ファイアーエムブレム~俺の系譜~ (ユキユキさん)
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カップリング妄想用ステータス

重要なモノを忘れていました!

聖戦と言ったら、カップリングの妄想ですね!

そんなわけで、エシャル軍予定キャラの適当ステータスです!

シグルド軍キャラは書かなくとも分かりますね?

物語が進めばキャラが増えます。シグルド軍代替キャラも追加されていきます。

後で、活動報告に妄想用を足しときますかね?

ステータスは適当です。こうした方が良いって意見があれば遠慮なく!

因みにクラスは三段階でいきます。


名前:エシャル

クラス:ペガサスロード《上級職》

 

LV:4

HP:48

MP:87

力:17

魔力:24

技:20

速:22

運:31

防御:15

魔防:27

移動力:11

所持金:50,000G

 

スキル:追撃・連続・見切り・必殺・怒り・エリート・カリスマ

 

武器LV:剣☆・槍B・斧C・杖A・炎☆・風A・雷B・光B

 

所持アイテム:キルソード・細身の剣・細身の槍・手斧・雪霊樹の杖

 

魔法:ライブ・リライブ・リブロー・ワープ・レスキュー・ファイアー・エルファイアー・ボルガノン・メティオ・レクスフレイム・ウインド・エルウインド・ブリザード・サンダー・エルサンダー・ライト・エルライト

 

聖戦士:魔法戦士ファラ☆・黒騎士ヘズル☆

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ディアドラ

クラス:ペガサスシャーマン《下級職》

 

LV:12

HP:32

MP:53

力:8

魔力:19

技:12

速:19

運:13

防御:9

魔防:20

移動力:10

所持金:3,000G

 

スキル:追撃・見切り

 

武器LV:剣C・斧C・杖B・光☆

 

所持アイテム:光の剣・ガンドルフの手斧・雪霊樹の杖

 

魔法:ライブ・リライブ・レスト・サイレス・ライト・エルライト・ライトニング・リザイア・オーラ

 

聖戦士:聖者ヘイム☆

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:カナッツ

クラス:ジェネラル《上級職》

 

LV:1

HP:42

MP:5

力:15

魔力:2

技:13

速:11

運:10

防御:17

魔防:4

移動力:5

所持金:3,000G

 

スキル:突撃・大盾

 

武器LV:剣A・槍B・斧B・弓C

 

所持アイテム:鋼の大剣・手槍

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ホリン

クラス:剣闘士《下級職》

 

LV:18

HP:40

MP:8

力:14

魔力:2

技:18

速:17

運:5

防御:12

魔防:3

移動力:6

所持金:5,000G

 

スキル:追撃・月光剣

 

武器LV:剣A

 

所持アイテム:鉄の大剣

 

魔法:無し

 

聖戦士:剣聖オード○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:レイミア

クラス:ソードマスター《上級職》

 

LV:3

HP:43

MP:12

力:15

魔力:5

技:20

速:19

運:11

防御:14

魔防:5

移動力:6

所持金:5,000G

 

スキル:追撃・連続・流星剣(不可)

 

武器LV:剣A

 

所持アイテム:鉄の大剣・つばめ返し

 

魔法:無し

 

聖戦士:剣聖オード○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:クー

クラス:剣士《下級職》

 

LV:17

HP:35

MP:8

力:10

魔力:1

技:17

速:20

運:16

防御:9

魔防:2

移動力:6

所持金:3,500G

 

スキル:追撃・連続・突撃

 

武器LV:剣A

 

所持アイテム:倭刀

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ガンドルフ

クラス:マーシナリー《上級職》

 

LV:6

HP:54

MP:2

力:20

魔力:0

技:16

速:14

運:18

防御:15

魔防:5

移動力:6

所持金:15,000G

 

スキル:追撃・突撃・待ち伏せ

 

武器LV:剣B・斧A

 

所持アイテム:鋼の大剣・トマホーク

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:デマジオ

クラス:プリストファイター《下級職》

 

LV:14

HP:42

MP:18

力:16

魔力:7

技:10

速:10

運:9

防御:12

魔防:9

移動力:5

所持金:6,000G

 

スキル:連続・祈り

 

武器LV:斧B・杖C

 

所持アイテム:鋼の斧・樫の杖

 

魔法:ライブ

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:パメラ

クラス:ファルコンナイト《上級職》

 

LV:2

HP:42

MP:22

力:13

魔力:8

技:16

速:21

運:15

防御:12

魔防:14

移動力:11

所持金:5,000G

 

スキル:追撃・連続・祈り

 

武器LV:剣B・槍A・杖C

 

所持アイテム:風の剣・銀の長槍・雪の杖・ファラの護石

 

魔法:ライブ・リライブ

 

聖戦士:風使いセティ○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:パピヨン

クラス:ドラゴンマスター《上級職》

 

HP:5

HP:46

MP:15

力:18

魔力:2

技:15

速:14

運:10

防御:15

魔防:2

移動力:11

所持金:5,000G

 

スキル:突撃・必殺

 

武器LV:剣B・槍A

 

所持アイテム:鋼の剣・手槍

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:マゴーネ

クラス:ドラゴンジェネラル《上級職》

 

LV:8

HP:59

MP:4

力:19

魔力:2

技:16

速:11

運:12

防御:26

魔防:2

移動力:10

所持金:10,000G

 

スキル:大盾・値切り

 

武器LV:剣B・槍A・斧B

 

所持アイテム:勇者の槍・ハルベルト

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:アイーダ

クラス:ロートセイジ《上級職》

 

LV:3

HP:41

MP:52

力:10

魔力:20

技:13

速:15

運:7

防御:10

魔防:20

移動力:6

所持金:4,500G

 

スキル:追撃・待ち伏せ・必殺

 

武器LV:剣C・杖B・炎A・風B・雷B

 

所持アイテム:鉄の短剣・魔女の杖

 

魔法:ライブ・リライブ・リブロー・トーチ・ファイアー・エルファイアー・ギガファイアー・ボルガノン・メティオ・ウインド・エルウインド・サンダー・エルサンダー

 

聖戦士:魔法戦士ファラ○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:マーニャ

クラス:ファルコンナイト《上級職》

 

LV:3

HP:44

MP:20

力:14

魔力:7

技:17

速:20

運:8

防御:13

魔防:13

移動力:11

所持金:6,000G

 

スキル:追撃・連続・待ち伏せ

 

武器LV:剣B・槍A・杖C

 

所持アイテム:勇者の剣・手槍・雪の杖

 

魔法:ライブ・リライブ

 

聖戦士:風使いセティ○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ヴォルツ

クラス:ブレイブナイト《上級職》

 

LV:10

HP:60

MP:20

力:20

魔力:8

技:21

速:19

運:23

防御:17

魔防:7

移動力:10

所持金:2,000G

 

スキル:連続・突撃・カリスマ

 

武器LV:剣A

 

所持アイテム:鋼の大剣・ランスバスター・炎の剣・エリートリング

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ベオウルフ

クラス:フォレストナイト《上級職》

 

LV:3

HP:48

MP:10

力:15

魔力:3

技:18

速:17

運:1

防御:13

魔防:2

移動力:10

所持金:1,000G

 

スキル:追撃・突撃・値切り

 

武器LV:剣A

 

所持アイテム:鋼の剣・シーフの剣

 

魔法:無し

 

聖戦士:黒騎士ヘズル○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:トラバント

クラス:リンドブルム《最上級職》

 

LV:1

HP:65

MP:23

力:29

魔力:4

技:21

速:18

運:14

防御:26

魔防:6

移動力:12

所持金:50,000G

 

スキル:追撃・連続・待ち伏せ・見切り・カリスマ

 

武器LV:剣A・槍☆・斧B

 

所持アイテム:グングニル・スレンドスピア・銀の剣・パワーリング

 

魔法:無し

 

聖戦士:竜騎士ダイン☆

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:バーツ(ヴァン)

クラス:ヴァイキング《上級職》

 

LV:7

HP:52

MP:0

力:22

魔力:0

技:14

速:13

運:10

防御:16

魔防:2

移動力:7

所持金:4,000G

 

スキル:突撃・必殺

 

武器LV:斧A

 

所持アイテム:鋼の戦斧・手斧

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:サジ(ドバール)

クラス:パイレーツ《下級職》

 

LV:18

HP:45

MP:1

力:18

魔力:2

技:11

速:14

運:5

防御:8

魔防:1

移動力:5

所持金:2,000G

 

スキル:怒り

 

武器LV:斧A

 

所持アイテム:鉄の大斧・ハンマー

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:マジ(ピサール)

クラス:パイレーツ《下級職》

 

LV:17

HP:42

MP:3

力:16

魔力:2

技:13

速:15

運:3

防御:9

魔防:3

移動力:5

所持金:2,000G

 

スキル:追撃・待ち伏せ

 

武器LV:剣B

 

所持アイテム:シミター

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:エーヴェル(ブリギッド)

クラス:アーチャー《下級職》

 

LV:15

HP:40

MP:16

力:15

魔力:2

技:17

速:16

運:7

防御:10

魔防:8

移動力:5

所持金:3,000G

 

スキル:追撃・必殺

 

武器LV:剣C・弓☆

 

所持アイテム:鉄の剣・鋼の弓

 

魔法:無し

 

聖戦士:弓使いウル☆

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ティルテュ

クラス:マージファイター《上級職》

 

LV:3

HP:34

MP:43

力:10

魔力:16

技:12

速:14

運:12

防御:10

魔防:16

移動力:6

所持金:4,000G

 

スキル:追撃・連続・怒り

 

武器LV:剣B・杖B・炎B・風C・雷A

 

所持アイテム:レイピア・祈りの杖

 

魔法:ライブ・リライブ・ファイアー・エルファイアー・ウインド・サンダー・エルサンダー・ギガサンダー・トローン・サンダーストーム

 

聖戦士:魔法騎士トード○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:エスニャ

クラス:ブラックマージ《下級職》

 

LV:18

HP:28

MP:46

力:5

魔力:16

技:10

速:10

運:16

防御:6

魔防:20

移動力:5

所持金:3,000G

 

スキル:待ち伏せ・怒り・祈り

 

武器LV:杖B・炎B・風C・雷A・闇C

 

所持アイテム:バリアの杖

 

魔法:ライブ・リライブ・リブロー・バーサク・ファイアー・エルファイアー・ウインド・サンダー・エルサンダー・トローン・サンダーストーム・ミィル・ウォーム

 

聖戦士:魔法騎士トード○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:シャールヴィ

クラス:ゲルプセイジ《上級職》

 

LV:5

HP:42

MP:52

力:12

魔力:20

技:13

速:14

運:12

防御:15

魔防:19

移動力:6

所持金:4,000G

 

スキル:追撃・連続・見切り

 

武器LV:槍B・杖B・炎B・風B・雷A

 

所持アイテム:鋼の短槍・癒しの杖

 

魔法:ライブ・リライブ・リブロー・リターン・ファイアー・エルファイアー・ウインド・エルウインド・サンダー・エルサンダー・トローン・サンダーストーム

 

聖戦士:魔法騎士トード○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:レクスヴァ

クラス:ロプトアサシン《最上級職》

 

LV:1

HP:58

MP:72

力:19

魔力:27

技:20

速:23

運:13

防御:19

魔防:28

移動力:8

所持金:20,000G

 

スキル:追撃・連続・必殺・待ち伏せ・エリート

 

武器LV:剣B・杖A・炎B・風B・雷B・闇A

 

所持アイテム:ペシュカド・キアの杖

 

魔法:ライブ・リライブ・リブロー・リザーブ・スリープ・サイレス・ワープ・レスキュー・レスト・ファイアー・エルファイアー・ウインド・エルウインド・サンダー・エルサンダー・ミィル・ウォーム・ヨツムンガンド・フェンリル・カレアウ・ウェリネ

 

聖戦士:ロプト一族ガレ○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ディスラー

クラス:ジェネラル《上級職》

 

LV:2

HP:46

MP:2

力:18

魔力:1

技:10

速:9

運:8

防御:20

魔防:2

移動力:5

所持金:4,000G

 

スキル:待ち伏せ・大盾

 

武器LV:剣A・槍B・斧B・弓C

 

所持アイテム:鋼の剣・ドラゴンアクス

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ハンニバル

クラス:マーシャル《最上級職》

 

LV:5

HP:70

MP:13

力:28

魔力:3

技:19

速:11

運:15

防御:29

魔防:8

移動力:6

所持金:30,000G

 

スキル:連続・待ち伏せ・大盾

 

武器LV:剣B・槍A・斧B・弓B

 

所持アイテム:つばめ返し・銀の長槍・鋼の戦弓・シールドリング

 

魔法:無し

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:フリーン

クラス:ワイバーンナイト《上級職・希少》

 

LV:20

HP:56

MP:30

力:23

魔力:14

技:25

速:19

運:13

防御:17

魔防:8

移動力:11

所持金:35,000G

 

スキル:追撃・連続・見切り

 

武器LV:槍A・風B

 

所持アイテム:キラーランス・トルネードランス・祈りの腕輪

 

魔法:ウインド・エルウインド

 

聖戦士:竜騎士ダイン○

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:エルトシャン

クラス:ゴールドナイト《最上級職》

 

LV:10

HP:68

MP:20

力:26

魔力:8

技:30

速:22

運:14

防御:24

魔防:15

移動力:10

所持金:20,000G

 

スキル:追撃・突撃・必殺・見切り・カリスマ

 

武器LV:剣☆・槍B

 

所持アイテム:ミストルティン・手槍・バリアリング

 

魔法:無し

 

聖戦士:黒騎士ヘズル☆

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:グラーニェ

クラス:グローリーナイト《上級職》

 

LV:16

HP:42

MP:23

力:16

魔力:10

技:16

速:15

運:12

防御:12

魔防:11

移動力:9

所持金:25,000G

 

スキル:連続・待ち伏せ

 

武器LV:槍A

 

所持アイテム:細身の槍・ショートスピア・リターンリング

 

魔法:無し

 

聖戦士:槍騎士ノヴァ○

 

ーーーーーーーーーーーー



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子世代データ

作者が忘れないように。

随時更新予定。


名前:ヴァンパ

 

【挿絵表示】

 

親:???&ディアドラ

スキル:追撃・見切り

聖戦士:聖者ヘイム☆

 

名前:フェトラ

親:???&ディアドラ

スキル:追撃・見切り

聖戦士:聖者ヘイム☆

 

名前:エリウ

親:???&ディアドラ

スキル:追撃・見切り

聖戦士:聖者ヘイム☆

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ラクチェ

親:???&アイラ

スキル:追撃・見切り・流星剣

聖戦士:剣聖オード

 

名前:スカサハ

親:???&アイラ

スキル:追撃・見切り・流星剣

聖戦士:剣聖オード

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:メング

親:???&パメラ

スキル:追撃・連続・祈り

聖戦士:風使いセティ

 

名前:メイベル

親:???&パメラ

スキル:追撃・連続・祈り

聖戦士:風使いセティ

 

名前:ブレグ

親:???&パメラ

スキル:追撃・連続・祈り

聖戦士:風使いセティ

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ティニー

親:???&ティルテュ

スキル:追撃・連続・怒り

聖戦士:魔法騎士トード

 

名前:アーサー

親:???&ティルテュ

スキル:追撃・連続・怒り

聖戦士:魔法騎士トード

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:リンダ

親:???&エスニャ

スキル:待ち伏せ・怒り・祈り

聖戦士:魔法騎士トード

 

名前:ミランダ

親:???&エスニャ

スキル:待ちぶせ・怒り・祈り

聖戦士:魔法騎士トード

 

名前:アミッド

親:???&エスニャ

スキル:待ち伏せ・怒り・祈り

聖戦士:魔法騎士トード

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ラドネイ

親:???&レイミア

スキル:追撃・連続・流星剣

聖戦士:剣聖オード

 

名前:ロドルバン

親:???&レイミア

スキル:追撃・連続・流星剣

聖戦士:剣聖オード

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ラーラ

親:???&クー

スキル:追撃・連続・突撃

聖戦士:なし

 

名前:シャナム

親:???&クー

スキル:追撃・連続・突撃

聖戦士:なし

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:フェミナ

親:???&マーニャ

スキル:追撃・連続・待ち伏せ

聖戦士:風使いセティ

 

名前:ホーク

親:???&マーニャ

スキル:追撃・連続・待ち伏せ

聖戦士:風使いセティ

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ヴァハ

親:???&アイーダ

スキル:追撃・待ち伏せ・必殺

聖戦士:魔法戦士ファラ

 

名前:サイアス

親:???&アイーダ

スキル:追撃・待ち伏せ・必殺

聖戦士:魔法戦士ファラ

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:ライザ

親:???&シャールヴィ

スキル:追撃・連続・見切り

聖戦士:魔法騎士トード

 

名前:オーヴェ

親:???&シャールヴィ

スキル:追撃・連続・見切り

聖戦士:魔法騎士トード

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:パティ

親:???&エーヴェル

スキル:追撃・必殺

聖戦士:弓使いウル☆

 

名前:ファバル

親:???&エーヴェル

スキル:追撃・必殺

聖戦士:弓使いウル☆

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:アリオーン

親:トラバント&フリーン

スキル:追撃・連続・待ち伏せ・見切り・カリスマ

聖戦士:竜騎士ダイン☆

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名前:サラ

親:レクスヴァ&???

スキル:追撃・連続・必殺・待ち伏せ・エリート

聖戦士:ロプト一族ガレ




この子世代データのように、親世代データもあった方が良いかな?

後、シグルド軍も。


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序章 ~ユグドラル大陸放浪~
プロローグ


更新は遅めですよ、たぶん。違うサイトにもいますからね、私は。そっちがメインなんで。


目が覚めると、そこは白い空間だった。何やら浮遊感、フワフワしているなぁと思ったら浮いていた。わけが分からない、それに体が動かない、どうなるのかなぁと考えていると、

 

『…君が犠牲者か。』

 

厳かな声が聞こえた為、そっちに視線を向けると髭のナイスミドルが、後光を背負って立っていた。…いや、浮いてる?

 

これは夢だろうか?

 

『夢ではない。そして…、現実でもない。』

 

…何を言っているのか分からない。夢でもなくて、現実でもない? じゃあ、何さ?

 

『君は死んで、魂だけの存在となっている…。』

 

・・・俺は死んだのか? なんで…? 普通に寝ていたんだけど。

 

『君の死因は、私の部下の喧嘩に巻き込まれてね。寝ている君に雷が落ちたのだ。正確に言うならば、君の寝ている部屋、いや家になるか。雷によって、家が全焼・・・焼死ってヤツだね。』

 

なるほど、巻き込まれて死んだわけね。…にしても、凄いな貴方の部下。人間じゃないわな、人外なんだろう。

 

『私は君の世界でいう神…という者だ。勿論、部下も神である。』

 

いやぁ~テンプレってヤツですか、神様の手による事故死。俺がそれに巻き込まれるとは…、ツイてないわな。…これからどうなるんかね?

 

『…君は怒らないのかね? 理不尽に巻き込まれ、死んだのだよ?』

 

なんで怒るのさ? 神様に怒るなんて、バカじゃないんだから。ツイてないってことで良いんじゃないですかね?

 

『…君は変わっているね? 大体の者は怒るのだが…。』

 

…いやいやいや、なんなんですかソレ。俺みたいに死んだ人がいるんですか? …ダメじゃないですかね? まぁ、神様だから良いんだろうけど。

 

『…今回の件で、その部下は厳しい処罰を受けるだろう。…というか、与える。』

 

なるほど、俺を殺した…と言っても良いのかな? まぁとりあえず、その部下が問題児ってわけですか。…俺みたいに死ぬ人が減って、良いんじゃないでしょうかね?

 

『…うん、そうだね。…その件で君にせめてもの罪滅ぼしとして、新たな命を与えたいと思っている。…どうかな?』

 

新たな命って…、元いた世界? 場所? に戻れるんですかね?

 

『…申し訳ないが。』

 

…なるほど、テンプレですね。別世界…と、ふむ。

 

『…テンプレって便利だな。…それでどうするかね? 好きな世界に送ってあげることが出来るが。』

 

そうですね、…決めました。

 

『…早いね。』

 

このまま消滅でもしてやってください。神様が、罪滅ぼしなんてするもんじゃないですよ?

 

『…………。』

 

そんなわけで、消滅でよろしくお願いします。短い人生だったけど、それなりに面白かったな…。わはははは!

 

────────────────────

 

なんとも不思議な青年よ。消滅を求める者なんて今までいなかったが…。大体の者は好きな世界、望む能力を求めるのだがな。…欲がないな、この青年。…このような者を消滅させるのは惜しい、…ふむ。

 

私は神だからな、強引にでも命を与えさせてもらおうか。

 

────────────────────

 

何やら神様が目を瞑り、考えてるっぽいぞ?

 

『君の消滅は無しでいかせてもらうよ。』

 

…はい? 何故?

 

『消滅を求める者なんて、今までいなかったからね。…君の生きる道が見たくなったのだよ。強引にでも命を与えるよ、…私は神だからね。』

 

なるほど、神様だからですか。納得です。それなら…。

 

 

 

 

『15歳で君の自我を復活させれば良いんだね?』

 

そうです、それぐらいでお願いします。赤ちゃんプレイなんて、イヤですからね。

 

『…分かった、そうしよう。それ以外は私に任せる…で、良いんだね?』

 

迷いますからね、だったら神様に任せれば良いかなぁ…と思いまして。

 

『…なら、私に任せてもらうとしようか。』

 

ええ、お願いします。では…そろそろ良いですかね?

 

『…そうだね、そろそろ送ろうか。…君の新たなる命に幸あれ。』

 

まぁボチボチ生きさせてもらいますよ。それでは神様、縁がありましたらまた…。ん~…神様相手に不敬だったかなぁ~…。

 

────────────────────

 

…行ったようだな。なんとも言えない青年、君の進む道はどんな道なのだろう。…その道を見守る為に、相応の能力を与えねばなるまい。力を得た君はどんな人生を歩むか、今から楽しみだ。15歳で自我が復活するまでの間は、君らしい行動をさせよう。生まれ変わっても、君は君だからね。…それに自我復活の際、適合に負担があまりかからないようにしないと。…相応の能力、力…か。さて、どうしようか…。

 

 

 

 

ファイアーエムブレム~聖戦の系譜~の世界、そこでの人生を見させてもらうよ。




のんびりいきますよ。


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第1話 ~俺という男

どんな感じに進むか分からない。

思うがままに、かなぁ?


ーエシャルー

 

……おぉ? なんだ突然、頭の中に…。……んん? …そうか、そうだったな。俺は転生? 別世界で死んだんだったな。そんで神様に新たな命を…。俺は聖戦の系譜、そう…ファイアーエムブレムの世界だったな。俺の前の名はなんだ? …そこは分からない。分からないが…、今の俺は…。ステータスをチェック…、

 

────────────────────

 

名前:エシャル

クラス:セイジファイター

LV:15

HP:45

MP:68

力:15

魔力:20

技:16

速:18

運:28

防御:15

魔防:22

 

スキル:追撃・連続・見切り・必殺・怒り・エリート

 

武器LV:剣☆・杖A・炎☆・風B・雷B・光B

 

所持アイテム:キルソード

 

魔法:ライブ・リライブ・リブロー・ワープ・レスキュー・ファイアー・エルファイアー・ボルガノン・メティオ・レクスフレイム・ウインド・サンダー・ライト

 

所持金:15,000G

 

────────────────────

 

「……おぉ? なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!!」

 

俺のステータスが凄まじいんですが? なんだこのステータスは? MPって何さ? セイジファイターって何さ? 魔法って何さ? 魔導書いらないの? レクスフレイムって暁の魔法じゃね? …剣と炎が☆って何?

 

…………考えたって仕方ないか。そんな仕様ってことで。まぁ実際、魔導書に使用回数があっても困るし? MP消費がリアルってこと?

 

…そんで俺はエシャル、エシャル…ねぇ。…そうそう俺はエシャル、15歳だ。ファラとヘズルの血を濃く受け継いでいる。…どんなバグキャラだよ俺は、色々と危ない奴やん。バレんようにしないと、…いずれはバレんだろうけど。

 

そんでえーと、ヴェルトマー家のヴィクトルが父で愛人との間に生まれた子供。その愛人は、ノディオンの血筋だったんだ。愛人っつっても俺の母親、記憶は無いが…。俺を産んで死んだんだ、…そうだそうだ。

 

んで…俺は兄、アルヴィスに追放? されたんだっけ? そん時に僻地へ送られたんだっけ? そんで、2年前にそこから逃げ出して今に至る。

 

…記憶が曖昧なんだがこれだけは言える、逃亡者。…ダメじゃん、逃亡者なんじゃん。…どーすんのさ。

 

 

 

 

…とか色々考えたけど、どうでもいいわな。なるようになるだろうし、とりあえず楽しく生きましょうかね。ここは聖戦の世界ではあるけれど、俺がいるってことで別世界。俺の知る物語ではなくなるだろうさ。つーか、ここは何処だろうか? …んーと。

 

今は751年、ここはヴェルダンのマーファ城城下の宿。んで、先程叫んだことから宿の店主に怒られる…と。わはははは! 元貴族の逃亡者なのに笑っちゃうね。

 

まぁどうでもいいか、…それにしても。これからどーすっかなぁ…。聖戦は好きだけど、何時何処で何が起こるか分からんし。…悩んだって仕方なし、好きなように進みますか。

 

とりあえず、ここはヴェルダンだろ? 森に狩りへ行こうかな。実力を動物で確かめる、…俺って外道じゃね? いや、金にもなるから良いのかな? …そうと決まれば眠るのみ。狩りは明日ってことで、…おやすみ~。




何も考えてない。

どう進むのか?

謎である。


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第2話 ~森の中

ボチボチ。


ーエシャルー

 

森に来て、気付いたことがある。

 

「…炎魔法を使ったら、大火災まっしぐらやん。俺の進むべき道が閉ざされた!」

 

一番確かめたかったモノが、一番駄目だということに気付いてしまったのだ。こいつぁ~痛い、痛すぎるぜ! 自由に生きると言ったが、大火災は駄目! 絶対!

 

…てなわけで、剣にしました。黒騎士ヘズルの血、見せてもらうぞ!

 

「じゃ~ん! キルソード!」

 

腰にぶら下げたキルソードを抜く俺、黒騎士ヘズルの再来と言える程カッコいい。…とは言ったものの、エルトシャンがいるからねぇ。獅子王には敵いませんわ、…俺ってエルトシャンと面識あるんかね?

 

うーん、記憶を探っても分からんな。まぁモヤモヤしている記憶の中に、もしかしたら出会った記憶があるかもね。そんなことより俺の剣の腕、そっちが重要。ヘズルがピッカピカだから、悪くない筈だ。へいへーい、猪か熊か何でもいいから掛かって来んかい!

 

 

 

 

馬鹿デカイ熊に襲われたよ! 流石の俺もビックリだよ、熊ってあんなにデカイんですかね!? 4mぐらいはあったかと思う。ビビったけど、キルソードと必殺のスキル効果で攻撃が全て必殺に! 追撃・連続で瞬殺さ!

 

攻撃こそが最大の防御、無傷で倒しました! 流石はヘズルの申し子、俺様カッコいい! 血濡れたキルソードを天に掲げ、倒した熊の上にて片手で顔を覆う。

 

…自己陶酔中。

 

…熊殺しのエシャル、今日からそう名乗…ダサいからヤメよう。

 

自己陶酔中のエシャルを、木の影から見る者がいた。エシャルは気付かず、ブツブツ言っている。見ている者は、一人の少女だった…。

 

 

 

 

ーディアドラー

 

人の気配を感じて、私はその場所に向かった。ここは奥深い森の中、精霊の森と呼ばれる場所。このような森の中に、人が来ることなど出来ない筈。

 

…たぶん迷い人だと思う。もしそうだとしたら、魔法で惑わせなくてはならない。私の住む場所に、近付けさせてはいけないから。お婆様にきつく言われているから…。私はそれで、何人もの人を惑わせてきた。本当は嫌だけど、それが掟だから…。だから私は向かう、哀れな人の元に…。

 

そして私は見てしまった、夢に見た騎士様のような方を…。その方は、赤みがかった金の長髪、切れ長の目に高い鼻、口元には薄く笑みを浮かべている。真紅のマントに、漆黒の立派な服を身に纏っている。

 

「…素敵。」

 

無意識に言葉を出してしまった私は、慌てて口元を押さえる。恐る恐るその方に視線を向けると、キョロキョロと辺りを見回し首を傾げている。…危なかった。ほっと一息を吐いた所に、

 

『グルオァァァァァッ!!』

 

大きな雄叫びが、森の中に響いた。

 

 

 

 

………!? あれは『赤腕』と呼ばれる人食い熊! そんな化物どうして…! 今の時期は、もっと森の奥にいる筈なのに…!

 

ヴェルダン王国第1王子様の討伐隊を破った化け物…。あぁ…、騎士様が殺されてしまう! 掟を破ることになるけれど、騎士様を助けるには…。そう決意をして、騎士様を逃す為の助太刀を…と、思った矢先、

 

「巨大熊が相手か…、俺の糧となるがいい!」

 

剣を構えて、『赤腕』に向かっていってしまった。その騎士様に向かって、『赤腕』が腕を振り下ろして…、

 

「……あぁ!」

 

私は手で顔を覆って、目を背けた。

 

それと同時に、

 

『ガァァァァァァァァァッ!!』

 

騎士様の悲鳴ではなく、獣…『赤腕』の悲鳴? そう思った瞬間、

 

ズゥゥゥゥゥン!

 

大きな地響きが森に広がる。私は戸惑いながらも、騎士様の方へ視線を向けてみる。そこには、『赤腕』と呼ばれた人食い熊が地に伏しており、そして騎士様は剣を天に掲げて、黙祷を捧げていた…。

 

 

 

 

ーエシャルー

 

…ふひぃ~、自分自身に酔っちまったぜ。今思うと恥ずかしいな、うん。俺は剣を振り、血を払って鞘に納める。そして悩む、…この熊をどうするか。このまま捨て置くのは勿体無い、うーむ。

 

………あ! ワープがあるじゃん。ワープだったら、この巨大熊も運べるんじゃね? ゲームだったら杖で一人しか送れないけど、杖ではなく魔法だからな。そうに違いない! なんて言ったって、ファラの血が濃いからな!余裕だろ、余裕! そうと決まれば、早速…ワープ!

 

 

 

 

エシャルは、巨大熊と共に魔法陣の中へと消えた。そしてエシャルも気付いていないが、物を落としていく。母の形見のペンダント、エシャル本人も持っていることを忘れている物。そして、それに気付き拾う者。ペンダントを拾った少女は、それを胸に抱き締めて、

 

「……騎士様。」

 

初めて抱いた感情に戸惑いながら、少女は何を想うのか…。

 

そんなことになっているとは知らないエシャル、何も考えていないだろう。




この少女はたぶん、ディアドラですね。

まだ、分かりませんが・・・。


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第3話 ~義兄弟

妄想!

いくぜ!


ーエシャルー

 

熊と一緒に、マーファ城に戻ってきた俺。城下の広場に突如として現れた為、大騒ぎになったが、

 

「おい、兄ちゃん…。その巨大熊…どうしたんだ?」

 

巨大熊の死体を見た男が聞いてきたんで、

 

「森の奥で遭遇したんで、殺っちゃったんだけど駄目だったかね?」

 

と、素直に答えた。……あり? 皆さん騒いでいたのに、急に黙ってどうしたん? なんかコソコソこっちを見ながら、お隣同士で話しているし。…俺、やっちまったのかね?

 

周囲の反応にビビる俺だったが…、

 

「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」

 

「え…何? 何が起きたのさ! …うるさっ!」

 

いきなりの大歓声に混乱しとります、耳キーン鳴っとります。何なのさ!

 

 

 

 

…先程の大歓声の理由、それが分かった。なんでも俺が倒した熊、『赤腕』と呼ばれる人食い熊らしい。ここ数年、ヴェルダンにて暴れまくっていたとのこと。んで、第1王子様が討伐隊を結成。しかし、思いの外強く敗走。熊の恐怖に怯えながら、生活していたらしい。

 

…山賊の国ですよね? なんつーか、情けない? …というか、あの熊強かったん? …まぁ倒したわけで、平和になった。それは良いことだ、うん。ちゅーことは、俺ってば英雄じゃん?

 

………みんな、ありがとう! ありがとう! とりあえず、調子に乗ってみた。

 

調子に乗った結果、なんか知らんけど城に呼ばれました。熊も大勢のマッチョ達に運ばれ、一緒にお城です。そして、目の前には王座に座るマッチョな兄貴。山賊王とでも名付けたい程の悪党顔、俺には無い魅力だぜ。そのマッチョな兄貴は、俺と熊を交互に見て、

 

「おうあんちゃん、…本当にコイツを殺ったのはお前か?」

 

なんてガンをつけてきやがったわけで、俺っちは嘘ついてないぜ? って気持ちを込めて、

 

「正真正銘、私が仕留めましたが…? お疑いでしたら、力を示しましょうか?」

 

と挑発してしまいました。だが、後悔はしていない。俺は思うがままに生きるのだ! それで死んだら、それはそれで俺の生きた道。神様も許してくれる筈さ! それに熊を圧倒したんだから、負ける要素がない。マッチョな兄貴は王族だろうけど、俺だって元だが貴族。ファラとヘズルの血が、屈するのを許さないのさ。…覚悟しいや、マッチョな兄貴!

 

 

 

 

「ちょいちょい兄貴! 素手はないでしょう!?」

 

「馬鹿かお前は、怪我したら駄目だろうが! それに、それが俺達の流儀だ!」

 

「ぎゃーーーーす!!」

 

武器を使っての決闘かと思ったら、素手での力くらべ。俺が勝てるわけないでしょうが!

 

…開始早々捕まって、さば折りをされました。結果は当然、…敗北です。マッチョな兄貴に、か弱い俺が力で勝てる筈が無い。これはヴェルダン王国の陰謀に違いない! …無念なり!

 

俺は腰を押さえながら、悪態を吐く。

 

「剛力戦士に勝てるわけないでしょうが! 俺はどちらかというと魔法使いなんですよ!? そんな俺に、素手での力くらべって…。アンタ達は鬼か悪魔か蛮賊か! せめて剣を使わせておくれよ、もっかいもっかい! 武器での模擬戦を提案する! へいへーい!」

 

そう言うと、マッチョな兄貴は俯いてプルプルしている。…ハッ! 不敬罪で打ち首!? コイツはヤバイぜピンチだぜ! ワープの準備を…、

 

「がははははは! お前、面白い奴だな! 気に入ったぜ! …おう、お前ら! 宴の用意だ!」

 

「「「「「へい! 王子!!」」」」」

 

…お? 首が繋がったんですかい?

 

 

 

 

「…んで、俺と赤腕が取っ組み合いになってな。そん時の傷がコイツよ!」

 

「取っ組み合い!? よくそれだけで済んだよね、ガンちゃんは頑丈だね! 俺だったら即死よ即死!」

 

和気藹々と飲んでます。マッチョな兄貴の名前はガンちゃん、…じゃなかったガンドルフ。ヴェルダン王国の第1王子なんだって! ゲームじゃ悪党だけど、現実は良い人。やっぱリアルは違うみたい、頼れる兄貴って感じ。一時はどうなるかと思ったけど、こうやって仲良くなれてよかったよかった。

 

ほろ酔い気分になったところで、ガンちゃんがこちらに向き直り、

 

「遅くなっちまったが、赤腕討伐感謝するぜ。エシャルのお陰で、民達が安心して暮らせるようになった。父バトゥ王に代わって、第1王子ガンドルフが礼を言う。本当にありがとう!」

 

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 

ガンちゃんが頭を下げるのと同時に、後ろのマッチョ達も頭を下げる。一瞬、何が起きたのか分からんかったけど、

 

「いやいや、当然のことをしたまでですよ。俺は元とはいえ貴族、民を守るのが務め。国は違えど民を想う気持ちは同じ、故にこれは務めであって礼はいらないさ。…だが、その礼は頂くよガンドルフ王子。」

 

と返し、顔を上げたガンドルフと目が合う。そして…、

 

「「わははははは!!」」

 

と笑い合った。

 

 

 

 

宴が終わり、俺はマーファ城に泊まることとなった。わりと酔った為にすぐ眠ることが出来ると思ったのだが、いざ寝る時になると冴えるもんで…。

 

「…良い月夜じゃないか、流石は森の王国。美しいもんだ…。」

 

廊下の窓から、月を見上げていた。…色々と考えてしまうな、自我が目覚めてまだ一日だけどさ。俺の過ごした日々は、平凡ではなく過激。微妙にモヤが掛かっている記憶、なんだか気持ち悪い。兄、アルヴィスの記憶も曖昧だ。…記憶がはっきりしないってーのは、嫌なもんなんですね。ボーッとしていると、後ろから足音がしたので振り返る。

 

「よぉ…エシャル、眠れねぇのかい?」

 

マッチョな兄貴、ガンドルフがいた。

 

…月を見上げながら、俺達は色んな話をした。俺はヴェルトマー家の生まれで、追放されたこと等を話した。まずったかな? とは思ったものの、ガンドルフには話しやすく話してしまったわけで。

 

ガンドルフも兄が死んだこと、新たに弟が出来たこと、どう付き合えば分からないこと等。ガンドルフも色々と悩んでいるみたいだ、…なんだか湿っぽいね? …やっぱ心細いのかなぁ。一人旅で逃亡者で、自我に目覚めて…さ。

 

俺達は黙って、月を見上げていた。会話が途切れて、とりあえず見上げていた。そして俺はボソッと、

 

「なんだかガンドルフは、デカイな…色々と。俺は兄との記憶が曖昧で、…なんだかガンドルフが兄みたいに思えてくる。今日会ってばかりなのに、可笑しいよな…。」

 

そんなことを呟いた。ガンドルフは俺の呟きに驚きつつ、ニヤリと笑みを浮かべ、

 

「俺もなんだかよ、エシャルみたいな男が弟だったら…って思っちまったよ。俺はグランベルが嫌いだ、嫌いだけどお前は…。言葉にすんのは難しいんだけどよ…。」

 

そしてまた、空を見上げる。

 

 

 

 

この日俺とガンドルフは、義兄弟の契りを結んだ。超展開の分類に入るような気がするけど、なんだか心が軽くなった。

 

そのすぐ後、

 

「兄貴ぃぃぃぃぃ!!」

 

「義弟ぉぉぉぉぉ!!」

 

そんな叫び声が、城の中に響いたとか響かなかったとか…。




俺はガンちゃんが好きなんだ!


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第4話 ~さらば、マーファ城

兄貴ぃぃぃぃぃ!


ーエシャルー

 

ガンドルフと義兄弟になって3ヶ月ぐらい、色んなことをしたなぁ。

 

力くらべで負けた為、俺の実力が分からない。赤腕を倒したことから、弱いってことはないだろう。…ってなことで、ガンちゃんの部下と模擬戦したのさぁ~。キルソードじゃヤバイから、城下の武器屋で細身の剣を購入。スキルの必殺もヤバイから、発動すんなーと念じながら戦ったのだ。結果は圧勝、100人抜きを達成してしまった。流石のガンちゃんも、ひっくり返りましたとさ。

 

他国から流れてきたならず者、奴等が村にて悪さをしている。それを聞いた時、イラっときたので部下を数人借りてワープ。俺のエルファイアーが、ならず者を焼き払って村を救った。そん時一緒に来たガンちゃんの部下、…デマジオ君。悪党顔なのに瞳を輝かせて、

 

「エシャルの兄貴、一生付いて行きやす!」

 

とかなんとか。いやいや貴方の方が年上ですからね?しかもガンちゃんの部下でしょうが! と思ってみたり。

 

森の奥に勇者の泉? 湖? なんだか分からんけど、凄い場所があるとのことで。ワープを使わず、あえて歩いて行ってみた。途中、視線を感じたような気がしたが。到着してみれば、めっちゃ綺麗な湖で。…それだけだったが、一緒に来たみんなと釣りをして楽しんだ。魚を大量に持ち帰って、また宴。…飲んでばっかじゃないからね?

 

城下で買い物してたら、見知らぬ美少女とぶつかった。めっちゃ綺麗でドキドキしたのを覚えてる。その少女も俺を見て驚いて、猛スピードで逃げてった。美少女に逃げられた俺、猛烈ショックを受けました。

 

「兄貴は畏怖されて当然、逃げるのは罪じゃねぇ。…ですよね? 兄貴!」

 

と、後ろに控えたデマジオ君の言葉。他の奴等も頷いてはいるが、

 

「お前らが悪党顔なのが悪いんじゃ! 俺じゃない、お前らが悪いんじゃ!」

 

とキレて、デマジオ君達を追いかけ回した。

 

そんなこんなで、ヴェルダン王国マーファ城。ここの部隊は俺のせいか、王国最強の戦士団になったっぽい。ガンちゃんが喜んでたっけ。…済まぬシアルフィ軍の方々、貴方達の相手を強化してしまいました! 未来がどうなるか分からんけど、すんません!

 

 

 

 

…本当に、今となっては良い思い出。そんな地を俺は今日、旅立つのだ。俺は旅人で逃亡者、1ヶ所に留まること等してはいけない。3ヶ月、わりと長くいたけど。………やべー、思い返せば返す程泣けてくる。旅立つ準備を終えて、物思いにフケていると、

 

「エシャル…、準備は終わったのか?」

 

そんな俺に、ガンドルフが声を掛けてきた。

 

俺は立ち上がり、ガンドルフに頭を下げる。

 

「ガンドルフ…いや、兄貴。今まで世話になった、…ありがとう。旅立って兄貴達と離れるのは寂しいけど、これもまた俺の道。新天地でも楽しく生きる予定だからさ、笑って見送ってくれよ?」

 

「当たり前じゃねぇかエシャル、…俺の義弟よ。なんかあったら帰ってくりゃいい、ここによ…。グランベルだろうが、親父達が何と言おうが、俺は味方だ。それにお前程の男が、どうにかなるってーのは想像出来ねぇからな。安心して見送るってもんよ。」

 

そんな言葉、泣いちまうぜ兄貴! 俺は真っ直ぐ、ガンドルフを見る。ガンドルフはぎこちない笑みを浮かべている。ホロリと俺の目から、涙が零れ落ちる。

 

「兄貴ぃぃぃぃぃ!!」

 

「義弟ぉぉぉぉぉ!!」

 

俺とガンドルフは抱き合って泣いた。……これは兄弟愛だからな! 薄い本を作んなよ!

 

 

 

 

お互い泣いてスッキリ爽快、大勢引き連れて城下から門へ。城下の民達もついてくる、…くぅ~泣ける! そして門に辿り着いた俺は振り返り、

 

「ここまででいいぜ兄貴達、俺にはワープがあるからさ。ワープがあるからいつでも戻ってこれるが、…当分は戻ってこないからな。これから先、何があるか分からない。俺は強くならなきゃならんからな。…甘えは禁物ってわけさ。」

 

ニヤリと笑ってそう言った。

 

「そんなこたぁ分かっている。くだらねぇことで帰ってきたら、ぶん殴るからな。覚えとけよ!」

 

ガンドルフもニヤリと笑って言う。

 

「分かっているさ兄貴、そんなことはさ。まぁ新天地でヴェルダンに何かあったって情報を聞いたら、すぐ帰ってくるから。デマジオ君達も、兄貴をしっかり支えてくれよ!」

 

「「「「「へい!エシャルの兄貴!」」」」」

 

俺はその返事を聞いて満足、踵を返してみんなに背を向ける。

 

「じゃあな第二の故郷。…みんな、また会おう!」

 

と歩き出す。そんな俺に…、

 

「エシャルの兄貴ぃぃぃぃぃ!!」

 

「エシャル様、ありがとう!」

 

「いつか帰ってきて、また飲みましょうや!」

 

「平和をありがとう!」

 

「「「「「エシャル! エシャル! エシャル!」」」」」

 

様々な声を背に受けて、俺は…俺は…!

 

「うぐぅ……!」

 

涙を堪えるのがやっとだった。これは辛い、辛すぎるぜ! みんなが見送ってくれてる中で、これをやるのはよくないかもしれない。だけど…分かってくれるよな! どこに行くか分からんけど、とりあえず…ワープ!

 

 

 

 

マーファ城から見送るガンドルフ達の目の前から、エシャルは魔法陣の中に消えた。彼がこの地を再び踏む日は、一体いつになるのだろうか? 願わくは、平和な世でありますように…。




どこに行くかな?


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第5話 ~竜が飛ぶ国

何となく、ここにしました。


ーエシャルー

 

ヴェルダンからワープ、来た場所といえば山!ここは何処だアグストリアかな? なんていったってヴェルダンからのワープだからね! 近場っしょ! わはははは!

 

………山以外何にもねぇ、マジで何処ですかね? 山っつっても、緑の少ない山ばっか。岩山っつーのかな? 人里あるんすかね?

 

とりあえず、山歩きを実行する俺。ワープは最終手段、そもそもここが何処か分からない。分からないから、ワープが出来ません。ヴェルダンの時にやったランダムワープ、知らぬ土地でそんなんやったら危険やで!

 

…やんなきゃよかったランダムワープ、見知らぬ土地に辿り着くとは思わなかった。このままだと遭難するぜ、ヘルプミーってなわけよ! …やっぱワープしちゃおうかな? 鮮明に思い浮かべることの出来る場所、ヴェルトマーの僻地、マーファ城、ヴェルダンの村、綺麗な湖。…少な! ワープ候補地が少ない件について、…なんでやねん!

 

 

 

 

ヴェルダンで鍛えたこの足腰、この程度でへたれません。それに山歩きも楽しいもんだ、景色もいいし。欲を言うなら人里カモン! 人っ子一人いやしねぇ、マジで何処だよ。ヴェルダンから旅立って2日、もう既にホームシックな俺。一人は寂しい、食料がヤバイ、俺様カッコいい。…ぐすっ、

 

「助けてくださぁぁぁぁぁい!!」

 

山の中で助けを叫ぶ俺、せめてここが何処かだけでも教えてください!

 

人里求めて4日、流石にもうヤバイです。食料尽きて、一人が寂しすぎて死にそうです。風呂、もしくは水浴びがしたいです。マジでヴェルダンに帰ろうかなぁ…、でもカッコ悪いよなぁ…。今日中に人里を見付けよう、見付けることが出来なかった場合はヴェルダンに帰ろう。死ぬよりマシだよね! …ラストスパートじゃボケェェェェェ!

 

全てを懸けてハイになっている俺を、誰も止めることは出来ない。…何処だぁ、人里! 俺の面前に姿を見せやがれ! 高山病もなんのその、山々を駆け巡る俺はもはや山神。人知を超えた存在となっている、…気持ち的にね。そんな俺のゴキブリパワーが尽きかけている、流石に限界か!? と思いかけた時に見えたモノ。あれは…、

 

「やったぜ村だ集落だ! これで勝つる!!」

 

テンションアゲアゲで駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

ーパピヨンー

 

「おらぁ! 剣を捨てな、隊長さんよぉ! ガキがどうなってもいいのか!」

 

賊が子供に斧を突き付け、こちらに剣を捨てろと要求してくる。

 

「パピヨン隊長、どうすれば…。」

 

部下の一人が私に問いかける。これが他国の子供であれば、気にも留めずに賊ごと斬るのだが…。人質は紛れもなく我らが国の民、見殺しにすることなど出来る筈もない。

 

「…分かった、こちらの武器は捨てよう。その代わり、子供に危害を加えるのはやめろ!」

 

そう言って、私は剣を捨てる。部下も私に習い、各々の武器を手放した。賊はニヤニヤ笑い、

 

「それでいいんだ隊長さんよぉ、俺も子供を殺すなんてこたぁしたくねぇからな。」

 

クソが! どの口がそんなことを言う! 既に6人もの民を殺した癖に…! 私は悔しくなり、賊を睨む。そんな私の目が気に入らないのだろう、苛立った様子で、

 

「…んだぁ! その目はよぉ! 立場が分かってんのか、あぁ!!」

 

賊の斧が、子供に強く押し付けられる。少し刃が肌を裂いたのだろう、子供の服に赤い染みが浮かび上がる。子供は声を上げず痛みに堪えている、…強い子だ。その我慢強さに敬意を評し、絶対に助け出したい。しかし現状は、救出するのは難しいと言わざるを得ない。…くっ、どうすれば。

 

そんな逼迫した状況に、乱入してくる男がいた。少々汚れてはいるが、身なりが良い。鷹のように鋭い眼差しは、只者ではないと私の勘が囁く。そんなことより、突然の乱入。賊を刺激してしまったのでは…!

 

「なんだテメェ! 軍の関係者かなんかかぁ!? …ガキがどうなってもいいみたいだなぁ!」

 

やはり刺激してしまったか!? クソ…! 一か八か、賭けに出るしかないか!

 

「……どんな状況? …子供が人質で皆さんがピンチ?…んん?」

 

状況が飲み込めていないのか、コイツは! …コイツのせいで、事態は一刻を争うことになったというのに!

 

「…なるほど、その小汚ねぇ賊が悪党か。理解した、…ならば!」

 

今更理解など…! と思った矢先、男の体が光った瞬間。子供が賊の下から消え、男の下に。

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

私達と賊の声が重なった。一体何が起きたのだ!?

 

「隊長さん? でいいのかね? 人質は救出したわけで、…後は分かるだろ?」

 

男の言葉で我に返る。私は努めて冷静に、

 

「賊を捕らえるのだ!」

 

と声を上げた。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

なんかよく分からんけど、子供を救出。賊は、兵士の皆さんに捕まったみたい。まぁとりあえず、良かったのかな?

 

「…うぅ~……!」

 

何やら子供が呻き声を。よく見ると、怪我してんじゃん! 人質にされた時に傷付いたんか! んなことより治療だな! …ライブ!

 

………よし! 子供の傷は治ったな、一件落着ってわけだ! 良かった良かった! と自己満足している中で、ポンッと肩に手を置かれ、

 

「協力に感謝する、…で少し話を聞かせてもらえないだろうか?」

 

…ですよねぇ~。隊長さん? は、話を聞きたいようだ。まぁ話すことはいい、だがその前に…。

 

「…その前に、飯を食いたいんだけど。…良いですかね?」

 

ぐぅ~…と腹が鳴り、隊長さん? が苦笑いをしていた。…恥ずかしいわ!

 

 

 

 

……まぐまぐ。貰ったパンは一つだが、ものっそ旨い! 空腹はスパイスだ! このパンは、助けた子供の親から頂いた。お礼がこれしかないって、終始申し訳ないオーラを出していた。逆に俺の方が、申し訳ない気持ちで一杯だよ! たまたま遭遇した為に助けただけで、お礼を貰う為に助けたわけじゃない。

 

なんとなく雰囲気で感じたけど、この村? 貧しいんじゃないですかね? そんなんで、お礼としてパンを一つ。本当に申し訳ない、だがしかし…! せっかくくれるってんなら貰うだろ! お礼を拒否するのは人にあらず、好意は受け取らないと駄目でやんす。

 

満腹とはいかないけど、満足したぜ。ちゅーわけで、パンを食い終わるのを待っていた隊長さん。

 

「お待たせしてすみませんね。…んで、話って俺についてでいいんですかね?」

 

「ああ、立場上…聞かぬわけにはいかないからな。」

 

まぁそりゃそうだわな、…軽く話しますかね。

 

 

 

 

自己紹介を互いにしてから、ヴェルトマー家から逃げているのは伏せつつ、これまでのことを話した。つっても、ヴェルダンからのことですが。ワケありの放浪魔法剣士? とでも思ってくださいな。俺の事情を話したところ、隊長さん…パピヨンさんはやや呆れている。

 

「ワケありなのは多少引っ掛かるが、ヴェルダン王国に関わりがあるのか。しかも王族…、身なりを見れば分からんでもない。…いやそれ以上に、ワープとレスキューか。エシャル殿は、なかなかの…いや、かなりの腕を持っているようですな。」

 

「いやぁ~…、それほどでも。」

 

照れてみた。照れる俺を気にせず、パピヨンさんは、

 

「賊のこともあるし、ワケありとはいえ助力してもらったこともある。…一応、トラバント様に報告せねばなるまい。エシャル殿には悪いが、一緒に来てはくれないだろうか?」

 

「…上司に報告? ならば仕方がないよね、…付き合いましょう。」

 

ここで断れば、最悪犯罪者になってしまうだろう。ヴェルトマーの他に、追われる奴等が増えるのは勘弁。ついていくしかないっしょ。俺の言葉を聞いて、安心したパピヨンさん。彼は、

 

「申し訳ない、では…足を呼ぶので。…おい! 私の飛竜を連れてきてくれ!」

 

…おぉ、飛竜ですってよ奥さん。……んん? 飛竜?

 

立派な飛竜が現れて、パピヨンさんがそれに乗る。

 

「エシャル殿、貴殿も我が飛竜に乗ってくれ。…安全な空の旅を約束しよう。」

 

俺はパピヨンさんの手を掴み、飛竜の背に乗る。…彼ってドラゴンナイトっすかね? 聞いとこ。

 

「パピヨンさんパピヨンさん、貴方はドラゴンナイト? 因みにここって、トラキア王国ですかね?」

 

「…? いかにも私は竜騎士で、ここはトラキア王国だが。互いに紹介をする時に言ったのだが…。」

 

何言ってるのコイツって顔してるね、サーセン! …それにしてもトラキアねぇ~、遠くに来たもんだわ。とりあえず、トラバント様とやらに会わないとね。考えるのはその後だ、…ってトラバント? トラキアの王様ですやん! なんてことを考えながら、俺はパピヨンさんの飛竜で空へと舞った。




トラキア~。

まだ先だけど、次はレンスターになるんだろうね。


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第6話 ~トラキアの王

トラキアにて。

では・・・。


ーエシャルー

 

パピヨンさんとの空の旅、これが女の子とだったら言うことなしなんだけど。空から眺めるトラキア王国は、本当に山ばっか。申し訳ない程度に緑があるだけ、…なんとも難儀な国なのだろうか。ヴェルダンは逆に緑しかねぇけど、トラキアの山ばっかよりはマシだよなぁ。民が可哀想だよね、色々と。

 

民達は、自分達の足で行動するんだよね。普通だったら、足腰が鍛えられて良い鍛練ってことだけど。貧困の為にこれが致命的、無駄に体力を削る。貧困で食料調達も厳しく、入手する為の行動で命を削る。あまりにも厳しいトラキアの現状、先程の村のことと、空から眺めるトラキアの山々を見て、勝手にそう思っているだけなんだけど。…それほど間違った見方はしていない筈。

 

トラキア王国、…山々に囲まれた天然の城塞で難攻不落。されど、民は苦しみ兵は傭兵稼業をしなければ、滅びを待つだけの国。

 

「……形振り構う暇があれば、国の為に心を殺す日々…か。」

 

「………。」

 

そして俺を乗せた飛竜は、トラバント王がいるトラキア城へと舞い降りた。

 

 

 

 

飛竜から降りた俺、パピヨンさんに付いていけばいいんかね?

 

「私は先程のこととは別に、もう一つ報告せねばならない。エシャル殿は兵に客間へと案内させる故、そちらでお待ちを。」

 

部外者に聞かれては、まずい案件があるのかな? …巻き込まれたくないから、大人しく待ってますよ。思う存分、報告してくるといいさ。…でもなぁ、なんか巻き込まれそうな気がするな。まぁ俺に出来ることなら、協力するのもいいんだけどね。そんなことより、国の現状ってヤツを知りたいなぁ。内容次第じゃ、俺にやれることもあるかも知れんし。とりあえず、客間に案内してくれる兵士に聞いてみよう。…聞くぐらいはいいよね? 捕まんないよね?

 

 

 

 

 

ートラバントー

 

「トラバント様、第12竜騎隊隊長パピヨンが報告の為、到着致しました。」

 

「…そうか、パピヨンがな。奴等の件か、賊の件か…。まぁ、いい…。こちらに呼べ。」

 

「はっ!」

 

一礼してから、部下が退室する。それを見届けてから、現状を思い浮かべる。

 

ミーズとマンスターの国境、人目を避け山中に砦を建てた。コノートの弓兵、マンスターの斧騎士を中心とした騎士団、少数ではあるが魔導士の姿も確認されている。巧妙に隠していたようだが、存在が明らかになった以上はな。…大方、コノートのレイドリックあたりの策だろう。そして、その口車に乗ったマンスター。ミーズ奪取の足掛かりにするのだろうが、そう易々とミーズを取られるわけにはいかない。

 

早急に落とさねばならないが、空から近付けば弓が、地上から攻めれば騎士団が、思いの外攻めにくい。迂闊に攻めれば被害が大きく、後々響くのは明白。パピヨンには、抜け道か何かを調査させているが、望みは薄いと考える。

 

 

 

 

そして、賊の類いも増えた。件の砦が発見される前から、少しずつ増えてはいたが。発見後、あからさまに数が増えている。…最初は砦の存在を隠す為、存在発覚後は攻めの兵力を減らす為。…小賢しいことをしてくれる、さすがはレイドリック。我らトラキアの内情を知っての策、…なかなかに有効な手だよ。

 

中途半端に打撃を与えても、あの野心家のことだ。すぐに後詰めの部隊を送ってくるに違いない。打撃を与えるなら盛大に、大きな痛手を与えればマンスターは退くだろう。そうなれば、流石のレイドリックも退かざるを得ない。コノートの兵だけで、我らを倒せる等の思い上がりはしない男だ。

 

…もし我らに、奴等のように豊かな土地があれば、動かせる兵が多くいれば、我らに…!

 

「…虚しいだけか。」

 

もしもの話等、私らしくない。今はいかに現状を打破するか、…それを考えるのが先だ。…最悪、ミーズを捨てることも考えなければ。無理をして、国を傾かせる等愚策。いかにトラキアを守るか、民を守るかが先なのだ。城の一つに固執して、国が滅んだら笑えんからな。今はこれを乗り越える、…それだけだ。

 

…思考の海に沈みかけた時、執務室の扉がノックされ、

 

「第12竜騎隊パピヨンです。ご報告に参上致しました!」

 

との声が。フッ…考え込む等、私らしくない。

 

「…入れ。」

 

パピヨンからの報告、良い情報があればいいのだがな。

 

 

 

 

パピヨンからの報告を受け、砦を落とすことは難しい、それが分かった。期待はしていなかったが故、特に思うこともなかったが、賊の話に及ぶとそうはならなかった。

 

「腕の立つ協力者…だと? その協力者が人質を救出し、賊捕縛に繋がったと…。」

 

「ハッ! その協力者はエシャルと言いまして、レスキューの魔法を…。」

 

パピヨンからの報告を聞きながら考える。ヴェルダン王国から、ワープで流れてきた魔法剣士。ヴェルダンからトラキアまで、ワープで来ることが出来る男。レスキューで人質を救出した男。ワケありのようだが、人間性は悪くない。立ち振舞いから、どこぞの国の貴族階級に属していたのでは? と思わせる風格。何より鋭い目、その目が強者であると語っている。

 

…面白い、単純にそう思う。パピヨンは人を見る目、これがなかなかに良い。そのパピヨンにそう言わせる男、興味が出てくるのは必然だろう。それに、そのエシャルという男。ミーズの攻防で、助力を取り付けることも出来るかもしれん。

 

「パピヨン、そのエシャル…と言ったか? 王座の間へと連れてこい、会ってみたい。」

 

「ハッ!了解致しました!…では、失礼します!」

 

退室するパピヨンを見届け、私も王座の間へと向かう。エシャル…、どれ程のものか…。そして、聞いたことのある名であった。私の知る名の者か、それも気になる。自然と口元に、笑みが浮かんだ。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

兵士の人に案内された客間にて、茶をシバく俺。兵士の人に話を聞こうかと思ったんだけど、部屋を出ていったんで一人ぼっち。…ここ最近というか数日間、ぼっちだった為に話をしたい俺には酷な仕打ちだぜ? 人里下りても一人ぼっちって、泣くぞ俺! なんてブツブツ言っていたら、ノックの後にパピヨンさん登場。良いところに来てくれたパピヨンの旦那、さぁさぁボーイズトークとシャレこみましょうや。

 

「エシャル殿、トラバント様が王座の間にて話がしたいと。度々申し訳ないが、足を運んで頂けないだろうか。」

 

たぶん会うことになるだろうと思っていたけど、ボーイズトークのお相手が王様ですか。トラキア初のマトモな会話がトラバント王、ハードル高いけど気にはしねぇ。竜騎士ダインの血筋に会ってみたいと、俺の心が訴えてきてるぜ。

 

「了解、会いますよっ…と。どんな人かドキドキワクワクだね。」

 

内心めっちゃ緊張してますが、…何か?

 

 

 

 

王座の間に入った瞬間、何やら違和感が。ついでにパピヨンさんが隣にいない、…王様と二人きりなんですか!? だだっ広い間で二人きり、イジメっすか? とりあえずモヤモヤしとるけど、トラバント様の前まで歩き、片膝をつく。

 

「私をお呼びとのことで参上致しました、トラバント王。」

 

とりあえず挨拶をば。少しの沈黙の後、

 

「お前が協力者か、…楽にして良い。」

 

とのお言葉を頂いたので、立ち上がってご尊顔を拝見します。

 

「「………!!」」

 

なんだかビビっときました、王様も同じみたいです。…なんかワケありって、隠した意味が無い気がします。

 

沈黙の後、トラバント王が一言。

 

「エシャルと言ったか。…お前、聖戦士の血を引いてるな?」

 

その言葉で、ワケあり設定での隠し事が無くなりました。さっきのビビって血の共鳴だったんかーい! 聖戦士の血、恐るべし…。

 

「…はぁ、まぁ…引いていますね。…その、かなり?」

 

なんだかよく分からんけど、そこから普通の会話が。たぶんあちらさんも同じ気持ちだろう、…よく分からんけど。なんで…?

 

そんなこんなで、この俺エシャルはトラちゃんを気に入った。若くして王になり、貧しい国の為に頑張ってる彼に感動した! 民を想う気持ち、国を憂える気持ち、他国に対する気持ち、トラキアを治めるに相応しい男だと思ったのだ!

 

因みに俺が、ファラとヘズルの血を色濃く継いでいるってバレました。バレたと言うか、知っていた? カマかけられて、ポロっとね。…まぁ、別にいいんだけど。名前だけ知っていたみたいだね、トラちゃんは。うろ覚えながらワケあり話をしましたよ、隠したっていずれはバレるわけだし。

 

「…血を継ぐってことは、呪いも継ぐってことになる。…特にお前は二つの血を継いでいる。…苦労するな、この先。」

 

不敵な顔で、同情されました。そんな感じで仲良く? なれましたよ!




次回はどうなるか?

むむぅ・・・。


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第7話 ~ミーズ北東砦攻略戦

サクッといきます。


ーエシャルー

 

トラキアのトラちゃんこと、トラバント王と仲良く? なったこの俺エシャル。とりあえず会話を…と思って、聞きたかったトラキアのことを話題に。するとどうでしょう、冷静っぽい雰囲気のトラちゃんが熱く語り出した。

 

「山々に囲まれ、痩せた土地に住み、貧困に喘ぐ民達を守る、…救う為に我らは傭兵として大陸を巡る! そうでもしなければ、国はただ滅びを待つのみ! 私は王として、国が滅び往く姿を見たくはない。故に、戦場を徘徊するハイエナと言われようと、金に群がる亡者と言われようと、我らは民を、国を想い、行動している。我らには我らの誇りの上で、今を生きているのだ!」

 

最終的に、俺一人に対しての演説となりました。

 

…演説終了、トラちゃんは肩で息をしている。それほど熱く語ったってなわけで。

 

「フーッ…、フーッ…。すまぬ、熱くなり過ぎた…。」

 

ちょいと恥ずかしそうに、苦虫を噛み砕いたような顔。トラちゃん可愛いですね! それ以上に、トラキア兵達に感動した! 悪評もなんのその、民と国の為に頑張る傭兵稼業。

 

そして他国、特にレンスター・コノート・マンスター・アルスターの北トラキア4小王国がムカつく! レンスターはトラキアを見下し、コノート・マンスターは領土を狙い、アルスターは日和見。恵まれた環境にいる奴等は、本当に腹立だしい。トラキアの誇りを汚す傲慢共めが!

 

機会があるのならば、我が血に懸けて食い散らかしてやるというに! と、ブツクサ言う始末。……ん? トラちゃんの目が光ったような。…もしかしてだけど、その機会ってーのがあるんすか?

 

 

 

 

ートラバントー

 

魔法戦士ファラと黒騎士ヘズルの血を色濃く継いでいる男、エシャル。会って分かったのだが、やはりこの男は…あの事件の生き残り。いや、被害者なのだと分かった。

 

逃亡者と男は言うが、事実は違う。ヴェルトマー家のエシャルは、公式で死亡が発表されている。逃亡者ではなく、存在しない者となっているのだ。…私は考える、事実を伝えた方が良いのかと。追う者がいないのに追われる身、…哀れな男と言えるだろう。

 

…付き合いによると思うが、そのことは後で考えるとしよう。それよりも、私は私自身に驚きを隠せない。エシャルに対し、聞かれたとは言え熱くトラキアのことを語ってしまった。

 

語り終えた後、多少の気恥ずかしさがあった。…がそれ以上に、この男…エシャルに驚いた。トラキアの現状に嘆き、誇りを誉め称え、北トラキア4小王国に怒りを表す。決して、おべっかを言ったわけではなく、本心でそう言っている。目がそれを語っている。

 

そして、我がトラキアに機会があれば助力をと。この男の実力がどれ程のものかは分からないが、彼の力を借りることが出来れば彼の砦を…。

 

ミーズの攻防戦に、この男の力を借りることにしよう。…不思議と断られる、と言う光景が思い浮かばない。なんとも不思議な男だ。

 

「エシャル、…その機会があると言えば、…お前はどうする?」

 

私はそう、問いかけた。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

「エシャル、…その機会があると言えば、…お前はどうする?」

 

なんて聞かれました。そりゃあ、そんなこと言われたらさぁ…、

 

「我が炎と剣に懸けて、トラバント王の力になりましょう。」

 

と言うに決まってんだろうが! やるぜ殺るぜ! トラキアを狙う傲慢野郎共、斬り刻んで燃やし尽くしてやるわ! …実際、そこまでしないと思いますけどね?

 

 

 

 

場面は切り替わって、ここはミーズ城でございます。ここより北東の山中に、件の砦があるそうで。ミーズ城の会議室にて、将軍達と攻略戦について話し合っています。ついでにトラちゃんもこの場にいるんで、緊張感がハンパない。そんな中での作戦会議、俺は茶を飲み菓子を食う。腹が減っては戦は出来ぬってね。…まぐまぐ。

 

一通り、作戦を提案されたみたいですが、正攻法しか出ませんね。正攻法だと被害が大きくなるから、トラちゃん含めて渋い顔。そんな空気の中、トラちゃんが…、

 

「…エシャル、お前ならどう攻める?」

 

なんて聞かれまして、危うく茶を吹き出すところだったよ。…皆さん、こちらに視線を集中させてますね。

 

「絶対とは言えないんだけど、…砦の大半を破壊してしまうが被害の少ない作戦はある。…まぁ俺が中心と言うか、俺がいないと出来ない作戦になってしまうけど。」

 

「……聞こうか。」

 

そんなわけで、俺の力を発揮する作戦を披露する。勿論、トラキア軍の皆さんも活躍してもらいます。いや、活躍してもらわないと困るわけで。いかがっすかね?

 

 

 

 

そして、俺提案の作戦が実行されるわけでして。

 

「全軍の配置は完了した。…エシャル、頼むぞ。」

 

と、トラちゃんから頼まれましたんで、

 

「…ならば初撃を叩き込み、作戦開始の合図としよう。」

 

魔力を高めて集中して…、この一撃をコノート・マンスター連合軍に捧げよう。

 

「我が炎の鉄槌を受けるといい、…メティオ!」

 

俺の魔力が炎の塊となって、砦に降り注ぐ。そして、

 

「トラキア重騎兵団はゆるりと進軍、マンスター騎士団を誘い出せ! 第4、第5竜騎隊は重騎兵団の援護を! ハンニバル率いる精鋭はエシャルの下に集まれ!」

 

さぁ、第2波いくよぉ~!

 

俺は、ハンニバル将軍らを砦にワープで随時送る。砦は目視で確認出来るんで、問題なしっす。MPは大丈夫ですか?全然問題なし。俺、エリートですから。エリートってMP消費を抑える効果もあるみたい、流石はエリート。

 

戦況はトラキア軍が圧倒的有利、押せ押せモードで士気もアゲアゲですね。…最後のワープに、俺っちも一緒に行くでやんす。俺も砦で暴れたいんで、…役割もありますからね? ってなわけでワープ!

 

砦に到着したわけでして、外はほぼ制圧しとる。後は砦内ってわけですか。砦内に侵入する為、門をどうにかしようとしているトラキア軍。お…? ハンニバル将軍が指示を飛ばしてますね、俺は将軍に近付き、

 

「将軍、砦内に踏み込む者数名を残し、後は背後からマンスター騎士団を攻撃しましょうや。重騎兵団と挟撃し、早々に潰しましょう。後詰めのパピヨンさんらも呼ぶんで、この砦は俺達の物になるでしょう。」

 

「了解した、パピヨン殿が来るならば、私は部下を率いて挟撃に出ましょう。砦内のことは、エシャル殿にお任せしますぞ。」

 

そう言って一礼すると、砦の外門から外に打って出るハンニバル将軍。それを見届けてから、空に向かって合図のファイアーを。これでパピヨンさんが襲来、外はこれで大丈夫っと。後は、

 

「トラキア兵諸君、内門から離れろ!」

 

門に群がるトラキア兵の皆さんを退かしてからの、

 

「エルファイアー!」

 

一気に燃やし尽くして、内門を突破する。兵士の諸君、俺についてこい!

 

 

 

 

それから程なくして、この砦は陥落した。砦の責任者は、一緒に突撃した兵士の一人、カナッツ君が討ち取りました。彼はその内、大成するだろう。当初の予定通り、数人の敵兵はメッセンジャーとして逃がしたみたい。その他の敵兵は、残念ながら皆殺し。まぁ、仕方がないよね。

 

 

 

 

俺の考えた作戦は、俺が先制でメティオを放つ。ここで重要なのは、トラキア軍が展開していなければならないってこと。この攻略戦は、トラキア軍の大攻勢と思わせなければならない。メティオの後は、少しずつ進軍する。砦から、敵兵を誘い出さなきゃダメだからね。メティオで混乱するだろうから、あっさり突撃してくるだろう。

 

ある程度の衝突が確認されたら、精鋭を砦にワープで送る。ワープからの奇襲等、想像出来ないだろう。これで内側から食い破る、そして最後に俺もワープで砦に。そこから精鋭を外門から出撃させて挟撃に、空へ合図を上げて後詰めの部隊を呼び込む。俺中心に砦内へと侵入し、敵将を討ち取り制圧。メッセンジャーを数人残して、敵兵は皆殺し。

 

これが俺の考えた作戦で、結果としては大成功。被害も殆んどなく、北東砦を制圧した。俺一人でも制圧出来たような気もするが、トラキア軍がやったという事実が重要。これ程の大勝利をトラキア軍が成し遂げた。

 

このことが相手の攻勢を挫き、侵略という行動を留まらせることになる。トラキア軍に被害はほぼ無し、コノート・マンスター連合軍は、数人を残して全滅。多大な被害を被ったが故に、侵略を躊躇するのは必死。当分は侵略という脅威から、トラキアは守られるだろう。

 

何はともあれ、お味方大勝利! 勝鬨を上げろ、エイエイオー!

 

 

 

 

この戦いの後、北トラキア4小王国。特にコノート王国・マンスター王国は数年間、トラキア王国を侵略することはなかった。特に被害の大きかったマンスター王国は、『トラキアの下に弱卒無し!』と大いに恐れたという。




レンスターの方に行けなくなりました。

次はシレジアかなぁ。


序章が終わり次第、なるべくゲーム通りに進める予定。シグルド軍から主人公軍に異動させる主要キャラはいた方がいいか、それともいらないか。

主人公の伴侶は誰が良いか?オリキャラ?主要キャラ?愛人含めてハーレム?

悩みますねぇ。

活動報告でしたっけ?後でアンケート的に意見を募りますかね。


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第8話 ~トラバントとエシャル

活動報告にて、貴重な意見をありがとうございました。

意見を参考にし、物語を考えてみたいと思います。

当分意見を求めていますんで、何かあったら足跡を残していってください。

感想も返さなきゃ。


ーエシャルー

 

あの北東砦攻略から、数ヶ月の時が経ちました。あの戦いの後、俺は『炎の英雄』と呼ばれて人気者なわけです。大いに調子に乗りましたよ、えぇ。波に乗らなきゃいかんでしょ、将軍達とも仲良しっす。ハンニバル将軍、パピヨンさん、マゴーネ隊長、カナッツ君。特にこの4人とはマブダチっすよ!

 

ハンニバル将軍は、愛国心が強く、兵のことも良く考える好人物。故に北東砦の戦いを終えて、被害がほぼ無く国を守れたことが嬉しいみたい。何かあれば力になると、言ってくれました。まぁヤバそうになったら、お言葉に甘えようかと思います。因みにハンニバル将軍、此度の戦いで『トラキアの盾』とか呼ばれているみたいです。挟撃の時に、マンスター騎士団の背水の突撃を体一つで防いだみたいっす。凄いですね!

 

パピヨンさんは、最初に世話んなった人だからね。今も色々と世話になっとります。生活する為のことを、手配してくれたのは彼ですので。トラキアで一番、頭が上がらない人ですわ。

 

マゴーネ隊長は、第5竜騎隊を率いてる人ですな。賊の討伐やらの小さな任務しか最近なくて、今回のような戦いを待っていたみたい。久々の戦で、手柄を立てることが出来た。エシャル殿のお陰だと、お礼を言われました。そこから仲良く、飲みに行ったりしとりますね。

 

カナッツ君は敵将を討ち取った功績により、若くして小隊長になったようで。強くなることに貪欲で、俺も暇なんで鍛えてあげてます。そのお陰で、メキメキと剣の腕を上げてます。将来楽しみな、指揮官候補ってなわけです。

 

 

 

 

そんな感じで色んな人と付き合ってます。後、トラちゃんとは色々と話をしましたよ。主にトラキアのこととかで。最近は戦争はおろか、小競り合いも無く傭兵稼業も成り立たないようで。国全体の元気があまりよろしくない。外貨をどう稼ぐか、頭を悩ましています。とりあえず、色々と提案はしますけど。

 

そんな付き合いで関係深くなってきた時、トラちゃんが言いました。

 

「エシャルは逃亡者、…自分でそう言っていたな? そのことについてなのだが、お前は指名手配などされていない。…逃亡者ではないのだ。」

 

トラちゃんが、何を言っているのか分からなかった。俺が指名手配されてない? 逃亡者ではない? どういうこと? 俺のモヤの掛かる記憶では、俺は何かから逃げ出した筈なんだが…。

 

俺は僻地に追われて、そこで何年か過ごして、突如現れた軍隊に攻められて、命からがら逃げた…、その筈なのに。

 

「グランベル王国の公式発表では、ヴェルトマー公爵家に籍を置いていたエシャルと言う者は、賊の手により城と共に炎の中へ消えた。後の調査によって、エシャルの死亡が確認された…とな。故にお前は逃亡者、追われる身ではない。それどころか、存在しない者なのだ。」

 

……そんな、俺が死んでいる? バカな! …では、今の俺はなんなんだ? 俺は生きている、現に生きているではないか。

 

あの日、何があった? 俺は何故攻められた? 何故追われる身だと思った? 俺の逃亡者としての生活はなんだったんだ? 俺は一体なんなんだ? ぐぅ…、モヤが消えるどころか濃くなりやがる。分からない、俺の過去が…。自我が目覚める前のことが…! 分からない、分からないが…。

 

 

 

 

 

ートラバントー

 

ミーズ北東砦攻略戦にて、エシャルに助力を頼んだ。作戦自体もエシャルが発案し、実行された戦いは私の思う以上の戦果を上げた。我がトラキア軍は、大小を含めて30名にも満たない被害だけ。対するコノート・マンスター連合軍は、3名を残して全滅。その3名も、武器等の装備を外した状態で放逐した。

 

エシャルが言うには、逃すことで相手にこちらの情報を流す。逃すのは、エシャルの存在を知らぬ者。即ち、メティオによる攻撃がなされたことを知らぬ者が望ましい。理由は簡単で、トラキア軍の精兵による大攻勢を強調する為。私もこの考えに賛同したわけだが…、ものの見事に相手は勘違いしてくれた。我がトラキア軍は決して弱くはないが、これ程の戦果を上げるかと問われれば、否と正直に答えるだろう。全てはエシャルのお陰、ミーズは、トラキアは、エシャルのお陰でこの難局を乗りきった。

 

諜報の為に放っていた部下によると、この攻略戦の大敗によって侵略する力が無くなったとのこと。特にマンスター王国は、虎の子の騎士団の全滅に騒然となったみたいだ。ククク…、そして言った言葉がエシャルの策の成功を語っている。『トラキアの下に弱卒無し!』、これで我がトラキアは当分安泰と言えるだろう。

 

あの戦いの後、パピヨンに命じてエシャルの住居を用意させた。英雄殿を歓待しなければ、民も兵も納得しないだろうしな。僅かな時間でここまで、ここまで好かれる者などそういないだろう。それを考えると、エシャルは相当稀有な人物だと言える。

 

それにこれからのトラキアについて、真剣に考えてくれる。人物像としては、かなりの好感を持てる。世界的に戦争が少なく、傭兵稼業もままならないと相談してみた。外貨を稼ぐ手段は、傭兵稼業に頼りきりだったからな。この状況が続くと、貧困で国が立ち往かなくなる。戦いで勝利しても、貧困の問題がある。悩ましいとはこのことだ。

 

するとエシャルは、

 

「俺がヴェルダン王国、というかマーファ城城主のガンドルフ王子と仲が良いのは知っているな? そこで提案があるのだが…。」

 

エシャルの話では、ヴェルダン王国は自然の資源に事欠かない国のようだ。そんなヴェルダン王国で、唯一自国で賄いきれない資源があると言う。…それは石材、木材は数えるのが馬鹿らしいぐらいにある。しかし石材だけは常に品薄で、同盟を結んでいる国から割高で購入しているとのこと。

 

そこで、その石材をトラキアからヴェルダン王国に売るのはどうだろうと提案してきた。外貨の代わりに、トラキアで不足している食糧・木材等と物々交換もありなのでは…と。ヴェルダン王国との交渉が上手くいかなくとも、個人的にマーファ城城主のガンドルフ王子となら、高確率でこの提案を快諾してくれるだろうと。

 

…正直、この提案はトラキアにとってかなり魅力的だ。上手くいけば、定期的に食糧・木材が入手出来、国内待機の部隊も暇を弄ぶことが無くなる。それに民達も希望を持って、生活や仕事が出来る。土地柄、暗くなりがちな我が国に、光明が差し込むだろう。故に私は、この提案に対し首を縦に振る以外にないと思った。

 

そのことをエシャルに伝えると、

 

「因みに、成功する可能性が高いだけで、絶対ということは無いからな。そこ重要だぞ? ダメでも怒んなよ?」

 

と念を押してきた。私はその姿が必死で可笑しく、笑って『分かっている。』と言った。その後エシャルは、

 

「ちょいとヴェルダンに行って、話をしてくる。…まぁ成功を祈っててくれ。」

 

と言って、ワープでこの場から消えた。なんとも身軽な男だと、私はまた可笑しくなった。

 

 

 

 

暫くして、何やら荷物を抱えてエシャルが戻ってきた。

 

「とりあえず、話は通してきた。バトゥ王と話すって言っていたし、結果はもう暫く待てだって。兄貴的には、個人的にでも取引がしたいとも言っていた。因みにコレお土産ね、取引物の見本ともいうけど。」

 

そう言って、机の上に見本を広げる。…どれもトラキアでは、入手することが困難な贅沢品。ヴェルダン王国では、これが普通なのかという嫉妬。そしてこれが、日常的に入手出来るかもしれないという希望。

 

…エシャルが現れてから、次々と何かが起こり変わっていく。悪い方ではなく、良い方に…だ。伝えるか否か、悩んでいたことを伝えよう。突然だが、そう思った。…これはたぶん、エシャルに対して心を許したということだろう。だが、これを言ったらエシャルはどうなる? 興味が勝ってしまうのは、私の性格が悪いからであろう。

 

そしてその夜、エシャルを私室へと呼び出し伝えた。

 

「エシャルは逃亡者、…自分でそう言っていたな? そのことについてなのだが、お前は指名手配などされていない。…逃亡者ではないのだ。」

 

エシャル、お前はどんな顔を私に見せる?

 

「グランベル王国の公式発表では、ヴェルトマー公爵家に籍を置いていたエシャルと言う者は、賊の手により城と共に炎の中へ消えた。後の調査によって、エシャルの死亡が確認された…とな。故にお前は逃亡者、追われる身ではない。それどころか、存在しない者なのだ。」

 

どんな反応を、私に見せる? 私は目を細めて、エシャルを見据えた。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

驚愕の事実、俺は一体なんなのか?考えても分からない、分からないのなら…!

 

「気にしても仕方がないよね? 今ここにいて、トラバントの前にいる。それが全てなわけだし、…まぁその内分かる日が来るだろ。そん時考えればいいや、うん。それよりも…逃亡者じゃないんなら、気が楽ではあるよね? でも死んだことになっているんだけど、そこんとこどうしようか? …兄貴は知っていたんだろうか? …いや、グランベル嫌いだから知りもしないんだろうなぁ。」

 

とりあえず、あまり気にしないようにしました。考えても意味無いし、その内分かるっしょ。わははははは!

 

「ククク…、お前はそんな人間か。そうかそうか…ククク…。」

 

トラちゃんが笑っとるがな!? 俺、変なこと言ったかね? …解せぬ。




次回はたぶん、シレジアへと旅立ちます。

では、また!


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第9話 ~いざ、シレジア

活動報告にて、貴重な意見をありがとうございます。

本編に入る前に、ヒロイン候補の最終アンケートをすると思います。その時は、どうぞよろしくお願いします。

因みに、最終アンケートはまだしません。

現在は、主人公軍に欲しい人材と伴侶候補を挙げて貰っています。

挙げて貰ったキャラは物語で主人公と絡む可能性があります。現在も意見を求めていますんで、何かあったら足跡を残してください。


ーエシャルー

 

自分のことが少し分かった今日この頃、俺ことエシャルは変わらずに生活しとります。むしろ、気分が良いわけなのですよ。逃げる必要がないってーのが、こんなにも素晴らしいなんて! 現実問題としては、俺ゾンビ説ってなわけで。まぁ深刻に考えなくてもいいよね、同姓同名の人間ってことで通しましょう。つーか、それ以外ないよ。

 

気を付けるのは、グランベル王国の奴等ってこと。俺っち死んでることになっているけど、生きていることが知れたらどうなるか。ぶっちゃけ名前は既に、知られまくっていますけど? 各方面に。主に、ヴェルダンとトラキアですが。さっきも言ったけど、他人の空似? …じゃなかった同姓同名ってことにすりゃ問題ない。よく分からんけど、事件の当事者に鉢合わせなきゃいいってことでしょ。そんなわけで、グランベル王国には要注意やで?

 

それ以外の国ならなんとかなるな、たぶん。シレジア・イザークは大丈夫、アグストリアは微妙ってところか? ぶっちゃけ、俺は黒騎士ヘズルの血が濃いですから。ノディオン王家の血筋ですからね、獅子王には注意! でも、ミストルティンを使ってみたいと思うのは罪でしょうか?

 

 

 

 

なんてことを考えながら、ただ今トラキア城下の酒場で飲んでいるわけです。大きな仕事を終えた後の酒はウマイ!

 

「マゴーネ隊長も飲んで飲んで! …というか団長様でしたか!? トラキア輸送師団団長就任おめでとう! ヴェルダン・トラキア両王国に乾杯!」

 

「俺も出世したもんだぜ、これもみんなエシャルのお陰だ! 俺の未来も明るけりゃ、トラキアの未来も明るいぜ! 最初の輸送も無事終わったわけだから! とりあえず、無事に終わったことに対してのぉ~…乾杯!」

 

「「「「「かんぱーい! わはははは!!」」」」」

 

仲介人エシャルは新設された輸送師団の皆さんと飲んだくれています。

 

大きな仕事ってーのは、ヴェルダン王国とトラキア王国の取引。物資輸送についてとか、…色々だね。それが上手く纏まり無事、取引が成立。簡単に言うと、ヴェルダン王国とトラキア王国との間に、同盟が成立したってこと。俺は両王国と関係深い立場になっていることから、その仲介役として動き回ったわけ。

 

ヴェルダン王国はガンドルフ王子を責任者とし、マーファ城が全ての窓口となった。マーファ城近くの森を切り開いて、物資集積場、ヴェルダン・トラキア両軍駐屯地等が建てられた。マーファ城城下でも、トラキアの方々を目的とした施設やら商売やらで盛り上がりを見せる。

 

トラキア王国は竜騎隊を再編し、新たに輸送師団を設立。その団長に、第5竜騎隊隊長であったマゴーネが就任。物資輸送の他に護衛とか、取引物の選別・交渉・売買・交換等、様々なことをする師団である為、落ち着くまで忙しいだろう。ヴェルダン王国と同様で、物資集積場等も建てられており、急ピッチで体制が整えられていく。

 

そして両王国の受け入れ体制が整い、俺はトラキア輸送師団の第一陣と共に空の旅へ。道中色々と大変だったけど、物資輸送は無事終了。1日休んで、次はトラキアへ物資と共に戻る。これもまた無事に終わり、飲んだくれているわけなのだ。やり遂げた感で胸一杯、そんな気持ちなのです。

 

 

 

 

そして再び数ヶ月の時が経った。物資輸送も定期的に行われており、両王国の関係も良好。両王国軍同士で演習等もしたりしてる。このまま安全に…なんてことがある筈無いからね。物資を狙った賊の襲撃、そんなこともあると思うので訓練は大事なのだよ。万が一に備えてヴェルダン王国国内に、秘密の集積場兼避難場所も用意しています。備えあれば憂いなし、だからね! 因みにその場所は、一部の者しか知りません。秘密だからね!

 

後は、国民同士の交流もやり始めました。ドラゴンタクシーってことです。輸送師団に便乗して行われてます。安全第一ですが、何かあったら自己責任。それでも良ければ…ってことなんだけど、人気なんだよね。現に、事故が起きていないからなんだろうけど。まぁ交流と食糧等の問題が無くなったお陰で、最近のトラキアは明るい。トラちゃんの態度はいつも通りの不敵なスタイルなんだけど、雰囲気が喜び一杯。思わずニヤニヤして見ていたら、怒られました。

 

 

 

 

そんな中、俺は変わらずあっちにフラフラ、こっちにフラフラしているわけで。先日、マーファ城で素敵な出会いをしたよ。凄く綺麗な少女と知り合ったのさ! 彼女は再会、と言っていたんだけどね。何処かで会ったっけ?と考えていると、彼女は…、

 

「森の中で、赤腕と戦っていましたよね? 私もその場にいまして…。後、城下でぶつかって…、何も言わずに逃げ出したりしました。」

 

…ああ、赤腕の時に感じた視線は彼女だったわけね。それに逃げた娘もかぁ…、言われてみればそうかも。

 

「まぁそんな縁もあるな、うん。俺はエシャルって言うんだけど、君は…?」

 

「私は、ディアドラって言います。…それとあの時、何も言わずに逃げてしまって…。ごめんなさい…!」

 

へぇ~、ディアドラって言うんだ。彼女に似合った素敵な名前だね! それはいいとして、

 

「いや、謝らなくてもいいよ。君みたいな素敵な娘が、頭を下げちゃダメだよ? ぶっちゃけ、俺が悪い奴に見られちゃうからさ。」

 

美少女に頭を下げられたわけなんだが、周囲の視線が痛いっす!

 

ディアドラがそれに気付き、また謝ろうとしたけど止めました。再び謝られたら、更に悪化するからね。とりあえず、ディアドラを連れて隅っこに移動。周囲の視線が辛いからさ、まだなんかありそうだし。なんて思っていたら、

 

「あの…このペンダント、騎士様…エシャル様の物ですよね? 赤腕とエシャル様が戦っていた場所に、落ちていましたので…。」

 

と差し出されたペンダント。…確かに俺のペンダントだな、コレ。数ヶ月…いや、もう1年近く過ぎたが存在自体を忘れていたよ。母の形見なのに笑っちまうぜ。…母の形見ではあるけど、俺が持っていてもなぁ。でも形見だし…、持っていなきゃ母に祟られるかな? 存在忘れていて、今まで無くしてたけど。…うーん、とりあえず返してもらいますかね。せっかく拾ってもらったんだし、…そうなるとお礼しなきゃダメだよな!

 

俺はディアドラからペンダントを受け取り、

 

「ありがとうディアドラ、それは母の形見のペンダントでね。何処に落としたのかと、途方に暮れていたんだよ。」

 

よくもまぁ嘘を言えるよね、俺。まぁそれはいいとして、懐に手を入れお礼を取り出す。

 

「拾ってくれたお礼にコレを受け取ってくれるかな? 最近手に入れたんだけど、渡す相手がいなくてね。男の俺が持っていても仕方がないし…。ディアドラは綺麗だから、きっと似合うと思うよ?」

 

女性物のサークレットを見せる。それを見つつもディアドラは…、

 

「綺麗だなんて…そんな…!」

 

両頬に手を添えて、イヤイヤ…って感じ? 恥ずかしがっているのかな?

 

まぁとりあえず、イヤではないみたい。

 

「ほら…、こっちを向いて?」

 

「……あ。」

 

顎に手をあて、ディアドラの顔をこちらに向ける。そして、サークレットを額に着けてあげる。…うん、似合っている。

 

「思った通り、よく似合っているよディアドラ。」

 

「………ぽっ。」

 

めっちゃ顔を赤くしていますね、ディアドラさん。何故にそこまで…と考えたところ、俺も顔が熱くなった。……凄まじくキザったらしいことしましたね! 恥ずかしいことこの上もない!ぎゃーーーす!!

