インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍  (ユウキ003)
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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 キャラ紹介

※ この文章内には様々なネタバレを含みます。
  閲覧は自己責任でお願いします。


インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 キャラ紹介

 

※ 以降の文章は本編に対する多くのネタバレを含みます。

     閲覧は自己責任でお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公級キャラ

篠ノ之機龍(旧名:3式機龍) 7~8歳程度(外見からの推定)

設定:ゴジラ×メカゴジラ、ゴジラ×モスラ×メカゴジラ東京SOS

   に登場した生体ロボット、3式機龍が何等かの力で異世界、

   ISの世界へと人間として転生した姿。

容姿:身長は大体7、8歳程度の肉体を持つ。髪の色は輝く銀髪で、

   瞳の色は黄色。頭のてっぺんには癖っ毛が2本生えている。

  (イメージモデルはキューティクル探偵因幡の登場キャラ、

   因幡 遥のリペイントが一番近い)

   ゴジラ自体が無性であったため、同様に機龍自身も性別が

   なかった。そのため、転生した際の機龍の容姿も中性的となり、

   見た目は男とも女とも取れる容姿となった。

   一応性別は男、となっているが、見た目などを総合すると

   完全な男の娘状態である。

性格など:初期の頃は言葉が片言な場面がいくつかあったが、次第に

     普通に話せるようになっていった。

     同じように自分を拾ってくれた束(後述)やクロエ、

     入学したIS学園で一夏達と接する内に感情が芽生えた。

     性格は大人しく、誰にでも優しい。困っている人がいると

     見捨てられないタイプ。また、元が機械であるため英語や数学、

     理系全般は超が付くほど得意。しかし逆に国語は苦手。

     また、一般常識に疎い所があり、例えば自分の前に裸の

     ラウラが現れても動揺しなかったり、許嫁の意味を知らなかった

     と言った事がある。

     過去のゴジラ、3式機龍としての記憶もちゃんと残っており、

     その経験もあって人一倍戦いを嫌う。

     それはISを使用した模擬戦闘である試合なども同様。

     初期の場合では相手に向かって攻撃するだけで精神的負荷に

     より気絶するほどだった。

     ※相手を攻撃しようとするたびに過去の忌まわしい記憶が

      フラッシュバックしていた。

     但し、友や仲間の危機となれば全力で仲間を護るために戦う程

     仲間意識が強い。また、ゴジラの血筋は伊達じゃないので    

     本人の意思によっては圧倒的な戦闘力を発揮して

     困難な状況をひっくり返す事だってできる。

また、お酒には大が付くほど弱い。ちょっと飲んだだけで

     顔が真っ赤になり、しばらくは行動が大胆になる。

得意な事は料理。好きな事は頭を撫でられる事。

     嫌いな事は戦う事。

     ・ゴジラ

      機龍の体内に存在する、言わば『もう一人の機龍』。

      その正体は初代ゴジラの人格。機龍のIS世界への

      転生に合わせて機龍の中で復活。機龍を光と

      例えるのなら、その中に潜む闇。

      性格は機龍と正反対で人間を憎み、戦いを望んでいる。

      しかし、同族として機龍に対してそれなりの愛情を

      持っている為、彼を気に掛ける事や彼を叱責して

      奮い立たせる事もある。

      また、口では憎しみを吐露していても、心のうちでは

      憎しみの果てに心が空っぽのまま死んだ自分を

      『最低』と表し、同じ道をたどろうとしているマドカを

      気に掛け、最終的にゴジラ自身が彼女の生きる意味と

      なるなど、一概に冷徹とは言えず、機龍と同等、或いは

      それ以上の仲間想いな可能性もある。

      機龍とは肉体を共有している関係上、様々な事が理由で

      肉体の使用権が逆転する。

      理由は主に機龍が精神的に追い詰められた時や、

      相対した敵の殺気にゴジラが反応した時。

      また、このゴジラモードの時は、彼の怒りが強いと

      体の一部がゴジラ化するなど、かなり狂暴且つ危険な

      存在になる。

     ・黒龍

      体の主人格がゴジラの時に3式機龍となると出現する

      姿。見た目の違いは銀色の3式機龍の体を真っ黒な色に

      リペイントし、瞳を赤く。目元のラインを毒を思わせる

      紫色の変更した程度。しかしゴジラの性格と相まって

      荒々しい戦い方が特徴。また、この形態では口から

      放つのもメーサーではなくゴジラ特有の青白い熱線へと

      変化している。

      

能力:彼の体は機械と肉体が融合した形となっており、彼の体の中には

   機械のパーツが埋め込まれた形となっている。また、細胞が

   形状記憶合金の役割を果たしており、機龍は自分の意思によって

   5、6メートルサイズまで縮小した3式機龍、3式機龍改の姿へと

   変化させることができる。作品初期では試合に出る際はこの姿をISと

   偽って出場している。改修前、改修後の形状変化は任意で行える。

   また、生身の状態からの形状変化は一部だけでも可。

   例)右腕だけをクロー化させたり尻尾だけを取り出す事ができる。

   また、人間の姿でも数十キロの重さのISを乗せた人力カートを

   一人で動かせるだけの怪力を持っている。

 

追加能力

1、『激龍咆哮』

 ・機龍がゴーレムⅢ達との戦い(本編21話)の中で発動した能力。

  但し、これはあくまでも白式たち、ISコアがこれを

  機龍のアビリティと判断しただけで、実際のところはいろいろ不明。

  ゲームで言うところの応援スキルのような物。

  機龍の咆哮に合わせて、彼の体から発せられた青白い波動が

  友軍機、つまり一夏達に当たり、ISの武装やシールドの

  消費したエネルギーを回復させる技。

  しかし、実際にはそれだけに留まらず、仲間である一夏達を

  鼓舞していたような節もみられる。

 

2、『エクストラアビリティ』≪魂の絆(スピリッツオブネクサス)≫

 ・この能力は、機龍が京都でのD・ゴーレムとの戦闘になった際に

  発動した新たなる力。名づけ親は束。

  由来は、本来ISのみが使える単一使用能力を機龍が発動させた、

  と言うことで、特別な能力、エクストラアビリティと名付けられた

  効果

  1、まず第一に、この効果は機龍に限定したものではなく、彼と

    ある程度の絆を結んだ人間に対しても効果を発揮する。

    (これが能力名、魂の絆の由来)

    束はさらにこれをSoNと訳している。

  2、主な効果は

   1・使用者である機龍、及び彼からエネルギー回路、

     『G-PATH』を接続された者たちに対して、

     攻撃力激増、防御力激増、シールドエネルギー激増、

     機動力激増。まぁ、早い話が全システムが通常以上に稼働し、

     通常時とは比べ物にならない程のパワーアップを果たす。

     白式に例えるならば、零落白夜が使い放題である。

     このSoNの発動中は機龍と彼とつながった仲間、一夏

     達は黄金の粒子の被膜のような物で機体全体を保護されている。

   2・ISにかかっているほぼ全てのリミッターを解除する。

     上記の能力を発動するために、邪魔なリミッターを機龍側からの

     アクセスで解除する。本来のISなら、そんなことをして

     飛んだだけで圧倒的なGにパイロットが耐えられないが、

     SoN発動中に発生する黄金の粒子カーテンがパイロットを

     Gから守る役目を代替するため、問題はない。

   3・拡張領域、バススロットの共有化に伴う武装の共有化と、

     各ISコアの一時的なブーストによって、武器生成能力の獲得。

     SoN発動下のISは全機体のコアが並列化された状態となり、

     機龍との並列化もあり処理速度が圧倒的に上昇。また、紅椿の

     無段階移行の能力を模倣した機龍の力で、全ISが友軍機の

     武装をコピー、新規で生成し、パイロットの思考に合わせて

     自動的に展開される。

   4・京都防衛線現在において発動可能なパイロット。

     一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、

     モーラ、楯無、真耶の10名。他にも束やクロエ、千冬

     などは可能であるが、彼女たちは専用機を持たない事や

     前線に立つタイプではない事もあって、G-PATH形成

     が可能だが、戦わない、と言ったところ。

   5・束は、このSoNを発動中のISの事を、全システムの

     稼働形態。All―System Activate Mode。として、

     その頭文字をとり、『モードAA(ダブルエー)』と呼んでいる。

 

3、最大共鳴能力(レゾナンスアビリティ)

 概要

 ・これは、機龍とデストロイア戦の中で誕生した新たなる力。

 効果

1、この能力はある意味、IS側からSoNを再現しようとした

  ものである。SoNは機龍を中継役とすることで全ISを

  つなぎ、その超絶なパワーアップを果たしたものであるが、

  欠点はそもそも機龍の存在と、彼にそれを使用する意思が

  なければ発動しない事だった。機龍という中心がいなければ  

  SoNの発動は不可能である。

2、そして、それを再現しようとした結果生まれたのがこの

  最大共鳴能力、レゾナンスアビリティである。

  SoNは機龍からIS各機に接続されるのに対して、こちらは

  IS総勢13機からの接続、無限回路「∞-PATH」を機龍に接続する。

  また、ここから更に機龍からIS側に接続する事で、エネルギーの

  無限ループを作り出す。

3、これによって、機龍は∞―PATHで接続されたISの武装、

  そして、単一使用能力を自分の力として発動できるようになった。

  また、逆にこのPATHを繋いだ13機のISはISサイズに

  ダウンサイズされた機龍の武装を使用可能となった。

  金色のコーティングが機体全体を覆うのはSoNと同じ。

4、また、これによって膨大なエネルギーを送られた機龍のG細胞が

  活性化した。それによって、機龍は強化形態である

  『バーニングメカゴジラ』へと一時的に進化した。

 

発動条件

1、まず第一に、RA、レゾナンスアビリティを発動するには

  ISのコアを並列化させて、RA発動の為のトリガーとなる

  エネルギーが必要になる。そのエネルギーを生成するために

  必要になるのが、起動中のIS12機。つまり、結果的に

  12人のパイロットが必要である。

  また、機龍と精神や心を繋ぐ行為であるため、

  SoNのような機龍に対して心を開いているか、彼に認められた

  人物でなければこの12人の一人に入ることはできない。

2、そのため、現在のメンバーは一夏、箒、セシリア、鈴、

  シャルロット、ラウラ、簪、楯無、真耶、

  マドカ、オータム、スコール、の12人。

  束は彼女たち12人を、アーサー王と言う『王』に使え、尚且つ

  彼と騎士たちは対等の立場であった、と言う事から円卓の騎士に

  例え、『アヴァロンの聖騎士達』、

  『Holly knight of AVALON』と名付けている。

  アヴァロンはアーサー王伝説で彼が生涯を終えた

  とされている伝説の島、アヴァロンからもじった。

  機龍・ゴジラと言う『王』が住まう場所もまた、人口島である

  IS学園であるから。

  また、これは束なりに、機龍と言う、生態系の頂点に立つ『王』と

  ともに戦う、と言うことで『騎士』としている。

 

機龍の進化

EVOLUTIONALY-G-CELL:進化型G細胞

・IS世界に来た機龍が自己進化して獲得した新型G細胞。

 時空の狭間を抜けて異世界へと彼が転移したことでその性質に

 変化が見られ、また、保持者である機龍の意思によって進化する

 と言う能力を獲得するに至った。物語終盤までは通常のG細胞として

 機能していて、残りの力は殆ど封印状態だった。が、

 デストロイアとの戦いで瀕死の重傷を負い、一度は死んだ機龍が

 学園に配備されていた全ISのエネルギーを得て復活した際に

 本格的に覚醒した。

 既存のG細胞さえ上回る圧倒的な再生能力、僅かな放射線を吸収・

 圧縮して兵器グレードまで引き上げ、自分のエネルギーに変換する

 放射能除去能力と吸収能力、

 圧縮化能力・圧倒的なエネルギーを保存可能な蓄積能力。

 それを使用しての人型状態のままでの圧倒的な身体能力と格闘技術、

 武器生成能力と言ったチート技盛りだくさん。

 そして何より、この進化型G細胞(頭文字をとって束はEG細胞と名付けた)

 は他者への投与が可能になった事。

 本来そのG細胞の力をフルに発揮し、なおかつ制御できるのはゴジラ

 だけだったが、機龍の進化に合わせてG細胞もEG細胞へと進化した。

 結果、これによって負傷した人間などに機龍の血を飲ませる(キスで)

 と言った事をすることによって瀕死の人間でさえ、全快させるほどの

 回復力を与える事ができる。

 切断された四肢の回復などもお手の物。ゲームで言うところの

 完全回復アイテム。束曰く、『覇王の祝福』。

 普段では恒常的に大気内の微量な放射線を取り込んで彼の

 エネルギーとして還元している。この効率は機龍そのものの

 進化と相まって次第に向上していく。

 

 

経歴:東京SOS。ゴジラとの決戦で共に海に沈んだはずの機龍だったが、

   次の彼が目を覚ました時は既に人の肉体を得て、束に保護されていた。

   彼を見つけた束曰く、『裸の君が海底に沈んでいた』との事。

   その後、束に保護され、彼女と彼女に保護されているクロエを含めた

   3人での生活を始めたが、以前の検査でIS適正が発覚していた機龍は

   一夏のIS学園転入をきっかけに束によりIS学園に送り込まれた。

   それ以降は一夏達や多くの友人たちと出会い、時には戦いになりながらも

   友人たちと絆を深めて行った。

そして、人として一夏達と共に過ごしていく中で様々な出会いを

   経験した機龍はやがて『命』を守ると言う事を自分の戦う意味と

   捉えるようになっていき、その心は命を護るために戦いたいと

   言う願いへと発展していき、次第に彼の覚醒のきっかけと

   なって行った。

対人関係:織斑一夏

     ・一夏とは転入当初から親しくなった間柄であり、

      彼のよき理解者の一人。機龍の兄貴分的存在。

      但し一夏と機龍が仲のいい場面を見せると大抵

      女子が興奮する事態に発展する事がある。

      また、一夏より機龍の方が数学などは得意で、

      よく勉強を教えられている。

      機龍からの愛称は『一夏お兄ちゃん』や『お兄ちゃん』。

      序盤から機龍のゴジラとしての過去を知って居たが、第13話で

      機龍の過去を本格的に知るも、それでも機龍を友人と呼んだ。

     箒・鈴・シャルロット

     ・彼女たちは一夏との接点が多いため、機龍との接点は逆に

      薄い。それでも機龍からは姉のように慕われ、本人たちも  

      満更ではない様子。

      箒はクラス委員決めのセシリア戦後に機龍の素性を知った。

      鈴とシャルロットは機龍の詳細を知らないままだったが、

      一夏と同じように、13話で機龍の過去を知る。

      それでもこれまでと同様に機龍の友人であることを選んだ。

     篠ノ之束

     ・現在の機龍の保護者的存在。機龍を海底から回収し、目覚めさせた。

      性格は原作同様自由奔放だが、機龍の過去を聞き、ある程度

      改心した様子で、今では機龍を思いやるちょっとはっちゃけた

      母親のような存在。なお、この作品で起こった銀の福音事件は

      彼女によるものではない。

      クロエ同様機龍を溺愛しており、彼に手を出す人物は許さない。

      性格は幾分か丸くなり、身内以外に辛辣な言動を取る事は

      なくなったが、逆に自身の身内に手を出す人物にはより

      狂暴になったと言える。

     クロエ・クロニクル

     ・原作と同じ束と共に生活する少女だが、本作内では

      優しいお姉さん兼ツッコミ担当の元気な少女。よくバカをする

      束に物理的ツッコミを入れている。

      現在、機龍のヒロイン候補の一人。

     

 

オリキャラ(篠ノ之機龍)のヒロイン

1、更識簪

 機龍のヒロインの一人。編入してきた機龍のルームメイト。

 機龍が一夏や箒達をお兄ちゃんお姉ちゃんと呼ぶのに対して、

 唯一『簪』と言う名で何時も呼ばれているなど、機龍からの

 信頼は特に厚い模様。

 最初は機龍に関心を持たなかった簪だったが、セシリアとの試合

 の後、泣いていた機龍を慰めた事が関係の始まりだった。

 (この時彼女は自身の行いを優越感に浸るための物と自覚し、

  嫌悪した)

 その後、彼女の専用機、『打鉄弐式』の開発を機龍が手伝ううちに

 彼に対して信頼が芽生え、それは機龍と共に居たいという感情へと

 発展した。その事を告白した際、彼からゴジラとしての過去を聞き、

 それでもなお自分を想ってくれた機龍に対して恋心が芽生え、

 それ以降機龍と簪は相思相愛の関係となった。

 また、想いを伝えあって以降はひとつのベッドでお互いを抱きしめながら

 眠るようになり、機龍にとっては束と同じ母性で彼を癒す存在となった。

2、セシリア・オルコット

 機龍のヒロインの一人。実際に彼女が機龍を気に掛けるようになった

 のは簪よりも早いため、実質的に一番最初のヒロイン。

 最初は原作のように男である一夏と機龍を貶していたが、

 試合などを通して機龍の力を拒む理由を気になった彼女は、

 束や機龍自身の口から理由を聞き、以降彼を気に掛けるようになった。

 英国編でゴタゴタもあり、悲しむ機龍を慰めるために

 彼と体を重ね、そんな中で自分の想いを告げ、以降機龍とは

 結婚するために奮闘する事になった。

3、ラウラ・ボーデヴィッヒ

 上記の2人と同じく機龍のヒロインの一人。

 シャルロットと共に転校してきたラウラは当初、一匹オオカミの

 軍人然とした所は相変らずであり、セシリア、鈴を徹底的に

 追いつめたのも同じ。だが、その後、怒りで暴走した機龍によって

 乗機もろ共ボコボコにされてしまった。

 その後、タッグマッチトーナメントで機龍・簪ペアと戦った際、

 VTシステムが発動してしまった。

 そんな中、精神世界で機龍とトランスした彼女は機龍の過去を知り狼狽。

 そして、機龍に生きる事を正され、兵器である自分を捨て、

 人間の自分となる事を選んだ。その後、機龍を自分の弟だと

 宣言し、機龍に受け入れられ、彼の姉となった。

 ちなみに、彼女の体に移植されたオーディンの瞳は機龍がドイツを

 訪れた際に彼の力で修復されており、機能の大半はロック

 されているが現在では眼帯無しでも普通に生活できる。

 但し、眼帯は既に習慣となっているので、今の所眼帯を

 外す気はない様子。

4、山田 真耶

 IS学園に在籍する教師で一夏と機龍の1年1組の副担任。

 おっとりとした性格で面倒見も良く、生徒達からも良くも悪くも

 慕われている。セシリアと同じようにクラス代表の時に機龍の

 過去を知る。それ以降は機龍と普通に接していたが、福音との

 戦闘で負傷した機龍が更に戦おうとしていたため、うっかり

 口を滑らせて機龍に真耶自身がゴジラとしての過去を

 知っていた事を気づかれてしまう。

 そして物語中盤(16.5話、お出かけ編)で、一夏のパーティを

 成功させるために町に出かけた時に、なし崩し的に機龍と

 エッチな事をしてしまった。

 その後は束のように、機龍にとっての母親的存在となる。

5、スコール・ミューゼル

 一夏達の敵である亡国企業(ファントムタスク)の実行部隊、

 『モノクローム・アバター』の隊長である女性。

 機龍との初めての出会いは本編18話。

 当初は偽名を使って彼に接触。これは興味半分からの事だったが、

 その際にオータムと共にCIAに捕まりそうになった所を

 助けられ、以降機龍に更なる興味を示す。

 京都で機龍と再会した際には彼の戦いに対する姿勢を批判。

 機龍はその事で一時的にダウンしてしまうが、結果的に

 それは機龍の覚醒を促し、スコール自身も彼を試しつつ

 彼の成長に期待していた節があった。

6、マドカ(篠ノ之マドカ)

 スコールの部下であり千冬似の謎の少女。その正体は

 世界最高のパイロットを求めたある企業が生み出した織斑千冬の

 クローン。こんな自分を生み出し、剰え見捨てた世界への復讐と

 破壊。そのための力を求めていた。当初は一夏とオリジナルである

 千冬を倒し、世界最強となった後、世界を滅ぼそうと考えていた。

 しかし、そんな中でゴジラの強さを目の当たりにした彼女は

 ゴジラに興味を持ち、超えるべき目標を千冬からゴジラへ変更した。

 しかし、京都での戦いの折、ゴジラと精神世界で邂逅し、対話。

 戦う事でしか生きる意味を見いだせない自分自身を嘆き泣き叫ぶ

 が、そんな彼女の生きる意味、場所になってやる、というゴジラの

 言葉を聞き、過去を払拭。以降は自分の生きる意味を見つけるために

 機龍達と行動を共にする。普段ゴジラと話す際には、左手首に

 巻いている端末を介して行う。ゴジラの存在は学園には広まって

 いなかったためなのと、その都度性格を逆転させるのは

 タイムロスに繋がるから。

 ※また、上記の事を考えると、厳密には機龍のヒロインではなく、

  ゴジラのヒロインとなる。が、ゴジラは機龍と肉体を共有している

  ため、こちらに追記する。

 

 

 

追加ヒロイン(オリキャラ)

モーラ・S・フラワー 16歳

オレンジ色のロングヘアーとブルーの瞳を持った長身の美少女。

インドネシア領、インファント島出身。

お淑やかな大和撫子のようなお姉さんキャラ。

 

その正体はかつて東京の戦いでゴジラの熱線から我が子を護り

爆死した守護獣、モスラ。

彼女もまた、機龍と同じようにこのISの世界に人として転生した。

(機龍と同様かつての自分の力、怪獣の力を行使する事は可能)

初登場は銀の福音事件の際、一夏達を護った所から。

その際はオレンジ色のトーガのような服装だったが、本編13話

からIS学園へと入学してきた。

学園には束の力で入学しており、束とクロエは既に彼女の

素性、すなわち過去を知っている。

表向きは機龍の親戚であり許嫁となっている。

ちなみに、親戚と言うのは機龍とモーラの関係をごまかすための嘘

であり、考えたのは束。許嫁は本当。

また、束から専用機を持たされており、専用機の名はアイギス。

※機体は後述で解説

モーラは生まれ変わったこの世界で生きていくことを決めており、

それは機龍も同じだった。

また、人に利用され、それでも人の希望であろうとする機龍の姿勢や、

誰かを護りたいという純粋な意思に心を打たれたモーラは彼の

傍に居たいと思うようになった。

それもあってか、機龍の許嫁になると言い出したのだった。

(ちなみに、保護者である束の了承は得ている模様)

 

オリジナルメカニック

篠ノ之機龍専用機:銀狼(シルバーウルフ)

設定:束がコアから何からを新造で作り上げた機龍専用第3.5世代IS。

   ……という設定のISみたいな兵装。

   実際には銀狼はISではなく、あくまでもISに似た

   武器である。待機状態が存在する事や量子変換を利用した

   武装の変更などはISと共通であるが銀狼にはISの

   心臓であるコアやコア・ネットワークは存在しない。

   エネルギーは機龍の方から供給される仕組みとなっている。

   姿形は機龍をIS風に作りかえたような物。

   腕部、脚部には格闘戦時に使用できるクロー付き。装甲は

   胸部、腰部、両腿に装着され、頭には3式機龍の顔を模した

   ヘッドギアが付けられている。

武装:腕部2連装レールガン×2(ブレード内蔵)

   両腕部近接格闘クロー

   胸部3連ハイパーメーサー砲

   バックユニット(ロケット砲、垂直発射システムVLS)

   ハイスピードブースター(低出力メーサー砲×4)

   ※ユニットとブースターはどちらかを選んで装備するタイプ

   腰部接続式テールユニット

 

モーラ・S・フラワー専用機:アイギス

設定:束が1から新造した第3世代IS。

   この機体はモーラの性格やモスラのバトルスタイルを

   モデルに設計された。速度を生かしたスピード戦法を

   得意とするモスラことモーラのためにスラスター出力と

   PICの反応速度上昇など、機動性を限界まで突き詰めた。

   また、ハイパーセンサーの能力もトップクラスに強化されている。

   その代り、搭載する武装は僅か2種。しかも片方は防御兵器

   であるため、一夏の白式のように攻撃兵装は1種類だけに

   なってしまった。

武装:銃剣付きレーザーピストル『ツインウイングス』×2

   光学式シールド内蔵シールドビット『イージス』×4

開発コンセプト:高い機動性によって誰よりも早く友軍機の元に

        駆け付け、高いレーダー機能で戦場全体を認識し、

        イージスで友軍を死守する事。

        このため、アイギスは最初から多対多。或いは

        多対単を想定している機体であり、単対多、或いは

        単対単の戦いは最初から考えられていない。

        従って、モンド・グロッソのような試合への出場

        自体考えられていない。

 

その他本編と異なる変更点。

 

1、ブルー・ティアーズにオリジナル武装の追加。

  セシリアが実体弾の兵装が欲しい事を機龍達に漏らした際、

  機龍の意向で、彼の持つ0式レールガンのデータを

  貰い受け、IS用にカスタマイズした『0式レールガン改』を、

  左腕部に半内蔵式で取り付け、第6話以降使用を続けている。

  内部にはブレードも取り付けられており、近・中距離での

  武装となっている。

2、作中では明言されていないが銀の福音の暴走事件は束ではなく

  亡国企業によるもの。元々は機龍か一夏の細胞のデータを

  回収するためだったが、福音がG細胞のデータを取り込んだ

  事で暴走。のちに機龍によって福音が外部からのハッキングに

  よって暴走を引き起こしていた事が発覚し、原作では

  凍結された福音だが、今作では凍結を免れている。

 

3次創作に関係ある設定

 

・『世界樹』の概念

  束が提唱した世界そのものに関する仮説。

  人が認識できる『世界』の概念の範囲を、宇宙があり、

  太陽系があり、地球があり、人類が生きている事。と設定し、

  この範囲を世界樹の根っこや幹と捉えた。

  その幹から生えた、世界に例えた木の枝を更に2種類に分化した。

  1、『大きな枝』

  一つの世界の根幹となる存在。例えば、束は自分達の居る

  世界と他の世界を分ける要因としてISを上げ、ISの

  有無が束達の世界と他の世界を分ける要因とした。

  一夏達の物語はISがあってこそ成り立つため、『世界を

  確立させる存在』とも言える。物語を語る上で

  絶対に必要な下地の様な物。

  (ISの世界ではIS。ゴジラの世界では怪獣の様な物)

  そして、現在まで束が認識しているのが、一夏達が生まれた

  『ISの世界』と、全く別の大きな枝、つまり異世界であり

  機龍とモスラの生まれ故郷である『ゴジラの世界』。

  世界に関わる事でもあるため、大抵この大きな枝の元に

  なる概念が、束達が名付ける世界の名前となる。

  (ISが大きな枝の元、鍵だから、ISの世界。

   ゴジラが鍵だから、ゴジラの世界、と言った感じ)

  2、『小さな枝』

  大きな枝から派生した物で、束は『可能性世界』とも

  表現している。

  例えば一夏が男ではなく女だったら?と言ったように、

  決してみる事が出来ないが存在『したかもしれない』、 

  或いは『しているかもしれない』世界の事。

  様々な分岐点を元に増殖を続けるため、数で表現する事は

  不可能。

 

 



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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 プロローグ

機龍は東京SOS後の機龍です。
作品内では人へと転生した機龍が主役です


義人「機龍ぅぅぅぅ!」

空中に投げ出された男性がそう叫ぶ先で、怪獣王を抱えた鋼鉄の龍

『機龍』が水しぶきを上げながら、海中へと没しって行った。

機龍『SAYONARA YOSHITO』

そう思いながら、機龍は海中深くに、ゴジラと共に沈んでいき、

眠りにつく……はずだった。

 

次に機龍が目を覚ました時

そこはどこかの部屋の中だった。

機龍『……どうして?僕、眠ったはず』

機龍は上から当てられた照明の光に顔をしかめ、遮るようにゆっくりと

右手を翳した。その時、機龍は違和感を覚えた。

  『これ……義人と同じ手?……何で?』

それは人の手だった。やがて機龍が頭を巡らすと、近くにあった

鏡が機龍の顔を映した。

見るからに龍だった顔は消え、首元まで伸びた銀髪、黄色味がかった瞳、

頭から枝分かれした2本の癖毛を持つ、大体7、8歳くらいの顔をした

少年の顔が映し出されていた。

  『これ……僕?……』

それを見て、立ち上がり、ベッドから降りた機龍。

今の機龍は病院の手術着のような物を着せられていた。

 

立ち上がって辺りを見回していた時、無機質な部屋の扉が開いて、誰かが入って来た。

???「やぁやぁ!お目覚めかな!?」

入って来たのは二人。

一人は機械のうさ耳をした格好の女生と、機龍と同じような銀髪の女の子だった。

機龍「……誰?」

首を横に傾げる機龍。今の彼の中にはその人物のデータが入っていなかった。

少なくとも、自分の最もたる友人の義人ではない。

束「うん?相手に名前を聞くときは、自分から名乗るのが礼儀じゃないのかな~?」

機龍「僕は……3式、機龍」

束「ふ~ん、機龍君かぁ~……。それでは、私こそ!世界に名高い天才!  

  篠ノ之束である!はい、拍手!」

   『シ~ン』

……ぽく、ぽく、ち~ん……。どこかで木魚の生る音が聞こえた後

束「も~~!何でしてくれないの拍手!?」

クロエ「いえ、それが当たり前ですから。」

束「クーちゃんもひどくない!?」

クロエ「申し遅れました、私はクロエ・クロニクルです。どうぞよろしく」

束「さらに無視とかひどくない!?……ふぅんだ、良いもん、お姉さんもう

  拗ねちゃうもん」

と言って部屋の隅で体育座りを始めてしまう束。

それを無機質な瞳で見つめている機龍。

機龍『こんな人間もいるんだ』

これまで人を見る事しかしていなかった機龍にとっては新しい感じの

人種だった。

  「それで、ここ何処?」

クロエ「ここは私達2人が生活しているしせ……」

束「秘密基地だよ!」

クロエ「だ、そうです……。はぁ……」

隅で座っていたが復活してそう言う束と、それを見てため息をつくクロエ。

機龍「……僕は海底で『あの人』と寝ていた……。なんで僕はここに居る?」

クロエ「実は、数日前にこの人がレーダーで日本海に沈んでいる

    未知のエネルギーを発見したので……」

束「さくっと回収してきました!ブイブイ!」

機龍『回収した!?そんな……!?』

  「僕のほかに……ゴジラは!?ゴジラは居なかったのか!?」

束「ゴジラ?何それ?私が君を見つけた時は裸の君が海中に沈んでた

  だけだったよ?」

機龍『ゴジラが、いない?それに……ゴジラを知らない?そんなはずは……』

  「それ、本当?ゴジラ、いないのか?」

  『そんな!?そんなはずはない!?あの時確かに……!』

はぁはぁと息を荒らげる機龍。

クロエ「大丈夫ですか?落ち着いて、深呼吸です。吸って、吐いて……」

ベッドに機龍を座らせ、落ち着かせるクロエ。

機龍「そんな、僕は……。ゴジラと、眠りについたはずだったのに……

   何で起きて……『人になってるんだ』」

束「ん?んんん!?今の最後の言葉はどういう意味かな機龍君!」

ずいずいっと機龍に顔を近づける束。

クロエ「待ってください!今彼は混乱しているんですから、あまり不安を

    煽るような事は控えてください」

束を強引に押しやって、機龍を落ち着けるクロエ。

 

そして数十分後

   「落ち着きました?」

機龍「うん……」

クロエ「できれば、私達に教えてください……。あなたが何者なのか?

    できますか?」

機龍「わかった」

掠れた声で返事をした機龍。やがて語り出したのは

自分の記憶……。核によって生み出され、消えた一番最初のゴジラ、自分……。

やがて再び目覚め、銀の龍……機龍となって同族と戦い……

一度はそれを退け……二度目の決戦の最後に自分の自我が戻り……

義人と別れを告げ、同族と共に海中で眠りについた自分の過去を……。

 

それを聞いた束とクロエは身勝手な人に生み出され、翻弄され、

同族とまで戦った機龍の話を聞きながら涙を流した。

特に、束はハンカチを片手にわんわん泣いている。

そして機龍自身も

  「義人……会いたいよぉ……義人ぉ」

自分を整備し……最後まで共にいてくれた大切な人、中条義人。

そう思いながら機龍も涙を流した。

束「うぅ……何て、なんて儚いなお話……!おいで機龍ちゃん!お姉さんの

  胸で泣いて良いんだよ!」

そう言われ、束の抱き着いた機龍は声をあげながら泣いた。

それはまるで、全てから解放された子供のようだった。

 

暫くして、落ち着きを取り戻した機龍。

クロエ「機龍?もう大丈夫なのですか?」

機龍「うん……もう大丈夫……ありがとう。」

クロエ「そうですか……。それにしても、解せない話ですね……。

    核で生み出され、苦しめられた挙句……、死して今度は兵器にされて同族と

    戦わされるなど……、私だったら願い下げです。」

束「ホントホント。ひどい話だよね~」

機龍「それでも、義人は機龍に優しくしてくれた……義人……」

束「機龍君はその人が好きなの?」

機龍「うん、機龍、義人好き」

その発言を聞いた束は勝手に妄想を始めてしまった。

 

~束妄想中~

少年機龍と再会した義人。

義人「機龍!?お前、機龍か!?」

機龍「そうだよ義人、会いたかった。」

義人「俺もだぜ!」

そう言ってハグをする機龍少年と義人。

しばらくすると顔を赤くし、トロンとした目の機龍が義人を見上げた。

束『ぐへへ......そして次は少年機龍と義人の...♪』

と考えた瞬間。

   『スパァァァン!』

 「痛ったぁぁぁぁぁ!」

後ろには、今しがた束をぶっ叩いたハリセンを持ったクロエが立っていた。

クロエ「何か破廉恥な事を考えて居そうだったので、とりあえず引っ叩いて

    おきました」

束「予測でお姉さんを叩くの禁止!」

クロエ「では、今さっき頭の中で考えていた事を口に出して、大きな声で

    教えてください」

束「ゔ!?そ、それは……」

クロエ「それは?」

するとクロエに耳打ちをする束。

それを聞いたクロエは耳まで真っ赤にして。

   「何てことを考えているのですかあなたは!?信じられません!?

    と言うか、やっぱり如何わしい事だったじゃないですか!」

束「仕方ないんだ!束さんの腐女子脳の一部はどうしても先ほどの

言葉に反応してしまうんだよ!」

クロエ「だったら今すぐその頭をかち割って脳みそを修正してあげます!」

と言って何処からか調理用のフライパンを取り出すクロエ。

束「ちょっとクーちゃん!それを水平に喰らったら私の頭が壊れちゃうよ!?」

クロエ「違います!これは垂直に振り下ろすんです!」

束「それってますます危ないよ~!」

と言いながらドタバタと機龍そっちのけで鬼ごっこを始める束とクロエ。

それを見た機龍は。

機龍「ふふ...あはははは。」

小さくはあるが、確かに笑い出した。

 

しばらくして鬼ごっこも終わり落ち着いた束とクロエ。

その後、束によって体を調べてもらった機龍。

クロエ「どうですか?彼は?」

束「驚く事ばっかりだよ……。あの子の体、中身は機械と筋肉が

  融合したみたいなってるね……。骨格自体は人だけど……強度が

  人間のそれとは大違いだ。戦車砲を生身で喰らったって無事な強度だよ」

クロエ「ゴジラの強度、ですか?」

束「そうとしか考えられないだろうね……それに、どうやら機龍は

  『元の姿に戻れる』みたいだね。細胞が形状記憶合金の役割をしているみたい」

クロエ「それはつまり、60メートル級のサイズに戻れる、と言う事ですか?」

束「ううん、サイズ自体は大体5,6メートルまで。でも武装も

  ちゃんと備わってる。口と胴のメーサー砲に右手のドリル、両手のレールガン、

  体のスラスターに武装兼用のバックパックまでね」

クロエ「彼は、人と龍の姿を使い分けることができるのですか?」

束「たぶんね。……でも、本人は戦う気はないみたいだし、よほどの事が

  無い限りはあの姿にはならないでしょ」

2人がそんな事を話していた時、機龍はふと、部屋の隅に置かれていた

物が気になった 。

布がかかっていて何かはわからなかった。

束『あぁ、それはISだよ。』

その時、スピーカーを通して束の声が聞こえてきた。

機龍「IS?...束が作った?」

束『そう!この天才束さんが一から作り上げた傑作である!』

と、部屋で息巻いている束を無視して布を取っ払う機龍。

そこには薄汚れたISが転がっていた。

 『リュウ君、さっきからどうしたの?』

機龍「少し……何だか、ここから呼ばれたような……そんな気がして……。

   それより……リュウ君って僕の事?」

束『そうだよ……あ。後それは束さんが初期の頃に作ったISの試作品だよ。』

クロエ『って、何でこんなことろに第一世代を置いたまんまなんですか!?』

束『いや~、処理がめんどくさくて……テヘペロッ♪……ごめんなさい、だから

  そのチェーンソーをしまってください』

そんな風にコントをしている二人を無視して機龍がISに手を伸ばして

触れた時。

ISから機龍の中に情報が流れ込んできた。そして次の瞬間……。

機龍はISを纏ってしまった。

機龍『成程……これがIS……』

この時、機龍はISの生みの親が束なのは知っていたが、男性がISを

動かせない事を知らなかった。

束『って!?束さん達が目を離した隙に何てことしちゃってるのリュウ君!?』

クロエ『これは!?男の機龍がISを!?』

機龍「?……驚いているの?」

束『……あぁ!?ISが男は動かせない事説明するの忘れてた~!』

クロエ『って!実際に動かしてるのを前にそれ言っても遅いですから!』

その後、再び検査されてしまった機龍だった。

それでも……。

束「ダメだ~……。この天才を持ってしても理解できないよ~

  クーちゃん頭マッサージして~」

クロエ「はいはい……。それにしても、どうして機龍がISを動かせたの

    でしょうね?」

束「あ~多分だけど、機龍は外見は男だけど、中身は無性みたいなもんだからね……、

  そこが関係してるんじゃないかな~……。まぁ、わかんないけど……」

結局機龍がISを動かせた理由はわからないまま、検査は終了。

機龍は束たちと共に生活することになった。

 

こうして、何の因果か、知らずのうちに異世界に迷いこみ、人となった

機龍は第二に人生をどのように歩むのだろうか?

     鋼鉄の銀龍 プロローグ END

 

 

 




プロローグは原作開始前、モント・グロッソの事件後、
一夏がISバレする前です。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第1話

今回は機龍の学園編入から初日の終わりまでの話です。


前回までのあらすじ

ゴジラと共に深海に消えたはずの機龍は少年の姿となり、

ゴジラの様な怪獣が存在しない世界≪ISの世界≫へと転生

してしまう。そこでISの生みの親である篠ノ之束に

保護された機龍だったが、検査の際に置いてあった試作品のISを

動かしてしまった。

 

機龍が束たちに保護されてから、早いもので一カ月以上の時が流れた。

そんなある日の朝。

機龍「束、クロエ……朝ごはんできたよ」

小さめのエプロンをかけた機龍が朝食を載せたワゴンを押してきた。

時は遡り、機龍たちが出会ってからしばらくした時だった。

この3人の中で唯一調理をしていたクロエの作る物は

普通の人間ならまず食べないような物だった。

しかし束はそれを平気で食べ、機龍も元が機械のため、必要に応じて

五感を操作できるので、問題なかった。

そんなある日、機龍がお世話になっているお礼として料理を作ったのだが……。

これも機械であるのが理由で、レシピさえあればどんなものでも作れたのだ。

その事以来、家事はクロエが、食事は機龍が担当する事になった。

 

束「おぉ!ありがとうリュウ君」

クロエ「ありがとう、お疲れさま」

そう言うと三人とも席について食事を始めた。

何でも束の発案で『食事をするときはみんな一緒が良い!』との事。

そんな風にしてどこか家庭的な空間に作り替えられていた部屋で

食事をしながら話しつつ、テレビでニュースを見ていた時だった。

束とクロエは何かを話していて、画面を見ているのは機龍だけだった。

そんな時。

キャスター『……臨時ニュースです。つい先ほど、都内のとある

      会場に置かれていたISの一機が、何と、男性の手によって

      起動させられたとの報告がありました』

束「ぶっ!?」

それを聞いてコーヒーを飲んでいた束が吹いて、机の向かい側に

座っていた機龍にかかった。

 「ゲホッゲホッ!?な、なんだって……けほっ……」

クロエ「ってそんなことより……あぁ、機龍、これで顔拭いて。

    それとテーブルも拭かないと……」

と言ってタオルを取って来て束と機龍に渡し、手っ取り早く机を拭くクロエ。

その間にもニュースは続いていた。

キャスター『繰り返し申し上げます。これは事実です。

      確認した所、男性はIS学園の試験会場に迷い込み、

      そこにあった訓練機を動かしてしまったようです。

本人の話では、学園と同じ会場で試験をしていた

      藍越学園の受援会場に向かう途中でたまたま部屋に入ったため、と

      供述していますが、現場はかなり混乱しており、詳しい情報は

続報をお待ちください』

クロエ「まさか……機龍以外にも男性ISパイロットが?」

そう束に質問するクロエだったが、当の束は画面を見て、しばらく考えた後、

おもむろに立ち上がって言い出した。

束「良し!リュウ君!君は今年の春からIS学園生だ!」

ビシッと指さした先ではタオルで顔を拭いた機龍が首を横に傾けるだけだった。

満面の笑みの束と驚愕した顔のクロエ。

そして何を言い渡されたのか、理解できていない機龍だった。

 

そう言い渡されてしばらくした後、今機龍は数日前にあったばかりの女性を

前にしていた。

機龍の前では足を組んだ女性が機龍の顔を見てからため息をついた。

ため息をついた女性『織斑千冬』は話し始めた。

千冬「お前の事は束から聞いている。それで、お前は現状を理解しているのか?」

機龍「YES、僕はなぜかIS適性を持っているので、この学園に送られました」

千冬「ではお前のここでの名前は?」

機龍「『篠ノ之機龍』...それが束から貰った名前です」

千冬「そうか...それと、お前の入るクラスには束の『妹』の箒がいる。

   何か聞かれるかもしれんが、準備はしておけよ」

機龍「YES」

千冬「それと、お前の『本当の』過去は私も聞いた。お前の出生もな」

機龍「……」

千冬「私はお前に同情などしないぞ。する意味も無いからな」

機龍「……」

千冬「それと、学園内ではもめ事は起こすなよ。面倒だからな」

機龍「わかりました……」

千冬「では行くぞ。付いて来い」

そう言って職員室を出た千冬に付いて行く機龍。

そんな時、彼は思っていた。

機龍『こいつも驕った人間の一人なのか』と。

やがてしばらくするとこれから機龍が通うであろう一年一組。

千冬「それじゃあ、呼ぶまでここで待っていろ」

機龍「YES」

それを確認すると一足先に教室の中に入っていく千冬。

数秒後にはなぜか拳骨の音が数回聞こえた後、女子の『きゃあぁぁぁぁ!』

と言うけたたましい声が数回聞こえた。

どうやらクラスの女子の大半は千冬を『崇拝』しているようだと理解した機龍だった。

千冬「全く......では次に、実は今廊下にお前達とは異なる変わった生徒がいる」

女子「変わった生徒?」 「どういう事?」

とヒソヒソ話を始める女子。

千冬「そしてそいつは……織斑、お前と同じ、男性ISパイロットだ」

それを聞いた瞬間、教室内が騒めいた。

女子「男の操縦士!?」 「織斑君以外に居たの!?」

    「どんな子かな~?」

などど騒ぎ始めるクラス内。

千冬「それでは……機龍、入ってこい。」

機龍「はい」

そう言ってドアが開いて入って来たのはどう見ても小学生サイズの

オーダーメイドのIS学園の男子服を着た機龍だった。

女子「子供!?」  「あの子小学生!?」

   「あの子が男性パイロット!?」 「お人形さんみたい♪」

    「銀髪がかわいい♪」  「抱っこしてみた~い♪」

途中から変な事を言い出した女子に首を傾げる機龍。

教室のざわめきを咳払いで沈める千冬。

千冬「あ~この中の大半の者は『何故小学生にしか見えない』こいつが

   ここに居るのだと疑問を持っただろうが……先日、こいつが

   IS学園の入試のテストを受けた所、国語は壊滅的だったが、

   数学、英語は満点をたたき出した……。いわゆる、天才に入る

   部類の人間だ」

最後の言葉に驚くクラスの生徒たち。

  「それでは、機龍、自己紹介をしろ」

機龍「YES……初めまして、篠ノ之機龍です。よろしくお願いします」

膝の前に両手を添えてぺこりとお辞儀する機龍。

そして、その苗字に驚く生徒たち。

女子「篠ノ之?……それってまさか……!?」

    「あの人と同じ苗字じゃない!?」

千冬「今の言葉で大体想像が着いたものもいるだろうが……こいつを

   学園に送って来たのは篠ノ之束……ISの生みの親だ。」

女子「「「「「「「「「「……え?……えぇぇぇ!?」」」」」」」」」」

箒「何と!?」

千冬「本来なら、こいつはここには来ないはずだったのだが……

   高校生並みの学力を持っている事と、男性ISパイロットと言う事で

   急きょ学園に編入する事になった。織斑」

一夏「は、はい!」

千冬「同じ男同士、機龍の面倒はお前が見てやれ」

一夏「は、はい……」

千冬「それでは機龍」

機龍「はい」

千冬「席は織斑の横の席を使え...それと、万が一問題が発生した時は

   私が山田先生に相談しろ。わかったな?」

そう言われて千冬をじーっと見上げる機龍。

  「な、何だ?」

機龍「いえ、わかりました」

席に着きながら機龍は思っていた『千冬は案外優しいのかもしれない』と。

 

一夏「これからよろしくな、機龍」

機龍「よろしく、織斑」

一夏「俺のことは一夏で良いぜ」

機龍「うん、よろしく一夏」

握手を交わす一夏と機龍。

その後、ホームルームを終わった後、休み時間の廊下には多くの生徒たちが

集まっていた。

一夏「うぅ……これが見世物にされるパンダの気持ちなのか?」

そう思う一夏の隣では

機龍「すぅ……すぅ……」

小さな寝息を立てながら機龍が眠っていた。

その周りでは。

女子「ねぇねぇ、あの子でしょ。男性パイロットで千冬様の弟の

   一夏って男の子」

  「え?でもあの小さな子は?」

  「何でもあのISの開発者の束博士の所から送られてきた2人目の

   男性操縦士だそうよ」

  「え!?ホントに!?……でも何というか……」

機龍「すぅ……すぅ……ぅにゅ……」

女子「「「「「かわいい~~!!」」」」

その声で機龍は起きた。

機龍「うぅん……ふぁぁ……あれ?僕寝ちゃったのか……」

欠伸をしてから体を起こし、プルプルと頭を左右に振ってから覚醒する機龍。

一夏「お?起きたか機龍」

機龍「あ、一夏、僕寝ちゃってた?」

一夏「あぁ、かわいいくらいの寝息を立てて眠ってたぞ」

と言ってちらっと廊下の方を見るが……、一部の生徒は目がハートになっているように

見える一夏だった。

そこに

箒「一夏、それに機龍、少し良いか?」

ポニーテールの少女がやって来た。

一夏「箒?」

機龍「誰?」

箒「……ここではなんだ……屋上に行こう。」

そう言われ、屋上に移動する3人。

 

一夏「それにしても、久しぶりだな。箒。6年ぶりか?」

箒「あ、あぁ……そうだな……」

そんな二人の会話を見ていた機龍。

機龍「二人は……幼馴染?」

一夏「あぁ、そうだよ。小学校の時に知り合ったんだ」

機龍「ふぅん」

一夏「そう言えば、箒は機龍に聞きたい事があるんじゃないのか?」

そう振られて機龍に向き直る箒。

箒「機龍。お前は私の姉、篠ノ之束の所から来たと言っていたな……。

  その、お前と姉さんはどういう関係なんだ?」

機龍「僕は……束に拾われた。」

一夏「拾われた?」

機龍「僕は昔の記憶、無い……。自分の名前も、機龍しか知らない。

   そしたら、束が家族になってあげるって言って、束の苗字を

   くれた。だから、僕の名前は篠ノ之機龍になった」

今言った機龍の記憶がないと言う話は機龍自身の過去が漏えいするのを

防ぐために作った嘘だった。

箒「そう、だったのか……すまなぬ、悪い事を聞いてしまった」

機龍「大丈夫、機龍は気にしてない」

その後、他愛ない話をしてから教室の戻った3人。

 

そして早速始まった授業の内容はISについてのものだった。

教壇では山田先生が話をしていて、その横では織斑先生が授業を見ていた。

山田「では、ここまでで質問がある人?」

そしてこの授業の中で話に付いて行けない生徒が一人……。

一夏だった。

一夏『このアクティブなんちゃらとか広域うんたらとか、どういう意味なんだ!?

  ……そうだ!機龍はどうしている!?アイツも男だけど、

   この内容に付いて行けてるのか!?』

ばっと横の機龍を見るが視線に気づいた機龍は『どうしたの?』と

言いたげな瞳を向けてくるだけだった。

その瞳を見て、表情をひく付かせる一夏。

山田「織斑君、何かありますか?」

一夏「え、えっと、あの……」

山田「質問が有ったら聞いてくださいね。何せ私は先生ですから」

そう言われ、おずおずと挙手する一夏。

一夏「あの、先生……」

山田「はい、織斑君」

一夏「ほとんど全部わかりません」

山田「え!?全部ですか!?き、機龍君はどうですか?」

機龍「大丈夫、全部わかってる」

一夏「ま、マジかよ」

と、そこに後ろで見ていた千冬が前に出てきた。

千冬「織斑、入学前に渡された参考書は読んだか?」

一夏「あ。あの分厚い奴ですか?」

千冬「そうだ、必読と書いてあっただろ」

一夏「いや、間違えて捨てました」

と言った瞬間

   『バアァァン!』

持っていた出席簿で平手打ちのように一夏を叩く千冬。

千冬「後で再発行してやるから、一週間以内に覚えろ。それと機龍」

機龍「はい」

千冬「こいつの勉強を手伝ってやれ。できるか?」

機龍「YES、可能です。参考書の内容は暗記しています」

千冬「では頼むぞ……全く、お前の頭は小学生以下か。

   世話する相手に世話されてどうする?」

一夏「い、いや、それ以前にあの量を一週間じゃ無理が……」

千冬「やれと言っている。二度も言わせるな」

鋭い眼光に射抜かれて、それ以上何も言えなくなる一夏だった。

 

その後の休み時間

早速機龍に教えてらいながら教科書の判らない部分の勉強を始めた一夏。

一夏「このアクティブなんちゃらって、何なんだ」

機龍「それはアクティブ・イナーシャル・キャンセラー、日本語に訳すと

   能動的慣性無効化装置」

一夏「えっと、つまり?」

機龍「物体の動きを自分の意思で止められる装置……サイコキネシスを

   イメージしてみて」

一夏「それって、物に触れずに動かす超能力の?」

機龍「そう、AICはそんな感じ……。でも、これを載せてる機体は少ない。

   それと、AICの他にはPICと呼ばれる装置がある。PICは

   ISが飛ぶための基本」

一夏「そのAICとPICって何が違うんだ?」

機龍「PICはあくまで自身のISが飛ぶための装置……だから自機のIS以外には

   作用しない。でもAICは自分以外の機体の動きを止められる。

   要約すると自機以外に効果が及ぶかの有無が違い」

一夏「そうなのか……。じゃあこのパッケージって?」

機龍「それは簡単、ISの装備の事。ISに装備する後付けの

   装備の事。例えばISのAはナイフしか持っていないとする。

   でもパッケージを使って装備を増やしたAは銃も使えるようになった」

一夏「そうなのか……。悪いな機龍、色々教えてもらって。」

機龍「問題ない。続ける」

そう言って再び機龍から色々教えてもらう一夏。

 

そんな時だった。

???「ちょっとよろしくて?」

一夏「ふぇ?」

機龍「?」

???「まぁ!何ですの、そのお返事は!私に話しかけられるだけでも

    光栄なのですから、それ相応の態度と言う物があるのではないのですか!?」

一夏達の後ろに金髪の少女が立っていた。

一夏「悪いな、俺は君が誰だか知らないし」

???「なっ!?何ですって!?」

一夏「機龍、お前は知ってるか?」

機龍「知らない」

???「なっ!?そちらのあなたまで...私の名はセシリア・オルコット!

    イギリスの代表候補生にして、入試主席のエリートなのですよ!

    そんな私を知らない!?」

一夏「なぁ、機龍」

機龍「何?」

一夏「代表候補生って何だ?」

それを言った瞬間、クラス中の女子がずっこけた。

機龍「そのまんまの意味、IS世界大会に出る各国の代表の候補の事」

その問いに対してあくまで淡々と答える機龍。

一夏「へ~」

セシリア「信じられませんわ!この国の男性はここまで無知だったなんて。

     とにかく!本来であれば私のようなエリートとクラスを共にし、

     話しかけられるだけでも幸運なのです!そこを理解していますの!?」

一夏「そうか、それはラッキーだ」

セシリア「バカにしてますの……。そちらのあなたはどうなのですか?」

機龍「興味ない」

セシリア「な!?あなた!私の話を聞いてましたの!?私はエリートなのですよ!?」

機龍「それはあくまで肩書、そんな物に興味はない。機龍にはエリートかどうかなんて

   どうでも良い」

と、バッサリ切り捨てる機龍。

セシリア「なな!……、ふん!まぁ良いですわ。……私はエリート、そのような

     侮辱にいちいち怒ったりはしませんわ。それにエリートたる者、

     下々の者には寛容でなければなりませんし、わからない事があれば

     まぁ、泣いてお願いすれば教えて差し上げなくもないですわね。」

一夏「必要ないな。今は機龍に教わってるし」

セシリア「で、ですが私は入試の際に教官を倒したエリート!

     ですから!」

一夏「教官なら俺も倒したぞ?」

セシリア「何ですって!?私だけと聞いていましたのに!?」

一夏「まぁ倒したっていうか、突っ込んできたのを避けたら壁にぶつかって

   自爆しただけだったんだけどな。……機龍はどうだった?」

機龍「僕は戦って無い……戦いは嫌いだから……」

そう言って俯いてしまった。

一夏『あれ?何か悪い事聞いちまったかな?』

結局その後、興奮したセシリアだったが予鈴が鳴ると自分の席に戻って行った。

 

その後、さらに残って勉強していた一夏と機龍の所に山田先生がやって来て、

一夏と機龍は学生寮で生活する事になった。

帰り道、一夏と並ぶ機龍の表情は曇っていた。

一夏「お前、さっきから暗いけど大丈夫か?」

機龍「ううん、束達と離れ離れだと思うと……寂しくて。」

そう言いながら俯いた機龍の瞳は潤んでいた。

それを聞いた一夏は隣を歩いている機龍の肩に手を回した。

一夏「大丈夫だって!俺や箒もいるし、千冬姉もいる。俺ってお前よりバカかも

   しれないけどさ。俺は年上なんだから頼ってくれよ」

機龍「一夏……うん、ありがとう。」

その後手を繋いで一緒に歩いた二人だったが

後ろで鼻血を出した数名の女子が倒れた事は知る由も無かった。

 

一夏と別れた機龍は教えられた部屋の前まで来た。

   『コンコン』

部屋をノックする機龍。

???「はい?誰?」

機龍「今日からここで生活するように言われた機龍です。

   ……中に入っても良いかな?」

???「どうぞ」

機龍「失礼ます」

中に入ると青い髪で眼鏡をかけた少女が部屋の据え付けのパソコンに向かっていた。

やがて操作の手を止めた少女が機龍の方に向き直った。

簪「……話は聞いている。私は更識簪……よろしく。」

機龍「篠ノ之機龍です。よろしくお願いします」

頭を下げる機龍。

簪「機龍は内側のベッドを使って……。荷物は届いているから。」

それだけ言うと簪は再びパソコンに向かったきり、機龍の方を見なくなった。

機龍自身は届いていた荷物を確認した後、何をするでもなく、ベッドの上で

ゴロゴロしていた。

そしてしばらくした後

   『キュゥゥゥゥ』

機龍のお腹が鳴った。それを聞いた一瞬手を止める簪。

機龍「お腹空いた……」

そう言った機龍は立ち上がって部屋を出て行こうとした。

簪「あ」

それを咄嗟に止める簪。

機龍「何?簪?」

簪「よ、よかったら、私も一緒に行っても良いかな?」

この時、簪が機龍に声を掛けたのは好奇心だった。

機龍「良いよ。一緒に行こう」

簪の誘いを快諾した機龍。その後二人は食堂に行き、一緒に食事をした。

その際には周りからの視線が凄かったが機龍自身は我関せずと

言わんばかりに食堂の夕食を味わっていた。

 

その後、簪、機龍の順番でシャワーを使い、二人ともベッドに入った時だった。

機龍「あの、簪」

簪「何?」

機龍「お休み」

簪「あ……。うん、お休み」

一度は躊躇うが、薄い笑みをこぼした後、機龍に返事を返した簪。

暫くすると2人とも眠りにつき、一日を終えた。

 

こうして学園にやってきた機龍は一夏達と出会い、簪と言うルームメイトを

得たのだった。

     第1話 END

 

 




次回はセシリアとの決闘前まで書きたいと思います。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第2話

前回の予告でセシリアの決闘前までと予告しましたが、
想いの他字数が少なかったので、セシリアと機龍の試合の所まで
書きました


前回までのあらすじ

IS学園に入学する事になった機龍は学園の中で

男性初のISパイロット、『織斑一夏』、束の妹『篠ノ之箒』

一夏の姉で『ブリュンヒルデ』の異名を持つ『織斑千冬』等と出会う 

しかし、そんな中でイギリスの代表候補『セシリア・オルコット』に

反感を持たれてしまった機龍 

そして束達と離れたことで『寂しい』と感じる機龍だったが、

一夏の励ましもあり、元気を取り戻した機龍 

その後もルームメイトの『更識簪』と出会い、少しではあるが

親睦を深めた機龍だった

 

朝 6時過ぎに目を覚ます機龍

しばらくして機龍が顔を洗って制服に着替えていると

簪の使っているベッドの横でアラームが鳴った

ベッドの中から伸びた手がアラームを止め、再びベッドの中に戻って、

動かなくなった それを見た機龍は

機龍「簪、朝だよ。起きて」

簪「う~ん。後5分寝かせて」

機龍「わかった」

そして5分後

  「5分経ったよ。起きて」

簪「う、う~ん。…もうちょっと寝かせて~」

機龍「ダメだよ。寝すぎてると遅刻しちゃうよ」

そう言われると、むくりと起き上がる簪

  「おはよう、簪」

簪「うん、おはよう、機龍。お、起こしてくれて…ありがとう」

機龍「ううん、気にしないで」

その後、簪が着替えるのを待ってから二人で食堂へ行った

 

食堂ではすでに多くの生徒たちが食事をとっていた

料理を持って、適当な空いている円形の席に座る機龍と簪

昨日と同じように周りからはかなりの視線が集まっていたが機龍は知らん顔をする

だけだった

女子「隣の子誰?」 「代表候補生の更識さんじゃない。どういう事?」

   「あの子、機龍君のルームメイトって話よ」 「ホントに!?良いな~」

などと話をしている女子だったが簪や機龍には聞こえて居なかった

と、機龍たちの所に、トレーを持った一夏と箒がやってきた

機龍「?あ、おはよう一夏、篠ノ之さん」

一夏「おはようさん機龍。隣良いか?」

機龍「うん」

そう言われて機龍の横に一夏、さらに隣に箒が座った

一夏「そういや、隣の子は?知り合い?」

機龍「うん、僕のルームメイト」

簪「は、はじめまして。更識簪です。よろしく……」

そう言った簪の顔は何処か暗かった

内側に簪と箒が並ぶようにして座り、それぞれの外側に機龍と一夏が座った

その後、食事をしているが、どうも一夏と箒の仲が悪そうだった

機龍「一夏、篠ノ之さんと喧嘩したの?」

一夏「ま、まぁいろいろあってな」

と、そこにトレーを持った生徒たち三人がやってきた

???「織斑君、機龍君、隣良いかな?」

織斑「え?あぁ。良いけど」

機龍「良いよ」

そう言われた女生徒の2人は喜んで、一夏の隣に二人、機龍の隣に

黄色いパジャマと思わしき服装の生徒が座った

そんな時

  「うわぁぁ。織斑君と機龍君で結構食べるんだね~!」

実際、今の機龍や一夏と簪も入れた4人は普通の男子にしてみれば少量と見て取れる

量の食事だった

一夏「そうかな?逆にみんなはそれだけで足りるの?」

それを聞かれた3人は苦笑を浮かべた それを見た機龍は

機龍「一夏、人それぞれ、僕たちが口を挟むことじゃないよ」

と言った

その後、寮長をしている千冬がやって来て、全員の食事を急かした

 

そして授業の時間

千冬「これより、再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める。

   クラス代表者とはクラス対抗戦だけではなく、生徒会の会議や委員会の出席など、

   まぁ、クラス長と考えて貰って良い。自薦他薦は問わない、誰か居ないか?」

そう言われた矢先

女子「はい!織斑君を推薦します!」 「私もそれが良いと思います。」

   「賛成!」

一夏「え!?えぇ!?」

女子「じゃあ私は機龍君で!」 「私も!」

機龍「そんな」

  『戦いなんて。いやだ』

それを聞いた機龍は俯いてしまった

千冬「他には居ないか?いなければこの二人で決めるぞ」

その時

セシリア「納得がいきませんわ!」

机を叩きながら立ち上がったセシリアだった

    「そのような選出は認められません!男がクラス代表だなんて

     良い恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにそのような

     屈辱を一年も味わえと言うのですか!ましてや!片方はまだ

     10にも満たない子供!こんなのはバカバカしいにもほどがありますわ!」

それを聞いた時、機龍は思った 『こいつこそが、驕り高ぶった人間なのだ。』と

かつてのゴジラである自分なら彼女に向かってこういっただろう

『人間風情が思い上がるな』と。だが今の自分はゴジラではない

静かな生活、或いは永遠の眠りを望む銀龍だ いざこざは起こしたくないし、

誰かと対立したくもない

戦うのもゴメンだ あんなのはどっちも傷ついてどっちも辛いだけだから

いつの間にか口論になった火種は機龍の方に飛んできた

一夏「機龍!お前もアイツに何か言ってやれよ!」

機龍「僕は……嫌だ。喧嘩は嫌いだから」

セシリア「ふん!所詮は子供!年上に歯向かう事も出来ない臆病者ですわね。」

一夏「お前!年下までいじめて何がエリートだよ!最低じゃねえか!」

セシリア「何ですって!?男の分際で、この私を侮辱すると言うのですか!?」

一夏「女ってだけで、ISに乗れるからって偉そうにほざいてるお前には

   お似合いだぜ!」

セシリア「あなたは…!どこまで私を侮辱すれば!」

もはや専用機を展開して一夏を攻撃しようとする一歩手前のセシリア

だが

機龍「やめてよ!!」

俯いたまま黙っていた機龍が叫んだ

動きを止めたセシリアと一夏

  「何で、何で同じ人間同士でいがみ合うんだよ。そんなの、

   何の意味があるって言うの」

掠れるような声で絞り出された言葉に周りの生徒たちもセシリアも一夏も

黙ってしまった

千冬「……。機龍の言う事も一理ある。今は代表候補を決めるための

   場だ。喧嘩なら他所でやれ。それとオルコット。

   何を言おうが勝手だが、もう少し発言に気を付ける事だな。

   さて、代表候補だが。セシリア、織斑、機龍、貴様ら三人で 

   総当たり戦を行ってもらい、最も勝率が高いものをクラス代表にする。

   これは決定だ。異議の申し立てその他は認めん。

   オルコット、織斑。口だけならなんとでもなる。

   自分の意思を通したかったら、実力で証明しろ。

   それと機龍、貴様は戦いが嫌だと言ったな。だが、今回は逃げる事は

   許さん。わかったな?」

機龍「は、い」

何とか返事を返す機龍

千冬「よし、では試合は次の月曜だ」

こうして、機龍は逃れられない戦いに巻き込まれてしまった

 

その後、四限目の授業が終わると同時に、暗い顔のまま、机で眠り始めてしまう機龍

一夏「機龍?…おい?機龍?」

気づいた隣の一夏が気になって声を掛けるが、全く反応しない

箒「よせ一夏」

一夏「箒、けどよ。」

箒「こいつも何か思う所があるのだろう。そっとしておいてやれ。」

一夏「…わかった」

そう言うと一夏達は食堂に行った

大半の生徒たちが食堂に向かう中、再び戦う事のショックから

眠りについてしまった機龍

 

そして機龍は夢を見始めた

今彼の眼前に広がるのはかつて自分が蹂躙した東京の姿

機龍「何で…!何で!」

声を張り上げた機龍の後ろに現れたのは、一夏や箒、束やクロエ達

そして――義人だった

全員の顔は恐怖の色に支配され、機龍を怖がっていた

やがて機龍から遠のき始める人々

  「待ってよ!ぼ、僕は!」

声も届かず、人々は離れていく

  「いやだ!待って!…ひとりに……僕を一人にしないで!

   一夏!束!……義人ぉぉぉぉ!」

やがて人々は機龍の周りから消えた

  「みんな!……みんなぁ………うぅぅぅ………うわあぁぁぁぁん!」

やがて声を出して泣き始めた機龍 身勝手な人への『怒り』

自分から仲間が離れていくという『悲しみ』、全ての感情に

支配されながら機龍は『哭いた』

 

その頃、1年1組の教室に真耶が忘れ物を取りに戻って来た

この時彼女は教室には誰もいないだろうと思っていたが...

そこにはただ一人、机で眠っている機龍が居た

学園の教室の机は移動させる事が不可能なので、かつてはよく見られた光景、

机をくっ付けて食事をする、と言う事が出来ない だからお弁当を持って来ている

生徒も誰かと食べるときは天気のいい日は教室外などの所に行く

残っているとすれば一人でお弁当を食べる時だ

 

だが生憎この教室にはそう言う生徒が居ない そのため、機龍ただ一人が

残っているのだった

真耶『機龍君?昼食も取らずに、寝ているのかしら?』

気になった真耶は好奇心に駆られ、機龍にそっと近づいた

  「機龍く~ん?起きてますか~?...なんて。」

耳元でそう囁いた真耶 少しだけ離れようとした時、真耶の服の裾を

機龍の腕が掴んだ

  「き、機龍君!?お、起きてましたか!?」

びっくりした真耶、だが…

機龍「い、行かないで。みんな。僕を置いて行かないで……。

   行かないで、義人ぉ」

その時、機龍の顔を見て、ハッとなる真耶

今の彼の閉じた瞳から流れる――涙

それは机の上のディスプレイを濡らしていた

  「僕は、僕はぁ、みんなぁ」

それを聞いた真耶は思った

真耶『きっと、この子は私達の想像も付かないような経験をしてきたのでしょうね。

   まだこんなに幼いのに。かわいそうに』

裾を握った手を両手で包むようにして、握りしめる真耶

  「もう、大丈夫ですよ。あなたは独りぼっちなんかじゃありません。

   落ち着いて」

再び囁いた真耶の声を聴き、うなされていた機龍は少しづつ、泣き止み、

安定した眠りについた

  「かわいそうに。こんな年で一体どんな怖い目に……」

ハンカチを取り出して涙を拭った真耶は機龍の頭を撫でてから教室を後にした

―――その一部始終をセシリアに見られていた事に気づかずに

 

食堂で早くに食事をとったセシリアは一夏の事を愚痴りながら教室に戻って来た時だった

教室で真耶が服を掴まれている所を目撃した

セシリア『やはり!やはり男なんて!』

彼女がそう思った時、確かに聞こえた『行かないで』と

一瞬、フラッシュバックする自身の記憶、両親を亡くした過去を

その後も聞こえる機龍の悲しみの声と、光の反射で見えた、機龍の涙

やがて聞こえた真耶の声 教室から出てくる彼女から見えないように

咄嗟に隠れたセシリア

    『……。見つかってませんわね。……それにしても。

     いいえ!男に同情など不用ですわ!そう!男になんて!』

そう思いかけたセシリアが見ていたのは、自分の半分にも満たない年の少年

    「男に、なんて」

これがセシリアの考えを変える始まりであり、セシリアと真耶、

二人が機龍を意識するようになった始まりだった

 

その後、戻って来た一夏に起こされた機龍は起きるなり、一夏と手を繋いだ

最初は疑問に思った一夏だったが、機龍が何か怖い夢を見た事を悟った一夏は

機龍の頭を撫でて安心させた ちなみに、クラスの後ろの方で

数名の女子が貧血(鼻血による失血多量)で倒れた事を、ここに記して置く

 

翌日

千冬「織斑、貴様に朗報だ。貴様に学園から専用機を用意するようだ。」

それを聞いて驚く女子たち

女子「専用機?一年のこの時期に?」 「それってつまり政府から支援が出る  

                   って事?」

    「すごいな~!私も早く専用機欲しいな~!」

それを聞いて手を上げる一夏

千冬「何だ?」

一夏「俺に専用機が来るなら、機龍は?」

千冬「機龍には、専用機は用意されていない。」

それを聞いて再び騒めきだすクラス

女子「それって一夏君との差別じゃない?」 「ひどくない?」

    「ひょっとして政府の横暴?」

千冬「何を勘違いしているか知らんが、機龍はすでに

   束が用意した特殊仕様、全身装甲型のISを持っている。」

それを聞いて、心臓が跳ね上がる機龍 今千冬が言っているのはこの世界に

来て、機龍が使えるようになった『小さな自分の姿』の事

それを聞いてクラス内が騒めきだすがそれは遠い声のように機龍の耳には入ってこない

一夏にクラスメイトがISについて説明していた時

千冬「正確には、現在のコアの数は468だ。機龍のISのコアは束が後から作った

   完全な新造のコアだ。」

もちろん、機龍にはISのコアなど無い、今の話も完全な嘘だ

その後もISについても説明などが続いたが、機龍にはそれを聞いているだけの

余裕が無かった

 

そして放課後

一夏「なぁ機龍、実は俺さ箒からISの事を教えてもらう事になったんだけどさ。

   お前もどうだ?」

機龍「良い。自分で何とかする。誘ってくれたのはうれしい。でも、

   遠慮する」

そう言うと、そそくさと教室を出て行ってしまった

一夏が箒に剣道でシバかれている間、機龍は試合の日が来るまでの間、

ずっとブルーになっていた

クラスメイトや簪も気になって声を掛けるが

『大丈夫』と一点張りの機龍 そして、とうとう試合の日がやって来た

 

ピット カタパルトの中に居る、一夏、箒、機龍の三人

そこでは一夏と箒が口論していた どうやら

箒は一夏に剣道の事しか教えて居なかったようだ

だが、そんな事は何の慰めにもならない機龍

そんな時だった

真耶「―――ュウ君。……機龍君!」

ピットの上に位置する部屋からスピーカーを通して真耶の声が聞こえた

機龍「はい」

真耶「申し訳ないけど、織斑君のISの到着が遅れているの。

   オルコットさんの一番の相手、お願いできるかな?」

機龍「わかりました」

力なく返事をする機龍

千冬「機龍、いい加減シャキっとしろ、男がそんな弱きでどうする?」

しかし、そんな事で元気付けられる機龍では無かった

一夏「おい機龍、お前本当に大丈夫かよ?ここ最近ずっと様子が変だったし、

   やっぱりやめた方が…」

機龍「だい、じょうぶ。大丈夫だから」

千冬「では、貴様のISを展開しろ」

機龍「はい」

一夏達から離れるようにして立った機龍

目を閉じる機龍 すると根本から枝分かれしていた癖毛が一つになって、後方に反り返る

角のようになった 機龍の体がだんだんと光に包まれ始めた

そして腰から生えてきた一本の鋼鉄の尻尾

足、手、胴の順で変化していく体 そして機龍の瞳から血涙のようなラインが走ったかと

思うとカッと見開かれた黄色い瞳から放たれたより一層強い光が機龍を包み、

その体は完全に3式機龍改となった

鈍く光る銀一色の体  背中から突き出す三列の背びれ  鋭利な爪

全てをかみ砕く牙  そしてブースターと武装を備えたバックパック

見る者全てを圧倒する眼光  今、異なる世界で王という同族と戦った

銀の龍、『3式機龍改』が、再び大地になった そして

機龍「KYUOOOO!」

銀龍の咆哮が、ピットの中に響き渡った 

 

余りの驚きに開いた口が塞がらない一夏、箒、真耶

一夏「こ、これが、機龍の、IS、なのか?」

箒「いや、それ以前に。こいつはISなのか?」

真耶「これは、一体?」

驚きを隠せない3人

千冬「機龍、アリーナを使う時間は限られている。さっさと行ってこい。」

そう言われた機龍は無言でピットのカタパルトの上に乗った

数秒の後、高速で射出された3式機龍改はセシリアや観客席で見ていた生徒たち

全員を驚かせながら、轟音と砂煙を上げながら、地面に着地した

今まで見てきたISとは全く異なる物の登場に驚きを隠せない生徒たち

女子「何あれ!?」 「あれってISなの!?」 「信じらんな~い!」

    「あれに乗ってるのって誰!?」 「顔見えないからわかんないよ~!」

  「あ!ひょっとしてあれが織斑先生が言ってた奴じゃない!?

   ほら!機龍君のはフルスキンのだって言ってたじゃない!」

  「えぇ!?じゃああれにあの小さい機龍君が乗ってるの!?」

もはや目の前に現れた物を信じられない生徒たち

 

そして何より一番信じられないのはセシリアだった

向かい合っている自分だからこそわかる、その威圧感

飲み込まれそうなほどの圧倒的存在感

セシリア「あ、あなたは一体!?」

そこにプライベートチャンネルを通して機龍の声が聞こえてきた

機龍「僕は機龍……3式機龍だ。」

セシリア「機械の龍ですか。随分と自身がおありですね。ISに自分の名前を

     着けるなんて」

機龍「……違う。機龍は、最初から僕の名前。……これが僕」

セシリア「訳の分からない事を!」

そう言って持っていたライフルを機龍に向けて発砲するセシリア

機龍は咄嗟に右側のスラスターを展開して、横に避けた

    「いくら見かけが強くても、腕が素人では宝の持ち腐れですわよ!」

スラスターを使って、地面の上をすべるように回避する機龍だったが

バックパックを背負った重武装型では機動性に難があり、数発が機龍を掠めていく

回避を続けながら両腕の4式レールガンをセシリアのIS『ブルー・ティアーズ』に

向けるが、どうしても発射できない機龍

機龍『やっぱりだめだ!僕には、僕には撃てない!』

引き金を引こうとするたびに思い出す、自分が破壊してきた町並み

叫びながら逃げ惑う人々の恐怖と怨嗟の声

だが、それでも……

 

セシリアの放った一発が機龍の顔に命中するかと思われた時、機龍は

咄嗟に口の中に内蔵された『99式2連装メーサー砲』を使ってしまった

口から発射された黄色の雷のようなメーサーはセシリアのビームを打ち消し、

さらにブルー・ティアーズを襲った

それを間一髪、掠りながら回避するセシリア

セシリア「まさか、そこにまで武器を備えていたなんて!でも、そんなものでは!

     ……?」

避けた後、掠ったダメージを確認したセシリアは機龍に視線を戻したが、

肝心の機龍はまるで震えるように自分の両手を見つめていた

機龍『あ、あぁぁ。僕は、僕はまた』

頭の中に響く人間たちの悲鳴と雷鳴の如く響く砲声

  『僕は。僕はただ』

その瞬間、機龍の瞳が色を失い、血涙のような赤いラインの光も消えた

その様子を訝しむセシリアやピットから様子を見ていた一夏達

やがて震えていた腕がだらんと垂れ下がり、次の瞬間、機龍は

横に倒れた 

 

その姿を見て、アリーナの中にざわめきが起こった

セシリア『な、何ですの一体?』

やがて倒れた機龍は光に包まれ、人の姿へと戻った

アナウンス『勝者、セシリア・オルコット』

まるで機龍などどうでも良いと言うように無機質なアナウンスの声が響いた

その時

千冬「おい!オルコット!」

セシリア「は、はい!」

ピットの千冬から通信が入った

千冬「今すぐ機龍を抱えて、こっちのピットに来い。わかったな?」

セシリア「な、なぜ私が!?」

千冬「良いからやるんだ。それとも、イギリスのエリートは試合中に倒れた

   相手も気にしないほど礼節に疎いのか?」

セシリア「うっ!……。わかりました。」

そう言われたセシリアは倒れた機龍の近くに降りてその体を抱えた

俗に言う『お姫様抱っこ』状態だが、機龍自身は気を失っていた

そして

機龍「ちか、ら……なん、て……いらな、い……僕、は……」

涙を流しながらうわ言のようにそう呟いていた

セシリア『先日の事と言い。…なぜそうまで力と戦いを拒むのですか?

     あなたは?』

機龍をピットまで運ぶ間、セシリアはその事を考えていた

 

その後、機龍は真耶が呼んだ医療班によって、医務室に運ばれていった

結局、セシリアと機龍の戦いはセシリアの勝利となり、

一夏と機龍の戦いも、一夏の不戦勝となった

だが、こんな事があった後ではと、一夏とセシリアの戦いは後日となって

しまった

力を拒んだ龍は、再び立ち上がれるのだろうか?

     第2話 END

 




今回の機龍は戦いを拒んでいたため、本来の力を発揮できませんでした。
一応としては、機龍が本気になればゴーレムシリーズを圧倒できる
火力などを発揮できますが、それはまだ先です。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第3話

今回は戦闘シーンがほとんどありません。
それとヒロインですが、一夏には箒、鈴、シャルが確定で
機龍のヒロインは簪、セシリア、真耶で確定してます。
楯無は今の所、機龍サイドにしようと思ってます。
ただ、ラウラをどっちのヒロインにするか迷ってます。


前回までのあらすじ

セシリアと決闘する事になってしまった機龍と一夏 だが、機龍自身は

戦いを拒んだが、望む望まないを関係なしに戦う事になってしまった

かつて、破壊の限りを尽くし、同族を傷つけた力を嫌悪していた機龍

しかし、試合は開始されてしまい、本来の姿である『3式機龍改』に

戻った機龍は何とか試合を開始した だが、力に対する嫌悪からセシリアに対して

引き金を引けない機龍 それでも咄嗟に放ってしまったメーサーが

セシリアを掠ったのを見て、機龍は機能を停止、気絶してしまった

 

医療班によって医務室に運ばれた機龍

その部屋には一夏、箒、千冬、真耶、セシリアの姿があった

一夏「機龍。大丈夫なのか」

真耶「医師の人の話では、極度のストレスによる疲労が原因だそうです」

千冬「まさか、こいつがここまで戦いを拒んでいたとは。.

   今回は私の落ち度だな。もう少し慎重になるべきだった」

箒「……。織斑先生は、何か知っているんですか?」

千冬「?いきなりどうした?」

箒「いえ。ただ、姉さんと親しい先生なら、何か聞いていると思っただけです」

千冬「成程。……確かにアイツから機龍についてはいくつか聞いたことがある。

   が、それがどうした?」

箒「私は、どうして機龍が力を拒むのか、気になったもので」

セシリア「この方は、倒れた時もうわ言のようにつぶやいていました。

     『力なんかいらない』と」

千冬「……。望んで手に入れたわけでもない力は、嫌悪の対象でしかない。

   そう言う事だろう。」

真耶「え?どういう事ですか?」

千冬「悪いが、ここから先は機龍のプライバシーに関わる。

   私の口からは話せない」

 

その時、ゆっくりとだが、機龍が目を覚ました

機龍「こ、こ、は」

一夏「機龍!?お前、目、覚めたのか!?」

真耶「織斑君、病人の近くで大きな声はダメですよ。」

一夏「は、はい」

機龍「一、夏。……僕は」

上半身を起こし、そう言いかけて、フラッシュバックする試合の記憶と、

それと重なる過去の戦い

  「っう!ごほっ!げほっ!」

咄嗟に口元を抑える機龍 嘔吐はしなかったが、むせ返る機龍

一夏「機龍!お前、大丈夫なのか?」

落ち着きながらも、今度は頭痛に襲われ、頭を押さえる機龍

機龍「僕は……!僕は……また……僕は、誰も、殺したくなんか。

   僕は、殺したくなんか無いんだ……!そ、れ、なのに、僕はまた。

   あの姿に……僕は、僕は戻りたくないんだ。

   ……なのに、……うぐっ!ああぁぁぁぁ!」

瞳の色を失い、呟くと頭を押さえながらまた倒れた機龍

一夏「機龍!?おい機龍!?しっかりしろ!」

箒「一夏、騒ぐな」

一夏「け、けどよ!」

咄嗟に機龍に駆け寄る一夏とそれを止める箒。

箒「また眠っただけだ。お前が取り乱しても始まらないだろう」

一夏「……わかった」

真耶「……それにしても。……『殺したくない』、ですか」

セシリア「まさか。彼は?」

真耶「えぇ。言いたくはありませんが、機龍君はその。……この年で、

   殺し合いを。それも、本物の戦いを、経験しているとしか、

   考えられません」

一夏「そんな!?こいつは。……機龍はなんで、そんな」

箒「ショックの様子から見ても。……トラウマの限度を超えている。

  もう治るとは考えられないな。それに」

一夏「何だよ?」

箒「機龍は『戻りたくない』、そう言っていた。それに、機龍が

  あのISを展開した時も。あれはISではない様に思えた。

  機龍が言った『あの姿』とは、あの銀色の姿の事じゃないのか?」

真耶「ま、待ってください。それはいくら何でも飛躍しすぎでは?」

そんな時だった。

 

束「もう~箒ちゃんは、結構勘が鋭いんだから、困るんだよね~」

箒のポケットから束の声が聞こえてきた

咄嗟に取り出した携帯には彼女の顔が映っていた

箒「ね、姉さん!?」

束「やっほ~箒ちゃん」

箒「な、何の用ですか、こんな時に」

束「こんな時だから、だよ。ついさっきリュウ君のメンタルデータを見たら

  0どころかマイナスに下がりっぱなしだったからね。さっきまでの

  会話も聞かせてもらったよ」

一夏「束さんは……機龍の過去の事、知ってるんですか!?」

束「うん。元々リュウ君を見つけたのは私だからね。一通りは聞いているよ。

  彼の、過去の『傷』の事は、ね」

一夏「まさか。……機龍は本当に、人殺しを?」

それを聞いた束は黙ってしまった。そして数秒後

束「いっくん。それに他のみんなにもあらかじめ言っておくよ。

  もし、リュウ君の過去が知りたいのなら、後戻りできなくなる覚悟を

  しておいてね」

真耶「それって、どういう意味ですか?」

束「そのまんまの意味だよ。もし、リュウ君の過去を聞いて、それを外に

  公表しようとしたら、そいつは私が潰す」

それを聞いて表情が硬くなる一夏達。

 「私には、リュウ君を起こした『責任』があるんだ。だから、

  リュウ君を守る義務もある。リュウ君の事を国がしれば、

  全力でリュウ君を捕まえに来る。

  そうなれば、リュウ君はもう、『人間を信じられなくなる』。

  だからこそ、聞いたら後戻りできないよ?それでも良いの?」

それを聞かれた一夏達は……。

一夏「構わない。俺はこいつが傷ついてるなら、救ってやりたい。

   そう思ってます」

それを聞いた箒や真耶もうなずき、セシリアは……

セシリア「私も構いません。覚悟はあります」

    『私も知りたい。あの涙の理由を』

束「わかった。でも、約束してもらう事があるんだ。

  今日君たちにリュウ君の過去を私が話したことは

  彼自身には内緒だからね。わかった?」

頷く4人

 「それじゃ。まずは機龍の過去について話すね」

そうして語られ出したのは、まずは……。

原爆実験で生み出された機龍、『初代ゴジラ』の話。

人の手によって生まれたゴジラが人の手によって

死ぬまでの経緯。

 「人間の最終兵器で、機龍は骨だけを残して、太平洋に沈んだんだ」

真耶「ひどい……!」

そして次に語られたのは、ゴジラの骨を使って作られた機械のゴジラ。

メカゴジラ、機龍の事だった。

箒「じゃあ、やはりあの姿が……!?」

束「そう。あれがリュウ君の本来の姿。本物は60メートルを超える

  サイズ、だそうだよ」

そのまま語られる同族、息子かもしれないゴジラとの三度に渡る戦い。

一夏「そんな!?……機龍は。家族かもしれない相手と殺し合いを

   したって言うんですか!?」

束「そう。……そして、最後の決戦の最中、自我に目覚めたリュウ君は、

  人の手を離れ、動けないゴジラを抱えて、日本海溝に沈んだ。

  はずだった。

  でも、機龍はなぜかこの世界に来てしまった。人間の姿になって、ね。

  機龍が力を嫌う理由、それは自分の家族を傷つけた事、

  今まで殺戮を繰り返してきた事、それが理由。彼に取っての力は、

  『血塗られた力』でしかないからだよ。殺人なんてもんじゃない。その手は、

  同族と、何千何万と言う人の血で汚れているんだ。

  機龍の中にあるのは『異世界の怪獣』の力なんだよ」

それを聞いて驚愕する4人 

 

一夏「千冬姉は、知ってたのか!?機龍がこんなだって事!?」

千冬「束から、大よそは聞いていた。だが、ここまで力を拒絶

   するとは。計算外だった」

箒「姉さんは、姉さんはどうしてこいつを学園に入れたのですか!?」

束「……。私としては、リュウ君に少しでも幸せな学園生活を

  送ってほしかった。そこならちーちゃんや箒ちゃん、それに

  いっくんも居るから、少しはリュウ君も元気になるかと思ったんだけど」

千冬「結果は逆効果になってしまった、と言う訳だ」

一夏「あの、機龍はこれからどうするんですか?学園には」

束「それは、わかんない」

千冬「少なくとも、決めるのはコイツだ。私達が口を挟むことじゃない」

一夏「そう、ですよね」

束「みんなに、最後に言っておくね。できれば、機龍には、この世界を

  好きになってほしいんだ。私が歪めてしまった世界でも。

  その為に、みんなには協力してほしいんだ!この通り!お願い!」

画面に映っていた束が頭を下げた

千冬「束、お前らしくないぞ。なぜそこまでこいつに拘る?」

束「……。リュウ君を見てたら、思ったんだ。人間に翻弄されて、

  最後の最後まで報われないなんて、悲しすぎるって。

  ISを作って、こんな世界にしちゃった私だけど、せめて」

箒「姉さん」

千冬「こいつだけは救いたい、か?」

束「今更、って言いたいのは十分わかってるつもりだよ。

  でも、お願い。リュウ君に少しでもいいから、生きる幸せを教えてあげて。

  ……必要が有ったら、リュウ君の端末か、箒ちゃんのを使って連絡して、

  それじゃ。」

そう言うと束との通信は切れた。

その後、沈黙がその場を支配した。やがて……

千冬「織斑、篠ノ之、オルコット。お前達は部屋に戻れ。

   後は我々で何とかする」

一夏「はい」

箒「わかりました」

そう言って部屋を出て行く3人。

千冬「それと、私から言っておく事がある。力は使い方を間違えれば

   機龍のように、何もかもを失って、罪と罪悪感だけを背負う事になる。

   力の使い道とその意味を。見失うなよ、ガキども」

セシリア「……はい」

 

廊下に出た三人だったが……

一夏「オルコット、話がある」

セシリア「……。何ですの?」

一夏「お前との試合、俺は正々堂々とお前と戦う。

   負けるつもりは無い」

セシリア「……その言葉、そっくりそのままお返ししますわ」

箒「……」

それだけ言うと、セシリアと一夏達は別れた。

皮肉にも、この一件が彼女達の『力』に対して深く考えるようになった

一因だった。

 

その頃、医務室に残っていた真耶と千冬。

千冬「山田先生は、こいつの事をどう思っている?」

真耶「かわいそう、とは思っています。人間に生み出され、殺され、

   眠りから掘り起こされて、利用され、家族と戦わされ……。

   この子の幸せは、一体どこに。うぅ」

語り始めるのと同時に涙を流し始める真耶

  「どうして、こんな子供が罪を背負わなければならないのですか?

   どうして……世界はこんなにもこの子に残酷なのですか?」

千冬「それは全て過去の事だ。ましてや異世界での出来事だ。

   我々にはどうしようもない」

真耶「だったら。私は教師として、この子を正しい方向に導きます。

   せめて、この子には笑顔でいてほしいから」

千冬「そうですか。……私はこれで」

真耶「はい。後は私に任せてください」

その後、千冬も医務室を後にした。

 

それからしばらくして、落ち着きを取り戻した機龍が目を覚ました

機龍「山、田……先生」

真耶「はい、先生ですよ。機龍君、もう大丈夫ですか?」

機龍「はい。……すみません、迷惑をかけてしまったみたいで」

真耶「いいえ、気にしないでください。これも先生の務めですから」

すると機龍は立ち上がってベッドから降りようとした

  「あの、大丈夫ですか?まだ寝ていた方が」

機龍「大丈夫です。……もう、問題なしです。」

そう言って薄く笑ってくれるけど、とてもそうは見えない

真耶「そうですか。とにかく、今日はもうこんな時間ですし、

   自分の部屋に戻って、ゆっくり休んでください」

機龍「はい、ありがとうございます」

真耶「それと。私に相談出来る事や力に成れる事があったら遠慮なく

   声を掛けてください。生徒の心をケアするのも、教師の務めですから」

機龍「はい。……失礼します」

そう言うと、機龍は医務室を後にして、自分の部屋へと戻って行った

残された真耶は……

真耶「そう、あの子のために、私がしっかりしなきゃ……!」

そう息巻いていた

 

その後、重い足取りで部屋へと戻った機龍

機龍「ただいま」

簪「機龍?……お帰り。大丈夫なの?」

機龍「何、が?」

簪「見てたよ。試合中にいきなり倒れたの。大丈夫なの?」

それを聞いて心臓が跳ね上がる機龍

機龍「だ、大丈夫だよ。……馴れなくて、ストレスで倒れただけ、

   だから、心配、しなくて、良いよ」

そう言ってベッドに腰かける機龍

簪「でも。……なら、どうして……機龍は『泣いているの?』」

そう、知らず知らずのうちに機龍は涙を流していたのだ

機龍「あ、あれ?変、何で。止まらない。……おかしいな」

そう言いながら手で涙を拭く機龍だが後から後からと、止めど無く

溢れてくる涙 

その理由、それは『簪にあの姿を見られたくなかった』から

 

簪や一夏と同じ多くの人を殺した力に科学と言う『枷』を付けた機龍

出来る事なら人には見られたくは無かった

機龍が試合中に倒れたのも、多くの生徒が見ている、と言うのが一因だった

ましてや、ルームメイトの簪はもっての外だった

  「ゴメン。なんでもない、何でもないから……。気にしないで」

簪「でも」

機龍「ゴメン、本当に何でもないから」

そう言って俯きながら必死に涙を拭おうとする機龍

簪「……」

するとベッドに腰かけた機龍の前に周り混んでその肩に手を置いた

 「機龍。私には、あなたがどうして泣いているか、わからないけど。

  もし、私に出来る事があったら教えてね。協力するから」

機龍「簪。……ありがとう」

そう、機龍が呼びかけると、機龍は眠るようにしてベッドに倒れてしまった。

 

眠ってしまった機龍に毛布を掛けて、再びパソコンに向かい合う簪

だが、その表情は暗かった

簪『私って、ひどいよね。機龍が私を頼ってくれるのに、

  優越感を感じてる。……私って、最低だ』

そう思いながらパソコンを操作する簪だったが、その表情は暗かった

 

そして翌日

普通に登校してきた機龍

自分の席に着席するが、周りの視線が気になってどうしても気分が

優れない機龍

と、そこに一夏達が入って来た

一夏「機龍?お前、大丈夫なのか?今日くらい休んだ方が」

機龍「ううん、大丈夫。……ゴメン、みんなには迷惑かけたみていで」

一夏「気にするなよ。俺達はダチなんだからさ。困った時はお互いさまさ」

箒「それに、機龍はまだ幼い。我々と同じことをするのも、無理が

  あったのだろう。体は大事にな」

機龍「篠ノ之さん」

箒「私の事は箒で良い。苗字は被っているわけだしな。」

機龍「箒。……ありがとう」

一夏「そういや、苗字が同じって事は、機龍は箒の弟か?なんて」

箒「な!?お前は突然何を言いだすのだ!」

機龍「箒、お姉ちゃん?」

そう言って箒を見上げる曇りのない視線 

それを見て、顔を赤くする箒

一夏「お?まんざらでも無さそうだな」

箒「う、うるさい!」

そう言って二人に背を向ける箒

一夏「まぁまぁ、そう拗ねるなって」

機龍「一夏」

一夏「ん?」

機龍「一夏、お兄ちゃん」

機龍が一夏を見上げながらそう言った瞬間。

   『ブハッ!』と後ろの方で音がした

見ると複数の女子が鼻血を出しながら倒れた。

 

一夏「お、おい!なんか急に人が倒れたぞ!」

機龍「こういう時は担架を持ってくる?」

原因となった男子2人はその理由を知らなかった

と、そこに千冬が入って来た

千冬「ほら、席に着け。授業を———何で鼻血を出して

   倒れている奴らがいるんだ?」

その後、復活した女子たちを交えながら、授業は始まった

 

そしてその日の放課後 

セシリアと一夏による、代表を決める最後の戦いが始まろうとしていた

一夏のピットに集まる箒と機龍

当の一夏は灰色のようなISを纏っていた

千冬「良いか、一次移行まで待っている余裕は無い。今は初期設定の状態だが、

   行けるな?」

一夏「あぁ、もちろん!」

機龍「一夏お兄ちゃん」

一夏「機龍?どうした?」

機龍「こ、こういうのは、不謹慎かもしれないけど。『頑張ってね』」

一夏「あぁ!行って来るぜ!」

そう言うと一夏のIS『白式』がカタパルトから射出された

 

やがてセシリアの機体『ブルー・ティアーズ』と相対する白式

セシリア「……来ましたわね」

一夏「悪いな。待たせちまって」

セシリア「そのような事は気にしていません。謝罪は不用です。 

     さぁ、始めますわよ!」

そう言うと、持っていた武装『スターライトmkⅢ』からエネルギーが

発射され、一夏の肩に命中した

    「あなたには負けませんわ!絶対に!」

一夏「奇遇だな。俺も負ける気なんか無いぜ!」

そう言いながら近接ブレードを展開する白式

セシリア「あなた。中距離専用のブルー・ティアーズ相手に近接戦だなんて

     舐めていますの?」

一夏「生憎、俺の機体はこれしか武器がなくてね!けど、素手よりは

   何倍もマシだ!」

そう言って切りかかる一夏

 

その様子を千冬や真耶と一緒に見ていた箒と機龍

箒「一夏」

機龍「大丈夫」

箒「機龍?」

機龍「一夏お兄ちゃん、強い。簡単には負けない。それに、

   今は『あの子』とまだ完全に分かりえてないだけ。

   お兄ちゃんは、まだ強くなる」

箒「あの子と、わかりあう?何の事だ?」

機龍「お兄ちゃん、まだ完全に白式と分かり合えてない。だからまだ噛み合って無い。

   でも、わかり合えた時、一夏お兄ちゃんはもっと強くなる」

そう、確信を持った瞳で話す機龍。

そこで機龍の言っている事が、一次移行の事だと気づいた箒

そして、近くで聞いていた千冬が口を開いた

千冬「と言うか、なぜお前は一夏を兄と呼ぶ?」

真耶「そこは今気にする所ですか!?」

と、千冬の一言に反応する真耶

機龍「……何となく?みんな年上?だから?」

所々疑問符を浮かべながらもそう言う機龍

千冬「はぁ。まぁ良い」

真耶「あ、でも織斑君の弟なら織斑先生はお姉さ———」

千冬「そこから先は、言わないでくださいね」

真耶「あぅ。はい」

千冬の剣幕に押され、それ以上言えなくなってしまう真耶

 

やがて試合の時間は30分に達しようとしていた

セシリアのブルー・ティアーズは五体満足で大してダメージが無いのに

大して、一夏の白式はかなりの数を被弾し、エネルギーの残量も

100を切っていた

セシリア「まさか、私のブルー・ティアーズを相手に初見で、ここまで

     耐えるとは。少々あなたを見くびっていたようですわね。

     謝罪しますわ。」

一夏「まさか。代表候補から褒められるとは思ってもみなかったぜ。

   その、悪かったな。この前はその、色々と」

セシリア「それは……。私も同罪ですわ。力と地位に溺れ、

     女尊男卑の風潮に染まってしまったのも事実」

一夏「そうか。……だったら、ここからは俺とお前の1対1の

   真剣勝負だ。クラス代表の候補だとか何て気にせず、

   全力で戦うぜ!」

セシリア「望む所ですわ!」

その時、一夏の白式が光に包まれ、灰色に近かった色は

白に変わった それが白式が本当の意味で『一夏の専用機』になった証だった

    「成程、あなたは今まで初期設定で戦っていた、と言うわけですね?」

一夏「あぁ!戦いは、ここからだ!」

 

そして再び戦いを始めた二人

結果は―――――セシリアの勝利で終わった

理由は一夏が自分の武器『雪片弐型』の特性を理解していないためだった

ビットを撃破してティアーズに肉薄したまでは良かったのだが、

白式の単一仕様能力『零落白夜』をよく理解していなかったため、

雪片にエネルギーを使い切ってしまった

今はピットで絶賛落ち込んでいる一夏

千冬「全く。……『とりあえずは、千冬姉の名前は守るさ!』、だったか?」

一夏「うわあぁぁぁ!やめてくれ~!それはもう既に俺の黒歴史なんだ~!?」

機龍「?」

箒「あれだけ息巻いていたのに、最後は些細なミスであっけなく敗北か」

   『グサッ!』と一夏の心を貫く言葉と言う凶器

千冬「少しだけ勝てると思った過去の自分を殴ってやりたいよ」

   『グサッグサッ!』とさらに突き刺さる言葉

それを聞いて真っ白になってしまう一夏 そこに

機龍「だ、大丈夫、一夏お兄ちゃん、最後までがんばってた。

   偉いと思う」

うなだれる一夏の前で少しでも元気付けようとガッツポーズをする機龍

それを見た一夏は

一夏「俺はお前みたいな優しい弟ができてうれしいぞ~!」

と言って機龍を抱きしめた

機龍「ふぇ!?一夏お兄ちゃん!?」

もしここに一部の女子が居たら、確実にピットの中は血の海になっていただろう

 

その後、箒に連れられて一夏は寮に戻って行った

真耶や千冬も仕事のために戻ると言って行ってしまった

残された機龍は第3アリーナをピットの端から見つめた後、

寮に戻るために通路を歩いた すると、その先から

セシリアが現れた

セシリア「あら?まだ残ってらしたのですわね。」

機龍「うん。……少し、考える事があってね」

『考える事』と言う言葉に反応するセシリア

セシリア「そう言えば、あなたにも謝罪しておかなければ

     なりませんでしたね。先日の無礼、

     今ここで謝っておきます。申し訳ありませんでした」

機龍「いえ。謝らなくてい良いです。あれは、事実ですから」

  『僕に、誰かに謝ってもらう権利なんか、無いんだ』

セシリア「そう、ですか。……あの、少しお話をしたいのですが、

     よろしいでしょうか?」

機龍「え?はい。わかりました」

セシリア「では。……なぜ、あなたは戦いを拒むのですか?」

    『彼の過去は聞きました。でも、私は彼自身の口から、

     理由を知りたい』

機龍「……僕は、昔。……自分の力で、多くの人を傷つけてしまい

   ました。怒りで我を忘れ、暴力の限りを尽くして、そして、

   今度はその力で、自分の大切な家族を傷つけてしまった。

   もう、嫌なんです。

   誰かと戦うのも。そのせいで傷つくのも。

   そして。みんなが僕の周りから居なくなっていくのが、

   辛いんです。だから」

そう言いながら、かつての記憶を思い出し、瞳を潤ませる機龍

  「ごめんなさい。これ以上は」

セシリア「いえ。大丈夫ですわ。私の方こそ、辛い事を思い出させて

     しまったようですし、すみません。

     話してくれた事、ありがとうございました」

そう言うとセシリアは去って行った。

 

その後、自分の部屋に戻る機龍

機龍「ただいま」

簪「お帰り機龍」

パソコンに向かっていた簪が眼鏡を外して眼がしらをマッサージしながら

答えた

機龍「?簪?どうしたの?大丈夫?」

簪「え?ううん、大丈夫。ちょっと目が疲れてね」

機龍「最近は夜寝るのも遅いみたいだし、大丈夫?」

簪「大丈夫」

機龍「?これって。……ISの設計図?」

簪「あ!?こ、これはその!」

簪のパソコンをのぞき込んだ機龍

機龍「う~ん。……簪、ここはこうした方が良い。そうすれば

   エネルギー伝達効率がもっと高くなる」

その言葉に驚く簪。

簪「え!?機龍、わかるの!?」

機龍「うん。理系、機械工学は得意」

簪「そう、なんだ」

 『私、こんな子にまで』

機龍「……簪、提案があるんだ」

簪「何?」

機龍「簪は、僕に協力するって言ってくれた。だから僕も

   簪に協力する。……ダメ、かな?」

機龍の上目使いを見て、顔を赤くする簪。

簪『うぅぅ。一瞬機龍を抱きしめようと思ってしまった。でも』

 「でも、手伝ってもらうのは……ちょっと」

機龍「じゃあ、機龍は簪に貸しがある。その分を手伝う」

簪「貸し?」

機龍「うん。昨日の夜、簪は機龍にやさしくしてくれた。だから、

   その分の優しいを返す。」

簪「機龍。……わかった、ありがとう。」

 『やっぱり。……私って最低だ』

機龍に手伝ってもらいながら、そう思う簪だった。

 

そんな中でも、新たな出会いがすぐそこまで迫っていた。

そして、本当の意味で銀龍が再び大地に立つ日もまた、近づいていた。

     第3話 END

 

 




次回からセカンド幼馴染こと、鈴が登場します。
お楽しみに。
今更ですが、自分がだんだん姉ショタに目覚め始めている
気がするこの頃です。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第4話

今回で鈴が登場します


前回までのあらすじ

試合で倒れた機龍の事を気にする一夏、箒、セシリア達は

機龍自身の発言から、様々な疑問を持った そんな中で

通信してきた束に聞かされたゴジラ、機龍、そして決戦の話

それを聞いた3人は『力』の意味を考えるようになった

そして、後日行われた一夏とセシリアの戦いは一夏の敗北で

幕を閉じた

 

一夏とセシリアの対決の翌日 朝のSHR

真耶「それでは、一年一組の代表は織斑一夏君に決定しました...

   あ、一繋がりで良い感じですね。」

それの決定に首を傾げる一夏

一夏「あの、先生。」

真耶「何ですか?」

一夏「俺って、負けましたよね?なのにどうして俺が?」

真耶「それは...」

セシリア「それは、私がクラス代表を辞退したからです。」

立ち上がって真耶の代わりに答えるセシリア

    「エリートと言う階級に溺れ、一度は傲慢な態度を

     取ってしまったのも事実...それに、私は代表候補。

     その私とあそこまで戦える一夏さんであれば、代表には事欠かないと

     思い、クラス代表を辞退しました。」

一夏「そうだったのか......でも、俺で大丈夫かな?」

機龍「大丈夫。」

一夏「機龍?」

機龍「一夏お兄ちゃんは強い...これからももっと強くなる。

   だから、機龍はお兄ちゃんを信じてる。」

一夏「機龍......ありがとな。」

そう言って機龍の頭を撫でる一夏と目を細める機龍 

それを見ていた一部の女子は言った

女子「こ、このままじゃ、私血を流しすぎて死んじゃうよ。」

そう言っていた女子たちは仕切りに鼻を抑えていた

 

やがてISの授業が始まり、アリーナに集合する一夏達

ちなみに、本来なら機龍はISではないのでISスーツを着用する意味は無いのだが、

ばれないようにスーツを着用していた

千冬「それではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。

   織斑、オルコット、試しに飛んで見せろ。...それと、機龍。

   お前も、出来るか?」

その言葉の意味を理解する一夏達 一夏やセシリア以外の生徒は

機龍が試合で倒れた事を知っていたので、そちらを心配していた

機龍「はい...飛ぶだけなら、何とか。」

千冬「そうか、では頼むぞ。」

白式、ブルー・ティアーズを展開した一夏とセシリアを見た

機龍は、全員から少し離れ、内なる力を呼び出した

頭の髪が角のようになり、腰の辺りから長い尻尾が展開され、

さらに機龍の目元に赤いラインが現れると、光が機龍を包み、

一気に3式機龍の姿へと変化した それを見た生徒たちは驚いていた

そんな中

静寐「あれ?何かこの前のと少し色が違くない?なんかこう......

   少し明るくなったような...」

彼女の指摘はもっともだった 今の機龍の姿は改、ではなく

バックパックを外した改修前の機龍の姿だった

一夏「機龍......お前、大丈夫か?無理はするなよ。」

機龍『平気、飛ぶだけならまだ大丈夫。』

一夏「そうか......でも、やばくなったら、絶対無理するなよ?」

セシリア「無理は体によくありませんからね。」

機龍『一夏お兄ちゃん、セシリアお姉ちゃん......ありがとう。』

スピーカー越しではあるが、そう言う機龍

だが、彼はこの時、セシリアが頬を赤くしているのを知らなかった

千冬「さて...では、始めろ。」

そう言われ、白式、ブルー・ティアーズ...そして、背中と脚部の

スラスターを展開した機龍が飛び上がった

上空200メートルに到達したのはブルー・ティアーズ、機龍、白式の順だった

実際、一夏の上昇速度は二人に比べて遅かった

千冬「何をやっている...3機の中ではお前のスペックが一番上なんだぞ。」

やがて、セシリア達と同じ高さに到着する白式

一夏「やっと追いついた......それにしても...ダメだ、全然イメージが

   つかめねぇ...」

セシリア「一夏さん、それはあくまでイメージ...自分がやりやすい方法を

     見つけた方が建設的ですわ。」

一夏「と、言われてもなぁ...」

機龍『じゃあ、お兄ちゃんにとって早いってどんなイメージ?』

一夏「?そうだな......戦闘機、とか?」

機龍『うん、それなら、お兄ちゃんの場合は飛ぶときは背中に

   エンジンを背負ってるってイメージすれば良いと思う。

   昨日習った三角錐のイメージはあくまでメジャーな考え方、

   それに縛られる必要はない。』

一夏「成程、参考にさせてもらうぜ。」

  『何だか、箒より機龍に教わった方が上手くなれそうな気がするぜ。』

と、その時

箒「一夏!いつまでそんな所にいる!さっさと降りて来い!」

と、箒の怒鳴り声が聞こえてきた グラウンドでは

真耶のインカムを奪った箒が居た

一夏「あいつ、何やってんだよ。」

案の定、千冬に叩かれる箒

千冬「オルコット、機龍、織斑、それぞれの順番で急降下と完全停止を

   して見せろ。目標は10センチ以内だ。」

一夏「マジかよ。」

セシリア「それでは、御先に失礼しますわ。」

そう言うと機体を急降下させたセシリアが目標をクリアした

機龍『それじゃ、次は僕が。』

そう言うと機龍はスラスターのエンジンを止め、重力に任せて落下していた

地面まで残り15メートル、と言う所でスラスターを全開にする機龍

少々の砂煙を上げながら地面から8センチ、と言う所で停止した

千冬「良し、では最後に織斑。やって見せろ。」

一夏「りょ、了解!」

そう息巻いたのは良いものの、結局は

 

千冬「バカ者。誰が激突しろと言った。グラウンドに穴をあけてどうする。」

止まり切れずにグラウンドに小さなクレーターを作ってしまった

一夏「す、すみません。」

機龍『一夏?大丈夫?』

倒れている一夏に近づき、手を差し出す機龍

一夏「悪い、助かるぜ。」

機龍の銀色の手を取り、起き上がる一夏

箒「情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやっただろう。」

一夏「あんな擬音交じりの説明じゃわかんねぇって。」

機龍『擬音?教えるのに?』

セシリア「それはまぁ...教えるのは人それぞれですが...」

そう並んだ機龍とセシリアが言っている

 

そんな時、クラスの女子たちの視線は大半が機龍の尻尾に向いていた

なぜなら、その尻尾が伸びたり、先が動いたりしていたからだ

本音「ねぇねぇリュウ君。」

その時、近くにいたクラスメイトの布仏本音が話しかけた

機龍『え?何?』

本音「その尻尾ってリュウ君の思い通りに動くの?」

機龍『うん、できるよ。』

そう言って尻尾の先っぽを猫のように少しばかり左右に振る機龍

女子「「「「「おおぉぉぉ!」」」」」

と、反応があった  だが

千冬「そんな物に気を取られてどうする!」

と怒られた

  「全く...で次、武装の展開だ。織斑、やってみろ。」

一夏「はい!」

安全を確認してから突き出した右手を左手で握り、集中して

『雪片弐型』を取り出す一夏

千冬「...遅い。0,5秒で出せるようにしろ。」

と言われ、項垂れる一夏

  「次はオルコットだ。武装を展開しろ。」

セシリア「はい。」

右手を真横に掲げると一夏と同じように、手元に光の粒子が現れ、

粒子が形を成し、『スターライトmkⅢ』へと変化した 一夏よりは

早いが、結局ダメ出しを喰らってしまった

さらにセシリアの近接装備『インターセプター』に至っては

名前を叫ぶ、CALLする事で呼び出さなければならないという始末で、

さらに千冬にダメ出しを喰らってしまった

千冬「次は、機龍...行けるか?」

機龍「はい、展開するだけなら。」

千冬「そうか...では、始め。」

その言葉を聞くと、機龍の肩と両腕が光に包まれ、それぞれにバックユニットと

0式レールガンが展開された

  「早いな......そうだ。機龍、他には武器は無いのか?」

機龍『あるにはあります。』

千冬「何だ?」

機龍『これです。』

そう言うと、機龍の胸のパーツが開いた

周りでは驚くような声も上がっている

千冬「それは?」

機龍「『アブソリュート・ゼロ』です.....えぇっと、あの人が言っていた

   のは確か......絶対零度砲、って言ってました。」

  「そんな物まであるのか。......まぁ、専用機持ちの当面の目標は

オルコットと織斑の展開の時間短縮だな。」

一・セ「「は、はい。」」

千冬「さて、時間だな。今日の授業はここまで。織斑、グラウンドを片づけて

   おけよ。」

一夏「はい...」

機龍『一夏、手伝おうか?』

一夏「すまん...俺がお前の世話をするはずだったのに、色々と世話になっちまって。」

機龍『良いから、気にしないで。』

その後、機龍に手伝ってもらいながら、早めに整理を終えた一夏だった

 

その日の夕方 食堂には大勢の生徒たちが集まっていた

そこに下げられた紙には『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と

書かれていた が、当の本人はプレッシャーに押しつぶされそうな

顔をしていた

機龍「一夏、大丈夫?顔色悪そうだよ?」   

一夏「あ、あぁ、大丈夫だ。」

と、そこに

「はいはーい!新聞部で~す!話題の新入生、織斑一夏君と、

 幼いドラゴンこと、機龍君に特別インタビューに来ました~!」

一夏「ドラゴン...?機龍が?」

  「はい!生徒たちの間の噂で持ち切りですよ!鈍い銀色に光り輝く

   その姿はまさにドラゴン!って......あ、申し遅れました。

   私は2年の黛薫子、新聞部部長ね。はいこれ、名刺。」

と言って名刺を取り出して一夏と機龍に渡した

  「それじゃ早速織斑君からインタビューに入ろうと思います!

   クラス代表になった織斑君...今の感想をどうぞ!」

と言ってボイスレコーダーを近づけて来る薫子

一夏「え~と、まぁ、がんばります。」

薫子「えー。もっとなんかコメント頂戴よ。『俺に触れるとヤケドするぜ!』とか

   みたいなさ!」

一夏「自分、不器用ですから。」

薫子「うわ!前時代的!......まぁ、適当にねつ造しておくからいいか。」

一夏「良くねぇ!?」

薫子「じゃあ次、セシリアちゃんもコメントよろしく。」

セシリア「私、こういうコメントはあまり好きではありませんが、

     仕方ありませんわね。」

そう言うと咳払いをしてから、代表を降りた説明を始めようとするが

薫子「あ、長いのは良いから写真だけ頂戴。」

セシリア「さ、最後までお聞きなさい!」

薫子「それじゃあ最後に機龍君!君は学園で最年少なわけだけど、

   どう?学園の生活には慣れた?」

機龍「はい。一夏お兄ちゃんや箒お姉ちゃん、セシリアお姉ちゃん達が

   優しくしてくれるので、毎日が楽しいです。」

と、屈託ない笑みを漏らしながら言う機龍

その笑顔に女子たちがクラッとなっている中 

薫子「その笑顔いただき!」

と言って持っていたカメラで瞬時に機龍の笑顔を取った

その瞬間、フラッシュが瞬き、もろに機龍の目に直撃した

機龍「み、見えない...」

目を瞑り、ソファの上を手探りする機龍 そして、その手がセシリアの

手と重なった

セシリア「////」

一瞬で顔を赤くするセシリア 

やがて眼が馴れたのか、ゆっくりと瞼を開ける機龍

一夏「大丈夫か?」

機龍「うん。少しびっくりしただけだから。」

だが

薫子「お!腐女子に売れそうなネタいただき!」

と言ってまたシャッターを切った

一夏「ちょっと待て~~!」

機龍「婦女子?」

薫子「あ、腐女子ってのはね......」

一夏「機龍!聞いちゃダメだ!」

機龍「ふやぁ!?」

いきなり機龍の両耳を塞ぐ一夏とそれにびっくりする機龍

薫子「お!熱いね~!それもいただき!」

さらに何枚も写真を撮る薫子

さらに後ろでは一部の女子が鼻を抑えている

  「それじゃ、最後に専用機持ち3人の写真を撮らせてもらうね。」

と言って強引に3人を握手させた 

格好としてはセシリアと一夏が手を繋ぎ、そこに機龍が手を乗せている

感じだった

  「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」

一夏「え~っと...2?」

機龍「.........74・375。」

薫子「おぉ!?機龍君天才!」

そう言いながらカメラのシャッターを切る薫子

そして3人の周りには1組の生徒が全員揃っていた

一夏「何で全員入ってるんだ?」

セシリア「あ、あなた達ねぇ!」

女子「まーまーまー」 「セシリアだけ抜け駆けは無いでしょ?」

   「みんなの思い出になって良いじゃない。」

と、口々に言うクラスメイト達

 

その後、1組の宴は夜の10時まで続いた

一夏「まさか、ここまでやるとは思いもしなかったぜ。なぁ、機龍。」

機龍「.........」

一夏「機龍?」

横に座っている機龍に話しかけるが、反応が無い 見ると

機龍「すぅ......すぅ......」

機龍は寝息を立てながら眠っていた やがて機龍は一夏の膝の上に

倒れた

一夏「おぉ......こいつもやっぱ子供だな......かわいい寝顔しやがって。」

ひと時の喧騒を忘れ、自分の膝の上で眠る機龍の髪をなでる一夏

  『子を持つ親って、こんな感じなのかな。』

感傷に浸る一夏 だが、

女子「「「「「きゃあぁぁぁぁ!」」」」」

急に周りから黄色い声が聞こえた 

そして次の瞬間、ものすごい量の携帯のカメラのシャッターを切る音が聞こえた

女子「来たコレ!」 「これで一夏×機龍のカップリングは確定ね!」

    「我が人生に、一片の悔いなし!(ガクッ!)」

   「しっかり!私達は、この美しき光景を後世に残さなければ

    いけないのよ!」

と、猛烈な撮影会が始まってしまった

一夏達の横では箒とセシリアが頬を膨らませていた

箒は機龍に  セシリアは一夏に

それぞれ嫉妬していた

箒『何故そこでお前は満足そうな顔をしているのだ一夏!お前はそう言うのが

  好きな変態だったのか!?』

セシリア『ずるいですわ!私だって、あの綺麗な銀色の髪を撫でてあげたいのに!』

結局その後、フラッシュや歓声で起きた機龍は、半分寝ぼけた状態で帰ると

言い出した

    「そ、それでしたら、私が。彼を送って差し上げますわ。」

機龍「良いの?」

セシリア「えぇ。これも年長者たる者の務めですから。」

機龍「あ、ありがとう。僕の部屋は...」

その後、機龍は自分の部屋の前までセシリアに手を引かれながら

帰って行った 

そしてセシリアは内心、ガッツポーズをしていたとさ

 

やがて次の日

機龍「おはよう。」

いつもより少し遅めに登校してきた機龍

一夏「お。おはよう機龍。昨日はよく眠れたか?」

機龍「うん...ぐっすり眠れた。」

一夏「そうか......そういや聞いたか?転校生が来るらしいぞ。」

機龍「転校生?...僕たちが入ったばかりなのに?」

女子「うん...まぁでも、クラス代表戦は問題ないでしょ。

   専用機持ちはうちと四組だけだから。」

機龍『...あ。四組の専用機持ちって簪だよね?......でも、打鉄弐式は

   まだ完成してないし......それは違うんじゃ...』

なんて思っていた時だった

???「その情報、古いよ。」

教室の入口に見知らぬ生徒が現れた

   「二組もクラス代表が専用機持ちになったの...

    そう簡単には優勝できないから。」

肩の部分を露出させた改造制服を着る彼女は

一夏「...お前、鈴か?」

鈴「そうよ。私は中国の代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ。」

一夏「何格好つけてるんだ?すげぇ似合わないぞ?」

鈴「んな!?何てこと言うのよ!あんたは!」

機龍「...一夏お兄ちゃんの...知り合い?」

一夏「あぁ、そうだ。中学の時の同級生だったんだ。」

機龍「へぇ。」

鈴「ん?...ていうか、何でこの学園にそんなガキが居るのよ。」

一夏「こいつの名前は篠ノ之機龍。束さんの所から送られてきた、

   世界で二番目の男ISパイロット兼世界最年少の専用機持ちだ。」

機龍「......待って、後半のって何?それ、初めて聞いた。」

一夏「え?だってお前より年下でISの専用機持ちなんていないだろ?」

という言葉に、うんうんと頷く女子たち

鈴「へ~...でも、子供がここの授業に付いて行けるの?」

一夏「安心しろ。」

鈴「何が?」

一夏「理系じゃ俺が機龍に教わってるほど出来る。」

と言った瞬間、後ろから教科書で箒に頭を叩かれる一夏

箒「自慢していう事か。」

一夏「いてて...お前だってこの前数式が分からないって言って機龍に

   教わってただろうが。」

箒「な!それは今言う事ではないだろう!」

鈴「へ~...って!話を逸らさないでよ!」

その時

  「おい。」

 「何よ!?」

と言った鈴の頭を千冬の出席簿攻撃が決まった

千冬「もうSHRの時間だ。自分の教室に戻れ。」

鈴「ち、千冬さん!?」

千冬「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、それと入口を塞ぐな、邪魔だ。」

鈴「す、すみません。...また後で来るからね!逃げないでよ!一夏!」

それだけ言い残すと鈴は自分の教室に戻って行った

 

その後、箒は鈴の事や一夏の事を気にしていて授業中に出席簿アタックを

何回も喰らってしまった

授業も終わり、食堂に移動する一夏達

 

ちなみに、機龍は一夏達と離れ、話があるとして簪と一緒に

食事をとる事になっていた...のだが...

機龍「どうして、セシリアお姉ちゃんも付いて来たの?」

機龍と簪、それにセシリアの3人が円形テーブルに座っていた

セシリア「こ、これはその...年長者たる者、幼い子供の面倒を見るのは

     当然の行為ですわ!」

と言って、相席していた

機龍「わかった......所で簪お姉ちゃん、話って何?」

簪「うん...実は、弐式についてなんだけど...食べてからで良いから。」

機龍「わかった。」

その後、少しの会話を交えながら食事をして、その後だった

  「それで...弐式がどうしたの?」

簪「うん。実は山嵐についてなんだけど...どうしてもマルチロックオン・

  システムが難しくて...」

機龍「成程......でも、あのシステムは搭乗者への負荷が大きい......

   それに、今の僕じゃ単一ロックシステムの構築が限界。

   ゴメン...そこは役に立てそうにない。」

簪「そう......でも、機龍には随分助けられてるし...文句はないよ。

  とにかく、それなら、また、夜に手伝って。」

機龍「うん。任せて。」

そう言った機龍の笑みに簪も薄く笑みも漏らした

その横では頬を膨らませたセシリアの姿が

 

その日の放課後、一夏は箒たちとアリーナで特訓をしていた頃、

機龍は部屋で簪と弐式の開発をしていた

機龍「ここはこうで......このラインはこっちに......」

簪「それじゃあ、春雷はどこに付けたら良いかな?」

機龍「夢現は薙刀、両手を使う武器。だったら常にハンズフリーが望ましい。

   手に持つんじゃなく、背中に接続すれば良い。

   そうすれば接近戦から射撃戦などへの移行も早くできる。」

簪「成程......なら次はここを...」

このようにずっと弐式の開発を進めていた

 

ある程度進んだので、お茶を淹れ、休憩する二人

簪「ゴメンね...いつも手伝って貰って。」

機龍「気にしないで。僕は簪お姉ちゃんの手伝いをしたい...それだけだから。」

簪「私って......情けないよね...機龍に手伝ってもらって、こんな...

  他人に頼るのは、甘えだって自分に言い聞かせてきたはずなのに...こんな...」

機龍「簪、それ、違う...人は誰も一人では生きていけない。

   簪が僕にやさしくしてくれたから、僕はあの時簪が優しくしてくれた

   から...」

簪「違うの!」

機龍の言葉を遮る簪

 「あの時...私は、泣いている機龍を慰めて...それで優越感に浸るような、

  最低な人間なの!...私は...優しくなんて...ないの...」

機龍「...簪......それは感情...誰もが持ってる事...

   簪、間違って無い......誰だって、支え合って生きてる......だから

   人は強くなれる......僕も、義人に助けられた事がある。...

   だから自分のやりたい事ができた。」

簪「でも......私は、機龍に頼ってばかりで......」

機龍「じゃあ...お願いがある。」

簪「え?」

機龍「機龍は...理系、得意......でも、国語が苦手。だから教えてほしい。

   簪に。......お互いにメリットはある...簪は弐式の開発が進む。

   僕は国語の学力があがる......誰も損しない。これじゃダメか?」

簪「どうして...そこまで...」

機龍「機龍は...最初は人間が憎かった......でも、人間の中にも良い人居た。

   命がけで何かのために戦う...心に熱い物を持ってる人が居た。

   だから信じたい。人間は...決して愚かじゃないって。

   だから......機龍は簪を信じる。」

その言葉を聞いた時、簪は両手で口を覆い、涙を流し始めた

簪『私は...ずっと...一人だった......誰も私の事なんて認めてくれなかった

  でも...機龍は...この子だけは...』

 「機龍は...私の事...信頼してくれるの?」

機龍「うん。僕は簪を支える。だから、もしもの時は簪に僕を

   支えてほしい。」

その言葉を簪は

『共にいて支え合う』=『いつも一緒』=『夫婦』=『結婚』と

結びつけてしまった

簪「そ、そんな!わ、私達はまだ学生だし、そこまでは!

  あぁでも機龍となら...」

と、口を覆っていた顔を頬に移動し顔を赤くする簪

機龍「?」

言った当の本人はなぜ簪が赤くなっているのか理解できないでいた

 

その後、落ち着いた簪

簪「え、えっと、それじゃあ...これからも、その、よろしく、お願いします。」

機龍「うん...僕たちは、一緒にがんばる。」

その言葉で再び顔を真っ赤してしまう簪だった

 

やがて翌日 廊下にはクラス対抗戦の日程表が張り出されていた

一組の、つまり一夏の相手は、鈴だった

それを見た機龍は大して驚きもしなかったが、その後、一夏と鈴が

喧嘩の事を知った機龍

機龍「凰さんと喧嘩したの?」

一夏「あぁ、小学校の頃の約束をちゃんと覚えてないとかでな。」

機龍「大変だね。一夏も...早く思い出すと良いね。」

一夏「それが、確かに覚えてるはずなんだが、どうにも

   噛み合わないというか、違うというか...」

機龍「ふぅん。」

箒「気にする事は無いぞ。機龍。」

機龍「箒お姉ちゃん。」

箒「それは自業自得、と言う物だ。」

一夏「ゔ!?そ、それはそうだが......」

箒「それより、代表戦はその鈴とやらが初戦の相手なのだろう?

  代表候補が最初の相手なのだ。気を抜いてかかれば即倒される。

  だからこそ、これからは特訓にもより一層力を入れていくぞ。」

一夏「ま、マジかよ~」

機龍「一夏、がんばって。」

 

そんなこんなであっという間に時間が過ぎ、ついに、クラス対抗戦の

日がやってきた  そして、今日と言う日が、

本当の意味で銀龍が戦う日となった

     第4話 END

 

 




次回はゴーレムの乱入、そして機龍のガチバトルまで書きます。
コメントあったらください。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第5話

今回はゴーレムの乱入と機龍とのバトル


前回までのあらすじ

IS学園に転校してきた一夏のセカンド幼馴染で中国の

代表候補生『凰鈴音』 そんな中一夏と鈴がある事をきっかけに

喧嘩になってしまった 仲直りできないままクラス対抗戦を

迎え、一夏の初戦の相手は、その鈴だった

 

そして、試合初日がやって来た

一夏と箒はピットへ行き、機龍、セシリア、簪の3人は観客席の方へと移動した

何とか空いている3つの席を見つけ、腰を下ろす3人

右から、簪、機龍、セシリアの順番だった

セシリア「それにしても、一夏さんは大丈夫でしょうか?」

機龍「一夏は強い。大丈夫。」

セシリア「ですが…少し不安材料がありまして…」

機龍「何?」

セシリア「実は、一週間程前、一夏さんと鈴さんがさらに喧嘩をなさって…」

簪「…余計仲が悪くなった?」

セシリア「はい…かなり険悪でした…」

機龍「……そう……」

それだけ言うと、機龍はアリーナの方に目を向けた

アリーナの中央、空中では鈴の専用機『甲龍』が浮いていた

  『武装は…あの両肩、両腕の射撃兵装と、変わったブレード…

   …近、中距離対応型…近接オンリーの一夏の場合…

   セシリアのような射撃特化型が相手なら懐に入れれば強い…

   でも、あの凰さんは違う……これは、一夏の方が不利。』

そんな事を考えていると、ピットから一夏の白式が飛び出してきた

空中で向き合う二人  何かを話しているのかわからないが、声は機龍

達には聞こえなかった

アナウンス『それでは両者、試合を開始してください。』

『ビイィィィッ!』と、ブザーが鳴り響いた瞬間、二人は接近して、

試合を始めた

 

空中を高速移動しながら剣戟戦を繰り返す二人

だが、不利を悟ったのか、距離を取って離れる一夏

  『ダメだ!距離を取ったら一方的にやられる!』

そう思った瞬間、甲龍の背部のパーツが展開され『見えない』砲弾が発射

された 初撃を何とか回避する一夏だったが、さらに飛んできた攻撃を

喰らって吹き飛ばされた一夏

 

簪「あれって何?」

機龍「あれは衝撃砲……セシリアのブルー・ティアーズと同じ、

   第3世代の技術で作られた武装……空間そのものを圧縮して、

   見えない砲身を作り出し、その砲身を使って衝撃波に指向性を持たせ、

   撃ちだす兵器だよ。」

セシリア「と言う事は、あれも第3世代IS、と言う事ですわね。」

機龍「あの機体は、一夏にとって戦いずらい機体……

   一夏はまだ初心者。なのに見えない砲弾の対処なんて、避けるのが

精いっぱい。それに、相手に中距離を保たれたら、一夏には

打つ手がない、一方的な戦いになる…」

セシリア「何か、一夏さんが勝つ手立てはありませんの?」

機龍「……一夏の白式は、とても速い…スペックをこの前見せて

もらったけど…確かに速度面なら甲龍よりも白式の方が早い。」

簪「…えっと…つまり?」

機龍「一夏の活路は、速度を生かして相手を翻弄。背後、側面などから

   の一撃離脱戦法がもっとも効果的……ただ…」

簪「何?」

機龍「一夏にそれをするだけの技量があるかわからない…」

それを聞いて、再び二人の試合の様子を見る3人  

 

と、その時…上空から現れた物体がアリーナの遮断シールドを突き破って

入って来た 

轟音と共にアリーナの地面に落着し、凄まじい量の砂煙を上げながら、

『何か』が、試合に乱入してきた

 

その頃…ある場所では

クロエ「本当に良かったのですか?あんな物を送り込んで。」

束「大丈夫だって。いっくんと白式ならあれくらいなら何とかなるでしょ。」

クロエ「そうではなく、機龍が巻き来れたらどうするのですか?」

束「そこも大丈夫。ゴーレムには、ISしか攻撃しないようにプログラムしてある

  から…攻撃でバグってシステムがおしゃかにならなければ大丈夫だからさ!

  私は天才なんだから大丈夫だって!ブイブイ!」

クロエ「そうですか……はぁ…不安だ。」

と言うやり取りが行われていたとかいないとか……

 

場所は戻ってIS学園 第2アリーナ

観客席ではざわめきが起こっていた

セシリア「今のはなんですの?」

簪「何かが…落ちて来たように見えたけど…」

二人が疑問を現す中で機龍は土煙の中を睨みつけていた

機龍「これは……未知のIS、確認…」

簪「え?機龍?」

機龍「各国の開示されたISデータと照合中…………ERROR

   該当ISなし……CODE、UNKNOWN……」

その時機龍は自分の中にある見聞きしたISのデータとグラウンドに現れた

何かの照合を行った  これも、機械としての機龍の力だった

その時の機龍の瞳は猛烈な勢いで変則的な運動を繰り返していた

アナウンス『緊急連絡!これより試合は中止します!生徒たちは最寄りの

      扉から退避してください!』

とだけ言うと、観客席を覆うように壁がせり上がり、非常用の赤いライトだけが、

観客席を照らしていた

簪「一体…何が起きているの?」

セシリア「これは一体、何事なんですの?」

周りでも多くの生徒たちが怯えていた

機龍「二人とも、とにかく今はここを出よう…すぐに先生たちがISで出て来るはず。

   それに、あのUNKNOWNは遮断シールドを突破するだけの力を持っている。

   この壁が戦闘で破れる可能性もある。ここは危険、とにかく移動するべき。」

簪「そ、そうだね。」

セシリア「移動しましょう。」

機龍の言葉にうなずいた二人が立ち上がり、ドアの近くまで移動した  だが

 

生徒「ねぇ!?ドアは開かないの!?」 「さっきから試してるよ!

                    でも全然動かないの!!」

    「ねぇ!誰かどうにかならないの!?」 

と、ドアが開かず、その前には多くの生徒たちが集まっていた

簪「そんな!?どうして!?」

機龍「…システムをハッキングされてる……おそらく、

あのUNKNOWNのせい。」

セシリア「それでは、ここで救助を待つしかないというのですか!?」

機龍「それは……」

  『もし…僕が力を使えば…あの扉は破れる……でも…』

そう思い周りを見る機龍  彼の周りには多くの生徒たちが集まって

ひしめいている  ここで変化すれば…… そう思っていた時だった

 

『ドガアァァァン!』

鈴「きゃあぁぁぁぁ!」

未確認機のビーム兵器の攻撃を喰らった鈴の甲龍が防壁を破って

観客席に落下した

セシリア「鈴さん!?」

倒れた鈴の近くによるセシリア

    「鈴さん!?大丈夫ですか!?」

鈴「いたたた……あいつ、何なのよ…どんだけ高威力のビーム砲を

  持ってるのよ。」

と、そこに、鈴の空けた穴を越えて、ゴーレムが中に入って来た

一夏「やめろぉぉぉ!」

そこに後ろから接近した白式が首元に一撃を喰らわせた

人の顔の当たる部分にあった不規則に配置されたセンサーレンズが

光った 

そして右手を後ろに回し、一夏の右手首を掴んで、鈴たちの方へと

投げた

  「うわっ!グッ!?」

セシリア「一夏さん!?」

鈴「一夏!大丈夫!?」

一夏「な、何とか……」

その時、ゴーレムは一夏達3人の方へと、右手のエネルギー砲を向け、

エネルギーをチャージし始めた

 

そして、束と一緒にそれを見ていたクロエ

クロエ「まずいです!このままだと一般人も巻き込まれますよ!?」

束「あの子は…いっくんの幼馴染と~…あの時話を聞いてた子、かぁ…

  仕方ない…強制的に、停止~♪ポチっとな♪」

と言って端末のボタンを押す束 だが、映像ではゴーレムはまだ

チャージを続けていた

クロエ「何してるんですか!?早く止めないと!」

束「あ、あのね、クーちゃん…」

クロエ「何ですか!?」

束「さっきのいっくんの攻撃…物の見事にシールドバリアーを貫通して…

  ゴーレムの受信アンテナ、壊しちゃったみたい…」

クロエ「は?」

束「ゴーレムがこっちの操作を受け付けなくて……自立殲滅モード

  になっちゃった……テヘペロ♪」

クロエ「ななな、何てことしてるのですかあなたは~~!!」

と言う会話があったりなかったり……

 

戻ってアリーナ

今、機龍の前で未確認のISが一夏達に向けて、ビームを発射しようとしている

ISを身に纏っている一夏や鈴なら大丈夫かもしれないが、セシリアは

生身のままだ このままでは確実に死んでしまう 

その時機龍の頭にフラッシュバックする、記憶...

人間の悲しみ、怨嗟の声…そして、失う恐怖 それが機龍の頭の中で響いた

機龍『やめて!僕の友達を傷つけないで!』

そう思いながら必死に駆け出す機龍 

まるでスローモーションのように時間が流れた

  『助けるんだ!僕が、皆を助けるんだ!......戦え!戦え!

   躊躇うな!失わない為に!...戦え!戦え!』

  「ッ戦えぇぇぇぇ!うおぉぉぉ!」

機龍が一夏達の前に飛び出した瞬間、発射されたビームが彼に

直撃した 

一夏「機龍ぅぅぅぅ!」

発生した暴風と煙で、周りの生徒や一夏たちの視界は塞がった

やがて数秒の沈黙の後

煙を破って稲妻のようなメーサーがゴーレムに命中した

数歩後ろに下がり、そちらを睨むゴーレム

煙が晴れ、現れたのは

機龍「KYUOOOO!」

銀一色の姿 『3式機龍改』だった

 

やがて煙が完全に晴れ、機龍の後ろには一夏の白式、鈴の甲龍、そしてセシリアの

3人が無事な姿で機龍の背中を見つめていた

にらみ合う機龍とゴーレム

機龍はゴーレムを威嚇するように、尻尾を何度も床に叩きつけている

そして次の瞬間、機龍の口が開き、2連装メーサーが火を噴いた

メーサーを喰らい、よろめくゴーレム それを見た機龍は

さらに4式レールガンとメーサーの一斉射撃でゴーレムを

観客席の外へと押し出した 

足を踏み出し、自らも外へと出て行く機龍

 

鈴「何なの…?あの銀色の奴…」

一夏「あれは……機龍自身のI、S…『3式機龍改』だ。」

そう言う一夏の表情は優れなかった

  『クソ!俺がこんなに弱くなけりゃ...あいつが元に戻る必要なんて......』

そう思い、雪片を握りしめる一夏だった

 

一方 アリーナの地面の上でにらみ合う機龍とゴーレム

最初に動いたのは機龍だった

機龍『うわあぁぁぁぁ!』

  「KYUOOOO!」

咆哮を上げながら突進する機龍  口からメーサーを放ち、

さらにバックユニットに内蔵された04式多連装ロケット弾と

ユニットの側面、上部に内蔵された98式多目的誘導弾を全弾斉射した

さらにダメ押しとばかりにレールガンを撃ちまくる機龍

銃弾、メーサー、ロケット弾の嵐の中に閉じ込められるゴーレム

やがてバックユニットの全弾を撃ち尽くした機龍はゴーレムがいる地点を睨みつけた

すると土煙の中から極太のレーザーが発射され、機龍に向かって来た

咄嗟に左手でガードするが、それでもレールガンユニットを破壊され、

吹き飛ばされ、土煙を上げる機龍

一夏「機龍!!」

グラウンドに出てきた一夏と鈴

そして、土煙の中から現れたのは、あちこちがボロボロになったゴーレムだった 

そして、人型をしていた部分はスーツが破け、機械の中身が姿を現した

  「あいつ!?人が乗ってない!?無人機だ!」

鈴「嘘でしょ!?」

するとゴーレムは目標を一夏と鈴に変更した 

構える一夏達に対して、肩部のビームを発射しようとした だが

 

機龍の倒れた地点から発射されたバックユニット2発がゴーレムに命中、爆発した

左肩のビーム砲が吹き飛ぶゴーレム 煙の中からさらに残った右手のレールガンを

連射しながら機龍が出てきた

その攻撃でさらに右肩のビーム砲が吹き飛ぶゴーレム

しかし、負けじと両腕のビーム砲を連射した 

その一つが機龍の右手の残ったレールガンを破壊した

 

そこからにらみ合う2体  一瞬の沈黙の後、

スラスターを吹かして突進する機龍とゴーレム

お互いの巨大な拳と鋭利な爪を突き出す2体

拳は肩を 爪は脇腹を それぞれ掠めた

そこから猛然とした打撃戦に移行する2体

互いにパワーは互角 互いに殴り合い 数歩下がっては数歩踏み込んで

圧倒的な打撃を繰り返した

その様子は一夏や鈴だけではなく、ピットの千冬や真耶、箒、

そして空いた穴から顔をのぞかせる生徒たちが見ていた

  

何度目かの打撃を機龍が避けた瞬間 

彼の右手がドリルのように変形し、高速回転を始めた

そして、それをゴーレムの頭部に向けて突き出した

避ける事も出来ず、頭部にドリルがめり込んだ 

そのまま高速回転で頭部をぐしゃぐしゃに破壊していく機龍

ゴーレムはそれを止めようと右手を動かすが、それは機龍の2連メーサー砲に

破壊された

やがて機龍はドリルを引き抜き、頭部、右手、両肩を破壊され、

ボロボロになったゴーレムの腹に向けて、振り向きざまに尻尾の一撃を

見舞った 

吹き飛ばされ、壁に激突するゴーレム

 

そんなゴーレムを見据え、胸部の装甲と口を開く機龍 

そして、口の2連装メーサー砲と胸の中に隠された機龍の最終武装の一つ

『4式3連装ハイパーメーサー砲』が姿を現した

エネルギーを充填し、それを一気にゴーレムに向けて発射する機龍

発射された無数のメーサーがゴーレムに直撃し、

一拍ののち、ゴーレムは爆発、轟轟と炎を上げ始めた

機龍「KYUOOOO!」

勝利を宣言するかのように、銀龍は空に向かって咆哮した

多くの人間が、その姿に見入っていた

 

だが、次の瞬間、機龍の瞳と赤いラインが光を失い

機龍は倒れて、子供の姿に戻ってしまった

一夏「ッ!?機龍!しっかりしろ!」

近づいた一夏が機龍を抱き上げた

鈴「ちょっと!そいつ大丈夫なの!?」

一夏「……大丈夫だ。気を失ってるだけみたいだ。」

その時

真耶「……斑君!織斑君!聞こえますか!?」

一夏「はい。聞こえます。」

真耶「良かったぁ...機龍君は大丈夫ですか?」

一夏「はい。気を失っているだけみたいで、特に怪我とかは

   無いみたいです。」

真耶「では、機龍君をピットに連れてきてください。

   医療班を呼びます。」

一夏「はい。わかりました……そう言う訳だから、勝負はお預けだ。

   悪いな、鈴。」

鈴「べ、別に良いわよ。こんな事があった後じゃ、勝負する気なんて

  起きないわよ。……あのさ、一夏。」

一夏「何だ?」

鈴「あ、後で屋上に来て……待ってるから。」

一夏「…わかった。」

それだけ言うと子供の姿の機龍を抱えた一夏がピットに飛んだ

そこで待機していたストレッチャーに機龍を横たえるとそれを確認した

医療班の人間が機龍を運んでいた

それを見て一息つく一夏

千冬「…大変だったな。」

そこにやってくる千冬、箒、真耶の3人

一夏「ちふ、織斑先生……そうですね。…機龍は大丈夫かな?」

千冬「目立った外傷は無し。以前のような心的ストレスにしても、あそこまで

   戦えたのだから、何かしらの精神的支柱で最後の最後まで

   逃げ出そうとする自分を抑えて戦ったのか……それとも、

   あれが奴の本性なのか…」

一夏「そんなことない!」

箒「一夏?」

一夏「あんな…きっとアイツは、機龍は、俺達を守るために戦ったんだ!

