっていえるのがひどいよなぁ。

たしか神社仏閣へのテロ未遂や外国人観光客()による狼藉がひどすぎて外国人が立ち入り禁止になってるし。

靖国神社への放火テロ未遂が最初だっけ?

それから一気に数が増えてる気がする。

 

 

81本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

気のせいじゃないよー

そしてそのほとんどで超常現象のようなことがおこっているらしいという現実

最近信仰が回復しているとはいえちょっとみなさんパワーアップしすぎじゃないですかね……?

 

 

82本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

いろんな所の神社仏閣に自販機サイズと小さいけどオトナリ様の分社が仮設置されてるしね。

てかマジで神道仏教関係なく分社が置かれている件について。

命名の時点でまさかの複数の宗教にまたがる神の誕生か? て騒いだのが懐かしいよ。

 

 

83本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

>82

ガチっぽいんだよなぁ・・・。

いやだって信仰なにそれな現代社会で新しい力ある神、しかも荒御霊の祟り神が誕生しちゃったんだよ?

そうでもしないと押さえ込めなかったんではなかろうか。

 

 

84本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

>81

安心しろ、結構前からオトナリ様の影響で信仰回復で力取り戻してたみたいだから自身の領域でならよゆーよゆー

神隠しみたいなのもあったみたいですしね(白目

 

 

85本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

そのまえは全国で人形行列の目撃談があったしね(白目)

あれ全国の神霊妖仏へのオトナリ様の挨拶周りっぽいしね(白目痙攣)

目撃された人形に統一性がないっていうのがもうね。

てかアニメやマンガの人形が混じってたって言うのはなんなんですかね(気絶)

 

 

86本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

あー、あれな

オレも一応目撃者だけど、車で通勤中に歩道を子供サイズのテディベアが歩いてたのは目を疑ったね

思わず二度見した、いなくなってたけど

 

 

87本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

ほんと節操ねぇな!?

 

 

88本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

人形で思い出したけど、笑顔動画とようつべでうpされてる人形劇場、新しいのがあがってたよー

今回のは酒呑童子と茨木童子の登場する大江山鬼退治だったけど、あいかわらず使われてる人形も動きも意味わからん

てかあれ糸とか棒とか見えないんだけど

CGじゃねぇのって動きしてることもあるんだけど

アマチュアとかぜってぇ嘘だろ

 

 

89本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

あれは人形関係はつっこんじゃいけないとこだろ……。

オトナリ様が動かしてんじゃねぇの?

オレ的には次回予告が好き。

正統派な人形を使ったガチの神話人形劇の本編とは違うあのフリーダム加減がもうねw

 

 

90本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

天孫降臨あたりから始めて民間伝承やらも時代を追う形であげてるんだっけ?

もう結構な数あげてるよなぁ、てか週一で10分から30分のをあげてるんだからすごいよな。

多いときは3つ同時にあげてたし。

 

 

91本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

次回予告で好きなのは因幡の白兎のやつかなw

真面目に因幡の白兎のあらすじを述べる次回予告の背景で、独特なシルエットとたべりゅ?の軽空母とボウガン装甲空母が白バニーで踊ってるやつなw

んでその3体の中央でブレイクダンスする銭投げおばさんという。

 

 

92本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

それ知ってる、画面端でレフ板掲げてる赤青ギザ歯コンビとでかいうちわで扇いでる緑の袖が見切れてるやつだろ?

MMDで再現動画が翌日にあげられたやつw

 

 

93本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

制作チームたのしんでんなーってかんじだよなw

なお本編で使用されてる人形と、分社に納められてるオトナリ様の御神体の相互関係について

 

 

94本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

おいやめろ

おい

 

 

95本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

おもにFPSのゲームを実況する生主による笑顔動画でのFPS生実況……

実況の映像にまざる謎のノイズ……

生主の謎の発言の数々……

うっ、あたまが

 

 

96本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

あぁ、あのある意味伝説のやつな

無責任発言と暴言が売りな無知実況者さまがいつものようにFPS生実況しながらオトナリ様とか英霊や神霊妖仏について問題発言繰り返してたら色々あって唐突に実況枠が終了

すわ神罰かとか騒がれてたらばあちゃんにパソコンの電源引っこ抜かれてガチ説教受けてたと判明したやつ

ある程度反省はしたみたいだけどやっぱり実況と問題発言はやめないというアホな

 

 

97本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

でも本人は

「ちょwこれ洋ゲーwなんで日本軍兵士おるん?w」

「は? 今撃ったのあたっただろ、なんで棒立ちしてんだよ。しかも消えたしスコアに入ってないし」

「スタッフ気合いはいってんねー、ショーウィンドウに日本人形並んでやんの」

「てかホラーゲー要素多すぎない? さっきから変な声聞こえてんだけど」

とか、完全に気づけてないよね。

オレあの実況見てたんだけどやばすぎて昼飯吐いたんだがガチで。

 

 

98本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

やばいこの話題はここで終了ですね

はいっやめやめ!

終了でーす!

 

 

99本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

話題を変えよう!

ガチで!

なんか寒気やばくなってきた!!

 

 

100本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

ここのぞいてんですかね!?

少なくともここにいる奴らはまずやりませんから!

敬意大事!

 

 

101本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

うちの神棚、稲荷なんだけど最近家にちっちゃい気配が増えてんのよね。

油揚げのお供え増やすべきかしら。

 

 

102本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

そのままでよかろうではないかな?

お供え減ってたりする?

 

 

103本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

減ってないかな。

わかった、とりあえず念入りに神棚と家を掃除しておく。

きれいなとこがいいもんね。

 

 

104本当にあった怖い名無し20██/██/██《█曜》 ██:██:██.██ ID:████

いいなー、マンションだけど神棚おこうかね

 

           ・

           ・

           ・




次は特地の帝国側のお話ですね。


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愚者と祠と教師

ううむ、どうしてもぶつ切りになってしまう。
書きたいとこのために伏線(?)ばら撒く段階です。

皇國臣民 さま、244 さま。
誤字報告ありがとうございます!

そして、ねこです。さまより挿絵を頂きました!

【挿絵表示】

もはやTさんのイメージがAさんに固定されてきていますw

*歌詞の一部を使用してしまい、運営様に怒られてしまいました。
該当箇所の修正終了しましたので再度公開状態にします。
ごめいわくをおかけいたしました。


 皇太子府を開設することで倒れた皇帝に代わって全権を握り、やがては玉座に座る権利を手に入れた帝国皇太子ゾルザルは哄笑をあげたくなるほどの歓喜に包まれていた。

 自室にて金の酒杯を傾け、最高級の酒を喉に流し込む。

 彼は皆が言う異界の神について、そう警戒すべき相手であるとは考えていなかった。

 なにしろ自身には異界の神のものと呼べる出来事は一切起こっていなかったからだ。

 むしろ最近は、連日悪夢を見続けているという議員の家を訪れたところ悪夢を見なくなったらしく、異界の神の呪いを打ち破るハーディーの加護を受けているとまで呼ばれ始めている。

 異界の神に怯える議員からの支持を得て、さらに権力がその手に集まっている彼にとっては異界の神とはある意味で味方であった。

 わざわざ自分を支持する議員を増やしてくれるとは、心憎いことをしてくれるという冗談を部下の前で放言することができるほどには。

 

「……ゾルザル様。 御身の前に」

「おぉ、ハリョか。 して、どうであった? 足取りは掴めたか?」

「はっ。 炎龍討伐の英雄のうち、新たな異界の神の使徒となったダークエルフはアルヌスの街より動かず。 ロゥリィ聖下をはじめとした残りの者は、魔導師レレイを学都ロンデルへと護送している模様です」

「ほう、さすがに早いな。 しかし、ロンデルか……」

 

 窓の陰から聞こえてきた声が告げる情報にゾルザルは眉をしかめ、腕を組む。

 ごく最近に売り込んできたハリョと名乗る集団は相当手広く、そして深く浸透しているらしい。

 ゾルザルの求める情報をまるで最初から用意していたかのように提供してみせるその集団に、ゾルザルは満足げな笑みを浮かべる。

 

「そうだな、まずはロンデルと周辺の情報伝達を遮断し、ロンデルにて炎龍討伐は聖下の御業であると吹聴せよ。 聖下へ注意が集中した後で魔導師を処理するのだ。 帝国の者ではない英雄はいらん」

「はっ。 しかし他の者達はいかが致しましょう? 聖下がおられる以上、魔導師殿一人を処理するだけならまだしも他の者もとなれば至難かと」

「捨て置け。 神の使徒でもなく、ヒトですらないモノがいくらいようと帝国をゆらがすことはできん」

「承知いたしました。 それでは失礼いたします」

 

 気配が消えたあと、金の酒杯に酒を注ぎつつ思う。

 やはりすべての状況が自身の追い風になっていると。

 地が揺れたあの日に起こったことはすべて何かの間違いだったのだと。

 これから手に入れるすべてが理想の、いや本来の自分の姿なのだと。

 

「そういえばテューレも虚空に話しかけていたりしていたな。 そろそろ壊れるだろうから新しいのを手に入れねばならんか……」

 

 どうせならばニホンジンとやらを手に入れるのも悪くない。

 そう考え、笑うゾルザルは朱い酒を飲み干した。

 

 

 

 

 

 冥府の神ハーディーのベルナーゴ神殿から南に3km。

 人跡未踏の山中にて。

 

「よっと、こんなもんかな? おーいみんな、さがるぞー」

「わかったわぁ」

 

 補給物資を梱包していた木製コンテナの一部として組み込まれていたパーツを釘を使わずにパズルのように組み立て、設置した祠に人形のパーツを納めると伊丹は他の皆と共に高機動車のところまで下がる。

 かわりに前にでた八眼童の人形が、懐から取り出した神呪に満たされた紅い酒杯を一度掲げるとそのまま傾けた。

 

 

  我等が故郷、我等が内にありけり

 

  我等が身、六つに分かたれり

  

  東南東に右腕、西南西に左腕、北北東に右足、北北西に左足、そしてここ南に首と胸

 

  我等が内、我等が故郷ありにけり

 

  ここに我等が故郷を招きけり

 

 

 酒杯から零れ落ちた神酒が地に落ちる直前で宙に溶けて消え、周囲の地面から湧き出るように濃霧が立ちこめ始める。

 八眼童の祝詞が多重に響き、空間が、否世界そのものが塗りつぶされていく。

 やがて揺らぎが収まれば濃霧が一気に晴れ、再び元の光景へと戻った。

 

「なぁにこれ、まるで色の無い霧ねぇ」

「どうしたロゥリィ? いくぞー」

「はぁい。 そんなに急がなくてもいいんじゃないのぉ?」

「さっきからとんでもなくいやな予感がするんだよ……。 こんなところにいられるか、俺は人里に帰らせてもらう!」

「そしてまた刺客にねらわれるのねぇ?」

「おいやめろ」

 

 撤収準備を進める伊丹に呼ばれ、いつのまにか高機動車の荷台に腰掛ける八眼童を視界に入れながらロゥリィは歩き出す。

 その足下を陽炎のような揺らぎが過ぎり、消えた。

 

 

 

 

 

 アルヌスの街、八眼童の社にて。

 すっかり巫女服が板に付いてきたミューティは箒で境内の落ち葉を集めつつ、イヤホンで曲を聴きながら歌を歌っていた。

 

「♪(超重力)」

 

 日本の文化、特に歌唱に興味を引かれたミューティは自衛隊を通して日本の歌を大量に納めたプレイヤーを手に入れていた。

 

「♪(三角関係)」

 

 そのおかげで日本語、英語、ロシア語、中国語にドイツ語に架空言語まで問題なく歌うことができるようになっている(日常会話までできるのは日本語のみ)。

 

「♪(壊れろ)」

 

 なお、そのプレイヤーにはかなりの割合でアニソンやゲームソングが混じっており(伊丹は関与しておらず、後に『これが日本の業か……』とつぶやく姿が見られた)。

 

「♪(吸血鬼姉妹)」

 

 当然ミューティの歌のレパートリーにそれらが多く含まれることになった。

 

 結果。

 

「♪(ソロモン)」

「……すまないが、歌うのはせめてジャンルを統一してくれないかい?」

「あっ、すみません。 それじゃ、えーっと……」

 

 がたっと立ち上がりかけた金長髪赤目の犬っぽい人形を座らせるなぜかマイク持ってる眼鏡人形を横目に、日本の某組織より派遣されてきたミューティの教育係の彼は貧乏くじを引いたと深くため息をついた。

 真剣な表情でプレイヤーを操作するミューティから視線を逸らしてみれば、裏の森での生物採集から帰還したのだろう違法建築妹人形とそれをエスコートする艦隊アイドル人形が現れ。

 それを練習戦艦次女人形が迎えるという、中の人を考えたくないある意味恐ろしい光景に空に視線を逸らす。

 そらした先の空でもラジコン飛行機の群が格闘戦を繰り広げており。

 今頃は自衛隊基地の空港で弓道着組の人形達による地獄が顕現しているのが容易に想像できた。

 

「Rrha ♪」

「そうきたか……」

 

 そしてミューティが精霊魔法の詠唱に使用する技術を応用し、セルフコーラスで謳いだした歌に彼は諦めた。

 元々ミューティの種族が持つ力により、彼女の歌には歌を聴いた者を魅了してしまう力があったのだが。

 八眼童の加護を授けられたためであろう。 今では歌を聴いた者の感情を揺さぶり、歌に込められた想いを伝える力を手に入れていた。

 そう。 神霊妖仏に捧げ、その力を借りることができるほどの域にまで達している力を。

 

「この分野については教えることがないやもしれんな……」

 

 人形達が集まり、独唱会と化した境内を見つつ彼は思う。

 今度リクエストしたのを録音させてくれないかなー、と。




そして以前、サーヴァント化したらというのをつらつら考えてみた結果。


・サーヴァント以前の問題
 まず、FATE世界においては主人公が八眼童になることができないため、大前提としてFATE世界には八眼童が存在しない。
 よって、ゲート世界からの来訪という形になる。
 理由は、ゲート世界とFATE世界の差異が大きすぎるため。


・サーヴァントになるには
 FATE世界には八眼童の座も伝承も月の記録も存在しないため、それらを得るところから始める必要がある。
 が、FATE世界では小さな変化は修正・隠蔽され、あまり大きなことをやればそれこそ抑止力に英霊を送り込まれてしまう。
 それらを得ても、サーヴァントとして召喚される可能性があるのは月の聖杯戦争であるエクストラ、人理焼却後のグランドオーダーぐらい。

 一応それら無しでも、
 ・過去にFATE世界を訪れた異界の神として、月に記録されていた神を再現したサーヴァント(本人ではない)。
 ・聖杯戦争という怨嗟と怨念渦巻く地に、サーヴァントを依代にして本人が登場するタイプ(正確にはサーヴァントではない)。
 ・特異な状況に陥っているカルデアに気づき、サーヴァント召喚に割り込んで訪れるタイプ(もっともサーヴァント化に近いか?)。
 が可能。

となりました。
無駄に色々考えてたし、かなり短いのを番外短編として書こうかしら。


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皇女と暗殺者と祟り神

(ΦωΦ) さま、神崎2 さま。
誤字報告ありがとうございます!