 

 

 

 

とまぁこんな感じで、ディアドラと邂逅したのだ。確かディアドラって重要人物だったよね? なんでかはよく分からない、というか思い出せないんだけど。思い出せないんじゃ仕方ない、普通に仲良くしましょうか。

 

俺はマーファ城とトラキア城を行き来している身、なんだかんだで忙しい。時間を見付けてはディアドラがマーファ城に来た時に、なるべく相手をしてあげている。しないと兄貴に怒られるからね、俺もイヤではないからいいけど。男に囲まれた生活をしているから、ディアドラと会う日は癒しの時間ってヤツ? 美少女が嫌いな奴っていないじゃん。

 

充実した生活を送っている俺なんだけど、再び悪い虫? というか、旅に出たくなりました。別に追われる身じゃないから、旅立つ必要はない。ないんだけど、マゴーネ団長から聞いた話でさぁ、興味を揺さぶられるモノがあったんよ。それは何かって? …ならば教えてあげようじゃないか!

 

「シレジア美人に会う為に、この俺エシャルは旅立ちます! …シレジアが俺を呼んでるぜ!」

 

「良い女がいたら、俺にも紹介しろよ義弟!」

 

「勿論だよ兄貴! この俺に任せ…ぎゃあぁぁぁぁっ!!」

 

「エシャル様の馬鹿!」

 

なんて一幕もあったりするんだけど、俺のやるべきことはもうないからな。美人を求め…見聞を広げる為に、旅立つことにしたわけです。

 

そして再びマーファ城、ここからまた旅立ちます。

 

「トラバントにも伝えて了承はもらったし、俺は行くぜ。後のことはよろしく頼むよ兄貴、安全第一だからな。マゴーネ団長にも言ったけど、兄貴もそこら辺はちゃんと考えてくれよ。」

 

「分かっている、俺は責任者だぜ? エシャル! ディアドラのことにも、目を配っておくから安心しろ!」

 

まぁ兄貴のことだから大丈夫だろうけど、問題はディアドラだよね。…まぁ決めた以上、シレジアに行きますが。

 

「そんなわけだから、俺は行くぞディアドラ。…ちゃんとお土産買ってくるから、機嫌直せって…な?」

 

「…つーん。」

 

……ダメだこりゃ。ディアドラがこんなんだけど、俺は行く。有言実行のエシャルなのだから! マゴーネ団長から聞いたことを思い浮かべろ! 雪国…雪国…雪国…、ワープ!




ディアドラは、まだまだ候補の段階です。

因みにシレジアでは、あの人達が出る予定です。

次回、泣き虫を拾うかも。


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第10話 ~泣き虫、拾いました

シレジア~。


ーエシャルー

 

やって来ましたシレジアへ! 見回す限り…、

 

ビュォォォォォォォォォッ!!

 

さみぃぃぃぃぃっ! 吹雪いとるがな! ワープで来た瞬間、吹雪の中に現れてしまった俺。見回せば、恐らく雪の森、そして吹雪! 着込んできたから、とりあえずは大丈夫だけど。練習して習得した魔力で体を覆う術で、ある程度の寒さは大丈夫だけど。吹雪の中はねぇべよ、これはあれか? 俺に対する罰っすか? シレジア美人を求めるだけに来た俺への!?

 

「やべぇ…、寒さだけじゃない寒気を感じた。…人里だ、人里を探せ!」

 

トラキアに続いて、シレジアでも出だしぼっちな予感。今帰ったら、ディアドラが蔑んだ目で俺を見てくる筈。なんとしても、人里を探すんだ! 今は大丈夫だけど、流石の俺も魔力が無限ってわけじゃないからな!

 

……道中、雪に埋もれたマリモ…じゃなかった、少女を拾いました。何故に少女が吹雪の森の中に? なんて思いましたが、生きてるっぽいので連れていきます。おぶってやっているから、寒さは凌げる筈だな。さっきも言ったが、魔力で体を覆っていますから。何もしないより、暖かい筈なのだ。

 

少女をおぶって、人里求めて歩いているけど、未だ発見出来ず。だんだん暗くなってきたから、これ以上さ迷うのは危険かな? 何処かに洞穴っぽいとこないかな? とりあえず、少女を暖めてあげなければ! …ワープしろって? …残念ながらそれは出来ない。成果を上げずに帰るなど、俺のプライドが許さない。決して、トラバントに馬鹿にされるからとか、ディアドラに冷たくされるからとかではない! …ただ、長距離ワープをする程の魔力が無いだけさ! ……ぎゃふん。

 

 

 

 

俺のステータスって、運が非常に高い筈なんだけど。山で遭難しかけてみたり、戦いに巻き込まれたり、今は雪の中の森にいる。しかも、少女を拾ったし。ツイてない気がするんだけど、どう思います? なんて、誰に話してるんだろうね? …と自分のことを考えながら、焚き火の前にて暖まっています。

 

ヤバイよヤバイよ! と動き回った結果、見付けた穴の中にいるのだ。…熊がいた巣穴だったんかね? まぁ、吹雪から逃れることが出来るんだから良しとしよう。少女をマントにくるんで…、俺は外で木を倒して薪にする。多少濡れていても、魔法で簡単に火を点けることが出来る。魔法、優秀ですね? 煙いけど。時おり、弱ウインドで煙を外に出してますよ? 籠っちゃうからね。こんな感じで火に当たりながら、物思いに耽ているのさ。

 

暖まってきたなぁ~…なんて思っていると、

 

「うぅ~ん…。」

 

埋もれていた少女が動いた、気が付いたのかな?

 

「…あれ? …私、飛び出して…。吹雪になって…意識が朦朧として…。あれ…?」

 

お、気が付いたみたいだね? …意外にタフみたい、流石はシレジア人ってとこか? 気が付いたんであれば、聞いてみるしかないな。

 

「…気が付いたみたいだね? 気分はどう?」

 

優しく笑顔で声を掛ける。まだ、頭がきちんと働いてないだろうからな。警戒されないようにしないと、俺ってば優しいじゃないの。

 

「……!?」

 

ビクッ! てなって、こっちに視線を向ける少女。…あれ? 凄く警戒されてない? しかも後ずさってない? あっるぇ~、おかしいな。優しく声を掛けたのに、なんで?

 

「あ…ひぃ…っ! 人拐いの盗賊…!?」

 

えぇ~…! そりゃあないんじゃないの!?

 

埋もれていたところを助けたのに、いきなり人拐いの賊って…。凄まじく勘違いされてないっすか?

 

「いや…盗賊って…。違うからね? どちらかと言うと、俺は君の恩人であって…。」

 

「うぁぁぁぁぁん! いゃぁぁぁぁぁっ! お姉様助けて! パメラさん、ディートバァァァァァッ!!」

 

ぎゃーーーす! 泣き喚きやがったぞ! う、うるせぇ~…! 落ち着かせなければ・・・!

 

「ちょっ…君! 落ち着いて…ね? 人の話を…ちょっと、マジで落ち着いて…! …あづっ! コラ、燃える木を投げ…!」

 

燃える薪を投げてきましたよこの娘! 危ないし熱いよ!

 

「来ないでぇぇぇぇぇっ! うぁぁぁぁぁん! やだぁぁぁぁぁっ! びぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

悪化しとるがな! こりゃあマズイというか、めんどくせぇ! 流石の俺もトサカにくるぜ? 多少力ずくでも落ち着かせなきゃ、話も出来ないとみた!

 

「えぇ~い、落ち着けと言うとるが…っ!!」

 

「ひぃぃぃぃぃっ!」

 

お…俺のミストルティンが…! この娘、悲鳴と一緒に…俺の、ミストルティンを蹴りやがった…。蹲って痛みに堪える俺、…どうしてこんな目に合うのだろう? ディアドラをほったらかして、シレジアに来た罰ですか? これは俺に対する裁きですか…? おぉ…ブラギ神よ…、ガクッ!

 

 

 

 

 

ーフュリーー

 

私は襲い掛かってきた男の人を、ディートバから教えてもらった『キンテキ』で攻撃をしました。男の人は蹲って、ビクンビクンと痙攣した後、動かなくなりました。…ぐすっ、無事に倒すことが出来て一安心。私は自分の貞操を守り、売られる未来を回避したの。ディートバに感謝しなくちゃ、貴女のお陰で私は無事だよ? いつも意地悪をしてくるディートバに、初めて感謝したかも…。

 

そんなことより…、今の状況をどうするか? 何故このようなことになったのか? 思い出さなきゃいけないよね? そこの身なりの良い盗賊は、気を失っているようだから大丈夫。とりあえず、火に当たりながら思い出そう。…ぐすん、本当に…何かされる前で良かったよ。本当に…うぅ~…。ぐすっ…、泣くのは後よフュリー。今は思い出すのが先。

 

 

 

 

確か私は、見習い天魔騎士になる為に森へと入った。天魔騎士になるには、まず最初にペガサスを見付けなくてはならないの。自分の力で…、と言っても助っ人もアリなんだけれど。助っ人を頼める人を探していたのだけど、そこでディートバが…、

 

「泣き虫フュリーは、助っ人を頼んでもペガサスは無理でしょうね! それどころか、助っ人を困らせるんじゃない? すぐ泣いちゃうからさ。弱っちょろいし、…天魔騎士になるのを諦めたら?」

 

私は何も言えなかった…。とても悔しいけど、ディートバの言っていることは本当だから。…私は弱いし、泣き虫だし、みんなの足を引っ張るし…。うぅ~…ぐすんっ、また涙が溢れてくる。だけど、本当に悔しくて、お姉様みたいな天魔騎士になりたいから、私は夜中に宿舎を抜け出して、森の中へと入った。

 

ペガサスが生息する場所は頭に入っている、だから大丈夫って思っていたの。でも、距離を考えてなくて、道に迷って、天候が荒れて吹雪になって、…少しずつ体力が無くなって、意識が朦朧として…。私はなんて馬鹿なんだろう。…悔しいからって、考えなしに飛び出すなんて…。今頃みんな、騒いでいるかなぁ…。本当に私はみんなに迷惑を掛けてばかり。でも…私は天魔騎士になりたいから、私は…。

 

「みんな…、お姉様…、ごめんなさい。」

 

私は謝りながら、意識を失った。

 

 

 

 

……所々略しているけど、こんな感じだったよね? 行き倒れたという恥はあったけど、私は無事。布にくるまって、火に当たって、今はとても暖かい。本当だったら、雪に埋もれて死んでいた。なのに助かったのは…、誰かに見付けてもらって助けられたということだよね? …今の状態を考えて、導かれることは…。動かない男の人を見る。

 

「…まさか、というかこの人が私を助けてくれた人?」

 

雪の中から助けてもらって、ここまで運んでもらって、冷えた体をこれ以上冷やさないようにしてくれて、意識の戻った私に笑顔を向けたこの人に、私は…何をした?

 

……………。

 

「盗賊と決めつけて、『キンテキ』で攻撃しましたぁ! うぁぁぁぁぁん、ごめんなさぁぁぁぁぁい!!」

 

とりあえず私は、自分の犯した早とちりに堪えられず泣き出した。だって・・・、泣く以外思い付かないんだもん。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

……さむ! 背中が寒い! でも胸の辺りは暖かい、何が起きた! 俺は目が覚めて、思い出してみる。…あ! 凶悪少女に俺は…ミストルティンを! 確認しようと目線を下に向け、やっと気付く。

 

「すぅ…すぅ…。」

 

凶悪少女が俺に引っ付いて、穏やかな寝顔を…。何故だろう? 可愛い寝顔だと思う前に、イラッとするのは。まぁ、俺のミストルティンに一撃を加えたからなんだけどね。…ってそんなこたぁ~どうでもいい! 俺のミストルティンの状態を確認しなくては! えぇ~い、この少女が邪魔! どけぇ~い!

 

…と思いつつも、優しく退かす俺。フッ…、俺が紳士で良かったな少女よ。…あどけない少女の寝顔が憎らしいけど、暴力を振るう程落ちぶれてはいないさ。そして俺は、冷静にブツを確認する。

 

「よかった…、本当によかった…! 我がミストルティンは正常なり!」

 

無事を確認し、ホロリと涙が零れる。…無事だった故に、昨日のことは水に流そう。終わり? 良ければ全て良し! 根に持つのはよくないからな!

 

とりあえず、少し煙いから空気を入れ換えて…と。後は焚き火で暖まりますかね。この少女が目覚めないと、話も出来んからな。…その前に少し離れておこう。食事の準備もしなくては! ここに取り出すは、ハイジのヤツ~! この状況でコレ、絶対に美味い筈!




フュリー登場。

エシャルのミストルティンは無事です(笑

いつか使う日がくると思いますから、大事にしないとね。


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第11話 ~村での出会い

あの人達が出ます。


ーエシャルー

 

焚き火でチーズがとろりと焼けた、…今が食い時! すかさずパンに乗せ、頬張るのみ! いただきま…、

 

「………。」

 

凶悪少女が物欲しそうに俺を見ている。目覚めたのか少女よ、この芳しい匂いに食欲をそそられ、目覚めたというのか少女よ!

 

…………。

 

「食べるかい?」

 

こくん! と力強く頷く少女、泣く泣く食べ頃ハイジのヤツを少女に差し出す。とりあえず、遠慮がちにハイジのヤツを受け取った少女。俺とハイジのヤツを交互に見て、最終的にハイジのヤツへと食らいついた。美味いだろう? ハイジのヤツ、焼きたて食べ頃っすからね。…俺の分も焼こう。

 

食後のトラキアティーで落ち着いた俺と少女、さてどうするか? と思った矢先、

 

「あの…昨日はごめんなさい! 助けてもらったのに酷いことをして…、酷いことをしたのに食事まで頂いて…、貴方様のような優しい方を盗賊なんて私は…、本当に駄目な…駄目な…うぅ~…。」

 

自分の言葉で打ちのめされんなよ、そして泣かないでくれ! 昨日の少女の泣きっぷりは凄まじかった。今日もそれを食らうのは、マジで勘弁して欲しい。

 

「別にいいから気にするな、昨日のことはマジでもういいから。」

 

泣かれてたまるかってんだよぉ! こういう時は頭を撫でるんだ! 俺の達人撫で技を刮目せよ!

 

「昨日のことはいいから、…なんで雪の中に埋もれかかっていたのか、教えてくれるかい?」

 

頭を撫でながら、優しい声で話しかける俺。笑顔も忘れずに! 我が必殺の一撃、少女よ…堪えることは出来るか?

 

「……ふぁ。」

 

目を細めて、なすがままに撫でられることを望んだか。それ即ち、俺の勝利ということだ!

 

泣くことはなく、そのまま話を聞いたところ、

 

「なるほど、ペガサスを探しにねぇ…。」

 

天馬騎士になる為に、ペガサス探しってことね。ディートバって娘に馬鹿にされて、見返す為に一人で夜の森の中へ。…そんで吹雪になって、体力が尽きて、俺に保護されたっつーことか。…馬鹿なんじゃないの? 泣き虫言う前に、アホな行動を見直すのが先じゃね? ディートバって娘は、こんな馬鹿な少女が心配で意地悪するんじゃないの? 危なっかしい彼女は、このままじゃ死ぬ未来しかないっぽいし。

 

うーん…でも、少女の気持ちも分からんでもない。だが、迷惑を掛けまいとして迷惑を掛けているわけだし。ペガサスが見付かるか否か分からんけども、今回のことが少女の道に良い影響があればいいね。死に掛けたわけだし、今度から少しは考えて行動するようになるだろう。

 

「…それでお兄さんは、かなり強そうな感じがします。お姉様やパメラさんよりも…。それでですね? …その、もし良ければ…。ご迷惑でなければ…、既にご迷惑を掛けてますけど。…一緒に、…いっ…しょ…。ぐすっ…!」

 

ヘイヘイヘイ! 全てを言う前に泣こうとするんじゃないよ! また、落ち着かせなアカンのかい!

 

 

 

 

分かっていたことだけど、この少女の助っ人をすることになった。お人好しっすよね? まぁあのまま泣かれても困るし、近場の村というかペガサスの生息地近くの村を知ってるみたいだしな。さ迷い歩くよりも、安全に人里へ行きたい俺にはありがたい。ここよりかなり遠い場所にあるが、俺にはワープがあるからな。一晩寝て、ある程度魔力も回復したし。シレジア国内だから、さほど魔力を使わんでも大丈夫。ワープをする際、少女の想像力が重要になる。ガッツリきっちり想像して貰わないとな!

 

火の後始末良し! マント良し! 背中に引っ付いている少女良し! …忘れ物はないな。

 

「では少女よ、行く村を思い浮かべるんだ。きちんと思い浮かべることが出来れば、確実にその村へ行くことが出来る。」

 

「分かりましたお兄さん、私…想像力だけは凄いんです。」

 

そう言って目を瞑り、ムムム…と唸ること約1分。肩をポンポン叩いてきたから、もう大丈夫だな! …ワープ!

 

そして辿り着いた、ペガサスの生息地に一番近い村。吹雪の中に出てどうなるかと思っていたけど、無事に人里へ来ることが出来て良かったよ。

 

「わぁ…お兄さんって、凄いんですね!」

 

ぱぁ…と顔を輝かせる少女、ワープ初体験ってとこかな? 吹雪も止んだし、村で休息させてもらいますか。宿泊施設ってあるかな? ペガサスの生息地が近いんだから、泊まるとこぐらいはあるよな? 天馬騎士も頻繁に来るだろうし。…その前に、

 

「短い間だが、一緒に行動するわけだからな。名乗っておこう、俺はエシャル。…よろしくな少女。」

 

「あっ…あっ…! そうですね、名前を言ってませんでしたね! 私はフュリーと言います、よろしくお願いしますね? …エシャルお兄さん!」

 

にぱぁ~…と花が咲くように笑う少女、フュリーは将来美人になるだろう。…そんなくだらないことを考えながら、俺とフュリーは村の中へ。

 

 

 

 

村の中へ入ると、村人ではない奴等が多くいた。何故村人じゃないと言えるのか? 簡単なことだよ。軽装とはいえ、ガッツリ装備で身を固めているんだもの。身に纏う雰囲気から、傭兵だろうと思われる。つーか、何故にこんな村に傭兵っぽい集団がいるのだろうか? フュリーなんか目尻に涙を浮かべて、明らかにビビりまくっている。俺のマントん中に入ってきて、くっついてきとるし。この状況はなんじゃらほい?

 

とりあえず、フュリーの案内で宿へと向かう。傭兵っぽい奴等は、各々談笑していたり、村人と話していたり、武器の手入れをしていたり、問題を起こしている様子は一切無い。規律がしっかりとしている集団なんだろう。リーダー格は相当な実力を持つ者なんだろうな。…めっちゃ歩きにくいな、くっつきすぎだろフュリーちゃんや? 仮に天馬騎士を目指す身なら、ビビっちゃいかんでしょ。

 

そして、この村唯一の宿に着きました。…部屋って空いているんかね? 不安にもなります。傭兵っぽいのが多かったし、絶対ここに泊まっとるよね? とりあえず中へ入ると、

 

「いい加減帰ろうぜ? いないってそんなの、ガセだよガセ! 無駄な旅費を使っちまったよ、お前のせいでよ!」

 

傭兵っぽい奴が、声を荒げて一人の男に詰め寄っていた。…なんつーことをしてくれたんじゃい! フュリーちゃんの涙腺が崩壊したじゃんか! 俺の服が涙と鼻水で汚れちまうよ、ちくしょーめ!

 

 

 

 

 

ーベオウルフー

 

俺の文句もどこ吹く風で聞き流す、この男は俺達の頭である凄腕の傭兵ヴォルツ。そしてこの俺ベオウルフは、ヴォルツの片腕として他の仲間をまとめている。そう…俺達は、世界的に有名なヴォルツ傭兵旅団なんだ。有名な傭兵旅団である俺達が、何故にこの辺鄙な村にいるのかって? そんなのは決まっている、我らが団長ヴォルツが原因なんだよ。…コイツ、アホなところがあるからなぁ。

 

…ヴォルツは手元の酒をぐっと飲み、その後で俺を見てこう言った。

 

「…お前の言うように、やっぱりガセなのかもしれん。…ベオ、だけどな? ロマンを忘れちまったら、男として終いだぜ?」

 

フッ…と笑って、再び酒を飲むヴォルツ。ロマンがどーので、金が増えりゃあいいがな! そのロマンの為に金が減る一方なんだろうが!

 

「この森の中に雪男は絶対にいる…! 俺はそう思っている、ベオ…。」

 

「世界広しといえ、こんなことすんのは俺達だけだよ!

チクショーが!!」

 

「…分かってるじゃねぇか、ベオ。俺達ぐらいは探してやろうぜ? 寂しがり屋な雪男をよ…。」

 

どや顔すんじゃねぇよ、腹立つ!

 

馬鹿じゃねぇの、雪男がいる筈ねぇじゃん! この森にゃペガサスしかいねぇよ、まだ見てねぇけど。他の奴等もヴォルツに似てアホだからな、嬉々として雪男を探しやがるから手に負えねぇ。村人も言ってたじゃねぇか、見たことも聞いたことも無いってよ。…マジでまだ探すのかね? 雪男…。あまり長くなると、旅団を維持する金が無くなっちまう。どーすんのよこの状況、…頭も痛けりゃ胃も痛くなっちまう。

 

先のことを考えていると、鋭い視線を感じた。視線の主へ顔を向けると…、

 

「………!!」

 

なんでエルトシャンがここにいるんだ!? なんかチビも一緒にいやがるし! どういうことなんだ? まさかエルトシャンも雪男を探しに来たのか!? いやいや、そんな馬鹿なことある筈が無い。馬鹿はウチのヴォルツ達だけで十分だ、…今気付いたけどマトモなのは俺だけじゃねぇか!? いやいやいや、んなことよりエルトシャンだよ。なんでここにいるよ、ノディオンの王位を継承した筈じゃあ…。

 

なんてことを考えながら見詰めていると、

 

「ベオ、お前…ソッチの気があるのか? ヤバイな、俺を含めた仲間達が危険じゃねぇか…! 見損なったぞベオ…!!」

 

「お前ふざけんなよ! ソッチの気なんざ一切ねぇよ! 見損なったのは俺の方だよ!」

 

知り合いを見てたら、男色とかって…! やべぇ…泣きたくなってきた!




ヴォルツとベオウルフが登場。

何故か馬鹿っぽい。

因みにエシャルは、エルトシャンよりの容姿です。所々、アルヴィスが入ってます。ちょいと髪がウェーブがかってたり?


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第12話 ~密猟集団捕縛

サクッといきます。


ーエシャルー

 

…文句を言っていたのであろう傭兵っぽい奴が、俺をめっちゃ見てきてる。まぁ俺の方も、抗議を含めた目で見ていたわけだが。あの二人のせいで、俺の服が大変なことになったよ。フュリーの涙と鼻水でね…、現在進行中ですわ。

 

…また揉め始めたよ、あの二人。勘弁してくれないっすかね? これ以上、涙と鼻水を量産させないでくれますか? わりとマジで。はぁ…、自分でなんとかするしかないのかね。とりあえず、フュリーを引き摺って揉めてる二人の下へ。

 

「なぁアンタ達、揉めるのを止めてくれないか? …連れの泣き虫ちゃんが怯えてね、主に俺の服が一大事なんだよ。」

 

と、揉め事を止めろと二人に言う。フュリーは何やら、グリグリと頭を押し付けてくる。抗議のつもりか? …俺は事実を言っただけなんだけど。

 

それがきっかけとなって、二人と仲良くなった。図体のデカイ奴がヴォルツで、傭兵旅団の団長をしているとのこと。軽薄そうな奴がベオウルフ、傭兵旅団のNO.2らしい。この二人、口は悪いが悪人ではないみたいだ。フュリーもそれが分かったのか、ビビりはするものの泣きはしない。俺達三人は酒を、フュリーは温かい果実茶を飲んで話をしているわけだ。

 

んで、二人が揉めていた理由がなんともくだらない。ここら辺で雪男を探しているみたいなのだが、いるいないで揉めていたみたいなのだ。ロマンを求めるヴォルツに共感するけど、金の問題でベオウルフの言っていることも分かる。そもそも、そんな噂がこの村に一切無いのに探すヴォルツがアホなのか? …まぁアホなんだろうな、うん。ペガサスしかいないって、フュリーも言っているし。

 

逆に、俺達二人は何しに来た? と聞かれたから、

 

「この泣き虫フュリーちゃんの助っ人でね、ペガサスを捕獲しに来たってわけ。昨日出会ってばかりだけど、見捨てるのもあれだからな。…真の目的は、シレジア美人を求めてこの国に来ました!」

 

と言いました。フュリーちゃんは、ポカポカ叩いてきますが効きはしません。ぶっちゃけ、下心がありまくりな俺。ペガサスを捕獲してフュリーに恩を売り、お姉様とパメラさんとかいう天馬騎士のお姉さんを紹介してもらうのだ。これが俺のメインであり、ペガサス捕獲はサブ。サブではあるけれど、やるからにはベストを尽くすから安心しろよ? フュリーちゃん。

 

とりあえず、この宿は満室であった。…がしかし、二人と仲良くなったから部屋を空けてくれた。部下の傭兵さん、すまぬ! ありがたく使わせてもらうよ。フュリーと一緒の相部屋だけど、問題なし。…え? 問題あるんじゃないのって? フュリーを女として見ること出来んわ! 昨日会ったばかりだし、鼻水だぜ? 美少女ではあるけれど、…あえて言うなら妹キャラだな!

 

まぁ明日はペガサス探し、今日はもう寝ますかね。談話で時間が経ったし、洞穴で1日寝たから体が痛いし、明日は何が起きるか分からんし、体調完璧で挑みたいじゃん? フュリーもおネムだしね。

 

因みにベオウルフが、頻りにエルトシャンを知らないか? だとか、あまりにも似すぎているだとか、会ったことはあるか? だとか、色々と聞いてきたが…、

 

「名前しか知らんけど。獅子王とかって有名じゃん? 若くして王位継承、武勲高し次代の王ってね。俺の名はエシャルでエルトシャンに似ているけど、会ったことがないのは確実だな。記憶にねぇもんよ、…そんなに似ているのかね?」

 

「ちょいと違うところもあるが、見た感じはエルトシャンだわ。双子の弟っつってもいいんじゃね? って思う。」

 

そんぐらい俺は似ているわけね? …自分で見て似てると思ったけど、双子でも通用するほどか。知らないってのは嘘じゃないけど、血縁関係ではあるんだよな。うーん…、忘れているだけで会ったことあるんかな? 悶々としながら、俺はフュリーと部屋へ向かった。

 

 

 

 

次の日、目覚めた俺は引っ付いていたフュリーを引き剥がし、身だしなみを整えてから部屋を出た。ちゃんとフュリーもついてくる、…眠そうだけど。お前さんの為に今日、ペガサスを探しに行くんですけどね! …この娘、ペガサスを捕獲してなれるんか? 天馬騎士に。そんなことを考えながら受付を済まし、宿の外へ。最近、考えることが多いな。

 

本日は晴天なり! …天気は良いけど、雰囲気は悪い。何事かと思ったら、

 

「よぉエシャル、目覚め一発から悪い情報だ。この先のペガサス生息地だっけ? …密猟者? 賊の集団をウチの仲間が見付けたってよ。賞金首だから顔を覚えていたみたいでな、密猟者じゃなかった筈なんだが…。まぁそれはいいとして、…マズイんじゃねぇの?」

 

とベオウルフが教えてくれた。…なるほど、だから村の雰囲気が悪いのか。俺とフュリーは、そこに用事があるんだけどな。

 

「そんな…、もしかして最近報告にあった怪しげな連中…? 大変だよ…、ペガサスが捕まっちゃう!」

 

その情報で眠気が吹っ飛んだのか、フュリーは顔を青くしている。…さてさて、どうするかね?

 

…まぁ、こうなるわな。俺は賊捕縛の為に、森へと入ることに。フュリーは村に置いていくつもりだったが、なんかついてきたし。ついでにヴォルツとベオウルフ、数人の傭兵も一緒だ。ベオウルフ曰く、

 

「賞金首がいるみたいだからな、稼がねぇと。…このお馬鹿様のお陰で、維持費がな! 探したきゃ働けってことだ。」

 

「運が良けりゃあ、…ペガサスを見れるってわけか。金も手に入る、一石二鳥ってな…。ペガサスを守る為に悪を挫く、…ロマンだな。」

 

とのことですよ? まぁ俺一人でも大丈夫なんだが、ペガサスが捕まっていた場合の保険だな。囮になってもらうって寸法よ、…俺にはワープがあるし。ペガサス相手にレスキューって使えんのかね? ペガサスナイト、人と一緒なら可能だが単体になるとどうだか…。後々の為に要検証だな! それに今回は楽な仕事だろ、なんていったって凄腕の傭兵達が一緒なんだからな!

 

 

 

 

俺達は、10人にも満たない人数で賊を探す。雪の中だし、足音が残っているだろうから簡単だと思うが。何が起きるか分からんからな、そこそこの警戒は必要だろう。

 

「見ろよこの木々が光る様を…、雪が日差しで輝く。この中で雪男、もしくはペガサスに出会ったら素敵じゃないか。絵画の一つみたいだな…。」

 

「まだ雪男言っているのかよ、…いねぇっつってんのにコイツは。」

 

と、余裕で行動しとります。面白くないのはフュリー、彼らの不真面目さが気に入らないみたいだ。俺としては、その余裕が頼もしいのだがね。フュリーちゃんは、まだまだだねぇ…当たり前だけど。

 

フュリーを宥めながら進んでいくと、無数の足跡を発見。近くにいると分かった瞬間、ヴォルツ達は素早く移動を開始する。無論、私語を止め静かに…だ。俺とフュリーも、遅れることなく移動する。そして・・・、

 

「ペガサスの1匹もいねぇじゃねぇか! 本当にここらに出るのか!」

 

「間違いありやせんて親分、確かにここらですって! 天馬騎士を尾行したんすから!」

 

「じゃあなんでいねぇのよ、ゴラァ! 探してからだいぶ経つんだぞ! 早くしねぇと、天馬騎士が来るかもしれねぇ!」

 

声デカっ! …馬鹿なんじゃねぇのアイツら。そんなに騒いだら、ペガサスが警戒すんに決まってんじゃん。フュリーもその通りと頷いている。野生の生物は警戒心が強いからね、…アイツら素人なんじゃね? そんなんで賞金首とかって、笑っちまう。それとも、本業は別か…? 殺しとか…? まぁペガサスが捕まってないのなら、一気に取っ捕まえますかね。

 

一応、ペガサスの住む森だからな。炎は使わず、剣でいきますかね。キルソードじゃ殺しちゃうから細身の剣、手加減するには良い物だ。

 

「風のように突撃し、一気にカタをつけろ! 出来る限り捕縛せよ!」

 

ヴォルツの掛け声に、傭兵達は素早く賊へと襲いかかる。

 

「ななななななんだぁ~…!!」

 

「ひぃぃぃぃぃっ! わけが分からないっす!」

 

突然の襲撃に、賊が混乱する。俺も遅れることは出来んな!

 

「フュリーは自分の身を守ることに集中な、無理は禁物! 命は大事に、…分かったな!」

 

「分かりました! いの、いの…命は大事にです! いいいいいいきます!!」

 

だぁ~もぅ! 突撃すんなっつーの! ダメだこりゃ…!!

 

 

 

 

フュリーを守りながら戦ったのだが、コイツら弱すぎだろ。…と言うが、俺達が強すぎたんか。フュリーは鼻を垂らしているが…、世話の焼ける娘だよホント…。

 

「はい、チーン!」

 

と、ハンカチをフュリーの鼻に押し付ける。…俺はフュリーの母親か! 自分の行動に、やや戦慄する。

 

「慣れない密猟なんか、するんじゃなかったぜ…。」

 

「こうなっちまったら、潔く死刑を待ちやしょう…親分。」

 

やけに潔い賊だし、

 

「これで多少の金は手に入るな、…まぁ、すぐに無くなるんだけどよ。」

 

「…ペガサスを見れなかったのが、…心残りだな。」

 

ヴォルツ達も目的を果たして、一人を除いて満足気ではある。

 

密猟集団捕縛が、何故かほのぼのしている。…まぁ、安全に終わって良かったっつーことで。




もっと内容を濃くしたかったけど。ヴォルツ達との絡みとか。

かなり長く、グダグダになりそうなので止めました。

フュリーがガキ過ぎる、どうしてこうなったんだ?

謎ですわ。


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第13話 ~ペガサス捕獲?

活動報告にて貴重なご意見、ありがとうございます。

引き続き意見を求めていますので、何かありましたら足跡を残してください。既に残した方でも、新たに何かありましたら遠慮なくどうぞ。


活動報告を見まして、ダブルヒロインってありかな?と思いました。ハーレムでは無い筈。

親世代で一人、子世代で一人?いやいやロリコンか!?いや、オイフェもロリコンに・・・。

ブツブツ・・・。

あ・・・感想は後程。


ーエシャルー

 

賊を取っ捕まえて、村に凱旋しました。捕まえた賊は村の倉庫に突っ込んで、数人の傭兵が見張っとります。賊捕縛の知らせを出したいところだが、兵士の詰め所のある町は遠い。そういうことなので、閉じ込めておく。フュリー曰く、

 

「天馬騎士の先輩方は、定期的に村へ来る筈です。村人の方々に話を聞いたんですけど、明後日ぐらいに来るみたいですよ?」

 

その天馬騎士が来たら、賊のことを報告すればいいってことね?

 

…明後日に来て、その他色々あって、賊の護送は1週間後ぐらいになるか? なげぇな、うん。見張るのも大変だぞ。…俺のワープがあれば一発だけど、牢のある場所知らんし。フュリーは知ってそうだけど、まだペガサスを捕まえていないからね。しかも、無断で出てきたわけだし。…うん、黙っとこ。ワープ云々は、天馬騎士の先輩が来てから考えよう。そんなことより、ペガサス探しだよね? 賊の脅威はなくなったわけだし。

 

「明日…明日お願いします! エシャルさん、…良いですか?」

 

上目遣いで言ってきたからねぇ、フュリーちゃん。ちゃんと付き合うから心配はいらないさ、明日探しに行くか。了承の意を込めて、フュリーの頭を撫でた。

 

緊張感があったか? と聞かれたら、まぁ…なかったんじゃね? と言うわな。それでもフュリーには、緊張感があったのだろうね。彼女は既に、部屋で寝とりますわ。フュリーは寝ているが、俺はヴォルツ達と飲んでいる。今日のことを肴に盛り上がってますよ、いやぁ~…酒が美味い! 程々に、飲み倒しましょうかね。わははははは!

 

 

 

 

おはよう諸君! 今日も俺っちは元気さ、みんなはどうかな? ってなわけで、今日も良い天気。絶好のペガサス捕獲日和、サクッと捕まえて任務を終わらせますか。そしてペガサスを必要とする娘、フュリーちゃんは半分寝ています。やる気あんのか? こやつは…。

 

会ったことはないが、ディートバって娘の気持ちが分かる。すげーイラッとくる、だけど可愛いっちゃあ可愛い。意地悪というか、弄りたくなるっつーか。そんなわけで、きちんと目が覚めるまで頬を弄らせてもらいます。おぉ~…モチモチしとるがな!

 

ムニムニ弄り倒したら、フュリーちゃんが完全に目覚めました。頬を押さえて、鼻水垂らして泣いています。俺ぁ~悪くないぜぃ、目覚めないフュリーが悪い。もち肌頬の感触が悪い、故に俺は悪くないのだ!

 

「うぁぁぁぁぁん! エシャルさんが意地悪したぁぁぁぁぁっ! 痛いよぉぉぉぉぉっ!!」

 

…俺は悪くない、悪くないのだが…この娘がウルサイ。そもそも、きちんと目覚めないのが悪いのであって…、

 

「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

だぁぁぁぁぁっ、もうっ! 俺が悪ぅございました!だから泣き止むんだフュリー!

 

撫でまくって、甘やかしまくったら、なんとか泣き止みました。今度から程々に弄ろう、そう決意しましたよ。弄るのは止めないんですか? …無理っすね、だって面白いんだもの。素直な反応が高ポイントですね、これ重要。

 

…うーん、今更なんだけど。フュリーってここまで泣き虫だったんか? 俺の最早うろ覚えの知識では、動乱時のフュリーは真面目ちゃんだった筈。…まだ先のことだし、そこにいくまで何かあんだろ。気にしたってしゃーなしか、現に泣き虫なんだし。とりあえず、ペガサス見付けて…だな。うん、そうだ。それでいいんだよ、気にし過ぎでハゲたらイヤだしね。

 

因みに、廊下でヴォルツとベオウルフが死んでいた。フュリーの泣き声が頭に響いたんだと、…二日酔いだったみたい。ベオウルフには、泣かせないようにしてくれとマジでお願いされた。…約束はしかねるな! だって、俺だもの! って言ったら、絶望した顔で動かなくなった。なるべく、注意することにしよう。そんなわけで、ペガサス探しに行きましょう!

 

 

 

 

朝から色々あったが、俺達は昨日の賊捕縛場所に。ペガサスって、ここら辺に出るんだっけ? なんかそんなことを言っていたような…。まぁそんなんは後で、ペガサスを探さねば。

 

「フュリーちゃんや? ペガサスは何処かね? どう探せば良いのかね? 俺は何も知らんから、君が頼りだよ。」

 

「お任せください! 努力と根性で探してみせますから!」

 

…努力と根性ってさぁ、地道に探す以外ないってこと? お任せ出来ないと思うのは、俺だけでしょうか? はぁ~…、シレジアに来て4日だっけ? フュリーを拾ってから、退屈しないね。俺に妹がいたら、こんな感じなんかな? 毎日が楽しいんだろうな、…大変だけど。…お~い、ペガサス出てこ~い!

 

ペガサス探して数時間、フュリーがむくれている。それは何故か?

 

「…なんでエシャルさんの下に集まるの? …天馬騎士は女の子しかなれないのに。…うぅ~、私にも構ってペガサスさん!」

 

3頭のペガサスが、俺に体を擦り付けているのだ。

 

最初はフュリーも喜んでいたよ? ペガサス見付けたぁ~! ってさ。俺も任務終了かと思っていたのだが、ペガサスがフュリーを素通りして俺の下に来たのだ。なんで俺んとこに来んのさ! と思ったものの、なつかれて悪い気はしないよね? …ムツゴロウモードになりますよね、それが当然の流れだよね。固まるフュリーに、

 

「たまたまだよ、たまたま…。よしよーし、…次はフュリーのとこにもペガサス来るって。…こらこら、そんなに舐めちゃイカンよペガサスちゃんや。」

 

ペガサスと戯れながら、フュリーを励ます。ムキーッて顔をしているフュリーちゃん、そんな感情を剥き出して…。ペガサスが出てきても、なつかれんよ…それじゃあ。

 

案の定、2頭目のペガサスは、

 

「止めろ、止ぁめぇろぉよぉ~! わははははは!」

 

俺の下に来て、じゃれついてきた。2頭のペガサス挟まれて、舐めまくり攻撃を食らっとります。くすぐったいったらありゃしない、…チラリとフュリーを見てみる。

 

「……うぅ~。」

 

目尻に涙を溜めて、唸っていますね。…次だ次、次いってみよー!

 

3頭目、やっぱり俺んとこに来る。

 

「ちょ…止めろって! マント引っ張んな、服引っ張んな! あっちにも構ってやって、ピーピー泣いちゃうから! あ…コラ!ちょいちょいちょい…!」

 

3頭のペガサスになつかれるのは嬉しいが、それはそれで恐怖にもなる。ゆーても野生の馬っすからね? 力が強いんですよ? んで、デカイんですよ? それが3頭、思い思いにすり寄ってくるんよ。おっかねーすわ、可愛いんだけどね…。フュリーもメソメソと泣いとるし、なんつーかツイてるようでツイてないよね…俺。

 

なんとか1頭だけ、フュリーに擦り付け…なつかせることに成功した。メソメソ泣いていたフュリーだが、今はご満悦だ。これでペガサス捕獲任務は終了、フュリーはスタートラインに立つことが出来た。

 

「えへへぇ~…、ペガサスさぁ~ん♪」

 

めっちゃ猫なで声で、ニマニマしている。見習い天馬騎士となってこれから先、厳しい訓練が待っているというに…幸せな娘やで。大丈夫なんか? ちょっと心配。目的は果たしたわけだし、村に戻ろうかと思うのだが、

 

「この2頭はどうすれば…、帰る気配が一切ないのだが…。」

 

帰りなさいって促しても、すり寄ってくるばかり。…どうしましょ?

 

結局、この2頭も一緒に村へ。手を尽くしても、帰ってくれませんでした。仕方がないから連れて帰り、先輩天馬騎士が来た時、どうすればいいか聞いてみるとしよう。そういう結論に達しました、考えても分からんからな。フュリーはペガサスにデレデレしている、故に役立たず。ペガサスをどうにかする知識を持ち合わせていない、所詮は見習い前の女の子ってなわけかい。早く先輩天馬騎士の人、来ないかな? 2頭になつかれ相手にするのは、マジで疲れんだぜ? ホントに…。

 

 

 

 

ペガサスと戯れて疲れ果てた俺は、朝までぐっすり眠りましたよ。心地よい疲れではないけれど、ぐっすり…とね。んで、ドアをノックする音で目覚めるわけで。ドアを開けるとベオウルフがいて、

 

「よぉ、おはようエシャル。昨日はご苦労さん…てーのはいいとして、お前さんとチビにお客だぜ? 天馬騎士のべっぴんさんが会いたいとよ。確実に、外のペガサス3頭とチビのことだろうよ。」

 

おー来たか、天馬騎士。ペガサス付きでフュリーを引き渡し、2頭のペガサスのことを相談せねば。すぐに行くとベオウルフに伝え、惰眠を貪るフュリーを起こすとしますか。

 

フュリーをベッドから引き摺り降ろし、準備を終えてからペガサスの下へ。そこで、天馬騎士のべっぴんさんが待っているらしい。フュリーはまだグズっている。眠いし、無断で出てきたことを怒られるっていうのもあるからな。まぁ、俺の知ったことではないけど。フュリーの襟首掴んで持ち上げる、ジタバタするが知らん。相手を待たせているんだから、ダラダラしているわけにはいかんからな。

 

ピーピー泣くフュリーと共に、ペガサスの下へ行くと、

 

「なんとも見事な毛並み、…見惚れるペガサスだ。我らの中に、これ程のペガサスはいまい。」

 

俺の方のペガサスを、微笑みながら撫でているべっぴんさんがいた。……俺は無言でフュリーを落とす、悲鳴を上げるがどうでもいい。悲鳴に気付いたべっぴんさんは、こちらを見る。目と目が交わり、よく顔が見える。白みがかった緑の長髪、鋭さの中に優しさを宿す瞳、雪のような白い肌、蠱惑的に笑みを浮かべる口元。俺の生涯でNO.1の美人さんだ! 心の中で叫んでしまう。そんな俺に対し、その美人さんは、

 

「朝早くから申し訳ない、私はシレジア天馬騎士隊のパメラと言う者。そこの泣き虫を含めて話を聞きたいのだが、よろしいだろうか?」

 

その言葉にフュリーは小さな悲鳴を、俺は大きく頷いて了承の意を伝えるのであった。




ピクシブにパメラの絵があります。昔書いたヤツですが。

探してみて、それを参考にしてね。

何年前だったかな?


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第14話 ~素敵です、パメラさん

活動報告にて、貴重なご意見をありがとうございます。

いつでも意見を求めてますので、何かありましたら足跡を残してください。

冷静になってみるとご指摘の通り、ダブルヒロインもハーレムみたいなもんじゃね?って俺も思い至りました。とりあえずは無しの方向で進みたいと思います。


まだ決まっちゃいませんが、ヒロインによって物語の進みが変わります。そして、オリジナルキャラを増やそうかと。それにより、メインキャラのクラスが変更になったり、生い立ちや血筋が多少変わったりします。

どうなるかは、作者にも分かりません。意見がある方は、活動報告に足跡を。

採用するかは分かりませんが参考にします。


ーエシャルー

 

話を聞きたいとのことで、俺はパメラさんにシレジアに来てからのことを素直に全部話す。特にフュリーを庇う、…なんてことはしない。ぶっちゃけ、フュリーは悪い事をしたんだからな。罰は受けねばならない、これは当然のことだろう。

 

それに、パメラさんが俺に好印象を持ってくれたら嬉しい。彼女は真面目そうだからな、嘘とかも嫌いそうだ。だから正直に話す、少しでも好印象を持たれるように。…安心しろフュリー、過度な罰は無いと思うぞ。相応の罰で済まされる筈、たぶんだがな。

 

俺はとりあえず、全てを話したつもりだ。フュリーは固まったまま、パメラさんは目を閉じて腕を組んでいる。考え事でもしているのかな? そこから数秒後、パメラさんは目を開け一言。

 

「フュリー、貴女には相応の罰を与える。」

 

それを聞いたフュリーは、ガタブルと小刻みに震え始めた。絶望の顔で、もう終わりだと…。

 

「しかし、無事にペガサスを見付けることが出来たことは評価する。シレジア城に戻り次第、見習い天馬騎士の叙勲が行われるであろう。よって、今回のことは不問にする。」

 

そして、パァ~…と顔を明るくするフュリーだが、

 

「見習い天馬騎士になったら、この私が直々に鍛えてやる。その泣き虫で甘ったれな所業を粉砕し、立派な天馬騎士にしてやる。…ありがたく思え、なぁ…フュリー…。」

 

挑発的な笑みを浮かべ、フュリーにそう言ったパメラさん。明るい顔が真っ青になり、引っくり返って動かなくなった。…白目で気絶しとるし、そんなにヤバイんか?

天馬騎士の訓練。

 

 

 

 

気絶したフュリーをなんとかしようと思ったのだが、パメラさんに止められた。

 

「そこの泣き虫はほっといて構わない。雪に埋もれても大丈夫だったんだ、風邪はひかんだろ。」

 

…ごもっともで、この程度でどーにかなることはないか。色々と問題はあるが、タフだからなフュリーは。性格は置いといて、身体能力…タフさは騎士に向いているかも。なんて考えていると、ゴホンと咳払いしてからパメラさんが、

 

「この度は、フュリーを助けて頂きありがとうございます。面倒を見て頂き、ペガサスまで…。そこの泣き虫は、私の同僚の妹でして…。無事に連れ帰ることが出来るのは、貴方のお陰です。」

 

居住まいを正して、礼を言ってきた。真剣な眼差しで、丁寧な言葉使いで…。その姿もまた、美しい…。俺、見惚れています!パメラさん…綺麗だなぁ~…。

 

ずっと見続けていたいが、そうも言ってられませんな。ペガサスのことを聞かなければ、つーことで聞いてみたんだけど。

 

「そこまで気に入られた男性は初めての事例です。それも2頭、…貴方は相当稀有な方のようですね。そこまで気に入られた場合、引き離すのは難しいかと思います。…このまま引き取るのは如何ですか? 私が上に口利き致しますが?」

 

…え? 俺があの2頭を引き取るの? そんなことが出来ちゃうの? …引き取ってどうすればいいんだ? 誰が乗るんだ? …俺、乗れるんかな? 疑問が浮かんでは消えていく、そして出た結論は、

 

「その方向でお願いします、パメラさん。せっかくなついてくれたんだから、引き取れるなら引き取りたいかと思います。…男性初の天馬騎士って、なれますかね?」

 

引き取れるものなら、引き取るってことにしました。ディアドラにお土産をあげなきゃいけないからな、…ペガサスでもいいだろ。まだ、引き取れるかは分からんけど。それに2頭だからな、俺も乗れるかもしれん。現になついてくれたわけだし、俺がなれるかパメラさんに聞いてみた。

 

「さて…なれるか否か、私では判断しかねます。前例がありませんからね…、ですが。」

 

そう言って、ニコリと笑い、

 

「訓練の必要があると思いますが、貴方ならなれるかもしれませんね。ペガサスに愛される天馬騎士に。」

 

と言ってくれました。パメラさん、貴女にそう言われたら…。俺、目指しちゃいますよ! 単純なんで!!

 

 

 

 

ペガサスの件は、上に口利きをしてからってことになった。後は捕らえた賊のこと、ベオウルフを呼んで話を進めました。ヴォルツはどちらかというと戦闘タイプみたいで、こっちの方はベオウルフが担当なんだと。

 

そんなわけで、密猟集団の件をパメラさんに伝える。そして知った事実、奴等は密猟で指名手配をされていたのではなかった。ベオウルフはやっぱりな、って顔しとる。知らんかったのは、俺とフュリーぐらいか? …というか、知っとけよフュリー。最近報告にあったとか言っていたけど、ほぼ知らなかったみたいだし。知っていたら、突撃しなかったっしょ。たとえ、アホの娘だとしても。

 

…であの賊の奴等なんだけど、なんでも貴族襲撃・強盗・殺人・強姦等を繰り返していた凶悪な奴等だったらしい。…うん、凶悪だよね? なのにあの弱さ、なのにあの潔さ、謎だよね? アイツ等。

 

とにかく捕縛という形で引き渡すことになり、死体で引き渡すより賞金は高いみたい。情報やら何やらを調べてから、処刑されるみたいね。俺達にとっては雑魚だったけど、彼女達天馬騎士隊とシレジア軍にとっては強敵だったようだね。パメラさんに感謝されたよ、顔がニヤけるのは仕方がないよね!

 

賊の護送は、3日後ぐらいになるそうだ。今日中にフュリーを連れ帰り、手続きを済ませてから隊を引き連れて…、そんな手順になるようで。やっぱり日数があるね、こりゃあ大変だ。…これは俺の出番じゃね? 俺にはワープがあるじゃない。俺には、ミーズ北東砦での実績がある。集団ワープなんざ、おちゃのこさいさいよ!

 

「パメラさん、ご提案があるのですが…。」

 

俺はパメラさんに声を掛け、俺がワープを使えること、集団ワープに連続ワープも出来るってことを話した。少しでもいいから、俺を覚えてください!

 

「それは本当ですか? 素晴らしい力をお持ちのようで…。ご協力してくださる…、ということでよろしいのですか?」

 

「馬車馬が如く、使ってやってください!」

 

俺は胸をドンッ! と叩き、任せてくれと言わんばかりにアピールする。

 

「そうですか! ありがとうございます、…えっと。申し訳ないのですが…、お名前は…?」

 

………!? なんということでしょう、名乗ってねぇじゃん俺! 痛恨の極みだよ、痛恨の極み! このエシャル、ここぞという時にポカしとるがな!

 

「これは失礼、パメラさん。名乗り遅れました、私はエシャルと申します。私の名を貴女の心に刻んで頂けたら、この上もない程の喜びです!」

 

「エシャル殿…ですか。」

 

戸惑い顔のパメラさんも素敵です!

 

 

 

 

まず最初にパメラさんと数人の天馬騎士、そしてフュリーとペガサス。…パメラさんの他に、天馬騎士の方がいたんですね。どの方も美人さんですね、俺…張り切っちゃいますよ!

 

「では、パメラさん達を先に送ります。私の周囲に集まってください、シレジア城のことを考えるのを忘れずに。」

 

先に送ると言ったんだけど、俺も一緒にワープしますよ。シレジア城を覚えないと、賊達を送ることが出来ないしね。それと知らない場所に送るんだから、不安なんだよね。きちんと送れるかってね、ミスったらシャレにならないつーのもある。安全第一がこの俺、エシャルってわけよ!

 

「シレジア城の想像は出来ています。…エシャル殿、よろしくお願いしますね。」

 

パメラさんのお言葉、頂きました。では…、

 

「パメラさんが優しい…。このままじゃ婚期を逃すだけだから、エシャルさ…んぎゃっ!!」

 

フュリーがボソッと何かを呟いたような、…なんか泣いてるし…。

 

「お願いしますエシャル殿、…泣き虫のことはお気になさらずに。」

 

パメラさんがそう言うなら、気にしませんから! では、改めまして…、

 

「ワープ!」

 

俺はパメラさん達と共に、ワープでこの場から消えた。

 

それを間近で見ていたベオウルフは、

 

「すげぇなエシャル、ワープも使えんのか。…つーかエシャルの奴、ここに戻ってくんだよな? 賊のこととか賞金のこととかあるし。…置いていかれた感があるのは気のせいか?」

 

そう言って首を捻る。そして…、

 

「ん~…エシャル、ねぇ…。どっかで聞いたことあんだよなぁ~、何処だっけ? 俺の友人がそのことばかり気にして、嘆きまくっていたような気がするんだけど。…誰だっけか?」

 

ブツブツ考えながら、ヴォルツの下に戻っていったのであった。

 

 

 

 

とりあえず到着したんだけど、シレジア城…ですよね? パメラさん達も周囲を見回している。

 

「…シレジア城ですね。素晴らしいですよエシャル殿、本当に一瞬で…。」

 

ワープは初めてだったようで、パメラさん達は目を丸くしています。今の俺は、ドヤ顔をかましていることだろう。因みにここは、シレジア城内の調練場らしいです。まぁそれはいいとして、これでシレジア城は俺のワープ先メモリーに記録された。いつでもどこでも、MPがある限りワープで来ることが出来ますな!

 

「エシャル殿、私達は報告の為にこの場から失礼させて頂きます。申し訳ないのですが、暫くこちらでお待ち頂けませんか? 客間にご案内したいのですが、もてなす準備がされていませんので…。」

 

「気にしなくていいですよ! 俺はここで待ちますとも! お気になさらずに、パメラさん!」

 

俺の言葉を聞いて、パメラさんは微笑んでから一礼、他の方々と共に調練場から出ていった。フュリーは逃げようとしていたが、パメラさんに襟首掴まれてドナドナされてったな。フュリーのことはどうでもいいんだけど、パメラさん綺麗だよなぁ~…。めっちゃお近づきになりたい。なんてことを考える俺であった。




エシャル、美人と出会ってご満悦。目的を果たしたようなものですな。


ペガサスGETなるか!?というか、どうせ・・・ねぇ?


エシャル・ディアドラ、ペガサス系にクラスチェンジフラグ?

さて、どうなることやら。


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第15話 ~遭遇、レヴィン王子

勢いだけで書いとります。

うぉりゃあ~!


ーエシャルー

 

調練場でジッとしているのは、ツマらないからな。剣の練習でもしときましょうかね、…そう思って腰から細身の剣を抜き取る。調練場の隅の方にある人形? 木人? よく分からんが、剣の練習をしましょうか。ヘズルの血が濃いからといって、過信は禁物。練習第一で腕を磨かないとね、うらうらうらうらぁ~!!

 

…ふぅ~っ、良い稽古だった。額の汗を拭う俺、そんな俺に…、

 

「あんた何者だ? ここはシレジア王国本城だぜ、どうやって侵入したんだ?」

 

声を掛けてきた者が。振り返ると緑髪のイケメン、俺と同世代ってとこか? 何者だって言われてもねぇ、用事があるから来たわけで。…というか、目的は果たしていますが。それに、パメラさんに待つよう言われたからね。うん、俺は不審者じゃないな。理由を話せば、このイケメンも怪訝な顔を止めるだろう。

 

「俺? 俺はだな…。」

 

イケメンに理由を話そうと近付いた時に…、

 

「「………!?」」

 

なんとまぁ…これは共鳴っすか? トラバントん時と同じじゃん? ってことは、コイツは聖戦士? ……シレジアの王族っすか!?

 

 

 

 

 

ーレヴィンー

 

「それではレヴィン様、きちんと課題を終わらせるように。分かりましたね?」

 

そう言って、俺の家庭教師であるクブリ老師は部屋を出ていく。全く、口うるさい爺様だな! ことある事に、やれ王族が、次期王として、立ち振舞いがどうだとかうるせぇし。父上も母上も口うるさい、お付きのマーニャも喧しい。叔父上達も俺を邪魔者扱い。…くそっ! なんて堅苦しいんだ、少しは自由にさせてくれよ。

 

何が王族の務めだよ、互いに足の引っ張り合いをしている癖に…! こんなんじゃ、この国も先は長くないな。国を想うなら、団結して国の基盤を強固にするべきなのに。いずれこの国は、グランベルに飲み込まれるのがオチだぜ。

 

…チッ! 気分が悪い。こんな時はフュリーを弄るのが一番なんだが、アイツは行方不明なんだよな。ペガサス探しに行ったってのが有力だが…、距離がある。野垂れ死んでないよな? ……ヤベェ、あり得るな。アイツ、馬鹿だし。

 

 

 

 

…フュリーの馬鹿のせいで、勉強する気が失せた。こんな時は、軽く運動でもして汗を流せばスッキリするよな? そう思って、あまり行かない調練場へ。今の時間は喧しいマーニャ達はいない、一人で居られる貴重な時間帯だ。

 

…そう思っていたんだが、先客がいた。見たこともない奴だ、侵入者か? 率直にそう思った。しかし、剣を振るう姿は雄々しく、そして美しさの中に鋭さがあり、俺は視線を外すことが出来なかった。

 

見事な剣舞を終えた謎の人物、侵入者であればこのままにしておけない。そう思って声を掛けてみた、何故かは分からない。賊であれば、俺は確実に殺されるだろう。あの剣舞を見て、勝てるなどという夢を見る愚か者ではないからな。なのに何故、声を掛けた? 息を殺してこの場を去り、兵を呼んでくるべきではないか?

 

今更…、もう声を掛けちまったっての! フュリーの馬鹿っぷりが移ったか?

 

そして、侵入者はこちらに振り向いた。そして思った、コイツは俺の敵だと…! なんなんだこの美形は! 美形で剣の腕が良いとかって、何処の物語の主人公だよ! クソッ…! 俺の唯一、自慢出来る風魔法もかろうじてトルネードってとこなのに! 目の前の奴と比べたら、全然じゃねぇか! フォルセティがまだ使えないってのが痛いぜ!

 

それに奇妙な感じもするし、…なんなんだよ! グギギ…と歯を食いしばり、嫉妬している俺。侵入者は俺を見て、怪訝な顔をしている。…失礼な奴だな! 仮にも俺は王族だぜ? 文句の一つも言ってやろうと思ったが、

 

「「………!?」」

 

侵入者が俺に近付いてこようとした時に、妙な感覚が全身を駆け巡った。

 

この感覚は知っている、聖戦士の血を強く受け継いでいる者同士の…。この侵入者は聖戦士一族に連なる者! しかも継承者としての力を持つ者…! 父上と俺と同じ立場…。もしそうだとしたら、何故ここにいる? 分からねぇ…、分からねぇよ…。グランベルからの刺客か? 暗殺者か? 悪い方へと思考が流れそうになった時、

 

「お待たせ致しましたエシャル殿…って、レヴィン王子! 何故こちらに!?」

 

調練場にパメラが入ってきた。エシャル…? コイツの名か? …ってことは、パメラの客か? そう思ったら、なんだか安心してしまった。敵ではない、そのことにな。つっても、外交的にってことだからな? 美形で強者は俺の敵だ。…嫉妬とも言う。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

互いに聖戦士で、めっちゃ敵視されとるし、どうすればいいんかね? 見詰め合って固まっていると、

 

「お待たせ致しましたエシャル殿…って、レヴィン王子! 何故こちらに!?」

 

……え? 女神? …っと違った。パメラさんか、焦ったぜ! とはいえ、ナイスタイミングじゃないですか! どうしようかと考え始めたところっすよ! イケメンが敵視しとりましたからね、……予想通り王族だし。

 

「パメラの客か? …見知らぬ者がいたからな、侵入者かと思った。…何者なんだ?」

 

何者って…、やっぱりそこが気になるよな。聖戦士なんざ、そこら辺にゴロゴロいるわけじゃないからな。俺が逆の立場なら、同じように気になると思うし。しゃーなし…だよな。

 

まぁ当然ながら、聖戦士ってーのがバレているわけだからね。言うしかないよね? このレヴィン王子ってーのは、しつこそうだし。隠したら、それを何とか知ろうと仕掛けてきそうだし。王族って面倒だね、兄貴は気にしない人だし、トラちゃんもなんだかんだでツンデレだし、…コイツはどんな奴だろう。どう自己紹介をしようかと考えていたら、パメラさんが…、

 

「レヴィン王子、こちらはエシャル殿です。フュリーを保護し、ペガサス探しにも協力してくれた方です。最近国内にて、問題となっていた賊を傭兵団と協力し捕縛してくれました。」

 

「あ~…あの馬鹿は生きていたか。まぁ…、良かったってところか。それよりも賊か、…あの凶悪集団を討伐ではなく捕縛。流石…と言いたいところだが、予想以上じゃないかよ。エシャルって言ったか…、お前は人間か?」

 

失礼すぎやしないかい? 人間か? …そりゃあねぇべよ。人間だよ人間、聖戦士の血を引くお前と同じ人間ですよ! …つーかコイツ、俺の口から聞きたいみたいだな。聖戦士ってことを…。

 

「レヴィン王子! 流石に失礼ですよ! 恩人であるエシャル殿に…。」

 

パメラさん…、貴女良い人。

 

とりあえず、知りたいなら教えてやるよ。隠さなくていいのかって思ってます? …さっきも言ったけど、コイツはしつこそうだからな。今は俺とパメラさん、レヴィン王子しかいない。ここで言わねば、大勢の前で問い掛けてくるだろう。故に何時言うの? …今でしょ!

 

「レヴィン王子、と言いましたか? 貴方は私の正体をどうしても知りたいようですね? 言っても良いのですが、私は自由人。まだ、風のままでいたい。いずれ表舞台に立つ時が来ると思いますが、まだ…その時ではないかと思ってます。故に今から言うことは他言無用でお願いします。パメラさんもそこはお願いしますね?」

 

俺の正体はいずれ知れる、俺自身も知りたいし。今の俺は、世界中に広がっている。過去の俺は、まだ分からない。まぁ…俺は俺だからな、過去も今も関係ないさ。ただ、今の俺はトラキア王国所属なんだよね。そこはきちんと言っちゃいましょう!

 

「今の私はトラキア王国にて将軍を拝命しています、エシャル…と言う者です。レヴィン王子は感じたかと思いますが、私も聖戦士の血を引く者でしてね。魔法戦士ファラ、そして黒騎士ヘズル、二つの血を色濃く継いでいます。過去の事は分かりませんが、今の私の肩書きは述べた通りですよ。…以後、見知りおきを。」

 

優雅に一礼し、ぶっちゃける。…パメラさんが固まってしまった、レヴィン王子も顔を引きつっている。

 

やっぱり、二つの血がヤバイんか? それともトラキア所属がダメ? どっちですかね?

 

「コノート・マンスター連合軍を壊滅させ、トラキア王国に勝利をもたらしたトラキアの英雄! 同姓同名なだけかと思いましたが、まさかトラキアの黒刃と称されるエシャル将軍ご本人だったとは…! わ…私はどうすれば良いのでしょうか…!?」

 

動いたかと思ったら、狼狽え始めたパメラさん。トラキアの黒刃って、初めて聞いたんですけど! 炎の英雄じゃなかったんかい! …まぁ俺の炎、メティオは隠せと言ったけど。あの戦いで名は広がったと思っていたけど、シレジアまでとは思わんかった。こりゃあ、マジで俺の名は世界中に広がっているな。

 

それよりも、トラバントめ…! カッコいい通り名を付けたんなら教えろってーの! 調子に乗れないじゃないか! ……調子に乗るから、教えてくれなかったのか。くそぅ…、俺のことを分かってやがるぜ! トラちゃん恐るべし…!!

 

「いや、トラキアの黒刃ってーのは凄いんだが…。それよりも、ファラとヘズルの方がヤバイだろ! だからあの剣舞、…そして魔法の才も持っている。美形でもあって…、やっぱりお前は人じゃねぇ! クソゥ…!!」

 

レヴィン王子とやらは、くだらんことで驚愕しとるし。…なんなんすかね? ホント。

 

 

 

 

とりあえず、落ち着いた二人。レヴィンは思案顔で俺を見て、

 

「…血筋で思い出したんだが、エシャルって名は他でも聞いたことがあるな。たしか…、ヴェルトマー公爵領…。」

 

それを聞いた俺は、

 

「レヴィン王子、先程も言いましたよね? 自身の過去が分からないと…。貴方の知ることが、私に繋がるモノかもしれない。ですが、それを知ってしまったらどうなるか? 私は保証しかねますよ? 知ったことによる弊害があってもね、私自身が分からないのですから。」

 

そう、レヴィン王子に返した。レヴィン王子は黙り込み、何かを考えてから、

 

「…そうだな。真実がどうなのか分からない以上、この先を知ろうとするのは危険か。…なんだか手遅れな気もするが、俺の蒔いた種だ。そこは諦めるとしよう。」

 

…それが長生きの秘訣っすよ? 好奇心が過ぎると、自身の首を絞めかねないからね。いずれ、いずれは知ることになるんだ。あの日のことを、モヤの中の記憶がさ。つっても、知らないままかもしれないけど…。




現時点で、エシャルはトラキア王国所属です。良い暮らしをしております。

次回もシレジアですかね。後2、3話ぐらいでシレジアは終了。次はアグストリアですかね?


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第16話 ~シレジア女性、強し・・・

ブイブイいくぜぃ!


ーエシャルー

 

レヴィン王子とのエンカウントが終了したわけなのだが、そんなことはどうでも良いのです! 俺の立場がどーのとかも捨て置け! 今、最も重要なのは…、

 

「パメラさん、私の肩書きは気にしないでください。旅人エシャルとして、貴女の普段通りに接して頂けたのなら嬉しい。…今から俺も普通に戻るんで! いやぁ~…、丁寧な言葉は肩が凝るね!」

 

俺にはこっちの方がいいっすね! レヴィンと話して、改めて思ったよ。…今を楽しく俺らしく、ユルユル生きる! ってことをね! 俺から凛々しさが消え、ヘラヘラとした本性を見たパメラさんは、

 

「なるほど、フュリーが言っていたのはこのエシャル殿ですか。…フュリーの言うように、こちらの方が良いですね。」

 

ニコリと笑って、そう言ってくれました。あぁ…、その笑顔でご飯3杯は食えますよ!

 

「その顔で、実力があって、血筋が良くて、立場も良くて、そして…本性は人なつっこいだとぅ…! エシャル…! 今日からお前は俺の好敵手! いつかギャフンと言わせてやるから、首を洗って待っていろ!」

 

勝手に激昂して、一方的に好敵手。そして、出ていくレヴィン。…ホントになんなの?

 

レヴィンが出ていった後、パメラさんから色々と聞きましたよ。まずはペガサスの件。天馬騎士の総括はラーナ王妃とのことで、俺のこととペガサスのことを報告したらしい。フュリーからの話、パメラさんからの話、それを聞いたラーナ王妃は、

 

「……エシャル様と言われましたか? …そうですね、…2頭のペガサスはそのエシャル様に引き取って頂きましょう。今後のお付き合いも含めての贈り物、そういうことです。…フフフ、良き関係が築けたら言うことなしですね。」

 

とか言っていたみたいです。この国で、俺のことを言ったのは二人だけ。言ってないのに…俺の正体というか、所属を知っていますな。知った上での贈り物ですか、注意しないとヤバイお人のようですな。俺が死んでいることも知っているよな? やっぱり…。トラバントと同じように、公式での発表だけのことだと思うけど。まぁ…、俺なりに気を付けよう。

 

次にフュリーの件。彼女は無断でペガサス探しに行ったことを、メチャクチャ姉に怒られたらしい。その後は姉に号泣されて、自分のしたことの重大さに気付いたとのこと。俺が拾わなかったら、確実に死んでいたと思うし。姉もフュリーの死を覚悟していたと思うからな、生きていたことが嬉しかったんだろう。

 

意地悪なディートバちゃんも安心したらしいね、自分が挑発した結果がこの事件? だから。出会い頭に、フュリーの頬を伸ばしたみたいだけど。とりあえずペガサスを見付けたわけだから、見習い天馬騎士の叙勲は受けられるみたいね。今後の活躍を期待しよう、一応。

 

最後は、賊のことやね。賊は、牢や取り調べの準備等をしなくてはいけないから、明日ってことに決まったようで。賞金はなかなかに高額、ヴォルツ達…特にベオウルフが喜びそうだ。全ては明日ってことだな、うん。つーことは、村に戻って伝えなきゃいけないな。んで明日、ヴォルツ達や賊達をワープで連れてこればいい。場所は、この調練場で良いみたいだし。

 

 

 

 

…とりあえず、重要なことは聞いたな。つーことで、俺がここにいる理由はもう無いってことで。早々に、村へ戻るとしましょうかね。

 

「それではパメラさん、俺は村へ戻りますよ。ヴォルツ達に伝えて、明日の準備…はしなくてもいいか。とにかく、ヴォルツ達に早く伝えなくてはいけないからね。」

 

誰かしらに絡まれるのも、面倒だからな。レヴィンかフュリーに会ったら、絡まれそうだ。特にレヴィン、何処かに消えたみたいだけど…、顔を合わせたら何かしてきそうだ。一方的に、ライバル宣言してきたし。そんなわけなんで、俺は村に戻ります。パメラさんに軽く手を挙げて、挨拶をしてからのワー……。

 

「エシャル殿…! ちょっと…。」

 

パメラさんが何か言いたそうだが、既にワープの準備が…、

 

「お待ちください! エシャル様…!!」

 

バーン!! と誰かが調練場に勢いよく入ってきて、大声で俺を呼び止める。俺様ビクゥ…! となって、ワープを中断してしまいました!

 

ぬぉ~…、心臓がバクバクしとるがな! 誰だよ、デカイ声出して乱入してきたのは! 声からして女性だとは思うが、パメラさん級じゃないと怒るでしかし! 若干の苛立ちも込めて、乱入者に鋭い視線を向ける。そこには…、

 

「お待ちください、エシャル様。私に少し、お話をさせてください…!」

 

べらぼうに綺麗な女性がおりました、パメラさん級でございます! 緑髪のロングで片目をやや隠し気味の美女、優しげな目元がパメラさんとは違う。…どことなく、誰かに似ている気がするんだけど。まぁ気にしないでおこう! それよりもイカンな俺! 険しい顔のままでは、美女に失礼ではないか!自称紳士が聞いて呆れるわ! 違う意味で心臓がバクバクとなる、落ち着くんだエシャル!

 

俺は自身の両頬を、ピシリと叩いて仕切り直す。そして笑顔を向けて、

 

「私に何か、用事でもあるんですか? ただ話し掛けられただけで、私には至上の喜びしかありませんが。」

 

素直な言葉を言う。美女に声を掛けられて、喜ばない男などいない。いたとしたら、…ホモだろう!

 

「…用事と言いますか、その…。お…お礼を言いたくて…。」

 

顔を赤くして、しどろもどろになるお姉さん。…お姉さん? 美女よりしっくりくるな。お姉さん的オーラが、半端なく感じるぞ。それよりもお礼ですか、…天馬騎士としてかな? 下っぱフュリーを助けたことに対しての。………んん? フュリー? そういえばどことなく…、このお姉さんがフュリーの? そうならば、名前は…、

 

「私に礼…ですか? 思い当たるモノが浮かばないのですが…。それよりも、貴女の麗しき名を聞かせて頂けたら…。」

 

軽く惚けて、名前を聞いてみる。

 

「あ…失礼致しました! 私は天馬騎士隊所属の、マーニャと申します。その…フュリーの姉です…。」

 

最後の方は聞き取り難かったが、マーニャさんでフュリーの姉ね。やっぱりかー。

 

 

 

 

俺の消えかけている知識によると、マーニャはフュリーの姉。動乱時に戦死する、以上。…もう知識でも何でもねーよ、重要なのは戦死だけだよ。こんな美人さんが、将来死んでしまうのか…。なんで死ぬのか分からんけど、正直勿体無い。…せっかく出会ったんだから、俺が出来る範囲で助けたいものだ。

 

…で、お礼となるとフュリーのことだな。たまたまだから、礼を言われるようなことではないけど。彼女からしたら…ってヤツか。フュリーのことを小さく言ったのは、俺に迷惑を掛けたからなんだろうね。

 

「マーニャさんで、フュリーのお姉さんですか。…なるほど、フュリーを保護したことに対してのお礼…、と言うことですね。」

 

マーニャさんは頷いて、

 

「はい、その通りです。遅れましたが、私の妹であるフュリーを救って頂きありがとうございました。ペガサス探しにも協力して頂いたお陰で、妹も見習い天馬騎士になることが決まりました。エシャル様には妹共々、出来る限りのお世話をシレジアにおられる間はさせて頂きたいと思います。」

 

…世話ってどんな世話ですかね!? エシャルさんは、ドキドキっす! …フュリーはいらないけど。

 

「世話だなんて…、そこまでしなくても良いですよ? お礼の言葉だけで十分です、当然のことをしたまでですから。」

 

フュリーの存在が恐いんで、断ることにします。逆に、世話をすることになりそうだし。

 

断ったんだけど、食い下がってくるマーニャさん。…何故に? 必死すぎて恐いんですけど。なんだか鬼気迫る表情でもあるし、美人だから尚のこと…ねぇ? 俺がちょっと引いていると、

 

「見るに堪えないぞマーニャ! 黙って見ていれば…エシャル殿に迫りすぎだ! お前は今日、会ってばかりだろう? 何故にそこまで世話をしたがる!」

 

俺とマーニャさんの間に、パメラさんが割って入る。ナイスタイミング、正直助かったよ。それに俺も気になっていたことを聞いてくれたし、何故にそこまで…?

 

「…今のうちから婚活をしようかと。シレジアには良い方がいません、いたとしても高齢です。ならば他国の方しかありません、旅人でも良いのです。いえ…旅人の方が良いんです。既成事実を作って、シレジアに永住してもらいます。そして私色に…。」

 

「…そうか、婚活か。今から先のことを考えるとは、マーニャはやはり真面目だな。だが、がっつき過ぎるのは良くないと思うぞ? 相手のことも考えなければ…。」

 

「そんな悠長なことを言っている暇はありませんよ、パメラ。ただでさえ私とパメラは、男性以上に優秀、女性であるのが惜しいと言われているのです。現に、男性の方々に私達は畏怖されつつあるではありませんか。国内で恋人、夫を探すのは至難。ならば、機会がある時に押さないでいつ押すのです?

 

フュリーの話では、エシャル様はかなりの実力を持っていると。そのような実力者の方と出会うことなど、そうあるものではありません。積極的に自分を売り込んでいかなければ、高齢の方の愛人、生涯独り身は確実。私は愛人も嫌ですし、独り淋しく死ぬのも嫌です。私が独り身で、フュリーが夫持ち…。そんな未来を想像するだけで…、うぅ~…。」

 

「…マーニャ、お前の言うことは尤もだ。…確かにエシャル殿は、二人といない程のお方だ。…ふむ。」

 

マーニャさんの未来設計図が恐いっす、そしてパメラさんも共感してるっぽい。なんだか雲行きが怪しくなってきた、身の危険を感じる…。俺は少しずつ、二人から離れていく。

 

…………!!

 

二人が振り向き、俺を見た!

 

「「申し訳ありませんエシャル様(殿)、少々よろしいでしょうか…?」」

 

俺は美女に弱い、ここで留まり、話をしてしまったら…! 俺は反射的にワープをしてしまう…。すまぬ、マーニャさんにパメラさん。俺はまだ…身を固めることは考えてないっす!




シレジア女性は強い。強い女性は売れ残る。故に必死で男性を漁るのです。

作者の勝手な妄想ですが・・・。

エシャルは優良物件ではあるね。過去が謎だけど。


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第17話 ~シレジアにて

なんだかお気に入りが50を超えてますね。

ありがとうございます。

ウダウダと今回もいきますぜ!


ーエシャルー

 

昨日は大変だったな、うん。シレジア美人に出会えた幸せはあったが、内にあるナニカも知ってしまった。特にフュリーの姉であるマーニャさん、彼女は危険だ。まだ20歳ぐらいだと思うんだけど、そんなに焦るもんなの? 薄れてはいるものの、前世の記憶がある。それが原因で、そういうのが分からんのかもしれないな。

 

うーん…、考えてみるとヤバイ歳になるのか? 見た感じ良い家柄だと思うし、騎士階級だし、それ故の焦り? …やっぱり分かんね! 俺的には、全然余裕でアリなんだけど。貴族や騎士って分かんないよね、…20歳を超えたら年増って。どんだけロリが多いんだよ!

 

パメラさんや他の天馬騎士の方々にも、注意せねばならないかもしれない。マーニャさん程ではないとしてもね、これは重要。確実に言えること、フュリーは対象にならないってこと。まだガキんちょだからね、俺にはムリさ。将来に期待だな!

 

…とそのことは置いといて、ヴォルツ達の準備は終わったのかな? 賊の護送になるわけだし、…つってもワープで一瞬なんだけどね。あぁ…その前に、シレジア城へ1回飛ぶか? 今から大丈夫ですか? って聞かないと、確認は大事さー。…女性に注意を心に刻みつつ、…ワープ!

 

 

 

 

 

…シレジア城から無事、帰還! あちらさんは準備OK、次はヴォルツ達の確認さ!

 

シレジア城は、空気が乱れていた。俺がワープで調練場に出現した時、ザワつきましたもんね。知らない人は驚いて、知っているパメラさんと他数名は動じなかった。その場にはマーニャさんにフュリー、レヴィンもいた。フュリーは、俺のワープを知っているから動じない。初めて見るマーニャさんとレヴィンは、目を見開いて驚いていた。…マーニャさんの目が、獲物を狙う獣のようなモノに変わったのが恐かった。レヴィンは、ぐぬぬ…と嫉妬丸出し。俺は二人を避けて、パメラさんに確認を取る。答えは、

 

「こちらの準備は大丈夫です、いつでもどうぞ。…マーニャはエシャル殿を本気で狙っています、間違いなく本命候補です。ワープが出来るのも高得点みたいです。…因みに、トラキアの黒刃殿とは知られていません。そこは安心してください…。」

 

準備が整ったみたいですね! …最後の方は小声でしたが、助かります。…だけど、俺の立場が知られたらマズイかもしれん。…トラキアまで来そうだ、天馬騎士を辞めて。…考えれば考える程、おっかないな。俺は、パメラさんに礼を言って再びワープ。

 

とまぁ、そんなわけでした。いずれは知られるんだろうけど、今は自由でいたいからね。トラキア所属ではあるけれど…ね。んなことより、

 

「ヴォルツにベオウルフ、準備の方はどうだ?」

 

二人に確認、シレジア城へ行く準備はよろしいか?

 

「賊は集めておいたから大丈夫だろう。エシャルとシレジア城へ行くのはベオだ。俺は残って、部下達と待っているつもりだ。」

 

「…とか言って、諦めきれずに雪男だと思うがね。いい加減に、諦めて欲しいぜ…。」

 

雪男を探すとかはどうでもいいことだが、準備が出来たってのなら、

 

「んじゃ、シレジア城へ行きますかね。ベオウルフ、大丈夫だな?」

 

頷いたのを確認して、ワープ! 賊は知らん、事故っても賊だし、確認なんざ必要ないだろ。

 

 

 

 

ワープでシレジア城に戻ってきた俺。さっきよりもザワつきは少ないが、集団でワープしてきたから驚いている。俺のやるべきこと終了、賊のことはベオウルフに任せましょう。賞金全額、傭兵旅団の取り分って決めたし。俺はいらないからね、金に困ってないし。

 

その分、ヴォルツとベオウルフが俺に感謝し、友好度が増しつつ、貸しを作れたことが大きい。凄腕の傭兵に貸しだなんて、そう簡単に作れるもんじゃない。そういうわけで、俺もヴォルツ達も損は無いのさ! 俺は貸しが作れて嬉しい、ヴォルツ達も高額賞金でホクホク。うん、十分過ぎるだろ。

 

さて、この後はどうしようかと考えて思い付く。2頭のペガサスを昨日預けたけど、その2頭の様子を見に行こう。2頭共、俺が引き取ることになったわけだし。ペガサスの世話等の飼育方法を聞きたい、乗馬も経験しておきたい、…名前も考えなければならないじゃないか! 意外にやることが多いじゃないの、大変だ。そうと決まれば、即行動。誰かに案内して貰わねば、さて…。

 

マーニャさんは、ベオウルフと話をしている。賊のことで交渉しとるのかな? ほぼ決定済みだから、交渉する余地は無いと思うのだが…。よく見てみると、ベオウルフの顔が引きつっている。マーニャさんは、どことなく押せ押せモードな気がする。…婚活か、…どんだけ必死なの? …近付かないようにしないと、俺がロックオンされる。まぁ、ベオウルフもなかなかの人材だからな。凄腕の傭兵だし、イケメンだし、獅子王と知り合いみたいだし。頑張れマーニャさん、そして折れろベオウルフ。主に、俺の為に…!

 

一応、フュリーの様子も見てみるか。……いたな、アイツはペガサスのいる場所知っとるかね? 聞くだけ聞いてみるか、見習いになったか分からんけど暇そうだし。そう思って近付いたのだが、その前に…、

 

「コラ泣き虫! 腑抜けてるんじゃないわよ! 見習いになるんだからシャキッとしなさい! アンタの間抜け顔が私達の間抜け顔になっちゃうんだからね! …ほら、先輩方の手伝いをするわよ!」

 

「やめてやめて! 耳を引っ張らないで! 耳が取れちゃうよ、ディートバ…! うわぁぁぁぁぁん! イタイイタイ…!!」

 

ショートカットの娘に、耳を引っ張られて連れていかれた。めっちゃ泣いていたが…。なんつーか、フュリーって感じだな。アイツ…、生きていけるんか? まぁ~…、頑張れフュリー…とでも言っておこう。

 

暇そうな人、暇そうな人。…一人いたけど却下だな、レヴィンだし。昨日がアレだったから、今日も同じだろう。俺を見ているが無視、つーか見んな! しゃーないから、誰か呼び止めて案内して貰おう。…お、あの天馬騎士のお姉さんにしよう。可愛い系ですね? …いいね、美人が多いからたまに可愛い系で攻めるのもアリだろう。

 

「そこのお姉さ…「エシャル殿。」…なんでしょうか、パメラさんや?」

 

パメラさんに捕まりました、彼女が案内してくれるそうです。…別にイヤではないんですよ? ただ、昨日の件があったからねぇ。マーニャさんみたいに、グイグイ来るんじゃないかと警戒してしまうのは仕方ないじゃん? …それよりもペガサスだね、シレジア女性の婚活事情は置いときましょう。

 

 

 

 

パメラさんに、ペガサスのいる厩舎へ案内して貰っているのだが、

 

「エシャル、お前…パメラを狙っているのか? なかなかに良いセンスをしているじゃないか。天馬騎士の中でもパメラはマトモな奴だからな、あんまり口煩くないし、こっちの事情も考えてくるし。…俺から言えることは一つ、マーニャはやめとけ。口煩いし、事情関係なしに色々と世話を焼いてくるし、仕事が無い時は大体隣にいるし。有能なんだろうが…。」

 

前を歩くパメラさんに聞こえぬよう、コソコソと話し掛けてくるレヴィン。…なんかついてきた、つーかパメラさんを狙っているわけじゃな…良い関係になれればなぁ~とは思っているけど! 思っているけど! というか、ついてくんなよ! と思うものの、レヴィンの話を聞いて気付いたんだけど、

 

「…マーニャさん、王子の奥さんなんか? 話を聞く限りじゃ、それっぽく感じるんだけど…。」

 

素直な意見を言いました。だって…ねぇ? それっぽいじゃん? …どうなんでしょう?

 

「………ほぁっ!?」

 

奇声を上げて固まるレヴィン、俺はビクゥッ! パメラさんは何事かと振り返る。

 

「…まさかマーニャの奴、俺も狙っているのか? 王族だからないだろうと思っていたが、玉の輿になるわけでもあるし。…既成事実!? 日頃から口に出している既成事実なのか!? ……ヤバイぞ、主に俺が…! こうしちゃいられない、周囲に聞き取りを行って事実関係を確認しなくては!」

 

何だか慌てて走り去って行った。忙しない奴である。

 

「レヴィン王子はどうしたんですか?」

 

パメラさんが、不思議そうな顔で聞いてくる。

 

「たぶんだけど、自分の未来を見詰め直しに行ったんじゃないかな?」

 

大方、そうなのだろうと思う。まぁレヴィンがどうなろうと知ったこっちゃない、それよりもペガサスだよ!

 

 

 

 

 

案内された厩舎にて、俺は2頭のペガサスと再会する。再会つっても、昨日ぶりなんだけど。ペガサスは俺を認識すると、すり寄ってじゃれてくる。可愛いけど、危ないがな! ペガサスと戯れつつ、パメラさんにペガサスの世話の仕方等を教えてもらう。馬と竜の世話を足したような感じだった。これなら、俺にも出来るってことで安心した。

 

そしてペガサスの名前を決めました! 大きい方がスコル、小さい方がハティ。何となくそんな名前が浮かんだんで、決めたんですわ。スコルを俺の愛馬にして、ハティをディアドラにプレゼントしよう。そういうことだからスコルにハティ、今後ともヨロシク!

 

………!? ちょっ…ハティ! 噛むなってばよ! ハティも大事だよ?大事だからこそディアドラに…!

 

………!? ぐぉぉぉぉぉっ! ハティに蹴られました! ライブ、自分にライブを! 痛いっす! 愛馬にされないのがそんなに気に入らないんすか?

 

そんなこんなで色々ありましたが、今の俺は…、

 

「うひょ~…、気持ちいいねぇ~…!」

 

スコルに乗って空を飛んでいます、ハティは地上で留守番です。因みに、パメラさんも一緒に飛んでいますよ。何かあった時の為にってことだけど、

 

「短時間で空を舞うだなんて…、エシャル殿は才能だけで語れるような方ではありませんね。神に愛されている…そう言われた方が、納得出来るような気がします。」

 

パメラさんの言葉にドキッとしたのは内緒だ。愛されているかどうかは分からんが、…俺を転生させてくれた神様は、今も俺を見ているのだろうか?




もうちょいで、シレジアは終わり・・・かな?

まだ、分からんけど。



独り言。

グラブルのCMがムカつくのは、俺だけだろうか?


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第18話 ~シレジアを発つ

活動報告にて、貴重なご意見をありがとうございます。

引き続き意見は募集してますんで、何かありましたら足跡を。


血筋とかの変更はほんの少しだけ。シグルドとかの血筋は変わらないですよ。

考えているのは、オリキャラでディアドラの妹を作ろうかと。妹の方が原作ディアドラの立ち位置にしようかなぁ~と考えています。ディアドラが原作と違いますからね。というか、出す予定です。

因みに、レイミアは近々出る予定ですよ。


ーエシャルー

 

シレジアに来て、1年ぐらい経っただろうか? 色々ありましたよ、色々。その中の幾つかを教えてあげよう。

 

 

 

 

 

俺ことエシャルは、たった1日でペガサスを乗りこなしました。男性初もあるけれど、1日で乗りこなしたのもシレジア史上に名を残す程のことらしい。その日から俺っち暇なんで、お姉様方に混じって訓練の日々っす。

 

槍の扱い方を習ったり、逆に剣を教えたり、何故かフュリーを筆頭に見習いの娘達を鍛えたり、風使いの女性達をペガサスに乗せる等の事件? を引き起こした。その結果、天馬騎士隊所属の兵が増え、実力も上がりまくり、新たなクラスも誕生したのだ。

 

わずか10騎であるけれど、ペガサスマージとかいうクラスが出来たんすよ。ペガサスに乗った風使いのことですね、機動力が凄い魔法使いってことです。まぁ乗馬能力等がまだ低いから、要訓練ってことですがね。戦術の幅が広がったと、好評を得ております。

 

後、俺が任されてしまった見習い娘達なんですが…。俺が鍛えたせいか、槍より剣の方が主力になっちまいましたよ。特にフュリーがかなり頑張って、見習いNo.1の剣使いですわ。意外な才能ですね? 元々、潜在能力が高かったからだろうけど。今では賊相手に、剣をブンブン振り回す日々です。

 

そして俺だ、俺…クラスチェンジしてしまいました! 訓練していたら、パメラさんに呼ばれて王座の間へ。何事かと思ったら、黒髪美人さんがおりました。…この方がラーナ王妃みたいです、…王様いないの? 俺の疑問をすっ飛ばして、ラーナ王妃から…、

 

「初めまして…私がシレジア王妃のラーナですよ、エシャル様。色々と聞きたいことがあると思いますが、それはこちらへ置いときましょう。」

 

両手を使って、置いとくジェスチャーをする王妃様。…なんなんだこの人!? 困惑する俺を無視して、

 

「エシャル様には、天馬騎士の叙勲を授けましょう。…別にシレジアへ縛り付ける気は、少ししかありませんよ? …シレジアを離れても、シレジアを想ってくれれば良いのです。まぁ…エシャル様程の人物が、シレジアを想わないということは無いかと思いますが…。」

 

わーい! 天馬騎士になれたぜぃ! …って、素直に喜べるかっての! 王妃様おっかねぇよ! シレジアに優しく縛り付けてきましたよ、この人! 少しとか言って、わりとガッツリじゃん! まぁ…離れても良いみたいだけど、シレジアのことは常に考えろって遠回しに言っとるし!

 

しかも、断れないっすよね? 色々とやっちまったわけだし…。俺の馬鹿! …でも後悔はしないぜ! なるようになれ、しかし! それでも俺は、トラキア中心なんでそこは分かってくれよ! …分かって言っているんだろうけど。

 

 

 

 

 

そういうわけで叙勲を受け、天馬騎士になったわけです。数年ぶりに、ステータスチェックをしておきましょうかね。

 

――――――――――――

 

名前:エシャル

クラス:ペガサスロード

LV:1

HP:46

MP:83

力:16

魔力:22

技:18

速:21

運:30

防御:15

魔防:26

移動力:11

 

スキル:追撃・連続・見切り・必殺・怒り・エリート・カリスマ

 

武器LV:剣☆・槍B・斧C・杖A・炎☆・風A・雷B・光B

 

所持アイテム:キルソード・細身の剣・細身の槍・手斧・雪霊樹の杖

 

魔法:ライブ・リライブ・リブロー・ワープ・レスキュー・ファイアー・エルファイアー・ボルガノン・メティオ・レクスフレイム・ウインド・エルウインド・ブリザード・サンダー・エルサンダー・ライト・エルライト

 

所持金:35,000G

 

――――――――――――

 

…ツッコミはしないで! 俺もビビっているから! 何処のボスですか!? ってステータスですよね? …あ、俺ってば聖戦士の血筋でしたね。しかも2つの血が…、このステータスは当然のことなんすか? 色々とやらかしているからなのかもしれん、…なんだか空飛ぶマスターナイトって感じですな!

