姫ギルな我の周りには変な雑種共が多すぎる (招き蕩う黄金劇場)
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プロローグ 我は姫ギル様になってしまったようです

注意 ショコラさんはあんまり出てきません


人は、特典つけて転生できると聞いたらどうするか。

 

 

もちろん、『王の財宝』とか『一方通行』とかを特典に貰って最強の存在になるに決まってる。

たまに、「俺は努力で強くなるから宝具とか超能力とかいらねえッ!」とかいう稀有な奴も居るには居るのかもしれないが、大抵の奴は努力とかなしで最強の存在になる方を選ぶに決まってる。

それで、いざ特典に『王の財宝』に黄金律Aなどのギル様ステータスを貰って転生して、俺は最強だー!!って叫んでみたり。

しかし、そういった小さな幸せというものは、えてしてぶち壊されるもので。

 

「どうしてこうなったのだ……」

 

今現在、俺は公園の車イス用のお手洗いの鏡の前で立ち尽くしていた。

輝く白雪のように白い肌と煌めく金髪に全てを見通すような紅眼、服装は白いシャツに蛇柄パンツと、これだけであれば普通(・・)のfate/zeroのギルガメッシュなのだが、煌めく金髪は腰まであり不自然過ぎるほどに整った少女(・・)の容姿、白いシャツのせいで強調される胸元の双丘。

これでどんな阿呆でもわかるだろう。俺は人類最古の王のスペックを手に入れた代わりに、女体版ギルガメッシュ――通称姫ギルになってしまっていたわけで……。

これでも男に戻ろうと『王の財宝』で性転換薬を出そうとしたのだが、全然出てこない。エリクサーやら不老不死の薬やらは出てくるのに、性転換薬だけ全然出てこない。人類最古の王が性転換薬程度、持っていない筈が無いのだが。

さらに、何かの謎エネルギーによって口調までギル様口調になる始末。

 

「はぁ……王たる我がこの世界で力を振るう手筈であったのだがな。おのれ……我は一度たりとも(・・)で力を振るうとは言っておらぬというのに……!」

 

俺はお手洗いを出ると、現実逃避気味に公園周辺の散歩を始めた。

 

「うわっ、なんだあいつ」

「エロ本の臭い嗅いでるぞ、ヘンタイだ!」

 

暫く歩き、少し広い通りに出たときであった。突如、通りを曲がった先から小学生の大きな声が聞こえてきた。どうやらエロ本の臭いを嗅いで興奮するという特殊性癖の御仁がいるようだ。朝っぱらから堂々と人前で臭いを嗅ぐとは……なかなか胆も据わっているらしい。

 

「やっべ、エロスメルがこっち見てんぞ」

「はは、あいつ絶対ドーテーだぞドーテー」

 

これらの声を最後に小学生達が駆けてきた。皆が爆笑している。そこまで面白おかしいやつなのか、エロスメル(仮名)さんは。どんな人なのだろうか。

俺は純粋に、そのエロスメル(仮名)さんに興味が湧いたため、通りを曲がることにした。

そして、いざ通りを曲がってみると――

 

「……抱いてください」

 

高校生くらいのイケメンが、五十歳くらいのデカいおばさんを口説いている?現場に遭遇してしまった。どうやらこのイケメンがエロスメル(仮名)さんのようだ。

デカいおばさんはイケメンの言葉を聞くと、その目に獲物を狙う狼の如き鋭い光が宿る。

 

「奏ちゃん……ついにっ」

 

おばさんが体を前に屈めて――

 

「ちょ、ちょっと待った、今のなしっ――」

「いただきますっ」

 

――イケメンに突進した。それはもう闘牛みたいに。

そして、おばさんはそのまま突進の勢いで、イケメンに抱き付く。イケメンは断末魔のような叫びをあげた後、ギブ……ギブと掠れた声を苦しそうに出す。

十数秒経った頃、おばさんは「ごちそうさま」とイケメンをを解放してヌフフとニヨニヨしながら去っていった。

俺は一連の出来事につい思考がフリーズしてしまう。気が付いたときにはイケメンは、俺がつい先程通った十字路に差し掛かっていた。

そして、追いかけようと右足を踏み込んだ瞬間、俺は空を舞っていた。文字通り、空を。雲が昇る空を。

 

「キャアアアアアアアアア!?そ、空アアアアア!?」

 

俺のソプラノボイスの叫びは、落ちていく体が奏でるゴーゴーという風の音に虚しく掻き消されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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一話 姫ギル様は甘草君とチャラ神と邂逅する

急に生身で空に放り出される。

そんな非現実的な経験を持つ人間は居ないと思う。もし、そんな経験を持った人が居たのなら、現在進行形で地上へ落下していく俺に助言を授けてくれ。

現実逃避を繰り返しても、上空から落ちて助かるなんてことは起こり得ない。故に何か対策を講じなければ……。

地上まで、目測で20メートルくらい。数秒後には、俺の体は地面に叩き付けられて、愉快なオブジェになっていることだろう。

『王の財宝』に、高所から落ちても助かるアイテムはないのだろうか。ヴィマーナなどの飛行宝具があるくらいだ、あってもおかしくない。

心の中で、空から落ちても助かる効果を持った宝具を呼び出し続ける。

 

「……っ!来た!」

 

伸ばしている両手の前の空間から、黄金の波紋が現れて一つの体全体を覆えるほどの巨大なクッションが出てきた。しかし、大きさに比べて厚みがない。こんなので耐えれるのだろうか。といっても既に地上までの距離は目と鼻の先だ。今更、別のに変える時間などはない。

俺は目を瞑り、来るべき衝撃に備える。

そして、ついにクッションを下にして地面に突っ込んだ。

 

ポスン

 

そんな音と共に。

 

どうやら、地面に激突した衝撃をクッションが吸収してくれたみたいだ。これで一安心。

全身を駆け巡る安堵に身を任せ、クッションに大の字に仰向けになった。

ふと、視線を横にすると、小学生からエロスメルと呼ばれていたイケメンが目を大きく見開いたまま、フリーズしていた。

イケメンは我に返ったのだろうか慌てて此方に駆け寄ってくる。

 

「だ、大丈夫かっ!?」

 

俺は服に付いた小石などを払うと立ち上がる。

とりあえず怪我がないことをイケメンに伝えないと。

 

「心配せずとも良い……。この我の体に傷がつくなどありえんのだからな。

しかし、我の身を案じる心意気は忠義であった。褒美に我に名を名乗ることを許す」

 