あと、ポメラではダブルクォーテーションの変換ができないようです。
どうにか考えねば。

年末へ向けての追い込みで、というか忙しいのがずっと続いておりまする。
言い訳にしかなりませんが、こんな感じの不定期更新で行きます。


 

 夜の闇に沈む、自身の居館にて。

 眠るために寝台に横になっているピニャはしかし、全く眠れる気がしなかった。

 すでに5日はろくに眠れぬ日が続いており、思考にも靄がかかったようにはっきりとしない。

 にもかかわらず、とにかくやばいという危機感だけが明確に積みあがっていた。

 

「ゾルザル兄ぃも、ディアボ兄ぃもわかっていないのだ。 あの異界の神はこの世の神とは違う、積極的に人に干渉してくる神なのだぞ!?」

 

 ゾルザルは自身に追従する者達と共に横暴の限りを尽くし、悪夢に苦しんでいたディアボはこれ幸いとどこかへ姿を消していた。

 皇帝の体調も思わしくはなく。 むしろ連日うなされ、目を覚ましても明確に意識を取り戻すことなく憔悴の一途をたどっているという。

 

「どうにかしなければ、しかしどうすればいいのだ? なにを、どう、あぁあぁぁぁ……」

 

 枕を抱え、顔を埋め。

 どうにもならない現実に彼女は苦悩する。

 しかし彼女は諦めず、思考を巡らせ続ける。

 帝国を、その民を生かすにはどうすればよいのか。

 今この国の誰よりも帝国を想い、帝国を救わんとし続けるその姿を。

 

 『彼ら』は見ていた。

 

 

 

 

 

 夢を見る。

 起きれば忘れてしまう夢であり、覚えているのは夢を見ている間だけ。

 

  軋む身体を押し、孫を騙す詐欺師の背中に飛びつく。

  階段を共に転げ落ち、孫の恩師を殺した。

 

  愛する男のために、花束に隠し持ったナイフで悪女を刺す。

  育ての親を殺され、激高した愛する男に首を絞められて殺される。

 

  妻を喜ばせようと、商人に勧められた髪飾りを贈った。

  髪飾りをみた妻に後ろから包丁で刺される。

 

 毎晩のように夢を見る。

 殺され、処刑され、絶望で自死し。 いずれも最後は死で終わる。

 

  自身のすべてを奪った女を殺し、胎を暴く。

  誠実であった愛する男をその手で殺し、自身の首を裂く。

 

  盗賊の仲間である新入りの護衛を拷問し、待ち伏せの位置を聞き出す。

  信用を失い店を潰し、貧困窟で小銭を巡って最期を遂げる。

 

  陰口をたたく側近を解雇する。

  信用のおける者を失い、裏切りによって殺される。

 

 他人の記憶のような夢を見る。

 そのすべてで最期に怨嗟と憎悪を向けるのは、姿こそ違えどすべてよく知ったヒトの姿。

 かつて記憶の持ち主を破滅に追いやった、自身の姿……。

 

「っはぁっ!? はぁ、はぁ、はぁ……」

「おいおい、またうなされてんのかよ。 そんなんで仕事できんのか?」

 

 飛び起きた直後に視界にはいるのはここ数日宿泊している宿の一室と、あきれた表情をしている男の姿。

 思わず顔を覆い、呼吸を整える。

 

「だからハーディーを信仰しとけっていったんだぜ? なにしろ冥府の神様だからな! 殺せば殺すほど御喜びになるってモンだぜ!!」

「だから貴様のそれは違うと、……まぁいい。 それで首尾は?」

 

 呼吸を整え終えた男は突っ込みつつ服装を正し、装備を確認していく。

 

「ぜぇんぶっダメッ!! けしかけた奴らは皆失敗してやがるよ。 しかもニホンのエイユウサマが聖下を差し置いて御一行を指揮しているらしいぜ? 殺そうぜ、それしかないっ!」

「余計なことをしてこのうえさらに難易度を上げるわけにもいくまい。 予定通り駒をけしかけ続け、疲労させてから目標だけを処理する」

 

 一通り準備を終わらせた男は宿の部屋を出ると、今日けしかける予定の駒の下へと歩き出した。

 

「殺せよ、いつものことだろう? 毒がいいか? クロスボウで狙撃もありだな! 短剣は片道だがいつものことだろう? さぁ、殺そうぜ! その手を血で濡らしてさぁ!!」

「黙れっ!!」

 

 道の真ん中で唐突に叫んだ男を奇異の目で見る周囲から逃れるように男は裏道へと歩く。

 

「殺せっ、殺せっ、殺せぇ!! その手を使って、命を奪えよ臆病者がっ!?」

「黙れと言っている……!!」

 

 裏道を独り、男は歩く。

 木靴の音から逃れるように。

 男は歩く。

 

 

 

 

 

 学会で発表を始めようとしたレレイを暗殺するために、獣人女性のノッラが跳躍突撃をし。

 空中でその場にいた大半の者達からの攻撃に撃墜され、見事な車田落ちを披露して。

 ノッラが退場するのに会場の皆が注意を引かれた隙をつき、シャンディーがレレイの胸元へと短剣を突き込み。

 油断なくレレイに近づく者すべてを警戒していた伊丹の拳銃によって手首を撃ち抜かれていた。

 さらに言うならば学会発表をすませ、建物から出てきたところを弓での狙撃で狙っていた男は取り落とした毒矢が足に刺さってこの世から退場。

 地面に触媒を埋めて地雷とし、通りがかったところを周囲の者ごと吹き飛ばそうとした男は風邪を引いて昏倒中。

 そのほかにもレレイを狙い、害そうとした者共はすべて順当な末路を迎えるか、『不幸な偶然』によっていなくなっていた。

 それら皆がけしかけられた駒である。

 さすがは小さな街ぐらいなら滅ぼせる怨嗟と憎悪を向けられている『笛吹男』、だろうか。

 ちなみに個人だとか噂を流しているらしいけど、どうみても組織なんですが。

 しかも相当高度に組織化された、暗殺集団というよりアサシンクラス専属の某教団的なやつ。

 かなり複雑怪奇に縁が絡まってて、全体の把握には相当な時間がかかりそうだ。

 

 とまぁ今は優先すべきことじゃないのでおいといて。

 まだ願われたわけじゃないしね。

 

 帝都では今まで以上の怨嗟と憎悪が大量生産されてるし、対ハーディー対策も順調。

 自衛隊への英霊達の協力も形になってきたし、アルヌスに視察団とマスコミも迎えているからその対応。

 それにエルフの天文学者のフラットが興味深いことを発表していたし、特地の環境調査の名目で協力してもらわなきゃね。

 やることがいっぱいあって大変だね!




とりま書きたいとこが近づいてきてるのは楽しみですがね!


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兵士と信者と新神

なんとか今年中に間に合ったっ……!!

そして再び挿絵を頂きました!
八眼童となる前、オトナリ様がスマホゲームなどのレイドボスになったイメージだそうです。


【挿絵表示】


実に……SAN値ピンチです……。


 

 うん? あぁ、おまえもさっきあの神の力で亡命希望貴族の帝都脱出を護衛したんだっけか。

 

 すげぇよなぁ、アレ。 夕暮れに裏手の森を経由したと思ったら、誰もいない帝都だろ?

 しかも太陽はいつまでたっても同じ位置から動かないし、自分たち以外誰もいなくて音もしない帝都とか見たくなかったぜ。

 まさにタソガレドキってやつだな。

 

 知らんのか? 俺は『暮れぬ夕暮れ、明けぬ朝焼け。 誰か彼かわからぬ時、ゆえに黄昏時』って教えてもらったんだが。

 

 そうそう、あの神ヤツメワラシの神官だよ。

 なんでもああいうのは冥府と現世の狭間ってやつらしい。

 生きているのも死んでいるのも両方入り交じる場所なんだそうだぜ。

 俺たちが通ったときに誰もいなかったのは、異界の神が余計なものが俺たちに見えないように、奴らが俺たちを見えないようにしていたんだそうだ。

 

 だよなぁ、それってつまり俺たちが気づけなかっただけですぐそばにやばいのがいたかもしれないってことだろ?

 もう二度といきたくねぇよなぁ。

 

 へぇ、迷い込んじまったときの対処法聞いてきた?

 そりゃぁいい、皆に広めておくか。

 誰に話しかけられても答えてはいけない、目的地を目指す道以外を通ってはいけない、その地にある水や食べ物を口にしてはいけない、振り返ってはいけない、だな。

 

 ……ちなみにやぶったら?

 

 うへぇ、聞きたくなかったぜ……。

 

 

 

 

 

 帝都の一角、ニホンの大使が滞在する翡翠宮。

 ここは外交特権として一時的にニホン領とされており。 同時に帝都において八眼童の権能が現状唯一、十全に働く場所でもあった。

 

「なぁ、あれってやっぱりさぁ……」

「あぁうん、言いたいことはわかるぜ? うん……」

 

 そして翡翠宮の入り口にて警備を行っている兵士達の視線の先には、箱馬車程度の大きさしかない異界の神の神殿。

 そのそばにある糸杉の丸太を組み合わせ、朱く塗られた門の周りには数日前より複数の独りでに動く人形がたむろしていた。

 ざっざっと音を立てて行進する、異国の兵士の人形。

 空を飛ぶ、翼の動かない鳥の人形。

 そしてそれを従える弓を携えた白の長髪と、二つくくりの黒髪の二体の人形。

 それらが放つ気配に、兵士達は少々及び腰になっていた。

 

「どう考えてもあれ、あの神の権能の一部でしかないよな?」

「あぁ、むしろ俺はあの人形達が本物の人間になっても驚かないぜ。 てかあの人形の攻撃を受けたら人形に、仲間にされてしまうんじゃないか……?」

「ありえる……!」

「やめろよ縁起でもない!?」

 

 たとえ自分達もその加護を向けられている立場にあるのだとしても、それはしょせんは神の気まぐれであろうと彼らは理解していた。

 故に、彼らは敬意を忘れない。

 故に、彼らは配慮を忘れない。

 故に、彼らは。

 

「はっ! ここがヤツメワラシの守護する地だと? しょせんは冥府の神ハーディーに敗れ、この帝都より排斥された亡霊にすぎん! 貴様等異国の亡霊なぞをあがめよって、恥ずかしいとは思わんのか!?」

「(((あっ、死んだな)))」

 

 すでに異界の神により与えられた、帝都からの脱出ルートを歩くカーゼル侯爵とシェリーをだせ、絶対に此処にいるはずだと断定するコボルト頭な掃除夫が叫んだ言葉に、兵士達は全く同じことを考えたのだった。

 

 当然その直後にコボルトを模した兜をかぶっている掃除夫達が絶叫をあげてのたうち回り、次々と倒れ伏しても。

 彼らの頭部の皮膚が溶け爛れ、コボルトの兜と癒着して剥がせなくなっていても。

 兵士達はやっぱりなと醒めた目で見ることができたのであった。

 

 

 

 

 

「……あぁやはり、迷える子羊がこんなにも。 これはいけない。 主の下へとすべて送り届けなければ。 さぁ、いかなくては……!!」

「待て。 貴様、契約を忘れているな? 我々はあくまで現地の宗教状況を視察し、日本の新たな強い神であるヤツメワラシが特地に与える影響についてを客観的に判断するために法王様に直々に任命されたのだぞ。 軽挙妄動は厳重に慎み、っだから浄化を始めるな! 貴様は日本の宗教界に真正面から喧嘩を売るつもりか!?」

 

 ゲートを通り、特地側の自衛隊基地に到達するなりどこかへとふらふらいきそうになった同僚の首根っこをひっつかみ、彼は毎度の説教を始める。

 同じ便で特地にやってきた他国の大使達からまたやっているという視線を向けられながらも、彼は同僚を道の端に正座させた。

 

「いいか? もう一度説明するぞ? 今回の俺たちの仕事は簡潔にまとめれば新たな神ヤツメワラシについて調査することだ。 つまり、調査の障害になるようなことは一切してはならないってことだ。 いいな? つまりヤツメワラシが庇護している霊達には一切手出し無用っていってるそばから浄化しようとするな! なんで? じゃない!! 話を聞いていなかったのか!? だからその手をおろせ! 聖印を切るな! 聖句を詠むんじゃない!! この地の霊達はヤツメワラシの庇護下にあると言っているだろう!? なんでコイツを調査隊にいれたのですか!? この世のすべては主の御心のままにじゃないっ! だからやめっ、ヤメロォッ!?」

 

 

 

 

 

 ソレは、見ている。

 

 仔と老爺が森を歩き、自らの領域へと踏み込むのを。

 

 ソレは、聞いている。

 

 虚言を吐き強引に自らの領域へと踏み込み、狼藉を働こうとしている害意の声を。

 

 ソレは、知っている。

 

 善意を持って自らを浄化しようとする、異教の神官(狂信者)を。

 

 ソレは、持っている。

 

 己の力をさらなる次元へと昇華する手段を。

 

 ソレは、待っている。

 

 全力を行使できる瞬間を。

 

 ソレは、■っている。




次回はいろいろふっ飛ばして帝都脱出編です。
ていうかこのあたりは色々ごちゃごちゃしていてやりづらいです……。


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日本代表と薔薇騎士と守護霊

あけましておめでとうございます。
本年もまた、完結目指してのんびり楽しんで書いて行きたいと思います。
皆様にもお付き合いいただければ幸いです。

ronjin さま、アカギ さま。
誤字報告ありがとうございます!