 

スキルにカリスマが増えてます、何故でしょうか? みんなと仲良く訓練したり、色々と挑戦したりしただけなんだけどね。まぁ、増えることは良いことだ。日々の訓練の成果だと思うけど、槍と斧も扱えますよ。

 

槍はトラキアにいる時もカナッツ君達とよく訓練していたし、シレジアでもパメラさんが相手をしてくれてましたからね。斧は、兄貴とデマジオ君に習ってたし。自分の才能が恐いよ、ハイスペック過ぎる気がするよ。悪くないけれど、強いにこしたことはないしね。後、レヴィンとつるんでいたら風も上がりました。

 

杖も手に入れたんだよね、雪霊樹の杖ってヤツ。なんかスコルとハティが拾ってきたんさ、雪霊樹の枝を。たまには遊んできなさいって感じで、2頭がいた場所に連れてきてそん時に。因みに、ディアドラも連れてきたよ。行きたいって、初めて我が儘というかお願いをしてきたからね。

 

…察しの通り、ハティは既にディアドラの愛馬だよ。ハティの奴、嫌がっていたわりには引き合わせたらなつきやがった。ちょっとイラッときましたが、美少女とペガサスって組み合わせが良かったんで許しました。まぁそんなわけで、枝を2つばかり拾ってきたんで杖に加工しました。ディアドラとお揃いです、…ディアドラの機嫌がすこぶる良かったのを覚えています。

 

因みに、魔法って魔導書も杖も必要ないじゃん? 普通に使えるわけだし。杖を持っていて何か意味があるの? って思っていたけど、ディアドラ曰く、

 

「杖を持つことにより、魔法の精度が上がるんですよ。精度が上がれば、魔法の威力や命中率、発動速度等が上がります。杖の種類によっては、自身の能力にも影響を与えるそうです。」

 

…杖を持っていた方が強いってわけね、簡単に言うと。あー後、パメラさんの話では雪霊樹ってレアみたいです。人の手で入手することは不可能なんだって! ラッキー、流石は俺!

 

今更だけど、ディアドラも特殊なペガサスナイトになってしまいました。…ペガサスシャーマンだって、正直なんじゃそら! ってヤツですよ。一応、ステータスを教えましょう。

 

…何故知っているのかって? 俺にも理由が分からんけど、見えたんだからしょうがないじゃん? 因みに、仲の良い人のステータスしか見えませんぞ。兄貴とかトラバントとか、そんな感じで。モブ的な人達は見れないっす、これって転生特典とかいうヤツですかね? 神様に感謝ですかね? まぁそんなわけで、俺が見たディアドラのステータスっす。

 

―――――――――――

 

名前:ディアドラ

クラス:ペガサスシャーマン

LV:2

HP:30

MP:38

力:6

魔力:17

技:10

速:18

運:10

防御:8

魔防:17

移動力:10

 

スキル:追撃・見切り

 

武器LV:剣C・斧C・杖B・光☆

 

所持アイテム:光の剣・ガンドルフの手斧・雪霊樹の杖

 

魔法:ライブ・リライブ・レスト・サイレス・ライト・エルライト・ライトニング・リザイア・オーラ

 

所持金:3,000G

 

――――――――――――

 

あははははは! 俺の知ってるディアドラじゃねぇし! つーかペガサスシャーマン、魔法オンリーじゃないし。剣は俺が教えたからだけど、斧って…。ガンドルフの手斧ってのがあるから、教えたのは兄貴なんだろう。俺が色々やっていた時、ディアドラも色々と頑張っていたみたいね。お兄さんは嬉しい! けど、複雑っす。

 

 

 

 

 

ヴォルツ率いる傭兵旅団も、半年前ぐらいにシレジアから離れました。というか、半年も村に留まっていた馬鹿集団。ひたすらにロマンを追い求め、懐寒い日々を過ごしたみたい。ベオウルフがブチブチ文句を言っていたからな。だが文句を言いつつも、シレジアからの依頼を受けては維持費を稼いだりしていた。やっぱりヴォルツの片腕だけありますな、大将にはやりたいことをやらせてそれを支える。ベオウルフはかなり優秀ですわ、部隊に一人は欲しいですね。

 

そんな彼らは、今頃アグストリアにいるだろう。なんでも傭兵仲間から助っ人を頼まれたとか、ベオウルフが言っていたよ。よく村に知らせが届いたね? と問い掛けてみれば、シレジア軍経由で届いたみたい。…シレジアの依頼を多くこなしていたから、その情報からってことみたいだね。その助っ人を頼んできたのは、ここ最近名を上げてきたレイミア傭兵団ってとこらしい。ヴォルツが昔、面倒を見てやったみたいで、その繋がりからってことのようだ。なんでも海賊がどーのってことらしいよ。

 

シレジアから旅立つ時、多くの天馬騎士、風使いのお姉さん達に見送られてましたよ奴等。レヴィン情報だと、依頼をこなしつつヨロシクしていたみたいです。シレジアに繋がりを残して旅立つヴォルツ達、…頭にラーナ王妃の顔がチラつく。…奴が仕組んだことではなかろうか?と思ってしまうぜ。

 

 

 

 

 

他にも色々あるんだけど、キリがないので簡単に。

 

レヴィンが、勝手に俺を親友にしました。シレジア既成事実事件? を手伝ったからだと思う。なんとか巻き込まれつつ解決に導いたら、妙に馴れ馴れしくなりました。

 

ヴェルダン・トラキア・シレジアを飛び回っている時、トラバントに第一子が生まれました。それを聞きつけた俺は、兄貴と一緒にトラキア城へ乗り込み、一方的に祝ってきました。口ではうるさい、迷惑だ、早く帰れと言っていたけど、トラバントは終始口元がニヤけていたのを見逃しませんでした。このツンデレめ! 因みに男の子で、アリオーンと言う名前に決まったそうですよ。

 

ペガサスのハティを、ディアドラにプレゼントする時に知ったことがある。ディアドラって、双子の妹がいるみたいです。妹の名はヘル、ディアドラと違って外へ出ることが出来ないようだ。なんでも特殊な娘みたいで、超過保護で世間知らず、箱入りお嬢様って感じの妹なんだって。自由の利くディアドラの話を、毎日楽しみにしている良い娘さん。自慢の妹だって、ディアドラが言っていました。いつかは会ってみたいものです。

 

シレジア軍の面々に、ヴェルダンで採れた野菜をあげまくった。この間、兄貴に持ってけ! って沢山持たされたんだよね。田舎のおばちゃんみたいなことをしないでほしい、貰っても食いきれんってばよ。悪くするぐらいなら、人にあげて食べて貰いますよ。軽い気持ちであげてたら、凄い喜ばれたというか感謝された。

 

シレジアは雪の世界故に、新鮮な野菜が貴重で高価みたいやね。トラキアと同じようなもんですわ、…今のトラキアは違うけど。そのせいで、多くの女性に熱い目で見られるようになりました。…数少ない男性陣にも人気ですわ、俺。そんな俺の防波堤がパメラさん、彼女には頭が上がりません!

 

 

 

 

 

…そんな日々が続くわけがなく、俺はシレジアを離れることになった。トラキアから連絡というか、一時的に戻った時にトラバントから聞いたんだけど、ヴォルツ達からの助っ人要請みたい。

 

流石は傭兵を生業としていたトラキア、…それとヴォルツというかベオウルフ。言ってなかったけど、俺のトラキア所属を見抜いていたか。故にトラキアを通しての助っ人要請、俺が断ることの出来ないやり方だ。まぁ頼まれたら、普通に要請を承諾しますけど。何だかんだで知り合いだし、というか気になっていたし。なかなかに手強い相手なのかな?

 

1年近くいたけど、なかなかに濃い日々を送れただろう。そんなシレジアを俺は旅立つのだ。

 

「それじゃあ俺は行きますよ、シレジアのみんな…世話になったね。たまにフラッと来る時があるかと思うけど、そん時はよろしくお願いするよ。」

 

スコルに乗って、見送りに来てくれた方々にそう言う。真っ先に反応したのは、レヴィンとフュリーだった。

 

「待っていろよ、親友にして好敵手のエシャル! 暫くしたら俺も旅立つことになるだろう、同じ空の下での再会を夢見てやる! その時にぎゃふんと言わせてやるからな!」

 

旅立つなよ国に残れよ! 王位継承問題でアレなのは分かるけど、父親と母親を支えろ馬鹿! 言っても無駄なんだろうけど、…シレジア大丈夫かな?

 

「エシャル師匠! 私…もっと強くなって、師匠の名に泥を塗らないように頑張ります! もう、泣き虫なんて言わせませんから! …なんですか、その目は! 信じてませんね?酷いですよ…! …ぐすん。」

 

フュリーちゃんは泣き虫から、真面目な脳筋系少女になってしまった。泣き虫を無くそうと、厳しい剣の訓練をしたからだろうか? 賊討伐の際、サポートをするだけにしてフュリーに任せたのが悪かったのだろうか? まだ、泣き虫なところは無くなりきれていないけどね。

 

そして、マーニャさんにパメラさんの二人。彼女達にはかなり世話になった。…マーニャさんは、押し売り気味だったが。

 

「エシャル様がシレジアを旅立たれるなんて、とても…とても悲しく思います。エシャル様のお供として隣にいたいと心から思いますが、国と妹を置いていくことは出来ません。……うぅ~…。」

 

マーニャさんは優秀だから、一緒に来てくれたら嬉しいけどね…。そのままの勢いで、結婚とかまでいきそうで恐い。俺も悲しいけど、…ついてくるなんて言われなくて良かったと思ってます。

 

「エシャル殿、色々とありがとうございました。貴方のお陰で、我々は更なる高みへといくことが出来ました。…その、…お体にお気を付けください。再び、貴方様に会える日を心待ちにしていますので…。」

 

パメラさん、凛々しいお顔で目を潤ませるのは反則です! …惚れてまうやろ~! と叫びたい衝動にかられます! それと待つとか言っていますが、わりとすぐ会えるかと思いますよ? 俺ってば、ワープ使いですから!

でも…俺は言わない! 空気を読んで!

 

 

 

 

 

俺はスコルに乗って、空へと徐々に上がっていきながら、

 

「それでは皆さん、また会いましょう!」

 

軽く手を振り、ウインクと笑顔を置き土産にしてシレジアを旅立つ俺。いざ往かん! アグストリア諸国連合へ! 俺のことも、多少は分かるかもしれんしな!

 

 

 

 

 

因みに、エシャルが笑顔でウインクをした結果…、

 

「「「「「エシャル様…。」」」」」

 

マーニャを筆頭とした天馬騎士、風使いの女性陣がいつまでも見送っていたそうな。パメラも…、

 

「……きちんと寝れるか心配だ、…夢に出てきそう。」

 

ボソッと呟いたとか。それを見ていて聞いていた、レヴィンを筆頭とした男性陣は…、

 

「「「「「ケッ!!」」」」」

 

と、嫉妬の風が吹き荒れていたらしい。




オリジナル武器

雪霊樹の杖:シレジアの森に生きる、樹齢1000年を超える木の枝で作られた杖。エシャル・ディアドラ専用 〔武器LV:杖B・魔力+5〕

ガンドルフの手斧:ガンドルフが、ディアドラの為に作った特製の手斧。ディアドラ専用 〔武器LV:斧C・威力:4・重さ:6〕


次回はアグストリアの前に、閑話的なモノが入る予定です。最初は、ヴェルトマー公爵家の話かな?


エシャルが強い、だって主人公だもの!

本格的に戦うことは少ないので、大丈夫です!たぶん!

ディアドラもクラスチェンジ!そして妹の名前が!

どうなるかは分かりません!

因みに少しずつ、オリキャラが出てくる予定です。


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閑話 ~ヴェルトマー公爵家《アイーダ》

アイーダの話ですかね~。


ーアイーダー

 

「アルヴィス様、トラキアに続きまして…シレジアでもエシャル様の名が! …エシャル様は生きておられたのです、どうか…どうか…!」

 

「くどいぞアイーダ…! エシャルは死んだのだ、死んでしまったのだ! 確認をするまでもない、名が同じだけの他人に決まっている…。それ以上…エシャルの名を私の前で口に出すな…!」

 

各国の情報を収集している中で、6年前に亡くなられたエシャル様の名を耳にした。その名を聞く度に、アルヴィス様へ私は進言する。少しの可能性があるのなら、ご本人かご確認致しましょうと。そのように進言する度に、アルヴィス様は怒り、悲しみ、憎しみ等の感情を表に出す。そして最後には、決まって拒絶し…、

 

「…待っていろ、エシャル。お前の無念は、私が必ず晴らす。そして差別無き世界を…、お前と私が目指す世界をこの手で…! 手段は問わない…、私は…!」

 

エシャル様の名を自分自身に刻み込むように、自分に言い聞かせるように、己の心を小さく吐き出す。

 

アルヴィス様は変わってしまった、…エシャル様が亡くなられた日から、…燃え盛る館をその目に写した時から、…遺品をその手にしてから。少しずつ…、少しずつ…。

 

他人から見たら、冷酷冷静だったかもしれない。だが私達には、とても温かく優しい方だった。…あの忌々しい事件が起こらなければ、…エシャル様がご健在であれば、…アルヴィス様がアルヴィス様でいられたのに。私は…私はどうすれば良いのだろう。

 

「…エシャル様、…私はどうすれば。…エシャル様。」

 

私も止まっているのだ、あの日から…。エシャル様が…エシャル様が消えた日から、…目を閉じれば思い出すあの光景が。

 

────────────────────

 

燃え盛る館を前に、茫然と佇むことしか出来ない私。同じように、目の前の光景に立ち竦むアルヴィス様。しかしそれも一瞬で、

 

「…早く、…早く火を消せぇ! 立ち竦んでいる暇はない! 動け…貴様ら!! …エシャル!」

 

私達を叱責し、自ら先頭に立ち、燃え盛る火を己の炎で消し飛ばそうと躍起になっている。しかし、火の勢いは速く、そして凄まじく、館は焼き崩れていく。それでも、自身のことはどうでもいいと言わんばかりに、アルヴィス様は突き進もうとしている。私はそんなアルヴィス様を…、

 

「いけません、アルヴィス様! これ以上は…!」

 

「離せ! アイーダ…! 中に…中にエシャルがいるんだぞ! 早く助けなくては…早く!!」

 

「アルヴィス様まで…、失うわけにはいきません! …誰か、誰かアルヴィス様を引き止めるのを、引き止めることを手伝ってぇ…!!」

 

私の叫びに気付いた者達が、アルヴィス様を引き止める。数人の者達に引き止められても、それでも進もうとするアルヴィス様を嘲笑うかのように、燃え盛る館は崩れ落ちていった。

 

「あ…あぁ…!! エシャル…、エシャルゥゥゥゥゥッ!!」

 

崩れ落ちる館の前で、アルヴィス様の慟哭が響いた…。

 

 

 

 

 

私があの時、アルヴィス様を止めていなければ…、彼もまた死んでいたと思う。死なずに済んだとしても、火傷による重症は確実だっただろう。魔法による治療でも消えぬ、大きな火傷を負っていただろう。炎を司るヴェルトマー家当主が、火傷の痕を残すこと等は出来ない。残せば、嘲りの対象となるのだから。あれが最善の行動だったのだ、ヴェルトマー家の名をこれ以上汚さぬ為に。

 

あの後、館のあった場所から、燃え跡から、エシャル様と見られるご遺体とその遺品が見付かった。ご遺体の損傷が酷く、エシャル様なのかどうか、分からないものだった。しかし、身に付けていたであろう物が燃え残っていたのだ。アルヴィス様の贈られた、炎を象ったマジックリングが…。それが決め手となり、エシャル様の死が公式に発表されたのだった。

 

その日からアルヴィス様は、部屋に閉じ籠り気味になった。声を掛けても…、

 

「失せろ…アイーダ…! 貴様が止めなければ、エシャルは助かったかもしれない…! その可能性を摘み取ったのだ、貴様は…! アイーダ、貴様は魔女だ…! エシャルを私から奪った魔女…!」

 

…それ以上、声を掛けることが出来なかった。私はその日から、『ヴェルトマーの魔女』と呼ばれるようになった。それはとても悲しく、そして辛い名であった。だが、それは私の戒めの名。アルヴィス様を救う為には仕方がなかったことでも、想いを寄せていたエシャル様を見殺しにした私の…。

 

 

 

 

 

アルヴィス様は、1ヶ月近く閉じ籠っていた。その間のことは、私を含めた者達でヴェルトマー家を支えたのだ。閉じ籠っている間にお会いになったのは、アグストリア諸国連合に連なるノディオン王家の王子、エルトシャン様。エシャル様の叔父に当たる方で、エシャル様もよくなついておられた。エシャル様の死を知り、ヴェルトマー家に駆けつけて来たのだ。アルヴィス様の部屋から、エルトシャン様に詫びる声が…、そして自身を責める声…。エルトシャン様の優しい慰めの声、…押し殺した泣き声だけだった。

 

エルトシャン様は暫くヴェルトマー家に滞在し、アルヴィス様を慰めてくださった。そのお陰で、アルヴィス様は私達の前に姿を見せてくれたのだ。酷く窶れておられたが、無事なお姿を見ることが出来て安堵した。そしてアルヴィス様は、私に頭を下げて謝られた。私の決断を罵倒したことに対しての、私自身を罵倒したことに対しての謝罪だった。…私はこれで、少しは救われた気がした。

 

エルトシャン様が、エシャル様を弔ってから国許へとお戻りになった。アルヴィス様は精力的に動かれ、ヴェルトマー家は何とか元の姿に戻ることが出来た。その時はそう思っていた。

 

だが少しずつ…、本当に少しずつだが…、アルヴィス様は変わられていった。エシャル様と同じように可愛がっていた、アゼル様から距離を取るようになった。嫌っているわけではなく、何かを恐れるように離れていったのだ。

 

そしてエシャル様の死の真相を探る中で、怪しげな者達と関わるようになった。他家の目がある為に、細心の注意を払っての密会ではあるが。この事を知っているのは一部の者だけ、…だんだんとヴェルトマー家の進む道に、暗雲が立ち込めていく。

 

────────────────────

 

そして今、私は手元の資料に目を通している。3年ぐらい前から、その名を響かせている者について。その名はエシャル、私にとって意味のある名前、忘れることの出来ない大切な人の名前、私が見殺しにした人の名前。その名が、世界に広がっているのだ。

 

最初に確認されたのが、ヴェルダン王国での情報。ヴェルダン王国のマーファ城にエシャルと名乗る若者が現れ、赤腕と恐れられる巨大熊を討伐。ヴェルダン王国第一王子ガンドルフと友誼を結び、マーファ城の発展に貢献。半年間の滞在後、マーファ城から旅立つ。

 

次に姿を現したのはトラキア王国、ヴェルダン王国から旅立って一週間も経たずに。このことからヴェルダン王国に現れた者とは、同名の別人という判断がなされる。彼の者は、トラキア王国への侵略を画策していたコノート・マンスター連合軍を撃破。その戦果により、将軍へと抜擢される。

 

その武は、全てを切り裂く黒き刃。連合軍は数名を残して全滅、『トラキアの黒刃』の二つ名と共にその勇名を轟かせる。その後もトラキア王国国内の改革に力を注ぎ、トラキア・ヴェルダン同盟の立役者として名を連ねる。ここで一つの疑問、ヴェルダン王国とどのような繋がりがあったのか? 突如として成ったこの同盟には、謎が多かった。

 

そしてシレジア王国、エシャルと言う名の天馬騎士が誕生する。シレジア初の男性天馬騎士。その実力はかなりのモノで、たった数騎の天馬騎士を率いて国内の賊、その殆んどを討伐・捕縛。教官としても優秀で、天馬騎士の可能性を引き出した。

 

その反面、女性に対してはだらしない。数多くの天馬騎士・風使いの女性との噂が絶えない、女好きとしても知られている。…その後、極秘任務の為にその身を隠す。

 

エシャルという名を見て、胸がざわつく。…3ヶ国で名の上がっているエシャルという者は同一人物、勘がそう告げている。彼がエシャル様であると心が訴えている。女にだらしないという情報は、気に入らないが…。

 

アルヴィス様に進言しても、拒否して終わる日々…。アルヴィス様はどうなされたのか? 以前のアルヴィス様なら進言を受け入れ、すぐにでもご本人か否かと動く筈なのに。生きているかもしれないと、希望をお持ちだったのに。私は悶々とした気持ちのまま、日々の仕事をこなして過ごしていった。

 

 

 

 

 

そして、幾日…、

 

「アイーダ、お前に暇を出す。…我がヴェルトマー家の為に、良く働くお前に休暇というわけだ。…故に、当分の出仕は控えるように。…良いな?」

 

突然の命に、私は戸惑いを感じたが、

 

「……はい、お心遣い…ありがとうございます。」

 

その命に従うことにした。

 

…旅支度を終えた私は、自身の館を後にする。アルヴィス様が動かぬなら、私が動いて確認をしよう。そんな気持ちで、エシャルという者に会う決意をした。自惚れているわけではないが、私のいないヴェルトマー家はどうなるのだろう…。一抹の不安を抱きながら、自分の心のままに動くことにした私。エシャルという者がエシャル様であることを願い、シレジア王国へとその足を向けた。




エシャルはアルヴィスに愛される弟だった。

エシャルを失ったことにより、アルヴィスが変わっていく。

アルヴィスとエルトシャンはわりと親しい間柄。エシャルのお陰だろう。

怪しげな者達とは、マンフロイ率いるロプト一族かと思われる。

とりあえず、アイーダ視点でした。まだまだ謎があるけどね。


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閑話 ~グランベル王国《王家・各公爵家》

エシャルの名が広がった時の反応、みたいな感じですかね?

アイーダ視点と同じぐらいの時期です。たぶん・・・。


《バーハラ王家》ークルトー

 

「父上、お加減は如何ですか? 何かありましたら、遠慮なく申してくださいね?」

 

老いた為に政から離れ、隠居状態の父王アズムールに声を掛ける。

 

「おぉ…クルトか。お主や世話係のお陰もあって、このところは快調だよ。」

 

深く皺の刻まれた顔を綻ばせ、私に快調を見せつけてくる。その姿を見た私は安心する。多忙な日々の、私なりの癒しの一時。近くに待機する使用人に声を掛け、父上の対面に腰を下ろす。時間を見付けては、父上と共にお茶を嗜む。癒しと共に勉学の時でもある故、この時間は大切な時間でもあるのだ。父上に代わり政をしてはいるが、まだまだ未熟であるからね。

 

グランベル王国のこと、各国の情勢にまで話が及び、有意義な時間が過ぎていく。ただ一つ、この名が出てくると、父上の顔は途端に曇り出す。

 

「…またエシャルか。ここ最近、よく耳にする名よな。」

 

「特に、『トラキアの黒刃』との異名を持つエシャルは、彼の者を思い出します。」

 

ヴェルトマー家に生まれ、才気に恵まれた一人の男児。彼は幼いながらも、類い稀なる剣の才能を持っていた。一撃一撃が、急所を鋭く切り裂く必殺剣。黒騎士ヘズルの血がそうさせているのか、イザークの剣士に負けぬ程の腕を持っていた。黒き刃の剣、キルソードを愛用していた者。今は亡き、悲劇の子…。

 

「生きていれば、黒刃と呼ばれていたかもしれませんね…。」

 

私がそう呟くと、父上は悲しそうな顔で頷き、

 

「アルヴィス卿は今も、そのことを引き摺っているのだろう? …仲が良すぎた故、時すらもその心を癒せぬか…。」

 

父上の言葉を最後に、長らく沈黙する。

 

そして…、

 

「アルヴィス卿の今日までの献身に対し、報いてやらねばなるまいて…。」

 

その言葉に私は、

 

「王国近衛軍の総指揮を任せてみるのは如何でしょうか? アルヴィス卿であれば、万が一も無いかと…。」

 

そう進言した。父上は目を閉じ、数秒の後に頷いた。

 

この日から数日後、アルヴィスは王国近衛軍の総指揮に任命されることとなった。

 

 

 

 

 

《シアルフィ公爵家》ーシグルドー

 

『トラキアの黒刃』エシャル将軍、この者を私の親友であるキュアンは気にしている。コノート・マンスター連合軍を撃破し、トラキア王国を強国に押し上げた優秀な武人。

 

コノート王国かマンスター王国へ、報復の侵攻をしてくるのかと警戒していたが…そんなことは無く、トラキア王国国内の改革に勤しんでいたらしい。侵攻してきたなら北トラキア四小王国の盟主としての立場から、レンスター王国も参戦は免れないと思っていた為、このことに『正直助かった。』と苦笑いをしていた。…それほどの勇名を響かせているのが、エシャル将軍という者なのだ。

 

私としてはその勇名よりも、その正体が気になる。黒刃でエシャル、それで連想されるのはヴェルトマー家のエシャルだろう。彼は生前、キルソードを愛用していた。彼とは数度、手合わせをしたことがある。親友のエルトシャンに勧められてというか、『エシャルの糧となれ!』って言われたような気がする。

 

まぁとにかく手合わせをしたわけだが、危なかった…とだけ言っておこう。…うん、強かったな。後々聞いたら、エルトシャンの甥とのことで血筋もヘズルだと言う。才能は素晴らしく、将来は俺を超えるみたいなことを言って自慢してきた。

 

あの時の得意気な顔を思い出すと、腹が立ってくるな。今度会ったら、何か奢らせよう。…因みにエシャルは良い子だったぞ、エルトシャンとは違って。エシャルを通じて、アルヴィス卿ともそれなりの付き合いをした。…エシャルと聞くと、…思い出すな。

 

「あれから6年…、生きていれば18歳ぐらいか…。」

 

エルトシャンとアルヴィス卿を足したような顔、人懐っこい笑顔を思い出す。昔を懐かしんでいると、

 

「シグルドお兄様~! 何処ですか~!」

 

喧しい声が、私を昔の思い出から呼び覚ます。…我が妹のエスリンが、私を探しているようだ。お転婆が過ぎて鬱陶しい我が妹、おちおち思い出に浸ることも出来ない。…もう暫くの辛抱だ、エスリンはキュアンに貰われていく。…嫁に行ったら、少しは淑女になるだろうか?

 

 

 

 

 

《ユングヴィ公爵家》ーアンドレイー

 

エシャルという名を、今や聞かぬ日はそう無いだろう。ヴェルダン王国、トラキア王国、シレジア王国、3ヶ国にその名を残す。ヴェルダン王国の方は、そう気にするべきことでは無いだろう。

 

…が、トラキア王国とシレジア王国でのエシャルは気にするべき者。前者は個人の武があるだけの者、後者は兵を率いる才を持つ者。そう考えれば、脅威の程が分かるだろう。後者は戦人なのだ、それも他国の。

 

今は平穏であるのだが、仮想敵国のこと故に警戒する必要はある。いつ、如何なる時に、戦争へと発展するのか分からないからな。敵としてぶつかる可能性がある以上、情報を仕入れるのは当たり前のことだ。

 

しかし、本当はどうでもよいことなのだ。個人の能力がどうだとか、戦争になるか否かとかは…。単純に気に入らない、その一言に尽きる。エシャルという名は駄目だ、その名だけは! 今は亡き友の名と同じなのが気に入らない!

 

…他領のこととはいえ、賊にしてやられた。これには疑問がある、…誰かの陰謀・暗殺によるものなのではないか? エシャルの死により、父上が行方不明の姉を思い出し嘆く姿、鬱陶しい…!

 

最愛の弟を亡くしたアルヴィス卿を誹謗中傷する腐った貴族達。他にも色々と、疑念や怒りが湧いてくる。自分自身にも負の感情をぶつけたくなる。数年前のことも今のように思い出し、何も出来なかった自分に、才を引き継げなかった自分に苛立つ。

 

……ぬぅ~…。

 

わけが分からなくなってきた、頭の中がグチャグチャだ。徐々に立っていられなくなり、俺は地に方膝をつく。何だというのだ…、俺は何を…。頭を押さえて呻く俺に…、

 

「アンドレイ! どうしたのですか!?」

 

聞き覚えのある声が…、この声は姉上か…? そう思った瞬間、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

《ドズル公爵家》ーランゴバルトー

 

ワシは執務室で書類を見ながら、髭を撫でつつ思案する。北の蚊トンボに南のトカゲ乗り、元気の良いことだ。同じ名の者がそこそこ活躍しているみたいだが、その程度のこと。何ら脅威を感じることが無い、弱小国が囀ずっているだけなんだからな。何ともくだらんことだ、いちいち報告せずとも問題ないというのにな。…文官は真面目であるな、…刺激的な情報は無いのか?

 

書類と格闘することに飽きたワシは、調練場で鍛練でもしようかと思ったのだが、

 

「親父、入るぞ!」

 

執務室に入ってきてからそんなことを言う馬鹿息子、ダナンの登場に再び腰を椅子へ戻すことになった。

 

「…騒々しいな、どうしたというのだ。」

 

鍛練の邪魔をしたダナンに苛立つが、とりあえずは話を聞こう。

 

「あん? なんだ親父、機嫌が悪いな。…まぁいいか、とりあえず聞いてくれ!」

 

機嫌が悪いのは、馬鹿息子のせいなんだがな。

 

ダナンの話を聞いたワシは、

 

「ほぅ…、アルヴィスが総指揮に…。思い切ったことをするもんだな、アズムール陛下は…。」

 

才はあるだろうが、まだまだ若造であるアルヴィスに総指揮を。…ふむ、ここらでヴェルトマー家に恩を売るのも良いかもしれぬな。総指揮となれば、少なくとも各方面から色々と言われることになるだろう。その間に入って、アルヴィスの後ろ盾と思われるのも面白い。何より、バイロンとリングにこれ以上、デカイ顔をされぬようにしたいという思いもあるがな。

 

「…良い情報だぞ、ダナン。褒美として、ワシが直々にしごいてやる。」

 

「褒美じゃねぇよ! それは拷問だぜ、親父!! …レックス、レックスはいるか!!」

 

ぬははははは! 弟を巻き込む気満々だな、ダナン! 二人纏めてしごいてくれるわ!

 

 

 

 

 

《フリージ公爵家》ーレプトールー

 

私は報告書を読み、人知れず喜びを感じていた。我がフリージの優秀な諜報員、その力によってもたらされた調査の内容に満足する。数年前から名を響かせる者、彼は私の知る男であるという事実にだ。

 

彼の死に疑問を持っていた、幼いながらに力を持つ彼。そう簡単に死ぬ筈がない、そう思っていた。故に彼の死が発表される前から、彼の行方を探し続けていた。そして見付けた、自ら世に出てきた彼。全ては同一人物、…我が弟子。

 

「…エシャル、生きていたか。…久々に嬉しい情報よな、…良かった!」

 

目を瞑り、彼の無事を、彼の活躍を…静かに喜んだ。

 

一頻り静かに喜んだ後、部下を一人呼んだ。

 

「レプトール様、お呼びでしょうか?」

 

「来たか、レクスヴァ。」

 

私の信頼する部下のレクスヴァ、実力もあるが諜報にも長けている。それに…、

 

「了解しました、身分を明かさずエシャル様に接触致します。フリージ家の為、お嬢様の為に。」

 

私の目を見ただけで、指示したいことを読み取り理解するのだ。

 

「あの影響で記憶を失っているか、封じているか分からん。強引なことはするな。」

 

「はい、お任せを…。」

 

こちらに一礼してから、レクスヴァは退室する。今日中に、フリージから旅立つだろう。

 

レクスヴァが退室した後、私は一枚の絵を見る。エシャルと二人の娘、ティルテュとエスニャ。幼い3人が、一つの絵に納められている。エシャルは一時期、我がフリージで預かっていた。その時に色々と教え、吸収していった。ティルテュとエスニャもよくなついていた、…ブルームは嫌っていたみたいだが。

 

この絵はエシャル12歳、ティルテュ7歳、エスニャ6歳の時に描かせたもの。この絵が出来上がり、僅か1ヶ月…。あの事件が起き、エシャルの死が知らされた。私も悲しかったが、ティルテュとエスニャは長い間…泣き暮らした。だが、彼の者がエシャルと分かった以上、真のエシャルと分かった時は、二人の娘にも教えてやろう。今から、その時が楽しみで仕方がない…。

 

 

 

 

 

《エッダ公爵家》ークロードー

 

大きな揺らぎを感じたあの事件、あの日から平穏と呼ぶに相応しい日々が続いていましたが、再び聞くことになったエシャル君の名。その名を耳にした途端、ザワリと何かが心を触った。妙な胸騒ぎ、ザワリザワリと這い寄る影…。

 

あの時と同等の、大きな揺らぎを感じますね。流れは違えど、微かに同じエーギルの波も感じます。運命という名の激動が始まるというのですか?

 

グランベルで輝くは二つの光、西より大きな輝きが一つ、自由なる軌跡を描く一際輝く光が一つ、そして…、

 

「その輝く光を中心に、世界は動き出す…。ブラギ神よ、これは…。」

 

大きな闇が這い寄るこの流れは…、

 

「再び…、再び聖戦が起きる…。今は水面下での…、いずれ表に…。」

 

私の内なる世界に、全てを包み隠す靄が…。塔へ…、この後に来るであろう大きな揺らぎを感じた時…、

 

「ブラギ神よ…。その時が近々…、私を導くのですね? ブラギの塔へ…。」

 

開きかけていた扉が、エーギルのうねりが、この大陸に…。

 

「時を待ちましょう、…その時を。」




アルヴィス、総指揮に任命。バーハラの方は、アルヴィスを心配しています。


シグルド、エルトシャンの手によりエシャルの経験値に。シグルドは昔から、巻き込まれる男なのです。


アンドレイは2歳ぐらい年上の友人。不穏な気配を感じますな。


ドズルの方々は、特にエシャルを気にすることはない。アルヴィスの方に気を向けている。


フリージはエシャルに関係深い公爵家。生きていたのは、レプトールに師事していたお陰なのです。ティルテュとエスニャの姉妹は、エシャルの嫁候補・・・ですかね。


エッダは、ロプト関係の気配を感知する立場っすかね?


因みに、ヴェルダン軍とシレジア軍のBGMが大好きです。


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閑話 ~ヴェルダン王国《ディアドラ・ヘル》

遡ってますね。


ーディアドラー

 

外へ出ることはあまりない、殆んど隠れ里の中で過ごす。私達の一族は代々、隠れて生きてきたのだ。その歴史の中で、私の母がその掟を破ったらしい。掟を破った後、私と妹を身籠って帰ってきた。悲しみの中で私と妹を産み、亡くなったとお婆様が教えてくれた。

 

その件もあって、里の掟は少し厳しくなったようだ。厳しくなったと言っても、必要な物を買いに行くこととかは許されている。その時は極力、外の人間と関わらないようにしなくてはならないが。

 

外へ出ることが許されているのは、里の中でも数人だけ。その中に、私も含まれている。それは何故か? 私は、一族に流れる血が薄いからだと教えられている。それどころか、一族にとっては複雑な…、少し特殊な血が濃いらしい。それでも里のみんなは優しくて、私はこの里が好きだった。

 

その逆に双子の妹であるヘルちゃんは、里の外へ出ることが許されていない。一族の血が里の中でも一番濃いからだ。そのせいで、ヘルちゃんに自由は無い。常に里の者と一緒にいる、何をするにも誰かと一緒なのだ。ヘルちゃんが、外の世界に憧れているのを私は知っている。だから私は外から里に戻ってきた時、ヘルちゃんの下へ行き話を聞かせてあげる。ヘルちゃんがねだってきたから、それに私も聞かせてあげたいから。

 

 

 

 

 

そんな日々の中で、私はエシャル様と出会った。私の見る前で、あの『赤腕』を倒したのだ。その姿は物語の騎士様のようで、私は彼に見惚れてしまった。そして彼の落とし物を拾い、また会う日まで持っておこうと思った。…その願いが叶うことになるとは、まだ分からなかったけど。高鳴る想いを何とか抑えて、私は里へと戻った。このことをヘルちゃんに話したくて話したくて、仕方がなかったのだ。

 

 

 

 

 

ーヘルー

 

私のお姉様はとても優しい、私に外の世界のお話をしてくれます。私は一族の血が特に濃いから、外へ出ることは決して許されません。ずっとずっと…、里の中にいなければならないのです。

 

そんな私の楽しみは、外の世界のお話です。お姉様と同じように、外の世界へ行っている人のお話も楽しいですけど、やっぱりお姉様のお話が一番楽しいです。…今日もお姉様は外の世界へ行っています、迷い人が里に近付いている為です。…迷い人はどんな人でしょうか? 今から、お姉様のお話が楽しみで仕方がありません。

 

 

 

 

 

戻ってきたお姉様は上の空で、何やら夢を見ているような感じがします。一体、どうしたのでしょうか?

 

「お帰りなさいお姉様、…どうかしたんですか? 何やらいつも以上に、フワフワしている気がするのですが…。」

 

そう声を掛けるとお姉様は、ビクッ! と肩を跳ねてからこちらを向き、

 

「あ…あぁ…ヘルちゃん、気付かなくてごめんね? あの…ただいま。」

 

ぎこちなく笑みを浮かべて、ボーッと私を見る。…と思ったら、私の肩を突然掴み、

 

「ヘルちゃん! 私…私ね、騎士様を見たの! とてもお強い騎士様なのよ!」

 

目をカッと見開いて興奮気味、…ちょっと恐いです。

 

…お姉様のお話を聞いて、私もその騎士様に想いを馳せました。『赤腕』を倒して祈りを捧げる…、その部分がとても素敵。お姉様が言うように、物語の騎士様のようだなって思います。

 

話し終えたお姉様は、騎士様の落とし物であるペンダントを胸に抱いて、終始ニヤついていました。…お姉様のそんな姿、初めて見ました! 私も外の世界で騎士様に出会ったら、こんな風になるのかな? …ちょっぴりお姉様が、羨ましく思いました。

 

その後お姉様は何度か外の世界へ行きましたが、騎士様と出会うことはなかったみたいです。そんな日が何日か続いたある日、お姉様はかなり落ち込んで帰ってきました。話を聞いてみると、あの騎士様にばったり会ったけど…逃げちゃったみたいです。

 

気が動転したからみたいですけど、お姉様はお馬鹿です。せっかくの再会を駄目にしてしまうなんて、次の再会までにお姉様を何とかしなければ。…なんだかワクワクしてきました! お姉様、頑張りましょう!

 

私達が頑張ろうと声を上げてからの数日後、その騎士様は旅立たれてしまったみたいです。…口から魂が抜けていきそうなお顔のお姉様、…不憫です。因みに騎士様のお名前は、エシャル様と言うそうです。

 

…エシャル様、ヴェルダン王国にまた来てくださるのかな? …希望を捨てては駄目よヘル! きっとエシャル様は戻ってきます。だから…一刻も早く、お姉様を元に戻さなくては!

 

 

 

 

 

ーディアドラー

 

エシャル様を森で見掛けてから、約1年ぐらい経った。その経過の途中、城下で鉢合わせて逃げてしまった件もある。だめ押しに、エシャル様は旅立たれてしまった。城下で聞いたから、まず間違いないだろう。

 

私は途方にくれて里へ戻ったが、妹のヘルちゃんに叱咤激励されて希望を持ち続けていた。私…それとヘルちゃんの願いが届いたのか、森で見掛けて約1年。マーファ城でエシャル様に再び、…再び出会うことが出来た。

 

お互い自己紹介をして、私は持っていた落とし物をエシャル様に手渡した。エシャル様は驚いた顔をしてから、私にお礼の言葉と一緒にサークレットをくれた。エシャル様からの贈り物…、夢のようだ。贈り物を貰う前に少しご迷惑を掛けた気がしたけど、そんなモノ…吹っ飛んだ。それに綺麗って、私を褒めてくれた。天にも昇る気持ちって、こんな感じなのね? ウフフフフ…。

 

エシャル様と再会した後、何度も会うことが出来た。そして、このマーファ城城主にしてヴェルダン王国第1王子、エシャル様の義兄であるガンドルフ様を紹介された。見た目は強面で山賊のお頭って感じの人、でも兄貴肌って言うのかな? とても頼りがいのある優しい人だった。見た目で判断するのは良くない、それの典型的な方のようだ。

 

私はエシャル様に会う為、頻繁にマーファ城へ行く。エシャル様は色々と忙しい方なので会えない日が多いのだけれど、ガンドルフ様はそんな時には決まって私の相手をしてくれる。…ガンドルフ様の治めるマーファ城は、里と同じくらい住み良い場所だと思った。

 

エシャル様がお仕事で、ヴェルダン王国とトラキア王国を行ったり来たりしている。両国民も交流が盛んになり、私にとっても刺激的で毎日が楽しかった。そんな日々の中、トラキアの偉い方に唆されたエシャル様が、

 

「シレジア美人に会う為に、この俺エシャルは旅立ちます! …シレジアが俺を呼んでるぜ!」

 

と言い出した。抗議を含めた物理攻撃を仕掛けたけど、何処吹く風…。エシャル様は、ワープを使って旅立たれた。……エシャル様のお馬鹿様!

 

 

 

 

 

数日間、失意に沈んだ私だったけど…、

 

「おう、ディアドラ! エシャルの傍でどんな関係を望むか知らんけど、一緒にいたいなら強くならなきゃいけねぇ! アイツはあ~見えて武人だからな、戦があれば参戦する男だ! そんでもって自由な男、止まることなんて出来やしねぇ! …俺の言いたいことが分かるな?」

 

城下でガンドルフ様と会い、そう言われた私は考える。エシャル様の傍に出来る限りいたいけど、彼は自由な人。何かあれば、即行動するような方だ。このまま共にいたいと思うのなら、その行動力についていける程の体力、力が無ければ傍にいることなど出来ない。

 

それに大切なモノを守る為なら、戦いにも身を投じる。…そんなエシャル様に今の私はどうなのか? ただ守られるだけの女、荷物にしかならない女。…そんなんじゃ駄目! 私はエシャル様の力になりたいから!

 

そんなわけで、ガンドルフ様とデマジオさんに戦い方、斧の扱い方を習っている。非力な私に斧はとても重く、全然振り回せない。それを見たガンドルフ様、まずは体力作りだとのことで軽く走ったり、荷物運びのお手伝いをしながら斧の練習に時間を費やした。それでも斧が重くて大変だったけど、ガンドルフ様が私の為に斧を作ってくれた。今までの斧よりとても軽くて、とても扱いやすい。ありがとうございます、ガンドルフ様! 私、頑張ります!

 

 

 

 

 

久々にエシャル様が戻ってこられたけど、なんか天馬騎士になっていた。しかも、私より年下っぽい娘も連れてきている。…ムカムカする、…これが嫉妬だろうか? そんな私の気持ちも知らずに、エシャル様はニコニコしていた。

 

そしてニコニコしながら、エシャル様からペガサスを贈られた。…名前はハティと言うらしい、…状況がよく分からない。分からないけど、とても嬉しかった。嫉妬も消えて、それ以上に頑張ろうと思った。…私も天馬騎士になります!

 

その日から、たまにエシャル様が戻ってくるようになった。その時は、剣の稽古をしてもらっている。最初は驚いていたけど、今ではとても厳しく教えてくれる。それとエシャル様の弟子、フュリーともそれなりの関係に。…私、負けないから!

 

そんな感じで日々鍛練、私は徐々に強くなっていった。…強くなったと信じたい。ペガサスのハティと共に鍛練をした結果、非公式で天馬騎士になることが出来た。…色々と見えない戦いが、エシャル様とシレジア王国との間にあったみたいだけど、素直に嬉しいと思う。

 

たまにはスコルとハティを自由に、とのことで私も一緒に2頭の生まれた場所に連れてきてもらった。本当はエシャル様お一人で来る予定だったみたいだけど、我儘を言って連れてきてもらった。初めての他国に、私は終始はしゃぎっぱなし。とても楽しかった、…このことをヘルちゃんにもお話をしてあげなくては。…その数日後、エシャル様から杖を贈られた。お揃いの杖、…私の宝物。

 

そんな日々の中、再びエシャル様は旅へ。今回は任務とのこと、…私は更に鍛練を頑張ろう。いつかは一緒に、エシャル様の傍で、そんなことを夢見ながら…。

 

 

 

 

 

ーヘルー

 

お姉様はエシャル様との再会後、あまり里へと戻ってこなくなりました。たまに戻ってきますけど、お話を沢山してくれますけど、…とても寂しいと思います。それにお婆様達が、

 

「ディアドラは外にて行動し過ぎておるの、あの娘は掟よりもエシャルという若者を選んだようじゃ。…残念なことじゃが里を守る為、ディアドラの里への立ち入りを禁止しなくてはのぅ…。」

 

「エシャルとかいう者が贈ったサークレット、それのお陰で一族の気配は断てておる。何故かは分からぬが、それはありがたい。その者の傍におれば、ディアドラも大事なく過ごせるじゃろ…。」

 

…お姉様、ヘルは…ヘルはもう…、お姉様に会うことが出来なくなります。

 

…ですけど、お姉様の幸せはいつも願っています。どうか…、どうか私の分まで…。




なんか日記風っぽくなりました。

次回も閑話かな?



嫁の候補のお復習

1・ディアドラ

2・アイーダ、パメラ

3・マーニャ、ティルテュ、エスニャ

4・フュリー

未定・レイミア、ラケシス、アイラ、ディートバ

って感じですかね?

一番上が、現状での最有力候補ってわけです。まだ、候補が増えるかもね?

全ての候補が出揃い次第、アンケートを取りたいと思います。


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閑話 ~ヴェルダン王国《ガンドルフ》・トラキア王国《トラバント》

知らぬ間に、何があったのか?

お気に入りとかが、倍以上になっとるがな。


《ヴェルダン王国》ーガンドルフー

 

俺達ヴェルダン王国とトラキア王国、同盟から2年ぐらいになるか? 早いもんだ。食料に木材等の物資は余り気味で、グランベルやアグストリアには安く買い叩かれていたんだが、トラキア王国とは平等…対等な関係で同盟が続いている。

 

基本は外貨で、物々交換でも可能。俺達からしてみれば余り気味の物資が、石材や鉱石等と取引が出来るのはかなり有り難かった。他国から買うには高過ぎるし、自国ではたかが知れる量しか取れねぇからな。トラキア王国には感謝しかねぇわ。

 

まぁ…こんなスゲーことを纏めたのは、俺じゃなくてエシャルなんだけどな。国で問題になっていた『赤腕』を討伐、んで…波長が合ったのか義兄弟の契りを結んだわけだが…、

 

「なんつーか、旅立ったと思ったらトラキアの重鎮になっていやがる。この同盟もエシャルの発案らしいし、スゲー奴を義弟にしたもんだぜ…。しかも、天馬騎士になっているしよ。」

 

トラキア王国の危機を未然に防いで将軍に抜擢、そしてこの同盟…。只者じゃねぇとは最初から分かっていたけどよ、本当にスゲー奴だよ…エシャルは。覚えてないというか、記憶に無いというか、自分のことを知らないエシャルだが、

 

「それでも良い奴だからな、…過去がどうだろうと今は俺の義弟。最近周りが五月蝿いが、最後までエシャルと共に…ってな。」

 

エシャルのお陰で俺は充実している、俺の部下達も、城下の民達も、近隣の村人達も…。俺の城、マーファ城周辺の者達はエシャルに感謝している。万が一も考えなきゃいけねぇ、いつもエシャルが言っているしな。

 

 

 

 

 

何故、そんなことを考えなきゃならんのか? …なんつーか国が、変な方向へ進みそうな気がするんだよ。最近、変な連中をチラホラ見るようになった。エシャルがシレジアに行った辺りから、チラホラとな。親父も、弟のキンボイスとバルバロイも、マーファ城周辺以外の民も、その変な連中とつるむようになった。後、ディアドラんとこの連中も来なくなった。何かが変わっていく感覚、良い方向へ向かうのではなく、悪い方向へとだ。

 

トラキア王国の件については、俺が全てを一任されている。その筈なんだが、キンボイスとバルバロイが口出しするようになってきた。このことについて、親父は何も言わず。それどころか、あの変な連中を傍に置くようになった。そこから、親父の政がおかしくなってきた。どちらかというと民の為の政策を取っていたんだが、国の為というか軍備に偏りつつある。そのせいで弟達が口出しするようになったんだよ、鉱石の取引を増やせってな。…まさかとは思うがよ、戦争の準備じゃねぇよな?

 

ディアドラんとこの連中が来なくなった、…そう俺は言ったよな? その件で、ディアドラが独りになっちまった。エシャルがアグストリアに行くことになって、シレジアにも伝えなきゃならんってことで今はいない。向こうから、アグストリアへ行くって言っていたし。エシャルのいない日が何日か過ぎた時、里へ戻った筈のディアドラがいて、泣きじゃくっていた。理由を聞けば…、

 

「…里への立ち入りが禁止に、…追放されてしまいました。私…楽しくて、…充実していて、…掟を忘れちゃって。…だから、…掟を破ったから、…里には。…帰る場所が無くなっちゃいました。」

 

掟か…、そういえば里の連中、掟がどうのって言っていたな。その掟で帰る場所が無くなった、…独りぼっちか。

 

泣いているディアドラを見て思う、…なんで俺は忠告をしなかったのか? と。掟のことは聞いていて知っていたのに、何故俺は…。そう考えて気付いた、…ディアドラとの交流を俺は楽しんでいた。エシャルの傍にいたいが為に頑張るディアドラを、俺は応援していた。ぶっちゃけ、妹みたいに接していたという事実。俺にも責任はある、そう思った。だからこそ…、

 

「ディアドラよぉ…、掟を破ったんだからそれは仕方ねぇ。帰る場所が無くなっちまったんなら、この城に住めばいいさ。訓練の時に寝泊まりしたように、この城によぉ…。厳しいかもしれねぇが、このことはわりきれ。エシャルの傍にいたいのなら、遅かれ早かれこうなっていたと思うからな。ディアドラ…、乗り越えて強くなれ!」

 

わしゃわしゃと頭を撫でる、…ディアドラはまだ泣いている。…がこの娘は強い、きっと乗り越えられるさ。エシャルのいない今、ディアドラを守れるのは俺だけだからな。

 

 

 

 

 

…国の全部を守れるとは思っていない、俺が守れるのはマーファ城周辺の民だけ。トラキア王国から、この国に来ている者達も守らなくちゃいけねぇ。何かあってからでは遅い! 国全体に不穏な空気が流れるならば、少しでもその兆候が見られるならば…、

 

「俺のやるべきことは一つだな! バレねぇように少しずつ…ってヤツだ、やらせはしねぇからな!」

 

エシャルの義兄を名乗るなら、動いてみせろ…ガンドルフ!

 

あの秘密の集積場を使う時が来るかもな、そこに数部隊を向かわせるか。整備させねぇと、肝心な時に使えんと困るからな。トラキア王国のトラバント王にマゴーネ、そこいらにも伝えなきゃならねぇ。…覚悟をしておいてくれってな、まぁ…あちらさんも理解はしてくれんだろ。最悪を想定して、話を通しておくのも忘れんなよ俺。水面下で動くのは苦手だが、やる時ゃやるぜ! 俺はよぉ!!

 

 

 

 

 

《トラキア王国》ートラバントー

 

ヴェルダン王国と我がトラキアの同盟、それによりもたらされたモノは大きかった。様々な物資のお陰で、我が国の民達に笑顔がある、兵達の目に希望がある。…永き冬が終わり春が来た、まさにそれだ。だが、それに頼りきるのは危険だ。もし、この同盟が終わったらどうなるか? 再び、トラキアに冬が来る。それも前よりも過酷な、絶望の冬が…。

 

と、最初はそう思っていた。同盟に依存することによって陥る、悪い未来予想を…。だが、

 

「芋という食物は意外に美味い、……止められぬ。」

 

新たな食料である芋の登場、私は焼き芋にハマっている。このホクホク感、この甘み、高級菓子とは違うこの焼いた芋。まさか、我がトラキアにこのような食料があったとは…。誰も予想なんぞ出来る筈も無い、誰もが見向きもしなかった根の部分を食すなど…。

 

この芋、分かっていると思うがエシャルが発見した。トラキアを巡って現状把握、改革の為だと言ってパピヨンらと飛び回っていた。その途中で見付けた小さな高原で、エシャルが掘り起こして発見したらしい。パピヨンらも気が狂ったのでは? と、怪訝に思ったみたいだ。それもその筈、エシャルは植物の根を魔法で焼いて食したのだから。

 

「思った通り、…コイツはサツマイモの仲間だ! ンマイ!!」

 

そう興奮していたらしい。エシャルに勧められるがまま、パピヨンらも恐る恐る食せばこの美味さ。視察を取り止めて報告してきた程だ、正直驚いた。

 

エシャル曰く、トラキアの何処でも栽培出来そうとのこと。試しに幾つかの村にて、栽培させてみた。…1年後、見事な芋が出来た。民達も、この芋の美味さに驚き喜んでいた。この芋のお陰で、食料に関する依存はある程度大丈夫だろう。この芋をトラキアにもたらしたエシャルに感謝の意を込めて、芋の名は『エシャル芋』と名付けられた。自分の名を付けられた本人は、

 

「複雑なんですけど…、芋って…。悪口に聞こえるのは何故? …つーか、芋エシャル言うなし! 逆にしたら完全に悪口だろ! …このままじゃ、芋=エシャルになっちまう! 改名だ、改名を要求する!」

 

とか言っていた。いこーるというのは分からなかったが、改名は却下された。その時の間抜け顔が忘れられぬ。

 

 

 

 

 

鉱石についても、エシャルのお陰で採掘量が上がった。エシャル芋を発見した視察にて、何となく立ち寄った山の殆んどが鉱石の眠る資源の宝庫だった。金、銀、銅、鉄等の他に、宝石の原石まで見付けてくる。何故このような場所が分かるのか? エシャルに聞いてみると…、

 

「別に何も無いけど? 何となく立ち寄ってみればあったって感じ? 特別な見分け方なんざ、俺が持っている筈無いじゃん! しいて言うなら、…俺ってば運が異常に高いってことかね?」

 

と、参考にもならなかった。所謂運に恵まれた、というだけ。…神に愛されているのではなかろうか? …エシャルの機嫌を取れば、私にも運が廻ってくるだろうか? と、くだらないことを考える。……エシャルの影響を多大に受けつつあるな、私も…。エシャル化が進んでいる自分自身に、寒気がした。

 

そしてエシャルは、温泉なるモノを掘り当てた。他国の王族や貴族が持っているとされている、風呂と呼ばれる贅沢品の自然版だとエシャルは言う。風呂というモノは聞いたことはあるのだが…、イマイチ理解が出来ない。するとエシャルは、

 

「トラバントは水浴びとかするだろ? 後、桶に水を張って布で体を洗うじゃん? それの温かい版だよ、めっちゃ気持ちいいぞ! …俺が見本を見せてやるから、やってみな!」

 

なかなか理解出来ない私に、エシャルがそう言ってきた。…どうするのだ?

 

そんなわけで、私はエシャルを真似て温泉に入ってみる。人前で裸になるのは抵抗があったが、エシャルが普通に脱いだからな。そこはあまり気にせず…、

 

「……なんというこの心地よさ、…ぬぅ~ん…溶けていきそうだ…。」

 

あまりの気持ち良さに、変な声が出てしまった。温泉、良いじゃないか。…これに似た風呂とかいうモノに、他国の者達は入っていたのか。今まで知らなかったのが悔やまれる、悔やんだところで入れたかと問われれば否と答えるが。とにかくこれは良い、…良すぎるぞ。

 

この温泉という巨大な風呂は、トラキア国内各所に幾つか作られた。民や兵達にも好評で、特に仕事終わりで入るのが格別だと。こちらに顔を出したガンドルフ王子も、羨ましがっていたな。…フフフ、少し優越感を感じる。

 

…そういえば、エシャルが観光がどうだとか言っていたな。…観光とはなんだ? 聞いてみると、諜報活動の一つだと分かる。流石はエシャル、温泉に怪しき者を誘導して、ふ抜けさせることにより、情報を洗いざらい聞き出すということだな? 温泉すらも利用するとはな…。誰も抗うことなど出来ぬよ…、この温泉の魔力の前では…。

 

 

 

 

 

エシャルのお陰でトラキアは発展し続けているが、私には不満がある。エシャルが久々にシレジアから戻ってきたのだが…、

 

「いやぁ~、天馬騎士になっちまったよ。トラキア所属の天馬騎士って、レアじゃん?」

 

レアという言葉の意味は分からんが、私はエシャルに…、

 

「そこはドラゴンに乗るべきではないか? 何故ペガサスになる。…エシャル、今日はこちらにいるのだろう? 久々に話そうじゃないか、とことん話そうではないか。そこにもれなく、グングニルも付けよう。」

 

「言葉は不用、戦って語ることに異存は無いけど! 天槍は卑怯じゃん、やり過ぎじゃないかいトラバントさんよぉ~…! だったら俺も、魔法を連射するぜ? 攻撃の隙も与えんよ!!」

 

天馬騎士になりおって…、お前は竜騎士になるべきだろ! トラキアの将軍なのだから!

 

お互い満身創痍になり、この話し合いは次回持ち越しになった。だが、流石はエシャル。グングニルを使用し、手加減もしたが…、私をここまで追い込むとは。奴も本気を出していなかったが…。エシャルの本気はどんなものか? 気にはなるが、正直恐いな。いつかはこの目で見てみたいものだ、エシャルの本気ってヤツを。

 

余談ではあるが、後で妻に言われたよ…。

 

「以前のあなたとは、全然違いますね? あんなに熱くなって、取っ組み合って…。エシャル様のお陰かしら? 今のあなたはとても魅力的よ? 惚れ直したわ…。」

 

久々に顔を赤くしたと思う、…惚れ直したか。今の私は毎日が充実している、エシャルに感し…、

 

「まるでエシャル様のようね? …もし、あなたより先にエシャル様に出会っていたのなら…、ウフフフフ…。」

 

エシャルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!

 

 

 

 

 

…エシャルがアグストリアに飛んでから幾日後、ガンドルフ王子から密書が届けられた。それを見た私は…、

 

「ヴェルダン王国に不穏な空気か…。王子には色々と便宜を図って貰っている、私も報いねばな…。」

 

以前の私なら、国を守る為に同盟を破棄してでも切り捨てたものだが、…変わったものだよ。それに、ガンドルフ王子は個人的に好ましい人物。彼に何かあればエシャルは悲しむし、私としても考えたくはない。エシャルがよく言う言葉、備えあれば憂いなし…だったか? 万が一に備え、ガンドルフ王子達を受け入れられるよう準備だけはしておこう。何も無いことが一番なんだが…、難儀なものよ。




ガンドルフとディアドラにもフラグが!?

バルバロイは、原作ガンドルフの立ち位置の予定です。




トラバントは深読みし過ぎ、素直に受け止めましょう。

トラバントのエシャル化が進行しています。彼はどうなるのか?



次回は、閑話最終。ノディオンかなぁ~・・・。


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閑話 ~ノディオン王家《エルトシャン・グラーニェ》

グラーニェはエルトシャンの奥方ですよ。


ーエルトシャンー

 

俺は今、友人からの手紙を読んでいる。送り主はベオウルフ、幼い頃から共に切磋琢磨した仲だ。俺には劣るが、剣の腕はなかなかのもの。傭兵稼業で、更に腕を上げていることだろう。まぁ、それでも俺には敵わないだろうがな。そんなベオウルフからの手紙…、

 

「ふむ…、アイツも元気でやっているようで何よりだな。いつものことながら、苦労事に好かれている。不運の星の下に生まれた男だよ、ベオウルフは…。」

 

手紙の内容に苦笑する、変わらぬ友人の近況に俺は安心した。

 

人は何かしらの出来事で変わる、…変わってしまうものだ。俺の友人、アルヴィスも変わった者の一人だ。……いや、アルヴィスのことを考えるのはよそう。考えるだけで、気が滅入ってしまう。アイツはアイツなりに考え、乗り越えた…。それでいいではないか、そう考えるしかない。…エシャルがいないだけで、…あんなに近かったのに、…今では遠い俺の友人。壮健であれば…、それでいい…。

 

…いかん、俺としたことが! 前を向いていくと決めたではないか! それに今は手紙を読んでいる最中、昔を思い出すのは後でも出来る。手紙も後で読めるが、気分的に今しかない。…続きを読もう。

 

 

 

 

 

『大将のヴォルツがまた、馬鹿なことを言ったんだよ。んで、シレジアで雪男探しをしたわけだ。…当然、いる筈は無いわな。金だけが無くなったんだよ、マジ勘弁。雪男探しの拠点にしている村で、お前に似た奴とも知り合ったぜ? なかなかの遣い手でな、そいつと一緒に賊を……。』

 

またヴォルツのロマンに付き合わされたのか、まぁ…いつものことだな。それよりも、俺に似た良い男に出会ったと…。俺程の良い男か、さぞや男前なのだろうな。腕も良くて共に賊捕縛、ベオウルフが認めたということは、かなりのモノだな。そしてどうなった?

 

『…連れの娘と一緒に、ペガサスを3頭も見付けてきやがった。スゲー強運を持っているぜ、エルト2号は! その後、シレジア天馬騎士と一緒に消えちまった。エルト2号は、ワープまで使えるんだよ。流石に驚いたな、うん。…賊捕縛の賞金の件をついでに頼んどいてだな、俺達は……。』

 

エルト2号か、…まぁそこはいいだろう。男前みたいだからな、エルト2号…許す! 恋人とペガサスを3頭か、確かに強運の持ち主なんだろう。捕まえるのは至難とよく聞く、やるなエルト2号。…して、ワープが使えるのか!? 剣の腕もあり、魔法も高度なモノを使える…。エルト2号は何者なのだ!? 続きは…!

 

『…エルト2号は天馬騎士になった、腰を抜かしかけたぜ? 前代未聞だしよ、男で天馬騎士ってよ。まぁ…俺達も色々あるから、エルト2号の天馬騎士叙勲の祝いをして、シレジアを発ったわけだ。後々調べたら、エルト2号はトラキア王国の者だったぜ。』

 

天馬騎士…!? それは最近、耳にした情報ではないか! 誰だったか…、名前…ド忘れしてしまった! 俺の愛する名前だったような気がするんだが…。エルト2号はトラキア出身? 竜騎士の国で天馬騎士。色んな意味で凄い奴みたいだな、エルト2号は。

 

『…で俺達は今、マディノ城にいる。海賊被害が多いらしくてな、討伐を依頼されたんだよ。依頼と言っても、傭兵仲間から助っ人を頼まれたってわけ。その海賊がなかなかに手強くてな、俺達でも手厳しい。だから傭兵としての繋がりから、トラキア王国に助力を頼んだ。仲良くなったエルト2号を助っ人にな、快く承諾してもらったぜ。

 

因みにエルト2号は、トラキアの英雄『黒刃』様だぜ! 二つ名もお前んとこっぽいよな! …えーと、名前なんだったかな? ……そうそう、思い出した! エシャルだエシャル、名前までお前に似ているのな? こんな偶然……。』

 

………!? エルト2号の名がエシャルだと! …そうか、天馬騎士エシャルだったな! それに『トラキアの黒刃』もエシャル、…同一人物だと!? ……そして俺に似ていて、エシャルという名。まさか…まさかそのエシャルという者は…! 6年前に死んだ筈の俺の甥、…エシャルなのか!?

 

 

 

 

 

ーグラーニェー

 

私の夫であるエルトが、友人から届いた手紙を嬉しそうに読んでいます。ノディオンの王として、懸命に政をしている姿が多かった為、このような姿を見るのは久しぶり。…久しぶりと言っても、私やアレスの前ではきちんと笑顔を見せますよ? 私が言いたいのは、手紙ですけど友人相手に笑顔という点。6年前の事件から、友人相手にもあまり笑顔を見せなくなっていたから。そういう点では、久しぶりってことなんですよ。

 

そんなエルトの傍で、まだ幼いアレスの相手をしてあげる。エルトに似ているからね、きっと将来は男前よ。アレスをあやしながら、隣にはエルトがいる。小さな幸せを感じていると、エルトの様子が…。最初は嬉しそうに読んでいた筈なのに、だんだんと驚愕に染まっていく…でいいのかしら? プルプル震えているし。どうしたのか尋ねようとしたんですけど、その前に…、

 

「グラーニェ大変だ! 一大事だ! ベオウルフが驚くべき情報を知らせてきたぞ!」

 

手紙を握り締め、興奮気味に迫ってきました。そんなに興奮しては…、

 

「うわぁぁぁぁぁん! お父ちゃまこわぁぁぁぁぁい!」

 

アレスがエルトの迫力に驚いて、泣き出してしまいました。私はキッ! と、エルトを睨み付け、

 

「落ち着きなさいな、…エルト。」

 

ドスの効いた声で叱りつける。エルトが硬直して…、

 

「す…すまんグラーニェ、興奮し過ぎた…。」

 

若干青ざめながらも、落ち着きを取り戻したよう。いつもは冷静なのに、どうしたのかしらね?

 

 

 

 

 

話を聞いてみると、私もかなり驚いてしまった。あのトラキアの英雄と言われている『黒刃』、史上初の男性天馬騎士が同一人物で、6年前に亡くなったエシャル君の可能性があると。そういえば、どちらもエシャルという名前だけども…! まさか、あのエシャル君かもしれないだなんて! 私が最初にこのことを知ったら、エルトと同じように興奮したわね。……そんなことよりエシャル君ね! 聞かなくても分かるけど、一応聞いてみましょう。

 

「エルト…、どうするの?会ってみるのかしら?」

 

「当然ではないか、グラーニェ! エシャルかもしれないんだぞ!? しかも丁度良く、アグストリアに来るのだ! これが会わずにいられるか! ……準備を、マディノに赴く準備をせねば! エシャル! お前の愛しき叔父が! エルト兄様が会いに行くぞ!」

 

慌てた様子で部屋を出ていくエルト、…そんなに焦って。まだエシャル君と決まったわけではないのに、…困った人ね。

 

 

 

 

 

早々に準備を終えたエルトは、

 

「エヴァ、アルヴァ、後のことは頼むぞ! 何も無いとは思うが、グラーニェ達をな! …イーヴよ、俺について来い! エシャル、今行くぞ!」

 

「それでは奥方様、エルトシャン様のことはお任せください! エヴァ、アルヴァ、奥方様達を頼むよ!」

 

イーヴと共に、慌ただしくマディノへと行きました。

 

「本当に仕方のない人ね…、エルトは…。」

 

でも、嬉しいかな? あの頃のエルトに戻ったみたい。本当に大切なのね? エシャル君が…。

 

でも、少し複雑かしら? エシャル君が生きているかも知れない、そのことは私も嬉しいんだけど。トラキア王国の将軍なのよね? 実家がレンスター王国だから、敵国みたいなもの。でも、あの戦いはコノート王国とマンスター王国から仕掛けたみたいだからね。…それに報復は無いみたいだから、大丈夫なのかな? …考えても仕方がないでしょうね、エルトが帰ってきたら色々と聞けばいいもの。

 

 

 

 

 

ーエルトシャンー

 

「マディノに行けば、久しぶりにベオウルフと会える。しかも噂の『黒刃』、もしかしたら俺のエシャルとも会えるかもしれない…! 高ぶる気持ちが抑えきれん、…うぉぉぉぉぉっ!!」

 

今の俺は人馬一体、誰にも止められはしない! エシャルが死んだこと、…俺は信じていなかった。遺体がある、遺品がある、アルヴィスが認めた…! それでも俺は信じていなかった。

 

『トラキアの黒刃』エシャル将軍、『天馬騎士』エシャル、どちらも情報として知っていた。俺のエシャルかも知れない、そう思った。だが、他国のことを詳しく調べることが出来なかった。それは何故か? 我がノディオンは、武力に自信がある! しかし、諜報は苦手なのだ! たったそれだけの理由、されどそれが理由なのだよ!

 

故に、ベオウルフからの情報は強烈だった! 流石は傭兵、情報収集もお手のものだな! 実際、たまたま感が漂うがな。それでも、エシャルの可能性がある。ベオウルフが俺に似ていると、エルト2号と書かれていたことで、俺はエシャルであると確信している。会ってみなければ分からないが、きっとエシャルだ。

 

世界でも稀有な色男で男前な俺に似ているのだ、間違いない! 俺より少し劣るが、アルヴィスっぽいところもあるだろう。もはや無敵の色男! 黒刃とはきっと、キルソードのことだ! 俺の贈ったキルソード、アルヴィスのマジックリングに対抗して贈った逸品。…やはりエシャル、それ以外は認めんからな! 今、運命の再会が…! エシャルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!




エルトシャンは自分の容姿に自信があると思うんだ。

しかもエシャル馬鹿。



次回は、本編に戻ります。


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第19話 ~お土産持ってきたよ!

ーエシャルー

 

シレジアを発ってから気付く。

 

「……パメラさんかマーニャさんの力を借りれば良かったんじゃね? そうすりゃ一発じゃん。」

 

あの二人、アグストリアのマディノ城…知ってそうだし。力を借りて、ワープすれば楽だった…。今更戻るのもカッコ悪いからなぁ~…、スコルには頑張ってもらわないとダメだね。つーか、とりあえず飛んでいるけどさ。…アグストリアって、この方角で間違いないよね? 正確な位置を把握せずに飛び出した俺って、…馬鹿だよね?

 

風を切って飛ぶスコル、やっとこ雪国を抜けましたよ! 優秀じゃないかスコルちゃんや、俺はスコルを優しく撫でまくる。スコルも嬉しそうに鳴き、一段とスピードを上げる。褒めると伸びる子やね! …というか、シレジアを抜けて安心したよ。

 

たぶん、アグストリアに入ったと思われる。なんていうか、空気が懐かしいんだよね。馴染むというか、俺に合う空気ってーの? よく分からんのだけど。これってアレかね? ヘズルの血が濃いからなのか? 帰巣性ってヤツ?俺の血筋的に、故郷だし。まぁ…とりあえず、

 

「アグストリアよ…! 私は帰ってきた!!」

 

叫ばずにはいられません。帰ってきたと言っても、この地に来たという記憶はございませんが…。しかしながら、俺の血が騒ぐわけで。モヤモヤするぜ、…ちょっと気持ち悪いのは内緒だ。

 

 

 

 

 

「海よぉ~…俺の海よぉ~…!」

 

海岸沿いを飛ぶ俺は、誰の歌か忘れてしまったが…歌を歌う。歌わずにはいられなかった、まともに海を見たのはたぶん初めて。テンションが上がるのは、仕方のないことなのだ。…海かぁ~、パメラさんとかディアドラとか、みんなと一緒に海水浴したいなぁ~。この世界ではあるんかね? 海水浴、…水着あるのかな? 女性陣の水着姿を想像してニヤつく俺、男ならば仕方なし!

 

華やかな妄想に耽る俺、…そんな小さな幸せをぶち壊す愚か者が現れたのだった。空を切り裂く音に反応し、スコルを急上昇させる。俺の手綱捌きに直ぐ様反応するスコル、…良いペガサスだね! さっきまで俺がいた空間に、数本の矢が通過していく。気付かなかったら、突き刺さっていましたな。何奴か? と思ったが、まぁ…賊だろうね。相手がなんであろうとも、俺に攻撃してきたんだ。

 

「報いは受けて貰わないと…。良い気分が台無しだよ、弓ごときに殺られる俺とスコルではない!」

 

俺はスコルと共に急降下、弓を恐れぬ天馬騎士の実力をその目に焼き付けるといいわ!

 

 

 

 

 

ーガザックー

 

俺達ゃ海のならず者♪ 殺して奪うぜ俺達は♪ 荒らすことが止められねぇ♪ 宝も女も奪い尽くすぜ♪ そうさ俺らは海賊さぁ~♪

 

…っとくりゃあ! 俺達ちゃこのガザック様が頭のガザック海賊団だぜ! ここマディノ周辺を荒らす、オーガヒルの海賊よ! 宝の情報を聞きゃあ、殺して奪うぜ! 女がいれば、飽きるまで犯しまくって売っ払うぜ! 好き放題やるのが、オーガヒルの海賊ってわけよ!

 

俺達に恐れを抱いた家畜なゴミ共が、傭兵を雇ったみたいだがそんなの恐かねぇ! 海は俺達の庭だぜ? 傭兵如きに殺られるガザック様達ゃねぇぜ! それによぉ…、その傭兵達は女しかいねぇみたいだからな! 犯しまくってから、ぶっ殺してやるぜ! がははははは!!

 

 

 

 

 

……なんて思っていたけどよぉ、あのクソ女共めが! 犯れるどころか、殺られているぜ俺達! 犯るヒマがねぇからよ、何人かの女は殺したんだが。…クソ! それに傭兵が増えやがったし、助っ人を呼びやがったなチクショー! これじゃあ…全滅しちまうぜ!

 

……助っ人? …そうか助っ人か!! 他の奴等に助っ人を頼めばいいじゃねぇか! 俺達と同じように、ジワジワやられていると思うしな。オーガヒルの海賊は多いぜ、反撃開始といこうじゃねぇか!

 

 

 

 

 

なんとかどっこいどっこいに持っていくことが出来たが、なんつーか面白くねぇよ! お宝を奪いまくって、クソ共をぶっ殺して、女を犯しまくりてぇ~のによ! なんなんだよあの傭兵共はよ! 今までの奴等よりつえーじゃねぇかよ! クソがクソがクソがクソがクソがぁっ!!

 

「お頭ぁ~! 向こうからペガサスが一騎、飛んできやすぜ! シレジアの天馬騎士じゃねぇですかい? えれぇ~べっぴんですぜ、きっと!!」

 

苛立っていると、子分の一人がニヤつきながら報告してきた。……天馬騎士か、…いいねぇ!

 

「いいカモが来たんじゃねぇ~の! お前ら! アイツを落とすぞ!! 殺すんじゃねぇぞ! 楽しまなきゃ損だからなぁ~!」

 

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」

 

子分達も気合いが入っているなぁ~! 久々の女にありつけるんだから仕方ねぇけどよ! がははははは!!

 

 

 

 

 

………浮わついていた自分達をぶん殴りてぇ! 悪魔だ…、悪魔が現れやがった! こっちの矢が当たらねぇし、一瞬にして子分を3人も消し炭にしやがった! 流れるように黒い刃を振り、首を飛ばしていく。血塗られた天馬騎士、…しかも男のだ! …悪夢を見ているのか? 俺は…!

 

「貴様が大将か? 見たところ、散々悪事に手を染めてきたようだが…、感謝するといい。俺は慈悲深い、苦しまずに逝かせてやるよ!!」

 

気づけば俺一人、奴はゴミを見る目で俺を見ている…! 化け物だ、奴は化け物だ…!!

 

「うぉあああああああああっ!!」

 

俺は斧を振りかぶって突撃し、首の無い自分を見ることになって、暗転した………。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

………おぉ…! 心の臓がバクバクいってますぞ。無傷っぽく振る舞ってはいますが、細かい傷で身体中が痛いっす。スコルにも無理をさせちまったい! …スコル、今…リライブをかけてやるからな!

 

頑張ってくれたスコルに抱きつき、撫でながらリライブをかける。細かな傷があったスコルは、リライブによって綺麗に治癒された。綺麗とは言ったものの、血で汚れているんだけどね。後で一緒に、水浴びかなんかして綺麗になろうな! ……っと、自分にもリライブかけねぇと。出血死とかって洒落にならないからな。

 

満タン回復、血塗れリフレッシュ! そんなわけで、マディノへの旅路を再開しますかね。スコルさんや、もう少しだけ頑張ってくれよ。たぶん、後少しで目的地だと思うからさ。スコルに跨がり、さぁ出発だ! とは思ったものの、

 

「コイツらの首を持っていった方が良いかな? もしかしたら、ヴォルツ達のターゲットかもしれんし。」

 

と思い直し、賊の首を幾つか持つ。バッチィけど我慢我慢、ごめんなスコル。賊の首を細みの槍にくくりつけて、いざ行かん…マディノへ!

 

………たぶん、あっち!!

 

 

 

 

 

ーベオウルフー

 

トラキア王国に打診はしたんだが、…エシャルは来るよな? 1週間近く経ったんだが、おと沙汰が無いと少々気になるぜ。件の海賊達は、幾つかの集団と団結したからな。ちぃ~とばかし、厄介だ。こっちの被害も大きくなりつつあるからな、疲れってーのは厄介だぜ。奴等は数が多いからな、均衡を保つのがやっとだ。このままじゃじり貧、…決め手が欲しい。だから、エシャルに応援を頼んだんだが…、

 

「エシャルの奴…、まだ来ないのかよ。ワープで一瞬じゃねぇか。」

 

と愚痴りたくもなるだろ。

 

やきもきしていると、

 

「ベオ! 本当に助っ人は来るのかい? 『トラキアの黒刃』様なんだろ、トラキアの重鎮がこんな所に来るとは思えないんだけどねぇ~。」

 

気の強さが滲み出る、美人傭兵のレイミアが声をかけてきた。助っ人が来るってことを疑っている、まぁ…ここまで待たされているからな。俺も2、3日ぐらいって言っちまったしよ。

 

「来る筈なんだけどな、アイツ…義理堅いし。何か問題が…あ! ……エシャル、この場所知ってんのか?」

 

白い目で見んなよレイミア! 俺も悪いが、トラバント王も悪いと思うぜ? マディノの位置を教えていないんだからよ! エシャルのことだから、アグストリアの何処かってことしか知らなそうだ。…マジかー。

 

…レイミアとその仲間の面々から、白い目で見られ続けている俺。…正直、肩身が狭い。肩身が狭いが、海賊撃退の策も考えなきゃならない。マジで厳しいからな、このままじゃあ…、

 

「副長! 天馬騎士が単騎で接近してきます! …エシャルの旦那じゃねぇですかね?」

 

…よっしゃあ! やっと来てくれたかエシャル! これで、この依頼は達成したようなもんだな!

 

「少し遅いみたいだが、本当に黒刃様が来たみたいだねぇ~。どんな面構えか、見せてもらうよ。」

 

レイミアはエシャルを見極めようと考えているみたいだが、アイツを見極めることなんて出来ねぇよ。そんな風に考えていると、エシャルと思われる天馬騎士が…って、血塗れじゃねぇかよ!

 

「お、ベオウルフ発見! ここがマディノか、…ほい! コイツはお土産だ!」

 

血塗れ天馬騎士はエシャルだった、…んで土産ってコイツは…。俺達の方に投げ込まれた物は、…………幾つかの生首だった。

 

「「「「「ぎゃああああああああああっ!!」」」」」

 

いきなり首を投げつけんなや! 何考えているの?コイツ…。レイミアも流石に固まっているぜ…。




まだ、エルトシャンは出てこないですよ!



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第20話 ~マディノ闘技場

夢で覚醒のサーリャに愛される夢を見ました。

良いことがありそうですな♪


ーエシャルー

 

血塗れの俺は、ベオウルフに文句を言われた。

 

「お前、馬鹿じゃないの? 血塗れはいいとして、登場と同時に首はねぇだろ! 流石に俺達もビビるわ! 何考えてんだよエシャルよぉ!」

 

首を投げ込まれたぐらいでピーピー言うんじゃないよ! まだ分からんけど、敵の数を減らしたんだぜ? そこは『よくやった!』と、褒め称えるべきじゃん。ちぇ~っ…! 面白くねぇの…。それに血でベタベタだしさ、ベオウルフの小言に付き合う暇は無いもんね。

 

「あぁ~…ハイハイ! どーもさーせんでしたぁ~…! つーことで、水浴びしてきまぁ~す。」

 

軽く聞き流して、この場を離れる俺。後ろでなんか喚いているけど、今は身を清める方が大事ですぞ。

 

 

 

 

 

ーレイミアー

 

「うぉいエシャル! …行っちまったよ、…ったく。ちゅーか、腹立つ態度だなぁオイ…!」

 

ベオはカリカリしているけど、…仲が良いのは雰囲気で分かる。…本当に『トラキアの黒刃』とは知り合いで、仲が良いってことが分かった。……あれがトラキアの重鎮、エシャル将軍。思っていたより若く、軽い感じの男だったけど、強者の風格があった。立ち振舞いだけでも、私では到底敵わない男。…この私が、初対面で臆するとはねぇ~…。エシャル将軍、…もっと知りたいね。

 

エシャル将軍が、水浴びの為にこの場からいなくなった。ベオはブツブツ言いながら、将軍の持ってきた首を検分する。私は今回の依頼での責任者だからね、一緒に検分しないといけない。…………これは間違いない、

 

「討伐対象のガザック海賊団の面々だね、…それと本人。手を焼いた奴等の首かい、…切り口も見事としか言いようがないねぇ。たった一人で討伐、『黒刃』の名は伊達じゃないね。」

 

コイツらに仲間が何人か殺られたわけなんだけど、代わりに殺ってくれたってことにしようかね。私の手で殺りたかったけど、仕方ないしねぇ~…。それに、まだ討伐対象の海賊が多くいる。今回の依頼は、長くなりそうだよ。…っと言っても、将軍がやらかしそうだけどね。会って間もないけど、そんな気がするよ。

 

 

 

 

 

将軍がいなくなって、暫く経った。…水浴びにしては長い、どうしたんだろうね? そう思っていたら、

 

「副長! エシャルの旦那が大将と、闘技場へ行っちまいました! 二人で『ロマンだぜ!』とか言って!」

 

「あの馬鹿二人…! 確かに今は様子見しているけどよぉ…、そりゃねぇだろ…!」

 

……ヴォルツは自由人だと分かっていたけど、将軍も相当な自由人みたいだね。将軍のお陰で、海賊の一角は崩れている。それでも、敵対している集団は10近くある。一角が崩れたってことは、アイツらも分かっている筈。報復にいつ動くか分からない今、警戒をしなければならないのに。

 

「…ベオの言うように、見極めるのは難しいね。この状況で闘技場は読めないよ、何か考えが…。」

 

「そんなもの、二人にはねぇよ! 気分で動くような二人だからな! …会議は中止、俺は二人を引き摺ってでも連れてくる!」

 

強力な助っ人ではあるけれど、クセが強いね。この先どうなるか、…不安だねぇ~。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

「ヴォルツ、どっちが多く勝つか勝負と洒落こもうぜ。」

 

「男は黙って武で語るべし…か、その話…乗った!」

 

「己の力がどこまでか、男なら気になるからな!」

 

「そこに闘技場があるのなら、足を踏み入れるのが男だな。」

 

「「何はともあれ…闘技場は、男のロマン!!」」

 

 

 

 

 

 

……とか言って、俺はヴォルツと個人で参加したわけで。今んとこお互い6連勝! …だったんだけど、

 

「まさかこの俺が破れるとは…、世界広しといえ…無念。」

 

7人目で負けましたよ、ヴォルツの大将。完全に油断、スリープの剣如きを食らったみたい。ヴォルツ程の男でも、ポカはするんすね! 俺としては嬉しい限り、次勝てば俺っちの勝利ってなわけよ!

 

「ドンマイドンマイ! こんな時もあるさ! ちゅーことで、俺は勝ちにいくぜぃ! …綺麗な姉さんの店、奢って貰うぜヴォルツ!!」

 

下心全開! 俺は愛でるぞ、お姉さんを! …奢りで!! なんと甘美な響きだろうか! 俺の財布になる男、ヴォルツ。…大男は、隅っこでイジけています。油断するのが悪いのだよ、俺はしないけどね!

 

…で、7戦目の俺。相手は金髪の剣士、俺と同世代ぐらいのイケメン。あちらさんも連勝しとるみたいだが、それもここまでよ。この俺が相手なんだからな!

 

「アンタが俺の相手か。…かなりの腕を持っているようだが、俺には勝てないだろうな!」

 

金髪イケメンが、地を這うように駆けて俺に迫る。…コイツ、出来る! そう思った瞬間、俺は地を蹴り相手の速攻を避ける。そしてすぐさま地を蹴り直して、お返しと言わんばかりの速攻。イケメンは俺の一撃を、何とか受け止めたようだ。

 

「やるねぇ…イケメン君、俺の一撃を止めるとは。」

 

「…くっ! それは俺の台詞だ、かなりとは思ったが想像以上だ…!」

 

顔を歪ませて、何とか堪えている感じだ。…俺の方が上みたいだが、イケメン君もなかなか。…イザーク剣士と見た! ならばあえて互角に戦い、学ばせてもらうかな。イザーク剣術をさ! そうと決まれば…! 俺は堪えるイケメン君を蹴り、つばぜり合いから逃れる。

 

「…ぐぁっ! 騎士かと思ったら、傭兵かよ!」

 

「これでも騎士ですよ? 闘技場で騎士道精神なんざ、邪魔なだけだね!」

 

騎士道よりも、目先の勝利! 勝ちにいくのがこの俺エシャルさ!

 

 

 

 

 

ーホリンー

 

俺の剣がここまで通用しないとは…。今回の相手は強敵、…これ程の者が闘技場に参加しているとは。目の前の、対戦相手を見る。赤い双眸が俺を見ている、口元に笑みを浮かべている。窺うように…、されど鋭く剣を振るう姿。楽しそうに、楽しそうに俺へと迫る対戦相手。…まるで、王子と戦っているようだ。

 

俺んとこの王子は戦闘狂だ、高ぶると戦闘狂になる。普段は優しく聡明なのだが、剣を持ち高ぶると鬼になる。何度か挑んでみたのだが、全て半殺し。流石は剣聖オードの血、流石はマリクル王子。俺も同世代の中では抜きん出ていると思っていたのだが、やはり聖戦士の血筋には敵わない。

 

…と言っても、俺にも流れているんだけどな。まぁそれでも俺はイザークの剣士、強くなる為に修行の毎日。そして思い立って旅に出たわけだ、打倒マリクル王子! その修行の旅でアグストリアに、マディノに来て闘技場に参加したわけだが。…マリクル王子に匹敵する男と会うとは! この男に勝つことが出来たのなら、王子にも勝てる可能性が出てくる。…修行の成果を発揮するのみ、恨みは無いが覚悟してもらおうか!

 

 

 

 

 

お互い譲らない剣撃の応酬、相手が若干遅れてきている。ここぞとばかりに、剣撃の速さを上げていく。俺の速さについてこれなくなった相手の腹に、先程のお返しにと蹴りを加える。

 

「…ぐぉっ!」

 

いい感じに当たったようで、相手はヨロヨロと後ろに後退する。俺はこの隙を逃す程、盲目していない! 一気に距離を詰め、必殺の剣技を発動させる。我がソファラに伝わる秘剣、月光剣を! 俺の血が、傍系ではあるがオードの血が、身体中を駆け巡り、剣を持つ手に集中する。

 

「これで…、終わりだぁぁぁぁぁっ!!」

 

青白く輝く我が剣で、この戦いを終わらせる!

 

 

 

 

 

…会心の一撃だった筈、その筈だったのに。相手の顔は…、相手は笑みを浮かべていた。瞬時に身を翻し、俺の一撃を紙一重で避ける。会心の一撃は地を穿ち、そして…、

 

「イザーク剣術が一つ、…堪能させてもらった!」

 

その言葉で理解した、相手は手加減をしていたのだと。俺の剣で、学んでいたのだと。…俺とは桁が違う大物、王子と同じ強者…。クソ…! 悔しいぜ…。悔しさと同時に、強者と戦えたことが嬉しかった。手を抜かれていたとはいえ、俺自身も学べたのだから。惜しむなら、俺の命がここで終わるってことだろうか。………そして俺の視界は、黒く塗り潰された。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

……危なかった! この一言に尽きる。もし、ヴォルツが油断で負けていなかったら、…完全に俺は、サヨナラしていただろうね。ヴォルツ…! 油断で負けてくれてありがとう!

 

それにしても、この金髪イケメン君強かったわ。強かったからこそ、俺もランクアップ出来た。しかも、月光剣を使ってきたし。俺のほぼ役に立たない前世情報にもその名はあるぜ、防御無効の必殺剣。あれを食らっていたらと思うと、…ゾッとするぜよ!

 

イザーク剣士で月光剣、そこから導かれる者は…。誰だっけ? とりあえず、オードの血はあるだろうけど。忘れちまったい! 本当に駄目ね、俺の記憶。…まぁ、ここで終わるには勿体無い。金髪君にリライブを掛けときましょう。一応加減はしたし、死にはしないよね?




エシャル、女性経験あった方が良いのかなぁ・・・と思ってみたり。


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第21話 ~じゃあ、行くか

『小説家になろう』の方を書こうかと思っていたら、こっちを書いていた。

・・・解せぬ。


ーホリンー

 

「……うぅ~…、俺は…?」

 

見知らぬ天井…いや、救護室か? 何故、救護室に…? とりあえず、上半身を起こして思い出してみる。

 

…俺は闘技場で連勝を続けていた。そして一人の男と対峙し、そして…、

 

「俺は破れた筈…、死んでない…?」

 

男の鋭い一撃で目の前が暗くなって…、そのまま死んだものかと思ったんだがな。自身の手を握ったり開いたりしてみたが、特に不調は無い。…というか、傷が無い。どういうことだろうか? 一応、他の箇所も見てみよう。

 

なんということだろうか、あの男と戦う前に刻まれた傷も治っている。…何が起きたんだ? そう思っていたら、

 

「おぅ、ホリン。ようやくお目覚めか?」

 

闘技場の親父が現れた。…丁度いい、親父に色々と聞いてみるか。

 

 

 

 

 

…聞いてみると、かなり驚いた。対戦相手のあの男が、倒れる俺にリライブを掛けたとのこと。剣の腕が王子級で魔法を使うって…、どんな化物だよ。…と思う俺は、悪くないと思う。負けた上に情けを掛けられた、少し惨めに思った。だが、ありがたいのも事実。先程の戦いで、俺も少なからず強くなった。死なずに済んだわけだから、更に強さを求めることが出来るというわけだ。そして強くなる為の近道、…あの男に師事すれば確実に強くなれる。…ならば、取る行動は一つ。

 

「親父! あの男は…!」

 

「黒刃の兄ちゃんか? …あの兄ちゃんなら帰ったぞ、いや…連れていかれたぞ。」

 

……連れていかれた?