そのまま、イケメンに顔を向けると目があった。

すると、イケメンはまたも呆然と立ち尽くす。俺の顔に何か付いているのだろうか。もしかして、見蕩れていたりとかだったりして。いや、ないな。初対面ですげー上から目線の奴に見蕩れるとかありえんわ。

 

「どうしたのだ、雑種。早く答えぬか」

「あ……ああ。俺は甘草奏。

えっと……君は?」

 

甘草奏か。女性っぽい名前だな。顔も中性的なイケメンだし、女装とかしたら性別がわからなくなるかもしれない。

 

「我の名を聞くか、雑種。まあ良い。我が名はギルガメッシュ。その耳にしかと刻み付けよ」

「あ、はい……」

 

その場に沈黙が訪れる。

それにしても滅茶苦茶気まずい。いくら相手がエロスメルだろうが、初対面相手に尊大なギル様口調はいただけない。多分、奏さんは口に出しはしないが心の中でイタい奴だと思っていることだろう。

そうして、沈黙に堪えれなくなったのか、奏さんが口を開いた。

 

「ええと……じゃあ、学校へ行くんで」

 

学校ねえ。一応、学校に通っておきたいけれど戸籍無いからな。まあでも宝具で何とかなるか。

俺は歩き出そうとした奏さんの背中へ声をかける。

 

「おい、貴様の通う学舎の名を言っていけ。これは王命だ。拒否するならば今後、日の光を拝めぬと知れ」

「私立晴光学園ってとこに通ってる」

「フム、そうか。行って良いぞ」

 

春の雰囲気が残る初夏の陽気を浴びながら、早足で俺はその場を後にした。

 

◆◇◆◇◆

俺は暇ですることもないため、腕に嵌めている金のブレスレットを指で弄りながら散歩していた。

 

「それにしてもこの我が学舎に通えるようになるとはな。つくづく宝具とは便利な物よな」

 

俺は奏さんと別れた後、私立晴光学園の教師に宝具で暗示をかけて転入生という立場を手に入れたのだ。

教師にかけた暗示は、fate/zeroでウェイバー・ベルベット君が冬木での拠点確保の際に老夫婦にかけた暗示の上位瓦換であり、効力が高く破られることはない……と説明書に載ってた。ここで言う説明書とは、転生した際に『王の財宝』やその中身の宝具の使い方の情報を神によって直接脳内にインプットされたものである。

そうして、歩いていると、突如、勝手に『王の財宝』が開き、スマートフォンが出てきた。スマホの原典とか何だよそれ。

というか、何で勝手に『王の財宝』が開くんだよ。

 

「何故、我の宝物庫から勝手にスマホが出てきたのだ……」

 

すると、俺の台詞に合わせるかのように、スマホから電話の着信を示すメロディが鳴った。

スマホを手に取り、相手の確認をすると『神』という表示。なんだよ神って。こんな奴が登録されてんのかよ。

とりあえず相手を待たせるのは良くないので電話に出る。例え、名前の表示が『神』だとしても。

 

「王たる我に何の用だ、下郎」

 

もしもしと言った筈なのに、いつも通り大幅に台詞が改変されてしまう。もう諦めたけど。

 

《どもども、神でーっす》

「畜生にも劣る身で我を愚弄するか、雑種」

 

俺はそう言い放つと瞬時に電話を切る。

ああいう類いの悪戯電話は、電話を切ってしまうに限る。会話をしたとしても得るものなど何一つないからな。

しかし、悪戯電話師が相手のスマホに、名前を表示させるするなんてこと可能なのだろうか。もしかしたら、悪戯電話では無かったのかもしれない。

とか考えていると、またスマホからメロディが鳴り出す。

 

《もしもーし、何で切っちゃうのー?ギルガメッシュちゃーん?もしかしておこなの?》

 

非常に軽い声がかけられる。もう切っていいかな。

しかし、俺の名前を言っているし、知り合いだったようだ。

 

《あれー?シカトするのー?もしもーっし、神だよお》

「御託はよい。疾く用件を話せ」

《うっは、マジ性急》

 

ウザすぎてこめかみに青筋が立ちそうなレベル。

自称神、チャラいにも程がある。全くどういう育て方をされたらこうなるんだよ。

 

《えーっとねー。甘草奏くん、知ってるよねー?》

「そやつが我と何の関係がある?」

 

もしかして、このチャラ男は朝の一件に関わっていたのではあるまいな。

 

《実はねー。ギルちゃん、空から落ちたでしょ?》

「あれは貴様の仕業だったのか……?もしそうであるのなら、その命をもって我に償え」

《いやー、あれねー、ちょっと手違いがあったんだよねー》

 

やはり、俺を空から落としたのはこいつだったようだ。チャラ男に見えて、英雄王である俺を空から落とすほどの力を持っている。油断は出来ない。

神というのは、案外本当のことなのかもしれないな。

 

《本来、奏くんの所に行く筈だったのは、こっちが用意した(しもべ)の筈だったんだよねー。

実はさー。奏くんにはね、呪いがあってねー。それで用意した僕を呪いを解くサポート役にするはずだったわけね。だけど、手違いでギルガメッシュちゃんが奏くんのもとへ行っちゃったんだよね。それでキミに代わりをやってもらいたいわけ》

「我が協力したとして、我にどんなメリットがある?」

《ギルガメッシュちゃんのお願いをなんでも叶えてあげちゃうよ。だから僕と契約してサポート役になってよ》

 

最後の台詞……お前は俺を魔法少女にでもしたいのかよ。

しかし、なんでも叶える……か。男版の英雄王になれるかもしれないな。それなら断る道理は無いね。

 

「良いだろう。我が直々に協力してやる。それで呪いとやらの解呪方法を教えよ。どうせ解呪は単純にはいかんのだろう?」

《サンキューね。それで解呪方法だけどねー。下されるミッションをこなしていけばいいみたい》

 

なんだろうか、このチャラ男、解呪方法が適当じゃないか。もしかして、呪いについて全てのことを完全に把握している訳ではないのだろうか。

 

「おい、貴様、もしや事を完全に把握していないのか」

《うん、ほとんど分かってないよ。これについてはさー、奏くんが居るときに一緒に話したいからさ。奏くん家に行ってきてくんない?

