デジモンアドベンチャー0 (守谷)
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序章
000 序章


どうも。昔デジモンアドベンチャー-というタイトルで二次小説を書いていた者です。
今回こそは完結させるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。




 僕は何処にでも居る平凡な人間だった。

人より何か出来る訳でも無く、人より大きく劣っている所も無い。

未来を考えず、ただ毎日を平凡に過ごして生きていた。

 

そんな僕が唯一他人より優れていると思っているモノは絶対に他人に自慢できない事。

――――デジモンの知識だった。

 

 

「……ここは?」

 

 

気が付くと僕は知らない場所に居た。

床も空も真っ白い場所で、見渡す限り何もない世界だった。

 

 

「――――目を覚ましたようだな」

 

 

僕が状況を理解できずに混乱していると何処からか声が聞こえてきた。

その直後その声の主はまるで初めからその場所に居たかと思える程に違和感なく僕の眼の前に存在していた。

 

 

「我は第106の神。

多くの世界の過去、未来、現在を観測する存在だ。

お前をここに呼んだ張本人でもある」

 

 

全身白いローブを着こんだ2m程の男にそう言われた僕は一瞬その言葉を疑ったが、

全身から溢れ出る威圧感がそれを許さなかった。

本能的にこの男が神なのだと僕は判断ぜざるをえなかった。

 

 

「……貴方が神だという事は理解出来ました。

それで神様が僕にどのような用があるんでしょうか?」

 

 

 そう言うと神はふむと小さく言葉を漏らし、自身の髭を擦りながら淡々と話した。

 

 

「今からお前には転生をして貰う」

 

「転生……ですか?」

 

「うむ。

行先はお前達の世界で言う、デジモンアドベンチャーの世界だ。

時期は高石タケルと八神ヒカリと同じ年齢になるように転生させる。

生まれる場所もそうだな……光が丘にしておこう」

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

 

淡々とまるで転生する事が決まっているかのように物事を話す神に僕は思わず口を挟んでしまった。

 

 

「あの……転生する事を断る事は出来ないんでしょうか?」

 

 

僕が口にしたのは転生を拒む言葉だった。

僕はデジモンが大好きだが、別にデジモン世界に行きたいとは思っていない。

少しの間だけならいいかもしれないが、タケルとヒカリと同じ年齢になって原作に関わるなんて畏れ多い。

僕はあくまで僕が知っているデジモンアドベンチャーが好きなのだ。

僕という不純物を入れて物語に支障が起きてしまったら正直、死んでも死にきれない。

 

 

「それは不可能だ。

お前が向こうの世界に行く事は決まっている。

それに既にお前の居た世界にお前の居場所は無い」

 

「……どういう事ですか?」

 

「既にお前に居た世界にお前が存在した形跡は残ってはいない。

お前の友も家族も世界も誰一人お前が存在したことを覚えては無い」

 

 

その言葉に僕の頭は真っ白になった。

今まで生きてきた自分の歩みが、人生が何一つ僕の世界に残っていないと言われたのだ。

全く現状を理解できない僕は神に何故そうなったのかと尋ねた。

 

 

「我がそうしたからだ」

 

 

僕は何も考えずただ目の前の存在に殴りかかった。

 

 

「――――」

 

 

 だがそれが叶う事は無かった。

神に殴りかかろうとした瞬間その右腕が根元から吹き飛んだからだ。

 

突然の出来事に僕の時は一瞬止まるが、

その直後に襲い掛かってきた痛みに今までの人生で出した事のない悲痛の声を上げながら

その場に倒れこんだ。

 

 

「デジモンアドベンチャーの世界の事を知り、

なおかつ世界から存在が無くなっても支障が無い。

そんなお前だからこそ選ばれたのだ」

 

 

僕の悲痛の声を物ともせず神は淡々と話を続けた。

 

 

「そもそも私が転生させる事にした理由はお前達の世界にある。

創作とはいえ、お前達の世界は、別次元に本当に存在するデジモンの世界を考え付き、形にした。

全く干渉もしたことのない世界の筈なのにデジモンや人間の名前まで一致しているのだ。

これは神すらも驚愕を隠せない奇跡だ」

 

「――――」

 

「だが、その世界とお前達の創作のデジタルワールドでは一つ大きな違いがあった。

それはまるで理想と現実かの様に真逆の大きな違いが。

もしかすると実際に存在するデジタルワールドの意志をお前達の世界は無意識に察知して、

その願いを形にしたのがデジモンアドベンチャーなのかもしれないな」

 

「――――」

 

「そんな奇跡を見せつけられて黙って居られる程、我は中立の神では無い。

だから我はデジタルワールドにチャンスを与える事にした。

理想を現実に出来る可能性を。

そんなデジタルワールドの救世主として選ばれたのがお前なのだ」

 

「――――僕、が、救世主、だと?」

 

 

少しだけ、ほんの少しだけ痛みに慣れた僕は悲痛の声を必死に抑え込みながら、

倒れこんだ姿勢のまま神を見上げた。

神の話は正直、気持ち半分くらいしか聞き取れてはいなかった。

 

 

「そうだ。

だが、別にお前の行動を縛るつもりは無い。

我がするのはお前を向こうに送るという行為だけ。

向こうに行ってどういう風に行動するのかはお前が決めろ。

そしてこれ以降向こうの世界に関わる事は未来永劫無いだろう。

今回の事は本当に気まぐれだ。

お前を送るという事がデジタルワールドに対して行う唯一の助け舟だ」

 

 

神がそう言い終えると突如僕の体が光を放ちながら分解される様に消え始めた。

 

 

「だがお前に対しては話は別だ。

我自身、何の選択権も無くお前を向こうの世界に送る事に少なからず罪悪感はある。

例えお前の居た世界に全く必要ではない存在だとしても。

だからお前に一つ力を与えよう。我が肩書きに相応しい力を」

 

その力とは一体?

そう口にしようとしたが既に僕の口から言葉を発する事は出来なかった。

そうして間もなく僕の意志はこの場所から消え去った。



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第一章 第1節
001 原作開始~ヴァンデモン編


神の転生から早くも8年の年月が経過していた。

8歳児となった僕は布団から飛び出してカーテンに手を掛け、ゆっくりと開く。

心地よい朝日の日差しが僕を包み込んだ。

 

神の転生後僕は神の宣言通り光が丘に住む家庭の子として生まれた。

転生直後は、自我が無く、自分が何者だったのかを理解できるようになったのは二歳頃だった。……その当初は色々混乱した。

8歳児となった今では流石に転生に関して慌てる事も無く、

なんの支障もなく生きていた。

流石に転生前の体と比べたら身長、体力、歩幅等と

支障が全くないといえば嘘になるが。

 

 ちなみに僕は光が丘爆弾テロ事件を『目撃していない』

理由は簡単だ。自分と言う異端分子が原作に関わり、原作の物語が変わってしまう事を恐れたからだ。

 

それと、僕は今の所原作キャラとは接触はしていなかった。

理由は先程と一緒で、

自分が居る事でデジモンアドベンチャーの物語が変わる事を恐れているから。

僕は生涯彼らと関わるつもりは無い。

その為に光が丘爆弾テロ事件の後、

引っ越しする際お台場にでは無く別の場所に引っ越しした。

そのお蔭もあって、選ばれし子供達とすれ違う事さえなかった。

何か異変を感じない限りは、僕はこの調子で第二の人生を過ごしていくつもりだ。

 

 

「今日も早いな、天城(あまき)」

 

 

 僕が朝日を見ながらこれまでの思い出に思い浸って居ると、

僕を起こしに来たお爺ちゃんが話しかけてきた。

 

 

「うん。おはようお爺ちゃん」

 

「おはよう。

だが、夏休みなんだから少しは気を抜いてもいいんだが……

まあいい。朝ごはんの準備は出来てるから顔を洗ったら来るといい」

 

 

お爺ちゃんはそう言うと僕の部屋から出て行った。

 

因みに僕はお爺ちゃんと二人暮らしをしている。

理由は……簡単に言えば両親が屑だったって話だ。

 

 あまりお爺ちゃんを待たせる訳にはいかないと思い、

僕は顔を洗いに洗面台に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食後、自分の部屋に戻った僕は机の引き出しからあるモノを取り出した。

 

 

「……今日の日付は7月31日。という事は、やっぱり明日か」

 

 

前世のデジモンに関する事を全て記したメモ帳を見ながら記憶を再確認する。

このメモ帳は転生後に、初めてお爺ちゃんに買ってもらった物だ。

どんなに気を付けても人の記憶は薄れていくもの。

それを防ぐために僕はメモ帳に自分のデジモンの記憶を書き記す事にした。

……こうして書き記す事で第三者に見られるという不安要素もあるが、

それに対しても一応であるが対策してある。

このメモ帳に記してある文字は全て僕が考えた僕だけの言語で記していた。

これなら仮にこのメモ帳を見られても簡単に内容を把握されることは無いだろう。

 

……原作キャラに関わらない様にする為、出来る限り家に引きこもり、

その暇を潰す為に考えたこの言語も少しは考えた甲斐もあるって話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八月一日の朝、

僕は普段よりも早起きして外に居た。

場所はデジモンアドベンチャーの主人公である八神太一が住むマンションの近くだ。

その物陰から僕はそわそわしながら太一が出てくるのを待った。

 

僕がここに居る理由は、原作通り太一が一人でサマーキャンプに出発するか確認するためだ。

太一達とは全く接触していない為、彼が原作通りサマーキャンプに行くことに関しては余り心配していなかった。

心配していたのは、太一の妹であるヒカリに関してだ。

彼女は原作では風邪を引いたためにサマーキャンプに行く事は無かった。

だが僕が転生した事によって何らかのズレが発生し、彼女の風邪の日数がずれていたりしたら……

と考えると夜も眠れなかった。

 

僕が不安であたふたしているとマンションのホールの方から人影が見えた。

――――特徴的な髪型に青く決まったパンダナ。

その上にピシッと被せる様に掛けているゴーグル。

その姿は間違いなく八神太一だっだ。

 しかも、ホームから出てきたのは太一ただ一人。

何度見てもヒカリの姿は見えなかった。

 

 

「……良かった」

 

 

僕は安心でへたへたとその場に座り込んだ。

どうやら物語は原作通りに進んでいる様だ。

ここまで来たら後は、少なくともヴァンデモンが倒されるまで選ばれし子供達に接触しなければもう大きく物語が変わる事は無いだろう。

つまり後3日間の辛抱だ。

たった3日間余計な行動をしなければいいだけだ。

そして今回の事で僕は自分がこの世界に存在する事によって発生しているズレは今の所無いものと考えていいと判断した。

――――よし、これからもこの調子で頑張ろう。

 

 

 

 

あれから2日経過し8月3日となった僕は、バケモン達に連れられ、

東京ビッグサイトに来ていた。

集められたのは勿論僕だけでは無く、隠れられた者を除く、この辺りに住む全ての人間だ

バケモン……いやヴァンデモンの目的は8人目の選ばれし子供を見つけ出し殺す事。

その為に子供を集め、こうして一列に並ばせて8人目を探していた。

大人は別の場所に集められている為、ここには子供とデジモンしかない。

 

その為恐怖で泣き出す子供が続出していた。

僕の後ろのすぐ近くの女の子も何をされるか分からない恐怖に泣き出したが、

この近くには原作キャラである太刀川ミミが居る。

ここで行動して原作に支障が起きるリスクを避ける為、

僕は黙って下を向いたまま列に並んでいた。

 

 

しばらくすると上空からピコデビモンが飛んできて、ヴァンデモンの元に来た。

……どうやら原作通りヒカリが捕まったようだ。

という事はこの後は……と考えていると突如眠気僕を襲った。

どうやらピコデビモンが催眠ガスを放ったようだ。

僕は抵抗する事無くそのまま眠気に身を委ねた。

 

 

しばらくすると僕を含むここで眠っていた人間達が一斉に目を覚ました。

どうやら原作通り選ばれし子供達がヴァンデモンを倒したようだ。

その事に僕は安堵の息を付くとふと外に目を向けると、

その上空に大きなゲートが出現していた。

 どうやら選ばれし子供達が再びデジタルワールドに旅立つようだ。

 

 

「……がんばれ選ばれし子供達」

 

 

 全てを知っているのに何も行動しない僕は小さな声で選ばれし子供達にエールを送った。

 



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002 ヴァンデモン戦~ウォーゲーム編

 それから僕は東京ビッグサイトの窓から空を見上げていた。

理由は、空に断片的に映し出されているデジタルワールドの光景を見る為。

そこにはアポカリモンと選ばれし子供達の最後の戦いが映し出されていた。

 

 選ばれし子供達は一度こそ存在を消されたが、

再び自身の心の紋章を輝かせながら舞い戻り、そして最後にはアポカリモンを倒した。

 

 アポカリモンを倒した事で断片的に映し出されたデジタルワールドの光景は消えていき、

暗い雲で覆われていた空が晴れた。

デジタルワールドが、世界が救われた瞬間だった。

 

 

「これでデジモンアドベンチャーは無事完結か」

 

 

 周りの人達が手を取り合って喜びあう中、僕は冷静にそう口にした。

結局僕はこの世界が救われた事よりも原作が無事完結した事を喜ぶような人間と言う事だ。

 

 僕は東京ビッグサイトから一人で出て行くと、二日前と同じように太一のマンションへと向かった。

理由は最後に太一達が無事この世界に帰って来たかを確認する為だ。

そして張り込みをしてから数時間後、すっかり空が暗くなった時間に太一とヒカリ達八神家族が家に帰ってくる姿が見れた。

 

 これで本当の意味で無事デジモンアドベンチャーの物語は完結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デジモンアドベンチャーが完結してから約7ヶ月後の春、

世界中の電子器具が問題を起こしていた。

理由は説明するまでも無いだろう。

コンピュータネットワーク上に突如出現したデジモン、クラモンのせいだ。

クラモンはネットワーク上のデータを食べ、己のデータ量を増やし、

尚且つリアルワールドに影響を出していた。

その被害は初めこそは小さなものだったが、少しずつではあるが確実に大きな被害になりつつあった。

 

 

「……まだケラモンみたいだな」

 

 

 あらかじめこの騒動が起きると知っていた僕はこの突然の事件にそれ程慌てる事も無く、

おじいちゃんに買って貰ったパソコンを使って、

有能な人間が問題の原因に気が付き、ネット上に貼った、『ネットワークに変なウイルスが居る』というスレッドのURLに映し出されたクラモンの姿を見ていた。

 

ケラモンは様々な場所を移動しながらデータを吸収し、その姿を少しずつではあるが大きくしていた。

そんな時、突如ケラモンの前に現れた2体の謎の生き物――――アグモンとテントモンは、

そんなケラモンを倒す為に姿を現した。

彼等の戦いは初めこそは2対1でリードしていたが、

ケラモンがインフェルモンに進化した辺りから戦況は大きく変化した。

 

 そしてしばらくして光子郎が原作通りインフェルモンが完全体だと気が付いたのか、

アグモン達を完全体に進化させようとするが、その瞬間をインフェルモンに狙われ、

進化をキャンセルさせられ、インフェルモンに逃げられた。

 

 

「……映画でも思ったけど、どうしてインフェルモンは進化中のアグモン達を攻撃出来たんだ?」

 

 

 僕は初め、選ばれし子供達のデジモンの進化中は、

聖なる光によって攻撃できないモノだと思っていた。

その考えを肯定するように、作中で進化中攻撃をされる事などなかった。

――――インフェルモン、ディアボロモンとの戦いを除いて。

 

 何故この時インフェルモンはアグモン達に攻撃する事が出来たのか?

僕が考えた理由は3つある。

 1つはインフェルモンが魔王クラスのデジモンだから。

作中で現れた魔王デジモン、デーモンも進化中のデジモンに攻撃はしなかったが、

それが慢心が起こした結果だとしたら考えられるパターンだ。

……だがデーモンが仮に慢心で攻撃しなかったとしても、

そもそもインフェルモンは魔王クラスのデジモンとは到底言えないだろう。

だからこれは無いだろう。

 

 2つめが、インフェルモンに感情が無いから。

生き物は感情があるからこそ、怖いと思ったり、悲しいと思ったりする。

選ばれし子供達のデジモンが進化する時の光が

神々しくて普通のデジモンは本能的に攻撃出来ない。

だから感情が無いインフェルモンは本能的に恐れることなく攻撃出来たと

考えたパターンだ。

……だが、実際インフェルモンは、ネットワーク上のデータを食べたり、

選ばれし子供達に「アソボ」とメールを送ったりしている。

これは感情があると……少なくとも本能はあると判断出来だろう。

だからこの考えも無いだろ。

 

 3つめに僕が考えたパターンは、そもそもインフェルモンが……

 

 

「……いや、これは無い。ある訳無いだろ」

 

 

 この考えをあり得ないと判断した僕は次にネットに貼られたURLをクリックし、

マイペースにデータを吸収し続けているインフェルモンの姿を無言で見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、ガブモンとパタモンを含めた4体のデジモンでインフェルモンに戦いを挑むが、

ディアボロモンに進化されたり、再び進化中を攻撃されたり、原作通りウォーグレイモンの動きが突如止まったりする等で再びディアボロモンに逃げられた。

 

 しばらくしてディアボロモンのせいでロケットが発射されたと

URLを貼り続けていた有能な人間が発表するとスレッド上はパニックになった。

 そんな中、傷付いたウォーグレイモン達はディアボロモンの行先を知ったのか、

空間に穴を開け、その場所から移動した。

 この場所のURLを貼った有能な人間もディアボロモンの場所を特定しようと捜索するが、

かなりの時間がかかった。

やはり光子郎のコンピュータに関する能力はずば抜けている様だ。

 貼られたURLの映像を見てみると、そこには数千と増えたディアボロモンに

四方八方から攻撃され、それを避け続けているウォーグレイモンとメタルガルルモンの姿があった。

その動きは初めこそは華麗なモノだったが時間が経つごとに明らかに異常なペースで鈍くなっていた。

理由は僕と同じようにこの戦いを見ている者達が

太一やヤマト達のパソコンに応援のメールを送っているからだ。

大量のメールのせいで彼らのパソコンの動作が重くなり、その結果そのパソコンから接続しているウォーグレイモン達の動きが遅くなったのだ。

 

圧倒的な攻撃に僕も思わずメールを送りそうになったが必死に止めた。

何故なら知っているからだ。この後ウォーグレイモンとメタルガルルモンは合体して

オメガモンとなり、この圧倒的な状況を覆すと。

 

――――が、その考えは覆された。

 

突如数千、数万のディアボロモンは攻撃を止めたのだ。

『ウォーグレイモン達がまだ動ける状態』なのに。

それと同時に増殖し増えたディアボロモン達が消えだした。

そして一体となったディアボロモンは動かないままウォーグレイモン達を見つめていた。

 この状況に太一達も理解できないのか10数秒ほどまったく動きを見せなかったが、

しばらくして、

早くディアボロモンを倒さないとロケットが東京に落ちてくると思い出したのか、

ウォーグレイモンとメタルガルルモンは必殺技をディアボロモンに放った。

 ディアボロモンはそれを避ける事もせずにまともに受け、消滅した。

ディアボロモンを倒した事でロケットが爆発する事は無く、事件は無事解決した。

 

 デジモンアドベンチャーぼくらのウォーゲームが完結したのだ。

 

 

「――――なんだよ、これ」

 

 

 太一達を含む騒動の原因を知る全ての人間が喜ぶ中、只一人僕は困惑していた。

 

 

 

「原作と違う、原作と違、う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と……」

 

 

僕は原作に干渉して無い筈だ。選ばれし子供達と一度すら話した事が無い筈だ。

それなのに何故、原作と違う展開になっている。

 

 

「……何か、原作に影響が出るような事をしたのか?」

 

 

僕自身は選ばれし子供達に一度すら干渉していない。これは断言できる。

だが、僕が存在する事で、原作に少なからず干渉していたのではないかと考えた。

が、それも無いだろうと判断出来てしまった。

 

 僕は、僕が存在する事で原作に影響が出ない様に生まれた時から注意してきた。

小さい頃、幼稚園に入る時も、まずは選ばれし子供達が居ない遠い所を大前提として、

次に僕が入るせいで誰かが入れなくなるという事が起きない様に調べてから入園した。

入園後は、積極的に人を避け続け、積極的に一人で居られるように行動した。

先生にも一人でいる時が一番いいと判断されるように必死にそう見せた。

成績も、平均よりも常に下を保ち、誰かの眼に留まらない様に振る舞った。

幼稚園が終わった後は誰よりも早くその場から立ち去り、

誰とも関わりたくないと見せつけるような行動を続けた。

 そうする事で園児はおろか先生すら僕に話しかける事は無くなった。

 

 小学校でも、何処にでもいそうな無口な奴を演じ、

一人でずっと読書し続け、孤立する事に成功した。

成績も平均以下を常にキープし、眼に付けられないようにした。

偶に熱血的な先生などが、僕に話しかけたりするが、

親に捨てられ人を信用していない。人と最低限以上に関わるのが嫌、

最低限以上に人とかかわる位なら学校に来ないなどと、

根気強くその先生に伝える事でそれを防いだ。

 

 そんな8年間を過ごした僕だからこそ、

選ばれし子供達に影響を与えていないだろうと判断出来た。

 ……と言うか、そもそも仮に、僕が行動して影響が出るとしても選ばれし子供達にだ。

ディアボロモンに影響が出る筈が無い。

なら今、ディアボロモンがオメガモンになる前に倒された原因に

僕が関わっていないと言えるだろう。

 

 なら何故……?

理由を考えているとふと転生した時の事を思い出した。

 

 

「……あの時、もしかすると神はこの世界は原作と違うと言っていたのか?」

 

腕が根元から爆発すると言うあり得ない状況と想像を絶する痛みのせいで

殆ど聞けなかった神の言葉を再び考えた。

 

「……神は僕に救世主となれと言っていた。これは聞き取れた。

だがそれなら、原作と違う何らかの異常が僕の前に発生すると思っていた。

……でも、実際発生したのはディアボロモンがオメガモンになる前に倒されるという異常。

一体どうしろって言うんだよ……」

 

 

 僕がどういう風に行動すれば良かったのか分からないが、

既に原作は多少ながら変わってしまっていた。

 まだ原作の展開に影響が出ない程度の差かもしれない。

でも既にこの世界は僕の知る原作と違うモノとなっている。

この先、また今回の様に原作と違う展開が起きるかも知れない。

その結果、原作が崩壊してしまうかもしれない。

 

 

「何をどうすればいいかなんて分からない。何がどう正しいかなんて分からない」

 

 

――――でも僕は転生者だ。この世界の未来を知っている。

ならその未来を守る為に行動しなければならない。

この第2の人生全てを掛けても守らなければならない。

それがこの世界に生まれてしまった汚物、存在してはいけない者の定めだ。

 



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003 崩壊のはじまり

今回短いです。



 ――――ディアボロモンとの戦いから約3年後の休日の夕暮れ時。

僕は、日課のランニングをしていた。

 あの戦いの後、この世界の未来に不安を感じた僕は、取りあえず自分の体を鍛える事にした。

鍛えると言っても、やっているのは腕立て等の簡単なトレーニングと、

朝と夕方の走り込みのみ。

 これだけしかやらない理由は、鍛えてもデジモンには決して敵わないと理解しているからだ。

だが敵わないと分かっていても何もしないのは嫌だった。

なので、こうして足を重点的に鍛えることにしたのだ。

足が速ければ、色々と役に立つ可能性が有るからね。

 

 ランニングを終えた僕は家に戻ると、シャワーを浴びて汗を流した。

シャワーを浴び終えると、お爺ちゃんが用意してくれた晩御飯を一緒に食べた。

その後部屋に戻った僕はふとカレンダーに目を向けた。

 

 

「……明日は始業式。大体の学校はこの日に始業式が行われる。

これで僕は五年生になるわけか」

 

 

 転生者である僕に学年が上がる事に関心などほぼない。

だが転生者であるからこそ明日は何よりも大事な日だった。

――――2002年4月のお台場小学校の始業式。

それはデジモンアドベンチャー02の物語がスタートする日を意味していた。

 

 二年前のディアボロモンの戦いの後も僕は、選ばれし子供達に接触する事はしなかった。

だから原作に変化はないと信じたい。

だが些細な差かもしれないが、既にオメガモンが誕生しないままディアボロモンを倒すという、

原作と異なる展開になってしまっている。

 

 

「……きっと大丈夫。問題ない筈だ」

 

 

 自ら大丈夫と言葉に出して湧き出てくる不安を無理やり抑え込んだ僕は、

まだ早い時間ではあるが、ベッドに入る事にした。

だが様々な感情が入り乱れていたからか、

実際に眠りに付けたのはそれから数時間後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼前頃の放課後、僕は学校の教室に一人で居た。今日は始業式という事もあり、授業は無く、始業式も含めて2~3時間程で学校は終わった。

僕のクラスメイトは学校が終わった後、早く遊ぶためなのかすぐさま教室を飛び出した。

なのでここには僕しかいなかった。

 

 

「…………そろそろ大輔達がデジタルワールドに旅立つ時間かな」

 

 

 今日の放課後、太一が勇気のデジメンタルに触れた事により、

3つの光『D3』がデジメンタルから飛び出し、本宮大輔、井ノ上京、火田伊織の3人が

新たな選ばれし子供としてデジタルワールドに選ばれる。

そして大輔はデジタルワールドに向かい、勇気のデジメンタルに触れる事でデジメンタルの封印が解け、そこからブイモンが飛び出し、大輔のパートナーデジモンとなる。

そこをイービルリングによって操られたデジモンに襲われ、ヒカリがピンチとなり、

ブイモンは初のアーマー進化する。

戦いの後、大輔は太一からゴーグルを受け取り、世代交代をする。

 

――――これが今日起きるはずの原作の大体の流れだ。

 

 

「……家に居ても落ち着かないからここに残ったけど、そろそろ帰るか」

 

 

 ここに残ってもしょうがないと判断した僕は立ち上がり、ランドセルに手を伸ばした。

 

――――が、ランドセルに触れるよりも先に突如窓から飛んできた光る何かが僕の手に収まった。

 

 

「――――はぁ?」

 

 

僕の手の中には『青色』のD3が握られていた。

 



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004 原作介入

今回かなりテンポが悪いです。

割と重要な回以外は今迄みたいにテンポよく書けるように努力します。


――――意味が分からなかった。

 

理解出来なかった。理解したくなかった。

 何故僕の手元にD3かあるのか。どうして僕が選ばれし子供に選ばれたのか。

何故『大輔が使うはずのD3』が僕のデジヴァイスなのか。

 

 

「……まさかデジモンを目撃しすぎた事が原因なのか?」

 

 

 ふと考え付いた可能性を口にした。

 選ばれし子供は資格がある者が選ばれるが、

それ以前に、デジモンと多少なりとも関わりを持ったことがあるのが条件だ。

 太一達8人の選ばれし子供は、光が丘爆弾テロ事件でグレイモン達を目撃。

大輔は、かつてヴァンデモン達に連れ去られた人間達の一人であり、

伊織はヴァンデモン達の攻撃で墜落しそうになった飛行機に乗っていて、

そこをガルダモンに助けられていた。

京は、二年前のディアボロモンの戦いをネットで観戦していた。

 

 なら僕はどうだろう。

光が丘爆弾テロ事件の際、デジモン達を直接は見ていないが、存在は感じていた。

ヴァンデモンの事件の時は、大輔と同じようにヴァンデモンに捕まっていた。

二年前のディアボロモンとの戦いも目にしていた。

 

 考え得る限り全ての機会で僕はデジモンと関わってしまっていた。

 

「……何が原作に影響を与えたくないだ。

……何が原作に影響を与えない様に行動している、だ」

 

 

ふざけるな――――!

僕はD3を思いっきり地面に投げつけ、その場にへたり込んだ。

 

 

「……11年間僕は一体何の為にこんな生き方をしてきたんだ。

太一達に……選ばれし子供達に……デジタルワールドに迷惑を掛けたくないからだろ!

それがなんだ! オメガモンの件なんて比べ物にならない程の原作崩壊を自分で起こして!」

 

 

 僕の目から一筋の涙が投げれ出た。

それは11年間の努力が無駄になった悲しさなのか、

綺麗に完結した原作を崩壊させた罪に対してのものなのか、

本来選ばれるはずだった大輔に対する申し訳なさから来たものなのかは分からない。

 このまま泣いて居たかった。

何も考えずただこの場所で一人泣いて居たかった。

だが僕の原作知識がそれをさせてくれなかった。

 

 

「……原作ではこのD3を手にした大輔は太一を助けに行った。

仮に、僕が大輔の代わりに新たな選ばれし子供として選ばれたとして、

もしもここで僕が太一を助けに行かなかったらどうなるんだ?」

 

 

 原作では、今のデジタルワールドにはダークタワーが複数存在している。

ダークタワーがある所では通常進化は行えない。

そして、大輔が仮に選ばれていないとしても、太一の危機を知るヒカリとタケルは、

二人だけでも太一を助けに向かうはずだ。

そうなったらどうなる?

進化の出来ない太一達でイービルリングに操られたデジモンと戦う事が出来るだろうか?

 

 

「……こんな所でぐずぐずしている場合じゃない」

 

 

 涙を腕で拭いながら足元のD3を拾い上げ、その場を立ち上がった。

 

 

「泣く事は後からでも出来る。

今は……太一達を助けに行くことが最優先だ」

 誰もいない廊下を全速力で駆けまわり、この学校のパソコンルームへと向かう。

辿り着いたパソコンルームの扉を手を掛けると、運よく鍵がかかっておらずに

開く事が出来た。

その上、中は誰も居なかった。

 

 僕は電源が付きっぱなしのパソコンの前に行くと、片手でD3を掲げた。

すると突如パソコンの画面は切り替わり、デジタルワールドのゲートの画面が表示された。

 

 

「……デジタルゲート,オープン!」

 

 

 もう一度D3を勢いよくモニターに掲げるとモニターは光を出しながら僕の体を吸い込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートを潜った先は東京では考えられない程の自然が広がっていた。

 

 

「――――ここがデジタルワールド」

 

 

 

 憧れの場所に来たことに一瞬ここに来た目的を忘れかけたがすぐさま気持ちを切り替えた。

 

 

「太一達は多分勇気のデジメンタルの洞穴に居る筈だ。

……確かD3にはデジメンタルの場所を表示する機能があった筈だ」

 

 

 適当にD3をポチポチ弄るとそれらしい画面が表示された。

が、その場所はここから少し離れた場所にあった。

 これは下手をすれば間に合わない。

瞬時にそう判断した僕は全速力でその場所に向かって走り出した。

そのスピードは、日頃から走りこんでいるだけあり、小学5年生とは思えない速さだった。

そして走りながらではあるがある事に気が付いた。

それは僕の服装が、この世界に来る前と変わっていない私服だったと言う事だ。

……そもそも原作でどうして大輔、京、伊織の服装が変わったかは明かされていない。

そして、大輔と同じ新たな選ばれし子供である僕の服装が変化しなかったことに疑問を覚えたが、それ程深く考える事ではないと言う考えと、現状が急がなければならない状態と言う事からその事に関しては考えるのを止めることにした。

 

 

 十数分程走り続けると、目的地まで辿り着けた。

そこまで来ると僕はいったん近くの草むらに隠れた。

 

 

「……洞穴が無傷という事は、どうやらまだ太一達は襲われていないようだ

……原作と同じならね」

 

 

 ここに僕が隠れた理由は、まだ一つ決めかねている事があるからだ。

それは、僕が太一達と接触するべきなのかどうかだ。

既に原作と大きく違う展開にはなってはいるが、まだ修正が効くレベルかもしれない。

……本当なら僕が大輔の代わりに太一達に加わり、大輔の様に物語を動かすのが一番いいのだが、それは僕の性格からして無理だろう。

上辺だけの付き合いのクラスメートを欺く事は出来ても、太一達を欺く事など出来ないと僕は確信していたからだ。

 

 ならどうするべきか? 

僕には一つだけ案があった。それは太一達に正体を隠したまま出来る限り接触を控え、

その上で原作通りになるように彼らを導くという案だ。

 

 確かに大輔の存在は02の物語には必要不可欠と言えるかもしれない。

だが選ばれし子供として選ばれていない以上、彼の存在無しで物語を進めるしかない。

 そう覚悟を決めたその時、突如地面が揺れ出した。

まさかと思い洞穴の上の方を見てみると、

そこには上から洞穴に入ろうと体当たりするモノクロモンの姿があった。

 モノクロモンが上から洞穴に侵入してからしばらくすると、

洞穴の入口から複数の影が飛び出してきた。

 

 

「あれは……太一、ヒカリ、タケル、アグモン、テイルモン、パタモン。

……やっぱり大輔の姿は無いか」

 

 

太一達が洞穴から逃げ出してから直ぐ、モノクロモンもそれを追いかける様に飛び出てきた。

腹に黒いリング『イービルリング』を付けられモノクロモンは逃げ出した太一達の姿を見つけると、再び走り出した。

 

 モノクロモンが前方にしか注意がいっていないと判断すると僕は洞穴の中へと入って行った。

洞穴の中は狭く、直ぐに目的のモノの場所まで辿り着けた。

 

 

「――――『勇気のデジメンタル』。僕にその資格があるかなんて分からない。

八神太一の勇気を受け継ぐ器があるかなんて分からない。

だけど今僕にはこの力が必要なんだ!」

 

 

 その言葉と共に僕は地面に封印されている勇気のデジメンタルを引き上げようとした。

初めはビクともしなかったが、諦めずに続けていると急にその重さが無くなり、

スポンと引き抜く事が出来た。

 

 するとデジメンタルが引き抜かれてすっぽりと空いてしまった穴から光が飛び出した。

光は少しずつ形になっていき、最終的に青い体を持つデジモンの姿となった。

――――ブイモンだ。

 

 ブイモンは封印が解けた事と自分のパートナーが出来た事に喜びながら僕に飛びつき、

自己紹介をし始めたが、僕はそれを止めた。

 

 その事にブイモンは疑問を感じていたが、僕が外に居る人間がデジモンに襲われているから助けて欲しいと言うと、疑問が解けたのか、力強く首を縦に振った。

 

 ブイモンを引きつれながら洞穴を出てみると、遠くの方でモノクロモンが太一達に向かって全速力で突進していた。あれを人間が喰らったら只では済まないだろう。

 

 

「ブイモン! 奴を止めれるか?」

 

「ああ!君が勇気を出してデジメンタルアップと言ってくれたらオレは進化出来る。

進化出来たならアイツだって倒せるぜ!」

 

「分かった。

……だが、あのモノクロモンは操られているだけだから倒す必要は無い。

進化したら奴の背中の黒いリングを狙うんだ。それさえ壊せばアイツは元に戻る」

 

 

 ブイモンのオッケーという言葉を聞いた僕はD3を正面にかざし、叫んだ。

 

――――デジメンタルアップ

 

 すると左手に持っていた勇気のデジメンタルが光を放ち、ブイモンを包み込んだ。

光が消えるとその場所にはブイモンがアーマー進化したデジモン『フレイドラモン』の

姿があった。

 

 

「フレイドラモン!

モノクロモンの黒いリングを破壊出来たら、進化を解かないまますぐあの木の辺りに来てほしいんだ。僕はその辺に隠れているから」

 

 

 飛び立とうとしたフレイドラモンにそう呼びかけると、

フレイドラモンはその言葉を疑問に思いながらもわかったと返しながら

モノクロモンの方へ全速力で飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太一達は突然襲い掛かってきたモノクロモンから必死に逃げていた。

が、その途中モノクロモンが突然炎の球を自分達に向かって放ってきた。

それを間一髪で全員避けたが、その際前方のヒカリが足を挫いてしまいそこから動けなくなってしまった。

 

 それを知ってか知らずか、モノクロモンは全速力のスピードのまま飛び上がった。

その着地地点にはヒカリとテイルモンが居た。

 アグモンとパタモンはそれを止めるべく、必死に必殺技をモノクロモンに放つが、

効果は無く、モノクロモンの着地地点をずらす事も叶わなかった。

 

 このままでは不味いと太一はヒカリに大声で逃げろと叫び続けるがヒカリは動けなかった。

足を挫いていて動けないのもあったが、目の前の迫る死に対して恐怖で動けなかったのだ。

 

 そうしている間にもモノクロモンは徐々にヒカリに近づいており、

もう数秒も立たない内に激突するであろうという程に迫っていた。

 その状況にテイルモンは、せめてヒカリだけはと、ヒカリの前に両手を広げ、

仁王立ちをするがそんなことをしてもヒカリは守れないであろうという事はテイルモン自身も無意識にではあるが分かっていた。

 

 そしてモノクロモンがヒカリとテイルモンの目前まで迫ったその時、

突如炎を身に纏った何かがモノクロモンに横から体当たりをしてその着地地点をずらした。

 

 

「なんだあれは?」

 

 

太一の疑問の言葉はこの場に居る全ての者が抱く疑問だった。

故にその質問に答えられる者はおらずただ呆気に取られたままその炎を身に纏ったデジモンを見ていた。

 

 

「何してるんだ! 早くその子を!」

 

 

自分の姿を見て呆気に取られている太一達に謎のデジモン『フレイドラモン』はヒカリを逃がす様にと太一とタケルに伝えた。

その言葉にハッとなった二人は急いでヒカリの元に駆け寄り、ヒカリをモノクロモンから引き離した。

 

 その間、モノクロモンは動かずに突然現れたフレイドラモンを観察するようにジッと見つめていた。

そんなモノクロモンに対しフレイドラモンは先手必勝と言わんばかりに突撃した。

二体の激しい戦闘の幕が切って落とされた瞬間だった。

 

フレイドラモンとモノクロモンの実力はほぼ互角で、互いに攻めたり守ったりという接戦の戦いが続いていた。

 

 

「……あのデジモン、モノクロモンの黒いリングばかりを攻撃している」

 

 

 テイルモンは、フレイドラモンが黒いリングしか狙わない事に疑問を感じていた。

先程から何度もモノクロモンの弱点であろう腹部を狙うチャンスがあったのにあのデジモンはそこを狙わずにあえて黒いリングのみを攻撃している。

まるでそうする事が正しいと言わんばかりに。

 

 

「もしかするとあの黒いリングを破壊すれば洗脳が解けるのか?」

 

 

テイルモン自身も、もしかすればあの黒いリングを破壊すれば洗脳が解けるかも知れないと言う考えは持っていた。

だがそれは、あくまで、かも知れないと言う可能性の話だ。確証は全くない。

だからこそ、初めから黒いリングのみを攻撃しているフレイドラモンの存在に疑問を覚えずにはいられなかった。

 

 テイルモンがそんな事を考えている中、フレイドラモンはモノクロモンによって空中に突き上げられた。

だがフレイドラモンはその状況を逆に利用し、炎を纏いながらモノクロモンの黒いリングに向

かって、急落下した。

 

モノクロモンはフレイドラモンに追撃する為、空を見上げ、炎の球を放とうとした。

だが、モノクロモンがフレイドラモンの姿を捉える事は出来なかった。

フレイドラモンがデジタルワールドの太陽に背を向けながら急落下して来たからである。

太陽の光によってモノクロモンは正確にフレイドラモンの姿を捉えられなかったのだ。

フレイドラモンはそんな隙を逃さず、その勢いのまま黒いリングへ渾身の体当たりを叩きこんだ。

 

 フレイドラモンの攻撃によって黒いリングは破壊された。

それと同時にモノクロモンも正気に戻った。

元に戻ったモノクロモンはひそひそとその場を立ち去って行った。

 

 

「……どうやらあの黒いリングを破壊すればデジモンの洗脳は解けるようだな」

 

 

 先程の戦いを見てそう確信した太一は、緊張が解けたのかその場に座り込んだ。

 

 

「――――そうだ、お前も助けてくれてありが……」

 

 

 一息ついて思い出したのか、太一は、自分達を救ってくれた炎のデジモンにお礼を言おうとしたが、既にその姿は無かった。

 

「……あのデジモンは何者なんだろう?」

 

 

 タケルの漏らした疑問にそこに居る誰も答える事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 



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005 遭遇

投稿が遅れてしまってすいません。



 モノクロモンとの戦いの後、フレイドラモンは約束通り、直ぐその場を離れ僕の元に戻ってくれた。

 僕はブイモンに太一達を助けてくれた事に対してお礼を言い、

先程は出来なかった自己紹介をした。

 

 

「僕は守谷天城(あまき)。どちらでも好きな方で呼んで」

 

「じゃあ……アマキって呼ぶことにするよ! よろしくアマキ!」

 

 

 互いの自己紹介を終えた僕等はこれからの方針について話し合った。

まずは現状デジタルワールドで何が起きているかだ。

 今の所、原作通りデジタルワールドは無数のダークタワーと、

イービルリングによってある者に支配されようとしていた。

その者とはデジモンカイザー……一乗寺賢だ。

 

 だがこの情報はあくまで僕の原作の知識であり、実際に知った情報では無い。

だから僕はブイモンに、今のデジタルワールドについて調べまわってほしいとお願いした。

……原作通りであって欲しいと密かに願いながら。

 

 その提案にブイモンは了解と、敬礼で返してくれた。

……多分ブイモンは、これを任務というなの遊びだと捉えているんだろう。

だが本人がやる気ならこの認識の違いも問題は無い。

 そして僕はブイモンに情報を集めるうえでとても大事な条件を課した。

それは自分が選ばれし子供のパートナーデジモンだと誰にも言わない事だ。

 

 その事にブイモンはどうしてと尋ねてきたが、

その方がかっこいいだろ? と返すと、「そうだな!」とニヤリとほほ笑み、

張り切ったテンションのまま何処かに走り去って行った。

……どうやら誤魔化せたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モノクロモンとの戦いから翌日の放課後、デジタルワールドで待機していると、

タケル達がデジタルワールドにやって来たのか、少し離れた場所からのD3の電波をキャッチした。

その反応を元に、見つからない様に姿を隠しながら行ってみると、そこには

タケルとヒカリと前回の選ばれし子供の空と光子郎と、

そのパートナーデジモン。それに加え新たな選ばれし子供である京と、伊織の姿があった。

……どうやら彼らは原作通り選ばれたようだ。

僕は、姿を隠したままタケル達の後を追った。勿論ブイモンを引きつれて。

 

現状では、パタモンもテイルモンも進化する事が出来ないので少なくとも彼等がデジメンタルを手に入れるまでは毎回彼らの後を付ける予定だ。

それと、ブイモンが手に入れた情報についてはまだ何も聞いていない。

聞こうとしたところでタケル達のデジヴァイスの反応を僕のD3が察知したのだ。

 

デジヴァイスには互いの位置を知らせる機能があったがどうやらそれはオンオフの

切り替えが出来るようで、僕は自分の位置情報をオフにしていた。

だからタケル達がその機能をオフにしない限り、僕は一方的に彼らの場所を把握する事が出来ると言う訳だ。

 

 しばらく何事も無く(・・・・・ )歩き続けると、巨大なピラミッドの様な場所に辿り着いた。

 タケル達はピラミッドの中に臆することなく入って行った。

どうやら今日の彼らの目的はこのピラミッドのようだ。

 

原作通りならこの場所には知識と、愛情のデジメンタルが封印してあり、それに加え二体の古代種のデジモン……アルマジモンとホークモンが封印されている。

 

 ……まあ僕が昨日一人でデジメンタルの封印を解いたせいで、

彼らはデジメンタルにデジモンが封印されてる事は知らないが問題は無いだろう。

 

僕はピラミッドの近くの木の陰で彼らが出てくるのを待つことにした。

しかし、しばらくその場で待っていると、何者かが近づいてくる地響きを感じた。

 

 

「……デジモンカイザーがタケル達に気が付いたのか」

 

 

イービルリングを付けられた二体のスナイモンとモジャモンがピラミッドに向かってきている姿が見えた。

僕は見つからない様に木の陰に隠れていると、

外にデジモンが来ている事に気が付いたのか、ピラミッドの中からタケル達が出てきた。

――――先程までは居なかった二体のデジモンを引きつれて。

 

 

「……どうやら知識と愛情のデジメンタルを引き抜く事が出来たようだな」

 

 

その事に安堵の吐息をつき、新たな選ばれし子供である京と伊織の初デジメンタルアップを見届けようとジッと見つめた。

――――だが、二人はパートナーデジモンを進化させることなく、

タケル達と共に、襲って来たスナイモンとモジャモンから逃げようと全速力でピラミッドを降りていた。

 

 

「……どうしてだ? どうしてアーマー進化をしないんだ?」

 

 

 戦う術を持つはずなのにタケル達と共に逃げ続ける京と伊織の姿に僕は疑問を覚えずにはいられなかった。

その上、よく見てみると、京と伊織はスナイモン達からだけでは無く、

自身のパートナーデジモンである筈のアルマジモンとホークモンからも逃げるように

走っているように見えた。

 

 

「……っ、仕方が無い」

 

 

 ブイモンの方を見ると、ブイモンはいつでもオッケーと言わんばかりに僕に向かってサムズアップしていた。

そんなブイモンに僕は笑みを向けると、デジメンタルアップと小さく叫び、

ブイモンをフレイドラモンにアーマー進化させ、タケル達の元へ向かわせた。

そして、僕はカバンからもしもの時の為に持って来たあるモノを取り出しながら、

フレイドラモンの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――『ファイアロケット!』

 

 

 スナイモンがタケル達に襲い掛かろうとしたその瞬間、

それを遮るように横から炎を纏った何かが現れ、

スナイモンを吹き飛ばした。

 

 

「あなたは昨日の……!」

 

「今は話をしている場合じゃない。

そんな事より……どうしてお前達はアーマー進化しないんだ?」

 

 

 ヒカリの言葉を軽く流しながら、炎を纏ったデジモン……フレイドラモンは

理解出来ないと言わんばかりの表情で二体のデジモンを睨んだ。

 フレイドラモンに睨まれたホークモンとアルマジモンは、

申し訳なさそうな表情でフレイドラモンから視線を逸らした。

 

「それは……まだ私が正式に京さんのパートナーデジモンだと認められていないからです」

 

「……だからオレ達はまだ進化出来ないだぎゃ」

 

「そんな事を言ってる場合じゃ……ック!」

 

 

 フレイドラモンの言葉は先程吹き飛ばした個体とは別のスナイモンの接近によって遮られた。

接近してきたスナイモンを横に飛ぶことで躱すと、追撃と言わんばかりに右手に炎を溜め、

放とうとしたが、その瞬間に先程吹き飛ばしたスナイモンがフレイドラモンに体当たりして

それを防いだ。

 

 

『プチサンダー!』

 

『マジカルファイアー!』

 

 

 フレイドラモンを援護すべく、テントモンとピヨモンは必殺技をスナイモンに放ったが、

その直線状にモジャモンが現れ、その攻撃を受け止めた。

 

 

「これじゃあのデジモンの援護が出来ない!」

 

「……ダメ、やっぱり進化も出来ない」

 

 空はピヨモンを進化させるべくデジヴァイスを強く握ったが、空しくも反応は無かった。

今の空達には、モジャモンの攻撃を躱し続ける以外に出来る事は無かった。

 

 

「うわぁーん! こんな事になるならデジタルワールドになんて来なければよかった!!」

 

 

 京の悲痛な叫びに、タケル達を含む誰もがそんな事は無いと返す事は出来なかった。

京と伊織は今日初めてデジタルワールドに来たのだ。

そんな初めての日にいきなりこんな目にあったのではそう思われても仕方が無いと

タケル達は考えてしまった。

 

それに加え、先程二人がデジメンタルを引き抜いた際、

突然現れたホークモンとアルマジモンに、

ずっと待っていた、自分達はあなたのパートナーデジモンです、私達と共に戦ってください、

等と言われて京達は、喜びとか混乱よりも先に恐怖を覚えてしまった。

だからこそ、京と伊織はホークモンとアルマジモンの言葉を受け止めきれず、

二体と距離を取っていた。

これではアーマー進化させることが出来る筈が無かった。

 

 

「あきまへん。

やっぱりワテとピヨモンはんだけじゃモジャモンを止める事は出来まへん」

 

「あの炎のデジモンも二体のスナイモンに手こずってるみたいだし

協力は望めそうにないわ……どうする空?」

 

「……進化さえ出来れば……!」

 

 

光子郎は先程から何度もテントモンを進化させようとしていたがそれは叶わなかった。

どんどん追い詰められている現状に京は恐怖のせいか、その場に座り込んでしまった。

 

 そんな京の姿を見たホークモンは、これ以上、京は動けないと

判断し、無謀と理解しながらも意を決してモジャモンに飛びかかった。

それを見たアルマジモンもそれに続くようにモジャモンに向かって行った。

 

 ホークモンとアルマジモンはまだ目覚めたばかりで本調子では無い上、

相手は、自分達の格上の成熟期デジモン。結果は火を見るよりも明らかだった。

 

 予想を覆すことなくホークモンとアルマジモンはたった一撃で後方に吹き飛ばされた。

 

 

「……っく、まだだ」

 

 

 だがすぐさま立ち上がり、再びモジャモンに向かって行く二体。

何度も何度も吹き飛ばされても、ボロボロになっても二体は諦めずに向かって行った。

 

 

「……どうして、どうしてさっき会ったばかりの私の為にそこまでするのよ」

 

 

 フラフラになっても挑み続けるホークモン達の姿に京は疑問を覚えずにはいられなかった。

 

 

「――――アイツにとって君は自分の命よりも大事な存在なんだからだろう」

 

 

 京の疑問に答えたのは聞いたことのない声だった。

タケル達は突然の声に驚きながら、その声のした方を振り返ると、

そこには自分達と同じような背丈で、妙な仮面を付けた人間の子供が立って居た。

 



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006 二度目の絶望

 「君は一体……?」

 

 

 僕の姿を見たタケルは怪しいモノを見るかのような表情を向けた。

……彼がそう思うのも無理はない。

なんせ僕は特段変わりのない服装をしているのに、

顔に変な仮面を付けているという怪しさ満載の姿をしていた。

誰がどう見ても不審者と判断されるだろう。

 

 僕がこんな仮面を付けている理由は二つ。

一つは出来る限り、現実世界で選ばれし子供達と遭遇するのを避ける為。

顔がわれてしまっては、それが難しくなるので、

もしもデジタルワールドで選ばれし子供達の前に出る事になったら

これを仮面を付けようと決めていた。

 

 もう一つは……彼等と面と向かって話す勇気が無かったから。

僕にとって選ばれし子供達の存在は眩しすぎる。

彼等の姿を見ていると、僕は自分が嫌になる。多くの事を知りながらそれを伝えない自分に。

 

 

「……あたしがあの子にとって命よりも大事な存在ってどういう事?」

 

 

 タケルの言葉に返答せずにいると、ふと京が先程言った言葉の意味を尋ねてきた。

 

――――選ばれし子供達に後ろめたさを持つ僕が、

今この瞬間、彼女たちの前に姿を現したのには勿論理由はある。

それは、新たな選ばれし子供として選ばれた京と伊織に伝えるべきだと思ったからだ。

……何故だか分からないが、原作と違って二人はパートナーとそれ程仲良くなっていない。

こんな状態で、ホークモンとアルマジモンが、そしてタケル達が二人と話しても、

二人は、選ばれたから戦えと、言われていると思ってしまうかもしれない。

本人たちにそのつもりが無くても。

 

 だからこそ此処は、二人と初対面である僕が伝えるべきだろう。

 

 

「言葉通りの意味だが」

 

「それが分かんないって言ってるのよ!

どうしてさっき会ったばかりのあたしをアイツは命がけで守ろうとしてるの?

選ばれし子供だから? そもそも何であたしが選ばれたの?

別にあたしは他人と比べて優れてる訳でも変わってる訳でも無いのに……!

それに私は――――戦いたくなんてないのよ!

それも誰かが勝手にあたしを選んだから戦えなんて……そんなの身勝手じゃない」

 

「そうですよ。

……そんな理由で戦えと言われても納得が出来ません!」

 

 

京と伊織は、ここに来てから抱え込んだ悩みを僕にぶつけてきた。

……そう、二人はここに戦いに来たのではなく、ただ遊びに来ただけなのだ。

それなのに、自分しか抜けないデジメンタルが有ったり、

それを抜いたら自分のパートナーデジモンが現れたり、

そして自分と一緒に戦ってくれと言われたりと、

正直に言えば二人にとって理不尽な事だらけだった。

 

―――――だからこそ僕は二人に伝えなければならない

 

 

「そうか。

――――ならここから逃げて、元の世界に戻るといい。

今なら僕達とあの二体のデジモンを囮に安全に逃げる事が出来る」

 

「――――え?」

 

 

僕の言葉に京と伊織は驚愕の声を上げた。

その言葉を近くで聞いていたタケルは僕の言葉に異議を唱えようとしていたが、

光子郎に止められていた。

……光子郎もそうする事も間違いではないと思っているもかも知れない。

 

 

「君達の言う通りだ。君達は勝手に選ばれた選ばれし子供だ。

言うならば被害者だ。

そんな君達が無理して戦う理由はどこにも無い。そう何処にも無い。

だから君達は元の世界に帰れ。今日あった事をすべて忘れて」

 

「でも――――そんな事をしたらあのへんな生き物……ホークモンはどうなるの?」

 

「……そうです!

僕達が居なくなったらアルマジモンはどうなるんです?

アルマジモンは僕らの事をずっと待っていたと言っていましたよ!」

 

「気にする事は無い。

どちらにしても君達が選ばれし子供にならないなら関係ない話だろう?

そんな事より早く逃げろ。

――――もうあの二体も持たないぞ?」

 

 

 その言葉に、二人はホークモン達の方を振り返ると、

そこにはボロボロで、今にも倒れそうなホークモン達の姿があった。

 

 ホークモンとアルマジモンは、京と伊織が自分達の方を見ていると気が付くと、

ぜぇぜぇと、息を切らしながら二人が聞こえるギリギリの声で話しかけてきた。

 

 

「……その者の言う通りです。今の内に逃げてください京さん。

……私は、京さんと会えた喜びにうつつを抜かし、

結果、京さんの思いを何も考えていませんでした。これではパートナーデジモン失格です。

――――だからここは任せてください。京さんが逃げるまで決してコイツを通したりしません」

 

「イオリぃ……すまんかったな。

オレ……伊織は、オレに会うためにここに来たんだと思ってた。

でもそれはオレの勘違いだった。

――――迷惑かけた償いは果たすぜぇ」

 

 

 二体の覚悟を決めた言葉に京達は俯いた。

……自分がどうするべきか考えているんだろう。

 

 

「……君達は選ばれし子供に無理してなる必要は無い。

ここで変に気を使って選ばれし子供になっても正直に言って足手まといだ。

――――だが、今、目の前のデジモンを見て助けたいと、共に戦いたいと思うなら

そのD3を掲げろ」

 

 

 僕の言葉に二人はゆっくりと顔を上げた。

 

 

「選ばれし子供になるとか、ならないとか、ならなければならないとか関係ない。

そんな事あとで考えればいい。時間は十分な程にある。

それよりだ、君達は()どうしたいんだ?」

 

「――――あたしは…………」

「――――僕は…………」

 

「「ホークモン〈アルマジモン〉を助けたい!!」」

 

「――――そうか。

ならD3を掲げてデジメンタルアップと叫べ!」

 

 

 僕の言葉に二人は視線を合わせると、大きく頷き、

空高くD3を掲げて叫んだ。『デジメンタルアップ』と。

その瞬間二人のD3は光を放ちそれぞれのパートナーデジモンの方に飛んで行き、

光で包み込んだ。

そしてその光が消えるとそこには二体の新たなデジモンの姿があった。

――――アーマー進化体、ホルスモンとディグモンだ。

 

 

「嘘!? ピヨモン達は進化出来なかったのにどうして?」

「……これが新たな選ばれし子供として選ばれた、京君と伊織君の力かもしれませんね」

 

 

 ホルスモンとディグモンは先程まで、

その場からピクリとも動かせなかったモジャモンを

意とも容易く吹き飛ばすと、それぞれのパートナーの隣に来た。

 

 

「京さん……どうして?」

 

「待って! ……あたしはまだ選ばれし子供って奴になったつもりはないわ。

あたしはただ、目の前で傷付いている貴方を放っておけなかっただけ」

 

「僕もそうです。

選ばれし子供として戦う事にまだ答えは出せていません。

僕は、選ばれし子供としてではなく、ただ一人の人間として君を救いたかっただけです」

 

「イオリぃ……」

 

「――――いい雰囲気になっている所悪いが、

モジャモンがこっちに来ているぞ」

 

 

 僕の言葉にハッとなった二人と二体がモジャモンの方を見てみると、

そこには凄い形相でこっちに向かって来るモジャモンの姿があった。

 

 その光景にディグモンとホルスモンはいち早く反応し、再びモジャモンに向かって行き、

そして再び吹き飛ばした。

 

 

「リングよ! 黒いリングを狙って!! そうすれば洗脳が解ける筈!」

 

 

 モジャモンが転倒し、チャンスが訪れたと思ったテイルモンは大声で二体に伝えた。

その言葉に成る程と、理解した二人は渾身の必殺技をイービルリングに向かって放った。

二体の必殺技は見事にイービルリングに命中し、破壊する事が出来た。

洗脳が解けたモジャモンは、先程までの事を謝るかのように頭を下げると、

ひそひそと森の中へ消えていった。

 

 

「……あのデジモン、操られてただけだったのね」

 

「……そうみたいですね」

 

 

 先程まで暴れていたデジモンとは思えない豹変ぶりに唖然とした表情になる京と伊織。

 

 

「そうなの。本当は大人しくて優しいデジモンなのよ」

 

 

 二人の言葉にヒカリはそう付け足すヒカリの表情は悲しさで溢れていた。

 

 密かにスナイモンとの戦闘を終えた僕とフレイドラモンは、

京達の方へと歩いて行った。

 

 

「何者かがこの黒いリングを量産し、デジモンを操っているようだ。

……誰が何の為にやっているかは不明だが」

 

 

 ……正直に言えは、その正体も目的も心当たりがあるが、ここでは言う訳にはいかない。

僕が内心でそう思っていると、京が突然、地団駄を踏み出した。

 

 

「何よそいつ!! あんな大人しそうなデジモンを操ってこんな事をさせるなんて許せない!

もし直接会う事が出来たならあたしが一発ガツンと言ってやるわ!」

 

「そうですね。

こんな平和な世界を乱そうとしている奴を僕も許せません」

 

「――――という事は二人とも選ばれし子供になってくれるの?」

 

 

 ヒカリの言葉に京と伊織は少し照れくさそうにしながらも答えた。

 

 

「ん……あたしは勝手に選ばれし子供として選ばれたことに対しては、

まだ納得した訳は無いけど、

いいデジモンを操って、好き勝手やってる奴が居ると知ったからには放っておけないわ。

……それにホークモンを進化させた時、何ていうか心が繋がった感じがして……

その、悪くない気分だったの。

ぶっちゃけ、ホークモンと一緒に居たいから選ばれし子供になるって決めたの。

……こんな気持ちじゃダメかな?」

 

「僕も京さんと一緒です。

他人を巻き込んで悪行を働く存在を僕も許せません。

……それに、もう少しアルマジモンの事を知りたいですし」

 

「二人ともご協力感謝します。

……現時点では僕達のデジモンは進化させる事が出来ないので、

二人の参入は本当にありがたいです。

――――それで貴方は僕達の味方、という認識でよろしいでしょうか?」

 

 今ならこっそりこの場を抜け出せるかなとか考えていたら、

それを妨害するかのように光子郎が話しかけてきた。

……恐らく、眼を放したら昨日の様に逃げ出されるとマークされていたのだろう。

 

 

「……そう思ってくれて構わない。僕は君達と敵対するつもりは無いよ」

 

「ならどうしてそんな仮面を付けてるの?

君も僕達と同じ選ばし子供なんだろ? 顔を隠す必要なんて無いじゃないか」

 

「……あまり顔を知られたくないからだよ。僕にも色々事情があるんだ」

 

「それは……私達が手伝えない事?」

 

「……気持ちだけ受け取っておくよ。

でもこれは、僕がやらなければいけない問題だ。

君達を巻き込むつもりは無い」

 

 ……原作通りに話が進むように誘導するなんてタケル達に言える筈が無かった。

だからこれは僕だけで解決しなければならない問題だ。

 僕はタケルとヒカリの質問にそう答えると、

彼等から距離を取って、背を向けた。

 

 

「……僕には僕でやる事がある。

昨日や今日のように毎回助けに来るとは思わないでほしい。

……この世界は君達が守るんだ」

 

「……貴方も選ばれし子供なら、私達と一緒にデジタルワールドを守ろうと思わないの?」

 

 

 ヒカリのその問いに僕は答えないまま、フレイドラモンを連れ、その場を去った。

ありがたい事に、僕の後をつけてくる者は誰も居なかった。

 

 タケル達から離れて、十分程歩いた森の中、

僕とブイモンは座り込んでいた。

 

 ちなみにフレイドラモンは、タケル達から見えない場所に来た瞬間、アーマー進化が解けた。

……進化を維持するのにかなり力を使ったようだ、その場にへたり込んでしまった。

どうやらブイモンは、昨日同様、ブイモンの姿を見られない方が良いと思ったらしく、

進化を解かずに頑張っていたようだ。

僕はそんなブイモンにお礼を言い、ブイモンをおんぶしてこの場所まで運んだ。

 

 

 「……そう言えば、昨日ブイモンが集めた情報をまだ聞けてなかったね」

 

 

 先程は予想以上にタケル達が早く来てしまったために聞けずじまいだった。

 

 

「そう言えばそうだった」

 

「何か情報は掴めた?」

 

「おう! とっておきの情報を手に入れたよ!

手に入れた情報は、なんと黒いリングをばらまいている犯人の情報だよ!」

 

「……その犯人の正体は?」

 

「それがね、なんと――――人間の大人が犯人みたいだよ! 性別は女って聞いてる」

 

 

 その言葉は、僕を絶望の底に叩きつけるのに十分な情報だった。

 



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主人公設定(飛ばして頂いても構いません)

 以前に主人公のプロフィールを公開して欲しいと言う声があったので今更ながら投稿させていただく事にしました。

*文章が中々最低文字数までいかなかったのでおまけの文がありますが、
それは見て頂けなくても構いません。
……その下におまけのおまけがありますが、
それは本当に見て頂かなくて構いません……


名前:守谷(もりや) 天城(あまき)

年齢:10歳

身長:約150cm(原作開始時の本宮大輔と同じくらい)

特徴:黒の直毛ヘアのショート・釣り目

肩書き:転生者・選ばれし子供・小学五年生

夢:この世界が原作通りの世界になる事

転生特典:???

 

備考

 神によって強制的に転生させられた一般人。

転生後、2歳になる辺りで前世の記憶を自覚できるように。

見た目は目付き以外前世の10歳だった時と全く同じ。

転生前の性格は、根暗で、自意識過剰で、頭が悪い癖に、一度答えを出してしまったら、それが正解だと思ってしまう程視野が狭く、そして何よりもデジモンが大好きな人間。

デジモン作品でも特にデジモンアドベンチャーが好きで、当初は前作改変を恐れ、極限まで原作に関わらない様に行動していたが、大輔が手に入れる筈だった青色のD3を手に入れてしまい仕方なく原作に関わる事に。

 

 両親には記憶を持ち始めた頃には何らかの理由で捨てられていて、

現在は母方のお爺ちゃんが用意してくれたマンションに住んでいる。

書類上はお爺ちゃんと二人暮らしとなって居て、現在もそうだが、

正確にはお爺ちゃんの家はここではなく近くにある一軒家。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……主人公の設定は以上ですが、本文が最低文数の1000を大きく下回っていたので、

おまけ?の文を追加します。

 

 

 現時点で原作と異なり、尚且つ原因が不明な事

 

・ウォーゲーム編で、自身をコピーペーストで増やしたディアボロモンが突然動きを止め、更にひとりでにコピーが消え、本体だけになった後ウォーグレイモンとメタルガルルモンに倒された。

・上記の結果、ウォーグレイモンとメタルガルルモンがジョグレスせず、

オメガモンが誕生しなかった。

・本宮大輔の元に行くはずだった青色のD3が主人公の元へ来た。

・資格のない主人公が勇気のデジメンタルを抜く事が出来た。

・原作ではまだ動いていない筈の謎の女(恐らくアルケニモン)が既に動いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………まだ足りないのでおまけのおまけ。

 

 作者のプレイしたデジモンゲーム(発売日順)

*プレイ順ではありません。

 

・デジモンアドベンチャー アノードテイマー

・デジモンワールド デジタルカードバトル(未クリア)

・デジモンワールド2(未クリア)

・デジモンアドベンチャー02 タッグテイマーズ

・デジモンアドベンチャー02 ディーワンテイマーズ

・デジモンテイマーズ デジモンメドレー

・キッズステーション デジモンパーク

・デジモンテイマーズ バトルスピリット

・デジモンテイマーズ バトルエボリューション

・デジモンテイマーズ ブレイブテイマー

・デジモンワールド3 新たなる冒険の扉

・バトルスピリット デジモンフロンティア

・デジモンワールドX

・デジモンストーリー

・デジモンストーリー サンバースト

・デジモンチャンピオンシップ(未クリア)

・デジモンストーリー ロストエボリューション(未クリア)

・デジモンコレクターズ(サービス終了)

・デジモンストーリー サイバースルゥース

・デジモンクルセイダー(サービス終了)

・デジモンアドベンチャー(未クリア)

・デジモンワールド next order(未クリア)

・デジモンリンクス(現在完全放置)

・デジモンストーリー サイバースルゥース ハッカーズメモリー

 

……改めて思い返してみると途中で辞めすぎですね…



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007 異変の原因

 京と伊織がパートナーデジモンと出会ってから数日後の昼頃、

僕は学校をさぼって、田町のとある学校の正門が見通せる、建物の屋上に来ていた。

 理由は、一乗寺賢の現状を確認する為。

ブイモンの話を聞いた後、僕自身もデジタルワールドを回って情報を集めたが、

どこに行ってもブイモンと同じような情報しか得られなかった。

――――デジタルワールドを荒らしている犯人は人間の大人。性別は恐らく女。

 

そして、情報を集めている最中に、直接その人間を見たと言うデジモンが居たので、

その人間の服装や、特徴を教えて貰った。

 ――――変な帽子とサングラスを身に付け、

腰まで伸びる銀髪の髪が特徴で、見るからに偉そうな女。だったらしい。

 

 ……間違いない、アルケニモンだ。

だが、原作ではアルケニモン達が行動を起こすのは、一乗寺賢が改心し、ダークタワーを建てる者が居なくなってからの筈だ。それなのに何故、今行動してるのか?

考えられる原因は、現状、一乗寺賢に何かがあったという原因しか考えられない。

だからわざわざ田町まで来て、一乗寺賢の様子を見に来ているのだ。

……まあ、一乗寺賢が、田町の何処の学校に通っていたかを覚えていなかったので、

彼の捜索に数日かかっている訳だが問題は無い。

 

その理由は、京と伊織がパートナーと出会った翌日に、

タケルとヒカリがデジメンタルを手に入れるのをこの目で確認しているからだ。

アーマー進化出来る選ばれし子供が4人も居るならば、よっぽどの事が起きない限り問題ないだろう。

……僕にはこの物語を主人公本宮大輔の存在抜きで、

出来る限り原作通りに進めるという役目があるのだ。

いくら選ばれし子供達が、この世界に重要な存在だとしても、

四六時中デジタルワールドでの動向を見張っている訳にもいかない。

 

 そんな事を考えていると、学校の正門から次々と生徒が出てくる光景が見えた。

どうやら下校時刻になったようだ。

……さて、はたして一乗寺賢はこの学校にいるのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待ち続けて数時間後、そろそろ日が暮れ始め、部活動をしていた生徒も殆ど下校したので、

切り上げて、帰ろうと思い始めた時だった。

正門から一乗寺賢と思われる人物が出てくるのが見えた。

見た目はほぼ原作通りの姿だったが、原作と違い、メガネをかけていた。

僕は急いで、その場を後にし、一乗寺賢と思われる少年の後を追った。

 

 後を追う事十数分後、一乗寺賢と思われる少年は、古びた建物……

おそらくゲームセンターと思われる建物の中へと入って行った。

僕もその後に続くようにその建物の中へと入った。

 

 建物の中に入ってみると、そこには数年前と思われるアーケードゲームや、

コインゲームが多く設置されたゲームセンターの姿があった。

中は、外見とは違い、意外と綺麗に整頓されており、

人も平日の夕暮れ時だというのにそこそこいた。

 

 

 一乗寺賢を探すため、店内をうろうろしていると、

突然、店内に歓声の声が響き渡った。

その歓声に引かれる様に、店内の子供がその声の元に集まっていった。

何があったのか気になったので、僕もその声の元に向かう。

 

 向かってみると、そこには、大勢のギャラリーと、新記録と画面に大きく表示された

シューティングゲームの筐体と、その記録を出したと思われる中学生ぐらいの子供の後ろ姿があった。

良く見てみると、その隣には一乗寺賢の姿もあった。

 

 ……どうやら一乗寺賢はここに普通にゲームしに来ただけだったようだ。

そう判断した僕は、原作と少し違う一乗寺賢に疑問を覚えながらその場を立ち去ろうとしたが、

その時、ふと耳に入ったギャラリーの言葉に驚愕した。

 

 

「すげぇーよ! ()さん! このゲームのランキング全部遼さんの名前で埋まっちゃったよ!」

 

 

 ――――遼、だと?

 予想外の名前に僕は勢いよく振り返り、記録を出した中学生の背中を再び見つめた。

 

 

「秋山さんってホントゲーム上手ですね!」

 

「格ゲーでも遼さんが本気で戦って負けてるの見た事ないよ!」

 

 

 中学生の少年が前を向いているせいで顔は未だ確認出来ていないが、

ギャラリーがその中学生の姓を言った事で、僕には彼が誰なのかが分かった。

 

 ――――秋山遼。

 

太一達八人の選ばれし子供は、アポカリモンを倒した後、

自身のパートナーデジモン達に別れを告げた後、デジモン達に見送られながら元の世界に戻った。

これが原作アニメのデジモンアドベンチャーの最終回だ。

だがこの終わりには少しだけ続きがあった。

 

――――デジモンアドベンチャーアノード・カソードテイマー。

これはアニメとはパラレルと言える立ち位置に存在する、ワンダースワンで発売されたデジモンのゲームの名前だ。

このゲームでは、太一達八人の選ばれし子供が元の世界へ戻った数か月後、『ミレニアモン』と呼ばれるデジモンが現れ、再びデジタルワールドに来た太一達を返り討ちにして捕えた。

そしてミレニアモンの力によって、今まで倒した悪のデジモンが復活し、

再びデジモンワールドに危機が訪れる。

『秋山遼』はそんな選ばれし子供達とデジタルワールドを救う為、デジタルワールドに召喚される。

つまり秋山遼は、俗にいう9人目の選ばれし子供なのだ。

 

 ……まあ、これはゲームの話であって、実際にはゲーム版の話は、

アニメの設定に対して大きな矛盾が複数存在する為、あくまでパラレルの話と解釈されている。

 

――――だが全く繋がっていない訳でも無い。

何故なら一乗寺賢に暗黒の種を埋め込んだのはミレニアモン――――

 

 

「……そういう、事か」

 

 

 何故、アルケニモンが原作より早く行動しているかがわかった。

その理由は、一乗寺賢が選ばれし子供では無い……つまりデジモンカイザーが存在しない為、

アルケニモン自身が行動せざるを得なかったのだ。

 

 そして一乗寺賢が選ばれし子供にならなかった理由は、

この世界にミレニアモンが存在せず、暗黒の種を埋め込まれなかったからだ。

 ミレニアモンが居なければ、一乗寺賢が選ばれし子供になる事は無い。

だから、アルケニモンはこんな序盤から行動しているのだ。

この考えで間違いはないだろう。

 

……だが、それならどうしてこの世界にミレニアモンが現れなかったのか。

ミレニアモンは、太一とウォーグレイモンに敗れたムゲンドラモンと、

大輔とマグナモンに敗れたキメラモンが合体し生まれたデジモンだ。

現時点で、合体元のムゲンドラモンは既に倒されているが、キメラモンは現段階ではまだ生まれていない。

……そもそもキメラモンを作ったデジモンカイザーがこの世界に存在しないが、おそらく彼が居なくても原作通り誕生するだろう。

……そうでないと一乗寺賢に暗黒の種を埋め込んだミレニアモンが存在する理由に説明が付かないからだ。

 

僕はふと天井を見上げた。

恐らくであるが、ミレニアモンが現れなかった理由は、

大輔では無く、僕が選ばれし子供になった事が原因だ。

理由は分からないが、大輔によって倒される事でキメラモンは、

ムゲンドラモンと合体し、過去に戻って、太一達を捕え、デジタルワールドを支配する。

 

 大輔さえ選ばれし子供になっていれば、ミレニアモンが誕生する。

ミレニアモンが存在すれば、一乗寺賢は体に暗黒の種を埋め込まれる、

そうなれば、原作通り一乗寺賢はデジモンカイザーになるだろう。

 

 ……そう、現状ほぼ全ての異変は、大輔が居ない事によって発生しているモノだった。

僕が大輔の代わりに選ばれし子供になった事で起きてしまっている異変だったのだ。

 

 目眩がした。

選ばれし子供になる前も、なってしまってからも、必死に原作を変えない様に過ごしてきた僕だったが、そもそも僕が存在するだけで、こんなにも原作に影響を与えてしまっていた事に気が付いてしまった。

 

 無性にその場で泣きたくなったが、ぐっと堪えた。

泣いた所で何かが変わる訳でも無い。

自分の存在を恨みたくなっても、存在してしまっている以上どうしようもない。

僕は、僕のせいで迷惑をかけてしまっているこの世界の為にも出来る限り、

原作通りに話を進めなければならない。

……それに神が僕に言っていた、救世主になれと言う言葉の意味も考えなければならない。

 

 

 

「……僕が選ばれし子供になった事で大輔、君は今一体何をしているんだろうか」

 

 

 恐らく僕の存在のせいで選ばれし子供になれなかった大輔の事がふと気になった僕は、

誰にも聞こえないような声量で疑問を口にした。

勿論その問いに答える者は誰も居なかった。

 



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008 暗黒の海

投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。


後、感想の方で主人公のデジタルワールドでの服装がどうなっているかという質問を受け、
その事に関して全く描写していない事に気が付きました。
それで主人公のデジタルワールドでの服装ですが、
主人公が初めてデジタルワールドに来る際に来ていた私服がデジタルワールドでの普段着?となっています。

第8話になるまでその事に関して説明せずに申し訳ございませんでした。
今回の様に何かこの小説内で分からない点がありましたら、感想にてご指摘して頂けると光栄です。


 この日、僕はブイモンと共にデジタルワールドのある場所に来ていた。

その場所は、これと言って特別な所でもないのだが、この場所にはあるモノがあった。

 

 

「――――見つけた」

 

「――――これがアマキの言う、オレ達の二つ目のデジメンタル?」

 

 

 今までのデジメンタルを違い、洞穴や、祭壇と言った場所にでは無く、

外に置いてあるデジメンタル――――友情のデジメンタルを指差しながらブイモンが僕に問いかけた。

 

 

「…………」

 

 

 僕はブイモンの問いに答えずに無言で友情のデジメンタルに手を掛け、持ち上げようと力を込めた。

友情のデジメンタルは初めこそは重くてビクともしなかったが、

次第にその重さを感じなくなっていき、

最終的に何も持っていないと思えるくらいの重さになり持ち上げる事が出来た。

 

 新たなデジメンタルを手に入れた事にブイモンは両手を上げて喜んでいたが、

僕は純粋には喜べなかった。

 

 ――――何故僕は、友情のデジメンタルを引き抜く事が出来たのか?

いや、そもそもどうして僕は勇気のデジメンタルを引き抜く事が出来たのか?

確かに僕には、選ばれし子供としてデジタルワールドに選ばれた。

だが、そうだからと言って僕に勇気と友情のデジメンタルを引き抜く事が出来る

素質、覚悟、資格があるのか?

―――――それは無いと僕は断言できる。

 

 ならどうして僕は勇気と、友情のデジメンタルを引き抜く事が出来たのか?

答えなんて分からない。

ただ言える事は、僕は大輔とは違い、

資格が無いのにデジメンタルを手に入れているという事だ。

――――もしかすると僕は、大輔とは少し事情が異なる選ばれし子供なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友情のデジメンタルを手にしてから数日後の昼過ぎ、

僕は学校を体調不良で欠席し、チビモンと共に、タケル達が通う学校の近くの海に来ていた。

 

 理由は、暗黒の海に行く為だ。

原作では大体この時期に、ヒカリはこの辺で暗黒の海の住人に呼ばれ、暗黒の海に迷い込む。

タケルは、ヒカリが消える前に残した海と言う言葉をヒントにこの場所に辿り着き、

ヒカリの名前を呼び続ける事で、暗黒の海に居るヒカリと空間を超えて会話する事が出来、

その際に生じた空間の穴からタケルとパタモンとテイルモンは暗黒の海に入った。

 

 僕はタケル達が暗黒の海に入る際にそれに便乗して入ろうと計画していた。

……一乗寺賢が選ばれし子供ではないと分かってしまった以上、僕はどうしても一度暗黒の海に行く必要があった。

……だからこそ、僕はここ数日学校を欠席してでも毎日この場所に来ていた。

 

 この場所に来てから一時間後程経過し、そろそろ学生の下校時間だと考えていたその時、

堤防の上に虚ろな目で現れたヒカリの姿を見つけた。

ヒカリはしばらく海をぼうっと見つめていると、突然体がノイズのように荒れ、

次の瞬間にはその場所から姿を消していた。

 

 僕はその光景に罪悪感を覚えながら立ち上がると、

普段デジタルワールドで付けている仮面を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒカリが消えてから数十分後、

ヒカリが消えたこの海にタケルとパタモンとテイルモンがやって来た。

……どうやら原作通り、デジタルワールドでは無い場所にヒカリが居ると感付き、

この場所に来たようだ。

ただ闇雲にヒカリの名前を呼び続けるタケル達の前に、

僕は仮面を付けたまま、ブイモンと共に姿を現した。

 

 

「……よくこの場所がわかったな」

 

 

 突然後ろから話しかけられたタケル達は驚き、

振り向くとデジタルワールドでしか会った事のない僕の姿に更に驚きの表情を見せた。

 

 

「君は……現実世界でもその悪趣味な仮面を付けているんだね」

 

「四六時中付けている訳でも無いけどな」

 

 

僕はそう言うとタケル達の前を遮り、数歩程歩いた所で歩み止める。

 

 

「…………仲間を探しているんだろ?

それなら付いて来るといい。近くまでなら案内しよう」

 

「! お前はヒカリが何処に居るのか知っているのか?」

 

 

 テイルモンの質問に僕はああ、と言葉を返す。

 

 

「お前の仲間はデジタルワールドでも、現実世界でも無い場所に迷い込んでいる」

 

「デジタルワールドでも、現実世界でも無い場所、だって?」

 

「ああ。実際どういう名前の場所かは知らないが、僕はその場所を暗黒の海と呼んでいる」

 

「暗黒の海……」

 

「だが、その場所は基本的に此方の意志では行く事が出来ない世界だ。

向こうに居る者に招かれない限りは」

 

「ならボク達はどうやってそっちの世界に行けばいいの?」

 

「それは歩きながら話そう」

 

 

 パタモンの問いに僕はそう返すと、再び歩き出した。

……理由は分からないが、僕にはヒカリが居るであろう暗黒の海に繋がる時空の切れ目の場所がなんとなく分かっていた。

この辺りの時空が変だと思って辺りを見ていると、何となくだが、他の場所より時空が歪んでいる場所が察知出来たのだ。

 

……これが原作でタケルやヒカリがよく見せていた、他の選ばれし子供とは違う特殊な力の様なモノなのか?

そうだとしたら、どうして僕にそんな力があるのだろうか?

それは、資格のない勇気や友情のデジメンタルを使える事に関係しているのだろうか?

その答えは考えても出てくることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……この辺りだな」

 

 

 タケル達を引きつれてしばらく堤防を歩き、

目的の場所であろう所に着いた僕はそう言って立ち止まった。

 

 

「この場所がそうなの?

……僕にはこの辺りが他の場所と違っている様には見えないんだけど」

 

「……なんとなくこの場所だろうと僕は思っているが、

この場所であると言う確信は正直に言うと無い。

……信用出来ないなら他の場所を探すといい」

 

 

 この場所が他の場所より時空が歪んでいる気がすると僕が感じているだけで、

この場所であると断言出来る程、自身は無かった。

だからタケル達が僕の勘を信用出来ないと言ってこの場所を離れても仕方が無いと考えていた。

 

 

「――――いや、信じるよ」

 

 

 だが帰ってきたのは予想外の言葉だった。

僕の考えていた予想は、良くて、

他に当てが無いから仕方なくこの場所に留まると言う妥協の選択だと思っていた。

だがタケルはそうでは無く、僕の言葉を信じてこの場所に残ると言う選択肢だった。

 

 タケルはそう言うと、海の方に向かって、ヒカリの名前を叫び続けた。

パタモンもテイルモンもそれに続くように叫び出した。

 

 タケル達がこうしている理由は、ここまで来る道中で僕がタケル達に、

暗黒の海に行くには、向こうに居るモノに招かれなければ行く事は出来ない。

だから向こうに居るお前達の仲間に招いてもらう為に、時空の歪みの場所に来たら仲間の名前を呼び続けろと言ったからだ。

タケル達はそれを馬鹿正直に信じてそれを実行していた。

……何もしないで待っていると言うのが出来ないからやっているだけの可能性もあったが、

そうだとしてもタケル達は僕の言った通りに行動していた。

 

 

「……お前達はどうして僕の言葉を馬鹿正直に信じる事が出来る?

騙されているかもしれないとか考えていないのか?」

 

 

 気付けば僕はタケルにそう問いかけていた。

仮面を付けて顔を隠し、目的も分からない人間をどうして信用する事が出来るか不思議で仕方が無かったからだ。

 

 

「それは――――君が太一さんの勇気の紋章を受け継いでいるからだよ。

君が勇気のデジメンタルを持っている事は、この前僕達を助けてくれた時に、

君のパートナーに刻まれた勇気の紋章の印から推測出来る。

実際君は、勇気のデジメンタルを持っているんでしょ?」

 

「……まあ一応持っている」

 

「だったら僕は、よっぽどの事が無い限り、君の事を疑ったりしないよ。

太一さんの勇気を受け継いでいる君をそう簡単には疑えないよ」

 

 

 タケルは僕に笑顔でそう投げかけると、再び海に向かってヒカリの名前を叫び出した。

 

 太一さんの勇気を受け継いでいる、か。

……タケルの言葉に僕の胸はギュッと締め付けられていた。

それもそうだろう。僕は八神太一の様な勇気が無いのに、

勇気のデジメンタルを扱っているのだから。

 

 僕が罪悪感で胸がいっぱいになって居ると、タケル達の声がヒカリに届いたのか、

突如目の前に、モニターに映し出されているかのように薄くなっているヒカリの姿が現れ、

その後、その場所に大きな時空の穴が現れた。

 

 タケル達はその時空の穴を見つけると、迷いもせずにその時空の穴に飛び込んで行った。

僕とブイモンもそれに付いて行くように少し時間を空けて飛び込んだ。

 

 

 時空の穴を抜けた先には、先程までの場所とは異なる空が広がっていた。

空だけではない。

地面も海も自分達の居た世界とは異なっていた。

何と言うか見ているだけで心が不安になる世界だった。

 

 その世界の空気に僕とブイモンは少しの間呑まれていたが、

タケルがパタモンをペガスモンに進化させて襲い掛かってくるエアドラモンと戦っている姿を見て我に返った。

 

 

「……助けに行かないの?」

 

 

 苦戦するペガスモンの姿にブイモンは僕にそう投げかけたが、

それに対し、その必要は無いよと返す。

 

 そうしてペガスモンがエアドラモンに防戦一方となって居ると、

遠くの方にダークタワーがある事に気が付いたテイルモンは、

ペガスモンに飛び乗り、ダークタワーを破壊するように頼んだ。

その言葉通りペガスモンがダークタワーを破壊すると、その上空から光が溢れ出し、

テイルモンを包み込み、テイルモンをエンジェウーモンに進化させた。

 

 エンジェウーモンは圧倒的な力でエアドラモンを倒すと、

ヒカリ達の周りに居るイービルリングを複数付けられたハンギョモン達のイービルリングを聖なる力で破壊した。

……だが、イービルリングを破壊されたハンギョモンはデジモンでは無い何かに姿を変え、

ヒカリを自分達の信仰する神の元へ連れて行こうと腕をつかんだが、

エンジェウーモンに阻止され、渋々ヒカリ達の前から姿を消した。

 

 原作通りの展開になった事に内心ほっとした僕は、ブイモンを引きつれタケル達の元に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……どうやら終わったみたいだな」

 

 

 思いがけない僕の声にヒカリは勿論、タケル達も驚いていた。

 

 

「貴方は……どうしてこの世界に居るの?」

 

 

 僕がこの世界に居る事に疑問を隠せないヒカリは、僕に疑問を投げかけた。

僕はそれに答えようとしたが、それよりも先にタケルが答えた。

 

 

「彼がヒカリちゃんがこの世界に居る事を知らせてくれたんだよ。

こっちの世界に来るための時空の抜け目も彼が見つけてくれたし

……それにしても、君もこっちに来ているとは思ってなかったよ」

 

「そうだったの。

――――タケルくんに私がここに居る事を知らせてくれてありがとう」

 

「……礼を言う必要は無い。僕自身この世界に用があっただけだ」

 

 

 僕はそう返すと、海の方へと歩き、タケル達から見えない様に自分のD3を

暗黒の海に浸けた。

暗黒の海に浸かったD3は、一乗寺賢のD3の様に黒く染まる事は無かったが、

彼のD3の様に新たな機能が追加された。

――――暗黒の海に繋がるゲートを開く力が。

 

 

「何をやってるの?」

 

 

 僕の行動を疑問に思ったヒカリに僕は何でもないと言葉を返し、

再びヒカリ達の元へ戻った。

 

 

「……恐らくあの空から元の世界に戻れるはずよ」

 

 

 ハンギョモンだった何かがこの場を去った後、空に開いた大きな穴をエンジェウーモンは指差し、元の世界に帰るべく、ヒカリを抱きかかえた。

 

 僕もその穴から帰ろうとブイモンを進化させようと思ったその時ある事に気が付いた。

――――僕を抱えた状態のフレイドラモンのジャンプじゃあそこまで届かないのではと。

 

 ……しまった、そこまでは考えていなかった。

先程手に入れた暗黒の海へと繋がるゲートを開ける力を使えば恐らく元の世界に戻れるが、

タケル達の前でそれを使う訳にはいかない。

ライドラモンのジャンプ力でも恐らく届かないだろう。

どうしたものか……

そう考えていると突然タケルが話しかけてきた。

 

 

「何してるの? 早く乗りなよ。

君のパートナーのアーマー進化は飛べないんだろ?」

 

「…………いいのか?」

 

「あたりまえじゃないか」

 

タケルの言葉に色々思う事は有ったが、その言葉に甘えて、

ブイモン共々ペガスモンに乗せて貰う事にした。

 

 ペガスモンは僕達が乗った事を確認すると、エンジェウーモンにと共に

空に会いた穴に向かって飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間の穴をくぐり、元の世界に戻った僕はペガスモンから降りると、

早々とその場を立ち去ろうとした。

だが残念ながらそれはヒカリによって止められた。

 

 

「待って! ……今日は本当にありがとう。

貴方のお蔭で私はまたこの世界に戻って来れた」

 

「……さっきも言った筈だ。礼を言う必要は無いと。

僕自身にあの海に行く用事があったから、手を貸しただけだ。

それに僕が居なくとも彼なら一人で君の元に辿り着けただろう」

 

 

 なんせ原作はそうなっているのだから。

 

 

「そうだとしても結果的に貴方は私を助けてくれた事に変わりは無いでしょ?

だから――――ありがとう」

 

 

 この世界に来てから初めての他者からの感謝の言葉に僕は仮面の下で何とも言えない表情を浮かべながら、今度こその場から立ち去った。

 



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009 進化条件

 総合評価が100を超え、何か記念の話を書いた方が良いのかなと思っている内に、
総合評価が6倍になっていまいました。

 もしやと思い、ランキングを見たらランクインしていて驚きました。
……正直、うれしいかと聞かれると……そうじゃないかもしれません。
この作品は原作が好きな人があまり楽しめない作品だと思っているので。

それに純粋に文章力や、オリ主人公の存在に自信が無いと言うのもありますね。


……今回の話は、正直読まなくてもいいかもしれません。
ですが、作者的にはこの話はどうしても入れたかったので書かせていただきました。

……読んでいて面倒だと思われた方の為に、後書きにこの話の内容を簡潔に書いておきます。


……後、評価100記念の話は書かない事にします。
理由は、そもそも主人公の仲間と呼べる存在がブイモンしか居ないのと、
そんな話を書く暇があったら話を進めた方が良いと思ったからです。


 暗黒の海に行った日の夜、僕はライドラモンに乗ってデジタルワールドを移動していた。

 

 

「――――この辺がよさそうだね。よし、今日はここにしよう」

 

 ダークタワーが建っていないエリアに来た僕はそう言うと、

ライドラモンから降りて、ライドラモンのアーマー進化を解いた。

 

 

「まずは進化だ。行くよ、ブイモン」

 

 

 ブイモンのおうと言う返事を聞いた僕は、手に持っているD3に少し力を入れ、思いを込める。

その瞬間、D3から光が飛び出し、ブイモンを包み込んだ。

その光が消えた場所にはエクスブイモンが立っていた。

 

 

「よし、やっぱり成熟期にはもう問題無く進化出来るみたいだね。

……次は本番、完全体へ進化だ!」

 

 

 僕はそう言うと、再びD3を握る手に力を込める。

そして、先程よりも強い思いを込めた。

 

 ――――が、D3は全くの反応を見せなかった。

 

「……くそ、今回も駄目か」

 

 

 ブイモンのパートナーとなった日から僕達は何度か、こうして完全体に進化させる特訓を行っていた。

始めたては、成熟期にすら進化出来なかったブイモンだったが、今ではこうしてエクスブイモンに進化できるようになっていた。

……だが、何度やってもそれ以上の結果が出る事は無かった。

 

 

「……アマキ」

 

「…………そうだな。少し休もう」

 

 

 ここまで来るのに結構走らせてしまったしね、と僕は付け足しながら

僕はエクスブイモンの進化を解き、その場に座り込んだ。

 

 

「……アマキ、本当にオレ達だけで完全体に進化する事が出来るのか?」

 

 

 ブイモンの言う、オレ達だけと言うのは、タグや紋章無しに、と言う事だ。

ブイモンがデジタルワールドの異変を調査していた時、その話を聞くついでに

選ばれし子供のパートナーデジモンが完全体に進化する方法を聞いて回っていたらしい。

 大半のデジモンはそんなの分からないと答えたが、

知っているデジモンは皆口をそろえてこう言ったようだ。

『その選ばれし子供のタグと紋章が必要だ』と。

だからこそ紋章とタグ無しにこんな事をしている現状に疑問を覚えているのだろう。

 

 

「……ブイモン、僕の話を聞いてもらってもいいかな?」

 

「……おう」

 

「…………選ばれし子供と言うのはそもそも、デジタルワールドが危機に陥った際に、

召喚される子供達の事。つまりデジタルワールドを救う為に来た人間という事だ」

 

 

 それ位オレでも知ってるよと言うブイモンの不満げな言葉に僕は小さく笑う。

 

 

「そしてその選ばれた子供達には、パートナーデジモンと

デジヴァイスというアイテムが与えれる。

デジヴァイスには、他のデジヴァイスの位置を特定する力、闇を打ち払う力、

そして、デジモンを進化させる特殊な力など様々な能力が備わっている。

……それに加え、選ばれし子供達には自身の心の特性をあらわした紋章が存在し、

それとタグを組み合わせる事で、完全体に進化させる事が可能になる」

 

「だからそれ位オレも知ってるよ!

オレだってアマキが学校とかに行ってる間、色々聞きまわったんだから」

 

「分かってるよブイモン。

別にブイモンが知らないと思ってるからこの話をしたわけじゃないんだ」

 

 

 そう言うと僕は一息ついて、少しの間、目を閉じた。

……ここから先の話は僕が知っているデジモンアドベンチャーの設定では無く、

只の想像の話だからだ。合っているかも分からない話をするか少し迷ったが、

僕は覚悟を決め、目を開け、先程よりも真剣な眼差しでブイモンを見つめた。

 

 

「……ブイモンは話を聞いて疑問に思ったことは無い?」

 

「疑問って……何が?」

 

「選ばれし子供はパートナーデジモンを進化させる事が出来る。

―――――なら、パートナーデジモンは選ばれし子供が居ないと進化出来ないのか?

っていう事」

 

「うん……そりゃ出来ないんじゃないかな。

だってオレ達パートナーデジモンは、

アマキみたいな選ばれし子供が居て初めて進化出来るんだから」

 

「――――野生のデジモンは選ばれし子供無しに進化するのに

どうして、パートナーデジモンは進化出来ないんだ?」

 

「――――――――!」

 

「全て……いや、殆どのデジモンは生まれた瞬間は、幼年期のデジモンだ。

そこから時間が経ったりして成長期のデジモンになる。

そこから様々なデータを得たり、戦闘経験を積んだり住んでいる場所の環境が変わったりすることで成熟期、完全体、そして究極体へと進化する。

そう、選ばれし子供や、紋章やタグの力無しにデジモンは進化出来るんだ。

それなのにブイモンは、パートナーデジモンはそうではないと言うのかい?」

 

 

 僕の言葉にブイモンは下を向いた。

……答えが分からないのであろう。

僕が言っている事が正しいのか、それとも間違っているのか。

……正直に言って僕自身自分の考えが合っているのかは分からない。

 

 

「……確かにパートナーデジモンは通常のデジモンとは少し性質が異なるだろうと思っている。

だけと、それでもパートナーデジモンは一人だと進化出来ないと言うことは無い筈なんだ。

実際、テイルモンっていうパートナーデジモンも、選ばれし子供無しに成熟期に進化したしね。

……まあこれは、テイルモンが選ばれし子供無しに厳しい状況を生きて来たからこそ生まれた例外なのかもしれないけどね」

 

「……つまりアマキはパートナーデジモンが選ばれし子供無しに進化出来るって事がいいたいんだね」

 

「まあそうだね。

厳しい経験を積まないといけないかもしれない、長い年月が必要なのかもしれない。

だけどこれだけは覚えていてほしい。パートナーデジモンは選ばれし子供無しに、

紋章やタグ抜きに進化出来るかも知れないと言う事を」

 

 

 僕の言葉にブイモンは深く頷いた。

 

 

「……かなり話が脱線してしまったね。

僕が本当に話したかったのはパートナーデジモンは、選ばれし子供が居ても紋章やタグが無ければ進化出来ないのかって事」

 

「……そもそも紋章とタグって何なの?」

 

「いい質問だね。

紋章は、持ち主の心が示す、もっともすばらしい個性を元に作られたモノで。

タグは、心の特質の力を増幅しさせるブースターみたいなモノ。

この二つがある事で完全体に進化させる事が出来る」

 

「……でもアマキはそれが無くても進化出来るかも知れないと思ってるんだろ?」

 

「……うん。

紋章は、自身のもっともすばらしい心を形にしたような物。

タグはそれを増幅させるもの。

……前の選ばれし子供の一人で例えたら、

自分のもっともすばらしい心が勇気だと言う事を紋章で理解し、

進化させる際に自分にとって一番込めやすい心『勇気』を思いっきり込め、

その勇気をタグによって増幅させ、ある一定の心の値を超えた時、

デジモンが完全体に進化する。……僕はこういう原理になっていると考えているんだ。

そして、仮にそうだとしたら紋章やタグが無くても、強い思いがあればデジモンを進化させる事が出来るんじゃないかと僕は思っているんだ」

 

 

 もしそうだとしたら僕にも可能だと思っている。

何故なら僕は、この世界――――原作を守る為なら命も惜しくないと思っているからだ。

僕自身、死ぬのは怖い。でもそれ以上に僕の大好きな世界、デジモンアドベンチャーの原作が僕と言う存在のせいで崩れかけていて、そのまま壊れてしまうのが何よりも怖かった。

 ……そもそも僕には太一達のように飛び抜けた一つの心が存在しないかもしれない。

でも、それなら込める思いを一つにしなければいいのだ。

原作を守りたいと言う偽善の心、転生者なのでやるべきだと思う使命感、罪悪感、

心の何処かで自分にそんな力があると思っている傲慢な心さえも利用すれば

進化出来る筈……と、思っていたのだが、僕にはブイモンを完全体に進化させる事が出来なかった。

何故進化出来ないのかは分からない。

僕の心が足りないのか?

それともパートナーデジモンが進化するのには紋章やタグが必要なのか?

考えても分からない。

だが僕はどうしてもブイモンを完全体に進化させれる様にならなければならない。

――――原作を守る為に。

 

 




この話の内容は簡潔に言うと、
主人公はタグや紋章無しで進化出来ると考えているという事です。

こんな簡単な話をまとめるのにこんな長い文章になってしまい申し訳ございません。


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010 早まった計画

 ブイモンとの話から一日後の昼、僕は学校で授業を受けていた。

……が、授業内容は全く頭に入らなかった。

 

 どうして完全体に進化出来ないのか? 頭の中がこの疑問でいっぱいだったからだ。

僕はどうしてもブイモンを完全体に進化出来るようにならなければならなかった。

その理由は簡単で、完全体クラスのデジモンでないと倒せない敵が存在するからだ。

 

――――キメラモン。

原作で一乗寺賢が作り出したオリジナルデジモン。

様々なデジモンのデータを組み合わされて作られた暗黒のデジモン。

……そして、一乗寺賢に暗黒の種を埋め込んだデジモンの合体元の一体でもある。

 

 この世界では一乗寺賢は、選ばれし子供ではないが、

キメラモンは何者……おそらくアルケニモン達によって作られるであろう。

そうでないと、そもそも一乗寺賢に暗黒の種を埋め込んだデジモン『ミレニアモン』の

合体元のキメラモンの存在理由が説明できないからだ。

 

 ……とにかくそんなデジモンがそう遠くない未来に自分達の前に現れるだろうと僕は確信していた。

因みに、原作でキメラモンが登場したのは、八月頃。

今はまだ4月で、ゴールデンウィークにも入っていない様な時期。時間はたっぷりある筈だ。

……だけど、そうだと思っていても、何とも言えない不安が僕の心から離れることはなかった。

 

 ……とにかく早く完全体に進化出来るようにならなければ。

原作を守る為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校が終わった放課後、直ぐに自分の家に帰宅した僕は、自宅で待っているチビモンを連れ、デジタルワールドへ向かった。

チビモンは、暗黒の海に行ったその日からこの家で暮らして居た。

その理由は、タケルとヒカリ、パタモンとテイルモンにブイモンが僕のパートナーデジモンだとバレてしまったからだ。

そんな状態で、ブイモンがデジタルワールドで暮らしていたら確実にパタモン達に捕まり、僕の事を含む様々な事を喋らされてしまうだろう。

だからこそチビモンには悪いが、現実世界で暮らして貰う事にしたのだ。

 ちなみにブイモンにはそうさせてしまっている事に対して何度も謝罪しているが、その度に別にいいって、と言ってくれる。

ブイモン的には現実世界の食べ物や、テレビが気に入っているらしく、全然現状に不満を覚えていないようだ。

……その言葉が嘘かも知れないが、それでもその言葉はありがたかった。

 

 ブイモンと共にデジタルワールドを歩く事、十数分後、タケル達のD3の反応がある場所のすぐ近くに来た僕は、

木々の陰からこっそりその方向を見た。

そこには普段通りのメンバーに加え、ヤマト、空、丈と

そのパートナーデジモンの姿があった。

 

 普段より明らかに人数が多い事に疑問を覚えたが、恐らくは単純に自分のパートナーに会いに来たんだろうと判断した。

そして暫く彼等の様子を見ていると、

突然デジモン達の叫び声が上空の方から聞こえてきた。

 

 叫び声が聞こえた方角を見てみると、その方角にはイービルリングを付けられた大量のエアドラモンの姿があった。

 

 

「アマキ、あんなに居たんじゃきっとパタモン達だけじゃ危ないよ! 

どうする? 一緒に戦う?」

 

 

 ブイモンの言葉に僕はどうするべきかと考える。

手を貸さないと言う選択肢は無い。

あの数のエアドラモンを相手にするのに戦力が、アーマー進化出来るパタモン達4体のデジモンじゃきついだろう。

だが、だからと言ってブイモンが加わったからと言って、劇的に現状が変わる訳でも無い。

 

 

「――――! そうだ。ブイモン、

ライドラモンにアーマー進化してあの遠くの方に見えるダークタワーを破壊しに行くぞ」

 

 

 普段なら敵を倒す前にダークタワーを破壊するという選択肢を取る事はしないだろ。

だが今はそれを実行する価値があった。

 

 

「あのダークタワーさえ破壊すれば、アーマー進化出来ないガブモン達が進化する事が出来る。

そうなればあの数のエアドラモンを相手にするのも難しくない」

 

「成る程、分かったぜ!」

 

 

 ブイモンをライドラモンにアーマー進化させると、僕達は急いでダークタワーの方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くそ、タケル達だけでこの数のエアドラモンを相手にするのは手に余る」

 

 

 俺と空と丈は、今日は予定が空いていたので、久々にデジタルワールドに足を運んでいた。

久々……まあ一か月も経っていないが、ガブモン達に会えた事に感激していると、

突然上空からデジモンの声が聞こえてきた。

見上げてみると、そこには大量のイービルリングが付けられたエアドラモンの姿があった。

エアドラモンは俺達を見つけると、一斉に襲い掛かってきた。

 

 

「みんな! アーマー進化よ!」

 

 

 京ちゃんの言葉にタケル達は頷くと、パタモン達をアーマー進化さえ、迫り来るエアドラモン達の元へ向かって行った。

だが、全員が向かってしまえば、俺達人間が危険だと判断したのか、ディグモンだけはエアドラモンの元に向かわずに、

俺達の前を守るように立っていた。

 

 

 

「……私達も進化出来れば!」

 

「……あのダークタワーさえ破壊出来れば進化出来るんだろうね」

 

 

 空と丈の言葉に俺も俯くことしか出来なかった。

遠くの方に見えるダークタワーさえ破壊出来れば恐らくガブモン達も進化させる事が出来る。

だが現状は大量のエアドラモンに襲われているような状況だ。

そんな状況でダークタワーを破壊しようと走り出してしまったら恰好の的になってしまうだろう。

この中で一番素早いと思われるホルスモンを向かわせると言う考えも浮かんだが、

それも駄目だ。

ホルスモン、ペガスモン、ネフェルティモンの三体が戦っているからこそ保てている均衡だ。

そんな状態でホルスモンが抜けてしまったら、

こんな均衡は一瞬で崩れ去ってしまうだろう。

故に俺達は指を咥えてこの状況を見ている事しか出来なかった。

 

 自分達の無力さに苛立ち、小さく怒りの言葉を漏らした時だった。

突然遠くの方から破壊音の様な音が聞こえてきたのだ。

 

 

「見て、ダークタワーが!」

 

 

 空の声に従う通りにダークタワーの方を見てみると、そこには力なく倒れていくダークタワーの姿があった。

突然の出来事に訳が分からず立ち尽くしていると、なぜこうなったかが分かった京ちゃんは嬉しそうに声を上げた。

 

 

「きっとあの子供がダークタワーを壊してくれたのよ!」

 

 

 京ちゃんの言葉にタケルとヒカリちゃんは成る程と納得したような表情をして、今なら進化出来ると俺達の方を向いた。

……あの子供と言うのは、恐らくだが仮面を付けていると言う謎の子供の事だろう。

正体、目的共に全く謎の子供。分かっているのは、勇気のデジメンタルを持っているだろうという事と、

俺達に対して敵意が無いと言っていたと言う事だけだ。

 

 

「……よし、みんな行くぞ!」

 

 

 だが俺個人としてはそいつは信じてもいいのかと疑っていた。

そいつは何度もタケル達を助けてくれたらしく、ついこの間も、

暗黒の海と言う空間に迷い込んだヒカリちゃんを助ける手助けをしてくれたようだ。 

恐らく悪い奴では無いだろうと思う。だが解せない点もある。

そいつが顔を隠しているという事と、一人で行動しているという事だ。

その理由を直接そいつから聞くまでは、タケル達がどう言おうと、俺はそいつを完全に信じる事は出来ないだろう。

 

 ――――だが、今は純粋に感謝しよう。

 俺達はデジヴァイスを強く握り、想いを込めた。

デジヴァイスはその思いに答えるように光と放ち、ガブモン達を包み込んだ。

光が消えたその場所には先程よりもたくましい姿にした相棒、ガルルモン達の姿があった。

 

 

「いけ、ガルルモン! さっきまでの屈辱をアイツらにぶつけてやれ!!」

 

 

 俺の言葉にガルルモンは無言で呟くと、バードラモン、イッカクモンと共にエアドラモン達の元へ向かって行った。

 

――――それからは正直に言って、圧倒的だった。

いくら多くのエアドラモンが居ようとも、そいつらは所詮イービルリングで操られて無理やり戦わされているだけの成熟期デジモン。

アーマー体4達と、成熟期3体となった俺達の敵じゃなかった。

 

 

「――――これで最後だ! 『フォックスファイアー!!』」

 

 

 最後の一体となったエアドラモンのイービルリングにガルルモンの必殺技が命中し、イービルリングを破壊した。

イービルリングが消え去ったエアドラモンは、同じように洗脳が解けたエアドラモン達と共に何処かへ飛び去って行った。

 

 

「はぁー、流石にビックリしたわ」

 

 

 そう言って大の字に倒れ込む京ちゃん。

戦いは圧倒的だったかも知れないが、流石に消費が激しい戦闘だったようでガルルモン達の表情にも疲れが見えた。

そんなガルルモンにお疲れと労いの言葉をかけ、進化を解除しようとした時だった。

 

 

「……まったく、あの数のエアドラモンを捕まえるのにどれだけ時間がかかったと思っているんだい」

 

 

 突然女の声が聞こえて来た。

 

 

「誰だ!」

 

 

 その言葉に俺達は警戒心を限界まで高め、辺りを見回す。

 

 

「そんなに探さずとも今すぐ出て来てやるよ」

 

 

 そう言うと、その声の持ち主であろう女が十数メートル先の木々の間から姿を現した。

……その見た目は、聞いていた情報通り、大きな帽子と、サングラスをかけた銀髪の人間の女の姿だった。

 

 

「……お前がダークタワーを建てているっていう人間の女か?」

 

「そうだよ」

 

 

 タケルの質問に謎の女は悪びれるような仕草を見せることなく答えた。

 

 

「……貴方は何者なの? どうしてデジタルワールドを乱そうとしているの?

どうしてイービルリングでデジモン達を操るなんてひどい事が出来るの?

どうして……」

 

「ピーピーとうるさいガキだね。私が本気でそんな事を答えるとでも思っているのかい?」

 

 

 ヒカリちゃんの言葉に女は鬱陶しそうな態度を見せながら話し出した。

 

 

「あんた達がダークタワーを壊して回るせいでこっちは計画が進まなくてイライラしてんのよ。

――――あんた達、よくも私達のダークタワーを破壊してくれたね」

 

 

 そう言うと突如、女の纏う雰囲気が変わった。

 

 

「……本当はまだあんた達に手を出す予定では無かったんだけど、

基地とアレが完成した祝いにこうして会いに来てやったのさ」

 

「基地と、アレ、だって?」

 

「そうさ。基地が出来た以上、もうあんた達がダークタワーを破壊して回ろうと構いはしないよ。

あんた達がダークタワーを壊す何倍のスピードでダークタワーを建ててやるさ」

 

 

 女の邪悪な笑みに俺達は思わず一歩後ずさりした。

……どうやら奴が言う基地は、ダークタワーを今まで以上に素早く建てる事が出来るモノの様だ。

そんなモノの存在を許すわけにはいかない!

 

 

「そんな危険な基地は絶対にワタシ達が破壊します!」

 

「そうかい。やれるものならやってみな。

あそこにはイービルリングで捕まえた大量のデジモンが居るんだよ。そう簡単に破壊できると思わない方がいいよ。

――――それにコイツも居るからね」

 

「……コイツ?」

 

「ああ。私達の研究の成果さ。

仮にあんた達が今ここでコイツを倒せたら、私達はしばらくの間デジタルワールドを乱すのをやめてやってもいいよ」

 

「……どんなモノが来ようとも僕達は負けない!」

 

 

 タケルの言葉に俺達は大きく頷いだ。

例えどんなモノを作り出したとしても俺達は負ける気はしない。

消耗しているとはいえ、俺達は4体のアーマー進化体と3匹の成熟期のデジモンが居るんだ。

負ける筈が無い。

 

 

「そうかい。なら戦ってみるといいさ。

――――来な、『キメラモン』! お披露目だよ!」

 

 

 女の言葉に答えるように、上空の雲の上から禍々しいデジモンが俺達の元に降りてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 

 

 ダークタワーを破壊した僕達は、その根元からその光景を目にしていた。

 

 

「な、なん、でキメラモンが……。あまりにも速すぎるだろ! まだ4月だぞ!?」

 

 

 

 意味が分からない。理解出来ない。

だが僕の悲痛の声に誰も答えを返してくれるはずも無く、ヤマト達の上空から姿を現したキメラモンは、

ヤマト達の元にゆっくりと着陸した。

 

 

「あ、アマキ! どうするんだ!? あんなデジモンが相手じゃ、

俺達が行っても勝てる気がしないよ!」

 

 

 あまりの状況に立ち尽くしていた僕だったが、ブイモンの言葉で我に返る事が出来た。

 

 

「とにかく彼等の元へ向かうんだ!」

 

 

 僕はブイモンをライドラモンにアーマー進化させ、全速力でヤマト達の元へ向かった。

 

……アルケニモンが現時点で選ばれし子供達を手にかけるような事はしないとは思う。

それはアルケニモンの親玉が自身で行おうと思っている事の筈だから。

だが、死ななければいいだろうとアルケニモンが選ばれし子供達に直接攻撃する可能性もある。

それで大怪我をして数名が長期入院とかになってしまったら物語が……原作に莫大な影響が出てしまう。

それだけは防がなければならない!

 

 ……それこそ自分の命を犠牲にしてでも。

 

 



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011 接触

戦闘を期待していた方がいらっしゃったらすいません。

後、今回から原作キャラの性格改変が酷くなっているかもしれません


 僕達がヤマト達の元に辿り着くと、そこには既にキメラモンに敗れ、ボロボロの姿になったツノモン達の姿があった。

 

 

 

「おや、アンタは噂の仮面を付けた選ばれし子供かい?」

 

 

 僕達の存在に気が付いた謎の女……アルケニモンは嬉しそうな声色で話しかけてきた。

……散々自分達の計画を邪魔してきた選ばれし子供達のデジモンをボコボコに出来て

今までの鬱憤を晴らせてテンションが上がっているのだろう。

 

 

「どうする? アンタもコイツに挑むかい?

ここでアンタ達がコイツを倒せたら私達は当分の間はデジタルワールドを荒らすのをやめてあげてもいいよ?」

 

 

 余裕たっぷりの表情で僕にそう投げかけるアルケニモン。

……全く負ける気がしないと思っているのだろう。

だが実際はアルケニモンの思う通り、こちらにキメラモンを倒す力は無かった。

 

 

「……いえ、止めておきます。そのデジモンに勝てる気が全くしないですから」

 

「……面白くない餓鬼だね」

 

 

 あっさりと引いた僕にアルケニモンはつれないなと言った表情を見せた。

その姿から、もしかするとこのまま引いてくれるかも知れないと思った僕は、

アルケニモンに不快な思いをさせない様に言葉を選びながら提案する。

 

 

「……降参です。現状僕達には貴方のキメラモンを倒せる術がありません。

負けを認めます。……なので今回は、僕達を見逃して貰えないでしょうか?」

 

「う~ん、そうだね……」

 

 

 お願いしますと、頭を下げての提案にアルケニモンは顎に手を当てながらどうするか考えている。

……恐らくアルケニモン自身もこれ以上戦闘を続けようとは思っていない筈だ。

今この場所に残っているのは帰るタイミングを失っただけ。

キメラモンの強さを見せつける事が出来たし、選ばれし子供達のパートナーデジモンをボコボコにする事も出来た。

これだけで十分鬱憤は晴れているはずだ。

それにアルケニモンの親玉は、アルケニモンに選ばれし子供達を抹殺するように命令していないだろう。

だからこの提案はすんなり通ると思っていた。

だが、アルケニモンはその提案を受けるのに条件を付けたした。

 

 

「そうだね……あんたがその変な仮面を取って、

地面に頭を擦り付けてお願いすると言うなら見逃して上げてやるよ」

 

 

 アルケニモンのその言葉に僕を含めたこの場に居る全員が驚愕した。

 

 

「お前……大の大人が子供に対して何言ってんだよ!」

 

「そうよ! 大人げないわ」

 

 アルケニモンの言葉に誰よりも先に反論したのは後ろで話を聞いていたヤマトで、その次は空だった。

そんな二人の言葉をアルケニモンは鼻で笑った。

 

 

「なんだい? この条件が飲めないっていうのなら、今すぐ戦いの続きを始めてもいいんだよ?