   アイツは誰よりも戦いを拒んでるんだ!そんなアイツが自分から

   望んで戦うわけがねぇ!」

千冬「お前に、アイツの何がわかる?」

一夏「確かに、俺にあいつの気持ちなんてわからない…でも、

   機龍は、確かに俺達を守ってくれた!それは変わらない事実だ!」

真耶「織斑君…」

一夏「俺は、機龍を信じる!」

そう断言する一夏だった

千冬「…そうか。」

と、それだけ言い残すとピットを出て行こうとする千冬

  「見舞いくらい、行ってやれよ?」

去り際の声は、確かに一夏達の耳に届いていた

 

その後、医務室に移された機龍は夕方になってやっと目を覚ました

機龍「ここ、は…?」

目を覚ました機龍の周りには一夏、箒、鈴、セシリア、簪がいた

  「みんな……」

一夏「機龍、大丈夫か?気持ち悪いとかは無いか?」

機龍「そうか……僕は、あの無人機を倒して……」

一夏「倒れたんだ……本当に大丈夫なのか?」

箒「この前の事もある。ゆっくり休んだほうが良いぞ。」

機龍「うん、ありがとう……ただ…」

鈴「?どうしたのよ?」

彼女が聞いた瞬間 

   『キュウゥゥゥ』

と、機龍のお腹が鳴った

機龍「エネルギー使いすぎてお腹空いた////」

それを聞いた一夏達はずっこけた

セシリア「な、何故そうなるのですの。」

一夏「ま、まぁ、機龍は結果的に昼めし抜きだったからな。」

機龍「ご、ごめんなさい。」

鈴「何でアンタが謝るよの。…まぁ、そんだけ食い気があれば問題ないわね。」

簪「とにかく、無事で良かった…」

機龍「みんな……ありがとう。」

一夏「気にするなって…俺も助けられたのには変わりないんだし。」

鈴「い、一応礼だけは言っとくわね。ありがとう…」

機龍「うん。一夏お兄ちゃん、凰さん。」

鈴「一夏、お兄ちゃん?」

一夏「あぁ、なんかこんだけ年が離れてると兄弟って感じがしてさ。

   よくそう言われるんだ。」

鈴「ふぅん。」

一夏「つっても、箒やセシリア達の事もお姉ちゃんて呼んでるみたいだけど。」

話を振られて、少し顔を赤くする箒やセシリア

鈴「なら、私の事も鈴で良いわよ。よろしく。」

機龍「うん、鈴お姉ちゃん。」

一夏「……さてと、そんじゃ、俺はそろそろ戻るわ。機龍も体には気を付けろよ。」

と言うと一夏、箒、鈴は部屋を出て行った

 

一方、残ったセシリアと簪は

セシリア「あ、あの…」

機龍「何?セシリアお姉ちゃん。」

セシリア「先ほどは、助けてもらいましたし、その、お礼をと思いまして…」

機龍「…僕はあの時、ただ必死だった…ただ、皆を守りたかった。

   ただそれだけだから…だから、お礼は要らないよ。」

セシリア「で、ですが…」

機龍「…僕はあの時、力を使う事を迷ってしまった。僕が機龍で

   ドアを破壊していれば、あそこでセシリアお姉ちゃんが危険に晒される

   事は無かった。だから、僕にはお礼を言ってもらう資格なんて

   無いんだ。」

セシリア「機龍、さん…」

機龍「さんなんてつけなくて良いよ。セシリアお姉ちゃんの方が年上なんだから。」

セシリア「そう、ですか…」

機龍「…でも、良かった。」

セシリア「え?」

機龍「戦いは嫌いだけど、セシリアお姉ちゃん達を守れたから。」

そう言って笑みを浮かべる機龍 それを見て、顔を赤くするセシリア

と、その時

   『キュウゥゥゥ』

再び機龍のお腹が鳴った それに顔を赤くする機龍

簪「そう言えば、お腹空いたって言ってたよね。私、購買か何かでパンでも

  買って来るよ。」

セシリア「そ、それでしたら私も!」

そう言うと2人は医務室を出て行ってしまった

残された機龍は、夕焼けでオレンジ色に見える学園を見ていた

しばらくして、それに見入っていた機龍 

その時、

『コンコン』

医務室のドアがノックされた

機龍『セシリアお姉ちゃん達かな?』

  「はい。」

???「失礼するわね。」

そう言って入って来たのはセシリアでも簪でも無かった

機龍「あの、あなたは?」

入って来た相手は簪と同じような髪の色の扇子を持った生徒だった

楯無「はじめましてね、篠ノ之機龍君。私はIS学園の生徒会長

   『更識楯無』よ。よろしくね♪」

と、ウインクをしてくる楯無

機龍「は、はぁ。」

  『テンションが束に似てるような…』

  「そ、それで、その生徒会長さんが何の用ですか?」

楯無「まぁそうね。一つはお礼ね。あなたのお陰で簪ちゃんが怪我せずに

   済んだからね。」

機龍「そうですか……あれ?二人は苗字が…」

楯無「そ、私は簪ちゃんのお姉ちゃんなの。」

機龍「成程…」

楯無「それで、私からあなたにいくつかお願いがあるの。」

機龍「お願い、ですか?」

楯無「うん、単刀直入に言うと、まず第一にあなたには簪ちゃんの傍に居て

あげてほしいの。第二に、打鉄弐式の開発に協力する事よ。」

機龍「それが、お願いですか?……あなたは、簪に協力しないの?」

楯無「え?!そ、それはまぁ…色々有ってね…それと、機龍君。

   私がこの事をお願いしたのは、簪ちゃんには内緒よ。良い?」

機龍「わかりました。」

楯無「それじゃ、よろしね。…あ、後私の事は楯無お姉さん、で良いからね。

   バイバイ♪」

そう言うと医務室を出て行った楯無だった

 

それから数分すると何処かでパンを買って来た簪とセシリアが戻って来た

簪「ただいま、機龍。…この時間だったから、あんまり無かったけど、

  はい、おにぎり。」

袋に入っていたおにぎりを二つ、機龍に渡した簪

 「夕食も近いからこれ位で良いかな?」

セシリア「時間があれば、私の手料理を御馳走できましたのに。」

機龍「ううん、これで大丈夫だよ。二人とも、ありがとう。」

そう言われ、顔を赤くする簪とセシリア と、その時

真耶「失礼しますね。」

部屋に真耶が入って来た

  「機龍君、もう大丈夫ですか?」

機龍「はい、何処も問題ありません。」

簪「さっき起きたばかりです…お腹が空ていたようなので、おにぎりを

  買って来たんですが…不味かったですか?」

真耶「いいえ。食事を取れるなら健康な証拠ですし、機龍君はお昼抜き

   でしたからね。仕方ないかもしれません。」

その後、おにぎりを食べて終わった機龍

機龍「ごちそうさまでした。」

丁寧に手を合わせる機龍

簪「それじゃ、この後はどうするの?」

機龍「部屋に戻るよ。もう大丈夫だから。」

真耶「そうですか。では、保健医の先生には私から伝えておきますね。

   機龍君達はゆっくり休んでください。今日は色々ありましたから。」

セシリア「はい。」

そしてその後、機龍はセシリア、真耶と別れ、簪と共に自分達の部屋

へと戻って行った

機龍『今日は、無我夢中で力を使っちゃったけど…もう、

   こんな事は起きないよね。』

胸に一抹の不安を抱えながらも、今日と言う一日を終えた機龍だった

 

だが、新たな火種は確実に近づいていた

そして、機龍の『暴走』の日もまた、ゆっくりと近づいていた

 

     第5話 END

 




次回はシャルロットの転校の話です。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第6話

今回はシャルルとラウラの転校の話です。
原作準拠の同時転入か、アニメ準拠の別々か迷いましたが、
原作準拠にしました ただ、ラウラをどっちのヒロインにするか
マジで迷ってます。意見有ったらコメントください


前回までのあらすじ

IS学園に転校してきた一夏の幼馴染で中国の代表候補生の『凰鈴音』

ある事をきっかけに喧嘩をしてしまう一夏と鈴。

そんなこんなで始まったクラス代表による対抗戦 

しかし、そこに突然、束の放った無人IS『ゴーレム』が襲来してしまった。

さらに運の悪い事に一夏の放った一撃がゴーレムの制御のためのアンテナを

破壊してしまい、暴走するゴーレム それを破壊したのが3式機龍改へと

姿を戻した機龍だった 圧倒的な火力と攻撃力でゴーレムを破壊した

機龍はエネルギーの消耗も激しく、気絶するにまでなってしまったが、

結局は大したけが人も無く、事件は終了した

 

事件からしばらくしたある日

今日も今日とて通学路では注目を集めている機龍 

簪は何やら用があるからという事で今日は一人で登校していた。

周りからは面白半分で機龍を見ているという感じの視線がほとんどだった。

だが、中には束と言うISの生みの親の所から送られてきたという

事情に対する『嫉妬』 

自分よりも年下なのに専用機を持つ事実に対する『怒り』

機龍が男と言う事実に対する『侮蔑』のような視線も交じっていた。

 

この時機龍は、その視線の中の感情に気づいていた

だが、それは彼が前世で感じて来たものと同じ、『負の感情』だった。

機龍『こういうのを向けられるのは馴れてるし…気にしないでおこう。』

彼にしてみれば、今まで浴びせられて来た負の感情はもっと濃密で

絡みつくような殺意と敵対心だった それに比べれば彼女達の嫉妬や怒りなど

雲泥の差だ そして同時に、それが人間の本質だと理解している機龍だった。

  『……だったら、滅ぼしちまえよ…人間と言うごみを…』

その時、心の中で囁く魔王がいた それは背中合わせのもう一人の自分の

声だった。

立ち止まり、しばらくして、何とか心を落ち着かせる機龍 

機龍『あれは…表に出すわけには行かない……絶対に』 

 

と、そこに箒や鈴と一緒に一夏がやってきた。

一夏「よう、おはよう、機龍。」

機龍「お、おはよう一夏お兄ちゃん……あ、そういえば、鈴お姉ちゃんとは

   仲直りできたの?」

一夏「あぁ、何とかな。」

機龍「そうなんだ。良かったね。二人とも。」

その後、他愛ない会話をしながら登校する四人

 

そう思いながら教室にやって来た機龍たち

  「おはよう。」

本音「あ、リュウ君達も、おはよう~…ねぇねぇ、実はリュウ君達に

聞きたい事が、もがっ!?」

そう言って近づいて来た彼女の口を塞ぐ静寐と清香

静寐「ちょっと!?男子の機龍君と織斑君には内緒だってさっき言ったでしょうが!?」

と言って本音を後ろの方に連れて行く二人だった。

それを首を傾げながら見送った機龍と一夏 その頭には大きな疑問符が浮かんでいた

 

その後、やってきた千冬と真耶によって説明された『2名の転校生』と言う話

機龍「高校って、ここまで転校生が多いんだね。」

一夏「いや、普通はこんなにたくさん転校生が来る事なんて 

   滅多にないからな?」

真耶「ま、まぁ確かに珍しいのは確かですね。ある意味…」

機龍「?どういう事ですか?」

千冬「話すより見た方が手っ取り早いだろう…2人とも、入れ。」

そう言って入って来た二人の内の一人は…

シャルル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな

     事もあるかと思いますが、みなさんよろしくお願いします。」

そう名乗ったのは女子――ではなく一夏や機龍と同じ夏服姿の、男子だった。

女子「お、男…?」

クラスの中で誰かが呟いた

シャルル「はい。こちらに僕と同じ境遇の方が2人もいると聞いたので、本国から

     転入を…」

だが、そんな説明が終わる前に

女子「「「「「「「「「「きゃあぁぁぁぁ!」」」」」」」」」」

女子の黄色い歓声によって説明の続きがかき消された。

一夏とシャルルは咄嗟に耳を抑えている だが、機龍は

機龍「一夏~頭がクラクラするよ~」

抑える間もなくソニックウェーブクラスの衝撃波をもろに喰らった。

一夏「機龍!しっかりしろ!」

目の周り焦点がはっきりしない機龍とそれを揺らす一夏

シャルル「あ、あははは…」

これにはさすがに苦笑いしかできないシャルル

そして喜びに沸いていたクラスを鎮めたのが千冬と

もう一人の転校生だった 

その転校生は千冬を教官と呼び、自分の名前だけを明かし、そして

…一夏をビンタした。 

あまりにも唐突な出来事のせいでクラスの空気は一瞬にして凍り付いた

先ほどまでの姦しさが嘘のようである。

 

その行いに機龍はポカンとするしかなかったが…同時にある種の危機感を

覚えていた 

機龍『あの子から、嫌な感じがする……これは、悪意と…それを冗長する物?』

機械であるがゆえにラウラの、正確にはラウラのISに隠された『あるシステム』

の存在に薄々勘づき始める機龍だった

 

千冬「では、織斑と機龍はデュノアの面倒を見てやれよ。同じ男子なんだからな。

   それと、今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。着替えてすぐに

   第二グラウンドに集合だ。解散。」

そして、機龍と一夏の前にやって来たシャルル

シャルル「君が織斑君と機龍君?初めまして、僕は…」

一夏「あぁ、それはいいから、先に移動だ。女子が着替え始めるからな。

   行くぞ。機龍もだ。」

機龍「あ」

何か考え事していた機龍とシャルルの手を引いて教室を出る一夏

そして廊下には、案の定大量の女子が待ち構えていた。

女子「居た!噂の三人目の男子よ!」 「しかも織斑君達と一緒!」

   「あ!三人で手つないでる!」 「イケメン三兄弟ね!」

  「そそられるわ!」 「私のリビドーが凄い事に!」

後半二つに頭を抱えながら逃げる一夏と何のことか理解できない

機龍とシャルルだった。

その後、一夏に先導され、女子包囲網から脱出する三人

 

その後、更衣室に入った一夏達

一夏「えっと、改めましてだな。俺は織斑一夏。一夏で良いぜ。」

機龍「僕は篠ノ之機龍。よろしくね。デュノアお兄ちゃん。」

シャルル「お、お兄ちゃん?!」

一夏「あぁ、気にしなくて良いぞ。機龍は俺達の事をお兄ちゃんとか、お姉ちゃん

   て呼ぶからな。」

機龍「みんな年上だから。」

シャルル「そ、そうなんだ。」

一夏「あ!やばっ!早く着替えないと!」

機龍「ホントだ。時間が。」

そう言って上半身裸になる一夏と機龍

それを見て咄嗟に小さな悲鳴を上げ、二人に背を向けるシャルル。

  「?どうかしたの?」

シャルル「え?!あぁ何でもないよ!…あ、でも…僕が着替える間、

     あっち向いてて…」

一・機「「??」」

それには疑問符を浮かべるも、素直に従う二人だった

 

その後、着替えた三人は無事、授業に間にあ…わかなかった

着替えの際に、妙にシャルルが落ち着かない様子だったが、そんな事を気にしつつ

歩いていると見事に遅刻し、一夏は叩かれ、シャルルは転校してきたばかりで

免除された 機龍はと言うと。千冬は頭を叩こうとしたが、機龍が首を傾げながら

千冬を見上げる姿が小動物を連想させ、結局叩かなかった。

ちなみに、それを見て笑った一夏と、こそこそ話をしていたセシリアと鈴も

叩かれた。

 

そんなこんなで始まった二組との合同授業

千冬「それでは、これより専用機持ちのよる実演をしてもらう。…

   オルコット、凰。前に出ろ。」

鈴「あ、アタシ!?」

セシリア「な、なぜ私まで!?」

千冬「専用機持ちならすぐに始められるからだ。……うまくやれば、あいつ等に

   良い所を見せられるぞ?」

後半は機龍や一夏に聞こえないように耳打ちする千冬

それを聞いた瞬間、二人のやる気はマックスになった。

鈴『やってやろうじゃない!一夏に絶対良い所見せてやるんだから!』

セシリア『機龍に、私の華麗な姿をお見せしますわ!』

と、意気込む二人だった

千冬「それでは、対戦相手だが…」

その時、『キイィィィン』と言う飛行機が飛ぶときのような甲高い音が聞こえてきた

すると

真耶「ああ~~!ど、どいてくださ~~い!」

濃い緑の色のISに身を包んだ真耶が生徒たちに向かって突っ込んできた。

そして、その中央に居るのが一夏だった 他の生徒が脱兎の如く逃げるのに対し、

一夏はそれを驚きながら見上げているだけだった。

誰もがぶつかると予想して目を瞑ったが、衝撃も音も、何も起こらなかった

恐る恐る目を開けてみると、そこには銀色の尻尾だけを展開して、

器用に真耶のISを受け止めている機龍がいた。

どうやら、ぶつかる直前に尻尾を引っ掛け、強引に真耶のISの速度を

殺したようだ 実際、機龍の足もとは、かなり踏ん張ったのか、地面が

削れていた。

機龍「……ふぅ。」

無事に真耶が停止したのを確認すると、器用に尻尾を戻してから、装備を解除した

女子「「「「「おおぉぉぉ!」」」」」

  『『『パチパチパチ』』』

それを見た周りの女子からは拍手が起こった

真耶「ありがとうございます機龍君。久しぶりのISで慌ててしまいました。」

機龍「それより、大丈夫でしたか?」

真耶「はい。おかげ様で助かりました。」

ひざを折った状態で機龍と話す真耶 その姿は幼い子供と同じ目線で

話す母親のようであった。

 

その後、真耶VSセシリア・鈴タッグによる試合が始まった

その頃、地上ではシャルルによる真耶のIS『ラファール・リヴァイヴ』の

説明が始まった 

結局試合は見事に追い込まれたセシリア達2人の負けだった

回避先を読まれたセシリアが鈴と衝突し、その隙をグレネードランチャーで

狙い撃ちされ、墜落 グラウンドに小規模なクレーターを作る羽目になった

 

その後、グループに分かれてISの実習をする事になり、班のリーダーが

専用機持ちになったのだが…

一夏、機龍、シャルルの周りに集まる女子たち

女子「織斑君!私に教えて!」 「あ!ずるい!私も!」

    「機龍君!よろしくね!」  「私も機龍君が良い!」

  「デュノア君の操縦技術も見たいなぁ」 「ね、ね、私もデュノア君の

                      班で良いよね?」

と、すぐさま女子の集中砲火の的になった。

 

その後、嫌気がさした千冬の言葉ですぐさま番号順に並んでそれぞれの班を作る女子たち

一夏、機龍、シャルルの班になった生徒は喜び、セシリア、鈴の班になった生徒は

落ち込んだ そして、ラウラの班になった生徒は気まずく、重い空気に支配されていた。

その後、打鉄とリヴァイブをそれぞれ三機ずつが手配され、実習が始まった。

 

のだが、一夏やシャルル、果ては機龍の担当の生徒たちが腰を折った状態で

右手を前に突き出してきた

女子「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」

機龍「…うん。」

それを見た機龍は一人一人の手を取り握手をした

女子「「「「「「あ、ありがとうございます!!」」」」」」

この時の機龍はただたんに礼儀として握手をしたのだが、彼女達とは

微妙に考えがずれていたのは言うまでもない

周りではそれを見て悔しそうな顔をしていた女子が無数にいた。

 

機龍「それじゃあ、最初の人から順に装着、起動、歩行までやってみて。」

女子「そ、それじゃ、行きます。」

少し緊張した女子が機龍が借りて来た打鉄に乗り込んで起動した

機龍「それじゃ歩いてみて…でも、一歩ずつ、自分の感覚でね。

   無理せずゆっくりで良いから。」

女子「は、はい。」

その後、何歩か歩くとISを降りる女子

機龍「それじゃ、次の人、お願い。」

女子「はい!…あ、でも、これじゃ…」

機龍「…成程。」

今、打鉄は直立した状態で停止している これだと人が乗り込めない

  「一夏達は…」

そちらを見ると、白式を展開した一夏が生徒をお姫様抱っこして運んだ

  「…そうか。…運ぶだけなら…」

最後の方は人に聞こえないように呟いた機龍は、いつものシークエンスを

通して、三式機龍へと姿を変えた。

女子「「「「「「おおぉぉぉ!」」」」」」

周りでは女子たちが驚いている

機龍『怖いかもしれないけど、僕を踏み台にしてISに乗って。』

女子「あ、あの、機龍君。」

機龍『どうしたの?』 

女子「で、できれば、織斑君みたいに、お姫様抱っこが良いなって…

   ダメかな?」

機龍『え?……良いの?』

この時機龍は彼女達が機龍の姿を怖がると思っていた、が

女子「平気平気!だから、ね!お願い!」

機龍『……わかった。』

了承した機龍は片膝を突いて、両手を広げた

  『…来て。』

それを言った瞬間、なぜか機龍班の女子や近くにいたセシリアの班の女子たちが

顔を真っ赤にした

  『?…どうかしたの?』

女子「あ!な、何でも無いよ!」

そう言うと機龍に近づき、その右手に背を預けるようにする女子

それを爪で傷つけないようにゆっくりと手を操作し、さらに左手で足を

持ち上げる機龍。

そのままゆっくりと立ち上がり、打鉄の方にゆっくりと体を向けた

機龍に抱っこされた女子はもう満足、と言わんばかりの恍惚とした表情を

浮かべていた

機龍『ここまで接近すれば大丈夫かな?』

女子「あ!う、うん!ありがとう。」

そう言って打鉄の方に手を伸ばし機体に乗ろうとする女子

  「…うわっ!」

だが、途中で手が滑ってしまい、重力で地面の方に手を伸ばす恰好になった。

  「危ない!」

他の生徒が叫んだ際 倒れた女生徒の手の前に機龍の尻尾が現れ、

それを掴む事で何とか落下を堪えた女子。

そのまま尻尾で女子の体を下から持ち上げる機龍。

機龍『大丈夫?』

女子「あ、ありがとう////」

機龍『落ち着いて…ゆっくり、焦らずに、ね。』

そう優しく語り掛ける言葉に顔を赤くする女子たち

  『怪我をしたら痛いだけだからね。気を付けて。』

女子「は、はい////」

その後、無事に午前の内に実習を終えた合同組

 

その後、実習で使ったISを格納庫に運ぶためにカートに乗せてISを

運ぶ事になった

やがてカートにISを乗せた機龍だったが…

女子「機龍君は休んでいていいよ!」 「そうそう!私達が運ぶから。」

機龍「…みんなの方が色々やって疲れたはず…それに、これ位なら

   大丈夫……ん!」

と言って一人で重いカートを押し始める機龍

これには周りの生徒どころか先生である千冬と真耶もびっくりだった

ここに、機龍怪力伝説が始まった

 

その後、一夏や箒、鈴、シャルルが屋上で食事をしている時、

機龍とセシリアは合流した簪と共に食事をしていた

その時のセシリアは何かをぼやいていた。

機龍「実弾の武器が欲しい?」

セシリア「はい。できれば連射が効くアサルトライフルのような武器が…ですが、

     本国がそれを拒否していまして…」

簪「でも、どうして?オルコットさんはそう言うのが無くても十分強いと

  思うけど?」

機龍「うん、僕もそう思う。」

セシリア「機龍…それに更識さんも…その言葉はとても光栄なのですが、

     今の私の装備では一夏さんの白式の零落白夜にとても相性が悪い

     のです…それに、ブルー・ティアーズのライフルもビットも連射には

     向かないタイプです。できれば、サブマシンガンのような武器が

     あれば良いのですが…」

簪「成程……でも、どうしてそこにこだわるの?」

セシリア「以前の一夏さんとの戦いや今日の練習で理解した事ですが、

     機動性の高い相手には、スターライトやティアーズでは

     有効な攻撃がありませんでした。ですから、そう言った速い相手

     と戦うためにそう言った装備が欲しいのです。」

機龍「そうなんだ……でも、どうしてセシリアお姉ちゃんは戦うの?」

少し、暗い表情で問う機龍

セシリア「そうですね……私には、夢があります。」

簪「夢?」

セシリア「私の実家は母国では少しは名の知れた企業だったのです。

     それを作りあげたのが母でした。だからこそ、私は母のような…

     自分の出来る事で上を目指したいのです。」

機龍「それが、セシリアお姉ちゃんの夢?」

セシリア「はい。」

そう返事をした彼女の瞳には確かな信念の色が映っていた それを見た機龍は

機龍「だったら、僕が使う両腕のレールガンのユニットの設計図を渡すよ。」

それを聞いた驚く簪とセシリア

  「僕は…戦いが嫌いだけど、セシリアお姉ちゃんにはその夢を叶えてほしい。

   だから、僕にできる事で協力するよ…でも、武器自体は整備科にお願いして

   もらうしかないけど…」

簪「そこは大丈夫。」

セシリア「更識さん?」

簪「わたしの知り合いに腕の立つメカニックが居るの。見た目はゆったり系だけど、

  腕は私が保証する。」

機龍「でも、どうして?」

簪「私も、セシリアさんの夢を助けたいって思ったし、少しでも機龍に恩返し

  できたらなって思って…機龍には、弐式の設計を手伝って貰ってるし、

  機龍のお陰で、セシリアさんと知り合えたし…」

セシリア「更識さん…」

簪「私の事は簪で良いよ。セシリアさん。」

セシリア「ッ…はい!ありがとうございます!機龍!簪さん!」

こうして、親睦を深める三人だった

そしてそれを遠目に見ながらも、笑みを漏らす楯無だった

 

新たな友人を迎えた一組と絆を深めた機龍、簪、セシリアの三人

だが、トラブルの芽は今まさに芽吹こうとしていた

     第5話 END

 




最後の方は3人が仲良くしているシーンがありましたが、あんな風に
原作ではあまり絡みの無いキャラを絡ませて行こうかと思ってます。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第7話

今回はラウラとセシリア達のバトルの回です。
途中で機龍が乱入してラウラをボコボコにします。


前回までのあらすじ 

IS学園にやって来た新たな生徒 男子で3番目のIS男性パイロット

『シャルル・デュノア』と軍人然とした謎が多い『ラウラ・ボーデヴィッヒ』

そんな中で機龍は、ラウラの中にある種の危機感を感じていた

しかし、それでも機龍、簪、セシリアの3人がお互いを認め合い

絆を深めていった

 

シャルルとラウラが転校してきてから早い物で一週間程が過ぎた

ちなみに、最近では一夏と機龍は一緒に昼食を取る事が少なくなった

一夏は箒、鈴、シャルルと一緒に取る事が多く、機龍は簪、セシリアと

ともに食事をする事が増えたためである

 

そんなある日 日曜の正午 

部屋で弐式の開発を続けていた簪と機龍 

   『コンコン』

機龍「はい。セシリアお姉ちゃん?どうぞ。」

セシリア「失礼します。」

ドアを開けて入ってくるセシリア 彼女ももう、ここにはよく来るようになっている

    「今日も弐式の開発ですか?」

機龍「うん。あとちょっとで完成なんだ。」

簪「この調子なら、タッグ戦のトーナメントに間に合いそうだよ。

  これも機龍のお陰だね。」

機龍「ううん。僕だけじゃなくて、簪も頑張ったからだよ。こんなに早く

   仕上がったのは。」

簪「う、うん、そうだね////」

セシリア「それより、御二人は昼食はまだなはずでしょう?ご一緒にいかがですか?」

機龍「そうだね。行こう。」

簪「うん。」

最近では簪も良く笑うようになった これも3人の絆が深くなりつつある証拠である

 

セシリア「そう言えば、昨日アリーナでかなり危ない事があったそうですわ。」

機龍「危ない事?」

セシリア「はい。なんでも、あのドイツの転校生がいきなり一夏さん目がけて

     発砲したとかで。」

機龍「一夏と試合したの?」

セシリア「いえ、一夏さんは申し込まれた試合を拒否したらしいのですが、

     関係なく発砲したそうですわ。」

簪「…なんか、かなり危険な人みたいだね。その人。」

機龍「…そうだね。」

少し、暗い表情になる機龍 

セシリア「あ、そ、そうでした!機龍から貰ったデータのレールガン、無事

     完成しましたわ!」

簪「本当に?」

セシリア「はい。先日の夕方、布仏さんから受け取りました。

     拡張領域にも余裕がありましたから、何とか搭載する事ができました。

     これも二人のお陰ですわ。」

機龍「それは、僕達がお姉ちゃんの夢を応援したいから送ったプレゼントだから、

   気にしないで。」

簪「でも、その分、頑張らないとね。」

セシリア「ウフフ♪重々承知しておりますわ。」

そんな会話をしながら3人は仲睦まじくなっていった

 

やがてある日の朝

セシリアや簪と普通に登校していた機龍

一夏「機龍~」

そこに一夏がやって来た

機龍「一夏、どうしたの?」

セシリア「おはようございます。一夏さん。」

簪「…おはよう。」

一夏「悪い、機龍を借りてくぞ。」

機龍「え?」

すると、一夏は機龍の手を引いて足早にどこかに行ってしまった

そしてその周りでは

女子「これは一夏×機龍確定ね!」 「やばっ!鼻血が!」

   「あぁ、妄想が!」 「ちょ、ちょっと下着が…」

このざまである

 

やがて一夏達がやって来たのは学園の屋上だった

そこにはシャルルの姿もあった

機龍「一夏お兄ちゃん…どうしたの?」

一夏「急に悪かったが、落ち着いて聞いてくれ。シャルルは『女』だったんだ。」

機龍「??」

首を傾げる機龍に説明を始める一夏 しばらくして

  「納得した。つまり、シャルルの事をばれないようにすれば良いんだね?」

一夏「悪いな。協力させちまって。」

機龍「気にしてない。僕も一夏なら、デュノアお姉ちゃ、ううん、お兄ちゃんを助けた。」

シャルル「どうして?僕は君のデータを盗むためにここに…」

機龍「僕がお兄ちゃんを助けたいから…人を利用する物としか考えていない人間

の下に、お兄ちゃんを返すわけには行かない。」

シャルル「機龍君……」

機龍「人は…確かに愚かかもしれないけど…それでも、世界には、優しい人だって

   居るんだ。」

機龍の言葉を聞いて、一夏に目を向けるシャルル

  「僕は人を信じているから…」

シャルル「…ありがとう。」

一夏「良し、これでOKだな…機龍、頼むぞ。」

機龍「うん、これは僕達3人だけの秘密。」

その後、機龍は二人より少し早めに教室に戻って行った

その途中で

  『気づけよ。あれが人間の本質だろ?』

  『黙れ…』

  『あんな人間たちなんて、生かして置く価値があるのかよ?』

  『黙れ!』

ここ最近、内なるもう一人の人格が現れ始めた それこそが、

『ゴジラ』として人間を否定した自分自身だった

唇を噛み締めながら教室に戻る機龍だった

 

何とか教室に着いた機龍 

その時、何やら中が騒がしいのに気付いた

  『何だろ?』

鈴「う、うそじゃないでしょうね!?」

セシリア「それは本当なのですか!?」

何やら女子の机の一つに多くの生徒が集まっていた

女子「本当だって!月末の学年別トーナメントで優勝したら、織斑君か

   機龍君と交際でき――」

機龍「僕たちがどうかしたの?」

女子「きゃあぁぁぁ!ききき、機龍君!?いつからそこに!?」

機龍「ついさっき…それより、僕と一夏がどうかしたの?」

女子「いやいやいや!何でもない!何でもないよ~!アハハハ!」

すると、集まっていた女子たちが蜘蛛の子を散らすように自分達の席に

行ってしまった

その様子に唯々首を傾げる機龍だった

 

時間は過ぎて放課後

第3アリーナにやってくる機龍とセシリア 

するとそこに鈴もやって来た

鈴「あら?あんた達も訓練?」

セシリア「えぇ、まぁ、新装備のテスト、と言った所ですわ。」

鈴「そ。でもここは今から私が使うから、少し待っててくれない?」

セシリア「でしたら、どちらが先にアリーナを使うか。勝負で決めません事?」

鈴「ふん…乗った!」

すると鈴とセシリアが同時にISを展開した

 

とその時、3人の居る位置目がけて砲弾が飛んできた

セシリアと鈴が驚く中、機龍は一瞬で尻尾を具現化させ、その砲弾を

弾いた

アリーナの遮断フィールドに命中する砲弾

セシリア「…何のおつもりですか?ラウラ・ボーデヴィッヒさん?」

そこには黒いIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラが立っていた

鈴「いきなりぶっ放すなんて、良い度胸しているじゃない!」

甲龍の衝撃砲を発射態勢にする鈴と、左腕部に新たに取り付けられた0式レールガン改を

レーゲンに向けるセシリア

ラウラ「中国の甲龍にイギリスのブルー・ティアーズか…ん?

    イギリスの方はデータと違うな……ち、無能どもめ。」

と、一人呟くラウラ

セシリア「どういうおつもりですか?今の攻撃、下手をすれば機龍を巻き込んでいた

     のですよ?」

ラウラ「そのような子供の生死など、些事に過ぎん。死のうが生きようがどうでも良い。」

その時、機龍は胸を押さえながら苦しみだした

   「ほらな。この程度の攻撃で取り乱すなど、子供…所詮はISが使えるだけの

    青臭い子供だ。」

だが、この時機龍が苦しんでいるのは恐怖では無く、内から目覚めつつある

『殺意』だった

今機龍が対峙しているラウラが他人を見下すという心に反応する『内なるゴジラ』を

抑え込むためだった

セシリア「何も知らないくせに、随分と傲慢で愚かな方ですわね。」

鈴「ふん!私達に喧嘩を吹っ掛けた事!後で後悔しても知らないからね!

  行くよ!セシリア!機龍は下がってなさい!」

機龍「わ、わかった。」

胸を押さえながら後退する機龍

 

そして、ラウラ対セシリア・鈴の戦いが始まった

だが、ラウラのIS、レーゲンの持つ機能『AIC』の前に

手も足も出ない鈴とセシリア

レーゲンから射出されたワイヤーが鈴の甲龍の足に絡みついた

そこにセシリアのブルー・ティアーズが攻撃をしかけ、

動きが止まった所をライフルで攻撃するが、レーゲンのレールガンと相打ちになった

そこに振り回された甲龍がブルー・ティアーズと接触

地面に打ち付けられた

だが、接近してきた所に隙を見て至近距離から衝撃砲を発射するが

それも効かなかった

さらにラウラはレーゲンから射出したワイヤーで二人の首を縛り上げ、

動けないのを良い事に、彼女達のISを殴り、蹴り、壊し始めた

 

そして、アリーナの隅でそれを見ていた機龍は

『箍が壊れ始めた』

機龍『やめて…それ以上は、やめて………』

  『殺せ………殺せ……人間を…あの銀髪を…殺せ』

  『やめて…やめてよ…』

  『殺せ…破壊しろ…グチャグチャに…バラバラに…』

  『やめ、ろ……や、めろ……』

  『燃やし尽くせ…教えてやれ…絶望を……』

  「………殺せ。」

その瞬間、機龍の中で何かが吹き飛んだ

  「GYAOOOON!」

次の瞬間機龍は人のまま、ラウラに一瞬で接近 AICで

防がれる前に、その剛腕でレーゲンを壁際まで吹き飛ばした

ラウラ「グハッ!」

その攻撃でワイヤーが外れ、喉を抑えながらなんとか起き上がるセシリアと鈴

だが、機龍は二人を気にしないままその体を黒い瘴気のような物で包んだ

そこから現れたのは…銀龍ではなく……黒龍だった

姿や装備は機龍のそれと同一だが、その体表はラウラのレーゲンと同じように黒く、

その目は血のように赤く、瞳から流れるラインは毒のような紫色をしていた

  「GURUUUU」

その口から漏れたのは、獣のうなりのような声

ラウラ「小賢しい真似を!」

次の瞬間、壁に激突し、舞い上がった煙の中から黒龍にむけてレールカノンが発射され、

命中した だが、それは機龍の胸に当たっただけで、何の効果も無かった

  「GYAOOOOOOOON!」

すると、まるで威嚇するかのように、アリーナ全体を震わせる声が響いた

そのまま、ゆっくりと歩き出す黒龍 やがてその背びれが

青白く発行し始めた そしてそれが臨界に達した時、

黒龍の口から膨大なエネルギーの塊が青白い閃光とともに発射された

それは機龍が放つメーサーの光では無かった メーサーを線に例えるなら、

この光線は太いパイプのようだった

 

それをAIC、『停止結界』で受け止めるラウラ 

ラウラ「ふん!そのような攻撃、この停止結界の前には......ッ!?」

確かに光線はそこで止まった だが、結界の前にエネルギーがたまり始めた

そしてそれが限界に達した瞬間

   『バゴオォォォン!』

   「うわあぁぁ!」

ものすごい爆風と衝撃を放ちながら爆発した 大量の砂埃が巻き上がり、

結界を破られ、ラウラは吹き飛ばされた

その元にゆっくりと近づいていく黒龍  そして、倒れたラウラを

その巨大な足で踏みつけた そのまま足で何度も何度も踏みつける黒龍

   「グッ!調子に乗るなぁ!」

黒龍の顔面に向けて右側のレールガンを向け、発射した

だが、それを紙一重で回避した黒龍はそのレールカノンの砲身を『口に銜えた』

足でラウラを抑えながら首を左右に振ってレールカノンを揺らす黒龍

やがて『バキバキ』と言う音とともに、ラウラのレールカノンを

中ほどからへし折る黒龍 

そのまま首を振ってあさっての方向にカノンの砲身を投げ捨てる黒龍

  『GYAOOOON!』

足でラウラを抑えながら三度咆哮を上げる黒龍 

すると黒龍はラウラを足で抑えたまま、背びれを発効させ始めた

やがて口内にそのエネルギーが溜まり、ラウラに向けて至近距離から発射した

先ほどよりもチャージが短いため、防御する事が出来た

 

が、何とか停止結界でそれを防御するが その余波でISは膨大な熱により高温になった

そして、黒龍は熱線をガードするためにクロスしていたレーゲンの両手首を片手で掴み、

力任せに引きちぎった 現れる、ラウラのただの人としての腕

手元のスクラップを放り投げ、両手のレールガンをラウラのバックユニットに向けて

斉射した 加熱でまともに機能しなくなっていたユニットは爆散した

そして、右手でラウラの頭を鷲掴みにして、ゆっくりと持ち上げる黒龍

そのまま次第に力を強めていく黒龍

『ミシミシ』とラウラのヘッドギアが割れる音がした

ラウラ「グッ!ぬあぁぁぁぁ!」

自身の頭が破壊される苦痛に悲鳴を上げるラウラ 

黒龍『そうだ!苦しめ!俺が、お前達人間が生み出した絶望の塊だ!』

  『こいつだけは!ここで始末する!』

だが、ある人物が黒龍に接近し、その首筋に何かを撃ち込んだ 

次の瞬間、黒かった機龍の体が、まるで毒気を抜かれたように銀色の

体に戻り、ラウラを掴んでいた腕を放した 

地面に落下すると同時に、倒れ、気絶したラウラのISが解除された

そして、機龍も人の姿に戻るのと同時に、意識も薄れて行った

 

機龍に何かを撃ち込んだのは千冬だった

千冬「問題を起こすなと言ったはずだ。バカ者。」

機龍「邪魔、するな…人間、風情が…」

そう言って千冬を見上げる目には、怒りと殺意だけしかなかった 

だが、注入された何かのせいで、機龍もやがて意識を手放した

 

場所は変わって学園の保健室

そこには、ISスーツの姿のままで包帯を巻かれ、治療された鈴とセシリア

気絶したままの機龍 見舞いに来た一夏、シャルル、千冬、真耶が集まっていた

一夏「二人とも、大丈夫か?」

鈴「当たり前よ!これくら、い!いたたた!」

セシリア「…無理をすると体に毒ですわよ。」

シャルル「…ひどかったね。あのラウラって人。」

一夏「全くだぜ。機龍が乱入しなきゃ……そういや、あの時の機龍、

   少し、怖かったな。」

シャルル「僕には…怒りの塊のように見えたよ。」

千冬「案外、一番怒らせてはいけないのは機龍かもしれんな。」

一夏「誰だって、友達をあんなにされたら切れるもんな。」

シャルル「機龍の場合、それは特にすごいって事だね。」

鈴「にしても!あのドイツ人!今度こそトーナメントでボコボコにしてやる!」

セシリア「…その体では、無理だと思いますわよ。それに、おそらく私達の

     ISはダメージレベルがCを超えていますわ。先生方が出場を

認めるとは思えません。」

鈴「あんたね!あれだけやられて悔しくないの!?」

セシリア「それもそうですが、お忘れですか?あの後機龍にボコボコにされた

     あの人の姿を?」

鈴「あ。」

この時鈴が思い出したのはカノンを食いちぎられ、腕部をスクラップにされ、

バックユニットを破壊され、ヘッドギアを潰されたラウラの姿だった

 「そっか、あいつのIS、私達よりもぶっ壊されてたもんね。

  アイツも出られないか。」

真耶「いえ、そうでもないんです。」

セ・鈴「「え?」」

真耶「どうやら、予め予備パーツを用意していたようで、破損部に新しい

   パーツをアセンブルして……私も出場は反対したんですが、

   聞いてくれなくて…」

鈴「じゃあ!アイツはトーナメントに出るって事!?…ッ!いたた...」

一夏「落ち着け、大声を出すと傷に響くぞ。」

鈴「う、わかってるわよ…」

その時

機龍「……うぅ...ここは何処?」

眠りについていた機龍が目を覚ました

一夏「機龍!良かった目が覚めたんだな!」

機龍「…一夏お兄ちゃん…それにみんなも…ここは?」

一夏「保健室だ。お前は、ドイツの奴と戦って…その、それで…」

機龍「……そうか…暴走したんだね、僕は……誰が止めてくれたの?」

一夏「それは…」

千冬「私だ。」

機龍「織斑先生......すみません。ご迷惑をおかけしました。」

千冬「全くだ。今後は起こらないようにしてくれ。あれを生身で止めるのは

   骨が折れるからもう御免だ。」

それだけ言うと、千冬と真耶は保健室を出て行った

一夏「機龍。大丈夫か?」

機龍「大丈夫…じゃないね。…あの時、僕は…復讐に囚われて…

   ゴメン。」

鈴「アンタが謝る必要なんてないからね!悪いのはあのドイツ人なんだから!」

セシリア「誰だって、友人をあそこまでやれたら怒りますわ。」

機龍「…うん…」

だが、やはり機龍の表情は暗かった

と、その時

『ドドドドド』とまるで雪崩のような音が廊下から聞こえて来た

  「な、何?」

鈴「じ、地震!?」

一夏「いや、なんか嫌な予感が…」

次の瞬間、保健室のドアが瞬間的に開いて、無数の女子が文字通り『雪崩れ込んできた』

その生徒たちは一夏やシャルル、機龍を確認すると3人を取り囲んだ

すると何やら紙のような物を3人の前に突きつけた

女子「「「「「「これ!これ読んで!」」」」」」

機龍「う、うん……変更の知らせ………トーナメントはタッグで行う?

   この用紙ってもしかして…」

女子「そ!ペアの申請用紙!だから!」

すると女子たちがそれぞれの獲物に群がり始めた

  「織斑君!私と組もう!」 「デュノア君は私とお願い!」

  「機龍君!私と一緒に出よう!」

まるで雪崩のように群がる女子たち 

これにはセシリアや鈴も唖然としていた

その時、

一夏「わ、悪い!俺はシャルルと組みから諦めてくれ!」

女子「そっか、男子同士ってのも、まぁ良いっか。」

  「他の女子と組まれるよりましよね。」「それにまだ機龍君が居るしね!」

そして、その場の全員の視線が機龍に向いた

機龍「ひぃ!」

女子全員の火照った顔と瞳が、機龍に戦い以外で初めて恐怖を感じさせた

女子「「「「「「機龍君!私とペアになって!!」」」」」」

見事に揃った女子の声に毛布を掴んで震える機龍

機龍「あ、あの、その…ぼ、僕は…どう、答えていいか…判らなくて…」

そのもじもじとした姿が逆の彼女達の感情を刺激した

女子「「「「「かわいい~~!」」」」」

機龍「ひゃあぁ!」

女子にビクビクしている機龍を見て、合掌する一夏

機龍自身もシャルルのためなのは理解しているが、この場の誰かを選ぶ、と言う事は

同時に他の生徒をがっかりさせる事になるし、と思い誰をと指定出来なかった

  「ご、ごめんなさい!ぼ、僕には誰か何て選べません!」

そう言った瞬間、女子たちの瞳がハートになった

そして結局、誰が抽選で機龍とペアになるか、それで恨みっこなし、と言う事になった。

 

その後、部屋に戻る機龍

機龍「ただいま。」

簪「機龍、無事だったんだね。良かった。」

機龍「ゴメン…心配かけたみたいで…」

簪「大丈夫なの?まだ顔色が悪いよ?」

機龍「う、うん…少しね…」

  『あ、あれは別の意味で怖かった。』

その後、弐式の開発もラストスパートとなった そして

簪「良し!これで!」

最後にENTERボタンを押して弐式のデータが出来上がった

機龍「後は、実機を組み立てるだけだね。」

簪「うん、そこは本音に任せれば大丈夫だから……ありがとね、機龍。

  私、機龍と一緒にがんばってたら、少しは前向きになれた気がするんだ。

  セシリアさんともお友達になれたし……ありがとう、機龍。」

機龍「僕は……何もしてないよ。ただ、簪を応援しただけ。」

簪「ねぇ、機龍…お願いがあるの…」

機龍「何?」

簪「私ね。今までずっと、何でもできるお姉ちゃんと比べられて来たの。

  でも、どれだけ頑張っても、周りの人は認めてくれなかった。むしろ、

  あの人の妹なら、もっとできるだろう、って言われた事もあった。

  だから、誰かに頼るのは甘えだって、ずっと言い聞かせてきたの。

  …でも、機龍と出会って、私は…誰かが隣に居てくれる幸せを、思い出す事

  ができた……だから、機龍…あなたには、ずっと私の隣に居てほしいの。」

それを聞いた機龍は唇を噛んだ

 「ねぇ、機龍の答えを聞かせて…」

機龍「…その前に、簪に話さなくちゃいけない事があるんだ。」

並んで座っていた椅子を立った

  「簪、僕は……人間じゃないんだよ。」

簪「え?」

すると機龍は3式改の姿になった

機龍『この姿を見て、簪はどう思う?』

簪「どうって……」

機龍『この世界には…『生物的な特徴を持ったIS』が存在するの?』

それを聞いてハッとなる簪 実際、フルスキンのISは存在しないわけではない

だが、尻尾を持ったISなど聞いた事もない

  『僕のこの姿はISなんかじゃない……僕の本当の姿なんだ。』

簪「どう、いう、事?」

機龍『簪。君には、僕の全てを話すよ。僕と言う…危険な存在の事を…

   そして、それを聞いた上で考えてほしい…僕が、君の隣にいるのに

   ふさわしいか。』

簪「…わかった。」

機龍「…始めるね……」

人の姿に戻り、語り始めた自分自身の過去

  「僕には、もう一つ、名前があるんだ。……それは『ゴジラ』別名、『破壊神』。

   僕は、この世界とは別の世界で生まれた『怪獣』なんだ。」

簪「え?どういう事?」

いきなりのぶっ飛んだ話に付いて行けない簪

機龍「僕は…現代…正確には…1950年代まで生き残っていた恐竜の子孫だった。

   でも、ある日、僕は水爆の放射能に、被爆した……そして50メートルを超える

   怪獣へと、突然変異したんだ。」

簪「で、でも、どうして、それなら、あの機械の姿が、本当の機龍になるの?」

機龍「恐竜から、怪獣へと姿を変えたあの時の僕は、人間に対する怒りから、

   当時の日本を…焼いた…そして、人間の兵器で、一度は海に中で死んだ。」

簪「死ん、だ?…機龍、が?」

機龍「僕は、人間の生存競争に負けたと思った…でも、それからしばらくして、

   残った僕の、ゴジラとしての骨格が、日本に回収され、僕とは別の

   同族…2体目のゴジラを倒すために…機龍の基礎フレームとして

   使われた。」

簪「じゃ、じゃあ、まさか…!」

機龍「そう…3式機龍……それが、僕の本当の名前で…僕は…対G兵器として、

   生み出されたんだ。」

簪「そんな…!」

そう言いながら両手で口を覆う簪

機龍「そして…ゴジラと僕の最後の戦いの時…僕は自分の意思を取り戻した。

   その後、僕は動けないゴジラと一緒に、日本海溝の中に、沈んだ、はずだった。

   でも…僕はこの世界、簪や束の世界にやって来たんだ。人間の姿で。

   それが僕なんだよ。」

その言葉にもはや何も言えない簪

  「もう一度だけ言うね…僕が、簪の隣に立つのにふさわしいか…

   決めてほしい……」

簪「き、機龍は、どうして、ここに?」

機龍「僕がISを動かせる、というのは本当だよ。でも、理由は知らない。

   ここには、束の勧めで来たんだ……簪、僕の事を周りに広めるのも

   別に構わない。後ろ指をさされるには慣れてるし…だから、簪の

   やりたい事をして。」

そう言って笑う機龍だったが、その瞳は泣いていた

それを見た瞬間、簪は機龍を抱きしめながらベッドに押し倒した

  「…簪?」

簪「……しない……機龍を一人になんかしない!」

そう言って顔を上げた簪の瞳にも、涙が浮かんでいた

 「私は、機龍に助けられてばかりだった…なのに…なのに、

  機龍が報われないなんて悲しいだけだよ!…私は、機龍の事が好き!

  だから、私は絶対に機龍の傍を離れないから。」

機龍「簪…僕は…」

簪「何も言わないで…ずっと、ずっと一緒だから。」

機龍「簪……ありがとう…」

そう言ってお互いを抱きしめ合う二人 やがてどちらとなく、腕を緩め、

お互いの顔を見つめ合った

  「簪…」

簪「何?」

機龍「僕、変なんだ……心臓がバクバクしてて、体が熱い…これ、何?」

簪「それはね。『恋』って言う感情だよ。」

機龍「恋…これが、そうなの?」

簪「うん。私もね。機龍に恋をしてるの。こういうのを、相思相愛って言うんだよ。」

機龍「そうなんだ……簪、お願いがあるんだ。」

簪「何?」

機龍「今日は、簪と一緒に寝たい…簪の、温もりを感じたいんだ。」

簪「うん。良いよ。」

 

その日の夜、二人はひとつのベッドにお互いを抱きしめ合ったまま、眠りについた

     第7話 END

 

 




次回はタッグ戦で暴走したラウラを機龍と一夏のどっちが助けるかで、
どっちのヒロインになるか決まります。コメントお願いします


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第8話

今回はタッグ戦回です。


前回までのあらすじ

あることがきっかけで対立したセシリア、鈴とラウラ

2対1と言う試合ながらセシリア達を圧倒したラウラ だが、

彼女の非情な行いが、機龍の中に眠り『怪獣王』の片鱗を目覚めさせる

結果となり、暴走した機龍によって追い詰められるラウラ 

奇しくもさらに乱入した千冬のおかげで事なきを得た

その後、簪と共に弐式の開発を終了させた機龍は、彼女からの願いを

聞き、自分の過去を彼女に話した 簪はそれを知った上で機龍を

受け入れ、二人はお互いの感情を打ち明けた

 

機龍はうつらうつらと目を開けた 

今、彼の目の前には、誰かのパジャマがあった

その相手、簪の顔を見上げる機龍

彼女はどうやらまだ眠っているようだった

その彼女の胸に自分の顔を埋める機龍 

聞こえてくる、彼女の『鼓動』、『命の響き』 そう、昨日の夜、機龍はその音を

子守歌にして眠りについたのだ

やがて簪も身じろぎをしてから、その瞳を開いた

簪「ん…機龍?」

機龍「おはよう。簪。」

簪「うん。おはよう。」

朝の挨拶を交わしてから、もう一度お互いを抱きしめ合う二人

機龍「簪と一緒にこうしてると、体がポカポカしてくる。」

簪「うん。私も。」

こうして、二人の親密度はマックスになっていた

 

そして、ついにトーナメントの日がやって来た

さらに、誰が機龍のペアになるか、という話は抽選で決まった相手 

という話だったが、肝心のペアは

――――――簪だった―――――

簪「わ、私と機龍がペア!?」

ISスーツに着替え、同じ更衣室で待機していた簪と機龍

そして、肝心の相手、と言うのが

―――――箒とラウラのペアだった―――――

やがて、二人の近くに一夏とシャルルがやって来た

シャルル「まさか、機龍君が初戦のボーデヴィッヒさんの相手になるなんてね。」

一夏「機龍、お前は大丈夫か?……お前は…その、」

機龍「大丈夫……でも、それ以前にやらなきゃいけない事が有る気がするんだ。」

簪「え?」

機龍「ボーデヴィッヒさんのIS……あれを見てると、とてつもなく

   嫌な予感がするんだ……」

一夏「いやな予感?」

機龍「言葉にしにくいんだけど…何というか、あの中に何かが隠れているような、

   そんな気がするんだ。」

一夏「よくわかんねえけど、なら、気を付けろよ?」

機龍「うん。わかってる。」

 

その後、アリーナにISを纏った状態で現れた4人

その中にあって異彩を放つ機龍  アリーナの観客席でも、初めて機龍を

見る者はかなり驚いていた

ラウラ「貴様に敗れた屈辱、ここで晴らさせてもらう。」

機龍を睨みつけるラウラ だが、動じないはしない機龍

機龍『これ位の殺気、前世に比べれば……』

やがてアナウンスによってカウントダウンが始まった

   『5…』

簪「機龍、勝とうね。」

   『4…』

機龍「うん…僕もがんばるよ。」

  『そうだ。これは殺し合いじゃないんだ。』

   『3…2…1…0』

カウントがゼロになった瞬間、機龍と簪は後ろに飛んだ

箒「なっ!?」

その姿に一瞬驚き、対応が遅れる箒

そこに、機龍改の2連メーサー、バックユニットのロケット弾、誘導弾、

レールガンの嵐がラウラと箒の立っていた場所を襲った

爆発と轟音が2人を襲った

無数の着弾を確認すると、さらに胸部の3連ハイパーメーサーを展開する

機龍 そしてすべての武装を一点に集中して放つ機龍

 

やがてパックユニットのロケット弾、誘導弾をすべて撃ち尽くした機龍は

口と胴のメーサーを閉じ、レールガンの射撃を止めた

やがて煙が晴れた先ではAICで何とか猛攻を防ぎ切ったラウラと

すでに動かなくなった箒だった

 

そして外野はと言うと、あまりのすごさに開いた口が塞がらないでいた

一夏「き、機龍って、すげえな。」

シャルル「敵じゃなくて良かったよ、あはは。」

一夏「いや、いつかあれに当たるんだぞ。俺達。」

だが、まだ肝心の相手、ラウラが残っていた

ラウラ「クッ!調子に乗るなぁ!」

そう言うとレールガンを乱射しながら接近してくるラウラのレーゲン

その一発が簪の打鉄弐式に当たりそうになるが、機龍が簪の前に出て、

自分を簪の盾にした

機龍『簪は、やらせない!』

簪「機龍////」

後ろから機龍を見上げる簪の眼は、完全に恋する乙女だった

機龍『簪、援護は任せた。』

簪「うん!がんばる!」

それだけ短い意思疎通を交わすと機龍は背中のバックユニットの片方を

突進してくるラウラに向けて発射した

ラウラ「そんなもの!」

AICでそれを防ぐ だが、次の瞬間、そのバックユニットが爆発した

至近での爆発音で集中力が切れた所にもう一つのバックユニットが飛来

至近距離で爆発した

   「ぐああぁぁ!」

爆風でたたらを踏むラウラのレーゲン

機龍『KYUOOOO!』

それを見た機龍は一度だけ吠え、ラウラに向かってスラスターを吹かし、

突進していった

右手をスパイラル・クロウに変形させ、それをラウラに向けて突き出す機龍

だが、AICによって攻撃を防がれた

ラウラ「ふん!この停止結界さえあれば、私は無敵だ!」

だが、その時、ラウラを挟み込むようにして、無数のミサイルが彼女を襲った

   「グアッ!」

それによってAICを解除され、機龍の回転した尻尾攻撃で

吹き飛ばされるラウラ

数回バウンドしてから、何とか態勢を立て直し、その目は、機龍の後ろの

簪を睨みつけた

   「この!邪魔だあぁ!」

簪に向けて、4つのワイヤーブレードを飛ばすレーゲン

それを後ろに飛んで回避するがほとんど実戦経験のない簪には

その全てを避けきることができず、2つが簪に命中しそうになった時、

機龍のレールガンから、まるでビームのように断続的に弾丸が発射され、

その2つのブレードのワイヤーを切り裂いた

だが、機龍の意識が簪の援護に向いた瞬間、ラウラのレールガン数発が機龍に命中した

   「このまま!」

さらにレールガンを撃ち込もうとするがそこに今度は簪の弐式から

春雷による攻撃がラウラを襲った

   「クッ!雑魚が!」

その攻撃をAICでガードするが、今度はそこに機龍の形を戻した

右ストレートが決まった

   「グアッ!」

吹き飛ばされ、壁に打ち付けられるラウラのレーゲン

 

そして、その様子はピットでも見られていた

真耶「すごいですね。機龍君とペアの更識さん。」

千冬「機龍は防御、射撃戦に特化した殲滅特化型のISと捉えられる。

   対するペアの更識の打鉄弐式は機動性に特化したISだ。

   だが、この場合、前衛に適しているのは機龍だ。」

真耶「どうしてですか?能力を考えた場合、前衛は更識さんの方なんじゃ?」

千冬「セオリーではな。だが、更識の弐式は数日前完成したばかりだ。

   それに、ISの運用時間も一夏にさえ及ばない。

   一方の機龍は……こういっては何だが…場数なら機龍に勝てる奴は

   いない……何せ、本当の戦いを経験しているのだからな。」

真耶「な、成程…」

千冬「だからこそ、実戦経験の無い更識を機龍の後ろに下がらせ、援護に 

   当たらせるのは妥当な所だろう。」

真耶「だから、機龍君が更識さんの前に出たんですね。」

千冬「あいつ自身は、更識を守る為にそうしているのだろうが、

   結果的にそれがもっとも良いあの2人の戦い方、と言う事なのだろう。」

やがて二人は映り続ける試合の映像に視線を戻した

 

やがて試合は機龍とラウラの1対1の形相になり始めた

両腕の展開したレーゲンのプラズマ手刀と機龍の右手のスパイラル・クロウと

左手のレールガンを0式に変化させ、せり出したメーサー・ブレードで

近接戦闘を始めていた この場合、ラウラはAICを発動させれば終始

有利に立てるのだが、それを発動した場合、待機している簪からの

攻撃がそれを阻止するのだった

 

逆に近接戦闘なら射角が取りにくいメーサーは使いずらい 胴体の

ハイパーメーサーも弱点を現すようで、近接戦闘では使えない

右手のレールガンもスパイラル・クロウを展開した時点で破棄している

残った左手の0式もメーサー・ブレードを展開しているので

無暗には使えない状態だった

それを見たラウラは近接戦に移行し、機龍もそれを迎え撃っていた

 

ラウラ『負けない!私は…誰にも、負けられないんだ!』

彼女は思い出す 自分自身の過去 闇の中にいた自分 それを救ってくれた

千冬の姿 そして、理想と現実のギャップが、彼女に一夏を敵と判断させた事を

   『アイツを叩き潰すまでは!私は誰にも負けない!』

その時

   『願うか?…汝、自らの変革を望むか?…より強い力を欲するか?』

レーゲンの中から響く、甘い悪魔のようなささやき

   『そうだ!私に、力をよこせ!』

その声にYESと答えてしまったラウラ そして、悪魔との取引が成立した

 

そして機龍は気づいてた その悪魔の存在に

機龍『!ダメだ!それに手を伸ばしちゃダメだ!』

だが、彼の言葉は届かず、いきなりラウラの周りを電流が駆け巡った

それに押され、数歩後ろに下がる機龍

  「ダメだ!それ以上行っちゃいけない!戻るんだ!」

ラウラ「ぬああぁぁぁぁ!」

だが、機龍の制止の声も届かず、ラウラの機体、レーゲンはまるで粘土のように

その姿を変え、ラウラを飲み込んだ

 

やがてアナウンスが流れ、生徒や来賓を守る為にシャッターが下りた

そんな中、ラウラを飲み込んだレーゲンはその姿を変えた

そして、その姿に歯噛みするものが一人 

一夏「ふざけんな…!」

シャルル「一夏?」

一夏「あの野郎!千冬姉の真似しやがって!ぶっ飛ばしてやる!」

そう言って一夏が走り出そうとした時

機龍『一夏、悪いけど、今回は僕がやらせてもらうよ。』

白式を通して機龍の声が聞こえて来た

一夏「待てよ!アイツは俺が!」

  『あのシステムは…使用者の命を奪う危険な物だ。一夏を待ってる

   暇はない。それじゃ』

一夏「お、おい!待て!機龍!」

それだけ言うと機龍は通信を切った

 

その頃、ピットでは千冬がISを装備した教師達に指令を飛ばしていた

そんな時

機龍『織斑先生』

千冬「機龍か?何だ?」

機龍『あのISの破壊、僕にやらせてください。』

真耶「き、危険です!機龍君は下がってください!」

機龍『問題ありません。それに、時間がありません。』

千冬「どういう意味だ?」

機龍『あれは…VTシステムです。』

真耶「え?えぇ!?そ、それってあの、開発が禁止されているシステムじゃ!?」

千冬「確かに…だとすればアイツのISが私の姿を模したのも理解できる。」

機龍『とにかく、彼女の救出は僕がやります。それじゃ。』

真耶「あ!ちょっと!機龍君!?」

ピットとの通信を切る機龍

 

その頃、機龍はラウラのレーゲン変化体と相対していた

だが、レーゲンは何の行動も起こさず、ただ突っ立っているだけだった

その時

機龍『KYUOOOO!』

雄たけびを上げる機龍 それに反応して武器を構える変化体

次の瞬間、変化体のブレードと機龍のスパイラル・クロウがぶつかり合い

火花を散らした 

そして、機龍の戦いが始まった

 

その頃、レーゲンのVTシステムに飲み込まれたラウラは

暗い世界を彷徨っていた

ラウラ『そうだ。これで良い。私は兵器…勝つためなら…』

機龍『それが君の望みなの?』

真っ暗でラウラしかいないはずの空間に機龍が現れた

ラウラ『ッ!?貴様は!なぜここに居る!?』

機龍『…システムを経由して、君に話しかけているんだよ。…それで、

   君の望みは本当にこんな結末なの?自分の命を削って

   挙句死ぬかもしれない力に飲み込まれて。」

ラウラ『貴様に何がわかる!私の何が!』

機龍『そうだね。僕は君の過去を知らない。何があったのかも、

   何をされたのかも……でも、絶望なら知っている。』

ラウラ『何!?』

そう叫んだ時、宙に浮く機龍の後ろに巨大な2つの影が現れ、それは

姿を成した 

一つは黒の体躯を持ち、恐怖と絶望と破壊の化身 『ゴジラ』

一つは銀の体躯を持ち、科学の力で生み出された人類の希望 『3式機龍』

   『な!?何だこれは!?グッ!?』

その時、機龍とラウラの間で強烈な光が生まれた そして、二人に流れ込む、

お互いの忌まわしい記憶 

   『何だ!?今の記憶は何だ!?』

機龍『それが、僕の絶望さ。』 

そう言った彼の顔はどこか悲しい笑みを浮かべていた

今しがた自分の中に流れ込んだ記憶を思い出すラウラ 

それこそまさに、『絶望』『怒り』『悲しみ』全てを凝縮したような記憶

ラウラ『これが…これがお前の記憶だというのか!?』

それを否定するかのように叫びラウラ 

   『こんな…こんな…』

機龍『人にとって…誰もが辛い記憶や思い出したくもない記憶も

   あるかもしれない。君もそうなのかもしれない。』

ラウラ『私は…私は強くならなければいけないのだ!』

機龍『…その力を求めた先に、何が待っているの?

   富?名声?君は力で何を求めるの?』

ラウラ『それは……』

今まで唯々力しか求めていなかったラウラに、その質問は答えられなかった

機龍『力を求める事は、悪だとは思わない。でも、力を求めて、

   その先君はどうなるの?……一つだけ君に伝えておくよ。

   僕のようになりたくなかったら、力の意味を考えて…

   何も失いたくなければ。』

ラウラ『ふん!何を今更、今の私には、失うものなど…』

機龍『…なら、どうして君は、『泣いているの』?』

そう、ラウラは知らず知らずのうちに涙を流していた

ラウラ『ッ!?なぜ、だ。私は、ただの兵器のはずなのに…

    なぜ、涙など。』

機龍『君は、兵器なんかじゃない。君には心がある。感情がある。』

そう言って手を伸ばす機龍

  『僕は、この世界で人として生まれ変わった。そして、人の暖かさを

   大切な人から教えてもらった。だからこそ知ってほしい。

   この世界に生きる人間は、素晴らしいんだって事を。』

ラウラ『ダメだ。私は、その手を取れない…今更…私が…』

機龍『それを言ったら、僕は生きる事さえ許されなくなる。でも…

   僕はこの世界で生まれ変わる事ができた。だから、きっと君も…』

そう言って手を伸ばす機龍 そしてその手はラウラの手を掴んだ

  『人間として、生きていけるんだ。』

その瞬間、暗闇に覆われていた世界が一瞬で晴れた

その時、彼女は理解した 『こいつは、私よりも強い』と

 

そして、意識同士の会話でお互いを理解しあった瞬間

現実世界の変化体がもがき、苦しみだした

それを好機と見た機龍は左手のメーサー・ブレードで縦一線に変化体を切り裂いた

ビシッという音と共に変化体の体が砕け散り、中からISスーツ姿のラウラが

現れた それを人の姿に戻った受け止める機龍

  「…おかえり。」

自分の腕の中で眠るラウラにそう呼びかける機龍だった

 

やがて時間は過ぎ去り、医務室で意識を取り戻したラウラ

ラウラ「ここは……私は…」

その傍らに座っていた千冬に問いかけるラウラ

千冬「今回の案件は機密事項なのだが…まぁ、どのみち機龍が話しそうか。

   …お前はVTシステムを知っているか?」

ラウラ「ヴァルキリー・トレース・システム、ですか?」

千冬「そうだ。それがお前のISに積まれていた。

   だが、知っての通り、あれは開発、研究、その一切が禁止された

   システムだ。」

ラウラ「それが、私のシュヴァルツェア・レーゲンに積まれていた

    と言う訳ですね。」

千冬「そうだ。」

ラウラ「そして、私がその力を望んだから…」

そう言いながらシーツを握りしめるラウラ そんな時

千冬「ラウラ・ボーデヴィッヒ。」

ラウラ「は、はい!」

千冬「…お前は誰だ?」

ラウラ「え?…私は…」

千冬「……誰でもないならそれでいい。お前は今日から、ラウラ・ボーデヴィッヒ

   と言う『一人の人間』だ。わかったな?」

ラウラ「教官…」

千冬「ここでは先生、だ。バカ者。」

と言うと立ち上がり出て行こうとする千冬

  「それと…お前は私にはなれないぞ…」

ラウラ「…………」

千冬「…だが、お前には、そうだな。先輩とも言える相手がいるんじゃないか?」

ラウラ「え?」

その言葉を聞いて、咄嗟に思い浮かんだのは、あの『破壊神』から『人間』へと

生まれ変わった彼の事だった

千冬「そうだな。お前達は姉弟……いや、双子か。」

ラウラ「あ、あの、それはどういう…」

千冬「気にするな。お前達が並ぶ姿をイメージしたら、そう思っただけだ。

   ではな。」

それだけ言うと、千冬は部屋を出て行った

残されたラウラは

ラウラ「双子……私と、あの子供が……ふっ、ははは…」

二人が並んだ姿を思い浮かべながらラウラは笑い始めた

 

場所は変わって夕食時の食堂 

簪と共に食事をする機龍

簪「で、結局トーナメントは中止だけど、1回戦だけはやるみたい。

  なんでも、個人データだけは取るんだって。」

機龍「でも、僕たちはもうやったから戦わないんでしょ?」

簪「うん、そうみたい。」

そう話し合いをしていると、遠巻きに2人を見ている生徒たちが気になった

女子「優勝……チャンス……消え…」

  「交際……無効…」

  「うわあぁぁぁん!折角機龍君狙ってたのに~~~!」

それだけ言い残すと、大勢の生徒が泣きながら走っていった

機龍「?今の何?」

簪「さ、さあ?」

噂の事を知らない二人は首を傾げる事しか出来なかった

その後、自室に戻る二人

簪「でも機龍もすごかったね。あのドイツの人を助けちゃうんだから。」

機龍「でも、それは簪が、僕に人の温もりを教えてくれたからだよ。

   ありがとう。」

簪「そ、そんな…どういたしまして////」

そんな仲睦まじい姿のまま、部屋に戻る二人だった

 

やがて数日後 あるHRで転校生が来るという話が出た

機龍「転校生…やっぱり多いね。」

一夏「でも、これは普通じゃないからな。」

なんて話をしていると入って来たのが、シャルル…もとい、『シャルロット』に

戻った『シャルロット・デュノア』だった

その後、ざわざわとざわめきが広がる教室内 そして

女子「あれ?!そう言えば昨日って男子が大浴場使ったわよね!?」

と言った次の瞬間

鈴「一夏あぁぁぁ!」

ドアをぶち破って甲龍を展開した鈴が入って来た

一夏「ひえぇぇ!」

それを見た機龍は

機龍「鈴お姉ちゃん、また先生に怒られるよ?」

落ち着いた感じでさも同然の事を言った

鈴「それでも、今の私の怒りは止まらないのよ~!」

と言って衝撃砲をスタンバイする鈴

一夏と機龍以外の生徒は後ろに逃げたが、このままでは一夏と機龍は

完全に巻き込まれる 一夏が目を瞑った瞬間、衝撃砲が発射されたが、

爆音は響かなかった

恐る恐る目を開けると、そこには立派に直ったシュヴァルツェア・レーゲンを

身に纏ったラウラがAICで鈴の攻撃を防いでいた

一夏「ラウラ!?お前どうして!?」

ラウラ「勘違いするな。お前はついでだ。」

そう言って一夏を押しのけるラウラ

   「し、篠ノ之機龍、お、お前に話がある。」

機龍「何?」

ラウラ「お、お前を私の弟にする!異論は認めない!」

セシリア「な!?なななな!?」

女子「「「「「「何だってぇぇぇぇ!!??」」」」」」

機龍「……良いよ。」

女子「「「「「「良いの!?!?」」」」」」

機龍「よろしくね、ラウラお姉ちゃん。」

ラウラ「う、うむ////わかればよろしい////」

と、いわせた本人も何やら顔が赤かった こうして、ドタバタな日常の

騒がしさはヒートアップしていくのであった

     第8話 END

 




で、結局ラウラは機龍サイドのヒロインに落ち着きました
それと、どうでも良い事なのですが、自分はこれから大学に通うので、
これまで以上に更新速度が落ちると思います。
ご了承ください。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第9話

今回は海回です。
そして自分の趣味で機龍を……


前回までのあらすじ

ルームメイトの簪と親密になった機龍 

そして開幕したタッグによるトーナメント 

抽選の結果、タッグになった簪と機龍 その相手は

ラウラと箒のペアだった

圧倒的な火力とパワーでラウラ達を圧倒した機龍達だったが、

ラウラのISに搭載されていたVTシステムが起動、ラウラを

飲み込んでしまう 何とかラウラを救出した機龍だった

数日後、男装して転入してきたシャルルは改めて

『シャルロット・デュノア』として転校してきた

さらにシャルと混浴した事をしって激昂した鈴が教室に乗り込んでくるが

何とそれを止めたのがあのラウラだった そして彼女はクラスの全員の前で

機龍を自分の弟にすると宣言 それを了承した機龍だった

 

ある日の朝

最近では機龍と簪は一つのベッドで一緒に眠るのが恒例になりつつあった

簪は愛しい子供を抱きしめる母親のように 機龍は母親の腕の中で眠る子供のように

お互いの温もり、鼓動を感じながら眠るようになった

そして今日も今日とて簪に抱かれた状態で目を覚ます機龍

いつものように簪の寝顔を確認してからもう一度顔を彼女の胸に埋める機龍

だがその時、彼は背中に何かの違和感を感じた

簪の腕を離れ、一度上半身を起こす機龍 そして布団の一部をめくった

そこには全裸で寝ていたラウラの姿があった

機龍「あ。ラウラお姉ちゃん。」

ラウラ「ん…朝か。」

機龍「おはよう。ラウラお姉ちゃん。」

ラウラ「あぁ、おはよう。」

もしこれが一夏だったら声を上げて驚いただろうが、一般常識と

微妙にずれた機龍には、自分の横で全裸の少女が寝ていたという事実に

何も驚きを感じていなかった 

彼曰く『だって僕ずっと裸だったし』

機龍「あれ?そう言えば何時入って来たの?全然気づかなかったよ。」

ラウラ「夜中にな。鍵を開けて入って来たのだ。」

機龍「へぇ。そうなんだ。」

と、その時、二人の会話で起きたのか、簪が上半身を起こした

簪「うぅん、機龍?誰かいるの……って!?えぇ!?ボーデヴィッヒさん!?

  こんな所で何してるんですか!?それに裸で!?」

ラウラ「何か問題でもあるか?私達は姉弟なのだぞ?」

簪「裸で一緒に眠る姉弟なんて聞いた事ありませんから!」

ラウラ「細かい奴だな。お前には関係ないだろう。」

簪「そんなことありません!私は、私は、機龍の恋人ですから!」

それを聞いたラウラは驚いていた

ラウラ「き、貴様が機龍のこ、ここ、恋人だなど、姉たる私が認めんぞ!」

簪「あ、あなたに認めてもらう義理はありません!」

と、喧嘩を始めた2人はやがて

簪・ラ「「機龍!」」

機龍「何?」

簪・ラ「「あなたが(お前が)好きな方にキスをして!(しろ!)」」

機龍「…わかった。」

そう言われた機龍は真剣な顔をして簪の方に近づいた

それを見たラウラはがっかりして、簪は少し喜んだ

だが、簪は機龍が自分を選んでくれた事だけで満足だったため、キスをするには

まだ心の準備ができていなかった

簪「あ!ま、待って!まだ心の準備が!ん!」

そんな彼女を他所に、その唇を奪う機龍

ラウラ「あ~~!」

その後ろではラウラが悲痛な声を上げながら、まるで餌を貰えなかった

雛鳥のような顔をしていた

やがてその唇を離す機龍

簪「あぅ…」

今の彼女の顔は完全にのぼせたような状態だった

それを見届けた機龍は、今度はラウラの方に向き直った

ラウラ「な、何だ!情けなら要ら!んん!」

そして、ラウラの唇をも奪った

やがて簪と同じようにしばらくするとその唇を離す機龍

彼にキスをされ、惚けた状態から二人が戻ってくるのには、数分がかかった

   「ききき、機龍!どういう事だ!なぜ私達二人にキスをした!?」

機龍「?僕は、『僕の好きな二人にキスをした』だけだよ?」

そう、機龍は人間ではない ゆえに、一般人との常識の間にずれがあるのだ

例えば、機龍の『好き』は確かに愛であった が、その好きに例外は無く

機龍の『好きな相手』は簪であり、ラウラであり、

束であり、クロエであり、一夏であり、箒であり、

千冬、真耶、セシリア、鈴、シャルロット、クラスの女生徒達 

彼女達全てが機龍の『好きな相手』なのである 

愛を知らぬが故に誰をも愛する機龍だった

 

簪・ラ「「うぅぅぅ……」」

彼の愛を受けられたのは嬉しいが、彼が身近な人間を愛しているが故に

素直に喜べない2人

ラウラ「……はぁ、どうやら、我々の負けのようだな。」

簪「…ですね。……ふふふ。」

ラウラ「ハハハハ。」

すると、何がおかしいのか、笑い合うラウラと簪 そして、何故笑うかが

理解できない機龍だった

 

やがて服を着せたラウラと一緒に食堂に行く機龍と簪

そんな時だった

機龍「新しい水着を買いに行く?」

ラウラ「あ、あぁ、それで何だが、お前に選んでほしいのだ。構わないか?」

機龍「僕なんかでよければ良いよ。」

それを聞いてほっとするラウラ だが

  「簪はどうする?」

横に居るもう一人にも話を振った機龍

簪「わ、私?私は…」

行こうと答えようとしたが、機龍の後ろでラウラが必死な形相で『来るな』と訴えていた

しかし、ここで退けないと悟った簪は

 「わ、私も行く。」

機龍「うん。わかった。」

そう流した機龍は食事を続けるがその左右では火花が散っていた

  「あ、折角だからセシリアお姉ちゃんも誘って来るね。」

一足先に食事を終えた機龍は食器を片づけながらそう言った

その瞬間、火花が嘘のように消え、二人は肩を落とした

ラウラ「なぁ、更識簪よ…」

簪「何ですか…」

ラウラ「機龍はああなのか?」

簪「はい。どうやら恋愛には疎いみたいですから。」

ラウラ「お互い、苦労しそうだな。」

簪「全くですね。」

その頃、セシリアを誘いに行った機龍はと言うと、

セシリア「他の皆さんと、お買い物ですか?」

機龍「うん、何でも、臨海学校で着る水着を探すんだって。

   どうせならセシリアお姉ちゃんも誘おうと思ったんだけど…

   迷惑、だったかな?」

そう言って上目使いでセシリアを見上げる機龍 その瞳にドキリとするセシリア

セシリア「そ、そんな事ありませんわ!私、丁度水着を新調しようと思っていた

     所ですし、良いですわよ!」

機龍「ホント?わかった、じゃあ後でね。」

嬉しそうな笑顔を残して機龍は戻って行った

セシリア『これはチャンスですわ!私の魅力で、機龍をメロメロにして

     差し上げますわ!」

と、息巻いているセシリアだった

 

その後、モノレールを使って駅にやって来た4人 なのだが、

機龍「ねぇ、あそこにいるのって…」

そう言って機龍が指さした先では、シャルロットの一夏が手を繋ぎながら

歩いていた

セシリア「一夏さんとデュノアさんですわね。お二人も買い物でしょうか?」

機龍「それもそうだけど…あの自販機の後ろにも…」

そして、その一夏達と機龍達を結ぶ線の間にある自販機の影に鈴と箒の

姿があった

鈴「…ねぇ。」

箒「何だ…」

鈴「あれって、手、握ってるわよね。」

箒「あぁ、そうだな。」

鈴「そっか、見間違いでも白昼夢でもなく、やっぱりそっか……

  よし殺そう!!」

そう言って右手に部分的にISを展開する鈴

機龍「ダメだよ。街の中で危ない事しちゃ。」

と、そこに機龍達がやってきた

鈴「き、機龍!?それにセシリア達まで!?何でここに居るのよ!?」

簪「私達はまぁ、機龍の誘いで水着を買いに…そう言うお二人はどうして?」

箒「わ、私達はまぁ…その、なんだ…」

セシリア「…ストーカーは犯罪ですわよ?」

鈴「ち、違うわよ!私は一夏に変な虫が付かないようにこうして

見張ってあげてるだけよ!」

機龍「そうなんだ……それじゃ、僕達はこれで。」

その後、鈴たちと別れた機龍達は水着の販売コーナーにやって来た

  「それじゃ、僕はこっちだね。」

簪「うん、後でね。」

男性と女性の販売コーナーが分かれているため、男子と女子で別れる4人

機龍「さて…」

  『そう言えば、水着ってどんなのが良いのかな?

   着た事ないからわかんないな。』

  「う~ん。お姉ちゃん達に聞こう。」

機龍は簪たちが向かった女性物のコーナーへとやって来た

  「え~っと…」

ラウラ「む?機龍か?どうした?」

やがて水着を選んでいるラウラと会った

機龍「あ、お姉ちゃん。ちょうどよ…」

ラウラに近づこうとするとその前にいきなり別の女が現れた

女「ちょっと、そこの子供、これを片づけておいて。」

そう言って手に持っていた水着をずいっと機龍の前に押し出す女

機龍「えっと……」

女「何してるの、早く片づけなさい。」

機龍「何で僕が…自分でやれば良いじゃないですか。」

女「ちっ!男が口答えするんじゃないよ!」

そう言うと女はいきなり機龍を蹴った

腹を蹴られ、地面を転がる機龍

 「自分の立場をわきまえな!何もできない男の癖に!」

そう言って再び機龍を蹴ろうとした瞬間、後ろから何か音がした

振り返ると、そこにはシュヴァルツェア・レーゲンをフル装備したラウラが立っていた

その目には、以前の転入してきた時以上の殺気が

ラウラ「良い度胸だな貴様。私の前で私の弟に暴力を振るうとは……よほど

    死にたいらしいな。」

それを見て金魚のように口をパクパクさせる女

女「I、S…」

ラウラ「死ね、ゴミ蟲が。」

機龍「待って…」

それを止めたのは立ち上がった機龍だった それで一瞬喜ぶ女だったが

  「そいつは僕がやる。」

そう言って右手の一部を3式機龍と同じにした 

0式レールガンを女に向ける機龍

女「そ、そんな!?男が何でISを!?」

機龍「…死にたくなかったら今すぐこの場から消えろ…

   思い上がりの人間。」

それを聞くと足を縺れさせながら女は逃走した 

それを見た機龍とラウラはISを解除した

ため息をつく機龍 そこにラウラが近づいて来た

ラウラ「大丈夫か?…おのれ、あの女!あいつの居場所を探し出してこの手で!」

機龍「大丈夫……これ位慣れてるから……」

ラウラ「…すまん…」

機龍「大丈夫だから……笑って…お姉ちゃんは、怒った顔よりも

   笑った顔も方が綺麗だから。」

それを聞いて、顔をボッと言う音と共に真っ赤にするラウラ

だが

ゴジラ『んだよ。あんな雌一匹、殺しちまえよ。どうせあれが死んだところで

    なんになるってんだ。』

そう、確実に目覚めつつあるもう一つの人格『ゴジラ』が話しかけてきた

機龍『黙れ。僕はお前じゃない。僕は…誰も傷つけない。』

ゴジラ『勝手にしろ……だが、お前が怒りや憎しみに呑まれた時…

    俺が覚醒する。』

にやりと不気味な笑みを浮かべたゴジラとしての自分は、

それだけ言い残すと機龍の中に消えて行った

 

その時、険しい表情をしていた機龍の顔を覗き込むようにしてラウラが見ていた

ラウラ「機龍。大丈夫か?」

機龍「ううん、ゴメン…大丈夫。…それより、お姉ちゃんにお願いがあるんだ。」

ラウラ「何だ?」

機龍「水着選び、手伝ってくれないかな?僕じゃ、どういうのが似合うかわからない

   から。」

ラウラ「そ、そうか、任せろ!」

と言って胸を叩くラウラ

   「そ、それでは、先に水着売り場に行っていてくれ。すぐに行く。」

機龍「うん、わかった。」

その後、機龍と別れたラウラは携帯を取り出して電話をかけ始めた

 

その相手は、ラウラが所属するドイツ軍部隊の副官だった

ラウラ「クラリッサ、私だ。緊急事態だ。」

クラリッサ「ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長、何か問題でも

      起きたのですか?」

と言う会話に周りの全員が手を止めてそちらに視線を移した

ラウラ「う、うむ…実は今、私は先日話した相手…篠ノ之機龍と

    共に水着を買いに来ているのだ。」

隊員「「「「「おぉぉ!!」」」」」」

クラリッサ「成程、あの2番目の男性ISパイロットの。」

ラウラ「そうだ。今の私の弟だ。」

クラリッサ「そうですか!彼は隊長の弟になる事を承諾してくれたのですか!」

隊員「「「「「おぉぉぉ!!」」」」」

クラリッサ「それで、何か進展はありましたか?まぁ、まだ日も浅いですから

      これから地道に…」

ラウラ「クラリッサ…」

クラリッサ「どうかされましたか?」

ラウラ「じ、実は今朝……その、機龍と……き…きき、キスをした。」

クラリッサ「おぉぉ!もうキスまで行かれたのですね!」

隊員「「「「「きゃあぁぁぁ!」」」」」

彼女らも十代の乙女 そういう事には敏感だったのだ

ラウラ「そ、それでだな。実は今、機龍に水着を選んでくれと言われたのだ。

    どんな物を選んでやるべきだろうか?教えてほしい。」

クラリッサ「そうですか……彼の姿を取った写真などはありますか?

      できれば全身が映っている物で。」

ラウラ「あぁ、ある…画像を送る。」

そう言って送られてきたのは一夏の代表就任パーティーの時の写真だった

   「その画像の中央に映っている銀髪の子供が機龍だ。何か

    似合いそうな水着を教えてくれ。」

ラウラとクラリッサが話している間 クラリッサが端末から

スクリーンにその写真を移し、機龍をアップにした

隊員「これが隊長の弟!」 「確かに姉弟みたい!」

  「かわいい♪」  「抱っこしてみたい!」

クラリッサ「それでは総員!この人物に合う水着を思案せよ!」

隊員「「「「「了解!!」」」」」

こうして、黒ウサギ部隊は微妙な方向に力を注いだ

 

その後、無事に似合う水着をラウラから選んでもらった機龍は

逆にラウラとセシリア、簪に似合う水着を探した

ラウラにはビキニタイプの黒い水着を

セシリアには同じビキニタイプで濃い青色に腰布が着いたパレオ

のような物を

簪にはセシリアのと比べて薄い色の青いワンピースタイプの水着を選んだ

その後、帰ろうと歩いていた時だった

 

真耶「良いですか?臨海学校で浮かれる気持ちもわかりますが……」

と、何処から真耶の声が聞こえて来た

簪「今の声って…」

機龍「山田先生だよね。あ。」

千冬「ん?」

真耶「ふぇ?」

一・シャ「「あ。」」

一夏とシャルが正座させられて怒られている所にばったり遭遇した機龍達だった

千冬「なんだ。お前達も水着を買いに来ていたのか。」

ラウラ「はい。機龍に誘われて。」

機龍「それにしても、一夏お兄ちゃんたちはどうかしたんですか?」

千冬「ん?あ~いや、お前は気にしなくて良い。」

機龍「?」

その後、機龍達は千冬達とも別れ、学園へと戻って行った

 

そして数日後 臨海学校の日がやって来た

真耶「今11時で~す!夕方までは自由行動、夕食に遅れないように旅館に

   戻る事!良いですね~!」

女子「「「「「「「「「は~い!!!」」」」」」」」」」

海を前に着替えた女子たちがはしゃぎ始めた

着替えた機龍はどうしようかと砂浜で迷っていた

一夏「あ。お~い、機龍~」

するとそこに一夏達がやって来た

機龍「あ、お兄ちゃん。」

一夏「一人か?なら俺達と一緒に…うわっ!?」

と、その時、オレンジ色の水着を着た鈴が一夏の上に飛び乗った

鈴「お~!高い高~い!」

一夏「何やってんだよ!ネコかお前は!?」

本音「うわ~!楽しそ~!私もやりた~い!」

清香「その次アタシ!」

と、言っていたが、機龍も一夏の事をやって欲しそうに見上げていた

一夏「ん?何だ、機龍もやってほしいのか?」

コクコクと首を縦に振る機龍

  「そんじゃ、鈴、交代だ。」

鈴「ちぇ~仕方ないわね。」

そう言って一夏の背中から飛び降りる鈴 それを確認すると機龍に背を向けて

膝を折る一夏

一夏「ほれ、乗れ。」

機龍「う、うん。」

一夏に跨るようにして乗る機龍 

一夏「良し!行くぞ!」

一気に立ち上がる一夏

機龍「うわわ!?」

一夏「機龍?大丈夫か?」

咄嗟に一夏の頭にしがみ付いて目を瞑る機龍

やがてゆっくりと目を開ける機龍

機龍「……うわあぁぁぁ!高~~い!アハハ!」

一夏「へへ、そうだろ。ほれ。」

ぐるぐるとその場で回転し始める一夏 その上でキャッキャとはしゃぐ機龍

その姿はまさに父親と息子と言う風体だった

と、そこに着替えたシャルやラウラ、セシリア、簪達がやって来た

シャル「あ、なんかすごい事になってるね。」

簪「機龍、落ちないようにね。」

機龍「は~い!」

セシリア「ふふ、まるで親子のようですわね。」

本音「でも、そうなるとお母さんは誰だろうね~?機龍は誰がお母さんぽい

   と思う?」

機龍「え?」

と、そこに一言、爆弾が投下された 

シャル『機龍のお母さん!?それって、つまり一夏の、お、おおお、奥さん!?』

セシリア『機龍の!?機龍のマザー……それはそれで…』

ラウラ『ふむ////姉も良いが母親も悪くないな。』

鈴『一夏がパパで機龍が子供……悪くないかも…』

簪『わわ、私が機龍のお母さん!?……ちょっと憧れるかも…』

と言う、お互いにイメージを浮かべていた

本音「ねぇねぇ?誰が一番お母さんっぽい?」

機龍「………」

それぞれの顔を見る機龍 その視線に気づいて顔を赤くする女子たち

やがて機龍が選んだのは………

  「シャルロットお姉ちゃん…かな?」

シャル「ぼ、僕!?」

   『やった!ありがとう機龍!』

逆に、言われなかった他の女子たちは落ち込んだ

機龍「でも……」

と言う言葉を紡ぐ機龍

  「きっとみんな良いお母さんになれると思うよ。」

そう言いながらセシリア達に微笑む機龍 それはまるで、

後光が差し込む仏のような笑顔で、実際女子たちは

機龍の性別が男であることを忘れさせるような物だった

それを聞いた近くの女子たちは顔を真っ赤にして、

簪や鈴たちは一度機龍から離れて集まった

鈴「前々から思ってたんだけどさ、機龍っていつもああなわけ?

  無自覚、と言うか…純粋と言うか…」

セシリア「全然嫌味に聞こえないからすごいですわよね。」

ラウラ「いきなりああ言う事を言われると恥ずかしいのだが…」

簪「機龍って、恋愛に疎いのによくドキッとする事を平気で言うんだもん。」

シャル「それに、さっきは一瞬機龍の性別を間違える所だったよ。」

鈴「……アイツが女装したらどんなになるのかしら?」

と言う言葉が彼女達の興味を誘った

 

そして

静寐「良いね!それおもしろそう!」

と、近くに来ていた他の女子に話を聞かれてしまった

セシリア「し、静寐さん!?」

静寐「機龍君の女装姿!見てみたい人~!」

大声で周りに呼びかける静寐

女子「機龍君の女装!?見たい!」 「私も!」

   「ここにカツラあるよ!」 「私女性用水着借りて来る!」

このように、だんだんと大事になり始めた話 

しかし、当の本人は訳が分からずと言う現状だった

 

数十分後 

機龍は訳も分からないまま、鈴のと似た作りの白いセパレートタイプの

女子用水着を着せられ、腰まである銀髪のカツラを乗せられていた

その姿で、多くの女子たちの前に立つ機龍 辺りでは猛烈な写真撮影が始まっていた 

そんな中、一夏は機龍を見て、驚いていた

一夏「お前、本当に機龍か?信じられねえ」

機龍の女装姿に顔を赤くする一夏

静寐「ふっふっふ…そう思うでしょうが、この子は正真正銘機龍君です!」

と言って機龍の肩を後ろから掴む静寐 と、そこに

真耶「皆さん。どうかしたんですか?」

黒の水着を着た千冬とビキニタイプの水着を着た真耶がやって来た

千冬「おいおい。何の騒ぎだ。」

機龍を囲っていた女子たちの最前列にやって来た千冬達と目が合う機龍

  「………」

真耶「………」

機龍「………」

千冬「何でここに小学生が居る?」

真耶「あなた、迷子ですか?親御さんは?」

女子「「「「「………」」」」」

一夏「あ、あの、先生方、こいつは機龍です。」

千冬「?何をバカな事を言っている。こいつはどう見ても女だろう。」

真耶「そうですよ織斑君。先生をからかう物ではないですよ。」

一夏「い、いや。そう言われても……」

機龍「先生、僕ですよ。機龍です。」

千冬「ッ!?ほ、本当に機龍なのか!?」

真耶「え!?えぇぇぇ!?」

女子『『『『『本当に気づいてなかったんだ………』』』』』

驚いた二人はマジマジと機龍の女装姿を見た

  「ほ、本当に機龍君なんですか?」

それを証明するかのようにカツラを両手で外す機龍 するといつもの癖毛が

ぴょこんと現れた 

その事実に驚愕する千冬と真耶

  「す、すごい女装スキルですね…」

千冬「山田先生、声が上ずってますよ。…誰がこれをしたんだ?」

静寐「はい!我々女子陣が総力を挙げて機龍君をかわいくしました!」

千冬「その結果がこれか。」

そう言ってかつらをつけ直した機龍を見る千冬

  「で、お前は何で普通に女装してるんだ?」

機龍「?僕が女装するとおかしいのですか?」

それを聞いて頭に手を当てため息をつく千冬

千冬『そうだった。こいつは微妙にズレているんだった。』

静寐「でも本当に可愛いよね~!」

女子「「「「「ねぇ~~!!」」」」」

そんなこんなで機龍は女子たちのおもちゃにされてしまった

 

その頃、束達が居る場所では…

束「グヌヌヌ!」

某国のスパイ衛星をハッキングして浜辺の様子を見ていた

 「クソ~!リュウ君を女装させようと思ってたのに~! 

  先を越された~!うわあぁぁぁん!」

クロエ「ハァ……そこまで叫ぶ事ですか?」

束「くーちゃんだってリュウ君に着せるドレスを作るときはノリノリ

  だったじゃないか!?」

クロエ「あれは!?…あれを着た機龍を想像すると、手が止まらなくなって…」

束「良し決めた!夏休みにはリュウ君に帰って来てもらって

  女装大会だあぁぁ!

  と言うか明日どうせだから一着リュウ君にプレゼントしてくるわ!」

と言う会話がなされていた

 

場所は戻って海岸 

あの後、生徒と教師も混ざってビーチバレーへと発展し、

皆が皆、海(と機龍の女装)を楽しんでいた

 

しかし、幸か不幸か、今この時にも、新たな事件が刻一刻と

迫っていた

     第9話 END

 




とまぁこんな感じです。
それと、実は書店で買った本でかわいいウルトラマン怪獣を
見て、コスモスの『リドリアス』やティガの『ガーディー』
を擬人化、ハネジローをそのままにした設定をどれかの
アニメにぶち込もうかなと思ってます。
まぁただ、響鬼も始めたばかりなので未定な話なのですが……


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第10話

今回は少し短めの旅館での話です。


前回までのあらすじ

機龍と対立したラウラだったが彼と和解、姉弟の契りを交わした2人

やがて臨海学校も近づき、モールに買い物に来た機龍、簪、セシリア、ラウラ

そこで不幸に見舞われるも、自分達の水着を買った4人

そして当日、機龍は人として初めて訪れた海にはしゃいでいた

……その後色々な事をされたが……

 

海での時間も終わり、旅館に戻ってくる生徒たち

今は夕食の時間 

巨大な部屋で一斉に食事をしている生徒たち 

機龍はと言うと、簪、ラウラ、セシリア達と一緒にテーブル席で

食事を取っていた

セシリア「機龍、海は楽しかったですか?」

機龍「うん。すごく楽しかったよ。」

簪「良かったね。機龍。」

機龍「うん!」

その光景をセシリアの横から見ていたラウラ 

ラウラ『本当に親子のようだな……そう言えば、クラリッサに礼の

    通信をした時、嫌に機龍の女装の話に喰いついて来たな。

    向こうに画像を送った時、メディックゥゥゥ!と叫び声が聞こえた

    様な気がしたのだが……まぁ、あいつ等なら大丈夫だろう。』

そんな事を思いながら食事をしていたラウラだった

 

ちなみに、機龍の部屋は先生や一夏と同じ部屋になっていた 

そんなころ、自分の部屋に居たセシリアはある事をしていた

それは食事の時、機龍と一緒に夜の浜辺を歩きたいと言ったら彼が

OKを出したのが始まりだった 

セシリア『ふふ。もしものためにと持って来ていた甲斐がありました。 

     機龍には刺激が強すぎるかもしれませんが、これで…』

そう思っていた時

本音「あ~~!せっしーがえっちぃ下着つけてる~!」

セシリア「ふぇっ!?」

癒子「何~脱がせ脱がせ~!」

理子「剥け~!身ぐるみ置いてけ~!」

セシリア「やあぁぁ!引っ張らないでぇ!」

それを聞きつけた女子たちによって浴衣が肌蹴るセシリア

癒子「わぁ!ホントにエロい下着つけてる!」

理子「いわゆる、勝負下着って奴!?狙いは誰!?織斑君!?機龍君!?」

機龍、と言う単語に顔を赤くするセシリア

  「まさか…機龍君狙い!?」

癒子「ひょっとして、それで機龍君を篭絡するつもりなの!?」

理子「まぁまぁ、セシリアったらおませさん♪」

理・癒・本「「「セシリアはエロいな~~」」」

セシリア「え、エロくありません!これは身だしなみ……そう!身だしなみですわ!」

と、叫ぶセシリアだった

 

その後、女子たちの恰好の的にされながらも何とか逃げ出してきたセシリア

肌蹴た浴衣を直しながら一夏と機龍、千冬の部屋の近くまで来ると、

そこには、

セシリア「……何をしていますの?」

鈴「し!」

機龍達の部屋の前に箒、簪、鈴、ラウラ、シャルの面々が集まっていた

やがて、部屋の奥から聞こえて来た声

一夏「それじゃ、始めるぞ。力を抜けよ。」

機龍「う、うん……あ!ん!」

一夏「痛いかもしれないけど、すぐに気持ちよくなるからな。」

機龍「うん…あ!くぅ!」

千冬「織斑、機龍はまだ小さいんだから手加減してやれよ。」

一夏「わかってるって。いくぞ。」

機龍「う!うぅ!ん!」

中か聞こえてくるのは、卑猥とも取れるような声

襖に耳をくっ付けている箒や簪たちはすでに耳まで真っ赤にしていた

セシリア『なななな!?中では一体何が!?まさか!?』

 

~セシリア妄想中~

浴衣が肌蹴た状態の機龍を布団の上に押し倒す一夏

機龍『だ、ダメだよ一夏。僕たちは、男の子同士なんだよ。』

一夏『悪いな機龍。俺はもう、止まれそうにない。』

機龍『ダメだよ一夏。ん!あぁ!』

機龍の浴衣を脱がしながらその肌に手を這わせていく一夏 やがて

一夏『俺が、お前を天国に連れてってやるよ。』

機龍『ダメだよ、お兄ちゃん…あぁぁ!』

 

戻って現実世界

顔を真っ赤にしたセシリアは簪たちと同じように襖の近くで聞き耳を立て始めた

…のだが  

   『バタンッ!』

次の瞬間、全員の体重に耐え切れず、襖が内側に向かって倒れた

 

そして件の部屋の中では、一夏が機龍に―――マッサージをしていた

 

やがて一夏、千冬、機龍の前で正座させられる6人

千冬「全く、何をしているバカ者どもが。」

シャル「マッサージだったんですね。」

鈴「…ホントに良かったわ。」

一夏「?何してると思ったんだよ?」

ラウラ「それはもちろんB」

咄嗟にラウラの口を塞ぐ箒たち

箒「何でもない!何でもないからな!」

シャル「一夏は気にしなくて良いからね!」

セシリア「そ、そうですわ!」

一夏「?…ていうか、少しは静かにしろよ。」

彼女達の行いに首を傾げる一夏だった  そんな彼のひざ元では…

機龍「すぅ……すぅ……」

可愛い寝息を立てながら機龍が眠っていた

マッサージをされていた機龍はいつのまにか眠ってしまったのだった

千冬「こいつ……午前午後を通してはしゃぎまくっていたからな。」

一夏「きっと疲れたんだと思うぜ。……やっぱ機龍はまだ子供だな。」

そう言って眠っている機龍の銀色の髪を撫でる一夏  

 

それを見て、箒たちは機龍を セシリア達は一夏を羨んだ

それを知ってか千冬が

千冬「織斑、近くの自販機で飲み物でも買って来い。

   ここには置いて無いからな。」

一夏「う、うん。わかった。」

と言うと、一夏は座布団を折りたたんでそこに機龍の頭を乗せると

部屋を出て行った

 

やがて、千冬は備え付けの冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、箒たちの前に

座って飲み始めた 

しかし、箒たちはあまり落ち着かないようすだった

そんな時、唐突に話題を切り出した千冬

千冬「お前らは…一夏と機龍の何処が気に入ってるんだ?」

それを聞いて顔を赤くする6人

  「まぁ、一夏の方は料理や家事も出来るしマッサージもうまい。

   箒、鈴、シャル……一夏は欲しいか?」

箒・鈴・シャ「「「くれるんですか!?」」」

千冬「やるかバ~カ。」

箒・鈴・シャ「「「え~~?」」」

千冬「女ならな、奪うくらいの気持ちで行け…女を磨けよ、ガキども…

   んで…ラウラ達は機龍の何処が良いんだ?純粋な所か?

   それとも母性本能が刺激されたか?」

ラウラ「それはまぁ……その…」

セシリア「そ、そんな所です。」

簪「////」

千冬「ま、女はかわいい物には弱いと言うが……お前らも

   がんばれよ。」

と言ってビールに口をつける千冬だった

 

翌朝

機龍は、最近では簪と抱き合った状態で眠るのが恒例となりつつあったので、

旅館での夜は、あまり寝付けなかったのだ

 

そのため、早朝に起きてしまい、顔でも洗おうと浴衣姿のまま、

部屋を出た しばらく廊下を歩いていると

機龍「……あ、セシリアお姉ちゃん。」

ばったりセシリアと会ってしまった

と、昨日の夜の約束を破ってしまった事を思い出す機龍

俯いていると、セシリアが機龍に気づいて、近づいて来た

セシリア「おはようございます、機龍。昨日はよく眠れましたか?」

機龍「う、うん。……あ、あの…セシリアお姉ちゃん……昨日は、

   ごめんなさい。約束、守れなくて…ごめんなさい。」

セシリアとの約束を破ってしまった自分が許せないのか、彼女に

謝りながら、涙目のまま、上目使いでセシリアの顔を見上げる機龍

 

その顔にセシリアはドキドキしていた

セシリア『うぅ…ずるいですわ。あんな顔をされてしまっては……

     元々怒って何ていませんし、このままだと私が完全に悪者ですわ…

     ……あぁでも、これも機龍のかわいさの成せる技…』

すると、彼女はひざを折って機龍と同じ目線にした

    「大丈夫ですよ。昨日はたくさん遊んでしまいましたし、きっと

     疲れたのでしょう。それに、今日で臨海学校が終わりと言う訳でも

     ありませんし、機会はまだありますわ。」

と言って機龍をなだめた

機龍「…うん。わかった。ありがとう、お姉ちゃん。」

 

その後、セシリアと一緒に歩いていたのだが…

何やら旅館の庭に一夏がうずくまっているのを見つけた 

  「あれって…一夏お兄ちゃん?」

セシリア「そのようですわね。何をしているのでしょうか?」

疑問に思い、一夏に近づく二人

機龍「おはよう、一夏お兄ちゃん。」

一夏「あ、おう。機龍、セシリア、おはよう。」

セシリア「おはようございます。…それより、一夏さんは一体何を?」

一夏「あ、いや、その……」

何故かたどたどしい一夏の視線を追った先には……

セシリア「な、何故こんな所に、こんな物が…」

一夏達3人が見た者を一言で表すなら――地面に突き刺さった機械のうさ耳だった

 

機龍「……これって、ひょっとして、束の耳?」

そのうさ耳は見紛うはずも無く、今の機龍に名前をくれた篠ノ之束の身に着ける

うさ耳で間違いなかった

そして、次の瞬間、一夏はそれを掴んで引き抜こうとして力を入れた――が、

あまりしっかり埋まっていなかったのか、力み過ぎたために、後ろに倒れて込み、

尻もちをつく一夏

一夏「うわっ!とと。あ、あれ?」

今一夏が手に持っているのは、束がつけている機械のうさ耳『だけ』だった

機龍「どうして、それがこんな所に?」

一夏に手を貸して、立たせながら、手元の耳を見ていたその時…

   『キィィィン』

と、何処からジェット戦闘機のような音が聞こえてきた

 

それにつられて上空を見上げると、真っすぐ、オレンジ色の何かが、

一夏達の前に落下してきた  轟音と砂煙を上げながら落ちて来たそれは――

セシリア「こ、これは、キャロット、ですの?」

メタリックな光沢を放つ、機械のニンジンだった 恐る恐る一夏が

その機械ニンジンを触ろうとした時、音を立ててニンジンが左右に開いた

そして、そこから現れたのが

束「やっほ~いっくん!&久しぶりリュウ君!会いたかったよ~!」

と言って、白と青のアリス風のドレスに身を包んだ束が飛び出して来て、

機龍に向けてダイブ&ハグをした それに答えて、機龍も束を抱き返した

機龍「束!久しぶり、元気だった?」

束「もちろん!私もクーちゃんも元気だよ!まぁ、リュウ君に会えなくて

  寂しかったけど、会えて良かったよ~!!」

機龍「うん!僕も束とまた会えて、とってもうれしいよ。」

と、屈託のない笑みで束を見上げる機龍 

その笑みでキュンとなる束 

束「うぅぅぅ!やっぱりかわいい!かわいいよリュウ君!

  お願い!お姉さんに再会のキスをして!」

一夏「ちょっ!?束さん!いきなり何言ってるんですか!?」

と、至極まっとうな事を言う一夏と今だに状況が飲み込めないセシリア

そして…

機龍「うん!良いよ。」

束・一・セ「「「へ?」」」

次の瞬間、機龍はつま先立ちの姿勢で、束の頬に両手を添え、彼女の顔を

引き寄せるようにして、キスをした

束『!?*!??!*?!*!?*』

これにはさすがの自称天才も予想できておらず、目を回し、

その横では一夏とセシリアが驚愕の表情を浮かべていた 

そして、ゆっくりと唇を離す機龍 

 「…あぅ、あぅ…あ~え~っと……リュウ君、今、何を?」

機龍「?束にキスをしたんだよ?」

束「い、いや、そこはお姉さんは非常~~に嬉しいんだけど、キスはほら、

  リュウ君の大好きな人と…」

機龍「僕は束の事、大好きだよ?」

と、自然に言ってのける機龍 本来束は相手を翻弄するタイプなのだが、

機龍の場合は、冗談を真に受けた行動をするため、さすがの束も馴れていない

様子だった そして追い打ちをかけるように…

   「…束は…僕の事、嫌いなの?」

涙目で、上目使いで見上げる機龍の瞳に、心臓がドキリとする束

束「そ、そんな事ないよ!すっごいうれしいよ!私もリュウ君は大好きだし!

  もっとしてほしいくらいさ!」

 『って!?私何言ってんの!?私って普段翻弄するタイプじゃん!  

  何で私の方がリュウ君に翻弄されてるの!?』

と、混乱する束だが、この時彼女は、自分が地雷を踏んだ事に気づいていなかった

機龍「もっとしてほしいの?良いよ。」

束・一・セ「「「へ??」」」

すると、再び束の唇と自分の唇を重ねる機龍

束『!??!?!?!?!?!?!?!?!?』

 「……あぅ、あぅ………」

もはやなんと言って良いのかわからず、顔を真っ赤にしながら混乱する天才 

そして、一夏の横で固まっていたセシリアは、もはや石像のように動かなくなって

しまっていた そして、同じように惚けたまま、事の次第を見ていた一夏

そんな時……

 

千冬「……おい、篠ノ之姉弟…」

一夏の後ろに、浴衣姿で顔を真っ赤にした千冬が立っていた

  「朝っぱらからお前らは公衆の面前で何をやっている……特に機龍」

機龍「はい?何ですか?」

千冬「場所を考えろ。ここには、他にも…」

と言って千冬が廊下の方に視線を巡らせたので、一夏と機龍がそれを追うと、

廊下では大勢の浴衣姿の女生徒達が、浴衣や床を己の鮮血(鼻血)で真っ赤にしながら

倒れている様子だった

そこには血文字で一言 ――『姉ショタも良いね!』――

と、書かれていた

 

やがて、息も荒く、フラフラの状態で千冬に歩み寄る束

束「うぅ、ちーちゃん、私。リュウ君の女にされちゃったよ~」

千冬「知るかバカ。それより、篠ノ之から話は聞いている。だが、予定より

   早い。何の用だ?」

束「え!?それは、まぁ、その、リュウ君にプレゼントとしてこれを…」

と言って今しがた自分の乗って来たニンジンに向かって、うさ耳を動かす

すると、割れていた方の片方がさらに分割され、そこから現れたのは

―――純白のドレス(女物)――だった 

そして、薄れる意識の中にあっても、機龍へのプレゼント、と言う単語を聞いていたのか、

鼻血を出して倒れていた生徒たちも、そのドレスに目を向けた

 

数秒後、機龍がそれを着た姿を想像でもしたのか、再び大量に出血しながら

倒れる生徒たち そして最後に自分の血で

―――もうやめて、死んじゃう――と、書き残した

ちなみに、それを見た千冬も、顔を真っ赤にしながら束の頭を叩いたとか…

 

 

数時間後 この臨海学校の目的の一つである試験用ビーチに搬入されたISを

使って、新型装備のテストを行う事になったので、

その試験ビーチにISスーツ姿の生徒が集まっていたのだが……

真耶「なぜ、皆さん鼻を抑えているのですか?」

大半の生徒たちが、ティッシュなりなんなりで、鼻を抑えていた

未だに先ほどの衝撃から抜けきらないのか、時折顔を真っ赤にして鼻血を

流す生徒さえいた 

その時、真耶の横に居た一夏が彼女に耳打ちをして、事の次第を説明した

見る間に顔を真っ赤にして、一夏の方を見る真耶と、今言った事が事実ですと

言わんばかり唯々頷く一夏だった 

 

千冬「あ~全員注目!全員体調が万全ではないようだが……篠ノ之、こっちに

   来い。」

箒「…はい。」

千冬「それと……おい束!お前はいつまで惚けているつもりだ!」

近くの石の上に座ったまま、ずっと空の上を見つめていた束は、千冬の

声でやっと我に返った

束「あ、あははは…ゴメンね。ちょっと考え事、を…」

言いかけて、機龍と目が合い、再び顔を真っ赤にする束と、

先ほどのキスを思い出して鼻を抑える女子たち

 

当の箒は、何事かと気にしていたが、その横にセシリアが現れて、こっそりと

耳打ちした 

それを聞いて、まさか!?と言いたげな表情の箒と、顔を赤くしながら

頷くセシリアだった

 

そして、事の次第を理解できないまま?を浮かべる鈴、シャル、ラウラ、簪の4人 

もはや機龍の前に居る事すら恥ずかしいのか、ずっと顔が赤いままの束

千冬「おい束。早くしろ。」

束「わ、わかってるよ!でも、その…」

千冬「元はと言えばお前が冗談交じりにあんな事を言ったのが始まりだろうが。

   自業自得だ。」

束「わかってるけど~!リュウ君がかわいすぎるのがいけないんだよ~!」

と、言う声に、心の中で大勢の女子が頷いていた 

 

その後、本来の彼女の目的であった箒の専用機『紅椿』をロケットで

海岸まで運んできた束 そしてさらに…

 「それと、リュウ君にもね!新型ISを持ってきたよ!」

機龍「え?」

と言って束が手渡したのは……待機状態のISで、銀色のモデルガンのような

拳銃だった 

  「これが、ISなの?」

束「そう!それは私がリュウ君専用に開発したISで、待機状態でも

  非致死性兵器のスタンガンとして使える物だよ!その名も『銀狼』だよ!」

機龍「銀、狼…」

と、その時、機龍の近くで耳打ちする束

束「今まではさ、3式の姿で戦って来たみたいだけど…あの姿はその……

  以前の事を思い出しちゃうかもしれないし…リュウ君が武器とか嫌いなのは

  知ってるけどさ……少しでもそれを軽減できればと思って用意したんだ…

  どうかな?」

機龍『…そっか。束は僕の事を思ってこれを作ってくれたんだ。』

  「ありがとう束。大事にするよ。」

その笑みを見て、再び顔を真っ赤にする束 

 

それを遠目に見ていた生徒によって、今後機龍には、裏のあだ名として、

『年上落とし』の異名が付いたとか付かなかったとか……

 

その後、束のよる紅椿と銀狼のパーソナライズとフィッティングをする事になった

紅椿は即行で終わり、次は機龍の番となったのだが……周りの視線が

自分に集中しているのが少し気になった 

機龍自身は、束から専用機を受け取る事によって、周囲からやっかみの視線で

見られているのだと思っていたが……実際には、彼女達の視線は、

機龍と、束が持って来ていた『機龍専用』と書かれたメモがついた

――純白のドレス――に行っていた そして彼女達はある結論に至った

女子『『『『『『『あの人も私達と同じことをしようとしている』』』』』』』と

 

その後、銀龍の起動する事になったの 

機龍「えっと……これってどうやって起動するの?」

拳銃のような状態のままの銀狼をあちこちから覗きながら、そんな言葉を

漏らす機龍

束「それは簡単だよ!拳銃状態の銀狼をトランスフォームさせるイメージを

  持てば良いんだよ!やってみて!」

それを聞いて機龍は、銀狼を自分の胸に抱くような恰好になった

 

追記するが、それを見た女子たちが…抱く=機龍とのハグ=機龍のキスを

思い出して興奮状態が収まらなかったとか…

 

そんな事を考えている女子を他所に、イメージが沸いたのか、次の瞬間、

銀狼がまばゆい光を放ちながら無数の光球に分離し、機龍の四肢や胴体の前に

現れ、機龍自身を光で包んだ 光が晴れると、そこには銀色の腕部、脚部を

持ち、背中には3式機龍改のバックユニットにも似たキャノン砲を装備し、

腰部を守る為につけられた装甲 その後ろから生える銀色の尻尾

3式の頭部を模したヘッドギアを装着し、胴体部にも、重厚な装甲が

展開されていた  

 

大勢の生徒がそれを見ていた中、セシリアが感想を漏らした

セシリア「…何だが…以前の3式より、もっとISに近い姿のようですわね。」

束「はいそこ正解だよ~!この銀狼はね、リュウ君が今まで使用していた3式を 

  ベースに、よりISらしいスマートなフォルムに設計し直したんだよ!

  まぁ私としては前の無骨なフォルムも好きなんだけど、あれって普通のISより

  重いからね~。リュウ君の負担軽減と機動性向上のためにこっちにしたんだよ。」

その言葉を聞きながら、爪にある両腕を握ったり閉じたりして動作を確認する機龍

 「武装は3式とほぼ変わらずで、口からのメーサー砲は無くなったけど、

  代わりとして、こんな物を用意してみたよ!」

と言って束が指を鳴らすと、銀狼の背面のバックユニットが粒子になって消滅し、

変わりにX字の四枚羽のようなバックユニットが展開された

 「銀狼専用のハイスピードブースターだよ!それに翼の先端には

  低出力だけど、メーサー砲も搭載してるし、今までの3式よりも

  高機動戦闘に特化した装備だよ!」

そのブースターは、機龍の意思で操作できるのか、微妙な翼の角度調整が

まるで生き物の羽を見ているようだった

 

その後、銀狼のパーソナライズとフィッティングも終了したのだが……

事件は唐突にやってきた

 

山田先生がなにやらタブレットのような物を持ってきたと思ったら、いきなり

試験は中止となり、生徒たちは自室待機 専用機持ちの8人は改造された

部屋へとISスーツのまま集合させられた 

千冬「では、状況を説明する。二時間前、ハワイ沖で試験稼働中だった

   アメリカ、イスラエル共同開発の第三世代軍用IS『銀の福音』が制御下を

   離れ暴走、監視空域より離脱した。その後、衛星による追跡の結果、

   我々の居る場所から2キロ離れた洋上を50分後に通過する事が 

   確認された。そして、現場に最も近い我々に対処するようにとの通達が

   あった。教師陣は練習機による海上封鎖を行う。よって銀の福音は、

   お前達専用機持ちが対処する事になる。誰か意見はあるか?」

と、おずおずと手を上げる簪

簪「私達、8人で倒すのですか?」

千冬「いや、それは無理だ。相手が高機動を続けているため、一回のアプローチが

   限界だ。全員でポイントに向かったのでは、間に合わん。

   この作戦の要は…織斑、お前だ。」

一夏「お、俺!?」

千冬「そうだ。零落白夜による一撃で倒す以外、他に方法が無い。今の所の

   問題は……」

千冬が話し続ける間、機龍は自分に与えられた、銀狼のスペックを見ていた 

そんな中、唐突に束が侵入してきて、箒の紅椿のスペックを言いながら

一夏と箒のペアを推した しかし…

機龍「待ってください。僕も行きます。」

と言って、その場の全員を驚かせた 

千冬「……機龍、それは本気か?」

機龍「束から貰った銀狼のスペックは見ました。銀狼単体でも、

   アプローチは可能です。」

束「りゅ、リュウ君?何もリュウ君まで行く必要は……」

先ほどまでの一夏と箒を推していた姿とはうって変わって

おどおどし始める束 

機龍「さっき言っていた、ISって有人機、なんですよね?」

静かに、千冬に問う機龍

千冬「そうだ。パイロットは今も暴走した銀の福音の中で

   身動きができない状態だ。」

機龍「だったら……その人を救うために、束から貰った力で…

   僕も戦います。」

千冬「良いんだな?」

機龍「はい。」

 

こうして、自分の意思で戦いの場へと赴くことにした機龍 

 

――その先に、後悔が待っている事を知らずに……

     第10話 END

 




と、言う訳で機龍のオリジナルIS『銀狼』がやってきました。
世代設定は表向きは3・5世代ですが、原動力はISのコアでは無く、
機龍の方から送り込まれる方式ですので、見かけはISだけの
全く異なる兵器ですね。武装は3式機龍と大して変わりません。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第11話

今回は福音との闘いです。


――前回までのあらすじ――

臨海学校で海へとやって来た一夏と機龍たち1年生

楽しい海を満喫した翌日、箒の姉であり、事実上の機龍の保護者である

『篠ノ之束』が現れた そして、箒に託された第四世代IS『紅椿』と

束が機龍専用に開発していた『銀狼』が渡された

しかし、そんな矢先に軍事IS『銀の福音』が暴走したとの連絡が入り、

それを一夏、箒、そして機龍の3人で撃破する事になってしまった

 

沿岸部に出て、並んで立つ一夏、箒、機龍

一夏「来い。白式。」

箒「行くぞ。紅椿。」

機龍「行くよ。銀狼≪シルバーウルフ≫」

それぞれのISを展開し浮かび上がる3人 その彼らの通信機を通して通信が入った

千冬『では、作戦をもう一度確認する。織斑を現地まで運ぶのが、篠ノ乃。

   機龍は会敵後の織斑の援護だ。そして、一番重要なのは織斑、お前だ。

   油断するなよ?』

一夏「は、はい!」

千冬『よし……作戦開始だ。』

箒の紅椿の背中に乗った形の白式 紅椿が浮き上がり、加速を始めた

その横を、ハイスピードブースターを展開した機龍の銀狼が追従している

 

機龍『大丈夫。きっとできるはず。束がくれた、この子と一緒なら。』

そして、空中を疾走していた時だった

箒「………見つけたぞ!あれだ!」

その声に機龍が考えを振り切る そして前方を見つめると

銀の福音≪シルバリオ・ゴスペル≫がこちらに背を向けながら飛翔しているのが見えた

機龍「一夏、僕があのISの足を止める。最後は任せた。」

一夏「あぁ!無茶するなよ!」

機龍「うん。…行くよ!」

機龍は並んでいた紅椿を追い越すように飛翔し、銀の福音の上空…背中を取り、

少しでもスピードを落とさせるために両手に備え付けられたレールガンが

福音目がけて乱射された

 

危機を感じ取ったのか、急に体を傾けて機龍のレールガンを回避する福音

その体を傾けた所に、一夏達が迫り、攻撃した

しかし―――外れた

 

福音はまるで泳ぐように体を傾けた状態のままさらに横にローリングして一夏の零落白夜を回避したのだった 

さらに体勢を立て直し、水面を蹴って機龍や一夏よりも高い位置に浮かぶ福音

≪敵機確認……これより、迎撃モードに移行します。≫

オープンの回線を通して、まるで宣戦布告をするように機械の声が3人に向かって告げた

一夏「ッ!…機龍!箒!援護してくれ!」

箒「任せろ!」

機龍「うん!」

一夏の声で散開する3人 

  「僕が相手の注意を引く!その間に!」

機龍の背中に背負われていたハイスピードブースターの先端部分のロックが外れ、

上部を向いていた円筒形の物体4つ、それらが45度回転し機龍の前方に向いた

 

そこから稲妻のように黄色いメーサーが発射され、福音に襲い掛かった

その攻撃を、まるで踊るようにしながら回避し続ける福音 

  「クッ!速い!」

4門もメーサーが福音を捉えようと動くも、当たるどころか掠りもしなかった

一夏と箒も、斬撃とエネルギーの刃の攻撃を仕掛けるが、簡単に回避された

 

すると、今度はこっちの番だ、ともいうように甲高い歌声のような物が

福音から流れた 次の瞬間、福音の頭部から生えていた一対のスラスターが

開き、≪銀の鐘≫と言う兵器の砲口が現れた その数は36

 

そしてそこから、爆発性を持つ大量の光弾が辺り一帯にふりまかれた

その姿は、光を振りまく天使のようにも見えた だが、その光は一撃で

相手を消し去るほどの力を持った凶暴な物だった

 

その時、箒の攻撃が福音に命中し、隙を作った だがその時、一夏は

福音では無く海面に向かって加速し、海上に向かっていた光弾の一つを

かき消した 

 

その一夏の後ろにある物 それは……

機龍「船!?どうして!この辺は先生たちが封鎖してるはずじゃ!」

箒「くっ!密漁船か!一夏!そいつらはただの密猟者だ!捨て置け!」

そう言ったが、その言葉に今度は一夏が反論し、動揺する箒 だが……

   ≪ガタガタとガキが抜かすなよ。アイツらはそこいらに居る羽虫の一匹……

    殺したところで誰が悲しむ?生きてるからって何の役に立つ?≫

まるで、その場の者全員を凍り付かせるような声が響いた

その主は―――機龍だ

 

そして、当の機龍は両手で頭を抑えている

機龍「や、やめろ!お前は出て来るな!出て来るなぁ!」

両手で頭を抑えたまま、何かを振り払うように頭を振る機龍

   ≪あいつらは警告を無視してここに居る。ちんけな金のためにな。

    そして無視した結果死んだ。だから何だ。お前ら人間に言わせれば―――

    自業自得、って奴だろう?≫

機龍「やめろぉ!出て来るなぁ!やめろぉぉぉぉぉ!」

涙を流しながら、自身の内なる破壊神≪ゴジラ≫の声を必死にかき消そうとする機龍

 

しかし、今は実戦 同様する機龍の後ろに、銀の福音が迫っていた

一夏「ッ!?機龍!後ろだ!よけろ!」

警告の声が機龍に届いた、が、今の機龍は動けなかった

そして、まるで抱きしめるように後ろから機龍を羽交い絞めにする銀の福音

次の瞬間

機龍「ううぅぅぅぅ……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

まるで、機龍から何かを吸い出すように、銀の福音が機龍の体から

光を吸収し始めた

  「あ!あぁぁぁぁぁぁ!ぐ!が!あ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

体を左右に揺らすも、その地獄の抱擁は離れない

 

その光景に、さしもの一夏達も呆然としたまま、動けなかった

衝撃な事の連続で、思考が追い付いていなかったのだ

 

やがて、機龍は叫ぶことさえ止めた時、福音は機龍を空中に捨てた

重力に任せ、海面へと落下していく機龍に、まるでもう要は無いと

言うように光弾を発射した福音 その光の粒が、機龍の体を抉っていく 

一夏「機、機龍ゥゥゥゥ!」

その時、ようやく声を上げる一夏 

二人が呆然としている中、福音は箒に狙いを定め、光弾を発射した

そして―――一夏が箒の盾となって、撃墜された

箒「い、一夏ぁぁぁぁぁぁ!」

 

機龍と同じように、海面へと吸い込まれていく一夏

――――――作戦は、失敗した

 

一夏は、箒が抱え、機龍は、外からの束によるリモートコントロールで

旅館の近くの浜辺へと、運ばれてきた

一夏が担架で運ばれていく中……機龍の方は、

砂浜が見えた時点で銀狼の装着が解除され、砂浜に打ち付けられるように落下し

転がった 慌てて簪やセシリア、救護班の生徒たちが近づいて機龍を起こし、絶句した

 

露出していたのだ 機龍の体の内部が  皮膚を抉られ、血があふれ出た腕の下に

―――機械が見えていたのだった

さらに、右のこめかみをかすった光弾も機龍の皮膚を消し去り、目元からもみあげの

辺りの内部……機械を露出させていたのだった

 

全員が驚愕する中、ゆっくりと目を覚ます機龍 

ぼんやりと瞳を開いた機龍だったが、すぐに自分の体がどうなっているのか、

何が見られているのかを理解した機龍は、抱き起した簪の腕を振りはらって―――

―――逃げた

もはや力も無く、無様に砂浜を四つん這いで逃げようとするが、すぐに砂に手足を

取られ、砂浜に顔を埋めた

その機龍に近づこうとするセシリア達だったが……

機龍「来ないで!」

その声に足を止めるセシリア達

  「来ないで……ヒグッ……こんな僕を見ないで……お願いだから、来ないで……

   僕を……見ないで……」

大粒の涙を流しながら、消えそうな声でそう訴える機龍だった

 

その後、機龍は駆け付けた束によって特殊なカプセルへと入れられ、

旅館の一室に安置された

その頃、箒を除いた全員が一つの部屋に集まっていた

しかし、作戦の失敗、昏睡状態の一夏、そして機龍の体の事を見てしまったため、

驚愕と心配とが重なり合い彼女達の口を重くしていたのだった

誰もが口を開かったが、その時……

鈴「……あんた達……機龍のあれ…見えたの?」

その問いに、誰もが沈黙した

シャル「………機械…だよね。あれって……

    ひょっとして……機龍って……サイボーグ、なのかな。それとも……」

ラウラ「……何が言いたいんだ。」

シャル「……完全な人造生命……アンドロイドなんじゃないの?」

それはつまり――機龍は『人』ではないと言っているような物だった

簪「そんなの違う!!」

その時、ずっと部屋の隅に居た簪が声を荒らげた

 「機龍は……機龍は人間だよ!機龍には心があるんだもん!

  絶対に人間だよ!」

叫び、涙を流しながら訴える簪

シャル「……ゴメン。僕も無神経過ぎたよ。」

ラウラ「……篠ノ之博士なら、何か知っているだろうが……」

セシリア「あの方は、ずっと機龍の傍らにいらっしゃるそうです。

     あの部屋も立ち入り禁止と言う事で……」

鈴「……後悔してるんじゃない?」

ラウラ「何?」

鈴「もし、あの人があのISを持ってこなかったら、機龍が出撃する事だって

  無かったんじゃない?」

セシリア「それは……」

ラウラ「……とにかく、今は待機するしかないだろう。

    お互い、出来る事をしながら待つとしよう。」

そう言って立ち上がったラウラは、何処かへと出て行こうとした

セシリア「どこへ行かれるのですか?今は待機中ですわよ。」

ラウラ「……姉として…軍人として……家族を傷つけられたまま黙っているのは、

    私個人のプライドも、軍人としての誇りも、許さないのさ。」

そう言うと、何処かへと出て行ったラウラだった

 

その頃―――機龍は自身の殻の中に籠っていた

 

真っ暗な精神世界で、唯々体育座りをしながら、ずっと泣いていた

機龍『見られた……僕の体の中……みんなに見られた………僕は……

   もう……』

   『化け物!』 『悪魔!』 『こっちに来るな!』 『消えろ!』

と、無数の声が機龍を責め立てる その声をかき消すように

泣きながら両手で耳を塞ぎ、必死に『声』を振り払おうと頭を振る機龍

しかし、怨嗟と恐怖の声はそんな物では防げず、どんどんと機龍の中に入って来ては、

その心を侵食していく

 

そして―――――

   ≪おーおー……無様に泣きたい放題かよ≫

機龍の後ろに、もう一人の彼自身≪ゴジラ≫が現れた

その姿は、銀髪を黒く染め、瞳を血のように真っ赤にした姿以外、機龍と

瓜二つだった

   ≪情けねえなぁ……かつては人間どもを絶望のどん底に叩き落した

    俺の影が、お前みたいにピーピー泣いてるだけかよ。≫

そう言って機龍のすぐ後ろに立つゴジラ

しかし、機龍は黙ったまま、動こうとしない

   ≪…ちっ……抜け殻に用はねえ……お前の体を寄越せ。

    ……全部、『ぶっ壊してやる』。人間も、この世界も≫

そう言って機龍の前を通り過ぎようとしたゴジラの服の袖を、

機龍が掴んだ

機龍「や、めて……やめて……」

今にも消えそうな声でつぶやくが、ゴジラはその手を忌々しそうに振り払った

   ≪泣き虫の抜け殻なんかにようはねえ。……その体、返してもらうぜ。

    ……人間を…一匹残らず滅ぼすためにな。≫

そう言って機龍の人格を殺そうとするように、その首に手を伸ばした

   ≪まずはこの地域一帯をふっ飛ばしてやる。一匹残らず…『全滅』だ≫

その声を聞いた途端、ビクッ!となる機龍

   ≪最初はこの旅館の人間からだ……お前の大切だと言う者を、全て殺してやる。≫

次の瞬間、機龍はゴジラの腕を弾いた

  「そんな、事……させない…」

   ≪ほう……威勢は良いが、今のお前に何ができる。覚悟も何もかも薄っぺらい

    お前によぉ。……助けるって息巻いた結果、どうなった?作戦とやらは失敗。

    そんでもってお前は他人の自分の体の中身を見られて泣いてるだけじゃねえか。

    そんなお前に一体どれだけの覚悟があるってんだ。あ?≫

―――『覚悟』―――その言葉が機龍の中に駆け巡った

そう言いながら、ゴジラは機龍の胸倉を掴んで強引に立たせた

   ≪弱いだけのお前に何が出来るのかって聞いてんだよ!あぁ!?≫

機龍の顔を覗き込むように睨みつけるゴジラ 対して機龍も

―――決意の籠った瞳でゴジラを睨み返した

  「確かに…僕は弱くて泣き虫だ………でも、守りたい人が居る!

   大切な人が居る!それを、お前にだけは殺させない!僕がみんなを守って見せる!」

   ≪ほう!じゃあどうする!どうしたい!≫

  「僕は戦う!例え僕が元は、壊すだけの化け物だったとしても……!」

そう言って右手に力を籠め、そして……

―――機龍の拳がゴジラの頬にめり込んだ―――

腕を離しながら数歩下がるゴジラ

  「そうだ!守って見せる!僕は≪ゴジラ≫じゃない!僕は……

   僕は『3式機龍』!人間の希望だ!」

そう言って悠然と立つ機龍を見たゴジラは、口元をぬぐいながら笑った

   ≪へへ……上等だ。だったら見せてみろ。お前の『覚悟』って奴をな。≫

それだけ言い残すと、ゴジラは深層意識の奥底へと戻って行った

機龍は振り返り歩き出しかけた時、消えそうな声でつぶやいた

―――ありがとう。と―――

 

機龍が決意を固めたその時、機龍が入っていたカプセルが独りでに解放された

観音開きのようにハッチが左右に開き、そこから機龍が歩み出て来た

と、その機龍の前に束が現れた

束「りゅ、リュウ君…大丈夫だった?」

なにやら、いつものハイテンションがなりを潜めている束

それに気づいた機龍は、束の方に歩み寄った

そして、まるで束を祝福するように、口づけをした

咄嗟に事に驚いて目を丸くする束 ゆっくりと唇を離す機龍

 「な、なななな!?何を!?」

機龍「…ありがとう。束。僕を目覚めさせてくれて。」

束「え?」

機龍「僕は、皆に出会えてよかったと思ってる。束、クロエ、一夏、箒、鈴、

   セシリア、ラウラ、シャルル、クラスのみんな、先生たち、

   そして…簪……僕はたくさんの人と出会って、『愛』を教えて貰った。

   楽しい心を教えて貰った。思い出をもらった。笑顔をもらった。

   たくさんの事を、皆が教えてくれた。」

束「リュウ、君。」

機龍「束は、僕に銀狼を渡した事、後悔してるんだよね?」

束「…うん……だって、そのせいで……」

俯いている束 それを見た機龍は、再び束の頬に両手を添え、口づけをした

再び顔を真っ赤にする束

機龍「これは……僕の感謝と、束への祝福。僕は、束を愛してるし、束が

   力をくれた事、感謝してるよ。……僕は、皆と出会えて、

   みんなを守るための力を持つことができた。」

束「リュウ君……」

機龍「守るよ。みんなを……僕に幸せをくれた人々を守るために……

   人間を守るために……戦うって、決めたから……もう逃げない。

   立ち向かってみせるよ。……だって僕は―――『人間の希望』だから。」

束「でも……リュウ君が戦う必要は……」

機龍「違うよ。必要だから…強要されたから戦うんじゃない。……

   僕の守りたい人達……大好きな人達のために戦うんだ。」

そう言ってゆっくりと束を抱きしめる機龍

そして、束を見上げながら、あることをお願いする機龍

  「束……用意してほしい物があるんだ。」

束「…何?」

機龍「―――――」

彼の言葉に、少しばかり驚愕の表情を浮かべる束

  「お願い……束」

束「……わかった。少しだけ、時間を頂戴。」

そう言うと、束は部屋を出て行った

 

その後、機龍は顔に巻かれていた包帯を、鏡を見ながら指でそっと撫でた

そこに、今度は機龍の様子を見に来た真耶が現れた

真耶「ッ!機龍君!起きて大丈夫なのですか!」

咄嗟に部屋の中に入って来て機龍に駆け寄る真耶

機龍「はい。大丈夫です。」

真耶「そうですか……では、寝ててください。今は自室待機中ですから…」

と言って、押し入れから布団を取り出す真耶 しかし……

機龍「すみません先生。僕には…やらなきゃいけない事があるんです。」

真耶「え?」

そう言って真耶が振り返った時、機龍は近くのテーブルに置かれていた拳銃形態の

銀狼を手にしていた

  「あ!だ、ダメです!出撃は絶対にダメです!そんな事、先生は認めません!

   第一、機龍君は怪我をしたんですよ!絶対安静じゃなきゃダメです!」

咄嗟に抗議する真耶だったが、そんな事で機龍の信念は揺るがなかった

機龍「ごめんなさい。罰はいくらでも受けます。…でも……僕は、救いたいんです。

   あの、福音に捕らえられた人を…だから――」

真耶「だからって!異世界に来てまでそんな!あっ!」

と、真耶が口を滑らせてしまった しかし、その事に驚きもしない機龍

機龍「…知ってたんですね。」

真耶「ご、ごめんなさい!そんなつもりじゃ……!」

機龍「わかってます……でも、なら…僕は先生に『ありがとうございます』って、

   言わなきゃいけない気がします。」

真耶「え?」

機龍「先生は、僕が『怪物』だと知っていたのに、普通に接してくれました。

   その事が、僕はとてもうれしいんです。」

真耶「それは…機龍君は怪物なんかじゃありません!かわいい、私の…

   私の生徒です!」

機龍「ありがとうございます。先生……僕は、この世界でみんなに出会えたことが

   うれしいです。だからこそ……僕は僕にできる事で、この世界を

   守りたい。……≪ゴジラ≫として壊すのではなく、『機龍』として、

   みんなと、この世界を守りたいんです。…だから行きます。」

そう言うと、機龍は真耶の横をすり抜けようとした、が

その機龍を、後ろから真耶が抱きしめた

真耶「なら…せめて、ちゃんと帰って来てください。先生と、約束してください。」

そう言って、泣いているのか、彼女の嗚咽が機龍の耳に届いた

 

ゆっくりと腕を外した機龍は、振り返り―――真耶に口づけをした

突然の事で驚く真耶

機龍「……帰ってきます。みんなの居る、この場所に……」

それだけ言い残すと、機龍は今度こそ、部屋を後にした

 

その頃、海岸に集まっていた箒、鈴、セシリア、シャル、ラウラ、簪の6人

箒を鈴が 責し、やる気を出させ、全員で戦う決意を固めた そこに―――

機龍「お姉ちゃん達も…戦うんだね。」

包帯を巻いたままの機龍が現れた

簪「機龍!」

ラウラ「お前は、もう大丈夫なのか?動いても平気なのか?」

機龍「うん。大丈夫……だから、僕も行くよ。一緒に。」

セシリア「み、認められませんわ!機龍は先ほどの戦いで負傷したのです!

     あなたは部屋で――」

と、まるでその言葉を遮るように、顔の包帯を外していく機龍

その下から現れたのは、完治した機龍の顔だった

機龍「大丈夫。僕はもう、迷わないよ。見つけたんだ。僕の戦う理由も、

   もう逃げない覚悟も。だから行くよ。僕も。」

と、セシリアが何かを言おうとしたその時だった

 

唐突に、砂浜の一角に長方形の物体が落下してきた

その事に驚く箒たち と、そのケースにスピーカーが内蔵されているのか、

そこから束の声が聞こえて来た

束『お待たせリュウ君。…持ってきたよ。』

機龍「うん。ありがとう束。」

やがて、機龍がそのケースに近づくと、

ケース上部から四方に向かって何かが放たれ、地面に突き刺さった

それらから発せられたエネルギーが、ピラミッド型のバリアを作り出した

何事かとそれに近づく簪だったが、

束『そのバリアを超えない方がいいよ。でないと――『被曝』しちゃうからね。』

スピーカーを通しての声に、一瞬足を止めた簪

そして、まるでそれを合図にするように機龍の前のケースの中から

人の握りこぶしほどの大きさの鉱物が現れた

それは―――ウラン235を含んだ―――『核物質』だった

 

そして、ケースの左右に、原子力を示すマークがある事に気づく6人

シャル「機龍!すぐにそこから離れて!危険だから!」

咄嗟に、今の機龍がどうなっているのかを悟ったシャルが叫ぶが、機龍には関係なかった

 

当の機龍は、その鉱物を見つめた後、それを手に取った

そして――――――その石に噛り付いた

バリバリガリガリと、まるでキャンデーをかみ砕いているかのような音が響く。

が、今の機龍が食っているのは―――放射能―――人間にとっての毒の塊

そのものを喰らっていたのだった

 

誰もが驚く中、最後のひとかけらを飲み込む機龍

やがて、ケースから周囲を浄化するための放射能除去装置が作動した

煙に包まれたフィールド やがてその煙が晴れると、そこには

何も変わらない機龍が立っていた バリアも消滅し、普通に戻った、かに見えた

 

次の瞬間、機龍の体が、青白い光に包まれ始めたのだった

やがて、地面に片膝をつく機龍 しかし、息を荒らげながらも立ち上がった

そして、その背中から、ゆっくりと鋼鉄の背びれが浮かび上がって来た

機龍「う!うぅぅぅぅ!」

さらに、足先から、指先から……どんどんと鋼鉄の、銀色の装甲が浮かび上がって来た

体をチェレンコフ光―――原子の光が包む そのまま、内なる力を完全に開放

するかのように、機龍の体は『元の』3式機龍の姿へと戻っていく

髪の毛が皮膚に溶け込むように消え、瞳が鋼鉄の物となり、指が鋼鉄をも切り裂く爪に

変化し、その足は全てを踏み抜く強靭な足となる

  「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

  『KYUOOOOOON!』

最後に、空に向かって放たれた機龍の咆哮が人と獣の二つの言葉となって

世界を揺らした

 

そして、光に目を背けていた箒たちが目を覚ました時、

そこには完全復活した3式機龍が立っていた

機龍『僕は行くよ。人間を守るために……』

スピーカー越しに、人としての機龍の声が響いた

ラウラ「お前は、敵の居場所がわかるのか?」

機龍『うん……奴の狙いは……僕だ。』

ラウラ「何?」

そう聞かれた機龍の頭に浮かんだのは、前回の戦闘の時、

福音が抱き着いてきた時のシーンだった

機龍≪あの時……あのISが僕の中から何かの情報を『引き出した』。多分、

   奴の狙いは僕。詳しい事はわからなくても、この世界に『ゴジラ』の情報は

   危険だ。僕が倒さなくちゃいけないんだ。≫

  『あいつは、僕の中から何かを引き出した。……狙いが何であれ、

   今の僕にはわかる。あのISがどこに居るのか。』

そう言いながらゆっくりと海の方に体を向ける機龍

  『だからこそ、僕がけじめをつけるんだ。』

そう言うと、機龍はスラスターを展開し、飛び上がった

  『僕は戦う……この世界に≪破壊神≫は必要ない。』

その言葉を背に、機龍は飛び出した

 

その、飛び立つ姿を、海岸を見下ろせる崖の上から見ている女性が見ていた事には

まだ誰も気づいていなかった

その女性はトーガのような濃いオレンジ色の布を胸と腰に巻いた姿に、

白い肌、透き通るような蒼い瞳、腰まで伸びたオレンジ色の髪

そんな特徴を持つ女性は、飛び立っていく機龍を見ながら微笑み、

呟いた

???≪あなたも……生まれ変わったのですね。『機龍』。≫

やがて、その女性も、その背に極彩色の羽を背中から広げ、

何処かへと飛び立っていった

 

その後、海上を飛行する機龍の背後には、6人のISが並んで飛行していた

誰もが、それぞれの思いを胸に空を飛ぶ

 

数分後

機龍は海上で胎児のような恰好で浮かんでいた福音を見つけた 

だが……その体は確実に変化していた

鈴「何、あれ……あれがあの福音なの。」

恐れと共に口にした言葉が、その場の全員の感情を物語っていた

頭から生えていた翼はボロボロになり、その手は爪のように鋭利になっている

何より目立つのはその背中に生えた―――背びれだった

さらにその体が―――真っ黒になっていたのだった

ラウラ「まさか……セカンドシフトか?いや。それにしても様子がおかしい。」

全員が疑問と恐怖を感じる中、機龍はあれが何を意味しているのかを知っている

機龍『そうか……奴の狙いは…僕のDNAデータ、細胞のデータだったのか。』

その言葉に、全員の視線が機龍に集まった

  『あのISは、暴走してるんじゃない。誰かが裏で操っているんだ。

   ……その誰かは、福音を通して僕のDNAデータを手に入れようとしているんだ。』

シャル「どうして……機龍の細胞なんて……」

機龍を『ISを動かせるだけの男の子』だと認識していれば、その反応は当然だろう

しかし、ラウラと簪は、DNAデータが何を指すのかを理解した

つまり―――機龍のDNAとは……ゴジラのDNAなのだ

  『おそらく、今の福音は取り込んだ僕の細胞のデータでシステムのバグを

   起こしたんだ。このままだと、あの中に居る人が死んでしまう。

   何より、このまま放置したら、あれが第二の≪ゴジラ≫になる。』

その単語に、簪、ラウラ、箒、セシリアが絶句した

しかし、その単語の意味を知らない鈴とシャルだけが疑問符を浮かべた

  『そうなれば、僕達だけの問題じゃない。本当に『ISの枠』を超えてしまう

   前に、停止させる!』

そう言うと、機龍はいきなり口と胴のメーサーの砲口を開き、一斉射した

それを察知し、咄嗟に回避する福音 

   ≪GYAOOOON!≫

その時、福音から以前とは異なる獣のような咆哮が響き渡った

  ≪やっぱり、福音はG細胞に浸食され始めてる!早く止めないと!≫

と、その時だった

――――――お願い……私を壊して――――――

  『え?』

 

不意に、機龍の頭の中に声が飛び込んできた

その衝撃に戸惑い、一瞬停止した機龍 それに、漆黒に染まった

福音の爪が攻める それを、左腕部に内蔵したレールガンで遮るセシリア

さらにそこに簪の弐式の『山嵐』から発射された無数のミサイルが

福音を襲った

セシリア「機龍!油断はいけませんわよ!」

機龍「今……声が……確かに……」

謎の声に機龍が驚く中でも、箒たちと黒く染まった福音の戦いは続いている

それぞれ、新装備のパッケージで強化された能力を使いながら黒い福音を追い詰めていく

そして、間合いに入った箒の二本のブレードで斬りつけた

しかし、その刃を掴み、箒もろとも上昇する福音

ラウラ「箒!装備を捨てて離脱しろ!」

しかし、そのまま福音と競り合ったまま上昇する箒

そして、福音の翼の砲口が開き箒を狙った

箒は紅椿の展開装甲を利用し、つま先にビームサーベルを展開、踵落としの要領で

福音の左の翼を切り裂いた

 

推力を失った福音が、海中へと脱落していった

シャル「やった、の?」

簪「多分……」

空中を浮遊しながら、じっと福音が沈んだ海を見ていた7人

 

だが、次の瞬間 

海水が蒸発し、そこから新たな姿となって福音が復活した

 

頭部の残った翼も捨て、光の翼を新たに生成したのだった

その翼はまさに天使の翼

だが、次の瞬間、その翼から青い光の奔流が箒を襲った

その間に、機龍が割って入り自身を盾にした

機龍『このパワー……やっぱり……!』

   ≪GYAOOOON!≫

再び咆哮を上げ、より一層光に力を籠める福音

機龍を襲った光の奔流が爆発し、彼を吹き飛ばした

  『グッ!』

簪「機龍!」

吹き飛ばされた機龍は何とか空中でスラスターを使って何とか態勢を立て直した

その傍に寄り添うように近づく簪

しかし、今の機龍は先ほど聞こえた声の事が気になっていた

その時……

 

――――お願い……私を止めて……――――

  ≪君は、誰?≫

――――私は、銀の福音……そのコアです。――――

  ≪やっぱり……≫

――――お願いです。早く、早く私を壊して、マスターを救ってください。

    私がどうなっても構いません。だから……――――

  ≪そうか……君は、主であるその人を、大切に思っているんだね。≫

――――はい。もとはと言えば、私が、誰かに乗っ取られるようになって

    しまったから……――――

  ≪わかった………任せて……『君たち二人とも』救って見せるよ≫

――――え?――――

  ≪あと少しだけ辛抱して……すぐに―――≫

  『助けるから!』

最後を口にした機龍は再び空を駆けた

 

 

そして、脱落した箒の元に、もう一人の男が舞い降りた

それは―――セカンドシフトによって、白式の第二形態『雪羅』を纏った一夏だった

箒を助け起こし、何かを手渡した一夏は飛び上がり、空の上の機龍と並んだ

機龍『一夏、やっと来たの?遅いよ。』

一夏「へへ、悪いな。遅れちまって……けどまぁ、間に合ったみたいだな。」

機龍『うん。……一夏。』

一夏「ん?」

機龍『…行くよ!』

一夏「あぁ!行くぜ!」

二人は意気込み、同時に福音に向かって突進した

機龍がスラスターを使って弧を描くように接近し、左右のレールガンで

牽制射を繰り出した それを踊るように回避する福音

さらに、後方からセシリア、ラウラ、鈴、簪、シャルの援護射撃が福音を襲う

その福音の背後から接近した一夏が斬りかかる 

それを、背部の翼からの光弾で撃ち落とそうとするが、その翼に

今度は機龍のメーサー砲が命中 ぐらりと、態勢を崩した福音の

装甲を、雪片のエネルギーブレードが掠り、シールドエネルギーをごっそりと

抜き取った

 

機龍は、福音が目標を一夏に変更した事を見抜き、一気にその福音に接近した

そして、その両肩を自身の剛腕で押さえつけた

機龍『接触回線オープン!いっけえぇぇぇぇ!』

  ≪KYUOOOOOON!≫

スピーカー越しの声と咆哮が重なった次の瞬間―――

 

―――機龍は暗い世界で、鎖に繋がれた少女を見つけた

その少女は、ボロボロの衣服の上に無数の鎖で身動きを封じられていたのだった

さらに、時折その鎖から彼女に向かって電流のような物が走る

それが彼女を苦しめていた

これは、機龍に見える知覚化された今の福音のコアの状況だったのだ

 

急いでコアに近づこうとするが、

――――来ないで!来たら、あなたまで!――――

苦しみながらも、そう訴えるコア

――――お願い……私を、撃って……マスターを…助けて――――

そう言っているコアの瞳には、涙が浮かんでいた

  ≪…ダメだ。≫

――――どうして……――――

  ≪僕は……誰も見捨てない!≫

そう叫ぶと、機龍はコアの少女に向かって走り出した

少女に纏わりつく鎖を握った瞬間、機龍の意識に激痛がほとばしった

  ≪グッ!≫

――――ダメ!このままじゃ、あなたまでファイヤーウォールにやられちゃう!――――

だが、それでも機龍は鎖を握る手に力を籠める事をやめない

  ≪僕は諦めない!だから……君も諦めないで!≫

その言葉に、はっとなった少女の瞳から、一滴のしずくが零れ落ちた

  ≪救って見せる!僕は……僕は戦うんだァァァァァ!≫

全力で、鎖を引きちぎる機龍 

次の瞬間、真っ暗だった世界が一瞬にして晴れ渡った

そして、鎖の束縛から解放された少女を、機龍が受け止めた

 

次の瞬間、外の福音にも変化が訪れた

黒かった体表が脱色されるように、白に戻って行った

しかし、それで終わりでは無かった 

福音の背部に展開されていた光の翼が、まるで最後の抵抗のように、

エネルギーをため始めた

そして、その狙いは、一夏達に絞られていた

機龍「ッ!みんな!逃げ――――」

その警告が届く前に、光の奔流が一夏達に向かって飛び出した

 

その攻撃に、誰もが驚き反応が遅れた 誰もが命中を覚悟し腕や装備で頭を守った 

だが、光が一夏達を襲う事は無かった

 

恐る恐る一夏達が前を見ると、そこには2対の翼を携えた女性の背中があり、

無数の金色の鱗粉が空を舞っていた

その女性が、ゆっくりと一夏達に振り返った

???「お怪我はありませんか?」

一夏「え、あ、はい。」

あまりの出来事にから返事しかできない一夏だったが

それでもにっこりと微笑む女性だった

と、ボケ~っとしながら一夏がその女性に見とれていると

横に現れた箒が一夏の頬をビンタした

  「痛ッ!何すんだよ!」

箒「う、うるさい!ボケ~っとしているお前がいかんのだ!」

と、顔を赤くしながら怒鳴る箒

???「うふふ、あらあら。微笑ましいですね~」

と言って笑う女性

シャル「そ、それより、あなたは…一体…」

明らかに『人では無い』女性に疑問を示すシャル

   「そうですね……いずれあなた達にもお話しするときが来るでしょう。

    ですが、今ではありません。」

そう言って、翼をはためかせ、一夏達から離れる女性

   「それと…機龍。」

一夏より少し離れた場所に浮いている機龍に瞳を向ける女性

   「あなたとは、ゆっくりと話したいですね。時間があれば…では……」

それだけ言い残すと、その女性は翼をはためかせ一気にマッハの速度まで加速し

一夏達の前から姿を消した

 

誰もが予想外の出来事に絶句する中、機龍が心の中でつぶやいた

―――モスラ…君も―――

 

その後、一夏と機龍たち8人は停止し待機状態になった福音を身に着けた

パイロットの女性と共に旅館へと帰還した

 

―――もちろん千冬によるお怒りが待っていたが―――

付け加えるなら、慣れないながらも千冬が8人を褒めもした

 

帰還したのはもう朝日が昇り始めていた時間で仮眠を取った後、

旅館での待機時間を過ごしていた時だった

 

夕食の時間

全生徒が集まった食堂で質問攻めにされている一夏達6人

そこに箒と機龍の姿は無かった―――のだが……

束「はいは~~い!全員注も~く!」

いきなり、大広間の前方のステージに束が現れた

全員がぽか~んとする中、部屋の明かりが落とされ、ステージ上だけが

ライトを浴びていた

と、束の後ろから現れたのは――――――昨日プレゼントされたフリルがたくさんついた

白いドレスを着て、銀色の長髪のカツラを被った女装姿の機龍だった

次の瞬間……

   『ぶふっ!』

   『『『『『『『ぶはっ!!!!!』』』』』』』

食事のお茶に口を付けていた一夏と大勢の女子がお茶と鼻血を大量に噴出した

 「はいはい!これこそ、前日のリュウ君の水着姿に対抗して私と

  助手のクーちゃんが作り上げた機龍専用ドレスとそれを着た本人だよ!」

そんな事を言っていると今度は……

千冬「おい束!貴様は何を………」

真耶「織斑先生?どうか、し、たの、で………ま、まさか……」

入って来て早々硬直する先生の二人

 

もはや花嫁衣裳とでも言えるような恰好の機龍

機龍「……ねぇ束。これでよかったの?何だか、みんな固まってるけど……」

束「大丈夫大丈夫!みんなリュウ君のかわいさにびっくりしてるんだよ!