いよいよ書きたいところです!

※天使を変更しました。


 とあるチャットソフトのパスワード付きルームにて。

 

 

 

アナウンス:K さんが入室しました。

  K  :くそったれがぁぁぁああああああああああああああ

  J  :おいおいおいどうしたのいきなり。

  O  :お、特地でもつながるって本当だったんだな

  M  :ふふふ、いい感じにフットーしてるわね!

     :いいわね、そうこなくっちゃ!

     :流石はKね!

アナウンス:S さんが入室しました。

  K  :てめぇM!

     :知ってたな!? この惨状知ってたな!?

  S  :うp@tb4うzqqr:w6h;

  M  :っっっっっっっっっっっっっっw

  O  :おー、じいちゃんまたかー

     :電話するからそっちでねー

  J  :これは酷い。

アナウンス:T さんが入室しました。

  T  :あぁ、やっぱりここにいたか。

  T  :その様子だと押さえるために同じ部屋にいるのか?

  M  :同じ部屋!ツインよね!?

  K  :ザッケンな石投げっぞコラァ!

     :二段だよ!

     :あ、Tはスマン

     :コイツ常に見張ってないとなにやらかすかわかったもんじゃないんでな

  O  :あぁ、例の信仰が深すぎる子?

     :なにごとも行き過ぎはよくないんだけどなぁ

  J  :にしても上も思い切ったね?

     :いくら信仰が存在しない世界に最少人数で天使送り込むだけの信仰を捧げるためとはいえ、

     :アレはないでしょう。

  M  :フフフ大丈夫よ隠さなくても!

     :今夜はどこにも行かさないゼなのね!

  T  :いや、それなら仕方あるまい。

     :座の降臨を成功させるのだ、並大抵の信仰心ではないだろうからな。

  J  :うわぁ。

  O  :おぅふ

  S  :なおった

  M  :道理でウチの子がピリピリしてたのね!

     :最近ゲームで素材ヨコセって想念が満ちてたでしょ?

     :怯え気味だったからなだめるの大変だったのよ!

  K  :マジかそんなの呼ぶなんて聞いてねぇよっていうか!

     :やっぱあのやたら完成度高いガンプラの中身アンタの使い魔か!

     :てかあんなレベルのをホイホイ送り込むな! アホ押さえるの大変だったんだぞ!?

  M  :違うわ、メタルキャストしたからいわばガンメタ! 超合金よ!!

     :フレーム再現に装甲着脱にメイス振り回しても違和感のない可動範囲!

     :自信作よ!

  K  :そこじゃない!!!1

  T  :妖精達がおびえていた、自重させてくれ。

  M  :はーい

  O  :さすT

  S  :さすt

  J  :さすT。

  K  :おま ば

  O  :じいwちゃんwww

  M  :あ、そうそうそっちに強い塔の暗示が出たわ!

     :Kは気をつけときなさい

  K  :

  J  :

  T  :警告感謝しよう。

  S  :斬っていいのか

  O  :じいちゃんまtwwwってwww

 

 

 

 

 

「ねぇ、これは相当な軍事技術じゃないのかしら。 それをこうして使わせていただけているということは、やはりニホンの支援は期待してもいいのよね?」

「今すぐは無理っていってたけど、ニホンの使節団の救出作戦は実行される予定らしいからそのときになるんじゃないか?」

 

 会話をするボーゼスとヴィフィータの眼前では、机の上に広げられた翡翠宮周辺の地図上にて親指サイズの精巧な人形達が歩き回っていた。

 人形達は現実の兵士達の位置を表しているらしく。

 翡翠宮の敷地を包囲し、正門方向から近づいている人形達は敵を表す赤の帽子を被り。 翡翠宮正面にて布陣している青の帽子をかぶっている人形達は自分達を表しているそうだ。

 これにより相手の動きに対する迅速な対応ができており、予想よりも遙かに小さな被害で翡翠宮へ攻め込む帝国軍兵士達を撃退できていた。

 また、翡翠宮敷地内の森も正面をのぞいて異界の神により封鎖されているらしく。

 正面のみに兵力を集中できているため兵力差による力押しも防ぐことができていた。

 しかし。

 

「それでも、やはり食料や装備の不足は急を要するわ。 もう限界近いのでしょう?」

「あぁ。 それに負傷者もだいぶ出ちまってる。 幸い医薬品はまだ少し余裕があるし水も翡翠宮の井戸を使わせてもらってるが、いかんせん相手が悪すぎる。 奴らは膨大な数をそろえる帝国軍からかなりの数を動員してきてる。 このままじゃヤスリで削るみたいにすりつぶされちまうぞ」

 

 完全に包囲されている為補給も増援も望めず、相手は帝国正規軍からいくらでも補充ができるのだ。

 こうして抵抗を続けるのも、もはや意地でしかないようなものだった。

 そうして頭を抱えて悩むボーゼスの下へ一体のやたら露出度の高い服装をした人形が近寄ると、オレンジ色の液体で満たされたコップを差し出す。

 しゃがんでコップを受け取ったボーゼスが礼を言えば、人形はボーゼスの腹に耳を押し当て、数回なでるときびすを返して天幕から出て行った。

 

「そういやあのすごい格好してる人形からいつも受け取ってるソレ、なんなんだ? 色からして野菜をすりつぶしたのっぽいけど」

「なんでも野菜と果物をすりつぶして、味を調えたものらしいわ。 おいしいし健康にいいんですって。 一人だけ受け取るのも気が引けたけど、なんか受け取らないと大変なことになるような気がして……」

「なんだそりゃ? ならさっさと飲んじまえよ。 もうすぐ交代の時間だろ?」

 

 それもそうねとボーゼスはコップの中身を飲み干すと、机の端に置く。

 その様子を天幕の入り口から覗いていた影がひとつ。

 おかあさんと呟き、姿を消した。

 

 

 

 

 

  第27次偵察隊予定の行程を終了 帰還中

 

 翡翠宮の前庭、八眼童の祠前にて。

 

  第28次偵察隊発進完了 翡翠宮外周の偵察開始

 

 器を変えた『彼等』は、かつてのように己の職分を果たしていく。

 

  誰彼時より入電 誘引敵部隊の処理を終了 待機に移行

 

 ある兵士人形達は霧に満たされた翡翠宮敷地内の森を、幾多の影を引き連れて行進し続ける。

 

  第29次偵察隊整備行程予定通り 残存整備部品及び燃料は第34次偵察隊までで枯渇

 

 ある兵士人形達は、銀長髪の人形の指揮の下帰還したラジコン飛行機達を整備・補給してゆく。

 

  第28次偵察隊より入電 敵集団依然翡翠宮を包囲中 攻勢及び侵入は正門方向のみ

 

 空舞う彼等は、死霊犇めく煉獄を眼下に翼を翻す。

 そして。

 

  本霊より入電 本国が邦人救出作戦への実行許可を承認

 

 二つ結びの人形は空の彼方を振り仰ぐ。

 その方角にあるのはアルヌスの丘、このときを手ぐすね引いて待っていた自衛隊基地のある場所。

 彼等の故郷へ繋がる場所。

 彼等に護るための力と立場を与えた神のある場所。

 

  大日本帝国臣民の生命この一戦にあり 各員より一層奮起努力せよ

 

 弓を引き絞り、空へ向け。 鏑矢を放つ。

 鋭く空間を引き裂く高音が鳴り響き、一帯を強い意志が支配した。




なお日本代表な方々にはモデルとなったキャラがおりまする。
ちなMはカワカミンたっぷりな魔女なんですがあまり似ませんでした……。


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帝都滞在邦人救出作戦開始


MARDER さん、誤字報告ありがとうございます!
ただ誤字報告のを確かめる前に修正更新をしてしまったため、どこが修正箇所なのかわからなくなってしまいました。
直ってるとは思うのですが……。

前話において、天使を告知と堕から座に改めました。
流石に告知はあかんでしたね。

それとまたもやイラストを頂きました!
昭和日本の、まだ悪霊やってた頃のオトナリ様だそうで。


【挿絵表示】


実にイメージぴったりな感じですw
パッカルディ 様、ありがとうございました!


 

 帝都上空、第一空挺団を投下した5機のC-1輸送機の後部ハッチが開く。

 機体が大きく旋回し落下傘の群と帝都が後部ハッチより見えるようになった頃、後部ハッチより姿を見せる影が一つ。

 

  第一次攻撃隊 発艦はじめ

 

 一機に付き一体の赤、青、黄、緑の人形が弓を引き、放つと同時に後部ハッチよりコンテナのような何かが投下される。

 それらは空中でばらけると機体とほぼ同じ大きな円筒を懸下した模型飛行機の群となり、降下中の落下傘の隙間を縫うようにして一直線に帝都の各所へと編隊を組み降下を始めた。

 

  各編隊目標捕捉 投下はじめ

 

  投下 投下 投下

 

 編隊はそれぞれ目標である帝都各所の兵舎や本部に伝令中継地、集結を始めた帝国軍兵士達を捕捉。

 大幅な積載量オーバーで自由落下に近いとはいえ軌道修正をおこない。

 2Lペットボトルを改造し、カプサイシン粉末を満載した催涙爆弾を投下した。

 

  効果大と認む 被害及び損失なし トラ トラ トラ

 

  新たな敵軍集結を確認 第二次攻撃要請

 

 眼が! 鼻が! 喉が!!

 阿鼻叫喚と化した眼下を睥睨し、戦果確認を行う。

 そして赤い霧がかかった地獄絵図を回避するように集結する帝国軍を一部の編隊が発見した。

 

  第二次攻撃の要を認めます 第二次攻撃隊発艦はじめ

 

  これより一航戦は当初の予定通り帰還 以降一航戦航空隊は五航戦の指揮下にて地上自衛隊の援護偵察任務に入れ

 

  了解 これより一航戦航空隊は五航戦指揮下にて自衛隊の偵察直援任務へ移行します

 

 さらにだめ押しの赤い粉塵が散布され、混乱にたたき込まれた帝国軍は大規模な組織的行動の大半を封じられることとなった。

 以降の帝国軍には、ビィインという飛翔音を耳にするたびに恐慌状態に陥る兵士が続出したという。

 

 

 

 

 

 帝都の西側、城壁に面する形で存在するバスーン監獄の周辺一帯は濃密な霧に覆われていた。

 まるで緞帳のように広がる濃霧はバスーン監獄周辺とその外側を完全に隔離してしまっている。

 牢獄から解放された講和派貴族達が迎えの荷馬車に乗り込んでいくのを自衛隊員達が周囲を固め、さらに外側を腰ほどの高さの旧日本陸軍兵士人形と金髪二つくくり少女人形が警戒哨戒をしていた。

 

「なぁ、この霧は八眼童が展開してるってことでいいんだよな? あの人形達じゃないよな?」

「ええ、そう聞いてるけど。 え? 人形になんかあんの?」

「いや、勘違いならいいんだけどな? たしかあの金髪の人形、霧の中の撤退で有名な艦をモチーフにしたやつだったような……」

「それがなんか関係あんの?」

「えぇー……?」

 

 彼等は要救助者を全員馬車へと収容すると、別働隊が確保している門へと移動を始める。

 そしてその様子を物陰からうかがっていた影がまた一つ、霧に飲まれて姿を消した。

 

 

 

 

 

 翡翠宮を巡る攻防を繰り広げている両軍にも何かが起こっているということは伝わっていた。

 しかし翡翠宮を守護する側であるボーゼス達が、これが日本の自衛隊による要人救出作戦であるということを知っていたことに対し。

 翡翠宮を攻略しようとしていた帝国軍にとっては、敵国の軍隊が唐突に出現して帝都へ攻撃を仕掛けてきているという知らせに混乱に陥っていた。

 そこへ、これまで送り込んだ偵察兵が一人も帰ってこなかった翡翠宮の森から出現した自衛隊の攻撃により。 兵士達を翡翠宮攻略へとせき立てていた帝権擁護委員達が的確に排除されたことで指揮系統に一時的に致命的な混乱が発生してしまう。

 

「いまです、突撃! 蹴散らしなさい!!」

「それそれいくぜぇっ!!」

 

 それを見逃さず、好機ととらえたボーゼス達による騎馬突撃と上空を舞う模型飛行機からの弾着観測により正確に指揮官を排除する自衛隊の擲弾爆撃は帝国兵の志気を完全にくじき。

 翡翠宮周辺から敵対勢力を撤退させることに成功したのだった。

 

 

 

 

 

「ご報告いたします、赤い霧の消失を確認。 帝都各所との連絡ほぼ完全に回復いたしました! 現在連絡網の効率化のため再構築中です」

「ご報告いたします。 帝都へ侵攻中の敵軍はニホン軍のジエイタイです。 現在攻撃を受けているという報告があったのは主に翡翠宮、バスーン監獄です」

「報告いたします。 郊外の竜騎兵屯営地、そして帝権擁護委員部の本部が全滅。 生存者は絶望的、ルフルス次期法務官殿も行方不明です!」

「ご報告いたします。 翡翠宮を攻略中の帝権擁護委員部は敵の攻撃により一時的に指揮系統を喪失。 現在再編と翡翠宮の再包囲を実行中とのことです」

 