 

あの男のことを更に聞いて、改めて驚いた。あの男の名はエシャル、あの高名な『トラキアの黒刃』。…強い筈だ、負けるのも仕方がない。それどころか、これは俺にも運が巡ってきたのでは? 『トラキアの黒刃』に師事すれば、俺は確実に完全に強くなれるじゃないか! ……肝心のエシャル、エシャル殿はと聞いてみれば、

 

「傭兵の男…でいいのか分からんが、ソイツが来て鳩尾一発。もう一人の男と一緒に引き摺られていったぜ? たぶんあの傭兵は…、近くの街に雇われている奴等の一人じゃねぇか?」

 

エシャル殿を鳩尾一発!? …その傭兵もかなりの手練れか? なおのこと、師事しなければ! …近くの街か!

 

「親父! 世話になったな、俺は強くなる為にエシャル殿を追う!」

 

「そうかよホリン、お前のお陰で稼がせてもらったからな! 応援するからな、達者でやれよ!」

 

エシャル殿ならば、きっと俺を…!

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

「……つーん。」

 

俺は今、かなりの不機嫌。それは何故か? どこぞの馬鹿ちんのせいで、綺麗なお姉さんのいる店に行けなかったからである。金髪イケメン君に勝利し、イザーク剣術を学べたという喜びが台無しだ。とりあえず10連勝して、ヴォルツの金で遊ぶ計画だったのに。突如控え室に乱入してきたベオウルフに鳩尾一発、俺は気を失った。目覚めてみれば宿の一部屋、…そして朝。気分最悪の中で呼ばれて、会議に参加しているわけなのだよ。つーんとなるのは、仕方のないことなのです!

 

気分は悪いけど、話はきちんと聞いていますよ? トラキアを通しての助っ人ですからな、仕事はやらないとね。依頼はキッチリこなす予定、トラキアの名に傷が付くからねぃ。不本意ながら、真面目にやります。…けど、態度が悪いのは許してくれよ?

 

「…まだ機嫌が悪いのかよ。」

 

「…べっつにぃ~、そういうわけじゃないけどねぇ~…。華やかな夜を台無しにされて、怒っているわけじゃないよ? 俺の鳩尾にかました奴を、後でボコボコにする予定だし。たぶんそれで、いつもの俺に戻ると思うよ? …後で、顔貸せやベオウルフ。」

 

「完全に怒り心頭じゃねぇか!?」

 

後でベオウルフをやるって考えると、なんだか気分が軽くなってきたな。いやぁ~…、俺ってば単純ね!

 

 

 

 

 

…とりあえず、会議は終わったわけだが。俺が潰した奴等以外に、10近くの集団があるみたいで。1つの集団を潰した為、他の奴等がどう動くか警戒が必要みたいです。一気に攻めてくるか、逆に警戒してくるか、まだ分からんのだって。故に守りを固めて、こちらも暫く様子見。下手に攻めて罠にハマったら、大変ですからね。つーことは、数日間は暇っすね。警戒せねばならないから、かなり暇ってわけじゃないけど。さて、どーすっかなぁ~…。

 

考えた結果、一度ヴェルダンに顔を出しとこうかと。マディノのことを覚えたし、次はワープで一発さね。ベオウルフ達には、遅くても明日には戻ると言った。ヴォルツやベオウルフ達は了承してくれたが、初顔合わせのレイミアさんは半信半疑。…まぁ付き合いが無いから、仕方がないけどね。俺はワープがわりと自在、…ってなことを説明。ベオウルフ達も援護をしてくれて、ヴェルダンへと行けることとなった。

 

「…さっきの援護で、ボコるのは無しにしてやるからな。とりあえず、段取りはよろしく。」

 

「…うっし! やったぜ俺! …っと、段取りっつーか守りは任せろ。その代わり、なんかいい策でも考えといてくれよ黒刃様。」

 

いい作戦ねぇ~…、まぁボチボチ考えますよっと。一週間近く空けていたけど、兄貴達は何をしているかな? …ディアドラは、里にへと戻っているだろうけど。行けば分かりますがねぇ~、…ワープ!

 

 

 

 

 

帰ってきたぜヴェルダンへ! 一週間ぶりだから、あまり変わっていないだろうけどな! そんなわけで、兄貴がいるであろう王座の間へ。鼻歌を口ずさみながら、マーファ城城内を歩く。…兄貴に報告はしないとね、無事マディノに着いたって。そこから雑談でもして、今日戻るか明日戻るか、決めないと。まぁ報告と雑談だから、今日中に戻ることになるのかな? …なんて考えながら歩いていたら、着いたようですぞ。ヘイ! 兄貴! ご機嫌いかがっすか? ってな勢いで、王座の間へ入る俺なのである。

 

王座の間に入ると、兄貴はいたんだけど…、

 

「兄貴! …って、ディアドラ!? あれ? 里に帰ったんじゃあ…。」

 

ディアドラもいました。…おかしいな? 隠れ里にいるものかと思ったんだけど…。頭に疑問符を浮かべていると、俺に気付いたディアドラが…、

 

「…!? …エシャル様? ……エシャル様!」

 

嬉しいような悲しいような…、そんな顔したディアドラが突撃してきた。いつもなら、ヒラリと避ける俺ですが…。避けるわけ…、ないじゃないか。

 

「エシャル様…、エシャル様…!」

 

飛び込んできたディアドラを、きちんと胸で受け止める。俺の名を口にしながら、静かに泣くディアドラ。一体、何があったのだろうか? 兄貴に視線を向けると、頷いてくれたわけだから、理由を教えてくれるのだろう。

 

 

 

 

 

……里への出入りを禁止ね、それは追放というのではなかろうか? というか、俺が原因の一つですよね? 俺に出会ってしまったから、ディアドラは…。いや、悔み悩みは意味が無い。既に起こってしまったのだ、なら…先を見据えるのが建設的じゃないか。切り替えが早いのが俺、そして俺は意志を大事にする男。ディアドラはこの先どうするのか? 聞いてみないといけないな。

 

「…ディアドラのいる理由は分かった。…今、こんなことを聞くのはあれなんだが、ディアドラはどうするんだ? この先どうするか、考えていたりするのか?」

 

悲しんでいるのなら、慰めてやるのが一番なんだろうけど。まずは意志を聞かねばなるまい、…でないと助言も出来ないからな。

 

問い掛けてから少しして、落ち着いたのであろうディアドラは、抱きついたまま顔を上げ、

 

「…私は、エシャル様と共にいたいです。この先…どうなるのか分からないけど、…どんな結果が待っているのか分からないけど、…エシャル様のお傍に置いてください。…ガンドルフ様に言われたんです、待つだけではいけないと。…私は私の道を、自分の足で歩きたいと思います。……駄目、…ですか?」

 

上目遣いで見てくるディアドラ。…強くなったんじゃないのディアドラちゃん、そう言われたら…、

 

「じゃあ、行くか。…俺と一緒にいるってのは、色々と大変だからな? 覚悟しろよ、ディアドラ…。」

 

頭に手を置き、くしゃりと撫でる。不安そうな顔のディアドラは、やっとこ笑顔に変わった。

 

ディアドラが準備をしている間に、俺は兄貴と話をしていた。

 

「ディアドラを連れていってくれるのは助かる。こっちも色々とあってな、もしかしたらディアドラに危険が及ぶかもしれねぇからよ。…怪しげな連中が、里の者を探しているみたいでよ。」

 

…なるほど、里の者をね。確かに、ディアドラは危険だな。ここのみんなは大丈夫だと思うけど、いつバレるか分からんからな。俺に引っ付いていれば、確実とは言えんがほぼ大丈夫だろう。

 

「良い情報をありがとな、兄貴。…弟のジャムカ君にも、礼を言ってくれ。」

 

兄貴の弟であるジャムカ王子が、ヴェルダン城にてスパイ的なことをしているみたいで。彼のお陰で、ディアドラを危険から遠ざけることが出来る。今度会う時が来たら、きちんと礼を自分で言わなければな。

 

そんなわけで、準備を終えたディアドラを傍に置き、

 

「兄貴、無理は駄目だぜ? ジャムカ君にも言っといてくれよ?」

 

と兄貴に言う。兄貴はグッと親指を立て、ニヤリと笑った。…うん、大丈夫みたいですな! …それならば、行きますか。…ワープ!




ディアドラが正式に、エシャルの下へ。

一番最初の仲間ですな。

次回は、ホリンの加入ですかね?


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第22話 ~俺の義務

エルトシャンとかアイーダとか、どんな登場をさせようか考えてます。




ーエシャルー

 

ディアドラを連れてきた俺は責任者であるレイミアさん、次いでヴォルツとベオウルフに紹介した。

 

「この娘はディアドラと言って、…俺の家族みたいな娘だ。ライブとか使えるから、役に立てると思う。戦闘に関しても弱くはない、手斧に限っては俺以上の精度だ。…めっちゃ可愛いからって、手を出すんじゃないぞ! ヴォルツんとこの男共に、きちんと言っとけよ! 特にベオウルフは近付く際、俺に許可を取れ!」

 

「なんで俺だけ許可が必要なんだよ!」

 

「俺の大切なディアドラが穢れるからだ!」

 

「エシャルとは、マジで話し合わないといけねぇな!」

 

俺とベオウルフは、至近距離でメンチを切る。一触即発の俺達を余所に、ディアドラは…、

 

「俺の大切なディアドラ…、えへへぇ~…♪」

 

両頬に手を添えて、クネクネ悶えていた。

 

まぁそんな一幕はあったものの、ディアドラは受け入れてもらえた。手合わせでディアドラの実力を見てもらったのだが、一番良かったのかもしれない。つーか、兄貴特性の手斧が凄いっす。それを自分の手足のように扱うディアドラに、俺を含めた傭兵の方々が脱帽。こんな短期間で磨いた強さに、俺っち嬉しいような悲しいような…。まぁ威力は無いのですが、手斧の牽制からの光魔法、流石の俺も捻りを加えた緊急回避をかましました。

…初見でこれをやられたら、聖戦士級じゃなければ大ダメージは必死。兄貴と組んで、とんでもない技を編み出したものだ。

 

それに、ペガサスには似合わない荒々しい飛行テク。ペガサスごと突進とかって、ドラゴンじゃないんだからとツッコミを入れたかった。この件については後日、教えたであろうマゴーネ団長に一言文句を言わねばなるまい。

 

みんなに認められて、共に戦うことになったディアドラ。しかしながら、経験少ない娘だからね。手合わせとはいえ、俺を相手に全力を出した為に疲労困憊。それに、暗くなってきたからな。今日はここまでにして、明日色々と決めるってことになった。海賊退治の会議ですな! 策を考えろと言われた俺、…俺の力を使った作戦は一応ある。トラキアん時のワープ戦法ではなく、別の戦法ね。とりあえず、明日の作戦会議で言ってみるか。

 

 

 

 

 

疲れ果てていたディアドラ、俺は彼女をおぶって部屋に来た。俺とディアドラ、二人で暫く泊まる部屋だ。男女同じ部屋ってーのは、駄目なのかもしれない。だが、初めて会った奴らと一緒は疲れるだろうし、心配だからな。ディアドラには悪いが、俺と一緒の部屋にした。

 

ディアドラは美少女だからな、注意したとしても…ねぇ? 万が一ということもある。俺は心配性だからね、絶対に守らなければならない。きちんと守らなければ、兄貴にめっちゃ怒られる。

 

それに何かあったら、俺は俺を許せないと思うから。ディアドラは大切、俺にとっても、兄貴達にとっても。彼女の意志で共にすることになったけど、出来る限りは守らないと。それが彼女の願いを受け入れた、俺の義務なのである。

 

おぶったディアドラをベッドに下ろし、

 

「…突然の手合わせ、ごめんな? 足手まといか否か、それを確認しなくちゃいけないからさ。アイツらは傭兵だからな、悪く思わないでくれ。」

 

一息吐いたディアドラは、

 

「分かっていますよ、エシャル様。…足手まといになりたくないから、ガンドルフ様達に稽古をつけてもらってました。それでも弱いから、足手まといになってしまうと思います。でも…頑張ります! 頑張って強くなります! だから…お暇な時に、稽古をつけてくれたら嬉しいです…。」

 

少しはにかみながら笑うディアドラ。そんな彼女の手を握り、

 

「出会った時はスベスベだったのに、今では小さな傷痕のある手…。たくさん努力して今に至ったディアドラは、とても綺麗になった。君が望むなら、俺は出来る限りのことはする。その輝きを消さぬ為、共に頑張ろうか。…だが、無理は駄目だからな? ディアドラ。……なんだかよく分からんことを言ったけど、稽古ぐらいいつでもつけよう。それ以外のことでも、頼ってくれて構わないからな?」

 

手を見れば、努力してきたことなど分かる。それに手合わせをして、弱くないのは確実。むしろ平均よりも上、やはり光魔法が強烈。努力し続ければ、かなりのものになるだろう。守るとは言ったものの、彼女自身も強くなればなおいい。彼女が望むのならば、俺は稽古でもなんでもするさ。それに健気…、保護欲も刺激される。ディアドラ! 俺に任せるんだ! 俺が立派なレディーにしてやるからな!

 

…と、ディアドラの手を握りながら考えていた俺。我にかえった俺は、ディアドラを見る。…お顔が真っ赤ですね! ずっと手を握っていたからね、そりゃあ恥ずかしいっすよね!

 

「いやぁ~、ごめんな? いつまでも手を握っちゃって。…まぁさっきも言ったがあれだ、なんかあったら遠慮するなよ? わははははは!」

 

俺も恥ずかしいっす! なんかアホなことを言ったような気がするし! ディアドラも綺麗だし! 慌てて手を離しましたよ! とりあえず笑ってごまかせ! わははははは!

 

 

 

 

 

ーディアドラー

 

「……あっ!」

 

エシャル様が私の手を握っていたけど、それに気付いたエシャル様は慌てて手を離した。ちょっと残念ではあるけれど、エシャル様も恥ずかしかったみたい。

 

離された自分の手を見てみると、傷だらけで少しゴツゴツしている。最初は、エシャル様の言ったようにスベスベの手だった。エシャル様に近付けるよう稽古に明け暮れて、ハティを乗りこなす為に手綱を握り続けて、いつの間にかこの手になった。女の子らしい手ではなくなった、戦う者の手になったのだ。

 

それにこの手で、人を殺してもいる。デマジオさん達の賊討伐に参加して、その時に…。守る為とはいえ、人を殺した。それは恐ろしくて、とても悲しかった。だけどそれが、私の望んだ道。私の進む道は、そういう世界だから…。

 

そんな色々な経験を積んだ手を、そんな私を、エシャル様は綺麗だと言った。里に帰れなくなり、沈んでいた気持ちが軽くなった。エシャル様と共にいられるようになったことも嬉しかった、それと合わせて本当に嬉しい。

 

それに…、エシャル様との距離が近くなったと思う。…私の努力を、認めてくれたのだと思う。私を見る目が、とても優しい。以前よりも、更に優しくなった。それは女として? それとも妹として? それは分からないけど、関係は前進したのだと思う。

 

どちらにせよ、私はエシャル様にとって大切な者らしい。これが重要、とても重要なのだ。……どのような関係になっても、これは変わらないと思う。…出来れば、エシャル様の恋人になりたいけど。…これは、私の頑張り次第だよね? とりあえず、今の私に出来ることは…、

 

「…えへへぇ~♪」

 

エシャル様にならって、笑うだけ。…だって嬉しいんだもん!

 

 

 

 

 

お互いに笑い合ってから、少しだけお話をして…とても疲れた。今日だけで色々あったから、当然だと思う。そんな私に気付いたエシャル様は、

 

「…おっと、無理は駄目だと俺が言ったのに、俺自身が無理をさせちゃあイカンでしょ。さぁディアドラ、もう休むといいよ。…俺も寝よ。」

 

私の頭を撫でてから、隣のベッドに潜り込んだ。頭を撫でられた私は、ドキドキしてなかなか寝付けなかったが、隣のエシャル様はもうお休みになったみたい。エシャル様、寝付きが良いみたいですね?

 

……明日から、本格的に傭兵? みたいな生活が始まる。それはとても不安ではあるけれど、楽しみでもある。見知らぬ世界が、見知らぬ体験が私を待っているのだから。これから始まる生活を、前向きに考える。頑張るのよディアドラ! 頑張れば頑張る程、私の未来はきっと……。

 

Zzz……。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

気分爽快、良い朝ですな。隣のベッドを覗き、安らかで愛らしいディアドラの寝顔を見れば、今日という一日が素晴らしくなると思うのは必然。くそぅ…! ここにスマホがあれば、その寝顔を永久保存出来るというのに! ……はて、スマホとはなんぞや? まだ、俺っちは寝惚けているのかな? …まぁ、寝起きだからね! 井戸の前に行き、顔でも洗ってシャキ! っとしましょうか!

 

 

 

 

 

井戸で顔洗って、ガッツリ目が覚めました。…今日の予定は昨日に引き続き、作戦会議でしたかな? 俺にも考えておけと言われていましたが、昨日も言ったが考えてあるさ。

 

頭の悪い海賊なんざ、一発で終わりだね! とは言ったけど、一つ一つの集団を誘き出してですよ? 一気に片付けたいのはヤマヤマだけど、こちらの被害も大きくなるからねぃ! 各個撃破が望ましいのだ、多対一は戦闘の基本です! さて、会議まで時間がある。ここらを散策しておきますか、初めての場所だしね。

 

散策途中で、イケメンと再会しました。昨日ぶりですね?

 

「エシャル殿! 貴方のご高名は聞いております! 闘技場で貴方に敗北してから、俺は貴方のことばかり考えています! この想いの為に今、俺はこの場にいます! …俺は貴方に惚れました! 貴方の傍に、この俺を置いてください!」

 

……何言っちゃってんのこの野郎! 朝一の街中だけど、結構人がいるんだぜ!? 見ろや! 周りの人達がざわついたじゃねぇかよ! 俺に惚れたとか言うなし…!! はぁ~…、なんだかなぁ~…。




ホリンも仲間に!?

次回は、たぶん作戦会議。


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第23話 ~海賊討伐に向けて

グダグダといきますよ。


ーエシャルー

 

なんだかんだで、海賊討伐会議となりました。…え? 金髪イケメンはどうなったかって? イケメン君は、俺の仲間になりましたよ? …あの後、引き摺って宿に戻ってね。改めて話を聞いて、仲間というか弟子? にしました。

 

イケメン君の名前はホリン、イザーク王国ソファラの人間みたいっすよ。イザーク王国のマリクル王子に勝つ為に、修行の旅をしていたみたい。各地の闘技場で勝ち続け、マディノで初めての敗北。んで、俺の強さに惚れ込んで追っかけてきたとのこと。まぁ彼ってば強いし、俺の鍛練相手に良い人材だし、ディアドラの相手もしてくれると思うし、色々考えて迎え入れたってわけ。

 

それに、俺の心というか感覚? よく分からんのだけど、不安なんだよね。近々、何か起きそうな…、巻き込まれるというか…。数年の内に、よからぬ大きなことが起きる気がする。兄貴んとこもきな臭くなってきたみたいだし。

 

…そんなわけで、強い奴を傍に欲しくなったのだ! 俺の大切なモノを守るには、強い仲間が必要だと思うんだ。俺一人じゃ守りきれないかもしれんし、備えあれば憂いなしなのだよ! …ということで、ホリンは仲間兼弟子になったのでございます。

 

 

 

 

 

そういうことなんで、会議に戻りましょうか。ディアドラとホリンは、俺の傍にいます。俺はトラキア陣営なんで、二人もトラキア所属みたいになるでしょう。トラバントもディアドラのことは、マゴーネ団長達から色々聞いていると思う。ホリンも強いから、まぁ大丈夫だろう。

 

…客将みたいな感じになるのか、傭兵として雇うかは分からんが。本国に戻り次第、トラバントに要相談だな。俺の弟子だから、俺に丸投げになりそうだけど。俺の正式な仲間は二人だけだが、いずれは増やすつもりだ。いずれというか、現在進行形で増やすつもりだけど。そのことを考えると、俺の本拠地が欲しいところ。トラキアには、俺の家しかないからね。広い家だけど、仲間が増えたら狭くなるのは確実。…城か砦をねだったら、トラバントくれるかなぁ?

 

 

 

 

 

う~ん…と考えていると、何やら揺さぶられる。何事かと思ったら、隣のディアドラが俺を揺さぶっていて、

 

「…エシャル様、ベオウルフ様が意見を求めていますよ?」

 

…理解したよディアドラ。色々と自分のことを考えていたら、話が進んでいたみたい。主だった者達が、俺を見ていますな。自分が悪いんだけど、居心地悪いね!

 

「エシャル、なんか良い策でも思い付いたか? 真剣に考えていたみたいだけどよ。」

 

おぉ…! 策を考えていたのだと、勘違いしているみたいですな。馬鹿正直に別のことを考えていたなんて言ったら、白い目で見られるからね。予め考えていた策を言わねばなるまい。

 

「悪いな、少し考えていた。…そのお陰で、一応は纏まった。」

 

いかにも策を考えていましたという雰囲気を出しながら、俺は考えておいた策を口にした。

 

ドヤ顔で俺は言った。

 

「レスキュー戦法大作戦だな!」

 

レスキュー戦法大作戦とは、俺の魔法が鍵を握る策だ。要は、俺が中心となる策である。勿論、傭兵の皆さんの力も重要ですよ?

 

「…で、どんな策なんだい? 黒刃様。」

 

レイミアさんがそう言って、俺を見詰めてきた。美人の視線っていいよね!

 

「この策には、レイミアさんとこの傭兵さん達に活躍? になるか分からんけど、頑張ってもらうぜ?」

 

「私達が活躍…?」

 

とりあえず、策の内容を説明しますか。

 

まず、オーガヒルに点在する海賊集団。奴等の根城をそれぞれ特定、それとその周辺を調べあげる。次に美女・美少女を用意し、囮にする。それにつられた海賊達を、特定の場所に誘き寄せる。特定の場所に誘き寄せたら、囮の美人な傭兵達をレスキューで救出。その瞬間に、待ち伏せていた傭兵達が一斉攻撃。弓と魔法による先制から、剣士等による接近戦。簡単に説明したけど、これがもっとも被害の少ない策だと思う。…どうよ?

 

………反応無しだと!? 何故? 無反応な面々に戦慄する俺。

 

「…レスキューとかって、そう上手く救出出来んのか? 俺の知っているレスキューは、単体なんだが。」

 

レスキュー単体とかって馬鹿にしてんの? 俺を舐めんなし、そこらの魔法使いと一緒にすんなし。

 

「バッカお前、俺の魔法舐めんなよ? ワープで10人以上を数回送れる程の男だぜ? レスキューも余裕だよ? 黒刃様を舐めたらいかんぜ? …つーことで問題無し!」

 

俺は心外だーって雰囲気を出す。その雰囲気にも負けず、レイミアさんが…、

 

「囮といっても、無傷ではないわけさね。…途中で脱落してしまう仲間も出てくる。…私らだけ、わりに合わないんじゃないかい?」

 

レイミアさんの言うことは、もっともである。囮は危険だからね、しかも非武装にしてもらう予定だし。死地に飛び込むようなもんだ、しかし…!

 

「俺ってばリブローも使えるわけなのだよ、遠距離回復の補助付だから安心せよ。」

 

そこもちゃんと考えてますよ? 命懸けの囮をしてもらうわけだし、サポートは任せろ! 普通に戦うより生存率はバリ高だろうね。ついでに俺もスコルと共に、囮部隊を視界に入るように行動するつもりだし。音も無く飛ぶような隠密飛行も出来ます、シレジアで鍛え上げた技術だぜ。まぁそれでも、見付かる可能性はあるわな。そのこともふまえて、囮部隊の逃走ルートをしっかり考えなければ。

 

…そんな感じで話し合った俺達。俺の策について色々と、質問やら何やらをして纏めたわけで。最終的に実行されることになった。そんな中、海賊集団の根城特定、オーガヒルの地形把握、囮部隊の逃走ルートのこともある。それを俺が調べるんだと…、言い出しっぺで能力があるからってことで。めんどくせぇ…と思ったが、俺の考えたことだしね。…やるしかねぇっしょ、うん。

 

 

 

 

 

会議から数日間、傭兵の皆さんには守りに徹してもらった。街の方々は不安の中で生活しているんだろうが、傭兵の皆さんが頑張っている為に被害無し。海賊…、苛立っているんだろうね? 盗れない・殺れない・犯せないってね。いい感じじゃん? 作戦の成功率が上がる流れだよね? 海賊はアホだからね、苛立ってもいるから食い付きがハンパないでしょう。…ってなわけで、俺も頑張って調査しているわけよ。後、もう少しで終了っす。

 

 

 

 

 

…よっしゃ! 調査終了ですぞ! オーガヒルの地形やら何やらは、大体把握しました。流石に、隠し的な道とかは分からんけど。海賊はアホだけど、なかなかに賢しいからな。あるとは思うけど、まぁ問題は無いだろう。調べあげたオーガヒルの地形は図にして、色々と情報を書き込んで、最終調整でもしようかね。

 

…そんなわけで、主だったメンバーを集めて最終調整ってなわけです。

 

「…とまぁ、このように調べあげたわけだ。準備が整い次第、先ほど述べた順に撃破していく予定である。全ての集団を罠に嵌めるのは難しいとは思うが、半分ぐらいは消すことが出来るだろう。そんなわけで、各々方は最後の準備を。」

 

俺は自作のオーガヒル全体図を使い、みんなに説明。それぞれの部隊長に指示を出し、海賊討伐に向けて行動開始になるわけです。大体一、二時間後に出撃でいいかね? そんなことを考えながら俺は一応、各部隊を見て回るのである。

 

弓部隊・魔法部隊・白兵部隊…良い感じではないか。流石は歴戦の傭兵達、見ただけで確信出来るわ。…俺達の勝利がさ! 攻撃部隊は良いとして…、囮部隊はっと。

 

そして目にしたのが…、見目麗しい女傭兵の方々だった。非武装で一般人の格好をしている彼女達は、野に咲く花と言ったところか。可憐じゃないか! 俺っちのテンションも、自ずと上がっちゃうよ!

 

「…なんていうか、たまにこういうのもいいかもねぇ。私達も女なんだって、認識出来るよ! アハハハハ!」

 

とか言って、エプロンドレスのレイミアさんは満更でもない様子。他の方々も互いに指を指して、キャッキャと喜んでいますな! これは食い付きますよ、海賊のバカ助共は!

 

「エシャル殿、俺はいらないのでは…?」

 

そんな彼女達に混ざって、行商人風姿のホリン。自分は場違いなのでは…? といった感じだ。

 

「…ホリンは彼女達の主って設定だよ。女だけより、男がいるってのが現実味あるじゃん? 戦う商人ってことだから、多少は戦ってもいいぞ。やり過ぎは駄目だけどな! 追っ手をいなす役目ってことだね。色々な経験は大事だぞホリン、これも修行の一つだ。」

 

ホリンは釈然としない感じだが、そんなこたーどうでもいい。重要なのは海賊の食い付き度だ。まぁ俺も食い付く程の女性陣だ、海賊共も余裕で襲ってくるだろう。成功する様しか想像出来んな! わははははは!

 

 

 

 

 

…準備は整った、…レスキュー戦法大作戦の実行といこうじゃないか! 行くぜぇ野郎共! …ってなわけで、行動開始でやんす。因みにディアドラは、後方支援の回復役なんで安全です!




次回は一応、戦いになります。

あっさり終わりそうな予感が。


・・・にしても、最近暑いっすね?夏が嫌いな俺には辛い。


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第24話 ~レスキュー戦法大作戦

仕事もあるし、『なろう』の方も考えなきゃならん。

こちらへの投稿は遅くなるかと。

まぁ何はともあれ、久しぶりです。


ー海賊ー

 

「がぁぁぁぁぁっ! クソがぁっ!!」

 

なんなんだよあの傭兵共は! アイツらのせいで、暴れることが出来やしねぇ! 完全に、俺らと街を分断していやがる! アイツらを突破しない限り、獲物にありつくことが出来ねぇ…! 攻めて来てくれりゃあ、勝ち目があるってもんだが守りに徹していやがる。しかも一人一人が強者、突破するどころかこっちの被害の方がデケェ…! クソゥ…!!

 

俺達に協力を求めてきやがったガザックの野郎、奴とも連絡が取れやしねぇ。何していやがるんだアイツは! 他の連中も俺達と同じように、攻めあぐねて苛ついていることだろう。なんせ無抵抗なゴミを殺せねぇし、お宝は手に入らねぇし、女は犯せねぇんだからな! こんなことなら、あの女…殺すんじゃなかったぜ。新しい女が手に入るとばかり思っていたからよ、犯りながらぶっ殺しちまったけど・・・勿体ねぇ。あ~…!! むしゃくしゃするぜコンチクショー!!

 

 

 

 

 

そんなモヤモヤの中で、朗報が飛び込んできやがった!

 

「間違いねぇのか! 本当にいたんだな!!」

 

「間違いありやせん! 女が5、6人いやしたし、男も1人だけですぜ! ありゃあ…商人ですぜ! 女とお宝が手に入りやす!」

 

女が5、6人にお宝か…。ここらが荒れていることを知らねぇってことは、他国の商人だろう。…ここで逃したら、この先また、禁欲生活になっちまう。それにイライラが溜まっちまうからな、…襲うしかねぇだろうな!

 

「よっしゃお前ら! その商人を襲おうじゃねぇか! ただ襲うだけじゃあツマらねぇからな、獣を追うように狩ろうじゃねぇか! 楽しんで行こうや!!」

 

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 

楽しみだなぁ~…オイ! 子分達もやる気に満ちていやがるし、俺も俄然…やる気だぜ!

 

 

 

 

 

ーホリンー

 

なるべく素人っぽく走っているが、エシャル殿の言うように鍛練になるな。何も考えずにただ走る、体の重心やら足運びやらを考えずに。それだけで、こうも負担が掛かるとはな。忘れていた感覚だ。

 

「死にやがれ!」

 

海賊の一撃を受け流しながらの逃走、手を抜いているからか一苦労する。いつもは一撃必殺、一瞬で倒すのだが。…なるほど、相手をいなすということは、こうも難しいものなのか。そして…、相手の殺意を受け続ける。それが、ここまで辛いものだとは思わなかった。この状況下で、相手を倒さずに逃げながら誘導する。相手は欲望の中で襲撃をしてきて、俺にいなされ続けている為に苛立ちと殺意が凄まじい。……正直、しんどい。

 

俺達は走る、先頭を走るのはレイミア殿。彼女が目的地までの道案内、俺達は彼女を追い掛けるだけでいい。…いや、彼女達は…か。俺だけ殿、先ほどから殺意を浴びまくっている。…まだ、目的地に着かないのだろうか? 体力的に問題ないが、精神的に問題ありなのだ。本当にしんどい、…俺の少し先を走る傭兵のクーさんは、

 

「ひぃぃぃぃぃっ!!」

 

半泣きで走っている。彼女は剣を持たせれば、隼の如しと言われる程の剣士だ。そんな彼女が半泣きなのである。丸腰で殺意を浴びるということは、腕利きの傭兵でもしんどいのだ。しかも、掴まれば犯され殺される。…そりゃあ、…半泣きにもなる。

 

斧がかすっても、矢が刺さろうとも、俺達は走ることが出来る。痛いと思う前に、傷が治るからだ。海賊達はそれで、更に殺気立つ。思い通りにいかないからだろう、ムキになって追ってくる。…それよりも気になることがある。矢が刺さったままの状態で傷が治っているのだが、…この矢はどうするのだろうか? …全てが終わった後にも戦いがあるということか、…しんどい。今になって思う、エシャル殿は鬼師匠であると。

 

色々と考えながらいなし、走る俺だがそろそろ限界が近付いてきている。精神に負担が掛かると、こうも体力を消費してしまうのか。これも修行…、エシャル殿の言葉が良く分かる。だが俺は最後まで…! そう思った時、俺の前を走っていた彼女達が足を止めた。俺も足を止めレイミア殿を見ると、彼女はニヤリと笑った。やっと目的地に着いたというわけか、…安堵のため息が漏れる。そして…、俺達に海賊達が追い付いた。

 

 

 

 

 

ー海賊ー

 

俺達は、商人らしき男の馬車を襲った。しかし、その男は剣術の心得があるらしく、激しく抵抗してきやがった! その隙を突いて、馬車の中に隠れていやがった女達が逃げ出した。抵抗していた男も、女達の後を追って逃げやがった。…まぁいい、当初の目的通りに行こうか!

 

「野郎共! あの行き止まりまで追い込むぞ! 楽しい楽しい狩りの始まりだ、男は途中でぶっ殺しても構わねぇ! だが、女達は殺すんじゃねぇぞ! …いいなぁ!!」

 

ギャハハハハハ! 楽しませてもらうぜぇ~!!

 

奴らを追い込みつつも、攻撃をしまくっているんだが、

 

「商人の癖にしぶとい奴だ!」

 

女達を逃がす為に一番後ろを走る男、コイツが凄まじくしぶとい。俺らの攻撃を紙一重で避けながら、反撃してきやがる。素人みてぇな奴だが、なかなか出来る奴みたいだな。それに攻撃が奴に当たったとしても、奴は平然と逃げ続けている。斧がかすったとしても、その傷は消えていく。矢が刺さっても、痛がることもせずに走る。…なんなんだ? コイツは!? 何か細工をしているんじゃねぇか?

 

そんな奇っ怪な奴に苛立ちながらも、順調に追い込んでいく。奴らは俺達が追い込もうとしている場所へ、自ら逃げていく。ギャハハハハハ! 馬鹿な奴らだなぁ、自分達から死地に向かっていくなんてよ! 楽でいいぜ、楽しめるしよぉ~!! それにあの男、そう簡単に死なねぇみたいだし。いたぶる楽しみもあるなんてよ、俺達はツイているみたいだなぁ!

 

 

 

 

 

「…追い詰めたぜ? お前らの未来は俺達の慰み者決定だなぁ! 覚悟しろやぁ!!」

 

もう逃げられねぇぜ? 袋のネズミってわけだ。あの奇っ怪な男も、数の暴力の前では無力。奴を弄んで殺した後は、女達を・・・グヘヘヘヘヘ!

 

「かかれぇぇぇぇぇっ!!」

 

「「「「ヒャッハァ~ッ!!!」」」」

 

子分達が一斉に襲い掛かる、…終わったなぁ~!!

 

 

 

 

 

……終わったと思った瞬間、子分達の斧が、矢が、空を裂いた。…空を裂いたんだ。…断末魔の悲鳴は? ……男が消えた!? …女達もいねぇ! …最初からいなかったかのように、俺達の前には岩肌があるだけ。…何がどうなっていやがるんだ!? 先ほどの勢いは消え、俺も子分も混乱する。俺達は…化物にでも、化かされちまったのか?

 

そんな混乱中の最中…、

 

「うぎゃあああああああああっ!!」

 

突然、子分の一人が燃え始めた。な…何が!? そして…、

 

ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!

 

左右の茂みから、矢が飛んでくる。矢と同時に、炎やら雷が俺達に襲い掛かる。

 

「ぎゃあっ!」

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!」

 

「いてぇ…! いてぇよぉ~…!!」

 

「ひぃぃぃぃぃっ!」

 

子分達が次々と討ち取られていく、一体…何が起きていやがる!

 

突然の襲撃に浮き足立つ俺達に、更なる追撃が…! 茂みから傭兵達が飛び出してきた。さっきの襲撃で負傷している子分達が、更に討ち取られていく。……追い込んでいたつもりが、誘い込まれていたってことか!? じゃあ…あの男は、あの女達は! 俺は狼狽え、立ち竦んでしまう。…子分達が殺られていく様を見ながら、…俺の視界は闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

「わははははは! どうよヴォルツ、成功も成功、大成功じゃね?」

 

「流石はエシャル、俺達の圧倒的勝利じゃねぇか。そして俺はペガサスに乗っている…、ロマンだぜ。」

 

俺はスコルにヴォルツと乗って、ホリンにレイミアさん達を支援しつつ、後を追っていた。ホリン達をレスキューで救出した後、上空からファイアーで賊を燃やし合図をした。そして…、眼下に広がる一方的な蹂躙劇。いやぁ~、勝利って素晴らしいね!

 

それにしても海賊達はバカだね、ホント。普通に考えれば、こんな所に商人なんざ通りかからんよ。他国にも知られているらしいじゃん、危険地域ってさ。…まぁ、俺は知らなかったけど。手を抜いているけど、あんなに強い商人もいなければ、女達もいない。逃げ足が無駄に早い商人達なんざいるかよ。

 

まぁ、この調子で幾つかの海賊達は殺れるだろうな。この作戦に引っ掛からない奴等は、そこそこ頭が良い。頭の良い海賊達は放って置いて、馬鹿な海賊達から駆逐だぜ。

 

…っと、レスキューで救出したホリン達を忘れていた。早く戻らないと、嫌みを言われちまう。…なんでヴォルツと二人なの? ってか? それはアレだよ、ヴォルツが乗りたいと言ったからだよ。薄い本も厚くなるなんて言うなよ? マジで…。




次回はたぶん、誰かが出るかな?

投稿は、いつになるかは不明です。



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第25話 ~海賊掃討に向けて

『なろう』でも言いましたが、最近・・・疲労困憊。考えるのがツラいぜ。


ーエシャルー

 

レスキュー戦法大作戦を何度か繰り返した結果、6つの海賊集団を討伐出来ました! 奴等はアホですね、こんな単純な囮作戦に引っ掛かるなんてさ! 何度も言うけど、こんな所に女連れで商人なんか来るかってーの。溜まりに溜まった欲を、吐き出すことしか頭にないゴミ共めが! ざまぁ~ねぇってのはこのことだな!

 

そういうこって、他の集団は引っ掛かりませんぞ。そこそこ頭の良い奴がいるんでしょうな、まぁ…滅しますけど。俺の調べあげた集団の中で、他と離れた場所にたむろう奴等。そいつらをターゲットに、ワープを使って奇襲殲滅。この作戦で4つの海賊集団を討伐したことで、残りは後8つの集団かな? よく分からんけど、半数以上は討伐したわけさ。

 

快進撃が続いたけど、残りはわりと近場で屯っている。団結して襲撃してきそうではあるが故、こちらも団結を改めてし直し、一気に進軍するのが吉とみた! 目標はオーガヒル城、ここらの海賊のまとめ役…首領が住まう城。ここを落とすことが出来たのなら、オーガヒルの海賊は壊滅するだろう。

 

…因みに、討伐した奴等の残党はいませんよ? 殺り尽くしていますからね。故に今回も、殺り尽くす予定ではある。現在確認されている海賊共は、全て滅殺さ!! …例外はありますがね。

 

 

 

 

 

いつものように会議をする俺達。

 

「オーガヒル城攻略は、ヴォルツ傭兵旅団とレイミア傭兵隊で頼む。突貫せずに正攻法で攻めれば、負けることなく城まではいける筈。油断大敵、無理に城を落とさずとも良い。俺とディアドラ、そしてホリン。本国から助っ人として連れてきたカナッツ君の小隊は、このままマディノの港街で待機する。」

 

と主要メンバーにそう告げる。その言葉に疑問を持ったのだろう、レイミアさんが、

 

「エシャルは私達と共に攻めないのかい? 共に攻めて、直ぐ様殲滅するのかと思ったんだけどねぇ。…残るのには、何か理由でもあるのかい?」

 

と聞いてきた。勿論、残るのには理由がありますよ。

 

「残った集団は、今までの奴等よりは賢しい奴等だろうからな。殆んどの戦力が城攻めとはいえ出払ったのなら、この隙に街を攻める…なんてこともあり得る。その保険に俺達が残るってわけだ。

 

まぁ…俺の情報によると、街を攻めるってーのが有力だな。オーガヒル城にいる首領はどちらかというと義賊の類、他の集団にとっちゃあ邪魔者。首領が戦死して街を落とせたのなら、奴等にとっちゃあ良いことずくめってね。」

 

と理由を言う。それを聞いたレイミアさんは、心配になったんだろう。

 

「それを聞くと、積極的に攻めなくても良いってことだね?私達からしてみれば、楽っちゃあ楽だけど。…少人数で大丈夫なのかい? 少しぐらい戦力を残しても良いんだよ? クーあたりとかをさ。特にディアドラが心配で仕方がないよ…。」

 

めっちゃディアドラを心配している。分かりますよレイミアさん、ディアドラは可愛いもんね! 俺達のマスコットですから。…しかし心配無用! ディアドラは絶対に守りますから!

 

「街とディアドラは絶対死守! やらせはせんよ! 傍にホリンを護衛に置くし、カナッツ君達は俺の弟子みたいなもんで強い。それにこの俺がいる、…弱者を獲物にするゴミクズ共は俺が燃やし尽くしてくれるわ! 今回の作戦で悪しき海賊共は根絶やしに! ぬははははは!!」

 

高笑いをする俺にベオウルフが、

 

「…レスキューとリブローが殆んどだったからな、戦いたいんだろうさ。…それに、オーガヒル城の首領だっけか? 一応義賊みたいだし、交渉の余地ありってことだろうな。……思う所はあるが、絶対に死守しろよエシャル。お前を信じて俺達は城攻めをするぜ、絶対死守だからな!」

 

流石はベオウルフ、分かっているじゃないか! 裏方ばかりじゃあツマらんからな! 言われなくとも全力で殺るぜ、ゴミクズに容赦等必要ないからな。率先してこの俺が、先陣切って燃やす!

 

 

 

 

 

んなわけで各々、準備を整えるってわけよ。ヴォルツ達はオーガヒル城攻略の準備、城攻めはなかなか経験出来るものではないみたいだからな、やる気満々ですよ彼等は。今回の依頼は港街からだったんだけど、マディノ城城主からの依頼に変わった。最初は様子見程度だったようだが、快進撃を続けている為に勝ち馬に乗ろうと考えたようだ。

 

まぁ…依頼金がはね上がったから、ヴォルツ達も俺もありがたいの一言ですな! 俺は特にいらんけど、助っ人カナッツ君達にやる金が増えるから本当にありがたい。

 

んで俺達は、

 

「ディアドラは極力後方支援な、まぁでもちょっとは戦ってもいいか。経験を積む為にな、…だがしかし、前に出過ぎちゃ駄目だから。ホリンはそんなディアドラの護衛、傷はまぁ戦い故に仕方ないとしても、痕が残るような傷をディアドラに負わせるなよ! 大怪我を負わせたら…、ぶち殺すからな!」

 

「…マジですか!? …俺の命に代えても、ディアドラは守ります! …これも修行だよな?」

 

俺のマジな目を見て、ホリンはディアドラ死守を…。

 

「足を引っ張らないように頑張ります! …ホリンさん、あの…よろしくお願いしますね?」

 

「…我が命に代えても、貴女を守る! 心配無用だぞ、ディアドラ!!」

 

ふんす! と気合いを入れるポーズから、上目遣いでのお願いコンボ。ホリンは顔を赤くして、絶対死守を決意する。…無自覚にホリンをオトすとは、…ディアドラ、…恐ろしい娘! だが、ディアドラはやらんぞ! 彼女が欲しければ、この俺を倒さなくてはな!

 

…とまぁその後、ディアドラとホリンを弄った。何故かディアドラに光の剣でド突かれた、…解せぬ。それはいいとして、助っ人カナッツ君達にも指示をする。

 

「カナッツ君達は街の防衛に全力を尽くしてくれ、攻めることは考えなくてもいい。極力、街の被害は軽微に抑えてくれるとありがたい。会う度に言ってはいるが、無理はするなよ。命は大事に…だぞ。トラバントから借りた貴重な戦力なんだからな、…分かったな。」

 

毎度毎度同じ事を言ってしまう俺、仲良くなった奴には極力死んでほしくはないからな。出来る限り生きて、共に先へ進みたいじゃん? 俺のモットーね、俺の救える命は救う! ってーのがさ。まぁそれでも無理なものはあると思うけど…、それでも…ね。

 

「言われなくとも心得ていますよ、エシャル将軍。我らはトラキア兵ではありますが傭兵でもあります、無謀なことは致しません。生きてこそが傭兵であると、それがトラキアの教えですので。それに我らはエシャル将軍により鍛えられた精兵、海賊如きに遅れを取るなどあり得ません。…勿論、油断も致しません。」

 

流石はカナッツ君、次代を担う男よ! これは安心だねぃ、後顧の憂いなしで殺れますな!

 

 

 

 

 

ヴォルツ傭兵旅団とレイミア傭兵隊は、オーガヒル城攻略に向けて進軍していった。歴戦の傭兵達が攻城戦をするんだ、敵さんは慌ててるだろうさ。そんなまさか…、攻めてくるなんてってな。しかも、子分達の数も少ないってーのもあると思うし。

 

先ほど単独飛行で確認したから間違いない、オーガヒルの首領…義賊系の海賊は捨て石。俺達の本命である反逆海賊集団はここに向かっている、自分達の策が成功したと信じて。傭兵達が城を攻略している内に、手薄の街を蹂躙し支配する。そしてそのままオーガヒル城に向けて進軍、挟撃をして傭兵達を殲滅。そのままの勢いでオーガヒル城の元仲間を手にかけ、オーガヒルを完全支配って考えだろう。

 

実に愚かな策ではなかろうか? 街を壊滅なんかにしてしまったら、アグストリアが、マディノが黙っちゃいないだろうに。討伐軍が編成されて、瞬殺されること間違いなし。一瞬の天下ってわけだ、…一瞬でも良い夢が見れるんだからいいのかね? まぁ…どのみち、そんな未来なんか来る筈もなし! この俺が、俺達が食らい尽くすんだからな!

 

ぶっちゃけ、海賊共がこのような動きをするように誘導したんだけどね。わざと情報を流したりとか、…色々とね。少しは賢しい奴等かも知れないが、欲望と野心の前には能無しになるってことだ。所詮は、海賊という名のゴミ共。愚か者の集まりさ。

 

…願うなら、オーガヒル城にいる義賊系の海賊達。流れを読める者がいればいい、…そうすればオーガヒルも生き残ることが出来るってもんだ。…っと、グダグダ考えている暇はないか、

 

「…愚かなる海賊共の進軍が確認された、我らトラキアの名にかけて、我らトラキアの名をアグストリアに轟かせるぞ! …その為にはこの港街、死守するぞ! 諸君、警戒を厳となし…襲撃に備えよ!」

 

さぁ…戦いの始まりだ! ヴォルツ達の背後は俺達が守る!

 

 

 

 

 

ーパメラ・アイーダー

 

一方その頃、天馬騎士が空を舞う。

 

「現在マディノ周辺では、傭兵達が海賊討伐に動いている。その中に、エシャル殿もおられるかと。…これより、危険区域に入る。アイーダ殿、振り落とされぬようきちんと掴まってくれ。」

 

「申し訳ありません、パメラ殿。このような危険行動を貴女にさせてしまって…。」

 

「気にする必要はない、…これもエシャル殿の為になると思ったまで。…それに伴うことで、心配もしてはいる。」

 

「……申し訳ありません、それでも…私は…。」

 

二人乗りの天馬が、シレジアからマディノへと向かっていた。

 

 

 

 

 

ーエルトシャン・イーヴー

 

そして、マディノの南方から二人の騎士が爆走している。

 

「今日中にマディノへ着くようにしなければ! 俺のエシャルが、俺の到着を待っている!」

 

「ど…どこからその元気が出てくるのでしょうか!? 2週間近く走り続けたのに…! 政務もきっと、恐ろしい程に溜まっているというのに…! グラーニェ樣…! エヴァ、アルヴァ…! ブラギ神よ、私をお守りください…!」

 

猛る一国の王と付き従う騎士。王は愛しき者へと想いを馳せ、騎士は後に待つ政務地獄に青くなる。

 

 

 

 

 

ーレクスヴァー

 

最後に、一人の旅人がマディノ城へと辿り着いた。

 

「情報によると、この近くにある港街にあの方がいる。」

 

この地にて戦うトラキアの将軍、彼の者の正体をこの目で見る為に。情報を信じて…、

 

「エシャル様…。」

 

旅人は港街へと向かう、忠誠を誓った主君の為に、そして姫様達の為に…。

 

 

 

 

 

エシャルの過去を知る者達がマディノに終結する。その者達と出会った時、エシャルは何を想うか。記憶の扉は開くのだろうか…?




ディアドラとホリンのフラグを立てておきました。


エシャルとくっつかない場合の為にね。因みに、ディアドラとガンドルフのフラグも立っていますよ。


さて、どうしたものか。とりあえず、次回は閑話を予定しとります。



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閑話 ~それぞれの道《アイーダ》

頭が多少でも回っている内に・・・ってヤツです。


ーアイーダー

 

アルヴィス様から言い渡された突然の暇、出仕を控えるようにと言われた私は空の下。そう…空の下なのだ、私は旅をしている。目的のある旅、…私にはどうしても会いたい方がいる。3年程前から名を響かせているトラキアの将軍エシャル、彼に会うのがこの旅の目的。旅と言っても、そう遠くはないシレジアへの旅。会いたいエシャル将軍は現在、シレジアにて活躍をしているという情報を信じて。

 

今までは、ヴェルトマー公爵領内での活動が多かった。故に、一人での旅は初めてのこと。情報として書類等でしか知らなかったものが、私自身の目と身体で見て体感することが出来ている。それは新鮮で楽しくもあったが、…出来る限り遭遇したくない者達とも鉢合わせる。言わずとも察してもらえると思うが、…賊の類である。女の一人旅というのは、良い獲物と捉えられるのだろう。

 

しかし、相手が悪かったとしか言いようがない。この私が、賊如きに遅れを取るなんてことはあり得ないからだ。襲い掛かってきた賊達は、私の炎で消炭にした。…私に触れていいのは、あの方だけだ。…もう少しで会える、…エシャル様。まだエシャル様だと決まってはいないけれど、…きっとそうであると、…私は思っている。

 

 

 

 

 

エシャル様への想いを募らせながらの旅路、私は遂に目的地へと辿り着いた。ヴェルトマー公爵領からシレジアまではそう遠くはない、…ないのだが色々とありすぎた。

 

先ほども述べたと思うが、賊に何度も襲われた。苦戦することもなく燃やし尽くしたが、襲撃が少しばかり多いのでは? と思った。外をあまり出歩かず、書類に目を通すだけの生活が多かった私には、思いの外…世が乱れていると思った。アズムール王とクルト王子の治世を否定するつもりはないが、由々しき事態である。折角の旅であるのだから見聞を広めるのも良いかと思い、シレジアへ向かう途中にある村々に足を運んだりした。

 

シレジアへと進むにつれ、景色が変わっていき銀世界へ。シレジア…、シレジア王国内へと進む。それは過酷な道であった、…私にとって地獄であったと言ってもいいだろう。見回せど見回せど一面…白の世界、方向感覚が狂いそうになる。雪を掻き分けて進む道は寒くて辛い、その途中で何度か吹雪に遭遇して死にかける。その度に運良く、洞穴を見付けてはそこで暖を取る。

 

そんな死と隣り合わせの道でも、弱音を吐かずに歩を進めることが出来た。それはきっと、エシャル様に会う為にと自身を奮い立たせていたからだろう。エシャル様への想いが止まらない、想いが募っていくばかり…。そして今、目的地のシレジア城へ。あぁ…エシャル様、貴方はこの城に居られるのですか?

 

 

 

 

 

……シレジア城を訪問した結果、エシャル様は既にシレジアを去っていた。…エシャル様に会えると思っていた私には、かなりの痛手だ。不覚ながらも呆然としてしまった、…そんな私に、

 

「エシャル様はトラキア王国からの任務で、アグストリア諸公連合のマディノに居られると思います、…あのエシャル様と思い至って会いに来られたのですか? …ヴェルトマーの魔女、アイーダ様。」

 

「……!!」

 

そう声を掛けられ、咄嗟にその場から飛び退く。そして声の主に視線を向けると、

 

「あらあら…、それでは肯定と取られてしまいますよ? どのような問いにも動じぬ心を持たなくては、この先…苦労しますよアイーダ様。」

 

にこやかな笑顔で私に苦言を言う女性、……シレジア王妃のラーナ様では!? 直接顔を合わせたことはないが、遠目で何度か拝見したことがある。だがしかし、何故この場に…、私に声を掛けてきたのだろうか?

 

「うふふ…、驚いていますね? 結構なことです。…理由は簡単ですよ? 貴女がヴェルトマー公爵家の者で、エシャル様の関係者であると予想したからです。エシャル様関係でなければ、彼の公爵家に連なる者がこのシレジア王国に来る筈がありませんものね? …そうでしょう、…アイーダ様?」

 

上品に笑うラーナ様を前に、私は久方ぶりに恐怖した。全てを見透かすような目、今更…正体を偽るというのは愚策に等しい。

 

「…ご慧眼、恐れ入ります。ご察しの通り、ヴェルトマーのアイーダです。唐突の訪問に対し、ラーナ様にお目通りになるとは思いもよりませんでした。」

 

「こう見えて、私は身軽ですからね。…そう、色々と身軽なんですよ?」

 

……色々と身軽。対シレジア王国への外交には、注意せねばならない。…と言っても、再びその立場へ戻れるかは分からないが。

 

 

 

 

 

会いたいと想う気持ちが強かったが為、どちらかというと軽い感じでシレジアまで来たのだが…、まさかこのようなことになるなんて。ラーナ様と謁見、…対面しての会話をすることになるとは思わなかった。そして…、

 

「…エシャル様は、過去のことを忘れています。思い出そうともせずに、今のお立場での生活を大切にしていますよ。…ですが、アイーダ様としては思い出してもらいたいのですね?」

 

ラーナ様との会話にて、現在のエシャル様のことを知ることが出来た。書類での情報ではない生の情報、私は内心で歓喜した。歓喜と共に絶望も少ししたが…、エシャル様に憧れ慕う女性が多いとのことで。特に天馬騎士の隊長格であるパメラ殿、マーニャ殿とはなかなかに深い仲だとか…。

 

そのことに動揺し、今しがたのラーナ様の言葉にも改めて、考えてしまう。それと同時に、やはりエシャル様である可能性が高いと思った。ラーナ様の言葉から、記憶がないということから、別人であるとは考えにくいと私自身が思う故に…。

 

私の知るエシャル様だと思うと共に、内心ではかなり動揺してしまう。…予想通りではあるが、過去を忘れているエシャル様。それはいい、あの日のことは私もあまり思い出したくはない。当事者であるエシャル様はなおのこと、無意識の内に思い出したくないと思うのは当たり前だ。

 

…でも、思い出そうとしていない。そのことが、私の心に突き刺さる。エシャル様は私のことを忘れていて、思い出そうとしてくれていない。…何故? …私はこんなにもエシャル様を想っているのに。エシャル様の心が分からないけれど、思い出そうとしてくれていないことに心が痛んだ。

 

「…アイーダ様は思い出してもらいたいのよね? …当たり前ね、…忘れられるのは辛いもの。共に過ごした時間が長ければ、なおのこと辛いわよね?」

 

ラーナ様の言うように辛い、エシャル様の記憶に私がいないことが辛い…。

 

「エシャル様も、思い出したくないわけではないのですよ? …彼自身にとっても大切なんですからね。苦渋の決断、…だったみたいなのですから。」

 

…苦渋の決断? …思い出さないことに決断が、…思い出に決断が必要なのだろうか?

 

 

 

 

 

疑問に思った私だが、ラーナ様の言葉にハッとした。

 

「先ほども言いましたが、エシャル様は今の生活を大切にしています。過去を思い出すということは、あの事件のことも少なからず思い出すということ。それがどのような結果を及ぼすのか、エシャル様はそのことを恐れています。今の生活に影響を及ぼすということを、彼は本当に恐れているのです。…アイーダ様、今のエシャル様はトラキアの将軍、…トラキアの重鎮なのです。…お分かりですね?」

 

…忘れていた、エシャル様は以前のエシャル様ではない。トラキアの将軍、『トラキアの黒刃』エシャル将軍なのだ。分かっていた筈なのに、知っていた筈なのに、私という女は…自分のことばかり。今のエシャル様には… 、エシャル様の生活がある。思い出すことにより、それが壊れたら…。

 

「私に、それを壊す覚悟があるのだろうか…?」

 

私は考えなければならない、私の往く道を…。

 

 

 

 

 

あの後…私はラーナ様のご厚意で、シレジア城の客間に泊めてもらえることになった。その客間にて私は、エシャル様のことを考えている。アルヴィス様とアゼル様、エシャル様とで笑いあっていたあの頃。傍で見ていた私に、フリージ公爵家のティルテュ様にエスニャ様。楽しかったあの日々は…、楽しかったあの日々をエシャル様は忘れている。あの事件が起きて…、あの事件のことも忘れている。それは悲しいことではあるけれど、仕方のないことだと分かっている。

 

…そして今のエシャル様は、トラキアの重鎮。コノート・マンスター連合軍を壊滅に追いやり、ミーズを…トラキア王国を守った英雄。そしてトラキア王国の改革に力を注ぎ、ヴェルダン王国・トラキア王国の同盟にも尽力した。シレジア王国では、特に軍務についてその能力を発揮。自身も天馬騎士となり、シレジア軍の軍事力を上げていった。

 

ヴェルダン王国・トラキア王国・シレジア王国での交友関係も広く、傭兵とも好誼を交わす。妹のように可愛がる娘もいるらしく、今の生活がとても充実していると、話を聞くことにより分かった。…エシャル様は過去を知らずとも、前へと進み今を輝いて生きている。そんなエシャル様を、私は過去に引き戻してもいいのだろうか?

 

もし万が一、私と顔を合わせることで今を壊してしまったら…。思い出と共に過去がエシャル様を苦しめたら…、私自身が拒絶されたら…。同じことを考え続けてしまう、…苦しい。エシャル様との再会を望みここまで来たけれど、こんなにも辛く苦しいものだったなんて。浅はかな私自身を軽蔑する…。

 

 

 

 

 

それから暫く、シレジア城にて世話になった。エシャル様のことで悩む私に、ラーナ様が気に掛けてくれたのだ。その生活の中で、エシャル様と深い仲であると言われているパメラ殿と知り合った。話をしてみると良い方で、まだ…そのような仲には発展していないようだ。

 

まだということは、いずれはそういう仲になりたいと思っている筈。そこについては警戒せねばならない、そちらの方はパメラ殿の方が有利であろう。私としても、エシャル様とは深い仲であると言いたいことではあるのだが、それは私の中でだけのことであって、エシャル様は忘れているのだから。またチクリと、心が痛んだ。

 

パメラ殿と知り合ってから、日に日にエシャル様への想いが高まっていく。パメラ殿から、他の方々から、エシャル様の話を聞く度に苦しくなる。私にだって、貴女達の知らないエシャル様を知っている! …と。

 

そんな日々を過ごしていく中で、私は遂に決意する。やはりエシャル様に会って、ヴェルトマーのエシャル様であると、この目で確かめたい。そう…思ったのだ。それで何が起きるのか分からない、分からないが私は会う。どのような結果になろうとも、私は前に進む。進んだ上で、苦しんだ方がマシだ。自分勝手なことだと自覚はしているけど、私自身を否定したくはないから…。エシャル様…、貴方の幸せを壊してしまうかもしれません。愚かな女である私をお許しください…。

 

 

 

 

 

導いた決意が揺るがぬ内に、ラーナ様へとその想いを伝える。ラーナ様は、

 

「その結果が、エシャル様を苦しめることになっても会うつもりですか? その幸せを壊してしまうかもしれない、それでも会うというのですか? アイーダ様…。」

 

真剣な眼差しが私に突き刺さるが、

 

「…はい! …それでも私は、エシャル様に会いたい、思い出してもらいたい。どのようなことになっても、エシャル様と私には必要なことだと思います。不意に何かのきっかけで思い出すよりは、私という存在で思い出してもらった方が良いかと思います。…私はそう考えます。」

 

私はそう返した。暫くの間、沈黙が続き…、

 

「…アイーダ様はそう思い至ったわけですね? …分かりました、ならば私からは何も言いません。これはヴェルトマー公爵家とエシャル様の問題ですからね、そう決めたのなら止めはしません。エシャル様の所属しているトラキア王国、…トラバント王もいずれはこのようなことになると、予測はしているでしょう。事が済み次第、トラバント王へご挨拶をしに行かなくてはいけませんよ、アイーダ様。…それとパメラ。」

 

「はっ!」

 

「アイーダ様をエシャル様の下へと送って差し上げなさい、分かりましたね?」

 

「了解致しました!」

 

ラーナ様は私の決意を聞き、助力としてパメラ殿を遣わせてくれた。

 

「…ラーナ様、ご配慮…ありがとうございます。」

 

私は、そう返すのがやっとだった…。

 

 

 

 

 

そして私はパメラ殿と共に空を舞う、空に舞いながらラーナ様の言葉を思い出す。

 

『エシャル様はシレジアとも縁の深いお方…、もし万が一にでも彼に何かがあれば…、分かりますね? アイーダ様。きっとトラキア王国のトラバント王も、ヴェルダン王国のガンドルフ王子も、同じ気持ちになる筈です。エシャル様はそれほど大切なお方なのです、…故に相応の覚悟をお持ちなさい。』

 

…改めて言われると、その覚悟が重くのし掛かる。でも私は…、進むと決めた。それに名前は挙がっていないけれど、ノディオン王国のエルトシャン王のこともある。各々の名を反芻する度に悪寒を感じるが、それでも私は……。

 

色々なことを考えながら、私はパメラ殿と共にマディノへと向かった。




次回も閑話ですね。

たぶん、次の投稿まで間が空くでしょう。

今回はたまたま、早く投稿が出来ただけです。


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閑話 ~それぞれの道《レクスヴァ》

間が空くとか言ってましたが、投稿します。

次は、間が空きます。たぶん・・・。


『なろう』の方を考えるんで。


ーレクスヴァー

 

「…今日中にマディノへと着くか。」

 

我が主命でフリージを旅立ってから幾日、目的を果たせる時が近付いた。この地での目的は、トラキアのエシャル将軍を見極めること。可能であれば接触したいと考えているが、それは極めて慎重にしなくてはならないこと。主であるレプトール様も言っておられた、強引なことはするな…と。

 

故に俺はまず…、エシャル将軍を遠目で一度見ることにしたいと考える。彼の現状を確認して、どう接触するかを考える為にだ。確認後は臨機応変に動かねばならない、…今から色々と考えなければならないのがやや億劫ではある。だが俺は見極めなければならない、エシャル将軍のことを。見極めることこそが主命であり、姫様達の幸せに繋がる可能性が極めて高いのだから。

 

…それに、あの事件のことが少しでも分かれば。…俺の勘が当たっているのなら、ロプト教団が関わっている。自らの神を盲信する狂者達が、あの事件に関わっている筈なのだ。もし…あの事件に奴等が関わっていたのなら、既に賽が投げられている可能性が高い。そうだとしたら、もう止めることが出来ないと見るべきだ。止められぬのであれば、最小限の被害に抑えるように動くまで。フリージだけでも、魔の手から守らねばならない。

 

エシャル将軍を見極めつつ、事件のことを調査する。この二つを出来る限り穏便に、問題が起きることもなく成し遂げたい。それが我が主君の願いであり、姫様達を救うことに繋がるのだから。……主命を果たせる時が近付いているからか、あの事件後のフリージを思い出す。

 

────────────────────

 

「ねぇレクス、エシャル兄様はいつ来るのかな?」

 

「…ティルテュ様、エシャル様は少なくとも後3日は来ませんよ。遣いの者がヴェルトマーへ向かったのが昨日、今日か明日には着くとしても此方へ来るには準備が必要ですので。最短で3日、最長で5日と見るべきでしょう。」

 

「…ぶぅ~! レクスは難しい言い回しなの!ティルテュ分かんない…!」

 

遣いの者がヴェルトマーへ向かってから、頻繁にこういうやり取りをティルテュ様としている。ティルテュ様はエシャル様に会える日を、今か今かと待ち焦がれている。それほどエシャル様のことがお好きなのだ、そして勿論、

 

「お兄様はエスニャとおままごとをするの。お兄様は旦那様でエスニャが若奥様なの。お姉様は使用人なのよ?」

 

エスニャ様もエシャル様のことがお好きだ、今もおままごとの配役を考えながらそわそわしている。…お二人を見ていると、心が洗われるような気がする。基本裏方の俺が姫様達の護衛も兼任している、レプトール様には感謝だな。そんなほのぼのとした光景は、この2日後…終わりを告げる。

 

 

 

 

 

…いつもの日常が突如、終わりを告げた。レプトール様の執務室に重い空気が流れる、レプトール様が沈痛な表情で遣いの者に問い掛ける。

 

「…今の話は本当なのだな? …エシャルが賊徒の襲撃で亡くなったというのは。」

 

「…間違いないかと思います。ヴェルトマーでは、エシャル様のご遺体をアルヴィス様がご確認。エシャル様であるとご確認した後、アルヴィス様がお倒れになったとのことです。後程…公式の文書にて、エシャル様の訃報が発表されることになるそうです。」

 

俺はいつもの無表情にて話を聞いているのだが、内心で動揺している。1ヶ月程前に、我がフリージにおられたエシャル様が亡くなられただと…。日々健やかに、姫様達と過ごしていたあのエシャル様が…。姫様…、ティルテュ様とエスニャ様が心配だ。大好きなお兄様が、エシャル様が亡くなられたと知ったら…。

 

驚くべき訃報をもたらした遣いの者を休ませ、執務室にはレプトール様と俺だけになった。レプトール様は、目を閉じながら天井を仰ぐ。

 

「…なんとも情けない、私も衰えたものだ。平和な時が続いていたが故に、このような事態に…。」

 

そして、苦悶の声を上げた。常に警戒し、暗闘をしてきたレプトール様。エシャル様がフリージにて生活をしていた日々が、その暗闘からレプトール様を遠ざけていた。その結果がエシャル様の死、レプトール様は己を責めている。裏方である俺も、レプトール様と同じ気持ちである。…それと同時に、フリージと姫様達だけは守ると心に決めた。

 

無言の中でレプトール様と俺は、互いの感情を発露させた。そして…、

 

「…レクスヴァ、頼めるか?」

 

レプトール様が、俺に事件の調査を命じられた。

 

「了解致しました。…しかし、この件に関しては数年越しの調査になるかと。」

 

火の無い所から突然、煙が上がったのだ。この件は、一筋縄ではいかないだろう。下手をしたら、このフリージにも飛び火しかねない程のものだ。

 

「…うむ。今回ばかりは仕方あるまい、数年越しでも構わん。それと同時に…な。」

 

調査と共に、エシャル様の安否を、行方を捜す。アルヴィス様がご確認されたとのことだが、レプトール様はエシャル様の死を信じていない。先程の無言の中で、そう結論付けたのだろう。そのような命が下されたのなら、私はそれに従うのみ。

 

そして最後に、

 

「…ティルテュとエスニャにどう伝えれば良いか、…ありのままを話すのが一番だろうか。」

 

眉間に皺を寄せ、思い悩むレプトール様。公式で亡くなられたとのことで、生きている可能性を伝えるわけにはいかない。そもそもそれは、レプトール様の勘であり願望でもあるのだから。故に、亡くなられたことを伝えるのが一番良い。……姫様達は堪えられるだろうか?

 

 

 

 

 

結果として、姫様達は泣き喚いてしまった。エシャル様の死が、受け入れられずに…。俺を含めた使用人達は、ただただ慰めるだけ。それ以外、出来る筈もない。悲しみの中で壊れてしまわないように、俺達には見守ることしか出来ない。

 

エシャル様の死が公式で発表され幾日、姫様達はやっと落ち着かれた。悲しみは癒えていないようだが、一先ずは安心だろう。後は手助け等をしながら、見守り続ければ良いだろう。少しずつ…エシャル様の死を受け入れてもらい、日常生活へと戻ってもらいたい。

 

…姫様達のことは、他の者達に任せても良い頃合いだな。俺はレプトール様の主命に従い、事件の調査とエシャル様の行方を捜す。数年越しの任務故に、俺の暇も無くなるだろう。だが、たまには姫様達の様子を見守るということを許して欲しい。…元になったとはいえ、俺は姫様達の護衛だったのだから。

 

 

 

 

 

事件の調査とエシャル様の行方を捜して数年、この間に色々と進展した。事件については謎が多すぎるわけなのだが、分かったことがある。

 

事件の数日前に、アグストリア諸公連合・アグスティ王イムカ様の一行がグランベルを訪れていた。グランベル国王アズムール様との会談の為に数日間、バーハラに滞在していたのだ。このことはレプトール様も知っておられることなのだが、一つだけ気になることがあった。

 

イムカ様の長子であるシャガール王子も同行していたのだが、彼の一団はあてがられた館から帰国まで、一度も外へと出てこなかったとのこと。エシャル様の死に対してイムカ様は、大いに嘆き悲しみながら帰国したのだが、シャガール王子はなんの反応もなく帰国した。そして彼の帰国後、彼の滞在していた館に勤めていた使用人達が相次いで変死、その館も取り壊された。

 

…変死した使用人達の全てが、肌が異様に白く、苦悶の表情の中で硬直し、死んでいたという。そのことを聞いた時、思い浮かんだのが闇魔法。…この事件の裏に、ロプト教団が絡んでいる可能性を見出だした。そして、シャガール王子も関わっている。明確な証拠がない故に、断言出来ないのが悔しいが…。

 

このことはまだ、レプトール様に伝えるわけにはいかない。ロプト教団が絡んでいた場合、その毒牙がフリージへと向けられる可能性がある故に。…それほど危険な集団なのだ、ロプト教団というのは。…因みに俺は大丈夫だ、下らないヘマはしないし、…ロプト教団のことはよく知っているからな。

 

 

 

 

 

エシャル様の安否と行方についてだが、これについては朗報がある。ヴェルダンからトラキア、そしてシレジア。各国でエシャルという名が広がっており、その存在が確認されている。トラキアにて将軍を拝命しており、『トラキアの黒刃』として英雄視されている。同姓同名の可能性もあるが故、俺の情報網で調査してみた。

 

その結果、『トラキアの黒刃』エシャル将軍はヴェルトマーのエシャル様である可能性が極めて高いと見る。理由としては黒刃の異名通り、常に黒き剣を帯剣している。その容姿は、獅子王と呼ばれているノディオン王エルトシャン様によく似ている。あまり知られていないというか、箝口令が敷かれているのだが、類いまれなる魔法の才を持っている。大切にしているのであろう、ペンダントを所持している。…等が挙げられる。

 

黒き剣とは、エシャル様の愛剣であるキルソード。エルトシャン様に似ているのは、エシャル様が彼の甥でヘズルの血を受け継いでいる為。魔法の才とはワープの遣い手であり、特に炎魔法に関しては他の追随を許さぬ程。ペンダントというのは、お母様の形見であり、常に肌身離さず所持していた物。

 

……情報だけでいうと、間違いなくエシャル様と言えるだろう。だがあくまで情報、ご本人であるとは言い難いのが現状である。何度か、件のエシャル将軍と会う機会はあった。…が、俺が勝手に会うのは許されるものではない故に、音も無くその場を去っていた。…会う会わないは、この情報をレプトール様のお耳に入れ、その判断を仰ぐのが最良だろう。

 

 

 

 

 

調査と行方については先に述べたことが全てだが、それ以上に気になり深刻なのが姫様達なのだ。エシャル様の死以降、姫様達は変わられた。

 

ティルテュ様は、だいぶ落ち着いた。エシャル様が亡くなられてから、今までのお転婆で悪戯好きな所はなりを潜め、勉学に魔法に、そして剣術に精を出すようになった。抜けている所がたまに出るが、今では才女として知られている。張り付いた笑顔で周囲に愛想を振り撒き、見えぬ所で努力を続けている。

 

まるでエシャル様のように、…そうエシャル様のように振る舞っているのだ。自分自身がエシャル様になろうと、なることによってエシャル様と共にいるように。俺とレプトール様は危機感を抱いている、ティルテュ様がティルテュ様でなくなる、壊れてしまわないかと。

 

エスニャ様は、元々内向的であったが…、更に磨きがかかり引きこもりになってしまった。内向的ではあったものの、以前は自分の我を通す強さがあったのだが、それがなくなってしまった。常に怯え、身近な者がいなくなることを極端に恐れる。引きこもる際も、一緒に使用人を引き込む具合だ。そして夜な夜な、エシャル様のことを、エシャル様と会話し、部屋で共に過ごしているような、そのような会話がこぼれ聞こえるという。

 

…そう、病んでしまったのだ。共にいる使用人がどうにかすれば良いのだろうが、その使用人もエスニャ様に引きずられて病んでいる。そう…彼女は、エシャル様の世話係だったのだ。…そんなエスニャ様は、病弱で部屋から出られないと噂になった。

 

何が一先ずは安心だ…だ、姫様達は止まっている。エシャル様の死から、姫様達の心は止まっているのだ。このままでは壊れてしまう、姫様達を救わねばならない。その為には、エシャル将軍がエシャル様であること。エシャル様がご健在であると、姫様達に伝えなくてはならない。この件も含めて、レプトール様の判断を…。

 

────────────────────

 

…そして今、レプトール様の主命でこの地に来た。エシャル様であると見極め、姫様達の時を進める。それがフリージにとって最善であると、俺は信じている。主命でもあるが、俺の勘もまた…そう告げている。事件のことも、この地で何かが分かる筈。出来る限り穏便に進める予定だが、何かが起きる予感がする。それは良いことなのか、悪いことなのかは分からない。分からないが、心構えはしておこう。

 

色々な想いを胸に秘め、俺はマディノの地を踏んだ。




次回も閑話。エルトシャンとイーヴになるかと。


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閑話 ~それぞれの道《エルトシャン・イーヴ》

なんというか、思い浮かんだんで。

忘れぬうちにってヤツです。

因みに『なろう』は、1,000文字ぐらいしか思い付いていません。


ーエルトシャンー

 

あの男前がエシャルか、流石は俺の甥。俺とアルヴィスの良いとこ取りじゃないか、…負けたよエシャル。お前こそが大陸一の色男だ、俺は甘んじて二番目の男になろう。エシャルの男前っぷりを称賛した為か、高ぶる気持ちを抑えることが出来ない。俺はエシャル、…エシャル将軍の下へ向かう。そう、俺とエシャルの再会だ。死んだとされるエシャルとの感動の再会、俺の望んだ瞬間…!

 

「生きて…、生きていてくれたんだなエシャル!」

 

俺はそう言いながら、エシャル将軍に近付く。俺の声を聞き、此方を見るエシャル将軍の顔が驚きに染まった。

 

「…エルト、…エルト兄様なのか!? まさかそんな…、いや…この地はアグストリア。……!? 私に会う為にわざわざマディノまで? ……エルト…兄様!!」

 

エシャル将軍が、エシャルが此方に駆け寄ってくる。やはり将軍はエシャル、俺の甥!

 

「エシャル…! 会いたかった…!!」

 

「エルト兄様…!!」

 

俺もエシャルの下へ駆け寄り、そして俺達は…。

 

 

 

 

 

ーイーヴー

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

私ことイーヴは、朝一でエルトシャン様に抱き締め…さば折りをされています。何故、私ばかりがこんな目に…。私はただ、エルトシャン様を起こそうとしただけなのに。

 

…アグストリア諸公連合の北方にあるマディノへ、噂高いトラキアのエシャル将軍が訪れる。そのような一報を受け、エルトシャン様の迷い無い選択。エシャル将軍に会うとのことで、2週間近くは馬にて駆け抜けてきました。無論ずっと駆け抜けていたわけではなく、乗り手であるエルトシャン様や私、馬を休ませる為に途中の村や街にて宿泊しつつというわけですが。勿論身分は偽っています、偽らなければ騒ぎになるのが必然ですので。

 

明日にはマディノというわけでして早目に宿を取り、鋭気を養うことにしたのですが、

 

「…なんという馬鹿力、…うぐぐっ!」

 

早目に休んだお陰で気分爽快、エルトシャン様を起こしましょうかと近付いた結果が今です。

 

「…エシャルゥ~、…俺は、…俺はぁ~…ぐぅ~…。」

 

今日中にはエシャル将軍に会える、そのせいでしょう…エシャル様の夢を見ているようです。まだエシャル様だとは分からぬのに、困った方だ…。まぁ私自身も、件の将軍がエシャル様であると思っていますがね。

 

「…軋んでいます悲鳴を上げています、…私の身体!」

 

…っとそんなことより、今この状態から脱出をせねば不名誉の死が訪れてしまいます!

 

…エルトシャン様、申し訳ありません! 主君に手を上げること等許されないことですが、こんな所で終わるわけにはいかないのです! 拘束されて動けない私は、エルトシャン様に頭突きをしました。

 

「…ぐぁっ!」

 

今の悲鳴は私ですね、…なんという石頭。流石はエルトシャン様、頭の頑丈さも一流です。一方的に傷を負っていく私ですが、拘束の緩んだ一瞬を逃しません。緩んだ隙に、エルトシャン様を背負い投げにて床に叩きつけました。今までのお返し…というわけではありませんよ?こうでもしないと起きない、…そう思ったのです。

 

………あれ程の衝撃を受けても起きないエルトシャン様、無自覚に疲労が溜まっていたのですね。暫くそっとしておきましょう、時間にはまだ余裕がありますし、私自身も回復しなくてはいけませんから。…床に放置で構わないでしょう、また捕まったら嫌ですし。

 

 

 

 

 

…2時間後、

 

「…何故か床にて寝ていた俺、…何故か身体中に鈍痛が、…解せぬ。」

 

床で目覚めたエルトシャン様は、頻りに身体の不調を訴える。それに対して私は…、

 

「後先を考えずに馬で駆け抜けた結果です、休みを挟んだとしても疲労が蓄積されていたのでしょう。エシャル様に今日会えると、…その為に気が緩んだのでしょうね。起こそうにも起きてくれず、最終的にベッドから転げ落ち…今に至ったわけです。」

 

よくもまぁ…嘘が言えますねぇ、私は。エルトシャン様もお怪我が無いようですし、大丈夫でしょう。

 

「…疲労か、…それならば仕方無い。だが、多少の疲労等…気にする必要もない。支度だ、支度を急げ!」

 

何だか腑に落ちないって顔をしておられるが、エシャル様を優先されるみたいで安心しました。

 

安心した所で、報告をしなくてはいけません。エルトシャン様が寝こけている間、マディノの近況を怪しまれないよう注意して収集していたのです。

 

「現在マディノでは傭兵達の尽力により、海賊被害が激減しているようです。多くの海賊達が討ち取られており、今日にでも海賊達の本拠地と言われているオーガヒル城に攻めいるようですね。天馬騎士を隊長とする一部隊が港街の守備を担当するようでして、その隊長こそがエシャル様であろう、トラキアの将軍です。」

 

この2時間の間にて、よくもまぁ集められたものです。私自身を褒めてやりたい、クロスナイツの諜報部隊でも設立してみましょうか? …して、エルトシャン様は、

 

「港街の守備か、一見安全そうには見えるがしかし! オーガヒルの海賊達は小賢しいと聞く。港街が攻められる可能性を否定出来ぬが故、港街の守備に対して助力をせねばなるまい。…マディノ城へと赴き、兵を借りて戦場を駆けようではないか! これはあくまで助力、傭兵達に横槍を入れるわけではない! 単純に格好いい俺をエシャルに見せたい、流石はエルト兄様だと思わせるのが要となる。故に、アグストリアの…、マディノの民達を傷付けさせるわけにはいかぬ! イーヴよ、のんびりしている暇はない! 急ぎマディノへと向かうぞ!」

 

素晴らしいことを言っておられたようだが、途中に余計なことも…。それはさておき、素早く準備を。私達が参戦すれば、被害を抑えることが出来ます。まだ襲撃に遭うかは分かりませんが、エルトシャン様の嗅覚は馬鹿に出来ませんからね。急ぎ準備をせねば、襲撃されてしまった際に遅れを取ることに繋がりかねません。それだけは避けねばなりませんよ!

 

 

 

 

 

ーエルトシャンー

 

なんやかんやでここまで来た。本来ならばもっと早くに到着出来たのだが、イーヴが『無理はいけません!』と言ってきたからな。身分を偽りつつ、休みながらここまで駆け抜けてきた。偽りつつここまで来たのだが、俺の溢れ出る男前波が色々と問題を引き寄せてきた。その度にイーヴが間に入り、解決しながら駆けてきた。うむ、イーヴを連れてきて正解だったな。アルヴァとエヴァだったら、こうはいかぬからな。…まぁそんなわけで、色々あった中でマディノへと来たのだ。

 

マディノへ到着した俺は、すぐさま城主に面会。城主は突然現れた俺に面食らっていたが、イーヴが俺の代わりに、

 

「度々オーガヒルの悪名が我らノディオンにも届いてまして、その所業許しがたいとエルトシャン様が討伐を決意したのです。本来ならばクロスナイツを率いてくるのですが、クロスナイツは大陸最強を自負しており、率いてくるとなれば諸公に要らぬ憶測を抱かせるとのことで、エルトシャン様は単身にてマディノへと駆けてきました。」

 

「エルトシャン様が単身でマディノへ!?」

 

城主は驚いている。

 

「…で提案があるのですが、このマディノの兵を少数お借り願えないでしょうか? 傭兵達が海賊討伐に動いているのは承知しています。承知しているからこそ、ここでマディノ軍として助力するのです。軍が民の為に駆けつけた、この事実が大切なのです。この事実が、城主様の名声に繋がりましょう。…あくまで助力、そしてエルトシャン様が指揮を致しますので兵の消耗も最小限。傭兵達の不興を招くことがないよう上手く率います、…如何でしょうか?」

 

…よくもまぁ口をついて出るものだ、…とりあえずイーヴに任せるとしよう。俺は苦手だからな、こういう交渉事は。イーヴならなんとかするだろうさ。

 

 

 

 

 

イーヴが交渉をまとめ、マディノから兵を借りることが出来た。まさかの騎兵300人、…50人ぐらいかな? と思っていたのだが6倍だよ。どんな交渉をしたのか気になる所が、結果が全てってことで気にしないことにした。まぁイーヴから、

 

「獅子王の異名に恥じぬ采配をお願いします、主役は傭兵達で我らは脇役ですからね。そこを間違えぬよう率いてください、エルトシャン様。無論、最小限の被害に止めるように。港街も騎兵も…、よろしいですね?」

 

調子に乗っての突撃は厳禁、あくまで補助に徹するというわけか。…クロスナイツの精鋭とは違い、まだまだ青い騎兵を率いることになる。そこの所をふまえて、海賊討伐もとい港街防衛の采配を振るわなくてはいけない。海賊がどの程度か分からぬが故、此方はゆるりと進軍。臨機応変に兵を動かすことが重要だな、…久々にたぎるな! やりようによっては、海賊達を蹂躙…、

 

「…エルトシャン様?」

 

…冷静に冷静に。主役は傭兵、即ちエシャル! 安心して戦うといいぞ、エシャルよ!

 

 

 

 

 

そんなわけで、俺を先頭にマディノ軍が出撃。…戦場にてエシャルと再会、…なんかいいな! なんとも獅子王らしいじゃないか! フフフ…エシャルよ、その目にエルト兄様の勇姿を焼き付けるといい!

 

「……もう一度、言いますか?」

 

…エシャルよ、俺の勇姿は次の機会まで待つといい!




ノディオン勢が馬鹿っぽい。

何故だろう。

次は本編ですかね。


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第26話 ~海賊掃討戦《港街マディノ防衛戦・前半戦》

今、乗っていますんで!


『なろう』も頑張るから怒らんといて!


ー海賊ー

 

港街マディノから少し離れた森の中、一人の海賊が報告に戻ってきた。

 

「傭兵の大半は目論見通り、オーガヒル城に向けて進軍しやしたぜ! 街に残るは少数のみ、俺達の方が圧倒的に有利! 数で押し込めりゃあ、為す術もなく蹂躙出来やす!」

 

それを聞いたこの森に待機する海賊の頭が、

 

「そうかいそうかい、俺達の方が有利かい。…そいつぁいい! 他の奴等にも伝えてきな、数の暴力で全てを壊し尽くそうとなぁ!」

 

「了解しやした!」

 

頭の命令により、数人の海賊達が多方面に別れて消えた。

 

「…グフフフフ! 邪魔な首領は傭兵達に消され、街は俺達の物に! その後は傭兵達を囲んで殺っちまえば、…俺達の天下だ!」

 

下品な笑みを浮かべる海賊の頭は、待機している他の海賊達に報告へ行った者達が戻ってきた後、

 

「…野郎共! これから街を強襲する! 殺せ! 壊せ! 奪え! 犯せ! 好き放題やっちまいな! 今日よりこの地は俺達の支配地だ! その為にもさっさと邪魔者を排除しようじゃねぇか!」

 

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」

 

愚かな海賊達は、この地で全てが終わることをまだ知らない…。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

「奴等…森から山から海から、各方面からこの街を目指して突撃してきます!」

 

港街の周囲に放っていた斥候が、海賊達の襲撃を知らせてきた。報告を聞くとかなりの数、やはり此方が本命のようだ。まぁ…奴等の動きは知っていたからね、防衛準備は終えている。向こうから攻めてくるなら好都合、単純に迎え撃つのみ。…作戦開始といこうかね!

 

 

 

 

 

俺は単身で、海賊達を待ち構えている。ここ港街マディノは城塞とまではいかないが、街全体をなかなかに巨大な塀で囲まれている。アグストリアでも有数の港街で、海賊等の襲撃も少なくない。街を守る為に、街の住民とマディノの領主とで建てたみたいだ。そんな街の玄関、正面大門にて奴等を待つ。

 

海賊達の主力は此方に来る筈、数で勝る奴等は一気に攻め入ってくると読んだ。他の門は幅が狭く、大人数で攻めるには向いていない。しかしこの正面大門は、馬車等も通る為に広く作られている。圧倒的な数で蹂躙せんとする奴等は、ここに押し寄せてくる筈なのだ。勿論他の門にも小隊規模で兵を配置している、狭い門故に守りやすい。まして街を守るはトラキア兵、狭く戦い難い場所は得意中の得意。

 

そして、海から攻め寄せてくるであろう奴等の足止めに対しても手は打ってある。街の住民達よりかき集めた要らぬ木材、壊れた舟等を浮かばせてある。これで足止めをして侵攻を遅らせ、その時に弓や魔法による攻撃が出来るよう配置はしてある。それにホリンにカナッツ君、補助のディアドラと中隊規模の兵と層が厚い。海より迫る奴等は、陸に上がれぬまま地獄に落ちるだろう。

 

各方面の門、海に面した港、そして街の玄関である正面大門。最も地獄に近く、生き残ることが出来ぬ場所。それは、俺のいる正面大門になるだろう。弱者を守る圧倒的強者であるこの俺が、生きる価値の無いゴミ共を粛正の炎で浄化してくれよう。俺は嫌いなんだよ、目の前で無抵抗のまま死に往く者を見るのが! そして、それを愉悦の表情で行う奴等を見るのが! あの時の俺ではない、…俺ではないのだ!

 

……一瞬、ほんの一瞬、俺の脳裏にある光景が浮かび上がり、そして消えた。…堂々と白昼夢を見るとは、俺もまだまだかね? 抑えようのない怒りが沸き上がったような気がするのだが、気のせいだったか? …いや、気のせいじゃない! 街を攻めんとする海賊達に怒っている! 守ってみせるぞ、この街を!

 

…暫くして、遠くから地鳴りが如く海賊達が攻めてきた。見る限りかなりの数、500人以上はいるか? …ヴォルツ達の方は手薄だな、こりゃあ…! まぁここに姿を現したってことは、他んとこも攻めてきているな。とりあえずは戦闘開始、一人も生きて帰さねぇぞコンチクショー! …なんて思いながら、よくもまぁこれ程の数が陸にて潜伏出来たと感心してみたり。…どーでもいいことっすね!

 

 

 

 

 

ーカナッツ隊ー

 

エシャル将軍が自ら集めた情報と、斥候による情報により海賊達の襲撃が確定。我らトラキア兵は街の各所にある門にて、奴等の襲撃を待っていた。今回のような行動に制限のある戦いは、我々の最も得意とするものである。

 

あのミーズの戦い以降、更に磨きのかけた防衛力を発揮する時。エシャル将軍と共に、カナッツ隊長と共に、様々な戦いを想定し訓練してきたのだ。我々の背後には他国の者とはいえ弱き民達がいる、以前の我らとは違う! …ここを抜けさせるわけにはいかぬ! エシャル将軍の信頼を裏切るわけにはいかぬのだ! 我らトラキアの強さを見せてくれよう!

 

 

 

 

 

遠方より、賊の雄叫びが響いてくる。奴等は勝利を確信しているらしく、自分達の存在を隠すことなく攻め入ってくる。なんと愚かな奴等か! 我らトラキアの恐怖をその身に刻み込み、地獄へと誘ってくれる!

 

「弓兵隊、魔兵隊、構え! 重兵隊は守備を厳となせ! 一人も門内へ、塀の内側へ入れぬなよ!」

 

エシャル将軍麾下カナッツ隊の力…、このアグストリアに響かせてくれる!

 

 

 

 

ーカナッツー

 

「船だから分からんが、大体300…ぐらいか? 思っていたより少ないな。海賊は海からが普通なんだろ?」

 

「…ホリン殿、先程ここからヴォルツ殿達が対岸に向かったんだぞ。ヴォルツ殿達の進行方向から、多く来る筈もない。逆に考えて、これ程の数が海に潜んでいたことに驚くべきだ。普通ならば、ヴォルツ殿達に見付かる筈。流石は海賊、…と言うべきか。」

 

ホリン殿のアホな発言に呆れつつ、海より侵攻してくる海賊達に感心する。海はやはり、奴等の庭なのだと。だがしかし、奴等は予想もしていなかっただろう。この港が奴等の死地になると、我らの罠であるとな。

 

当初の作戦通り、ヴォルツ殿達が船で進軍した後に用意していた物を海に流した。港に障害物があるとは、奴等も思うまい。気付くとは思うが、今更引き返すこともせずに突っ込んでくることだろう。我らを侮ってな。賊というのは目先の欲に囚われがちだ、目の前の餌に退却の文字は無いだろう。

 

「手筈通りでいくぞ、お前達! 奴等が突っ込んできた瞬間に、弓兵隊と魔兵隊は攻撃を開始! 他の者達は海賊達を陸に上げるな! 海に暫くの間…釘付けよ!」

 

奴等の目を此方に向けさせ、その隙にアレを海に…。この策が成った時、この戦いは我らの勝利となろう。

 

「皆さん、無理はいけませんからね! 負傷しましたら、すぐに私の下へ来てください!」

 

我らが女神の声に、兵達が士気を上げる。ディアドラ様が後ろに控えている、これだけでも兵達は安心して戦える。それと同時に、彼女を危険に晒すわけにはいかぬ故…躍起になる。…エシャル将軍、恐ろしいからな。隣のホリン殿も、何やら思い詰めた表情を…。何故? ……まぁいい! 今はただ戦うのみ! 我らがトラキアに勝利を! エシャル将軍に勝利を! 女神に勝利を!