  それと、はいこれ!」

と言って何かのドリンクを渡す束

機龍「飲み物?ありがとう束。」

そう言って束から渡されたドリンクを口にした瞬間

機龍の顔が真っ赤になった 手元から落ちたドリンクが部屋に液体と匂いを

まき散らした

そして、千冬がすぐさま匂いで束が機龍に飲ませたものを理解した

千冬「おい束!貴様機龍に酒を飲ませたな!?」

束「YES~!THAT’S RIGHT!」

千冬「お前は子供になんてものを飲ませてるんだ!」

そんな口論をしている間に、フラフラになった機龍は

あれよあれよと真耶の方へと足取りを進め、その胸に

倒れこんだ 咄嗟に機龍を受け止める真耶

真耶「機、機龍君!?大丈夫ですか?」

と、機龍の顔を覗き込む真耶

 

それに対して、機龍も顔を上げ、真耶の顔を覗き込んだ―――のだが……

機龍「……ママ。」

   「「「「「「「「「へ???」」」」」」」」」

どうやら酔った勢いで真耶をママと思い込んでいるようだ

  「ママ……暖かい。」

そう言って真耶の体を抱きしめ、その豊満な胸に顔を埋める機龍

真耶「あああ、あのですね。私は機龍君のお母さんじゃ……」

わたわたと慌てながらそう言った真耶だったが、それは逆効果だった

機龍「……ママは、僕の事嫌い、なの?」

涙目で、上目使いで真耶を見上げる機龍

   『『『『『ズッキュ~~~ン!!!』』』』』

その瞳が宴会場に居た全生徒のハートを打ち抜いた

そして、次の一言が追い打ちをかけた

  「僕は…ママの事大好きだよ。」

   『『『『『『『『『『ブッハッ!!!!』』』』』』』』』

愛の言葉と機龍の女装姿に心を奪われていた彼女達にとっては破壊力抜群だった

誰もが血を流しながら(鼻血で)倒れていく女生徒たち

そして、当の告白をされた真耶も顔を真っ赤にしていた

 

真耶「あ、いや、だからその、私も機龍君は大好きですけど、私と機龍君は

   生徒と先生ですし……」

機龍「じゃあ、僕の『好き』。証明してあげます。」

そう言うと、腰元に回していた手を真耶の頬に添える機龍 そして……

真耶に口づけを交わした 

真耶「ん!?ん~~~~~!」

咄嗟に事に驚きすぎて、抵抗するどころかがくがくと膝が笑い出し、

その場に膝を落としてしまう真耶

そしてそのキスが、女子たちにとどめを刺した

全員がその場に倒れ、膨大な量の鼻血を流し、その血で畳にこう書き記した

―――我が生涯に一遍の悔いなし―――と

 

ちなみに、真耶が機龍によってキスをされている頃、束は千冬のアイアンクローを

喰らっていた

 

その後は何とか生き残っていたシャルや簪が何とか機龍を眠らせた

宴会場はまさに死屍累々の様相だった

まぁ、一時間かけてようやく回復した女子たちは自分の部屋へと戻り

束は千冬が旅館の外に放り投げ、真耶はシャル達に介抱された後自室に戻り、

機龍はと言うと、何とか一夏が着替えさせ、自分の部屋で寝かしつけた

 

そして、誰もが寝静まった時間帯

 

~深夜~

   ≪機龍……機龍…≫

機龍は、夜中に頭の中に響く声で起きた

体を起こしてから瞼をこすり、うつらうつらと起き上がった機龍

   ≪機龍≫

そして、自身を呼ぶ声にはっとなった機龍

   『君は……モスラ、なの?』

   ≪はい。海岸で、お待ちしていますね。≫

と言うと彼女からのテレパスは終了した

機龍は浴衣の姿のまま、部屋を出て旅館を出て行った

 

深夜の海岸 夜空の星と月に照らされ煌く蒼い海の浜辺に

一人の女性が立っていた その、夜空を見上げる女性にゆっくりと

少年が近づいている 女性も足音に気づいて振り返り、笑みを漏らした

 

モスラ「……こんばんは、機龍。」

機龍「……やっぱり……君は…」

モスラ「こうして会うのは、もう半月ぶりになるのでしょうか。あの日の東京での

    一日から……」

そう、かつて二人は東京で出会っている―――『守護獣モスラ』と『3式機龍改』

として―――

その時、何を思ったか機龍が震え出し、砂浜に膝を落とした そして……

機龍「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

その瞳に大粒の涙を浮かべながら謝り始めた その姿勢に言葉を失うモスラ

  「あの日……ぼくは…君を守れなかった。」

それは懺悔のようでもあった

あの日、機龍はゴジラの攻撃を喰らい、身動きが出来なくなっていたのだった

そんな中、モスラは戦場の現れた自身の子供たちを守るためにゴジラの熱戦を

自身の体で受け、燃え上がり、爆死したのだった

  「ごめんなさい……僕が、もっとしっかりしてれば……

   君を死なせずに、すんだかもしれないのに。あの子達が悲しむ必要なんて…」

そう言って泣き崩れる機龍に、モスラは歩み寄り、抱きしめた

モスラ「泣かないでください、機龍。あなたこそ、今まで辛い事をたくさん経験してきた

    のに……それでも私のために涙を流してくれるのですね。」

機龍「だって……僕が、動けていれば…君は、子供たちと……」

そう言う機龍の頬に、モスラはキスをした

モスラ「ありがとう。機龍。」

さらに、機龍の頭を抱き寄せ、撫で始めた

   「あなたは、この世界で本当に優しい子に育ったのですね。誰かを愛し、

守る気高い存在…人々の希望に……私は、あなたと会えてよかった。」

機龍「モスラ……僕は…」

モスラ「今は何も言わないでください。あなたの、暖かさだけを、今は……」

そう言って、お互いに抱きしめ合う機龍とモスラだった

 

数分後

   「どうですか?落ち着きましたか?」

機龍「うん……ありがとう。」

モスラの胸に顔を埋める機龍と、その頭を撫でるモスラ

  「……モスラは、これからどうするの?多分、僕達は……」

モスラ「そうですね。もう…あの世界に帰ることはできないでしょう。

    ですが、私達は新たな生をこの世界に得ました。

    私達は、この世界で第二の生を全うするでしょう。

    あなたは、それを拒みますか?」

機龍「ううん……僕には大切な人がいる。守りたい人…大好きな人……

   みんなが居る。だから…僕はこの世界で生きるよ。

   『篠ノ之機龍』として。」

と、決意の籠った瞳でモスラを見上げる機龍

モスラ「そうですか。……私も、この世界を見つめる事にします。

生まれ変わった私として…」

機龍「そうなんだ……ねぇモスラ、良かったら……」

何かを言おうとした機龍だったが、その唇をモスラの人差し指が塞いだ

モスラ「そのお誘いはとてもうれしいですが、今、ではありません。

    でも……私もすぐにあなたのおそばに行きます。」

そう言うと、機龍の唇を自分の唇で奪うモスラ

機龍「も、モスラ……」

その行いに顔を真っ赤にして、ドキドキと心臓を高鳴らせる機龍

モスラ「少しだけ、待っていてくださいね。必ず、あなたの元に参りますから。」

そう言い残すと、モスラは背中の羽を広げ、何処かへと飛び立っていった

 

翌日

機龍たちは無事に学園へと戻る事になり、今は全員が帰りのバスに乗っていた

ちなみに、何故かクラスメイト達の機龍を見る目がおかしい

やたらと顔を赤くしているが、機龍と目が合うとさらに顔を真っ赤にして

視線を逸らした 今の彼女達は内心でこう思っていた

   『『『『『『今あの顔を見るだけで昨日のを思い出して大変だ~!!』』』』』』   と

その事を機龍が気にしていた時だった バスの中に金髪の女性が乗り込んできた

 

???「えっと…小さな君が篠ノ之機龍君?」

機龍「はい。そうですけど……あなたは…?」

ナターシャ「私は『ナターシャ・ファイルス』。福音のパイロットよ。」

つまり、彼女は機龍たちの活躍で救出された人物なのだ。

     「今日はちょっとしたお礼にね。君のおかげで、

      福音は無期凍結が回避できたわ。ありがとう。」

そう、実は機龍は福音と接触し内部のバグ…ウイルスを発見した際に

一部を隔離し回収、千冬に提出していたのだった

それにより、福音の暴走は外部からのハッキングによると断定

暴走が事故では無く事件だった事で、なんとか凍結処理は回避されたのだった

 

     「君のおかげであの子と私はまた空を飛ぶ機会を与えられたわ。

      これは……」

と言いつつ、機龍の頬に自身の両手を添えるナターシャ

     「そのお礼♪」

そして、機龍の唇を奪った

 

全員が一斉にポカーンとしている間に、いつの間にか手を振ってバスを

降りていくナターシャだった

ちなみに、バスが他だった簪がこの事は知る由も無く、学園に戻った後に

ラウラから初めてその話を聞き、その日の夜は機龍に

キスを求めた簪 無論機龍はそれに答えた―――ディープキスで―――

これを機龍が知っているのは、束がそれを教えたからではあるが、

初めての濃厚なキスに簪はびっくりして、或いは幸せ過ぎて、

そのままベッドの中で気絶してしまったのは、余談である

 

新たな出会いと旧友との再会  だが、戦いの炎は

今だに燻っていた  そして、破壊神のデータを狙った敵が、

機龍や一夏達の前に現れる日も…着々と近づいていた

     第11話 END

 

 




次回は夏休み中の閑話として、機龍とセシリア、ラウラ、簪との
それぞれの話を書きます。できてら、OVAの話も書きたいなと思ってます。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 OVA編

今回はアニメ第1期のOVAの話で、自分の時系列で行くと
1期OVA⇒機龍とセシリア達の閑話⇒第2期1話、という感じです。
小説の4巻の方だと時系列がバラバラでよくわからなかった気がするので、
上記のような順番になりました。

※追記
 機龍とヒロイン達のR18に興味あるって人いますか?
 いたらコメントください。


~~前回までのあらすじ~~

暴走した銀の福音≪シルバリオ・ゴスペル≫を止め、パイロットとコアを

無事救出した一夏と機龍たち そんな中で、機龍はもう一人、転生し人となった

怪獣≪モスラ≫と再会を果たした お互いを認め合い、

それぞれがこの世界で生きていくと決めた機龍とモスラ  

 

そんなこんなで時間はあっという間に過ぎ去り、学生のビッグイベントともいえる

夏休みがやってきた

 

夏休み、一夏は一時帰宅を許されずっと整理されていなかった自宅へと戻り、

残りの機龍や簪、シャル、箒たちは学園の自室で休日を過ごしていた

セシリアは近いうちに母国へと帰国すると言っていたし、

ラウラも同じように一度、自分の所属するドイツの黒ウサギ部隊に戻るらしい

 

しかし、機龍はやる事も無く部屋でゴロゴロとしていた

部屋に据え置かれたパソコンはあくまで授業やISについての作業しかできないため、

ネットへのアクセスはできない だからと言って簪と一緒に居る事が退屈、

と言う訳ではないがやることが無いので時間と力を持て余していたのだった

機龍にとっての勉強は言ってしまえば復習と同じなのだ。

数学や理系、英語については機龍は大抵の事は理解している

国語も、簪に教えて貰っているためある程度の事は理解できた

勉強と言う行為も、機龍にとっては刺激的な事だったが、夏休みの宿題は

数日の内に終わらせてしまった ゲームやスマホの類も機龍は持参しておらず、

あるのは普通のガラケーだけだった しかも、学園内では不用意な使用は

厳重注意の対象となっている そのため、生徒たちの大半は

遊ぶとなれば学園の外に出ていくのが常なのだ

 

そのため、機龍は起きて朝食を取った後、何をしようかと迷っていたのだった

外は焼けるように熱く、機龍ならその程度の熱さはどうという事も無いが、

ただ一人で外に出て汗をかくだけ、というのも結局は不快な感覚でしかなかった

 

結果……

機龍「今日は、何しよう……」

このように呟きながらベッドに横になっていたのだった

簪「機龍……あ、あのさ。」

そんな時、机のパソコンで作業をしていた簪が振り返った

機龍「何?」

簪「もし、良かったら、私と一緒に、その―――」

と、簪が何か言おうとした時だった

   ≪コンコン≫

急にベランダの窓がノックされた 二人がそちらを向くと、

そこには一本腕でヘリコプターの回転ローターを備えた無人機が飛んでいた

別段驚くことも無く機龍がベランダに出ると、その無人機はぶら下げていた

箱をベランダに落として何処かへと飛んで行ってしまった

 

しばし無人機を目で追っていた機龍は、すぐに落としたものが気になって

それを部屋の中に運んでから窓を閉めた

簪「機龍?それ何?」

機龍「何だろ、開けてみるね。」

そう言って箱を開けてみると、そこには『スイカ』が入っていた

  「これって……」

簪「あ、それはスイカだよ。日本の夏によく食べる夏野菜だよ。」

機龍「え?スイカって果物じゃないの?」

簪「ううん。スイカは野菜の仲間に分類されるんだよ。……でも、

  誰がスイカなんて……あれ?これって、手紙?」

と、スイカの間に挟まっていた封筒を見つけ、拾い上げる簪

その表には『リュウ君へ!愛を込めて!束より!』と書かれていた

 「これ、篠ノ之博士が送ってくれたみたいだね。」

機龍「そうなんだ。……でも……」

と言って箱の中を覗き込むが、そこには大きなスイカが3玉も入っていた

  「この量は僕達だけじゃ食べきれないよね。」

簪「そうだね。私達だけなら一個で十分だし……どうしよっか?」

機龍「う~ん……一個は食堂の人達に渡して、夜にでもデザートとして

   振る舞ってもらおうよ。あと一つは……一夏にでも持って行こうかな?」

簪「織斑君に?でも、確か…今は家に戻ってるって聞いたよ?」

機龍「そうだね。…一夏に連絡してみる。」

と言ってケータイを取り出し、一夏の番号に掛ける機龍

数秒後

一夏『はい。織斑です。』

機龍「あ、一夏。僕だよ、機龍だよ。」

一夏『あぁ機龍か。どうした?何か用か?』

機龍「実は、ついさっき束からスイカが届いたんだけど、多くて僕達だけじゃ食べきれない

   んだ。それで、一つを一夏におすそ分けしようと思ったんだけど、

   今からそっちに行っても大丈夫かな?」

一夏『今からか……あぁ、別に良いぜ。今日は予定もないし、あぁ、俺の家の

   住所は……』

 

その後、一夏の住所を聞いて調べた後、機龍は簪と共に織斑家に

スイカを届ける事になった

その後、大きめのビニール袋にスイカを入れた後、私服に着替えて部屋を出る

一夏と簪 と、そこに

ラウラ「む?機龍。それに更識も。」

セシリア「あら?お二人でどちらかにお出かけですの?」

同じく私服姿のラウラ、セシリアと廊下でばったりと出くわした

機龍「うん。実はさっき、束からスイカが届いたんだけど、多くてね。

   これから一夏お兄ちゃんの所に一個持っていくんだ。

   二人もこれから外に?」

セシリア「はい。私は祖国へのお土産を買いに。」

ラウラ「私も似たような物だ。部下に買って来てほしいと言われた物があってな。」

機龍「そうなんだ。あ、じゃ、僕達はこれで……」

と言って別れようとしたのだが……

セシリア「で、ですが、私にはまだここを発つまで時間もありますし、

     友人のお家にも興味がありますし、折角ですから機龍とご一緒しますわ。」

ラウラ「私も、織斑教官の家には興味がある。私も行こう。」

機龍「そっか…じゃあみんなで一夏の家に行こう。」

と言った時、心の内でラウラとセシリアはガッツポーズし、

簪はため息をした

 

その後、列車などを乗り継いで一夏の家までやって来た機龍たち

ラウラ「ふむ。ここが織斑教官の家か。」

何てことをラウラが言っている内に、家の前のインターホンを鳴らす機龍

しばらくすると、中から私服の一夏が現れた

一夏「いらっしゃい。って、セシリア達も一緒だったのか。……あ、まぁ

   入れよ。実はシャルロットも来てるんだ。」

機龍「シャルロットお姉ちゃんも?」

一夏「あぁ、機龍から電話があったから、少し買い出しに出て、帰ってきたら

   家の前に居たんだよ。こっちだ。」

織斑家に入った機龍たちは、リビングへと通された そこには、同じように私服の

シャルロットがソファに座っていた

シャル「あ、機龍。セシリアにラウラ、簪まで……みんな揃ってどうしたの?」

機龍「さっき、束からスイカを貰ってね。特にする事も無かったから、一夏に

   おすそ分けしようと思って持ってきたんだ。」

一夏にスイカの入ったビニールを渡す機龍

一夏「おぉ、こいつはうまそうだ。ちょっと座っててくれ。今切り分けるから。」

機龍「うん。それじゃ、お言葉に甘えて……」

シャルロットと同じように、適当にソファに座る機龍たち

  「へ~…ここが一夏と先生のお家なんだね~」

一夏「ん、まぁな。」

と、一夏が出した麦茶を飲んでいた時だった

   『ピンポーン』

再び来客を告げるインターホンが鳴った

  「あぁ悪い。機龍ちょっと出てくれるか?今こっちは手が離せなくて。」

機龍「うん。わかった。」

立ち上がった機龍が玄関まで来客を迎えに行ったのだが、ドアを開けると

そこに居たのは……

  「あ、鈴お姉ちゃん。それに箒お姉ちゃんも。」

私服姿の鈴と箒が来客だった

箒「機、機龍!?なぜおまえがここに!?」

機龍「えっと、束からスイカを貰ったから、おすそ分けで持ってきたの。

   ……一夏なら今中でスイカを切ってるよ。…二人もシャルロットお姉ちゃんと

   同じで遊びに来たの?」

鈴「え!?シャルロットも来てるの!?」

機龍「うん。今リビングで簪たちと―――」

と、機龍が言葉を言いきる前に靴を脱いでリビングにダッシュで向かった鈴と箒

その後を追って機龍がリビングに戻ると、そこではシャルロット、箒、鈴が

何やら火花を散らせていた

 

一夏「ったく……来るなら来るって連絡くれよ。」

箒「し、仕方ないだろう!私も急に暇になったのだ!」

鈴「そうよ!て言うか、急に来られちゃ困る物でもあるの!?

  エロ本とか~~」

機龍「?……ねぇ簪。」

簪「ん?何?」

機龍「『エロ本』って何?」

と言う機龍の言葉に全員がずっこけた

  「?」

その様子に疑問符を浮かべる機龍

簪「き、ききき、機龍にはまだ早いから!だからその……

  も、もうちょっと大人になったら……私が教えてあげるからね!」

そう言っている簪の声は、上ずっていた

セシリア「か、簪さん!?何てことを仰ってるのですか!?」

ラウラ「そうだぞ!弟のそう言った事を管理するのは姉たる私の役目だ!」

簪・セ「「弟にエッチな事を教える姉なんていません!!」」

と、ラウラのボケ(?)に対して突っ込む簪とセシリアだった

 

その後、一夏が切り分けたスイカを全員で食し、今度は8人で遊べる

ゲーム、という事でラウラの国のゲームをする事になった

ルールは簡単 紙粘土でそれぞれが好きな者を作り、

他の相手が作者に質問して作った物を当てるゲームだった

 

そんなゲームを全員で楽しんでいた時だった

不意にリビングのドアが開く……

一夏「あ、お帰り千冬姉。」

そこから現れたのは、私服姿の千冬だった

千冬「ん。玄関に見ない靴が大量にあったと思ったが、お前達だったのか。」

一夏「あぁ、機龍たちはスイカのおすそ分けを持って来てくれてね。

   今は全員揃って遊んでる所。あ、千冬姉、お昼は食べて来た?」

千冬「あぁ、外で済ませて来た。」

一夏「じゃあ今何か冷たい物でも出すよ。ちょっと待ってて。」

千冬「あぁ……あ、いや…いい。着替えたらまたすぐに出るんだった。」

と、箒たちの方を見て何やら言葉を濁す千冬

一夏「そうか。わかった。あ、新しいスーツ出して置いたから。」

千冬「あぁ、わかった。」

そう言うと、千冬は部屋を出て二階の自室に行ってしまった

 

鈴「…あんた…相変わらず千冬さんにべったりよね。」

一夏「そうか?姉弟なんだし、これくらい普通だろ。」

鈴「ハァ……この世でそう思ってるのはあんただけよ。」

と言う鈴の言葉に、箒とシャルロット、セシリア達が静かに頷いた

そして、機龍はと言うと、一夏と同じように疑問符を浮かべていた

 

やがて、日も落ち始めた時間帯 様々なゲームで時間を潰していた一夏達

楽しい時間は過ぎ去り、なんだかんだで全員で夕食を作る事になってしまった

近くのスーパーで食材を買って来た後、全員でエプロンをかけて料理をし始めたの

だった

一夏「そういや、機龍って料理出来るのか?」

機龍「うん。束やクロエと一緒に暮らしてた時は、僕が料理をしてたんだ。

   今でも覚えてるからね。大抵の物は作れると思うよ。」

一夏「そうか。んじゃ、何作る?」

機龍「う~ん……みんなメインの料理を作ってるみたいだし、僕はデザートでも

   作るよ。簪、手伝ってくれる?」

簪「うん。わかった。」

一夏「具体的にどういうのを作るんだ?」

機龍「スーパーで買って来たレモンの果汁を使ったゼリーだよ。

   暑い日にはさっぱりしたものも良いでしょ?」

一夏「成程。んじゃ、俺はごはんとみそ汁でも作るわ。」

と言っているうちに、機龍達はそれぞれの料理を仕上げていった

カレイの煮つけ――By箒

鶏の唐揚げ――Byシャルロット

肉じゃが――By鈴

おでん――Byラウラ

レモンゼリー――By機龍&簪

と、普通の料理が出来て来た―――はずだった

ハッシュドビーフ……のような物――Byセシリア

 

明らかにセシリアの料理はおかしいのだ 見た目は確かにハッシュドビーフで

間違いないのだが、彼女は見た目を気にするばかり、タバスコなどを大量に

投入し、味の方が『少々』変になっているのだった

そして、当然のようにセシリアはその料理を想い人である機龍に

進めたのだ 

そして、一夏達が緊張した面持ちで見守る中、その料理を食した機龍

機龍「うん。美味しいよ。」

と言って、セシリアを満足させたのだった

……これも、機龍の味覚の機能のなせる業なのだろう

 

その後、それぞれの帰路に着く箒や鈴、シャルロット、機龍達

と言っても、皆帰る場所は学園の寮なため、それぞれの部屋の前までは一緒

だったのだ

 

そして、機龍と簪が自分の部屋に戻るときだった

セシリア「あ、あの!機龍!」

部屋に入る前に、セシリアが機龍を呼び止めた

機龍「何?」

セシリア「じ、実はその……機龍にお話しがあって……」

機龍「お話?」

セシリア「はい。……夏休み…大体3週間ほどなのですが……

     私の祖国、イギリスに遊びに来ませんこと?」

機龍「それって……」

セシリア「はい。数日後、私は一度祖国に戻ります。それでその……

     機龍もご一緒に……私の祖国にご招待しようかと、思いまして…

     チケットも、ファーストクラスの物が2個、手違いで届いてしまいまして…

     使わないのももったいないので、誰かを帰省に誘おうと思っていたのです。

     如何でしょうか?」

と言って、少々顔を赤くしたセシリアが、機龍の様子を伺っている

機龍「僕は……行ってみたいとも思う。……でも……」

そう言って後ろの簪の方へと視線を移す機龍

 

彼は、今までずっと一緒に過ごして来た簪と3週間も離れるのがつらいのだろう

今でこそ、簪は機龍にとって母親ともいうべき心の拠り所なのだ

何より、簪だけを残していくのが、機龍は心配だったのだ

それを知ってか知らずか、簪は機龍に微笑みかけながら言った

簪「……私は心配しないで。行っておいでよ、セシリアさんの国。

  お土産、期待して待ってるから。」

機龍「……簪……うん。わかった。セシリアお姉ちゃん、僕、行くよ。イギリスに。」

こうして、機龍は初めて、日本以外の国へと、飛び出していく事になったのだった

     夏休み編 END

 




と、言う訳で次回は機龍とセシリアのイギリスでのお話です。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 英国編

と言うわけで、今回は閑話のお話です。


~~前回までのあらすじ~~

臨海学校での一件も終え、とうとう夏休みに突入した一夏と機龍達

そんな中で一夏の家に遊びに来た機龍達と箒たち 

織斑家に8人全員が集まり、ゲームをしたり、一緒に調理した夕食を

食べたりとして、全員で楽しい思い出を作っていた 

そんな中、母国であるイギリスに帰国する事になっていたセシリアは、

その帰省に際して機龍を誘った そして、機龍は初めての外国、

『イギリス』へ行く事を決めたのだった

 

 

ある日の朝 IS学園にほど近い空港のターミナルに、カバンを持った

私服姿のセシリアと機龍、そして、二人を見送りに学生服姿の簪が居た

簪「それじゃ、機龍、セシリアさん。行ってらっしゃい。」

機龍「うん。行ってくね。簪。お土産、期待しててね。」

セシリア「では、そろそろ時間ですし、機龍、行きましょう。」

機龍「うん。」

簪と別れた機龍とセシリアは、カバンを持ったまま、飛行機の中へと

乗り込んでいった 

カバンをしまい、ファーストクラスのゆったりとしたチェアに背中を預ける

機龍

  「わ~……椅子がフカフカだ。」

セシリア「うふふ、そうですわね。あ。機龍は何か飲み物は要りますか?

     機内で頼むこともできますわよ?」

機龍「う~ん……今はいいや。それより…僕はセシリアの国、イギリスの事が

   聞きたいな。」

セシリア「な、成程!では、私の祖国のすばらしさを機龍にも教えて差し上げますわ!」

と、息まくセシリアだった 

そこから、数時間とセシリアのイギリスのついてのうんちくが続いた

    「それに加えて、我がイギリスでは……」

機龍「………」

セシリア「?…機龍?」

前を向いたまま喋っていたセシリアは、機龍が無反応な事に気づいてそちらに

視線を向けた

機龍「すぅ……すぅ……すぅ……」

そこでは、機龍がかわいい寝息を立てながらチェアに頭を預け、眠りについていた

セシリア「あらあら……かわいい寝顔ですわ。」

と言って、機龍のぷっくりとした頬をつつくセシリア

と、そこにCAが通りかかった

    「あ、すみません。」

CA「はい?どうかされましたか?」

セシリア「毛布を一つお願いできますでしょうか?連れのこの子が

     眠ってしまったので……」

そう言われて、機龍の方に視線を移すCA

CA「はい。分りました。少々お待ちください。」

数分後、CAが持ってきた毛布を機龍に掛けてから、額にかかった銀髪を

払うセシリア その表情は、まさに愛しい息子を見守る母親のそれだった

セシリア『もし、私が機龍を好きと言ったら、この子は受け入れてくれるでしょうか?

     もし……許されるなら、私は機龍と………』

    「…いつまでも……」

そう言いながら、窓の外を流れる青空に視線を移すセシリアだった 

 

やがて、数時間後

    「…龍……機龍。」

眠っていた機龍を、セシリアが起こした

機龍「う……う~ん……セシリア、お姉ちゃん。…どうかしたの?」

瞼をこすりながら、上半身を起こす機龍

セシリア「ほら、御覧なさい。我が祖国が見えてきましたわ。」

機龍「え?」

驚きつつ、機体の窓に顔を近づけると、眼下に陸地が見えて来た

平原などが広がる中に、銀や茶色の色…建物が見え始めた

  「ここが……お姉ちゃんの故郷……イギリス。」

セシリア「はい。ようこそ、我が祖国へ。」

機龍はそんな言葉を聞きながら、窓の外の異国の景色に見入っていた

 

それから数分後、機龍達を乗せた飛行機が空港へと着陸し、貨物室に預けた

荷物を受け取ってから、空港の外へと出た 

と、そこに一人の女性が近づいて来た

???「お帰りなさいませ、お嬢様。」

スーツ姿の女性がセシリアの前で恭しく礼をした

セシリア「ただいま戻りました、チェルシー。あ、機龍。ご紹介しますわ。

     私の専属メイドである……」

チェルシー「『チェルシー・ブランケット』と申します。以後、お見知りおきを。」

と言って、今度は機龍に向かって礼をするチェルシー

機龍「は、初めまして。僕は篠ノ之機龍と言います。よろしくお願いします。

   えと、お世話になります。」

と言って、ペコリとお辞儀する機龍

チェルシー「はい。お嬢様から聞き及んでいます。さぁ、どうぞお乗りください。

      まずはお屋敷までご案内します。」

そういって、白のロールスロイスに乗り込むセシリアと機龍

 

だが、この時二人を監視している無数の人影があったことを、本人たちは

気づいていなかった  

 

二人を乗せた車は、空港を離れた後、都市部を抜けて、街の郊外にある草原地帯

へと進んだ やがて、そんな草原地帯の一角に周囲を塀で囲まれた敷地が見えてきた

そして、その敷地の中に通じる門の前で車が停車すると、待っていたかのように門が

自動で開き、車を中に入れた

機龍「ここって……」

セシリア「はい。この塀の中はすべて、オルコット家の所有する土地となっていますわ。」

門を潜り、中央に見えた屋敷に向かって草原の中の道を進んでいく車

そんな車窓から外の景色を眺め、初めて見る景色に機龍は目をキラキラ

させていた と、そんな景色に見とれる機龍の後ろで、セシリアは内心で

ガッツポーズをしていた

    『どうやら機龍の第一印象は抜群のようですわね!

     ハァ、機龍。私たちはいずれここで二人で……』

 

~~セシリア妄想中~~

一つのベッドに二人で横になっているセシリアと機龍

機龍「お姉ちゃん。僕、その……」

セシリア「どうかしましたか?」

機龍「もっと……もっとお姉ちゃんと仲良くなりたいの。だから……」

そう言ってセシリアの胸に顔をうずめる機龍

  「……僕と、――――して。」

~~妄想終了~~

 

セシリア『い、いい、いけませんわ!機龍とあんな事やこんなことなんて!

     で、でも……もし機龍にその気があったら!?二人で一つのベッド、

     静かな夜に、二人っきり。満月の光に照らされたロマンチックな部屋で……』

と、イメージを膨らませるセシリア

    『あぁいけませんわ。私の方が機龍を襲ってしまうかもしれませんわ。』

と言って顔を赤くしてから両手を頬に添えてエッチなイメージを浮かべている

セシリアだった 

他にも、プールサイドで水着姿の自分たちのエッチな事を想像したり、

一緒に料理していた場面や何やらを想定していて、

車が屋敷の前につくころにはセシリアは顔を真っ赤していた

 

その後、屋敷の大きな扉を開けて、中へと案内された機龍

機龍「うわ~~。広~~い!」

中央の玄関先には大きなエントランスが広がっていて、シンメトリーに広がった

玄関 天井からは大きなシャンデリアもぶら下がっており、あちこちにはきれいな花も

飾られていた 

外以上に、初めて豪邸を見る機龍の目は輝いていた

そんな機龍をしり目に、何やらヒソヒソ話を始めたセシリアとチェルシー

チェルシー『お嬢様、どうやら機龍様は大変ご機嫌のようですね。』

セシリア『えぇ、わたくしもあの子が喜んでくださって何よりですわ。』

チェルシー『確かに。…それと、お嬢様。』

セシリア『何ですの?』

チェルシー『機龍様も子供とはいえ、一人の男性。夜、もしもの事が

      起こった場合は、我々も察するように気を配っておきますので。』

セシリア『な!?ななな何を!?』

チェルシー『お嬢様もそういったことに興味を持つお年頃。

      愛する殿方に体を預けるというのも、経験してみる価値はありますよ。』

セシリア『チェチェチェ、チェルシー!?何を言ってますの!?』

チェルシー『ご安心ください。この私が、お嬢様に似合う最高の勝負下着を

      あつらえます。』

そういわれて、顔を真っ赤にするセシリアだった 

ちなみに、機龍は二人が話している内容は豪華な内装に夢中で全く聞こえていなかった

 

その後、屋敷の中をチェルシーやセシリアに案内された機龍は今は二人で

チェルシー達メイドが作った料理を食していた

広い部屋に通されたと思ったら円形のテーブルが置かれ、中央には豪華な花瓶と花が

置かれていた さらに、外の景色が見えるようにと壁一面がマジックミラー式の

防弾ガラスになっていて、食事をしながら外の景色を安全に眺められるようになっていた

機龍が窓の外の景色に見惚れていると、料理を乗せたワゴンを押しながらメイドたちが

入ってきた 

セシリア「さぁ機龍、ランチにしましょう。」

機龍「あ、うん。」

普段とは異なりすぎる事に驚いてばかりの機龍

メイドの人に椅子を引かれたり、初めてのコース料理やテーブルマナー、

ナイフやフォークの使い方に四苦八苦していた

そして、そんな初々しい機龍にも魅力を感じているのか、セシリアや

一部のメイドたちの機龍を見る視線が妙な熱を持っていた

 

そして夕食の後、機龍はセシリアに『屋内プールで泳がないか』と

聞かれたのだった

興味を持った機龍がセシリアに案内してもらってそこに行くと、

そこには先ほど食事をしたのと同じマジックミラー式で外の景色が見える

屋内プールが広がっていた

機龍「すごい。部屋の中にプールがある。」

と言って目をキラキラさせる機龍にまたしてもガッツポーズをするセシリアだった

セシリア「どうです?遊んでみますか?」

  「うん。……あ。でも、僕水着は……」

持ってきていないとセシリアに言おうとして彼が振り返ると、

そこには……

セシリア「それなら大丈夫ですわ!様々な水着を各種取り揃えておりますわ!

     好きなのをお選びなさいな!」

大量の男物の水着が用意されていた

機龍「えっと……じゃあ、これを。」

と言って、ブルーの水着を選ぶ機龍

セシリア「そ、それでは私も着替えてきますので!少々お待ちになってて

     くださいまし!」

と言って猛ダッシュでどこかへと行ってしまうセシリアだった

残された機龍は少し考えてから、プールに入る前の準備体操を始めた

 

しばらくしてプールの縁に座りながらバシャバシャと足を水につけながら待っていると

セシリアが戻ってきた

足音に気付いて振り返ると、そこには海の時とも違う、黒い水着を着たセシリアの

姿があった

黒いビキニ姿で、下はスカートのようなフリルがついていた

その姿を見て、機龍は顔を赤くしながらセシリアに見惚れていた

セシリア「ど、どうですか?変、ではありませんか?」

機龍「う、ううん!そんなことないよ!すごく似合ってるよ!」

セシリア「ッッ////」

と言われて、セシリアは顔を赤くしながら口元を覆った

    『いい、いけませんわ。機龍に褒められただけで……にやけてしまう

     顔を見られないようにしませんと……』

そんなことを思いながらセシリアは機龍に背を向けたのだが、

当の機龍も……

機龍『なんで……なんで僕、セシリアお姉ちゃんの水着を見ただけで……こんなに

ドキドキしてるんだろう。………これも、恋…なのかな?……わかんない。』

と、人として、人間として、一人の男として生まれた事で生じた新しい感情…

『性欲』について、まだよくわからない機龍だった

 

その後、自分の中の疑問を振り払い、セシリアとプールで二人っきりで

遊び始めた機龍だった

彼女と泳ぎで競争をしたりと様々な遊びをしていた時だった

  「プールの中でバレー?……でも、僕たちだけじゃ……」

セシリア「そこは心配には及びませんわ。」

そう言ってパチンと指を鳴らすセシリア

すると、いきなりプールサイドに競泳水着のような姿に白いエプロンを付けている

チェルシー達メイドが集まってきた

    「人数ならみんながいるから心配ありませんわ。」

チェルシー「では、僭越ながら、我々も参加させていただきます。」

ということで、水着姿のメイドさん達も交えて、プールの中でバレーをすることになった

 

水中という動きにくい環境の中ではあるが、あっちこっちを行きかい、上を飛ぶ

ボールを追っては弾いて、たまにこけて水中に倒れる事もあったが、

それ自体は機龍にとっての楽しい遊びの一つだった

そんな時だった

 

     「お嬢様!行きますよ!」

チェルシーがセシリアに向かってトスをしてのだが……

セシリア「はい!」

意気込み、上を見ながら移動していたセシリアだったが、足を滑らせて倒れてしまった

機龍「お姉ちゃん!大丈夫?」

すぐさま機龍が近づくと、海面下からセシリアが浮かび上がってきた―――のだが……

セシリア「ふぅ、少し驚きましたが、大丈夫ですわ。」

機龍「…………」

機龍はセシリアの体を見て、顔を真っ赤にしながら茫然としている

セシリア「?機龍?」

チェルシー「お、お嬢様。」

機龍の無反応に疑問符を浮かべたセシリアだったが、チェルシーが呼んだので

そちらを向くと、彼女や、彼女の後ろのメイドたちが顔を赤くしていた

そんな中でチェルシーは無言のままセシリアに『下を見て』と言いたげに

指を下に向けた

セシリア「?……ッ~~~~~~~!!」

流れるように下を見たセシリアの顔は、真っ赤になった

なぜなら――――倒れた衝撃でブラの紐が緩んでブラがとれてしまったのだ

つまり……今の彼女は乳房をまんべんなく晒していたのだった

 

それを見た機龍も、どうやら思考がショートしてしまったようだった

慌てて首から下を水の中に潜らせるセシリア

    「機、機機……機龍?……見ました?」

その問に、顔を真っ赤にしながら明後日の方向を向きつつ、コクンと頷く機龍

それを見て、セシリアの方も顔を真っ赤にしてしまった

機龍「ご、ごめんなさい。その……お姉ちゃんの…胸。見ちゃった。」

そう言いながら、顔を真っ赤にしたまま互いの背を向け合う機龍とセシリア

  『やっぱり……僕変だ。さっきから、ずっとドキドキしてる。

   ひょっとして……僕、病気なのかな?

   苦しい。胸と、お股の辺りが……ドキドキして苦しい。

   僕の体…どうなってるの?』

セシリア『ままま、まさか……機龍に胸を見られてしまうなんて!

     は、恥ずかしいですけど……どうやら機龍も一人の男性。

     私の体で、その……興奮してくれたようですし……

     これは私にもチャンスがありますわ!』

と、一人意気込むセシリアだった

 

その後、プールから上がった機龍達 そのあとは普通に夕食などを

取って、機龍は自分のために用意されたという部屋に案内され、

そこのベッドに入ったのだが………

機龍「……広すぎて落ち着かない。」

余りの大きさのベッドに慣れないのだった

 

しかし……そんなハプニングもありつつ、楽しい日常は、長くは続かなかった

 

機龍がオルコット家にやってきて、3日目のある日の事だった。

早朝、機龍とツーリングに出かけたセシリア

そして帰宅後、シャワーを浴びた後の事だった

チェルシー「お嬢様。お電話が入っております。」

セシリア「電話ですか。どなたからですか?」

チェルシー「……空軍の将校です。」

その言葉に、髪を拭いていたタオルの手が止まった

セシリア「確かに……IS持ちは軍隊、空軍の所属ですが、

     ISについての事は明後日のはず。なぜ今日……」

チェルシー「わかりません。が、相手の声の中に、何やら黒い物を

      感じました。お気を付けください。」

セシリア「チェルシーがそこまで言うのなら……最大限の警戒を持つべきですわね。

     電話を私の部屋に回してください。そこで受けます。」

チェルシー「かしこまりました。」

手早く体を拭き、バスローブを纏ったセシリアが電話に出た

 

セシリア「お電話変わりました。セシリア・オルコットです。」

   ≪はじめましてセシリア・オルコット代表候補生君。

    私は、イギリス空軍でIS関連の指揮を任されている、『エル少佐』

と言う者だ。≫

出た相手は女性のようだ。イギリスではISは空軍の所属となっている。

つまり、最近の空軍のトップはISが扱える女性が選ばれることが多い。

今、電話の相手が女性で将校なのも、そこから来る理由だろう。

セシリア「少佐自ら、と言うのは光栄な事なのですが、私に何か、御用でしょうか?」

エル≪あぁ、実は、我々の情報班が君のところに篠ノ之機龍なる人物がいるのを、

   見たというのでね。≫

セシリア「ッ……」

    『まさか……狙いは機龍!?なぜイギリス政府が……いえ、ISを持つ

     先進国となれば、開発者である束博士の血縁者と目される機龍を

     狙うのは当然。各国も、表立って狙ってはいなくとも、裏では

     非合法を問わずに博士を狙っているのが現状。まさか、機龍を

     人質に?そんな事をすれば、あの人を本当に怒らせかねないというのに。

     ここは……』

    「はい。確かに、機龍は私のご学友であり、私の誘いで

     イギリスに来ていて、オルコット家に滞在していますが、何か?」

    『できるだけ、相手の真意を探る。』

エル≪いやなに。彼の持つISは実に興味深いんだ。以前学園で起こった問題の

   大半を、彼の機体が解決しているからね。聞いた話では、君も彼に

   救われたことがあるそうじゃないか。大切な候補生を守ってくれた事、

   上官としてお礼がしたくてね。≫

セシリア『チェルシーの言っていた黒い感情とはこの事ですわね。

     表向きは機龍に対する謝礼を述べる気でも、裏では

     あの子を利用しようとしている。』

その事実に、相手にバレないように密かに唇をかむセシリア

    「そうでしたか。では、私の方から機龍にもその事を伝えて―――」

エル≪いやいや。実は我々から彼に謝礼を渡そうと思っていてね。

   どうだろう?君も色々と報告があることだし、我々の元に

   彼を連れてきてくれないかな?≫

セシリア「な、なるほど。ですが機龍はどこの国にも属さない人物ですし、

     安易にそのような事をしては、諸外国に何を言われるか……」

エル≪そんな事は君の考える事ではない。……あぁそうだ。そういえば、

   君は独自に新装備をブルー・ティアーズに積載したそうだな?≫

セシリア「ッ……はい。仰る通りです。」

エル≪聞いた話では、その装備の提供者は篠ノ之機龍、だそうだね?

   ……現地での応急的な改造は君たち候補生に対しても我々は認めている。

   しかし、それにも限度がある。わかるかな?

   ISは武装を拡張領域に放り込むだけでなく、機体の一部を改造した。

   さすがに、そこまでの事に目をつむるのはかなり難しいな。≫

セシリア『つまり……私の機体の勝手な改造を帳消しにする代わりに、

     彼を連れてこいと。……くっ!機龍がこんな人間を見たらどう思うか!』

そう思っている彼女の脳裏に、束の一言が浮かび上がった

 

 『リュウ君はね。身勝手な人間に生み出されて、身勝手な人間に殺されたんだよ。』

 

    『今私と話しているのも、その身勝手な人間と言う事ですか。』

セシリア「わかりました。ただ、彼の本意を聞きますので、10分ほど後に

     こちらからかけなおしますので、よろしいでしょうか?」

エル≪あぁ、良いとも。良い返事を期待しているよ。≫

 

そういうと、相手は電話を切った セシリアは、電話をつかみ、カタカタと

怒りに体を震わせていた

 

その後、事の次第をチェルシーに相談してから、セシリアは朝食の時に

その話を切り出した

機龍「僕に会いたい人がいるの?別に構わないけど……」

セシリア「機龍。あなたに会いたいといっているのは……空軍の

     将校なのです。そして……その将校はおそらく……」

機龍「……そっか。僕の情報がほしいんだね。」

セシリア「ごめんなさい!私が、私が断われていれば……」

そう言って肩を震わせるセシリア それを見かねた機龍が席を立ち、

セシリアに近づき、その体を抱きしめた

機龍「大丈夫。もしもの時は、僕がお姉ちゃんを守るよ。

   これでも僕は……元は……怪物だからね。」

そう言って、悲しそうな笑みを浮かべる機龍

 

だが、その言葉は、セシリアの心に突き刺さっていたのだった

 

そしてその後、チェルシーの運転する車で軍部の施設にやってくるセシリアと機龍

チェルシー「お嬢様、機龍様。どうか、お気をつけて。」

セシリア「……行ってきます。」

機龍「はい。」

車を降りた二人は、少しでも安心できるようにと、手をつないだまま

歩き出した

やがて、煌びやかに装飾された部屋へと案内された二人

 

その部屋には合計で5人の人間が居た

セシリア達の前に現れた将校と思われる女性が3人 

入口を守るように立っている女性兵士が2人

そして、その兵士たちは小銃を携えていた しかも、肩にかけるのではなく、

グリップを握りしめていた すぐにでもセーフティを外して

撃てる態勢と言う事だ。さらに言えば待機状態のISを保持している可能性が

ある。セシリアのブルーティーアズはメンテナンスと言う理由で先ほど

取り上げられてしまった。さすがに機龍のシルバーウルフまでには手を出さなかったが…

 

セシリア『狙っている。……自分たちの権力や地位のために……道具として

     利用するために機龍を狙っている。』

この施設に来てからずっと感じていた悪意に吐き気を催すセシリア

    『そう。……これが、機龍の前世で感じた悪意。……

     人間不信どころか、恨むのも頷けますわ。ましてや、こんな人間たちしか

     知らなければ……機龍は、こんな苦しみをずっと……』

そう思いながら、手を繋ぐ機龍の事を見ていたセシリアだったが……

エル「やぁ、よく来てくれたね二人とも。」

その声を聞き、前を向いた 

 

そこでは、機龍を品定めするような視線が3つあった 

先ほどセシリアに電話をしていたエルと、さらに二人の女性将校の物だ。

その視線のせいで、深層意識の奥底に眠っていたゴジラを起こしてしまった

 

ゴジラ『……なぁ、こいつら殺していいか。』

機龍『……考えておくよ。……やっぱりこの視線は嫌いだ。

   早くセシリアお姉ちゃんとお家に帰りたい。』

ゴジラ『珍しいな。俺のお前の意見が合うなんて。……ソイツには癪だが賛成だ。

    こんな巣窟よりあの家の方が数倍ましだ。』

機龍『君も……少し変わったね。そんな事を言うなんて。』

ゴジラ『……比べればの話だ。』

そんな意識の中での会話は周りに聞こえるはずもなく、機龍達の前では

エルが機龍のセシリアを助けた行為を『形だけ』称賛した。そして……

 

エル「そう言えば……機龍君。君はあの篠ノ之博士と同じ苗字を持っているが、

   彼女は君の母親なのかな?」

機龍「僕は束に拾われた。その時に、機龍と言う名前しか覚えていなかった。

   だから束は僕の家族になるって言ってくれた。だからその名前を僕にくれた。

   それだけ。」

エル「成程。……そう言えば、君はどこの国にも所属していないのだったね?」

機龍「……一応。」

エル「成程。では……篠ノ之機龍君。我がイギリス軍に入る気はないかな?」

その言葉にセシリアは驚愕しつつ、やはりと言いたげな顔をしている

機龍の方は……

 

ゴジラ『……あいつらの目、腐った人間どもと同じだ。

    自分たちで俺達を生み出しておいて、脅威になると思うとすぐ排除に

    かかる。あいつらの目はそんな人間と同じだ。俺達を道具として見てやがる。

    ……相棒、俺はもうあんまり我慢できねえぜ。』

機龍は震えだした右手を左手で抑えてから、前を見つめた

機龍「お断りします。僕はどこの軍隊にも着くつもりはありません。

   僕は軍隊が嫌いです。どこかの国の言いなりになる気もありません。」

そう言ってきっぱりと否定する機龍 そして……

エル≪ちっ、子供のくせに、大人に逆らうんじゃないよ≫

機龍の耳だからこそ聞こえたエルの小言 そして、急に指を鳴らすエル

その時、天井から二体の兵士が降下してきてセシリアを取り押さえた

咄嗟に助けようとする機龍の横にいつの間にか現れた兵士が機龍の側頭部に

銃を突き付けている

  「君たちの選択の余地はないよ。あるとすれば、ここで二人とも死ぬか。

   彼女のために君が我々に協力するかだ。アハハハハ!

   こんな所で大切な友人を失いたくないだろう!それに……」

エルがセシリアの方を見て笑みを浮かべると……

   『ビリビリビリ』

セシリア「い、いやあぁぁぁっ!」

彼女を押さえつけていた兵士の一人がセシリアの服を引き裂いた

エル「このままだと彼女は兵士たちのおもちゃにされてしまうよ!

   アハハハハ!」

高笑いを浮かべるエルと、歪んだ笑みを浮かべる将校や兵士たち

その行為が……≪ゴジラ≫を覚醒させるとも知らずに……

 

次の瞬間、機龍の瞳は真っ赤に染まり、輝くような銀髪は瞬く間に常闇の如く

黒に染まった。飛び上がり、自分に銃を向けている女性兵士を押し倒し、

その顔を鷲掴みした。余りの事の全員が唖然となるなか、兵士の顔を掴んだ

機龍……もといゴジラの人格に移り変わった事で、肉体、正確に言えば

右手が変化した。それは機龍のそれではなく、万物を破壊する4本爪の

破壊者の手だった。

そして……4本の鉤爪が女性兵士の皮膚を突き破って、骨さえも砕き、

肉を抉り、そして……

   『グシャッ!』

女の顔が握りつぶされた つぶれた顔を壁に投げつけるゴジラ

ゴジラ「ふぅ……ふぅ……グルァァァァァァァッ!」

獣のような雄たけびを上げると、もう一人の銃を構えた女性兵士に肉薄する

その兵士は持っていたアサルトライフルをゴジラに向けて発砲するが、その銃弾は

ゴジラの服に穴をあけるだけで何の効果も無かった

 

右手を突き出し、壁際に立っていた兵士を壁に縫い付けた。さらに体を

貫通した腕が壁に突き刺さり、クモの巣状のヒビが壁に走った

口から大量の血を吐きながら痙攣する女性兵士 しかしそれで終わりではなかった。

 

腕を突き刺したまま、兵士の体を自分の上に掲げたゴジラは空いている左手で

兵士の首を持ち……胴体から上下に肉体を2つに引き裂いた

ゴジラ「GYAOOOOON!」

血の雨を浴びながら、獣の咆哮を上げたゴジラ 

 

そして、怒りがその体をさらに破壊神へと進めて行った

背中から服を突き破るように背びれが現れ、皮膚は所々黒く変色し、

瞳孔は獣のように縦に長く変化した。腰からは尻尾も現れた

 

その姿はまさに『半人半獣』。そして、ゴジラが次に狙ったターゲットはセシリアを

拘束している兵士2人 床が崩壊するような勢いで跳躍し、鉤爪に変化した

両手で兵士2人の頭を掴んで壁に激突させた

その攻撃で死亡する兵士たち だが、ゴジラの怒りは収まらない

死した肉体をさらに爪で切り裂いて人体を挽き肉に変えていくゴジラ 

その光景を見ていた女性将校の一人が机の中から拳銃を取り出し、表情を蒼白にしながら

ゴジラに向かって引き金を引いた 乾いた音と共に銃弾がゴジラの体に当たるが

そんなのはゴジラにしてみれば豆鉄砲以下、唯々気を引いただけだった

 

ゴジラがエルと二人の将校の方を向くと、拳銃を持った将校が入口の方に向かって

悲鳴を上げながら走り出した。 しかし、それを逃がすゴジラではない。

その前に先回りし、突き出した爪が将校の体、将校の左胸に突き刺さった

そこから手を引き抜いたゴジラの手に握られていたのは、今しがた殺した将校の

心臓だった。それをひと思いに握りつぶしてから、残った獲物に視線を向ける。

すると、エルがもう一人の将校が持っていた待機状態のISを奪って作動させ、

イギリス国産の青がメインカラーのIS『タイフーン』を起動させた。 

 

すぐさまタイフーンの手持ちのレーザーライフルをゴジラに向けて発砲する、が……

ゴジラはそのレーザーを片手で受け止めた。そして、エルがISを奪った将校の

方に飛びかかり、押し倒したゴジラは、怒りに任せたまま女性将校の四肢に

噛みついた

  「ぎゃあぁぁぁぁっ!」

   『バキッ!ボキッ!』

と、悲鳴と同時に骨を砕き、クチャクチャと肉を喰らう音が部屋の中に響いた

そして、最後の獲物に狙いを定めるゴジラ 

その視線はまさに獣 前傾姿勢のまま、本能の赴くまま目の前の『敵』、或いは

『獲物』に襲い掛からんと隙を伺っている。 そして、恐怖に支配されたエルが床

に出来た血の池に足を滑られバランスを取られたとき、そのエルをISごと

押し倒した 血まみれの体と獣ごとき牙が生え、唸り声を発する口、

肉食獣の如き、殺意と憎悪に満ちた瞳 変色し、血塗れた腕

その全てがエルを恐怖させた

エル「ひっ!た、頼む!助けてください!お願いします!地位でもお金でも

   なんでもあげます!だから命だけは―――」

ゴジラ「GYAOOOOON!!!」

エルの言葉を上書きするかのように、咆哮を上げるゴジラ

   「イラネエヨ!ソンナモン!!」

もはや人ではなくなった口から発せられたのは、憎悪に満ちた呪詛の如き言葉

   「テメエノキタネエカネデオレヲウゴカセルカ!」

そう言うと、ゴジラは大きく口を開け、エルののど元に喰らいついた

大量の血しぶきが上がる中、暴れるエルだったが、怪獣王の力に勝てるはずもなく、

次第に弱っていき、数秒後には死んだ

そんなエルから起き上がり……

   「GYAOOOOON!!!!!!!」

ひと際大きな咆哮を上げたゴジラは、光に包まれ、元の機龍の姿になって、

いつも間にか気絶していたセシリアの元へと、歩み寄ったのだが、

すぐに気絶してしまった。

そして、薄れる意識の中で、一人の少女が、部屋に入ってきて機龍達を見るなり

駆け寄ってきたが、そこから先は機龍は覚えていなかった

 

その後、セシリアが目を覚ましたのは自宅のベッドの上だった

セシリア「………チェルシー?」

半覚醒な頭を巡らせ、傍らに控えていた自分のメイドの姿を見て、声に出るセシリア

それを聞いてチェルシーもはっとなってセシリアの方に顔を向けた

チェルシー「お嬢様!よくぞご無事で!」

セシリア「……私………ッ!機龍!」

咄嗟にあそこでの事を思い出し、飛び起きたセシリア

    「チェルシー!機龍は!?あの子はどこに!?」

それを聞いて息をつくチェルシー

チェルシー「自身の横を、よくご覧になってください。」

セシリア「え?」

そう言われて左右に視線を振ると、自分の右側、ちょうどチェルシーの居る位置の

反対側に妙に膨らんだ部分があったので、セシリアが布団を退けると、そこには

セシリアと同じようにバスローブを身にまとい、眠っている機龍の姿があった

やがて、機龍の体や自分の体を確かめ、傷や痣がない事を確認したセシリア 

    『私の記憶では……機龍の髪と瞳の色が変わった後までは覚えていますが、  

     その後の記憶が一切ない。……そう言えば、私はどうして自宅に?』

    「チェルシー、私は一部の状況を把握していませんの。何かわかる範囲で

     私に―――」

???「その事でしたら、私が説明します。」

セシリアの言葉を遮るように、部屋の入口から一人の銀髪の少女が入ってきた

セシリア「……あなたは?」

初めて見る相手に警戒を強めるセシリア

クロエ「申し遅れました。私の名はクロエ・クロニクル。

    束様の使いです。」

セシリア「篠ノ之博士の?」

クロエ「はい。よろしければ、あの部屋で起こった事を説明しましょうか?」

セシリア「……お願いします。」

クロエ「わかりました。……あぁ、そうだ。…確認なのですが、映像は必要ですか?」

セシリア「映像?」

クロエ「はい。あの部屋の天井にあった監視カメラの映像が全てを記録していました。

    ……ですが、かなりショッキングな映像です。……今のあなたには、

    映像無しでの方をお勧めしますが?」

セシリア「……構いません。……この子の出生を知った日から、真実から目を背けないと、

     誓いましたから。」

クロエ「……わかりました。メイドの方は退室を。あまり良いものではありませんよ。」

チェルシー「私はお嬢様の専属メイドです。主の傍に可能な限り控えるのも、

      また務め。お気になさらず。」

クロエ「……わかりました。」

 

そしてクロエは、空中にディスプレイを投影し、そこに部屋で起こった事の全てを

流した。エルの卑劣な交渉。ゴジラの覚醒と惨殺、エルの死と気絶するゴジラ

そして、部屋にクロエが入ってきて機龍とセシリアを回収したところで映像は

終了した。

 

映像を見てから、深呼吸をするセシリア

セシリア「……ふぅ……あんな事があったのですね。」

クロエ「その後、脱出した私はそこのチェルシーさんと合流し、

    密かに二人をここに運び込みました。

    それと、機龍……もといゴジラが屠った人間の事はお気になさらずに。

    反政府組織の仕掛けた爆弾が爆発したとして、あの部屋と

    周囲15メートルを跡形もなく吹き飛ばしました。

    近く、英国政府からそのような発表があるでしょう。

    あなた達があそこにいたという証拠も一切残っていません。

    MPの記憶操作も完璧です。あの時二人は、『あそこにはいなかった』

    事になります。発言にはお気を付けください。」

セシリア「なぜ、そんな事をしてくれたのですか?」

クロエ「……第一に、これは私の主人でもある束様の意向です。

    あの方の他人への接し方が機龍との出会いで変わったとはいえ……

    いえ、むしろ機龍を溺愛しているがゆえに、あのような自身の利益しか

    考えない人間が大嫌いなのです。……あの人たちの運の尽きはそこです。

    機龍に手を出せば束様が黙っていないのを見抜けず、内なるゴジラまで

    呼び出す羽目になって。……自業自得です。

    第二に……私も機龍が好きです。純粋で、優しくて、まっすぐで……

    そんな機龍で私腹を肥やそうとしたあの屑たちが許せなかった。

    それだけです。それと、これをお返ししておきます。」

そう言ってクロエがセシリアに渡したのは、基地で押収されてブルーティアーズだった

セシリア「一つ……聞いてもよろしいでしょうか?」

クロエ「何でしょう?」

セシリア「なぜ、あの時機龍の容姿が変わったのですか?

     何というか、別人になったような……」

クロエ「それはそれで正解です。」

セシリア「え?」

クロエ「……事態を呑み込めていないメイドさんもいる事ですし、

    予め最初から話しましょう。

    まず、機龍とは厳密に言うなれば『人間』ではなく、『人の形をした

    器に異世界の怪獣の力と記憶を埋め込んだ人物』と言うのはわかりますね?

    質問を予測していうならば、機龍の前世の名前は『ゴジラ』と言う

    50メートルを超える怪獣でした。しかし、ゴジラは人間に敗れ、

    海の中に骨を残して消えました。しかし第二のゴジラの危機に晒された

    人類は初代ゴジラ、つまりゴジラの骨を使って生体ロボット、

    メカゴジラを建造し、対G兵器……『機龍』と名付けました。」

チェルシー「それが、まさか篠ノ之機龍様、だと?」

クロエ「そう。そして機龍はゴジラとの3度の渡る決戦ののち、ゴジラごと

    海に沈んだ、はずでした。しかし機龍は何の因果か人の姿となり、

    この世界へと迷い込んでしまった。そしてそれを見つけたのが

    束様、私の主と言う事です。やがて目覚めた機龍は束様の勧めで

    IS学園へとご入学し、今に至るわけです。……では、質問の答えに

    入りましょう。……あの姿の機龍は一体何なのか、と言う質問でしたが、

    まず第一に、機龍はゴジラであり、ゴジラが機龍なのです。」

セシリア「えと、つまり?」

クロエ「敢えてこの場では機龍と言いますが、彼の体には、2つの人格が存在します。

    一つは、人を愛し、慈しみ、優しく、心強い、今の姿、機龍としての姿です。

    もう一つは、人を憎み、蔑み、厄災と呼べるほどの力を持った、

    ゴジラとしての人格です。……機龍は一つの体に2つの人格を持っているのです。」

チェルシー「二重人格、と言う事ですか?」

クロエ「一言で言えばそうなるでしょう。セシリア様が目撃した瞳と髪の色の

    変化は、視覚的に性格の逆転を表すものだったのです。

    銀の髪と黄色の瞳が機龍、黒髪と赤の瞳がゴジラ、と言うわけです。

    そして、そのスイッチの役割を果たすのが、機龍の感情の起伏です。

    機龍は何よりも他者を傷つける者に対して怒りを露わにします。

    そして、人を道具としか思わないような人間にも……。その怒りが

    限界を超えた時、ゴジラとして人格が全面に押し出されるのです。

    そして、ゴジラは本能の赴くまま、『獲物』たる我々人間を『狩る』。

    ……愛と憎しみは裏表とは、よく言った物です。

    機龍の愛が深いように、ゴジラの憎しみも同等。

    人を愛し、人を憎む存在。……それが機龍でありゴジラなのです。

    ……セシリア様、あなたは今の機龍をどう思いますか?」

セシリア「どうとは……」

クロエ「怖いですか?あんな風に人を引き裂いた彼が、

    人を超えた彼が、いえ……世界さえも滅ぼしかねない彼を、

    あなたはどう思っていますか?先ほどの血みどろの戦いを見ても、

    まだ彼を愛せますか?」

セシリア「それは………」

クロエ「私は……それでも彼を愛してしいます。

    彼は誰よりも優しく、強く、そしてとても愛おしい。

    そんな彼が例え破壊神だったとしても、私は彼を愛するでしょう。

    あなたに同じような事が出来ますか?破壊神の彼を愛する覚悟がありますか?」

その問に、しばし俯くセシリア

チェルシー「お嬢様……」

セシリア「……あります。」

そして、毅然とした態度で答えるセシリア

    「私も、この子を愛しております。……私がこの子にしてあげられる事など、

     微々たるものなのかもしれません。それでも私は一人の女として、

     神の妻になる覚悟はあります。例え、破壊神だったとしても……」

それを聞くと、クロエは笑みを浮かべた

クロエ「わかりました。では、束様にこの事を報告するため、私はこれで

    失礼します。……それと、機龍。」

そう言われ、3人の視線が一斉にベッドで眠っている『はず』の機龍に向けられた

   「狸寝入りとは感心しませんよ。」

機龍の体が、ビクッと動いたかと思うと、もそもそと毛布の中から機龍が

現れた そして、その顔は悲しそうな顔をしていた

   「……聞いていたのでしょう?」

機龍「…うん。……クロエが2人に全部話したことも……あの時の、

   僕自身の、したことも……」

そう言って両手を震わせる機龍 

  「あそこにいた人……全員、僕が、殺した。」

やがて震えが全身に行きわたり、ガタガタと震えだす機龍

そんな機龍を優しくセシリアが抱きしめた

 

セシリア「大丈夫。大丈夫ですから。ゆっくりと深呼吸してください。」

機龍「僕は……僕はまた、人を、殺した。……殺したんだ。この手で……

   なのに……僕は!」

クロエ「機龍。……あなたの怒りはとてもシンプルです。

    大切な人を傷つけられた怒りと憎しみが人を獣に変える。

    それは感情と思考を持つ生き物なら当たり前です。

    ですが、あの人間たちは金や地位と言った物の縋り付いた

    獣以下の屑。機龍が彼らの命に涙を流す必要などありません。

    その怒りはとても大きく、美しいまでの純粋な感情。

    あなたは何も間違ってはいません。……私は、これで失礼します。

    機龍。人の愛は、与えるだけではなく受け入れる物です。

    あなたも、人を愛すだけではなく、人から愛されてみなさい。」

そう言うと、クロエは部屋を出て行った

 

残された機龍、セシリア、チェルシー

しかし、セシリアに抱きしめられた機龍はいまだに震えていた

機龍「……結局……僕は破壊神でしかなかった。……守るって決めた

   人間を…この手で殺してしまった。……情けないよね。

   こんな、僕なんて……」

そう言って涙を流し始めた機龍

 

それを聞いたセシリアは、いきなり機龍をベッドの上に押し倒し、

その上に跨るようにするセシリア

  「お、お姉ちゃん?」

泣きながらも、驚きつつ、セシリアを見上げる機龍

セシリア「……機龍、これから私は、あなたにエッチな事をします。」

機龍「え?」

『エッチ』の意味を理解できずに疑問符を浮かべる機龍

セシリア「あなたの辛い事、悲しい事、苦しい事、その全てを、私が

     忘れさせてあげますわ。チェルシー……」

チェルシー「わかっております。お嬢様の健闘をお祈りしております。」

そう言うと、彼女は退室していった

それを見たセシリアはゆっくりとバスローブを脱ぎ捨て、裸を機龍の前に

晒した

 

※ ここから先はR18シリーズとして別に投稿します

 

営みを終えた二人は、ベッドの上でぐったりとしていた

機龍「……ごめんね。お姉ちゃん。」

セシリア「どうして、謝るのですか?」

機龍「お姉ちゃんは、僕の事を元気づけようとして、あんな事、してくれた

   んだよね。……そしたら、何だか、泣いてた自分が情けなくて……」

セシリア「…機龍。私はあなたを愛しています。それは、あなたも同じですよね?」

機龍「うん。僕もお姉ちゃんは大好きだよ。」

セシリア「でしたら、何も謝る事はありませんわ。

     お互いが好き。だから、困っているとき、辛い時、悲しい時、

     傍で寄り添い合い、支える事は普通な事。

     だから、私たちはお互いを支え合って生きていく。

     それは、ダメですか?」

機龍「ううん。……そうだね。僕は一人じゃない。みんなが、お姉ちゃんが居る。

   ……ありがとう。セシリアお姉ちゃん。」

セシリア「どういたしまして♪」

そう言って機龍にキスをするセシリアと、それを受けて顔を真っ赤にする機龍だった

 

こうして、急速に仲を深めていった機龍とセシリアだった

そんなこんなで無事に滞在期間の一週間を過ごした機龍

その日の国際空港では機龍の見送りにセシリアとチェルシーが来ていた

機龍「それじゃ、お姉ちゃん。僕は一足先に学園に戻ってるから。」

セシリア「はい。また再び、学園で。」

機龍「うん。…チェルシーさんも、お世話になりました。」

チェルシー「いえ。またいつなりとお越しください。主共々、

      いつでも機龍様のご来訪を心待ちにしております。」

機龍「はい。それじゃ、お姉ちゃん。また今度、学校で。」

そう言って機龍はセシリア達とターミナルで別れ、歩き出したのだった

 

残されたチェルシーとセシリア

チェルシー「それにしても、お嬢様のあの行動には少々度肝を抜かれました。」

という言葉に顔を赤くするセシリア

     「まさか、お嬢様があそこまで大胆になるなんて、

      あの方にはそれほどの魅力があるという事でしょうか?」

セシリア「う!……そ、それより、早く戻りましょう!」

チェルシー「うふふ、あからさまに話題を変えようとすると、ますます疑われますよ。

      でも、機龍様は確かに魅力的でした。私のハートも奪われて

しましそうでした。」

セシリア「もう!チェルシー!」

という話をしていたとか。

 

一方、機龍はと言うと、日本行きの飛行機の搭乗口を探していたのだった

機龍「え~っと……11番…11番……」

と、搭乗口を探していた時だった

先を歩く人々の合間に、知った服装が見えた気がしたのだった

歩く足を止め、そちらを向く機龍 

やがて、人の波が途切れた時、そこに一人の少女が立っていた 

それは……

  「ラウラ、お姉ちゃん。」

機龍の義姉、ラウラ・ボーデヴィッヒだった

ラウラ「ふふ、迎えに来たぞ、機龍。さぁ、行こう。我が祖国ドイツへ。」

そう言って右手を機龍の方へと差し出すラウラだった

 

機龍の異国巡りの旅は、まだまだ続くのだった

 

     イギリス編 END

 

 




次回はラウラとのドイツでのお話です。
その次にさらに簪との話を書いてからアニメ第二期の
話に移っていきます。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 ドイツ編

今回は機龍とラウラの閑話です。
ちなみに、作品内に出てくる地名は全て実在の地名を
使っています。


~~前回までのあらすじ~~

機龍はセシリアの誘いを受け、彼女の祖国、イギリスへとやってきた

初めてみる異国の地に胸が高鳴り、瞳をきらめかせる機龍と、

彼に好印象だったことから、喜ぶセシリア だが、幸せと言う物は

長くは続かなかった。機龍を束、ISの生みの親の血縁者として

狙っていたイギリス空軍の将校が機龍を捕らえようと様々な事を画策した。

しかし、結果的に機龍の怒りが爆発。内なるゴジラが覚醒し、将校たちを

惨殺してしまう。その後現れたクロエや束の根回しのおかげで事なきを得た

機龍とセシリアだったが、機龍自身は自分のした行為を悔いて意気消沈として

しまった。そんな彼を見て、セシリアは決意を固め、機龍との営みを

する事によって、彼の後悔や自責の念を拭い、絆を深めたのだった。

そして、機龍の滞在期間の一週間が過ぎ、一足先に日本へと戻るとしていた

彼の前にIS学園の制服を着たラウラが現れたのだった。

 

今、機龍はラウラと共にドイツ軍の輸送機のC-160に乗っていた

今は後部ハッチの中の並べられた簡易椅子の一つに腰かけている機龍

その隣には当然、ラウラの姿があった 

機龍の肩に自分の頭を預け、笑みを浮かべているラウラ

そしてさらに、機内にはラウラとは別に黒い軍服に身を包み、眼帯をしている

少女達の姿があった

その少女達も、何やらニヤニヤと笑みを浮かべていた

機龍「え、え~っと…その……」

???「いえいえ、私たちの事はお気になさらず。どうぞ、隊長と存分に♪」

そう言って笑みを浮かべている少女達の隊長、というか副隊長のような少女に

戸惑ってばかりの機龍

と、その時だった

ラウラ「そうだ。機龍、折角だから再会のキスをしよう。」

それを聞いて、密かに色めき立つ少女達

機龍「でも、その……他の人たちが……」

さすがにこうも人目のある場所では恥ずかしいのか顔を赤くする機龍

ラウラ「みたいのなら見せておけば良いさ。人前であっても、私たちの

    愛は変わらない。そうだろう?」

機龍「……うん。」

ラウラ「だったら、何も問題はない。」

そう言って右手で機龍の顎をクイッと持ち上げ、彼の腰に左手を回した

そして、顔を赤くした機龍に唇を近づけ、キスをした

機龍「ん」

   「「「「「「キス来たぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」」

   『『『ぶはっ!!』』』

少女達の叫びが機内に木霊し、一部の少女が鼻血を出しながら倒れた

少女「良い!良いですね副隊長!」

という言葉に、ラウラの所属する部隊『黒ウサギ部隊』の副官

『クラリッサ・ハルフォーフ』大尉は……

クラリッサ「そうであろう!彼を愛するのは隊長だ!

      だが、目で見て愛でるのはありだ!今のうちにこの絵画的シーンで

      英気をやしなっておけ!」

   「「「「はい!」」」」

と言ってラウラ達のキスに再び視線が集まるが、さらに数人が鼻血に倒れたのだった

 

 

その後、ドイツの首都ベルリンの郊外にある基地に無事に着地した輸送機から

降りていくラウラ達の後に続いて、同じように降りていく機龍

機龍「ここって……」

ラウラ「私の部隊、黒ウサギ部隊シュヴァルツェ・ハーゼの所属基地だ。

    こっちだ。ついて来い。」

機龍「あ、うん。」

そう言って歩き出した機龍

ラウラ「まずはここの司令官に挨拶をしてもらうが……」

と言ってラウラは後ろに振り返るが、そこには不安そうな機龍の姿があった

それを知ってか笑みを浮かべるラウラ

   「心配するな。司令官は女性だし、とても優しい人だ。それに……」

と、言いかけて止めるラウラ

機龍「お姉ちゃん?」

ラウラ「あ、いや、何でもない。とにかく、心配する必要は無い。さぁ、行こう。」

その事に疑問に思っている機龍

 

そして、ラウラに連れられて建物に入った瞬間……

   『パン!パン!』

盛大にクラッカーが鳴り響いた 驚く機龍と頭を抱えてため息をつくラウラ

そこには先ほどの、ラウラの部下と思われる少女達や軍服姿の兵士、

そして、一人だけ将校の上着を着ている女性の姿もあった

と言っても、ラウラの部隊の者以外は、全員が軍服なりなんなりを着崩していて、

基地の司令と思われる女性も、白い将校用の上着の前を全部開けたまま、

肩に羽織っているような立ち姿だった

???「ようこそ!私たちの基地へ!篠ノ之機龍君!」

と、司令官と思われる女性が大々的に迎え入れてくれた

機龍「え、えっと、あの……は、初めまして!篠ノ之機龍です!

   こ、こんにちは!」

???「ほうほう、ちゃんとドイツ語が話せるなんて偉いじゃないか。

    ラウラからの報告で聞いてるよ~。見た目に似合わず、結構

    行動力のある子どもなんだって?」

機龍「あ、いえ、その、僕なんて……まだまだで、よく、ラウラお姉ちゃんに、

   助けてもらってますから。」

???「そうかそうか!良かったじゃないかラウラ!こんなかわいい弟ができて!」

ラウラ「し、司令!それより先にまず機龍に名を名乗ってください!」

???「おっと、そうだった。こほん、私はこの基地の司令を任されている

    ミリアーノと言う物だ。部下からはミリア司令と呼ばれているから、

    君もそう呼んでくれて結構だ。初めまして」

そう言って手を出すミリア

それを見た機龍もそれに答えて握手を返した

機龍「よろしくお願いします、ミリア司令」

と、普通に挨拶をしたのだが、唐突に顔を赤くするミリア

ミリア「な、なぁ機龍君。私の事を司令、ではなくお姉ちゃんと呼んでくれないか?」

機龍「えっと……ミリア、お姉ちゃん?」

それを聞いた瞬間、だんだんと顔を赤くしていくミリア そして……

   『ぶっはァァァっ!!』

   「「「「「司令官~~~~!!!」」」」」

盛大に鼻血を流しながらも、何とか立っているミリア

ミリア「ま、まさか、これほどの威力だったとは……お、恐るべし、

    ショタの魅力」

さらに、ラウラの部下の女性や果てには一部の兵士たちも鼻を押さえていた

と、機龍にとっては何を言っているのかわからない状況だった

 

そんな中で機龍を呼ぶラウラ

機龍が近づくと、ラウラは彼に耳打ちをした

ラウラ「ぐ、軍人と聞いて機龍は司令やあの者達とギャップを感じるかもしれないが、

じ、実を言うとだな。司令達があんなになってしまったのは訳があるのだ」

と言って、語りだすラウラ

   「私は、最初は部隊の者とあまり仲が良くなかったのだが、機龍との

    一件以来、関係を修復できたのだ」

機龍「?それは良い事だけど、何か関係があるの?」

ラウラ「あぁ、実は、関係がよくなった後、部下、というか私の副官にあたる

    彼女、クラリッサから妙に日本の物を送ってくれと言われていたのだ。

    なんでも、現地、つまり日本でしか手に入らないような代物だとかで、

    私も普通に答えていたのだが、少し前に帰ってきたら、基地の内部が

    こんな風にかわってしまったのだ」

機龍「えっと……どういう事?」

ラウラ「一言で言えば、日本のサブカルチャーに魅入られた、と言ったところだ」

機龍「サブカルチャーって、日本の漫画やアニメ、特撮の事だよね?

   それがどうして……」

ラウラ「副官のクラリッサが広めたんだ。軍隊の基地となれば、娯楽など

    酒やトランプ程度だったのだ。クラリッサが私経由で日本の

    サブカルチャーを手に入れ、布教としてそれらを周りの隊員に

    教えたのが、始まりだった。それがいまでは、黒ウサギ部隊の仲間だけでなく、

    基地に勤務している兵士や司令官にまで伝播してしまい、あのざまと言うわけだ。

    特に司令は、ローティーン以下の少年、ショタと言う奴に嵌ってしまったのだ。

    そして、機龍、お前の見た目は7、8歳だから、司令官の趣味のど真ん中、

    と言うわけだ。他にも、ショタとやらに性的嗜好を見出した奴が多くてな。

    このざまと言うわけだ」

機龍「そ、そうなんだ」

と、そこに復活した司令官が近づいてきた

ミリア「何だ何だ~?ラウラだけでこんなかわいい子を独占か~?」

と言って後ろから機龍に抱き着くミリア そして彼女はそのまま、機龍の耳に

吐息を吹きかけた

機龍「ひゃ!」

いきなりそんなことをされたので、ピクンと震える機龍

ミリア「あぁ!やっぱりショタは最高だな~!よし!ラウラ!司令官の命令だ!

    お前の弟を私と結婚させろ!」

ラウラ「機龍はまだどの国の法律においての婚姻可能年齢になっていません!!」

ミリア「固いことを言うなラウラ。それに、愛に年齢など関係ない!」

ラウラ「司令の愛は愛でも随分偏っていますが!?」

クラリッサ『隊長も機龍殿を寵愛している段階で人の事は言えないのでは~』

と、司令と隊長であるラウラのやり取りを見ながらそう思っていたクラリッサだった

ミリア「ようし!だったら今度は養子縁組だ!ちょっと役所に行ってくる!」

と言って訳が分からずと言う感じの機龍を脇に抱えて出て行こうとするミリアを

止めようとするラウラ

ラウラ「司令!お見せしたいものがあります!」

ミリア「何だ!今は忙しいのだ!後で――」

と言って振り返ったミリアが見たのはラウラが作った合成写真なのだが、

そこには以前の臨海学校の時の機龍の写真と、女装機龍の水着姿が写っており、

丁寧に写真の中央には矢印が描かれていた

   「………」

ラウラ「………」

ミリア「……ぶはっ」

それを見たミリアが吐血し、床に手をついた

   「な、なんという威力とかわいさ。あ、危うく気を失う所だった」

ラウラ「ふっふっふ!私とて毎日のように機龍と寝食を共にした者!

    司令の知らない機龍を私は知っている!そんな司令に、

    機龍を渡しはしません!」

ミリア「くっ!リアルショタ……恐るべし」

そう言うと、ミリアは床に倒れ、ラウラは勝った、と言わんばかりの表情をしていた

そして、機龍はと言うと、場の流れにただただ呆然としていたのだった

 

その後、彼が使用するための部屋に案内された機龍

ラウラ「とりあえず、しばらくはこの部屋を使ってくれ。士官室だから

    シャワーなども完備している。食事は食堂で取ってくれ。

    場所は後で案内する」

機龍「うん、わかった。……でも、どうして僕をドイツに?」

ラウラ「セシリアのように、お前に私の祖国を見てほしかったんだ。

    ……まぁ、祖国と、言えるのかは、微妙だがな」

と言って苦笑するラウラだったが、それを見た機龍はラウラを抱きしめた

機龍「ありがとう、お姉ちゃん。僕に、色んなものを見せてくれようとしてくれた

   んだよね。僕は、とっても嬉しいよ」

ラウラ「あ、あぁ!そうか!」

   『ク、クラリッサから教わった『彼氏との会話においてちょっと辛い話を

    混ぜると効果がある』というのは本当だった!』

 

やがて、昼時の食堂にラウラに案内されてやって来る機龍

噂の機龍が来れば、視線をたくさん集める機龍。

機龍「や、やっぱり、見られている」

ラウラ「気にする事はないさ。軍事基地だからな、お前のような歳の子供など

    滅多に来ないのもあって、みんな珍しがっているだけだ」

そう言われ、ラウラの後に続く機龍だったが、その視線の一部は

明らかに異常な熱を持っていた

 

そんなことも気にしつつ、食事を受け取ってから空いている席に腰かける機龍と

ラウラ

だが、その時、機龍の横、ラウラの反対側に座る人影があった。

先ほど会ったばかりのミリアだった

ミリア「悪いね。相席させてもらうよ」

機龍「いえ、お世話になるのはこちらなので、気にしないでください」

と言って笑みを向けると、再び顔を赤くするミリア

やがて、機龍は食事を始め、料理の一つを口にしたのだが……

 

  「ッ~~~!!」

ラウラ「機、機龍?どうした?」

何やら涙目の機龍に気づいたラウラ

機龍「ご、ごめん。お、思ったよりすっぱくて……」

ラウラ「すっぱい?」

それを聞いて機龍のトレーに目をやるラウラ

   「あぁ、ザワークラウトか。機龍は食べた事がなかったな」

機龍「う、うん。あんまり食べた事ない味だから、びっくりしちゃって」

そう言って涙を拭う機龍だったが、ラウラは機龍の後ろのミリアが震えているのに

気づいた そして……

ミリア「かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい」

と、密かにそう連呼しているのにドン引きしたのだった

 

食事の後、やってきたのはラウラ達シュヴァルツェアハーゼに

与えられた作戦室だった。

機龍「ここは……」

ラウラ「ここは我々黒ウサギ部隊に与えられた専用のオペレーションルームだ。

    一応、配備されているISはドイツ国内10機のうち、3機を

    宛がわれている。私のレーゲンと、その姉妹機のクラリッサの

    『シュヴァルツェア・ツヴァイク』。後は共同開発型量産機のタイフーンを

    一機配備している」

機龍「それだけお姉ちゃんたちはすごいってことなんだね」

そう言ってラウラやクラリッサ達に笑みを向ける機龍と、

それにクラっとなる女子たち 

 

だが、その時、ラウラがいきなりこめかみを押さえてよろめいてしまった。

そんな彼女をとっさに受け止める機龍

機龍「お姉ちゃん?どうしたの?大丈夫?」

ラウラ「あ、あぁ。すまない。少し立ちくらみがな」

やがて、クラリッサの手を借りてゆっくりと立ち上がるラウラ

クラリッサ「やはり、原因は『それ』ですか?」

ラウラ「……あぁ。こっちに戻って来る辺りから、前後してな」

クラリッサ「このままでは、隊長にどんな危険があるかわかりません。

      やはり、それの摘出などを考えなければ……」

ラウラ「無理だろうな。上が何というか」

機龍「ひょっとして……お姉ちゃんはどこか悪いの?」

それを聞くと、ラウラとクラリッサは視線を合わせてから頷いた

 

やがて語りだしたのは、自分たちの左目に移植された疑似ハイパーセンサー、

『ヴォーダン・オージェ』、『オーディンの瞳』と呼ばれるナノマシンの事だった。

そして、ラウラだけが、それに不適合だったことも、彼女自身の口から語られた

ラウラ「最近になってからだ。不適合のせいなのか、時折頭痛に襲われるように

    なったんだ」

 

そして、それを聞いた機龍は……

ゆっくりとラウラに近づいて、その額に自分の額を触れさせた

   「き、きき、機龍!?いきなり何を!?」

機龍「大丈夫。僕に任せて」

そう言って瞳を閉じた機龍

周りの女子たちは色めき立つ反面、何事かと疑問を持っていた

と、次の瞬間、機龍の体から光が溢れ出した。

  「お姉ちゃん、少しだけ、目を閉じて」

ラウラ「わ、わかった」

余りの事に驚くラウラは流されるまま、両眼を閉じた

それを確認した機龍は、ゆっくりとラウラから額を離し、彼女の

眼帯越しに、彼女の左目にキスをした。 

次の瞬間、機龍から光が移動するようにラウラの体全体が光り、

やがてその光は彼女の左目に集約されていった。

 

数分後、二人の体の発光現象が終わり、ゆっくりと目を開けたラウラの前には、

いつもの笑みを浮かべた機龍が立っていた

ラウラ「機龍。…今、何をした?」

機龍「大丈夫。…それより、左目は大丈夫?眼帯を取ってみて」

ラウラ「え?」

そう言われ、眼帯を外し、恐る恐る黄金の左目で周囲を見回すが……

   「……普通に、機能している?」

そっと、自分の左目に触れるラウラ 不適合であるがゆえに、まともに役に立たず、

封印していたはずの左目が普通の目として機能していたのだった

   「機龍。これは一体……。何をしたんだ?」

機龍「……お姉ちゃんのナノマシンの中に、少しだけバグのような物を

   見つけたんだ。僕はそれを修正して、その機能を一部ロックしただけだよ。

   疑似ハイパーセンサーとしての機能は、ほとんど使えないけど、

   普通の目としては十分なはずだよ」

ラウラ「そうか。……だが…」

そう言って周囲を見るラウラ。周りではあまりの出来事に

クラリッサや部隊の女子たちが驚愕したまま固まっていた。

 

   「その、良かったのか?周りのみんなが、見ていたのに……」

そう言っているラウラを、機龍は抱きしめた

機龍「僕は、ただの破壊しかできない怪物だった。でも、今はお姉ちゃんを

   助けられる。助けたいって思った。だから、お姉ちゃんを助けたい。

   ただ、それだけだよ。僕は、僕の大好きな人達を守りたい。

   それだけなんだ。そのためなら、これくらい」

ラウラ「機龍////……ありがとう////」

そう言って機龍を見つめるラウラの顔は赤くなっていた。

そして周囲では、その姉弟愛の感動しつつ、機龍がラウラを抱きしめた時点で

鼻を押さえている者もいたとか。

 

その後も施設内を案内され、ラウラ達と同じように軍隊式の訓練にも

少しだが参加したりしていた。

 

やがて翌日。機龍は宛がわれた自室のベッドで寝ていたのだが、

その寝間着が、俗にいう――『ヒーローパジャマ』のようだったのだ。

このパジャマは昨日の夜にミリアから受け取った物で、機龍は

彼女にお礼をしつつ、それを着て眠ったのだった。

ちなみに、ミリアはパジャマを渡すときから鼻血を流していて、

お礼を言われた途端、倒れてしまったとか何とか……

 

と、その時、誰かが機龍の部屋に入ってきて、こっそりと写真を撮ってから、

その体を揺すって起こした

クラリッサ「機龍殿、起きてください。機龍殿」

その相手と言うのが、クラリッサだった。

機龍「う、う~ん。……あ、クラリッサさん。おはようございますぅ」

と、寝ぼけながらも体を彼女の方に向ける機龍

一方のクラリッサは、機龍の寝起きの若干着崩れたパジャマや寝起きのトロンとした

瞳を見て、鼻血を噴出しそうな鼻を必死に抑えていた。

クラリッサ「お、おはようございます機龍殿!良い朝ですね!」

と、何とか理性を保っているクラリッサだが、そんな時、彼女の中に

ある野望と理性と本能がせめぎ合っていた

     『あぁ!あの柔らかそうな唇とキスしたい!』

天使『ダメ!この子はかわいくても、隊長の弟なの!そんな彼に手を出してはダメ!』

悪魔『行け行け!隊長の弟だとか関係あるか!恋は掴んだもん勝ちだ!』

と、理性の天使と本能の悪魔がせめぎ合い、そして……

 

     「機、機龍殿。実はドイツには、寝起きの際にちょっとした

      風習がありまして。…お、起こした相手にキスをするという、

      よくある風習が存在していまして……」

と、悪魔が勝利し、妥協案として、頬にキスしてもらう、という事を言おうとした

のだが……

     「そ、それでですね」

と、言っていると、機龍はまだ寝ぼけていたのか、クラリッサの頬に両手を添えた。

見る間に、顔がトマトのように真っ赤になっていく彼女の顔に、自分の顔を近づけ、

彼女の唇に自分の唇を重ねた

     「!?!?!?!??!??!?!?!?!?」

余りの事に驚いて目を白黒させるクラリッサ。だが、それで終わりではなく、

機龍は彼女の口の中に自分の舌を入れ、彼女の中を舐めまわした。

ディープキスである。 

     『まさか……ディープ…キ、ス』

その思考を最後に、彼女は悦びと快感のあまり、気絶してしまった。

そして、機龍はと言うと、まだ寝ぼけているのか、倒れた彼女を

自分のベッドに運び、彼女に寄り添うように再び眠りについたのだった。

 

※その後、起こしに来たラウラがクラリッサが寝ていた事を見て、

彼女が機龍を寝取ったのではないかと激怒して、クラリッサに

お仕置きしたのを、ここに追記しておく。

 

 

やがて、その日の午後。

ラウラと共にまったりと話をしていた時の事だった。

   『ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

突如として基地内に警報が鳴り響いた

機龍「警報!?何が!?」

   『緊急事態発生!コードレッド!コードレッド!』

ラウラ「コードレッドだと!?」

走り出すラウラと後に続く機龍

機龍「それ、どういう意味なの?お姉ちゃん」

ラウラ「…現在のドイツ軍の警戒態勢には大まかに分けて3段階に

    色分けされている。そして、コードレッドの意味は……

    IS関係の事故、事件だ」

機龍「ISの!?」

そんな話をしているうちに、黒ウサギ部隊のオペレーションルームに

たどり着いたラウラと機龍。最初、機龍は部外者として止められたが…

ラウラ「構わない!機龍は専用機持ちだ。いざとなれば心強い味方になってくれる!」

――専用機持ち――という単語が効いたのか、すぐに中に通された

   「クラリッサ!状況は!?」

クラリッサ「はっ!現在収集した情報によりますと、隊長の機体、

      シュヴァルツェア・レーゲンのプロトタイプが軍研究所から

      基地へ移動中に強奪されたとの事です!」

機龍「お姉ちゃんの機体の、プロトタイプ?」

と、その時、初めてラウラの後ろに機龍が居た事に気づいたクラリッサ

クラリッサ「機、機龍殿!なぜここに!?」

ラウラ「良いんだ。機龍は専用機持ちだ。機龍、協力してくれるか?」

機龍「……わかった」

ラウラ「では、持ち出された機体について説明しておこう。

    元々、私のレーゲンはAICの実験機としての側面が強い。

    プロトタイプとの違いはAICと装備の有無だ。

    あの機体に搭載されているのは私のレーゲンと同型の

    レールカノンと腕部プラズマ発生装置だ。ワイヤーブレードは

    装備されていない。そういう意味では相手をする事自体は

    大した苦でもないのだが……」

機龍「……何かあるの?」

ラウラ「あれには大型の、戦闘機のジェットエンジンを流用した

ブースターが装着されている。本来は軍基地での

ISのマンマキシムについての実験を行う予定だったのだが……」

クラリッサ「以前の隊長のレーゲンへのVTシステムの搭載に関する事件のため、

      そのプロトタイプであったあの機体も急きょ試験を中止して

      軍の研究所で徹底的に内部を解析していたんです。それが

      終了し、基地に戻されるはずだったのですが、その途中に

      武装した何者かに強奪されました」

機龍「ISの護衛はなかったのですか?」

クラリッサ「レーゲンのプロトタイプ、というのがそれにストップを

      掛けた原因です。VTシステムを搭載していた機体の元になった

      機体ですから。……あまり大々的に護衛を付ける事も

      できなかったようです」

機龍「その機体は今どこに?」

クラリッサ「プロトタイプは首都のベルリンにある軍研究所から、

      その北にあるリューゲン島に運ばれ、その島の沖合での

      試験が予定されていました」

ラウラ達の前に浮かび上がったマップを指さしながら説明しているクラリッサ

     「機体はその途中、この国道20号を北上中に、農村地区である

      ヴェルダー地区に差し掛かった辺りで強奪されました」

それを見て、睨みつけるような視線になりながら、何かを考えている機龍

そんな彼にクラリッサが話しかけようとしたが、それをラウラが止めた

     「……いくつか、聞いても良いですか?」

クラリッサ「え、えぇ」

機龍「その事件現場には、どれくらいのドイツ軍がどこから向かっているのですか?」

クラリッサ「現状、事故現場から北西に当たる都市、ロストクからISが2機と

      対戦車ヘリであるEC665ティーガー2機が接近中です。

      さらに配備基地であったリューゲン基地からも偵察用ヘリが

      南下中です。ベルリンの防空隊からもISが2機、北上中です。

      こちらはもう事故現場に着いた頃でしょう」

それを現すように、マップにはいくつもの光点が写っていた

それを聞き、地図を見つめる機龍。

ラウラ「機龍。もしお前が強奪犯なら、この後どうする」

機龍「……いくらISと言ったって、国家には複数のISが配備されている

   以上、複数のISが襲ってくるころは目に見えている。だったらまず、

   戦いは避けるべき。……だとすれば、逃げるか一旦身を隠そうとするはず。

   隠れるのなら、一番良いのは発生地点から西にある森林地帯の

   ≪メクレンブルギッシュ・シュヴァイツ・ウント・クメロヴェル・ゼー≫。

   陸路での検問はどうなっていますか?」

クラリッサ「20号は北はバンデリン。南はグリエンケで上り下りともに

      閉鎖が完了しています。左右に伸びる道路も主だった道は既に」

機龍「……北。南。西。封鎖線はあそこ。……だったら…」

そう言ってマップの上に指を走らせていた機龍の指が、止まった。

  「……川」

クラリッサ「え?」

機龍「水上封鎖は行っていますか?」

クラリッサ「いえ。まだそのような事は。……まさか!」

機龍「バンデリンの手前のヤルメンの流れるベーネ川を船で下って

   海に出る。というのは考えられないでしょうか?」

ラウラ「そう思う根拠は?」

機龍「ISを盗む以上、おそらく相手は襲撃をした際にどこの基地から

   どれだけの兵力が投入され、どの程度の距離で検問が敷かれるかを

   推察して居るとしたら、トラックをどこかで乗り捨て、別の乗り物に

   乗り換えて撒こうとするはず。でも、大きなISを運ぶ以上、

   トラックは最低でも大型でないとまず無理。乗り換えたところで、

   大した効果はないはず。ヘリ自体も大型ヘリでもない限り、ISの重さ

   を支えられないだろうから、論外。同じ理由でセスナなどの小型機も

   もちろん捜索対象から外れるはず。そのプロトタイプって

   お姉ちゃんたちのレーゲンのように待機形態に戻せるんですか?」

クラリッサ「いえ。ISは初期化状態ではそれは不可能です。

      最適化、パーソナライズを行わない限りそれは無理です。

      あの機体の最適化にかかる時間は大よそ40分です。

      強奪からまだ25分程度しか経っていませんから、それはないと

      思います」

機龍「となると、やっぱりヘリやセスナの方は除外していいだろうから、

   残るのは陸路か水路。でも、トラックを乗り換えただけじゃ意味が薄い。

   でも、中型船なら、ギリギリで積載できるかもしれない。

   と、思ったんだけど……」

 

その推理に周囲の女子たちは驚きを隠せないでいた。

女性隊員「ちょ、ちょっとすごいよね」

    「今更だけどほんとに子供なのかな?」

と、話をしている隊員たち。

ラウラ「ふむ。…クラリッサ。機龍の推測を聞いてどう思う?」

クラリッサ「確かに、その推理は正しいかもしれません」

そう言ってマップに向き直るクラリッサ

     「仮に大型ヘリを用意していたとしても、空ならISの

      ハイパーセンサーではすぐに発見できるでしょうし、

      陸路も大型トラックでしか動けない以上、乗り換えは

      意味を成しません。残るのは、水路から海へ出る。

      これなら……」

と、その時、通信が飛び込んできた。

隊員「隊長!グリエンケの検問から報告!検問を強奪に使われたと

   思われるトラックが強引に検問を突破して逃走しました!

   現在、発生地点に向かっていたIS2機が反転、追跡のために

   南下中との事です!」

ラウラ「……機龍。どう見る?」

機龍「……遅すぎる」

クラリッサ「は?どういう意味ですか?」

機龍「ヴェルダーからグリエンケの検問まで、仮に一直線を全力、

   時速80キロ程度で走行した場合、到達にかかる時間は大よそ

   15分程度。でも、ここに来るまで25分以上を要しています」

ラウラ「…囮か」

機龍「考えられるのは、ヴェルダーから一度北進し、適当な所で事前に待機していた

   別のトラックに乗せ換え、もともとのトラックは反転、南に向かい、

   プロトタイプを移し替えたトラックはヤルメンに向かった」

ラウラ「そう考えられるな」

クラリッサ「では、作戦はどのように?」

ラウラ「……私と機龍はこの、シュトルペの街の手前で待機。

    クラリッサともう一人は水路の分岐先であるギュッツコーの

    手前で待機だ。……機龍、行けるな?」

機龍「うん」

こうして、機龍はラウラ達と協力して、逃亡した強奪犯を

捕まえることになった。

 

建物の外。そこにはすでにラウラとクラリッサ、そして隊員の一人が

ISを纏った姿で立っていた。

ラウラ「機龍。行けるか?」

機龍「うん」

そう言って頷くと、数回深呼吸をした。すると、彼の体を光が包み、

次の瞬間、彼の体は鈍い銀色の龍≪3式機龍改≫へと変化していた。

これにはクラリッサや周囲の兵士たちも驚いた

 

ラウラ「では、行くぞ!」

彼女の声に合わせて、浮かび上がっていくツヴァイクやタイフーン

そして……

機龍『≪3式機龍改!≫出ます!』

  「KYUOOOON!!」

スピーカー越しに叫びながら、雄叫びを上げた3式機龍が各部のスラスター

を展開しながらゆっくりと浮かび上がっていった。

 

数十分後、指定された場所に到着する機龍とラウラ。

二人は一度着地し、川の両端に分かれて辺りを警戒していた。

と、そこに通信が入ってきた。

隊員『隊長、機龍君。先ほど現地警察の連絡で、ヤルメン郊外に住む

   住人から不審な船が川を下っていくのを見た、という情報があったと

   連絡がありました』

ラウラ「了解した。そちらは引き続き情報の収集を頼む」

  『了解』

そういうと、通信が切れた

   「どうやら、機龍の予測が当たったようだな。さて、こちらに来るか、

    クラリッサ達のギュッツコーに向かうか」

やがて、数分後。

 

機龍「あれは……」

彼らの前に現れたのは、ドイツ軍のマークを持った中型の船舶だった。

  「お姉ちゃん、あれって」

ラウラ「あぁ、妙だな。調べるぞ」

そういうと、ラウラと機龍はレーゲンと3式機龍改を纏い、その船に近づいた

   「そこのドイツ軍船舶に告ぐ!我々はドイツ軍特殊部隊、

    シュヴァルツェ・ハーゼ隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐

    である!我々は特別任務においてこの地域一帯の監視を

    行っている物である!船舶の責任者は誰か!」

スピーカーで船舶に呼びかけると、船は停止し、中から武装した兵士が

出て来た。やがてその一人の女性兵士が両手を上げながら前に出て来た

   「ボーデヴィッヒ少佐。私がこの船の責任者の、

    イェル少尉です」

ラウラ「成程。ではイェル少尉、貴官らはここで何をしていた」

ボートの上に近づきながら名乗ってきた少尉と思われる相手を警戒するラウラ

イェル「はっ!我々は海軍からの依頼によりある物資をアンクラーマ―・フェーレに

    移送中でありました!」

ラウラ「物資だと?」

それを聞いて船の後ろに回り込むと、そこには中型サイズのコンテナが置かれていた

   「ふむ。荷物の中身はなんだ?」

イェル「私は存じ上げておりません。何分、機密の塊だと聞かされた物で。

    我々では開ける事もできません。コンテナを開けるには

    電子コードが必要でして、それは私たちの手元にはありませんので……」

そう言っている時、機龍はそのイェル少尉が僅かにほくそ笑んだのをとらえていた。

彼女からコンテナに視線を移し、そのサイズを計測する機龍

機龍『…あのサイズ、座った状態のISなら何とか入る。

   ……レールカノンも外せば何とか……』

ラウラ「……機龍」

機龍「何?」

ラウラ「…あのコンテナ、『開けられる』か?」

その言葉に、兵士たちの間に一瞬だけ緊張が走ったのが見て取れた

機龍「わかった。やってみる」

そういうと、機龍が人の姿に戻りながら船の上に着地した。

イェル「お、男の…それも、子供のIS操縦者!?」

その事実が驚きとして広まっていく中、機龍はコンテナの前にある

電子ロックのパネルに手を当てた。

すると、すごい勢いで数字の羅列が浮かび上がっていった。

物の数秒もすれば、全ての数字を導き出した機龍がコンテナのパネルに

13桁の数字を打ち込んでいった

イェル「や、やめろ!」

咄嗟にそれをとするイェルだったが、そんな彼女の眼前にラウラのレーゲンの

レールカノンの砲身が突き付けられた

ラウラ「どうした?貴様らは中身を知らんのだろう?なのになぜ我々に

    見られるのがまずいのだ?」

そして、そんな事を言っている間にコードの入力を終了した機龍

『ゴゥン』と音を立てながら開いたコンテナから現れたのは、

テスト用の鮮やかな色にペイントされたレーゲンのプロトタイプだった。

   「何か、弁解する気はあるか?『テロリスト共』」

 

こうして、テロリストによるISの国外への持ち出しは機龍や

ラウラ達の作戦によって見事阻止されたのだった。

 

夜、ラウラ達の基地の食堂にはラウラ達黒ウサギ部隊のメンバーや大勢の

兵士たちが集まっていた。

ミリア「え~こほん。本日発生したISの強奪事件についてだが、

    我らが黒ウサギ部隊が隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐の

    弟である篠ノ之機龍君の活躍によってスピード解決となった」

そう言っているミリアの横には、恥ずかしいのか顔を若干赤くした機龍が立っていた

   「おかげで私の所には軍隊の役人もやって来て直々に礼を

    言って行ったよ!そして今日は私の気分がいい!無礼講だ!

    カンパ~イ!」

そういうと、持っていたグラスを掲げ、それに兵士たちが笑みを浮かべながら

続いた。

そんな彼らに、機龍はどことなく愚連隊や海賊に似た気風を感じていた。

 

やがて、ラウラの横でジュースを飲んでいた機龍の横に黒ウサギ部隊の

少女達が近づいてきて機龍の髪を掬っている。

  「機龍君の髪、隊長と本当にお揃いだよね~」

  「しかも、キューティクルもしっかりしてて、どんなシャンプー

   使ってるの?」

機龍「どう、といわれましても。……ただ毎日髪を洗って

   よく乾かして……後は…あ、そういえば、よくルームメイトの

   人に髪を梳かしてもらっているんです」

と言った瞬間、隣に居たラウラが反応した。

ラウラ「き、機龍!それはつまり、更識簪に毎日髪をブラッシング

    されているという事か!?」

機龍「うん。お風呂から出た後、簪がヘアブラシで毎日してくれるんだ」

ラウラ『くっ!?そうだったのか!?そんなスキンシップの手があったとは!  

    更識簪、侮れないな!』

と、密かに簪をライバル認定するラウラだった。

 

と、そんな時、こっそりと機龍の飲み物を取り換えるミリア

機龍はそれに気づかず、笑みを浮かべながら飲み物に口を付けたのだが……

途端に顔が真っ赤になる機龍。それには隣に居たラウラや近くに居たクラリッサも

気づいた。

ラウラ「き、機龍?どうした?」

フラフラになった機龍を気遣うラウラと、クラリッサは疑問に思って

機龍の持っていたコップの中身の匂いを嗅いだ。

クラリッサ「こ、これお酒じゃないですか!?」

ラウラ「何!?……機龍!大丈夫か!?しっかりしろ!」

そう言ってラウラは機龍の肩を揺らした。

やがて、ゆっくりと顔を赤らめながら目を開く機龍。

そんな機龍にラウラは安堵したが、次の彼の行いまでは予想できなかった。

唐突にラウラの首の後ろに手を回す機龍

   「き、機龍!?」

機龍「お姉ちゃん。……大好き////」

頬を赤らめながらそう告げた機龍は、次の瞬間ラウラの唇に自分の唇を

重ねた。次の瞬間……

 

   「「「「「「ぶはっ!!!」」」」」」

男女問わず大勢の兵士たちが出血(鼻血)を出しながら倒れて行った。

※ ちなみに、悪戯を仕掛けたミリアも今の一撃で轟沈

さらに、ただ唇を重ねただけではなく、機龍の舌がラウラの舌と

絡み合っていく。

ラウラ『これは……ディー、プ、キ、ス』

そう思いながらラウラは幸福感に飲み込まれ、悶絶しながら気絶してしまった。

 

そして結局、機龍もそのまま酔いが回って気絶してしまい、

何とか生き残っていた黒ウサギ部隊のメンバー達によって、

一番近い方の機龍の部屋にラウラと一緒に運ばれた。

そしてベッドに入ったのだが、眠っているはずの機龍の手が、

相手を求め、その手はやがてラウラの右手へとたどり着き、その手を

握りしめた。

向かい合った姿勢のまま姉弟二人の右手が重なると言うシーンを見て、

感動しつつ鼻を押さえながら写真撮影をするメンバー達

 

しかし、フラッシュの光や音と酔いが浅かったのか、寝ぼけたまま目を開ける機龍

機龍「……みなしゃん、なにしてりゅんですか?」

酔いが回っているせいか、赤ちゃん言葉のようになっている機龍。

だがそれは、かえって彼女たちを興奮させる結果になってしまったのだった。

  「な、何でもないですよ~!それより、機龍君と隊長は大丈夫ですか~」

何とか気をそらそうとするメンバー達

それを聞いて機龍は、自分の横に眠っているラウラの方を見た。

  「どうせだから機龍君!大好きなお姉ちゃんを起こしてあげたら?」

と、言われたが、その時の機龍は『起こす』ではなく『大好き』と言う単語に

反応した。今、彼の脳内に思い出されているのは、セシリアとの

エッチな事をしたシーンだった。

機龍「あの、一つ聞きたいんでしゅけど……」

  「ん?何かな?」

機龍「大好きな人同士って、エッチな事をしゅるのでしょうか?」

それを聞いた黒ウサギ部隊の少女達は、温度計のように首から額まで、

下から上まで顔を真っ赤にした。

  「そそそそそ、それはどうなんだろ~!?ね~!?」

  「私に話振らないでよ!?私だって経験ないんだから!?」

そんなこんなで騒いでいると、機龍に続いてラウラも起きた。

ラウラ「う、う~ん。私は、一体……」

クラリッサ「あ!よかった!隊長、目が覚めたんですね!」

ラウラ「何?私は、確か………っ///////」

と、思い出してまたしても顔を真っ赤にするラウラ

そんな彼女の服の裾を機龍が引っ張って注意を向けさせた。

機龍「ねえ、お姉ちゃん」

ラウラ「な、なんだ?」

機龍「僕はお姉ちゃんが大好き。そして、大好きな人との一番の

   愛情表現は体を重ねることだって、セシリアお姉ちゃんから

   教えてもりゃいました。僕も、ラウラお姉ちゃんと一つに

   なりたいでしゅ」

と言われるが、体を重ねる、と言う言葉の意味が分からないラウラは

首をかしげるが、そこにクラリッサが現れて耳打ちをした。

それを聞いた瞬間、ボッと火が付きそうな勢いで先ほど以上に顔を真っ赤に

するラウラ。

ラウラ「そそそそそそそ、それはつつ、つまり!機龍は私と、  

    え、ええ、エッチな、せせ、セックスをしたいと言う事か!?」

その問いにぽや~~とした表情のまま頷く機龍。

   『お、落ち着け!落ち着くのだ!ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐!

    これくらいの事など、今まで経験してきた地獄の訓練に比べれば!』

と、そう思いながら頭を抱えていたラウラの顔を覗き込み、彼女の手を

そっと包み込みながら機龍が涙目&上目使いで……

機龍「お姉ちゃん。…僕と、一つになろう」

   『『『『『ズッキューーン!!!』』』』』

そのセリフがその場にいた全員のハートを撃ち抜いた事は言うまでもない。

ラウラ「……はい」

機龍のセリフに、承諾してしまったラウラだった。

 

※ ここから先はR18の方で投稿します。

 

ちなみに、機龍が少女達を落としたセリフはばっちり録音されており、

後日それを聞いたミリアやその場にいなかった女性が機龍の

魅惑ボイスを聞いて鼻血を流しながら恍惚とした表情で気絶したことを、

ここに追記しておく。

 

数日後、機龍はラウラ達に送られてドイツ国内の空港に来ていた。

機龍「そ、それじゃお姉ちゃん、僕は先に学園に戻っているから」

と、顔を赤くした機龍が視線を泳がせながらそう言っている。

ラウラとのエッチののち、目を覚ました機龍は自分が何をしでかしたのかを

理解してオロオロとなってしまい、それを今でも気にしているのだった。

ラウラ「あ、あぁ。そうだな」

対するラウラも機龍と目を合わせるだけで顔を真っ赤にしてしまう事が

ここ数日ずっと続いていたのだった。

機龍「え、えっと。クラリッサさん。ミリア司令。お世話になりました」

ミリア「お礼何て良いんだよ。こっちも色々手伝ってもらったしね。

    気が向いたらいつでも来てくれ。基地の兵士総出で歓迎するよ」

クラリッサ「はい。我ら黒ウサギ部隊も、全力で歓迎します」

機龍「はい。…それじゃお姉ちゃん、学園でね」

ラウラ「あぁ」

そう言うと、機龍はラウラ達に見送られながら日本行の飛行機へと

乗り込んでいった。

 

ミリア「行ってしまったな」

ラウラ「えぇ」

ミリア「……それにしても、ラウラ~聞いたぞ~」

と言う彼女の言葉に、ドキッとして冷や汗を流すラウラ

ラウラ「な、なにを、ですか?」

ミリア「何ってそりゃ~も~……あの子と―――して、

    ―――とか―――って言ってさらに―――されて」

と、途中からラウラに耳打ちをするミリア

それを聞いた途端、顔をトマトのごとく真っ赤にするラウラ

   「羨ましい限りじゃないか~。なぁクラリッサ」

クラリッサ「そ、そうですね」

と、話題を振られた彼女もどこか顔が赤くなっていた。

ミリア「あ。良い事思いついた」

と言ってポンと手を叩くミリア

   「今度あの子が来た時には基地の女全員集めて、ら―――」

と言いかけたミリアの口をとっさに塞ぐラウラとクラリッサ

ラウラ「司令、ここは公共の場ですので発言は控えてください」

と言うコントのような場面が展開されていたのだった。

 

一方、数分後には空の上だった機龍。

今の機龍は、初めての外国で見た物も思い出しながら、

簪にどんな話をしようかと、思いを巡らせていたのだった。

 

こうして、銀龍の短いながらもトラブル有り、ラブ有りの

異国巡りは終わりを迎え、祖国へと戻っていくのだった。

 

     ドイツ編 END

 




次回は簪とのお話です。
内容的には二人で夏祭りを回る、的な感じを予定してします。
それと、R18の方は別に投稿するので、
投稿でき次第、どこかの後書きか前書きにできたと
書いておきます。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 帰国&夏祭り編

今回は簪との閑話です。
次回からはアニメ第2期に突入します。


―――前回までのあらすじ―――

セシリアのイギリスに次いで、ラウラの案内でドイツにやってきた機龍。

彼はそこでラウラの上官であるミリア達から暖かい歓迎を受けた。

しかし、そんな矢先にラウラの機体、レーゲンのプロトタイプ機の

強奪事件が発生してしまった。あわやISの強奪と言う事態になりかけたが、

機龍とラウラ達の連帯によって無事解決となった。

そして、その日の夜。ミリアの悪戯でお酒を飲まされてしまった機龍は

デロンデロン状態になってしまい、ラウラとも一線を超えてしまったのだった。

 

 

数週間に及ぶ外国での夏休みを過ごした機龍はドイツから民間機で

日本、IS学園の近くにある国際空港へと戻ってきたのだった。

機龍『久々の日本か~。簪は元気にしてるかな~』

と、思いながら荷物を受け取り、ゲートを出た機龍は歩き出したのだが……

簪「機龍!」

唐突に名前を呼ばれた機龍は周囲を見回してから、人込みの中で

こちらを見る見知った顔を。自分の母と等しい女性を見つけた。

機龍「簪!」

相手を見つけた機龍はバッグを片手に簪に走り寄った。

簪も、目にうれし涙を浮かべながら近づいてきた。

 

そして、人目もはばからず抱き合う二人。

数秒後、どちらとなく腕を放し、お互いの顔を見つめ合った。

簪「おかえり、機龍」

機龍「うん。ただいま、簪」

 

その後、周りからの視線に気づいて二人とも顔を赤くしながら空港を

後にして、学園の寮へと帰って行ったのだった。

 

寮に戻った機龍と簪。

機龍は、外国で見聞きしたことを簪に話していた。嬉しそうな顔で、

イギリスやドイツで見た日本と違う食べ物や建物の話を語る機龍。

簪も、そんな機龍を息子を見守る母親のような表情で、柔和な笑みを

浮かべながら相槌を打っていた。

 

その後。

簪「あ、あのね、機龍。実は、お願いしたい事があるんだ」

機龍「?どんな?」

簪「明後日の事なんだけどね。私と一緒に、これに行かない?」

そう言って簪は机の上にあったプリントを取って機龍に渡した。

 

機龍「…夏祭り?」

簪「うん。学園から少し離れた場所にある神社で夏祭りがあるんだ。

  もし、良かったら、私と一緒に、行かない?」

機龍「うん!僕、簪と一緒に夏祭り、行きたい!」

 

と、久々の帰国と簪との生活。機龍にとって、母親にも

等しい彼女と一緒に居られる事が機龍自身が今一番望んでいる事だったのだ。

それもあってか、いつもより少々甘えん坊になっている機龍。

 

簪「そ、それじゃあ機龍、一緒に夏祭り、行こうね」

機龍「うん!」

と、親子のように接し、今と言う幸せを楽しんでいる二人だった。

 

そして当日がやってきたのだったが……。

 

機龍「ねぇ簪、これってどうやって着るの?」

簪「えっとね、これはここをこうして、こっちはこうで……」

と、機龍と簪は部屋で着替えていた。その服装と言うのが―――浴衣だった。

 

元々この浴衣は、昨日学園の外にある近くのショッピングモールで

買ってきた物なのだ。

簪は青地に白い水玉模様の浴衣。

機龍は黒と白の縦縞の浴衣をそれぞれ来ていたのだ。

 

その後、二人は自分たちの部屋を後にして、学校を出てから

電車に乗って神社の最寄り駅に向かい、そこから歩いて

数分の所にあるお祭り会場である神社にやってきた。

 

夏休みの終盤。そして夏の風物詩と言う事もあって地元の人間も

さることながら、IS学園の制服姿の生徒もちらほら見受けられた。

 

機龍「結構人多いね」

簪「うん。夏祭りは日本の夏休みの定番みたいなものだからね」

そう言って、手をつないだまま歩く簪と機龍

 

夏の風物詩と言う事もあり、境内の中には無数の出店が

軒を連ねていた。

お好み焼き、たこ焼き、焼きトウモロコシ、綿あめ、リンゴ飴、

焼きそば、etc………。

また、食べ物系以外にも射的、ヨーヨー釣り、お面、金魚すくい

等々、多くのお店が出店していた。

 

機龍「これが日本の縁日なんだ~」

簪「うん。そうだよ。機龍は、まず何からしたい?」

機龍「う~んと。……。あ。あれが食べたい!」

と言って、リンゴ飴の出店を指さす機龍。

簪「リンゴ飴だね。良いよ。一緒に食べよ」

機龍「うん!」

 

と、二人手を繋いで歩く姿はまさしく母子のようであった。

その後も焼きトウモロコシやたこ焼きを食べ、今度は遊び系の出店

で遊ぶことにした二人。

そして、射的の出店に来たのだが……。

 

   『パコッ!』

機龍「う~ん。当たっても倒れないね」

簪「そうだね」

今、二人は射的屋で大きな景品、小さい白いクマのぬいぐるみを抱えた

茶色いクマのぬいぐるみ。つまり二つの熊のぬいぐるみがワンセットに

なった景品を狙っていたのだが、大きさ的に当ててもなかなか落ちないのだ。

 

 「あ、そうだ機龍。今度は一緒に狙ってみよう」

機龍「うん。わかった」

そう言って、コルク銃の銃口をぬいぐるみに向ける二人。

そして……。

簪「行くよ。せ~のっ!」

彼女の声に合わせて、一斉に引き金を引く機龍と簪。

放たれた二つのコルクは……。

   『『ポコッ!』』

   『ポテッ』

見事にぬいぐるみに命中し、景品ゲットとなった。

 

機龍「やった~。当たった~」

男性「おぉ、ナイスなコンビプレー。はいよ、景品のぬいぐるみだ」

そう言って、渡された機龍の上半身ほどある大きなぬいぐるみ。

それを抱える片手で抱えながら簪を見上げる機龍。

 

機龍「えへへ、やったね簪」

簪「うん。そうだね」

景品ゲットで喜ぶ機龍と、それを見つめ、母親のように微笑む簪。

その後も出店を巡って思い出を作る二人。

 

そんなこんなで時間は過ぎ去り……。

アナウンス『まもなく、打ちあげ花火大会を開催します』

というアナウンスが近くのスピーカーから聞こえてきた。

 

簪「花火か~。機龍、一緒に見る?」

機龍「うん!」

 

という事で二人は移動したのだが、その途中で……。

  「あれ?簪、ちょっと待って」

唐突に何かに気づいた機龍が立ち止まり、簪の手を引いた。

簪「機龍?どうしたの?」

機龍「ちょっと、こっち来て」

疑問に思う簪だったが、機龍に腕を引かれ、屋台同士の間を

抜けて、薄暗い場所に行く二人。

 

  「見て、こんな所に階段がある」

そう言って指さした先には、木でできた階段が山の奥の方へと

続いていた。

簪「ひょっとして、この上に何かあるのかな?」

と言って機龍の方を見る簪だったが、彼女は何やら

機龍がうずうずしているのに気付いた。

 「ひょっとして、機龍ってば探検したいの?」

機龍「う、うん」

と、もじもじしながらそう言う機龍。

簪「そっか。じゃあ、ちょっと行ってみようか?」

機龍「え?良いの?」

簪「うん。まだ花火まで時間があるし」

機龍「わかった!それじゃ、早速行ってみよう!」

 

という事で、二人は手をつなぎ、その階段をゆっくりと

登って行った。  

 

数分後、二人は草の生えた広い場所に出た。

そこは周囲を林に囲まれているが前方だけは開けていて、木で出来た

柵があり、近くには同じように木造の屋根付きベンチがあった。

もっとも、管理ができていないのか地面一帯が足首程まで伸びた

雑草に覆われていた。

機龍「ここって……」

簪「たぶん、ここは街を一望できる展望台みたいな感じなんだよ」

 

柵の前まで歩み寄り、星空が輝く夜空を見上げる機龍と簪。

と、その時、夜空に極彩色の花が咲き始めた。

 

機龍「あ。あれって…」

簪「打ち上げ花火。始まったんだね」

そう言いながら、ベンチに腰掛け、夜空を彩る花火を見て、

瞳をキラキラと輝かせる機龍と、それを見守る簪。

 

そんな時だった。

機龍「……簪。ありがとう。僕を、ここに連れてきてくれて」

花火を見上げながらも静かにそうつぶやく機龍。

簪「ううん。気にしないで。だ、だって、私たちは、恋人、同士、

  なんだから」

と言いつつ、顔を赤くする簪。

 

機龍「……僕は、本当に幸せなんだ」

簪「え?」

機龍「……前の僕は、こうして誰かと一緒に居られる事もできなかった。

   ずっと一人で、お祭りも花火も、美味しい物も、楽しい事も

   知らなくて」

簪「……」

今の彼女は機龍の想いが何となくわかっていた。

誰も自分に優しくしてくれない。

人からやさしさを向けられたことがほとんどない。

たった一人。それに加え、機龍の周りに居たのは、彼を殺そうと

する人類と、彼を兵器に変えた人間たちだけ。

誰も彼を肯定などしてくれない。――ほんの数人を除いて―――。

世界でたった一人ぼっちで、世界中から否定された存在。

 

その苦痛がどれほどの物だったのか、簪にはわからない。

だが、それを考えるだけで彼女の胸は張り裂けそうになった。

そして、機龍の、ゴジラの痛みはそれだけではない。同族と、

家族かもしれない相手との戦い。

 

彼女にしてみれば、――避けているとはいえ――無理やり実の姉と

戦わされるような物だ。

家族に剣を向け、その手を家族の血で汚した痛みと悲しみ、絶望は

言葉では言い表せないだろう。

 

そう思うだけで、簪の頬を涙が伝って地面に落ちた。

と、そんな彼女の様子に気づいた機龍。

機龍「ご、ごめん!簪にこんな話をしなければ良かったのに!

   ぼ、僕のせいで簪が――」

と、彼女の涙を一生懸命止めようとする機龍に手を伸ばし、彼を

抱き寄せる簪

簪「私は、機龍とずっと一緒だよ」

頬を涙で濡らしながらも、機龍を抱き寄せ、その銀髪をゆっくりと

撫でる簪。

 「もう、機龍を一人に何てしないよ。ずっと…ずっと、傍に居るから」

機龍「簪……」

その言葉を聞いた機龍も、驚いて目を見開いてから次第に目を細め、

目尻に涙を溜め始めた。

そして、その言葉に答えるように、ゆっくりと簪の体を

抱き返す機龍。

機龍「本当に、ずっと傍に居てくれる?」

簪「うん」

機龍「僕は、怪物なのに、それでも居てくれる?」

簪「うん」

機龍「僕は、簪の、事、大好き、だよ」

と、段々と大粒の涙を浮かべ始め、嗚咽をこらえているのか、

言葉が次第に途切れ途切れになる機龍。

  「僕の、傍に、居て、くれる?簪」

簪「うん。……もう、絶対離さないから」

機龍「簪、ありが、とう。僕…僕……う、うぅ、うわあぁぁぁぁぁん!」

と、とうとう感極まって泣き出してしまった機龍。

 

かつて、自分の大切な人、義人との別れを経験している機龍。

出来る事なら、彼と一緒に居たかった。彼がこのまま、自分と共に

海の底へ共に来てくれると言った時は、うれしかった。

でも、彼には帰るべき場所がある。だからこそ、機龍はあの時、

義人に別れを告げた。

もう彼には会えないかもしれない。でも、今は自分の居場所に、

自分を想ってくれる人がいる。

その光と温もりが、彼女の溢れる母性が、機龍に涙を流させたのだった。

 

改めて、人の、簪のぬくもりを知った銀龍が泣き止むのには、

数分を要した。

その間も、簪は母親のように、柔和な笑みを浮かべながら泣きじゃくる

機龍の頭を何度も何度も、優しく撫で続けていた。

 

数分後。無事に泣き止んだ機龍。そして……。

機龍「簪。あの、僕…」

簪「うん、機龍。…キス、しよ」

機龍「うん」

 

次の瞬間、機龍の唇と簪の唇が近づき、互いを抱擁をしたまま、

ゆっくりと口づけを交わすのだった。

と、その時。

愛し合う二人を祝福するように、夜空に一つの大輪が咲き乱れたのだった。

 

無事に祭りを見終え、堪能した機龍は簪と手をつなぎながら、

寮へと戻っていったのだった。

しかし、そんな帰り道で……。

 

機龍は仕切りに周りを気にしながら自分の陰部を空いている

左手で覆い隠していた。

さらに顔も赤くなっており、彼の息は荒くなっていた。

そして、それに気づいていた簪は、途中から顔を赤くし、

それでも何かを決意したような表情をしていた。

 

そして、寮の部屋に帰り着いた機龍は、買ったぬいぐるみを

自分のベッド、内側のベッドの上に置いた。

と、その時、簪が部屋の中の照明を全て消してしまった。

機龍「か、簪?」

その事を疑問に思いつつも、どこかおどおどとしている機龍。

 

そして、簪は窓の外から部屋の中を照らす月明かりを浴びながら、

機龍に背を向けながら浴衣の帯紐を緩めた。

シュルシュルと言う音と共に、外れた帯紐が床に落ちた。

そして、振り返った簪の浴衣は開けていて、彼女のお腹と

太もも、そして、淡い青の下着を惜しげもなく晒していた。

 

  「か、簪?」

簪「……機龍。…エッチな事、しよ?」

その魅惑に、機龍の性欲が荒ぶり、彼の体は簪を求めた。

機龍「……うん」

 

こうして、機龍は簪とも一線を超え、更なる絆を

深めて行ったのだった。

 

     帰国&夏祭り編 END

 




ここ最近は全く投稿できておらず申し訳ありません。
しかし、R18の方はさらに筆が進みません。
そっちの方はもうちょっとでできるので、
申し訳ありませんがもう少しお待ちください。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第12話

今回はアニメ2期、第1話のお話です。
字数自体は少なく短めです。


――前回までのあらすじ――

イギリス、ドイツと諸外国を巡り日本に帰国した機龍。

そして帰国後すぐに簪と夏祭りへ行くことにし、そんな中で

彼は簪とも絆を深め、セシリア、ラウラに続き、彼女とも

愛を育んだのだった。

 

 

夏休みも残すところあと数日。

今日も今日とてやる事がなり機龍。仕方なく簪と共に

それぞれの専用機である≪打鉄弐式≫と≪銀狼≫の整備を

自室のパソコンで行っていた。

元々銀狼、シルバーウルフは束が機龍にプレゼントした

第3.5世代ISとは≪名ばかり≫の装備で、

ISにあるコアネットワークや不明ではあるがあるかもしれない

とされているIS独自の≪意識≫にも似たシステムもカットされている。

また、エネルギーの供給源もISのコアではなく機龍から送られる

仕組みとなっている。

それでも機龍は束のからのプレゼントであり、自分を守ってくれる鎧

であるとして、ウルフに愛着を抱いていたのだった。

 

そんな時だった。機龍の携帯からメールの着信音が鳴った。

機龍「?メールだ。誰からだろ?」

簪「あ、ひょっとしてセシリアさんじゃない?確か今日くらいに

  来日するってこの前のメールで言ってたじゃない」

機龍「…ほんとだ。セシリアお姉ちゃんからのメールだ。

   え~っと。≪今空港を出ました。もうすぐそちらに着きます。≫

   だって」

簪「そうなんだ。…今思えば私はセシリアさんと会うのは丸々

  一か月ぶりになるんだよね~」

機龍「そうだね。…あ、せっかくだから迎えに行ってあげようよ」

簪「うん。そうだね」

と、言う事で機龍と簪はパソコンを一旦閉じて部屋を後にした。

 

 

一方その頃、IS学園の正門の前には一台の白いロールスロイスが止まり、

そこから私服姿のセシリアが降りて来た。

セシリア『はあ~。ようやく、ようやく想い人たる機龍に会う事が

     できますわ。…機龍の帰国後は本当に仕事や何やらに対して

     やる気が起きずに大変でしたわ』

と、思いながらも、セシリアは想い人と共にある場所、

IS学園を見上げていた。その時。

 

機龍「おかえりなさい、セシリアお姉ちゃん」

セシリア「え?」

その声に振り返ると、そこにはIS学生服姿の機龍と簪が立っていた。

    「機龍!それに簪さんも!」

簪「おかえりなさい、セシリアさん」

機龍「メールを見て、そろそろ来る頃かなって思って」

セシリア「そうでしたの。それにしても、お二人とも、お元気

     でしたか?」

機龍「うん。…というか、後半の方はやる事が無くて逆に

   退屈な感じになっちゃって……」

簪「私は、機龍に少し勉強を、数学とかを教えてもらったりで…」

と、顔を赤くする簪

セシリア「あらあら♪」

と、3人で少しばかり談笑をした後、セシリアは自室に戻って

荷物の整理をして着替えてから機龍達の部屋に向かったのだが……。

 

 

簪「あ、セシリアさん。機龍なら出かけましたよ」

セシリア「そうなのですか。…機龍はどちらに?」

簪「町の方に行きました。実は、少し前に写真撮影にはまってしまったみたいで。

  最近はよくデジカメを片手に色々写真を撮っているんです。

  あ、そう言えば、帰ってきたらみんなの写真も撮るって言ってましたよ」

セシリア「そ、そうなのですか!?」

    『こうしてはいられませんわ!すぐにメイクを!』

と、セシリアは急いで自室に戻り、簪はその後ろ姿をキョトンとしたまま、

見送ったのだった。

 

 

と、言うわけで機龍はデジカメを片手にIS学園近くの町中を

散策しながら風景などを写真に収めていた。

やがて、お腹がすいてきた機龍は時間を確かめた。

機龍『もう十二時か~。…せっかくだからどこかで食べてから

   帰ろうかな~』

そう思いつつ、町の中を散策していると、カフェを見つけた機龍。

と、その時、こっちに向かってくる人の流れの中に見知った顔を

見つけた機龍。

その人物と言うのは―――シャルロットとラウラ―――だった。

 

  「あ。ラウラお姉ちゃん。シャルロットお姉ちゃんも」

そして、機龍が声を漏らすと、二人の方も機龍に気づいた。

シャル「あ。機龍」

ラウラ「む?おぉ、機龍。お前も町に来ていたのか」

と、店の前で出会う3人。

機龍「うん。…最近写真にはまっちゃって…。今日は町の風景でも

   撮ろうかと思って来てたんだ。…二人は何か買い物?」

ラウラ「あぁ、シャルロットの誘いで買い物にな。機龍は

    ここで昼食か?」

機龍「うん。町の景色を取るために歩き回ってたらお腹空いちゃって」

シャル「そうなんだ。なら、せっかくだから一緒にお昼食べて行かない?」

機龍「良いの?」

シャル「うん。こういうのは友達と一緒の方が良いからね」

ラウラ「折角だ。機龍が撮った写真も見せてくれ」

機龍「うん!」

 

というわけで機龍、ラウラ、シャルロットは3人でカフェに入り、

料理が来るまで機龍の撮った写真を見ていた。

そして、料理が来たので3人で談笑しながら食事を楽しんでいたのだが…。

 

???「あなた達!バイトしない!?」

機・ラ・シャ「「「………え?」」」

 

何の因果かバイトの勧誘を受けてしまった。

 

で、機龍達は女性――『@クルーズ』と呼ばれる喫茶店の店長――

の依頼で臨時のバイトをする事になった。

何でも従業員二人がやめて(駆け落ちして)、一人は病気でダウン。

で、困りに困っていた店長が偶然見つけたのが機龍達3人だったのだ。

 

そして、≪@クルーズ≫に案内された3人はそれぞれの衣装を

渡された。

ラウラはメイド服。

シャルロットは店長から見込まれて男装執事服になった。

で、機龍はと言うと……。

機龍「いらっしゃいませ!ニャン♪」

 

ラウラと同じメイド服にさらに猫耳と尻尾を着けていた。

そして、猫風の語尾付きの出迎えを受けた女性客二人は……

  「「か、かわいい~~~♪♪」」

と、頬を赤らめながら機龍をほめるのだった。

 

その後も猫耳メイド・機龍と、クールメイド・ラウラ、

美人男装執事・シャルロットの活躍で@クルーズは賑わいを見せていた。

もっとも、お客さんの大半は女性だったが……。

 

機龍「お待たせしました。ご注文のブラックコーヒーを二つと

   イチゴのショートケーキとモンブランです」

そう言ってテーブル客の前にお皿を丁寧に置いて行く機龍。

A「あなた可愛い女の子ね~」

という言葉に対して、機龍は……。

機龍「いえ、僕は男の子ですよ」

B「え、えぇ!?そうなの!?」

機龍「はい。え~っと、店長さんが言ってたのは、男の子は男の子でも、

   子の字は娘って書く男の娘だって言ってました」

A・B『『な、成程。確かにこの子は間違いなく男の娘ね』』

と、納得しながらお客の女性二人は生唾を飲み込むのだった。

 

それからも@クルーズは盛況を見せていたのだが、オーダーを運んでいた

機龍がパトカーのサイレンの音に気づいた。

機龍「あれ?パトカーのサイレンが聞こえる」

シャル「え?……ほんとだ。近くで何かあったのかな?」

段々と近づいてくるサイレンの音に機龍達だけでなく、お客さんたちの

注意も窓の外に向いた。

 

と、その時。

   ≪バアァァァンッ!≫

唐突にお店のドアが蹴り開けられ、覆面姿の男達が入ってきた。

そして、リーダー格と思われる男が拳銃を上に掲げて発砲した。

   「「「「「きゃああぁぁぁっ!!!」」」」」

それだけで一気に店の中はパニックに陥った。

 

機龍は咄嗟に近くに居た女性達を机の下に隠れるように促した。

 

機龍『相手は、3人。武器は……拳銃2丁とサブマシンガン。

   …お店をこれ以上壊させる訳には行かない』

そう思っていると機龍と怯え切っている女性と目が合った。

それを見て、機龍は……。

  「大丈夫です。僕に任せてください」

そう言うと、立ち上がってスタスタとサブマシンガンを持つ

男の方に歩み寄った。

男B「あ?…ちっ。ガキがすっこんでろ!これが見えねえのか!」

と、近くまで進んできた機龍の眼前に銃口を突き付ける男。

店長「機、機龍君!危ないから下がって!」

と、カウンターに隠れながらも機龍を制止する店長の声が聞こえて来た。

 

だが、この程度の武器、機龍にとっては豆鉄砲以下だ。

 

機龍は目にもとまらぬ速さでサブマシンガンの銃口を掴んだ。

男B「なっ!?」

そして、そのまま自慢の怪力を使って一気に銃身を

フレームごとへし折った。

余りの事にたたらを踏む男B

機龍「はぁっ!」

その男の腹部に機龍の怪力を生かした一撃が命中し、男は胃液を

吐きだしながら倒れた。

 

男C「っの野郎!」

それを近くに居た男Cが機龍の顔に向かって銃口を向ける。が…。

ラウラ「させん!」

その男Cに向かってラウラがアイスキューブを指弾で放ち、男の手に

命中させた。痛みで銃は男の手を離れた。

さらに、男Cの後ろから接近していたシャルロットがCの振り向きざまの

顔面にハイキックが炸裂し、男Cを吹き飛ばした。

 

と、残っていたリーダー格の男の銃口がシャルロットの背中を狙った。

店長「シャルロット君危ない!」

誰もがシャルロットへの命中弾を予期したが、それは起こらなかった。

   『パンッ!』

   『ガキンッ!』

発射された銃弾は鋼鉄の≪何か≫に弾かれた。

 

人々の視線は、突如現れたその鋼鉄の≪尻尾≫の主の方へと

向けられた。

それは、スカートの下から自身の身長以上の長さを持った

銀色に輝く鋼鉄の尻尾を生やした機龍だった。

 

次の瞬間、機龍が男の方に背を向けたかと思うと尻尾の先端が

男の方に向かって伸び、その手にある銃を叩き落とした。

さらに尻尾はその先端を伸ばして男の首に巻き付いた。

リーダー「くそっ!?この!?」

尻尾を振りほどこうとするが、そう簡単に外れる物ではなかった。

そして、その隙にラウラが接近し、男の側頭部に蹴りを叩き込んで

気絶させた。

 

それを見た機龍は息をつきながら尻尾を男の首から外して

尻尾を粒子のように消滅させた。

シャル「機龍、ありがとう。助かったよ」

機龍「ううん、気にしないで」

だが、次の瞬間、ラウラが蹴り倒した男が起き上がり、上着を

開いた。

その服の内側には大量の爆薬が張り付けられていた。

 

それを見たラウラは近くにあった拳銃を蹴飛ばした。

音を立てながら店内を飛び回る拳銃を咄嗟にキャッチしたシャルロットと

蹴ったのとは別の拳銃を取り、爆薬の横についている起爆装置を二人の

放った銃弾が撃ち抜いた。

ラ・シャ「「チェックメイト」」

シャル「まだやる?」

ラウラ「次はその腕を吹き飛ばす」

 

こうして、事件は機龍、ラウラ、シャルロットの活躍によって

無事解決したのだった。

 

その後、機龍はラウラ達と別れ、一足先に学園へと戻っていった。

 

そして、学園の海岸から水平線に沈んでいく夕日を写真に収めている

機龍。と、その時。

???「良い写真は撮れてますか?」

不意に機龍の後ろからバサ、バサと羽音がしたかと思うと誰かが着地した

音が聞こえて来た。その声の主の顔を見るために振り返った機龍は、

驚き、すぐに笑顔となった。機龍の前に現れた人物と言うのが……。

 

機龍「モスラ!」

トーガのような服装にオレンジ色の長髪とマリンブルーの如き蒼さの瞳

を持った機龍と同じ、怪獣から人へと転生した≪守護獣モスラ≫だった。

モスラ「海での一件以来ですね。機龍」

機龍「うん。モスラも元気そうでよかったよ」

モスラ「ありがとうございます。それにしても、写真が趣味になったの

    ですね、機龍は」

機龍「うん。……僕はずっと、残すことなんてできなかったから。

   せめて、今って言う時間を記憶だけじゃなくて、ちゃんとした

   形で残しておきたいんだ」

と、悲しげな表情を浮かべながらも笑みを浮かべる機龍。

それに対して、モスラも母親のような視線を機龍に送っている。

モスラ「そうですね。……神の恩赦か、悪魔の悪戯か。

    何にせよ、この世界に生を受けた私たち。二度目の生命の

    営み。好きなように生きてみても罰は当たらないと思いますよ?」

機龍「モスラ。……うん。僕は、この世界で大切な人達と生きていくよ。

   篠ノ之機龍としての生を全うする、その日まで」

モスラ「はい。……あ。では、私はそろそろ失礼しますね」

機龍「え?もう行っちゃうの?」

と、悲しげな表情でモスラを見上げる機龍。そんな機龍の前で

モスラは跪き、彼の両頬に両手を当てた。

モスラ「大丈夫ですよ。…約束したはずです。私はあなたの元に

    参ると。……もう少しです。どうか、それまで待っていてください」

機龍「モスラ。……うん、わかった。僕は待ってるよ」

モスラ「はい。では、私はこれで」

そう言うと、モスラは背中に極彩色の翼を広げて飛び去って行った。

 

 

やがて夜。

機龍は思い出を作るために簪やセシリアの写真を撮り、更にラウラの写真を

撮るために彼女たちの部屋を訪れた。

機龍「ラウラお姉ちゃん。シャルロットお姉ちゃん。居る~?」

部屋の前に来て、ドアをノックする機龍。

シャル「あ、機龍。ちょうどよかった。入っても大丈夫だよ~」

機龍「そうなの?じゃあ、お邪魔しま~す」

ラウラ「なっ!?シャルロット貴様!?」

と、何かオドオドしている声が聞こえるが、気にせず中に入る機龍。

そして、彼が見たのは……。

 

機龍「お、お姉ちゃんたちが、猫になってる」

そこではラウラが黒猫風の。シャルロットが白猫風の

着ぐるみパジャマを着ていたのだった。

しかも、ラウラの方は機龍に見られて恥ずかしいのか少々顔を

赤くしていた。

 

シャル「ねぇねぇ、機龍。ラウラはどう?かわいいでしょ?」

と、機龍の前に黒猫ラウラをズイズイっと押し出すシャルロット。

機龍「う、うん」

というと、ラウラは褒められて恥ずかしいのか、ますます顔を赤くした。

  「……。あ、あの、写真、撮っても良いかな?思い出を、

   集めてて……」

シャル「写真?良いよ」

そう言って黒猫ラウラに抱き着く白猫シャルロット。

   「ほら、ラウラ。あれ、やるよ」

ラウラ「ま、待て!?本当にあんなことを言うのか!?」

機龍「?」

シャル「あぁ気にしないで。…ほら、ラウラは可愛いんだから、

    もっと可愛く撮ってもらわないとね」

ラウラ「う~~~。…わ、わかった」

機龍「えっと、それじゃあ、撮るね」

シャル「うん。それじゃ、ラウラ。せ~の」

シャ・ラ「「にゃ~~」」

と、シャッターの瞬間に合わせて猫のポーズを取る二人だった。

 

すると、再びドアがノックされた。

シャル「は~い。どうぞ~」

一夏「おっす」

と、入ってきたのは一夏だった。

  「お?機龍も一緒だったのか。ちょうどよかったぜ」

機龍「一夏お兄ちゃん。どうしたの?」

一夏「実はさ、明日みんなでこれに行かないか誘いに来たんだ」

と言って、取り出したのは一枚のチラシだった。

 

で、結果的に一夏、機龍、箒、簪、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラの

8人全員でウォーターパークへと遊びに行くことになったのだった。

 

 

翌日、学園の入り口に集まる機龍達。一夏と箒はまだ来ていないが、

シャルロットと鈴は不機嫌なままだった。

まぁ、理由は言わずもがな。自分だけが誘われたと思って集合場所に

来てみれば全員集合状態で、デートだと思っていた鈴はその夢が

打ち砕かれて怒り心頭なのだ。

シャルロットの方は昨日機龍達と一緒に誘われたからか、

半ば諦めつつも一夏の鈍さなどにため息をついていた。

 

一方の簪達の方は機龍と一緒にプールや祭りを回れるとして

楽しみにしていた。

セシリア「日本のお祭り、どんな催し物があるのか楽しみですわ」

簪「えっと、最初にプールに行くんだっけ?」

ラウラ「あぁ。…そう言えば、箒と肝心の一夏はまだ来てないんだな」

と言ったは良い物の……。

鈴「あ~も~!一夏の奴~!ぜぇぇぇぇったい許さないんだから~~~!」

と、怒り心頭の鈴の叫びが辺りに響き、セシリア達は苦笑するのだった。

 

その後、8人全員で揃ったはいい物の、シャルロットと鈴は相変らず

ご機嫌斜めであり、しかも……。

一夏「二人とも、何怒ってるんだよ」

という一夏の言葉に、簪たちは……。

 

簪「あそこまで朴念仁だと、箒さん達に同情しちゃうよね」

セシリア「一夏さんの鈍感さはギネスブック並みですわ」

ラウラ「まぁ、我々としては、愛に気づいてくれる相手で

    よかったと言えばよかったのだろうがな」

と言いながら機龍を見つめる3人だった。

 

 

その後、8人はハプニングあり、ドキドキあり、何でもありの

プールと縁日のお祭りを楽しみ、最後に8人で集まって

線香花火を楽しんだ。そんな時、一夏がある一言を漏らした。

一夏「夏も、もう終わりだな」

機龍「うん。そうだね」

一夏の言葉に相槌を打つ機龍。

 

ひと夏を巡り、それぞれの記憶に鮮烈な思い出を残した少年少女達。

 

そして、季節は巡り、新たなる出会いと、新たなる戦いが

静かに始まりの時を待っていたのだった。

 

     第12話 END

 




今回は少なめでしたが、次の話である子が転入してきます。
まぁ、大体想像できる方もいますと思いますが、
お楽しみに。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第13話

今回は新キャラの転校回と機龍の過去についての話です


――前回までのあらすじ――

帰国後、学園の寮で簪との残り僅かな夏休みを過ごしていた機龍。

そんな中でセシリアの来日やラウラ、シャルロットと共に

事件に巻き込まれたり、臨海学校以来のモスラとの再会なども

あり、楽しい夏休みは終わりを迎えて行った。

 

 

やがて、ついに始まった2学期の初日。

今日は午前中というだけで簡単な連絡で終わるはずだった。

のだが……。

 

千冬「さて、これからの2学期の予定を連絡したが、あと一つ

   連絡がある。……このクラスにまた転校生が入る事になった」

女子「転校生?」 「ウチのクラスって多いよね、そういうの」

    「ひょっとして織斑君たちみたいな男の操縦士?」

と、ざわざわとざわめく女子たち。そのざわめきを咳払いで止める千冬。

千冬「では。……フラワー、入ってこい」

???「はい」

 

そう言って開いた自動ドアから入ってきたのは……。

機龍「え?」

シャル「う、嘘」

セシリア「あの方は……」

大勢の生徒がざわめく中で一夏やセシリア、箒、ラウラやシャルロットたちが

驚愕していた。それもそのはず。何故なら…。

入ってきた生徒は学園女子用の制服を着て、肩までストレートで垂らした

オレンジ色の髪に鮮やかな蒼い瞳を持った女生徒だった。

 

そして、その女性と言うのが、福音事件で一夏達を福音の攻撃から守った

極彩色の羽を持つ女性だったのだ。

と、女性が教卓の横に立つと、電子黒板に彼女の名前が映し出された。

千冬「では、フラワー、自己紹介をしろ」

そんな女性に自己紹介をするように促す千冬。

???「はい。改めましてみなさん、こんにちは。私の名前は

    ≪モーラ・S・フラワー≫と言います。

    インドネシア領の小さな島、インファント島から来ました。

    田舎者ですが、どうかよろしくお願いします」

そう言って丁寧にお辞儀する姿は正しく大和撫子と言えるだろう。

そして、機龍は一人、先日出会っていたモスラの言葉の意味を

思い出していた。

 

そう、モーラこそがモスラ。

機龍と同じ人となった怪獣だったのだ。

 

千冬「と言うわけで今日からお前達のクラスメイトになる

   フラワーだ。…機龍」

機龍「は、はい」

千冬「このフラワーの事を含めて、束。お前の保護者からいくつか

   伝えておくことがあるそうだ」

機龍「束から、僕にですか?」

千冬「そうだ。まずは、山田先生、例の物を機龍に」

山田「はい。…機龍君、篠ノ之博士からあなた用に新型のISスーツと

   新たなデータが届きましたよ」

と言って、持っていたビニールに包まれていたスーツとUSBメモリを渡す真耶。

  「博士曰く、幼い機龍君の体を守るために従来の物以上の

   防御力を持たせたもの、だそうです。それと、これは銀狼の

   追加武装用のアップデートメモリだそうです。」

ビニールに包まれていた物と小さなUSBメモリを見つめている

機龍だが、すぐに彼の視線は千冬の咳払いによってモーラに戻った。

千冬「さて、次の方が一番重要なのだが。……機龍。このフラワーだが、

   束曰く、お前の≪許嫁≫、だそうだ」

 

ぽく、ぽく、ち~~ん。

 

どこかで誰かが木魚を叩く音がして、数秒後。

女子「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」」」」」」」」」」

次の瞬間、クラス中の女生徒たちの驚愕の声が響いた。

対してモスラはどこか恥ずかしいのか、顔を赤く染めている。

 

しかし、当の機龍は何がわからないのか、手を上げた。

千冬「ん?何だ?」

機龍「あの、許嫁って、何ですか?」

と言った瞬間、クラスの女子たちと一夏がずっこけた。

これには流石の千冬も驚いてからため息をつき、話し出した。

千冬「ハァ。良いかよく聞け。許嫁とはつまり、一言で言えば

   お前の結婚相手。つまりはお前の妻になる女性の事だ。

   許嫁とは、予め結婚相手が決まっている女性の事だ」

機龍「????」

状況と言葉についていけない機龍は?マークを浮かべる事しか

出来なかったのだった。

 

千冬「まぁ、とりあえず今日はこれで終わりだ。お前達の聞きたい事は

   当事者同士に聞け。解散」

そう言うと、千冬は足早に教室を出て行ってしまった。

 

で、その後、機龍の席の近くに来るモーラ

モーラ「機龍、少し良いですか?」

と、(クラスの女子たちから見れば)初対面の機龍を呼び捨てで呼ぶモーラ

に対して女子たちは疑惑と困惑とした表情をしていた。

 

女子「い、いきなり呼び捨て!?」 「って事はまさか!?」

 

機龍「うん、何?」

それに対して、機龍も普通に接している。その姿が逆の女子たちの

困惑などを煽ってしまった。

女子「機龍君も普通に接してるし!」 「や、やっぱり、許嫁」

    「嘘だ~!」  「私だって機龍君の許嫁になりたかった~!」

と、何やら叫んでいるが、機龍とモーラの耳には入っておらず、

女子たちの行動に苦笑いする一夏だったが、彼の思考はすぐに

別の事を思い出していた。

一夏『あの人。間違いない。福音の時、俺達を守ってくれた人だ』

 

モーラ「それでなのですが、良ければ屋上でお話をしませんか?