 大混乱に陥っていたゾルザルと側近達は、各所からの報告が届くようになると落ち着きを取り戻していった。

 ゾルザルの正面にある帝都の模型には、報告によって判明した敵味方の配置が赤と青の駒を並べてわかりやすく示されている。

 模型上では帝都のほぼ全土から膨大な帝国軍の青い駒が続々と皇宮へと集結し。 自衛隊の赤の駒は翡翠宮にバスーン監獄、そして西門付近と帝都の外にそれぞれ僅かな規模で展開していた。

 

「敵の戦力は本当にたったのこれだけか? 奴らは帝都全体の連絡網をほぼ同時に寸断し、全軍に混乱をもたらしたのだぞ?」

「おそらく敵には攪乱に特化した兵科が存在するのでしょう。 赤い霧もその兵科があらかじめ帝都に潜入し、空から兵を降らせることで注意をそちらへ向けた隙に展開したのでは?」

「いや、それにしては開けた練兵場に緊急集結中だった東門守備隊を赤い霧が襲った際は、周囲には不審な影や飛来物は目撃されていない。 もし敵に潜入特化の兵科があるとするなら、帝国軍内にすでに潜り込まれているということにはなるまいか?」

「それはさすがにありえないのでは? そのようなことがおきぬよう、帝権擁護委員部は……」

「しかし……」

 

 側近達の議論を聞き流し、ゾルザルは模型の赤い駒達を睨みつけていた。

 遠くから響いた唐突な轟音に、天空から降下する敵の軍隊。

 さらには窓から見える帝都の各要所より立ち上る赤い霧と、それによる帝都各所との連絡網の断絶。

 帝都各所の守備隊との連絡が取れなくなったとき、ゾルザルの思考を満たしたのは自分が狙われているのではないかという確信に近い考えだった。

 敵の狙いは連絡網を破壊することで帝都守備隊を実質的に無力化し、空からの兵達による皇宮への直接攻撃ではないか。 その考えが現実になる恐慌に襲われ、ゾルザルはあらゆる手段での連絡により帝都の帝国軍全軍を皇宮へ呼び寄せたのだが。

 蓋を開けてみればそれらは全くの杞憂であり。

 皇宮になど、ゾルザルになど全く興味はなく。 むしろ邪魔になるからと妨害するだけして後は放置されているという現状がそこにはわかりやすく示されていた。

 

「ただちに全軍を以って奴らを駆逐せよ! このまま帰せば恥ではすまん……!!」

「おまちください殿下、それは無理です。 守備隊の将兵は皇城へ向かって集結中であり、連絡網も未だ完全ではありません。 ここで新たな命令を出せば必ずや混乱が生じるでしょう」

「ではみすみす見逃すというのか!? 奴らを見逃せば帝国の威信は地に落ちるぞ!」

「いいえ見逃すのではありません。 バスーン監獄の敵は撤退を始めているという報告もあり、敵はこれ以降奇襲の効果が残っているうちに撤退していくのでしょう。 皇宮守備についている近衛兵であればすぐにでも動かせます。 精鋭の四千もあれば追撃には十分かと」

「ふむ、そうか。 よし、すぐにでも追撃を出せ! 奴らを帝都から叩き出すのだ!」

「はっ!」

 

 新たに下された指示に側近達が慌ただしく行動を始めるのを横目に、帝都模型の前に置かれた椅子に座りゾルザルは爪を噛む。

 バカにされたと断じ、目にもの見せてやると意気込み。

 帝都模型の上に並べられた駒達が動き、その背中をみていることにだれも気づかなかった。




次は半分くらい書けてるので少し早くなる……といいなぁ。


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薔薇騎士と報道と神戦の始まり

(ΦωΦ) さま、誤字報告ありがとうございます!

盛大に更新遅れました……。
次も少々かかりそうです。


 

 部下達の帝都脱出を自衛隊に支援してもらう約束を取り付けたボーゼスは、皇城にいるはずのピニャを救出せんと一人馬を駆り。

 途中の検問に引っかかり、矢を射かけられる中帝都の外へと逃走していた。

 

「どうにかして回り込めない!? ピニャ殿下を迎えにいかなくては……!!」

「だー! 無理だっつってんだろ!? てかしっかり掴まって頭下げてろ!」

 

 すでにボーゼスの馬は矢で倒れ、追いかけてきていたヴィフィータの馬に拾い上げられて同乗している。

 当然全力で駆けさせてはいるが、後方より追いかけてきている騎馬隊と比べればやはり速度は劣ってしまう。

 じりじりと距離を詰められ、迫る圧迫感にこのまま息が止まってしまうのではないかと錯覚し。

 

「みえたっ! てかマジで待っててくれたのか!?」

 

 それでもなんとかおいつかれずに帝都の外へと飛び出せば、視界に入ってきたのは『鋼の天馬』の周囲に展開するジエイタイの姿。

 その中の一人が挙げていた手を振り下ろすと同時に遠く破裂音が聞こえ、後方から転倒音がいくつか聞こえる。

 

「頼むあとすこしっ、頑張ってくれっ!!」

 

 全力疾走を続け、もはや未だに倒れていない方がおかしい自身の馬に声をかける。

 答えるようにわずかに速度が上がり、しかし。

 周囲へと追っ手の弓騎兵のものであろう僅かな矢が降り注ぎ、そのひとつが騎乗する馬の後ろ足をとらえてしまった。

 馬が転倒し、悲鳴を上げることもできずに宙を舞う身体。

 視界の端で同じく投げ出されたボーゼスの姿をとらえ、反射的に衝撃に備えてぎゅっと目をつぶり。

 

「よし、搭乗開始! 負傷者を残すな、落ち着いて行動しろ!」

 

 力強い腕に抱き留められた。

 思わずぽかんと見上げれば、至近距離にある男の顔。

 呆然としているうちにひょいと肩に担がれてしまったが、そのおかげですこしだけ冷静になれた気がした。

 みればボーゼスもほかの男達に担がれ、いつの間にか現れた銀髪の人形と共に鋼の天馬へと運び込まれている。

 視線を巡らせば、まるで波濤のように押し寄せる軽騎兵の集団が押し包むように突撃してくる姿が。

 ジエイタイの兵達がその手のジュウで薙払うが、それでも彼等はとまらない。

 胸を、腹を、四肢を撃ち抜かれ。 それでも突撃の勢いをそのままに、槍を構えて飛び込んできた。

 が。

 

  我 突撃ス 我 突撃ス 目標騎馬隊 目標騎馬隊

 

 その直前に高空から降り注ぐように飛び込んできた濃緑の影がばらまいた粒が、騎馬隊の馬の鼻面で小爆発を起こし。

 驚いた馬達が次々に転倒し、軽騎兵による突撃の第一波はわずかにジエイタイには届かずに終わった。

 

「今だっ! 搭乗! 搭乗!!」

 

 第二波到達までの僅かな時間を利用して鋼の天馬へと乗り込むジエイタイ達。

 わずかに浮き上がった鋼の天馬が滑るように全体の横へとこちらに後部の開かれた入り口をむけるように移動すると、側面が開いて姿を見せたジエイタイが大きなジュウを腰を落として構え、盛大な爆発音と炎をまき散らし始めた。

 まるで見えない腕に殴り飛ばされたように次々と落伍する騎兵達。 そこへさらに再び高空より急降下する濃緑の影……翼を羽ばたかせない鳥の人形が先ほどの粒を騎馬の鼻先へ正確に投下し、小爆発によって騎馬のコントロールを狂わせて突撃の勢いをそぎ落とす。

 それでも突撃する騎馬隊を完全には押しとどめられず。 されど軌道をそらすことには成功した。

 

「次がくるぞ、急げ急げっ!」

「搭乗完了しました!」

「誰も残していないな!? よし上げろ!!」

 

 突撃軌道をそらされた第二波は勢いを保ったまま大きく旋回し、第三波とタイミングを合わせての後方からの突撃を始めた。

 それらの前後から挟むようにしての突撃に対し、ジエイタイは全員が鋼の天馬へと乗り込む。

 それを肩に担がれたまま見ることしかできなかったヴィフィータは直後、身体が急に下に引かれるような感覚と共に入り口から見える光景が急激に下に流れるのを見て思考を停止させた。

 

「えっと、いい加減おろしてくれないか?」

「ん? おぉ、すまない」

 

 自身を乗せる逞しい肩を叩いておろしてもらうと、窓へと近づいて下を見下ろす。

 そこには空へと舞い上がった自分達の乗る鋼の天馬へと槍を振りかざす騎兵達がおり。

 窓の外をクルリと翼を振った濃緑の鳥人形が旋回して離れていくのを見て、ようやく自分達が助かったのだと実感がわいてきた。

 先ほど自身を担いでいたこの場のジエイタイの指揮官のようである男に、ピニャ殿下を助けてと詰め寄るボーゼスをなだめつつ、今更のように焼け火箸を押し当てられたかのように痛み出した矢傷を気にしながら彼女は大きく息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 大型ヘリのチヌークは夜中にアルヌスへと帰還した。

 次々とおろされる民間人や政府派遣の使節団、そして騎士団の負傷者達。

 当然特地入りしていた各国の報道者達は我先にその様子がよく見える場所を陣取り、カメラを回して報道している。

 代表取材チームの一部は警備の自衛隊員を相手に政府の使節団への取材を申し込み、その中に栗林菜々美の姿もあった。

 当然けんもほろろに追い返された菜々美はなんとか警備を越えて使節団に突撃インタビューできないかと機会をうかがっていたが、ふと感じた悪寒にふりむく。

 

「え、えぇー……?」

 

 その視線の先では、古村崎が怒鳴るようにしてカメラに向かって語りかけていた。

 なぜかその周囲にはぽっかりと誰もいない空間が開き、代わりに周囲の篝火の明かりでいくつもの影が踊っている。

 菜々美の視線はゆらゆらと揺れる影に固定され、次第に周囲の音も遠ざかっていく。

 やがて人の影の数が周囲の人間よりも多いことに気づき。 それらが本来あり得ない、光源へ向かって延びる人の影であると理解し。

 

「ちょっと失礼」

「っひゃぁああ!?」

 

 ぽんと叩かれた肩に素っ頓狂な声を上げた。

 

「ななななんえすかっ!?」

「あぁ、ちょいと引きずられかけてたんでな。 ああいうのはあまり見つめたりしないようにって注意は聞いていたか?」

「聞いてますが、あれがそうなんですか!? ってあれ? 影がいない……」

 

 そりゃあ本来見えちゃいけないものがいつも見えるわけがないさ、と振り向いた先にいた袈裟で禿頭のイケメンに笑顔で頭をぽんぽんと撫でられつつ、菜々美は逃がしたネタにふてくされる。

 加害者になって被害者の夢を見たくなけりゃ程々になー、なんていいながら牧師服の男性(ナイスミドル)が修道服の女性(清楚な金髪美女)を逆エビ固めしているのを止めにいった袈裟の男性(高身長禿頭イケメン)。

 アレ撮っときます? と聞いてくるカメラマンに首を横に振りつつ、菜々美はふと思う。

 そういえば、ここ特地に結構な数がいるあの人達みたいな宗教関係者って、なんで宗教それぞれの正装をしているんだろう、と。

 まるで宗教関係の正装の博覧会のようになった光景を思い返し、首を傾げる菜々美の視界外にて踊る影にも気づかずに。

 

 

 

 

 

 伊丹はベルナーゴ神殿の最奥、祭壇の裏から地底深くへ続く階段を下りつつ、一段降りるごとにいや増していく圧力にさっそく逃げたくなっていた。

 背中に震えるロゥリィが張り付き、右腕にはテュカが、左腕にはレレイが抱きついており。

 ヤオもまたひきつった表情で斜め後ろの至近距離にいる。

 さすがに歩きづらいため、アルフェ達のように地上で待っているかと聞くも首を横に振るばかり。

 おそらく数分程度のはずの道のりではあったが、やたら時間が長く感じたその先でとうとう開けた空間へと出る。

 そこにあったのは巨大な神殿であった。 広大な地下空間に無数の柱が立ち並び、その最奥には神官達が祈りを捧げる祭壇が安置されている。

 そして、今まさにそこへ力としか呼べないものが集中し。

 

『"いらっしゃい、勇者達よ。 そして異界の神よ"』

 

 まるでSF作品に出てくる空中投影型ホログラムのように、向こう側がかすかに透けて見える銀髪を腰まで伸ばした二十代ほどの女性が現れた。

 ガラス細工のような繊細な美貌に静謐な微笑を浮かべ、伊丹達へとその繊手を緩く広げ。

 

  我等は招かれたぞ、異界の冥府の神よ

 

  貴様に死を与えるために

 

 忽然と伊丹との間に現れた、霧を纏う人形の姿をした異界の神の姿に表情をかすかに歪めた。

 轟々と膨れ上がる力としか表現のできない圧力にもはや忘我の域に達した伊丹は祝詞を上げ始める。

 毎度のことながらどうしてこうなったと嘆きながら。



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大変お待たせいたしました。
活動報告でも書いておりますが、リアル事情により八月いっぱいぐらいまで更新間隔が相当開きそうです。
これからもお付き合いいただければ幸いです。

そして今回はホラー要素ゼロです。
次回以降はなんとか盛り込んでいきたいなぁ。


244 さま、誤字報告ありがとうございます!

そして ねこです。 様よりまた挿絵を頂いておりました!
ヒトガタの八眼童だそうです。

【挿絵表示】

実にやばい感じですな!