場所の情報送るからさ。じゃぁ、忙しいから切るねー。ばいび~》

 

そうして、通話は有無を言わさず切られてしまった。

 

◆◇◆◇◆

俺は、神から送られてきた位置情報を頼りに、二階立ての一軒家――甘草奏の家を見つけ出した。

鍵開け用の宝具で、ドアの鍵を解錠して侵入する。

時計を見ると、まだ昼過ぎだったため、奏さんが帰宅するまで寝て待つことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二話 姫ギル様は甘草君のサポート役となる

「ふう……」

 

自宅の玄関まで辿りついた所で、思わずため息が洩れる。疲れた……今日はとにかく疲れた。絶対選択肢に加えて、お断り5の雪平、遊王子コンビとのうんざりするような絡み。

しかし、このドアを開けたところで、お疲れさま、と出迎えてくれる家族は居ない。

親父の転勤にお袋もついていってしまったので、今現在、甘草家の住人はただ一人。俗に言うギャルゲー状態というやつだ。

今から夕飯の支度はきっついな、などと、やたらに主婦じみた思いを抱きながら、ドアを開けた。

 

「すーすー」

 

……なんかいた。

 

「すーすー」

 

……もとい、なんかが寝てた。

 

寝てる。ものっすごい寝てる。俺ん家の廊下に、なんか、すごい豪奢な装飾が施されたソファーが置いてあって、その上でなんかが、ものっすごい気持ち良さそうに寝てる。

意味が分からない……なにが起こってるのか全く分からない。いつだ?俺はいつメダパニをかけられた?

頭は混乱しきったままだったが、体の方が勝手に動いた。しゃがみこんで、その生物の体を勢いよく揺する。

そいつは、目をこすりながらゆっくりと上体を起こし、寝ぼけ眼でこっちを見た。

 

「む……?何処の雑種だ、貴様」

「俺が聞きたいわ!」

 

とはいえ、その正体は分かり切っていた。ストレートの腰まである長い金髪、ただの白いシャツがとんでもなく豪華な服だと錯覚してしまうほどのオーラ、尊大で周り全てを見下してるかのような声……間違いなく朝に会ったギルガメッシュとかいう生き物だ。

 

「何だ、奏ではないか、おかえり」

「あ、ああ、ただいま……ってただいまじゃねえよ!」

 

いや、なんかあまりにも自然に居るせいで、普通に返してしまった。

落ち着け。いっぺんに考えても仕方ない。

 

「まず……まず、だ。お前、どうやって人の家の中に入った?

それに、そのお前が寝ているソファーはどうしたんだ?」

 

こいつの目的がどうのこうのって前に、物理的な問題だ。いまさっき使った鍵は、たしかに俺のポケットに入っているし、合鍵は家の中に置いてあった。

ギルガメッシュはニヤリと笑う。

その直後、目を疑うような出来事が起こった。

何もないところから、突如、黄金の波紋が現れて、ソファーを吸い込んでいったのだ。さらに、もう一つの黄金の波紋が現れて、今度は何か小さな棒のようなものが出てきた。

 

「何が起こったんだ……」

「クハハハ、我自ら、教えてやろう。先程のソファーは我の宝物であり、普段は宝物庫に仕舞ってあるが任意に呼び出すことが出来るのだ。

そして、奏、貴様の家の錠はこの宝具を使ったのだ」

 

ギルガメッシュは、棒のようなものを、見えやすいように掌に置く。

 

「この宝具はな、錠に差し込むと形状を自動で変化させその錠にあった形となる。まさに王たる我に相応の宝物よな!」

 

人知を超えたものを見て、口が半開きのままフリーズしてしまう。今の俺は相当間抜けな顔をしているに違いない。

 

「奏よ、どうしたのだ?顔色が大分悪いように見えるぞ」

「いや、びびったんだよ!そんな凄いもので平然と人の家に侵入するお前にびびったんだよ!」

 

理解した。例え、お伽噺のような神秘を使っていたとしても、こいつは単なる不法侵入者だ。悠長に問いただしている場合じゃない。力ずくで出ていかせるしかない。そう決意して手を伸ばした矢先――

 

「自分の庭に入って何が悪い。この世界は余すことなく全て我の所有物だ。決して凡夫のものではない。

それと、我は、奏の呪いの解呪の手伝いに来たのだ」

「な……に?」

 

俺の動きが止まる。

 

「呪いってもしかして……絶対選択肢の事か?」

「ククク、絶対選択肢だと?随分と愉快な名を付けているのだな」

「う……」

 

何故だか直感でそう思ったため、尋ねてみると笑われた。

今まで口にする機会なんてほとんどなかったから、意識しなかったが、たしかにちょっと恥ずかしいネーミングかもしれない。

そして、案の定、ギルガメッシュは肯定する。

たしかに宴先生が、選択肢を手放す為の準備が云々とか言ってたけど……。

 

「奏よ、こんなところで話すのもなんだ、奥へ行くぞ」

「いや、なんでお前が言うんだよ……」

 

うさん臭い……ただひたすらにうさん臭い。が、絶対選択肢を解除できるかもしれない、と聞いては、即座に追い出すわけにはいかなくなった。

 

「そら、付いてこい、奏」

 

何故か、この家の人間といった感じを醸し出しているギルガメッシュに先導されて、リビングへと入る。

 

「……なんだ、これは」

 

絶妙に保たれた室温。鼻腔をくすぐる紅茶の芳しい香り。見た目にも楽しませてくれる、凝った形の手作りクッキー達。そこには極上のくつろぎ空間が展開していた。

 

「フン、感謝せよ。そろそろ奏が帰ってくる頃だろうと、我の手で直接準備をしてやったのだ」

 

これが仮に彼女とか奥さんのセリフだったら、さぞかし幸せなんだろうけど、相手が美少女であろうと見ず知らずの他人に言われても薄気味が悪いだけだった。

 

「王たる我の面前で恐縮するのは仕方のないことだが、遠慮はしなくとも良い」

「いや、だからなんでお前が言うんだよ……」

 

俺は促されるままにソファーに腰を降ろし、湯気をたてる紅茶に手を伸ばした。

 

「どうだ?奏」

「まあ、うまいけどさ」

 

ギルガメッシュは不敵な笑みを浮かべながら、得意気に胸を反らす。無駄にカリスマがあるためこんな動作でも、つい敬服しそうになるが、こいつは不法侵入者だ。

 

「そうであろう、そうであろう。この紅茶の茶葉は、我にとって有象無象の雑草の一つに過ぎんが、この時代の茶葉の中では比較的高級品であるからな」

 