それともなんだい。コイツの代わりにお前等が土下座するっていうのかい?」

 

 

 アルケニモンの言葉にヤマト達は黙り込んだ。

誰だってこんな最低な奴に土下座するなんてプライドが許さないだろう。

……だが、それでもヤマトは時間が経てば、年下にそんな事させられないと言いながら

僕の代わりに土下座をするような気がした。

……いや、それよりも先にヤマトのすぐ後ろに居る丈が先にそれを実行するだろうと思った。

 目を見ればわかる。今の丈は、アルケニモンの命令に怒りを覚えているような表情でも、

自分は関係ないと言った表情でもない。

何と言うか覚悟を決めたような表情だった。

恐らくだが数秒もしない内に丈は僕の代わりに土下座をするだろう。

 

 ――――だが、こんな事を彼等にさせるつもりは欠片も無かった。

 

 僕は仮面を外し、それを地面に置くと、そのまま地面に正座し、頭を地面につけた。

実は僕は土下座をしろと言われた時、正直に言うと、それ程嫌悪感を覚えてはいなかった。

僕が土下座をするのにここまでかかった理由は、この仮面を外す事に対して抵抗があった。ただそれだけだった。

 

 仮面を外してから、特に抵抗感を感じさせないまま土下座を行った僕の姿が予想外だったのか、

アルケニモンは少しだけ驚いたような反応を見せた。

 

 

「…………本当に面白くない餓鬼だね」

 

 

 アルケニモン的には、僕の屈辱に歪む顔が見たかったのだろう。

だが僕自身はこの土下座に対して特にそんな感情を覚えることなく、ただ純粋に

こんな事でアルケニモンが引いてくれると言う事がむしろラッキーだと心の底から思っていた。

 

 寧ろ、僕の後ろにいる怒りで震えるライドラモンの方が堪えていた。

……だが、ライドラモン自身もキメラモンに敵わない現状、こうするのが一番だと分かっているから動かなかった。

いや、ライドラモンも、僕がこの土下座に対して特に嫌悪感を覚えていないのが

分かっていたからこそ動かなかったのかもしれない。

 

 後ろのライドラモンの表情を見て少しは満足したのかアルケニモンは口元を少し吊り上げると、

僕達に背を向け、キメラモンの方へ歩き出した。

 

 

「……今日の所は見逃してやるよ。

これに懲りたらもう私達の邪魔をするんじゃないよ!

――――ほら、キメラモン、帰るよ」

 

 

 そう言ってアルケニモンは何時までも僕達の方を向いているキメラモンの腕を叩き、基地に帰らそうとした。

だが、キメラモンはそれに対して全く反応を見せなかった。

 

 

「? なんだい、アンタ自分を作った親の言う事も聞けないのかい!」

 

 

 そう言ってアルケニモンは鞭を取り出し、それでキメラモンの腕を思いっきり叩いた。

アルケニモン的にはこれは只の威嚇だった。

自分を作った親の言葉を本気で無視しているとは思っていなかったのだろう。

だから少し痛めつければキメラモンはいう事を聞くとアルケニモンは思っていた。

 

 だがキメラモンは言う通りにはならなかった。

近くに居たアルケニモンをいくつもある内の一つの腕で薙ぎ払うと、

奇声を上げながら、無造作に必殺技を周りに放ちだした。

 

 突然の出来事に、このままでは危険だと判断したライドラモンは僕の方へ走り出そうとしたが、

突然ライドラモンを狙うように放たれたキメラモンの必殺技を

躱す事は出来ないまま命中し、遥か後方へ吹き飛ばされた。

 

 

「ライドラモン!!」

 

 

 

 吹き飛ばされたライドラモンの元に僕は駆け寄ろうとするが、それを拒むかのようにキメラモンは僕が向かおうとした方向に必殺技を放った。

……どうやらその場から動くものに対しては、狙って必殺技を放っている様だ。

ヤマト達もそれを見てその事に気が付いたのか、その場にしゃがみ込み、攻撃が来ない様に祈っていた。

 

 

「―――――この、いう事を、聞きな!!」

 

 

 

 すると何処かに吹き飛ばされていたアルケニモンは、フラフラの姿のまま再び僕達の前に姿を現すと、

大量のイービルリングを取り出し、そのすべてをキメラモンに放った。

全てのイービルリングがキメラモンの体の至る所に装着され、キメラモンは抵抗するように暴れながら苦痛の声を上げた。

それからキメラモンは少しずつ大人しくなっていき、無造作に放つ必殺技の数を減らしていった。

そして最後には、ピクリとも動かずに体を停止させた。

 

 

 ……どうやらキメラモンの暴走は収まったようだ。誰もがそう思った時だった。

突如キメラモンは、今までにないくらい大きなエネルギーを口に溜めだしたのだ。

――――八神ヒカリの方を向きながら。

 

 これはまずいと判断した僕は、走り出した。

プロットモンを抱えたまま動かないヒカリの元に辿り着くと、座り込んだまま動かないヒカリの腕を引っ張って無理やり体を起こし、

そのまま距離を取ろうとした。

が、その瞬間、無慈悲にもキメラモンの必殺技がこちらに向かって放たれた。

 

 もう避けれないと判断した僕は、せめて彼女達だけでもと、ヒカリの背中を思いっきり押して距離を取らせた。

いきなり背中を押されたヒカリは小さく悲鳴を上げながら、数メートル程先の地面に正面から倒れ込んだ。

その時、下敷きになって居たプロットモンからも軽く悲鳴が聞こえた。

 

 あの距離ならこの後キメラモンの必殺技が僕に当たって発生するであろう余波もそれ程無いだろうと、

なんとなく察知出来た僕はそのまま逃げるような素振りを見せず、ただ自分に迫った死を受け入れるように立った。

 

――これで、ぼくは、―――――――――ー

 

 『ライトニング、ブレード!!!』

 

 その時、遥か後方に飛ばされていた筈のライドラモンの声が聞こえた。

その声と同時に僕の近くまで迫っているキメラモンの必殺技にライドラモンの必殺技が飛んできて、そのまま命中し、

二つの必殺技はそこで爆発した。

 

 そのお蔭で、僕はキメラモンの必殺技を直接食らう事は無かったが、

その爆発の余波で、後方に吹き飛ばされた。

吹き飛ばされた僕はその勢いで後方の何か……木に右腕から勢いよく激突した。

 

 その際に頭も軽く打ったのか、意識が薄れていく。

薄れゆく景色で最後に見えたのは、キメラモンと共にこの場を立ち去るアルケニモンの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ッ」

 

 

 目を覚ますとそこには知らない天井があった。

その状態のまま目線だけを動かして辺りを見てみると、ここが病室のベッドの上だという事が分かった。

 

 

「―――――! 目が覚めたんですか」

 

 

 突然横の方から声が聞こえて来た。

顔を動かしてそっちを見てみるとそこには光子郎の姿があった。

 

 

「……あなたは……」

 

「あ、自己紹介がまだでしたね。僕は泉光子郎と言います。

泉でも、光子郎でも好きに呼んで頂いて結構です。

よろしくお願いします、守谷くん(・・・・)

 

「……ブイモンから名前を聞いたんですね」

 

「はい。ですがブイモンを責めないで下さい。

ブイモンは貴方のお願い通り、全く貴方の事を話してくれませんでした。

名前だけは、病院に入る為に必要と言って渋々ですが教えて貰いましたが」

 

「責めるつもりは無いですよ。こんな状況になったのは自業自得ですし」

 

 

 そう知って僕は体を起こそうと、右腕に力を込めたが、何かに固定されているのか、全然動かなかった上に、

かなりの激痛が右腕を襲った。

 

 

「あ、ダメですよ安静にしてなきゃ! 貴方の右腕は、折れてはいませんでしたが、ヒビが入っていたんですから」

 

 

 その言葉に僕は右腕をよく見てみるとそこにはグルグルに包帯が巻かれ、固定された右腕があった。

その右腕を見てようやく自分が病院のベッドの上に居る本当の理由が分かった僕は、

ヒビですんで運がいいなと思いながら、包帯が巻かれていない左腕を使って体を起こした。

 

 

「……そう言えば僕が庇った選ばれし子供はどうなりました?」

 

「ヒカリさんの事ですね? 大丈夫です。貴方のお蔭で目立った怪我は見られませんでした」

 

 

 その言葉に僕はホッと胸をなでおろした。

選ばれし子供が入院する羽目にならなくて一先ずは安心した。

 だが安心ばかりはしてられない。

 

 何故なら原作よりもとんでもなく早い段階で、キメラモンが現れてしまったのだ。

キメラモンに対抗するために完全体に進化できるように準備はしてたが、今の所成功出来たことは一度も無く、

進化出来ない理由も分かっては居なかった。

正直に言って絶対絶命の状況だ。安心なんてしている暇は無かった。

 

 そんな事を考えていると、突如病室の扉が開いた。

そして、そこから入って来た京と目があった。

 

「……あ、みんな! 守谷君が目を覚ましてるわ!」

 

 

 病室の扉を開けた京は僕の姿を確認すると、後方に居るであろう他の選ばれし子供達に

嬉しそうに結構な声量でそう伝えた。

 

 その行為に光子郎は病院ですので静かにと小さく注意すると、京はハッとなり、少し顔を赤く染めると、

小さく反省の言葉を漏らした。

 

 そんな小さく縮こまっている京の後ろ扉から、

先程までデジタルワールドに居たヤマト、空、丈、タケル、伊織、ヒカリが入って来た。

 

 

「良かった。目が覚めたのね」

 

 

 初めに話しかけて来たのは空だった。

空は僕の姿を見て心から安心したかのようにホッと胸をなで下ろした。

空の言葉で自分がどれ位眠っていたのか気になった僕は、

恐らく詳しい時間が分かるであろう光子郎に質問した。

 

 

「……そう言えば僕はどれくらい眠ってたんですか?」

 

「ざっと3時間位ですね。キメラモン達が去った後、

丈さん……この方が貴方をここまで運んできてくださいました」

 

「……そう言えば、俺達自己紹介がまだだったな」

 

 

 光子郎の言葉で、その事に改めて気が付いたヤマトは、自己紹介を始めた。

 

 

「俺は石田ヤマト。お台場中学校の2年生だ」

 

「じゃあ私も。私は武之内空。ヤマトと同じでお台場中学校の2年生よ。よろしくね」

 

「さっき光子郎君が紹介してた丈だよ。城戸丈。この中で一番年上の芝学園中等部の3年生だよ。

よろしく」

 

「僕は高石タケル。学校はお台場小学校で、学年は5年生。部活はバスケット部に所属してるよ。

よろしくね!」

 

「じゃあ次はあたし! あたしは井ノ上京。お台場小学校の6年生でーす!

気軽に京ちゃんと呼んでくれてもいいわよ!」

 

「……僕は火田伊織です。この中で一番年下のお台場小学校の3年生です。

どうぞよろしくおねがいします」

 

「私は八神ヒカリ。お台場小学校の5年生。

あの……そんな姿にさせちゃって本当にごめんなさい」

 

「気にしなくて良いよ。この姿になったのは自業自得だから。

僕は守谷……アマキです。よろしくお願いします」

 

 

 下の名前を言わないでおこうかと思ったが、恐らくブイモンが話していだろうと考え、それは止めた。

 

 

「……そう言えば、先程も話しましたが、ブイモンは貴方の名前しか教えてくれませんでした。

なので守谷君が入院している事を守谷君の家族にまだ知らせられていません。

良ければこちらから連絡しておきますので電話番号を教えて頂けないでしょうか?」

 

「……いえ、後で此方から連絡をしておきますので。

お気遣いありがとうございます」

 

 

 光子郎に電話番語を知られてしまったら住所まで特定される可能性が高い。

選ばれし子供達と積極的に関わりたくない僕にとってそれは許す事の出来ない提案だった。

 

 

「そう言えばブイモンは何処に居るんですか?」

 

「貴方のパートナーデジモンは、今はピヨモン達と一緒にデジタルワールドに居るわ。

病院に連れてきてあげたかったんだけど、あの子は声を抑えられないタイプの子だと思ったから……」

 

 

 そう言って乾いた笑い声を漏らす空。

……確かにブイモンなら、僕の包帯の巻かれた姿を見るだけで、病室で騒いだりするかもしれない。

いや、騒ぐだろう。ブイモンは優しいデジモンだからね。

 

 そう思っていると、突然京は、あ、っと何かを思い出したかのような声を上げ、

ランドセルから何かを取り出した。

 

 

「……これ、守谷君のでしょ?」

 

 

 差し出されたのは真っ二つになっている僕の仮面だった。

 

 

「守谷君を丈先輩が背負って病院に向かう時見つけたんだけど、

その時には真っ二つになってたわ……」

 

「……別にいいですよ。それ安物ですから」

 

 

 その仮面を見て、自分が仮面を付けていない事を今更ながら思い出した僕は、

何故か申し訳なさそうにする京にそう返しながら真っ二つに割れた仮面を受け取った。

……こんな状態で貰っても捨てる以外の選択肢は無いんだけどね。

 

 真っ二つに割れた仮面を見ながらそう思っていると、

ヤマトが一歩こちらに踏み出し、真剣な眼差しで僕を睨んだ。

 

 

「……お前はどうしてそんなモノを付けていたんだ?」

 

 

 ……ついにこの質問をされてしまった僕は、ヤマトになんて返すべきかと考えた。

仮面を付けていた理由は、原作外の存在の僕が原作に少しでも影響を与えない為。

それと、転生者だから選ばれし子供達に後ろめたい気持ちがあったからだが、

それを話す訳にはいかない。

ならどう返すべきか。

 

 

「だんまりか。どうやら俺達に後ろめたいことがあるようだな」

 

 

 そう言って僕の目の前まで来たヤマトは僕の胸元を掴み少し持ち上げた。

 

 

「止めてくださいヤマトさん! 守谷君は怪我人なんですよ!」

 

「それにあの時、お前のパートナーデジモンには友情の紋章の印が刻まれていた。

どういう事だ? お前の持つデジメンタルは勇気のデジメンタルの筈だろうが」

 

 

 僕の一番近くに居た光子郎は、ヤマトの突然の行動に驚きながら必死に止めようとするが、

ヤマトはそれを無視して僕に質問を続けた。

 

 ……成る程。ヤマトは、僕が友情のデジメンタルを使用していたことに怒りを隠せなかった様だ。

僕が勇気のデジメンタルを持っているのに使用していると言う疑問と、

自分とガブモンの繋がりの証とも呼べる友情のデジメンタルを

僕みたいな存在が使っていると言う事に

対しての怒りが混ざって抑えられなかったのだろう。

 

 すぐ目の前まで迫ったヤマトの目を直接見れずに逸らしながらどう返すべきかと考えている時だった。

 

 

「ヤマト……君の気持ちは分からなくもない。

だけど彼は怪我人だ。その上、この怪我は僕達を助ける際に出来た怪我なんだ。

君はそれを分かった上で彼にそんな問い詰め方をするのかい?」

 

 

 ヤマトの肩に手を置いてそう言った丈の言葉にヤマトは暫く黙りこむと、

悪かったなと小さく謝罪しながら僕の胸元を掴んでいた手を放した。

 

 そんなヤマトの姿に一同はホッと胸をなで下ろした。

 

――――だが、騒動はこれで終わりじゃなかった。

 

 そんな空気の中、突然病室の扉が開かれた。

そこから出て来たのは、頭にゴーグルを付けた選ばれし子供……太一だった。

 

 

「……どうやら目が覚めてるみたいだな」

 

 

 広いとは言えない病室にこんなにも人数が居る事に太一は

多少呆れた表情を見せながら、僕の前へとゆっくりと歩いてきた。

 

 

「……ヒカリから話は聞いている。

お前はキメラモンの攻撃からヒカリを救ってくれたみたいだな」

 

「……そうですが、別に貴方たちが気にする必要は無いですよ。

今回の怪我は自業自得の様なモノですから」

 

 

 ヒカリを助けた事に対してのお礼の言葉を言いに来たと思った僕はそう言って、

太一の謝罪の言葉を止めるような言葉を返す。

だが太一が次に起こした行動に僕は驚かずにはいられなかった。

 

 

「……後でいくらでも謝る。望むなら土下座だってしてやる」

 

「……どういう事……」

 

 

 僕の言葉はそこで途切れた。

太一に頬を思いっきりビンタされたからだ。



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012 戦う理由

 別に感謝されたかった訳では無い。

あのままヒカリに攻撃が飛んで行ってたらヒカリは間違いなく死んでいた。

そうなってしまえば原作が完全に崩壊してしまう。

そう思ったからこそ、僕はあの時飛び出した。

だから本当に感謝されたかった訳では無いのだ。

 

――――だが、まさかぶたれるとは思ってもいなかった。

一瞬夢かと思ったが、ピリピリと痛む左頬がそうはさせなかった。

 

 突然の出来事に唖然とする太一を除く、選ばれし子供達。

初めに動いたのはヤマトだった。

 

 

「太一てめぇ!」

 

 

 ヤマトは先程僕にしたように太一の胸倉を思いっきり掴んで持ち上げ、自分の方に寄せた。

太一の顔が歪んだ所を見るからに、かなりの力が入っている様だ。

……僕がやられた時は、かなり手加減してくれてたみたいだ。

 

 

「お前分かってるのか? こいつはお前の妹を、ヒカリちゃんを助けてくれた奴なんだぞ?

コイツが居なかったらヒカリちゃんは……只ではすんでなかったんだぞ」

 

 

 最後の方、静かにそう言ったヤマトの言葉から、選ばれし子供達は改めてあの時の状況が危険だったという事を思い知った。

ヤマトに睨まれながらも一切目を逸らすことをしなかった太一は、分かっていると言いながら静かに目を閉じだ。

 

 

「光子郎から全部聞いてる。

コイツが居なかったら、きっと……いや、確実にヒカリはここには立って居なかっただろう。

ハッキリ言って俺はコイツに感謝している。それこそ本当に言葉に表せないくらい。

正直今でも手が震えるよ。もしかしたらヒカリが居なくなってたかも知れないと思ったら」

 

「だったら……!」

 

「だからこそ俺は、殴った上で、コイツに聞かなければならない」

 

 

 太一は閉じていた目を見開くと、自分の袖を掴むヤマトの手を軽く振り払うと、

再び僕の前へ立った。

 

 

「……守谷、でいいんだよな?」

 

「…………はい」

 

「……今ヤマトに言った通り、俺は本当にお前に感謝してる。

お前のお蔭で俺は、妹を、大事な家族を失わずに済んだ。

本当にありがとう」

 

 

 そう言って深々と頭を下げる太一に僕は言葉を出す事が出来なかった。

普段ならば、礼の必要は無い、目的の為にやっただけ等と言い返すのだが、

今の僕はそんな言葉を並べれる程心に余裕が無かった。

 

 

 

「……だけど、お前はどうしてあの時、ヒカリを助けてくれたんだ?」

 

「どうして、ですか?」

 

 

 太一の質問に僕は思わず首を傾げた。

何故太一は、僕がヒカリを助けた事に疑問を持っているのだろう?

正直に言うと、あまり喜べることではないのだが、僕は太一達選ばれし子供に

それ程マイナスの感情を持たれていないと思っていた。

正体も目的も不明だが、少なくとも敵では無い、そう思われていると思っていた。

……だがそれは僕の都合のいい思い込みだったのか?

 

 考えても分からなかった僕は、取りあえず正直に質問に答える事にした。

 

 

「間に合うと思ったから、ですね。脚には少し自信があったので」

 

「……間に合うと言うのはヒカリとプロットモンを連れて、

攻撃を避けれる自身があったという事か?」

 

「もしかすれば避けれるかもしれないとは考えていましたが……

まあそれは無理だろうとは思っていました」

 

 

 もう少しキメラモンとの距離が離れていたら可能だったかもしれないが、あの距離差で

キメラモンの必殺技を只の人間が躱しきるなんて無理だろう。

 

 

「…………お前は以前、俺達に、ヒカリに会った事があるのか?

デジタルワールドで出会う以前に」

 

「……いえ、それは無い筈ですよ。

僕が貴方たちに初めて会ったのは、貴方達がモノクロモンに襲われている時、の筈です」

 

 

 先程から太一の質問の意味が分からなかった。

太一の反応からして何かを確かめるような質問の様だが……僕にはそれが分からなかった。

 

 僕の返答に何か思う事があったのか、太一は僕へ向ける視線を窓から見える空の方に向け、

語りだした。

 

 

「……かつて俺は大きな間違いを起こした」

 

「…………大きな間違いですか?」

 

「ああ。かつて、俺達前の選ばれし子供がデジタルワールドを冒険していた時の話だ。

ある時、俺達の前に完全体の暗黒のデジモンが現れたんだ。見た目も態度もふざけた奴だったがそいつは強すぎた。

成熟期までしか進化出来ない俺達は、手も足も出ないまま倒された。

そんな時、俺だけが紋章とタグ……デジモンを完全体に進化させる事が出来るアイテムを手に入れる事が出来たんだ。

……だが、俺はそこで大きな間違いを起こしたんだ。

俺はアグモンを完全体に進化させる為に、無理な食事をさせたり、自分を危険に陥らせてアグモンに進化を強要させようとした。

その結果、アグモンは進化する事が出来た。

……だけど、それは間違った進化だった」

 

「……間違った進化」

 

「……紋章は光を放つのではなく、闇を放ち、アグモンを包み込んだ。

そしてそこに居たのは、暗黒の力を纏ったデジモン、スカルグレイモンの姿だった。

スカルグレイモンは、迫り来る成熟期のデジモンを一撃で倒した。

……だがその後も止まることなく暴れ始め、俺を、皆を攻撃し始めたんだ。

結局それは、スカルグレイモンのエネルギーが切れるまで続いた。

……そこまでしてようやく気が付いたよ。

俺が間違っていたことを。俺は、勇気の本当の意味をいつの間にか勘違いしていたことを。

自分一人で戦っているような気持ちになって居た事を」

 

「…………」

 

「……俺がお前に言いたい事は一つ。

お前は、あの時の俺と同じように、勇気の意味を間違えているという事だ。

確かにお前は、勇気の紋章を受け継いだかもしれない。

だけど、だからと言って、自分の命を投げ出す事は勇気だとは言えない。

……ろくに話した事が無い奴を助ける為に命を懸けるのは……

勇気だとは言えないんだ」

 

 

 言いづらそうに最後の言葉を言った太一は少し俯いた。

……成る程、さっきのビンタの理由も、質問の意味もようやく理解出来た。

――――太一は僕を心配してくれていたのだ。

最後に言いづらそうに話したのは、僕がしたことを否定する事は、

ヒカリの死を防いだ事を否定する事になるからだ。

 

 それでも僕を叱ってくれた太一に感謝しながら、太一の方を改めて見た。

 

 

「……八神さん。貴方が僕に言いたかった事は分かりました。

だけど、貴方は、貴方達は一つだけ大きな勘違いをしてます」

 

「大きな勘違い、だと?」

 

「はい。確かに僕は、勇気のデジメンタルと、友情のデジメンタルを持っています。

……ですが、貴方達は本当に僕にその資格があると思いますか?

顔を隠し行動する僕が、同じ選ばれし子供である貴方達に何も話さず行動する僕が、

本当に貴方達の勇気と友情を受け継ぐ資格があると思いますか?」

 

 

 僕の問いに太一達は少し顔を歪ませた。

……その表情を見ればどう思っているかなんて一目瞭然だ。

 

 

「……そうです。僕にはこの二つのデジメンタルを扱う資格なんて無いんですよ。

それどころか、僕には人並みの勇気も、友情も無いんですからね」

 

「……なら、どうして守谷君はその二つのデジメンタルを扱えてるんですか?」

 

 

 光子郎の問いに僕は、首を横に振った。

 

 

「……それは僕にもわかりません。

何故勇気のデジメンタルを引き抜く事が出来たのか、

何故友情のデジメンタルを引き抜く事が出来たのか、

……何故選ばれし子供に選ばれたのか、僕自身全く分からないんですよ」

 

 

 そう。……何故僕が大輔の代わりに選ばれたのか本当に分からないんだ。

 

 

「ならどうして守谷さんは戦うんですか?」

 

 

 

 そう質問して来たのは伊織だった。……恐らく初めて会った時に、

伊織達には無理やり選ばれたなら戦う必要は無いと言っておきながら、

自分も同じような境遇なのに戦っている僕に疑問を覚えたのだろう。

 

 僕は、恐らくだがこの世界に来てからもっとも真剣な表情を伊織に向けた。

 

 

「――――デジタルワールド(原作)を救う事が使命だと思っているからだよ」

 

 

 僕の強い思いがこもった言葉に太一達は何一つ言葉を返す事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、看護師が部屋に入ってくると、僕が目を覚ましている事に気が付き、

直ぐに先生の元へと連れて行かれた。

その際に、どれ位時間がかかるか分からないのでと、太一達は看護師にそう言われると、

渋々帰って行った。

 

 検査の結果、脳に異常が見られなかったと言われ、

その日の内に退院出来るかと思っていたが、

頭を打って気絶したと言う事が原因で、

検査入院という形で一日だけ入院する事になった。

 

 その後、おじいちゃんに病院の電話で、一日だけ入院すると伝えると、

病室に戻り、ベッドの上で横になった。

すると、思ったよりも疲れていたのか、数分も経たない内に、眠る事が出来た。

 

――――そして夢を見た。

気が付いたら僕は、狭い部屋に居た。

その場所は何処か懐かしいと言う感情が芽生える場所だった。

そして、その部屋の端に、テレビを見ている少年の姿があった。

 少年はこちらに気が付かず、

テレビの方に身を乗り出しながら小さな声で応援していた。

テレビを見てみると、

そこには選ばれし子供達が――――大輔が、最後の敵と戦っている姿があった。

大輔達は、一度は敵の攻撃によってピンチに陥ったが、

それを乗り越え、敵に向かって行った。

その姿にテレビを見ていた少年は、うぉぉぉと声を上げ、

先程までは小さかった歓声のボリュームを上げ、

ハッキリと聞こえる声で応援していた。

 

 僕はこの少年を知っていた。

幼いころの少年は、根暗で、友達が居ない哀れな子供だった。

でもそんな彼にも好きな物があった。

それは―――――デジモンだった。

 

 少年がデジモンを知ったきっかけは、デジモンアドベンチャーを

偶然見たからだ。この作品は、この幼い少年に色々な事を教えてくれた。 

そしてそれを知っていく内に少年は選ばれし子供達が大好きになった。

自分よりも人間らしい彼等の歩み方に、好感を覚えたのだ。

 そして、自分よりも遥かに大きい困難に立ち向かっている彼等の姿に

勇気を貰った。

その勇気のお蔭で、少年に少しばかりではあるが友達が出来たりした。

 

 太一の言葉からぼんやりとは思い出しかけていたが、今改めてはっきりした。

少年は―――――僕が大好きだったのは、デジモンと選ばれし子供だったのだ。

 

 

「……いつの間にか、そんな事忘れていたな」

 

 

 いつの間にか、僕はデジモンや彼等の為では無く、

デジモンアドベンチャーと言う名の原作の為に動いていた。

もっとも大事なのはその世界に住む彼等やデジモンだと言う事も忘れて。

 

 

「太一の優しさに触れてから自分の違和感に気が付くなんてね……」

 

 

 僕が命を懸けて守るべきなのは、原作なんかじゃない。

その世界に住む、デジモンや選ばれし子供達だ。

それをはっきりと理解した僕は、未だテレビを見ている少年に背を向けた。

 

 

「……太一や、君のお蔭で、僕は自分の間違いに気が付く事が出来た。

ありがとう、――――」

 

 少年の――――かつての自分の名前を呼んで僕が一歩前へ進んだ。

その瞬間、この世界は眩しい程の光に包まれた。

 

 次に目を覚ますとそこは病院のベッドの上だった。



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013 やるべき事

 何と言うか……こんな話でつまずくとは思ってもしませんでした。
別に作者的には見せ場も無い話の筈なんですけどね。


 病院の再検査を終え、絶対に無理はしないようにと医師に注意を受け、

右手にギプスを付け包帯で固定しながらも午前中に退院する事が出来た僕は、

ある問題に気が付いた。

ブイモンがデジタルワールドの何処に居るかという事を聞いて居なかったと言う事だ。

恐らくだが、普段僕が行き来しているゲートの前にはブイモンは来ていないだろう。

そこを光子郎に知られたら、下手をすれば

僕の住んでいる場所を特定されるかも知れないからだ。

 

 

「……どうするべきか」

 

 

 今はまだ十二時頃。

タケル達は授業を受けている時間だろう。

あまり選ばれし子供達と行動を共にしたくない僕にとって、選ばれし子供達が動けない今が

ブイモンと合流するチャンスであるのだが……

……まあ、十中八九アグモン達がブイモンを見張ってるとは思うけどね。

 

取りあえず僕は、自分の家に帰り、そこからデジタルワールドへ向かった。

デジタルワールドに来た僕は、辺りを見回したが、ブイモンの姿は無かった。

念の為、選ばれし子供達がここに来ていないかD3で確認したが、案の定反応は無かった。

 

 ……さて、どうするべきか。

 

 恐らく今デジタルワールドは、アルケニモンやキメラモン達によって、かなりの被害を受けている筈だ。

放っておけばそれだけデジタルワールドが荒れることになる。

それを許すわけにはいかない。

 

 僕が考える限り……恐らくだが、キメラモンとアルケニモンの基地さえ破壊出来れば、

しばらくはアルケニモン達は行動しないだろうと思う。

……原作ではアルケニモン達は、アルケニモン達を作った大人の人間をデジタルワールドに来れる様にする為に行動していた。

恐らくこの世界でもそれが目的の筈だ。

そして、それが目的だと言うなら現時点で

アルケニモン達が選ばれし子供達に直接手を下す事は無いだろうと思う。

そう思う理由は、いくつかあるが……

一番の理由は、選ばれし子供達に直接手を下すのはアルケニモン達の親玉が望んでいる行為の筈だからだ。

 

 ……まあこの考えは完全に僕の妄想だ。

そうだという保証は無い。

情報が少ない現状では、そうかもしれないという程度に考えていた方が良いだろう。

 

 

「……さて、どうするか」

 

 

 情報を集めるにしても取りあえずブイモンと合流したいのだが、今何処に居るのか分からない。

 

 取りあえずこの辺りに居るデジモン達に、今デジタルワールドがどうなっているかを尋ねようと思った時だった。

 

「―――――やはり来ましたか」

 

 

 突然上空からそんな言葉が聞こえて来た。

突然の声に驚きながらも空を見上げてみると、そこにはカブテリモンの姿と、

その背中に乗っている光子郎とブイモンとアグモンの姿があった。

 

 ――――どうして光子郎がデジタルワールドに居るのか?

今はまだ昼過ぎ頃。

学校がまだ終わっていない時間の筈だ。

……サボったのか?

だが、そうだとしても分からない事がある。

何故僕が居る場所を特定できたのか?

 

 僕がそんな事を考えている内に

カブテリモンが目の前に着陸し、光子郎達が降りて来た。

その中でも一番最初に飛び降りたブイモンは降りたと同時に僕に飛びついて来た。

……どうやら心配かけてしまっていたようだ。

僕は、ブイモンに謝罪と、助けて貰ったお礼を伝えながら頭を撫でた。

 

 

「……それで、どうして泉さんがここに居るんですか?

今はまだ授業中の筈ですよね?」

 

 取りあえず学校があるはずなのにどうしてここに居るかを尋ねた。

僕の問いに光子郎は、ああそれはですねと、全く悪びれた様子も無く答えた。

 

 

「風邪を引いたという名目で学校は休みました」

 

「……それってずる休みですよね」

 

「いいんですよ、偶には」

 

 

 学校で色々と先生方を手助けしてるんですから偶にはこういう事を……、

等の光子郎の小さな独り言に、貴方は入学してから一か月程で何をしているんだ……

と思いながらも、質問を本題に移した。

 

 

「なら泉さんはどうして学校を休んでまで僕を待ってたりなんかしたんですか?」

 

「……放っておいたら、一人でキメラモン達と戦うかもしれないと思ったからです」

 

 

 ……成る程、確かに昨日の僕の話を聞いていたらそういう風に思われても仕方が無い。

実際キメラモンは、僕とブイモンだけで倒そうと思っているのだから。

 

 

「そんな無謀な事はしませんよ。今日は、ブイモンに会いに来たのと、

現在デジタルワールドがどうなっているかを確認しに来ただけです」

 

「そうですか……」

 

「それで僕より早くデジタルワールドに来ていたという事は、既に情報は……」

 

「はい。集めていますよ」

 

「ワテとコウシロウハンを見くびってもろうたら困りまっせ」

 

 

 テントモンの当然だと言わんばかりの表情に僕とブイモンは乾いた笑いで返すと、

光子郎がパソコンを取り出しながら、集めた情報を話し始めた。

 

 

「今のデジタルワールドの現状ですが、残念ながら予想通り、

キメラモンや謎の女の物と思われる移動式の巨大な要塞の様な物によって、

たった一日の間にかなり荒らされてしまったようです」

 

 

 光子郎のパソコンの画面に映し出されたキメラモン等によって侵略されたエリアの数を見て、想像通りとはいえ、額から汗が垂れ落ちた。

 

 ……キメラモン達によって荒らされるだろうとは思っていたが、これは想像以上に危険な状況だ。

このままではそう時間が経たない内にこのデジタルワールドが荒れ果ててしまうだろう。

 

 

「このパソコンを見て貰えば分かると思いますが、

キメラモンの破壊活動、謎の女の要塞によって次々に作り出されるダークタワーの数。

このどちらも放っておいては危険です」

 

「……そうですね。このままではデジタルワールドが大変な事になってしまいます。

―――――ん?」

 

 

 光子郎のパソコンのモニターに次々と映し出される情報の中に一つ気になる点があった。

 

 

「泉さん、この一定時間ごとのダークタワー増加数の項目なんですけど、

明らかに時間が経つごとに減ってませんか?」

 

「気が付きましたか。そうなんですよ。

理由は分かりませんが、時間が経つごとにダークタワーの増加量が減っているんですよ。

ある一定の期間だけならともかく、時間が経つごとに少しずつ、明らかに」

 

 

 光子郎のパソコンは、ダークタワーの数や、場所をほぼ正確に映す事が出来る。

だからこれは決して計り間違いなのではなく、明らかに減っていっているのだろう。

……だが何故?

 

「ワテ等も昨日の今日の話やさかい、要塞に関する事は殆ど分かってまへん」

 

「他のデジモン達も要塞やキメラモンを見つけたらすぐさま逃げだしたようなので、

要塞に関しての情報はまだ集まってないんですよ」

 

 

 

 確かに普通のデジモンがあんな危険なデジモンや、要塞を見たらすぐさま逃げ出すだろう。

それに対して責めるつもりなんて勿論ない。

 

 ―――――いや、待てよ。もしかしたら――――

 

 

「随分と短期間の間に調べてるみたいじゃないか」

 

 

 僕がある事に気が付いた瞬間、

少し遠くの方からそんな声が聞こえて来た。

――――この声は……アルケニモンの!

 

 光子郎が僕の一歩前に出てデジヴァイスを構える。

テントモンもいつでも進化出来るといった様子で光子郎の横に飛んだ。

 

 

「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。

今日は別に戦いに来たわけじゃないんだよ」

 

 

 そう言いながら木の陰から姿を現したのは、

怪しいサングラスと帽子をかぶった謎の女――アルケニモンだった。

 

 

「……貴方がヤマトさん達が言ってた謎の女性ですか。

確かに何処から見ても大人の人間に見えますね」

 

「ちょっと賢そうなあんたは……

昨日は居なかった選ばれし子供みたいだね。

おやおや二人だけでどうしたんだい?

他の選ばれし子供達はキメラモンの力に怯えてデジタルワールドに来なくなったのかい?」

 

「ヤマトさん達は学校があって今は来れていないだけです。

決してキメラモンに屈した訳ではありません」

 

 

 なんだい面白くないねとアルケニモンは呟くと視線を僕の方に向けて来た。

 

 

「選ばれし子供っていうのは随分と脆い様だね。

結局キメラモンの攻撃を受けていないのにそんな風になるなんてさ」

 

「人間の体なんてデジモンと比べたらとんでもなく脆いモノですよ。

簡単に壊れてしまう。それこそ一瞬の内に。

……それで貴方はどうしてこんな場所に居るんですか?

戦いに来たわけじゃないんですよね?」

 

「ああ。今日はそんなつもりであんた達の前に姿を現した訳じゃない。

……あんたに話して上げようと思う話があるからこうして来てやったのさ」

 

「……僕にですか?」

 

 

 アルケニモンが態々僕に話があるとは想定外だった。

突然の言葉に困惑する僕を無視してアルケニモンは話し出した。

 

 

「あんた達がさっき話してたダークタワー製造移動要塞が制御不能になってね。

せっかく建てたダークタワーを自分で引きつぶしたりするくらいコントロールが効かなくなってるんだよ。

まあアレはもともと無理やり動かしてたモノだからいずれこうなるとは思ってたが、

まさかこんなに早くいかれちまうとはね」

 

 

 ……やっぱりコントロールが効かなくなっているのか。

あれはもともと異世界のエネルギー――暗黒の海の暗黒エネルギーを引っ張り出し、優しさの紋章の力によってそれを制御し、動かす要塞なのだ。

紋章が無い上に、代わりの物を用意できなかった以上、こうなる事は必然だと言える。

 

 

「キメラモンもあの後まだ暴れ出してね。

抑え込んでいたイービルリングを全部破壊してどっかに行っちまったんだよ。

……まあ、意識のあるデジモンを作り出すからこんな風に言う事を聞かなくなるんだろうね」

 

「じゃあ今キメラモンがやっている破壊工作は貴方の意志では無いという事ですか?」

 

「アイツが勝手にやってるだけさ」

 

 

 ……恐らく嘘は付いてないだろう。

理由は、単純に嘘を付く理由が無いように思えるから。

……だが、今まで話した話が本当だとしたら何故アルケニモンは僕にそれを話したのか?

 

 

「……取り敢えずは、貴方の話を信じる事にします。

ですが、それなら何故敵である選ばれし子供にこんな話を?」

 

「――――さあ、なんでだろうね。好きなように解釈しな」

 

 

 そう言ってアルケニモンは僕等に背を向けた。

 

 

「最後に一つ、どうしてその話を僕に?」

 

 

 アルケニモンは同じ選ばれし子供である筈の光子郎にでは無く、僕に話をした。

その理由が疑問だった。

 

 

「そうだね――――アンタはつまらない男だけど

……選ばれし子供の中では

まだマシな方だと思ってるからかもしれないわね」

 

 

 そう言うとアルケニモンは再び僕達に背を向けた。

 

 

「例えあんた達がキメラモンを倒そうが、要塞を破壊しようが特別に手を出さないであげる。

精々選ばれし子供としての役目を全うするんだね」

 

 そう言い残すと、今度こそアルケニモンはその場から姿を消した。

 

 ……正直アルケニモンの言った言葉の意味は分からないが、

アルケニモンが情報を与えた理由には少なからず心当たりがあった。

 

 恐らく、この二つを僕達に止めて欲しいんだろう。

アルケニモン達の親玉の計画はデジタルワールドに来ること。

――――それと密かにその男に憑りつき、男を誘導して計画を進めているデジモン、

ヴァンデモンが肉体を取り戻す事。

 

 この目的を達成するには、まずはデジタルワールドの位相を

多くのダークタワーで狂わし、環境を強制的に変更し、

そして大人でもデジタルワールドに来れる様にしなければならない。

アルケニモンやキメラモンの行動のお蔭で、位相を少なからずズラすことは出来た。

……だが、予想よりも早く出来てしまった上に、キメラモンと要塞の暴走によって

それを止める事が出来ない。

このままいけば、男の目的は果たす事が出来る。

……だが、ヴァンデモンは今はそれを望んではいない。

 

 今デジタルワールドに行けるようになっても、ヴァンデモンにはデジモンとしての体が無い。

戦う力もほとんど無いだろう。

こんな状況でデジタルワールドに来てしまったら、ゲンナイ達ホメオスタシスに発見され、

抵抗できないまま消されてしまうかもしれない。

そうなってしまう可能性が有るからこそヴァンデモンは

今デジタルワールドに行く事を望んでいない筈だ。

だが、位相を狂わしたまま放置したら、デジタルワールドそのものが崩壊してしまう。

それは男もヴァンデモンも望んでいない。

だからこそ、僕達選ばれし子供達に位相を狂わす二つの要因を止めさせようとしているのだろう。

 

 ……後は、デジタルワールドの位相をより狂わすホーリーストーンをキメラモンの暴走によって

発見しにくくなる事を危惧して止めさせようとしているのかもしれないが、

……兎に角、本当の理由なんて分からない。

 

 ――――だが、このままキメラモンと要塞を放置すれば、デジタルワールドが大変な事になってしまう。それなら僕は行動しなければならない。

 

 それが選ばれし子供として選ばれた僕の使命だ。




アマキ「そう言えば、泉さんはどうして僕の居場所が分かったんですか?」

光子郎「ああ、それはですね、守谷君が気絶している間に、D3を弄って
    位置情報をオンに……」

アマキ「…………」

光子郎「……本当にすいません。守谷君の場所を特定するにはそうするしか
    方法が思いつかなかったんですよ……」



 本編に挟めなかった話をここにいれてみました。


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014 招待

ちょっと長くなったので二話に分ける事にしました。

……やっぱり共に行動するキャラが増えるとかきにくくなりますね



 アルケニモンが去った後、これからどうするべきかと考えていると、

タイミングを見計らっていたのか、テントモンが光子郎の家に来ないかと提案してきた。

テントモンの言葉に、光子郎もそれはいいですね、是非そうしてくださいと話しかけてきた。

 

 光子郎達の提案に僕は、少し考えさせてくださいと言葉を返して考え込んだ。

 

 ……確かに僕の考えたキメラモンと基地を同時期に破壊する計画を実行するには

選ばれし子供達の力が必要だ。だが、だからと言って光子郎の家に行くのは正しいのか?

光子郎の家に行けば、確実に後から他の選ばれし子供達も集まって来るだろう。

そうなってしまえば逃げ場は無くなってしまう。

 

 だが、仮に他の選ばれし子供達との接触を避け、光子郎だけに計画を話しても、

きっと他の選ばれし子供達は納得せずに計画外の行動を起こすだろう。

……残念ながらこの計画は選ばれし子供達がそういう行動を起こしてもおかしくない計画だ。

だからこそ、他の選ばれし子供達にも直接計画を話した方が良い。

だけど、出来れば他の選ばれし子供達とは…………。

 

 考えがまとまら無い事に内心イライラしながら、ふとブイモンの方に視線を向けた。

そこにはテントモンに家に来ればおいしい食べ物が沢山あると言われ、

物凄くテンションの上がっているブイモンの姿があった。

……どうやらブイモンは行く気満々のようだ。

 

 そんなブイモンの姿に少し肩を落とした。

――――だが、そんなブイモンの姿を見てふと思った。

僕はブイモンに酷い仕打ちをしているのではないかと。

 

 僕の頼みで、他の選ばれし子供達のパートナーデジモンとの接触を避けながらデジタルワールド

 

を探索したり、彼等と遭遇しない為に家に住まわせたり、出来るかも分からない完全体への進化を

 

練習させたりした。

その上、僕は自分の事を何もブイモンに話していない。

ブイモンが知っているのは、表面上の守谷天城だけなのだ。

それらはパートナーデジモンにどうなのか?

……少なくとも『本宮大輔のブイモン』よりは幸せでは無い筈だ。

いや、寧ろ不幸とも言えるかも知れない。

 

 

「……わかりました。お邪魔させていただきます」

 

 

 光子郎とテントモンにそう返した僕は、ブイモンの元に歩いて行き、左手で頭を撫でる。

……どちらにしろ、計画を実行するには選ばれし子供達と一度話をしなければならないのだ。

それが光子郎一人か、全員か、ただそれだけの違い。

僕にとって、それ程違いが無いのなら、僕以外にとっていい選択肢を選べばいい。

この選択肢は、選ばれし子供達にとってもいいものであるだろうし、

ブイモンにとってもいいものであるだろう。

 ブイモンが、選ばれし子供達のパートナーデジモンと仲良くなるチャンスなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 光子郎の家に招かれた僕達は、それぞれの過ごし方で時間を潰していた。

チビモンは、テントモンと会話しながらお菓子をパクパク食べて過ごし、

僕は、パソコンで何らかの作業をする光子郎を見ながら、

キメラモン達に対する作戦内容をどう話すべきかと考えていた。

 

 

「――――太一さん達にはメールで知らせておきました。

学校が終わったらすぐにここに向かうそうです」

 

 どうやらメールを選ばれし子供達に送っていたらしい光子郎は、

作業を終えると、パソコンをそっと閉じながら僕の方を向いてきた。

 光子郎の言葉に対して僕はそうですかと返すと、壁にかけてある時計に目を向けた。

……この時間なら恐らく二時間後くらいには全員来るだろう。

…………うん? 太一さん達?

 

 

「八神さ……八神先輩も来るんですか?」

 

「はい、来られますよ。……何か不都合でもありましたか?」

 

「いえ、ただ部活動とかは大丈夫なのかと思っただけです」

 

「それなら大丈夫みたいです。

明日から大型連休に入るので、部活動も普段に比べそれ程本格的に行っていないようです」

 

「……そう言えば明日からゴールデンウィークでしたね。

すっかり忘れてました」

 

 

 学校をサボり気味な上、行ってもデジモンの事ばかり考えていて、

他の生徒の話とかを聞いていなかったのですっかり忘れていた。

……まあ特に予定の無い僕には大型連休など関係はないけどね。

 

 

「…………そう言えば、守谷君はいつ頃そのD3を手に入れたんですか?」

 

 

 突然光子郎がそんな質問を投げかけて来た。

僕がD3を手に入れたのは、京や伊織たちと同じ4月上旬の始業式の日だ。

だがそれを正直に話すのは……止めた方が良いだろう。

光子郎達にとって僕は、様々な事を知っているであろうと思われる謎の選ばれし子供。

そんな謎の選ばれし子供が、京や伊織と同じ日にD3を手に入れましたと言えば、

なら何故そんな短期間でこんなにもデジモンの事を知っていると思われてしまうだろう。

……転生の事を話さないと決めている僕にとってこの手の疑いは持たれたくない。

 

 

「そうですね……確か2年前の春休み頃、ですね」

 

「2000年の3月頃という事ですか?」

 

「はい。その日は特にやる事が無くて、

家でパソコンを使って何か面白い事は無いかと探してました。

すると何やら凄い勢いで書き込まれている掲示板があって、

それを開いてみると、あるURLが貼られていて、それを更に開くと……

そこには白いクモみたいなモンスターと、オレンジの恐竜の様なモンスターと、

青い昆虫の様なモンスターが戦っている映像が映し出されていたんですよ」

 

 

「……二年前のディアボロモンとの戦いですね」

 

「はい。……その時の僕は、デジモンの存在なんて知らなかったので、

この生き物たちがどんな存在なのかは理解出来ませんでしたが、

ただその戦いに魅入られてました。

そして最終的にアグモン達が進化して敵を倒してその場を去った後、

僕もそのURLを閉じてその場から立ち上がろうとしたんですよ。

すると…………その時、突然目の前にこのD3が現れました。

突然の出来事に戸惑いながらもD3を手に取ってみると、

今度はパソコンに変な渦の様な画面が映し出されて、僕はその中に吸い込まれたんですよ」

 

 ……勿論実際はこんな事は起きていない。

だが、僕がデジモンの事を知っている理由を前世で知ったと言う理由以外で説明するには

嘘を付く以外の方法は無い。

僕が矛盾が生まれない様に注意しながら、作り話を続けた。

 

 

「吸い込まれた先は真っ白な世界でした。

何もない世界でしたが、そこには一体のデジモンが存在しました。

僕はそのデジモンに、僕が新たな選ばれし子供に選ばれたという事、

近い将来デジタルワールドという世界に危機が訪れるという事を教えられ、

その時に、僕にデジタルワールドを救う為の救世主になってほしいとお願いしてきました。

世界を救うヒーロー的な存在に憧れていた僕はそれを快く受け入れました。

そして月日は流れ今に至ると言う事です」

 

 

 光子郎が訪ねてきたのはD3をいつ手に入れたかと言う事だったが、

いずれそれならどうして自分が選ばれし子供と言う存在だと知っていて、

尚且つ選ばれし子供として戦う事に使命感を覚えているのかと絶対に質問して来るので、

ここで光子郎に話しておくことにした。……内容は完全に嘘っぱちだけどね。

 

 

「…………成る程。守谷君はそのタイミングでD3を手に入れ、

尚且つ色々な知識を得たと言う事なんですね?」

 

「はい」

 

「成る程」

 

 

 光子郎は一言そう漏らすと、自分の前にあるコップを手に取り、水分補給をした後、

それではもう一つだけ質問ですと話を続けてきた。

 

 

「今日守谷君がここに来てくれた理由は何ですか?」

 

「理由、ですか?」

 

「はい。ここに来るという事は、

少なからず僕達に様々な質問をされるという事は目に見えてます。

顔を仮面で隠し、目的を話さなかった守谷君にとって、それは出来る限り避けないといけない行為の筈です。

それなのに貴方はここに来た。

それはここに来なければならない理由、もしくは

僕達に何か話したい事があるからじゃないですか?」

 

 

 ……どうやら光子郎には完全にばれている様だ。

僕が同じ選ばれし子供から誘われたからという理由で来るような人間じゃないという事を。

 

 

「……その通りです。

僕がここに来た理由は、泉さん達選ばれし子供達に協力してもらいたい事があったからです」

 

「キメラモンやダークタワーを作り出す要塞に関してですか?」

 

「はい。この二つの存在はデジタルワールドを危険にさらす存在です。

一刻も早く処理しなければならない問題ですので」

 

「成る程。それならその話は、今では無く、太一さん達が来てから尋ねる事にします」

 

「そうして貰えると助かります」

 

 

 その後は太一達が来るまで、他愛のない話をしたり、光子郎の母親が乱入してきて、

色々騒動が起こったりして、

体感よりもかなり早い時間で太一達がもうすぐ来るような時間になった。

 

 



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015 説得

「「「おじゃましまーす」」」

 

 

 インターホンの音が聞こえ、光子郎が扉に向かってから数秒後位に聞き覚えのある声が、

玄関に響き渡った。

……どうやら選ばれし子供達が来たようだ。

 

 

「あ! ほんとに守谷君が来てる!」

 

「……どうも」

 

 

 一番初めに光子郎の部屋に入って来た京は僕を見ながらそんな言葉を漏らしながら、

部屋に入って来た。

その後も続々と選ばれし子供達が部屋に入って来た。

 

 光子郎の家に来たのは……、京、伊織、タケル、ヒカリとそのパートナーデジモンと、

太一と、ヤマトと、空だった。

それぞれが空いてる場所に座ると、

またもやヒカリが僕の包帯のグルグルにまかれた右手を見ながら声を掛けてきた。

 

 

「その……怪我は大丈夫なの?」

 

「昨日も言ったけど、全然問題ないよ。痛みも感じない。

いつまでも君が引きずる様な怪我じゃないよ」

 

 

 僕は右腕を軽く上げ、痛みが無い事をヒカリにアピールした。

……その際に右手に痛みが走ったが、顔に出ない様に我慢した。

 

 光子郎が太一達の元にコップを配り終わると、

皆の様に座布団の上では無く、椅子の上に座った。

……恐らく後で、パソコンの画面を見せる際に、全員が見える様にする為だろう。

 

 

「……まずは、こいつが光子郎の家に来ることになった経緯を教えてくれないか?」

 

 

 ヤマトの質問に光子郎はそうですね、と一言置くと、ゆっくりと話し始めた。

 

 

「簡単に言ってしまうと、守谷君が来るかもしれないとデジタルワールドで

ブイモンを張り込んで居たら、そこに守谷君がやってきて、その後謎の女と……」

 

「いやいや待て、お前、ブイモンを張り込むために今日学校を休んだのか?」

 

「はい。守谷君なら退院後、直ぐにデジタルワールドに来るんではないかと思ったので」

 

 

 光子郎の返事に太一は、呆れたような表情を見せながらも、

光子郎の行動自体には一切文句は言わなかった。

 

 

「続けますよ?

ブイモンに会いに来た守谷君と遭遇した後、

今デジタルワールドがどうなっているかを守谷君に説明している最中に、

あの謎の女が現れ、僕達にキメラモンや要塞が暴走し、

もう自分達には必要なくなったから壊してもいいと言い残し、姿を消しました。

その後、僕とテントモンが守谷君を誘った結果、その誘いに乗ってくれたので、

ここに居ると言う訳です」

 

 

「……あの謎の女と遭遇したのか。無茶はしてないだろうな?」

 

「大丈夫です。今回は本当に彼女に戦闘の意志が無かったようなので」

 

 

 ヤマトの質問に光子郎がそう答えると、

空がそれは良かったと、胸をなで下ろしていた。

 

 

「それで、デジタルワールドの現状なんですが……」

 

 

 光子郎は言いにくそうにしながらもデジタルワールドの現状を

パソコンで分かりやすくまとめた資料を見せながら全員に説明した。

光子郎の話を聞いて驚くものは居なかったが、その表情には悲しげな表情が浮かんでいた。

……恐らく自分達が予想していたよりも酷い現実に思う所があるのだろう。

 

 

「……それなら一刻も早くキメラモンや要塞を止めないとな」

 

 

 太一の決意の言葉に全員が頷いた。

 

 

「だけど、要塞はともかく、あのキメラモンをどうやって止めればいいの?」

 

「京ちゃんの言う通りだ。

俺達は一度キメラモンに手も足も出ずに負けてるんだ。

何も考えずに戦いを挑めば、あの敗北を繰り返すだけだ」

 

 

 ヤマトの言葉に僕を除く全員が俯いた。

特に、京と伊織を除く選ばれし子供達は二人以上に悔しげな表情を浮かべていた。

……完全体に進化出来ればと考えているんだろう。

だがそれは無理だろうと彼等は理解している。

何故なら自分達には既に紋章の力が殆ど残っていないのだから進化は出来ない、と。

 

 

 

「光子郎さん、いいですか?」

 

 

 これ以上話を続けて、何からの作戦を思いつかれるのも困るので、

僕は光子郎に、今このタイミングで僕の話をしてもいいかという意味で尋ねた。

すると理解してくれたのか、光子郎はそうですねと、一言漏らすと、

突然僕が口を開いたことに戸惑うヤマト達に説明すべく言葉を発した。

 

 

「実は、今日守谷君がここに来てくれたのには理由があるんですよ」

 

「理由ですか?」

 

 

 伊織の全員の気持ちを代弁した言葉に光子郎は、はいと返す。

 

 

「詳しい話は僕もまだ聞いていないので分からないんですが、

今回のキメラモンと要塞に関しての話があるそうです」

 

 

 光子郎はそう言うと、自身の膝の上において開いていたノートパソコンを閉じ、

他の選ばれし子供と同じように僕に真っ直ぐな視線を向けた。

 

……内心緊張しながらも、僕はそれを見せない様に必死に隠しながら、

話し出した。

 

 

「今日僕が泉さんの家にお邪魔した理由は、

貴方達選ばれし子供達に手伝って貰いたい作戦があったからです」

 

「……その作戦って言うのは、キメラモンとあの要塞を止める作戦か?」

 

 

 太一の先読みに、はいと肯定の言葉を返す。

 

 

「キメラモンも、あの要塞も、

このまま放っておけばデジタルワールドが大変な事になるのは目に見えてます。

なので、出来る限り早急に破壊すべく、対策を考えた結果、ある作戦を思いつきました。

……しかし、これは僕一人では実行できるような作戦ではありませんでした」

 

「成る程。だから俺達に協力してほしいと」

 

「その通りです」

 

「……協力するかしないかはその作戦を聞いた後だ」

 

「……それで構いません。

僕自身、この時点で信じて貰えると思える程、信用されてない事は分かっているので」

 

 

……正直に言って、彼等にとって僕は、どちらかと言えば信用できる、と言える存在だろう。

まあ、それはさて置いて、ここからが本題だ。

 

 

「僕が考えた作戦は、キメラモンと、要塞の同時攻略です。

キメラモン討伐と、要塞破壊の二グループに分かれ、同時に対象を破壊する。

それがこの作戦の主な内容です」

 

「どうして、同時に破壊する必要があるんだ?

安全に行くなら、片方ずつ破壊した方がいいだろう」

 

 

 僕の言葉に太一は全く間髪を容れずに返してきた。

……まあそうだろう。

普通の者ならこの作戦がどれ程無謀なモノなのかは直ぐに理解できるだろう。

どちらも手に余る様な強敵相手に二手に分かれて戦おうと言っているのだ。

どう考えてもバカげた作戦だ。そんな作戦に疑問を覚えない程選ばれし子供達は馬鹿じゃない。

 

 ……だが、僕はどうしてもこの2つを同時に攻略したかった。

理由は本当に勝手な話だが、僕とブイモンがキメラモンと戦っている姿を見られたくないからだ。

……太一に殴られたその次の日から、自分の中で、ある直感が働いていた。

――――今の僕ならブイモンを完全体に進化させる事が出来ると言う直感を。

……この自信がどこから湧いてくるのかは分からない。

何故、前は無理だったのに、今なら出来る気がするのかは分からない。

だが、感じるのだ。今なら出来ると。

これは――――暗黒の海に繋がる時空の歪みを察知した時に似ている感覚だった。

 

 ……だが、仮に完全体に進化出来るとして、

その光景を選ばれし子供達に見られる訳にはいかなかった。

そんな光景を見せれば、当然選ばれし子供達は、

自分達も紋章やタグ無しに進化出来ると思ってしまうだろう。

僕自身、完全体に進化させる条件が分かっていないのにそれは危険だ。

それに、もしそうなってしまえば、きっと京とヒカリは、伊織とタケルは、

ジョグレス進化出来なくなってしまう。

 ジョグレス進化は、互いの事を理解した上で、二人の心を一つにして初めて成功する進化だ。

どちらか一方でも、そんな事しないでも守谷みたいに完全体に進化出来れば等と、

頭の隅でも考えてしまったら、ジョグレス進化が成功しなくなる。

 

 

「普通ならそうした方がいいんでしょうが、今回は話が違います。

……どちらか一方を無暗に破壊してしまったら

もう片方がとんでもない事になってしまう可能性が有るんですよ」

 

 

 ……だからこそ、僕は、嘘を付いてでもこの作戦を実行させなければならない。

 

 

「……どういう事だ?」

 

「……僕達が破壊しようとしているキメラモンと、要塞にはある共通点があります。

それはどちらもある場所からエネルギーを取り出して動いているという事です。

そしてその場所とは―――――『暗黒の海』」

 

「暗黒の海――――それは確か前にヒカリちゃんとタケルが行ったという世界の事だな?」

 

「はい。暗黒の海には未だ解明出来ていない謎が存在します。

キメラモンとあの要塞は、その謎のひとつの、どうやって生まれているか分からない謎のエネルギ

 

ーを暗黒の海から取り出し、己に吸収しているんですよ。

正確には、要塞が暗黒の海から直接エネルギーを取り出し、キメラモンはその取り出されたエネル

 

ギーのいくつかを自身に吸収していると言う訳です」

 

 

僕は嘘がばれない様に気を付けながらそう話した。

……要塞が暗黒の海からエネルギーを取り出しているという事は本当だが、

キメラモンがそれに便乗するようにエネルギーを取り出していると言うのは真っ赤な嘘だ。

既にキメラモンは、完全なデジモンとして生み出されていて、

外部からの援助を受けていない筈だからね。

 嘘を付くときは、真実を語りながら嘘を少し混ぜるのが効果的だろう。

 

 

「要塞とキメラモンが暗黒の海からエネルギーを取り出しているという事は分かったが、

それでも何故片方ずつ破壊してはならないんだ?」

 

 

 太一の当然の疑問に、他の選ばれし子供達もそうだそうだと言わんばかりの表情を見せた。

僕は太一の疑問に答えるべく話を続けた。

 

 

「要塞を無暗に破壊してしまうと、暗黒の海から取り出しているエネルギーの制御が効かなくなり、

爆発してしまう可能性があるんです。……それもかなりの広範囲を巻き込むような爆発を」

 

「ば、爆発!?」

 

「はい。そもそもあの要塞はとても不安定な存在です。

エネルギーを制御する核となるアイテムが無いまま使用され、

その状態で暗黒の海のエネルギーを取り出しているんです。

……正直に言うと、あの要塞は放っておいても爆発するでしょうね。

 それにあの要塞は、先程も言ったようにキメラモンの分のエネルギーも一緒に取り出している場所です。

そんな場所を破壊しようとして、仮に知能が低いとしても、キメラモンがその行動を放っておくと思いますか?

……下手をすればあの要塞の中でキメラモンと戦う事になってしまいます。

そうなったとして、貴方達はキメラモンとまともな戦いになると思いますか?」

 

 

 僕の質問に、一度キメラモンと戦った事がある者達は下を向いた。

そしてその者達の中でも最もキメラモンの強さを理解しているであろうヤマトが、

悔しそうに小さな声で無理だなと呟いた。

 

 

「……俺達がキメラモンと戦った際に最も厄介だと思ったのが、

キメラモンの攻撃の種類の多さだ。

特に、奴の空気砲みたいな技は殆ど見えない上に、放つまでの間隔が早く、攻撃範囲も広い。

……あんな技を狭い場所で使われたらあっという間に全滅するだろうな」

 

「だからと言ってキメラモンを先に倒すのもやめた方が良いですよ。

……キメラモンを倒した事でキメラモンに流れ込んでいる分の暗黒の海のエネルギーが、

要塞に流れてしまいます。只でさえ不安定な要塞にそんなエネルギーが流れてしまったら

どうなるかは……言わなくとも分かりますよね?」

 

「――――爆発、するんだね?」

 

「その通り」

 

 

 代表して答えたタケルに僕はそう返す。

……太一達の様子を見る限りどうやら僕がキメラモン関連で嘘を付いているという事はばれていない様だ。

 僕の作戦を実行させるように誘導するなら今しかないと考えた僕は更に畳みかけた。

 

 

「その上、要塞にある暗黒の海からエネルギーを取り出す装置を破壊するには

強力な攻撃が必要です。それこそ完全体クラスの攻撃が。

だからこそ大半の人数を此方に固め、一斉攻撃をしてその装置を破壊して貰いたいんです。

……以上の事から、僕は複数人による同時攻略の作戦を立てるしか無かったんです.

それとも貴方達はこの話を聞いた上で、まだ僕の考えに納得できませんか?」

 

「……いや、お前が同時攻略の作戦を立てた理由はわかった」

 

 

 太一は僕の目を真っ直ぐ見ながらそう答えた。

 

 

「……だが、そうだとしてお前に一つ聞きたい事がある」

 

「なんでしょうか?」

 

「――――仮に俺達とお前でキメラモンと要塞を攻略するとして、

その編成はどうなってるんだ?」

 

「……僕の考えた作戦では――――八神先輩達全員で要塞攻略に向かって貰い、

僕とブイモンでキメラモンの足止めをする。

そう言う編成になっています」

 

 

 ハッキリと太一の目を見ながらそう言い放つ。

……さて、ここからが問題だ。僕はどうにかしてこの編成を押し通さなければならない。

 内心そんな事を思っていると、僕の言葉にタケルがふざけるなと大声を上げた。

 

 

「何だよこの編成は! 誰がどう見てもおかしい編成じゃないか!」

 

「そうだとしてもこれが最も安全で、成功率が高い作戦だ」

 

「そんな訳ある筈が無いじゃない! キメラモン相手にたった一人で挑むなんて……」

 

「そうです。守谷さんはキメラモンと戦っていないからそんな事が言えるんですよ。

キメラモンはとても一人で勝てるようなデジモンではありませんでした!」

 

 

 タケルに続き、京、伊織も反対の意見を必死な形相で僕にぶつけた。

本気で僕を心配しているからこその反対だろう。

 

 ……だけど、そんな心配をしてくれる君達だからこそ、

僕はこの世界の為に必死に行動出来るんだろうね。

 

 

「なら逆に聞くが、僕に加え、君達の誰かが加わったとして、

本当に状況が良くなると思っているのか?」

 

「どういう事?」

 

 

 ヒカリの質問に僕は答えた。

 

 

「君達がキメラモンに短期間で負けた大きな理由は、相手が完全体だったという事を除けば、

さっき石田さんが言った通り、見えない空気砲の様な攻撃を避けなかった事が原因だ。

そして、その攻撃を避ける事が出来なかった理由は、

キメラモンが誰に向かって攻撃を放つか考えなければならなかったからだ。

今キメラモンが、自分に攻撃を放とうとしているのか、

それとも別の誰かに攻撃しようとしているのか……相手が格上なうえ、

見えない攻撃を放つ相手にそんな事を考えるのは危険だ。

それなら初めから一人で挑んで、キメラモンの攻撃方向が常にわかるようにした方が良いと思わないか?」

 

 

 僕の意見にヒカリは、でも……と、言葉を返そうとするが、

返す言葉が見つからなかったのか、そのまま黙り込んでしまった。

 

 

「……それに例え数が増えたとして、仮にその中の一人が被弾したら、

君達はキメラモンから視線を逸らし、そっちを見るだろう。

そしてその隙に攻撃され、そいつも被弾する……負の連鎖の始まりだ」

 

 仮にキメラモンから視線を逸らさなかったとしても、確実に戦いに支障が出るだろう。

選ばれし子供達は仲間思いなのだから。

 

 

「……それに、僕の説明が悪かったから勘違いしているかもしれないが、

別に僕はキメラモンに勝とうとしている訳では無い。

あくまで君達が要塞を破壊するまでの時間稼ぎをするつもりだ。

要塞が破壊され、暗黒の海のエネルギーが補給されなくなれば、

放っておいてもキメラモンは消滅するだろうからね」

 

 

 太一達にはあくまで時間稼ぎと主張する。

だが、そこまで言っても誰も納得したような表情は見せてくれなかった。

……仕方が無い、アレをみせるか。

僕は自分のポケットからD3を取り出した。

 

 

「それに僕のD3には、君達のとは違って、別の機能が存在する」

 

「別の機能、ですか?」

 

 

 光子郎の言葉に、はいと返す。

 

 

「僕のD3には暗黒の海へと繋がるゲートを開く力があるんですよ」

 

 

 その言葉に全員が驚愕の表情を見せた。

その中でも何人かの目つきが一瞬鋭くなったのを僕はあえてスルーし、

タケルの方を見ながら説明を始めた。

 

 

「以前、君と暗黒の海へ行った事があるだろう。

その時僕は言った筈だ、『暗黒の海に来る用事があった』と」

 

「……確かにそんな事を言ってたね」

 

「その用事が、暗黒の海に行き、暗黒の海に繋がるゲートを開けるようにすることだったんだ」

 

「――――! あの時、暗黒の海で何かやってたのは――――ー」

 

「暗黒の海にD3を浸し、暗黒の海へと繋がるゲートを開く機能を得る事が

僕の目的だったんだよ。

そしてこの力があれば、いざという時、あの世界に逃げる事が出来るだろう」

 

 

 あの時の不可解な行動の理由が分かったヒカリは成る程と言った表情を見せたが、

その隣のタケルは更に困惑したような表情を見せた。

 

 

「待ってよ、なら君はあの時からこういう危険な状況を想定してたっていう事?」

 

「ああ」

 

 

 その言葉に再び全員が驚愕したような表情を見せた。

 

 

「……お前は、いつからあの要塞の事を知っていたんだ?」

 

 

 ヤマトの疑問に僕は考えながら答えた。

 

 

「……彼等がD3を手に入れるより前、ですね」

 

「…………俺達にその事を話し、要塞を破壊すると言う考えは無かったのか?

いくらでも話す機会はあった筈だ。

それにそのタイミングなら要塞が完成していなかった上、

キメラモンもまだ作られてなかっただろう」

 

「話してしまったら、貴方達が要塞を破壊しに行くと思ったからです。

要塞が未完成の頃は、ある意味今以上に暗黒のエネルギーが不安定だったので

それだけは避けたかったんです。そして現状破壊出来ない以上、

余計な情報を与えて不安を与えたくなかったと言う気持ちもありました。

……まあキメラモンの様なデジモンが作られていたのは想定外でしたが」

 

 このタイミングでキメラモンが作られたのは本当に想定外だった。

原作では後3ヶ月後くらいに誕生するデジモンだったからね。

これに関しては完全に僕の判断ミスだ。

 

 選ばれし子供達の返答を待っていると、光子郎達が太一の方を向いた。

最終判断は太一に任せるようだ。

その視線を受け、太一は再び僕に何かを話そうとしたが、

僕はそれを遮るように先に太一に話し出した。

 

 

「……八神先輩にビンタされた後、色々考えました。

自分は何の為に戦っていたのか。その為に今まで何を犠牲にしてきたのか。

そして改めて自分が戦う理由を見つける事が出来ました。

――――今の僕はあの時の僕とは違います。

もう自暴自棄に命を掛けるような事はしません。

だからこの作戦に協力して下さい」

 

 

 今日一番の真剣な目で太一の目を見つめる。

 

 

「……キメラモン相手に無謀な戦いをしないと誓えるか?」

 

「……勝てる見込みの無い戦いはしない主義なので」

 

 

 しばらく無言の空気が光子郎の部屋を支配した。

僕と太一はお互いに目を逸らさず、真っ直ぐ見つめていた。

 

 そうしていると太一は、大きな溜息を付いた。

 

 

「分かった、協力する。お前の考えた作戦通りにな」

 

「――――ありがとうございます!!」

 

「ただし絶対に無茶はするな。危なくなったらすぐ逃げろ。

無理してでもキメラモンを止める必要は無い。それは勇気なんかじゃなく、

只の無謀な行動だ。勇気の意味を決してはき違えるなよ」

 

「はい!」

 

 

 太一達に向かってお礼を言いながら頭を深く下げる。

これでキメラモンと要塞を同時攻略する準備は整った。

 

――――決戦は明日。

勝敗は、僕が完全体に進化させる事が出来るかにかかっている。

だが、何度も言うがそれに対しての不安は無かった。

今の僕ならブイモンを完全体に進化させる事が出来る。そんな直感が働いていた。

 




原作の太一なら許可は出さないでしょうね。
そんな気がします。


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016 守谷天城の嘘 side光子郎

 守谷君の作戦に協力する事になり、それに関する詳しい内容の話し合いが終わると、

守谷君とチビモンは、晩御飯の時間だからという理由で足早にこの場を後にしました。

 

 ……今回の作戦以外の話をするの避けたかったのだろうか?

 

 そんな守谷君の行動を見た僕達の話の内容が、守谷君関連になるのは自然の流れだった。

 

 

「アイツ、出来る限り俺達と関わりを持ちたくないって感じだな」

 

 

 ヤマトさんの意見に僕も同意した。

 

 

「そうですね。

そもそも仮面を付けて、顔を隠していたのも

僕達と出来る限り関わりを持つことを避ける為にやっていたのかもしれませんね」

 

 

 そう断言出来るだけの自信は無いが、十中八九そうだろうなとは考えられた。

 

 

 

「なんであたし達と同じ選ばれし子供なのにそんな風にするのかな?」

 

「……前に守谷さんが言ってた、自分にはやらなければならない事があるという事が

関係あると思うんですが…そもそも自分一人でやらなければならない事とはなんでしょうか?」

 

 

 京君と伊織君の言葉に僕達も考えましたが、その答えは出ませんでした。

 

 

「そもそも守谷君はいつ選ばれし子供に選ばれたのかな?」

 

 

 ヒカリさんのふとした疑問にタケル君も同意した。

 

 

「確かにそうだね。彼はあまりに色々知り過ぎている。

モノクロモンとの戦いの時には既に情報を集めていたとか言っていたけど……

一体いつから行動していたんだろう?」

 

 

 二人の疑問に僕は、先程守谷君と話している時に得た情報を話すか迷ったが、

最終的には話した方が良いと考え、二人に割り込むように話し出した。

……しかし、

その後の白い世界に吸い込まれた経緯の話は取りあえずは話さない事にした。

 

 

「その話は皆さんが来る前に、守谷君に直接聞きましたよ」

 

「本当か光子郎?」

 

「はい。どうやら守谷君は今から二年前の三月頃にD3を手に入れたと言ってました」

 

「二年前の春休み頃か。……待てよ、

――――光子郎、その時期は」

 

「はい。ディアボロモンとの戦いがあった時期です。

そして守谷君は、その日にD3を手に入れたと言ってました。

入手までの流れを簡潔に説明すると、

どうやら守谷君はその日その戦いをパソコンで観覧していたらしいです。

そしてその戦いが終わり、

その場から立ち上がろうとした時に目の前にD3が現れたと言ってました」

 

「そのタイミングで選ばれし子供に選ばれたという事か」

 

 

 ヤマトさんの言葉に空さんとヒカリさん、

タケルくんは納得したような表情をしました。

……だけど、そんな中、京君だけは何故か難しい顔をしていた。

 

 

「どうしましたか京君?」

 

「……泉先輩、あたしもその戦いパソコンで見ていたかもしれないんです」

 

「京君、それは本当ですか?」

 

「はい。それでディアボロモンって、

その、黒くて腕が伸びて、少し怖い顔をした変なデジモンの事ですよね?」

 

「そうですね。確かにそんな見た目をしていました」

 

「だったらアタシみてました! 応援メールも送ったんですよ!

……というか、今考えたらあれと戦ってたのって泉先輩達だったんですね。」

 

 

 京君の言葉から察するに、

京君が見た映像はディアボロモンとの戦いの映像で間違いは無いでしょう。

 

 

「……それで京君の時は、戦いの後D3は現れなかったんですね?」

 

「そうですね。あたしの時はそんな現象はなかったです」

 

 

 思わぬ出所の情報に戸惑ったが、

そのお蔭で僕は守谷君の話を聞いていた感じたある疑問に100%の確信を持てた。

やはり守谷君は嘘を付いていた。

 

 

 

「……皆さん、一つ聞いてもらってもいいですか?」

 

「何だよ改まって?」

 

「僕が守谷君から聞いて、

先程皆さんに話した守谷君がD3を手に入れた経緯なんですが……

僕はこれは嘘ではないかと疑って……いえ、確信しています」

 

「……どういう事なの光子郎くん」

 

 

 空さんの言葉に同意するように全員が困惑の表情で僕を見ている。

僕は理解しやすいように話を頭で組み立てながら話し出した。

 

 

「まずは、守谷君がD3を手に入れた経緯は先程説明しましたよね?」

 

「ええ、ディアボロモンとの戦いを見た後現れたって」

 

「はい。守谷君は確かにそう言いました。そして僕はそれが嘘だと言いましたが、

この話だけでは実際その瞬間を目にしていない以上、

僕達にはそれが正しいのか間違っているのかは分かりません。

……ですが、京君の話と、ある情報を加える事でそれが間違いだと判断できるんです」

 

 

 ……そう、あの日見たある光景を直接目にしている太一さんとヒカリさん、

タケルくんと僕なら。

 

 

「京君、伊織君、そもそも君達がそのD3を手に入れた経緯を知っているかい?」

 

「うん……そう言えば知らないですね」

 

「僕もわかりません。突然手の中に飛んできた光が晴れると

そこにこのD3があった、という事しか理解していませんでした」

 

「成る程。なら説明すると、

あの時、モノクロモンに襲われていた太一さんは洞穴で勇気のデジメンタルを見つけ、

それを持ち上げようと触れてみると、その瞬間『赤と黄色、青』の3つの光が飛び出し、

その内の二つが京君と伊織君の元に辿り着き、D3へと姿を変えたんですよ」

 

「へーそうだったんですか!

……でもそれが守谷君の話が嘘だというを証明する事に関係があるんですか?」

 

「大いにあります」

 

 

 京君は気付いていないかもしれないが……既に僕が言いたい事に気が付いた人達は、

驚愕の表情を浮かべて此方をみていた。

 

 

「……勇気のデジメンタルから飛び出した赤と、黄色の光は、

それぞれ京君、伊織君の元に行き、その色のD3へと姿を変えました。

――――それならもう一つの青い光、青いD3は何処に行ったんでしょうか?」

 

 

 そこまで言うと気が付いたのか、

京君も伊織君も皆さん同様驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

「僕が思うに、

もう一つの光は――――守谷君の元に行ったのではないかと考えています。

それを証明するように守谷君のD3の色は――――青。

それに守谷君が気絶している際、彼のD3を調べた事があるんですよ。

その結果は、京さんと伊織君と全く同じ作りのモノでした」

 

「光子郎さん、でもそれが意味するのは―――――」

 

「……守谷君がデジタルワールドで行動するようになったのは、

僕達と同時期ということになりますね」

 

 

 僕の言葉に全員が息を呑んだ。

……無理もない。守谷君が様々な情報を知っているのは、

自分達よりもずっと前から行動しているからだと思っていた。

だけど実際は、自分達とほぼ同時期から行動していたのかも知れないと言っているんだ。

驚かない方が無理な話だろう。

 

「……ヒカリや、タケルと同じように前から持っていたデジヴァイスが、

あの光によって姿を変えたと言う考えは?」

 

「……ヒカリさんやタケルくんの場合は、

自分達の紋章が刻まれたデジメンタルに近づく事でひとりでに姿を変えました。

その事から、あの光によって元から持っていたデジヴァイスがD3に姿を変えたという

のは考えづらいですね」

 

 

 僕の返答に太一さんは再び黙り込んだ。

 

 

「……それに初めて守谷君と遭遇した際、守谷君は勇気のデジメンタルを使っていました。

守谷君の性格から考えて、仮に他のデジメンタルを所持していたのなら必ず

勇気のデジメンタル以外のデジメンタルを使用してアーマー進化していたでしょう。

あの状態で勇気のデジメンタルを使用してしまっては、

太一さんが洞窟を出た後すぐに洞窟に入って勇気のデジメンタルを

引き抜いたという事がばれてしまうので。

ですが、守谷君はそれをしなかった。仮面をつけてまで僕達と関わりを持とうとしなかった彼が。

つまり……」

 

「……他に進化する手段が無かったから仕方が無く勇気のデジメンタルを使用したという事だな。

少なくともアイツは友情のデジメンタルを使えるのに、持ち合わせていなかった。

その理由は、そもそも友情のデジメンタルの隠された場所がわからなかったのか、

……それともアイツがデジタルワールドに来たばかりでそんな時間が無かったのか」

 

「僕は後者だと思います。

守谷君の情報網は、常日頃からデジタルワールドを調査しているテントモン達でも

存在自体知らなかった要塞を見つける程広いので」

 

「……仮に、仮に本当に光子郎さんの言う通り、守谷君が私達と同時期に

デジタルワールドに来れるようになっていたとしたら、

どうして守谷君は私達が知らない様な事を色々知ってるんですか?」

 

 

 ヒカリさんの疑問に僕は、推測ですがと強調して、自分の考えを話した。

 

 

「恐らく協力者が居て、その人に色々聞いたんでしょう。

……その人と常日頃から連絡を取っているのか、

それとも一度話しただけなのかはわかりませんけどね」

 

 

 僕達で言う、ゲンナイさんの様な協力者が居るのだろう。

……流石にそう考えないと、彼の情報の多さを説明する事が出来ない。

 

 

「もしかすると……」

 

 

 太一さんの呟きに僕を含めた全員が太一さんの方に視線を向けた。

 

 

「もしかすると、アイツは京ちゃんと伊織と同じタイミングで選ばれし子供になったのに、

俺達以上に選ばれし子供として行動しているかも知れないんだな」

 

「……僕達が思う以上に深刻な問題を抱えているのかもしれませんね。

もしかすると仮面を付けてまで僕達から距離を取ろうとしたのは、

僕達を巻き込まない様にする為だったのかもしれません」

 

「――――くそ! 明日会ったら俺がアイツに言ってやる。

一人で抱え込まずに俺達に相談しろってな」

 

 

 ヤマトさんの言葉に太一さん達全員が頷いた。

……だけど僕はそれには同意できなかった。

 

 

「それは止めた方が良いです。

僕達が彼にそんな事を言ってしまえば、

自分が嘘を付いたという事がバレたと分かってしまいます。

そうなってしまえば、彼の性格から考えて明日の戦い以降、

僕達の前に姿を現さなくなってしまう可能性が有ります。

それこそ、今回のキメラモンの様な大きな問題を前にしても」

 

 

 守谷君は僕達に京君と伊織君と同じタイミングで選ばれし子供になったという事を

隠すため、嘘を付いた。

話してしまえば、僕達が今まで以上に接触しようとしてくると分かっていたから。

……仮に彼が悪者だったとしたなら、それで同情を誘って僕達を利用すればいい話だ。

だが守谷君はそれをしなかった。

それはつまり守谷君が僕達を自分の問題に巻き込みたくなかったからだと考えられる。

……そんな彼に、君が物凄い問題を抱えている事を知った。

だから色々話してくれと言ったら、きっと彼は今まで以上に僕達と関わりを持たない様になってしまう。

 

 ……ヒカリさんやタケルくんと同じ年齢の子供にそんな思いをさせてしまっている現状に正直何とも言えない悔しさがあるが、

今の僕達に彼の問題を知る術も解決する策も無かった。

 



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017 作戦の幕開け

 光子郎の家に行った日の夜9時頃、僕とチビモンは布団の中に居た。

普段ならばこんな時間に眠ろうとする事なんてないのだが、今日は話が違った。

 

 何故なら明日は――――キメラモンとの戦いがあるのだから。

……キメラモンとの戦いは一筋縄ではいかないだろう。

いや、一瞬でも気を抜けば負けてしまう様な戦いになることが予想できる。

だからこそ少しでも勝率を上げる為にこうして早々と布団の中に入っている。

……まあ実際はこうして眠る事が出来ず、思考に浸っているんだけどね。

 

 

「……アマキ、まだ起きてる?」

 

 

 そろそろ本気で眠ろうと、思考を止めようとした時、突然チビモンに声を掛けられた。

普段は布団に入ったらすぐ眠りについているチビモンが起きていた事に驚きながらも、

返事を返した。

 

 

「起きてるよ。どうしたの?」

 

「……オレ達勝てるよね?」

 

 

 チビモンの口から漏れたのは、

楽観的な性格をしているチビモンからは余り聞きなれない弱音な言葉だった。

 

 

「……キメラモンと戦うのが怖い?」

 

「……ほんのちょっぴりだけね。

だって相手はホークモン達が束になっても相手にならなかった位強いデジモンなんだよ?」

 

「……チビモンでもそんな事思ったりするんだね」

 

「あ、馬鹿にしたな! オレだって色々考えて生きてるんだからな!」

 

 

 僕の言葉にムスッとしたチビモンは布団を跳ね除け、僕の背中をポカポカと叩き始めた。

そんなチビモンの姿に少しだけ笑みを浮かべながらごめんごめんと体を起こしながら謝罪すると、チビモンは渋々ながらも叩くのを止めてくれた。

――――が、チビモンは突然真剣な表情を浮かべ、僕の顔をジッと見つめた。

 

 ……ああそうか、さっきの質問の答えを待っているんだな。

チビモンの行動の意味を理解した僕は、チビモンと同じように真剣な表情を浮かべた。

 

 

「きっと……いや、絶対に勝てる。

そう思っているからこそ、僕は明日キメラモンと戦う事にしたんだから」

 

 

 相手が強敵なのは分かっている。

原作でも大輔達が苦労してようやく倒せたようなデジモンなんだから。

……だけど、僕はチビモンが進化して同じ完全体になれば勝てない相手では無いと思って……

いや、感じている。

……この根拠が何処から来るかは正直に言えば分からない。

だけど、そう感じると言うなら、僕は直ぐにでもキメラモンを倒したかった。

……所々で感じている原作と異なっているあるモノの為にも。

 

 僕の根拠のない自信ありげな言葉にチビモンはそっかと、一瞬だけ目を閉じて再び開くと、

そこには先程とは違い、表情に全く曇りのないチビモンの姿があった。

 

 

「アマキがそう言うなら大丈夫だな!」

 

 

 チビモンは普段と変わりない笑顔でそう言うと、もう寝よ寝よと、口ずさみながら

先程蹴り飛ばした布団を拾いに行った。

……先程までは曇った表情をしていたのに、

僕のたった一言の言葉でどうしてそんな風に安心出来たのか?

理解出来なかった僕は、今度はこっちから質問する事にした。

 

 

「……どうして僕の一言でそんなに安心出来るの?」

 

 

 その質問にチビモンは理解出来ないと言った表情を見せた。

 

 

「……確かに僕は、キメラモンに勝てると思っている。それは嘘じゃない。

だけど、ブイモンからしたらこの言葉は、何の根拠もない言葉だろ?

それに……今まで完全体に進化出来た事なんて一度も無いのに、

明日それを成功させないといけないんだよ。それは不安じゃないの?」

 

「全然」

 

 

 全く間髪を入れずにチビモンはそう返してきた。

 

 

「だってオレはアマキを信じてるから。

アマキがキメラモンに絶対勝てるっていうなら、オレもそうだと信じるし、

アマキが明日は完全体に進化出来るっていうならオレはそれを疑ったりなんかしない。

オレにとってアマキはそう言う存在なんだ!」

 

 

 照れくさそうに語ったチビモンに僕は言葉が出なかった。

……大事な事は何も話さないようなこんな僕をただ信じてくれる。

そんなチビモンの存在に僕は改めて感謝した。

パートナーがチビモンだったからこそ、僕は大輔の代わりに選ばれし子供として行動できているのだろうと感じた。

 

 

「……意外と僕達は相性がいいのかもね」

 

 

 そう言いながら僕はチビモンに拳を向けた。

 

 

「明日は頼んだよ、チビモン」

 

「――――任せとけって!」

 

 

 今日一番の笑顔を見せながらチビモンは僕の拳に自分の拳を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕とブイモンと太一達選ばれし子供達は、集合地点に集まっていた。

今日来ている太一達選ばれし子供達のメンバーは、

京、伊織の新選ばれし子供達と、太一、ヤマト、光子郎、空、丈、タケル、ヒカリの旧選ばれし子供達とそのパートナーデジモンだった。

 

 

「――――最後に、今回の作戦内容を復唱する。みんなちゃんと聞いとけよ?」

 

 

 太一の言葉に全員が深く頷いた。

 

 

「まずは、守谷とブイモンが先行し、キメラモンをA地点まで誘導して貰う。

……光子郎、A地点は昨日と変わらずにダークタワーが建っていないな?」

 

「――――はい、大丈夫です。

アグモンが守っていたエリアだけあって、周辺には一本もダークタワーが建っていません。

……要塞がこの場所を通ってしまったら話は変わってきますが」

 

「そうさせない為に俺達が居るんだろ。

それで守谷とブイモンは計画通りキメラモンをこの地点まで誘導して、

その地点に付いたら戦闘を始めてくれ。

この場所は東側は森林が、西側には砂漠が延々と続いている。

どちらで足止めをするかは任せるが、砂漠で戦うなら気を付けろよ。

いざと言う時に隠れる場所が無いからな。

後――――絶対に無理はするなよ?」

 

「……大丈夫ですよ。僕達はただ足止めをするだけですから。

それに正直この作戦は八神先輩達の方が負担が大きい作戦です。

八神先輩達こそ無茶はしないでくださいね」

 

「わかってるよ。……話を戻すぞ?

守谷達がキメラモンを地点Aまで誘導したら、

ヒカリとタケルと京ちゃんは、パートナーをアーマー進化させて

要塞の下の部分を破壊してくれ。

そうすれば、要塞は一時的に浮遊できなくなりその場に不時着する。

つまり新たなダークタワーは作られなくなる。

そしてその後は要塞の上空に飛んで、

中から出てくるイービルリングで操られたデジモン達に備えてくれ」

 

 

 太一の言葉に三人と三体は頷く。

……要塞の中にはアルケニモン達がイービルリングで操っているデジモン達が

大量に居る事を確認済みだ。

これはアルケニモンが要塞を守る為に配備したわけでは無く、

要塞ごとそのデジモン達を放棄したのであろう。

将来的に意識を持たないデジモンを作り出せるアルケニモンにとって、

このデジモン達の管理が面倒だったと考えられる。

 

 

 

「そして上空でヒカリ達が戦っている間に、伊織とアルマジモンは

この辺りにあるダークタワーを破壊してくれ」

 

 

 アルマジモンのアーマー進化体であるディグモンは、他のデジモンに比べ空中戦は得意では無い。だが、地上での戦いが得意でなおかつ地中に潜りながらダークタワーを破壊出来る事から、

二人がこの作戦に回る事は必然だった。

 

 ……これは裏方だと思われる役回りかも知れないが、要塞を攻略する上では最も重要な

役回りだった。

伊織もその事を理解しているのか、太一の言葉に何の不満も無く返事を返した。

 

 

「伊織とアルマジモンが周辺のダークタワーを破壊したら、今度は俺達の出番だ。

アグモン達を進化させ、要塞から出てくるイービルリングで操られたデジモン達全員と

戦い、みんなを開放する。

俺達が戦っている間は、一先ずはテイルモン達は後方支援に回って、

体を休めて体力を回復させてくれ。

最後の破壊の時に力が出ませんでしたじゃ話にならないからな。

そして操られたデジモン全員を解放したら、全員で要塞に突入する。

……多分中には誰も居ないと思うが、注意だけは怠らないでくれ。

そしてそのまま最深部に向かい、

暗黒の海からエネルギーを吸い出している場所を見つけたら、

その渦に向かって全員で必殺技を放ち、エネルギーの供給を止める。

その後は、要塞の中にまだデジモンが残っていないか確認し、それが終わったら

要塞本体をバラバラに破壊する。これが作戦内容だ。誰も質問は無いな?」

 

 

 太一の質問に丈が、ゆっくりを手を上げた。

 

 

「そう言えば、守谷君は要塞のエネルギー供給を止めればキメラモンも行動を停止するとか言っていたらしいけど、実際はどれくらいの時間で停止するか分かるかい?

場合によっては、要塞のエネルギーを止めた時点で、守谷君の元に行くっていう選択肢もあると思うんだけど」

 

「…………キメラモンは皆さん知っての通り、強力なデジモンです。

それ故にその消費エネルギーも馬鹿にならないでしょう。

だから八神先輩達が要塞のエネルギー供給を止めてからそうかからない内に

キメラモンのエネルギーが尽きる筈です。

なので僕の事は気にせずに、要塞の破壊に努めてください。

あれを長くこの世界においておくのは百害あって一利なしですから」

 

 

 僕の説明に丈は渋々ながらも納得してくれた。

……キメラモンとの戦闘がどれくらい掛かるか分からない以上、

出来る限り、要塞で時間を掛けて貰った方が良いだろう。

 

 丈の質問も終わり、計画実行の時が来た。

僕はブイモンをライドラモンにアーマー進化させ、その背中に乗ろうとすると、

京が慌てて止めてきた。

何故止めたのか分からなかった僕は、その理由を問い詰めるべく京の方に行くと、

突然僕の前に手を出してきた。

 

 

「どうせなら皆で円陣を組みましょ? いいですよね光子郎さん!」

 

「京君、全く君って人は…………」

 

 

 突然の京の提案に光子郎は小さく溜息を付きながらも、自分の手を京の上に重ねた。

それに続くように、タケル、伊織とどんどん手が重ねられていった。

 

 

「守谷君も良ければやってくれませんか?」

 

 

 僕以外の全員の選ばれし子供の手が重なると、光子郎が僕に向けてこんな事を言ってきた。

色々な含みがあるであろう光子郎の言葉に僕は溜息を付きながらも、一歩前に出た。

 

 

「……この状況で断れる程、僕は冷めてませんよ」

 

 

 そう言いながら僕は内心物凄く照れながらゆっくりと選ばれし子供達の手の上に手を重ねた。

 

 全員の手が重なった事を確認した京は、皆の顔を見回すと、

嬉しそうに手の方を向いた。

 

 

「この作戦、絶ッッッ対成功させるわよ! えい、えい―――――」

 

「「「おー!!!!」

 

 

 京の掛け声とともに全員の声が一つとなって周りに響き渡った。

 

 

――――キメラモン、要塞同時攻略作戦の幕開けだ。

 

 



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018 VSキメラモン

モノクロモン以来の戦闘描写です。
……やっぱり戦闘描写は苦手です。



 太一達と円陣を組んだ後、僕はライドラモンに乗ってキメラモンの元へと向かった

僕達は、既にキメラモンの見える道まで来ていた。

……いや、本来ならこの辺りには大きな木や岩があって

かなり接近しなければ見えないような場所なのだが……

キメラモンがところ構わずそれらを破壊し、無残にも荒地の様な場所になっていた為、

この距離でもキメラモンの姿を目視する事が出来た。

……やはり、こんなデジモンを長くデジタルワールドに存在させる訳にはいかないようだ。

 

 

「ブイモン。まずは開幕一発大きいのお願い」

 

 

 了解、とライドラモンは返事を返すと、頭のブレード部分に雷のエネルギーを集め出した。

集めたエネルギーが目を逸らしたくなるほど光を放ち始めると、

ライドラモンはその場から飛び上がり、

キメラモンに向かってブレードを振り下ろした。

 

 

『ライトニングブレード!!』

 

 

 雷を纏った雷撃の刃は真っ直ぐとキメラモンに向かって行き、

そのままキメラモンの背中に命中した。

……が、キメラモンは驚いたような声を上げ、辺りを見回すだけで、全く効いているような様子では無かった。

 

 

「こっちだ!」

 

 

 ライドラモンはキメラモンに向かって叫びながら、

先程とは違い全くエネルギーを溜めていない必殺技を牽制と言わんばかりにキメラモンに放つ。

ライドラモンの声でこちらの存在に気が付いたキメラモンは、再び飛んできた攻撃を腕で防ぐと、空気を震わす程の咆哮を上げた。

 

 決してキメラモンの近くに居るわけでは無い僕達の体すらも震わす圧倒的な咆吼に、

微かな弱音を吐きながらも、キメラモンを誘導する為、

背を向けて目的の位置まで全速力で走り出した。

 

 そんな僕等をキメラモンは逃がさんと言わんばかりに追ってくる。

……いくつもの必殺技を放ちながら。

 

 

「――――ライドラモン、右だ! ――――次は左!」

 

 

 後ろを振り向かず、全力で走り続けるライドラモンにかわり、

僕がキメラモンの攻撃が来る方向を指示する事でなんとか攻撃を避け続ける。

 

……予想してたよりも全然余裕が無い。

想像していたよりも速い攻撃の連続に早くも冷や汗をかきながらライドラモンに指示を続ける。

 

 

 

 

 

 

――――そんなギリギリの状況を十数分程続けると、

ようやく目的の場所まで辿り着く事が出来た。

 

 

「――――ライドラモン!」

 

 

 目的の場所の西側、砂漠のエリアに辿り着いた僕は

ヒビの入った右手に衝撃がいかないようにライドラモンから飛び降りる。

それと同時にライドラモンもアーマー進化を解き、ブイモンへと退化した。

 

 

「…………」

 

 

 僕等が砂漠に降りると同時に、

ようやく少しだけ距離を離せたキメラモンが僕らの前に姿を現した。

だがその様子が明らかにおかしかった。

 

 キメラモンはアーマー進化を解いたブイモンを警戒するように

数十メートル離れた場所に着陸した。

 

……どうやら少なくとも警戒できるほどの知恵が芽生え始めている様だ。

こうなっては少しでも早く倒さなければ。

僕は左手でポケットに入ったD3を取り出し、ブイモンを進化させた。

光がブイモンを包み込み、その光が晴れるとそこにはエクスブイモンの姿があった。

……完全体には進化出来ていない。

どうやらまだ足りていないモノがある様だ。

 

 僕は自分の心を見つめ直す為、一歩前に足を踏み出し語り始めた。

 

 

「……始めの頃、僕はこの世界を僕の望むべき姿にしようと行動していた」

 

 

 大輔の代わりに選ばれし子供になりデジタルワールドに行くことを決意した時、

僕は原作通りに話が進むようにとそう誓った。

 

 

「それが正しいと思っていたし、実際それまでの僕の行動は間違っていなかったと断言できる」

 

 

 今思えば原作と言うモノにこだわり過ぎていたかもしれないが……少なくともやっていた事自体に間違いはない筈だ。

 

 

「だけど――――僕は間違っていた。

既に自分の望む理想通りにならない事を何処かで気が付きながらもそれから目を逸らし、

いつの間にかそんなモノ(原作)よりも大事なモノがあるという事を忘れていた」

 

 

 本当に守るべきものは原作では無いと言う事が分かっていなかった。

本当に命を懸けるべきなのは、その世界で生きる選ばれし子供達。

そして、この世界に確かに存在する僕が大好きなデジタルワールドだったというのに。

 

 D3を握る手に自然と力が入る。

……その時、D3が僅かに発光していた事にこの時の僕はまだ気付いていなかった。

 

 

「だから――――僕はここで誓う!

もう守るべきものを間違えたりしないと!

僕が何の為に戦うべきかを忘れたりしないと!!」

 

 

 

原作の為に命を張ろうとする無謀な『勇気』

捻くれた僕ですら感じるパートナーとの『友情』

命を懸けてまで原作を守りたいと想える歪んだ『愛情』

この世で生きる者として最も罪深いだろう平行世界の『知識』

原作を維持する為だけに11年間生き続けられる程の狂った『純真』

転生してからずっとこの世界の為にと歪みながらも真っ直ぐな『誠実』

原作という可能性を知るからこそ欲深く心からそうあれと望んでしまう『希望』

大輔の代わりに選ばれ、この世界の命運を握る存在。おこがましいが世界にとっての『光』

それら一つ一つは太一達に劣る程度の想いでしかない。

だけどそれらを合わせれば。

いや――――それだけじゃない。

ありったけの思いを思い浮かべ、それら一つ一つに強い思いを――――

それら一つ一つに、その思いが何の為に存在するかを示す様に意味を――――

この瞬間だけはそれらは目の前の敵を倒す為に機能しろと。

――――この瞬間だけは――――怒りも絶望も奇跡も運命すらもただ戦うための力にと。

 

 

 D3が今度は僕ですら気が付く程に光を放ち始めた。

――――今なら行ける。

そう確信した僕は光に包まれたD3をエクスブイモンに向ける。

それと同時にD3を包む光が一気にエクスブイモンの方へと飛んで行き、

一瞬の内にエクスブイモンを包み込んだ。

 

 そして光が消えたその場所には、大きな翼を生やした天竜型デジモンの姿があった。

 

 

「エクスブイモン超進化―――――ウイングドラモン」

 

 

 伝説の天竜――――ウイングドラモンは小さく飛び上がり、

威嚇するようにキメラモンを見据えた。

 

 そんなウイングドラモンの姿にキメラモンは大きな咆吼を上げる。

まるで強敵が現れた事を喜ぶように。

 

 

 

「…………いくぞ」

 

 

 そんなキメラモンに向かって、ウイングドラモンは大きな翼を羽ばたかせ、飛翔する。

風を切る様な速さで瞬く間にキメラモンの前に辿り着いたウイングドラモンは、その勢いのまま全力でキメラモンの顔面を殴りつけた。

キメラモンにとってもこの速さは想定外だったのか、驚愕したような表情をしたまま殴りつけられるとそのまま砂にまみれた地面に激突し、辺りに砂煙を立ち上げた。

 

――――速い。

キメラモンと同じように僕もウイングドラモンの速さに驚いていた。

完全体に進化出来るとは思っていたが、何に進化するのかは全く予想がついていなかったので、

キメラモンと同じように空を飛べる完全体に進化出来た事に純粋に安堵を付いていた。

……空を飛ぶ相手に飛べないデジモンで挑むのは得策では無いからね。

 

 そんな事を考えていると、少しずつ薄くなってきた砂煙からキメラモンの必殺技がウイングドラモンに向かっていくつも放たれた。かなりの量だ。

だがウイングドラモンはそれらを難なく避ける。

 

 

「今度はこっちの番だ!」

 

 

 薄れた砂煙の中のキメラモンの姿を発見したウイングドラモンは、大きく息を吸って

キメラモンに狙いを定める。

 

 

『ブレイズソニックブレス!!』

 

 

 口から放たれた灼熱の炎がキメラモンに襲い掛かる。

キメラモンは防御するような姿勢を見せず、空中に飛び上がる事でそれを躱した。

……伊達にエアドラモンとエンジェモンの翼を使用している訳ではないようだ。

 

 ウイングドラモンは攻撃を躱されたことに舌打ちをすると、

必殺技での攻撃を止め、接近戦で攻めるべく、再びキメラモンに向かって行った。

だがキメラモンも同じ手は喰らわないと言わんばかりに自分に使用されているデビモン、クワガーモン、スカルグレイモンの腕を使い、接近して来るウイングドラモンに反撃する。

 

 風を切る音と共に振るわれる4本の腕を突破しながらウイングドラモンは再びキメラモンの顔面に攻撃を食らわす事に成功するが、体を回転させながら振るわれたモノクロモンの尻尾による攻撃を受けてしまう。

 

 

「ウイングドラモン!!」

 

 

 心配で思わず声を上げた僕にウイングドラモンは一瞬視線を向けると、大丈夫だ、と返事を返した。

だが状況は決していいものでは無かった。

攻撃を当てた事で景気付いたのか、今度はキメラモンがウイングドラモンに向かってきた。

振るわれる4本の腕と、尻尾攻撃。

時折ガルルモンの足で蹴りも混ぜながら、チャンスとあれば口から必殺技を放つ。

……正直接近戦では分が悪いと思った。

 

 だが距離を離しても、ダメージが殆どない状態のキメラモンに闇雲に必殺技を放った所で攻撃が当たるとは思えない。

下手をすれば無駄にエネルギーを消費する事になるだけかもしれない。

 

 そんな事を考えていると、ウイングドラモンのパンチがキメラモンの腹部に命中している光景が目に入った。

……よく4本の腕を躱しながら腹部に攻撃を当てれたな。

そんな事を考えていると、再び先程と同じ様に体を回転させ、モノクロモンの尻尾がウイングドラモンに振るわれる。

……まずい、これでは先程と同じ様な事に――――

 

 これから起こるであろう展開に思わず顔を歪めていると、突如僕の視界からウイングドラモンが消えた。

 

 

「っな!?」

 

 

 突然の出来事に思わず声を上げた驚いた僕であったが、それはキメラモンも同じ様で、

目を見開いて辺りを見回して消えたウイングドラモンの行方を捜していた。

 

 

『ブレイズソニックブレス!!』

 

 

 その直後、上空から灼熱の炎がキメラモン目がけて降り注いだ。

突然の出来事で回避が間に合わなかったキメラモンにその攻撃が命中し、苦痛の声を上げた。

そしてその隙を逃さないと言わんばかりにウイングドラモンがキメラモンの直ぐ上に現れ、

巨大な尻尾をキメラモンに向けて振り下ろした。

 

 直前に喰らった灼熱の炎で、

まともにウイングドラモンの姿を捉えていなかったキメラモンは

その攻撃をまともに受け、再び地面に屈した。

 

……まさかさっき消えて見えたのは、

僕がとらえきれないスピードでウイングドラモンが移動したからなのか?

 

 僕が驚愕の事実に気が付き、思わず口をポカーンと開けていると、

ウイングドラモンが地面に落ちたキメラモンに追い打ちをかけるべく、向かって行く。

キメラモンも直ぐに立ち上がり、再び4本の腕と尻尾を振るうが、

ウイングドラモンは難なくそれを避けながら攻撃を加えた。

初めは全部避けるごとに一回、二回。

だがそれが続くと二回が三回に。三回が四回にと、

どんどんウイングドラモンの攻撃が当たる回数が増していく。

……時間と共に体が馴染んでいるのか?

少しずつ速度を上げ、キメラモンに攻撃を加えるウイングドラモンの姿に思わず息を呑む。

そしてその光景を見て、ある疑問を覚えたのだが……今はそんな事を考える必要は無いと自分の中で新たに芽生えた疑問を胸の奥にしまうと、

ウイングドラモン達に視線を向ける。

 

 そして再び目の前で起きている出来事に気が付き、またもや頭を抱える事になった。

……ウイングドラモンの攻撃が命中する回数が減っている。

先程までなら一度の隙に数発の攻撃を当てる事が出来ていた筈なのに、

今では一度の隙に一回ほど。稀に攻撃すら出来ていない時すら存在していた。

 

 ……見ている限り、ウイングドラモンのスピードが落ちたわけでは無い。

移動の速度も攻撃の速さもどちらも先程とそれ程変わっていない。

…………そうだとしたら答えは一つ。キメラモンが早くなっているという事だ。

 

 自分と互角以上に戦う相手と戦う事で眠っていた力が芽生え始めたのか?

そうだとしたら――――なんとしてでもこの場で奴を倒さなければならない。

見る限り、確かにウイングドラモンの攻撃が当たる頻度は落ちているが、

それでもまだウイングドラモンの方がずっと早い上、

既にキメラモンにかなりのダメージを与えている。そろそろ終わりも近いだろう。

 

僕がそんな事を考えていると、ウイングドラモンの渾身の一撃がキメラモンの腹部に命中し、キメラモンがその場にうずくまった。今までの腹部へのダメージがここに来て限界を超えたのだろう。

 

――――どう考えても今がチャンスだ!

 

 

「ウイングドラモン!!!」

 

 

 僕は今日一番の大声でウイングドラモンの名前を叫ぶ。

ウイングドラモンはその声を耳にすると、それに答えるように大空に大きく飛翔した。

そして、上空まで飛び上がると、そのままキメラモンに向かって最大速力で加速しながら急落下した。

 

 

「これで最後だ!『エクスプロードソニックランス!!』」

 

 

 ウイングドラモンの最高の技がキメラモンに迫る。

防御も出来ない状態の今のキメラモンに命中すればきっと倒せるだろ。

 

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 僕とウイングドラモンの心からの声が辺りに響き渡る。

未だにキメラモンは起き上がって来ない。

――――勝った!

僕とウイングドラモンがそう確信したその時だった。

 

 

―――――突然僕達の優勢は終わりを告げる事になった。

 

 

「――――あ、れ?」

 

 

 突如ウイングドラモンの体が光に包まれ始めた。

突然の光景にウイングドラモンは声を上げ、それを見ていた僕も目を見開く。

光に包まれると同時にウイングドラモンの音速とも呼べる落下スピードは

明らかに落ちていき、最後にはただ落下しているだけのスピードになった時、

ウイングドラモンを包んで居た光が晴れ、そのままキメラモンの頭上に命中した。

 

 攻撃が命中したキメラモンには全くダメージがある様子が見えない。

だがそれも当然だった。何故ならキメラモンの頭上に落ちたのはウイングドラモンではなく……チビモンの姿だったのだから。

 

 その瞬間、僕はそうなってしまった理由を悟り、その場に屈伏し、絶望した。

――――初進化の戦闘で、僕達は時間をかけ過ぎたのだ。

 

 

 

 




主人公の心の無謀な勇気や……の所で
色々突っ込みたい気持ちになった人が沢山いるかも知れません。
……一応これでもかなり時間をかけて考えた結果がこうなりました。


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019 ピンチ

 ウイングドラモンがチビモンに退化し、

完全に勝機が無くなった僕達の末路は無様なモノだった。

 

 キメラモンはチビモンが退化して弱体化した姿を見て勝利を確信したのだろう。

近づくようなことはせずに、必殺技を次々に僕達に放ってきた。

――――頑張ればギリギリ回避出来るような攻撃を(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ……遊ばれていると分かっているが、もう僕達にはそれに対抗する手段は無い。

結果、僕はチビモンを抱えながらキメラモンの攻撃を回避し続けるしかなかった。

 

 

「……っ!」

 

 

 再び自分達に向けて放たれた攻撃を回避しようと駆けだした時、

砂に足を取られその場に顔面から倒れ込んだ。

 

 

「アマキ!」

 

 

 僕がチビモンを抱えながら回避行動を行うようになってから何度目か分からない

チビモンの悲鳴を受け取りながら僕は、右手を軸に左手で体を起こし、

急いでその場から離れる。

その結果なんとかキメラモンの攻撃をギリギリ回避する事に成功するが、その余波の衝撃が僕達を襲った。

 

 僕とチビモンは痛みで声を上げながら数メートル程吹き飛ばされる。

既に疲れ切っている僕達はまともに受け身を取る事も出来ずにその場所に叩きつけられた。

……足場が砂じゃなかったらとっくに立てなくなっていた。

僕は倒れ込んだ状態のまま、

吹き飛んだ際に放してしまったチビモンを再び抱きかかえると、

十数メートル先の木々が多く立ち並ぶ森林のエリアに視線を向ける。

 

 ……あの場所に辿り着く事が出来たら逃げ切れる可能性はある。

だがキメラモンもそれが分かっているのか、

僕達が森林のエリアに向かって走り出した際は、

森林のエリアと逆方向に回避行動をしなければ確実に当たる攻撃を何度も仕掛けてきた。

その攻撃の度僕達は森林と逆方向に回避行動を取ったが、

毎回ギリギリにしか避けれないので、

攻撃の余波までは避ける事が出来ず森林と逆方向に吹き飛ばされ続けた。

そのせいで既に体が限界近い上に、

森林に逃げ込む事だけは絶対に阻止しようとするキメラモンの用心深さから、

僕達が向こうに逃げ込むことができる可能性は0と言っても過言ではないだろう。

 

 ……せめてチビモンだけは。

そんな事を考えるが、それすらも今の状況では叶わない。

僕は既に折れているであろう右腕を軸に体を起こそうとするが、

体重の掛け方を間違えたのか、顔を歪めるほどの痛みが右腕に走り、立てずにいた。

 

 

「アマキィ!」

 

 

 再びチビモンの必死の悲鳴が僕の頭に響く。

……もしも自分一人だけだったらとっくに僕は諦めていたかもしれない。

僕はその声で自分を奮い立たせながら再び立ち上がろうとした。

だがそれよりも早く、僕達の体は何かに掴まれ宙に浮いた。

 

 

「キ、メラモン……!」

 

 

 いつの間にか接近して来ていたキメラモンが二本の腕でそれぞれ僕達を掴みあげたのだ。

……もう僕達との遊びに飽きて、止めを刺しに来たんだろう。

そしてその止めが、必殺技で跡形も無く消し去るのではなく、

自分の腕の中で握りつぶす事だとは……随分と趣味が悪いな。

 

 僕の表情を見て、僕のそんな考えを読んだのか、

キメラモンはそれは褒め言葉だと言わんばかりに目を僅かにニヤ付かせると、

僕達を掴む腕に、僕達が苦悶の声を上げざるをえない程の力を込めた。

 

 ミシミシと締め付けられる痛みに僕とチビモンを苦悶の声を上げる。

もう僕達にはこの攻撃から逃れる術は無い。

――――詰んだ。

 

 痛みのせいで一周回って思考がクリアになった僕は、

勝てたはずの試合を、僕の考えが至らなかったせいでこんな結末に巻き込んでしまった、

チビモンに心の中で謝罪する。

そして、もしもの為の遺言を光子郎達に残さなかったことを後悔した。

……こんな事なら光子郎達に―――――

 

 悔しさと後悔が頭の中を支配し、完全に生きる事を諦め空を見上げた時だった。

太陽を背に大きな鳥の様な何かの姿が目に入った。

 

 

『メテオウイング!!』

 

 

 太陽を背にこちらに下降して来た炎を身に纏った何か――バードラモンは、

キメラモンの足元に向かって炎を纏った羽をいくつも飛ばしてきた。

 

 突然の攻撃にキメラモンはまともにその攻撃を受けると、

驚きのせいか、僕等を掴んでいた手の力を緩めた。

その隙に僕とチビモンは、最後の力を振り絞り、何とかそこから脱出する事に成功する。

 

 そんな僕達をキメラモンは気に留める事も無く、

最後の止めを邪魔したバードラモンに向けて怒りの咆哮を放っていた。

そんな怒りの咆哮に、僕とチビモンは一瞬体を硬直させたが、

バードラモンはそんな咆哮を無視するかのように、地面すれすれまで降りてくると、

羽を何度も大きく羽ばたかせた。

 

 すると足元に無限と言えるほど存在する砂がその風によって巻き上がり、

目を開けていられない程の砂煙となりこの場を包み込んだ。

 

 あまりの砂煙にキメラモンは勿論、僕とチビモンも目を開ける事すら出来ず、

逃げ出せずにいた。

……せっかくのチャンスなのにこのままじゃ。

 

 

「こっちだ!」

 

 

 まともに目を開ける事が出来ないまま、森林の方だろうと思われる方向に一歩一歩進んでいる時だった。何者かに声を掛けられながら腕を掴まれた。

 この声は……ヤマトの声だ。

 

 

 僕は全身を巡る痛みに耐えながら、腕を引くヤマトに必死に付いて行った。

……何故だか分からないが、ヤマトはこの砂煙の中、目を開ける事が出来ている。

その事に疑問を覚えながらも付いて行くと、巻き上がった砂煙から抜け出す事が出来た。

 

 

「ヤマト早く!」

 

 

 森林の方からこちらに向かって必死に手を振るガブモンの姿にヤマトは一言返事を返すと、

僕を掴んだ腕を離してその場にしゃがみ、背中に乗るように言ってきた。

そんな迷惑はかけられないと一瞬返しそうになったが、

この状況ではその言葉の方が迷惑だと判断し、畏れ多いながらもヤマトに背負って貰った。

 

 僕を背負ったヤマトは、人ひとり背負っているとは思えない程の速さで走り出すと、

ガブモンと共に森林の奥に向かって走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……! ヤマト達が来たよ!」

 

 

 十分程僕を背負ったままヤマト達が走り続けていると、突然前方の方から声が聞こえて来た。

ヤマトはその声に驚くような態度は見せず、その声の方に走っていく。

……どうやらここが集合地点の様だ。

 

 ヤマトに背負われながらそんな事を考えていと、

森林の中でも少しだけ開けた場所に着いた。

 

 僕を背負ったまま走り続け、汗だくになったヤマトを迎えたのは、

先程バードラモンとなって僕達を助けてくれたピヨモンと、そのパートナーの空。

そして何故かアグモンだった。

 

 空達の心配の言葉にヤマトは一言で返すと、

僕とチビモンを大きな木にもたれかけるようにゆっくり下ろしてくれた。

ボロボロの僕達の姿を見て空は心から心配しているような表情を向けて近寄って来ようとしていたが、ヤマトがそれを制した。

……何よりも先に僕に聞きたい事があるのだろう。

取りあえず僕はゆっくりと下ろしてくれたヤマトにお礼を言った。

 

 

「ありがとうございます」

 

「疲れている所悪いがお前に聞かなければならない事がある。

俺達はお前の言う通り、要塞のエネルギー部を破壊した。

……それなのに何故キメラモンは消えていない?」

 

 

 厳しい目つきで僕にそう尋ねたヤマトの目は嘘は許さないといった感情が含まれていた。

僕はその目に嘘は付けないと判断し、正直に状況を話す事にした。

 

 

「……すいません。

要塞のエネルギー部を破壊すればキメラモンが停止すると言いましたが、あれは嘘です」

 

「…………光子郎の言った通りだな」

 

「……泉さんは気が付いていたという事ですか?」

 

「ああ。そもそも俺達は、

要塞からの供給を止めればキメラモンも止まるなんて美味い話、正直疑っていた。

そこで光子郎がキメラモンのデータを出来る限り集めた結果、

少なくとも今のキメラモンは他の場所からエネルギーを受け取ってなく、

純粋に一体のデジモンとして存在しているという事がわかった」

 

「……完全にバレていたという事ですか」

 

「そういう事。

だから私達は要塞のエネルギー部を破壊した後、

要塞自体の破壊は皆に任せてこっちに来たの。

……私達なら、もしもキメラモンがまだ居て、逃げないと行けなくなっても

逃げ切れるから」

 

「太一も来たがってたんだが、人数が増えれば増える程、

そいつらを乗せるガルルモンや

バードラモンに負担がかかってスピードが落ちるから置いて来た」

 

「ボクだけ来た理由は、この辺りの地形に一番詳しいのがボクだからその案内役に」

 

「成る程……」

 

 

 ヤマトや空、アグモンの話からここに来た理由を理解した僕は、

心配でここに来てくれた彼等に感謝の気持ちでいっぱいになったが、同時に

彼等を危険な目に合わせてしまう事になった事に罪悪感に飲まれそうになった

 

 

「俺達がここに来た理由は話した。次はお前の番だ。

どうして要塞のエネルギー部を破壊すればキメラモンも停止するなんて嘘を付いた?」

 

 

 再び厳しい目つきで僕を睨むヤマト。

 

 

「確かに要塞は放置しておいたら危険なモノだったのかもしれない。

だが正直俺はそんなモノよりもキメラモンの方がずっと危険だと思っている。

……お前もそう考えてたからこそ、俺達を要塞に向かわせ、自分はキメラモンと戦う事にしたんじゃないのか?」

 

「…………」

 

「……じゃあ、質問を変えてやる。

どうしてお前達は暗黒の海へ逃げなかったんだ? 