 

  まずは名乗ろう

 

  我等が人の子より奉じられし真名は 異門不空羂索神 幽徳院 禍津蛭子命

 

  そして汝等が人の子より奉じられし真名は 八眼童

 

  界を渡り 黄泉路を守護せし死霊の報神である

 

『ならば私も名乗りましょう。 私は地底の深淵、冥府を支配する神ハーディ。 歓迎しましょう、異界の神に至った死霊よ』

 

 

 伊丹の祝詞が響く中、その場の人間の脳裏へは囁くような声が聞こえていた。

 相対する二柱の神のうちハーディは神威を強めるが、八眼童はむしろ広大な地下空間を満たすように気配を広げてゆく。

 

 

  我等が意は汝が死 そして我等が人の子の魂の奪還なり

 

『でしょうね。 ですがあなたもわかっているのでしょう? この世界においての死後の魂、その大半が至る冥府の管理は私の権能。 私の領域なのです。 領域を侵すというのならば、その力でもって勝ち取りなさい』

 

 

 ハーディはその繊手を緩く広げ、薄く笑みを浮かべる。

 自身の勝利を疑わない、負けたとしても娯楽として楽しむという超越者の笑みを。

 

 

『しかしここは地の底、冥府の入り口。 私の領域です。 この場においては私こそが絶対であり、法則そのもの。 今は神格を得ているとはいえ、たかが死霊ごときにはあらがうこともできぬと知りなさい』

 

  否

 

 

 言葉とは裏腹に、いかにあらがうかを楽しみにしているハーディの表情が凍り付く。

 八眼童が現れてから地下神殿全体を満たしていた濃霧を払おうと振った右腕が何の効果ももたらさなかったが故に。

 さらに愕然とするハーディの眼前で暗い闇は白い濃霧に払拭され、神殿の石柱は朱塗りの鳥居へと姿を変え。

 その場は無数の鳥居が連なり、濃霧に視界を遮られた無限に続く参道へと変化した。

 

 

  此処は我等が胎の懐

 

  我等が故郷 日ノ本の国也

 

 

 八眼童の領域である異界と、ハーディの領域である冥界への入り口そのものを『重ねて入れ替える』所業に絶句するハーディ。

 さらにその彼女を囲むようにして、この場にいた人々と入れ替わりに次々と様々なモノ達が現れていく。

 

 翼の生えた車輪。 蛇のからみつく杖を掲げた青年。 巨槍を持ち、鎧を着込んだ女性。 様々な服装をし、器物を持つ獣頭人身の者達。 多くの腕に複数の器物を持つ者。

 葉団扇を持つ偉丈夫。 玉を、鏡を、剣を持つ者達。 稲穂を持つ女性。 三足の黒い鳥。 九つの尾を揺らがせる獣。 炎を帯びた龍。

 酒杯を呷る大男。 城のような大きさの骸骨。 響く蠅の羽音。 武具を纏う国際色豊かな武人達。 樹木の角を生やした獣の背に乗る女性。 炎龍ほどもある巨大な鳥。

 霧の向こうに霞む巨体を持つ有角の蛇。 虚空より伸長する長すぎる人の手足。 血染めの帽子を被る小人。 割れた空間からのぞき込む巨大な瞳。 赤い外套を羽織った紳士。

 

 姿も感じられる力の性質も様々な彼等は無限に続く参道を囲むように埋め尽くし、なおも次々と姿を現し続ける。

 古今東西様々なモノ達のうち、八眼童が縁を結ぶのが間に合ったモノ達のことごとくがここに現れていた。

 ソレ等のほとんどはハーディに遙かに劣る力しか持っていなかったが、もはや数えることすら困難になるほどの数現れた彼等の力を合わせれば、ハーディを容易に消し去ることも可能であろう。

 

 

『まさか、これらすべてが神ですって!? 異なる世界に神は干渉できないはず……まさか!?』

 

『"しかり。 我等が界において、神霊妖仏とは人の想念。 その結晶。 我等が人の子がある地において、我等が在らぬ理由もなし"』

 

 

 動揺するハーディへと答える『神殺しの神器(ナユ)』が右腰に携えた神刀を左手で抜刀し、眼前にてたゆたう『神呪の酒杯(深朱の呪杯)』よりこんこんと溢れ零れ落ちる『神酒(神の存在を否定する概念)』を纏わせる。

 多重に響く『謳巫女(ミューティ)』の祝詞のなか神刀を切っ先をハーディの心臓に向けた上段に構え、柄尻に『炎龍の左腕(右手)』を添え。

 ぎしり、と空間そのものを踏みしめて。

 

 

『"自らの冥府に墜ちよ、冥府の神よ"』

 

『そうやすやすとやられるとでもっ……!? このっ、離しなさい!?』

 

 

 地に零れ落ち、無限に続く参道へ広がり、踝まで満たした神酒は地より沸き上がる色のない不透明な濃霧となる。

 濃霧は死者の姿をかたどり。 ハーディへと群がり。 その四肢を、顔を、髪を、身体を、権能を拘束していく。

 無数の死者に拘束されたハーディへと繰り出された神刀の切っ先はその心臓へと突き立てられ。

 

 

『かっ……ぁ……!?』

『"それが汝の人の子の願いである"』

 

 

 ばしゃり、とその形を崩し。 神は墜ちていった。

 

 

 

 

 

  終わったか

 

  はい 感謝いたします

 

 

 ここではないどこか。

 全てが在り、故に無意味と化したソコに言葉という概念が現れ、意味消失していく。

 

 

  我等ではこの子等を取り戻すこと能わず

  誇れ 器の神よ

 

  ありがとうございます 古き神々よ

 

 

 ソレは本来、あり得ぬ存在。

 世界を産む創世の神ですら意味消失する、世界の狭間『混沌にして根源』の領域において自我を保ち。 自身だけでなく認識した相手の存在を確立させ続ける。

 それを成し遂げるのは、もっとも新しき神となった亡霊。

 神秘を内包せぬ世界より零れ落ち、神秘を内包する世界にて死した人間。

 

 『魂を初めとした神秘を持たぬ亡霊』。

 

 矛盾したまま存在を確立したその亡霊は、『矛盾を矛盾のまま肯定する』概念となった。

 故にその新しき神に受け入れられぬモノはない。

 それは光と闇を、炎と氷を、生と死を。

 あらゆる対極の存在を内包し、肯定し、行使する。

 世界にすら縛られることはない。

 故にその神を縛ることができるのは人の想念のみ。

 その神もまた、人であったが為に。

 

 

  彼の神は放逐し 隔離した

  あとは生者の領域

 

 

 偏在する無数の自身、そして自身を器とする彼等と共に。

 世界の狭間、『混沌にして根源』に同化する領域において。

 それは幾多の世界を跨ぎ、繋ぐ神となった。




以下裏設定という名の駄文です。


主人公の出身世界は、魂も神霊妖仏も魔力もマナもオドも気も生命力も神秘関係が一切実在しない、『純粋物理法則に支配された完全な物質世界』です。
そんな世界の人間ですから、気も魔力もオドも生命力も魂魄も持っていませんでした。
ところが自然現象としての空間の揺らぎで、それらが実在するゲート日本に落ちてきてしまいました。
結果『ゲート日本の世界基準では生命体ですらない、生きて思考する人間』という矛盾存在となってしまいます。
ここでゲート日本に来てから時間があれば、世界は矛盾を何らかの形で解消しようとしていたでしょう。
ところが世界を渡った時点で瀕死だった主人公は、『生命体ですらないのに生きて思考する人間が死亡する』というダメ押しの矛盾を発生させます。
死者は成長できない(変化できない)という原則も相まって、主人公は『生きているように行動できる亡霊』になりました。
そうして亡霊にはありえない、確固とした思考力を維持したままの亡霊が完成したわけですね。
以降の本編での変化はすべて、存在そのものが矛盾している主人公だからこその物です。

……まぁ、亡霊主人公の小説について設定こねくり回してた頃のをそのまんま使っているので、それこそ矛盾していそうですがそれはそれで。。


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反応と黄泉返り

>偽ハリー さま、誤字報告ありがとうございます!

大変お待たせいたしましたー!
とりあえず一話分書けたので投稿いたします!
なお、この小説は門の閉鎖で一度完結となります。
後は外伝や後日談をちょくちょく書く予定です。


 

 その日、程度の差こそあれ地球と特地双方の世界が震撼した。

 

 双方の世界において、神よりの託宣が下ったのだ。

 その内容とは、日本のもっとも新しい神が特地の冥府の古き神を下し、冥府に封じたということ。

 以降、よほどのことがないかぎり大きな介入はないということ。

 そして、『門』による世界そのものへの影響について。

 このまま『門』を維持すれば双方の世界に大きな影響を与え、最悪世界が滅びかねないということ。

 

『各国天文台より衝撃の発表! 星が動いていた!?』

『米・露 観測及び分析結果が判明するまで静観の構え』

『英国皇太子 円卓縁の地を訪問』

『中国 日本に特地調査チームの派遣を再度打診か?』

『歴史的快挙か新たな火種か 宗教紛争地帯において銃声途絶える』

『WHO 日本への駐在チーム増員を発表』

『遅すぎた恐怖の大王! なにがおこるのか!?』

 

 地球各国のメディアはこぞって『門』の影響について、これからの各国の対応について報道を繰り返し。

 地球は未だかつてない混乱に満ちていた。

 

 一方特地においては『門』の影響についてよりも、古き強大な神であるハーディの敗北と、それをなした異界の神についての衝撃のほうが遙かに大きく響きわたっていた。

 各地に存在する戦いの神エムロイの神殿、及び神官たちによって布告されたその宣言は盟約の神デルドートにより保証され。 復讐の神パラパンによって賞賛されたことで事実であると人々に認識された。

 敗北したハーディについては、その身を完全に冥府へ封じられ。 現世へ干渉する手段の大半を剥奪されている。

 ただし冥府及びその機能については、特地の神々によって保証されていた。

 

 そして。

 八眼童が自身の権能及び領域として告知したのは、『死者への最期の報い』、そして冥府と現世の狭間である『黄泉路』であり、『誰彼時』。

 

 今まで特地のどの神も自身の領域として指定していなかったため領域そのものについては混乱もなく受け入れられたが、『死者への最期の報い』については特に復讐の神パラパンとの間で争いが起こるのではないかと思われた。

 が。 ハーディへの報復がいたくお気に召したらしい復讐の神パラパンから、快く自身が担当する復讐の権能を『生者の復讐』と『死者の復讐』にわけ、『死者の復讐』が八眼童に譲り渡されたことで特に混乱もなく事態は解決した。

 

 現状大混乱に陥っているのはハーディに関連する神殿や神官達であり、それは外部からの要請に対応どころか取り合うことも難しいほどである。

 そう、つまり帝国はこの時点で、ハーディの加護という八眼童に対抗する後ろ盾を失ったのだった。

 

 

 

 

 

 やってやったぜ!!

 

 いやぁ、最後の瞬間まで本当に気が抜けない戦いですた。

 あの戦いをものすごく簡単に例えるなら。

 

 遊ぼうぜ! おまえ自機側でわたしラスボスな! と『最終鬼畜弾幕ゲー』を始めたハーディにたいし。

 

  いいぜ! ただしフ○ムな!

 

 とゲーム機本体イジってソフトを入れ替え、

 

  騙して悪いがおまえが自機側なんでな、死んで貰おう。

 

 と、フルスペック全盛期かーちゃん with 艦載上限一杯の某乙女&ハイランカープレイヤー操作次世代機軍団にハーディを単騎で挑ませたようなもんである。

 もちろん操作機はⅤ装甲核で。

 

 ちなみにコントローラー投げ捨てて場外乱闘してくる可能性も考えて鬼のように強い方々(比喩でない)にも待機して貰っていたし、まぁ慈悲はないよネ!

 なお、ハーディが自力で復活できないように復活できる条件もこちらですでに決めて、縛ってあったりする。

 ハーディにも伝えてあるから、今頃どうやって条件を満たすか四苦八苦しながら考えてるんじゃないかな。

 その条件は実に簡単で、単純明快。

 

 自身の伴侶に、冥府の奥底にいる自身を地上まで連れ出して貰えばいい。

 

 当然その間のハーディは、すべての力と自身からの行動の全てを封じられ。 さらにハーディに恨みを持つ存在全てからの嫌がらせのフルコース(ただし直接的な危害を加えることは無い)を味わう羽目になるけどな!

 そして伴侶に課せられた禁則事項は六つ。

 

 ・ひとつ、冥府の物を口にしてはいけない。

  もちろん水も駄目だ。

  道中は酷い飢えと乾きに苛まれるだろう。

 ・ひとつ、答えてはならない。

  語りかける声に答えることも、助けを求める子供に手を差し出すことも許されない。

  選んだのはハーディただ一つなのだから。

 ・ひとつ、離してはならない。

  ハーディを連れ出す際はその手を握り、決して離してはならない。

  繋いだ手が握るのは、神事に賭ける己の命である。

 ・ひとつ、見てはならない。

  神事を開始してから完了するまで、自身の前方以外を見てはならない。

  振り向くことも、ハーディの姿を見ることも許されない。

  その光景は生者の魂に耐えられる物ではないのだから。

 ・ひとつ、逸れてはならない。

  正しい道順をたどらなければならない。

  逸れれば最後、二度と還ることはないだろう。

 ・ひとつ、遅れてはならない。

  決められた時間以内に神事を完遂せねばならない。

  越えれば二度と現世に還ることはないだろう。

  冥府とは本来、生者が訪れる場所ではないのだから。

 

 しかも失敗した伴侶は身体を失い、ハーディの伴侶として冥府に囚われる模様。

 さて、何人目で無事連れ出されるかな?

 たとえ何人目かで成功しようとも、失敗した伴侶は冥府に囚われたままだ。

 その分だけ冥府で伴侶達と過ごすことになる。

 たとえば5人目で成功したとするなら、4年間冥府で伴侶達と過ごし、1年間現世で伴侶と過ごすことになるだろう。

 実に楽しみだ。

 彼の神がいかな過程を見せるのか。

 

 実に、楽しみだ。

 



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踊る会議と望まれた者

おぉ待ぁたぁせぇいたしましたぁー……!!
大変お待たせいたしましたが時間もとれるようになってきたのでのんびり投稿再開です!

hibikilv さま、yu- さま、ライスボール さま!
誤字報告ありがとうございます!