いや、それ買ってきたの俺だから知ってますけど。というか雑草なんて言うなや。

続いてギルガメッシュは、クッキーの載った菓子皿を差し出して来た。

 

「どうだ?奏」

「まあ、うまいけどさ」

 

再び、不敵な笑みを浮かべ、ドヤ顔をつくる。

 

「そうであろう、そうであろう。このクッキーは我が作ったものではないせいか、少し味が劣っているが、手間がかかっているものだからな」

 

いや、それ焼いたの俺だから知ってますけど。というか何でもかんでもディスんなや。

 

「まあそんな事はどうでもいいんだ……本題に入ろうか」

 

ギルガメッシュに、反対側のソファーに座るように、右手で促す。

 

「うむ、尋ねるがいい。貴様が知りたいことを」

 

ギルガメッシュがソファーに腰かけるのを待って、口を開いた。

 

「まわりくどい話は無しだ……お前、絶対選択肢を手放す方法を知ってるのか?」

「うむ、知っているぞ」

 

いともたやすく首を縦に振るギルガメッシュ。

マジか……本当に手放せる?この一年、俺を悩ませ続けた忌々しい選択肢を?

 

「頼む、教えてくれっ!」

 

興奮を抑えきれず、半ば反射的に席を立つ。

 

「そう急くな。まずはともあれ、落ち着け。我は方法を知っているが、教えるのは我ではない」

「じゃあ、一体誰なんだっ!?」

 

俺の切迫した問いに対して、ギルガメッシュはあくまで冷静に紅い相眸を輝かせながら言い放った。

 

「忌々しいチャラ神だ……」

「……………………はい?」



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三話 姫ギル様は甘草君家に居候となる

少し、分かりにくいところがあったので修正しときました。


「ククク、クハハハ!よもや、俗世にこれほどまで我を昂らせる者がいたとはな!

来るがよい、雑種。もっと我を興じさせよ!」

 

俺は、甘草家で『王の財宝』から取り出した極上カーペットにうつ伏せに寝転びながら、『Playing station 3rd』、略してPS3というTVゲームを家主である奏と、格闘ゲームで勝負していた。

最初は一人でCP相手と闘っていたのだが、このギル様の頭脳の前では、弱すぎて一瞬で勝ってしまいつまらなく感じていたところ、奏が朝食が出来たことを呼びに来たため、無理矢理参加させて今に至る。

奏は格ゲー慣れしているようで、この俺とほぼ互角に闘えている。まあ、だけど最終的に勝つのは俺なんだが。

 

「なあ、ギルガメッシュ。本当にこの格ゲー、初めてなのか?」

「無論だ」

「お前の動き、廃プレイヤーとおんなじくらいなんだけど……」

「この程度雑作もないわ。そのようなことよりも、我の動きについてこれる奏の方が驚いたぞ」

 

いや、ほんとにびっくりだよ。奏くん、どんだけ強いんだよ。

一応、千里眼を使ってはいないとはいえ、ギル様の頭脳についてくるなんて。

 

「このゲーム一時期すんごいハマっててさ。一睡もせずにプレイしてたんだよ。一睡もせずに何時間も……」

「そ、そうか」

 

一睡、という部分を強調して言う、奏に引き気味に相鎚を打つ。

確かに自分が何時間もして、身に付いた技術を一日で覚えてしまう奴がいたら面白くはないわな。

 

「てかさ。……何でお前、平然と寛ぎながらゲームやってんの?

何で家主である俺がお前の一時間前に起きて、洗濯と、朝食の準備をしている間、居候のお前が寛いでんだ?」

「そのようなことをわざわざ聞くな。王たる我に尽くすのが臣下の務めであろうが」

「いつ俺がお前の臣下になったんだよっ!」

 

そんなやり取りをしながら、俺が甘草家に居候になることになった、昨晩の経緯を思い出す。

 

◇◆◇◆◇◆

「かみ……さま?」

「うむ、我が忌々しい神に使われるなど癪ではあるが、望みを叶えるためだ。やむを得ん」

 

奏が訝しげに視線を送る。まあ、呪いの解き方を教えてくれる奴が神だとか信じにくいだろうな。

 

「ふむ、奏は信じてはおらんようだな」

「いやいや、唐突に神とか言われても……ん?」

 

すると、奏のセリフに合わせるかのように、奏の携帯にメールの着信があった。

奏は携帯を開き、画面を覗き込むと「なんだこれ?」といった表情になる。

 

「奏よ、なんと書いてあったのだ?」

「あ、ああ。えーっと、《雪平ふらのを心の底から笑わせろ 期限 五月八日 (水) 》?」

 

なんだそれ?雪平ふらのを心から笑わせろ?めっさくだらんミッションじゃん。

とは言え、雪平ふらのと個人名で指定している所を考えると、その雪平さんって人は笑わないクールな性格の人なのだろう。

 

「その雪平という女は知っているのか?奏よ」

「ああ、知ってる。同じクラスの奴で、性格は基本クールだけど唐突にボケをかましてみたり、テンションをあげてみたりとよくわからん」

 

なんだか変人臭がするな。

そんなことよりも、やはりその人を笑わせるのは骨が折れそうだ。

そんなことを考えていると、奏の携帯の電話の着信を示すメロディが鳴った。十中八九、チャラ神だろう。

 

「奏よ。多分、神からだぞ」

 

そう奏に声をかけると、奏は少し躊躇いがちに携帯を耳に当てた。

 

「もしもし……」

 

そんな言葉を皮切りに、奏と神の通話が始まった。

俺はそれを尻目に、テーブルの上のクッキーをかじる。あ、おいしいなコレ。

そうして、暫く経った頃、奏が大慌てで携帯を放り投げてリビングから出ていった。何かあったのかな?

 

「ぎゃああああああっ!」

 

突如、奏にしては甲高い声の叫びが轟き、此方の方へドタバタと駆け込んでくる音がする。

そして、リビングの扉が勢いよく開いた。

 

「お、おおお女、おんな、俺、おんなだっ!」

 

入ってきたのは、涙目のデカイ胸の美少女だった。大方、チャラ神のことを神だと信じれなかった奏が証拠を出せとでも言ったのだろう。

しかし、これで俺が男の英雄王になれる可能性は高まったわけだ。

とりあえず錯乱してる奏を宥めるか。

 

「落ち着け、女」

「誰が女だっ……え?」

 

奏は、何かに気がついたのかハッとする。そして、床に転がっている携帯を掴み取って神に怒鳴り始める。

次節、聞こえてくる神の声は、奏をからかっているのがおもしろいのか楽しそうな声だ。

 

「いいからさっさと男に戻して――ジョン万次郎っ!」

 

急に何をとち狂ったのか知らないが、奏がジョン万次郎と叫んで三点倒立をした。

これには、さしもの俺も驚きを隠せない。頭沸いてんのか?