    二人っきりで」

機龍「うん、良いよ」

と、了承して鞄を片手に立ち上がる機龍。しかし……。

 

ラウラ「ちょっと待て」

そこにストップをかけた者達が居た。ラウラとセシリア、箒やシャルロット達だ。

彼女たちはそれぞれ、機龍の許嫁の事に対してと、例の事件の事を

モーラに問いつめようと思っていたのだった。

   「私たちはお前に聞きたい事がある。私たちも同行させて

    もらうぞ」

と、言うラウラの言い分を聞き、モーラは……。

 

モーラ「わかりました。皆さんには、機龍がお世話になっているご様子ですし、

    ≪他にも≫色々聞きたい事があるでしょう。 

    そうですね。≪7人≫程度でしたら、構いませんが?」

と、色々と含めた言葉を言うモーラ。それに対して……。

ラウラ「わかった。オルコット、更識簪を呼んできてくれ」

シャル「僕も鈴を呼んでくるよ」

モーラ「わかりました。では、私と機龍は屋上でお待ちしております。

    さぁ、機龍、行きましょう」

そう言って機龍に手を差し出すモーラ。

機龍「うん」

その手を、笑みを浮かべながらとる機龍。そして、二人は一夏達より

一足先に屋上に向かった。

 

その後、一夏達7人が揃い、屋上へと向かった。

ちなみに、大勢の生徒が機龍とモーラの話を聞く(盗み聞く)ために

屋上に行こうとしたが、ドアはラウラ達によって完全閉鎖された。

これで、屋上に居るには一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、

簪たち7人と機龍、モーラの2人を合わせた9人だけだった。

 

モーラ「皆さん揃いましたね」

ラウラ「そうだな。そして、早速質問させてもらう。貴様は≪何者≫だ?」

シャル「福音との戦闘の時、君は人としてありえない力を使ったよね?

    そこの所を含めて、色々話を聞きたいんだけど?」

モーラ「わかりました。機龍」

機龍「何、モスラ?」

一夏「も、モスラ?いや、機龍、この人の名前はモーラでモスラじゃ…」

モーラ「良いのです。それが≪かつて≫の私の名なのです。話を

    戻しますが、私の事を知ると言う事になれば、当然機龍に

    ついても話さなければなりません。機龍はその、構いませんか?」

それを聞き、機龍は悟った。モスラが自身について語ると言う事は、

怪獣を語ると言う事。そうなれば、曲りなりにもその王の骨を宿し、

かつて王だった自分の事を語らなければならない。

その事を言われ、機龍は最初は戸惑った。簪やラウラ、セシリアのように

一夏達が自分の事を受け入れてくれるかどうか、不安になったのだ。だが…。

機龍『……いや。良いんだ。みんなには、知る権利がある』

 

モーラの問いに、静かにうなずく機龍。

  「良いよ。みんなには、知る権利があるから」

モーラ「わかりました」

その言葉を聞き、一夏達に向き直るモーラ。

   「私と機龍の事を含めて、話をする前に確認しておきたいのですが、

    機龍の≪前世≫の事を知って居るのは、どなたまでですか?」

モーラの言う、前世と言う単語を聞いて、一夏と箒、簪、セシリア、ラウラの

心臓が一瞬跳ねた。

   「できれば、挙手していただけるとありがたいのですが」

その言葉に答えるように、ラウラ、簪、そしてセシリアがゆっくりと

手を上げた。

ここまでは機龍の予想通りだった。

簪とセシリアには全てを話してある。ラウラもかつて機龍とシンクロし、

彼の記憶を見た事があるのだ。

 

だが、その時、セシリアに続くように一夏と箒が静かに手を上げた。

機龍「……え?」

箒「すまない、機龍」

機龍「ひょっとして、一夏お兄ちゃんと箒お姉ちゃんも、知ってたの?」

一夏「……初めて、機龍が戦って気絶した時、束さんから聞いたんだ。

   すまん」

箒「他人の過去を盗み聞きしたことについては謝る。すまない」

そう言って機龍に謝罪する一夏と箒。だが……。

 

機龍「ううん。謝らなきゃいけないのは僕だよ。

   ずっとみんなにこの事を隠してきた僕の方がいけなかったんだ。

   もっと早くに話していればよかった。

   でも、ありがとう。一夏お兄ちゃん、箒お姉ちゃん。

   僕をその、受け入れてくれて」

そういう機龍だったが、鈴はさっきから自分がついていけない話し合いに

発展したことで何が何だか分からなくなっていた。

鈴「って、そんな事は良いから早く説明しなさいよ!何が

  どういうわけ!?」

 

それを聞き、静かにうなずくモーラ

モーラ「わかりました。…皆さん。目を瞑ってください」

一夏「お、おう」

と、言われるがまま、目をつむる8人。それを確認したモーラも、

静かに瞳を閉じた。

 

と、次の瞬間……。

モーラ≪皆さん。私の声が聞こえていますか?≫

一夏≪な、なんだこれ!?頭の中にフラワーの声が聞こえる!?≫

鈴≪ふぇぇっ!?なにこれ!?私の中に一夏の声も響いてる!?≫

シャル≪な、何がどうなってるの!?≫

モーラ≪ご安心ください。今、私たち9人の精神が繋がっているため、

    思考による会話などが可能なだけです。それより、もう

    目を開けても大丈夫ですよ≫

そう言われた一夏達7人はゆっくりと目を開き、そして驚いた。

 

なぜなら、今7人は空に浮いているような恰好になっていたからだ。

簪≪な、なにこれ!?≫

セシリア≪あ、ISもなしに空に浮いてますの!?≫

モーラ≪これは一種の精神世界です。今は私が中継地点となり、

    皆さんの精神をこの場に繋いでいるだけです≫

シャル≪でも、なぜわざわざ君や機龍の事を話すために

    こんなことを?≫

モーラ≪これからお話しする会話は、他言無用な上、第三者には

    絶対に話してはならない会話だからです≫

鈴≪それだけ重要って事ね。それで、まずは何から話すの?≫

モーラ≪そうですね。まずは私と機龍の過去についてです≫

シャル≪過去?≫

 

モーラ≪はい。…デュノアさんと凰さんは驚かれるかもしれませんが、

    私と機龍はこの世界ではなく、別の世界で生まれた、

    『怪獣』なのです≫

鈴≪は、ハァ!?怪獣!?いやだってあんた達は普通に人間の姿

  してるじゃない!?≫

モーラ≪それについては何と申していいかわかりませんが、

    私と機龍は≪転生≫という概念を経験したのです≫

鈴≪て、転生?≫

簪≪転生と言うのは、分かりやすく言えば死んだ人が生前の知識や記憶を

  持ったまま新しい体に生まれ変わる事です≫

モーラ≪更識さんの説明通り、私にも、機龍にも前世の記憶がしっかりと

    残っています。それを、今から皆さんにお見せします≫

そう言うのと同時に、7人の後方で巨大な光が生まれた。

慌てて振り返った7人が見たのは……。

 

一夏「あれって……」

箒「原子雲……!」

シャル「……原爆」

 

濛々と天に向かって伸びるキノコのような雲、原爆の爆発時に生じる

原爆の代名詞的な雲―――原子雲―――だった。

 

モーラ≪そもそも、私たちの存在を語る上で切っても切り離せない存在が

    あるのです。それが―――≫

???≪それが俺だ≫

その時、モーラの声を遮るように10人目の声が精神世界に響いた。

 

慌てて周囲を見回す一夏達だったが、声の主は見つけられない。

と、その時。

???≪どこ探してんだよ阿呆が。ここだよここ≫

ようやくの事で声の出どころを探し当てた7人。声の主は

機龍だった。

 

と、次の瞬間、機龍の体から黒い粒子のような物が溢れ出した。

そして、粒子たちはひとつに集まり、それが人型を成した。

人型を成したそれの顔立ちは機龍と瓜二つだったが、数少ない違いは

髪の色が漆黒の如き黒髪なのと、瞳が血のように赤い事。

そして、不機嫌そうな表情を浮かべている事だった。

 

鈴≪だ、誰よアンタ?≫

???≪うるせえチャイニーズ。これからこいつが教えるから

    黙ってろ≫

と、機龍の方を指さしながらそう言う謎の黒髪少年。

で、当然沸点の低い鈴がそんな事を言われたら怒るわけで…。

鈴≪な、なんですってぇ!?≫

一夏≪お、落ち着け鈴!≫

暴れだそうとする鈴を必死に抑える一夏。

 

鈴≪だからあんたは誰なのよ!?≫

機龍≪その子は、『僕』だよ≫

シャル≪え?≫

怒り心頭のまま少年に向かって怒鳴る鈴。だが、それに答えたのは

少年ではなく、機龍だった。

 

と、次の瞬間、機龍の精神体はいつの間にか一夏達の後ろに立っていた。

機龍≪その子は僕で――≫

           ≪俺がそいつだ≫

機龍の言葉をいつの間にか一夏達の前に立っていた少年が引き継いだ。

  ≪僕が表なら――≫

          ≪俺が裏だ≫

そう言うと、いつの間にか二人の立ち位置が逆転していた。

  ≪お兄ちゃん達に分かるように言うなら、僕は二重人格なんだよ。

   この子の名前は『ゴジラ』。生前の僕なんだ≫

その少年の横に立ち、一夏達に少年、『ゴジラ』を紹介する機龍。

しかし、当のゴジラは機嫌が悪いのかそっぽを向いている。

 

しかし、話に付いて行けず、こんがらがっている一夏や鈴。

それを理解したかのように、原子雲を映し出したところで停止していた

世界が動き出した。

モーラ≪私たちの居たこの世界は、あなた達の、今私たちの生きている

    この世界のこの時の時代。俗にいう核開発時代とほとんど

    変わりありません。人々は悪魔の炎に手を出し、その力を

    我が物にせんと数多くの命を炎で焼き殺し、炎がまき散らす毒で

    殺し、大勢の命を奪ったのです≫

モーラの言う言葉に、自分たちが居ない時代とはいえ、やるせなさや

悔しさのような感情が沸き上がる一夏達。

   ≪何をどう間違ってしまったのか、私にはわかりません。

    ですが悪魔の炎は、結果的に破壊神を作り出してしまったのです≫

モーラが語った次の瞬間。

   ≪GAOOOOOOOOOOOON!!!!!!!≫

 

大地を揺るがし空さえも歪ませるような天地を動転させるほどの

雄叫びがその精神世界に響き渡った。

慌てて一夏達が振り返った瞬間、風景が移り変わり、それは轟々と

燃え盛る東京の街並みとなった。

 

建物は燃え、崩され、人々は逃げ惑い、燃え上がる炎が暗い夜の世界さえも

赤々と照らし出し、全てを平等に焼き尽くしていった。

 

人も、建物も、車も、何もかもを炎が焼き尽くしていった。

これこそまさに、地獄絵図。

砲声と建物が瓦解し、炎に誘爆する形で何かが爆発する音が響いている。

 

一夏≪なん、だよ。これ≫

箒≪東京が。……世界が、燃えている≫

簪≪………≫

余りの出来事に理解が追い付かない一夏達。

モーラ≪これは、私が見せている機龍の記憶の断片です。

    こから見せる全ては、まぎれもない事実なのです≫

と、その時。

   ≪GAOOOOOOOOOOOON!!!!!!!≫

再び天地を揺るがすような大ボリュームの咆哮が鳴り響いた。

 

そして、火の海の中から一匹の≪大怪獣≫がゆっくりと一夏達の前に

姿を現した。

それこそ、≪怪獣王ゴジラ≫だったのだ。

 

シャルロット≪何、あれ≫

モーラ≪あれこそが、人の驕りがこの世界に生み出してしまった王。

    怪獣王、ゴジラ。そして……≫

ゴジラ≪あれが俺だ≫

そう言って振り返った一夏達が見たのは、凶悪な笑みを浮かべた

少年ゴジラだった。

   ≪ふ。相変わらず人は愚かで脆い生き物だな≫

眼前の地獄絵図を眺めながら笑みを浮かべているゴジラ。

   ≪見ろ。貴様ら人間の言う文明とやらがたった一人の俺に蹂躙

    されている。これこそが貴様ら人間がいかに驕りに満ちている

    かの証拠だ。弱い。余りにも弱い≫

そう言って笑って居るゴジラ。

 

鈴≪何よ!人を殺しておいて何笑ってんのよ!この悪魔!≫

ゴジラ≪ほう?俺が悪魔だと言うのなら、それを生み出した貴様ら人類は 

    なんだ?死神か?≫

シャル≪どういう、事≫

機龍≪…元々、僕は、ゴジラはただ海の底で静かに暮らしている恐竜の

   末裔だったんだよ≫

ゴジラ≪だが、貴様らが放った原子の光、そこから発せられた放射能が

    俺の体を犯し、全てを作りかえた。その結果があの俺だ≫

そう言って東京を蹂躙するゴジラの方を顎をしゃくって指し示す少年ゴジラ

彼の視線を追って振り返った一夏達が見たのは、黒い体躯を持つ

巨神、ゴジラ。

   ≪人を殺しておいて、と言ったな?では聞くが貴様らは今まで

    食ってきた豚や牛、パンの数を覚えているか?

    自覚もなしに踏みつぶした蟻の数を覚えているか?≫

鈴≪あたし達をアリなんかと一緒にしないでよね!≫

ゴジラ≪俺に言わせれば所詮貴様ら人間もアリやそこいらを飛んでいる羽虫

    と同程度。有象無象の一匹に過ぎない。俺は、貴様ら人類の

    上に立つ、食物連鎖の頂点に立つ新たなる覇者だ。

    そして、それを生み出したのは貴様ら驕り狂った人間だ≫

そう言って、未だに燃えている東京を見下ろすゴジラ

   ≪何とも皮肉な話だな。自分たちで生み出した怪物に

    蹂躙される人間と言うのは≫

モーラ≪ゴジラとは、人間が放った原爆の洗礼を受け、驚異的な

    突然変異を果たし、あらゆる攻撃を跳ね返す破壊神なのです。

    人は、過ちを犯し過ぎたのです。その過ちが生みだした王こそが、

    あのゴジラなのです≫

その言葉に、絶句する一夏達。すると、それを見たモーラが≪それでも…≫

と言って言葉をつづけた。

   ≪ゴジラに、最後の時が訪れました≫

一夏≪え?≫

 

場面は移り変わり、空中に佇んでいた10人は今度は暗い海中に場所を

映した。

そして、それを見て先ほどまで笑って居たゴジラがあからさまに舌打ちを

してから一度機龍の中に戻っていった。

 

そして、一夏達の前に海底に居座るゴジラの姿が現れた。

と、その時、精神体である一夏達の横を、二人の潜水夫が通り過ぎて行った。

 

モーラ≪ゴジラを砲弾で倒すことはできませんでした。でも、

    ある秀才が一つの、核兵器にも匹敵する脅威の物を作り上げて

    しまったのです≫

一夏≪それって、一体≫

モーラ≪……。水中酸素破壊剤。通称、『オキシジェンデストロイヤー』

    これは、水中に存在する生物全てを死滅させる超絶兵器です。

    この破壊剤の発見者である芹沢博士が、あの潜水夫の一人です。

    人々は、このオキシジェンデストロイヤーでゴジラを葬ろうと

    考えました。そして……≫

 

やがて、一人の潜水夫が海上の船に戻る中、オキシジェンデストロイヤーを

抱えた潜水夫、『芹沢大助』がそれを発動させた。

すると、ゴジラが悲鳴のような咆哮を上げながらドロドロに溶けて行った。

皮膚も、筋肉も、血液も、全てがドロドロに溶けだしていった。

 

一夏≪うぅ。うぐっ!?おえぇぇぇぇぇっ!?≫

余りの光景に一夏が耐えられずに嘔吐した。

流石に精神体であるため吐しゃ物をまき散らすことはなかったが、

十代の少年少女にこの光景はあまりにもきつすぎたのだった。

現に、鈴やシャルロット、簪や箒たちも口を両手で必死に覆っていた。

 

やがて、ゴジラは骨だけを残して完全に消滅してしまった。

  ≪何だよ、これ。……これが、機龍の前世だって言うのかよ≫

簪≪ひどい……!≫

モーラ≪……。その通りです。人の過ちに生み出され、人との生存競争に

    負け、その身を溶かされ、ゴジラの生命は終わりを迎えました。

    もし、何かが、たった一つの何かが違っていたら、ゴジラが生まれたのは

    この世界だったかもしれません≫

ラウラ≪人の、愚かさが生んだ破壊神、か≫

シャル≪核の、落とし子。ゴジラ≫

機龍≪……≫

簪≪機龍≫

改めて自分の死を見つめなおし、揺れる感情を押し殺してただじっと、

自分だった骨を見つめている機龍の肩に、簪がそっと手を添えた。

 

モーラ≪この一件以来、世界中に潜んでいた巨大な生物が人間の前に

    姿を現しました≫

 

やがて、場面が移り変わると、再び東京へと景色が戻った。

そして、一夏達の目を真っ先に引いたのが折られた東京タワーを

支えにして作られたような巨大な繭だった。

 

と、次の瞬間、その繭を破って巨大な生物が飛び出してきた。

それは、ゴジラ以上の巨体を持つ極彩色の羽を持った巨大蛾、

そう、モスラだった。

 

シャル≪あの羽の色!もしかして!?≫

そう思いながらモーラの方を向くシャルロット。

モーラ≪…母です≫

セシリア≪ふ、フラワーさんのお母様、ですか!?≫

そう言って一夏達の前に出るモーラ。

モーラ≪ゴジラと人間の戦い以降、世界各地で巨大な怪生物、

    怪獣が目撃されるようになりました。私の母や私も、

    その一匹です。そして、時は40年以上が流れ、

    もう一匹の『ゴジラ』が姿を現しました≫

そういう彼女の言葉に絶句する一夏達。

 

三度風景は変わり、山岳地帯へと移動した一夏達が見たのは、

以前のゴジラに比べて幾分か細くなった新しいゴジラが

自衛隊の対怪獣部隊、『対特殊生物自衛隊』、通称『特生自衛隊』の

メーサー車『90式メーサー殺獣光線車』と嵐が吹きすさぶ

千葉県館山の山岳部で戦闘を繰り広げていた。

 

   ≪1999年。ゴジラとの戦いから45年が経過していた時代に、

    新たなるゴジラが日本に出現し、ゴジラのような怪獣との戦闘を

    目的に作られた自衛隊、対特殊生物自衛隊。通称特生自衛隊と

    ゴジラの戦闘が行われました≫

眼下で繰り広げられる戦闘を見ながらも淡々と語るモーラ。

   ≪人間は進歩を続け、日本は特殊兵器、メーサー兵器を配備し、

    かつて多くの怪獣をこの兵器で撃退してきました。

    ですが、ゴジラは他の怪獣とは別格です。この戦闘で

    多くの死傷者を出した特生自衛隊ですが、実はこの戦闘が

    行われた日。特生自衛隊は≪ある物≫を回収していたのです≫

鈴≪ある、物?≫

それを聞いて、簪は、すぐに直感した。モーラの言うある物の意味を。

簪≪ひょっとして、それって!≫

 

簪の疑問に答えるように、背景は移り変わり、巨大なプールの

ような場所に移動した。

最初は一夏達は自分たちの前に何があるのか分からなかったが、

それはすぐに姿を現し、一夏達を驚愕させた。

 

モーラ≪もうお気づきでしょう。そう、これはデストロイヤーによって

    葬られた、初代ゴジラの骨です≫

一夏達の目の前に現れたそれは、巨大なゴジラの骨格だったのだ。

機龍≪これが、僕だよ≫

そう言って、どこか自虐的な笑みを浮かべる機龍だが、

一夏達は驚きのあまりそれに気づかなかった。

 

   ≪人々はゴジラに対抗するために生体ロボットを、

    ゴジラの骨格をベースにした対G用兵器を4年の歳月を

    掛けて完成させました。それこそが……≫

 

モーラの言葉に合わせて風景はプールの中からどこかの格納庫の

中へと移動した。そして、その中に≪それ≫は立っていた。

   ≪3式多目的戦闘システム。Multi―Purpose

    FightingSystem―3。

    つまり、『3式機龍』です≫

今、一夏達の前にあるそれは、見慣れたはずの機龍の巨大な顔

だったのだ。

彼らの前に佇むのは、全長60メートルにも及ぶ巨神。

鋼鉄の銀龍、≪3式機龍≫。

機龍≪これが、本当の僕なんだよ。これが≫

そう言って、機龍は自分自身を見上げていた。

 

モーラ≪そして、機龍の完成式典時、まるで狙ったようにゴジラが

    出現。横浜、八景島でゴジラと一度目の戦いが行われましたが……≫

一夏≪何が、あったんだ?≫

モーラ≪……≫

答えにくいのか、無言のままのモーラ。だが、映像が流れ出し、

それは市街地を破壊している真っ赤な瞳の機龍を映し出した。

 

シャル≪これって!?≫

モーラ≪……。機龍のコンピューターには、ゴジラの骨髄幹細胞を元にした

    DNAコンピューターが使われていました。しかし、戦いの中で

    ゴジラの放った咆哮に反応し、機龍は暴走状態となってしまいます。

    機龍はエネルギーが切れるまで、横浜の街を破壊しつくしました≫

機龍≪………≫

モーラは、横目で機龍を見ながらも真実を語っていった。

モーラ≪その後、改良を施された機龍は暴走の原因を取り除くことが

    できましたが、暴走などが懸念され、再上陸したゴジラには

    自衛隊の陸上部隊などが戦いを挑みました。が、ゴジラを

    止める事ができませんでした。

    ですが、時の総理の判断により、機龍は発進しました≫

 

そこから流れるのは、機龍の一連の戦いだった。

 

病院を熱線で薙ぎ払おうとするゴジラに対し、空中で切り離された機龍が

月をバックにスラスターを使って飛翔。ゴジラに強烈なタックルを

お見舞いして弾き飛ばした。

さらに武装を破壊されながらもその機動力を生かしてゴジラと互角の

戦いを繰り広げた。

 

そして、その戦いを見て、一夏達は思った。

―――次元が違いすぎる―――と

 

あらゆる物を破壊する力同士が激突し合い、二体の巨神が組み合う度に

地面がめくれ上がり、アスファルトの欠片が辺り一帯に飛び散った。

お互い、装備を破壊され、生傷を作り、それでも前進をやめない

黒龍と銀龍。

そして、機龍のバックユニットが破壊されると戦いは格闘戦に

移行して行った。

 

機龍がゴジラの熱線を避け、逆にカウンターの2連メーサーを打ち込んだ。

そこからさらに接近して連打のパンチを叩き込み、体当たりをかました。

さらに倒れたゴジラの尾を掴み、スラスターを使ってグルグルと回転

してから、ゴジラの巨体を投げ飛ばした。

 

そして、一夏達は戦いの記憶を、ただ茫然と見つめる事しかできなかった。

 

今、もしこの戦いの場に一夏達が居て、ISを纏っていたとしても、

誰もこの戦いには割り込めないだろう。

向かい合って居なくてもわかる二体が放つ圧倒的なプレッシャー。

 

――神と神の戦いに凡人が入り込む余裕などない――

 

そう言われているかのように一夏達はその場から一歩も

動けなくなってしまった。

 

モーラ≪……。皆さんが驚かれるのも、無理はありません。ですが…

    戦いは進んで行きます≫

 

場面は移り変わり、機龍は必殺の≪アブソリュート・ゼロ≫を放とうと

するが、ゴジラの反撃によって放たれた極低温の光弾は目標を逸れて

建物数棟を巻き込み消失。

しかも、残っていたエネルギーの全てをその一撃にかけていたため、

機龍は活動を停止し、腹ばいに倒されてしまった。

 

一夏≪機龍が!≫

モーラ≪彼の放つ必殺技、絶対零度砲、アブソリュート・ゼロは

    内蔵エネルギーの40%を使用します。そして、今の一撃で

    全エネルギーのほとんどを使い果たし、さらに遠隔操作

    システムも損傷。機龍は外からの操作を受け付けない

    状態となってしまいました。ですが……≫

そこから場面は進み、一夏達は機龍の近くに立っていた。

 

すると、一夏達の横を通り過ぎた一人の戦闘スーツ姿の

女性が機龍の背部にあるハッチに向かってアンカーガンを使って

登って行った。

一夏達も女性に続くように浮上し、メンテナンスブースの中に

女性、≪家城茜≫と共に入って行った。

 

そのまま茜の背中を見つめている一夏達。

 

一夏≪この人は、怖くないのか?ゴジラと戦う事が≫

モーラ≪皮肉な話ですが、戦いは人を何倍にも成長させます。

    命を懸けた、ギリギリの戦いなら、尚更です≫

その言葉に、黙り込む一夏達。

 

そして、支援機≪AC-3 しらさぎ≫よりマイクロウェーブを

仲介してもらい、関東中の電力を集めて作られたエネルギーが

機龍の中に注ぎ込まれた。

 

機龍操作時に発生する圧倒的なGに苦悶の声を漏らしながらも

スティックを操作して機龍を立たせる茜。

 

だが、次の瞬間、背後からゴジラの熱線が機龍を襲い、

機龍は倒れ、衝撃で茜も倒れてしまった。

 

 

一夏達は、ただ事の流れを無言で見ている事しかできなかった。

そして、茜は朦朧としながらも、かつてのトラウマや仲間の事を

思い出し、ある少女の声を聴き、起き上がった。

 

茜「機龍ぅぅぅぅぅっ!力を!私に力をぉぉぉぉっ!!」

 

機龍「……茜」

その思いに答えるように、人としての機龍と、機械としての機龍。

2人の瞳が僅かに光を放った。

 

その後も戦いは続き、機龍隊の活躍によって、機龍とゴジラは

双方が大ダメージを負う引き分け状態となって、戦いは幕を閉じた。

 

 

一度、暗い精神世界へと戻る一夏達9人。

 

一夏≪あれが、機龍の、この世界に来る前の機龍の記憶、なのか≫

シャル≪ひどいよ、こんなの。…酷すぎるよ≫

あまりの出来事に、ショックが大きい7人。

一夏達は事前に話を聞いていたとはいえ、実物を

見せられたショックがあったのだ。

 

モーラ≪…まだ、機龍の記憶は終わってはいません≫

ラウラ≪……これ以上、何を見せようと言うのだ≫

モーラ≪……それは、ゴジラと機龍、そして、私を含めた、

    東京での決戦。機龍最後の戦いの記憶です≫

 

そう言った次の瞬間、再び景色は移り変わり、場所はどこかの山荘の

中となった。そこでは、老人と少年が話をしていた。

一夏≪ここは……。この人たちは誰なんだ?≫

モーラ≪このご年配の方は、43年前、モスラ、つまり私の使える妖精、

    『小美人』と接触した男性、『中條信一さん』です。

    そして……≫

モーラが話していると山荘を地震が襲った。

それから数秒後……。

 

???「「中條さん。……中條さん」」

ラウラ≪これは、声?どこからだ?≫

どこからか声が聞こえてくるが、中條達はもちろん、最初は一夏達も

声の主を見つけられず辺りを見回した。

 

???「「ここです。中條さん」」

と、その時、テーブルに重ねられた本の後ろから手をつないだ小さな人が

現れた。

一夏≪えぇ!?ちっさ!?≫

モーラ≪彼女たちは妖精ですからね。彼女たちは、訳あって旧友である

    中條さんの元に会いに来たのです≫

そしてさらに、階段の上から信一の甥にあたる青年、≪中條義人≫が

現れた。

機龍≪!…義人≫

機龍は感動のあまり、義人の手を握ろうとするが、機龍の手は虚しく

義人の体をすり抜ける事しかできなかった。

 

掌を握りしめる機龍を見つめるモーラ。だが、その間にも話し合いは進んだ。

ヒ・マ「「ゴジラの骨を、海に返してあげてほしいのです」」

簪≪これって、ひょっとして……≫

モーラ≪そう、彼女たちが言っているのは、機龍の事です≫

ヒ・マ「「人間が、ゴジラの骨から戦いの道具を作った事は、

    大きな過ちです」」

7人≪≪≪≪≪≪≪…………≫≫≫≫≫≫≫

過ち、という単語に反応し、黙り込む7人。

 

その後、小美人たちはモスラが機龍の代わりに戦う事を伝えると、

モスラと共にいずこかへと去って行った。

 

ラウラ≪……人は、何度過ちを繰り返してきたのだろうな≫

一夏≪………≫

今までの事を見てきて、そうつぶやくラウラ。

一夏や他の者達も、それに答えるだけの言葉を持っていなかった。

 

しかし、記憶はまだ続いた。

 

モーラ≪あの激闘から1年後、ある程度傷が癒えたゴジラが東京に

    向かって再上陸します≫

映し出されたのは、自衛隊と戦うゴジラの姿だった。

一夏≪また、戦いが始まっちまったんだな≫

鈴≪……。機龍は?どうしたのよ≫

モーラ≪前回の戦闘で右腕とアブソリュート・ゼロを失った機龍は、この時は

    まだ修復中でした。そんな中、信一さんの孫にあたる

    ≪中條瞬さん≫が『これ』を学校の校庭に描きました≫

再び場面は移り変わり、一夏達は上空に移動していた。

 

と、その時、一夏達の目に、小学校に机と椅子で描かれた謎の紋章が

飛び込んできた。

箒≪あれは、一体……≫

モーラ≪あれは、インファント島に伝わるモスラを意味する

    紋章です≫

と、その時、大きな影が一夏達の頭上を通過した。

慌ててそちらに視線を移す7人が見たのは、巨大蛾、≪モスラ≫だった。

東京上空を飛び回ってから、瞬と信一の居る学校の校舎の上に

止まるモスラ。

シャル≪ひょっとして、あれが……≫

モーラ≪はい。あれが私です≫

そう言って、あの姿の自分と、今の自分が同じ存在であることを証明

するかのように背中に極彩色の翼を広げるモーラ。

 

   ≪そして、私は瞬君の想いに答え、戦う決意を決めました≫

飛び立ったモスラは、飛行の際に発生する衝撃波やゴジラさえも

押しのける突風、突風によって発生した土煙を利用して

ゴジラと互角の戦いを繰り広げた。

モスラは、ゴジラと戦い足の一本を食い千切られても戦いを

やめようとはしなかった。

そして、モスラの最後の武器である毒鱗粉を使い始めた。

それを、町に居る信一や瞬の横から見上げる一夏達。

その時だった。

 

信一「モスラに、死期が迫っているのかもしれない」

一夏≪え?≫

瞬「どうして?」

信一「鱗粉を使った攻撃は、モスラの最後の武器だ。

   鱗粉を失えば、長時間の飛行はできなくなってしまう」

その説明を聞き、一夏達はモーラの方へ視線を受けた。

 

モーラ≪……。もとより、自分が死闘に向かう事はわかっていました。

    遅かれ早かれ、寿命を迎えていた私です。

    例え、戦いの中で死のうとも、覚悟はできていました≫

シャル≪覚悟って……≫

モーラ≪生物として、獣として、例えどんな死に方になったとしても、

    私は私の使命を、この星を守護する者としての使命を全うするため、

    今ある命を守るために、戦いに及んだのです≫

ラウラ≪……。死すら、恐れないと言うのか。お前は……≫

モーラ≪覚悟と言うのは、自分の命をどう使うか、決断する事です。

    生き物は、生きている限り戦わなければなりません。

    だからこそ、自分達の命をどう使うのか?

    私達は、生きている内はそれを考え続けなければなりません。

    そして、私は……≫

その問いに、モーラは最後を言葉を濁しながら、過去の自分を見つめていた。

 

と、その時、一夏達の頭の中に小美人たちが歌う≪モスラの歌≫が響いた。

箒≪この声は、一体……≫

モーラ≪インファント島に伝わる、私たちモスラを称え、平和を

    願うインドネシアの歌です≫

 

その後も、ゴジラの熱線による鱗粉爆発などが起こる中、

それでもゴジラへの攻撃をやめないモスラ。

 

と、その時、場面が移り変わり、一夏達を機龍隊の指令室へと

運んだ。

一夏≪ここは……≫

モーラ≪機龍隊の、指令室です。そして、この男性が、

    この時の総理大臣の方です≫

部屋のテーブルの中央に座る男性を示すモーラ。

そこでは今まさに行われているゴジラとモスラの

戦いの様子が映し出されていた。それを見つめる、男、

総理大臣、『五十嵐 隼人』。そして、彼はおもむろに

立ち上がった。

 

隼人「今後、どれほど多くの災いが降りかかろうと、

   我々のために戦っている仲間を、見殺しにはできない」

彼の言う、仲間と言うのが、モスラであることに気づく一夏達。

隼人は、モスラと共に戦う事を選んだ。

  「我々は、臆病者ではない」

その言葉が意味するのはただ一つ。

  「機龍を、出動させる。この戦いを、ゴジラとの

   最終決戦とする!」

一夏達には、彼の目に宿る意思の強さを認識していた。

 

どれだけ高齢であろうと、本当の強さは力ではない。

意思と覚悟の大きさが、本当の強さになるのだと。

 

 

場面は再び、東京へと戻った。今だ戦うモスラとゴジラ。

だが、モスラの片翼にゴジラの熱線が命中。

モスラは市街地に仰向けに倒れて起き上がれなくなってしまった。

そんなモスラに一歩一歩近づくゴジラ。

 

と、その時、頭上から無数の銃弾が降り注ぎ、ゴジラを襲った。

一夏達はその主を求めて空を仰ぎ見て、驚嘆した。

 

その主こそ、今自分たちの横に居る少年のかつての姿、

≪3式機龍改≫だったのだ。

 

スラスターを使って着地した機龍がゴジラとの戦闘を始めた。

 

お互いに全力で戦う二匹の龍。

 

と、その時。

 

簪≪もう……もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!!≫

走り出し、ゴジラと機龍の足元に駆け寄りながら叫ぶ簪

 ≪どうして戦うの!?何でこんなことをしなくちゃいけないの!?

  二人は家族なんでしょ!?どうして、傷つけあうの!?≫

そう叫ぶ彼女の元に歩み寄る一夏達。

 

モーラ≪それが……。機龍の運命、だったからなのかもしれません≫

ラウラ≪運命?……。運命だと?……人の手に生み出され戦い敗れ、

    今度は兵器にされた事が運命だと言うのか!?≫

やるせない怒りをモーラにぶつけるように声を荒らげるラウラ。

シャル≪こんな、こんな地獄を、機龍は……≫

鈴≪………≫

 

余りの事に何と言って良いのかわからない7人。

 

その後も戦いは進み、モスラは機龍を庇って再び翼に熱線を受け、

ついに飛べなくなってしまった。

 

そして、起き上がり、近接戦に持ち込む機龍だが、その動きは

1年前と比べて鈍重になっていた。

 

シャル≪おかしいよ。機龍の動きが悪い≫

モーラ≪……。機龍の整備は、この時完全ではなかったのです。

    機龍を完全な状態に戻すには、1年という時間さえ、

    短すぎたのです≫

 

そして、機龍はゴジラの反撃を喰らい、倒れたところを右目部分に

熱線の攻撃がヒットして倒れてしまい、さらにその攻撃で駆動系が

損傷。機龍は動けなくなってしまった。

 

と、その時、町中から芋虫のような怪獣が現れた。

 

箒≪あれは……≫

モーラ≪私の、娘たちです≫

という彼女の言葉に驚く一夏達。

   ≪元々、ゴジラとの決戦の数日前に私が小笠原諸島に

    曾孫島に卵を産んでいたんです。それが数時間前に羽化し、

    ここに来てくれたのです≫

 

新たなる援軍に驚く一夏達だったが、その事について感傷に浸る間

もなく、成虫モスラは子供達をゴジラの熱線から庇い、炎上。

爆死してしまった。

 

セシリア≪そんな!?フラワーさんが!?≫

モーラ≪……。あれが、私の最後です≫

簪≪どうして、みんな戦うんですか!?ただ、お互い傷つくだけなのに!≫

 

モーラ≪みんな、譲れないものがあるからですよ≫

シャル≪え?≫

モーラ≪……ゴジラが生まれたのは、もうどうしようもない現実

    だけど、戦う人々には、護りたい人がある。だから

    戦わなくちゃいけない。戦わなきゃ、護れない。

    失いたくないから。人間は、生き物は、何かを守るために

    戦っているんです。ゴジラも、もとはと言えば、機龍を迎えに来た

    だけなのかもしれません。同族として。

    そして、機龍が生まれたのも、ゴジラからこの国を護るためです。

    ……許される事ではありませんが。

    でも、機龍は、戦いを拒めないです。今の機龍は、

    『兵器』なのですから≫

 

一夏≪兵器って、なんだよ。……兵器だから戦わなくちゃいけないのか!?

   機龍には心だってあるんだぞ!?≫

と、その時、倒れた機龍の近くに居た一夏達の前を白い防護服を着た

男性が走り過ぎて行った。

 

それを見て、ずっと黙って俯いていた機龍が顔を上げた。

機龍≪義人≫

白い防護服の男性、『中條義人』は機龍を修理するために現れ、

かつて茜が搭乗したのと同じブース、MB3へと入って行った。

 

その後、先ほどと同じように義人を追ってブースの中に入る9人。

 

義人は機龍の修復を終え、外の出ようとしたその時、ゴジラの熱線が

炸裂し、MB3のハッチが歪んで義人は脱出不可能になってしまった。

 

そして、義人は嘘の報告をして、仲間の足を引っ張らないために

機龍の中に残った。

 

起き上がった機龍は国会議事堂を破壊しながらも組み合い、

右手部分をスパイラルクロウへと変形させ、ゴジラの表皮を

切り裂き、そのわき腹に突き立てた。

 

それを見て、機龍は震える自分の右手を押さえた。だが、その震えは

次第に彼の全身を襲い、ガタガタと震えだす機龍。

そして、機龍は倒れそうになった。

一夏≪ッ!?機龍!!≫

それを一番に気づいた一夏が咄嗟に受け止めた。

 

と、その時、ブース内で倒れていた義人の頭の中に機龍の記憶が

流れ込んできた。それは、一夏達も同じだった。そして……。

茜『機龍ぅぅぅぅぅっ!』

義人「はっ!?」

かつて、今の自分と同じ場所に居た戦士の叫びを聞き、目を覚ます義人。

シャル≪今の声って、1年前の……あの時の≫

そして、彼は全てを悟った。

 

  「機龍。…俺は、お前の事を、何もわかっていなかったんだ」

そう言いながら涙を流す義人。

機龍≪義人。……義人ぉ≫

義人の涙に答えるように、機龍もその目に涙を浮かべながら、

触れられないとわかっていても、必死に義人に向かって手を伸ばした。

それを見て、一夏達も目に涙をためていた。

 

義人「お前は、眠りたかったんだ。……ごめんな、機龍」

機龍≪義人ぉ≫

何度も手を伸ばす。何度もその肩を掴もうとする手が空を切る。

 

少年は、愛する人に触れたいと言う想いから、何度も手を伸ばす。

でも、触れられない。

 

 

と、その時、この戦いを見守る全ての人の耳に、小美人たちの

声が聞こえて来た。

 

そして、いつの間にか一夏達の前には、いくつもの情景が組み合わさって

映っていた。

 

機龍内のMB3、倒れた十字架の前に立つ小美人たち、機龍隊の指令室。

その3か所が同時に映し出されていた。

 

簪≪これって……≫

ヒ・マ「「ゴジラを、海に返してあげてください。

     人は、死者の魂に触れるべきではないのです」」

 

五十嵐「……これが、小美人の声なのか」

誰もが手を止め、聞こえる歌声に耳を傾けていた。

 

ヒ・マ「「人間は、自らの過ちに気づかないほど、愚かな生き物ではないはずです」」

7人≪≪≪≪≪≪≪…………≫≫≫≫≫≫≫

 

小美人たちの声に、唇を噛みしめ、その言葉に聞き入る7人。

 

やがて、全てを決断した隼人がマイクを掴んで、自分の方に引き寄せた。

五十嵐「富樫君。ゴジラにトドメを。それで、機龍の使命は終わる」

その声を聴き、一夏達は五十嵐の方へと視線を向けた。

   「作戦終了後、機龍を投棄する」

 

その言葉を聞き、機龍隊はゴジラにトドメを刺そうとした。だが、

ゴジラの咆哮によって自我を取り戻した機龍は、モスラの吐く糸に

よって身動きが取れないゴジラを抱え、飛び上がった。

 

一夏≪これは……≫

やがて、周囲に映し出される情景が再びMB3の中にだけ限定された。

 

そして、機龍が日本海溝に向かっている事を知る一夏達。

 

と、そこへ、機龍を追っていたしらさぎ2号機のパイロットである

女性、≪如月 梓≫が義人が閉じ込められている事を知った。

 

梓「中條君?…中に居るの?」

義人「………」

梓「中に居るの中條君?」

義人「………」

梓「答えなさい!中條一曹!」

義人「……ハッチが開かなくなった。機龍の内部に閉じ込められている」

五十嵐「君が、機龍を動かしているのか?」

義人「違います。機龍が自分の意思で動いているんです。

   中からも制御不能です」

梓「何でもっと早く言わないの!?」

義人「……覚悟はできている。…このまま……このまま機龍と一緒に

   海に沈む!」

機龍≪義人ぉ≫

 

と、その時、しらさぎのバルカン砲がMB3のハッチを吹き飛ばした。

そして、義人は脱出するためにGに耐えながら必死に出口を目指した。

 

 

機龍≪義人ぉ≫

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、義人の背に向かって手を伸ばす機龍。

 

今、機龍は叫びたがっていた。

――行かないで――と。――一緒に居て――と。

 

それでも、機龍は必至にそれをこらえていた。そして……。

 

義人の脱出を助けるために機龍の体勢が180度回転した。

 

通路を転げ落ちながらも、ハッチの縁に掴まって何とか耐える義人。

 

機龍は、一夏の腕を離れ、垂直に傾くブースの縁に立ち、下の義人

を見つめた。

 

機龍≪ありがとう。義人。僕を、直してくれて。

   僕を、思ってくれて≫

大粒の涙を浮かべながら、機龍は伝わらないとわかっていても義人に向かって

語りかけた。

  ≪僕は、ずっと……ずっと、義人と、一緒に、居たかった。…うぅ≫

そして、我慢の限界を迎えたのか、ボロボロと涙を流し始める機龍。

  ≪でも、僕は、もう、行かなくちゃ、いけないんだ。だから……だから

   義人は、生きて≫

止めどない涙が機龍の頬を伝い、落ちて行く。

その時、MB3のモニターに機龍の意思が示された。そして……。

 

  『SAYONARA YOSHITO』

  ≪ さ よ な ら  よ し と ≫

 

2人の機龍の意思が、義人へと届いた。

 

閉まるブースの扉を見ながら、義人は言葉を返す。

 

義人「さよなら。…機龍」

その言葉に、機龍は……。

 

 

―――大好きだよ。義人―――

 

 

そう言って、泣きながらも精一杯の笑みを浮かべた。

 

その言葉を最後に、手を放し、空中へと投げ出されていく義人。

 

そして、機龍はアンカーでゴジラを固定し、海に向かって

急降下していった。

 

  「機龍ぅぅぅぅぅっ!」

 

大海原に、義人の叫びが響き、それに答えるように、機龍が最後の

咆哮を上げる。

 

 

そして、同時に、一夏達も、現実世界へと帰還した。

 

同時に、一夏とラウラは近くにあった屋上の鉄柵のパイプに拳を打ち付け、

簪たちは泣き崩れている。そして、機龍も。

 

せめて、最後は笑顔のまま別れようとしていた機龍は泣きながらも

笑みを浮かべていたが、次第にその笑みは崩れて行った。そして……。

 

機龍「う、うぅ。うぅぅぅ。うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

崩れ落ちた幼い銀龍は我慢ができなくなり、声を上げて思い切り

泣き始めた。

  「別れたく、なかったよぉ、義人ぉ。ずっと、ずっと一緒に

   居たかった、よぉ、義人ぉ」

大粒の涙で地面を濡らし、本心を曝け出す機龍。

 

簪「ッ!機龍!」

そんな機龍に感極まって抱き着き、自分も大粒の涙を流す簪。

そして、精神が追い込まれていたのか、機龍は眠ってしまった。

 

一夏「これが、機龍の、記憶、なのか」

箒「これでは……これでは人間の、私たち人類の、罪の記憶

  ばかりではないか!?機龍は、こんな、こんな……!」

シャル「……酷すぎるよ。…ううん、それ以上だよ。これが、

    機龍の過去だなんて。最後が、あんな終わり方だなんて」

セシリア「機龍の、ゴジラの幸せは、一体、どこに……」

鈴「私たちは、結局、何も知らず、何度も機龍に守られてきた。

  戦う事が大嫌いな機龍に、あれだけ戦わせて、それなのに、

  私たちは、護られてばっかで、機龍に頼ってばっかで」

モーラ「……これで、分かっていただけましたか?

    私と機龍の存在についてを」

鈴「……。いっそ、知らない方がよかったって思えて来たわよ」

モーラ「ですがあなた達はその存在を知ってしまいました。

    そして、私はこの世界に来て、ある事を決めたのです。

    それは、私の全力をもって、機龍を護り、愛する事です。

    ……機龍に、もうこれ以上の悲しみも苦しみも、必要ありません。

    もし、誰かが機龍をこれ以上苦しめると言うのなら、

    私、守護神モスラの全力をもって、その人を排除します」

そういうモーラの瞳には、決意の炎がゆらめいていた。

   「機龍の、ゴジラの中にあるのは、苦しみと痛み、戦いの記憶が

    ほとんどです。そして、大切な人との別れさえ経験し、

    機龍はこの世界へと流れつきました。そして、私が出会った

    彼は、人々に苦しめられ、利用されてもなお、人を愛し、

    人々を護るべく、戦う道を選んだのです。戦う事が、

    一番嫌いなはずなのに……。だからこそ、私は機龍のその決意を

    守りたい!例えどれほどの道であろうと、世界中の誰もが

    機龍を否定しようとも、私は機龍を護り、添い遂げる!」

ここに来て、穏やかだったモーラの口調が激しくなってきた。

   「私は、そのためならば人間とだって戦います!

    傷ついた王を、護るために。かつての戦いを、

    知る者として」

そう言っているモーラもその瞳に涙をためていた。

 

その言葉に、機龍を愛しているセシリアや簪、ラウラ。

そして、友人である一夏達は……。

 

簪「……私は、ずっと機龍に助けられてばかりで、無力で、

  機龍の力になりたいって思った。……だから、私も決めた。

  私だって、機龍と一緒に居る!もう絶対に離れない!」

セシリア「私、セシリア・オルコットとて、神の妻となる覚悟は

     とうにできています!そして、機龍が苦しんでいるのなら、

     その苦しみを共に背負うのもまた妻の役目ですわ!」

ラウラ「私もまた、人に作られたデザインベイビーだ。

    兵器として生み出され、心の闇に囚われていた。

    だが、機龍は私を闇から救ってくれた。今度は姉である私が

    機龍を救う番だ!」

一夏「俺も、こいつに勉強を教わって、一緒に笑ってきた大切な仲間だ!

   ゴジラだとかそんなの関係あるか!機龍を苦しめる奴は、俺が

   ぶっ飛ばす!」

箒「例え血まみれだったとしても、苦楽を共にしてきた友を

  見捨てることなどありえない!それが私の答えだ!」

鈴「あたしだって、こいつに助けられた恩がある。

  だからこそ、その恩を返す!仲間として!友達として!」

シャル「機龍は、男としてみんなを騙してた僕を信じてくれた!

    人間は愚かかもしれないけど、優しい人だって居るんだって、

    教えてくれた!だから、僕も機龍を信じる!」

 

7人は声を上げ、機龍を≪仲間≫と、≪友≫と呼んだ。

 

その言葉に対して、モーラは……。

モーラ「皆さん。……ありがとう、ございます」

そう言って、涙を流しながら深く、頭を下げたのだった。

 

それから数十分後。

 

やっとの事で目を覚ました機龍。

今、機龍はモーラの腕の中で抱かれていた。

機龍「……モスラ」

モーラ「はい。何ですか?」

機龍「……やっぱり、僕は、ただの、人殺しの、壊すことしかできない、

   化け物だったんだね」

そう言って、涙を溜めている機龍。だが…。

一夏「そんな事ねえよ」

機龍「え?」

 

一夏の声に、視線を移す機龍。

彼の目に飛び込んできたのは、変わらず自分に微笑みかけてくれる

≪友≫たちだった

 

一夏「お前は、ずっと戦い続けてたんだな。…でも、もうお前は

   一人じゃないぜ。俺達の力は、お前なんかとは比べ物にならない程

   ちっぽけかもしれないけど、俺、決めたよ。

   俺達はこれからも機龍。お前の友達だ」

機龍「お兄ちゃん。…でも、僕は、化け物で、もう、沢山の

   罪を犯して…それで……」

箒「機龍、お前の存在が罪だと言うのなら、人間は大罪人だ。

  人間を許してくれ、などと言う気もない。お前のような

  存在を生み出してしまったのは、結局人間なのだからな」

機龍「ち、違うんだ!僕は、大勢の人を、この手で……」

箒「それでもなお、お前は私たち人間を友と呼んでくれた。

  だからこそ、私たちはその心に答えたい。私たちの行いが、

  人間がお前に与えた罪を消せるとも思わない。

  機龍、これからも、私たちの友達で居てくれるか?」

機龍「箒、お姉ちゃん」

箒の言葉に、驚きつつも、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪と

順番に目を向ける機龍。

  「僕は、まだ、みんなと、一緒に、居て、良いの?」

また、大粒の涙を浮かべながらそう一夏達に問う機龍。

 

泣きそうな機龍の頭を撫でる一夏。

一夏「当たり前だ。俺達はもう、仲間なんだからな」

彼の言葉に、頷く箒達。それを見て、機龍は感極まってまた

泣き出してしまった。そして……。

 

機龍「みんなぁ。ありがとうぅ」

 

大粒の涙を流しながらも、王であり、兵器だった少年は笑みを漏らした。

 

 

     第13話 END

 




今回は長い話になってしまいました。
それと、この話を書くために機龍二部作を何度も
見返しましたが、やっぱりゴジラは良いですね~。
自分的には機龍二部作が一番最初にみたゴジラ作品なので
やっぱり思い入れもあります。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第14話

今回は学園祭のお話とファントムタスク襲撃のお話です。
作中ではちょっと楯無の扱いが変わっていると
感じる人も居るかもしれません。


――前回までのあらすじ――

夏休みも終わりを迎え、二学期に突入したIS学園。

そんな中、一夏と機龍達の1組に転入生、≪モーラ・S・フラワー≫が

転入してきた。

だが、このモーラとは機龍と同じ怪獣から人へと転生した人物だったのだ。

そして、彼女は数か月前の福音事件で一夏達の前に姿を現しており、

その事を問い質そうとした一夏達。

モーラの力によって機龍の記憶の世界に飛ばされた一夏達が観たのは、

ゴジラ誕生と消滅。機械の兵器となった初代ゴジラ、機龍の事。

そして、機龍の別れと最後だった。

だが、それでもなお一夏達は機龍を受け入れ、その絆を

より深く結ぶのだった。

 

 

屋上での一件の後、一夏達は昼食を取るために食堂へと向かった。

そして、9人で集まって食事をしていたのだが……。

 

モーラ「はい♪機龍、あ~ん♪」

そう言って、自分の料理のオムライスをスプーンに乗せて隣に

座る機龍に恋人イベントお約束の≪あ~ん≫をしているモーラ。

機龍「うん。あ~ん」

それに対して、ご機嫌な状態なためか、普通に答える機龍。

 

数分前、自分を一夏達が受け入れてくれた事から、機龍は改めて

この世界を生きて、一夏達と楽しい時間を過ごすことを心に決めたのだ。

 

もっとも、周囲の女子たちは羨ましいのと嫉妬の視線をモーラに

送っていたが、全く気付かない機龍。

 

それを見ていた一夏達も、笑みを浮かべていた。が、そこに来て

ある事を思い出したラウラ、セシリア、簪。

 

簪「そ、そうだ!さっき聞き忘れたんだけど、許嫁ってどういう事ですか!?」

ラウラ「そうだった!すっかり聞きそびれていた!」

モーラ「あ、そう言えば説明していませんでしたね」

そう言ってから咳払いをするモーラ。すると…

   ≪皆さん、聞こえますか?≫

一夏≪これって、テレパシーか?≫

モーラ≪はい。流石にここだと周りの方の目もあるので、

    ある程度嘘を交えます。適当に合わせてください≫

鈴≪OK≫

モーラ「では。……そもそも私と機龍についてですが、私たちは

    血のつながった遠い親戚なのです」

   ≪あ、これ嘘ですからね?≫

シャル≪わかってるってば≫

モーラ「遡る事数世代。私の曾御婆様のお兄様がインファント島を離れ、

    インドネシアに出稼ぎへ行かれたのですが、そこで欧米人の方と

    恋に落ち、無事に結婚されました。そして生まれた男の子が育ち、

    インドネシア人女性と結婚され、さらに生まれた女の子が日本人

    男性と結婚され、生まれた女の子が機龍のお母様となった女性です」

一夏「え~っとつまり、機龍には欧米の人とインドネシアの人と

   日本人の血が流れてるって事?」

モーラ「はい。機龍の銀色の髪と黄色い瞳も、欧米人だった曾御婆様の

遺伝子だと思われます。…しかし、私の知りえた限りでは、

機龍は両親と海へクルーズに出かけたのを最後に、消息不明と

なりました」

シャル「それって、ひょっとしてクルーズ船が事故に会ったとか、

    そういう事?」

モーラ「はい。……機龍の遺体は見つからず、遠いとはいえ家族も同然。

    私と機龍は歳も近いので、私たちは仲の良い姉弟のようだと、

    よく周りの人達から言われるほどの仲でした。機龍の行方不明を

    聞き、数日は食べ物が喉を通りませんでした。

    ……ですが、数か月前、私の元に篠ノ之博士が現れました」

   ≪本当は、私の方から機龍がお世話になった事をお礼申し上げるために

    お会いに行ったのです≫

ラウラ「そうだったのか」

と、語られる嘘と真実の両方に納得する素振りをするラウラ。

モーラ「博士はどうやら、持てる情報の全てを使って、機龍の遺伝子データから

    私たちを探し出したそうです。機龍の無事を聞き、喜んだ私は

    博士に何度もお礼を申し上げました。そんな折、博士から

    機龍の元へ行く気はないかと誘われ、IS適正検査を受けたところ、

    B-という結果でしたが適正がある事が分かり、

    博士の御慈悲で学園に入学する事が出来たと言うわけです」

   ≪機龍がお世話になった事についてお礼を申したのは嘘の話も

    現実の話も同じです。しかし、学園に入れてほしいと

    頼んだのは、私の方なんです≫ 

セシリア「そうでしたの。それで学園に?」

ラウラ「だ、だが許嫁の話はどうなる?二人は血縁者なのだろう?」

モーラ「一応、機龍は日本国籍を取得していますし、

    日本の法律では三親等離れていれば問題ありません。

    ですから、私が許嫁になったとしても、これと言って

    違法などになる事はありません」

簪「じゃ、じゃあつまり」

モーラ「はい♪私と機龍は結婚できますよ♪」

と、笑顔でモーラがそう爆弾発言をした瞬間。

 

女子「「「「「「「「「「「「「「「嘘だぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」」」」」」」」」

 

食堂中に女子たちの無念の叫びが木霊したのだった。

 

それには苦笑するしかない一夏達。

と、ここで一夏がさっきから機龍が無反応な事に気づいて彼の方に

視線を向けた。そして……。

一夏「って、機龍半分寝てるじゃねえか」

 

彼の言葉通り、今の機龍はコックリコックリと首を上下に動かしていた。

そして、隣の居たモーラの膝の上にゆっくりと倒れた。

モーラ「あらあら」

そう言って機龍の頭を優しく撫でるモーラ。

 

一夏「さっき色々あったから、疲れたんだろうな」

そう言って一夏達は眠っている機龍に微笑みを向けた。

 

もっとも、ラウラや簪、セシリアは少々不満そうだったが。

 

その時、ふと箒の頭に疑問が浮かんだ。

箒「そういえば、モーラは姉さんと会ったと聞いたが、

  ISは渡されているのか?」

モーラ「はい。餞別次いでに持っていけと言われて、

    これを渡されました」

そう言って、モーラは左手の薬指に嵌めている指輪を見せた。

 

セシリア「待機状態が指輪なのですね」

モーラ「はい。機体名は≪アイギス≫。ギリシャ神話に登場する

    イージスと同じ意味の伝説の盾から名を貰いました」

シャル「でも、どうして盾の名前なんて」

モーラ「これは私の意思の表れです。…何人たりとも機龍を

    傷つけさせないために、私自身が盾になる。その

    覚悟をとして、盾の名を頂きました」

ラウラ「そうだったのか。…どんな機体なんだ?」

モーラ「それは、見てのお楽しみです♪」

 

その後も話し合いをしながらも、ずっと自分の膝の上で眠る

機龍を愛おしそうに撫でるモーラ。

   「あ、そう言えば思ったのですが、簪さん達は機龍の

    事が好きなんでしたよね?」

とういう発言に……。

セシリア「ふぇぁ!?」

ラウラ「うぐっ!?がふっ!?がはっ!ゲホッゲホッ!」

簪「ッ~~~~~~!!!」

 

セシリアは素っ頓狂な声を上げ、ラウラは飲み物を飲んでいたため、

激しく咳き込み、簪は顔を真っ赤にしてしまった。

 

モーラ「その反応からすると図星のようですね。ですけど……。

    機龍の正妻ポジションは譲りませんからね」

と言って笑って居るモーラだが、簪たち3人や周囲の女子には、

彼女の背後に≪ゴゴゴゴゴ≫という擬音がある事に気づいていた。

 

そして、ラウラ達がモーラと火花を散らしていると、機龍が

薄っすらと目を開けて、赤ん坊のように手の甲で瞼を擦った。

機龍「あれ、僕は……」

モーラ「目が覚めましたか?機龍」

機龍「モス、モーラお姉ちゃん。僕、寝ちゃって……」

そう言って体を起こそうとする機龍だが、モーラがそれを止めた。

モーラ「良いのですよ。好きなだけ眠っていて。私も機龍の

    かわいい寝顔が見られてうれしいですから」

そう言って機龍の髪を撫でるモーラ。

 

その後も辺りに見せつけるように機龍に膝枕をするモーラ。

ちなみに、周囲では嫉妬と羨ましい気持ちの視線が飛び交っていたと言う。

 

そんなこんなで翌日。

その日からは普通に授業も始まり、最初は2組との合同実習となった。

そして……。

 

 

授業開始前、アリーナのグラウンドに集まる1組と2組の生徒達。

しかし、彼女たちと一夏の視線は、機龍へと集められていた。

何故なら……。

 

機龍「うんしょ、と」

   『パチンッ』

「えっと、これで良いのかな?」

モーラ「えぇ、ばっちりです」

そう言ってモーラは機龍がヘルメットを被るのを手伝っていた。

今の機龍は、実は一夏達とは全く異なるISスーツを着ていた。

いや、それはもはやISスーツとは言えないかもしれない。何故ならそれは…。

 

かつて、機龍隊の隊員たちが戦場に赴く際に着装していた黒いスーツを

機龍のサイズに合わせた物だったのだ。

一夏「なぁ、箒、あれってやっぱり」

箒「あぁ、機龍の記憶世界で見た機龍隊の装備だ。…しかし、なぜ姉さんはあんな

  物を?」

と、ひそひそと話す一夏と箒。

一方の機龍は、心情としては複雑な面もあったが、かつて自分と共に戦った

茜や義人と同じような恰好ができる事に少しばかり喜びを覚えていた。

千冬「ほぉ、それが束が送ってきた新装備か」

と、そこにジャージ姿の千冬と真耶もやってきた。

真耶「新しいスーツの着心地はどうですか?」

機龍「はい。…とっても、懐かしい感じがします」

そう言って、自分の両手を見ている機龍。その顔には、少しばかりの涙と笑みが

浮かんでいた。

 

千冬「では、これより1組と2組の合同演習を始める。

   最初は…フラワー」

フラワー「はい」

千冬「貴様は束より専用機を貰ったそうだな?折角だ。今この場には

   専用気持ちがたくさんいる。貴様の物も見せてやれ」

フラワー「わかりました」

そう言うと、一夏達から少しばかり離れるモーラ

    「……出でよ、アイギス!」

左手を上に掲げるのと同時に、指輪形態のアイギスから光が

放たれ、瞬時にモーラの体を包み込み、ISとなって現れた。

 

モーラの持つ第3世代型の新造IS、≪アイギス≫は一夏達のそれと

比較してスラッとした体躯が特徴だった。

機体色はシャルロットのラファール・リバイブカスタムⅡに似た

オレンジ色だが、その上を白や黒、黄色のラインが走っていた。

一夏達のもつ白式や紅椿、ブルー・ティアーズなどと比べると

その脚部はかなり小さく、装甲が申し訳程度に配されているだけだった。

代わりと言っては何だか、体に装備される装甲の部分は胸やわき腹、

肩や腿など、あちこちに装甲が施されていた。

武装は見る限りだが、腰の後ろ部分にヒップホルスターがあり、

そこには銃剣付きのハンドガンのような物が二丁、フレームを合わせる形で

配されていた。

しかし、一番目を引くのは彼女の背後に浮かぶユニットだった。

 

それは、菱形のような、盾のような物体がモスラが持つ羽のように、

左右2対。4枚の物体が浮いていたのだった。

上部の二枚は黄色カラーに黒いラインが入っており、下部の二枚は

濃いオレンジ色に黒いラインが入っていた。

 

千冬「ふむ。それが貴様のアイギスか。…フラワー、その機体の

   武装はその後ろの拳銃二丁だけか?」

モーラ「攻撃用の武装はそうです。しかし、私の機体、アイギスの

    設計思想を言うのなら、この機体は攻撃するための機体

    ではありません」

千冬「何?」

彼女が疑問を漏らした次の瞬間、背部にあった4枚の羽が

ふわりと動くと、アイギスの背後を離れて空中に展開。

そして、それぞれの菱形の中央部から発信器のような物が浮かび上がり、

そこから黄金のエネルギーが横に広がった。

 

ラウラ「これは……エネルギーシールドか」

モーラ「はい。…この機体、アイギスは友軍機。もっと言うなれば、

    他者と自分をこの装備、≪イージス≫で防御する事に特化した機体なのです」

千冬「つまり、この機体は守備に全能力を割いている、という事か?」

モーラ「はい。そのため、攻撃用の装備はこの二丁の拳銃のみなんです。

    開発コンセプトを言うのであれば、アイギスは

    ≪高い機動性により、誰よりも早く味方の元へ駆けつけ、

優れたレーダーで戦場全体の攻撃を認識し、味方を

光学シールド、イージスで護る≫という物です」

ラウラ「つまり、友軍の支援に特化した、最初から単騎ではなく、

    複数の、仲間と戦う事を前提にした機体、というわけか」

箒「仲間を護る、盾となる機体、か」

セシリア「と言う事は、1対1のモンド・グロッソのような大会への

     出場は端から考えていない。というわけですわね」

モーラ「はい。これもすべて、我が身を掛けて、友を、愛する人を

    護るためです」

千冬「では、お前の実力を見るのも兼ねて、誰かに模擬戦の相手になってもらう。

   ……そうだな、オルコット。お前が相手をしろ」

セシリア「わかりましたわ」

 

そうして、ブルー・ティアーズを展開したセシリアとアイギスを纏った

モーラが上空で向かい合った。と、その時セシリアの方からモーラに

プライベートチャンネルが開かれた。

セシリア「フラワーさん。あなたが例え、篠ノ之博士に認められた許嫁

     であったとしても、私も恋する乙女。恋も戦いも、

     絶対に負けませんわ!」

モーラ「そうですか。その意気込みは見事です。ですけど、

    私だって負けません!」

そう言って両腰のホルスターから二丁のレーザーピストル、

≪ツインウイングス≫を抜き取り、構えるモーラ。

それに対して、セシリアもスターライトmkⅡを呼び出して構えた。

 

千冬「よし。では……始め!」

彼女の合図で試合が開始された直後、セシリアの背部ユニットから

4機のビット、ブルーティアーズが飛び出して、アイギスに向かって行った。

モーラ「来ましたね!だったら、こちらも!イージス達!」

それを見て、モーラも背部ユニットのイージスの接続を解除。

4枚のイージスがモーラから離れて行った。

 

一夏「何か、モーラのアイギスって見た目シンプルだよな」

箒「そうだな。背部装備のイージスを外してしまうと、何というか、

  ISと言うよりアニメやゲームに出て来る装甲服を着ている

  ようだな」

 

と、地上で彼らが感想を述べている間も戦いは続いていた。

セシリアのブルーティアーズの放つ四方からのレーザーを

イージスで防ぎながらツインウイングスからレーザーを放つモーラ。

彼女の軌道は優雅でありながらも豪快だった。

流れる水のように流線形の軌道を飛行したかと思うと、次の瞬間には

弾丸のように直角的に動いてセシリアを翻弄しつつ二丁拳銃から

レーザーを放った。

 

セシリア「くっ!?流石に早いですわね。それでもっ!」

相手の速さに驚嘆しながらもセシリアは左腕部に内蔵されている

機龍から与えられた武装、0式レールガン改をモーラに向かって

連射した。

それを高速で回避しながらツインウイングスで反撃するモーラ。

そして、レーザーがセシリアのレールガンを掠り、機関部を壊してしまった。

    「そんなっ!?」

一瞬の驚きでモーラから視線を外してしまったセシリア。そして、

モーラはそれを見逃さずに一気にセシリアに向かって接近した。

それに気づいたセシリアも咄嗟にスターライトをモーラに向けた。

 

千冬「双方、それまで!」

と、次の瞬間、千冬の声が聞こえ、動きを止めるモーラとセシリア。

今の2人はお互いの胸とお腹に銃口を至近距離で突きつけ合う恰好となっていた。

しかし、それを聞いてモーラはすぐにツインウイングスをヒップホルスターに

戻し、セシリアに笑みを浮かべた。

モーラ「いい勝負ができました。ありがとうございます」

そう言ってイージスを背中に戻しながら右手を差し出すモーラ。

セシリア「こちらこそ。ありがとうございました」

それに応え、握手を返すセシリアだった。

 

で、その後、最後を締めくくる試合は一夏の白式第二形態≪雪羅≫と

鈴の甲龍の試合が行われ、一夏は善戦したものの、白式以上に

燃費が悪くなった雪羅のエネルギー切れによって結局負けてしまった。

 

授業終了後。機龍と一夏は男子更衣室で着替え、機龍は一夏より

一足先に教室に戻った。のだが……。

その後、一夏が授業に遅刻してひと悶着あった(機龍の一件もあって

シャルロットがラファールを出すことはなかったが、千冬とシャルロットの

鉄拳が一夏を襲った)のをここに記しておく。

ちなみに、その事をみていたモーラ曰く。

モーラ「一夏さんが鈍感なのもあれですけど、やっぱり恋する乙女って

    怒らせると怖いですね~」

だ、そうだ。

 

その後、全校集会が行われ、一夏達は講堂に集まり、生徒会長の

話を聞いていたのだが……。

機龍『やっぱり、あの人が生徒会長だったんだ』

数か月前、ゴーレム乱入事件の時、彼女に会って居た事を思い出していた

機龍だった。

で、その後も彼女、『更識楯無』の発表は続き、一夏と機龍にとって

衝撃の事実が発表された。

楯無「さて、では一つだけ、私からみんなに学園祭に関してのお知らせが

あります。本来学園祭の中では各部活により出し物に対して投票が

行われ、上位の部活動には部費に特別助成金が当てられるのは、

2年と3年の人たちは知っているわね?でも、今回は特別ルールを

設けます。それは……」

と、次の瞬間、機龍と一夏を扇子で指し示す楯無。同時に彼女の

後ろのスクリーンに二人の写真が映し出された。

  「1位の部活動には織斑一夏君を。2位の部活動には

   篠ノ之機龍君を強制入部させる事になりました」

一・機「「………え??」」

女子「「「「「「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?!?」」」」」」」」」」

一夏と機龍の呆けた声に続いて、大ボリュームの女子の声が

響いた。

楯無「と、言うわけで、みんな出し物、がんばってね」

とだけ言い残すと、楯無は壇上を降りた。で、一夏達の周りの女子は

と言うと……。

女子「今すぐ部室に戻って部員全員集めて会議よ!授業!?

   そんなの後よ!私たちの想像力と努力に女子としての

   命運がかかってるのよ!」

  「機龍君と、一緒の部活動。一緒に汗を流して、夕日で

   オレンジ色に染まる部室に、二人っきりで……あぁ」

   「しっかり!それを夢で終わらせないために頑張るのよ!」

「待っててね機龍君♪一緒に青春して、大人の階段、

     一緒に登ろうね♪」

一夏『待て待て待て待て待て最後の!機龍に何させる気だ!?』

と、内心でツッコミを入れる一夏だった。

 

こうして、女子たちの(一夏と機龍を手に入れるための)やる気を

最大まで引き上げた楯無だった。

 

その後、教室に戻った一夏達は、学園祭が近い事もあり、クラスの出し物を

決める事になったのだが、女子たちが提案した物が一夏にとっては

あまり納得できないものだったのだ。で、どんなものかというと……。

1、一夏・機龍のホストクラブ

2、一夏・機龍とツイスター

3、一夏・機龍とポッキー遊び

4、一夏・機龍と王様ゲーム

というのばかりが出てきていた。まぁ、そんなのを出されれば

一夏が言う事はひとつだけだ。

一夏「却下!!」

女子「「「「「えぇぇぇぇっ????」」」」」

一夏「アホか!?誰がうれしいんだこんなもん!」

女子「私は嬉しいわね。断言する」

  「そうだそうだ!女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

  「織斑一夏と篠ノ之機龍は共有財産である!」

一夏「俺と機龍は物扱いかよ!?」

と、一夏の批判も空しく女子たちの声には勝てなかった。

  「き、機龍も何か言ってやれよ!お前もこんなのは

   嫌だろ!?」

と、機龍の方に話題を振るが、当の機龍は画面の文字列を

見て、首を捻っていた。

  「機、機龍、どうした?」

それが気になってもう一度声をかける一夏。

機龍「うん。実は僕、ポッキーゲームとか、ツイスターって言うのが

   何なのかわからなくて、ずっと悩んでたんだ。

   どういう遊びなの?」

と、疑問を口にする機龍。

一夏「そ、そうか。じゃあそれはとりあえず決まった時に説明

   するから。……とりあえず誰かまともな意見を

   出してくれ~~!」

と、叫ぶ一夏だった。

 

その後、何とラウラの発言によって1組の出し物の候補にメイド喫茶が

上がった。それに食いついて行く女子たち。で、一夏は執事服になり、

機龍はというと……。

女子「じゃあじゃあ!機龍君はメイドさん姿で!」

  「良いねそれ!」 「あ、でも機龍君だとそう言うのの経験は…」

機龍「出来るよ?」

女子「「「「「え????」」」」」

機龍「少し前にある人に頼まれてアルバイトをしたことがあるんだ。

   その時お店の店長さんのメイド服姿でお仕事してって頼まれて

   お仕事したことがあるんだ。それに料理は束達と一緒に生活

   してた時教えてもらったから、レシピさえあればなんでも

   作れるよ」

と言うと。

女子「ち、ちなみにその時はどんな格好したの?」

機龍「えっと。メイド服に猫の耳と尻尾を着けて、ニャン♪って

   言ってって言われたよ」

それを聞いた女子たちは当然想像したわけで……。

   『『『『『ぶっはぁぁぁぁっ!!』』』』』

盛大に鼻血を吹き出したのだった。

 

その後、一夏はクラス委員長として職員室に千冬に報告のために

訪れた後、楯無と出会い、彼女に連れて行かれる形で生徒会室へ行き、

そこでのほほんさんの本名を初めて知ったり、彼女の姉である≪布仏虚≫と

出会った。そしてそこで、一夏は楯無から弱いと指摘された。

そして、鍛えてあげると言われた一夏。だが……。

 

今、一夏は自分の右手を見て、握りしめながら頭の中に鮮明に

刻まれている機龍の、ゴジラの、戦いの、本当の殺し合いの記憶を

見返していた。

あの殺し合いと、硝煙が漂う戦場に比べれば、自分たちの戦いは

何と滑稽なんだろう。と思っていた一夏。

一夏『バリアーに守られて、死ぬこともないスポーツのような戦い。

   俺はそんなので強くなんてなりたくない。ならなくていい。

   戦うためじゃない。俺達の、大切な人を守れるだけの

   力があればそれでいい。……そうだろ?機龍』

  「……コーチの件、断ります。俺に、コーチ何て必要ありません」

楯無「ふ~ん?良いの?君、ずっと弱いままだよ?」

そう言って扇子を開く楯無。そこには、弱者の文字が描かれていた。

一夏「……弱いって、なんですか?」

楯無「?」

一夏「あなたの言う、弱さって何ですか?ISの操縦の事ですか?

   だったら俺、弱いままで良いです。兵器をスポーツと

   勘違いしてる人が強くて、ただ大切な人を命がけで護る事しか

   できない人が弱いなら、俺は弱いままで良いです」

楯無「………」

一夏「俺は誰かを傷つけるためにここに居るわけじゃありません。

   それに、俺はあなたよりも強い人を知って居る」

楯無「……一夏君、それはあなたのお姉さんの事を言ってるのかしら?」

一夏「いいえ。……あいつは、ISの試合だとしても戦う事が嫌いで、

   それなのに誰かが危険な時は、真っ先に飛び出して、自分の

   逃げたいって叫んでる心を必死に抑え込んで、誰かのために

   戦える。そんな奴が俺にとっての強い人です。…生徒会長、

   あなたにとっての強さってなんですか?」

楯無「………」

一夏「俺は戦いたいからここに居るんじゃありません。

   失礼します」

そう言って生徒会室を出て行こうとする一夏。しかし。

楯無「待ちなさい」

その言葉に足を止める一夏。

  「そこまで言われちゃうと少しお姉さん悲しくなっちゃうのよね。

   あなたの言う人ってもしかしてだけど、あの機龍君の事でしょ?

   流石にあんな子が私より強いって言われると、お姉さん

   ショック」

それを聞いて、一夏は苛立った。機龍の覚悟と過去を聞いても、そうやって

ふざけて居られるのか、と。

一夏「あんたにはわかんねえよ。人に生み出されて、利用されて、

   それでも俺達人間を友達だって言ってくれる、機龍の強さを」

そう言うと、一夏は生徒会室を出て行った。

 

あの記憶との邂逅以降、一夏達7人の中には、機龍に対する一種の

尊敬のような感情が生まれていた。

絶望と地獄を経験し、その元凶であるはずの人間、自分たちをそれでも

受け入れ、友として、愛する人として見てくれた事が、その感情が生まれる

一端となっていたのだ。

そして、あの記憶を受け、自分たちがここで行っている演習や試合が

機龍やゴジラの記憶から見れば、≪お遊び≫程度にしか見えない事も

実感していたのだ。砲声と怒号、轟音が響き渡り、全てが壊れて行くあの

記憶に描かれていた風景こそが本当の戦いの場、戦場なのだと。

そして、あそこで誰かを護るために命がけで戦っていた戦士たちに

比べて、スポーツ感覚で兵器を使って戦う自分たちの姿はどれだけ矮小なのだと。

ここでの戦いには、誰かを護るなんて崇高な使命なんてない。

命の危険なんてほとんどない。唯お互いの優劣を競う『競技』でしかないのだから。

心の奥底で7人はそう思っていたのだった。そして、その日を境に

7人はそれぞれの鍛錬に力を入れ始めたのだった。

少しでも、自分の大切な仲間を護れる力を、戦うためではなく、護るための

力を手に入れるために。

 

 

一方、残された楯無は彼の最後の言葉を思い返していた。

楯無「機龍君の、強さ、ね~。…ねぇ本音。あなたから見て、

   その機龍君って子はどんな感じ?」

本音「ほぇ?うんと、リュウ君はとっても優しいよ~。よく勉強とか

   でわからない所があると教えてくれたり~。あ、後はお財布

   忘れてお昼食べられなくなった時奢ってくれた事もあったよ~」

と、間延びした声で語る本音。

  「とっても優しいよ~。……あ、でも」

楯無「何々?どうかしたの?」

本音「リュウ君って戦うのだけは大嫌いみたいだよ?一学期の頃は

   戦うのが大嫌いだって言ってたよ~」

楯無「戦う事が、嫌いね~。……ちょっと様子見してくるわね」

虚「……仕事があるのですから、早く戻ってきてくださいね?」

楯無「わかってるってば」

そう言うと、楯無は生徒会室を出て、機龍の親しい人物たち、

つまり一夏と箒達に彼の事を聞いて回った。

 

7人は彼の事をこう評した。

一夏曰く『俺にとって、大切で、弟みたいなダチ』

箒曰く『世界でもっとも高潔な獣であり人間である男』

鈴曰く『泣き虫だけど誰よりも優しい勇者』

セシリア曰く『世界で一番、女性が夫にするのに相応しい男性』

シャル曰く『僕達の友達で居てくれる大切な友人』

ラウラ曰く『世界で一番人間の罪深さについてを知りながら、それでも人間を

愛する神』

モーラ曰く『破壊神にもなれるのに、誰よりも心優しい王様であり、

私の全てを捧げられる男性』

 

7人の彼に対する評価を聞いた後、楯無は夕食後に彼の部屋の近くで

機龍を待ち伏せた。そして、待つこと数分。

彼女の予想通り機龍が現れた。しかも、彼女にとっては幸運な、

彼一人の状態だった。チャンスとばかりに柱の陰から

機龍の前に現れる楯無。

機龍「あ。あなたは確か、生徒会長の、簪のお姉さんの。

   更識楯無先輩」

楯無「そう。学園最強のお姉さん。生徒会長のお姉さんなの。

   こんな夜に悪いんだけど、実は私あなたに聞きたい事があるの?」

機龍「僕に、ですか?」

と、疑問符を浮かべる機龍。

楯無「そうなの。…実は少し前に私が一夏君のコーチをしてあげるって

   言ったらあっさり断られちゃったの。それでその時一夏君がね、

   私にこう言ったの。機龍君は私よりも強いって」

その言葉を聞いて、機龍の体を悪寒が襲った。

機龍「そんな、事、ない、ですよ。僕何て……。あ、あの。

   それで、質問って、何ですか?」

楯無「そ・れ・は、あなたの強さの秘密、教えてくれない?」

そう言って機龍に迫る楯無。その顔は笑って居たが、機龍にとっては

今の一言で心臓が跳ね上がった。

 

機龍『もし、もし、この人に僕がゴジラだって、知られたら……』

まだ親しくもない彼女には話す気になれなかった機龍。

  「ダ、ダメです!そんな事、教えられません!!」

そう言って楯無の横を走り去ろうとするが、彼女は機龍の

腕を掴んで壁に彼の体を押し当てた。俗に言う、壁ドンの男女逆バージョン

状態だった。

楯無「ねぇ良いでしょ~?お願~~い」

と、言って機龍に体を近づけ、胸を押し当てる楯無だったが、今の機龍

にとっては早く彼女から離れたかったのだ。

機龍「やめて、ください」

そう言って泣きそうになる機龍。流石にこれはまずいと思って

離れようとした楯無だが、遅かった。何故なら……。

 

簪「機龍!!」

通路の角から現れた簪が機龍と楯無を見るなり走ってきて、楯無を

突き飛ばした。

楯無「きゃん!痛った~~い」

そう言って尻餅をつく楯無から機龍を奪い、抱きしめるようにして

彼を庇う簪。今の彼女の目は、実の姉であるはずの楯無を

恨みたっぷりの視線で見つめていた。

簪「機龍?大丈夫だった?この人に何か変な事されなかった?」

機龍「う、うん。何とか」

と言うが、その目尻には涙がたまっており、それが簪の心を

逆撫でしてしまった。

楯無「この人って、流石にそれは無いんじゃないの?簪ちゃん」

そう言ってスカートのパンパンと払ってから立ち上がる楯無。

簪「……。機龍に何をしていたんですか?あなたは」

楯無「ん~。ちょっとお話をしてたの。私ね、一夏君の

   コーチをしてあげるって誘ったけど断られちゃったの。

   で、その時一夏君がこういったの。機龍君の方が私より強いって。

私的にはロシアの代表としてその言葉は聞き捨てできなかったの。

お姉さん、これでも学園最強なのに」

というが、簪はそれを聞いて奥歯を噛みしめた。

簪『違う!機龍の強さは、誰かを倒すための強さなんかじゃない!

  みんなを護りたいって言う心が、誰よりも強い!織斑君も、

  私たちもそれはわかってる!機龍に酷い事しかしなかった

  私たち人間を受け入れてくれた機龍の、本当の強さを!』

楯無「それでね。じゃあここは本人に直接聞こうって事で、

   ここで機龍君とお話を―――」

簪「相変わらず、身勝手だよね」

楯無「え?」

簪「他人の事を自分のお遊びで振り回して、傷つく事も気にしないで。

  機龍にだって、喋りたくない事があるのに、無理に喋らせようとして。

  ……何が生徒会長よ。私たちは、あなたのお人形でも、

  玩具でもない!」

そう言うと、簪は機龍の手を引いて楯無の横を通り過ぎて行った。

その去り際、彼女に向かって簪は……。

 「私たちは、孤高な強さなんて要らない。私たちは、仲間の力で強くなる

  もう、私はあなたのおまけなんかじゃない」

と、密かに呟いたのだった。

 

その後、部屋に戻った簪と機龍だが、簪は急に機龍を自分のベッドの

上に押し倒した。

機龍「簪、どうしたの?大丈夫?」

そう言って、自分に覆いかぶさっている状態の簪を気にする機龍だったが、

簪は無言のまま、機龍を抱きしめていた。やがて……。

小さいながらも嗚咽を漏らす簪。それを聞いた機龍は、何も言わずに

簪の頭を撫でた。

簪「私……私は、やっと、大切な人ができて、護りたい人ができて、

  前を向いて、歩き出せて、本当は、お姉ちゃんと、仲直りしたい

  って思ったのに、機龍とお姉ちゃんが、一緒に居たのを見て、

  抑えられなくて……私は……」

機龍「大丈夫だよ簪。……きっと、お姉ちゃんと仲直りできるよ。

   僕も、応援するから」

簪「うん。ありがとう」

そうして、すぐに二人は眠りに着いた。

 

 

そして数日後。

とうとう学園祭の日がやってきた。

開始と同時に、一夏、機龍と言う学園で唯一男子が居るクラスという

メリットもあり、多くの生徒や生徒によって招待された外部の人達。

――主に生徒の女友達――などが一組に集まった。

 

一・機「「いらっしゃいませ、お嬢様」」

と、入口では燕尾服姿の一夏と、メイド服姿で銀髪のカツラを被った

機龍がお出迎えをしていた。

女子「見て見て!執事服姿の織斑君よ!」 「こっちはメイド服の機龍君ね!」

   「かっこいい~!」 「かわいい~!」

と、それぞれ来店客に大反響になったのだった。

 

その後。接客係をしていた機龍だったが、休憩時間になると制服に

着替えてすぐに教室を飛び出して行ってしまった。

セシリア「あら?機龍はどちらへ?」

モーラ「あぁ、それはですね。機龍がチケットを使ってクロエさんを

    招待したからですね。クロエさんは少々目が不自由ですから。

    今から迎えに行くんだ、と言っていました」

それを聞いて、彼女と面識があったセシリアは納得しつつも

彼女に嫉妬した。

セシリア『相変わらず、この恋にはライバルが多いですわね。

     でも、私も負けませんよ』

と、思いながら接客に戻るセシリアだった。

 

そして、校門の前には麦わら帽子を被った少女、クロエ・クロニクルが

杖を持った状態で立っていた。そこへ……。

機龍「あ!クロエ~!」

彼女を見つけた機龍がクロエの元に走り寄って来た。

クロエ「こんにちは機龍。こうして会うのは、イギリスでの一件以来

    ですね」

機龍「うん。クロエと束は?元気だった?」

クロエ「はい。私もあの人も元気です。……それでなのですが…」

と、笑って居たクロエの顔が少しばかり暗くなった。

それを見て、機龍は大体想像ができた。

機龍「そっか。モスラから、僕の記憶を見せてもらったんだ」

クロエ「……。すみません。あなたの過去を勝手に……」

機龍「ううん。良いだよ。クロエと束には、ずっとお世話になっていたんだ。

   二人には、それを知る権利があるんだ」

クロエ「……。ありがとうございます、機龍」

機龍「気にしないで。それより、ほら。一緒に学園祭を

   見て回ろうよ」

クロエ「はい」

 

その後、クロエの手を引きながら学園祭を回る機龍。

出店で料理を食べたりとしていたが、楽しい時間はあっという間に

過ぎてしまい、機龍は戻らなければならなくなってしまった。

機龍「ごめんね、折角来てくれたのに」

クロエ「いえ。機龍とのひと時。とても楽しかったです。では、

    私はそろそろ失礼しますね。それと、もし何か手伝いが

    必要な時は通信機で呼んでください。飛んできますから」

機龍「うん。ありがとうクロエお姉ちゃん。時間ができたら、

   束とお姉ちゃんの所に一度戻るよ」

クロエ「わかりました。束様にも伝えておきます。では」

そう言うと、クロエは学園を後にした。

 

で、機龍は仕事に戻るために一組の教室に戻ってきたのだが、

そこでは一夏と簪た8人それぞれ執事服やメイド服、チャイナ服

等で集まっていた。ちなみに簪の居る4組は料理系の出し物

だったので、今の簪は制服の上に白いエプロンをした状態だった。

そして、8人の前にはメイド服姿の楯無が神出鬼没と書かれた

扇子を持った状態で立っていた。

 

で、戻ってきた機龍だったが、この前強引に迫られた事もあり、警戒して

一夏の後ろに隠れてしまった。

まるで怯える小動物のようだが、一夏達はそんな事より気になった事が

あった。

一夏「……。生徒会長、機龍に何したんですか?」

そう言いながら楯無を睨みつける一夏。

他の7人も無言のまま楯無を睨んでいる。

特にモーラのはその視線だけで相手を射殺せるほど強烈な物だった。

楯無「ご、誤解よ!いや、確かにちょっと聞きたい事があっただけで、

   それでちょっと迫る感じになっちゃったのは確かなんだけど~!

   とにかく誤解なの~!」

その後、何度か謝られた事で機龍は一夏の後ろから出て来た。

 

で、一夏と機龍、そして箒達を含めた9人は何の因果か生徒会が

行う演劇に強制的に参加させられてしまった。

その後、アリーナの更衣室に連れていかれた一夏と機龍は

青い王子様の服と金色の王冠を渡され、それに着替え始めた。

一夏「なぁ機龍。今気づいたんだが、楯無さんと更識さんって」

機龍「うん。簪と生徒会長は姉妹みたいなんだ」

一夏「そっか。…何というか、正反対だよな」

という事を話しながら着替えた二人は、言われた通りに暗い

アリーナにやってきた。

 

アリーナの天井は閉じられ、天井部分にはプラネタリウム並みの

夜空が映し出されていた。

と、その時、一夏達の前にスクリーンが投影され、『シンデレラ』の

お話(オリジナル)が楯無のナレーション付きで映し出された。

そんな中。

機龍「ねぇ一夏。シンデレラって確か御伽話とか童話じゃなかったっけ?」

一夏「良いか機龍。あれはシンデレラじゃねえ。あれは改悪された

   間違ったお話だ。ぜっったいにあれがシンデレラのお話だって

   信じるなよ!?」

  『生徒会長ぅぅぅっ!これで機龍が間違った常識を覚えたらあんたの

   せいだからな~!』

と、心の中で叫ぶ一夏だった。

 

と、次の瞬間、周囲の明かりが一斉に点灯した。 

一夏と機龍の周囲にはお城をイメージしたセットがあり、辺りを

キョロキョロと見まわす二人。

と、その時。

鈴「一夏~~!王冠を寄越しなさ~~い!」

近くのテラスの上から一夏に向かって鈴が飛びかかってきた

一夏「おわっ!?いきなり何すんだよ鈴!」

それを咄嗟に避ける一夏

鈴「良いから!その王冠を早く渡しなさい!そうすれば私は!」

と、再び掴みかかって来る鈴だったが、それを左右から伸びた手。

シャルロットと箒の腕が掴んで止めた。

箒「鈴、貴様には悪いが――」

シャル「こればっかりは譲れないんだよね!」

そう言って、鈴を投げ飛ばす箒とシャルロット。

一夏「なんか、俺達の王冠がターゲットっぽいが、どう思う機龍?」

と言って機龍の方を向く一夏だが…。

 

機龍「う~~ん」

ラウラ「機龍!私に!私に王冠をくれ!」

機龍「じゃ、じゃあ」

簪「ダ、ダメ!私に頂戴!」

機龍「え~っと」

セシリア「いえ!そこはこの私に!」

機龍「それなら」

モーラ「違います!私に下さい機龍!」

と、ドレス姿の簪、モーラ、ラウラ、セシリアに囲まれ、王冠を

渡してほしいとせがまれている機龍は誰に渡そうかと迷っていたのだった。

その様子を見て苦笑する一夏。

彼女たちが王冠に拘る理由はただ一つ。一夏の王冠を手にした者は一夏と。

機龍の王冠を手にした者は機龍と。それぞれのルームメイトとなれるのだ。

箒達は一夏と相部屋になるために。セシリア達は機龍と。簪は

現状を維持するために。想い人の王冠を狙っていた。まぁ、だからと言って

暴力的な事は機龍の記憶の事もありストッパーとして働き、

鈴たちは武器を使わない力ずくで。セシリア達は機龍を説得して

王冠を手に入れようとしていたのだった。

 

しかし、参加者は彼女たち7人だけではなかった。何故ならこれは、

『観客参加型』演劇なのだから。

 

と、その時、近くにあった城門から無数の生徒達が雪崩れ込んできた。

一夏「な、なんだこれ!?」

楯無「ではでは~。これからフリーエントリーグループの入場で~す」

と、呑気な楯無の声がアナウンスされた。

それを見て、流石に驚く箒達

箒「不味い!あの人数で囲まれたら逃げ場がないぞ!」

ラウラ「くっ!止むおえないか!一夏!お前は機龍を連れて

    逃げろ!」

一夏「わ、わかった!」

ラウラ「良いか。今から一時共同戦線だ。今あの者達を排除

    しなければ、我々が王冠を手にするチャンスすら消えてしまう」

モーラ「致し方ありませんね」

簪「わかりました。そうしましょう」

7人「「「「「「「ここは通さない!!!」」」」」」」

と、あたかもアナウンス時に流れた映像のように箒達はドレスの下に

隠してあった武器を片手に生徒達に向かって突進していった。

 

一方その頃、機龍の手を引きセットの裏に逃げ込んだ一夏。

と、その時、走っていた一夏達の足元が突然開き、そこから伸びた手が

まるで一夏と機龍を奈落に引き込むように穴の中に引きずり込んだ。

 

薄暗い更衣室の中に入った一夏と機龍の前には、一人のスーツ姿の

女性が居た。一夏はどうやら彼女と面識があるようだが、その彼女と

目が合った瞬間、機龍の中に吐き気がこみあげて来た。

機龍『この感じ。僕は、知って居る。これは、敵意と蔑視の感情だ』

 

しかし、その事に気づかない一夏はどこか呆けた表情をしていた。

一夏「どうして、巻紙さんがここに?」

巻紙「はい。この機会に白式と銀狼の両方を頂こうと思いまして」

一夏「は?」

呆けた声が漏れた次の瞬間

巻紙「良いから寄越せって言ってんだよ!」

振り向きざまの蹴りが一夏に向かって飛んだ。

機龍「一夏!」

咄嗟に巻紙と一夏の間に飛び込んだ機龍の腹部に彼女の蹴りが炸裂した。

  「かはっ」

息を吐きだしながら吹き飛び、近くのロッカーに背中から激突する機龍。

一夏「機龍!こいつ!来い!白式!」

相手の事を敵と認識した一夏は咄嗟に白式を装着し、機龍を護るために

倒れている彼を背に雪片を構えた。

  「お前、何者だ」

雪片を両手で構えながら目の前の敵に問う一夏。

巻紙?「私かい?私は企業の人間に成りすました、謎の美女だよ!」

そう言った次の瞬間、巻紙のスーツの背中部分が盛り上がったかと思うと

蜘蛛を思わせる8本足が服を突き破って出て来た。

 

一夏「そのパーツ、まさかIS!?」

巻紙?「そうさ!その目に冥途の土産ついでに焼き付けな!」

彼女が叫んだ次の瞬間、その体が光り包まれ、部分展開していた

巻紙。もとい『オータム』のIS『アラクネ』が姿を現した。

 

アラクネは一夏達の人型を成したISとは抜本的に異なるスタイルをしていた。

自重を支えているPICを内蔵した足が全部で8本4対ある事。

また、第2の腕とも言えるオータムの両腕とは異なり独立した3、4本目の

腕がある事。そして背部に大型のユニットを装着している事だ。

その名通り、見る者に蜘蛛を連想させるISだった。

 

そのアラクネを見ても、一夏はできるだけ冷静であることに努めた。

一夏『落ち着け。よく考えろ。俺が相手にしているのは、人間だ。

   ゴジラじゃない。無敵の王様じゃないんだ。考えろ。考えろ』

  「あんた、専用気持ちって事は、軍の特殊部隊か何かなのか」

少しでも相手を喋らせ時間を稼ごうと、汗を流しながらも質問する一夏。

オータム「はっ!違うねぇ。私は悪の秘密結社、≪ファントムタスク≫が

     一人、オータム様っていやぁ、わかるか?」

一夏「ファントム、タスク?」

オータム「あぁ?知らねえのかよ。ま、どっちでも良いけどな!」

と、次の瞬間6本足と第2の腕それらに内蔵されたビーム砲。

合計で8個のビーム砲の砲口が一夏の方を向いた。

一夏『ッ!不味い!俺が避けたら機龍がやられる!ここはせめて、

   何発か受けきってから、機龍を抱えて逃げるしか!!』

そう思いながら雪片で攻撃をガードするために斜めに構え、

射撃を防ごうとしたが……。

オータム「へへ、さぁてガキども!仲良くあの世でおねんねして――」

 

と、その時。一夏の背筋が凍り付き、オータムは視線を一夏の

後ろに移した。

その理由は簡単だ。他者の行動を制するだけの『殺意』を持った者が

すぐそばに居たからだ。

 

機龍?「あ~~。ようやく入れ替われたぜ」

一夏の後ろからゴキゴキと骨を鳴らしながら立ち上がった機龍。

その言葉だけでも、他者を威圧する暴君の覇気がにじみ出ていた。

一夏の横に並んだ機龍を、恐る恐る見る一夏。今、機龍。彼の

体は白かった髪が真っ黒になり、瞳は血の如く紅く、獲物を

求めているかのようにまっすぐオータムを睨みつけ、その口元は

残忍な捕食者の如き見る者すべてを畏怖させる笑みを浮かべていた。

 

一夏「お前、まさか。ゴジラ」

自分の喉から絞り出すようにかすれた声でしゃべる一夏。

そう。今機龍の体を操作しているのは機龍自身ではない。ゴジラなのだ。

ゴジラ「あぁ?見りゃわかんだろ?これが変わってんだからよ」

そう言って髪の毛をいじるゴジラ。

   「ま、良い。……おい」

その言葉だけで、オータムは武器を構えた。

   「よくも人を足蹴にしてくれたなクソババァ。覚悟は

    できてんだろうなぁ?あぁ?」

オータム「誰がババァだ!このガキが!」

彼女は叫ぶと、アサルトライフルを取り出し、ゴジラの頭に向けて

一発放った。

銃弾は寸分たがわずゴジラの眉間に命中し、その体が僅かにのけぞった。

    「ハハハ!ざまぁねえ――」

だが、次の瞬間、笑って一瞬目を閉じたオータムのヘルメットの前に、

ゴジラの頭があった。

    『バゴォォォォンッ!』

次の瞬間、アラクネが吹っ飛び、いくつものロッカーを巻き込んで壁に

激突した。ガラガラと音を立てて崩れる瓦礫。

 

その光景に唖然となる一夏。

ゴジラは撃たれてからすぐさま体勢を戻し、その勢いで突進するように

跳躍。オータムのアラクネに頭突きをかましたのだった。

その時、瓦礫の中からヘルメットが割れ、素顔を露にしたオータムが

這い出て来た。

オータム「バカな!?お前の頭を確かに撃ち抜いたはずなのに!!」

ゴジラ「撃ち抜いた?これがか?」

そう言って自分の額を見せるゴジラ。彼の額は少し赤くなっている

だけで傷一つついていなかった。

   「貴様の持つちゃちな銃器では俺を撃ち抜くことなど

    到底不可能なのさ!何なら、もう一発試してみるか?ん?」

と、オータムを挑発するゴジラ

オータム「っのガキがぁ!!!」

まんまと挑発に乗ったオータムがアサルトライフルとさらに

4本の脚からビームを放ってきた。

 

無数のレーザーがゴジラの体を襲うが、それは機龍の服を貫通しその下の

皮膚を赤くするだけで決定打にはならなかった。

オータムはルーム内に煙が充満したところで一度銃撃をやめた。

    「へへ、流石にこれだけの攻撃を喰らえば―――」

ゴジラ「無傷なわけがない?そう言いたいのか?あぁ?」

次の瞬間、煙の中から飛び出してきたゴジラがオータムの腹部を

下からのアッパーで殴りつけた。

オータム「ごはっ!!!」

ゴジラのアッパーはシールドエネルギーさえも貫通してオータムの

腹部に突き刺さった。

    「ゲホッゲホッ!う、おぇぇぇっ」

腹ばい状態に倒れたオータムの口から胃液と血が混ざった吐しゃ物が

吐きだされ、部屋の床を汚している。そんなオータムに近づいたゴジラの

足が、オータムの頭を真上から押さえつけ、吐しゃ物に水たまりに

彼女の顔を押し付けた。

ゴジラ「は、ハハハ!クハハハハハハ!!無様だなクソババア!

    気分はどうだ?自分のぶちまけたクソで自分の顔を

    汚される気分は!ん?」

オータム「っの、ガキがぁ」

ゴジラ「ククク、良い目だ。さぁ、もっと俺を――」

そう言って頭から足を離し、それを後ろへ振り上げるゴジラ。そして

   「楽しませろぉ!」

オータムをサッカーボールのように蹴飛ばした。

爆音と共に壁に激突し煙を上げながら壁にめり込むアラクネ

   「どうした?もう終わりか?あれだけ息巻いておいて

    随分ショボい幕切れだなぁ」

と、その時、無数の糸が煙の中から飛び出してきてゴジラの体に

巻き付いた。

一夏「ッ!機龍!」

オータム「ハァ、ハァ、ハァ。…バカが。捕まえちまえばこっちのもんだ!」

煙の中から顔の汚れを拭ったオータムが出て来た。

アラクネの第2の腕には特殊な素材で出来たワイヤーの射出機構があり、

それを撃ち出してゴジラを縛り上げたのだった。だが……。

 

ゴジラ「ほう。獲物を封じ込め、じわじわと喰らう。成程、見た目通りの

    蜘蛛だな貴様。……しかし知って居るか?

    獲物の力量を見誤ったハンターの末路を!」

次の瞬間、ゴジラの体から黒い瘴気が溢れ出し、ルームの床を

覆っていった。今、一夏は自分の足元を見るが、彼の目には自分が

今何もない暗闇の底に引き込まれ始めているように錯覚し、慌てて床から

飛び上がった。

 

と、その時、ゴジラの体から仄かに湯気のような物が立ち上り始め、

次第に周囲の空間までもが歪んで見えだした。それが意味するのは

ゴジラが高温状態である事だ。そして、その高温はゴジラの体に

巻き付いていた糸を簡単に溶かしてしまった。

 

オータム「バカな!?その糸はそんじょそこらの火や炎であぶっても

     溶けない代物なんだぞ!?それをどうして!!」

ゴジラ「ふん。……糸を用意するなら、もっと溶けない物を

    使うべきだったな。さぁ、パーティーは終わっていないぞ。

    まだまだ、俺を楽しませろ。もっと、もっともっと!

    殺し合おうじゃないか!!クハハハハハハ!!」

 

狂気とも取れる笑みを笑い声を上げるゴジラの体に、黒い瘴気が

まとわりつき、覆っていく。

そして、その瘴気が晴れた時、現れたのが……。

 

黒龍『GYAOOOOOOOON!!!!』

 

ラウラとの初めての戦いの時、彼女の頭を握りつぶす寸前まで追い込んだ

暴君の姿、黒い機械の体、血の如く紅い目、毒を連想させるラインを

持った、『黒龍』がその場所に立っていた。

 

 

新たに一夏達の前に現れた謎の敵、『ファントムタスク』。

だが、その敵の前に立ちはだかるのは、世界最強にして絶対の暴君、

『ゴジラ』だった。

 

     第14話 END

 




というわけで、ゴジラ本格的覚醒&参戦です。
これ、オータムとマドカの死亡フラグ確定かな?


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第15話

今回はファントムタスク襲撃回の後半です。


――前回までのあらすじ――

機龍、ゴジラの記憶と邂逅し、更なる絆を結んだ機龍と一夏達。

そんな折、学園の生徒会長であり簪の姉でもある≪更識楯無≫が

一夏と接触。彼のコーチを買って出た。しかし、本当の殺し合い

を知ってしまった一夏にとっては、力の大きさ=強さの大きさ

という図式は間違いであり、一夏達7人は本当の強さとは何なのかを

考え、それはただ大切な人を守りたいという意思と覚悟であり、

自分の意思で鍛錬を始めていた。それもあり一夏は楯無のコーチの件を蹴った。

そして、その際に一夏は機龍が楯無よりも強いと言ったため、

楯無は機龍に興味を持ち、半ば強引に彼の秘密を知ろうと

迫ってしまうが、それがかえって姉妹である簪との間にある亀裂を

より深くしてしまった。

やがて、学園祭の当日となり、楯無によって演劇に参加させられてしまった

一夏と機龍、簪たち女性陣7人。

だが、そんな中、一夏と機龍の前に≪ファントムタスク≫の

≪オータム≫と名乗る女性がIS≪アラクネ≫を駆って現れ、

一夏と機龍の白式と銀狼を狙って襲い掛かってきた。だが、

そのさなかに機龍の中に眠るゴジラの意識が覚醒してしまったのだった。

 

 

今、暗いロッカールームの中で、ゴジラの意識が3式機龍を操っている

状態、黒龍とオータムのアラクネが対峙しており、黒龍の後ろには

一夏が雪片を構えながらも事の次第をただ見守っていた。

 

ゴジラ「さぁ、来いよクソババア。こっからが本当の戦いって奴だ!

    格の違いって奴を教えてやるぜぇ!」

そう言うと、高機動形態の黒龍がスラスターを吹かしてアラクネめがけて

突進し、右手をスパイラルクロウへと変化させ、突き出してきた。

それを横に大きくジャンプして躱すオータム。

先ほどまでオータムが立っていた場所の後ろにあった壁に、クロウが

命中し、爆音と砂塵が周囲を覆った。 

煙が晴れると、黒龍が壁からクロウを抜いたが、その壁はまるで

砲弾でも命中したかのように尽く破壊され、壁の中のフレームや

配線までもがむき出しになるほど壊されていた。

オータム『ちっ!?何なんだあのパワー!?あの攻撃、下手したら

     一撃でシールドエネルギーを持って行かれる!?

     いや、それ以前に奴の拳は生身でアラクネのシールドを

     貫通したんだ!あんなのを腹に受けたら……』

そこから先を想像したオータムの背筋に悪寒が走った。

    「ちっ!!この化け物がぁ!」

ゴジラ「あぁそうさ!俺は化け物さ!テメェらゴミの人間共より

    何百倍も強い化け物なんだよぉ!」

スピーカー越しにそう言ってから今度は口からラウラ戦の時と同じように

メーサーではなく青白い熱線を発射し、逃げるオータムを追うように

ロッカールームを薙ぎ払った。

熱線が命中したロッカーは溶けてなくなり、壁はボロボロに壊れ、

何もかもを蹂躙していくゴジラ。終いにはロッカールームの配電盤を

破壊してしまい、予備の電力によって床が仄かに光るだけとなってしまった。

   「どうしたぁ!逃げてばかりかぁ!出て来いよ雑魚がぁ!」

相手を煽る言動を取りながら、周囲を見回すゴジラ。

と、その時、瓦礫の陰からゴジラの背めがけてオータムが飛びかかってきた。

オータム「喰らいやがれぇ!」

ゴジラ「そっちがなぁ!」

次の瞬間、鞭のようにしなった黒い尻尾がオータムの腹部を捉えた。

オータム「ぐはっ!!」

圧倒的質量の打撃を腹部に喰らったオータムが吹っ飛び、まだ

残っていたロッカーに激突した。

倒れ、咳き込むオータムに歩み寄ったゴジラは左手でオータムの

頭を掴んで持ち上げ、右手で8本ある足を一つずつへし折って行った。

 

ゴジラ「……弱い」

   『ボギッ』

1本、足が折れた。

   「……脆い」

   『ゴギャッ』

2本、また折れた。

   「……つまらん」

   『バギャギャッ』

4本、まとめて折れた。これで残りの足は2本だけだ。

   「あれだけ息巻いておいて所詮この程度か。期待した

    俺がバカだった、なぁ!」

オータム「がああっ!!」

そう言ってオータムの頭を壁にめり込ませるゴジラ。

    「この、クソ野郎、がぁ」

ゴジラ「ほう、まだそんな口が、聞けるとはなぁ!」

そう言ってオータムを床の上に引き倒し、その腹部を自身の

重厚な脚部で押さえつけた。

   「ククク、無様だな。人間」

オータム「クソ、その足を、退けやがれ、化け物、がぁ」

掠れるような声を出しながらも抵抗するオータム

ゴジラ「何だ?足を退けてほしいのか?」

すると、まるでオータムの言う通りに足を退けようとするゴジラ。

だが、それはそう見えただけだ。実際には……。

   「ほらよ!これでどうだ!」

オータムを抑えていた足を振り上げ、サッカーボールのように

彼女の脇腹を全力で蹴り上げた。

オータム「ぐはっ!!!」

その反動で再び胃液と血が混じった吐しゃ物を吐きだすオータム

だが、まだゴジラの攻撃は終わらなかった。

 

浮かび上がったオータムの体をさらに下からアッパーで打ち上げるゴジラ。

オータムの体は天井を突き破り、アリーナの方へと飛ばされていった。

ゴジラ「へへへ、逃がさねえぞ雌豚。まだまだ足りねえんだからなぁ

    もっとテメエの悲鳴を聞かせろやぁ!」

そう言うと、ゴジラはスラスターを使ってオータムを追いかけて行った。

 

そして、唯一残された一夏。

一夏「……。やっぱり、次元が違いすぎる」

一人そう感想を漏らしながら破壊しつくされたロッカールームを見回す一夏。

楯無「あらあら、これは凄い事になっちゃってるわね~」

と、その時、そこに制服に着替え、扇子を持った楯無が現れた。

一夏「ッ!楯無さん!どうしてここに!?」

楯無「……ねぇ一夏君、私はどうしていきなりあなたの

   コーチ役を買って出たと思う?」

一夏「え?」

そう言えば、と思い返す一夏。

  「確かに、理由とかは聞いてませんでしたけど、それが

   なんだって言うんですか?」

楯無「私の元々の使命。それはファントムタスクに狙われていると

   思われる白式。つまり一夏君の極秘の警護が目的だったの。

   だから一夏君の傍に居る理由が必要であり、万が一あなたが襲われた時

   少しでも戦えるように鍛えてあげようって思ったんだけど……」

と、言いつつ辺りを見回す楯無。

  「これじゃ私の居る意味なかったわね。それにしても、

   確かに私でも『あれ』には勝てないわね」

次に、ゴジラが開けて行った穴を見つめる楯無。

  「…ねぇ一夏君、聞きたい事があるんだけど。機龍君って何者?」

それを聞かれ、心臓が跳ね上がる一夏。しかし……。

  「と言いたい所だけど、このまえそれやって失敗しちゃったし、

   とりあえずその事は後回しにしておいた方が賢明よね。

   今はあの二人を追いかけないとね。ここからは、お姉さんも

   参戦よ」

一夏「え?」

と、呆けた声を出す一夏。次の瞬間、光が楯無を包み込み、彼女の体には

彼女自身の専用IS『ミステリアス・レイディ』を纏った。

  「楯無さんの、専用機」

楯無「そうよ。…さ、早く彼を追いかけましょ。でないとあのISの

   女性、殺されちゃうかもしれないし。…流石に私も

   スプラッター映画張りの惨殺死体なんて見たくはないから」

一夏「は、はい」

そうして、二人はゴジラの開けた穴から外へと出て行った。

 

一方その頃、ゴジラは逃げたオータムに追いつき、その後頭部を

掴んで近くにあったお城のセットの壁に彼女の顔面を叩きつけた。

当にアラクネは動かない鉄くずとかしていて、ゴジラはオータムの

体を機体の中から引きずり出した。

 

ゴジラ「ククク、どんな気分だ?あれだけガキ呼ばわりしてた奴に、

    散々いたぶられる感想はよぉ!俺は楽しいぜぇ!テメェを

    ボコボコにするのがなぁ!」

そう言って、今度はオータムを背中から地面に叩きつけた。

オータム「うがっ!!!この、クソ野郎、がぁ」

ゴジラ「へへへ、そうだ。もっと鳴いて見せろやぁ!屑がぁ!」

さらにオータムを踏みつけてから蹴飛ばすゴジラ。

蹴飛ばされた彼女の体がゴロゴロと地面の上を転がった。

何とか立ち上がろうとするオータムだったが、その体は当に限界を

迎えており、まともに動けなかった。

そのオータムに近づき、その背を踏みつけるゴジラ。

ゴジラ「ほら、どうした?もっと足掻いて見せろよ。

    虫けららしくなぁ!」

グリグリと体重をかけるゴジラ。今のゴジラの体重は数百キロを超えている。

そんな体重でのしかかられたのでは、彼女の臓器や骨が潰れるのは時間の問題

だった。

 

だが、その時。

   『バシュッ!』

唐突にアリーナの天井を突き破ってビームがゴジラの背中めがけて

飛来した。だが、そのビームはゴジラの背びれに吸収されるようにして

霧散した。

   「あぁ?」

オータムを足で押さえつけながら後ろに振り返るゴジラ。

 

天井の空いた穴の先には、紫に近い青に機体、『サイレント・ゼフィルス』が

浮かんでいた。しかし……。

ゴジラ「ほぅ?新手か。……面白い。…なぁ、お前はこいつより強いのか?」

彼にとっての新たな『玩具』の出現に、収まりかけていた闘争心が

再び沸き立った。

するとゴジラは唐突にお城のセットに腕を突っ込み、中から鉄骨を

引きずり出してそれをU字型に曲げ、それを使ってオータムの胴体を

セットの壁に磔にして固定してしまった。

   「そこで大人しくしてろ。あの新手を倒した後、またじっくり

    いたぶってやる」

と、その時、ゴジラの近くに一夏達と生徒の避難誘導を行っていた

箒、シャルロット、ラウラ、簪、モーラが現れた。

 

ゴジラはその6人に一度視線を送ってから、ゼフィルスと睨みあった。

   「よぉ、新手さんよぉ。こんなお遊びの舞台に随分物騒な

    玩具を持ってきたもんだぁ」

相手を挑発するようにスピーカー越しに喋るゴジラ。

 

簪「き、機龍?どうしたの?」

一夏「違う。今のあいつは機龍じゃない。ゴジラの人格が体を

   操ってるんだ」

箒「何だと!?ではあの黒い姿は!」

モーラ「…ゴジラとしての人格が、目覚めている証と言う事でしょう。

    皆さん。今は動いてはダメです。彼を下手に刺激すれば、

    あの正体不明の敵と戦う前に、ゴジラによって私たちの方が

    先に殺されてしまいます。…ゴジラにとって、人類は

    憎悪と排除の対象です。できるだけ、彼を煽らないでください」

と、言いながらも内心ではハラハラしているモーラ。

   『願わくば、あの破壊神の荒んだ心も、この世界に訪れた事で

    変わっていますように』

そう、密かに祈るのだった。

 

空中に浮いたゼフィルスはゴジラ、黒龍を無表情なまま見つめてから、

その後ろで押さえつけられているオータムに視線を向けた。

???『ふっ。間抜けめ。こんな奴を相手に散々なやられ方をした物だ。

    あんな奴を助けるなど、アイツの気が―――』

ゴジラ「……おい」

と、その時、唐突にゼフィルスの目の前にゴジラが現れた。

一瞬の油断が彼女、ゼフィルスを操っていた『M』にあったからだ。

   「この俺を無視ってのは―――」

今、目の前にはエネルギーを充填したゴジラの口があった。

   「良い度胸だなぁ!」

次の瞬間、その口から全てを焼払う青白い熱線が放たれた。

何とかそれを横に飛んで回避するM。

そして、目標を外れた熱線は海の上に命中し、白い大きな水柱を

作り上げたのだった。

 

それを見て、Mはすぐに攻撃に移った。Mの駆るサイレント・ゼフィルスは

イギリスが開発したBT兵器を運用する機体。つまりセシリアの

ブルー・ティアーズとは姉妹機なのだ。ティアーズは1号機であり、

ゼフィルスはそのデータをフィードバックした2号機なのだ。

つまり、この機体もBT兵器を内蔵していたのだ。

ティアーズよりも多い6機のビットが全方位からゴジラに向かって

ビームを放った。だが……。

   『バシュバシュゥゥゥ……』

初撃と同じように霧散して全く効果を持たなかった。

ゴジラ「クハハハ!雑魚!雑魚が!そんなんで俺を殺そうなんて、

    数十年早えんだよ!バカが!」

そう言うと、黒龍の背びれが青白く発光し始めた。

そして、チャージが臨界点に達したその時。

   『GAOOOOON!!!』 

黒龍が大きく吠えた。そして、その体から全方位に向けて

圧倒的なエネルギーの波が打ち出された。

―――『体内放射』―――

かつてのゴジラでは使用例がない近接戦闘における絶対の切札。

 

しかし、圧倒的なエネルギーと人の知識を得たゴジラが半ば強引に

この技を編み出したとしても、ましてや分岐世界の同族が使っていた技を、

今この世界に存在しているゴジラが使えない道理はない。

そして、その射程は圧倒的に伸びていたのだ。

 

体内放射から繰り出されたエネルギーはシールドを持たないビットを

尽く撃ち落として行った。

M「くっ!!」

そして、Mもそのエネルギーの余波を喰らい、一瞬だけゴジラから

目を離してしまった。

 「ッ!奴はどこだ!」

周囲を見舞わすM。だが、死神の手は、すぐそこまで迫っていた。

不意に、Mの体を影が覆った。すぐさま振り返ったMが見たのは、

自分に向かって伸びる鋭利な爪を保持した漆黒の掌だった。

 

一瞬の隙をついてMの背後に回り込んだゴジラは、振り返ったMの

頭を掴み、一気に降下。

アリーナの天井を突き破ってなお落下し、ゼフィルスをアリーナの床に

叩きつけた。

その場所に近づく一夏達。さらに、そこにゴジラより前にゼフィルスと

戦っていたセシリア達が合流して、ゴジラの様子を見ていた。

 「うぐっ!!!ゲホッゲホッ!!!」

余りの衝撃に、肺にたまっていた空気を吐きだすM

だが、まだ終わりではない。倒れているMの首を鷲掴みにして、持ち上げるゴジラ。

 

ゴジラ「はっ。テメエも大概雑魚だな。知ってるか?戦場ではな、相手を

    見くびって油断した奴から真っ先に死んでいくんだよ。

    よ~く覚えて、ん?」

と、相手、Mから何かを感じ取ったゴジラ。

   『この感じ。……成程。道理でこいつは≪臭い≫わけだ。

    こいつは……』

そう思いながら、黒龍は空いている右手でゼフィルスのヘルメットを握り、

それを一気に握りつぶして壊した。そして現れた素顔を見て、

箒達は――特に一夏は――、驚愕した。何故なら…。

 

一夏「千冬、姉?」

Mの顔は、一夏の姉であり世界最強のIS乗り、『ブリュンヒルデ』の

称号を持つ、言うなれば世界最強の女性と瓜二つなのだ。

そんな顔立ちの者が今、ゴジラに掴まっている。

箒「どういう事だあれは!?」

楯無「織斑先生、じゃないのは確かだけど、他人の空似にしては、

   納得できないわね」

驚く9人。と、その時。

ゴジラ「やはりな。貴様からは人間の『罪』と『欲望』の臭いが

    プンプンする。…成程、わかったぞ。貴様は――」

M「やめろ!言うな!」

ゴジラ「貴様は織斑千冬の『クローン』なんだろう!」

9人「「「「「「「「「ッ!!???」」」」」」」」」

ゴジラ「大体想像はできる。……貴様らの持つ玩具、ISには数に

    限りがある。ゆえに物量戦はまず不可能だ。だったら何を求めたら良い。

    簡単だ。量が少ないなら一人でも『質』の高いパイロットが必要だ。

    だが多くの人間を集めテストし篩にかけるのには時間がかかる。

    そこでお前達はどうしたと思う?なぁ、人間さん達よぉ!」

と、ここで一夏達の方に話を振るゴジラ。

   「わかるだろぉ!お前達罪人たる人間ならなぁ!」

一夏「………」

ゴジラ「簡単な話だ!強いパイロットを作ればいいのさ!機械を、

    ロボットを作るみたいになぁ!それがこいつって訳だ!」

そう叫んだゴジラ。数秒だけ、静寂が流れた。

 

と、その時、ゴジラはMを掴んでいた腕を離した。

M「貴様!何のつもりだ!!」

ゴジラ「へへへ、どうもこうもあるか。俺はお前が『気に入った』。

    それだけだ」

そう言ってMの胸に指先を突き付けるゴジラ。

   「お前のその目。自分以外が全部屑に見えるその目だ。

    その奥底に見える、自分以外は全部ぶっ壊れろって考えてる

    その感情。良いねぇゾクゾクする。自分に楯突く奴は

    全員殺したい。結構じゃないか。気に食わない奴は全部殺して、

    やりたい事をやる。お前は獣と同じだ。理性なんてものは

    持たない。本能の赴くまま、やりたい事をやる獣そっくりだ。

    そこが気に入った。お前は俺そっくりだ。だから見逃してやる」

そう言うと、ゴジラは黒龍としての変化を解除して普通の姿に戻った。

   「後は好きにしな。そこの玩具ももう要らねえ。持って帰るなり、

    見捨てるなり好きにしな」

そう言いながら一夏達の方に歩み寄るゴジラ。すると、先ほどまでの

歪んだ笑みではなく、真剣な怒りの表情になりながら一夏達を

睨みつけるゴジラ。

   「貴様らは何度命を冒涜してきた。何度生命の理を踏みにじってきた。

    何が地球を支配する種族だ。己が利益しか考えない愚者共め。

    虫にも劣る屑が。これだから人間なんぞ信頼できないんだ」

ゴジラは吐き捨てるようにそう言うと、どこかへと歩き出した。

 

そして、一夏達が呆然としている内にM、マドカはアラクネのコアと

オータムを回収して早々に離脱した。そんな中、彼女は笑って居た。

何に対して笑ったのかは分からない。だが、確実にその顔は笑って居た。

 

 

その後、何とか事態を収拾した一夏達は千冬、真耶に呼び出され、

会議室のような場所に呼び出されていた。

そこには一夏達8人と生徒会長である楯無。そして、今だ人格が

ゴジラのままの機龍が集められていた。

千冬「さて、お前達に集まってもらったのは知っての通り、

   サイレント・ゼフィルスに乗っていたパイロットについてだ。

   山田先生」

真耶「は、はい!」

千冬「あのパイロットと機りゅ――」

ゴジラ「俺をその名前で呼ぶな。俺はゴジラだ」

千冬「……。ゴジラとパイロットの戦闘地点からパイロットの物と

   思われる髪の毛が見つかったそうですが、検査に回したはずです。

   結果は、どうでしたか?」

真耶「検査、結果についてですが、事前に提出されていた織斑先生の

   DNAデータと照合した結果、その……。100%、一致しました」

その事に驚き沈黙する一夏達。

ゴジラ「やはりそうか。……自分たちの命すら科学で作り出そうとは。

    もはやここまで来れば病気だな!反吐が出る!」

そのセリフに、反論できる者はいなかった。

千冬「それはそうと、お前はいつまでゴジラのままでいる気だ?」

ゴジラ「はっ!こちとらやっとまともに肉体を手に入れたんだ!

    いつまで俺がこの体の主導権を握ってようが、俺の勝手だろうが。

    話ってのがあのクローンの事についてなら、興味ない。

    俺は降りるぜ」

そう言って部屋を出て行こうとするゴジラ。と、その時、

彼の背に千冬が瞬く間に距離を詰め、何かをその首筋に打ち込もうとした。

だが、瞬時に振り返ったゴジラの腕がそれを阻止した。

   「俺も、舐められたものだな。同じ手が何度も通じるなどと

    思うなよ」

と言って、千冬の手首を握りつぶそうとしているゴジラ。だが、

それでも千冬は笑みを浮かべた。

千冬「そんな事。とうに理解している」

次の瞬間、千冬の左手にもう一本のアンプルが現れ、それをゴジラの

胸に突き刺した。

ゴジラ「ぐっ!!……ちっ。これじゃ、また、逆戻りかよ」

そう言いながら、ゴジラはその場に倒れた。

モーラ「機龍!」

咄嗟に倒れたゴジラに駆け寄るモーラや一夏達。

モーラが彼の体を起こそうとしたとき、ゴジラの黒い髪の色が

脱色するように、機龍の銀髪へと戻って行った。

   「どうやら、ゴジラの意識が深層心理に戻ったようです。

    それより、織斑先生。先ほどゴジラの打ち込んだ薬は一体…」

千冬「あれは束から受け取った物だ。万が一、ゴジラの意識が表面化した時、

   その意識を封じ込めるためのな。まぁ、一種の鎮静剤だ。

   それより、お前達は言っておく事がある。あのゼフィルスの

   パイロットが私のクローンだという事はわかったな?

   今後、その事実を公表を禁止する。異論は認めない。良いな?」

彼女の言葉に、一夏達9人は無言で頷いた。

  「なら良い。…それにしても、私のクローンを作ろうなどと。

   ……随分やりたい放題してくれた奴らが居たもんだ」

真耶「それにしても、なぜ機龍君。もといゴジラはその、パイロットを

   見逃したのでしょうか」

モーラ「…同じだからですよ。あの子と、ゴジラが」

真耶「え?」

 

モーラ「ゴジラも、あの子も、結局、人のエゴによって生み出された存在なのです。

    兵器として、怪物として、望んでもいない姿で生み出されて、

利用され。ゴジラと彼女にとっては、人間とはその存在全てを

消し去りたいと願うほど、強烈な憎悪の対象なのでしょう。

だって、人間という存在に運命を狂わされたのですから」

そういうモーラの言葉を聞き、一夏達は押し黙ってしまった。

と、その時。

 

機龍「う、う~ん。…ここは」

一夏「ッ!機龍!!」

機龍「一夏お兄ちゃん。……僕は。………あ」

ここに来て、自分のしたことを認識した機龍。

  「また、僕は暴走しちゃったんだね」

例え人格が違えども、同じ体を共有する機龍とゴジラ。

2人の記憶もまた、共有されているのだ。

  「すみません。色々、ご迷惑をおかけしてしまったみたいで」

少しばかり悲しい表情になる機龍。しかし…。

真耶「大丈夫ですよ機龍君」

機龍「先生」

真耶「機龍君は戦う事が嫌いなのは私達が一番よくわかっています。

   それに、ゴジラ君が戦わなければ、他の生徒にも被害が

   出ていた可能性があります。機龍君はこの学校を護ったんです。

   それ以外の何物でもありません。だから、そんなに落ち込まないで

   ください」

機龍「先生。…ありがとう、ございます」

真耶「はい。…それでは、織斑君たちはもう戻ってもらっても結構ですよ。

   後の事は、先生たちに任せて、今日はゆっくり休んでください」

で、一夏達が会議室を去ろうとしたのだが…。

一夏「あ、そう言えば、生徒会の演劇ってどうなったんですか?

   王冠は確か……」

楯無「あ、一夏君のはここにあるわよ」

一・箒・鈴・シャ「「「「え????」」」」

と、何時の間にか楯無の手に一夏の王冠があった。

楯無「私の王冠は一夏君のだから、これから一夏君は私と

   相部屋よ」

箒・鈴・シャ「「「そ、そんな~~~」」」

と、一夏との相部屋を願っていた3人は崩れ落ち、ラウラや簪は

彼女たちに同情しつつ苦笑する事しかできなかった。

楯無「あ、でも機龍君の王冠の行方は知ら無いから、『意外な場所』に

   あるかもよ。それじゃ一夏君、お姉さん待ってるからね」

というと、楯無は一足先に会議室を出て行ってしまった。

 

その後、機龍と簪は自分の部屋に戻ったのだが…。

簪「え?嘘、なんでこれがここにあるの?」

機龍「簪?どうかしたの?」

何やら驚いている簪に気づいて近づく機龍。

簪「実は、これが机の上に置いてあったの」

そう言って彼女が機龍に見せたのは…。

機龍「あれ?それ、僕が劇の時にかぶってた王冠だ。どうしてこれが  

   僕達の部屋に?」

王冠がここにある事を悩む機龍だったが、簪は薄々気づいていた。

誰がここにこれを置いたのか。

簪『……お姉ちゃん』

 

その後、学園祭も終了し、予てより女子たちの注目の的だった

出し物の選挙の結果、すなわち一夏と機龍がどの部に入部するか

を決定する結果発表が行われたのだが……。

 

1位は生徒会が主催した演劇となってしまった。理由は、参加者は

生徒会の出し物に票を入れるというルールがあったらしく、大勢の

生徒達は一夏、或いは機龍と相部屋になるべく奮闘して、結果的に

多くの票を生徒会に取られてしまったのである。

しかし、生徒会の所属となった一夏と機龍だが、楯無の提案で一夏と機龍は

様々な部に対して生徒会から『貸し出される』レンタル部員となって

しまった。

 

それを聞いて、一夏はため息を付き、機龍は余り分かっていないのか首を

傾げるのだった。

 

     第15話 END

 




と、言うわけでM、マドカの設定は、千冬のクローン
という独自解釈となり、彼女を気に入ったゴジラでした。

※ 1月12日 17時50分
  R18シリーズを投稿し始めました。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第16話

今回は一夏の誕生パーティーの話です。
※ 小説の話であるキャノンボール・ファストはカットしました。



――前回までのあらすじ――

学園祭の演劇の最中に現れた謎の組織、『ファントムタスク』の刺客、

『オータム』。彼女は一夏の白式と、(表面上は)束が新造した第3.5世代

ISの銀狼を狙って現れた。だが、逆に彼女の殺意が機龍の内なるゴジラを

目覚めさせてしまい、オータムは黒龍と化したゴジラによって一方的に

蹂躙されてしまった。そして、その場には更なる刺客として

謎の少女、『M』がイギリスで強奪されたBT兵器の二号機、

『サイレント・ゼフィルス』を駆って現れた。しかし、彼女をもってしても

一瞬の油断でゴジラの腕力に掴まってしまった。だが、その最中ゴジラは、

M、マドカが織斑千冬のクローンであることを知り、彼女を解放し、

彼女がオータムと彼女のISのコアを回収し撤退したことで、事件は

一応の終息となった。

 

数日後。夕方。今、一夏と機龍は真耶に頼まれた資料をある場所へと

運んでいた。

一夏「……で、こりゃ完全に迷ったな」

機龍「そうだね。…えっと、貰った地図だと。……ここが多分ここ

   だから。あっちじゃないかな?」

一夏「そうだな。行ってみるか」

と、色々と歩き回っている内にすっかり日は落ちて、夜になってしまった。

  「は~。やっとたどり着いたぜ~。疲れたな機龍」

機龍「う、うん。そうだね」

と、言いながらケータイを取り出して時間を確認する機龍。

  『うん。予定の時間まで『時間稼ぎ』はできたし、そろそろ…』

  「ねぇお兄ちゃん。学食に行かない?そろそろ時間も時間だし」

一夏「と、そうだな。行くか」

というわけで二人で一緒に食堂を目指して移動したのだが、

その入り口まで来た時、機龍が…。

機龍「ねぇ、お兄ちゃん。ちょっとだけ目を瞑ってもらって良いかな?」

一夏「へ?何で?」

機龍「良いから良いから。早く」

一夏「お、おう?」

と、目を瞑った一夏の手を引いて歩く機龍。

  『な、何で機龍はこんなことを?何でだ?』 

と、≪大事な事≫を忘れている一夏だった。

 

やがて、機龍と一夏が立ち止まった。

機龍「お兄ちゃん、もう目を開けていいよ」

一夏「そうか?」

と疑問符を漏らした一夏が目を開けた瞬間。

   ≪パン!パン!パパン!≫

盛大にクラッカーが鳴り響いた。そして……。

女子「「「「「「「織斑一夏君!お誕生日おめでと~~~!」」」」」」」

と、大勢の女子たちが集まってそう叫んだ。

ポカーンとしている一夏だが、近くにあった垂れ幕を見てすぐにある事に気づいた。

一夏「あ、そっか。今日俺の誕生日だった」

そう、今日、9月27日は一夏の誕生日だったのだ。

  「で、でも何でみんな集まってるんだ?」

今、一夏の前には、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、

千冬、真耶。さらに大勢の女子たちが集まっていた。

シャル「箒から聞いたよ?一夏ってば自分の誕生日忘れがちだって」

一夏「う!?そ、それは……。それより、このパーティーってだれが

考えたんだ?箒なのか?」

鈴「違うわよ。発案者は機龍よ」

一夏「え?」

機龍「えへへ」

と、疑問符を漏らした一夏は、自分の横で顔を赤くしながらも笑って居る機龍の

方を向いた。

  「折角のお兄ちゃんのお誕生日だから、みんなでお祝いしようって

   僕が言い出したんだ。…最初は箒お姉ちゃん達や僕だけで話し始めた

   んだけど、何時の間にかクラスみんなに広まっちゃって……」

そう言われて見回す一夏。確かに周りで集まっている女子の中には2年や3年、

鈴の2組や簪の4組の生徒の姿があった。

  「その、迷惑、だったかな?」

そう言って、一夏は見上げる機龍。それを見て一夏は、笑みを浮かべてから

機龍の頭を撫でた。

一夏「そんな事ねえって。スゲ~嬉しいよ。ありがとな、機龍」

機龍「えへへ////」

撫でられ、頬を赤くしながらも喜ぶ機龍。

真耶「それでは皆さん。今日はパーティーという事で、ちょっとだけ

   無礼講ですよ♪」

女子「「「「「「「「は~~い!!!」」」」」」」」

と、言うわけで、楽しいパーティーが始まった。

 

一夏は箒や鈴、シャルロットからプレゼントを受け取っていた。そこへ……。

機龍「一夏、お誕生日おめでとう」

と、機龍がワンホールの苺が乗ったケーキを運んできた。

一夏「おぉ!旨そうなケーキだな」

機龍「ありがとうお兄ちゃん。これでも頑張って作ったんだよ」

一夏「へ~。これ、機龍が作ってくれたのか」

機龍「うん。山田先生と一緒に町で食材を買ってきて、それから

   箒お姉ちゃん達に手伝ってもらってみんなで作ったんだ」

そう言いながらケーキを切り分けて一夏や箒達、他の生徒達に配る機龍。

女子「う~ん!機龍のケーキ美味しい~!」

   「え~!私にも頂戴~!」 「あ、でも、そろそろケーキが……」

機龍「大丈夫ですよ。まだケーキはありますから。ちょっと待っていて

   ください」

と、笑顔で厨房へと歩いて行き、ケーキを取って来る機龍。その後も

他の生徒達と談笑したり、料理の仕方などを教えている機龍。

そんな彼の表情は終始笑顔だった。

それを微笑ましそうに見守る一夏達8人と真耶、千冬。

一夏「機龍、楽しそうだな」

モーラ「はい。機龍は本当に人を祝福するのが好きなのです。

    そして、誰かの御祝い事を自分の事のように喜び、その人の

    ために何かをしてあげたいと考えるようになって、本当に立派に

育ちました。これも、皆さんのおかげなのでしょう」

一夏「俺達は何もしてねえって。ただ友達として、一緒にあいつと

   笑ったりしてただけさ」

一夏の言葉に頷く箒や簪たち。その姿に、モーラは笑みを漏らした。

モーラ『いつか、この絆が世界中に広まりますように。

    そして、この世界に命の祝福があらん事を』

この世界に生きる一人として。守護の獣として、静かに祈るのだった。

 

やがて、パーティーも終わりに向かっていた。しかし……。

食べ終わったお皿を機龍が片付けていた時だった。一夏に手を引かれ、

集まっている生徒達の中央に立つ機龍。

機龍「お兄ちゃん、これは……」

一夏「良いから」

と言っていると、周りに居る生徒達がクラッカーを取り出した。そして…。

   ≪パン!パン!パパン!≫

女子「「「「「「「篠ノ之機龍君!お誕生日おめでと~~~!」」」」」」」

機龍「え?」

驚く機龍を後目に、天井にあった文字が瞬く間に一夏から機龍のそれに

切り替わった。

驚いてばかりで状況が飲み込めない機龍。

  「こ、これは、どういう事、なの?」

一夏「ほら、機龍は束さんに保護される前の記憶がないって

   言ってただろ?だったら、今日を誕生日にしちまおうって

   さっき箒から聞いたんだ」

そう、機龍は名目上、過去の事を覚えていない事になっていて、

周囲の生徒には、≪最近になってモーラと出会い、過去を知った。≫

という話が伝わっているのだ。もちろん記憶喪失というのが

嘘なのは一夏達や真耶、千冬は知って居るが、どのようにしてこの世界に

来たかもわからない機龍にとっては、誕生日は無いような物だったのだ。

 

それに気づいた簪が密かに他の者達に伝えて、それを決行したのだった。

機龍「今日が、僕の、誕生、日?」

まじまじと、液晶式ディスプレイに描かれた文字を見つめる機龍。

 

本音「よかったね~リュウ君♪」

と、機龍の背中をポンポンと叩く本音。しかし、次の瞬間、

機龍の瞳から一筋の涙が溢れ出した。

  「あ、あれ!?そんなに痛かった!?」

と、自分が泣かせたのかもと勘違いして、慌てる本音。

 

しかし、機龍は泣きながらも首を横に振った。

機龍「ううん、違うの。…今まで、誕生日なんて、なかったから」

服の袖で涙を拭いながらも静かに告げる機龍。

  「初めて、誰かに、お祝いしてもらった、気がして、それで」

涙で頬を腫らしながらも顔を上げる機龍。

  「みんな。ありがとう」

瞳に涙を溜めながらも笑顔でそう言うのだった。

その後、簪や他の生徒達からもプレゼントをもらった機龍。

 

※ちなみに、機龍の涙&スマイルで大勢の女生徒がクラッとなったのだった。

 

そして、パーティーはお開きとなり、片づけをしてから、機龍と一夏達、9人

で寮への夜道を歩いていた。そんな帰り道での事だった。

 

不意に一夏達と並んで歩いていた機龍が足を止めて振り返った。

一夏「ん?どうした機龍?」

その声に答えず、機龍は道の脇にある街灯の方を見つめていた。

機龍「……姿を見せてくれない?」

街灯の方に向き直りながらそうつぶやく機龍。すると、街灯の

影から、光の下に一人の黒い服装の少女が現れた。それは……。

ラウラ「貴様は!?」

その少女と言うのが、マドカ。千冬のクローンの少女だったのだ。

 

咄嗟に機龍を庇う一夏達。

  「お前、どうしてこんな所に居る?」

機龍を自身の背に庇いながらISを展開しようとする一夏達。

マドカ「……貴様に用はない。織斑一夏。もはや、貴様も、貴様の姉である

    織斑千冬にも興味はない。私が用があるのは」

そう言いながら機龍の方に視線を移すマドカ。

   「お前だ。篠ノ之機龍」

と、機龍を指さすマドカ。と、その時、機龍の中では……。

 

ゴジラ≪おいお前。俺と変われ≫

機龍≪……ゴジラ≫

ゴジラ≪そいつが用があるのは俺だ。今すぐ俺に肉体の主導権を渡せ≫

機龍≪……わかった。でももし、少しでも変な事をすれば、僕が

   全力でお前を止める≫

ゴジラ≪わ~ってるようるせえな≫

機龍≪それじゃ、変えるよ≫

 

と、次の瞬間、機龍の銀髪が黒髪へと変わり、瞳も赤く変色した。

そして、肉体を手に入れたゴジラは一夏達の前に出た。

一夏「その髪の色!ゴジラ!」

彼の変化に気づいて驚く一夏達。だがゴジラはそんな彼らを無視して

マドカと向き合った。

 

ゴジラ「よう。あの時の戦い以来だな。用があるのは俺だろ?」

マドカ「そうだ。お前に用があったんだ。黒髪の男」

ゴジラ「成程。だが俺の名前はそんなんじゃねえ。俺はゴジラだ。

    勝手にそんなので呼ぶんじゃねえ」

マドカ「ほう?それが貴様の名前か?ゴジラ」

ゴジラ「そうだ。…それより、こっちが名前教えたんだ。テメエも

    名くらい名乗ったらどうだ?」

マドカ「……マドカ。それが名前だ」

ゴジラ「成程。ならマドカ。今日は俺に用があってきたんだろ?

    要件を言えよ。戦いてえってんなら、相手になってやるぜ?」

そう言ってパキパキと腕の骨を鳴らすゴジラ。しかし。

マドカ「生憎、今日は戦いに来たのではない。宣戦布告だ」

ゴジラ「何?」

マドカ「舐めてもらっては困る。今の私では貴様に≪勝てない≫のは

    わかっている」

ゴジラ「ほう?それでも宣戦布告か?」

マドカ「そうだ。……私にとって、これまでの獲物は、織斑一夏とその姉、

    ブリュンヒルデの織斑千冬だけだった。だがそれももう過去の

    話だ。…お前だ。お前は何者よりも強い。全てを否定するその力。

    私がそれを超えた時、私自身が世界を破壊する絶望になる」

笑いながらそう語るマドカ。それに対してゴジラは……。

 

ゴジラ「く、ククク、クハハハハハハ!やっぱりお前は当たりだよ!

    そうだ!それでいい!全部ぶっ壊しちまえば良いんだ!」

頭を押さえて笑い出すゴジラ。

   「ククク、皮肉な話だな。人間に生み出された俺達が人間を

    滅ぼす絶望になるだなんてな」

そう言って笑って居るゴジラに同調するように笑みを浮かべるマドカ

   「そうだ。人間ってのは何時だって身勝手だ。何がモラルだ。

    何が道徳だ!それを真っ先に破っているのはそれを掲げる人間だ!

    そうだろう?そして、人間とはあまりにも欲深い。だから

    自分達のやりたいようにやる。他者も何もかもを気にせず、

    ただひたすら、罪を犯し続える。……だったら俺達も

    やってやろうじゃないか!俺達だって暴れてやるさ!