 

 

 

 

 

ー海賊ー

 

岩礁に囲まれた島に潜んでいた俺達は、船でオーガヒルにへと向かう傭兵達を遠目で見ていた。

 

「オーガヒルに進軍たぁご苦労なこって! 間抜けな奴等め!」

 

傭兵達の船が、対岸のオーガヒル方面へ消えるのを確認した俺達は、

 

「おっしゃあ野郎共! マディノを蹂躙すんぞ! 陸の奴等よりも先になぁ~!」

 

傭兵達が多少はいるみたいだが、俺達の総勢は凄いぜ! 合わせて1,000は超えるんだからなぁ! オーガヒルの海賊が団結してんだからよぉ、当然だぜ! 戦いってーのは数だぜ? ぎゃははははは!!

 

 

 

 

 

港まで迫る俺達だが、

 

「奴等、海に色々と流していやがる。数の不利を足止めで補うってか? 笑わせるぜ! この程度のことなんざ日常茶飯事、構うことはねぇ! 突っ切ってやんな! 陸に上がりゃあこっちのもんよ!」

 

海に漂う障害物を押し退けながら、陸へと迫る俺達。この程度で俺達が止まると思っているのか? ヤワじゃねぇぜ、俺達はよぉ!

 

 

 

 

 

「頭ぁ! 障害物が詰まりやがって、これ以上は進めませんぜ! 他の船と噛み合いやがって、身動きが取れやせん!」

 

奴等…姑息な手を使いやがるな! だがよぉ!

 

「狼狽えるんじゃねぇよお前等! なら渡りゃあいいだろうが…、障害物をよぉ! 俺達は海賊だ! この程度の海渡りなんざ、屁でもねぇだろうが!」

 

足場を作る手間が省けたってもんだぜ! 俺を筆頭に、子分達も障害物に降りて渡り出す。止められやしねぇさ、目の前に極上の獲物があるんだからなぁ!

 

 

 

 

 

奴等は陸に上がらせまいと、矢を放ってくる。ただの矢じゃねぇ、風魔法と共に迫ってきやがる。風の勢いで矢の速さも威力も上がっている、その風で海渡りも容易じゃねぇ。陸に近付きゃ、待ち構えていやがった奴等に妨害される。だが、戦いは数だぜ! この一進一退は続かねぇ! こちとら数で勝っているんだ、押しまくって強引にでも突破してやるぜ!

 

 

 

 

 

奴等の動きが鈍ってきた、休むことの無い突撃に疲れてきやがったんだ! ぎゃははははは! ざまぁねぇわな! このままいきゃあ、俺達の勝利は確じ…、

 

「頭ぁ~!!」

 

今し方海に落ちた子分が俺を呼ぶ。

 

「んだぁ~! うるせぇぞ! さっさと上がって突っ込みやがれ! 俺達の勝利はもうす…。」

 

「油だぁ! 海に油が流されてやす!」

 

「…なんだとぉ~!!」

 

海に油…だと!? 俺は慌てて周囲を見回す、…障害物の隙間から見える海には油! …既にここら一帯にゃ油が!?

 

「やベェ…! 奴等、まさか…!!」

 

こっちに押し込んでこねぇ理由はコレか! あえて膠着状態に持っていき、俺達を海に釘付けやがった! 陸へ上がることに集中させて、油の存在を隠す。…風魔法も弓兵の援護ではなく、本命は臭いを消す為! …ってぇことは!! 俺は奴等に視線を戻す、そこには手を掲げて炎を作り出す魔道士が!

 

「や・・・止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

俺の叫びも空しく炎が放たれ、全てが赤に染まった…。




次は後半戦。

近々、最終ヒロインアンケートをしますんで。

そん時はよろしくっす。


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第27話 ~海賊掃討戦《港街マディノ防衛戦・後半戦》

エシャルは強いです。


ーカナッツー

 

港が炎で赤く染まり、海賊達の悲鳴が響き渡る。我らの策により、海賊達は海上で炎に焼かれている。そこに逃げ場は無い、船も足場も全てが燃えているのだから。海が燃えている、それは物語で聞く地獄のような光景だった。

 

「数で勝る敵には火計が有効、エシャル将軍…恐ろしい策を考えるものだ。」

 

全てはエシャル将軍の手の上、海賊達は将軍の思惑通りに動いたのだ。そしてこの戦い以前に、こうなることを予測していたのだ。

 

────────────────────

 

エシャル将軍が、単身で正面大門へと向かう前に、

 

「将軍、海賊達は思惑通りに動くでしょうか? 配置は完了していますが、もし…動かなかったら…。」

 

私は心配になり、エシャル将軍に声を掛けた。海賊達の動きを予測しエシャル将軍が配置したのだが、もし思惑通りに動かなかったら…。我らは勿論、民達も危険な目に…。そんな私の問いにエシャル将軍は、

 

「動くさ、奴等は飢えた獣だからな。この為に奴等を各個撃破し、ヴォルツ達をオーガヒルへと進軍させた。飢えに飢えた獣は欲望を満たす為に団結し、自分達を抑える首領すらも殺す。」

 

「自分達の首領を殺す…?」

 

「そう仕向けたのさ、奴等の首領は賢しい。これ以上の闘争は被害を大きくする、そうなる前に子分達を止める。…が、獲物に飢えた子分達は反発する、仲間も多く殺られているしな。撃破した海賊達は残る海賊達と友好関係にあった奴等、その仇討ちも兼ねた襲撃を止める首領。…邪魔だよな? 首領が。そして今回のオーガヒル討伐、…馬鹿な獣は飛び付いてくる、そうだろ?」

 

我々を呼ぶ前の戦いが全て、これから起きる戦いの布石? 仲間割れを引き起こし、一網打尽にする渾身の策。しかしそう上手くいくのか? エシャル将軍はどこからその自信が…?

 

「…俺一人が助っ人ではない、…ヴェルダンの仲間達を海賊に紛らせていてね。此方の有利になるよう誘導させたのさ、勿論…仲間達は救出済みよ? 故に、何の問題もなく殲滅させることが出来る。」

 

エシャル将軍が助っ人に呼ばれた時から、既にこの作戦が始動していたということか。…欺くなら味方から、…流石はエシャル将軍。トラバント様が信を預けられる筈だ…。

 

───────────────────

 

…つくづく、エシャル将軍が味方で良かった。それはいいとして…、

 

「全兵士に告ぐ! 炎が消えるまでは警戒を怠るな! しぶとく生きている奴も…!」

 

ザパァァァァァン!!

 

「うがぁぁぁぁぁっ…! せめて隊長格の一人でも、み…道連れにぃぃぃぃぃっ…!!」

 

海から焼け爛れた海賊が一人、飛び出してきた。言おうとしていたことが現実に! …くっ! 無傷で捌くのは無理そう…『ヒュン!』だ…。

 

ザクッ!

 

「…あ…がぁ…っ!?」

 

突如海より襲い掛かってきた海賊の額には、私の背後より飛んできた手斧によって倒された。無防備を晒すが振り向いてみると、そこには心配顔のディアドラ様が…、

 

「良かった…、ご無事のようで…。もしお怪我があるようでしたら、魔法で…。」

 

「…大…丈夫です。」

 

良い腕をお持ちのようで…。可憐なディアドラ様の会心の一撃にひきつりつつ、私は先程のことも踏まえて警戒を厳重にさせた。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

マディノの正面大門へ、そう…俺に向けて迫りくる海賊達。…もう達じゃないわな、軍だわ…と思ったりしている余裕の俺に対し、

 

「たった一騎で門の守りかよ、笑わせるぜ! 天馬ってこたぁ~女か! …って男かよ! 男だったら容赦しねぇ!このまま捻り潰せ!!」

 

と雄叫びと共に迫ってくるが、

 

「俺を捻り潰す…だと? ククク…笑わせてくれるな、…ゴミ共。ならば俺は、襲い来るお前達を燃やし尽くしてくれよう!」

 

一人と数百はいるであろう海賊の、後者が圧倒していると思いがちだが、

 

「正面大門を守るは圧倒的強者、数の有利を覆す個の力。…学ぶといい、駄賃はお前達の命! 強者の蹂躙、その目に焼き付けよ!」

 

スコルの嘶きを合図に、正面大門が地獄と化す戦いが始まる。

 

 

 

 

 

勢いのある海賊の方から先制、俺へと斧を降り下ろすが当たる筈もない。巧みな手綱捌きによってスコルを操り、難なく避け、時には剣で捌き、

 

「ファイアー!」

 

たかがファイアーと侮るなかれ、この俺のファイアーだからね! 俺のファイアーは現在、

 

「「「「うぎゃあぁぁぁぁっ!!」」」」

 

エルファイアー並みの火力でござんす、…知ってた? ゲーム画面と現実は違う、改めて実感したよ。因みに、なるだけ前世の言葉を使うことにしとります。勿論、知識も多少は思い出すようにもね。使ったり思い出したりしなくなったら、なんか恐いじゃん。咄嗟に使ったり思い出したりしたら、自分自身にビビるってマジ。

 

そんなわけで、前世を含めつつ、無理なく生きていきますよー! って違う! 戦闘中に何をやっとるか俺! 油断はいかんと言っておろーが! …っと何だっけ? …そうそう、俺の魔法は凄いんさ! ファイアー1つで4、5人は消せる。つーこって、空から爆撃が如くのファイアーをいってみようか!

 

うははははは! 海賊がゴミのようだ! …というか、ゴミか! ゴミだからかよく燃える。俺を狙って矢を撃ってくるけど見切ってますから、避けるか燃やすかで俺には届きませんぜ? 空を舞い、一方的に攻撃を仕掛ける俺を無視し、正面大門を目指す奴も少なくないが、

 

「エルファイアー!」

 

俺のエルファイアーは、所謂炎の壁。行く手を阻む炎の柱が、やがて集い…灼熱の壁になるんさ。当分は消えないぜ? 燃える者を薪としてくべたんだからな! この炎の死地から逃げたくば、俺を倒すしか道は無いぜ? ゴミクズ共よぉぉぉぉぉっ!!

 

 

 

 

 

ー海賊ー

 

「なんなんだよ…、俺達の方が圧倒的に有利だったじゃねぇか…。あの天馬騎士はなんなんだよぉぉぉぉぉうばぁっ…!?」

 

俺と共に、マディノへと攻め込んだ別集団の頭が焼失した。頭だけじゃねぇ、次々と炎に焼かれて脱落していく仲間達。こんな…、こんなことがあっていいのかよ! 格が違いすぎる! 数の問題じゃねぇ…、個の力が違いすぎる。…こんな筈じゃあなかった筈だ、一気に街を蹂躙する筈だった…。

 

 

 

 

 

たった一騎の天馬騎士が門を守っている、情報通りだと思った。傭兵の主力がオーガヒルへ、街の守りはおざなり。そう確信したっていうのに、この状況はなんなんだ? 勢いのままにぶった斬ろうと数人が一斉に飛び掛かったが、天馬を自分の手足が如く操ってそれを避け、その反撃に魔法を放ち、…一度に数人を消し炭にしやがった。

 

此方は果敢に、そして獰猛に襲い掛かるも歯が立たずに殺られていく。ある者は剣にて両断、ある者は魔法にて燃やされ、切り刻まれ、雷を浴びる。それでも突撃し、少なくない傷を負わせるも、奴は空へと舞い上がり、傷を癒していく。

 

空へ舞い上がり、傷を癒した奴は空から炎を撒き散らす。数の多い俺達はいい的だ、降り注ぐ炎に焼かれて倒れていく。此方も負けじと手斧に矢にと反撃をするが、その悉くを奴は軽くあしらう。ならばと奴を無視して子分を門へと行かせりゃ、今まで以上の炎を撒き散らして灼熱の地獄へと変えやがった。どうすればと考えている内に、次々と殺られていく仲間達。たった今、別集団の頭が焼失した…。

 

数の有利はどうなった? 戦いってーのは数じゃねぇのか? 何をやっても為す術も無く、逆に俺達がたった一騎に蹂躙される。こりゃあ…悪夢か? 俺達の野望はこれで終わるのか? ここで俺達は皆殺しにされるのか?

 

じょ…冗談じゃねぇ! 殺られてたまるかよ! ここは逃げるしかねぇ! 逃げて逃げて逃げて、力を蓄えてまた再起すりゃあいいんだ! ここで終わる俺じゃねぇ! 今更犠牲が増えたって構うもんかよ! …死んだ奴等の仇はいつか討つ! だから…、だから許してくれよぉ!

 

「お前等! これ以上はやベェ…! 逃げ…!!」

 

ドドドドドッ…!!

 

俺の叫びはこの戦いの喧騒にそして、遠くより近付いてくる地鳴りの音にかき消される。何が来るってんだ…!

背後より聞こえる地鳴りの音に振り向くと、そこには絶望があった。

 

「…なんてこった。…アグストリアの、…マディノの正規軍…だと!?」

 

…逃げ道が無くなっちまった、…なんてこった。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

俺が地上に向けて、炎を撒き散らしていると遠くより砂煙が…。あれは…。

 

「マディノ軍が介入? ……民を安心させる手かね、…邪魔にならなきゃ介入も別に構いや…!!」

 

マディノ軍の介入もやむなしと思っていたが、先頭で指揮をしている人物を見て…震えた。共鳴しているのだから、あの人で間違いない。しかもただの共鳴ではない、魂が震えるような共鳴だ。同じヘズルの血、黒騎士ヘズル同士の共鳴。それと同時に、この恐怖心はなんだ? …悪寒がする、未だかつて味わったことの無い恐怖。…いや、俺はこの恐怖を過去に!

 

……………!!

 

「長居は出来ない…! 早急に終わらせるべきだ…、消えろゴミ共! エル…ファイアー!!」

 

ここにいたくない、しかしゴミが多くいる。ならば火力を上げて、一気に殲滅させなければ…!

 

 

 

 

 

ーエルトシャンー

 

俺は傭兵達の、エシャルの戦場へと駆け付けたのだが…。そこにはたった一騎の天馬騎士によって、賊の悲鳴が響き渡る地獄と化していた。

 

「…圧倒的ではないか、…この火力はアルヴィスが如く。………!? 共鳴? 魂に響くようなこの感覚。…あの天馬騎士がエシャルなのか!」




エシャルは海賊相手に負けません。聖戦士の血族ですからね。

次回は、オーガヒル城攻略戦かね?


因みに、絵を久々に書きました。

エシャル

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ディアドラ

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色は面倒だよね。


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第28話 ~海賊掃討戦《オーガヒル城・前編》

最終ヒロインアンケートを活動報告に立てました。

因みに、主人公以外のカップリングもアンケートを取りますからね。

よろしく!!


ーヴォルツー

 

マディノから敵地オーガヒルへと上陸した俺達だが、海賊の影すら見えん。所謂、何もないってことだ。何の妨害も無く上陸出来たのは良いことなんだろうが、

 

「…ロマンの欠片もねぇ、海戦の一つでもあれば盛り上がったのによ…。」

 

実につまらん、妨害に遭いながらも仲間達と力を合わせて戦い、やっとの思いで上陸をするのがこの作戦の醍醐味じゃねぇか。…やる気、出ねぇよこんなんじゃよ。そんな感じで腐り始めれば、

 

「何事も無く上陸出来て良かった、とは言えねぇのかよ! それに罠かもしれねぇだろ? だらけんなよヴォルツ! 腐るのも駄目だかんな! お前は大将なんだからよ、ロマンも良いけどそれを忘れんなよ!」

 

信頼を置く副長ベオウルフが噛み付いてくる、…いつもの流れだな。周囲を見回せば、部下達にレイミアんとこの女達も笑っている。気張り過ぎてる奴は一人もいねぇ、良い感じでだらけているじゃねぇか。

 

「…それじゃあボチボチ行くとするか。一応、警戒はしとけよ。」

 

「「「「うぃ~っす。」」」」

 

とだらけた返事。…この作戦、俺達の勝率は高いな。

 

 

 

 

 

ーベオウルフー

 

…ったく、オーガヒルに上陸早々アホ抜かしやがって。まぁいつもの如く、良い感じに力が抜けている。それは俺や部下達、レイミア達にも言えること。戦う前から気張り過ぎんのは傭兵として失格、肝心な場面で集中力が切れちまうからな。ここぞ! ってな時に気張って戦える者こそが、戦場に出ても生き残る可能性が高いのさ。まぁ…だらけ過ぎんのも駄目なんだけどな、この匙加減が難しい。だらけ過ぎないような微妙な線を見切ってこそ、傭兵として成功するか否かが分かる。

 

その点で言えば、常時余裕のある俺達ヴォルツ傭兵旅団が、世界的有名になるのも当たり前だわな。毎日楽しく生きて、戦場では鬼神の如くってな。ヴォルツの口癖を真似るのはアレだが、世界広しといえ俺達を超える傭兵団はねぇだろうさ。ここ数年、旅団の人員は欠けたことが無い。…な? 最強だろ?

 

それに比べて、レイミア傭兵隊はまだまだってとこだな。俺達と比べたら当たり前だが弱小、引き際を間違ったりしているからな。そのせいで、海賊討伐の依頼中に数人死んじまっている。まぁそれでも伸び代はある、焦らずに依頼をこなしていけば一角の傭兵隊になるだろうさ。隊長のレイミアに副長のクー、二人の手腕に期待しようか!

 

 

 

 

 

…ってか、襲撃が無い! 無いから色々と考えちまったじゃねぇかよ! 主に傭兵の心構えと自分達の自慢、レイミア達への期待ってな感じでよ! 何故だ! …なんて考えていたけど、

 

「…敵戦力の殆んどがマディノ? エシャルさんの予測通り、首領に近い者達は捨て石ってことなんでしょうか?」

 

レイミアんとこのクーがそんなことを言った、…マディノか。本来ならばすぐにでも退却し、エシャル達と合流するのが普通なんだが、その必要は無いと考える。たぶんエシャルはこの状況を予測して、俺達をオーガヒルへと向かわせた。

 

…エシャルは何かしらの手を使い、この状況を作り出した。調査だと言って単独行動をしていたが、そん時に何かをしていたんだろう。交渉の余地ありか…、そう仕向けたのはエシャル。手練れの傭兵団と数少ない海賊、戦力差は明らかだ。籠城も愚策になるだろうからな、生き残るには交渉のみ。

 

交渉と言っても、降伏っていう道しかねぇと思うが。交渉する方向に決まったら、渡してくれっていう手紙をエシャルから預かっている。何が書かれているのやら…、まぁ悪い内容ではないだろうな。兎に角、なるようになるだろう。俺達はこのままオーガヒル城へ進軍、マディノはエシャルに任せればいい。

 

俺はこの状況を訝しむクー達に、

 

「気持ちのんびり行動素早く進軍するぞ、マディノはエシャルに任せればいい。マディノを気にする余裕があるなら、ちーとばかし周囲を警戒しとけ。海賊が潜んでいる可能性はあるんだからよ。とりあえずエシャル達を信じて、俺達は先へと急ごうぜ。」

 

と言った。訝しんでいたクー達は頷き、余裕を持って周囲を警戒し先へと進む。さて、オーガヒル城の周囲はどうなっているのかね?

 

 

 

 

 

ーブリギッドー

 

先程、物見の家族が戻ってきて、

 

「傭兵達がこの城に進軍してきやす! やはり、ギーグやらハイマン等の一味はいやせんでした! この城は丸裸、傭兵達は無傷で攻め入ってくるものかと!」

 

顔を青くして、自分の目で確認してきたことを報告する。…チクショー! アイツ等、欲に負けてマディノへ行きやがったね! ギーグ一味やハイマン一味達がいないとなると、アドン一味やペジオ一味もいないってことになる。…オーガヒルの要所、そこを守る奴等がいないってこと。物見の家族も言っていたが丸裸、アタイ等は窮地ってことさね。

 

「親父! 今からでも遅くねぇ、城の守りを固めやしょう!」

 

「そうですぜ親父! このまま殺られちゃあオーガヒル海賊の名が廃る、最後まで抗いやしょう!」

 

報告を聞いて沈黙したこの場を、ピサールとドバールが声を荒げてそれを破る。この戦いで勝つこと等…もはや不可能、このまま何もしなければすぐにでも討たれちまう。ピサールとドバールの言うように、最後まで抗い死んだ方がいい。アタイ等はオーガヒル海賊の首領、ヴァン一家なんだからね!

 

「ピサールとドバールの言う通りだよ! 戦おうよ親父! アタイ等は泣く子も黙るヴァン一家じゃないか!」

 

アタイも二人に同調し声を上げると、他の家族達も同調する。…親父、黙ってないでなんか言っとくれよ!

 

 

 

 

 

暫くして、黙っていた親父が口を開いた。

 

「…オーガヒル海賊の掟を破ったガザック一味は討たれちまった、同じように暴走した奴等も悉くなぁ。仇討ちも分かるがこれ以上戦っちまったら、アグストリア正規軍が本腰入れて攻めてくる。それが分からねぇ奴等は俺を見限り、その結果がこれよ…。なんかやるせねぇよなぁ…、こんなことになるなんてよぉ…。」

 

大きな傷のある顔を歪めて、そう溢した親父。その言葉に、騒いでいた家族も黙り込む。特にピサールとドバールは、バツが悪そうだ。二人は一時期、討たれた奴等に同調していたからね。…でも思い止まった、親父を裏切ることが出来なかったのさ。

 

「俺達ゃあ海を渡る奴等から、通行料としてお宝をいただいていた。その代わり、海の安全を守っていた筈なのになぁ…。いつの間にか奪い、殺し、犯す…。ガザック達を見限りゃあよかったのによぉ、それでも大切な子分達だからよぉ、いつかそんな暴走が終わると信じてよぉ、見限ることをしねぇでよ…。お前達家族に迷惑を掛けちまった、全滅の道を作っちまった、…すまねぇなぁ、息子達よぉ!!」

 

あの親父が頭を下げた。どんなことがあっても頭を下げず、アタイ等を導いてくれた親父が…。

 

「「「「「親父ぃ~…!!」」」」」

 

不覚にも泣いちまったよ、アタイ達は…。親父を知らぬ内に追い込んで、頭を下げさせるようにしちまったんだからさ。本当に情けないねぇ…。

 

 

 

 

 

皆が落ち着いてから、親父が再び口を開いた。

 

「…傭兵達がここに来るのは時間の問題だなぁ、もう殆んどありゃあしねぇだろうけどなぁ。」

 

そう言ってアタイ達の顔を見る親父、…そして、

 

「そう簡単にやられるわけにはいかねぇわな、俺にゃあお前達がいるしよぉ。…いっちょ抵抗の一つでもやってみるかぁ、…覚悟を決めてよぉ!」

 

その言葉と共に、親父は側にあった大斧を頭上に掲げ、

 

「よっしゃお前達! 生き残る為の戦いでもしようや! 何人生き残って逃げられるか分からねぇけどよ、それでも戦おう! ピサールとドバールは何人かまとめて待機しとけ! ブリギッドは弓ぃ使える奴と高所に陣取っとけや! 相手の出方にもよるがよぉ、ブリギッド達の援護を受けながら突撃になるぜぇ!」

 

何人生き残るか分からない戦い、それでも希望を捨てずに戦うんだ! 手負いの獣は強いよ、覚悟しとくんだね!

 

 

 

 

 

ーベオウルフー

 

…何の妨害、抵抗の一つも無いまま、オーガヒル城へと辿り着いちまったよ。マジで海賊の大半というか、ほぼ全戦力がマディノへ行ったんか? …流石のエシャルも厳しいんじゃねぇか? と思った矢先、

 

「よく来たなぁ、傭兵共! オーガヒルの海賊は、そう簡単にゃあやられねぇ! 俺達ヴァン一家を舐めんじゃねぇぞ!」

 

此方の準備が整う前に、海賊達が姿を現した。…城門の上には傷のある大男、その隣には気の強そうな女。そして弓を構える海賊達が左右に並んでいる。…うーん、やはり待ち構えていたのか。…まぁ、分かっていたけどな!

 

…あの大男が海賊の首領だな、…向こうから姿を見せてくれたのは好都合。とりあえずは交渉か? 俺は奴等に気付かれぬよう、部下達に小さく手で合図を送る。そして一歩前へ進み、大男を見上げて言った。

 

「なぁ、とりあえず話をしないか! 俺はヴォルツ傭兵旅団副長のベオウルフだ! あんたがオーガヒルの首領でいいんだよな!」

 

聞く耳を持っていてくれりゃあいいんだが…、どうだ?

 

大男が俺の言葉を聞き、口を開こうとしたのだが、

 

「その隙を突いて親父を殺る気だね! 隠れて合図なんかしやがって! …そうはさせないよ!」

 

・・・いっ!? 俺の合図に気付いたのかよ! どんな目をしているんだ? あの女!

 

「ちょ…待てよ! ちげーよ、そんな意味じゃねぇって! 落ち着け…って、駄目か!」

 

勘違いした女は激昂し、俺目掛けて矢を射る。スゲー矢だ! 角度から見て、俺の眉間を的確に狙っていやがる。速さからしても威力は抜群、普通ならば一瞬であの世だわ!…だが、

 

ギィンッ!!

 

俺の前に大剣が差し出され、必殺の矢を剣身で弾く。頼れる相棒、最強の傭兵、我らが大将ヴォルツが俺を守る。俺は安堵と共に、

 

「隠れて合図を出したのは悪かった! 部下達に相手を刺激すんなよって指示を出したんだが、俺が刺激しちゃあザマァねぇわ! 俺達はマジで話してぇのよ、そこは信じてくれ! …じゃねぇとよ。」

 

俺は大男と女の背後、正確には空へ視線を向ける。すると空が一瞬光り、それと同時に、

 

ゴォォォォォッ!

 

大男と女のすぐ近くに、炎の柱が突如現れる。大男も女も、弓を構えていた海賊達も、突然のことで慌て始める。そんな奴等に俺は、

 

「お前達を本気で皆殺しにしなくてはならない、依頼遂行の為にな! 空に天馬騎士が待機している、合図と共に空からさっきの炎がぶち撒かれるぜ? …な? まずは話そうぜ! 言いたかねぇけど、そっちの選択肢は一つしかねぇ! …分かるよな! …因みにさっきの不意打ちは、お返しな!」

 

こんなこともあろうかと、脅しの一撃を仕込んでおいた。…使う気は無かったんだが、俺の失敗で使うハメになった。それはいいとして…俺達だけじゃなく、天馬騎士も絡んでいる。…賢しい首領は分かるだろ、まずは此方の提案通り話すしかねぇと。交渉の余地、生き残る道がまだあると。さて…どうする? このまま一戦して、全滅の道を選ぶのか?

 

 

 

 

 

暫くして…、

 

「分かった、話をしよう…。今から城門を開いて、俺が一人でそちらへ行く。…それでいいか?」

 

…やはり大男が首領か。

 

「分かってくれて嬉しいぜ! 俺達からは何もしねぇと約束しよう、待ってるぜ!」

 

これで第一段階? …は成功か。後はエシャルの手紙か、…これでどうなるかが決まる。

 

…パメラとアイーダに出会えたこともありがたかった。快く手伝ってくれたしな、うん。だが彼女達にも目的はある、その為に助力を引き受けてくれたのかね? …大体予想は付くな、たぶんエシャルだわ。…っと今は、海賊との話し合いだな。話し合いっつっても、手紙を渡すだけだが…。




・・・ブリギッドが出ましたねぇ。


次回は、後編です。


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第29話 ~海賊掃討戦《オーガヒル城・後編》

活動報告にてアンケートをしとります。よろしく。

ミルディンさん、アンケートありがとう!


ーベオウルフー

 

オーガヒルの首領と話をする段取り、…というか手紙を渡す段取りを付けた俺は思い返す。この段取りを付ける為の仕込み、脅しの一撃を担当した二人との出会いを…。

 

────────────────────

 

俺達ヴォルツ傭兵旅団とレイミア傭兵隊はオーガヒルに上陸、海賊の妨害も無く拍子抜けの進軍、それでも一応は警戒し進んでいる途中にて、

 

「大将、副長! 此方に天馬騎士が一騎、接近してきます! …エシャルの旦那ではないようです!」

 

「あれは…、シレジア天馬騎士隊の隊長格じゃないか! 隊長格に知り合いがいたのかい!?」

 

レイミアが驚いている、…まぁ当然か。ただの傭兵が、隊長格と知り合いだなんて普通はねぇもんな。ぶっちゃけ、俺とヴォルツもビックリだぜ? 知り合えるなんてよ。その仲介に、『トラキアの黒刃』エシャル様がいるんだけどな! その黒刃様と知り合いってーのも、ビックリものだったしな!

 

さて、誰が来たんかね? 何の連絡も情報も無い来客、マーニャか? それともパメラ? はたまたハナタレ…は、そこまでの騎士にはなってないか。うーん、誰だろう。

 

 

 

 

 

そんな件の天馬騎士が、俺達の下へと舞い降りた。誰だろうか? という気持ちもあるが、一体何用か? という気持ちの方が大きい。

 

「お? パメラの方だな。」

 

ぼそりとヴォルツが呟き、天馬騎士へと視線を向ける。…お、本当にパメラだ。…と、誰だ?

 

「久しいな、ヴォルツ殿、ベオウルフ殿、傭兵の方々。…初見の方々もいるようだな、私はシレジア天馬騎士団副団長のパメラ。以後、見知り置きを…。それと…。」

 

天馬から降りたパメラに続いて降りた人物、赤紫の髪をした美女…だな。その美女は優雅に一礼し、

 

「皆様方、初めまして。ヴェルトマー公爵家に仕えておりますアイーダ、と申します。お歴戦の方々にこの顔を見知って頂けたら、私自身の誉れとなりましょう。どうぞ、よろしくお願い致します。」

 

と言葉を繋いだ。…ヴェルトマーのアイーダ、だと? 今、そう言ったよな? ヴェルトマーのアイーダ、…ヴェルトマーの魔女じゃね!? グランベルの大物がなんでここに? そしてなんでパメラと一緒に俺達んとこ来るの!? 天馬騎士隊から天馬騎士団に、そしてパメラが副団長ってーのも驚いたがそれ以上の衝撃だよ! 何故だ!! と深く考えればすぐに分かった、…エシャルだわ。たぶん、いや…きっと。

 

…で一時的に進軍を止め、話を聞こうとしてみれば、

 

「私というかアイーダ殿がエシャル殿に用があってな、内容は明かせぬのだが…。して、エシャル殿はどちらにおられるのだろうか?」

 

…ほら、やっぱりエシャルだろ? あの無駄に色男な奴は、何処でヴェルトマーの魔女と知り合ったんだか。『トラキアの黒刃』というのが影響しているのか? それとも…、俺達では調べることの出来ない領域が絡んでいるのか? 国家間でのことならば、話せないし知ってはならない領域だ。…うーん、下手な勘繰りはしない方がいいだろうな。…とりあえず、エシャル個人の問題ではないよな? 俺がブツブツと考えていると、

 

「エシャルの奴はマディノだな、…マディノの防衛をしている。俺達とエシャルは…。」

 

ヴォルツが俺達とエシャルの現状について、パメラとアイーダに説明をする。そのやり取りを聞きながら、考えることを止められない俺がいた。

 

 

 

 

 

「オーガヒルの海賊、その大半をエシャル殿達だけで撃破しなければならない。…大半といってもどれ程の規模かは分からない、…エシャル殿は大丈夫だろうか?」

 

ヴォルツの話を聞き終えたパメラは、マディノの方角へ視線を向けてソワソワしている。それに比べアイーダは、

 

「実力の程は見たこともありませんので存じませんが、噂や情報等を統合して考えれば…、心配する必要は無いかと。…逆に海賊達の方が、思惑外れて全滅しているのでは?」

 

と、エシャル達の勝利を予想…、顔を見るに確信しているな。…アイーダを見る度、エシャルとの関係が気になっちまう。気にはなっちまうがそれよりも、

 

「まぁそんなわけで、俺達はこれから城攻めだ。…つっても、戦わずに治めたいとは思うんだが無理だよなぁ。数が少ないとしても、一戦は免れないだろうさ。エシャルから海賊宛に手紙を預かっているんだが、一戦挟んで渡すしかないな。そういうことだから、俺達はそろそろ先へ進むぜ? マディノは戦場だが、お前ら二人なら問題無く……ぬぉっ!!」

 

俺達は進軍の途中であるのだから、先へ進まなければならない。二人と別れて進軍しようとしたんだが…、

 

「エシャル殿の手紙に何かあったら大変だ、私とアイーダ殿がその手伝いをしよう。よろしいな? アイーダ殿。」

 

「勿論です、パメラ殿。…理由があれば、会いやすいと思うしな。」

 

そんなことを言って二人が…、いや…パメラの方が絡んできた。アイーダの方は最後の言葉が聞こえなかったが、パメラの提案に快諾してるし。…パメラの奴、少しでも好印象を…とか考えているな?

 

かぁ~っ! モテる男はツラいなエシャル! 爆ぜろってんだバカヤロー!

 

────────────────────

 

…とまぁこんな感じだった、向こうからがっついてきたなぁ…。なんて思っていると、沈黙していたオーガヒル城の門が開き、海賊の首領らしき先程の大男が一人で出てきた。

 

「…待たせたな、子分…家族と軽く揉めちまってな。」

 

子分…部下を家族ね、この男…信用出来る男みたいだ。味方に出来たのなら、背中を預けるに相応しい男。敵対したのなら、なかなかに手強い相手となるだろう。…脅しの一撃が成功して良かったぜ、あのまま一戦交えていたら被害が出てたな。レイミア達が主に、俺達も数人…ってとこか? 勝ちはするけど…って感じだな、うん。

 

「この程度、待つに入りゃあしないぜ? まぁ兎に角、改めて名乗るぞ。俺はヴォルツ傭兵旅団副長のベオウルフ、隣のデカイのが団長のヴォルツ。そこにいる黒髪美人がレイミア傭兵隊隊長のレイミア、髪を一本に束ねているのが副長のクーだ。この4人がオーガヒル攻めの主要人物、幹部ってーのかな? 主要人物ではねぇけど、天馬騎士もいるからな?」

 

いつも通りの軽い調子で名乗る、俺達の軽い雰囲気に面食らいながらも、

 

「…俺はオーガヒルの海賊を纏めていたヴァンだ。…なんというか、普段の俺等と変わらない雰囲気なんだな。多少…気が解れた、…いつも通りで良いわけだな。」

 

面食らっていたが、最終的に堂々とする首領のヴァン。これから言葉を交わすのに、警戒されちゃあたまらねぇからな。話し合いといっても手紙を渡すだけだし、気だるい雰囲気でも良いだろう。…まぁ手紙の内容次第で、この先どうなるか分からんけど。

 

多少は緩んだとしても、未だに強ばった顔をするヴァン。そんなヴァンに俺は、

 

「ほい手紙、…ここに呼んだのはこれを手渡す為だ。俺にも内容は分からない、お前に渡せとしか言われていないからな。この手紙を読んだ後に、どうするか決めてくれ。それしか言いようが無いんだわ、…因みに『トラキアの黒刃』様からの手紙だからな。」

 

はい、俺の役目終了! これで良いのかと思われるかもしれないが、エシャルに頼まれたことはこれだけだからな。後は相手の出方次第で武力行使、手強い相手になるがそん時は仕方がない。エシャルの手紙がどんなモノか分からんが、まぁ指示通りやればなんとかなる。

 

俺達の依頼でエシャルは助っ人なんだが、ここまでの戦いはエシャルの作戦できた、最後までエシャルを信じて動けばいいさ。実際、被害が少なくここまできたことだし、…情けない話だけどな。それほどエシャルは凄い奴ってことさ、友人として鼻が高いぜ!

 

「…手紙? …しかも『黒刃』!? …相手に『黒刃』がいたとなりゃあ、…この様も頷ける。…相手が悪すぎる。」

 

やや仰け反りながら、手紙を受け取るヴァン。…エシャルの噂は海賊達も知っていたか、どんだけ名を売ってんだよ。海賊達と長く戦い続けていたが、エシャルがいるってーのは伝わっていなかったようだな。まぁ皆殺しだからな、伝わらないのも当たり前だよな…。

 

若干顔を青くしているが、手紙の封を開け、読み始める。様子を窺っていると、

 

「…本気…で言っているのか? …だが本気だとしたら、…まだ望みはある。」

 

困惑はしているが、顔に生気が戻ってきている。内容的には明るいのか?

 

「…俺達の生き様は変わっちまうが、…生き残れるのなら俺は…。」

 

…難しい顔をしながら空を見上げているな? …考えているのかね?

 

…暫くして、

 

「……なぁ、ベオウルフさんにヴォルツさんよぉ…。『黒刃』様は信用出来るお人かぁ…?」

 

空から視線を戻し、俺とヴォルツに問い掛けてくる。エシャルが信用出来るかって? …そんなの、

 

「当然信用は出来る、信頼もしている。仲間や身内のことを考える男だし、敵であるお前に手紙を渡せと託すぐらいだぜ? …それにロマンも持ち合わせているしな。」

 

「その通りだヴォルツ、エシャルは最高に良い男だぜ? 基本アホだけどな。手紙になんて書いてあるのか分からねぇけど、信じてみな。お前達が馬鹿なこと、裏切らないのなら手を差し伸べてくれるぜ? エシャルはな。」

 

信用するに決まっている、裏でゴソゴソしているけどな。それも俺達のことを考えてのことだし、何の文句も無い。まぁアホだし腹立ちこともあるけど、全部引っ括めて信用している。…どうしようもないクズには悪魔だが、それ以外には色男だ。

 

俺達の言葉を聞いて、ヴァンは再び黙り込む。

 

「因みに私らは出会ってからの日が浅いからねぇ、ヴォルツやベオ程までにはいかないけど信用しているよ。まぁ何をやらかすか分からない人だけど、基本温厚で優しいからねぇ…。」

 

「ぶっちゃけモテモテですね、男の人にも女の人にも。不思議な魅力を持つ方です、エシャルさんは。」

 

そんなヴァンに、レイミアとクーもエシャルについて語る。…二人の言葉を聞いて少し、

 

「…そうかぁ、良い男かぁ…。悪名高くなっちまった俺に手紙を渡すような人だ、…信じるのが筋ってもんかもなぁ。」

 

お…? 信じる方に傾いたようだ。…ってことは、これで戦わずに…、

 

「俺は信じたいと思うが、家族の意見も聞きてぇ…。あいつ等の人生にも関わることだしなぁ、…で相談なんだけどよぉ。」

 

俺達は、ヴァンが城へ戻ることを承諾した。自分一人で決めることなく、仲間に意見を聞こうって所に共感したからだ。上に立つ者としてそれは如何なものか? と思うだろうけど、俺達傭兵は仲間同士の信頼があってこその集団だからな。旅団全てに関わることは、皆で決めることにしている。ヴァン一味の海賊達も俺達と同じってことで、共感しちまった。

 

…その結果、一戦交えることになってもな。…つーか、何を書いたんだ? エシャルの奴。一人じゃ決めきれないぐらいの内容、どんなもんなのかね?




次回は、再びエシャルに戻ります。


ここで毎回、アンケートの経過を報告させてもらいます。ここにあった方が、作者も忘れないと思うんで。


エシャル→ディアドラ 1票


因みにシグルドは、オリ妹のヘルで固定です。


ついでに絵も。

マーニャ

【挿絵表示】


パメラ

【挿絵表示】


レイミア

【挿絵表示】


昔書いた奴。

活動報告の意見求むにリクエストすれば、気分次第で書くかも?


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第30話 ~海賊掃討戦《交わる刃・前編》

今回は、少しだけあの事件のことが出てきます。


おくれやすさん、megeGⅢさん、Isaacさん、じょりんごゴン太さん、バニング体位さん、Mullerさん、ナナンブさん、シャンアームさん、Edwardさん、いしゅたるさん。

アンケートありがとうございます!


ーエルトシャンー

 

圧倒的な火力を誇る天馬騎士、その凄まじい炎で海賊達を駆逐する。俺と共に進軍してきた兵達も、イーヴもその光景にア然とする。・・・当然のことだろう、たった一騎に海賊達が為す術もなく、蹂躙されているのだから。だが、この一方的な蹂躙劇よりも、それよりもこの共鳴の方が・・・!

 

「エシャル・・・、エシャルなのか・・・!」

 

これ程の共鳴、未だかつて感じたことがない。・・・魂と魂が響き合う、同じ血が流れる者の証、近くにいない者で挙げられるのはただ一人、死んだとされる愛する甥、エシャルただ一人!

 

「エシャル・・・!!」

 

一瞬、天馬騎士と目が合ったような気がする。驚愕の色と・・・、なんだ・・・?このざわめきは・・・、あの天馬騎士から・・・なのか?

 

妙な違和感をこの身で感じていると、天馬騎士は更に火力を上げてこの戦場を支配する。その光景を見て、ハッとする。

 

「全騎散開せよ!炎より逃れんとする賊徒共を殲滅するのだ!しかし、くれぐれも前へは出過ぎるな!逃げ惑う賊徒共だけを相手にせよ!・・・俺は味方であろうあの天馬騎士と話をつけてくる、イーヴ!これよりお前を臨時の指揮官に任命する、兵達の統率は任せた!」

 

「了解致しました、エルトシャン様!」

 

素早く兵に指示を出し、指揮権をイーヴに委ねる。イーヴならば、被害も出さずに指揮が取れるだろう。これで海賊達は、一人も逃すことなく討ち取れる。

 

・・・後はあの天馬騎士、姿はよく見えない。見えないが確信している、・・・エシャル!俺はエシャルの下へと行かねばならない!行かねばならないのだが・・・、妙な胸騒ぎもする。我が魔剣ミストルティンも俺に警告をする、『闇に注意せよ』と・・・。闇が何を指すのか分からないが、それでも俺はエシャルの下へ。見たいのだ、この目で!愛する甥の姿を・・・!

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

大陸にその名を轟かせるノディオン王家のエルトシャン、獅子王と称されるその武勇は全ての騎士達の憧れ。黒騎士ヘズルの血と共に、魔剣ミストルティンを受け継ぎし聖戦士の一族。そして、俺とエルトシャンは血が繋がっている。それだけならば良かったのに、あろうことかこの俺もまた・・・魔剣を継承出来る程の力を持つ。

 

故に俺は愛された、故に俺は疎まれた、故に俺は奪われた!俺の脳裏に巣食う黒い靄が形を作る、見知っているような男女の姿となる。そして・・・囁く。

 

『奴はお前を狙っているぞ?お前がいたら、息子に魔剣を継承させることが出来ぬ故にな。』

 

『エシャル様、貴方も贄にされるんですよ?貴方の死が・・・必要なのです。家の為にね・・・。』

 

『俺達は貴様を殺すことが出来なかった・・・。故に託したのだ、獅子王に・・・。』

 

『さぁ死んでください、エシャル様・・・。魔剣に斬り裂かれて・・・。』

 

・・・獅子王が俺へと向かってくる、軍から一人離れて俺の下に。目を付けられぬように火力を上げ、ゴミ共を燃やし尽くそうと思っていたのに、一歩及ばず・・・駆けてくる!俺を殺しに・・・!!

 

『『さぁ・・・、死ね!!』』

 

頭に響く黒い声が、俺を死に追いやろうとする。

 

・・・・・・だが俺は!

 

「死んで・・・たまるかよぉぉぉぉぉっ!!」

 

俺にはやらなきゃならんことがある。トラバントと共にトラキアを強国にすること、ガンドルフの兄貴と共にディアドラを見守ること、そして・・・靄に隠された記憶をどうにかすること。記憶はどうでもいいと思っていたが、ここまで邪魔をするならばどうにかした方がいい。それにこの悪寒、頭に響く声と男女の影、まとわりつく闇の影が鬱陶しい!・・・これが、トラバントの言っていた血の呪いなのか?分からない、・・・分からないが声が言うように、獅子王が俺を狙うのなら、たとえ・・・血族だとしても倒すしかない!声の望む死を・・・俺は否定し、立ち向かう!

 

力強くそう思い、愛剣であるキルソードを強く握る。・・・黒い靄が、・・・闇の影が少し薄まった気がした。今こそ・・・磨き上げてきた武を示すのみ、友と大切な者達とこの先を歩む為に、俺の道を妨げるのならば、獅子王エルトシャン・・・!俺はお前を倒す!・・・心の奥で、刃を交えることを望む俺がいる。そんなもう一人の俺と共に、

 

「さぁ・・・スコル!生きる為に強者との一戦、共に駆け抜けよう!」

 

力強い俺の言葉に、大きく嘶き応えるスコル。・・・いざ、生きる為に!

 

 

 

 

 

ーエルトシャンー

 

俺は天馬騎士の下へと駆けた、そして・・・その姿を見た。赤みがかった金髪に、女性的ではあるが整った顔、その身に纏うヘズルとファラと思わしき覇気。俺とアルヴィスの雰囲気を、今は亡き姉上の面影を天馬騎士に見た。・・・やはり間違いなかった、・・・エシャル!魂に響く共鳴と共に感じる懐かしき気配、あぁ・・・エシャル!俺はこの瞬間を、どれ程の時間・・・願ったことか!

 

しかし、そんな想いは打ち砕かれる。声を掛けんとした時に、

 

「死んで・・・たまるかよぉぉぉぉぉっ!!」

 

天馬騎士の、エシャルの鬼気迫る声に最大限の警鐘がなる。エシャルから黒い靄が噴出し、彼の目を紅く染める。だがそれは一瞬で、黒い靄は霧散し、目の色も元に戻る。そして・・・、俺の贈りしキルソードを構えて・・・、

 

「さぁ・・・スコル!生きる為に強者との一戦、共に駆け抜けよう!」

 

その言葉と天馬の嘶き、この場に放たれる殺気。エシャルは俺を狙っている!・・・何故だ!

 

疑問を思い浮かべている暇はない、剣を交えなければ俺自身が危険だ。この殺気は尋常ではない!・・・エシャル、強者になったな!俺を狙う理由は分からんが、久々に剣の稽古をしてやるか!たぎる、・・・たぎるぞ!聖戦士同士の一騎討ち、それも黒騎士ヘズル同士の戦い。不謹慎ながら俺は、この身体中に駆け巡る喜びを抑えることが出来ない!・・・エシャル、剣を交えよう!だが安心するといい、俺はお前の命を奪いはしない。お前は俺の命を狙ってはいるが、決して俺はお前の命を奪いはしない。だが・・・!楽しませてくれよエシャル!お前に何があったのか、剣と剣が・・・刃と刃が交われば自ずと分かる!さぁ、命懸けの語り合いをしようか!

 

「我が魔剣は闇をも斬り裂く・・・!獅子王エルトシャン・・・参る!」

 

俺はミストルティンを天に掲げ、エシャルへと向かっていった。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

俺は空を駆け、エルトシャンは地を駆け、そして刃と刃がぶつかり合う。

 

ギャリィィィィィン!!

 

「・・・いぎっ!」

 

俺の剣は魔剣とぶつかり合い、力と力が競い合う。しかし、俺の方が押し負けている。俺は空、相手は地。踏ん張りが無い分、空にいる俺とスコルの方が分が悪い。負けてなるものか!と俺は全力を込める、スコルもまた・・・空にて力強く羽ばたくも、

 

「まだまだ甘い!その程度の力、俺の前では無力と知れ!」

 

より一層力を込めた魔剣の前に、俺とスコルは競い負けて弾き飛ばされる。瞬時に手綱を操り、空中にて体勢を整える。流石は獅子王と呼ばれる男、力では負けるか!だが・・・負けるわけにはいかない、俺は負けるわけにはいかないんだ!力では負けるが、速さでならばどうだ?はぁぁぁぁぁっ!

 

 

 

 

 

ギィン!ギィン!ギィン!ギャリン!

 

・・・この!

 

ギィン!ギィン!ギィン!

 

・・・んぐ!

 

ギャリン!ギィン!ギャリン!ギャリン!

 

こな・・・くそっ!

 

ギャリィィィィィン!ギィン!

 

幾度となく空から急襲し、剣戟を繰り広げるが全てを捌かれる。正面、側面、背面、頭上、・・・様々な場所や死角から襲ってはいる。・・・いるがしかし!なんという守りの固さか!速さは勝っているというのに、獅子王の武勇は本物としか言いようがない!俺の速さをその技で、その勘で防ぎきる。・・・されど相手は、俺に反撃を出来ずにいる。守ることで精一杯・・・ということか?・・・俺の速さも捨てたもんではない。まだまだ俺は大丈夫、スコルもまだ・・・羽ばたける。力尽き、飛ぶことが出来なくなるまでやってやる!

 

 

 

 

 

止まらぬ剣戟、互いの刃が幾度も交わりぶつかり合う。その度に、俺の心がざわめく。刃と刃を通して、何かが俺の中を駆け巡る。忘れていた何かが、靄に隠されていた何かが少しずつ、人の形になっていく。

 

そして、それを阻むように・・・、

 

『・・・諦めろ、死ね!』

 

『・・・貴方が死なねば、家が分裂してしまう。・・・故に、死ね!』

 

『・・・妬ましきその血、死ね!』

 

『・・・全ては家の為に、・・・そして力の為に、・・・だから死ね!』

 

『『死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!・・・・・・!!』』

 

頭に響く黒い声、男女の声、何処かで聞いた声、俺の死を望む声、死へと誘う呪われし声、声声声声声・・・!!

 

・・・お前達はなんだ、一体誰なんだ!何故俺を死へ誘う!?俺が何をした!本当に・・・なんなんだよ、お前達は・・・何者なんだよ!

 

『『死ネェェェェェェェェェ!!』』

 

俺は死なねぇ、死ぬわけにはいかねぇと言っているだろうが!・・・俺は死なねぇ、そこまで死に拘るなら、お前達を殺してやるよ!・・・殺してやる!殺してやる!殺してやる!

 

俺は剣を構え、影へと襲い掛かろうとする。しかし、誰かが俺の腕を引いた。振り返ると黒い影、されど温かい懐かしき影、その影はどことなく、獅子王エルトシャンに似ている。

 

「・・・・・・!!」

 

そう思った瞬間、声と影は消え、空を舞う俺、眼下にエルトシャン。・・・危なかった。

 

何を見ていたんだ俺は・・・。一騎討ちの最中に幻を見ていたか?そして、何を思い出す?今はそうじゃないだろう?俺は眼下の男、獅子王エルトシャンを倒さねばならないのに。

 

・・・何時、あの声と影が出てくるか分からない。故に剣のみの対決は、この次で最後としよう。何故剣のみで戦いを挑んだのかは分からない、だが!次の突撃で決まらなければ、炎も使う!俺には魔法がある!

 

魔法があるがその前に、俺の全てを、持てる剣技の全てを賭け、ぶつからなければならない!何が俺にそうさせる?・・・我が身に流れるヘズルの血か?・・・

 

いや、今は考える時では無い。俺はそう思い、キルソードを構え直す。

 

俺の剣技の全てを、次の突撃に賭けて、ただ押し通ることだけを考えろ!

 

決死の覚悟でエルトシャンにへと急降下した時、俺の中にいるもう一人の俺と、エルトシャンに似た影が微笑んだような気がした。それでいいと・・・。




戦闘が手抜き(汗

皆さんの妄想でカバーしてください。


闇が巣食うエシャルの身体、エシャルの記憶、男女とは一体?



アンケート・途中経過

エシャル→ディアドラ 6票・アイラ 3票・パメラ 2票・アルテナ 1票・みんな嫁 1票

ガンドルフ→ディアドラ 3票・アイラ 1票

ホリン→ディアドラ 2票・パメラ 1票・アイーダ 1票

ベオウルフ→パメラ 2票・アイーダ 1票

ヴォルツ→レイミア 1票

ーーーーーーーーーーーー

アレク→パメラ 1票

レヴィン→フュリー 1票


・・・ってな感じかな?とりあえず、挙がっていた名前を全てになるのか?抜けてたらごめんなさいね?

やはりディアドラですか、今のところ。

しかし、まだ分かりません!

後々、名前の挙がったヒロインとの閑話を考えて書きます。挙がっていないヒロインとの閑話も書きますよ?

それを見てとか、後々の物語の進み具合によって考えを改めるのも有りです。

勿論独身で子世代も有りです!たぶん、子世代にまでいくと思いますし。

締め切りはまだまだなんで、色々考えてください。さっきも言いましたが、既に投票してくれた方も変更しての再投票は有りですからね!他キャラも思い付いたら投票よろです!


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第31話 ~海賊掃討戦《交わる刃・中編》

まさか前編・中編・後編になるなんて!?


ノヱルさん、すぱふぇすさん、遊技林さん、アンケートありがとうございます!


ーエルトシャンー

 

エシャルの攻撃を俺は難なく、最初は難なく捌いていた。鋭い一撃、死角からの追撃、頭上からの突撃、・・・様々な攻撃と速さ、次第に俺は防戦一方となっていた。それと同時に喜びを隠せない、エシャルの強さが、『トラキアの黒刃』の武勇が、想像以上であり噂に違わぬモノであると!

 

見ぬ内に成長したエシャルに感嘆しつつ、幾度となく剣戟を繰り広げていると、

 

「・・・うがぁぁぁぁぁっ!!」

 

突然叫びだし、空へと急上昇するエシャル。何事かと空を見上げると、頭を押さえて苦しんでいるように見える。そして霧散したと思われた黒い靄が、再びエシャルの身を包む。・・・エシャルの身に、何が起きているというのだ!?・・・その姿を見ているだけで、妙な胸騒ぎ・・・焦燥感が募ってくる。あのままでは、何か取り返しのつかないことになるのでは・・・と。そして、見ていることしか出来ぬのか・・・と。くそっ!俺には見ていることしか出来ないのか!それしか許されないのか!・・・せっかく、・・・せっかく再会したというのに。まともな言葉すら交わせないというのか!

 

・・・剣を交えて感じたことがある。彼はエシャルであると、そしてもう一人のエシャルもその身に宿していると。その身に宿るエシャルが助けを求めている、自身が闇に喰われて消えてしまうと。それを感じ、今・・・思い返してみると、俺の全身に強烈な悪寒が駆け巡った。そんなことになってしまったら、俺の知るエシャルが消えてしまう。エシャルであって、エシャルでなくなるのでは・・・と。

 

そんなこと・・・絶対に駄目だ!許してはいけない!俺はエシャルの全てを守らなければならない!今の俺はエシャルのすぐ傍にいる、あの時の俺ではない!遠く離れていたが為に救えなかったが、今なら・・・救うことが出来る筈だ!そう決意し、ミストルティンを強く握り締める。すると・・・、『闇を払う為に声を・・・』。ミストルティンが俺に語り掛けてくれた、・・・そうか!そうだな!俺はまだ、エシャルにまともな声を掛けていない、・・・名前を呼んでいない!まずは俺を、俺をその目に写せ!俺は大きく息を吸い、空で苦しむエシャルに向かって・・・、

 

「エシャルゥゥゥゥゥッ!!」

 

大きな声で叫んだ。様々な想いを乗せて、ミストルティンが言う闇が払われることを願って・・・。

 

 

 

 

 

俺が叫んだ後、再びエシャルの闇が霧散した。そして心なしか、エシャルの雰囲気も先程とは違い、柔らかくなったような・・・、そうでもないような・・・。まぁいい!正気ではないにせよ、正気に近くなったのだから!さっきまでは稽古として受けに徹していたが、次は救う為に攻めへと転じさせてもらうぞ!闇を払うミストルティンで、エシャルの闇を斬り裂いてくれよう!

 

む・・・!エシャルの覇気がヘズルに偏った・・・?全てを剣に賭けるというのかエシャルよ!その決意、正面から受けて立つぞ!次の一戦で学ぶといい、ヘズルの剣を!そして受け取れ、俺の想いを!断ち斬らん、その闇を!

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

俺は空を滑るように駆け、キルソードに全力を込めて突撃する。滑空しながらもエルトシャンを見据えると、あっちも何かを決意し此方に突撃してくる。圧倒的な覇気、俺とは比べられない程大きい。そして不思議なのは、初めてその姿を目にした時に感じた、・・・恐怖、そう・・・恐怖を感じない。俺の中の影のせいなのか?エルトシャンに似たあの影が・・・。だが、今は関係無い。こうして、ぶつかろうとしているのだから。さぁ・・・全力の突撃、どこまでいけるかね!!

 

 

 

 

 

俺のキルソードと、エルトシャンのミストルティンが、再び交差してぶつかり合う。最初の一撃とは違い、今回の一撃・・・ぶつかり合いは次元が違った。刃と刃が交わった瞬間、目には見えぬ、そして力無き者が感じることの無い、見えざる力がここを中心に、マディノ周辺へと広がったような気がした。そして、俺の中の恐怖が、エルトシャンに感じていた恐怖が消えた。なんと懐かしい・・・、俺はこの男を、獅子王エルトシャンを知っているような気がする。・・・するがしかし、剣を止めることなどしない!それでも俺は、エルトシャンを倒すんだ!

 

俺は名残惜しさを殺して飛び退き、エルトシャンと再び剣戟を繰り広げるのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

エシャルのキルソードと、エルトシャンのミストルティンがぶつかり合った時、見えざる力がマディノ周辺に広がった。そして、その力を感じた者がマディノ周辺に数人いたのだ。

 

 

 

 

 

ー港街マディノー

 

「海の炎が消えたとしても、決して警戒を解いてはいけない。先程のように、しぶとく生きているかもしれんからな。」

 

カナッツさんが指示を飛ばし、兵士さん達が油断なく警戒をしてる。各所の小さな門も問題なく守り切れたみたいですし、この街はもう大丈夫だろう。後はオーガヒルへ進軍したヴォルツさん達、単身で正面大門の防衛に向かったエシャル様、皆様の無事を祈るだけ。まぁ・・・正面大門の方角から、エシャル様の魔法かな?震動をここからでも感じることが出来ていたのだから。きっと無事なのだろう、そう思いながら戦後処理のお手伝いをしていたのだが・・・、

 

キィィィィィィィィィン・・・!

 

「「・・・!!」」

 

頭に何か響いた。・・・この感覚はなんなのだろう?身体の奥底から溢れるような・・・、光に包み込まれるような・・・。そう思った瞬間、エシャル様の戦う姿が頭に浮かび上がった。必死に戦うエシャル様。そのエシャル様の身体から、悲鳴のような音と共に消え往く影・・・。私は正面大門へ、エシャル様がおられるだろう方角へ視線を向けた。そんな私にホリンさんも・・・、

 

「今のは・・・なんだ?ディアドラも何かを・・・?」

 

私ほどではないにせよ、ホリンさんも感じられたみたいだ。

 

「・・・ホリンさん、エシャル様が苦戦しているみたいです。・・・相手が何方か分かりませんが、相当お強い方のようです。」

 

「んなっ!」

 

馬鹿な!?というお顔のホリンさん。・・・でも、本当のことなのだ。

 

そんなやりとりを早々に切り上げ、カナッツさんに事情を説明する。そしてハティの背にホリンさんを同乗させ、私はエシャル様の下へと急いだ。

 

 

 

 

 

ーオーガヒル城・傭兵陣営ー

 

「さて・・・私達の役目も終わった、そろそろマディノへ向かうとしようか。」

 

「そうですね、エシャル様の下へ向かうとしましょう。」

 

脅しの一撃を成功させ、無事・・・手紙を渡すことが出来たわけで。俺達に付き合ってくれた二人は、エシャルんとこに行くみたいだ。なんつーか、パメラのやり遂げた感のある笑顔が眩しいぜ。どんだけエシャルに好印象を与えたいんだよ、コイツは。まぁ・・・助かったのは確かだし?俺も一言、エシャルに言ってやるのも吝かじゃねぇけどよ。・・・兎に角、後はヴァン達の返事を待つだけだ。二人に軽く礼を言った後、二人がペガサスの背に・・・って角があんぞコイツ!いつの間にファルコン!?ペガサスじゃねぇし・・・!なんて思いつつ、別れの挨拶でもと思ったんだが、

 

キィィィィィィィィィン・・・!

 

「「「「・・・!?」」」」

 

なんだぁ?今、何かを感じたぞ?俺はキョロキョロと辺りを見回す。俺と同じようにキョロついてるのはレイミア、一方を見詰めているのがパメラとアイーダ。

 

「なんなんだい・・・今のはさ!心を撫でるような・・・!」

 

・・・レイミアが、めっちゃ興奮しとる。少し焦った俺だが、その姿を見たら落ち着いた。落ち着いたからこそ、一方を見詰める二人に話し掛けようと・・・、

 

「パメラ殿!今のはきっと・・・!」

 

「分かっている!・・・エシャル殿の身に何かが!急行する故、しっかり掴まってくれアイーダ殿!」

 

「・・・ぶぁっ!」

 

・・・したら、吹き飛ばされたぜ。何を慌てているんだ?エシャルがなんとかって・・・。とりあえず、マディノの方角に飛んでいった二人に俺は、

 

「バッカやろぉぉぉぉぉっ!!」

 

と叫ぶのは仕方がないと思うんだ。・・・いてて!頭を石にぶつけちまったぜ。

 

「おいベオ、・・・血が出てるぞ。」

 

え・・・!マジ・・・!?

 

 

 

 

 

ーオーガヒル城・海賊陣営ー

 

親父が手紙を持って戻ってきた、無事に戻ってきたのはいいんだけどさ・・・、

 

「俺ぁ~『黒刃』様に賭けようかと思ってなぁ、このままじゃあ俺達は皆殺しになっちまう。海賊として戦い死ぬのもいいけどよぉ、それよりもお前達と共に生きてぇ・・・。」

 

親父は、アタイ達の顔を見ながらそう言った。親父が傭兵から受け取った手紙は、あの『トラキアの黒刃』エシャルからのモノらしい。内容を簡単に言うと、海賊を辞めて俺んとこに来いってことさ。所謂、エシャルの配下になれってことさね。親父としては、アタイ達が死ぬぐらいなら配下になるのもいいって考えだけど、

 

「親父!だけどよぉ、奴はギーグ達を言いくるめて殺した奴なんだぜ?俺達を生きたまま捕らえて、処刑をする腹づもりかもしれねぇ!」

 

「そうだ!仲間割れを起こさせて、皆殺しをするような奴だ!俺達も同じように殺すつもりだ!」

 

ドバールとピサールが声を荒げて反対をする。そりゃあそうだろうさ、手紙には馬鹿正直にそう書いてあったんだからさ!卑怯な男だよ!

 

「仕方がねぇことだろうよ、そいつはよぉ~・・・。奴等はやり過ぎちまった、遅かれ早かれ殺られるのは目に見えている。だから優しい『黒刃』様はよぉ、まだ何もしちゃあいねぇ俺達を遠ざけたのよ。俺達の手が赤く染まる前に、俺達に手を差し伸べる為によぉ。何もしてねぇ者を殺すのは、『黒刃』様の主義に反するってことだ・・・。」

 

アタイ達を救う為に、この卑怯な作戦をした・・・だって・・・?

 

親父の見解を聞き、アタイ達は考え込んだ。確かにアイツ等はやり過ぎた、あのままだったらドバールもピサールも合流し、手に負えなくなっていただろうね。最終的に親父もアタイも、この手を赤く染めざるを得なかっただろうさ。そしてアイツ等と同じ、皆殺しの目に合っていただろうね。エシャルの策のお陰で、ドバールとピサールは踏みとどまった。術中に嵌まったのは癪だけど、アタイ達は助かりここにいる。・・・だけどねぇ、それでも納得がいかないんだよ。このモヤモヤ感、どうにかしてほしいよ。きっと皆も複雑だろうさ。親父の言うことには最終的に従うけど、そのエシャルって将軍が・・・、

 

キィィィィィィィィィン・・・!

 

「・・・ふぁっ!?」

 

なんだい?この感覚は・・・!この胸を・・・、心を射抜かれるような感じはさ・・・!それに、誰かが必死に戦っている映像が頭に流れる。・・・この男がエシャルなのかい?何処かで見たような・・・、似たような面影を何処かで・・・。でもなんだろうね?この男がエシャルだというなら・・・、信じても良いような気がしてきたよ。

 

「どうしたブリギッド、アホ面晒してよぉ!お前もアレだろ、納得いかねぇよな!」

 

少しフワフワしていたけど、ピサールのデカイ声で我にかえった。アホ面とか言って、普段ならぶん殴るんだけど、

 

「・・・そのエシャルって将軍を信じてみるのも良いかもね。」

 

アタイはそう言った。アタイの言葉に、親父も含めて皆驚いた。

 

「一番噛み付きそうな奴が賛成かぁ・・・。」

 

「「「「「・・・マジかぁ~。」」」」」

 

・・・アンタ達、アタイに喧嘩を売っているのかい!?

 

 

 

 

 

ーマディノ周辺・戦場のはずれー

 

エルトシャン様の命により、マディノ軍を率いて賊徒狩りをしていたのですが・・・、

 

キィィィィィィィィィン・・・!

 

エルトシャン様とエシャル様が、互いの想いを乗せて戦っておられるようです。エルトシャン様は何かを断ち斬るように、エシャル様は失った何かを得る為に。黒騎士ヘズル同士の一戦、間近で見たいです。見たいですが・・・、私は民の為に賊徒を狩らなければなりません。後の世に禍根を残さぬよう、狩り尽くさなければ。

 

・・・というか、根本的な疑問があります。何故、お二人は戦っておられるのですか?

 

 

 

 

 

ーマディノ周辺・???ー

 

如何にしてエシャル様と接触をするか、俺は考えていた。そんな時に・・・、

 

キィィィィィィィィィン・・・!

 

「・・・む!」

 

妙な感覚が一瞬ではあるが、俺の身を駆け巡った。これはエシャル様と・・・エルトシャン様!?何故この二人が・・・!それに微かにだが、エシャル様からロプトの気配が・・・!

 

このことに、俺は焦った。考えている暇は無い、一刻も早くエシャル様と接触を果たさなければならない。本来ならば問題の無い共鳴の余波ではあるが、ロプトが絡むのであれば別だ。この目で早く確認せねば、最悪・・・。

 

・・・いけない!考えてはならないことを考えてしまった!今はただ、エシャル様の下へ急ぐのみ!・・・俺の力が及ぶ範囲であれば良いのだが・・・!エルトシャン様・・・、どうかエシャル様を!

 

 

 

 

 

聖戦士の継承者とその血に連なる者が何かを感じ、数人の者が戦場へと向かう。そしてその結果、一つの記憶が甦る。その記憶とは・・・。




次で交わる刃は終わるかな?・・・終わればいいな(汗


因みに、今回絡む人物達は、

聖戦士の継承者

聖者ヘイム→ディアドラ
弓使いウル→ブリギッド

聖戦士に連なる者

黒騎士ヘズル→ベオウルフ・イーヴ
魔法戦士ファラ→アイーダ
風使いセティ→パメラ
剣聖オード→ホリン・レイミア
ロプト一族ガレ→レクスヴァ

となっております。


アンケート・途中経過

エシャル→ディアドラ 7票・アイラ 4票・パメラ 3票・アルテナ 1票・みんな嫁 1票

ガンドルフ→ディアドラ 4票・アイラ 1票

ホリン→ディアドラ 3票・パメラ 1票・アイーダ 1票

ベオウルフ→パメラ 3票・アイーダ 1票・レイミア 1票

ヴォルツ→レイミア 1票・ブリギッド 1票

アルヴィス→アイーダ 1票

トラバント→マーニャ 1票

みんな独身? 1票

ーーーーーーーーーーーー

アレク→パメラ 1票

レヴィン→フュリー 1票


・・・てな感じですかね?

トラバントにマーニャ・・・、側妃ってことかな?


とりあえず、願望で良いんですよアンケートは!

どんどん、投票しておくんな!願望慾望出てこいや!


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第32話 ~海賊掃討戦《交わる刃・後編》

そろそろ序章は終わりっすね。

Q太=ろうさん、にゃ~ん()さん、アンケートありがとうございます!


またまた活動報告にて、意見を求めています。原作死にキャラとエシャル軍についてです。なんかありましたら、足跡を!


ーエシャルー

 

本気の剣戟もエルトシャンには通用しない、・・・相手も同じようなことを感じているのだろうか?俺としては、この短い間にエルトシャンの剣捌きを多少は学んだ。その剣捌きと、我流、イザーク剣術、俺の全てを出してはいるが至らない。通用しない、至らない、だが食らい付いている。そして・・・、

 

「これが獅子王エルトシャン、・・・まだ足下にも及ばない。・・・これが俺の憧れ、・・・俺の叔父。」

 

徐々にその姿が大きくなる、俺の中の影がエルトシャンになっていく。この人は俺の叔父で憧れ、俺を愛してくれた人。あの声が言うような、俺の命を狙う・・・、そんなことをする人ではない。獅子王エルトシャンは、・・・エルト兄様はそんな人間ではない!

 

声無き会話を、刃と刃で語り合い俺は思い出した。思い出したことにより、俺の戦意は倒すから認められたいに変わった。エルト兄様である以上、倒すなんてもってのほかだ。憧れのエルト兄様だからこそ、認められたいのだ。・・・俺の内に潜む黒い声、あの男女は出てこない。まだ燻っているかもしれないが、今はただエルト兄様と刃を交えるのみ!魔法は使用しない、純粋に剣のみでエルト兄様の胸を借りよう。溢れる力のままに、その力尽きるまで!

 

 

 

 

 

俺とエルト兄様の剣戟は続いた。どう攻めても捌かれ、攻められれば捌き、一進一退の剣戟。それは一種の剣舞と言って良い程、洗練された剣戟であった。だが、始まりがあれば終わりがあるわけで。

 

「・・・はぁっ、・・・はぁっ、・・・はぁっ!」

 

俺の体力も限界に達しようとしている、・・・エルト兄様の体力は無尽蔵なのか?顔色一つも変わらずに、終始優勢のまま。・・・流石としか言いようがない、俺ではまだ届かない領域だ。・・・力尽きるまでと決めたからには、最後まで!・・・集中するんだエシャル、スコルと心を一つに、人馬一体を目指して・・・!今この瞬間は、俺とエルト兄様のせか・・・、

 

『『否!』』

 

「・・・・・・!?」

 

やはりまだ・・・、俺の中にいたか!また・・・、邪魔をするのか!また・・・、俺を・・・!

 

『お前が全てを思い出さぬ限り、俺達は消えぬよ・・・。』

 

『・・・邪魔とは心外ですね?・・・私達は知らせようとしただけですよ?』

 

・・・知らせる・・・だと?

 

『その通りだ。・・・ほら、聞こえるだろう?滅びの羽音が・・・。』

 

『エシャル様のお知り合いを人質に、魔女が来ますよ?貴方と獅子王を葬りに・・・。』

 

魔女?・・・魔女、・・・魔女とは一体誰なん・・・!?まさかヴェルトマーの魔女と名高い・・・!

 

その時、俺の耳に届いた羽音。天馬騎士・・・、パメラさんか!?その姿を捉えた俺は、この身に怒りを感じた。何故ならば、その後ろには魔女がいる。見たことが無い筈なのに分かる、・・・あの女がヴェルトマーの魔女!俺を裏切った女!皆を殺す手引きをした仇!

 

 

 

 

 

・・・敵はまだ遠い、・・・距離がある。俺が今出来る攻撃手段は一つ、・・・魔法だ。

 

「やらせはしないよ、・・・あの時の俺とは違う。守る力がある、・・・叔父を、・・・エルト兄様を守る!」

 

俺はエルト兄様を守るように体勢を変える、そして・・・、

 

「俺に任せてください、エルト兄様!・・・魔女は、この俺が滅します!・・・見ていてください、魔女を滅するファラの力を!」

 

キルソードを鞘に戻し、両手を空に掲げる。俺の頭上に、小さな魔力の塊が現れる。俺が集中すると、それは徐々に大きくなっていく。

 

「エシャル!落ち着け!・・・よく見るんだ!あの天馬騎士と共にいるのはアイーダ、・・・お前の!!」

 

エルト兄様が何かを言っているが、今の俺にはよく聞こえない。・・・たぶん、俺を応援してくれているのだろう。なら、その期待に応じなければ!

 

俺の頭上には、大きな炎の塊。通常の10倍ぐらいの魔力を込めた、特製のエルファイアーだ。コイツが直撃すれば、跡形も無く燃やし尽くすことだろう。・・・俺とエルト兄様を殺しに来たのが運の尽き、自らの行いを後悔し・・・、炎の裁きをその身に受けよ!

 

「いかん!避けろぉぉぉぉぉっ!!」

 

「燃え尽きよぉぉぉぉぉっ!!」

 

頭上にあった炎の塊を、魔女に向けて放った。これで俺の平穏は守られる、エルト兄様を守ることが出来た。

 

 

 

 

 

ーアイーダー

 

オーガヒル城から最大速度でマディノへ、パメラ殿の天馬はとても速い。あっという間に海を越え、マディノ近辺まで来ることが出来た。エシャル様からの共鳴、それを感じた方角に飛んできた私達の前に、

 

「アイーダ殿、エシャル殿がいたぞ!」

 

パメラ殿の指差す方へ視線を向けると、エシャル殿と思わしき天馬騎士と・・・エルトシャン様!?何故エルトシャン様がここに・・・?どうしてエシャル様と・・・?疑問しか浮かばない、・・・浮かばないが今はお二人を止め・・・!

 

凄まじい殺気を感じた、死神の鎌が首筋に当てられたような・・・。震える体をどうにかしようと考えたが、

 

「くっ・・・!ロタ、どうした!落ち着け・・・!」

 

パメラ殿の天馬が怯え、暴れだしたのだ。空中で体勢を維持することがやっとのようで、私は振り落とされないようしがみつくことしか出来ない。

 

・・・そんな中、明確な殺意が此方に向いた。まるで・・・、まるでアルヴィス様のような覇気。それが・・・私に向いている!?・・・そして私の視線は、一つの恐怖に注がれる。

 

「そんな・・・エシャル様?・・・エシャル様が私を?」

 

エシャル様であろう天馬騎士の頭上に、魔力が凝縮されたと思われる炎の塊が・・・。パメラ殿も気付いたようだが、天馬を操るのに必死だ。エシャル様に殺意を向けられている私はと言うと、頭の中が真っ白になっている。わけが分からない、私はただエシャル様に会いたかった、それだけなのに・・・。そんな私達に・・・、

 

「いかん!避けろぉぉぉぉぉっ!!」

 

「燃え尽きよぉぉぉぉぉっ!!」

 

二つの声が重なり耳に届いた。・・・エシャル様が此方に、あの炎の塊を放った。・・・これが再会した結果ですか?私という存在が招いた結果ですか?・・・まだ、言葉も交わしていないのに。禍々しき炎の塊を瞳に写し、私は巻添えになってしまったパメラ殿に・・・、

 

「申し訳ありません、パメラ殿・・・。私と共にいたが為に・・・。」

 

消え入りそうな震える声で謝罪した、パメラ殿は・・・、

 

「ロタ・・・!頼むから・・・!!」

 

諦めずに、天馬をどうにかしようとしている。・・・迫り来る死を見詰めるだけの私、抗おうとするパメラ殿。そんな私達と炎の前に、立ち塞がる一つの影があった。

 

「パメラ様は殺らせはしません!・・・それに、エシャル様がこんな禍々しい炎を!こんな炎を放つなんて・・・!何かの間違いです・・・!」

 

なんて可憐な少女、・・・天馬騎士だろうか?

 

「ディアドラ殿・・・!?駄目だ、今すぐそこから・・・!!」

 

パメラ殿の悲鳴に近い叫び、しかし少女は・・・、

 

「禍々しき闇よ・・・、私がこの手で・・・!」

 

少女は剣を天へと掲げ、炎に立ち向かっていく。光輝く剣身と共に空を駆ける少女は、美しかった。

 

 

 

 

 

ーディアドラー

 

嫌な予感がする、あの光景を見て私はそう思った。エシャル様から離れていく影が、とても歪で不吉なモノであると。その影はそう簡単に消えるモノではない、あの光景で消えていたのは表面だけ。エシャル様の中で、きっと燻り続けている。私と出会う前から、そして今も・・・これからも・・・。私はエシャル様の下へ急ぐ、その身を案じて。それと嫌な予感、エシャル様に不幸が訪れる予感。だけど、分からないけど、・・・私ならそれを防ぐことが出来る、何故だかそう思う。

 

そんな理由から、ホリンさんを同乗させ飛び出した私。私の後ろにいるホリンさんは、

 

「エシャル殿が苦戦?・・・相手はどんな化物か?俺が加勢して足手まといにならないか?・・・うーむ。」

 

ぶつぶつ呟いて、ウンウン唸っている。ホリンさんの気持ちも分かる、ホリンさんの敵わないエシャル様が苦戦する程の敵だ。自分が太刀打ち出来るのか不安なのだろう、現に私も不安だ。不安だけれど、

 

「ホリンさんだってお強いです、エシャル様とお二人で挑めばきっと・・・。私も支援致します、ですから・・・。」

 

私なりに励まそうというか、元気付けようというか、兎に角頑張ろうとホリンさんに言葉を掛けていた時、

 

「・・・・・・!!」

 

エシャル様の魔力の高まり、禍々しい気配、この二つが混ざり合う感じ。そしてそれは・・・いけないこと、・・・なんとかしないと!私がやらなければならない、そう感じて・・・私はハティの手綱を強く握り締めた。

 

私の気持ちを汲んだのか、ハティは力強く羽ばたき空を駆ける。その時・・・、

 

「・・・えぇ!?ちょっ・・・!ディアドラァァァァァ・・・・・・!?」

 

悲鳴と共に、何やらハティの飛ぶ速さが更に上がったような・・・?まぁ、速くなったのなら好都合。どうか、間に合って・・・!

 

 

 

 

 

そして辿り着いた場所では、

 

「いかん!避けろぉぉぉぉぉっ!!」

 

「燃え尽きよぉぉぉぉぉっ!!」

 

男性の声が2つ、1つはエシャル様のもの。もう1つは・・・って、それどころではない!エシャル様のお姿を見取り、その視線の先を見るとそこには・・・、

 

「パメラ様・・・!?何故パメラ様が?エシャル様は何故・・・!?」

 

戸惑っている暇はない、このままではパメラ様が!・・・私の予感、不幸とはこれのこと!?先程感じた予感とはこれだ、私はそう直感した。それを止める役目はこの私、理由は分からないが殺らせてはならない!私は、この場に駆けてきたままの勢いでパメラ様の前に躍り込んだ。

 

・・・なんて禍々しい炎、この炎には何か別の力を感じる。エシャル様ではない、何か別の・・・。いつもニコニコしていて、助けられる命を助けようとする優しい方。いつも色んな方に囲まれ、愛し愛されているエシャル様が、憎しみと怒りの籠った禍々しい炎を、信頼しているパメラ様に放つわけがない!

 

「パメラ様は殺らせはしません!・・・それに、エシャル様がこんな禍々しい炎を!こんな炎を放つなんて・・・!何かの間違いです・・・!」

 

エシャル様はきっと、別の何かに・・・!影・・・あの影が、エシャル様を狂わせているんだ!・・・それに闇、・・・それは闇に違いない!私の内にある何かが囁いている、そして止められるのも・・・!導かれるまま、私は鞘から剣を抜き、

 

「ディアドラ殿・・・!?駄目だ、今すぐそこから・・・!」

 

パメラ様の叫びが聞こえるが、退くわけにはいかない。

 

「禍々しき闇よ・・・、私がこの手で・・・!」

 

光の剣よ、私に力を・・・!この闇を打ち消す力を・・・!

 

 

 

 

 

私の呼び声に光の剣が応え、一際光輝き・・・、

 

「たぁぁぁぁぁっ!」

 

私なりの気合と共に、光の剣を炎に向けて振り下ろした。そして・・・、この場は白に塗り潰された。

 

 

 

 

 

ーレクスヴァー

 

俺はこの時を待っていた、隙が生まれる時を、力が衰える瞬間を!俺自身の力で強引にでも作ろうとした瞬間を、あの少女が作り出したことには驚いたが、それよりも・・・今ならば!

 

「・・・サイレス!」

 

エシャル様に魔封じの結界を張り、

 

「・・・スリープ!」

 

眠りへ誘う魔法を放つ。ぐらりと揺れて、天馬へ抱き付くように倒れるエシャル様。賢い天馬はエシャル様を落とさぬよう、ゆっくり地上へ降りてくる。その場所へエルトシャン様が駆け寄り、空より二騎の天馬騎士が舞い降りる。・・・なんとかなったようだな、俺はホッと胸を撫で下ろした。あちらに説明をする為、姿を見せねばな。

 

・・・っとその前に、俺は自身愛用の杖を地に突き刺し、

 

「・・・・・・はぁっ!」

 

自身の魔力を地に流し、先程の魔力をこの地から消す。俺の勘が正しければ、あの少女の力は・・・。奴等に気付かれてはならない、・・・未来の希望になるかもしれないからな。

 

・・・あちらが騒がしくなってきた。・・・いい加減、姿を見せねば邪推されてしまう。俺はゆっくりと歩を進め、エシャル様の周囲にいる方々の前に姿を現した。




アンケート・途中経過

エシャル→ディアドラ 7票・アイラ 5票・パメラ 3票・アルテナ 1票・みんな嫁 1票・独身 1票

ガンドルフ→ディアドラ 4票・アイラ 1票・レイミア 1票

ホリン→ディアドラ 3票・パメラ 1票・アイーダ 1票

ベオウルフ→パメラ 3票・アイーダ 1票・レイミア 1票

ヴォルツ→レイミア 1票・ブリギッド 1票

アルヴィス→アイーダ 1票

トラバント→マーニャ 1票

みんな独身 1票

ーーーーーーーーーーーー

アレク→パメラ 1票

レヴィン→フュリー 1票



ゲームでエシャルがいたら、悩みますね。キルソードが魅力的よね?


子世代まで独身だったら、イシュタルが欲しいw


・・・アンケートの締め切りはまだまだ先なんで、皆さんよろ~!


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第33話 ~俺、スリープ中です

Edwardさん、アンケートありがとうございます!


んでもって、Edwardさん、バニング体位さん、貴重な意見をありがとうございます!


アンケートとかは活動報告んとこにあるんで、よろしくどうぞ。


ーパメラー

 

私達に向けて放たれた炎、ロタが怯えて制御不能。・・・私とアイーダ殿はこれで終わる、・・・お慕いしているエシャル殿の手で。とても悲しいことだけど、エシャル殿の手に掛かるのならそれはそれで・・・とも思った。しかし間一髪のところでディアドラ殿が乱入、彼女は炎を打ち破って私達を救ってくれた。

 

何故エシャル殿が私達を?そう疑問に思うのは自然のことだろう、後ろに同乗するアイーダ殿も同じ疑問を持った筈。そう思い振り返ってみると、アイーダ殿は顔を青くして茫然としていた。・・・これは当分、そっとしておいた方がいいな。私はそう判断し、まずはディアドラ殿に礼を言わねばと思ったのだが、

 

「・・・エシャル様!?」

 

ディアドラ殿の切羽詰まった声に、私はハッとして気付いた。そうだエシャル殿!私は慌ててエシャル殿へと視線を向けた。エシャル殿は天馬に身体を預け、微動もせずに地上へと降りていく。その姿が不自然で、それを見取ったディアドラ殿はその後を追って降りていく。無論この私も、その後を追ったというのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

地上に降りたエシャル殿に近付いたのだが、何やらエシャル殿によく似た方が騒いでいた。

 

「エシャル!エシャル!・・・どうしたというのだ、お前の身に何が起きている!・・・エシャル!・・・目を、目を開けてくれ!そして、・・・今度は俺に面と向かってエルト兄様と呼んでくれぇぇぇぇぇっ・・・!!」

 

私もエシャル殿が心配だ、・・・私達に魔法を、・・・炎を放ったことは何かの間違いだと思っている。今すぐ駆け寄ってその身の無事を確認し、気を失っているのであれば何処か安全な場所で寝かせ、目覚めるまでその傍にて看病をしたい、私はそう思っていたのだが・・・、

 

「エシャル!エシャルゥゥゥゥゥッ!・・・このままエシャルが目覚めなかったら、・・・俺は、・・・俺は、・・・俺はどうすればいいのだ!」

 

エシャル殿の傍で取り乱している方を見ていると、私も傍に行ったら同じように・・・同類にされそうで恐い。・・・というか、絡まれそうで恐い。・・・ディアドラ殿も同じ気持ち、・・ではないようだ。・・・凄い顔で、騒ぐエシャル殿似の方を睨んでいる。・・・嫉妬するのはどうかと思うのだが。

 

エシャル殿似の方のせいで、この場が滅茶苦茶になりつつある。エシャル殿のことがとても大切なのだろうが、少しは冷静になってもらいたい。ディアドラ殿も言わずもがな、さっきまでの彼女に戻ってほしい。・・・それにアイーダ殿、未だにロタから降りずに心ここにあらずといった感じだ。さて・・・、どうしたものかと考えていると、

 

「皆様、ご安心を・・・。エシャル様は暫くの間、お眠りになるだけです。数時間後にはお目覚めになりますよ・・・。」

 

突如湧いた声に、私を含めた全員が驚き、声の主を探す。すると空間が少し歪み、そこから一人の男性が現れた。男性は此方に向かい、

 

「聞きたいこともおありでしょうが、・・・まずはエシャル様を安全な場所へお連れしましょう。それにエルトシャン様は軍に号令を掛けるべきです、・・・エシャル様と剣を交えたのですから。」

 

無表情のままにそう言った、その言葉にエシャル殿似の方が、

 

「レクス・・・、レクスじゃないか!・・・・・・そうだな!お前が言うように、まずは軍を纏めなければ!イーヴにも説明せねばならないからな!エシャルが無事ならば、俺は先に自分達のことを片付けなければ!早々に話をつけ、エシャルの目覚めに備えなければならん!」

 

先程の混乱から立ち直り、覇気をみなぎらせて駆けていくエシャル殿似の方。・・・はて?何だか凄い名を聞いたような・・・。次に謎の男性は、

 

「では皆様、エシャル様を街までお連れしましょう。」

 

その言葉に私達は頷き、行動に移した。

 

因みにエシャル殿の天馬はディアドラ殿が連れていき、エシャル殿本人は私がお連れすることになった。ディアドラ殿は渋っていたが、ロタに乗るアイーダ殿を見て・・・、

 

「・・・あれ?ホリンさんがいない・・・?・・・・・・あっ!落としてきちゃった!?」

 

と顔を青くさせて、エシャル殿の天馬と連れ立って飛び出した。私のロタに乗っていたアイーダ殿は、謎の男性が連れていくとのことで彼に託す。そんなわけで、エシャル殿は私の腕の中。規則正しい寝息をたてるエシャル殿に見とれつつ、静かに飛び立つ私。・・・ゆっくり飛んで行かねばならない、エシャル殿を落としてしまったら大変だ。・・・決して、この至福の時を長く味わいたいと思ったわけではないからな!

 

 

 

 

 

ーレクスヴァー

 

俺は姿を現し、この場を治めた。エルトシャン様を一度軍に戻し、他の方々はエシャル様と共に街へ。そしてその際預かったアイーダに俺は、

 

「・・・アイーダ、俺が分かるか?」

 

そう問い掛けたのだが、無反応で茫然としたままだ。・・・その瞳を覗いてみれば光が無い、濁っている。その瞳を見て確信した、彼女はロプト教団の手により術を施されていると。この術は、無自覚に闇の魔力を放出する。この魔力は無害なのだが、ある条件により有害となる。その条件とは過去に、闇魔法をその身に受けたか否かである。一度でもその身に受けたことがあるのなら、その身に闇を宿し燻らせることとなる。アイーダに施された術は、その闇を増長させて宿主に悪影響を及ぼす。そしてそれがエシャル様を狂わせ、エルトシャン様とアイーダを襲わせたのだろう。

 

見てもいないのに何故分かるか?・・・アイーダの瞳に宿る光景を見た、これが知っている理由である。エシャル様とエルトシャン様が共にいて、遠目で確認してからの攻撃。その光景を見れば大体分かる、伊達に裏方で活動していない。それに俺は、その道で活動をしていたわけだからな。・・・とりあえず、アイーダに施された術は解除せねばなるまい。このままでは、アイーダ自身にもエシャル様にも悪影響を及ぼす。それにもし、アイーダがヴェルトマーに戻ることになったのなら、エシャル様の生存が知られてしまう。死んだとされる者が生きていた、・・・暗殺者を放ってくることは明白だ。それを未然に防ぐ為に解除は必須、幸いこの術を施した者は未熟。今・・・解除をすれば、エシャル様の身は守られる。そして・・・解除をした後のアイーダの処遇、出来ることならばヴェルトマーには戻らないでほしいな・・・。

 

 

 

 

 

アイーダの術を解除したら、糸の切れた人形のように倒れそうになった。俺は素早く身体を支えて、彼女を抱き抱える。所謂、お姫様抱っこというものだ。・・・それはいいとして、術は解除した。解除はしたが俺が思っている以上に、ロプト教団が暗躍している。アイーダがこうなっていたということは、ヴェルトマーはもう危険な域であるのは確実。・・・そもそもアイーダに、術を施すのは難しいと思うのだが。彼女の警戒を掻い潜り術を施す、・・・彼女の身近に教団の協力者がいるのかもしれない。ヴェルトマーの血筋に、教団の協力者が・・・。アルヴィス様は目立つ方だから、違うと思うが・・・。

 

・・・考えることは後でも出来るか、今は彼女を休めつつエシャル様の様子も見ねばならない。エシャル様の闇を除去したいが、俺ではまだ未熟。あの少女の力があれば何とかなると思うが、無理に除去をしようとしてエシャル様の身に何かあったら・・・。そう考えると、やはりエシャル様がお目覚めになってからだな。後はお目覚めの前に説明か・・・、特にあの少女と天馬騎士の女性に。天馬騎士の女性は突然、標的になったわけであるし。そして少女は・・・、力のことはエシャル様がお目覚めになってからでいいな。・・・俺のことも説明せねばならないか、・・・ふぅ。正体を偽っての接触は無理だな、・・・全てとはいかないがきちんと説明するべきだろう。さて・・・、歩くのは面倒だ。・・・ワープで街に行くこととしよう。・・・暫くの間、魔法は打ち止めだな。

 

 

 

 

ーディアドラー

 

何とかパメラ様を守ることが出来た、・・・一体何がどうなっているの?何故闇がエシャル様に?私にこんな力があったの?色々と疑問が浮かび上がってくるが、

 

「・・・エシャル様!?」

 

エシャル様の様子がおかしい、お身体をスコルに預けて動かない。そんなエシャル様と共にスコルは地上へ、私は心配になり慌てて後を追った。

 

エシャル様の下へと駆け寄りたかったのだが、一人の騎士様が邪魔をする。エシャル様に似ているけれど、・・・正直邪魔で仕方がない。今の私は酷い顔をしているだろう、自覚はしている。パメラ様も私の後に降りてきたのだが、同じようにどうしたものかと考えている。・・・というか、私に若干引いている?自覚はしているけど、そんなに酷い顔をしているのかな?そう思っていると、

 

「皆様、ご安心を・・・。エシャル様は暫くの間、お眠りになるだけです。数時間後にはお目覚めになりますよ・・・。」

 

その言葉と共に、一人の男性が姿を現した。・・・どちら様?