 

「か、奏よ、何をしているのだ?」

「俺が聞きたいわっ!」

 

奏は逆立ちのまま、俺に絶叫する。シュールだな。

倒立をやめた後、床に投げ出された携帯を手にした奏は、神へ怒鳴るのを再開する。

そして、その後、奏ちゃんの胸が縮み男に戻り、その場にへたり込んだ奏はため息をついた。

そうして、また奏と神との会話は再開していく。

俺は、何もすることがないので、テレビをつける。そして、おもしろい番組を探すためチャンネルを変えていき、とあるバラエティー番組を観ることにした。

 

「なんじゃそりゃ!」

 

俺は背後で奏の声と、物が叩きつけられる音がしたため、後ろを振り返った。すると案の定、携帯を床に叩き付けている奏の姿が。

あのチャラ神は、人を不愉快にさせる達人だ。恐らく奏も、チャラ神への苛立ちに呑まれてしまったに違いない。

 

「奏、神との話は終わったのか?」

 

俺はクッキーを頬張りながら、奏に声をかけた。

 

「ギルガメッシュ君、ちょいとちょいと」

「何だ?下らん用ならば、即刻撤回せよ。我は今テレビを見ているゆえに忙しいのだ」

 

俺はクッキーを一気に飲み込むと奏のもとへ近寄る。

 

「その、ギルガメッシュの知っていることを全部教えてくれないか?」

「何だ、その様なことか。良いぞ、聞くが良い」

「じゃあ、呪いの詳細について教えてくれ」

 

俺は奏の質問に答えるため、神から送られてきた奏の呪い解除の指令書を『王の財宝』から取り出す。指令書は本来、神の僕とやらが持たされる筈だったみたいだけど、このとおり俺が奏に呼び出されてしまったため神が送ってきてくれたのだ。

この指令書には俺が求めていた情報も書かれていた。即ち、英雄王として俺tueeeなバトルが出来るかどうか。

そして、指令書によると、俺が戦えるような戦闘がこの世界ではあるらしい。

まあ、とりあえず奏に、この世界の確認を。

 

「とりあえず確認するが、甘草奏というのは世をしのぶ仮の姿で、真名は『ア・マグサ・ガナドゥール』で合っておろうな」

「誰だそれはっ!?」

「此の世界は、一日ごとに『表時間』と『裏時間』が繰り返されており、『裏時間』になると、人類と敵対する『魔導獣』という雑種共が一斉に攻めてくるのだろう?」

「なんだその中二も真っ青な設定は!」

 

なんだろうか……この話が致命的に食い違っている感じは。

一抹の不安を抱えながら、質問を続ける。

 

「奏が危機に陥ると、体内に宿る太古の戦士の意識が覚醒して、ぼくのかんがえたさいきょうのロボット『エルドラオン』が召喚されて――」

「いや、もういいや……なんかもういい」

「そうか?それはそうと奏、そろそろ寝なくて良いのか?」

「は?いきなり何言ってんだ。まだ早すぎるだろ」

「む?この世界は、因果変革体の奏が寝ると、裏時間になるのだろう?」

「ならねえよ!明日が来るだけだよ!」

 

これは一体どういうことだろうか。奏を見ると同じように考えている。

奏と神が俺に送ってきた指令書の内容の食い違い、これを鑑みた上で考えるに、まさかと思うが神が送ってきた指令書は別の世界の内容の指令書?

つまり、俺は俺tueeeなバトルの出来ない、普通の世界に来てしまったのか……?

どうやら、その仮説に思い至ったのは俺だけではないようで、奏も同じような考えを聞かせてくれた。

 

「おい、ギルガメッシュ。お前の知識が役に立たないというのは分かった。この家から出てい――ぜ、絶対選択肢!?」

 

こうして、奏は絶対選択肢によって、俺をこの家にほぼ強制的に居候させることになり、一晩を経て現在に至ったわけである。

 



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四話 姫ギル様、甘草家にて斯く過ごしけり

お気に入り数が400超えてて正直ビビりました。
読者様に感謝です。


「ふん、そこらの有象無象のつくるものに比べれば出来は良い」

 

テーブルに並べられた朝食を目にした俺は、思わず賞賛の声をあげた――筈なのだが、いつも通りギル様口調によって阻まれてしまう。

そうとは、知らない奏はこっちを睨み付けてくるし……衛宮士郎に転生しとけば良かったかな。今から後悔しても遅いけど。

だけど、とりあえず今は目の前の料理を食べるべし!

 

「至高には到底及ばんが、なかなか美味ではないか」

「お前の言う至高ってどんくらいなんだよ……」

 

食事をしながら、俺の呟きにすかさず突っ込む、奏。

確かに至高ってなんなんだろうな。今度、王の財宝の中の食材を使った料理を作ってもらうか。そしたらわかるかも。

でもね、物を食べているときに喋るのは良くないと思うのです。

一応、俺は飲み込んでから喋っているのでセーフ。奏にはちゃんと注意しておかないとな。

しかし、注意するにあたって、やっぱりギル様口調に変換されると思ったように伝えれないんだよな。諦めたけど。

 

「王の食事中に囀ずるな」

「理不尽過ぎるだろ!お前は一体、何様のつもりなんなんだよっ!?」

「愚問だな。最古にして、天上天下唯一人の英雄王様に決まっている」

「接するのに疲れた……!」

 

うん、奏くんはよくがんばったと思うよ。ごめんな。俺には君にしてやれることはないんだわ。

俺は疲れた顔をしている奏に、心の中で合掌する。

と同時にテーブルに突っ伏す奏に、フォローをするため、食事の手を止める。

 

「奏、我は忠義を尽くす臣下に褒美を取らせぬほど、厚顔無恥な王ではない」

 

すると、奏は見直したといった感じで、突っ伏していた面を上げる。

そして俺は続きを言った。

 

「我への献上品を許す」

「なんでだよっ!褒美どころか搾取してんじゃねえか!」

 

続きの言葉に絶望した奏が、またテーブルに突っ伏してしまった。

うん、今のは俺が悪い。だけど、悪いのは認めるが反省をしようとは思わない。だってただのジョークだし。

俺はニッコリ笑って奏に告げる。

 