    他人がどうなろうと知ったこっちゃない!モラルだ何だと

    叫ぶ人間がどうした!お前達が身勝手をするなら、俺達だって

    身勝手に暴れるだけだ!誰も俺達を裁く権利など欠片もないの

    だからな!法律だと!?バカバカしい!そんなのを護る奴が

    一体何人いる!理性だ何だとぬかしても、結局人間が優先するのは

    自身の欲望だけだ!!だったら俺達も欲望を全開にするだけだ!

    殺したい奴を殺して!喰いたい物を食う!下等生物に俺達を

    縛ることなどできない!」

そう叫ぶゴジラに、マドカは狂気に満ちた笑みを浮かべながら魅入っていた。

   「良いぜ。その宣戦布告、乗ってやる。俺を超えたけりゃ、超えて見な。

    或いは、俺がお前を認めるくらい強くなりやがれ。そうすれば、

    お前の力になってやる」

マドカ「ほう?なぜだ?」

ゴジラ「同じ、同類だからだよ。俺もお前も、人間って奴が大っ嫌いだ。

    壊したくて壊したくて仕方がない。そうだろう?」

マドカ「そうだ!私は人間が憎い!身勝手な理由で私を作り出し、

    その上私をあっさりと捨てた人間共が憎い!だから復讐するのさ!」

その言葉に、黙り込んでいる一夏達。

ゴジラ「クハハハ!ますます気に入ったぜ!強くなって戻ってこい。

    その時は相手をしてやるぜ」

マドカ「ふ、元からそのつもりだ」

そう言うと、マドカはサイレント・ゼフィルスを展開して何処かへと

飛び去って行った。ゴジラはそれを見送ると、狂気に満ちた笑みを浮かべて

から、主導権を機龍へと戻した。

 

ただ、黙っている機龍に、静かに近づく一夏達。

機龍「……あの子は、かつての僕と同じなんだ」

彼の言葉を、ただ黙って聞き入っている一夏達。

  「…自分以外の全てが憎くて、全てを壊したがってる」

静かに語りながら俯く機龍。だが……。

  「……でも、僕も決めた」

一夏「え?」

機龍「僕は諦めない。あの子が闇の底に居るって言うなら、僕が

   引き上げる。引き上げてみせる。……僕が、みんなと出会って、

   笑顔を貰ったように。あの子を、笑顔にしたいから」

そう宣言する機龍だった。それに対して、一夏達は……。

一夏「そっか。んじゃ、俺達もやるしかないな!」

モーラ「私達にできる事があったら、何でも言ってくださいね、機龍」

簪「機龍は、一人じゃないからね」

機龍「みんな……!…うん!」

 

こうして、機龍は誓った。…Mを、マドカを闇から救って見せると。

 




読者様からの意見で、真耶と機龍の絡みが見たい、という事でしたので、
この16話の中で語られていた、機龍と真耶の街での買い物の話を
別で投稿しようと思っています。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 お出かけ編

今回は一夏のパーティーの前日譚的お話です。
それと、読者様の意見で機龍と真耶のR18シーンが
見たい、との事でしたので書く事にしました。
批判的なコメントはダメですが、感想や評価はどんどん
ください。評価の方も、皆さんがこの作品をどう思っているのか
知りたいので、低、高構わずに評価しちゃってください。


それは、IS学園で一夏のパーティーが開かれた数日前の出来事だった。

 

ファントムタスクの襲撃からある程度時間が経った、そんなある日。

機龍「え?もうすぐ一夏のお誕生日なの?」

今、1組の教室では機龍、セシリア、ラウラ、箒、シャルロットが

集まっていた。一夏は所用で席を外していた。

箒「あぁ。9月27日、一夏の誕生日なのだ。…しかし」

機龍「?どうかしたの?」

箒「それがその、恥ずかしい話だが一夏は自分の誕生日を忘れっぽくてな」

機龍「……自分の誕生日なのに?」

箒「あぁ。あれは、小学校の頃だったか?9月28日に学校で

  私と話をしていた時に、『あ、そう言えば俺昨日誕生日だった』。

  などと言い出して、あの時は呆れて何も言えなかったのを今でも

  覚えている」

シャル「いくらなんでも自分の誕生日を忘れるなんて。あり得ないと

    思うけど……」

機龍「そ、そうだね。……でも、どうして急にそんな事を?」

箒「あ、いや、何。折角だからアイツのためにパーティーでも

  開いてやろうかと、思ってな」

そう言いながら顔を赤くする箒。

機龍「そっか。なら僕も手伝うよ。できる事があったら、何でも言ってね」

箒「そうか?ありがとう機龍。心強いよ」

そう言って、機龍の頭を撫でる箒。撫でられ、笑みを浮かべながら目を細める

機龍。

ちなみに、今では機龍はすっかりクラス全員の『弟』的な立場になっており、

まぁ要はみんな機龍を見てると撫でたくなるのである。それはセシリア達は

もちろん、箒達も同じだったのだ。

シャル「ふふ。二人は苗字も同じだし、そうしてると本当の姉弟みたいだね」

と、何気ない一言を漏らすシャルロット。

箒『機龍が、弟か』

そう言われ、改めて機龍を見る箒。

 『まぁ、それも悪くないかもしれないな』

と思いつつ笑みを浮かべながら機龍の頭を撫でる箒。その隣では、ラウラと

セシリアが羨ましそうな表情を浮かべているのだった。

 

その頃。

束「はっ!?」

某天才博士はニュー〇イプ並みの感受性である事を感じ取っていた。

 「こ、これは、リュウ君が箒ちゃんの弟になるというフラグが

  立った気配!」

クロエ「どんなフラグですか、それ」

と、近くに居たクロエが突っ込むのだった。

 

戻ってIS学園の廊下。あの後、機龍は箒達と話し合って機龍と箒達8人で

一夏のパーティーをする事になったのだった。料理を担当するのは、箒と

機龍、シャル、鈴となり、機龍はこのパーティーを楽しみにしていて、

箒達からはパーティーの主催者として認められ、改めて一夏のパーティーを

成功させるべく、奮闘すると誓っていた。

で、機龍は今一夏に渡すプレゼントや、どんな料理を作ろうかと考えながら

歩いていたのだった。

機龍『う~ん。一夏の好きな料理とかはさっき箒お姉ちゃんから聞いたけど、

   一夏のプレゼントって何が良いかな~?アクセサリー?でも

   そういうのって女の子向けっぽいし。でも日用品のプレゼント

   も違うし、だからと言って玩具も一夏の歳じゃ違うから。

   う~ん』

と、考えながら歩いていると、曲がり角に差し掛かるが、考えているせいで

前が見えない機龍。

  『それにパーティーの食材も買いに行かないといけないし。でも、

   この町の事はあまり詳しくないし、それに――』

  「――ぷぎゅっ!」

と、考えながら歩いていると、壁に激突してしまい、小さく悲鳴を漏らす

機龍。

  「イタタタ。うぅ、ちゃんと前を見てないと」

ぶつかった衝撃で赤くなった鼻を押さえ、涙目ながらも再び歩き出す機龍。

ちなみに、それを見ていた周囲の女子たちは密かに可愛い、と連呼していたのだった。

また、それ以降女子たちから見た機龍のステータスに『ドジっ子属性』が

プラスされたのだった。

 

機龍はその後も、色々と考え事をしていたのだが、結局考えが纏まらないのだった。

今の彼の問題は主に2つだ。

一つは、一夏に上げるプレゼントの事。

もう一つは、まだ余り知らないこの町で、できるだけ良い品質の食材を

手に入れられる場所を見つける事だ。

束やクロエ達と生活していた時は、調理に必要な食材などはどこからか束が

仕入れていたため、問題なかったのだが、今回は自力で調達しなければ

ならないのだった。

  「う~ん。どうしよ~」

と、唸りながら廊下を歩いていた時だった。

真耶「機龍君?大丈夫ですか?」

機龍「あ、山田先生」

と、唐突に真耶から声を掛けられたのだった。

真耶「大丈夫ですか?どこか痛いんですか?何やら唸っていたようですけど……」

機龍「あ、違うんです。実は……」

と、一夏のパーティーや悩んでいる事を説明する機龍。

真耶「そうだったんですか。……あ。それなら機龍君。私と一緒に

   お買い物に行きませんか?」

機龍「え?」

真耶「こう見えても、学園の近くのお店の事はよく知って居るんですよ?

   幸い、明日から土日ですし、どうですか?」

機龍「それじゃあ。…お願いしても、良いですか?」

真耶「はい♪」

と、こうして機龍は真耶に案内してもらいながら、町を回る事になった。

 

翌日。校門の前で合流した二人は町の方に移動していた。

一方、箒の部屋には簪やセシリア、シャルや鈴が集まってパーティーの

会議を行っていた。

シャル「えっと、食堂は貸し切りにして、料理は夕方に僕達で作って、

    プレゼントは個人で準備するとして、人数は僕達と織斑先生、

    山田先生位だから、12、3人って所かな」

鈴「そんな所でしょうね」

と、打ち合わせをしていた時、不意に箒が冷や汗を流しながら手を上げた。

箒「い、いや。それについては、訂正しないといけない」

シャル「え?」

簪「どうしてですか?」

箒「じ、実は、あれは昨日の夕方。部活の時の事だった」

と、あの時の事を思い出す箒。

 

1年が始まったばかりの頃、箒は剣道部の所属であったが、一夏の特訓を

理由にあまり顔を出していなかった。しかし、機龍の記憶との邂逅以降は、

自分の強さを掴むために剣道部に顔を出すようになり、以前にもまして

剣道に打ち込んでいた。そして、昨日の部活後。

 

箒がロッカールームで部活仲間と一緒に着替えていた時の事だった。

女子「ねぇねぇ篠ノ之さん。9月27日に織斑君の誕生日パーティーを

   するって本当?」

と、いきなり部活の先輩、2年の生徒が話しかけて来た。

箒「え!?ど、どこでそれを?」

女子「やっぱり本当なんだ~。ねぇねぇ、それって参加しても良いの?」

箒「は、はい。参加するしないは個人の自由ですが、その情報は一体どこで――」

女子「そうなの!?みんな~!織斑君のパーティーってだれでも参加OK

   だってよ~!」

   「ほんと!?」 「良し!なら私も参加しなきゃ!」

と、瞬く間に周囲に広がって行ってしまった。

箒「あ、あの!その情報は一体どこから!?」

女子「え?え~っと。確か1年の、なんだかぽわぽわした感じの

   子が言ってたわね。何か袖を振りながらおりむーのパーティー

   があるんだって~って、大声で叫んでたわよ」

その事を聞いて、箒は血の気が引くのを感じた。

 

戻って現在。箒からその話を聞き、簪は頭を抑えた。

簪「あの子は……」

セシリア「ですが、もし仮に他の組の方や上級生の先輩方も参加   

     されるとなると、その、料理が……」

箒「一応、機龍にその事は知らせてあるんだが」

と、言いつつ、大勢の生徒が参加する事に、箒と鈴、シャルはため息を

着くのだった。それを見て苦笑するセシリアとラウラ。

 

そんな事を見ている時、ふと、簪がある事に気づき、呟いた。

簪「機龍の誕生日って、何時になるんだろう?」

その一言で、動きを止めた箒達。しかし。

 「あの、私一つ提案しても良いですか?」

鈴「何?」

簪「織斑君の誕生日と同じ日に、もう一つ、機龍の誕生日パーティーを

するなんてどうかな?」

ラウラ「つまり、9月27日を機龍の誕生日にする、というわけか?」

簪「機龍はその、誕生日は無いかもしれないけど、それってつまり、

  どんな日を機龍の誕生日にしても良いって事じゃないですか?」

セシリア「私たちで、機龍の誕生日を作る」

シャル「……悪くないんじゃないかな?機龍、きっと喜ぶよ」

箒「そうだな。…私達からの日頃の恩返しだ」

ラウラ「となると、一夏だけではなく機龍へのプレゼントも用意せねばな」

と、こうして、密かに機龍の誕生日パーティーをする事も決まって行った。

 

一方、モノレールを使って町にやってきた機龍と真耶。

真耶はいつもの教師としての私服姿。機龍は学園の制服を着ていた。

真耶「それでは機龍君。最初はどこに行きますか?」

機龍「えっと、先に一夏へのプレゼントを買いたいんです。

   ただ、一夏に何をプレゼントしたら喜んでくれるか、分からなくて」

真耶「織斑君へのプレゼントですか。そうですね~、あの歳の男の子ですから、

   玩具と言うより、アクセサリーや腕時計なんてどうでしょうか?」

機龍「時計、ですか?」

真耶「えぇ。日常生活でも役に立ちますし、男の人にはぴったりだと

   思いますよ。丁度、駅の近くに高級腕時計を扱っているお店が

   ありますから、そこへ行ってみますか?」

機龍「はい。お願いします」

真耶「では、行きましょうか」

そう言うと、二人は手を繋いで歩き出した。さながら、親子のように。

 

やがて、真耶の案内で到着した腕時計のお店で、早速どれがいいかを選ぶ機龍。

機龍『お兄ちゃんはよく体を動かしてるから、衝撃に強い物の方が良いよね。

   でも、時計の機能だけなら、腕にしてる白式のガントレットでも

   十分だし、どうせなら、時間を図る機能とかもあった方が良いよね。

   後は色だけど……』

と、真剣な面持ちでショーケースを見ている機龍。と、ここで真耶が

気になった事があった。

真耶「あの、機龍君?選ぶのも大事ですけど、お金の方は大丈夫なんですか?」

と、彼のお財布を心配する真耶。彼女自身は、もしもの場合は自分も

お金を出すつもりだったが、流石に高すぎるのではと思い声を

かけたのだ。

機龍「はい。…えっと、束から学園に来る前にカードを貰ったんです」

真耶「クレジットカードですか?」

機龍「はい。と言っても、特に買いたいと思う物が無かったので、

   使っていなかったのですが……。あった。これです」

そう言って機龍が財布の中から取り出したのは、黒いカード、

クレジットカードの中でも最高位の『ブラックカード』だった。

真耶「き、機龍君、それって、ぶ、ブラックカードじゃ」

と、余りの事に驚いている真耶。

機龍「はい。束は大抵の物はこれで買えるよって言っていましたから、

   多分これならギリギリ大丈夫だと思うんです」

真耶『ギリギリって、機龍君。多分それがあればお店の商品

   全部買えるんじゃ……』

と、ブラックカードの凄さを知らない機龍と真耶の間で若干の

不一致があったりした。

 

その後、運動時の使用もできると言う剛性とストップウォッチの

機能を持つ高級腕時計を購入した機龍。レジでブラックカードを

出した後、店を出る際には従業員全員の見送りがあったが、機龍は

何の事か全く分からなかった。また、その横では終始真耶が苦笑していた

のだった。

 

その後、更に近くのスーパーなどで食材を揃えた二人は昼食を取るために

海が一望できるレストランに来ていた。

料理を頼んでそれを待っている間も、機龍は手元のメモと買い物袋の

中身を睨めっこしていた。

機龍「えっと、あれとこれは買った。こっちも忘れてないから……。

   うん、ちゃんとある。後あれは……」

真耶「ふふ、大丈夫ですよ機龍君。レジに行く前に2回も確認したん

   ですから。買い忘れはありませんよ」

機龍「は、はい。…分かってはいるんですけど、やっぱり失敗したくないんです。

   一夏お兄ちゃんの、大切な誕生日ですから」

と、少しだけ顔を赤くしながらそう言う機龍。

それに対して、真耶も頬杖を突きながら笑みを浮かべていた。

  「ケーキとプレゼントを用意して、一夏には少しでも喜んでほしいんです。

   1年に一度の、誕生日ですから」

真耶「本当に優しいんですね、機龍君は」

機龍「ありがとうございます。…でも、僕自身も楽しいんです。一夏だけじゃない。

   みんなが笑顔で居てくれるなら、それだけで僕も笑顔になれるんです。

   僕一人が笑顔になるんじゃなく、みんなで笑顔になる。

   それだけで、僕は満足なんです。だから、みんなが笑顔になれる

   パーティーにしたいんです」

そう言って、微笑む機龍。真耶もその言葉を聞き、安堵していた。

真耶『機龍君は、ホントにいい子なんですね。誰かの微笑を、

   自分の事のように喜んで。…機龍君は、私が導く必要なんて、

   無いのかもしれませんね。……そして、そんな純粋なあなただからこそ、

   きっと、みんなもあなたの事が好きなんでしょうね』

そう思いながら、教え子であり、今も顔を赤くしながらも、笑って居る

機龍を見守る真耶だった。

 

その後、食事をして、レストランを出た二人はモノレールの駅に向かっていたのだが、

途中での事だった。

   『バゴォォォンッ!』

唐突に、爆音が響き渡り、機龍と真耶は驚きながらも振り返って爆音のした方に

視線を向けた。見ると、二人から少し離れた場所にあるショッピングモールの

屋上から煙が上がっていた。

真耶「爆発!?まさか……事故でもあったんじゃ……」

数秒だけ煙を見つめた機龍は真耶の方に向き直った。

機龍「先生、僕行きます。僕の力で、助けられる人が居るかもしれません」

そう言うと、鞄を持ったまま機龍は走り出した。

真耶「あ!ちょっと、機龍君!」

そして真耶もそれを追って走り出した。

 

2人が現場にたどり着いた時には、既に警官によって規制が行われていた。

視線を屋上の方に移す機龍と真耶。そこで、二人の視線に映ったのは、

半壊した屋上のフェンスに必死にしがみ付いている幼い少女の姿だった。

そして、その周りでは警官が野次馬を後ろへ下がらせているが、

その野次馬達は他人事のように写真を撮っているだけだった。

それに怒った真耶がその野次馬達を注意しようとした時。

女性「きゃあぁぁぁっ!!」

唐突に女性の悲鳴が響いた。機龍と真耶が視線を戻すと、とうとう握力の

限界だったのか、フェンスから落下する少女の姿が見えた。

 

それを見た機龍は、考えるよりも先に肩にかけていたバッグを落として

駆けだした。

野次馬を制止する警官の目も落下する少女に行っているため、機龍は簡単に

警官達の間から飛び出して、走った。少女の落下点と野次馬達の間から

飛び出した機龍の距離は、有に20mはあった。機龍が走り出した時点で、

少女は既にモールの3分の1の高さは落下していた。普通の子供は愚か、

大人でも走って間に合う距離ではない。そう、『普通』なら。

 

機龍「間に合えぇぇぇぇぇっ!!!」

ゴジラとしての圧倒的な脚力を生かして走り、機龍は助走を付けながら少女が

地面に叩きつけられる直前にスライディングして、落下地点に滑り込んだ彼は

少女を抱きかかえたまま滑り、縁石に左肩をぶつけるようにして停止した。

  「もう、大丈夫だよ」

少女「ふぇ?」

硬く目を閉じていた少女の目が、ゆっくりと開かれた。

今、彼女の前に居るのは顔を土で汚しながらも笑みを浮かべている機龍だった。

少女を抱えたまま、ゆっくりと立ち上がった。しかし。

機龍「ッ」

唐突に機龍の左肩の生地が赤く染まり始めた。

しかし、それでも機龍は少女を地面にゆっくりと下した。そこへ。

母親「恵美!」

少女「ママ!」

モールの建物の中から少女の母親と思われる女性が走って来て、

少女を抱きしめた。それに笑みを向ける機龍。

母親「ありがとうございます。娘を救っていただいて」

娘を抱きしめながら、機龍に礼を述べる女性。

機龍「気にしないでください。……怪我が無くて、良かったね」

少女「うん!お兄ちゃん、ありがとう!」

母親「ありがとうございます。…でも、あなた左肩が…」

と、機龍の左肩の傷の事を気にする女性と少女。しかし。

 

機龍「良いんです。このくらいの傷ならすぐに治ります。……それよりも、

   その子が無事ならこの程度、名誉の負傷ですから」

そう言った機龍は、二人の元から歩き出して真耶の方へと戻って行った。

そんな時。

少女「お兄ちゃん!ありがと~~~!」

少女の声が響き、機龍は振り返って手を振りながら微笑を漏らした

のだった。

 

機龍「山田先生、そろそろ戻りましょう」

と、ごく普通に真耶の前に戻って来た機龍なのだが……。

真耶「機龍君、その前にまずその腕の治療が先です!」

と、左手の指先からポタポタと血を流している所を指さして怒られた

機龍だった。

 

その後、近くの薬局で包帯と消毒薬を買った真耶はどこかゆっくり

出来る場所を、と探していたのだが……。

 

真耶「あ。あそこにホテルがあります。あそこの一室を借りましょう」

機龍「わかりました」

と言って、2人が入って行ったのは、どう見てもラブホテルなのだが、

2人ともそういう知識が疎いため、全く気付いていなかった。

 

その後も、人がいないカウンター等に戸惑いながらも部屋を選んで入った2人。

そして、入った部屋で機龍は上着を脱ぐように言われたのだが……。

真耶に背を向けた状態で服を脱ぐ機龍。そして、露になった左肩の傷は

既に塞がっており、傷跡もほとんど残っていなかった。

 

それに驚く真耶。そして、そんな彼女に背を向けたまま、濡らしたガーゼで

血液をふき取っていく機龍。

  「……僕の生命力なら、この程度の傷はすぐに回復するんです」

独り言のように、ゆっくりと話し始めた機龍。

真耶「で、でも、やっぱり痛覚はあるんですから、怪我をすれば……」

機龍「確かに、痛みはあります。……でも、この程度の痛み、僕が

   人間に与えた痛みからすれば、蚊に刺された程度ですよ。

   それに……。例え、僕が傷ついたとしても、人を守る事は

   僕自身の『やりたい事』なのと同じくらい、『やらなきゃいけない事』

   なんです」

そう言いながら拭き終わった腕を見て、制服を羽織る機龍。

 

確かに、ゴジラを生み出したのは人間の業。しかしそれでも、東京で数万の

人間を殺したのは、言うまでもなくゴジラ本人であり、機龍本人なのだ。

言うなれば、人間が生み出したゴジラに人間が殺される。ゴジラやマドカ風に

言えば『自業自得』なのだろうが、機龍はそれでは納得していなかった。

 

機龍にとってそれは強迫観念とは違うが、それでも人を殺したのは

他でもない自分自身の罪だと捉えているのだ。

  『人が罪を犯したというのなら、それは僕も同じ。

   だからこそ、僕はもう、人を殺すんじゃなく、人を守る事を

   誓ったんだ』

人を愛し、護ると誓った機龍。その決意の裏には、彼自身の

『贖罪』の意識もまた、存在していたのだ。

 

そして、機龍はおもむろに立ち上がると……。

  「すみません。そこのシャワールームで汚れを落としてきます」

とだけ真耶に言い残して備え付けのシャワールームに入って行ってしまった。

 

 

そして、残された真耶はと言うと……。

真耶『機龍君は、ずっと、戦い続けている。前世でも、この世界でも、

   誰かを護りたいから。その体に傷を作ってまで……。あんなに、  

   幼いのに……』

その事実に唇を噛みしめる真耶。もし、彼女が一夏達のように機龍の

過去を映像として見たら、どんな表情をするだろう?

恐らく、機龍を二度と戦わせまいとするだろう。

今の真耶は機龍の詳しい過去を知らない。それでもなお、彼女はその瞳に

涙を溜めていた。

  『私にできる事って、何だろう。……あの子に、何かをしてあげたい。

   少しでも、心の支えになりたい。……そうだ。私は、私にできる事を

   機龍君にしてあげよう。…それで、少しでもあの子の傷を癒せるのなら』

そう思った真耶は立ち上がった。

 

 

一方の機龍は裸になってシャワーで体の汚れを洗い流していた。

その時、ルームの扉が開いて、タオルを一枚体に巻いただけの姿の真耶が

入って来た。

機龍「せ、先生!?」

咄嗟の事で驚いた機龍は近くに置いてあったタオルで自分の前を隠した。

驚きながら顔を真っ赤にしている機龍と…。

真耶「そ、その、機龍君の、お背中流します」

同じく顔を赤くしている真耶。

 

その後、タオルで前を隠したまま、機龍は真耶に背中を流してもらっていた。

今まで、こんなことは誰にもしてもらった事のない機龍。それもあってか

顔を赤くしながら、俯いていた。と、そこへ…。

真耶「機龍君?気持ち良いですか?」

後ろから、ズイッと機龍の顔を覗き込む真耶。

機龍「は、はい!大丈夫です!」

と、顔を更に赤くしながら半ば叫ぶ機龍。

 

まぁ、理由は簡単だ。今の状態で真耶が前かがみになれば、その大きな胸が

機龍の背中に押し付けられる形になっているのだ。

  『うぅ、先生の、柔らかい。…って、ダメダメ!そんな事考えちゃダメ!』

と、その時、機龍の背中を洗っていたスポンジが真耶の手を滑って

機龍の前に落ちた。それをさっきと同じように前かがみ

になって取ろうとした真耶。その時。

   『つるんっ!』

真耶「きゃあぁぁぁっ!」

機龍「うわっ!」

足を滑らせた真耶が機龍を巻き込んで倒れてしまった。

機龍は咄嗟に体の向きを変えて、真耶を受け止めた。しかし……。

 

真耶「あいたたた。……機龍君、大丈夫ですか?」

そう言って自分の下敷きになった機龍を心配する真耶。しかし、今の2人の

身長差を考えると……。

機龍「うぐぐ」

  『苦しい』

真耶の胸をタオル越しに顔に押し付けられる形になっていた。

真耶「きゃあぁぁっ!ごご、ごめんなさい機龍君!」

慌てて体を起こし、機龍から離れる真耶。

  「ごめんなさい!私、わた、し………」

と、何かを言おうとした彼女だが、その視線はすぐに機龍の下腹部に

映った。

機龍「?……ッ~~~~~~!!!!」

その視線に疑問を思った機龍も自分の視線を下にして、すぐに自分の

股で大きくなっているそれを両手で隠して真耶の方に背を向けた。

  「ごめんなさい!僕、あの!も、もう出ます!」

そう言って立ち上がろうとした機龍。だが、その手を真耶が引き留めた。

 

真耶「あの、その、機龍君は、そのままだと、苦しいでしょうし、

   わ、私が、その……」

機龍「………」

 

※ ここから先はR-18の方に別で投稿します。

 

 

ホテルを出て、学園に戻った機龍と真耶。

 

 

そして、パーティーの当日がやってきた。これから先は、そのパーティーの

終了間際のお話。

一夏と機龍の誕生日パーティーも終わりに近づいていた時、どこから

持ってきたのか、カラオケボックスを持ってきていた女生徒が居た。

そして……。

機龍「ぼ、僕が歌うの?」

女生徒「そうそう♪何でもいいからさ」

そう言って機龍にマイクを差し出す生徒。

簪「折角だから、好きな歌を選んで歌ってみたら?」

と、簪やラウラ達もやってみれば?と言う感じで促した。

 

機龍「う、うん」

やがて、歌を選ぶ機龍。

  『え~っと、僕の好きな、歌。歌。……そうだ、あれにしよう』

その歌は、束と生活していた時、偶然ネットの中で聴き、好きになった歌だ。

  「えっと、それじゃ、伊藤由奈さんの歌で、『TRUST YOU』と言う

   曲を歌います。下手かもしれませんけど、聴いてください」

と、顔を赤くしながらそう言う機龍。

 

やがて、カラオケボックスの中から、ピアノとフィンガースナップの

伴奏が流れ始めた。

  『う~。緊張する~。…でも、やっぱり、みんなに聴いてほしいな』

  「♪~~~♪~♪~~~」

歌いだした機龍はできるだけうまく歌えるようにと頑張っていた。

 

しかし、彼の予想は良い意味で裏切られていた。

一夏『機龍、下手かもって言っといて実はすげぇうまいんだな』

元より中性的な機龍の体。女装すれば少女と間違われるほどなそれは、

声の部分も同じだった。女性のようなソプラノの声で歌う機龍の姿に、

一夏達を含めた大勢の女生徒が魅入っていた。

機龍「♪~~~~♪~♪~~~♪~」

本物の歌手にも引けを取らない美声を響かせる機龍。

 

そんな時だった。

  「世界の果てを誰が見たの?旅の終わりを誰が告げるの?」

そう言いながら、一夏達みんなの顔を見回していく機龍。

  「今は答えが見えなくて、長い夜でも♪信じた道を進んでほしい♪

   その先に光が待つから~♪」

そして、今度は一夏達の方へと、ゆっくり近づいてく機龍。

  「君が教えてくれた唄は今もこの心の真ん中♪

   あのやさしい声と共に響いてる♪溢れる気持ちのしずくが

   あたたかく頬つたう♪」

そう言った時、その歌詞を現すように機龍の頬を嬉し涙が伝った。

  「強くなるね♪信じてるよ♪繋がってると♪

   I’m always by your side♪」

それを見て、一夏達も微笑を浮かべた。

  「I Love You♪ I Trust You♪君のために流す涙が♪

   I Love You♪ I Trust You♪愛を教えてくれた♪」

唄いながら、ゆっくりと、一夏達8人の方に右手を差し出す機龍。

  「どんなに君が道に迷っても~傍に居るよ~♪」

差し出された手を見て、一夏は周りの箒や簪たちを見る。

一夏に頷く箒達。それを見た一夏は、笑みを浮かべながら機龍の右手を

握り返した。

  「♪~~♪~~~♪~~~♪~~~」

唄はやがて、終わりへと向かっていった。

  「君の全てを守りたい♪

   どんなに君が道に迷っても~♪そばにいるよ~♪」

 

その歌は、機龍の心象を現していたのかもしれない。

この世界で出会った友人たちが、自分に愛を教えてくれた。

そんな友人たちと共に居たい。自分が信じ愛した彼らを支えたいという、

機龍の想いを現していた。

  「二人だから、信じあえるの~♪離さないで~♪」

その言葉に、一夏は。

 

一夏「二度と、離すかよ」

そう言って再び機龍の手を強く握りしめ、更に機龍の小さな体を抱き寄せ、

抱きしめるのだった。

最初は驚いた機龍だが、すぐに笑みを浮かべて一夏の背に自分の両手を

回すのだった。

 

 

で、そうなると周囲の女子たちは………。

案の定、ほとんどの女生徒が鼻血を出してバタバタと倒れて行ったのだった。

 

こうして、更なる絆を深めた一夏達だった。

      お出かけ編 END

 




最後の方で機龍に歌、『機動戦士ガンダムOO』セカンドシーズンの
ED、『TRUST YOU』を歌わせたのは完全に私の
趣味です。ご了承ください。
後、付け加える事があるとすれば、機龍はおそらく両性愛でしょう。
このままだと機龍が一夏を攻略しそうです(笑)

※読者様からの意見で歌詞を載せる事が違反ではないかと
 言われたため、内容の一部を削除・変更しました。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第17話

今回はアニメ第2期第6話がベースです。
が、ベースになったのは序盤だけで後は殆どオリジナルです。
そんでもって機龍がある姿に覚醒します。
あ、別にバトルに有利な力が覚醒するとかじゃないんで
そこは期待しないでください。ほぼ、私の趣味です。


――前回までのあらすじ――

一夏の誕生日がやってきたある日。機龍達の提案で大まかな誕生パーティーが

行われた。そんな中で、機龍の誕生日が無い事に気づいた簪たちの機転で、

一夏と同じ誕生日、9月27日を機龍の誕生日にする事が決まり、

機龍は初めて祝われた自分の誕生日に涙を流しながら喜んだ。

そして、再び機龍や一夏達の前に現れたマドカ。彼女は一夏達の前で

ゴジラと同等の人間に対しての憎しみを吐露した。

しかし、機龍はそれでも彼女を笑顔にするための決意を固めたのだった。

 

 

一夏のパーティーから数日後。

今、一夏、機龍、シャルロット、モーラの4人が、それぞれ白式、銀狼、

リヴァイヴ、アイギスを纏った状態で、夜の埠頭に停泊しているタンカーの上

に立っていた。

一夏「IS装備の護送任務か」

そう。4人がタンカーの上に居る理由。それは学園に搬入されるIS装備を

守る事だった。

シャル「そう。各国の企業から試作装備のテストを頼まれたんだって。

    でも……」

モーラ「他の皆さんは別件で忙しいため、手が回らなかった。と言うわけですね」

シャル「うん。…でも、何も一夏や機龍達が来なくてもよかったんだよ?

    特に二人は、この前襲われたばかりなんだし……」

一夏「だからって、シャルロットに押し付ける訳には行かないだろ?」

機龍「うん。僕達は大丈夫だから。気にしないで」

モーラ「万が一の時は、我がアイギスが皆さまの盾となります。ご安心ください」

シャル「わかった。……でも、どうしてモーラまで?流石に4人も

    いらないと思ったんだけど……」

モーラ「夫が戦場に立つのであれば、その傍に寄り添いその背を守るのも

    妻の役目ですから」

と言ってほほ笑むモーラとその答えにシャルが苦笑した。その時。

   『バゴォォォンッ!』

近くのコンテナ群の所で爆発が起こった。

一夏「爆発!?……ちょっと俺見て来る!」

モーラ「お待ちください、一夏さん」

一夏「え?」

シャル「モーラの言う通りだよ、一夏」

モーラ「古来より、奇襲と言う戦法を取るに当たり、まず打たれるであろう

    第一手は、何等かの形による陽動です。そしてあの爆発はおそらくその

    陽動です。恐らく、相手はすぐに第二手を指してくるでしょう」

彼女の指摘通り、フェンスを突き破って一台のトラックが現れ、そのコンテナが

開いて中から2機のIS、濃緑色のリヴァイヴが現れた。

   「やはり。賊が現れました」

シャル「よし。3人とも、行こう」

一夏「あぁ」

機龍「うん」

モーラ「はい」

 

シャルの言葉に頷いた3人。

そして、機龍は今日初めて、以前束から貰った銀狼の追加武装を使った。

それは……。

機龍「お願い!しらさぎ達!」

次の瞬間、銀狼の周囲に光が生まれ、そこから人間大の大きさの

飛行機が現れた。

それは、かつて機龍が居た世界で特生自衛隊が導入していた支援機、

AC-3しらさぎと同じ形をしていた。

 

そして、銀狼の拡張領域から展開された3機のしらさぎは、機龍の思念波

によってコントロールされ、三方向からのバルカン砲の雨がリヴァイヴ2機に

襲い掛かった。

パイロット「クソ!?何だこいつら!」

悪態を突きながらも手にしたアサルトライフルを発射するパイロットたち。

 

しかし、その機動性は支援機でありながら、現役のジェット戦闘機に

匹敵する物があるのだった。

背面部にも装備されたスラスターを生かした高機動によってひらりと

銃弾を回避するしらさぎ達。

 

そして、リヴァイヴ達がしらさぎに気を取られている内に接近した

一夏が片方に切りかかり、それを掩護する機龍。もう片方には

シャルロットが仕掛け、それを援護するモーラ。

 

パイロット「はあぁぁぁっ!!」

上空でシャルロットと撃ち合っていた片方が大量のミサイルを放った。

シャル「ッ!」

モーラ「アイギス!」

咄嗟に後ろに引いたシャルロットのリヴァイヴを庇うように4機の

シールドビット、イージスが彼女の前に展開。4機が合体して一つの

大きな菱形になり、シールドジェネレーターを直結させて大型の

エネルギーシールドを作り出し、ミサイルを防いだ。

 

一方、一夏と機龍も戦っていたが、決着はすぐについた。

一夏「はぁぁぁぁっ!」

白式の雪片が相手の武器を弾き飛ばした。

機龍「一夏!下がって!」

一夏「おう!」

咄嗟にバックステップで距離を取った一夏。そして、彼の背後に控えていた

機龍の銀狼のバックユニットから特殊弾頭のミサイルが数発発射された。

 

発射されたミサイルは敵リヴァイヴの眼前で炸裂。内部に格納されていた

特殊ネットが展開。ネットは蜘蛛の巣状に広がり、発射された勢いを

利用してリヴァイヴをコンテナの壁に押し込む形で止まり、先端部にある

杭がコンテナやコンクリに食い込んで敵の動きを止めた。

 

機龍「よし!」

元々、この弾頭は機龍ができるだけ非殺傷をと考え作った特殊ネット弾だったのだ。

と、動けなくなったリヴァイヴの近くに、シャルロット、モーラと戦っていた

もう一機がリヴァイヴカスタムⅡのグレー・スケールを喰らって

吹っ飛ばされてきた。

 

一夏、機龍の近くに着地するモーラとシャルロット。

だが、吹っ飛ばされてもなんとか意識を保っていたパイロットの

苦し紛れの銃撃がタンカーのコンテナに命中。爆炎が上がり、その近くには

シャルロットが居た。

一夏「シャルゥゥゥゥッ!」

機龍「間に合えぇぇぇぇっ!」

咄嗟にシャルロットを護るために飛び出した一夏と機龍。

 

 

やがて、翌日。

 

モーラ「本当に申し訳ありませんでした、一夏さん」

一夏「い、いいよ気にしなくて。もう何度も謝ってもらったし」

モーラ「ですが。…皆を護る盾となると言っておきながら、肝心な所で

    盾としての役割を怠るなど、言語道断。本当に

    申し訳ありませんでした」

と、白式の一部システム障害などを除いて目立った被害はなかった物の、

今朝からモーラはずっとこんな感じだった。しかも……。

機龍「モーラお姉ちゃん、もう良いんじゃないかな。僕もお兄ちゃんも

   別に怪我をしたわけじゃないんだし」

モーラ「うぅ。ですが、一夏さんだけではなく、機龍にまで≪そのような≫

    被害を」

と言って、半ば涙目のモーラが視線を向けた先の機龍には……。

 

 

いつも通りの穏やかな笑みを浮かべている機龍。しかし、あの時の爆発に

巻き込まれたせいで変わった事があった。

それは……。

 

 

―――機龍の頭と腰元に猫耳と猫の尻尾が生えていたのだった―――

 

 

頭の癖っ毛の少し後ろに生えた銀色の猫耳と、制服の間から伸びる銀色の尻尾。

それを見ただけでクラス、と言うか学校中の女生徒たちは顔を赤らめ、

廊下には≪獣っ子状態≫の機龍を見て、写真に収めようと大勢の生徒達が

集まっていた。

 

 

で、機龍はこうなった理由について、知らせた束が調べた所……。

束≪多分だけど、機龍君の3式としての姿が歪な感じで実体化してる

  んじゃないかな?≫

箒≪歪?どういう意味ですか?≫

束≪調べてみたけど、あの時攻撃を受けて爆発したコンテナの中には

  量子変換の速度を向上させるためのオプションパーツが入ってたみたい。

  それが銃撃を受けて暴走、爆発。その至近距離に居たリュウ君たちが

  影響を受けたみたい。多分、尻尾はいつものトゲトゲ尻尾が不安定な

  形で実体化。頭の耳は……。多分3式の側頭部にあったでっぱり、

  だと思うよ?≫

モーラ≪それで、機龍は大丈夫なんでしょうか≫

束≪うん。もうリュウ君の中で自己判断プログラムが走ってるみたい

  だから、最低でも一週間程度経てば自然に戻ると思うよ≫

と言う彼女の報告に安堵する一夏達だった。

 ≪それよりリュウ君!お願い!色々ポーズをとった写真を送って~!

  お願い!プリーズ!≫

と、画面越しにそんな事を懇願してくる束。

機龍「う、うん。わかったよ束」

 

そんなこんなで時間は現在に戻る。

 

あの時、咄嗟にシャルロットを庇った一夏を更に機龍が庇ったため、

機龍自身が一番その被害にあっていたのだった。

しかし、猫耳と猫尻尾が生えただけで体に目立った外傷や不可もないため、

機龍は普通に授業を受けていたのだった。

……のだが。

 

真耶「で、ここがこうなるわけですから……」

   ≪カクン……カクン……カクン≫

もう既に10月と言えど、晴れた日に窓から差し込む光は暖かく、

それによって眠気を誘われる生徒達も多い。そしてそれは……。

 

唐突にこっくりさん状態だった機龍は目を覚まして、手の甲で瞼を

擦った。が、それでも眠気は消えず、未だに覚醒と半覚醒の間を

行きかっていた。

しかし、この行為は結果的に機龍以外の生徒全員の眠気を吹っ飛ばす

と言う役割を担っていた。

殆どの生徒が機龍の行動の全てに注目していたのだ。

ある者は瞬きさえ忘れ、先生である真耶と電子黒板ではなく機龍の背中に

注視していた。

真耶「はい。それではここの部分を誰かに……。って。

   み、皆さ~ん!授業に集中してくださ~い!」

と、ここに来て振り返って真耶が見たのは、誰も黒板を見ていないという

現実だった。

そして、その声でハッとなった機龍は再び手の甲で瞼を擦って

何とか眠気から復活したのだった。

 

しかし、その後も襲い来る眠気には勝てず、午後などは机に突っ伏す

形でスヤスヤと眠りながら耳をピクつかせたり、尻尾を振り振りとして、

ある意味でクラスメイト達の集中力をマックスにしたのだった。

 

そんなこんなで放課後。

未だに廊下に居る生徒達の波は絶えず、まるで一夏と機龍の編入当初の

状況に逆戻りしているようだった。

 

一夏「しっかし、まさか機龍に猫耳が生えるなんてな~」

そう言いながら、機龍の頭を撫でる一夏。

機龍「う、うん。ぁ。そう、だね」

対して機龍も、どこか顔を赤くしながら目をトロンとさせていた。

理由は……。

一夏「ん?機龍、顔が赤いけど大丈夫か?」

そう言って頭から右手を離そうとする一夏だが、機龍の手がそれを止め、

自分の頬に移した。

一夏「き、機龍?」

機龍「お兄ちゃんの手……暖かい」

そう言ってトロンとした瞳と赤い顔で一夏を見上げる機龍。

その視線に、一夏さえ赤面し、廊下でその甘々ボイスを聞いた女子たちは

血と欲望と妄想の海に沈んでいった。

女生徒「だ、誰か、紙とペンを持って来て。い、今なら、最高の

    絵が、描け、る」

と言い残して(鼻)血の海に沈んだ生徒が居たとかいないとか……。

 

 

同じく、近くに集まって赤面している箒やセシリア、モーラ達7人。

箒「………。なぁ、一つ聞いていいか?」

ラウラ「どうした?」

箒「今、思いっきり機龍を抱きしめてモフモフしたいって言ったら私は

  おかしいのか?」

ラウラ「傍目にはおかしいだろうが……。みんなそれをやりたがってる目だ」

そう言って周囲の女生徒を見るラウラ。

もはや彼女たちの瞳には今、機龍と一夏の絡みしか映っていなかった。

   「それに、シャルロットは既にこれだ」

そう言って横目でシャルの方に視線を移すラウラ。今のシャルは……。

 

シャル「可愛いよ機龍可愛いよ機龍可愛いよ機龍」

と、目をハートマークにしながら周りの事など気にせずそう連呼していた。

それに、セシリアや簪も機龍を抱きしめたくてうずうずしている様子だった。

と、そんな時だった。

楯無「はいは~い!ちょっと通してね~」

そう言いながらドアから入って来たのは生徒会長の楯無と、同じく

生徒会の会計担当の布仏虚だった。

一夏「楯無さん。それに虚さんも。どうしたんですか?」

楯無「こんにちは一夏君、機龍君。早速で悪いんだけど、実は機龍君に

   部活動から依頼が来てるのよね~」

機龍「ふぇ?僕に、ですか?」

そう言って疑問符を浮かべる機龍。

 

改めて現状を説明すると、今の一夏と機龍は生徒会所属の副会長と

書記補佐、と言う立場にある。これは少し前、開催された

学園祭の時に色々あって決定したものなのだが、その際に楯無に

よって、一夏と機龍は部活動から生徒会に対し申請を出し、楯無が

許可すれば二人の内どちらかを部活動に期限付きで参加させる、

所謂レンタル部員となっていたのだった。

 

そのため、最近では2人にその参加申請が多く寄せられていた。

そして、今回のと言うのが……。

 

楯無「そうなの。はいこれ」

と言って、後ろに控えていた虚から申請書を受け取り、機龍に

渡す楯無。

機龍「えっと……。服飾部、情報処理部、写真部、新聞部、合同申請書。

   ですか?」

楯無「そうなの。詳しい話は部員の人たちから聞けるけど、どうする?」

機龍「……。わかりました、やってみます」

と言って合意する機龍。しかし、次の瞬間。

楯無「と、言うわけで本人の同意が得られました~」

そう言いながら、『了承!』と書かれた扇子を広げる楯無。

すると……。

   「「「「「は~い!!!」」」」」

機龍「え?」

女生徒「さぁ行きましょう!機龍君!時間がもったいないわ!」

機龍「え?え?」

大勢の返事と共に無数の生徒達が教室に入って来るなり、

事態が理解できない機龍の手を引いてそそくさとまた

出て行ってしまった。

 

それを呆然としたまま見送った一夏達は、数秒後にやっと

現実を理解した。

一夏「ちょ、ちょっと楯無さん!今のは何なんですか!?」

楯無「それがね、機龍君今はあんな状態でしょ?女子生徒の

   大半はあの姿を目に焼き付けるなり写真に収めるなりに

   必死でしょ?まぁ、それはあの子達も同じって訳ね。

   要は、今の可愛い機龍君を最大限感じたいって所かしらね」

一夏「で、でも何で服飾部とかが……」

楯無「着せてみたい服がたくさんあるんだって。

   何ならみんなも撮影現場、見に行けば?」

そう言われ、顔を見合わせた一夏や箒達は、立ち上がって機龍が

連れていかれた場所に向かった。

 

 

一夏や楯無達がやってきた教室は写真部が撮影用に使う教室だったが、

皆がみんな、真剣な表情で準備に勤しんでいた。

そして、中を見回す一夏達の目に、部屋の隅に置かれた円形の

ドレッサールームが映った。

そこでは大勢の女子たちが何やら服のような物を持ちながら

嬉々とした表情で話し合っていた。

一夏「ひょっとして、機龍はあの中なのか?」

写真部部員「そうよ。今服飾部の力作に着替えてもらってるところなの」

と、一夏達の近くに居た写真部の部員が答えてくれた。

 

箒「しかし、なぜまた機龍の撮影なんて……」

写真部部員「何言ってるの!今の機龍きゅ、んんっ!もとい機龍君はまさに

      リアル獣っ子男の娘なのよ!?それを写真に収めずして、

      何が写真部部員か!」

   「「「「そうだそうだ!」」」」

と、熱く語る部員の一人とそれに賛成する他の部員たち。

 

その時、ドレッサーのカーテンが開いて、中から機龍が出て来たのだが……。

機龍「これで、良いんですか?」

今の彼は、ノースリーブの白い上着に、際どい所まで短い白のスカート。

そのスカートには赤い前掛けがついていた。

更に上着は胸部分を隠すだけの最小限の生地で、要はへそ出しルックだった。

(※ モデルはアニメ、≪マブラブトータルイクリプス第5話≫の中で

   登場したタリサと言うキャラが来ていた服の色違いです)

 

それを見て、一夏達は驚き、鼻血を吹き出しそうになる女生徒たち。

しかし彼女たちはそれを必死にこらえていた。そして……。

   「「「「「リアル猫耳男の娘メイドキタァァァァァァッ!」」」」」

そう叫びながら撮影を始める写真部の部員たち。

 

その後もナース服やチャイナ服などに着替えさせられ、様々な背景を元に

写真を取られまくる機龍。

そんな時、一夏は機龍が依頼を受けた時にあった部活の名前の中に

情報処理部があった事を思い出した。

 

一夏「そういや、依頼書の中には情報処理部ってあったけど、

   いなくね?」

写真部部長「あぁ、あの子達の出番はこれからなのよ」

と、近くで撮影を見守っていた写真部の3年生の部長が答えてくれた。

一夏「でも、何で情報処理系の部活まで出て来るんですか?」

写真部部長「あぁそれはね。≪これ≫の画像処理にあの子達の力が

      必要なのよ」

そう言って近くにあった箱の中から取り出したのは、見た目は白い布

だった。

一夏「それ、何ですか?」

写真部部長「ん~?これはね~」

そう言ってその白い物を広げた部長。それは……。

     「じゃ~ん!名付けて、機龍君抱き枕カバー♪」

一夏「ぶふっ!?」

縦長に広げられたそれは、機龍の等身大の水着姿が描かれた抱き枕カバーだった。

それを見て噴き出す一夏とその後ろであんぐりと口を開けて驚いている

箒や簪たち。

写真部部長「あ、これは機龍君の水着バージョンね。後は、臨海学校の時の

      女装バージョンと、他にも浴衣、制服などなど。そうそう。

      あの写真も使って今後ともラインナップは増えて行くから」

一夏「いやいやいや!そこじゃなくて!?何てもの作ってるんですか?!」

写真部部長「へへへ~。すごいでしょ~。写真部、服飾部、情報処理部の  

      3部合同で作ったのよ」

一夏「いやいやいや!褒めてるんじゃなくてそれ機龍の許可とか

   取ってあるんですか!?」

写真部部長「うん。夏の臨海学校から帰って来た後にね」

一夏「あるんですか!?」

余りの事に驚いてばっかりの一夏達。

 

写真部部長「いや~。後輩がさ、臨海学校の時の写真持ってきた時は

      もう衝撃写真でね。あの時の私達は『あぁ、このままだと

      私達は欲望に任せて機龍きゅん襲っちゃうな』って思ったのよ」

と言って、頬に手を当ててため息をついている部長。

一夏「ストップストップ!襲うって何ですか襲うって!?てか

   機龍≪きゅん≫!?」

写真部部長「それを部活仲間とかクラスメイトに相談したのよ。そしたら

      言伝に話が服飾部とか情報処理部に広まったみたいでそこの

      部長さんたちから打診されたのよ。こう言うものを作らないかって。

      まぁ、要は機龍君を襲わないための私達の願望や欲望を発散させる

      ための処理道具ね」

一夏「今さらっと欲望とか言いました!?」

写真部部長「一応、それぞれの部員全員分作ったのよ。実際、少なくとも

      3部の部員全員機龍君の隠れファンだから」

一夏「ファン!?」

写真部部長「だって機龍きゅん可愛いんだもん!いつも優しくて、可愛くて!

      その上しっかりしてて勉強もできて勇気もある!加えて

      天然属性とドジっ子属性付き!

もう好きにならないって方がおかしいでしょ!?」

その言葉に周囲の部員たちが頷いた。

 

その事に驚きながら苦笑する一夏と簪たち。

写真部部長「でもそしたらね。部員たちがそんなの持ってる~って寮内とかで

      噂になっちゃってね。他の生徒達からの要望で増産する事になったの」

一夏「増産!?あのカバーを!?」

服飾部部長「そうなのよ~。しかも大半の生徒から要望が来ちゃっててさ~」

と、今度は服飾部の部長が話し始めた。

     「部費の殆どをつぎ込んで更に募金も募ってやったけど資金は

      カツカツ。この前の学園祭の時に売ったら大繁盛よ。あの

      カバーが飛ぶように売れたわ」

一夏「売った!?」

服飾部部長「もっとも、そのお金も大半が製作費に消えたけど」

簪「募金って。お金とかは取らないんですか?」

服飾部部長「まぁ、そうしたいのはやまやまなんだけど、そうしちゃうと

      先生たちの怒られるし。まぁ、顧客の中には先生も何人か

      いるみたいだけど」

一夏≪待て待て待て教育者!あんたらショタコンなのか!?生徒に

   欲情してどうするんだよ!?≫

と、今度ばかりは声に出さずに心の中で突っ込む一夏。

 

さて、ここで一つ、教師たちが機龍に興味を持った理由を補足

しておこう。

彼女たちの職は、ある意味において少女達の憧れの職業の一つだ。

給料などの待遇もよく、その職を目指す者は多い。しかし、

この職には少し欠点があった。

ISが生まれてまだ10年ちょっと。結果的に成人のISパイロットは

千冬、真耶のように20代前半や後半、精々30代前半の人間が多い。

そのため、教師たちの殆どが千冬達と歳が近い20代の女性、

と言うわけだ。

では、何が問題なのかと言うと、まだ婚期の真っただ中である彼女たち。

しかし、その中において、いわゆる『出会い』と言うのは極端に少ないのだ。

理由を説明するのであれば、それは女尊男卑主義のせいであると言えた。

 

ISによって生まれたその風潮によって、一部の心無い女性は

威張り散らすのが当たり前になった世の中では、男の肩身は狭い。

少しでも変な事をすれば、即女性が有利な裁判やらなんやらを

やらされて、負け決定だ。しかし相手がIS適性の無い、普通の

女性ならまだ勝ち目はあるだろう。だが、もし仮に合コンなどで

出会った目の前の女性がIS学園の教師だったら?

学園の教師ともなれが、正真正銘、政府などから擁護≪される側≫の

人間である。万が一にも相手の機嫌を損ねてしまえば、何を

されるか分かったものではない。ましてや学園の事をよく知らない

男性たちにとって、学園は女尊男卑主義の根城にも見えるだろう。

そんな学園の教師たちと付き合おうとするのは、バカか勇者だけである。

 

そんな彼女たちは被害を恐れて男性から避けられ、結果的に出会いが

極端に減ってしまっていたのだ。

一部の女尊男卑主義の教師以外は、未だに普通の女性だ。

好きな相手を見つけ、結婚し、家庭を持ちたい人達なのだ。

しかし、外での出会いもめっきりと減り、職場は女性ばかりの

女学園だ。そんな悩みを持つ彼女たちの前に現れたのが、

一夏と機龍だった。

 

特に機龍は女尊男卑だとか、年上だとか言う事を気にせず、

教師たちにも普通に接している。積極的に物事を文句も言わずに

手伝ってくれる機龍に、まぁ要は一部の教師が惚れてしまった。

と言うわけだったのだ。

で、カバーの存在を知った先生方は、自分の欲求を発散させる意味

でも、そのカバーを入手し、日々機龍への想いを募らせていたのだった。

 

 

写真部部長「あ、そうそう。近いうちに一夏君と機龍君が抱き合ってる

      二人の絡みがみたいって要望もあったから、その時は

      よろしくね!」

一夏「そんな馬鹿なぁぁぁっ!!」

と、教室に一夏の絶叫が響くのだった。

 

 

数日後。

彼女たちの熱意(じみた欲望)によって完成した枕カバーの配布が先生たちに密かに

行われた。その様子を見に来た一夏達。

廊下には既に人のグループができていて、さながら飢えた狼のように

服飾部の扉が開くのを待っていた。

やがて、扉が開いてゆっくりと中に入って行くように促す部員。

 

一夏や機龍達も後ろの方から中の様子を見に行き、唖然としていた。

服飾部の壁にはサンプルらしき物が掛っており、そこに描かれている機龍の

コスプレ姿に開いた口が閉じないまま、ただ茫然としていた。

 

そして、部屋の奥では並んだ生徒達に対して、張り紙で

≪数量限定につき、一人2種類まで≫と忠告しながら出来上がったそれを

配っていた。

皆がみんな、それを嬉々とした表情で受け取っているさまを見て、若干

引き気味の一夏達。

 

と、その時だった。

部員「はい、次の人は何にしますか?」

束「全部貰うよ~!」

箒「なっ!?姉さん!?」

何時の間にか、生徒達の前に稀代の天才、篠ノ之束が立っていた。

箒はすぐにそんな姉の首根っこを掴んで列から引きずり出した。

 「一体ここで何をやってるんですか!?」

束を部屋の隅に正座させて説教を始める箒。

束「だって~!スパイ衛星とか監視カメラハッキングしてリュウ君の

  事観察してたらこんな面白そうな事が始まっちゃうんだもん!

  リュウ君の母親としてはこれは見過ごせない事態なんだよ~!

  ……と、言うわけで、全種類頂戴!」

と、ため息をついて箒が視線を外したすきに再び配っていた部員に迫る束。

部員「ぜ、全種類と言われましても、やはり、数が限りがあるので……」

束「え~!?もっと作れないの~!?」

部員「人手は十分なんですけど、やっぱり売買となると、学校の校則で違反に

   なってしまいますから、製作費の方が……」

束「な~んだ!そんな事か~!だったら~良いのがあるよ~ん♪」

と言って、何処からともなくジュラルミンケースを取り出して

机の上に置く束。

 「ふっふっふ!さぁさぁ、御開帳~!」

そう言ってケースを開いた束。その中には……。

 「じゃあ私はカバー全種類に1億円出すから譲ってよ~!これだけあれば

  作れるでしょ?」

一・箒・ク「「「ストォォォォップッ!!!」」」

と、さらっと1億円を出した束を止める一夏、箒、クロエ。

一夏「束さん!?どんだけ金額出してるんですか!?」

束「ほえ?あぁこの1億の事?良いんだよこんなはした金~。

  どうせ、IS関係で入ってきたお金だし~。あ、円がダメなら

  ドルとユーロでも1億円相当が出せるけどどうする?」

クロエ「束様!いくら何でもカバーを作るのにそんなにお金はいりませんから!?」

箒「と言うかそんな物を今学園に持ち込まれたら色々と火種が増えるだけ

  ですから!?」

と、束を注意する箒やクロエだが、当の束は聞く耳を持たず、一方の

部員たちは何やら集まって会議をしていた。

 

そして数分後。

どうやら会議は終わったらしい。

服飾部部長「え、え~。それでは、今のお話を受け、こちらからいくつか

      提案したい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

束「うん。良いよ。何?」

服飾部部長「それではまず。その金額ですが、流石にその額はいりません。

      変わり、と言っては何ですが、いくつかお願いがあります。

      一つは今後、我々の製作活動を支援してください。先ほども

      言ったように製作資金がカツカツで、これ以上の生産ができない

      んです」

束「成程成程」

服飾部部長「とはいえ、できる事なら製作に必要な数万円程度の支援が

      頂ければそれで構いません」

束「な~んだ。それくらいならお安い御用だよ!他にはあるの?」

服飾部部長「はい。あと一つだけ。できれば、束博士に我々の同志に

      なってほしいのです。……小耳にはさんだお話では、臨海学校の際

機龍きゅんにウエディングドレスをプレゼントしたとか?

      あわよくば、我々にぜひともお力添えを頂きたく」

束「ふ~ん。その時の私の見返りは?」

服飾部部長「機龍きゅんのコスプレ写真の共有ではどうでしょう?後は、彼

      専用の新しい服のデザインをこちらからも提案し、製作

      することができますが……」

束「乗った!」

9人「「「「「「「「決断早っ!?」」」」」」」」

と、すぐさま部長の提案に乗った束に機龍以外の一夏達8人とクロエが

突っ込んだ。

 

服飾部部長「では、束博士。今後とも、よろしくお願いします」

束「うん♪可愛いリュウ君が見られるなら何だってウェルカムだよ!」

そう言って固い握手を交わす2人。しかし………。

 

千冬「た~~ば~~ね~~!」

その時、教室の入り口から般若が入って来た。

それは、怒りゲージがMAX状態の千冬だった。

束「や、や~ちーちゃん。こうして会うのは海の時以来だね~。

  あ、アハハハ」

と、片手を上げて挨拶しながらダラダラと汗を流している束。

しかし、すぐに束に近づいた千冬が彼女の頭を右手でとらえた。

アイアンクローである。

 「い、痛い!ちーちゃんこれすっごい痛い!ガチ?!ガチなの!?

  ガチで私の頭がボルシチになっちゃうよ!?」

千冬「五月蝿い!勝手に学園に入り込んで貴様は何をやっている!」

束「い、いや~。リュウ君の母親兼一ファンとして、リュウ君のアイテムの

  収集を!イダダダダ!ギブギブ!!」

それを聞いて、やっと手を離す千冬。そして束は頭から煙を出しながら

倒れてクロエに介抱されていた。

千冬「全く。……貴様らもだ」

と、今度は部員たちの方に視線を向ける千冬。

  「何だ?これは?」

部員「だ、だだ、抱き枕のカバー、です。機龍君のイラスト付きの」

怯えながらなんとか一人の部員が答えた。

千冬「………。全く、部活でなんてものを作ってる!全部没収だ!」

生徒達「「「「「えぇぇぇぇぇぇっ!?!?」」」」」

 

唐突の没収宣言に叫ぶ生徒達だったが……。

千冬「何だ?文句でもあるのか?」

と、般若の如き形相に千冬に睨まれ、泣く泣くカバーを渡したのだった。

一夏達は呆然とそれを見ている事しかできなかった。

 

やがて、翌日。

通学路はまるで通夜のように暗く、一夏達のクラスも朝から元気が

無かった。朝の和気あいあいとしたいつもの談笑風景がまるっきり

消え去っていた。

 

昼休み、一夏達9人は一緒に食堂で食事をとっていたのだが、その周りでさえ、

大半の生徒はため息ばかりついていた。

箒「何と言うか、皆が皆予想以上のダメージだな」

一夏「そ、そうだな」

簪「と言うか、あのカバーってそんなに出回ってたの?」

ラウラ「あぁ。調べてみたが生徒の3人の内1人はもっている計算に

    なった」

セシリア「そ、そんなにですの!?」

鈴「何かもう驚きすぎて、そうなんだとしか言えないわ」

モーラ「機龍って、人気者なんですね」

そんな話をする中で一人、シャルロットだけがため息をついていた。

 

シャル「あ~あ。僕も機龍の抱き枕カバー、欲しかったな~」

7人「「「「「「「……………」」」」」」」

と言う彼女のつぶやきに、機龍以外の7人が押し黙った。

 

そして更に翌日。

余りの学業意欲の低下を重く感じた教師陣によって会議が開かれ、機龍の

抱き枕カバーの再配布が決定した。

ちなみに、その際には一部の教師陣のカバー所持も発覚しかけたとか。

ともかく、再配布の決定がその日、生徒達は歓喜しいつも以上に授業に

集中して取り組んだという。

 

 

やがて、一週間以上の時間が流れ、機龍の猫耳猫尻尾の具現化現象を

終わりを迎えた。

女生徒「あ~あ。機龍君の獣っ子姿も昨日で見納めか~」

   「残ったのは、写真とカバーのイラストだけか~」

   「「「は~~~」」」

と、没収事件の時とまではいかないが、落ち込んでいるクラスメイト達。

機龍「おはようございま~す」

と、そこに機龍達が登校してきたのだが……。

 

   「あ、おはよう機龍く、ってえぇぇっ!?きき、機龍君!?」

と、入って来た機龍を見るなりひとりの女生徒が驚いた声を上げた。

理由は……。

   「何で猫耳と尻尾が復活してるの!?治ったんじゃないの!?」

 

そう。今の機龍は数日前と同じように猫耳と猫尻尾を生やしていた。

 

機龍「それが、そのですね」

と、顔を赤くしている機龍。次の瞬間、耳と尻尾が表皮に吸収されるように

消えた。

   「消えた!?」

しかし、すぐさま再び姿を現す耳と尻尾。

   「また生えた!?」 「ど、どうして!?」

驚く女子たち。

機龍「その~。……あ、あの後、自分で耳と尻尾を出せるようになっちゃいました」

そう言って恥ずかしそうに顔を赤くしながら頬をかいている機龍。

それに対して、クラスメイトの女子たちは……。

 

   「「「「「「「「いぃよっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」

 

歓喜し、その事実は瞬く間に学園全体に広がったという。

 

こうして、機龍達の騒がしいながらも楽しい日常は過ぎ去っていった。

 

     第17話 END

 




え~っと、と言うわけで機龍の獣っ子属性(謎)が追加されました。
多分怒ってる人も居るかもしれないので謝っておきます。
すみません。
第6話見て、あれはもう一夏とシャルの話になってましたから
じゃあどうするかって考えてこうなりました。
感想、評価など、お待ちしています。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第18話

今回の話や次回は殆どオリジナルの話になると思います。



――前回までのあらすじ――

埠頭でのIS装備の護送任務をする事になった一夏、機龍、シャル、モーラ

の4人。その際、敵の攻撃で爆発した装備の影響で猫耳と猫の尻尾が

生えてしまった機龍。

それもあり、女生徒たちの機龍の興味が再燃焼。また、予てより服飾部や

写真部などが合同で作っていた機龍の抱き枕カバーの存在を知る

一夏や機龍達。

騒がしいながらも、少しばかり浮世離れした日常を謳歌していた

生徒達だった。

 

 

そんなある日。

学園で一夏達が日常を過ごしていた頃。某国の某所にある巨大なビルの

暗く、ベッドしかない部屋の中で、そのベッドに腰かけ持っているペンダント

の中身を見ている者が居た。M、マドカだった。

だが、彼女は不敵な笑みを浮かべると、≪ベギャッ≫と言う音と共に

ペンダントを握りつぶして部屋の片隅に投げ捨ててしまった。

 

と、その時、部屋のドアが開いて、長い金髪にグラマスなボディ。

露出度の高い服にヒールを履いた女性が入って来た。

???「あらあら?そのペンダント、もう捨てるのかしら?

    あなたの大切なターゲットの顔写真入りじゃなかったの?」

そう言ってベッドに近づく女性。彼女こそ、マドカ、オータムの実質的な

上官であり、2人の所属するファントムタスク実行部隊、

『モノクローム・アバター』の隊長格である『スコール・ミューゼル』だった。

そんなスコールを一瞥してから、無言で視線を戻すマドカ。

スコール「あなたがどこの誰であれ、私にとってはどうでも良い事。

     でもね、M。余り勝手な行動をするようなら……」

 

次の瞬間、スコールの体が光り、彼女のISを展開。

左腕のアタッチメントから伸びるサイドアームのような腕でマドカを

天井付近に押さえつけた。だが、マドカの方もゼフィルスのビットを

展開。既にスコールを取り囲んでいた。

それを見て、自身のIS、『ゴールデン・ドーン』を収納するスコール。

スコール「自分の立場をわきまえなさい。でないと、死ぬことになるわよ」

マドカ「………わかっている」

スコール「ならいいわ。……それにしても、まさかあなたがこれほど

あっさりと執着を捨てるタイプだったとはね」

マドカ「捨てる?笑わせるな。私の目的は世界最強を倒し、真の

    最強となって人類を滅ぼす事だ。織斑千冬はそのターニング

ポイントに過ぎなかった。だが、奴も所詮は人だった。

真に強いのは人間ではない。獣だ」

スコール「あなたが見たという篠ノ之機龍の別人格の事かしら?」

マドカ「そうだ。……ゴジラ。奴を超えることができれば、世界を

    終わらせることなど簡単だ」

そう言って、狂気じみた笑みを浮かべるマドカ。

 

スコール「ゴジラ、ねぇ?たった一匹の獣に、世界が滅ぼせるかしら?」

マドカ「ふ、貴様は奴と向き合った事がないからそんな事が言えるんだ。

    奴が本気を出せば、私も貴様も、あの織斑千冬でさえ、有象無象の

    一匹に過ぎない。だからこそ、奴を超えた時、私は真の力を手に入れる」

スコール「あらそう。まぁ、良いわ。あなた自身に科せられた任務を

     果たしてさえくれればね」

そう言って、スコールはマドカの部屋を後にした。

 

スコール『ゴジラ、ねぇ』

廊下に出て、歩きながらもその事を考えているスコール。

    『≪あの子≫から送られてきたデータにおいては、篠ノ之

     機龍は天才の部類に入るただの子供だった。でも、その力は

     未知数。何より≪あの事件≫の時の福音の反応。福音は

     ターゲットと接触後、暴走した。何故?あの子のDNAデータを 

     回収しただけなのに』

そう思いながら建物の窓から見える夜景に目を移すスコール。

    「どうせなら、一度会ってみようかしら?」

彼女は、そう言って暗い夜の街を眺めるのだった。

 

数日後の午後、昼過ぎ。

スコールは学園のある人工島の対岸にある町の、海を一望できる

カフェテラスから学園と、そこを繋ぐ駅の入り口を見つめていた。

    『あの子の報告の通りなら、篠ノ之機龍は最近、休日に町へ

     来ている。理由はどうあれ、接触するチャンスね。…あら?

     噂をすれば……』

その時、彼女の掛けるサングラスに機龍の姿が映った。

 

 

最近、機龍が頻繁に町に来るのには理由があった。それは、丁度機龍の

獣っ子化騒動が終わった時の事だった。

その日は偶々、9人が集まって屋上で食事をしていた。それぞれがそれぞれの

お弁当などを持ち寄っていたのだが、その時機龍は、みんなが美味しそうに

自分の手料理を食べてくれる事に喜びを覚えた。それからという物、

時間があるときは自分の料理の腕を磨いていた。

元々勉強は殆どできる機龍なので、そう言った更なる趣味を持つことに

割り当てられる時間も多い。また、ゲーム等も知らない、と言うか興味を

持っていない彼にしてみれば、こういった事もまた、彼のストレスを発散させる

効果を持っていた。

そして、今日は料理で使う食材の買い出しに来ていたのだった。

 

機龍「えっと。買う物はどうしよ?……この前は中華料理に

   チャレンジしたし、今度は……。う~ん」

何の料理にチャレンジしようかと悩んでいた機龍。

その時、前から紅いスーツを着た女性が歩いてくるのが見えたので、

横に避ける機龍。

???「きゃっ!」

しかし、次の瞬間、その女性が機龍の方に倒れて来た。

機龍「危ない!」

咄嗟にその女性を受け止める機龍。

  「だ、大丈夫ですか?」

???「え、えぇ。ごめんなさい。あなたこそ大丈夫だった?」

機龍「は、はい、大丈夫です」

相手を気遣いながらも、その女性の美貌に見とれる機龍。

  『わ~。綺麗な人だな~。って、あ』

  「靴が、ヒールが折れちゃってます」

女性のハイヒールの片方が折れてしまっていた。

???「あらホント。どうしようかしら?」

そう言って、悩んでいる素振りをしているのは、スコールだった。

 

彼女が偶然を装って機龍に近づいたのだ。ヒールが折れた事自体も、

彼女自身がこけた振りをした際にちょっと足に力を入れて折っただけだ。

しかし、機龍はそれを演技とは知らずに信じているのだった。

 

機龍「あ、えっと。あの、この近くに公園がありますから、

   とりあえずそこに」

スコール「ごめんなさいね。私この辺の事知らなくて、案内を

     お願いできるかしら?」

機龍「はい。任せてください」

その後、機龍はスコールに肩を貸す形で近くの公園のベンチへと

彼女を連れて行った。

 

  「う~ん」

スコール「どうかしら?」

機龍「ヒールは完全に折れちゃってますね。もう取れかかってますし、

   このままこれを履くにはやめた方が良いと思います」

スコール「そう。困ったわね。私この町は初めてなの。どこかに靴屋か

     何かないかしら」

機龍「それなら、よければ僕が近くにある靴屋さんを知ってますから、

   そこで新しい物を買って来ましょうか?」

スコール「え?良いのかしら?」

機龍「はい。大丈夫です」

スコール「そう、なら、お願いしようかしら」

機龍「はい。少しだけ待っていてください。すぐに戻りますから」

そう言って機龍は駆け出して行った。

 

数分後。近くの靴屋で同じサイズのハイヒールを買ってきた機龍は

それを彼女に手渡した。それを履き、感触を確かめるスコール。

スコール「ありがとう。おかげで助かったわ」

機龍「いえ、お役に立てたのなら僕はそれで。…あ、

   じゃあ僕はこの辺で失礼しますね」

そう言って立ち上がって歩き出そうとする機龍だったが…。

スコール「あ、待って」

機龍「はい?」

スコール「靴の代金を払ってないわ。いくらだったのかしら?」

機龍「お、お金なんて必要ありませんよ」

そう言ってパタパタと手を振る機龍。

  「僕はただ、あなたの助けになりたかっただけですから」

スコール「そう?でも、私としてはあなたにちゃんとしたお礼が

     したいの。どうしようかしら?

     ……そうだわ。ねぇ、この近くに喫茶店はあるかしら?」

機龍「は、はい。ありますけど……」

スコール「なら、私がそこで少しだけ奢ってあげるわ。それで

     どうかしら?あなた、予定は大丈夫?」

機龍「はい。少し買い物に来ただけですから。

   あ、でも、やっぱりお礼とかは……」

スコール「良いのよ。私があなたにお礼したいだけだから。

     それとも、私とのお茶は嫌?」

そう言って機龍の顔を近づけるスコール。

 

今の彼女は前かがみの状態で機龍の顔を覗き込んでいる。

そうする事で、スーツの合間から見える彼女の豊満なバストが強調

されている。が、今の機龍は彼女の紅く輝く瞳と、流れる金の髪、

そして、彼女から溢れる女性特有の芳香を見て、感じ、赤面していた。

機龍「いえ。…そ、それじゃあ、その、ご馳走に、なります」

スコール「えぇ♪」

 

 

その後、機龍に案内されて近くのカフェに入り、そこでコーヒーと

オレンジジュースを頼む2人。

優雅に片手でカップを持つスコールと、両手でコップをもって

コクコクと飲む機龍。

    「どう?美味しい?」

機龍「は、はい」

彼女を前にして、少しばかり緊張している機龍。

女優も顔負けの大人の美貌を醸し出すスコールと、幼いながらも愛くるしさを

醸し出す機龍。そして、2人の対比的な髪の色、金髪のスコールと

銀髪の機龍は周囲の人々の視線を集めた。

傍から見れば親子か姉弟のように見える2人。

もっとも、2人について一般人が想像を絶するような能力や過去を持っている事を

知る由もなかったが……。

 

その後もコーヒーを飲んでいるスコールに見られながら彼女が機龍のためにと

頼んだ苺のケーキを食べていた機龍。そんな時だった。

スコール「そう言えば、あなたの名前を聞いていなかったわね。できれば

     教えてもらえるかしら?」

機龍「あ、はい。僕は篠ノ之機龍って言います。えっと……」

スコール「ふふ、そう、機龍君って言うのね。私はスーザン・ケイシーよ。

     よろしくね。…それでなんだけど、あなたにお願いがあるの」

機龍「僕にですか?」

スコール「えぇ。実は私、会社の都合で近いうちにこの町に引っ越してくるの。

     今日も町中を見ておきたくて来たのだけど、あなたが良ければ

     町の方を案内してもらえないかしら?」

機龍「そうだったんですか。わかりました。僕でよければご案内します」

スコール「ありがとう、助かるわ」

そう言って機龍に微笑むスコール。それに対し、機龍は彼女の

微笑に顔を赤くするのだった。

 

その後、機龍はスコールを連れて町の中を案内していた。

機龍『スーザンさんって、綺麗な人だな~。お仕事って何なんだろう?

   モデル、とかなのかな?………でも、もしかして』

と、思いながら一瞬だけ視線を後ろに向ける機龍。

そんな矢先……。

スコール「少しごめんなさいね。お手洗いに行ってくるわ」

機龍「わかりました。僕はここで待ってます」

と言って、建物の中に入って行くスコールと、外で待っている機龍。

 

そして、スコールはと言うと……。

スコール「オータム、あなたずっとつけていたのね?」

お手洗いの洗面台の前で、オータムと会話していた。

オータム「それよりどういうつもりだよ!あのガキに接触するなんて!」

そう言っている彼女の表情は憎悪に歪んでいた。

オータムは以前、白式と銀狼の奪取のために一夏と機龍を襲撃したものの、

覚醒した機龍の中のゴジラによって徹底的にボコられ、

数週間は動けない体にされてしまったのだ。その事もあり、オータムは

機龍を憎悪していたのだ。

スコール「少し、あの子の事をこの目で見て見たかっただけよ」

オータム「あんなガキが何だってんだ!私が本気を出せれば――」

スコール「気づいていないの?あなたの尾行、彼にバレてるわよ?」

オータム「ッ!?そんな馬鹿な!」

スコール「彼、私と歩いている時に何度かあなたの方を見ていたもの。

     人は見かけによらないって言うけど、彼はそうかもしれないわね。

     可愛い素顔の下は血まみれの獣かもしれない。それに、マドカや

     あの子の報告によれば、彼は二重人格と言う事になるわ。

     ……でも、一体彼の表と裏のどちらが強いのかまでは、

まだ分からないわ」

そう言いながら、鏡を前に唇にルージュ色の口紅を引くスコール。

    「もう少し、彼の事を観察させてもらいましょう」

そう言いながら鏡と向かい合う彼女の瞳は、妖しい光を灯していた。

 

 

それからも機龍によって町中を案内されるスコールと、それをひそかに尾行する

オータム。

しかし、機龍は既にある程度の事を悟っていた。

機龍『さっきから付いて来てるオータムさんと同じように、スコールさん

   からも火薬の匂いがする。……やっぱり』

そう思いながら二人が偶々人気のない路地裏に入ったその時。

 

???「見つけたぞ。スコール・ミューゼル」

そんな声が聞こえて来た次の瞬間、2人の前後を黒服にサングラスを

掛けた男達が囲った。

   「貴様にはテログループ、ファントムタスクのメンバーであり、

各国でのテロ事件の首謀者とする嫌疑がかけられている。

    大人しく同行してもらう」

そう言って、いきなり拳銃を取り出し、構える。

スコール「あらあら、最近のCIAは随分と物騒なのね」

機龍『CIA?それって確か、アメリカの……。じゃあ、

やっぱりスーザンさん、ううん、スコールさんは』

と、その時。

   『ボギャッ!』

   「ぐっ!あぁぁぁぁぁぁっ!!」

後ろの方で何かが折れる鈍い音と共に男の悲鳴が響いた。

機龍が振り返り見たのは、エージェント一人の腕をへし折った

オータムだった。

オータム「へっ!CIAだか何だか知らないが、私達をこの程度の

     人数と装備で捕まえようなんざ、ちゃんちゃらおかしいぜ!」

そう言いながらエージェントの持っていた拳銃を放り、己がIS、

アラクネを展開しようとした。……だが、一瞬だけ待機状態の

アラクネが光ったかと思ったが、その光がすぐに消えてしまった。

    「なっ!?バカな!?」

何度もアラクネを起動しようとするが、反応しない。

それを見て、隊長格らしきエージェントが笑った。

隊長格「ふふふ、どうやら例の試作兵器は効果てきめんのようだな」

機龍「試作、兵器?」

隊長格「あぁそうだ。起動する前のISに特殊な電波を当て、

    搭乗者からの起動コマンドを無力化するという仕組みらしい。

    ラッキーだったよ。貴様らがこの場所に立ってくれて。

    その電波の有効半径は100メートルも無いからな。

    だが、上空を滞空する衛星から照射された妨害電波の

    範囲内であれば、どのようなISでも起動できない。

    もっとも、搭乗後は何の意味もないらしいが……。

だが今はISを起動できない貴様らの方が多勢に無勢だ。

大人しくしてもらう」

そう言いながら、ジリジリと包囲の輪を縮めるエージェントたち。

 

その時、今度は機龍の体の一部、背中と両腿の辺りが光ったかと

思うと、制服の上に配置されるようにスラスターが展開された。

   「ッ!バカな!?」

次の瞬間、そのスラスターから大量の白煙が噴出され、周囲に居た

人間の視界を奪った。

 

次の瞬間、その白煙の中から3式機龍改となった機龍が両脇に

スコールとオータムを抱え、飛び出してエージェントたちの脇を

すり抜けて行き、空へと飛翔していった。

 

数分後。

夕暮れになり始めた町はずれの人気のない森林公園にある展望デッキに

着地し、二人をゆっくりと下す3式機龍。

そして、機龍が数歩下がるとその体が光りに包まれ、人間態へと戻った。

オータム「テメェ、何のつもりだ!」

そう言って懐から拳銃を取り出して構えるオータム。しかし……。

今の機龍は待機状態のアラクネを見つめてすぐにオータムの

顔に視線を移した。

機龍「既にあの試作兵器の影響はなくなっています。今なら普通にあなたの

   アラクネを起動できるはずです」

それを聞き、オータムは怪訝な表情をしてからアラクネを起動し、

無事に装着する事に成功した。

そして、今度はアラクネが装備するアサルトライフルを機龍に

向けて構えた。

オータム「何でテメェがISを展開できたが知らねえが、

     お情けで助けたつもりか!」

次の瞬間、アサルトライフルが火を噴く。

銃弾は機龍の足元に命中し、発射の跳ね上がりで弾道は上がっていく。

大抵の銃弾は機龍の横をすり抜けた。が、ある一発だけが機龍の

頬を掠った。機龍の頬に横一文字の傷ができ、そこから血が流れ出す。

しかし、それでも動じず、じっとしている機龍。

更に連続で放たれた銃弾が機龍の腕や足を掠る。破ける制服の

袖と、切れた皮膚から垂れる赤い血。

    「どうした!ビビッて動けねえのか、あぁ!」

挑発や罵倒とも取れるオータムからの言葉を聞きながらも、

機龍は動こうとはしない。

機龍「……。あなたには、僕を撃つ理由が。僕はあなたに撃たれるだけの

   理由がある。それだけです」

オータム「くっ!ふざけやがってぇ!」

ライフルを捨てて突進したアラクネの第二の拳が機龍に突き刺さる。

機龍「っぐ!」

腹を抑えながら膝をつく機龍。だが、彼はお腹を抑えながらもすぐに

立ち上がった。

オータム「っの野郎!」

だが、そこを再びオータムのアラクネの拳が襲い、吹っ飛ばされる機龍。

彼は背後にあった木の柵に背中からぶち当たった。

 

しかし、それでも再び立ち上がる機龍。既に彼の四肢から流れていた

血の川は途絶え、傷口も回復しつつあった。

    「化け物がっ!」

突進してきたアラクネのラッシュが機龍の腹や胸、顔に繰り出される。

そして、一発のフックが機龍の顔面を捉えた。

再び倒れる機龍。そして同じように立ち上がり、微動だにしない。

まるで、相手からの攻撃を待っているかのように。

    「なんなんだ!何なんだよお前はっ!」

殴っても殴っても立ち上がり、殴り返そうともせず、相手の拳を

唯々受け止める機龍。泣きもせず、喚きもせず、痛みをさも同然の

ように受け入れている彼の姿に、一夏達以上に実戦を経験している

はずのオータムでさえ、狼狽していた。

    『こんな奴、今まで見たことねぇ!何で私を憎まない!?

     殴ってるのはこっちだぞ!?何で、何でだ!』

戦場において唯一無二の感情。それは、敵に対する『憎しみ』のみ。

 

相手を倒さなければ、自分や仲間が死ぬか殺される。それ以上の事だって

あるかもしれない。だからこそ、戦場において敵とは憎まれる者。

敵となった人物への下手な同情は仲間を殺す。

だからこそ、敵に心を許すなど自殺行為以外の何物でもない。

そして、人とは他者からの憎しみに対して、無反応で居られるはずがない。

相手からの憎悪に反応するかのように、自分も相手を憎む。

或いはその憎しみによって悲しみと言った負の感情を呼び起こされるかもしれない。

 

だが、機龍は一方的な蹂躙の前にあっても、オータムに憎しみの目を

向けることはない。ただ、決意と言う名の炎を瞳の中で燃やしていた。

彼の持つ魂は、大きく、気高く、どこまでも美しい。

 

己が咎を背負うと決めた――決意――

自分のすべてを掛けて、愛する人々を守ると誓った――覚悟――

決意と覚悟はやがて、『王の貫禄』へと昇華していった。

 

今、オータムは機龍の放つ圧倒的なオーラに気圧されていた。

今まで彼女が見てきた相手とは別格過ぎるその王の波動を前に、

冷たい汗を流すオータム。

いくら殴り倒そうが、彼はすぐに起き上がり、真っすぐにオータムを

見つめる。

    「はぁぁぁぁぁっ!」

すると、今度はアラクネの近接武装、カタールを取り出し機龍に

迫った。そして、その刃は寸分違わず機龍の腹部に突き刺さった。

機龍「っぐ!!」

カタールの突き刺さった部分から、ボタボタと大量の血が溢れ出す。

だが、それでも機龍は歯を食いしばり、倒れない。片手を後ろの柵に置き、

何とか体を支えながら立っている。そして、それでもなお、王の貫禄は

消えない。むしろ、傷つく度にそのオーラは純度を増していった。

 

避けられたはずだ。機龍と、ゴジラと戦った経験のあるオータムの頭に、

そんな単語が過った。

だが、機龍はカタールの刃を受け止めた。

オータム「どうして避けないっ!?お前なら避けられただろ!」

機龍「僕は……。もう、二度と、自分の、罪から、目を、逸らさない。

   うっ、げほっ、ごほっ!」

   『ビシャッ!』

吐血し、その口元を血で汚しながらも、いくら膝が震えようと

決して倒れない。

  「僕は、僕自身の、罪を償う。そして、僕は……」

機龍の空いている左手がオータムのフルフェイスヘルメットに触れた。

  「あなた達とも、分かり合えると、信じているから……」

オータム「ッ!」

次の瞬間、カタールを離して数歩下がるオータム

    「ガキがっ!粋がるな!私とお前が分かり合うだと!?

     笑わせるなっ!私たちは殺すか殺されるかの敵なんだよ!」

そんな彼女の言葉を聞きながら、ゆっくりと左手でカタールを

引き抜く機龍。

機龍「それ、でも!」

   『ブシュッ!』

   『カランカラン』

鮮血と共に抜けた血まみれのカタールが地面に落ちる。そして、

なお決意のこもった瞳でオータムと、彼女の後ろで事態を静観していた

スコールを見つめる機龍。

  「例え、殺しあう相手だとしても!僕たちには、言葉がある!

   意思がある!だからこそ、どんな相手でも、分かり合う事は、

   きっとできる!僕は、それを――。うぐっ!げほっ!げほっ!」

再びせき込み、吐血し、震えながらも立っている機龍。すでに

彼の足元には血によってできた赤い池ができていた。

  「それを、信じているから!」

いくら傷つこうと、彼の意志は変わらない。

  「例え、痛みと苦しみの先にしか、分かり合う事の出来る未来

   が、それが、ただ一つの道なら、僕は、痛みも、苦しみも、

超えて見せる!」

少年は今、確かに覇気を纏っていた。『王者』の覇気と、

人間の『希望』としての覇気。すべてを滅ぼしかねない『力』と

全てを救いたいと願う『意思』が一つとなって、彼の思いは

無限大に昇華していく。

 

彼の持つ『王』としての覇気に完全に気圧されているオータム。

オータム『何なんだよ!?こいつは!?ビビってるのか!?

     私が!?ありえない!そんな事、あり得るはずがねぇ!』

自分自身の体に感じる物を振り払うようにアサルトライフルを

構えるオータム。

だがその時、スコールが彼女の前に出てオータムを制した。

スコール「正直、驚いたわ。あなたがここまでの相手だったとはね。

     私はあなたの事を見くびりすぎていたわ。でも、本当に

     できると思うの?私たちは敵よ?」

機龍「例え、敵だったとしても、それは、意思を、お互いの想いを、

   伝えられない訳じゃない。だからこそ、僕は、ぐっ!」

と、ここに来て限界が来たのか前のめりに倒れそうになる機龍。

だが。

   『ギュッ』

倒れそうになる機龍をスコールが受け止め、ゆっくりと近くのベンチに

座らせた。

  「スコール、さん」

スコール「あなたの事は認めてあげるわ。…生きていれば、またどこかで

     会いましょう?機龍君」

そういうと、スコールは自身のIS、ゴールデン・ドーンを

起動してオータムと共に飛び去って行った。

それを見送ってから深呼吸をする機龍。

 

これが一般人なら致命傷で死ぬだろうが、機龍ならすぐに回復

させることができた。そして、一番の重傷であるお腹の裂傷が

ある程度癒えた時だった。

機龍「束、見てるんでしょ?」

不意に呟いた機龍。すると、森の中から小さなドローンのような

物が無音飛行しながら出てきた。そして、そのドローンから機龍の

前に映像が映し出された。

束『リュウ君大丈夫!?お腹痛くない!?平気!?平気なの!?』

もはやバレているからか、機龍の傷を見てテンパっている束。

機龍「大丈夫だよ、これくらい。もう殆ど塞がったから。

   ……でも、ありがとう束。黙っててくれて」

束『………』

機龍はもともと、束が自分の事を陰ながらに見守っている事を

知っていた。そして、今日もその視線を感じていた。そんな時に

あんなことがあったのだ。束ならゴーレムを数十機は投入して

機龍を助けようとしただろう。だが、束は機龍の意志を酌んで

そのような事はしなかった。そして、それにも気づいていた機龍。

 『でも、大丈夫なの?傷とか体の事とか』

機龍「大丈夫。……もう決めたんだ。僕は、この世界を。ううん。

   この世界と、そこに生きる人たちの明日を守るんだって、

   決めたんだ。そのための痛みなら、僕は乗り越えて見せるよ」

束『……。すごいね、リュウ君は』

機龍「ううん。これは、皆が居てくれたからだよ。みんなと一緒に

   なれたから、僕はこの世界を守りたいって思うようになったんだ」

束『リュウ君』

機龍「そ、それでなんだけど、束」

と、途端に顔を赤くする機龍。

  「着替え、届けてもらっていいかな?制服とかがその、

   ボロボロになっちゃって」

束「……ぷっ!ふふ、あはははははっ!は~、やっぱり

  リュウ君は面白いな~!」

と言って赤面する機龍と、目を丸くしてから吹き出し笑い出す束。

機龍「ちょっ、からかわないでよ束!僕このままじゃ帰れないよ~!」

束「はいはい。ちょっと待っててリュウ君。今お姉さん宅急便が

  超特急で届けに行くからね!」

夕暮れの公園の中で、そんなやり取りをしていた機龍と束。

 

 

少年の意志は、周囲へと伝播していく。それを感染と称するか、

繋がりと称するかは人次第だ。だが、その意志は確実に広がっていく。

そして、その意志は大いなる力となっていくのだが、

その力が試されるのは、まだ先のお話。

     第18話 END

 




え~っと、大体予想できると思いますが
これでスコールとオータムのフラグが立ちました。
どうなるかは今後をご期待ください。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第19話

今回はタッグマッチ開始の発表後、つまりアニメ第二期7話後半以降を
ベースにしていますが、ほぼオリジナルストーリーになっていると
思います。

※訳ありで、パソコンのデータが吹っ飛んでしまって完成間近だった
 簪とのR18の話も消えてしまいました。
 現在1から書き直しておりますので、もう少々お待ちください。
 


~~前回までのあらすじ~~

機龍の獣っ子化騒動から数日が経ったある日。

その日機龍はIS学園の対岸の町へとやってきていたのだが、

そこでマドカやオータム達の長である『スコール・ミューゼル』が

偶然を装って彼に接触してきた。

そんな中、スコールを狙ってCIAのエージェントが現れた。

スコールと、彼女と機龍のデート(?)を尾行していたオータムが

あわや捕まりそうになるが、そんな二人を抱えて逃げる機龍。

そして、機龍はオータムからの攻撃を受けるも、彼は自分の

意思である、『僕たちは分かり合える』と言う言葉を二人に

ぶつけるのだった。

 

 

あれから数日後。機龍は今日も普通に授業を受けていた。

オータム達が去ったあと、束が持ってきた替えの制服に着替え、

何食わぬ顔で学園に戻った機龍。彼は一夏や千冬たちには自分が

スコールたちと出会ったことは伝えてはいない。

一夏達に余計な心配をさせまいとする機龍の配慮だった。

 

そして、そんなある日の事だった。

真耶「この度、各専用機持ちのレベルアップを図るために、

   全学年合同のタッグマッチを行う事になりました」

と言っている真耶の後ろでは、電子黒板に『タッグマッチトーナメント』

の文字が浮かび上がっていた。

一夏「タッグマッチ、ですか?」

と、疑問符を漏らす一夏。それに対して、真耶の隣にいた千冬が

答えた。

千冬「現在、各国に配備されているIS、それも専用機を狙った

   強奪事件が続いている。そして、先の文化祭でも専用機が

   狙われる事件が発生した。よって、専用機持ち達は

   万が一のためにも練度を上げる必要があると言う事だ。以上」

と、説明を受けた一夏達生徒。

 

しかし、この説明を受けていた時、箒をはじめとした女子たちの

頭の中は、別の事を考えていた。それは……。

 

   『『『『『『『『『一夏(機龍)と一緒にトーナメントに!』』』』』』』』』

 

と考えていたのだった。

 

そして、翌日のお昼休み。

シャル「い、一夏」

真っ先に動き出したのはシャルロットだった。

   「お弁当作りすぎちゃったんだけど、よかったら一緒に

    どうかな?」

と言って、一夏の前に風呂敷に包まれた大きなお弁当箱を持ってきたシャル。

一夏「おぉ、いいのかシャル」

シャル「うん!もちろんだよ!」

と、一夏が話、もといお弁当の事に反応したことに喜ぶシャルロット、

だが……。

一夏「結構多そうだな。…機龍たちも一緒にどうだ?」

と言って、一夏は話題を機龍たちの方へと振った。

それによって、シャルロットの中の期待のメーターが一気に下降へと

沈んでいった。しかし……。

機龍「ううん。僕たちは良いや。今日は学食で食べてくるよ。行こう、

   セシリアお姉ちゃん、モーラお姉ちゃん、ラウラお姉ちゃん」

そう言って、教室を出ていこうとする機龍。その去り際、シャルロットの

真横を通った時だった。

  「がんばってね、シャルロットお姉ちゃん」

シャル『え?』

と、思って振り返った時、機龍はシャルロットにだけ見えるように、

小さくVサインを作っていたのだった。

   『き、機龍。……ありがと~~!』

と、彼女は心の中で機龍に向かってお礼を言うのだった。

 

 

そして、その後簪とも合流し、食堂で集まって食事をしている機龍達5人。

しかし、そんな中でも機龍には不安があった。

一夏の事である。

 

機龍『一夏お兄ちゃんって、こう言って良いのかは分かんないけど、

   人としてあり得ないくらい鈍感だからな~』

と、彼と、彼を取り巻く少女たち、つまりは箒や鈴、シャルロットの

事を案じていたのだった。

機龍でさえ、口に出さずともあれほどのアプローチを受ければ、

自分に気があるのだろうか?と、思うくらいになりそうなのに、

一夏の朴念仁さはそれを上回っていた。

元怪獣以上の朴念仁とはこれ如何に?

 

しかし、機龍が心配なのはそこではない。

  『もし、このまま箒お姉ちゃん達が真っすぐに一夏に告白

   できなかったら……』

その先を否定するように首を振る機龍。

  『ダメだ。それじゃあ、お姉ちゃん達が可哀そうだ』

そう思いながらテーブルから見える外の青い空の方に視線を

移す機龍。

  『出来る事なら、箒お姉ちゃん達にはその恋を叶えて欲しい。

   でも、僕が何かすることって正しいのかな?

   いや、でもやっぱり恋って言うのは本人たちが色々

   するもので、でもでも……』

と、悩んでいる機龍。

そして、そんな彼の様子に気付いた簪たち。

簪「機龍?どうかしたの?」

機龍「え?あ、ううん。何でもない。ちょっと考え事をしてたんだ」

モーラ「一夏さん関係の事ですか?」

機龍「……うん」

一瞬だけ驚いてから、すぐに肯定する機龍。

  「その、いくら何でも一夏って鈍感すぎるなって思って、

   下手な同情かもしれないけど、箒お姉ちゃん達があんまり

   だからって思って」

簪「確かに。……織斑君ってちょっと」

ラウラ「あぁ。いくら何でも鈍感すぎるからな。箒たちも

    直接告白でもしない限り……」

モーラ「一夏さんが3人の気持ちに気付く事はないでしょうね」

機龍「そこをどうにかしたいんだ。でも……」

セシリア「この問題に機龍自身が関係することが正しいのか、

     悩んでいるのですね?」

機龍「うん。こういう問題は、どこまで行っても一夏とお姉ちゃん達

   自身の問題だからね。……でも、出来る事なら」

と、言い淀む機龍。

その話に顔を見合わせるセシリアや簪たち。

 

彼女たちからしても、一夏の鈍感さは目に余るものがあった。そんな時。

モーラ「実らない恋ほど、女性にとって残酷な事はないでしょうね」

料理を食べながらポツリと呟いたモーラ。

セシリア達は、心の中でその言葉に頷いた。

今、恋をしている彼女たちだからこそわかる現実だった。

 

出会った少年の思いを知り、過去を知り、心を通わせ、互いを

愛し合っている。その愛は、彼女たちにとって世界で一番甘い

果実のような物だ。

一度その味を知ってしまえば、もう手放すことはできない。

彼と言う存在と今を共に生きる事が、彼女たちにとってもっとも

楽しい時間だからだ。

彼女たちが『もし機龍と出会っていなかったら?』と考えたが、

それだけで簪、セシリア、ラウラの背中に悪寒が走った。

 

だが、それだけではない。仮に出会ったとしても、いくら告白スレスレの

行動を起こしても、相手は気づいてくれない。それもまた、

残酷な現実になる。

ならばストレートに告白すれば良いのでは?と周りからは思われる

だろうが、それを簡単に出来れば誰だって苦労しないのである。

今の箒たちのように。

 

機龍「……僕、放課後一夏お兄ちゃんに少しだけ聞いてみる。

   タッグマッチのパートナー、誰にするのか」

その言葉に、周りの4人は何も言わなかった。

 

そして放課後。

機龍は一夏と一緒に寮への道を歩いていた。

その少し離れた後ろを、簪や箒たち9人が歩いていた。

ラウラ「お前たち3人も、かなりの苦労人のようだな」

シャル「い、いきなり何の事かな?」

ラウラ「隠す事でもないだろう?お前たちにとっての一夏の事だ。

    あいつの鈍感さにお前たちが辟易しているのは、すでに

    周知の事実だ」

鈴「……。まぁ、ね」

 

と、静かに話しながら女子たちが歩いているころ、機龍が一夏に

例の話題を振った。

機龍「そういえば、一夏はタッグマッチのパートナーを

   決めたの?」

一夏「あ~、いや。まだなんだよな~」

機龍「そっか。誰か候補はいるの?」

一夏「あぁ、やっぱ箒か鈴やシャルロットの誰かなんだけど、

   俺射撃がまだまだだから、そこを補ってくる相手が良いんだよな~」

機龍「じゃあ、シャルロットお姉ちゃん?」

一夏「そうだな。3人の中で一番射撃がうまいのは、

やっぱシャルだよな~。ただ、最終的には呼吸って言うか、

相性みたいなのもな~」

機龍「相性。……お兄ちゃんの白式なら、箒お姉ちゃんの紅椿や

   鈴お姉ちゃんとのツートップでの戦い方や、シャルロット

   お姉ちゃんとの前衛後衛を分けても戦えるけど」

一夏「そうなんだよな~。……はぁ、悩むな~」

機龍「………」

そういってため息をしている一夏を横目に見ている機龍。そんな彼の

視線に一夏が気付いた。

一夏「ん?どうかしたのか?」

機龍「うん。……ねぇお兄ちゃん。今お兄ちゃんって好きな人、居る?」

と、その質問に後ろを歩いていた3人が驚き声を上げようとするが、

それを押しとどめ、静かにしていろ、とジェスチャーで伝えるラウラ。

一夏「な、なんだよいきなり」

機龍「少し、ね。一夏お兄ちゃんももう年頃だから、そういう人って

   居るのかなって思って。…どうなの?」

一夏「好きな人、か~。……微妙だな~。仲の良い女子はたくさん

   いけるけど、そういうのはいないかな」

機龍「そう」

と、一夏に見られないように悩んでいるような表情を浮かべる機龍。

チラッと振り返った後ろでは、箒たち3人がため息をついていた。

 

そして、それを見た機龍は、一つの決断をして、その場で足を止めた。

一夏「ん?どうした機龍?」

急に足を止めた彼に気付いて、同じように足を止めて振り返る一夏。

そして、少し離れた後ろを歩いていた箒たち7人も足を止めた。

機龍「一夏。……明日の放課後、僕と試合をしよう」

 

 

   「「「「「「「「え?………えぇぇぇぇぇっ!?」」」」」」」」

 

 

唐突な宣言に、一夏や箒たちの叫びが夕暮れの空に響いたのだった。

 

 

そして、翌日の放課後。

今、一夏と機龍は互いのピットに待機していた。

そして、二人の傍にはそれぞれ、箒たちと簪たちが寄り添っていた。

だが、試合間近にあっても一夏は落ち着いては居られなかった。

そんな彼の様子を知ってか。

箒「一夏、大丈夫か?」

周りに居る箒たちが一夏の事を心配していた。

一夏「大丈夫、って言うか、今は機龍の本心が知りてぇな」

その言葉に黙り込む3人。

 

一夏を含めて、4人はわかっていた。機龍は本来戦いを好まない。

その理由は彼女たちの頭の中にきっちり叩き込まれていると言っても

過言ではない。あの戦いの記憶が4人の脳裏に浮かぶ。

その機龍がいきなり一夏と試合をしたいなどと言い出したのだ。

4人が困惑するのも無理ないだろう。

そして、それは機龍のピットに居た簪たちも同じだった。

 

簪「機龍、本当に織斑君と戦うの?」

今、ロケット砲装備の銀狼の最終チェックを済ませ、それを装着している機龍に

疑問を投げかける簪。

機龍「うん。できるかわかんないけど、もしかしたら、これで

   一夏に箒お姉ちゃん達の思いを伝えられるかもしれないんだ。

   だから、行ってくる」

ラウラ「そうか。賢いお前の判断だ。私は何も言わん」

機龍「ありがとう。…ただ、お姉ちゃん達には一つお願いしたい事

   があるんだ」

セシリア「お願い?」

と、セシリアはラウラ、モーラや簪は首をかしげるのだった。

 

   『ビーッ!』

試合開始の合図と共に二つのピットから白式・雪羅と銀狼が

同時に飛び出した。そして、空中で向き合う二人。

ちなみに、とでも言うべきなのだろうか。

今一夏達が居る第2アリーナは既に大勢の生徒たちが席を埋め尽くしていた。

実際、一夏と機龍は戦った事がない。と言うか、機龍に限っては

生徒たちの前で戦った事は数える程度しか無い。たまに行われる

一夏達の練習にも顔を出す生徒は居る。が、普段は戦わない機龍が

戦うとあってか、大勢の生徒達が集まった。

 

一夏「機龍、本当にやるのか?お前は——」

機龍「わかってる。確かに僕は戦うのは嫌いだよ。でも、今だけは!」

   『ジャキッ!』

一夏「ッ!」

機龍の右腕に備えられているレールガンの銃口が一夏を睨んだ。

咄嗟にスライド移動で横へ移動する白式。

   『ヒュヒュヒュヒュヒュンッ!』

先ほどまで一夏、白式が居た場所を無数の銃弾が薙ぐ。

  『機龍、本気なのか!?』

スライド移動から体制を立て直した一夏が飛び、その後を追う機龍。

  『やるしか、無いのかっ!!』

  「うぉぉぉぉぉっ!」

振り返った一夏の白式の左手、その機体名にもなっている多機能武装腕、

『雪羅』。その荷電粒子砲のエネルギーが機龍に襲い掛かるが、

機龍は左右によけるでもなく、真っ直ぐ前に飛び、そのビームの

隙間の中を、体を捻って紙一重で回避しながら飛んだ。

  「なっ!」

余りの事に一瞬気を取られる一夏。同時に、粒子砲の攻撃も止まった。

それを見た機龍は更に加速し、一夏の眼前でくるりと体を縦に回転させた。

  「しまっ——」

そして、その動きに合わせて鋼鉄の尻尾が一夏に叩きつけられた。

   『ドガァァァァンッ!』

  「ぐあぁぁぁぁっ!!」

かなりの質量を持つ尻尾を高速で、上段から叩きつけられた白式、

一夏はそれを雪片で防ごうとしたが、防ぎきれずに地面に向かって

弾き飛ばされてしまった。

 

箒「一夏!」

それを、ピットのオペレータールームで見ていた箒が叫ぶ。

鈴やシャルも、彼を心配していた。だがそれと同等に驚くべきことが

あった。IS展開時の機龍の戦闘能力である。

 

粒子砲のビームを紙一重で避ける動体視力と反射神経、

相手の隙を見逃さない観察眼。そして、加速を生かした重い一撃を

叩き込むパワー。一夏とて、決して弱いわけではない。彼も既に

力をつけている。今の彼なら下手な代表候補以上には強くなっていると

言えるだろうが、機龍はそれすらも圧倒するほどの力を持っていたのだ。

 

シャル「まさか、機龍があんなに強いなんて……」

機龍が戦うときとなれば、それは殆どが命がけの戦いの時のみだ。

そして、その殆どには3式機龍としての姿を使っていた。

今にしてみれば、本格的に銀狼を使って機龍が戦うのは、

福音戦以降初めてかもしれない。

鈴「で、でも、機龍ってあんなに速かったっけ?」

と、そんな疑問を口にする鈴。

 

現在の彼女たちの専用機の中で、最も速度面で優れているのが

一夏の白式である。だが、機龍と銀狼はそれに勝るとも劣らない

速度を見せた。彼女たちが驚くのも無理はない。と、そこへ……。

 

千冬「重さだ」

部屋のドアが開いて、そこからスーツ姿の千冬が入ってきた。

箒「織斑先生。……どういう事ですか?重さ、とは」

千冬「忘れたのか?あいつの本当の姿、と言うか、奴の戦闘形態の

   時は、一体どれだけ重くなると思っている」

そういわれ、はっとなる箒たち。

機龍の戦う時の姿。即ち、3式機龍の重さは、一般的なISの

それを遥かに凌ぐ。

  「本来の奴の重さは、ある意味において高機動戦闘が当たり前の

   ISとの戦いではデットウェイト、つまりハンデにも等しい

   物になる。だが、今の機龍と一夏の間に、その重さと言う

   ハンデは存在しない。それだけだ」

シャル「ハンデって」

千冬「奴の持つ重量は、放たれる一撃に上乗せされてその威力を

   引き上げる。だが同時に、それは奴自身の枷となっていた。

   奴は、機龍はその重い一撃、つまりはパワーを捨てる代わりに、

   その枷を解いたんだ」

彼女の言葉を聞いてから、改めて映し出される状況に視線を戻す3人。

部屋のスクリーンに映し出されている状況は、防戦一方に

追い込まれていた一夏の姿だった。

 

一夏が切りかかれば、機龍は両腕のレールガンに組み込まれていたブレード

と両腕のクローで的確に雪片を受け止めた。

上段切り、袈裟切り、刺突、と、連続で攻撃を繰り出す一夏だが、

それを尽く弾き、躱す機龍。そして。

機龍「はっ!」

一夏「ぐあっ!」

一瞬の隙をついた機龍の掌打が白式の胸部を突く。反動で

数メートル後ろに飛ばされる一夏。何とか彼は体制を立て直したが、

その前には小さいながらも大きな、とてつもなく巨大な壁が

立ちふさがっていた。

 

そして、その様子を見てヤキモキしていた者たちがいた。箒たちだ。

ラウラ「お前たちは見ているだけで満足なのか?」

と、その時、再び部屋の扉が開いてそこからラウラを先頭に

簪たち4人が入ってきた。

シャル「ら、ラウラ。それに他のみんなも。どうしてここに」

ラウラ「機龍から伝言を頼まれてな」

やがて、深呼吸をしてからラウラは語り始めた。

   「『3人の一夏への思いを試したい。もし、一夏への思いが

     本物なら、彼と共に僕を超えて見せてほしい。

     2対1でも、3対1でも、4対1でも構わない』だそうだ」

シャル「そ、それって……」

ラウラ「言っていただろう?一夏はパートナーとして、相性や

    呼吸について。ならば最強の敵と戦って試してこい。

    お前たちの相性を」

その言葉に驚きながらも、動こうとしない箒たち。

 

いくら何でも機龍を相手に4対1など卑怯過ぎると思っていた彼女たち。

だが。

   「このままでは、一夏は確実に負けるぞ。お前たちは

    それでも良いのか?それとも、卑怯な事をするくらいなら

    大切な男の無様な姿を晒してもいいのか?」

その一言が、彼女たちの心を燃やす結果となってしまった。

 

 

一方、アリーナの戦闘は。

一夏「はぁぁぁぁぁっ!」

雪片を構えて突進する一夏。だが、斜め上からの斬り下ろしを半身をずらして

回避した機龍は白式の腕を片手で掴んで軽々と投げ飛ばしてしまった。

  「うわっ!」

地面に墜落する白式。それに近づこうとした機龍。だが、

次の瞬間彼の眼前を数発の銃弾が薙ぎ、彼の足を止めた。

銃弾が飛んできた方に視線を向ける機龍。

そこには、アサルトライフル『ガルム』を構えたシャルのリヴァイヴ

カスタムⅡの姿があった。

更に、体を起こす一夏の左右に着地する紅椿と甲龍。

一夏「箒、鈴にシャルロットも。どうして」

機龍「僕が呼んだんだよ」

一夏「え?」

と、疑問に思う一夏や、アリーナに居る生徒達が誤解しないように

スピーカーを通して話す機龍。

 

機龍「一夏、言ってたでしょ?タッグマッチのパートナーは

   相性や呼吸の問題だって。だから、ここで試すよ。お兄ちゃんと

   お姉ちゃん達の相性を」

そう言って一夏達3人の方に突進する機龍。

それを見たシャルロットがガルムの照準を咄嗟に機龍に向けるが、

次の瞬間彼女めがけて機龍のバックユニットからミサイルが発射された。

咄嗟に回避行動に移るシャルロット。そしてその隙に3人に接近する機龍。

 

箒「はぁっ!」

紅椿の持つ双刀、『雨月』と『空裂』の二本が機龍を捉えようとX字の

斬撃が放たれた。それを二本のブレードで受け止める機龍。

鈴「はぁぁぁぁぁっ!」

 

その時銀狼の背後に鈴の甲龍が牙月を構えて突進してきた。だが。

   『ブォンッ!』

   『ガッ!』

繰り出された一撃は、テールユニットによって防がれた。

 「なっ!」

驚く鈴の一瞬の隙を突き、蛇のようにうねったテールユニットの一撃が

甲龍を弾き飛ばした。

 「きゃぁぁぁぁっ!」

一夏「鈴!」

吹き飛ばされた鈴を受け止める一夏。

 

シャル「箒離れて!」

機龍と鍔迫り合いをしていた箒の耳に、その声が聞こえた。その声に

従って機龍と距離を取ろうとする箒。だが、機龍はピッタリと彼女の

背に追いついていた。

   「ダメ!これじゃ撃てない」

タダでさえ速い機龍の傍に箒が居るため、下手に発砲できないシャル。

一夏「うぉぉぉぉぉっ!」

そこへ、機龍を追って突進する一夏。

箒「はぁぁぁぁぁっ!」

それを見て箒も反転し、機龍に迫った。

 

それを見た機龍は前方に向かってロケットを発射した。

ロケットを雨月で切り裂く箒。爆発で出来た煙が一瞬だけ彼女の

視界を奪った。だが、その一瞬だけで十分だった。

 

次の瞬間、その煙の中から現れた銀色の爪が箒の腕をつかんだ。

 「なっ!?うわっ!」

そして、そのまま煙の中に引きずり込まれるようにして投げ飛ばされた。

煙を反対側に投げ飛ばされた箒は一夏と正面衝突した。

一夏「うわっ!!」

箒「くっ!」

   『ヒュヒュヒュンッ!』

そこに機龍のレールガンの銃弾が殺到し、二人に命中して小規模な

爆発を起こした。

 「あぁぁぁぁぁっ!」

一夏「ぐぁぁぁぁっ!」

衝撃で落下する二人。

 

シャル「はぁぁぁぁぁっ!」

鈴「やぁぁぁぁぁっ!」

そこに、今度は左右からシャルは近接ブレード『ブレッド・スライサー』を

構え、鈴は牙月を構えて突進してきた。

二つの刃が機龍に迫った。だが。

   『ガキガキィィンッ!』

それを左右両腕のブレードで防いだ。

 「くっ!?」

シャル「そ、そんな!?」

カスタムⅡのブレードはともかく、大振りな牙月さえも細いブレード一本で

受け止める機龍の技量の高さに驚く二人。

そして次の瞬間、二人の刃を逸らした機龍がその場で高速回転した。

   『ブォンッ!』

   『ドガガッ!』

   「うわぁぁぁぁっ!」

鈴「きゃぁぁぁぁっ!!」

鞭のように繰り出された尻尾の一撃が二人を弾き飛ばした。音を立てて地面に

落ちるカスタムⅡと甲龍。

 「ちょっと。試すとか言っていて、機龍どんだけ強いのよ」

箒「私たちの攻撃の殆どが、通用していない」

シャル「僕、だんだん代表候補としての自信無くなってきたよ」

何とか立ち上がり、上空の機龍を見る箒たち。

 

 

機龍は確かに戦いを好まない性格だ。だが、はっきり言えばその体は

戦闘において最強足りえる能力を有していたのだ。

ゴジラのDNAを持ったその肉体は、並のエースさえも凌ぐ

反射神経を備え、パワーもまた圧倒的だ。

そして何より、コンピューター、機械としての側面もまた、

それに拍車をかけていた。

相手の攻撃モーションを見るだけで相手の動きの先を

予測する、未来予測さえ可能にする処理能力。一度見た攻撃を

覚える記憶能力とそれに対処する行動を瞬時に考える思考能力。

相手のスキルや成長ぶりから、相手の行動、攻撃精度、

武器別の使用頻度を数値として予想し、はじき出し、相手に合った

戦略を考えるといった行動をできるのが、今の機龍だった。

 

機械の持つ正確性と、人、生物の持つ咄嗟の判断力の両方を持つ

機龍こそ、この場においては最強と言えたのだ。

戦いを嫌うがその力は最強と言えるのは、何たる皮肉だろう。

 

だが、そのような事はこの場において関係ない。今はただ、

その最強が一夏達4人の前に立ちふさがっている、と言う事が大切なのだ。

 

そして、その強さに驚く一夏達。同時に、と言うか、当然と言うべきか、

その驚きは一夏達だけではなく、観客である生徒達にも広がっていた。

本音「りゅ、リュウ君強すぎだよ~」

と、クラスメイト達と共に試合を見ていた本音が、間延びした声で

ストレートな事を言っているが、周りの生徒達もそれに同感だった。

 

今の彼は専用機持ちを4人も、しかも代表候補2人を含めて

相手取り、その上で圧倒的な力でまともな攻撃一つ貰ってはない。

専用機4機を相手取って善戦どころか圧倒しているなど、普通の

ISパイロットに出来る事ではない。それどころか、経験豊富な

パイロットですら、それは不可能と言えるかもしれない。

彼女たちの中で、今の彼と互角にやれるのは千冬だけだろう、

と言う思いが生まれ、この試合は結果的に機龍の強さを

周囲に知らしめる結果となったのだった。

 

 

一夏「機龍って、こんなに強かったんだな」

  『俺たちなんか、やっぱり……』

と、実力の差を思い知って諦め、俯く一夏。他の3人も似たり寄ったりだ。

その時。

機龍「一夏、お姉ちゃん達も。本当にこのままで良いの?」

その言葉に視線を上げる一夏達。

  「戦いは、最後の最後まで何が起こるか分からないから戦いなんだよ。

   諦めるなんて、まだまだ早すぎるよ」

その言葉によって4人の脳裏に思い起こされたのは、機龍の関する記憶だった。

 

自分の命を懸けて、怪獣王と戦った人間たちが居た。

その戦いの記憶が蘇る。その記憶が一夏達を結果的に励ます結果となった。

一夏「ハハ、確かに。こんな事で諦めてたら、この先何度も

   諦める事になりそうだもんな」

そう言って立ち上がり、雪片を構えて浮かび上がる一夏。

箒たちもそれに続いて空中に浮かび上がった。

 

その時だった。

箒「一夏、それに鈴、シャルロットも聞いてくれ。私に作戦がある」

鈴「へ~。どんな作戦?」

箒「一か八かの博打になる。成功するかどうかも分からない。

  それでも乗るか?」

シャル「正直言うと、そうでもしないと機龍に一太刀も入れられ

なさそうだし、僕は乗るよ」

一夏「俺もやる」

箒「わかった。では、その作戦についてだが、———」

と、数秒で手短に説明する箒。対して機龍の方もその会話を

邪魔せずに4人と距離を取って待っていた。

 

やがて、鈴とシャルの二人が左右に飛び、2方向からの同時射撃を

始めた。衝撃砲の見えない砲弾やシャルのガルムやショットガン、

『レイン・オブ・サタデイ』の散弾が機龍に襲い掛かるが、それすらも

的確に体を捻って、或いは空間に壁があるかのように跳躍して

回避する機龍。と、そこへ。

箒「勝負だ!機龍!」

雨月と空裂を構えた箒が全身の展開装甲からエネルギーを吹き出しつつ、

弾丸のように突進してきた。

 

セシリア「あ、あれは特攻では!?」

それをモニター越しに見ていたセシリアが叫ぶ。が。

千冬「いや、あれは……」

 

箒「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

膨大なエネルギーをまとって、弾丸のように突進する箒。

しかも周囲では機龍の動きを阻害するかのように、鈴とシャルの

攻撃が行われている。と言うより、銃弾の檻を形成して機龍の

行動範囲を限定させていた。

そして、箒は真正面から機龍に突進する形となった。

機龍の眼前に迫った箒の紅椿。

ハサミのように、箒は胸の前で交差させた双刀を外側に向けて振りぬいた。

だが、それを体を後ろに倒して回避した機龍の真上を、箒が通過していく。

本音「あわわわっ!あれじゃ意味ないよ~~!」

観客席にいた本音が、周りの生徒の意見を代弁するかのように

喋っていた。だが。

 

箒「今だ!一夏!」

一夏「うぉっしゃぁぁぁぁぁっ!」

その時、機龍は地面に対して平行に倒れている自分の背後。つまりは

背中を向けている地面の方から声が聞こえていたので、咄嗟に体を

回転させた。

 

今、機龍の眼前には零落白夜を展開した雪片弐型の刀身が迫っていた。

機龍「ぐっ!?」

それを咄嗟に両腕をクロスさせて防ぐ機龍。

一夏「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

白式の全力が、ボクサーのアッパーのように真下から機龍を捉えていた。

真下から打ち上げられる機龍。そして。

   『ドガァァァンッ!』

機龍「う、あ」

彼の両腕の防御は破られ、機龍の体に一太刀を浴びせて吹き飛ばした。

そして、機龍はゆっくりと地面に向かって落ち始めた。

ラウラ「ッ!機龍!」

その様子を見ていたラウラや簪たちが叫ぶ。だが。

 

   『ギュッ』

   『トサッ』

落下する彼の手をつかみ、お姫様抱っこで抱きしめた者がいた。

一夏だった。

やがて、薄っすらと目を開く機龍。

機龍「……僕の負け、だね」

そう言って彼は自身の負けを宣言するのだった。

一夏「そんなことねえって。俺とお前が一対一で戦ってたら

   間違いなくお前が勝ってたよ」

機龍「でも、戦いは一人でするものじゃない。でしょ?」

一夏「あぁ、そうだな」

そう言いつつ、一夏は機龍をお姫様抱っこしたまま箒たちと一緒に

ピットへと戻って行った。

 

※ちなみに、一夏にお姫様抱っこされる機龍を見たとき、大勢の女子が

倒れたことをここに追記しておく。

 

 

そして、ピットに戻る5人。

機龍「それで一夏。一つ質問なんだけど、どうして試合の時

   箒お姉ちゃん達が飛び出してきたと思う?」

一夏「え?」

そういわれれば、と言いたげに視線を箒たちに向ける一夏。

  「あ、でも機龍言ってたな。俺たちの相性を試すとか何とか」

と、ここに来てそんなことを思い出す一夏。

  「ただまぁ、3人ともそれぞれ特徴とかあったし、何て言うか、

   3人とも頼もしいって言うか」

そんなことを言い出した一夏を見て、ため息をつく機龍。

機龍『あ~もう。仕方ない。ここは最終プランに移ろう』

と思って、ラウラ達に目配りをする機龍。その視線に気づいて

頷く4人。

 

  「一夏お兄ちゃん。本当にそれだけの理由でお姉ちゃん達が

   出てきたと思ってるの?」

一夏「え?なんだよ急に」

機龍「お兄ちゃん、それだけじゃないんだよ。お姉ちゃん達が

   戦おうとした理由は」

一夏「え?どういう事だ?」

と、疑問符を漏らした一夏に対して、機龍はため息をついたのだった。

機龍「一夏、これまでお姉ちゃん達としてきた事を思い出してみてよ。

   聞いた話だと、臨海学校の時、箒お姉ちゃんとキスしそうになって

   鈴お姉ちゃん達に追っかけられた事があるって聞いたけど?」

一夏「あ、あぁ、まぁ、そ、そんなこともあったな」

と、顔を赤くしてそっぽを向く一夏。

機龍「それに、鈴お姉ちゃんからは毎日酢豚を食べてくれる、って

   約束もしたって聞いたし、シャルロットお姉ちゃんとは一緒に

   お風呂も入ったって聞いたけど、まさかまだ気づかないの?」

一夏「き、気づくってなんだよ」

と言ってどうやらまだ気づいていない一夏。

 

しかし、箒たちは機龍が何を言おうとしているか察して止めようとするが。

ラウラ「少しだけ黙っていろ。そうすれば、機龍があの朴念仁を何とか

    するから」

と言ってラウラ達に制止、と言うか止められていた。

 

機龍「一夏、この際だからお姉ちゃん達のためにはっきり言うよ?

   箒お姉ちゃんが好きでもない人とキスしたいと思う?

   鈴お姉ちゃんの言ってた毎日お姉ちゃんの料理を食べるって、 

   毎日一緒食事をするって事じゃないの?

   シャルロットお姉ちゃんが好きでもない人とお風呂に

   入りたがると思う?

   一夏、これでも分からないなら、僕は一夏に怒らなきゃいけない。

   もう気づいてあげてよ。お姉ちゃん達の想いに」

そう言われて、脳みそをフル回転させる一夏。

そして、いくら朴念仁の彼でもそこまで言われれば、と言う事で

一つの結論にたどり着いた。

同時に、彼は顔を赤くしながら箒たちの方に視線を移した。

 

それを見たラウラ達が箒たちを止めていた腕を離し、彼女たちから

離れて機龍の傍に移動した。

  「僕のしたことが余計なお節介なのは十分わかってる。でも、一夏

   に気付いてほしかったんだ。お姉ちゃん達の気持ちに。

   その恋心に」

一夏「機龍」

機龍「僕はそろそろ行くよ。あとは、一夏達自身で決めて」

そう言って機龍はピットを後にし、簪たちもそれに続いたのだった。

 

 

そんな中で一人浮かない顔をしていた者がいた。簪だ。

簪『気持ちに、気付く』

心の中で呟いた彼女の頭をよぎるのは姉、楯無の顔だった。

 

彼女は姉との絆を修復する事はできるのだろうか?

 

だが、それが試される日は刻一刻と近づいていた事に、まだ

誰も気づかないのだった。

 

     第18話 END

 




と、言うわけでこの回で一夏は箒たちの恋心に気付きました。
次回もおそらく、オリジナル的展開になると思います。

それと、まだ構想の段階なのですが、この作品の派生形
として、機龍をこの作品の中から他作品、つまりは別の
ストーリーとクロスオーバーさせて、徹底的に死亡フラグを
へし折ろうかと考えています。
現在の考えでは、ヒロインが死ぬことで有名な
『マブラヴ』とその派生作品、『トータル・イクリプス』を
ベースに、機龍が死亡フラグをバキバキとへし折る事を
考えています。
また、読者様の中で『このキャラの死亡フラグを
へし折ってほしい』と言う方がいたら、コメントください。
ただ、あくまでも構想の段階ですので、確実にやるか
どうかは不明ですので、ご了承ください。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第20話

この今回は殆どオリジナルです。作品内の展開の都合上、
一夏が簪を誘う、と言うアニメ二期第8話のお話が消滅して
おり、第10話終盤にあったスコールたちと束の会談を
前半に持ってきました。


~~前回までのあらすじ~~

専用機持ちである一夏達の練度向上を図るために行われる事に

なった専用機持ちによる全学年合同のタッグマッチトーナメント。

そんな中、一夏は相も変わらず箒たちの恋心に無関心なまま

パートナーについて考え事をしていた。

が、一夏の朴念仁っぷりに対して、機龍が一つの策を講じた。

そして、晴れて一夏は箒たち3人の想いに気付いたのだった。

 

 

 

一方、学園で一夏と機龍の試合が行われていたころ。

某所にあるレストランでは……。

束「それで、君たちは何のために私をこんな所に呼び出したのかな?」

そう言ってテーブルクロスが掛けられた席を前にして椅子に座り、

そのテーブルの上に乗せられた料理を上品に食べていた束。

丁寧にナプキンで口を拭いた束の前には、スコールが座っていた。

テーブル一つを挟んで向かい合う束とスコール。

 「もっとも、予想は着くけど」

そう言ってスコールを睨みつける束。

 「新しいISを作って提供しろ、って所かな?」

スコール「えぇ。そう取ってもらっても構いません」

束「……。お断りだね。もしそうなれば、君たちはそのISを

  IS学園に向けて使うでしょ?それはつまり、私が作った物が

  リュウ君に向けられるってことだ。そんなの死んでもゴメンだね」

スコール「篠ノ之機龍、あの子の事ですか」

束「そうだよ。……今の私は昔の私のとは違うの。リュウ君を通して、

  一つ気づいたことがある。それは、『過ぎたる欲望は身を亡ぼす』って

  事だよ。リュウ君を見てて思ったよ。ゴジラを生み出したのは、

  人間自身。人から生まれた怪物が人間を亡ぼす。そして、今の

  私なら、やろうと思えばなんだってできる。リュウ君のクローンを

  作ることも、あの子のDNAからゴジラを再現する事も。

  でもしない。いや、出来ないって言うべきかな」

スコール「出来ない?世界で一番の秀才と言われたあなたなら、それくらい

     造作もない事では?」

束「そうだね。昔の私なら他人何てどうでもよかった。ただ私やちーちゃん達が

  楽しめるならなんだってやった。でも、その先に待ってる物って、

  なんだと思う?」

その問いに、首を振るスコール。

束「……。『破滅』だよ。私たち人間は、個の欲を優先し過ぎた。

  森を焼き、海を汚し、空を壊す。私たちは生き物だよ。だからこそ、

  こういった食べ物を食べてかなきゃ生きていけない」

そう言って、料理の一つ、リブステーキの骨をつまむ束。

 「でも、人間の欲って言うのはこの地球のキャパを超えかけている。

  自分の住んでる家を自分で壊してるんだよ。人間は。

  そうなれば、地球には遠くない将来破滅がやってくる」

スコール「だから、あなたはできるはずの事をしないと?」

束「そうだよ。私たち人間は自分の罪と向き合わなければならない。

  例え償いきれない程の業だとしても、それから目を背けずに

  真っ直ぐに見つめる。そして考えなきゃいけない。この世界を

  明日って言う物を。機龍君と同じように」

スコール「あの子供がそんなことを?」

束「子供、か。そうだね。確かにリュウ君はまだ子供なのかもしれない。

  あの子の言う事も、大抵の人には唯の理想に聞こえるだろうね。

  でも、だからこそ誰よりの真っ直ぐなんだよ。君たちだって見たでしょ?

  散々殴られた上、お腹をぶっ刺されても立っていたリュウ君の姿を」

そう言って、スコールの後ろに立っていたオータムを睨みつける束。

オータムはその殺意に気おされ、視線をずらした。

今、スコールとオータムの頭の中に浮かんでいるのは、夕暮れの公園で

聞いた機龍自身の決意の言葉だった。

 

スコール「つまり、新しいISは提供していただけない、と言う事ですね?」

束「そうだよ。何度も言わせないでよね。料理は美味しかったよ。

  けど、それだけでISを提供する気にはなれないね」

そう言って立ち上がった束。と、その時。

 

   『ドゴォォォンッ!』

唐突にレストランの壁をぶち破って、マドカのサイレントゼフィルスが

現れた。

マドカ「動くな」

手持ちのライフルを束に向け、冷徹に警告するマドカ。だが。

そのゼフィルスにスッと右手を向けた束。次の瞬間。

   『パァァァァァッ!』

何と、一瞬にしてサイレントゼフィルスが粒子のように分解されて消滅

してしまった。

オータム「なっ!?なんだ今の!?」

余りの事に、オータムやスコール、そして今しがたまでゼフィルスに

乗っていたマドカ自身さえ、驚愕を隠せなかった。

 

束「デススイッチだよ」

ゆっくりと語りだす束。

 「本来は、リュウ君に危害が及んだ時のための安全装置として、

  全部のISに仕込んでおいたんだけど、こんな時に役立つとは

  思わなかったよ」

そう言って、無表情なまま語る束。

 

以前の彼女なら、こんなこともできるんだよ~、と、笑って自慢した

だろうが、彼女もまた、機龍との出会いを通して変わっていた。

普段はおちゃらけていても、戦いとは何かを知ってしまったのだ。

彼女のまた、見ていたのだ。機龍とゴジラの戦いを。

戦場においての嘲笑は彼女にとって大切な人への侮辱も同じ。

戦いを遊びと言うなら、ゴジラと機龍の戦いは何だ?娯楽か?

もし、あの戦いを見てそう思っている人間が居たとしたら、束は

激怒しその人間を殺すだろう。

今の彼女ならわかる。自分が何を作り、何を世界にもたらし、

何をしてしまったのかを。そして、戦う事の、何かを護り、

何かを得るために戦う事の痛みと、それを乗り越える覚悟。

その何たるかを見てしまった彼女にとって、戦いとは

もはやお遊びではない。命を懸けた行為なのだと気づいていた。

 

 「さぁ、これでもまだ――」

と、その時束の視線がマドカへと注がれた。

今度は束が驚く番だった。その顔に驚きを浮かべた束だが、すぐに

表情を引き締めると床に片膝をついていたマドカの前に

速足で歩み寄って跪き、彼女の顔を覗き込んだ。

 「………。あぁ、やっぱりだ」

驚いている彼女の事を確かめると、今度は諦めたような表情を

して立ち上がった束。

 「君を見てると、嫌でも思い出すよ。人間がどれだけ低俗で、

  下劣で、汚い存在かをね!」

後半から語気を強め、終いにはレストランの中に響かんばかりに

叫ぶ束。

 「何が食物連鎖の頂点に立つ種族だ!何が人類の英知だ!

  馬鹿で業突く張りなクソジジイ共め!そんなんだからこの地球は

  終わるんだよ!」

マドカの出生に気付き、彼女をゴジラと重ねた束が叫ぶ。

ほんの数%の身勝手な人間な行いが地球を滅ぼすと言う事を、

ゴジラ、機龍との出会いを通して知った束が叫ぶ。

そして、罵詈雑言を吐いてある程度気持ちが落ち着いたのか

束はマドカの方を向いた。

 「ねぇ、君の名前は何て言うの?」

マドカ「………。マドカ」

束「そうなんだ~。……私ね、マドっちを見てると思うよ。

  この世界の支配者足りえるのは、人間じゃないって」

そう言ってマドカの頬を撫でる束。

スコール「それはどういう意味ですか?篠ノ之博士」

束「単純な事だよ。この世界で一番『命』の重さを

  知ってるのは法王でも大統領でも、ましてや人間でもない。

  それはリュウ君。つまり、機龍とゴジラだよ」

ゆっくりと立ち上がり、マドカに右手を差し出す束。

マドカは驚き束を見上げてから、その手を取らずに自分で

立ち上がった。

 「私たちはいつも、命のやり取りをしてるんだよ。寿命を削って

  働き、その労力をお金に換えて今を生きている。動物たちも

  そう。野生動物たちは他者を狩り、食らい、その命を、種族を

  繋いできた。……でも、人間はそれを忘れた。私たち人類ただ一種

  で世界をどうこうできると思いあがってるのさ。

  動物たちはそれを今も覚え、人間はそれを忘れた。賢くなりすぎて、

  一番大切な事を忘れたんだよ。人間は。

  ……私たちは、一人では生きていけない。豚や牛の肉を食らい、

  魚や野菜を食らい、太陽の光、恵まれた地球の環境があって初めて、

  生きていけるんだ。そして、今って言うこの世界でその重さを

  一番理解しているのが、リュウ君なんだよ」

スコール「彼が理解している、とは?」

束「リュウ君は他者との繋がりの何たるかを知っている。自分一人では

  できない事も、仲間とならできる。友達や家族がいるから

  戦える。一人では乗り越えられない壁も越えられる。それを

  知っているからこそ、リュウ君は、いや、リュウ君達は他者を、

例え敵であったとしても、憎むんじゃなく、受け入れるんだよ。

君たちを憎まないように」

オータム「はっ!そんなことできるわけあるか。あいつらは私たちは

     敵だ。分かり合おうだなんて」

束「そうだね。大抵の、と言うか、ほとんどの人間にとって他人って

  言うのは二種類のグループに分けられる。つまり、

  『敵』か『味方』か。その二種類にね。でもリュウ君達は違う」

ゆっくり、静かに首を振る束。

 「今のリュウ君はその敵と味方の両方を含めて、分かり合えると

  信じている。そして何より、今私たちがこうしていられるのは、

  リュウ君がゴジラを抑え込んいるからだよ」

スコール「ゴジラを、抑え込んでいる?」

束「そう。ゴジラってのは私たち人類が大っ嫌いなんだよ。マドっちと

  同じようにね。でも、普段ゴジラが表に出てきて暴れる事は

  無い。それはリュウ君がゴジラを封印している扉のような存在

  だからだよ。そして、どうしてリュウ君はそのゴジラを封印

  していると思う?」

マドカ「奴は戦うのが嫌いな性格だ。ただの臆病者だからだろう」

束「ぶ~。外れ。それはね、リュウ君が私たち人間を『愛している』からだよ」

と、スコールたち3人は束の言う単語にポカンとした表情で

疑問符を浮かべた。しかし。

スコール「ふふふふ、実に面白い話ですね。篠ノ之博士」

唐突に笑い出すスコール。

束「君だって気づいてる、と言うか、認めてるんじゃないの?リュウ君の事。

  そして、気にもかけているはずだよ。あの子の持つ、可能性を」

オータム「可能性だと?あのガキにどんな可能性があるって言うんだ」

束「それこそ、無限の可能性かな?もしリュウ君が人間嫌いになれば、

  後はゴジラが出てきて人間との全面戦争だよ。これは最悪の、

  破滅への最も近いシナリオなのさ。でも、今のリュウ君は

  『誰かを守るために戦う』って言うスタンスを持っている。例え

  相手が敵でも、分かり合おうとする努力をしている。銃を向けられた

  から、向け返すのではなく、握手のための手を伸ばしている。

  言ったよね?リュウ君は世界で一番、命の重さを知ってるって。

  だからこそ、だよ。敵を敵とだけ認識するのではなく、相手を人間と

  認識し、意思の疎通ができると信じ、例え傷づいても相手に手を伸ばす。

そんなリュウ君だからこそ、この世界を治めるに相応しい器。

王様だ。そして今も、その王様と共に歩もうとしている人の数は

増え続けている」

スコール「いずれ、篠ノ之機龍は世界を動かす人間になる。そう

     仰りたいのですか?博士」

束「ふふ、その通りだよ~~ん♪」

と、ここに来て硬い表情を崩し、笑みを浮かべる束。

 「近い将来、機龍君はこの世界を動かすだけの王様になる。私は

  そう考えてるんだよ。……と、そうだ。例の新型の件だけど、

  気が変わった。受けてあげるよ」

と、彼女の提案に再び驚く3人。

スコール「そ、それは構いませんが、一体なぜでしょうか?」

束「簡単な話だよ。君たちにもっとリュウ君と向かい合ってほしい。

  そのために協力する。そう思っただけだよ。

  これからよろしくね、ファントムタスクの美女さん達♪」

そう言って、束は3人に向かってウィンクをしたのだった。

 

 

一方、場所は変わって、束とスコールたちが居るレストランでも、

IS学園でもない場所。

どこかの高層ビルの薄暗い一室から、赤い液体、ワインの入った

ワイングラスを片手に持った壮年の男が窓越しに見える眼下の

街並みを見下ろしていた。と、その時。

   『ミスター0、皆さんがお揃いです』

唐突に彼の横に四角いウィンドウが現れ、そこにSOUND ONLY

と書かれた物が浮かび上がると、通信ウィンドウから加工音声が

流れ、ワインを持つ男性、ミスターゼロと呼ばれた男に話しかけた。

0「わかった。すぐに会議を始める」

そう言って、パチンと指を鳴らす男。すると窓のカーテンがサーっと

自動で掛かり、薄暗い部屋の光源だったシャンデリアが光を放ちだした。

そのシャンデリアには、立体映像投影装置が組み込まれているようだった。

 

やがて、部屋全体が暗くなったかと思うと、ゼロと呼ばれていた男を

中心に、周囲に13人の人影が彼を囲うように現れた。

 

但し、その人影はまるでシャドーマンのように人間の輪郭を移し、

その頭上に彼らを表す1から13の数字が描かれているだけだった。

0「おはよう、或いはこんばんは、諸君」

そう言って周囲のメンバーを見回す男。

輪郭たちのポーズは様々で、立っているように見える者。椅子か何かに

座っているように見える者など、実に様々だが、彼、或いは彼女には

そんなことはどうでもよかった。

4「ミスターゼロ。早速で悪いが本題に入ってくれ」

と、加工されてくぐもった声が4番の——話し方からして男性――影から

していた。

0「あぁ、そうだな。今日の議題は彼女についてだ」

再び指を鳴らしたゼロ。すると、彼の前に映像が現れた。

 

そこにはスコールの姿が映っており、その映像は彼女が機龍と接触し、

CIAに捕らえられそうになった時のものだった。

 

0「現在、我らがファントムタスクの実行部隊隊長である

  スコール・ミューゼルについてだが、今の彼女は我々の

  目に余る事をしている」

11「聞けば、民間人と接触した上にCIAにまで

捕まりかけたそうだな」

9「全く。そんな女が実行部隊の隊長など。片腹痛いわ」

イレブン、ナインと続いてスコールの批判を行っていた。

他の者たちも同じように何も言わないが、スコールに良い思いを

してはいないだろう。

1「どうでしょう。ミスター0。そろそろ、『人事異動』などしてみても

  良いのではないでしょうか?」

0「むふ。そうだな」

そう言ってスコールの立体映像に目を向けるゼロ

 「役に立たない駒は、適当に捨てるに限る」

と、次の瞬間、彼は指を鳴らしてスコールの画像を処理するのだった。

 「駒など、世界中を探せばいくらでもいる」

 

彼、彼女たちファントムタスクの幹部会にとって、スコールでさえも

駒の一つに過ぎなかったのだった。

だが、スコールがこの事を知るのは、まだ少し先の話であり、彼ら

幹部会の選択がどうなるのか、それはまだ誰にも分からない。

 

 

 

場所は戻ってIS学園。お昼休み。

今、屋上では一夏と機龍達9人が集まってお弁当を持ち寄っていた。

機龍「それで、一夏はお姉ちゃん達の想いに答えてあげる事にしたの?」

と、早速爆弾を放り込む機龍。途端に一夏達4人は顔を茹でダコのように

真っ赤にしてしまった。

モーラ「あらあら♪皆さん初心なのですね~」

鈴「し、仕方ないでしょ!あそこまで言っちゃったら一夏だって

  気づいちゃうし!あ、あああ、後はもう勢いに乗ってコクって殴って!」

簪「な、殴る?」

セシリア「大方、告白したのが恥ずかしすぎて、と言うところでしょう」

箒「わ、私たちも、似たようなもんだ」

シャル「言ったら言ったで恥ずかしくなっちゃってさ////

    いろいろと、その……」

一夏「そういや、俺あんとき何回死にかけたんだっけ」

と、言い出してため息をつく一夏。それを見て簪たちが笑っていた時

だった。

 

機龍「ごめんね。余計な事をして」

と、そう言って唐突に謝る機龍。

鈴「……別に。気にしてないわよ」

そう言ってお弁当の料理を口に運ぶ鈴。

 「結局、一夏は単純に告白でもしない限り気づかない天然物の

  朴念仁だったわけだし」

一夏「う、言い返せない」

鈴「逆に感謝してるわ。おかげで、腫物が取れた感じ。もう下手な

  事言って勘違いされる心配もないし」

箒「まぁ、おかげで私たちも自分の気持ちを正直に打ち明ける事が

  できた。だからありがとう、機龍」

シャル「そうそう。これからもよろしくね」

機龍「箒お姉ちゃん、鈴お姉ちゃん、シャルロットお姉ちゃん。

   ……うん、よろしくね」

と、絆を深めていたのだが……。

 

シャル「あ、そう言えば機龍達はパートナー決めたの?」

ラウラ「……もちろんだ。今回は、簪が機龍の相棒となった」

と、どこかがっかりしているラウラ。

シャル「へ~。どうやって決めたの?」

ラウラ「じゃんけんだ」

一・箒・鈴・シャ「「「「え?」」」」

ラウラ「じゃんけんだ」

一夏「いやそこはわかってるから」

と、その決め方にポカーンとしている箒たちと、どこか悔しそうな

セシリア、モーラ、ラウラ達3人。

 

で、放課後。一緒に寮の部屋に戻ろうと機龍と簪が二人で歩いていた時だった。

機龍「簪。お姉さん、生徒会長さんとの事についてだけど」

そう言った瞬間、足を止める簪。

以前、彼女は機龍に対して姉である楯無と和解したいと言う事を

口にしていた。最近はいろいろとゴタゴタしていたので、すっかり

先送り状態になっていたのだが……。

 

簪「うん。そうだよね。……いい加減、私も覚悟を決めないとね」

そう言って、スカートの裾を両手で握りしめる簪。その時、機龍の

両手が優しく彼女の手を包んだ。

 「機龍」

機龍「大丈夫。きっとできるよ。僕も応援するよ」

簪「機龍。……ありがとう」

機龍「ううん。……ずっと、こうしたかった」

簪「え?」

機龍「僕は、ようやく幸せってものを見つけられた気がしたんだ。

   毎日簪や一夏お兄ちゃんたち。先生やクラスの皆。束やクロエ。

   それだけじゃない。たくさんの人に出会って、見つけられたんだ。

   同じように、僕の戦う意味も見つけられた。

   僕はみんなの幸せを守るためにこの力を使う。ゴジラとして

   生まれ、機龍として生まれ、僕は今、この世界に篠ノ之機龍

   として生きている。だからこそ、僕はこの力の全てを。簪や

   みんなのために使う。ようやく見つけられた、僕自身の

   意思で。だから、お礼なんていらないよ。今の僕があるのは、

   簪や、みんなのおかげだから」

一筋の涙が彼のほほを伝い落ちた。やがて、ゆっくりと機龍を

抱きしめる簪。

 

彼こそ、世界最強の覇者にして暴君の力を受け継ぐ者。

何人たりと彼を遮ることあたわず。絶対の力を持つ者。

されど彼もまた心を持つ生き物。ただ一人の孤独の前には、

その力も意味をなさない。だが、今の彼は孤独ではない。多くの

仲間、家族に支えられ、今を生きている。

将棋の玉、王は万能の駒だが、それ一つで敵に勝てるほど強くはない。

機龍もまた然り。いくら最強であろうと、一人ではできない事や

乗り越えられない物もある。

 

王には必要なのだ。彼自身の傍で支えてくれる仲間が。戦友が。友が。

そして同時に、その友たちは王の精神的支柱となり、逆に王は

仲間たちのために様々な困難を乗り越える力を見せる事もある。

王だけでは足らず。

王を支える者たちだけでは足らず。

 

二つが揃って初めてその力は輝きを増していく。

簪や、ラウラ、セシリアは王、機龍の事を想っている。

一夏達もまた然り。だが同時に、機龍もまた彼らを想っている。

片方が欠けただけでもその輝きは失われるだろう。

 

だが、その輝きは誰にも消すことはできない。

共に生き、笑いあった本物の『絆』は決して消えない。

繋がった心、『魂』は純度を増し、それは宝石のように光り輝きだす。

その輝き、光は王、神からの恩恵となって王自身と仲間たちを、

世界を照らすだろう。だが、今はまだその時ではない。

何故ならば……。

 

楯無「あ、居た居た。探したわよ」

と、そこに現れたのは楯無だった。彼女が近づいてきたのに

気づいて、簪から離れて涙を拭う機龍と、同じように

抱き合っていたのを見られたのでは?と思い恥ずかしいのか

顔を赤くしてそっぽを向く簪。

 

機龍「こ、こんにちは楯無さん」

簪「………」

何とかぎこちないながらも挨拶する機龍と視線を

合わせようとしない簪。

そんな彼女に一瞬だけ視線を向けてから、楯無の方に

戻す機龍。

機龍「僕たちに何か用ですか?」

楯無「用、と言うか、宣戦布告、かしらね?」

機・簪「「え??」」

宣戦布告、と言う単語に機龍だけでなく簪まで反応して

楯無の方に視線を向けた。

 

途端に表情を引き締める楯無。

楯無「生徒会長は学園で最強でなければならない。

   だから私はだれにも負けないわ。当然あなたたちにもね」

そう言って扇子を広げる楯無。そこには、無敗と言う単語が

描かれていた。

  「トーナメントではお互い全力を出しましょう。

   言いたかったのはそれだけよ。じゃあね」

と、一方的に話を切り上げると彼女は行ってしまった。

訳が分からずポカンとしていた機龍だが、すぐに頭を振って疑問を

書き消して簪の方へと視線を向けた。

機龍「簪、大丈夫?」

簪「大丈夫。って、言えれば良いのかな?正直微妙。

  お姉ちゃんに怒ってる自分もいるし、お姉ちゃんを

  怖がってる自分も居る」

機龍「簪」

どこか乾いた笑みを浮かべている簪に対して、機龍の彼女の手を

優しく握るのだった。

 

唐突な楯無の宣戦布告。その裏にある彼女の狙いとは?