そのD3なら暗黒の海のゲートを開く事が出来るんだろ?」

 

「…………確かにこのD3は暗黒の海へのゲートを開く事が出来ます。

ですが、それを開くのにはかなり時間がかかってしまうんです」

 

「つまりキメラモンの前ではそんな暇は無かったって訳ね。

……なら守谷君はどうして初めから逃げられない相手を足止めするなんて私達に言ったの?

守谷君の作戦通り、私達が要塞を破壊する事に成功しても、

キメラモンが消えなくて、逃げられない相手だってことはわかってたのよね?

それなのにどうして……」

 

「…………」

 

 

 ヤマト達全員が僕を疑惑の表情で見つめていた。

……当然だろう。ヤマト達からしてみたら僕の行動の意味なんて全く理解出来ない筈だ。

……正直、僕自身もこうなるとは思っていなかったのだから、

余計に話がややこしくなっている。

さてどう説明すべきか……

全身を巡る痛みに耐えながらそんな事を考えていると、突然僕の頭の上に乗っているチビモンが、ヤマト達の前へ飛び出した。

 

 

 

「アマキは悪くないよ! 全部オレが悪いんだ!」

 

「チビモン!」

 

 

 僕が黙って話そうとしなかった話をしようとしていると察した僕は

チビモンに止める様に言ったが、チビモンはそれを無視して話し出した。

 

 

「オレが完全体の進化を維持さえ出来ていたらキメラモンに勝ててたんだ!

だからアマキは悪くない!」

 

「完全体に進化、だと?」

 

 

 ヤマト達が驚愕の表情で僕を見て来た。

……どうやらこの場でこの事を誤魔化す事は不可能の様だ。

 

 

「……チビモンは悪くないよ。

僕が完全体への進化がどれ程の負担かを考えていなかったのが原因だ。

少なくとも一度は事前に進化しておくべきだった」

 

「っていう事は本当に……」

 

 

 空の呟きに僕は、はいと返した。

 

 

「……今回の作戦の本当の内容は、石田さん達に要塞を破壊して貰い、

その間にダークタワーの無い場所、つまりこの場所に誘い込んだキメラモンを

僕がチビモンを完全体に進化させて倒す事だったんですよ」

 

「…………その話が本当なら、タグと紋章を見せてみろ」

 

「すいませんが、それは出来ません。

何故なら僕はタグと紋章を持っていませんから」

 

「それならどうして完全体に進化出来るの?

完全体に進化するには紋章とタグが必要筈よ?」

 

「……逆に聞きますが、

本当に紋章やタグが無ければデジモンは完全体に進化出来ないんですか?

武之内さん達は、それが無いと絶対に進化出来ないと言い切れるんですか?」

 

「それは…………」

 

 

 僕の言葉に空は言葉を返せなかった。

……当然だろう。彼等にとって完全体の進化とは紋章とタグ、

またはそれと同類のモノがあって初めて成立するモノという考えになっている。

……そう思う理由は簡単だ。彼等がそうだったから。

 

 実際、原作でヤマト達は最後の戦いで紋章とタグを敵に破壊された際、

完全体以上に進化出来なくなっていた。

だがその後、勇気、友情、愛情……といった8人の心を集めることで、

それぞれの心に新たな紋章を生み出したヤマト達はその力によって再び完全体以上に進化出来るようになった。

 

 ……後半の考えはあくまで僕の推測だったのだが、ヤマト達の様子を見る限り間違いではない様だ。ヤマト達が紋章無しに完全体以上に進化したことが無いという事が。

 

 だがそれも無理はないだろう。

僕が彼等と違ってそんな固定概念が無い理由が、

転生者と言うあり得ない第三者の目線で彼等の冒険を目にしていた上、

様々なデジモン作品の設定を知っているからこそ持ち合わせているモノなのだから。

普通に冒険していた彼女達には絶対に持ち合わせていない考えだろう。

 

 ……それに、僕ですら始めの頃は

多分完全体に進化出来るであろうという認識だったのだ。

 

 

「……なら俺達も紋章やタグ無しに進化出来る可能性が有るのか?」

 

 

 ヤマトが真剣な表情で問う。

……表情から見るに、

少なくとも僕が嘘を言っていないとは思ってくれている様だ。

まあよくて半信半疑といった所だろう。

 

 

「……少なくとも、半信半疑の状態じゃ100%出来ないと思います。

石田さん自身、まだ僕の話を信じ切れていないでしょうから」

 

「……お前の話が嘘じゃないとは思っているが、

それでも俺達にとっては完全体への進化は紋章とタグがそろって初めて出来るという

認識なんだ。悪いがそう簡単にそれを覆せるものじゃない」

 

「まあそうですよね」

 

 

取り敢えずヤマト達が僕の話を信じてくれているのはありがたかったが、

残念ながらそれはこの状況を覆す要因とはならない。

 

 ……暗黒の海へのゲートを開こうにも、キメラモンの体には暗黒の存在のデビモンのデータが使用されている。下手をすればゲートを開こうとした時点で

キメラモンに居場所がばれてしまう可能性が有る為、それは出来ない。

 

 ……正直状況はかなり悪かった。

キメラモンが僕等を探すのを諦めて、別の場所に行ってくれるのなら全て解決なのだが……きっとそれはないだろう。

 



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020 残された策

 投稿がかなり遅れてしまって本当に申し訳ございません。
こんなに遅くなってしまった理由は、モチベーションが落ちた訳でも、
書く時間が無かったわけでもありません。
純粋に今回の話をまとめるのに苦労しました。

何度書い読み直しても長い上に、
何の面白味も無い話になってしまって何度も書き直しました。
その成果もあって長さだけは何とか短くすることが出来ました。



 突如そう遠くない場所から大きな爆発音が聞こえて来た。

……どうやらキメラモンが上空から僕達を探すのにしびれを切らし、

僕達が隠れているであろう森自体を破壊し始めたようだ。

この森がいくら広いと言っても、キメラモンが必殺技を威力では無く、範囲力に力を入れて、

放ち続ければ、あり得ない速度でこの森から隠れる場所は無くなってしまうだろう。

……いや、そうなる前にここに留まって居たら、先に僕達が見つかってしまう。

もしくは、その攻撃で全滅してしまうだろう。

 

 

「……とにかく今はキメラモンからどう逃げるかを考えるべきだ」

 

 

 次々と聞こえてくるキメラモンの攻撃による爆発音からこのままここに隠れるのは危険だと

判断したヤマトは、そう提案した。

そんなヤマトの言葉に空達は頷き、どう逃げるかを話し合い始めた。

闇雲にこの場から逃げ出すのは危険だと判断したのだろう。

僕自身はその判断は正しいと思った。

……普通に考えてもでない解決策を、

走りながら考え付く筈が無いのだから。

ヤマト達は真剣にどうやったらここから全員が逃げ出せるかを考えていた

 

 ……だが僕からすれば……いや、

もしかするとヤマト達も心の何処かでそう感じているかもしれないが、

正直全員がキメラモンから逃げ出せる可能性は0に近い。

……いや、ハッキリ言って0と言ってもいいだろう。

それ程までにキメラモンの破壊スピードが速いのだ。

 

 ……ヤマト達がこんなピンチになったのは全部僕のせいだ。

僕が完全体に進化するという事がどういう事かをしっかりと理解して対策していれば、

ヤマト達をこんな危険な目に合わせる事は無かった。

 

 

「……りや君……守谷君」

 

 

 ふと空に話しかけられている事に気が付いた。

……どうやら僕は話しかけられているのに気が付かない程思考に没頭していたらしい。

そんな僕に対し、空が心配そうに具合が悪いのかと尋ねてきた。

そんな空に僕は大丈夫ですと一言返し、僕に話しかけてきた理由を尋ねるべく言葉を返した。

 

 

「それで……なんでしょうか?」

 

「あの……守谷君のD3で暗黒の海へのゲートを開いて、そこから暗黒の海へ逃げ込むって

いう作戦を思いついたんだけどどうかしら」

 

 

 今ならゲートを開く時間もあるしと空は付け足して僕にそう提案して来た。

……僕的に言わせて貰えば、暗黒の海へ開こうとした時点でアウトなのだが、

空達の知っているだろう情報ではそんな事を知る筈が無い。

僕はそれを実行しようとしなかった理由を説明することにした。

 

 

「……確かにこのD3には暗黒の海へのゲートを開く力があります。

ですが暗黒の海へのゲートを開こうとする事は、

すなわちその場所に暗黒のエネルギーを発生させるという事と同意義です。

そしてそんな暗黒のエネルギーをこんな何もない場所で作ろうとしたら、

直ぐにキメラモンに気が付かれ、ゲートが完成する前にこの場所に来る事になるでしょう。

キメラモンにはデビモンという暗黒のデジモンのデータが使用されてますしね」

 

 

 そんな僕の返答に空は力なく返事を返すと、再びヤマト達と話し合い始めた。

……正直このままヤマト達が話し合ってもいい作戦は出ないだろう。

何故なら現状は詰みと言える状況に近いのだから。

誰の犠牲も出さずにこの場から全員が逃げ出せる作戦などきっと存在しない。

逃げ切るのなら……誰かが囮になる必要があった。

 

――――僕が囮になります。

 

 そうヤマト達に話しかけようとしたが踏みとどまった。

囮になるのが嫌なわけでは無い。むしろ囮になりたいと思っている。

何故なら、今の様なピンチな状況になったのは全て僕に原因があるからだ。

自分の失敗の責任を取るのが筋と言うモノだろう。

だがそれをヤマト達に言っても聞き受けてくれないだろうと思った。

……二人の紋章は『友情』と『愛情』。

どちらも他者を大事にするといった意味を持つ紋章だ。

そんな紋章を持つ人間が、年下の僕の囮になるという意見を聞き受けてくれるだろうか?

……きっと聞き受けてくれないだろう。

こんな事を思うのは正直畏れ多いが……きっとヤマトと空は僕の事を

少なからず仲間と思っていてくれている気がしているからだ。

……僕が転生者と言う、存在すべきではない人間だとも知らずに。

……だがそうだとしても僕は彼等を納得させなければならない。

 

 

「皆さん、僕の話を聞いてもらってもいいですか?」

 

 

 僕は顔を上げ、全員の視線を集めるべく言葉を発した。

ヤマト達は突然話し出した僕に少し驚いた表情を見せたが、

すぐさま先程までの真剣な表情に戻してコクリと頷いた。

 

 

「僕のせいで申し訳ないんですが、現状はかなり悪いです。

どれくらい悪いかと言うと……正直に言って、

誰かが囮にならない限り逃げきれないだろうというくらい悪いです」

 

 

 僕の嘘偽りない言葉にヤマト達は僅かに表情を歪ませたが、

僕の言葉を否定する事は無かった。

……やはりヤマト達もそう感じていたのだろう。

 

 

「……なので僕を「――――お前を囮になんてさせない」」

 

 

 僕が言葉を言い切る前にヤマトが言葉を重ねてきた。

……やはり聞き受けてくれないか。

 

 

「お前は俺達の中で唯一自由に完全体に進化させる事が出来る選ばれし子供だ。

言わば俺達にとっての希望だ。

そんなお前を囮になんて出来る筈が無いだろう。

……どうしても囮が必要ってなら俺が引き受ける」

 

「ヤマト!」

 

 

 ヤマトの突然の宣言に空は驚愕の声を上げ、必死にヤマトを止めようとする。

だがヤマトの、それならどう現状を切り抜けるかと言う質問に空は答えられず俯いた。

……このままじゃ本当にヤマトが囮役になってしまう。

 

「……石田さん。その必要は無いです。囮は僕がやります」

 

「……お前、聞いてなかったのか? お前は俺達の希望「――――時間が無いので簡潔に説明します」」

 

 

 今度は僕がヤマトの言葉を遮るように言葉を重ねた。

 

 

「……このデジタルワールドには四聖獣という4体のデジモンが存在しています。

そしてその内の一体のチンロンモンと言うデジモンが

この世界を安定させるべく力を使っています。

……今はダークタワーによって力を封じられていますが、

D3を使えばその封印を解く事が出来ます。

石田さん達はここを脱出したら、そのチンロンモンと言うデジモンに会ってください。

そうすれば一時的にですが、

完全体……究極体に進化出来る力を借りる事が出来る筈です」

 

 

 突然の話にヤマト達は驚愕した表情を僕に見せたが、

それを無視して僕はポケットから手帳を取り出し、チンロンモンが封印されている

ホーリーストーンの場所を書き写したページを切り取りヤマトに差し出す。

 

 

 

「……このいずれかのホーリーストーンにD3の光を当てれば、チンロンモンの封印は解ける筈です。

ですが、恐らく封印が解けてから直ぐはチンロンモンの力を借りれない可能性が

高いので、暫くはキメラモンに関わらないようにしてください」

 

「……直ぐには力を借りれないってことは、この場所を光子郎達にメールで知らせた所で間に合わないか」

 

「はい。

……なので石田さん達はそのメモの切れ端を持ってここから逃げてください。

まともに動けない僕を置いて行けば逃げ切れるはずです。

それに加え、このD3で暗黒の海のゲートを開こうとしてキメラモンをおびき寄せればほぼ逃げ切れるでしょう」

 

 

 ヤマト達が僕を囮にここから逃げる。それがベストな選択だ。

……この状況を招いたのは僕のせいだ。自分の失敗は自分で償うべきだろう。

それにヤマト達に話した通り、僕にはこの暗黒の海へのゲートを開けるD3がある。

キメラモンへの囮にはうってつけなのだ。

 

 …………正直に言えば、現状を打破する手が無いわけでは無い。

この作戦が成功すれば、きっと全員で生きてこの場所を出る事が出来るだろう。

だがこの作戦は僕の机上の空論によって成り立っているそもそも成功するかも分からない作戦だ。

失敗すれば勿論全滅だ。……僕自身成功するかもわからない作戦は実行する気にはなれなかった。

 

 ヤマトは僕の提案に目を瞑って考えた。

そして目を開けると同時に僕が渡したメモを握りつぶした。

 

 

「――――却下だ。

お前を置いておめおめと俺達だけで逃げ出すことなんて出来ない」

 

「……どうして分かってくれないんですか。

どう考えてもそれが最善の選択なのに」

 

「お前にとってそれは最善なのかもしれないが、

俺にとっては仲間を囮に逃げるなんて選択は最善なんかじゃない。

そんな選択をしてしまったら……俺は二度と自分の紋章に顔向け出来なくなる」

 

「私も同じ考えよ。

後輩を囮に逃げるなんて、出来る筈が無いわ。

それにまだ守谷君には助けて貰った借りを返せてないしね」

 

 

 意志は変わらない。

そう宣言するような表情をする二人に僕は思わず顔を伏せた。

……もう二人が僕を囮に逃げてくれる説得が思いつかない。

それにこれ以上ここで長々と話していたらキメラモンがやって来てしまう。

どうすれば…………

 

 

「それにお前……いや、守谷。

―――――本当はまだ手が残ってるだろ?」

 

 

 突然のヤマトの言葉に僕はギョッと目を見開いた。

 

 

「無表情な奴かと思っていたが、お前、意外と顔に出るタイプみたいだな」

 

 

 僕がまだ話していない作戦があると確信しているのか、

ヤマトは僅かに鼻で笑いながら僕にそう言い放った。

……誤魔化しは効かないようだ。

 

 

「驚きました。隠しきれていたと思っていたんですけどね。

……確かに僕にはまだ話していない作戦が一つだけありあります。

これは成功すれば全員が生きて帰る事が出来る可能性が高いですが、

逆に失敗してしまったら全滅は免れません。

……それにこれは僕の机上の空論によって成り立っている作戦なんです。

絶対に出来るなんて確証は無いんですよ」

 

「机上の空論、か。……成る程、お前が話さなかった訳だ」

 

 

 僕が確証の無い事を話したがらない事までも見抜かれているのか、

ヤマトはそう返して、僕に改めて視線を向けた。

 

 

「机上の空論でもいい。話せ。

間違いなくこのまま無策に戦いを挑むよりはマシだろ」

 

「……話さなかったらそんな無謀な戦いを挑むつもりなんですか?」

 

「全員で逃げて、逃げ切れなかったらな」

 

「守谷君の作戦はヤマトのこんな作戦よりも勝機は薄いの?」

 

 

 そんな空の微笑みながらの言葉に僕は大きな溜息を付いた。

……これ以上は本当に時間が無い。

それに話さなかったら本当にヤマト達は僕を連れて全員でここから脱出しようとし、

キメラモンに追いつかれてしまったら戦いを挑むだろう。

ガルルモンとバードラモンの二体の成熟期デジモンで。

……それなら僕の机上の空論に掛けた方がマシかも知れないな。

 

 

「……分かりました。話します。

僕の考えた作戦は、簡潔に言えば、キメラモン相手にどう逃げるかと言う作戦ではありません。

――――キメラモンを正面から倒す作戦です」

 



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021 奇跡

 遅くなって本当にすいません。



sideヤマト

 

 

 作戦を話し終えた俺とガブモンは、

森林を破壊し尽くそうと攻撃を放ち続けているキメラモンの近くまで来ていた。

 

 

「……やれるかガブモン?」

 

 

 前回戦った時よりもずっと強く感じるキメラモンの圧倒的な攻撃に

僅かだが足がすくんだ俺は、自分がまだ心の準備が済んでいないというのにガブモンにそう質問した。

 

 守谷と話し合った結果、俺とガブモンはキメラモンの元に行き、守谷達の準備が終わるまでの時間稼ぎをすることになった。

だが、どれ位時間を稼げばいいのかは分からない。

……何故なら、時間がどれくらいかかるかを守谷自身も分かっていないからだ。

 だがそれでも俺達はアイツを信じてキメラモンを出来る限り引き付けなければならない。

 

 そんな足がすくんだ俺の言葉にガブモンは力強く頷くとキメラモンの方に力強い視線を向けていた。

……どうやらガブモンは準備万端のようだ。

 

 意外とビビりな癖にこういう時に誰よりも心強い相棒に勇気を貰った俺は力強くデジヴァイスを握った。

そしてガブモンをガルルモンに進化させると、その背中に乗った。

 

 

「―――行くぞ、ガルルモン!」

 

 

 俺の声にガルルモンは返事では無く、キメラモンに必殺技を放つことで返した。

ガルルモンの必殺技は、他の方向を見ていたキメラモンに見事に命中した。

……が、全く効いている様子では無かった。

 

 効かないだろうとは分かっていても、

実際その光景を見せられた俺達は改めてキメラモンとの圧倒的な差を感じたが、

その考えを振り払い、キメラモンが今まで破壊して来た荒地に走り出した。

 

 荒地に出た事で俺達の居場所に気が付いたキメラモンは、咆哮を上げながら

俺達を追って来た。

 

 ……ここまでは作戦通りだ。

取り敢えずは思惑通りに進んでいる事に安堵した俺達だったが、ここで一つ想定外の事が発覚した。

――――キメラモンのスピードが速すぎる。

 

 確かに守谷はキメラモンの速さは俺達が前に戦った時よりも

ずっと早くなっていると言っていたが、まさかここまでとは……

真っ直ぐ直進でガルルモンが走っているのにもかかわらず、

キメラモンとの差は開くどころか徐々に詰められていた。

……くそ、こんなにも速いのならもっとキメラモンと距離をとってから攻撃を仕掛けるべきだった。

速さに定評の無いエアドラモンとエンジェモンの翼を使っているからと

何処かで油断してしまっていたようだ。

 

……兎に角、少しでも時間を稼がなければ。

 

 キメラモンが追いかけながら放ちだした攻撃を間一髪で躱し続けながら走り続けた。

 

 そして守谷達とブイモンが戦っていた砂漠地帯が見え始めた辺りで

キメラモンと俺達の距離は直ぐ近くまで迫っていた。

キメラモンは初めこそは必殺技を放ちながら俺達を追って来ていたが、

このまま何もせずに追いかけても追いつけると判断したのか

攻撃を放たずにただ俺達を追って来ていた。

そして遂に俺達とキメラモンの距離が10m程を切り、

キメラモンが更にスピードを上げ、俺達を捕えようとしたその時、

突如空からいくつもの炎がキメラモンに降り注いだ。

――――バードラモンの攻撃だ。

 

 

 俺達に気を取られ完全に不意を突かれたキメラモンにバードラモンの攻撃がすべて命中する。

……が、キメラモンはその場に止まり、鬱陶しがるような素振りを見せながら

攻撃が飛んできた方に視線を向けた。

……ダメージは無いようだ。

 

 

「ヤマト……」

 

 

「……やはり俺達じゃキメラモンを倒す事は出来そうにないな」

 

 

 ダメージを受けている今の状態ならもしかすればと考えていたが、

先程から不意を突き攻撃を仕掛けてもキメラモンには効果が無かった事から、

現状の俺達ではそれは不可能だと判断出来た。

……やはりこの状況でキメラモンを倒せるかはアイツに全て掛かっているという訳か。

 

 

「……だけど本当に成功するのかな?」

 

 

 

 ガルルモンの呟きに俺は返す事が出来なかった。

確かに俺達は、アイツの言っていた作戦に全てを賭け、こうして戦ってるのだが、

どうしてもその作戦が成功するとは断言できなかった。

多分俺達は、それが成功するとは心からは信じ切れていないのだろう。

……アイツ自身も成功するかは分からないと、

そもそも出来ない事なのかもしれないと言っていた。

 

 ――――だが俺達は、全員で生きて帰る為にその作戦にかけた。

 

 

「……俺達は少しでも時間を稼ぐんだ。アイツ等を信じて」

 

 

 俺の言葉にガルルモンは深く頷くと、上空に居るバードラモンに攻撃を放ち始めた

キメラモンに必殺技を放った。

こっちにも敵は居るぞと言わんばかりに。

 

 そして俺達とバードラモンは互いにフォローしつつ、

勝ち目のない戦いを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ガルルモン!」

 

 

 俺とバードラモンから退化して幼年期になってしまったピョコモンと、

隠れていたのにバードラモンがやられた時に思わず飛び出してきてしまった空を

庇い必殺技を受けたガルルモンはそのまま吹き飛んだ。

 

 完全体の攻撃をまともに受けたガルルモンは進化を維持できずツノモンまで退化してしまった。

……限界だ。もうこれ以上俺達は戦えない。

そしてアイツ等もまだここには来ていない。

……どうやら俺達は十分に役目を果たせなかった様だ。

 

 キメラモンは俺達にもう抵抗する術が無いと理解したのか、大きな咆哮を上げた。

そして此方に向かって下降して来た。

 

 ……どうやらここまでの様だ。

目の前に死が迫っているせいか、これまでの思い出が走馬灯のように頭を巡った。

そしてキメラモンが下降のスピードを維持したまま俺達を踏みつぶそうと目前まで迫ってきた。

 

 ――――その瞬間、突如横からミサイルの様なモノが飛んできてキメラモンの左側部分に命中した。

これまでガルルモン達の攻撃を受けても

全くダメージを受けた素振りを見せなかったキメラモンだったが、

この攻撃には明らかにダメージを受けた素振りを見せ、苦悶の声を上げながら横方向に吹き飛んだ。

 

 

「ヤマト! あのミサイルは――――」

 

 

 キメラモンを吹き飛ばしたミサイルを見たのであろう空は、

信じられないといった表情を浮かべながらも嬉しそうに俺に話しかけてきた。

 

 

「分かってる!」

 

 

 あのミサイルには見覚えがあった。

……そう、そのミサイルはこれまで何度も見た事があるモノだった。

見間違う筈が無い。あれは俺達が知るあのミサイルだ。

 

 

 吹き飛んだキメラモンに目もくれず俺達はそのミサイルが飛んできた方向を見た。

そこにはあるデジモンの背中に乗り、

この信じられない作戦を計画し成功させた守谷と、その頭に乗ったチビモン。

――――そしてアグモンが完全体に進化した姿であるメタルグレイモンの姿があった。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらギリギリ間に合ったみたいだ……」

 

 

 アグモンを完全体に進化させる事に成功した僕は、

メタルグレイモンの背に乗ってここまで全速力で来たわけだが……

どうやら間一髪だったようだ。

 

 後数秒でも遅れていたらヤマト達が大変な事になっていただろう。

……本当に間に合ってよかった。

ヤマト達を助ける事が出来た事に安堵の息を付きながら、

僕は改めて作戦通りに話を進める事が出来た事を喜んだ。

 

 僕がヤマト達に話した作戦は……

――――『僕がアグモンを完全体に進化させてキメラモンを倒す』

という本当に賭けに近い作戦だった。

 

 話した直後は勿論ヤマト達に呆れられたし、

僕自身も出来るかどうかは賭けに近い作戦だった。

だってこの考えは、根拠が無いに等しいモノだったのだから。

 

 自分のパートナー以外のデジモンを進化させる事が出来ないという話は原作では登場していなかった。

…………そう、たったこれだけの根拠で僕は自分のパートナー以外のデジモンを

進化させる事が出来るかも知れないと考えていた。

……勿論この考えは無理があると僕自身思っていてずっと試す事すらしてこなかったが、

今回はそれ以外に全員で生きて帰る方法が思いつかなかったからやるしかなかった。

もし成功しなかったら、僕だけでは無くヤマト達まで死ぬことになっていただろう。

……成功して本当に良かった。

 

 成功したのは恐らく、

パートナー以外のデジモンを進化させる事が出来ないという固定概念を

僕が持っていなかったのと、進化させる対象がアグモンだったのが主な原因だろう。

……僕自身、もしブイモン以外のパートナーデジモンを進化させる事が出来るとしたら

進化出来そうなデジモンは、アグモンかゴマモンか……パルモン辺りだと考えていた。

この三体のパートナーデジモンは、状況によって色々割り切れるタイプ……だと思っている。

簡単に言えば、上の三体は

状況によっては僕をパートナーだと扱える性格をしているという事だ。

……他のパートナーデジモンはどんな状況でも少なくとも僕をパートナーと割り切る事は出来ないと思う。

ピヨモンは空以外をパートナーになんてしたくないだろうし、

ガブモンはヤマト以外とパートナーになるのは裏切りだと考えてしまう気がする。

他のパートナーデジモンもガブモンとピヨモンと似たような考えを持っているだろう。

……だからここにアグモンが居た事に僕は少なからず奇跡を感じていた。

 

 そして僕がヤマト達に時間を稼いで貰うようにお願いしたのは、

アグモンと少しでも心を通わせる為。

成熟期に進化ならともかく、完全体へ。それも紋章やタグ無しに行うというのなら

少なからず心を通わせる必要があると考えたからだ。

……実際アグモンと心が通ったと感じた瞬間にD3が光りだしたからこの考えは合っているのだろう。

 

 そんな事を考えていると――――突如目眩がした。

 

 

「アマキ!?」

 

「大丈夫だよ、大丈夫。ちょっと目眩がしただけさ」

 

 

 チビモンにそう返したがきっとこれは只の目眩では無いだろう。

この感じは……そう、僕がアグモンを完全体に進化させる事に成功した際に

突如襲った疲労感に良く似ていたのだ。

そしてその時は、それを感じたと同時にメタルグレイモンがグレイモンに退化してしまった。

その時はまたグレイモンをメタルグレイモンに進化させようとD3に力を込めても何の反応も無かった。

何度やっても駄目で、結局最後の足掻きにグレイモンに触れてみると再びメタルグレイモンに進化したのだ。

……だから邪魔になると分かっていながらもこうしてメタルグレイモンの背中に乗っているのだ。

こうやって密着していないと離れた瞬間に進化が解けるからね。

きっと完全体……いや、デジモンを進化させるには選ばれし子供の心のエネルギーみたいなものが

少なからず必要なのかもしれない。

事実今僕は、少しでも気を抜けば意識が飛びそうなくらいの疲労感に襲われていた。

 

 

「……メタルグレイモン、ごめん。

ギガデストロイヤーは出来る限り無駄撃ちしないでほしい。

今襲った疲労感から考えて、後数発撃ったら意識が保てなくなる可能性が高いんだ」

 

「……分かった」

 

 

 僕が意識を失う事が完全体への進化が解ける事だと瞬時に理解した

メタルグレイモンは、瞬時に飛び起きこちらの10数メートル前の上空まで

飛んできたキメラモンに視線を向けながらそう返した。

 

 そんな僕等に対してキメラモンは強敵が現れたのを喜ぶかのような歓喜の声を上げると、

そのまま真っ直ぐ突っ込んできた。

 

 

「――――キメラモンは絶対ここで倒さなければならない。

行くよ、メタルグレイモン!」

 

 

 僕はずっと握りしめていたヤマトから借りた太一のゴーグルを装着しながらそう叫んだ。

――――こうして僕とキメラモンとの最後になるだろう戦いの火蓋が切られた。




 本当は今回の話でキメラモン編を終わらそうと思っていましたが出来ませんでした。
ですが、次回で、キメラモン編を終わらせてみせます。




 前作を書いていた時から思っていたんですが、
やはり僕は主人公の仲間を上手く動かす事が苦手の様です。


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022 決着

 またもや投稿が遅れて申し訳ございません。


 咆哮を上げながらこちらに飛びかかってきたキメラモンを

メタルグレイモンは少し上空に飛ぶ事で回避すると、

隙だらけとなったキメラモンの背中に自らの尻尾を振り下ろした。

――――が、キメラモンはその攻撃が直接見えていないのにも関わらず、

二本あるデビモンの腕を曲げ、見えているかのようにその二本の手でメタルグレイモンの尻尾攻撃を防いだ。

そして今度は自分の番と言わんばかりにキメラモンはスカルグレイモンの腕をメタルグレイモンに突き出す。

その攻撃をメタルグレイモンはサイボーグ化した左腕で防御し、

カウンターを喰らわそうとするが――――ー

 

 

「……っ!」

 

 

 その場に留まる事が出来ずにメタルグレイモンは僅かに後方に吹き飛ばされた。

突然の衝撃に僕達もメタルグレイモンから振り落とされそうになったが……なんとか持ちこたえた。

 

 

「……凄い攻撃だ。攻撃を受けた左手がまだ少し震えてる」

 

 

 ピリピリと震える自分の左手を見ながらメタルグレイモンはそう呟くと、

キメラモンの方に改めて視線を向ける。

 

 

「ガードしてこれ程の衝撃。もしも直接受けたとしたら……」

 

「……多分スカルグレイモンの腕だったからこれ程の衝撃を出せたと思う。

だから次からはスカルグレイモンの腕の攻撃だけは最優先で避けるように動こう」

 

 

 先程チビモンがウイングドラモンの状態で戦った際に、

デビモンの腕、クワガーモンの腕で何度か攻撃されていたが、

それ程ダメージを負った様子では無かった。

つまり4本ある腕の内、

スカルグレイモンの腕以外による攻撃はそれ程大したものでは無いだろう。

なら僕達はスカルグレイモンの腕による攻撃に注意して行動すれば問題ない。

今の動きを見るからに、スカルグレイモンの腕による攻撃は余り早くないので、

警戒して動けば回避するのは難しくない。

……それにしても腕によってダメージが違うとは……

それぞれの腕を動かす筋肉までコピー元のデジモンに左右されるという事なのか?

 

 そんな僕の思考など全く気に留めずにキメラモンは再びこちらに突っ込んできた。

……不意打ちでギガデストロイヤーを当てたはずなのに微塵もそんな素振りをみせない。

 

 

 

「……ッ! やっぱり羽が生えてると言ってもこの姿での空中戦は苦手だ」

 

「……確かにメタルグレイモンは空中戦が得意とは言えないデジモンかも知れない。

だけど相手がキメラモンの場合は地上戦に持ち込むのは危険だ。

なんせあのガルルモンの足が使用されてるから地上での速さは相当なモノだろう。

それならまだエンジェモンとエアドラモンという特段空中戦に特化していない

デジモンの翼を使用しているこの空中戦の方が遥かにマシだよ」

 

 

 接近して来て何度もこちらにデビモンの腕を振るうキメラモンの攻撃をガードしながら

そんな愚痴を吐いたメタルグレイモンに僕はそう返す。

 確かに空中戦は分が悪い。だけど地上戦はもっと分が悪い。

なら僕達はまだ分が悪いで済む空中戦で戦うしかない。

 

 メタルグレイモンはキメラモンの攻撃を防ぎながら納得したような返事を返すと、

キメラモンがスカルグレイモンの腕を振るおうとした一瞬の隙に、

右腕で思いっきりキメラモンを殴りつけた。

スカルグレイモンの腕を振るおうと僅かに体重を後ろに傾けていたキメラモンは

その攻撃を踏ん張る事が出来ずに後ろに吹き飛んだ。

 ……あれ程のラッシュを受けていたというのに

一瞬の隙にキメラモンを吹き飛ばせるほどの力を込めれたとは……

どうやらメタルグレイモンは、ウイングドラモンに比べ、速さは劣るものの、頑丈さ、

力のコントロール力に関しては、遥か上をいっているようだ。

これなら多少キメラモンの攻撃をまともに受けても動きに支障は出ないだろう。

 

 ……それにしても、いくらメタルグレイモンがウイングドラモンに比べ、速さが劣るにしても、

隙が大きいスカルグレイモンの腕をこう何度も使うとは……

もしかするとキメラモンも、戦いを早く終わらそうと焦っているのかも知れないな。

 

 吹き飛んだキメラモンは、直ぐに体制を整えると、意地になって居るのか、再び接近して来た。

一息つく暇も無くメタルグレイモンは再びキメラモンの連続攻撃を必死に耐え、

隙が出た瞬間だけ攻撃を返す。

――――そんなやり取りが何度も何度も続く。

両手では数えきれないほどこのやり取りを繰り返したが、

流石のメタルグレイモンもダメージを無視できなくなったのか、

キメラモンを再び吹き飛ばした際、後ろに軽く飛び、初めてキメラモンから距離をとった。

 

 

「モリヤ! このままキメラモンの隙を付いてこうして攻撃するだけじゃこっちが先にやられる」

 

「分かってる。

……だけど今僕達が使える手札は、通常攻撃を除けば、

左手の爪による『スラッシュ系の攻撃』と、左手のアームを飛ばす『トライデントアーム』、

口から炎を放つ『オーヴァフレイム』、

そして現状の状態で、後…………一回しか打てないであろう『ギガデストロイヤー』しかない。

そしてその中でキメラモンに止めをさせるであろう技はギガデストロイヤーだけだ」

 

 

 だが、今の状態でギガデストロイヤーを放ったら。恐らくメタルグレイモンの進化は解けてしまうだろう。

 

……正直今でも気を抜けば眠ってしまいそうになるくらいの疲労感を感じているのだから。

だからギガデストロイヤーを外すわけにはいかない。耐えられるわけにはいかないのだ。

 

 そんな思考をしていると体勢を整えたキメラモンが再びこちらに向かって来ようと、

羽を大きく羽ばたかせた。

が、突如その大きな動作を辞め、その場に留まれる程度の羽根の動きに切り替えた。

 

 

「アマキ! もしかして――――ー」

 

「――――やっとダメージが出始めたみたいだね」

 

 

 チビモンに続くように僕も僅かに口元をニヤつかせた。

ウイングドラモンとの戦いでの傷、不意打ちでのギガデストロイヤー、

そしてここまでのメタルグレイモンのダメージが

ようやくキメラモンの動きに支障が出るくらいに露わになり始めた。

このペースなら、このまま今のペースを続ける事が出来たのなら

ギガデストロイヤーを当てずとも倒せるかもしれない。

……だがそれは無理な話だ。

ハッキリ言ってしまえば、このペースで戦いを続けても、

キメラモンでは無く先に僕達が倒れるだろうという確信が僕にはあった。

それなら――――ここで勝負を仕掛けるべきか。

 

 

「メタルグレイモン! キメラモンの周りを飛んで、かく乱するんだ!

そして―――――」

 

「―――――わかった」

 

 

 僕の作戦を聞いたメタルグレイモンは、

キメラモンから一定の距離を保ちながら、円を描くように飛び始めた。

キメラモンもそれを追おうと羽を羽ばたかせようとしたが、

思ったよりもダメージがあったのか、その場から動かずに必殺技を放つ戦法に変えて来た。

 

 

「メタルグレイモン――――!」

 

「分かってる!」

 

 

 メタルグレイモンは次々と自分に向かって来る必殺技を上下に移動しながら攻撃を躱していく。

何発も、何発も、何発も―――――。

 

 そして――――いままで一定のペースで放っていたキメラモンの必殺技の波が疲れのせいか、

一瞬止んだその時、メタルグレイモンは突如キメラモンに向かって真っすぐ飛んだ。

 

 突然の行動にキメラモンは驚愕したような表情を見せたが、

メタルグレイモンと自分との距離がかなり離れている事から、

このまま直進して来たら先に自分の攻撃が当たると本能で察知したのか、

避けるような動きを見せないまま、

今まで放っていた空気砲の様な必殺技とは明らかに違う必殺技

『ヒートバイパー』をメタルグレイモンに放った。

 

 

「――――!」

 

 

 真っ直ぐメタルグレイモンに向かって来るキメラモンの必殺技に、

メタルグレイモンは避けるような素振りを見せずに――――そのまま命中した。

 

 必殺技が命中したことで、辺りにモクモクと、ドス黒い煙が巻き上がる。

自身の必殺技がまともに命中したことでキメラモンが警戒を僅かに解いたその時、

黒煙の中からメタルグレイモンが先程までのスピードを落とさないまま飛び出た。

 

 ――――そう、僕達の目的は、初めからこうしてキメラモンの意表を突く事だった。

こちらの最大火力であるギガデストロイヤーをまともに放っても、避けられるか、

ガードされるかは目に見えている。

しかも、キメラモン自身、自分に止めを刺し得る攻撃が

あの時不意打ちで放ったギガデストロイヤーだけだと

本能で悟っていたのか、それを放たせないために、必要以上に接近し、

ギガデストロイヤーを放つ暇を与えない様に行動していた。

これ程警戒されていたら、防御されるどころか命中する事すら難しかった。

だからこそこうしてキメラモンの意表を突く必要があった。

……その為にメタルグレイモンにワザとキメラモンの攻撃を受けて貰ったが……

正直想像以上にダメージを受けてしまった。

ここで一度でも動きを止めてしまったらメタルグレイモンは動けなくなってしまうだろう。

――――だからここで決めるしかない!

 

 意表を突かれたキメラモンが、全速力でその場から離れようとしたが、それよりも早く、

ワイヤー状になっているメタルグレイモンの左手のアームがキメラモンに向かって飛び、

キメラモンを縛って行動を阻害した。

 

 ……いくらキメラモンの動きがメタルグレイモンよりずっと早いと言っても、

初見の上、疲れ切ったキメラモンになら当てられる。

 

 メタルグレイモンはキメラモンの方に全力で飛びながら、キメラモンを縛っている

左手のアームを縛った状態のまま戻し、

そのアームが戻る反動で更に自身のスピードを加速させる。

そしてキメラモンとの距離が10m程になった時、胸のハッチを開けた。

 

 

「――――!」

 

「この距離ならガードの上からでも十分なダメージを与えれるだろ?」

 

 

 覚悟を決めたような表情でメタルグレイモンはそう言い放つと、

僕とメタルグレイモンは、込められるだけの力を全て込め、

ハッチからミサイルを放った。

 

 

「「これで終わりだ!『ギガデストロイヤー!!』」」

 

 

 互いの距離が5m程しかない距離で放った必殺技は、

キメラモンが防御するよりも早く命中し、爆発した。

キメラモンはその攻撃に耐える事が出来ず、うめき声を上げながら消滅した。

 

 

「―――――ッッ!!」

 

 

 キメラモンに命中したミサイルが生み出した余波は、当然すぐ近くに居る僕達にも及ぶ。

僕とメタルグレイモン――――いやグレイモンは、

残ったエネルギーを全て防御に込め、その爆風に備えた。

が――――既に想いのエネルギーが殆ど残って居なかった上に、距離が距離なので、

その爆風に耐える事が出来ずに、その場から大きく吹き飛ばされ、僕は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後目を覚ますと、僕は再びヤマトの背中に背負われていた。

 

 

「目が覚めたのか」

 

 

 現状がどうなっているかを確認すべく、頭を左右に揺らしながら周りを見ていると、

僕が目を覚ましたのに気が付いたヤマトが声を掛けてきた。

 

 

「はい。……すいません。また背負わせる羽目になってしまって」

 

 

 僕の謝罪の言葉にヤマトは気にするなと一言返すと、

現状を把握していない僕の為に状況を説明してくれた。

 

 どうやら僕はキメラモンを至近距離でのギガデストロイヤーで倒した後、

その爆風で空中で気絶してしまったが、地面に激突する前にグレイモンが守ってくれたらしい。

その後、駆けつけたヤマト達が僕達を回収して――――今に至るようだ。

 

 

「そうだったんですか。コロモン、助けてくれてありがと――――ッ!」

 

 

 空に背負われているコロモンに僕は感謝の言葉を伝えたが、

言い終わると同時に鈍い痛みが全身を走った。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 僕の異変に気が付いたヤマトが立ち止まりそう声を掛けてくれた。

その行動に回りに居る空達も何事だと言わんばかりに集まって来た。

そんなヤマト達に僕は大丈夫だと返事を返そうとしたが、

正直あまり大丈夫だと言える状態では無かったので正直に話す事にした。

 

 

「キメラモンを倒した事を改めて実感したせいか、

それまで抑えてきた疲労と痛みが一気に襲い掛かって来てます。

……申し訳ないですが、このまま病院まで連れて行って貰っても構いませんか?」

 

「勿論そのつもりだ。

見た所、その右手の怪我も悪化してそうだしな。

――――というか、光子郎達に連絡して迎えに来て貰った方がいいな」

 

「確かにそうね。分かった、私がメールで頼んどくね」

 

 

 空がそう言ってディーターミナルを取り出し、太一達にメールを送ろうとしたので、

僕は慌てて止めた。

 

 

「待ってください!

……八神先輩達と合流する前に、皆さんにお願いがあります。聞いて貰えますか?」

 

「……言ってみろ」

 

「はい。

――――今回、僕がチビモンを……コロモンを完全体に進化させた事、

そして、チンロンモンと言うこの世界を守護するデジモンが居る事を

他の選ばれし子供達に黙ってて貰えないでしょうか」

 

 

 ヤマトに背負われながらも僕は、深々と頭を下げ、そうお願いした。

……出来るなら今日ヤマト達が見た光景は誰にも話さないで貰いたいのだ。

 

 

「どうして話してはいけないの?」

 

 

 僕のお願いにヤマトよりも早く反応を返したのは空だった。

空は心底疑問を浮かべたような表情で僕にそう尋ねてきた。

……疑問を浮かべるのは当然だろう。

だが僕はどうしても他の選ばれし子供達には知られたくなかった。

 

 

「理由は色々ありますが……一番の理由は、他の選ばれし子供達――――

4人の新たな選ばれし子供達の成長に悪影響が出るからです」

 

「悪影響?」

 

「はい。

…………実はこのD3には石田さん達がまだ知らない機能が一つ存在しています。

その名は『ジョグレス』。

D3を持つ者同士の心が一つになった時に初めて使用出来る機能で、

その二人のパートナーデジモンを合体させる事で上の形態へと進化させる事が出来る力です」

 

「デジモン同士の合体だと?」

 

 

 僕の説明にヤマト達は驚愕したような表情でそう返してきた。

……この世界ではディアボロモン戦でメタルガルルモン達が

オメガモンに進化しなかったので、ヤマト達はそんな進化がある事は知らないのだろう。

……というか、ジョグレス進化には少なくとも一度はホーリーリングのエネルギーが必要だから、

正確には今はジョグレス進化出来ない可能性が高いが……それは話す必要はないだろう。

 

 

「はい。

この力を使えば、例え紋章の力が無くとも、

成熟期二体で完全体に進化する事が可能になります」

 

「……それが本当なら、どうしてお前はそれを俺達に話さなかった?

お前達が紋章無しに完全体に進化出来る事を話さなかったのはさっきの説明からまだ理解出来る。

だが――――」

 

「……今話した所でジョグレス進化は出来ないと確信しているから、ですね。

ジョグレス進化は、合体と言ってもあくまでそれ自体は進化の様なモノ。

仮に心が通い合っても、ダークタワーがある場所では使用出来ません。

……というかそもそもジョグレスの元となる成熟期に進化出来ないですね。

それにD3を持つ選ばれし子供のパートナーデジモンの内の二体の

パタモン、テイルモンはともかく、成熟期に進化したことが無い

ホークモンとアルマジモンがいきなり完全体にジョグレス進化は出来ないでしょう」

 

「なら今日お前達がやったように、

ダークタワーを破壊してから、エンジェモンとテイルモンでジョグレス進化するというのは?」

 

「ジョグレス進化の条件は二人の心が通じ合う事ですが、

少なからず相性も存在してます。

……僕の推測からすると、選ばれし子供達自身を含め、

パタモンとアルマジモン、テイルモンとホークモンの組み合わせが、

ジョグレス進化出来る組み合わせと思われます」

 

 

 ……まあこれは僕の推測では無く、僕の知る原作で実際あった組み合わせだけどね。

この世界は僕の知る原作の世界では無いが、この関係は原作と同じだと思う。

 

 

「性別が同じ方が心も通わせやすいってことかしら?」

 

「それもありますが、一番の要因は性格ですね。

僕から見るに、D3を持つ4人を組み合わせるとしたらこの組み合わせがしっくりきました」

 

「……確かに俺もその組み合わせがしっくりくるな」

 

 

 ヤマトの呟きに空達も同意するように頷いた。

……どうやら4人の関係は原作と同じように良好のようだ。

 

 

「……話がズレましたが、以上の事から今回の事を黙って居て欲しいんです」

 

「……今日の事を話せば、タケルとヒカリちゃんは

パタモン達を完全体に進化させようと行動するようになる。

そうなれば、完全体に進化させた事が無い京ちゃんと伊織に

少なからず壁が出来てしまい、

その結果、お前の言うジョグレス進化が出来なくなってしまう、か」

 

「今までは完全体に進化するのにはタグと紋章が必要と思ってたから

そんな事はしなかったけど……。

タグと紋章を使わずに完全体に進化させたどころか

アグモンまで完全体に進化させる事が出来たと知ったら、

自分達もパートナーを完全体にくらいなら……と思って行動しちゃうかもしれないわね。

……私だったらそう思って行動しちゃうと思う」

 

「……どうして僕が紋章とタグ無しに進化させる事が出来たかははっきりとは分かりません。

ですが、僕に出来た以上、理論上は石田さん達も可能な筈です。

ですが、今それを誰かに――――4人のD3を持つ選ばれし子供に知られる訳にはいかないんです。

この先の戦いには恐らく……いえ、絶対にジョグレス体の完全体の力が必要になる筈ですから」

 

 

 ……原作と同じなら、この先完全体クラスのデジモンと戦う事になる。

そうなった時に完全体に進化出来るのが僕達だけでは心許ない。

……いずれ究極体と戦う事にもなるだろうから戦力は出来る限り欲しいのだから。

 

 今日の事を黙って貰うべく、僕は今一度心からヤマト達にお願いの言葉を伝えようとした時だった。

遂に限界が来たのか、僕の意識は再びゆっくりと落ちようとした。

まだヤマト達を説得できていないのに―――!

意識を保とうと目に力を入れそれに抗おうとするが、そんな抵抗もむなしく僕の意識は再び失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideヤマト

 

 

「おい、どうした?」

 

 

 話し合いの途中で突如黙り込んだ守谷に疑問を覚えた俺は、そう声を掛けたが、返事は帰って来なかった。

 

 

「モリヤ! どうしたの!?」

 

「……どうやら眠ったみたい。よっぽど疲れてたのね」

 

 

 顔を覗き込んでそれを確認した空は、心配そうにしているチビモンに優しくそう返すと、

俺の背中で眠る守谷に痛々しい視線を向けた。

 

 

「……こんなになるまで守谷君は戦ったのね」

 

「……ああ。

俺達も足止めでキメラモンと戦ったが、正直それ程の傷は負っていない。

……きっと守谷は、チビモンを庇いながら何分も必死に逃げ回ったんだろうな」

 

 

 完全体への進化が解け、幼年期になったチビモンがキメラモンの攻撃から逃れられる筈が無い。

なら考えれる答えは一つだろう。

守谷はチビモンを持ち上げながらキメラモンの攻撃を躱し続けたのだろう。

例えキメラモンが遊んでいたのだとしても、

それでもあの砂漠で攻撃を躱し続けたのは誇れることだと思う。

 

 

「……やっぱり私、今日の事は皆に話した方が良いと思うの」

 

 

 空が考えがまとまったと言わんばかりの表情を俺に向けた。

 

 

「守谷君が紋章無しで完全体に進化出来た以上、理論上私達も出来る筈でしょ?

それなら、例え時間をかけてでも皆で完全体に進化出来る様に行動すべきだと思うの。

……私達全員が完全体に進化出来る様になったら、きっと守谷君への負担が減ると思うから」

 

 

 空の考えに俺は、無言で下を向いた。

……正直に言うと、俺も空の意見には賛成だった。

俺達が完全体に進化出来る様になれば戦力が+8になる。

……京ちゃんと伊織は今は出来ないかもしれないが、

いずれは単独で完全体に進化出来るようになる筈だ。

そうなれば戦力が更に+2となる。守谷の想定の+3を大きく上回る。

……だが、仮に進化出来なかった場合、

完全体に進化出来るのが守谷だけになってしまう。

そうなってしまえば守谷への負担を減らす為の行動が、

逆に守谷への負担を大きく増やすことになってしまう。

それだけは絶対に避けなければならない。

……だが、前線で戦えるという可能性を知ったのに

何もしないでD3を持つ新選ばれし子供達だけに戦いを任せるのはどうなんだろう?

 

 

「……僕は守谷の考えに賛成かな」

 

 

 そんな事を考えていると予想外にもコロモンからそんな言葉が漏れた。

 

 

「さっきメタルグレイモンに進化している時、

今までになったどの時のメタルグレイモンよりずっと強い力を感じたんだ。

でもそれでもキメラモンと力差は殆どなかった。

……もしかしたら守谷の言うこれから先っていうのは、

普通の完全体じゃ歯が立たないくらいの戦いになるのかもしれない」

 

「今まで感じた事が無いくらいの力、か」

 

 

 アグモンの言う通りなら、俺達が仮に単独でキメラモンクラスのデジモンと戦うなら、

紋章を使ってた時以上の完全体に紋章とタグ無しで進化させなければならない。

……紋章とタグ無しに進化する事が出来ない現状で、

更にその時を上回る力を俺達が発揮するにはどれ位の時間がかかるのだろうか?

要塞を作り出す謎の女という敵が居るのに、そんなに時間をかける事が出来るのだろうか?

……ハッキリ言って難しいだろう。

 

 

「――――おーい! ヤマトーーー!!」

 

 

 そんな事を考えていると、突然上空から俺を呼ぶ声が聞こえて来た。

見上げてみると、そこにはカブテリモンの背中に乗りながらこちらに手を振る太一の姿があり、

その周りにもパタモンとテイルモン、ホークモンがアーマー進化したアーマー体の姿があった。

どうやらそれぞれの背中にそれぞれのパートナー+aを乗せている様だ。

 

 俺は空に連絡したのかを問うべく視線を向けると、

空は知らないといった様子で首を横に振っていた。

ならどうしてと考えている内にカブテリモン達が俺達の前に降りて来た。

 

 

「何時まで経っても帰って来ないから心配で来たが

どうやら全員無事…………とは言えないな」

 

 

 俺と空が無事だったのに安心した表情を見せた太一だったが、

俺の背中に背負われている守谷の存在、傷付いたパートナーデジモン達に気が付くと、

緩めた表情を直ぐ締め直した。

 

 

「…………キメラモンのせいか?」

 

「……ああ」

 

 

 流石にこの怪我を誤魔化す事は難しいので正直に話す。

するとその話を隣で聞いていた光子郎が会話に入って来た。

 

 

「……守谷君の話していた計画はやはり嘘だったんですか?」

 

 

 光子郎の質問に俺は一瞬だけ硬直した。

何故なら、今日見た事を話すか話さないかまだ決まっていないのだから。

……さて、話すべきか話さぬべきか――――

 

 ふと、空に視線を向けると、空は考えたのち、無言で頷いた。

――判断は任せる、という事だろう。

それなら俺は――――

 

 

「……半分は嘘で、半分は本当だった」

 

「どういう事ですか?」

 

「俺達がコイツの元に着いた時、既にボロボロだった上、

キメラモンがまだ消滅していなかった。

どうやら要塞を破壊したことで、キメラモンのエネルギー供給を止める事が出来たが、

キメラモン自身にまだエネルギーが残っていたみたいで、消えずに存在していたらしい。

その後、こいつを背負いながら逃げ回っていたらエネルギーが切れたのか勝手に消滅した」

 

「……キメラモンは既に一体のデジモンとして存在していると思っていましたが、

そうではなかったという事ですね」

 

「ああ」

 

 

 取りあえず光子郎にそう説明し納得させると、丈の元に守谷を連れて行き

怪我の具合を見て貰った。

……結果、腕のヒビが骨折に悪化している様だった。

それ以外にもかなりの怪我があったようなので、

状況説明を避ける様に守谷を病院に連れて行くように話を進めた。

 

 ……後で質問された時にボロが出ないようにしないとな。

カブテリモンの背中に乗りながら俺はそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 やはり戦闘描写が酷いですね。
それに加え、キメラモンを必要以上に強化してしまったせいで
キメラモン編がかなり長くなってしまいました。

 次回からはまたながーーい話がメインになると思うので、
早く投稿が……と、言いたい所ですが、
いつもそう言って全然投稿出来ていないので、
そういう無駄に期待させるような事は言わない方がいいですね。

 次回からも原作をなぞる様な話が続くとは思いますが、
楽しんで頂けると光栄です。


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023 四聖獣の力

この回と次の回は飛ばすか迷いましたが、
書く事にしました。


 次に目を覚ますと、僕はまたもや病院のベッドの上に居た。

 目を覚ました僕は前以上にグルグルに包帯を巻かれている右手を見て

小さく溜息を付いていると、

病室の前を通りかかったナースの人が僕が目を覚ました事に気が付き、近づいて来た。

 その後、主治医と思われる人などもやって来て怪我の原因など色々聞かれたが、

僕はそれらの質問をあまり覚えていないなどと言って誤魔化し、今の自分の状況を尋ねた。

 ……どうやら右手の骨折以外はそれ程大したことが無い様で、一週間ほど入院したら

退院出来るそうだ。それと話を聞いて驚いたのだが、僕は一日程眠ったままだったらしい。

 ……他のデジモンを進化させる事がそれ程体に負担がかかるという事だろうか?

 

 その後おじいちゃんに連絡したり、改めて検査などを終えた後病室に戻ってみると、

そこにはヤマトと空、……そして空に抱かれるコロモンの姿があった。

 

 

「元気そうだな」

 

「怪我も思った程では無かったので」

 

 

 ……と、言っても体調はそれ程良くないので、ヤマト達に一言断りを入れ、

ベッドに腰を下ろした。

 

 

「……キメラモンの事は太一達には黙っておいたぞ」

 

 

 暫くお互いに黙り込んでいると、突然ヤマトがそう言って話を切り出してきた。

 突然僕が気になっていた事を話されたことに少なからず驚いたが、

なによりも黙って居てくれたという事に僕は心から感謝した。

 

 

「――――ありがとうございます!」

 

「礼ならコロモンに言っておけ。

コロモンの言葉が無かったら多分話してたからな」

 

 

 ヤマトの言葉に僕は、空に抱かれているコロモンの方を向くと、ありがとうと深く頭を下げた。

 ……それにしても一体何と言ってくれたんだろう?

 

 

「それよりも……今日俺達が来たのは、光子郎達に話すキメラモンの戦いに関する内容のまとめが主な理由だ」

 

 

 ヤマトの言葉に僕は成る程と小さく返した。

 ……確かにそれをしておかないと、実際質問された時にボロが出て、

 せっかく吐いてもらった嘘がばれてしまう可能性が高いからね。

 実際僕は、今ヤマトに話を聞くまで、キメラモンの事を話したのかさえ知らなかったのだから。

もしこの状況で光子郎達に質問されていたら危なかった。

 

 

「それと、昨日お前が途中で寝たせいで聞きそびれた、

チンロンモンというデジモン達に関する事についても話して貰おうか。

何故そのデジモンの事も黙っていた方がいいんだ?

封じられている場所も分かってるなら今すぐにでも助けた方が良いだろう」

 

 

 ヤマトの言葉に空もそれに同意するように意見を言ってきた。

 二人の言葉に僕は考えを話すべきか少しだけ迷ったが、

この状況で隠し通すほどの情報では無いと判断し話す事にした。

 ……出来る限り二人には不信感は持ってほしくないからね。

 

 

「……確か、チンロンモン達四聖獣のデジモンは、この世界を安定させるべく存在しているデジモンだという事までは話しましたね?」

 

 

 僕の質問にヤマト達は頷いた。

 

 

「ならその続きから話します。

四聖獣と呼ばれる4体のデジモンは、

前話したようにデジタルワールドの安定を保つ力、

そして他のデジモンを完全体――――究極体に進化させるほどの規格外の力を持っています。

……いえ、正確に言わせて貰うと――――持っている筈なんです(・・・・・・・・・・・)

 

「どういうことだ?」

 

「……僕がデジタルワールドを本格的に調査し始めて気が付いた事なんですが、

コロモン達のデジタルワールドは現状を保たれているだけなんですよ」

 

「―――――言っている意味がよく分からないな。

四聖獣とか言うデジモンの力は、デジタルワールドを安定させる力なんだろ?

それなら現状を保っていているのが普通じゃないのか?」

 

「……少し違いますね。

四聖獣の力は、デジタルワールドをいい方に安定させる力を持っている筈なんです。

ですが今コロモン達のデジタルワールドは現状が保たれているだけなんです。

枯れた木も、荒れた大地も、滲んだ海も、汚れた空も……

全てが自然に回復しないまま何年も変わらずに維持されているんですよ。

……石田さん達が普段通る様な場所は、

デジタルワールドの安定を望む者達が筆頭になって復旧されていますが、

彼等が関わっていない場所は、改善される事なく廃れたままです。

……もっと分かりやすく言うと――――

石田さん達選ばれし子供達が3年前に戦闘で荒らしてしまった土地は、

安定を望む者達が修復していない限り、草木も生えずに3年前のまま残って居るということです」

 

 

 これは、僕とブイモンが完全体に進化する為に特訓する場所を探し回っている時に気が付いた事だった。

 ……今思えばこの時だったかもしれない。

 この世界が僕の知る原作の世界と違っていると意識し始めたのは。

 

 ヤマト達が僕の言葉に驚愕したような表情を見せた所で僕は話を続けた。

 

 

「……もしも四聖獣が僕の知る様な力を持っているならこんな事は起きない筈なんです。

ですが、実際にはこのような現象が起きてしまっています。

仮にダークタワーのせいで力が落ちてそうなってしまっているとしても、

それはあくまで最近の話。

3年前の大地の傷跡がそのまま残っているのとは関係は無いです」

 

「……ならお前の考え通り、四聖獣達は何らかの理由で力を発揮出来ていないという事か?」

 

 

 ヤマトの質問に僕は、おそらく、と頷く。

 

 

「少なくとも現状を維持するだけの力しか発揮できていないと思われます。

もしくは――――そもそも四聖獣にそれ程の力が無いのかもしれませんね」

 

 

 もしも本当にそうだとしたら……ハッキリ言ってこの先の戦いは厳しいモノになると言わざるを得ない。

 四聖獣が、僕の知る原作の四聖獣より遥かに劣っているとしたら、必然的に他のデジモンを進化させる力にも期待できなくなる。

 それが意味するのは、少なくとも黒幕――――べリアルヴァンデモンとの戦いに100%勝てなくなるということだ。

 そうなってしまったらヴァンデモンに取り憑かれている人間、及川ごと倒すしか方法が無くなる。

 ……それは出来る限り避けたい。

 理由は、人を殺すのに少なからず抵抗があるのは勿論、現実世界で再びヴァンデモンを倒したくないからだ。

 ヴァンデモンは一度……いや、二度太一達に倒されている。それなのにヴァンデモンはまだ完全には消滅していない。

 ……恐らく現実世界でヴァンデモンを完全に倒す事は不可能なのだろう。

 だからこそ、僕はある程度ヴァンデモンの計画通りに動き、ヴァンデモンを復活させ、

デジタルワールドに連れて行く必要があると考えているのだ。

 

 

「……実際に四聖獣がどういう状況なのかは僕にもまだ分かりません。

だからこそ、僕は四聖獣の呪縛を無暗に解きたくはないんです。

四聖獣達は力こそ封じられていますが、決してつらい目に合っている訳では無い筈なので。

それならこの状況を利用して、四聖獣に休んで貰うというのも悪い考えではないとは思いませんか?」

 

「……まあ確かに今の所は四聖獣達が力が封じられていてもあまり支障が無いみたいだもんね」

 

「……休んで貰うのも手段の一つか。

分かった。ここはお前の言う通り、四聖獣の呪縛を解くのは一先ずやめておこう。

後、現状何もしない以上、四聖獣の事を太一達に話して余計な心配をかけたくないから、

この話も話さないでおく」

 

「――――そうして貰えると本当に助かります」

 

 

 ヤマト達に何度目か分からない感謝の言葉を伝えると、

次は、太一達に話すキメラモンとの戦いの詳細について話し合った。

 

 

 

 



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024 勇気の証

 今回でキメラモン編は完全に終了です。
次回からは新編に入ります。

 ……開始早々話がかなり進む予定です。
なので、もしかすると楽しみにして下さっていた話が飛ばされるかもしれません。



 ヤマト達と太一達に話すキメラモンとの戦いの内容を話し合ってからしばらくすると、

ヤマト達が話の途中で言ってた通りの時間に太一達が病室にやって来た。

 

 太一達は病室に入るや否や、先に病室に来ているヤマト達に驚いたような反応を見せた。

……どうやら太一達には内緒で来ていたようだ。

 

 

「どうしてお兄ちゃんや空さんが先に来てるの?」

 

「……ちょっとコイツにどうしても聞いておきたかったことがあってな」

 

 

 太一達今来た組全員を代表してそう質問して来たタケルにヤマトはそう答えると、

僕の近くから離れ、病室の壁に腕を組んでもたれ掛かり先頭に居る太一の方を向いた。

 

 

「……これだけは言っておくが、コイツはこいつなりの勝算が確かにあって計画を実行した。

……結果はこのざまだが、少なくともヒカリちゃんの時とは訳が違う。

―――――手は出すなよ太一」

 

「……それぐらい分かってるよ」

 

 

 ヤマトの予想外の言葉に太一は驚きながらもしっかりとそう返した。

そして全員を代表して僕の前まで来た。

 

 

「早速で悪いが……まずはキメラモンとの戦いについて教えてくれ」

 

「……はい。初めは――――――――」

 

 

 こうして僕は太一達にキメラモンとの戦いについて話した。

……まあ内容はヤマト達と話し合って考えた真っ赤な嘘だが。

話した内容は簡潔に言うと、初めは太一達に話した通りに普通に逃げ回っていたが、

途中で突然キメラモンが停止し、消滅し始めた。

そこで僕達は太一達が要塞を破壊したのだと気を抜いたが、

キメラモンは自分の体のパーツのいくつかを自ら外す事で消費エネルギーを節約し、

消滅を踏み止まり、僕達に攻撃してきた。

油断していた僕達はそれを避ける事が出来ずに命中し、ピンチに陥るがそこでヤマト達が来てくれた。

その後は僕を背負ったままヤマト達がキメラモンのエネルギー切れまで逃げ回った。

……という内容だ。

 

 

「――――以上がキメラモンとの戦いの内容です」

 

 

 嘘がばれない様に細心の注意を払いながらなんとか話に詰まることなく話し終えた僕は、

一呼吸置くと、太一達に頭を下げた。

 

 

「僕の考えが甘かったせいで、皆さんにまで迷惑をかけるところでした。

本当にすいません」

 

 

 ……さっきから太一達には嘘の話ばかりしているが、この謝罪は本心からのモノだった。

今回は本当に危なかった。もしもヤマト達が来ていなかったら、僕がここに居ないのは勿論、

あの場所に居なかった太一達選ばれし子供達にまで危険な目に合わせるところだったのだ。

それを思うと謝罪せずにはいられなかった。

 

 

「……顔を上げろ」

 

 

 太一の言葉に僕はゆっくりを顔を上げ、太一の方を改めて見つめた。

そんな僕に太一は、自分の手を僕の頭の上に置いて優しくなでた。

 

 

「謝る必要なんて無いさ。お前はよくやった。

……確かに詰めが甘かった箇所もあったかもしれないが、

お前の行動のお蔭でキメラモンの脅威は去ったんだ。もっと胸を張れよ」

 

「そうだよ! 守谷君は良くやったよ」

 

 

 太一に続き後ろに居たタケル達も次々と僕を庇う様な言葉を言ってくれた。

僕はそんな優しい気遣いに無言で頭を下げた。

 

 

「……あ! そうだ!」

 

 

 何か思いついたのか、京が突然そんな声を上げた。

 

 

「守谷君! 何か欲しいものとかしてほしいことない? 

私の実家、コンビニエンスストアを経営してるから

言ってくれたらおにぎりとか色々持ってこれるわよ!」

 

 

 何でも言ってくれと言わんばかりの表情で僕に迫る京。

 

 

「欲しいモノか何かしてほしい事、ですか? そうですね…………」

 

 

 突然の京の提案に僕は左手を口元に当てて考える。

……現時点で欲しいモノは無いから物はナシだ。

ならやってほしい事は…………

 

 

「……それならデジタルワールドを少しの間任せてもいいですか?」

 

「え? デジタルワールドを?」

 

「はい。……今回は流石に僕も無理をし過ぎたので少し休養を取ろうと思いまして。

……謎の女たちもしばらくは行動し無さそうなので」

 

 

 僕は包帯でぐるぐる巻きになった右手を軽く上げながらそう伝える。

……休暇を取ろうと思っているのは本当だ。

流石にこの状態でデジタルワールドに行くのはアレだしね。

それにこう言っておかないと太一達にまた無理をするかもしれないと心配されるだろう。

 

 後それに加えもう一つ理由があった。

それは選ばれし子供達……主に京と伊織に経験を積んで貰う為だ。

アルケニモン達が表立って行動しなくなるという事は恐らくダークタワーの進化を妨害する力も無くなる筈だ。

その状態で戦闘経験を積めば、原作よりも早い段階でホークモンとアルマジモンが成熟期に進化出来るようになるかも知れない。

それに、皆で戦う事で、

後にジョグレス進化する為の選ばれし子供達の親密度も少なからず上昇するだろう。

……この世界が原作の世界と違う以上、原作の様に選ばれし子供達がジョグレス進化出来るかは分からない。

それに加え、選ばれし子供達のムードメーカーだった大輔も居ないのだ。

下手をすれば親密度が足りなくてジョグレスが出来ないという状況になってしまう可能性もある以上、少しでも選ばれし子供達には親密になってもらう必要があった。

 

 後、もうあまり必要じゃないかもしれないが、伊織と京に二つ目のデジメンタルを入手して貰う為でもある。

……まあこの二つ……特に伊織の二つ目のデジメンタルの入手のイベントの際は僕も注意して観察するつもりだが。

 

 

「成る程、分かったわ! デジタルワールドは任せて!

守谷君が休んでる間にダークタワー何て全部壊しておくわ!」

 

「はい、お願いします。

……ですが、ダークタワーを破壊するのは程ほどでお願いします」

 

 

 僕の言葉に全員が疑問を浮かべた。

そして真っ先に疑問をぶつけて来たのは伊織だった。

 

 

「どうしてですか?

ダークタワーはイービルリングでデジモンを操る電波塔の様な役割を持って居るモノの筈です。

それなら出来る限り早くに全部破壊した方が良い筈です」

 

「確かに君の言う通りダークタワーの存在は百害あって一利なしだ。

……だけどもはやあの塔は良くも悪くもデジタルワールドの一部の様な存在になってしまっている。

そんなモノを一度に多く破壊するのはあまり得策じゃないんだ。

だから君達には少しずつダークタワーを破壊していって欲しいんだ」

 

 

 ……本当の理由は、あまりにダークタワーを破壊しすぎたら

アルケニモン達が早々に行動せざるを得ない状況になってしまうからね。

それを防ぐためにもダークタワーは少なからず必要だ。

 

 僕の説明に伊織は渋々ながらも分かりましたと納得してくれた。

後ろの選ばれし子供達も反論を言ってこない所から見るに同じように納得してくれたのだろう。

 

 

「……っと、あんまり怪我人に無理させるのも良くないしそろそろ帰らないかい?」

 

「確かにそうですね。皆さんもそれでよろしいですか?」

 

 

 光子郎の質問に太一達は頷き、僕にそれぞれお別れの言葉を言って病室から出て行く。

太一以外が病室から出て終わると、太一自身も僕に一言別れの言葉を言って病室から出ようとした。

だがそこで僕は太一にあるモノを借りていた事を思い出し太一を呼び止めた。

 

 

「八神先輩、ちょっと待ってください」

 

「ん? どうした?」

 

 

 僕の声に立ち止まり、僕の前まで戻って来てくれた太一にあれを返すべく、

病室に用意されていた僕の持ち物入れからそれを取り出し差し出した。

 

 

「石田さんから借りていた八神先輩のゴーグルを返すのを忘れてました」

 

「あーそれか。そう言えばヤマトがお前に貸したとか言ってたな」

 

 

 太一はそう言いながら僕の手からゴーグルを受け取ろうとしたが、

手前で手を止め、そして受け取らずに手を下ろした。

 

 

「……それ、お前にやるよ」

 

「…………え?」

 

 

 太一の想定外の言葉に僕は思わず固まった。

 

 

「ヒカリやタケルのデジヴァイスがD3に変わった時俺は思ったんだ。

これから先は俺達じゃなくて、D3を持つ新しい選ばれし子供達の時代なんだなって」

 

「……そんな事ないですよ。八神先輩達だってまだ…………」

 

「分かってる。俺達だってまだ選ばれし子供として出来る事がある。それは分かってる。

だが、デジタルワールドに自由に行き来できるお前達やダークタワーを見ているとやっぱりそう考えちまうんだ」

 

「……そうだとしても、どうして僕なんですか?」

 

 

 僕の質問に太一は、そうだなと一言返すと、

僕の方では無く窓から見える風景を見ながら語りだした。

 

 

「3年前の俺は正直に言ってお前よりも単純で無鉄砲なガキだった。

今考えると多分みんなにはそのせいで色々迷惑かけたんだなと思う。

……特に丈や光子郎にはな。

でもその時の俺は、どうしても立ち止まろうとはしなかった。

出来る事があるのに何もしないってのが出来なかったんだ。

……そんな所が少しお前と似ていると思ったからかな」

 

 

 そうやって照れくさそうに微笑む太一に僕は密かにそれは間違っていると思った。

……確かに僕の知る原作の太一は無印の世界でそう思われるような行動はとっていた。

今の太一の言葉から想像するに、きっと僕の知る太一と同じような行動を取っていたんだろう。

だけど……そうだとしたらやっぱり太一の自己評価は間違っている。

 

 太一はどんな時も仲間を気遣っていた。

そしてどんな時でもやらなければならない事を誰よりも早く、深く理解していた。

だからこそ、まだどうすればいいか判断出来ていない仲間に反発されたりしていた。

だがそれが正しい事だと理解していたから太一は無理を押し切ってでも行動を起こしていた。

立ち止まるより前に進む方が断然いいと思っていたから。

進める道があるなら進んだ方が良いと思っていたから。

現状を変えるというもっとも恐ろしい行為に直ぐに立ち向かえる『勇気』があったから。

 

 

「それに俺も中二だからそろそろゴーグルはどうかなって思ってたんだ。

だけど、これは俺のトレードマークみたいなものだし少なくとも捨てるのはちょっとな。

だけど誰かにあげようにも、ヒカリには昔、普段から首からかけていたホイッスルが無くなった時に言ったんだけど、

その時ですら嫌がるような顔をしながら要らないって言われたんだ。

タケルは意外とおしゃれ好きだから言ってもいらないって言われそうだし、

京ちゃんは女の子だから流石にこんなのをあげるのはどうかと思うし、

伊織には……あんまり似合わない気がするしな。

ヤマト曰く、お前のゴーグル姿は中々様になってたらしいしそれならなと思ってな」

 

「……八神先輩、僕は――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side太一

 

 

 俺は守谷の病室から『ゴーグル』を手に持って出た。

守谷は俺のゴーグルを受け取らなかった。

……別にその事に関しては大したことでは無かった。

確かに新たな選ばれし子供へ俺からのエールとして受け取って貰いたかったという気持ちはあったが、

それはあくまで出来ればの話だ。いらないと言われれば無理して渡すつもりは無かった。

だが、ゴーグルを受け取れないといった守谷の表情がどうしても頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

「……八神先輩、僕はこのゴーグルを受け取れません」

 

「どうしてだ?」

 

「僕にとってゴーグルというのは勇気の証なんです」

 

「勇気、の証?」

 

「はい。正確には仲間を思う勇気の証です。

ゴーグルを受け取るという事は僕にとってはそれを一生背負う覚悟を持つという事なんです。

……すいませんが僕はそんな覚悟を持てません」

 

「……これはそんな重苦しいモノなんかじゃないぞ?」

 

「八神先輩にとってはそうでも僕にとってはそういうモノなんです。

それに――――――――」

 

 

 守谷は普段とはっきり違う作り笑顔で言った。

 

 

「もうこれ以上何かを背負う余裕なんてないですから」



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025 アメリカ旅行 前編

 誰も望んでいないかもしれませんが、アメリカ旅行編の前編です。
この編を書く事にしたのは一度ミミを登場させたかったからですね。


 後tri第三章見に行ってきました!
色々と予想外の展開が続いて驚きました。

 特にヘラクルカブテリモンの「みなはん」のセリフにぐっときました。



 キメラモンとの戦いから3ヶ月近くたった7月上旬の休日の朝、

僕は日課のランニングをしていた。

 

 キメラモンを倒してから謎の女……アルケニモン達は宣言通り一切姿を見せなくなった。

そのお蔭か、ダークタワーがある場所でも通常進化が出来るようになったので、以前よりはずっと楽に壊せるようになった。

だが、どれだけダークタワーを破壊しても次の日にはある程度立て直されている所から見るに、

しっかり行動はしているようだ。

……次にアルケニモン達が再び姿を現すのは恐らくダークタワーからデジモンを作り出せるようになってからだろう。

つまり原作で言う9月頃だということだ。

……勿論この世界は原作とは違う世界なので、多少時期がずれるかも知れないので

これはあくまで基準として考えておく。

 

 

「……もうすぐ夏休み」

 

 

 それは原作で言う、キメラモンが倒された時期だ。

だがこの世界では。それは一乗寺賢が居ないせいなのか大幅に早まり、4月下旬ごろに終わっている。

だからそれに関しては問題は無い。

……ただ、僕にはそれ以外に一つ心配な出来事があった。

それは僕達の世界に存在した、デジモンアドベンチャー02の映画、

『デジモンアドベンチャー02 デジモンハリケーン上陸!!・超絶進化!! 黄金のデジメンタル 』

の存在だ。

この映画は原作の02で言う夏休みに起きた出来事を映像化した作品で、

僕自身も何度か見た事ある映画だ。

……それはともかく、僕はその映画で登場するデジモン、チョコモン……いや、『ウェンディモン』を僕は警戒していた。

ウェンディモン自体は所詮は成熟期デジモンなので、正直に言ってブイモンの相手では無い。

……だが、映画ではウェンディモンはパートナーの力を借りずに完全体、

――――そして究極体に進化したのだ。

 

 

「……アンティラモンはともかく、究極体のケルビモンに進化されたら勝ち目はない」

 

 

 僕達の完全体以上の戦力は、未だブイモンが完全体に進化した、ウイングドラモンと、

アグモンが完全体に進化したメタルグレイモンの二体だけだった。

キメラモンとの戦いから僕も色々と努力し、

今はブイモンを完全体に長時間保てるのは勿論、同時にアグモンも完全体に進化させる事が出来るようになった。

……二体同時進化は正直体にかなり負担が来るが、そんな事を言っている場合では無い。

少なくとも僕は後二体は同時に進化させられる様になりたいのだ。

だから前以上に体を鍛えていた。

……まあそもそも、

今はアグモンとブイモン以外に進化させられそうなデジモンが居ないんだけどね。

 

 それと、一応京も伊織も、パートナーを成熟期に進化させられるようにはなったが、

ジョグレス進化にまでは至っていない。

……ジョグレス進化に必要なホーリーリングは、

僕が退院後に、数日かけて要塞があった場所を探しても見つからなかった事から

恐らく既にゲンナイ達が回収しているのだろう。

それでも出来ない理由は、ジョグレスするデジモン自体に問題があるのか、

そのパートナーである京達に問題があるのか。

……それともゲンナイ達がホーリーリングを回収していなくて

そもそもジョグレス進化出来ないのかは分からない。

だが恐らくは京達に問題があると思われる。

――――いや、問題が起きてしまったのだ。

 

 何度考えても頭が痛くなる話だが、現時点で京と伊織は原作と同じように、

第二のデジメンタル、『純真のデジメンタル』と『誠実のデジメンタル』を所持しているが

『使用は』出来なかった。

そう、この世界が原作の世界と違うせいで、時期がズレ、京と伊織が精神的に成長するイベントが

無くなってしまい、その結果、京と伊織はそれらのデジメンタルを使う事が出来なかった。

 

 一応この二つのデジメンタルが使えない事に関してはそれ程問題ではないが、

原作と違い、そのデジメンタルを使えない京と伊織が原作と同じようにジョグレス進化出来るかが問題だ。

……京達がジョグレス進化出来ない場合の事を考えた方が良いかもね

 

 そんな事を考えながら僕は普段以上に走り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝のランニングから数時間後の昼過ぎのデジタルワールドで、

僕は久々に遭遇した京達と共にダークタワーを幾つか倒し終えると、

京が少し休憩しようと提案し、皆もそれに賛同したので少し休憩する事にした。

 

 休憩に入ると同時に元気に雑談し始めた京達から

少し距離を取るように寝転がって空を見上げていると、突然タケルが声を掛けてきた。

 

 

「ねえ、守谷君って夏休みの予定とかあるの?」

 

 

 突然話題を振られたことに少なからず驚きながらも質問に答えるべく、

僕は体を起こしてタケルの方を向いた。

 

 

「夏休みの予定?」

 

「うん! 守谷君には予定があるのかなーっと思って。

……あ、デジタルワールドに関係する予定があるとかは無しでね」

 

 

「夏休みの予定……」

 

 

 僕が返そうと思っていた答えはタケルにあらかじめ封じられてしまったので、

僕は改めて腕を組んで考えた。

 

 僕の夏休みは、デジタルワールドに関する事以外の予定は無いに等しかった。

それもそうだろう。なんせ、もしかするとこの期間は、僕達に用意された最後の準備期間となる可能性もあるのだから。

これから先の事を考えると遊んでいる暇なんて無かった。

……まあブイモンの気分転換に何処かに出かけたりはするかもしれないけどね。

 

……とにかく僕は、これから先の事を考えると、遊んでいる暇なんて無い。

だけど、そう返すのも気が引ける。

そんな答えを返してしまったらまたタケル達に心配されるだろうから。

……ならどう返すべきか。暫く考えているとある事を思いついた。

 

 

「……アメリカに行く予定はある」

 

「え!? アメリカに?」

 

 

 僕の返答があまりに予想外だったのかタケルは一歩後ずさりながらそう返してきた。

……僕がアメリカに行く予定があるというのは嘘では無い。

 

 少なくともこの世界に劇場版の敵デジモン、ウェンディモンが存在するかは一度確認するつもりだった。

流石に無視できる存在では無いからね。……だがそれに関して一つ大きな問題があった。

それは劇場版の戦いが起きた時期が夏休み中という事しか分からないという事だ。

……勿論この世界は原作の世界とは違うのだから、仮にウェンディモンが存在しても、

劇場版と違う時期に騒動を起こす可能性が有るという事は分かっているが、

だからと言って無策に調査するのは避けたかった。

……そんな僕が今タケルにアメリカに行くと言った理由は……

 

 

「え!? 守谷君も(・・・)アメリカに行く予定があるの?」

 

 

 僕とタケルの会話を聞いていたヒカリが、驚いた表情をしながら近づいてきた。

……どうやらこの世界のタケルとヒカリも劇場版の様にアメリカに行く予定があるようだ。

僕がタケル達にこの事を伝えた理由はそれを確認する為だった。

……後で僕から選ばれし子供達に何処かに出かける予定があるのか尋ねても話して貰えない可能性が高い。

だからこそ僕はタケルが訪ねてきたタイミングでアメリカに行く予定があると伝えた。

タケルとヒカリの性格から考えて、一緒に行こうと誘わないとしても、

自分達も行く予定があるとは言うと思ったからね。

……さて、まだこの段階では劇場版の事件が起きるかどうかは分からないが、

少なくとも行く日は聞いておかなければ。

 

 

「ああ。まだ時期はまだ決まってないけどね。……二人もアメリカに行く予定があるのか?」

 

「うん。前にミミさん……えっと、太一さん達の時の選ばれし子供の一人が、

日本に来た時に、航空券二人分までなら用意できるから遊びに来ないって誘われたんだ」

 

「それで誰が行くことにしようかなって話し合おうとしたら、

京さんと伊織君が自分達は良いから二人で行ってって。遠慮なんていらないのに……」

 

「流石に出会ったばかりなのにそんなもの受け取るのはね」

 

「そうですよ。それに僕は出来るならあまり飛行機には乗りたくないので」

 

 

 ヒカリにその場に座ったままそう伝える京と伊織。

その表情に全くの曇りが無い所から本心からの言葉なんだろう。

……まあ僕でも出会って数か月の友人からそんなモノを受け取るのは気が引ける。

 

 

「それで僕達はこの日に行こうと思ってるんだけど……

もし行先が決まってないなら守谷君も一緒にニューヨークに行かない?」

 

 

 ポケットからスケジュール表を取り出して僕に見せながらそう言うタケル。

 

 

「それいい考え! ……ねえ守谷君、どうかな?」

 

 

 ヒカリもタケルの意見に賛同し、僕にそう問いかける。

まさか一緒に行こうと誘われるとは思っていなかったので、少なからず僕は驚いていた。

……だが、僕の返答は二人に言われずとも決まっていた。

 

 

「……悪いけど、遠慮しとくよ」

 

「……やっぱり行先とか決まってた?」

 

「いや、僕の行く予定の場所もニューヨークだ。

だけど二人の様に正当な方法で行く予定じゃないんだ」

 

「正当な方法じゃないって……どういう事?」

 

 

 ヒカリ達の疑問に答えるべく、僕は腰に付けたD3を手に持つ。

 

 

「このD3を使って、デジタルワールドからアメリカのニューヨークに繋がるゲートを開けて行くつもりだ」

 

「そんな事が出来るの!?」

 

「ああ。まあ一つのエリアに開ける国のゲートは一つだから、

他のエリアに行ってアメリカ行のゲートを繋げる必要があるけどね」

 

 

 これは原作で大輔達が行っていた方法だ。だからこの世界でも出来る筈。

一応アメリカに行くのは、これを確認する為でもあった。

……これが出来なければ本当に色々考えなければならなくなる。

 

 

「でもゲートが開いている場所ってかなり限られてるんじゃ……」

 

「D3の力を使えばネットワークが繋がっているモニターがある場所なら大抵何処でも開く事は出来る。

君達だって実は、パソコンルームからだけじゃなく、

家のパソコンからだってデジタルワールドに行ける筈だ」

 

 

 その言葉にタケル達は驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「なら、いつでも365日、好きなタイミングでデジタルワールドに行けるって事?」

 

「それなら色々便利になりますし、

空いた時間にダークタワーを倒す事も出来ますね!」

 

「…………だが、言っておいては何だが、君達はこれからも普段通りパソコンルームから

デジタルワールドに来るようにしてほしい」

 

「どうしてですか? 家のパソコンから来れるならそうした方が効率がいいと思うんですが」

 

「家から行くのは親に見つかるというデメリットがある。

デジタルワールドに行く瞬間を見られるのは論外として、

家に居たはずなのに居なくなったとかで家族を心配させる原因にもなるからな。

それにデジタルワールドに一人で行った瞬間に謎の女達に襲われる可能性もある。

だからこそ泉さんも出来るだろうと思いながらも君達に話さなかったんだろう」

 

 

 その言葉にタケル達は納得し、渋々ながら同意してくれた。

 

 

「……ってそれよりも、守谷君、それって不法入国になるんじゃ……」

 

「……デジタルワールドの為、世界の為に戦っているのだから、

これくらいの我儘は許して貰えると勝手に思っている。別に悪事を働くつもりもないしな」

 

 

 その言葉に対して正義感の強い伊織は止めた方が良いと言ってきたが、

それなら力づくで止めるかと尋ねるとそこまでは……と、言って口を閉ざした。

……これ以上色々聞かれるのを避ける為、僕はその場から立ち上がり、

タケル達に背を向けた。

 

 

「と言う事だから、君達と一緒にアメリカに行くというのは無しだ。

……もう昼前だし、僕達は家に帰る事にする。またな」

 

 

 僕はそう言ってタケル達の静止を聞かずにブイモンと共に家へ帰った。

――――後に僕は、タケル達に一緒にアメリカに行くつもりは無いともっと強く言わなかったことを後悔する事になった。

 

 

 それから10日後くらいの放課後、

数少ない僕のディーターミナルのアドレスを知っているヤマトから来たメールに従って、指示された場所に来ていた。

僕のアドレスを知っているのは全部で3人。僕とキメラモンの秘密を共有しているヤマトと空。

そして僕が気絶している間に勝手にディーターミナルを調べてアドレスを手に入れた光子郎の三人だ。

 

 指定の場所でしばらく待っていると、タケルとヒカリがペガスモンとネフェルティモンの背中に乗ってやって来た。

……どうやらヤマトは来ていない様だ。

という事は、タケルがヤマトに頼んで、僕をここに呼び出したという事だろう。

 

 

「ごめん、待たせちゃったかな?」

 

「いや。……それより何か用か?

石田さんのメールにはこの時間この場所に来るようにしか書いてなかったんだが」

 

「えっと……それが…………」

 

 

 タケルは少し言いずらそうな表情をしながらポケットから封筒の様な物を取り出した。

 

 

「……これは?」

 

「…………ミミさんからの守谷君への封筒。

中には僕達と同じニューヨーク行きの飛行機に乗る為の用紙が入ってる」

 

「――――はぁ?」

 

 

 僕は今までしたこと無いような程の呆れ顔をタケル達に向けた。

そんな僕の表情にタケルとヒカリは乾いた笑いを向ける事しか出来なかった。

 

 



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026 アメリカ旅行 中編

 初めは前編と後編で終わるはずだったんですが、
予想以上に長くなってしまったので、中編を入れる事にしました。

 今回でミミが登場しますが……話し方やキャラが全然再現出来ていないかもしれません。
ミミのセリフは難しいと思っていましたがまさかここまでとは……
個人的に、アルマジモン、テントモンの次に位難しいです。


「――――ここがニューヨーク……当然だけど外人ばかりだね!」

 

 

 飛行機での旅を終え、ニューヨークに着いたタケルは早々に荷物を受け取り、

ぬいぐるみのふりをしているパタモンに興奮気味にそう話しかけていた。

 

 

「もうタケルくん! はしゃぐ気持ちは分かるけど逸れないでよ。

入口でミミさんが待ってるんだから」

 

 

 自分だけ先へ先へと進んで行くタケルに小走りでようやく追いついたヒカリは、

腰に手を当てながらタケルにそう注意した。

注意を受けたタケルは、ごめんごめんと謝ってはいるが、恐らく反省はあまりしていないだろう。

 

 

「全く……。――――ごめんね、守谷君。ニューヨークに来て早々こんな事になって」

 

「別に構わないよ」

 

 

 ニューヨークに来て早々走る羽目になった事に謝ってきたヒカリに僕はそう返した。

それより……結局タケル達とニューヨークに来ることになったか。

 

 ミミからこの日の飛行機に乗る為の書類一式を手渡されそうになったあの後、

僕は勿論それを受け取ろうとしなかったが、タケルに、

受け取らないとミミさんがどんな事をするかわからないと言われたので、

渋々ながらそれを受け取った。

……ミミと接触するのは出来る限り避けたいが、それよりもミミに敵対される方が厄介だろう。

それに正当な方法でニューヨークに行けるならそれに越したことはない。

向こうでパスポートを提示しろとか言われたら一発で終わりだしね。

それを受け取った僕は、その後、急いでおじいちゃんに事情を話し、

パスポートなどの発行を済ませ、その結果この場所に居た。

 

 ……ちなみに、今はまだ夏休みに入ったばかりの7月下旬。

そしてミミから書類を受け取り、パスポートなどの準備をし始めたのが7月中旬ごろ。

……結果的に、正統な手段でニューヨークに来れた事は感謝していたが、

余りに急な話だったので準備が本当に大変だった。

 

 

「ねぇ、アマキ。ここに前話してたデジモンが?」

 

 

 僕の腕の中で人形のふりをしているチビモンが、

周りに居るヒカリ達に聞こえない程度の小さな声で話しかけてきた。

 

 

「……居ると決まった訳じゃ無いけど、個人的にその可能性は高いと思ってる。

だからチビモンも何か変な気配を感じたらすぐ知らせて欲しい」

 

「了解!」

 

「何話してるの?」

 

「何でもない。それより早く太刀川さんの所へ行こう。あまり待たせるのは申し訳ない」

 

 

 突然僕達の所まで来たタケルにそう返すと、ヒカリもそれに賛同し、

そのまま真っ直ぐミミの元へ向かう事にした。

そして歩き出してから数分後、ゲートから出た僕達は、

ミミを見つけるべく辺りを見回していると、

おーい、と声を上げながらこちらに走って来る女性の姿があった。

この声は――――ミミの声だ。

 

 

「「ミミさん!」」

 

「やっほー! タケルくん、ヒカリちゃん! 久しぶり! 元気だった?」

 

「はい、ミミさんも元気そうで何よりです」

 

「私は何時だって元気よ! パタモンもテイルモンも久しぶり!」

 

 

 ミミの言葉にテイルモンとパタモンも小さく手を振る。

今は二体とも人形のふりをしてるからそう動くわけにはいかないだろうからね。

 

 対して僕は少しだけタケル達と距離を置いていた。

……ミミがどういう人物かは知っているが、

流石に初対面の僕がミミたちの会話に入るのは気が引ける。

暫くそうしていると、一通り話したい事を話し終えたミミが僕の存在に気が付き近づいてきた。

 

 

「えっと、貴方がタケルくん達が言ってた、京ちゃんや伊織君と同じ、新しいデジヴァイスを持ってる選ばれし子供?」

 

「はい。守谷天城と言います。今回は往復の航空券を用意して頂き本当にありがとうございます」

 

「いいのいいの気にしないで。ちょうど余ってただけだから。

――――あ、私は太刀川ミミ! 気軽にミミって呼んで。よろしくね、天城くん!」

 

 

 そう言いながら伸ばしてきた右手を僕は少し遅れながらも右手で掴み、握手した。

……想像以上に明るい人だと思った。しかも、もう僕の事を名前で呼んでいる。

正直に言うと、距離感に困る相手だ。

……いや、こうなる事はミミに会う事が決まってた時から覚悟していた事。

戸惑いは出来る限り表情に出さないようにしなければ。

 

 ……僕は正直に言うとミミとは会いたくなかった。

理由は、光子郎の時と同じで、ミミも警戒すべき選ばれし子供の一人だからだ。

……いや、人間的に言えばミミは選ばれし子供達の中で最も警戒している存在だった。

その理由は簡単で、ミミが僕と真逆と言える性格をしているからだ。

天真爛漫で喜怒哀楽が激しい。これだけで僕と真逆だどいうのに、それに加え、

表裏も無く、人気者だ。

更に自分の気持ちを隠したりしない為、他の人が言いづらい事までじゃんじゃん言える図太さも備えている。

だからこそ僕はミミと接触したくなかった。

太一達が気を使って聞いてこない事も、ミミならあっさりと聞いてくるかもしれないから。

 

 

「じゃあニューヨーク観光始めましょうか!

みんな! しっかり付いて来てね!」

 

 

 僕が考え込んでる内に、チビモンとの自己紹介を終えたミミは、

僕等をぐるりと見回すと、右手を大きく上げながら屈託の無い笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、それで……じゃーん! ここが私がよく来るお店なの!」

 

「へ、へぇー、そうなんですか!」

 

 

 ミミの言葉にオーバーリアクションで返すタケル。

 

 空港を出てから数時間後、途中に昼休憩を挟んで、

今なおミミに観光案内をして貰っているのだが、

案内してもらう場所が段々観光地ではない場所になっているのは全員がうすうす気付いていた。

……まあ実際にニューヨークに住んでいる人からしたら、ニューヨークの観光地なんて、

相当有名な場所じゃない限りピンとこないから仕方ないだろう。

実際、有名所はちゃんと始めのほうに案内して貰えたし。

……それより、僕と違って毎回律儀にオーバーリアクションを返すタケルとヒカリに

少なからず罪悪感を覚えたが、僕はそういう反応を見せるキャラじゃないので許して欲しい。

 

 

「…………」

 

 

 ミミが店の事をタケルとヒカリに説明している間、僕はひっそりと辺りを見回す。

理由はウォレスを見つける為。

今日は、おそらく映画でウォレスがニューヨークに来ていた日。

もしもこの世界でも映画と同じように事件が起きるというならウォレスはここに居る筈だ。

そう思って先程からちょくちょく周りを見ているが、ウォレスが見つからないのは勿論、

街でデジモンが暴れている様子も無い。

 

 

「…………」

 

 

 そもそも映画で起きた初めの異変が、

ミミ達二代目の選ばれし子供達が消えたという事を改めて思い出したので、

ミミを凝視するが――――特に回りに異変は感じられたなかった。

 

 

「ん? どうしたの天城くん? ミミの事ジッと見たりして。

――――さてはミミに見とれてたでしょ!」

 

 

「ち、違いますよ。ちょっと太刀川さんに聞きたい事があって」

 

 

 ミミを見ていた事を知られてしまい、からかわれそうになったので、

話題を変えるべくそうミミに返したが、ミミはふん、とワザとらしくと首を横に向けた。

 

 

「ミミって呼んでくれなきゃ何も答えない」

 

「えっと、女性を名前呼びするのには抵抗が……」

 

 

 その言葉にもミミは聞く耳持たないといった様子で首を横に向けたままだった。

……仕方が無い。

 

 

「えっと…………ミミさん?」

 

「はぁーいー!! どうしたの天城君?」

 

「…………」

 

 

 ミミの余りの変わり身の早さに溜息を付きそうになったがぐっと堪えた。

 

 

「ここ最近のニューヨークの治安ってどうですか?」

 

「治安? て、どういうこと?」

 

「えっと、チンピラが暴れたり、暴動が起きたり――――行方不明者が多発してたりしてないですか?」

 

「うーん……そういう話は全然聞かないわ。ニューヨークって世界的にも治安がいい方みたいだし。

それがどうしたの?」

 

「いえ、ちょっと気になっただけです。もしも治安が良くないなら注意しないとなーと思っただけです」

 

 

 ウェンディモンは、映画の1シーンで、

列車の乗員をほぼ全員連れ去るという荒業を行っていたので、

もしも行方不明者が出ているなら……と思ったのだが、

どうやらそう言った事件は現時点では起きていない様だ。

それが、まだ起きていないだけなのか、それともそもそも起きない事なのか……

まだ判断はつきそうにない。

 

 

「じゃあ私からも質問! 天城君ってぶっちゃけ何歳なの?」

 

「11歳の遅生まれです」

 

 

 隠す事でもないと思ったのでサラッと返すと、予想外にも横から二人が何とも言えない表情を浮かべていた。

 

 

「京さんに敬語を使ってて、僕達に使ってないから、同じ年だとは思ってたけど……

改めてそうだと言われると凄い違和感があるね」

 

「私も」

 

「ミミ的には、雰囲気的に同じ年か年上かなって思ってたけど、タケルくん達と同じ年なんだ。

まあ身長はタケルくんより少し小さいくらいだしそんなものなのかな?」

 

 

 そんな雑談も交わしながら僕達は観光を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――どう、チビモン?」

 

「うーん……変な気配は感じないよ」

 

 

 深夜0時ごろの夜の街の中、僕とチビモンは人気が無い場所を歩き回っていた。

あの後、適当な店で夕食を済ませた僕達は、ミミとヒカリと別れ、寝泊りするホテルに行った。

どうやらヒカリはミミの家に泊まるようだ。

ホテルに行った僕達はそこでタケルとパタモンと別れた。

その後、僕とチビモンは少ししてからホテルを飛び出し、こうして街を歩き回っていた。

理由は、ウェンディモンの存在を確認する為だ。

 

 

「アマキ、やっぱりアマキの言うデジモンは居ないんじゃ……」

 

「…………そうかも知れないね」

 

 

 今日は、恐らく映画でタケル達がニューヨークに来ていた日。

映画で正確な日時を言っていた訳では無いので確証はないが、その可能性は高いと思う。

いや、やはりキメラモンが早々に現れ、倒されたことで日付がズレたのだろうか?

…………どれだけ考えても、結局の所それを確認する術はない。

そもそもウェンディモンが存在するかも分からない以上、それを確認する術は、

ウェンディモンそのものの存在を確認するか、そのパートナーであるウォレスに会うかしかない。

それならやはり明日はウォレスと会える可能性があるあの場所に行くしかないか。

 そんな事を考えているとチビモンが大きな欠伸をした。

……もうこんな時間か。

 

 

 

 僕は眠そうなチビモンを連れ、ホテルに帰り、そして眠りについた。

 

 

 

 

 

 

sideヒカリ

 

 

「――――へぇー、そんな事になってたんだ。」

 

 

 タケルくん達と別れた後、私とテイルモンはミミさんの家にお邪魔させて貰った。

前々からニューヨークに来たらミミさんの家に泊まる事になっていた。

ミミさんの家に着くと、そこには誰も居なくて、その事を聞いてみるとどうやら今日は二人とも帰って来ないらしい。

その後は、お風呂や洗面台を借りたりして寝る準備を済ませミミさんの部屋に行くと、

その部屋には大きなベッドが一つと、床に敷いてある布団があった。

私達が部屋に来たのに気が付いたミミさんは、私達にベッドを使うように言って来て、

私達も始めは断ったけど、最終的には有難く使わせてもらう事にした。

 

 

「ヒカリちゃん、もう眠たかったりする?」

 

 

 ベッドに腰掛けながら荷物を整理しているとミミさんがそんな風に話しかけてきた。

 

 

「いえ、まだ眠たくは無いですね」

 

「ほんと? じゃあさ、じゃあさ、話そうよ!

私がデジタルワールドに行った日から起きた事とか」

 

 

 ミミさんが一番最近デジタルワールドに来たのは、確かキメラモンを倒してから数日後のゴールデンウィーク中。

私達が気分転換にピクニックに行こうと学校のパソコンルームに忍び込んだ日に

ミミさんも学校に潜り込んでて、その後、一緒にデジタルワールドに行った日。

確かにあの後から色んなことがあった。

それに、あの時は確か、守谷君が入院してたからあまり詳しくは説明しなかったんだっけ?

……一先ず私は守谷君以外の話をミミさんに話した。

 

 

「――――へぇー、そんな事になってたんだ。

……でもどうして京ちゃんや伊織君は、純真と誠実のデジメンタルを使えなかったんだろう?」

 

「それがワタシ達にもさっぱりなんだ。

二つのデジメンタルを使う事が出来るのはモリヤが証明してるんだが……」

 

 

 ミミさんの疑問にテイルモンはそう返した。

京さんと伊織君は、デジメンタルを使えなくても引き抜く事は出来た。

それはつまり使う資格があるという事。それなのにどうしてアーマー進化は出来ないんだろう?

そう考えていると、顎に手を当て考えていたミミさんがふと質問を投げかけて来た。

 

 

「その理由って天城くんもわからないの?

ほら、天城君って光子郎君に似てなんか色々知ってそうな顔してるし」

 

 

 その言葉に私達は思わず視線を下に向けた。

突然下を向いた私達にミミさんは何か言ってはいけない事を言ってしまったのかと戸惑っていた。

ミミさんがそんな様子になっても言葉を返せなかった私に変わってテイルモンが話し出した。

 

 

「ワタシ達もモリヤなら何か知ってるかと思ってるんだが……

何も聞けていないんだ」

 

「どうして? テイルモン達もそう思ってるなら聞いてみたらいいじゃん」

 

「アイツは私達と関わりたがらないんだ」

 

「関わりたがらないってどういう事?」

 

「それは――――――――」

 

 

 そうしてテイルモンはこれまでの守谷君の行動をミミさんに話した。

初めは変な仮面を被って私達に正体を隠していた事。

キメラモンを倒す作戦を私達に話した後、直ぐにその場を去った事。

自分が選ばれし子供に選ばれた時期を偽っている事。

キメラモンを倒した後もチビモンと二人でダークタワーを壊し回っていた事。

守谷君が私達と距離を取ろうとしていると思った理由を思い付く限りテイルモンは話した。

 

 テイルモンの言葉を聞いたミミは頭を傾げながら言葉を漏らした。

 

 

「どうして天城君はヒカリちゃん達から距離を取ろうとしてるのかな?」

 

「光子郎さんいわく、私達に心配をかけない為じゃないかって言ってましたけど実際はどうかわかりません」

 

「うーん。でもそうだとしても、今ヒカリちゃん達にそうやって心配かけてるじゃない?

その事を天城君も気付いてると思うからやっぱりそうじゃないと思うの」

 

「……ならミミさんはどうしてだと思いますか?」

 

「うーーーん、そうね……………」

 

 

 ミミさんは両腕を組んで、暫く難しい顔をして考え込んでいたけど、

突然何か思いついたのか、高いテンションで話し出した。

 

 

「男が誰かに何かを隠したがるのって大抵は後ろめたいことがあるからだと思うの!

……ほら、男子って色々あるみたいだし。

だから天城君も何かヒカリちゃん達に言いづらい後ろめたい事を抱えてるんじゃないかな!!

いや、もしかしたらヒカリちゃん達の誰かに一目ぼれして照れて近づけないとかじゃ―――――ー」

 

 

 そう言って一人でどんどんテンションが上がっていくミミさんの姿に

私達は思わずガクリと肩を落とした。

 

 

「え、違うかな?

う~ん……じゃあさ、じゃあさ、天城君は誰かを頼るのが苦手なんじゃないかな?

ほら始めの頃の丈先輩みたいにさ!

……あ、ヒカリちゃんは始めの頃の丈先輩を知らないんだっけ」

 

「はい。私が丈さんに会ったのはヴァンデモンが東京に来た時なので。

……でもその考え、合ってるかもしれませんね」

 

 

 誰かを頼るのが苦手かもしれないと言うミミさんの言葉は何故か私の胸に深く突き刺さった。

私自身もそうかもしれないと思ったからかもしれない。

でも、もしかしたら守谷君もそうなのかもしれない。

何時も一人で行動するのも誰かを頼る方法が分からないから。

だからどうしても自分だけで解決できないこと以外は誰かを巻き込もうとしない。

それがどんなに辛い事でも。

……そんな守谷君に私達が出来る事はないのかな?

 

 そんな事を考えていると何故かミミさんがニヤついた表情で此方を見ていた。

 

 

「ミミさん、どうかしましたか?」

 

「うんん、なんでもない。

それより、天城君って明日の昼から別行動だったっけ?」

 

「はい。そう言ってましたよ」

 

 

 守谷君が私達と一緒にニューヨークに行くと言った日に守谷君はこう言っていた。

『一緒に行くのはいいが、僕にも用はある。

三泊四日の内の、初日と二日目の昼まででいいなら一緒に行動しよう』と。

勿論守谷君にも用事があるのは分かっていたので私とタケルくんはそれを承諾した。

 

 

「その用事ってどんなのか聞いてる?」

 

「えっと、電車に乗って何処かに行くという事しか聞いてませんね」

 

「ふ~ん。そうなんだ。

――――ヒカリちゃん、私いいこと考えちゃった」

 

 

 そう言うミミさんの表情はとても悪い顔をしていた。

 

 



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027 アメリカ旅行 後編

 またもや更新が遅れてしまって本当に申し訳ございません。
……過去の話を見直してみると前書きで毎回謝っていますね。

 今回でアメリカ旅行編は終了です。
ですが、前編、中編に比べて文章が無駄に多い上、読みずらくなってしまっています。
今回の話を書いている時、
アメリカ編を前中後の3つに分けてしまった事を後悔しました。



 ニューヨークに来てから二日目の朝、僕とチビモンは、

ホテルのチェックアウトを済ませ、

ミミ達と落ち合う予定の待ち合わせ場所で皆を待っていた。

荷物は元々リュック一つに入りきるくらいしか持ってきていなかったので、

何処かに預けずに自分で背負っている。

……このままチョコモンの存在を確認しないまま

呑気にニューヨークを満喫するのには抵抗があるが、

今日の午前中までが、事前にミミ達と共に行動すると決めた期限なのだ。

チケットを手配して貰った手前、それを破るつもりは無い。

それに、今日の午後になればそれも終わり。

そうなれば僕達は、電車に乗って『サマーメモリー』という場所に行く。

 

 行ってこの世界が、映画の世界と同じ世界かどうかを確かめるのだ。

もしもこの世界が、映画と同じ世界なら、形は違えどデジヴァイスを持つ選ばれし子供が

チョコモン達の思い出の場所に足を踏み入れれば、必ず接触して来るだろう。

そして、そのチョコモンが敵と判断できた場合、僕は温存なぞ一切考えずに、

ブイモンをウイングドラモンに進化させ、速攻で終わらせる。

もし、その場にウォレスが居て、チョコモンを説得している最中だったとしてもだ。

……アンティラモンはともかく、

ケルビモンに進化されたら勝ち目なんぞ万に一つも無くなるのだから。

 

 そんな事を考えていると、

手を振りながらこちらに近づいて来るタケルとパタモンの姿が見えた。

そろそろ時間か。

僕は先程までの考えを胸の内に隠し、タケル達の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ミミ達とも合流した僕達一行は、昨日途中で中断した観光の続きを終えると、

ニューヨークで全員で取るであろう最後の昼食を取り終わると、駅の近くに来ていた。

 

 

「……では、そろそろ時間なので僕はここで失礼します」

 

 

 時計を見て頃合いと判断した僕は足を止め、全員にそう伝えた。

その言葉に隣にいるタケルは自分の腕時計を見て少しだけ驚いたような表情を見せた。

 

 

「もうそんな時間なんだ。やっぱり楽しい時間は立つのが早いね」

 

「天城君の用事ってどれくらい掛かるの? 終わってから合流とかって出来ない?」

 

 

 ミミの質問に僕はそうですねと考える振りをしながら答えた。

 

 

「電車の往復の時間を考えてもこちらに帰って来れるのは

飛行機の時間ギリギリになりそうなので、やはり無理そうです」

 

「そっかーそれなら仕方が無いわ。じゃあ私と天城君が最後に会うのは空港ね。

―――――じゃあ天城君! 旅、楽しんできてね、ばいばい!!」」

 

「…………はい。では失礼します」

 

 

 ミミ達に別れの言葉を告げ、

僕はぬいぐるみのふりをしたチビモンを抱きながらその場を去った。

そしてミミ達の姿が見えない位置まで来ると、僕は小走りで駅へ向かう。

そんな僕の行動に疑問を持ったのかチビモンが話しかけてきた。

 

 

「どうしたのアマキ? 電車に遅れそうなの?」

 

「いや、そう言う訳じゃないんだけど……嫌な予感がしてね」

 

 

 嫌な予感と言うのはミミ達がこっそり付いて来るのではないかというものだ。

そう思った理由は、ミミとの別れがあまりにあっさりしていたからだ。

ミミの性格から考えて、不法入国をしようとしてまで

海外に来ようとした僕の旅先に興味を持つ可能性は非常に高いと思っていた。

それなのにミミはその事を一度も尋ねなかった。

あえてその質問を避けたかのように。

……それに別れ際に僅かに口元をニヤ付かせていた気もする。

この考えが自惚れ、または自意識過剰な考えから生まれたモノかもしれないが、

少なからず警戒はした方が良いだろう。

 

 僕は駅前のコンビニで二人分の食事を購入すると、

回りにミミ達が居ないか警戒しながら切符を買い、

出来る限り回りから見えない様に列車に乗り込んだ。

その後は、適当に誰も居ないボックス席に座ると、

窓から自分達の姿が見えない様に身を隠しながら電車の出発を待った。

そして電車が発進し、駅が小さく見えるくらい離れた所で僕達はようやく気を抜く事が出来た。

 

 ここまで来ればもう大丈夫だろう。

駅で切符を買う時、周りにミミ達の姿がなかった事から尾行はされていないと思っては居たが、

念の為、ここまで警戒の行動を取った。

……が、どうやら杞憂に終わったようだ。

 

 僕は少し眠そうにしているチビモンに眠たかったら寝ていいよと声を掛ける。

この電車には乗り換え無しに一日近く乗り続けなければならないのだから、

無理して起きている必要は無いからね。

僕の言葉にチビモンは、じゃあ少しだけと言うと、前と隣に席が空いているというのに

そのまま僕の膝の上で眠りについた。

そんなチビモンに僕は小さく溜息を付き、頭を軽くなでると、

リュックから本を取り出し、読み始めようとした。

……が、そこで予想外にも声を掛けられた。

 

 

「あのー相席いいですか?」

 

 

 鼻声の恐らく女性と思われる声が僕に向けられた。

……せっかく寛げる席に座れたと思ったのだが、声を掛けられたのなら仕方が無い。

1秒ほどそんな事を考え、僕はその声の主の方を向いて構いませんと返事を返そうとした時、

ある疑問が脳裏に浮かんだ。

 

――――何故日本語で話しかけられたのか?