 

 

 

 

 

見知らぬ男性がこの場を治め、エシャル様を安全な場所へとのことで私がお連れしようと思った。しかし私よりもパメラ様の方が安全だとのことで、私はスコルを連れ立つことになった。エシャル様のことを考えるとそちらの方が良いと思うが、・・・正直不満である。渋々それを了承し飛び立とうと思ったのだが、パメラ様の天馬に同乗している方を見て違和感を覚えた。何かを忘れている・・・、うーんと考える。私がこの場所へ来る時、誰かと一緒に・・・・・・、ホリンさん?

 

「・・・あれ?ホリンさんがいない・・・?・・・・・・あっ!落としてきちゃった!?」

 

そうだホリンさん!ホリンさんがいて、一緒に飛んできて・・・途中から・・・。私はサーッと血の気が引き、スコルと共に慌てて飛び立った。・・・死んでないよね?

 

・・・結果、ホリンさんを発見した。運良く木に引っ掛かっていて、多少の傷はあるものの無事だった。すぐにリライブで回復、ペコペコ頭を下げて謝った。ホリンさんは許してくれたが、渇いた笑いと共に若干の距離感がある。・・・ごめんなさい、ホリンさん。

 

 

 

 

なんだかんだで街に着き、遅れてパメラ様が到着・・・はぁっ!?エシャル様を抱っこしている、凄く密着している!なんて羨ましい!こうなることは分かっていたけど、分かっていたけど!パメラ様はキリッとしているつもりかもしれないが、口元がにやついている桃色雰囲気だ、妬ましい・・・。

 

とりあえず感情を抑えて、宿泊をしていた宿へ。ベッドへエシャル様を寝かせ、あの男性を待つ。場所は教えていないけど、普通に来そう・・・なんて考えていたら、扉を叩く音が。何方かと問い掛けてみれば先程の男性のようで、私達はすぐに扉を開け彼を迎え入れた。部屋の中へ入った彼は、まずエシャル様の下へと近付き、

 

「・・・エシャル様に変わった様子はない。・・・ということは、アイーダの術はきちんと解除が出来たようだ。」

 

無表情ながらホッとした様子の彼、次に私達の方へ向き直り、

 

「お嬢様方のお陰でエシャル様は事なきを得ました、・・・ありがとうございます。唐突のことではありますが、名乗らせていただきます。私はレクス、フリージ公爵家の密偵・・・のような者でございます。」

 

優雅な一礼をする彼、レクス様。・・・フリージ公爵家?密偵?と私にはちんぷんかんぷんだが、パメラ様の方は、

 

「・・・フリージ公爵家!?グランベルの・・・!」

 

と驚き、ホリンさんは・・・、

 

「エシャル殿とは一体・・・、トラキアの将軍だけでは説明がつかない・・・。」

 

と、冷汗をかきつつ思案し始める。二人の反応を見るに、凄いお方なのだと思った。

 

・・・ということは、エシャル様似のあの方も凄いお方?レクス様とは顔見知りか、それ以上の親しさを感じたのだけど。ハテナが頭の中で、グルグル回っている。・・・グルグル回ってはいるけれど、分かったことが一つある。このレクス様は、エシャル様のお知り合いであると。エシャル様からは聞いたことの無いお名前だけど、エシャル様の身を案じることからそうに違いない。私はそう・・・結論付けた。名乗ったレクス様に続き、私達も軽い自己紹介をした。自己紹介の中で、レクス様は私のことを見ていたような気がする。・・・私の自己紹介、変だったのかな?

 

 

 

 

 

それからエシャル様似のお方とその従者のお方が合流、なんとノディオン王家の王様らしいのだ!よく分からないけれど。エシャル様似のお方がエルトシャン様、従者のお方がイーヴ様。暫くの間、エルトシャン様が色々と騒がしかった。エルトシャン様が落ち着かれてから今回のことについて、レクス様がエシャル様の身に起きたことを説明してくれた。しかしこの説明はレクス様の見解である為、正解か否かは分からない。だから全てを信じることはせず、ただ・・・なのかもしれないとだけ覚えていてほしいとのことだ。そして当然のことながら、このことは他言無用。エシャル様の身の安全と共に、私達の安全も含まれることだから・・・と。

 

後、パメラ様の天馬に同乗していたお方はアイーダ様というらしい。ヴェルトマー公爵家のお方で、エシャル様とも関係深いとのこと。それを聞いた私は固まった、・・・なんなのだそれは。ただでさえパメラ様が強敵なのに!・・・私は、どうしてくれようかと考えていた。

 

レクス様の説明を聞いて、頭の中で整理した。エシャル様は、ヴェルトマー公爵家に籍を置いていた。ノディオン王家のエルトシャン様とは、叔父と甥の関係。ある事件により、亡くなったことになっている。アイーダ様とは幼馴染で、他にも幼馴染が数人いるらしい。血筋は魔法戦士ファラと黒騎士ヘズル、どちらも継承者となれる程。現在はトラキア王国の将軍であり、トラバント様とは親友といっても良い関係。ヴェルダン王国のガンドルフ兄様とは兄弟分であり、トラバント様を含めて三馬鹿と呼ばれている。因みに命名したのは、トラキア王妃のフリーン様である。現在エシャル様に想いを寄せる女性は多く、特にパメラ様が強敵である。・・・私的にだけど。

 

・・・・・・冷静に考えてみると、エシャル様って凄く身分の高いお方。たかがヴェルダン王国の森娘である私如きが、エシャル様の恋人を目指すなんておこがましい行為なのでは?・・・そう思ってしまった。だからといって、エシャル様に対して余所余所しくなると確実にイジけてしまう。言い方が悪くなってしまうが、エシャル様は突然湧いて出てくる。そして私に構ってくれるのだ、そこまで気に掛けなくても・・・と、言ったことがある。そうしたら、『ディアドラに嫌われた!?・・・そんな、・・・そんなことがあっていいのか?・・・うぅ~、・・・兄貴、兄貴ぃぃぃぃぃっ!ディアドラが俺のことが嫌いだってぇぇぇぇぇっ!!』と、嫌いとは言っていないのにそう解釈されてしまった。2日間、引き籠ってしまったのだ。そう考えると、今まで通りが一番なんだけど・・・。これは深刻な問題だ、・・・私はどうすれば良いのだろう。

 

 

 

 

 

考えているのは私だけではないようで、他の方々も色々と考えているみたいだ。今回のことは内密にってことだけど、エシャル様の名は世界に広がっている。同じようなことが起きるのでは?そう思ったのだが、レクス様が私を見て、

 

「アイーダの行動一つで、当分は平穏になるでしょう。他にも、エシャル様とその関係者様達のお力をお借りすることになるとは思いますがね。・・・詳しいことは、エシャル様がお目覚めになってからです。」

 

・・・と言った。確かに色々と考えたって、エシャル様がいなくては意味が無い。当事者であるエシャル様のお言葉が、今回のことでは一番重要なのだから。

 

・・・はい!考えるのは止めにして、エシャル様のお傍で・・・、

 

「ディアドラ様・・・、貴女は貴女らしくエシャル様とお付き合いしてくださいませ。それが最善であり、幸せにも繋がります。・・・道は困難ですけれど、影ながら貴女のことも見守ります故。・・・ですが、私の敬愛する姫様達も参戦する予定です。その場合は、姫様達を優先させていただきます。・・・簡単に申しますと、恋の好敵手が増えます故により一層の努力をお忘れなく。」

 

レクス様が、私の耳元で囁いた言葉に衝撃を受けた。せっかく切り換えたのに、私はまた・・・ブツブツと考えることになる。・・・恋の好敵手かぁ~、・・・頑張ろう。




次は、エシャル目覚めます。


何となく書いた人

ガンドルフ

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ヴォルツ

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誰だよコイツらww


アンケート・途中経過

エシャル→ディアドラ 7・アイラ 5・パメラ 3・アルテナ 1・みんな嫁 1

ガンドルフ→ディアドラ 4・アイラ 1・レイミア 1

ホリン→ディアドラ 3・パメラ 1・アイーダ 1・シルヴィア 1

ベオウルフ→パメラ 3・アイーダ 1・レイミア 1

ヴォルツ→レイミア 2・ブリギッド 1

アルヴィス→アイーダ 1

トラバント→マーニャ 1

パピヨン→エスニャ 1

ハンニバル→ブリギッド 1

みんな独身 1

ーーーーーーーーーーーー

アレク→パメラ 1

レヴィン→フュリー 1・マーニャ 1

クロード→アイーダ 1

アゼル→フュリー 1

デュー→ラケシス 1

レックス→ティルテュ 1

エーディン→キンボイス 1


なんか凄いのが!キンボイスってw

パピヨンとかも入ってきたから、顔でも書きますか!


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第34話 ~俺、目覚めました

更新がこれから遅くなるかと思います。


Rion/いしゅたるさん、貴重なご意見ありがとうございます!


ーエシャルー

 

何だかディアドラみたいな天馬騎士が乱入して、なんか光ったなぁ~と思ったら視界が黒に塗り潰されました。塗り潰される前に何だか縛られる感じもしたし、なんなんスかね?後、なんなんスかね?がもう一つ。俺、黒の世界に浮かんでいます。一体全体どういうことなん?う~ん・・・。

 

う~んと唸って気が付いた、何で俺は怒ったの?パメラさんの後ろにいた美人さんを確認した時、抑えられない怒りを感じた。その怒りがあろうことか、攻撃となってパメラさんと美人さんを襲ったのだ。もしあの時、乱入者がいなかったら・・・。考えただけで恐ろしい、俺はパメラさんと美人さんを殺していた。後で乱入者・・・ディアドラにお礼を、パメラさん達に謝罪をせねば!・・・というか美人さん、見たことがあるんだけど。

 

考えること数分、・・・あの赤紫の髪に気の強そうな顔、・・・俺の頭には前世の記憶が浮かんでは消えてを繰り返している。そんな中で、一つの女性にヒットした。脳内検索の結果、ヴェルトマーの魔女と呼ばれているアイーダじゃね?・・・そういえば、俺自身もヴェルトマーの魔女って言ったような?・・・アイーダ、・・・アイーダねぇ。俺ってばヴェルトマー出身だから、彼女と面識があったりしたのかな?再びう~んと考える、すると・・・

 

「・・・アイーダ、・・・彼女は俺の幼馴染。俺より2つか3つ年上で、よく世話を焼いてくれたっけ?・・・そんな彼女に俺は怒りを、憎しみを込めて殺そうとした。・・・アイーダが俺を殺そうとする筈が無い、皆を殺した筈が無い!」

 

・・・思い出しましたよ、彼女のことを!なんつーかあっさり思い出したけど、彼女は良い人。あの男女が言うようなことはしないよ、する筈が無い。

 

 

 

 

 

・・・ヤベーよ、マジでヤベー!アイーダのことを思い出したら、次々と思い出すんですわ。エルト兄様のこともきっちり思い出したし、奥さんのグラーニェさんも思い出しました。え?既にエルト兄様のことは思い出していただろ・・・だって?知らんよそんなの、よく覚えとらんがな。とりあえず、思い出したんだからいいっしょ。

 

後はあれだ、自分でもかなり驚いたんだけどもさ・・・。俺ってば、フリージの皆さんとめっちゃ仲良しだったみたい。レプトールの親父さんが俺の師匠で、まだよく分からんのだが・・・、あの事件からここまで生きてこれたのは、レプトールの親父さんのお陰みたいだ。親父さんに魔法を伝授されて、乗り切ったみたいだね。おそらく・・・、たぶんだけど。曖昧なのは仕方がないよね?まだ、そこら辺は靄まみれッスから。炎一筋の俺が色々覚えていたのは、間違いなく親父さんのお陰。あざーッス!

 

んで、ディアドラの前に妹分が二人いたんだ。ティルテュとエスニャの二人、いつも『兄様、兄様。』とカルガモの親子みたいにくっついてきてたんよ。めっちゃ可愛がったっけなぁ~・・・。何年も忘れていて会っていなかったけど、かなり可愛くなっているんだろうね?会いたいなぁ~・・・。実はここだけの話、俺っち前世でティルテュが大好きだったんよ!一時期、寝ても覚めてもティルテュ、絵を書けばティルテュ、・・・ティルテュは俺の嫁と名も忘れた友人達に宣言してたっけ。くそぅ・・・、マル秘ファイルがあればティルテュが一杯あんのに!

 

あっ!でもあれだぜ?前世でティルテュ好きだったかもしれないが、今世では贔屓してないよ?エスニャも可愛がりしまくったもん。・・・・・・今思うと忘れていた二人だけど、身体が覚えていて・・・妹キャラなディアドラを可愛がっていたのかな?失ったモノの代わりというか、知らぬ内に面影を重ねてさ。・・・そうだとしたら、俺は最低じゃないか。記憶がアレだったわけだけど、・・・それでもさ。・・・・・・まぁ悔やんだって仕方がないか、ならより一層可愛がるのみ!現にディアドラは可愛いし、俺の癒しなのは本当なんだから!フフフ・・・、俺がこの黒の世界から戻った時にゃ、ディアドラを可愛がるぜ!それが俺のジャスティス!

 

そして最後にレクスヴァ、フリージの忍者ですよあの人は。神出鬼没の従者?・・・だよね?殆んどティルテュかエスニャんとこにいるし、出来る男とはあの人のことを言うのだろう。俺も色々と世話になったし、エルト兄様並に尊敬していたような・・・。たぶん俺がワープで神出鬼没ってるのは、レクスヴァへの憧れが残っていたからだろうね。・・・そういえばこの空間に来る前、そのレクスヴァの気配というか存在を身体で感じたような・・・。

 

 

 

 

 

まぁこんな感じで思い出したんですよ、色々と。エルト兄様にアイーダ、フリージの方々だけですけど。まだ分からんことが多いけど、思い出せてよかったよ。少しずつ思い出していけば、いずれは・・・ね。あの男女のことも思い出すだろう、・・・それと他の人のことも。まだいると思うんだよね、仲良しな人。誰だっけなぁ~・・・、凄く気になるぜ。何となくだけど、なんちゃら教団が絡んでいるような。後・・・あの男女、・・・俺の系統というか繋がり?そんなモノがあったような気がするんだよね。声を聞いていた時ビビっときたし・・・、すんなりと言葉を信じちゃったわけだし。なんつーか、身内だったらイヤだよね?ホント・・・。

 

・・・・・・んん?何やら引っ張られますな。引っ張られる方向へ視線を向けると、白い渦があります。黒の世界に白い渦、目立ちますな。吸い込まれたらどうなるのか?分からんけど、恐怖はない。目でも覚めるんかね?とか思いつつ、無抵抗のまま渦の方へ。ふと視線を黒の世界に戻すと、得体の知れないモノがいた。

 

『・・・ガガガ、・・・貴様、我ノ邪魔ヲスル者。・・・イズレ、・・・マミエル。』

 

その言葉を聞いた直後、俺の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

暗転後暫くして、俺の意識が覚醒する。目に映るは天井、・・・俺は一体どうしたのだろう?とりあえず上半身を起こし、周囲を見回すと見知った顔が。皆驚いた顔をしつつ、安堵感漂う雰囲気。まずは確認というわけで、

 

「・・・ここは一体何処だろ「エシャルゥゥゥゥゥッ!」・・・ぐふぉっ!!」

 

金髪イケメン獅子王が飛び付いてきた、・・・目覚めて早々奇襲されるなんて、・・・苦しいんですががががっ!

 

「エルトシャン様!落ち着いてください、エシャル様が再びお眠りになってしまいます!今度は永眠です、本当にお亡くなりになってしまいます!」

 

赤茶髪の兄ちゃんが獅子王を引き剥がしてくれました、・・・彼は命の恩人ですね!

 

「・・・げほっ!げほっ!・・・はふぅ~、・・・エルト兄様は見ない内に変わられたようで。久々に会った甥を締め殺そうとするなんて、・・・流石は獅子王ってところですね。」

 

こめかみに青筋浮かべて、皮肉をエルト兄様にぶつけるも、

 

「・・・エシャル、そう褒めるな!エシャル愛の為せる技だ、・・・愛おしいからこそ締め上げる。」

 

ドヤ顔でそう返す獅子王、思いの外・・・馬鹿っぽい。だがまぁ・・・、

 

「本当に久しぶりだね、エルト兄様。息災みたいで安心したよ、元気が有り余っているようだし。」

 

今までは他人って感じで獅子王の存在を知っていたけど、思い出してみれば憧れの叔父なんだなぁ。記憶っちゅうのは、大切なんだね。あるのと無いのとでは世界が違う、別に見えるんだから不思議。

 

色々と話したり、聞きたいことがあるのだが・・・その前に、

 

「パメラさん・・・。」

 

俺は真っ直ぐパメラさんを見詰める、彼女は・・・、

 

「・・・え?・・・私に何か?」

 

少しキョドってます。・・・可愛いなぁ、・・・その反応。俺は美人に弱いと自負しており、パメラさんが俺の知る女性でNo.1だ。・・・まぁそれは今度語ろう、今はそれよりも・・・、

 

「・・・先程でいいのか分からないが、・・・本当に申し訳なかった!俺自身もまだ・・・よく分からないのだが、パメラさんの命を奪おうとしたのは事実。事なきを得たことには安堵したが、もしあのまま・・・!それを考えただけでも血の気が引く、許されるようなことではない。俺に出来ることならば何でもする、パメラさん・・・!俺に償わせてくれ・・・!!」

 

ベッドの上で頭を下げ、パメラさんに謝罪をする。俺の中の闇のせいだというのは分かっている、・・・がそれでも俺はパメラさんをも殺そうとした、許されることではない。償いは必要だ、・・・アイーダにも同じことが言えるがここにはいないみたいだ。故に、パメラさんに謝罪する。

 

・・・少しの沈黙、そして、

 

「・・・エシャル殿、最終的に私は無事でした。ディアドラ殿のお陰で私はここにおります、ですからそこまでお気にする必要はありません。勿論この場にはおりませんが、アイーダ殿もご無事です。故に償いは結構です、あえて言うならば・・・負けないでください。」

 

・・・パメラさんが女神に見える、なんて優しいんだろうか?理由はどうであれ、炎で消炭にしようとしたのに。償うよりも負けないで、・・・この言葉が俺の胸に残る。・・・パメラさんは、俺に何かがあったと知っている?誰かが教えたのだろうか?だがしかし、俺はその言葉に胸を打たれた。この先どうなるか分からんけど、出来る限り抗おう。

 

「・・・パメラさん、ありがとう。貴女の言葉、胸に染みました。・・・俺は負けません、最後まで抗い戦います。今回のようなことにならぬよう、心を強く持ち続けると誓います。」

 

俺は闇に抗い戦うと誓う、それが彼女達に対する償い。・・・俺は負けんぞ、俺の中にいる男女の影+α!

 

 

 

 

 

パメラさんに謝罪し、決意を新たにした俺。次にディアドラを見て、手招き呼ぶ。ディアドラは、待っていましたと言わんばかりに寄ってくる。尻尾があったなら、ブンブン振り回すであろう。そんなディアドラの頭に手を置いて、優しく撫でる俺。

 

「俺の闇を払ってくれてありがとな、ディアドラ。そのお陰で俺は、・・・失わずに済んだ。お前は俺の他に、パメラとアイーダを救った。・・・やっぱりディアドラは、・・・いや、本当にありがとう。この先もまた、ああなる可能性は否定出来ない。俺も頑張るつもりだが、ディアドラがいると心強い。・・・これからもよろしくな、ディアドラ。」

 

心から礼を言って、気持ちを込めて頭を撫でる。ディアドラは、目を細めて気持ち良さそうにしている。

 

ディアドラを撫でながら思う、・・・ヘイムの力は凄まじいと。記憶が曖昧だがあの時、ディアドラが剣を掲げた時、怒りと憎しみだけだった俺は、それを上回る程の恐怖を感じた。・・・俺の中にて燻る闇が恐怖したのだと思う、・・・そのお陰で色々と思い出したし。あの光で闇が少しだけ浄化され、靄にて隠されていた記憶を思い出したのだろう。

 

だが、油断は出来ない。まだ、闇が消えたわけではないのだから。あの男女も俺の中にいる、正体が誰だか分からないがいずれは・・・。ヘズルとファラの血がヒントだと思う、・・・魂が疼くんだからな。・・・それとあの、・・・あの得体の知れないモノ。・・・まさかと思うが、・・・ロプトウスじゃないよね?・・・俺の前世での記憶よ、・・・そんな恐ろしいモン思い出すなよ!事件のことを思い出せよ俺のバカ!

 

 

 

 

 

んで、ディアドラを撫でながら、

 

「エルト兄様は、剣で語り合ったからいいとして・・・。」

 

「そんな馬鹿な!?それはないぞエシャル!俺もエシャルと絡みたい!」

 

なんか騒ぎだした叔父を放置して、、

 

「レクス・・・、お前も俺を救うことに力を貸してくれたんだろう?・・・ありがとう。そして久しぶり、・・・俺は生きている。生きていたんだよ・・・、、レクス・・・!」

 

なんか知んないけど、涙がこぼれた。レクスは俺を見詰め、・・・それから一礼をした。・・・・・・ただいま、レクス。




とりあえず、無理矢理フリージ姉妹の登場フラグを立てました。



・・・序章は後数話だわな。



さっき書いた人。

パピヨン


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マゴーネ


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彼らは社畜ヘッドから生まれ変わったのだ!


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第35話 ~顛末は聞いた、さて・・・

投稿が遅れています。のんびりいきますよ。


KAORI@マークさん、Rion/いしゅたるさん、感想ありがとうございます!


ーエシャルー

 

・・・そんなわけで、目覚めた俺は事の顛末を聞いた。俺がエルト兄様に恐怖し襲い掛かったのも、怒りと憎しみに心乱されてパメラさんとアイーダに牙を剥いたのも、全ては闇魔法の後遺症みたいなモノ、ロプト教団のせいではないかと。・・・つーことはですよ?やはりあの事件は、教団が絡んどる可能性が極めて高いと。

 

 

アイーダが知らぬ内に術を施されているってことは、ヴェルトマー・・・駄目じゃん!危険な場所ッスよ!う~ん・・・、元々帰る気は無かったけど、なおのこと帰る気が失せますな!・・・やっぱり俺ん中にいる男女の影、どちらかがファラってことだね?そう考えると、ヘズル・・・アグストリアも危険やな!エルト兄様に誘われても、きっちり拒否らなきゃ駄目だな。マディノは端の方だからまだ安全だろう、でも・・・エルト兄様のノディオンにイムカ王のアグスティ、中央付近は駄目ですな!安全が確認されるか、仕方がない状況以外は近寄るべからずってことで。

 

・・・アイーダの術が解除されたのは喜ばしいが、同じような術を施された奴も何処かにいるよな?平穏に生きるには、教団の排除が必要不可欠。最低限、トラキアだけは守る!俺自身も心を強く、闇に干渉されんようにしないとな!まぁ・・・今は無理だな、教団は様子見ってところか。とにかく、警戒はせねばならん。

 

レクスの話では、この見解は自分の予想であるが為に確証は無いと言っている。・・・が俺はレクスの見解を全面的に信じる、当事者だからね!現に闇魔法と言ったらロプト教団でしょ!他の皆はよく分かってないみたいだけどね、・・・教団ってまだ知られていないんかな?因みに他言無用、当然だわな!

 

 

 

 

 

・・・しかしまぁ、ロプト教団ねぇ。奴等と接点があったなんて、・・・俺自身もビックリよ?一時期前世のことを忘れかけていたけど、前世のことを考え、その言葉を使うようにしたらわりと思い出すもんだよね。あのまま気にしないでいたら、前世のことは綺麗さっぱり忘れてしまっただろう。

 

・・・何故突然、そんなことを言うのかって?そりゃあアレだよアレ、・・・思い出しちまったのさ。そう遠くない時期に動乱が始まり、その裏でロプト教団が蠢いていることを。そして奴等は兄貴んとこのヴェルダンを、そしてディアドラを・・・!考えるだけで腹立つし、何とかしたいとは思う。思うがしかし、二人共・・・前世と違うんだよね。まぁ・・・俺が原因なんですけど!兄貴は良い人だし、ディアドラは俺と共にいる。・・・故に分からんのですよ!この後の展開が!まぁ二人が無事なら・・・いや、俺に関わりのあるマーファの民が無事ならいいんだけど。既に原作ブレイクっつーの?そんな感じですけど、奴等は滅する!俺達の平穏の為に、時間は掛かっても殺ってやりますよ!

 

・・・そうは思うものの、とりあえずは現状維持で。だってこの先、分かんねぇよ展開。さっきも言ったけどさ、・・・ブレイクしとるし。なるようになるさ!しかし・・・、襲ってきたらぶっ潰しますから安心してください!・・・そういえば、イザーク辺りで何かあったような?内容は忘れたけど、・・・イザークに行ってみるかな?

 

 

 

 

 

これからのことを瞬時に考えた俺、・・・帰国したらイザークにでも行ってみようかと思う。勿論、トラバントに確認しますよ?後・・・少し休みます。兄貴にも会いたいです、・・・わりと予定がギチギチですね!そういうわけで、俺の予定は決まったのですが・・・、

 

「・・・なるほどな、俺がこの状態になったわけにはそんな理由が。確定したわけではないみたいが、そのロプト教団のことは頭の片隅にでも入れておこう。対処法が現状無いわけだから、とりあえずは今まで通りにだな。・・・して、アイーダはどうしているんだ?パメラさんと同じように殺意をぶつけ殺そうとしてしまった、・・・謝りたいんだが。」

 

アイーダがいないんですよね、なんか気を失ったとは聞いたんだけど。・・・無事なんだよね?彼女の術を解除したレクスに視線を向ける。レクスは無表情のまま・・・、

 

「アイーダは無事です、・・・無事ではありますが当分は目覚めないでしょう。術は解除しましたが、精神に多大な負荷が掛かっておりましたが故に・・・。今はまどろみの中、目覚めがいつになるかは分かりません。・・・もう一度申しますが、アイーダは無事です。ご安心を・・・。」

 

そう返してきた。・・・アイーダは無事か、・・・ならばいい。いつになるか分からんけど、目覚めたらきちんと謝らなければな。

 

アイーダの目覚めがいつになるか分からない、・・・アイーダをどうするかが問題ではあるが。このままこの宿に置くことは当然ながら出来ない、そう考えると必然的に・・・、

 

「アイーダはトラキアに連れていくしかないな、俺の館にて面倒を見るしかあるまい。トラキアが現状では一番安心であるからな、それに世話をしてくれる使用人もいるしな。無関係ではない、故にしっかりと守ってやるさ。・・・教団からな。」

 

俺はそう言ってディアドラに視線を向ける、ディアドラは・・・、

 

「はい、私も気に掛けるようにします。・・・少し複雑ですけれど。」

 

最後の方はよく聞こえなかったが、ディアドラも気に掛けてくれるなら安心だ。俺はお礼代わりに、ディアドラの頭を優しく撫でた。。

 

 

 

 

 

俺は無事、エルト兄様は元気過ぎる、パメラさんとアイーダも大丈夫、ディアドラは可愛い。・・・なんの問題も無い、・・・いやあったけど皆無事っつーことで海賊掃討戦は終了だな。

 

「さて、少し休んだらカナッツ君達を手伝わなければ。戦後処理で動き回っていると思うしな、いつまでもベッドにいるわけにはいかない。」

 

顛末を聞いてどうするか決めたわけだから、行動しなきゃならんだろ。

 

「私もシレジアへ戻る前に手伝いましょう、エシャル殿は一応病み上がりみたいなものですし。・・・エシャル殿、無理はいけませんよ?・・・では、私は先に外にて手伝ってきます。」

 

貴女は女神やで、パメラさん!パメラさんに感銘を受ける俺を見たディアドラは、

 

「私も、私もお手伝いします!」

 

パタパタとパメラさんの後を追っていった。

 

「確かに戦後処理は大切だな!まだまだエシャルと絡みたいところだが、マディノ城へと戻り兵を返さねばならない。苦渋の決断にはなるが・・・、エシャル!後でまた来る!イーヴ、行くぞ!」

 

「はっ!」

 

獅子王と従者のノディオンコンビも、ドタバタと出ていく。残っているのは俺とレクス、そしてホリンなんだが、

 

「・・・Zzz。」

 

ホリンの奴は、いつの間にか眠っとるし。まぁ聞くところによると、ディアドラに落とされたみたいだし、しょうがないっちゃあしょうがない。死ぬ思いをしたということで、ゆっくりお休みよ。・・・人のこと言えんけど。

 

結果的に俺とレクスだけになったんだが、・・・何を話そうか?久々だからね、色々とありすぎるんですよ。何から聞けばいいのやら・・・、やはりフリージの皆さんネタが一番かね?

 

「我が主レプトール様は、エシャル様のご生存を今日まで信じ続けておりました。エシャル様のお名前を耳にした時から情報を集め続け、私が今・・・ここにおります。ティルテュ様にエスニャ様・・・、レプトール様へ良いご報告が出来る、そう考えるだけで感無量でございます。・・・フリージ公爵家は色々とありますが、未だ健在です。」

 

・・・聞く前に教えてくれたよ、流石はレクス。色々ある・・・という含みもあるが、フリージは一応平穏ってなことなんだろう。めっちゃ安心したわぁ~・・・、フリージというかレプトールの親父さん。彼は俺の父親みたいな人だからな、実の父親であるヴィクトルをあまり知らない俺にはな。

 

・・・会って生存報告を自分の口で、・・・とは思うものの危険だよね?死人である俺がグランベルに行けるわけがない、ヴェルトマーがきな臭いわけだし。教団が人知れず跋扈している場所に、マジで行けるわけねぇッスよ。・・・もう闇に負ける気は無いよ?しかしフリージが標的になってしまったら・・・、そう考えるとね・・・。いずれはその毒牙が迫るとしても、きっかけが俺ってことになったら・・・マジでへこむんで。

 

・・・毒牙にと考えたわけだが、フリージが心配で仕方がない。・・・トラキアに戻ったら、色々と集めた物があるから厳選して渡してもらうか?いや・・・渡すと言っても、この後レクスはフリージに戻るだろうし、俺としても色々あるから戻る前にレクスへ託すことも出来ない。・・・どうしましょうか?と悩んでいると、

 

「エシャル様のご無事をレプトール様へご報告致しますが、その後再び・・・エシャル様の下へと参じることになるでしょう。トラキア王国へ参じる際、恐らく・・・いや確実にですが三名の同行者をお連れすることになるかと。故に何かしらのご用事がおありでしたら、その際にお申し付けくだされば・・・。」

 

話が早いぜレクス!流石よのぉ~・・・!トラキアに来るんなら、そん時に託すとしようか!フリージに対する俺的問題は一応の解決ってなわけですな!

 

・・・というか、同行者が三人?誰が来るの?たぶんだけど、ティルテュとエスニャは来るだろうと予想する。俺も会いたいし、恐らく二人も俺に会いたいだろうし、・・・自惚れでなければだけど。レプトールの親父さんは・・・、無理だよね?立場が立場だけに、此方に来たら混乱必至だよね?そう考えると誰ッスか?

 

「ティルテュ様とエスニャ様、さて・・・後の一名は何方になるでしょうか?一言添えるとしましたら、エシャル様の姉上のような者・・・とでも申しましょうか。」

 

二人は当たっていたけど、俺の姉みたいな人!?誰よ・・・それ、分からん。フリージで姉?・・・そんな風に考える俺を無表情ではあるが、レクスは嬉しそうに見詰めていた。

 

 

 

 

 

レクスと話した俺は、なんだかんだで気分爽快。モヤモヤ感が多少は消えた、故に俺も戦後処理へ。カナッツ君やパメラさん達と共に、街の被害等を調査した。まぁ調査の結果は、火計の残骸が港にある、各門に多少の損害、正面大門外の平原が焼け野原、各所に海賊の死体、ってなことで被害は最小限?で済んだわけだ。

 

被害内容を洗い出し、住民と数少ない警備兵、カナッツ君達トラキア兵と共に、燃えカスやら死体やらを処理していると、

 

「エェェェェェシャルゥゥゥゥゥッ!!」

 

と言う叫び声と共に蹄の音が。・・・エルト兄様が兵を返して戻ってきた、意外に早いですね?・・・最終的に何を言ってくるかは予想がつくけど、まぁ・・・話に付き合うしかないよね?剣で語り合ったとはいえ、久々の再会ってなわけだし、エルト兄様は俺に対して話したいことが沢山あるのだろう。

 

 

 

 

 

エルト兄様は饒舌だった・・・、話が止まらんのですよ。アレスが可愛いだの、ラケシスが愛くるしいだの、グラーニェとはいつも愛を確認しているだの、クロスナイツ最強だの、シグルドがお人好しで馬鹿だの、キュアンが悩み過ぎてハゲが見え隠れしているだの、他にも色々とネタがあるらしく本当に止まらない。聞きに徹してはいるが、いい加減疲れますぞ・・・。

 

そんな感じでいたら、カナッツ君から一言。

 

「ヴォルツ殿達は無事でしょうか・・・?」

 

それを聞いた瞬間、コレだ!と思った。エルト兄様の長話から逃げるチャンス、これを理由に戦略的撤退やで!

 

そういうわけで、エルト兄様に理由を話して俺はスコルと空へ。オーガヒル城へと向かうのだ!手紙は海賊に渡せたかな?ヴォルツ達は欠けること無く健在かな?・・・状況はどうなってんだろ。




エシャル、前世の記憶との違いに悩み始める。この先どうなるの?ってな感じ、でも・・・いつも通り動きまくるでしょう。


これから先、前世の言葉が増えるかと。トラキアにてエシャル語として広まる予定w


後、2話ぐらいかな?

第1章にいく前に、閑話が続くかと思います。


因みにアンケートは続いていますからね?

意外にアイラが人気ッスからね、登場はまだなんだけど。次章に出る予定ではあります。

もしかしたら、ディアドラとアイラの決戦投票をするかもね。


デマジオ


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裏設定

デマジオ実はエッダの血筋で、こんな顔だが回復魔法と相性が良い。エシャルとディアドラとの訓練で開花、プリーストウォーリアに。

なんて面白いかな?とか思ってみたりww

※意味がないので気にしないでください。


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第36話 ~直に聞きたいんだよね

他にも暇潰しみたいな感じで投稿してたんで、

こっちが遅れましたね。


偽善さん、Rion/いしゅたるさん、感想ありがとうございます。

作者さん、アンケートの方での意見、ありがとうございます。


ーエシャルー

 

オーガヒル城に辿り着いた俺は、空から見下ろしほくそ笑む。やはり義賊、俺の手紙を受け取ってくれたようだ。城の外にヴォルツ達がいないってことは、そういうことなんだろう。ここから見る限り、一戦・・・交えたのか?戦の跡が見当たらないのだが・・・、其処らにあるのは元からの傷跡だよな?うーむ、・・・まさか戦っていないとは。ベオウルフの交渉が上手くいったのかね?スゲーな、副長。・・・お?彼処で手を振っているのは、レイミアさんとこのクーちゃんか?それじゃあ、彼女の下へ舞い降りるとしますかね。

 

 

 

 

 

クーちゃんの下へ降りたわけだが、・・・はて?

 

「ヴォルツ達は何処へ行ったんだ?海賊の姿も見えないんだけど・・・。」

 

肝心の彼等がいないんですけど、何処へ行ったんさ。キョロキョロと見回す俺に、クーちゃんが・・・、

 

「ヴォルツさん達は皆、城の中です。・・・ヴァンさん達と宴をしています。」

 

・・・宴だぁ~?マジで?手紙を渡す前はめっちゃ敵対しとったやん、何この急展開。

 

「なんと言いますか、・・・手紙を読んでエシャルさんを信じることにしたみたいで。海賊として最後の宴をしたいと、それにヴォルツさん達とレイミア姉さん達も乗りまして・・・。基本的に私達も馬鹿騒ぎが好きなんで、・・・はっきり言って盛り上がっています。」

 

・・・手紙の意味を理解してくれたみたいね、そこは喜ばしい。そんなわけで宴か、・・・まぁ文句を言うわけにはいかんわな。実際、彼等には海賊稼業を辞めてもらわないといけないからな。最後の思いで作りを止めるような野暮はしませんぜ?・・・まぁ宴の最中に乱入するのは、ちぃ~とばかしキツいが。酔っ払いの中を素面で乱入するんだぞ?・・・そりゃあキツいよ。

 

・・・案の定、凄まじいドンチャン騒ぎである。・・・どう絡めば良いか悩んでいると、

 

「よぉ兄弟、遅い登場だな。敵だった者達と囲んで酒を飲む、・・・俺は今、ロマンを感じている!」

 

ほろ酔いヴォルツが絡んできた、助かったと思ったが・・・思いの外、

 

「酒くせぇ・・・!ほろ酔いかと思ったら、お前・・・メチャクチャ飲んだだろ!」

 

あまりの酒臭さに、俺はヴォルツを張り倒す。ヴォルツはヘラヘラと笑っている、・・・寡黙なヴォルツは何処に行ったの?俺は話をしに来たのに、それが出来る奴はいないのけ?俺は話せそうな奴を探す為、酔っ払い共の間をスルスルと移動する。あまり酔っていないクーちゃんも、俺の後を追ってくる。・・・そして見付けた、他の場所より大人しめに飲んでいる一角を。あの後ろド頭はベオウルフだな、・・・やっとこ見付けた話せるであろう、男の下へと向かう俺なのだった。

 

 

 

 

 

酔っていないと予想してベオウルフの下へ来てみれば、頭に包帯を巻いて不貞腐っているではないか。そんなベオウルフんとこで飲んでいるのは、レイミアさんに・・・金髪美女と大男。美女と大男が海賊の幹部クラスだな、雰囲気がそう語っている、たぶんこの二人は・・・。こりゃあ探す手間が省けた、手紙の返事を聞くことが出来る。・・・まぁその前に、コイツが何故怪我をして不貞腐っているのか聞かんとな。レイミアさんがニヤついて、ベオウルフを肴に飲んでいる?のが気になる。

 

「よぉ・・・遅れちまったがエシャルさん登場ってわけなんだが、ベオウルフはどうしたん?負を背負っているようだが・・・。」

 

にこやかに登場したつもりなんだけど、

 

「・・・エシャル!」

 

ベオウルフが、親の仇みたいな目で見てくる。美女と大男は俺を見て、

 

「「・・・黒刃。」」

 

と酒を飲む手を止め、息を飲む。

 

・・・・・・えぇ~、何この空気。・・・俺、何かした?宴でしょ?盛り上がっててよ、空気ぶち壊し男になっちゃうじゃん。レイミアさんは、変わらずにニヤついているけど。俺のにこやかフェイスがヒクついちゃっているよ?・・・どうすればいいのさ、なんて思っていると、

 

「・・・エシャル!テメェ~・・・!」

 

頭に包帯を巻いたベオウルフが、いきなり俺へと掴み掛かってきた。突然どうしたというのか?混乱する俺は、一つの可能性を見出だした。・・・まさか、・・・ベオウルフにもロプト教団の手が・・・!無いとも言い切れないのが恐い、・・・がそうだとしたら何故にベオウルフだけ?・・・ベオウルフにも聖戦士の血が?これも無くは無い、凄腕の傭兵であるし、エルト兄様の友人でもある。・・・ベオウルフに掴まれていても、頭の中で色々と考える俺。ガクガク揺らされても、考えることを止められない。そんな俺にベオウルフは、怒りを含めてこう言った。

 

「お前が女誑しだから俺は怪我をしたんだぞ!この俺がしょーもない怪我をしたんだ!傭兵稼業でもあまり怪我をしない俺が、しょーもないことで意外な大怪我を負ったんだ!信じらんねぇよ、今もイテェよ、ジンジンしてるよ!・・・つーことで、今すぐライブかリライブをかけてくれ!お前にはその責任がある!」

 

・・・話が見えない!レイミアさん、笑っている暇があるんなら俺に説明を!さっきまで色々と考えたけど、なんか違うっぽいし!・・・考えるのを止めたら、なんか気持ち悪くなってきた。

 

 

 

 

 

ガクガク揺らされて、顔を青くしていると、

 

「ちょっとベオウルフさん!エシャルさんを揺さぶり過ぎですよ、顔を青くしていますから!」

 

クーちゃんが、ベオウルフを止めてくれた。・・・頭がグワングワンする、揺さぶり過ぎじゃね?ベオウルフ。

 

「・・・うぇっ、気持ち悪っ・・・!・・・つーか、俺も色々あって病み上がりなんだけど。・・・というか、話がマジで見えない。」

 

・・・ムスッとする俺に、再び不貞腐れるベオウルフ。レイミアさんは未だに笑っており、海賊の幹部と思われる二人はコソコソと何かを話している。・・・酔いが浅いのだろうクーちゃんが、この状況に堪えかねて、

 

「ベオウルフさんもレイミア姉さんも説明をしないのなら、・・・この私がここまでの経緯をお話ししましょう。」

 

ベオウルフの怪我に、宴までの経緯を簡単に教えてくれた。クーちゃん、・・・良い娘やねぇ~。

 

 

 

 

 

・・・聞いてみれば、なんてこたぁない。パメラさんとアイーダが合流、彼女達の力を借りて海賊との話し合いが実現。手紙を渡して少し、突然パメラさんとアイーダが慌てて飛び出し、・・・その時に無防備であったベオウルフが吹き飛ばされて、頭を強打で怪我をする・・・と。それを聞いた俺は、

 

「・・・俺は関係ねぇだろうがベオさんよぉ!自分の不注意を人のせいにするんじゃねぇよ!・・・あの二人が飛び出したのは俺が原因?血が原因?そこらへんは曖昧だが、これだけは言える!ベオウルフの不注意が原因だよバカ!」

 

と言って、ベオウルフに襲い掛かる。ベオウルフもベオウルフで、

 

「勝者の言い分が正義ってわけだな!いいぜ、乗ってやらぁ~っ!」

 

襲い掛かってくる。そんな俺達の取っ組み合いが宴の肴になり、宴は大いに盛り上がった。

 

 

 

 

 

・・・そんな宴も終わりを迎え、辺りには屍累々。みんな酔い潰れております、物理的に潰れた副長もいるがな!・・・・・・俺は勝ったのだ!

 

まぁそれはいい、そんなことをする為にここへ来たわけではない。・・・返事だ、手紙の返事を直接聞きに来たのだ。宴をするぐらいだ、良い返事だとは分かっている。だがやはり直接聞きたいもの、そして俺の口からも彼等の待遇を伝えたい。このことは、俺なりの誠意だ。面と向かって話すことこそが、心と心を繋ぐ最も簡単で相手に伝えやすい最善の方法。

 

そんなわけで、酔い潰れることなく対面に座る大男、そして美女に俺は・・・、

 

「顔を合わせていながら挨拶をせずに申し訳ない、私が貴方達に渡された手紙の送り主、トラキアが将軍の一人エシャル。私がこの城に赴いた理由は、言わずとも分かっているとは思うが・・・、返事を・・・、貴方達の返事を直に聞きたく参上した。」

 

さっきまでベオウルフとじゃれていたが、その時の雰囲気を消し、一人の将軍として振る舞う。

 

「私の前にいる貴方がオーガヒルの首領ヴァン殿、そしてそちらの女性が幹部の一人であるブリギッド殿で宜しいか?」

 

俺がそう問い掛けると、二人は顔を見合わせてから頷く。

 

「間違いねぇ、俺がヴァンでコイツがブリギッドだ。高名な黒刃様に会えるとは思わなんだ、・・・思わなんだがこれからはアンタを大将にするんだ、よろしく頼むぜエシャル様。」

 

「・・・色々と揉めたけど、アタイ達の総意さ。よろしく頼むよ、エシャル様。」

 

返事はOK、当然だな!という気持ちと共に、・・・良かったと思う。これでトラバント、トラキアの兵力不足も多少は緩和されるだろう。・・・兵を借りていたからね、将軍だから良いんじゃね?と思われるだろうけど、俺はこの通り自由過ぎる将軍だからね。他国へ行く際に、自国の兵を連れ出すのはどうだろう?と思っていた俺にとって、彼等は良い存在になってくれるだろう。・・・もうお気付きだろう、・・・俺は私兵が欲しかったんじゃい!勿論、トラバントの許可はもらっているし、紹介もするさ!

 

 

 

 

 

俺はヴァン、ブリギッドに向けてニッ!と笑い、

 

「そうか、ありがとう。貴方達のことはこの私に任せてくれ、手紙に記したように私の麾下に入ってもらう。詳しい話は後程に、今はこの有り様だからな。」

 

そう言ってから周囲を見回す、ヴァンは苦笑いをして、

 

「・・・面目ねぇ、・・・酔い潰しちまってよ。」

 

ペコペコ頭を下げて謝ってくるが、俺は手でそれを制し、

 

「気にする必要は無いよ、貴方達にはいつも通り、ありのままの姿で部下になってもらいたい。公式の場ではきちんとしてもらうが、それ以外では海賊のままでいてもらおうと思う。まぁ・・・略奪行為等の海賊稼業は当然、許可はしないがね。勿論、仕事もしてもらうよ?・・・それは追々、伝えよう。」

 

彼等を型に填めようとは思わない、彼等らしさを失っては意味が無いからね。全てに対応出来る軍を作る、それが俺のすべきことでトラキアを強国にする一つの手、俺の夢への布石。俺の知識にあるトラキア王国の落日、それを迎えるわけにはいかん!

 

「なんとも話の分かる方だねぇ、エシャル様は!」

 

ブリギッドは嬉しそうだ。嬉しそうな彼女を前に言うのはアレだが、

 

「・・・明日、・・・明日にはこの城から出てもらう予定だ。故に彼等の目が覚め次第、トラキアへ行く準備を速やかにしてもらいたい。悪いがこの城は燃やす、・・・この地でオーガヒルの海賊は全滅、ヴァン海賊団は敗北し皆殺しとなった。・・・宜しいな。」

 

時間があまり無い故に、速やかにしてもらいたいこと、彼等を死んだことにするということを伝える。俺の言葉を聞いた二人は、覚悟を決めた顔で頷き、

 

「・・・分かっているさ、エシャル様。オーガヒルでのケジメはこの城が、俺達はエシャル様の下で働き、生きてケジメをつける。・・・それで良いんだろう?」

 

話が早くて助かるな、やはり彼等は必要な人材だ。

 

 

 

 

 

この地での仕事は明日で終わり、後は本国に戻ってからだな。・・・俺の勘によれば、トラキアに何かしらのことが起こってそうな気がする。・・・嫌な予感ではないのが救いだ。




エシャル軍に海賊が加入しました。

分かる人には分かると思いますが、海賊団のメンバーは改名します。

その中の一人であるブリギッドは・・・、

あの名前に改名します。んで、エシャルに剣を習います。



ベオウルフ


【挿絵表示】


クー


【挿絵表示】




アンケートのことだけど、


エシャルに限り、ディアドラ・アイラ・パメラの決戦投票にするかもです。

エシャルが決まり次第、他のメンバーの伴侶を決める。

それが良いかもと思い始めました。


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第37話 ~帰国しますよ

早起きさん、偽善さん、感想ありがとうございます。

今回は文字数が多いです。

その分、ちょっと雑かも。


ーエシャルー

 

ヴァン達に、明日の夕方あたりにまた来ると言い、街の宿に戻ってきた俺。一応、病み上がりであるし、明日はヴァン達をトラキアへ飛ばすのにワープを使う。早めに身体を休ませるのが吉とみた、・・・つってももう夜なんですけどね。さて・・・、では早速部屋へ戻って寝るとしますか、なんて考えていると・・・、

 

「お戻りになりましたか、エシャル殿。」

 

宿の受付付近にある食事スペース、そこにいたパメラさんに声を掛けられた。

 

まだ寝てなかったんだなぁ~と思いつつ、パメラさんの下へ。

 

「やぁやぁパメラさん、まだ寝てなかったんだな。寝る前に一杯、・・・というわけでもないんだ?・・・え~と、俺を待っていたとか?」

 

そう言うと、パメラさんは頷く。

 

「明日の早朝にはここを発ち、シレジアへと戻る予定ですので別れの挨拶を・・・と思いまして。」

 

・・・そういえばパメラさん、シレジアの天馬騎士でしたね。俺達と共にいるわけにはいかないよね?やっぱり、責任ある立場でもあるし。俺の能力を駆使すればいつでも会えるのだが、それでも別れというのは悲しいものだよね。

 

「その為に俺を待っていたのか、・・・パメラさんは律儀だね。ノリでオーガヒルに泊まってこなくて良かったよ、うん。」

 

そんなわけで、寝る前にパメラさんと話をしました。シレジアの様子にフュリーの脳筋が治らない件、レヴィンが国内から逃げ出そうとしていること等。・・・最後のレヴィンネタは重要だと思うんだけど、というかアイツ・・・マジで旅立つつもりなのか。ラーナ様、自分の息子を縛り付けなくていいの?

 

「・・・これ以上はエシャル殿の明日に響きますね、ここまでお付き合いいただきありがとうございます、エシャル殿。」

 

俺は明日、忙しなく動く予定であるし、パメラさんは早朝発つしでこれ以上は明日に響くか。パメラさんとは数ヶ月間、会うことはないだろうと考える。美人に会えなくなるのは寂しいね、・・・・・・そうだ!パメラさんにお守りを渡そう!

 

「こちらこそ、色々とありがとう。ここで別れたら数ヶ月は会えなくなるだろう、故にパメラさんにはこれを贈ろう。お守りとして、肌身離さず持っていてくれると嬉しい。」

 

そう言って、懐から石のペンダントを取り出し渡す。ただの石ではないぞ、赤く光る石で綺麗なのだ。トラキアの山で発掘しました!最初は透明な石だったんだけど、俺が持ったら赤になりました。そんな赤い石で作ったこのペンダント、きっとパメラさんを守ってくれると信じている。なんせ俺の力の色、ファラの色なんだからさ!

 

「とても綺麗な赤、エシャル殿の瞳のようですね。言われるまでもなく、肌身離さず持たせていただきます。・・・ありがとうございます、エシャル殿。これがあれば、私は頑張れます。」

 

そう言って微笑むパメラさんに別れを告げて、俺は部屋へ戻った。ナイス笑顔だパメラさん、・・・良い夢が見れそうだ。

 

 

 

 

 

・・・で朝になったのですが、・・・良い夢を見ましたよ?なんつーか、パメラさんとディアドラが夢に出てきてね。・・・それだけでいいだろ?察してくれよ、俺も男なんですよ・・・って違う!良い夢だったんだよ?目覚める前は。・・・目覚めたら最悪でしたよ、俺に抱き付いていたんですよ・・・ある人が。・・・そう、・・・エルト兄様が!何しちゃってくれてんですかね、この人は!・・・せめて、・・・せめてディアドラだったら!

 

とりあえず、俺に抱き付いて寝ているエルト兄様を投げ飛ばし、ベッドから出る。蛙の潰れたような声を出したエルト兄様は起き上がり、何事もなかったかのような爽やかな笑顔で、

 

「おはようエシャル、爽やかな朝だな!これで俺は一年間、本気で頑張れる!」

 

と言ってきた、・・・ホモの方ですか?エルト兄様。

 

「・・・おはよう、エルト兄様。・・・して、何故に俺のベッドで?今日の朝には、・・・マディノを出ると聞いたのですが。というか、早々に出立した方がよろしいかと・・・。」

 

俺はエルト兄様に対し、挨拶と疑問、そして早く帰れと言っておく。因みに、俺はノディオンへは行かないと言ってある。グラーニェ義姉様とアレス君には会いたかったんですけどね、・・・何となくまだ行かない方が良いかな?っと思いまして。それに詳しくは知らないけど、俺が死んだとされる事件のことがちらついてね。俺と剣を交えたエルト兄様は、何となく察してくれて無理に来いとは誘ってこなかった。エルト兄様もレクスの話を聞いていたからね、何かしら思う所があったっぽい。・・・変なことをしなければいいけど。

 

・・・まぁそんなわけで、俺の言葉を聞いたエルト兄様は、

 

「馬鹿かお前は!これから暫くエシャルと会えなくなるんだぞ、エシャル分を補充しておかなければならんだろうが!せっかくの再会、されどまた遠退く距離!アグストリアでもエシャルは死人、しかも箝口令が敷かれているからな。迂闊に口に出せんのだ、故に帰る前に添い寝でな!・・・因みに死んだエシャルとトラキアのエシャル将軍は別人、そういう風にアグストリアには伝わっているから安心しろ!・・・あっ、一応エシャル、お前・・・顔を隠した方が良いかもな!別人として伝わってはいるけれど、顔を見れば一発だろ!血の共鳴は仕方ないにしても、顔だけは隠しとけ!・・・良いじゃないか、仮面の将軍エシャル・・・謎の魅力があるな!」

 

エルト兄様のマシンガントーク、・・・よくもまぁこう喋れるもんですな。エシャル分って何なの?エルト兄様の動力源なの?新しい栄養素なの?・・・とそれはいいとして、箝口令を敷く程のことなんかね?俺。だけど仮面を付けるのは良いかもな、・・・顔を見れば一発か。考えとこ・・・。

 

朝から大声を出せば怒られますよね?途中でイーヴさんが来まして、エルト兄様を連れていった。駄々をこねていたけど、グラーニェ義姉様とアレス君が帰りを待っているとイーヴさんが言ったら、

 

「・・・!!今から帰ったとしても、1ヶ月は・・・会っていないではないか!グラーニェ、アレス、・・・すまない!今、エシャル話を土産に帰るぞ!というわけでエシャル、また会える日を心から待っているぞ!因みにお前のことは、信頼の置ける者にしか話さんからな、安心しろ!・・・あっ、ラケシスにも教えてあげなければ!ふはははははっ!これから忙しくなるぞ、・・・イーヴ!何をしている、早く来い!・・・では、さらばだ!!」

 

・・・嵐のようなお人ですな、・・・本当に。

 

パメラさんが去り、エルト兄様達がマディノを去った。後はカナッツ君達を集めて、ヴォルツ達に後を任せて、オーガヒル城を燃やして、ヴァン達を連れ帰る。・・・アイーダも忘れちゃいけない、・・・やることがありすぎるね!

 

 

 

 

 

俺はカナッツ君達を集め、すぐにでも引き継げるように手配しておく。昼過ぎにはヴォルツ達もマディノへと戻ってくるだろう、その時速やかに引き継げればいうことなしだね。そのことを厳命して、カナッツ君達を解散させる。うーん、カナッツ君達の顔付きが自信に溢れているね!今回の作戦も被害は軽微だったからね、・・・後始末は少し大変だけど。マディノの方々にも感謝され、トラキアの名に恥じない結果を残したんだからな、自信が付いて当たり前だろ。

 

カナッツ君達に指示を出した後、俺は眠るアイーダの下へ。アイーダの傍らには、ディアドラとレクスが。俺に気付いたディアドラは俺の下へと駆け寄り、

 

「おはようございます、エシャル様。」

 

と、顔を綻ばせながら挨拶をしてくる。俺も当然笑顔で、

 

「ああ、おはようディアドラ。何もないようで良かったよ。」

 

と言って頭を撫でる。俺の暴走で昨日は無理をしたっぽいからな、元気そうで本当に良かったよ。目を細めてなすがままに撫でられるディアドラを見て、無表情ながら優しい雰囲気のレクスが口を開く。

 

「一日見ておりましたが、アイーダは大丈夫でしょう。後は目覚めるのを待つだけ、・・・いつ目覚めるかは不明ですがね。」

 

レクスの言葉に改めて安心する俺、・・・後はアイーダが目覚めるのを待つだけか。アイーダが目覚めたらまずは謝り、そして色々と話がしたいな。そうすれば、あの事件のことも少しは分かると思うし、アイーダの身に術を施した者の影ぐらいは掴めるかもしれない。

 

安心した俺を見たレクスは、

 

「では、私もフリージへ戻るとしましょう。レプトール様に、そして姫様方にへと吉報を届けないとなりませんので。・・・一週間以内に、姫様方と共にトラキアへと赴きますので、その時はどうぞよろしくお願い致します。アイーダのこともどうか・・・、それとディアドラ様。私の言葉、お忘れなきようお気を付けくださいませ。・・・それでは、失礼させていただきます。」

 

そう言って一礼したまま、ワープ?でこの場を去った。・・・ティルテュとエスニャ、二人と会える日は近いのか。楽しみだな、と思いを馳せていると、

 

「・・・ディアドラ、私のことも忘れないでください!・・・それに、負ける気もありませんから!」

 

と自己主張をするディアドラ、なんか珍しいね?それに負ける気がないって、誰かと戦うの?

 

 

 

 

 

アイーダの様子を見ながらディアドラと話していると、ヴォルツ達が戻ってきたとの一報が入った。俺はディアドラにアイーダのことを頼むと、宿を出て港へと向かう。するとそこには、既にヴォルツ達が戻っており、ベオウルフを中心に戦後処理の引き継ぎをしているっぽい。カナッツ君とレイミアさん、ベオウルフは忙しそうだ。ヴォルツは二日酔いと船酔いのダブルパンチで顔が青いし、クーちゃんは悩ましい顔をしている。・・・俺はその悩ましい顔が気になったんで、話を聞いてみようと思った。

 

「お疲れ様、クーちゃん。作戦終了ってことだけど、どうかしたのか?昨日の夜は楽しそうにしてたのに。」

 

宴を楽しそうにしていたのに、どうしたというのだろうか?声を掛けたことで俺に気付いたクーちゃんが、

 

「あっ、エシャルさん。エシャルさんもお疲れ様です、・・・私、そんなに気になる顔をしていますか?」

 

それを皮切りに、クーちゃんは理由を教えてくれた。

 

何でも今回の戦いで、レイミア傭兵隊に所属する女傭兵が数人亡くなり、傭兵隊の維持が難しくなった。元々女性だけで結成されたわけで、構成人員が少なかった。それでいて今回の依頼で、更に人員が減ってしまいってことらしいね。それで帰りの船にて、傭兵隊を解散させるか、このままギリギリで活動するか、ヴォルツ傭兵旅団に吸収してもらうかを話し合ったんだと。あ~・・・、俺達が来るまで苦戦していたみたいだからね。レイミアさん、たまに難しい顔をしている時があったけど、傭兵隊のことを考えていたんだろうね。未だにどうするかは決まっていないらしく、それで悩んでいるらしい。そりゃあ悩むだろうね、・・・存続の危機ねぇ~、・・・ふむ。

 

とりあえず、戦後処理の引き継ぎが終わったっぽいから、今日中に俺達は撤収するってことを伝えなくては。

 

「お疲れさん、・・・俺達は今日中にトラキアへ戻らせてもらうぜ?色々とやることがあるんでね、戦後処理は任せたぞ。因みに今回の報酬は、最低限の額で手を打たせてもらった。」

 

「最低限とかって、お前らのお陰で勝ったようなもんなんだからよ。それなりにもらってくれた方が有り難いんだが、・・・レイミアともそんなことを話していたわけだし。」

 

俺の言葉にベオウルフはそう返してきた、レイミアさんも頷いている。・・・そう言われてもなぁ、カナッツ君達には掲示額以上の報酬、俺は特に必要無しだからな。実際、予想以上にもらっているわけなのだよ、たとえ最低限だとしても。故に、マジでこれ以上はいらないんだよね。

 

「いや、既に最初の掲示額・・・報酬より多くもらっているからな。更にもらうっていうのは無しだ、これもトラキアの矜恃ってことで分かってくれ。それにお前達にも色々あるんだろ?俺達の報酬分は、そっちで使ってくれよ。・・・納得出来ないってんなら、その報酬分でレイミア傭兵隊を雇っちゃおうかなぁ~・・・って。」

 

と冗談半分で言ったつもりなんだけど、ベオウルフがニヤリと笑った。

 

・・・ん?

 

「そうかそうか、レイミア達を雇うってか!流石はエシャル、そう言うと思っていたぜ。お前ならクーに話を聞くと思っていたし、話を聞いちまえば無意識に助け船を出すからな。」

 

・・・なん、・・・だと!?

 

「俺らんとこに入れるわけにはいかんのよ、これ以上増えたら俺が死ぬ。解散と言っても、傭兵とはいえ女だ。纏まった集団なら何とかなるが、個人となると・・・な。傭兵隊を維持するにも人数が厳しい、・・・そこでトラキアの将軍エシャル様の登場だ。」

 

言わんとすること、分からんわけでもない。問題児の多いヴォルツんとこに入れば、副長のベオウルフは過労死する可能性が。レイミアさんにクーちゃんはともかく、他の女傭兵さん達は個人で活動するには名が売れてない。現状を維持して雇ってくれそうな人物、或いは国。彼女達を知る人物である俺が一番、彼女達も俺を今回の依頼で知っているからな。・・・確かに有力だわな。

 

「トラキアのエシャル将軍は、オーガヒルの海賊を配下に加える程の人物。まぁ俺から見れば、先を見据えて準備をしているとしか見えない。・・・もっと言うなら、何かしらの戦い・・・戦争が起きる。そう考えているとみた、・・・高確率でヴェルダン王国がキナ臭い。・・・違うか?」

 

・・・いや、本当に・・・流石はベオウルフ。普段のおちゃらけが嘘のように鋭い、歴戦の傭兵旅団副長の名は伊達じゃない。

 

完全に読み通りだよ、ヴェルダンがキナ臭いってのは真実だ。万が一に備えて、今回の依頼が来た時から考えていた。海賊の中で仲間・・・、配下に出来そうな奴等は迎え入れると。少しでも戦力が欲しいからな、うん。もしヴェルダンに何かあっても、トラキア兵は迂闊に動かせない。隣国もまた敵、手薄になった所を攻められてはな。その時は俺が動く、トラバントからは自由権を与えられているし、ワープの遣い手である俺ならばどうとでも動けるが故に。・・・まぁキナ臭いだけだから、保険ってことで計画していたんだけどね。この依頼の為に来てみれば、それが確信に変わったよ。ロプト教団の影が大陸で暗躍している可能性があるのなら、ヴェルダンは・・・いや、大陸を巻き込む動乱は起きるとな!

 

そう考えると、レイミア傭兵隊を雇うのはアリなのでは?彼女達は傭兵故に経験豊富、即戦力になることは確実。それに今はちょっと違うが、トラキア王国は傭兵国家。彼女達もやり易いと思うしな、うん。トラキアを強国にする力になってくれるんじゃないか?

 

「そういうわけで、レイミア達を雇うってーのは悪いことでは・・・「雇おうじゃないか。」・・・おう。」

 

レイミア傭兵隊、俺が雇おうじゃないか。この先の動乱を生き残る為に、トラキアを、俺に関わった者達を守る為に。・・・・・・これも、神からの啓示なのかもな。

 

 

 

 

 

・・・で、レイミア傭兵隊を雇うことにしました。契約期間は決めてなく、彼女達の意志一つで決めてもらいます。好きな時にやめられるってことです、破格の対応ですね!まぁ正確に言うなら、トラキアの俺んとこを本拠地に活動してもらうってーのが分かりやすいかな?・・・のか?俺もよく分からんのだけど、全然駄目じゃんねぇ!甘いってーのは分かっとります、わはははははっ!

 

後・・・詳しく話して分かったんだけど、彼女達の大半はイザーク出身なんですって。トラキア帰国後、やることやったらイザークへ行く予定なんで、道案内をしてもらいましょうかね。・・・レイミア傭兵隊の初仕事が道案内、何かすみませんて感じになりますね?

 

「・・・何か本当にすまないねぇ、エシャル様。私の采配が振るわないが為に、迷惑掛けちまって・・・。その分はきちんと働くし、色々と勉強させてもらうよ。私の力不足が原因なんだしね・・・、うん。エシャル様は自由でいいとは言っているが、私達は契約解除を言われるまでは働かせてもらうよ。これからよろしくお願いしますよ、エシャル様。」

 

レイミアさんがめっちゃ凹んでいる、・・・まぁ頑張れってしか言えないよね?今回のことは何も言えんよ、自分で考えて行動して学ばないといけないからね。・・・そう、これから先・・・傭兵隊を率いるつもりなら。後、契約解除まで働くって言うなら、働いてもらいますからね?・・・これからたぶん、いや・・・確実に動乱が起こりますから。

 

因みに、レイミア傭兵隊にはマディノに残ってもらいます。戦後処理が終わったのなら、迎えに来ますが。実際、レイミア傭兵隊を主軸にヴォルツ傭兵旅団が参加、俺達トラキアはあくまで助っ人なわけだし。依頼の主軸は最後まで見届けなければならんだろ、助っ人の俺達はともかくさ。まぁ俺達トラキア勢が大勝しちゃっているから、ちょいと傭兵の皆さんの影が薄くなっちゃっているけど。今から俺が単身、オーガヒルへ行って城を燃やすからな。傭兵達が海賊の本拠地を攻め滅ぼした、と声高らかに民達が誉め称えるだろう。オーガヒルから戻ってきて、戦後処理に加わっているからね。言われるのも時間の問題さ、・・・マディノの調査隊がオーガヒルへ渡るのも。そういうことなので、カナッツ君達をトラキアへ戻してから、早急にオーガヒルへと渡らなければ。

 

 

 

 

 

そうと決まれば、カナッツ君達にディアドラ、眠りこけているホリンを叩き起こし、アイーダをお姫様抱っこさせて集まってもらった。

 

「今回の依頼、海賊掃討戦での我等トラキアの仕事は終わりだ。報酬は帰国後、各自に渡される。渡されたのなら即時確認し、報告せよ。その後は解散し、各々好きなように行動することを許可する。」

 

カナッツ隊の面々にそう言ってから、カナッツ君個人に対しても、

 

「カナッツ君の指揮もなかなかのものだった、君を大隊長に推す日も近いかもな。俺より先に帰国するわけなのだから、トラバント王へ先立っての報告をよろしく頼む。ヴァン達のこと、レイミア傭兵隊のことも忘れずに報告してくれ。」

 

「はっ!了解致しました!」

 

続いてディアドラにホリン、

 

「ディアドラには良い経験と共に、相当な負担と苦労をも経験させてしまった。この埋め合わせは帰国後、絶対にするから何をしてほしいか考えていてくれ。ホリンもマディノで加わったわけで、トラバント王とは面識がない。アイーダを俺の館にいる使用人に任せた後は、ディアドラと共にトラバント王の下へと赴き、きちんと挨拶をするように。後は自由にしてよし!」

 

「・・・!?何でも、何でもと言いましたね?・・・頑張ります!」

 

・・・何を頑張るの?ディアドラさんや?お手柔らかに・・・ね?

 

「・・・他国の王へ挨拶、・・・俺にきちんと出来るだろうか?」

 

一応マリクル王子と面識があるんだから、自信を持ちなさいホリン。

 

そんなわけで俺は・・・、

 

「俺も彼らの下へと行き、後始末をしてから帰国する。先程言ったことが重要ではあるが、彼らを迎える準備もしてくれたら有難い。・・・では、帰国後な。・・・ワープ!!」

 

俺は集団ワープにて、カナッツ君達トラキア兵とディアドラ、ホリンらをトラキアへと送った。う~ん、・・・更にワープ能力が上がったな。今回の依頼で割りと使ったからな、レスキューを含めて。まさか一回でカナッツ君達を送れるなんて、二回になるかと思ったんだがな。まぁ、能力が上がることは良いことか。さて・・・・・・。

 

そろそろオーガヒルへ行く頃合いか?そう判断した俺は、ヴォルツ達・・・ヴォルツは死んでるからベオウルフ達に別れの挨拶をする。

 

「それじゃあ俺はオーガヒルへ行く、そしてそのままトラキアへ帰国させてもらうからな。ヴォルツにも挨拶したいが、アイツ・・・死んでるからな。俺がよろしく言ってたと伝えてくれ、・・・まぁ色々と世話になったなベオウルフ。今度会う時は戦場、敵同士だったら笑えるな!」

 

「笑えねぇよ!こっちの分がかなり悪いわ!もしそうなったら、交渉させてもらうからな!たとえ天下無敵のヴォルツ傭兵旅団でも、トラキアとは敵対したくはねぇ。俺達は、『命を大事に』がモットーだからな!」

 

ベオウルフと俺、そして傭兵達とで笑い合う。今日は味方でも、明日になったら敵ってーのが傭兵稼業の辛い所。俺達の出会いと敵対しなければいいな、・・・っていう願いも込めて笑う。

 

そして・・・、

 

「・・・マジな話、近々大きな動乱が起きる。お前達にとっては稼ぎ時かもしれんが、相手と引き際はちゃんと見極めろ。・・・死ぬなよベオウルフ、そして傭兵諸君。・・・俺は、・・・俺達はお前達と戦いたくない。・・・じゃあな、また会おう!」

 

俺はそう言うと、スコルと共に大空へ。そんな俺を見上げてベオウルフは、

 

「俺達は死なねぇよ!・・・俺達は、・・・俺達のモットーは『命を大事に』だ!覚えとけよ、エシャル!!」

 

そう言って手を振ってくる、皆が手を振ってくる。・・・『命を大事に』か、・・・ベオウルフの奴、・・・その時は俺に任せろよ!!

 

 

 

 

 

マディノからオーガヒルへと来ましたが、既に準備は整っているようですね。舞い降りてみればヴァンを先頭に、強面の海賊達がズラリと並んでおります。・・・昨日の宴ん時は、雰囲気が雰囲気なんでそうでもなかったが、素面で見るとなんか恐いね。ガンドルフの兄貴んとこはそんなに感じなかったが、海賊は更に荒々しいね。・・・う~ん、それなりの訓練を施して前面に出せば、威圧と武力で良い部隊が作れんじゃね?とか思ってみたり。

 

「おぉ~、既に引っ越し準備は出来てるみたいだね。感心したよ、ヴァン。・・・時間があまりない故に、まずは城の外へ行こうか。・・・自分達の城の最後、その目に焼き付けて新たな道の標とするがいい。」

 

そんな俺の言葉に、

 

「エシャル様のご配慮、感謝しやす。・・・お前ら!エシャル様のお言葉は聞いただろう、急いで動きやがれ!分かったな!!」

 

「「「「「へいっ!!」」」」」

 

ヴァンの一声で動き出す荒くれの海賊達、ブリギッドさんに若頭?っぽい奴らを先頭に城の外へ。・・・どれ、盛大に燃やしますか。

 

 

 

 

 

「・・・その目に焼き付けろよお前達、この炎でお前達の海賊生活は終わりを告げる。そして今日よりお前達は、トラキアの黒刃エシャルが配下として新たな一歩を踏み出すのだ!・・・・・・ボルガノン!!」

 

圧倒的な炎の一撃にヴァン達は呆け顔となる、そして・・・自分達が今まで過ごしてきた城が炎に包まれる様を、涙を流して見詰めている海賊達。

 

・・・炎に包まれ崩れ行く城と共に、オーガヒルの海賊は滅んだ。そして・・・、この海賊掃討戦から世界は、動乱へと向かっていくことになるのであった。




序章メインはこれで終わりです。

次は閑話になります。


物語は戦いに移っていきます、上手く書けるか分からんけど。


とりあえず閑話では、多少のイチャイチャを書けたらいいなと思います。

書いて欲しい組み合わせが合ったら、活動報告のどれかに書いてください。シチュエーションも軽く書いてもらえると有難いかも。しかしその場合、下手な話になっても怒らないでね?


次はちょっと『なろう』の方を書きますんで、投稿が遅いかも。


エシャル

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ブリギッド

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トラバント

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ディアドラ

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新たに書いたエシャルがヴェルトマーよりの顔に。ブリギッドがイケメン、トラバントが若い、ディアドラが可愛い、・・・以上!


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閑話 ~ガンドルフの亡命

ひっそり投稿。


ーエシャルー

 

オーガヒル城を燃やし尽くし、ヴァン達と共にトラキアへと戻ってきた俺。ヴァン達は使用人達に任せ、すぐにトラバントの下へと向かう。トラバントはいつも通りの不敵な笑みで俺を迎え、俺もいつも通りにマディノの報告をする。既にカナッツ君、そしてディアドラから聞いていたが故にスムーズに報告は終了。俺の報告を聞き終えたトラバントは、

 

「ご苦労だったなエシャル、・・・エルトシャン王との再会に、自身の配下に加えた傭兵隊と海賊達。お前の顔を見る限り、内密の話がありそうだが・・・、それは後で聞こう。」

 

俺の顔を見るだけでそれに気付くとは、流石はトラバントである。話したいことが多いから、腰を落ち着かせて話したい。つーことで、後程トラバントの執務室に顔を出そう。・・・なんて考えていると、

 

「よぅエシャル、無事で何よりだ!」

 

トラバントの座る王座の後ろからガンドルフの兄貴が・・・!何故に・・・!?

 

「ククク・・・、その顔が見たかったのだエシャル。」

 

したり顔のトラバントにイラッときたのは内緒だ・・・。

 

まぁとりあえず、何で兄貴がいるのかを聞いてみたら、

 

「俺はヴェルダンから亡命してきたんだよ、・・・色々と頑張ってみたが駄目だな。止められねぇよ、ヴェルダンは・・・。」

 

いつも強気な兄貴の悲しそうな顔、・・・やはりヴェルダンはそうなっちまったか。俺の知る知識とは違う道を歩んできたが、動乱の足音は着実に近付いているわけだな・・・。

 

「エシャルが戻ってきたし、ヴェルダンの話でもするか?・・・影響が無いわけではないし、今後の方針を考えるのにもな。いいか?トラバント、エシャル・・・。」

 

俺とトラバントは、互いに顔を見合わせてから兄貴に向き直り頷く。

 

 

 

 

 

ーガンドルフー

 

俺はヴェルダン城にて、父であるヴェルダン王バトゥ、弟であるバルバロイ、キンボイスの三人と対峙していた。

 

「・・・親父、本気で言っているのか?本気でグランベルとの戦を、戦争を起こそうとしているのか・・・?」

 

だいぶ前から警戒していたが、親父達は俺に知られることなく、戦の準備を水面下で始めていたらしい。薄々は感付いてはいたが、面と向かって言われると少なからず動揺はする。まぁそれはいい、キナ臭いとは思っていたし。本当にそれはいいんだがよ・・・、

 

「トラキア王国との同盟を破棄し、マーファ城を接収及び駐屯しているトラキア兵、滞在中のトラキア国民を捕らえて交渉の道具とする。・・・親父、いやバトゥ王!そこの二人が言ったことは本当なのか!我がヴェルダン王国の発展に貢献し、友誼を交わしてきた相手を裏切る。・・・いつからそんな恩知らずな王になったんだ、ええっ!!」

 

バルバロイが言った同盟破棄、キンボイスが言ったマーファ城の接収。そして・・・トラキア国民を交渉の道具とし、更に物資等を入手しようとする最悪な考え。それを聞いた俺は激昂した、恩知らずで悪辣だと。そんな俺に対し、父であるバトゥ王は・・・、

 

「長年、苦汁を舐めさせられていたグランベルに一矢報いる時。その時が来るとサンディマは言った、グランベルに隙が出来ると。その隙を突けば、我がヴェルダン王国の勝利は確実だと・・・。分かるな、・・・ガンドルフ。」

 

・・・分かるかよ、分かってたまるかよ!グランベルに隙だぁ?ヴェルダンの勝利だぁ?聖戦士の血族を舐めすぎだ、勝てる筈がねぇんだよ俺達は!勝てる筈もねぇ相手に戦争を仕掛ける為、トラキアを裏切る。・・・・・・くそっ!!

 

説得を試みたが、聞く耳持たずに同盟破棄と城の接収、トラキア国民の捕縛。それだけを言って親父は、いつの間にかいたサンディマを伴いこの場を去る。どうにもならねぇか・・・と、肩を落とす俺。そんな俺を見て、愚かな弟達は、

 

「はん!ざまぁねぇな兄貴!同盟同盟ってよ、トラキアに尻尾振ってよ!たかがトラキア、竜騎士なんざ矢で撃ち落とすだけじゃねぇか!」

 

・・・本来なら、それで終わりなんだがなバルバロイ。エシャルには効かねぇし、マゴーネ達輸送師団にも効かねぇよ。まだ数は少ねぇがマゴーネはドラゴンジェネラル、大型のドラゴンを鎧で重装備させた空飛ぶ要塞だ。弓の名手なら何とかなるが、撃てるだけの弓兵如きに落とせる奴等じゃねぇぜ。

 

「弱腰の兄貴は早々に城へ戻って、引っ越しの準備でもしていなよ!マーファ城の全てを、トラキアの奴等も、俺達が有効活用してやるからよ!ガハハハハハ!グランベルも終わりだなぁっ!!」

 

・・・弱腰で何が悪いんだキンボイス、俺は現実を見ているんだよ。たかがヴェルダン兵という凡兵が、聖戦士の血族が率いるグランベル兵に勝てるわけがない。・・・俺の率いるマーファ軍は奴等に勝てる自信がある、エシャルやマゴーネ達と演習しその強さを磨いてきたからな。でも、聖戦士の血族で力を継承した奴が出てくれば、成す術もなく蹂躙されるだろう。エシャルとトラバントを間近で見てきたから分かる、聖戦士と凡人・・・埋められない差があると。それを知らない・・・いや、知ろうとしない親父と弟達は絶望することになるだろう。・・・それにしてもサンディマの野郎、奴は一体何なんだ?

 

愚かな弟達を一瞥し、俺はヴェルダン城を後にする。最後にもう一度、ヴェルダン城を見る。・・・・・・もう俺はここにはいられねぇ、狂った国の為に死ぬなんざ真っ平だ。俺には俺を慕う部下や民達がいる、受け入れてくれたトラキア王国、トラバントにエシャル達・・・、彼らには恩がある。俺はくだらねぇことで死ぬわけにはいかねぇんだ、ヴェルダンは一度・・・滅んだ方がいいんだ。・・・そんな風に考えても、悲しいもんは悲しい。目から涙が零れたが、俺は乱暴にそれを拭って決意する。俺は国を捨てるがいずれ、この国を元に戻してみせると。俺では無理でも、いつかは出来るであろう俺の子供が、弟のジャムカだっているからな!希望は捨てずに俺はいくぜ、今はあれだけど祖国なわけだしな!

 

 

 

 

 

マーファ城へと戻ってきたわけだが、さて・・・どんなもんになっているかな?

 

「・・・王子!首尾はどうでし・・・、その顔はやっぱり駄目ってわけですかい・・・?」

 

俺を出迎えたデマジオは、俺の顔を見て結果が最悪・・・ということを読み取ったようだ。・・・コイツ、エシャルやマゴーネ達とつるむようになったら、出来る男って感じになりやがったな。

 

「おう、デマジオ!この国はもう駄目だ、計画通りいくぜ!・・・つっても、後は俺達だけなんだがな!」

 

数ヵ月前から少しずつ、我がマーファの民と物資等はトラキアへ。そして今日が決断の日だった、残るは俺達だけでマーファ城及び周辺の村々はすっからかんさ。・・・そう、数ヵ月前からキナ臭くなり動いていたんだ。俺は、俺達は数ヵ月前にはもう、ヴェルダンを、自分の国を見限っていた。それでも、最後の希望を信じて俺達は残っていたんだがな、・・・やっぱり駄目だったってわけだ。

 

「そうっすか、まぁ・・・仕方がねぇですかね?・・・悲しいっすけど、俺達なりに頑張ったわけですし。共倒れよりも未来を見やしょうや!エシャルの兄貴もそう言ってやしたし!」

 

俺達もただ狂うのを見ていたわけじゃねぇ、何とか戻そうとしたんだぜ?それでも止まらなかったんだ、・・・諦めるしかねぇだろ。それでも、唯一の救いってヤツがある。弟の一人、ジャムカだけはまともだった。それだけは嬉しかったぜ、うん。

 

マーファ城にて、最後の準備をしている時、

 

「兄貴!!」

 

弟のジャムカが息を乱して入ってきた、俺はその姿を見てニヤリと笑い、

 

「よく来たな、ジャムカ!このヴェルダンで、穏やかに会うのは今日で最後だけどよ!亡命する前に会えて嬉しいぜ、本当によ!」

 

ジャムカの来訪を喜んだ。

 

デマジオ達に指示を与え、俺自身はジャムカと話す。ヴェルダン王国という国が存在している今だけ、国が終わる前に兄弟で話をする。

 

「・・・この国は近い内に滅んじまうが、ジャムカ。・・・本当に残るのか?言葉は通じないぜ?」

 

弟が国と共に終わるなんて未来、俺は全力で回避したい。あの二人は勝手にしてくれってヤツだが、ジャムカだけは死んでほしくない。そんな気持ちを含めて言ったんだが、

 

「・・・俺は残るよ兄貴、母が愛したこの国を最後まで見ていたい。それに・・・、親父を見捨てることが出来ないよ。・・・隙あらば、サンディマを殺りたいとも思っている。」

 

ジャムカは考えを変えない、意外と頑固だからな・・・ジャムカはよ。

 

「・・・言ってみただけだよジャムカ、こうと決めたら動かねぇもんな。・・・後、すまねぇな。国を捨てるふがいない兄貴でよ・・・、俺は国を捨ててでも・・・、万が一を考えて血を残したいと思っているからよ。本当にすまねぇ、ジャムカ・・・!」

 

俺は頭を下げる、残る弟を尻目に逃げるようなもんだからな。頭を下げる俺に対し、ジャムカは慌てる。

 

「兄貴、頭を上げてくれ!俺は兄貴の考えていることが分かる、分かるから謝らないでくれ!このままグランベルに戦争を仕掛けたら国は滅ぶ、そしてこの国はグランベルのモノになる、それくらいは分かるぜ兄貴。」

 

ジャムカが賢しい弟で良かった、・・・これもエシャルのお陰だろうな、ジャムカもエシャルを慕っているし・・・。

 

「・・・今は無理でも、次世代に賭けようっていう兄貴の英断を俺は尊敬する。この国は滅んでも、魂は消えないぜ兄貴。それに俺は死ぬつもりなんかない、俺は俺なりに頑張るつもりだ。・・・兄貴、俺達は若木だ。まだまだ弱いけど、時が経てば木となり林となり森になる。俺達の誇りである精霊の森のように、いつかは大きな森になって復活させようぜ!後に来るであろう屈辱を堪えて。・・・兄貴の場合、若木よりも苗木か?トラキアで育って、またこの国に苗木を送るって感じでよ。・・・・・・何かもうわけが分からねぇや、ハハハ!」

 

俺は何となくだが分かるぜ、ジャムカ。生きることは何処でも出来る、大切なのは死なねぇってこと。生きてさえいれば、再びこの地に腰を据えて国を興すことが出来る。生きてこそってヤツだ・・・、苦労はするだろうけどな!

 

 

 

 

 

もっとジャムカと話していたかったが、もう時間だ。サンディマに唆された連中が、このマーファ城を接収する為に向かってきていると連絡が来たからな。ジャムカも早々に立ち去らないと、あらぬことで立場が悪くなりかねない。ジャムカもそれが分かっているから、素早くこの場から立ち去ろうとしている。そんなジャムカに俺はスキルリングを渡した、死んだ兄貴の形見であるスキルリングを。

 

「これは兄貴が大切にしているスキルリングじゃないか!受け取れねぇよ、そんな大事なもん!」

 

受け取りを拒否するが、無理矢理渡す。

 

「いや、受け取れジャムカ。このスキルリングは死んだ兄貴の形見、覚えていないだろうがお前の本当の親父の物だ。本来の持ち主へと戻るだけ、きっとお前を守ってくれるさ。」

 

「・・・俺の本当の親父?・・・その形見?」

 

困惑しているが今はいい、いずれ知ることになるのだから。今は事実だけを知っとけ、ジャムカ・・・。

 

「とりあえず持っとけ、後・・・コイツも受け取れ。エシャルからお前にってな、キラーボウって言っていたぞ。」

 

「・・・キ、キラーボウってあの馬鹿高いヤツじゃねぇか!そんな高級品、受け取れるわけ・・・「受け取れ!」・・・おう。」

 

ビビるジャムカに、預かっていたキラーボウを渡す。渡さねぇと俺が文句を言われるからな、便乗してトラバントにも小言を言われるだろう。そんなのは、断固拒否だ!

 

「エシャルもお前が心配なんだよ、少しでも生き長らえてほしいからコイツをお前に贈るんだ。・・・分かるな?」

 

「・・・おう、・・・エシャルの兄貴に礼を頼むぜ?・・・兄貴。」

 

難しい顔をしつつも、キラーボウをしまい込むジャムカ。俺のやったスキルリングもしているな、・・・いいことだ。こんな状況で渡すことになったのは不本意だが、兄貴のを渡せたことに安堵する。この国に残るってことはかなり危険だが、この二つがありゃあそう簡単には・・・ってヤツだ。

 

「・・・それじゃあ兄貴、俺は行くぜ?壮健でな!」

 

「おう・・・お前もな、ジャムカ!エシャル曰く、近い内に会うことになるらしいが・・・、それまでは死ぬんじゃねぇぞ!」

 

そんなわけで俺とジャムカは別れた、・・・凄まじく心配ではあるが、・・・大丈夫だよな?愚かなキンボイスとバルバロイに殺られるような奴ではないが、サンディマの野郎は不気味だ。隙あらば・・・とジャムカは言っていたが、無謀な行動はするんじゃねぇぞ、俺はそう願うしかなかった・・・。

 

 

 

 

 

ーエシャルー

 

兄貴の話を聞き、キラーボウが無事ジャムカの手に渡った、そのことに俺は安堵した。安堵と同時に流れは変わらない、それどころか悪化しているヴェルダンの現状に少なからずショックを受ける。マーファ以外の民達もサンディマに従い、グランベルに攻め入ることを是としている。俺の知るヴェルダンの戦い、それ以上のモノになる可能性が高い。全てを守ることが出来ないってことは分かっている、それでも悲しいわな。・・・ガンドルフの兄貴は少なからずふっ切っているようだが、心中は・・・悲しみで一杯だろう。せめてもの救いは、マーファ周辺の民が無事にこのトラキアへ渡れたことか。マゴーネさんには後で、きちんと礼を言わねばならないな。もち、トラバントにもね。

 

兄貴の話を聞いたトラバントも、うーむ・・・と考えているっぽい。そんなトラバントに兄貴は、

 

「いや本当に、トラバントには感謝しかねぇ。俺達を受け入れてくれてありがとうな、俺を含めて受け入れてくれた民達はトラキアの為に頑張るぜ。その為に、今回のマーファ大移動を計画したんだ。マーファ城とその周辺はスッカラカン、全てトラキアへと持ってきた。俺達を受け入れたことに対して、トラキアに損はさせねぇぜ!」

 

そう言って頭を下げ、顔を上げた時には悪どい顔。兄貴もやるもんだね、・・・今頃ヴェルダンの奴等は悔しがっているだろうね。・・・何も無い城を接収したんだからさ、宛が外れてざまぁ・・・ってヤツだな。

 

「フッ・・・、ガンドルフのことは信頼している。無理に頑張らずとも・・・と言いたいが、その顔を見る限り何かをするつもりだな?・・・好きにやるといい、ガンドルフ達を迎えた地に限りという条件があるがな。当然、結果次第では何とやら・・・ってヤツだが。」

 

「それで構わない、それどころか十分だぜ!見とけよトラバント、エシャル!何年掛かるか分からねぇが、トラキアの地を緑に変えてみせるぜ、トラキア緑化計画だ!・・・まぁ、場所は限定されると思うがな!」

 

・・・トラキア緑化計画か、・・・長丁場だが面白そうじゃないの。上手くいけば、他国に頼らずとも一定の食料が入手可能になるかもしれないってことだな!・・・ああ、だからここ最近の兄貴は色々飛び回っていたのか!山岳地帯にて育つ何とかとか、水が少なくても大丈夫・・・ってヤツとか、ふむ・・・なるほどね。トラバントの目も妖しく光っていたし、どうなることやら・・・。

 

何はともあれ、兄貴がいるってだけで精神的に余裕は出来るわな。ディアドラも俺の他に信頼している兄貴がいるって知れば、身体全体を使って喜びを表現するな!う~ん、トラキアが熱くなるぜ!




次はフリージ組の登場かな?