そして、束はスコールたちとの協力関係を結んだ。一方で

そのスコールを用済みと判断したファントムタスクの幹部たち。

 

各々の思惑が世界中で交差する。その交差が、物語の中の

人物たちを戦いの渦中へと誘う。

 

     第20話 END

 




作中では、機龍の行動スタンスは『人間とその未来を守る』と言う
事になっており、私が仮面ライダー好きなのもあってか
それに近い行動スタンスになっています。ご了承ください。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第21話

今回はタッグマッチとゴーレムⅢ襲撃回です。
原作とは結構変わった内容になっていると思います。
楽しんでいただければ幸いです。


~~前回までのあらすじ~~

一夏が箒たちと本当の意味で理解しあった頃、束はスコール達の

依頼で新型ISを作ってほしいと言われた。最初はそれを拒否していた

束だったが、ある考えに至ったためその新型ISの製作を了承した。

一方で、ファントムタスクの幹部会はスコールの排除計画を

進めていた。

更に学園では、機龍と共にトーナメントに出場する事になった簪。

そんな二人の元に楯無が現れ、宣戦布告を行ったのだった。

 

 

やがてやってきたトーナメント当日。そして楯無から発表された

総勢6組のタッグマッチのマッチ表の中で、機龍と簪は……。

 

 

 

 

一回戦から楯無・箒ペアと戦う事になってしまった。

 

 

簪「ッ。最初から、お姉ちゃんに当たるなんて」

と、少し怯えている簪。そんな彼女の手を取る機龍。

機龍「大丈夫。僕が簪を守るよ。絶対」

簪「機龍。……うん、そうだね」

隣に居る恋人の言葉で、何とか怯えを払拭した簪。

 

 

そして、タッグマッチトーナメントの幕は上がった。

 

 

 

今、機龍と簪はピットの中で待機していた。そんな時だった。

楯無『機龍君、聞こえる?』

唐突にプライベートチャンネルで機龍に楯無から通信が入った。

機龍「楯無さん。はい、聞こえます」

楯無、と言う単語を聞いて振り返り機龍の方を見る簪。

楯無『そう。……こんなことを言うのは気が引けるんだけど、

   あなたが戦い嫌いと知ってもう一度言うわ。全力で

   来て頂戴。私も箒ちゃんも、殺す気で、全力で』

その言葉に、沈黙する機龍と驚愕している簪。

  『そして、私たちも全力で行くわ。あなた達を殺す気で』

機龍「……わかりました」

そういうと、通信は切れた。

簪「機龍、大丈夫」

機龍「……なんとなくわかったよ簪」

簪「え?」

機龍「楯無さんはこの戦いで僕たちを試そうとしているのかも

   しれない。……だから行こう。僕たちの、全力で」

そう言って右手を差し出す機龍。それを見た簪は。

簪「うん。……私はもう、お姉ちゃんにだって負けない!」

そう返して機龍の手を握った。そんな彼女の瞳には、闘志と言う名の

炎が燃えていた。

 『私は、もう昔の私じゃない。だから絶対に諦めない』

 

 

やがて、試合開始時間となり、簪は打鉄弐式を纏い。箒は紅椿を。

楯無はミステリアス・レイディを。そして、機龍は……。

 

機龍『3式機龍改!行きます!』

   「KYUAAAAAAAN!」

かつての自分の姿、鈍い銀色の姿、3式機龍改の姿でピットから飛び出した。

着地と共に盛大に砂ぼこりを上げる3式機龍改。彼の本気こそ、覇王と

同じ姿で戦いに臨む事だ。その銀色の顔の黄色い双眸が向かい合う

楯無と箒を見つめる。3式機龍の横に立つ打鉄弐式。

 

   『それではこれより、タッグマッチトーナメント一回戦を

    始めます』

オペレーターの女性の声が響く。それと同時に、周囲の空中ディスプレイに

カウントダウンが映し出され、時を刻んでいく。

   『5、4、3、2、1。START!』

   『ビーッ!』

試合開始のブザーと共に、機龍は飛び出した。

すぐさま右手のレールガンを廃棄。スパイラルクロウを形成し、

楯無に向けて突き出した。

   『KYUAAAAAAAN!』

楯無「はぁっ!」

咆哮と共に突き出される一撃を槍型の武器、『蒼流旋』ではじく楯無。

簪「機龍!ッ!」

機龍の援護に行こうとする簪だが、彼女の眼前を数本のレーザーが

薙ぎ、慌てて後ろに飛ぶ簪。

箒「簪!お前の相手は私だ!」

簪「箒」

 『やるしかない。……私はもう、逃げない!』

 「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

薙刀、『夢現』を取り出した簪が春雷を乱射しながら箒に突進していく。

箒「行くぞ!簪!」

対する箒も迫りくるエネルギーを雨月、空裂で切り裂きながら

突進していった。

 「はぁぁぁぁぁぁっ!」

簪「やぁぁぁぁぁぁっ!」

   『ガキィィィィンッ!』

二人の持つ刃が空中で激突し火花を散らした。

 

一方、地上でも機龍と楯無の戦いは続いていた。

楯無「はぁっ!」

蒼流旋の基部に備えられたバルカン砲が火を噴く。それを咄嗟に

察知した機龍がスラスターを吹かして地面の上をすべるように

左右に回避していく。

   『KYUAAAN!』

逆にお返しとばかりに短く咆哮を上げてから、口の二連装メーサーで

反撃する機龍。

咄嗟に左右に浮かぶパーツ、アクアクリスタルから発生している

水をカーテンのように展開してメーサーを防ぐが、その圧倒的な熱量で

すぐさま蒸発してしまった。

  「くっ!?言っといてなんだけど、君の本気って恐ろしいわね」

そう言って一旦距離を取る楯無。それに対して左手のレールガンを

連射して追撃する機龍。

 

そのころ、簪と箒も戦い続けていた。

簪「やぁぁぁぁぁぁっ!」

   『ガキィン!』

紅椿めがけて突進してきた簪の夢現の一撃を、剣をクロスさせて防ぐ箒。

箒「ぐっ!この!」

   『ブォンッ!』

そしてカウンターの一撃を繰り出すが、それを食らう前に簪、打鉄弐式は

後方にジャンプして回避し、逆に春雷による砲撃を行った。

 

速度を生かして突進。夢現の一撃。攻撃される前に離脱。牽制の春雷。

と、弐式の機動性。夢現のリーチ。ハンズフリーの春雷の即応性を

十分に生かして箒と渡り合う簪。

 「成程。機体の性能をフルに引き出しているのか。だが、私とて

  負ける気はさらさらない!」

楯無「行くわよ、機龍君!」

簪「私はもう、諦めない!だから!」

機龍「僕はもう、逃げない!だから!」

 

機・簪「「僕(私)達は絶対に負けない!!」」

 

二人の叫びが響く。

各々が相手を見定め、突進していく。

   「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」

 

彼女たち4人の叫びが重なる。

 

 

 

 

だが、次の瞬間。

 

 

 

 

   『ズドォォォォォォン!』

 

唐突に学園全体に爆音が響く。

機龍『何が!?……っ!』

慌てて周囲を見回した機龍は、ピットの上に立つ謎のISの姿を捉えた。

  『IS?まさか……!』

次の瞬間、機龍が見つけたIS、『ゴーレムⅢ』が両肩に備えられた

ビーム砲をからビーム発射してきた。

  「危ない!」

楯無「ッ!全機散開!」

機龍に続いてゴーレムⅢに気付いた楯無が咄嗟に命令を出し、それに

従って機龍達3人と楯無が別々の方向に飛ぶ。

 

と、その時、今度は別方向からビームが飛来し、それを回避した4人。

見ると、彼女たちを取り囲むように数機のISが空中に浮遊していた。

その数、3機。最初の攻撃を仕掛けてきた機体を入れれば4機にも

及んだ。

 

互いに背中をカバーするように、機龍、簪、楯無、箒が一か所に

集まって背中を寄せ合ったまま武器を構えていた。

  「あらまぁ、何とも珍しいお客さんじゃない」

機龍「あの機体には生命反応がありません。無人機のようです」

簪「無人機が4機も!?」

驚く簪。そもそもISの無人機などどこの国も開発には成功していない。

それが4機も現れれば驚くのは当然だろう。だが。

箒「いや、4機じゃない」

ゆっくりと首を振る箒。疑問に思った簪が声をかけるより先に、

無数の画像が紅椿から送られてきた。それは……。

 「12機だ」

 

 

 

一夏や鈴、シャルロットやラウラ、セシリアやモーラ、更に他の

専用機持ち達と戦う同型の機体たちだった。

 

 

 

 

一夏「クソ!?なんなんだこいつら!」

後ろから追いすがり、緑色のビームを放ってくるゴーレムⅢを

振り切ろうと逃げる一夏。

鈴「はぁぁぁぁっ!」

と、そこへゴーレムⅢの背部に鈴が切りかかり、牙月の刃を

その背中に叩きつけた。大きく態勢を崩すゴーレムⅢ。

 「一夏!いまよ!」

一夏「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」

そこへ反転した一夏が零落白夜を発動しながら突進し、ゴーレムⅢの

機体装甲を切り裂いた。

鈴「やった!」

一夏「いや。浅い!?」

そう。ゴーレムⅢは咄嗟に体を引いて傷を最小限にとどめていたのだ。

そこへ別の機体のビームが襲ってきた。

慌てて回避する一夏と鈴。

 

斬られた方のゴーレムⅢは距離を取り、もう一機と合流した。

そして、一夏達の方を向くなり、右手をクイックイッと動かして、

まるで『掛かってこい』とでも言っているようだった。

鈴「何よ。無人機のくせにいっちょ前に挑発?どうすんの一夏?」

一夏「へへ、決まってるだろ。……上等だぁっ!」

鈴「やっぱそうよね!」

雪片を構えた一夏が突進し、それに続く鈴。

 

一方、別の場所では。

ラウラ「ぐあっ!!」

ゴーレムⅢのブレードとプラズマブレードで斬りあっていたラウラが

一瞬の隙を突かれて蹴とばされ、地面を転がった。

シャル「ラウラ!」

咄嗟に倒れたラウラの追撃を予想したシャルロットのリヴァイヴが

シールドを構えてフォローに入るが、シャルが相手していたゴーレムⅢも、

ラウラが相手していたゴーレムⅢも追撃はしてこなかった。

   「え?」

疑問に思ったシャルだが、彼女の後ろでラウラが立ち上がり、武器を

構えると、まるでそれに合わせるかのように武器を構えるゴーレムⅢ達。

   『この無人機、まさか僕たちを試しているの?

    いや、それ以前に、何て言うか、殺気を全然感じない。

    殺す気がないの?』

と、疑問を浮かべていたシャルだが。

ラウラ「何をしているシャルロット!行くぞ!」

シャル「あ!うん!」

ラウラの言葉で現実に引き戻され、戦闘に集中した。

 

他にも、セシリアやモーラ。更に他の専用機持ちであった

ダリル・ケイシーやフォルテ・サファイヤがゴーレムⅢに

襲われていた。

 

 

一方、某国の某所では。

 

 

オータム「あれ全部無人機なのかよ」

薄暗いどこかの部屋の数少ない光源である大型のモニターを

腕を組みながら見ていたのはオータムだった。

その横にはスコールとマドカの姿もあった。

束「そうだよ~。あれは私が以前作った試作機のゴーレムⅠを発展改修 

  した機体なのだよオータム君!」

オータム「……。人の事をどこぞの助手みたいに言うな」

マドカ「……なぜこんな無人機を投入した?」

画面を見つめながら束の方は向かずに静かに呟くマドカ。

束「少し前にリュウ君から面白い反応があって、ちょっとね~」

スコール「面白い反応、ですか?それはいったい」

束「あくまでもこっちで反応をキャッチしただけだから無人機達が

  無駄になる可能性はあるけど、でももしかしたらこの戦いで

  その反応が姿を現すかもね」

と言う束の言葉にスコールはオータムの方を見るが、彼女も

首をすくめるだけだった。

 

 

そして、戻ってアリーナ、IS学園では、未だに戦闘が続いていた。

だが、数は互角な上に戦闘力も相手の方が若干上とあり、一夏達

12人は一方的に押されていた。

(しかも、ダリルとフォルテは戦う気がないようだ)

 

そして……。

一夏「ぐぁっ!」

ラウラ「ぬあぁぁぁっ!」

セシリア「きゃぁぁぁぁっ!」

 

機龍「ッ!一夏!ラウラお姉ちゃん!セシリアお姉ちゃん!」

機龍達4人の戦っていたアリーナの方に、他の6人。一夏やラウラ、

セシリア達が吹き飛ばされてきた。

咄嗟に周囲全体にレールガンとメーサー、ミサイルを牽制射して

ゴーレムたちを散らす機龍。

箒「一夏!それにみんなも!無事か!?」

機龍が牽制している間に箒や簪、鈴たちが倒れた一夏達を起こした。

 

一夏「イテテ、あいつら、相当強いぞ」

ラウラ「同数な上に奴らの機体、我々の専用機と同等。或いはそれ以上の

    性能を有している。厄介だぞ」

モーラ「悔しいですが、向こう側の連帯も見事です。個別に襲ってきたかと

    思うと巧に相手と武装を変えて攻撃してくる。切りかかってきた

    かと思えば離れて撃ちあいに持ち込む。剣で来たかと思えば砲で。

    一体で来たかと思うと二体で」

楯無「並の相手じゃないってことね」

9人の顔に冷や汗が浮かぶ。その時。

機龍「ぐあっ!」

 

数機からの一斉砲撃を食らった機龍が吹き飛ばされてきて、一夏達の

近くに倒れた。

簪「ッ!機龍!」

咄嗟に彼に駆け寄る簪と、二人の周囲に円形の陣を築く8人。

 

見ると、彼ら10人の周囲を12機のゴーレムⅢが取り囲んでいた。

ダリルとフォルテは近くの建物の上からその様子を見ていたが、

一夏達に加勢する気はないようだ。

一夏「10対12か。ハハ、絶望的ってやつか?」

鈴「何よ。この状況で諦めてるわけ?」

一夏「んなわけあるかよ。……こんだけ仲間が居るんだ」

そう言って箒や鈴、シャルロット、モーラ達を見回す一夏。

  「なのにこの程度でビビってたら男じゃねえだろ!」

そう言って雪片を握りなおす一夏。

鈴「ったく。あんた昔から妙なところで男出すんだから」

シャル「まぁ、一夏らしいけどね」

そう言ってクスクスと笑うシャルロットや箒たち。

 

 

と、その時、倒れていた機龍が立ち上がった。

機龍「そうそう。一夏お兄ちゃんってたまに変なところで

   緊張したり、かっこよかったりするよね」

スピーカー越しだが、少し笑みを含んだ声が聞こえてきた。

一夏「お、お前もそれ言うのかよ!?」

箒「あ。あとは妙に考えが古臭いとか」

鈴「ギャグが寒い」

シャル「主夫スキルが高い」

機龍「あるある」

一夏「ほ、ほっとけ!」

楯無「あ~でもマッサージは上手い」

シャル「ですね~、って一夏!?まさか生徒会長さんにマッサージ

    したことあるの!?」

一夏「それ今気にすることか!?」

と、圧倒的不利な状況にありながら笑い出す箒や簪たち。

 

機龍『そうだ。僕には、守りたいものがある』

  「僕は、こうして、みんなと笑っていられる日常を

   守りたい」

その言葉に、表情を引き締める9人。

  「誰かに命令されたからじゃない。僕自身の意思で」

ゆっくりと握りこぶしを作る3式機龍。

  「僕自身の力で。みんなとの毎日を守りたい。だからこそ、僕は」

俯いていた顔が上空のゴーレムたちを見据える。

  「僕はもう、逃げない」

足を少しだけ開き、3式機龍が踏ん張るような姿勢となる。

  「僕はもう、戦う事を恐れたりなんかしない……!

   今って言う時間の先にある未来を僕たち自身の手で……!」

3式機龍が大きく息を吸い込む。その銀色の背びれが、僅かに

青い光を放ち始める。

  「掴み取るために……!」

溜めていた物が吐き出される寸前のように、機龍は天を仰ぐ。

  「僕は、戦うんだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

  

 『GAOOOOOOOOOOON!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

裂ぱくの気合と共に、大ボリュームの咆哮がアリーナ中に響き渡る。

 

ビリビリと覇王の咆哮がアリーナを、いや、IS学園のある人工島を、

否、世界さえも震わせる。

 

その日、IS学園に居た全ての人間は、その咆哮を一生忘れる事は

無かった。

それほどインパクトのある咆哮だったのだ。

 

王の魂の叫びが世界を震わせる。

 

その時、彼の体から青白い波動が波のように断続的に放出された。

 

その波動が一夏達のISに当たる度に……。

 

 

一夏「これって!?」

シャル「機体のエネルギー残量が、回復していく!」

楯無「わ~お。これはすごいわね~」

今、一夏達の白式のシールドエネルギーやウェポンエネルギーの

メーターが凄まじい速度で回復していった。

 

と、その時、今度はその波動を受けている一夏達9人の前に、

新たなディスプレイが投影された。そこには……。

 

 

 

 

 

 

———友軍機より支援行動を確認———

 

 

 

 

———友軍機アビリティ:『激龍咆哮』確認———

 

 

 

 

簪「激龍、咆哮。これって」

一夏「力が漲ってくるのが分かる……!」

モーラ「覇王の気迫が、仲間を激励し、加護の光となって仲間を、

    すべてを包んでいく」

ラウラ「この力なら、行けるぞ!」

 

9人が武器を構える。機龍も目の前の3機のゴーレムⅢを見据える。

 

一夏「行っくぜぇぇぇぇぇぇっ!!!」

一夏が気合と共に突進していく。それに合わせて8人が別々の方向に

飛び出した。

   『GAOOOOOOOON!!!!!』

機龍も再び咆哮を上げながらスラスターを吹かして突進していく。

 

 

そして、束達もその様子を見ていた。

束「来た来た来たぁっ!」

スコール「あれは……」

束「あれはリュウ君の新スキルだよ~!いや~まさか本当に発動する

  なんてね~!」

そう言いつつもパソコンを凄まじい速度でタイプしながらデータを

集めている束。

そして、例えモニター越しであってもあの咆哮は十分にそれを聞いた人間の

体を、魂を震わせた。

スコールは平然としているが、オータムは右手で左腕の二の腕を

押さえつけていた。マドカも表情こそ崩してはいないが、驚いていた。

 

 

そして、アリーナでの戦いは一変していた。

一夏「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

白式・雪羅が零落白夜を発動している雪片で切りかかる。

ゴーレムⅢは右腕の展開式ブレードでそれを受け止めるが……。

  「まだ、まだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

雪片を押し込む一夏。すると、エネルギーの刃がゴーレムⅢの

実体ブレードを少しずつ溶かしていった。そして。

  「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

   『ズババッ!』

ゴーレムのブレードを切り裂き、更にそのままゴーレムⅢの機体を

斜めに、真っ二つに切り裂いた。

   『バゴォォォォン!』

一拍置き、一夏の背後で爆発が生まれた。

 

箒は……。

箒「はぁぁぁぁぁぁっ!」

雨月・空裂の双剣による連撃がゴーレムⅢを襲う。それをブレードと

左手で防ぐゴーレムⅢだが、防戦一方だった。

だが、何とか隙を突いて背部のビーム砲で箒を牽制し、

距離を取るゴーレムⅢ.

 「待て!っ」

と、その時、追いかけようとする箒だが、突如として彼女の前に

ディスプレイが現れ、何かの説明文が現れた。

 「これは!……行けるぞ!」

すぐさま、自分の新たなる武器が生まれた事を直観した箒は

その新たなる武器、出力可変型ブラスター・ライフル、『穿千』を

両腕に展開する。

それを見たゴーレムⅢが反転、紅椿めがけて突進してきた。だが。

 「その両腕!貰ったぁっ!」

次の瞬間、両腕の穿千が煌めき、高出力のエネルギーの矢が放たれた。

それは寸分違わずゴーレムⅢの両腕を切断するように弾き飛ばした。

何とか態勢を立て直そうとするゴーレムⅢだが、遅かった。

 「終わりだぁぁぁぁぁぁっ!」

そこへ、双剣を構えた箒が突進してきた。もはや防ぐ術を持たない

ゴーレムⅢの体を、X字の斬撃が襲った。

二体目のゴーレムが倒され、爆発した。

 

セシリアは……。

セシリア「そこですわ!」

ブルー・ティアーズの持つ、スターライトmkⅡが火を噴き、近接戦を

仕掛けようとしていたゴーレムⅢの肩に命中した。が、それでも止まらずに

加速して突進してくる。そして、その右腕のブレードをセシリア

めがけて彼女の真上から縦に振り下ろす。が。

   『ガキィィィンッ!』

それを、セシリアは左腕部の0式レールガン改の基部から『ブレード』を

伸長させてその攻撃を防いだ。

    「自分の弱点くらい、重々承知していますわ!」

次の瞬間、ゴーレムの腹部にスターライトの銃口が押し付けられ、

連続でレーザーが放たれた。

腹部から濛々と煙を吐き出しながら後ろへ下がるゴーレムⅢ。だが、

次の瞬間四方からビット、『ブルー・ティアーズ』のレーザーが

ゴーレムを襲い、その四肢に突き刺さった。

どうやら、今の攻撃で駆動系がやられたからか、地面に落下した

ゴーレムⅢは動かなくなった。

 

鈴は……。

鈴「やぁぁぁぁぁぁっ!」

箒の戦法と同じように、二振りの双剣となった牙月で切りかかり、

ゴーレムⅢを圧倒していた。が、一瞬の隙を突かれて牙月の刃を両腕で

掴まれ、攻撃を止められてしまった。

それでも、僅かに笑みを浮かべる鈴。

 「残念!本命は、こっちよ!」

次の瞬間、牙月を放した両腕の衝撃砲と両肩の衝撃砲。

合計で4門もの衝撃砲の砲口が一斉にゴーレムⅢに向いた。

 「行っけぇぇぇぇぇぇっ!!!」

何十発もの見えない砲弾がゴーレムⅢの体に命中し、その体を抉った。

そして、ついにゴーレムⅢのコアが露出した。

 「そこだぁぁぁぁぁっ!」

そこに、手放していた一本の牙月を構えた鈴が突進し、コアめがけて

刃を振り下ろした。

鈍い音と共に、コアにひびが入り、水晶のようだった輝きが

失われると、ゴーレムⅢは停止し、アリーナの地面へと落下していった。

 

シャルロットは……。

シャル「ふっ!」

襲い来るビームの雨をひらりひらりと回避してくリヴァイヴ。

   「ほらほら!こっちだよ!」

ガルムやレイン・オブ・サタデイで牽制をしながらゴーレムを

誘き寄せるシャル。だが、イグニッションブーストを駆使して

急加速したゴーレムⅢの実体ブレードがシャルの背中に迫った。

だが。

   「それくらい、予想できるよ!」

唐突に停止し、まるでそこに壁があるかのように空間を蹴った

シャルのリヴァイヴが急加速していたゴーレムⅢの股下を

潜り抜けていく、ゴーレムの背後に出たシャルロットはそのまま

弧を描くようにゴーレムの頭上に上昇。そして、ゴーレムは

シャルロットを追って後ろに振り返ったが、既に後ろには

シャルロットの姿はなかった。ゴーレムⅢがシャルロットを探して

周囲を見回している間に、振り返っていたゴーレムⅢの背後を取った

シャルロットのリヴァイヴの最強武装とも言える武器、

グレー・スケール。通称、シールド・ピアースが姿を

現した。

   「後ろが、がら空きだよ!」

その声にゴーレムⅢが振り返った時には、遅かった。

振り返ったゴーレムの体に突き刺さる杭。そして。

   『ドゥンッ!ドゥンッ!』

リボルバー式の炸薬カートリッジが作動し、強烈なインパクトを

ゴーレムⅢの体内へ叩き込む。撃ち込まれる度に体が震える

ゴーレムⅢ。そして、シャルがピアースのカートリッジを

使い切った頃には、ゴーレムⅢの腹部に大穴が空き、動かなく

なっていた。

 

ラウラは……。

ラウラ「行けっ!」

彼女の短い命令に従うように、レーゲンの各部に内蔵されていた

ワイヤーブレードが意思を持った蛇のようにゴーレムⅢに

襲い掛かった。

それを内蔵されていたシールドビットで防ぐゴーレム。

だが、数で言うならばラウラのワイヤーブレードの方が上であった。

一瞬の隙を突き、一本のブレードがゴーレムⅢの首に巻き付いた。

   「そこだぁっ!」

その一本の根元を右手で掴んだラウラが、力任せに

ワイヤーを振り回した。

振り回されたゴーレムは、次の瞬間地面に叩きつけられた。

その衝撃で出来た砂埃の中からラウラめがけて飛び出してくる

ゴーレムⅢ。実体ブレードがラウラに迫る。だが。

   「ふっ。甘い!」

次の瞬間、ラウラはAIC、停止結界でゴーレムⅢを受け止めると、

強靭な脚部でゴーレムⅢを真下から蹴り上げた。

それによって顎が跳ね上がるゴーレムⅢ。

   「ついでだ!これも持っていけ!」

更に、上下に体が伸びた事でがら空きになった胴体に、レーゲンの

レールカノンの砲弾が数発、突き刺さった。

吹っ飛び倒れ、腹部から煙を出しながらも、ギギギ、と機械的な音を

させながら立とうとするゴーレムⅢ。だが。

   「はぁぁぁぁぁぁっ!」

動けないゴーレムⅢにとどめを刺すべく、ラウラのレーゲンの

右手のプラズマ手刀がさく裂。ゴーレムの頭部を貫き、粉砕した。

ガクガクと震えたゴーレムⅢだったが、その体はすぐに動かなく

なってしまった。

 

モーラは……。

モーラ「はぁっ!」

機動性を生かしてゴーレムⅢの背後に接近した蹴りの一撃が

ゴーレムの背中に突き刺さる。それを振り払うように腕を

振り回すゴーレムⅢだが、その腕はモーラのアイギスに命中する

事なく、空を切っただけだった。

   「さぁ!こっちらですよ!」

アイギスに向けてビームを連射するが、そのどれもがモーラに

命中せず、避けられるかイージスに防がれ、有効打には

なって居なかった。

だが、それはモーラも同じで、もともと攻撃系の武装が

貧弱とも取れるアイギスの武装ではゴーレムにまともな攻撃を

入れる事も出来ていなかった。だが、ゴーレムⅢは気づいて

居なかった。モーラのツインウイングスのレーザーが、

先ほどから同じ一点、ゴーレムⅢの胴体に集中していることを。

そして、更に一発、レーザーがゴーレムの胸に刺さった。次の瞬間。

   『ビシッ!』

その装甲に、僅かだがひびが入った。

   「今!」

それを、元怪獣と言う圧倒的な視力で確認したモーラがゴーレムⅢ

めがけて突進していった。

襲い掛かるビームの雨の中をヒラリと回避しながら突き進む。

そして。

   「そこです!」

右手に持っていたツインウイングスの銃身下部に備えられていた

銃剣が突き出された。

   『ビシシッ!』

ひびの部分に切っ先が突き刺さり、ひびが僅かに広がった。

だが、装甲を貫通するまでには至らず、ゴーレムⅢのマスクが

モーラの方を睨んだ。それでもモーラは笑みを浮かべた。

   「確かに、私の兵装の破壊力は最低限です。が、戦い方を

    知らないわけじゃありません!」

   『ビシュビシュビシュゥッ!』

次の瞬間、ゼロ距離から数発のレーザーが放たれ、更にゴーレムⅢの

装甲を穿った。そして……。

   『ビシシシシシッ!』

   『バギャァァァァンッ!』

とうとう装甲部分が限界を迎え、砕けた装甲片が周囲に飛び散った。

そして、そのひび割れた中から現れたコードが配された、

人間で言うところの内臓の部分に、モーラは手刀を叩き込んだ。

ガクガクと震えながら、貫かれた部分から小さくスパークを

発しながら、ゴーレムⅢは動かなくなった。

 

そして、簪と、楯無は。

簪「やぁぁぁぁぁっ!」

楯無「はぁぁぁぁぁぁっ!」

それぞれが1機のゴーレムⅢを相手にしていた。だが、その時

機龍の相手をしていた3機の内の1機が楯無の方へターゲットを

変更してイグニッションブーストで突進していった。

だが、楯無は『ある理由』で一瞬だけ、反応が遅れた。

簪「ッ!危ないっ!」

楯無「はっ!?」

彼女が気付いたときには、既に眼前まで接近されていた。

  「くっ!?」

咄嗟に蒼流旋で防ごうとする楯無だが……。

   『ガキィィィンッ!』

音を立てて宙を舞う蒼流旋。

  「やってくれるじゃない!」

咄嗟にもう一つの武器、蛇腹剣であるラスティー・ネイルで応戦する

楯無。が、そもそもラスティー・ネイルは副武装と言った意味合いが

強い兵装だった。

 

何とかゴーレムⅢ達の攻撃を防ぐが、それでも防戦一方に追い込まれていた。

 

その様子を見ていた簪。

簪「待ってて!今——」

彼女の元に駆け付けようとする簪だが、その進路をゴーレムⅢのビームが

薙ぎ払い、行く手を遮る。

 「くっ!?」

 『このままじゃ……!』

次第に焦りの色が簪の顔に浮かぶ。

 『何か、方法は。……ダメ、何も思いつかない。やっぱり、私じゃ』

 

と、その時、彼女に視界に微かに過った者が居た。

   『GAOOOOOOOON!!!!!』

 

それは、ゴーレムⅢを相手取り、いくら被弾しようとも戦う

銀龍。彼女の想い人の姿だった。

 

 

簪『そうだ!こんな簡単にくじけてちゃダメだ!私はもう、

もう……』

 「もう二度と、目の前の事から逃げ出したりはしない!」

 

夢現を握りしめた簪が、自分の進路を塞いでいるゴーレムⅢに

向かって突進していく。

 

と、その時。

 

 

 

 

——WEAPON・CREATE——

 

 「え?」

唐突に簪の前に新たなディスプレイが浮かび上がった。

 

かと思うと、彼女の左手付近に唐突に黄金の粒子が現れ、

やがてそれは一つに集まり形となった。それは……。

 

 

 「夢現が、もう一本……?なんかわかんないけど、でも!」

簪は『二本』に増えた夢現を握りしめ、更に加速した。

自身の頭上に二本の夢現を掲げるように構える簪。

 

そこには論理的な剣道や剣術などない。だが、それでも……。

 「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

同時に夢現を叩きつける簪。

ゴーレムⅢはそれを右腕のブレードで受け止めようとした。だが、

真上からの打ち下ろしに耐えきれず、大きく弾き飛ばされた。

そして、簪は視線を楯無の方へと向けた。大きく息を吸い込む簪。

 「『お姉ちゃんっ』!!!!」

 

アリーナ全体に反響するほどの大声が響く。その声に楯無が

振り返る。

 「これ、使ってっ!」

右手に保持していた夢現が全力で楯無に向かって投げられる。

左手に持ち替えたラスティー・ネイルに水を纏わせ、鞭の

ようにしならせてゴーレムⅢ達を弾き飛ばした楯無の

右手が飛んできたもう一本の夢現をキャッチした。

 

 

——使用承認——

 

簪と楯無の前にそのディスプレイが現れた瞬間、夢現の刀身部分が

煌めいた。

と、その時、楯無の背後に一体のゴーレムが迫った。が。

   『ズバッ!』

振り向きざまに繰り出された一撃がゴーレムⅢを弾き飛ばし、

地面に打ち付けた。だが、

次の瞬間もう一機の方のゴーレムⅢがブレードを片手に突進してきた。

 

だが、この時ゴーレムⅢは気づいていなかった。楯無の左手の

ラスティー・ネイルの先端から僅かに水色の糸のような物が

垂れていた事に。

 

ゴーレムⅢの刃を右手の夢現で防ぐ楯無。そのまま、鍔迫り合いに

持ち込まれたように思われた。だが。

楯無「ふふふ、お姉さんを舐めると、痛い目に合うわよ?」

唐突にそんなことを言い出した楯無。その時。

   『ズガッ!』

ゴーレムⅢの体を衝撃が襲い、後ろに弾かれた。ゴーレムが視線を

戻すと、楯無の左手には先ほど弾き飛ばされたはずの蒼流旋が

いつのまにか握られていた。

 

実は、彼女は先ほどラスティー・ネイルの先端から水を糸のように

細く長く形成し、ロープのように使用して地面に落ちていた

蒼流旋を回収していたのだ。

 

夢現と蒼流旋と言う二本の長物を構える楯無。

  「はぁぁぁぁぁぁっ!」

そして、ゴーレムⅢめがけて突進した。

繰り出される夢現の上段からの斬り下ろしを右手のブレードで防ぐ

ゴーレム。だが、すぐに左下方からの蒼流旋の一撃で防御を

破壊され、更にがら空きの胴体に夢現の刃が斜めに斬り付ける。

そこからは楯無の一方的な攻撃だった。

連続でゴーレムⅢを斬り付ける楯無。そして、蒼流旋の一撃が

ついにゴーレムの胴体装甲に穴をあけた。

  「これで、終わりよっ!」

一閃。簪から譲り受けた夢現の刃が深々とゴーレムⅢの体に

突き刺さった。

先ほどの一機と同じように、刺された部分からスパークを上げて

動かなくなり、落下していくゴーレムⅢ。

 

簪「やった!」

姉の連撃に見惚れていた簪。だが、その彼女の背後にブレードを

構えたゴーレムⅢが迫っていた。

   『ビーッ!ビーッ!』

 「っ!しま——」

弐式から放たれたアラートでようやく気付いた簪。だが、

完全にブレードの距離まで接近されていた。この距離では、

逆にリーチの長い夢現では防御がしにくい。

 

距離を取ろうとする簪だが、遅かった。

あと数センチでブレードが届くかと思われた。だが。

箒「はぁぁぁぁぁっ!」

   『ガキィィィンッ!』

その時、簪とゴーレムの間に箒の紅椿が滑り込み、雨月と空裂で

ブレードを防いだ。

 「簪!今だ!」

簪「っ!うん!」

箒の言葉の意味を即座に理解した簪は、箒の後ろから

横へ飛び出し、鍔迫り合いでがら空きになっていたゴーレムⅢの

脇腹部分へ夢現を突き出した。

   『ザシュッ!』

ゴーレムⅢの左わき腹部分に突き刺さる夢現。

僅かに震えたゴーレムが、空いている左手で簪を

押しのけようとしたが。

セシリア「私もいましてよ!」

   『ザシュッ!』

今度は右わき腹の部分に、セシリアの左腕部のレールガン基部から

伸長していたブレードが突き刺さった。

ガクガクと機体を震わせるゴーレムⅢ。そして。

箒「これで、終わりだぁぁぁぁっ!!」

右腕のブレードを弾く箒と、同タイミングで離脱するセシリア、簪。

そして、既に動かなくなったゴーレムⅢの胴体を横一文字に

切り裂く箒。

上半身と下半身が泣き別れしたゴーレムⅢは落下していく中で爆発。

内部パーツの雨がグラウンドに降り注いだ。

 「よし。これで後は……」

そう言って箒やセシリア、簪、更に近くに集まっていた楯無や鈴の

視線が機龍の方へと向けられた。

 

 

機龍「はぁぁぁぁぁぁっ!」

  『GAOOOOOOOOON!』

咆哮を上げながら右手のスパイラルクロウを構えて突進していく

機龍。スラスターから大量の白煙を吹き出しながら突き進む様は

まさに銀色の砲弾とでも呼べるだろう。

 

そして、3機の内の1機が機龍と向かい合い突進してきた。

二機のドリルとブレードがぶつかり合う。だが、パワーでは

機龍の方が上だった。

すぐにブレードの各部にひびが入り始めた。

距離を取ろうと下がろうとしたゴーレムⅢ。だが。

   『ガシッ!』

機龍の左手がゴーレムⅢのお腹を抑え込んで離さない。

  「逃がさない!」

空いている左手で機龍の腕を叩くゴーレムⅢ。だが、それでも機龍の

腕はびくともしなかった。

そこに、仲間の危機を感じてか機龍めがけて残りの二機が

ブレードを構えて突進してきた。だが。

   『ガキガキィィィィンッ!』

3式機龍の背中に向けて繰り出されるはずだった刃を、

一夏の雪片と、モーラのイージスが受け止めた。

一夏「機龍は——」

モーラ「やらせませんよ!」

 

二人の醸し出す覇気に僅かにゴーレムが震えたように見えた次の

瞬間。

二機のゴーレムを横合いから衝撃が襲い、弾き飛ばした。

それはラウラのレールカノンと鈴の衝撃砲による砲撃だった。

そして、その間に機龍はじりじりとゴーレムⅢのブレードを

押し込んでいった。と、次の瞬間。

   『ビシシシッ!バリーンッ!』

ついに音を立ててブレードがへし折れた。そして、機龍はがら空きに

なった胴体にスパイラルクロウを突き立てた。

機龍「はぁぁぁぁぁぁっ!」

鋼鉄のドリルがゴーレムⅢの装甲を削り、火花を散らす。そして、ついに。

   『ボガァァァァンッ!』

装甲を食い破った機龍のクロウが貫通。腹部に大穴を開けられたゴーレムⅢは

爆散したのだった。

 

そして、残った2機の内の1機を簪と楯無が相手していた。

楯無「はぁっ!」

蒼流旋の一閃がゴーレムの装甲に傷をつける。しかし、すぐに態勢を

立て直したゴーレムⅢの実体ブレードが楯無に迫った。だが。

簪「やらせない!」

横合いから伸びた夢現の刀身がゴーレムⅢのブレードを受け止めた。

楯無「もう一発!」

今度は、真正面から蒼流旋を突き出しゴーレムを突く楯無。

   『ビシシッ!』

その表面にヒビが走った。

  「簪ちゃん!今よ!」

ゴーレムの体を蹴って距離を取る楯無。そこへ。

簪「単一ロックオンシステム起動!全弾、目標、敵IS、腹部!」

次の瞬間、打鉄弐式の背部装備、『山嵐』の発射口が開き、

無数のミサイルの弾頭が姿を現した。

 「山嵐、一斉射撃!」

   『ドドドドドドドッ!』

白煙を吐き出しながら飛び出した無数のミサイル。

それはゴーレムⅢの腹部に次々と命中。殺到していった。

大きな爆炎に包まれるゴーレムⅢ。ゴーレムは何とか

攻撃を耐えきることができた。

だが、その体のあちこちには大小様々なヒビが走り、後一発でも

攻撃を受ければ壊れるだろうと言う所だった。

 

そして、その最後の一撃。とどめを刺すものが居た。

楯無「これで!」

蒼流旋を構え、突進する楯無。

  「終わりよ!」

   『ズガガンッ!』

突き出された一撃は、見事のゴーレムⅢの腹部を貫いた。

そして、瞬時に切っ先を引き抜く楯無。ゴーレムⅢはバラバラと

パーツを脱落させながら落ちていき、数回スパークが瞬いた、

かと思うと爆発した。

 

そして、最後の一機は一夏と戦っていた。しかし、それもまた、

既に勝敗は決していたと言えるだろう。

一夏「ふっ!はぁっ!」

繰り出される雪片の連撃に、ゴーレムⅢは防戦一方に追い込まれていた。

だが、覚悟を決めた、とでもいうべきか。ゴーレムⅢは左手で

雪片を受け止め、既にボロボロとなっていた右腕のブレードを振り上げた。

 

だが、次の瞬間。

   『ビィィィィィッ!』

   『バギャッ!』

唐突に下方から黄色いビーム、機龍の二連装メーサー砲による砲撃が

飛来し、ボロボロだったブレードをへし折った。

機龍「一夏!」

一夏「あぁ!やるぞ機龍!」

そう言ってゴーレムの胴体を蹴る一夏。

 

そして、蹴とばされたゴーレムは何とか空中で態勢を立て直した。

だが、その眼前には既に。

機・一「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

左右前方、ゴーレムを基点にV字を描くように突進してくる二人。

 

一夏の手には零落白夜を発動している雪片が。

機龍の手は轟轟と轟音を轟かせながら回転するクロウが。

 

それぞれ握られ、形作られていた。

そして、ゴーレムを基点に、二人の刃が、力が交差した。刹那。

   『ズルッ。バゴォォォォォンッ!』

ゴーレムの上半身と下半身がズレたかと思われたその時、

その二つが爆発したのだった。

 

 

やがて、着地するのと同時にISを解除する一夏達10人。

彼、彼女たちは肩で息をしながらも、大した傷もなく無事に

敵の襲撃を乗り切った。

お互い顔を見合わせる少年少女たち。

一夏「ハァ。……やったな、機龍」

そういって片手を上げる一夏。そして。

機龍「うん!」

   『パァン!』

それに答えるように、機龍が一夏とハイタッチをした。

 

心地よい音がアリーナに響く。そして、それだけではなく、

他にも箒やセシリア達が、近くに居た仲間と、戦友たちと

ハイタッチを交わしたのだった。

 

そして、簪も、楯無と。

 

 

それから数時間後。

 

今、簪は機龍と夕暮れに染まりつつある校舎の屋上に来ていた。

そして、二人の前には楯無が立っていた。

あの戦いの終了直後、楯無から3人で話がしたい、と言う事で

ここに呼び出されていた。

楯無「まずは、私から言わなきゃいけない事があるの。

   機龍君」

機龍「はい」

 

緊張した面持ちで楯無の言葉を待っていた機龍と簪。

 

しかし、二人の予想は裏切られた。

 

楯無「ごめんなさい!!」

そう言っていきなり頭を下げてきた。

 

機・簪「「え??」」

と、いきなり謝られても、と言いたいように訳が分からない二人。

やがて、ゆっくりと頭を上げた楯無が、視線をチラチラと

機龍の方へ向けてきた。

 

楯無「わ、私、その、あの時、その」

と、何やら機龍に言いたい事があるようだったが、機龍はその意味を

予想し、質問した。

機龍「記憶を、見たんですか?」

 

その言葉に目を見開く簪と楯無。やがて……。

楯無「あの時、機龍君が吠えて青白い波動を浴びた時。

   一瞬、一瞬だったんだけど、君の事が、頭に流れ込んできて」

機龍「僕とゴジラの過去。そして、僕の素性を知った。そういう事

   だったんですね?」

楯無「………。そう、みたい」

 

と、バツが悪そうな楯無。

今の彼女はかつて自分がしたことを後悔していたのだった。

以前、一夏のコーチの件の時に興味本位から機龍の力について

聞こうとしていた。だが……。

  「君の、ゴジラとしての過去を見ちゃったら、自分があの時

   した事が、許せなくて、恥ずかしくて」

知ってしまった以上、過去にやってしまった自分の行いを悔いていた。

  「私は君の過去を知らずに、あんなことを……」

簪「お姉ちゃん……」

 

機龍「良いんです」

楯・簪「「え?」」

唐突にそんなことを言う機龍に疑問符を浮かべる簪と楯無。

機龍「過去は変えられないから過去なんです。それを楯無さんが

   知ってしまった。それ自体ももう過去の事ですから。

   それについて謝る必要はありません。それに、その記憶を

   見せてしまったのも、結果的に僕の力のせいですから」

楯無「機龍君」

機龍「ただ、一つだけ、僕を元怪物と、知った上でお願いがあります」

 

その言葉に、緩みかけていた表情を引き締める楯無。

機龍のそのお願いとやらを、心臓をバクバクとさせながら

待っていた楯無。

だが、彼女の予想もまた、大きく裏切られた。

 

 

 

 

  「妹さんを、簪を、僕に下さい」

 

 

 

 

ぽく、ぽく、ち~ん。

 

 

楯・簪「「へ?………えぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?」」

姉妹二人の絶叫が響く。が、それでも機龍の表情は引き締まっていた。

機龍「知っての通り、僕は人間ではありません。もし、僕が簪の

   傍に居れば、それだけで簪を不幸にするかもしれません」

その言葉に再び表情を硬くする楯無と、驚愕した表情の簪。

簪「機龍!それは——」

機龍「確かに、簪や一夏は僕の事を知り、それでも受け入れてくれた。

   でも、人間がそれだけじゃない事は、僕自身よくわかってるよ。

   もし、何も知らない人間たちの間に僕の情報が出回れば、僕は

   社会から弾き出されてもおかしくない。そして、人間は僕を

   『滅ぼそう』とするはず」

簪「ッ!」

機龍「人間は自分より強いものを恐れ、その存在を排除し、自分たちの

   存在を確かな物にしたがる」

今、機龍の黄色い瞳は僅かに赤く濁り始めた。それはゴジラの意識が

少しづつ現れていると言う事だ。その時、機龍の横に居た簪が

機龍をギュッと抱きしめた。ゴジラの意識を奥底に戻した機龍は

僅かに振り返った。

 

そして、簪の目に涙が光っている事に気付いた。

  「だからこそ、簪や僕の周囲に居る人たちは不幸になるかも

   しれない。……でも」

と、続けながら拳を握り締める機龍。

  「僕にはみんなが、簪が必要なんです」

その言葉に、僅かに顔を上げる簪。

  「だからこそ、例え、僕が汚名を被ることになったとしても、

   彼女を、簪を全力で守ります。だから」

楯無「二人の仲を認めてほしい。そういう事なのね?」

機龍「はい」

 

機龍の意思に楯無は……。

 

 

楯無「機龍君。それに、簪ちゃんにも。私も言わなきゃいけない事があるの。

   ……機龍君、私と簪ちゃんの家系、更識家は代々日本の外部、

   つまりは諸外国からの裏工作。スパイ活動や破壊工作といった

   暗部に対しての暗部。わかりやすく言えば、対スパイ用の

   カウンター組織の家系なのよ。そして、その現在の当主は、

   私。今は私がその17代目なのよ」

機龍「………」

話されている事実に機龍は黙ったままだが、彼の横では簪が

驚愕した表情を浮かべていた。

楯無「そんな血まみれの、汚い私から言えるかどうか、わかんない

   けど。……簪ちゃんの事、守って、幸せにしてあげて。

   どうか、妹を、よろしくお願いします」

そう言って、彼女は機龍に向かって頭を下げた。

機龍「僕の命と力にかけて、必ず、簪を守ります」

 

簪「お姉、ちゃん」

やがて、ゆっくりと楯無に歩み寄る簪。それに対して、楯無は

頭を上げ、かつてのように、仲の良かった子供頃のように、

ゆっくりと、優しい声で告げた。

楯無「彼と、幸せになりなさい。自分の好きなように生きて。

   更識の名なんて忘れて、ね」

簪「ッ!!」

   『ダッ!ギュッ!』

その言葉に、感極まった簪は涙を流しながら無言で姉の胸に飛び込んだ。

楯無「ほ~ら。抱き着く相手が違うんじゃないの?」

そっと簪の頭をなでる楯無。

簪「ありがとう。『お姉ちゃん』」

楯無「そう呼ばれるの。なんか懐かしいな~」

そう思いながら天を仰ぐ楯無。彼女の視線の先では、

夕暮れの空の上に輝く一番星があったのだった。

 

 

こうして、二人の姉妹は無事に仲直りを果たせたのだった。

 

     第21話 END

 




と、言うわけで作中ではいくつかの変更点やら付箋が
出てきました。それと、ゴーレムⅢ12機には本編で
あったシールドのジャミング装置はありません。
あくまでも束に彼、彼女たちを傷つける事を目的に
していないからです。
また、12機も出したのは一夏達全員の活躍を描きたかった
からですね。結果的に一万字を超えましたが、
楽しんでいただければ満足です。
コメント、評価など、お待ちしております。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第22話

今回はアニメ第二期第10話がベースです。
ですが、後半のセシリアの料理の話はカットしました。


~~前回までのあらすじ~~

相次ぐ専用機を狙った強奪事件に対応するため、専用機持ち同士の

練度アップを目的としたタッグマッチが行われた。だが、

当日に謎の無人IS『ゴーレムⅢ』12機が襲来した。

追い詰められる機龍と一夏達だったが、機龍の放った激励の咆哮に

よってモチベーションを持ち直した彼ら10人は見事に

これを撃退したのだった。

そして、簪も姉、楯無との長年のギスギスした関係にも、

無事終止符が打たれたのだった。

 

やがて、ゴーレムⅢの襲撃から数日後。

今、一夏と機龍はある部屋に呼び出されていた。しかし、二人の

表情は真逆と言って良い状況だった。

いつも通り、笑みを浮かべている様子の機龍と、絶体絶命を

顔に書いたような表情の一夏。

今、彼らは教室よりも小さな部屋、『保健室』の一角に待機していた。

 

別に一夏と機龍のどこが悪い、とかそういうわけではないのだが……。

 

 

~数十分前~

 

襲撃事件から数日後のある日。結局、あの後タッグマッチトーナメントは

ゴーレムⅢの襲撃により中止となった。

が、それ以降目立った敵襲もなく、数日は平和な学園生活を

送っていた一夏と機龍達10人。今では生徒会長である楯無も

機龍の『詳細』を知り、一夏達も彼女がその詳細を知った事を機龍や

簪の口からきいた。そして、あの戦い以降はよく10人で集まることも

多くなった。

 

そして、そんなある日の朝のSHRの時間だったのだが……。

千冬「さて、唐突ではあるが、今日は授業の予定を急きょ変更し、

   全学年全生徒を対象に身体測定を行う事になった。時間は今から

   一時間後だ。一年から始まるから、まずはこのクラスからだ。

   移動の準備をしておくように。以上」

そう言うと、歩き出す千冬。

一夏「身体測定か~。急だよな」

機龍「そうだね。あ、でも僕たちはどうするんだろ?僕たち男だし」

一夏「う~ん。女子が全員終わってからじゃねえか?」

などと話していた時、出ていきかけていた千冬が足を止めて

振り返った。

千冬「と、忘れる所だったが、織斑、それと機龍はすぐに

   保健室に行け」

一夏「え?俺たちから最初にやるんですか?」

千冬「違う。お前たちが身体測定の測定員だ」

一・機「「………。え?」」

と、二人は疑問符を漏らすのだった。

 

~戻って現在~

冷や汗を流し、納得できないと言いたそうな一夏。

そして、機龍はと言うと。

   『シュルシュル』

と、一夏はカーテンで区切られた隣の方に視線を移した。

一夏「機龍、着替え終わったのか?」

機龍「ん、もう少し」

一夏は、カーテン越しに見える着替える機龍のシルエットを

見つめてからため息をついた。

 

~再び時間は巻き戻って数分前~

一夏「……。なんだって俺たちが測定員になんか」

機龍「僕はその、元が機械だからそういうのは得意だけど、

   でもそれを知っているのは一夏お兄ちゃんたちだけの

   はずだし。なんでだろうね?あれ?」

と、言いながら二人で歩いていた時だった。不意に立ち止まる機龍。

一夏「ん?機龍、どうし、たっ!?」

   『ドドドドドドドドッ!』

何やら後ろの方から地鳴りのような足音が聞こえてきた。しかも、

よく見ると巨大な煙がこっちに向かって突進してきていた。しかし。

   『キキキキィィィィィィッ!』

その煙は二人の前で急停止した。

やがて、煙が収まると、そこから3年生の女生徒が息を切らした状態で

現れた。その生徒を見て、ある事に気付いた一夏。

一夏「あ!あなたは服飾部の部長の!」

部長「ハァ。ハァ。機、機龍君。実は、さっき、機龍君が、身体、

測定の、ハァ。測定、するって、聞いて。あ、脇腹痛い」

と、その様子からどうやら陸上選手顔負けの速度で走ってきた事に

驚きつつ苦笑いする一夏。

  「そ、それで、わ、私たちが、機龍君用、の、い、衣装を」

そう言って紙袋を差し出す部長さん。

機龍「そうですか。ありがとうございます」

と、笑顔で受け取る機龍だが、その横で一夏は気づいていた。

部長である女生徒の目は血走り、呼吸は乱れている。

一夏『あれ、絶対走っただけで乱れてるわけじゃなさそうだな』

と、心の中で思いながら一夏は苦笑いするのだった。

 

~再び戻って現在~

やがて着替え終わった機龍がカーテンを開けて一夏の方へ来た。

そんな彼の姿と言うのが……。

 

 

 

———薄いピンクのナース服に小さな白いナースハット。

   そして、股下ギリギリの極短の薄いピンクのスカート姿だ——

 

———しかも、その頭と腰からは機龍が以前手に入れた能力、

   猫化能力によって生やせるようになっていた銀色の耳と尻尾が

   伸びていた———

 

機龍・ケモ耳ナース風男の娘ヴァージョン(謎)である。

 

機龍「どうかな?似合ってるかなお兄ちゃん」

そう言って一夏の前でターンする機龍。しかし。

   『フワッ!』

一夏「ッ!!あ、あぁ、似合ってると、思うぞ」

そう言いながら咄嗟に視線をずらす一夏。

 

今、機龍がターンした事で僅かに機龍の白い下着(女物)が

見えたため、一夏はドギマギしていた。

  『あ、あの部長。なんだって下着まで。って言うか機龍も

   何普通に履いてるんだよ』

と、心の中で突っ込んだ。

機龍「お兄ちゃん、顔が赤いけど大丈夫?」

と、一夏の顔が赤い事に気付いた機龍は一夏の前に回り込んで

俯いている一夏と視線が合うようにその場に屈んだ。

一夏「あ、あぁ大丈夫だから気にするな!」

  『あぁもう。……なんで俺は機龍にドキドキしてるんだ!

   機龍は男だぞ男!それを』

と、考えていたのだが。

機龍「お兄ちゃん、ほんとに大丈夫?……ちょっとおでこ貸して」

一夏「あぁ。……ん?何?」

と、曖昧に返事をして、気づいたときには遅かった。

   『ピトッ』

 

機龍は自分のおでこを一夏のおでこにくっつけた。

  「な、なな、な!」

今、機龍の黄色い瞳が文字通り一夏の眼前に迫っていた。

バクバクと一夏の心臓が早鐘を打つ。

機龍「う~ん。熱はないみたいだね」

そう言って顔を離しながら耳をピクピクと動かす機龍。

一夏「お、俺は大丈夫だから。機龍は測定の準備をしててくれ」

機龍「うん。わかった」

と言うと、機龍はカーテンの向こう側に消えていった。

一夏「……。ハァ」

  『機龍は相変わらず元気だが、なんか機龍って女としても

   十分やっていけそうだよな~。と言うか、俺だけドキドキ

   しててあいつは平気って。……おかしいのは俺だけか?』

なんて思っていた一夏だった。

 

真耶「ごめんなさい。遅くなってしまって」

と、そこに真耶が測定用のメジャーを持って現れた。

  「はい。機龍君と織斑君」

そう言ってメジャーを差し出す真耶。

機龍「ありがとうございます」

一夏「……」

笑顔で受け取る機龍と、無言で受け取る一夏。

 

  「山田先生。……どうして俺たちはこうなったんですか?」

真耶「どう、と言われても。知っての通り先日の襲撃事件がありました。

   そこでISスーツの強化を行うために各生徒のより厳密な

   フィジカルデータが必要なんです」

一夏「いや!そこは俺も分かります!問題は何で俺と機龍が測定員

   になってるんですか!?」

機龍「確かに。今更ですが、やはりこう言った事は医師や看護師と言った

   慣れている方の方がいいんじゃありませんか?」

真耶「私もどうかとは思ったんですけど、生徒会の決定事項だそうですよ」

一夏「なっ!?」

機龍「生徒会?僕たち、何も聞いてませんでしたけど……」

驚く一夏と首をかしげる機龍。そして、一夏の頭の中には黒いオーラを

纏った楯無の姿が浮かんでいた。

 

一夏「何を考えているんだこの学園は~~!」

彼の悲痛な叫びが保健室に響いた。が、その時。

千冬「何を騒いでいるんだ貴様は」

一夏「あ、千冬姉!いでっ!」

と、咄嗟に名前で呼んだばかりに叩かれる一夏。

千冬「織斑先生だ。貴様は人に任された仕事も満足にできんのか」

一夏「いや!これは明らかに違う!嵌められたんだ!」

と、何やら力説している一夏と、そんな弟を見て眉を顰める千冬。

 

で、二人が何やら言っていた時だった。真耶は廊下の外に近づく

生徒達の足音に気付いた。

真耶「どうやら最初の子たちが来たみたいですね。機龍君、生徒達を

   中に入れてあげてください」

機龍「はい。わかりました」

 

そう言って、保健室のドアを開けた機龍。

そして、外で並んでいた生徒達の視線が一斉に音がした方、入り口の

方に向けられた。その視線が、ケモ耳リアルナース姿の機龍に集まった、

刹那。

 

   「「「「「「「「「「うぅっ!!!」」」」」」」」」」」

以前から鼻血を流しまくってるせいか、ある程度耐性がついたのかで

吹き出しそうになる鼻血を抑える生徒達。

機龍「お待たせしました。それでは検査を始めますから、中へどうぞ」

と、本物のナースのように生徒達を中へ促しながらスカートを翻し

歩き出す機龍。しかし。

   『フワッ!』

機龍自体、自分が際どい物を履いている事に気付いていないのか、スカートが

浮いてもなんのその、と言った感じで、女生徒たちに下着をもろに見られて

しまった。で、どうなったかと言うと……。

 

女子「もう、無理」

   「「「「「「「「「ぶっはっ!」」」」」」」」」」

結局、耐えきれずに盛大に鼻血を吹き出したのだった。

 

その後、何とか止血した生徒達は機龍に促されて保健室に入った。

真耶「それではこれから、織斑君と機龍君に身体測定をしてもらいます。

   二人はカーテンの向こうで待っていてください。

   女子の皆さんは、早速上着を脱いで下着姿になってください」

機龍「はい」

女子「「「「「「「「「は~い!」」」」」」」」」」

一夏「は、はい」

普通に返事をする機龍・嬉しそうに返事をする女子たち・諦め顔で返事をする一夏。

と、三者三様の返事をするのだった。

 

で、一夏と機龍は測定員として測定する事になり、真耶は一夏の記録を

記入し、機龍は一人で測定する事になった。

 

機龍「それじゃあ、2番の方、どうぞ~」

女子「は~い」

と、元気な声が返事が聞こえ、カーテンを開けて白い下着姿の

黒髪ロングの女子が入ってきた。そして機龍は彼女のその姿に心臓を

ドキッとさせるも、できるだけ平静にいるように努めた。

機龍「え、えっと。それじゃあお名前と番号を確認します。

京子「は~い。出席番号2番、朝井京子です。測定お願いね、

   機龍君♪」

と、両手を使って、胸を寄せて押し上げる京子。

その仕草に、機龍は危うくあそこを大きくしかけてしまった。

機龍「そ、それじゃあまずは胸囲や腰回りの測定を始めますね!」

半ば誤魔化すように顔を赤くしながらメジャーを取り出す機龍。

  『うぅ、なんだろ。さっきまでは全然意識してなかったのに、

   いきなり下着姿の人を前にすると……。ってダメダメ!

   そんなこと考えてる場合じゃないでしょ僕!』

雑念を振り払うように首を振ってから京子と向かい合う機龍。

  「えって、じゃあまず胸囲から測りますから、腕を

   肩の高さまで上げてください」

京子「は~い」

機龍の指示に従い、両手を左右に挙げる京子。そして、機龍は

メジャーを取り出して測り始めたのだが……。

   『ムニュン』

  「あん♪」

メジャーが敏感な所に当たったのか、僅かに甘い声を漏らす京子。

それに対して、機龍は……。

機龍「あ、い、痛かったですか?」

  『深く考えるな深く考えるな深く考えるな深く考えるな深く考えるな

   深くふかふかかかかふかくくくかかか』

と、できるだけ冷静でいようとしたが逆にショート寸前まで行ってしまった。

しかし、その時だった。

 

清香「ひゃぁっ!」

隣の場所から、何やら卑猥な声が聞こえてきた事で、機龍は頭を被り振った。

更に頬を両手でパンパンと叩き、先ほど千冬が一夏に言っていたこと、

『仕事』と言う単語を思い出した。

 

その後、一夏が箒とシャルロットにしばかれている声が聞こえたが、

機龍はずっと仕事の単語を頭の中に思い浮かべながら目の前の女子の

各種測定を行っていた。

 

しかし……。

機龍『これは仕事これは仕事これは仕事これは仕事………』

  「………」

真耶「機龍君、少しいいですか?」

サーッとカーテンを開けて入ってくる真耶。しかし、機龍は無言で

メジャーを握りしめたまま真耶の方を向こうとはしなかった。

  「あ、あの~。機龍君?」

機龍『これは仕事これは仕事これは仕事これは仕事これは仕事

これは仕事』

真耶「き、機龍君?」

彼の目の前で手を振る真耶。しかし反応はない。

  「う~ん。集中しているのでしょうか?……あ、こういう時は」

そう言って機龍の後ろに回り込んだ真耶。

彼女は機龍の後ろ、丁度猫耳の辺りまで頭が来るように屈むと……。

  「ふぅ」

機龍「ッ!みゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

敏感な耳に息を吹きかけられたびっくりして立ち上がり、猫のような悲鳴を

上げた。

そして座っていた椅子から慌てる猫のように転げ落ちた。

真耶「あぁ!ご、ごめんなさい機龍君!大丈夫ですか!?」

慌てて倒れた機龍に手を差し出す真耶。

 

機龍「は、はい。こちらこそすみません。ずっと考え事をしてて」

彼女の手を取って立ち上がる機龍。

  「それより何かあったんですか?」

真耶「あ、あの。実に言いにくい事なんですけどね。実はその。

   お、織斑君が篠ノ之さん達に怒られて、気絶してしまって

   ですね。き、機龍君に残りの、と言うか全生徒の測定を

   お願いすることに」

機龍「え?……つまり、残りの全生徒の事を、僕が、測るんですか?」

真耶「は、はい。……そうなります」

と、申し訳なさそうな表情を浮かべる真耶。

 

対して、機龍は……。

今まさに、彼はこの世界で最大級のピンチを感じていた。

 

この今の世界、ISの世界へと転生した初期の機龍ならその頭には

性欲のせの字もなかっただろう。

だが、簪、ラウラ、セシリア達と言った美女たちと愛し合ってしまった

今の機龍は否応なく女性の放つ甘い香りにあそこが反応してしまうのだ。

 

学園の全生徒数は多い。1学年だけでも100以上は届く数を3年分。

つまり少なく見積もっても300人以上、或いはそれ以上の数の下着姿の

少女たちを前に、機龍は自分の中の欲望を抑えられるか、

自信がなかったのだ。

そして、彼の取った行動と言うのが……。

 

 

機龍『ゴジラ~!助けて~!』

精神世界の同居人、ゴジラに助けを求める、であった。

ゴジラ『うぉい!こんな時に俺を頼るな!大体お前今まで俺に一度だって

    頼った事ねえだろ!?』

機龍『だって、だってこのままじゃ、僕、僕、自分を

   抑えられないよ~!』

と言って精神世界のゴジラの前で泣き出す機龍。

ゴジラ『知るか阿保ッ!大体俺にどうしろってんだよ!?

    俺はお前みたいに数を測るのなんざできねえからな!?』

機龍『で、でも~!』

ゴジラ『だったら目にサーモグラフィーでもかけて逆に女を

    まともに見ないようにするとかあんだろ!?それに、我慢できねえ

    って言うなら夜にあの3人の誰かにでも相手してもらえ!』

とだけ言い残すと、ゴジラは更に奥の深層意識に潜って行ってしまった。

 

 

仕方なく意識を現実に戻す機龍。

機龍「わ、わかりました。できるだけ、やって、みます」

 

その後、機龍は自身の中の煩悩を必死に抑え込みながら、午前中すべてを

使って全校生徒の身体測定を行ったのだった。

そして、昼休み。

  「………」

   『グデーーン』

教室の自分の机の上に突っ伏す機龍。

 

ラウラ「だ、大丈夫か機龍」

機龍「ご、ごめんお姉ちゃん。正直、もうダメ。あ、頭の中にみんなや先輩

   達の姿が焼き付いちゃって」

モーラ「流石にあんなことをしたのでは、疲れますよね」

今、彼の頭の中には大勢の女生徒たちの下着姿が映し出されていた。

と言うか、一夏が清香の測定すらできずにいたため、結局機龍が

全校生徒の身体計測を行ったのだった。

 

白に桃色、水色、更には黒と様々な色や形の下着の少女たちの姿が頭に

焼き付いて消えない機龍。あの時は極短のスカートを穿いていたため、

あそこが大変な事にならないようにしていたが、今は少し悶々としていた。

と、そこへ一緒にお昼を食べようと簪がやってきた。

 

一夏は箒、鈴、シャルとお弁当を持って屋上へと向かい、

機龍は簪、ラウラ、セシリア、モーラと共に学食の方へと

向かった。

だが、機龍は生徒達とすれ違う度に検査の時に見た下着姿を

思い出してしまった。

 

超天才級の頭脳を持つ機龍は、身体測定の際に個人の顔写真付きの

ファイルを見ながら検査を行ったため、もうその頭の中に学園全て

の女生徒の顔と名前、そして、検査の時の下着が鮮明に、

パソコンに保存されている画像のように、はっきりと、

フォルダに収めているように、記憶されていた。

 

彼は今この時だけ、こんなにも記憶力の良い頭を呪った。

おかげですれ違う生徒全員の下着姿が頭の中に思い起こされ、

ムラムラとした感情が押し寄せてきた。

そんな時だった。

 

モーラ「機龍、大丈夫ですか?」

俯く彼の顔を覗き込むモーラ。

機龍「あんまり、大丈夫じゃ、無い、かな。正直、刺激が強すぎて、

   逆に体が、その」

ラウラ「湧き上がる衝動を抑え込もうとして、逆に体調を壊している。

    そんな風に見えるぞ?」

機龍「その通り、なのかも。何て言うか、その、み、見ちゃった記憶の

   せいで、その」

と言って顔を赤くしている機龍。それを見たモーラが……。

モーラ「……仕方ないですね。機龍、それと簪さん、セシリアさん、

    ラウラさん。今日の夜私のお部屋に来て下さい」

簪「私たち4人がですか?でも、それだと」

モーラ「大丈夫です。私、人数の関係上二人部屋を一人で使わせて

    貰っているんです。ですからご安心ください」

と、言うのだった。

 

そして、その日の夜。それぞれが私服やら寝巻やらでモーラの

部屋にやってきた。

   『コンコン』

モーラ「あ、はい。どうぞ~」

先頭を歩いていた機龍が部屋のドアをノックすると、中からモーラの

声がして彼らを招き入れた。

機龍「お邪魔します」

ドアを開けて中に入る機龍達。部屋の中では桃色の和服を着たモーラが

机に向かって読書をしていた。本にしおりを閉じてから立ち上がった彼女は

機龍達の方へ視線を移した。

 

モーラ「皆さんいらっしゃいましたね」

ラウラ「それで、私たち4人を呼び出してどうするつもりだ?」

各々ベッドや空いている椅子に腰かける機龍や簪たち。

モーラ「それはもちろん、私たちで機龍とするんですよ」

簪「す、するって、何をですか?」

モーラ「決まってるじゃないですか。夜伽ですよ」

それを聞いた瞬間、その意味を唯一わかる簪の顔が真っ赤になった。

 

簪「よ、よよよ、夜伽って、エッチな事じゃないですか!」

と叫ぶ簪。それによって夜伽の意味を理解したセシリア、ラウラ、

そして機龍の顔がリンゴかトマトのように真っ赤になった。

モーラ「はい。そうですけど、何か問題でもあるのですか?

    私的には、もうすでに皆さんは機龍と一夜を共にされている

    と思ったのですが……」

それを聞いた瞬間、簪たち3人はそれぞれの初夜の事を思い出して

更に赤面した。

 

   「どうやら図星のようですね」

そう言うと、モーラは天井の明かりを消した。今は、ベッドの横の

ライトが光り、僅かな光源となっていた。

   「無論、無理にとは申しません。が、私はやる気十分ですよ」

そう言って和服の帯紐を外すモーラ。

   「さぁ、皆さんは、どうなさいますか?」

その問いを聞き、視線を機龍に集中させる簪たち。

 

機龍は今、顔を赤くしながら和服の隙間から見えるモーラの肌を凝視

していた。誰の目にも、機龍の中の獣が爆発寸前なのは確実だった。

そして、簪たち3人はゆっくりと頷いた。

 

※ ここから先はR18の方に投稿します。

 

 

少し浮世絵離れした少年少女たちの日常。そして、学生にとっては

体育祭や学園祭にも並ぶビッグイベントが機龍達に迫っていた。

 

だが、彼らは知らない。それがまた、一つの転機になる事を。

 

一つのファクターで目まぐるしく変わる物語。

そのファクターは、オリジナルにどんな変化を促し、どのような

『アナザーストリー』を紡ぐのか?

 

やがて、物語は大きく変わりだすのだった。

 

     第22話 END

 




次回からは京都編のお話ですが、私的にはアニメ設定と
原作の設定を混ぜて、生徒達の修学旅行が行われている裏で、
亡国企業の掃討作戦が行われている、と言う感じにしようと
思っています。
それと、余談になりますが、以前同じようにあとがきに書いた
機龍を更に異世界に行かせて死亡フラグをへし折らせまくる
話は書く方向に決まりつつあります。この話、鋼鉄の銀龍も
京都編を書いてから更にオリジナルの決戦編を書いて
終了になるかもしれません。
コメント、評価など、お待ちしております。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第23話

今回は小説とアニメの設定を織り交ぜたオリジナル回です。
ですので、アニメ本編だけを見ている方には分からない場所が
あるかもしれません。ご了承ください。


~~前回までのあらすじ~~

ゴーレムⅢ、全12機の襲撃を乗り越え、更なる力を発現させた機龍と

絆を深めた一夏達。そして、長年の姉との不和を解消した簪。

そんな数日後の事。一夏と機龍は何と、全女生徒の身体測定の

測定係に選ばれてしまう。一夏の方は早々に箒たちにしばかれて

離脱。逆に機龍が全女生徒の身体測定を担当する事になってしまう。

そんなこんなで、刺激的過ぎる午前中を過ごした機龍は、自分の中で

暴れる欲望が原因で体調不良になりかけてしまう。

そんな彼を見かねたモーラの提案で、彼女と簪、セシリア、ラウラの4人

は彼の欲望、性欲を止めるためにひと肌脱ぎ、彼と体を重ねるのだった。

 

 

やがて、それから数週間後。

今、機龍は大勢のクラスメイトたちと共に、新幹線の座席に座っていた。

機龍「京都か~。テレビとかで見た事はあったけど、行くのは

   初めてだな~」

そう言って、流れる車窓の風景を目にしながら呟く機龍。

鈴「そっか。機龍は京都初めてよね。私なんてこれで3回目よ

  3回目。最初は楽しかったけど、今じゃもうね~」

と言って、愚痴りながらもセシリア達とトランプをして遊んでいる鈴。

 

機龍はそんな彼女の愚痴に苦笑をしたが、すぐに車窓の方に視線を向け、

周りの生徒に悟られないようにしながらも、その表情を引き締めた。

 

その理由は、修学旅行出発の数日前。つまり、今日より数日前の

会議の内容によるものだった。

 

 

その日、機龍、一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、

モーラ、更に2年と3年の専用機持ちであるフォルテとダリルが

楯無によってとある部屋に招集されていた。

総勢12名にも及ぶ専用機持ちが一堂に会していた。

楯無「さて。今日みんなに集まってもらったのは他でもないわ。

   修学旅行に関してだけど。事前に、フォルテとダリル、

そしてこの私が1年に特別に同行する事に関しては

聞いているわね?」

モーラ「3学年の中で、一番専用機持ちが多い1年生。それが学園からの

バックアップを受けられない京都に集まった際、それを狙って

現れるかもしれない亡国企業と戦うため。でしたよね?」

楯無「そうよ。モーラちゃんの言う通り、私たち3人が同行する理由は

   万が一の際にこちらの戦力を整えるため。でも、これは半分はずれで

   半分当たりよ」

一夏「どういう事ですか?」

と、疑問を浮かべた一夏だが、それに答えたのは楯無ではなかった。

 

フォルテ「やっぱ、やるんすね、ファントムタスクの掃討作戦」

と言う呟きに1年、つまりは一夏達の視線が気怠そうに語っている

フォルテに集まった。

機龍「掃討、作戦?……どういう事ですか。楯無さん」

楯無「言葉通りの意味よ。……以前から幾度となく学園を襲ってきた

   ファントムタスク。学園祭の時もそうだけど、イベントの時は

警備がより厳重になるって思われるだろうけど、実際には

大勢の人間が集まる事で逆に個人を集中的に監視する事など

できなくなってしまうわ。あの時、企業の人間に成りすました

亡国企業のメンバーが入り込んだのが良い例よ。ましてや京都は

警備なんてないし、援護してくれる戦闘教員の先生たちもいない。

土地勘のない場所で更にバックアップもなし。戦闘力も低下している。

これだけ揃えば、むしろ向こうが襲ってこないと言う事の方が

おかしいわ。でもね、逆に来るとわかっているなら戦い方は

いくらでもあるわ。……良い?よく聞いて。私たちはこの日、

京都でファントムタスクと決着をつけます」

普段の飄々とした態度から一転して、鋭い眼光を宿した瞳が、一夏達を

見つめていた。

その目に、一夏達は悟った。『間違いなく、京都で戦いが起きる』と。

 

だが、一人だけ機龍は、浮かない顔をしていたのだった。

 

彼が願う事はたった一つ。敵か味方かなど関係ない。

一人でも大勢の人間たちの笑顔だ。それこそが彼の戦う原動力であり、

彼を内から支えるものである。彼は、一人でも多くの人に幸せで

あってほしいと願い、戦う決意を固めた。

だからこそ、彼はスコール達と戦う事になるかもしれない現状に

納得できないでいた。

機龍『僕は、みんなを守りたいと願った。でも、それはお兄ちゃん達だけ

   じゃない。スコールさんやオータムさん。そして、マドカちゃん。

   戦いになれば、間違いなくお兄ちゃんたちとスコールさん達は

   戦う事になる。……その時、僕はどうすれば』

彼にとって、守りたいもの同士が戦う。今にして思えば、機龍が人間同士の

戦いに本格的に介入するのは初めてかもしれない。

初めて殺意を向けられた時、ラウラの時は結果的に試合であったし、

後に暴走したレーゲンを止めると言う事態に発展しただけだったし、

それ以前のゴーレムⅠに関してもあれは無人機だった。

銀の福音の時も、あれは暴走した福音を止める、と言う物だった。

オータムと戦った時はゴジラが主導権を握っていた。

 

彼にとって、その拳は人間に向けて、全力で振り抜いてはいけない代物だ。

人間に全力を向けると言う事は、自分が護ろうとした者を傷つけている

と言う事だ。

だが、戦いになれば、機龍はどちらかと戦わなければならない。

 

一夏達と築いてきた絆は本物だ。それを裏切る事はできない。

が、だからと言ってスコール達に刃を向ける事が正しい事だとも思えない。

 

出口のない迷路に迷い込んだかのように、堂々巡りを繰り返す機龍。

しかし、彼の思考は唐突な衝撃で中断された。

今、彼の背後に一人の人影が迫っていた。そして……。

   『ピトッ』

「ひゃぁっ!?」

唐突に冷たい何かを頬に押し当てられた機龍はびっくりして素っ頓狂な

声を上げてしまった。

ダリル「あっはっは!ひゃぁ、だってさ!何乙女みたいな悲鳴

    上げてんのさ!」

そう言って、グシュグシュと機龍の頭を撫でたのは、護衛の名目で

同行していたダリルだった。

機龍「だ、ダリル先輩!驚かさないでくださいよ!」

ダリル「うるせ~。お前がガキの癖にいっちょ前に悩んでたから

    悩みをすっ飛ばしてやったんだろうがよ」

その言葉に、はっとなる機龍。

   「ほらよ、これでも飲んで頭冷やしな」

そう言って一本の缶ジュースを放るダリル。機龍はそれをうまくキャッチして、

ジュースから彼女の方に視線を移した時には、彼女は既に近くの座席の

方に戻っていた。

それに対し、機龍は薄く笑みを浮かべてからジュースを飲み始めた。

 

 

やがて、数十分後。京都に到着した一行。

彼らは一度、旅館へ赴き、そこで荷物を下ろしてから各々

グループを作ったりして、京都の町へと繰り出していった。

機龍はラウラ、セシリア、簪、モーラと共に町中を歩いていた。

モーラ「ここが古都、京都ですか。私も訪れるのは初めてです」

笑みを浮かべながら風情ある建物に目を向けるモーラ。

 

ちなみに、一夏及び各クラスのクラス代表は班行動とは別に

一人で各地のクラスメイト達の写真を撮りまくっていた。

そして、機龍も今は愛用のカメラを片手にラウラ達や、更に

別のクラスメイト達の写真を撮っていた。

 

そんな時だった。

セシリア「ふぅ。少し歩き疲れましたわ」

簪「あ、それなら近くに和菓子屋さんがありますから、

そこで休みますか?」

モーラ「そうですね。機龍はどうですか?」

機龍「う~ん。じゃあ先に行ってて。僕はもう少し写真を撮って

   後から合流するから」

ラウラ「わかった。では後でな」

 

そう言って、機龍は笑みを浮かべながら4人と一度別れた。

だが、それを建物の影から見ている人物が居た事には、誰も

気づかなかった。

 

そして、機龍が近くの写真を撮っていた、その時。

 

機龍「えっと、次は、ッ!!」

咄嗟に身を翻す機龍。次の瞬間、彼が立っていた近くの建物の

ショーウィンドーのガラスが音を立てて粉々に割れた。

道行く人々が何だと足を止め、振り返る中で機龍は近くの薄暗い

路地の中に飛び込んだ。

 

  「狙撃。まさか、スコールさん達、なのか」

そう言って、室外機の影から僅かに顔を出そうとしたが、その室外機の

すぐ近くの地面に銃弾が突き刺さった。

彼は先ほど、人間離れした聴覚によって遠くからの、サプレッサーを

つけた狙撃の僅かな発砲音を聞き分け、咄嗟に回避したのだ。

 

そして逃げ込んだは良い物の、動けなくなる機龍。

  「せめて、相手の顔だけでも……!」

そう呟いた彼は右手だけをクロー化させ、それを盾のように

展開しながら、路地の外の方に目を向けた。

 

彼の機械としての能力があるからこそ、その目にはズーム機能などが

盛り込まれていた。それを駆使して、弾丸の飛んできた角度や速度から

射撃地点を割り出し、そこへズームする機龍。

 

 

だが、彼の目には、彼自身が見たくない『者たち』が映りこんだ。

 

 

 

  「そ、そんな……!どうして、『先輩』達が」

 

 

 

彼の目に映ったのは、狙撃銃を構える3年のダリル・ケイシーの姿と、

その彼女の後ろで驚愕した表情のフォルテ・サファイアだった。

 

 

 

だが、彼に驚いているだけの時間はなかった。

   『ジャキッ!』

唐突に、彼の頭に銃口が突き付けられた。

オータム「さぁて。大人しくしてもらうか」

機龍「その声、オータムさん、ですよね?」

ゆっくりと両手を上げ、立ち上がった彼が首だけを動かして

後ろに振り返ると、そこには今まさに自分にリボルバーを

突き付けているオータムの姿があった。

 

オータム「へへへ、どうだい?驚いたかい?自分の仲間が裏切り者で」

機龍「……はい。…それで、僕は一体どうなるんですか?」

オータム「スコールがテメエをお呼びなんだよ。大人しく付いて来な」

機龍「わかりました」

今の彼には、唯々頷く事しかできなかった。

 

 

数分後。機龍はオータムに監視されながら一つの高級ホテルへと

足を運んだ。

  「ここに、スコールさんが」

オータム「そうだっつってんだろ。わかったらさっさと歩け」

そう言って、機龍の背中を小突くオータム。

そして言われるがまま、エレベーターに乗り、上階のエグゼクティブ

フロアまで移動する機龍とオータム。そんな時だった。

 

オータム「テメエ、なんでわざと捕まった?」

機龍「………」

オータム「しらばっくれても無駄だぜ。テメエの力なら、私を

     倒すことだってできたはずだ。それとも何か?

     敵の本拠地に乗り込んでって逆に殲滅しようって

     腹積もりか?」

機龍「僕は、そんなことは考えていません。ただ、皆さんと

   話がしたかった。それだけですよ」

と、静かに呟く機龍。

オータム「けっ!バカじゃねえのか!話し合いだと?まだ

     この前みたく分かり合えるだのなんだのとぬかす気か?」

機龍「……はい。僕は、それを信じていますから」

まるで、自分自身に言い聞かせるように呟く彼の姿に、オータムは

バツの悪そうに舌打ちをするのだった。

 

やがて、エレベーターを降りた機龍は、オータムに言われるがまま

同フロアにあるプールへと足を運んだ。

オータム「スコール、連れてきたぜ」

そう言って、こちらに背を向けるように配置されていたチェアに

体を預けていたスコールに声をかけるオータム。

スコール「あら、ご苦労様オータム」

そう言って彼女はチェアから体を起こし、二人の方へと

歩み寄ってきた。

 

それに合わせてオータムはリボルバーをしまい、どこかへと

行ってしまった。そんな彼女を見送った機龍だったが……。

    「お久しぶりね、機龍君」

と言うスコールの声に、彼は視線を彼女の方へと戻した。

機龍「はい。お久しぶりです。スコールさん」

と、挨拶をする機龍だったが、次に何を言えば良いのかわからなくなって

しまった。と、その時。

 

フォルテ「ちょっ!なんでここにそいつが居るんすか!?」

プールの方から声が聞こえたので、そちらに視線を向けた機龍と

スコールだったが、機龍の方は途端に顔を真っ赤にして、体ごと

180℃回転した。

 

 

今、プールの中では一糸まとわぬ姿のフォルテとダリル改め

≪レイン・ミューゼル≫が泳いでいたのだった。

レイン「お?来たみたいだなガキんちょ」

と、顔を赤くしながら胸やあそこを腕で隠すフォルテと、対照的に

どこもかしこも隠す気が0のレイン。

機龍「ご、ごめんなさい!お二人が居るのに、き、気づかなくて!」

と、顔を真っ赤にして、背を向けながら謝る機龍。

しかし、そんな彼の前に今度はスコールが回り込んできた。

 

スコール「あらあら。この程度で赤面するなんて。あなたもまだ子供ね」

と、言って笑うスコールだったが、彼女の場合は水着こそ着ているが、

それでも一般的な水着よりは露出度が高く、その大きな胸や美貌と

相まって、更に機龍を赤面させた。

レイン「お~お~。何顔赤くしてんだよ。この前女子全員の下着姿

    見た癖によ~」

と、プールの方から何やらヤジを飛ばしてくるレイン。

機龍「そ、それとこれとはべ、別で、あの、その」

何とか弁解しようとするが、何を言って良いのか分からない機龍。

 

オータム「ったく。さっきから何騒いでんだよ」

と、そこに今度は水着に着替えたオータムまで現れた。

声のした方に視線を向けた機龍だったが、彼は顔を赤くしたまま、

彼女の方を見つめていた。

    「な、なんだよ。何見てんだよ」

機龍「あ、その、ごめんなさい。オータムさんが、あまりにも、

綺麗だったから」

咄嗟に弁解する機龍だったが……。

オータム「は、はんっ!テメエに褒められてもうれしくもなんとも

     ねえっての!」

そう言ってプールの中に飛び込んでしまった。

 

ちなみに、そんな彼女を視線で追った機龍だったが……。

フォルテ「何こっち見てるんすか!変態!」

機龍「ご、ごめんなさい!」

と、プールの方に視線を向けたために、再び裸体のフォルテと

レインを見てしまった。

レイン「良いじゃねえか。こういう時は、見せつけてやろうぜ」

と言って、フォルテを抱き寄せたレインは……。

フォルテ「あ、ちょっ、こんな所で、ん!」

甘く熱いキスを交わしたのだった。

それを見て、更に顔を真っ赤にした機龍だった。

 

 

やがて、何とか心を落ち着けた機龍は、制服姿のまま、スコールの

隣のチェアに体を預け、ただぼ~っと上空の天井から降り注ぐ

太陽光を防ぐためのパラソルを見つめていた。

しかし。

スコール「それで、あなたはどうするのかしら?」

唐突に、パラソルの刺さっていたテーブルをはさんで反対側の

チェアに腰かけていたスコールに聞かれ、機龍は意識を戻した。

 

その言葉の意味は彼には分り切っていた。

機龍「例の、作戦の事ですよね?」

スコール「えぇ。私たちファントムタスクの掃討作戦。既に

     あの子、レインから内容は聞いているわ。

     あなたも参加するのでしょう?」

機龍「……。僕は、正直に言えば、こんな風になんて、

   戦いたくありません。僕は唯、みんなの笑顔を守りたい。

   それだけの、はずなのに」

スコール「そのみんなとは、学園のあなたのご学友の事なのかしら?」

機龍「みんなはみんなです。一夏お兄ちゃんや簪、ラウラお姉ちゃん達や

   箒お姉ちゃん達。織斑先生、山田先生、束、クロエ。でも、僕は

   スコールさん達の事も守りたい。そう思ってます」

スコール「あら?それはファントムタスクへの参加と言う事で

     良いのかしら?」

機龍「ち、違います。僕は唯——」

体を起こしてスコールの方を向く機龍。だが。

スコール「それは余計なお節介よ。機龍君」

機龍「ッ!」

否定しようとした機龍を遮り、彼の目を鋭いスコールの眼光が射貫く。

 

スコール「私はあなたに守ってなんて、言った覚えはないわ。

     ましてや、それはあなた自身の自己満足なんじゃないの

     かしら?他者を守る事で周囲に自分の力を知らしめ、

     頼られる存在となり、周囲からの信頼を得る。

     そう言うのを、偽善と言うのよ」

その言葉に、機龍は最初、反論しようとした。だが、できなかった。

 

機龍『僕の選んだ道は、偽善なのか。僕が、そうする事で、  

   心の中で、喜んでいたのか。もし、そうなら、僕は、

   最低だ』

きつく目を閉じ、膝の上に乗せた掌に力が入る。

スコール「あなたは唯、戦いが怖いからそれを言い訳に

     しているだけ。違う?そして、あなたの言った

     分かり合えるという思想も、捉え方次第によっては

     唯の甘ちゃんな理想論よ」

 

スコールの言葉に揺れ動く機龍の心。今まで、彼自身が正しいと

思いしてきた事、他者を守る事を偽善、お節介、言い訳と否定され、

分かり合える事が出来ると思う事を理想論と否定され。

全てを否定された機龍の心は、既にボロボロになっていた。

 

その目に涙を溜めている機龍。

     「……。泣くなら他所で泣いて頂戴。ここではやめて」

それだけ言い残すと、スコールは立ち上がってプールへと

飛び込んでいった。

そして機龍も、ヨロヨロと立ち上がると、フラフラとした足取りで

プールを、ホテルを出て行った。

 

ホテルから出て京都の町に歩いていく彼の姿を、プールの外、

テラスから見つめているのは、オータムだった。

そんな彼女の横に歩み寄るスコール。

オータム「良いのかい?結構気に入っていたみたいだが」

スコール「……この程度でつぶれるようなら、所詮その程度だった。

     それだけの事よ」

そう言われ、オータムはスコールから眼下に見える機龍の方へと

視線を移してから、すぐに踵を返してプールへと戻って行った。

残されたスコールは……。

 

    「もし、本当の王様なら、この程度で折れてはダメよ」

と、静かに呟くのだった。

 

 

 

その後、機龍はどこをどう歩いたのかは、覚えていない。

何度かポケットの携帯もなっていたようだが、それも今の彼に

とってはノイズ、雑音でしかなかった。

 

やがて機龍は、気づいたときには、もうすでに旅館の自分の部屋に

戻っていた。

そして、その部屋の端っこで、壁に背中を押し付けるような恰好で

体育座りの姿勢のまま、泣いていた。

 

そんな彼の精神世界では、機龍とゴジラが背中合わせで座っていた。

体育座りの機龍と、彼に背中を密着させながら胡坐をかくゴジラ。

機龍『僕の、してきた事は、全部、全部、偽善だったのかな』

ゴジラ『………』

もう一人の自分は、何も言わない。

機龍『僕が、みんなを守りたいって思う事は、余計なお節介なのかな』

ゴジラ『………』

彼は唯、黙ったまま機龍の言葉を聞いていた。

機龍『僕は、僕は……』

そう言って泣きはらしている機龍だが、やがてゴジラは無言で

立ち上がると、深層意識の奥底へと向かって歩き出した。

  『答えてよ!ゴジラァ!』

そして、とうとう立ち上がって振り返り、去って行くもう一人の自分に

向かって声を荒らげる機龍。

 

だが、それでもゴジラが答える事はなかった。

 

何も答えてくれないもう一人の自分の姿に、機龍の中の

悲しみが更に膨れ上がった。

 

そして、その悲しみが更なる涙となって機龍の瞳からあふれ出した。

 

結局、機龍は簪や一夏達が旅館に戻ってくるまで、ずっと自分の部屋で

泣き続けていた。

最初に機龍の元に来たのは、セシリアやラウラ、モーラ、そして

簪たちの4人だった。

   『コンコン』

ラウラ「機龍?戻っているのか?」

と、部屋をノックしながら中に呼びかけるが、返事はない。

そして、ラウラはドアノブを捻ってみた。

   『キィィ』

   「開いている。機龍?いるのか?入るぞ?」

そう言って部屋の中に入るラウラとそれに続くセシリア達。

 

既に外は夕暮れになっており、部屋の中の電灯はついておらず、

薄暗かった。

電気のスイッチを探してそれを入れるラウラ。そして、4人の

目に映ったのは部屋の隅で縮こまっている機龍の姿だった。

別れた時と今の彼のあまりの変わりように驚く4人。

 

ラウラ「機龍?何があった?大丈夫か?」

彼の横に跪き、その肩に手を置き声をかけるラウラ。だが、機龍は

反応しなかった。

それを見かねて、顔を見合わせるラウラ、簪、セシリア。

しかし、それを見かねたモーラが自身の能力で彼の記憶を

読み取った。

 

数秒後。一瞬だけ驚いた彼女は、すぐに表情を引き締めた。

モーラ「機龍?今は、一人になりたいですか?」

その問いに、機龍は唯、首を縦に振るのだった。

 

そして、ラウラ達は後ろ髪を引かれる思いで、モーラと共に機龍の

部屋を後にした。

セシリア「あの。モーラさん。機龍は一体……」

モーラ「今ここでは話せません。簪さん、一夏さん達全員を集めてください。

    ラウラさんは織斑先生と山田先生、それと楯無生徒会長さんに

    連絡をお願いします」

ラウラ「作戦に関わる者全員か。ならばダリルとフォルテも——」

モーラ「いいえ。あの人たちは既に味方ではありません」

簪「え?」

その言葉に混乱する簪たち。

 

モーラ「機龍の記憶で見た事を、お話します。機龍と深いかかわりを

    持つ、皆さんに」

 

 

その後、モーラの呼びかけで一夏達をはじめとして1年専用機持ちの

8人、楯無、千冬、真耶の11人が一つの部屋に集められた。

そして、モーラの口から語られた、機龍のついさっきまでの記憶。

 

簪たちと別れた後、レインに襲撃されたこと。フォルテが彼女の側に

着いた事。そして、オータムに連れていかれた先でスコールに出会い、

彼女から機龍自身の戦う意味や思いを否定され、心身共に

ボロボロになって戻ってきて、泣き続けていたことを。

 

その事実を知った一夏達の顔が、見る間に憤怒の表情に変わって行った。

ラウラ「何が偽善だ……!機龍の過去も、何も知らぬくせに!!」

鈴「次あったら、あいつら全員、私がぶっ潰す!」

怒りがその場を支配する。

一夏「俺、ちょっと機龍の所行ってくる!」

そう言って部屋を飛び出そうとする一夏だが、そんな彼の腕を

掴んで千冬が止めた。

千冬「やめろ。今の貴様が行って何になる」

一夏「でも!」

千冬「これは奴自身の問題だ!お前たちが口を挟むな!」

なお行こうとする一夏を戒めるように、千冬の怒号が響く。

 

そして、その声に一夏達も落ち着きを取り戻した。

  「確かに機龍の今までの行動を見てきたのなら、何より

   あいつの友人であるお前たちなら、そのスコールと言う

   女の言い分は頭にくるだろう。

   だが、その突き付けられた現実に向き合うのはあいつ自身だ。

   このまま奴が絶望するのか、それを乗り越えるのか、それは

   機龍自身が決めなければならない事なんだ」

その言葉に、一夏達は押し黙りながらも、各々が悔しそうな表情を

浮かべていた。

 

そして、その間も機龍は悩み、泣き続けていた。

 

 

誰かを守りたいと言う思いを否定された銀龍の心は深く傷ついた。

 

彼は悩み続けていた。自分のしてきた事が正しかったのかを。

今の彼には、何が正しくて、何が間違っているのかさえ、

わからなかった。

そして、自分と言う存在が正しいのかさえ……。

 

彼の絶望が更なる絶望を呼び覚ますのか?

それとも……。

 

今、銀龍の心の強さが試されようとしていた。そして、戦いの

始まりを告げる鐘の音が鳴り響く時が近づいてきた。

 

     第23話 END

 




今回はアニメや仮面ライダーと言ったヒーロー物に
よくある苦悩回にしてみました。
また、原作小説で出てきたキャラについてですが、
フォルテとレインは出てきていますが、
アリーシャは今のところ出番はありません。
それと、スコール達と一夏達の戦いもかなり
オリジナルな展開にしようと思っています。
評価、コメントなど、お待ちしております。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第24話

今回はアニメや特撮らしく、苦悩に対して機龍が答えを出す回です。
が、如何せん私は文才もなく、機龍の出した『答え』が
本当に合っているのか?そもそもスコールの指摘に対する
答えとなっているのか、あまり自信がありません。
なにとぞ、温かい目でお願いします。


~~前回までのあらすじ~~

修学旅行で京都へと赴く事になった一夏と機龍達1年生。

しかし、その裏では1、2、3年の専用機持ち全員を結集した

亡国企業の掃討作戦が行われようとしていた。

が、3年の生徒であるダリル・ケイシーはその亡国企業の

スパイであり、その行動部隊、モノクローム・アバターの

隊長であるスコール・ミューゼルの孫娘に当たる

『レイン・ミューゼル』としての本性を現したのだった。

そして、彼女の恋人である2年のフォルテ・サファイアも

彼女について行くために学園と祖国を裏切り、企業側に付いた。

そんな折、機龍はオータムによってスコールの元へと案内されるが、

彼はそこで自分のしたことを指摘、否定されてしまい、

自分のしてきた事への疑問から塞ぎ込んでしまったのだった。

 

機龍が塞ぎ込んだ翌日の朝。

今、一夏達8人は機龍の部屋へと向かっていた。

シャル「機龍、大丈夫かな?」

ラウラ「………」

各々が機龍の事を心配に思い、表情を曇らせていた。

 

と、彼の部屋が近づいてきたその時。

   『ガチャ』

その部屋のドアが開いて、人影が出てきた。

一夏「ッ!機りゅ——」

ゴジラ「あ?」

 

咄嗟に呼びかけた一夏だが、出てきた相手は、8人の望む相手では

無かった。

それは彼、機龍の中に住むもう一人の人格、ゴジラの意識が表面化

したときの黒い髪と赤い瞳の姿だった。

   「あんだ。テメエらか」

そう言って気怠そうに頭をぼりぼりとかくゴジラ。

と、その時咄嗟の事で驚いていた一夏達の横を通り過ぎてゴジラの

前に出たモーラ。

モーラ「ゴジラ、機龍はどうしていますか?」

ゴジラ「あぁ?なんだって俺がそんな事——」

モーラ「良いから。答えてください」

と、声こそ荒らげていない物の、凄みのあるその形相にゴジラは

ため息をついてから話し始めた。

ゴジラ「今は頭と心が参ってるのか、こん中で寝てるよ」

そう言って自分の頭を指さすゴジラ。

   「つか、オメエらこそそんなに集まって何だ?相棒を

    慰めにでも来たのか?」

簪「それは……」

そう言って言い淀む簪。

 

昨晩は千冬から余計な事をしないように釘を刺されていたが、

じっとしてられない8人がここに来ていたのだ。

ゴジラ「まぁ良い。それよりお前ら喰いもん持ってねえか?」

シャル「た、食べ物?」

ゴジラ「こちとら昨日の夜から何も喰ってなくて死にそうなんだよ。

    何かねえか?」

セシリア「あ、それでしたら……」

 

その後、セシリアや簪、鈴やラウラが早朝からやっていた旅館の近くの

コンビニでおにぎりやパンを買ってきた。

そして、それが出てくるなり、ものの数分で平らげてしまうゴジラ。

ゴジラ「ふ~、喰った喰った。んじゃ、寝るか」

そう言って畳の上に寝っ転がろうとするゴジラだが。

鈴「ってちょっと待ちなさいよ!」

ゴジラ「あぁ?んだよ、俺寝てえんだがよ」

咄嗟に声を荒らげる鈴と気怠そうに答えるゴジラ。

 

簪「お願い!機龍と話をさせて!」

その言葉を聞き、倒していた体を起こして胡坐をかくゴジラ。

ゴジラ「……。無駄だな。あいつは今、殻に閉じこもって

    自問自答してる真っ最中だ。本当に自分のしたこと、

    思った事が正しいのか、ってな」

シャル「どうして、そんな事」

ゴジラ「そりゃ相棒がそうしてるからだろ。……あのババアは

    言った。こいつのしていることが偽善、言い訳、

    お節介だと。だがあいつの言った事はあながち間違いでも 

    ねぇ。相棒がテメエらを守りたいって言って守るのなら

    まだしも、あのババア共を守るってのはどういうこった?

    銃口向けてくる相手を誰から守るってんだよ」

一夏「それは……」

ゴジラ「それに、分かり合えるだのなんだのと相棒が言ってたが、

    俺に言わせりゃそれが簡単に出来りゃ人間なんざ二回も、

    デケぇ戦争なんざしてねえだろうし、そもそも

    核兵器だなんていう汚ねえ兵器も作らなかったかもしれねえ

    だろ」

箒「………」

ゴジラ「良く知りもしない相手を守るために戦う事をお節介と。

    分かり合えるかもしれないから戦いたくないってのを

    言い訳と。

    そしてその守るために戦うってことを偽善と言った。

    何一つ間違っちゃいない。守るために戦うと言ったが、

    何を何から守るんだ?相棒の仲間、つまりはお前たちを

    ほかの人間からか?じゃあその人間はどうする?

    殺したくない?……これが言い訳じゃなくて何だって

    言うんだよ」

その言葉に反論できずに押し黙る8人。

簪「でも、それでも。機龍は、私たちの事を大切に思ってくれた。

  それだけは……」

と、正座した姿勢のまま、スカートの裾を掴みながら声を絞り出す簪。

 

ゴジラ「まぁ、そこだけは相棒もしっかりしてらぁな。

    だがな、今の相棒をお前ら風に言うならな。

    『それはそれ、これはこれ』だ。こればっかりは

    相棒自身で答えを見つけなきゃならねえってことだよ」

そう言って一夏達に背を向けるように畳に寝っ転がるゴジラ。

 

一夏「じゃあ、もし、このままお前がその体を使うなら、何をする気だ?」

静かに口を開く一夏。

ゴジラ「知れた事だよ。自分の一番やりたい事をやる。それだけだ」

それだけ言うと、ゴジラはいびきをかきながら寝てしまった。

 

仕方なくその部屋を後にする一夏達。

 

一方、ゴジラ・機龍の頭の中では……。

ゴジラ「ま~たテメエはウジウジしてんのかよ」

福音の戦いのときのように殻に閉じこもってしまい、精神世界で

座り込んでいる機龍の後ろに立つゴジラ。そして、あの時のように

無反応の機龍。

   「良いのか?そんなんだと俺がテメエの体使って

    この京都の人間全員皆殺しにしちまうぜ?テメエの仲間の

    あのガキどももまとめてな」

そう言って凶悪な笑みを浮かべるが、機龍はそれでも反応しない。

以前の福音の時は向かってきて正面からゴジラを睨みつけてきたが、

今はそれすらしない。

   「ちっ。……テメエはもう少しできる奴かと思ったんだがな。

    がっかりだよ、相棒」

そう言って、ゴジラは深層意識の奥底へと戻って行った。

 

 

一方そのころ、千冬は一人薄暗い部屋の中である人物に電話していた。

   『PLLLLL!』

束「は~い♪もすもすひなもす~♪みんなのアイド——」

千冬「あと3秒その口調を続けたら貴様の頭を割りに行くぞ」

束「ごめんなさい!!……でも、ちーちゃんから掛けてくる

  なんて珍しいね」

千冬「……。機龍の事だ。そっちでも既に知っているのだろう?」

束「……。まぁ、ね。一応」

そう言って静かな束に違和感を覚える千冬。

千冬「珍しいな。お前ならやったやつを真っ先に殺しに行くと思ったが」

束「……。そりゃそう思った事もあるけど、リュウ君もそろそろ、ね。

  リュウ君の戦う意味には共感できるよ。命を守るってことにはね。

  でも、その命の線引きがまだ曖昧だった」

千冬「覚悟のない者は、何も守れない。全てを救うと言うのは

   傲慢か」

束「とにかく、リュウ君はそう言う世界の残酷さに向き合って

  貰うしかないと思うんだよね」

千冬「救うものと見捨てるものを選ばせる。そういう事か」

束「まぁ、そうなってもリュウ君は納得しないだろうけどね。

  それも、今のあの状況を乗り越えてからじゃないとね」

千冬「あいつが自分の持つ悩みを超えられるか、そうでなければ

   潰れて終わりか。……どっちに転ぶのだろうな?」

束「こればっかりは、この天才束様でも分かんないよ。

  できれば、またリュウ君の笑顔が見たいけど」

千冬「そうか。……それより、頼んでいた物はできたか?」

束「あ、うん。真耶やんの専用ISでしょ?もうすぐ完成するから

  あと少しだけ時間を頂戴」

千冬「わかった。機龍が使い物にならない上に二人の離脱。

   こちらのダメージは大きい。頼むぞ」

束「サーイエッサー!」

と言うと、束の方から通話を切った。そして電話をしまいながら

千冬は窓の外の晴れた空を見つめていた。

 

 

そして、その日の夕方。もともと予定されていた二日目の

全員での清水寺の拝観のため、指定された時間に清水寺に

集まるように言われていたが、今日も朝から機龍は部屋を

一歩も出てこなかった。

そして、自分では来ないだろうと予測した千冬が簪に

機龍の事を迎えに行かせた。

 

   『コンコン』

簪「機龍、居るの?」

ドアをノックして呼びかけるが、返事は帰ってこなかった。

 「入るよ?」

ドアノブを捻って、扉が開く事を確認した簪がゆっくりと扉を

開いて中に入っていく。

 

部屋の中では、相変わらず機龍が座り込んだままだった。

 「機龍、そろそろ清水寺に集まる時間だから」

機龍「……。うん、わかった」

消えそうな声でそう呟くと、彼はヨロヨロと立ち上がった。

流石にほかの生徒にまで迷惑をかける訳にはいかないと、

今は殆ど残っていない思考でそう思ったのだろう。

 

だが、その足取りは重く、今にも倒れそうだった。

と、次の瞬間。

   『フラッ!』

簪「ッ!機龍!」

前のめりに倒れそうになった機龍の前に手を伸ばし、彼を

横から支えるようにして受け止める簪。

そして、彼女は気づいた。機龍が震えていることに。

 

機龍「ねぇ、簪。……僕の、してきた事って、全部、偽善だった、のかな」

そう言って、彼は自分を支えている彼女の腕に縋りついた。

  「僕は、ただ、誰にも、傷ついて、ほしく、なくて。

   一人でも、多くの人を、守りたくて」

そう語る彼の目からは、大粒の涙が溢れ出していた。

  「全ての、人を、守りたいって、思う事が、偽善、なのかな。

   分かり合えるって、思う事が、言い訳、なのかなぁ」

次第に声が震えだし、溢れる涙の量も増えていく。

  「僕が、人間は、きっと、分かり合えるって。義人が、

   僕に、ごめんね、って、言ってくれた、みたいに、

   心が、通じ合えるって、信じた事が、間違い、だったの、

   かなぁ」

簪「ッ!機龍!」

その言葉に、感極まって彼を抱きしめる簪。

機龍「信じ、たく、ないよぉ。みんなと、の、絆が、僕の、偽善の、

   せい、だ、なんて。みんなと、出会って、笑った、思い出が、

   間違い、だなん、て。僕は、みんなに、出会えて、良かった、って

   思って、居たいよぉ」

涙を滝のように流しながら、本心を打ち明ける機龍。

 

もし、スコールの言ったように、彼の他者を守りたいと言う思いが

偽善なら、一夏達と共に笑い、戦い深めた絆も、偽善によって生まれた絆

と言う事になる。

彼は、それを信じられなかった。だが、否定もしきれていなかった。

偽善が間違いだと言うのなら、機龍と彼らの出会いもまた、間違いだと。

 

嗚咽を漏らしながら、今はまだ、答えを見つけられずに涙を流す銀龍。

その時だった。

簪「偽善なんかじゃない!」

機龍「かん、ざし」

簪「機龍はいつだって、私の事を助けてくれた!一緒に弐式の開発を

  手伝ってくれて、試合の時も守ってくれた!私のために、

  本当の事を話してくれた!お姉ちゃんと仲直りするために、

  協力もしてくれた!それは、偽善なんかじゃない!

  私だけじゃない。ラウラ、セシリア、一夏、箒、鈴、シャルロット、

  みんな機龍に助けられたことがあるし、機龍と出会った事が

  間違いだなんて、誰も思ってない!だからこそ、私は言う!

  『機龍と出会えてよかった』って!」

機龍「簪。でも、僕はそれを——」

否定できなかった。そう言おうとしたが、それを遮るように更に

強く彼を抱きしめる簪。

簪「もう、これ以上機龍に苦しい思いなんてさせないよ。

  もし、機龍が、戦えないって言うなら、機龍の分まで、

  私が戦うから」

機龍「でも!それは——」

簪「機龍は今まで、たくさんの人たちを守ってきた。だからもう、

  無理しないで」

そう言って簪は立ち上がり、機龍の手を引いて彼を立たせた。

 「さぁ、行こう」

機龍「う、ん」

近くにあったタオルで涙に濡れる顔を拭いた機龍。そして、

——簪は外の廊下で待っていたために見えなかったが——タオルの

下から現れた銀龍の瞳には、あの時から消えていたはずの

意思の炎が僅かだが、その瞳の中で輝いていた。

 

理由は唯一つ。少なくとも、簪が戦うのならば、彼女の姉に

誓った事。自分の命と力にかけて、彼女を守る。

例え今は戦う理由が見出せなくても、それだけは、決して

彼が迷うことなく戦場に立てる理由となる。

 

僅かに灯った意思の炎。それは、彼の復活を意味するのか?

それとも、その小さな炎さえ、また消えてしまう運命なのか?

 

それは誰にも分からない。だが、一つだけ言える事がある。

その二つの未来がどちらへと決まるのか、その分岐点となる

戦いが始まるのは、もう間もなくだと言う事だ。

 

 

一方の一夏達は今、モノレールの駅まで戻ってきていた。

一夏「結局、機龍は来なかったな」

千冬「……。ラウラ、簪に連絡しておけ。このままだと入れ違いに

   なる可能性がある。もしまだホテルの近くなら、ホテルに

   戻るように言っておけ」

ラウラ「わかりました」

千冬の言われた通り、ラウラは一夏達と共にモノレールに乗り込みながらも

携帯電話を取り出して簪に掛けた。

 

簪『もしもし?ラウラ?』

ラウラ「簪か?今どこにいる?機龍と一緒なのか?」

簪『うん。今京都駅に居るけど』

ラウラ「そうか。今我々はモノレールに乗って居て、これから 

    そちらに戻る。教官からの連絡で、まだホテルの近くに居るなら

    先にそちらに戻っていろ、とのことだ」

簪『そっか。わかった。じゃあ私と機龍は先にホテルに——』

と、話していた時だった。

   『プシューッ!』

 

箒「何!?」

ラウラ「ん?」

唐突に自動ドアが閉まってしまい、驚く箒と彼女の方に注意を向けるラウラ。

更に今度は京都駅行きと書かれていた車内のディスプレイが乱れ、

砂嵐状になってしまった。

シャル「一体何が——」

そう言って席からシャルロットが立ち上がろうとした、その時。

 

   『ゴォォォォォォッ!』

いきなり何のアナウンスなども無しにモノレールが急発進した。

   「うわっ!」

急発進のために倒れそうになるシャルロット。

一夏「シャル!」

咄嗟に近くに居た一夏が片手で自分を支えながらもう片手で彼女を

受け止めた。

  「大丈夫かシャル」

シャル「な、何とか」

セシリア「一体何がどうなってますの」

突然の出来事に驚き困惑する生徒達。

簪『……ラ、ラウラ。大丈夫?何があったの?』

と、その時、状況を観察していたラウラは携帯が繋がったままで

そこから漏れている簪の声の方に意識を戻した。

ラウラ「簪、よく聞いてくれ。現在我々の乗るモノレールに

    問題が発生したようだ。お前は機龍を連れてすぐにホテルへ

    戻れ」

簪『問題って、大丈夫なの!?』

ラウラ「案ずるな。すぐになんとかなる。……それより、機龍の事を

    頼むぞ」

そう言って、ラウラは電話を切った。

 

簪「あ!ラウラ?ラウラってば!……切れてる」

一方、京都駅の前で電話をしていた簪と彼女の横に居た機龍。

そして、その内容は機龍の耳にも聞こえていた。

機龍『問題って、まさか……』

話の中で聞こえてきた問題と言う単語に『彼女たち』の存在を

イメージした機龍。

と、その時。俯きかけた彼の視界の端に、何かが映った。

慌てて視線を上にあげる機龍。そして、それを見た。

  「あれは、スコールさん」

簪「え?」

機龍の呟きに気付いた簪も彼の視線を追って空へ目を向け、そして

驚愕した。

今、二人の視線の先、夕暮れになり始めたオレンジ色の空を

5機のISが飛んで行った。

 「ファントム、タスク……!」

飛び去って行く5機を視線で追う簪と機龍。

 

機龍「行かなきゃ……!このままじゃ、一夏達が——」

そう言って、己が力を開放しようとする機龍。だが。

   『そう言うのを、偽善と言うのよ』

  「ッ!」

力を開放しようとしたが、できなかった。

頭の中でリピート再生された、一字一句間違う事のない、スコールに

よって突き付けられた言葉。

 

思い出された記憶によって、息を荒らげ、その体を震わせる機龍。

と、その時、簪の両手が機龍の肩に置かれた。

  「かん、ざし」

簪「機龍は待ってて。私が、行ってくるから」

 

そう言うと、簪は機龍の肩から手を離して駆け出し、ジャンプした

瞬間に弐式を展開し、飛び去って行った。

人々がいきなりの事で簪の方に視線を向ける中、一人その場に

崩れるように跪いた機龍。地面に付いた手がゆっくりと握りこぶしを

作る。

機龍『今の僕じゃ、戦えない。こんな、僕じゃ』

そう思っていた、その時。

 

   『僕の命と力にかけて、必ず、簪を守ります』

 

かつて、彼女の姉と交わした約束を思い出し、はっとなる機龍。

 

  『そうだ。例え、僕が、どうなっても、守らなきゃ、

   いけない事だけは、あるじゃないか』

更に強く握りこぶしを作る機龍。そして、自分の爪が掌の皮膚を

破き、血が流れようが構わない機龍。

 

そして、彼は立ち上がると全速力で駆け出して行った。

 

  『例え、スコールさん達にどういわれたって、守りたいものは

   変わらない!僕は』

そう思った時、一瞬ハッとなる機龍。

  『僕自身の、思い。簪や、みんなの、思い。スコールさん達の、

   思い。……そうだ。……やっと、僕も迷いを捨てられる

   かもしれない』

段々と、戦う意思を取り戻しつつある銀龍は、戦いの渦中へと

向かいその足を進めた。

 

 

一方、未だに暴走状態のモノレール内に閉じ込められている

一夏や千冬達。先ほど、真耶がシステムに侵入しようとしたが

出来なかった。と、その時。

簪「セシリア!ラウラ!誰か聞こえる!?」

専用機の待機形態である彼、彼女たちのイヤリングやブレスレットから

簪の声が聞こえてきた。

セシリア「簪さん!?どうされましたの!?」

簪「聞いて!さっき京都駅に居た時、ファントムタスクのメンバーが5人、

  そっちに向かったのが見えたの!」

それを聞いたラウラは、眼帯を取り外して、窓の部分に駆け寄って

外に視線を向けた。

そして、金色に輝く瞳が、迫りくる敵機の姿を捉えた。

ラウラ「見つけた!敵IS、数は5機、接近中!」

千冬「ちっ!ここで総力戦を仕掛けてくるか。……織斑、篠ノ之、凰、

   オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、フラワー、

   更識。ISの使用を許可する。モノレールを援護しつつ、

   敵を迎撃しろ」

8人「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」

 

彼女の命令を聞き、一夏達はISを纏ってモノレールの外へと

飛び出した。

すぐに周囲を索敵した彼らだが、ISのハイパーセンサーがすぐに

真正面から接近してくる5機を捉えた。

千冬『織斑、篠ノ之はMの相手を。凰、オルコットはオータム。

   デュノア、ボーデヴィッヒはダリル、フォルテを。

   更識、モーラは隊長格のスコールを。それぞれ仕留めろ』

8人「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

そう言って、各々の敵に向かっていく一夏達。

 

そして、その様子はスコール達も捉えていた。

スコール「来たようね」

オータム「相手は8機。……あいつの姿は無しか」

マドカ「………」

フォルテ「ま、あんだけボロクソ言われりゃあね」

レイン「良いじゃねえか。敵は少ないに越したことはねえだろ!」

そう言って飛び出していくレインと、慌ててそれを負うフォルテ。

 

スコール『さぁ、あなたの事、もう一度試させてもらうわよ、機龍君。

     あなたがどうしたいのかを。早く来なさい。でないとあなたの

     お友達が死ぬかもしれないわよ』

そう思いながら、彼女は妖艶な笑みを浮かべるのだった。

 

 

一方、市街地の中を走っていた機龍の耳に、『彼』の声が飛び込んできた。

ゴジラ『んで、どうすんだよ相棒』

機龍『……』

ゴジラ『まだ見ず知らずのために、何てぬかす気か?』

機龍『……少なくとも、今僕が護りたいって思う人たちは変わらない。

   一夏や、簪たち。みんなを守りたいって思いに嘘はないし、

   例え偽善と言われても、それを変えるつもりはない。

   お兄ちゃんたちに、僕の『友達』に手を出そうとするなら、

誰であっても、『倒す』』

ゴジラ『……。味方なら護る。敵なら倒す。そう言う線引きって

    事か』

機龍『それに。もう僕は戦場で『分かり合える』なんていうつもりも

   無いよ』

ゴジラ『ほう?んで、どうする?今お前はその味方と敵の居る場所に

    向かってるわけだが?』

機龍『少なくとも、今、僕がやりたい事は、一夏達を守る事。そして、

やらなきゃいけない事は、スコールさん達を、倒すこと』

ゴジラ『なら、また俺はテメエの中からのんびり見学させてもらうぜ』

そう言うと、彼は意識の奥底へと戻って行った。

 

一夏「はぁぁぁぁぁっ!」

そして、今まさに京都の空の上では、13機のISが光の尾を引きながら

ぶつかり合っていた。

一夏の雪片とマドカの新型IS、『黒騎士』の大剣、フェンリル・ブロウが

空中でぶつかり合い、火花を散らしていた。

マドカ「その程度か!」

一夏「ぐあっ!」

切りかかってくる一夏の白式を、逆にカウンターの一撃で弾き飛ばすマドカ。

箒「そこだ!」

が、黒騎士の背後を取った箒の紅椿の右腕から穿千による射撃が

彼女を狙っていた。

マドカ「嘗めるなッ!」

それを迎え撃つように、マドカはランサービットを展開・射撃して

穿千によるビームを相殺した。

 

その近くでは、オータムと鈴・セシリアが。

シャル、ラウラペアとレイン、フォルテペアが。

そして、楯無とモーラがスコールと戦っていた。

 

モーラ「はぁっ!」

   『バシュバシュバシュ!』

連続でアイギスから繰り出されるビームの雨。だがその雨は

スコールのIS、ゴールデン・ドーンの持つバリア、

プロミネンス・コートによって防がれた。

スコール「あらあら。その程度の攻撃では、私を射貫く事は

     できないわよ」

モーラ「私は、あなたを絶対に許さない!」

そう言って半ば激昂しながらも、スコールから繰り出される無数の

火球による攻撃を避けつつビームを放つモーラ。

スコール「許さない?何のことかしら?」

 

モーラ「とぼけても構いませんが、知らないのなら殴ってでも

    思い出させますよ!」

そう言って、急接近したモーラの飛び蹴りが、シールドの上から

ゴールデン・ドーンを蹴りつけた。それでも数メートル後ろに

飛ばされるスコール。

   「私は、あの人を傷つける者を絶対に許さない!」

スコール「傷つける?失礼ね。指摘してあげたと言って欲しいわね。

     ……あの子の考えが甘ちゃんだから言ってあげただけ

     じゃない。偽善だと」

モーラ「黙れ」

スコール「あなた達もそうなんじゃないのかしら?

     彼と築いてきた絆は本物なのかしら?彼を怖がっているから、

     心の奥底で彼を恐怖しているから、友達を演じている

     だけなんじゃないのかしら?」

モーラ「黙れぇぇぇぇっ!!!」

一夏「んなわけあるかぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

そこへ、激怒したモーラと、同じくスコールの言い分に

激怒して我慢ならなくなった一夏が突進していった。

  「俺たちと機龍の絆ってのはぁ!そんな脆いもんじゃ

   ねえんだよ!」

そう叫びながら、プロミネンス・コートめがけて雪片を

何度も降り下ろす一夏。

スコール「そう?彼に偽善には気づいているのかしら?」

一夏「話なら聞いたさ。誰かを守りたいってのが、偽善だってな。

   でも俺はそうは思わねえ!あいつは今まで、俺たちの事を

   何回でも助けてくれた!困ってる時は相談に乗ってくれた!

   一緒に飯食って、笑った、俺の、俺たちの中にある機龍

   はなぁ。優しいけどドジだし、天然な所もあって、

   小さいくせに力持ちで、寂しがり屋だけど、何時だって

   俺たちの仲間で居てくれた!俺はなぁ、バカだから何が偽善で

何が正しいのかなんて分かんねえよ!けど、そんなあいつの

   心を偽善呼ばわりするお前が、許せねえんだよぉぉぉぉっ!」

再び切りかかる一夏だが、そんな彼を横合いからビームが襲い、

弾き飛ばした。

 

何とか空中で態勢を立て直す一夏。そんな彼の元に一度集まる

箒や鈴、モーラ達。

そして、それに向かい合う形で立つスコールとその傍に集まるマドカ達。

 

と、その時だった。

簪「みんな~!」

そこに、弐式を纏った簪が合流してきた。

一夏「簪!」

箒「これで9対5。これなら……!」

仲間の参戦に喜ぶ一夏達と、敵の増援に舌打ちをするオータムや

レインたち。

 

だが、その中で一人だけ、凶悪な笑みを浮かべている者が居た。

マドカだ。

 

マドカ『そう言えば、あの女は篠ノ之機龍の恋人の一人だったな。

    ……そうだ。今ここで奴が死ねば、恋人を失った奴が

    絶望し、ゴジラが現れる』

彼女はそう思い立っていた。そして、次の瞬間。

黒騎士が弐式目掛けて突進していった。

箒「ッ!まさか!」

モーラ「簪さんを狙ってる!簪さん逃げて!」

 

簪「ッ!」

仲間からの警告を聞き、咄嗟に身を翻して向かって来るマドカから

逃げようとする弐式だが、元より近接戦闘性能を追求していた黒騎士

と、マドカの潜在的能力によって、すぐに追いつかれてしまった。

楯無「避けて!簪ちゃんっ!」

その声を耳にして、振り返る簪。

 

次の瞬間、世界がスローモーションになった。

 

振り返り、自分に向かって振り下ろされようとしている

フェンリル・ブロウを驚愕し、見開いた眼で見ている簪。

 

顔上部を覆っているフェイスヘルメットのため、マドカが

今どのような目をしているかは分からない。だが、その口元には

歪んだ笑みが浮かんでいた。

 

  「簪ちゃぁぁぁぁぁぁんっ!!」

夕暮れの京都に、楯無の悲鳴が響く。だが。

 

 

 

 

その時、オレンジ色の空の上を銀色の龍が駆けた。

 

 

 

 

   『ガキィィィンッ!』

 

咄嗟の事で目をつむっていた簪の耳、金属同士がぶつかり合う

音が聞こえてきた。

ゆっくりと目を開けようとした簪だが、唐突に『何か』が彼女の

体を引き寄せた。

寄せられた先にあった金属質の硬い体に手を突きながら、彼女は

自分の体を抱いている手を見てから、視線を上にあげ、驚いてから

その目に涙を溜め、瞳をトロンとさせた。

 

そこに居たのは、彼女がもっとも信頼する少年の真の姿。

『3式機龍改』だった。

 

簪「機龍」

機龍『例え、今の僕の戦う意味が見出せなくても、約束したからね。

   簪は、僕の命と引き換えにしても、守るって!』

   『KYUAAAAAN!』

スピーカー越しに喋り、短く吠えた機龍はブロウを防いでいた

左手を振ってマドカを弾き飛ばした。

マドカ「くっ!?」

何とか態勢を立て直し、再び突進しようとするマドカ。だが、

その前にスコールが現れ、それを制した。

一方の機龍と簪の周りにも一夏達が集まっていた。

 

 

スコール「答えは出たのかしら?機龍君」

機龍「……はい」

そう言って、ゆっくりと簪を離す機龍。しかし、簪の

左手はすぐに機龍の右手を取り、その手を握りしめた。

一度、そちらに目を向けてから、再びスコールの方に

視線を戻す機龍。

 

 

 

 

機龍「僕は………。大馬鹿でした」

 

 

 

一夏「え?」

いきなりそんな事を言い出す機龍に、周囲に居た一夏達が

疑問符を浮かべた。

そして、それはどうやら向こうのオータムやレイン、フォルテも

同じようだった。

 

スコール「大馬鹿。それはどういう意味なのかしら?」

機龍「僕は、逃げていました。それも、とても卑怯なやり方で」

静かに、しかし罪人の懺悔のように語りだす機龍。

 

機龍「僕は、みんなと、簪と一緒に居る事で、思いあがっていました。

   人にはそれぞれ、意思がある。思いがある。好きな事や苦手な事。

   だからこそ人間はいろんなことで対立する。小さな事から、

   大きな事まで。何気ない口論から、戦争と言う形でまで。

   でも僕は、僕自身の身勝手な思い上がりを、『人は分かり合える』

   って言う事を、周りに押し付けるように考えてしまっていた」

簪「機龍」

機龍「それが、僕自身の偽善。思いを押し付けるなんて、最低な偽善

   でした。いつの間にか、まるで上から目線になったみたいに、

   そんな事を僕は言ってしまっていた」

スコール「私が言った事の一つね。なら、後の二つは?」

機龍「もう一つは、言い訳。……僕はその偽善に、逃げていた」

そう言って、自身の鋭利な爪を持った左手を見つめる機龍。

  「覚悟は決めていたはずなのに。まだ上辺だけだった。僕は、

   心の奥底で、この手を血で汚すことを、恐れていた。だから、

   その偽善に逃げ込んだ。戦いたくないからと、押し付けるように。

   人は、そう簡単に他人を理解する事なんて、ましてや完全に

   理解しあうなんて、できません。時間をかけて、ゆっくりと、

   お互いを知って、喧嘩したりして、初めて、僕たちは

   『友達』になれる。でも、僕はいつの間にか、それすらも

   忘れ、偽善の理解を盾にして、戦いから逃げようとしていた。

   それこそが、僕自身の身勝手な言い訳。ましてや僕は、

   一夏達との、何より、義人との本当の思い出を利用して、

   上辺だけで『分かり合える』なんて、言ってしまった。

   正直、今は自分自身に腹が立っています!」

一夏「機龍、お前」

機龍「一夏達との、お兄ちゃんたちとの大切な思い出を言い訳にした

   自分自身が許せない!」

スコール「二つ目の答えね。なら、最後の答えを聞かせてもらい

     ましょうか?あなたの、命を守ると言う事の答えを」

 

機龍「……僕は、人と人が理解しあう事の、本当に分かり合う事の

   難しさを思い出しました。完全な相互理解など、出来はしない。

   だけど、不可能じゃない事はあります。僕たちは、それぞれの

   思いを伝えあって、『友達』になる事はできる!

   どれだけ時間がかかっても、それは決して不可能な事じゃない!

   それは、一夏達みんなが、義人が教えてくれた!

   僕は一度だって義人と言葉を交わしたことはない!それでも、

   義人は言ってくれた!ごめんって!だからこそ、僕は義人や

   みんなと出会って笑って、心を持つことができた!そして、

   その心が叫んでるんですよ!『命』を護れって!」

自分自身の胸に左手を当てる機龍。

  「例え、僕の命を護りたいと言う願いが、スコールさんにとっては

   お節介と言われても、僕は構わない!誰にどう思われてもいい!

   僕は命を守るために戦う!どれだけ世界から否定されて、

   僕の心がボロボロになったとしても、護りたい願いは変わらない!

   それが僕の答えです!命を守るために、この手を血で汚す事が

   罪だと言うのなら、その罪を、いくらでも背負います!

   もう、僕は二度と戦いから逃げたりしない!真っ直ぐに見つめるんだ!

   自分の願いを!護りたい物を!それが僕の答えです!」

その言葉に、決意に、一夏達が力強く頷く。

 

 

もはや銀龍に迷いは無い。彼は唯、命を守るために戦う決意を固めた。

そのためなら、その身に血を雨を被る事も躊躇ない事を。

 

 

スコール「そう。それがあなたの答えなのね。でも知ってる?

     世界はそれほど甘くないわ。犠牲や代償も無しには、

     何も得る事はできないのよ」

そう言っているスコール。だが。

機龍「そうですか。……でも、僕にとってはそれこそ『言い訳』です」

スコール「あら?そう思う根拠は?」

機龍「確かに力が無ければ、何一つ守れない。でも、だからって

   最初から犠牲ありきの考え方なんて間違ってる。そう思います」

スコール「あなたなら犠牲も無しに全てを救えるかもしれないと?」

機龍「かもしれない、じゃないですよ。救うんですよ。全てを。

   ……最初から誰かの命を諦めてるのなら、僕には命を守る

   ために戦う資格なんてありません」

スコール「全てを手に入れようなんて、傲慢ね。それは強者だけに

     許された考え方よ」

機龍「強者ですか。……なら、全てを救えるのがその強者だけと

   言うのなら、僕はその強者となりますよ」

スコール「そう。……それで、あなたは今どうするの?

     私たちの戦うのかしら?」

 

機龍「はい。あと一つだけ、これからやって行こうと思う事があります。

   それは、一つ一つの戦いの中で、自分自身が何を貫くのかを

   決める事です」

スコール「全ての戦いそれぞれに目的を付けるの?それで、今日の

     あなたの目的は?」

機龍「一つ目は、簪も、一夏お兄ちゃんたちも、先生も、クラスメイトの

   みんなを、全力で、何が何でも護る事です」

それを聞き、士気が上がっていく一夏達。彼らは機龍の言う事に

うんうんと頷いてきた。

  「もう一つは、とりあえずスコールさん達5人をぶっ飛ばします!」

そう言ってグッと左手を握りしめる機龍。

一夏「なるほ、ん?ぶ、っとばす?」

更に頷きかけた一夏達だが、後半何やら物騒な事が聞こえてきたので……。

 

 

 

 

9人「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇっ!?!?」」」」」」」」」

 

驚愕の叫び声をあげた。そして、オータムやレイン達二人も

は?と言いたげな表情をしていた。

まぁ、命を守るために戦うと言っておいてぶっ飛ばすとは

どういう事なのか、理解が追い付かなくて当然だろう。

 

一夏「ちょちょちょちょちょ!何言ってるだよ機龍!?」

簪「き、機龍まだどこか悪いんじゃないの!?ねぇ!」

機龍「大丈夫だよ。……そうでもしないと、スコールさん達と

   ゆっくりとお話できませんからね」

簪から視線を移し、スコールと向かい合う機龍。

  「普通に戦っても逃げられちゃいそうなので、取り合えず

   今は皆さんを倒して、とっ捕まえる事にしました!」

一夏「いや何でそうなるんだよ!?」

 

機龍「簡単だよ。確かに僕は、理解し合う事が簡単じゃないって、

   改めて思い知った。でも、言ったよね。友達になる事は

   不可能じゃないって。だからだよ」

そう言って、一度息をついてからスコール達5人と向かい合う機龍。

 

  「スコールさん!オータムさん!マドカちゃん!レイン先輩!

   フォルテ先輩!」

彼女たち5人の名前を叫ぶ機龍。

  「僕は、あなた達と友達になりたい!」

自分の本心を叫ぶ機龍。これには周囲の一夏達も、それと通信で

聞いていた千冬と真耶も、そして、スコール達5人全員も。

驚きポカーンとなってしまった。

  「だからこそ!僕はあなた達と言葉を交わしたい!

   そのためにとりあえず!今は皆さんを拘束します!」

 

どうやら機龍は、この一件で変な枷が外れてしまったようだった。

 

オータム「ば、バカじゃねえのか!お前目的のためにやる事が

     矛盾してんだろ!?」

機龍「それでも構いませんよ!とりあえず、今の僕の目的その2は、

   皆さんと話し合うために、まずは逃げられないように

   捕まえるだけですから!」

簪「き、機龍?」

モーラ「あぁ、どうやら、機龍の中で変なスイッチが入ってしまった

    ようです」

そう言って頭を抱えるモーラ。しかし、その時だった。

 

 

スコール「ふ、ふふ、アハハハハハハッ!」

唐突に高笑いを始めたスコール。

    「友達になるために捕まえるなんて。矛盾だらけね。

     それで、仮に私たちを捕まえたとして、どうするの?

     好感度は最低からのスタートになるかもしれないわよ?」

機龍「上等です!がんばってその好感度を上げて、友達だって

   認めてもらうまで、諦めませんから!」

セシリア「き、機龍?一体、どうして」

楯無「あ~、う~ん。自分の願いに正直になりすぎちゃった、みたいな?」

フォルテ「正直になった途端言ってること物騒になってたら世話ない

     っすけどね!!」

と、相手方から突っ込みが来たが、否定できない一夏達。

 

一方。

ゴジラ『は~。お前、変なスイッチ入ったな~』

機龍『うん!そうかもね!でも決めたよ!もう自分の心に

   嘘はつかない!一夏達は護りたいしスコールさん達とも

   友達になりたい!』

そう言っている機龍は、数時間前まで泣いていたのが噓のような

満面の笑みを浮かべていた。

  「だから真っすぐ!正直に!僕の想いを、この拳に乗せて!」

左手を前に突き出す3式機龍改。

  「あなた達を、この場で倒します!」

高らかに宣言するように、機龍の澄んだ声が空に響いた。

 

相手を倒すと叫ぶその宣言。

だが、その声は、この京都を訪れてからの機龍の放つ声の

中で、一番澄み切っていた。

 

 

少年は戦う。自分自身の願いのために。それは、二つの願い。

一つは、命を守る事。

もう一つは、新たなる友を作るため、今目の前に居る敵を倒す事。

 

     第24話 END

 




と、言うわけで覚醒した機龍ですが、同時に変なスイッチが
入りました。端的に言えば、熱血漢かバカになりました。
しかし、バカになった分以前よりストレートになったとも
言えるかもしれません。
後、原作との変更点についてですが、真耶のIS、
『ショウ・オブ・マスト・ゴーオン』は束が千冬から
の依頼で作ったと言う設定です。また、アニメ本編後の
OVAであるワールドパージに関しては、あれが京都編の
前の話だと言う事をつい最近しったため、京都編が
終わってから変わりになる話を上げたいと思います。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第25話

今回は京都での決戦の中盤です。
最初は終わりまで書き上げるつもりでしたが文字数が
多かったので分割しました。
展開は完全なオリジナル。且つ、チート・ご都合主義的な能力が
覚醒します。


~~前回までのあらすじ~~

スコールからの指摘で、自分の行ってきた事に疑問を抱き、

戦う意味を見失ってしまった機龍。

だが、改めて自分自身を見つめなおし、視野を改める事で

機龍は自分自身の罪、過ちに気付き、自分の戦う意味、

『命』を守るために戦うと言う意味を再確認し、更に

自分自身の戦う意味であり、同時に願いであるそれを貫く

為に戦う事を再度決意したのだった。

……副作用で若干性格に変化が見られたりしたが。

 

 

今、京都の夕暮れの空で向かい合う機龍達10人と

スコール達5人。

そして、機龍は先ほどスコール達を倒し、捕らえると

宣言していた。それもあり、機龍達を警戒するオータムやレイン達。

しかし。

スコール「ほんとに。あなたは面白いわね機龍君。あれだけ深刻に

     悩んだかと思えば、今度はそんな事を言い出すなんて。

     本当に面白いわ」

フルフェイスのマスクの中で笑みを浮かべるスコール。

機龍「伊達に悩みませんでしたからね。ネガティブになるくらいなら、

   ポジティブに!そんな所です!」

 

一方。

一夏「なぁ、機龍性格変わりすぎじゃねえか?」

と、機龍の後ろでひそひそ話をする一夏達。

鈴「吹っ切れた。で片付けて良い変わりようじゃないわよね」

モーラ「多分ですけど、今の機龍ってハイになってるんだと

    思います」

シャル「そ、それであんなに性格変わるかな?」

簪「ハンドルと握ると性格が変わるって言うのは聞いた事あるけど」

セシリア「と、とりあえず今は機龍が復活したから良しと言う事で

     詳しくは後にした方が良いのでは」

ラウラ「そうだな。戦いはまだ終わっていない」

そう言って、真剣な目をスコール達に向けるラウラと、彼女に

続いて表情を引き締める一夏達。

 

その時だった。

スコール「友達ねぇ。良いわよ。それじゃあこうしましょう。

     あなた達が私たちを倒して捕まえられたら、私は

     あなたの友達になってあげるわ、機龍君」

オータム「ちょっ!?本気かよスコール!」

咄嗟に、彼女のすぐ横に居たオータムが叫ぶ。

機龍「成程。なら……。ますます負けられませんね!」

と、もしこれで機龍が人型だったなら、一夏達は機龍の目に炎が

灯っているように錯覚しただろう。

 

スコール「あなた達が私を倒せたら、ね!」

そう言って、笑みを浮かべたスコールはゴールデン・ドーンの

プロミネンスを鞭のように伸ばした。

オータムもアラクネの持つビームライフルを。

マドカもブロウを。レインとフォルテもそれぞれが手持ちの

ライフルを構えていた。

 

すると、それを見た機龍が一夏達の方に振り返った。

機龍「簪、それに、一夏お兄ちゃんたちやみんなも。お願いがある。

   僕は今、あの人たちを倒したい。だから、僕に力を

   貸してほしい」

一夏「機龍」

機龍「身勝手なお願いなのは十分わかってる。だから無理強いは

   しない。でも——」

と、言いかけた時、一夏の白式の右手の甲が機龍の胸の装甲を叩いた。

  「お兄ちゃん」

一夏「……そんな風に頼られるの。もしかしたら初めてかもな」

機龍「え?」

一夏「なんつ~か。俺たちもずっとお前に頼りっぱなしだったって

   言うか、あてにしてばっかだったし。……それがお前の

   やりたい事なんだよな?」

機龍「うん。僕は、スコールさん達とも友達になりたい。だから

   今は、戦わなきゃって思ってる」

一夏「そうか。……なら、俺たちも手伝ってやらねえとな。そうだろ」

そう言って周囲のほかのメンバーたちの方に目を向ける一夏。

彼の視線に、箒や簪、鈴、セシリア、シャル、ラウラ、楯無、モーラが

頷く。

  「なんてたって、俺たちはお前の仲間で、友達だからな」

そう言って、真っ白な歯を見せて笑みを浮かべる一夏。

 

機龍「みんな。……ありがとう」

小さく礼を述べた機龍は、視線をスコール達の方へと戻した。

  「それじゃあ……。行くよ!」

   『KYUAAAAAAN!!』

咆哮を放ちながら、銀龍がスラスターを吹かして突進していった。

そして、それに続いて加速していく一夏達。

 

  「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

彼の中で近接武装では最強(最凶)と言って良いだろうスパイラルクロウが

形成され、ギュァァァァァッ!と凶悪な回転音を上げる。それで

プロミネンス・コートを一撃で切り裂く機龍。

並の銃弾や砲弾は防ぐとはいえ、それは——身もふたもない言い方ならば——

回転する糸、鞭だ。

元より怪獣王の表皮を抉るために作られたドリルの前にそのコートは

意味を持たなかった。

ドリルに絡めとられ、破れた炎の鞭の残火が周囲に飛び散る。

スコール「くっ!」

機龍「まだ!」

咄嗟に後ろに飛んだスコールに距離を詰め、左手の一発を繰り出そうとする。

だが、その時横合いからオータムのビームライフルのビームが飛来し、

咄嗟に後ろに飛んでそれを回避する機龍。

 

オータム「ふざけやがって!テメエみたいなふざけた野郎に

     負けてたまるかってんだっ!」

機龍「でも!僕だって負けませんよ!こうなったら、意地でも

   皆さんの友達になりますから!」

オータム「だから言ってる事とやってる事がハチャメチャだって——」

叫びつつ後退しながら、背部の大型パーツが四分割され、中から

巨大な砲門が現れた。

    「わかれってんだよっ!」

そこから放たれた極太のビーム。だがそれは……。

 

機龍「それでも僕は、皆さんと友達になりたいんですよ!」

高速回転するクロウが真正面からビームとぶつかり合い、

相殺してしまった。

オータム「バカなっ!?」

驚愕する彼女に迫る機龍。だが今度はマドカのランサービットの

砲撃が機龍に襲い掛かった。その砲撃をクロウで弾く機龍。

マドカ「お前の相手は、私だ!」

機龍「でも、負けないよ!」

そう叫びながらターゲットをマドカに変更した機龍のクロウと

黒騎士のブロウがぶつかり火花を散らしていた。

 

その周囲でも、レインやフォルテ、オータム、スコールと戦う

一夏達。

 

だが、この時一夏達10人も。スコール達5人も。自分たちが

監視されていることに気付いていなかった。

 

 

京都郊外にある某ホテルの一室。

ソファに座る男性は左手で頬杖を突き、右手の人差し指で

ひじ掛けをコツコツと静かに叩いていた。

そんな彼の前の液晶テレビに映し出されているのは、リアルタイムの

一夏・機龍達とスコール達の戦いの映像だった。

そして、その男性、ミスター0の顔は無表情だがスコールの

姿がテレビに映る度にひじ掛けを叩く強さが強くなっていた。

0『何が炎の家系だ。所詮は偽りの女。あのクローンも大して

  役には立たんし、奴の孫も部下も程度が知れると言う物だ』

彼の視線はまさしく、物を見る目だった。

しかし、すぐに

 「……まぁ良い。スパイが持ってきたデータで新たな『駒』は

  既に揃った。役立たずの古い駒には、消えてもらうとするか」

 

そう言ってテレビを見つめる0の顔には、正しく悪魔のような

歪み切った笑みが浮かんでいた。

 

 

場所は戻り、機龍と一夏達が戦う京都上空。

そして、先ほどからその近くのレールの上をぐるぐると回っている

モノレール。

千冬「戦闘は、拮抗しているな。……山田先生、列車の方は

   どうなっていますか?」

真耶「ダメです。私のハッキングスキルでは。せめて、簪さんか

   機龍君が居てくれれば」

そう呟いて彼女が黙った、その時。

   『キキィィィィィィッ』

いきなり列車にブレーキが掛かり、慌てて周囲の物に掴まる生徒達。

そして次第にモノレールは減速し、数秒後には完全に停止した。

本音「と、止まったの?」

座席から立ち上がって、窓の外に視線を移す本音。しかし、

驚くのはまだまだこれからだった。

 

束「ふい~。とりあえずこれでOKかな」

突然、どこからか束の声が聞こえてきた。

千冬「この声、束か。どこに居る」

周囲を見回す千冬や真耶、生徒達。と、その時。

   『ジィィィィィッ!』

いきなり天井で火花が散ったかと思うと、それが円形に動き、

天井をくりぬいてしまった。取れた天井が上に持ち上げられて

消えていくのと入れ替わるように、車内に飛び込んできたのが……。

 

束「や~や~や~!お待たせだね~!みんなの期待に応えて

  真打登じょ——」

と、現れた途端束の頭に。

   『ガッ!』

千冬「余計な前置きは良いからさっさと要件を言え」

毎度おなじみのアイアンクローがさく裂した。

束「イダダダダダダダッ!痛いよちーちゃん!」

そう言ってギブギブと彼女の手を叩く束。

 「せっかく頼まれてた新型持ってきたのにこの扱いって

  酷くない!?」

千冬「ならば先にそれを言え」

と言って抗議すると、ようやくクローから解放された束。

束「う~。私はもっと優しい親友の扱いを希望するのだ~」

そう愚痴りながら束は前掛け、エプロンの中から一つのブローチを

取り出し、真耶に差し出した。

 「まぁとりあえず。間に合ったよ真耶やん」

真耶「そ、それ私のあだ名ですか?」

と、苦笑いしながら立ち上がり、そのブローチを受け取る真耶。

束「まぁ、今の様子じゃ今日のところは真耶やんの出番は——」

と、言いかけた束の機械のうさ耳がピクピクと跳ね、彼女は

大股で窓の方へと近づき、空を見つめた。

 

千冬「ん?束、どうし——」

後ろから彼女に声をかけた千冬だが、彼女は親友、束が歯を食いしばって

居るのを見て、彼女が本気で何かに怒っている事に気付いた。

  「……貴様が本気でキレるとはな。どうした?」

束「ちーちゃん。……あいつら企業の構成って知ってる?」

千冬「何?……確か、実行部隊とそれに命令する上層部、だったか?」

束「そう。その通りなんだよ。けどね、今、今この時、一つ変わった

  事があるみたいだ」

そう言って、彼女は窓の外、機龍達の戦う空域の、さらにその先の

空を睨みつけた。

 『私の作ったゴーレム達を改悪してリュウ君達に向けるなんて、

  良い度胸してるじゃないのさ!』

ようやく戻った彼女にとっての息子にも等しい機龍の笑顔。

その喜びを踏みにじるように、新たなる『駒』を遣わして

来た幹部会に、束は怒りをあらわにするのだった。

 

 

一方、戦闘開始から既に数分が経過していた機龍達とスコール達の

戦い。戦況は互角だったが、数は一夏達の方が多い上に機龍は

5人を倒す気満々とあって、既に5人のシールドエネルギーは

レッドゾーンだった。

対して、数の有利と士気の高さを生かしてダメージを最小限に

留めていた一夏達。

シールドやウェポンのエネルギーは消費こそしているが、

彼らの方が有利な事には変わりなかった。

シャル「行けるよ!このまま押し切れば」

一夏「あぁ!みたいだな!」

こちらが優勢とあって士気が上がっていく一夏達。だが、

その時機龍の目がスコール達の背後で、空間の『揺らぎ』が

僅かに起こった事に気付いた。

 

機龍『今、何が』

その空間をズームして調べてた機龍。と、次の瞬間その場所に

ぼんやりと何かのシルエットが浮かび上がった。

  『ッ!!?』

  「スコールさん後ろ!!!」

咄嗟に機龍が叫ぶのと、そのシルエットが明確になるのはほぼ

同時だった。

機龍の声と、レーダーからの警告音を聞き、咄嗟に振り返る

スコール。

 

今、彼女から100メートルも離れていない地点に、ゴーレムⅢ

にも似た黒い機体が滞空していて、その両腕の掌部分に備え付け

られていたビーム砲の砲口が、彼女を狙っていた。

スコール「ッ!」

咄嗟に避けようとするスコール。だが、それよりも先にその黒い機体

からビームが放たれた。

真っ直ぐスコールに向かっていくビーム。

その時。

オータム「スコール!」

咄嗟に、近くに居たオータムのアラクネがゴールデン・ドーンを

押しのけた。

何とかゴールデン・ドーンは射線から外すことができた。だが、このまま

ではオータムにビームが当たるのは必然だった。

しかも今はバリアのエネルギーを消費した状態だ。最悪の場合は……。

 

その最悪の一瞬がスコールの頭の中をよぎった。

スコール「オータム!」

咄嗟に手を伸ばすスコール。だが、届かない。まさか。

その思いが彼女の頭の中を駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

しかし、忘れてはならない。この場には、覚醒した龍が居る事を。

   『バシュゥゥゥゥゥ………』

 

 

 

ビームが当たる寸前、目をきつく閉じていたオータム。

だが、それが届く直前で別の何かに当たる音がした。

恐る恐る目を開けたオータムは目の前に居る『彼』の背中を見て

驚愕した。

オータム「ッ!お前、どうして……」

そこに居たのはつい先ほどまで戦ってきた相手、機龍だった。

 

その言葉に肩越しに振り返る機龍。

機龍「理由なんてありませんよ。オータムさんが僕の事をどう思っているか

はわかりませんけど、オータムさんは僕にとって大切な友達

候補ですから。守りたいって思って、後はもう勝手に体が動きました」

オータム「お前……」

そう言う彼の言葉に、オータムは笑っている少年姿の機龍の幻影を

見た。

 

数秒、視線を交わす二人。しかし、機龍の方はすぐに視線を前に

戻した。

機龍「それより、どうやら横槍が来たみたいですね」

構える機龍を見て、視線を前に戻すオータムやレイン、フォルテ。

そんな彼女たちの近くに移動する一夏達だが、この場に居る15人

の視線はある機体、先ほどスコールを狙撃した機体に向けられた。

 

それは言ってしまえばゴーレムⅢそのものだった。ただし、それでは

語弊があるかもしれない。正確にはその細部が異なっていた。

 

左右非対称だった腕はシンメトリーな細い腕となり、両腕の掌には

ビーム砲の砲口を持ち、両肘部分にもブレードを保持していた。

だが、一番に目を引くのはそこではなかった。元々、

ゴーレムⅢはその背部に羽根つきのスラスターのような物を

肩に接続する形で装備していた。

だが、今の15人が目にしているのは明らかに異なっていた。

 

今のゴーレムⅢは両肩に一個ずつ、なにやら長方形のボックスの

ような物が接続されていた。

箒「あれは、タッグマッチの時に襲ってきた機体。その改修機か?」

疑問を口にする箒だったが、その時。

 

束『改修は改修でも改悪版だけどね~』

 

突然15人の視界に束が映ったディスプレイが現れた。

箒「なっ!?姉さん!?」

束『や~や~や~!お久だね箒ちゃん!それより聞いたよ!