 

 ここはニューヨークだ。

それなら普通は英語で話しかけれ来るはずだ。

いくら僕が日本人だからと言って、外国で初対面の人に日本語で話しかけられるだろうか?

……まさか………僕は恐る恐るその声の主の方を向いてみると――――

そこには鼻をつまみながらニヤニヤした表情で此方を見るミミと、

申し訳なさそうな表情をしたタケル達の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして僕の行先まで分かったんですか?」

 

 

 あの後、結局ミミ達と相席する事になり、それぞれ席に着いた。

座席の場所は僕は進行方向と逆方向の窓際で、隣にタケルが座って居て、

正面にはヒカリ、その隣にミミという席順になった。

 

 全員が席に着いて暫くして、僕は正面隣に座るミミにそう尋ねた。

先程ミミ達にどこに行くのか分かっているのかと尋ねると、

ピタリと僕達が降りる予定の駅名を当てられた。

乗っている電車を特定されたのはともかく、行先を見事に当てられたことに疑問を覚えた。

 

 僕の質問にミミは、それはねとニヤリと笑いながら答えた。

 

 

「テイルモンに、駅の天井の柱の裏から天城君が何処行きの切符を買うのか見張っててもらったの!」

 

 

 ミミの言葉に僕はミミ達にお構いなしに大きな溜息を付いた。

そこまでするか。純粋に僕はそう思った。

流石にヴァンデモンの手下という闇の世界で生きてきたテイルモンに

そんな隠密行動をされたら気付ける筈が無い。

……という事は、さっきまで僕がしていた警戒の行動は全くの無意味だったという事か。

そう思うと自然と溜息が出た。

 

 明らかに不機嫌そうな態度を取った僕にタケルは乾いた笑い声を、

ヒカリは物凄く申し訳なさそうに謝罪してきた。

先程のテイルモンの行動から考えて、ヒカリもこの尾行作戦に関わっていたのだろう。

……まあミミに頼まれて断れきれなかったんだろうが。

僕はヒカリにもう気にしていないと返した。

 

 

「それで天城君はそこにどんな用があるの?

あそこは結構田舎で、観光になりそうなモノは無い筈だけど」

 

「…………古い知人に会いに行くんですよ」

 

「へぇー、守谷君って外国に会いに行くほどの知り合いが居るんだ。

もしかして僕と同じで何処かのクォーターだったりする?」

 

 

 タケルの問いに僕は多分違うと返事を返す。

髪の色も瞳の色も黒なので、そうでは無いと思うが、

両親がどうか知らないので、実際はどうなのか分からないからね。

 

 

「……それでミミさん達は僕の旅の目的まで聞いてまだ付いて来るんですか?」

 

「うーん……私はどうせ暇だし付いて行くわ。

こんな機会が無いとそんな田舎行く事ないと思うし」

 

「……ミミさんはともかく、二人はどうするんだ?

観光に来たんならもっと行くべき場所はある筈だが」

 

「僕はもう行きたい場所は昨日と今日で全部回ったから守谷君に付いて行くよ。

守谷君とはもっと仲良くなりたいし」

 

「私もタケル君と一緒で、行きたい場所はもう行ったから。

それに外国の田舎がどんな風なのか興味があるわ」

 

「…………そうか。ならもう好きにしてくれ」

 

 

 密かにある計画を練りながら僕はタケル達に投げやりにそう伝えた。

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideタケル

 

 僕達が改めて守谷君の旅に付いて行くと決まった後は、色んな話をした。

ミミさんのニューヨークでの学校生活や、

ミミさんが海外に行っていたせいで来れなかった集まりでどんなことをしたのかとか。

後、どんな歌手が好きなのかっていうのも話した。

ミミさんは海外の歌手の名前を挙げたのでどんな人か分からなかったけど、

ヒカリちゃんの挙げた歌手の名前は僕もミミさんも知ってたから結構盛り上がった。

最後に守谷君に聞いてみると、以外にも好きな歌手が居たようで、

その名前は僕達も知っている有名な人だった。

……守谷君の事だから音楽に興味は無いと返されると思ったから内心びっくりした。

守谷君の意外な発表が終わると、突然何故かミミさんがその歌手の歌を歌い出した。

そこで歌声がその歌手とそっくりだという事を知り、そこでも大いに盛り上がった。

 

 その後は、僕達が初めてデジタルワールドに行った時の話をした。

僕の話にミミさんは、そんな事もあったなーと懐かしげな表情で聞いていた。

ヒカリちゃんも当事者だけど、始めの方はメンバーに居なかったので、

僕の話に凄い真剣に聞いていた。

守谷君は――――視線を下に落とし目を閉じながら話を聞いていた。

寝ている訳では無かった。声を掛ければ普通に返事を返してくれたから。

きっと何か思う事があるんだろうと思った。

……何を思ったかは見当も付かないけどね。

 

 そんな風に色々話して時間を潰していると、

突然守谷君がトイレに行くと言って席を立った。

トイレに行くこと自体は別に普通の行動なのでその時の僕達は、

守谷君の行動に殆ど気に掛けずに話を続けていたけど、

一時間位時間が経っても守谷君が帰って来ない事にヒカリちゃんが気付いて

ようやく僕達も、守谷君が全然帰って来ない事に気が付いた。

 

 

「そういえば守谷君まだ帰って来てないね」

 

「お腹でも壊したんじゃない?」

 

 

 ミミさんの言葉に僕も同意で、ヒカリちゃんにそうじゃないかなって返そうとしたけど、

その際に、ふと隣の守谷君が座って居た席を見て、ある事に気が付いた。

 

 

「――守谷君の荷物が無い!」

 

 

 守谷君が座って居た席にはチビモンは勿論、守谷君が背負っていたリュックも無かった。

トイレに行くだけなら荷物を持っていく必要なんて無い筈だ。

それならつまり―――――

 

 僕は席を立ち、電車にあるトイレを全部回った。が、何処にも守谷君達の姿は無かった。

そこで守谷君がどうしたかが察しがついた僕は、皆の元に戻りその事を伝えた。

 

 

「……守谷君達、何処にも居なかった。

多分、途中でチビモンをライドラモンにアーマー進化させて電車を降りたんだと思う」

 

 僕の言葉にヒカリちゃん達は驚きの表情を浮かべた。

僕自身も、守谷君がこんな方法を使ってまで僕達から離れた事に驚いていた。

くそう! こんなことなら守谷君が席を立つ際ちゃんと見ておくべきだった。

守谷君が自分の荷物を持っていこうとしているのを。

チビモンも付いて行こうとしていた事を。

 

 

「電車から飛び降りてまで一人で行こうとするってなんだかおかしくない?」

 

 

 普段のミミさんならこんな風に出し抜かれたなら腹を立てていたと思うけど、

それ以上に守谷君の行動に疑問を持ったミミさんは静かにそう口にした。

 

 

「そうですね。守谷君が言ってた通り、知人に会いに行くだけならそこまでする必要は無いですね。

それにそうまでして付いて来てほしくないならそう言えばいいのに、

守谷君は付いて来るなとは一言も言わなかった」

 

 

 言ってくれれば、守谷君が知人に会う時は別行動にするつもりだった。

……まあ守谷君の事を考えれば本当は駅までも付いて行かない方が良かったのかもしれない。

けど電車に乗ってしまった上、他に行く予定の場所も無い僕達的にはそれは避けたかった。

 

 ……でも、ここまでして僕達を避ける理由はなんなんだろう?

 

 そんな事を内心考えていると、突然ヒカリちゃんが、物凄い勢いで窓の方を振り向いた。

 

 

「どうしたのヒカリちゃん?」

 

「――――今、泣いているデジモンの声が聞こえた気がしたの」

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タケル達を出し抜き、ライドラモンに乗って電車から飛び降りた僕達は、

そのまま目的地のサマーメモリーの方へ向かっていた。

 

 

「アマキ、そのサマーメモリーって場所は後どれくらいで着くんだ?」

 

「このまま休まずに行けば、日付が変わる前には着けるけど、そこまで急ぐ必要は無いよ。

途中で休憩や睡眠をとりながら明日の朝位に着けるようにしよう」

 

 

 休まず体力を消費して向かって、

そこに暴走したチョコモンが居て、戦闘になって負けてしまったら元も子も無い。

故に休憩は必須事項だ。

 

 ……まあ、この二日間、チョコモンが現れる前兆は一切感じられなかったから、

もしかしたら本当にこの世界にはチョコモンが騒ぎを起こすような事は起きないかもしれないけどね。

もしそうだとして、更にチョコモンがウォレスというパートナーから離れることなく、

真っ直ぐに成長していたとしたら、この先の戦いに協力して貰う様に話してみようか?

ウォレスは、大輔にそっくりだとウォレスのもう一体のパートナーデジモンは言っていたから、

もしかすれば事情を話せば協力してくれるかもしれない。

 

 ……いや、まだ楽観的に考えるのは早い。

チョコモンが現れなかったのも、時期が違うという理由なのかもしれない。

この世界は既に、原作と大きく違ってしまっている。

その影響でタケル達の旅行の日付がズレてしまっただけかもしれない。

 

とにかく今はそんな事を考えずにサマーメモリーに向かうとしよう。

そこに行けばきっと何か分かるはずだ。

サマーメモリーに行ってチョコモンがウェンディモンの姿で現れれば、十中八九原作と同じ展開になるだろう。

サマーメモリーに行っても何も起きなければ、7割位の確率でこの世界ではチョコモンが行方不明になって居ない、またはチョコモンがそもそも存在していないと予想できる。

もしもサマーメモリーに、ウォレスと、グミモン、そしてチョコモンが居て、一緒に遊んでいるなら、

この世界では彼等は幸せに過ごせていたという事が分かる。

 

――――出来れば3つ目の予想であって欲しい。

ライドラモンに乗ったまま、僕は密かにそう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ここがサマーメモリー」

 

「――――凄い綺麗だね!!」

 

 

 途中野宿をしながらも大方予定通りの時間に目的地に着いた僕達は、

目の前に広がる光景に圧倒されていた。

足元は見渡す限り名前も分からない美しい花で埋められていて、

その向こう側にはこの花畑を囲むように山が存在し、

この場所が本当に地球上に存在する場所なのかと疑問を覚えた位、

幻想的な空間だった。

 

 

「――――ブイモン」

 

 

 僕の呼びかけにブイモンは首を横に振った。

 

 

「やっぱりデジモンの気配は感じないよ」

 

 

 ブイモンの言葉に、僕はそうかと返した。

……少なくともここから見える範囲の花畑は荒れたような形跡が一切見られない。

ウェンディモンに進化したチョコモン程のサイズのデジモンがこの花畑を歩けば、

目で見て分かる程その場所の花は潰れ、大きな足跡が残るはずだ。

それが無いという事は少なくとも大型のデジモンが最近現れたという事は無いのだろう。

 

僕は再び辺りを見回した。

そこには先程と同じく、美しい花畑が見渡す限り広がっていた。

僕は漠然とその美しさに疑問を覚えながらも、ブイモンと共に花畑に入って、

探索を始めた。

 

 そして探索を始めてから5時間後、ブイモンがもう飽きたと言わんばかりの様子で話しかけてきた。

 

 

「アマキ~オレ、疲れたよ」

 

 

 5時間も、ただ単に花畑を歩き回るという行為に流石にブイモンも痺れを切らしたのだろう。

普段は5時間以上修行しても泣き言を言わないのにその姿には疲労が見て取れた。

まあ正直に言って僕もこの行為に意味があるか疑問を覚え始めた所だった。

探索を始めてからずっと花畑を歩き回っていたが、チョコモンが現れる様子は無かった。

……これが映画と違って、チョコモンがウォレスと離れ離れになっていないという事を意味するのかはまだ判断できない。

……いや、ウォレスの持つデジヴァイスとは違うといえ、デジヴァイスを持っている僕が

この彼等の思い出の場所を歩き回っても姿を現さないという事は、

やはり映画とは違う展開になっているのだろうか?

 

 

「帰ろうかブイモン」

 

 

 ハッキリ言ってまだチョコモンが騒動を起こさないとは100%は断言出来ない。

だがここまでこの場所を歩き回って現れないならこれ以上ここに居ても時間の無駄だろうと、

そう考えた結果だった。

……いや、本当は心の何処かで、この世界は映画の様な展開が起きないんじゃないかと思い始めていたのだ。

―――――だが、そんな甘い考えはすぐさま捨てる事になった。

 

 

 

「おーい、天城君ー!!」

 

 

 突然上空から僕を呼ぶ声が聞こえて来た。

声が聞こえた方を見てみると、そこには、ネフェルティモンに乗っているヒカリと、ミミ。

ペガスモンに乗っているタケルの姿があった。

 

 ミミ達の姿を見た僕は、初めはここまで追いかけて来るなんてと、

呆れたように肩を落としたが、ある事に気が付き、思考をフル回転させる事になった。

それは、『どうしてミミ達はこの場所が分かったのか?』という事だ。

 

 行先は絶対に話していない。それは確かな筈だ。

それならミミ達が知っているのは僕が降りる筈だったこの場所の駅名だけだ。

そして、この場所は駅からかなり離れている。

仮にここで戦いが起きても気付かないと思えるくらい距離が離れて居る上、

現在の時刻は12時過ぎ。

ミミ達が乗っていた電車が駅に到着する予定時刻は11時半くらいだった事を考えると、

ミミ達は電車を降りて30分程でここに来たという事になる。

……ペガスモン達のスピードを考えればあり得ない話ではないが、

それは一度も止まらずにこの場所に向かってきた場合の話。

僕の行先を知らないミミ達では出来ない行為の筈なのだ。

 

 ネフェルティモンとペガスモンは僕達の前に降りると、

ミミ達を下ろし、進化を解いた。

そしてミミが、少し口を膨らませながらこちらに歩いて来た。

 

 

「天城く~ん……どうしてミミ達を置いて行ったの?」

 

「それについては本当にすいません。でもどうしてこの場所が分かったんですか?」

 

「それはヒカリちゃんのお蔭だよ」

 

 

 後ろからタケルが話に割り込んできた。

 

 

「八神さんの?」

 

 

「うん。ヒカリちゃんが電車で、『泣いているデジモンの声を聞いた』らしいんだ。

それで気になって、ヒカリちゃんがその声の元を辿――――――――

 

 

 そう言ってタケルは話を続けていたが、僕の耳には入らなかった。

今、タケルは、ヒカリが泣いているデジモンの声を聞いたと言った。

それが意味するのはつまり――――

 

 

「――――ブイモン!!」

 

 

 普段出さないような大声で隣に居るブイモンの名を呼ぶ。

その声にブイモンは質問を返したりする事なく只飛び上がった。

飛び上がった瞬間に一瞬で光を纏い、

そして僕の前に着地する時にはその姿はエクスブイモンの姿となって居た。

その余りの進化スピードにテイルモンとパタモンは驚いたような声を上げたが、

それに反応している余裕は僕にはない。

 

 ……ヒカリが電車で聞いた声は、十中八九劇場版と同じでチョコモンの泣き声だろう。

そしてその気配を辿ってヒカリ達が来たという事は、ここにチョコモンが居るという事だ。

そう思って辺りを見回すが、気配は感じられなかった。

 

 

「八神さん。そのデジモンの気配は何処から感じる?」

 

「え? えっと、さっき私達が空から守谷君を呼んだときに守谷君が居た場所辺りからだと思う」

 

 

 さっきまで居た場所……

僕はその方を凝視するが、変化は見られなかった。

……いや違う。先程までと違い、その場所に明らかに何らかの違和を感じ取る事が出来た。

さっきまでは何とも思えなかったのに何故?

 

 

「……高石、八神さん。今すぐミミさんを連れてここから離れてくれ」

 

 

 自分を落ち着かせるために静かな声でそう告げる。

今まであの辺りは何度も通ったが、チョコモンが現れる様子は無かった所から、

恐らく現地点では敵意は無いのだろう。

だかそれがいつまでも続くとは限らない。

仮に戦いになったのならタケル達は足手まといにしかならないのだから、

ここは引いて貰いたかった。

 

 

「…………」

 

 

 だが、タケルはその言葉に返すことなく、D3を取り出し、

僕の隣に立った。

 

 

「守谷君、ヒカリちゃんが聞いたデジモンの声の持ち主って悪いデジモンなの?」

 

「……アイツが僕の探していたデジモンならその可能性は高い。

そいつは本来なら善の存在になり得たデジモンだが、今はもう暗黒のデジモンと言った方が相応しい存在だ」

 

 

 タケル達にこれ以上ここから離れろと言った所で意味は無いだろう。

僕はそう結論付けると、ゆっくり一歩ずつエクスブイモンと共にその気配の元へと近づく。

……こうなればタケル達に被害が出る前に速攻でケリを付けるしかない。

そう考えながら進む僕に、タケルもパタモンをペガスモンに進化させ、無言で付いて来る。

そうして一歩ずつゆっくりその気配の元へ近づいて行く僕達の前に、突然ヒカリが両手を広げて立ちふさがった。

 

 

「……何のつもりだ?」

 

「……あのデジモンは泣いてた。すっごく悲しそうな声で誰かを探してた。

あのデジモンは悪いデジモンじゃないと思うの。

だからそんな表情であのデジモンに近づいてあげないで。

今守谷君凄い怖い顔してる」

 

「元々こんな顔だ」

 

「違うわ。守谷君は普段は…………何処か遠くを見ているような悲しい表情をしてる。

でもミミさんのお蔭か、この二日間はもっと良い表情をしてたわ。

少なくとも今みたいな怖い顔はしてなかった」

 

「あのデジモンに敵意が無いと分かればすぐにでも止める。

だがそれが不明な今はそんな風に気を抜いてる余裕はない、

そこを退いてくれ」

 

「ダメ、その顔を止めるまでは退けない」

 

「……下手をすれば全滅だってあり得「ねぇ、ヒカリちゃん! 本当にこの辺りに居るの?」

 

 

 ヒカリとひと悶着していると、そう言うミミの声が聞こえて来た。

その声の方を見てみると――そこは何かの気配を感じる場所のすぐ前だった。

 

 

「っっ!!」

 

 

 僕はヒカリを避け、全速力でミミの元へと向かう。

そんな僕の様子をミミは一切気にしないで、捜索を続けた。

 

 

「ねぇ! 居るんなら出て来なさいよ!

私は選ばれし子供。泣いているデジモンが居るなら相談位には乗って上げるわ!」

 

 

 自分のデジヴァイスを前に掲げながらそう言うミミ。

……すると何処から声が聞こえて来た。

 

 

『お前は…………ウォ……レ……じゃない』

 

「ウォ……って誰の事? いいから姿を現しなさい!」

 

 

 唸り声の様な低い声で突然話しかけられたのにも関わらずミミはそう返す。

するとミミの言葉に従ったのか、黒い影の様な姿ではあるがその声の主がミミの前へ姿を現した。

そこでようやくミミの元へ辿り着いた僕達もその姿を正面から確認する。

そのデジモンの姿は、

黒い影の様な姿をしていて元のデジモンのシルエットしか分からなかったが、

僕にはそれだけで判断出来た。

ぬいぐるみの様な大きさで、両端に手の様に長い耳が付いていて、

頭に大きな角が付いている。

このデジモンは映画で騒ぎを起こしたデジモンのロップモン。

つまりチョコモンだ。

 

 

「か、か、可愛い!!」

 

 

 そのチョコモンの愛くるしい姿に胸を打たれたのかミミは、チョコモンに近づき、

抱きかかえようとしたが、それは叶わなかった。

ミミがチョコモンに触れようとしたその時、ミミの手がチョコモンの体をすり抜けたのだ。

 

 ……どういう事だ、と一瞬思ったが、直ぐに理由が分かった。

恐らくチョコモンは、映画の様に、この世界とデジタルワールドとは違う世界を持っていて、

現在はそこに実体を置いているから触れないのだろう。

 

 その事が分からないミミは、すり抜けた事を理解出来ずに

純粋に目の前に居る可愛い存在に触れなかったことが相当悔しかったのか、軽く泣いていた。

 

 

「一体どういう事?」

 

 

 遅れて僕達の元へ辿り着いたヒカリ達はその光景にそんな言葉を漏らした。

だがその疑問に誰も答える前に、チョコモンが再び口を開いた。

 

 

『お前はウォ……スじゃない。

ウォ………と、同じデジヴァイスを持っているけど違う』

 

 

「デジヴァイスを持ってるってことはそのウォ……って選ばれし子供って事?

うーん。でも私達以外に選ばれし子供って確か、

昔に選ばれし子供に選ばれた5人しかいない筈だからその内の一人かしら?」

 

 チョコモンの言葉に早々に立ち直ったミミがそう言葉を漏らした。

ミミの言葉にタケル達もそうですねと何の違和感もなく返していたが、

僕にはミミの言葉にどうしても無視出来ない点があった。

 

 

「ミミさん。

選ばれし子供って僕達と昔選ばれた人以外に居ないんですか?」

 

「? ええそうよ。

私達と昔の5人以外居ないって前にゲンナイさんから聞いたって光子郎君が言ってたわ。

実際私も他の選ばれし子供にあった事ないし」

 

「そう…………ですか」

 

 

 ……現在のデジタルワールドの様子から考え、正直その可能性が有るとは思っていたが、

実際にそうだと思うと気が重くなった。

が、今はその事に肩を落としている場合では無い。

今は目の前のチョコモンをどうするかを考えるべきだ。

現在は敵意の様なモノは一切感じられないが、

何故か嫌な予感がしてならない。

 

 

「ねぇ、貴方はその子と逸れちゃったの?

だからそんな悲しそうな声で泣いていたの?」

 

 

 ヒカリがしゃがんでチョコモンに出来る限り視線の高さを合わせながら尋ねた。

その時僕はこのチョコモンをどうするべきなのか考えていた。

現在はこうやって意思の疎通が出来る程度には理性が残っている。

だがそれがいつまで持つかは分からない。

倒そうにも今は別世界に肉体が存在するのか、

触る事が出来ない。さてどうしたものか……

 

 

『――――違う』

 

 

 チョコモンのその言葉で僕の思考が止まった。

 

 

『――――違う』

 

 

 何故違うのか?

チョコモンは、はぐれてしまったウォレスを探している筈だ。

 

 

『――――違う――違う――ー』

 

 

 映画のチョコモンはそうだったはずだ。

だからこのチョコモンもその筈なのに。

 

 

『違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!』

 

 

 突然のチョコモンの憎しみのこもった声に僕達は一歩後ずさった。

 

 

『ボクがウ……レスと逸れたんじゃない!

アイツがウォレ……を連れて行ったんだ!!

………モンが……………コモンが………チョ……モンが………チョコモンが!!』

 

「――――チョコモンだと!?」

 

 

 そのデジモンの言葉に僕は驚愕の声を上げた。

何故チョコモンがチョコモンに連れて行かれたと口にした?

何故、映画ではあそこまで意思疎通できなかったのに今こうして会話が出来ているのか?

僕は目の前のデジモンがチョコモンの成長期のロップモンだと思っていた。

色は真っ黒でシルエットしか分からなかったが、見た目の特徴と、事前情報からそう判断していた。

だが、良く考えれば、映画にはロップモンに似たデジモンが登場していたではないか。

そう思った僕は、そのデジモンを正面からでは無く、横に回って見た。

そのデジモンの額には、正面からでは判断できない合計三つの角があると思っていたが、

実際には一つしか存在しなかった。

 

 

「お前はまさか………グミモンか?」

 

『――――どうしてボクの名前を知ってるの?』

 

 

 チョコモン……いや、グミモンがそう返した瞬間、グミモンの姿に色が付いた。

全体的に白と緑のカラーリングをされ、体が半透明に透けているテリアモンの姿が目の前に存在した。

 

 

「……グミモン。お前の探しているパートナーのウォレスは、チョコモンに攫われたのか?」

 

『! うん! ボクとウォレスがここに来て昔行方不明になったチョコモンを探してたら、

突然ウォレスの後ろに大きな影が現れて、そこから大きな黒い不気味なデジモンが出て来たんだ。

その姿にボク達は一瞬戸惑ったけど、そのデジモンがチョコモンだとすぐ分かった。

ウォレスはチョコモンが戻ってきたって喜びながらチョコモンに抱きつこうとしたんだけど、

ボクは何か嫌な予感がして、ウォレスを止めようとしたんだけど……

気付いたらウォレスもチョコモンも居なくなってたんだ。

多分、チョコモンがあの黒い影にウォレスを連れて行ったんだと思う』

 

 

 グミモンの言葉を聞いている途中で、グミモンの足元の地面に何か違和感を覚えた僕は、

しゃがみ込んでその地面を調べ、ある事に気が付いた。

 

 

「……グミモン、チョコモンが現れたのは何時頃だ?」

 

『ついさっきだよ! 今日ボクとウォレスはここに来て、そしてチョコモンに襲われたんだ!』

 

「…………そうか」

 

 

 僕はしゃがみ込んだままグミモンにそう返す。

そんな僕の様子に、グミモンは、僕に言っても自分の願いを聞き入れて貰えないと判断したのか、

僕から視線を外し、ヒカリ達の方を見つめた。

 

 

『お願い! ボクと一緒にウォレスを探して! きっとまだ遠くには行って無い筈だから!』

 

 

 お願い……! そう必死に口にするグミモンの姿に、ミミ達は顔を見合わせ、頷いた。

 

 

「分かった。君のパートナー探しに協力するよ」

 

『ホント!?』

 

「ええ。同じ選ばれし子供として、放っておけないわ」

 

「そうそう! 大丈夫よ、ミミ達に任せたら貴方のパートナー何てすぐ見つかるわ!」

 

『ありがとう!』

 

 

 ウォレスと一緒に探してくれると言ってくれたミミ達にグミモンは嬉しそうにほほ笑んだ。

……さて、話はここまでにするか。

 

 

「……じゃあ、何か分かったらまたここに来る。

それまでグミモンも心当たりがある場所を探しててくれ」

 

『分かった! じゃあよろしくね!』

 

 

 グミモンは、そう返すと、一瞬でその姿を消した。

まるで初めからそこに居なかったと言わんばかりに。

 

 そんな不可解な現象にミミ達は何も思わなかったのか、

これからどうやってウォレスを探すか話し合っていた。

……この空気で言うのはかなり気が引けるが仕方が無い。

事の真実にいち早く気が付いた僕は、

出来る限り冷たい態度でミミ達に言い放った。

 

 

「何をしてるんですか? もう僕の用事は終わりましたから帰りましょうか」

 

 

 突然の僕の言葉にミミ達は何を言っているだコイツといった表情をしていた。

 

 

「守谷君……何を言ってるの? 僕達は今から攫われたグミモンのパートナーを探すんでしょ?」

 

 

 タケルの言葉にミミ達はその通りだと言わんばかりに深く頷いた。

その反応に僕は小さく溜息を付いて、さっきまでグミモンが居た足元にしゃがみ込んだ。

 

 

「……ここをよく見ろ」

 

 

 そう言いながら、僕はその辺りの花を少しだけ抜く。

――――するとさっきまでは見えずらかった、大きな足跡の跡がくっきりと見えた。

 

 

「この足跡は?」

 

「グミモンとそのパートナーを襲ったデジモンの足跡だ」

 

「……? そうなんだ。でもそれがどうかしたの?

別にそのデジモンの足跡がある事自体は変な事じゃないと思うんだけど……」

 

 

 タケルの言葉にミミ達も同意するように頷く。

だが、テイルモンだけは僕の言いたい事に気が付いたのか、

目つきを鋭くしてジッとその足跡を見ていた。

そんなテイルモンの様子に気が付いたヒカリはテイルモンに尋ねた。

 

 

「どうしたのテイルモン?」

 

「……おかしくないか?」

 

「おかしいって何が?」

 

「……グミモン達を襲ったデジモンの足跡がある事自体は何らおかしくない。

それがある事は、実際にグミモンが言った事が嘘じゃないと言う証明になるからな。

だが……グミモンは、このデジモンに襲われたのは今日だと言っていた。

それなのに――――どうしてそのデジモンの足跡の上に花が咲いていたんだ?」

 

 

 テイルモンの言葉にヒカリ達は驚愕の表情を浮かべた。

そしてテイルモンを含め、その全員の視線が僕に向けられる。

僕はその理由を説明すべく、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「理由は簡単だ。

グミモン達が襲われたのが今日では無いと言う事だ。

少なくとも……花が潰されてからそこに種が落ちてまた咲き始めると考えて、

最低でも――――1年くらい前という事になるな」

 

「一年前って……! ならどうしてグミモンは今日攫われた何て嘘を付いたの?

そんな嘘を付く必要なんて無いじゃん」

 

「それも簡単です。

グミモンは嘘を付いているつもりなんて無いんですよ。

グミモンにとってはパートナーが攫われた日は今日なんです。

正確に言えば、グミモンの時間は、その日から一日たりとも動いていないという事です」

 

「動いていないってどうして?」

 

「――――死んでるからだよ」

 

 

 僕の言葉にタケル達は再び驚愕の表情を浮かべた。

そしてタケルはその言葉を真っ向から否定して来た。

 

 

「嘘だ! デジモンは死んだらデジタマになるはずだ!」

 

「それはデジタルワールドでの話だ。

こっちで死んだデジモンは基本的にデジタマになることはない。

それとも高石達はこっちで死んだデジモンのデジタマを一つでも見た事があるのか?」

 

 

 僕の言葉にヒカリとタケルは俯いた。

……二人ともこの現実世界でデジモンが死ぬ瞬間をその目で見た事があるのだ。

そしてその際にデジタマが生まれなかったことも見ている筈。

だからこそ僕の言葉に二人は返す事が出来なかった。

 

 

「さっきミミさんがグミモンに触ろうとした時にすり抜けたのもそう言う理由です。

……そしてハッキリ言いますが、

一年以上前に攫われたグミモンのパートナーは……もう生きてはいないでしょう」

 

「――――生きてないって…………死んだって事?」

 

 

 タケルの言葉に僕はコクリと頷く。

 

 

「詳しくは説明しないが、僕はそのデジモンがどういうデジモンなのかを知っている。

そいつは、僕の知る限りデジモンの中でも唯一リアルワールドともデジタルワールドとも違う

自分の世界を作りだせるデジモンだ。

そしてその世界は、こちらから感知する事は不可能な上、中からも脱出する手段はほぼ存在しない。

そんな世界に一年も前に連れて行かれたグミモンのパートナーが生きていると思うか?

凶暴で狂っているデジモンと二人きりな上、目の前でグミモンを殺されたそいつが、

大人しく一年以上もそのデジモンと生きて一緒に居れると思っているのか?」

 

 

 食料も無いだろうしな、と付け加え、ウォレスの生存はあり得ないとミミ達に伝える。

ウォレスが生きているかもしれないと思わせてしまったら

ミミ達は必ずウォレスを捜索するだろう。

それはさせてはならない。

仮にウェンディモンの世界を見つけ、乗り込んでしまったら、

ほぼ確実にウェンディモンが現れ、

自分とウォレスとの二人だけの世界に足を踏み入れられたことに怒り、

究極体へと進化するだろうから。

 

 ……ハッキリ言うと、ウォレスは今も生きているだろう。

ウォレスを殺すなどウェンディモンがする筈が無いのだから。

仮に誤って傷を付けてしまったとしてもその場所はウェンディモンの世界だ。

その世界の性質から考えて、ウォレスの傷を無くすなど造作もないだろう。

…………まあ体が無事でも心は無事だとは思えないが。

 

 

「それならグミモンはどうするの!?

グミモンは今もパートナーを探してるのよ!」

 

「放っておくしかないですよ。

現実世界で死んだデジモンはデジタマになれない。

デジタマになれないという事は生まれ変わることも出来ない。

……本来なら、こうして姿を現す事も無い筈なんですが、

余程強い思いを持っていたんでしょう。

残酷にもグミモンは不完全ながらもこうして明確な意思を持って形を得てしまった。

現状でグミモンを救う手段はグミモンのパートナーを連れて来ることですが、

彼が死んでいる以上それも出来ない。

放っておくことしか出来ないんですよ」

 

「そんなの…………可哀そうだよ」

 

「…………君達が本当にグミモンを救いたいのなら一刻も早くデジタルワールドを平和にするしかない。

デジタルワールドを平和にし、生まれ変わりのシステムを再調整する事が出来れば、

現実世界で死んだデジモン達も生まれ変われるように出来るかも知れない」

 

 

 ヒカリ達にグミモンを救えるかも知れない手段を伝えると、

僕はヒカリ達に背を向けながら駅の方へ歩き出した。

これ以上この事に関して話す事は無いと示す為に。

ブイモンと二人で歩き出した僕達にミミ達は、少しの間その場所に無言で留まっていたが、

最終的にグミモンが居た場所を申し訳なさそうに見つめながら僕の後を追ってきた。

 

 

「――――ごめん」

 

「ん? アマキ今何か言った?」

 

 

 僕の小さな呟きを聞いていたのか隣にいるブイモンがそう尋ねてきたが、

何でもないと返した。

 

 ……今僕が謝ったのはここに居る誰かに向けてでは無い。ここに居ない人間、ウォレスに対してだ。

さっきも言った通り、ウォレスはきっと今も生きているだろう。

ウォレスは、自分以外に選ばれし子供が居る事を知らないが、それでも今なお助けを待っているかもしれない。

――――それを理解した上で僕はウォレスを助けに行かない。

理由は単純に、助けに行けば僕にとって不都合な事が起きるからだ。それ以上の理由は無い。

あったとしてもそれは言い訳にしかならない。

……僕はウォレスを見捨てる。自分の目的の為に。

僕の望んだ未来の為に。




 ウォレスファンの方、
このような結果になって申し訳ございません。


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028 選ばれし子供達の判断

 今回は要らない回かもしれません。


 後、今更ですが君の名は。を見に行きました。
感想を一言で言うと、美しい映画でした。


sideヤマト

 

 

「――――以上が、僕達がアメリカで知った選ばれし子供とそのパートナーの話です」

 

 

 タケルはそう言うと、一気に話して疲れたのか少しだけ息を付くような素振りを見せた。

が、その表情は昨日から変わらず暗いままだ。

……まあそんな体験をしたのなら無理もないだろう。

 

 今日、俺と太一と光子郎は、昨日、

帰国して早々話したい事があると言うタケル達の言葉を叶えるべく、太一の家に集まっていた。

その時からタケル達の様子が少しおかしかったので何かあるとは思っていたが……

まさかそんな事が起きていたとは。

 

 

「成る程、そんな事が」

 

 

 タケルの話を聞いて、ある程度自分の考えがまとまったのか、

黙りこんでいた光子郎がそう口にした。

 

 

「……光子郎さん、私達このデジモンを助けたいんですけど、

どうにかなりませんか?」

 

「そうですね。……すみませんが、守谷君の言う通り、現状では厳しいと言わざるを得ないですね」

 

 

 ヒカリちゃんの質問に光子郎はきっぱりとそう返した。

 

 

「まず、ヒカリさん達が出会ったデジモンに関してですが、

そのデジモンは間違いなく死んでいて、現在は幽霊のような状態なんですよね?」

 

「……はい。体が透けてたし、守谷君もそう言ってました」

 

「ではやはり現状でそのデジモンを救うのは難しいです。

僕達は、デジモンは力を使い果たしたりして肉体を保てなくなるとデジタマになって、

はじまりの街に送られる。そして新しく生まれ変わるものだと思っていました。

……ですが、そのデジモンの姿と守谷君の証言から考えると

それはデジタルワールドでのみ起きる現象の様ですね」

 

「……確かに、今考えてみれば、

この世界でヴァンデモンに殺されたパンプモンとゴツモンは…………

デジタマにはならずに消滅していた」

 

「……ヒカリを庇ったウィザーモンもな」

 

「恐らく守谷君の言う通り、

デジタルワールドで死んでいない以上彼等も生まれ変われていないんでしょう。

そして彼等を救うには……これもまた守谷君の言う通り、

デジタルワールドの生まれ変わりのシステムを変えるしかなさそうですね。

…………それに守谷君は否定していますが、もしかするとその選ばれし子供は―――――――」

 

「……その選ばれし子供がどうかしたんですか?」

 

 

 突然言葉を止めて固まった光子郎にタケルがそう言って話しかけた。

その言葉に光子郎は、はっと我に返ったが、少しだけ様子がおかしかった。

 

 

「…………いえ、何でもないです。

――――それにしても外国とは言え、僕達以外に選ばれし子供が居たとは」

 

「確かにな。でも前にゲンナイさんは、選ばれし子供は

俺達と前の選ばれし子供以外には居ないって言ってたんだろ?」

 

 

 太一の言葉に光子郎は頷いた。

 

 

「はい。ゲンナイさんは確かにそう言ってました」

 

「……もしかすると俺達に嘘を吐いていたんじゃ……」

 

「……現状で断言は出来ないですが、僕はゲンナイさんは嘘は言っていないと思います。

理由は色々ありますが、一番の理由は、僕達に他の選ばれし子供が居る事を隠す理由が無いからです」

 

「そうだよな……仮に俺達がゲンナイさんから他の選ばれし子供の情報を貰っても、

大した事はしないだろうしな。

……やるとしてもお互いの情報交換のメールのやり取りぐらいか」

 

「はい。

ですので、ゲンナイさんが他に選ばれし子供が居ないと嘘を吐いたとは思えないんですよ」

 

「だとしたら……ゲンナイさん達も知らない選ばれし子供が居て、

そいつがそうだったという事か?」

 

「そう考えるのが自然かと」

 

 

 光子郎の返答に太一は溜息を付きながら無造作に自分の髪をかき乱した。

 

 

「だがアイツは……守谷は、アメリカに他の選ばれし子供が居る事を知っていた。

ゲンナイさん達ですら知らない選ばれし子供の存在をアイツは知っていた。

アイツがデジヴァイスを手にしたのは京ちゃん達と同じくたった4ヶ月前なのに。

訳わかんねぇよ…………一体アイツの情報網はどうなってるんだ?」

 

「もうこれは守谷君に情報を提供する者……

もしくは情報を提供した者が居ると考えるのが妥当でしょうね。

……とにかくこれ以上はいくら話し合っても答えは出ないでしょう」

 

「……そうだな。じゃあ今日はここまでにするか」

 

 

 太一の言葉に俺達も同意した。

そして俺とタケルは、家に帰るべく太一の部屋のドアノブに手を掛けようとした所で光子郎に

呼び止められた。

 

 

「どうしたんだよ光子郎?」

 

「言い忘れていた事がありました。

……今回のアメリカの選ばれし子供達に関する話は京君と伊織君には黙っていて欲しいんです」

 

 

 光子郎の言葉に俺は、僅かに動揺した。

……もし、この事を京ちゃん達に黙っておくことになってしまったら、

確実にタケル達と京ちゃん達の間に僅かながらではあるが壁が出来てしまう。

そうなってしまったら守谷が言っていたジョグレス進化が出来なくなってしまうかもしれない。

 

 

「……そうですね。デジモンに殺された選ばれし子供が居るなんて話言わない方が良いですよね」

 

「……京さん達はまだ、選ばれし子供になったばっかり。

私もそんな二人にこんな話をしてデジモンが怖い存在だと思って欲しくないです」

 

 

 内心そんな事を考えていた俺とは対象に、タケル達もそれに賛同するような態度を見せた。

……これは不味い。

 

 

「……いや、俺は話した方が良いと思う」

 

 

 光子郎達の意見を否定するように俺はそう口にした。

突然の俺の返答に、まさか反対されるとは思っていなかったのか、

光子郎達は驚いた様子だった。

 

 

「確かに今回の件は、かなりのイレギュラーだ。

人間世界に居た選ばれし子供とパートナーデジモンが、

何の前触れも無くデジモンに殺されるなんて事が起きるなんて俺も思わなかった。

そして、そんな話を京ちゃん達にしてしまったら、

選ばれし子供になったばっかりの二人にはそれがイレギュラーな事だと判断出来ずに、

デジモンそのものに恐怖心を覚えてしまうかもしれないということも。

……だけど、それなら尚更二人には話すべきだ。

選ばれし子供というのは、そういう目にあう可能性もあるという事をしっかり知らせ、

それを理解した上で、選ばれし子供として戦ってくれるかを考えて貰うべきだ」

 

「ヤマト……確かにお前のいう事は間違っちゃいない。

だけど、二人の性格を考えろ。

仮に殺された選ばれし子供が居ると知って、それに恐怖を覚えても、

最終的にはアイツ等はきっと選ばれし子供としてパートナーと共に戦う事を選んでしまう。

……自分の中に芽生えてしまった恐怖を解決出来ないままな」

 

 

 ……確かにそうかも知れない。

二人は優しい心の持ち主だ。それこそ俺達の紋章を受け継ぐに相応しいと思える程に。

そんな二人が、危険だからと言う理由で、パートナーの世界を守るのを放棄出来るのだろうか?

……太一の言う通りきっと無理だろう。

 

 

「……太一さんの言う通り、今の二人に話しても、きっと無理して戦う事を選んでしまうでしょう。

それに今回の事件は、デジタルワールドでは無く、僕達の世界で起きてしまっています。

無暗に話してしまったら、二人はデジタルワールドでもリアルワールドでも

怯えながら過ごす事になってしまうかもしれません。

――――現状、そのデジモンが姿を現す可能性が低い以上、今は話すべきではないかと」

 

 

 確かにタケル達の話では、どうやらその選ばれし子供とデジモンは、

初対面では無く、何らかの関係があったようだ。

そうだとしたら、現状で全くの面識がない俺達の前にそのデジモンが現れる可能性は低いと考えていいだろう。

……二人はまだ選ばれし子供になったばかりだ。

俺達の時とは違って、選ばれし子供としてゆっくり成長する時間もある。

……今の二人は、悪のデジモンですら一体も本当の意味で倒した事が無い選ばれし子供なのだ。

…………守谷には悪いが、もう俺にはここに居る全員を納得させる言葉を発する事は出来なかった。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうなったか」

 

 

 僕はヤマトから届いたメールを閉じながらそう言葉を漏らした。

どうやら先程、タケル達は、太一と光子郎とヤマトに今回のウェンディモンの騒動を話したらしい。

……それについては差程問題は無かったのだが、そこから先が問題だった。

どうやらタケル達は、今回の事件を京と伊織に話さない事にしたようだ。

…………その判断は、普通の人からしたら全くもって正しい判断だろう。

この判断は光子郎達にとって、別に都合が悪いから話さないのではなく、

話さない方が二人の為になると本気で思ったからこその判断だろう。

もしも、僕が光子郎達と同じ状況だったのなら僕もその考えを押した筈だ。

……だが、僕は光子郎達とは状況が違った。

 

 ……今回の出来事で、タケルとヒカリは、今まで以上に選ばれし子供として戦うようになるだろう。

リアルワールドで死んだデジモンをどうにかする為に。

……選ばれし子供としては後輩の、京と伊織を危険な目に合せない為に。

 

 何も知らない二人と、より深い闇を知って、それらを自分達だけで抱え込もうとする二人。

そんな二組が心を通じ合わせる事で初めて出来る奇跡『ジョグレス進化』を行えるだろうか?

 

――――無理だろう。

 

 ただでさえ京と伊織は、僕の考えの甘さのせいで、成長フラグを折られている。

それに加え、更にタケル達との壁が出来てしまったら……ジョグレスなんて出来る筈が無いだろう。

……原作にはない、新たに成長する機会を二人に与えれればいいのだが、

そんな事を出来る機会なんて考え付かない。

そして、そんな機会が無い状態で、二人に自分達に足りない何かを伝えられる存在も思いつかない。

 

――――恐らく、もうすぐアルケニモン達との戦いが始まると言うのに現状はかなり悪かった。

 

 ……完全体のダークタワーデジモンが現れたら一度だけタケル達に任せてみよう。

それでジョグレス出来る可能性を感じなかったら――――

…………この世界に帰れなくなるかも知れないな。

 

 

 

 

 



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029 フジテレビに眠る魔法使い

――――8月1日。

 

 それは太一達選ばれし子供達にとって重要な日。

ヒカリを除く7人が初めてデジタルワールドに行った日だ。

そしてこの日は、僕の様なデジモンファンにとってもデジモンの記念日として語られる程の重要な日だった。

 

 ……そんな日を、まさか選ばれし子供として迎える日が来るとは考えもしなかったけどね。

実は今日、ヤマトと空から、皆で集まるから来ないかというメールを貰っていたが、

僕はそれを断っていた。

理由は、太一達の物語をあり得ない視点から知っている僕が、

選ばれし子供達の思い出の日に、選ばれし子供達の思い出話を聞く資格が無いと思ったからだ。

それと、僕にはこの日辺りにやっておきたい事があったのも理由の一つだった。

そして、そのやっておきたい事とは、あるデジモンに会う事だった。

 

 

「アマキ。ここに、そのウィザーモンとかいうデジモンの幽霊が居るの?」

 

 

 僕の腕の中で人形の振りをしているチビモンが目の前にある大きな建物『フジテレビ』を

見上げながら小さな声で尋ねてきた。

僕はその問いに、多分ね、と返すと、フジテレビの中へと入って行った。

 

 僕がここに来たのはウィザーモンに会う為だった。

ウィザーモンは、原作の1999年8月3日、

ここで選ばれし子供を庇って命を落としたデジモンだ。

この世界でも恐らく同じ結末を歩んだのだろうとは思っていたのだが確信は持てていなかった。

が、数日前のアメリカ旅行でのヒカリ達の反応を見る限り、

どうやら原作と同じように死んでいる様だ。

 

 そう判断したからこそ今日僕はここに来ていた。

そして僕がここにウィザーモンに会いに来た理由は二つ。

一つは、彼の知っている情報を話して貰う事。

原作で幽霊として登場したウィザーモンは、

何故かデジモンカイザーの後ろに潜む闇の存在の事を感じ取って居た。

……これ自体は、その闇の正体が自分を殺したヴァンデモンだからという理由で説明出来なくもないが、もう一つはそうはいかなかった。

『闇に飲みこまれた者を本来の姿に戻すには、優しさが黄金の輝きを放つ』

つまりデジモンカイザーを救うには

優しさの紋章から生まれる黄金のデジメンタルが必要だという事をウィザーモンは知っていた。

それはあり得ない事だ。

原作の描写から見るに、ウィザーモンが実体化出来るのは自分が死んだ8月3日から前後4日程。

その上、恐らく自分が死んだ場所からあまり動けないであろうウィザーモンがそんな情報を知って居る筈が無いのだ。

……いや、そもそもこの情報を知る者が居る事自体おかしい。

僕は、その知るはずのない情報をどうやって知ったのかを聞くために来た。

 

 そしてもう一つの理由は、

僕が知る選ばれし子供達にこれから先に必要になるであろう情報を、

ウィザーモンの口から選ばれし子供達に話して貰う為だ。

原作と違い、この世界では大輔が選ばれし子供ではない為、

少なからず原作と違いがあった。

始めはその違いも小さなものだったが、

積み重ねる内にそれはとても大きなモノへとなってしまった。

その中でも僕が最も問題視しているのは、タケル、ヒカリと、京、伊織の関係だ。

仲の良さは原作同様問題は無かったが、互いの距離は原作と違いかなりの差が生まれてしまっていた。

一言で言うなら、タケルとヒカリは、京と伊織の隣を歩いては居るが、

いざと言う時、直ぐに前に立って二人を守る。といった関係になってしまっていた。

……こんな関係ではきっと心を通わせる事で初めて成功するジョグレス進化を成功させる事など出来ないだろう。

だが、僕の口からそんな事を言っても真剣に聞いて貰えないだろうというのは分かりきっている。

だからこそヒカリとタケルが絶対に信用しているであろうウィザーモンの口から

それに関するアドバイスを言って貰いたいのだ。

この先に必要なのは、D3を持つ選ばれし子供同士が本当の意味で共に戦うことだという事を。

……僕の口からこんな事を言っても、お前が言うなと返されるだけだろう。

だから僕の口から伝える事は出来ないのだ。

 

 そんな事を考えていると、目的の場所に着いた。

今いる場所はフジテレビ25階にある球体展望室。

そう、原作の02で、テイルモンと幽霊となったウィザーモンが出会った場所だ。

……ここに来ようと思った時は、一般人の僕がこの場所に入れるかどうか心配だったが……

この場所がお金を払えば誰でも入れる場所でよかった。

しかも入れる時間になったと同時に入ったお蔭で、この場所にはまだ僕達以外の客は居なかった。

……よし、今なら心置きなく声を出せるな。

 

 

「……ウィザーモン。居るんだったら出て来て欲しい。

君と話したい事があるんだ」

 

 

 展望台の中心で周りを見渡しながら声を出す。

……が、反応は帰って来ない。

近くにあったパソコンの画面を見ても、異常は見られない。

……もしも画面がバグったりしていたら近くにウィザーモンが居ると言う証明になるんだが……

 

 

「僕は、守谷天城。新しく選ばれし子供に選ばれた人間だ。

聞こえているなら出て来てほしい。

テイルモンやヒカリ達にも関係する話なんだ」

 

 

 僕はポケットから取り出したD3を掲げながら再び虚空に声を響かせたが反応は帰って来なかった。

腕の中に居るチビモンも僕と同じように声を出そうとしたが、

一応監視カメラとかもあるだろうからチビモンの口を押えて声が出ないようにする。

 

 

「……明日もこの時間に来る。

もしも姿を現してくれる気になったら出て来てほしい。

出来ればテイルモン達がこの場所に来るであろう8月3日までには話がしたい」

 

 

 ……もしかするとウィザーモンは現在実体化する程の力が無いのかもしれないと思い、

取り敢えず今日は帰る事にした。

明日なら今日より命日が近い分、今日よりは実体化出来る可能性が高いだろう。

そして次の日の同じ時間、僕は再びウィザーモンに呼びかけたが昨日同様何の反応も帰って来なかった。

 

 

「……ウィザーモン。

明日、テイルモン達がこの場所にお参りに来る。

出来ればその前に君と会って話をしたいんだ。……これはテイルモン達の命に関わる問題なんだ。

お願いだから協力してほしい。…………また明日同じ時間に来る」

 

 

 僕はそう言って展望台を後にした。

……原作のウィザーモンの性格を考えて、テイルモンの関係者の僕をここまで無視するとは考えづらい。

もしかすると、そもそもウィザーモンに僕の声が届いていないんじゃないだろうか?

原作でも幽霊となったウィザーモンはフジテレビ内の撮影した動画などに映り込み、

必死に自分の存在を証明しながらテイルモンの名前を呼び続けていた。

テイルモンが自分の元へ来てくれるように。

そしてテイルモンが自分の元へ来た時、初めて姿を現した。

その後、テイルモンに自分の知っている情報を話し、再び消えてしまった。

 

 ……今考えると、あの時のウィザーモンは、テイルモン以外の言葉に反応を示していなかった。

まるで全く聞こえていないかのように。

 

 

「もしかすると、幽霊となったウィザーモンは自分をよく知る存在。

――――つまりテイルモン以外と話す事が出来ないのかもしれない」

 

 

 もしも本当にそうだとしたら、ウィザーモンの口から僕の情報を伝えて貰うと言う計画は実行不可能だ。

……また計画を考え直さないといけないかもしれないな。

…………いや、もしかするともうジョグレス進化という奇跡を起こす事が出来ない状況なのかもしれない。

 

 タケルとヒカリの原作との心境の違い。京と伊織の成長イベントを破壊、というように、

僕は多くのミスを犯してしまった。そのツケが回ってきたのだろうか?

 

 ……とにかく明日、もう一度この時間に来よう。

それでウィザーモンと話が出来たのならよし。

出来なかったら……テイルモン達が来るのを待っておくしかないか。

 

 そんな事を考えながら僕達はフジテレビを後にした。

 

――――次の日の8月3日。

今日はウィザーモンの命日だ。

 

 僕は昨日と同じように展望室に入れる時間になって直ぐにここを訪れた。

そして昨日と同じようにウィザーモンに呼びかけたが……結局最後まで返事は帰って来なかった。

だがそうなる事は昨日の時点で想定していたので

気持ちを落とさずにテイルモン達が来るのを待つことにした。

……テイルモン達が来る以上、もう僕はウィザーモンと直接話をするつもりは無いので、

ここに居る必要は無かったのだが、もしもウィザーモンが原作と違い、

別の話を……特に僕に関する事を僕が居ないところで話される可能性があったので、

ここに残る事にした。

 

 そしてテイルモン達を待ち続けてから30分後。

以外にも早くテイルモン達一行はこの場所に来た。

 

 

「…………守谷君?」

 

 

 テイルモンと共に先頭を歩いていたお蔭で、誰よりも早く僕の存在に気が付いたヒカリは、

心底僕がここに居る事が疑問だといった表情で話しかけてきた。

 

 

「八神さんとテイルモン――――だけじゃなく皆さんも一緒ですか。

こんな所で選ばれし子供が全員集まるとは」 

 

 僕の視線の先にはヒカリとテイルモン以外にパタモンとウパモンとポロモン。

そして僕以外の選ばれし子供達全員がそこに居た。

どうやら原作通り全員でここに来たようだ。

……ここで驚いた振りが出来ればよかったのだが、

僕には光子郎を欺けるほどの演技力は無いので、

驚いたような反応は見せず、あえて無表情を貫いた。

そんな僕をテイルモンは心底苛立っていると言わんばかりの睨みを向けてきた。

 

 

「……お前はどうしてこんな所に居るんだ?

ここは―――――――

 

「――――君の友が死んだ場所であり、今日はその命日なんだろ?」

 

 

 僕の様な怪しい奴が、友の命日に、

友の眠る場所に居る事が心底腹ただしいだろうテイルモンに、

僕はせめてからかい半分でここに居るのではないと伝えるべく真剣な眼差しでテイルモンの目を見ながらそう返す。

その後、しばらく無言でお互いの目を見ていたが、このままでは埒が明かないと判断し、

テイルモンの目から視線を外し、ここに居る理由を話した。

 

 

「僕がここに居る理由は君の友が死霊になっていないかを確認する為だ」

 

「死霊……だと?」

 

「……アメリカに居たグミモンの様に君の友達が死霊になってるんじゃないかと考えてね。

グミモンと同じく大事な存在を守ろうとしてリアルワールドで死んだ君の友人。

二人のケースはかなり似ている。もしかしたらと思ったんだ。

そしてそう思ったら確認せずには居られずにここに来たと言う訳だ。

今日が命日らしいしね」

 

「…………ウィザーモンはグミモンの様に死霊となって彷徨ってるのか?」

 

「……それはわからない。

だが、強い思いを残して死んだのなら……何かを伝えるべく留まってるならこの辺りを彷徨っている可能性は高い」

 

 

 僕はそう伝えると、テイルモンとヒカリの前を開けるように移動した。

 

 

「僕が呼びかけてもウィザーモンは現れなかった。

……もしも君達が呼びかけても現れなかったのならウィザーモンは死霊となっては居ないのだろう。

――――だから」

 

「――――分かった。呼びかけてみる」

 

 

 僕の言葉にヒカリはそう返すと、俯いているテイルモンの肩に手を置いて無言で頷いた。

ヒカリの行動にテイルモンも覚悟が出来たのか、ヒカリに頷きを返すと、

ゆっくりと上を見上げた。

 

 

「ウィザーモン! ワタシだ、テイルモンだ。

聞こえているなら姿を現してくれ!」

 

「ウィザーモン! お願い、私達の声が聞こえているなら……!」

 

 

 テイルモンとヒカリはそうやってウィザーモンの名を呼び続けた。

僕はその二人の背中を見ながら、現れたウィザーモンが一体何を話すのかを考えていた。

原作と同じように黒幕の事を話すのだろうか?

それともただテイルモンの前に姿を現して話をするだけなのだろうか?

……もしかしてこの場所に数日間来ていた僕の話をするんじゃないだろうか?

――――もしかして、何処かで手に入れたジョグレス進化のヒントを話してくれたりするんじゃないだろうか?

そんな淡い期待も持ちながら二人の背中を見つめながらウィザーモンの登場を待った。

――――――――が、ウィザーモンが現れる事は無かった。

 

 僕がその事実に驚愕を隠しきれず目を見開くのとは裏腹に、

テイルモンとヒカリは安堵したような笑みを一瞬見せた。

 

 

「良かった……お前は死霊にはなっていないんだな。

……本音を言えば少しお前とは話したかったが…………良かった」

 

 

 テイルモンはそのまま窓の方まで歩き出し、そこに自分が持って来た花束を供えた。

 

 

「ウィザーモン。ワタシはお前のお蔭でヒカリと出会う事が出来た。

そして、お前のお蔭で今もこうしてヒカリと過ごす事が出来ている。

――――本当にありがとう」

 

「ウィザーモン。あの時は私達を助けてくれて本当にありがとう。

……いつかきっとウィザーモンも生まれ変われるように私達頑張るからそれまでちょっとだけ待っててね」

 

 

 二人はそれぞれの想いを口にするとゆっくりと立ち上がり僕の方を振り向いた。

 

 

「……どうしたの守谷君? そんな怖い顔して……」

 

 

 ヒカリの言葉に僕は見開いていた目がいつの間にか誰かを睨むくらい鋭いモノになって居に気が付き、すぐさま普段の目つきに戻した。

 

 

「……何でもない。

それよりどうやらウィザーモンは死霊になっていないようだな」

 

「ええ。本当に良かった」

 

 

 僕の内心とは裏腹に嬉しそうな表情を見せるヒカリとテイルモン。

そんな二人に僕は背を向け、後ろに居る太一達の方へ歩いて行く。

そんな僕に太一達は、何かを察したのかこの後一緒に、と言った話をしてきたが、

僕はそれに無言で頭を下げると、出口の方へ歩いて行った。

が、出口の前でふと立ち止まった僕は、太一達の方を振り向くと、

先程までとは違い笑みを含んだ表情を作りながら口にした。

 

「……皆さん。これから先の戦いはきっと要塞やキメラモンとの戦い以上に激しいモノになると思います。

きっとこの先に必要なのは、選ばれし子供達が……特にD3を持つ者同士が本当の意味で共に戦う事が重要になって来る筈です。ですからお互いの気持ちなどを話し合って今以上に友好を深めるのをお勧めします」

 

 

 そう言い終えると僕は選ばれし子供達の表情を伺った。

……ほぼ全員が呆れたような表情を見せていた。

太一達は声には出さなかったが、何を思っているかは一目瞭然だろう。

 

 僕はそんな太一達の反応に小さく笑みを返すと、再び背を向けてその場を後にした。

 

……ウィザーモンが現れなかったことに関しては原作的に言わせて貰えば問題ない。

既にキメラモンが倒されている以上、ウィザーモンの情報はそれ程重要ではないからだ。

だが最近起こったグミモンの件もあり、僕はこの改変に少なからず恐怖を覚えていた。

原作のウィザーモンがテイルモンに伝えた話の内の一つは既に終わっている。

が、もう一つの話である黒幕の件はまだ終わっていない。

それなのにどうしてウィザーモンはその事をテイルモンに伝えなかったのか?

これが僕が行動したせいで起きた改変なら構わない。

だが、グミモンやウォレス――――ディアボロモンの様に僕が原因では無いとしたら……

そう考えると、とても今回の事を簡単に割り切る事は出来なかった。

 



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030 ダークタワーデジモン

 あけましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願いします!!


 今回からある意味最終章扱いの章に入ります。
ここからは、より原作と比べてキャラの性格がおかしいと思われる場面や台詞が、
増えると思います。


 僕とブイモンが、

タケル達と一緒にデジタルワールドのとある町の復興作業をしている時だった。

ふと、京が大きな荷物を運ぶためにホークモンをアクィラモンに進化させようとしたが、

何故か進化させる事が出来なかった。

その後、試しにパタモン、アルマジモン、

そしてブイモンも成熟期に進化しようとしたが出来なかった。

タケル達はその事に疑問を覚えながらも取りあえずは様子を見ようという事になり、

その問題を後回しにし、

成熟期に進化する代わりにアーマー進化体で復旧作業をすることにした。

 

 

「……アマキ、これって」

 

「……うん、アイツ等の仕業だ」

 

 

 タケル達に聞こえない位距離が離れた所でブイモンが口にした言葉に僕は肯定の言葉を続けた。

この現象は間違いなくダークタワーによるものだ。

一度は機能を失ったダークタワーに再び進化を封じる力が備わった。

それはつまり――――ついにアルケニモン達が動き始めたという事だ。

 

 

「……ブイモン。これから長い長い闘いの日々が続く事になるけど……大丈夫かい?」

 

 

 僕の確認の質問にブイモンは当然と言わんばかりの返事を返した。

ブイモンには謎の女の事をある程度説明している。

説明した内容は、あの女は人間に化けたデジモンで、

ダークタワーを使ってデジモンを作り出せるという事だけだが、現状それ以上の情報は必要ないだろう。

 

 その後、僕達はタケル達の元に戻り、伊織と共に地下で復興作業を行っていると、

突然サンダーボールモンが襲い掛かって来た。

サンダーボールモンの動きがかなり早い事は知っていたので、存在を確認した瞬間、

ブイモンを進化させようとしてみると、普通に進化させる事が出来た。

という事はこいつは十中八九ダークタワーデジモンだろう。

念の為にイービルリング等がはめられていないか確認したが、はめられてはいなかった。

ならこいつは倒すべき敵だ。

……仮に、仮にコイツがダークタワーデジモンでは無いとしても、

ここまで明確な敵意を持って攻撃して来ている以上攻撃しないつもりは無いけどね。

 

念の為、エクスブイモンにサンダーボールモンを倒しきるのではなく、

半殺し位の気持ちで戦ってほしいと伝えると、あのデジモンは操られていないからと、

エクスブイモンに攻撃を止めるように叫び続ける伊織を連れて地上に戻った。

 

 地上に戻ると、エクスブイモン達の戦いの余波で何かが起きたと察したタケル達が

僕達の元へ集まって来た。

そんなタケル達に僕は簡潔に状況を説明した。

 

 

「僕と火田くんが地下で復興作業をしていたら偽サンダーボールモンが襲って来た。

偽サンダーボールモンは、今はエクスブイモンと戦っている。

後数分もあれば倒せるだろう」

 

「偽って? ってそれより倒すって……イービルリングを壊すって事ですよね?」

 

「いや、あいつにはそんなモノははめられていなかった」

 

「じゃあ倒すって――――殺すって事?」

 

「はい―――――ですが、これ以上僕に何か言うよりも前に、あのサンダーボールモンを見てください」

 

 

 僕の言葉に京達は疑問気な表情を僕に向けながらも、

地上から飛び出してなお戦い続けるエクスブイモンとサンダーボールモンの方を見た。

状況は完全にエクスブイモンが優勢で、サンダーボールモンに反撃の隙を全く与えずに攻撃を続けていた。

そんな攻撃を受け続けているサンダーボールモンの体はとうに限界なのか所々体の『内側』が見えていた。

 

 

「あのサンダーボールモン何か変だ!

エクスブイモンに殴られる度に体が割れていって……中の黒い部分が出て来てる。

あの黒い部分は何なんだ?」

 

 タケルの疑問に京達も分からないと言わんばかりに首を傾げていたが、

僕はその黒い部分を見てあのサンダーボールモンがダークタワーデジモンだという事が確定したので、

その事を説明すべく意味深に呟いた。

 

 

「やはりあのサンダーボールモンは偽物だったか」

 

 

僕がそう呟くと、予想通りにもヒカリがそれに対して尋ねてきた。

 

 

「あのサンダーボールモンは偽者ってどういう事?」

 

「言葉の通りあのサンダーボールモンは偽物だ。ダークタワーで作られた、な」

 

「「「ダークタワーで作られた!?」」」

 

「ああ。あの黒い部分が何よりの証拠だろう。

本物のサンダーボールモンの体の中があんな風になってる筈が無いしな」

 

「……ダークタワーを使ってこんな事をする奴なんて……まさか!」

 

 

 現状でこんな事をしそうな存在など一人しか居ない。

その正体にタケル達は僕が言うまでも無く察した。

 

 

「……あの謎の女が動き出したと言う事だな。

――――エクスブイモン! そいつがダークタワーで作られたデジモンだという事が分かった以上、

これ以上戦いを長引かせる必要は無い。止めだ!」

 

 

 僕の言葉にエクスブイモンは軽い返事で返すと、

弱り切ったとはいえ、たった一撃の右ストレートで偽サンダーボールモンを粉砕した。

 

 

「す、すごい」

 

 

 成熟期とは思えない圧倒的な強さを見せたエクスブイモンに思わず誰かが呟いた。

……確かに僕の目から見てもエクスブイモンの強さはかなりのモノだった。

その強さは、恐らくここに居る僕を除く選ばれし子供の成熟期体全員と戦っても勝てると思える程に。

……だが、こんなに強くなったエクスブイモンでさえ、

恐らく完全体のダークタワーデジモンに勝つ事は出来ないだろう。

成熟期と完全体にはそれ程の差があるのだ。

……まあ食い止めるぐらいなら十分可能なレベルだとは思うけど。

 

 そんな事を考えていると、エクスブイモンがこちらに戻って来た。

戻ってくると同時にブイモンに退化して僕の前まで来たので、

僕はそんなブイモンの頭を撫でながら労いの言葉をかける。

そしてブイモンが離れると、今度はタケル達の方を向いて忠告の言葉を口にした。

 

 

「これから先、イービルリングがはめられてなく、

今みたいに意思の疎通が出来ないデジモンが現れ、襲ってきたら、

そいつは十中八九ダークタワーデジモンだろう。

その時は、今のエクスブイモンみたいに全力で倒せ」

 

 

 僕の忠告にタケル達は頷くのを確認すると、僕達はタケル達の前から去った。

考えたい事があったから。

 

……アルケニモン達が動き始めたという事は、黒幕のヴァンデモンが本格的に活動し始めたという事だろう。

それはつまり02最後の章の幕開けという事だ。

……これからは何体もの完全体以上のデジモンと戦う事になるだろう。

だが現状、完全体に進化させる事が出来る選ばれし子供は僕一人だけだ。

正直現状は原作よりも遥かに厳しい。

……そろそろハッキリ決めた方が良いだろう。

 

 タケル達がジョグレス進化させる事が出来ると信じて行動するか、

ジョグレスは無理と考え、微かな希望を信じて完全体に進化出来るようになってもらうか、

それとも……単独で完全体に進化出来る選ばれし子供は僕だけだと考えて行動するかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そして遂に決断の時が来てしまった。

今、僕の居る場所から数十メートル離れた岩場でダークタワーデジモン『ギガドラモン』と戦う選ばれし子供達の姿があった。そこに居るのは、京、伊織、タケル、ヒカリと、そのパートナーデジモンであるホルスモン、アンキロモン、エンジェモン、ネフェルティモンの4体だ。

ホルスモン達は4体で協力しながら戦っていたが、終始ギガドラモンに押されっぱなしだった。

……だがそれも無理はないだろう。何故ならギガドラモンは『完全体』なのだから。

 

 

「アマキ! このままじゃホルスモン達がやられちゃうよ!」

 

「――――分かってる!!」

 

 

 無言で戦いを見守る僕を急かす様にブイモンが僕の服を引っ張りながらそう叫ぶ。

そんなブイモンに僕は大声でそう言葉を漏らした。

 タケル達がピンチなのはもちろん分かっている。

このまま戦いが長引けばいずれやられるのはよく分かっている。

……だが、選ばれし子供達とギガドラモンの戦いは、まだ戦いと呼べる程度には均衡している。

だからこそ……時間がまだあるからこそ僕は未だに悩んでいた。

ここで京達の誰かがジョグレス進化するのを待つか、ブイモンをウイングドラモンに進化させ、ギガドラモンを倒し、

タケル達に完全体に進化出来ると言う可能性をここで示すかどうかを。

……ここで僕達がギガドラモンを倒してしまったら、きっとこの先ジョグレス進化をこの目で見る事は出来ないだろう。だが、だからといって現状で京達がジョグレス進化を成功させる可能性は0に等しい。

それ程重要な京と伊織の成長イベントを僕は奪ってしまったのだ。

 

ジョグレス進化を目指すか、完全体への進化を信じ、今すぐ助けに向かうか。

……二つに一つ。僕が取るべき行動は―――――――

 

――――僕が答えを決断しようとしている時、ギガドラモン達の戦いに変化が起きた。

ギガドラモンの攻撃を躱しきれなかったホルスモンとアンキロモンが攻撃をまともに受け、その場に倒れ込んだのだ。

だが、まだ進化を解除するには至っていない様で、足をふらつかせながらもゆっくり立ち上がった。

ホルスモンとアンキロモンは、ギガドラモンの攻撃をその身に受けながらも、

その目はまだ諦めの感情が浮かび上がって居なかった。

京と伊織は、そんな二体の想いを察して必死に応援の声を上げた。

がんばれ!と、負けるな!と。

だが、必死にパートナー達の勝利を信じる二人とは違い、タケルとヒカリは何かを決意したのか、

お互いの顔を見合わせ、一度深くと頷くと、京と伊織の前に立った。

 

 

「――――――――」

 

 タケル達が何やら話し出した。

ここからではタケル達が京達に何を言っているかは分からない。

が、その行動から察するのは簡単だった。

………そしてタケル達に何かを言われた京達は、怒っては居たが、

完全にタケル達の押しに負けているようだった。

こうなったらもう僕が取るべき選択は決まってしまったも同然だろう。

 

 

「………………行くよ、ブイモン」

 

「――――! おう!!」

 

 

 僕はブイモンをエクスブイモンに進化させると、

タケル達の元へ全速力で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideタケル

 

 

「――――京さん、伊織君、ここは僕達に任せて先に逃げるんだ」

 

 

 突然二人の前に立ち、こんな事を言った僕に二人は一瞬キョトンとした表情をしたが、

直ぐに正気に戻り、困惑を含む声で言葉を返してきた。

 

 

「タケルさん。なに、を、言ってるんですか?」

 

「……言葉の通りだよ、伊織君。

僕達で時間を稼ぐから今の内にアンキロモン達を連れて逃げてって言ったんだ」

 

「………はは、冗談キツイわよタケル君! ヒカリちゃんもそう思うでしょ?」

 

「……私もタケル君と同じ意見です」

 

 

 申し訳なさそうにそう返すヒカリちゃんに京さんは一瞬下を向くと、

怒りの表情を浮かべながら顔を上げた。

 

 

「二人とも何言ってるの!! ホルスモン達4体で戦っても勝ててないのにあたし達に逃げろなんて!!

そんな事をしたらタケル君達が……」

 

「……このまま戦ってもあのデジモンには勝てないですよ。

相手は完全体なんです。このまま戦いを続ければ確実に全滅です」 

 

「だったら全員で逃げればいいじゃない!!」

 

「……こんな岩場で全員が同時にギガドラモンから逃げ切れると思いますか?

大丈夫です。京さん達が逃げ切れたら頃合いを見て僕達も逃げますから」

 

「でも……だからって僕達だけが先に逃げるなんて……

そうだ! だったら守谷さんが助けに来てくれるまで待ちましょう!

守谷さんのエクスブイモンは、かなりの強さです。

きっと状況を打破してくれるはずです!!」

 

「伊織君、確かに守谷君とエクスブイモンは強い。

でも成熟期と完全体の差は想像しているよりずっと大きいの」

 

「――――ならどうしてあたしと伊織なの?

タケル君とヒカリちゃんが残ってどうしてあたし達が逃げるの!?」

 

「「それは――――――――」」

 

「――――――――逃げる必要は無い」

 

 

 僕とヒカリちゃんが二人に答えを返そうとした時だった、

突然どこからかそんな声が聞こえて来た。

この声は――――守谷君の声だ。

僕がそう判断したとほぼ同時にギガドラモンの怒りの声が聞こえた。

その方を見てみるとそこには先程まで居なかったエクスブイモンから、距離を離し、

咆哮を上げてるギガドラモンの姿があった。

……エンジェモン達4体で戦ってもギガドラモンはそんな行動を取らなかったのに……

だけど、ギガドラモンはダメージを受けている様子では無かった。

……やっぱりエクスブイモンでも駄目か。

僕がそう思っていると、守谷君が僕達の前に姿を現した。

 

 

「……遅くなってすまないな」

 

「ううん、それはいいけど…………」

 

 

 ギガドラモンの方を見ながらそう謝罪した守谷君。

どうやら守谷君はギガドラモンと戦うつもりのようだ。

だけど…………

 

 

「…………守谷君、お願いがあるんだ」

 

「なんだ?」

 

「京さんと伊織君達を連れてここから逃げて欲しい。

ギガドラモンは僕とヒカリちゃん達で食い止めるからその間に」

 

「…………」

 

 

 僕の言葉に守谷君は答えなかった。聞こえていない筈はない。

そんな言葉聞きたくもないという意思表示なんだろうか?

僕は守谷君に納得して貰うべく言葉を続ける。

 

 

「相手はあのキメラモンと一緒で完全体なんだ。

ついさっきまでエンジェモン達4体で戦ったけど全く歯が立たなかった。

……エクスブイモンが加わっても結果は一緒だと思う」

 

「そうだろうな」

 

「だから京さん達を連れて――「一つ確認してもいいか?」

 

 

 僕の言葉を遮るように守谷君は言葉を重ね、僕の価値を計るかのような目で僕を見てきた。

その眼つきに一歩後ずさりながらも僕は、守谷君の言葉を無言の頷きで返した。

 

 

「今のお前達はあのギガドラモンに――――『完全体』に勝てないと言うんだな?」

 

 

 その質問に僕は悔しさで顔を歪ませながらも再び無言の頷きを返した。

その返答に守谷君は、そうかと一言言葉を漏らすと、

先程僕とヒカリちゃんが京さん達にやったように、僕達の前に背を向ける様に立った。

 

 

「お前達はもう手を出すな。ここから先の戦いは――――僕達だけで片付ける」

 

 

 守谷君の突然の宣言に僕達は驚愕の声を上げた。

 

 

「守谷君まで何言ってるの!? 相手は完全体よ! ホルスモン達4体でも勝てなかったのに、

エクスブイモンだけで敵う筈が無いじゃない!!」

 

「そうですよ! だから皆で逃げる方法を考えましょう。

守谷さんとエクスブイモンが加わった今ならきっとなんとかなる筈です!」

 

「そうだな。エクスブイモンでもギガドラモンには勝てないだろうな」

 

 

 まるで他人事化の様に守谷君は二人の言葉にそう返すと、ポケットからD3を取り出した。

そして、それにと言いながらこちらを一瞬だけ振り返った。

 

 

「さっき言った筈だ。『逃げる必要は無い』と」

 

 

 守谷君がそう言った瞬間、守谷君のD3から光が飛び出した。

そしてその光は真っ直ぐエクスブイモンの方へ飛んで行く。

 

 

「まさかアレは――――進化の光!?」

 

 

 ヒカリちゃんの呟きに僕達は再び驚愕の表情を浮かべずには居られなかった。

何故なら僕達は知っているからだ。完全体に進化するのに必要なのはタグと紋章。

または何らかのバックアップが必要だという事を。

だけど今この世界には使用できる紋章は存在しない筈。

更にあの進化の光は純粋にD3から発生したモノだ。

何らかのバックアップを受けた様子は無かった。

それなのに――――僕達のあり得ないという考えを否定するように、

光が晴れたその場所には、エクスブイモンでは無く、見た事も無い全く別のデジモンが存在していた。

 

 

「行け、ウイングドラモン!」

 

 

 守谷君の言葉と共にエクスブイモンが完全体に進化したデジモン、

『ウイングドラモン』がギガドラモンの元へ飛び立つ。

その速さは今まで見たどのデジモンよりもずっと早かった。

そして――――その後の戦いはまさに圧倒的だった。

ウイングドラモンは終始ギガドラモンを圧倒し、結局一度の攻撃も受けないままギガドラモンを倒したのだ。

 

 

「つ……強すぎる!」

 

 

 その光景に僕等の誰かが思わずそう呟いた。

僕もその意見に同意せざず負えなかった。

……いくらエクスブイモンの時から強かったと言っても今回の戦いはあまりに異常だ。

相手が格下なら理解できる。

でも相手のギガドラモンは、ウイングドラモンと同じ『完全体』だ。

…………同じ完全体でここまで差が出るものなのか?

 

 そんな事を考えていると、戦いを終えたウイングドラモンが守谷君の元へ戻ってきた。

そして守谷君は、そのウイングドラモンの背中に無言のまま乗ろうとしていた。

そんな守谷君の足を僕は咄嗟に掴んだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

「……なんだ?」

 

「どうして完全体に進化出来るの?

今この世界には完全体に進化する為の紋章は存在しないのに……」

 

「うん。私達の紋章は、デジタルワールドの復興の為に使ったからもうない筈だし。

……もしかして新しい紋章を作って貰ったの?」

 

 

 僕とヒカリちゃんの言葉に守谷君は当然の様に答えた。

 

 

「いや、僕は紋章もタグも持っていない。勿論新しく用意して貰った訳でも無い。

ただ、それら無しにブイモンを進化させているだけだ」

 

「紋章とタグ無しでだって? そんなのは「あり得ないのか?」

 

 

 最後まで言い切る前に守谷君は僕のセリフに言葉を重ねてきた。

 

 

「ならお前達は紋章とタグが無ければ絶対に進化出来ないと言い切れるのか?

選ばれし子供のパートナーデジモンは、

パートナーの紋章とタグが無ければ絶対に完全体になれないと心の底からそう考えてるのか?」

 

「……それは…………」

 

 

 絶対にあり得ない、と僕は返せなかった。

僕達は今まで完全体に単独で進化するには紋章とタグが必要だと思っていたし、

それを疑うことも無かった。何故なら前回の冒険でそうだったのだから。

だけど今守谷君に指摘されて……完全体に進化させるのを見せられて始めてその考えに疑問を覚えた。

選ばれし子供のパートナーデジモンが完全体に進化するのには絶対に紋章とタグが必要なのかということに。

 

 

「少なくとも僕は出来た。紋章もタグも無しにブイモンを進化させることが出来た。

――――なら理論上お前達も」

 

「……紋章とタグ無しに進化させれるって事?」

 

 

 ヒカリちゃんの言葉に守谷君は、理論上なと返した。

……確かに守谷君が出来た以上僕達も出来る可能性は十分ある。

そうなったら完全体相手でも互角に戦えるようになる!

 

 

「……それでお前達はこれから完全体への進化を目指すのか?」

 

 

 僕達の表情から考えていることを読み取った守谷君はそう尋ねてきた。

僕とヒカリちゃんは勿論と強く言葉を返した。

守谷君はその返答にそうかと返すと、今度こそウイングドラモンの背中に乗った。

そして冷たい表情で僕達に言い放った。

 

 

「――――ならこれから先、お前達はダークタワーを攻撃するな。

敵がダークタワーで完全体デジモンを作れると判明した以上、お前達は戦力外だ。

これからはダークタワーは僕達だけで破壊する」

 

 

 守谷君の宣言に僕達は驚愕の声を上げた。

 

 

「守谷君達だけでダークタワーを壊すって……冗談だよね?」

 

 

 乾いた笑い声を上げながら守谷君にそう返したけど、

守谷君は一切表情を動かさずに冷たい視線のまま僕の目を見ていた。

……冗談ではないってことだ。

 

 

「状況を良く考えろ。

現状敵の完全体に対抗できるのは僕達だけだ。

なら、敵と戦うのが僕達だけになるのは必然だろう」

 

「でも僕達だって成熟期とは戦えるし、完全体相手でも足止め「ならハッキリ言ってやろう」

 

 

 守谷君は僕の言葉にそう重ねると、今まで見た中で一番冷たい目で静かに言い放った。

 

 

「現状4体で普通の完全体一体もロクに倒せないお前達は――――足手まといだ」

 

 

 足手まとい。

残酷に言い放たれた真実に僕達の誰もが俯かずには居られなかった。

 

 確かに僕達はダークタワーで作られた完全体に勝てなかった。

……いや、ギガドラモンとの戦いは、

勝てる筈もない戦いを必死に耐えてただけの戦いとも呼べないモノだったかもしれない。

だから守谷君に足手まといと言われるのは仕方が無いのだろう。

 

 だけど、僕の心の中は、その真実を叩きつけられた事による悲しみより、

足手まといと言われたことに対する悔しさでいっぱいだった。

 

 そんな僕の心情を知ってか知らずか、守谷君は、

僕達が俯いている間にその場から去って行った。



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031 聖獣チンロンモン

 投稿感覚が大幅に空いてしまって本当に申し訳ございません。
遅れた理由は、リアルが忙しかったというのもありますが、純粋にこの回の話が何度書いても全然面白くなく、投稿する気になれなかったというのが一番の理由です。

 一応読める分にはなったとは思いますが……

 後、後半の空白後の文は、一応本編外の話なので飛ばして頂いて構いません。


「――――そろそろいいだろう。止めだメタルグレイモン!」

 

「オーケー! 『ギガデストロイヤー!!』」

 

 

 僕の止めの宣告と共にメタルグレイモンが目の前に居る完全体ダークタワーデジモンに必殺技を放つ。

弱り切った相手はその攻撃を避ける事が出来ず、そのまま命中して消滅した。

 敵の消滅を確認した僕はメタルグレイモンの進化を解き、アグモンの元へ歩み寄った。

 

 

「お疲れ、アグモン。怪我は無い?」

 

 

 僕の質問にアグモンは大丈夫だよと返事を返した。

そんなアグモンの返答に僕は良かったと安堵の溜息を吐くと、ふと夕暮れに染まった空を見上げた。

 

 ギガドラモンを倒してから既に二週間ほど経ったが、

見た感じ、タケル達が完全体に進化出来る兆しは正直に言って全くなかった。

……まあそれも無理は無いのかもしれない。

そもそも僕が、紋章無しで進化させる事が出来たのは現状原作知識があるという事が関係している可能性が高いのだから。

 

……とにかく僕は、タケル達が完全体へ進化する為に頑張っている間、

ブイモン、アグモン、パルモンと、デジモンを交互に変えながら、

アルケニモン達が作り出す完全体相手に戦いを繰り広げる日々を続けていた。

交代しながら戦えばデジモン達の負担は三分割できるからね。

因みにパルモンはニューヨークに旅行に行ってから本格的に話すようになった。

ミミの友人と言うことで仲良くなり、今は仮のパートナーデジモンとして協力して貰っている。

そして、どうやら僕が前にした予想は正しかったようで、僕はパルモンも完全体に進化させる事が出来た。

 

 そして現状だが……今の所は、

アルケニモン達が完全体のダークタワーデジモンを送り出すだけの状況で済んでいる。

その程度で済んでいる理由は、恐らく僕達を倒すのには完全体で十分だと思わせられているからだろう。

……本来は、僕が進化させるブイモン、アグモン、パルモンの完全体は、

何故かは分からないが完全体ダークタワーデジモンを上回る力を持っている。

だがそれを相手に知られてしまったら不味い事になってしまう。

だからブイモン達にはダークタワーデジモンと戦う時は

出来る限り互角に見えるように戦ってほしいとお願いしている。

もしもそうしなかったら、すぐさまアルケニモン達が完全体では敵わないと判断し、

究極体を作り出し、状況は一気に悪くなってしまうだろうから。

 

 

「……だけど、それもそろそろ限界だろうね」

 

 

 いくら、ほぼ互角と思わせられているとはいえ、アルケニモン達は既に二週間連続で敗北しているのだ。

そろそろ堪忍袋の緒が切れてもおかしくない。

 

 ……そろそろこの世界に転生してから何度目かの決断をするべきだろう。

アルケニモンが究極体のダークタワーデジモンを生み出すのを阻止する方向で行動するのか、

もしくは、原作の様に生み出す方向で行動するのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の平日の朝。僕はブイモンを連れ、ある場所に来ていた。

その場所とは、原作でホーリーストーンが初めて登場し、破壊された場所だ。

この場所に決めた理由は、6つあるホーリーストーンの場所の中でもここが一番人目に付きにくく、好都合だったから。

 

 ……僕は悩んだ末、アルケニモンが究極体のダークタワーデジモンを生み出すのを一度は止めない事にした。

いくら僕が現状ほぼ全ての時間をデジタルワールドで過ごしているとはいえ、流石にアルケニモンが究極体のダークタワーデジモンを作り出す機会を全て止めるのは不可能だろう。

だから、一度はアルケニモンの思うがままに究極体ダークタワーデジモンを作らせ、

そこで究極体ダークタワーデジモンは自分達の言う事を一切聞かないじゃじゃ馬だと判断して貰うのが一番だと判断を下した。

 

 ……もしも、もしもアルケニモンが作り出した究極体ダークタワーデジモンが、

原作のブラックウォーグレイモンと違い、心を持ち合わせておらず、

その上、究極体の力をしっかり持ち合わせていてアルケニモンに忠実なしもべだったのなら……状況は一気に悪くなるだろう。

だけどその可能性は低いかもしれないという考えが少なから僕にはあった。

……原作では、アルケニモン達は、ブラックウォーグレイモンに心があるのは完全な偶然だと言っていた。

だけど、僕はそうでは無いと考えている。

何故なら、強さは心があってこそ初めて生きてくるモノだと思っているからだ。

 

 どんな強力な力を持っていても、心が無ければそれを生かす事は出来ない。

心があるからこそ生き物は強くなれるし、強くいられる。

心こそが強者に分類される生き物が最低限に持ち合わせているモノなのだから。

……まあ、あまりに想定外の存在に対してはこの理論は適用されないかもしれないが、

少なくともダークタワー100本使った程度の存在では

心を持たずに究極体クラスの力を持つ筈はないという直感はあった。

……そんな確証もない直感を信じるのは不味いかもしれないが、そうも言ってられない。

今は原作で言う最終章。

究極体ダークタワーデジモンの出現、リアルワールドでのダークタワー出現、

デーモン軍団の襲来、ヴァンデモン復活と最終章に相応しい問題が原作で起きた章なのだ。

多少危険を承知で動かなければあっという間に取り返しのつかない事になってしまうだろう。

 

 

「着いたね」

 

「……うん」

 

 

 ホーリーストーンの目の前に辿り着いた僕達はそれを見上げた。

……遠目で直接見た事は有ったけど、

こう近くで見てみると改めてホーリーストーンの大きさと、神秘さを感じた。

僕はその神秘さに若干呑まれながらも覚悟を決め、D3を取り出し、ホーリーストーンに掲げた。

するとD3から一筋の光が飛び出し、ホーリーストーンに吸い込まれていき、

暫くすると今度は目の前のホーリーストーンから光が空に向けて飛び出した。

その後、光は空の中へ消えたが、消えると同時に空を雲が覆い始めた。

――――そして、その雲から神々しい光が見えたと感じた瞬間、

光と共に一体の龍が空から姿を現した。

 

 

「……チンロンモン」

 

 

 あまりに神々しい光景にブイモンは呆気に取られていたが、

原作知識でチンロンモンの姿を知る僕は、そういった態度は取らずに済んでいた。

……だが、脳内では、これからこんな神々しい威光を放つデジモンと話すという事に対し

緊張でいっぱいだった。

……僕はこんな存在相手に、嘘を隠し通せるのだろうか?

 

 

『お前が噂の謎多き選ばれし子供だな?』

 

「……! はい! 恐らく僕がそう呼ばれている選ばれし子供、

守谷天城です!」

 

 チンロンモン様、と最後に付け足して出来る限り言葉使いで不快させない様に取り繕ったが、

そんな浅はかな考えはチンロンモンに見破られていた。

 

 

「そう言葉を選ばなくてもよい。普段の言葉使いで話すがいい。

そしてワタシの事はチンロンモンと呼べ。様付など不要だ」

 

「で、ですが……」

 

「確かにワタシは世界を守護する聖獣デジモンとして祭られているがそれだけだ。

お前の隣に居るパートナーデジモンと何の違いも無い。……そう何の違いも無いのだ。

それにワタシは格下相手に二度も封印される無様なデジモンだ。

――――さて、お前が折れない限りワタシは自分の不名誉な黒歴史とやらを語り続ける事になるのだが…………」

 

「……分かり……いや、分かったよ、チンロンモン」

 

 

 予想していたよりも遥かに寛大なチンロンモンに僕は少し驚きながらも敬語を崩した。

……僕の性格上、出来れば敬語だけでも続けたかったが、

そんな意見を押し通すような場面では全くないので自重した。

敬語を止めた僕にチンロンモンは満足気な頷きを見せると、

今までは和らげていたのであろう、自身の放つ威光に更なる威圧感を加えた。

……ここから先は本題に入ろうと言う意志表示だろう。

 

 

「さて――――お前には色々聞きたい事があるのだが……まずはお前の要件を聞こう。

ワタシの封印を解いたのには明確な理由があるのだろ?」

 

 

 取り繕う事なく話せと付け加えたチンロンモンに僕は頷きを返し、話し出す。

 

 

「僕がチンロンモンの封印を解いたのは……これから先の戦いで、

僕達だけじゃ敵わないであろう戦いがあるからで……いや、なんだ」

 

「敵わない戦い?」

 

 

 チンロンモンの言葉に僕は深く頷く。

 

 

「現状は、敵は完全体以上の戦力を見せていないが、僕は少なくとも相手側に一体は究極体が居ると思ってる。

それも超究極体クラスじゃないにしてもそれに近いレベルの相手が……

…………完全体に進化させる事が出来るのが僕だけの現状では、

黒幕には絶対に勝てない。だから……」

 

「――――成る程、だからお前はワタシの封印を解いたのだな?

ワタシが持つデジコアの力を借りる為に」

 

「……チンロンモンのデジコアを借りる事が出来れば、二代目選ばれし子供の8人は、

完全体に――二人は究極体になれる」

 

「その通りだ。ワタシのデジコアは確かにそう言う使い方も出来るだろう」

 

 

 ふむ、とチンロンモンは言葉を漏らすと、突然考え込むように目をつむった。

僕はチンロンモンがすぐ目を開けないか警戒しながらも密かに息をついた。

……僕がチンロンモンに最低限頼みたい事は話し終えたが、まだまだ会話は続くだろう。

……それにしても敬語、取り繕い禁止がここまで辛いとは。

それら無しで話すと、どうしても言葉が刺々しくなりすぎてしまう。

特にさっき僕が言った言葉なんて、

お前の力を利用したいから封印を解いたと、堂々と言っている様なモノだ。

……さっき、チンロンモンが敬語を禁止したのは、

僕が恐縮しないよう気を使ったからだと思っていたが、

こうやって僕の言葉の意味を真に理解するのが本当の理由なんだろう。

……流石は四聖獣と呼ばれるデジモン。こういう所も手強いね。

 

 僕がそんな事を考えていると、目をつむって考え込んでいたチンロンモンの目が開き、

再びこちらに視線を向けると、尋ねてきた。

 

 

「ちなみにお前は、ワタシから何度デジコアの力を借りるつもりだ?」

 

「出来れば二回。最低でも一回は借りたい」

 

「成る程。

……悪いが、ワタシが仮にお前にデジコアを貸すとしても、一度しか貸す事は出来ないだろう」

 

「一度……。そのデジコアで選ばれし子供達8人はエネルギーを使い果すまでは、

紋章を持っていた時の状態まで進化出来る?」

 

「完全体までなら可能だ。

だが、究極体までと言うなら話は変わってくる。

……恐らくワタシのデジコアの力を持ってしても、二人分の究極体のエネルギーを用意するには、

他の6人分のエネルギーを使ってようやくと言った所だろう」

 

 

 ……という事は、やっぱりチンロンモンの力を使う機会は、

デーモンが現れなければ最後のヴァンデモンとの戦いがベストだろう。

……この世界には原作でデーモンが望んだモノは無いから現れないとは思うが、

最後まで警戒だけは怠らないでいよう。

 

 僕は脳裏でそんな決意をしていると、チンロンモンが先程よりも僅かに目を鋭くしながら話しかけてきた。

 

 

「お前がこのタイミングでワタシの封印を解いた理由は分かった。

成る程、安定を望む者達が騒ぐだけの事はある。

で、お前の話は取りあえずは一段落ついただろう。

――――では、次はワタシからの質問だ。構わぬか?」

 

 

 チンロンモンの問いに僕は嫌な予感がしたが、

この状況でチンロンモンの質問を断れるはずも無く、ためらいながらも頷いた。

 

 

「では率直に聞こう。

――――お前はどうしてワタシの封印の解き方を知っていた?」

 

「――――――――」

 

 

 いきなり聞かれたくない事を聞かれてしまった。

 

 

「安定を望む者ですら知り得なかった情報を、お前は何処で手に入れた?

ワタシ自身ですら、封印の解き方は想像の範囲を出なかった程度のモノだった。

だがお前はワタシの封印を解く際、何の躊躇いも無くそれを実行した。

まるでそれが正しいと知っているかのように。何故だ?」

 

 

 ……チンロンモンの物言いからして、恐らく僕がここでチンロンモンの封印を解いた際、

その光景がチンロンモンに見えていたんだろう。

なら体が勝手に動いたなんて誤魔化しは効かないだろう。

……確か僕はその瞬間、覚悟を決めた顔で封印を解いたと思うから。

…………だけど、だからと言ってチンロンモンに全てを話す訳には行かない。

チンロンモンはあくまで四聖獣。デジタルワールド側の存在だ。

いくら秘密にして欲しいと約束しても、デジタルワールドにとって不利な場面が来てしまったら、

きっとチンロンモンはたかが選ばれし子供の一人である僕程度との約束なんて簡単に破るだろう。

それは有ってはならない。

僕は選ばれし子供達に、自分達が創作の存在として存在し、

その物語が放送されていた世界があるなんて事を、知られたくない。

……僕は彼等に、原作だからという理由では無く、

自分で考え、自分で行動して未来を歩んで行って欲しいのだ。

……例え、僕が原作の話を選ばれし子供達にする事が一番正しい事だとしても、

僕はこの考えだけは覆したくない。

 

 ……だが、ここでチンロンモンに何も話さずに済ませるのは不可能だろう。

――――なら、チンロンモンを騙すしかない。

 

 

「……チンロンモン、僕が今からする話は、嘘偽り無い真実だと思った上で聞いて欲しい」

 

 

 僕の言葉にチンロンモンは、無言で頷く。

ただ、その両眼は、嘘は見抜くと言わんばかりのモノだ。

……下手な嘘は簡単に見抜かれるだろう。

なら、嘘を吐かずに嘘を吐くしかない。

 

 

「まず、チンロンモンも気付いていると思うけど……僕には協力者と呼べる存在が居る」

 

「協力者?」

 

 

 そう僕には協力者がいる。

その正体は僕をこの世界に転生させた神だ。

……色んな意味で考えれば僕と神との関係は協力者とも言えなくはないだろう。

 

 

「うん。本来なら僕は、こんな場所に居るべき人間では無いんだ。

だけど、そんな協力者との出会いも有って、今僕はここに立っている。

この世界を守る為に」

 

 

 本来なら僕の様な部外者がデジタルワールドに、この世界に存在するべきでは無い。

……神の転生が強制で無ければ僕はここには居なかっただろう。断言出来る。

だけど、今はこの世界の為に戦う覚悟は出来ている。

 

 

「……確かにお前は知り得ない情報を色々と知ってるようだ。

ワタシの封印の解き方、デジタルワールドでの行動を見るだけでもな。

それでその協力者とは?」

 

「……申し訳ないけど、名前は分からない」

 

「名前が……分からない?」

 

「……その存在と会って話をしたのは一度だけだからね。名前を聞いている暇も無かった。

でもその存在には、この世界の事をもう覚えてない位色々話して貰った。

 

「その者はデジモンか? それとも…………」

 

「多分どっちでもないと思う。確証はないけど。

……でもチンロンモン達に似た存在だったとは思う」

 

 

 何かに祭られた存在という意味ではチンロンモン達とあの神は似ているだろう。

 

 

「では……お前はその存在とたった一度会って話をしただけで、

選ばれし子供としてデジタルワールドの為に戦っているのか?」

 

「それも理由の一つだけど……僕には純粋にこの世界の為に戦う理由があるんだ」

 

「戦う理由? それはどんな理由だ?」

 

「……申し訳ないけど――――『それだけは話せない』」

 

 

 僕は絶対に話さないという思いを込めた眼差しをチンロンモンに向けた。

そんな眼差しを向けられたチンロンモンは、自分の質問に答えなかった僕に対して

ただ純粋に疑問を感じたのか、何故だと? 一言尋ねてきた。

 

 ……チンロンモンがそう疑問に思うのも無理も無いだろう。

チンロンモンからしてみたら僕は、特殊な存在に会っているとはいえ只の人間の子供。

そんな存在の戦う理由なんて大したモノの筈が無いのに、

それに対する質問にそれだけは話せないと返されたのだから。

……もしもチンロンモンが嘘で騙せそうな存在だったのなら、

チンロンモンが想像しているだろう、正義感、自己主張、または背徳感等から生まれた戦う理由を適当に言ったのだが、生憎チンロンモンには僕の嘘など通じないだろう。

だから僕がここでチンロンモンに転生者と知られない為には、嘘を吐くのではなく話さないという選択肢しかないのだ。

 

 

「話さない理由は……多少は誰かの為という理由が含まれてるけど、きっと殆どは自分の為なんだろうね。

そう、話せば自分が辛い思いをするから話せない。僕はこの秘密だけは墓まで持って行くつもりなんだ」

 

「……お前はその秘密を『一生』背負うつもりなのか?」

 

 

 チンロンモンの質問に僕は無言で頷く。

そんな僕に対してチンロンモンは理解出来ないと言わんばかりに首を横に振った。

 

 

「私には分からない。何故普通の人間の子供であるお前がそこまで戦う理由を隠すのかが。

……だが、きっとお前は私の知り得ない特別な存在なんだろう。

分かった。これ以上はこの質問を追求しないと約束しよう」

 

「ありがとう」

 

「ただ一つだけ言わせてくれ。

何かを隠すと言うのは、想像以上位に辛い事だ。隠すモノの大きさや、隠す期間が長ければ尚の事な。

お前はそれを一生続けるつもりなのか?

何かを隠し続ける人生を一生続けるつもりなのか?」

 

 

 険しい表情でチンロンモンはそう僕に尋ねた。

……チンロンモンの表情を見る限り、きっとチンロンモンは僕を心配してくれてるのだろう。

 

 

「ありがとうチンロンモン。僕の事を心配してくれて。

だけど、僕はもう決めてるんだ。戦うと決意したその時から」

 

 

 大輔が手にする筈だったD3を使ってデジタルワールドに行ったその瞬間、僕はそう心に誓った。

……確かに何かを隠すのは辛い事かもしれない。こんな大きな謎を誰にも漏らさずに背負ったままじゃ楽しい人生を過ごす事は出来ないかもしれない。

だけど、そうだとしても僕はそれを貫かなければならない。

いや、違う。僕はそれを貫きたいんだ。それこそがこの世界にとって――――選ばれし子供達にとっての幸せにつながる事だと信じてるから。

 

 

「お前は――――いや、これ以上は止めておこう。

お前の覚悟は伝わった。

これから先は、私とこの世界の安定を望む者達がお前に力を貸すと約束しよう。

何かあれば私の管理する町に来るがよい。安定を望む者達に話せば連れて行って貰えるはずだ。

力になれる事は余りないかもしれないが相談程度なら乗れるだろう」

 

「ありがとうございま……ありがとう」

 

「ふっ、敬語の方が楽と言うならこれからは敬語で話すがいい。

少なくとも今は、これ以上お前の言葉を疑ってかかるつもりはない」

 

「……そう言って貰えると本当に助かります」

 

 

 チンロンモンの言葉に甘え、僕はすぐさま言葉使いを敬語に戻した。

ああ、やっぱりこういう腰が低くなる存在と話す時は敬語が一番楽だ。

 

 

「そろそろお互いに話す内容は終えたと思うんですが、どうですか?」

 

「そうだな……何かお前に尋ねたい事があった筈なのだが……悪いが思い出せない。

まあそれは次の機会としよう」

 

「わかりました。では、僕達はこれで」

 

「ああ、あまり使命を抱え込まないようにな」

 

 

 チンロンモンとの会話を終えた僕達は、チンロンモンに対して深々と一礼すると、

ブイモンをエクスブイモンに進化させ、その背中に乗りその場を去った。

……しまった、何故デジタルワールドそのモノの治癒力が原作よりも遥かに劣っているのか原因を聞こうと思っていたけど

 

忘れてた。

……まあ絶対に聞かなければならない情報でもないし次の機会にするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謎多き選ばれし子供の姿が見えなくなるまでその姿をチンロンモンは見続けていたが、

その姿が見えなくなると、深々と溜息を吐いた。

そんなチンロンモンに突如横から声を掛ける者が居た。

 

 

「――――チンロンモンさま、お疲れですか?」

 

「少しな」

 

 

 チンロンモンは、突如現れた白いフードの男が初めから居る事を知っていたのか、特に驚いた様な反応を見せずにそう返事を返した。

 

 

「……予めお前には隠れた場所から聞いて貰ったが、お前から見てあの選ばれし子供はどう見えた? ゲンナイ」

 

 

 ゲンナイと呼ばれた白いフードの男は、フードを下ろしながらそうですねと、考えながら話し出した。

 

 

「正直に言ってしまうと、現状私は、まだ彼を信用しきれていません」

 

「ほう」

 

「……彼は、チンロンモン様の封印の解き方を知って居ました。それもあの様子を見るにかなり前から。

それなのに今日まで封印を解くような素振りはいっさい見せませんでした。

それに加え、彼は最近この世界に来たばかりだと言うのにあまりに知り過ぎています。

その理由を、チンロンモン様との話の中で語っていましたが、分かったのが、正体不明の存在に情報を貰ったという何処まで信じていいのか分からない情報だけです。

……確かに彼は他のどの選ばれし子供達よりもデジタルワールドの為に戦ってくれています。

それこそ自分の生活を度外視する程に。

ですが、デジタルワールドを歪ます元凶であるダークタワーを彼はあまり壊したがりません。

それどころか光子郎くんのメールの内容によると、他の選ばれし子供達に嘘を言ってまでダークタワーの破壊個数を減らそうとしています。

……私の頭で考えられる限りでは、ダークタワーが破壊されない事がメリットになるのは、デジタルワールドに異変を起こそうとする側の存在だけです」

 

「成る程、確かに口にすると怪しさばかりが目立つ選ばれし子供だな。

お前が警戒するのも無理はない」

 

 

 チンロンモンが認めた存在をゲンナイは少なからず否定するような言葉を漏らしたが、

チンロンモンはそれを咎める様な事はせず、寧ろ同意するような反応を見せた。

その反応がゲンナイにとっては意外だったのか、思わず分かり切っている筈の質問をしてしまった。

 

 

「あの……チンロンモン様は、彼の事を此方側の存在として信じられているんですよね?」

 

「無論だ」

 

 

 ゲンナイの問いにチンロンモンはハッキリそう答えた。

 

 

「確かにあの選ばれし子供の行動は不可解な点が多い。

だが、少なくともあの選ばれし子供は、デジタルワールドの為に戦っている。

それが先程直接話して……目をみて分かったのだ。

……それに私の直感も彼が味方だと言っているようだしな」

 

「直感……ですか?」

 

「ああ。私は昔から勘が良くてな。

…………これが有ったからこそ今ここに私が居ると言ってもいい程に」

 

「…………申し訳ございません」

 

 

 触れてはならない話題に触れてしまった事に気が付いたゲンナイはすぐさま謝罪の言葉を返した。

そんなゲンナイにチンロンモンは、よいと言葉を返すと、突然何か思いついたのか考え込むように黙り込んだ。

そして暫くするとおぉと、何かを思い出したかのような声を上げた。

 

 

「先程あの選ばれし子供に尋ねようと思っていた内容を今になって思い出した」

 

 

 チンロンモンはそう言葉を漏らすと、ゲンナイの方を向いた。

 

 

「あの選ばれし子供との会話の中で一つ引っかかる点があったのだ」

 

「引っかかる点、ですか?」

 

「ああ。あやつが、自分の情報提供者の事を話している時だ。

あやつは、自分の情報提供者が『チンロンモン達に似た存在』だと言っていた。

お前はこの言葉の意味が分かるか?」

 

 

 チンロンモンの言葉にゲンナイは頭をフル回転させて考えたが、そもそもチンロンモンの言っている質問の意味が理解出来なかった。

 

 

「……申し訳ございません。私には質問の意味が」

 

「ふむ。何、難しい質問では無い。

ただあやつが言ったチンロンモン達と言う言葉の、『達』が誰の事を指しているのかという質問だ」

 

「成る程。

……まことに失礼ながら、その部分の達は、チンロンモン様に使えてる者達。

つまり私達ホメオスタシスの事を含めているのではないでしょうか?」

 

「ふむ。確かにこの言葉だけで考えればそういう意味なのだろう。

だが、あの選ばれし子供がこの言葉を漏らしたタイミングを考慮するとそう言う意味では無い可能性が高い。

何故ならそもそも、あの選ばれし子供がこの言葉を言ったのは、

人間でもデジモンでもないと思った自分の情報提供者が……というタイミングだ」

 

「……はい」

 

「そもそも情報提供者が、私やゲンナイ達の様なデジタルワールドの安定を望む者達だったのなら、

あの選ばれし子供は、自分の情報提供者は『味方』だという筈だ。

その方が信用して貰える可能性が高いのだから。

なのにあの選ばれし子供は情報提供者が味方だとは言わなかった。まるでその存在が味方では無いと言わんばかりに」

 

「……なら、その情報提供者は敵なんでしょうか?」

 

「いいや、それは違う。

仮に敵だったのなら、あの選ばれし子供がチンロンモン達に似た存在だと言った時点で嘘を吐いたことになり、

私が気が付いている筈だ。だが、少なくともあの会話の中であの選ばれし子供が嘘を言っている様子は無かった。

つまり、恐らくあの選ばれし子供の言った似た存在というのは、善悪やらがどうというより、その情報提供者と存在的なモノが私達に似ているという意味で言ったのだろう」

 

「な、成る程。

……それなら私達ホメオスタシスとチンロンモン様ではまるで立ち位置が違うので、その達には含まれませんね」

 

「ふむ。

だとしたらこの達とは一体誰の事を示しているのだろうな?

――――少なくとも私は自分に似た存在を一体すらも知らない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

上の存在は何体かは知っているが、同格のデジモンなど聞いたことも無い」

 

「私もです。

……あの選ばれし子供はチンロンモン様に似た存在……チンロンモン様以外の聖獣デジモンを知っているのでしょうか?」

 

「それは私にも分からない。そもそも私以外の聖獣が居るのかもな。

……とにかく一度町に戻るとしようか」

 

「はい」

 

 

 チンロンモンの言葉にゲンナイはそう返すと、チンロンモンと共に空の方へと姿を消していった。



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032 はじまりの町での特訓 side選ばれし子供

 4月7日に新しくこの回を追加しました。
追加した理由は、タケル達がいまどうしているかタケル達目線で伝えたかったからです。


 はじまりの町の広い平原に二つの影があった。タケルとエンジェモンのものだ。

 

 

「もう一度行くよ! エンジェモン!!」

 

「ああ!!」

 

 

 エンジェモンの返答を聞いたタケルは右手で握っているD3に更なる力を込める。

……が、D3は何の変化も見せなかった。

 

 

「……もう一度だ!」

 

 

 タケルは両手を使ってD3を唸り声を上げながら更なる力で握る。

……が、D3は何の変化も見せなかった。

 

 

「……どう、エンジェモン? 何か力を感じたりしない?」

 

「…………何も感じないな」

 

 

 エンジェモンの返答にタケルは大きな溜息を付きながらその場に座り込んだ。

それを見たエンジェモンも進化を解き、パタモンの姿でタケルの胸に飛び込んできた。

 

 

「……タケル、ボク達本当に紋章とタグ無しに進化出来るのかな?」

 

「…………まだ特訓を始めてから半月だろ? 諦めるのは早いよ」

 

 

 完全体ダークタワーデジモンに完全敗北した翌日から今日までの約半月の間毎日様々な特訓に取り組んだが、結果が出る事は無かった。

その事から考えが後ろ向きになって居るパタモンを宥めながら頭を撫でるタケルだったが、その心情はパタモンと同じだった。

……今まで道具有りで行っていた完全体への進化を道具無しで成功させる。それが途方も無く難しく、時間がかかる事だろうという事はタケル自身も分かっている。

だが、だからといって何の手応えも無い現状に思う事は無いかと言われればそれは違う。

 

 

(……本当にこんなやり方で超進化出来るようになるのかな?)

 

 

 声には出さなかったがタケルもパタモンと同じような疑問を覚えていた。

本当に今のやり方を続ければ超進化出来るようになるのかと。

 

 そして気が付けば思考は更に悪い方へと傾いてしまっていた。

……本当に紋章とタグ無しで超進化出来るのか?と。

 

 

(……守谷君は紋章もタグも無しで超進化出来るって言ってたけど、

それって本当に僕達にも出来るんだろうか?

もしかして守谷君が超進化出来たのは、僕達とは違う何か特別な選ばれし子供だったからじゃ?

……いや、実は僕達に内緒で紋章やタグを作って貰って居たんじゃ……)

 

 

 そこまで考えるとタケルはハッと我に返り、頭をぶんぶん横に振ってその考えを否定した。

 

 

(何考えてるんだ僕は! 守谷君を疑うなんて……!