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閑話 ~フリージ公爵家での一幕

織栖さん、遊技林さん、KAORI@マークさん、megeGⅢさん、感想ありがとうございます。

後程・・・活動報告にて、エシャルの嫁さん最終アンケートをしたいと思います。

物語の進みが変わってしまいますので、未来を予想して考えてみてください。

エシャルの嫁さんに対してはマジでこれで最後っす。


ーティルテュー

 

私は、いつもの日課である剣の鍛練を始める。調練場にある木人相手に剣を振るう、斬る、薙ぐ、突く・・・。特に突き、私はこの突きを集中的に鍛える。一点集中、自身の力を一点に集中して突く。私はそれを何度も繰り返す、色々な場面を想定し、ただ繰り返すのみ。私は女だから・・・男より力が弱い、弱いからこそその欠点を埋めるべく鍛練をするのだ。突きだけはそれなりの力でも効果は出る、力が弱くとも相手に致命傷を与えることが可能。

 

私はこの突きと、自身の得意とする雷魔法で多くの賊徒を討ってきた。中には命乞いをする者もいたが、賊徒に慈悲等・・・必要ない。許してしまえば再び、・・・再びその手を血で染めるだろう。賊徒には冷酷なる処置を、それが民の平穏に繋がると信じている。

 

・・・私のしていることは復讐である、私の愛しい兄様を殺した賊徒への復讐。絶対に許さない、許しはしない。私は賊徒の討伐でその力を高める、亡くなった兄様へと少しでも近付けるように。まだまだ程遠いけど、至るか限りなく近付いた時、私は兄様の下へ逝くことが出来る。

 

兄様、・・・私の愛しきエシャル兄様。私は高みを目指します、当面の目標はシアルフィ公爵家のシグルド様、彼を私の剣で傷付けます。魔法では焦がすことが出来ました、後は剣です。獅子王エルトシャン様は仰いました、シグルド様は糧であると。その言葉を信じるならば、シグルド様はエシャル兄様へ至る為の壁なのです。その壁に穴を開けることが出来たのなら、きっと・・・・・・。エシャル兄様、ティルテュをお導きください。

 

 

 

 

 

・・・日課の鍛練を終えた私は、濡らした布で身体を拭う。湯浴みをしたいけど、手間が掛かるし水も大量に使う。無駄使いは駄目、水は貴重なんだから。ヴェルダン王国は水に制限が無い程あるという、とても羨ましい。そして遠いトラキア王国には、温泉とかいう魔性の水源があるらしい。常にお湯が湧く不思議な国、・・・拠点をそこに移したいものだ。それにトラキア王国には・・・、噂の将軍がいる。私の愛しき兄様と同じ、エシャルという名前・・・。とても気になる、・・・会ってみたい。

 

汗を拭った私は自室へ、今度は勉学に励まなくてはならない。文武両道が私の目指す道、武では打倒シグルド様、文はお父様、・・・頑張るのよティルテュ。自分自身に活を入れ、いざ勉強を!と思ったのだが・・・、

 

「・・・これは?」

 

机の上に一枚の紙、見てみると・・・、

 

『大事なお話があります、レプトール様の執務室へ、内密にお越しくださいませ。~レクスヴァ~』

 

・・・レクス、帰ってきていたのね?私に話がある?・・・それも内密に。・・・・・・何だろう、何だか心がざわつく。

 

今日この日が、私にとってとても重要で大切な日になるとは、この時はまだ知らない・・・。

 

 

 

 

 

ーエスニャー

 

「愚兄ブルームは何様なのよ?血の力にふんぞり返っているだけの無能に、お姉様とエスニャ、シャルを馬鹿にするなんて許せないのよ。しかも、・・・エシャル兄様のことまで!」

 

「私のことはともかく、ティルテュ様にエスニャ様、そしてエシャル様を貶めるような発言、・・・ブルーム様許すまじ。」

 

ブルームは愚兄なのよ、継承者の素質があるだけのフリージ公爵家唯一の出来損ないなのよ。今や武勇と知謀はティルテュお姉様の方が上、私は知勇に関してだけは勝っていると自負しているのよ。シャルもとても優秀で凄いのよ?レクスには劣るけど、ゲルプリッターの一員なのだから。まぁそれはいいのよ?でもエシャル兄様を馬鹿にするのだけは駄目なのよ・・・。

 

「ブルームには、レクス直伝の闇魔法で呪うのよ。・・・頭の毛を後退させるのよ、若ハゲになるのよ・・・ウフフフフフ♪」

 

「それは名案でございます、エスニャ様。僭越ながらこのシャールヴィ、微力ながら魔力を提供させていただきます。」

 

・・・若ハゲ~、若ハゲ~♪無能で若ハゲ~、憐れんだ目で見られて~、自尊心が傷付けられる~♪

 

・・・ふぅ、良い仕事をした後はとても気分が良いのよ♪将来ブルームの若ハゲは確実なのよ、・・・ざまぁないのよ♪

 

耳を澄ませば聞こえるのよ?エシャル兄様のお声が・・・、

 

『でかしたぞエスニャ、・・・愛しき妹よ。私はエスニャを見守る傍ら、ブルームが後退していく様を見続けよう。』

 

・・・褒められたのよ?でも・・・不満なのよ、そこは妹とは言わずに、エスニャと言うべきなのよ。

 

いつものように、エシャル兄様との会話を楽しんでいたら・・・、

 

「エスニャ様、エシャル様のお姿を象ったぬいぐるみをお忘れですよ?・・・因みに私は、装飾品としていつも身に付けております。・・・もはや夫婦と言っても良い関係ですわ♪」

 

・・・由々しき事態なのよ!私はシャルからエシャル兄様をぶん取り、自分の胸に抱いたのよ。そしてキリッとシャルを見て、

 

「エシャル兄様はエスニャの旦那様なのよ?シャルは頑張っても愛人なのよ?・・・間違っては駄目なのよ。」

 

そう言ったのよ。・・・シャルとは、きちんと話さなければならないのよ。

 

 

 

 

 

いつものようにシャルと口喧嘩、その後はまったりとお勉強なのよ。そんな私にレクスから、

 

『エスニャ様、レプトール様の執務室までお越しください。エスニャ様・・・いえ、フリージ公爵家全体に関わる重要なお話がありますが故。シャールヴィと同伴にて、内密にお願い致します。』

 

脳内に直接、連絡がきたのよ。・・・お父様の髪が無くなったのよ?おまじないが失敗、フサフサの呪いは駄目なのよ?うんうん考えても、理由が分からないのよ。シャルと一緒に、お父様の執務室へ向かうのよ。

 

向かった先の執務室で、まさか嬉しすぎて昇天しかけることになるとは、この時はまだ分からなかったのよ。

 

 

 

 

 

ーレプトールー

 

突如戻ってきたレクスヴァよりもたらされた情報、その情報に私は久方振りに涙した。『トラキアの黒刃』ことエシャル将軍、彼は私達が知るエシャルである、直に会い確認したとレクスヴァは言ったのだ。情報として、彼がエシャルであるとは知っていた。だが耳で聞いた情報故に、正確か否かは判断がつかず、信頼するレクスヴァを放ち、そしてやっと・・・真なるエシャルであると判明したのだ。・・・これが喜ばずにいられようか!今日を密かにエシャル記念日と定めよう、エシャル存命を噛み締めながらそんなことを思った。

 

しかし、良い情報だけではなかった。ヴェルトマーの魔女という不名誉な称号を持つアイーダ、彼女と再会したエシャルの暴走から判断した結果、ヴェルトマー公爵家は既に闇の一族の手に落ちており、少なからずグランベル王国にはその魔の手が浸透していると。術の施されていたアイーダは、意識を失ってはいるが無事。エシャルもある者の力により、闇の力を多少なりとも削ぎ落とせたとのことだが、油断は決して出来ない。その凶報に私は目を剥いてしまった、闇に潜みしロプト教団が、裏で手を回していたという事実。ヴェルトマー公爵家が落ちている以上、フリージ公爵家にも魔の手が・・・いや、既に潜んでいるかもしれないという事実。エシャル存命に喜びはしたが、喜びだけでは済まない現実に肩を落とすしかなかった。

 

そして最後に朗報ではあるが、ロプト教団と同等かそれ以上の衝撃を受けた。エシャルと共にいる少女は、聖者ヘイムの血族で継承者の可能性が高いと・・・。何という・・・、何ということだろうか!?聖者ヘイムということは、バーハラ王家に連なる者!・・・いや、まだそれは早計であろう。エシャルはトラキアの将軍、考えられるのはマンスター地方のターラ公爵家。しかしトラキアとの関係を見るとそれは難しい、北トラキア四小王国が存在する為にな・・・。

 

そう考えるとやはりバーハラ王家、しかし高齢の陛下にその歳の子が・・・!?ま、まさか・・・クルト王子か?・・・脳裏に浮かんだのは、ヴェルトマー公爵家前当主ヴィクトルのこと。妻であるシギュンとクルト王子の逢瀬、シギュンの裏切りを知りヴィクトルは自決した。その後シギュンは姿を消したが、もし・・・クルト王子との間に子を宿していたとしたら?歳の頃は合う・・・。

 

もし本当にそうだとしたら、これは運命なのだろうか?ヴィクトルとシギュン、そしてエシャルと件の少女・・・。出会うべくして出会ったとでもいうのだろうか?もし・・・その少女とエシャルが結ばれたのなら、それはなんという皮肉だろうか?

 

 

 

 

 

衝撃的なことが続き、頭を悩ませていると・・・、

 

「レプトール様、此方へ姫様達とシャールヴィをお呼びしております。」

 

「・・・二人とシャールヴィを?」

 

二人の娘とシャールヴィは特に、エシャルを大事にし慕っていたからな。早く伝えたいのは分かるが・・・。

 

「エシャル様のことは勿論のこと、姫様達とシャールヴィをトラキアへお連れすることを提案致します。」

 

レクスヴァの提案に私は目を剥いてしまった、何故ならば・・・、

 

「・・・やはり我がフリージにも?」

 

そう問い掛けた私に、レクスヴァは頷き・・・、

 

「・・・微かにですが、まず・・・間違いないかと。」

 

レクスヴァの返答を聞き、私は努めて冷静に。そして・・・その提案を承諾し、娘がここへ来る前にトラキア王国のトラバント王、エシャルに宛てた手紙を綴るのであった。

 

 

 

 

 

ーレクスヴァー

 

俺がこの目で見て、この耳で聞いた情報をレプトール様に話す。自分で言うのもあれだが、なかなかに刺激的な情報。現に、その内容でレプトール様は頭を悩ませている。しかし、心苦しいがもう一つ言わねばならない。このフリージにも微かにだが、ロプト教団の闇を感じると。

 

故にこれを理由にして、姫様達とシャールヴィをトラキアに保護してもらおうと。エシャル様のことだから、トラバント王にロプト教団の脅威を伝えていることだろう。聡明なトラバント王は、ロプト教団の脅威を正しく理解し、自国を守る為に動く筈。そこに姫様達の保護を条件に、グランベルにて蠢くロプト教団の情報等を提供すればいい。少なからず各公爵家は勿論のこと、ロプト教団に対しても牽制となろう。

 

俺の考えを読み取ったレプトール様は、トラキアのトラバント王とエシャル様宛てに手紙を書いている。・・・これで一つの懸念が無くなった、俺も更に動きやすくなる。・・・これから起こるであろうことに俺自身も悩みながら、姫様達の未来に想いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

・・・そして、姫様達がこの執務室に到着した。キリッとした表情のティルテュ様、ボーッとしているようなエスニャ様、そのエスニャ様を微笑ましそうに見るシャールヴィ。俺はすぐさま結界で、周囲から執務室を隔離する。これでこの執務室は安全だ、何も漏れることはない。

 

姫様達の表情を順に見たレプトール様は口を開き、

 

「・・・お前達に伝えねばならないことがある、・・・これは極めて重要なことであるが故、心して聞くようにな。」

 

そう前置き、

 

「知っているとは思うが、トラキア王国にエシャルという名の将軍がいる。その名は私達にとって大切な名であるが故に、彼の将軍を気にしているであろう。私自身も気にしており、そこに控えるレクスヴァに調べるよう指示を出していた。そしてレクスヴァは彼の将軍と面会し、話すことで判明したことがある・・・。」

 

レプトール様は一旦区切り、姫様達の表情を再度見る。俺も見たが・・・その表情は言わずもがな、期待の眼差しでレプトール様を見ている。レプトール様もその眼差しを受け、若干口元を綻ばせる。そして・・・、

 

「彼の将軍は私達の知るエシャルであり、お前達が慕っていたヴェルトマー公爵家のエシャルである。」

 

それを聞いたティルテュ様は床に崩れ落ち涙し、エスニャ様とシャールヴィはお互い抱き合って涙する。俺は今日という日を忘れはしないだろう、久方振りに見た姫様達の嬉し涙を・・・。




とりあえず、ティルテュ、エスニャ、シャールヴィの適当ステータスです。


名前:ティルテュ
クラス:マージファイター《上級職》

LV:3
HP:34
MP:43
力:10
魔力:16
技:12
速:14
運:12
防御:10
魔防:16
移動力:6
所持金:4,000G

スキル:追撃・連続・怒り

武器LV:剣B・杖B・炎B・風C・雷A

所持アイテム:レイピア・祈りの杖

魔法:ライブ・リライブ・ファイアー・エルファイアー・ウインド・サンダー・エルサンダー・ギガサンダー・トローン・サンダーストーム



名前:エスニャ
クラス:ブラックマージ《下級職》

LV:18
HP:28
MP:46
力:5
魔力:16
技:10
速:10
運:16
防御:6
魔防:20
移動力:5
所持金:3,000G

スキル:待ち伏せ・怒り・祈り

武器LV:杖B・炎B・風C・雷A・闇C

所持アイテム:バリアの杖

魔法:ライブ・リライブ・リブロー・バーサク・ファイアー・エルファイアー・ウインド・サンダー・エルサンダー・トローン・サンダーストーム・ミィル・ウォーム



名前:シャールヴィ
クラス:ゲルプセイジ《上級職》

LV:5
HP:42
MP:52
力:12
魔力:20
技:13
速:14
運:12
防御:15
魔防:19
移動力:6
所持金:4,000G

スキル:追撃・連続・見切り

武器LV:槍B・杖B・炎B・風B・雷A

所持アイテム:鋼の短槍・癒しの杖

魔法:ライブ・リライブ・リブロー・リターン・ファイアー・エルファイアー・ウインド・エルウインド・サンダー・エルサンダー・トローン・サンダーストーム



ってな感じ?

次話は、再会ですかね?


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次章導入話 ~トラキアの道、そして・・・

はむたすさん、にゃ~ん()さん、感想ありがとうございます。

シャンアームさん、Isaacさん、にゃ~ん()さん、作者さん、鷺ノ宮さん、おくれやすさん、遊技林さん、megeGⅢさん、ゲーム大好きさん、アンケートありがとうございます。


ーエシャルー

 

ガンドルフの兄貴がトラキアへ亡命して幾日、兄貴とデマジオ君を筆頭に元マーファの民達はルテキア城の北、ノルンと名付けられた地にて農作業に精を出しています。めっちゃやる気満々で若干、俺とトラバントは引いていたり・・・。そんな兄貴とウマが合ったらしく、元海賊のヴァン達もそれを手伝っていたり。強面がノルンに集まっとるのです、統治者としてはもうちょっと華やかにしたいっす。

 

先の発言で分かりますね?このノルンという地は俺の領地です、トラバントがくれました。トラキアに貢献している俺に対しての褒美、当初は喜びましたとも!しかし深く考えてみれば、北トラキア四小王国を睨む為の要所、ミーズと双壁を為すトラキアの北方です。戦争になれば前線となる場所なのです、しかも微妙に未開地で開墾必須。・・・してやられたわけですがそこは俺、訓練と称してカナッツ君達と暇を見ては切り開いていたのです。

 

ミーズ侵攻戦だったっけ?あれを撃退した時にいただいてもう5年くらい経ってますよ、俺はもう20歳です。そんなノルンは今ではミーズ、カパトギア、ルテキア、グルティア、トラキアに負けていませんとも。わりと発展しています、何度か顔を出しているトラバントも驚いてたもんね、来る度に。『トラキアの黒刃』は人気者なのだよ、わははははは!・・・ってなわけで、俺の領地にて兄貴達が頑張っているのです。更なる発展が見込まれますな、目指せトラキア一の領地!

 

 

 

 

 

そんなわけで、兄貴達が開拓無双中。1ヶ月後くらいにはレイミア達も、このトラキアへと来る予定です。本当に今、トラキアは発展しまくりな現状なんですがね・・・、

 

「・・・とまぁそんなわけで、ロプト教団とかいう異物が大陸で蠢いているのだよ。この俺自身も闇に囚われている、だからこそ・・・俺のような者が増えぬよう、トラキアも警戒すべきだ。・・・俺の心がざわつかないが故、まだトラキアには侵食していないとみる。」

 

俺は執務室でトラバントと話している、アグストリアで起きたことを出来る限り分かりやすく。俺の話を聞いていたトラバント、滅多に見ることの出来ない不安な表情を出している。

 

「・・・昔話の類でしか聞かぬロプト教団、・・・それが蠢いているというのか。・・・してエシャル、闇が燻っているようだが大丈夫か?暴れられても困るのだが・・・。」

 

と、ごもっともな言葉を言われました!でも大丈夫、

 

「ノディオン王家のエルトシャン王、俺の叔父のお陰である程度は大丈夫だ。・・・それにディアドラが傍にいる限り、・・・俺は闇に囚われることは無いだろうと考える。・・・逆に、その闇を俺の力に変えてくれようという強い気持ちを持っているまである!」

 

あの時は初めての感覚の前に飲まれかけたが、エルト兄様の想いを刃から受け取り、ディアドラの力で救われた。パメラさんとアイーダを殺さずに済んだのだ、ディアドラには頭が上がらぬよ。俺には守りたいモノがある、それを守る為にも強い心を持ってすれば闇など恐れることはない。俺に温かな光をくれる者達がいる限り、闇には飲まれんよ・・・俺はそう信じている。そんな想いを乗せて、俺はトラバントに言い切った。

 

「ククク・・・、流石はエシャルだな。闇が燻っているにも拘らず、逆に力に変えると言い切るとは。それにだいぶ記憶が戻っているようだな?彼の獅子王の名をお前の口から聞くとは・・・。まぁそれはいい、・・・それよりもディアドラか。・・・まさか、聖者ヘイムの継承者だったとはな。」

 

不安を滲ませた表情から不敵な笑みへ、そして悩ましげな表情。コロコロ変わるもんだね?内容があれなだけに仕方がないけど。

 

ディアドラが聖者ヘイムの継承者、前世の知識で知ってはいたんだけどね?彼女には双子の妹がいるようだし、俺の傍といいますか・・・トラキアにいるし、もしかしたらヘイムの力があるだけなのでは?と思っていた時期がありましたとも!でも違った、正真正銘継承者みたいです。・・・先日、たまたま彼女の首筋を見ました、ややうなじんとこでしょうか!色っぽいなぁ~・・・と思った気持ちが吹き飛びましたよ、・・・そこにあったんだもの!・・・あったのだよヘイムの聖痕、うっすらとだけどね!まだ本人が自覚していないせいか、はっきりと出ているわけではありません、よって・・・共鳴も起きません!・・・が彼女は、ディアドラは聖者ヘイムの継承者。本来ならば喜ぶものなのですが、立場がある以上・・・素直に喜べんのですよ。ディアドラ・・・狙われちゃうしね、俺がいる限りやらせはしないけど。

 

そう我らトラキア王国は爆弾を入手してしまったのだ、絶対に守らねばならない爆弾を。グランベル王国とロプト教団の手には渡すことなど出来ない、・・・はっきり言おう、最終兵器彼女だと!!だからトラバントも頭を悩ます、外交的に、ロプト教団も含まれるし、ディアドラ自身が今のトラキアには必要だという事実もあるし、ヘタな手は使えんのですよ。・・・とか考えても、やることは一つなんですが、

 

「・・・まだ目覚めていないのは救いだが、いずれは継承者だと自覚し覚醒するだろう。是が非でも守らなければならない、ロプト教団が蠢いているのなら尚更な。グランベルにも渡すわけにはいかない、利用され・・・籠の中の鳥とされるだろう。・・・・・・エシャル、場合によっては私も出る、・・・それほどのことだ。」

 

ミーズ侵攻時に見た決意の目だ、・・・トラバントは本気でディアドラの身を案じている。トラバントにもなついているからな、ディアドラは。妃であるフリーンも妹のように可愛がっているし、・・・とにかくトラバントの気持ちが嬉しい。

 

「・・・利用する気はないけれど、万が一ロプト教団の脅威に晒された時、ヘイムの力は必須だ。それを含めても、ディアドラは我らにとって大切な存在。・・・トラバントの決意も知った、俺も自身の力を最大に使用し、些細なことをも見逃さずに警戒しよう。・・・ヴェルダンの件もある、トラキアを守る為にも戦の準備をしなくてはならないな。・・・動乱に発展しようものならそこに介入し、内外にトラキアありと名乗り上げよう。強国トラキアを示せば、各国とロプト教団に対しての牽制にもなる。・・・だよな、トラバント。」

 

俺の言葉にトラバントは大きく頷き、

 

「その通りだエシャル。日和見など我らトラキアには似合わぬ、我らはハイエナよ。隙あらばその牙を獲物に突き立て、奪い去るのが元々の流儀。その流儀に基づき、各国に我らの武威を示そう。我らが守るべき国を、民を、大切な者達の為に。・・・その時が来ないことが一番なのだが、ヴェルダンの件がある。・・・後一つ、何かが起きればその時こそが・・・。」

 

そんな感じで準備をすることに決めました。ガンドルフの兄貴、マゴーネさん、パピヨンさん、ハンニバルさん等もその後加わり、俺達トラキア王国も来る日に備えることとなったのだ。・・・ロプト教団、恐るべし!

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ディアドラを守る為、トラキアの全てを守る為、遅かれ早かれ動乱が起きると予想し俺達は密かに準備する。ロプト教団についても目を光らせておりますよ?勿論ね。そんな平穏でありながら忙しい日が続いたある日、フリージからレクスが尋ねてきた。そんな彼を、トラキア城の王の間にて迎える。

 

「よく来たな、・・・レクスヴァと言ったか。我がトラキアは貴殿を歓迎しよう。」

 

この忙しい時期の来訪に、いつもだったら機嫌が悪いトラバント。しかし今回はわりと機嫌が良い、まぁ相手がレクスだし、俺もレクス・・・フリージ家について語りまくったからな。暴走時に俺を救ってくれた恩人でもあるし、ロプト教団を知る者として何かしらの情報を持ってきてくれた可能性もある。レクスを歓迎するのは当たり前なのである。

 

「お目にかかれて光栄にございますトラバント王、エシャル様より聞き及んでおられるご様子ですが、改めて名乗らせていただきます。私の名はレクスヴァ、我が主レプトール様の名代として参上致しました。」

 

綺麗なお辞儀と共にそう言ったレクス、・・・レプトールの親父さんの代わりで来た?会いに来るとは聞いていたけど、名代で来るとは聞いていないな。・・・グランベル、フリージに何かしらの問題が?トラキアに何かお願い事でもあるんかね?無理難題で無ければトラバントは聞いてくれるとは思うが・・・、さて・・・。

 

レクスは何処からともなく手紙を出す、何それめっちゃカッコいいんですけど!今度俺も練習して使ってみようかと思う。

 

「我が主レプトール様より書状をお預かりしております、まずはその書状にお目通ししていただきたいと存じます。」

 

その言葉と同時に、手紙が俺とトラバントの下へと飛んでくる。レクスはマジシャンか!?と思いつつ、親父さんからの手紙を読む俺。え~と、何々・・・。

 

・・・手紙の内容を簡単に言うと、

 

『久しぶりだなエシャル、無事で何よりだ。

 

~中略~

 

グランベル王国内にて教団が蠢いており、ヴェルトマーを中心に少しずつだが広がりを見せている。我がフリージにもその魔手が少しだけではあるが、入り込んでいる可能性が高い。

 

~中略~

 

故に大切な娘であるティルテュとエスニャ、それとお前の姉代わりとして共に過ごしていたシャールヴィ、この三人をトラキアにて保護してもらいたい。ついでと言っても良いのだが、

 

~中略~

 

たとえ選ばれることがなくとも、お前の傍にいるだけで幸せだと言っていた。私としてはお前と娘が結ばれれば嬉しいのだが、お前の未来に繋がる為どのような結果になっても問題ない。・・・が、せめて守ることはしてほしい。

 

~中略~

 

いずれ来るであろう再会を心待ちにしている。・・・エシャルよ、壮健でな。

 

ーレプトール』

 

・・・簡単に纏めてこの長さである、略さなければ手紙だけで1話が終わるだろう。久々故に無駄話が多かったのだ、トラバントの手紙の30倍はあると思うよ?手紙の厚さが。・・・馬鹿なんじゃないの?親父さん。・・・ジト目で俺を見るなよトラバント、俺が悪いんじゃないんだぜ?時間が掛かりまくったのは、レプトールの親父さんが悪い!!

 

更に要約すると、フリージ家にもロプト教団の魔手が迫りつつあるから、ティルテュ達をトラキアで守ってください、情報が入り次第連絡するんでよろしく!ってとこだな。・・・まぁビックリだよね?俺の実家が手遅れっぽいのと、グランベル自体がヤバいって事実。ロプト教団の情報が入り次第、教えてくれるってのは正直ありがたいよね。・・・とりあえずグランベルとの繋ぎが出来た、トラキアを守るにあたって一歩前進だな。向こうの情勢が、かなりの精度で入手出来るんだからさ。それにティルテュとエスニャに会えるのが嬉しい、シャールヴィさんは顔を見ないと何とも言えない、・・・ごめんね?シャールヴィさん。

 

色々考える俺だが、トラバントはどうだろうか?聞いてみようと思ったが、

 

「・・・ティルテュ嬢とエスニャ嬢、シャールヴィの件・・・受け入れよう。私としても情報はほしい、グランベル王国のフリージ公爵家と繋がりを得るのも魅力的だ。・・・無いとは思うが、失望させてくれるなよ?」

 

流石はトラバント、寛大な心と共に含みある牽制、トラキア第一大いに結構だね!でも大丈夫さ、レプトールの親父さんとレクスは信用に値するから万が一も無いと言い切れる。あるとしたら・・・アイツぐらいだろうよ、フリージはさ。

 

 

 

 

 

トラバントの承諾に、無表情のレクスは口元を少しだけ緩め、

 

「トラバント王の寛大な処置、主レプトール様に代わりまして感謝致します。現在、情報を纏めております故、明日の一番にお渡ししたいと存じます。・・・トラバント王のお許しを得ましたが故、姫様達をお呼びさせていただきます。王の前での魔法の使用、お許しくださいませ。」

 

レクスはトラバントの頷きを確認してから、

 

「レスキュー。」

 

その一言の後に、レクスの周囲に三つの魔法陣が現れ、光の柱が立ちその中から・・・、三人の女性が現れた。レクスの演出に感銘を受けていた俺だが・・・、彼女達の姿を見た瞬間・・・そんなものは吹き飛んだ。

 

薄い菫色と言うべきか、綺麗な長髪を靡かせるキリリとした美少女。身体の線がよく分かり、太股からスリットが入っている大胆な白いドレス姿。そこに軽鎧を装備し、腰のレイピア?と杖が彼女の武を示す。・・・彼女はティルテュであろうと思う、ビビッときたもの。

 

次に、輝く鳶色の長髪に白すぎる肌の美少女。身体を覆い隠すような魔導士マントを羽織り、濃い菫色で統一された姿に妖しい魅力を感じる。手に持つは自身より大きな杖、滲み出る薄幸なる雰囲気から目が離せない、・・・エスニャだよね?きっと。

 

そして艶やかな白髪を三つ編みに、穏やかな微笑を浮かべる美女。黒を基調としたドレスに、鮮やかな黄色の装飾が映える鎧とマント。その姿を見て思い出す俺の姉代わりの女性、・・・シャールヴィ。

 

彼女達の姿を目にした時、涙が零れた。一時は忘れていた彼女達だけど、思い出した今では愛おしい。トラバントの前ではあるけれど、溢れる涙が止まらない。そんな俺の姿を見たからであろうトラバントが、

 

「・・・挨拶等は後でいい、・・・旧交を温めろエシャル。」

 

それだけ言って王座から立ち、颯爽とこの場から去った。・・・トラバントめ!カッコ良すぎるじゃないかよ!そんな俺は女々しいぜ・・・!だがしかし・・・!

 

「・・・ティルテュ、エスニャ、・・・シャールヴィ。壮健そうで何より・・・、本当に・・・本当に・・・、久しぶり・・・だよな?」

 

俺は震える声でそう言い、情けないことにその場から崩れ落ち、方膝をついてしまう。感動し過ぎて腰砕けってヤツだ、・・・恥ずかしい。それでも彼女達から視線を外さないあたり、流石は俺と言うべきか。

 

そんな俺を見たティルテュとエスニャは・・・、

 

「・・・本当にエシャル兄様、・・・なんですよね?」

 

「・・・兄様、・・・なのよ?」

 

恐る恐る、何かを窺うように見詰めてくる。当然、

 

「勿論、エシャル本人だよ二人共。・・・元気一杯だったティルテュ、・・・甘えん坊だったエスニャ、・・・俺の大切な妹達。」

 

そう言って、かなり踏ん張って立ち上がる。そして、両手を広げて・・・、

 

「さあ・・・、懐かしき二人の温もりを俺に感じさせておくれ・・・!」

 

とか言うと、二人は目から涙が零れ・・・、

 

「「兄様ぁ~っ!!」」

 

と俺に向かって駆け出し、飛び込んできた。俺は二人を抱き、

 

「ティルテュ・・・、エスニャ・・・。」

 

俺の胸の中で泣く二人の温もりに、再び涙する女々しさ。そんな俺達を見て涙するシャールヴィ、無表情ながらも安堵しているであろうレクス。・・・俺は今日、失っていたモノの一部を取り戻した。




トラキアは動乱に介入するようです。トラキアを守るには、武威を示すことが重要ですからね。

因みにレプトールは親バカが入っとります。エシャルに関わるとそうなるんかね?



アンケート集計中

ディアドラ:6
アイラ:6
エスニャ:2
パメラ:2
ティルテュ:1

複数:5

ディアドラは安定で、アイラ未登場ながら凄いっすね。複数OKも多いみたいで。


締め切りは、アイラ登場迄になるかと。


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次章導入話 ~ノルンにて・・・

ナナンブさん、アンケートありがとうございます!




ーエシャルー

 

ティルテュとエスニャ、シャールヴィとレクス。フリージの面々との再会を喜び、トラバントとの面談も済ませた彼女達。レプトールの親父さんの頼みを受け入れたわけで、彼女達は俺の領地であるノルンにて面倒を見ることに決まった。愛しのエシャル兄様の下が良いだろうと、トラバントはニヤつきながら俺に言ってきた。ティルテュとエスニャはトラバントに大袈裟過ぎる礼を、俺はムカついたから奴の脇腹を剣の鞘で一突き。『・・・ぐぉっ!?』とか言って悶えるトラバントを無視し、ティルテュ達とワープでノルンへ。後日、きっちり語ろうぜ、トラバントよ・・・。

 

 

 

 

 

ノルンに着いた俺はすぐに兵を呼び、主要な者達を集めるように伝える。一応城主である為、俺は王座に座る。ティルテュ達には暫く待ってもらう、・・・集まるまで時間が多少掛かるか。ならば・・・、

 

「ようこそ俺の治めるノルンへ、歓迎させてもらうよ。」

 

在り来りではあるが、この挨拶は重要である。これを言って改めて、俺の領地であると実感出来る。

 

「暫くの間・・・いえ、出来ましたら末長くお世話になりますわ、エシャル様・・・。」

 

「お世話になるのだから、何かあったらお手伝いはきっちりするの。」

 

ティルテュは公爵令嬢らしく、エスニャはエスニャらしくそう返してくる。

 

「・・・エシャル様、城持ちの重鎮にご成長されて・・・。シャールヴィは感動のあまり、涙で視界が滲むばかりです。」

 

シャールヴィは、親戚のおばちゃんといった感じで泣いている。レクスは優しい雰囲気で見守るばかり、・・・なんと言いますか、良いね・・・この感じ。

 

そこから今までのことを簡単に話す、お互いに話したいことが沢山あるからね。俺のことを話した時、ティルテュ達は真剣に聞いていた。雑談程度に纏めたモノなんだけどね?空いた時間がありすぎる為に、それを埋める為知る為・・・なのかな?とりあえず一番食い付いてきたのは、ディアドラとパメラさんのことについて。特にディアドラのことを饒舌に語った際、レクス以外の三人の顔が能面のようで恐かったことを伝えておく。・・・感情が抜け落ちていたのです、・・・ディアドラを紹介しても大丈夫だよね?

 

・・・でティルテュ達の話は、衝撃的ではあった。ティルテュは剣術に魔法、戦術とか色々と学んでいたみたいだ。目標はシアルフィ公爵家のシグルド公子、彼をレイピアで傷付けることなんだって。見ない間にティルテュはSになったの?その後に、

 

「・・・でも、すぐ傍にエシャル兄様がいるのなら、シグルド様に拘らなくても大丈夫かな?・・・エシャル兄様って、ヘズルの継承者でもあるんですよね?」

 

とか言って、俺を標的にしようと企んでいるようです!悪いことは言わない、シグルド公子を狙うんだ!

 

エスニャはと言うと、何か少し病んでいる。嬉しそうにブルームを筆頭にして、気にいらない奴らに簡単な呪いを、闇魔法で嫌がらせをしては悦に入っているらしい。本人が言うんだから間違いない、・・・レクスってば何で教えたかな?闇魔法。後嬉しそうに、俺に良く似た人形を見せてきた。エシャル人形といって、ずっと大事にしてきたそうな。・・・変な呪いとかに使っていないよね?

 

シャールヴィはなんでもエリートみたいで、ゲルプリッターの一員のようだ。あのマージでありながら、堅牢な守りを誇るゲルプリッターの一員。なるほど、確かにエリートですな。まぁエリートなのは良いのだが・・・、

 

「エシャル様、他人行儀はお止めくださいませ。昔のようにシャル姉とお呼びください、それと身の回りのお世話を是非とも私めに!今のエシャル様の全てをこの私が把握致しまして、最良のエシャル様を演出致しましょう!エシャル様のメイドとしてこのシャールヴィ、武と知、そして変わらぬ忠誠を貴方様に・・・!」

 

マジな顔でこんなことを言ってくるのです、貴女の忠誠はフリージに、レプトールの親父さんかティルテュ達に捧げなさいな!メイドも間に合っていますから、この城にも館にも使用人がきちんといますからね?ゲルプリッターの肩書きが泣きますぞ?シャールヴィ。

 

因みにレクスはレクスでした、あの時と変わらずです。流石ですね?抜群の安定感。ティルテュにエスニャ、シャールヴィはトラキアにて世話をするのですが、レクスは暫く滞在した後にフリージへと戻るそうです。レプトールの親父さんを一人にはしておけないとのこと、素晴らしい忠誠心ですね?戻る際は俺からもお守りとして渡す物があります、忘れないようにしないとですね。

 

 

 

 

 

ーディアドラー

 

エシャル様はここ最近、トラバント様を筆頭に色々と行動を起こしている。トラキア王国の将軍様、それに近い方々と会議を重ね、軍備を整えているようなのだ。エシャル様の考えでは近々、大陸全体を巻き込む動乱が起きる可能性が高いようなのだ。それに備えてトラキア王国が動いているとのこと、この国を、民達を守る為に必要なことであって、決して無駄にはならないと声高らかにそう言われた。私にも是非手伝ってほしいと、エシャル様に頼られた。とても嬉しい!

 

日々の殆んどをエシャル様と行動し、様々なことをして色々と学ぶ。エシャル様だけではなく、時にはガンドルフ兄様とお裁縫等もした。意外にもガンドルフ兄様は家事が得意、ヴェルダン王国というかマーファ兵の方々みんなが得意。月を跨いでの演習を山や森の中でたまに行うようで、それに参加する方々は家事必須、・・・というか覚えてしまうらしい。出来なければ早々に脱落するだけ、マーファ兵は他所属のヴェルダン兵より精強、その理由の一つはこの演習のお陰らしい。後・・・ガンドルフ兄様曰く、『ディアドラもある程度は出来るようにしないとな!まぁ俺とかデマジオが仕込んでやる。身に付ければ・・・、いつでも嫁にいけるぞ!男ってーのは家庭的な女に惚れやすいからな、勿論エシャルもその一人だぜ?・・・家庭的な一面を持つ良い女になれよ?なぁ・・・ディアドラ!』と言われた。頼りになります、ガンドルフ兄様!

 

後はホリンさんやブリギッドさん、・・・じゃなかったエーヴェルさん達に混ざって剣術の鍛練、守られるだけでは駄目だからね?強くならなくてはいけない、エシャル様だって完全無欠の超人ではないのだから。・・・あの時のようなことが起きないとも限らない、理由は分からないけれど私には打ち破る力がある。それを磨いて、エシャル様を助けられるようにしておかないとね。

 

そしてトラキア王妃のフリーン様にご招待されてのお茶会、私はそこで存分に可愛がられる。フリーン様、・・・妹が欲しかったみたいなのです。可愛がられるだけではなく、トラキア王国の各重鎮の皆様のご息女もおられます。顔合わせや友誼を結ぶことも重要みたいです、フリーン様は色々と教えてくれます。お友達も沢山増えました。

 

ヴェルダン王国の隠れ里にいた時には想像も付かないこと、・・・私は幸せです。・・・ただ心に引っ掛かることが一つ、妹のヘルちゃんのこと。きっとヘルちゃんは、今も籠の中の鳥。私だけ幸せ・・・、そう思うと素直に喜べない自分がいます。・・・いつかはヘルちゃんの手を引き外の世界へ、私の願いです。

 

 

 

 

 

日々をそんな感じで過ごしていた私、近々レイミアさん達がトラキア王国へ来る。はっきり言ってこのエシャル様の領地ノルンは、女性が少なく男性がかなり多い。エシャル様も華やかさが足りないと嘆いている、彼女達が来たのなら一気に華やかになることだろう。元海賊の方々、特にサジさんとマジさんがソワソワしている。エシャル様も上機嫌、・・・私がいるのに。

 

ノルン全体がソワソワしてから数日、トラキア城より急使が来た。聞くところによるとエシャル様に客人とのこと、・・・何だか嫌な予感がする。危険と言いますか、・・・私に対しての好敵手?・・・先日のレクス様からの発言、・・・姫様と呼ばれる方が来たのかな?穏やかな日々に波乱の予感、主に私の心が・・・。

 

 

 

 

 

夕暮れ時、エシャル様の館にてエーヴェルさんと会話を楽しんでいたら、城にいるエシャル様から主だった方々は登城せよとのお達しが。何でも紹介したい方々がいるようで、・・・それを聞いた時の私の顔は笑顔でも強烈な覇気があったと、後日エーヴェルさんに言われた。・・・どういうことかな?

 

そんなわけで、館にいた私にエーヴェルさん、ガンドルフ兄様達は共に城へ。そして、警護兵の方に案内され王座の間へ。そこで目にした光景に、私は胸がチクリと痛んだ。見知らぬ女性と親しそうに、楽しそうに話をするエシャル様が・・・。そこには確かな絆がある、私にはそう感じられる。立ち止まってしまった私の肩には大きな手、ガンドルフ兄様の手だ。兄様を見上げると、

 

「大丈夫だディアドラ、お前にも確かな絆はある。胸を張れ、戦う前から負けてどうするんだ?俺はそんなこと、教えたつもりは無いぞ。・・・ほら、行くぞ。」

 

そう言って、優しく背を押してくれた。・・・ガンドルフ兄様の言う通りだ、私は何を落ち込もうとしているのだろう。私にだって、エシャル様との間に確かな絆がある。これには誰にも負けない想いがある、胸を張らなきゃ。・・・ありがとうガンドルフ兄様、いつも背を押してくれて。

 

 

 

 

 

ーティルテュー

 

もう一生会えないと思っていたエシャル兄様との再会、涙腺が崩壊して兄様の胸の中でエスニャと共に号泣してしまった。・・・とても恥ずかしい、・・・でも嬉しかった。そして落ち着き、再びトラバント王との謁見。トラバント王は改めて私達を歓迎してくださり、私達はエシャル兄様の庇護の下になると決まった。トラバント王には最大限の感謝を・・・。その後はエシャル兄様が、トラバント王に一撃を加えてからのワープ。自国の王に対しての一撃・・・、二人の中はかなりの深さなのだろうと推測出来る。

 

エシャル兄様の領地、ノルンと呼ばれるらしい地へと私達は来た。とりあえず主要な方達を呼ぶとのことで、集まるまでの間は兄様とお話をする。久々の会話に私もエスニャも、シャルも気分が上がりっぱなしだ。顔がニヤけるのは仕方がないこと、兄様はお話が上手でとてもカッコ良いんだもの・・・。そのお話の中で、エシャル兄様の歩んできた道を要約して聞いた。とても苦労したようだし、ロプト教団には怒りが湧く。あの事件も教団が絡んでいると兄様は考え、しかも身内・・・自分に近い者も・・・とのこと。推測の域ではあるらしいが、そのことに恐怖を覚えるし悲しくもある。エシャル兄様も複雑なんだろう、そのお話の時は渋い顔をしていた。・・・アイーダさんのことも聞いて、今は眠り続けているとのことで心配だ。・・・それと何故かは知らないが、アゼルのことを話題に出さない。アルヴィス様は仕方がないにしても、アゼルとは・・・・・・。やっぱりレクスから聞いた記憶喪失?ヴェルトマー公爵家のことは、アイーダさん以外は思い出せないのかな?出来れば、あの事件で亡くなったあの人達のことは早めに思い出してほしい。・・・いずれは思い出すよね?エシャル兄様。

 

・・・ロプト教団のことより気になったのは、凄く嬉しそうに、そして饒舌に語られたディアドラと言う名の娘のこと。曰く、妹と言うか家族と言うか、とにかく大切な存在。自分を見かければ寄ってきて喜び、何かしら注意等をすれば悲しむ、何だか犬みたいな娘。守るだけの存在かと思っていたら、いつの間にか守られている自分がいる、実に頼もしい。最近では家事も覚えてきて、女子力が高い!なんて目に見えて上機嫌。エシャル兄様の嬉しそうな輝くばかりの笑顔に、私も嬉しくはなるけれど顔には無が張り付いている。エスニャもシャルも、レクスばりの無表情だ。・・・エシャル兄様、そんなに引かないでください。私も含めて、単なる嫉妬ですから・・・。私達の知らない兄様の一面を、多く知っているであろうディアドラって娘に対しての嫉妬。当然、それはディアドラって娘も同じことを考えるだろう。私達しか知らない一面があるのだから、嫉妬は当たり前。

 

 

 

 

 

暫くの間、会話を楽しんでいた私達。気付かぬ内に、この場には数人の方々が・・・。目を向けると、強面の男性数人と凛々しい剣士の男性が一人。・・・女性はいないのだろうか?と思っていると、男性の方々と共に二人の女性が入ってきた。一人はとてもカッコ良く、そして綺麗な方。・・・何だか何処かで見たような気がするのは気のせいだろうか?シャルの顔が強張っているし、レクスは微妙に口元が歪んでいる。・・・知っている方?

 

そしてもう一人、私達を見て固まっている。その瞳には戸惑い、・・・そして嫉妬が見え隠れしている。この娘がディアドラ、間違いないだろう。・・・なるほど、可愛らしい美人だ。緩やかに波打つ紫掛かった銀髪の長髪、エスニャみたいな色白の肌。シスターのような清楚なドレスを着てはいるが、そのドレスに隠された武を匂わせるしなやかな身体。・・・そして何よりも感じる謎の覇気、・・・人目見て感じたことはエシャル兄様に相応しい娘、悔しいけどそう思った。

 

 

 

 

 

主要な方々が集まったところでエシャル兄様が、

 

「まずは諸君らに彼女達を紹介したい。右から順にティルテュ、エスニャ、シャールヴィ、レクスヴァだ。彼女達は、グランベル王国のフリージ公爵家の令嬢とその護衛の者でね。あちらでも色々あるようで、レクスヴァ以外の三人はここノルンで面倒を見ることとなった。俺が幼少時に世話になった者達で大切な家族・・・、みたいなものだ。仲良くしてくれたら嬉しい。」

 

エシャル兄様がそう言ってから、私達も各々自己紹介をする。自己紹介をするとざわめきが大きくなる、耳をすましてみれば・・・、

 

「おおお親父、・・・フリージの賊狩りと悪名高・・・じゃなかった、高名なお方じゃないですかい!?」

 

「うーむ、・・・フリージの公爵令嬢か。エシャル殿とは一体・・・。」

 

「ゲルプリッターと言えば、フリージ公爵家が誇る重装魔法騎士団。我らトラキア・・・エシャル将軍麾下の我らも負けられぬ。」

 

「見たところ、ディアドラとは勝るとも劣らないようだな。・・・だがまぁ、家事が出来るディアドラに軍配は上がるだろう。」

 

と聞こえた。・・・私ってフリージの賊狩りと呼ばれていたのね?初めて知った。後・・・最後の強面筋肉男、したり顔で評価するのは止めてもらいたい。わりと高評価っぽいかも・・・と思ったけど、最終的に彼の中では負けているし。・・・そんなざわめきの中で、まっすぐ私達を見る目。ディアドラって娘は、私達から何かを見いだそうとしている。私も負けずに見詰め返す。・・・・・・うん、やっぱり私より・・・私達より彼女の方が・・・。

 

この場のざわめきをエシャル兄様が治めて・・・、

 

「諸君らはもう知ってはいるだろう、近い内に大陸は動乱という道を進む。・・・その為に我らトラキアは準備を進めているわけなのだが、・・・まぁ実際はまだ分からんのだが俺の予想だとな。その未来を確認する為に、俺はイザークへ行こうかと思っている。それと同時に良質の剣を入手しようとも考えている、ノルン軍は俺の影響もあってか剣を使う兵が多いからな。近々合流するであろうレイミア達がノルンへ来た時、イザークへと向かう者を発表する。共に行きたいと思う者は、レイミア達が来る前に一報を。無論、遊びに行くわけではないということを覚えておけ。」

 

真面目な顔でそう言うエシャル兄様、・・・動乱か。ロプト教団が暗躍しているらしいから、その確率は高いのかも知れない。現にグランベル王国内で何かが蠢いていると、お父様もレクスも警戒している。その何かっていうのは、きっとロプト教団なのだと思うけど・・・。まぁそれにしてもイザークか、確か複数の部族が集まった国だった筈。それ故に、事が起きる確率は高いと言えるだろう。・・・そう、教団が潜んでいる可能性がある。エシャル兄様はそれを見極めに行くつもりなのだ、・・・兄様はとても読みが上手いと思う。私の知る中で、イザークのある部族がグランベルに不満を持っていると聞いている。何かが起きるのであれば、その部族であろうと考える。

 

・・・そう考えてみると、私もなかなかのモノではなかろうか?エシャル兄様のお手伝いが出来るのでは?・・・イザークへの調査、立候補してみようかしら?私が色々と考えている間に、私達の歓迎会が始まったと気付いたのは、エスニャに杖で小突かれたことによってだった。・・・痛い、お姉ちゃんとしてはもっと優しく教えてほしかったかな?




ガンドルフは良い兄貴なのです。何かとディアドラは励ましてもらっています。

ティルテュは何となくではあるが、エシャルの伴侶はディアドラが相応しいと思ったようです。・・・が、諦めるつもりはまだ無いですぞ。


エシャルの嫁・最終アンケート

ディアドラ:6
アイラ:7
エスニャ:2
パメラ:3
ティルテュ:1
複数:6


アイラが一歩リード、ですねぇ。


うーむ、複数の場合は二人迄が良いのだろうか?上位二人が嫁さん?

悩むなぁ・・・。





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次章導入話 ~イザークに向けて・・・

JiNさん、感想ありがとうございます!

こたろさん、KN_tyataさん、makomakoさん、リュート=ゴートさん、Rion/いしゅたるさん、ままばるさん、風見滝さん、ポチ@たまさん、アンケートありがとうございます!




ーエシャルー

 

ティルテュ達フリージ組を迎え、更に数日経った。俺は一ヶ月ぶりかそれ以上ぶりにマディノへ、レイミア達を迎えに来たわけで。・・・港街、綺麗になっとりますな。あの時、戦うだけ戦ってハイさようならは心苦しかったんで、港街の清掃に使ってもらえればと少しのお金をレイミアに預けたんだが、ちゃんと使ってくれたようだな。・・・自分でも甘いと思ってはいるんだけどね?こういう心を忘れちゃあいけないと俺は思うんよ。まぁそういうことで、あの時宿泊しました宿へ向かっとります。レイミア達がそこを拠点に活動しているらしいんでね、聞くところによるとヴォルツ傭兵旅団は既にここを発った後らしいよ。アイツらには盛大に見送られたからな、会うことがないってことは朗報だ、・・・恥ずかしいじゃん?

 

・・・で、宿に着いた俺の前には準備万端のレイミア達。荷造りとか完璧じゃん?大体の予定は話していたが、ドンピシャだとは思わんかった。これも傭兵としての勘か?・・・いや、違うか。まぁ何はともあれ、準備されているのなら好都合やね?・・・と、クーちゃんが俺に気付いたようだ。

 

「あ、エシャル様が来ましたよレイミアさん!・・・おーい、エシャルさぁ~ん!」

 

うーん、・・・クーちゃんは元気が良いね!それはとても良いことだ、横でだらけているレイミアは見習えっての。

 

「や~クーちゃんは元気だね、・・・でレイミアは疲れているようだ。・・・意外にもお歳を召しているんか?」

 

とからかいを含めて言ってみたが、

 

「・・・これはこれはエシャル様、ご機嫌如何?私は最悪ですよ、・・・ヴォルツの夢見馬鹿行動のお陰でね。まぁアイツらはもうここを離れたからもういいんですがね、・・・疲れが取れないんですよ。・・・ベオの苦労が分かるってもんさね、昔より酷くなってないかね?・・・ヴォルツの病気。」

 

・・・歳で弄ろうかと思ったんだが見事にスルー、逆にヴォルツへの不満?を聞かされた。・・・ヴォルツねぇ、今度は海故に人魚がどうのとか言ってそうだな、・・・アイツ。胃痛で顔を歪めるベオウルフが目に浮かぶ、後・・・レイミアさんや?・・・お疲れさん。

 

レイミア達と合流した俺は、港街の代表者達に挨拶をしてからマディノを去った。去る時にはマディノの住人達に見送られながらのワープ、う~ん・・・トラキアの名も広がっているな。現にこのマディノを救ったのは傭兵達とトラキア兵なわけで、後からマディノ兵。マディノでは傭兵の有用さが今回の件で分かったと思うし、ハイエナと呼ばれるトラキアも守るべきモノに対しての真摯な態度も知ってもらえたと思う。後出しではあるが、マディノ兵も追撃・殲滅戦を頑張った。まぁ何を言いたいのかと言うと、レイミア達は頑張ったってこと。その結果が住民の見送りに出ていたのだよ、勿論トラキアの株も急上昇。・・・気分良くトラキアへ帰れますな、わははははは!

 

ーーーーーーーーーーーー

 

レイミア達をノルンに連れ帰り、大体一週間ぐらいかな?彼女達にはリフレッシュしてもらったよ。トラキアが誇る温泉の力は偉大である、色々と疲れ果てていたレイミアは復活し、ホリン達と手合わせをしたり、ディアドラやエーヴェルにイザーク剣術の初歩を教えてくれました。その合間にトラバントへ謁見し、正式にトラキア所属の傭兵隊となりました。トラキア正規兵と同じような立場となったのです、俺的に縛る気はなかったんですよ?でもレイミアを筆頭に傭兵のお姉様方が温泉にハマりまして、是非トラキア所属をお願いします!ってトラバントに頭を下げまくったのです。トラバント的にもレイミアの力量は認めていまして、

 

「大陸を渡り歩く傭兵も、温泉の魔力には抗えぬか・・・。良かろう、お前達をトラキアへ正式に迎え入れる。トラキアは今・・・人手不足でな、精々励んでくれ。それ相応の褒美をくれてやる故にな、・・・期待している。・・・というわけだエシャル、トラキア一人手不足のノルンで面倒を見ろ。まとめ上げてからのイザークへの調査、・・・任せたぞ。国内は私を筆頭にハンニバルとマゴーネ、パピヨンらで整えておく。戦力増強は大歓迎、・・・お前の裁量でな?」

 

と言われました。まぁ当初の予定通りノルンにて彼女達を迎え入れ、イザークの調査を正式に拝命しましたとも。ご丁寧に事が起きたのなら、亡命も大丈夫ともね。・・・イザークに知り合いはいないが、俺の判断で有力者を連れ帰るも認めるか・・・。なんつーか、トラバントに認められているのは嬉しいが、何かをやらかすとも思われているのは心外だ、・・・否定出来ないのが更に悔しいです!

 

レイミア達が復活したんで、イザークへ行こうかと思います。人選としては、レイミア、クー、ホリン、傭兵の中で腕の立つ者数人は外せない。後は経験の為にディアドラ、カナッツ、エーヴェルってところかな?イザークは剣士の国だからね、腕を上げてほしい者は共に行かねばならない。必然的にカナッツ隊数人もだな、人選はカナッツ君に任せてある。立候補者はというと、ティルテュだけでした。エスニャも来るかと思ったんだけどね?エスニャ曰く、

 

『剣が使えないエスニャが行っても意味はないのよ、だったら残って魔法部隊を結成するのよ?適材適所なの、エスニャとシャルにお任せなのよ!』

 

とか言ってやる気出してましたもん。そこそこの人数がノルンにいますけど、本格的に鍛えてはいませんでしたからね。魔導士達は二人に任せるのが良いかもしれんね、その道のプロみたいなもんですから。・・・まぁ若干の不安もありますがね、・・・二人共ネジが何本か抜けてますし。兄貴とバーツ達は、開拓兼ノルンの守備は任せろとのこと。・・・どんだけ好きなんですかね?土木作業、・・・根っからの森の民ってか?ヴェルダン人は。

 

兄貴達は開拓もするからきちんとした指揮を取れない、・・・ということは此方から俺の名代をノルンに置かねばならないね。そういうわけで彼を置きます!

 

「エシャル将軍のご指名、この身・・・うち震えんばかりの名誉ある役目にこのディスラー、粉骨砕身の覚悟でこのノルンを守り切ると誓いましょう!ガンドルフ殿やバーツ殿達もご助力していただけるとのことですので、万が一北トラキア四小王国が攻め入ってきた際、粉砕し・・・逆に攻め滅ぼしてくれましょう!ご安心くださいエシャル将軍、ノルンは健在、逆に領地が増えてしまうかもしれませんな!だははははは!!」

 

「やる気十分で大いに結構だなディスラー君、・・・が守備だけに徹すれば良いからな?攻め滅ぼすのは無しだ。今はノルンの富国強兵が優先、万全の中で逆撃することが重要だ。窮鼠猫を噛むと言うだろう?追い込みすぎて此方に被害が出たら意味がない、守備に徹せよ厳命するぞディスラー君!」

 

「・・・このディスラー、浅はかでした!トラバント様より厳命されていたことを忘れ、目先の名誉を狙おうと考えてしまい申し訳ございません!来る動乱の為に被害は最小限に、このノルンを守り切ると改めて誓わせていただきます!ではそういうことですのでエシャル将軍、このディスラー・・・ノルン守備の為に今すぐ行動に移させていただきます故、これにて失礼致します!・・・うぉぉぉぉぉっ!!蟻の子一匹、ノルンには侵入させんぞぉぉぉぉぉっ!!」

 

「・・・・・・人選を誤ったか?・・・大丈夫だよね?信じているよディスラー君。」

 

彼・・・カナッツ君の同期であるディスラー君、実力はあるのだが脳筋的思考を持つ男です。まぁ命令に忠実だから大丈夫だろうとは思う、・・・兄貴とエスニャ、シャルがいるから何とかなるだろう、・・・そう信じたいです。・・・というか、攻められることはないと思うんだけど。

 

 

 

 

 

とにかく人選は決まり、後はノルンを発つだけになったのだが、

 

「・・・エシャル様、ノルンに住まう方々は良い方が多いようで、姫様方も馴染めたご様子。故に私は、安心してフリージへと戻ることが出来ます。」

 

と、レクスがそう言ってきた。・・・そういえば、後々戻ると言っていたね。レプトールの親父さんが心配と言ってたし、ティルテュ達も大丈夫と判断したんだろう。まぁ俺がいる限り、大丈夫とは言い切れないのが苦しいが出来る限りは守ってみせる。ティルテュは俺達と共にイザークへ行くし、エスニャはノルンにいれば俺の精鋭が守ってくれるしシャルもいる。トラキア国内で事を起こせる者はいないだろう、トラバントの目が光っているしな。たぶんというか確実に、トラキアは大陸一安全な国と言えるだろう。故にレクスはフリージへと戻る、親父さんを守る為に。

 

俺を、俺達を信頼して戻るんだ、俺は・・・、

 

「我らトラキアはトラバントが受け入れたが故、それにこの俺にとっても大切な者達であるが故に、ティルテュ達のことは任せてくれレクス。動乱が起きてしまっても、出来る限りは守ると誓おう。・・・が、絶対にと言えぬ俺の不甲斐なさを許してくれ。」

 

今の時点でトラキアは安全ではあるが、動乱が起きてはそうとも限らない。守り切ると断言出来んのが現状だ、・・・それを正直に言わねばならない。正直に言いはするがそう簡単にはやらせんよ、それが俺の決意であり意地だからだ。そんな俺に対し、レクスは口元を緩め・・・、

 

「それにつきましてはレプトール様も私も、姫様方も承知しております。戦になれば絶対などあり得ませんからね、・・・教団が蠢いているのならば尚更。エシャル様が正直に仰ってくださった、それだけで安心致します。・・・私からも言わせていただきます、レプトール様は私の全てを懸けてでも守り通す所存ではあります。・・・ですが私の力が及ばなかった時は何卒、ご容赦いただきたく存じます。」

 

それは当然のこと、俺が身をもって体験しているからな。一筋縄ではいかぬよ、・・・奴等は。ロプト教団の者に遭遇したらどうなるかは分からない、間接的で俺はあんなことになったんだからな。直接相対したらどうなるかは俺には分からないさ、分からないがそう簡単にはやらせない、・・・今はそれだけで十分だろう。お互いにとって大切な者達、自身の全てを使ってやるだけやってみよう、・・・なあレクス。

 

互いのやるべきことを言葉と視線で再確認、互いに安心したところでレクスが・・・、

 

「別れる前にお渡ししたい物がございます、・・・どうぞこの仮面をお納めくださいませ。」

 

と渡されたのは顔の上半分を隠す為の仮面、・・・そういえばエルト兄様が言っていたな、顔を見れば一発だと。それを防ぐ為に準備せねばと思っていたが、まさかレクスが用意していてくれたとは。流石としか言いようがない、ありがたく使わせてもらうよレクス。・・・というわけで早速装着、仮面を付けたという違和感はない。良い仕事をしている、ナイス仮面だね!

 

「・・・良い仮面じゃないかレクス、付け心地は悪くない。これから愛用させてもらうよ、ありがとう。」

 

自然と変なポーズを取ってしまう、綺羅星的な?・・・これは前世の知識なんか?よく分からん。

 

「・・・妙な姿勢は気になりますが良くお似合いかと存じます、・・・安心致しました。」

 

・・・あ、駄目?このポーズ。

 

仮面をもらった俺はお返しみたいな感じで、用意しておいた物をレクスに渡す。渡された物を見たレクスは驚く、当然のことだろうね?普通ならば入手し難い物なのだから。

 

「見ての通りこれはライブの腕輪だ、・・・まぁかなり高価な物ではあるね。入手するのに苦労は・・・あまりしてないな、うん。まぁとにかくこれを親父さんに渡してくれ、俺からだと。・・・渋っても無理に渡してくれよ?万が一のお守りとして、・・・俺からの親孝行としてさ。親を知らずにいた俺にとって、親父さんは俺の親父さんなんだから、・・・頼むよレクス。因みに二つある理由は、レクスの分もってことだからな?今度此方に来た時付けていなかったら、・・・泣くぞ?」

 

因みにライブの腕輪は後三つあります、・・・何処で入手したかって?そりゃあお前あれだよ、俺の強運が仕事をしてくれたんよ。・・・発掘ん時に出てきました、後は道具屋の掘り出し物でね。そんなわけで、レプトールの親父さんとレクスには是非とも装備してもらいたい。所謂保健です、コイツがあればそう簡単には・・・ってね。二人が強いのは分かるけど、それで死なないってことにはならんのですから。・・・死なないでほしい、そんな想いを込めての贈り物なわけです。

 

「・・・親孝行の贈り物、それならばレプトール様も渋ることはせずにお受け取りになるでしょう。そして私にも同じようにくださるとは・・・、エシャル様のご厚意・・・痛み入ります。」

 

レクスは一礼してから腕輪を懐にしまう、それはもう宝物を扱うかのように・・・。何とも嬉しいね、そう大事に扱ってもらうとさ。

 

そんなやり取りを終えて、俺とレクスは・・・、

 

「ティルテュ達には何も言わないで行くのか?」

 

「・・・昨日の内に戻ると伝えてあります、故に心配無用でございます。」

 

言うまでもなかったか、・・・レクスらしいっちゃあレクスらしい。でも何かこう・・・別れは皆で見送るってーの?俺の場合はいつもそれだったからね、不完全燃焼ってのかな?まぁこれもまたレクスらしいですね、裏方の人間らしいわ。

 

「ならいいか、・・・まぁあれだ。・・・親父さんを出来る限りよろしくな?レクスも無理はし過ぎるなよ?」

 

「無論でございます、私にも成すべきことがあります故。・・・ですが、レプトール様が危機に陥った場合は約束しかねてしまいます。私にとってもレプトール様は父と同義、いや・・・それ以上ですので。・・・その点はエシャル様も、ご了承してくださいませ。」

 

・・・そうか、レクスにとっても親父さんはそういう存在か。・・・ならば何も言うまい、いつも通りの俺で見送ることこそが俺のやるべきことだな。

 

「ではなレクス、・・・また会おう!」

 

「はいエシャル様、姫様方を改めてお願い致します。では、いずれまた会う時まで・・・。」

 

俺は軽く片手を挙げて、レクスは一礼をしてこの場から消えた。・・・さて、俺の方も行きますかね?俺の脳裏に浮かぶ前世の知識、人々の運命が紡がれる悲劇の動乱が始まる場所。・・・始まりの地イザークへ、俺は見極めに行くぞ!

 

 

 

 

 

レクスと別れた次の日の朝、イザーク組と居残り組が王座の間へ集まった。

 

「ではイザークへ行くとしようか、今回は俺とディアドラはペガサスを置いていく。空を飛んで目立ったらあれだからな、ワープ後の案内はレイミア達に任せる。ティルテュは俺よりも情報を持っている、俺の補助は任せたぞ。」

 

俺の言葉にイザーク組は頷く、続けて・・・、

 

「居残り組はないとは思うが、他国を警戒すること。そして・・・俺達が帰国した後、軍を動かすかもしれん。一応、いつでも動けるようにな。・・・ノルンのことは任せたぞ、ディスラー君!兄貴達も彼を助けてやってくれよ!」

 

ディスラー君を筆頭に、各々了解してくれる。・・・よし!やるべき指示は、何かあればトラバントがしてくれるだろう。・・・では改めて行くか、みなの準備はよし!・・・・・・ワープ!




エシャル、仮面を付けました。


【挿絵表示】


レプトールの死亡フラグを回避、レクスの成すべきこととは?イザークでは何が待っているのか?

この世に絶対などはあり得ない、それを忘れちゃあいけないよ?進めば進むほど、モヤモヤしていく作者です。迷いまくりさ‼


エシャルの嫁・最終アンケート

ディアドラ:13

アイラ:13

パメラ:9

エスニャ:7

ティルテュ:6

複数:12


ディアドラとアイラが並びました!

後、複数が多いですね!

複数、・・・何人までが良いのか、本当に悩みます。やはり二人までか?それとも三人?まさかの五人?

複数とアンケートで答えてくれた方、複数でも良いと思う方、何人までなら良いかもアンケートに書いてくれたら嬉しいです。作者は悩みまくりですので、手を差し伸べてください!

因みに、アンケートで複数とだけ答えてくれた方の票は、全員に入っています。

複数有りからのヒロイン名を挙げた方も、複数としてカウントしますんで全員に票が入ります。

ヒロインを複数挙げての票は、挙げられたヒロインにだけ票が入ります。それも複数なんだから全員でしょ、と思うかもですがそこは作者判断でそうしましたんで、申し訳ないッス。


今んとこ、複数有りで考えるとディアドラとアイラが嫁になりますわな。同率一位ですしね。


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閑話 ~グランベル王国《各公爵家・その1》

つんさん、ID:IiNNOOAAさん、感想ありがとうございます‼

半人前さん、安亀さん、A-ガーランドさん、アンケートありがとうございます‼


《ヴェルトマー公爵家》

ーアルヴィスー

 

アイーダに暇を出し、出仕することを控えさせてからどれくらいの時が経ったか。あの日からアイーダの姿は見ていない、聞くところによると一人でフラリと旅立ったとか。・・・何処で何をしているのか、今となってはどうでもいいこと。ただ思うのは、口喧しい女がこのヴェルトマーにいないということ。・・・・・・以前はこのようなことを思わなかったのにな、あの日から色々ありすぎた。エシャルが死に、アゼルとは疎遠となり、アイーダが去った。私の下には昔馴染みはもういない、・・・呪われた血を持つ私に相応しい末路だ。

 

今の私は、友人知人とも会うことはない。会うことすらないどころか、私が目指す未来の為に利用しようとしている。私自身と私に忠誠を誓う者以外は全て駒、未来の為の礎となってもらう。ただ時を重ねるだけの存在よりも、その為にその命を使った方が生きた証となろう。・・・私の目指す未来への道筋は、既に出来ている。アズムール陛下とクルト王子が私を近衛総指揮に命じてくれたお陰で、各公爵家との顔繋ぎも労せず行えたが故。

 

そのお陰で色々と考え、私にとって敵か味方か、各公爵家の当主を密かに調べることが出来た。シアルフィ公爵家のバイロン卿、ユングヴィ公爵家のリング卿、そして・・・少なからず恩のあるフリージ公爵家のレプトール卿。この三人は障害となる、故にバイロン卿とリング卿は近々起きるイザークの反乱時に、クルト王子と共に・・・。それが叶わぬのなら、・・・やりようはいくらでもある。しかしレプトール卿の方は手強い、きっと今回起きるイザークの反乱に自身は参加しないだろう。まぁ彼はバイロン卿とリング卿、クルト王子の件がどういう結末になるかで対応が変わる。事が起きてから動かねば、計画が潰されかねない。・・・彼は身内に甘い、甘いが故にそこを突けば・・・と考え首を振る。既に二人の娘をいずこかへ隠したと聞く、・・・藪をつついて蛇が出るとなるやもしれん。やはり、まずはイザークでの・・・・・・。

 

ドズル公爵家のランゴバルト卿は実に扱いやすい、バイロン卿とリング卿を引き合いに出し、その上で彼を持ち上げれば機嫌が良くなる。そしてかなりの野心家であり、ある程度の関係を築いた後に計画を話せば心良く承諾。バイロン卿とリング卿を陥れる、或いは暗殺するということに、かなりの食い付きぶりを見せた。・・・まぁ私から見ても、あのお二人はクルト王子のお気に入りであり重用されている。そこが気に入らないランゴバルト卿にとって、主にあのお二人が失脚・死亡となれば痛快なのでだろう。そして弱腰のアズムール陛下とクルト王子にも思う所があるようだ、・・・彼には事が成就したのなら件のイザークを与えれば良いだろう。

 

エッダ公爵家のクロード卿には今のところ脅威はない、・・・が目障りであるのは確実だ。民に慈愛と謳ってはいるが、私の身に流れる血を知ったらどうだろうか?・・・見て見ぬフリをするであろうな。現に私と同じ境遇の者は救われるどころか、迫害に遭いその命を散らしている。・・・エシャルも死ぬことはなかっただろう、・・・絶対に。

 

 

 

 

 

目を閉じれば浮かぶあの光景、炎に包まれる館から聞こえる怨嗟の声、・・・エシャルの嘆き。私とエシャルに流れる呪いの血が、私達を切り裂いた。私はエシャルの嘆きに応えなければならない、私はエシャルの望みを叶えてやらねばならない。・・・目指すは差別無き世界、呪われた血が流れていたとしても、顔を上げて生きていける世界を!今の治世にて犠牲がいくら出ても構いやしない、呪いの血を嫌い迫害するような者達など、・・・エシャルの命を奪った者達など!

 

・・・フフフ、・・・フハハハハハ!そうだとも、私は正しいことをしているのだ!今の世が間違っているのだよ、我らが真祖であり神である暗黒竜ロプトウス、・・・その復活の為に私は!・・・待っていろエシャル、ロプトウスが復活した暁にはお前の魂を呼び戻し、器となる肉体にそれを宿して甦らせてやるからな?・・・フハハハハハ!今は、今はクルト達を亡き者とする為にイザークを・・・!!

 

 

 

 

 

《シアルフィ公爵家》

ーシグルドー

 

・・・平穏だ、・・・今の我が家はそれ以外の言葉が当てはまらない。改めて実感するな、我が妹エスリンが騒ぎの元凶であったと。親友であるレンスター王家のキュアンの下に嫁いで2年くらいになるだろうか?昔のお転婆がなりを潜め、今では才色賢母・・・らしい。嘘臭いったらありゃしない、此方へ戻った時なんか昔のままだったぞ?・・・キュアンの奴、私達に気を遣って嘘を吐かなくともいいのにな?彼の気遣いに涙が零れる。・・・挙式してから数ヶ月で長女アルテナの誕生、結婚前に子を宿していたなんてな?父上なんか白目を剥いて気絶したんだぞ、・・・私も卒倒しかけた。・・・きっと、エスリンからキュアンに襲い掛かったに違いない、・・・まず間違いないだろう。キュアンよすまない、そしてありがとう。どうかそのままエスリンの手綱を握り続けてくれ、じゃじゃ馬を取り扱える男はお前しかいないのだから・・・。

 

 

 

 

 

・・・そういえば、それほど平穏ではなかったな?フリージ公爵家のティルテュ嬢がよく挑んできたな、剣の鍛練ですっ!とか言って。鬼気迫る勢いで襲い掛かるティルテュ嬢、私も大人気なく粉砕していたな・・・。それが続いてキレたティルテュ嬢の雷に、私は為す術もなく焦げた。・・・あの時は魔法有りだったの!?と、心から思ったものだ。

 

・・・今となっては良い思い出だな、・・・エシャルのことも思い出す。エシャルもよく挑んできたっけな、・・・エルトシャンに唆されて。・・・思えばティルテュ嬢、エシャルを模範にしていたのかもしれないな。何処と無く纏う気配が彼に似ていたし、・・・健気ではある。人の想いにケチを付ける気はないのだが、彼女には前を向いてもらいたいものである。

 

まぁそれももうない、ティルテュ嬢は姿を眩ましたからな、・・・妹君のエスニャ嬢と共に。聞く話によるとレプトール卿が、くだらぬ男に引っ掛からぬように隠したと言われている。・・・親馬鹿ここに極めたり、家のエスリンと違って彼女達なら引く手数多だろう。

 

・・・・・・むむ?よくよく考えてみると、ティルテュ嬢とよく絡んでいたのは私だな?・・・・・・ということは、レプトール卿の言うくだらぬ男とは私?

 

・・・・・・・・・いくら女性の一人とも噂がされないからといって、それは酷すぎると思うのですが?

 

我がシアルフィは平穏ではあるが、私シグルドの心は平穏ではなくなったということを記しておこう。・・・ぐすん、嫁が欲しい。

 

 

 

 

 

《ユングヴィ公爵家》

ーエーディンー

 

「・・・では、姉上。・・・俺はヴェルトマー公爵家のアルヴィス卿の下へ行ってきます。」

 

「そうですか、・・・アンドレイ。アルヴィス卿に失礼のないようにするのですよ?・・・気を付けて行ってらっしゃい。」

 

いつものやり取りで、私は弟のアンドレイを見送る。・・・アンドレイはここ最近、昔以上にヴェルトマー公爵家のアルヴィス卿と懇意にしている。・・・親友であるエシャル君が亡くなってから、塞ぎ込んでいたアンドレイ、それを考えるとかなりの進歩で安心出来る。色々な想いが駆け巡り私室の部屋の窓から、ヴェルトマー公爵領に向けて馬を走らせるアンドレイを見守る。・・・とても喜ばしいことなのだけれど、それと同時に不安が私を締め付ける。・・・アンドレイ、・・・目を閉じればエシャル君が亡くなった時から今までのことが、・・・朧気に思い出される。

 

 

 

 

 

急使によってもたらされた訃報に、弟のアンドレイは取り乱して倒れた。・・・無理もない、自分を唯一認めてくれた親友であるエシャル君が、賊徒の襲撃により亡くなった・・・という耳を疑うようなことが知らされたのだから。

 

アンドレイを通して私も、エシャル君とはよく話したものだ。常に前向きで、心から人の身を案じ、邪気の無い笑顔で皆を和ませる、・・・人たらしとでも言おうかしら?万人に好かれる天使のような子、それが私の印象かしらね。

 

そんなエシャル君は、弟のアンドレイの心を癒してくれていたのだ。ユングヴィ公爵家の長男でありながら、継承者としての力を受け継げなかったアンドレイ。幼き頃に行方不明となった姉、ブリギッドは継承者の力を受け継いでいた。父や家の者達は無意識の内に、姉の行方不明を嘆き、アンドレイの無才能に嘆き、知らず知らずの内にアンドレイを追い込んでいった。自身を出来損ないと呼び、全てに諦めていたアンドレイに手を差し伸べたのがエシャル君。

 

彼は魔法戦士ファラと黒騎士ヘズルの血を色濃く受け継ぎ、継承者の力を二つも宿していた。故にその力は余計な争いを生むとし、表舞台に立つことを自ら拒否する子であった。しかしその性格故、人々に愛され、彼の住む館は人で溢れており、自身の想いとは裏腹に表舞台へ立つことを望まれていた。それ故に疎まれ、常に命を狙われるということもあった。それでも彼は人と関わることを止めず、いつも笑っていたのだ。そんな彼を最初は疎ましく、そして恨んでいたアンドレイだが・・・、変わらず接してくる彼に根負けし心を許したことで、本来の明るさを取り戻したのだ。アンドレイにとって、エシャル君は心の支えだったのだ。

 

そんな彼が亡くなった、・・・自身の館にて炎にその身を焼かれて。彼の身を案じて匿っていたフリージ公爵家より、一時的に戻った所を襲撃され・・・、館に住まう使用人達と共に亡くなったのだ。・・・その訃報を聞いたアンドレイは倒れ、目を覚ました時・・・その目には生気が無く、自身の部屋へと閉じ籠もることが多くなった。虚空に目を向け、誰もいないのにブツブツと呟き、突如取り乱しては暴れる、そんな日々が続いた。

 

そんなアンドレイを気味悪がり、徐々に家の者達は彼を、その部屋を避けるようになった。勿論私は毎日のように、アンドレイの下へと赴き気には掛けていた。・・・悲しいことに、私の言葉には反応を示してくれなかったが。

 

・・・そして幾日か、アンドレイの下へアルヴィス卿からの使者が来た。見たこともない黒ずくめの使者に違和感を感じたが、アンドレイが心配で藁にもすがる想いで使者に託してみると、その使者は扉越しに話し掛けてアッサリと部屋へと入っていった。隠れて見ていた私は驚いた、こうも簡単にアンドレイの気を引くことが出来るのかと。それと同時に安堵した、きっとこれでアンドレイも立ち直れる。ただ単純にそう思ってしまった、何故・・・アルヴィス卿の使者が急に来たのか?そのことを考えることもなく。

 

・・・そして、アンドレイは立ち直った。以前にも増して覇気をみなぎらせ、その目はランランと輝いている。立ち直ったアンドレイは、頻繁にヴェルトマー公爵領へと赴く。何をしに行くのかは分からないが、アンドレイが元気になってくれたことが嬉しい。嬉しいのだが、徐々に父上と衝突することが多くなってきた。私はそのことに心を痛めつつも、自己主張をする程にまで立ち直り、先を見据えるようになったアンドレイを頼もしく思う。・・・唐突に性格が真逆になったことに一抹の不安を感じつつも、・・・ユングヴィ公爵家は安泰、その考えに私は身を委ねたのだ。

 

 

 

 

 

・・・遠ざかるアンドレイ、・・・気付かないフリをした私、・・・取り返しのつかないことが起きる予感。・・・ここまで心を不安にさせるこの言い表せない悪寒は何?

 

・・・私にはただ見守り、祈ることしか出来ない力無き女。・・・それしか出来ない情けない姉なのだ、・・・私には何もない、・・・何もないのだ。




アルヴィスはもう手遅れ、イザークでの暗殺を計画しており、後は反乱を待つだけです。

記憶は改竄されており、エシャルも自分と同じロプトの血を受け継いでいると思っている。

今あるのは、アズムールの治世を壊すこと。




シグルドのところは平和であるが、魔の手はすぐそこに。

キュアンはエスリンに食われたと思っている。

レプトールにくだらぬ男と思われていることにショックを受けている。勘違いなんですがねw

早く嫁が欲しいらしい。



エーディンは自身が無能という自覚がある、それ故に思い悩みアンドレイを気に掛けるも、何も出来ない自分に嘆く。

そして日に日に不安を感じるも、楽な方に逃げてしまう。


・・・ってな具合ですな。


因みに、

ティルテュ

【挿絵表示】


エスニャ

【挿絵表示】



エシャルの嫁・最終アンケート

ディアドラ:16

アイラ:16

パメラ:12

エスニャ:10

ティルテュ:9

複数:15


複数多し!


一応、エシャルと結ばれなくとも幸せにはなりますよ?
少なくともトラキア勢と結ばれれば。

現在、脱落する予定の者はいませんし。


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閑話 ~グランベル王国《各公爵家・その2》

つんさん、感想ありがとうございます!

じょりんごゴン太さん、アンケートありがとうございます!


《ドズル公爵家》

ーダナンー

 

最近、父であるランゴバルトが精力的に動いている。アルヴィスの奴が近衛総指揮になった、それを伝えてからはやけに元気で迷惑だ。・・・まぁ内政?じゃないか、悪巧み?・・・だな、たぶんそれを思案しているのだろうよ。どんな悪巧みをしているのか、気になるっちゃあ気になるが、俺とレックスを巻き込むのだけは勘弁してほしい。・・・一応保身の為に、出来る限りの情報を集めてみるか。・・・ブラギ神様お願い!・・・どうかヤバいことではありませんように!!

 

 

 

 

 

現実は非情である、そう思わずにはいられない。クソ親父が、暗殺を計画していることが分かっちまった。その相手がシアルフィ公爵家のバイロン卿、ユングヴィ公爵家のリング卿、そして・・・バーハラ王家のクルト王子だ。前者の二人は分かる、親父は何かと重用されている二人が気に入らない。・・・だが、暗殺を狙うのはやり過ぎではなかろうか?せめて失脚に留めてほしいと思う。

 

・・・そして恐ろしいことに、クルト王子まで狙っているとのこと。・・・それは最早、王家転覆・・・王国崩壊を目的としているとしか読み取れない。親父が野心家だというのは知っている、知ってはいるが・・・これはまずいと思うんだよな。失敗でもしたら、ドズル公爵家は一族郎党処刑まっしぐら。弁解の余地はない、何せ・・・王子を暗殺しようとしたのだから。仮に成功したとしても、反逆者として討伐対象になるだろう。武闘派の俺達ドズルも、圧倒的物量の波に飲み込まれ滅亡。成功しようが失敗しようが、ドズルは破滅の道を辿るのみ。・・・・・・馬鹿なんじゃねぇの?クソ親父!!

 

 

 

 

 

・・・・・・どうすればいいのか分からねぇよ、俺如きが対処出来る問題じゃねぇ。暗殺っつっても、何処でどのようにやるのかも分からねぇ。むしろ止めることが出来ねぇわな、・・・マジでどうしよう。

 

誰かに相談もとい巻き込める人物は・・・、このドズルにはいない。他公爵家と言っても家の馬鹿親父に倣ってか、家の者達も毛嫌いしている。そもそも、シアルフィ公爵家とユングヴィ公爵家に相談出来るわけがない。親父が一番嫌いな家であって、・・・暗殺対象だからな。ヴェルトマー公爵家は、エシャルの坊主が死んでからキナ臭いから却下。フリージ公爵家はレプトール卿が親父とは違う意味でヤバい、それにブルームのクソ野郎がいる。・・・ついでにその妻である王国最凶の阿婆擦れ、ヒルダがいやがるからな。この俺がブチキレるぜ、相談どころじゃねぇわ。・・・エッダ公爵家は俺には合わん、無理!

 

・・・・・・駄目だこりゃ、・・・終わったなドズル。親父の代で取り潰しの滅亡だわ、・・・こんな事実なんざ知りたくなかったぜ!

 

 

 

 

 

・・・しっかぁ~しっ!この俺ダナンは生きることに意地汚いと自負している、万が一に備えて脱出路を確保してやんぜ!滅亡してこの先に死が待っていようとも、抗いまくってから死んでやる!・・・というか生きたいんで、ブラギ神様見捨てないで!!

 

・・・レックスは意外にアホだからな、このことを言っちまったらポロッと漏らしそうだ。だが生意気とはいえ可愛い弟、気を掛けとかなくてはいかんな。俺はともかく、レックスには自由に生きてもらいたいからな!

 

とにかく、世界情勢を把握しなければならん。何処が安全で何処がヤバいか、無い頭を振り絞らなくちゃならねぇわな、・・・えーと。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・。

 

無理に頭を使った為に、体調を崩した俺は寝込んだ。そんな俺を、レックスは爆笑しながら馬鹿にしてきやがった。・・・復活したら覚えておけよ?・・・レックス!!

 

 

 

 

 

《フリージ公爵家》

ーブルームー

 

事は今のところ、順調に進んではいる。アルヴィスを筆頭に、ランゴバルト卿にアンドレイも加担。勿論我がフリージも・・・と言いたいのだが、父上がいる限りは表立って動くことが出来ない。真正面からぶつかることが出来ない程の化物だからだ、老いたとはいえ王国最強の魔法騎士だからだ。もし俺もこの計画に加担していると父上に知られたら、情け容赦なく雷で消炭にされるだろう。たとえそれが、継承者の力を継ぐ跡取りだとしてもな。

 

だがそれでも、俺はこの計画から抜けることは出来ない。父上は継承者である私を蔑ろにし、エシャルを可愛がったことに対しての反発故に、今回の計画にも乗った。エシャル暗殺にも関わり、今回の計画にも名を連ねる俺は進むしかないのだ。ロプト教団が背後にいる中での裏切りなど出来ない、裏切れば当然殺される。それも苦しみに苦しみぬいて死ぬのだ、・・・考えただけでも恐ろしい。今更後悔をしても後の祭り、恨むは浅はかな過去の自分と割り切るしかない。

 

今回の計画が実行された際、俺はその時・・・父上を無力化した後に幽閉、或いは暗殺・・・どちらかを絶対に成功させなければならない。そしてこの俺がフリージの当主となり、アルヴィス達と共に王家転覆の為に行動をする。それが俺の役割りであり、フリージが新たな国の重鎮になれるか否かの試金石となる。

 

 

 

 

 

・・・俺のすべきことを指示してきたのは妻であるヒルダ、ヴェルトマー公爵家に連なる才女であり、私が最も恐れる存在。ヴェルトマー公爵家に籍を置きながら、ロプト教団の幹部に名を連ねる。・・・エシャルの暗殺とアイーダへの暗示、アルヴィスを狂わせた者達の一人。ヒルダは欲深い、その欲の為に何もかもを利用する悪女。俺も・・・、俺も彼女に狂わされた者の一人なのかもしれない。

 

・・・・・・父上、弱き心を持った俺をお許しください。もし・・・、もし俺が父上に襲い掛かった際、少しでも俺に意志があったのなら・・・、必ずスキを作ります。・・・どうかそのスキを見逃すことなく、その身一つでお逃げください。・・・それが俺の出来る最初で最後の親孝行、・・・そして不出来な息子をお忘れください。

 

・・・エシャル、俺はお前が嫌いだった。俺には無いモノを持っていたお前は、俺には眩しく妬ましかった。そんな幼稚な想いで、俺は暗殺に加担してしまった。・・・だがどうしてかな?お前がその件で死んではおらず、何処かで生きているような気がする、これは俺の願望なのかもしれんがな・・・。もしお前が生きていたのなら、この先俺と対峙することがあるのなら、どうかその時はお前の手で殺してほしいと思う。お前の手でけじめをつけてほしい、俺の身勝手な願いだ・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「ブルーム・・・いる?ヴェルトマーに行くわよ?名目は近衛軍についてってことだけれどね。・・・言わなくても、・・・分かるわよね?」

 

「・・・分かっているさ、ヒルダ。最後の最後で転けるわけにはいかんからな。」

 

「・・・分かっているのならいいわ、・・・ウフフフフ♪」

 

 

 

 

 

《エッダ公爵家》

ーアウグストー

 

「クロード様はまた、聖堂に籠っていらっしゃるのか?」

 

「・・・はい、もう三日になります。一応食事には手を付けられるのですが、少量でして・・・。」

 

再び世界に闇が蠢きつつある、それを察知してからは聖堂に籠りがち。クロード様はブラギ神に何を求めようとしているのか?私達はエッダ教の信者でブラギ神を崇める、祈りを捧げて神託を賜るのは重要であると理解している。しかしこうも頻繁に神託を求めるのはどうだろうか?それほどまでに状況が逼迫しているのだろうか?それは継承者であるクロード様にしか分からぬ、分からぬことなのだが私としては、自身の目で状況を見極めてから神託を賜ることこそが重要だと考える。・・・まずは現実に目を向けてもらいたい、私はそう思う。

 

 

 

 

 

世に闇が蠢いている、・・・即ちロプト教団が暗躍し始めているのだ。始まりはエシャル坊の暗殺、・・・全てはここから始まる。この日を境に、グランベル王国に影が入り込んできたのだ。その影は徐々に広がり、それは闇となり包み込んでいく。我が友にして、ロプト教団の暗部である『ロプトの根』所属の元暗殺者、レクスヴァより提供された情報故に正確なものであろう。

 

堕ちたのはヴェルトマー公爵家、燻るはドズル公爵家にユングヴィ公爵家、そしてフリージ公爵家。我がエッダ公爵家は早々に堕ちはしない、ロプト教団の嫌う光に属し、ブラギ神に命を捧げし暗部がある。『ブラギの枝』と呼ばれし密偵、この世に真っ白なるモノなど存在しないのだ。『ロプトの根』と対をなす枝が存在する限りは、エッダ公爵家に影が差すことはないだろう。

 

シアルフィ公爵家は、我がエッダ公爵家と同じく健在ではある。しかし、どうにも風通しが良すぎるのだ。・・・クロード様がおっしゃった『導き手』とは、シアルフィ公爵家を指すのではなかろうか?運命の担い手であり鍵でもある『導き手』、もしそうであるのなら・・・。いや、まだ憶測の域を出ていない。事は慎重に見極めなければならない、それほどのことではあるが後手に回ってしまうだろうと考える。・・・クロード様が戻らぬ限り、我らは動けぬのだから。

 

 

 

 

 

・・・我が友レクスヴァから知らされていることがある、そして私も独自に調べて知った。エシャル坊が生きており、トラキアの将軍となっている事実。彼がこの世界を導く光の一つであることは私の勘ではあるが、的を得ていると思う。彼の下に力が集まり一つとなっている、驚くことにあのシギュンの娘も傍にいるらしいではないか。・・・彼こそが現段階での強力な切り札であることは明白、我ら枝は密かに彼を見守らなければならない。ロプト教団が表舞台に立たないことが一番良いことだとは分かる、分かるがこうも蠢いていると・・・な。

 

クロード様がお戻りにならない今、この私が動かねばならないだろう。私程度の力では、この流れを断ち切ることは不可能。だがその流れを緩やかに、蠢きを多少なりとも抑えることは可能だろう。少しでもその光を弱まらせない為に、そしてその光を一つに纏める為に。次世代を念頭に入れなければな、・・・難儀なことだ。

 

良い治世に見えてはいるが現実は、未だに迫害と教徒狩りが密かに行われている。その負の一面が憎しみに変わり、怒りとなって教団を蠢かせる。その狂気は同胞ですら利用する、その考えが正しければ・・・。エシャル坊の傍にいるとされるシギュンの娘が危ない、多少なりともロプトの血が流れているものと推測出来る。・・・教団にしてみれば、利用価値はある。だが、彼女の存在は教団に知られていない。それが唯一の救いであろう、・・・この状況を守り続けねばならないな。彼女は絶対に守り切らねばならない、・・・万が一の保険として。




ダナンは親父であるランゴバルトがあまり好きではない、何かと相手を見下し、そして妬む性格が。

暗殺を狙う卑怯な一面が許せないタイプの武人気質である。そして聖戦士の継承者であることを誇りに思っています。

レックスとの兄弟仲は良好、最悪レックスだけはドズルから逃したいと思っている。



ブルームは一時の悪感情に流され、逃れることの出来ない立場になってしまっている。妻であるヒルダの暗示に、自我が消えるのも時間の問題ではあるが・・・。

彼の後悔と家族愛が少しでも残れば、或いは・・・。



アウグストはブラギの司祭であり、『ブラギの枝』所属の密偵でもある。レクスヴァとは親友で、互いに協力関係を築いている。ロプトの世を阻止する為に、レクスヴァと暗躍するが・・・。

因みにクロードは、『ブラギの枝』の存在を知らない。・・・というか、気付かないふりをしている。



エシャルの嫁・最終アンケート

ディアドラ:16

アイラ:16

パメラ:13

エスニャ:10

ティルテュ:9

複数:15


パメラさんも人気ですね!

ディアドラ・アイラ・パメラの三人が有力か?



次話は他の国になりますかね?後ヴォルツ達とか。


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閑話 ~他国の状況・その1

つんさん、KAORI@マークさん、感想ありがとうございます!

hirohiroさん、KAORI@マークさん、錦組さん、アンケートありがとうございます!


《ヴェルダン王国》

 

ーキンボイスー

 

兄貴・・・いや、ガンドルフの奴が国を捨て逃げやがった。グランベル侵攻の為に利用しようと考えていた物資、人質として交渉道具にしようと考えていたトラキアの民、そして・・・マーファ城周辺がもぬけの殻。物の見事にスッカラカンであり、人の子一人もいやしねぇ。・・・あてにはしていたが、侵攻に影響はなく計画通りに実行は出来る。ただ余裕を持ちたくマーファ城を接収、・・・ってな流れで今に至るんだがよ。

 

・・・気に入らねぇんだよ、クソ野郎!国を裏切ることを前提に、今まで動いていやがったとはな!アイツは俺達を影で嘲笑っていやがったんだ、小馬鹿にしていやがったんだ!

 

「・・・クソッ!!」

 

・・・俺はそのことを考える度に、怒りがふつふつと沸いてくる。逃亡されてからかなりの日数が経っていやがるが、俺の心は荒れ狂うばかり。この怒りを何かにぶつけたい、今すぐ兵を纏めてグランベルに侵攻したい、そんなことばかり考えてしまう。・・・はっきり言って我慢の限界だ、もう準備は出来ているんだ、バルバロイと連携して今すぐに・・・!