 

 喧々囂々と議論にすらならぬ罵声が飛び交う議場、その中央にて。

 帝国に日本を、異界の神を引き込んだとして罪人のように引き立てられてきたピニャは、これから帝国を襲うであろう苦難を想像し。 虚ろな目で周囲を見渡した。

 自分では制御できぬほど鋭敏化した見鬼の才を持ち、武器となる守り刀を取り上げられた彼女の目には。 議場を、いや帝国そのものを覆う瘴気が色濃く写っている。

 表現しようのない色彩を放つ『ナニカ』が霧のように滞留し、視界を埋め尽くす。

 その中心にあるのは、玉座を模したであろう豪奢な椅子にふんぞり返る兄の隣に侍るヴォーパルバニーの女。

 艶美な笑みを浮かべた彼女から視線を逸らせば、目にはいるのは未だに日本と戦い、勝つつもりでいる愚か者ども。

 彼らはこの期に及んで焦土作戦を、あまつさえ自衛隊の所業であると偽って行っているというのだ。

 さらにはアルヌスへ向かう隊商の一部を敵と内通しているとして襲撃し、強奪した物資を軍の拡充に当てている(おそらくは自身の懐にも入れている)と豪語する者までいる始末。

 

「(これはもう、だめだな。 帝国はおしまいだ)」

 

 皇帝である父は病床に伏して長く、すでにいつ冥府へ召されてもおかしくないほど消耗している。

 うわごとでひたすら許しを請う、痩せこけて骨と皮になった父王の姿は、そのまま帝国の未来を暗示していると思える。

 このままいけば、いやなにをしようと帝国は確実に滅びるだろう。

 であれば、帝国の臣民を守るために自分に残された手段はただ一つ。

 しかし、それを実行するにはあらゆるモノが足りない。

 絶望し、諦観し、それでもともはや惰性で手段を探し。

 そうして、決してあきらめぬ彼女を彼らはみていた。

 

 

  からん、ころん。

 

 

 その小さな音は、しかし喧々囂々と交わされる議論という名の罵声の中、部屋の隅々まで響きわたった。

 誰もが不審に思い、音の出所を探る。

 

 

  かちゃり、こつり。

 

   ぺたり、ずるり。

 

 かつん、ぱたり。

 

    ぽた、ぽたり。

 

  ことん、かつかつ。

 

 

 木靴の足音、具足の鳴る音、杖を突く音、裸足の足音、何かの這う音。

 様々な音が、足音が、移動する音が。

 気配もなく姿もなく、近づいてくる。

 部屋の壁の向こうを無数の音が歩き、這い、跳ね、転がり。

 正面の扉の向こうへと集まっていく。

 扉の前に立っているはずの兵士達の誰何の声も、気配すら感じられず。

 室内の人々は座り込んだまま動かないピニャを放置し、なにが起こっているのか、皆がなにに怯えているのかわかっていないゾルザルの周囲に集まっていく。

 やがて音の全てが止まり。

 がちゃり、と扉が開いた。

 

「おっ、おまえはあのときの!!」

「ご無沙汰しております、オウジサマ。 今回はお願いしたいことがあって参りました」

 

 扉の向こうから流れ込む霧とともに現れるのは、あの地震の日にゾルザルにとっての当然を破壊した大罪人である伊丹。

 そして魔導師の少女であった。

 その姿にゾルザルは恐慌をきたし、伊丹を指さして叫ぶ。

 そいつを殺せ、殺してしまえ、と。

 

「やっぱこうなるかぁ。 じゃ、レレイお願いね?」

「まかされた」

 

 重武装を施されたジャイアントオーガーが部屋の奥から姿を現すと、伊丹とレレイをめがけて突撃を開始する。

 しかし部屋の半ばもいかぬうちにレレイの足下より飛来した複数の三角錐に張り付かれ、連続した小爆発を受けて倒れ込み二度と立ち上がることはなかった。

 ジャイアントオーガーに注意が向いている間に回り込み、攻撃しようとした兵士達は伊丹の小銃によって足を穿たれ、行動を制されてしまう。

 

「さて、もういいですかね? 正直暇じゃないので早く終わらせたいんですが」

「なっ、なんだ! 貴様、今度は何のようだ!?」

「用事があるのはわたし。 レレイ・ラ・レレーナ。 貴方が雇った殺し屋に、わたしを狙わせるのをやめさせてほしい」

 

 ゾルザルならばやりかねないとざわつく周囲を無視し、伊丹は休みがないから積みが増えてるんだよなぁとつぶやきながらゾルザルに近づき。 テューレが差し出した金の杯にワインを注ぎ、ゾルザルに持たせる。

 そうして窓の外を指さして注意を逸らさせて。

 

「ひっ!? うわぁぁああ!?」

「貴方がいつ、どこでなにをしていようともわたしたちの手は届く。 いつも貴方を狙っている。 わたしに差し向けられたすべての殺し屋を引き揚げさせて欲しい。 さもなくば貴方の頭がこの酒杯となるだろう」

 

 すこんと孔が開き、ワインがこぼれる杯を投げ出したゾルザルへとレレイが無感情に告げる。

 必死になってガクガクと頷くゾルザルを見ると、レレイは傍に戻ってきた伊丹とともに部屋から出ていった。

 それを引き留める者は誰もおらず。

 最後に扉が独りでに閉じ、異様な空気もともに過ぎ去ったのだった。

 

 

 

 

 

「で、殿下はついてきてもよかったので?」

「ここで聞くのか!? え、ついてきてはいけなかったのか!?」

 

 無数に並ぶ鳥居が続く、霧に閉ざされた無限に続く参道。

 八眼童の神域にて、アルヌスの丘の社へと続くその道を歩いていた伊丹の質問に、ピニャは愕然とした声を上げた。

 彼女は伊丹に手招きされたので伊丹達についてきたのである。

 その当人からなぜついてきたのかなどと聞かれるのは完全に想定外であった。

 

「いえ、今回はレレイへの暗殺者をどうにかするのが主目的でして。 皇女殿下をお誘いしたのは、八眼童様が願いを聞き届けられたからですね」

「ヤツメワラシ様が、か? なにゆえ? 妾はもはや帝国にいらぬといわれたに等しいのだぞ。 ヤツメワラシ様へそのような、願い、を、祈るもの……など……」

 

 自嘲するピニャの視界に過ぎる、見覚えのある姿。

 ほんの瞬きほどの間であり、目の錯覚としたほうが自然であろう。

 しかし確かにそこにあったと思えた。

 

 否、確実にあるのだ。

 

 神に願い、叶えられるほどの想いが。

 自身を救わんとした彼らの心が。

 

「そう、か……。 あの者達は逝ったのか。 そのうえで妾を救わんと祈ってくれたのか。 妾が生きねばならぬと、そう願ってくれたのか……!」

 

 伊丹はレレイの手を引いてピニャより数歩前にでると、ゆっくりになったピニャの速度にあわせて歩む速度をゆるめる。

 ふと視線を上に向ければ、連なる鳥居のひとつに腰掛ける人形が一つ。

 伊丹には、その人形の変わらないはずの表情が緩み、微笑んでいるように見えた。




それと、活動報告にて帝国に関しての募集をしております。
覗いていただければ幸いです。


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神器と愚者の眼と軍人

まだまだ上手く書けてはいませんが、とにかく書かないとエタってしまいそうなので投稿していきまするー。

244 さま、オカムー さま、誤字報告ありがとうございます!


 

「(あぁ、ああ! まさかこんな日がくるなんて! やっと、やっと私は……!!)」

 

 

 ゾルザルの命により、現在の帝国の中枢とその護衛の軍は帝都より北東へと進んでいる。

 その隊列の後ろのほう、ゾルザルや主戦派議員達の為の食事等に関する荷車の集団にて。

 馬の背に揺られながらテューレは自身の腹を撫で上げ、ほぅと熱い息を吐いた。

 

 あの日、帝都の王城から二人の王族が姿を消した。

 皇女ピニャは、直接ゾルザル達のいた部屋に現れたイタミによって連れ出され。

 皇帝モルトもまた、自身の寝室から誰の眼に触れることもなく姿を消した。

 それぞれの部屋の前にいた歩哨は扉は開いておらず、不審な物音も人影もなかったと証言しており。

 さらに言うならば、当時の気象は晴れ。 城内のどこにも霧のようなものの目撃証言はなく、いたって平常通りであった。

 なお忽然と姿を消した二人の王族は、数日後に到着した早馬の伝令によってイタリカの街にいることが判明。

 そのうえ帝国の皇女であるピニャが皇位継承権を放棄。 そして『連邦』の発足を宣言しているという。

 

 

「(あの女は彼の君の庇護下にあります、放置しても問題はないでしょう。 そして連邦はその発足の目的上、反発する帝国を喰い潰して滅ぼす)」

 

 

 右手を手袋から引き抜いて眼前に掲げ、手首までを覆う痣でできた精緻な模様をみる。

 じわりじわりと熱く疼く四肢の先端には、着衣に隠れて見えないが徐々に浸食するように痣が広がっていた。

 それは帝国の零落の証。

 テューレの全身が精緻な痣に覆われた時、それは帝国が完全に消滅した時だろう。

 

 そしてこれは、帝国の指導者にも現れる。

 

 ゾルザルにもテューレと同じ痣が現れ、同じ範囲を覆っている。

 そして同時に、覆われた範囲が麻痺してもいるのだ。

 自らが支配しているモノが減るほど身体の自由は利かなくなり、やがては国とともに死にいたる。

 逆に言えば帝国が滅びない限り死ねない。

 あれほど欲しがっていた帝国とともに死ねるのだ。 本望だろう。

 

 

「(あぁ、はやく、はやく、はやく……!!)」

 

 

 ゾルザルは迫る自身の死に怯え、同じ症状を受けているテューレに依存するだろう。

 依存し、ただでさえ足りない頭を働かせることもできず、愚かな傀儡として帝国とともに終わる。

 

 その呪いの基点が、テューレであることにも気づかずに。

 

 そして完全に呪いが進行しきり、帝国が滅び、傀儡が死のうともテューレには終わりはない。

 八眼童の端末の一つとして生き続けることになるだろう。

 国と支配者を結びつける、神器の一つとして。

 

 

「(殺しにきて(愛しにきて)!!)」

 

 

 呪詛を納めた熱く疼く胎を撫で上げ、テューレはワラウ。

 

 

 

 

 

  燃える。 焼ける。 消えていく。

 

 辺り一面を埋め尽くす黒煙と炎のなか、彼はそれを見ていた。

 

  斬られる。 刺される。 殺される。

 

 平和に過ごしていた村人が、自衛隊の隊服とは似てもいない緑のまだら模様の服を着た人間達に殺されていくのを。

 

  引き裂かれる。 食いちぎられる。 喰われていく。

 

 この世のモノとは思えない怪物達に彼らは襲われ、狩られ、食い散らかされていく。

 

  犯される。 嬲られる。 辱められる。

 

 人の尊厳を冒され、壊されていく。

 

  笑いながら。 怒りながら。 恍惚としながら。

 

 抵抗するのが悪いのだと、逆らうのが悪いのだと、支配されないのが悪いのだと。

 帝国に滅ぼされない日本が、帝国軍の勝てない自衛隊が、我らが神の勝てない異界の神が悪いのだと。

 だから貴様等は殺される。

 だから貴様等は犯される。

 だから貴様等は喰われる。

 だから貴様等は虐げられる。

 

  死ね。 壊れろ。 喰い殺されろ。

 

 全ては帝国に逆らう日本が悪いのだから。

 

 

 彼は見させられる。

 この世の真実を。

 そう望んだが故に。

 一切の誇張も虚偽もない、ありのままの姿を。

 その光景、体験、心情のすべてを。

 彼はその武器(カメラ)に収めさせられていた。

 

 

 

 

 

 彼は思う。 なぜ自分がこんな目に遭っているのかと。

 

 この任務を拝命し、実行し始めてから最初のうちは順調に成功を収めていた。

 しかし作戦の回数を重ねるうちに、様々な問題が次々と立ちはだかってきたのだ。

 

 ある時は襲撃予定の村が、襲撃直前になって避難を始めた。

  黒妖犬をはじめとした足の速い怪異を真っ先につっこませることで対処した。

 

 ある時から怪異達がざわめき、言うことを聞かなくなった。

  追い立てて運用することで対処した。

 

 ある時から兵の間で病気や怪我、幻覚幻聴が多くなった。

  襲撃を交代制にし、略奪狼藉を限界まで許可し、休養を多く取ることで対処した。

 

 ある時から襲撃にあわせてジエイタイに捕捉されるようになった。

  襲撃する部隊を複数に分け、複数の村を同時に襲撃。 遭遇したら撤退を第一にすることで対処した。

 

 ある時は錯乱した兵や怪異の暴走で自軍に被害がでるようになった。

  相互監視を徹底させ、異常が見られれば即殺害するようにして対処した。

 

 問題が起こる度に対処し、任務を遂行してきた。

 そのおかげで未だに本隊は発見されていないし、ジエイタイが支配領域を拡大していない以上作戦は確実に効果を発揮しているといえる。

 全ては我らが帝国のため。 全ては必要な犠牲なのだ。

 

 だから。

 

 

「くそっ、こっちをみるな家畜どもがぁ……!」

 

 

 自分は栄えある帝国の人民であり。 侵略者たるニホンのジエイタイを撃破する為の事前作戦に従事する正義の帝国軍人であるのだ、と。

 彼は自身に言い聞かせ、幕舎の隅の暗がりへと器を投げつける。

 そんな彼を、取り囲む『彼等』はただ見ていた。



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異形と信仰と支持される者

ほんっっっとうにお待たせいたしました……!!