守谷君は僕達の友達だ、友達がこんな事で嘘を吐く筈が…………)

 

 

 そう考え、先程の悪い思考を完全否定しようとしたが、それを完全に否定する事は出来なかった。

つい先日ヤマトから聞いてしまっていたからだ。

守谷がゴールデンウィークの時点で超進化させる事が出来た事。

それがバレない様にタケル達を要塞の方に追い出していたという真実を。

 

 ヤマトは守谷にも考えがあった筈だと言っていたが、それに関してはタケルは完全には同意出来なかった。

タケルには理解出来なかったからだ。そこまでして超進化出来る事を隠した理由が。

 

 

「おーい! タケル君! パタモン!」

 

 

 タケルが考えに浸って居ると、ふと遠くからタケルを呼ぶ声が聞こえた。

その声は――――京のものだ。

タケルがその声の方を見てみると、そこには予想通り京の姿と、京のパートナーデジモンのホークモン、伊織、アルマジモンの姿があった。

 

 

「そろそろ交代の時間なのにタケル君達が来ないから迎えに来ちゃった。

……あれ? ヒカリちゃんとテイルモンは?」

 

「今日は別々に特訓してたんだ。多分あっちの方に居ると思うよ」

 

「そうなんだ」

 

「……って交代の時間って事は急がなきゃね! エレキモン達が待ってるんでしょ?」

 

「え、えぇまぁね」

 

 

 タケル達ははじまりの町で特訓させて貰う代わりにベイビー達……この町で生まれたデジモンの赤ちゃんたちの面倒を見るとエレキモンと約束していた。

この約束は、ベビーデジモン達の遊び場を借りる手間賃と言う意味もあったが、

純粋にこの特訓を昼から夕方まで続けても効率が悪いからその気分転換と言う意味もあった。

 

 

「ヒカリちゃん達も多分交代の時間だってことに気が付いてないと思うから今から伝えに行くよ。

二人ともごめんね。手間かけさせちゃって」

 

 

 そう言ってヒカリ達の方へ走り出そうとしたタケルを伊織は呼び止めた。

 

 

「タケルさん、ま、待って下さい!」

 

「ん? どうしたの伊織君?」

 

「あの……もう一度だけタケルさんがパタモンを初めて完全体に進化させた時の事教えて頂いても構いませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 とある小部屋で様々な音が部屋全体に響き渡る。

ここはお台場中学校のとあるバンド―――ヤマトが率いるバンド部の部室だ。

彼等は近い内に開催されるコンサートに向けての練習をしていた。

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 彼等の奏でる音楽は中学生バンドとは思えない程レベルが高く、もしここに第三者が居れば確実にこの音に聞き惚れる程のものだった。

―――――が、

 

 

「―――――――ギィ――!!」

 

 

 そんな音楽に第三者でも気付くだろう異音が混じった。

と、同時にこの音楽を奏でているヤマト達が一斉に演奏を止めた。

 

 

「……おいおいヤマト、ここは簡単な所だろ? こんな所で失敗しないでくれよ」

 

「………わりぃ」

 

 

 少し怒った表情で小言を言ってきたバンドメンバーにヤマトは素直に謝罪した。

 

 

「まあまあ、ヤマトは演奏以外にも作曲とか頑張ってるんだし、

普段は難しい所だってノーミスで出来るんだから通しでもない練習の時くらい大目に見ようぜ……」

 

「そりゃそうだけどさ……だとしても最近凡ミスが多いじゃんか」

 

 

 その言葉にヤマトを庇っていたバンドメンバーはうっと言葉を詰まらせた。

そのバンドメンバーの言う通り、最近のヤマトは明らかに凡ミスが多かった。

難しい所ならまだしも、最近の彼は今のミスの様に簡単な所をよくミスしていた。

その事からバンドメンバーはヤマトが何か大きな問題に悩んでいる事に気が付き、何度か相談に乗ろうとしたが、ヤマトが何も話さなかった為、結局は問題が解決するまで話題に触れないようにするしかなかった。

が、だからといって凡ミスをスルーするほどには彼等も大人じゃない。

 

 

「……ちぃ、今日はもう上がるわ」

 

 

 ヤマトの失敗を指摘した者はそう言って荷物を担いで部屋から出て行った。

 

 

「……じゃ、じゃあ僕も今日はもう上がろうかな!」

 

 

 今のヤマトと二人きりになるのは気まずいと判断したもう一人のバンドメンバーは、そう言うと先程の者を追うように足早に部屋から出て行った。

その結果、先程まで音楽が響き渡っていたこの部室にヤマト只一人となった。

 

 

(……俺、何やってるんだろうな)

 

 

 突然一人になったヤマトは、椅子に腰かけ、ボーっと天井を見上げながらふとそう思った。

 

 

(選ばれし子供なのにデジタルワールドを優先せず、だからといって優先して取り組んでる自分の夢に対して集中して取り組めない……俺はいったい何がしたいんだ――――クソォ!)

 

 

 ヤマトは両手を強く握りながら自分の太ももに強く叩きつけた。

ヤマトは半月前に守谷から届いたメールを見てからずっとこの調子だった。

 

 

(……半月前、ついにアイツが恐れてた完全体が必要な時が来てしまった。

だというのに現状、完全体に進化出来るのはアイツだけだ。

しかももうジョグレス進化は期待出来ないらしい)

 

 

 半月前の練習終わり、突然守谷からヤマトと空宛にこんなメールが届いた。

 

 

『今日、謎の女がダークタワーを使って完全体ダークタワーデジモンを作り出しました。

そのデジモンは僕達で倒しましたが、その過程で高石君達に僕が完全体に進化出来るという事を知られてしまいました。その後考えた末、高石君達に紋章やタグ無しで進化出来る事、それを高石君達も出来る可能性が有るという事を伝えました。

 

なのでもうキメラモンの時の事を話して頂いて構いません。判断は任せます。ですが、四聖獣とジョグレスの事は黙っておいてください。四聖獣について黙っておくのは前と同じような理由です。ジョグレス進化について黙っておくのは、もうジョグレス進化という手段には期待できないからです。なのでこの二つについては話さないでください。どうかよろしくお願いします。

 

PS 高石君達に進化の特訓をするならはじまりの町で行うように伝えてください。

後、泉先輩にこのメールを見られると不味いので、このメールを見終わったら削除しておいてください。

よろしくお願いします』

……という内容のメールが届いたのだ。

 

このメールを見たヤマトは、急いでタケルに電話してこの日の事を詳しく尋ねた。

その後、タケルにどうして今日そういう事があったと言う事を知っているかと聞かれたので、

ヤマトは考えた結果、守谷のメールの内容を話した。

……勿論四聖獣や、ジョグレス進化については話さずに。

 

すると、翌日光子郎の家に呼ばれ、タケルを含んだその日に来れた選ばれし子供達ににキメラモンの時の事を話す事になった。

 

 

(キメラモンの時の事を話したのは後悔していない。この行動は少なからず悪い方には転ばないと思ってる。

……だけど今の俺の行動は本当に正しいんだろうか?)

 

 

 光子郎達にキメラモンの日の事を話し終わった後、一緒にデジタルワールドに行き、はじまりの町で特訓したがガブモンをワーガルルモンに進化させる事は出来なかった。

俺は現状を重く捉え、明日からバンド活動を休んでデジタルワールドに行こうと思っていた時にまたもや守谷からメールが届いた。

内容は、

 

 

『もし、明日以降もバンド活動を休んでデジタルワールドで特訓しようと考えているなら絶対に止めてください。

石田さんにはそっちの世界でやるべきことがある筈です。それを優先してください』

 

 

という内容だった。

自分の考えを見透かされている様で少し苛立ったヤマトは、それを否定するようにメールを返した。

 

 

『何言ってんだよ。

俺は……俺達は選ばれし子供だ。ならデジタルワールドを何より優先して、デジタルワールドの為に行動すべきだろうが』

 

 

 その後、先程の時とは違いしばらく返事は帰って来なかったが、十数分後くらいに返事が返ってきた。

 

 

『心の底から思っていない事を言わないでください。

石田さんは選ばれし子供だと言ってもリアルワールドを生きる存在です。

自分の夢を後回しにして行動する義務なんてありません。

石田さん達は中学生で色々と忙しい筈です。それに対して僕達は小学生です。時間は有り余ってます。

――――それに――――』

 

 

 その後に続いていた内容を読んだヤマトは思わず驚愕でそれ以上メールを返す事は出来なかった。

 

 

 

『それに――――石田さん達はあくまで前回選ばれた選ばれし子供です。

今回選ばれた訳ではありません。

デジタルワールドがこの世界を救うのは旧選ばれし子供では無く新しい選ばれし子供だと判断し、

新しく選び直した後、新しいデジヴァイスを僕や高石君達に与えました。

つまりデジヴァイスがD3に変化しなかった石田さん達はデジタルワールドを救う存在として選ばれなかったんですよ。

そんな前回の選ばれし子供の貴方達が出しゃばって高石君達の成長を邪魔するような行動は止めてください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――以上が僕がパタモンをホーリーエンジェモンに進化させた時の話だよ」

 

「……ありがとうございました。すいません、前聞いたばかりなのにまた話して頂いて……」

 

「うんん、全然構わないよ。寧ろ伊織君が真剣に頑張ってるって伝わって嬉しいよ!

じゃあヒカリちゃんに交代の時間過ぎてるって伝えて来るね」

 

 

 タケルはそう言うと足早にヒカリの元へ向かって行った。

そんなタケル達の姿が見えなくなった辺りで京が伊織に話しかけた。

 

 

「伊織、タケル君にまた超進化の時の事話して貰ってたけど、あなた前にタケル君に話して貰った時の内容忘れてないでしょ?」

 

「……はい」

 

「……だったらどうしてまたタケル君に聞いたりしたの?

結構長い話なんだし、覚えてるのに何度も聞いちゃ駄目だとアタシ思うんだけど」

 

「……僕もそう思います」

 

「だったらどうして……?」

 

「…………京さんは不安じゃないんですか?」

 

 

 不安? と京は伊織の発した言葉に疑問下に返した。

 

 

「はい。僕達は今アルマジモン達を完全体に進化させるべく特訓をしています。

……タケルさんとヒカリさんは紋章とタグがあったと言っても昔、完全体に進化させた経験があります。

……ですが僕達は一度だって完全体に進化させた事がありません。

デジモンが完全体に進化する瞬間ですら先日の一件以来見た事がありません。

……そんな僕達が何度も完全体に進化したことがあるタケルさん達ですら出来ない超進化を出来るんようになるんでしょうか?」

 

「そりゃ難しいかも知れないけど……根性で頑張るしかないでしょ。

ほら、タケル君も言ってたじゃない!

パタモンを初めて進化させた時、最後まで絶対諦めないって強く思ってたって。

要は気の持ちようよ!」

 

「……なら今の僕が超進化出来る可能性は0なんでしょうね」

 

「え、なんで?」

 

 

 京の問いに伊織は言い難そうにしながらも話した。

 

 

「僕は……いえ、僕と京さんは一度も完全体へ進化させたことがありません」

 

「そうね」

 

「それなのに……僕達はタケルさん達と同じくらいにしか特訓していません。

ただでさえ僕達は超進化の経験が無く遅れているのに、タケルさん達と同じ量特訓しても……!」

 

「あー成る程。

確かにあたし達は遅れている以上、本来タケル君達に追いつくために何倍も特訓しないといけないのに同じ時間しか特訓してないもんね。

剣道習ってる伊織からしたら遅れてるのに追いつこうと努力出来ないから気持ちが入らないかもしれないわね」

 

「……はい。ですが、夜間はデジタルワールドに来ないと石田さん達と約束しています」

 

「理由は確か、単独で行動したらあの女に襲われた時に対処出来ないからだったわね?

あの女が入って来れない結界の張ってるこの場所で特訓しようにも、夜は赤ちゃんデジモン達が寝てて起こしたら悪いから特訓出来ないしね」

 

 

 うーんと京は腕を組みながらどうやって伊織の悩みを解決しようか考えたが、結局何の案も出なかった。



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033 爆誕、漆黒の竜戦士

 前の話にタケル達の話を追加しました。



 僕達がチンロンモンの封印を解いてから数日後、

ダークタワーが多く立つ平原で普段の様にブイモンを進化させてダークタワーを壊して回っている時だった。

突如エンジン音の様な音が近づいているのが聞こえて来た。

この音はまさか――――

 

 

 音の聞こえる方を見てみると、そこには遠くから近づいて来る大きな影が見えた。

その影――車を更に見てみると、二つの影が車に乗っているのが分かった。

この距離ではまだ二つの影が誰なのかは分からないが、僕には判断出来た。

恐らくアルケニモンと……マミーモンだろう。

 

 

「アマキ……何か嫌な感じがする」

 

 

 その二つの影を見てブイモンが小さくそう呟いた。

……そう思うのも無理はない。

 

 僕達がダークタワーを破壊している時、

アルケニモン達がダークタワーデジモンをけしかけて来る事は何度もあったが、

態々アルケニモン達が姿を現す事は無かった。

だと言うのに今回アルケニモン達は、その前例を覆し姿を見せている。

……ついにこの日が来てしまったという事か。

 

 

「ブイモン。多分今日のアルケニモンは何時もと違う。

―――――本気だ。本気で僕達を潰しに来てる」

 

 

「って事は…………究極体?」

 

 

 ブイモンの言葉に僕は無言で頷く。

その反応を見たブイモンは先程までよりも気持ちを入れなおしたのか、

グッと力強い目付きでアルケニモン達の方を睨みつけた。

そしてそんな警戒心丸出しの僕達に構う事なくアルケニモン達は堂々と僕達の前に車を止めた。

 

 

「やあ、元気そう……いや、ちょっとやつれたかい?」

 

「……お蔭様で」

 

 

 車から降りながらそう話しかけてくるアルケニモン。そして…………

 

 

「……そっちの方は初めて見る顔ですね。お仲間ですか?」

 

「ああ! オレはアルケニモンのボ、ボーイ、フレ……仲間のマミーモンだ!」

 

「――――!! アンタなに正体をばらしてるんだい!!」

 

 

 今まで隠していた正体を突然仲間であるマミーモンにばらされたアルケニモンは本気の拳をマミーモンにぶつけた。

そんなアルケニモンにマミーモンは、まだ隠していたとは知らなかったと言い訳をしながら謝罪する。

 

……まさか敵前でそんな漫才を見せて来るとは思わなかった。

これ以上この空気が続くのを恐れた僕は、マミーモンに助け船を出す。

 

 

「貴方達が人間では無くデジモンだという事は前々から分かってましたよ。

……まあ何モンまでかは知りませんでしたが」

 

「そうなのかい? へぇー、流石はアタシのダークタワーデジモンを何度も倒すだけあるね」

 

「オレ達の、だろ? アルケニモン」

 

「……このバカは放っておいて、本題を話す前に一つ。

前々からアンタに聞きたい事があったんだよ」

 

「聞きたい事ですか?」

 

「ああ。他の選ばれし子供達はどうしたんだい?

ギガドラモンとの戦い以来見かけないんだけど……もしかして逃げたのかい?」

 

「逃げては無いですが……ハッキリ言って、居ても足手纏いになるだけなので前線には来るなと言ってます」

 

「成る程……だから最近アンタしかダークタワーを壊さないんだね。

そうかいそうかい――――お互い無能な仲間を持つと苦労するね」

 

「…………」

 

 

 アルケニモンの言葉に答えずジッとアルケニモンの方を見る。

今の質問でアルケニモンの聞きたい事は聞き終わった筈だ。

だとしたら――――ここからが本番だ。

僕はアルケニモンの方を見ながらポケットからD3を取り出す。

 

 

「なら――――ここでアンタを倒しても他の選ばれし子供達は現れないって事だね?」

 

「……どういう事ですか?」

 

「いや、こっちの話さ。

とにかく今日は、アタシのダークタワーデジモンを散々倒したアンタに特別なプレゼントがあるんだよ」

 

 

 アルケニモンは口元をニヤつかせながらそう言うと、両手で自分の髪を掴んで引き抜いた。

そしてその髪を辺りのダークタワーに向かって投げつける。

それぞれの髪は真っ直ぐダークタワーの方へ飛んで行き、ダークタワーに刺さると、まるで引き寄せれる様に空に向かって浮かび上がり、集まって行く。

その塊は少しずつ萎んでいき、デジモンの姿へと変わっていった。

そのデジモンの姿は、例えるなら――――漆黒の竜戦士そのものだった。

 

 

「アタシの最高傑作で遊んであげるよ!!」

 

「ウァァァァッァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

 

 アルケニモンが言い終わると同時に漆黒の竜戦士――ブラックウォーグレイモンの雄叫びが辺りに響き渡る。

……どうやら原作と同じくダークタワー100本で作られたのはブラックウォーグレイモンの様だ。

現時点でこのブラックウォーグレイモンに心が有るかは分からないが、どちらにしても厄介な事には変わりない。

僕は初めて直面する究極体デジモンの敵意に押されながらブイモンをウイングドラモンへ進化させる。

するとブラックウォーグレイモンは目の前にウイングドラモンが現れるや否、襲い掛かってきた。

それが戦いの幕開けとなった。

 

ウイングドラモンは飛びかかってきたブラックウォーグレイモンを飛び上がって躱すと、

その反動で回転し真下に来たブラックウォーグレイモンに全力の尻尾攻撃を振るう。

死角からの攻撃にブラックウォーグレイモンは、それを躱す事が出来ずに地面に叩きつけられる。

と、思いきや、ブラックウォーグレイモンはウイングドラモンの攻撃を喰らいながらも地面に叩きつけられずギリギリで空中で踏みとどまると飛び上がり、今度はウイングドラモンの尻尾を掴んだ。

 

 

「ッッッッ!!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはそのままグルグルと尻尾を掴んだまま回転し、地面に投げつけた。

ウイングドラモンは先程のブラックウォーグレイモンの様に寸前で踏みとどまる事が出来ず地面に叩きつけられるが、

すぐさま起き上がり、ブラックウォーグレイモンの元へ舞い戻った。

 

 

「いいよ、ブラックウォーグレイモン!! そのままやっちまいな!」

 

「あ、アルケニモン!! ここに居ちゃオレ達も巻き込まれる!」

 

 

 今までとは違い、今回は明らかな手応えを感じているのかアルケニモンは声を大にしながらブラックウォーグレイモンを応援していた。

そんなアルケニモンをマミーモンは必死に車に乗せ、この場から離れていく。

……これからもっと戦いが激化するのを感じ取ったのだろう。

そんなマミーモン達の様に僕もウイングドラモン達から少し距離を取った。

 

 そんな僕達に対しブラックウォーグレイモンは、舞い戻ったウイングドラモンに再び飛びかかってくるが、

ウイングドラモンは今度は尻尾を掴まれないよう余裕を持って飛び上がり回避する。

そして中距離から灼熱のブレスをブラックウォーグレイモンに対し何発か放つ。

が、ブラックウォーグレイモンはそれらを回避、もしくは背中のブレイブシールドで防ぎながら右手のドラモンキラーを突き立てながら迫ってくる。

……まずい!

 

 

「ウイングドラモン! その爪は前に言った様に竜型のデジモンに対し絶大な効果を持つ爪だ! 絶対にまともに受けるな!」

 

 

 ウイングドラモンは両手に持った宝玉を一時的に消し去ると、目前に迫ったドラモンキラーを装備した腕元を掴むことで何とか抑え込む。

掴むと同時にもう片方のドラモンキラーも振るわれそうになるが、そちらも同じように抑え込んだ。

 

 

「……ウォォォォ!!!」

 

「ッッ! ダメだ」

 

 

 が、純粋な力でブラックウォーグレイモンの方が上回っていたせいか、ブラックウォーグレイモンは両腕を掴まれたままウイングドラモンを地面に叩きつけ、そのまま何メートルも引きずって行く。

 

 

「……!!」

 

 

 このままでは一方的にダメージを喰らい続けると判断したウイングドラモンは、自分もダメージを受ける覚悟を決め、目前のブラックウォーグレイモンに灼熱のブレスを放った。

殆ど予備動作なく放ったブレスにブラックウォーグレイモンは反応出来ずにまともに命中しその時に発生した爆発で後方に吹き飛ばされる。

同じ様にすぐ近くに居たウイングドラモンも爆発のダメージを負ったが、予めダメージを受ける心構えをしていた為、ブラックウォーグレイモンよりはダメージは少なかった。

すぐさま起き上がり、僕の所へと飛び戻った。

 

 

「……アマキ、アイツかなり強いよ」

 

「確かに……予想以上だ」

 

 

 だが決して予想外と言う程では無いというのが僕が今の攻防で抱いたイメージだった。

確かにブラックウォーグレイモンは強い。

その強さは確実にあの瞬間のキメラモンを超えている。

だがウイングドラモンが喰らいつけない程では無い。十分倒せる可能性が有る差だ。

……少なくともウイングドラモンがもう少し心があるデジモンと戦って経験を積んでいたのならもう少し善戦出来る戦いだっただろう。

 

 

「そしてどうやらあのブラックウォーグレイモンには心が有るようだね。

立ち回りが今までのダークタワーデジモンと違いすぎる。

……とにかく倒せるかは置いておいて、この場でブラックウォーグレイモンと決着をつける訳にはいかない。

だから……」

 

「……分かった。じゃあアレをすれば良いんだね?」

 

 

 ウイングドラモンの問いに僕は無言で頷くと、ウイングドラモンは了解と一言返し、先程消し去った両手の宝玉を再び両手に戻すと、此方の様子を窺うように空に浮かび上がっていたブラックウォーグレイモンの方に全力で飛びかかった。

ブラックウォーグレイモンは自分に向かって来るウイングドラモンを返り討ちにしようと構えを取っていたが、

全デジモンの中でも上位に匹敵するウイングドラモンの全力の飛行速度に驚愕したような反応を見せ、

殆ど反応出来ずに接近をゆるし、そのままアッパー攻撃を喰らい上へ吹き飛んだ。

 

 

「……クッ!」

 

 

 そんなブラックウォーグレイモンをウイングドラモンは見上げながら自身の口の前にエネルギーを集める。

 

 

『ブレイズソニックブレス!!』

 

 

 

 限界以上にエネルギーを圧縮したウイングドラモンのブレスがブラックウォーグレイモンを襲う。

だが、エネルギーを込め過ぎた為か速さはそれ程では無くその結果ブラックウォーグレイモンはそれを余裕を持って躱した。

――――が、ブラックウォーグレイモンが躱してから数瞬後、そのブレスは独りでに大爆発を巻き起こした。

 

 

「なんだと!?」

 

 

 限界以上にブレスが圧縮されたゆえの結果だった。

突然の後方からの衝撃にブラックウォーグレイモンは初めてまともな言葉を漏らしながら、

驚愕の表情のまま黒煙と共に発生した爆風を背中のブレイブシールドを両手に装備して防いだ。

 

この行動は爆風を防ぐという意味では間違った行動ではなかったが、完全にウイングドラモンを無視してまで取るべき行動では無かった。

ウイングドラモンは、爆風に気を取られたブラックウォーグレイモンの背後に回り込み容赦ない全力の右ストレートを叩きこんだ。

完全な意識外からの攻撃にブラックウォーグレイモンは対処できずにまともに喰らい、後ろへ吹き飛んだ。

――――が、流石は究極体というべきか、殆どダメージを喰らった様子を見せないまま空中で受け身を取り、

反撃すべく唸り声を上げながらウイングドラモンに向かってきた。

 

……意識外からの攻撃を受けてもダメージを見せないか。

 

 その後、何度かウイングドラモンは向かってきたブラックウォーグレイモンを躱して攻撃を加えようとするが、

その度にその隙を狙われ反撃を喰らってしまう為、最終的には大きな隙が生まれた時以外は一方的に攻撃を耐え続ける戦いになってしまった。

 ……ウイングドラモンが最高速度を出せれば、いくらブラックウォーグレイモンといえ対処するのは厳しいだろう。

だが、ウイングドラモンがブラックウォーグレイモンの対処出来ない速さに到達するには多少の溜めが必要だった。

そしてそんな隙をブラックウォーグレイモンが簡単に見せてくれる筈が無かった。

 

 

「オラオラ! さっきまでの威勢はどうしたぁ!!」

 

「……っく!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは、声を上げながらウイングドラモンにとっての天敵であるドラモンキラーを何度も振り下ろす。ウイングドラモンは大半のそれを躱すが、全ては躱しきれない。

十数回に一回程度にはカスってしまい、その度に少しずつ動きに支障が出てしまう。

戦況は完全にブラックウォーグレイモンが優勢だった。

 

 そんな戦いの様子にアルケニモンとマミーモンは応援の声を上げながら歓喜の笑みを浮かべていた。

……恐らくこのまま戦いが続けばブラックウォーグレイモンの勝利は揺るがないと確信しているのだろう。

確かに今戦況を支配しているのはブラックウォーグレイモンだ。

だが、決してウイングドラモンが一方的にやられている訳では無い。

だがこれ以上戦いが続くのは…………

 

 そんな事を考えていると、突如後ろから服を引っ張られる感触がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」 

 

 

 先程まで同じ様な戦いが続いていた戦況に変化が起きた事をブラックウォーグレイモンは気付いた。

先程まで攻撃を躱す事を優先した動きをしていたウイングドラモンが突然ブラックウォーグレイモンに真っ向から挑むような立ち回りになったのだ。

 

 その事に僅かながら違和感を覚えたがブラックウォーグレイモンはその違和感を無視し、正面から向かって来るウイングドラモンに意識を集中させた。

ウイングドラモンに隙を見せない事こそが現状最も有効な手段だと考えたからだ。

接近して攻撃を繰り出すウイングドラモンにブラックウォーグレイモンは、距離を取る所か自身も攻撃の数を増やして真正面から対抗する。

両者ともに傷付きながらそんな攻防が続くと、突如ウイングドラモンは一度大きく羽を羽ばたかせブラックウォーグレイモンから10mに満たない程度の距離を取ると、その場で口元にエネルギーを集め出した。

ウイングドラモンの突然の敵前であまりに隙だらけの行動にブラックウォーグレイモンは驚愕で一瞬動きが止まったが、

その隙すらも無視してウイングドラモンは更にエネルギーを溜める。

そこでブラックウォーグレイモンは、ウイングドラモンが先程の大爆発するブレスを放とうとしていると理解出来た。

 

 

「焦ったか! そんな攻撃撃たせる筈があるか!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは速さで勝るウイングドラモンが動きを止め、決して有効とは思えないタイミングで大技を繰り出そうとしている事に怒りを覚え、全力でウイングドラモンに向かって行こうとした

――――時だった。

 

 

『フラウカノン!!』

 

 

 突如何者かの叫び声と共に、背中に衝撃が伝わった。

突然の出来事に驚愕しながらブラックウォーグレイモンが後ろを振り向いてみると、

そこにはピンク色の花びらの姿を模したデジモンがこちらに向かって砲撃を向けていた。

花びらを模したデジモン――リリモンは、ブラックウォーグレイモンが自分の方を見ていると気が付くと、

砲撃をしまい、右手で手を振って見せた。

 

 

「はぁ~い、こんにちは」

 

 

「――! 雑魚が俺達の戦いに水を差すなぁ!!」

 

 

 自分達の戦いに水を差されたことに怒りを覚えたブラックウォーグレイモンは、攻撃目標をリリモンに変更し、全力で向かって行こうとした時だった。背後に強烈な熱気を感じた。

 

 

「しま――――」

 

 

 ウイングドラモンが放った全力を超えたブレイズソニックブレスをブラックウォーグレイモンは避けれずに受ける。

が、流石はブラックウォーグレイモン。隙を突かれた攻撃だったのにも関わらずその攻撃をなんとかブレイブシールドで防いだ。

ブラックウォーグレイモンに命中すると共に発生した黒煙。

それが晴れると、その場にはこの攻撃を放ったウイングドラモンも、戦いに水を差したリリモンも、そのパートナーも居なかった。

 



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034 アグモンの決意

 この回も結構書き直しました。

……テントモンの口調はこれでも頑張りました。


 リリモンのお蔭で何とか無事に逃げ出せた僕達は、

何時も寝泊りしている場所まで戻るとようやく気を抜きながら座り込んだ。

 

 

「はぁーー……ありがとうパルモン。お蔭で助かったよ」

 

「いいのよ。それよりブイモンは大丈夫なの?

私が来るまでの間一人でブラックウォーグレイモンと戦ってたんでしょ?」

 

「オレは全然平気だぜ!」

 

 

 パルモンの言葉にブイモンは元気よく飛び上がりながらそう返した。

その姿にパルモンは勿論、僕自身も改めてブイモンは無事だと安心できた。

 

 ……あの時、パルモンが来たのは偶然では無い。

僕がそろそろ究極体が作られると思い始めた日から、パルモンには予め少し離れた場所で待機して貰うようにしていた。そしてもしも空に大きな爆発が見えたらその爆発の方へ駆けつけて欲しいとお願いしていたのだ。

だからこそブイモンはあの時、エネルギー消費の割にダメージが殆ど期待できないあの技を放ったのだ。

二度目を放ったのは僕の元にパルモンが来たのが見え、この攻撃を当てられると確信したからだ。

……もしもあの時、攻撃が大きく外れ、ブラックウォーグレイモンを撒く事が出来なかったら……まだ戦いは続いていたかもしれない。

 だがブラックウォーグレイモン自身アルケニモン達に命令された通りに動いている自分に少なからず怒りを覚えていたように感じたので、もしもあの時に堂々と逃げると言っていたら逃げられたかもしれないな。

 

 ……とにかく戦いが激化する前に逃げれて良かった。

あれ以上戦っていたらブラックウォーグレイモンが、戦う事が何よりも楽しいと思ってしまうようになっていたかもしれない。

……少なくとも現時点では絶対にそれは避けたい。

何故ならブラックウォーグレイモンとは一度真剣に話がしたいから。

 

 

「今は……まだ夕暮れ時とはいえないか。

ブイモン、少し時間が経ったら……いや、今からはじまりの町へ行こうか」

 

「分かった。はじまりの町に用があるの?」

 

「まあね。それでパルモンはどうする?」

 

「そうね……ワタシも行っていい?」

 

「構わないよ。今日あんなことがあったからあの女……アルケニモン達もこれ以上騒ぎは起こさないと思うしね」

 

「あの人間ってデジモンだったの!?」

 

「うん。詳しくは歩きながら話すよ」

 

 

 パルモン達にそう伝え、立ち上がろうとしたその時、これまでと今日の疲れのせいか一瞬足がふらついたが、何とかこけない様に踏み止まれた。……その後ブイモンとパルモンに視線を向けてみるが、二体とも運よくこちらを見ていなかったのか何も言ってこなかった。

……よかった。こんな事で一々心配かけていられないからね。

 

 僕は何事も無かったように先導して前を歩きだしたブイモン達に案内されながら始まりの町へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はじまりの町へ着いた僕達は、一先ず身を隠しながら奥へと進んで行く。

……別に見られても問題がある訳では無いけど、選ばれし子供がまだ居るか居ないかは出来れば先に確認したい。

 

 隠れながら奥へ進んで行き、中心部に辿り着いた僕達はひっそりと木蔭から中心部のデジタマエリアを覗く。

そこにはまだ孵っていない沢山のデジタマと、既に半分に割れていて、赤ちゃんデジモンの家となって居るデジタマ、そして駆け回る赤ちゃんデジモンと、その赤ちゃんデジモン達の世話をしているエレキモンやアグモン達前回のパートナーデジモンの姿が見えた。

 

そしてそこには選ばれし子供達の姿は見えない。どうやら既に現実世界に帰ったようだ。

……もしも居たらアルケニモン達の正体位は話しておこうかと思ったんだが居ないなら居ないで問題ない。

それよりも今日この場所に来た本命の理由であるアグモンがここに居た事に僕は安堵の吐息をもらすと、アグモン達の元へと歩いて行った。

 

 

「……! モリヤはん! それにブイモンはん等も」

 

 

 僕の存在に始めに気が付いたテントモンがそう声を上げると、その場に居た赤ちゃんデジモンを除く全員がこちらに視線を向けた。

……その視線には初対面のエレキモンのものも含まれている。

 

 

「久しぶりだな、テントモン、アグモン、ガブモン、ピヨモン、ゴマモン。

……そして君は多分初対面だね。

僕は守谷。次に選ばれた選ばれし子供の一人だ。よろしく」

 

「……オレはエレキモン。ここでベイビー達の面倒を見てるデジモンだ。よろしくな」

 

 

 エレキモンはそう自己紹介すると、すっと右手を差し出してきた。

それに答えるように僕も右手を差し出し、握手を交わす。

 

 

「………………」

 

「……どうしたのエレキモン?」

 

 

 握手をしながらジッと僕の目を無言で見続けるエレキモンに疑問を感じたアグモンがそうエレキモンに投げかけると、エレキモンはハッと我に返り謝罪しながら手を放してくれた。

 

 

「悪い悪い。同じ選ばれし子供なのにあんたがタケル達とあまりに違うからちょっと思う所が合ってな。

本当に悪かった」

 

「謝る必要は無いよ。君はここで他のデジモン達の面倒を見ている立場なんだ。

少しでも怪しい奴に警戒を覚えるのは当たり前だ。

寧ろ僕は、君がかなり賢いデジモンだと思ったよ」

 

「そう言って貰えると助かるぜ。

このはじまりの町は正確にこの場所を知らない限り、悪の存在は辿り着けないって分かってるんだが警戒するに越したことはないからな。

現に今デジタルワールドでは大人の女が荒らしまわってるみたいだし」

 

 

 エレキモンは最後にもう一度僕に謝罪すると、赤ちゃんデジモン達に散歩に行くぞと伝え、共にこの場所から離れて行った。

これからする話に自分達が居ては邪魔だと判断したんだろう。

……別に居ても問題は無かったけど、確かに話の途中とかで泣かれたら面倒だな。

僕はエレキモンの好意に感謝しながらこの場所に居るアグモン達に話しだした。

 

 

「一応聞くが、高石達はもう帰ったのか?」

 

「タケル達はついさっき帰ったよ。

もし急ぎの様なら呼んでこようか? 多分今ならまだ間に合うよ?」

 

「…………いや、いいよ。高石達にはまた別の機会に話す事にするよ。

今日の本命の目的は果たせるしな」

 

「タケルはんらが居ないのに目的が?

つまりモリヤはんはワテ等に用があったって事でっか?」

 

 

 テントモンの問いに僕は大体それで合ってると返す。

……一応アグモンだけでも良かったけど、他のみんなの意見も聞けるに越した事無いからね。

そして始めに僕はアグモン達に謎の女の正体と、その仲間について話した。

謎の女がデジモンだという事に全員驚いていたが、心底から驚いている様子では無かった。

どうやらアグモン達はその可能性を少なからず想像してたようだ。

……まあ確かにそもそもこの世界には現状普通の手段で大人の人間は来れないからね。

それを踏まえればその謎の女の正体に少なからず気が付くか。

 

 僕はこの話が長引かずに済んだことに心の中で少しだけ喜ぶと、

はぁーっと息を大きく吐いた。

……さて、ここからが話の本番だ。

 

 

「謎の女がアルケニモンという完全体だという事と、マミーモンと言う完全体の仲間が居るという事は分かって貰えたな? なら次の話だ」

 

「それが本命の話?」

 

「ああ。

……今日アルケニモン達はダークタワー100本を使って『究極体』を作り出した。

それも只の究極体では無くブラックウォーグレイモンという心を持ったダークタワーデジモンをな」

 

 

 僕の言葉にアグモン達は驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「きゅ、究極体でっか」

 

「それもよりにもよってブラックウォーグレイモンだなんて……」

 

「それにダークタワーデジモンなのに心を持ってるの!?」

 

「もしかして戦ったりしたの? 大丈夫だった!?」

 

 

 上からテントモン、ガブモン、ゴマモン、ピヨモンがそんな言葉を漏らした。

 

 

「ピヨモンの想像通り戦ったが、パルモンのお蔭もあって何とか逃げ切れた」

 

「逃げ切れたって事は……」

 

「……ああ。今もこのデジタルワールドにブラックウォーグレイモンは存在している」

 

 

 アグモンの言葉にそう返すと、アグモンは言いづらそうに尋ねてきた。

 

 

「……倒せなかったの?」

 

「…………正直にいうとあのタイミングに限っていうなら倒す事は出来たと思う。

こっちにはパルモンも居たしね。

だけど僕はあのタイミングでブラックウォーグレイモンを倒す訳にはいかなかった」

 

 

 究極体を倒せたと言う言葉と、倒せたのに倒さなかったという僕の発言にテントモン達は再び驚愕の表情を浮かべていた。

そんな彼等に理由を説明すべく僕は再び話し出した。

……ここで時間を空けたら個別に色々質問されて面倒な事になりそうだからね。

 

 

「僕がブラックウォーグレイモンをあの場で倒さなかった理由は、大きく分けて二つ。

1つは、ダークタワーデジモンだったから。

……もしもあの場でブラックウォーグレイモンを倒してしまっていたら、

アルケニモン達はこれからもダークタワーで究極体を作るようになってしまっていた可能性が高い。

……いや、最悪一度に数体の究極体を作る様な事態が起きていた可能性が有った。

だから僕はあそこでブラックウォーグレイモンを倒す訳にはいかなかった。

アルケニモン達には究極体を作るという事にはかなりのデメリットがあると理解して貰う必要があったからな」

 

「デメリット?」

 

「ああ。

まず、究極体ダークタワーデジモンを作るのには100本のダークタワーが必要だ。

これはさっき説明したね?」

 

 

 僕の問いにテントモン達は無言で頷く。

 

 

「もしも奴らの目的が僕達選ばれし子供達を倒す事ならダークタワーなんて温存せずに次々と完全体、究極体ダークタワーデジモンを作ればいい筈だ。そうすれば僕達なんて簡単に倒せる。

だけどアルケニモン達はそうはしなかった。

つい最近まで完全体ダークタワーデジモンですら出し惜しみしていた。

まるで出来ればそうはしたくなかったと言わんばかりに」

 

「……! まさかアルケニモン達の目的は……!」

 

「「――――ダークタワーをデジタルワールドに建てること!!」」

 

「……恐らくそれが正解だろう。

だからこそアルケニモン達はダークタワーを多く消費する完全体ダークタワーデジモンをつい最近まで出し惜しみしていた」

 

「ならアルケニモンはどないな理由で完全体ダークタワーデジモンを作り始めたんでっか?

モリヤはんの言葉通りならダークタワーを多く消費する完全体ダークタワーデジモンは作りたくないと思うさかいに……」

 

「もう成熟期ダークタワーデジモンだけじゃ僕達を抑えきれないと判断したんだと思う。

……いや、それ以上にアルケニモンがやられっぱなしで腹が立ったからと言う理由が大部分かもしれない」

 

 

 ハッキリ言ってそれが本当の理由だろう。

アルケニモン達の真の目的はダークタワーを建ててデジタルワールドの位相をずらし、

大人の人間でもデジタルワールドに来れるようにすることだ。

僕が必要以上にダークタワーを壊していない以上、本当なら僕達の事は放っておいてもいい筈だからね。

 

 

「……だいぶ話が脱線したけど、とにかく僕があの場でブラックウォーグレイモンを倒さなかった理由の一つは、これ以上究極体を作らせない為。

そしてもう一つの理由は、ブラックウォーグレイモンに心があったから。

……これはアルケニモン達にとっても予想外の事だったと思うんだけど、

ブラックウォーグレイモンには本来ダークタワーデジモンが持たない筈の心があった。

しかも決して悪とは断言できない心がね」

 

「……アルケニモン達が作ったのに悪の心じゃなかったの?」

 

「うん。まあだからといって正義の心とは言えないモノだったけどね。

でもアルケニモン達の命令に嫌悪感を感じていた様子だった。

……もしかしたら今頃、アルケニモン達の元を離れて単独行動をしているかもと思えるくらいにはね。

だからこそ僕は余計にブラックウォーグレイモンを倒す訳にはいかなかった。

アルケニモン達に究極体ダークタワーデジモンは自分達の言う事を一切聞かないじゃじゃ馬だと判断させる絶好の機会だった可能性があったからね」

 

 

 ……もしも、あのブラックウォーグレイモンがアルケニモンに忠実な存在だったのなら、僕は何が何でもあの場でブラックウォーグレイモンを倒さなければならなかった。

僕達が逃げた後に自分に忠実なブラックウォーグレイモンの姿に気を良くして、

究極体を多く作る可能性があったからね。

……あのブラックウォーグレイモンが原作と同じような性格で良かった。

 

 

「そしてここからの話が今日僕がこの場所に来た理由なんだ」

 

 

 その言葉にパートナーデジモン達は一斉に僕の方を向いた。

 

 

「僕の予想ではブラックウォーグレイモンは既にアルケニモン達の元を離れて単独行動をしていると思う。

そうなってた場合、アルケニモン達は究極体ダークタワーデジモンの扱いにくさを身を持って体験し、余程の事が無い限りこれ以上究極体は作らないようになった筈だ。

そしてそうなって居る場合、ブラックウォーグレイモンを倒してはならないという状況では無くなるんだ。

……そこでみんなに質問だ。

――――僕はブラックウォーグレイモンをどうすればいいと思う?」

 

「「「――――?」」」

 

 

 僕の突然の質問にテントモン達は質問の意図が理解出来ないと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

 

「……それはどういう事でっか?」

 

「質問の通りだよテントモン。

僕は明日ブラックウォーグレイモンに接触しようと思ってる。

その時にどうすればいいかを皆に尋ねてるんだ。

……僕だけの考えでは手に余る問題だと思ってね」

 

 

 僕は困った様な表情を浮かべながらそう返す。

……本当はやる事は決まっているのに。

 

 

「待ってアマキくん! どうして明日なの?

今日ブラックウォーグレイモンと戦ったばっかりで体力を消耗してるのに……!

それだけじゃないわ! アマキくん達はそれ以前に毎日戦って疲れてる筈よ!

せめて数日位休んでも……」

 

「……僕も出来ればそうしたんだけど、そうはいかないんだパルモン。

ブラックウォーグレイモンは放っておけばどんどん強くなってしまう。

心を持ってるからね。

……生まれたばかりの状況であれ程強かったブラックウォーグレイモンがもっと力を付けてしまったら誰も勝てなくなってしまう。それは避けなければならないんだ」

 

「でも…………」

 

「……ブイモン、明日戦える?」

 

 

 僕の問いにブイモンはおうと元気いっぱいに答える。

その様子は無理しているようには見えなかった。この様子なら明日には確実にフル回復しているだろう。

……もしも本当にブイモンに少しでも疲れが残っていたのなら流石に僕も作戦実行を遅らせたが……

流石は古代種で竜型のデジモンだ。

 

 

「心配してくれてありがとうパルモン。

だけど見ての通り、ブイモンはパルモンが思ってるよりもずっと頑丈なんだ。

勿論今日はかなり疲れたと思うけど、普段はそれほど力を使うほどキツイ戦いはしてないからね」

 

「勿論ブイモンもそうだけどワタシは……

 

「……それにブラックウォーグレイモンの存在は本当に危険なんだ。

仮に……仮に善の心を持っていたとしてもね。

放置する事は絶対に出来ないんだ」

 

 

 ……これは本当に心からの本音だった。

ブラックウォーグレイモンの存在は、存在しているだけでデジタルワールドを歪ませるほど強力だ。

しかも原作を見る限り、ダークタワーの性質を持っているせいか、この世界を安定させる存在であるホーリーストーンとの相性は最悪だ。

もしもブラックウォーグレイモンが今の状況で一度でもホーリーストーンの存在を感じ取ってしまったのなら本当に不味い事になってしまう。

ただでさえこの世界は原作よりも何故か四聖獣の力が弱まっている世界だ。

そんな世界でホーリーストーンを何個も破壊されたら……きっとこの世界は壊れてしまう。

 

 そんな僕の本気の思いが伝わったのかそれ以上パルモンが追及して来ることは無かった。

 

 

「……それで僕はどうすればいいと思う、『アグモン』?」

 

 

 僕の言葉で全員の視線がアグモンに集まる。

 

 

「……正直に言うとこの質問はアグモンに聞きたくて来たんだ」

 

「ボクに?」

 

「うん。同じくウォーグレイモンになれるアグモンに」

 

「ボクは……………」

 

 

 アグモンは少しだけ俯くが、直ぐに顔を上げた。

その表情に迷いは無かった。

 

 

「ボクは一度そのブラックウォーグレイモンと話がしたい」

 

「……倒しに行くつもりでも仲間になって貰うつもりでもなく?」

 

「うん。ボクはそのブラックウォーグレイモンがどんなデジモンか知らない。

本当に倒さなきゃダメなデジモンなのかも、仲間になってくれるかも知れないデジモンなのかも。

――――だがら一度直接会って話してみたい!

倒すとか仲間になってらいたいとかはその後で決めたい」

 

 

 真剣な眼差しで僕を見つめるアグモン。

その眼差しを僕は俯いて考える振りをして躱した。

……本当は僕はこうなる事を何処かで分かっていた。

そう、アグモンならこう言ってくれるだろうと心の中で確信していた。

だから僕はあえてアグモンに質問を投げかけた。

……もしも、僕がアグモンに明日ブラックウォーグレイモンに会いに行くから付いて来てほしいと話してもきっとアグモンは付いて来てくれていただろう。

それこそが僕の信頼するアグモンだ。

だが僕に言われてブラックウォーグレイモンに会いに行き話をするのと、

アグモンが自分の意志で考えて、その上でブラックウォーグレイモンに会いに行って話をするのでは気持ちの持ちようが少なからず違うだろうと僕は考えた。

……明日の話し合いは出来れば成功させたい。

そう考えたからこそ僕はあえてこんな回りくどいやり方を選んだ。

 

……僕自身もブラックウォーグレイモンに伝えたい言葉などはあるが、今日の戦闘の事がある為、きっとブラックウォーグレイモンは僕とは本気の話し合いなんてしてくれないだろう。

……アグモンの話の後でもない限り。

 

 テントモン達もアグモンがそう答えを出したのならこれ以上口は挟まないと言った様子だった。

 

 

「……分かったよアグモン。じゃあ明日一緒にブラックウォーグレイモンを探しに行こうか」

 

「OK!」

 

 

 そう言って僕はアグモン達に背を向け、何時もの場所へと帰って行った。

……少なくとも今はこれ以上アグモンの顔を直視する事は出来なかった。

 

 



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035 伊織の思い

 遅くなって申し訳ございません


 守谷達がはじまりの町を出た頃、はじまりの町へと向かう4つの影があった。

 

 

「――――伊織がこんなミスするなんて珍しいわね」

 

 

 その影の一つ――京がどうしたの? と歩きながら少し心配そうにもう一つの影――伊織を見つめる。

そんな京に顔を合わせないまま伊織は俯きながら言葉を返した。

 

 

「……はい。

すいません京さん。わざわざ付いて来てもらって……」

 

「いいのよいいのよ。同じマンションに住んでる仲じゃない」

 

 

 申し訳なさそうに言葉を返した伊織に京はそう返した。

 

 そもそもこんな事になった経緯は、今日の修業を終え、皆と共に現実世界に戻ろうとゲートの前に立った時に伊織が忘れ物をしていることに気が付いた事が切っ掛けだった。

始めは忘れた物が剣道関連だという事もあり、明日取りに来ようという話になって居たのだが、伊織が大事な剣道道具を置いて帰る事は出来ないと言うので、最終的に伊織と京、アルマジモンとホークモンが一緒に取りに戻る事になった。

二人と二匹だけで行動する事にタケルとヒカリ達は反対していたが、

通る場所が謎の女はおろか、ダークタワーでさえ一本も建ったことない場所だという事と、

直ぐに戻るという言葉もあって最終的にはタケル達も伊織達だけの行動を認めた。

 

 自分のミスのせいで京にも迷惑をかけてしまっていると落ち込んでいる伊織の姿を見たホークモンは、伊織を元気づけるべく言葉を投げかける。

 

 

「気にする事ないですよ。どうせミヤコさんは早めに家に帰っても勉強とかしないので気にする事なんてな……」

 

 

 そう言い切ろうとしたホークモンだったが、ハッと京に睨まれている事に気が付き、両手で口を押え言葉を止めた。

そんな二人の行動に少し笑ったアルマジモンだったが、直ぐに緩んだ口元を戻すと、心配そうな表情を伊織に向けた。

 

 

「それんしてもミヤコの言う通りイオリが忘れもんするなんてめずらしいだぎゃ」

 

 

 何かあったのか? と尋ねる言葉に伊織は更に下を向いた。

その様子から察しがついた京は小さく溜息を付いた。

 

 

「……あんたまだ特訓時間が足りない事を悩んでるの?」

 

「…………はい」

 

「はぁ……。確かにあたしと伊織はタケルくん達と比べて色々遅れてる。

けど、それはしょうがない事でしょ? だってタケルくん達は3年前に先に選ばれし子供に選ばれてデジタルワールドに来てるんだから」

 

「……それはわかってます」

 

「それにあたし達だって努力してない訳じゃないでしょ? 今日だって時間の限り特訓したじゃない」

 

「でも……」

 

「さっきも言った通り、あたしも伊織の気持ちは分かる。

ただでさえ遅れてるあたし達がタケル君達と同じ特訓してちゃ、タケルくん達ですら出来ない超進化なんて出来る気がしないって事も……!

だけど仕方ないじゃない! 時間も場所も無いんだから!」

 

「…………すいません。そうですよね」

 

 

 京の言葉に伊織は小さく謝罪した。

 

 京の言う通り、京達には特訓する時間も場所も無かった。

何故ならヤマト達にはじまりの町以外での特訓を禁止されているからだ。

はじまりの町には特殊な結界が貼ってあり、正確に場所を把握できない限り悪の存在はこの場所に辿り着く事は出来ない仕組みになって居る。

だからこそ京達は今まで謎の女達の襲撃に怯えることなくのんびりと特訓に集中する事が出来ていた。

……だがはじまりの町には赤ちゃんデジモン達が暮らしているので遅くまでは使う事が出来ない。

それに加え、京達にも現実世界での生活がある為、結局平日は放課後から夕食の時間位までしか居られないのだ。

伊織もそれを理解しているからこそ、京にそこを突かれたらそれ以上言葉は出なかった。

 

 

 その後、気まずい空気になり、誰も一言も発する事無くはじまりの町へ着いた京達だったが、

そんな彼女達の目に町の中心で意味ありげに集まっているアグモン達の姿が映った。

 

 

「……何かあったんでしょうか?」

 

「行ってみましょ!」

 

 

 そう言ってアグモン達の方へ走り出す京。

その後を伊織達も付いて行く。

 

 

「おーい、アグモン、皆! 何かあったの?」

 

 

 京の声にアグモン達は一瞬驚きながら京達の方を向いた。

京達が現れるのはアグモン達にとって相当予想外だったらしく少し硬直していた。

そんな中、京の言葉に初めに反応したのはテントモンだった。

 

 

「み、ミヤコはん!? それにイオリはん等も。今日はもう帰られたんとちゃいましたか?」

 

「それが伊織が忘れ物しちゃってね。急いで取りに来たの」

 

「はい。大事な剣道の道具を忘れてしまって」

 

「な、成る程」

 

「ねぇねぇ、それより皆なんか集まってたみたいだけど何かあったの?」

 

 

 京の言葉にうっと、一歩後ずさるテントモン達だったが、突然円を組んで何かを話し合い始めた。

そんな彼等の姿を見て、京達は顔を見合わせ、首を傾げた。

 

 

「……何してるのかしら?」

 

「……詳しい話はわかりませんが、何やら僕達に話すべきかを話し合ってるみたいですね」

 

 

 取りあえずテントモン達の話し合いが終わるまで待っていようという事になり静かに待っていると、話し合いが終わったのか全員がよって来た。

 

 

「……もしかすると聞かん方がええ話かもしれまへんが、それでも聞きたいでっか?」

 

 

 テントモンの意味ありげな問いに内心首を傾げながらも京達は無言で頷いた。

その反応を見たテントモンは一瞬俯き、顔を上げると、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……ほな、話しますわ。実はさっきモリヤはんが――――

 

 

 そう言ってテントモンは京達に先程あったことを話した。

京達が帰った後に守谷がはじまりの町に来た事。

謎の女がデジモンだったという事。

謎の女の目的がデジタルワールドにダークタワーを建てるという事だった事。

完全体よりも強力な究極体ダークタワーデジモンが作られたという事。

そいつは守谷達でも倒しきれない程強く、その上時間が経てば強くなる最悪なデジモンだという事。

だがそいつには他のダークタワーデジモンと違い心が有ったという事。

明日、そのデジモンが敵か味方かを見極める為に守谷達とアグモンがそのデジモンに接触するという事。

守谷が話した全ての内容を京達に伝えた。

 

 その話を聞いた京達は、思った以上の話の濃さに少し頭が痛くなったが、

驚愕以上に完全体より上の存在、『究極体』が作られたという事に恐怖した。

 

 

「そ、そんな……まだあたし達完全体にもなれないってのに更にその上が現れるなんて……」

 

「……モリヤはもう究極体ダークタワーデジモンは作られないと思うと言ってたけど、

そもそもダークタワーで究極体まで作れるって事にオイラ驚いたよ」

 

「えぇ、ワタシもよ。

……もしもアルケニモン達の目的が選ばれし子供達を倒す事だったなら……」

 

 

 ゴマモンに続きピヨモンがぼそりと呟いた言葉に京達は下を向かざるおえなかった。

そんな場の雰囲気を変えるべく、ホークモンは先程の様に話題を変えるべく立ち上がった。

 

「そ、それよりどうしてテントモン達はこの話を話すか迷っていたんですか?

モリヤさんに口止めでもされていたんですか?」

 

「いや、そういう訳やありまへんが……」

 

 

 頭をかきながらそう曖昧な言葉を返すテントモン。

回りを見てみると、ゴマモンもピヨモンも似たような反応をしていた。

 

 

「……うーん、確かにオイラ達はモリヤに口止めなんてされてないけど、

何て言うか……今日のモリヤを見てると、なんだかあまり話さない方が良いのかなって思ったんだ」

 

「ワタシもおんなじ事思った。

……ワタシ今までモリヤくんがどんな子で何考えてるか全然分からなかったんだけど、

今日は少しだけ分かった気がするの」

 

 

 ピヨモンはそう言うと、悲しそうに俯いた。

 

 

「……モリヤ君は多分、私達が思ってる以上にデジタルワールドの為に戦ってる。

どうしてそこまでデジタルワールドの為に戦うのかわからないけどワタシはそう感じたわ。

…………それに…………」

 

「……それに?」

 

 

 アルマジモンの問いにハッとなったピヨモンは、何でもないわと誤魔化す様に言葉を返した。

 

 

「とにかくワタシ達は、モリヤ君が思っている以上にデジタルワールドの為に戦ってくれてるって事が分かったの。でもそんなモリヤ君の行動を皆に話したら、明日のモリヤくんの作戦とか行動に支障がでちゃうかもしれないと思ったら……」

 

「話すか話さないか迷っちゃったんだ。みんなごめんね……」

 

 

 そう言ってアグモンは申し訳なさそうに謝罪した。

後ろのテントモン達も申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

 未だ完全体より強いダークタワーデジモンが作られたという現実に気持ちが落ち込んでいた京だったが、そんなテントモン達の姿を見て、これ以上こんな顔をさせてはいけないと思い、元気そうな声でテントモン達に言葉を返した。

 

 

「みんなそんな顔しないでよ! あたし達全然怒ってないから!

そうよね伊織?」

 

 

 京の問いに伊織は小声ではい、と答えながら頷く。

 

 

「ほら、伊織も怒ってないって!

だからそんな顔しないでよ。そんな顔されちゃこっちが悪いことした気分になっちゃうから……」

 

「……そうだね。ごめ……いや、ありがとうミヤコ」

 

「いいのよいいのよ。

……それで守谷君は明日、アグモンとそのブラック、ウォーグレイモン?ってダークタワーデジモンに会いに行くんだよね?」

 

「うん」

 

「その…………ブラックウォーグレイモンとは話し合いだけで済みそうなの?」

 

「……それは分からない。ボクはまだブラックウォーグレイモンと会った事が無いからどうなるか全く分からないんだ」

 

「そうなんだ。

……じゃあもしも――――もしもよ? もしも話し合いで解決出来ずに戦いになったら……アグモン達は無事に帰って来れるの?」

 

 

 これが京が、守谷達がブラックウォーグレイモンに会いに行くと聞いた時から頭に浮かんでいた疑問だった。

自分達がまだ成熟期クラスの力しかないのに、完全体以上の力を持ったダークタワーデジモンが現れたのは京にとってはかなりの恐怖だった。

だけどそれ以上に守谷達がそんな存在と戦う事になるかも知れないと知った時、それ以上に恐怖した。

もしもそんな事になってしまったら……守谷達が帰って来れるのかと。

もしかしたら死んでしまうのでは……そう思ってしまった。

――――そしてそんな事になってしまったら残された自分達は……

 

 

「――――きっと大丈夫さ」

 

 

 いつの間にか少しだけ視線を下げてしまっていた京に、アグモンは心強く答えた。

 

 

「例え明日の話し合いが失敗しても……戦う事になったとしても、絶対にボク達は帰って来るよ!」

 

「ど、どうしてそう言いきれるの?」

 

「――――ボクがそうしてみせるから! ……じゃダメかな?」

 

 

 前半の強い思いのこもった言葉に対し、後半はかなり小さな声だった。

 

 

「皆も知ってると思うけど、モリヤはミヤコ達と同じ選ばれし子供なのにみんなとはちょっと違う。

何て言うか、何でも一人で戦おうとしてるんだ。

モリヤがボク達を頼るのは、本当にどうしようもない状況の時だけ。

それ以外は、どんなに辛い事があっても一人で抱え込んじゃうんだ」

 

「……そうね」

 

「前のキメラモンの時は、偶然ボクが居たからボクを頼ってくれた。

だけど今回は違う。今回はモリヤが『ボク』を頼って来てくれた。

それが本当に嬉しかった! だからボクは絶対に明日の作戦を成功させてみせる!

……どっちの結果に転んでもね。

ま、まあ明日はボクもブイモンも居るし、戦いになっても何とかなると思うよ?

元々モリヤ達だけでも倒せたかもしれないとか言ってた―――「どうしてそこまで守谷さん達の為に戦えるんですか?」

 

 

 アグモンの言葉を遮るように伊織が訪ねた。

伊織にとっては先程のアグモンの言葉は少し疑問だった。

別に伊織が守谷の事を嫌いなわけでは無い。アグモンが守谷達の為に全力で戦うのを否定している訳でも無い。ただ、何となく漠然とした直感だが、アグモンは伊織や京、それ以外の選ばれし子供達よりも守谷達の事を気にかけている気がしたのだ。

伊織にとってそれが疑問だった。どうしてそこまで守谷達の事を気にしているのかが。

 

 

 伊織の質問にアグモンは一瞬ポカンとした表情になったが、質問の意味を理解すると、少し照れくさそうに頭をかきながら答えを返した。

 

 

「――――だってモリヤ達は、勇気のデジメンタルを引き継いだボクや太一の…………ううん。ボクにとって初めて出来た『後輩』だからだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アグモン達の話が終わった後、伊織の忘れ物を回収した京達は、現実世界に帰るべく来た道を戻っていた。

……正直に言って京達はまだ守谷達が究極体の元へ行く事に完全には賛成していなかったが、アグモンのあの表情を見ているとそれ以上言葉を挟むことが出来なかった。

 

 

「……ねぇホークモン。明日、守谷君達ちゃんとブラックウォーグレイモンとの話し合いを成功させて無事に帰って来るわよね?」

 

 

 京の問いにホークモンはそれは……と、言いづらそうに視線を下げながら答えた。

 

 

「……ワタシもブラックウォーグレイモンとは会った事が無いので断言は出来ませんが……ハッキリ言って話し合いで解決するのは難しいと思います。

直接ブラックウォーグレイモンを見たパルモンの話を聞く限りではハッキリ言って話し合いが通じる相手とは到底思えません。

……いくら心が有ると言っても、だからと言って誰とでも仲良くなれるものじゃないですからね」

 

「…………やっぱりホークモンもそう思うのね」

 

「はい……。ですが、同時にアグモンの強い思いを聞いてワタシは戦いになっても大丈夫だと思いました!

ミヤコさん、心配しすぎないでください。モリヤさん達は無事に帰ってきますよ」

 

「――――そうね。守谷君達はあたしたちよりもずっと強いもんね!」

 

 

 ホークモンの言葉を聞いてようやく心が落ち着いた京は、さっきまでの自分の様にずっと下を向きながら歩いている伊織を励ますべく言葉をかけた。

 

 

「伊織、ホークモンも言った通り守谷君達なら大丈夫よ!

例え話し合いが失敗しても無事に帰って来るわよ」

 

「…………」

 

「いや、もしかしたら本当に話し合いが成功しちゃったりするかも!」

 

「そうですね! まだそうならないと決まった訳じゃないですしそうなる可能性も十分あり得ますね!」

 

「…………」

 

「……イオリぃ?」

 

 

 京とホークモンの言葉に一切反応を見せない伊織をアルマジモンは心配そうに覗き込む。

すると突然伊織が歩みを止めた。

 

 

「……どうして京さん達はそんな風に気楽に考えられるんですか?」

 

「――――え?」

 

「京さん達だけじゃないです……アグモン達も、どうして皆この現状に危機感を覚えてないんですか!」

 

 

 顔を上げてそう訴える伊織の表情は……様々な感情が込められた顔をしていた。

 

 

「確かに守谷さんは僕達と違って、パートナーは勿論、アグモンやパルモンをも完全体に進化させる事が出来る凄い人です。

ですが今回現れた敵は、完全体より上の段階の究極体なんですよ!?

なのにどうして皆こんな呑気に構えられるんですか!」

 

「そ、それは……アグモンが凄いやる気だったのと、守谷君が勝てない相手じゃないとか言ってたらしい「そうじゃないんです!!! そうじゃ、ないんですよ…………」

 

 

 京の言葉を伊織は大声で遮った後、今度は小さな声でその言葉を繰り返した。

その後、しばらく無言で俯いていた伊織だったが、多少落ち着いたのか俯いたまま話し出した。

 

 

「……僕が言っているのはそういう事じゃないんです。

僕が言いたいのは、究極体という敵が現れたのに特に対策を講じない現状に関してなんです」

 

「それは…………」

 

「……確かに究極体が現れたと言うのに何もしないワタシ達は呑気すぎるかも知れませんが、あまりミヤコさん達を責めてあげないでください。何故なら……」

 

「……わかってます。

僕達が考えた所で解決しない問題かもしれない事だという事はわかっています」

 

「そうですか。

……それにイオリさんも聞いていたと思いますが、モリヤさんはもう究極体は作られないと言ってたそうです。

ですからあまり深く考えない方が良いかもしれませんよ?

イオリさんがおっしゃる通り、考えても答えは出無さそうですし」

 

「…………そこなんです」

 

 

 ホークモンの言葉に引っかかる事があったのか、伊織はそう言うと顔を上げた。

 

 

「どうして皆さんは守谷さんが言ったからと言ってもう究極体が作られないと思えるんですか?

守谷さんは僕達に散々嘘を付いてきた人ですよ? それなのにどうして今回は嘘じゃないと疑わないんですか!」

 

「い、伊織、落ち着いて!

確かに守谷君は色々あたしたちに嘘を付いたけど、決してあたし達を騙して貶めようとした訳じゃないと思うの!

寧ろあたし達を危ない事から遠ざけ…………!」

 

「そうです。守谷さんは確かに僕達に色々嘘を付いてきました。いえ、現在進行形で様々な嘘を付いているんでしょうね。

……ですが今まで付いた嘘は殆どが僕達から危険を遠ざけるものだったと思います。

だとしたら――――」

 

「……守谷君はあたし達に心配を掛けない為にもう究極体が作られないって嘘を付いたかもしれないって事?」

 

「少なくとも僕はそうじゃないかと考えています。

……いくら究極体ダークタワーデジモンを作るのにダークタワーが100本必要だとしても、……心を持つというイレギュラーが発生したとしても、だからといって絶対にもう究極体が作られないと断言できる筈が無いと思うので」

 

 

 伊織の言葉にそんな……と京は絶望の入り混じった表情で呟いた。

 

 

「……仮に、仮に本当にもう究極体が作られないとしても僕はこの現状が嫌なんですよ。

戦える選ばれし子供が一人しかいないのに誰もその事に気を留めないこの現状が……」

 

「……どういう事?」

 

「……明日、守谷さんは、ブイモンとアグモンと連れてブラックウォーグレイモンに会いに行きます。

一応話し合いをすると言う名目らしいですが、僕も先程京さん達が言った様に戦いになると思います」

 

「……そうね」

 

「そして戦いになったとしたら…………ここはアグモンの言葉を信じて勝ったとしましょう。

ですが勝ったとしてもきっとブイモン達にとっても、守谷さんにとっても消耗の激しいギリギリの勝利になると思います。敵は今までと同じ進化形だった完全体では無く究極体なんですから」

 

「……そうね。それにヤマトさん曰く、守谷君の紋章無しの超進化は体力的なモノを使うって言ってたしね」

 

「はい。……そしてここからです。

その後、仮に完全体ダークタワーデジモンがデジタルワールドで暴れたらどうなると思いますか?」

 

「完全体はあたし達じゃ相手にならないから守谷く………!!」

 

「……ただの完全体ダークタワーデジモンだったらまだいいです。

仮に暴れるのがダークタワーデジモンを作っているアルケニモン達だったなら?

過去にヒカリさんを攫おうとした暗黒の海に住む謎のデジモン達だったとしたら?

再びキメラモンの様なデジモンが作られたとしたら?

……さっきは無しと言いましたが、仮にまた究極体ダークタワーデジモンが作られたら、誰が戦う事になるでしょうか?」

 

 

 伊織の言葉に京達は俯くことしか出来なかった。

もしも本当にそんな事態になった場合、そのデジモンを止められる選ばれし子供は守谷だけだった。

 

 

「このままでは僕達は、力不足だと言うのを理由に、この先あるかも知れない……いえ、きっとあるだろう命の危険がある戦いを全て守谷さんに押し付ける事になってしまいます!

皆さんは本当にそれがわかってるんですか!?」

 

「…………」

 

「……守谷さんはどう思っているか分かりませんが、守谷さんは僕達と同じタイミングで選ばれた選ばれし子供です。

仮に何らかの事情が絡んでいて、僕達より前に選ばれし子供に選ばれていたとしても僕は守谷さんの事を僕達と全く同じ選ばれし子供だと思っています。

そんな仲間に僕は危険な部分を全て押し付けるなんて嫌なんです……」

 

「伊織…………」

 

「……正直に言ってしまうと僕だって怖いです。仮に守谷さんと同じ領域に足を踏み込んだとしてもそんな相手達と戦うなんて。

ですが怖くても、僕は知ってしまった以上知らない振りは出来ません。……そんな卑怯な行為は天国のお父さんに顔向けできなくなりますしね。

――――それに僕は守谷さんだって怖がってるんだと思うんですよ」

 

「守谷君が?」

 

「はい。

だって守谷さんは選ばれし子供という事を除けば、タケルさん達と同じ只の10歳の小学生なんです。

そんな普通の子供が……いえ、『普通の人間が』そんな状況で恐怖を覚えない筈が無いんですよ」

 

「……確かにそうね。ハッキリ言って忘れてた。守谷君あたしの一個下だったわね」

 

 

 伊織の言葉で守谷の年齢を思い出した京は、今まで年下に頼りっきりだったという真実と、守谷が今まで抱えていたであろう恐怖に対して罪悪感を覚えた。

だからこそ、その後の伊織の提案を京が否定する事は出来なかった。

 

 

「僕はこれ以上守谷さんだけが戦力のこの現状を放っておくことなんて出来ません。

これ以上……守谷さんだけに怖い思いをさせたくないんです!

…………ですが、守谷さんの力になろうにも僕が現状足手まといにしかならない事は分かっています。

だから僕は今日の夜から密かに修行しようと思います。

タケルさん達に近づくためにも――守谷さんと一緒に戦えるようになるためにも」

 

「伊織…………」

 

「なので京さんにはこの事を黙っててもらいたいんですよ。

……ヤマトさんや光子郎さん達との約束を破る事になってしまいますが、僕にはもうこれ以外の方法が思いつきませんから。

遅れてる僕が皆さんに追いつくためにはタケルさん達よりも……守谷さんよりも長くデジタルワールドに滞在して修行するしかないと思うので」

 

 

 お願いしますと深く頭を下げる伊織。

その姿を見たアルマジモンも深く頭を下げた。

 

 

「オレェからもお願いだぎゃミヤコ。イオリのお願いを聞いてくれんか?」

 

「……どうするんですかミヤコさん?」

 

 

 ホークモンの問いに京はそうねと少し考えるような素振りを見せながら話し出した。

 

 

「……いいわ。もしも二人があたしの出す条件を呑んでくれのならこの事は皆には黙っててあげる」

 

「条件、ですか?」

 

「どんな条件だぎゃ?」

 

「――――その修行にあたしも付き合わせてくれるならってのはどうかしら?」



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036 転生者としての使命

 今回は話ばかりで展開が殆ど進みません。

 ブラックウォーグレイモンが登場するのは次回の予定です


「あ、伊織! さっきぶりね」

 

「こんばんは京さん! ……もしかして待たせちゃいましたか?」

 

 

 伊織の心配そうな表情に京は今来た所よと笑顔で返した。

現在の時刻は午後11時頃。京達がこんな時間にデジタルワールドに来ている理由は言うまでもない。

超進化の修行をする為だ。

 

 

「さて、じゃあ早速修行を始めましょうか!」

 

 

 そう言うと京はポケットからD3を取り出した。

 

 

「いくわよ! ホーク「待ってください!」――へ?」

 

 

 手始めにホークモンを成熟期へ進化させようとした京と伊織が慌てて止めた。

 

 

「ここで特訓をするのは止めておきましょう」

 

「なんで? ここならいざという時にゲートまでの距離も近いからいい場所だと思うんだけど」

 

「確かにゲートまでの距離は近いですが、ここは空が開けすぎています。

こんな場所で特訓なんてしていたら空からアルケニモン達に発見される可能性がありますから」

 

「あー確かに」

 

「特訓場所ならあらかじめ良い場所を見つけていますからそこでやりましょう。

そこなら周りの木々が僕達の姿を隠してくれますし、近くにデジモンが暮らしている様子は有りませんでした。今までダークタワーも建ったことが無い場所ですし、ここからの距離もそこまで遠くないですから特訓にはうってつけかと」

 

「予めそんな場所を見つけてるなんて流石伊織ね。分かったわ、そこに向かいましょ。

案内お願い」

 

 

 京の言葉に伊織はわかりましたと返すと、その場所へ向かうべく先導して歩き始めた。

その後を京達は付いて歩く。

 

 お互い話す話題が無いので無言で歩いていると、目的地まで半分来た辺りでふと先頭を歩いている伊織が前を向いたまま京に話しかけてきた。

 

 

「……京さん、すいません僕に付き合って頂いて」

 

「どうしたの突然?」

 

「……京さんは僕が一人で特訓するのが心配だから付いて来てくれたんですよね?」

 

「え、えっと、それは……」

 

「あのタイミングであんなことを話せば、京さんが僕を放っておくわけないと考えれば分かるはずなのに、あの時の僕はそんな事も考えられずに京さんにあんなお願いをしてしまいました。

……すいません。僕の我儘に巻き込んでしまって」

 

 

 数時間前の自分の行動に伊織は俯きながら謝罪した。

……京が今ここに居るのは自分のせいだと思っているから。

 

 

「――――それは違うわ、伊織」

 

 

 だがそれを京は力強く否定した。

突然の反論に伊織は驚いて歩みを止め、京の方を向いた。

 

 

 

「確かにあたしがここに来たのは伊織が一人じゃ心配だからって理由もあるわ。

だけどそれだけじゃないの。

あたしも伊織と同じようにタケルくん達に……守谷君に追いつきたいと思ってるのよ」

 

「京さん…………」

 

「だって悔しいじゃない。同じ選ばれし子供なのにヒカリちゃん達にあんな風に気を使われるなんて!」

 

「……そうですね。僕もあの時はただ純粋に悔しかったです」

 

 

 京と伊織の脳裏に映るのはギガドラモンとの戦い。

勝機が全く見えず、ただやられない為に必死に耐えるしかなかった時の記憶だ。

 

 

「あの時、タケルくんとヒカリちゃんは自分達が囮になるって言ってあたし達を逃がそうとした。

タケル君達は多分……うんん、絶対悪気は無かったと思うんだけど、あの時あたし達だけ逃げろって言われた時、足手纏いって言われてるみたいで悔しかった」

 

「僕もです。

……そしてあの時、タケルさん達にとって僕達は、選ばれし子供としては対等とは思われてないという事もわかりました」

 

「……まあタケルくん達はあたし達よりも選ばれし子供としては三年も先輩だからそう思われるのはしょうがない事かもしれないけど……だからといってはいそうですかって納得は出来ないわ!」

 

 

 京はそう言うと、ポケットからD3を取り出して伊織の前にかざした。

 

 

「だからあたしはもっと強くなりたいの!

ヒカリちゃん達と本当の意味で仲間になる為に!

ホークモン達の世界をあたし達の手で守る為に!

そして――守谷君達にもうこれ以上無理をさせない為に!

――――これがあたしの想い。

ただ伊織が心配だっただけじゃないの。

……分かって貰えた?」

 

「――――はい、充分に!」

 

「良かった。じゃあさっそく伊織の言ってた修行場所へ向かいましょ!

あたし、どうせならぱぱっと完全体に進化出来るようになってヒカリちゃん達をビックリさせたいのよね!」

 

 ヒカリ達が自分がホークモンを完全体に進化させ驚いている光景を想像してゲヘゲヘ笑う京にホークモンとアルマジモンは小声でツッコミを入れた。

 

 

「……そう上手いけばいいんですが、仮に上手く行ったとしても勝手に夜特訓してるのがばれて怒られそうですね」

 

「だぎゃ。特にタイチとヤマトにはこってり絞られそうだがや」

 

「言い訳も今の内に少しは考えておいた方が良いかもしれませんね」

 

 

 ホークモンとアルマジモンの言葉を聞いて伊織はクスリと笑いながら京にそう言葉を投げかけると、京は目に見えてガクリと肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――アンキロモン! もう一度です!」

 

「アクィラモンも、もう一回行くわよ!」

 

 

 そう言って二人はD3を握る手に力を込める。

……が、アンキロモン達の姿に変化は無かった。

 

 

「……ダメですか」

 

「ねぇ、アクィラモン。なんか体の奥底がボァーって燃える感じとかしないの?

何でもいいからさっきと比べてちょっとでも体に違和感を感じたりしない!?」

 

「…………そう言えばそんな感じがしたような」

 

「「本当!?」ですか!?」 

 

「すいませんちょっとしたジョークです。…………すいません」

 

 

 アクィラモンの言葉に京と伊織は隠す気の全くない大きな溜息を吐くと、アクィラモン達を退化させその場に座り込んだ。

 

 

「……やっぱり超進化の特訓は結構胸に来るわね」

 

 

京達はこの場所についてからかれこれ数時間もこの特訓を繰り返したが、結局今まで通り何の成果もあげる事は出来なかった。

その事を含めガクッと肩を落とす京に伊織も続いた。

 

 

「はい……成功か失敗かのほぼ二択しかないので、失敗し続けている限り現状自分達がどれ位超進化に近づいているのかが全く分からないのがかなり来ますね」

 

「コンピューターのプログラムと一緒ね。

いくらプログラムがほぼ完璧でも少しでも違ってる所があったら起動しない所とかそっくりだわ。

……まあ色々とかみ合えばプログラムがダメでも起動する場合があるけど、そんな時は直ぐに駄目な所が分かるし」

 

「超進化の修業も剣道の様に少しずつ上達していくものだったら良かったんですけどね……」

 

 

 京と伊織はそれぞれ特訓が上手く進まない事に愚痴を吐いていた。

――――が、その表情は意外と暗いものでは無かった。

 

 

「……なんかいいわねこの感じ」

 

「どういうことですか?」

 

「なんか皆より修行してる自分達がいいなって思ったの」

 

「……練習する事自体に満足してはいけませんよ? 僕達の目的はあくまで完全体に……」 

 

「分かってるって。でも少しくらいいいじゃん。

ようやくタケルくん達に追いつけるかもしれないって状況まで来れたんだから」

 

「……まあ確かにそうですね。僕達はようやくこの状況を用意する事が出来ました。

これでタケルさん達にもっと近づける可能性が……守谷さんと一緒に戦える可能性が高まりましたね」

 

 

 最低でもこれを毎日続ければの話ですが、と呟く伊織に京はその場から立ち上がって答えた。

 

 

「勿論今日出来なかった位であたしは諦めない! これから毎日昼と夜の特訓を続けてぱぱっと完全体に進化出来るように頑張るわ!」

 

 

 京の宣言に伊織は小さく笑うと、京と同じように立ち上がった。

 

 

「はい!

京さん、ホークモン。そしてアルマジモン。

明日からもよろしくお願いします!」

 

 

 伊織の言葉に京達は満点の返事を返した。

 

 この日の特訓で京達が掴んだものは無かったが、京達はそれに対して落ち込んでいる様子は無かった。

寧ろここ最近で一番陽気な雰囲気かもしれないと言える程明るいものだった。

 

――――が、

 

 

「―――――いえ、この時間の特訓に関しては今日までにしてください」

 

 

 たった一言背後からある者に話しかけられただけで、その陽気な雰囲気は壊れる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――も、守谷――くん?」

 

 

 僕の言葉に初めに返事を返したのは京だった。

今日の23時頃、明日の戦いの事を考え早めに何時もの場所で眠っていた僕達だったが、突然D3が反応し、僕は飛び起きた。

D3を確認してみると、どうやら選ばれし子供の誰か二人がデジタルワールドに来ていて、何処かに向かっている様だった。

僕はその事に疑問を覚えながらも、隣でぐっすり眠っているブイモンを起こし、ウイングドラモンに進化させ、その場所へと向かった。

 

 選ばれし子供達の近くまで来た僕達は念の為、ウイングドラモンの進化を解き、地上からこっそり選ばれし子供達の元へと向かってみると、そこには京と伊織。ホークモンとアルマジモンの姿があった。

京達の様子から、何か嫌な事が起きたわけでは無いという事が分かり、安堵の溜息を吐きながら京達の後を付けていると森のなかでも少し広い場所へと辿り着いた。

その場所についてしばらくすると、京と伊織は自身のパートナーを成熟期へと進化させ、何かを始め出した。

 

 その様子と、時折僅かに聞こえてくる京の声から、京達が完全体への進化の特訓をしているのだと気付いた僕は、小さく息を吐きながらその場に座り込んだ。

 

 ……取り敢えず今回京達がこの時間にデジタルワールドに来た理由は分かったが、この展開は予想外だった。

京達にとってデジタルワールドは、ホークモンやアルマジモン達が暮らす大切な世界ではあるが、まさかここまでするとは思わなかった。

……それ程までに追い詰められていたのか? それか伊織辺りが、自分達はタケル達よりもずっと遅れてるのに同じ修行をしててはダメだとか言い出したのか? それとも他に理由があるのか……?

 

 ……とにかくこんな無茶を明日以降も続けると言うなら止めなければならないと判断した僕は、取り敢えず京達の特訓が終わるまでこの場所で見張る事にした。

 

 それから約二時間程経過すると、京達はパートナーの進化を解いてその場に座り込んだ。

……ここまでか?

 そう判断した僕は、そろそろ姿を現そうと飛び出すタイミングを伺っていると、離れた場所に居る僕にすら聞こえる大声で京が宣言し出した。

 

 

「――――勿論今日出来なかった位であたしは諦めない! これから毎日昼と夜の特訓を続けてぱぱっと完全体に進化出来るように頑張るわ!」

 

 

 その宣言に伊織達も同意するように声を上げていた。

……やっぱりこの特訓を明日からも続けるようだ。

 僕はそれを辞めさせるべく、その場から立ち上がり、京達の方に向かいながら話しかけた。

 

 

「いえ、この時間の特訓に関しては今日までにしてください」

 

 

 僕の言葉に京達は驚きながら僕の方を振り向いた。

そして僕の姿を認識すると、それ以上に驚愕した表情を見せた。

 

 

「――――も、守谷――くん?」

 

 

 暫く硬直した空気が続いたが、そんな中、僕の言葉に初めにそう返事を返したのは京だった。

京達にとって今僕がこの場所に居るのは本当に予想外だったようだ。

取りあえず僕は返事を返す事にした。

 

 

「はい。お久しぶりです」

 

「え、あ、う、うんそうね。久しぶり……」

 

「……さっきの僕の言葉、聞こえましたか?」

 

「う、うん……」

 

「それなら良かったです。

……夜のデジタルワールドは危険です。どこに謎の女達が潜んでいるか分かりませんから。

それに、石田さんや泉さん達にはじまりの町以外へ行くなと言われている筈です。

……どうして井ノ上さん達が今日ここに居るのか理由は聞きませんし、誰にも言いません。

だからこの時間の特訓は今回までにしてください。

焦る気持ちは分かりますが大丈夫です。井ノ上さん達ならいつか必ず完全体へ進化させる事が「――どうして守谷さんがここに居るんですか!?」

 

 

 この場でただ一人僕の言葉に反応を返してくれる京と話していると、突然伊織がそう言って言葉を挟んできた。

……その表情には恐らくだが怒りが含まれていた。

 

 

「……僕の事はどうでもいい。とにかく火田君達はもう家に帰った方が良い。

今はもう一時過ぎだ。これ以上無理をしたら明日の学業にも影響が出「そんな事はどうでもいいから質問に答えてください!!」

 

「……そんな事を一々君達に話すつもりは無い」

 

「なら僕は守谷さんが話してくれるまで家には帰りません!!」

 

 

 両手を強く握りながら僕を睨みつける様な目でそう宣言する伊織。

……伊織はこういった嘘を付かない人間だという事は知っている。

そして伊織はこうだと決めた事は絶対に曲げない一面がある事も知っている。

原作でもブラックウォーグレイモンからホーリーストーンを守るべく立ちふさがった際、退けと言われてもその場を動かなかった。

その後ブラックウォーグレイモンが突撃して来た際も伊織は動かなかった。

……あの時エンジェモンが助けに入って居なければ伊織は…………

 

 ……とにかく伊織がこう言っている以上、僕が話さなければ本当に帰らないつもりだろう。それなら……

 

 

「……話せば帰るんだな?」

 

 

 僕の問いに伊織は無言で頷いた。

 

 

「……分かった。

僕がここに居るのは君達がデジタルワールドに来たとD3が反応したから様子を見に来た。ただそれだけだ」

 

「D3にそう言った機能がある事は知ってます。

ですがそれが適用されるのはお互いがデジタルワールドに居る時だけの筈です!」

 

「…………ああそうだ。僕は君達がデジタルワールドに来る前からデジタルワールドに居た。

だから火田君達が来た事を知れた」

 

「どうしてこんな時間までデジタルワールドに居たんですか!?」

 

「……質問にはもう答えたはずだ。だからもう帰れ」

 

「質問が一つだけなんて言ってません!!!」

 

 

 僕の言葉に食い掛かるように伊織がそう言った。

……確かに質問が一つとは言っていないが……伊織はそんな屁理屈みたいなことを言うような人間だっただろうか?

いや、本来の伊織ならそんな事はしないだろう。

という事はこの場での質問は伊織にとってそれ程に重要なものだという事なのか?

……仕方が無い。心配を掛けてしまう事になるだろうからあまり言いたくなかったのだが、伊織がこんな状態である以上言うしかない。

僕は溜息を吐いて、話し出した。

 

 

「……ここ最近の謎の女達の行動が個人的に不可解でね。あまり放置するわけにもいかないと考え、

――――今は殆どデジタルワールドから出ていない」

 

「…………」

 

「…………え?」

 

 

 僕の言葉に言葉を返したのは伊織では無く隣に居た京だった。

 

 

「それってどういう事? はは、それじゃまるでデジタルワールドで暮らしてるって言ってるみたいじゃない」

 

 

 引きつった顔で笑う京に僕は言葉を返した。

 

 

「……その通りです。僕は今デジタルワールドで寝泊まりしています」

 

 

 僕の言葉に京は一瞬意味が分からないと言った表情を見せた。

が、すぐさま表情を怒りを含んだものに変えゆっくりと話し出した。

 

 

「守谷君……貴方馬鹿じゃないの?」

 

「僕が馬鹿、ですか?」

 

「ええそうよ! 大馬鹿野郎よ!! 何が殆どデジタルワールドから出てないよ!

そんなんじゃ守谷君の現実世界での生活はどうなるのよ!?」

 

「……僕の生活なんてどうでもいいんですよ。元々学校もサボり気味でしたし、趣味もやりたいことも無いですし」

 

「そう言う問題じゃないの!

――っていうか守谷君、殆ど家に帰ってないって言ったけどその理由を両親は知ってるの?」

 

「両親がですか? …………話してないですね」

 

「話してないって馬鹿馬鹿し過ぎて話にならないわ! こんな事をするなら最低でも親に話を「――――居ないんですよ」

 

 

 京の言葉に今度は僕が言葉を重ねた。

 

 

「僕は幼いころに両親に捨てられていますから親は居ないんですよ」

 

 

 これは紛れもない事実だ。

僕が前世の記憶を理解し始めた二歳頃の時には既に僕は捨てられていて、おじいちゃんに育てられていた。

……前世の記憶を持っている僕としたらこの事実は正直どうでもいい事だ。

正直捨てられた理由すらも興味が無いからおじいちゃんに理由を尋ね無い程に僕には関心が無かった。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

 そんな僕の本音とは裏腹に京は聞いてはいけない事を尋ねてしまったと、先程までの怒りを一瞬で仕舞い込み申し訳なさそうに謝罪して来た。

……こうなる事は分かっていたからこそ今までこの事は誰にも話さなかったんだけどね。

……だが今はある意味チャンスだった。上手く行けばこのまま京達を元の世界へ返す事が出来る。

 

 

「……という事情もあるので元の世界には僕の帰りを待つ人は居ないんですよ」

 

 

 学校の先生も同級生も誰一人僕の事を心配していないだろう。

……只一人僕の事を心配してくれる存在だろうおじいちゃんは、何故か数か月前から殆ど僕の前に姿を現さなくなった。

これに関しては全く理由に心当たりが無かったが、少なくともそんな現状は僕にとっては好都合だった。

 

 

「因みに僕は別に現実世界が嫌だからデジタルワールドに逃げている訳ではありませんよ?

ただ今はどうしてもデジタルワールドから目を離したくないから居るだけです。

事が落ち着けばちゃんと普段通りの生活に戻します。約束します。

だから今は、僕の事は放っておいてください。これはデジタルワールドを守る為でもあるんです。どうかお願いします」

 

 

 こんな生活をするのは今だけと伝え、何とか納得して貰えるように頭を下げる。

……京達には頭がおかしい奴だと思われるかもしれないが、本当に今のデジタルワールドは危険な状態だった。

何故か原作よりも弱体化している四聖獣の力に加え、更に今この世界にはダークタワー100本で作られたブラックウォーグレイモンが存在する。

もしもブラックウォーグレイモンが原作通りホーリーストーンを壊し始めたら本当に不味い事になってしまう。

だから今は本当にデジタルワールドから目を離せる状況では無いのだ。

……目を離したら今回の京達の様に選ばれし子供達が夜に来てしまう可能性がある事も今回でハッキリしたしね。

原作と違い、アルケニモン達に全く対処できない選ばれし子供達を無防備にデジタルワールドを歩かせるのは避けるべきだろう。

 

 

「……だったら最後に一つだけ答えてください」

 

 

 頭を下げて京の返事を待っていると、伊織からそんな言葉を投げかけられた。

頭を上げ、伊織に視線を向けてみると――――伊織は様々な感情が入り混じった表情をしていた。

 

 

「……前に僕が守谷さんにどうして戦うのかと質問した際、守谷さんは、デジタルワールドを救う事が使命だと思っているからだとおっしゃいました。

……だけどこの言葉は本音なんですか!? 本当に『そんな』事の為に守谷さんは身を削って戦ってるんですか!?」 

 

 

 ……今日の伊織はやはり普段とは何か違う感じがする気がするが、それが何かを読み取れるほど僕は人の心を読めないし、伊織との交流関係も長くない。

だからこそなのかこの質問には僕の思いを包み隠さずに伝える事にした。

 

 

「――――ああ、そうだ。デジタルワールドを救う事、それが僕の使命であり、やるべきこと。そして何をしてでもやらなければならない事なんだ」

 

「……………………そうですか」

 

 

 僕の言葉に俯いてそう返事を返した伊織は、俯いたまま現実世界へのゲートの方へと歩いて行った。

その後ろを京達も無言で付いて行く。

 ……その後ろをいつの間にか木陰で眠っていたブイモンを背負ってこっそり追いかけ、伊織達が約束通り現実世界に戻ったのを確認した僕は、ぐっすり眠っているブイモンを起こすのは忍びないと思ったのでそのまま背負った状態で寝泊まりしている場所へと向かった。

 



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037 心

 翌朝、目覚めた僕はブイモンを起こし、朝食を普段より多めにとってから徒歩ではじまりの町へ向かった。

 

 はじまりの町へ着くとその前には既にアグモン達前回のパートナーデジモン達が待っていた。

……もしかして待たせてしまっていたのだろうか?

 

 密かにそんな事を考えていると、ブイモンが僕の代わりに尋ねてくれた。

 

 

「みんな早いな。もしかして待った?」

 

「ううん。オレ達もちょうど今来たところだよ」

 

「そっか~それなら良かった」

 

 

 ガブモンの言葉にホッと胸をなで下ろすブイモンと同じく僕も心の中でホッと息を付いた。

それと同時にここにアグモン以外が居る事に少しだけ疑問を覚えた。

……もしかすると自分達も付いて行くって言い出すんじゃ……

 

 そんな事を考えていると、そんな僕の考えを察したのかゴマモンが話しかけてきた。

 

 

「後、オイラ達がここに居るのはただの見送りだよ」

 

「一緒に付いて行こうなんて思ってないから安心して」

 

「ワテ等が付いて行ったところで邪魔になるのは分かってますやさかいに」

 

 

 ゴマモンの言葉にピヨモン、テントモンがそう悲しそうな表情で続いた。

……そんな彼等に何か言葉を掛けたかったがいい言葉が出て来なかった。

僕は取りあえず見送りに来てくれたことにお礼を返し、アグモンの方を向く。

 

 

「一応確認だが……昨日の言葉に変わりは無いんだな?」

 

 

 僕の問いにアグモンは無言で強く頷いた。

気持ちは変わって居ない様だ。

 

 

「……分かった。じゃあ行こうか」

 

 

 僕はブイモンをエクスブイモンに進化させ、アグモンと共にその背中に乗り込む。

そして最後にパルモン達に行ってくると伝えそうとした時、それよりも早くピヨモンが話しかけてきた。

 

 

「も、モリヤ君!」

 

「うん? どうした?」

 

「あの……昨日モリヤ君が帰った後、ミヤコとイオリ達が忘れ物を取りにはじまりの町に来たの。

その時に昨日モリヤ君が話してくれた事を全部話したんだけど……駄目だった?」

 

「井ノ上さん達が?」

 

 

 僕はピヨモンの言葉に驚いたが、同時に納得した。

……成る程、昨日京達があんな行動をしたのもピヨモン達から僕の話を聞いていたからだったのか。

確かに完全体すら手に余る現状なのにその上の究極体が作られたと知ったらそりゃ慌ててしまうのも無理はない。

特に一番年齢が幼く、タケルやヒカリよりも選ばれし子供としての歴が短く、正義感の強い伊織からしたらそうなるのは必然だったかもしれない。

昨日の時点では僕達ですら究極体ダークタワーデジモンは倒せなかったという事になって居るのだから。

……ダメだな、こんな事すら考え付けないなんて。

僕の考えでは京達がその情報を知るのが今日の学校終わりで、その結果を知るのも今日になる予定だった。

だがらその事に対してあまり深く考えていなかった。

……もっと柔軟に考えられるようにならないと。

 

 

「……うん、話して貰ってもよかったよ。どの情報も選ばれし子供たち同士で共有すべきモノだと思うしね」

 

 

 僕がピヨモンの質問にそう返すと、ピヨモン達はホッとした表情を浮かべていた。

……どうやらみんな話して良かったのか多少の不安を覚えていたようだ。

僕の言葉をそんな風に真剣に取り扱っていてくれた皆に感謝の思いを密かに抱いた。

 

 

「じゃあそろそろ行って来る」

 

 

 僕の言葉にそれぞれ色んな応援の言葉を投げかけてくれた。

……最初から暗い顔をして黙って居るパルモンを除いて。

 

 ……パルモンが今何を考えているのかなんとなくは理解している。が、あまり出発を遅らせるのも避けたかった僕は、そんなパルモンに声を掛けずにエ

 

クスブイモンに指示を出して空へと飛び上がった。

 

 

「――――絶対無茶はしないでね!!」

 

 

 はじまりの町を飛び去る直前、大声でそう言ってきたパルモンに僕は軽く手を振り、はじまりの町から飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はじまりの町を出た僕達はブラックウォーグレイモンを見つけ出すため、空から探し回っていた。

ブラックウォーグレイモンが荒らしたと思われる僅かな痕跡や目撃情報を頼りに。

 

 そんな風に数時間探し回っているとようやくブラックウォーグレイモンを見つけ出す事が出来た。

 

 

「アマキ、アレ!」

 

「……確かにブラックウォーグレイモンだね。しかも目撃情報通り一人。

どうやら予想通りアルケニモン達の元から離れているみたいだね」

 

 

 ……もしも未だにアルケニモン達の元に居たのなら不味い事になって居た。原作通りの性格でよかった。

 

 

「どうするのアマキ?」

 

「……ブラックウォーグレイモンはまだ僕達に気付いていない。

だからまずは先回りしてアグモンだけで話して貰おうと思う。

……それでいいかな?」

 

「ボクはそれで構わないけどモリヤ達はどうするの?」

 

「……僕は取りあえず他にやる事があるからそこに向かう。

それが終わったらアグモンの所に戻るよ。

戻ったらアグモンの話が終わるか、話し合いが不成立しそうになるまでは隠れておく」

 

「他に用事があるの?」

 

「……まあね」

 

「そっか、分かった!」

 

 

 アグモンの承諾を取れたので僕達はブラックウォーグレイモンが通るであろう場所に先回りしてアグモンをそこに下ろした。

その後、取りあえずブラックウォーグレイモンがアグモンと戦おうとせずに話し合いに応じてくれるかだけは確認する為そこに留まろうとしたが、アグモンが自分の方は大丈夫と力強く言うのでそれを確認せずに僕達はその場から離れた。

別の目的を果たす為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はブイモンをウイングドラモンに進化させある場所に向かっていた。

向かっているのは僕が初めてチンロンモンと会った場所。

破壊すればデジタルワールドに災いが起きると言われているホーリーストーンが建てられている場所の一つだ。

ここに向かう理由は只一つ。アルケニモン達にホーリーストーンを触らせない為だ。

 

 原作でアルケニモン達がホーリーストーンを壊そうとしたのは、マミーモンが何処からかホーリーストーンを壊せば面白い事になると言う情報を手に入れ、興味半分で壊してみようという話になったからだ。しかもそれをマミーモンが話した切っ掛けが、自分の元を離れたブラックウォーグレイモンにアルケニモンが腹を立ててイライラしている時、その空気を換える為に言ったのかきっかけだった筈だ。

―――――つまりこの世界でいう今のタイミングだ。

 

 ……この世界が原作と違う世界だという事は流石に百も承知だ。

だが似ている世界であるのは間違いない。ならば行動してみる価値はあるだろう。

ホーリーストーンの近くにアルケニモン達が居なくても僕達が無駄足を運ぶだけだしね。

 

 そんな事を考えながらホーリーストーンの場所に辿り着くとそこにはホーリーストーンを見上げるアルケニモン達の姿があった。

……どうやら原作通りこのタイミングでホーリーストーンに興味を持ったようだ。

 

 僕達はアルケニモン達を脅かす様アルケニモン達の後ろに音を立てて着陸した。

 

 

「あ、アンタ達は!!」

 

「昨日ぶりですね」

 

 

 まさかこんな場所で後ろを取られるとは思っていなかったのか驚愕の表情を見せるアルケニモン達。

そんな彼女達に僕は敵意は無いを言わんばかりに両手を軽く上げた。

 

 

「そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。少なくとも現時点(・・・)では貴方達と戦おうとは思っていませんから」

 

「減らず口を!! 見ててくれアルケニモン! こんな奴オレが――――

 

「――よしなマミーモン!」

 

 

 先制攻撃を言わんばかりに銃を取り出し銃口を僕達に向けたマミーモンをアルケニモンは止めた。

まさか止められると思っていなかったマミーモンは驚愕の表情を浮かべていた。

 

「ど、どうしてだよアルケニモン」

 

「……こいつはあのキメラモンを倒したんだ。それに昨日ブラックウォーグレイモンに勝てずともあそこまで戦った。

ワタシ達二人じゃ相手にならないよ」

 

「ぐっ!!」

 

「それに相手は現時点では敵意は無いって言ってるじゃないか。ここは大人しく話し合いに応じようじゃないか」

 

「……本当に戦うつもりじゃないんだな?」

 

「はい、現時点ではですが」

 

 

 マミーモンの疑いながらの問いに僕は正直にそう答える。

するとマミーモンは取りあえずは納得したのか銃口を下げてくれた。

……銃は仕舞わずに持ったままだが。

 

 

「ありがとうございます」

 

「ふん……それで一体何の用だい? 敵意が無いのにワタシ達の前に現れたって事は何かあるんだろ?」

 

「はい。とりあえずは貴方達に質問なんですが……貴方達はこの石に一体何をしようとしてましたか?」

 

「……こんなデカい石ころどうしようと私達の勝手じゃないか? それともなんだい?

この石がそんなに壊されたら困る物なのかい?」

 

「――――えぇ。この石はホーリーストーンと言って壊されたらデジタルワールドがとんでもない事になってしまう代物なんですよ」

 

 

 情報を引き出そうと質問を投げかけるアルケニモンの策に僕はあえて乗り、アルケニモンの望む答えを返した。

すると自分の望む答えが返ってきたと言うにもアルケニモンは憎たらしいと言わんばかりの表情を一瞬見せた。

 

 

「……アンタ。そんな事ワタシ達に話してもいいのかい?」

 

「ダメかもしれませんね。でも貴方達もなんとなくは知ってるんじゃないですか?」

 

「……さあね」

 

「……とにかくこのホーリーストーンが壊されるのは不味いので今回はその警告に来ました。

もしもこの警告を無視すると言うなら――――僕達はここで貴方達を倒さなければなりません。

逆にもしもこれから先ホーリーストーンを壊さないと約束してくれるならこの場では見逃します」

 

 

 どうしますかという僕の問いにアルケニモンは考え込んだ。

……現状アルケニモン達は詰みに近いと言える状況だ。

なんせこちらには今まで散々完全体ダークタワーデジモンを倒し続けたウイングドラモンが居る上、この辺りにはダークタワーが建てられていない為、新しくダークタワーデジモンを作ることも出来ない。

その上逃げようにもこの辺りはかなり開けた場所になって居る為アルケニモン達の足じゃウイングドラモンからは逃げられない。

普段使っている乗り物もウイングドラモンの近くにある為使う事も出来ない。

 

 アルケニモンも改めて現状を理解したのかイライラするように指を噛んでいた。

……アルケニモン自身もこの警告通りにするしかないと分かっているのだろうが、恐らく僕の思惑通りに話が進むのが忌々しいのだろう。

だがここは警告に乗って貰いたい。

 

 

「なぁ、ホーリーストーンが壊されたらとんでもない事が起きるっていうのは知ってるんだが、実際は何が起きるんだ?」

 

「……デジタルワールドが消滅します」

 

「「えぇぇぇ!!」」

 

 

 僕の言葉にマミーモンとウイングドラモンが驚愕の声を上げた。

アルケニモン自身も声自体は上げなかったが驚愕の表情を浮かべていた。

まさかそこまでの事が起きるとは思っていなかったのだろう。

 

 

「ホーリーストーンは本来なら普通のデジモンが破壊できる代物ではありません。

だからこそこうして無防備に放置されているんですが、貴方達ならもしかすると破壊出来る可能性があると僕は睨んでます。

だから貴方達にホーリーストーンの事を話しました」

 

「……どういう事だい?」

 

「……貴方達の目的が一体何なのかは検討も付きませんが少なくともデジタルワールドの消滅では無いと僕は考えています。

もしもそれが目的なら態々デジタルワールドの至る所にダークタワーを立てて目立つような行動はしないと思うので。

それにこの世界で生まれたであろう存在が自分達の住む世界を壊そうなどと思わないだろうと言う考えもあります。

もしも本当にデジタルワールドの消滅が目的だと言うなら貴方達にはこの世界以外の拠点が……例えば別のデジタルワールドとか現実世界とかにあるか。それともそもそもこの世界で生まれた存在では無いとか…………色々考えなければならなくなるのでその線は避けたいですね」

 

「…………」

 

 

 アルケニモンは指をさらに強く噛みながら僕の方を睨む。

……恐らく僕の例えが当たっている部分があるからそれを悟られない様に色々考えているのだろう。

もしもここでそれがバレて、その事をアルケニモンの親玉である及川が知ったらアルケニモン自身がどんな目にあるか分からないと考えているのだろう。

……まあ原作知識がある僕には全くの無駄な労力だけどね。

そんな事を密かに考えているとアルケニモンが質問して来た。

 

 

「……ねぇ、一つ聞いていいかい?」

 

「? はい、答えられる範囲であれば」

 

「……ワタシ達はあんた達の敵だろ? それなのにどうして見逃すような事をするんだい?

今はワタシ達を倒すにはこれ以上ないくらい絶好のチャンスじゃないかい」

 

「……それはあの時の借りを返すためですね」

 

 

 アルケニモンの問いに僕はあらかじめその事を尋ねられた時にと考えていた返事を返した。

 

 

「借り?」

 

「はい。貴方は以前僕にダークタワーの要塞とキメラモンの状況を教えてくれた事がありました。

恐らく貴方にも何らかの理由があったんでしょうが、少なくともその情報のお蔭で色々と助かりました」

 

「……それが今回ワタシ達を見逃す理由?」

 

「はい」

 

「……ふん、律儀な奴だね。

――――わかったよ。ホーリーストーンには何もしない。約束して上げるよ」

 

「……本当ですか?」

 

「ホーリーストーンを壊そうとしたのは面白い事が起きるって聞いたからだよ。

まさかデジタルワールドそのものを壊す代物とは思ってなかった。

……この世界はワタシ達にとっても大事なモノだ。知った以上そんな真似はしないよ」

 

「アルケニモンがそう言うならオレも約束する」

 

「……ありがとうございます。では僕達は用事があるのでこれで」

 

 

 アルケニモン達に軽く頭を下げると、僕はウイングドラモンの背に乗ってアグモンの元へ戻った。

 

 

「――――忌ま忌ましいガキだね」

 

 

 最後にそんな捨て台詞が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アグモンが居る場所の近くに戻った僕は、ブイモンの進化を解いて、こっそりアグモンが居るであろう場所へ近づく。

するとそこにはアグモンと、そのアグモンの話を真剣に聞いているであろうブラックウォーグレイモンの姿があった。

……どうやらブラックウォーグレイモンはアグモンの話し合いに乗ってくれたようだ。

僕はその事に安堵の息を付くと耳を研ぎ澄ませ彼等の会話を聞こうとした。

会話の殆どは聞こえなかったが、まれにブラックウォーグレイモンが放つ思いのこもった叫びだけは何とか拾う事が出来た。

……どうやらこのブラックウォーグレイモンも原作通りの悩みを抱えている様だ。

それなら原作と違い、アルケニモン達の邪魔が入らない今ならアグモンだけで説得する事が出来るかも知れない!

そんな希望を持ちながら上手く行くように手を合わせて祈っていると、アグモンがブラックウォーグレイモンに手を差し出した。

ブラックウォーグレイモンはその手を――――――――振り払った。

 

 

「―――――の場で答えを出せないと言うなら――――だ。オレは心が何なのか、本当に――――――、オレのやるべきことを理由を今すぐ知りたい!

だがそれ以外にもやりた―――――――

 

 

 ……所々しか聞こえてこないが、少なくともアグモンの話し合いは失敗したようだ。

 

 

「……どうするのアマキ?」

 

 

 ブイモンも話し合いが失敗したことを悟ったのかそんな事を尋ねてきた。

が、

 

 

「――――」

 

 

 

 僕は無言でブラックウォーグレイモン達の元へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ブラックウォーグレイモン。君は自分の事が知りたいのかい?」

 

「――! お前等はあの時の――――」

 

 

 突然話しかけられたブラックウォーグレイモンは驚いた反応を見せながら僕達の方を向きそんな事を呟いた。

 

 

「……モリヤごめん。ボクじゃブラックウォーグレイモンの質問には全然答えられなくて……」

 

「……いいんだアグモン。それに謝る必要は全然ないよ。

――――今こうして僕達がブラックウォーグレイモンの前に居れるのはアグモンのお蔭なんだから」

 

 

 謝罪して来たアグモンにそう言ってブラックウォーグレイモンの方を向くと、ブラックウォーグレイモンは言葉の意味が分からないと言わんばかりの表情を見せながら戦闘態勢に入った。

 

 

「訳のわからない事を!――――だがちょうどいい、今お前達の話をしていた所だ。

答えが出ない以上オレはお前達との決着を――――

 

「――――僕なら君の望む答えを出す事が出来るかも知れないとしてもかい?」

 

「…………出まかせを。オレと同じウォーグレイモンになれるコイツですら分からない事をお前なら分かると言うのか?」

 

「僕自身君の全てを理解出来るとは思っていない

……だけど少なくともこの世界で一番君の事を理解出来ると思ってるよ」

 

「デジモンですらないお前がか?」

 

 

 その言葉と共にブラックウォーグレイモンは腹を抱える程の大笑いをした。

僕はそんなブラックウォーグレイモンの態度に怒りなど覚えずただ真っ直ぐ見つめていた。

すると笑いが収まったのかブラックウォーグレイモンが笑うのを止め、僕の目を真っ直ぐ見つめた。

 

 

「……いいだろう。少しだけお前の話に付き合ってやろう」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――さて、待たせてしまって申し訳ないです」

 

 

  心配そうに時折こちらを振り返りながらも僕とブラックウォーグレイモンから離れていくブイモンとアグモン。その背中を見ながら僕はブラックウォーグレイモンにそう謝罪した。

ブイモンとアグモンにはブラックウォーグレイモンと二人っきりで話をしたいから席を外して欲しいとお願いした。

……恐らくブラックウォーグレイモンとの話し合いの中には他の誰にも聞かれたくないような事も話す事になるだろうからね。

流石に現時点では敵であるブラックウォーグレイモンと二人っきりになる事はブイモン達に止められたが、必死に頼み込んで何とか席を外して貰えることになった。

……ブイモン達には色々と心配をかけてしまっている自分に少し苛立ち、溜息を吐いた。

すると突然ブラックウォーグレイモンが話しかけてきた。

 

 

「……おい」

 

「はい? ああ早速質問ですか。いいですよ。僕の答えられる範囲でお答えしましょう。

貴方は自分の何を知りたいんですか?」

 

「……オレ自身のことを聞く前に一つ質問だ。どうしてお前はアイツ等を向こうへ行かせた?

オレを舐めているのか?」

 

 

 返答によってはっと言いながらブラックウォーグレイモンは右手のドラモンキラーを僕の方に向けた。

その様子を遠くで見ていたであろうブイモンとアグモンがこっちに向かって走ってきたが、僕はそれを手で制した。

 

 

「……今は答えるつもりはありません。

ですが、もしあなたが自分の事を質問し終わった後にまだそれを知りたいと思っているのならその時に質問してください。その時ならちゃんと答えます」

 

「………………ふん」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは一言そう漏らすと、ゆっくりと右腕を下ろした。

その光景を目撃したであろうブイモン達も渋々僕達からは見えず、声もほぼ届かない位置まで戻って行った。

……ふぅ、取り敢えずはこれで話し合いが開始できそうだ。

 

 

「ではそろそろ始めましょうか。それで貴方はどんなことを聞きたいんですか?」

 

「……じゃあアイツに質問したことをお前にも答えて貰おう。

まず一つ目だ。――――心は何処にあるんだ?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの質問に僕は小さく溜息を吐いた。

……そう言えば原作でも最初そんな事を聞いてたね。

そんな事を思っているといきなり溜息を吐いた僕が不服だったのかムスッとした声色で何のつもりだと尋ねてきた。

……しまった。少し機嫌を損ねてしまった様だ。

 

 

「すいません。いきなり答えづらい質問だったので……」

 

「それはお前も分からないという事か?」

 

「正確には心が何処にあるかなんて分かる人は居ませんよ。何故なら心は目に見えないモノですから。

ただどうしても答えを出すとしたら……少なくとも僕はここにあると思います」

 

 

 僕は心臓辺りに手を当てる。

 

 

「……そこに心が有るというのか? 心は目に見えないモノなのにどうしてそんな事を言い切れる?