「安心せよ、奏。今のは英雄王ジョークだ」

「全くもって笑えねえな!」

 

俺は、奏のツッコミを無視して、王の財宝に手を突っ込み、札束を取り出した。

 

「札……束?」

 

奏が呆然と呟く。

俺が取り出したのは、100枚で纏められた諭吉先生の群れ。王の財宝の中身としては、悪い意味で不釣り合いなもの。

実を言うと、これは俺の金じゃない。あのチャラ神から必要経費として送られてきたものだ。

 

「必要経費として送られてきた。足りんのならば我に申せ。追加で送らせてやる」

 

俺は諭吉先生の群れを、奏に預ける。札束を受け取るときの奏の手は震えていた。今の俺にとってはショボい金額だが、現役高校生である奏には、大金だったのだろう。かく言う俺も転生前はボンビーで、諭吉先生を見る機会もあまりなかった。

そういえば、この金はロンダリングされているらしい。

ロンダリングとは犯罪行為で得た不正資金、賄賂、テロ資金など口座から口座へと転々とさせ、資金の出所や受益者をわからなくする行為である。

 

「一応、伝えておくが、マネーロンダリングは済ませているそうだぞ」

「危ない金じゃねえか!」

 

ロンダリングと聞いた瞬間、奏は諭吉先生達を床に叩き付けた。

 

「……これはとりあえず、お前が持っててくれ」

「断る。そんなもの、そこいらの犬にでも喰わせておけ」

「お前、犬を山羊と勘違いしてるんじゃないか!?あと簡単にお金を捨てるとか言うなよ!」

「む?何故だ?その程度の額、世界全ての価値に等しい、我が宝物庫に比べれば端金にも劣るではないか」

「ああ!わかったよっ!」

 

奏は汚れた諭吉先生達を、ズボンのポケットにしまった。

いけないな。お金をズボンのポケットに入れるなんて。しかも100諭吉だし。

 

「とりあえず、学校行ってくるわ」

 

奏が軽くため息をつきながら立ち上がって言った。

 

「うむ、いってらっしゃい。留守は我に任せよ」

 

俺がソファーに寝転びながら言うと、途端に奏がはっ、とする。

どうやら俺が留守番をちゃんとするのか心配みたいだ。

まあ、心配なんてするだけ無意味だと言っておこう。なぜなら最初から留守番なんてするつもりはないからな。

洗濯とかやったら出掛けるか。――とか思ったけど、今日が晴光学園への転入の日だった。どっちみち留守番なんて出来ないね。

 

「ほんとに大丈夫だよな……洗い物とかやり方わかるか?」

「愚問だな。我に任せておけと言っている。我の宝具を使えば一発だ」

「逆に不安になってきた……」

 

奏がジト目で此方を見てくるが、気にしないふりをする。

男のジト目とか誰得だよ……。いらねえし、求めてねえよ。

 

「ギルガメッシュ、留守を預けるにあたっての、ちょっとしたテストだ」

「王への進言を許す」

 

俺は体を起こし、奏へ顔を向ける。テストとは何だろうか。

奏は体を起こした俺を確認すると、質問を出した。

 

「それじゃあ、急に雨が降ってきたら?」

「宮に帰らないといけないと思う」

「お前の心境は聞いてねえよ!しかも然り気無く、留守番を放棄してんじゃねえっ!洗濯物をとりこんでくれよ!」

 

いや、だって雨が降ってきたらお家に帰らないといけんじゃん。濡れるよ?

洗濯物は確かに取り込まないといけないけど、やっぱり答えとしては家に帰る、で合ってると思うのです。

 

「新聞の勧誘が来たら?」

「我の宝具とかで迎撃するとか」

「物騒な事してんじゃねえよ、お前!」

 

いや、誤解ですよ。砂糖や塩を撒くと言ったつもりだったんですー。ギル様口調変換システムがいけないんですー(嘘)

ワイングラスにオレンジジュースを注ぎながら、俺はニヤニヤする。

そんな俺とは対照的に頭を抱えながら、奏は口を開く。

 

「オレオレ詐欺っぽい電話がかかってきたら?」

「受話器の送話口に、わたもてのエンディング曲を大音量で流す」

「お前、最古の王とか言ってるわりに、わたもてとか随分博識だな!びっくりだわ!」

「こんなもの一般常識であろう?」

「常識からほど遠いだろ!」

 

わたもての曲良いよな。何と言えば良いのだろうか、歌詞が新しくて新鮮?

奏は、胃が痛くなってきたのか、お腹を抱える。

……次の質問へGO!

 

「ナカジマが誘いに来たら?」

「野球をする。勿論、我ルールでな!」

「我ルールってなんだよ!野球のルール、勝手に変えんなよ!そもそもあいつはイソノしか誘わねえよ!」

「喚くな。今のは奏がふざけていたのだろうが」

「う……そうだな」

 

悪ノリをしてしまった奏をたしなめ、俺はふんぞり返る。

やばい、楽しい。奏が悔しそうにしてるのすげーウケるわ。

俺は歯軋りをする奏に、イラっとする態度で喋る。

 

「ふふん、わかれば良い。最早、このような低俗な輩より、我がこの家の主に相応しいな」

「何言いくさってんだ!って……時間!」

 

学校へ行く時間が厳しくなってきたのか、ツッコミを途中で切ると、奏は大慌てで鞄をもつ。

 

「く、じゃあ、いってくる」

「いってらっしゃい」

 

俺は玄関から飛び出していく奏を眺めながら、奏が焼いたクッキーを頬張った。



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五話 姫ギル様が晴光学園に来るそうですよ?

カツカツと小気味良い足音をたてながら、前を歩く教師についていきながら廊下を歩く。

そうして、着いたのは2‐1の教室の前。

久しく感じていなかった学校の独特な雰囲気に、転生前のことをちらりと思い出す。

転生前の俺は、学校生活を割りと充実して過ごしてた。

といっても恋愛方面に関してはその限りではなく、素敵な出会いなんてものは幻想で、彼女居ない歴=年齢という童貞風見鶏だったわけなのだが……。

それでも、気の置ける友人達とバカやって遊んだりするのはとても楽しかった。

だからこそ、今世の学校生活が始まる、今この瞬間に、期待や不安なんかで緊張してしまう。

 

「ええー、皆、席について下さい」

 

教師が扉を開けながら、クラスに声をかけて教室内に入っていく。

すると、一人の女子生徒が教師に尋ねた。

 

「あの~、せんせー。宴せんせーは?」

「ええー、道楽先生なら、甘草の特別指導をしておられるのでいません。ですので朝のHRは私が担当します」

 

奏ェ。一体なにをしたんだろうか。特別指導とか結構ヤバめのことしないと経験出来ないからな。

ただ、俺が気になるのは、奏が特別指導と聞いて、ああー納得ー、といった表情をしながら着席する女子生徒。普通、そこまですんなり納得出来ないと思うんだが。

いくら変人でエロスメルな奏でも、クラスで奇行はしない筈だし……。しないよな?