活動報告にも書きましたが、政治関係が全く分からなくて詰まっておりました。
ので、もうわからないとこや書けないとこ、書きたくないとこは全部飛ばしていきます!
エタってたまるかですので、とにかく完結最優先で!

細かいとこは、後で外伝でも書けばいいですし(書けるとは言ってない)。


 

 その怪異は自身の姿形を体積すら変化させてヒト種の幼体に擬態し、ヒト種のコミュニティに潜り込んだ後で凶暴な本性を露わにして暴れ回るという生態を持つ。

 怪異使い達はその生態を利用し、基本的に弱者の保護を行っている自衛隊に擬態している怪異を保護させ、しかる後にヒトには聞こえない特殊な周波数の音を発する笛の音の合図で暴れさせ損害を与えようと画策していた。

 

 しかし。

 

 ある怪異は自衛隊が近づいた時点で恐慌に陥り、本性を曝して暴走しこちらに損害を出した。

 ある怪異はアルヌスの街に保護させたはいいが、その後の足取りがわからなくなった。

 ある怪異は自衛隊に保護させた直後に暴走させて本隊撤退の時間を稼ごうとしたが、なにかに怯えきっており指示を無視して擬態したままだった。

 

 あまりにも運用がうまくいかず、なおかつその原因が異界の神にある可能性が高いことから早々に怪異を用いた『埋伏の毒』作戦は頓挫することとなる。

 そうして彼等は単純な正面戦力として運用されることとなったが、自衛隊やアルヌスの街に送り込んだ怪異達は今。

 アルヌスの街の外周付近に小さな集落のようなモノを築き、比較的理性をもつ他の怪異達と一緒に自衛隊の現地外部協力戦力として働いていた。

 ほとんどの怪異は所属を示すために揃いの簡易装備を身に纏い、街の最外周を警備、防衛する戦力として。

 ヒトや無害な動物に擬態可能な一部怪異達は、伏せられた戦力としてアルヌスの街にとけ込んでいる。

 なお一時期心霊現象が多く目撃されていたアルヌスの街では、実体を持つだけマシとある程度受け入れられている模様。

 

 

「あの子達、あれで擬態なんですよね? 想像できないなぁ」

「いやホントやばいからね? あの時も何度も死ぬかと思ったし。 でもなんで私の指示を聞くようになってんだろ?」

「そりゃあれですよ、正面から圧倒してたし擬態した同族なんじゃないかって勘違いされボっふぉ!?」

 

 

 そんななか、久々に休暇を与えられた第三偵察隊の面々はアルヌスの街の食堂にて昼食中である。

 とにかくあちこち引っ張りだこな伊丹はともかく、彼等はちょくちょくこうして集まり、食事をとっていた。

 そんな彼等がよく話題にあげるのはやはり、彼等の隊長である伊丹のことについてである。

 というより、話題になるようなことを伊丹が多くやっているだけともいえるのだが。

 

 

「隊長、今度は学者先生達を連れて調査でしたっけ。 かなり辺境まで行くらしいですけど、連邦のトップがそれについていくってどうなんでしょうね……」

「世界を繋げ続けるのはヤバいってお告げの裏付け調査らしいし、建国されたばっかりの連邦のトップが箔付けのために直接査察するって名目らしいっすよ。 まぁ、ピニャさんの息抜きが主目的じゃねぇかなぁ」

「『門』の閉鎖、こっち(特地)は神が身近にある世界だから最悪神様の託宣でなんとかなるらしいけど、うちの側(地球)は明確な理由が必要になるもんねぇ。 アメリカにロシアにいろんな国が『門』が世界に及ぼす影響の調査で協力してるって言うし、うまくいけばいいけどねー……」

 

 

 なお彼らは一応声を潜めているが、店内にいる亜人などの耳のよい者達は彼等の話に聞き耳を立てていたりする。

 だが日本とは常識の違う特地の彼等には、なぜここまで深刻そうな話になっているのかがよくわかっていなかった。

 彼等にとって、気まぐれとはいえ神は神。 例外こそあれ、基本的に神は信徒に恩恵を授けてくれる存在なのだ。

 恩恵の種類や大小に違いはあれど、信仰を捧げることで恩恵を授けてくれるという点については八眼童もかわらないと彼等は認識している。

 慈悲深い神である八眼童であれば、特地の信徒を見捨てることはないだろうと。

 そして信徒というのは、基本的に奉ずる神に従属するものである。 故に自衛隊もまた、この地に残るのであろうと考えていた。

 

 まぁ実際には自衛隊を含む特地派遣陣は、本国からの帰還命令があればすべて帰還してしまい。

 八眼童もまた、特地に地球の人間がいなくなればその力の大半を構成する地球の神霊妖仏からのバックアップや亡霊、英霊達の協力が失われるため大幅に弱体化してしまうのだが。

 さらにその場合。 特地における畏れや信仰が未だ完全には定着していないため、冥府の押さえにその残った特地の神としては僅かな力の大半を使わざるを得ないのだ。

 彼等が期待しているような規模での力の行使が可能になるには、それなりの時間が必要になるので肝心要の時には間に合わない可能性が非常に高かったりする。

 

 そんな彼らは今日もまた、それぞれの信仰する神々に祈りを捧げる。

 よき日々に感謝を捧げながら。

 

 

 

 

 

「殿下、昼餉をとられてから少し休憩をなされてはどうでしょう? 朝からずっと執務を続けておられていますし、御身を損ないかねません」

「そうか? そうだな。 うむ、少しだけ休むとしよう」

 

 

 イタリカに置かれた、『連邦首脳部(仮設)』にて。

 帝国の正統政府の解体と、その連邦への再編に当たって発生する膨大な執務に忙殺されていたピニャは椅子に座り直すと大きく延びをする。

 全身から響くポキポキという音にずいぶんと疲労がたまっていることを自覚し、しかしこの程度では止まっていられないと首を振った。

 

 

「しかし、思ったよりも妾に従ってくれる諸侯が多いな。 帝国を解体し、あまつさえ政治形態が異なる連邦への再編。 相当な反発や反乱を覚悟していたのだが……」

 

 

 ふと、机上に並べられた諸侯からの臣従を申し出る手紙の束をみたピニャがつぶやく。

 彼女としては、執政をとれぬほど憔悴した父王に許可を得たとはいえ。 諸侯は帝国を解体して終わらせようとする自分よりも未だ行方しれずの兄ディアボや、帝国第二の都市テルタに皇太子府を移したゾルザルに臣従を誓う者が大半だと考えていたのだ。

 故に説得の為の文面を頭をひねって考え、なんとか書面に起こしてさぁ諸侯へ発送しようと言う段階になって諸侯から送られてきた臣従を申し出る手紙に、腑に落ちないものを感じていた。

 

 

「おそらく、ヤツメワラシ様とニホン、そしてピニャ殿下がおわすことの影響が大きいのでしょう。 現時点でニホンとの友好を結べている数少ない勢力の一つであり、なおかつ連邦は帝国を元にして作られる国家。

 ニホンと完全に敵対してしまった帝国よりも。 帝国の負債を償い、その上でニホンと友好を結ぶと宣言されたピニャ殿下の率いる連邦へと恭順を示すのは道理かと」

「うぅむ、そういうものか。 妾自身には国を率いるのに威厳も力も足りぬゆえ、帝国皇女という肩書きをなくせば貴族どもはついてこないであろうと考えていたのだがなぁ」

 

 

 控えていたボーゼスの意見にピニャは納得の声を上げる。

 とはいえ、査問会などで酷く自信を傷つけられていた彼女にはどうしても自分が一国の盟主にふさわしいとは思えず。

 されど護られ、託された自身にしかできぬからと執務で無理をしがちになっていた。

 そんなピニャを支え、無理をしすぎないよう時に強制的に休ませているボーゼス達は願う。

 連邦が国家として確立し、軍を纏められるようになるまで帝国が大きな動きを見せないことを。

 

 まぁ、無理な願いだったのだが。



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終焉の影と大国の影

お待たせしました!

あとこれからはかなり飛びます。
今回投稿で示す通り、イベフラグがごっそり折れますので。


 

「これは酷いな……」

 

 

 富士の樹海、その奥地。 とある洞窟の入り口にて。

 その地を調査にきた研究員の視線の先には、瑞々しい若草色の枯れ葉の隙間を『黒い霧』が流れる光景があった。

 前代未聞の『宗教関係者が調査指揮を執る、日本国主導の環境調査団』の一員である彼がサンプルを採取するのを『黒い霧』に満たされた洞窟の奥から見つめる人影が一つ。

 

 まぁ、自分なわけだが。

 

 特地のクナップヌイで見た『黒い霧』、アポクリフ。

 触れたものに死を与え、実体を持たない『影』。

 当然そんなものが地球にも出現しているかもしれないということで、地球でも『協力者(神?)』を通して調査したところ。

 世界各地に数カ所の予兆、そして日本のこの地での発現を確認したのだ。

 結果、自分に協力してくれている各宗教関係からそれぞれの形で警告が発せられ、こうして調査団が組織された。

 

 今現在、世界各地で様々な異変が報告され始めている。

 天文台曰く、星の位置が変化している。

 地震観測所曰く、体感できない微細地震が多発している。

 火山観測所曰く、活発化や沈静化の予兆あり。

 極地観測所曰く、オーロラの発生確率が上昇している。

 GPS等にほんのわずかだが狂いが生じている。

 赤潮の発生、魚群や渡り鳥の大移動。

 エトセトラ、エトセトラ。

 

 それぞれ単独であればなんということもないのだが、それらの異常は『門』の出現以降、僅かずつだが増えてきている。

 国家間でも今はまだ大丈夫でも、これからどうなるかはわからないという共通認識を共有でき始めているようだ。

 一部の国家や組織、団体はそれでも強硬に『門』の権利について主張している。 が、他国国内、特に日本国内での各種工作活動が実質的に不可能と化している現状では、世界世論への大きな影響は与えられないだろう。

 最大の懸念であった某督教を初めとした一神教の横槍も、『門』の向こう側の特地は神の創造した世界ではない、等の理屈を用いて基本不干渉を続けている。

 それに東京湾の太平洋への入り口、その境界の二つの岬の突端に建立されている自分の社が完成してきちんと機能すれば、『門』を都心ド真ん中から安全な海上に移すことができる。

 当然『門』の移設、およびその後の開閉は当分の間自分が受け持つことになりそうだ。

 人類が科学の進歩による、科学的なアプローチによって『門』を開けれるようになるまでは。 そしてそれを人類が問題なく扱えるレベルにまで文明が進歩するまでは。

 『門』および異世界間の諸問題は自分が受け持つつもりである。

 

 だがまぁ、まずは。

 

 『影の霧』とでもいうべきこのアポクリフを自分がある程度扱えるようになっているという大問題をどうにかしなければ。

 たしかに『霧のように見える』、『死をもたらす』、『八眼童の活動の後で出現した』と自分こと八眼童に結びつけやすかったというのはわかる。

 それに特地の者達にとっては自分はまだまだ未知の多い異界の神だ。 ゆえに新たな現象が発生したらとりあえず疑ってみたくなると言うのもわかる。

 だがなにゆえ世界の終わりであるアポクリフまで権能に加えられかけねばならんのか。

 自分は死者の代行、代弁が基本であり、死者に寄り添い、ともにありつづけてきたのだ。 世界の終焉に関する権能など、必要ないし関係もないのである。

 

 というより、やっかいごとを引き寄せるだろうという予感が凄まじい。

 

 なんとかしたいのだが、アポクリフを始めとした世界の終焉に関する権能を明確に持つ特地の神がいないのである。

 さらに前述の理由もあり、特地では自分こと八眼童に世界終焉の神としての権能が付与されかかっている。

 おまけに地球でもネットを中心に、異なる世界同士を結びつけ、死者の安寧を守護する神として世界中で有名になってしまっていることから何か異変があれば八眼童に関係してるんじゃねとか言われる始末。

 特に日本の『彼等』にいたってはいつものをやらかしている。

 別に押さえつけるつもりはないし、むしろそういうことをすれば逆に燃え上がるのが目に見えているのでよほど酷いのでない限りスルーしているが(時々面白いのがあるのが複雑な気分)。

 

 

「(ままならんなぁ……)」

 

 

 影の霧を重ね、束ね、纏め、連ねて括り。

 

 曝して梳かし、撓めて縒りあげる。

 

 そうして編み上げたソレを振り、界へと織り込んだ。

 

 

 

 

 

「ふむ、偉大なりしは政教分離か。 それにしてもここまで神様に力があるとはな」

 

 

 どっかりと椅子に座り込んだ嘉納は、手元の資料をめくると小さくつぶやく。

 そこには現在の世界政治情勢、そして各宗教組織の動向について記されていた。

 

 最大勢力の一神教をはじめとした各主要宗教組織の連盟による、特地への不干渉宣言。

 そしてそれは実質的に、八眼童が特地と地球を結ぶ唯一の二つの世界をまたぐ実在する神であるという事を、各宗教組織が肯定する宣言ということでもある。

 それは『門』についての諸問題が八眼童の動向次第で大きく左右されるという状況を生みだし、結果的に『門』についての決定権の多くを日本が明確に所持することが可能になっていた。

 さらに一部のメディアが、どうやったのか特地での現在の帝国の所行を報道。

 民意は悪逆非道の帝国への自衛隊の実力行使に肯定的へと傾き始めてもいる。

 八眼童により『門』の開閉が保証されたことも相まって自衛隊が特地へと駐屯し続け、連邦政府へと軍事的協力を行うことも可能になろうとしていた。

 

 

「さぁて、これであとは連邦が帝国と決着をつけれるようになるまで自衛隊の抑止力が有効であってくれれば、帝国からの大規模な作戦行動はないんだろうがなぁ……」

 

 

 書類を机に投げ、滑る書類の横にある別の報告書を眺める。

 その報告書には帝国軍に様々な不審な動きがあること、そしてそれが示す最悪の未来予想図についてが記されていた。

 まるで『塹壕』のような大きな溝の構築。 数万の兵を投入した、大規模かつ広範囲のゲリラ戦術。 森林地帯に潜伏していた飛竜による、上空から大網の投下によるヘリの撃墜。 重火器の集中運用でなければ倒せない完全武装のオーガの運用。

 その他、『こちら側(地球)の戦術』が応用されている形跡多数。

 

 

「やっぱり一筋縄じゃいかねぇよなぁ……」

 

 

 その報告書を通してみえる(大国の思惑)に、嘉納は大きなため息をついた。




今年中にもっかいぐらい更新したいなぁ……。


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喜悦と号砲

おおおおひさしぶりですぅ……。
大変お待たせいたしました!