そもそも心と言うモノは本当に存在しているのか? もしかするとそれは錯覚ではないのか?」

 

「錯覚ですか……確かにその可能性もありますね」

 

 

 心というモノは今なお人類が研究しているテーマであり、永遠に答えが出ないモノかもしれないと言われているモノだ。

とある人は心とは脳の記憶が生み出した信号だとか、人間を支配しているものだとか、そもそも存在しないモノだとか色々な説がある。

それなら錯覚と言う考え方も間違いでは無いだろう。

 

 そう思ってブラックウォーグレイモンの答えに肯定したのだが、ブラックウォーグレイモン自身は肯定されると思っていなかったのか驚いた表情を浮かべていた。

 

 

「……お前は否定しないのか?」

 

「否定しようにも証明出来ませんからね。心が有るという事を。

それに僕は最悪心というモノが錯覚でもいいと思ってるんですよ」

 

「……どういう事だ?」

 

「例え心が錯覚だとしても……今抱いている想いが心ではなく記憶が生み出した何らかの反応だとしても何も変わりませんから。

今までも、今も、そしてこれからも」

 

 

 今更実は心なんて存在しません。全部錯覚ですって事になってもきっと世の中は殆ど変わらないだろう。

ただこれからもその錯覚と共に生きていくだけだ。……まあ心が無いからと理由を付けて悪い事をするモノ達は居るかも知れないが、それはまた別の話だろう。

 

 

「……だが、少なくともお前は心は胸の辺りに存在する物だと思っているのだろう?」

 

「まあそうですね」

 

「どうしてそう思う」

 

「どうしてですか。そうですね……僕の場合だと何かを守りたいと思う時胸の辺りが熱くなって力が湧いて来るからです。

それ以外にも…………悪い事をしたら胸の辺りが痛むからですね」

 

「悪い事?」

 

「正確には自分で悪いと思っている事をした時です。

どんなに周りにとって正しい事をしても。自分でも最善の事をしたとしてもそう言った時は胸が痛くなるんです。

そうなるのはきっと心がそれを間違いだと思っているからだと僕は考えています」

 

「……では心とは自分の間違いを知らせる為に存在しているのか?」

 

「ある意味そうとも言えるんですが……正確に言うなら心とは、持ち主が持ち主らしく生きる為に存在しているモノだと思います」

 

「……デジモンがデジモンらしく。人間が人間らしくとは意味は違うのか?」

 

「少なくとも僕は、らしく生きるだけなら心なんて無くても問題は無いと考えています。

ただそれだと、その者がどれだけデジモンらしく、人間らしく生きたとしてもそれ以上(・・・・)にはなれません」

 

「それ以上?」

 

「心を持たない者は自分を超える事は出来ません。そもそも『自分』がありませんから。ですが、心を持っている者は『自分』の思いを生きざまを貫き通そうとする時、自分の限界以上の力を発揮出来たりします」

 

 

 

 ……まあ逆に弱くなってしまう事もあるけどね。でも、それでも僕は心が不要だとは思わない。

 

 

「……とにかく心はあるのなら大事にすべきものだと思いますよ。お互い」

 

「……オレは命の無い只の物体だ。そんな俺にどうして心が有るのかお前は説明出来るか?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンが今まで以上に真剣な表情でそう尋ねてきた。

恐らくこれがブラックウォーグレイモンが最も知りたい事なんだろう。

……この質問に関しては僕も原作でブラックウォーグレイモンが悩んでいた事を覚えていたから聞かれると思っていたのだが……

僕は思わず今日一番の溜息を吐きながら答えた。

 

 

「ダークタワーデジモンが只の物体だとしても、生きていて、尚且つその辺の電子器具と違って命令を聞き分ける程の知能があるんなら、心を持つこともそれ程あり得ない話ではないと僕は思いますよ」

 

「ダークタワーデジモンは心を持たないただの人形だ! 心を持つなどあり得ない!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは声を荒げながら僕の考えを否定した。

……どうやら余程自分が心を持っている事を何かの間違いだと思いたいらしい。

だがそう思わせる訳にはいかない。

僕は自分の考えをぶつける事にした。

 

 

「……そのあり得ないと言い切る根拠はあるんですか?」

 

「根拠、だと?」

 

「はい。貴方がダークタワーデジモンは心を持たないと言い切る根拠ですよ。

まさか自分を作ったアルケニモン達がそう思ってるからとは言いませんよね?」

 

「……仮にそうだと言ったら」

 

「話にならないです。確かに今まで戦ってきたダークタワーデジモンは心を持っていませんでした。

それにダークタワーデジモンはそもそもダークタワーという無機物から作られているんですから、心を持って生まれないと思い込むのも無理はないかもしれません。

……ですがアルケニモン達はそもそもダークタワーが何なのかを正確に理解していません。その上アルケニモン達がダークタワーデジモンを作ったのはたかが15体程度です。

たったそれだけの検証回数で、ダークタワーデジモンは心を持って生まれないと判断する事自体間違いだと思いませんか?」

 

「…………」

 

「……それに今回は前提も違います。

今までとは違い、貴方と言うダークタワーデジモンは100本のダークタワーによって作られた今までにないパターンの生まれです。今までは精々多くて10本ですからね。

そう考えるのなら他のダークタワー1~10本の時よりも心を持って生まれる可能性が高いと思いませんか?」

 

 

 少なくとも僕はそう思う。

……それに原作でもアルケニモン達はブラックウォーグレイモンが心を持って生まれた事に驚いてはいたが、少なくとも心を持った理由は、作られた際にデータのカスが流れ込んだからと理由付け出来る程度には頭が回っていた。

……その事から恐らくアルケニモン達も何らかの不手際でダークタワーデジモンにも異常が起きる事があるという考えを持ち合わせていた可能性すらある。

 

 そんな事を考えているとブラックウォーグレイモンは真剣な眼差しで尋ねてきた。

 

 

「……だとしたら仮に奴らがもう一度ダークタワー100本使ってダークタワーデジモンを作り出したとしたらそいつは心を持っているのか?」

 

「……その可能性は低くないと思います。それか、心を持たずに生まれたとしても、自分の力を使いきれずに持て余すかのどちらかだと思います。

僕は心を持たない存在には究極体クラスの力は扱えないという考えを持っていますので」

 

「……そうか」

 

「……貴方は自分と同じように心を持ったダークタワーデジモンに会いたいんですか?」

 

 

 僕は思わずそんな事を聞いてしまった。

……もしもブラックウォーグレイモンがそれを望んでいるのなら流石にそれは止めなければならない。

僕は緊張しながらブラックウォーグレイモンの返答を待っていると、帰ってきたのは否定だった。

 

 

「いや、そう言うわけでは無い。ただ気になっただけだ」

 

「…………そうですか」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはそう言ったが、本当にそう思っているのかは読み取れなかった。

……仮にそう思っていなかったとしてもそれを叶えさせるわけにはいかないけどね。

僕は取りあえずこの空気を変える為、こちらから一つ質問する事にした。

 

 

「……と、ここまで色々話をしてきましたが、僕の答えは貴方にとって満足出来るモノでしたか?」

 

「……最後にオレ自身の事で一つ聞きたい事がある。答えられるならな」

 

「最後、ですか。分かりました。言って下さい」

 

「お前には――――オレがこの世界で何をすればいいのか、いや、何をすべきなのか分かるか?」

 

「……何をすべきか、ですか?」

 

「そうだ! もしもそれが強い奴等と戦う事だというならそれでいい。オレは戦って倒す事に専念する。

……万が一心がある事が戦いの邪魔になるというのならオレは心を捨てよう」

 

「……心を捨てて不完全なダークタワーデジモンから、本当の意味で完全なるダークタワーデジモンになるという事ですか?」

 

「そうなっても構わない。心が邪魔になるのならな」

 

「……ちなみにアグモンはこの質問に何て答えましたか?」

 

「……オレが心を持ったのはお前達と友達になる為だとほざいていた」

 

「その答えに納得は……」

 

「…………答えるまでも無いだろう」

 

 

 その返答にそうですかと僕は小さく返した。

……原作ではかなりいい感じだったのに…………いや、ここで原作との違いを嘆いても何の意味は無いだろう。今はブラックウォーグレイモンの質問に答えるのが先だ。

だがこの質問に関しては僕は今までの質問よりもはっきりと答える事が出来る。

……何故なら僕は原作でブラックウォーグレイモンがどういう存在なのかを知っているからだ。決していい存在では無いという事を。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン一度だけ警告しておきます。貴方はこの答えを聞かない方が良いかもしれません」

 

「……どういう事だ? つまりお前はオレがこの世界で何をすべきか知っているのか!?」

 

「……………」

 

「いいから答えろ! オレはいったい何をすべきかを!!」

 

 

 必死の形相でそう迫るブラックウォーグレイモンに僕は右手を差し出し、四本の指を立てた。

 

 

「……現状僕の思いつく範囲で貴方には4つの選択肢があります。

1つはこの世界にとって悪なる行動。つまり貴方を作ったアルケニモン達の元に戻るという選択肢です。……言うまでも無いかもしれませんが、貴方が作られた元々の理由はアルケニモン達の力になる為です。そう考えるとこの選択肢がある意味一番正しいんですが……」

 

「オレはオレより弱い奴の指図を受けるつもりは無い」

 

 

 僕の言葉に重ねるようにブラックウォーグレイモンは否定の言葉を言った。

どうやらアルケニモン達の元に戻るつもりは無い様だ。良かった。

……だが、ここからが。本当にここからが問題だった。

 

 

「……2つ目はこの世界にとって正しき行動です」

 

「……オレがこの世界の為に出来る事があるのか?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの問いに僕は答えず、しばらく黙り込んだが、ようやくいう覚悟が出来た僕はゆっくりと口を開いた。

 

 

「――――この世界の為に今すぐ自害する事です」

 

「――――」

 

 

 僕の言い放った言葉にブラックウォーグレイモンは驚愕の表情を浮かべた。まさかそんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。

僕はブラックウォーグレイモンが変に勘違いする前にその理由を話し出した。

 

 

「……貴方と言うダークタワー100本で作られた暗黒の存在は、存在そのものがこの世界に悪影響を与え、調和を乱しています」

 

「……存在そのものが?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの確認の言葉に僕は無言で頷く事で返した。

……この真実はブラックウォーグレイモンにとってかなり辛いものだろう。

まさか自分の存在そのものが否定されているなんて誰も普通は思わない。

……だが残念ながらそれは真実だった。

 

 

「…………取り敢えず先に残りの2つもいいますね」

 

 

 このままでは話が続けられないと判断した僕はそうブラックウォーグレイモンに提案した。

するとブラックウォーグレイモンは小さくあぁと返事を返してくれた。

……どうやらまだ僕の話を聞くつもりはあるみたいだ。

 

 

「……3つ目のは、貴方が僕と共にデジタルワールドの為に力を尽くすという選択肢です」

 

「お前と共にデジタルワールドに尽くすだと? だがオレの存在は――――」

 

「分かっています。貴方の存在はデジタルワールドにとっては暗黒の存在と言えるモノです。

……だからこそ僕も隠し事をせずに答えます。

貴方の存在は確かにデジタルワールドに悪影響を及ぼす存在ですが、だからといってデジタルワールドの為に出来る事が無いわけではありません。

……例えば場合によっては貴方よりも上位の暗黒の存在を倒す存在としての地位を築けるかもしれません。

ダークタワーの負なるエネルギーを抑える術を見つけ出したら存在を世界に認められるかもしれません。

そして…………いくら暗黒の存在だとしてもその命は世界の為に使える場合があります。……例えば大いなるモノの封印とかにですね」

 

「……オレの命を封印に使うという事か?」

 

「僕と共にデジタルワールドの為に力を尽くすという選択肢を貴方が選んだとしたらその可能性は否定出来ませんね。

…………僕はあくまでデジタルワールド側の存在なので」

 

 

 ……そう僕はあくまで選ばれし子供であり、転生者だ。

選ばれし子供達やデジタルワールドの為に戦うと決めている以上、いくらブラックウォーグレイモンが味方になったとしても、世界に悪影響を与え続ける存在である以上いつまでも放置する事は出来ない。

……それに原作の様にこの世界のラスボスであるヴァンデモンに対して有利な世界で戦うにはブラックウォーグレイモンの犠牲は必須なのだ。

……こっちにはチンロンモンの力でアグモンとガブモンを一度だけ究極体に進化させる事が出来るという切り札があるが、出来るならより有利な条件で戦いたい。

例えそれがいまこうして話しているブラックウォーグレイモンを犠牲にしたとしても。

 

 

「……それで最後の選択肢は何なんだ?」

 

 

 少し黙り込んでいたブラックウォーグレイモンがそう尋ねてきた。

取り敢えず僕が提示できる選択肢を全て知ってから考える事にしたのだろう。

……ある意味これまでの3つよりも酷い選択肢である4つ目の選択肢をブラックウォーグレイモンに言い放った。

 

 

「4つ目は……ブラックウォーグレイモン。貴方の心の命じたままに行動するという選択肢です」

 



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038 歪ませるモノと歪ませた者

 前回の話と前々回の話を1つにくっつけました。
この話は普通に新作です。

6/26 8:15 話が色々と足りてなかったので少しだけ修正しました



「――――心の命じたままだと?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは意味が分からないといった表情を浮かべていた。

……確かにこれは自分の心そのものに疑問を感じているブラックウォーグレイモンには難しい話かもしれない。

僕は言葉の真意を伝える為に再び口を開く。

 

 

「要するに自分の心の思うまま好きに生きるって事ですよ」

 

「心の思うまま……」

 

「貴方は僕達と同じように心を持っているんですから可能な筈です。……それとも今更それを否定したりしませんよね?」

 

 

 僕の問いにブラックウォーグレイモンはフンと、鼻を鳴らす事で返事を返した。

……否定はしないって意思表示だろう。なら――――

 

 

「……心を持っているという事は、既に貴方には貴方だけの思いや感情、自分にとって良し悪しの基準といったモノが芽生えている筈です。

心当たりは有りませんか? 例えば貴方にとって何の価値も無いモノを壊した時に胸の辺りが痛くなったりとか」

 

「…………心当たりは無いな」

 

「……そうですか。

とにかく仮にそんな時に胸が痛くなった場合は、その人にとってはその無価値なモノを壊す事は悪い事という事になります」

 

「……無価値なモノを壊す事がか? ふん、馬鹿馬鹿しい」

 

「そうかも知れませんね。ですがいくら僕達がそれを馬鹿馬鹿しいと思っても、世界にとっても間違いであるルールだったとしても、その人の心にとってはそれは悪い事なんですよ。……本人も自覚してないかもしれませんが」

 

 

 世界には正しい事と間違った事が無数に存在する。

……だがその正しさや間違いは自分では無く自分の暮らす世界に定められていて、人はそんな世界で正しい事や間違った事を知りながら成長していく。きっとデジモンも同じだ。

だから同じ世界で暮らす人同士やデジモン同士の良し悪しの判断は殆ど同じになる――――筈だ。

……だが実際は同じ世界で暮らして居るにも関わらず人々の善悪の基準や考え方は大きく違っている。

それは育った環境や、頭の良し悪しでも違って来るが、もっとも大きな理由は、皆それぞれ唯一無二の心を持っているからだ。

 

 

「世界には心を持った存在がそれこそ数えきれない程に存在していますが、同じ心を持った存在は誰一人として居ません。例え同じ知識や価値観を与えられたとしても一人一人の心が全く同じような思いを抱く事は無いです。

何故なら皆それぞれが唯一無二の心を持っているから。

……ですがさっきも言った様に心は見えるモノではありません。だから自分でも気付かないバカみたいな価値観や、やりたい事を持ってたりすることもあるんですよ」

 

「……自分ですら気付けないやりたい事……」

 

「……ブラックウォーグレイモン。僕はさっき貴方に3つの選択肢を出した。その選択肢はどれも誰かにとって都合のよくなる選択肢。

だけどこの4つ目の選択肢は、他の誰でもない貴方の為。貴方の心の為の選択肢です。

…………以上の4つが僕の思いついた貴方に対しての選択肢です。

別にこの中から選ぶ必要もありませんし、今すぐ答えを出す必要もありません。

…………ただこれだけは覚えておいてください。僕は貴方に4つの選択肢を話しましたが、この選択肢全てに賛成するつもりは全くありません。

いくら貴方にとって、貴方の心にとってその選択肢が正しいものだったとしても、それが僕にとって……僕の心にとって間違ったモノだったとしたら僕は自分の為に貴方を止めます。貴方を殺してでも」

 

 

 ……確かに僕はブラックウォーグレイモンに思う所がある。原作視聴時にもブラックウォーグレイモンは可哀そうな存在だなと思ったほどには思い入れはある。

だが、だからといって何でもかんでもブラックウォーグレイモンの好きにさせるつもりは欠片も無い。

もしもブラックウォーグレイモンが何の力も持たない取るに足らない存在だったのなら好きにさせても良かったかもしれないが、残念ながらブラックウォーグレイモンは強力な力を持った存在だ。その力は世界を歪めるほどに。

……そんな存在を好き勝手にさせる訳にはいかない。

 

 

「……お前がオレを殺してでも止めるだと? ふん、昨日あれ程劣勢だった事を忘れたのか?」

 

 

 

 馬鹿にするような表情で僕を見つめるブラックウォ―グレイモン。

確かに僕達は昨日ブラックウォーグレイモンに対して劣勢と言える状況だった。

だが今ならまだ勝機はある。

 

 

「……違うんだブラックウォーグレイモン」

 

 

 だが、ブラックウォーグレイモンの言葉に一か所だけ訂正しなければならない場所があった。

劣勢だった、勝機はある。そんな事は後の話。

僕達は……いや僕は―――――

 

 

「貴方が選ばれし子供達に――――デジタルワールドに仇なすというなら僕は貴方を止めなければならない。

そこに勝機は関係ないんです」

 

 

 勝てる勝てないかじゃない。勝たないといけない。

原作に悪影響を与える存在を僕は見逃すわけにはいかない。それこそどんな手をどんな無茶をしてでも止めて見せる。

それが僕のやるべき事。唯一この世界で無茶を許された存在の役目だ。

 

 

「……だったら何故こんな話し合いの場を設けた?

お前がそんなにもこの世界の為を思うならこんな事をせずに不意打ちで攻撃すれば良かっただろう。

それなのにお前はパートナー達を追いやってまでこんな事をした。何故だ?」

 

 

 ……ブラックウォーグレイモンの言う通りだろう。

本当にデジタルワールドだけの事を思うなら、こんな話し合いをせず不意打ちで攻撃する方が正しい行動と言える。

原作でブラックウォーグレイモンが半分仲間状態になって、最後にデジタルワールドの為に命を使った事だけを考えるなら仲良くした方が良いが、現状では原作の様に再現するのはほぼ不可能だろう。

……ブラックウォーグレイモンと和解する程の力を発揮するにはたった一度しか使えないチンロンモンの力を使うぐらいしかないから。

 

 話し合いをするとしても4つの選択肢など話さずに、僕と共にデジタルワールドの為に戦ってほしい。その為に君は生まれてきた等と話すべきだった。

……原作知識があり、ブラックウォーグレイモンが求めるモノがなんとなくわかる僕なら騙す事も可能だったかもしれない。

だが僕はそんな事をせずにブラックウォーグレイモンに4つも選択肢を話した。それもその内の3つは僕にとって不都合な選択肢だ。

ブラックウォーグレイモンが疑問を覚えるのも無理はないだろう。

でも……

 

 

「正直に言ってしまうと僕にも分からないんだ……どうしてこんな話を貴方にしたのか。

でもあえて言うなら僕の心がそれを望んだからかもしれないですね」

 

「心が望んだからか……」

 

 

僕たちの間を少しだけ沈黙が支配した。

その後僕はこの沈黙を終わらせるために再び口を開いた。

 

 

「……もうあなた自身の事に対しての質問はいいんですか?」

 

「ああ。とりあえずは片付いた。今オレが知りたいのはお前についてだ」

 

「……分かりました答えましょう」

 

 

 僕は少しの間だけ目を閉じて色々と思考を巡らせる。少し悲しくなりながらも話す覚悟が出来た僕は目を開け、この世界に生まれ自分が転生者として自覚した瞬間からずっと抱えている事を少しだけ話すことにした。

 

 

「それは似ていると思ったからですよ。僕と貴方が」

 

「オレとお前が似ている、だと? ふん、笑わせるな! 一体どこが似ているというんだ。

……そもそもオレは存在そのものが世界を歪ませる暗黒の存在なんだぞ。

そんなオレと何処が…………」

 

「そこですよ。僕が貴方と似ていると思った所は」

 

「…………どういう事だ?」

 

「生まれた瞬間から世界にとってマイナスの存在。世界を歪ませる暗黒の存在。

そんな点が似ていると思いました。

……だからこそ、唯一この世界で似ていると思った貴方だからこそ色々と話したんでしょうね僕は」

 

 

 ……ブラックウォーグレイモンには申し訳ないが、僕はそう思ってしまっている。

自分の方が遥かに悪なる存在だというのに。

 

 

 

「……一体何者なんだお前は?」

 

「申し訳ないですがそれは話せません。何があっても。誰であっても」

 

「……ならいい。だが、これは答えろ。

お前はオレにあんなことを話して何がしたかったんだ?」

 

「……自分に似ていると思った貴方に対してのせめてばかりの贈り物。もしくは、自分に似ているのに決して届かない場所に居る貴方に対しての嫉妬心から、少し意地悪をしたかったのかもしれません。

 

「……お前がオレに嫉妬する点があるのか?」

 

「たくさんありますが特に……貴方はマイナスの存在ですが、プラスになり得るという点が憎しみを覚える程羨ましいですね。……こんな気持ちを抱く権利も僕にはないんですがね」

 

 

 ブラックウォーグレイモンと僕はマイナスの存在だ。お互いに世界にとって暗黒の存在だ。

だが僕達には一つだけ決定的な違いがあった。それがブラックウォーグレイモンがプラスの存在になれるかも知れないという点だ。

……少なくともブラックウォーグレイモンは原作では最後に自身の命を使ってゲートを封印するという偉業を成し遂げた。この行動はどう考えても今までのマイナスを覆す行動だろう。

……それに対して僕は転生者だ。本来この世界に居てはならない異物だ。例えどんな行動をしたとしてもプラスに傾くわけがない。いや、プラスに傾くなんて許されない。

それにブラックウォーグレイモンは世界を歪ませてる(・・・・・・・)暗黒の存在。まだ取り返しは付く。

だがそれに対し僕は世界を歪ませた(・・・・・・・)暗黒の存在。……もう世界を歪ませてしまった存在なのだ。取り返しなんて付かない。

 

 

「……そのプラスになるという行動が、封印に命を使う事なのか?」

 

「……少なくとも今の僕の視点から見える展開の中ではそうですね。

さっきも言いましたが、僕が貴方に示せる選択肢がこの4つだけなんです。だけどそれだけが貴方の選択肢の全てだとは思わないで下さい。

世界は広いですからきっと僕の想像も出来ないような選択肢もあるでしょうから」

 

「…………」

 

「……それでもう質問は良いんですか?」

 

 

 僕の問いにブラックウォーグレイモンは答えなかった。何かを考えるように地面をジッと見つめている。

……とにかく質問はここまでみたいだ。

そう判断した僕は少しブラックウォーグレイモンから距離を取ると、ブイモン達が隠れている方に向かって手を振った。

するとブイモンとアグモンが物陰から飛び出してきて全速力で僕達の方へ走ってきた。

 

 

「……もう話は終わったの?」

 

 

 僕の元に一番に辿り着いたブイモンは後ろのブラックウォーグレイモンをチラチラ見ながら小声でそう尋ねてきた。

僕はブイモンとアグモンに伝えたい事は伝えたよと返事を返し、ブラックウォーグレイモンに背を向けながら歩き出した。

その行動にブイモン達も驚いたのか、僕の隣に来るまでに多少の間があった。

 

 

「……それで結局どうなったの? ブラックウォーグレイモンは仲間になってくれるって?」

 

「……とにかくさっきも言った様に伝えたい事は伝えた。

でもブラックウォーグレイモンが僕の言葉を聞いてどうするのかは分からない。

それに今すぐはその答えを出さなくていいって言っちゃったし、今日の所はここまでにしよう」

 

 

 アグモンにそう返事を返すと僕は歩きながらD3を取り出し、ブイモンを進化させようとした。

……少なくとも今この場ではブラックウォーグレイモンを放置する事にしたが、それがこの四聖獣の力が弱まった世界でどれ位の影響があるかが心配だった。

だから今から僕はチンロンモンの元に行こうと考えていた。

今のこのデジタルワールドでブラックウォーグレイモンというダークタワー100本で出来ている暗黒の存在がどれ位の悪影響があるのかを尋ねる為に。

……もしも今すぐ何とかしないといけない状況だったとしたら、ブラックウォーグレイモンには悪いがチンロンモンに会った後にもう一度会いに行って答えを聞こうと思っている。

ブラックウォーグレイモンに考える時間を与えたい気持ちはあるが、僕はあくまでデジタルワールド側の存在。状況が状況である場合はそうせざるをえない。

…………そんなことになってしまう可能性があるなら、初めからあんな話をブラックウォーグレイモンにしなければ良かったかもね。

 

 少し自分の行いに後悔しながらブイモンをエクスブイモンに進化させようとした時――――

 

 

「――――待て」

 

 

 予想外にもブラックウォーグレイモンに声を掛けられた。

 

 

「……どうしたんですか? もう僕に聞きたい事は無いと思うんですか?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの予想外の行動に僕は少しだけ警戒しながらそう尋ねた。

……まさかもうブラックウォーグレイモンの中で答えが出たんだろうか?

そんな事を考えているとブラックウォーグレイモンはアグモンの方を睨んだ。

 

 

「……おい、オマエ」

 

「え、ボク?」

 

「そうだお前だ。

お前はさっき進化したらウォーグレイモンになれると言っていたな? それは今この場でなれるのか?」

 

「え、えっと…………」

 

 

 アグモンは困った様な反応を見せながら僕の方をちらっと見た。

……恐らく僕が前にキメラモンの時に話した、四聖獣の力を使えば一時的に究極体になれるという話を覚えていたからだろう。

……確かにその力を使えばアグモンはウォーグレイモンに進化出来る。が、その力をこんな所で使う訳にはいかない。

僕はアグモンの視線に首を横に振る事で答えた。

それを見たアグモンは少しだけ肩を落としてブラックウォーグレイモンの方を見た。

 

 

「……ごめん。今はなれないんだ」

 

「そうか」

 

 

 アグモンの言葉にブラックウォーグレイモンは興味無さそうにそう返事を返すと、今度は僕とブイモンの方を睨んできた。……右腕のドラモンキラーを向けるという明らかな敵意を見せながら。

 

 

「ならお前、オレと戦え。昨日の決着をつけるぞ」

 

「……つまり貴方は僕達と敵対するという選択肢を選んだという事でしょうか?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンにそんな事を尋ねながら僕は僅かに肩を落とした。

……確かにブラックウォーグレイモンがこちら側についてくれる可能性は初めから低かったが、無いわけでは無かった。

……こうなってしまったらブラックウォーグレイモンが原作の様な行動をしてくれる可能性は0になったと判断していいだろう。

 

 僕はブイモンとアグモンに視線を向けた。二体とも僕が言いたい事を理解したのか無言で頷いた。

……こうなってしまった以上仕方が無い。僕はブイモンとアグモンを完全体に――――

 

 

「――――待て!

 

 

 再びブラックウォーグレイモンに呼び止めれた。

 

 

「……なんですか?」

 

「オレはこいつ(ブイモン)と決着を付けたいと言った筈だ。それ以外に余計な事をするな」

 

「……それはつまりブイモンだけで戦えって事ですか?」

 

「当然だ」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉を僕は鼻で笑った。

 

 

「何言っているんですか? どうして僕達が敵対するデジモンの言う通り正々堂々戦わなくてはいけないんですか?

貴方がどの選択をしたかは分かりませんが、ここで僕達を戦うという行動を取ったという事はそういう事なんですよね? ならそんな相手にかける情けはありません。こっちは文字通り全力で貴方を倒しましょう」

 

 

 卑怯者と言って貰っても構いませんよと付け加え僕はブラックウォーグレイモンの目を見た。

……が、ブラックウォーグレイモンは僕の言葉に怒った様な反応は見せず、予想外にも僕達に向けたドラモンキラーを下ろした。

 

 

「……オレはお前達と敵対する事を選んだわけでは無い。いや正確にはまだどうするべきか答えが出ていない」

 

「……ならどうして僕達と戦おうと?」

 

「……オレは自分が分からない。お前に色々と答えて貰ったが、結局オレ自身が何をすればいいのかが分からない。

――――だが、そんなオレでもたった一つだけやりたい事があった。

それがお前と一対一で決着をつける事! それが、それだけが今のオレの心が唯一望む答えだ!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンが今日一番心のこもった(・・・・・・)声でそう叫んだ。

……成る程、それが今のブラックウォーグレイモンが望む事か。……だが、そうだとしても……

 

 

「それがブラックウォーグレイモンの心からやりたい事だったとしても僕は貴方との試合を受けるつもりは無いですよ。

……こっちも色々と忙しいのに、貴方と一対一の真剣勝負をしている余裕はないんです。申し訳ないですけど。

それにそっちが究極体一体に対し、こっちは完全体一体で戦うというのはあまりにアンフェアだとは思わないですか?」

 

 

 ……それにブラックウォーグレイモンは時間が経つ毎に、戦う毎に強くなってしまう。そんな相手に経験を積ませるような勝負をするなんてもっての外だ。

ブラックウォーグレイモンが味方になる可能性が高いと言えない現状では特に。

 

 

「だから貴方の心を満たすための戦いをするつもりはな―――――

 

「――――ならこういうのはどうだ?」

 

 

 僕が改めてブラックウォーグレイモンの願いを断ろうとした時、ブラックウォーグレイモンが言葉を重ねてきた。

 

 

「もしもお前がこの条件でオレに勝てたら――――オレの結末を――オレの死にざまをお前に決めさせてやると言ったら?」



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039 正しいと思っていた生き方

 最近忙しくて更新出来ませんでした。
モチベーションが下がっている訳では無いです!


 僕はブラックウォーグレイモンが言ったあまりに予想外の提案に一瞬息が止まるほど驚愕した。

自分の死にざまを僕に決めさせてやるだと? もしもそれが本当ならこれ以上に無い条件だ。

何故ならそうすればブラックウォーグレイモンとこの先戦わなくて済む上、原作通りブラックウォーグレイモンの命を使ってゲートを封じ、ヴァンデモン達との最終決戦の際に選ばれし子供達にとって圧倒的有利に傾く世界で戦う事が出来る。それはつまり原作に近い終らせ方をする事が出来るという事だ。

原作の様な展開を望む僕からしたらこの提案は何があっても受けたい提案だった。

――――だが

 

 

「……ブラックウォーグレイモン。貴方はその言葉の意味を本当に理解してるんですよね?」

 

 

 僕は思わずそう訪ねてしまった。そんな事を改めて尋ねたらこの提案がなかった事になる可能性が合ったのに……

僕はブラックウォーグレイモンにまるで考えを改めさせる為かのようにそう返してしまった。

 

 そんな僕の様々な思いの籠った言葉に対してブラックウォーグレイモンは鼻で笑うことで返した。

 

 

「当然だ。もしもそうなったらさっきのお前の話から考え、そう遠くない未来でオレの命は封印に使われる事になるんだろう?」

 

「……そうですね。少なくとも二ヵ月……60日後くらいでそうなってしまう可能性が高いです」

 

 

 今は9月の下旬頃。原作通りに話が進むとしたら及川……ヴァンデモンがデジタルワールドに行こうとするのが確か12月31日。

ならもしもブラックウォーグレイモンの命を封印に使うとしたらそれまでにやらないといけない。

……という事はやはりブラックウォーグレイモンには申し訳ないが二ヶ月くらいの猶予しかないという事になる。

――――だが、だとしても僕にはやり遂げなければならない事がある。

ブラックウォーグレイモンがどうしてこんな答えを出したのかは分からないが、そう提案してくれるなら有難く乗らせて貰おう。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン。本当にそれでいいんですね?」

 

「二言は無い」

 

「……分かりました。貴方の提案にの――「ダメだよ!!」

 

 

 僕の言葉にアグモンが割って入って来た。

 

 

「ボクはモリヤとキミがどんなことを話していたか分からないけどキミが生きる事を止めようとしているって事は分かる。

生きる事を止めちゃだめだ! 例えどんなに辛くても命ある存在としてそれはやっちゃいけない事なんだ!!」

 

「アグモン……」

 

「ボクは君の望む答えを出す事は出来なかったけど……モリヤからは答えを聞けたんでしょ?

それなのにどうしてこんな事になるの!?」

 

 

 アグモンは必死にブラックウォーグレイモンを説得しようとした。

が、ブラックウォーグレイモンに突然ドラモンキラーを目の前に突き付けられた。

 

 

「お前には関係ない。これはオレとコイツの問題だ」

 

「……キミは生きる事から逃げる事にしたの?」

 

「好きに解釈しろ」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはアグモンにそう言い放つと僕の方に視線を向けて来た。

 

 

「ただオレはこいつ等と決着を付けたいだけだ。仮に負けたらアイツの望む結末を迎えてやる。ただそれだけだ」

 

「……なら勝ったらどうするつもりなの?」

 

「今のオレは戦う事自体が目的だ。勝ってお前らに望む物など何一つない。――――さあどうする!」

 

 

 僕はブラックウォーグレイモンの言葉にブイモンをウイングドラモンに進化させる事で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は少し前に遡り、学生の登校時刻頃。

タケルが家から出て学校へ向かって歩いていると、目の前に見覚えのある二人の後ろ姿があった。

伊織と京のモノだ。

 

 

「――――伊織君、京さんおはよう!」

 

 

 少し歩くスピードを上げて二人の隣まで来たタケルはそう元気に挨拶を投げかけた。

京と伊織、そしてタケルは同じマンションに住んでいるが、家を出る時間が基本的に違う為一緒には登校していない。

だが、こうして登校中に会う事は珍しくなく、その度にタケルがこんな風に挨拶している。いわば何時もの光景だ。

だがこの日に限っては何時もと勝手が違っていた。

 

 

「た、タケル君!? お、おはよう……」

 

「…………」

 

 

 タケルの言葉に京は驚いた様な素振りを見せその場に立ち止まった。それに対して伊織は全く反応を見せないまま足を止めずに歩き続けた。まるでタケルの言葉が聞こえていないと言わんばかりに。

 

 

「……ねぇ、伊織君に何かあったの?」

 

 

 伊織の様子に違和感を覚えたタケルは、恐らくその理由を知るであろう京にそう尋ねた。すると京は少し言い難そうに朝からこんな感じなのと返してきた。

京のこの反応に、伊織だけでは無く京にも何かあったと察したタケルは質問を変えて改めて尋ねた。

 

 

「……ねぇ京さん」

 

「え、ど、どうしたのタケル君?」

 

「昨日伊織君の忘れ物を取りに行ってから今朝までに何かあったでしょ?」

 

「…………うん」

 

「何があったの?」

 

「……ごめん少しだけ時間貰ってもいい? あたしも伊織も多分放課後位にはちゃんと話せるようになってると思うから……」

 

 

 京の提案にタケルは疑問を覚えながらも分かりましたと返事を返した。タケル自身無理に聞き出そうと思っていない以上、後で話してくれるのならその時でいいと判断したからだ。

 

 タケルの返事を聞いた京はそれにホッと息を漏らすと、それじゃあ放課後にと言い残し、足早に先へ行った伊織の元へと向かって行った。

そんな京の様子をタケルはその場に立ち止まって疑問げに首を傾げながら見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――守谷さんは____に少し似ている。

 キメラモンの攻撃からヒカリを庇って病院に運ばれた際、どうして戦うのかという質問に『デジタルワールドを救う事が使命だと思っているから』だと聞いて伊織は心の奥底で一瞬だけそう感じた。

 

 

 ――――守谷さんは__さんに少し似ている。

 完全体ダークタワーデジモンに襲われて絶体絶命の時、助けに来てくれた守谷の背中を見て伊織は一瞬だけそう感じた。

 

 

 ――――守谷さんはお_さんに少し似ている。

 祖父から生きていた頃の父の話を聞いて伊織はそう感じた。

 

 

 ――――守谷さんはお父さんに少し似ている。

 デジタルワールドの為に頑張っている守谷の事を考え、伊織は密かに笑った。

 

 そんな父に似た存在に追いつくために伊織は出来る限り、時間の限り努力した。

もう追えないと思っていた父の背中に近づけるチャンスだと思ったから。

 

 伊織は父を尊敬していた。父の生き方を、生き様を正しいと思っていた。

だから父に似た守谷の行動は理由が分からなくても何もかも正しいものだと思っていた――――信じていた。

だが――――

 

 

『デジタルワールドを救う事、それが僕の使命であり、やるべきこと。そして何をしてでもやらなければならない事なんだ』

 自分を度外視し、デジタルワールドの為に日常を捨ててまで行動する守谷の行動を伊織は間違いだと思った。

だがそう思った時、伊織はある事に気付いた。いや気付いてしまった。

 

 守谷の行動はこのまま続ければデジタルワールドの為に自分の命を犠牲にしてしまうかもしれない間違った行動だ。

……なら、自分の仕事の為に自らの命を犠牲にした自分の父の生き方は間違っていたのか?

 

――――違う!!

 

 伊織の心の全てがその答えを否定した。

父の生き方が間違っていた筈が無い。父の最後の行動が間違っていた筈が無い。

伊織は何度も自分の出してしまった答えを否定しようとした。自分の父は正しかったと考えようとした。

だがそうやって想像の中の父を正しいと考えようとするたびに今までこの目で見て来た守谷の姿がチラついた。

 

 ……あの生き方はやっぱり間違っている。何かの為に自分を犠牲にしかけない生き方なんて間違っている。

――――ならあの生き方を貫いた自分の父は間違って――――――――

 

 

「――――ねぇ、伊織、聞こえてる?」

 

 

 伊織が何度も考えをループしていると、そう言いながら京に肩を掴まれてようやく思考から戻った。

 

 

「……京さん」

 

「やっと反応してくれた。因みに聞くけど今の状況分かってる?」

 

「…………すいません」

 

「いいのよ。じゃあ説明するわ。

流石に分かってると思うけど今は放課後で、ここはいつものパソコンルーム。

ここにはあたし達以外にヒカリちゃんやタケルくん達が居て、今アタシはヒカリちゃん達に昨日の事を話し終わった所」

 

「……昨日あった事話したんですね」

 

「えぇ。……少し迷ったけど、あたしは話す事にした。

だって黙ってても良い方に転ばないと思ったから。守谷君にも口止めされてないしね。

……伊織は話さない方が良かったと思うの?」

 

「いえ、そういう訳では無いですが……」

 

 

 伊織はそこまで言うと黙り込んだ。

伊織自身も昨日あった事はタケル達に話した方が良いとは思っている。

だが、話したくないと言う気持ちもあった。

何故なら――――話せばきっと守谷の行動(お父さんの生き方)をタケル達に否定されると思ったから。

 

 そしてデジタルワールドに来たタケル達は、普段通りはじまりの町へ来ていたが、何時もとは違い、修行はせずにはじまりの町に住む幼年期デジモン達の面倒を見ていた。

 京から昨晩の守谷とのやり取りを聞いたタケルとヒカリは、京達と同じように守谷の行き過ぎた行動を重く受け止めた。そして考えた結果、タケル達ははじまりの町で守谷の事を待つことにした。

守谷と会って、自分の生活を犠牲にしてデジタルワールドで暮らす事を止めさせるために。

 

 

「守谷君、タケル君達の話を聞いて無理を止めてくれるといいんだけど……」

 

 

 自分のパートナーが幼年期デジモンに遊ばれている様子を見ながら京は隣で俯いている伊織にそう話しかけた。

それに対して伊織はそうですねと返すと、小さく呟いた。

 

 

「……でもそれは難しいかもしれませんね。守谷さんの性格を考えると、少なくともデジタルワールドが落ちつくまでは止めない気がします」

 

「……そうかもしれないわね」

 

 

 伊織と京は守谷の考えている事が殆ど分からない。

だが昨日の守谷の言葉を聞いて、少なくとも自分達が口で何かを言った所で行動を改めてくれる気がしなかった。

……むしろ余計無理をする気さえする。

 

 

「……こんな気持ちで特訓しても全然身にならないわね。タケル君の言う通り、今日は特訓が休みで良かったかも」

 

「タケルさん達の判断力はやっぱり凄いですね。……いえ、もしかするとタケルさん達も僕達と同じように悩みでそれどころじゃないかもしれません。

……でも、だとしても――――」

 

 

 伊織はそう言うと悔しそうに俯いた。

守谷達がブラックウォーグレイモンと交渉……もしくは戦闘をしているかもしれないのにこうして呑気にはじまりの町に居る自分に怒りを覚えた。

確かにさっきタケル達が言った通り、自分達が行った所で何の役に立たないかもしれない。寧ろ邪魔になるかも知れない。信じて待つことが今自分たちに出来る最善の行動なのかもしれない。

だが伊織は半分は納得できなかった。本当にそれらを言い訳に自分達はここに居ていいのかと。このままではいずれお父さんの様に間違った生き方をしてしまうのではないかと。

そして半分は納得していた。お父さんに似ている守谷の行動を全て信じる事こそが正しい事だと。

分からない。分からない。分からない。

伊織にはわからない。どうする事が正しい事なのか。

伊織にはわからない。父の生き方を否定するのが正しいのか。それとも父の生き方を肯定するのが正しいのか。

伊織には分からなかった。



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040 たった一度のチャンス

 自分でもブラックウォーグレイモン関連の話が長引きすぎていると思ったので、話を進ませるべく投稿する事にしました。


「――――うぉー!!」

 

 

 戦いが始まると同時に仕掛けて来たのはブラックウォーグレイモンだった。自分よりも素早いウイングドラモンが動き出す前に一撃与える為だろう。昨日戦った時よりも僅かに早く感じる両腕のドラモンキラーがウイングドラモンに迫る。

……この攻撃自体はいくら先手を取られたと言ってウイングドラモンのスピードなら躱す事が出来るだろう。だがそこまでだ。一度そこまで接近されたらブラックウォーグレイモンを再び引き離すのは困難だ。それこそいくらかダメージを受けてようやくと言った所だろう。

――――昨日のウイングドラモンのスピードなら。

 

 

「――――」

 

 

 ウイングドラモンは真っ直ぐ自分にドラモンキラーを突き立てて迫ってくるブラックウォーグレイモンを一瞬で空に飛びあがって躱した。

 

 

「――な、なんだと!?」

 

 

 昨日戦った時よりも速いウイングドラモンに驚愕し、先程までウイングドラモンが居た場所で止まったブラックウォーグレイモンに、ウイングドラモンは容赦なく上空から音速を超えた速度で小さな灼熱のブレスを放った。

ブラックウォーグレイモンはそれを咄嗟に背中のブレイブシールドで防ぐ。

 

 

「―――くっ!」

 

 

 ブレイブシールドで何とか灼熱のブレスを防ぎ切ったブラックウォーグレイモン。

不意を突かれたことに苛立ちながらブレイブシールドでの防御を解き、上空を見上げてみると、そこには既にウイングドラモンの姿は無かった。

 

 

「――――こっちだ!」

 

「――――!!」

 

 

 声が聞こえた方を見てみると、そこには見た事も無いスピードで弾丸のように真っ直ぐ飛んでくるウイングドラモンの姿が目に映り、ブラックウォーグレイモンは無意識にそれを体を捻りギリギリの所で躱した。――筈だった。

次の瞬間、目に見えない衝撃波がブラックウォーグレイモンを襲った。

 

 

「――――ッチ!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはその衝撃波を咄嗟に後ろに飛ぶことで幾分かダメージを減らした。

そのお蔭もあってダメージはそれ程なかったが、右手のドラモンキラーに小さくないヒビが入ってしまった。

 

 

「……片方も折れなかったか」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの姿を見て悔しそうに呟くウイングドラモン。その姿でブラックウォーグレイモンは今までの攻撃が両手のドラモンキラーを折る為の行動だったと察した。

 

 

「成る程。さっきまでの攻撃は全部コイツを折る為のものか」

 

「……それはボクにとってかなり相性が悪い武器だからね。出来れば今ので片方は折りたかった」

 

「フン、昨日までとは大違いだ。スピードも戦い方も。どうやら思っていた以上に楽しめそうだ……!」

 

「…………」

 

 

 歓喜の表情を浮かべながら先程までよりもどす黒い殺気を放つブラックウォーグレイモン。

そんなブラックウォーグレイモンに少しばかり飲まれながらもウイングドラモンは後ろに居るパートナー(守谷)の方を振り向いた。

 

 守谷からの言葉は無い。戦いに関する戦術などの話は戦う前に済んでいるし覚えている。だからウイングドラモンもそれを求めて振り向いたわけでは無い。

ウイングドラモンはただ守谷の目を見ていた。

その目には今まで自分に向けられたことのない何らかの強い思いが籠っていた。

この目を見るのは二度目だ。一度目はキメラモンを倒す為、アグモンをメタルグレイモンに進化させ、背中に乗って指示していた時。故に自分にこの目を向けられたのは今回が初めてだ。

そして二度目とはいえウイングドラモンには守谷がこの目をする理由がなんとなく理解出来ていた。

 

 守谷がこの目をする時は――――絶対に勝たなければならない戦いの時!

 

 ウイングドラモンはブラックウォーグレイモンの方を向いて先程ブラックウォーグレイモンがしたように全力の殺気をぶつけた。

ブラックウォーグレイモンはそれを歓喜の表情で受け取ると、再び攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――何度ぶつかり合っただろうか。

二体が戦い始めてから数時間は経過しているがまだ戦いは続いていた。

二体ともそれ程出来る事が多くない為、やって居る事は殆ど変わらない。

ウイングドラモンが優勢の時は、その速さでブラックウォーグレイモンをかく乱し、少しずつダメージを稼いでいく。

ブラックウォーグレイモンが優勢の時は、ウイングドラモンを逃がさない様にピッタリと張り付き、得意の接近攻撃とウイングドラモンに絶大な効果を持つドラモンキラーで大ダメージを狙う。引き出しの多くない二体の戦いは殆どがこのような戦いだった。

 

……正直に言ってしまうと、全力を出したウイングドラモンならもっと優勢に立てると思っていた。いや、昨日までのブラックウォーグレイモンなら立てていたのかもしれない。数値で測れない以上勘の話になってしまうが、ブラックウォーグレイモンが昨日よりも強くなってしまっている気がする。

……やはり心を持った対戦相手と言うのは厄介すぎる。

……このまま戦いが続けばブラックウォーグレイモンがもっともっと強くなってしまう可能性すら感じるのが正直怖くなる。

が、少なくともこの戦いが終わるのも時間の問題だろう。

 ……ウイングドラモンは既に両手の宝玉を破壊されていて総エネルギーがガクッと落ちている。体中に相性最悪のドラモンキラーで付けられた傷が見られ、翼にもそれが見られるせいかスピードもかなり落ちている。正直に言ってかなり不味い状態だ。

僕自身も込めれるだけの思いを込めているせいか体がかなり怠い。仮に今からアグモンを参戦させようとしても完全体に進化させるのは厳しいと言わざるを得ない。

 

 ――――が、ブラックウォーグレイモンはそれ以上のダメージを受けていると思う。

既に両手のドラモンキラーは根元から折れていて、背中のブレイブシールドもボロボロ。両手も基本的にだらんと下がってる。

……恐らくブラックウォーグレイモンの必殺技であるブラックトルネードをウイングドラモンの背中の槍で弾き返した際のダメージが残っているのだろう。

そして両腕がそんな状態だからウイングドラモンの攻撃をさっきから防ぎきれてない。誰がどう見てもチャンスだろう。

……が、

 

 ウイングドラモンとブラックウォーグレイモンが再び正面からぶつかり合う。

ウイングドラモンは宝玉を無くしたことで空いた両手を握り何度も振るう。

ブラックウォーグレイモンは、避けれる範囲の攻撃は上手く体を逸らして躱し、避けきれない分は体の固い部分に上手く当ててダメージを軽減し、今なお健在の両足でウイングドラモンに攻撃を仕掛ける。

蹴り攻撃を受けたウイングドラモンは少し後方に下がった。

……正直に言ってこの状態でも接近戦に関しては相手の方が上手と判断せざるをえない。

 

 

「……まだブラックウォーグレイモンの両手が健在だった時の方が戦えてた。両手が不自由になった分頭が冷えたのか?」

 

 

 だとしたらこのまま接近戦を続けるのは不味い。

が、だからと言ってそれ以外の戦い方が出来るかと言われたらそうではない。

ウイングドラモンは元々自分の速さを上手く使って自分のペースに相手を巻き込んで近・中・遠距離に囚われず動き回る戦いを得意としている。

だからスピードを出せなくなってしまったらウイングドラモンは距離を自由に切り替える戦いが出来なくなってしまう。

必殺技を放とうにも速さの出せない状態では3つある内の一つしか使えない上、その必殺技は昨日も含めて何度もブラックウォーグレイモンに見せてしまっている。

何も考えずに放ってもまともな効力は期待出来ないだろう。

 

 そんな事を考えていると戦いに少し変化が起きた。

ウイングドラモンが大きく拳を振り下ろしてブラックウォーグレイモンを攻撃しようとした際、ブラックウォーグレイモンは大振りになったその攻撃を難なく躱したがそれは実は囮で、ウイングドラモンは拳を振り下ろした際の反動で体を縦回転させ、本命の尻尾をブラックウォーグレイモンに振り下ろした。

戦いが本格的になるに連れ、全く使わなくなった尻尾で今更攻撃されるとは思っていなかったのかブラックウォーグレイモンはそれをまともに受け、地面に強く叩きつけられた。

……戦闘経験が足りないせいで今まであまり尻尾を生かせなかったけど、だからこそこのタイミングでブラックウォーグレイモンの虚を付けた。

――――チャンスか?

 

 僕がそんな事を考えるよりも早くウイングドラモンは全力でブラックウォーグレイモン目がけて急降下した。

敵が真下に居る今なら背中の槍を突きつける『エクスプロードソニックランス』を使える。

……が、ブラックウォーグレイモンの消耗具合から見て下手をすればこの攻撃でブラックウォーグレイモンが消滅してしまう可能性もある。

僕はブラックウォーグレイモンが負けを認めて降参してくれることを密かに期待しながらその結末を見届けるべく目を凝らした。

結果は――――ブラックウォーグレイモンが寸前の所で攻撃を躱してすれ違いざまにウイングドラモンの右翼に拳を叩きこんでよろけながら上空に上がると言う想定外の結果だった。

 

 戦いを終わらせられなかった事に僕とウイングドラモンはそれぞれ舌打ちすると、ウイングドラモンはまだダメージが抜けきれずよろけているブラックウォーグレイモンに追撃すべく上空へ飛び上がった。

――――いや、飛び上がれなかった。

 

 

「くっ、これは!」

 

 

 ウイングドラモンの右翼を見てみるとそこには鋭利に尖ったドラモンキラーの大きな破片が突き刺さっていた。

……どうやら運悪くもブラックウォーグレイモンの倒れた近くに落ちていた様だ。

 

 

「――――これで少なくとも直ぐには飛べまい。つまり次の攻撃をお前は躱せないという事だ」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは片腕を庇いながらゆっくりと上へ上へと上がって行く。

……どうやらドラモンキラーの破片を掴むことは龍族であるブラックウォーグレイモンにとっても無理のある行動だったようだ。

 

 

「これで決めるぞ。オレとお前のどっちが強いのかを!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはそう宣言すると、両手を上げて大きく広げた。

ただそれだけで暗黒のエネルギーがその中心に渦を巻いて集まって行く。本日最初で最後の『ガイアフォース』を放つつもりだろう。

……今のウイングドラモンではこの攻撃はかわせない。絶体絶命のピンチだ。

 

――――だがこの時を僕達は待っていた!

 

 ブラックウォーグレイモンは更に、更に暗黒のエネルギーを頭上に集めていく。最終的にその大きさはブラックウォーグレイモンの何倍もの大きさになっていた。

 

 

「……何をたくらんでるか知らんが、この攻撃で全て吹き飛ばしてやろう!!『ガイア…………

 

 

 自分の必殺技に対して動きを見せない僕達にそんな言葉を投げかけながらブラックウォーグレイモンは頭上の超エネルギー体を僕達に投げつけるべく体を大きく沿って一瞬僕達から視線を外した。

 

 

「――――今だ!!」

 

 

 僕の言葉と同時、いや少し早くウイングドラモンの口から灼熱のブレスが放たれた。

 

 

「――な――――」

 

 

 僕の言葉に反応したのか、ブラックウォーグレイモンが頭上の超エネルギー体を早く投げつける為に動きを早くしたが、ブラックウォーグレイモンが視線を僕達に向けたその瞬間には既にその灼熱のブレスは目前まで来ていた。

 

――――ブラックウォーグレイモンは警戒していた。ガイアフォースを放つ際、それよりも早く攻撃を放たれ、受ける事を。

――――ブラックウォーグレイモンは把握していた。ウイングドラモンが現状使える必殺技が灼熱のブレス攻撃だけだという事を。

――――ブラックウォーグレイモンは知っていた。そのブレスがどれ位の速さで飛んでくるのか。どれ位の対応力があるのかを。戦いの中で何度もそれを目にしていた。

――――だがブラックウォーグレイモンは一つだけ知らなかった。その灼熱のブレスがただの一度も本当の意味で全力で自分に使われたことが無いという事を。

ブラックウォーグレイモンが見た灼熱のブレスは、遅い代わりに広範囲のモノと、目にも止まらない速さで放て、更に連射できるタイプのものだ。

ブラックウォーグレイモンはその二つの効果の後の方が本来のモノで前の者が応用物だと判断していたんだろう。

だが実際は違った。遅いブレスも、早い上連射できるブレスも応用物だったのだ。

今ウイングドラモンが放ったブレスこそ、とんでもなく早いが連射も爆発時間も調整できない本来の『ブレイズソニックブレス』だ。

 

 ブレイズソニックブレスがブラックウォーグレイモンの頭上のガイアフォースに直撃し、そしてガイアフォースはブラックウォーグレイモンの真上で爆発音を上げながら弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 人型のブラックウォーグレイモンにも苦戦しましたが、モンスター型のウイングドラモンの戦闘描写には本当に苦労しました……


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041 間違った選択

 8月は色々と忙しくて投稿出来なかったのと、
一つの話を加えるか加えないかを本当に迷っていて投稿できませんでした……
申し訳ございません。

 迷っていた話は最終的にカットする事にしました。




 二つの強力なエネルギーの衝突点を中心にそれらは爆発し、視界を包み隠すほどの爆煙と爆風が生まれ、それは少し離れた位置に居たはずの僕達の元まで来た。

あまりの爆風に僕の体は一瞬宙に浮いたが、隣にいたアグモンが腕を掴んでくれたおかげで何とか吹き飛ばされずに済んだ。

 

 

「ありがとうアグモン」

 

 

 僕はアグモンに一言お礼を伝えると、未だ視界を覆い隠す爆煙の中必死に目を凝らし、ブラックウォーグレイモンの姿を確認しようとした。

恐らく今の攻撃で決着は付いたと思う。が、正直やり過ぎたかもしれない。

……最悪消滅している可能性もあるかも知れない。

 

 僕は必死に目を凝らしてブラックウォーグレイモンの姿を探す。

煙が晴れ始め、回りが見え始めた僕は、大の字で地面に倒れているブラックウォーグレイモンの姿を目にした。

ブラックウォーグレイモンは視線を上空に向けながら黄昏ているような様子だった。

……良かった。消滅はしていない様だ。

 

 

「…………」

 

 

 僕は煙が晴れると同時に僕の隣に飛んできたウイングドラモンとアグモンと共にブラックウォーグレイモンの元へ歩いて行く。

……決着は付いたと思う。だけどそれを判断するのは僕達では無くブラックウォーグレイモンだ。

だからもしもブラックウォーグレイモンがまだ戦う気だというなら戦わなければならないだろう。

……もうこっちには作戦なんて何一つ残ってないんだけどね。

 

 ブラックウォーグレイモンの元まで来た僕達は話しかける事が出来ず、無言でブラックウォーグレイモンを見ていた。

……何て声を掛ければいいか分からなかった。

下手をすればこの会話で戦いの続行の有無が決まるかと考えると僕はより言葉を紡げなくなってしまっていた。

するとそれを見かねたのかは分からないが、ブラックウォーグレイモンが視線を空に向けたまま話しかけてきた。

 

 

「――――あの灼熱のブレス、今まで全力で放ってなかったのか?」

 

「……いえ、ウイングドラモンは今回の戦いで一切手を抜いていません。流石に究極体という格上相手にそんなことは出来ませんから。

ですが、あのブレスに限っては、爆発範囲や連射という応用した使い方をして本来の使い方は最後の時まで隠していました。

……そうしないと貴方が全力のガイアフォースを放ってくれないと思いましたので」

 

「そうか。なら最後のあれがお前達の奥の手というやつか」

 

「はい……癇に障りましたか?」

 

「フン、一対一での戦いで起こった事なら例えどんなことが起ころうがあれこれ言うつもりは無い。

――――そしてお前達が立っていてオレが倒れている現状から勝敗は明白だな」

 

「それはつまり―――――!」 

 

「オレの負けだ」

 

 

 視線を此方に向けそう宣言したブラックウォーグレイモン。

それを耳にした僕は安堵で思わずその場に座り込んでしまった。

それと同時にウイングドラモンもへたりと座り込み、チビモンへ退化した。

僕等の突然の行動にアグモンは心配そうに僕等の名前を呼んだが、それに返事を返す気力は今の僕達にはなかった。

……良かった。本当に勝てて良かった。

 

 そんな風に暫く座り込んでいると、ブラックウォーグレイモンから意外な事を尋ねられた。

 

 

「それで勝負に負けてオレの命はお前のモノとなったが、オレはその来る日までの行動を縛られた訳じゃないだろう?」

 

「勿論その通りなんですが……他に行きたい場所でもあるんですか?」

 

「行きたい場所は無い。ただオレはこの目で確かめたいだけだ。この広いデジタルワールドでオレは本当に存在してはならない存在なのかを」

 

「……そう、ですか」

 

 

 原作と違い、自分(ダークタワーデジモン)の存在理由を話したブラックウォーグレイモンが原作と似たような行動を取る事に少なからず感じる事があったが、ブラックウォーグレイモン本人がそれを望むなら僕がそれを止める事は出来ない。

……そして一つ聞きたい事があったがそれを聞く事は僕には出来なかった。

――――もしも仮に自分の存在が認められる世界が見つかったらどうするのかと。

 

 

「――――さて」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは一言そう漏らすと、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「オレはさっき言った通り、少しばかり旅に出る。

オレが必要になりそうな頃には戻ってきていると思うが、それまでにオレが必要になったら――これを握って強く念じろ」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは自分の体に手を突っ込み、何かを折る様な音と共に黒い破片を取り出し、僕達に差し出した。突然の奇行に僕達は驚愕の声を上げたが、ブラックウォーグレイモンはそれらを無視して受け取るように促した。

 

 

「これは……ダークタワーの破片?」

 

 

 アグモンの言葉にブラックウォーグレイモンはそうだと頷いた。

 

 

「これはオレというダークタワーデジモンを形成する核の欠片だ」

 

「……よく分からないけど、これを握ればブラックウォーグレイモンがこの世界に戻って来てくれるんですね?」

 

「そういう事だ。

後一応言っておくが、さっきも言った通りそれはオレの核の欠片だ。

仮にそれが壊されたとしてもオレが消滅する事は無いとは思うが、念の為壊すのは避けろよ?」

 

「……分かりました。大事に取り扱います」

 

 

 そう言いながら僕はそれをブラックウォーグレイモンから受け取った。

 そしてブラックウォーグレイモンは先程から何か伝えたそうにしているアグモンに視線を向けた。

 

 

「……まだ話があるのか?」

 

「…………ねぇ、キミは本当にいいの? せっかく心を持って生まれる事が出来たのに、目的を持って行動できるようになったのに、自分の人生に時間制限を付けるような約束をしたりして。

もしかしたら……もしかしたら本当に死んじゃうのかもしれないんだよ?」

 

「互いが同意の上に付いた話に部外者が口を挟むな。

オレはこいつ等に負けた。敗者は勝者に従うのが道理だ」

 

「だけど――!!」

 

「それに限りあるからこそ輝ける()もある。

お前には理解出来ないモノかもしれないがな……」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉にアグモンは返す事が出来ずに下を向いて黙り込んだ。

それを確認したブラックウォーグレイモンは、一瞬僕に視線を向けると、空へ飛び上がった。

……本当に傷付いた体のまま旅に出るつもりなのか。

――――なら、旅立つ前に確認しなければならない。

 

 僕は先程ブラックウォーグレイモンから受け取った核の一部を握りながら心の中でブラックウォーグレイモンを呼びかけた。

すると空に向かって飛び上がっていたブラックウォーグレイモンが突然その場に止まり、振り返るとギロリとした視線を僕に向けて来た。

……どうやらこれで本当にブラックウォーグレイモンに伝わっている様だ。

 

 僕はその事に安堵の溜息を付きながらブラックウォーグレイモンに謝罪の意味をかねて頭を下げる。

それを確認したブラックウォーグレイモンは再び前を向き、更なる上空へと飛び立った。

そして上空に小さい黒いゲートの様なモノを開けると、その中に消えていった。

 

 

「……ねぇ、モリヤは本当にブラックウォーグレイモンを……」

 

「…………出来る限りは僕もそうならない様に行動するつもりだけど、最悪そうなってしまう可能性も十分ある。…………ごめん」

 

 

 空を見上げながら言い難そうに尋ねてきたアグモン。

僕はそれに曖昧にもそう答え、逃げるように歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、はじまりの町に戻った僕達は、予想外にも特訓もしないでただ僕達の帰りを待っていたタケル達と遭遇した。

どうやらテントモン達から話を聞いていた様だ。

……そう言えば口止めするのを忘れていた。

 

 僕達の姿を見たタケル達は初めは心配したと言う優しい言葉を。

次に色々無茶をし過ぎと厳しい言葉を掛けられた。

どうやら昨日京達にした話を聞いていたようで、特にデジタルワールドで寝泊まりしている件についてはかなり怒られた。

タケル達が怒るのも無理はないと言う考えと、ブラックウォーグレイモンが原作通りに行動してくれるという奇跡が起きて普段よりも心に余裕があった僕はそれらに反論する事無く謝罪して、当分はしないと約束した。

 

 しばらくして言いたい事を言い終えて満足したのか、僕が今日からデジタルワールドで寝泊まりするのは止めると言う言葉を聞いて満足したのか分からないが、それで…と突然タケルが話を切り替えた。

 

 

「それで……今日のブラックウォーグレイモンとの話し合いはどうなったの?」

 

「――――ハッキリ言って考えられる限り最高の結果になった」

 

 

 そう切り出して僕はブラックウォーグレイモンが仲間の様な関係になってくれたことを伝えた。

……今考えるとこの時の僕は、少しばかり浮かれたような声をしていたかもしれない。

因みにどんな交渉をしたかと言う質問には、アグモンの交渉と、軽い手合せの結果だと返した。

 

 

「――――とにかく、ブラックウォーグレイモンはもう敵じゃなくなった。

アルケニモン達も恐らくこれ以上は究極体は作らないだろう。今回の事でダークタワーで究極体を作るという事に大きなデメリットがあると知っただろうからな。

これで奴らはかなり動きづらくなった筈だ。少なくとも数か月は行動を起こさないだろう。

……逆に動き出したら最後の決戦と考えてもいいかもしれない」

 

「最後の決戦……ならそれまでにどれだけ僕達が力を付けられるかが勝負だね!」

 

 

 最後の決戦と聞いて意気込む者も居れば、安全な時期が来たと安堵する者、最後の決戦が遠くないと聞いて僅かに表情を歪ませる者と選ばれし子供達はそれぞれ違った反応を見せた。

 

 

「……それで守谷君は……」

 

「―――――そうだな。最近は少しだけ無理をしていたから少しだけ休む事にする」

 

 

 ヒカリの言葉に僕はそう返した。

 今回の予想外の出来事のお蔭で色々と余裕が出来た。

これで殆ど原作通りに話を誘導してヴァンデモンを確実に倒せるかもしれない可能性がかなり上がった。

……少ない可能性でデーモンが現れた時の対処法を考えなければならないが、ブラックウォーグレイモンが共に戦ってくれるならやりようは僅かながらある。そうなってしまった場合、原作のようにヴァンデモンを倒せる確率が激減してしまうが、そうだとしてもデーモンとやりあえる可能性が上がった事は大きな前進と言えるだろう。

そう考える事が出来たお蔭か、僕は休むと言う選択肢を取る事にした。

仕方が無いとはいえ、少しばかり無理をし過ぎと言う自覚は自分でも少しあったしね。

 

――――だがこの時の僕は知らなかった。

この時僕は休むべきでは無かったという事を。

ここで休むという事は、今まで目を背けていたモノを見てしまう余裕を作ってしまう事だということを。



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042 最終章の幕開け

 本日二回目の投稿です。

 


 この話から第1節の最後の章?に入ります。
 ……ここからは展開が色んな意味で酷くなると思います。


 ブラックウォーグレイモンとの戦いから二ヶ月後の12月上旬の休日の朝、僕は自宅のテレビを無言で見つめていた。

 

 

 2002年の12月。それは原作で特に大きな動きがあった時期だ。

例に出すと、現実世界にダークタワーおよび野良デジモンの出現、デーモン軍団の出現、別の世界に旅立っていたブラックウォーグレイモンの登場、ブラックウォーグレイモンの命を使ってのゲートの封印、ヴァンデモンとの最終決戦。

……選ばれし子供達の動きを抜いてもこれ程の出来事があったまさに最終章に相応しい月だった。

そして僕自身12月は色々忙しくなると選ばれし子供として戦うと決めた時から覚悟していたが、ブラックウォーグレイモンとの戦いの翌日の久々の休息の際、ふとこんな考えが浮かんだ。

 

――――どうして原作でヴァンデモンはデーモンが現れたのに計画を続けたのか?

 

 デーモンは原作で登場したデジモンの中でも最強のデジモンだ。

そうだと言うのにどうしてヴァンデモンはそんな存在が自分の計画を阻もうとしているのにそれに逆らってまで行動したのか改めて考えると分からなくなった。

 

 

「……ヴァンデモン……いや、及川ですらデーモンの存在を知っていた」

 

 

 ヴァンデモンやアルケニモン達は勿論のこと、ヴァンデモンに乗り移られている只の人間である及川ですらその存在を知っていた。

及川がデーモンの存在を知ったのはほぼ間違いなく取りつかれているヴァンデモンから聞いたのだろうが、そもそもヴァンデモンがその事を話したという事はその情報は話すべきだと判断したからだろう。

そう思う理由は簡単で、重要じゃなければ話す必要が無いからだ。

 

 ならヴァンデモンが態々名前を教える程の存在が現れたと言うのにどうして及川は刃向うような行動を起こしたのか?

少し考えた結果、3つの考えが思いついた。

 

 1つは、ヴァンデモンがデーモンを舐めていたから。

現時点では敵わないかもしれないが、原作の様に力を蓄える事が出来たら超えられる存在だと思ったからこそ計画を優先したと言う考えだ。

……最初に思い付いた考えだが、劇中でのヴァンデモン達がデーモンに対し取った言動から考えるとこの考えである可能性が一番高い。

 

 2つ目は、ヴァンデモンとデーモンが何らかの形で手を組んでいたから。

手を組んでいたからこそ、ヴァンデモンはデーモンに怯えることなく行動できたと言う考えだ。

……劇中でデーモンはアルケニモン、マミーモンに対し初対面のような反応を見せていたが、それはデーモンがヴァンデモンとのみ手を組んでいたとしたら考えられる僅かな可能性だ。

……が、正直に言ってデーモン側に対して利点が全く見えない上、敵対するような反応を互いに見せていた事から恐らくこの考えは間違っているだろう。

 

 そして3つ目は。ヴァンデモン達に時間制限があったから。

計画を急がなければならない何らかの理由があったからこそ、デーモンという強大な存在が現れたとしても行動せざるをえなかったと言う考えだ。

 

 それを証明するようにヴァンデモン達は終盤につれ計画が大掛かりで目立つものになっている。

特に世界中にダークタワーと野良デジモンを出現させ、選ばれし子供達がそれに対応している間に一般の子供達を集団誘拐し、暗黒の種を植えこむと言う行動はあまりにデメリットがあり過ぎる。

安全にいくなら集団誘拐など行わずに少人数ずつ誘拐し、暗黒の種を植え付け、すぐさま子供達を返していれば選ばれし子供達に気付かれる可能性など殆ど無かった筈なのにヴァンデモンはそうはしなかった。

ヴァンデモンは作中でも頭が良い敵デジモンとして扱われるレベルだった筈なのに。

 

……もしもこの3つ目の考えが正しいとしたらヴァンデモン達には計画を急ぐ何らかの理由があったのだろう。

考えられる限りの理由は――――ヴァンデモンが我慢の限界だった、ヴァンデモンが憑りついている及川自身が我慢の限界だった、ヴァンデモンまたは及川の肉体または心のタイムリミットが近かった、デーモンとの契約等といった何らかの期限があった……くらいか。

 

 

「……このどれかが合っているか、それともそもそもどれも合っていないかは分からない」

 

 

 考えても答えなんてでないかもしれない。

だが、ハッキリ言ってしまえば理由なんてどうでも良かった。

――――今何よりも大事なのは、この世界でもヴァンデモンは12月頃に行動を起こすかどうかという事だ。

 

 もしも12月に入っても行動を起こさなければ原作はほぼ崩壊と考えていいだろう。

そうなった場合、僕は及川達を出来る限り監視して、行動を見張らなければならない。

……転生者として、デジタルワールドと選ばれし子供達を守ると決めた僕的にはこの展開は何よりも避けたい。

こうなってしまった場合、ヴァンデモンを確実に消滅させられる可能性が低くなってしまうから。

 

――――だけど、だけどもしも原作通りにヴァンデモンが12月に行動を起こすとしたらそれはそれで僕は覚悟をしなければならない。

 暗黒の種というヴァンデモンの明確なエネルギーが無い世界でヴァンデモンが復活すると言う事はどういう事かという事を……僕は改めて覚悟しなければならない。

 ……今までは毎日が大変で漠然としか考えられて居なかったが、この瞬間の僕には考える余裕があった。行動を起こす時間もある。

だけど僕は…………行動は起こさなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――昨日から行方不明になって居た子供達数名が今日未明死体で発見されました。

死因は全身の血を何らかの方法で抜かれた事が原因の様で、警察は殺人事件として調査を始め――――』

 

 

 目の前のテレビからそんなニュースが速報で流れてきた。僕はそのニュースを見た瞬間体が震えるのを感じた。

 

 この世界には暗黒の種というヴァンデモンの復活に利用出来るエネルギーは存在しない。

だとしたらヴァンデモンは一体どのような手段で復活しようとするのか?

それはヴァンデモンがどのようなデジモンかを考えれば一目瞭然だった。

 

 

「……ヴァンデモンは吸血鬼をモデルにしたアンデット型デジモン。なら何がヴァンデモンの餌になるかなんてずっと前から分かっていた」

 

 

 それは人間の血だ。

原作でもヴァンデモンは人間の血を吸って力を蓄えているようなシーンがあった。

その時に血を吸われた人間は死には至って居なかったが、本気で吸われていれば死んでいただろう。

……とにかくヴァンデモンにはそのような力の蓄え方があった。そして現状ではそれ以外にエネルギーを蓄える手段が無いのだろう。

……こんな大掛かりな行動をしていれば、原作知識のない太一達にも存在を知られてしまう可能性が高いのだから。

 

 

「――――ーおはようアマキ~今日は休みなのに早いね」

 

 

 ふと後ろからチビモンにそんな風に話しかけられた。が、僕はテレビから視線を外す事が出来ず、言葉も返せなかった。

 

 

「? どうしたのアマキ……って大丈夫!? 酷い顔してる上、顔が真っ青だよ!?」

 

「……チビモン、今の僕はそんなにひどい顔をしているの?」

 

「今まで見た中でも一番しんどそうな顔をしてるよ! 早く病院に行った方が良いよ!!」

 

「……そうか」

 

 

 僕はリモコンでテレビの電源を切って、立ち上がり、洗面台に向かって歩き出した。

 

 

「アマキそんな急に動いちゃ「チビモン」

 

 

 僕はチビモンに背中を向けながら出来る限り冷静な声で呟いた。

 

 

「もしも僕の顔が酷い顔になって居るのならそれはこの世界で最も醜い存在の顔だ」

 

「……どういう事?」

 

「…………何でもない。ちょっと気分が悪いから顔を洗ってからもう一度寝る事にするよ」

 

 

 命を救う事が出来る立ち位置に居ながらそれをせず、結果出てしまった犠牲を嘆いているのだとしたらそれは考えられる限り最悪の行動だ。

 

 ……だけど、そうだとしても僕は優先した。ヴァンデモンを確実に倒せる機会を。

転生者として……いや、一つの存在として僕は選ばれし子供達とデジタルワールドの為に行動すると決めたのだ。

だから…………その為に必要な犠牲なら僕は払おう。払わせてみせよう。

 

 これからどんどん生まれるであろう被害も犠牲者も…………分かりあえたブラックウォーグレイモンの命を利用してでも辿り着いて見せよう。選ばれし子供達とデジタルワールドが平和に過ごせる世界に。

 

 

 

 



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043 狂っていた秩序

 世間で騒がれている不可解な殺人事件が起きてから既に数日が経過した。

事件の犯人を捕まえようと警察が必死に行動している様だが、その尻尾はまるで掴めていない。

だがそれも無理はないだろう。何故ならその事件を起こした張本人は普通の人間にはない力を持っている。その上、それ以降今回の様な目立った犯行を起こしていないのだから。

 

……恐らく犯人――及川に憑りついたヴァンデモンも分かっているのだろう。これ以上行騒ぎを起こせば選ばれし子供達に自分の存在が知られる可能性が高いと。

だからここから先は今回の様に不可解な事件は起こさないだろう。

起こしたとすればそれは――――最後の決戦が近いということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその日の午後、僕はウイングドラモンの背中に乗ってある場所に向かっていた。

その場所とは……二ヶ月前にブラックウォーグレイモンと戦った場所だ。

 

 しばらく飛んで目的地に着いた僕達はウイングドラモンの進化を解き、ポケットからブラックウォーグレイモンから受け取った核の欠片を強く握り、強く念じた。

――――ブラックウォーグレイモン、戻ってきてほしいと。

 

 そう。僕達がここに来たのは異世界に旅立ったブラックウォーグレイモンを呼ぶためだ。

……もしかしたらブラックウォーグレイモンは旅を満喫しているかもしれないが……約束は約束だ。

 

 それからブラックウォーグレイモンが戻って来るまで最低でも数時間はかかると思った僕は、ブイモンと共にその辺りの石に腰かけながら待っていたが、予想外にも二時間程経過した辺りで空の空間が歪み、そこからブラックウォーグレイモンが現れた。

 

 

「……随分と速かったですね。正直に言ってしまうともう少しかかると思っていました」

 

 

 僕達の前に着陸したブラックウォーグレイモンにそんな言葉を投げかけると、ブラックウォーグレイモンは辺りを見回しながら答えを返した。

 

 

「そろそろオマエに呼ばれる頃だと思ってな。そう遠くない地点で待機していた」

 

「そうなんですか…………」

 

「――それで旅はどうだったの?」

 

 

 どう話を繋げればいいかと迷っていると、ブイモンが良い具合に話を繋いでくれた。

そんなファインプレイを見せたブイモンに僕は心の中でお礼を言っていると、ブラックウォーグレイモンが話し出した。

 

 

「そうだな……今回の旅でオレは様々な事を知った。そしてその中にはオレが存在していいのかどうかという答えもあった」

 

「答え、ですか」

 

「ああ。どうやらオレは――――この世界には存在してはならない存在のようだ」

 

 

 空を見上げながらそう発したブラックウォーグレイモン。

 どうやら他の世界でもブラックウォーグレイモンの存在は認められなかった様だ。

……ハッキリと言ってしまうとブラックウォーグレイモンの体の性質から考えてこの結果は想像通りだ。

 

 

「そう、ですか……」

 

「ああ。オレはこの世界以外の3つの世界に旅立ったが、その何処にもオレの居場所は無かった。……オマエの言う通りだったな」

 

「……貴方の体は一本でも世界を歪ませるダークタワーが100本も使われて作られた存在ですからね。言い難いんですが、その性質から考えると……

――――それで3つの世界に行ったと言われましたが、それはもしかして他の四聖獣が守護する世界ですか?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンがボソリと呟いた3つの世界と言う言葉に対して僕はそう尋ねた。

……そう言えば原作でもブラックウォーグレイモンは他の世界に旅立ったがその場所は語られていなかった。まさかその場所とは他の四聖獣が守護する世界の事だったのか?

 

 

「悪いが聖獣という言葉には聞き覚えは無い。が、少なくともオレが旅立ったのはこことは違う3つの世界だ」

 

「恐らくその世界こそが聖獣の守護する4つの世界の内の3つの世界の筈です。

このデジタルワールドは今僕達が居る世界も含めて4つに分けられていますから」

 

「……成る程、確かにそういう事ならオレが行った世界はオマエの言う世界の事なんだろう。だが……」

 

 

 歯切れの悪い反応を見せるブラックウォーグレイモンに僕は違和感を覚え、尋ねた。

 

 

「……何か気になる点でもありましたか?」

 

「……オマエの言う聖獣とは一体どんな存在なんだ?」

 

「それは……簡単に言いますと、この世界の様に世界をいい方に安定させる存在です。

他には、荒れた大地を修復したり、世界に何か問題が無いかを調査したりと……とにかくその世界にとって重要な存在です」

 

 

 四聖獣デジモンとはそれぞれの世界を守護する大事な存在だ。確かに普段は遭遇する事は無いが、必ず世界に存在する筈だ。そうでなければそもそも世界が安定して存在出来ない筈なのだから。

……確かに旅をしただけては聖獣の存在など耳にしないかもしれないが、ブラックウォーグレイモンは何故違和感を感じたような表情を浮かべているのだろう?

そんな事を考えていると、ブラックウォーグレイモンが真剣な眼差しで僕の目を見て来た。

 

 

「……オマエの言う聖獣がそんな存在なんだとしたら……オレが行った3つの世界にはそんな存在はいない。断言する」

 

「……どういう事ですか?」

 

「オレの行った3つの世界はそれぞれ地形や文化が違っていたが、一つだけ大きな共通点があった。

それは――――世界が荒れ果てていたという点だ」

 

「――――どういう事ですか?」

 

 

 僕はそう尋ねるとブラックウォーグレイモンはゆっくりと話し出してくれた。

 自分の行った3つの世界はどれも荒れ果てていて、ギリギリ形を保っているような世界だったと。

その場所がダークエリアだと言われれば思わず信じてしまうような世界だったと。

そんな世界だったからこそ、ブラックウォーグレイモンは殆ど接近する事が出来なかったと。

……もしも安易に近づいてしまえば、それだけで壊れてしまうような危うさを感じたようだ。

 

 その話を聞いた僕は、すぐさまブイモンをウイングドラモンに進化させ、ブラックウォーグレイモンを置いて、ゲンナイさんの元へと向かった。

理由は前に聞きそびれた事を尋ねる為だ。どうして四聖獣の力が本来よりも弱っているのか?

そしてこの世界以外の3つの世界は本当にこの世界以上に四聖獣の力が弱っているのかという事を尋ねる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲンナイさんの元に付いた僕達はゲンナイさんにその事を尋ねた。

するとゲンナイさんは自分の口から聞くよりもチンロンモン様から直接聞いた方が良いだろうと言ってチンロンモンが普段いる世界に連れて行ってくれた。

その世界は原作でも見た事が無い世界だったが、僕には見覚えがあった。

この場所は――ゲーム(WS)の世界で登場したはじまりの町だ。

……どうやら少なくともこの世界はゲーム(WS)の世界と繋がりがあるようだ。

そんな事を考えながらゲンナイさんの後を追っていると、この町の中でも恐らくもっとも大きいであろう建物に案内された。

 

 

「チンロンモン様はこの中だ」

 

 

 そう言って奥に進むように言うゲンナイさんの言葉に従うように僕達は奥へと進んで行く。

そして、奥に進むとそこにはチンロンモンの姿があった。

 

 

「――久しぶりだな、謎多き選ばれし子供とそのパートナーよ」

 

「……お久しぶりです」

 

「……うむ、あの時と違って随分と……いや、まずはオマエの話を聞こう。何か早急に聞きたい事が合ってここに来たんだろう?」

 

「……はい。僕が聞きたい事は大きく分けて二つです。一つはどうしてこの世界は、貴方と言う存在が守護しているのにもかかわらず回復しない場所があるのかという事です。何か力を十分に発揮出来ない理由があるんでしょうか?

そして二つ目はこの世界以外の3つの世界の事についてです。

デジタルワールドはこの世界を含めて4つの世界に分けられているという事を僕は知って居ます。

ですが、先程この世界以外の3つの世界が荒れ果てていると言う情報を聞きました。

その情報が正しいかと言う事と、仮に正しいとしたらどうしてそのような事になって居るかをお聞きしに来ました」

 

 

 僕は少し早口になりながらもなんとか言いたい事を言い終えた。

するとチンロンモンは質問に答えるのではなく予想外にもふむと小さく呟いて黙り込んだ。

その反応に何か不味い事を尋ねてしまったのかと思った僕はすぐさま謝罪の言葉を伝えた。

 

 

「すいません……僕は聞いてはならない事を尋ねてしまったんでしょうか?」

 

 

 僕のそんな言葉にチンロンモンは首を横に振りながら答えた。

 

 

「そう言う訳では無い。ただどう話すべきかを考えていた。

……ふむ、そうだな……ならまずは1つワタシからオマエに尋ねても構わないか?」

 

「? 答えられる範囲なら……」

 

「なら尋ねよう。

――――オマエは以前、ワタシと似た存在が居るといった口振りをしていたがそれはいったい誰の事だ?」

 

「――――え?」

 

 

 チンロンモンの想定外の質問に僕は思わずそう口に出してしまった。

チンロンモンの質問の意図が僕には全く分からなかった。

故に当たり前の事を言うように答えた。

 

 

「それは言うまでも無く他の四聖獣の事ですけど……」

 

「……四聖獣? なんだそれは?」

 

「何って――――あなたと同じようにそれぞれの世界を守護している聖獣デジモンの事ですよ!」

 

「そんなデジモンが存在するなどワタシは聞いたことが無いのだが……」

 

「――――――――」

 

チンロンモンのあまりに想定外の言葉に僕の思考は停止した。

 

どういうことだどういうことだどういうことだ?

どうしてチンロンモンは他の四聖獣を知らないんだ? だって四聖獣というのはそもそも初代選ばれし子供のパートナーデジモンが長い時間をかけて進化した存在の筈だ。だとしたら他の聖獣を知らない訳がないだろう。

 

 

「……チンロンモン。あなたはかつて選ばれし子供のパートナーデジモンだったんですよね?」

 

「――――!! オマエは……そんなことまで知っているのだな。

そうだ。ワタシは初代選ばれし子供のパートナーデジモンの一体だ」

 

「だったら他の聖獣を知って居る筈です! 何故なら四聖獣とは初代選ばれし子供達のパートナーデジモンの内の4体が長い時を掛けて進化したデジモンの事を指す名前なんですから!」

 

 

 僕はチンロンモンに理解して貰う為にそう伝えた。

確かにこの世界は原作少し違う。が、ずれ始めたのは少なくともディアボロモンの時からの筈だ。

それ以前の過去が違って居る筈が無い。……無い筈だ!

きっとチンロンモンが勘違いしているだけ。そのはずだ。

――――そうじゃないと原作は……デジタルワールドは……僕は……!

 

 

「……その話も、オマエが以前話していた協力者から聞いた話なのか?」

 

 

 少し怒りの籠った声でチンロンモンはそう尋ねてきた。そしてその視線には何故か僅かに殺気の様なモノが込められていた。

チンロンモンの質問の意味も、殺気の意味も分からない僕は困惑しながらも無言で首を縦に振った。

 

 

「……そうか。なら確かにワタシは他の三体の聖獣の事を知っている」

 

「で、ですよね! やっぱり聖獣はちゃんと四体存在したんですね!」

 

「…………いや、正確には存在していた。と言った方が正しいだろう。それも一瞬だけな」

 

「……ど、どういうことですか?」

 

「――――他の三体の聖獣は既に存在していない、という事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アマキ、大丈夫?」

 

 

 チンロンモンが身を隠しているもう一つのはじまりの町からブラックウォーグレイモンを置いてきた場所へ向かう途中、ウイングドラモンは背中に乗っている僕にそう尋ねてきた。

……どうやら少しぼうっとしていた様だ。僕はウイングドラモンに大丈夫だよと返す。

 

 ……未だにチンロンモンから聞いた話が信じられなかった。が、現状のデジタルワールドの状況を考えると、それが正しいと信じる他なかった。

……どうやら初代選ばれし子供達は、アポカリモンを封印した後、後にダークマスターズと呼ばれる事になる四体の究極体に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったらしい。そしてもうダメだと思ったその時、選ばれし子供の内の一人にホメオスタシスが乗り移り、完全体のパートナーデジモン4体を四聖獣に進化させ、ダークマスターズを倒したようだ。……そして、その戦いで力を使い果たしたチンロンモン以外の3体のデジモンと、ホメオスタシスが乗り移った選ばれし子供のパートナーデジモンは力を使い果たして消滅したようだ。

 

 ……訳が分からなかった。そんな話、僕は聞いたことが無かった。

というより、四聖獣の内の3体がこの時点で消滅するなんて原作の話とは到底思えない。

つまり原作とは違う展開が起きてしまっているという事だ。

 

 そして聖獣が一体しかいないという事で、4つの世界の維持を現状はチンロンモン一体で行っているらしい。

……この話を聞いて、この世界や他の世界が原作よりも遥かに荒れている理由が分かった。

……はは、それなら荒れていて当然だろう。 

 

 

「……ウイングドラモン。どうやらアルケニモン達を倒してもまだまだ僕の使命は終わらないみたい」

 

「ならオレも一緒に手伝うよ! 一緒に頑張ろう!」

 

「…………ありがとう」

 

 

 ウイングドラモンの力強い言葉に感謝しながら僕はウイングドラモンの背中を撫でた。

……どうやら転生者としての使命はまだまだ終わりそうにないみたいだ。



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044 クリスマス

 チンロンモンから話を聞いてから数週間経った朝、僕はベッドから起き上がりカレンダーで今日の日付を確認した。

 ……ついにこの日が来てしまった。今日は――――12月24日。

原作でアルケニモン達が現実世界にデジモンを大量に出現させる日であり、それに加え、日本中……いや、世界中にダークタワーが建てられた日だ。

 

 原作で及川達がそれを行った理由は、まず選ばれし子供達のすぐ近くにデジモンを出現させ、現実世界でデジモンが暴れると言う事がどういう事かを実感させた後、その次に日本中……世界中にダークタワーとデジモンを出現させ、選ばれし子供達の注意を逸らす。

そして選ばれし子供達が日本を離れた隙に、ヴァンデモンが復活する為に必要な暗黒の種を埋め込める子供達を大量に集める。それが原作での及川達の目的だった。

……この世界は既に原作とはかなり違ってしまっていて、原作でヴァンデモンが集めていた暗黒の種のエネルギーは存在しないが、それの代わりとなるエネルギーは存在する。

それは人間の血だ。

…………及川達が原作同様今日事件を起こしたとすればそれは大量の人間を攫う為の囮という事だだろう。

始めにヴァンデモンが事件を起こしてから今まで、同様の事件はテレビで放送されていなかったが、それとは別に原因不明の行方不明者が十数人出ている。

……テレビではこの行方不明者と不可解な死体の事件は関連性は無いと言われているが、実際はそうではない。

何故そう言いきれるかというとそれは……この目で見たからだ。及川達が隠れ家に人間を連れ込んでいる姿を。

 

 

「…………もしも今日、事件が起きるんだとしたら、僕にとって今日と明日が勝負の日となる。

……本当なら今日までにどうにか3体の完全体進化に慣れたかったけど出来なかったのなら仕方が無い」

 

 

 僕はそのまま自分の机へ向かい、机の上のチケットを見つめた。

これは今日開かれるヤマトのバンドクラブが出演するコンサートのチケット。

数日前、暇だったら来てくれと言いながら渡されたモノだ。

 

 

「……ヤマトさん。すいません」

 

 

 僕はそれに対して小さく頭を下げ、手に取った。

コンサートがめちゃくちゃになる可能性があると知っているのに行動を起こさない自分を咎めるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼頃、原作通り海岸でタケル達が太一達二代目選ばれし子供達にクリスマスプレゼントという名のサプライズでアグモン達を渡しているのを遠くで確認した僕は、夜行われるヤマトのコンサートまでチビモンと共に適当な所で時間を潰し、開始2時間前位にコンサートが行われる会場へ向かった。

会場に着いた僕は、ここで戦闘になった場合の下見も兼ね辺りを見回って居ると、ふと太一とアグモン、ピヨモンと、プレゼントの様な物を持った空の姿が見えた。

どうやら僕は知らない内にヤマト達のバンドクラブの控室の近くまで来ていた様だ。

 

 ……そこで僕はこのシーンが原作であったあるシーンだと悟った。

あるシーンとは、太一が空を諦めた……ある意味原作でも大きなターニングポイントになったシーンだ。

 

 僕は足を止め、太一と空達のやり取りを見ていると、原作通り、空は太一達に押されるような形でヤマトの控室に入って行った。

その後ろ姿を太一は少し悲しそうに見つめていた。

…………

 

 

「あれ? そこに居るのってモリヤ!?」

 

 

 少し考え込んでいると僕の姿に気が付いたのか、アグモンが大声でそう言って来た。

……見つかる気は無かったんだけど、少し気が抜けていた様だ。

アグモンとの信頼関係をここで崩す訳にもいかなかったので僕はアグモンの言葉に答えるようにアグモン達の方へ向かった。

 

「……八神先輩、アグモン、お久しぶりです」

 

「守谷……お前もヤマトに何か用か?」

 

「いえ、ただコンサート開始まで暇だったのでこの辺りをぶらついていただけです」

 

「そ、そうか……」

 

 

 太一がそう言うと誰も口を開かず沈黙が辺りを支配した。

そしてしばらくすると太一が言い難そうに口を開いた。

 

 

「なあ守谷……い、今の、見てたのか?」

 

 

 太一の言葉に僕は少し視線を外してはいと答えた。

すると太一は両肩をガクリと落とし、大きな溜息を吐いた。

……やっぱりこのシーンは誰にも見られたくなかった様だ。

 

 

「かっこわるい所見せちまったな。悪いが今見た事は皆に秘密にしてくれないか?」

 

 

 この通りだと両手を合わせて頼み込む太一。

その言葉に僕は勿論だと――――返さず、太一の目を見たまま黙り込んだ。

その行動に自分が驚いた。

何故僕は直ぐにはいと答えなかったのか?

ここではいと言えば、恐らく原作通り、太一は空を諦め、空はヤマトと結婚する事になるだろう。

なのに僕は、はいと言わなかったか。

……恐らく数か月前の僕なら……いや、数週間前の僕ならきっと即答できたはずなのに。

…………でもこの程度の改変は……今更か。

 

 

「……本当にそれでいいんですか?」

 

「えっ?」

 

 

 僕の突然の言葉に太一は勿論アグモン、そしてチビモンも驚いたような反応を見せた。

その反応を見てはっと我に返った僕は、チビモンを引きつれ、足早にその場を後にしようとした。

……何をやってるんだ僕は。

諦めるな。考える事を止めるな。自暴自棄になるな。まだこの世界が無事原作の様に終れる可能性は十分ある。だから原作を辿る事を諦めるな!

そう自分に言い聞かせながらここから立ち去ろうとしたが、太一に呼び止められた。

 

 

「……待てよ」

 

 

 太一の呼びかけに僕は足を止めた。

……正直に言って呼び止められる可能性は低いだろうと高をくくっていた。

精々、お前には関係ないだろうといった100%の正論を言われるだけだと思っていた。

……自分から太一に話しかけておいてここで無視するのは最終決戦の事を考えてもやるべきでは無いだろう。

僕はつい言葉を漏らしてしまった事を後悔しながら顔を上げ、太一の方を振り向いた。

 

 

「……なんですか?」

 

「…………」

 

 

 太一は僕の言葉に答えず、無言で僕を見つめた。その目は少し怒りが混ざって居る様な感じがしてさらに何かを観察しているような目だった。

僕はとんでもなく居づらい気持ちを内に抱えながらも太一の目を無言で見ていると太一が突然大きな溜息を吐いた。

 

 

「……悪い。お前の言葉に思い当たる所が合ってな。少し当たっちまった」

 

「……いえ、こちらこそ部外者なのに口を挟んでしまってすいません」

 

「…………いや、お前は俺達と同じ選ばれし子供で、後輩で、仲間だ。

まるっきり部外者と言う訳じゃないだろう」

 

「……そう言って貰えると光栄です」

 

 

 その後二人とも言葉が続かず黙り込んでしまった。

が、会話が止まったと思った瞬間、太一が言葉を続けるように質問して来た。

 

 

「なぁ、さっきお前はどうして俺にそれでいいのかって聞いたんだ?」

 

「……あの状況なら恐らく僕以外の選ばれし子供でも同じように聞いたと思いますよ」

 

「そう……だな。多分お前以外の奴がここに居たらきっと同じような事を聞いた可能性が高いだろう。

……だが、お前は別だろ?

お前との付き合いはまだそんなに経っていないが、お前はこう言った事に口を挟みたがらないって事はなんとなくわかってるつもりだ。だがお前は俺にそう言った。……いや、言ってくれた。

――――どうしてなんだ?」

 

 

 ……ここまで来て誤魔化すのは得策では無いと判断した僕は純粋に本音を伝えた。

 

 

「……僕はただ――――八神先輩のあんな顔を見たくないと思っただけです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太一に言葉を漏らしてしまった訳を話した後、アグモンにあまりこっちの世界で目立つ行動は止めた方が良いと警告し太一達の元を去った。

その後、行く宛も無い僕達はコンサート会場内で開始を待つことにした。

会場で待ち始めてから数十分後、会場の中に中学生グループのコンサート会場とは思えない程人が入り始めた。

その中には太一と空、フードを深く被って子供の振りをしているガブモン、光子郎、丈達とそれぞれのパートナーデジモンの姿もあった。

その様子を端の席で見ていると、こちらに気付いた太一達が態々僕達の隣まで来て席に着いた。

……まだ中央辺りに空きがあるのにこんな端に座るのは勿体ない。

僕は遠まわしにその事を伝えたが、丈や光子郎達にヤマトの声量なら何処に座っても聞こえるから一緒だと言われてしまい、何も言い返せなかった。

先程の件があるのに僕の隣に座った太一に内心緊張する中、コンサートは開始された。

 

 ――――そして何組目かの演奏が終わり、会場は演奏者達を拍手で称えた。

音楽の事は正直あまり分からないが、上手だという事は僕にも伝わった。

……さて、次はヤマト達のグループの番か。

原作ではヤマト達が演奏中のタイミングにアルケニモン達が、デジモンを出現させた。

……恐らくこの世界でも同じタイミングだろう。僕は密かに拳を強く握った。

 

 

「なぁ守谷」

 

 

 

 色んな意味で緊張しながらヤマト達のグループの入場を待っていると、突然隣の太一に話しかけられた。

突然の予想外の出来事に僕はビクッと反応しながらも太一の方を向いた。

 

 

「……なんでしょうか?」

 

「お前、今日のヒカリ達の誘いを断ってこっちに来たんだろ? 良かったのか?」

 

 

 太一の質問に僕は一瞬俯いた。

……そう、太一の言う通り僕は今日、八神家で行われるタケル、ヒカリ、京、伊織とそのパートナーのクリスマスパーティーに招待されていたが、それを断っていた。

断った理由は今更言うまでもない、が、太一にそう返すわけにもいかない。

 

 

「……八神さん達には悪いですが、先に石田さんのコンサートに来る予定があったので」

 

「お前がヤマトにチケットを貰ったのは先週だろ? ヒカリ達はそれよりも前にお前を誘っていたみたいだが……」

 

 

 太一の追求に動揺しない様に注意しながら僕はポケットから二枚のチケットを取り出した。

 

 

「……先週、石田さんからチケットを貰った時には伝えられなかったんですが、実はもともとチケットを購入してました」

 

 

 そう言ってチケットを見せると太一や、隣で話を聞いていた空達が少し驚いた様な反応を見せた。

そして同時に来たかったのなら先にヤマトに言っておけば良かったのにと言っていたが、そんな低い可能性にかける程僕は、楽観視は出来なかった。

……原作的に僕自身が会場に居なければならないという訳ではないが、いざと言う時の為、出来る限り太一達の近くには居たかったからね。

 

 そんなやり取りをしていると突然耳を塞ぎたくなるほどの歓声が会場を支配した。

何事かと思って近くに居た人の視線の先を見てみると、そこにはヤマト達のバンドグループの姿があり、

メンバーのそれぞれが歓声に答えるように手を振っていた。

……流石はヤマトが率いるバンドグループ。凄い人気だ。

歓声はメンバー達が手を振り終わっても収まる事は無かったが、ヤマトがギターに手を掛けると同時にピタリとやんだ。

そしてヤマトの掛け声とともに演奏が始まった。

 

 ――――その演奏は中学生とは思えない程の素晴らしいモノだった。

正直に言って僕はヤマトの歌は普通に上手い位だと思っていたが、その評価は誤りだった。

その歌のレベルは、それこそライブ終わりにCDを買わなくてはと思うほどのものだった。

ハッキリ言って僕は歌を聞きに来た訳では無いと言うのに。歌に意識を向けたくなる自分を抑えていると、近くのファンのエールの声が聞こえて来た。

……ある意味音楽を聞きに来たわけじゃない僕よりも迷惑な人だなと思いながらそのファンの方を見てみると、そこには――――。

 

 …………僕は歌に意識を向けるのを止め、それ以外の音を拾えるように神経を集中させた。

少しすると遠くの方で地鳴りのような音が聞こえた。……やはりこのタイミングか。

そう思っていると、突然ヤマト達の楽器の音がおかしくなり、急遽演奏が止まった。

その事に会場に居る全員が困惑していると、突如ヤマト達の立っているステージの裏の壁が壊れた。

そしてそこから――ダークティラノモンとバケモン達が現れた。

突然の出来事に会場にいる人達は悲鳴を上げながら、ダークティラノモン達に背を向け出口に走り出した。

 

 

「――ブイモン!」

 

「おうー!」

 

 

 言葉と共に一瞬で進化したブイモンに僕はD3を向けフレイドラモンにアーマー進化させると、逃げた人の方に向かおうとするバケモン達を撃ち落とさせ、そしてこれ以上会場を壊されない様にダークティラノモンを外に吹き飛ばすように命令した。

 

 

「今の内にいったん外に避難しましょう!」

 

 

 ヤマトも合流したので、振り返って太一達にそう言おうとしたが先に光子郎が言ってくれたので、それに僕自身もそれに従うように出口に走り出した。

――――が、次の瞬間、少し離れたところから女性の悲鳴が聞こえて来た。

咄嗟にその声の方を見てみるとそこには、先程ヤマト達の演奏中もエールの声を送っていたヤマトのファン――――本宮ジュンに壁片が迫っている光景があった。

……本宮ジュンは、本宮大輔(本当の主人公)の姉だ。

 

 

「――フレイドラモン!!!」

 

「――任せろ!」

 

 

 僕の声に一瞬でそう返したフレイドラモンは、ダークティラノモンと戦いながら手から火炎を複数飛ばして本宮ジュンに迫る壁片を破壊し、本宮ジュンを守る事に成功した。

……何とか間に合った。

が、未だ現状が理解出来ないのか、その場に立ち尽くす本宮ジュンに僕は駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

sideヤマト

 

 演奏中に、楽器の調子がおかしくなったと思っていると突然背後の壁が壊れ、そこからダークティラノモンとバケモン達が現れた。俺達は急いでステージの上から降りた。

理解出来なかった。何故またデジモン達が現実世界に現れたんだ?

……いや、今はそんな事を考えている場合では無い。

走りながら一瞬でそう判断した俺は取り合えずガブモン達と合流しようと、ガブモン達の席の方へ向かっていると、フレイドラモンが隣を横切り、後ろのダークティラノモンに攻撃を仕掛けた。

 

 

(……どうしてアーマー進化なんだ? フレイドラモンの方が状況に徹していたのか?)

 

 

 その光景を見ながら僅かにそんな疑問を覚えたが、その疑問は一先ず置いておき、ガブモン達の元へと急いだ。

ガブモン達の元に着くと、光子郎の提案で一度外に逃げる事になった。

……確かに何時までもここに居たら危険だ。

そして全員で出口の方に向かっていると、突然遠くから女性の悲鳴が聞こえて来た。

くそ! まだ逃げてない奴がいたのか!

声の聞こえた方を見てみるとそこには……俺の熱狂的なファンに壁片が迫っている光景があった。

このままじゃ危ない!!

 

 

「ガ――――

 

「――フレイドラモン!!!」

 

 

 ガブモンに声を掛けるより早く守谷がフレイドラモンの名を呼んだ。

そしてその声を聞いたフレイドラモンのお蔭で何とか俺のファン……本宮ジュン?さんは助かった。

助かったと言うのに未だにその場に座り込んでいる本宮さんに守谷は駆け寄って行った。

 

 

「…………」

 

 

 今一人の命が助かったと言うのに、俺は今生まれた違和感のせいで心からはそれを喜べなかった。

別に本宮ジュンさんが助かった事が嫌だったわけでは無い。……確かに少し熱狂的なファン過ぎる事は否定できないが、それでも俺の大事なファンだ。助かった事に対しては一切の曇りなく嬉しいと言い切れる。

……俺が違和感を覚えたのは守谷に対してだ。何と言うからしくない? 必死過ぎる?気がした。

 

 自分に芽生えた違和感の正体を考えていると、守谷が本宮さんを連れてこっちに向かって来た。

改めて本宮ジュンさんに怪我が無い事が分かった俺達は今度こそ出口へ向かった。

 

 

 外に出るとそこには沢山のデジモン達の姿と、ダークタワーがあった。

他のデジモンはともかくどうしてダークタワーが? とにかく早く壊さなくては。

俺はデジヴァイスを取り出し、ガブモンを進化させようとした。

――――が、出来なかった。

 

 

「な――どういう事だ!?」

 

「俺達の方も駄目だ!」

 

「私の方も!」

 

「僕の方もだ!」

 

「……恐らくこのダークタワーのせいです。何故かは分かりませんが、再び進化抑制機能が復活している様です!」

 

 

 光子郎の言葉に俺達は驚愕の声を上げた。

……ダークタワーの進化抑制機能は要塞を破壊してから一度も発揮されなかった事から、要塞の力で発生していたものだと俺達は思っていた。だが、今進化出来ないという事はそれは間違いだったのか? それともまた要塞が建てられたのか?

 

 そんな事を考えていると、後ろから合流して来た守谷がフレイドラモンにダークタワーを壊させ、

一度ブイモンに退化させた後、エクスブイモンに進化させた。

 

 

「……泉さん、このままでは現実世界に大きな被害が出てしまうのでその前に野生のデジモンをデジタルワールドに返しましょう」

 

「返す? ――成る程、そういう事ですか。分かりました直ぐに準備します!」

 

 

 守谷の言葉に光子郎はそう返すと、ノートパソコンと取り出し、操作し始めた。

それに対して守谷は、D3を手にとって待っていた。

……成る程、D3で光子郎のパソコンにゲートを開いてデジモン達を送り込むという事か。

その考えは合っていたようで、守谷は光子郎のパソコンにゲートを開いた。

 

 

「皆さん、この辺りの成熟期以下のデジモンの回収をお願いします。完全体は僕達に任せてください」

 

 

 守谷はそう言うと、俺達の返事を聞かないままエクスブイモンをウイングドラモンに進化させ、その背中に乗って飛び去った。

 

 

「……俺達も行くぞ!」

 

「僕達はここでパソコンを持って待機してます。この辺りのデジモンの回収と、京さん達への連絡は僕に任せてください」

 

 

 完全体を守谷一人に任せるという事に太一は躊躇うような反応をしていたが、現状ではそれ以外の手段が無いという事は分かっているのかそれを口にはしなかった。

 

 空も丈もそれぞれパートナーを進化させ、それぞれの得意な場所のデジモンの回収へ向かって行った。

……俺達もこうしちゃいられない!

 

 俺はガブモンをガルルモンに進化させ、その背中に乗ろうとしたが、突然後ろから何者かに抱きつかれた。

 

 

「キャー! ヤマト君ーー!! 怖かったよー♡」

 

「も、本宮さん?」

 

「……ヤマトさん達はまず彼女を安全な場所へ」

 

 

 光子郎の言葉に仕方なく俺は本宮さんの手を引いて安全な場所に向かって走り出した。

 

 

「はぁ~。今日は怖い目にもあったけどこうしてヤマト君と逃げれるなんてサイコ~」

 

 

 死にそうな目にあったと言うのに笑顔で走っている本宮さんに乾いた笑い声を返しながら、話題を変える為ふと思いついたことを尋ねた。

 

 

「そ、そう言えば本宮さんって守谷と知り合いなんですか?」

 

「守谷? それって私を助けてくれた子? それだったら初対面よ」

 

「初対面、ですか……」

 

 

 ……少なくとも守谷は本宮さんの事を知って居る様な気がしたんだが、気のせいだったのか?

そう思っていると本宮さんがあっと思い出したかのような声を上げた。

 

 

「そう言えばその子、助けてくれたお礼を言った時に小声で、これ以上彼の人生をめちゃくちゃにするわけにはいきませんから……的な事言ってたわ」

 

「彼? 守谷が言っていた彼に心当たりは有りますか? 例えば本宮さんの彼氏だったり弟だったり……」

 

「私、彼氏は居ないフリーでーす! でも好きな人は居ます! それはヤ・マ・ト君♡ キャ! 言っちゃった!」

 

「は、ははっ、アリガトウ」

 

「それで守谷くん?のいう彼の心当たりだけど……う~ん、正直に言ってないわ。私、男子の友達居ないし、一人っ子だし。もしかしたら私を誰かと勘違いしたのかもしれないわ」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 もしかしたら守谷の事が少し分かるかと思ったんだが、知らないなら仕方が無い。

俺は本宮さんを安全な場所に連れて行った後、再び野生のデジモン達が暴れる場所へ向かった。



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045 チンロンモンのデジコア

 後から合流して来たタケル達の力もあり、何とか無事に暴れ回る野生のデジモン達を全てデジタルワールドに追い返す事が出来た僕達は、これからもこういった事が起きるかも知れないから警戒するようにと警告する光子郎の言葉に同意し、それぞれパートナーを連れて帰って行った。

タケル達はともかく、太一達は久々に家でパートナーとじっくり過ごすのだろう。

……ならその時間を邪魔する訳にはいかないだろう。

 

 僕達も一度家に帰り、少しの食糧と飲み物、念の為のトマトジュースと厚い素材の上着、世界地図、そして3年前におじいちゃんに買って貰ったノートパソコンをリュックに入れ、窓から空を見上げた。

その隣にはブイモンと、時空を歪ませてこっちの世界に来たブラックウォーグレイモンの姿もあった。

 

 

「……ブイモン、ブラックウォーグレイモン。これからこの世界は、アルケニモン達のせいで大変な事が起こる」

 

「大変なこと?」

 

「うん。さっき起きたような事をアルケニモン達は世界中で起こすつもりなんだ」

 

「……ほう。だとしたらなぜお前がそれを知っているんだ?」

 

「……それは秘密です」

 

 

 ブラックウォーグレイモンにごまかす様にそう返しながら僕は、リュックから世界地図を取り出し、何となく思いついた所(・・・・・・・・・・)に半分位目印を打ち、ブイモン達に見せる。

 

 

「……恐らく既にこの場所にダークタワーが建てられていて、そのせいでゲートが開いた場所にはさっきみたいに野生のデジモン達が迷い込むでしょう……」

 

「……本当にこの場所にダークタワーがあるのか?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンが疑うような視線でそう尋ねてきた。

……当然だろう、ブラックウォーグレイモンには僕が適当に世界地図に目印を付けたようにしか見えなかったのだろうから。

……ハッキリ言って僕自身もこの力はあまり把握できては無いが、この力が本物だという事は今までの経験で理解していた。

 

 

「……ハッキリ言って僕にも詳しい事は分かりませんが、僕には特殊な力があります」

 

「特殊な力?」

 

「はい、簡単に言えば僕には探し物の場所が何となく分かる力があるんですよ」

 

 

 ……まずこの力の存在に気付いたのは、ヒカリが迷い込んだ暗黒の海へのゲートを探す時だった。あの時は、何故か僕は暗黒の海へつながるゲートを一瞬で見つける事が出来た。

その次はダークタワーを生み出す要塞を破壊した後、その跡地でホーリーリングを探そうとした時だった。あの時は何故かまだ探していないと言うのに試しに念じてみたら、ホーリーリングはここにはないと直感が騒がしく反応した。

……そんな中途半端な反応を信じ切れず念の為僕達は何日も跡地でホーリーリングを探したが結局見つける事は出来なかった。

最後にその力が発揮されたのはホーリーストーンを探している時だった。

探し始めて間もないと言うのに、念じると何となく全てのホーリーストーンの場所が分かったのだ。

 

 

「……そんな力が実在するのか?」

 

「証明は出来ませんが。

 ……恐らくこの力は特殊な選ばれし子供に与えらえる力だと僕は思っています。

選ばれし子供達の中には限定的に聖なる力を操ったりすることが出来る子もいるみたいなので」

 

 

 ……それか、もしかしたからこれこそがボクを転生させた神がいっていた転生特典なのかもしれない。

だが今はどちらでも構わない。

 

 

「だとしても……いや、どうやら満更出鱈目という訳ではない様だな……」

 

 

 僕の力を疑っていたブラックウォーグレイモンだったが、突然180度意見を変えて来た。

何故かと考えていると、ブイモンが僕の名前を呼びながらティッシュ箱を渡してきた。

……そういう事か。

 僕は鼻から垂れている鼻血をふいてティッシュを詰め込んだ。

 

 

「……ご覧の通りこの力にはデメリットがあって、広範囲で小さいモノを探そうとするとどういう原理かわかりませんが鼻血が出てしまいます。……この感じ、もしもダークタワーでは無く、ホーリーリングと言った小さいモノだったら色々と不味かったかもしれませんね」

 

 

 体に走る疲労感からそんな事を思いながらも僕は真剣な眼差しで二体を見た。

 

 

「とにかく、これからやる事を説明します。

まずはブラックウォーグレイモン。貴方は、先にデジタルワールドに戻って開いたゲートの場所を回って、出来る限り、デジモンが入らない様に行動してください。後から僕が合流するのでそれまでお願いします」

 

「出来る限りやってやろう」

 

「お願いします。次にブイモンは、僕と一緒に世界中を回って取りあえずダークタワーだけでも破壊しよう。

終ったらここに戻って明日に備えて休んでほしい。本番はあくまで明日だからね」

 

「……アマキは休まないの?」

 

「僕はブイモン達とは違って戦わないし、夜にも強いからね。

ほら、よく夜遅くまで起きてるでしょ?」

 

「…………分かった。あまり無茶しないでね」

 

 

 ブイモンに勿論と返した僕はD3を取り出す。それを見たブイモンは、流れるように窓から飛び出した。そして僕はブイモンをウイングドラモンに進化させ、背中に飛び乗った。

それを見たブラックウォーグレイモンも窓から飛び出し、僕達の隣に浮かぶ。

 

 そして僕達は同時にそれぞれ向かう場所へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side光子郎

 

 昨日の事件から一日経った翌日の朝、久々にテントモンと一緒に眠れ快適な朝を迎えられたが、何気なく付けたテレビを見て僕達は驚愕を隠せなかった。

一言で言うと、日本……いや世界中が大変な事になって居た。

――――謎の黒いタワーと怪獣が世界中に出現。どの番組でもそのニュースが流れていた。

 

 

「まさか世界中で昨日の様なことが起きるなんて……!」

 

「どないします? コウシロウはん……」

 

「……とにかく一度全員で集まりましょう。今後の動きについて話し合う必要あります」

 

 

 そう考えた僕は急いでディータミナルで皆にメールを送った。今後の行動を話し合いたいので急いで僕の家に集まって欲しいと。

送ったのは言うまでも無く、太一さん、ヤマトさん、空さん、丈さん、タケル君、ヒカリさん、京くん、伊織君、……そして守谷君。

その後、ただ待っているだけでは時間が勿体ないと考えた僕は、パソコンでダークタワーの位置とゲートの出現状況を確認しながらゲンナイさんと連絡を取るべくメールを送っていると、ディーターミナルにメールが届いた。

宛先は……さっきメールを送った皆からだった。

どうやら全員起きていたようだ。メールを流し読みしてみるとそこにはすぐにそっちに向かうと言った文章が書かれていた。……よかった。予想よりは早く集まれそうだ。

そう思いながら最後……いや、最初に届いたメールである守谷君のメールを開いてみるとそこには他の人達とは少し違った文章が書かれていた。

内容は「全員が集まったら再度連絡お願いします」……と言ったものだった。

理由は分からないが、今はこちらに来れないようだ。

……気になるが今はそれを気にしている暇はない。

僕は、先程の作業に加え、更にインターネットの掲示板などを調べ、更にダークタワーやデジモンの目撃情報を調べようとした。

……そして僕は偶然にもそこで守谷君がすぐに来ないと言った理由を知る事になった。

 

 

「……黒いタワーと怪獣を消し去る、青い怪獣と子供……そんな存在が色んな国で目撃されているみたいですね」

 

「……それってもしかしてモリヤはん等のことでっか?」

 

 

 言葉では疑問を浮かべてはいるが、目は間違いなくそうだと確信しているテントモンの言葉に僕は無言で首を横に振って分からないと伝えた。

テントモンと同じくほぼ間違いなくと確信を持ちながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メールを送ってから約一時間で太一さんとヒカリさんが僕の家に来た。

……これで守谷君以外のメールで呼び出したメンバーが揃った。

僕は密かに守谷君に全員揃ったと言うメールを送りながら僕が調べた範囲で判明している現状を話す事にした。

 

 

「もう皆さんもご存知かもしれませんが、昨日ヤマトさん達のコンサート会場周辺で起きた事件が世界中で発生しています」

 

「当然知ってる。ダークタワーと野生のデジモンが世界中で現れて大パニックになってるようだな」

 

「はい。そしてこれを見てください」

 

 

 僕はそう言ってパソコンの画面を全員に見えるように向ける。

 

 

「ゲートセンサーでゲートの開いた場所をマッピングしたデータです」

 

 画面には世界地図が表示されていて、そこの至る所に赤い点が記されていた。

……これが意味する事は言うまでも無い。

 

 

「じゃ、じゃあこの印のところ全部にデジモンが現れてるっていうんですか!?」

 

 

 伊織君の疑問に僕は小さく頷く。

 

 

「現在はゲートは閉じてしまっています。デジモン達をデジタルワールドに戻すには直接現地に行ってもう一度ゲートを開くしかありません」

 

「えぇ!? こんなにたくさんの場所に?」

 

 

 あまりにも非現実的な手立てしか無い事に京君が驚愕の声を上げる。

それに対して太一さんは何とか現実的な手段が無いかヒカリさんに尋ねた。

 

「デジタルワールドからは行けないのか?」

 

「私達の開けるゲートは1つのエリアに1つだけだし、世界中に行くとなるととても時間がかかるわ……」

 

「世界中のダークタワーが位相の歪みを起こしてるんだ。何とかしてダークタワーだけでも破壊しないともっと大変な事になるかも知れない……」

 

 

 タケル君の言葉に自分達が想像していたよりも不味い事になって居ると思った皆さんが小さく俯くなか、僕は今ゲンナイさんから届いたメールを見て、行動を起こした。

 

 

「……わかりました、やってみます。

――皆さん、ちょっと離れてください」

 

 

 僕の言葉を聞いて全員が距離を取ったのを確認し、僕は自分のノートパソコンと、デスクトップパソコンを向い合せに設置し、ゲンナイさんから来たメールの文章欄のURLをクリックした。

するとノートパソコンから光が飛び出し、デスクトップ画面と光で繋がった。

そしてそれと同時に画面の中心から人影――フードの男が現れた。

 

 

「成功です。ゲンナイさん」

 

 

 突然の謎の存在に皆さんが混乱の声を上げたので、僕はそれを抑えるべくゲンナイさんの名前を呼んだ。

すると皆さんもこの人がゲンナイさんだと理解出来たのか、騒ぎは収まった。

ゲンナイさんは騒ぎが収まったのを確認すると、フードを取った。

 

 

「久しぶりだな。選ばれし子供達よ」

 

「うそー? ゲンナイさんってすっごいお爺ちゃんって聞いてたのにチョーかっこいいじゃない!」

 

 

 ゲンナイさんの顔を見てテンションの上がった声でそう話す京くんは取りあえず置いておき僕は本題に入る事にした。

 

 

「ゲンナイさん……世界中が大変な事に……」

 

「状況は大体彼から聞いている。現実世界にダークタワーとデジモンが現れたんだろう?」

 

「……彼?」

 

 

 彼という言葉に丈さんは疑問下にそう返した。

だけど僕は……いや、僕以外の何人かもその言葉が誰を指すのかを察した。

確認を含めて僕はその彼の名前を尋ねた。

 

「……それは守谷君の事ですか?」

 

「そうだ」

 

 

 そして答えは残念ながら予想を覆す事は無かった。

 

 

「守谷君が……」

 

「……彼がいち早く異変に気付き、行動したお蔭で何とかデジタルワールドの位相が歪む事態は避けられた。だから取りあえずはデジタルワールドの事を気に掛ける必要は無い。今はキミ達の世界の方が問題だ」

 

「ま、待ってください! 位相が歪む事態が避けられたってどういう事なんですか?」

 

「始めにこちらの世界に建てられたダークタワーの内、半分が既に彼等によって破壊されている。

残りの半数程度なら何とかデジタルワールドの位相が歪む程では無いという事だ」

 

 

 ゲンナイさんの言葉に僕達は驚愕の声を上げた。

……ダークタワーの正確な数は分かっていないが、少なくとも世界中に建てられている事はテレビを通じて知っていた。だからこそその内の半分が既に破壊されているという事実に驚かない筈が無かった。

……一体いつから行動していたんでしょうか?