  箒ちゃんいっ君に——』

   『ゴンッ!』

千冬『それは後回しにしろ束』

何かを言おうとした束の後頭部を殴る千冬。

束『ねぇちーちゃん!?ちーちゃんは私の親友なんだよね!?』

千冬『……。あぁ』

束『ちょぉっ!?何その間!?』

と、千冬と束が一緒に居る事に驚いている一夏達を無視しながらコントを

続けている二人。

 

 『ハァ。…まぁ、気を取り直して伝えるけど、いっ君やリュウ君の

  戦ったあれ、実は私が作ったんだよ』

一夏「えぇぇっ!?そうだったんですか!?」

束『いや~。実はあの時いろいろ在ったみたいだしレベルアップ

  がどうのって聞いてたからさ~。いや~、ごめんね♪』

と言って誤魔化し半分にウィンクをする束だったが……。

 

機龍「束」

束『うん?どったのリュウ君』

機龍「とりあえず、その事は後で話すとして、帰ったら……。

   『お仕置き』だからね」

と、おそらく今の機龍が人の姿だったら暗い笑顔、すっごい怖い笑顔を

浮かべていた事だろう。

束『え?え?えぇぇぇっ!?そ、それはちょっとリュウ君!?』

機龍「束、ああ言う乱入って大変なんだからね?学校の先生たちも

   予定が狂うって言って頭抱えてたし、だ・か・ら。

   お仕置きが必要だって思ったの。とりあえず、これが

終わったらお尻ぺんぺん百回ね」

一瞬、彼の言った事が理解できずにほかの14人が硬直した。

 

束『い、嫌だ~~~!お願いリュウ君!それだけは、それだけはやめて~!

  わ、私の地位が、尊厳が、名誉が地に落ちちゃうから~!』

と、マジ泣きマジ顔で懇願してくる束。後ろで千冬が必死に

笑いをこらえていたが、束には気づく余裕がなかった。

機龍「良いけど、もう二度とあんなことしない事。約束できる?」

束『約束します!聖書にでもコーランにでも誓うからお願いそれだけは

  やめて~!』

と、完全に世界1の天才を尻に敷いている機龍。

機龍「うん。それなら良いけど」

と、笑顔で許した様子の機龍。

 

そんな彼の周囲では……。

一夏「なぁ、機龍完全に束さんコントロールしてないか?」

箒「性格が変わったせいなのだろうが、何と言うか」

鈴「ぜ~ったい今の機龍は怒らせたら怖いわよね」

ラウラ「そ、そのようだな」

と、ひそひそ話をしていた一夏達。

 

機龍「それで束。あれは束が作った子たちに似てるけど、どういう事

   なの?」

束『そ、それについては早速説明させて頂きます!

  あ、あれは私が作ったゴーレムⅢをファントムタスクの

  トップである幹部会が改悪した無人機なの。どうやら

  スパイを使ってその設計図を盗んだみたいなんだ』

機龍「成程。……あれ?でも確かISのコアは束にしか作れないんじゃ」

と、ここに来て、世界に存在するISの数が少ない理由にぶち当たる機龍。

そう。コアは束以外には作れない。もはや常識となった全世界の人間の

認識だ。

束『そう。コアはね。でも、言っちゃなんだけどそれ以外に関しては

  もう世界各国で作られるようになってる。だからだけど、

  コアに関する問題さえ解決できればISを配備する事は

  できるんだよ』

シャル「それって、ISを動かせるだけの出力、もっと言えば

    エネルギーがあればいいってことですよね?」

束『そう。あのISは、ダミー・ゴーレム、とでも名付けるけど、

  ダミー・ゴーレムの両肩、ボックス型のパーツが付いてるでしょ?

  あれはもともと、米軍が戦闘機に載せて、敵機やミサイルを

  瞬時に撃ち落とすためのレーザー砲を動かすために

  開発していた新開発の小型のジェネレーター。それをどっかから

  設計図か実物を奪ってきてコアの代わりにダミー・ゴーレムを

動かす動力にしたみたいなんだよ』

箒「それで、奴の性能は?」

束『攻撃力に防御力、機動力もガタ落ち。攻撃にエネルギーを

  裂き過ぎればすぐに電力切れになるし、同じ理由で大した

  量のシールドエネルギーも無い。あんなでっかいのを背負ってる

  時点で機動力も第2世代IS以下。稼働時間も精々30分程度。

なんだけど……』

 

と、その時。1体目のダミー・ゴーレムの周囲の空間が揺らいだかと

思うと、まるで蜃気楼のように光学迷彩で隠れていた何体もの

D(ダミー)・ゴーレムが現れた。

 『数少ないメリットがあるとすれば、物量かな』

 

現れたD・ゴーレムの総数は何と、50体にも上った。

咄嗟に武装を構える一夏達。対して、先頭のD・ゴーレムが

腕のビーム砲を発射しようとした、その時。

   『ドガガガガッ!』

不意に一夏達とは別の方向からの銃撃がその一機に襲い掛かった。

2発、3発程度を受けてから後ろに後退するD・ゴーレム。

後退するD・ゴーレムを見てから、銃声がした方へと視線を移した。

そこに居たのは……。

 

簪「や、山田先生!?」

フィッティングが終了した専用機、R・スペシャル(Rはリヴァイヴの頭文字)を

纏った真耶だった。

真耶「皆さん!お待たせしました!これからは私も参戦です!」

そう言って、手に持っているサブマシンガンを振る真耶。

これで数は16対約50。数なら向こうが上だがこちらは向こうに

後れを取るほどのメンバーはいなかった。

 

但し、万全の状態なら、である。

チラッとだけ後ろのスコール達の方に視線を移してすぐに前を見つめる機龍。

今のスコール達5人はエネルギーが底を尽きかけている。これ以上の

戦闘は危険だと機龍は判断したのだ。

機龍『最悪、スコールさん達を先に離脱させて……』

と、考えていた時だった。

0『全く。君がここまで無能だったとは思いもしなかったよ。

  スコール・ミューゼル』

突如として、数機のD・ゴーレムから加工された男性の声が

聞こえてきた。

 

一夏「声?」

セシリア「で、ですが一体誰の?」

スコール「……。やはりこの無人機達を差し向けたのはあなた

     でしたか。ミスター0」

機龍「スコールさん?」

そんな事を言い出したスコールに対して、振り返る機龍。

真耶「それって一体、誰なんですか」

オータム「……私らはスコールの元で戦ってる。だが、そのスコールに

     命令する奴らが居んのさ。それが幹部会の連中だ。

     だが、スコールにすら素顔を見せないどころか幹部連中でも

     お互いの事を数字で呼び合うくらいの、徹底した秘密主義の

     クソ野郎たちってことだよ」

スコール「付け加えるなら、彼らの数は13人。いえ、0の名前を

冠している彼を入れて14人がメンバーであり、

あのミスター0が実質的な幹部会のトップなのよ」

真耶の呟きに、忌々しそうに吐き捨てるオータムと補足するスコール。

    「それにしてもミスター0。さっきの不意打ちは一体

     どういう事でしょうか?危うく、死ぬところでしたわ」

マスク越しだが、静かに声がするD・ゴーレムを睨みつけるスコール。

 

0『ふ、ふふふ。簡単な話だよ。もはや我々にモノクローム・アバター

  などと言う人間の『駒』など必要ないからだよ』

スコール「つまり、私たちは用済みと言うわけですか?」

0『その通りだ。……何が炎の家系だ。笑わせてくれるな。貴様の

  無能な配下も、そこの出来損ないのクローンもその程度とは、

  貴様の力量も高が知れたと言う物だ』

オータム「んだとこの野郎っ!!」

マドカ「………」

   『ギリッ!』

0の言い方に声を荒らげるオータムと、声こそ出さない物の、奥歯を

ギリッと鳴らすマドカ。

 

 

だが、この時ミスター0は失策をした。

 

 

 

 

 

それは、銀龍の逆鱗に触れた事だった。

 

機龍「駒?なんですか、その言い方」

静かに、機龍の爪が閉じられ、握りこぶしを作っていく。

  「オータムさんやスコールさんが、無能って。

   マドカちゃんが、出来損ないって、どういう意味ですか」

俯く機龍。だが、その近くに居る一夏達は感じていた。

それは、機龍が放つ『殺気』だった。

だが、機械越しにしかその場を見ていない0は気づかなかった。

 

0『所詮彼女たちなど戦う駒でしかない。役に立たない駒は、相手の

  駒を取るための囮にするか、或いは役に立つ別の駒に取り換えるに

  限る。そういう事だよ』

機龍「……れ」

0『新しい駒も手に入った上に、人間以上に従順だ。勝手な行動を

  する人間の駒などより、ずっと良い』

機龍「…まれ」

カタカタと機龍の体が震えだす。同時に、どんどんと濃密になっていく

殺気。そして、それは周囲の者たち、すなわち一夏達やスコール達の

骨身にまで染み渡っていた。

そんな彼女たちだからこそ気づいた。

 

『こいつを本当に怒らせてはいけない』と。

 

だが、そんな事を知りもしない0は更にしゃべり続けた。

0『古く役に立たない駒には、即刻退場願おうか。つまりは、

  死んでもらうのさ』

 

 

 

———プツン———

言ってはならない事を言ってしまった。

 

銀龍の前で、『他人に死を強要』すると言う事は、どういう事か、

今この場に居る者たち全てが思い知る事になるだろう。

 

そう、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

  「黙れぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!」

   『GAOOOOOOOOOOOOOOON!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

京都の夕暮れの空に、アリーナでの戦いのとき以上の大ボリュームの、

怒り狂った龍王の咆哮が響き渡った。

天に向かって咆哮した銀龍の頭が、ゆっくりと下に向かって垂れた。

 

 

 

咄嗟の事で、D・ゴーレムのスピーカー越しにその咆哮を聞いた0は

余りの音量に耳を抑えた。

 

 

機龍「……。一つ、あなたに言っておきたい事がある」

俯いていた機龍の顔がゆっくりと上がり、そして、D・ゴーレムの

集団を睨みつけた。

  「命を、誰かの命を道具のように扱うあなたは——」

ギリギリと拳に力が籠る。

  「僕が必ず倒す!!!!!」

裂ぱくの気合と共に機龍の宣言が周囲に響く。

  「スコールさん達は、無能なんかじゃない!

   マドカちゃんは、欠陥品なんかじゃない!みんなそれぞれが

   心を、感情を、想いを持って今を生きている『人間』だ!

   それを、それを駒と見下すあなたを僕は絶対に

   許さない!」

怒気の籠った言葉をぶつける機龍の背中を、オータムやスコール、マドカ

達が見つめていた。

0『……。子供が。偉そうに……!』

そう言って、ブレードを構えるD・ゴーレム達。

 

それを見た機龍は、一夏達の方に向き直った。

機龍「みんな。さっきからお願いばっかりで悪いけど、でも——」

一夏「あいつらをぶっ飛ばすんだろ?良いぜ、俺たちも

   力を貸すぜ」

そう言って機龍の横に並び、雪片を構える一夏。

 

箒「命を駒などと、あの男の腐った性根。私たちが

  叩ききってやる……!」

雨月・空裂を構えた箒がさらに一夏の横に並ぶ。

 

セシリア「先ほどの一言。私も頭に来ましたわ」

スターライトを構えながら、機龍の横に並ぶセシリア。

 

鈴「私、ああいう権力者って嫌いなのよね」

牙月を振り回しながら、箒の横に並ぶ鈴。

 

ラウラ「私も奴に兵の何たるかを叩き込んでやりたい気分だ」

レールカノンの狙いをつけながらセシリアの横に並ぶラウラ。

 

シャル「僕もああいう偉そうな大人って、大っ嫌いなんだよね」

ガルムを構えたシャルロットが、鈴の隣に並ぶ。

 

簪「さっきの言い方。私もカチンときたよ」

そう言って、夢現を構えながらラウラの横に並ぶ簪。

 

楯無「そうね。お姉さんは怒らせると怖いけど、今はそれ以上に

   激怒モードなのよね!」

叫びながら、蒼流旋を構えてシャルの隣に並ぶ楯無。

 

モーラ「命を駒と呼ぶなど!我が真名にかけて、悪しき者を

    この手で討ちます!」

ツインウイングスを構えながら簪の横に並ぶモーラ。

 

真耶「私も今日はやっちゃいますよ!」

マシンガンを手に持ちながら、モーラの横に並ぶ真耶。

 

 

これで、京の空に11人の戦士達が集まった。

 

彼、彼女たちの思いは一つ。それは『怒り』だ。

 

怒り。それは本来負の感情と言える物。

 

だが、しかして今の彼女たちを動かすのは『純粋な怒り』

 

恨みや私怨ではなく、命を弄ぶ悪魔への怒り。

 

悪しき者を打ち倒すために、自分自身を鼓舞させるための怒り。

 

今、悪魔の下僕たる機械人形を倒すために彼らの魂が荒ぶる。

 

 

 

機龍「僕の願いは変わらない。それでも、今の僕はあなた達だけは

   許せない!僕の名に懸けて。……怪獣王の名に懸けて、

   あなたを討つ!!!!」

ゴジラ『へっ!そうだなぁ。ああいう人間は、俺たちが一番嫌いな

    人種だからなぁ!』

機龍の中で、彼の相棒たるゴジラも憤っていた。

 

そう。0は怒らせてはいけない王を怒らせたのだ。

   『やるぜ相棒!』

機龍「僕たちは、あなたなんかには、絶対に負けない!!!」

 

機龍の宣言が再度響く。負けられないと言う思いが、11人の心に

響く。

 

そして、それぞれの正義や思いを胸に、無数の悪魔に立ち向かおう

とする戦士の、否、騎士たちの思いは重なり合い、昇華していく。

 

そして、重なり合った『魂』の『絆』は、新たな力を生み出した。

 

 

   『ヴァァァァァァァッ!』

機龍「ッ!これは!」

次の瞬間、機龍の体が黄金色に輝き始めた。そして、その輝きはまるで

黄金の奔流とでも言うように周囲に広がって行った。

 

一夏「機龍が、光ってるのか?」

次第に周囲に広がっていく光の帯。しかし、その光たちは進路を

変えると一夏達10人に向かって行った。そして、その光の帯は

一夏達の元にたどり着くと彼らの体全体を優しく、球形状に包み込んだ。

さながら、見えていなかった球形のシールドが黄金の光を放ち

人の目に見えるようになった、とでも言えるだろう。

そして、その黄金のエネルギーは一夏達と機龍を繋ぎ、更なる力が

機龍から10人へと送り込まれた。

 

と、その時10人の前に新たなディスプレイが現れた。

 

 

   『≪G-PATH≫、ALL・CONNECTING』

それぞれの機体から電子音性が発せられ、ディスプレイの文字を

読み上げていく。

一夏「G、パス?この光の事なのか」

   『ALL・LIMITER、SYSTEM・CUT』

箒「これは!」

更に単語が浮かびあがっているのとは別のディスプレイが無数に現れ、

機体に掛けられていたリミッターを尽く解除していった。

   『SYSTEM、OVER・DRIVE』

次の瞬間、一夏達の眼前に現れたエネルギー系のメーターのゲージが、

振り切れた。

シャル「エネルギーが、全部回復していく」

セシリア「それだけではありませんか。何というか、体の奥底から

     力があふれてくるような。そんな感じがしますわ」

簪「これって、あのアリーナの時と、同じ。ううん。それ以上」

 

そして、その様子は停車していたモノレールのいた千冬や生徒達も

見ていた。

千冬「あれは……」

一人、窓から見える金色の光を見つめながら呟く千冬。

そして、その呟きに答える人物が居た。

束「目覚めたんだよ。リュウ君の新しい力がまた一つ」

と言いながら、座席に一つに座りつつパソコンを操作していた束。

そんな彼女の言葉に、千冬や近くに居た生徒達の視線が束に

集まった。

 

千冬「機龍の新しい力、だと?」

束「そう。……君たちも見たでしょ?夏の臨海学校の時に負傷した

  リュウ君の『傷』を」

傷。その単語を聞いた何人かの生徒が俯いた。

 

あれは今から数か月前。当時臨海学校として海へ行っていた一夏と機龍達に

命じられた暴走した軍事IS、銀の福音の討伐作戦。が、白式、紅椿、

銀狼の3機で初戦を臨んだが、敗北。しかもその際、機龍は腕や顔側面を

抉られるほどの重症を負い、その内部にある『機械のパーツ』を

大勢の生徒に見られてしまっていた。

結局、それはその後に機龍がウェディングドレスの恰好で現れた、と言う

事で大半の生徒たちの記憶を上書きする結果になった。だが、忘れては

いなかったのだ。

 

束「覚えてる子もいるよね?そう。リュウ君は生粋の人間じゃない。

  敢えて言うなら、リュウ君はサイボーグなんだよ」

その言葉に沈黙する生徒達。

 「でもね。要はそこなんだよ。リュウ君の可能性は」

千冬「どういう意味だ?」

束「今のリュウ君はそう。人であり、機械だ。いや、身も蓋もない言い方を

すれば、人の心を持ったロボットだよ。でも、だからこそリュウ君に

出来て他の誰にも出来ない事がある。

それは……。『人』と『機械』を繋ぐ、言うなれば繋ぐ者、

二つをリンクさせる者、『LINKER』」

千冬「機械と人を繋ぐ者か。で、あれはその『リンカー』とやらの力

   で成されているのか?」

束「そうみたいだね。……リュウ君がいっ君達と繋いできた絆は、

  本物だよ。そして、その心の、本当の絆、そうだね。

  魂の結びつき、『魂の絆』は誰にも壊すことはできない。

  そして、今その結びつきの強さが、本当の力になる。

  魂の絆によって呼び起こされた力が、全ての鎖を

  引きちぎる」

そう言って、座席から立ち上がり、窓に歩み寄ってじっと、黄金の

光に包まれた11人を見つめる束。

 「リュウ君は今、ISの中に掛けられてるリミッターの殆どを

  解放してるんだよ」

千冬「リミッターだと?」

束「そ。ISの限界ってのは実はまだまだ上なんだよ。でも、

  本気で高機動をしようとしたらISに乗ってる人間の

  内臓や骨はグチャグチャのシチューになるか、粉になるまで

  バラバラになって終わりなんだよ。武装に関しても、今は

  万が一のために出力が抑えられた状態になってるけど、

  見て。全部解放されてるね」

そう言って、一度座席のパソコンを見てから千冬にそれを渡す束。

渡されたパソコンの画面には……。

 

    『All・System、Activate』

 

と、単語が浮かんでいた。

 「リュウ君と絆を紡いだ者たちだけが至れるISの最高点。

  それは、リュウ君って言う王様から与えられた恩恵。

  あれがそのリュウ君の力の一端って事だよちーちゃん」

ゆったりとした足取りで車内を歩き回る束。その先に居た生徒達は

静かに道を開け、話し続ける彼女に視線を送り続けた。 

 「人であり、機械だからこそ、その両者を繋ぐ。

  それがリュウ君の持つ異様であり、絶対の力。

『エクストラアビリティ』」

静かながらも、土壇場での新たな力の発現に興奮を秘めた彼女の

言葉が車内に響く。

 「そして、その力によって全てのパワーを開放された

  今のいっ君達の白式たち。それはISを超えたIS。

  ISの強化形態、その名も、≪モードAA(ダブルエー)≫」

一度千冬に視線を送ってから、薄っすらと笑みを浮かべて再び窓の

外を見上げる束。そして、傍にいた千冬や生徒達もそれに続き、

太陽の如き輝きを発する機龍と一夏達を見上げていた。

 「また、新たな力が生まれた。ホントに君はスゴイよ。

  リュウ君」

と、彼女は静かに、そして、母親のような柔和な笑みを

浮かべながら呟くのだった。

 

 

そして、先ほどまでディプレイが浮かび上がっていた一夏達の

眼前に、また新たなディスプレイが現れた。

 

   ≪All the chains are removed.≫

   『全ての鎖は外された』

一夏「え?鎖って」

楯無「きっと、私たちのISに掛かっていたロックの事よ」

驚く一夏に説明する楯無。そして、再び文字列は変わっていく。

   ≪Released the power.≫

   『解放されし力』

   ≪It is thy from of sword and the Overthrow the evil.≫

   『それは汝らの剣と成りて、悪しき者を打ち倒す』

   ≪fight≫

   『戦え』

   ≪Into my own soul≫

   『己が魂の赴くままに』

 

簪「これって、ISからの、メッセージなの?」

ラウラ「分からない。ISには意識があると聞いた事は

    あるが……」

と、困惑する簪やラウラ。

モーラ「ですが、一つだけわかる事があります」

しかし、一人モーラは不敵な笑みを浮かべた。

   「少なくとも、今の私たちはパワーアップしていると

    言う事です!」

そう叫び、ツインウイングスを構えるモーラ。

一夏「何かよくわかんねえけど、確かにそうらしいな!」

雪片を握り直す一夏。他の者たちも、確かにと頷き、己が

武器を構える。

そして、最後の一文が11人の前に映し出された。

 

 

 

 

 

   『エクストラアビリティ。

≪スピリッツオブネクサス≫。発動!』

 

 

その一文が出た、次の瞬間。

 

機龍「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

   『KYUAAAAAAAAAAAN!!!!!』

特大な銀龍の咆哮と共に、11人が悪しき者の傀儡集団めがけ、

突進していった。

 

 

 

京都の空を舞台に、戦いの第二幕の火ぶたが切って落とされた。

 

     第25話  END

 




新しい力に関しては後でキャラ紹介のところに詳しく
記載しておきます。
また、この作品のあとの機龍の異世界旅の話について
ですが、個人的にはマブラヴの世界だけでなく、
進撃の巨人やマクロスF、戦姫絶唱シンフォギア
と言ったバトル系アニメとの連続クロスオーバーを
予定しています。
まぁ、要は私の願望通り、死亡フラグをつまようじのように
へし折らせまくりたいがための作品になりそうです。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第26話

今回で京都編も終わるかなって思って書き続けてたら
1万6千字を超えてもまだ終わりませんでした。
ですので、京都編もまだ1話くらい続きます。
今回はD・ゴーレム集団との戦いとマドカとの戦いです。



~~前回までのあらすじ~~

京都の夕暮れの空でぶつかり合う一夏と機龍達10人とスコール達5人。

しかし、その最中戦いに割って入ってきた集団があった。

それは束の作ったゴーレムⅢを改造し、ついには簡易ISとでも

言うべきダミー・ゴーレムの群れだった。それを差し向けた者こそ、

スコール達亡国企業のトップである謎の男、ミスター0だった。

だが、彼のスコール達を駒とするやり方に怒りが爆発した機龍達。

そして、一夏達10人と更に専用機を持って参戦した真耶の

合計11人は、機龍から生み出された黄金の光、魂の絆、

『スピリッツオブネクサス』の力で、悪しき者を倒すために、

戦いへと臨んだ。

 

 

今、京都の空の上を11人の騎士たちが駆ける。

機龍「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

   『KYUAAAAAAN!』

咆哮を響かせ、右手のクロウを回転させながらD・ゴーレムの

集団に向かって突撃する機龍。そして、それに続く一夏達。

今の11人は機龍の新たなる力、『エクストラアビリティ』である

『スピリッツオブネクサス』の力で黄金のエネルギーに包まれていた。

その11人を囲むように50機以上のD・ゴーレムが展開し、

周囲からビームを撃ちまくってくる。だが。

 

一夏「速え!なんかよく分かんねえけど、いつもより機体と体が軽い!」

普段の試合の時以上の急加速・急停止・急ターンを軽々と

やってのけ、襲い来るビームの嵐を次々と避ける一夏達。

シャル「機体に掛かっていたリミッターが外れてる。でも、その分

    このコーティングが僕たちを守ってるって事なの?」

モーラ「どうやら、そのようです!はぁぁぁぁっ!」

飛び蹴りの態勢から加速し、黄金の砲弾となってD・ゴーレムの一集団に

突っ込むモーラ。

繰り出されるキックが数体のD・ゴーレムを貫き、爆散させる。

 

本来、ISのリミッターを解除した状態では人を乗せる事などできない。

だが、今の一夏達の体はISのリミッターの代わりにその黄金の被膜が

守っていたのだ。だからこそ、殺人的な超高機動を何の負荷もなく

楽々とこなせていたのだ。しかし、機龍の力はまだまだこんなものではない。

 

一夏「はぁぁぁぁぁっ!!」

零落白夜を発動した一夏がD・ゴーレムの一体を袈裟切りにする。

爆発する機体から離れ、一瞬シールドエネルギーのゲージに目を向ける一夏。

そして、彼は驚いた。

  「あれ?エネルギーが、減ってない?」

零落白夜は機体、白式のシールドエネルギーを消費して発動する。だが、

彼の見たゲージの目盛りは99999と言う数字から動いていなかった。

一瞬、不思議に思った一夏は試すようにもう一体のD・ゴーレムを

零落白夜で切り裂いた。後方で爆炎が発生するのを聞きながら、

零落白夜を展開し続ける一夏。そして、彼は気づいた。

数字の一桁が、8と9の間をずっと行きかっている事を。

そう、零落白夜でエネルギーを消費した瞬間、新たなエネルギーが

送り込まれていたのだ。

  「何かよくわかんねえけど、これなら!」

白夜を発動したままの雪片を構えて突進する一夏。

  「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

連続でD・ゴーレムを切り裂いていく一夏。だが、その時

彼の背後が揺らめいた。

かと思うと、更に新たなD・ゴーレムの集団が現れた。

鈴「ッ!一夏後ろ!」

一夏「え?うわっ!?」

鈴の警告で注意が逸れた一夏にとびかかり、その両腕を抑える

2機のD・ゴーレム。

  「くそっ!このっ!」

何とか振り払おうとするが、関節部分に抱き着かれるようにして

拘束されているため、雪片を震えず、雪羅で狙う事もできなかった。

シャル「一夏ッ!ッ!」

咄嗟に援護に行こうとするシャルロットだが、無数のビームの

嵐がそれを阻止した。

 

と、その時、1機のD・ゴーレムが両腕のブレードを展開し、

動けない一夏に迫った。

一夏「くっ!」

  『こんな時、ラウラのレールカノンみたいなのがあれば……!』

動けない一夏の頭の中に、独立稼働するラウラのレールカノンや、

鈴の衝撃砲、簪の春雷のイメージが湧いた。その3種は、手による

コントロールを必要としない、いわばハンズフリーの兵器なのだ。

今の彼の状況では、それらがあれば迫りくる一機を迎撃できるのだ。

が、それはない物ねだりだった。

 

 

但し、それを可能にする力があれば、別である。

   『WEAPON・CREATE』

一夏「え!?」

唐突に一夏の前にそんな文字のディスプレイが浮かんだかと

思うと、白式の右肩辺りに黄金の光が集まり、それは形を成した。

それは、一言で言えばラウラのレールカノンを白くリペイント

したかのような物だった。

  「な、なんだこれ!?」

本来白式が持ちえない武器が実体化されたことに驚く一夏。

だが、彼の頭はすぐ目の前に迫っているD・ゴーレムの姿を

捉えた事で切り替わった。

  「一か八か!喰らえ!」

まともな狙いはつけていなかったが、発砲する一夏。

放たれた砲弾は真っ直ぐに飛び、D・ゴーレムの左腕を吹き飛ばした。

  「やった!うぉぉぉぉぉっ!」

咄嗟に喜び、次に体をコマのように回転させて左右の2機を

弾き飛ばす一夏。

簪『織斑君のあれって、まさか……!』

そして、それを見ていた簪は『あの時』の事を思い出していた。

 

少し前のタッグマッチの時。ゴーレムⅢとの戦いの中で、簪は

本来持っていなかったはずの『二本目』の夢現を具現化させて

使用した。

 『結局あの後何回試してもできなかったけど。もしかして

  あれも、機龍の力なの?』

一瞬、そちらに注意が向いていたため、簪は背後から接近する

D・ゴーレムに気付くのが遅れた。

 「しまった!?」

咄嗟に夢現を構える簪だったが、それを下から掬うように

切り上げられ、弾き飛ばされてしまった。

 「くっ!?」

 『不味い!でも!もしかしたら!』

一か八か。簪は右手に拳銃、モーラのアイギスの武装である

ツインウイングスをイメージした。

 

すると、簪の右手に黄金の光が集まり、それは淡いブルーに

ペイントされた一丁の拳銃、ツインウイングスとなった。

 「やぁぁぁぁぁぁっ!!」

   『ビシュビシュビシュッ!』

叫びをあげながら引き金を引きまくる簪。

この時の相手が普通のISだったならばシールドを貫通できなかった

かもしれないが、如何せん相手はD・ゴーレム。

 

数発は耐えたが、すぐに貫通され腕や足、胴体を射貫かれた

D・ゴーレムは爆散した。

それを肩で息をしながら見つめ、そして手元の青いウイングス

に目を向ける簪。やがて、ハッとなった簪は音声コマンドで

弐式に命令を送った。

 「今使える武装の全部をリストアップ!お願い!」

すると。

   『OK、MyMaster』

いきなりそんな文面が現れ、それに被さるようにリストが現れた。

そこには……。

 

 「雪片弐型、雨月、空裂、牙月にガルム、ブルー・ティアーズ

  まである。まさか……。私たちの武装データが『共有化』

  されてるの?」

そう思った簪は、今度は少し離れた所で一夏が使っていた

雪片をイメージした。すると、先ほどのウイングスと同じ

ように黄金の光が集まり、それは新たな雪片となった。しかも

一夏の手元から雪片が消えた様子はない。

 「やっぱり!……これなら!」

一つの確信に至った彼女は、すぐに通信ウィンドウを開いた。

 

 「みんな聞いて!」

ラウラ「簪か!どうした!?」

一夏「あ!それって雪片か!?」

簪「今の私たちはお互いの武装を『コピー』できるの!

  見てて!」

そう言った次の瞬間、弐式の周囲に黄金の光が無数に生まれ、

それが淡い青色のブルー・ティアーズとなった。

セシリア「わ、私のブルー・ディアーズが!?」

簪「お願い!」

驚くセシリアと、ブルー・ティアーズに命令する簪。

次の瞬間、四方八方に拡散した4基のBTがD・ゴーレムを

撃ち落としていった。

 「次!」

その掛け声に合わせ、粒子となって消滅するブルー・ティアーズたち。

そして再び簪の両手に黄金の光が集まり、今度はカスタムⅡの持つ

ガルムが二丁現れ、それをD・ゴーレムに向かって乱射した。

数発の銃弾を喰らい、ギクシャクと不規則に手足を振って爆発

していくD・ゴーレムを見ながら一夏達は驚いていた。

 

シャル「武装を、コピーって、まさか」

そう思って黄金に輝く自身の愛機の右手を見つめるシャルロット。

そして彼女は何かの決心をすると叫んだ。

   「リヴァイヴ!ラウラのレールカノンをコピーして!」

   『YES、MyLady』

次の瞬間、右側のカスタムウイングの上に担ぐようにオレンジ色の

レールカノンの砲身が現れた。

   「行っけぇぇぇぇぇっ!」

次の瞬間、そのレールカノンから砲弾が発射され、一撃で

D・ゴーレムのどてっぱらに風穴を開けた。

   「すごいよこれ!」

モーラ「成程!それなら、私だって!」

次の瞬間、黄色と黒にリペイントされた双天牙月を取り出し、

それを分割して二刀流となったモーラがD・ゴーレムの

集団に向かって突進していった。

 

 

そして、驚いているのは彼、彼女たちだけではなかった。

千冬やその周りに居る生徒達だった。

本音「ぶ、武装の共有化って、そ、そんな事できるんですか?」

と、恐る恐る近くに居た千冬に問う本音。

千冬「ありえん。最近の研究ではコア同士が繋がり、互いの進化を

   促していると言う事例がある。だが、武装の共有化など、

   前代未聞だ」

そう言って本音の質問に答える千冬。そんな時。

束「ふっふっふ。確かに普通ならそうかもしれないけど。

  でもねちーちゃん。見ての通り、今のリュウ君といっくん

  達は普通じゃないんだな~これが」

千冬「どういう意味だ?」

束「今のいっくん達はまさに字のごとく繋がっているんだよ。

  ……力が覚醒した今のリュウ君をコンピューターのサーバー。

  それ以外の皆をネットの端末、ノードとして例えた感じだね。

  個々のノードは中央のサーバーに接続され、同時にサーバーを

  介して他のノードとも接続される。それによって個々のデータは

  サーバーであるリュウ君によって必要な時にどれかのノード、機体に

  瞬時に送られる」

千冬「だが、仮にデータが送受信できたとして、なぜ武装を実体化

   させる事ができる?」

束「良い質問だねちーちゃん。確かにデータだけの受け渡しじゃ武装

  なんて作れない。普通ならね。でも、言ったでしょ?

『普通じゃない』って」

そう言ってどこか自慢げな笑みを浮かべる束。対してそれだけでは

分からない千冬と生徒達。

千冬「もったいぶるな。さっさと教えろ」

束「リュウ君はさっき、あの場に居た箒ちゃん達のIS全てと

  繋がった。そして、覚え、学んだんだよ」

千冬「……。何をだ」

束「箒ちゃんの紅椿の持つ特性、無段階移行、シームレスシフトを

  一瞬で理解し、リュウ君はそれを自分の能力として取り込んだんだ」

千冬「奴がシームレスシフトの能力を手に入れたと言うのか?」

束「手に入れた、だけじゃないね。そもそもあれはパイロットと

  機体の経験値に合わせて自己開発を進めるプログラム。言うなれば、

  自己進化プログラムだね。そして、リュウ君はそれを紅椿と

  繋がった瞬間にコピー、取得し、数秒でそのプログラムを更に

  進化させた。今のリュウ君はいわば、異常ともいえる速度で

自己進化を続ける究極の生命体」

本音「で、でも、リュウ君はどうしてそんな事が出来るんですか?」

恐る恐る質問する本音。

束「さっきも言ったように、リュウ君の体の一部は機械なんだよ。

  それも、頭の中までね。そして、リュウ君はいわば、

  生命と機械のハイブリッド。両方のメリットを持ち生まれたんだ。

  今回の進化はその機械的要因が絡んでいるのさ。

  リュウ君が紅椿のシームレスシフトをコピー、発展させて

  この短時間に習得した能力、それが、『エネルギー変換機能』」

千冬「エネルギーを変換するだと?」

束「そう。リュウ君の中にあるエネルギーを元にして、

  『物質』を作り出すんだ」

それには流石の千冬も一瞬だけ驚き、すぐに平静を装った。

千冬「そんな事が出来る訳ないだろう。物質からエネルギーを

   作る事はできても、エネルギーから物質を作るなど、

   それでは——」

束「『神の所業』、だね。正しく」

そう言って、笑みを浮かべる束。

 「そう。リュウ君は今、普通の人間、いや。普通の生命体なら

  できないようなことを成し遂げつつある」

と言いつつ、再び機龍達のバトルフィールドを見上げる束。

 「リュウ君はサーバーとして、今自分たちが共有する武装の

  データと共に、その武装の作成に必要なエネルギーを

  G-PATHで必要な機体に供給。コアがデータとエネルギーを

受け取り、リュウ君からの命令に従って瞬時に武装を生成する。

これもまた、覚醒したリュウ君の力の一つだね」

千冬「ISのリミッターを解除するほどのハッキング能力。

   その上で機体と搭乗者を守る程の高硬度防壁の展開能力。

 自分も戦闘中でありながら友軍に無制限でエネルギーを送る

膨大な保有エネルギー量と補給能力。

IS能力の学習、獲得、応用をやってのける頭脳。

それが全て、覚醒した奴の力だと言うのか?」

束「そうだね。でも、敢えて言わせてもらうけど、リュウ君の進化は

  むしろこれからなのかもしれない。そして、この能力

  さえも、その進化の通過点なのかもしれない」

千冬「機龍には、まだ上があると?」

束「むしろ、上限なんてないのかもね。リュウ君には」

そう言って、束は再び夕暮れの空で戦う戦士達を見つめるのだった。

 

そして、上空の戦いはと言うと……。

   『KYUAAAAAAAAN!』

咆哮と共に、機龍の口からメーサーが放たれ、それが横薙ぎに

D・ゴーレムの集団を薙ぎ払っていく。

と、その時、残っていたD・ゴーレムの半数が後方で待機

していたスコール達5人の方へと反転、突進していった。

オータム「ちっ!私らはマジで用済みって事かよ!」

咄嗟に手持ちのライフルで狙撃しようするオータム。

   『ビシュッ!ビシュッ!カチッカチッ!』

だが、そのビームはたった数発が出て、2機を撃ち落としただけで

使えなくなってしまった

    「クソっ!こんな時に!」

ライフルに向かって悪態をつくスコール。だが、今の彼女に

そんな余裕はなかった。

スコール「オータム!前!」

オータム「え?」

咄嗟に顔を上げたオータムの眼前には、大きくブレードを構えた

D・ゴーレムが居た。

    「ッ!」

間に合わない!そう彼女の中で彼女の脳自身が叫ぶ。

走馬灯のように記憶が駆け巡る。オータムの視界が酷くスローになる。

    『嫌だ!私は、私はまだ!』

ゆっくりと、D・ゴーレムの刃が振り下ろされようとしていた。

    『まだ、死にたくない!』

きつく目を閉じたオータムの瞳から、僅かな涙が飛び散る。

それが、ヘルメットの中で光に照らされ僅かに輝く。

 

 

 

そして、銀龍はその輝きの意味を悟り、空を駆けた。

彼が夕暮れの空を駆ける理由は唯一つ。己が全力で守るべき

相手を、彼にとって、例えどう思われようと、『大切な友人』を

護るために。

   『ギュッ!』

   『ガキィィィィン!』

不意に、誰かに抱かれたように感じるオータム。そして、自分の目の前で

金属同士がぶつかる甲高い音が響いた。

恐る恐る目を開けたオータムは気づいた。自分が今、機龍に

抱きしめられている事に。

そして、未だに機龍の背びれ部分にD・ゴーレムの刃が打ち付けられるが、

その程度の攻撃では3式機龍の体に傷一つ付ける事などできない。

次の瞬間。

 

   『ズガンッ!』

弾丸のように射出された機龍の尻尾の先端がD・ゴーレムの腹部を

貫いた。

それを肩越しに確認した機龍は、ゆっくりとオータムを放した。

機龍「オータムさん、怪我は……。ないみたいですね」

そう言って一安心したような様子の機龍。

オータム「お前、どうして」

機龍「それ、さっきも聞きましたよ?でも、だからこそ何度でも

   言います。僕は、ただ純粋にあなた達も守りたい。だから

   命がけで守る。ただ、それだけです」

そう言うと、機龍はオータムに背を向け、彼女を庇うように空に立つ。

 

オータム「お前、バカだろ。……私らはテロリストなんだぞ。

     それを、なんで……」

機龍の後ろで俯いたオータムの体が震える。

    「お前が、私を憎めば、それでいいはずなのに。

     そうなれば、私だって、こんな、こんなに」

 

ずっとスコールの傍で戦ってきた彼女にとって、機龍と言う存在は

イレギュラーだった。

彼女にしてみれば、いっその事戦いの中で自分を憎んでくれた方が

楽だったのだ。

ならば自分も相手を憎むだけでよかったのだ。なのに、機龍は……。

そう。彼女もまた、機龍によって乱されていた。

そして機龍も、彼女の心境を理解した。

 

機龍「例え、僕の事をどんな風に思われても、僕は、人間を。

   一夏お兄ちゃんたちも簪たちも、先生たちも、クラスメイトの

   みんなも。……そして、オータムさん。あなたを、

   愛しているから」

その言葉に、唇を噛みしめるオータム。

  「だからこそ、僕は愛する人たちを、命を護りたい!

   それが僕の願いだから。その願いのために、僕は戦う!」

   『KYUAAAAAAAAAAAAN!!』

次の瞬間、黄金のベールを纏った機龍が空を駆ける。

悪しき人形を打ち払う。

 

機龍と一夏達が、オレンジ色の京の空を駆ける。

そのたびに機械人形であるD・ゴーレム達が爆散する。

砕けた破片が周囲に飛び散る。数の有利を奇跡の力が覆す。

一・箒・鈴「「はぁぁぁぁぁぁっ!」」

赤と白と赤黒い剣戟が切り裂く。

セシリア「そこですわ!」

シャル「うぉぉぉぉぉっ!」

ラウラ「喰らえぇぇぇぇっ!」

モーラ「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

真耶「当たりなさいっ!」

青、オレンジ、黒、黄色、緑の機体達から無数の銃弾が放たれ、

薙ぎ払う。

簪「行っけぇぇぇぇぇぇっ!!!」

楯無「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

無数のミサイルが襲い掛かる。その弾幕を抜けた機体を

蒼き槍が穿つ。

そして………。

 

機龍「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

   『KYUAAAAAAAAAAAAAAAAN!!!』

銀色の龍が空を駆ける。

稲妻の如きメーサーが空を薙ぎ払う。無数のミサイルが飛ぶ。

銀色のドリルが、爪が一閃するたびにD・ゴーレムを破壊する。

 

そして、機龍が最後に残った一機のD・ゴーレムに迫り、次の瞬間。

   『ズガンッ!』

機龍のスパイラルクロウが最後のD・ゴーレムの胸部を貫いた。

クロウを引き抜き、彼が後ろに下がった刹那、最後の一機が爆散した。

 

一夏「お、終わったのか?」

機龍が最後の一機を撃破したことで、一夏達は構えていた武器を

下ろした。と、その動作に呼応するように一夏達、正確には白式たちを

覆っていた黄金のバリヤーが消滅し、スピリッツオブネクサス、

『SoN』の力で作られていたコピーウェポンも粒子となって消滅した。

やがて、周囲に敵影が無い事を確認した機龍は後方に待機していた

スコール達へと近づいた。

 

機龍「スコールさん、オータムさん、マドカちゃん、それにレイン先輩、

フォルテ先輩も。お怪我はありませんか?」

スコール「えぇ。おかげ様でね」

機龍「そうですか。良かった~~」

と、自分の事のように安堵している姿に、ズレを感じるレインやフォルテ。

そんな時だった。

 

スコール「それで、どうするの?さっきの戦いの続き、する?」

その言葉にハッとなる機龍。

さっきの続き。それはつまり、機龍達とスコール達の戦いの事だ。

その言葉を聞いた一夏達は機龍の近くに集まり、再び武器を構えた。

対して、レインやフォルテ、マドカ達も各々の武器を構え、臨戦態勢

へと移行した。

 

が、その時だった。

束『はいはいは~い。ストップだよ皆の衆~』

その場にいる16人の眼前に束が映ったディスプレイが表示された。

機龍「束」

束『ちょ~っとだけごめんねリュウ君。私に喋らせてもらえるかな?』

機龍「うん。構わないよ」

と、この場に割り込んでくる形となった束に対し、機龍には特に

怒った様子もなく、彼女に任せた。

 

束『それじゃ、んんっ!え~、私からスコール・ミューゼルさん以下

  5人の皆さんに提案があります。まず第1に。さっぱりばっさり

  言うと、君たちはファントムタスクの幹部会から裏切られ、

  用済みとされたと言う事。これすなわち、君たちの後ろには

  バックアップしてくれる存在が消えたと言う事だね』

と、ストレートに事実を告げる束。

 『第2に。今の君たちはすっかり消耗している。素人でも君たち5人が

  リュウ君達11人に対して勝機がないのはわかるよ』

突き付けられる事実に、悔しそうに唇を噛みしめるオータムやレイン達。

 

が、次の一言は、誰も予想していなかった。

 『と、そこでお姉さんから提案なのですが、君たち、私に雇われる気

  は無い?』

機龍「え?」

オータム「は?」

10人「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!」」」」」」」」」」

疑問符を浮かべる機龍、オータムに続いて一夏達10人が

絶叫した。

機龍「た、束。本気なの?」

束『もちのろんだよリュウ君!いや~私って世界中の国から狙われてる

  からさ~。最近どこかに腰を落ち着けようと思ったんだけどそれだと

  ぜ~~~ったい狙われるからボディーガードを探してたんだよね~』

スコール「それで、私たちを雇いたいと?」

束『うん!衣食住に給料ももちろんだすよ!しかも!君たちのISの

  無償アップデートも補償しちゃうし、新型武装もテスト、装備も

  し放題!悪くないでしょ?』

と、スコール達を誘う束。

 

今の彼女たち5人にしてみれば、もはや亡国企業には戻れない。

しかし、テロリストである彼女たちには、企業以外に行く当てもない。

そうなれば……。

スコール「……。わかりました。その提案を受けます」

オータム「スコール、本気かよ」

と、提案を受けると言うスコールの横に近づき耳打ちをするオータム。

スコール「どのみち、企業にはもう戻れないわ。とはいえ、あそこには

     未練もないし。それなら博士に雇ってもらった方が早いでしょ?」

そもそも、彼女たちはテロリストだ。組織に属していたからこそ、

様々な活動ができたと言う物。だが、その組織から捨てられた以上、

彼女たちの選べる選択肢は少ない。

スコールはそんな中で一番最善の判断をしたと言う事だ。

 

束「うんうん!決まりだね!あ、それじゃあ悪いんだけど

  こっちと合流してもらってもいいかな~?」

と、モノレールの中で通信している束だが、その周りでは生徒達が

怯えた表情をしていて、それに気づいた千冬。

 「どうせ戦いも終わったみたいだしさ~。詳しい話はこっちで——」

千冬「ちょっと待て。束、お前は奴らを私たちと合流させる気か?

   奴らはどうあれ、テロリストだ。生徒達をむざむざ危険に

   晒すわけにはいかん。私は反対させてもらうぞ」

束「え~?う~ん、どうしよ~」

と、千冬の言葉に疑問符を浮かべてから悩む束。

結局、何とか束が千冬を説得し、千冬の一言で一両目を空け、そこに

スコール達5人を乗せる事になった。

 

 

一方、上空では……。

機龍「では、そう言う事なので、一度降りましょう」

スコール「そうね。詳しい話はそこで」

機龍「はい。……みんなも、良いかな?」

と、後ろの一夏達に振り返って問う機龍。一夏達は、最初は

納得できない、と言った表情を浮かべていた。が、すぐに

その表情を崩してため息をついた。

一夏「まぁ、わかったよ」

と、とりあえずは納得した様子だったのだ。

そして、一夏の言葉に機龍が頷いたのを合図に、彼女たちはモノレール

の方へと降下していく、はずだった。

 

マドカ「まだだっ!!」

その時、唯一人その場から動いていなかったマドカが唐突に叫んだ

かと思うと、最前列で降下していた機龍の背中に向かって突進した。

簪「ッ!機龍!」

自分たちを抜かして機龍に迫る彼女を見た簪が叫ぶ。

マドカ「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

黒騎士のフェンリル・ブロウが機龍に向かって振り下ろされる。だが。

   『ガキィィィンッ!』

ブロウの刃を機龍のスパイラルクロウが防いだ。

機龍「………」

   『ガキンッ!』

火花を散らしていたブロウを弾き飛ばし距離を取る機龍とマドカ。

その時、機龍の周りに武器を構えた一夏達が集まる。

一夏「お前っ!どういうつもりだ!?」

マドカ「まだだ!まだ、まだ私は終わってなどいない!私は、負けない!」

もはや自棄になっているように叫ぶマドカ。

対して、雪片を構えた一夏が黒騎士に切りかかろうとするが、それを

機龍のクロウが遮った。

一夏「機龍」

機龍「………。良いよ。ここで決着をつけよう。

   あの日、僕は君と約束したからね。君と戦うって。

   そして、ゴジラが君を認めれば、彼は、いや、僕は君の

   力になるって。……でも、だからこそもう一つだけ約束

   してほしい」

マドカ「……。何だ」

機龍「もしマドカちゃんが僕に勝ったら、僕の中に居るゴジラを開放する」

その言葉に絶句する一夏達。

  「但し、僕が勝ったら、僕たちと一緒に来てもらうよ」

マドカ「……それでも、私は、負けない……!」

ブロウを構えた黒騎士が再び機龍に向かって突進してくる。

 

機龍「彼女の事は僕に任せて。一夏達は下がってて」

そう言うと、機龍はスラスターを吹かして同じようにマドカに

向かって行った。

マドカ「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

機龍「………」

   『ガキィィィンッ!』

気合と共にブロウを振り下ろすマドカとそれを無言のままクロウで

受け止める機龍。

 

と、その時機龍の左手が伸びて黒騎士の装甲に触れた。次の瞬間。

マドカ「ッ!どういうつもりだ!」

咄嗟に機龍と距離を取るマドカ。一夏達はそんな彼女の行動をいぶかしんだ。

   「エネルギーを『分け与えて』、慈悲でもかけたつもりか!」

そう、機龍は先ほどの一瞬で黒騎士の中にエネルギーを流し込んだのだった。

機龍「もう、黒騎士のエネルギーは殆ど残っていなかった。今のまま

   戦ったとしても、フェアじゃない。だから僕が勝手に力を

   与えた。それだけだよ。だからマドカちゃんはその『状況』を

   利用すれば良い」

そう言って、クロウを構える機龍。対してマドカもブロウを構えた。

次の瞬間。

   『KYUAAAAAAAAAANN!!!』

マドカ「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

同じタイミングで突進した二人の刃が空中でぶつかり合い、火花を

散らした。

 

 

今、マドカの頭の中では忌々しい『大人』達の言葉が反芻されていた。

   『もう誰も、私を弱いなどと言わせるものか!全てを壊して、

    証明してやる!私が、世界最強だと言う事を!』

身勝手な理由で生み出され、捨てられた彼女にとって、世界とは

即ち、憎しみの対象でしかない。

 

   『希望などないのよ』

   『絶望しかないのよ』

そして、マドカの頭の中に、『あそこ』で大人たちに聞かされた

言葉が蘇る。

マドカ「絶望しか、それしかないと言うのなら、私が絶望そのもの

    になってやる!」

身勝手に利用された絶望が強大な怒りや憎しみとなってマドカの

中から吹き出す。その怒りをフェンリル・ブロウに乗せて機龍に

叩きつける。

 

 

 

その時、不可思議な現象が起こった。いや、この現象は以前にも

起きた物だ。そう、ラウラと機龍がシンクロした、あの時のように。

 

 

マドカの心の奥底は、暗い深海のようだった。周囲は真っ暗で、

正に一寸先は闇、とでも言うように、何一つ光源のない漆黒の闇が

広がっていた。

そんな中に、一人マドカの、彼女の意識と心だけが漂っていた。

   「認めるものか……!勝手に私を生み出した人間など!

    絶対に——」

ゴジラ「ぶっ殺してやる、か?」

マドカ「ッ!?」

その時、唐突にマドカの心の中に黒い光の塊が現れ、それが

人型を成した。

その人こそ、黒髪と赤い瞳のゴジラだった。

 

ゴジラ「よぉ、邪魔するぜ」

マドカ「お前!どうやって私の中に!?」

ゴジラ「相棒の力さ。テメエの黒騎士のコアを経由してお前の

    精神世界に俺がダイブしているって事らしい。俺も

    よくは知らねえが」

そう言って肩をすくめるゴジラ。

マドカ「ゴジラ、貴様が私に何の用だ」

ゴジラ「用?それはあれしかねえだろ?お前を俺が認めたら

    力を貸してやるって話の続きだよ。

    だがまぁ、今はそれどころじゃねえな」

マドカ「………」

ゴジラ「言っとくが、相棒に勝てないようじゃ俺になんて

    勝てないぜ?」

マドカ「……い」

ギュッと、拳を握りしめるマドカ。

ゴジラ「まぁ、今のテメエであいつに勝てるとも思えねえがな」

マドカ「…さい」

プルプルと彼女の体全体が怒りに震える。しかし、ゴジラはそんな事

など気にせずに言葉を続ける。

ゴジラ「……。戦いの先にお前が望むものは、なんだ」

が、今まで不敵な笑みを浮かべていたゴジラの表情が瞬く間に

引き締まり、マドカを睨みつける。

 

マドカ「うるさいっ!うるさいうるさいうるさいっ!私は、

    私は強くなるんだ!世界最強に!だからお前を倒すんだ!  

    私の力でこの世界を亡ぼすために!!」

ゴジラ「………」

もはや自暴自棄とも取れる台詞にゴジラは自分自身を重ねていた。

 

   「お前は、何がしたい?何かを壊したいのか?」

マドカ「そうだ!壊してやるのさ!私をこんな形で生み出した世界を!」

それを聞くと、まるで壁にもたれかかるような態勢になるゴジラ。

ゴジラ「んで、お前はどうする?テメエの気に喰わないもん全部

    殺して、壊して、最後にお前が残ったとして、お前はどうする。

    もうテメエの前には壊すもんも残ってねえ。最後に残ったのは

    テメエ自身だけだ。それでどうする?最後は自分で自分を

    終わらせるか?」

マドカ「黙れ、黙れ黙れぇ!」

ゴジラ「……。それじゃあ答えにはならねえな。お前、自分の

    中にある『答え』ってやつを見つけた事、あるか?」

そう言いながらゆっくりとマドカの方に歩み寄るゴジラ。

ゴジラ「人間ってやつはどこまでもクソッタレだ。自分たちの欲望に

    どこまでも貪欲だ。金、地位、名誉、どこまで言っても

    更にその上を目指したがる。だがなぁ、これだけは言える」

マドカの真正面に立ったゴジラの赤い瞳が、真っ直ぐにマドカを

見つめている。その瞳に、僅かにたじろぐマドカ。

   「どんだけそれがクソッタレだろうがな。例え、そいつより

    数十、数百、数千倍聖人君子な奴がいたとしても、

    こん中に答えを持てねえ奴はどこまでも弱い」

そう言って、右手の親指を左胸に突き付けるゴジラ。

 

   「さっきまでの相棒もそうだ。自分の答えを見つけられない

    から悩んで、悩み抜いて、答えを見つけた。だからあそこに

    現れた。……だからだ。答えを持ってるやつは強い」

マドカ「答え、だと」

ゴジラ「そうだ。ちっとばかし違う言い方なら、『理由』だ。

    相棒は命を護るために戦うと言った。それが、あいつ自身が

    見つけた『答え(理由)』だ。そして、俺の場合は気に喰わない奴を

    ぶっ飛ばす。それが俺の戦う『答え(理由)』だ。

    ……俺もあいつも答えってのはシンプルだ。けどな、だからこそ

    それは曲がらねえ。強く在れる。もう一度聞くぞ。

    お前の戦うための答えは何だ。破壊か、絶望か、それとも」

ゆっくりとマドカの胸に右手の人差し指を突きつけるゴジラ。

   「お前はさっきの戦いが終わった時、動揺していた。

    お前自身が本当に答えを見つけているなら、動揺なんてしない。

    何があろうと震えることなんてねえ」

じっと、真っ赤な瞳がマドカの瞳を真正面から、真っ直ぐに見つめる。

 

その赤い瞳は震えも、偽りも、虚構もない、破壊神であり、獣だからこそ

生み出せるどこまでも真っ直ぐな瞳。

そして、逆に俯き震えるマドカ。普段は寡黙で強気な彼女が震えていた。

黙ったままのマドカ。

   「テメエはな、自分自身に嘘をついているんだよ。昨日までの

    相棒と同じだ。何かを理由にして、本心を隠して逃げている。

    だから弱い。………テメエの心にもう一度だけ手当ててみな。

    お前の心は何て叫んでる。何を求めてる」

俯くマドカを見下ろす彼の瞳には、どこか哀愁にも似た表情を

浮かべていた。

    

   「俺は、昔人間ってやつに家族を殺された」

静かに、ゆっくりと語りだすゴジラ。

   「俺の体もクソッタレなくらい毒を浴びて変化した。

    おかげで、一端の化けもんの完成さ。

    ……だから人間どもをぶっ殺そうとした」

皮肉な笑みを浮かべていたゴジラだが、すぐに表情が引き締まった。

   「俺は殺しまくった。殺して殺して殺して。逃げる奴、

    泣いてる奴、立ち向かって来る奴、いろんな奴らをぶっ殺した。

    家族を殺した奴らを許せなかった。俺を変えた奴らが許せなかった」

その瞳に、復讐の業火が灯る。だが……。

 

   「けどな」

しかし不意に、その炎の輝きが失せた。

   「結局、殺しまくっても家族や安住の地なんてもんは、帰っては

    来なかった。殺しても殺しても、心ん中に空いた穴は、

    埋まらなかった。……オメエはどうなんだよ、『マドカ』」

マドカ「私、は……」

ゴジラ「俺は別に力を求める事が間違ってるなんて言うつもりはねえ。

……けどな、お前はその力で、『何か』を掴めたのか?」

その言葉に、マジマジと自分の両掌を見つめるマドカ。やがて、

彼女の掌が閉じられて拳となって行く。

マドカ「私には、それ以外、理由なんてない。

    戦う事しか、それしか、理由にならないんだ!!」

ゴジラに向かって叫ぶ。

   「戦うために、兵器のパーツとして生み出された私に

    それ以外の理由なんてあると思うか!?私は、戦う事

    でしか生きる理由を示せないんだ!!」

立ち上がったマドカの拳がゴジラの頬に突き刺さる。数歩たたらを踏んで

後ろに下がったゴジラの顔に更に彼女の拳が繰り出される。

   「私は、私はそうするしかなかったんだ!戦うしか!

    それしか、知らなかったんだ!だから!だからぁっ!」

やがて、彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出す。泣きながらも拳を

振り上げ、パンチを繰り出すマドカ。だが、その力は次第に

弱くなっていった。

   「だから戦うんだ!私はぁっ!」

ゆっくりと拳を振り上げ、繰り出そうとした刹那。

 

   『ギュッ!』

不意にゴジラがマドカの体を抱きしめた。

ゴジラ「バカ。……殴るか泣くかのどっちかにしろよ。

    お前、このままだと、壊れちまうぞ」

すぐにその抱擁を振りほどこうとするが、ゴジラは決してマドカを

放そうとはしなかった。

マドカ「それでも、それしかないんだ!私には、私には、

    それ、しか」

次第に反抗する気力もなくなってきたのか、静かに嗚咽を漏らすマドカ。

 

 

と、その時、ゴジラがマドカの事を更に強く抱きしめた。

ゴジラ「生きる意味を見つけるってのは、確かに自分の中にある

    答えを見つけるって事だ。……けどな、誰もそれを

    テメエ一人で見つけろなんて言った覚えはないぜ」

マドカ「え?」

不意に、マドカの口から、普段の彼女らしからぬ、少女のような

疑問符が漏れる。

少しだけ抱擁を緩めたゴジラは、彼女の瞳を見つめた。

 

ゴジラ「俺は確かに人間が嫌いだ。身勝手のクソ野郎どもなんざ、

    どうなったって構わねえ。けどな、お前には、俺みたいに

    なって欲しくねえんだよ。……人間殺しまくって、殺されて、

    心が空っぽのまま死んでいくなんて、最悪だ。下手な同情って

    言やぁそれまでだが、でもな。お前はまだ引き返せる」

その言葉に、驚きこそしたマドカだが、すぐに皮肉そうな笑みを浮かべた。

マドカ「無理だな。今更、私一人では。引き返す意味も、理由なんて」

もはや、自棄になっているマドカ。それを見たゴジラは……。

 

 

ゴジラ「お前に戦う以外の生きるための答えが見つけられねえってんなら、

    俺がお前の、マドカの生きる答えになってやる」

マドカ「え?」

再び、呆けた声を上げてしまうマドカ。 

ゴジラ「言ったろ。答えを見つけるは、一人だけでじゃねえって。

    俺がお前の生きる『理由(答え)』を作ってやる。だから今はこれだけ

    言うぜ」

そう言うと、少しばかり深呼吸するゴジラ。

 

 

 

 

 

 

 

———マドカ、俺と来い———

 

 

 

それは、全く持ってストレートな命令文だった。

来てくださいとか、来るか、ではなくはっきりと『来い』である。

傍から見れば何を言ってるんだと思われるだろうが、

いろんな意味を込めて下手に着飾らないのがゴジラである。

故に、どこまでもストレートなのである。

 

そして、ゴジラの言葉に呆然となるマドカ。

マドカ「私に、来いと、言うのか?この、私に」

ゴジラ「……」

突然の事で震えるマドカを静かに見つめるゴジラ。

と、その時、ゴジラの腕がマドカを引き寄せた。

   「良いか?答えないなら、俺が今すぐ相棒と変わって

    お前を倒してでも連れて行く。文句も苦情も一切

    受け付けねえ。意地でも俺はお前を連れて行く」

と、歯に衣着せぬ言い分に、マドカは戸惑った。

マドカ「連れて行くとは、どこへだ?」

ゴジラ「決まってるだろ。俺がテメエの生きる理由になるんだ。

    俺の居る場所にだよ」

その言葉に、マドカは驚き、困惑し、そして思った。

思った事をゴジラにぶつけようと、彼女が口を開く。

 

 

 

 

 

 

———お前、バカだな——— 

 

 

そう言った彼女の表情は、今まで見た事もないほど、笑みを浮かべていた。

 

ゴジラ「けっ!あぁそうだ!俺はバカだよ!だからな」

そう言って再びマドカを抱き寄せるゴジラ。

   「一度手にしたものは、人だろうが何だろうが

    絶対に手放さねえからな。テメエが俺から逃げて見ろ。

    泣いて謝ったって地獄まで追いかけてってテメエを

    引きずってでも連れ戻す。文句は?」

彼の言葉に、マドカは……。

 

マドカ「だったら、そのたびにたっぷり言ってやる」

そう言って、先ほどとは違う、『うれし涙』を流しながら

笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

~~戻って現実世界~~

先ほどから剣戟戦を繰り広げていた機龍とマドカだったが、

機龍はゴジラが戻ってくるのを感じ、一度下がった。そして、

同様にマドカも動きを止めた。機龍は感じ取っていた。

ゴジラがダイブから戻ってきた事とマドカが動きを

止めた事の意味を。

機龍『ゴジラ、どうだった?』

ゴジラ『やれるだけの事はやったし言う事は言った。なぁ、相棒。

    ……頼みが、あるんだが』

と、後半はどこかバツの悪そうな顔のゴジラ。それを見て、

機龍は深層意識の中でクスリと笑みを漏らした。

 

機龍『あの子を笑顔にするのは、僕じゃないみたいだね。

   わかった。使って』

ゴジラ『あぁ、遠慮なく使わせてもらうぜ』

そう言うと、機龍の精神はゴジラと入れ替わった。

そして、次の瞬間、銀色だった機龍の体表の色が変化し、

ゴジラが目覚めた時の姿、『黒龍』へと変化した。

 

簪「あの姿って、確か」

モーラ「はい。あの黒い色が示すのは、ゴジラです」

シャル「で、でも、突然なんで?」

と、いきなり機龍からゴジラ、黒龍へ切り替わった事に戸惑う

簪たち。しかし。

一夏「……。信じてみようぜ」

箒「一夏」

一夏「機龍と、あいつを。……ゴジラを」

そう言って、一夏は真っ黒な黒龍の背中を見つめるのだった。

 

ゴジラ「さぁ、マドカ。決着をつけようじゃねえか。勝った方が

    負けた奴を好きにする。これでどうだ」

その問いに、マドカの口元が薄く笑みを浮かべた。だが、

それは今までの歪んだ笑みではなかった。

マドカ「その約束、忘れるなよ?」

ゴジラ「あぁ、お前が『勝てたら』な」

対してゴジラも心の中で不敵な笑みを浮かべていた。そして……。

 

ゴ・マ「「勝つのは、俺(私)だ!!」」

フェンリル・ブロウとスパイラルクロウを構えた二人が突進する。

   『ガキィィィィィンッ!』

一撃目でぶつかり合い火花を散らすブロウとクロウ。

ゴジラ「おらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

マドカ「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

そのまま、お互いに一歩も引かずに互いの全力をぶつける二人。

盛大な金属音と火花が幾重にも飛び散る。

 

と、その時、ゴジラのクロウの一撃が僅かに黒騎士の

フルフェイスマスクを掠めた。その衝撃でマスクにヒビが入り、

さらにヒビが広がって、マスクが砕けた。露わになるマドカの素顔。

しかしその程度では攻撃をやめず、逆にゴジラの懐に飛び込んだ

彼女の左手のアッパーがゴジラの顎を捉える。大きくのけ反り、

距離を取ったゴジラは、態勢を立て直すと再び突進していった。

そのまま戦いを続けるゴジラとマドカ。そして、その様子を見ていた

一夏やスコール達。その時だった。

 

スコール「……。あの子」

オータム「ん?スコール?」

不意に呟いたスコールと彼女の言葉に振り返すオータム。

スコール「笑ってるわ」

オータム「え?」

そう、スコールのゴルーデン・ドーンのハイパーセンサーが

ゴジラと戦いながらも、マドカが今まで見せた事もない満足げな笑みを

浮かべているのを捉えた。

それを見たスコールも、マスクの奥でひそかに笑みを浮かべた。

スコール『ホント、何もかもが変えられていくわね。『あの子達』

     の手で』

そう思いながら、彼女は黒龍の背中を見つめるのだった。

 

 

やがて、戦いも終局にと向かっていた。

流石に連戦が続いたためか、肩で息をしだしたマドカ。

彼女は両手でブロウの柄をギュッと握りしめる。対するゴジラも

無言でクロウ状態の右手を後ろに引き、突進の構えを取る。

そして、次の瞬間。

   『ガキィンッ!』

目にも止まらぬ速さで二人が空を駆け、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ

二人の刃が煌めき、交錯した。

 

お互い、背中を向け合い、己が刃を振り抜いた姿のまま制止する

マドカとゴジラ。

が、次の瞬間。

   『ビキビキビキッ!バリィィィン!』

マドカの手にしていたフェンリル・ブロウにヒビが入り、瞬く間に

砕け散ってしまった。

数秒、砕けた柄を握りしめるマドカだったが。

マドカ「……。私の、負けだ」

その言葉に振り返ったゴジラは、ゆっくりとマドカの元へ

近づき、そして。

 

ゴジラ「だったら、行くぞ」

硬くも温かい銀色の掌で彼女の頭をポンポンと優しく叩くと、

モノレールの方へと向かって行った。

マドカは、そんな黒龍の背を見ると、他の者に見られないように

俯いてから笑みを浮かべ、ゴジラへと続いてモノレールへと

向かったのだった。

 

   第26話 END

 




え~、と言うわけでマドカはゴジラのヒロインとして
落ち着きました。で、ゴジラは完全に俺様キャラです。
次回で京都編は終わる。かどうかは分からないですが、
楽しんでいただければ幸いです。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第27話

今回で一応京都編は終わりです。次はワールドパージに変わる閑話を
上げた後、オリジナルの決戦編に突入します。
後、これの中で少々BL的展開があります。ご了承ください。


~~前回までのあらすじ~~

新たなる力を顕現させ、ファントムタスク幹部会の傀儡である

D・ゴーレムの集団と戦う一夏と機龍達。新たなる力、

エクストラアビリティの力もあり難なくこれを退ける事には

成功した。が、それでも戦いをやめようとしないマドカ。

そんな彼女の心にもぐりこんだゴジラは精神世界で彼女と

対話を果たし、彼女の説得に成功したのだった。

 

 

その後、合流した一夏と機龍、スコール達16人はモノレールで移動し、

突然ではあったがスコールと束達も極秘裏に一夏達と同じ旅館へ

泊まる事になった。

もちろん、一般の生徒達はそれを知らず、知っているのは一夏と機龍達

専用機持ちと千冬、真耶の少数だけだった。

 

 

で、今は一つ空き部屋の中に集まっているスコール、オータム、マドカ、

レイン、フォルテ。そんな5人の前では……。

 

 

 

機龍「あの時は、本当にすみませんでした」

そう言って、機龍が『土下座』をしていた。その事に顔を見合わせ、

肩をすくめるレインとフォルテ。と言うのも……。

スコール「クスッ、あなたはすっかり『元』に戻ったみたいね」

そう言って笑みを浮かべるスコール。

元、と言うのは普段の大人しい状態の機龍の事だ。つまり、

先ほどまでの機龍は文字通り『コンバットハイ』とでも呼べる

状態になっていたのだった。

 

で、元に戻った時彼は自分の言っていたことが恥ずかしくなって

こうしてスコール達の元に謝罪に来たのだった。

機龍「そ、その。あの時は僕が僕じゃなかったと言うか。

   感情が高ぶってて、あのような」

と、顔を上げて真っ赤にしながら謝罪する機龍だった。

その様子に笑みを漏らしているスコールやレイン。やれやれと

言いたげなフォルテやオータム。今はムスッと無表情のままのマドカ。

機龍「とにかく、ごめんなさい」

スコール「まぁ、良いわ。結局私たちはあなたに助けられたわけだし。

     何より、オータムを助けてくれたわ」

そう言って、横に座っていたオータムを抱き寄せるスコールと

顔を赤くするオータム。対して機龍もどこか顔が赤かった。

と、その時思い出したようにハッとなる機龍。

 

機龍「と、そうだった。実は、マドカちゃんに渡したい物が

   あるんだ」

そう言って、ポケットの中から何かを取り出す機龍。

彼は立ち上がってマドカの前に移動してから座り、彼女にそれを

差し出した。

マドカ「……。なんだこれは」

差し出された物を見てから機龍の方を睨みつける。

機龍が彼女に渡そうとしている物は、言ってしまえばデジタル式の

腕時計のようだった。

中央には小さな四角いディスプレイらしき物がある黒い時計のようだった。

 

機龍「通信機だよ。とりあえず巻いてみて」

マドカ「………」

そう言われたマドカは、無言でそれを受け取ると左手首にまいた。

   「何だ、これは」

機龍「右側にあるスイッチを押してみて。きっとどういう物か

   わかると思うよ」

と言われると、マドカはスイッチを押した。すると、ディスプレイが

点灯し、そこに映し出されたのは……。

 

 

マドカ「お前は、ゴジラ」

ゴジラ「よう」

そこにディスプレイに現れたのはゴジラの顔だった。

機龍「一応、僕は、いや、僕たちは一つの体に二つの人格が

   あるから。でも、その都度人格を変えるのは不便だから

ゴジラと話すためにちょっとした端末を束に頼んで

作って貰ったんだ」

そう言われるとマドカはディスプレイに映るゴジラを見てから機龍の

方に視線を移した。

マドカ「どうして、こんなものを」

機龍「……。多分、僕じゃないから」

マドカ「え?」

機龍「あの日、夜に君がIS学園に現れた時、僕は君を笑顔にしたい

   って思った。でも、あの戦いでよくわかったよ。それは僕の

   役目じゃない。君を笑顔に出来るのはゴジラなんだって。

   それに、『好きな人』とはいつだって話したいでしょ?」

マドカ「ッ!?」

と、ここで機龍は図らずも爆弾を投下してしまった。

   「すす、好きな人とはどういう意味だ!?」

明らかに狼狽しているマドカがこれまた珍しく顔を赤くして

立ち上がりながら叫ぶ。

機龍「え?だって、モノレールに戻ってくるときゴジラに頭を

   撫でてもらって笑ってたから、てっきりそうなのかと思ったんだけど」

マドカ「なっ!?み、見てたの、か」

と、更に顔を赤くするマドカ。

機龍「一応、体を共有してるから見た事とか記憶とかはね」

そう言われると、顔をトマトの用に真っ赤にするマドカ。その横では

スコールとオータムがニヤニヤとにやけていた。

マドカ「わ、笑うな!」

スコール「あら?良いじゃないマドカ、恋をしてみるのもいい経験よ?」

マドカ「なっ!?」

オータム「日ごろっから戦い戦いって言ってたから

丁度良いんじゃね~のか~?」

と、マドカを茶化すスコールとオータム。対してマドカは恥ずかしさと

怒りが半々になってプルプルと震えていた。

機龍「と、とりあえず、皆さんがご無事でよかったじゃないですか!

   これからの当てもある事ですし」

と、咄嗟に喧嘩になりそうな場の雰囲気を鎮める機龍。

 

 

こうして、京都での戦いは意外な結末を迎え、波乱万丈の

修学旅行を終えたのだった。

 

今、一夏と機龍達は帰りの新幹線に乗っている。が、そこに

スコール達5人の姿は無い。D・ゴーレム達との戦闘があった日の

翌日。スコール達の使用していた部屋に彼女たちの姿は無く、

どうやら束と共に一足先に帰ったようだった。

 

機龍『そう言えば、束がスコールさん達を雇ったのって、

   腰を落ち着けるため、とか言ってたけど、どこかに家でも

   建てるのかな?』

と、機龍はそう思いながら帰りの新幹線の車窓から流れる景色を

見ていた。

 

 

そして、それはいろんな意味で裏切られた。

 

 

   『ポスッ』

一夏達は学園の寮に戻ってきたのだが、あと少しで寮と言う所で、

一夏が肩に掛けていたバッグを落とした。

が、彼はすぐにそれを拾おうとはしなかった。一夏と機龍、箒達、

更には大勢の生徒達が呆然と寮を、正確にはその隣で行われている

事を見つめていた。

そこでは……。

 

 

   『カーン!カーン!カーン!』

束「あぁそれはあっちね~!あ!それはそこじゃないって~!」

と、今現在進行形で一夏達の学生寮の横では、束がヘルメットを

被りながら数十機の『ゴーレムⅢ改(土木作業用)』に命令を出しながら

何やら『工事』をしているのだった。

そして、一番に復活した機龍がハッとなって束の方に走り寄って行った。

 

機龍「束!」

束「およ?お~リュウ君にお帰り~。早かったね~」

機龍「う、うん。ただいま。……じゃなくて!束は何してるの!?」

束「うん?あ~これ?これは増築だよ増築」

機龍「増、築?……あ!まさか、束が言ってた腰を落ち着ける場所って」

と、ここに来て半ば確証に至った機龍が問うが……。

束「うん!このIS学園の事だよ!」

と高らかに宣言するようにハイテンションで叫ぶ束。

そんな彼女を他所にポカーンとしたままの生徒達。と、その時。

 

   『ドドドドドドドッ!』

呆然とする彼女たちの耳に、校舎の方から地鳴りがしてきた。

一瞬、何だと思った生徒達だったが、振り返えってその音源を

確かめるなり、納得してまた回れ右した。

千冬「た~~ば~~ね~~!!!!」

地鳴りの正体は般若の如き形相の我らがブリュンヒルデ、その人だった。

そして、生徒達はそんな彼女に恐怖しつつ半泣きで回れ右したのだ。

束「おうっ!?ぎゃ~~!ちーちゃん来たぁぁぁっ!!」

千冬の声に振り返った束の顔が真っ青になる。咄嗟に逃げようと

するが、時すでに遅し。

束の眼前まで千冬の剛腕が迫っていた。が。

   『ビシッ!』

束の頭を鷲掴みにしようとしていた千冬の指が、束の頭から

僅か数センチの所で止まった。

まるで、束が見えないヘルメットをかぶっているかの用だった。

千冬「何?」

束「よし!見たかちーちゃん!これこそこの天才篠ノ之博士が作り出した

  対ちーちゃんアイアンクロー専用ヘッドシールド!名付けて

  クリアヘルメットなのだ!ブイ!」

と言って右手でVサインをしているをしている束と密に舌打ちをする千冬。

千冬「……。折角その髪色を真っ赤に染めてやろうと思ったのにな。

   貴様の血で」

束「ちょぉっ!?ちーちゃんそれは教師として教育上どうかと

  思うよ?!後ろにみんないるんだからね!?」

と言ってワーワーと口喧嘩を始める千冬と束。千冬の後ろで呆然と

する一夏達とタブレット片手に束の後ろでため息をつくクロエ。

そんな時、機龍がハッとなったこっそりとクロエに歩み寄って耳打ちした。

数回頷いたクロエは、そのまま手にしていたタブレットを機龍に

差し出した。

それをピピッと操作した次の瞬間。

   『パリーン』

束「……。はえ?」

いきなり束の頭を覆っていたシールドが、割れたガラスのように

砕け散って消えた。ギギギと振り返る束。

 「リュ、リュウ君?」

機龍「とりあえず、と言うか一応まずは先生から一撃貰った

   方が良いかなと思って」

と言う機龍に束は……。

束「リュ、リュウ君の裏切り者ぉぉぉぉぉぉっ!」

 

と、そんな彼女の絶叫の後に続いて更に悲鳴がIS学園に響くのだった。

 

数分後。

頭から煙を出したまま倒れている束を介抱するクロエと機龍。

千冬「全く。貴様はまた勝手に、それもこんなデカい物を学園に

   無断に建ておって」

束「む、無断じゃないよ~。ここに、許可証だってあるんだから~」

と、弱弱しく差し出された書類を見ると、それを取って読む千冬。

千冬「ほう?ちゃんと委員会のお墨付きとはな。あのボンクラ共が

   よく許可をしたな。……取引でもしたのか?」

束「ん~?」

そんな質問を聞きながら体を起こす束。

 「ちょっとね。許可したら各国に一個ISコアを追加してやるって

  言ったら喜んでサインしてくれたよ」

それを聞くと、目を見開いてからため息をつく千冬。

千冬「お前、ここに居座る気か?」

束「居座るだなんて人聞き悪いな~」

千冬「如何に貴様が天才だろうと、ただ飯食らいを置いておいては

   生徒に示しがつかんだろうが。ここで生活するならそれ相応

   の事をしてもらわなければ困る」

束「わかってるって~。まぁ、ISの整備とか、新装備とかは

  提供するよ。これでどう?」

と言って、千冬の前で首をかしげる束。

千冬「……。ハァ、まぁ良い。お前の突発的行動は今に始まった事じゃ

   無いしな。なら、あと一つ追加だ。もし生徒達にISに関して

何かを聞かれた際にはそれなりに教えてやれ。良いな?」

束「りょうか~~い!」

そう言いながら敬礼をする束。それを見た千冬は生徒達の方に向き直った。

千冬「と言うわけだ。急ではあるが、この馬鹿が学園で生活する事になった。

   こんなだが正真正銘ISの生みの親だ。ISで分からない事や

   アドバイスが欲しかったら教師と、そしてこいつに聞け」

そう言うと、千冬はため息をつきながら戻って行った。

 

で、結局それから数時間後には束の『新居』の建築が終わり、

夕食の時に一夏達がそこに招かれた。

完成したその新居は、大きな中世の館のようだった。

白塗りの壁にシンメトリーな作り。そして機龍はイギリスに

行った際のセシリアの屋敷を思い出していた。

 

一夏「うわ~。すっげ~な~ここ」

楯無「まさに中世の貴族って感じね」

重厚な扉を潜った先は正に王侯貴族の住まう豪華な屋敷にも似た玄関が

広がっていた。

束「や~や~よく来たねみんな!」

と、その時、玄関の真正面にあるT字階段の上から束が現れた。

 「さ~さ~こっちだよ~!」

そう言って束は一夏と機龍達10人を大きな屋敷の中を案内し始めた。

機龍「束、どうやってこれだけのものを?と言うか、工事始めたの何時?」

束「ふふふ~ん。現代の魔術師たるこの束様に掛かれば、この程度の

  お屋敷なんて数時間で完成させられるんだよ~。スゴイでしょ~?」

と、自慢げに屋敷の中を案内する束。

 「しか~も!スゴイのは外見だけじゃないよ!中には数十機のISを

  保管し尚且つ自動整備を行うファクトリーや新型装備開発室!

  各種難病にも対応可能な高度医療施設!万が一各国のIS部隊から 

  襲撃を受けた時のために無人ISゴーレムⅢが何と100機付き!」

一夏「か、各国の襲撃って」

束「いや~、これでも私一応有名人だからさ~。念には念をって事だよ 

  いっくん」

そんな話を聞いていると、やがて一夏達は大きな広間へと

案内された。

その部屋の中央には大きな長方形のテーブルがあり、それに沿うように

これまた豪華な椅子が並べられていた。

そして……。

 

機龍「スコールさん。それにオータムさんやマドカちゃん。

   レイン先輩たちも」

その椅子の一部に、スコール達5人が腰かけていた。

スコール「こんばんは機龍君。あなた達もそろったようね」

そんな5人のテーブルを挟んだ向かい側に座る機龍達10人と

スコールの正面に座る機龍の横に座る束。

それに合わせるように、束が作ったメイドさん姿のアンドロイド

が入ってきて一夏達、スコール達、束の16人の前に料理を置いた。

やがて食事をした機龍達は男と女に分かれて別々の風呂に入った。

 

一夏「しっかし、束さんも相変わらず突飛だよな~」

機龍「アハハ、まぁ、それが束らしいって言えばそうなんだけどね」

と言う二人は今、夜空が見える露天風呂に浸かっていた。

タオルを頭の上に乗せている一夏と、それをまねている機龍。

しかし頭の天辺の癖っ毛が邪魔になってうまく乗せられない様子だった。

乗せようとする度にタオルが崩れてワタワタとしている機龍

を見て苦笑する一夏。

 

そして、一夏が体を洗うために一度湯船から出ようとしたときだった。

機龍「あ、あの。お兄ちゃん」

一夏「ん?どうした機龍?」

不意に声をかけられたので、立った姿勢のまま振り返る一夏。

対して、顔を少しばかり赤くしてモジモジしている機龍。

機龍「そ、その。お兄ちゃんが大丈夫なら、なんだけどね。

   お兄ちゃんの背中、僕が、その、洗って良いかな?その、

   あ、憧れって言うか、やってみたい、と言うか、えっと」

と、言い淀む機龍に一夏は笑みを漏らした。

一夏「んじゃ、頼もうかな?」

機龍「い、良いの?」

一夏「あぁ、背中は一人じゃ洗いづらいからさ。頼むぜ」

機龍「うん!」

と、機龍は笑顔で頷いた。

 

そして、機龍は濡らしたスポンジにボディーソープをつけ、それで一夏の

背中をゆっくり、優しく洗い始めた。

  「痛くない?大丈夫?」

一夏「全然平気だって。お前の好きなようにしていいからさ」

機龍「うん」

それからしばらくは、機龍が一夏の背中を洗うゴシゴシと言う音だけが

響いていた。そんな時だった。

 

一夏「何か、ホントの兄弟みたいだな」

機龍「え?」

唐突な一夏の言葉に手を止める機龍。

一夏「機龍がIS学園に来た時はホントびっくりしたな。

   どっからどう見ても小学生だしさ。俺最初はホントに

   男か?って思うくらい皮膚も白いし。………けど、

   今にしてみれば、お前からはお兄ちゃんってよく呼ばれるし、

   ここじゃ俺たち以外男なんていないし。

   機龍みたいな弟が居ても良いかなって、思ってさ」

機龍「僕が、一夏お兄ちゃんの家族?」

一夏「家族、か。それも悪くないかもな」

その言葉を聞きながら機龍は密に笑みを漏らしたのだった。

 

   『バシャ~~』

背中を洗い終わった機龍が、最後に桶にお湯を汲んで、それで一夏の

背中の泡を洗い流した。

機龍「はい、終わったよお兄ちゃん」

一夏「ありがとな機龍。……あ、せっかくだから機龍の背中は俺が

   洗ってやるよ。洗いっこだな」

機龍「じゃ、じゃあ。お願い、しようかな」

そう言って機龍は一夏の方に背を向けるのだった。

 

そして、一夏が機龍の背中を優しくスポンジで洗い始めたのだった。

機龍は優しく洗われる事でこそばゆく感じていたが、一夏はある事を

思っていた。

次第にゆっくりとなって行った一夏の手の動きがとうとう止まった。

  「?お兄ちゃん?」

その事を疑問に思った機龍が振り返ろうとしたとき、不意に一夏の右手が

後ろから伸びて機龍の右手に触れた。

  「一夏、どうしたの?」

自分の腕に触れる一夏の右手に左手を重ねながら、静かに機龍が問う。

一夏「……機龍は、こんなに小さいのに、今までたくさん、

   死にそうな戦いも、たくさんの苦しみも何度も

経験してるんだなって、思ってさ」

機龍「……」

今、一夏の中では機龍の記憶が呼び起こされていた。

 

ゴジラへの突然変異。人間との戦いと死。死した体を利用された事。

家族と命を懸けた戦い。別れの果てに選んだのは、死と同義の眠り。

そして、二度目の生を受けたこの世界でも、機龍は傷つき、それでも

立ち上がった。福音との戦いの時も。京都の時も。

 

一夏「そんなお前を見てると、弱い自分が情けなくなってさ。

   ……悪い、お前にこんな」

その時、一夏の腕を機龍が優しく抱き寄せた。

  「機龍」

機龍「そんな事ないよ。お兄ちゃんは強いよ。まだ分からないけど、

   多分、僕にできなくてもお兄ちゃんになら、出来る事があるよ。

   それに、たった一人で強くても、意味なんてない」

不意に、暗い表情となる機龍。

  「例え強くても、その力を振るうだけじゃ、誰とだって友達に

   なる事なんてできない」

やがて、機龍はそっと後ろの一夏に体を預けた。

  「覚えてる?初めて僕が来た時、一夏と握手したの」

一夏「あぁ、そんな事もあったな」

機龍「僕は、今でもはっきり覚えてるよ」

そう言って、自分の右手を見つめ、それを自分の胸に抱くように

引き寄せた。

  「あの時の一夏の手の温かさも。……でも、だからだよ」

そう言いつつ、体を回転させて一夏の方を向き、彼の胸に頭を

預けるようにもたれかかる機龍。

  「きっと、一夏やみんなが、お兄ちゃんやお姉ちゃん達が

   居てくれたから、僕はこうして、今みんなと居られる気がする

   んだ」

一夏「機龍」

不意に、一夏の手が機龍の銀色の髪を撫でた。

機龍「もし、お兄ちゃんが自分の事を弱いなんて言っても、僕は

   信じない。だって、僕がここに居られるのは、一夏お兄ちゃん達が

   居てくれたから。そんなみんなが、僕にとっての、大切な仲間で、

   友達で、英雄だから」

そう言って一夏を見上げる機龍の目には、一滴の涙が浮かんでいた。

それを見た一夏は、機龍をギュッと抱きしめた。

一夏「俺が、絶対お前を守るから」

機龍「なら、僕も、絶対みんなを守るよ」

 

しばらく、二人で抱き合う一夏と機龍。やがて、どちらとなく

抱擁を緩めた。のだが。

  「一夏、あのね。僕、今、その」

と、言い淀む機龍。

一夏「ん?どうした?」

機龍「あ、あのね。その、変、かもしれないけど、その。

   ……。僕、今、一夏と、キスが、したい」

一夏「え?」

機龍「あう///その、ごめん。今のは忘れて。その、変、だよね。

   男同士でなんて」

と言って、顔を赤くしつつそっぽを向いて弁解する機龍だったが、次の瞬間。

   『ギュッ!』

離れようとしていた機龍を一夏が抱き寄せた。

一夏「全く、お前はホントに男らしからぬ可愛さだよな」

機龍「え?」

疑問符を浮かべた機龍だったが、次の瞬間、一夏の唇が機龍の

唇に重なった。

最初は驚いて目を見開いた機龍だったが、すぐにその瞳はトロンとして

一夏の体を抱きしめたのだった。

 

 

数分後、湯船に浸かって胡坐をかく一夏とその足の上に座る機龍。

しかし、二人ともあんなことをした後だからか、妙に顔が赤かった。

そんな時だった。

機龍「ふ、ふふ」

不意に、機龍が笑い出した。

一夏「ど、どうした機龍?」

そんな機龍に恐る恐る声をかける一夏。

機龍「もしかしたら、僕箒お姉ちゃん達に怒られちゃうかなって、思って。

   お兄ちゃんは、ファーストキスは済ませたの?」

一夏「う!?そ、それはまぁ、その、機龍のおかげで、箒達が、

   その、告白した時にな。あの時は、3人全員とキスした後、

   色々あったんだぜ?」

機龍「そうだったんだ」

そう言って、一夏の胸に頭を預け、頭上に広がる夜空に目を向ける機龍。

  「綺麗だね」

と言う機龍の言葉に一夏も彼の視線を追って夜空を見上げた。

一夏「あぁ、そうだな」

しばらく、二人そろって夜空を見上げていた。

 

  「あ、そう言えば機龍、お前清水寺行ってないだろ?」

機龍「あ。そうだね」

一夏「他にも金閣寺とか、春日大社とか。二条城とか。

   折角だ。冬休みにみんなで京都行こうぜ」

機龍「良いの?」

一夏「良いも何も。……みんなと色んなとこ行って、思い出作って、

   一緒に飯食って、夜更かしとかして、遊んで、笑って。

   それが友達だろ?だから行こうぜ。俺たちと色んな所

   巡ってさ。もっともっと、たくさん思い出作ろうぜ」

機龍「お兄ちゃん……!うん!」

と、機龍は一夏の言葉に満面の笑みを浮かべながら頷いたのだった。

 

 

それから数分後。

お風呂から上がった一夏達は寮に戻る事にしたのだが……。

機龍「あ、そうだ」

と、束の屋敷を出た帰り道、ふと立ち止まる機龍。

簪「機龍?どうかしたの?」

そんな彼に気付いて立ち止まり振り返る簪たち。

機龍「うん。僕ちょっとスコールさん達に、お礼したい事が

   あるんだ。ごめん、先に帰ってて」

と言うと、機龍は屋敷へと戻って行った。

 

やがて、案内のメイドロボットに教えてもらったスコールの部屋に

やってきた機龍。

   『コンコン』

機龍「スコールさん、機龍です。こんな時間にすみません。

   今って大丈夫ですか?」

スコール「あら、機龍君。こんな時間にどうかしたのかしら?」

機龍「実はその、京都の事でお礼を言いたくて。あ、お忙しいん

   でしたら、また今度にします」

スコール「良いのよ。気にせず入っていらっしゃい」

と言われた機龍はドアを開いて中に入って行った。

オータム「ちょっ!スコール!」

すると、部屋の中からオータムの声が聞こえて来た。

対して、機龍はドアを潜って中へと進んだのだが……。

 

 

そこで驚いた。

声を頼りに部屋の中を進んでいくと、寝室でスコールとオータムが

裸の状態で抱き合っていたのだった。

それを見てしまった機龍は口をパクパクとさせながら、顔を真っ赤に

した。

    「み、見んなバカッ!」

機龍「あ!ご、ごめんなさい!」

と、オータムの声で我に返った機龍が寝室のドアを閉めようとしたのだが…。

   『シュルッ!』

いつの間にか部分展開されていたスコールのゴールデン・ドーンの尻尾の

ような第3の腕に掴まれ……。

   『クイッ、ポスッ』

ベッドの上にUFOキャッチーの景品のように落とされた。

いきなりで呆然としていた機龍だったが、その時スコールが

彼の頭を自分の胸に抱く形で抱き寄せた。

結果、今の機龍の顔はスコールの豊満な胸に押し付けられる形に

なっていた。

 

  「え、えっと。あの、スコール、さん?」

スコール「ふふふ、京都ではあなたの心意気を試したし、今度は

     こっちの方も」

と、言いながら機龍の下腹部をパジャマの上から人差し指でなぞるスコール。

機龍「ん!」

スコール「試させてもらいましょうかしら?」

そう言って、スコールは妖艶な笑みを浮かべながら機龍を抱きしめたのだった。

 

※ ここから先はR18の方に投稿します。

 

   

で、スコール達と『色々』した後、結局機龍は寝てしまい、寮に戻ったのは

翌日の早朝だった。

 

 

運命のうねりは大きく変わり、更なる変化をもたらす。

だが、今はまだ、誰も知らなかった。

 

この世界の命運を分ける死闘が、もうすぐそこに迫っている事を。

 

     第27話 END

 




閑話の方は機龍、簪、楯無を中心にした話を上げるつもりです。
けど、全然R18の方の筆が進みません。一応、今は束とクロエとの
話を書いてますが、まだ終わりません。
出来たら、ゴジラとマドカのR18シーンも書くつもりです。
何時になるかわかりませんが、ご期待ください。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 姉妹デート編

今回はワールドパージ編に変わるオリジナルのデート回です。


今回のお話は、ゴーレムⅢの襲撃から京都修学旅行までの間に起きた

ちょっとしたお話。

それは、ゴーレムⅢから数日が経ったある日の事だった。

 

生徒会室で仕事をしている機龍。今の機龍は生徒会の書記補佐

と言う立場にあるため、色々と仕事も多い。と言うか、会計で

あるはずの本音より頭脳はスパコン並である機龍の方が計算が

早い、と言う事で今では会計と書記補佐を兼任していた。

で、元々会計だった本音はと言うと……。

本人曰く、『私が居ると逆に仕事が増えるからリュウ君に任せる~』

だそうだ。

 

機龍『まぁ、仕事が増えたとしても大して苦でもないから別に

   良いんだけど』

と、本音のセリフを思い出しながら苦笑しつつ機龍は作業を続けた。

そんな折、生徒会に機龍と楯無だけになった時間があった。

 

本音はたまに顔出す程度なので今日は居ない。

一夏は部活動の申請があったためそちらに参加中。

虚は何やら報告があるらしく今は席を外していた。

で、大抵は何かをやらかす側のはずの楯無も今日は黙々と

書類に目を通したりサインをしている。

機龍はそんな楯無を見て半ば彼女に対する個人的な評価を

変えていた。

  『いつもふざけてばかりかと思ったけど、やっぱり楯無さんは

   すごいんだな~』

と、思いながら作業を続けていた。

 

それから数分後。

楯無「ん~~」

唐突に唸って目頭をマッサージする楯無とそれに気づいた機龍。

機龍「大丈夫ですか?少し休まれた方が良いんじゃないですか?」

楯無「あぁうん、大丈夫大丈夫。ちょっと疲れただけだから」

と言ってヒラヒラと手を振る楯無だったが、機龍はパソコンを

タイプしていた指を止めると、席を立って楯無の後ろに回った。

  「ど、どうしたの機龍君?」

機龍「じゃあ、せめてマッサージでもします。だから今は少しで

   良いですからゆっくりしててください」

そう言って楯無の肩を揉む機龍。最初は断ろうとした楯無だったが、

やめて椅子に背中を預けた。

数分、機龍にマッサージされていた楯無だったが、不意にある事を

思いついて呟いた。

 

楯無「もし、あなたと簪ちゃんが結婚したら、私は機龍君の

   義姉(おねえ)ちゃんになるのよね」

機龍「け、結婚。……ふぇっ!?」

と、あまりの事に顔を真っ赤にして驚く機龍。

  「けけけけ、結婚って!?僕たちはまだ未成年でして!そ、その!」

楯無「そう?でも~、屋上のあのセリフ。完全に結婚を許可して欲しい

   新郎さんのセリフだったわよ」

機龍「うぇ!?あ、あれは、そ、その////」

と、言われてあの時の自分のセリフを思い出して顔を真っ赤にする機龍。

楯無「あはははっ!相変わらず君はとっても初心なのね~」

機龍「か、からかわないでください。……恥ずかしいです」

未だに顔を真っ赤にしながらも一生懸命にマッサージを続ける機龍に、

楯無は保護欲の様な物を感じていた。

 

楯無『簪ちゃんも、最初はこんな感じだったのかな~。

   何て言うか、放っておけないって言うか、可愛いって言うか。

   ……でも、少しだけ試させてもらうわよ、機龍君』

そう言うと、彼女は怪しい笑みを浮かべた。

  「ねぇ、機龍君。あなた、今週の土日って予定あるかしら?」

機龍「週末は特に予定はありません。…でも、どうしてそんな事を?」

楯無「そう、それはよかったわ」

と、呟くと椅子を回して機龍の方に体を向ける楯無。

  「なら、週末に私と簪ちゃん、二人とデートしましょ♪」

 

 

機龍「え?………えぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!」

生徒会に、機龍の絶叫が響くのだった。

 

 

 

そして、週末の土曜日。

 

IS学園の海を挟んだ向かい側の街のモノレールの駅から3人の

『女性』が姿を現した。

 

そして、そんな『彼女』達に気付いた人々は男だけではなく女性も

すれ違えば振り向き、視線に入れれば少しの間注視した。

 

一人はミニスカートに半袖のデニムシャツに頭にはサングラスを

載せた楯無。

一人はロングスカートに長袖、その上に袖なしカーディガンを

羽織った簪。

そして、もう一人は白いノースリーブワンピースに麦わら帽子を被り、

更にロングヘアの銀髪カツラを使って女装した機龍。

 

つまり、正確には女性二人と男の娘一人、と言った所だった。

 

 

で、どうしてこうなったかと言うと。

 

時間は戻って楯無の一言の後。

機龍は楯無にデートの提案をされた日、部屋に戻ると簪にその事を

話した。

簪「私たち3人で、デート!?」

機龍の口から漏れた言葉に驚きを隠せない簪は、目を見開くとすぐに

ため息をついた。

 「お姉ちゃんったら、また」

そう言いつつ額に手を当てる簪。

機龍「楯無さんの話だと、僕たちの恋愛進展度、とか言うのを

   直に見たいとか、なんとか」

そんな機龍の説明に、簪はため息をつく事しかできないのだった。

しかし……。

 

簪「良いよ。乗ってあげようじゃない、お姉ちゃん」

機龍「良いの?」

簪「うん。……私たちが本当に愛し合ってるんだって——」

そう言って、簪は顔を赤くしながら機龍を抱き寄せた。対して機龍も

彼女の意図を察して顔を赤くしながら、静かに目をつぶった。

 「教えてあげよう。ん」

機龍「ん」

 

数秒、唇を重ねた二人の顔が離れると……。

機龍「うん。そうだね」

顔を赤くしながら機龍は頷いたのだった。そんな機龍に笑みを漏らす簪。

だったのだが……。

  「ねぇ、簪、もう、一回」

簪「うん♪」

顔を真っ赤にしながら上目遣いで自分を見上げる機龍に心をかき立てられた

彼女は、もう一度唇を重ねるのだった。

 

と、バカップルここに極まれりの状態だったのだが、当日の朝になって…。

 

 

 

  『追伸。機龍君はデートに女装してくる事』

 

と言うメールが楯無から来たのだから、簪は怒りながらも機龍が

海で女装した際にプレゼントされていた銀髪ロングのカツラと

自分が持っていた白いワンピースを使って彼をメイクしたのだった。

 

で、時間は戻って現在。

今3人は駅の改札を出て、近くにある公園のベンチに座っていた。

 

機龍「あ、あの。どうして、僕がデートで女装してるんですか?」

楯無「あ、それね。簡単よ。……『その方が面白そうだから』よ」

と言う彼女の言葉に、機龍と簪は項垂れるのだった。

簪「そ、そもそも、どうして私たち3人でデートするの?」

楯無「言ったでしょ?あなた達の恋愛進展度を私の目で確認

   するためよ♪」

と言ってウィンクして楽しそうな楯無と。

簪「はいはい。そうでしたよね」

項垂れる簪だった。

機龍「あ、アハハハ」

そして、機龍も簪の横で苦笑する事しかできなかった。

楯無「それで?デートのプラン、機龍君は考えて来たのかしら?」

機龍「あ、はい。それはもちろん。やっぱりデートの定番と言えば……」

 

その後、3人がやってきたのは……。

 

楯無「映画館。確かに定番ね」

ショッピングモールに隣接している映画館だった。

  「それで、どれを見るのかしら?やっぱり王道の恋愛物?」

機龍「いえ。僕としてはあれにしようかと思ってます」

と言って機龍が指さしたのは、映画の宣伝パネルの中にある

ヒーロー物の映画だった。

それに対してきょとんとする楯無と、あ、と言いたげな簪。 

  「少し前、簪が見たいって言っていたので、どうせなら

   簪の見たい映画を一緒に見たいなと思ったんです。

   簪も、それでいいかな?あ、ダメなら別のでも良いけど」

簪「ううん。良いよ。一緒に見よ」

と言って、笑みを浮かべる簪。その様子を見ていた楯無は……。

 

楯無『成程。自分で選ぶのではなく、相手に合わせる、か。

   まぁ気配りとしては及第点ね』

そう評価していた。

映画のチケットを購入して、3人で映画鑑賞を楽しんだ後は、

一度外へ出た。

 

時間はちょうど12時過ぎ。つまりはお昼時だ。

  「この後は昼食ね。お次は?」

機龍「少し歩いたところにフレンチのレストランがあるんです。

   簪もそこで大丈夫?」

簪「うん、大丈夫だよ。行こう」

そう言って手を差し出す簪。機龍は笑みを浮かべながらその手を

取ると、歩き出そうとしていた、が。

楯無「ちょっと~~!お姉さんも忘れないでよ~!」

と言って、頬を膨らませた楯無がガバッと後ろから二人に抱き着いて

二人の肩に腕を回して引き寄せた。

驚く簪と機龍だが、機龍の方はもう一つ驚く原因があった。

 

   『ぽにゅん』

機龍の背中に、服越しとはいえ柔らかい物が押し付けられた。

そう、楯無の胸だ。途端に顔が真っ赤になる機龍。

機龍「あ、あの!もうお昼ですし!少し急ぎましょうか!」

と言って、半ば強引に楯無の手から抜け出して二人の手をそれぞれ

握って歩き出す機龍。それを見た楯無は……。

楯無『ふふ、ホントに初心まっしぐらね』

と、心の中で笑うのだった。

 

 

その後、機龍の案内で映画館近くの商業施設の集まるストリートから

少し離れた所にあるフレンチレストランで昼食を取った3人は、

ストリートの方へと戻り、そこで買い物を楽しんでいて、

今はアクセサリーショップを覗いていた。

各々が一度別れてアクセサリーを見ていた。

その時、機龍は簪は一つの棚の前で立ち止まってるのに気づいて

彼女の方へと歩み寄った。

 

機龍「簪、何を見てるの?」

簪「あ、機龍。うん、実はね。これを見てたの」

そう言って視線を商品棚の方に向ける簪とそれに続く機龍。

二人の前の棚には、ペアのネックレスが置かれていて、

簪はその中の一つである龍のレリーフが入ったペアネックレスを

見つめていた。

そのネックレスは、二匹の龍が左右に分かれて向いていた。

 「これ、機龍とお揃いで良いかな~って思って」

機龍「そっか。……でも、二匹の龍が互いに背を向け合ってる姿って、

   その、こういうとあれだけど、少し不吉なんじゃないのかな?」

と、素直に感想を漏らす機龍。

互いを見ていない、と言う姿に、機龍は少し不安になったのだ。

しかし。

簪「ふふ、大丈夫だよ。だって、こうすれば」

   『カチン』

二つのリングを手に取って、互いの龍の顔を向き合わせた状態で

近づけると、中に磁石でも仕込まれているのか、二匹の龍が

互いの首を交差させ、首や体でハートにも似た形を現した。

 

機龍「あ。そう言う事だったんだ」

簪「そう。二匹、つまりは二人で織りなすハート。二人が居る事で

  生まれる愛。そんな感じなの」

機龍「そうだったんだ」

そう思いながら、簪の手元の双龍を見つめる機龍。そんな時だった。

簪「私たちも、ずっと、こんな風に」

機龍「うん。僕の一生をかけて、簪に添い遂げるよ」

そう言いながら機龍は簪の二の腕に頭を傾けて預けるのだった。

 

ちなみに、それを見ていた楯無はと言うと……。

楯無『あらあら。相も変わらずラブラブオーラを振り撒いちゃっても~。

   見てるこっちがドキドキするくらい妬けちゃうわね。

   ……でも』

不意に、笑顔だった彼女の表情が陰ってしまった。

  『私も、人並みの幸せって、望んでいいのかしらね?』

そう思いながら、楯無はアクセサリーショップのウィンドウガラス

から見える空を見上げるのだった。

……その様子を、機龍に少しだけ見られている事も知らずに。

 

その後、アクセサリーショップで龍の形をしたペアリングともう一つ、

アクセサリーを買った機龍達は、街はずれの高台に来ていた。

ここに来るまでゆっくりと散歩感覚で来たため、時間は既に夕暮れ時に

なっていた。

そして、その高台の頂上にある展望台から沈み行く夕日を眺めている

機龍達3人。

 

簪「綺麗だね」

機龍「うん。最後は、ここから見える夕日を簪と見たかったんだ」

そう言って並んで展望台デッキの鉄柵から見える夕日を見つめる二人。

そして、それを後ろから見ていた楯無はどこか諦めたような表情を

浮かべていた。

楯無『敵わないな~。……私は、ずっと簪ちゃんのお姉ちゃんで

   居たつもりで、あの子は、私が護ってるんだって、どこかで

   思っていたはずなのに。でも、今簪ちゃんの隣に居て、守って

   居るのは私じゃなくて、機龍君。……王様の血筋、か~。

   ホント、敵わないな~』

そう思いながら、楯無は自分の傍から離れていく妹の現状に、

一滴の涙を流すのだった。

 

自分自身で情けなく思ったのか、すぐにゴシゴシと目元を手の甲で

拭った楯無は二人に何か悪戯を仕掛けていつもの自分を演じようとした。

しかし……。

 

機龍「簪、それと、楯無さん」

不意に、夕日を見つめていた視線を移して二人の方に向かい合う機龍。

楯無「何かしら?」

機龍「実は、二人に渡したい物があるんです」

そう言って、機龍が手にしていた小さいハンドバッグから取り出したのは、

先ほどのアクセサリーショップで買い、綺麗にラッピングされていた

箱だった。

それを一つずつ簪と楯無の方へと差し出す機龍。

簪「これって?」

機龍「ふふ、開けてからのお楽しみだよ。折角だから、今開けてみて」

そう言われると、促されるままに箱をラッピングしていたリボンを

解き、箱を開ける二人。

 

中に入っていたのは……。

楯無「これって、パワーストーンのお守り?」

彼女の言う通りネックレスタイプのパワーストーンを使ったお守りだった。

二人とも自分の物を取り出してから姉(妹)の手元に視線を移すが、

その手にあったのは全く同じ物だった。

今二人が手にしているのはピンクよりの赤と言った感じの色の物が

使われていたお守りだった。

 

機龍「それは楯無さんの言う通り、パワーストーンをあしらったお守りです。

   使われている石はロードナイトとローズクォーツです」

簪「ロードナイトと、ローズクォーツ?」

機龍「うん。ロードナイトは友愛を象徴とし、ローズクォーツは

   美、美しさ。そして何より、二つを組み合わせた時の意味は、

   女性同士の関係を良好にする。いわば、女性同士の友情や

   愛情を育む組み合わせです」

楯無「で、でも、どうして、こんなものを?」

機龍「それは」

と、言って二人に歩み寄った機龍は二人の空いている手を取り、

二人の顔を交互に見つめた。

  「これからも、簪と、楯無さん。二人は姉妹なんだって、

   伝えたくて」

楯無「え?」

機龍「実は、その。……ショッピングをしていた時、楯無さんの

   表情が曇ったようなときがあったのに気づいて」

楯無「……見てたのね?」

機龍「ごめんなさい。……でも、もしあの曇りが僕のせいなら、

   この前の事、屋上で話したことが関係しているのかなって、

   考えてしまって。……僕は、簪の事が好きです」

夕日をバックに、楯無へ改めて告白する機龍。

  「でも、僕と簪が付き合う事が、簪と楯無さんの関係を

   また壊してしまうのかと、考えてしまいました」

楯無「だから、このロードナイトとローズクォーツのお守りを?」

機龍「余計なお節介なのは、十分理解しているつもりです。でも、

   簪と楯無さんには、これからも仲良しな姉妹のままでいて欲しい。

   その気持ちを、僕なりに表現しようと思って、それを二人に」

楯無「でも、それならどうして私にまで?お守りなら簪ちゃんに

   上げれば……」

機龍「それじゃ、僕が納得できませんから。……僕は、極端な

   事を言うようですけど、楯無さん、あなたも、愛しています」

楯無「ふぇ!?」

と、ここに来て素っ頓狂な声を上げて顔を赤くする楯無。

機龍「浮気、と言う概念に相当する。と言われてしまえばそれまで

   です。けど、僕はみんなを、愛しているんです。簪は

   もちろん、一夏お兄ちゃんや箒お姉ちゃん達。

   織斑先生、山田先生、クラスのみんな。束達の事も。

   そして、楯無さんの事も」

楯無「え?あ、え!?えぇ!?」

機龍「僕は、みんなが大好きです。そして、だからこそ、みんなには

   いつまでも幸せであって欲しい。これは僕の我儘な本音です」

そう言って、機龍はいつものように優しい笑みを浮かべるのだった。

 

対して、楯無は……。

楯無「……」

   『ポロポロ』

不意に、その目から涙を溢れさせた。

機龍「え!?あ、あの!?僕何か不味い事言っちゃいましたか!?」

余りの事に自分が泣かせたのではと思いオロオロとする機龍。

その時。

   『ガバッ!』

楯無が機龍の事を抱きしめた。

  「あ、あの!楯無さん、大丈夫ですか!?」

楯無「……。ぷ、ふふ、あははははは!」

と、いきなり笑い出す彼女に対して、抱きしめられたままの機龍は

どうしていい分からずだったが、それを一歩引いたところから

見ていた簪は気づいた。

 

姉、楯無の表情が泣きながら笑っている事に。

  「ホント、私じゃ敵わないな~機龍君には」

簪「お姉ちゃん?」

楯無「……実はね、私心の中じゃ簪ちゃんを取られちゃうかもって、

   勝手に嫉妬してたみたい」

機龍「楯無さん」

楯無「でも、今になって見ればバカバカしいわね。本当は、この

   嫉妬って簪ちゃんに向けてたのかもしれないわね」

簪「え?」

楯無「私も、漫画みたいに傍にいるだけで胸がキュンキュンする誰かと

   出会って、恋に落ちて、結ばれたい。それを実現させた簪ちゃんが

   きっと羨ましかったのね、私は」

簪「お姉ちゃん。……機龍、お願いがあるの?」

機龍「うん、何?」

簪は、どこか気まずそうにしている姉を見ると、機龍の傍に

屈みこんで耳打ちした。

  「え?良いの?」

簪「うん。私も、お姉ちゃんに幸せになって欲しいから」

と言って、機龍に微笑む簪。機龍はその笑みから彼女の本気度を

伺い、頷いた。

 

そして、改めて楯無と向かい合う機龍。

機龍「楯無さん。もし、あなたが良ければなんですが」

楯無「え?」

機龍「僕の、『恋人』になってくれませんか?」

楯無「えぇ!?い、いや待って!あなたには簪ちゃんが!」

慌てふためく楯無だったが……。

 

簪「ううん。私は良いよ」

楯無「えぇぇっ!?」

まさかの妹の浮気公認に驚く事しかできない楯無。

簪「だって、機龍が魅力的な事は私が一番良く知ってるから。

  ……そんな機龍なら、きっと、私とお姉ちゃんも。

  二人一緒に、幸せにしてくれるって思ったから。

  それに、私も」

そう言って、楯無の両手を自分の両手で包み込む簪。

 「お姉ちゃんと一緒に、幸せになりたいから」

楯無「簪ちゃん」

簪「お姉ちゃん。……大好きだよ」

と言った、次の瞬間。

 

簪・楯「「ん」」

姉妹二人の唇が、夕焼けをバックに重なり合った。

そして、それに見とれていた機龍。

やがて二人は、互いに頬を紅潮させながら唇を離した。

互いを熱を持った瞳で見つめ合う簪と楯無。

やがて二人の視線は、熱を持ったまま機龍へと向けられた。

 

楯無「あ、あの。機龍君」

機龍「……絶対、約束します」

楯無「え?」

不意の言葉に、理解が追い付かずに疑問符を浮かべる楯無。

 

機龍「簪の事も、楯無さんの事も、僕が必ず、幸せにするって」

夕日を背にした機龍のその一言が、楯無の中に流れ込んできた。

そして、その言葉で再び笑みを浮かべながら涙を流す楯無。

楯無「ふふ、ハハ。……公認の二股って、どうなのかしらね?」

そう言って笑う楯無とその言葉につられて笑みを漏らす簪と機龍。

機龍「大丈夫です。だって、二人が互いを嫉妬できないくらい、

   僕が二人に愛情を注ぐだけですから」

その言葉に、楯無は……。

 

楯無「ふふ、姉妹共々、末永く、よろしくお願いします」

 

と、満面の笑みを浮かべながらそう言ったのだった。

 

 

で、その後……。

 

もうあと少しで太陽が完全に沈むと言う所で展望台を後にした

3人だったのだが……。

簪「き、機龍、お姉ちゃん」

機龍「あれ?どうしたの簪?」

不意に、顔を赤く紅潮させて最後尾を遅れ気味に歩いていた簪が

二人に声をかけ、機龍と楯無は足を止めて振り返った。

すると、簪は機龍に何やら耳打ちをした。

それを聞いて、途端に顔を赤くする機龍は、ポケットから

端末を取り出して何かを探し始めた。

 

 

で、それから数分後。事態がうまく呑み込めないままの楯無を

連れてやってきたのが……。

 

楯無「こ、ここって」

そう、ラブホだ。

簪「ご、ごめんねお姉ちゃん。その、台無しにしちゃうかもだけど、

  機龍にあんなふうに言われたら、その」

と言ってモジモジとしている簪を見た楯無は……。

 

楯無「ま、まぁ、寮の中で不純異性交遊されるよりはマシね」

と言って、頭をがっくりと落とすと二人と共にラブホの中へと

入って行くのだった。

※ ここから先はR18の方で投稿します。

 

 

こうして、機龍は新たなる愛を実らせたのだった。

 

     姉妹デート編 END

 




この後はオリジナルの決戦編を描いた後、この作品の機龍の
戦いを描いた『救世の銀龍』と言う作品を書こうと思ってます。


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オリジナル決戦編
インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第28話


今回からは、ISと言う原作の設定こそ残っているものの、殆どが
オリジナルなお話です。なので、ここから先は完全な原作崩壊な
お話になります。ご了承ください。


~~前回までのあらすじ~~

京都での戦いを終え、束の護衛と言う名目でIS学園に居を構えた

束に雇われたスコールたち元ファントムタスクの面々。

こうして、新たに心強い仲間を得た機龍だった。

 

スコールと束達がIS学園の寮の横に居を構えてから、既に

一週間以上が経った。

あれからと言う物、学園内では……。

 

千冬「た~~ば~~ね~~~!」

束「うぎゃぁぁぁぁぁっ!誰か助けてぇぇぇぇぇっ!!」

 

鬼と兎の追いかけっこが日常化していた。

千冬「貴様ぁぁぁぁっ!勝手に学園の備品の打鉄を魔改造

   しおってぇぇぇぇぇっ!!」

束「だって頼まれたから仕方ないでしょぉぉぉぉっ!?

  悪いのは私に改造を頼んだ生徒だよ~~!!」

千冬「安請け合いをする貴様も同罪だぁぁぁぁっ!」

束「ちーちゃんの鬼ぃぃぃぃぃっ!悪魔ぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

と、こんな感じで毎日のように二人の追いかけっこが日常化していた

のだった。

一夏「あ~あ。千冬姉と束さん、またやってるよ」

機龍「ふふ、そうだね」

丁度お昼時とあって、屋上に集まっていた一夏達。

最近は同世代と言う事もあってクロエもよく彼らの輪の中に

参加していた。マドカもいるのだが、彼女の方は機龍が何とか

説得して連れて来たのだった。

で、クロエとマドカを入れた12人は校舎の外を走り回っている

二人を見つけ、笑っていた。まぁ、マドカは他の

皆に見られないように、こっそりとだが……。

箒「何と言うか、私としては姉がみんなに迷惑をかけているようで

  大変申し訳ないのだが……」

クロエ「まぁ、それが束様ですから」

機龍「ここに住む以上、織斑先生とは毎日顔を合わせる事になるからね。

   多分今後も……」

なんて言っていると、遠くから『ぎゃぁぁぁぁぁっ!』と

束の悲鳴が聞こえて来た。

マドカ「……死んだな」

機龍「死んでない!死んでないからね!?」

ボソッと呟かれたマドカの一言に突っ込む機龍。

クロエ「ハァ。……私、ちょっと失礼して束様を迎えに

    行ってきます」

シャル「アハハ、大変だねクロエさんも」

クロエ「全くです」

シャルの言葉に頷きながらも苦笑するクロエ。

モーラ「では、僭越ながら私もお手伝いしますね」

クロエ「お願いします。恐らく、束様は今」

鈴「気絶、だけで済んでればいいけどね」

セシリア「織斑先生は怒らせると怖いですからね。

     ましてや……」

楯無「まぁ、大丈夫なはずよ。織斑先生だって、流石に

   そこまでは、ねぇ?」

ラウラ「……私はドイツで教官のシゴキを受けた時に死にかけた事が

    なんどもあったぞ?その教官を怒らせたのだし……」

簪「……まさかのデッドエンド」

ボソッと呟かれた単語に、全員の表情が青ざめた。

機龍「だ、大丈夫だって!多分!ね?一夏お兄ちゃん!?」

一夏「お、おう!ま、まぁ大丈夫だろ!束さんなら——」

と、言って居た時。

束「みぎゃぁぁぁぁぁぁあっっ!ちーちゃんギブギブギブ~~~~!」

再び束の悲鳴が聞こえて来た。

一夏「だ、大丈夫さ、多分」

と、冷や汗ダラダラでそんな事を言っているのだった。

 

と、こんな感じで、以前にもまして騒がしいながらも、

笑いありの日常を謳歌していた一夏と機龍達だった。

 

そして、騒がしい日常はまだまだ続いていた。

 

真耶「早速ですが皆さんに朗報です。またまた新しい新入生の

   方がいらっしゃいました」

女生徒「お~。またか~」 「やっぱ多いね~ウチらのクラス」

     「どんな子かな~」

と、ひそひそ話をする生徒達。それを咳払いで止める千冬。

真耶「はい。それでは、篠ノ之さん、どうぞ~」

女生徒「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」

 

と、真耶の呼んだ苗字に、大半の生徒達が疑問符を浮かべて

教室の一番左の列の先頭の席に座っている箒の方を見つめた。

対して箒は、違うとばかりにそっぽを向いた。

すると、ドアが開いていて入ってきたのは………。

 

 

マドカ「……篠ノ之、円だ。……よろしく」

髪を伸ばしてポニーテールにし、更に伊達眼鏡をかけたマドカだった。

そんな彼女がバツの悪そうに自己紹介をした次の瞬間……。

   「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」」」」

クラス中に絶叫が響いた。

それもそのはず、苗字が苗字なのだから仕方ない。しかも一部の

生徒に至っては彼女の事は京都で知っていた。

そう、ファントムタスクのメンバーなのだと。

 

真耶「え~っとですね。マドカさんはつい先日、機龍君と同じで

   篠ノ之束博士のご子女になられました。そして、博士のご意向で

   今日から皆さんのクラスメイトとなります。皆さん、

   仲良くしてあげてくださいね」

と言う物の、一夏や機龍達以外のメンバーは開いた口が塞がらない状態に

なっていたのだった。

 

そして、機龍は笑みを浮かべながら一昨日の夜の事を思い出していた。

 

それは、束に呼び出され彼女の家で夕食を取った後の事だった。

 

機龍「え?マドカちゃんを学園に?」

束「そう!リュウ君にくーちゃんに続く私の次女、篠ノ之円ちゃん

  としてマドっちを迎える事にしだんだよ!んで、折角だから

  マドっちに学園生活をエンジョイしてもらうと思ってね!」

マドカ「……余計なお世話だ」

と、テンションが高い束と相変わらずムスッとしたままのマドカ。

束「とか言って~!」

そう言いつつマドカの傍に現れる束。今の彼女は出されていた

ミネラルウォーターを飲んでいたのだが……。

 「部屋で一人の時に笑ってた癖に~!」

   『ブフッ!』

マドカ「がはっ!がふっ!き、貴様!何を覗いて!」

突然の事に驚きせき込みながらも束の方を睨むマドカ。

束「ま~ま~!良いじゃない!楽しい学園生活をエンジョイしちゃい

  なよ~!」

と言って、ポムポムとマドカの肩を叩く束。で……。

機龍「僕は、マドカちゃんと一緒に学校で勉強できたら

   嬉しいな」

ゴジラ「ま、良いんじゃねえか?やりたくないならそれまでだが、

    別にどっちでも良いなら経験してからやめるかどうか

    選びゃ良いだけの話だろ?」

と言う機龍と手首の端末に現れたゴジラがマドカに語り掛けた。

それと……。

   「あ。そうそう。後、見物なのがあるから来といて

    損はないぜ」

マドカ「見物なもの?」

ゴジラの言葉に疑問符を浮かべるマドカ。すると、端末の

画面の中でゴジラが笑みを堪えながら手をチョイチョイと振った。

端末のスピーカーの方に耳を近づけるマドカ。

ゴジラ「織斑一夏の事だよ。あいつ、毎日のようにトラブルに

    巻き込まれてるからな。間近で見ると笑えるぜ」

マドカ「……そう、か」

と、歯を見せて笑うゴジラとどこか納得したようなマドカ。

一方、機龍はと言うと……。

 

機龍『そんな風に誘って大丈夫なのかな?』

心の中でゴジラの言って居る事に疑問符を浮かべる機龍。

しかし……。

  『まぁ、いっか。……楽しい事や面白い事は、これから見つけて

   行けば良いよね』

そう思いながら、機龍は手元の端末でゴジラと話をしているマドカの

方を見ながら笑みを浮かべるのだった。

 

そして時間は戻って現在。

ちなみに、マドカが髪型を変えて伊達眼鏡をしているのは、素のままだと

千冬と似すぎている為、怪しまれるのは必然だろうと考えた機龍達の

考案によるものだった。

午前中は普通に授業を受けていたマドカだったが……。

 

休み時間。

マドカ「………」

今、マドカは数学の教科書と睨めっこしていた。どうやら、

4限目の数学の時間、出来ない所があったようだ。

ちなみに、今教室に居るのは機龍とマドカだけだ。他のメンバーは

今食堂で昼食を取っていた。

機龍「マドカちゃん。大丈夫?」

そんな彼女を見かねて機龍が声をかけるが……。

マドカ「……。う、うるさい。これくらい自分で出来る」

と言って、少しばかり顔を赤くしながら教科書で口元を

隠すマドカ。

相も変わらずプライドの高い彼女は、やはりと言うべきか。

こういった事は自分でやり遂げようとするのだ。

それを見た機龍は……。

機龍「そっか。じゃあ僕からはヒントだけ。数式は基本だよ。

   無数の記号や数字に惑わされないで。ゆっくり、一個一個

   足して引いて掛けて割って。それだけだよ」

マドカ「わ、わかっている」

と言うと、再びノートと教科書を見始めるマドカ。

ちなみに、マドカと機龍は苗字が一緒なため、席は前後になっていた。

つまり機龍の後ろの席が今のマドカの席なのだ。

やがて、時間こそ掛かった物の、マドカは自力で計算式を解いた。

それの答え合わせをする機龍。

 

機龍「こっちもマル。これとこれも。……うん。

   すごいよマドカちゃん。全問正解だよ」

と、笑みを浮かべながらそう言って採点したノートを返す機龍。

マドカ「そ、そうか」

そう言って、少し恥ずかしそうにノートを受け取るマドカ。

どうやら彼女は育った環境が環境なだけに、真っ直ぐ褒められるという事に

慣れていないようだった。

機龍「マドカちゃん、偉い偉い」

と、今度はどこか茶化すように機龍がマドカの頭を撫でた。

マドカ「な、撫でるな!」

すると顔を真っ赤にして機龍の手を払うマドカ。

   「さっさと昼食を済ませるぞ!時間も残り少ないからな!」

と言って、マドカは話を逸らせつつ、ノートと教科書をしまった

マドカは一人歩き出した。

機龍「ふふ、待ってよマドカちゃん」

そう言って彼女に追いついた機龍。しかし。

マドカ「お前、いい加減そのちゃん付けで呼ぶのはやめろ。

    聞いていて背中が痒くなる」

機龍「え?う~ん。……じゃあ『マドカお姉ちゃん』は?」

マドカ「却下」

機龍「え~!?え~っと、じゃあ、後は、う~ん」

驚き、必死に悩む機龍と一緒に歩いているマドカは、機龍に

見られないようにこっそり笑みを浮かべた。

そして、彼女はどことなく今の生活に幸せを感じていた。

 

今までの生活では手に入らなかった物を、手にしているのだから。

 

機龍「やっぱり、マドカちゃんじゃ、ダメ?」

マドカ「……。もう好きにしろ」

そう言っているマドカは、確かに笑っていた。

 

そしてその日の夜の事だった。

 

 

   「何だ。これは……」

機龍「え?何って。パーティーだよ」

と、そんな事を言っている機龍。場所は食堂。

そんな彼の周りには一夏や簪たちを始め、モーラや楯無、

レインやフォルテ、更には束や千冬の教師陣。

スコールやオータムの姿もあった。

加えて、更に1年や2年、3年などの他学年、他クラスの

女生徒たちの姿も……。

そして、そんな彼らの頭上には……。

 

   『篠ノ之円ちゃん!ご入学おめでとう!』

 

と、デカデカと書かれた垂れ幕が掛かれていた。

マドカ「いや、わかっている。わかっているさ。これが

    パーティーだという事はわかっている。

    だが問題はそこじゃない。そこじゃないぞ。

    何でこんなに人数が集まってるのかと言う事だ!?」

機龍「あ。あ~。そう言う事。僕は一夏お兄ちゃん達にしか

   話はしてないけど?」

一夏「俺達は教室で話はしてたけど、他に人にはな?」

シャル「う、うん。言ってないと思うけど……」

と、言って居ると……。

本音「は~い!私がみんなに広めました~♪」

簪「やっぱり」

本音がダボダボな袖を掲げて自己主張し、それを見て苦笑する簪。

本音「だってだって~。パーティーはみんなでやらないとね~♪」

そう言っている本音だが、当のマドカは……。

マドカ「犯人はお前か~!」

どうやら、こういった事の主役になる事も慣れていないらしいマドカは

怒りと羞恥が半々な様子で、顔を赤くしながら怒った。

本音「うぇ~~~!?マドマドが怒った~!」

マドカ「何だその変なあだ名は~~!?」

と、追いかけっこを始める本音とマドカ。

ちなみに機龍の中では……。。

 

ゴジラ『ぷ、ぶふっ!あははははははははははははっ!!!』

それを見たゴジラが大爆笑していた。

機龍『ゴジラ!笑いすぎ!』

ゴジラ『だ、だってよ。ま、マドカのあだ名がマドマドって、

    ぷ、ははははははははっ!!!』

心の中でお腹を抱えて笑い転げるゴジラを、めっ!

と言わんばかりに注意する機龍だったが、ゴジラはそれでも

笑っていた。

その後、機龍はマドカを落ち着けたり、彼女のために作った

チョコレートケーキを出したりしていた。

 

そして、今まさに機龍の、いや、機龍とゴジラの持つ覇王としての

絆は広がり続けていた。

 

そんなパーティー終了後。

夜の道を機龍とマドカが歩いていた。

機龍「どうだった?パーティーは楽しかった?」

マドカ「……。まぁ、悪くはない」

機龍「ホント!?良かった~♪」

と、一人喜ぶ機龍とやれやれと言いたげにため息をつくマドカ。

 

マドカ「……お前は、言って居たな」

機龍「え?」

マドカ「京都の時、私を笑顔にするのは自分ではないと。

    だがなぜだ?なぜ、私を笑顔にしようとした?」

その問いかけに、機龍は……。

機龍「だって、生きているんだから。生きているのなら、

   痛くて怖くて辛い事より、誰かと笑って楽しんで、

   笑顔で居られる方が素敵でしょ?」

と、機龍もまた、笑みを浮かべながらマドカに向かって

そう言った。

その答えに、マドカは驚き目を見開いてから笑った。

マドカ「成程、聞くまでもなかったのだな」

その時だった。

ゴジラ『ったりめ~だ。相棒にシリアス求めるのが間違いだっての』

と、マドカの手首の端末にゴジラが現れ、相槌を打った。

   『優しさが人間の皮を被って歩いている奴だぜ?俺の相棒は』

マドカ「あぁ、そうだったな。お前の相棒は」

機龍「……サラッと今僕バカにされた?」

 

そんな風な話をしながら、機龍とマドカ(とゴジラ)は寮や屋敷へと

戻って行ったのだった。

 

 

しかし、一方で……。

 

千冬「それで、どういうつもりだ?束」

今、千冬と真耶は束によって呼び出され、彼女の邸宅の地下にある

薄暗い部屋へと呼び出されていた。

束「ごめんね~呼び出しちゃって。実はちーちゃんと

  まややんに知らせたい事があってさ~」

複数のモニターを前にして椅子に座る束と、彼女の背中を

見つめている二人。

やがて、束が振り返ったのだが……。

 「言っとくけど、良い話って訳じゃないからね?」

そう言って、珍しくも真剣な彼女の顔を見て、真耶は驚き

千冬は僅かに眉をひそめた。

 「どっちかって言うと、悪い話だね」

千冬「……。聞こうじゃないか。その悪い話とやらを」

束「まぁ、決定した話じゃなくて悪い話になるかもしれない

  前置きみたいな事なんだけどね」

千冬「良いからさっさと話せ」

肩をすくめる束と急かす千冬。

束「はいはい。……事の始まりは数日程前。場所は太平洋の

  ど真ん中」

頷いた直後、表情を引き締めて語り始める束。

 「その日、私はレーダーで『あるもの』を確認した」

真耶「ある、物?」

束「そう。ISのコアや原子力とも異なる特殊なエネルギー。

  つまりは、未知の力を持った『何か』って事だよ」

千冬「その何かとは何だ?」

束「それがさ~っぱりなの!エネルギーを検知したのはほぼ

  一瞬だったし、検知したとはいってもごく微量だったから。

よくはわからなかったんだよね~」

千冬「……ならどうしてそれが悪い話になる?」

束「……怪獣」

その時、今まで笑顔を浮かべていた束が真剣な顔でボソッと

呟いた。

その単語を聞いて驚く真耶。

 「二人には前に話したと思うけど、知ってるよね?もーちゃん、

  モーラがリュウ君と同じ元怪獣だって」

千冬「あぁ、画像付きで貴様に見せられたな。確か、

   元は蛾の怪獣、モスラだったか?」

束「そう。リュウ君の中に宿る怪獣王、ゴジラ。リュウ君自身の

  3式機龍。もーちゃんのモスラ。肉体の有無を無視すれば

  今この世界には本来存在しなかった怪獣が3人存在してるって事だよ。

アニメみたいな転生劇がこの世界では起きてるなら、

同じことが起きても可笑しくないでしょ?

  アニメみたいなことが起きたり、4人目、いや、『4匹目』の

  怪獣が現れたとしても」

真耶「で、でも、それなら、きっと機龍君達と仲良く——」

束「それは希望的観測だよ、まややん」

恐る恐る発言した彼女の言葉をバッサリと切り捨てる束。

 

 「もーちゃんやリュウ君から聞いた話なんだけど、その世界の

  日本は何度も怪獣に襲われているんだって。

  例えば、巨大な人間の形をした怪物、ガイラ。

  他にも、マタマタガメの変異種、カメーバ。多くの怪獣が

  現れている。そして、ガイラは人間を喰った事さえあるそうだよ」

真耶「ひ、人を、食べ、た?」

余りの事に驚く真耶。しかし束は淡々と語り続けた。

束「そう。……二人の話を総合すれば、リュウ君達の世界。

  まぁ、そこの王様の名前を取ってゴジラの世界、とでも言おうかな?

  とにかく。ゴジラの世界で存在する怪獣は、狂暴な奴らばかりだった

  みたいだよ。むしろ、リュウ君やもーちゃんのように、

  人間を守ろうとする怪獣は少数派だったみたいだね」

千冬「……まさか」

束「そう。あの時私が観測したエネルギーの可能性の一つとして

  言えるのが、それが『怪獣のエネルギー』かもしれないって

  事だよ」

千冬「そして、それが人類の敵になるかもしれない、と?

   そう言いたいわけか?」

束「うん。ましてや、私の推察が正しければゴジラ世界における

  怪獣は、あの3人だけじゃない。分岐した無数の世界に

  存在した怪獣だって可能性もある。一体、何が出てくるんだろうね?

  ちーちゃん」

千冬「さぁな。……唯」

束「おりょ?」

千冬「少し、胸騒ぎがするのは確かだ」

そう思いながら、千冬は無機質な天井を仰ぐのだった。

 

 

 

 

一方、場所は変わって太平洋の某所にある、地図にも載っていない島。

その島は対外的には唯の無人島だった。

どうやらかつてはどこかの国の小規模な基地だったのか、島の中央

には錆だらけでボロボロになった小さな格納庫らしき物があった。

だが、それは上辺だけだった。

実際にはその格納庫の下にはきちんと整備された施設があり、更に

地下へと続くエレベーターがあった。

そして、そのエレベーターに乗って施設内に降り、いくつものIDや

本人確認を経てほんのわずかな人間しか入れない施設に、

その人間たちは居た。

 

皆が皆、カルト結社の儀式服のような紫色のローブを身に纏い、顔には

無機質な上半分だけの面をしていた。そして、その額にはローマ数字で

Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、と数字が描かれていた。その数は1から13まであり、

そんな中で額になにも描かれていない人物がいた。

合計で14人の彼らは、眼前にある縦長のポッドの中身を見つめていた。

12「ミスターゼロ、これが」

0「その通り。先日、太平洋沖で観測されたエネルギーの正体だ」

そう言って見つめるポッドの中には、『成人男性程度の大きさの怪物』が

収められていた。

蟹のように『赤い体』に蜘蛛や蟹の様な足。人間の子供の身長はあるかと言う

長さの首。その首の先端にある怪物じみたトゲトゲな頭と顔。

 

そう、それはまるで、『悪魔』のような顔をした赤い化け物だった。

 

   第28話 END

 




最後の付箋、恐らくゴジラを知っている人なら絶対わかるでしょう。
この物語の最後は、『奴』との決戦と後は少し(になるかどうかは分からない)
エピローグです。お楽しみに。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第29話

今回で、前回出て来た悪魔の正体がわかります。まぁ、恐らく皆さんは
既に分かっていると思いますが。



~~前回までのあらすじ~~

新たな仲間、友人を迎えた機龍達。束とスコール達もIS学園に

住み込み、マドカも束の娘として篠ノ之の姓を貰い、『篠ノ之円』

として一夏達のクラスへ編入してきた。

ドタバタながらも楽しい日々を送っていた機龍達。

しかし、一方で束は新たなる怪獣の出現を予想し、千冬は胸騒ぎを

覚えるのだった。

そして、そんな中で亡国企業の幹部会は『一匹の悪魔』を

捕えていたのだった。

 

 

マドカの入学パーティーから数日が経ったある日の深夜。

 

 

今、機龍は夢を見ていた。

 

機龍『ここは……』

何処か白黒な世界に居る機龍。そして、『それ』は流れ出した。

  『何、これ』

余りの事に驚く機龍。それもそのはず。何故なら流れ出した映像とは、

自分と同じ種族『ゴジラ』と様々な怪獣の戦いの映像だったのだ。

4足歩行で体中がトゲトゲな怪獣から始まり、巨大な猿の怪獣、

自分の知るのとは少し違うモスラ、翼竜の怪獣、黄金の三つ首龍。

自分と似て非なる銀色な鋼鉄の龍。

それだけではない。多くの怪獣たちが戦う映像が、機龍の前に

現れては消えて行った。

それを、唯々呆然と見ている事しかできない機龍。

  『これ、は。……記憶が、流れ込んでくる。これは、

   分岐世界の僕(ゴジラ)の記憶?』

幾度となく繰り広げられる死闘。そのすべてを制する黒の巨龍。

そして、最後は……。

 

 

   『AAAAAAAAAAN!!!!』

 

謎の咆哮と共に、機龍の前に翼を広げ、一角を持った直立歩行の

『何か』が降り立って来た。

機龍は、呆然とその巨大な『何か』を見上げていた。

と、その時。

ゴジラ『感じる。感じるぜぇ、この『力』ぁ!あぁ忘れねえ!

    あの時のだぁ!』

唐突に、機龍の中に居る初代ゴジラが憤り始めた。そして、

肉体を共有しているからこそ、機龍は目の前に居る『何か』の

持つ力を確信した。

機龍『こいつが、こいつが持っている、力は……!』

 

と、その時、『何か』の角が煌めき、大きくなっていった。

  『オキシジェン——』

次の瞬間、その角が機龍めがけて振り下ろされた。

  『デストロイヤー!』

そして、光が機龍を包んだ。

 

 

  「はっ!!?」

機龍の意識が光りに呑まれた次の瞬間、現実世界の機龍が飛び起きた。

  「ハァ、ハァ、ハァ……!」

  『あれは、夢、なのか?』

息を荒らげ、体中を汗だくにしながらも、機龍は額に右手を当てて

先ほどまで見ていた夢をリピートしていた。

そんな中でも群を抜いて印象的なのが、最後の赤い『何か』。

  『違う、夢じゃない。やっぱり、あれは』

と、思っていた時だった。

簪「ん、んん?機龍?」

機龍のすぐ隣で、彼の腕を抱いて眠っていた簪が目を覚ました。

 「機龍、どうしたの?」

瞼を擦りながらも未だに半分閉じた眼を見ながら、機龍は……。

機龍「あ、ごめん。起こしちゃったかな。ちょっと喉乾いちゃって」

簪「あ、そう、なんだ。ふ、あ~~~」

頷いてから欠伸をする簪。

機龍「まだ寝てていいよ。もう少し時間があるから」

簪「うん。それじゃあ、お言葉に、甘えて」

と言うと、簪はポスンとベッドに倒れてまた眠ってしまった。

 

対して機龍は、簪が眠ったのを確認すると、ゆっくりとベッドを出て

シャワー室の前にある洗面台でコップに水を汲み、一気に飲み干した。

機龍『仮に、仮にあれが本当だったとしても、記憶なら過去の出来事のはず。

   大丈夫だよね。きっと』

機龍は、そう思いながら鏡を覗き、弱気な顔を自分がしている事に

気づくと、両手で頬をパン!と叩いた。

  「しっかりしろ、僕!弱気、ダメ!よしっ!」

と、気合を入れた機龍はベッドへと戻って行き、横向きに寝ている簪の

額に掛かった髪の毛を払いながら。

  『みんなの笑顔も、命も、この世界も、僕が守る』

と、決意を新たにし、握りこぶしを作ったのだが、その時。

  『あれ?』

不意に、自分の右手を見つめる機龍。彼は二、三度拳を作っては

開いてを繰り返した。

  『何だろう。前より力が、上がってる?』

もう一度拳を握り、深呼吸をしてから目を瞑り内なる自分を確かめた。

機械が自己診断プログラムを走らせるように、機龍も自分の機能を

生かして体の中を走査した。そして……。

  『やっぱり。肉体が変化している。……でも、今までこんな

   事は無かったのに、どうして今になって』

と、疑問に思う機龍だが答えは出なかった。

 

しかし、のちに彼は知る事になるだろう。この変化は、彼の本能自身が

戦いに備えるために引き起こした事なのだと。

 

 

やがて、朝になって簪たちと共に食堂に集まる機龍。今ここに居るのは、

クロエとマドカを抜いた10人だ。

みんながみんな、思い思いの朝食を食べていた。

一夏「あ~、気が付けばもう冬もすぐそこだな~」

円形のテーブルに揃ってみんなで食事をしていた一夏が外を

見ながらそう呟いた。

鈴「そうね~」

シャル「秋、か~」

と、相槌を打つ鈴やシャルロット。そこへ。

楯無「そして近づく中間考査~♪」

学生にとっての痛恨の一撃たる殺し文句が放たれた。

次の瞬間、一夏、鈴、箒の表情が暗くなる。

モーラ「だ、ダメですよ楯無さん!皆さんにダメージを与えちゃ!」

シャル「僕たちも勉強手伝うから!ね!?」

機龍「そ、そうだよ!3人寄れば文殊の知恵って言うし!みんなで

   勉強すればきっと大丈夫だよ!」

と、そんな風に機龍達は一夏達を励ますのだった。

簪「じゃ、じゃあ今度みんなで勉強会しましょう。ね?」

一夏「そ、そうだな!」

鈴「そうよね!みんなで勉強すれば……!」

と、そんな一言で勉強会をする方針になった。

その後。

マドカ「勉強会、だと?」

朝のHR前に教室で合流したマドカにもその事を伝える機龍。

機龍「うん。折角だからマドカちゃんも誘おうと思って」

マドカ「そうか。……考えておく」

と、言いつつも密に笑みを浮かべるマドカだった。

 

しかし、そんな中で機龍には懸念があった。そして……。

機龍「モーラお姉ちゃん。ちょっと良いかな?」

モーラ「はい、何ですか?」

機龍「少し、話したい事があるんだ。屋上に来てもらえるかな?」

と、モーラが独りの時に話しかけて誘う機龍。

モーラ「わかりました。では、放課後にそこで」

機龍「うん、ありがとう」

 

そして、放課後。

既に陽が落ちるのも早くなった今日この頃。夕暮れの4時過ぎの

屋上に二人の姿があった。

モーラ「それで、お話と言うのは?」

機龍「実は……。今日変な夢を見たんだ」

静かに告白する機龍だったが、彼は僅かにモーラが息をのんだのを

見逃さなかった。

  「もしかして、モーラお姉ちゃんも?」

モーラ「……。はい」

しばしの沈黙の後に頷くモーラ。

   「確かに私も変な夢を、いえ。異世界の『私』の記憶を

    見ました。あなたも、なのでしょう?」

機龍「うん。……ゴジラの戦いの記憶だった。四つ足のトゲトゲ

な怪獣や、まるで僕みたいな機械仕掛けのゴジラ。

色んな怪獣と戦うゴジラの、僕の記憶。それが頭の中に

流れ込んできたんだ。これって……」

モーラ「わかりません。ただ」

機龍の問いに首を振りながらもモーラは……。

   「今まで無かった事が起こった。こういう事はその、

    非常に言いずらいのですが……」

機龍「何かの、前触れって事?」

モーラ「……。はい。そう捉え警戒した方が良いと思います」

そう言われた機龍は、沈み行く太陽を見つめ、そして。

 

機龍「モスラ」

モーラ「はい」

彼女の方は向かずに彼女の真名で呼ぶ機龍。

機龍「僕は、この世界を綺麗だと思う。一夏達と過ごせる毎日が

   楽しくて仕方がないんだ。……人間の本性がそれだけじゃない事は

   僕自身わかっているつもりだよ」

静かに語る機龍の言葉に聞き入っているモーラ。

  「でも、それでも。……例え僕の存在が公になったとしても」

そう言いながら機龍はモーラの方に向き直った。

  「僕は、3式機龍として、この世界を守る」

 

僅かに煌めく黄金の瞳がモーラを真正面から捉える。その瞳を

見たモーラは……。

モーラ「であれば、私も貴方と共に戦いましょう。守護獣モスラとして。

あなたの傍に寄り添うと決めたモーラ・S・フラワーとして。

この世界を。私の友人たちを」

機龍「モスラ。……ありがとう」

お礼を言う機龍は、彼女に向かって右手を差し出した。

それに答え自分も握手を返すモーラ。

 

二人は戦う決意を固めた。この世界を、命を護るために。

 

 

 

 

一方、太平洋上の某所にある亡国企業の研究島では……。

 

相も変わらずカルト結社のような恰好をした幹部会の役員たちが

『奴』の幼体が入ったポッドを見つめていた。

11「まさか、このような生物が存在していたとは」

9「何とおぞましい姿よ。まるで悪魔じゃな」

声からして、女性と思われる11と老人と思われる9の声が

聞こえる。

 

やがて、役員14人の横にブカブカな防護スーツを来た科学者らしき

人物が現れた。

0「来たか。現状、分かっている事を報告しろ」

科学者「はい。先ほどこの研究生物から回収した肉片を調査した所、

未知の化合物が検出されました。現在化合物の解析を

行っています。また、この個体そのものが微小生命体の

集合体であると確認されました」

5「集合体だと?」

科学者の報告に、顎に手を当ててから目の前のポッドの方を

見つめるミスター5。

 「これがか?」

科学者「はい。実際に肉片を採取し拡大したところ、微小生物の

    塊である事が確認されました。推測を申し上げれば、

    この生物は今後も増殖と進化を続け、更に巨大化する可能性が

    あります」

4「今この場で巨大化する可能性は?」

科学者「それはありません。現在このポッド内には筋弛緩効果を

    持った液体を常時投入しており、ポッドが破壊されでも

    しない限り動き出す事はありません」

0「そうか。そのほかに報告する事はあるのか?」

科学者「現状、最大の疑問は謎の化合物です。当面はその解析を

    お待ちいただくしかないかと」

0「わかった。解析はお前達に任せる。できる限り早く

  成果を示せ」

科学者「はい。失礼します」

と、科学者が礼をして踵を返して歩き出した時だった。

 

   『ドォォォォンッ!』

   『ビーッ!ビーッ!ビーッ!』

不意に爆発音が響いて、彼らが立っていた地面が揺れた。

そして時を置かずに警報を意味するサイレンと赤い赤色灯が

あちこちでクルクルと回り始めた。13人がザワザワと

騒めき始めた。

3「爆発。まさか、攻撃か?」

6「アメリカでしょうか?それともロシアの」

こんな事態にもあって彼らが冷静な理由。それはつい先日

手に入れた優秀な駒、ダミー・ゴーレムの存在があったからだ。

能力が劣るとはいえ、物量で勝るISがある以上、安易に攻め込まれた

としても問題ないと考えていたのだ。

そして、ミスターワンが近くにあった通信機の方へと

駆け寄った。

1「おい!この爆発は何だ!報告しろ!」

通信機が呼びかけた先は、この島の警備を担当している中央監視室だ。

監視員「き、緊急連絡!地下施設の発電所付近で爆発が発生!