 

そう考えて行動しようと思ったんだが・・・、

 

「・・・まだその時ではありませんぞ?・・・キンボイス殿。」

 

突如、部屋の暗がりから声が聞こえてきた。・・・俺しかいない筈なんだが、コイツは神出鬼没なのか!?姿を現したのはサンディマ、親父が重用する得体の知れない男。・・・俺はコイツが嫌いだ、自分の意思を掴まれているようでな。現に今も・・・、

 

「・・・もう暫く待たれよ、・・・じきにグランベルが慌ただしくなる。・・・その時が好機ですぞ、・・・私の言葉が分かりますかな?・・・キンボイス殿。・・・ククク。」

 

サンディマの声を聞くと、言葉を理解すると、俺は・・・、

 

「・・・ああ、そうだったな。まだ攻め入る時期じゃねぇ・・・、もう大丈夫だサンディマ。」

 

一気に感情が冷えていく、抜け落ちていくんだ。

 

「・・・結構、・・・それで良いのですよ?・・・キンボイス殿。」

 

そう言って影に溶け込み消えるサンディマ、・・・俺はただその光景を見ているだけ、・・・それだけだった。

 

 

 

 

 

ーサンディマー

 

なんとも短絡的で目の離せぬ男よ、・・・弟のバルバロイも短気故に目を光らせていなければならぬ。面倒なことではあるが致し方なし、扱いやすい・・・暗示が掛かりやすいのが唯一良い点ではある。・・・ともかく短絡的な兄弟を抑えつつ、マンフロイ様からの指示を待つしかない、それまでの辛抱よな・・・。

 

それにしても、一番厄介であったガンドルフが亡命してくれて助かった。あやつがヴェルダンに留まっていたら、計画の邪魔を・・・潰しに動いたかもしれん。そう考えると、ガンドルフが聡明な男で良かったと言えるだろう。この国を見限り亡命、・・・遠い地でこの国の行く末をいずれ聞くといいわ。そして絶望せよ、・・・ククク。・・・まぁ気掛かりなのが、トラキアへ亡命したということ。あの国は我ら教団にとって未知、・・・脅威にならなければいいが。

 

・・・ああ、後はチョロチョロと動く鼠がいたな。末の・・・ジャムカと言ったか?こやつが動いてくれるお陰で、バトゥ王やその兄弟の動きが分かる故に助かっている。ジャムカは気付いているだろうか?自分が良かれと思って説得していることが、彼等の心に不協和音を呼び、我が術に掛かりやすくなっているということを。・・・頑張るといい、ジャムカ。我らの為に、その正義感と愛国心、家族愛を十分に発揮してくれ。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

《シレジア王国》

 

ーパメラー

 

暇さえあれば私は、エシャル殿から貰ったお守りを見ている。赤く光る石のお守り、・・・エシャル殿の瞳と同じ色。これを見れば何があっても心が癒える、私は・・・頑張れるのだ。お守りを見ながら横目で隣を見ると、同僚のマーニャが涙に濡れながら寝ている。・・・そう、私とマーニャは二人で酒を飲んでいたのだ。所謂やけ酒というモノで、マーニャに強く誘われ・・・今に至っているのだ。

 

何故、二人で酒を飲んでいるのか?それもやけ酒。・・・これにはきちんと理由がある、理由が・・・あるのだ。

 

 

 

 

 

簡単に言わせてもらうと、天馬騎士団部隊長の一人で名をディートバ、・・・部下である彼女が結婚した。私達は知らなかったのだが、既に2歳の子供がいるらしい。旦那とディートバの職務が一段落したとのことで、今回・・・盛大なる結婚式が行われたのだ。旦那は王弟マイオス様が重用している方でエリート、ディートバは四天馬騎士の一人と数えられるエリート。エリート夫婦で国内から期待されている、みんな笑顔で祝福している。私だっていずれはエシャル殿と・・・、そうなったら良いな・・・と色々妄想していたのだが、マーニャは違った・・・。目から大量の涙を流し、ハンカチを噛み、嫉妬の視線をディートバに向け、負の感情を垂れ流しているのだ。その凄まじさに、隣にいるだけの私も同類とされてしまった。

 

そのようなことがあったからこそのやけ酒、マーニャは悪酔いし呪いの言葉を吐き続け、私は聞きに徹するしかなかった。因みに私はやけ酒も悪酔いもしてはいない、マーニャ一人が騒がしいのだ。そこは勘違いしないでほしい、・・・本当だよ?

 

 

 

 

 

・・・とこんな理由があったわけなのだが、マーニャが酔い潰れたからな。マーニャをどうにかして部屋へと運び、私も自室へと戻り惰眠を貪るとしよう。・・・私にはこのお守りがある、きっと良い夢を見れる筈だ。

 

ああ・・・エシャル殿、私ことパメラは貴方をお慕いしております。出来ることなら貴方と契りを交わし、貴方と一生を共に過ごしたい。・・・ですが私は天馬騎士団副長、そして貴方はトラキアの将軍。遠く・・・、遠く離れすぎています。そしてお互いに立場がある、それでも私は・・・、想いを募らせるばかり。

 

・・・夢の中だけでも、私は貴方の伴侶となっても良いですよね?夢だけは許して・・・、ディアドラ・・・。募る想いとお守りを胸に私は旅立つ、夢の世界へ・・・。

 

そんなわけで、マーニャは肩に担いで部屋へと運び、私は自室のベッドに潜り込む。良い夢が見れると信じて・・・。

 

 

 

 

 

結果、良い夢を見ることが出来、爽やかな朝を迎えたのだが・・・。レヴィン王子が国外逃亡をやらかしたが為に、良い気分が台無しになった。・・・レヴィン王子、・・・この代償はいずれ、・・・払っていただきますからね?

 

 

 

 

 

ーレヴィンー

 

シレジアが誇る天馬騎士団、その一人で部隊長であるディートバが遂に結婚をした。俺からすれば、子供がいるのに何故しないと思っていたからな、・・・それは良いことだ、実に良いことだ。何せ国内最大の騎士団、その部隊長の結婚・・・盛大になるのは当たり前。しかも叔父上の部下とだからな、言わずとも分かるだろう?

 

・・・その為か、いつもよりは国内の国境は警備が手薄。それ即ち、この俺がこの国から脱出する絶好の好機なのだ!ぬははははは!!そして今、俺は国境にいるわけで。

 

「こんな堅苦しい生活とはおさらばだ!悪いなディートバ、お前の結婚式を利用して俺は行くぜ!遊んで遊んで遊び倒して、最終目的地はトラキアだ!待っているといい、親友にして好敵手・・・エシャルよ!この俺レヴィンがこの逃亡劇の中で一回りも二回りも成長し、大きな器となってお前に会いに行くぞ!うははははは!!」

 

この俺レヴィンの逃亡劇、とくと見よ!!

 

 

 

 

 

翌日・・・大騒ぎとなったシレジア王国、だが既にレヴィンは国外逃亡。初戦はレヴィンに軍配が上がった。しかし、ラーナ王妃は本気で怒る。そして天馬騎士団の小隊がレヴィン追撃の任を受け数日後、シレジアを出撃することとなる。その小隊を率いるのは四天馬騎士の一人フュリー、・・・ラーナ王妃のキレ具合が伺える人選であった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

《アグストリア諸公連合・某所》

 

ーベオウルフー

 

レイミア達の海賊討伐に助力して、その中でエシャル達トラキア勢に応援を頼み、見事依頼を達成。助っ人である俺達も相応の報酬をいただき、エシャル達が帰国する際にはレイミア達の今後を託し、こちとら被害らしい被害が無かった分、割りの良い仕事となった。港街マディノがいつも通りの日常に戻る為、俺達も復興というか後片付けを手伝い、ある程度の目処が付いた為にマディノを去ったわけだが、

 

「・・・さて、これからどうしようかね?これといった依頼も無し、懐具合は良い感じ。・・・とりあえず、アグストリアを流すか?」

 

暫くはやることがねぇからな、アグストリアをふらついていれば何かしらがあるんじゃね?と思いヴォルツに提案してみれば、

 

「風の声に耳を傾け、流れるように野を駆ける。・・・それもまたロマンだな、・・・運が良けりゃあ戦場の死神と名高いデュラハンとの出会いが・・・「縁起が悪いんだよ馬鹿!」・・・駄目か。」

 

いつも通りのヴォルツでした・・・っと。

 

 

 

 

 

とりあえず、のんびりアグストリアを進む俺達。領主達を刺激しないように、なるべく目立たないようにしてはいるが大所帯だからな、・・・ある程度は仕方なし。そんな感じで移動中、聞き込みに走らせていた部下が戻ってきて、

 

「アンフォニー領の東にある森林群に、大小様々な村落があるようです。噂じゃその森には妖精の踊り子が・・・「馬鹿!!」・・・おおう。」

 

なんつーことを言い出すかねコイツは!そんなことを言ったら・・・、

 

「・・・妖精の踊り子!?・・・う~む、決めた!次に目指すロマンは妖精の踊り子、・・・さぞや可憐な踊り子なんだろうよ、・・・フフフ。」

 

・・・何てこった、ヴォルツの琴線に触れちまった!マディノじゃ人魚は見付からなかったからな、いたのは海女なおば様方。ヴォルツを含めた俺以外の奴等全員、・・・落ち込みようが凄かった。未だに癒えぬ傷心の中、そんな情報を聞いちゃあ・・・食い付くわな。・・・はぁ~っ、かったりぃ~・・・。

 

・・・とまぁそんなわけで、俺達は森林群の村落を目的地に定めた。・・・ノディオンに顔を出したかったんだがなぁ、・・・マディノじゃすれ違ったみたいだしよ。・・・どんだけエシャルと似ているのか、この目で確認したかったんだが・・・しゃーなしか。ロマンの後にでもコイツらを説き伏せて、ノディオンのエルトシャンの下へ行くように仕向けよう。

 

・・・ヴォルツ達、めっちゃはしゃいでいるのな?・・・妖精の踊り子なんているのか?・・・今までロマンを見付けたことなんざ無かったのによ。・・・まぁそれに準ずるナニカは、色々と見てきたが。

 

・・・・・・・・・今は現実逃避に全力を向けようか、・・・・・・薬、・・・・・・まだ残っていたかね?




時間が無いのでアンケート結果だけ。因みにまだやってますからね?


エシャルの嫁・最終アンケート

ディアドラ:18

アイラ:18

パメラ:15

エスニャ:11

ティルテュ:10

複数:17


うむ、みんな10票いったね。ハーレム決定みたいなもんかな?

まぁメインはディアドラになるでしょうが。


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閑話 ~他国の状況・その2

つんさん、A-ガーランドさん、感想ありがとうございます!

マッシュマンさん、アンケートありがとうございます!


《ノディオン王家》

 

ーグラーニェー

 

アグストリア諸公連合の最北にあるマディノ領、オーガヒルの海賊と一進一退を繰り広げるアグストリア一の激戦区。そのマディノにエルトの愛する甥、エシャル君と思われるトラキアの将軍が依頼の為に赴くという。その報を友人であるベオウルフさんからの手紙で知らされ、イーヴを伴い慌ててノディオンを発ったのは大体二ヶ月前かしらね?・・・そして先日、エルトが帰ってきたのだけれど・・・、

 

「・・・ああエシャルのことを陛下に話したい!その武を、その勇姿を、エシャルがトラキアにて健在であると、思う存分語り尽くしたい!・・・が、箝口令が敷かれている!・・・そして、エシャルの身を考えるならば話せない!・・・何ということだろうか!・・・これも全部、・・・奴等のせいだ!俺の面前に姿を現すことがあるのなら、ミストルティンで一刀両断にしてくれるわ!」

 

数日おきにこの調子なのよね、・・・あれ程箝口令を敷いた上で城内の者達に語り尽くしたのに、まだ話し足りないのかしら?・・・まぁイムカ王もエシャル君のことを孫可愛がりって感じだったから、エルトが話したいのも分かるのだけれど。・・・話せないわよね?エシャル君のことは、・・・彼の身を案じるのならば絶対に。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

エルトが帰った時、ノディオンの主要な者達を王座の間へと集めた。そして最初に言った言葉は・・・、

 

「これより話すことは他言無用、ノディオンのみの箝口令を敷く。最終的には異質なモノも含まれる為、このノディオンと共にあると誓える者以外には話せん。・・・最悪、ノディオンはアグストリアにて孤立するかもしれない。・・・それほどの内容が含まれる、故に咎めはしない。覚悟の無い者は、早々にこの場から外してくれ。」

 

エルトはそう言ったのだ。ただエシャル君であるか否か、それだけではなかったみたいね?・・・事はノディオンの孤立、アグストリア諸公連合を敵に回すことになるかもしれない、それほどのことをエルトは知ってしまったのね。優しいエルトは、みんなに選択肢をあげた。・・・聞けば事が起きた場合、・・・万が一があるから。でもねエルト・・・、私も含めてだけれど、みんな貴方のことが好きなの。共にあることを願う者ばかり、去る者などいないのよ?

 

・・・集まった者はみんなエルトを見る、覚悟ある目で・・・。みんなの視線を集めるエルトは・・・嬉しそうね?顔には出ていないけれど。そして語ったことは、良い情報と悪い情報。良い情報とは件のトラキアの将軍、彼はあのエシャル君で間違いないとのこと。そしてエシャル君達と協力し、オーガヒルの海賊をほぼ壊滅にまで追いやったこと。ここに集まる主要な者達の殆んどが、エシャル君とは面識がある者ばかり。生存の報にみなが喜び、海賊壊滅に歓声を上げる。・・・が、次の言葉に動揺が走る。・・・エルトとエシャル君が剣を交えた、それも命を懸けた死合いをだ。エルト曰く、

 

「・・・気を緩めることが出来なかった、・・・緩めていたのなら最悪、・・・この首を持っていかれただろう。」

 

エルトは余裕で、まだまだ余力があるといった虚勢を張ったらしい。エシャル君はそれに気付かずに、いや・・・気付けなかったようだ。

 

細かい内容は伏せるとのことで言ったことに、私達は驚いた。・・・エシャル君は正気ではなかった、故に襲い掛かってきた。色々あり正気に戻ったエシャル君と和解、そして・・・あの事件にアグストリアの誰かが関わっているかもしれないとのこと。・・・エルトに襲い掛かったのはその恐怖が、・・・自分を狙っていると思ってのことらしい。エシャル君は本能的に、アグストリアの中央には行きたがらないらしい。自分の命を狙うナニカがあると、そう思っているみたいなのだ。そのことが剣を通じてエルトにも伝わったらしく、エルト自身もそれを信じての箝口令となった。・・・にわかに信じ難いが、エシャル君に会ったエルトのことを信じようと思うし、それが本当のことならば話せないし呼べもしない。私もエシャル君に会いたかったが、おいそれと呼べもしない事実に気持ちが沈む。・・・このアグストリア諸公連合内に闇がある、エシャル君のことを思うのならば、今回の話は私達の中に納めておくべき。最悪離反することを視野に入れている、・・・エルトはそう決意している。そして私達は聞いた以上、彼にただ従うのみ。重苦しい空気の中、私を含めたみんながそう誓ったに違いない。

 

・・・がその空気も長くは続かず、暫くしてからエルトが目を輝かせてエシャル君を語り尽くす。先程の重苦しさを消すが如くの饒舌さ、・・・エシャル愛ここに極めたり、・・・最終的にはいつも通り。それがエルトの機転であり優しさが半分、・・・後はただ語りたいだけ、良いも悪いもエルトである。・・・まぁ私達ノディオンは共にある、それが分かったのだから良しとしましょう。

 

ーーーーーーーーーーーー

・・・自分から箝口令を敷いておきながらのこの状態、どれだけエシャル君が好きなのかしら?ちょっと妬けてしまうのは仕方のないこと。あの時はラケシスがいなかった、それ故にあの後・・・エルトはあの話をしようとしたのだけれど、私とイーヴはそれを止めた。万が一が起きた場合、何も知らぬ方が言い逃れしやすいし、助かる可能性が高くなる。現状・・・教えぬ方が良い、状況によっては教えなければならないし、自ら知ることになってしまうかもしれない。だが今はその時ではない、噛み砕いて説明してエルトは納得したんだけれどもね?

 

・・・これは発作のようなもの、痛撃を与えてその思考を途絶えさせるしかない。私は近くにいる使用人から箒を受け取り、

 

「・・・落ち着きなさい、エルト!!」

 

その言葉と同時に、箒の柄にて脇腹を一撃。ノディオン内では非力な私、されど一点集中で突けば・・・、

 

「・・・んごふぅっ!!?」

 

と、エルトは蹲り悶える。・・・色々と問題を抱えることになったのだけれど、いつも通りのノディオンであり、何が起ころうとも乗り越えられると私は信じているわ。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

《イザーク王国》

 

ーマリクルー

 

「ハハハハハハ!甘い、甘過ぎるぞアイラよ!この俺にその程度の流星剣、子供の児戯に等しい!見よ、俺の剣は受け止めるか弾くか、はたまた俺自身が避けるかで当たりはしない!緩い、緩すぎるわアイラよ!高めろ・・・その血を!内に秘めたるオードの血を感じ取るのだ!ハハハハハハ!!」

 

俺は高ぶる戦闘欲を十分に発揮、必死に追い縋る妹アイラをあしらい続ける。この俺にここまで追い縋れるのはイザークでもそういない、その点は称賛に価する。

 

「・・・まだだ、・・・まだ私は駆け抜けることが出来る筈だ。・・・兄上ぇぇぇぇぇっ!!」

 

更に鋭さが増すアイラの剣戟、・・・流石はアイラ!剣聖オードの血を引く者、戦いの中で成長するは戦士の証!ならばこの俺も、真正面からぶつかり、斬り裂くのみ!

 

「・・・その意気や良し、敬意を表しそれを・・・斬る!・・・オードの真髄が一つ、俺の流星剣を捌いて見せよ!」

 

互いに最高の状態でぶつかり合う、・・・・・・結果は決まりきっているがな!

 

 

 

 

 

恒例の手合わせを終えて、へたり込むアイラの隣に座る。アイラは息を荒らげるばかりで余裕が無い、まぁ当然ではあるな・・・この俺が相手なのだから。俺からすれば、アイラはまだまだ未熟。腕は上がっているが、どうにも剣にのめり込み過ぎている。オードの性か、それは仕方のないことなのだが・・・、恋の一つでもしてもらいたいものである。守るべき者、大切な者・・・、それに準ずる何か・・・或いは想い。それを知り、手にすることが出来れば、更に強くなると思うんだけどな。俺はアイラの横で、アイラが恋する乙女になっている未来を想像してほっこりする。・・・・・・いいな、恋するアイラ!愛らしいぞ!・・・・・・プッ、・・・流石は俺!無意識に言葉遊びをしてしまうとは、・・・自分の才能が恐い!・・・・・・まぁそれはいいとして、アイラに良い人が現れれば安心するんだがなぁ~・・・。

 

 

 

 

 

ーアイラー

 

今日も兄上と手合わせをし、やはりと言うか・・・手足も出なかった。・・・今日はイケると思ったのだが、力及ばずに敗北。兄上は強すぎる、私もイザーク内では強者の部類に入るのだが、格が違う。兄上に勝つことが出来る武人は国内にはいない、他国にもそういないだろうな。思い浮かぶのは、勇名轟くノディオンの獅子王ぐらいか?後は・・・誰がいるか分からない、はっきり言って世俗に疎いからな。・・・どの道私は負けたのだ、誰が勝てるとかはどうでもいい。せめて一太刀、兄上に一矢報いたいが・・・私では無理だろうな。・・・木刀で手加減した上、私の木刀を斬り刻むとか・・・出来る筈がない。やはり兄上は化物だ、・・・兄上にあって私に無いものは何だろうか?・・・私には分からない、分からないから修行しかないだろうな。剣に全てを懸ければきっと・・・、いつかは勝てる日が来るだろう。

 

 

 

 

 

手合わせをして乱れた息を正し、兄上に手合わせの礼を言おうと思ったのだが・・・、

 

「・・・アイラに良い人が現れれば安心するんだがなぁ~・・・。」

 

突然、横から兄上の呟きが・・・。いつの間に!?気配が無さすぎるし心臓にも悪い、それ以上に・・・、

 

「・・・良い、・・・人?」

 

兄上が呟いた良い人とは、一体何だろうか?・・・好敵手のことだろうか?・・・まぁそのような者がいれば、兄上にも迷惑を掛けないし、私の腕でも上がるというもの。・・・ふむ、探してみるのも良いかもしれない。なんて考えていたら、兄上はこちらを見て・・・、

 

「・・・口に出していたみたいだな、・・・なら話が早い。アイラ、・・・お前に良い人はいるのか?」

 

と言ってきたから、

 

「・・・すみません兄上、私には好敵手と言える者がおりません。・・・ですが、兄上が安心出来るよう探してみます!」

 

と返してみれば、何とも可哀想な目で私を見てくる。・・・何故そのような目を?

 

「・・・好敵手と受け取ったか、・・・我が妹は脳筋系みたいだな。・・・この調子では独り身決定、・・・由々しき事態だ。」

 

・・・脳筋!?・・・私を脳筋と言われたのか兄上は!・・・私はそれを断固として抗議する!私は決して脳筋ではない、・・・私には剣以外のことでも出来ることぐらい!

 

・・・・・・・・・・・・・・・。

 

・・・剣のこと以外、何も出来ないじゃないか。・・・兄上の言うように、脳筋の部類に入るな私は。・・・ぼっち、・・・私はぼっち。兄上の危惧するように、このままでは友人無しのぼっち決定じゃないか。シュンとなる私を見た兄上は、

 

「・・・いやうん、・・・まぁお前はぼっちではある。・・・がそうじゃなくてだな、・・・好きな人がいないのかとそういう意味で良い人と言ったのだが。・・・ぼっち、・・・そちらも気になることではあるな。・・・妹のアイラがこのままでは、・・・独身ぼっちの喪女剣士になってしまう。・・・どうしたものかな?」

 

好きな人?・・・それは恋人とかそういった者のことか?・・・兄上、・・・何とも失礼な!

 

「兄上!好きな人とか恋人とかは必要ありません!今の私はいかに剣の腕を上げるのか、いかに兄上との差を縮めるのか、そう言ったことを考えねばならぬのです。・・・それを恋人はいるか等と軟弱な!私を見くびってもらっては困ります!あえて言うなら剣が恋人ですよ私は!・・・ですので安心してください、兄上!」

 

と言えば、

 

「・・・独身ぼっちの脳筋喪女剣士待ったなしと、・・・何処に安心出来る箇所があるのか?・・・危機的状況じゃないか。・・・アイラ、・・・何とも哀れな。」

 

兄上の死んだ目が私の心を抉る、・・・何故?何故そんな目で私を見るのですか!?

 

 

 

 

 

ーガルザスー

 

・・・俺は無力だ、マリクル王子に次ぐ剣士と呼ばれようとも、父上の考えを諌めようとも、一族の者達に荷担を控えるように言っても、最早・・・止めることが出来ないところまで来てしまった。どんなに不満があろうとも、やって良いことと悪いことがあるではないか。グランベルを非難するのは良い、だがそれで戦争を仕掛けるのは、グランベルの友好都市ダーナに攻め入るのは、イザークの武人がすることだろうか?まして虐殺を目論むとは・・・。まだ計画の段階ではあるが、実行を止めることはもう叶わない。リボー一族の総意、そうなっている。何故そうなった?どうしてこのような道を選ぶ?止めようにも俺は、城の牢に囚われて何も出来ない。そして俺と共にここにいるマリータ、この娘を守る為に動くこと等出来ない。事が起きるのを待つしかない、無力な男だ・・・。このままでは一族全てが討たれるだろう、最悪・・・我が祖国イザークがグランベルに・・・。だがどうしようにも手が無いのだ、俺はここにいるしかないのだ。

 

妻が亡くなってから変わっていく一族、仕組まれた死・・・妻は何者かに殺された。ご丁寧に、ダーナの兵が使う剣がそこに残されていた。明らかに不自然、されど疑わぬ父上に一族の者。そして今回の計画、・・・グランベルへの不満から妻の仇討ち、そこまでなら俺も参加しただろう。だが虐殺を目論み、イザーク王家に知らせぬ事態に俺は疑問を持ち反発、そして今に至っている。

 

しかし分からない、武骨な俺には分からない。何故妻の死が隠蔽され、イザーク王家に伝えないのか?何故ダーナでの虐殺が決定事項なのか?分からない、分からないがマリータは妻の宝、今は亡き妻の為にもこの娘だけは守らねば。それだけは絶対に、この命に代えても・・・!

 

・・・一族がダーナに攻め入る時、その時がマリータと共に脱出する最後の・・・。一族を捨てることになるが、イザークに対して不義理になるが、俺は妻との間に産まれたマリータを守ってみせる。無力な男が出来る唯一のこと、それだけは・・・な。




エルトシャンは、アグストリアの闇が気になるようで万が一を考えています。ノディオンに所属する全ての者と共に警戒しますが、最終的にはいつものノディオン。

それが強みなのかも知れませんな!エルトシャンの手綱を握るグラーニェに期待です。



イザーク王家は現在、平穏ではあるがリボー一族がヤバい。

ロプトの魔手が既にね。

ガルザスのみまとも。彼はマリータを連れて逃げることが出来るのか?



エシャルの嫁・最終アンケート

ディアドラ:19

アイラ:19

パメラ:16

エスニャ:12

ティルテュ:11

複数:18



そろそろアンケートを終わりにしたいと思います。



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閑話 ~トラキアの日常《その1》

A-ガーランドさん、柚子アームズさん、エルトチャンさん、感想ありがとうございます!

柚子アームズさん、暁のヤミ・ヤーマさん、アンケートありがとうございます!


最近気付いたこと、ミランダもエスニャの娘でしたね。よってミランダはリンダと双子にします。


ーエシャルー

 

俺は現在、自領にある温泉に入っております。城ではなくプライベートな館にある温泉、木々に囲まれつつも見晴らしが良く、側にある湖の湖面が日の光でキラキラと輝いて、物語の一部を切り取ったが如くの光景。これを眺めながら温泉に入る、・・・疲れが吹っ飛びますな!俺自慢の温泉ですぞ!

 

そんな俺自慢の温泉には、

 

「・・・いつも入る私自慢の天空温泉、それに勝るとも劣らないエシャルの温泉・・・たまらぬな。」

 

とか言って、ふにゃふにゃになっている我らがトラキア王トラバント。いつもの威厳が全然無いんだよね、温泉に入っている時はさ。・・・どんだけ温泉が好きなんだよトラちゃんは、・・・俺も大好きなんですけどね!

 

「いやぁ~・・・、いつも入る一般の温泉より格別だよな!至高のエシャル温泉、・・・最高だぜ!」

 

頭の上にタオルを乗せて、鼻歌交じりにご機嫌なガンドルフの兄貴。いつ見ても良い筋肉をしているぜ!俺もそんな筋肉がほし・・・無しだな!!俺の顔でゴリマッチョはないわ、・・・キモいだけですね!

 

そんなわけで、久々に三人で集まり一緒に温泉へ。その前に俺と兄貴の案内で、領地内を視察したんですよね!俺自身も把握しきれていない所もあったんで、ぶっちゃけ俺の為の視察でもあるんですわ。兄貴達が開墾している場所がよく分からんかったのだが、今回きちんと見てみて驚きましたよ!どんだけ気合い入りまくっとるんですかってぐらいっすよ、・・・まぁ助かるんですけどね?

 

何だかこの先、色々と領民が増えそうな予感がね?するんですよ。トラバントもそれを推奨してくるし、・・・富国強兵ですね。トラキアが生き残る為には必要なことだからね、俺も頑張っちゃうわけよ。・・・実際、北トラキアはほぼ眼中に無いわけで、このことにトラバント自身も驚いていたっけ。それほど今のトラキアは潤っている、それでも傭兵は辞めませんよ?人材スカウトや情報収集の為にね。この先どうなるかは分からない、しかしながらトラキア王国は永久に不滅です!

 

 

 

 

 

・・・俺は温泉に入っている、当然ふにゃふにゃになっとるわけで・・・、

 

「・・・そういえばさ、・・・トラバントってば奥さん、・・・フリーンとはどう出会ったの?」

 

「・・・突然何を言い出すかと思えばフリーンとか?・・・フリーンと私の出会いはだな、・・・自由都市群と名高いミレトスにあるぺルルークに。」

 

「・・・お、いつもは渋る癖に話すのか?」

 

俺が話を振り、珍しくトラバントが語り、兄貴が茶化すようにからかう。こんな日があっても良いと思うのですよ。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

トラバントとフリーンの出会い、それは15年前に遡る。当時15歳だったトラバントは、貧困に喘ぐ自国をどうにかしようと考えていた。だが、当時のトラバントは王子であったが為プライドが人一倍高く、人に頭を下げる・・・傭兵稼業をするという考えが無く、正攻法である外交で父を助け自国を救おうとしていたらしい。まぁ当然失敗の連続、当時のトラキアは何も無かったみたいだし。そびえる山々と痩せた土地しかないトラキアと国交を結ぶとか、他の国々は難色を示したんだと。その中でも北トラキア四小王国が酷く罵ってきて、トラバントは深く傷付き・・・いずれは目にモノを見せてやると復讐を誓ったとのこと。まぁ現在は俺のお陰でもあり、兄貴のお陰でもあり、トラバントも頑張ったとのことでここトラキアは豊かです。最早・・・北トラキアに復讐など致しません、無駄な労力なのです!

 

まぁそんなわけで、やさぐれてしまったトラバント。その心を癒す為に、自由都市群と名高いミレトス地方にあるぺルルーク。貿易で有名な場所だけに、何か買い物でもしようかと考えた。あわよくば、トラキアに益を呼ぶモノが手に入ればと・・・。そのぺルルークにて、薄汚れた少女と出会った。大きな卵を抱き、泣きそうな顔で路地裏の影に座り込んでいた。何故か興味を持ったトラバント、その大きな卵も気になるようで。上から目線で話し掛けてみたら、めっちゃ警戒されつつ・・・、

 

『私はどうなってもいいから、・・・この子だけは助けてください。』

 

卵を守る為に、その少女は自分を犠牲にしようとしたみたいですな。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「・・・あはははは!トラバント、悪どい貴族と思われてやんの!ウケる!」

 

「・・・エシャル、・・・人がせっかく話してやっているというのに。・・・分かってはいたが、そこまで笑わんでも良いではないか!」

 

「まぁまぁ落ち着けトラバント、エシャルも馬鹿笑いは止めてやれ。・・・で、その後どうなったんだ?」

 

「・・・ったく、・・・で何処まで話したか。・・・ああそうだ、・・・でだ。」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

・・・トラバントは慌てて彼女の考えを否定、ただ単純に気になったということを言った。まぁそう言ったところで、簡単には警戒を解かないわな。・・・何モゴモゴ言ってんの?恥ずかしいから話を飛ばす?何故恥ずかしがるんだよ。・・・どうせアレだろ?柄にもなくクサいことでも言ったんだろ?・・・図星?まぁそんなん大体予想が付くよ。・・・分かったから!飛ばしていいから興奮すんなって!

 

何とか少女の警戒を解いて話を聞いてみると、驚いたことにこの少女はトラキア出身の者。家族で逃亡中、賊のような竜騎士に襲われて両親が殺され、自身はこの卵を抱えて逃げてきたとのことらしい。何故襲われたのかというと、この卵がトラキアでも希少種と呼ばれるワイバーンの卵らしい。父がたまたま入手したこの卵を貴族がどうしても欲しいらしく、強引な方法で入手しようとしていると聞いて、慌ててミレトスへと逃げようとした。その途中で襲われ、そのような結果になってしまったと。・・・だから貴族なトラバントを警戒してたんか?つーか悪い貴族だったらヤバかったな?うん。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「・・・・・・あれ?続きは?」

 

「・・・終わりだ、・・・もう話したくない。」

 

「・・・ちょっ、待てよ!気になるじゃないか、話してくれよ!なぁなぁなぁ!!」

 

「・・・何か腹が立つのだよ!エシャル・・・お前の態度が!」

 

「温泉内は無礼講でしょうが!」

 

「知るか!」

 

「「・・・・・・・・・。」」

 

「「・・・・・・よろしい、表へ出ろ!!」」

 

「・・・また喧嘩か、・・・仲が宜しいことで。」

 

 

 

 

 

ートラバントー

 

・・・あの後、私とエシャルは湯中りで気を失った。ガンドルフがいなければ最悪、二人で仲良くあの世逝きだったとのこと。それを聞いた私は恐怖した、温泉は良いばかりではないということに。今度からはその辺りも気を付けねばならない、そう誓った。まぁそれはいい、いや・・・良くはないのだが今はいい。それよりもエシャルだ、やはりというか何というか・・・、話せば何かしらで茶化すとは思っていたが、人の話を自分の主眼で脚色しおって!最初はきちんと聞いていたのにアイツは・・・!

 

まぁ最初から真面目に話す気など無かったからな、温泉で語ったことはほぼ嘘よ。ワイバーンが希少種で、フリーンが関わっているのは真実だが・・・。クックックッ・・・、あの時のフリーンは愛らしかったな。ワイバーンの卵を抱き抱える令嬢、・・・本当に懐かしい。そんな彼女が婚約者だと知った時、私は彼女と上手くやっていけるのか?と不安になったものだ。・・・久々に思い出したな、・・・きっかけを作ったエシャルには一応感謝か?

 

そんな感じでトラキア城の執務室にて物思いに耽る、そんな私に・・・、

 

「あら?あなた、戻っていたのね?・・・何か考え事?お邪魔なら戻るけれど。」

 

件の妻、フリーンが私の執務室へと入ってきた。確かに考え事ではあるが、お前との馴初めを思い出していたとは言えん、気恥ずかしいからな・・・。とはいえ、代わりのネタも思い付かぬ。フリーンには、あまり隠し事をしたくはない故・・・、

 

「エシャルの領地に行ってきてな、そこでお前との馴初めを聞かれたが、・・・どうせ真面目に聞かぬから事実も含めて適当に話してきた。・・・それがきっかけで思い出していたのだ、・・・お前が卵を抱えて婚約者である私と顔合わせをした時のことを。」

 

私はそう笑って言うと、フリーンは頬を赤く染めて・・・、

 

「・・・また、懐かしいことを思い出していたのね?・・・出来れば、忘れて欲しいのだけれど。」

 

「・・・出来ぬ相談だ、忘れることなど出来ぬよ。・・・私にとって、お前との思い出は宝なのだから。」

 

忘れて欲しいと言うフリーンにそう返すと、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに、

 

「・・・やっぱりあなたは変わったわね、本当に・・・エシャル様と出会って、ガンドルフ様と友誼を交わして・・・。私にとってもあなたとの思い出は宝よ?勿論、その結晶であるアリオーンもね?」

 

そう言って、私とフリーンは顔を見合わせ笑い合った。・・・たまにこういう日も良いかもしれぬな、・・・フフフ。

 

 

 

 

 

最近忙しくあまり話が出来なかったが故、フリーンとの会話は楽しいものであった。まだ小さいアリオーンの近況も聞けたし、有意義過ぎるな。・・・もう少しアリオーンが成長したら、許嫁・・・婚約者を決めねばならぬ。そこで思うのはただ一つ・・・、

 

「・・・エシャルもそろそろ身を固めて欲しいものだ、・・・それで女子が産まれてくれれば。」

 

エシャルが結婚し、女子が産まれたのならアリオーンと婚約させたい。トラキア国内で英雄視されているエシャルの子との婚約、さすればトラキアの土台は盤石となり揺るぐことがなくなる。私としても何だかんだでアイツを友だと思っている、・・・それにディアドラと結ばれてくれたら、

 

「今以上に絆が大きくなりますしね、子供達を婚約させたら家族として付き合うことも出来る。・・・何て素敵なんでしょうか、ねぇ・・・あなた。」

 

・・・一瞬ゾクリとしたが、その通りだ。ディアドラは私のような男にもなついてくれる、妹がいたらこの娘のようなものなのだろうな・・・と、いつも思う。しかし・・・、

 

「ディアドラの気持ちにエシャルは気付いている、・・・だがなかなかに難しい。ディアドラの血があまりにも・・・、グランベルが何を言ってくるか・・・。それに先日此方に来たフリージの姉妹、あの二人もエシャルのことがな。・・・聞くところによると、シレジアの天馬騎士団副長とも良い仲だと聞いている。・・・エシャルなりに悩んでいるみたいなのだが、・・・どうしたものかな?」

 

「・・・そうなんですよね、・・・エシャル様は罪作りなお方ですから。」

 

本当にエシャルは悩ましてくれる男だ、まぁ・・・嫌ではないのだが。此方が手を打とうにも、彼女達の気持ちを知らねばならぬな。さて・・・、どうすべきか・・・。




トラバント、エシャルとガンドルフに嘘の馴初めを話す。そして喧嘩に発展し、トラバントとエシャルは死にかける。・・・バカですねww

後、エシャルの結婚関係を気にしているトラバント夫婦。出来ればディアドラが良いなと思っている模様、まぁ悩んでいることを知っているみたいなんだけど、動くのかな?

アリオーンの嫁はエシャルの子が一番と考えています。


こんな感じで閑話リクエストがあれば、言ってくださいね。


因みに、

フリーン


【挿絵表示】


トラバントの妻であるフリーンを書いてみました。久々の色塗りですわ。


エシャルの嫁・最終アンケート

ディアドラ:22

アイラ:22

パメラ:19

エスニャ:15

ティルテュ:14

複数:21



次章を投稿したら、アンケートは終了です。

もうハーレムルートが確定みたいなものですがね。

メインは一番票の多いディアドラとアイラになるかな?

いや、ディアドラ・・・かな?


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第1章 ~イザークの乱
~プロローグ


にゃ~ん()さん、A-ガーランドさん、ナヒーモフさん、ナナンブさん、感想ありがとうございます!

越伸さん、蒼月久遠さん、アンケートありがとうございます!

第1章に入りますので、アンケートを終了させてもらいます。


お陰様でインフルエンザ、治りました!

これからもゆるゆる逝きます!


大陸中央に横たわるイード砂漠の東方に辺境の国、イザーク王国がある。この国は、多数ある部族が一つにまとまった国であり、まとまったとしても日々・・・闘争が繰り広げられる修羅の国でもある。それを他国の者達は野蛮な蛮族と、イザーク王国の者達を蔑んできた歴史がある。

 

蛮族の国と呼ばれてはいるがこのイザーク王国、十二聖戦士の一人である剣聖オードが興した国である。その為か、イザーク王国の者達は蛮族と蔑む他国を嫌い、最小限の国交しか結んでいなかった。そして長い年月が経ち、聖者ヘイムの血を継ぐバーハラ王家を中心に、ドズル家、フリージ家、ヴェルトマー家、エッダ家、ユングヴィ家、シアルフィ家という、神々の血を継ぐ六つの公爵家による統治が行われているグランベル王国、彼の国の力が年々増していくことに危機感を持ったのがイザーク王家。彼等は国内で闘争を繰り広げる部族達を遂には統一し、蛮族の国から戦士の国へ、見事変えていくことに成功した。

 

 

 

 

 

生まれ変わったイザーク王国は、グランベル王国と周辺各国との間にある国交を大きく拡げ、外交を手広くする。そして徐々にイザーク王国が認知され、現イザーク王マナナンは賢王と呼ばれ、他国に広くその名を知られている。

 

王国としてグランベル王国と共に歩んできたイザーク王国ではあるが、多少なりとも昔の名残が残っていた。即ち他国嫌い、特にグランベル王国に対してそれは根深い。未だにグランベル貴族達は一部の部族を蛮族と嫌い、それに倣って一部の部族もグランベルを傲慢なる者達と嫌う。それらの感情は少しずつではあるが、イザーク王国内に広がっていき、確実に不満が溜まっていくのであった。

 

 

 

 

 

不満が燻るイザーク国内に、確かな闇が蠢きつつある。一部の不満を抱える部族が隠れ蓑となり、謎の黒衣集団が暗躍をする。彼等は甘い囁きで部族に取り入り、不満の芽を大きく成長させる。そしてある程度の成長を確認した後、闇の中へと消えていった。

 

彼等の存在が幻であったか、人々がそう思い始めた時に事件が起きた。イザーク王家よりリボー城を任せられ、代々治めてきたリボー一族に悲劇が・・・。リボー一族族長の長子ガルザスの妻が惨殺されたのだ。その死にはいくつもの疑念があるものの、犯人はグランベル王国の友好都市ダーナに属する者。それを知ったリボー一族は報復を計画する。

 

その恐るべき計画に待ったを掛けたのが妻を殺されたガルザス、しかし一度火の着いた負の心には届くことなく投獄され、着々とその計画に向けて動き出す一族。最早止めることが出来ぬところまで来てしまったこの事態に、イザーク王国はどうなってしまうのか?

 

 

 

 

 

不安定になりつつあるイザーク王国に南方より訪れる者あり、トラキア王国の英雄エシャル将軍である。彼の来訪により、イザーク王国はいくつもの選択肢を得ることになる。・・・始まりの地、イザーク王国。彼の地での物語が今、幕を開ける。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ー???ー

 

水晶より投影されるマンフロイ様のお姿、私は片膝を付きながら定期報告をする。

 

「イザーク国内での種まきは終わり、順調にその芽を成長させております。その中でもリボー一族は不慮の事故にて暴発寸前、此方はいつでも行動に移すことが出来ます。マンフロイ様のお声があれば、如何様にも・・・・・・。」

 

そのように報告すれば、マンフロイ様は満足そうな笑みを浮かべ、

 

『・・・結構、グランベル王国もヴェルトマー公爵家を中心に纏まりつつあり、ヴェルダン王国もまた・・・サンディマが上手い具合に暗躍している。・・・そしてイザーク王国はお前が暗躍し、私もアグストリア諸公連合での地盤は上々に纏め上げている。後は動くだけよ、・・・故にヴェダ。』

 

厳かな声で、マンフロイ様は私に問い掛けてくる。

 

『・・・失敗は許されぬぞ、・・・分かっているな?始まりの狼煙は、お前が上げなければならぬ。イザーク王国が全ての始まりになるのだから・・・。』

 

全ての始まりは私が担当するイザーク王国から、それは重々・・・承知している。

 

「・・・ご心配は無用です、イザーク王国内にて私の存在を知る者は極一部。その者達もまた、術に掛かっております。国境にも部下を配置しております、事が終わるまでは邪魔になりそうな者を国内には入れぬよう手配されております。故に・・・万が一も無いかと、具申させていただきます。イザーク王国の狼煙は、必ずやこのヴェダが・・・。」

 

蟻の一穴という言葉がある、私は確実にこの作戦を成功させねばならない。それを現実のものにする為、国外からの者達を監視している。今のところ、私達の邪魔をするであろう者の入国は一切無い。イザーク国内にも存在は無い、故に滞ること等あり得ぬのだ、・・・決して。

 

『・・・なれば良い、・・・我らの悲願は目前ぞ。・・・失望させてくれぬなよ?ヴェダ。』

 

「我らが悲願の為、一命を懸けましてもこの作戦、必ずや成功させると約束致しましょう。」

 

私は胸を張りそう言い切ると、マンフロイ様は先程と同じよう満足そうに頷き、その姿を消した。

 

投影を終えた水晶を見詰め、改めて決意する。

 

「・・・失敗は許されない、あり得ないことではあるがもし・・・邪魔立てしようものなら、・・・この命を代償として。」

 

例え何かしらのことが起きてしまっても、作戦・・・ダーナの虐殺は成功させてみせる。この地が始まりなのだ、・・・私が狼煙を上げなければ全てが頓挫してしまう。それだけは絶対に・・・、

 

「・・・ヴェダ様、我らの準備は整っております。後は・・・ヴェダ様の命ずるがままに。」

 

暗闇から声を掛けてくる部下に、私はいつも通りの平淡な声で、

 

「一月以内に実行する、いつでも実行出来るようにしておけ。・・・リボー一族が先走らないよう監視を怠るな、・・・国内の目も常に光らせておくのだ。」

 

「「「・・・はっ!・・・畏まりました。」」」

 

複数の声が部屋に響き、気配が消えるのと同時に部屋が静寂に包まれる。

 

「・・・・・・ロプト神様、・・・我らをお導きください。」

 

事が起きるまでは祈りを捧げるだけ、我らが悲願の成就をただ・・・願うだけなのだ。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ー???ー

 

俺は許さない、ダーナの者達を。俺は許さない、ダーナを庇おうとする息子を。俺は許さない、グランベルに対して融和政策を取るマナナン王が。俺は許さない、我らイザークを、リボーを蔑む全ての者が。

 

・・・イザークこそが大陸の覇者であるべきなのだ、我らリボー一族こそがイザークを支配するのに相応しい者達なのだ。我らの怒りが、復讐の刃になりて全てを斬り裂く。最初の生け贄になるのがダーナの者達だ、その命が神の供物となり、我らに力を授けてくれるのだ。その力さえあれば、イザーク王家を打倒し、我らリボー一族が国を治める。そこから他国へ侵攻し、イザーク王国が大陸の覇者となるのだ!

 

くくく・・・、くははははは!全てはリボー一族の為、我らの神の為に!全てを斬り捨て、修羅の道を辿るのみ!いざ往かん、我らの夢の先へ!

 

「・・・ゼノン様、ダーナ侵攻の号令はいつ出されますので?」

 

同胞が問い掛けてくるが、答えはただ一つ。

 

「・・・我らが神からの神託はまだ来ぬ、・・・暫しの間は刃を研ぎ澄まして待つといい。」

 

「「「「うぉぉぉぉぉ~っ!!!」」」」

 

血に飢えた獣の如き咆哮、我らは血を求めている。惨劇の日は近い、頸を洗って待っているといい、愚かなるダーナの者達よ。精々今は、平和なる時を楽しめ。その僅かな時の先に、死が待っていることも知らずにな。他国に尻尾を振るイザーク王家も同じよ、血に染めてくれるわ!妻も実家であるイザーク王家を見限っているからな、裏切り者である息子ガルザスとその血を引くマリータは牢獄に捕らえてある、一族以外に漏れること等無い。後は虎視眈々とその時を待つだけ、・・・・・・我らが神よ!神託を我らに授けたまえ!そしてリボー一族を大陸の覇者に!!

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ーエシャルー

 

遥々来たぜ、イザーク王国!緑と砂漠な風景がまた何とも言えねぇ、戦士の国って感じがするぜ!・・・どこら辺が?と聞かれたら、知らん!と返すけども。まぁそれはいいとして、ここはイザークのどこら辺なんですかね?緑と砂漠が半々だから、・・・北側の方だとは思うけど。

 

「レイミア、・・・ここはイザークの何処なん?王都であるイザーク城近辺ではないよね?」

 

「・・・ここはイザークの北にある忘れられた地ティルナノグ、人の少ない場所なら・・・ワープで飛んできても人目に付きにくいからね。エシャル様は無駄に目立つんだからさ、ここで身仕度を整えた方がいいかと思って。・・・エシャル様達はここで服を買ったがいい。見た目から他国の者と分かるからね、イザークの民族衣装の方が目立たないよ?まぁ・・・仮面をしているから怪しいってのもあるけど、ましになるさね。」

 

・・・おぉ!ここが彼の有名な隠れ里ティルナノグ、前世知識によると第二部始まりの場所!ぶっちゃけ、全ての始まりの場所でもあるんだけど。・・・始まるか否かはまだ分からんけど、・・・つーかそれを見極めに来たんだっけ。服装を変えるのは仕方がないけど、・・・仮面はやっぱ怪しいですか。まぁ・・・外す気はないんですけどね!

 

そんなわけで服を買い、衣装チェンジをした俺達ですが・・・、

 

「ディアドラにティルテュ、そしてエーヴェル。・・・イザークの民族衣装が似合っているね!可愛くて綺麗だよ・・・!」

 

ディアドラとティルテュ、エーヴェルが目の保養になっとります!ティルテュはあまり変わらんけども、ディアドラとエーヴェルのスリット入り衣装は初めてなのです!おみ足が眩しいぜ!俺がそんな風に三人を褒め称えると、三人は顔を赤くしながらも満更ではなさそうだ。・・・とまぁ、こんな感じでイザークを調査したいと思います。イザーク組とティルテュ、頼りにしてますぜ!




やっとこイザーク編に入りました!

前書きにも書きましたが、病み上がりなんでゆるゆる逝かせてもらいますよ。

エシャルの嫁・最終アンケート

ディアドラ:24

アイラ:23

パメラ:20

エスニャ:16

ティルテュ:15

複数:22

・・・となりました。ディアドラ、アイラ、パメラは確実に嫁となります!

エスニャとティルテュは嫁にするか否か・・・。

物語的に二人を嫁にしたら、特にディアドラとアイラを嫁にしやすいかな?まだ・・・色々思案中ですが。

パメラは嫁にしやすい方かな?家柄や血の継承を考えなくて良いから。立場と国が離れすぎているぐらいでしょうね、それさえ何とかすればってヤツですね。



後は、子供の継承者を誰にするかですね。これについて、アンケート的に意見を求めるかもです、その時はよろしくお願いします!


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第1話 ~隠れ里ティルナノグ

作者さん、A-ガーランドさん、感想ありがとうございます!

suryu-さん、アンケートありがとうございます!

アンケートはだいぶ前に終わっていますが、複数になりますんで!


他の作品もあって更新が遅れました。

久々なんであれですけど、ユルユルいかせてもらいます。


ーエシャルー

 

前世で知っている隠れ里ティルナノグ、今・・・俺達はその場所にいるわけでテンションは高め。服装もレイミアの言うように民族衣装、新鮮な気持ちでいるのです。まぁカナッツ君を含めた俺の部下達は、軽装過ぎる自分にモヤモヤしているっぽいが。最低でも軽鎧装備だったからな、胸当てだけじゃ違和感あるわな。・・・それはさておき、見た目が整ったわけなのだから次は・・・、

 

「レイミア、・・・あまり人がいないようだが何故だろうか?それに服装を変えたとしても俺達は他国民、奇異の目で見られると思ったのだがそれがない。逆に同情・・・?そんな目で見てくる、・・・これ如何に?」

 

このティルナノグに来て感じたことを聞いてみる、何故ここの民達は初対面の俺達を同情の目で見るのか?レイミアが言った忘れられた地、・・・それが関係しているのか?それにレイミアとクーちゃん達は微妙に暗い雰囲気を纏ってはいるが、同じくイザーク国民であるホリンは初めて見る場所らしくお上りさん状態だ。この差は一体・・・何なのだろうか?

 

そんな俺の疑問に答えてくれたのは、レイミアではなくクーちゃんだった。

 

「・・・忘れられた地ティルナノグ、いえ・・・隠れ里ティルナノグ。この地に住むは民族闘争に破れて逃げてきた者達の末裔、剣が折れし負け犬の里なのです。戦う心を忘れた者達が身を寄せて住む里、・・・イザーク王国の地獄なんですよ。イザークの戦士達にとって、戦う心を失うことは死も同然。故に心砕けた者達の住むこの場所は禁忌の地、名を口にするだけで穢れると伝えられていますので、この地に住む人々以外はティルナノグという言葉を口にしません。そして忘れ去られてしまったわけです、・・・同情の理由が分かりましたか?」

 

・・・・・・なるほど、この地に来た俺達も同じと見たか。他国民だろうが心折れた者、この地に来たことがその証。それに・・・俺達はこの地に来て服装を変えた、重装からかなりの軽装・・・イザークの民族衣装に。自らの装備からこの地の服装に変えた、はたから見れば自身の武を捨てたと・・・そう見えるだろう。クーちゃんの言うように、このティルナノグがそのような地であれば尚更な。

 

因みにホリンは呆然としています、ぶっちゃけ武人の墓場ってことになりますからな。レイミア達は知っている場所みたいだからまぁ・・・大丈夫みたいだが、現役バリバリで知らなかったホリンは・・・ってヤツだね。・・・・・・しかし、・・・忘れられた地ねぇ。・・・失礼ながら、俺としては都合の良い地ではあるな。

 

 

 

 

 

 

俺がイザークへと来た理由は一つ、動乱のきっかけとなるリボー一族が引き起こしたダーナの虐殺、それが起こるか否かを調べる為だ。・・・ヴェルダンで暗躍が起きているのは兄貴の亡命で分かっている、故に起きることは確実であろうとは思う。ぶっちゃけ調べるのは二の次、本命は救える命を救い出しトラキア陣営に迎えることだ。言わずと知れた戦士の国イザーク、この国の戦士を迎え入れたらトラキアの戦力は更に高くなる。

 

・・・動乱の中でグランベルは強大な力を得る、大陸一の領土を手にするのだから。そんなグランベルにトラキアは屈することはしない、・・・ディアドラを守る為に教団を国に入れるわけにはいかないのだ。そして民達を・・・子供達の命を守る為に戦わなければならない、その為には戦力をより強化しなければならない。トラキアの為ならば、俺はダーナの虐殺を見逃す。そしてイザークが滅びることも致し方なし、俺は聖人ではない。それに今更、何をやっても止まりはしないだろう。そして・・・全てを守ることなど、人の身で出来る筈がないのだからな。滅びゆく国の中でこそ、次代の為に俺の下へと降る者がいるだろうさ。

 

・・・虐殺が起きると考えれば、既に国内には教団の者が潜んでいることは確実。そんな教団の目から逃れるのにこのティルナノグは最適、この地をイザークでの拠点として行動するのが最も安全であろう。そしてあわよくばトラキアの飛び地に、保護地に定めて来るべき時にはこの地から・・・。俺はそう考えている、まぁこの先どうなるかは分からんけど。とりあえず、そういう方針にしようかと考えますわ。色々と考えなければならないが、まずは行動せねばならない。細かいことはそれからでいい、さて・・・どうするかな?

 

 

 

 

 

 

クーちゃんから聞いたティルナノグのこと、そこで暫く・・・と言っても数分間、・・・だと思いたいが考え事をしていたみたいで、

 

「エシャル様、・・・何か気になることがあったのですか?」

 

と、何やら心配そうな顔で俺を見るディアドラ。その言葉で思考の海より戻った俺は、バツが悪いように笑みを浮かべて、

 

「・・・いや、すまないなディアドラに諸君。この地のことを聞いてね、これからどう動くかを考えてしまったよ。・・・イザーク国民にとっては負の地であるようだけど、俺からしてみれば良い地であると言わせてもらう。レイミア達やホリンに問題が無いのなら、この地を拠点として動きたいのだが・・・大丈夫だろうか?」

 

「問題があったらここを想像して、エシャル様達を連れてきやしないよ。こんな場所でも私達の故郷みたいなもの、拠点にしてもらうってんなら嬉しいことこの上ないね。」

 

俺の言葉に反応し返してきたレイミア、少しばかり元気になったかな?・・・にしても、この地がレイミア達の故郷か。レイミア達は折れた者達の末裔ってわけか、・・・ビックリだよね?彼女達の故郷は折れた者達の住まう地なのに、彼女達は折れてはおらず剣を握り、傭兵として各地を飛び回っていたのだから。末裔の中にも強き者達がいる、なおのことこの地が欲しくなったのは仕方のないことだよな?

 

レイミア達はいいとして、ホリンは・・・・・・、

 

「・・・ティルナノグが実在していたとは、・・・・・・知らなかったとはいえ俺は、・・・俺は剣士としてこのままいけるのか?」

 

・・・と、ややへこみ気味であります。イザーク国民にとってこの地は、・・・ティルナノグはそんなに重い地なんか?他国民である俺には分からんけど、イザークの紡いできた歴史がそうさせているのだろう。負け犬はいらない国の歴史、俺にどうこう言える資格はないけれど。・・・くだらない、俺は単純にそう思う。

 

レイミア達はこのティルナノグを出身地としているが、この地を飛び出し各地を巡り、剣を片手に研鑽を積み・・・今は俺の下に。そんな彼女達を愛おしいと思う、この地に生まれながらも前を向いている。彼女達の心は分からんけども、俺の下で働く意志は感じる。故郷を胸に、歯を食いしばって生きてきたのだろう。・・・俺には分かる、その流れる血に微かではあるが聖戦士の血があることを。その強き意志が、戦士の誇りは、決して折れてはいない。未だ迷いはあるのだろうが、彼女達ならばきっと・・・・・・。

 

・・・に比べてホリンの奴はウジウジしている、何とも情けない。イザークの王子・・・何て名前だったっけ?え~と・・・マ、・・・マリクル!そうそうマリクル王子だったな、彼にいずれ勝利すると言っていた男がこんなんでいいのか?・・・否!この程度で自身の道を不安に思う奴如きが、剣聖オードの継承者であるマリクル王子に勝てるものか!逆に、自分がこの地に誇りを思い出させてやるというぐらいの気概を見せてほしいものである。不屈無くして大成などしない、この世界はそう甘くはないのだよ。

 

俺とて曖昧ではあるが、負け犬である。・・・教団にしてやられたばかりか、たぶん・・・忘れてしまっているのだろうが、身近で大切な者達を亡くしている。再会したアイーダは俺のせいでもあるが、教団に何かしらをされてしまっている。故に今はトラキアの館にて、彼女は眠り続けている。俺自身も逃げて逃げて、そこでガンドルフの兄貴と出会い、トラキアにて自分のやるべきことを見付けた。負け犬でも前を向いて歩けば、必ず報われると信じている。信じなければそれで終わりなのさ、人生ってものは。・・・・・・要は自分を信じて歩けということ、心強く進むことこそが戦士の証。負け犬の何が悪いか、そこから知ることもあるだろうに。俺は狼狽えるホリンの尻に、問答無用の蹴りを入れた。当然身構えていないホリンは、盛大に吹っ飛んだ。

 

──────────────────

 

ーホリンー

 

レイミア殿の案内?になるのだろうか、エシャル殿のワープにて俺の本国であるイザークへと来た。マリクル王子に勝つ為、イザーク国内を全て渡り歩いたつもりなんだが、今日来た場所は初めて見る場所だ。世界は広いと言うが、我がイザーク王国もなかなかな・・・。そう思いながら周囲を見回すが、何故だろうか?街の規模に比べて人の数が少なく、いたとしても暗い表情で道を歩いている。エシャル殿達が寄った服屋の主人に至っては、俺達を同情の目で見てくる。・・・その視線を受けると、何故か胸が締め付けられる気がする。何なのだろうかと思ったのだが、その理由はすぐに分かる。

 

 

 

 

 

 

折れた剣の集う場所、ティルナノグ。イザーク国民・・・特に戦士の部類に属する者なら知っている、・・・戒めの名ティルナノグは存在していた。物語の中だけかと思っていた、行こうにも行ける場所ではない。その場所が何処にあるのかは誰も知らない、行ける者は戦士として死んだ者だけ。戦士の墓場ティルナノグ、俺がこの場所に・・・・・・。

 

そのことを知った時、俺は呆然としてしまった。・・・なんて所に来てしまったのかと、・・・俺の剣士生命は終わりを迎えるのかと。この地の陰鬱とした雰囲気、そして人々の視線。胸を締め付けられる気がしたのは、その視線のせいだと気付いた。・・・それは同情、・・・俺に哀れんだ目を向けてくる。同情の目で俺を見ないでほしい、俺はまだやれる男だ。・・・俺はまだ戦える、・・・俺は剣を振るえる、・・・俺の闘志はまだ消えていない、・・・俺には目標がある、・・・・・・俺には。

 

・・・・・・何故だろうか?どうにも俺の心に不安というモノが見え隠れする。こんなことは初めてだ、・・・これがティルナノグ。死を受け入れた戦士の目はこれ程までに恐ろしいモノなのか?知ったが最後、幼き頃より植え付けられた戦士の墓場ティルナノグの名。その名がここまで、心を蝕むモノだったとは。・・・イザークの闇、戦士の行き着く先は全て・・・。

 

自問自答をしていた俺は、突然の衝撃に為す術もなく吹っ飛ばされる。その衝撃で俺は正気に戻り、

 

「・・・一体何が!?」

 

体勢を立て直し振り向いてみれば、エシャル殿が蹴りの体勢で立っていた。

 

 

 

 

 

 

体勢を戻したエシャル殿は、俺のことをジッと見てきた。・・・何故そんなに凝視するのか?

 

「・・・そんなしけた顔をしてんじゃない、お前はその程度なのか?禁忌の地だか墓場だか知らんが、お前の剣はまだ折れてはいないだろ。・・・まぁイザーク国民故に思うところもあるだろうが、・・・立ち止まるな。レイミア達を見ろ、そして俺を見ろ。・・・お前にも話しただろ?こう見えても俺は負け犬だ。それがどうだ?トラキアの将軍に収まっている。ティルナノグに縛られるな、逆に変えてみせるぜ!とでも言ってみろ。揺るがぬ心なくして王子にも俺にも勝てんぞ、・・・レイミアとクーちゃんにも勝てん。それでいいのか?ホリン。」

 

エシャル殿は俺に対しそう言ってきた。

 

・・・エシャル殿の言葉を考えてみる。・・・この地に来たからといって、俺は折れていない現役の剣士だ。そして俺には目標がある、・・・マリクル王子に勝つこと。技術的に天と地ほど離れているわけではない、もう少しで一太刀だけでも入れることが出来そうなんだ。・・・俺に足りないモノ、・・・俺はレイミア殿達を見る。口ぶりからしてこのティルナノグの出身、なのに折れてはいない。それどころか、何やら強い意志を持っている、・・・そう感じる。その目は戦士の目だ、前を向いている。それに比べ俺は、ティルナノグという言葉に恐れを抱いている。・・・エシャル殿だって自信に溢れた強者の目をしている、俺如きでは語れない道を歩んできたのにだ。

 

イザークへ来る前、俺はエシャル殿から色々と話を聞いた。エシャル殿は二つの血を、聖戦士継承者の資格を二つも持っている。その二つの血の間で、どれ程・・・苦悩したことか。そして事件が起こり、エシャル殿自身も覚えていないようだが逃避行の日々。最近思い出したことは、自身に近い者による暗殺・・・ではなかろうかということ。そして俺と出会ったアグストリアにて、エシャル殿にはロプト教団の影がチラついているとのこと。・・・ロプト教団にこれから先、狙われる可能性が高いと・・・俺は知った。そのようなことがあったり、これから先に起きるかも知れないことがあるというのに、・・・エシャル殿はそれを微塵も感じさせない程、・・・前向きだ。より良い未来を掴む為に、日々・・・明るく過ごしている。・・・それは何故か?・・・エシャル殿の心が強いからだ。

 

レイミア殿達にもそれは言えることだ。話を聞く限りティルナノグの出身、なのに・・・折れずにいる。先程までは少しだけ暗い雰囲気を纏ってはいたが、エシャル殿の発言にていつもの雰囲気に戻った。・・・それを見るに、レイミア殿達もこのティルナノグには色々と思うこともあるのだろう。故郷であればそれも仕方なし、だが・・・折れずに傭兵として大陸を巡る強さがある。そう・・・、心の強さだ。レイミア殿達はこのティルナノグを変えたいのだろう、その想いが強く・・・今も戦っている。エシャル殿は彼女達のそこに目を付け、個人で彼女達を雇い入れた。今回の調査の為というのもあるだろうが、彼女達のその意志・・・経験を求めたに違いない。

 

・・・それに比べて俺は?エシャル殿に負けて、その剣に惚れ込んで自らその配下・・・弟子となったつもりだが。・・・確かに剣の技術は上がったと思う、だが・・・それだけだ。その技術が自身の強さになっているとは思う、思うのだが・・・俺は・・・。

 

・・・俺はただの剣士だ、その技術を高めるだけの剣士。・・・マリクル王子に勝つことだけを考えてここまでやってきたというのに、俺はいつの間にか剣術を高めることだけに執着していた。いつ・・・闘争心が消えた?いつ・・・俺はただの剣士にへと落ちぶれた?・・・・・・考えれば考える程、俺は剣士であって戦士ではないということに気付いた。・・・そういえば、この地がティルナノグであると知った時、最初に思ったことは・・・、

 

『俺は剣士としてこのままいけるのか?』

 

・・・そう、俺は戦士ではなく剣士と言ってしまった。俺は剣士だ、それと同時に戦士でもある。だが、俺の戦士としての心が死にかかっている。エシャル殿に蹴られて、考えて・・・気付くことが出来た。もし蹴られていなかったら気付きもせずに、折れる前になまくらとなってつまらん男になっていたことだろう。

 

・・・今思えば、海賊との戦いで久々の殺気を怯む程に浴びた。その時はかなりキツかったが、・・・俺の心は高ぶっていたな。武器も何もないレイミア殿達を守る為に、殿として海賊達をいなして逃げたあの時、俺は確かに戦士だった。弱きを守る者として、心を奮い立たせた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・そうか、・・・そういうことか。俺には心が備わっていなかったのか、・・・だから俺は。そういえばマリクル王子も言っていたな、

 

『ホリンは技術だけはいいな、・・・だがそれだけだ。お前には何か無いのか?強さを求める以外の何かが・・・。』

 

強さを求める以外の何か、・・・俺には無いな。だが、あの戦いではあった。レイミア殿達もそれぞれあるのだろう、自身の心の中に決して譲ることの出来ない何かが。エシャル殿にも、・・・まぁ言わずもがな。

 

ティルナノグに縛られるな・・・か、・・・なるほど。心の何処かで気付いていた弱さ・・・何もない俺は、ティルナノグという戦士の墓場に引き摺られていたようだ。・・・今からでも遅くはないか、気持ち新たにいけるものかね?・・・気付いただけ良かったのかもしれん。戦士の墓場から再び立ち上がる、・・・何だか一回りも強くなれそうだ。

 

そんな俺を見ていたエシャル殿は、

 

「蹴ってから数分間・・・何か考えていたみたいだが、ホリンならすぐに戻れるとは思うぞ。強さだけではなく、他に揺らがぬ何かを見付けられれば更に強くもなれる。要はここだここ、・・・俺もまだ決まりきってはいない身だけどな!」

 

親指で胸をトントンと指す。エシャル殿を見て、俺は自分の進む道を改めて考えようと決意した。それと同時に揺るがぬ何かを見付けなければな。




ティルナノグは戦士の墓場という設定。

故にこの場所は禁忌の地として、イザーク国民は住人以外は絶対に近付かない。というか、場所を知らない。

精霊の森のディアドラの故郷と同じようなものです。

ティルナノグ出身のレイミアは・・・アレです。

とにかく、エシャルはこの地に目を付けました。何か企んでいる模様。

子世代の伏線になるのかな?


ホリンはイザークの現役として色々思い悩ませました。

一皮剥けるかな?



久々なんで、作者もちょっとアレです。

正直に言って、アレ?って自分で感じています。もやもや何ですよね、・・・間が空くとやっぱりダメだなぁ~。

でも頑張りますぜw


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第2話 ~やることを確認

久々の投稿です。

久々の投稿なんでやることを確認しました。

今更ですが、亀になりますよ。


ーエシャルー

 

ホリンがモヤモヤしとるが、まぁ大丈夫だろう。最初は悪い方向にモヤついていたが、今は良い方向にモヤついているのだからな。とりあえず、この地が負の地だろうが関係ない。レイミア達は喜んでくれているし、特殊な地故に教団の手も入っていない。俺が反応しないんだから、確実に奴等はこのティルナノグの存在に気付いていない。それはとても素晴らしいことなのである、…俺的に。

 

今は全体的に暗いティルナノグ、いずれは活気溢れる地にしてみせる。単純にトラキアから人を呼び、関わらせていけば自ずとそうなるだろう。この地をあまり知らない、もしくは知らない者と関われば少しは何かしらの感情が出てくると思う。そこから食事でもいい、娯楽でもいい、人生まだ捨てたモンじゃないってことが芽生えれば…。この地に流れ着く前の気持ちが甦れば、きっとこの地は生まれ変わる。希望の光を見せてやれば、人はきっと前へと進む。

 

…ティルナノグの今後に思いを馳せつつ考える、生まれ変わったとしてもこの地は隠れ里のままにするべきだな…と。調査に来た俺達だが、先に述べたと思うがイザークの滅びは確実と言える。そしてこのティルナノグ、忘れられた地は俺達にとっては都合の良い地。この先どうなるかは分からんが、俺の知る歴史通り動くとしたら重要になる地だからな。隠し通せるのならば隠し続けたい、しかしながらこの地に少しでも希望が芽生えれば? この地の力が、忘れられた地としての機能が無くなるかもしれない。

 

隠れ里のままにするにはどうすればいいのか? そう考えると彼女の顔が浮かんでくる、そう…ディアドラだ。彼女はヴェルダンの隠れ里出身だ、このティルナノグによく似た精霊の森のな。選ばれた者以外は決して辿り着くことが出来ない、そういう術式を森全体に施されている。人払いの術、…ディアドラもその術を使えるらしい。その術をこの地に使えたら、ティルナノグは隠れ里として機能する筈。上手くいけば忘れられた地の特殊な力と合わさり、更に強力な人払いとなる…可能性がある。まぁこの地の特殊な力は消える可能性がある故に、何とも言えんが。

 

 

 

 

 

 

俺の考えたことが実現可能かディアドラに聞いてみたところ、

 

「エシャル様もお気付きかと思いますが、ティルナノグには何人も侵すことの出来ない力が宿っています。…邪気を拒む力ですので、人払いの術は有効かと。ですが…私だけでは魔力が足りません、それと幾つかの魔石が必要になると思います。」

 

実現可能ではあるものの、魔力が足りないらしい。それと要所要所に魔石を配置しなければ、強い効力が発揮出来ないんだって。…やはり人員と時間、物資が必要になるか。人員と物資は何とかなるものの、時間は…今の段階では無理だわな。とりあえず人員と物資だけでも準備をしておこう、術を施すのは調査が終わってからでも遅くはない。

 

だがなぁ…この地に宿るは負の力、俺的にそう感じるんだよね。ディアドラ的には邪気を拒む力、…そう感じるらしい。何で俺は負だと思い、ディアドラは邪気を拒むと思ったのだろうか? その違いを考えると一つのことに辿り着くのだが、まぁ何となくは予想が付くだろ?

 

………闇、それが答えなんだと思う。俺の身体に潜むナニカは闇、故に邪気が多少は含まれるが為に不快感を覚えて負の力だと思ったんだろう。逆にディアドラは光、邪気が無い為に清き力…邪気を拒む力だと。そう考えると、このティルナノグは何かしらの聖地になるのだろうか? …その内、この謎を調べたいと思う。

 

 

 

 

 

 

ティルナノグの件は追々やるとして調査の件だ、確か…リボーだったな? 始まりはそこの暴虐からだった筈だが、他に不穏な空気を発する場所はあるのだろうか? ヴェルダンとシレジアの情報には不自由しないが、その他の国の情報にはやや疎いのが現状だ。俺は立場的に色々あるし、自由に行動はしているけれど一応制限はしている。教団の影が色濃い国には近付かんし、教団が関わっていそうなことには極力首を突っ込まないようにしている。既に関わってしまっているヴェルダンは、行動を注視しているから問題ない。

 

…とまぁそんなわけで、俺はイザークの情報には疎い。故にそれを解決する為、俺以上にイザークを知る彼女達を連れてきたのだ。レイミア達にはこのティルナノグを紹介して貰った、…で肝心の情報はというと、

 

「リボー周辺は表向き…平穏ではあります、…不自然な程に。他の地域はそれでも小さな問題が発生しているのに、リボー周辺は何もかもが平穏なのです。」

 

妹のような存在であるティルテュ、彼女は色々と知っている。フリージ公爵家の姫様で俺に憧れて色々と頑張った結果、グランベルでは勿論のこと他国にも知られる程の才女となったのだ。

 

…何故彼女が情報に詳しくなっているのか? その原因は俺であるらしい。俺が死んだとされるあの事件、謎が多すぎる為に捜査が打ち切りになった。それを知ったティルテュはそのことに失望し、幼いながらも情報こそが重要と考えてレクスヴァとシャールヴィの力を借りて、彼女の為の諜報部隊を密かに結成させたんだと。…俺が死んだことで幼子のティルテュが覚醒した、嬉しいやら悲しいやらって感じですな。まぁそれでも、俺の死の真相は分からずじまい。今思えば分からなくて良かった、ティルテュはそう言って笑った。…俺もそう思う、知ってしまったら殺されていたかもしれないのだから。

 

そんな彼女の諜報部隊からの情報によると、リボーは平穏なのだそうだ。何の喧騒もない平穏そのもの、不自然な程に。人々の小さな衝突すらなく、流されるように行動する様は人形のよう…だそうだ。だがその目には不穏なものが見え隠れしており、一定の間隔で黒ずくめの者がいるとのこと。…それを聞いた時、教団の手により最早止めることが出来ない所まで来ていると改めて思った。

 

しかしながら、

 

「よくもまぁそんな最新情報を知っているものだね、直前に伝書でも届いたのか?」

 

リボーの情報が凄い、あんな危険な場所に潜入している者がいるのかね? とティルテュに聞けば、

 

「その通りですエシャル兄様、たった今…魔導具より届いた情報です。たまたまイザークにいた彼が役に立って良かったかと、…年若い者ですが腕はレクスも認めています。万が一もないかと…。」

 

…魔導具とかってティルテュ凄いな! レプトールの親父さんの親バカぶりには驚かされる。しかもたまたまとかって都合が良すぎる、…裏でレクスが指示していたな?

 

現地にいるのなら、どうにか接触出来んかね? と聞いてみれば、

 

「身の危険を感じてきたそうで離脱すると言っていました、…ですので彼に聞いてみます。」

 

…離脱か、…ではそろそろというわけだな? これから忙しくなるぞ、たぶん。

 

合流するしないはともかく、その命知らずの彼の名でも聞いておこう。興味本意で聞いてみれば、

 

「彼の名前はデューと言います、…エシャル兄様?」

 

…………デューだと!? ここ最近で一番驚いたことであった。

 

 

 

 

 

 

ティルテュがデュー君に問い合わせた結果、

 

「慎重に行動しないといけない為か、イザークであれば合流出来るかと。…他の場所ですと教団の目があり危険、イザークは継承者が数人いる為にその目はないとのことですが、…如何致します?」

 

………これは悩むな、うん。教団の目を掻い潜る為にはイザークでの合流が必須、しかしながら継承者がいることで共鳴は確実。ホリン情報では継承者マリクル王子は戦闘狂、共鳴しようものなら確実に絡んでくるとのこと。黒騎士ヘズルと知れば、それはもう笑顔で剣を交えようとしてくるらしいじゃん。隠密行動な俺達には、そういうことは大変よろしくない。

 

ないのだが…安全を考えると、俺はともかくディアドラの身を考えると…。教団の目を避ける必要があるわけで、…目立つのも戦うのも嫌だが、…仕方ないよな? その身で感じ、その目で見てきたデュー君に接触することはとても重要なことである。人伝よりも本人の口から聞けば、何かしらに気付けるかもしれんわけだし。決してティルテュを信用していないわけではないからな! そこは勘違いしないでくれよ?

 

安全性と重要性を考えた結果、イザークにて合流と決まった。マリクル王子の件は何とかなるだろう、…というかする。話せば秘密裏にやってくれるだろう、剣を交えることを条件にすればきっと…。そうと決まれば全員集合だ! 班分けをするからな!

 

 

 

 

 

 

みんなの意見を聞き考えた結果、イザークへ行くのは少数で俺とディアドラ、ティルテュにホリン、それとエーヴェル。剣の買い出しをカナッツ君、ノルン兵と傭兵の混成班。一応安全とはいえ警戒するに越したことがない為、レイミアをリーダーとした同じく混成班。この三つに分けてみた、カナッツ君とレイミアは兵を率いることには長けている、故に安心して任せられる。まぁ買い物と見廻りだから、二人にとっては拍子抜けかと思うけどね。でも地味に重要なことだから、手を抜かずにやって貰いたいと思う。根が真面目な二人だから大丈夫だとは思うが、心配はする。

 

ディアドラが一緒なのは当然のことである、常に俺が目を光らせ守らなければならない存在だからだ。たとえ目を付けられたとしても、この俺が傍にいる限りやらせはせんよ。ティルテュはデュー君の件もあるが可愛い可愛い妹分である、それと同時に頭もキレる故に頼もしい存在だ。それに剣を交えることになれば、彼女自身の勉強にもなる筈。剣の腕を上げたいと言っていたからな、そこはエーヴェルも同じである。彼女は弓使いウルの継承者ではあるが目覚めてはいない、いつ目覚めるか分からん状況故に傍に置いておく必要がある。継承者はぶっちゃけ重要なカードだ、万が一があってはならない。そう考えると弓だけでは自己防衛として心許ない、近接も使えるようにならなければならん。…で勉強も兼ねて連れてきたわけだし、本人も意外に乗り気であるからな。本人のやる気も尊重してあげたい、そういうことを踏まえての人選である。ホリンは言わずもがな、…この国出身の為に道案内である。マリクル王子のことも知っているし、未だモヤついているからな。…気分転換になるだろうよ、うん。

 

 

 

 

 

 

班分けも無事に終わり、俺達はイザークへ。ホリンに頼んで人目の付かぬ場所を想像して貰い、手取り早くワープで行くのだ。使えるものは使わねばならん、安全第一だしな! …がその前に、

 

「金を気にすることなく剣を買い揃えるのだぞ、カナッツ君! 強力な武器があれば起こるであろう動乱にて、我らトラキアが他国よりも躍動出来る。そしてレイミア、ティルナノグ…故郷の見廻りは任せた。出来ればでいいから、結界用の魔石を置くのに適した場所を探しておいてくれ。トラキアの栄光とティルナノグの未来が少なからず絡んでいる、手を抜かずにやり切ってくれたら嬉しい。…諸君、任せたぞ!」

 

改めてカナッツ君とレイミアに指示を出し確認、その他の兵と傭兵達に軽く激励を。

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

カナッツ君とレイミア達は揃って俺の命を受ける、その目を見ればやる気に満ちている。…良いことだな、これでトラキアの軍事力は上がり、世界に存在を知られることのない拠点が入手出来る可能性が…。

 

色々と思案しながらもやるべきことは忘れない、ホリンの想像も準備が出来たみたいだしな。

 

「…ワープ!」

 

俺はディアドラ達と共にワープでイザークへ、そこに待っているのは何なのか?

 

 

 

 

 

……でイザークに着いてみれば、

 

キィィィィィィィィィンッ!!

 

いきなりの共鳴に俺は驚く、目の前にいる黒髪イケメンも口を開けて驚いている。傍にいる美人さんも目を見開いており、ホリンの奴は俺に向かって土下座をかましていた。

 

……やらかしたな? ホリンよ!




近々デュー君が登場します。

それよりも先にマリクル王子とアイラが登場、ホリンが余計な想像をした為に鉢合わせ。

次話では、二人のどちらかとエシャルが剣を交えることになるかも。


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第3話 ~黒髪美男と美女

ナヒーモフさん、早起き三文さん、ROXASさん、感想ありがとうございます!

なかに17さんもありがとうございます。

キャラのTSは考えたことなかったわ。

……やったら面白いんかね?


ーエシャルー

 

この状況は何だ? イザーク故に人目の付かない場所へワープした筈なのだが、目の前には黒髪の美男美女がいる。剣聖オードの継承者と会わぬようにと考えていたのに、共鳴をしてしまったからどちらかが継承者であることは分かる。…これは予想外だよ、…原因のホリンは土下座しとるし。さて、…どうしようか?

 

…嫌な沈黙が流れ、互いにどうしようかと思案している。頼みの綱であるホリンは土下座中、役に立たないことは見て分かる。…で、目の前にいる黒髪美男がマリクル王子だな? …共鳴したし。マリクル王子(仮)も俺から視線を外さない、そして剣の柄に手を添えとるし。…何かあれば一閃といったところか? 流石は剣聖オードの継承者と思わしき人物、…隙がない。

 

しかしこのままというわけにはいかない、俺にはデュー君と会わなければならないという使命が! そう思い、こちらから話を進めようとしたところ、

 

ヒュンッ!

 

キィンッ!!

 

マリクル王子(仮)の横にいた黒髪美女が、俺に向かって剣撃を放ってきた為に余裕でそれを受け止める。剣を鞘から少しだけ抜き、その一撃を受け止めたのである。その光景を見ていたマリクル王子(仮)は目を輝かせて、受け止められた美女は目を見開き驚いている。剣と剣が交わり鳴った音に土下座中のホリンが気付き、顔を上げればこの状況。…固まっているなホリン、…俺もその立場だったら固まるわ。…にしても、…本当にどうしよっか?

 

────────────────────

 

ーマリクルー

 

アイラとの手合わせを終え、それと同時に将来を心配した俺。少しの休憩を挟み、城へと戻るかと腰を上げて歩み出そうとした瞬間、

 

キィィィィィィィィィンッ!!

 

…突然の共鳴と共に現れた謎の集団、…何奴!? と思ったのだが動けない。共鳴をしたということは、この集団の中に継承者がいる。それも…強力な力を持った継承者が! 俺は直ぐ様その集団へと目を向ける、男二人に女三人か…。微かに感じる力、この五人全てが力ある者とみた。…流れるように土下座をした男には見覚えがある、…だがそれよりも!

 

…もう一人の男、…仮面で上半分を隠した男が気になる。自然な立ち姿ではあるが、その手は直ぐにでも剣を抜ける位置にある。それに…仮面で隠れてはいるが、その目は俺を捉えている。そう感じるのだ、…直感的に。…この仮面の男こそが継承者、それも剣を得意とする聖戦士の! 思い浮かぶは聖戦士バルドと黒騎士ヘズル、…というかこの二つしかない。……昂る心を抑えながらも、どうするかを考える。…私に匹敵する程の者だからな、…まずは話でもしてか?

 

そう思い口を開こうとした瞬間、…マズイ! と思った。俺が言葉を発する前に、アイラが剣を抜き放ってしまったのだ。流石の俺も可愛い妹とはいえ、何と愚かな…と思うのは仕方なきことだろう。……アイラにしてみれば、必中の一撃とでも思っているのだろうな。だがその一撃は、目の前の男には児戯に等しい。…ほら、

 

キィンッ!!

 

…あっさりと受け止められた。剣を完全に抜かず、涼しい顔でお前の一撃を…な。…にしても素晴らしい! 未熟とはいえ、強者の類であるアイラの一撃をあっさりと! ……フフフフフ、俺も彼と剣を交えたい! 久々に心躍る戦いをしたいな!!

 

 

 

 

 

 

徐々に昂る心を抑え、アイラと対峙する彼に向けて笑みを浮かべていると、

 

「……アイラ! 剣を退け!! お前ではエシャル殿には絶対に勝てん、力量を見誤るな!!」

 

土下座男が二人の間に入ってきた。…見覚えがあると思っていたが、まさかホリンだったとは。彼等と共に現れたってことは、…ホリンに関係のある人物か? それに暫く見ぬ間に、昔以上に強くなっている。…今のホリンはアイラよりも上と見た、…喜ばしいことだ!

 

…………ん? ホリンの奴が何か重要なことを言ったような? …人の名前、…それもここ最近よく聞く者の名前。

 

「…貴様はホリン! まさかお前が賊の一味となり、我がイザークを急襲するとは!!」

 

…エシャル、…確かにホリンはエシャルと言った。エシャルといえば、天翔る騎士、シレジアの天馬騎士と聞いているが。…仮面の男は騎士というより剣士、イザークの民族衣装を着ているからかもしれない。それ以上にペガサスがいない、そこから考えるに彼はシレジアの天馬騎士であるエシャルではない。

 

「賊とは失礼な! 俺達は賊ではない、人と会う為にイザークへと来たのだ!!」

 

そもそもシレジアの天馬騎士であるならば、継承者である筈がない。シレジアの継承者は魔法を得意としている、何と言ったか…風使い? …とにかく武に長けているわけがない。あのように、アイラの剣を容易く受け止められる筈がないのだ。

 

「…ふん! 怪しげな奴等と共にいるお前の言葉など、私は元より兄上も信じぬわ!!」

 

聖戦士バルドに黒騎士ヘズル、グランベルとアグストリア。そこの継承者がこの辺境の国にいる、…どう考えてもあり得ない。グランベルは何だかんだで我がイザークを嫌っている、昔よりもマシとはいえな。故にこれもあり得ない、この国へ来ることはない。アグストリアは遠すぎる、…考えるまでもない。…となると、この仮面の男は? まさかの剣聖オード? 金髪だがホリンの奴も金髪、ソファラの隠し子か?

 

 

 

 

 

 

…俺が仮面の男について、色々と考えている中で、

 

「昔よりも頭が固くなったんじゃないか? …ふっ、…その調子では未だぼっちのお姫様ってとこか?」

 

「ななな何故そのことを…!? いや…別に気にしてなどいない、…ぼっちこそが最強だもんね!!」

 

アホな妹のアイラと、湧いて出たホリンの言い争いが激しくなってきた。…いつの間にか低い次元にまで落ちている言い争い、二人は気付いているのだろうか?

 

「見てくれだけは良いみたいだが、…それじゃあ嫁の貰い手は現れんだろうな! この先もずっと独り身か?…まぁ、…頑張ればいいと思うぞ?」

 

「………!? …ホリンの癖にホリンの癖に! バカバカバカバカホリンのアホ!! 馬糞男の芋野郎!!」

 

…低い次元に落としているのはアイラだな、何とも頭の悪い。何だその馬糞男って、…馬糞と言えばお前自身ではないかアイラよ。幼き頃に馬糞で転がった回数は数知れず、…泣いている姿が直ぐに思い出されるぞアイラ。それと芋野郎、俺は見逃さなかった。そう言葉を言い放った時、仮面の男の口元がヒクついた。…芋に何か嫌な思い出でもあるのだろうか?

 

まぁ何にせよ、

 

「…この野郎! ぶっ殺してやるからな、ホリン!! 流星剣の餌食にしてくれるわ!!」

 

「最終的には直ぐそれだ、お前はガキか? …まぁいい、月光剣で熨してやる!!」

 

…言い争いのせいで二人が熱くなりすぎ、遂には剣を抜いて対峙してしまったわけで。昔のままにアイラが先に怒髪天を衝き、ホリンが静かに怒り出す。本来であれば放っておくのだが、状況が状況だけにな。ホリンの成長を見たい気持ちもあるが、…二人を止めねばならない。

 

────────────────────

 

ーエシャルー

 

いきなり斬り掛かってきた黒髪美女、難なくそれを防いだ俺。…でそれに気付いたホリンが、間に入って収めようとするも黒髪美女が食って掛かる。それに対してイラッときたのか、ホリンも黒髪美女に色々と言い放つ。最終的に剣を抜いて対峙し始めた二人、全くホリンの奴は…。

 

…にしても黒髪美女の名はアイラね、…となるとマリクル王子(仮)ではなくマリクル王子本人ってわけですな。聞くところによると戦闘狂、俺を見て笑みを浮かべとるし。まぁ浮かべながらも二人を気にはしている、止める気はあるようだ。しかし…マリクル王子は俺と戦いたいようで、…何とも面倒な。

 

そしてマリクル王子以上に驚いたのがアイラ、…美女ではあるんだけどさ。突然斬り掛かってきたし、知り合いっぽいホリンの話を聞かずに食って掛かるし、…何より頭が悪そうなんだけど。原作キャラでも好きな方だったんだが、…現実ってこんなものよね? …何だかなぁ~。

 

 

 

 

 

 

少なからず衝撃を受けている俺に、こそりとディアドラが、

 

「…あの、…エシャル様。ホリンさんをお止めしなくてもいいのでしょうか?」

 

と囁いてきた。続いてティルテュも、

 

「ホリンさんが対峙している女性はアイラ王女です、顔馴染みのようですがお止めした方が…。」

 

ディアドラと同じ意見のようだ、…俺も止めようとは思っていたよ? しかし思いの外、そのアイラが馬鹿っぽかったので思考が停止してしまったわけで。…うん、止めるか。

 

俺が前へ出ようとすると、

 

「アタイの弓で止めようか? 余裕で射抜けるけど…。」

 

エーヴェルが弓を構えてそんなことを言ってきた。私、射ちたいです! という顔をしているな。…まぁ最近は剣ばかりで弓を射ってはいなかったからな、射ちたいのは分かる。…けどな?

 

「…射ち抜いたら怪我じゃ済まないよね? それはダメだろ、エーヴェルさんや。」

 

「エシャル様かディアドラ、ティルテュ様の回復魔法でパァ~ッと…「「「却下!」」」…ちぇ~…っ。」

 

怪我をすると言えば魔法で回復とか言ってきた。最後まで言わせずに、三人で却下と遮ったけどな。そのせいでエーヴェルはむくれた、…子供か!!

 

 

 

 

 

 

そんなわけで今まさに斬り合おうとしている二人に、いや…ホリンへ向けて音も無く接近。その手を掴み、流れるように制して一言。

 

「…ホリンさ、最初の内は良かったけれど。…剣を抜いちゃあいかんよ?」

 

俺はホリンに対してそう言った。マリクル王子も動いたようで、

 

「…アイラよ、だからお前はダメなのだ。…何故剣を抜き放った、…ん?」

 

俺と似たようなことをアイラに言っている模様。そして次の言葉が…、

 

「「…俺に恥をかかせると言うのなら、…泣くほどしごいてやるが?」」

 

綺麗にハモってしまいました。…俺とマリクル王子って似ていたりする? …俺は戦闘狂じゃあない筈だが。

 

何か俺とマリクル王子が怒気と共に、継承者オーラを出してしまったようで、

 

「…軽率だった、す…すまないエシャル殿。」

 

「……あぅあぅ。」

 

直ぐに剣を納め、顔を青くしながらも謝罪してくるホリン。

 

…ガチャンッ!!

 

と剣を落としてヘタり込んでいるアイラ。そんなアイラを横目で見て、可愛いと思ったのは内緒だ。

 

因みにディアドラ達もビビってしまったようで、ディアドラとティルテュはプルプル震えてしまっている。修羅場を潜っているであろうエーヴェルも、顔を青くして冷や汗をかいている。……やっちまったなぁ~、…俺。

 

「……三人共、すまない。」

 

直ぐに三人の下へと駆け寄り、宥める俺がいた。

 

 

 

 

 

 

とりあえずは互いに落ち着いた? けど、…確実に言葉を交えないとダメだよなぁ~。俺はいいけど、…相手はどうだろうね?




次話投稿は未定!


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