 

 

「……ゲンナイさん、守谷達がいつから行動してるか知ってる?」

 

「正確には分からないが、私が事態に気付き、選ばれし子供達の誰かに知らせようとした時には既に彼等は動いていた。彼と初めに連絡を取った時間は……大体3時ごろだった」

 

「3時頃……どうして守谷が俺達にこの事を知らせなかったか分かる?」

 

「彼の言い分では、選ばれし子供達の住所も電話番号も知らず、連絡を取るとしてもディーターミナルで数人しか取れない状況だった。

仮に取れたとしても選ばれし子供達は昨晩の戦いで消耗してるから今起こしても戦力になるか分からない不安定な状態だから今は自分達だけで動きます……と言っていた。

……私も一応君達を起こしてでも状況を伝えるべきだと意見したが、その結果選ばれし子供達に何か起きたら責任を取れるかと言われてしまっては何も言い返せなかった」

 

「……ふざけやがって」

 

 

 そう言って太一さんは右手を胸の前位まで上げ握り拳を作った。

……正直に言って太一さんの気持ちは痛いほどわかるが、守谷君の行動は決して間違いでは無い。

 

 

「……太一さん。守谷君の行動はもしかすれば最善では無かったかもしれませんが、決して悪い行動ではありません」

 

「……どういう事ですか? 光子郎さん」

 

「守谷君の行動はある意味最善に近いって事ですよ、伊織君。

……昨晩の時点では確かに僕達は消耗していた。

そんな状態で夜中に起こされていきなり世界中に行く事になったら、冷静に頭が働かずに大きなミスを冒していたかもしれません。

それにテレビの映像で確認したんですが、紛れ込んだ野生のデジモンの中には完全体も含まれていました……」

 

 

 完全体という言葉と同時に全員の視線が下を向いた。

……そう、結局僕達は守谷君の無謀な行動を止めきる事は出来ない。

何故なら完全体が居る以上、守谷君達が戦わなければ結局はどうにもならない問題だからだ。

 

 

「……選ばれし子供達よ。君達に渡したいものがある」

 

 

 いつの間にか僕自身も俯いてしまっていたが、ゲンナイさんの声でふと我に返り、顔を上げ、ゲンナイさんの方を向いた。

するとそこには青い球を此方に向けているゲンナイさんの姿があった。

 

 

「なんですかそれは?」

 

「――これはチンロンモン様が持つ12個のデジコアの一つだ。選ばれし子供達の危機を救う為、選ばれし子供――守谷天城との約束を守る為、この球を使えとチンロンモン様から授かってきた」

 



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046 信頼

sideヒカリ

 

 ゲンナイさんからチンロンモンのデジコアを預かった私達はその後守谷君から届いたメールに記された場所に向かった。

その場所に行くとそこには既に守谷君達の姿があった。守谷君は大きな石に腰かけていて、ブイモンと……ブラックウォーグレイモン?がその左右に立っていた。

 

 

「どうも。昨日ぶりですね」

 

 

 私達が守谷君から大体10メートルくらい近づくと守谷君は立ち上がってそう言ってきた。

その立ち姿には何となく疲れが読み取れた。……ゲンナイさんの言った通り、本当に今まで戦っていたんだ……たった一人で。

 

 私はたった一人でブイモンとブラックウォーグレイモンと一緒に戦っていた守谷君に少し寂しさを感じた。

……だけど今はそれを引きずってる場合じゃない。

今世界が大変な事になってることは分かってるけど、ここで私達は見極めなければならない。守谷君が私達をどう思っているかを。

 

 

 

 

 

 ――ついさっき、光子郎さんの家に現れたゲンナイさんが私達にチンロンモンのデジコアを預けてくれた。

私達はそれがどういうモノなのか全くわからなかったけど、ヤマトさんと空さん、アグモンは違ってた。

 

 

「まさかそれが――守谷の言ってた四聖獣の力って奴か?」

 

「彼がどういう風にこれを君に語ったか分からないが、これはチンロンモンさまの聖なる力の結晶。これを使えばかつて完全体に進化出来た者は再び完全体まで進化出来るようになるだろう」

 

「「完全体に!?」

 

 

 ヤマトさんの質問にゲンナイさんがそう返して私達は思わず声を上げた。

だけどお兄ちゃんだけは驚いた後、ヤマトさん達の方を向いた。

 

 

「お前達はこんなものがあるって知ってたのか?」

 

「……ああ」

 

「……キメラモンとの戦いの時、守谷君が言ってたの。

封印されてるチンロンモンから力を貰えばまた完全体に進化出来るようになるって」

 

「……タイチ達に黙ってたのは話したらタケル達がジョグレスっていう合体進化が出来なくなる可能性が高くなるのと、チンロンモンの事自体皆に黙っててほしいってお願いされたからなんだ」

 

「ジョグレス? ……詳しく話して頂け……いや、今はそんな事を話している場合じゃありませんか」

 

 

 お兄ちゃんの質問に、ヤマトさん、空さん、アグモンはそう答えた。

そしてアグモンの言ったジョグレス?って単語に光子郎さんが食いついたけど現状を思い出して引き下がった。

だけどゲンナイさんがそれを止めた。

 

 

「いや、この問題は今話し合うべき大事な問題だ。それに少なくとも、最も状況を把握している彼から連絡があるまでは動かない方が良いだろう」

 

「……そうですね。分かりました。守谷君からの返信のメールが来るまでは世界中の問題をひとまず置いておきましょう。……それではアグモン、さっきのジョグレスに関して詳しく話してくれませんか?」

 

「……いや、これは俺から話そう」

 

 

 光子郎さんの言葉にヤマトさんがそう返した。

……それにしてもジョグレス? 合体進化ってどういう事なんだろう?

 

 

「……俺も詳しくは知らないが、どうやらタケル達の持ってるD3に備わった機能らしい。それを使えばD3を持つ者同士……いや、タケルと伊織のエンジェモンとアンキロモンが、ヒカリちゃんと京ちゃんのテイルモンとアクィラモンが合体して完全体になれるそうだ」

 

「そんな機能があったとは……!」

 

「……まさか彼はそんなことまで知っているのか」

 

 

 光子郎さんの言葉は私達全員の気持ちを代弁していた。

そしてゲンナイさんも守谷君がそれを知っていた事に驚いていた。

 

 

「……そんな力があるんならどうして守谷君は僕達に教えてくれなかったんだろう?」

 

「……それは私が話すわ」

 

 

 丈さんの疑問に空さんが答えてくれた。

ジョグレス進化とは、ジョグレスする者同士の心が一つになっている事が条件だという事を。

だからこそ守谷君は初め私達に単独で完全体に進化出来るという事を黙って居た事を。

……話せば完全体に進化させたことがある私とタケル君と、完全体に進化させたことが無い京さんと伊織君の間に壁が出来てジョグレス出来なくなるから。

ジョグレスの事自体を話さなかったのはそもそも本当にジョグレスが出来るか確信を持っていなかったから。

 

 私達に単独で完全体に進化出来る事を話したのは、私とタケル君が、京さんと伊織君を対等だと思っておらず、守るべき対象だと思っているのでジョグレスは不可能と判断したからだという事。

……メガドラモンと私達との戦いを見て、守谷君はそう判断したらしい。

 

 

「……守谷が何を考えていて何の為に行動しているか実際の所俺も分からない。

俺達に何も話さ無い上無茶もするし、正直皆は、守谷は自分達の事を全く頼りにしてないと思ってたかも知れない。

……だけどアイツはアイツなりに俺達を……タケル達を頼りにしてたんだ。

タケル達なら完全体になれると黙って期待してたんだ」

 

 

 ヤマトさんの言葉は最後にいくに連れて小さくなっていた。

でも皆――私達四人はそんな事を気にしている余裕は無かった。

……正直私も、守谷君は私達の事を頼ってなんかいないと思ってた。

…………もしかしたら仲間じゃないって思われてるかもしれないって思ってた。

だけど守谷君は少なくとも私達が完全体になれる様にと行動していた。

……それが堪らなく申し訳なかった。

 

 全員が黙り込んで話ずらい空気になった中、それを断ち切る為かお兄ちゃんが話し出した。

 

 

「ジョグレスの事を話さなかったのは中途半端に話して単独で完全体に進化出来る可能性を少しでも減らさない為、か。

……成る程、その考えは少なくとも同意できる。

だかそれならどうしてアイツはチンロンモンの力の事を俺達だけにでも話さなかったんだ? 少なくともヤマトや空はアイツの事情を理解してたんだろ? だったら二人にだけでもチンロンモンから力を借りておけばアイツの負担も減らせたんじゃないのか? それともそれが出来ない理由があるのか?」

 

「――――それはワタシが説明しよう」

 

 

 お兄ちゃんの疑問に今度はゲンナイさんが答えてくれた。

 

 

「恐らく君達にチンロンモン様のデジコアの事を話さなかったのは、チンロンモン様から力を借りれるチャンスが一度だけだからだ。

彼はアルケニモン達の後ろに潜む影が究極体のデジモンだと想定しているらしい。

だからその黒幕と戦う時、君達二人のパートナーを究極体に進化させる為に使いたいとチンロンモン様に願っていた。……真偽は分からないがそれが理由だ」

 

 

 ゲンナイさんは、お兄ちゃんとヤマトさんの方を見ながらそう答えた。

……アルケニモン達の後ろに潜む影……確かに居るとしたら究極体の可能性が高い。

何故なら完全体のアルケニモンとマミーモンがいう事を聞いて行動しているのだから。

 

 

「成る程、そうだとしたら確かに使い所はそのタイミングがベストですね。

……ですが、それならどうしてゲンナイさんはこのタイミングで、よりにもよってそれを僕達に渡そうとしているんですか?」

 

「……どういうコトでっか? コウシロウはん?」

 

「……僕達の世界は知っての通り大変な事になって居ます。そんな僕達にそれを渡してしまったら最終戦を待たずに使ってしまう可能性もある筈です。僕達は完全体に進化させられませんから。

……だからそれを防ぐためにもそのデジコアは守谷君に渡すのが最も安全な筈です」

 

 

 光子郎さんの意見に私も同意見だった。

……私達は単独では完全体に進化出来ない。だと言うのに今世界中には多くのデジモンが迷い込んでる。……その中には完全体も。

そんな私達に完全体に進化出来る道具を渡してしまったら場面によっては私達は迷わずそれを使ってしまうと思う。……救える力があるのにそれを使わないなんて私達には出来ないから……

だからこそそんな私達に貴重なデジコアを渡す理由が分からなかった。

 

 

「――貴重だからこそ君達に託した」

 

「……どういう事ですか?」

 

「言葉通りの意味だ。……少なくとも君にはこの言葉の意味が理解出来るんじゃないか?」

 

「…………」

 

 

 ゲンナイさんの言葉に伊織君がそう尋ねたが、一言そう返し、光子郎さんの方を向いてそう尋ねた。

そんなゲンナイさんに対して光子郎さんは言っている意味が理解出来たのか暫く黙り込んでいたけど、突然覚悟を決めたような表情を浮かべて話し出した。

 

 

「…………守谷君が敵である最悪のパターンを考えてですね」

 

「――――光子郎ォ!!」

 

 

 光子郎さんが言い終ると同時にヤマトさんが光子郎さんに飛びかかった。

光子郎さんの余りに想定外の言葉と突然のヤマトさんの行動に私達は反応出来なかった。光子郎さん自身もヤマトさんがそんな行動に出る事が分かっていたのか一切逃げる様な動きを見せず、目を瞑っていた。

そしてヤマトさんの拳が光子郎さんの顔に命中――する寸前でお兄ちゃんがヤマトさんを止めた。

 

 

「放せ、太一! 俺はコイツをぶん殴らなきゃならねぇ!!」

 

「落ち着けヤマト! ……光子郎だって本気でそう考えてる訳じゃない。

可能性が0じゃないから、俺達の代わりに汚れ役を買って出てそう言ってるだけだ」

 

「……そうだとしてもアイツを敵呼ばわりした事は一発殴らなきゃ収まりが付かない!」

 

「それなら安心しろ。お前の分も含めて俺が一発殴っておいた」

 

 

 お兄ちゃんがそう言って右手を上げると、光子郎さんがその時を思い出したのか、痛そうにほっぺを撫でていた。……お兄ちゃん本当にやったんだ。

 

 

「それに光子郎にも一理あるだろ? アイツは京ちゃん達と同じタイミングで選ばれし子供になった筈なのに色々知り過ぎている。特に敵の行動に関してはあまりに対応出来過ぎていた。

……昨日だってアイツは、性格から考えて普段なら来ないであろうヤマトのコンサートに態々足を運んで、現場に居た。

突然のデジモンの登場に対してだってあまりに行動出来過ぎていた。

……もしかしたらアイツはコンサート会場にデジモンが現れる事をあらかじめ知っていた……とは考えられないか?」

 

「……アイツが俺のコンサート会場に来ていた理由は俺がチケットを渡してたからだ」

 

「……アイツ、ヤマトから貰ったチケットとは別に、もう一枚チケットを持ってたぞ。どうやら前々からコンサートに来るつもりだったらしい」

 

「…………」

 

 

 お兄ちゃんの言葉にヤマトさんは悔しそうな表情を浮かべながら黙り込んだ。

……もしかしたらヤマトさんの中でもそう考えてしまうような出来事があったのかもしれない。

ヤマトさんは必死に昨日の事件に守谷君が絡んでない理由を思い付こうとしてたけど、最終的には思いつかなかったのか、振り上げていた拳を下ろした。

 

 

「……例えアイツが怪しくても…………仮に昨日のデジモンの襲来を予め知っていたとしてもアイツは俺達の仲間だ」

 

「――――俺も同じ考えだ、ヤマト」

 

 

 ヤマトさんの絞り出したような声にお兄ちゃんはハッキリとそう返した。

……良かった。お兄ちゃんも守谷君を敵だとは思ってないみたい。

ヤマトさんもお兄ちゃんの言葉を聞いて納得したのか、満足した表情で光子郎さんに一言謝って元の場所に戻った。

その姿を見ていたゲンナイさんが今度は私達に尋ねた。

 

 

「――他の選ばれし子供達も同じ意見なのか?」

 

 

 ゲンナイさんの言葉に私達全員が頷いた。

……さっきまでは少し守谷君の事を疑ってしまっていた人も居たけど、お兄ちゃんの言葉を聞いて目が覚めたようだ。

……流石はお兄ちゃん。私じゃとても真似できない。

 

 

「そうか。ならワタシもこれからは彼を全面的に信じよう」

 

「……ゲンナイさんは守谷君を疑ってるの?」

 

 

 私の質問にゲンナイさんはそうではないと首を横に振った。

 

 

「ワタシ自身も彼がこちら側という事に関しては疑っていない。

これはチンロンモン様や君達に影響されたわけでは無くワタシ自身の判断だ」

 

「だったらどうして今更モリヤを信じるなんて言ったんだ?」

 

 

 テイルモンの疑問にゲンナイさんが再び答えてくれた。

 

 

「彼が味方だとは思ってはいるが、それでも彼の普通とは思えないいくつもの行動を見て100%頼ってしまっていいのかワタシの中で判断が付かなかったのだ。

特に今回のデジコアの様な一度きりの切り札を本当に彼に渡してしまっていいのかワタシ自身迷っていた。

だからこそ彼では無く君達に渡す事にしたのだ。君達ならワタシと違って正しい選択が出来ると信じて」

 

「……このデジコアは本当は守谷君に直接渡すモノだったのね」

 

「少なくとも彼はそう望んでいただろう。もっともワタシもチンロンモン様もそう約束したつもりは無いが」

 

「それってちょっとズルくないですか?」

 

「そう言わないで欲しい。この力は等しく選ばれし子供達に託されるべき力なのだ。

だからこそ君達の世界が危機に陥っているこのタイミングで持って来た」

 

 

 そう言ってゲンナイさんは再びデジコアを前に差し出した。

 

 

「だからこそ今一度尋ねよう。

―――――君達の世界は今危機に陥っている。謎多き選ばれし子供である彼には、仮にこれを使わずに済む手があったとしても確実に無理がある作戦である事の想像は難しくない。

……君達の世界の危機だ。いくらアルケニモン達の後ろに潜む影が究極体だったとしてもこのタイミングで使う事を咎められる者は誰一人居ないだろう。

そんな状況で君達はこのデジコアをどうする?」

 

 

 ゲンナイさんの問いかけは、一番近くに居た光子郎さんに向けられていた。

だけど光子郎さんは首を横に振って一歩後ろに下がった。

 

 

「……守谷君を現在進行形で疑っている僕がそれを受け取るのはアンフェアです。

……太一さんお願いします」

 

 

 光子郎さんはそう言って次に近い場所に立ってるお兄ちゃんにそう言った。

だけどお兄ちゃんも光子郎さんと同じように一歩後ろに下がった。

 

 

「悪いけど俺もパスだ。

俺自身、守谷の事を信じてはいるが、光子郎と一緒で何かボロを出さないか見張ってるような人間だからな。

……ヤマトに空。お前達に任せた」

 

 

 そう言って今度はヤマトさんと空さんに全員の視線が集まった。

 ……確かにヤマトさん達は私達と違って守谷君と秘密を共用するような関係だ。

 守谷君の作戦の要かもしれないデジコアを持つのに最も適してると思う。

 

 そんな事を皆が考えて見つめる中、ヤマトさんと空さんは――予想外にも一歩後ろに下がった。

 

 

「……俺はその場の感情で動いちまうとこがあるから駄目だ。というかそもそもこれを俺達の間で話し合う事自体が場違いだろう。

これはアイツと同じ舞台で戦ってるタケル達の中で決めるべきだ」

 

「……守谷君が必死に戦っている背中を追いかけてたヒカリちゃん達の選択なら私達は誰も文句は言わないわ」

 

 

 そう言って今度は私達――タケルくん、京さん、伊織君、そして私に視線が向けられた。

 ……私達が守谷君の切り札かも知れないデジコアの行方を決める事になるなんて。

 そう考えながらも私は誰が受け取るべきか話し合おうと左右の三人の方を向くと、三人とも一歩後ろに下がっていた。

 

 

「……僕は守谷さんの言葉を信じ切れず、皆さんとの約束まで破って真夜中のデジタルワールドに行ってしまいました。そんな僕にそれを受け取る資格はありません」

 

「……アタシも伊織と一緒で約束を破ったから駄目ね。

……それにあたし怒りに任せて守谷君に酷いこと言っちゃったし……」

 

「伊織君と京さんの行動は守谷君の為を思っての行動だから僕は間違いでは無いと思うよ。

……僕なんて行動を起こさずに心の中でただ守谷君を疑ってただけだからそれに比べたら遥かにマシだよ。

そんな僕より――――いや、あえて言うよ。守谷君を疑ってた僕達よりもヒカリちゃんの方が資格があると思うよ」

 

「わ、私は……」

 

「ヒカリちゃんは、守谷君の事疑った事ないでしょ?」

 

 

 タケル君の言葉に私は何も言い返せなかった。

……確かに私は守谷君を疑った事なんて無い。そもそも命を懸けて助けてくれた人を疑う事なんて出来る筈が無かった。

 

 黙り込んだ私を見てタケル君は笑顔を向けた。

 

 

「でしょ? だったらやっぱりヒカリちゃんがそれを持つのに相応しいよ」

 

「私でいいの? 私なんかに渡したら簡単に手放しちゃうよ?」

 

「それでいいんだよヒカリちゃん」

 

「丈さん?」

 

「色々言ってるけど、本当はそうしたいんだよ、皆。ただ今まで疑ってたから少し後ろめたいだけさ。

だからヒカリちゃんは自分の思った通りにそれを扱えばいいと思うよ。

それがきっと選ばれし子供達全員の意見だから」

 

「丈さん……」

 

 

 丈さんの言葉を聞いて覚悟が決まった私は一歩前に出た。

 

 

「一応尋ねよう。君はこれをどうするつもりなんだ?」

 

「私は――――守谷君の考えを聞きたい。聞いた上でこのデジコアを託したいです」

 

 

 

 

 

 そんなやり取りの後、守谷君からのメールが届いて私達はここに来た。

……状況は一刻を争うかもしれないけど私達には聞かなければならない事がいくつもある。

その内の一つを私は尋ねた。

 

 

「……守谷君、ゲンナイさんから聞いたの。守谷君達が日付が変わった時くらいから行動してたって。

それって本当なの?」

 

「……本当だ」

 

「……どうして私達に相談してくれなかったの?」

 

「……ゲンナイさんにも伝えたが、昨日の戦いで消耗している状態で世界中を飛び回るのは危険だと判断したからだ。それに純粋に移動手段も関係してる。ウイングドラモンなら僕一人を乗せて世界中を飛び回れるからな」

 

「……そっか」

 

「……悪いが状況が状況だ。これからについて話しても構わないですか?」

 

 

 守谷君がそう言って全員の方を見て確認を取った。

……守谷君の言葉は全くの正論なので誰も文句を言わずに頷いた。

 

 

「では話しますね。

……知っての通り、今世界中にダークタワーとその影響で生まれたゲートのせいで迷い込んだ野生のデジモン達が出現しています。

僕も早くから動いて何とか被害を抑えようとしましたが流石に手が足りません。

……皆さんの力をお借ししてくれませんか?」

 

「当然だ。その為に俺達は来たんだ」

 

 

 そんなお兄ちゃんの言葉に守谷君は一言感謝の言葉を返した。

 

 

「それでは僕の考えてる作戦を話しますね?

作戦といってもいたって単純なものなんですが、皆さんにはブイモン……いえ、ウイングドラモンと一緒にデジタルワールドから各国に行って、ダークタワー及び迷いデジモンの対処をお願いしたいです。

そして、その間に僕はブラックウォーグレイモンと共に皆さんとは逆の方から世界を回ろうと考えています」

 

 

 

 




長くなりそうだったので一旦ここで上げることにしました


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047 黒幕

 ……世界中を回る話が最初に考えていた展開と変わっていて個人的に驚いています。
特に本当はもう少し光子郎と仲良くなっていた筈なんですが何時の間にこんな事に……


――――話し合いが終わり、デジタルワールドに向かう為に再び光子郎の家に戻って行く選ばれし子供達を僕は悲痛の眼差しで見届けた。

――その手にチンロンモンのデジコアを持ちながら。

 

 

 「――――皆さんにはブイモン……いえ、ウイングドラモンと一緒にデジタルワールドから各国に行って、ダークタワー及び迷いデジモンの対処をお願いしたいです。

そして、その間に僕はブラックウォーグレイモンと共に皆さんとは逆の方から世界を回ろうと考えています」

 

 先程僕がそう言った際、太一達は目を見開くような反応を見せた。が、それも当然かもしれない。

今世界中でデジモンの騒ぎが起きており、一刻も早くそれに対処しなければならない状態の上、ここにはミミとパルモンを除く全ての戦力が集まっている。なのに僕は二手にしか別れないと言ったのだから……信じられないと思われるのも仕方が無いのかもしれない。

 

 が、選ばれし子供達はそんな作戦だと言うのに頭ごなしには反対してこなかった。

……恐らく理解はしているのだろう。この方法が一番安全で確実だという事を。

 

 ……本当なら僕が今この場でアグモンをメタルグレイモンに進化させ、もう一つのチームとして海外に向かって貰うのが戦力的にも効率的にもいい作戦だが、それを実行する事は避けたかった。

理由は簡単で、メタルグレイモンの姿のまま海外を人に見つからない様に探索する事が不可能だからだ。

いくら各国が危険な状況とはいえ、そんな状態でメタルグレイモン程の巨大な生き物を引きつれて行動している集団が居たら確実に怪しまれるだろう。最悪の場合言葉が通じない事もあり攻撃される可能性も考えられる。

……もしもデジモンを一時的にしまえるような仮想空間があれば話が違ったが、ないモノの話をしても仕方が無い。……いや、もしかすれば光子郎なら作れたかもしれないね。

 

 とにかくそんな理由がある為、二手に分かれて貰うのが一番安全と僕は判断した。

ウイングドラモンと行動して貰う理由は単純に、ウイングドラモンが強く、長時間雲より上の上空を飛べる上、見つかっても追っ手を振り切れるほどの速さを持っているからだ。

上空に居るウイングドラモンとの連絡手段については光子郎ならいくらでも思い付くだろう。

更にそれに加え、選ばれし子供達に向かって貰う国は全て今の時間が夜の場所で、武力的では無いと言われる国々だ。

そこ等なら危険も少ないだろうしね。

 

 

「……本当に、本当にそれ以外の方法は無いの?

それに……守谷君は自分のパートナーと一緒じゃなくていいの?」

 

 

 太一達を何とか説得しようと考えているとヒカリにそんな事を尋ねられた。

やはり二手にしか別れないという作戦に不満があるのだろう。が、今はそれを押し通さなければならない。選ばれし子供達が少しでも危険にあう可能性を減らすためにも。

……それに選ばれし子供達はチンロンモンのデジコアという切り札を知らない。ならそれを黙っていれば押し通すのも難しくは無いだろう。ヤマトと空が動かなければの話だが。

 

 

「これ以外の方法は無い。

ウイングドラモンに関しては、僕自身それが一番だと考えた結果だ。

それに君達も、味方かも分からない暗黒の存在と出来れば一緒には居たくないだろう?」

 

 

 そう言って僕はヒカリに返した。

……ヒカリ自身は恐らくブラックウォーグレイモンと一緒に行動する事はあまり抵抗は持っていないと思うが、自分達側にそうしたくない人が居る事はなんとなく察しているのだろう。あまり強くは返してこなかった。

……それに僕としても選ばれし子供達とブラックウォーグレイモンを一緒に行動させたくなかった。……仲良くなればなるほどいずれ来る別れの時に悲しい思いをさせてしまうだろうから。

 

 

 そして最終的に太一達は僕の作戦に乗ってくれた。

僕はウイングドラモンの心配するような言葉に大丈夫と返しながら、光子郎のパソコンで先にデジタルワールドへ向かって貰った。

そして太一達は僅かに悲しそうな表情を浮かべながら自分達もデジタルワールドに向かうべく光子郎の家に戻って行った。

――ヒカリ一人を置いて。

 

 

「八神さん。君は行かないのか?」

 

「……守谷君。今世界中は大変な事になってるわ」

 

 

 ヒカリの突然の言葉に僕は疑問を覚えながらも言葉を返した。

 

 

「そうだな」

 

「急いで解決しなきゃ大変な事になるわ」

 

「……僕もそう思うよ」

 

「守谷君……本当に、本当に他に方法は無いの?

理由が合って出来ない作戦でもいいの。そうだとしても出来ない理由を言ってくれたら私達もちゃんと納得するから。だから何か方法があるなら……」

 

 

 ヒカリは目と言葉でそう訴えかけて来た。

……がここで無駄に希望を持たせる訳にはいかないと判断した僕はヒカリに無いと返した。

するとヒカリは悲しそうな表情を浮かべながらそっかと一言漏らし、リュックから何かを取り出して差し出してきた。

僕は疑問を浮かべながらもそれを見てみるとそれは―――――――

 

 

「……チンロンモンのデジコア。さっきゲンナイさんから預かったの。

守谷君が持ってた方が良いと思うから渡しとくね」

 

「…………君は、君達はこれがどんなものか知ってるのか」

 

「うん。だから守谷君に持ってて貰いたいの」

 

 

 ヒカリはそう言うと背中を向けて太一達の方に歩いて行った。

 

 

「――――私は守谷君を信じてるから」

 

 

 歩き去る前にそう言葉を残してから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はブラックウォーグレイモンの背中に乗りながら真昼の国を中心にデジモン騒ぎが起きている場所を回った。

各国に手助けに来ているゲンナイさんと同じ姿をしたホメオスタシス達と協力しながら現れたデジモン達をデジタルワールドへ送るべく僕達は出来る限りの事をした。

話を聞くデジモンは言葉での説得を。混乱していう事を聞かないデジモンには力での説得を。

悪意を持って暴れ、人間にデジモンという脅威を知らせようというデジモンには――同じく不必要な僕達からの裁きを与えながら僕達は世界中を飛び回った。

 

 ……原作には居た世界中の選ばれし子供達の手助けが無い為、一つの国の騒動を解決するだけでもかなりの時間がかかった。

時には僕達も敵と間違えられ発砲されたりもした。

……こういう国を回るのが僕でよかった。

 

 そしてまた一つの国に現れたデジモンを全て返した僕達は再び別の国に向かうべく飛んだ。

……さっきので騒動が起きてる真昼で、好戦的な国のデジモン騒動は片が付いた。後は今までに比べれば危険は無いも等しいだろう。そう思った僕は、心を落ち着ける為、ブラックウォーグレイモンに掴まりながらリュックからチンロンモンのデジコアを取り出し見つめた。

 

 

「……どうやら選ばれし子供達はオマエのそれ(切り札)の事を知っていた様だな」

 

 

 

 チンロンモンのデジコアを見つめているとふとブラックウォーグレイモンが視線を前に向けながらそう話しかけてきた。僕とブイモン以外の他の存在の話題を振って来ることに少しばかり驚きながらも僕は言葉を返した。

 

 

「そう、みたいですね」

 

 

「そしてオマエがそれを持っているのに使おうとしなかった事もな」

 

「……彼等にどう思われようと関係ないですよ。僕はこれをこんな(・・・)所で使う訳にはいきませんから。これを温存する為なら僕は彼等に外道と呼ばれようとも……勘違いされたって構いません」

 

 

 ……この場面まで来た以上、必要となれば選ばれし子供達に勘違いされても構わない。今成さなければならないのはヴァンデモンの完全消滅だ。その為なら……選ばれし子供達とデジタルワールドを守る為なら僕は何だってしなければならない。それこそが僕に出来るこの世界に生まれてしまった事に対する唯一の償いだ。

 

 

「……ふん、違うな」

 

 

 そんな決意を固めていると、ブラックウォーグレイモンがそう言葉を漏らした。

 

 

「なんですか?」

 

「違うと言ったんだよ。オマエには成すべきことがある。それはオレにも分かる。

だがオマエは――――それを本気で成そうとしていない」

 

「…………突然何を言っているんですか?」

 

 

 突然のブラックウォーグレイモンの言葉に僕は心の奥で溜息を付きながらそう返した。

……だがブラックウォーグレイモンがそう思ったのも無理は無いのかもしれない。

何故僕はこの世界で唯一理解されない、理解されてはならない存在(転生者)なのだから。

改めてそんな答えを自身の中で感じながら、口を閉ざしたブラックウォーグレイモンの方を向いた。

 

 

「言いたい事があるなら何でも言って貰って構いません。出来る限りは答えます」

 

「フン――――敗者のオレが今更勝者のお前に説教垂れるつもりなどない」

 

「……そうですか。貴方がそれでいいなら僕はそれで構いません」

 

 

 そう言ってお互い無言になりながら目的地へと飛んだ。

暫くそんな時間が続くと、突然ブラックウォーグレイモンが口を開いた。

 

 

「――――が、最期の時、まだオレがお前に掛ける言葉が残っていたのならオレはそれを言葉にしよう。負けおしみの様に笑いながらな」

 

「最期……」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉に僕は僅かに俯いた。

……そうだ。僕はブラックウォーグレイモンの命を握っているのだ。

たった一度勝負に勝ったと言うだけなのに。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン。もしも心残りがあるのなら……成し遂げたい事があるのなら行動を起こすという道もありますが」

 

「――――下らん。オレは、オレ自身の考えでこの場所に立っている。その結果が例え消滅だとしてもオレはそれで構わない。最期までオレの生き方を貫いて見せよう。それがオレの心が出した答えだ。

――――オマエはどうなんだ? 唯一無二の同志よ?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの問いに僕は、言葉を発せずに首を縦に振る事で答えた。

その時のブラックウォーグレイモンの表情はこちらを向いていなかった為察する事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、何とか世界中で起きたデジモン騒動をほぼ解決出来た僕は一足先に日本に戻っていた。

後残っているのは太一達が今いる国だけだ。メールを見る限り、問題なく解決出来そうらしい。

……今回の騒動の結果、形式上の死人は出ていない様だ。

少なくともホメオスタシスはそうだと、そうなるようにと行動するつもりのようだ。

彼等の手に掛かれば、恐らく数年もしない内に、世界中から今日の出来事に関する情報が抹消されるだろう。

……それまでは少なくとも表立って行動しすぎた僕はあまり日本を出ない方が良いかもしれないね。

 

 ブラックウォーグレイモンとも別れ、一人になった僕はそんな事を考えながら暇つぶしも兼ね太一達との待ち合わせ予定の場所に向かって歩道を歩いていると前から一台のトラックが走ってきた。何気なくそのトラックを見つめているとふとその運転手と目が合った――いや、目が合ってしまった。

……運悪くも僕はその運転手に見覚えがあった。主にデジタルワールドで。

 

 

「……今のはマミーモンか。という事はあのトラックには……」

 

 

 無意識に視線でトラックを追っていると、突然トラックは停止して、運転手とその助手席に座って居た女性――マミーモンとアルケニモンが降りてきてこちらに向かって歩いてきた。

……不味い、今はブイモンもブラックウォーグレイモンも居ない。ここで襲われたら終わりだ。

まさか今日こんな場所で遭遇するなんて思わなかった……

 

 

「あ、アルケニモン! やっぱりあのガキだ! ほらオレの言ったとおりだろ!!」

 

「何喜んでんだい! せっかくワタシ達の行動がばれない様に世界中にダークタワーを建てたのによりにもよって一番面倒なガキに見られたんだよ!」

 

「でもアルケニモン。今アイツ――デジモンを連れてないぜ?」

 

「――なんだって?」

 

 

 マミーモンの言葉を聞いて改めて僕の方を見るアルケニモン。

そして僕の近くにデジモンが居ない事を確認すると口元を僅かに釣り上げた。

 

 

「おやおや、パートナーが居ない状況でワタシ達と遭遇するなんてアンタは運が悪いね」

 

「……えぇ、本当に。出来ればこのまま見逃して頂きたいんですが……」

 

「ワタシ達がこんな絶好のタイミングを逃すと思うかい?」

 

「積年の恨みをここで果たしてやろうか!」

 

 

 僕の願いもむなしく、アルケニモン達は、ニヤニヤと笑いながらこちらにゆっくりと歩み寄る。

……僕がやられるのはまだいい。だが、今はダメだ。何故なら今の僕は原作の切り札であるチンロンモンのデジコアを持ってしまっている。ここで掴まったら確実に没収されてしまうだろう。

だから僕はここでやられる訳にはいかない。

 

 

「……ここで騒ぎを起こしてしまってもいいんですか?」」

 

「ああん? どういう事だ?」

 

「……貴方達は態々僕達を海外に追い出してまで日本で密かに行動を起こしたのにここで騒ぎ立ててしまったら誰かに感付かれるかもしれませんよ?」

 

「……あ、アルケニモン」

 

「騙されるんじゃないよマミーモン。今コイツの仲間は全員海外さ。ここで多少騒ぎを起こしたって問題ないよ」

 

「……確かにそうかもしれませんね。ですが一つ確認させてください――――その考えはトラックに乗っている貴方達の親玉も賛同なんですか?」

 

 

「「――――!!」」

 

 

 僕の言葉を聞いてアルケニモン達は立ち止まり、見るからに驚愕したような素振りを見せた。

……どうやらあのトラックにアルケニモン達の親玉……ヴァンデモンに憑りつかれた人間、及川が乗っている様だ。

……という事はやっぱりあのトラックには今日攫われれた人間達が……

 

 

「――――ほぅ、どうやらお前が噂の選ばれし子供のようだな。随分と勘が鋭い」

 

 

 突然そんな言葉がトラックのコンテナから聞こえ、コンテナの扉が開かれ、男が降りてきた。

 



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048 黒幕(2)

みなさん、明けましておめでとうございます!
今年もどうかよろしくお願いします!!


 ……本当は去年の年末に何話か投稿しようと考えていましたが、誘惑に負け、デジモンストーリーの新作をやってしまい投稿出来ませんでした……
正直今作はあまり期待していませんでしたが、実際にプレイすると普通に面白かったです。


「……まさかアルケニモン達を操っていたのが人間とは思いませんでしたよ」

 

 

 姿を見せた黒幕に僕は冷静を装いながらそう返す。

そんな僕の態度を黒幕――及川悠紀夫は鼻で笑った。

 

 

「本気でそう思っているのなら少しは驚いた素振りを見せろ」

 

 

 苛立った顔でそう話す及川。その素振りは少なくとも人間と思えるものだった。

……どうやら原作通り、基本は及川自身が体の権限を持っている様だ。

…………この状況ではそれは有難い。

が、今までの事件の事、及川自身の事を考えるなら……及川の意識は残って居なかった方が良かったのかもしれない。

 

 

「それで貴方は態々選ばれし子供である僕の前に姿を現して何のつもりですか?」

 

「……選ばれし子供……ふん。ただ第三者に選ばれただけでのうのうとデジタルワールドへ行き来して、遊んでいるだけのお前達が選ばれた存在とは笑わせる。

お前達だけじゃない! お前達を選んだ者達もだ!

自分達の世界の危機に子供だけを選んで召喚するような奴らがデジタルワールドを管理しているという事を俺は許せない……」

 

「お……ボス! 落ち着いて下さい!!」

 

 

 徐々にヒートアップして来た及川をアルケニモンは必死になだめる。

及川はそんなアルケニモンに罵声を浴びせるが、そのお蔭か少しは落ち着きを取り戻した。

……このタイミングでヴァンデモンに変わられ、やられない様にする為に及川の心を揺さぶる単語を使ったけど、どうやら効果があり過ぎたようだ。これからはもう少し言葉を選ばなければ……

 

 

「……はぁ。で、お前はさっき俺になんて尋ねた?」

 

「……黒幕の貴方がこのタイミングで姿を現した理由をお聞きしました。

…………出来れば五体満足で家に帰りたいんですが」

 

「安心しろ。俺だって子供を痛めつける趣味は無い。

……そんな事をしたらアイツに合せる顔が無いからな。

お前には全てが終わるまで捕まって貰いたいだけだ――――他の人間達の様にな」

 

「……他の人間達の様に?」

 

 及川の言葉に違和感を覚えた僕は思わずそう尋ねた。

 

 

「そうだ。お前達選ばれし子供達は気付いていなかっただろうが、最近ここらで起きている誘拐騒動は俺達の仕業だ」

 

「…………誘拐? 全員無事?」

 

「俺の目的を果たすためにはどうしても必要でな。だが、安心しろ。命は奪っていない」

 

 

 及川は真剣な表情でそう話していた。……その表情からはとても嘘を付いている様には見えなかった。

……が、僕は及川が人間を攫って連れて行っている場所を知っている。

その場所は……どう考えてもそれほど多くの正常な人間が集まれるようなスペースでは無かった。

……僕は思い付いた考えが合っているのか確認すべく及川に尋ねた。

 

 

「……一つ尋ねてもいいですか?」

 

「聞くだけ聞いてみろ。答えるかは内容次第だ」

 

「……では。貴方は目的の為に人間が必要だと言いました。なら――――貴方の目的の為に人間が必要な理由を教えてください」

 

 

 僕のあまりに目的に関係しすぎる質問にアルケニモンとマミーモンは鼻で笑った。

 

 

「バカだね。そんな質問答える訳無いだろう」

 

「そうだそうだ。オレ達だって知らされてない情報だぞ。それをオマエなんかに言う筈が無いだろう!」

 

 

 二体の嘲笑うような声を無視し、僕は真剣な表情で及川を見つめた。

対して及川も、初めはアルケニモン達と同じような反応を見せていた。が、突如頭を抱えだした。

 

 

「あれ? どうしてだ? どうして俺は人間達を集めているんだ? 俺の目的の為にはそんなものは必要無い筈だ。それなのに何故―――――」

 

 

 及川が自分の行動に疑問の言葉を漏らし始めたその時、突如及川が悲鳴のような声を上げた。その姿はまるで雷が直撃したような反応だった。

突然の奇行にアルケニモン達は驚きながらも及川の方に近寄ったが、それを及川自身が振り払った。

その姿は先程までの奇行が嘘のように落ち着いていた。

……どうやら及川の中に潜む真の黒幕――ヴァンデモンにとって都合が悪い事はこうやって誤魔化しているようだ。

 

 

「……俺の目的を敵であるお前に話す訳が無いだろう。

いいから大人しく俺達に付いてこい。お前さえいなければ選ばれし子供達は雑魚同然だ」

 

 

 落ち着いた及川は先程の僕の質問にそう返すと、アルケニモン達に指示を出て僕の両手を左右から抑え込んだ。

……このままじゃ不味い。このまま連れていかれたらチンロンモンのデジコアがヴァンデモン達の元に渡ってしまう。それだけは何が合っても防がなければならない。

 

…………仕方が無い。出来れば無暗に原作を乱すような事をしたくは無かったが状況が状況だ。

僕はこの状況を打破するために口を開いた。

 

 

「……一つだけ弁解させて頂いても構いませんか」

 

「弁解だと?」

 

 

 アルケニモンとマミーモンに両手を拘束されたまま僕は及川にそう言い放った。

連れて行かれる事に対する抵抗では無く弁解をしようとしている僕に及川達は怪しむ様な反応を見せたが、最終的には聞いて貰えることになった。

……良かった。が、これが最初で最後のチャンスだ。

そう感じながら僕は口を開いた。

 

 

「貴方達は一つ勘違いをしています」

 

「勘違い、だと?」

 

「はい。僕は――――貴方達の敵になった覚えはありませんよ」

 

「―――――はぁ?」

 

 

 僕の言葉に及川達の誰か……もしくは全員がそんな言葉を漏らした。

そして次の瞬間、この中で一番僕と関わりのあるアルケニモンが声を荒げて反論して来た。

 

 

「バカ言ってんじゃないよ! アンタは今まで散々ワタシ達の邪魔をしてきただろうに!!」

 

「そ、そうだそうだ! 何度も何度も他の選ばれし子供達と協力してダークタワーやダークタワーデジモンを壊してきただろうが!!」

 

「それについては申し訳ございません。僕にも立場と言うモノがあったので。

……ですが、同時に感謝もされていいと思っています」

 

「感謝だって?」

 

「はい。僕が手を出したせいで現状デジタルワールドに建っているダークタワーの数は減ってしまいましたが、逆を言えばそのお蔭でここまで計画を遅らす事が出来た。アナタが力を取り戻す為に行動出来るようになったこのタイミングまで。そうとは思えませんか? 及川さん……いえ―――――吸血鬼の王よ」

 

 

 僕がそう口にした瞬間、及川の雰囲気が明らかに変わった。

 

 

「……おい、オマエ達。トラックの中で待っていろ」

 

「え、何故で「――――聞こえなかったのか?」……はい」

 

 

 及川の二度目の命令を耳にしたアルケニモンは、掴んだ僕の手を放し、マミーモンを連れてトラックの運転席に戻って行った。

それを確認すると及川……いやヴァンデモンは警戒するような視線で話しかけてきた。

 

 

「……何故分かった?」

 

「……何故と聞かれると答えにくい質問なんですが、敢えて答えるとしたら……ただ知っていただけですよ僕は」

 

「……知っていた、だと?」

 

「はい。――――今から約三年前の1999年8月3日。選ばれし子供達に倒された貴方は、実体を失ってなお生存し、その際に近くに居たデジタルワールドに強い憧れを持つ及川悠紀夫の心の隙間に入り込み、密かに復活の機会を待っていたという事をです」

 

「――――――――」

 

 

 僕の言葉を聞いた及川悠紀夫の姿のヴァンデモンは驚愕を浮かべたような表情を浮かべた。

まさか自分の生存が始めから誰かにばれていたとは思っても居なかったのだろう。

……が、ヴァンデモンが驚くのも当然だろう。何故ならこの情報は本来なら誰一人知り得る筈のない情報なのだから。

 

 

「……仮にそれが本当だとして、ならお前は何故その情報を誰かに話さなかった?」

 

 

 強烈な殺気を出しながらヴァンデモンはそう口にした。

……ヴァンデモンからしたら理解出来ないのだろう。始めから自分の生存を知っていたのに何の行動も起こさなかった選ばれし子供である僕に。

……僕が行動しなかった理由は、始めは原作通りに話を進める為。途中からはヴァンデモンを完全に消滅させるためなのだが当然それを口にするわけにはいかない。

僕は嘘を見破られない様に目を瞑り、腕を組みながら答えた。

 

 

「先程も言いませんでしたか? 僕は貴方達の敵になったつもりは無いと」

 

「……お前は新たに選ばれた選ばれし子供だろうが。ならオレとは敵対する関係の筈だ」

 

「確かに僕は、新たな選ばれし子供の一人に選ばれ、今まで行動してきました。

ですが僕はこちら側に就いたつもりはありませんよ? ……むしろ僕はそちら側に近いと思って貰ってもいいと思っています」

 

「戯言を……!」

 

「貴方がそう思うのも無理もないかもしれません。が、僕はそれを証明出来ます。

――――考えても見てください。僕は今まで一度だって貴方の目的の邪魔をしたことがありますか?」

 

「オマエは散々っ!…………いや、そういう事か」

 

「……はい。僕が今まで散々ダークタワーを破壊し続けたのは、貴方の力が戻って居ないのにデジタルワールドに行こうとする及川悠紀夫の行動を食い止める為でした。

ダークタワー製造機と、キメラモンを倒したのは貴方を通じてアルケニモンから指示があったからです。

完全体ダークタワーデジモンを率先して倒し続けたのは、デジタルワールド側に僕という手札が残っていると知らせる為でした。

選ばれし子供達全員が脅威に対処出来ないとデジタルワールドに判断されたら何らかの勢力が介入する可能性が合ったので。

……後は、デジタルワールドでのダークタワーデジモンはアルケニモン達による暴走だと考えていたのも理由の一つですね。選ばれし子供達を憎んでる貴方がそんな風に選ばれし子供達を消そうとするとは思っていなかったので」

 

 

 ……ここまで何とか違和感なく嘘を続けられているが、ヴァンデモンの表情は未だに晴れなかった。

が、敵意は先程よりも薄くなっている所から少なくとも敵ではないと思われ始めている様だ。

……出任せの言葉の筈なのに違和感なくヴァンデモンに仲間と思われ始めた自分に少し悲しくなりながらも僕はヴァンデモンの言葉を待った。

沈黙が十数秒ほど場を支配した後、ヴァンデモンは試すような目で尋ねた。

 

 

「なら―――――お前の目的は何だ?」

 

「―――――僕の目的は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side選ばれし子供

 

 ゲンナイ達ホメオスタシスと力を合わせどうにかすべての国のデジモン騒動を解決出来た選ばれし子供達は、日本へと帰っていた。時刻は既に0時に近い時間だった。

今回の騒動で、世界中を飛び回り、そして世界中を歩き回った選ばれし子供達はそれぞれが疲れを見せたような表情を浮かべていたが、日本に帰っても誰一人自宅へ帰ろうとしなかった。

理由は……集合場所に守谷が居なかったからだ。

 

 

「……守谷君って先にここに居る筈ですよね?」

 

「……はい。その筈なんですが」

 

 

 痺れを切らした京の言葉に光子郎はそう答えながらも、十数分前から続けている守谷のディーターミナルへのメールの送信を行うが返事は一度も帰って来ることはなかった。

守谷のディーターミナルのアドレスを知るヤマトと空も同じようにメールを送ったが返事は無い。

もしかすると何かあったのではと誰かが口にすると、太一達と一緒に行動していたブイモンが目に見えて動揺し始め、今すぐ走り出そうとした。

そんな闇雲に行動しようとするブイモンをアグモン達が必死に止めていると、遠くの方から足音が聞こえて来た。

0時に近い真夜中の足音に選ばれし子供達は少し警戒しながらその足音の方を見てみると、そこには守谷の姿があった。

 

 

「アマキー!」

 

 

 守谷の姿を目にすると同時に走り出したブイモンに全員は小さく笑いながらも守谷の無事を喜んだ。

対して守谷は、しゃがみ込み、ブイモンの頭を小さくなでると、再びこちらに向かって歩き出した。

……その表情は誰が見ても浮かないモノだった。

 

 

「……皆さん。疲れているのに遅くなってしまってすいません」

 

「馬鹿野郎。お前の方がよっぽど疲れてるだろうが……それで――何かあったのか?」

 

 

 謝罪の言葉と共に頭を下げた守谷に太一はそう返し、尋ねると守谷は――先程よりも深く頭を下げた。

 

 

「…………すいません。先程アルケニモン達と遭遇してしまい、D3とディーターミナルを奪われてしまいました」

 



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049 聖獣の意地

 太一達にD3とディーターミナルを失った事を謝罪した僕は、光子郎に言われるがままその時の状況を嘘を交えながら説明した。話した内容は……

 

・ブラックウォーグレイモンと別れ、集合場所に向かっている時、運悪くトラックに乗っていたアルケニモンとマミーモンと遭遇してしまった。

・二体の姿を見て直ぐに逃げ出しはしたが、今回の騒動の疲れもあって簡単に捕まった。

・その後、デジモンを連れていない事もあり手こそは出されなかったが、D3とディーターミナルを奪われてしまった。

 

 ……以上の話を僕は疲れた顔と申し訳なさそうな表情を浮かべながら話した。嘘がばれない様にする為に。この話はアルケニモン達に見つかってしまった話以外は全部嘘だという事もあり、僕はそれがばれない様に時折顔を俯けながら必死に隠した。

 

 その結果、僕の嘘はばれる事無く全員を納得させる事が出来た。

その後は、今日の疲れもあるからと先にブイモンと共に帰らせてもらえる事になった。

僕は色んな思いから、再び選ばれし子供達に深く頭を下げるとブイモンと共に自宅へと向かった。

……自分の家の場所が把握されない様に真逆の方に歩く事も忘れずに。

 

 

 家に帰る最中何度もブイモンに怪我は無いか、変な事をされてないかと心配されながらようやく家に着いた僕は、今日の疲れもあり、一目散にベッドに倒れ込んだ。

……本当は家に着いたら先程ヴァンデモンに話した会話の内容をブイモンに伝えようと思っていたが……どうやら無理そうだ。

僕はブイモンに一言疲れたから先に寝るよと伝えると、そのまま眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideヴァンデモン

 

 その日の深夜、ヴァンデモンはアルケニモンとマミーモンをいつも通り部屋から遠ざけ、ソファーに腰を下ろしていた。今日手に入れた餌を全て食べ尽くし、かなりのエネルギーを手に入れたヴァンデモンだったが、その表情には一切笑みはこぼれていなかった。

 

 

(……奴は本当に何者なんだ?)

 

 

 奴――守谷天城の正体を暴くべくヴァンデモンは何度も考えを巡らせたが、それらしい答えは全く出なかった。

 

 

(それに奴の目的もそうだ。アレはその場しのぎで言った言葉なのか? それとも――本当に嘘偽り無い言葉だったのか? ……だとしたら相当頭がイカレてやがる)

 

 

 ヴァンデモンは少なくともあの時の守谷天城の発言をそう評価した。

 

 

 

――――――――「なら―――――お前の目的は何だ?」

 

 

 ヴァンデモンが守谷天城に目的を尋ねると、彼はこう返した。

 

「―――――僕の目的は…………支配者を見つける事、ですね」

 

「支配者、だと?」

 

「はい。僕は、世界を――この世界とデジタルワールドを好き勝手に荒らせる存在を待ち望んでいます。

……3年前、一時的とはいえ、貴方がこの東京を支配する姿を見て僕は恐怖どころか感動を覚えました。

だからこそ、貴方が及川という人間に憑依して生き延びている事を誰にも話しませんでした。

僕にとっては貴方はその候補者の一人だったので」

 

 

 あの時は良かったと、懐かしそうな表情を浮かべる守谷天城をヴァンデモンは観察し、結果、理解した。(理解出来なかった)

ヴァンデモンには心を読む様な力は無かったが、言葉の感情を読み取れる力があった。

その力がヴァンデモンに伝えた。『守谷天城は、本当に3年前の出来事を羨む様な、懐かしむ様な感情で思い返していると』

 

 支配を望むヴァンデモンには、支配されるのを望む守谷天城の言葉が理解出来なかった。

……いや、理解しようとも思わなかった。

が、想像とは全く違ったとはいえ、守谷天城が自分に敵対するつもりは無いといった理由が分かったヴァンデモンは純粋に疑問に思った事を尋ねた。

 

 

「オマエがオレの復活を望んでいる事は分かった。

……だがそれならオレ達は同じ目的を持つ同志の筈だ。それなのにオマエは、自分をオレ達側の勢力では無く、オレ達側に近い存在と言った。それはどういう事だ?」

 

「……癇に障ってしまったらすいません。

確かに僕は、貴方が復活し、再び世界を支配しようとする支配者になる事を望んでいます」

 

「…………」

 

「……ですがそれは、あくまで今、貴方が現時点で一番それに近い存在だと思っているからです」

 

「……さっき言ってた候補者の一人がどうやらって話か」

 

 

 ヴァンデモンの言葉に守谷天城はえぇと短く返すと、ポケットからD3を取り出した。

 

 

「貴方にとっては並べられるだけで不愉快かもしれませんが、次点で、選ばれし子供達側の勢力も支配者候補と判断しています」

 

 

「アイツ等が支配者候補、だと?」

 

「はい。確かに選ばれし子供達には貴方と並べる様なカリスマ性はありません。

……ですが彼等は振れ幅こそありますが、純粋に勢力として強いです。

現に一度、究極体となった貴方を倒していますしね」

 

「…………ふん」

 

「だからこそ僕は貴方の復活を待ちながらも、選ばれし子供達側にも敵と思われない様に行動してきました。

どちらが支配者として相応しいかまだ決めかねていますので」

 

「……仮にオレよりもアイツらの方が支配者として相応しいと判断したら?」

 

「――僕よりも頭のいい貴方にそれを口にする必要はありますか?」

 

 

 それ以上は言わせないでくれといった表情で守谷天城はそう返した。

まるでその気になれば自分を簡単に消せると言われたような気がしたヴァンデモンは一歩身を乗り出した。

 

 

「あまりオレを怒らせるなよ? 状況を良く見ろ。

いくらオマエがオレ達の事を把握してようが今のオマエは只の奇妙なガキ一人。

例え切り札を持っていたとしても今なら簡単に殺せるぞ?」

 

 

 全力の殺意を守谷天城に向けながらもヴァンデモンはすぐさま手を出すのではなくまず言葉で意思を示した。

……ヴァンデモン自身まだ決めかねていた。ここで守谷天城を殺すべきか否かを。

選ばれし子供として行動する守谷天城は選ばれし子供達の中でも最大戦力であり、同時に唯一自分に届く刃を持っている可能性がある存在だ。ここで殺してしまえば、選ばれし子供達の中で自分に敵う者は居なくなり、当初の予定通り何の心配もなく力を蓄えられるようになる。

パートナーを連れていない今が最大のチャンスだと言える。

 

……が、ここで守谷天城を殺せば、最初から自分の計画を知っていながらも知らない顔で選ばれし子供達側で暗躍していたこちら側の存在が居なくなり、もしかすれば計画に支障が出るかも知れない可能性があった。

……ヴァンデモン自身、もはや守谷天城がどの時点から自分達の計画に手を貸しているか見当もつかない。

だからこそ今ここで簡単に殺してしまっていいのかと悩んでいた。

 

 ―――――が、どう考えようともヴァンデモンにとって守谷天城は不安要素だった。

ここから先どれだけ上手く話が進もうが、復活する寸前までに裏切られてしまえば計画は水の泡になってしまう。

それなら例え計画に支障が出ようとも、守谷天城はここで殺しておくべきなのでは――――

 

 

「ヴァンデモン。貴方が考えている事は何となくですが分かっています。唯一復活前の貴方の喉先に届く刃を持つ僕を殺すべきか否かを考えているんですよね?」

 

 

 ヴァンデモンが無言で思考を走らせていると、突然守谷天城からそんな言葉を投げかけられた。

自分の考えを当てられたことに少し苛立ちを覚えたヴァンデモンだったが、この状況なら当てられて当然かとすぐさま気持ちを切り替えた。

 

 

「だったらどうした?」

 

「僕はやりたい事が、やらなければならない事が沢山あります。なので死ぬわけにはいきません」

 

「……そんな命乞いが通用するとでも思っ――――?」

 

 

 ヴァンデモンがそう言い終わろうとしたその時、突然守谷天城から何かを二つ軽い速度で投げられた。

突然の行動に驚きながらもヴァンデモンは、冷静にその二つを両手でキャッチし、確認してみると――――そこには選ばれし子供達の力の証ともいえるデジヴァイスのD3とディーターミナルがあった。

 

 

「僕が貴方を裏切らないかと疑っているなら、それを渡しておきます。

それがなければ僕はデジモン達を進化させる事が出来ません。

これで仮に僕が貴方を裏切っても問題なくなったと判断して貰えませんか?」

 

「――――こ、このデジヴァイスが本物だという保証が何処にある?」

 

「デジタルワールドで生まれたデジモンなら……特に暗黒の存在である貴方ならそれが本物かどうかは一目で分かる筈ですが」

 

 

 守谷天城の素早い返しに苛立ちながらもヴァンデモンは、再度手元のD3を確認した。

それは先程も感じたように間違いなく本物のデジヴァイスだということが分かった。

 

 

「これで僕は選ばれし子供としての力を失いました。……一応貴方達が作ったブラックウォーグレイモンが此方側に居ますが、只の子供になった僕のいう事を聞いてくれるか分からない上、仮に聞いたとしても所詮は貴方達が作った出来損ないです。貴方の相手にはならないでしょう」

 

「……お前は自分が今何をしたか分かっているのか?」

 

「選ばれし子供が暗黒のデジモンにデジヴァイスを渡した事を言っているんですか?

……分かっているつもりですよ。これが選ばれし子供達側にとってどれほど罪深い事か。

――――ですが、ハッキリ言って今更ですよ。僕は既に様々な罪を抱えています。

それに現在進行形で僕は貴方達が攫って殺している人間達を見殺しにしています。

――――だからこそ――――」

 

 

 守谷天城はヴァンデモンに背を向け、上を見上げながら話した。

 

 

「今まで犠牲になった人達の為にも、これから犠牲になる人達の為にも、必ず計画を成功させてください。

……貴方が力を完全に蓄え終え、小細工無しに選ばれし子供達を圧倒するその時が来ることを僕も心から願ってます」

 

 

 守谷天城はそう言い残し、その場から去って行った。

ヴァンデモンが読み取った限り、守谷の言葉に嘘は含まれていなかった。

 

 

 

 

 

 昨晩の出来事を思い出しながらヴァンデモンは再度、守谷天城の真の目的が何かを考えたが、結局それらしい答えが出る事は無かった。

 

 

(……まあいい。仮に奴が裏切ったとしてもデジヴァイスは此方にある以上、どうとでもなろう)

 

 

 ヴァンデモンは守谷天城から受け取ったデジヴァイスとディーターミナルを手に持ちながらそう結論を出した。

そして、現状唯一の壁であった守谷天城が戦力外になった事を改めて実感し、不敵に笑みを零しながら体の主導権を本来の持ち主である及川に返し眠りについた。

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side光子郎

 

 

 守谷が先に帰った後、光子郎達も解散する事になったが、光子郎としてはこのまま解散するのは避けたかった。

……が、先程まで世界中を回って全員が疲れている事を光子郎自身も理解していたので、それを口にする事は出来なかった。

 

 何も言い出せないまま選ばれし子供達が帰って行く姿を見送っていると、突然後ろから太一に話しかけられた。

 

 

「――――光子郎、……それにヤマト、この後予定あるか?」

 

 

 

 

 

 その後、太一に言われるがまま光子郎と、その時呼び止められたヤマトと、お兄ちゃんが行くならと着いてきたタケルの三人とそれぞれのパートナーデジモンは八神家に招待され、そこで晩御飯を食べた。

突然の三人と三匹の訪問に太一とヒカリの母は驚きながらも快く出迎えてくれた。

食後、三人はそれぞれの保護者に遅くなると連絡を入れると、太一の部屋に集まった。

その後、ヒカリとテイルモンも太一の部屋にやって来た。

それぞれ和気藹々と先程のご飯について話していたが、頃合いと思ったのか、ヤマトが話を切り出した。

 

 

「――で、俺達を集めた理由は何なんだ? 飯を皆で食べる事が目的じゃないんだろ?」

 

 

 ヤマトの言葉を聞いて、場の空気を察したのか、全員が話を止め、太一の方を見つめた。

そんな全員の反応に対し、太一は視線を光子郎の方に向けた。

 

 

「それについては俺からよりも光子郎の口から聞いた方が良い」

 

「僕ですか?」

 

「ああ。あの時話しにくそうにみんなが帰って行くのを見ていただろ? 何か俺達に言いたい事が合ったんじゃないか?」

 

 

 太一の言葉を聞いて、光子郎は驚愕の表情を浮かべた。

そして同時に、今回のこの集まりは自分の為に用意してくれたものだと察した。

 

 

「そうなんですか光子郎さん?」

 

 

タケルの確認の言葉に光子郎は驚きを抑えられないまま右手でつむじ辺りを掻きながら言葉を返した。

 

 

「……はい。実は皆さんと話し合いたい事があったんですが、疲れていると思って口に出せないでいました。

……よくわかりましたね」

 

「お前とは長い付き合いだからな」

 

「――そうですね。ではあの時話し合いたかった内容をお話しします」

 

 

 光子郎は言って話し出した。

今現在自分達がかなり危うい状況だという事を。

守谷天城という唯一の戦力が力を失い、尚且つ敵もそれを知っているという事は、これから先今まで以上に敵の行動が過激化する可能性が低くないという事を。

 

 

「……確かにそうですね。僕、今日の世界中のデジモン騒動を食い止められて少し気が抜けていてそこまで考えていませんでした」

 

「今回の騒動は、ある意味今までで一番のものでしたから仕方が無いですよ。

……それに今タケル君が言った、今日の騒動に関してですが、改めて考えると分からない事があります」

 

「わからへんコト? それってなんのコトでっか?」

 

「アルケニモン達の目的ですよ。

今回のアルケニモン達は、世界中にダークタワーとデジモンを出現させるという大きな行動を起こしました。

……ですが、僕にはその明確な目的がわかりません」

 

「純粋に、私達の世界を混乱させようとしたんじゃないんですか?」

 

「確かにヒカリさんの言う通りその可能性もあります。ですが僕はそうじゃないと考えています。

今回アルケニモン達は、かなりの行動を起こしたにもかかわらず、結果的にはそれ程この世界にも僕達にも被害を出させる事は出来ませんでした。

……ですがそれは、僕達が頑張ったからなんでしょうか?」

 

「……どういう事だ光子郎?」

 

 

 嫌な予感を感じながら太一はそう尋ねた。

光子郎はゆっくりと太一の方を向きながら真剣な表情を浮かべながら口を開いた。

 

 

「……アルケニモン達は、僕達が被害を抑えられると判断した上で行動を起こした可能性があります」

 

 

 光子郎の言葉にヤマト達は驚愕の表情を浮かべた。

だがそれも当然だろう。自分達が必死に行動して食い止めたと思っていた騒動が、実は初めからそう仕組まれていたと言われたのだから。

 

 そんなヤマト達にそう考えた理由を話すべく光子郎は人差し指を一本立て、言葉を繋げた。

 

 

「僕がそう考えた理由はいくつかあります。

一つは、アルケニモン達がダークタワーデジモンを作らなかった事です。

その気になればアルケニモン達は、デジタルワールドでダークタワーデジモンを大量に作って、こちらの世界に送るという事が出来たはずなのにそれを行いませんでした」

 

「……確かにな。

奴らが一体でもダークタワーデジモンを作って居れば、野生の理性のあるデジモン達とは比べ物にならない程の被害が出ていただろうな」

 

「えぇ。アルケニモン達のいう事を忠実に聞く分、その凶悪性は段違いです」

 

 

 ヤマトの言葉にそう返しながら光子郎は、二本目の指を立てた。

 

 

「二つ目は、アルケニモン達の妨害が一切なかった事です。

忘れていないとは思いますが、アルケニモン達は完全体のデジモンです。

特に今回の様な騒動の中なら、僕達を攻撃するチャンスだって、被害を拡大する機会だって何度もあった筈です。それなのにアルケニモン達は只の一度も僕達の前に現れず、見える範囲で破壊行動をした訳でも無かった。

……まるで僕達の行動に興味が無いと言わんばかりに」

 

「…………それで三つ目は?」

 

 

 目を細めながら光子郎にそう尋ねる太一。

太一は察していた。この三つ目こそが光子郎がこの考えに至った大部分の理由なのだと。

太一の言葉に答えるように光子郎は三本目の指を立てて話し出した。

 

 

「三つ目は……アルケニモン達が日本に居た事です。

皆さんも聞いていたと思いますが、守谷君は昨晩トラックに乗っていたアルケニモン達と運悪く遭遇してしまい、最終的にD3とディーターミナルを奪われたと言っていました。

……この話を聞いて引っかかりませんか?」

 

「……悪いがピンとこない。

…………何かアイツが矛盾した事でも言ってるのか?」

 

「いえ、今回はそういった話では無いです。純粋に守谷君と遭遇したアルケニモン達に関してです。

説明させて頂くと、アルケニモン達は、世界中にダークタワーとデジモンを出現させておきながら、僕達の行動を妨害する訳でも無く、日本でトラックに乗っていました。

そして日本は――僕達が世界へ飛び立った地であり、尚且つ始めに騒動を食い止めた場所です」

 

「――――つまり昨日の騒動は――――!」

 

「……日本で何らかの行動をする為の囮と考えるのが妥当かと」

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騒動から夜が明けた翌日の昼、僕は外に出る訳でも無く家に居た。

……理由は、選ばれし子供達と遭遇しない為だ。

 

 昨日は全員疲れている事もあり、何とかチンロンモンのデジコアについて聞かれなかったが、夜が明けて、頭がさえている今なら確実に没収されてしまうだろう。

……選ばれし子供達目線で言うならその行動は間違いなく正しいのだが、僕としてはそれは絶対に避けなければならない。

 ……このデジコアさえあれば、選ばれし子供達はアルケニモン達に対抗できるようになってしまうのだから。

ヴァンデモンの計画をほぼ進める必要がある僕としてはそれは絶対に避けなければならなかった。

 

 ……だが、だからと言ってこのまま何も考えずに家に引きこもるわけにもいかない。

一応ヴァンデモンにも、力が戻る前に選ばれし子供達を倒さない様にプライドを煽る様な言葉で煽ってはおいたが、だからと言って選ばれし子供達の安全が完全に保証される訳でも無いのだから。

 

 僕は顔が隠れるくらいの深めのフードのコートを身に付けながら、チビモンにリュックに入って貰い、さらに最悪のケースを考え、アレも一緒に入れ、――デジヴァイスを無くしても付いて来てくれると言ってくれたブラックウォーグレイモンにも姿を隠せる服を着て貰って、家を出た。

 

 

 行く宛も無かったので、取り敢えず及川が拠点としている場所に向かって移動していると――――その途中、こちらに向かって逃げてくる人達とすれ違った。

もしやと思い、急いでその場所に向かってみるとそこには――――選ばれし子供達と、アルケニモン達の姿があった。

 

 選ばれし子供達の姿を見た瞬間、僕達は急いで物陰に隠れたお蔭で、どちらにもばれる事は無かった。

……取り敢えずバレずには済んだが、一体どういう状況なんだ?

そう思いながら改めて状況を確認していると、タケルが攫った人を~……っと言っているのが僅かに耳に入った。

……どうやら運が悪い事に、アルケニモン達が人を攫っている瞬間を選ばれし子供達が目撃してしまったようだ。

……これがただ運が良かったのか、それとも選ばれし子供達側での何らかの推理の結果辿り着いた必然かは判断できないが、そんな事はどうでもいい。今は選ばれし子供達がアルケニモン達と遭遇してしまった事が問題だ。

 

 

「……どうするんだ?」

 

「……今、選ばれし子供達を含めても、アルケニモン達と戦えるのは貴方しか居ません。

…………もしも、アルケニモン達が過剰に攻撃してくるような事があったら出て貰ってもいいですか?」

 

「――つまり、多少傷付く程度なら?」

 

「…………ここで選ばれし子供達を必要以上に傷つける気は無い筈です」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの問いに僕はそう返してブラックウォーグレイモンから視線を外し、選ばれし子供達の方を見た。

……恐らくだが、あのトラックには及川も乗っているだろうから、むやみに選ばれし子供達が傷つくような命令は出さない筈だ。

及川は、思考こそは多少は歪んでしまっているが、あくまで只の人間だ。

それに親友である伊織の父が、正義感が強かった事から、原作同様多少はその影響を受けていると考えて間違いないだろう。

…………もう少し、もう少しなんだ。もう少しで及川の、ヴァンデモンの目的が達成される。

その為にこれまで……これから犠牲になる人達の為にも僕は必ずそれを成し遂げなければならない。

不死身と言われるヴァンデモンを確実に消し去る為に……!

 

 これからアルケニモン達に一方的にやられる選ばれし子供達とそのパートナーデジモンに僕は、何度も心の中で謝罪しながら、様子を伺っていると、次の瞬間、予想外の光景を目にした。

横並びになってアルケニモン達に向かって立っていた選ばれし子供達だったが、突然タケルとヒカリ、テイルモンとパタモンを置いて二、三歩後ろに下がったのだ。

どういう事だと内心疑問を浮かべていると、ヒカリが何かを叫んだ瞬間、テイルモンの尻尾が光出した。

いや、違う、テイルモンの尻尾なんかじゃない。アレは――――ホーリーリング!?

 

 僕がその正体に気が付いたと同時に、ホーリーリングから大きな光が二つ飛び出し、パタモンとテイルモンを包み込んだ。

そして光が晴れたその場所には――ホーリーエンジェモンと、エンジェウーモンの姿があった。



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050 対立

二話連続?投稿です。


sideヒカリ

 

 昨晩、私とお兄ちゃんの家で光子郎さん達と作戦会議を行っていた時、突然光子郎さんのパソコンにメールが届いた。差出人はゲンナイさんだった。

内容は簡単にまとめると、私とテイルモンで今すぐチンロンモンに会いに行って欲しいといった内容だった。

突然の要件に私達は当然戸惑ったが、光子郎さんが、

おそらくさっき守谷君がデジヴァイスを奪われたと連絡したので、それに対する対策を考えてくれたんでしょうと説明してくれたので、私達は戸惑いながらもチンロンモンに会いに行くことにした。

 

 私とテイルモン……と、お兄ちゃんとアグモンとタケル君とパタモンと光子郎さんとテントモンとヤマトさんとガブモン……結局その場に居た全員でデジタルワールドに行ってチンロンモンの元に行ってみると、そこにはゲンナイさんの姿もあった。

 

 

「突然呼び出してしまってすまないな、光の紋章に選ばれし子供とその仲間達よ」

 

 

 そう言って謝るチンロンモンに私達は全然大丈夫ですよと返した。

するとチンロンモンの少し前に立っていたゲンナイさんが話し出した。

 

 

「選ばれし子供達よ、よく来てくれた。光子郎君から話は聞かせて貰った。

……彼のデジヴァイスがアルケニモン達に奪われてしまったようだな」

 

「……はい」

 

「そうか。

……それでメールには書いてなかったのだが、チンロンモン様のデジコアはどうなったんだ?」

 

「……現在はどうなったか不明です。守谷君と最後に話した際はその事を聞き忘れてしまっていたので。今、守谷君本人に尋ねようにもディーターミナルも一緒に奪われてしまっているので連絡を取る事すら出来ません。

……確認を取るには守谷君本人が接触して来るのを待つしかないのが現状です」

 

「……チンロンモン様のデジコアがワタシ達にとっての最後の希望である事は彼も理解して居る筈だ。そんな力を選ばれし子供としての力を無くした彼自身が隠し持つ可能性は流石に低いだろう」

 

「……間違ったタイミングで使われたくないので自分で隠し持っている可能性もありますが、現状はデジヴァイスと一緒に奪われたと考える方がいいかと。

……ありもしないモノに頼り切った作戦を立てるのだけは避けたいので」

 

 

 光子郎さんとゲンナイさんがそうやって話し終わると、後ろで話を聞いていたチンロンモンが会話に加わった。

 

 

「――ゲンナイ。やはり彼等にはそれが必要だろう」

 

「……そうですね。分かりました」

 

 

 ゲンナイさんはそう返すと私達――テイルモンの前まで歩いて来て、しゃがみ込んだ。そしてポケットから何かを取り出すと、その手をテイルモンに差し出した。

その手の中には……!!

 

 

「こ、これは――――ホーリーリング!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲンナイさんからホーリーリングを受け取った私達は、翌日、光子郎さんの読み通りいくつか張っていた場所の一つにトラックで現れたアルケニモン達と戦う事になり、早速ホーリーリングの力を使った。

 

――ホーリーリングの力。それは数回だけホーリーリングと相性のいいデジモンを進化させる力。

つまりホーリーリングの力を使えば、私とタケル君は数回だけテイルモンとパタモンを超進化させられるという事だ。

……本来ならもう私達に貸せる力なんて無いのにチンロンモンが無理して用意してくれた最後の力。

決して無駄にすることは出来ない!

 

 完全体に進化した事に驚きの表情を見せるアルケニモンとマミーモン。

……どうやらテイルモン達が完全体に進化する事は予想外だったみたい。

 

 

「ヒカリちゃん! アルケニモン達を絶対にここで食い止めて、攫われた人達を助け出そう!」

 

「えぇ!」

 

「そして黒幕の居場所を聞き出して倒すんだ! 大丈夫、ホーリーエンジェモンとエンジェウーモンならきっと出来るよ!」

 

 

 タケル君の言葉に私も力強く頷いた。

……アルケニモン達を操っている黒幕はほぼ間違いなく暗黒のデジモン。

それなら例え究極体でも、暗黒のデジモンと相性のいいホーリーエンジェモンとエンジェウーモンの二体ならきっと勝てる!

……もう守谷君が無理しなくても私達だけで終わらせてみせる!

 

 

「エンジェウーモン!」

 

「分かった!」

 

 

 私の言葉にエンジェウーモンは察したように頷くと、アルケニモン達の方へ向かって行った。それを見ていたホーリーエンジェモンも続き、完全体二体対完全体二体の戦いが始まった。

 

 戦いは圧倒的に私達が有利だった。

アルケニモン達はやっぱりエンジェウーモン達と相性が悪いのか、終始押されっぱなしだった。

……必殺技を打とうとするたび、攫われた人達が乗ってるトラックの近くによるせいで中々勝負を決められなかったけど、そんな事をしなくてももう勝負が付く事は私達の目にも明白だった。

 

 

「あ、アルケニモン! このままじゃ不味いぜ」

 

「そんな事言われなくても分かってるよ! !? うわぁぁ!!」

 

「アルケニモン!?」

 

 

 一瞬の隙をついてホーリーエンジェモンに蹴り飛ばされたアルケニモンに駆け寄るマミーモン。

二人とも遂にトラックから離れた。

……今がチャンスだね。

……暗黒のデジモンとはいえ、生きているデジモンが死ぬ瞬間を京さんと伊織君に見せる事に躊躇いながらも私が止めの合図を言おうとした時だった。

突如、誰も乗ってないと思ってたトラックの運転席の窓が開いた。

そしてそこから――大人の男の人が顔を出して周りを見回しながら突然叫び出した。

 

 

「――――おい! 近くに居るんだろ!! ……わかった、オマエの事を認めてやる。

オレが世界を支配したその暁にはオマエを右腕に置いてやるから手を貸せ!!

このままじゃオレは、中途半端な状態で力を開放する羽目になるぞぉ!!!」

 

 

 突然の理解出来ない言葉に私達は思わず動けなくなった。

……あの人は何なの? どうしてアルケニモン達のトラックの運転席に座って居るの?

アルケニモン達の仲間なの? それとも操られてるだけなの?

それにさっきの言葉は一体誰に――――

 

 

「ヒカリちゃん!」

 

 

 タケル君の呼び声に私ははっと我に返った。

 

 

「あの人の事は気になるけど、今は取りあえずアルケニモン達を倒そう。

またトラックを盾にされたら厄介だ」

 

「そ、そうね。分かったわ。エンジェウーモン!」

 

「ホーリーエンジェモン! 止めだ!」

 

 

 私とタケル君の言葉にエンジェウーモンとホーリーエンジェモンは力強く頷いた。

 

 

「分かった! 『ホーリーアロー!!』」

 

「『エクスキャリバー!!』」

 

 

 エンジェウーモンは光の弓と矢を出現させてアルケニモン達に向かって放ち、ホーリーエンジェモンは、右手に光の剣を作り出してアルケニモン達に向かって飛び出した。

 ……エンジェウーモンの攻撃を受けたら、今のアルケニモン達なら一撃で倒せる。

もしもなんとか躱せても、その隙をホーリーエンジェモンが切りかかって倒せる筈!

 

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!!」

 

「……せめてアルケニモンだけでも!」

 

 

 エンジェウーモンの放ったホーリーアローと、ホーリーエンジェモンのエクスキャリバーがアルケニモン達に命中――する直前、突如、横から入り込んだ何かに二体の攻撃は防がれた。

 

 

「な――――」

 

「え――――」

 

 

 その光景を目撃した私達は思わずそんな声を上げた。

……信じられなかった。目の前で起こった光景が。

 

 

「……何故だ」

 

 

 誰もが驚愕で声を出せない状態で初めに言葉を出したのはホーリーエンジェモンだった。

 

 

「何故ワタシ達の邪魔をする――――ブラックウォーグレイモン!!」

 

 

 私達全員が、驚愕の表情でブラックウォーグレイモンを見つめる中、ブラックウォーグレイモンは特に表情を変えずに一言返した。

 

 

「同志からの命令でな。悪いがオマエ達の敵に回る事になった」

 

「同志、だと? 一体誰のこ……っく!」

 

 

 ホーリーエンジェモンは続けて尋ねようとしたけど、それを遮るようにブラックウォーグレイモンはホーリーエンジェモンを遠くに蹴り飛ばした。

 

 ホーリーエンジェモンのパートナーのタケル君はその光景を見て、ホーリーエンジェモンを心配する声を上げたけど、私……私達は反応する事が出来なかった。

理由は、ブラックウォーグレイモンの言った同志が誰の事を指すかを考えていたから。

……だけど、本当は考える必要は無かった。

皆本当は一瞬で分かっていた。ブラックウォーグレイモンが言う同志が誰の事を指すのかを。

だけど皆……私はそれを認めたくなかった。いいえ、違う。きっと何かの間違い。

だって彼が私達の敵に回る筈が……

 

 コッ、コッ、コッ。

背後から突然、そんなワザと音を出している様な足跡が聞こえて来た。

不意にそっちを振り向いてみると――そこには下を向いて歩いて来る守谷君の姿があった。

 

 

「……守谷君?」

 

 

 私の言葉に守谷君は反応を見せずに俯いたまま私の所まで来て、通り過ぎた。

そしてトラックの扉の近くまで行くと、私達の方に背中を向けながら顔を上げてトラックの窓の方を見上げた。

 

 

「……予定ではいつ目的が果たせるんですか?」

 

 

守谷君の質問に答える為に、さっきの大人の人がまた窓から顔を出した。

 

 

「明日も同じ人数が集まれば明後日には果たせる予定だ」

 

「……分かりました。なら絶対に明後日に実行してくださいね。

――――今日と明日の足止めは任せてください」

 

「――――ふ! はっはっは!! 任せたぞ!! おいお前等! さっさとトラックに戻れ!」

 

 

 大人の人の言葉を聞いてアルケニモン達はトラックの上に飛び乗った。

そしてトラックは多分さっきの大人の人の運転で走り出した。

 

 

「――!! 待て、逃がさないわ!」

 

 

 それを見たエンジェウーモンは、咄嗟に飛び出してトラックを止めようとしたが、ブラックウォーグレイモンに遮られ、それは叶わなかった。

そしてトラックは私達の見えない場所まで走り去ってしまった。

 

 

「――――どういうつもりだ、守谷?」

 

 

 いつの間にか私とタケル君の位置まで来ていたお兄ちゃんが守谷君にそう尋ねた。

それに対して守谷君は、言葉を返さずに、背負っていたリュックから何かを取り出した。そして後ろからではよく分からない何かをすると、ゆっくりとこっちを振り向いた。

 

 

「――見ての通りです。僕は彼等の方に着く事にしました」

 

 

 そう言い切る守谷君の顔には、初めて会った時に付けていた切れ目の入った仮面が付けられていた。



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051 裏切り者の胸の内

 僕のアルケニモン側に着くという宣言を聞いた数人を除く選ばれし子供達は信じられないといった表情を浮かべていた。

 ……どうやら殆どの選ばれし子供達は僕の事を純粋に仲間と思っていた様だ。

そんな底なしに優しい選ばれし子供達に僕は僅かに喜びながらも、直ぐにその考えをはらった。

 

 

「…………どうやらアルケニモン達は上手く逃げたみたいですね」

 

「……守谷君、冗談だよね? アルケニモン達に着くって?」

 

 

 僕はヒカリの質問に答えずに、ブラックウォーグレイモンに一言、やれと命令した。

その言葉を聞いたブラックウォーグレイモンは、雄叫びを上げながらホーリーエンジェモンと、エンジェウーモンに襲い掛かった。

 

 

 ……選ばれし子供として戦うと決めた当初、僕は、選ばれし子供達とはそれ程関わりを持たないつもりだった。

理由は、原作に影響を与えたくなかったという理由が主だが、他にも理由はあった。

それは、僕自身が選ばれし子供達と敵対するような関係になる可能性があったから。

原作の展開上、D3を手にした時からその可能性はずっと頭に過ぎっていた。

……選ばれし子供達は優しい子供達だ。だからこそ、デジモンアドベンチャーが大好きな僕は、そんな彼等に仲間が敵に回るような思いはさせたくなかった。

 

 ……だというのになんだ。

今僕の視線の先には、僕の想像していたよりもずっと辛そうな、悲しそうな表情を浮かべている選ばれし子供達の姿がある。

 

 

「……取り敢えず全員でブラックウォーグレイモンを止めるぞ!

急げばまだアルケニモンを見つけられる筈だ!」

 

 

 僕が敵に回った事に驚愕の表情を見せなかった内の一人の太一がブラックウォーグレイモンとホーリーエンジェモン達との戦闘を見ながらそう叫んだ。

全員が混乱する中、現状最も優先しなければならないアルケニモン達に連れ去られた人達の事を忘れずに、現状最も有効と思われる手を思い付くとは流石は太一と言えるだろう。

 

 そう、現状デジヴァイスを持たない僕が、選ばれし子供達と真っ向から敵対出来ているのはブラックウォーグレイモンという戦力が居るからだ。

ブラックウォーグレイモンを倒しさえすれば僕は只の裏切り者の一般人に成り下がる。

 

 太一の言葉を聞いてそれに気が付いたのか、またはただ言われた通りに行動しただけなのかは分からないが、残りの選ばれし子供達全員がデジヴァイスを光らせた。

そして成熟期へと進化した、グレイモン、ガルルモン、カブテリモン、バードラモン、イッカクモン、アクィラモン、アンキロモンは一斉にブラックウォーグレイモンに向かって行った。

こうして1対9という一見圧倒的に不利な戦いが始まり、そしてすぐに終わりを告げた。

 

 

「ごめん……」

 

 

 最後に残ったグレイモンは、ブラックウォーグレイモンの一撃を喰らい膝をついていたが、遂に地面に倒れ込みコロモンへと退化した。

……1対9という一見圧倒的に不利な戦いの上、何度かホーリーエンジェモンの攻撃も喰らっていたが、終わってみればブラックウォーグレイモンの圧勝だった。

寧ろ成熟期という中途半端な戦力が複数いたせいでホーリーエンジェモンとエンジェウーモンは思った通りの戦いが出来ていなかった印象だった。

……いや、それ以上に選ばれし子供達が戦いに集中しきれなかったのと、パートナーデジモン達が僕自身見た事が無い程必死過ぎたのが大きかったかもしれない。

 

 

「う、嘘でしょ……」

 

「……ホーリーエンジェモンとエンジェウーモンが居ても勝てないのか」

 

 

 グレイモンが倒れる姿を自分のパートナーを抱きかかえながら見ていた、空と丈は驚愕の声を上げた。

……三年前の戦いを知る者からしたらこの二体が闇の存在に負ける姿が信じられないんだろう。

確かに二体の攻撃力自体は、見た感じかなりのものだったが、ブラックウォーグレイモンの方がスピードがかなり速かったため、状況をひっくり返すような事は起きなかった。

……選ばれし子供達が……いや、タケルが本気でブラックウォーグレイモンを消滅させる気だったのなら話は別だったかもしれない。が、現実はそうではない。

 

 圧倒的有利と思われた状況から大敗したせいで声も出ない選ばれし子供達を背にブラックウォーグレイモンと共にその場から立ち去ろうとした時、後ろから大声で伊織に話しかけられた。

 

 

「守谷さん!! ……貴方は以前、デジタルワールドを救う事が自分の使命だと言っていました! アレは嘘だったんですか!?」

 

 

 予想外にも自分が敵にも回った事を一番怒っている伊織がそう尋ねて来たが、返す言葉が無い僕はただそれを無視してその場から去った。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side選ばれし子供達

 

 あの後、選ばれし子供達は幼年期まで退化した自分達のパートナーを抱きかかえて八神家に集まっていた。

理由は言うまでも無く先程あった出来事を話し合う為だった。

 

 

「…………」

 

 

 だが、せっかく集まったというのに、選ばれし子供達は誰も言葉を発しなかった。

場の空気は今までにない程暗い。

そんな中、全員の気持ちを察した光子郎が、話しにくい空気を壊す為に先陣を切った。

 

 

「……皆さん、取り敢えず先程の出来事をまとめようと思うんですがよろしいですか?」

 

 

 光子郎の言葉に半分ほどが無言で頷いた。

それを見た光子郎は、パソコンを取り出し、情報を打ち込みながら話し出した。

 

 

 

「今回の騒動で、最近この辺りで起きている誘拐事件がアルケニモン達の仕業だという事が確定しました。

……どうやら先日のダークタワーの騒動は、僕達を日本から出すためのものだったようですね」

 

「……成る程、僕達が日本を離れている内に皆を攫う事が目的だったのか。……今回の敵は随分と頭の回る奴なんだね」

 

「そうですね。僕達を強く警戒しているという意味では――ヴァンデモンに並ぶ強敵である可能性が高いですね」

 

 

 丈の言葉に光子郎はかつて自分達を追い詰めたヴァンデモンの事を思い出しながら言葉を返した。

ヴァンデモン……それはかつて光子郎達を追い詰めた強敵。

今までの敵とは全く違い、覚醒前の選ばれし子供を殺しに人間界に行く、東京を霧で封鎖、人間達を集める等の行動を起こして力を高めようとした……等と今までの敵からは考えられない様々な行動を起こしたデジモンだった。

 

 光子郎は今回の黒幕はそんなヴァンデモンに匹敵する程厄介な敵だと考えてえていた。

 

 

「…………ヴァンデモン」

 

 

 ヴァンデモンと言う言葉を聞いてそう呟いたのは、かつてヴァンデモンの手下として行動していたテイルモン。

テイルモン自身、ヴァンデモンには良い思い出は全く無く、それどころかかつて唯一の友だったウィザーモンを殺されたことを思い返し、無意識に両手を強く握っていた。

 

 

「……アルケニモン達が人間達を攫っているのは恐らくヴァンデモンの時と同様力を蓄える為でしょう。

敵が完全に力を蓄え終わる前に何としてでも居場所を付き止めなければいけません。

……ですが、その期限は残念ながら明日が濃厚です」

 

 

「……守谷君があの大人の人と話していた内容から察するに、ですよね?」

 

「……はい。あの人が何者かは分かりませんが、アルケニモン達側である事は明白です。

操られている操られていない以前に、とにかくあの人をアルケニモン達から引き離す必要がありますね」

 

 

 タケルの言葉に光子郎は、そう返すと、場は更に暗い空気で支配された。

……アルケニモン達と一緒に居た人間の大人が重要人物だという事は全員が分かっていた。

本当ならこれからその男について調べるのが、正しい行動だと誰もが理解していた。

だがそれでも選ばれし子供達はそうしようとは思わなかった。いや思えなかった。

――それ以外の出来事のせいでそんな所では無かったから

 

 

「――――そしてブラックウォーグレイモンと、守谷君がアルケニモン側に着いて――――

 

「守谷はそんな奴じゃない!!」

 

 

 光子郎が言い切る前にヤマトがそれを大声で遮った。

 

 

「あいつは……! 無口で普段は何を考えてるか分からない奴だけど……それでも、俺達を裏切る様な奴じゃない!」

 

「私もそう思うわ。

だって……守谷君は今までずっと私達を助けてくれたわ。

キメラモンの時だって、私達を巻き込まない為に嘘を付いてまで自分達だけで戦おうとしてた。

……アルケニモン達に着いたのもきっと何か理由がある筈よ!」

 

 

 ヤマトに続き、空も同じように守谷が敵じゃないと強く主張した。

そんな二人の言葉に、選ばれし子供達の大半は、肯定も否定もする訳でも無くただ俯いた。

選ばれし子供達自身、守谷が本当に敵になったとは完全には思っていなかった。

が、それを表に出すにはあまりに守谷とのやり取りが少なかった上、守谷自身の怪しい行動を目にし過ぎた。

だからこそいくら心では守谷は敵では無いと思っていても、頭が敵である可能性もあると考えてしまっていた。

本当の意味で守谷とのやり取り、思い、覚悟等を聞けたヤマトと空とは状況があまりに違っていた。

 

 ヤマトと空もそれを理解しているのか、最後には、守谷を信じてやってくれといった言葉しか伝えられなかった。

が、そんな場が更なる無言の空気で支配された中、ふと一匹のデジモンが手を上げた。

 

 

「――オイラは信じるよ、モリヤの事を」

 

「プカモン!?」

 

「――ワテもモリヤはんのこと信じてまっせ」

 

「…………モチモンも?」

 

 

 予想外の二体の挙手に他の選ばれし子供達は勿論、そのパートナーである丈と、光子郎は驚いた。

ツノモンや、ピョコモン、コロモンが同意するのは誰もが理解出来る。

彼等もヤマト達と同様守谷と過ごした時間が長い分、そう断言する事に疑問は無い。

故に、プカモンとモチモンがそう思った事に対して誰もが疑問を覚えた。

 

そしてモチモンが手を上げた辺りで、コロモン達も自分達だって守谷の事信じてると挙手したりジャンプしてたりした。最終的に守谷を信じていると口にしたのはパタモンとテイルモンを除く太一達二代目選ばれし子供のパートナーデジモン達だった。

 

 

「……何故オマエ達はモリヤをそこまで信じてるんだ?」

 

 

 迷いなく守谷を信じてると口にするコロモン達にテイルモンは純粋に疑問に思いそう尋ねた。

テイルモン自身も守谷が敵では無いと思ってはいたが、これまでの守谷の言動や行動を見て、もしかしたら敵にまわってもおかしくは無いかもと言った考えが頭に浮かんでしまっていた。

むしろ、ここ最近の守谷の問題に対する対応が早すぎて、もしかしたら初めから……と言った考えまで頭に過ぎってしまっていた。

それなのに自分と違って、真っ直ぐ守谷を信じると言ったコロモン達にテイルモン……いやテイルモン達は疑問を隠せなかった。

 

 そんなテイルモン達の視線を受けながら、プカモンは話し出した。

 

 

「ジョウ達は知らないかもしれないけど、モリヤはオイラ達とだけで話す時は少し普段と違うんだ」

 

「普段と違う?」

 

 

 丈の問いに今度はモチモンが話し出した。

 

 

「せや。プカモンの言う通りモリヤはんは、コウシロウはんらと居る時とワテらと居る時とでちょいと様子が違うんですわ。

ワテらデジモン達と居る時のモリヤはんは、なんというか距離感がちょいとブレブレなんですわ。

話の初めはコウシロウはんらと話す時と同じように距離を取る様な話し方をしとりますが、話を続けてると、偶に言葉使いが優しくなったりするんですわ」

 

「きっとモリヤ君はワタシ達デジモンが好きなの。

……でも普段は無理してそれを抑えてるんだと思う」

 

 

ピョコモンのそんな言葉に選ばれし子供達は純粋にそれが本当ならどうして普段はそれを抑えているのかと疑問を覚えた。

当然の疑問だった。

守谷が味方であるなら、何の気兼ねも無しにデジモンと仲良く話す事など簡単な筈なのだから。

故に、そうでないなら守谷はその時点から……と誰かが考え始めた時、コロモンが真剣な眼差しでピョンピョンと飛び跳ねて、少し前に来て話し出した。

 

 

「……ずっと皆で考えてた事があったんだ。どうしてモリヤはブイモンと二人だけで戦うのかって。

始めの頃はただ一緒に居られない理由があるのか、ただ照れ屋なのかって思ってた。

モリヤが超進化出来るって知ってからは、皆の成長を邪魔しない為なのか、それとも本当は足手まといと思われているのかって思ってた。

……でもなんかそうじゃない気がした。だからずっと理由を考えてた。

――――それで今日のモリヤの行動を見てようやく分かったんだ」

 

「……何が分かったんだ?」

 

 

 太一の質問にコロモンは悲しげな表情で返した。

 

 

「……モリヤは多分、初めからボク達とこうなるって事が分かっていたんだ。

だから僕達とあまり関わろうとしなかったんだ。

――何れ敵対する事になった時にボク達に仲間と戦うっていう悲しい思いをさせない為に」




この回はかなり内容に悩みました。
駆け足ですいません。

次回はちゃんと戦闘描写を入れると思います。


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052 謎の勢力

 選ばれし子供達の前から去った僕達はそのまま家に帰ろうと歩いていたが、ブラックウォーグレイモンが片膝をついて倒れ込んだ。

突然の出来事に僕は当然驚き駆け寄って声を掛けたが、ブラックウォーグレイモンは口では問題ないと返しながらも一向に立ち上がろうとしなかった。

それを見て、状況を重く捉えた僕はブラックウォーグレイモンが再び立ち上がれるようになるまで待ち、立ち上がった後は人通りの少ない路地裏まで歩き、そこで休憩を挟むことにした。

 

 

「…………」

 

 

 路地裏に着くと同時に、壁にもたれたままその場に座り込んだブラックウォーグレイモン。

その姿には先程選ばれし子供達を圧倒した圧倒的な覇気の様なものは感じられなかった。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン、大丈夫?」

 

 

 人通りの少ない場所に来た事でリュックから飛び出してきたチビモンは出てくるやいなや、ブラックウォーグレイモンに駆け寄って行った。

そんなチビモンの言葉にブラックウォーグレイモンは下を向いたまま答えた。

 

 

「……どうやらオレの体はこの世界と相性が悪いらしい。傷の治りがあまりに遅い」

 

 

 そう言って胸の辺りに左手を当てるブラックウォーグレイモン。……よく見ると胸の辺りの装甲にはヒビが入っていた。

……傷の治りが悪いのは確かに、ブラックウォーグレイモンがこの世界と相性が良くないという事も関係しているかもしれないが、それ以上に戦った相手が選ばれし子供達だったというのが大きいだろう。

 

 僕は転生前から選ばれし子供達とそのパートナーが持っている聖なる力にはある力があるのでは無いかと考えていた。

その力とは――敵の回復力を阻害する力だ。

僕がそう考えている理由は、原作で登場した暗黒のデジモンのデビモンやエテモン達を選ばれし子供達以外が倒さなかった事が理由だった。……エテモンはともかく、成熟期のデビモンならデジタルワールド側の戦力でも倒せる可能性がありそうなのにデジタルワールド側はそんな事をしなかった。

……一か所に戦力を集めたくなかったという理由があったのかもしれないが、ともかく僕は選ばれし子供達には強敵に勝つ為、戦っている最中に回復されない様にそういった力があると考えている。

……ダークタワーという無機物から生まれた生きものでは無いブラックウォーグレイモンには特にその影響が強く出ているのかもしれない。

……いや、それだけじゃない。ブラックウォーグレイモンは何も言わなかったが、恐らく昨日の全国を飛び回った疲れも癒えきっていなかったのかもしれない。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン、明日までには戦えるようにな――」

 

 

 最後まで言い切る前にブラックウォーグレイモンに右腕のドラモンキラーを向けられ言葉を遮られた。

 

 

「余計な心配はするな。オマエは自分の目的の事だけ考えていたらいい」

 

「……そうかもしれませんが、それでも……「――――それに」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは強い思いの籠った瞳を僕に向けた。

 

 

「――出来る出来ないではなくオレ達は明日戦わなければならない。そこに勝機は関係ない。そうじゃないのか?モリヤアマキ」

 

 

 いつかブラックウォーグレイモンに言った言葉を返された僕は、それ以上ブラックウォーグレイモンに追及する事は出来なかった。

……そうだ。僕達は明日、何が在ろうがタケル達を止めなければならない。ヴァンデモンが完全復活する為にも、選ばれし子供達の未来の為にも。デジタルワールドの為にも。

 

 

「……そう、ですね。分かりました。これ以上野暮な事は言いません。

ですがそれならせめて今日だけでもデジタルワールドに戻って下さい。

少なくともこの世界に居るよりは傷の治りが早い筈です」

 

「……そうだな」

 

 

 体力の限界なのか、弱弱しい声でそう返しながら空中に浮かび上がったブラックウォーグレイモンは、自身の力を使って空間を歪ませ、デジタルワールドへと続くゲートを発生させた。

 

 

 

「――――――――」

 

「――!! …………」

 

 

 ブラックウォーグレイモンがデジタルワールドに戻る瞬間、呟いた言葉に僕は胸を強く締め付けられるような感覚を覚えた。

 

 

 

『――言われずとも最後の夜、有意義に過ごすさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックウォーグレイモンをデジタルワールドに送った後、僕達は当初の目的通り、自宅へ向かっていた。

……無暗に外を歩いて選ばれし子供達と遭遇したら色々厄介だからね。

色んな出来事があり、ある意味普段よりも疲れている僕は何時もよりも時間を掛けながらも自分の暮らしているマンションの敷地を潜った。その時だった。

 

 

「――ちょっといいかい?」

 

 

 突然、後ろから声を掛けられた。

……声を聞く限りは聞いたことが無い声だったが、もしかすると選ばれし子供達の関係者かも知れない。

僕は警戒しながらその声の方を振り向いてみると――そこには見た事のない大人の男性が立っていた。

 

 大人の男性――というより、少し年を取った容姿をしたその男性は僕が振り返るとゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。そしてポケットから何かを取り出して僕に見せつけてきた。

 

 

「私はこういう者だ」

 

 

 男性が見せつけて来たものは――警察手帳だった。

僕は予想外の展開に思わず理解出来ないといった困惑の表情を浮かべた。

当然だ。僕自身は警察に話しかけられるような事をしたことは――――あった。

……そうだ。僕は昨日、ブラックウォーグレイモンの背中に乗り、顔を隠さずに世界中を飛び回っている。

その際に写真の一枚や二枚、撮られている可能性は非常に高いと言えるだろう。

 

 

 

「ほう、顔付が変わったな。何やら警察に話しかけられる心当たりでもあるのか?」

 

 

 僕が警察に話しかけられた理由に気が付き、無意識に表情を変えた所で男性がそんな風に追及して来た。

……どうやらこの警察官は、僕が昨日の事件の関係者だと確信しているらしい。

 

 

「いえ、心当たりは全くないです」

 

「とぼけても無駄だ。こっちはきみが昨日の怪獣騒ぎの時に、一体の怪獣の背中に乗っている証拠の写真を所持している。きみが怪獣騒動の関係者という事は明白だ……観念したらどうだ?」

 

 

 ……一応とぼけては見たが、どうやらこの警察官は予想通り昨日撮られたであろう写真を持っている様だ。

……ヴァンデモン騒動後ならともかく、こんな早いタイミングで特定させるとは予想外だった。

年齢的に逮捕される事は無いとは思うが、それでも明日の戦いに行けなくなる可能性がある以上ここで連行される訳にはいかない。

どうするべきか……僕はそこまで考え、そして二つの考えを思い付いた。

 

 

「……僕が映った証拠の写真があると言うのなら見せてください」

 

「……なんだと?」

 

「本当に僕が映っていたのなら、署でも何処でも付いて行きます。僕自身も自分が映っている理由を知りたいので。……ですが映っていなかったのなら僕は何処にも付いて行きません。当然ですよね?」

 

「…………」

 

「……見せて頂けますか?」

 

 

 僕の言葉に警察官は無言でポケットから写真を取り出し、僕に見せつけて来た。

僕は内心ビクビクしながらその写真を見てみると――そこには警察官の言う怪獣や、僕の姿なと一切ない只の夜景の光景が映っていた。

 

 

「……今朝、写真のデータを見てみたらこうなっていた」

 

「……つまり僕が映った写真は無いという事ですか?」

 

 

 僕の問いに警察官は悔しそうに肯定の言葉を返した。

……どうやら原作通り、ゲンナイ達ホメオスタシスが昨日の騒動を隠ぺいするために昨日の騒動が記録された世界中のデータを改ざんしたようだ。仕事の速さは流石だと言える。

でもお陰で、僕が警察のお世話になることは避けられそうだ。

これ以上話すことはないと思った僕は警察官に一礼を入れ、その場を去ろうとした。

……が、待てと、再び警察官に呼び止められた。

 

「……まだ何かあるんですか? 言っておきますが証拠がない以上、僕は署には同行しませんよ」

 

「……いや、仮にきみが映った写真が残って居たとしても私達警察はきみを連行するようなことはしなかったさ。……上層部からきみには手を出すなと圧力を掛けられているからな」

 

 

悔しそうにそう呟く警察官。対して僕はその言葉に大きく困惑した。

……僕を捕らえようとした警察官に圧力を掛けた者が居るだと? ……考えても全く心当たりはなかった。

 

 

「……すいませんが、その圧力を掛けたという人? 組織の名前を教えて貰えたりはしませんか?」

 

「独立行政法人国立情報処理局という組織だ。君と関わりがあるんだろ?」

 

「??? ……すいません。もう一度言って貰ってもかまいませんか?」

 

「独立行政法人国立情報処理局だ」

 

「独立行政法人国立…………ですか」

 

 

正直に言って全く心当たりがなかった。

二回名前を聞いてもピンとこない事から、恐らく少なくとも原作でも登場して居ない組織の名前なのだろうが……とにかく全く心当たりはなかった。

……もしかしたらデジタルワールド側の勢力が密かに経営して居る組織なのか?

そんな風に考え込んで居ると警察官が話しかけてきた。

 

 

「……まさか本当に聞き覚えがないのか?」

 

「……すいませんが全く聞き覚えがないです」

 

「……なら望月教授と言う名に聞き覚えは?」

 

「……ない、ですね。もしかして有名な方なんですか? 僕はそういうのには疎くて」

 

「いや、私自身も研究者という事しか知らないから恐らく世間的にはそこまで有名じゃないだろう」

 

 

警察官の言葉に僕はそうですかと返して再び望月教授と言う名に心当たりがないか考えた。

が、先ほどの組織名と同じく全く心当たりはなかった。

 

 

「すいませんが、どうして貴方は先程の組織のことを知らないと言った後、なら望月教授は、と聞いたんですか?」

 

「望月教授は君に話した組織に強く関わりを持つ人で、尚且つ私達警察に組織の名前を使って圧力を掛けたと噂されている人だから、望月教授の名前は知っていると思ったんだが……そうではないようだな」

 

 

警察官はそう呟くと僕に背を向けた。

 

 

「……ともかくそう言った事情がある以上、明確な証拠がない君を私達警察は捕らえる事は出来ない。

が、これだけは忘れないでくれ。君が騒動に巻き込まれる側の立場ならいつでも私達警察を頼ってくれ」

 

 

警察官はそう言い残すと、足早に去っていった。

……何度考えても独立行政…………という名の組織も、望月教授という名にも心当たりはなかった。



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053 歪ませる物VS正す者

side選ばれし子供達

 

 ブラックウォーグレイモンとの戦いに敗れた翌日の昼、選ばれし子供達は再びアルケニモン達を探して町中を捜索していた。……守谷達よりも早く見つける為に。

 

 選ばれし子供達全員は昨日の話し合いで、現在は守谷がアルケニモン側に付いているという現実を認めた。

……どんな理由があるのか、どうしてそうしなければならなかったのか、選ばれし子供達には予想は出来ても答えを出す事は出来ない。

が、本心からアルケニモン達に付いているとはほぼ全員が思っていなかった。

だからこそ選ばれし子供達は、守谷達よりも早くアルケニモン達を見つけ出そうと必死だった。

……守谷が現れる前にアルケニモン達の行動を止める為に。あわよくばアルケニモン達を倒す為に。……これ以上守谷に罪を犯させない為に。

 

 そして捜索の結果、アルケニモン達が現在田町で人さらいをしているという情報を手にし、急いで向かった。

選ばれし子供達が付いた時には、既に必要分の人間を集め終ってこの場からトラックで去ろうとするアルケニモン達――――そして守谷とブラックウォーグレイモンの姿があった。

 

 

「……遅かったか」

 

「……もしかしたらアルケニモン達と連絡を取り合っているのかもしれませんね」

 

 

 守谷達の様子を伺いながら太一と光子郎はそんな会話を交わす。

 兎も角、守谷達が既にアルケニモン達と合流している以上、最初のプランは果たせそうになかった。

こうなった以上、真っ向からブラックウォーグレイモンを止めるしかないだろう。

 

 

 

「――――ここは僕達が」

 

 

 

 昨日と同様ヒビの入った仮面を付けた守谷はアルケニモン達にそう言いながら、選ばれし子供達とアルケニモン達の視線を挟むように立った。

 

 

「足止めは任せたぞ!」

 

「――ボスからの伝言だよ。明日――じゃなく明後日に光が丘に来れば面白いモノが見れるらしいよ」

 

「……明後日? ですか? ……予定では明日の筈でしたが?」

 

「そんな事ワタシが知るかい!

だけど人間を集めるのは予定通りこれで終わりらしいから、今回も頼んだよ!」

 

 

 マミーモンとアルケニモンはそんな言葉を残して足早にこの場から去って行った。

その様子を見て、選ばれし子供達は一瞬、アルケニモン達を追いかける事を考えたが、昨日同様直ぐに考えを改めた。

……ここで下手に背中を見せたら一瞬でやられてしまうと。

 

 

「――――とにかくアルケニモン達の目的は、明後日には果たせるみたいですね」

 

 

 悔しそうにアルケニモンの乗るトラックに視線を向ける選ばれし子供達に守谷はそんな風に話しかけてきた。

 

 

「とあっては、ここで邪魔される訳にはいきませんね。

どうしてもアルケニモン達を追いたいのなら僕達を退けてから向かって下さい。

後、一応言っておきますが、隙を見て追いかけようとは思わないでくださいね?