 

 彼にとって、否。

 彼等帝国にとってその作戦は乾坤一擲の大作戦であり、成功すれば連邦の暫定首都イタリカにて元ピニャ皇女殿下率いる連邦中枢を撃破。

 連邦を瓦解させ、その戦力を帝国に再度取り込んで吸収してからニホンを相手に持久戦に持ち込む算段だった。

 

 しかし。

 

 

「おのれおのれおのれぇえっっ!! ピニャのやつめ、どうやってこの短期間でこれほどの防備を整えたのだ!?」

 

 

 自身ではもはや指揮がとれぬと指揮権の大半を部下へ委譲したゾルザルは、伝令のあげてくる報告にか細い声で癇癪を起こす。

 細かく分散していたゾルザル麾下の帝国軍一万は、イタリカに至る山間の街道にて再集結。

 整然とした行進によって前進し、イタリカを遠目に見ることのできる平原へと進出し。

 眼前に広がる、防御陣地に進行を阻まれた。

 イタリカ本来の城壁を囲うようにして二重三重に深い堀が掘られ、要所要所に土と木材、大岩(コンクリート)で作られた障壁と櫓を備えた小陣地がそびえ立つ。

 大がかりな攻城兵器を用意する時間がなく、城壁の門を破壊するために山から切り出した丸太を組み合わせた攻城槌程度しか用意しておらず、さらに敵本隊の誘引と拘束にその戦力の大半を割いている帝国軍では、敵の援軍が到来するまでに目標を達成するのは無謀ともいえる困難である。

 しかし、帝国の有するリソースの大半をそそぎ込んだ乾坤一擲のこの作戦が失敗してしまうと言うことは。 たとえ撤退に成功したとしても帝国軍はその戦力の大半を失い、帝国はその剣と盾を、握る腕ごと失うに等しい。

 

 そう、帝国(皇帝)が戦うためのその手足を失うのだ。

 

 精緻な紋様が這い、麻痺のじわじわと広がる四肢を恐怖で振り回して暴れるゾルザルを、転ばぬよう支えながらテューレは密かにワラウ。

 

 

「(ボウロは崩壊するハリョを纏め、諜報網を維持するので手一杯。 ゾルザルには(帝国)を切り捨てることはできない。 ディアボもまた、帝国の継承権を捨てきれずにいるから私の祝福(のろい)から逃れられず。 先帝モルトはもはや死に救いを求め、届かぬ祈りをハーディへ捧げる亡者にすぎない)」

 

 

 彼女は疼く下腹に淫蕩な微笑みを浮かべ、ゾルザルをその胸に抱きしめる(閉じこめる)

 

 

「陛下、帝国は今まさに滅びようとしていますわ」

 

 

 遠くを見渡す視力(情報収集機関)は失われた。

 囁きを聞き取る聴力(諜報機関)はやがて失われる。

 武器を握る握力(帝国軍の軍事力)もほとんど残っていない。

 食事を嚥下する力(食料自給力)すら乏しい。

 遠くへ届ける声(帝国の発言力)はもうない。

 体調(防諜力)の悪化は慢性的であり。

 四肢の力(帝国の臣下)は失われ。

 全身の感覚(帝国の支配領域)が徐々に麻痺していく。

 

 

「しかし陛下。 陛下こそが帝国であり、帝国こそが陛下なのです」

 

 

 縋りつくゾルザルへと滴るように囁く。

 

 

「陛下が生き続ける限り、帝国は残り続けましょう。 帝国が滅びぬ限り、陛下は生き続けましょう」

 

 

 もはや言葉を聞き取ることすら難しい彼を、その末路を想い。

 

 

「それこそが陛下(帝国)に相応しい最期となりましょう」

 

 

 奪い続けた帝国の末路を想い、彼女は随喜の吐息を吐き出した。

 

 

 

 

 

「あーあ、まぁたやっちまいやがって。 いいかげんに懲りて欲しいもんだが、そうもいかないんだろうね」

 

 

 呼び出されたある部屋に広がる惨状に駒門は顔を覆い、ため息を一つ吐いた。

 その部屋に広がっているのは壁面に開いた無数の弾痕と、同士討ちで事切れた観光客(工作員)事務員(暴力団)の夥しい乾いた血痕。 そして机の上に座る、場違いなぬいぐるみが一つ。

 ゲート周辺でのお客さん(工作員)の活動が活発化していることを受け、駒門達が厳戒態勢に入っていたところにこれである。

 すでに部屋の調査は済んでおり、彼等がある目的のために武器取引をしていたことはわかっていた。

 

 

「焚きつけた宗教屋に武器を流してなにをさせる気だったのやら。 こりゃあ神社仏閣も警備を厳重にしなきゃいけないかね」

 

 

 連日報道される政治家やテレビ関係者、企業の重職に自由業( )の方々の突然の引退、不審死。

 それらに押し流されてしまっているが、今日本ではいつどこで宗教的テロリズムが起こってもおかしくない状況が続いていた。

 各宗教組織は『門』とその向こう側である『特地』に関して不干渉を宣言しているが、一部の過激派はそれぞれの理由で今の現状に強い不満を抱いている。

 

 特地の存在そのものを否定している者。

 特地の神々を、ひいては『八眼童』を悪魔である、神敵であると否定している者。

 『門』の管理は神ではなく、人間の手で行われるべきだとする者。

 『門』についての権能は我らが神のものであり、簒奪した悪魔(八眼童)を討滅すべきだとする者。

 等々。

 

 そんな彼等を同じく現状に不満のある者達(大国)が焚き付け、手段と方法を提供しようとしているのだ。

 当然日本としてもそんなことはさせじと対策を講じてはいるが、国内の混乱(大国の干渉)によってそれどころではなく、十分な対策を講じているとはいえないのが現状である。

 

 

「さてさて、これからさらに忙しく、うん?」

「門警備班から緊急連絡! 緊急事態です!! 小型飛行機が突入、爆発! 死傷者多数、門への影響現時点では不明!」

 

 

 これからのことについて思索を巡らせる駒門の元へ部下が駆け寄り、報告をあげる。

 それは二つの世界にとって、これまでにない争乱の一日が始まる号砲だった。



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解放と破壊と(伊丹の)絶望

っしゃおらぁ!
続きだぁ!

寒河江椛 さま、Track.58 さま、誤字報告ありがとうございます!
馬骨オービット さま、とても勉強になりました!


かなり様々なイベントカットしております。
後書きにて簡単に説明しておりますー。


 

  辿る。

 

 我が神に縋り、祈りを捧げ、悪魔を滅せよと説いた彼は腐敗した血肉を吐き続けていた。

 

  辿る。

 

 全てを捧げた献身を持って来世の喜びを得るはずの彼女は、狭間にて死を失った。

 

  辿る。

 

 己が得るはずのモノを奪われたと断じ、取り返そうとした彼は全ての皮膚を永遠に失った。

 

  辿る。

 

 自らが属する組織のために。 それ以外を持たぬ彼等は輪廻の輪に還った。

 

  辿る。

 

 我らが領域を広げるため、障害を除こうとした彼等は境界を失い溶け落ちた。

 

  辿る。

 

 他者の阻害を悦び、自らを高めることをしない彼等は先へ歩む力を失った。

 

  辿る。

 

 地を疾り、風を巡り、水を辿る流れ()を己とし。

 

  辿る。

 

 想念を紡ぎ、概念を織り上げ、権能を仕立て。

 

  辿る。

 

 彼等と共に、我等と共に、我等が子等のために。

 

  辿り、巡り、結ぶ。

 

 ここに、『歪み』は解き放たれた。

 

 

 

 

 

 ハイジャックした小型飛行機を用いた『門』への自爆特攻テロは、周囲を覆う鉄筋コンクリート製のシェルターによる防護もむなしく『門』の一部破損と、警備等を行っていた人々から多数の死傷者を生み出してしまった。

 さらに事態の収拾を図るべく行動を開始する自衛隊へ、火のついた火炎瓶が投げ込まれる。

 逃げまどう民間人の中から、武装を隠し持っていた者達が現れると自衛隊へと攻撃を開始。

 小型飛行機にまだ多く残っていた燃料や、特地へ輸送する為に一時的に集荷していた物資が燃え上がり。

 

 その瞬間、地球と特地双方において『空間そのものが大きく振動する』現象が発生した。

 

 距離、高度、大地にふれていようといまいと、飛行中の航空機の中でさえも。

 あらゆる物理要素を無視して世界が、空間が揺れたのだ。

 さらに、その直後に世界各地で様々な異常現象が発生。 世界は混乱の渦へと叩き込まれたのである。

 そしてその中心である『門』の周囲では、瞬間的に自身の手すら見えない濃霧が発生。 直後に消失し、『門』周辺は静寂に包まれた。

 そこに残っていたのは呆然とする自衛隊員に民間人。 そして周囲一帯から火の手の消えた、元『門』であった崩壊した石塊だった。

 

 

 

 

 

『……で、結局『門』の大規模な再開通はないってことでいいんだな? 伊丹』

「あぁ、相当お冠みたいでさ。 世界を渡る術は人の手には早すぎるってことなんだろうなぁ」

 

 

 元は『門』のあった地に敷かれた特地における八眼童の本社、その本殿にて。

 宮司服姿の伊丹は、地球にいる嘉手納と携帯電話で報告を行っていた。

 

 『門』が完全に閉ざされたことで特地と地球の間では、八眼童の社内限定での距離と世界の違いを無視した無線通信以外の全てが閉ざされていた。

 本来ならば段階的に『門』による双方の世界の結びつきを切断し、世界そのものに蓄積された『歪み』を解消するはずだった。 のだが地球側の問題により『門』が破壊され。

 蓄積された歪みは双方の世界に様々な影響をもたらした。

 地球全体を襲う震度6弱程度の地震、短期間に湧き起こった濃霧や豪雨に突風等の異常気象、磁場の乱れとそれによる局地的かつ短時間な太陽風の地表への到達、その他様々な異常現象(奇跡や怪異)の発生。

 しかしそれらによる社会全体への打撃は不思議と拡大することはなく。

 世界の時間の流れの違いや、地球・特地間の無線通信の確立等は八眼童によって保証され。

 『門』破壊の際に発生した様々な異常現象も、双方の世界における神霊妖仏の加護を受けた人々は(・・・・・・・・・)大きな影響を受けていなかった。

 双方の世界は様々な不安要素を抱えつつも、つかの間の平和へと向かっている。

 

 

そっち(地球)こっち(特地)で建設中の『海峡門』だっけ? そいつが完成すればイージス艦で世界間を行き来できるようになるんだから、もうひと頑張りだと思うんだけどねー」

『簡単にいってくれるぜ、現時点でも日本国内は大混乱だっつぅのによぉ。 あれかい? こみけとやらには八眼様のお力でいかせてもらえるからかい?』

「えへへ、バレた? 宮司の特権ってやつさ」

 

 

 駒門の疲れ切った声に、伊丹は締まりのない顔で返す。

 報道やテレビ関係、政界に財界を初めとした各種業界において、様々な不祥事や内部事情の暴露、辞職や自殺に他殺に不審死が相次いだことによって日本国内は大混乱に陥っていた。

 他国も、というより世界中の国々でも似たような現状であり。 自国内に手一杯で、他国にまで手を出す余裕はないので表面上は国家間の平和は維持されている。

 当然、各種大規模イベントなど当面は難しいわけで。

 

 

『あん? こみけとかのドージンイベントは当面中止じゃないのかい?』

「え?」

『ん?』

 

 

 伊丹はスマホを通話状態にしたまま同人系サイトをひらき、トップに掲載されているお知らせを読んで。

 

 

「こっ、『今年のコミケ開催中止のお知らせ』ぇぇえええ!!??」

 

 

 絶望に満ちた絶叫をあげるのだった。





門破壊によるモンスターハザードは八眼童により阻止。
その代わり、異常現象(と神秘現象)が割り増しです。

門の破壊により日本の利益を損なわせ、更に自衛隊と八眼童を特地に隔離、あわよくば日本の民意を煽って自国の都合のいいように!!
……と企んでいた某国の工作員さんたちはみんな門破壊の際の混乱で『転校』しました。
特地にも潜り込んでいましたが、お仕事頑張ると大変な目にあう(しかも本国に連絡取れず帰ることもできない)ので……ね?

ディアボはアルヌスに潜伏したまま、某国工作員に協力取り付けはしたけどそこまでです。

特地での戦闘は順調に推移し、イタリカでの戦闘も原作よりピニャが有利に。
門破壊の影響で発生した地震、その直後に飛来する『戦乙女』にて決着である。
ハリョの総攻撃も、イタリカに潜入できてなかったので原作よりはるかに簡単に鎮圧された。
ゾルザルもボウロその他も原作通り。
テューレは生きてます。

自衛隊は原作と違い、全隊帰れませんでした。
なので、特地残留戦力が原作と比べとんでもないことになってます。
八眼童による世界間移動が可能になるまで、ですが。

本当、こういうのは本編で書くべきなんですよ……。
書けなかった自分が悔しい……。


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