 

「ええーゴホン。今日はクラスに転入生が来るそうですよ?」

 

いやいや、何で教師が疑問形なんだよ、おかしいだろ。あんたの言う転入生はお前が連れてきたんだよ。

教師の言葉に心の中でつっこんでいる間に、教室が喧騒に包まれる。「男かな、それとも女かな」とか、「かわいいと良いなあ」とかそんな言葉が聞こえてきた。

 

「ええー、では入ってきて下さい」

 

教師が、此方に呼び掛ける。

俺は、扉を開いて教室内に入った。

俺が入ってきた時の、クラスの連中の反応は千差万別で、「パツキン美少女ktkr」だとか、「俺はロリコンをやめるぞ!ジョジョ!」とか叫んでいる人も居れば、無言で心ここに在らずといった表情で呆けている人も居た。

流石、ギル様フェイスだな。

 

「ええー、では自己紹介をして下さい」

 

教師が、黒板に俺の名前を書きながら声をかけてきた。

もちろん、名前は、そのままギルガメッシュではなく偽名を使っている。

俺は、教卓に立つとクラスを見渡してニコリと 嗤う。

 

「我の名は甘草 儀瑠(あまくさ ぎる)だ。

雑種共、本来であれば許可なくして王たる我を前にして面を伏せぬ無礼をした貴様らは万死に値するが、此度は我は機嫌が良い。前の不敬、不問とする。我の寛大さに感謝せよ。

だが、思い上がるなよ、雑種共。次はないと知れ。努々、忘れるな」

 

俺の自己紹介が終わったとき、クラス中が静まり返った。それはもうシーンと。

だけど、弁解させてほしい。俺はただ、皆さん仲良くしてくださいと言おうとしたのだ。だけどもう駄目だ。おしまいだ。自己紹介でクラスメイトに雑種とか言っちゃうなんて……。

俺はこれから、灰色の学校生活を送るのだろう。俺は、少しだけ顔を伏せた。

そんな中、誰かが声を洩らした。いや、訂正、叫んでる奴もいる。

 

「俺様系ならぬ、王様系美少女……だとッ!」

「う、狼狽えるんじゃあないッ!一流紳士は狼狽えないッ!」

「これが、魔術師達(童貞)の求める根源だったのか!」

「奴に求婚する前に言っておくッ!俺は今、奴の萌えをほんのちょっぴりだが体験した。い、いや、 体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……。あ、ありのまま、今起こった事を話すぜ!『俺は奴を金髪系清楚お嬢様かと思いきや、その実、王様属性持ちの美少女だった!』

な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何に萌えたのかわからなかった……。

頭がどうにかなりそうだった……。高飛車だとか、強がりだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ!もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」

 

俺はお前らの事がわからねーよ。

そんな何かの境地を見つけた変態紳士たちに混ざり、何人かの変態淑女達まで、「強がってる儀瑠ちゃんをッ……ウフフ」とか、「私を踏んでェ!その冷たい目で蔑んでェ!」とか叫び、クラスはカオスな状態になってしまった。

教師も「元気が良いのは良いことですねー」と呟きながら、自分のハゲ頭を撫で始める始末。

完全に収拾がつかなくなってしまったのだった。

そして、HRの後、何故かクラスメイト達に囲まれて、質問やら何やらをされていった。

 

◆◇◆◇◆◇

「はああ……」

 

何があったんだよ……。

俺は今まで、絶対選択肢によって強制させられていた《教卓の上で仰向けになり『リンチを受けている最中の豚』の鳴き真似十回》によって、宴先生に絞められた挙げ句、生徒指導室に連れていかれそこで指導されていたため、今、教室で起きていることがわからなかった。

クラスの八割が、ある一つの席に一斉に集まっている。

その席に、足を組みながら頬杖をついている、見覚えのある金髪。本来、俺の家で留守番をしている筈の金髪……。

 

「ギルガメッシュ……」

 

金髪は、俺の存在に気が付いたのか、椅子から優雅に立ち上がり、こっちに歩み寄ってくる。

 

「奏よ、聞いたぞ。畜生の真似事をしていたとは、つくづく恥を知らぬ道化よな」

 

くっ、絶対選択肢のことを知っているくせに。

まあ、そんなことはどうでもいい。俺は聞かねばならないことがアイツにはある。

 

「ギ――ッ!?」

 

俺が、ギルガメッシュの名前を呼ぼうとしたその瞬間、口を手で塞がれる。

文句を言おうと、ギルガメッシュを見ると、教室の外に行けとジェスチャーをしていた。

 

「良いか、奏。学舎の中では、我は甘草儀瑠だ。間違えれば、我が手ずから処断する」

「ああ。って儀瑠!お前なんでここにいるんだよっ!?留守番はどうした!」

「留守番はちゃんと結界を張っているから、心配はせずともよい。ただ学舎に通いたかっただけだ」

 

教室を出て、ギルガメッシュが宝具とかいうのを使って人払いをして、誰も居なくなった廊下で俺達は会話をしていた。

それにしても結界?まあ、ギルガメッシュが心配しなくても良いと言うんなら、留守番は大丈夫なんだろう。

ただ、俺が聞きたいのは、どうやってこの晴光学園に入ったかだ。

 

「儀瑠、正直に話すんだぞ?どうやってこの学校に来たんだ?」

「教員共に暗示にかけ、我を転入生ということにした」

 

催眠術みたいなもんか。

 

「とりあえず、儀瑠。余計な面倒事を起こさないでくれよ」

「起こしているのはお前であろう?」

 

正論だけど、ドヤァとしているギルガメッシュを見ると、すんごい苛立ってくる。

まあ、でも害がないなら良いか。そんなことよりも、神からのミッションの雪平を笑わせる手立てを考えないと。

俺はギルガメッシュと共に、教室に戻った後、クラスメイト達の「儀瑠さんと甘草くんってどんな関係?」って感じの視線に晒されながら、ミッションクリアについて考え続けたのであった。



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六話 姫ギル様、入部のち覚醒

ギル様が何の部活に入るか、察しのいい人は既に気付いていると思う。
それと今回の話から、どんどんギル様を原作っぽい性格に矯正していくよ!