そんな事をされてしまったら僕達も貴方達を止める為に町に向かって技を使う羽目になってしまうので」

 

 

 長々とそう語る守谷の姿に選ばれし子供達は疑問を覚えた。

……昨日に比べ明らかに守谷の口数が増えていた。

それによく見てみると昨日背負っていたリュックとは違い、かなり丈夫そうなリュックを背負っていた。それに意味があるかは選ばれし子供達も分からないが、少なくとも目に入った。

 

 

 

「……守谷君。私達、本当に戦うしかないの?」

 

 

 ヒカリは悲しそうな表情を浮かべながらも、目には強い思いが籠っていた。

ヒカリ自身も分かっていた。守谷がどう返答するのかを。

だからこそヒカリはこれ以上守谷に負担を、罪を犯させない為に強い思いでここに立っていた。他の選ばれし子供達も同様だった。

 

 

「……言うまでもありません。

貴方達は、アルケニモン達の目的を果たさせない様行動しています。

対して僕達はその逆です。ならもう戦うしかないとは思いませんか?」

 

 

 守谷がそう言うと、守谷の隣に立っていたブラックウォーグレイモンが歩き始め、守谷の前に立った。

……話し合いはここまでという事だろう。

それを見たタケルは一歩前に出た。

 

 

「……ここから先は僕とヒカリちゃんに任せてください」

 

「……ああ。頼んだぞ!」

 

 

 昨日の時点からそうする事に決めていたのか、タケルの言葉に反論を返す者は誰一人おらず、悔しそうな太一の言葉だけが帰ってきた。

 

 

「ヒカリちゃん――やろう!」

 

「――うん」

 

 

 ヒカリの返答と同時にテイルモンの尻尾のホーリーリングが光を放った。

そして光は昨日同様パタモンとテイルモンを包み込み――完全体へと進化させた。

 

 睨み合う世界を歪ませる存在と、世界を正す存在。

――この二組にこれ以上の言葉は必要なかった。

 

 

「ウォォォォオオオ!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは雄叫びを上げながらホーリーエンジェモンに向かってドラモンキラーを突き出しながら飛翔する。

風を切る様な速さのそれにホーリーエンジェモンは内心驚きながらも、右手に聖剣エクスキャリバーを作り出して、ブラックウォーグレイモンの攻撃を受け止めた。

 

 

「……クッ」

 

 

……が、その一撃は想像以上に重く、ホーリーエンジェモンは受け止めたはいいが、それ以上の行動は起こせなかった。ブラックウォーグレイモンはその隙を見逃さずにもう片方のドラモンキラーで突き刺そうとした。

 

 

『ホーリーアロー!!』

 

 

 が、そうはさせないと言わんばかりにエンジェウーモンはブラックウォーグレイモンに光の矢を放ち、ブラックウォーグレイモンはそれを回避すべくホーリーエンジェモンから距離を取った。

 

 ……戦いは始まったばかりだ。まだ互いに決定打になる様なダメージは無い。

だというのにホーリーエンジェモンは僅かに動揺していた。

 

 

「……気を付けろエンジェウーモン。ブラックウォーグレイモンは昨日よりも強いぞ」

 

「――なんですって」

 

 

 ホーリーエンジェモンの予想外の言葉にエンジェウーモンは驚愕の声を上げた。

エンジェウーモンが驚くのも無理はないだろう。

なんせブラックウォーグレイモンは昨日全員で掛かっても勝てなかった強敵だ。それだというのにその時よりも強くなっているというのだ。……たった一日で。

 

 

二体が困惑する中、ブラックウォーグレイモンはそんな事は関係ないと言わんばかりに再び二体にドラモンキラーを突き立てながら何度も接近する。

ホーリーエンジェモンとエンジェウーモンは、迫り来るそれらの攻撃をなんとか躱そうと動き回るが、全ては避けきれなかった。

 

 

「そ、そう言えば前にモリヤが言ってた。

ブラックウォーグレイモンは放って置けばどんどん強くなるって!」

 

 

 そんな二体を視界に入れながら、以前守谷が言っていた事を思い出したゴマモンが全員に聞こえるように大声でそれを伝えた。

それを聞いた選ばれし子供達はその事実に驚愕しながら祈るようにホーリーエンジェモンとエンジェウーモンを応援した。

今彼等に出来る事はそれ位しかなかった。

 

 同じようにゴマモンの言葉を耳にしていたホーリーエンジェモンとエンジェウーモンもその事実に驚きながらも再度戦いに意識を向ける。

しばらくそんな状況が続き、エンジェウーモンがダメージを受け過ぎて地面に膝をついたのを目にしたホーリーエンジェモンは、このまま防戦一方の戦いを続けていては勝ち目はないと悟り、覚悟を決め、戦い方を変える事にした。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン。キミに恨みは無いが――ここで倒させて貰う」

 

「面白い。ならそれが口先だけの言葉じゃないと証明してみろ!」

 

 

 その言葉と同時にブラックウォーグレイモンはホーリーエンジェモンに飛びかかる。

数秒もかからない内に自分のすぐ目の前まで迫ったブラックウォーグレイモンにホーリーエンジェモンは何度目か分からない驚愕を覚えながらも、臆せず右腕のエクスキャリバーを振るう。

それに対してブラックウォーグレイモンは左手のドラモンキラーの先端部で難なくそれを受け止めたが、次の瞬間ジュワっと焦げる様な音が耳に入った。

その音の意味を一瞬で悟ったブラックウォーグレイモンは左手をホーリーエンジェモンのエクスキャリバーごと振り払い、そのまま無防備になったホーリーエンジェモンの腹に全力の蹴りを叩きこんだ。

 

 苦悶の声を上げながら吹き飛んで行くホーリーエンジェモンを尻目にブラックウォーグレイモンは左手のドラモンキラーに視線を向けた。

そこには先端の爪の部分が欠けて……いや溶けているドラモンキラーの姿があった。

 

 

(……どうやら昨日のようにはいかないようだな)

 

 

 ブラックウォーグレイモンは内心そんな事を考えながら、空中で受け身を取ったのか、予想よりも早くエクスキャリバーを掲げて向かって来たホーリーエンジェモンに視線を向ける。

 

 

(昨日の戦いでも、さっきまでの打ち合いでもこうはならなかった。どうやらアイツらの思いの強さによって剣に纏う光の出力が変わるようだ。

……全身が完全に闇の物質のオレにはとことん相性が悪い)

 

 

 内心そんな評価を下しながら、再び自身に迫り来るエクスキャリバーにブラックウォーグレイモンはどう対処すべきが一瞬考えた。が、すぐに考えることをやめた。

 

 迫り来るホーリーエンジェモンのエクスキャリバーを、ブラックウォーグレイモンは当然の様に右手のドラモンキラーで受け止め、ホーリーエンジェモンの動きが止まった瞬間、先端の無くなった左手のドラモンキラーを全力で叩きこんだ。

 

 ……ブラックウォーグレイモンにとって、もはや先の事は考える必要がないものだった。

故にブラックウォーグレイモンは敵のやっかいな武器の事など一切考慮せず、自分が最も好んでいる真っ向からの勝負でホーリーエンジェモンと戦う事にした。

――すくなくともあの技を使われるまでは。

 

 そう決めるとブラックウォーグレイモンの行動は早く、ホーリーエンジェモンを徹底的に追いかけ、何度も何度も両手のドラモンキラーを振るった。

対してホーリーエンジェモンは速さではブラックウォーグレイモンに劣るながらも、左手のシールドと8枚の羽根を上手く使った変則的な飛翔でそれに対抗した。

 

 戦況を傍から見れば有利に見えるのは圧倒的にブラックウォーグレイモンだった。

ホーリーエンジェモンは捌ききれなかったブラックウォーグレイモンの攻撃を何発もくらっていたが、それに対してブラックウォーグレイモンは殆どの攻撃をドラモンキラーで受け止め、直接攻撃を喰らった回数などそれこそ片手で数えれる程だった。

だが実際、有利に戦いを運んでいたのはホーリーエンジェモンだった。

数回しかまともに命中していないが、それ程にホーリーエンジェモンの一撃が重かったのだ。

 

 

「…………」

 

 

 そしてホーリーエンジェモンが有利な理由は他にもあった。

それは今この場で起きている戦いが、ホーリーエンジェモンとブラックウォーグレイモンとの一騎打ちでは無く、もう一体エンジェウーモンという戦力が居る事だった。

そんなエンジェウーモンは、少し離れた所で痛む体を無理やり動かして必殺の矢を構えていた。ブラックウォーグレイモンが隙を見せた瞬間に意識外から攻撃を放つ為に。

 戦いが始まってしばらくしてホーリーエンジェモンは、接近戦が得意ではないエンジェウーモンと二体で正面からの戦いを仕掛けるのは得策では無いと考えた。

だからこそ、ホーリーエンジェモンは、深いダメージを受けたエンジェウーモンを見て、自分よりも相手の方が接近戦が得意だと理解しながらもブラックウォーグレイモンを挑発するような言葉を放って、ブラックウォーグレイモンの意識が自分に向くように仕向けた。

隙を見せたブラックウォーグレイモンにエンジェウーモンが必殺の一撃を当てられるように。

 

 ――そして遂にその時が訪れた。

ホーリーエンジェモンのエクスキャリバーをブラックウォーグレイモンは、既にドラモンキラーが消滅した左手で何とか軌道を逸らしたが、それはブラフと言わんばかりに反対側から振るわれたビームシールドを顔面に叩きこまれ、顔を抑え、よろめきながら数歩分後ろに下がった。

 

 

「――!!『ホーリーアロー!!』」

 

 

 それを離れた位置で目にしたエンジェウーモンは、渾身の思いと声を必殺の弓に注ぎ、ブラックウォーグレイモンの背中に向けて放った。

光の弓は真っ直ぐブラックウォーグレイモンに向かって行き、それにブラックウォーグレイモンも気が付かない。

――勝負あった。その光景を見ていた誰もがそう確信した時、選ばれし子供達にとって想定外の事が起きた。

 

 

 

「――ブラックウォーグレイモン!! 上へ!!」

 

 

 今まで無言で戦いを見つめていた守谷が突然そんな大声を上げた。そしてそれを聞いたブラックウォーグレイモンは小さく舌打ちしながらも無言で従い、上に飛び上がった。

――結果、エンジェウーモンの全力の一撃は空を切る事となった。

 

 

「……皆さん、もしかして忘れていたんですか? 敵はブラックウォーグレイモンだけじゃないということを」

 

 

 呆れていると言わんばかりの声でそう話す守谷。その言葉に選ばれし子供達は悔しそうに俯いた。

……選ばれし子供達は今まで強敵と戦う際、その戦いは基本的に一対複数、または一対一だった。

だからこそ、戦っている相手以外から自分達の行動を妨害されるという事にあまりに慣れていなかった。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン、遊びは終わりです。ここからは僕も口出しします。まずはエンジェウーモンから倒してください」

 

 

 悔しそうに俯く選ばれし子供達を守谷は無視してブラックウォーグレイモンにそんな命令を放った。

ブラックウォーグレイモンはそんな言葉に忌ま忌ましそうな態度を見せながらも、未だ攻撃を避けられて唖然とするエンジェウーモンの元へ向かった。

 

 

「――! させるか!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの動きを見て、いち早く我に返ったホーリーエンジェモンは、8枚の羽根を器用に動かして加速しながらブラックウォーグレイモンを追いかけた。

そんな必死に追いかけるホーリーエンジェモンに守谷はホーリーエンジェモンに聞こえるぐらいのギリギリの声で呟いた。

 

 

「……ホーリーエンジェモン。確かにブラックウォーグレイモンは暗黒の存在です。ですが彼は悪とは言い難い心を持っています。それでも彼は滅びないといけないんでしょうか?」

 

「…………」

 

 

 ホーリーエンジェモンは守谷の言葉に答えずただブラックウォーグレイモンの後を追った。

本来なら追いつけない程のスピードの差がある二体だが、ブラックウォーグレイモンが大きなダメージを受けている事もあり、エンジェウーモンの元に着く前に追いつく事が叶った。

 

 

「チィ!」

 

 

 背後から今日何度目か分からないエクスキャリバーを構えて接近するホーリーエンジェモンの姿を見てブラックウォーグレイモンはそんな舌打ちをしながら、再びドラモンキラーの無くなった左手でそれを受け流そうと構える。……ブラックウォーグレイモンの右手のドラモンキラーはまだ形を保っているが、無くなった際の攻撃力の低下を考えた場合、ここで使う訳にはいかなかった。

だがそんなブラックウォーグレイモンに守谷は再び指示を出した。

 

 

「ブラックウォーグレイモン。右手のドラモンキラーで受け止めてください」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはその言葉を疑うような事をせず、ただ言われた通り、右手のドラモンキラーでホーリーエンジェモンのエクスキャリバーを受け止めた。

先程までならそれだけでブラックウォーグレイモンのドラモンキラーは消滅してしまっていたが、今回はそんな現象は起きなかった。

その事にブラックウォーグレイモン自身も僅かに驚きながら、自分よりも遥かに驚いて隙だらけになって居るホーリーエンジェモンに先程のお返しと言わんばかりに左での一撃を顔面に叩きこんだ。

 

 

「がぁっ!」

 

 

 攻撃を受けて後ろに吹き飛ぶホーリーエンジェモン。

その光景をブラックウォーグレイモンは見届けると、再びエンジェウーモンの元へと向かった。

向かった先で、此方に向かって矢を何発も放つエンジェウーモンの攻撃をブラックウォーグレイモンは楽々躱しながら、懐まで接近すると、全力の蹴りをエンジェウーモンの腹に叩きこんだ。

それをまともに喰らったエンジェウーモンは、既に限界だったのか、地面に倒れ込むよりも早く幼年期のニャロモンへと退化した。

 

 

「ニャロモン!」

 

 

 その光景を目にしたヒカリは、ニャロモンの元へ駆け寄った。

守谷はそんなヒカリとニャロモンに一瞬視線を向けると、再びタケル達に視線を戻した。

 

 

「……エンジェウーモンが戦えなくなった以上、ホーリーエンジェモンだけじゃブラックウォーグレイモンの相手は務まりませんよね? なら勝負ありです」

 

「……まだだ! まだワタシは戦える!」

 

 

 守谷の言葉に反論するようにホーリーエンジェモンは声を上げ、再びブラックウォーグレイモンに向かって行く。ブラックウォーグレイモンは右手のドラモンキラーでその攻撃を受け止め、つまらなそうな表情を見せながら応戦した。

 

 ……戦況は先程までとは違い、完全にブラックウォーグレイモンに向いていた。このまま戦いが続けば、そう時間がかからない内にホーリーエンジェモンは敗北するだろうという事は誰もが理解していた。

だからこそタケルは、その未来を避けるためにも守谷に戦いを止めさせるよう説得することにした。

 

 

「守谷君、止めようこんな戦い! 選ばれし子供達同士で戦うなんて悲しいだけだよ……!」

 

「……それなら今すぐホーリーエンジェモンを連れて家に帰って下さい。そうしたら戦いは終わりますよ」

 

「攫われた人達を放っておく事なんて出来る筈がないじゃない!!」

 

「なら決着が付くまで戦いが終わる事はないですね。残念ながら」

 

 

 京の言葉に守谷はそう返すと、視線をブラックウォーグレイモン達の方に向けた。

もう話す事は無いと言わんばかりに。

 

 

「…………」

 

 

 タケルは今一度考えた。どうして守谷がアルケニモン達側に付いたのか。

……が、結局今考えても答えが出る事は無かった。

――だけどタケルには……いや、タケル達には今回の戦いで分かった事が一つだけあった。

それは守谷が心から自分達の敵になったわけでは無いという事を。

 

 今回の戦いで、ブラックウォーグレイモンは必殺技をただの一度も放たなかった。

使えばもっと戦いを有利に運べたはずなのにブラックウォーグレイモンは直接攻撃以外の攻撃をする事は無かった。間違ってもホーリーエンジェモン達を消滅させるつもりはないと言わんばかりに。

その気遣いを、その優しさを少なくともタケルは感じていた。

――だからこそタケルは覚悟を決めた。

 

 

「――ホーリーエンジェモン、『ヘブンズゲート』だ!」

 

 

 『ヘブンズゲート』……それはホーリーエンジェモン自身の技の中で最強の必殺技。

暗黒の存在を二度と戻ることはできない亜空間へ葬り去る扉を出現させる必殺技だ。

ブラックウォーグレイモンがダークタワーで作られた暗黒のデジモンである以上、この技の効き目が誰よりもある事は明白だった。

だが、タケルもホーリーエンジェモンも今回の戦いでこれを使うつもりは無かった。

……それはタケル達自身、ブラックウォーグレイモンがそこまで悪いデジモンじゃないという事を理解していたからだ。

だがタケルはそれを理解しながらもヘブンズゲートを使う事にした。

……これ以上自分と同じ選ばれし子供が、仲間が……友達が誤った道を歩かない為に。罪を背負わせない為に。

 

 

「――分かった。……ブラックウォーグレイモン。キミには悪いが、これ以上ワタシ達の友に誤った道を進ませる訳にはいかない。……恨むなら好きなだけ恨んでくれ」

 

 

 タケルと同様に覚悟を決めたホーリーエンジェモンは、上空に飛び上がり、右手のエクスキャリバーで空に円を描いた。その瞬間、その円は形となり、扉となって出現し、ゆっくりと開いた。

――――その瞬間、扉から闇を吸い込むとてつもない力が発生した。

 

 

「――ッッ!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは、自分を吸い込む力に対抗すべく全身に力を入れて、その場に踏みとどまろうとしたが、それでも少しずつ門の方に吸い寄せられていた。

 

 

「……これは暗黒の存在を亜空間へ吸い込む技だ。暗黒の存在であるキミはこれに抗う事など出来ない」

 

 

 間違ったモノを吸い寄せないように、ゲートの下でエクスキャリバーを掲げ、門を維持しながら、悲しそうな表情でブラックウォーグレイモンを見つめるホーリーエンジェモン。

そんなホーリーエンジェモンにブラックウォーグレイモンは意味深に呟いた。

 

 

「……確かに聞いていた通りの技だ。万全のオレでも抗うのは難しいだろうな」

 

「? どういうこ―――――

 

 

 ホーリーエンジェモンがそう返そうとしたが、視線の先で起きた驚愕の出来事に言葉が出なかった。

……ヘブンズゲートは暗黒の存在のみを吸い寄せる対闇の存在の技だ。故に間違って味方を巻き込む可能性など0の筈だった。

それなのにホーリーエンジェモンの視線の先には――――扉に向かってまっすく吸い寄せられる守谷天城の姿があった。

 

 

「―――ホーリーエンジェモンッ!!!!!」

 

「――はっ ッ! 間に合えぇぇ!!」

 

 

 タケルの叫びで我に返ったホーリーエンジェモンは、急いで門を閉じるべくエクスキャリバーに力を込めた。

……このままでは守谷が亜空間に葬られてしまう。選ばれし子供達が悲鳴を上げる中、ホーリーエンジェモンは残った全ての力を使ってゲートの開閉スピードを上げ、何とかギリギリの所でゲートを閉じる事に成功した。

その光景を目にした誰もが安堵の息を付いた。

ホーリーエンジェモン自身も誰よりも深い安堵の息を付き、そして吸い寄せられる力が無くなったことで地面に落下し始めた守谷を受け止めるべく慌てて守谷に近づいた。

 

――――そして守谷を受け止める直前、完全に油断していたホーリーエンジェモンの背中をブラックウォーグレイモンはドラモンキラーで切りつけた。



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054 奇跡/絶望

「ホーリーエンジェモン!! 守谷君!!」

 

 

 突如背後からの奇襲を受け、力なく地面へと落ちていくホーリーエンジェモンと、守谷の名をタケルは必死に叫ぶ。

――誰もが想定外だった。まさかホーリーエンジェモンが守谷を助けようとしたこのタイミングでブラックウォーグレイモンが攻撃を仕掛けて来るなんて。

 

 ……ホーリーエンジェモンはともかく、ただの人間の守谷があの高さから落ちたら無事では済まない。

すぐにそう察した太一とヤマトと丈は、すぐさま自分のパートナーを進化させ、着地点に向かわそうとしたが、ブラックウォーグレイモン自身も守谷がけがを負うのは本意では無いのか、それよりも早く落下する守谷を空中でキャッチし、ゆっくり地面に降りた。

 

 一先ず守谷が大怪我をしないで済んだ事に選ばれし子供達は僅かならが安堵の息を付いたが、同時に大きな疑問に頭を悩ませた。

――――どうして守谷がヘブンズゲートの対象になったのか。

が、すぐさま今がどういった状況かを思い出し、いったんその疑問を放り出し、改めて現状を見直した。

……が、状況は最悪だった。

 

 現在の選ばれし子供達の最大戦力であるエンジェウーモンとホーリーエンジェモンが敗れたのだ。相性が極めて良いのにも関わらず。

つい先程までギリギリ完全体の姿を維持していたホーリーエンジェモンも、守谷の無事を確認した事で気が緩んだのか幼年期体のトコモンまで退化してしまっていた。

故にいくらブラックウォーグレイモンがダメージを受けているといっても、現状の選ばれし子供達の戦力ではどう足掻いてもブラックウォーグレイモンを倒す事は出来ないだろう。

――――誰がどう見ても敗者は選ばれし子供達だった。

 

 

「…………」

 

 

 タケルは地面に倒れているトコモンの元に駆け寄り、大事そうに抱きかかえると、無言で、憎む様な視線をブラックウォーグレイモンに向けた。

 いくら自分達がブラックウォーグレイモン一体相手に二体で戦いを挑んでるとはいえ、あのタイミングでの攻撃をタケルは認める事は出来なかった。

思わず、強い非難の言葉を上げようとしたが、それよりも早くブラックウォーグレイモンに声を掛ける者が居た。

 

 

 

「――ナイスタイミングです、ブラックウォーグレイモン」

 

「…………守谷君?」

 

 

 守谷の余りに予想外の言葉にタケルは思わず守谷の名前を呼ぶ。

――そしてその瞬間、タケル達はある事に気が付く。

 

 守谷は先程まで二度も生命の危機に陥っていたというのに声も上げず、驚いたような反応も全く見せなかったと。

まるでそれらの出来事が想定内と言わんばかりに守谷は動揺を一切見せなかった。

 

そこまで考え、選ばれし子供達は想像していた中でも最悪の答えに辿り着き、必死にそれを否定しようとしたが、それよりも早く守谷が言葉を放った。

 

 

「ホーリーエンジェモンの『ヘブンズゲート』は本当に厄介でした。

悪を二度と戻ることはできない亜空間へ葬り去るという特性は本当にブラックウォーグレイモン相手には相性が悪すぎますよ。なんせ、ブラックウォーグレイモンの全身は暗黒の物質であるダークタワーで作られているんですから。

――――だからこそ、使われた時の対策を考えざるをえませんでした」

 

 

 守谷はそう言うと、背負っていたリュックを手前に置き、そこから少し大きめの黒い物体を取り出した。

 

 

「これはブラックウォーグレイモンの体の一部――――つまり100本のダークタワーが集まった物体の一部です。

貴方達には分からないかもしれませんが、これは、これ単体で異常と言えるほどの暗黒のエネルギーを秘めています。――――ヘブンズゲートの効果対象に含まれるほどに」

 

 

「――!! 守谷君、まさかアンタは!!」

 

「――そうです。だからこそ僕はこれをリュックに入れてました。僕自身がヘブンズゲートの対象になる為に。

貴方達なら吸い込まれる僕の姿を見たらヘブンズゲートを閉じると思っていましたから」

 

 

 守谷の話す真実に選ばれし子供達は驚愕で開いた口が塞がらない。

――理解、出来なかった。守谷の狂人としか思えない行動に。

確かに守谷の思惑通り、ホーリーエンジェモンはヘブンズゲートを閉じた。そして恐らく初めからその隙を狙っていたブラックウォーグレイモンに攻撃されて敗れた。

……確かに全て守谷の思惑通りに話は進んでいた。

だけど、それでも……そうだとしても選ばれし子供達は理解出来なかった。

 

 

「……守谷。もしもお前の考えと違ってホーリーエンジェモンがヘブンズゲートを閉じなかったらどうしていた? ……もしもの時は、アルケニモン達から返して貰ったD3で闇の世界のゲートでも開いて逃げるつもりだったんだよな?」

 

 

 誰もが守谷の言葉に困惑する中、ヤマトがそう尋ねる。

ヤマトにとって守谷はまだ、狂ってなんて居ない大事な仲間の一人だった。

怪しさが、見え隠れする点はヤマト自身も認めていたが、それを含めても守谷天城は100%こちら側の存在だと信じていた。

……間違っても正しくない場面で命を掛ける様な奴では無いと思っていた。

 

 そんな思いを抱きながら答えを待ったヤマトに守谷が取った行動は――否定だった。

 

 

「残念ながらD3は預けたままなのでその方法は取れませんね。

……まあ仮に持っていたとしても使うつもりはありませんでしたけどね。

石田さんは勘違いしているかもしれませんが、僕達は普段、D3でゲートを出現させているのではなく、閉じているゲートをD3の力で開いているだけです。そしてそれは暗黒の海へのゲートも一緒です。

そして僕は暗黒の海は、人間界とデジタルワールドに隣接した世界の一つだと思っています。だからこそ双方の世界で暗黒の海へのゲートを開けても、ヘブンズゲートで飛ばされた亜空間では使えないと僕は考えています。

……まあ使えるとしても、亜空間にただの人間が飛ばされた時点で終わりだと思いますが」

 

「だったらお前はもしもホーリーエンジェモンがヘブンズゲートを閉じなかったらどうしてたんだよ!」

 

「……考える必要はありませんよ。何故なら僕は、ホーリーエンジェモンがヘブンズゲートを閉じると確信していましたから。

……いえ、敢えてこう言いましょう。

――僕は貴方達なら助けてくれると信じていましたから」

 

 

 守谷本人からしたら何気ない言葉だったが、選ばれし子供達はその言葉に寒心(ゾッと)した。

守谷が仲間であるという事は大半が認めていた筈なのに、そんな者達すら何故そこまで自分達を信じられるのかと疑問を通り過ぎて無意識であるが恐怖を覚えた。

 

 

「――タイチ!!」

 

「……そうだな。何としてもアイツをここで止めるぞ!」

 

 

 アグモンの呼びかけだけで、アグモンの思いを読み取った太一は、そう言ってデジヴァイスを手に取り、アグモンをグレイモンに進化させる。

そして進化し終えたグレイモンは一直線にブラックウォーグレイモンの元へ向かって行った。

それを目にしたヤマトも行動に出る。

 

 

「ガブモン、みんな! 俺達もやるぞ!」

 

 

 ヤマトの言葉にガブモンやヤマトの言葉に反応出来た選ばれし子供達は頷き、自身のパートナーを進化させグレイモンに続いた。

続いたのは、ガルルモン、イッカクモン、カブテリモン、アクィラモンの4体。

……空と伊織はヤマトの言葉に反応する事は出来なかった。

 

 

「……いくらダメージを負ったとはいえ、雑魚が何体集まろうが無駄だ」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは一瞬体をふらつかせながらも向かい来る5体の成熟期デジモンを正面から向かい受けた。

迫り来る爪、牙、角、羽、炎、電撃といった様々な攻撃をブラックウォーグレイモンは難なく対応し、反撃する。

スピードも万全の時に比べれば落ちていたが、やはり究極体と成熟期の壁は厚く、見る見るうちにグレイモン達の傷が一方的に増える。

そんな光景を目にしながら太一達もグレイモン達を必死に応援するが、その程度で埋まる差では無いことは誰もが理解していた。

 

 そんな光景をただ後ろで見たいたピヨモンも、このままじゃダメだと察し、自分も向かうべく空に話しかけた。

 

「……ソラ、ワタシもみんなと一緒に戦いたい!」

 

「…………」

 

「ソラ?」

 

 

 何も答えない空に疑問を覚えたピヨモンは再び空の名を呼んだが、それに対して空が取った行動は、無言でピヨモンを抱きかかえる事だった。

突然の行動にピヨモンは驚きながら理由を尋ねようと口を開いたが、そこでピヨモンは踏み止まった。

何故なら……ピヨモンを抱きかかえる空の手が震えている事に気が付いたから。

 

 ――空は、先程の守谷の言葉を誰よりも深く理解してしまっていた。

理由は空の持つもっともすばらしい個性、『愛情』が関係していた。

……守谷が敵じゃない事はヤマト同様、空も心から信じていた。だからこそ空自身も守谷にこれ以上罪を重ねさせない為にこの場所に来ていた。いざとなったら自分もピヨモンと共に戦う為に。

……が、その決意は守谷のあの言葉によって揺らいでしまった。

 

 

『――僕は貴方達なら助けてくれると信じていましたから』

 

 

 空は自分の持つ紋章のせいか、選ばれし子供達の中で唯一この言葉に深い愛情、またはそれに似た何かが込められている事を察してしまった。

……ホーリーエンジェモンの必殺技を封じる、ただそれだけの為に命を張った上、助かる保証があのタイミングなら~~~などといったことでは無くただの信頼という名の深い愛情。

……他にも方法はあっただろうにその中から敢えて命を張る方法を取った守谷に空は恐怖を感じてしまった。

……まるで自分と同じ生き物では無いのかとあり得ない疑問を覚える程に。

 だからこそ空はピヨモンを向かわせる事が出来なかった。

 空自身、そんな自分が情けなくて目から涙を流していたがそれでも体は動かなかった。

 

 

「グァゥっっ!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの攻撃で選ばれし子供達のデジモンは一体また一体と倒れていく。

誰もが――空すらもその光景を視界に入れる中、たった一人――伊織はそれを見ずに俯いていた。

 

 伊織は空とは違い、守谷の言葉に込められた思いを察する事は出来なかった。

そんな伊織が今この場所で足がすくんで動けなかった理由は他にあった。

――それは自分の仲間が目の前で、自分達を止める為に無駄に命を懸けたから。

ヘブンズゲートに吸い込まれる事自体が絶対に死に直結するという事実はないが、伊織自身も守谷同様一般人が亜空間に飛ばされたら無事では済まないといった考えを持っていた。

 

 

(……どうして守谷さんはそこまでするのか?)

 

 

 一周回って逆に冷静になった思考で伊織は考えた。どうして守谷が命を張ってまで自分達を止めようとするのか。

自分達を本気で倒すつもりは無い――それはブラックウォーグレイモンが必殺技を一切使わない事から明白だった。守谷はあくまで自分達を撤退させようと戦っている。

なら何故? ――ここで立ち止まっている伊織だけでは無く、太一達も戦いながらその理由を必死に考えていたがその答えは全くでない。

だがそれは当然だと言える。何故なら選ばれし子供達は守谷天城の事を知らな過ぎた。

……選ばれし子供達だけではない。守谷のパートナーであるブイモンも、彼の唯一の血の繋がった家族である祖父さえも本当の意味で守谷天城の事を知って居る者は居なかった。

 

 

(……だけどきっと――――)

 

 

 だが伊織は守谷の狂気じみた行動の理由に心当たりがあった。

その答えに辿り着いた理由は、伊織自身が守谷の事を知っていたからでは無い。

伊織の身近に守谷に似た存在が居たからだった。

 

 

(……守谷さんは自分の行動を正しいと信じている)

 

 

 だからこそどんな事でも、命を張る事も出来るのだと伊織は考えた。

……伊織の身近……伊織の父が命を無くした理由もそれに関係していた。

 

 伊織の父、火田浩樹は警察官で要人警護中に殉職した。

そんな父を伊織自身はハッキリ言ってしまうとあまり覚えていないが、祖父から沢山父の話を聞かせて貰った。

――そんな中、伊織は祖父に尋ねた事があった。どうして父が死んだのかと。

確かに父は当時要人警護中で、要人を守るのが仕事だった。……だが、だからといって実際に命の危険が迫った際にもそれを投げ出さなかった父に伊織は疑問を感じてしまった。当時伊織の父と一緒に警護していた人達は逃げたというのに。

そんな伊織の疑問に祖父は少し困った表情を浮かべながらも真剣な眼差しで答えてくれた。

――命がどうやらではない。お前の父、火田浩樹はその時、それこそが正しい行動だと信じたからだと。

 

 当時、伊織はその言葉に理解は出来ても納得は出来なかった。

――だが今伊織は初めてその言葉に納得出来た。

 

 

「――アルマジモン。守谷さんを止めましょう」

 

「だぎゃ!」

 

 

 伊織の言葉にアルマジモンは返事を返してブラックウォーグレイモンに向かって走り出す。

そんなアルマジモンを伊織はアンキロモンへと進化させる。

 

 

「ぐぁっっ!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンと戦っていた最後の一体であるグレイモンが吹き飛ばされ、コロモンへと退化する。

アンキロモンはそんなグレイモンと入れ替わるようにブラックウォーグレイモンと組み合った。

 

 

「今更雑魚が一体増えようがオレの相手じゃない」

 

 

 ブラックウォーグレイモンと比べかなりの体格差があるというのにアンキロモンは簡単に押し返される。

……だがそんな光景を目にしても伊織は慌てなかった。……むしろ怒りがわいてきた。

 

 ――どうして守谷さんは命を張ってまで自分達を止めるのか――――

   きっとそれが正しい行動だと信じているから。

 ――どうして守谷さんはそうまでして自分一人で抱え込むのか――――

   そうじゃない。そもそも背負える人がいないから。

 ――どうしてそんな事になっているのか――――

   それは自分達がだらしないから。

 

 ……これでは3年前と一緒だ。

自分はまた大切な人を失ってしまう。それも今回は自分のせいで。

……当時、父を置いて逃げ出した人を恨んでいる訳では無い。が、ただ自分はそうならないと決意していた。

そんな自分が結果的に同じように仲間を見捨てる? そんなのは嫌だ!!

 

 

「……守谷さん。僕は絶対貴方を止めて見せます!

それがお父さんに――貴方に報いる正しい行動だと信じていますから!!」

 

 

 ――伊織の思いが、覚悟が定まったその瞬間、伊織のD3が光を放った。

 

 

「――――な」

 

 

 その光はブラックウォーグレイモンと対峙するアンキロモンを包み込みこむ。

 

 

「アンキロモン超進化――――――――ブラキモン!」

 

 

 光が晴れるとそこには新たな完全体デジモンの姿があった。

選ばれし子供達は突然のアンキロモンの超進化に驚愕しながらも心から歓喜した。

 

 誰もが目の前で起きた奇跡に喜ぶ中、たった一人、守谷天城だけが反対の感情を抱いた。

その感情は今までで一番――――自分が主人公(本宮大輔)のD3を手に入れてしまった時の絶望に迫る勢いだった。



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055 決着

投稿が遅くなってしまい申し訳ございません!!
色々とモチベーションが下がる事があり、ここまで投稿が遅れてしまいました。
……それに加え、ブラキモンの戦闘描写が個人的にとても難しかったのも理由の一つですね。
まさかこういう事で躓く事になるとは考えが足りなかったみたいです……


――――火田伊織の紋章無しでの超進化。これを目にした守谷天城は身に付けた仮面の裏側で驚愕を通り越し、絶望の表情を浮かべた。

 

 その絶望は、戦況が悪化したことに対するものでは無い。守谷にとってこの戦い自体の勝敗は意味のないものだ。

なら伊織が原作にない成長をしたことに対するものかといわれるとそうでもない。

今の守谷は昔の様に原作至上主義では無く、伊織が超進化した事自体に対してはマイナスの感情など一切覚えていなかった。

 

 ――――なら守谷天城は何に対して絶望したか。

 それは今更言葉にするまでも無い自分自身の行動に対してだった。

 

 

(…………やっぱり。やっぱり僕は間違っていたのか)

 

 

 かつて守谷はタケル達に、完全体に進化出来るよう修行するように誘導した。

が、それはタケル達が完全体に進化出来るようにする事が本当の目的では無かった。

タケル達が完全体同士の戦いに巻き込まれない様に……関わらない様にする為だった。

……そう。守谷はこの時から口には出さなかったがタケル達が最終決戦までに超進化出来るようになるとは思っていなかった。

 

――――それなのにどうだ。

 今守谷の目の前にはパートナーデジモンがタグと紋章無しで完全体に進化した姿があった。しかも進化させたのは守谷の中でも最も超進化の可能性が低いと考えていた伊織だ。

 

 守谷は選ばれし子供として戦うと決めたその時から迷いながらも今できる最善の事を選んできたつもり(・・・)だった。

だが時折こんな事を考えてしまう事もあった。

――――もしかしたら今自分のやって居る行動は全て間違っているのではないかと。

 

 今までならそれは流石に考えすぎだと疑問を払えていた。

だが今僕はこの目で見てしまった。自分が捨てた、捨ててしまった可能性を。

 

 ――――もしも自分がもっと上手く動けていたら、現状がここまで悪くならなかったのではないかと。

 そして――――もしも自分が出しゃばらなければ選ばれし子供達はパートナーを完全体、下手をすれば究極体に進化出来ていたのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――だぎゃ!」

 

 

 完全体となったアルマジモン――ブラキモンは、進化して更に巨体となった身体ですら身に余る長い首をブラックウォーグレイモン目がけて振るう。

対してブラックウォーグレイモンは、突然の完全体の出現に驚愕を隠せないままその攻撃を回避しようと飛び上がろうとしたが、その巨体からでは考えられない速さで振るわれたその攻撃を回避する事は叶わなかった。

 

 

「……っ!」

 

 

 予想外の速さとダメージに苦痛の声を上げながらも吹き飛ばされたブラックウォーグレイモンは空中で受け身を取り、そしてブラキモンを睨むように観察した。

睨まれたブラキモンもその視線に対抗するように睨み返す。

 

 数秒そのやり取りが続いたが、ブラックウォーグレイモンが視線を外した事でそれは終わりを迎える。

視線を外したブラックウォーグレイモンは、ゆっくりと守谷の隣に着陸した。

 

 

「……どうでしたか?」

 

 

 隣に降りたブラックウォーグレイモンにのみギリギリ聞こえる声量で守谷はブラックウォーグレイモンにそう尋ねる。そしてそんな問いに返された答えは、想定を覆すものでは無かった。

 

 

「詳しくはまだ分からないが――少なくともパワーだけならウイングドラモンを超えてるぞ、ヤツは」

 

「…………そうですか」

 

「どうするんだ? この状況はオマエの想定していたものとは大きく違っている様だが」

 

「…………やる事は変わりませんよ。僕達はここで選ばれし子供達を食い止める。ただそれだけです」

 

「――そうか」

 

 

 守谷の言葉に口元を僅かにニヤ付かせながら守谷の元を飛び立ち、ブラキモンの元へと向かったブラックウォーグレイモン。

そしてブラキモンの10メートル程前に降りたブラックウォーグレイモンは、まだ形の残っている右手のドラモンキラーを突き出すような構えを取った。

 

 

「――――感謝するぞ。最後にオレに全力を出させてくれるオマエ達に!!」

 

 

 咆哮の様な叫びと共にブラックウォーグレイモンは伊織とブラキモンに対し、今日最大の殺気を放つ。

他の選ばれし子供達がその殺気に一歩後ずさる中、そんな殺気に対しても伊織とブラキモンは臆さずに一歩前に出る。

 

 そんな二人を目にしたブラックウォーグレイモンは口元を更に歪ませ――――そして一直線にブラキモンに向かって飛翔した。

 

 ――ブラックウォーグレイモンVSブラキモン

 守谷天城と選ばれし子供達の最後の戦いの幕開けとなった。

 

 風を切る速さで接近するブラックウォーグレイモン。

それに対してブラキモンは先程と同様に長い首を振るう事で対抗する。

先程と同様その巨体からでは考えられない速さでそれは振るわれたが、流石に二度も同じ攻撃は通用しないのか、ブラックウォーグレイモンはその攻撃を最小限の動きで回避してブラキモンの元まで辿り着くと、渾身の力で右手のドラモンキラーで切り付ける。

……が、

 

 

(……ち、硬い)

 

 

 ドラモンキラーによる切り付け攻撃は、まるで硬い石を攻撃したかのように弾かれた。

 

 

「――フン!!」

 

 

 攻撃を弾かれ一瞬ではあるがブラックウォーグレイモンが動きを止めたのを目にしたブラキモンは、今度は右足を振り上げ、ブラックウォーグレイモンに対して振り下ろす。隙を付かれたブラックウォーグレイモンであったがその攻撃も前に飛んで回避に成功する。

 

 

「パワーは一級品だが、避けられない速さでは無いな!」

 

 

 そう叫びながら今度は左手を全力でブラキモンに叩き込んだが、ブラキモンは堪えた様子も無くすぐさま次の攻撃を繰り出した。

が、その後の攻撃もブラキモンには効かなかった。

 

 

(アイツの身体が硬すぎるのか? ……それともオレのパワーが落ちているのか?

どちらにしてもこのままではジリ貧だな。――――だったら!)

 

 

 何度目か分からないブラキモンの踏みつけ攻撃を後方に大きく飛んで躱したブラックウォーグレイモンは、そのままゆっくりと上空へと飛び上がった。

 

 

「もう攻撃は終わりだぎゃ?」

 

「――いや、ここからだ」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはブラキモンの挑発に笑みを浮かべながら返すと両手を空に掲げて、合わせた。

 

 

「さあ、オマエにこの攻撃を攻略出来るか――『ブラックトルネード!!』」

 

 

 身体を高速回転させながら先程よりもずっと早い速さで突撃するブラックウォーグレイモン。

それに対してブラキモンはカウンターを返そうと身構えたが――反応出来なかった。

 

 

「ぅ!」

 

 

 高速回転しながら突撃するブラックウォーグレイモンは、回転の勢いのまますれ違いざまにブラキモンを切りつける。ブラキモンの固い皮膚はまたもやそれを弾き返し、表面上は傷は見えなかったがブラックウォーグレイモンの攻撃はまだ終わりでは無い。

 

 

「まだだ! 『ブラックトルネード!!』」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは、回転を維持したまま何度も何度もブラキモンに接近し、その身体を切り付ける。

――――何度も、何度も何度も。

 

 その度ブラキモンの固い皮膚はその攻撃を弾いたが、下腹に潜り込んで攻撃した際、ブラキモンが今まで見せなかったダメージによる、よろめきを見せた。

ブラキモンの弱点が発覚した瞬間だった。

 

 

「――そこが弱点か!」

 

 

 弱点を見つけたブラックウォーグレイモンは、その場所を執拗に狙い続ける。

――――何度も、何度も何度も。

 その度ブラキモンは、下腹を守ったり、攻撃を振るったりして対抗したが、加速したブラックウォーグレイモンの速さに付いて行く事は出来なかった。

ブラキモンの気持ちに反比例するようにどんどん積み重なるダメージ。

状況を打破するためにブラキモンは必死に策を考えるが何も思い浮かばなかった。

 

 

(このままじゃブラキモンが負ける……)

 

 

 ブラキモンとブラックウォーグレイモンの戦いを最も間近で見ている伊織も何とか状況を打破しようと考えを巡らせるが何の考えも思い浮かばなかった。

 

 

(……何か、何か手がある筈だ。ブラックウォーグレイモンを倒す何らかの方法が!)

 

 

 伊織は諦める様なことをせず何度も何度も考えを巡らせる。

諦める気など欠片も無かった。……いや、諦める訳にはいかなかった。

伊織はなんとなく察していた。この戦いが守谷に自分の覚悟を、想いを伝える最後の機会だと。

だったら、負けが確定していないのに諦める訳にはいかない。

自分は、自分達は守谷と一緒に戦える仲間なのだと本気で伝える為にも諦める訳にはいかないのだと。

 

 そして、諦めずに考え続けた結果、伊織はある方法を思い付いた。

――否、ある事を思い出した。

 

 

「――ブラキモン、『剣道』です!!」

 

「ケンドウ? ――――――――そういうことだぎゃか!!」

 

 

 伊織の言葉の意味を理解したブラキモンは防御を解き、後方に大きく飛んだ。

突然のブラキモンの行動にブラックウォーグレイモンは一度必殺技を止め、上空からその様子を伺う。

そして先程伊織が叫んだ言葉に改めて疑問を浮かべた。

 

 

「ケンドウ、だと? それがお前の必殺技か?」

 

「いいや、ケンドウはイオリ達にんげんの武道のひとつだぎゃ。剣を振って自分を鍛えるんだぎゃ」

 

「ふん、なら剣を持てないオマエには関係のないモノだな。『ブラックトルネード!!』」

 

 

 ブラキモンの言葉に幻滅するようにそう返し、ブラックウォーグレイモンは、再び高速回転しながらブラキモンに迫る。

その攻撃をブラキモンは――大きく飛び上がる事で回避した。

……が、それは周りから見ても決して正しい行動では無かった。

 

 

「――バカめ! 自分の唯一の弱点を露わにするとは早まったな!!」

 

 

 今までは自分の巨体の割に短い、前後の足のお蔭で殆ど隠されていた弱点の下腹だったが、ブラキモンが飛び上がった事でそれが完全に公になってしまった。

ブラックウォーグレイモンがその隙を見逃す訳も無く、ブラックウォーグレイモンは、高速回転したままブラキモンの下腹に突撃した。

 

 

「――っかはぁ……!!」

 

 

 弱点にまともに攻撃を受けたブラキモンは、苦悶の声を上げる。

そんなブラキモンにブラックウォーグレイモンは、つまらなそうな表情を浮かべた。

 

 

「……どうやらオマエはパワーだけの雑魚だったようだな」

 

 

 失望とも取れる視線を浮かべながらブラックウォーグレイモンは、ブラキモンの腹に突き刺した両手を抜こうとしたが、その瞬間、ブラキモンが下腹に全力で力を加えたせいか両手を抜く事が出来なかった。

それに加え、ブラキモンは前後の4本の足でブラックウォーグレイモンの体を抑え込んだ。

 

 

「――なんだと?」

 

「――確かにオレはケンは持てないだぎゃ……。だけどケンドウにはそんな事より大事な事があるだぎゃ」

 

 

 地上でブラキモン達を見上げる伊織はその言葉に同意するように頷く。

 

 

「そうです。剣道の本質は心を鍛える事です!」

 

「そして剣道には強敵を倒すためのこんな極意があるだぎゃ」

 

 

 ブラックウォーグレイモンを掴んだままブラキモンは、その巨体通り物凄い速さで地面に向かって落ちていく。

そこでようやくブラックウォーグレイモンは、ブラキモン達の目的を悟った。

 

 

「「肉を切らせて骨を断つ――それが剣道の極意です(だぎゃ)!!」」

 

「――――は、なるほど……やはりオマエ達はオレの最後の相手に相応しい相手だったようだ」

 

 

 ……自分よりも強い相手には当たり前ともいえる戦法だが、それでもそれを実行する事は難しい。

だからこそそれを躊躇いなく実行したブラキモンにブラックウォーグレイモンは小さな称賛を送ると、そのまま抵抗なく地面へと叩きつけられた。

 



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056 さらば漆黒の竜戦士

 ブラキモンによって地面に叩きつけられたブラックウォーグレイモンは、立ち上がって再び戦闘体勢を取る様な事をせず、地面に大の字で倒れ込んだまま立ち上がろうとしなかった。

 

 そんなブラックウォーグレイモンの姿を見て勝利を確信したかのような反応を見せる選ばれし子供達に反し、伊織とブラキモンは警戒を怠る様なことをせず、ただ無言で見つめる。

 先程まで全力で戦った相手だからこそ分かった。

ブラックウォーグレイモンはまだ戦えると。その気になれば、一度くらい必殺技を使えるくらいの余力は残っていると。少なくとも二人はそう確信していた。

だからこそ、未だに二人は全力の警戒をブラックウォーグレイモンに向ける。

どんな行動を起こされたとしても対応出来るように。

……が、そんな二人に対し、その必要は無いと伝えたのは誰でもないブラックウォーグレイモンだった。

 

 

「そう警戒せずとも既に勝負はついた。お前等の勝ちだ」

 

「……僕にはまだ貴方が戦えるように見えるんですが」

 

「既にオレは戦いに使う体力を使い切った。もうこれ以上お前達と戦うつもりは無い」

 

 

 そう言いながら体を起こすブラックウォーグレイモン。

その姿にもはや先程まで禍々しく放っていた殺気は感じられない。

そこで伊織とブラキモンは、ようやく戦いは終わったのだと悟ってその場にぺたりと座り込んだ。

 

 

「! 伊織くん!! ブラキ……ウパモン!!」

 

 

 伊織がその場に座り込む姿と、ブラキモンがウパモンに退化する様子を目にしたタケルはトコモンを抱えたまま二人の元に駆け寄ったが、伊織は心配ないと言わんばかりに片手を上げた。

 

 

「大丈夫ですよ。ただ少し気が抜けただけです。なんせ先程まで一切気の抜けない戦いだったので」

 

「オレも大丈夫だぎゃ」

 

「そっか。良かった……」

 

 

 二人の言葉にタケルは心の底から安堵の息を付く。

そしてタケルはゆっくりと視線をブラックウォーグレイモンに向けた。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン。僕達は本当に戦わなければならなかったの?」

 

「オレはダークタワーから作られた暗黒の存在だ。オマエ達選ばれし子供達にとってこれ以上ない敵だと思うが?」

 

「……確かにキミは暗黒の存在だ。だけど僕は、君となら分かりあえると思っているんだ。

君は僕達が知ってる暗黒の存在とは全然違うから。だから僕達と――」

 

「――――タケルさん」

 

 

 タケルがブラックウォーグレイモンに手を差し伸べようとしたその行動を止めるように伊織はタケルの名を呼んだ。

タケルは突然の自分を呼ぶ声に驚きながらも視線を伊織の方に向けてみたが、伊織は自分の方を見ておらず、ただ前方を見ていた。

釣られるようにタケルもその方向を見てみると――そこには一歩一歩近づいて来る守谷の姿があった。

 

 

「――――守谷さん…………」

 

 

 伊織の呟きと共に守谷は歩みを止めた。

いや、ただこれ以上選ばれし子供達に近づくつもりが無かっただけかもしれない。

選ばれし子供達の中でも一番守谷に近い位置に居る伊織も闇雲に近づくのは得策では無いと考えているのか、その場から立ち上がりながらも守谷には近づこうとはしなかった。

 

 

「……この戦いは僕達の勝ちです。もうブラックウォーグレイモンに戦闘の意志は無いそうです」

 

「……そのようだな。だか既に僕の目的は果たされている。この戦いの勝敗にそれ程の意味は無い、が……君がパートナーを超進化させる事に関しては想定外だった。

――何が君をそこまでさせた?」

 

「僕はただ……自分の為にも貴方を止めたかった。ただそれだけです」

 

「…………やっぱりそうだったんですね」

 

 

 伊織の言葉に守谷は誰にも聞こえない呟きを漏らすと、何かを決意したかのように視線をブラックウォーグレイモンに向けた。

 

 

「ブラックウォーグレイモン……なんですかその様は?」

 

「…………ふん、目的は果たしたんだから問題は無いだろう?」

 

「…………そうですね。確かにここでの目的は果たされました。

――――つまり貴方はもう用済みと言う事ですよね?」

 

 

 守谷はそう言うと後ろのリュックからブラックウォーグレイモンの体の一部の大きな欠片を取り出し、大きく掲げた。

 

 

「守谷君――何を――ー!」

 

「――――デリート!」

 

 

 何か不吉な予感を感じ取ったヒカリは、守谷と止めるべく声を上げたが、守谷はそれを無視してブラックウォーグレイモンの欠片を地面に叩きつけた。

 

 

「グァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

 それと同時に苦痛の声を上げるブラックウォーグレイモン。

選ばれし子供達は突然の守谷の行動に驚愕しながらも急いでブラックウォーグレイモンに駆け寄る。

――が、そこで選ばれし子供達は目にしてしまった。ブラックウォーグレイモンの体が少しづつ消え始めていることに。ブラックウォーグレイモンがもう助からないという事に。

ふと、守谷が投げつけたブラックウォーグレイモンの欠片に視線を向けてみると、それは綺麗に真っ二つになって居た。

 

 

「…………」

 

 

 守谷はブラックウォーグレイモンが消え始めているのを確認すると、無言で背を向けてその場から立ち去ろうと歩き出しす。

そんな姿を目にしたタケルは怒りのまま守谷に言葉を言い放つが、守谷が歩みを止める事は無かった。

その姿に更なる怒りを覚えたタケルは、守谷を逃がすまいと走り出そうとしたが、行く手を遮られそれは叶わなかった。

タケルはそんな自分の行く手を遮る手を退けようと手を掴んだが、そこで自分を止めた者が何者かを知り驚愕で動きが止まる。

――行く手を遮っていたのはブラックウォーグレイモンだった。

 

 

「……モリヤ…アマキ」

 

 

 先程までのタケルの呼び声とは違い、ブラックウォーグレイモンの呼び声に守谷は歩みを止め、無言のまま仮面を付けた顔で振り返った。

 

 

「……前にオレが言った言葉を覚えているか? 『最期の時、まだオレがお前に掛けれる言葉が残っていたのならオレはそれを言葉にしよう』という戯言を」

 

「…………」

 

「……せっかくその時が来たんだ。宣言通り、オマエに伝えよう。オマエ自身が気付かない闇に。

――――オマエはクズだ。どうしようもない程に。

前にも言った通りオマエは何もかもを犠牲にしてでも自分の役目を果たそうと口にしながらも本気でそれを成し遂げようとはしていない。

……いや、違うな。オマエ自身もその弱さに気付いて居ないのだろうな。

――――とにかくそれに気付かなければオマエは自分が考えている以上の最低最悪の異端者と成り果てるぞ!」

 

 

 そこまで言いかけるとブラックウォーグレイモンは無理して話し過ぎたのか、苦痛の表情を浮かべながらも嘲笑うような声を守谷に向けて言い放った。

ブラックウォーグレイモンの言葉を耳にした守谷は再び背を向けると、足早にこの場を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行ったか」

 

 

 守谷がこの場を去ったのをブラックウォーグレイモンは確認すると、小さくそんな言葉を漏らした。

そんなブラックウォーグレイモンの反応に選ばれし子供達は言葉が出ない。

何故なら、守谷に止めを刺されたというのにブラックウォーグレイモン自身にそれに対する怒りが感じられなかったのだから。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン。貴方と守谷君はどんな関係だったの?」

 

 

 そんな中、ヒカリは言い辛そうにブラックウォーグレイモンに尋ねる。

ブラックウォーグレイモンはそんな質問を鼻で笑いながらも空を見上げながら答えた。

 

 

「何度も言って居る筈だ。アイツとオレは同士……同じ存在だと」

 

「同じ存在と言うのはどういう意味なんだ?」

 

「――どちらも世界にとって存在すべきものでは無いということだ」

 

 

 テイルモンの疑問にブラックウォーグレイモンは当然のことを言うように返す。

が、返された言葉は選ばれし子供達にとってはあまりに想定外の答えだった。

 

 

「信じられないか? ダークタワー100本から作られ、存在するだけで世界を歪ますオレと選ばれし子供である奴が同じ存在だという事に」

 

「そ、それは…………」

 

「フン、まあオマエ達がどう考えようが、少なくとも奴は自分の事をそう考えて行動している」

 

「守谷君が……」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉に何とも言えない表情を浮かべる選ばれし子供達。そんな選ばれし子供達をブラックウォーグレイモンは小さく鼻で笑いながらもふらつきながら立ち上がった。

 

 

「駄目だよブラックウォーグレイモン! そんな体で無理をしたら……!」

 

「意味の無い事を口にするな。オマエも分かっているだろう。オレがもう助からない事ぐらいは」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの口にする真実に、選ばれし子供達はまたもや俯き黙り込む。

誰もが言葉を返せない中、コロモンだけは話したい事があるのか、太一の腕から飛び出した。

 

 

「……だったらキミはどうするつもりなの?」

 

「オレはオレの出来る事を、やりたい事をするだけさ」

 

「……それってもしかしてゲートの封印の事?」

 

「さぁな」

 

 

 アグモンの問いにブラックウォーグレイモンは口元をニヤ付かせながら体を浮かばせ、一言言葉を漏らしてからその場から去って行った。

 

――アイツを頼んだ。という言葉を残して

 



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057 許されない過ち

 遅くなってしまい本当に申し訳ございませんでした。
……個人的に非常に難しい回でしたが、何とか形にする事が出来ました


「――――そうですか。此方だけでは無く、デジタルワールドから光が丘へのゲートも閉じられていましたか……」

 

「うん、完全に封印されてた……すぐ隣にブラックウォーグレイモンのシルエットが刻まれて」

 

 

 光子郎の質問にコロモンは何とも言えない表情を浮かべながら先程自分が確認した事実を伝えた。

 

 ――――選ばれし子供達は戦いの後、何者か――ブラックウォーグレイモンによって、光が丘のデジタルゲートが閉じられた事を知り、現状を把握する為一度光子郎の家に集まっていた。

パートナーデジモンは最近こちらに長く居すぎているという事もあり、一度デジタルワールドに帰って貰い、そのついでに念の為デジタルワールド側からの光が丘のゲートの様子を確認して貰い、結果どちらからも完全に封印されている事が確認できた。

……が、そもそも選ばれし子供達は何故、ブラックウォーグレイモンがこのような行動を取ったのかが理解出来ずに頭を抱えていた。

 

 

「……どうして、どうしてブラックウォーグレイモンは、最後にこんな行動を取ったのでしょうか?」

 

 

 伊織が小さく呟いた言葉に誰も答える事は出来ない。

 

 

「確かにブラックウォーグレイモンはもう助からない程の重傷を負っていました。

ですが、だからと言って最期に僕達の為にこのような行動を取るなんて……僕には理解出来ません」

 

 

 続けて漏らした言葉にも誰もが言葉を返す事が出来なかった。

 そんな沈黙が数秒続くと、光子郎が意味深げに太一の名を呼んだ。

 

 

「……太一さん」

 

「――ああ、そうだな。

――なぁ、コロモン。お前はブラックウォーグレイモンがこんな行動を取った理由に心当たりがあるんじゃないか?」

 

 

 突然の太一の言葉に光子郎を除く選ばれし子供達全員は驚愕の表情を浮かべるが、その言葉を言い放った本人はそれらに反応を見せずにただコロモンを真っ直ぐ見つめていた。

そんな視線を向けられたコロモンは、言いづらそうに太一の目から視線を外しながら肯定するように頷いた。

 

 

「ブラックウォーグレイモンは最初にモリヤと出会った時から約束してたんだ。最期の時、自分の命を封印の為に使うと」

 

「……だったら最後の守谷の行動は……」

 

「……ボク達に悪い奴と思わせるための行動だったと思うよ」

 

 

 コロモンの言葉に選ばれし子供達は俯く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選ばれし子供達との戦いから翌日の朝、目が覚めた僕は隣でぐっすり眠っているチビモンを起こさない様にゆっくりと布団から出ようとしたが、じわじわと昨日自分が行った行動を思い出し、再び横になった。

……どうせ今日僕が取るべき行動は2つあるうちの1つだけだ。それが決まるまではここから動かなくても問題ないだろう。

テレビで情報を集めるという選択肢もあるが……今テレビを付けても流れているのは行方不明になって居る人達に関するニュースばかりだろう。

 

 

(……今はそんなニュースを見ている暇はない。それよりも今考えるべきは今日の行動についてだ)

 

 

 誰に対してかも分からない言い訳をしながら僕は思考を巡らせた。

 

 

(明日までに今僕が出来る行動は2つ。このまま誰にも会わずに家で大人しくしているか、選ばれし子供達に会って、明日の闘いに関して話し合う、もしくはチンロンモンのデジコアを渡すかどうかだ。

……本当ならヴァンデモン達の元に選ばれし子供達が辿り着かない様に見張っておくべきだが、ブラックウォーグレイモンが居なくなった以上、僕が居ても何の意味も無い。

昨日のアルケニモン達の、もう行動はしないという言葉を信じて、僕はアルケニモン達に近づかない方がいいだろう。僕のせいでアルケニモン達の居場所がばれたら意味が無いしね。

 

……とにかく先程思い浮かんだ二択だが、明日の闘いに関して考えるなら後者を選ぶべきだが、後者には大きな問題がある。

それは昨日の僕の行動で僕の信用は地に落ちたということだ)

 

 

「……ブラックウォーグレイモンの脱落は、ヴァンデモンとの戦いの場所をあの想いが強さになる世界にする為には必要不可欠だった。

だけど……だとしてもあの時の僕の行動は……酷いな」

 

 

僕は昨日自分がブラックウォーグレイモンにした仕打ちを思い出し、

胸を痛めながらもその痛みこそが本来自分が常に持つべきものだろうと再認識した。

 

 

(……とにかくあんな行動を取った以上、僕は今後、選ばれし子供達と好意的に接触は出来ないだろう。

だったら明日、敵として対面した際に、油断して居る振りをしてデジコアを奪わせればいいか。

ヴァンデモンの性格を考えれば、究極体に進化した時点で、僕が多少おかしな行動を……いや、堂々と裏切ったとしても怒り任せに攻撃するようなデジモンでは無いか)

 

 

 そう結論をだした僕は、チビモンが起きるまで、と再び目を閉じて眠りについた。

――どうしてヴァンデモンの計画が一日ずれたのかうっすら考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 次に僕を目を覚ましたのはチビモンの声では無く、家に響き渡る固定電話の音だった。

 

 出るのも面倒だと十数秒ほど無視してはみたが、それでも電話は鳴り止まなかったので仕方なく出る事にした。

……漠然とこの行動が大きな分かれ道になる予感を覚えながら。

 

 

「……もしもし、守谷ですが……」

 

「あ、アマキちゃん!? 私だよ私、あまきちゃんのお爺ちゃんの友達の……!」

 

「あ、おばちゃんですか。どうもご無沙汰です」

 

 

 電話の相手は長らく会っていないお爺ちゃんの友達のご老人だった。

……長く相手にするのも面倒なので早々に電話を切ろうと頭を巡らせていると、そこでおばちゃんが必死な声で電話越しに叫んだ。

 

 

「――――あなたのお爺ちゃんが倒れて病院に運ばれたのよ!今も意識不明で眠っているわ!」

 

「――――え?」

 

 

 おばちゃんの突然の言葉に僕は一瞬頭が真っ白になったが、直ぐに冷静になった。

 

 

「そうですか……それは命に関わるんですか?」

 

「……正直かなり危険な状態みたいなの……だから今すぐ来てちょうだい!!

お医者さんが家族の声を聞けば意識が戻るかも知れないって言ってたのよ!」

 

 

 おばちゃんが電話越しで病院の住所を伝える中、僕は覚めた頭でどうするべきか考えていた。

 ……普通に考えるなら行く必要は無いだろう。

 明日の戦いがどうなるか分からないが、もしかすればヴァンデモンから僕のD3を取り返し、チビモンをウイングドラモンに進化させる事が出来るかも知れない。

そうなった場合の事も考え、体力的にも精神的にもチビモンに余計な心配を掛けたくはない。

僕が寝る前に明日は一日中ゆっくり出来ると言ったからか、チビモンはまだ眠っているし、起こすべきでは無いだろう。

……お爺ちゃんは嫌いではないが、最近は僕の事が鬱陶しくなったのか露骨に会いに来なくなった事だし、逆に会いに行かない方がお爺ちゃんの為かも知れない。

 そう結論をだした僕はおばちゃんに一言行けないと伝えて電話を切ろうとしたが、そこでおばちゃんが突然泣き出した。

 

 

「ほ……本当は、貴方のお爺ちゃんに自分に何かあってもアマキちゃんには何も伝えないでくれって頼まれてたの。もしも自分が唐突に死んでも、遺産がすべてアマキちゃんに残るようになってるってことも言ってたわ」

 

「お爺ちゃんが?」

 

「そうなの。それにあの人、4月頃から貴方に会いに行かなくなったでしょ? それも自分が居ない方が良い気がしたかららしいわ。

私はそんな事ないって言ったんだけど、あの人はワシには分かるっていって聞かなくて……」

 

「……そう、だったんですか……」

 

「……でも元々身体がそんなに良くなかったのと、最近の行方不明事件に貴方が巻き込まれていないか、ずっと心配してたわ……言葉には決して出さなかったけど」

 

 

 そう言って電話の向こうで泣き崩れるおばちゃん。

そんなおばちゃんをよそに、僕は転生してから初めてデジモン関連以外の記憶を遡った。

 

――思い浮かぶのは、どんな時でも優しく微笑んでくれ、僕の行動を遮る様な事をしなかったお爺ちゃん。

……当時の僕は、それらを両親が居ない罪悪感からくる行動と冷めた考えを持っていたが、そうでは無かったのだと初めて気が付いた。

きっとお爺ちゃんにとってはそんな罪悪感は二の次だったのだろう。

それよりもお爺ちゃんにとって僕は―――――

 

 

「……おばちゃん、病院の場所、もう一度教えてください」

 

 

 それは僕にとって……守谷天城にとっては正しい行動だったのかもしれない。

だけど、決して、転生者としては……ほんの少し未来の僕からしたら何一つ正しくない行動だった。

 

 

 

 

 

 電話の後、チビモンと共に急いで病院に向かった僕は、ギリギリの所で状況が悪化して手術室に運ばれるお爺ちゃんに声を掛け、その後手術室の前でおばちゃんと共に数時間程待った。

外では夕日が沈むくらいの時間になった頃、手術中の点灯が消え、中から出て来た医者に話を聞くと、なんとか手術が成功したという言葉を聞く事が出来た。

 

 その言葉に自分でも驚くぐらいの喜びの声を上げた僕だったが、一緒に居たおばちゃんにそれが聞かれたという事に少し恥ずかしくなり、その場から抜け出し、行く宛も無かったので、ロビーの自動販売機へと向かった。

 

 ……結局、今日は何も出来なかったがそれなりに良い行動はしたかもしれない、と内心評価していた僕だったが、ロビーにあるテレビを見てそんな浅はかな考えは吹き飛んだ。

 

 

『――昨日より新たに行方不明になっております……くん、……くん、一乗寺賢くん、……ちゃん―――――――――――以上、……名は、恐らく田町で何者かに連れ去られたと予想され―――――――』

 

 

「あぁ――――――あぁ――!!」

 

 

 僕は声にならない奇声を上げながら病院を飛び出した。



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058 集結

投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。
大輔主人公の外伝を書こうかなとふと思って、手を付けようとした結果、両方とも手が付けられないというバカみたいな事になってしまいました。
……やはり外伝作品なんて簡単に手を付けていいものでは無いですね。

そして更新が止まっている中メールをくださった方、本当にありがとうございます。
もうこの作品に興味を失っている可能性があるので、返信はしないことにしましたが、本当に嬉しかったです。本当に本当に嬉しかったです。


 ブラックウォーグレイモンとの戦いから二日後の朝、ミミを除く、太一達二代目と三代目の選ばれし子供達とそのパートナーデジモン達は光が丘へと向かっていた。

 

 目的は勿論、アルケニモン達……いや、その裏に潜むこの騒動の元凶との決着を着ける為に。

 

 

 

「――皆さん、本当にいいんですね?」

 

 

 光が丘に向かう途中、ふと光子郎は立ち止まり、最終確認と言わんばかりに全員にそう投げかけた。

 

 

「皆さんも既に分かってると思いますが、未だにアルケニモン達の目的は定かではありません。

ですが、この前の言動を聞く限りどうやら目的を達する寸前なのは間違いなさそうです」

 

「……今まで散々逃げ回っておきながら、いきなり光が丘に来いっていう点から考えてその可能性が高いだろうな」

 

 

 太一の返答に光子郎は力強く頷く。

 

 

「……そして光が丘には間違いなくアルケニモン達と、この騒動の元凶となる存在……究極体が待ち構えているでしょう。」

 

 

 光子郎の"究極体"という言葉に選ばれし子供達の大半が表情を僅かに歪ませた。

今までの情報から考えて元凶となる存在が究極体という事は誰もが確信している。

……そして、敵が究極体であるならそれに対抗出来るのは現状で、ホーリーエンジェモンとエンジェウーモンとブラキモンの3体だけであることも当然理解していた。

 

 ――――それでも、そうだとしても選ばれし子供達はここに集まっていた。

 

 力の有無では無い。罪悪感でもない。彼等はただ、自分達がやりたいことを成す為に。

 

 そして――――1人で何もかもを背負おうとするバカな仲間(守谷天城)を救う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選ばれし子供達が光が丘に着くと、そこにはまだアルケニモン達の姿は無かった。

……だが、見通しの良い位置で何かを待つように佇む仮面を付けた守谷とチビモンの姿があった。

 

 

「……ヤマト」

 

「……ああ、わかってるよ」

 

 

 選ばれし子供達は念の為、辺りを警戒しながら守谷達に近づくと、チビモンは直ぐに此方に気付いた反応を見せたが、守谷の方は反応を見せず、ただ何処かに視線を向けていた。

 

 そして互いの距離が5メートル位になった辺りで選ばれし子供達は歩みを止めた。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 自分達がここまで接近しても反応を見せない守谷に、選ばれし子供達は何を話せばいいのか分からず、沈黙が続いたが、ふと守谷が視線を向けた。

 

 

「……ここには来ないかもしれないと思っていました」

 

「……アルケニモン達が何かを仕出かそうとしている場所に俺達が来ない訳ないだろう」

 

 

 ヤマトの返答に、守谷は確かにと小さく頷いた。

 

 

「――とにかくお前もここに居るって言うなら俺達と一緒に居ろ。D3は奴らに取られたままなんだろ?」

 

「……ブラックウォーグレイモンにあんな事した僕にまだそんな態度が取れるんですね」

 

 

 呆れたと言わんばかりに僅かに両手を上げる守谷に、ヒカリは悲しみを含んだ表情を浮かべながら一歩近づいた。

 

 

「……ブラックウォーグレイモンは貴方を少しも恨んでなかった。

それどころか、最期に守谷君を頼んだって言ってたの。」

 

 

「……そうか」

 

 

「守谷君……貴方にとってブラックウォーグレイモンはどんな存在だったの?」

 

 

 

 ヒカリは勿論の事、選ばれし子供達も守谷に聞きたい事は山ほどあった。

それでも、それを理解していてもヒカリはこれだけは先に聞いておきたかった。

自分達では決して築けない、歪ながらも自分達に劣らない絆を結んでいた守谷に。

 

 ……正直、聞いた本人であるヒカリ自身も答えが返って来るとは思っていなかったが、

予想外にも守谷は鼻で笑いながらも答えを返した。

 

 

「僕にとってはチビモンを除けば、唯一色んな意味で背中を任せられる存在……だったことは確かだな」

 

「……私達には背中は任せられないの?」

 

「――――僕にそんな資格はないさ」

 

 

 守谷は小さくそう返すと、突然歩きだし、少し離れた木の下の物陰からリュックを取り出し、再び選ばれし子供達の元に戻った。

そして、リュックからーーチンロンモンのデジコアを取り出すと、自分の仮面を取り外しながら選ばれし子供達ーーヤマトと太一にデジコアを差し出した。

 

 

「ーーこれを」

 

 

差し出されたデジコアに二人は僅かに驚きながらも、ヤマトがそれを受け取ると、守谷は安堵の息を付きながらも、真剣な眼差しを選ばれし子供達に向けた。

 

 

「……最後の最後で僕達が戦えないという状況になってしまいましたが、

ゲンナイさんの機転や、火田君の超進化という想定外の追い風もあり、状況は決して悪くないです。

この戦力ならきっと……いえ、必ず奴に勝てます」

 

「奴、ですか? やはり守谷君は、この騒動の黒幕の正体を知っているんですね?」

 

 

 光子郎の問いに、守谷は一瞬目を逸らしながらもコクリと頷いた。

 

 

「……そう、ですね。ここまで来た以上、もう無理に隠す必要はないですね。

ですが約束してください。ここで正体を知ったとしても、僕が合図を出すまでは、絶対に何もしないと」

 

 

「……分かった約束する。皆もそれでいいな?」

 

 

 太一の言葉に、選ばれし子供達は渋々ながらも頷いた。

それを確認した守谷は、ゆっくりと口を開いた。

 

――――この騒動の全ての元凶の正体はヴァンデモンだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら全員お揃いの様だな!」

 

 

 選ばれし子供達が集まってから約10分後、彼等の前に、明らかに歓喜の表情を隠しきれていない人間の大人――及川とアルケニモン、そしてマミーモンが姿を現した。

 

 

「「…………」」

 

 

 及川がヴァンデモンに利用されているだけだと守谷に待ち時間の間に知らされている選ばれし子供達はその姿に何とも言えない表情を浮かべたが、

守谷との約束もある為、それを言葉にする事はしない。だからこそ、及川の言葉には守谷が答えた。

 

 

「……及川さん。一応確認しますが、もう目的が達成出来るんですね?」

 

「――ああ、そうだ! 今日ようやく俺の念願が達成される!! ようやく、ようやくだ!!

ようやく俺は――――デジタルワールドに行く事が出来るんだ!!!」

 

 

 及川の漏らした念願に守谷を除く選ばれし子供達は驚愕の表情を浮かべた。

その姿に及川は怒りの表情を向ける。

 

 

「何がおかしい? 大人の俺がデジタルワールドに行きたいと言って何が悪い!? そもそもお前達――――

 

「……及川さん、小さい頃からデジタルワールドに行きたいと思っていた貴方の気持ちを彼等が理解出来るはずがありませんよ。彼等は『選ばれし子供』なんですから。

…………それより早く、行きましょうよ――『デジタルワールド』に」

 

「――ああ、そうだな!!」

 

 

 守谷のデジタルワールドという言葉で我に返った及川は、歓喜の表情を浮かべながら自身のノートパソコンを取り出した。

 

 

「今現状デジタルワールドに残っているダークタワーの力と俺が集めた人間の――――人間の? 何を言っているんだ俺は? 俺はダークタワー以外には何も……」

 

 

「……及川さん、そんな疑問はこの際どうでもいいでしょう。

デジタルワールドには、貴方が普段アルケニモン達を送る際に開いているゲートをダークタワーの力で歪ませれば行ける筈です」

 

「あ、ああ。そうだな。この際細かい事なんてどうでもいい。

ここをこうして、こうすれば……!」

 

 

 及川はそう言葉に漏らしながら最後に力強くキーを押すと、目の前に巨大なゲートが出現した。

 

 

「うそ!? デジタルワールドへのゲートは、ブラックウォーグレイモンが――――

 

 

 予想外の展開に思わず、選ばれし子供の一人が声を上げるが、その言葉を及川はまるで聞いていない。

 

 

「――や、やった! 開いたぞ!!」

 

 

 

 目の前に開いた巨大なゲートに及川は身を乗り出す様に飛び込んだ。

その後をアルケニモンとマミーモンは、急いで追いかけた。

 

 

「僕達も行きましょう――最後の戦いに」

 

 

 そう言ってゲートに入って行った守谷に選ばれし子供達は続いた。



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059 ヴァンデモンの舞台装置

 及川好きな方……すいません


 及川が出現させたゲートを潜った先――――そこには『異世界』が広がっていた。

命を感じない花が咲き乱れ、異様なオブジェの様な物が浮かび、まるでこの世界を閉じ込めるように四方が鏡の様な壁で阻まれた世界。

 

 その光景に選ばれし子供達は声も出なかったが、一つだけ全員が理解出来た事があった。

それは、この世界が『デジタルワールド』では無いという事だ。

 

 

「な、なんだこりゃ!? ここは一体どこなんだ!?」

 

 

 

 選ばれし子供達と同じようにこの世界がデジタルワールドでは無いと気付いた及川は、必死に辺りを見回してデジタルワールドへの道を探す。

が、そんな道は何処にも見当たらない。

 

 

「どうしてだ……どうしてなんだ!」

 

 

「――――お、及川様、奴らが追いかけて来ましたよ! ……及川様!!」

 

 

自分達の後を追ってきた選ばれし子供達に気付いたアルケニモンが、必死に及川に指示を仰ぐが、返事は帰って来ない。及川は、ただただ頭を抱えながら辺りを見回し続けていた。

 

 

「やっと……やっと来られたと思ったのに――どうして……どうして!!」

 

 

 選ばれし子供達は、自分達が近づいても一切反応を見せない及川に、何とも言えない表情を浮かべながらも、改めて辺りを見回す。

 

 

「本当にこの世界はどこなの?」

 

「どこって……やっぱりデジタルワールドじゃない事は確かね」

 

 

 ヒカリの呟きに、京は現状唯一把握している事実を口に出しながら考えるが、答えは出ない。

そんな京に、光子郎が続けた。

 

 

「……恐らく、ブラックウォーグレイモンの光が丘のゲートの封印が関係しているんでしょう。

そのせいで、全く別の世界に迷い込んだのかと。……そうですよね、守谷君?」

 

「……今はそんな事を気にしている場合じゃないですよ。

皆さん、そろそろ来ますよ」

 

 

 守谷の返答と同時に、及川はフラフラと体を揺らしながらも、異世界の空を見上げた。

 

 

「くぅぅぅ……俺は、俺は――――デジタルワールドに行きたかったのにぃ!!!!

どうして……どうし―――――

 

『クックック……忘れろよ。デジタルワールドなんて』

 

 

 及川が、言葉を続けようとしたその時、それを遮るように空中に謎の大きな口が出現した。

 

 

『もっといい世界がある。ここさ。偶然辿り着いた場所だが、こここそオレが君臨するに相応しい場所。

クックック、素晴らしい世界だ』

 

「お、俺の声の様に聞こえるが、空耳か?」

 

『空耳なんかじゃない。オレはオマエさ』

 

 

「――――ついに姿を現したな、『ヴァンデモン!!』」

 

 

 空中に浮かぶ謎の口が、続いて言葉を続けようとしたが、

それよりも早く耐えきれなくなったテイルモンが、一歩前に出ながらその謎の声の正体の名を呼んだ。

 

 守谷との約束を破るテイルモンの突然の行動に、選ばれし子供達はハッとしながらも守谷の方を向いたが、守谷からの非難の声は無かった。

 

 

「ここまで来たら、もう大丈夫ですよ」

 

 

 小さくそう返した守谷に、選ばれし子供達はホッとしながらも、

気持ちを入れ替え、自身のデジヴァイスを取り出して構えた。

 

 

『……なんだ、既にそいつからオレの正体を聞いていたか。つまらんな』

 

「昔から執念の深い奴だとは思っていたが、ここまでだったとはな……

だが今度こそ闇に葬ってやる!!」

 

 

『無理だな。オレは昔のオレじゃない。それに――――フッフッフ』

 

 

 ヴァンデモンは謎の笑みを浮かべながら、空中に浮かぶ、自身の口の幻覚を消し去る。

すると、今まで半信半疑で話を聞いていた及川が突然、苦しみだし、そして――自身の口から謎のエネルギー体を吐き出した。

 

 謎のエネルギー体は、及川から飛び出すと、集まって形を成し、吐き出した及川と同じ姿になった。

そしてもう一人の及川――ヴァンデモンは、邪悪な笑みを浮かべながら、自身を無理やり吐き出させたせいで今にも命が尽きそうな及川に労いの言葉をかけた。

 

「ここまでご苦労だったな」

 

「あ、ああ……」

 

「オマエのお蔭でオレは奴らに復讐を――デジタルワールドを支配する目的が達成できそうだ」

 

「あ、あ……お、俺のせいで、デジタルワールドが……?」

 

「クックック……! そうだ! オマエのせいだ!!全部オマエのせいだ!!」

 

「そ、そんな……」

 

 

 

 ヴァンデモンの言葉を聞き、絶望した及川は、膝から崩れ落ちる……寸前で、ヴァンデモンに受け止められた。

 

 

「オレはオマエには随分世話になった。その礼と言ってはなんだが、オマエに返してやろう。

――――知れ、オマエの大事な大事な友が、生前守り続けたモノに自分が何をしたのかを」

 

 

 ヴァンデモンのその言葉と共に、及川の封じられた、ヴァンデモンが表に出ていた際の記憶が呼び覚まされる。

 

 ――自分(ヴァンデモン)が、大勢の人間を攫っていた理由を

 ――自分(ヴァンデモン)が、攫った人間に何をしたのかを

 

 

 ――――自分(ヴァンデモン)が攫った人間を襲った時の感触を

 

 

 及川悠紀夫は、声にもならない声を微かに上げながら地面に倒れた。

 



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060 歓喜

 久々の主人公視点です。


side守谷

 

 

「及川さん!」

 

 

 及川さんの口から及川さんの姿をしたヴァンデモンが飛び出した辺りから、動揺で動きが取れなくなっていた選ばれし子供達だったが、地面に倒れた及川さんの姿を見て、初めに我に返ったタケルが駆け寄ろうとしたので、僕は手で行く手を塞いだ。

 

 

「無駄だ。彼はもう長くない。ヴァンデモンが表に出た際にほぼ全てのエネルギーが抜き取られたんだろう。

…………それにヴァンデモンに幻覚を見せられている。

自力で抜け出す体力が無い以上、もう生きている間に正気に戻る事は無いだろう」

 

「…………」

 

「……今お前達が成すべきは、全ての元凶であるヴァンデモンを倒す事。

――――そうだろ?」

 

 

 僕はタケルに半分嘘を付きながらそう促す。

……及川さんには悪いが、もう助からないのは真実だ。

今はそれよりもヴァンデモンを倒す事の方が先決だ。

 

 僕の言葉に渋々ながらも納得したタケルが、

決意を決めた表情を及川さんの姿をしたヴァンデモンに向けると、ようやくかと言わんばかりにヴァンデモンは構えた。

 

 

「――――話し合いは済んだか? ならそろそろ恐怖のショーの始まり……と言いたい所だが、

まずオマエには褒美を与えなければならないな」

 

 

 ヴァンデモンは構えを解きながら、僕の方を見た。

……どうやらまだ僕の事を仲間と思っている様だ。

 

 

「オマエの協力もあり、オレは予定通り計画を遂行する事が出来た。

礼を言おう。オマエには約束通り、オレの右腕の座を与えてやろう」

 

「すいませんが、遠慮しておきます。ここまで来た以上、これ以上貴方に協力するつもりはありません」

 

「――――なに!?」

 

 

 僕の返答があまりに想定外のものだったのか、ヴァンデモンは目を見開いて驚愕の表情を浮かべたが、すぐさま我に返り、今度は困惑の表情を浮かべながら僕に投げかけた。

 

 

「オマエは所詮選ばれし子供。初めから然程の信用などしていない。

…………だが、何故よりにもよってこのタイミングで裏切る?」

 

 

 ……ヴァンデモンが困惑するのも無理はない。

現状、ヴァンデモンは多くの人間達から蓄えた力によって完全復活していて、

少なくとも本人は、選ばれし子供達を正面から倒せる程の力があると思い込んでいる状態だ。

そんな状況で態々僕が裏切る意味が全く理解出来ないのだろう。

 

……つまり、ヴァンデモンが言いたいのは、何故このタイミングで裏切るのか?

裏切るにしてももっと有効なタイミングがあっただろうという事だろう。

……だがそんな事を一々説明するつもりは無い。

 

僕がそうやってヴァンデモンの質問に答えずに頭を巡らせていると、

ヴァンデモンは溜息を付きながらポケットからあるモノを取り出した。

 

 

「あれは――守谷のD3か? ――――何をするつもりだ!!」

 

 

「何って――――こうするのさ!!」

 

 

 ヴァンデモンはそう言うと、僕のD3を思いっきり地面に叩きつけた。

D3は以前僕が地面に投げた時とは違い、粉々に砕け散り、そしてその小さな破片が僕の足元まで飛び散った。

 

 

 

「そんな……ひ、酷い……!」

 

「オレを裏切るからこういう事になるんだ! 黙ってオレに従っていれば返してやったのにな!」

 

 

 

 その光景を目にしたヒカリ達はヴァンデモンの行動に信じられないと言わんばかりの声を漏らしながらヴァンデモンの方を睨む。

が、ヴァンデモンはそれを楽しむかのような笑みを浮かべながら裏切った僕に対して嘲笑うような言葉を向けた。

 

 そんなヴァンデモンに対して僕が取ったのは――大きな溜息だった。

 

 ……正直に言って僕もチビモンもD3が無事に戻って来るなんて思ってはいなかった。

むしろもう二度とお目に掛かれない前提で話し合いを済ませていた。

 

 だからこそ今から僕が取る行動は、自分の為では無く、心底同情するような視線を向ける選ばれし子供達に向けての行動だ。

……僕なんかの心配よりも、目の前のヴァンデモンとの戦いに集中して欲しいからね。

 

 僕は足元の小さなD3の欠片を拾いながら選ばれし子供達の方を振り向く。

 

 

 

「大丈夫ですよ。僕もチビモンもとっくの昔に覚悟していた事ですから」

 

「で、でも守谷君はあんなに選ばれし子供として頑張ってたのに……」

 

「……例えD3を失っても、仮に選ばれし子供じゃなくなったとしても、これまでの僕の行動も、消えたりしませんし、チビモンとの絆がなくなるわけでもないですよ」

 

「オレ達は何があってもパートナーだからね!」

 

 

 京の言葉に僕達はそう返しながらヴァンデモンの方を見つめる。

そんな僕達の反応に、ヴァンデモン自身も僕達の言葉が嘘では無いと感じ取ったのか、

つまらないと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

 

「……今更僕達が戦えなくなったからと言ってこの戦いにそれほど影響は出ないですよ。

貴方を倒す事なんて彼等だけで十分です」

 

「フン、戯言を。――ならオマエ達に絶望を、真の恐怖というものを堪能させてやろう!」

 

 

 ヴァンデモンがそう告げると、次の瞬間、自身の作り出した体を破くように内側から真の姿を現した。

 

 突然の変化に選ばれし子供達は一瞬呆気に取られたが、すぐさま我に返り、自身のパートナーを進化させる。

 太一さんとヤマトさんもヴァンデモンの真の姿を目にし、温存している場合では無いと瞬時に理解したのか、僕が事前に渡したチンロンモンのデジコアを取り出し、その力を使ってアグモン達を究極体――――『ウォーグレイモン』と『メタルガルルモン』へと進化させ、戦闘態勢に入った。

 

 ―――――――1番正気に戻るのが遅かったのは僕の方だった。

 僕は、目の前の状況に絶望こそしなかったが、心底驚愕した。

そして、最後の最後。原作のラストバトルというこの状況で初めて――――原作改変が、いい方に転んだ事を理解して思わず口元をにやつかせた。

 

 正体を現したヴァンデモンの真の姿は、

僕が想定していた原作の最後のヴァンデモンの最終形態――『ベリアルヴァンデモン』では無く、

その下位互換と呼べる究極体『ヴェノムヴァンデモン』だった。



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061 圧倒

……お久しぶりです。言い訳はしません。
取りあえず何話分かはタメが出来たので2話分投稿します。

休載中に下さった感想に関しての返信は後ほどゆっくり返答したいと思います。




 遂に真の姿を現したヴェノムヴァンデモンに初めに向かって行ったのは、やはりというべきか、ウォーグレイモンとメタルガルルモンの二体の究極体だった。

 二体はそれぞれ左右から挟むように、進化して手にした速さと飛行能力でヴェノムヴァンデモンに接近する。

 それを目にしたヴェノムヴァンデモンは、接近する二体に対し、200メートルを超える巨体とは思えない速さで長い両手を振るい、それを阻止する。

 

 

「ウォーグレイモン!! 分かってるとは思うが、奴の本体は腹部の顔だ!

そこを狙え!」

 

「お前達のスピードで奴を翻弄するんだ!!」

 

「「分かった!!」」

 

 

 太一とヤマトの指示に二体は力強くそう返すと、再びヴェノムヴァンデモンに向かって行く。

 それに対しヴェノムヴァンデモンは、先程と同じ様に両手を振るってそれを阻止しようとしたが、それは叶わなかった。

――何故ならウォーグレイモンとメタルガルルモンが突如速さを増したからだ。

 

 

「ナンダト!?」

 

「――――何故かは分からないけど、これまでに無いくらい力が溢れてくる――!」

 

「ああー―これなら絶対に負けない!!」

 

 

 突然の変化にヴェノムヴァンデモンは勿論、ウォーグレイモン達自身も驚愕していたが、

悪い変化では無いと瞬時に判断したのか、それ以上考える素振りは見せず接近を続け、

ヴェノムヴァンデモンの本体前まで来ると、それぞれその速さを乗せた渾身の一撃を本体に叩きこむ。

 

 

「ウォォォォ……ッッ!」

 

 

 重い一撃を受けたヴェノムヴァンデモンは、呻き声を上げながらも追撃を喰らわそうとする二体に、

腹部の本体から『カオスフレイム』を吐き出すが、

ウォーグレイモン達はそれを上空へ飛び上がる事で回避する。

 

……が、その回避先にはヴェノムヴァンデモンの振り下ろされた腕があり、

二体はそれをまともに受け、そのまま地面に叩きつけられそうになるが、

なんと両者とも空中で静止し、それぞれの手を力技で跳ね除けた。

 

 

 

「すごい! あの時の戦いよりもずっとウォーグレイモン達が押してる!」

 

「あの時は、初進化だったし、それから経験も積んでるしね!

……でもなんだかいつもよりメタルガルルモン達が強くなってる気がする」

 

 

 3年前の戦いの時に比べ、二体だけで有利に戦っている現状にヒカリは純粋に喜び、

太一を始めとする選ばれし子供達の何人かは、喜びながらも多少違和感を覚えているようだった。

 ……自分達に有利な変化でも楽観視せずに違和感を覚えるなんて流石だと思いながらも、僕はその理由を説明した。

 

 

「君達光の存在……選ばれし子供とそのパートナーデジモンは、この世界では想いの強さが力となって現れる」

 

「想いの強さが力に……ですか?」

 

「はい。この世界ではパートナーデジモン自身は勿論の事、

僕達選ばれし子供の想いが強ければ強い程、パートナーデジモンが強化されます。

――それこそ成熟期でも究極体と渡り合えるようになるほどに」

 

 

 僕の言葉に選ばれし子供達は驚愕の表情を浮かべた。

……驚愕するのは当然だろう。

選ばれし子供達視点では偶然辿り着いた筈のこの世界が、

実は自分達にのみ力を与えてくれる世界だなんて都合のいい話、驚かない方が無理がある。

……いや、もしかすると半数以上は半信半疑かも知れない。

 

 

「皆さんが信じられないのも無理もないです。ですが真実です。

だからこそ僕は、この場所を最後の戦いの舞台に選びました」

 

「……その為に守谷君は、ブラックウォ…………いえ、今僕達が優先すべきは、ヴァンデモンを倒す事、そうですね、太一さん?」

 

 

 「……ああ、そうだな」

 

 

 僕の言葉に光子郎は、小声で何か口ずさんだかと思うと、次は釘を刺すような確認の言葉を太一に投げかけた。

そんな光子郎の言葉に太一は、俯きながらそう返すと、視線をウォーグレイモン達の方へと戻した。

 

 

「ホルスモン!」

 

「了解ですミヤコさん!――『テンペストウィング!!』」

 

 

 京の言葉に答えるように放たれたホルスモンの攻撃は、普段とは比べ物にならない規模の風の竜巻となりヴェノムヴァンデモンに襲い掛かる。

 ウォーグレイモンとメタルガルルモンの対応に追われていたヴェノムヴァンデモンは直前までそれに気付かずまともに受け、苦悶の声を上げた。

――アーマー体であるホルスモンの攻撃が、究極体であるヴェノムヴァンデモンに対してだ。

 

 

「……どうやら本当に異常なレベルでパワーアップしているみたいですね」

 

「そうみたいですなコウシロウはん。

なら早くワテ等もウォーグレイモン達の元に向かった方がええんとちゃいます?」

 

 

「……いえ、ウォーグレイモン達のサポートは、ヴァンデモンと相性が良いホーリーエンジェモンとエンジェウーモン。そして純粋に地力のあるブラキモン達に任せて、

僕達はアルケニモン達が場を荒らさない様に行動しましょう」

 

 

 光子郎の言葉に選ばれし子供達は頷き、そしてそれぞれの敵の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本格的に戦闘が始まってからしばらく経ったが、戦況は既に完全に選ばれし子供達側へと傾いていた。

アルケニモンとマミーモンは既にダウンしており、ヴェノムヴァンデモン自身も既にボロボロだ。

……ウォーグレイモン達にも疲れは見えるが、ここまで来たら押しきれるだろう。

 

 

「そろそろ、か」

 

 

 ……僕自身、戦いが有利になるようこの場所に来る事を最優先で行動していたが、

まさかここまで上手く話が運ぶとは思わなかった。

ここまで圧倒出来ているのは完全にヴァンデモンが原作と違い

ベリアルヴァンデモンに進化出来なかった事に尽きるだろう。

……まさか最後の最後に原作改変に助けられるとは思わなかった。

…………まあこの戦いが終わっても僕がやるべきことはまだまだ残ってるけどね。

 

 

『グレートトルネード!!』

 

「グ、グォォォーーー!!」

 

 

 ウォーグレイモンの必殺技をまともに受けたヴェノムヴァンデモンは後方へ吹き飛び、遂に膝を突いた。

 アルケニモンとマミーモンは既にダウンし、カブテリモンを含んだ成熟期4体と完全体3体。そして究極体2体がヴェノムヴァンデモンを取り囲んでおり、ヴェノムヴァンデモン自身も息が絶え絶えだった。

 

――――恐らく次の攻撃で勝負は決まるだろう。

 

 

「チ、チキショウが……」

 

「……ヴァンデモン。オマエに同情するつもりは無いが、地の利は完全にワタシ達にあったようだな」

 

 

 エンジェウーモンは僅かにヴェノムヴァンデモンを憐れみながらも弓を引いた。

それと同じくウォーグレイモン達も自身の一番強力な遠距離攻撃を放つべく構えを取る。

 

 

「……あの世でモリヤとチビモンのD3を壊した事を後悔するんだな!

喰らえ――――『ガイアフォース!!』」

 

『コキュートスブレス!!』

 

『ホーリーアロー!!』

 

『ブラキオバブル!!』

 

『ソウルバニッシュ!!』

 

『メガブラスター!!』

 

『メテオウィング!!』

 

『ハープーンバルカン!!』

 

『テンペストウィング!!』

 

 

 9体のパートナーデジモンの攻撃が同時に放たれた。

それに対してヴェノムヴァンデモンは膝を突いたままで避ける事が出来ない。

 

 

「お、おのれ!! オレ様がこんなところでぇー!!!!!!」

 

「お、及か……ヴァンデモン様ーー!!」

 

 

 アルケニモンの悲鳴も空しくヴェノムヴァンデモンは断末魔を上げながらその全ての必殺技を受け、爆風を巻き上げた。



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062 想いの強さ

本日2/2話目です


 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー―――終わった。

 

 

 9体の強化されたパートナーデジモンの必殺技をまともに受けたヴェノムヴァンデモンの最後の姿を見て誰かがそう呟いた。

 

 誰が呟いたのかは分からない。選ばれし子供達の誰か1人かもしれないし、複数かも知れない。デジモン達が呟いたのかもしれないし、もしかすると僕自身が無意識にそう呟いたのかもしれない。

ただ、その言葉に疑問を返す者はおらず代わりに返されたのは皆の歓喜の雄叫びだった。

 

 

「やったわ!! やったわ!! 凄かったわよ皆!」

 

「ミヤコさん達の応援のお蔭ですよ。……まあワタシは殆ど活躍出来ませんでしたが」

 

「そんな事ない。ホルスモンの攻撃には何度も助けられたよ」

 

 

 京の称賛に下を向いてそう返したホルスモンにウォーグレイモンは嘘偽りのない言葉でそれを否定する。ホルスモンはそんな言葉にいやいやと否定しながらも照れた顔を浮かべていた。

 

 ……京の言う通りだ。ホルスモン達成熟期組の攻撃は間違いなくアルケニモン達やヴァンデモンに効いていた。いや効きすぎていると思った程だ。

……伊織達が原作ではなかった超進化をしたように、彼女達も原作と違い何か変化が起きていたのかもしれないね。

 

――――とにかく長きに渡るデジモンアドベンチャー02の物語の最後のボスを遂に倒す事が出来た。

…………原作と違って多くの、本当に多くの犠牲を出してしまったけどね。

 

 

「守谷。どうしたそんな暗い顔をして……もしかしてまだ戦いは終わってないのか?」

 

 

 僕が感傷に浸っていると突然太一にそう話を振られる。

……こんな状況で暗い顔を浮かべるなんて僕は本当に空気が読めてない。

僕の戦いはデジタルワールドを原作の最後のシーンの様な美しい世界にするまで終わらないが、選ばれし子供達の大きな戦いは一先ずはここで終わりだ。大役を終えた彼等に対して浮かべる顔が感謝の表情でなくてどうする。

 

 

「いえ――――太一先輩、皆さん。本当に……本当に有難う御座いました。

皆さんのおかげでヴァンデモンを倒す事が出来ました…!」

 

 

 僕の心からの感謝のお辞儀に、近づいてきたヤマトが頭に手を置いた。

 

 

「俺達だけじゃない。お前だって頑張っただろ」

 

「そうでんな。モリヤはんの活躍あってこその勝利でっせ」

 

「そもそも一番活躍したのはお兄ちゃん達じゃなくて守谷くんじゃないかな?

完全体ダークタワーデジモンをずっと一人で倒してたし、この場所だって守谷君が導いてくれたんでしょ?」

 

「じゃあモリヤがヤマトの頭に手を置いた方がいいんじゃない?」

 

「おい!」

 

 バードラモンの冗談にヤマトが強めに反応を返すと、全員が微笑んだ。

 

 

「……さて、一応確認しますが、彼等はどうしますか?」

 

 

 一呼吸おいて光子郎はそう口にすると視線を未だ煙が立ち上がる場所から横に逸らしてとある場所――アルケニモン達が膝を突いている場所に向けた。

 

 

「ちぃ!」

 

 

 視線を向けられたアルケニモンはふらつきながらも立ち上がったが、それ以上は動きはしなかった。

……どうやら立っているだけでやっとの様だ。

 

 ……正直に結論から言うと、選ばれし子供達はよっぽどの事が無い限りアルケニモン達を殺したりはしないだろう。

いや、敢えて悪い言い方で言うとしたら、殺せないが正しい。

僕自身、仮にアルケニモン達を殺す力を持ってたとしても殺す気はないしね。

そもそもアルケニモン達は……

 

 

「ま、待ってくれ!!」

 

 

 

 僕達が無言でアルケニモン達を見つめていると、マミーモンは足をふらつかせながらも僕達とアルケニモンの間に立つと、足を付いて頭を地に付けた。

 

 

「頼む! オレはともかくアルケニモンだけでも助けてやってくれ!

確かにアルケニモンは色々と悪さしたが、全部及川さんの為だったんだ!

……だけどその及川さんはヴァンデモンに操られて死んじまった。

だからもう悪さはしない筈だ! だから頼む!!」

 

「やめなマミーモン! 情けない!

……確かにアタシは及川様の為に戦ってきた。だけど実際は及川様は操られただけで実際はヴァンデモン……様が本当のボスだった」

 

「そうだろ!? なら――」

 

「だけど、だからといって選ばれし子供達に鞍替え出来る程アタシは軽い女じゃない。

ヴァンデモン様がボスだというならアタシはヴァンデモン様の為に最後まで戦う!

それがアタシ達が……アタシが作られた理由さ!」

 

 アルケニモンはそう告げると、ふらついた足取りとは思えない渾身の薙ぎ払いをマミーモンにお見舞いした。予想だにしていない攻撃にマミーモンは反応出来ずまともに喰らい、横に大きく吹き飛んだ。

 

 

「……さあこれで邪魔者は居なくなった。とっととケリを付けるよ。言っとくけどアタシは戦いを止める気は無いよ。仮にここで見逃されたとしてもアタシはデジタルワールドを滅茶苦茶にする。今までに無い位にね」

 

 

 アルケニモンは手を震わせながらも両手を僕達に向ける。この圧倒的状況で本気で僕達と戦うつもりらしい。

 

 …………正直に言うとアルケニモンの気持ちは痛いほど分かる。

自分にとって一番大切だった及川を失う所か、実はそいつは操られてただけで本当のボスが現れ及川を殺し、そしてそいつも選ばれし子供達に殺された。

正直にいって気持ちの整理が全くついていないのだろう。

 

 ただ僕が一つ言えるとしたら、アルケニモンはここで見逃しても本当にデジタルワールドを滅茶苦茶にする可能性があるという事だ。

――なら。

 

 

「……皆さん。アルケニモンはここで――――

 

『――――ほう。悪くない忠誠心だ』

 

「――――――――!」

 

 

 突如僕の言葉を遮る声が辺りに響いた。そしてその言葉と同時に体にのしかかるこれまで感じた事のない威圧感。

 これは一体? この声はまさか――――!!

 

 

 僕達は一気に警戒心を限界まで高め、ある方――9体のパートナーデジモンの攻撃の余波で未だ煙が巻き上がる場所に視線を向ける。煙は最初ほどは濃くは無いが未だにハッキリとその場所が見えない程度には巻き上がっている。が、目を凝らすと煙の向こうに確かに何かのシルエットが存在していた。

 

 

「まさかあの怪我であの攻撃を喰らってまだ生きてるのか!?」

 

「――あの怪我で、だと? クックック……なら良く見てみるといい」

 

 

 煙の向こうの何か……ヴェノムヴァンデモンがそう言葉を返すと、次の瞬間、自身の腕を振り払ったのか突如突風が僕達を襲った。

 

 

「くっ!」

 

 

 吹き飛ぶ程では無い突風に耐え、再度ヴェノムヴァンデモンの方に視線を向けると、そこには煙が完全に消え去ったヴェノムヴァンデモンの姿が――――傷一つないヴェノムヴァンデモンの姿があった。

 

 

「な、む、無傷だと?」

 

「――なら今度は傷を治す時間を与えない位速攻で倒すだけだ!! 皆行くぞ!!」

 

 

 ウォーグレイモンが声を上げながらヴェノムヴァンデモンの元へと飛翔する。

メタルガルルモン達8体のパートナーデジモンもその言葉に続くようにヴェノムヴァンデモンの元へと向かう。

 

 

 ……ヴェノムヴァンデモンがまだ生きていて体力を回復していたのには驚いたが、まだ此方が圧倒的に有利だ。ウォーグレイモン達だって先程までと違い息が整うほどには体力が回復している。

ウォーグレイモンの言う通り、今度こそ回復する暇が無い程に攻撃すれば――

 

 

「「「ウォォォォォ!!」」」

 

 

 声を上げながらヴェノムヴァンデモンの元へと向かって行くウォーグレイモン達。

それに対してヴェノムヴァンデモンは、ただ腕を大きく薙ぎ払った。

 

 ――――たったそれだけで尋常じゃない風圧が巻き上がり、ウォーグレイモン達は吹き飛ばされ、遥か後方の壁まで叩きつけられた。

 

 

「な、何……だと……!?」

 

「クックック!! いい夢は見れたかい、坊や達?」

 

 

 理解出来ないと言わんばかりの表情を浮かべる僕達にヴェノムヴァンデモンは心から嬉しそうに笑った。

 

 

 意味が分からない意味が分からない。どうしてヴェノムヴァンデモンがこれ程の力を持っているんだ!? さっきまではあんなに圧倒してたじゃないか!?

 

 理解出来ない光景に誰よりも困惑していただろう僕にヴェノムヴァンデモンが視線を向けた。

 

 

「モリヤ、オマエはこう言ってたな。『選ばれし子供とそのパートナーデジモンは、この世界では想いの強さが力となって現れる』とか」

 

「……それが何だと言うんですか?」

 

「クックック! それは大きな間違いさ。何故なら――――」

 

 

 その言葉と同時に突如ヴェノムヴァンデモンの内側から圧倒的な『闇』が膨れ上がり、辺りを支配した。突如身に襲う寒気、圧迫感、圧力、そしてヴェノムヴァンデモンから無限に溢れ出るドスグロイ闇。

実際にその闇が広がっているのかは分からないが少なくとも僕達にはそう見え、そして……全員が立っていられずその場に座り込み両手を組んでガタガタと寒気に震えていた。

 

 

「――この場所に来た瞬間からこれ以上に無い位力が溢れるのさ。選ばれし子供達を殺せ。心の底から絶望させ、恐怖に怯え、心から無様な命乞いをさせながら残酷に殺せとな!」

 

 

 ――――『この世界ではパートナーデジモン自身は勿論の事、僕達選ばれし子供の想いが強ければ強い程、パートナーデジモンが強化されます。

――それこそ成熟期でも究極体と渡り合えるようになるほどに』

 

 ああ、僕は馬鹿だ。何度失敗すれば気が済むんだ。

この世界はアニメやゲームの世界じゃない。

ならそんな僕達だけが強化される都合のいい世界があるわけないじゃないか。




間違って二話目から見てネタバレしないよう改行しています。後ほど削除します


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063 精神幻影

 圧倒的な闇に屈するかの如く膝を突き、ガタガタと震える選ばれし子供達と僕達。

 ――だが、まだ誰も絶望はしてない。そしてそれはパートナーデジモン達も同じだ。

 

 

「まだだ! まだボク達は戦える!!」

 

 

 遥か後方に吹き飛ばされていたウォーグレイモン達が再び僕達の前に現れ、そしてヴェノムヴァンデモンに向かって行く。

 そんなウォーグレイモン達にヴェノムヴァンデモンは再び片手を大きく振るい、突風を巻き上げ吹き飛ばそうとするが、パートナーデジモン達は今度は数体ずつでまとまる事で吹き飛ばされない様にその場に踏み止まった。

 そしてそれぞれが渾身の必殺技を放つ。

 

 

「「「いっけー!!」」」

 

 

 選ばれし子供達の歓声という後押しを受けながら放たれた必殺技は全てヴェノムヴァンデモンに命中する。

 が、ダメージは全く見られなかった。

 

 

「そ、そんな! 傷一つ付かないなんて……!」

 

「……しかもヴェノムヴァンデモンは防御すらしていませんでした。

防御する必要すら感じないと言う事でしょうか……」

 

「そんな訳無いわ! だってさっきまであんなにダメージを受けてたじゃない!!

何かカラクリがある筈よ!!」

 

「クックック!! 教えてやろうかオ嬢サン? そのカラクリを」

 

 

 伊織の絶望の言葉に京がそう返すと、予想外にもヴェノムヴァンデモンが割り込んできた。

 

 

「さっきまでダメージを受けていたのに今ダメージを全く受けないカラクリは…………さっきまでが全部演技だったからさ!!

大変だったぞ? せっかく内からどんどん力が溢れだすのにそれを無理やり押さえつけるのは!」

 

「そ、そんなの嘘よ……そんなことする意味、ないじゃ、ない」

 

「それがあるのさオ嬢サン。キミは知らないかもしれないがオレはコイツ等に一度殺されかけていてね。あの時は本当に危なかった。その時の屈辱は忘れもしない……!

その時から誓っていたのさ。お前達を希望から絶望に叩き落としてやるってな。

クックック!! で、どうだ? 絶対に自分達は負けないと確信した所から一転して圧倒的な力に屈すると言うのは? 絶望してくれたか? まだか? なら更に絶望させてやるよ! 自分達のパートナーが何も出来ずにやられる様をその特等席で見てるがいい!」

 

 

 ヴェノムヴァンデモンはそう言いながらも近くまで接近してきたパートナーデジモンに視線を向ける事すらせずただ腕を振り回して反撃する。

ただそれだけの攻撃を受けたパートナーデジモンは再び後方に吹き飛び、壁に深くめり込んだ。

 

 

「……ああ、ちなみにまだ勝てると思ってるなら好きなだけ応援するといい。認めてやろう。

が、その代わりに応援されたパートナーは手足を千切って、そいつのパートナーに生まれた事を後悔するくらいの絶望を味わわせてやるがな!」

 

「あ……ぁ……」

 

 

 ヴェノムヴァンデモンの言葉に京は表情を絶望に染めながら下を向いた。

……京だけじゃない。戦いが続くと共にヴェノムヴァンデモンが言った事が真実だと理解してしまった選ばれし子供達の何人かは京と同じように絶望し、戦意を失っていく。

 

 まだ絶望していない選ばれし子供達も少しずつその表情を曇らせていく。

 

 ……このままじゃだめだ!! このままじゃ皆殺される……!

僕は恐怖で動かない足を何十回も叩いて痛みで恐怖を和らげながらようやく立ち上がった。

……現状逃げる事は不可能。皆が生き残るには勝つしかない……!

 

 

「皆さん! あきらめちゃ駄目です!! この世界は確かに全ての存在が想いによって強化されてしまう世界です。

ですが、そうだとしたらより強い……強い想いを持てさえすればヴァンデモンにだって勝てます!」

 

「……確かに、確かにそうだよな」

 

「俺達は一度アポカリモンに消滅させられたが、皆の強い想いを一つにして再びアポカリモンの前に戻った。そんな俺達がたかが復讐心ごときに負ける筈が無い!」

 

「そうよ……そうよ!!」

 

「私達の世界を……テイルモン達のデジタルワールドを貴方なんかに支配させない!」

 

 

 僕の言葉に答えるように何人かの選ばれし子供が再び目に光を灯す。

……そうだ。選ばれし子供達の心がそんな簡単に折れる筈が無い!

そんな選ばれし子供達の姿を見て少しだけ僕は安堵したがその瞬間、痛みで和らげていた恐怖の圧力が再び体にのしかかる感覚と共にその場に倒れ込みそうになる。

 ……唯一この場で立ち上がっている僕が膝を突くのは不味い……! 絶望の切っ掛けになってしまうかもしれない!

 

 そう思っていると足元に居たチビモンが倒れそうになった僕の片足を支えてくれた。

 

 

「――ありがとうチビモン」

 

 

 チビモンは僕の言葉に無理やり作った笑顔で返す。

僕はそんなチビモンに勇気を貰いながら、チビモンに支えて貰って居ない方の足を選ばれし子供達に見えない様に強くひねって無理やり立っている状況を保った。

 

 ……が、そんな抵抗は何の意味も無かった。

 

 

「――――確かにオマエの言う通りだ。オレより遥かに強い想いを持てさえすれば理論上はオレを倒せるだろう。何も間違っていない」

 

 

 ヴェノムヴァンデモンは僕の言葉に真面目な表情を浮かべながら言葉を放った。

 

 

「――だがオマエ達がオレよりも強い想いを持っているのか?

オレはオマエ達に倒されてから3年間オマエ達に復讐する事を考えて生きてきた。3年間ひと時も欠かさずにだ。燃え上がる様な憎悪を必死に抑えて計画を遂行してようやくその機会が訪れた。

それに対してオマエ達はどうだ? オレを倒してから3年間オレの事を思った事があったのか? 次現れても絶対に倒してやると心の底から思っていたのか?

そもそもデジタルワールドを救うとか言っているが、ずっと選ばれし子供として行動していたのか?

オレは及川悠紀夫の体から見ていたぞ。オマエ達がデジタルワールドに異変が起きてからもそれ程行動を起こさず日常を過ごしていた姿を。

そんなオマエ達がオレよりも強い想いを持つなんて―――ー理論上ありえるのか?」

 

 

 ヴェノムヴァンデモンの言葉に選ばれし子供達は次々に表情を曇らせた。

恐らく自分達はヴァンデモンの言う通り、選ばれし子供として相応しい行動を取れていないと思っているのだろう。

…………そう考えてしまっているのは間違いなく僕という悪い見本があったせいだ。

だけど、選ばれし子供達にだって自分達の生活がある。あれは転生者というこの世界に生きる資格のない僕だからこそ出来た行動だ。だからあれを当たり前には思って欲しくない。

 

 僕がそれに反論しようと考えをまとめていると、ヴェノムヴァンデモンは想定外の行動を見せた。

突然戦っているパートナーデジモン達が居ない方向に手をかざし、そこから闇の炎を打ち出した。

その闇の炎は眼にも止まらない速さで対象に向かって行く。

 

 

「……え?」

 

 

 その対象――マミーモンはそんな情けない声を一言上げると、次の瞬間闇の炎に包まれた。

 

 

「ぎ、ギャァァァァァァァァァァァァァッァ!!!」

 

「ま、マミーモン!!」

 

 

 想像を絶する痛みにマミーモンはその場でのた打ち回るがその程度の抵抗で炎が消える筈も無く、最期には断末魔を上げながら自身の居た影だけを残しこの世界から消滅した。

 

 

「ひ、酷い! マミーモンはずっと貴方の為に戦ってたのに!!」

 

「オレを裏切ろうとしたから当然だ。状況が悪くなったら裏切る部下など必要ない。……そうだろ? アルケニモン?」

 

「あ……あ……」

 

「――アルケニモン?」

 

「!! え、ええ。当然の報いです。ヴァンデモン様を裏切ろうとしたんですから」

 

 

 は、はっと乾いた笑い声でマミーモンの居た場所の影を見つめるアルケニモン。

 そんなアルケニモンの姿にヴェノムヴァンデモンは笑顔を浮かべたが、次の瞬間、マミーモンに放ったモノと同じ闇の炎をアルケニモンに放った。

 

 

「ぎ、ああああああああ、どうしてですがヴァンデモンさまぁあああぁぁぁぁ!!」

 

「オレの取った行動に心から納得しなかったからだ。計画が成功した以上、使えない反乱因子を持つ奴は早めに殺すべきだろう」

 

「そんなぁぁぁぁぁあたしはヴァンデモン様の為に戦って来たのにぃぃ!!!」

 

「オマエが真に忠誠を誓ってるのは今なおオレではなく及川悠紀夫だろう?

いいからとっとと死ね」

 

 

 ヴェノムヴァンデモンはそう言いながらもう一発闇の炎をアルケニモンに放った。

二つの攻撃にアルケニモンは耐えきれる筈もなくマミーモンと同じように影だけ残してこの世界から完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideヒカリ

 

 

「――――――――」

 

 

 目の前で起きた惨劇に私達は声が出なかった。

当然だと思う。敵でありながらもそれ程嫌う事が出来なかった彼女達があんな残酷な目にあったのだ。

もしかしたら私達の内の何人かはあの光景を目にして耐えきれず涙を流しているのかもしれない。

 

 ……そして私達は理解してしまった。エンジェウーモン達があれ程必死に戦ってくれてるヴェノムヴァンデモンが全然本気を出していない事を――その気になれば私達を一瞬で消滅させられるであろう力があるという事を。

 

 ――――怖い。この場所から一刻も早く逃げ出したい。

そんな感情が内から湧き出るのを私は必死で抑える。……私達はまだ諦める訳にはいかない。

 

 だって――――私は視線を横に向ける。

そこには誰もが体にのしかかる圧倒的な恐怖にその場に膝を突いて体を震わす中、チビモンの支えがありながらも唯一立ってヴェノムヴァンデモンに立ち向かう姿勢を見せる守谷君の姿があった。

 ……守谷君はやっぱり凄い。もうD3を壊されて戦う事が出来なくなってるのにそれでもまだ全然諦めてない。

 ……そんな守谷君が諦めて無いのにまだ戦う力が残ってる私達が諦める訳にはいかない!

 

 ――――そんな事を考えていた時だった。

 

 

「……強情な奴らだ。これを見てまだ全員が絶望しない、か」

 

 

 ヴェノムヴァンデモンが溜息を付きながら私達にそう投げかける。

そんなヴェノムヴァンデモンの言葉に答えるようにウォーグレイモン達は再びヴェノムヴァンデモンに向かって行く。

 

 

「当然だ! オレ達は絶対に諦めない!」

 

「タケル達の世界を……デジタルワールドをオマエの好きにはさせない!」

 

「何があってもイオリ達を守るだぎゃ!!」

 

 

 ブラキモン達はそれぞれ覚悟を示しながらヴェノムヴァンデモンに攻撃を仕掛けるが、ヴェノムヴァンデモンは防御すらせずそれらを鬱陶しそうに眺めるだけだった、が、何かを思い付いたのか、口元をニヤ付かせながら視線をブラキモン達から私達の方に向けた。

 

 

「――ならば順番を変えるとしよう」

 

「な! ――――やめろ!! オマエの相手はオレ達だ!!!」

 

「クックック……心配するな、殺しはしない。オレだって一瞬で選ばれし子供達を殺そうなんて思っていない。――ただ順番を変えるだけさ!

 

 

 そう言いながらヴェノムヴァンデモンは自分の両目を光らせ始めた。

 

 

 

「な――――その技は!? どうしてその形態で……!?」

 

 

 

 守谷君はそんなヴェノムヴァンデモンの行動を見て、心底驚愕したような反応を見せた。

……守谷君はヴェノムヴァンデモンが今から何をしようとしているのか分かっているの?

 

 

「オマエ達には一時の希望を――理想の世界を見せてやる。

だが安心しろ。オレが全てを終えた暁には元の世界へ戻してやるよ。

――――そして現実に戻った時に知るといい。

もう自分を守るモノも守りたかった世界も何も無い一片の希望も無い絶望の現実を――!!」

 

「やめろー!!」

 

 

 エンジェウーモン達が私達の盾になろうと向かって来るけど、間に合わない!

 

 

『マインドイリュージョン!!』

 

 

 ヴェノムヴァンデモンの目から放たれる光に私達は包まれた。

 



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