「少し時間を貰っても良いだろうか」

 

転入初日のお昼休み、校内をあてもなく歩いていると、神父服を着た黒髪の少年に声を掛けられた。

何処か既視感を少年に感じるが、よく思い出せない。

神父服……神父……マーボー。後少しというところまで出かかっているのだが。

とりあえず、何はともあれ返事をしないと。

 

「何だ、貴様は?この我の時間はそこいらの財よりも価値があるのだ。よもや下らん用であったのなら、その罪は重いぞ?」

「大丈夫だ。きっと君の時間の割に合うだろう」

「フン、まずは名を名乗れ。王への拝謁の場なのだ。一片たりともの無礼も許さん」

 

それにしても、校内で神父服って例え学校が自由な校風だとしても、些か自由すぎるんじゃないかと思うのだけど。

そんなことを考えていると、神父がお辞儀をした。

 

「失礼したな。私の名は言峰綺礼だ」

 

一瞬、思考がフリーズした後、回復する。

というか彼は一体、なんて名乗ったんだ?ん?言峰ぇー?言峰……マーボー……マジカル☆八極拳ッ!?

確かに神父服を着ているし、顔もfate/zeroやstay nightのマーボー神父を若返らせたような感じだけれども、まさかこの世界に外道神父がいるとは……。

ということは、やはりこの世界はfateの世界なのかな?いや、違うね……。チャラ神がいる時点でないわ。

俺は少しばかり呆けていた顔をキリッとさせ名を名乗った。

 

「綺礼か……。我は最古にして唯一の英雄の中の王、甘草儀瑠だ。して、用件とは?」

「ふむ、単刀直入に言おう。君に我らが崇高な集まり、

――愉悦部を共に……やらないか?」

 

なんか、やらないか?のイントネーションに危険な香りを感じた。

気のせいだったことを祈りたい。

それにしても部活ねえ。特にやりたいこともないし入部してみても良いかもしんない。

奏の呪い解除のサポートの仕事もあるけど、まあ些細なことだし。

俺は少し時間を経てから、口を開いた。入部しても良いですよ、と。

 

「愉悦部……甘美な響きよな。よもや愉悦を罪とし自らの欲を抑えることが善とされる世に、ここまで愉快な部があるとは。

気に入った。喜べよ、雑種。この我が入部してやる」

 

長い。ギル様口調変換システムが最近、だんだんうざくなってきた。もう普通に喋らせろや。

 

「本当に良いのか?儀瑠」

「良いぞ。しかし、我が飽きるまでだ。綺礼と言ったな。精々、我が飽きるまで興じさせるがいい」

「任せるといい。では、部室を紹介したい。連いてきてくれるか?」

 

俺は綺礼の問いに、首を縦に振って返した。

 

◆◇◆◇◆◇

 

愉悦部の部室は、生徒も教員もほとんど立ち入らないであろう学園の地下にあった。

元々は教室であったのだろう、愉悦部部室は、壁や扉のデザインなどを改造されており、今や『愉悦部☆』と書かれたプレートだけが教室であった名残である。

俺は、部室へ入った綺礼の後に続き扉に手を掛けて、中へと入る。

すると、綺礼が此方を振り返り言った。

 

「ようこそ、愉悦部へ。私たちは君を歓迎する」

 

私"たち"って何?部員って俺と綺礼の二人だけと、部室へ来るときに聞いた筈なのだが。

俺の疑問を汲み取ったのか、言峰がその疑問を解消してくれるものを連れてきた。

ワンワンオーと吠え、綺礼がモフるそれ……ミニチュアダックスフンド。

 

「綺礼、その犬は何だ?」

「ああ、紹介しよう。こいつは此処の番犬、名はクー・フーリンだ」

 

うわあ……青タイツ、ご不憫。

心の中で、ランサーに合唱していると、ミニチュアダックスフンドのクー・フーリンがワンと吠える。

まあ、ペットにつける名前としては格好いいものだし、い、良いんじゃないかな。

しかし、番犬にケルトの番犬の名前を付けるなんて……傑作だわ!

 

「ほう……ケルトの番犬の名を与えられているか」

「ああ、よくわかったな。それと君の後ろにある虫かごを見てみろ」

 

言われたとおりに、俺は後ろを向く。

そこには、黒いケース型の虫かごに入れられた、一匹のでっかいカブトムシ。

一瞬、名前を言ってはいけない例のあの虫や台所の魔王などの異名を持つ頭文字Gを思い浮かべてしまった俺は悪くない。

 

「そいつの名はハサン。ハサン・サッバーハだ」

「何だ、ただの虫ケラではないか」

「聞いて驚け。ハサンは黒光りG高速機動スタイリッシュ生命体の如く、5年もの歳月を生きているらしい」

「見直したぞ虫ケラ。そこまでの生への執念、気に入った!」

 

俺は高笑いをしながらハサンのいる虫かごに、側に置いてあった昆虫用のイチゴゼリーを入れてやる。

すると、ハサンがスタイリッシュにブーンとゼリーの所まで翔んでいった。

そして、ハサンがゼリーを食べようとしたところを、綺礼がハサンを引っくり返してしまう。

綺礼が、愉しげに笑いながら、いつのまにやら淹れてきた緑茶を飲みながら言った。

 

「ハサンが身を起こそうと悶える姿……正に愉悦」

「フ、フハハハ!成る程な。良いぞ。綺礼よ、それがお前の求める愉悦なのだな。良い。求めたいことを為す、それこそが娯楽の本道よ。そして娯楽は愉悦を導き、愉悦は幸福のありかを指し示す」

「君こそ、その年で愉悦のなんたるかを理解しているようだな。君を勧誘しようと思った私の目に狂いは無かった……」

 

何故だろうか、目の前に居る彼と話しているとだんだん他者の不幸が愉しくなってくる。

そうか、わかったぞ。俺が求めたかったのは、圧倒的俺tueeeではない、真の娯楽――愉悦だったんだ!

俺は、昼休みが終わるまで、綺礼と真の愉悦について延々と問答し続けた。




愉悦部のメンバー増やしたいな。トッキー出すか。


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