    浸水が始まっています!加えて、施設内に多数の動体反応を

    検出しました!」

1「何だと!?相手はどこだ!CIAか!それとも」

監視員「さ、先ほど数名の武装警備員とゴーレム改が確認に向かい

    ましたが、突如として連絡が途絶え——」

と、その時。

   『ドゴォォォォン!』

ミスターワンの耳に、通信機越しの破壊音が響いてきた。慌てて

耳を話す1。と、その時。

   「な、何だこいつ!来るな、来るなぁっ!」

   『パンパンッ!』

通信機の向こうから悲鳴じみた叫びと銃声が響いたが……。

   『キュゴォォォォォッ!』

   「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

次の瞬間、向こうから聞こえて来たのは何かを噴射するような

音と監視員の男性の悲鳴だった。

そして、それを最後に通信が途絶えた。

1「おい!どうした!返事をしろ!おい!」

返事のない通信機に怒鳴る1。しかし、返事は帰ってこなかった。

そして、その様子と通信機から漏れた悲鳴を聞いていた役員たちは

流石に慌てだした。

11「これは、非常にまずいのでは……」

0「やむを得ないか。まぁ、よい。ここは大して重要度の高い

  施設ではない。ここを放棄する。各々は脱出を」

と言うミスターゼロの言葉に13人は頷いた。

 「ミスターワン、上の者達と連絡を取れ。脱出の用意を」

1「は、はい」

頷いた1は、すぐに通信機を調整して通話回線を切り替えた。

 「おい、聞こえるか。上階警備室」

と、呼びかけた、その時。

 

   『ドゴォォォォンッ!』

14人の幹部と科学者が残っていたポッドの部屋の壁が崩落した。

慌ててそちらを向く15人。その時。

 

   『GIIIII!』

崩落した壁の向こう側から、『奴』が現れた。

1「なっ!?」

それを見た15人は驚かざるを得なかった。

そう、それこそ、今まさに彼、彼女が前にしているポッドの

中の眠れる怪物と同じ姿形をした怪物だったのだ。

 

科学者「あ、あぁ。……うわぁぁぁぁぁっ!」

余りの事に叫びながら逃げ出す科学者。と、その時、壁を壊して

現れた幼体の口元が煌めいたかと思うと……。

   『キュゴォォォォォッ!』

その口元から、まるで霧のような光線が科学者めがけて噴射された。

それは寸分違わずに科学者を捉え……。

   「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

その体に命中した。

 

そして、次の瞬間、科学者の着ていた服が溶け、更には中に居た

科学者の体までもが溶け、最後は骨も残らずにドロッとした

水のような無色の液体となって『消えた』。

余りの事に驚き声が出ない役員たち。と、その時。

   『GIIIII!』

   『キュゴォォォォォッ!』

2体目の幼体が、1体目の閉じ込められていた幼体のポッド

目掛けて、光線を噴射した。

そして、光線が命中したポッドが一拍置いてひびが入り…。

   『バリィィィィンッ!』

粉々に砕け散った。その砕けたガラスから身を護るために

ローブで体を隠す役員たち。

そして、彼らが視線を戻した時。

   『GI、GI』

封印から解放された1体目の幼体の目が、僅かに開こうとしていた。

1「ば、バカなっ!」

 

余りの事で現状を認識できていない役員たち。

と、その時、2体目の口元が僅かに輝いている事に気付いた

ミスターゼロは近くにあった脱出扉を開けて飛び込んだ。

それに遅れて、走りこんできたミスターワンが強制閉鎖スイッチを

叩いた。

一瞬の警報の後、隔壁がすぐさま降りて来て脱出扉を塞いだ。

すぐさま、向こうからドンドンと壁を叩く音が聞こえて来た。

11「出せ!何をしている!私たちも出せ!」

7「開けろ!ここを開けろぉ!」

向こう側から悲鳴と怒号が聞こえるが、それを無視して駆け出す

ミスターゼロとワン。そして、少しの間の後、二人は背後から

聞こえる絶叫も無視して走り出した。

 

そして二人は非常用のジグザグな階段を走っていた。だが。

   『ドゴォォォォンッ!』

踊り場で身を翻したゼロと、それに続こうとしたワン。

だが、次の瞬間踊り場の壁を突き破って現れた3体目の幼体が

ミスターワンに突進し、押し倒した。

1「う、ぐ、た、助け、ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

咄嗟にミスターゼロに助けを求めるワンだったが、ゼロは彼を一瞥した

だけで止まらずに階段を駆け上がり、そして直後、彼の断末魔と

幼体の第二の口が肉に食らいつく嫌な音だけが響いた。

 

それから走り続けたミスターゼロは、何とか地上部分へと通じる

緊急通路からうっそうとした地表、オンボロに偽装された建物の

近くへと出た。

0『そうだ!私さえ、私さえ生き残っていれば!企業はまだ!』

彼にとって、1から13の役員でさえも企業の利益のための

手ごまにしか過ぎなかったのだ。

 

逃げられたと思いながら、建物の中に隠されたヘリに乗るために

格納庫へと近づく0。

だが、次の瞬間。

   『キュゴォォォォッ!』

   『ドゴォォォォンッ!』

突如として謎の化合物、『ミクロオキシゲン』が吹きつけられた

ヘリとそれを格納していた格納庫が一瞬にして爆発した。

咄嗟の爆風で顔を覆う0。

0「一体何が、っ!!」

慌てて視線を戻した時、燃え盛る残骸の向こうから、炎の壁を

越えていくつもの怪物、『デストロイア』の幼体がゆっくりと

向かって来た。

 「ば、バカな……!」

僅かに後ずさりをしたその時。

 

   『ドォォォォンッ!』

背後で爆発音が下かと思うと、先ほど0が出て来た非常用

通路が吹っ飛んで、その下から3体の幼体が現れた。

 「まさか、怪物は、他にも。……クソッ!」

体中から冷や汗を流しながら、0は咄嗟に懐から護身用の

拳銃を引き抜いた。

 「私は!」

   『パンッ!』

 「私は、こんな所で!」

   『パンッ!パンッ!』

数発の銃弾がデストロイア・幼体に命中するが、幼体たちはそれに

よって怯むどころか意に介してすらいない。

 「私はこんな所で終わる人間ではない!私は、世界を!」

恐怖と絶望が染み渡る中で、必死に拳銃を撃つ0。だが。

 「私はァァァァァァッ!」

 

 

 

   『『『『『キュゴォォォォォッ!!!』』』』』

 

 「ぎゅあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

全てが終わった時そこに残っていたのは、ミスターゼロが

付けていた、何も描かれていなかった仮面が、真っ二つに

割れて残った欠片だけだった。

 

 

 

そして、ごく一部の者にしか知られていなかったその島は、

海中に出来ていた地下施設の爆発の影響で崩壊。海の底へと、

誰にも知られる事なく沈んでいったのだった。

 

 

 

戻って場所はIS学園。一夏達が、『悪魔』が解放されたという事実を

知らないまま、既に数日が経過していた。

今日もまた、食堂で朝食を取っていた時の事だった。

アナウンサー「続いてのニュースです。つい先日ハワイ沖で消息を

       絶っていた商船の乗組員らしき人物が海上を漂流して

       いた所、近海を捜索していたアメリカ軍の艦船に

       保護され一命をとりとめました」

モーラ「また、沈没事故ですか」

ニュースの内容を聞いた10人の目が食堂に備え付けられていた

テレビの方に向いた。

鈴「何かここ最近、急に増えて来たわね~」

シャル「うん。それも太平洋の、ハワイとかの近くばかりでね」

と、言って居る内にもニュースの内容は続いていた。

アナウンサー「保護された乗組員の男性はハワイの病院へと搬送され、

       一命をとりとめました。しかし、男性はうわ言のように

       何かを呟いており、未確定情報ではありますが、

       『赤い悪魔』、と呟きそれが来る、と言って居るようです」

その時、機龍の手が『ピクッ』と震えた。

 

   『AAAAAAAAAAN!!』

 

そして、機龍の頭の中に夢で見た『奴』の姿が思い起こされた。

同時に、機龍は迷っていた。夢で見た事を一夏達にも話すべき

なのかを。

機龍『……いや』

心の中で首を振った機龍は意識を現実世界に戻し、一夏達との

会話に戻った。そんな中で。

  『もし、これが僕のような『怪獣』のせいなのだとしたら、

   この世界に、僕やモスラ以外の怪獣を呼び寄せてしまったの

   だとしたら、それは僕がケジメをつけなきゃいけないんだ。

   人を、世界を壊そうとする怪獣が現れるのなら、

   僕が倒す……!それが、僕の戦う理由なんだ!』

と、機龍は心の中で誓ったのだった。

 

己が戦う理由を。そして、守りたい者たちを守るために。

 

 

そして、今、ゆっくりと赤い悪魔たちは暗い海の中を

進んでいた。その黄色い複眼の見つめる先。遥か彼方に

あるのは、IS学園。そして、その沿岸には……。

 

 

  「僕は、戦う」

IS学園制服姿の機龍が居た。そして、彼もまた本能で

直観していた。

戦いが近い事を。あの夢は、それを暗示している事を。

 

そして、その敵が、これまでになく強敵である事を。

 

 

決戦の日は近い。

 

その舞台となるのはここ、IS学園だ。

 

 

 

紅蓮の悪魔、『デストロイア』と。

 

鋼鉄の銀龍、『3式機龍』。

 

 

今、二つの強大な力がぶつかろうとしていた。

 

果たして勝つのは、悪魔か?銀龍か?

 

今まさに、この世界最大の死闘が始まろうとしていた。

 

     第29話 END

 




今回はちょっと短めに終わりましたが、楽しんでいただければ
幸いです。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第30話

今回からバトル開始です。ちょっと駆け足気味ですが楽しんでいただければ
幸いです。


~~前回までのあらすじ~~

ある日、異世界のゴジラの記憶の流入と言う経験をした機龍。

そして彼の体は来るべき戦いに備えて進化を始めていた。

そんな中、太平洋の某所にあった企業の研究室では紅蓮の悪魔

こと、デストロイアの幼体が捕獲され保管されていた。だが、

その施設の別の幼体の群れが襲撃。

企業の幹部や警備員を虐殺したデストロイア達はまるで

引き寄せられるかのようにIS学園と向かった。

そして、そこでは既に戦いに備えた機龍が居たのだった。

 

 

機龍が、戦いが近い事を直観していた一方、別の角度から

それを感じていた天才が居た。そう、束だ。

今、再び束の邸宅の地下室に千冬と真耶、更にスコールや

オータムと言った大人たちが集められていた。

スコール「それで博士。お話と言うのは?」

束「うん。ちーちゃんとまややんには前話したんだけど、実は

  よくない事が起きてるみたいなんだよね」

オータム「良くない事、だと?」

束「そう。これを見て」

と言って、キーボードを操作する束。その操作に合わせて、ディスプレイ

に太平洋を中心とした地図が映し出された。

そして、その地図の上にはいくつも赤い点が点示されていた。それが

意味するのは……。

スコール「これは。……最近頻発している船舶の消失事件の

     ポイントですね?」

束「そう。このポイントは船舶が最後に確認された地点を

  表しているんだよ。そして、こっちは私が観測した、

  正体不明のエネルギー」

再びキーボードを叩くと、別のディスプレイに青い点が描かれた

地図が現れた。そして、二つの地図が重なると……。

オータム「嫌って程一緒だな」

その場の4人の感想を代弁するように、感想を漏らすオータム。

殆ど青い点と赤い点の誤差は無く、重なっていた。

しかも……。

 

真耶「なんだか、点がどんどん日本に近づいていませんか?」

点の横には、襲われた日付が描かれていた。そして、それは

今日に近い、つまり最近になるにつれて東から西へと動いていた。

束「そうなんだよ。そして、それを総合するのなら、ある程度

  結論が出せるんだけど。……この船を襲った『何か』は、

  確実に日本を目指している。そして、その存在は恐らく、

  ISでも既存の兵器の類でもない。多分、これは——」

と、その時。

モーラ「怪獣の仕業でしょう」

部屋の自動扉が開いて、束の言葉を遮るようにモーラが現れた。

一方、彼女の言った怪獣と言う単語に疑問符を浮かべるスコール達。

   「束さん。そこから先は、私に話をさせてください。

    恐らく、この事件の説明には当事者である私の方が適任かと」

束「うん。わかった。じゃあ二人に説明、お願い」

モーラ「ありがとうございます。……スコールさん、オータムさん」

束に礼を言ったモーラは、スコール達の方に向き直った。

   「私からお二人に、話さなければいけない事があります。

    機龍の事、私の事、そして、これから起こり得る可能性の

    事を」

 

そう言って、モーラは以前、一夏達に全てを見せたように、精神世界で

二人に全てを伝えた。

異世界の事。怪獣王ゴジラの事。怪獣の事。3式機龍の事。自分、モスラの事。

そして、この世界へと転生した事実を。

 

流石に大人な二人だけあって一夏達のように泣いたり怒ったり、とすることは

無かったが、表情は驚き、曇っていた。

オータム「それが、あいつの過去で、命に拘る理由の根底って所か」

スコール「……。それで、どうして今になってそんな話を?」

モーラ「はい。ここからは、私と機龍の推測です。彼と私がこの世界に

    第2の生を受けた以上、私たち以外の他の怪獣に同じことが

    起こらないという保証はありません。ましてや、人間を敵と

    みなす怪獣ならば、謎の消失事件についてもある程度説明が

    できます。ISを含めた既存の兵器以外で、これらができると

    したら、怪獣だけです。そして、それが存在しないという

    証明よりも、居るかもしれないという証明の方が簡単です。

    私や機龍と言う、転生怪獣の前例があるのですから」

ス・オ「「………」」

束「とにかく」

と、沈黙を破るように声を上げる束。

 「今後、もしかしたらその怪獣がここに来るかもしれないから

  警戒が必要だって事を4人に伝えたかったんだよ」

ここ最近、彼女がするようになった真面目な表情に、真耶は

驚き、他の3人も表情を硬くする。

 「今、急ピッチでゴーレムⅢの量産はしているけど、それで倒せる程

  甘くはないと思うから。覚悟だけはしておいたほうがいいかもね」

千冬「覚悟、か。……明日、専用機持ちを全員集めてこの事を話す。

   構わないな?」

束「うん。……いっくん達にも、覚悟してもらうだろうね。もし、

  戦いになれば、それは今までにないヤバい戦いになるだろうからね」

その言葉を最後に、大人たちは別れて戻って行った。

 

 

だが、彼女たちの予想を裏切るように、戦いの幕開けへの時計は、

既に秒読みに入っていた。

 

 

翌日、朝の事だった。

一夏達10人、マドカ、レイン、フォルテの全員に、メールが

送られていた。そこには……。

   『専用機持ちは全員、朝9時半に生徒会室に集合せよ。

    なお、これらは授業等の全ての事よりも優先される』

と言う内容が書かれていた。

 

そして、10人は朝から食堂に集まっていた。

一夏「なぁ、みんなは見たか?今朝の連絡」

と、みんなが集まってすぐにその話題を切り出す一夏。

その問いに、残りの9人が思い思いに頷いた。そこへ。

レイン「ちょっち良いかい?」

更に残りの専用機持ちであるレインとフォルテが食事を

乗せたお盆を持って現れた。

フォルテ「ウチらも相席良いっすか~?」

と言う言葉に、少しばかり席を詰めて空きを作り、そこに座る二人。

レイン「あんたらの所にも来たんだろ?メール」

楯無「えぇ。と言っても、それ以上の事は私も知らないんだけどね?」

フォルテ「生徒会長もっすか?」

楯無「招集をかけたのは織斑先生みたいね。と言っても、先生も

   学園側には理由を教えていないみたいね。学園長にも

   念のため確認したけど知らないって言われちゃったわ」

レイン「って事は、呼び出しくらった理由は先生に聞け、って事か」

セシリア「……。何事もなければ良いのですが」

と、言うセシリアの言葉に一夏達の表情が引き締まる。そんな中、

機龍とモーラは……。

 

機龍『近い。……わかる。感じる。何かが、いや。奴が近づいている』

モーラ『時間は、限りなく少ないという事なのでしょうか?』

元怪獣の第六感が二人の中で鐘を鳴らし続けていた。

 

そして、食後。一夏達12人は校舎へと向かって歩いていた。

皆、呼び出しの理由を話し合う中、その後ろを数歩遅れて

歩いていた機龍。

機龍『わかる。僕たちが呼ばれた理由が。多分』

そう思いながら一夏達を見上げる機龍。

  『言うべきなのかな。戦いが近い事を。でも、

   お兄ちゃん達を不安にはしたくない。けど、黙った

   ままで居るのも』

と、悩みを膨らませていた。やがて……。

  『伝えるべき、だよね。危機が迫っている事を』

そう思った時、機龍の足が止まった。

簪「あれ?機龍?」

それに気づいて振り返った簪と、更にそれに気づいて足を止め

振り返る一夏達。

 「機龍?どうかしたの?」

疑問に思って声をかける簪とそれを見ている一夏達。

そんな中で、一人モーラだけが分かったような面持ちをしていた。

機龍「みんなに、話しておきたい事があるんだ」

簪「え?」

一夏「そう、か。まぁとりあえず校舎の方に行こうぜ。ここじゃ

   立ち話も何だし」

機龍「……うん」

小さくうなずき、歩き出そうとした機龍。やがて数分後。

教室にたどり着く一夏達。だが、扉の敷居を跨ごうとした、その時。

 

 

   『ドクンッ!』

  「っ!!」

唐突に、機龍の心臓が跳ねた。そして、それは……。

モーラ「機龍っ!!」

機龍の前を歩いていたモーラもまた、血相を変えて振り返った。

同時に、目を見開いた機龍もまた、振り返って窓の方へと

駆け寄った。

マドカ「ん?……何をしているんだ?」

そこへ、遅れて登校してきたマドカがやってきた。しかし、

その時彼女は手首の端末が起動した事に気付いて足を止め、

視線をそちらに向けた。

 

ゴジラ「感じる。感じるぜぇ!」

マドカ「ゴジラ?」

いきなり現れたかと思うと、鬼のような凶悪な笑みを浮かべる

ゴジラに、少しばかり戸惑うマドカ。

ゴジラ「来やがった……!来やがったぜ、悪魔がぁっ!」

端末の中で、ゴジラが吠えた、次の瞬間。

 

 

   『カッ!』

学園の海岸のすぐ近くで、海面が……。

   『ドォォォォォンッ!』

文字通り、爆ぜた。

 

   「「「きゃぁぁぁぁぁっ!!!」」」

いきなりの事で、周囲から女子生徒達の悲鳴が聞こえて来た。

そんな中でも、機龍とモーラは窓から見えるその爆ぜた地点を

見つめていた。

そこへ、一夏達が駆け寄ってくる。

一夏「な、何なんだ今の音!?」

機龍「わかんない。……いや、でも、これだけは言える。

   『何か』が、来た……!」

静かに海の方を睨みつける機龍と、その表情の険しさのために

機龍から目が離せなくなる一夏。その時。

箒「ッ!一夏!あれを!」

一夏「え?」

突如として聞こえた箒の叫びで意識を戻された一夏は、彼女が

指さす方へと視線を向け、気づいた。

 

先ほど爆ぜた海面が、今は白く泡立っている事に。

ラウラ「一体、何が起こっているというのだ」

シャル「……。あ!あそこ!!」

事態が飲み込めないラウラと、何かに気付いて海の一点を

指し示すシャルロット。

彼女が指し示した一点では、海の青と泡の白の合間から、赤い何かが

次第に見え始めていた。

そして……。

 

 

   『OOOOOOOON!!!』

突如として、生き物とはかけ離れた、身の毛もよだつような唸り声が

響いた。かと思うと……。

   『バシャーンッ!』

海面を割るようにして、その下から赤い怪物、『デストロイア・集合体』

が姿を現した。

 

その集合体は、幼体と姿こそ似ているものの、差異があった。

まず、長い首の付け根辺りから長く太い触手が2本生え、更に胴体の

前面には一対の鋏の様な物が追加されていた。

そして、その最もたる違いは、身長だ。

幼体ではほんの2、3メートルだった大きさが、今や40メートル。

本来の3式機龍にも届きそうな程の大きさへと巨大化していた。

 

簪「何、あれ」

デストロイア集合体を見た簪は、驚きから僅かに後退ってしまった。

あれこそ、まさに『怪獣』。怪しき獣と表現できるであろう怪物。

と、その時。

   『ヒュンヒュンッ!』

IS学園の校舎を追い越すように、3機のゴーレムⅢが飛来し、

デストロイア集合体へと向かって行った。

そして、集合体の眼前で散開した3機は三方から左肩や左手、背面武装

によるビーム攻撃を開始した。

集合体の方も、黙ってそれにやられるつもりはなく、口から光線、

『オキシジェン・デストロイヤー・レイ』(※以降『ODR』と短縮)を

上空の3機に向かって放って来た。

何とかそれを回避しながらも攻撃を続けるゴーレムⅢ達。

 

一夏「あれって、確か束さんの無人機」

彼がそう言うと、近くに居た生徒達の間に安堵のような様子が

広がって行った。

彼女たちの中で、ISとは世界最強の武装。それが3機も居るの

だから、この勝負はすぐに終わると考えていたのだ。

 

だが、一方で機龍とモーラの心臓は未だに高鳴っていた。

機龍『変だ。奴はあそこにいる。なのに、まだ不安が拭いきれない。

   何かを見落としている?でも、何も?』

そう思い、ODRを吐きまくっている集合体の左右に素早く目を

向ける機龍。

と、その時機龍は、集合体から少し離れた地点がまた泡立っているのに

気づき、そして、確信した彼はすぐさま窓を乱暴に開け放ち、

ゴーレムⅢ達に向かって叫んだ。

 

  「気を付けてぇ!敵は、『そいつ』だけじゃなぁぁぁぁいっ!!!」

 

 

機龍が叫ぶのと、『もう一体』の『それ』が飛び出してくるのは

殆ど同タイミングだった。

   『ザッパァァァァンッ!』

   『OOOOOOOON!!』

海面を突き破り、今度は集合体とは異なる、鳥のような形に変化した

デストロイア、『飛翔体』が咆哮と共に現れた。

そして、咄嗟の事で反応できずにいる無人機の一機に向かって、

飛翔体が突進。そして……。

   『バギャッ!』

振り返ってそちらを向いたゴーレムⅢをかみ砕いた。

残骸となって、かみ砕かれたゴーレムⅢが落下していく。

シールドバリヤーも絶対防御も無い。それすらもかみ砕くデストロイア

の顎。

その時、残った二機の内の一機が、仇討ちのように飛翔体の方へと

体を向けた。だが。

   『キュゴォォォォッ!』

その時、突如として海中からODRが放たれ、二機目のゴーレムⅢの

背中に命中。

   『ドガァァァァンッ!』

ODRをモロに食らったゴーレムⅢは爆散してしまった。

そして、その場に、2体目の集合体。つまり3体目のデストロイアが

海面を割って現れた。

 

   「「「「「…………」」」」」

余りの事の連続に、一夏達を含めた大勢の生徒達は放心し、

悲鳴を上げる事すら忘れて立ち尽くしていた。

そして、最後の一機となったゴーレムⅢは、2体目の集合体の

ODRを回避したところで飛翔体の体当たりを喰らってバランスを

崩し、そこへ更に一体目のODRを受け、爆発四散した。

 

余りの事に、呆然とする生徒達。と、その時。

ようやくではありが、学園内に緊急事態発生の空中ディスプレイと

サイレンが響き渡った。

そして、先ほどの十倍以上の、40機近いゴーレムⅢが

デストロイア達に向かって行った。

放送『緊急事態発生!緊急事態発生!生徒及び職員はこれから

   指示する場所に移動せよ!各自、学園モノレール駅に

   集合せよ!繰り返す、モノレール駅前に集合せよ!

   これは訓練ではない!』

そして、その放送が流れた次の瞬間、教室から生徒達が溢れ出し、

廊下を駆け出して行った。

 

そんな中で、機龍は、窓枠から見えるデストロイア達の方を

見つめて居た。

機龍『まさか、こんなに早くに来るなんて……!』

そう思いながら拳を握りしめる機龍だったが……。

一夏「機龍!何してんだ!行くぞ!」

肩を掴まれ、名前を呼ばれた事で我に返った機龍。

機龍「う、うん」

一夏の後ろでは、混乱しないようにとセシリアやシャルロットが

1組の生徒達をまとめていた。

と、そこへ。

千冬「お前達!何をしている!」

スーツ姿の千冬が走ってきた。

セシリア「織斑先生!一組は全員揃っていますわ!行方不明の方は

     おりません!」

千冬「そうか。よくやった。聞け!我々は今すぐ避難する!

   行くぞ!ついてこい!」

女子「「「「「「「「「「は、はいっ!」」」」」」」」」」」

 

機龍が出遅れた事もあり、奇しくも千冬に先導された一夏達1組が

最後に校舎を出る事になった。そんな中で、機龍は……。

機龍『あれが、あの夢の奴なのか』

横目でデストロイアとゴーレムⅢの戦闘を見ながら走る機龍。

  『いや、でも、夢で見たのとまだ姿が違う。まさか、

   今はまだ進化の途中なのか?なら、まだっ!』

 

そう思った直後、機龍が逃げる列から飛び出し、足を止めた。

本音「あ!せ、先生!リュウ君がっ!」

そして、それに気づいた本音たち生徒と千冬が足を止めた。

千冬「機龍!何をしている!避難するぞ!」

機龍「………」

千冬「機龍!」

彼女の声に、答えない機龍としびれを切らして叫ぶ千冬。

しかし……。

 

機龍「織斑先生。みんなを連れて、先に避難してください」

一夏「なっ!?何言ってるんだよ機龍!お前も一緒に!」

そう叫ぶ一夏の声に答えるように、機龍はゆっくりと振り返って

薄っすらと笑みを浮かべながらも首を横に振った。

機龍「ごめんね、お兄ちゃん。でも、それだけはできないんだ」

一夏「できないって。なんでだよ!?」

咄嗟に、駆け寄ろうとする一夏だったが、彼の肩を掴んで

モーラが止めた。

  「モーラ」

モーラ「一夏さん。ここからは機龍の、いえ。機龍と『私』の戦いです」

そう言うと、彼女は一夏から手を放し、機龍の方へと歩み寄って並んだ。

   「機龍、あなたは皆さんに自分の気持ちを伝えてください。

    露払いは私が」

機龍「良いの?」

モーラ「あなたの方が、私より皆さんと過ごした時間が長いはずです。

    私は、一言で十分です」

そう言って、笑みを浮かべたモーラはクラスのみんなの方へと

向き直ると、表情を真剣な物へと変えた。

   「皆さん。短い間でしたが、『お世話になりました』」

そう言って頭を下げるモーラ。しかし彼女の言い分を理解できない

生徒達。

静寐「な、何言ってるのフラワーさん。それって、完全に

   お別れの言葉なんじゃ」

そんな風に言っている静寐と、同じような表情をしている生徒達。

 

モーラ「………」

と、その時。無言を貫いていたモーラの体を光が包んだ。

余りの光量に彼女たちは目を逸らした。やがて光が弱まり、彼女たちが

視線を戻した時には、モーラは既に、初めて機龍達と出会った時の

トーガの姿に戻り、そして、その背に煌めく4枚の羽を広げていた。

   「「「「「………」」」」」

余りの事に、モーラの事を知らない生徒達が呆然としたまま開いた口が

塞がらない状態になってしまった。

 

モーラは無言のまま、僅かに地面から浮かび上がると、羽を羽ばたかせて

飛び上がって行った。

それを目で追う生徒達。と、次の瞬間、更に大きな光がモーラを

包んだ。そして、その光が収まった時。

 

 

 

   『KYUUUUUUII!!』

 

生徒達は、呆然となった。それもそうだろう。

何故ならそこに、『巨大な生物』である『モスラ』が浮かんで

いたのだから。

そして、『モスラ』と言う『本当の肉体』を取り戻した『モーラ』は

悪意の元を叩くために、飛翔していった。

それを見送る機龍と生徒達。

 

静寐「ね、ねぇ、これって、どういう事?あ、あの、蝶って、

   フラワー、さん?」

事態を飲み込む事ができない静寐や他の生徒達が目を見開き

デストロイア飛翔体との空中チェイスを始めるモスラを見ている。

 

機龍「そう、だよ」

やがて、機龍が静かに語りだした。生徒達の視線が機龍に集まる。

  「あれが、モーラお姉ちゃん。ううん。モスラ本来の姿なんだよ」

どこか、真剣な面持ちで戦うモスラを見上げながら語る機龍。やがて、

彼は千冬の方へと向き直った。

  「織斑先生」

千冬「あぁ、何だ?」

機龍「みんなを連れて、先に逃げてください。僕とモスラは、

あの怪獣を叩きます」

千冬「……戦うのか?」

機龍「奴は、恐らく僕やモスラと同じです。異世界からここへと

   やってきた怪獣です」

語りながらも、一度デストロイアの方を向く機龍。一方の生徒達は

こんがらがって話についていけなかった。

  「であれば、同じ怪獣として。僕たちがケジメを付けるべきだと

   思います。そして何より。……みんなを守る事が、僕の戦う理由

   ですから」

そう言って、最後に笑みを浮かべた機龍。

 

その時。

本音「危ないっ!」

咄嗟に本音が叫んだ。視線を移した時、集合体の一匹が今まさに

こちらに向かってODRを放とうとしていた。

 

誰もが慌てて伏せ、目を瞑り、死を覚悟したその時。

 

 

 

機龍「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 

 

   『KYUAAAAAAAAAAANN!!!!!』

 

 

機龍の体が、光に包まれた。

 

その数秒後に、ODRが放たれた。それは一機のゴーレムⅢを

撃破してなお、生徒達に向かって行った。

誰もが固く目を閉ざしていた。その時。

 

   『ブォォォンッ!』

   『バシュゥゥゥゥ……』

巨大な何かが空を裂く音と共に、何かが霧散したような音が響いた。

 

やがて、ゆっくりと目を開ける一夏達。そして同時に、彼女たちは

今自分達が巨大な『何か』の影の中に居る事に気付いて、影の元を

見上げ、三度驚愕した。

 

それは、見慣れたはずの、見慣れた銀色の、巨大な背びれだった。

そして、彼女たちを守るように円を描いているのもまた、見慣れたはずの

銀色の尻尾だった。

その時。

機龍『早く逃げてください』

目の前の巨大な影の主、『3式機龍』のスピーカーを通して声が

聞こえて来た。

機龍は、本能が促した力によって、本来の姿へと戻る力を手にした。

そして、今まさに彼の友人に向かって来たODRを右手の

スパイラルクロウで相殺したのだった。

 

そして少女達は気づく。それは、自分達が見慣れたはずの3式機龍の、

本来の巨大な姿なのだと。やがて。

千冬「何をぼさっとしている!移動するぞ!」

先生としての彼女の怒号によって、我に返った生徒達は

彼女に促されるまま、機龍の背中を何度も振り返って見ながら、

走った。

 

そして、そんな中でも、一夏達はできる限り機龍の、3式機龍の背中を

見つめていたのだった。

 

 

そして、機龍は……。

機龍『これで、僕の正体は世界中に広まるかもしれない』

クロウ状態の右腕を戻しながらも、機龍はそんな事を考えながら、

前を見つめていた。

そこでは、モスラと戦うデストロイア飛翔体と、二匹のデストロイア

集合体がゴーレムⅢの部隊と戦っていた。

 

機龍の爪が、ギュッと閉じられる。

  『でも、それでも、僕には、守りたい場所が、友達が、世界が、

   在るんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

 

   『KYUAAAAAAAAAAANN!!!!!』

 

大きく遠吠えを上げて、機龍は『ズシン!ズシン!』と足音を

させながらデストロイアに向かって突進していった。

 

 

 

今まさに、世界最大の死闘の火蓋が切って落とされた。

機龍とモスラは戦う。

この世界を守るために。

悪魔を倒すために。

 

さぁ、決戦の始まりだ!!

 

 

     第30話 END

 




ここ最近はなんだか投稿する話が大体8000字前後にまでなっていますが、
その分、今のこの作品に対して意欲がピークになっている事と、字数の
少なさ故すぐに次も書き上げられると思います。お楽しみに。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第31話

デストロイア戦の前半です。


~~前回までのあらすじ~~

紅蓮の悪魔、デストロイアとの戦いが近い事を直観していた機龍。

一方の束も機龍とは別の角度から戦いが近い事を知り、それを

千冬、真耶、スコール、オータムに話した。

その翌日。千冬はその事を専用機持ちである一夏達11人と

レイン、フォルテたちに説明するべく13人を招集した。

だが、朝になって一夏達が登校したその時、IS学園島の

すぐそこにデストロイアが姿を現した。

避難警報が出る中、機龍とモーラは1組、つまりはクラスメート達の

眼前で力を解放。それぞれが『3式機龍』、『モスラ』となって、

デストロイア討伐に動き出した。

 

 

   『KYUAAAAAAAAAAAN!!!』

今、本来の姿を取り戻した3式機龍は、改装備のままズシン、ズシンと

音を立てながら走る。

そして、それに気づいたゴーレムⅢ達が道を開ける。次の瞬間。

   『ビィィィィィィッ!』

機龍の口が開き、2連装メーサー砲が放たれる。それが、

一体の集合体デストロイア、(※以降、集合体Aと記述)

(もう一体は集合体Bと記述)に命中した。更に……。

 

   『バシュバシュバシュッ!』

   『ズドドドドッ!』

   『ヒュヒュヒュヒュヒュンッ!』

バックパックのロケット砲に誘導弾、左手のレールガンを撃ちまくる。

   『ドガガガガガッ!』

放たれた銃弾やロケット弾の嵐が集合体Aに襲い掛かり爆発する。

だが、晴れた爆炎の下から現れたのは、大して傷を負っていない、

つまり殆どダメージを受けていない集合体Aだった。

機龍『硬い!いや、実体弾が効かないのか!?だったら!!』

   『KYUAAAA!』

短く吠えた機龍は右手をスパイラルクロウに変化させ、回転させ

ながら更に突進した。

とうとう海岸部に到着したまま足を進める機龍。

ザバザバと海水をかき分けながら機龍が進む。そして。

機龍『はぁぁぁぁぁぁっ!』

   『KYUAAAAAAAN!!!』

咆哮と共にまず左手で集合体Aの長い首元目掛けて張り手を繰り出す。

   『OOOOONN!』

張り手が命中した部分から火花が飛び散り、悲鳴を上げる集合体。更に。

   『ブォオンッ!』

   『ズガッ!』

返す刀で繰り出されたクロウの一撃が更に胴体を切り裂いた。

張り手以上に火花が飛び散り、集合体Aも悲鳴のような咆哮を

上げていた。

機龍『行ける!このまま!』

まず最初に、こちらを粉砕しようと考えた機龍が右手を引き絞り、

突き出そうとした刹那。

   『キュゴォォォォォッ!』

   『ボガァァン!』

  『ぐあぁぁぁっ!!』

   『KYUAAAANN!?』

突如として機龍の背中にODRが命中し、爆発した。

驚き悲鳴を上げる機龍。彼はすぐさま振り返ったが、その目に

映ったのはもう一体の集合体であるBだった。

そして、そのBの周囲の海面には、ゴーレムⅢの残骸がぷかぷかと

浮いていた。

  『そんな!?ゴーレム達が、こんな簡単に!』

僅かに注意がそちらに向いた、その時。

   『OOOONN!』

一瞬の隙を突き、集合体Aの触手が機龍に叩きつけられた。

   『ドォォォンッ!』

機龍『ぐぅぅぅぅっ!?』

気づくのが遅れた機龍は、数歩ほど後ろへ弾き飛ばされてしまう。

倒れこそしなかった物の、態勢を立て直した前を見た時には、

集合体のAとBが並んで機龍を睨みつけていた。

  『それでも、僕は……!』

 

だが、それを前にしても構えを崩さない機龍。

  『絶対に負けない!』

   『KYUAAAAAAN!!!!!』

再び咆哮を上げた機龍が、集合体の二体めがけて突進していった。

 

 

一方、上空でも……。

   『KYUUUUUUII!』

   『OOOOOON!!』

翼を広げるモスラとデストロイア飛翔体が激しい空中戦を

繰り広げていた。

追うデストロイアと逃げるモスラ。

そしてデストロイアはODRを吐きかけるがそれを華麗に

回避するモスラ。そして、モスラはデストロイア以上の

旋回性を駆使して円を描くように飛行し逆にデストロイアの

背後を取った。

 

元より固定されたデストロイアの翼以上にフレキシブルな羽を

持つモスラの方が旋回性能では勝っていたのだ。そして。

背後から急接近したモスラはデストロイアの背中にひっかき攻撃を

繰り出した。

   『OOOOOONN!!!?』

悲鳴を上げながら逃げようと体を揺さぶるデストロイア。

しかし、次の瞬間モスラは体をドリルのように横に回転させた。

それによって、背中を巨大な羽で叩かれたデストロイアは……。

   『OOOOONN!?』

   『ザッパァァァァンッ!』

バランスを崩して失速。そのまま海面に叩きつけられた。

 

だが……。

   『OOOOONN!!!』

すぐさま海面を割るようにしてモスラに向かって行く飛翔体。

そう、モスラには機龍やゴジラ、デストロイアのような光線などの

決め技が無いのだ。

だが、それでも………。

モスラ『私は、あなた達には負けない!』

   『KYUUUUUUII!!』

モスラもまた、決意を固めながらデストロイアとのドッグファイトを

再開した。

 

 

そして、もう一方の逃げた一夏達。

機龍と別れてから数分後。モノレールの駅前に到着した一夏達。

駅前では、今まさに各学年とクラスで生徒達の点呼を確認していた。

だが、生徒達の目はそんな事よりも別方向を向いていた。

 

   『KYUUUUUUII!!』

   『『『OOOOOONN!!!』』』

   『KYUAAAAAAANNN!!!!』

 

そう、今まさに激闘を繰り広げている5体の怪獣たちの方にだ。

機龍と集合体二匹が組み合う度に海面に巨大な水柱が上がり、

モスラと飛翔体が少しでもこちらに近づけば暴風が吹き荒れた。

メーサーやODRが発射される音、モスラや飛翔体、ロケット弾が

空を裂く音が絶え間なく聞こえてくる。

 

そんな中、一夏や箒、簪にマドカ達9人が機龍達の戦いを見つめ、

奥歯を噛みしめていた。

その時。

楯無「一夏君!簪ちゃん!」

束「お~い!いっく~ん!みんな~!」

そこへスコールとオータムを連れた束と、別方向から楯無が走ってきた。

箒「姉さん!」

簪「お姉ちゃん!」

束「良かった。みんな無事みたいだね」

一夏「は、はい。俺達は。……けど、機龍が」

そう言って、視線を彼女から3式機龍の方へと向ける一夏と

それを追う束や箒達。

 

束「……予想より、早かったんだ」

一夏「え?」

不意の言葉に、一夏が疑問符を漏らす。他の者達も、一夏と

同じように驚き疑問符を浮かべている。

束「ここ最近頻発していた、船舶の消失事件。その犯人は、

  多分あの赤い怪物なんだ」

一夏「じゃあ、知ってたんですか!?あんなのが居るって」

束「確証はなかった。あったのは、未知のエネルギーが

  現場付近で確認されたって事くらい。本当は、今日の朝

  ちーちゃんの口から専用機を持ってるいっくん達にだけ、

  話すはずだったんだけど……」

そう言いつつ、自分も機龍達の方を向く束。

 「タッチの差で、奴が現れる方が早かった」

簪「一体、何なんですかあれは」

そんな基本の様な質問に束は……。

 

束「分かっている事は少ないけど、言える事はあるんだ。

  恐らく奴は、リュウ君やもーちゃんの『前世』の同類だ」

その言葉は、機龍達の過去を知る人物達だけが分かる答えだ。

 

二人の前世、つまり、怪獣の同類と言う事だ。

 

 「奴らには目的なんてものはない。あるのは、動物的なまでの

  破壊衝動。自分以外の全てを滅ぼす悪魔。『デストロイア』」

一夏「デストロイア……!」

束の口から漏れたその名を聞き、一夏達はデストロイアを睨みつける。

 

と、その時、一夏が駆けだそうとした。だが。

スコール「待ちなさい」

その肩に手を置いたスコールが一夏を止めた。

僅かに振り返る一夏。

    「最初に言っておくわよ?あの怪物は生半可な敵じゃない。

     あなた達だって見たでしょう?ゴーレムⅢの装甲も

     シールドバリヤーも何ら役に立たなかったわ。行けば

     死ぬかもしれないわよ?」

千冬「そいつの言う通りだ」

更に一夏達の方に歩み寄る千冬と真耶。

  「この戦いはISによる戦闘などではない。ましてやISの

   試合ですらない。一瞬の油断は即ち、死に直結する。 

   お前達に、命がけでデストロイアと戦う覚悟があるのか?」

その問いかけに、一夏達は………。

 

一夏「覚悟があるとか、そこはまだ、俺にはわからない。

   けど!」

一夏は、決意の籠った目で姉を、千冬を真っ直ぐに見つめる。

  「だからってここでじっとしてるなんてできない!

   機龍も、モスラも!俺達の大切な仲間なんだ!

   あいつらが戦ってるのに、俺だけ後ろでただ黙って見てる

   なんてできねぇ!」

千冬「……死ぬかもしれないのだぞ?」

一夏「例えそうだとしても、俺は死なない!死んでも死なない!」

と、頓珍漢ながらも、その秘めた思いは熱く、気高い。

千冬「……。だ、そうだ。お前達はどうする?」

そう言って、千冬は一夏から箒達の方へと視線を移した。

 

その視線の先に映ったのは、各々が大切な想い人と歩みを共にし、

悪魔と戦う覚悟を持った、決意の瞳だった。

  「聞くまでもない、と言った所か」

そう言ってため息をつく千冬。そして、彼女は……。

  「良いだろう!行きたければ行け!但しこれだけは言っておく!

   絶対に死ぬな!良いな!」

8人「「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」」

その言葉に、一夏、箒、鈴、セシリア、シャル、ラウラ、簪、楯無が

頷いた。

そして……。

束「二人とも。お願い」

スコール「はい」

オータム「あぁ、了解だ」

真耶「私も行きます。私だって、今は専用機持ちです。

   何より、生徒だけを危ないところへなんて行かせられません」

束の依頼で、頷くスコールとオータム。更に自分から志願する真耶。

そして……。

マドカ「私も行く」

簪「マドカちゃん」

マドカ「……私にだって、戦う理由くらいはある」

 

その言葉を合図に、12人は頷いた。そして。

 

一夏「行くぜ!『白式!』」

箒「参るぞ!『紅椿!』」

セシリア「目覚めなさい!『ブルー・ティアーズ!』」

鈴「行くわよ!『甲龍!』」

シャル「出番だよ!『リヴァイヴ!』」

ラウラ「起きろ!『シュヴァルツェア・レーゲン!』」

簪「お願い!『打鉄!』」

楯無「行きましょう!『ミステリアス・レイディ!』」

真耶「起きて!『リヴァイヴ・スペシャル!』」

オータム「来い!『アラクネ!』」

スコール「出番よ。『ゴールデン・ドーン』」

マドカ「行くぞ!『黒騎士!』」

 

各々が決意を表すかのように、愛機の名を呼ぶ。そして、

それぞれのISスーツの上から、鋼鉄の鎧、ISが装着されてゆく。

やがて装着の光が止むと、そこには己が愛機を纏った12人の

姿があった。

 

そして、彼、彼女たちは束や千冬たちに背を向けると、共に戦う

仲間の元へと飛び出していった。

そんな中、千冬は……。

千冬『誰一人、死ぬな。生きて、帰ってこい』

心の中でそう思いながら、固く拳を握りしめるのだった。

 

 

そして、戦いは……。

   『KYUAAAAAANNN!!』

今、機龍は触角を掴んでいる集合体Aをブンブンとスラスターで

回転しながら振り回していた。

そして、振り回されていたAがもう一体のBにぶち当たった。

   『ドゴォォォンッ!』

   『ザッパァァァァン!』

余りの威力に吹っ飛ばされ、学園島から離されるように海面に

落ちる集合体B。更に。

   『ブォォォォンッ!ブチッ!』

突如として集合体Aの触手が千切れてAも投げ飛ばされてしまった。

その先には。

   『ドッガァァァンッ!』

ヨロヨロと起き上がったBと吹っ飛ばされたAが真正面から

激突し、またしても盛大に吹っ飛んだ。

機龍にとっては幸運と言うべき事だった。

 

しかし、戦いはまだまだであった。機龍はこれまでの戦闘で

デストロイア達の事を調べに調べまくっていた。

機龍『打撃やクロウによる斬撃は有効。でも、ミサイルとメーサーは

   あまりダメージを与えているようには見えない。

   ……いや、それ以前に、逆効果なのか?』

そう思いながらも、起き上がろうとするAとBを睨み構えて

居る機龍。

  『もし、メーサー兵器のような高温で敵を焼き払う武器に

   対して耐性や適応性を持っているのだとしたら、下手に火器で

   攻撃すると、こちらが不利になるかもしれない。

   かといって、クロウで奴らを倒せるか……』

そう思っていた機龍だったが、その時。

 

   『ドォォォォォンッ!』

二匹のデストロイア集合体に無数の銃弾や砲弾が命中して爆発した。

機龍『ッ!今のは!』

驚いて攻撃があった方を向く機龍。その時。

簪「機龍っ!!」

巨大な機龍の顔の横に打鉄弐式を纏った簪が現れた。更に、機龍の視界に

砲撃を加えるラウラやオータムの姿が映った。

機龍≪みんな!それに、スコールさん達まで!どうして……≫

スピーカーを通して語り掛ける機龍。

 

一夏「そんなの、決まってるだろ!俺達も戦うためさ!」

機龍≪ッ!?そんなのダメだ!奴の吐く光線はISのバリヤーなんて

   簡単に貫通するんだ!そうなれば、みんなが!≫

一夏「だからって、お前らだけに戦わせておけって言うのかよ!?」

機龍≪少なくとも、僕は奴の破壊光線を防げるだけの装甲がある!≫

一夏「でも痛くないわけじゃないんだろ!?」

機龍≪そんな事より、僕はみんなを!誰か一人でも大切な仲間を

   失う事の方が怖いんだ!≫

一・機「≪………≫」

互いの意思をぶつけ合い、沈黙する機龍と一夏。

 

機龍≪もう、嫌なんだ。失うのは≫

そう言って、機龍は心の中で泣いた。短い間だったけど、

傍に寄り添ってくれた大切な人、≪中條義人≫。

そして、彼との別れを、悲しみを経験した機龍だからこそわかる。

 

二度と会えないという絶望。守れなかったという虚しさ。

無力な自分に対する、自責の念。

機龍は神様ではない。失った命を再生する事などできはしない。

それが、≪命≫なのだとわかっているから。

 

だが、それでも……。

一夏「大丈夫だ!!」

機龍≪ッ!≫

一夏の叫びが、機龍の中に響く。

一夏「俺、この前お前に言ったよな!お前を守るって!!」

それは、束が越してきた日。湯船に浸かりながらも誓った、

二人の約束。

  「それに、お前だって言ってくれただろ!

   俺達の事、守ってくれるって!」

機龍≪あ≫

スピーカーから彼の声が漏れる。

一夏「お前が俺達を守るって言うのなら!俺達もお前を守る!

   だから、一緒に戦おうぜ!機龍!!!」

 

一夏の叫びが機龍の中に響く。

波紋のように、広がって行く。機龍の心に染み渡る。

一夏の、仲間の言葉が銀龍の心を温めていく。そして……。

 

 

   『OOOOOON!!』

   『キュゴォォォォッ!』

集中砲火を受けていた集合体の一体が一夏の白式めがけて

ODRを放って来た。

箒「ッ!一夏!」

咄嗟に箒の叫びが響く。慌てて視線を戻した一夏だが、避けられない。

 

誰もが当たると思った。だが。

 

 

   『バシュゥゥゥ……』

放たれたODRは、その進路に割って入ってきた機龍の回転する

クロウに命中し、霧散してしまった。

咄嗟に腕で顔を守っていた一夏が、恐る恐る腕をどけた時、

機龍と目が合った。

一夏「機龍」

機龍≪……。お兄ちゃん。それにみんなにも、お願いがあるんだ≫

一夏から視線を外し、真正面にデストロイアを捉える機龍。

そして……。

 

  ≪僕に、力を貸してほしいんだ。あいつを、デストロイアを

   倒すために……!≫

静かに熱くなる思いをできるだけセーブしながらも叫ぶ機龍。

そんな彼の思いは、届いた。

一夏「あぁ、そうだ!そうだな!!俺達の力で、あいつらを

   ぶっ飛ばそうぜ!」

そう言って、雪片を構えた白式が機龍の隣に並ぶ。更に

二人の周囲に、箒達や簪たちも集まってきた。

 

そして、機龍は改めて、共に戦う仲間の心強さを理解していた。

機龍≪僕たちの、僕たちの力で……!お前達を、倒す!!!≫

   『KYUAAAAAAAAAANNN!!!』

大きく咆哮した機龍が、スパイラルクロウを構えて突進していった。

そして同時に、一夏達もまた、愛機を駆って空を駆けだした。

 

 

 

 

機龍が、体のスラスターを生かして集合体Aに向かって突進していく。

AはODRを吐きかけてくるが……。

機龍『うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

   『KYUAAAAAAAAANNN!!!』

前面に突き出したスパイラルクロウが回転し、それを打ち消す。そして。

   『ドガァァァァンッ!』

機龍と集合体Aが正面から激突し、そのまま盛大に吹っ飛んだ。

派手に水飛沫をあげながらゴロゴロと転がって行く二匹。

そこに集合体Bが援護に行こうとするが……。

 

一夏「お前の相手は、俺達だっ!!!」

   『ズバッ!』

   『OOOOOONN!!?』

次の瞬間、集合体Bの長い首の背面を一夏の雪片が切り裂く。

悲鳴をあげながらもBは一夏の方に体を向け、ODRを発射しようと

するが……。

   『ドゴォォォォンッ!』

今度は発射寸前の顔の前でグレネードや火球の様な物が連続で

さく裂した。

シャル「ほらほら!こっちだよ!」

それは、シャルやスコールによる攻撃だった。

そこへ……。

 

千冬『全員、よく聞け!』

通信機越しに千冬の声が聞こえて来た。

  『今の所奴の吐く光線は口からしか出ていない!

   絶対に奴の正面には立つな!止まらずに的を絞らせずに

   動き回れ!一撃必殺だが、当たらなければどうという事はない!」

8人「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」

 

千冬からのアドバイスに、生徒である一夏達が返事を返す。

 

 

今、機龍は集合体Aと取っ組み合いをしていた。

機龍『まずは、こいつを倒す!はぁぁぁぁぁぁっ!』

心の中で機龍はそう叫びながら、強烈な張り手でデストロイアの

頭を張り倒す。

そのまま倒れた体を抑えつけ、何度も何度もスパイラルクロウで斬り付ける。

  『僕は、みんなを守るんだぁぁぁぁぁっ!!!』

   『KYUAAAAAAAANNN!!!』

魂の叫びが、咆哮となって周囲に響き渡る。

 

そして、もう一体の集合体を相手にしているのは、一夏の白式、箒の紅椿、

鈴の甲龍、シャルのリヴァイヴ、マドカの黒騎士、スコールの

ゴールデン・ドーンが相手をしていた。

残りのセシリアや簪、楯無たちは飛翔体と戦うモスラの援護に

向かった。

 

簪「行っけぇぇぇぇぇぇっ!!!」

飛翔体の背後を取った簪の弐式から山嵐が発射され、その背中に

着弾した。

   『OOOOOONN!!』

致命傷にこそならなかった物の、背後からの奇襲に驚く飛翔体。

と、その時。

オータム「貰ったぁっ!!」

飛翔体の後頭部にオータムのアラクネが取りついた。そして……。

    「そらぁっ!!」

アラクネの第2の腕から射出された特殊繊維のワイヤーがデストロイアの

顔をぐるぐる巻きにしていく。

   『OOOOOON!?!?』

驚き首を振ってアラクネを落とそうとする飛翔体だが、八本の足を

表皮に突き立てているアラクネはそう簡単には落ちなかった。

オータム「はっはっは!これで、どうだぁっ!」

最後の一巻き、とばかりにワイヤーを縛り付けたオータムが飛翔体の

体を蹴って離脱した。更に……。

 

楯無「ミストルテインの槍、発動っ!!!」

自分が持ちえる最大火力を飛翔体の背中にぶつける楯無。

   『ドゴォォォォンッ!』

   『OOOOOON………』

盛大な音と共に背中から煙を出しながら飛翔体が落下していった。

だが、まだまだだ。

   『KYUUUUUUII!!!』

そこへ更に、モスラが突進してきて翼チョップでデストロイアを

弾き飛ばした。

グラグラと錐揉み回転をしつつ、セシリア、ラウラ、真耶達からの

砲撃を受けながら海へ突っ込み盛大な水柱を上げる飛翔体。

 

それぞれの特徴を生かしたコンビネーションで、デストロイアを

翻弄する一夏やモスラ達。だが……。

 

   『ガキィィィンッ!』

箒「くっ!?何と言う硬さなのだ!こいつの外皮は!」

背後から接近した箒の斬撃は、外骨格に阻まれて弾かれてしまった。

更に援護射撃をしている真耶やラウラの攻撃も、大きなダメージを

与えているとは、言い難い状況だった。

 

 

フォルテ「苦戦、してるみたいっすね」

それを、愛機コールド・ブラッドを展開しながら後方で戦闘の様子を

見ていたフォルテ。

レイン「だ、そうだぜ。先生」

と言って、フォルテの傍に居たレインが千冬に報告をする。

千冬「そうか。……束、何か分かったか?」

報告を聞いた千冬は、自分の隣に立ってノートパソコンを凄まじい

速度でタイプしている束の方に顔を抱けを向けて聞いた。

 

束「い~や~。あんまり。体の構造とかはわかってるし、

  さっきからこの辺に発生している未知の化合物も解析を

  続けてるんだけど、弱点になりそうなのは~」

千冬「そうか」

と短く答えると、視線を戦闘空域の方に向ける千冬。

  『奴の強さは、その破壊力と堅牢な防御だ。それさえ

   突破できれば……』

そう思っていた時だった。

 

束「ッ!わかったよちーちゃん!あいつの弱点が!」

と言う束の言葉に千冬はすぐに彼女の方に向き直って近づき、

彼女のパソコンの画面をのぞき込んだ。

千冬「本当か?」

束「うん!さっきから奴の放っている光線に混じって周囲に

  拡散していた未知の物質の正体は微小化した酸素、

  『ミクロオキシゲン』だったんだ!で、それを分析した

  んだけど、こいつの弱点は温度なんだ!この物質は

  原子の隙間に入って物体を破壊する効果があるんだけど、

  ある程度の極低温にまで冷却されればその効果を失って

  液化するんだ!」

千冬「つまり、奴をその極低温まで冷凍させれば……」

束「うん!勝機はあるよ!」

と、テンションが高い束の声は周囲に広がり、それに聞き耳を

立てていた生徒や教師たちも僅かに安堵する。しかし。

 

静寐「で、でも!どうやってあいつらを冷やすんですか!?」

と、近くに居た静寐から疑問の声が上がった。

レイン「う~ん。フォルテ、お前アビリティで氷操れるんだから何とか

    なんね~か?」

フォルテ「無茶言わないでくださいっすよ!?あんなデカいのを

     3体もなんて無理っすよ!?」

と、思い出したように語るレインと明らかに驚き拒否するフォルテ。

しかし、この時千冬は思い出した。機龍がまだ学園に来たばかりの

頃、ISの訓練の際に彼が言って居た、彼自身が持つ『必殺の武装』の

事を。

 

千冬「いや、サファイアのコールド・ブラッド以外にも手はある」

と言う言葉に、彼女の方に視線を向けた束は気づいた。

束「3式絶対零度砲。……『アブソリュート・ゼロ』」

フォルテ「な、ナンスかその明らかにヤバそうな名前」

と、若干ひきつった笑みを浮かべるフォルテ。

束「リュウ君の、3式機龍の胸部ハッチの中に隠された、リュウ君が

  持ちえる最強の破壊力を持った兵器だよ。その名の通り、

  -273.15℃の絶対零度の光弾を撃ち出す兵器。それが、

  アブソリュート・ゼロ」

本音「じゃあ!それを使えばあいつらを倒せるんですか!?」

と、希望を得たような瞳で質問する本音。しかし。

 

束「でも、問題が一つだけある」

静寐「え!?」

束「アブソリュート・ゼロは一回撃つために機龍の内部にある

  エネルギーの40%を使うんだ。連射はできないし、

  外せば一気にエネルギーを消費したリュウ君が不利になる」

千冬「一発限りの必殺技、というわけか。だがどうする?敵は

   3体も居るのだぞ?」

束「ふっふっふ。大丈夫だよちーちゃん。確かにアブゼロは

  当たんないと意味ないけど、その分、3匹まとめて命中

  させればいいんだよ!」

と、自信満々に言ってのける束。そして、彼女は機龍達へと

通信を開いた。

 

 『リュウ君!みんな!聞こえる!?』

一夏「束さん!」

機龍『束!?うん!聞こえるよ!』

束『良い?これから言う事をよく聞いて!そいつの弱点は超低温なんだ!

  つまり、ガチガチに凍らせる程の冷凍攻撃が弱点って事だよ!』

シャル「冷凍攻撃!?」

鈴「で、でもどうやってこいつを凍らせれば!?」

束『大丈夫!それはリュウ君の持つアブソリュート・ゼロを使えば

  いけるよ!』

機龍『ッ!そうか!』

と、返事をしながらも一匹の集合体を抑え込んでいる機龍。

一夏達も攻撃を回避しながら通信をしている。

 

束『でもアブゼロは撃てるのは一発だけなんだ!』

オータム「はぁっ!?それじゃあ意味ねえじゃねえか!」

束『でもでもそれも大丈夫!威力が高い分、3匹まとめて

  ぶつければそれでいいんだ!行けるよね!リュウ君!』

その言葉に、機龍は……。

 

機龍『うんっ!!』

自信に満ちた返事を返す。

束『だったら後はやるだけだよ!あいつら3匹、まとめて重ねて

  団子にしちゃえっ!!』

機龍『うんっ!一夏、スコールさん!少しだけそいつの気を

   引いててください!』

一夏「任せろ!」

短い返事と共に通信は切れた。そして、機龍はと言うと、

未だに自分の下で暴れているデストロイアの首を両手で抑え込むと。

機龍『お前達の好きにはさせない!』

そう言って首を後ろに引き、次の瞬間。

  『喰らえェェェェェッ!』

それをハンマーのように前に倒す。そうすれば……。

   『ゴガァァァァァンッ!』

   『OOOOOON!?!?!?!』

機龍の石頭がデストロイアの頭に頭突きをかました。

流石の一撃に悲鳴を上げ、傷が出来たのかデストロイアの

頭の辺りから緑色の血液のような物が吹き出した。

機龍が掴んでいた腕を離すと、集合体Aはフラフラと後ろへ

後退った。

今の一撃で、頭が混乱しているのだろう。

 

機龍はそれを見逃さずに、両手で触手を一本ずつ掴んだ。そして……。

   『KYUAAAAAAAN!!!』

   『ブォォォンッ!』

咆哮をあげながらスラスターを全開にして、クルクルと回りだす機龍。

それによって遠心力で体が宙に浮くデストロイア集合体A。

そして、周回数が二桁に届こうかと言うその時。

 

  ≪一夏!スコールさん!みんな!≫

スピーカーを通して叫ぶ機龍。それを聞いたスコールが。

スコール「全機散開!こいつから離れなさい!」

的確に命令を下した。それによって、集合体Bからパッと

離れる一夏達。それを見た集合体Bは一夏達を目で追うが……。

そこへ。

 

機龍『行っけぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』

   『KYUAAAAAAANNN!!!!!』

咆哮と共に機龍が集合体Aを全力で投げ飛ばした。そして、それに

気づいてBが振り返った次の瞬間……。

 

   『ドガァァァァァァァァァンッ!!!!!』

盛大に2匹がぶつかってひっくり返った。今の一撃で半ば

気絶したのか、足こそピクピク動かしているものの、起き上がれそうには

なかった。

 

そして、上空でも……。

   『OOOOONN!!!』

飛翔体が楯無を追ってチェイスを繰り広げていた。

楯無「ほらほら!こっちよ!」

と、挑発を続ける彼女を追うデストロイア飛翔体。だが、次の瞬間。

ラウラ「そこだぁっ!」

デストロイア飛翔体の巨体を、ラウラのレーゲンが持つAICが

抑え込んだ。

   「ぐっ!?くぅぅぅ!モーラ!今だぁぁぁっ!!」

   『KYUUUUUUII!!』

ラウラの言葉に反応するように、動けない飛翔体の背後に迫るモスラ。

そして、次の瞬間、モスラは全ての足を飛翔体の背中に引っ掛けた。

それに合わせてラウラもAICを解除。同時にモスラは飛翔体を

伴って急上昇していく。

   『OOOOON!?!?』

暴れる飛翔体だったが、モスラの拘束からは逃れられなかった。

そして、モスラはある程度急上昇すると、そこから更に急な

楕円軌道を描いて今度は急降下していった。

 

降下する真下には、動けないデストロイア集合体が居た。

そして、急降下したモスラは地上数百メートルの地点で拘束を

解除。飛翔体を集合体の二匹に向かって、『投げた』。

制動をかける事も出来ずに落ちていく飛翔体と、羽を大きく広げて

速度を殺して滞空するモスラ。そして……。

 

 

   『ドガァァァァァァァァァンッ!』

飛翔体が残りに二匹の上に落ちた。その衝撃で、本日何度目になるか

分からない盛大な水柱が上がった。

それが一夏達の視界を塞ぐが、機龍の目とレーダーをもってすれば、

その先を見る事など簡単だ。

 

 

機龍『今だっ!』

そう思った機龍の胸部ハッチが開く。機龍は既に、パーツを部分単位で

交換していたため、その胸の中には、既にアブゼロが装備されていた。

そして、両手を広げ、己が胸に力を集める。

 

開いたパーツの先端から光が発せられ、それが次第に中央に集まって行く。

そして、その中央に巨大な青い光球が生まれ、更に大きくなっていく。

青い雷撃のようなエフェクトが氷結の光球の周りを走っている。

 

力はたまった。後は、それを撃ち放つのみ。

 

一夏「ぶっ放せぇ!機龍ぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

その言葉が、機龍の心を後押しする。機龍がアブソリュート・ゼロの

光を放とうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

   『ビカッ!』

   『キュゴォォォォォォォッ!』

   『ドガァァァァァァァァンッ!!』

   『KYUAAAAAAN!?!?!?』

それよりも早く、デストロイア達が居ると思われる場所から

紫色の光線が発せられ、機龍の胸に命中し、アブゼロの光が

消えてしまった。

   『ドォォォォンッ!』

光線の威力に押され、後ろに倒れて水しぶきを上げる機龍。

鈴「なっ!?」

一夏「機龍!」

シャル「まさか、失敗……!?」

 

驚く鈴やシャルロット。機龍の元へと駆け寄る一夏。

と、その時。

 

 

 

   『OOOOOOOOOOOONNN!!!!』

先ほどの光線の余波で出来ていた水蒸気の中から、咆哮が

響いてきた。そして、その水蒸気が晴れた場所には……。

箒「何だ。『奴』は」

率直な感想を口から漏らす箒。

 

 

そう、そこに居たのは、複数のデストロイアではない。

 

 

集合体の体に飛翔体のような翼を2枚生やし、触手と鋏、尻尾の数が

倍になった新たなデストロイア・『不完全体』がそこに居た。

 

 

束「まさか、合体した!?」

それを後方から見ていた束が呟き、生徒達は怯え、千冬は奥歯を

噛みしめていた。

 

 

まだ、戦いは終わらない。勝つのは、人類と機龍・モスラか?

それとも、悪魔が勝利するのか?

 

その答えは誰にも分からない。

 

だが、これだけは言える。戦いは、これからなのだと。

 

     第31話 END

 




この回で、オリジナルのデストロイア・不完全体が現れました。
最初は完全体と戦わせようと思ったのですが、体格差や技の差を
考えると、機龍に勝ち目が無いかな~?っと思ったので、集合体と
殆ど変わりませんが、不完全体なんてものを考えてみました。
ご了承ください。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第32話

今回はデストロイアとの決戦の後半です。
自分なりに衝撃の展開を用意してみました。
お楽しみに。


~~前回までのあらすじ~~

突如として現れたデストロイアに対して、怪獣化して立ち向かう

機龍とモスラ。そんな二人と共に戦うため、ISを纏い参戦した

一夏達12人の専用機持ち。

彼、彼女たちはデストロイアの弱点である超低温の兵装、

機龍のアブソリュート・ゼロを3匹まとめて撃ち込むために

力を合わせて戦った。

だが、あと一歩の所で3体のデストロイアが合体し、

デストロイア・不完全体となった。

しかも、運の悪い事にアブゼロが不発に終わってしまったのだった。

 

 

機龍≪う、ぐっ!≫

何とか、倒れた態勢から体を起こして立ち上がる機龍。

  ≪まさか、合体するなんて……≫

立ち上がった機龍は開いていた胸部ハッチを閉じて、クロウを

構えた。

一夏「機龍!大丈夫か!?」

機龍≪うん、何とか致命傷にはなってない。けど……≫

一夏「まさか、アブゼロは……」

機龍≪……。残っているエネルギーは、38%。足りないんだ≫

オータム「八方ふさがりって奴かよ!」

ラウラ「いや!合体して一匹になったのなら、包囲殲滅を!」

 

と、その時、デストロイアの背面の触手の先端が光った。

機龍≪危ないっ!!!≫

それに真っ先に気付いた機龍がスラスターを使って前に飛び出した、

次の瞬間。

   『『『『キュゴォォォォッ!!』』』』

その先端からODRがまとめて発射され、結果的に一夏達の

盾となった機龍の体中に命中した。

   『ドガガガガァァァァァンッ!』

  『ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!!』

それによって、体中から火花を散らした機龍が背中から倒れこんだ。

一夏「機龍っ!!?」

   『KYUUUUUUII!!』

倒れた機龍へと駆け寄る一夏と、フォローするべく不完全体の

周囲を飛び回って突風を起こし引き付けるモスラ。

  「機龍!大丈夫か!?」

機龍『う、うん。何と、か』

通信機越しに返事をしながらも、体のスラスターを使って態勢を

立て直す機龍。

と、その時。

   『ドォォォォンッ!』

空中で爆発音が響いた。そして、そちらに視線を移すと……。

 

機龍≪モスラァァァァァァッ!≫

羽を撃ち抜かれたモスラが体中から煙を上げながら学園島の沿岸部に

落着した。

  ≪お兄ちゃん達はモスラをお願い!僕は奴を抑える!≫

一夏「ッ!待て機龍!」

機龍『お前だけは、許さないっ!!!!!』

   『KYUAAAAAAAAAANN!!!!!!』

仲間を傷つけられた怒りから一夏の制止も聞かずに

不完全体に突進していく機龍。

 

それを複雑な表情で見送る事しかできない一夏達。そんな時。

スコール「ともかく、今は落ちたフラワーを回収に行きましょう。

     どのみち、死角の減った今のデストロイアを相手に

     するのは無謀過ぎるし、何より彼の邪魔になりかねないわ」

ラウラ「しかし!」

スコール「現実を見なさい……!現に私たちの武装は奴らに対して

     殆ど効かなかったわ。私も悔しいけど、怪獣を相手に

     できるのは怪獣だけよ。私たちは、私たちに出来る事を

     しましょう」

と、流石に一夏達以上に修羅場を潜ってきただけあって冷静な

スコールに、ラウラも食い下がった。

その後、一夏達は移動したのだが、その先で見つけたのは……。

 

簪「ッ!モーラさん!」

海岸で、人間の姿に戻り砂浜に横たわるトーガ姿のモーラだった。

咄嗟に近くに着地してIS、打鉄弐式を解除し、駆け寄って抱き起す簪。

楯無「簪ちゃん!モーラちゃんの容体は?」

簪「致命傷、とかは無いみたい。擦り傷とか掠り傷とかは

  あるけど、それ以外は大丈夫みたい」

鈴「とりあえず、一安心って所ね」

楯無「……。そうね。まずはモーラちゃんを博士達の所まで

   運びましょう。次はどうするか決めるのは、それからよ」

その言葉に頷き、移動する一夏達。モーラは気絶していたため、

簪がお姫様抱っこで運んだ。

 

千冬たちと合流する一夏達。

束「もーちゃん!」

そして、彼らが下りてくるなり、簪の方に駆け寄る束。

簪「傷は少ないですし、気絶しているだけです。命に

  別条はありません」

束「よ、良かった。けどとりあえず!くーちゃん!」

クロエ「はい」

束が名を呼ぶと、クロエがストレッチャーと救急箱を持って現れた。

束「もーちゃんの応急手当をお願い」

クロエ「はい。お任せください。簪さん、モーラさんをストレッチャーの

    上に寝かせてください」

簪「は、はい!」

頷き、そっとモーラをストレッチャーの上に下ろす簪。

千冬「フラワーはこれで良いが……」

束「まだ、何も解決してないんだよね」

そう呟き、二人は遠くに見える機龍と不完全体の戦闘を見つめていた。

 

機龍は、何とか不完全体を倒そうと前進を続ける。

メーサーやレールガン、ロケット弾の類はデストロイアの集合体

相手にも有効打にならなかった。それが不完全体に進化したのだ。

尚更有効な攻撃ではなくなったと考えての行動だ。

だが、接近した所で有利にはならなかった。

不完全とはいえ、その戦闘力は集合体を上回っていた。

どうやら、背中の羽はまだ完全ではなく、今の所は飾りの

ようだが、何時飛行するかは分からない。だが、格闘戦となると、

鋏に加えて2対の触手もある。

 

合計3対の近接武装を振り回すデストロイア不完全体の前に、

3式機龍は追い詰められていた。既に、その装甲の各部から

スパークが散っている。

致命傷は何とか避けているが、今の機龍にはその致命傷を

避けながら何とか懐に飛び込んで、ほんの僅かな攻撃を

繰り出すのが精いっぱいだったのだ。

 

   『OOOOOONN!!!』

   『KYUAAAAAN……』

どこか勝ち誇ったかのようなデストロイアの咆哮と、

尻すぼみな、疲労が混じった機龍の声を聞けば、どちらが優勢

なのかは一目瞭然だ。

 

その時。

一夏「クソッ!」

毒づいた一夏が再び白式を展開して飛び立とうとした。だが。

千冬「止さんか馬鹿者!今の貴様が行って何ができる!

   エネルギーも体力も消費しているお前が行った所で

   何ができる!」

と言う、的を射た言葉に一夏は黙り込み、拳を握りしめる。

その時だった。

 

一夏「そうだ!あれだよ千冬姉!京都の時に使った機龍の力!

   えっと、確か、エクストラアビリティを使えれば!」

と、叫ぶ一夏。周りの者達も、それだ!と言いたげだ。

だが……。

束「それは無理だよ、いっくん」

無情な束の一言がその可能性を打ち砕いた。

一夏「そんな!?どうしてですか!?」

束「あれは、リュウ君からのエネルギー供給があって初めて

  使えるスキルなんだ。けど、今のリュウ君はあの巨体を

  維持、運用し、更にメーサーなどにエネルギーを割り振ってる。

  その上でみんなにエネルギー供給なんてしたら、リュウ君は

  すぐにあの巨体を維持できなくなるよ」

と言う言葉に、一夏達は呆然とした。

 

一夏「じゃあ、じゃあ俺達に出来る事は何もないって言うんですか!?」

束「……そうだね」

一夏「あそこで、あそこで俺達の仲間がたった一人で戦ってるんですよ!?

   なのに、俺は。俺は」

叫びながらも、次第に彼の音量は低くなり、その場に膝をついた。

 

箒「一夏」

そんな彼を思い、そっと肩に手を置く箒。

一夏「俺は、約束したんだ。あいつを守るって。なのに、結局、

   俺には何もできないのかよ……!畜生。畜生……!」

拳を握りしめ、それを地面に叩きつける一夏。

 

そして、それは専用機持ちである簪やラウラ、スコール達も

感じていた思いだ。機龍の過去を知り、覚悟を知っているからこそ、

その傍に立って共に戦う事が出来ない今の自分が歯痒い。

だが、光明が消え去った訳ではない。

 

束「……一つだけ、可能性があるよ」

と言う、彼女の言葉に一夏は俯いていた顔を上げた。

 「万が一の時の為に、少し前から考えていた試作プログラムが

  あるんだ」

箒「それは、一体」

束「……これは、リュウ君が京都で見せた自分とISを繋いで

  ISの一時的なブーストを可能にしたエクストラアビリティ。

  それをISのみで再現し、逆にISからリュウ君に

  エネルギー回路を接続し、更にSoNのようにまたISへと

  戻ってくる。機龍とISを繋ぎ、無限のエネルギー回路を

  作るためのシステム。ISから送り込まれたエネルギーは

  リュウ君の体内で圧縮され、ISに還元される。それをまた

  リュウ君に送り込む。そうやって繰り返す事でエネルギーを

  驚異的なレベルで圧縮し、力に変えるんだ」

一夏「じゃ、じゃあ、それが出来れば俺達は機龍と一緒に

   戦えるんですか?!」

束「そうだね。……但し、二つ、問題がある。このシステム発動の

  為にはかなりの量のエネルギーがある。ISコア数機の

  エネルギー全てをつぎ込めば可能だけど、それじゃあ

  戦えなくなるから意味は無いんだ。これをするのは、

  そこそこの数の有人ISから少しずつエネルギーを

  抽出して使うんだ」

シャル「数機の、有人ISから?」

ラウラ「教えてください博士!その人数とはどれほどなのですか!?」

束「……。『12人』。これだけの数が必要なんだよ」

静かに語る束。

 「けどね。あと一つだけ問題があるんだ。それはSoNと

  同じだよ。絆で繋がった人間でなければ、この12人に入る事は

出来ない。

リュウ君からどんな形であれ、信頼されている事」

その言葉に、後ろで聞いていた生徒達は騒めく。

 

だが……。

一夏「12人か。ギリギリセーフじゃないですか」

箒「あぁ、そうだな」

鈴「ホントギリギリ。けど」

シャル「うん。そうだね」

ラウラ「揃っているではないか。12人など」

簪「これって、機龍の人徳のおかげだね」

オータム「はっ!あいつは無駄に交友関係が広いからな!」

スコール「オータム、あなたの照れ隠しバレバレよ?」

楯無「こういうの、運命って言うのかしらね?」

真耶「運命ですか。それも良い響きですね」

セシリア「つまり、12人とは私たちの事ですわね」

マドカ「ふん。まさか、こうなるとはな」

 

各々の言葉を述べる『12人』。そう、その数は既に揃っていた。

そして、彼彼女たちは機龍を信頼していた。例え、元の立場も

主義や主張が異なったとしても、機龍が今まで紡いできた

絆が今、力になろうとしていた。

 

 

数分後、エネルギーを補給したISを再び纏った一夏達が

横一列に並んでいた。その背中には、束がコードを接続していた。

束「有線接続確率。アップロード、開始!」

彼女がパソコンのエンターを押した次の瞬間、新システムが

すごい勢いで12人のISにダウンロードされていった。

そして……。

 「アップロード、完了!」

束のパソコンに映っていたパーセンテージが100%となった。

 「みんな!リュウ君への思い、思い出を頭の中にイメージして!

  それが、力になるんだよ!」

と言う束の言葉が響く。そして……。

一夏「機龍」

彼が呟き、頭の中に機龍との出会いの記憶が呼び起こされる。

 

一番最初の出会い。戦い。更なる出会い。戦いと和解。

今まで共にしてきた記憶が蘇る。

それぞれの、彼らが持つ記憶が頭の中に浮かび上がる。

機龍との絆を強く思い描く。

その≪魂の絆≫が新たな力を呼び起こす。

次第に、彼らの思いが強くなっていくと12人の体をSoN発動時と

同じような黄金の光が包んで行く。

 

そして、一夏が大きく息を吸い込む。

 

 

 

 

  「機龍ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!」

 

 

一夏の大ボリュームの叫びが周囲に響き渡る。

 

その声に、デストロイアと向かい合っていた機龍が僅かに

振り返った。

 

そして、一夏と機龍達13人の眼前に、そのディスプレイは映し出された。

そこには……。

 

 

 

 

 

——最大共鳴能力≪レゾナンスアビリティ≫、発動!!——

 

——エネルギー回路、≪∞-PATH≫、形成!!——

 

 

ディスプレイにその文字が浮かび上がった次の瞬間。

  「受け取れぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

一夏達12人から黄金の光の波が機龍の背びれに向かって

放たれた。

それが機龍の背びれに命中し、彼の中にエネルギーを流し込んでいく。

そして、同時に……。

 

機龍『これは……』

彼の心の中に、黄金のエネルギーと共に一夏達の心もまた、流れ込んできた。

 

一夏『機龍!お前は一人じゃないぜ!』

 

箒『私たちが、仲間がいる!だから諦めるな!』

 

鈴『ここまでやったんだから、負けたら承知しないからね!』

 

シャル『僕たちの思い、受け取って!機龍!』

 

オータム『良いか!私らにここまでやらせたんだ!無様な姿

     晒したらただじゃおかねえからな!』

 

スコール『あなたが紡いできた絆の力、あの怪物に見せてやりなさい』

 

真耶『機龍君!負けないでください!みんなが、あなたを応援しています!』

 

ラウラ『お前は一人ではない!私たちはいつでも、お前の傍にいる!』

 

セシリア『私たちの絆の力、それが機龍の力になるのですわ!』

 

楯無『お姉さんたちの力、受け取りなさい!機龍君!』

 

マドカ『……負けたら許さん。勝て』

 

想いが、機龍の中に流れ込んでくる。そして、最後は……。

 

 

簪『機龍ぅぅぅぅっ!負けないでぇぇぇぇっ!!!』

 

 

簪の思いが響く。

 

と、その時、不完全体が口と触手から、合計で5本にもなる

ODRを一つに束ねて発射してきた。その威力は、集合体時の

それの威力を上回っていた。

 

だが……。

 

ゴジラ『相棒!見せてやれ!俺とお前の!いや、俺達みんなの

    力って奴をッ!!!!』

 

彼の中のもう一人の自分が、最後の一押しをする。

 

そして、次の瞬間。

 

 

機龍≪うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!≫

   『KYUGAAAAAAAAAANN!!!!!』

魂を震わせる程の叫びと共に、機龍が黄金のエネルギーに

包まれたスパイラルクロウを突き出す。

そして、そのクロウは眼前に迫っていたODRを一撃で

霧散させてしまった。

 

   『OOOOON!?!?』

余りの事に、さしものデストロイアも驚愕している。

その時だった。

  ≪僕には、守りたい人たちが居る!≫

スピーカーを通して、機龍の声が辺りに響いた。その声を、一夏達を

始めとした大勢の生徒達が聞いていた。

  ≪僕に色んな事を教えてくれた人や、僕を正してくれた人。

   僕を友達だって言ってくれる人。それだけじゃない。

   この世界で生きている人々を、僕は守りたい!

   僕が守るために生み出されたからじゃない!僕自身の意思で!

   思いで!僕は……!僕は、この世界を守る!!!!≫

彼の叫びに呼応するかのように、黄金の光が彼の中に吸収されていった。

 

  ≪僕は一人じゃない!みんなから受け取った、この力で!

   僕は戦う!!!世界を、命を護るためにぃぃぃぃッ!!!≫

次の瞬間、彼の叫びに合わせて体から黒いオーラの様な物が

吹き出してきた。

 

一夏「ッ!?あれって!?」

それを、後方で見ていた一夏達が驚いた。

やがて、現れた黒いオーラは巻き戻るかのように、機龍の体に

まとわりつき、その銀色の体表を黒く染めて行った。

千冬「黒く、染まっていく?ゴジラに代わる気か?」

束「ううん。違うよちーちゃん。あれは、リュウ君とゴジラの

  二人でやってるんだ」

 

やがて、機龍の全身が黒く染まると、機龍の黄色い瞳から、

より一層強い光が漏れ始めた。

更に……。

簪「あ!見て、あれ!」

そう言って簪が指さした場所、顔を流れる赤いラインから始まり、

機龍の各部に向かって赤いラインが更に流れて行った。

さながら、彼の黒い体の上を血管が走っているかのようだった。

やがて、機龍の胸の中央に赤い円が描かれた。そして……。

 

   『KYUGAAAAAAAAAAANNNN!!!』

 

ゴジラと機龍が一体となった咆哮が周囲に響き渡った。

 

そして、今まさに絆の力を糧に、機龍の『最強』の力が覚醒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『赤き灼熱の機神龍』・『バーニングメカゴジラ』!!!

 

 

黒き体に巡る赤き血潮が、銀龍の力となる!

 

今、破滅の力は救世の力となって、悪しき悪魔を滅ぼす!

 

 

一夏「あれ、は」

と、バーニングメカゴジラに見惚れていた一夏達だったが、

次の瞬間。

   『パァァァァァァァッ!』

突如として、一夏達12人の機体を銀色の光が包み込んだ。

束「来た来た来たぁっ!!いっくん!みんな!それが君たちの

  最強の力、レゾナンスアビリティによってのみ発動する、

  ISの頂点に立つIS、究極のISの姿、モードHOV!!

  Holly knight Of AVALON!!!

  ゴジラと言う怪獣王と歩みを共にする聖騎士達だよ!!」

千冬「相変わらず、お前のネーミングセンスは……」

束「いやいや~!やっぱりこういう時こそカッコつけないとね!

  と、言うわけで、いっくん!箒ちゃん!みんな!

  サクッとあいつをやっつけちゃってよ!」

 

一夏「はい!みんな、行くぜぇ!!!」

彼の掛け声に合わせて、一夏達も飛び出していった。

 

   『OOOOOOONN!!!』

バーニングメカゴジラを前にして、不完全体が触手と

鋏を振り回しながら突進してくる。

だが、次の瞬間。

 

   『KYUGAAAAAAAANN!!!』

バーニングメカゴジラの背びれが赤く光ったかと思うと、その口から

メーサーとも、黒龍形態の熱線とも異なる赤い熱線、『赤色熱線』が

放たれ、不完全体の胴体に命中し吹き飛ばした。

背中から海面に落ち、盛大に水柱を上げる不完全体。

と、その時機龍の近くに一夏達が集まってきた。

 

一夏「機龍!」

機龍≪ッ、お兄ちゃん!みんな!≫

一夏「一緒に戦うぞ!」

機龍≪ッ!うんっ!!≫

頷き、心の中で笑みをこぼす機龍。

  ≪トドメは僕が決めるから≫

一夏「おう!だったら、まずは俺達だっ!」

 

叫び、駆け出す一夏に続く箒や簪たち。

   『OOOOOONN!!!』

それを見たデストロイアはODRを吐きかけてくるが、そのすべてを

回避する一夏達。

今度は、先端にODのエネルギーを集めた触手で切り裂こうと

するが……。

鈴「遅いっ!!」

銀色のエネルギーを纏った鈴の牙月や一夏の雪片、マドカの

フェンリルブロウ、箒の空裂・雨月、楯無の蒼流旋が

不完全体の四肢に傷を作って行った。

   『OOOOONN!?!?』

それによって悲鳴を上げるデストロイア。だが、それだけではなかった。

   『ドガドガドガァァァァァァンッ!』

悲鳴を上げた所に、ラウラや簪、シャルや真耶、スコールやオータム達の

砲撃が命中する。

各部に傷を作り、緑色の血液を吹き出すデストロイア。

束『今だよリュウ君!そいつを細胞ひとつ残らず、

  焼き払っちゃえ!!!』

機龍『わかったっ!!!みんな離れて!』

一夏「あぁ!!」

 

束の声に頷き、機龍は両足をアンカーとするために爪を

海底に突き刺し固定する。機龍の警告を聞き、咄嗟に後方へと

飛び退る一夏達。

  

  ≪僕たちの力で!この世界の未来を!≫

機龍の背びれが赤く発光する。エネルギーがどんどんとチャージ

されていく。そして、次の瞬間。

  ≪掴み取るっ!!!≫

   『KYUGAAAAAAAANN!!!!』

咆哮と共に、機龍の口から彼の最大火力が放たれた。

 

メーサーの共振効果を熱線に付加し威力を上げた熱線。

『ハイパーメーサー熱線』。

黄色い稲妻状のエフェクトを纏った赤色熱線がデストロイアに

命中する。

だが、それだけでは終わらずにバーニングメカゴジラは熱線を

デストロイアの全身に撫でつけるように照射し続ける。

それによって、不完全体の各部が塵になって消えていく。だが、

それでも機龍の照射は終わらない。

 

だが、ぶっつけ本番の大技に急激な進化は機龍の体に大きな負担と

なって現れた。

   『ズキンッ!』

機龍『ッ!?』

鈍い痛みを感じる機龍。だが、それでも彼はハイパーメーサー熱線を

吐くのをやめない。

そして、最後にデストロイアの胴体が残った時。

  ≪これで、最後だァァァぁぁぁぁっ!!!≫

機龍は持てる力の全てを熱線に注ぎ込んだ。結果、これまでの

熱線以上に極太になった熱線が、残っていたデストロイアの胴体、

首、頭を飲み込んで、塵へと返していった。そして……。

 

   『カッ!!』

   『ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!!』

一瞬、光が瞬いたかと思うと、デストロイア・不完全体の居た地点で

強大な爆発が発生した。加えて、メーサー熱線とその爆発によって

大量の海水が蒸発。周囲を膨大な量の水蒸気が覆って行った。

それを遠くから見守っていた一夏達は呆然としていた。

 

 

やがて数分後。爆発によって発生した水蒸気は数分経っても

晴れる気配が無かった。

だが……。

 

   『ズシン……ズシン……ズシン……ズシン』

水蒸気の中から、重い何かが歩く音が聞こえて来た。そして、

それは水蒸気の中から姿を現した。それは……。

 

バーニングメカゴジラ、機龍だった。次の瞬間……。

 

 

 

 

一夏「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

   「「「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」」」」」」

歓喜の叫びをあげる一夏と、それを見た大勢の生徒達が喜びの

叫び声を上げていた。悪魔が滅ぼされた事を喜ぶ生徒達。

そして、機龍が戻ってきた事を知った一夏は、彼が上陸しようと

している砂浜の方へと向かった。

箒「私たちも行くか」

シャル「うん。そうだね」

箒の提案に頷き、11人は一夏に続く形で砂浜へと降りて行き、

着地するとISを解除した。

そして、更にその場に走ってくる束や千冬、クロエや生徒達。

 

そして、彼、彼女たちは今まさにザブザブと海水をかき分けながら

歩みを進めてこちらに向かっているバーニングメカゴジラを

見上げていた。

誰もが笑みを浮かべ、機龍を待っていた。やがて、彼の体を

流れる赤いラインが消滅し、体も銀色に戻って行った。

誰もが驚きつつも、彼の雄姿に見惚れていた。

 

 

 

 

 

 

 

だが、次の瞬間。

   『バチバチッ!』

   『ドガドガァァァァンッ!』

何と、機龍の各部でスパークが瞬いたかと思うと、各部から

小規模な爆発が連続して巻き起こった。 

箒「なっ!?」

束「そんなっ!?」

簪「機龍っ!?!?」

驚きを隠せない一夏や束達。

やがて、爆発が収まると、機龍の体を光が包み込んだ。次第に

小さくなる光。その発光が止まったのは、光のサイズが人間の

子供サイズになった時だった。

そして、その光の中から、ボロボロになった機龍が姿を現した。

 

体のあちこちには酷い裂傷があり、大半が機龍の内部構造、つまり

機械構造まで露出している物だった。

特に左肩や右足の腿辺りなど、肉がごっそりと落ちており、余りにも

痛々しい状態だった。

そんな状態のまま、フラフラと歩みを進める機龍。

一夏「機龍ッ!!!」

咄嗟に駆け出す一夏とそれに続く箒や束、生徒達。

 

あと数歩で一夏と機龍が接触するかと思われた時。

   『フラッ!』

  「ッ!?機龍!?」

前に向かって倒れそうになった機龍を咄嗟に抱きかかえ、砂浜の

上に膝をつく一夏。その周囲に束達が集まる。

  「機龍!しっかりしろ!機龍!」

束「くーちゃん!私の家に緊急生命維持用の生体ポッドが

  あるから!持ってきて!」

クロエ「は、はい!」

咄嗟に叫ぶ束とそれに従うクロエ。

 

やがて……。

 

機龍「一、夏」

機龍の閉じられていた瞳が、僅かに開いた。

同時に、機龍の口が僅かに動いて一夏の名を呼ぶが、その声はまるで

壊れたマイクを通したかのように、所々掠れていた。

  「デスト、ロイ、ア、は?」

聞かれ、束の方を向く一夏。

束「……さっき爆発があった海域周辺に生命反応及び動体反応

  は無いよ。完全にやっつけたよ」

機龍「そう。良かっ、うぐっ!?げほっ!げほっ!」

   『ビシャッ!』

良かった、と言おうとした直後、咳き込み血反吐を吐きだし、既に

ボロボロなIS学生服の上着を赤く染めた。そして、更に口の端からも

細く赤い、血の川が流れていた。

一夏「とにかく喋るな!今クロエが何か持ってきてくれるから!」

と、念押しをする一夏だったが……。

 

機龍「ね、え。一夏。僕は、守れた、の、かな?」

一夏「あぁ、そうだ!そうだよ!お前がみんなを守ったんだ!

   もうデストロイアも居ねえ!だから安心して休んでろ!」

機龍「うう、ん。……もう、『終わり』なんだ」

 

その言葉に、周囲の人間たちが愕然となる。

一夏「何だよ、それ。終わりって何だよ!?」

愕然としながらも、叫ぶ一夏。

機龍「自分の、体の、こ、とは、自分が、一番、わか、る、から。

   わかる、んだ。自分が、今、どれほど、ダメージを、

   負っているか」

一夏「ふざけんなよ!それって、『死ぬ』って事だろ!?」

機龍「……。多分、そう、だね」

そう言いつつも、更に血反吐を吐く機龍。既に彼の瞳からは

色が殆ど失われ、目元には隈が出来ていた。

その時、何とか立っていた簪の足が震え、機龍の横、砂浜の上に

へたり込んでしまった。

受け入れられない、と言いたそうな表情を浮かべる簪。

 

  「簪、楯無、さん。ラウラ、お姉ちゃん。セシリア、お姉ちゃん。

   ごめん、ね。もう、傍に、居てあげられない、かも、しれない」

静かに告げる機龍を見て、名を呼ばれた4人が涙を流し始める。

  「箒、お姉ちゃん、鈴、お姉ちゃん。シャルロット、お姉ちゃん。

   これから、も、一夏と、仲良く、ね?喧嘩は、ほどほど、に、ね」

彼のアドバイスのような言葉に、箒達も泣きだす。

  「束」

束「リュウ君」

名を呼ばれ、彼の近くに座り込む束。

機龍「僕を、起こして、くれて、ありがとう。束の、おかげで、僕は、

   みんなに、出会えた」

その言葉と、血まみれながらも精一杯の笑顔を浮かべる機龍に、束もまた、

声を上げながら号泣し始めた。

 

そのすぐ近くでは、スコールやオータム、マドカもまた、泣いてはいないが、

悔しそうな表情を浮かべ、奥歯を噛みしめていた。だが……。

 

一夏「ふざけんなよ!」

そんな中で、納得できていない一夏が叫ぶ。彼の目から大粒の涙が

流れ出し、抱かれている機龍の頬に落ちる。

  「俺達、約束したじゃねえか!?冬休みになったら、俺や箒や

   鈴、シャルロットやお前、簪やみんなと一緒に、もう一度

   京都に行こうって!そう約束したじゃねえか……!」

絞り出すように、一夏の口から言葉が紡がれる。

  「それだけじゃねえ!もっと、もっと一緒に遊ぼうって

   約束したじゃねえか!一緒に夜更かししたり、

   色んなとこ行って、思い出作ろうって、この前約束

   したばかりじゃねえかよ……!」

嗚咽混じりの一夏の言葉が、周囲の人間の心に刺さる。

機龍「ごめん、ね、一夏」

一夏「謝るなよ。……謝るくらいなら、生きろよ!生きてくれよ!?」

二人の言葉が、周囲の生徒達の涙を誘う。

 

  「何で、何でいつもお前ばっかり傷つくんだよ!?

   何で、なんでなんだよ畜生……!」

やり場のない怒りをぶつけるかのように、一夏の右手の拳が

砂浜に突き刺さる。その時。

   『スッ』

機龍の右手が、弱々しくも一夏の頬を撫でた。

機龍「……良いんだよ。これで、僕、は、ようやく、誰かを

   守る事が、でき、た」

そう言って、機龍もまた、笑みを浮かべながら涙を流し始めた。

  「かつて、大勢の、人、を殺、し。そして、仲間、を、その、手に、

   かけようとした、僕、が、ようやく、誰か、を、

   守る事が、できた、ん、だから」

機龍の頬を伝う涙が、砂の上へと落ちていく。そして、彼の弱り切った

姿を見て、一夏も、箒達も、束も、誰もが泣いていた。

  「みんなを、守れた、の、なら。それ、で、良いんだ」

一夏「機龍………!」

機龍「ねぇ、一夏。僕、の、罪は、赦された、の、かな?」

 

一夏「ッ!お前に罪なんてない!お前は今まで、たくさん辛い事を

   経験してきた!人間たちに酷い事されても、お前は

   俺達の事を『友達』だって言ってくれたじゃないか!?

   そんなお前が、罪なんて背負ってる訳ねえ!」

涙を流しながらも叫ぶ一夏。周囲の、彼の過去を知る箒達も、

その目から涙を流しながらも、頷く。

機龍「そう、か。……一夏、僕、は、幸せ者、だよ。この、世界で、

   みんなと、出会えた、から」

一夏「あぁ!そうだな!俺も、お前と出会えた事、すっげぇ嬉しいよ!

   けど、けどよぉ!だからこそ生きてくれよ!俺、お前に

   紹介したい奴がまだ居るんだよ!」

機龍「そ、う、なんだ。一夏、みんな」

 

僅かに、機龍の左手が上がる。

 

一夏の手が、それを掴もうとする。

 

だが。

 

 

   ≪ありが、と、う≫

 

 

   『トサッ』

 

 

その左手は、一夏が掴むよりも先に、砂浜の上に、落ちた。

 

 

左手があった場所を、呆然と見つめてから、機龍の顔へと

視線を向ける一夏。

 

一夏「機、龍?」

 

彼の視線の先に映ったのは、瞳を閉じ、海風に銀色の髪を

揺らす、機龍だった。

  「機龍?」

 

もう一度、彼の名を呼ぶ。だが、彼は反応しない。

 

一夏の顔が、次第に歪んでいく。

 

周囲の者達も、大粒の涙を流し始める。

 

そして………。

 

 

 

 

 

 

 

 

  「機龍ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!」

 

 

 

白昼の海辺に、一夏の絶叫が木霊した。

 

     第32話 END

 




もはや、何かを書く事さえネタバレになりそうなので、これだけ書きます。

次回をお楽しみに。


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インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 エピローグ

これがいわゆる最終回です。
といっても、大半が説明文みたいな感じですが……。
字数はいつもの倍くらいになったのですが、
エピローグを分割するのもどうかと思ったので
纏めて投稿しました。


——紅蓮の悪魔との戦いを制した銀龍——

 

——だが、その果てにあったのは、死、だった——

 

 

今、IS学園島の砂浜に、大勢の生徒や教師たちが集まっていた。

そして、彼女たちの視線の先には、一夏と、彼に抱かれたまま安らかな

眠りについた銀龍、3式機龍が居た。

 

そして、その周りでは………。

簪「機、龍。う、うぅ、う、あ、あ。うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

我慢の限界を超えた簪が、機龍の血まみれの胸に飛び込み、

声を上げて泣き始めてしまった。

その周りでも、セシリアは口元を手で覆いながら、機龍から目を背けている。

ラウラも、目こそ背けず声こそ上げていないが、それでも、その目から

大量の涙を流し続けていた。

楯無もまた、泣きじゃくる簪の肩に手を置きながら泣いていた。

 

誰もが、機龍の死に涙を流していた。

 

一夏も、機龍の頭を自分の胸に抱きよせながら泣いていた。

 

一夏『俺、お前の事、絶対、忘れないからな。機龍』

 

 

 

これで、これで終わってしまうのだろうか?

 

 

命を懸けて世界を、仲間を守った銀龍の物語は幕を閉じるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否!断じて否である!

 

 

 

一夏の涙が、機龍の頬へと落ち、そこを伝って彼の白式へと

落ちて行った。

と、次の瞬間。

 

 

   『パァァァァァァァァッ!!!』

何と、待機状態の白式が金色の光を放ち始めた。

一夏「え?」

いきなりの事で、涙を流しながらも愛機を見つめる一夏。

だが、それだけではなかった。

まるで、光り輝く白式に呼応するかのように、紅椿や甲龍、

ブルー・ティアーズや弐式、アラクネ、黒騎士、ゴールデン・ドーン

と言った12機。更にはレインやフォルテのISまでもが光を放ち始めた。

だが、それだけではない。

この時、学園内に保管されていた訓練用の打鉄やラファール・リヴァイヴ。

更には束の邸宅に保管されているゴーレムⅢ用の未搭載のコアまでもが

光り輝いていた。

 

そして、それらのIS、もっと言えばコアから溢れた光が壁や天井を

突き抜けて機龍の元へと飛来した。

白式や紅椿、専用機から訓練機までのISコアから生まれた黄金の光が、

集まって機龍の体へと注がれていった。すると。

 

楯無「傷、が」

機龍の体のあちこちに刻まれていた傷が、まるで映像を巻き戻すかの

ように、目に見える速度で回復していった。

やがて、光が収まった時には機龍の服がボロボロと血で真っ赤な事

以外、何一つ普通な体に戻っていた。

 

 

 

 

そして、奇跡は起こる。

 

 

 

   『ピクッ、ピクッ』

僅かにだが、永遠の眠りが訪れたはずの機龍の目が、僅かに動いた。

そして……。

 

 

機龍「……か。……い、ち、か」

僅かに開かれた目が、一夏を見つめ、同じように僅かに開いた口から、

彼の名を呼ぶ声が聞こえて来た。

一夏「ッ!機龍。お前、生き返って」

彼を始め、周囲に居た簪たちや生徒達は、機龍の奇跡の復活に

驚いていた。

 

しかし、再び機龍の瞳は閉じられてしまった。

  「機龍!?しっかりしろ機龍!」

呼びかける一夏だったが、そこへ。

クロエ「束様!」

以前機龍が臨海学校で負傷した際に、束が治療のためにと使った

生体ポッドをゴーレムⅢに運ばせながらクロエが戻ってきた。

束「くーちゃん!!」

それを見て、目元の涙を拭い、立ち上がる束。

 「いっくん!リュウ君を早くポッドに入れて!」

一夏「は、はい!」

 

その後、生体ポッドに機龍を収容したクロエは館の方へと

戻って行き、一夏達や生徒達も機龍に寄り添うようにそれに

続いた。

 

一方、砂浜に残っている千冬、束、スコール、オータム、マドカ。

マドカ「あれは、一体何なんだ?死者が復活したとでも

    言うのか?」

束「……以前、似たような事ならあったよ」

オータム「何?」

束「夏の頃、いっくんが銀の福音暴走事件の初戦で負傷した時、

  専用機である白式があの子の生体再生を行ったんだよ。

  もっとも、これもイレギュラー中のイレギュラーだけどね」

スコール「今回のあれは、それの発展形、と?」

束「こればっかりはね~。まぁ、とにかく私はリュウ君の方を

  見てくるよ。リュウ君が生き返ったにせよゾンビになったに

  せよ、まずは診察してみない事には何も分からないし」

と言う束の顔には、少しばかりの笑顔が浮かんでいた。

 

千冬「嬉しそうだな?」

束「まぁ、ね。……久しぶりだったから。あんなに思いっきり泣いて、

  奇跡を起こしてくれた、この世界に感謝してるから、かな?」

オータム「奇跡、ねぇ」

スコール「まぁ良いじゃない。彼が蘇生したのなら、誰一人失う

     事無く、事態が解決したのだから。そうでしょ?

     織斑先生」

千冬「……。あぁ、そうだな」

と、千冬は呟きながら、静かにうなずくのだった。

 

 

それから、色々あった。

まず、機龍の事だ。あの後、生体ポッドに入れたまま精密検査を

行ったが特にこれと言って傷などは認められず、今は眠っているだけ、

と機械に判断された。

次に、機龍とモスラの事だ。二人は大勢の生徒の前で怪獣化して

戦った。

過ぎ去った悲しみの後にやってきたのは、その大きすぎる疑問だ。

生徒達の中で様々な憶測が飛び交っていたのだが、

それを察知した束が、明日その事に関して全校生徒の前で

説明すると言って生徒達を落ち着けさせた。

しかし、それだけではなかった。

IS学園はアラスカ条約によって世界各国の干渉を受けない、

所謂ホワイトエリアのような存在だが、実際には様々な国の干渉が

あるのが実情だった。

で、監視衛星でも飛ばしていたのか、各国はデストロイア、3式機龍、

モスラの情報を得て、その情報である映像や画像なんなりを証拠に

学園側に情報の開示を迫った。

しかも運の悪い事に、機龍の人間態である篠ノ之機龍の顔まで

割れてしまっていた。

が、これに対して束が。

 「お前らより先に説明する相手が居るから待ってろ。

  待てないなら全世界のIS止めるからね」

と、ドスの利いた声で開示を迫ってくる各国の関係者を黙らせた。

また、モーラことモスラも負傷こそしたものの、その日の夕方には

目を覚まして一夏達からあの後の戦いの流れを聞き、一度は

涙を流すも、その後に起きた奇跡を聞き、安堵していた。

 

 

やがて、時間は過ぎ去り、翌日。

 

今日はすべての授業を返上して、全生徒・全教師が講堂に集まっていた。

そして、指定された時間になると、壇上の上に束が現れた。

これから行われるのは、束による機龍やモスラに関する事情の説明だ。

マイクを片手にとって講堂内を見回す束。

 

束「んんっ。え~っと。まぁみんな知っての通り、今ここに

  集まってもらったのは、あの怪物、デストロイアを始め、

リュウ君ともーちゃんの事に関する説明をするため。

でね。まずはみんな知りたい事があるだろうから、質問が

ある人は、手上げて!」

と、束が言うと、皆が皆バッと手を上げた。

 「ですよね~。え~っと。じゃあ、最前列の君!

  質問は?」

と、マイクで指さした束。

生徒「は、はい!えっと。そ、そもそも機龍君ってどういう存在

   何ですか!?あんなにおっきくなったり生き返ったり!」

束「うんうん。至極真っ得な疑問だね~。良いよ。私が知りえる範囲で

  答えてあげるよ。……で、まずそれを説明するにあたって

  ここに居る全員に質問するよ。君たちは異世界って概念を

  信じているかい?」

と、周りを見回しながら問いかける束。数秒、講堂内が騒めくが、

束が咳払いをすると騒めきは止まった。

 「今私が言った事を信じられないかもしれないけど、端的に言えば

  異世界は存在するんだよ。でだ。私の言う異世界の定義は、

  パラレルワールドと同じなんだだ」

と言うと、生徒の一人が手を上げた。

生徒「あ、あの。パラレルワールドって何ですか?」

束「そうだね。まずはそこからだね。そもそもパラレルワールドとは

  在りえたかもしれない可能性の未来と言えるね。

  そうだね。例えば、この世界にISが誕生しなかった可能性。

  パイロットが女性ではなく男性だけだったかもしれない可能性。

  名前が違っていた可能性。これらの可能性はみんな、

  今の私たちとは違う、目で見ることはできないけど在るかもしれない

  可能性の世界。それがパラレルワールドだよ。わかった?」

と言われると、頷く生徒達。

一人、未だに首をひねっている男子が居たのは、別として。

 

 「まぁ、とにかくだね。まず、私たちの世界について、

  私なりの一つの定義を教えておくね」

と言うと、束の背後にあったスクリーンに、巨大な木の画像が

映し出された。

 

 「まず、そもそも私たちが世界と認識できる物を決めよう。

  私の中では、宇宙があり、銀河系があり、太陽系があり、

  地球があり、そこに人間が生息している。これを私たちが

  認識できる世界の土台。つまりは木の幹や根っこの部分と

  考えてみよう」

という解説に、生徒達は頷き、一夏は分からないのか首を

捻っていて、隣に居た箒がため息をついたりしていた。

 「そして、この幹から生えた無数の枝の一つ一つが様々な

  世界って事だよ。まぁ、要は今の私たちも、この枝の内の

  一つって事だね。さて、もう少しこの枝を細分化してみよう」

と、やがて木の枝の方へとズームするように画像が動いた。

 「そもそも枝には太い枝と細い枝があるよね?

  じゃあ、枝を世界とするのなら、太い枝同士の違いは

  何なのかを説明しておくね。まず、この太い枝は

  ある程度の歴史の違いを現しているんだ」

生徒「歴史、ですか?」

と、一人の生徒が聞き返す。

束「そう。例えば、歴史の教科書に載るくらいの大きな物事の事だよ。

  例えば、今の私たちが居る小さな枝が生えた大きな枝が

  持つ他の大きな枝との決定的な違い。それはISの有無だよ。

  知っての通り、私が言うのもなんだけど、ISはこの世界の

  パワーバランスを大きく変えた。だからこそ、私たちが

  今こうして生活している世界の太い枝の事を『ISの世界』と

  仮称しよう」

一夏「ISの、世界」

束「そして、このISの世界と言う大きな枝から派生した小さな枝が

  ISの可能性世界って事だよ。例えば、いっくんが男じゃなくて

  女の子だった、とか。或いはリュウ君やもーちゃんが存在しない、

  現れなかったかもしれない世界だって、無いとは言い切れない。

  それが『可能性世界』だよ。そして、今私たちが居るのも、

  このISの世界の中の可能性世界の一つって訳さ。

  私はこんな風に、枝のように分岐、細分化した多重世界を

  表した概念を『世界樹』と名付けた。つまり、私たちの

  世界もまた、この世界樹にあるほんの小さな枝の一つに過ぎないって

  事だよ」

と言うと、少しだけ間を挟む束。これも彼女なりに生徒達が

話を飲み込むために与えた時間だ。

 「さて、じゃあ次はリュウ君の世界について説明しようか。

  今言ったように、世界樹に生えた太い枝同士には大きな違いが

  存在している。そして、私たちの世界とリュウ君の世界の

  決定的な差が、『これ』が存在していた事」

と言った次の瞬間、画像が切り替わってそこにゴジラの絵が

表示された。

 

余りの事に驚きおののく生徒達。

 「リュウ君の世界において実在していた驚異的な存在である

  怪獣。その更に頂点に立つ存在。『怪獣王ゴジラ』。これがその

  ゴジラだよ」

驚きのまま、声が出ない生徒達。

 「さて。便宜上リュウ君達の世界を『ゴジラの世界』と呼ぼう。

  この世界では近代、正確には第二次大戦終結後の1950年代から

  各地で怪獣と呼ばれる、40から60メートル程度の大きさの

  怪生物が出現していたんだ。で、詳しい話はあとになるけど、

  リュウ君ももーちゃんも、そして恐らくあのデストロイアも、

  このゴジラの世界の可能性世界から来たんだよ。まぁ、

  一言で言うとだね。リュウ君達は異世界出身の怪獣って事に

  なるんだよ」

と、言うと、驚き騒めきが講堂内に広がって行った。

 「まぁただ、リュウ君が蘇生した事だけは私にも説明できないん

  だよね~」

と言って、テヘペロッとする束。しかし、まぁ、まじめな人々の

前でそれは白ける訳で……。

 

 「さ、さて、これで第一の質問である機龍君達が何者なのか?

  という答えにはなったかな?」

と、顔を赤くしながら話題を変えた。

生徒「は、はい」

頷く生徒だったが。

束「はい。じゃあ次の質問は~?」

と言うと、また再びほぼ全員の手が上がった。

 「え~っと、じゃあ次は君」

生徒「は、はい!そもそも、機龍君達が怪獣なのはわかりましたけど、

   あの子達ってどういう怪獣なんですか!?まさか、私たちを

   襲ったりとかは……」

と、恐る恐る質問する生徒。最後の方のそれは、全ての生徒や教師が

聞きたい事実だ。

 

あのデストロイアを退けた力が自分達に向いたら……。

と、考えただけで恐ろしいのだ。

しかし……。

 

束「アハハハㇵッ!ないない!少なくともあの二人が私たちを

  襲う事なんてないよ♪そこは私が保証するよ」

それを笑って否定する束

 「考えても見てよ。もし仮に、人間が大嫌いなら、わざわざ

  デストロイアと戦うかな?それに正体を現すにしろ、

  わざわざみんなの前で巨大化すると思う?好きでもない

  誰かの為に、自分の素性をバラシてまで戦うと思う?」

と言う言葉に、生徒達は黙り込んだ。

 「結局のところ、リュウ君やもーちゃんは人間が好きだから

  戦った。それだけの事だよ」

と言って、少しばかり間を置く束。

 

 「さて、じゃあ質問の答えに戻ろっか。質問はリュウ君達が

  どんな怪獣か、と言う事だったね」

 

やがて、束は語りだした。ゴジラの世界に生まれた一番最初の

怪獣王、初代ゴジラの出生が、核の暴挙によって生まれた、

結果的に人間が生み出したのだという事。そのゴジラが

日本、東京を襲い、人間の最終兵器、オキシジェン・デストロイヤー

によって倒され、骨になった事。

ゴジラの出現を境に、怪獣が現れ始めた事。モスラもまた、その時を

境に現れた、人類を守る側の怪獣である守護獣である事。

初代ゴジラの出現から45年が流れた世紀末、二頭目のゴジラが

日本に現れ、政府はゴジラを倒すために初代ゴジラの骨を

基礎フレームとして、3式機龍を作り上げた事。

そして、同胞との戦いの果てに機龍が決戦の最中で自我を持ち、

ゴジラ諸共日本海溝へと沈んでいったはずだった、と。

 

生徒「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

束の口から語られた真実に驚き、俯く生徒達。

束「今言った事には、何一つ嘘なんてないんだよ。そして、理由は

  どうあれ、リュウ君はゴジラを抱えて海へ沈んだ後、何らかの

  外的要因が作用した結果、私たちのISの世界へとやってきて、

  海の底に沈んでいた。そして今の人間の姿になったリュウ君を私が

  見つけた。後は、今の皆が知っている通りだよ。いっくんと

  同じようにIS適正を持ったリュウ君を、私がここに入学させた」

生徒「あ、あの。どうして機龍君やフラワーさんは私たちの世界に

   来たんでしょうか?」

束「そこに関しては私から言える事は無いよ。異世界への転生

  なんて、それこそラノベのお話だしね。まぁ、推察を述べるなら、

  恐らくゴジラ世界で時空を歪める程の『何か』があった。

  この何かの事を、『原因X』としよう。この原因Xが人為的な

  装置であれ、自然現象であれ怪獣の力であれ、とにかく。

  この原因Xがゴジラ世界の可能性世界の一つで発生した。

  結果的にそれがゴジラ世界全体に対して作用し、時空の落とし穴。

  ワームホールの様な物を発生させてしまったと私は考えているよ。

  恐らく海に没した後のリュウ君や、死んだはずのもーちゃんの

  魂がこのワームホールに引き込まれ、何等かの形で人間の姿を

  得た。これが私の推察だよ」 

生徒「じゃ、じゃあ、どうして機龍君の素性を伏せていたんですか?」

束「改めて説明するけど、リュウ君の体は人間のそれと比べてスペックが

  違い過ぎるんだ。例えば治癒能力。リュウ君の傷の再生速度は

  人間のそれを遥かに上回っているんだ。人間なら即死するレベルの

  致命傷でも、1日程度で回復する。それに、リュウ君が持つ

  特殊な細胞。私はこれを『ゴジラ細胞』。略して『G細胞』って

  呼んでる」

一夏「G、細胞」

驚き、一人呟く一夏。

束「このG細胞が持っているのは、放射能を取り込んで自分の

エネルギーに変えてしまう。言わば放射能変換機構」

その内容に、驚く生徒達。

 「今の話を聞いて分かった人も多いと思うけど、その通りだよ。

  リュウ君は言わば、世界最強の毒とも言える放射能を克服した

  生命体と言う事になるね。それに、リュウ君の体の大半は

  機械でもあるし、純粋な演算処理能力もそこいらのスパコン

  以上だよ。世界中の国にしてみれば、リュウ君の持つG細胞は

  喉から手が出るほど貴重なサンプルになる。何せ、生命力に

  関しては世界一なのは誰にも否定しようがないからね。

  まぁ、私がリュウ君の素性を隠したのはそこだよ。

  あの子の素性が世間一般に公表されれば、人間は挙って

  彼をモルモットにするだろうね」

その言葉に、再び俯く生徒達。しかし、最後に……。

 

本音「リュウ君は、これからどうなるんですか?」

おずおずと上がった手は、本音の物だった。

束「……さぁね。今後リュウ君がどうしたいか。それを決めるのは

  あの子自身だから。ここに残りたいというのか、学園を去るのか。

  その答えはリュウ君が目覚めてから、かな」

楯無「篠ノ之博士。各国は機龍君とモーラちゃんの引き渡しを

   迫っているとの事でしたが。そちらはどうするおつもり

   ですか?」

と、ここに来て爆弾を投下する楯無。その話題は、一般生徒が

知らない事だが、この場で暴露する楯無。

束「引き渡すだなんてとんでもないよ。なんてたってリュウ君は

  私の家族なんだよ。それを国に売るとか、あり得ないでしょ。

  ……まぁ、奪いに来る気なら、全力でお相手するだけだよ。

  アメリカだろうが、ロシアだろうが、日本だろうが」

そう言って笑う束。

それもまた、母親としての彼女なりの決意だった。

 「さて、とりあえず私からはあと一つだけ言いたい事が

  あるんだ。リュウ君を一言で表すとどうなるか。それはずばり!」

というと、彼女の背面の画像が白に切り替わり……。

 

 「『救世の銀龍』!だよ!」

 

束の言葉に合わせて、デカデカと筆記体で掛かれた文字が

スクリーンに映し出された。

で、まぁ一部の生徒はポカーンとしているが、それを見た

千冬と箒は、やれやれと、言いたげに首を振るのだった。

 

 

その後無事に説明会も終了し、今日と明日は休みとなった。

で、束はその説明会を録画していて、各国への情報開示はこれで

十分、としてビデオレターを各国に送り付けた。

で、更に翌日。

 

 

束「で、何これ?」

朝、束は千冬に付き添われてモノレール駅前に立っていた。

そして二人の前に立つのは黒いスーツにサングラスをした、

如何にもどっかの国のエージェントらしき屈強な男が3人と、

その3人に守られている小太りの役人然とした男だった。

今、束はその男から渡された書類に目を通して、呟いたのだった。

 

役人「はい。アメリカ合衆国からの正式な書類です」

束「そんなのはとっくのとうに分かってるよ。問題はそこ

  じゃなくてこれの中身、書かれてる内容だよ。

  リュウ君達を渡せってのはどういう事なのかな?」

役人「記述通りです」

と、さっきからまるでマニュアルのような言葉でしか対応しない

役人に、束は苛立ちを覚えていた。

束「そうじゃないよ!私から息子を奪う正当な理由を

  説明しろって事だよこの馬鹿!」

ついに我慢ならなくなって怒鳴り散らす束。

役人「それにつきましても、記述された通りです。

   『3式機龍を社会に対する脅威と判定。よって捕獲し

    調査を行う』。それだけです」

束「捕獲し調査!?はっ!嘘八百の役人が!人体実験と拷問の

  間違いじゃないのか!?極め付けが社会の脅威!?

  私が送ったビデオレター見てないの!?きっちりはっきり

  リュウ君の言葉や覚悟がたっぷり詰まったデストロイアとの

  戦いの映像、ちゃんと見てんのかテメェ!」

次第にオータムのような口調になっていく束の肩に、千冬が

手を置いた。

千冬「落ち着け。……ここはIS学園だ。そして、機龍は

   正式に篠ノ之機龍として学園の生徒として登録されている。

   ここに在籍する生徒は各国の介入を何ら受けない。

   よって貴様らの行為も全てアラスカ条約の禁止事項に

   抵触している。即刻お引き取り願おうか」

役人「……あなた方は軍事大国アメリカを敵に回しますよ?」

と、完全な脅しをかけてくる役人。

  「それだけではありません。恐らく、我が国以外も彼を

   奪取しようと企んでいるはず。ならば、我々に与えた方が

   まだ安全と言う物で——」

束「与える?ふざけんなよ。リュウ君は物じゃない。自分で考え、

  笑って泣いて怒る。喜怒哀楽を持った人間だ」

役人「ですが、彼は元怪獣のはず。そのような物に人権など」

と言うと、束が鬼の形相で役人を殴り飛ばそうとしたが、

その手を千冬が止めて、何かを耳打ちした。

 

その内容に驚く束。だが、すぐに彼女は魔女のような笑みを浮かべた。

束「え?マジ?マジでそんな事して良いのちーちゃん」

千冬「……まぁ、お前だけが使える最強の殺し文句だがな」

束「そうだね!さっすがちーちゃん!あったま良い~!」

と言って、笑顔のまま役人の方を向く束。

 「さて、じゃあまず一言言わせてもらうけど、リュウ君を

  連れて行くのなら、条件がある」

役人「……何でしょう?」

束「それはもう簡単だよ。リュウ君を連れて行く対価は、金輪際、

  つまり、二度と私が許可したIS以外の機能を私が!

  外からのアクセスで停止するよ!」

と言うと、流石の役人も驚いた顔をしていた。

役人「博士!あなたは何を言っているのかわかっているのですか!?

   大体、ISを外部から停止するなど!」

束「出来るさ。事前に私は、万が一リュウ君にISの力が向いた時の

  為に、世界中にある全てのISのコアにデススイッチを

  仕掛けたんだよ。後はポチッと人差し指一本で終わりだよ。

  私が指定したISのコアは機能停止を起こし、私が再起動の

  命令を出すまでそのコアは使えない。たった467機しかない

  ISだよね~?私が止めたら色々不味いんじゃないのかな~?

  例えば~、アメリカのIS全部止めて~、私が反米テロ組織に

  コアも装備も銃弾も満載のISを数十機渡すとか~。

  そうなったら~、アメリカはどうなっちゃうのかな~?」

と、今度は束が脅す番だ。やたら良い笑顔で役人の周りを

そう言いながらクルクルと回る束。

 「そ・れ・に~♪説明し忘れたけど~。リュウ君は二重人格なんだよ~。

  それでね~。リュウ君の中には人間が大大大っ嫌いなゴジラの

  人格があってさ~。リュウ君に何かすると~。ゴジラが

  出て来て暴れだすよ~。それも、あの60メートルサイズに

  まで大きくなって~」

と言うと、『ガウッ!』と、ライオンのようなポーズと声真似を

する束。

 「お前らみんな皆殺し確定だよ~♪アメリカはゴジラが振り撒く

  放射能によって汚染され、人が住めない土地になる。

  そして、更に人間を憎悪するゴジラは、人間を一匹残らず

  消し去るために暴れ回るぞ~。その時~、君たちアメリカは

  責任、とれるのかな~?散々人体実験して~、ゴジラを

  世に解放った時、責任、取れるのかな~?」

と言うと、役人は忌々しそうに顔を歪めると、無言でエージェント

達を引き連れて帰って行った。

 「そうだ~♪帰れ~♪ざまぁみろ~♪

  ふははははははっ!!」

返って行くアメリカの犬たちを見て笑い出す束。

 「いや~すっきりした~。ありがとうちーちゃん」

千冬「まぁ、私も奴らの強引なやり方が気に食わなかった。

   それに、機龍は私の教え子だ。奴らに渡す義理もないし、

   むしろ私には守る義務がある。それに……」

束「それに?」

千冬「友人の息子をあんな奴らに渡したとあっては、一夏達に

   何を言われるか、わかったもんじゃないからな」

と言うと……。

束「ふぉぉぉぉぉっ!まさかのデレ期!?ちーちゃんにデレ期が

  来たぁぁ『ガンッ!』って痛ぁぁぁぁっ!?」

騒ぎ始める束の頭をぶっ叩く千冬。

千冬「デレ期ではない。教師として、一人の姉として当然の事を

   したまでだ!」

と、少しばかり顔を赤くしながらそう言うと、校舎の方に

向かって歩き出す千冬。

束「あぁ!待ってよちーちゃん!」

そんな千冬を追う束。

 

こうして、大人二人の活躍によって機龍の安全は守られた。

 

 

 

やがて、デストロイアとの戦いが終わって、一週間ほど経った日の

事だった。あれから、機龍は生体機能も安定したため、3日後、

束が役人を追っ払た日の午後には、寮の自室で点滴を

打たれながらもまだ眠っていた。

 

そして、簪は眠り続ける機龍の傍にずっと寄り添っていた。

毎日のように、部屋には大勢の生徒達が訪れた。一夏を

始め、箒や鈴、ラウラやセシリア、静寐や本音と言った、

1組のクラスメイトや、かつての猫化騒動で知り合った

服飾部や写真部の部長。それだけではない。恐らく、今まで

言葉を交わした事も無いであろう生徒達が、花束や折り鶴を

手にやってきた。

 

そして、一夏達もまた、クラスメイト達に説明をした。

彼らはモーラの力で機龍の過去を見ていたからだ。人類の

所業で生み出され、殺され、利用されたゴジラと機龍の過去。

それでもなお、大切な人との思い出が、彼を守るための存在、

3式機龍で居させた事。

一夏達は、その事を聞かれる度に何度も何度も、思い出す限りの

記憶を話した。

 

そして、その話を聞くたびに、大勢の生徒が泣いた。

 

無論、中には機龍を怪物だと罵る生徒もいた。だが、そんな生徒

の数は少数であった。

現に、機龍は死ぬ気でデストロイアと戦い、最後は何一つ、

怨嗟を叫ぶ事無く、一度は感謝と共に息絶えた。

どこまでも純粋に、命を護ろうとした彼の意思と、

彼自身が持つ覇王のカリスマは、大勢の人々を引き付けたのだ。

 

そして、事件終息から一週間後の夕方。

 

今、簪は機龍の左手を右手で握り、ベッドとベッドの間に置いた

椅子に座ったまま眠っていた。だが、その時だった。

機龍「……し」

僅かに聞こえた声に、眠りが浅かった事もあってかうつらうつらと

目を開ける簪。やがて。

  「…んざし」

声が聞こえた。その声にハッとなった簪は、視線を声の主の顔の

方へと向けた。そこには……。

 

  「簪」

開かれた目で彼女を見つめ、開かれた口で彼女の名を紡ぐ、

彼女、更識簪にとって、最も愛おしい人の笑顔だった。

  「簪、ただい、ま」

その言葉に、簪は………。

 

 

 

 

 

 

——おかえり。機龍——

 

涙を流しながらも笑顔を浮かべ、そう告げるのだった。

 

 

それから数十分後。機龍の覚醒を機械でモニターしていた束と

クロエがやってきて、クロエは機龍の再検査。束はその事を

一夏や千冬たちに知らせて回った。

 

ちなみに、喜びのあまり放送室に突撃した束がそのまま校内放送

のマイクをひっつかんで『リュウ君が目覚めた~~!』

なんて叫んだもんだから、千冬がやってきてひと悶着あったのだが、

それでも束や生徒達の胸に安堵感が広がった。

そして、覚醒から数時間後には機龍も普通に動ける程度にまで

回復した。

で、クロエが機龍を検査したところ、驚くべき事実が発覚した。

 

その日の夜、束によって彼女の邸宅に一夏と機龍、モーラや

レイン達専用機持ち13人。千冬と真耶の教師陣、更には

スコールとオータムと言った、主要メンバーが集められた。

理由は、機龍に発覚した事実を説明するためだった。

 

千冬「それで。今度は何が分かったんだ?」

束「うん。リュウ君」

機龍「うん」

束「リュウ君の生体データを昔、まぁデストロイアと戦う前と

  今の君の物と比較したところ、変化が見られたんだ」

機龍「変化?どんな?」

束「うん。そもそも、これまでのリュウ君の体を構成していた

のは、ゴジラ細胞、つまりはG細胞な訳だけど、今は

それに変化、というより、進化しているって言えるんだ」

一夏「進化、ですか?機龍が?」

と、言う一夏と、彼と同じように首をかしげている箒

やレイン達。

 

束「うん。普通のG細胞の持つ効果は、驚異的な治癒力と、

  放射能の無害化、或いはエネルギー吸収能力だけ。

  けどね、さっきリュウ君の体を調べてみた時にわかったんだ。

  今のリュウ君の細胞は、ISのように最適化、つまりは

  フィッティングを繰り返しているんだ」

一夏「……えっと、それって、つまり?」

と、首をかしげざるを得ない一夏。

箒「本来生物が行えないようなことをしている。

そう言いたいのですか?」

束「そうかもしれないね。まぁ、G細胞の効果自体が異常だけど、

  それを差し引いても細胞が自動的に機械みたいに

  最適化をすることなんてありえない。これは恐らく、 

  リュウ君が復活した際に浴びた大量のエネルギーによって

  G細胞が活性化して進化したんだと思うよ。私はこの

  新しいG細胞の事を、『進化型G細胞』。

  EVOLUTIONALY-G-CELL。英語の訳をもじって

  『EG細胞』って名付けたんだ」

機龍「EG、細胞」

束「あと付け加える事があるとすればもう一つだけ。

  リュウ君とゴジラの持つG細胞は本来、ゴジラにしか制御できない

  危険な代物なんだよ。けど、EG細胞はそれも超越した。

  例えば、特定のDNAを与えたEG細胞はそれに合った進化を

  する。つまりだ。例えば人間のDNAを学んだEG細胞は

  人間の構造や情報を得て、人間にとっての最強の薬になるんだ」

スコール「薬、ですか?」

束「そう。ガン治療や喪失した五感や四肢の回復。何でもありだよ。

  ゲームで言うの所の完全回復薬だよ。どんな病気やケガも

  立ちどころに直す。正しく覇王の祝福だね」

機龍「僕の体に、そんな変化が……」

そう言って、右掌を見つめる機龍。

 

束「デストロイアの一件でリュウ君はある意味進化したと

  言えるんだ。今のリュウ君なら、自分の意思で60メートル

  サイズまで巨大化できるんだ。加えて、今まで発動した

  力もね。リュウ君。何でもいいから手に物をイメージしてみて」

機龍「イメージ?う、うん」

そう言われ、機龍は右手を開き、そこにフォークをイメージした。

すると、そこに銀色のフォークが銀の光と共に現れた。

そして、同時に機龍は自分の中から僅かにエネルギーが抜けた

と感じていた。

  「これって……」

束「リュウ君が京都で見せたエネルギーを物質に変換する

  エネルギー変換機構。以前ならそれはSoN発動中にのみ

  使用可能な力だけど、今のリュウ君はそれを生身の状態で 

  できる。そして、今のリュウ君の進化速度ははっきり言って

  異常だよ。生物の進化速度を超えて、機械的速度で本能が

  学習し、進化する。生物の持つ進化と機械の持つ学習スピード

  を持った、異常な進化。

  私はこれをHYPER・EVOLUTION、『超進化』と

  名付けたんだ」

機龍「超進化。僕の体が、進化、する」

束「後、リュウ君には悪いと思ったんだけど、体の中にリミッターを

  いつくか掛けさせてもらったよ」

簪「リミッター?どういう事ですか?」

束「単刀直入に言えば、リュウ君のあの時の死の大本は大きすぎる

  力を、リュウ君の傷ついた体自身が受け止めきれなかった事なんだ。

  『アルファリミッター』。全部で1から100まで段階的に

  リュウ君の力を抑え込んでいるんだ。といっても、解除とかは

  リュウ君自身の意思でできるんだけどね」

機龍「そっか。……ありがとう束」

頷き、2、3回手を握ってから礼を言う機龍。

束「正直に言うと、それらの大半はG細胞の進化が大本なんだよね。

唯でさえ非常識なそれが更に非常識な進化をした事で、

リュウ君の体をどこまでも高めていく。

今リュウ君に出来るのは、異常な速度の進化、物質生成、加えて、

大気中の微量な放射能の吸収とエネルギー変換。

そのエネルギー変換効率も、徐々にだけど

上がってきているんだ。

  ……こういうのはどうかとも思うけど、リュウ君。

  多分君はこの世界で最も『神に近い存在』なんだよ」

機龍「………」

 

一夏「えっと、それで、結局機龍はどうなったんですか?」

と、ここに来て話について行けてなかった一夏が挙手をした。

束「一言で言えば、リュウ君はこれからも進化するし、

  どんどん強くなっていく。それこそまさに、EG細胞を持つ者

  だけが歩む事が出来る、『神へと至る道』」

千冬「神、か」

束「リュウ君は今後、生と死を超越した存在になるかもしれない。

  その時は、むしろリュウ君にとって肉体さえただの器。

  いや、枷になるかもしれない。荒唐無稽かもしれないけど、

  可能性は0じゃない」

 

機龍「僕は、そんな事に興味はないよ」

自分の右手のフォークを見つめながら呟く機龍。

そして、フォークは粒子となって消えた。

  「僕は神様になんか興味はないし、体を枷だとは思わない。

   僕は誰かの笑顔と有り触れた毎日を守る力と、みんなと

   笑って、触れ合える体と心があればそれで十分だから」

そう言って、彼は拳を握りしめた。

 

  「織斑先生。お願いがあります」

と、機龍は決意の籠った瞳で彼女を見つめるのだった。

 

 

そして、翌日の朝。

普通に授業が再開された朝、1年1組の教室には完全復活した

機龍の姿があった。

しかし、誰もが彼の素性を知ってしまったため、話しかけずらい

状況になっていた。

そんな中で朝のHRが始まったのだが……。

 

千冬「さて、朝のHRはこれで終わりだが、機龍からお前達に

   話したいことがあるそうだ。機龍」

機龍「はい」

頷き席を立つ機龍。そんな彼の様子に騒めく生徒達だが、

彼が真耶に促されるまま教卓の前に立つと、それも静まった。

 

そして、緊張が流れ出した。しかし。

 

 

機龍「この場で、僕は皆さんに言わなければならない事があります」

誰もが冷や汗を流し、彼の言葉を待った。だが、それはある意味において

裏切られた。

 

 

  「嘘をつき、皆さんをだます結果になった事、今この場で

   謝罪させてください!申し訳ありませんでした!」

 

そう言って機龍は思いっきり頭を下げた。

一方の生徒達は、予想外のセリフに目をぱちくりさせている。

静寐「え、え~っと、それはどういう意味で」

 

機龍「素性を隠すためとはいえ、皆さんにこれまで嘘をついていた

   事は言い訳のしようがない事実です。そして、僕の

   素性も束が説明してくれた通りです。僕は人間では

   ありません。人殺しの、怪物です」

ギュッと、両手を握りしめる機龍。

  「だけど、これだけは言わせてください。僕は、この学園

に来て、大勢の人と出会いました。その思い出は、僕に

とって大切な宝物です。だからこそ、お願いがあります。

こんな化け物の僕で良ければ、皆さんの学友として、

友人として、ここに居させてください!お願いします!」

機龍は己が願いを言葉に乗せて放ち、再び頭を下げる。

 

 

機龍はそのまま待った。拒否されるのが怖くないと言えば

嘘になる。だが、それでも、出来る事ならと彼は思っていた。

 

 

 

 

 

そして、彼の思いは実った。

   『パチパチパチパチッ!』

返ってきたのは、拍手だった。その音に呆気に取られ、

顔を上げる機龍。

彼が見たのは、笑みを浮かべる一夏や箒達クラスメイトだった。

  「え?あ、あの。僕は……」

生徒「リュウ君は怪物なんかじゃないよ!私たちのクラスメイトで

   可愛い弟みたいなもんだよ!それに、私前に機龍君に

   勉強教わった事あるし、また教えて欲しいんだよね~」

  「あ~それ私も~!」

本音「リュウ君また勉強教えて~!」

生徒「それにウチのクラスは男子が居るんだし、そのアドバンテージ

   捨てるのもね~」

  「そうだそうだ~!可愛い機龍君を他のクラスに渡すな~!」

   「「「「「お~~~~!」」」」」

  「あ~あと!私もっと猫モードの機龍君も見たいし~!」

   「あ~!確かに賛成~!」

と言って、彼女たちも笑みを浮かべながら頷き合っていた。

 

機龍「僕、は、ここに居ても、良いんですか?」

と、機龍は目を見開き、驚きながらもそれを口にした。

生徒「居て良いも何も、機龍君は私たちの『クラスメイト』じゃない!」

と、それを言った彼女にしてみれば、ありふれた言葉かもしれない。

他の生徒達もそれに頷いているが、その言葉が一番響いたのは、

機龍自身だった。

 

機龍の両目から、涙が流れ出す。

  「あ、あれ!?私なんか不味い事言っちゃった!?」

というと、機龍はブンブンと首を左右に振った。

 

機龍「違う。違うんです。ただ、僕は……」

 

そう言って、機龍は涙を拭いつつも他者を魅了する笑みを浮かべ……。

 

  「皆さんに、出会えて、本当に良かったって、思えたんです」

 

彼は思った。自分は、最高の友人に恵まれたのだと。

 

 

 

 

しかし………。

 

一方の生徒達はハートがキュン死寸前だった。何故なら……。

 

生徒「ヤバい。それはヤバいよ機龍君」

機龍「え?」

いきなりそんな事を言われたので、涙を止め、キョトンとする機龍。

  「え~っと。ヤバいって、どういう意味ですか?」

 

生徒「それは、もちろん。……可愛すぎるよ機龍きゅん!!!」

 

機龍「へ?」

 

生徒「あ~もう!我慢できない!」

 

と、一人の生徒が言うと、大勢の女子たちが立ち上がった。

  「機龍君!」

そう叫んでガシッと機龍の手を取る女子が一人。

機龍「は、はい!?」

  「結婚しましょう!!」

 

ぽく、ぽく、ち~ん。

どこかで木魚を叩く音が聞こえて来た後、機龍は……。

機龍「えぇぇぇぇぇぇっ!?」

セシリア「ど、どうしてそうなるのですか!?」

簪「だ、ダメ!機龍は私の!」

ラウラ「わ、私とて認めんぞ!け、結婚なぞ!」

モーラ「というか、許嫁の私だって居るんですよ!?」

驚く機龍と立ち上がるセシリアや簪、ラウラ。

 

機龍「あ、あの!どうして結婚の話に!?」

生徒「だって~♪機龍君があんなにキュンキュンする台詞と

   表情浮かべるんだも~ん!お姉さんもう我慢できないよ~!」

という生徒に唖然となる機龍。そして彼は……。

機龍「お、織斑先生!」

と言って教師である彼女に助けを求めるが……。

 

千冬「私は知らん。お前達の問題はお前達で解決しろ」

と言って楽しそうに笑みを浮かべていた。

機龍「えぇぇぇぇぇっ!?」

そうして驚いている間も……。

 

生徒「さぁ機龍キュン!挙式の用意をしましょう!私が男装するから

   機龍キュンはウェディングドレスでね!」

そんな事を言っている生徒の目は、確実に『イって』いた。

それはもう何をしでかすか、分からないくらいに。

何てことを言っていると……。

   『バァァァァンッ!』

それはもうぶち破るような勢いで扉が開かれ、そこに居たのは……。

服飾部部長「その服、私が仕立ててあげるわ!」

機龍「ぶ、部長さんまで!?というかどうしてここに!?」

明らかに血走った目と荒い息の服飾部部長だった。そこへ……。

 

束「いや~。ごめんね~リュウ君」

機龍「束!?」

彼のすぐ近くに通信ディスプレイが浮かび上がり、そこに束の

顔が映った。

束「実はさっきの挨拶、こっそり全校生徒に向けて流しちゃった~。

  テヘペロッ♪」

と言われた瞬間、機龍は廊下の方に視線を向けた。

 

案の定には、狼のような視線の女子たちが無数に居た。

結局のところ、普段から周りに優しく接していた彼の愛らしさや

仲間たちを守るために死闘を繰り広げた事、今の言葉や彼の持つ

カリスマが大勢の女子たちを惹き付けてしまったのだ。

雌が雄のフェルモンに引き寄せられるように……。

ましてや王の血筋のそれは、とてつもない威力を持っていたのだ。

 

アワアワ、と言いたげな機龍は、最後の砦であり兄貴分で

ある一夏の方を見た。

そして、視線が合った事で呆然としていた一夏は叫んだ。

一夏「機龍!何でもいいからとりあえず逃げろ!」

その言葉を聞いた次の瞬間、機龍へ窓を開けてそこから飛び降りた。

進化した肉体を駆使して普通に地面に着地して一度息を付く機龍。

 

だったのだが……。

 

   『ドドドドドドドッ!』

何やら、ヤバそうな地鳴りが聞こえて来た。機龍は、ギギギと金属音が

しそうな動きでその音がする建物の角の方へと視線を向けた。

すると……。

 

生徒「「「「「機龍きゅ~~~ん!!」」」」」

 

案の定、目がおかしい生徒達が無数に飛び出してきた。更に……。

簪「機龍~~~!」

上の窓からISを纏った簪やラウラ、セシリア達まで

飛び降りて来た。

そして、機龍は………。

 

機龍「何でこうなるの~~~!?!?」

 

絶叫し、生徒達から逃げるべく走り出した。

だが、それでも彼は、笑っていた。

 

走りながらも、雲一つない空を見上げる機龍。

 

そして、彼は………。

 

 

——義人、僕、見つけられたよ。友達——

 

異世界の大切な人への思いをはせながら、機龍は笑みを

浮かべるのだった。

 

 

     鋼鉄の銀龍  END

 




これを持って、鋼鉄の銀龍は終わりです。
但し、元々考えていた三次創作『救世の銀龍』へと物語は
続いて行きます。


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IF展開 日常編
IS 鋼鉄の銀龍 日常編第1話


三次創作、救世の銀龍編とは別派生の、IF展開の
お話です。


~~これは、本来辿った世界線とは、全く異なる世界線の物語~~

 

~~救世の旅へと旅立った銀龍が、旅に出なかったら?~~

 

~~そんなIFの、もう一つの世界線の物語~~

 

 

 

 

デストロイアとの死闘と機龍の復活。更に全校生徒へと告白を

したあの日から既に数日が経った今。

機龍は相も変わらずIS学園での平和で、楽しい日常を歩んでいた。

まぁ、ただ……。

 

女生徒「機龍君!今日こそデートに行きましょう!」

   「あぁズルい!私が誘おうと思ってたのに!」

   「いいえ!機龍君は今日私達陸上部の部活に参加

    するのよ!」

 

と、機龍の前に集まった女子たちが色々言っていた。

そんな彼女たちを前にして困ってしまう機龍。まぁ、それも

機龍と言う『覇王の血筋』であるが故なのと、彼の持つ優しさが

圧倒的なカリスマとなって周囲の人々を惹きつけてしまうのだ。

ましてや彼はほんの数日前、彼女たちを守るために身を挺して

デストロイアと戦った。

吊り橋効果などという言葉があるが、ある意味似たような物だった。

 

鮮烈なまでに彼女たちの脳裏に焼き付いた3式機龍としての姿。

苛烈な力を放ったバーニングメカゴジラ。そして、最後は

その死と復活。

ある意味、あの事件が機龍と言う存在を彼女たちの脳裏に

より強く刷り込む結果となってしまったのだ。

そこへ来て、束によって全校生徒へと流されたあの告白が

放送された事で、とうとう彼女たちも機龍に本格的な好意を

抱いてしまったのだった。

 

今日も今日とて周囲からのアプローチが激しい事にオロオロと

してしまう機龍と、それを周りから見つめている簪、セシリア、

ラウラ、モーラや一夏達。

モーラ「機龍の人気はうなぎ上り、ですね。嬉しくもありますが、

    それ以前に釈然としませんね」

ラウラ「むぅ、よもや全校生徒の大半がライバルになるなどと

    言う事は無いだろうな」

簪「無くは、無い、のかな」

セシリア「うぅ、ここまでくると機龍の魅力の高さが逆に障害に

     なってしまいますわ」

と、機龍の恋人である彼女たちは今日も今日とて複雑な心境

だったのだ。

 

 

しかし、そうだとしても機龍の日常は変わらない。

毎日のように学校に通い、勉学に励み、時にクラスメイト達と

笑い合う。それこそが、機龍の望む日々なのだ。

 

下手な刺激など要らない。そんなものは既にごまんと経験してきた。

今、彼が欲しいのは穏やかな日々。それだけだ。

……周りが穏やかなじゃないと言えばそうかもしれないが……。

 

ともかく、機龍はそんな風に平和な日々を歩んでいた。

 

これは、そんな日々の一コマ。

 

 

 

   『ピッ!』

ある日の学校、放課後の校庭。そこでは陸上部の女生徒たちがジャージ

姿でトラックを走っていた。

そして、そのゴール地点に立っていた青いジャージ姿の機龍が

ゴールした生徒のタイムを手にしている記録用のノートに記録していた。

機龍『うん、こんなものかな』

と、タイムを書き終えた機龍は近くのベンチにあったタオルとドリンクを

手に取り、ゴール近くで膝に手を当てた姿勢のままゼェゼェと

荒い呼吸の生徒に近づき、タオルとドリンクを手渡した。

  「どうぞ」

部員「あ。ありがとう機龍君」

受け取ったタオルで髪を拭きながらドリンクを飲む女子部員。

機龍「後、これが今のタイムです」

そう言ってタイムを書いたノートを見せる機龍。

部員「どれどれ?」

と言った次の瞬間、その部員は機龍の首に片腕を回しその体を

グイッと引き寄せた。

それによって……。

   『ぽよん』

女子部員の大きくはないが、決して小さくもない胸が機龍の体に

当たった。しかも姿勢を下げた女子部員の顔が機龍の真横、

肩に置かれるようにしてあった為、機龍は瞬く間に顔を真っ赤に

してしまった。

汗と女性特有の仄かな甘い匂いが機龍の鼻孔をくすぐる。

部員「う~ん。前より少しタイムが落ちてるな~」

と、言いつつも彼女の視線はしっかり機龍の反応を見ていた。

  「機龍君はどう思う?」

機龍「え!?あ、えっと、その、あの」

そう言いつつ、機龍の方を向く彼女の視線。対して機龍は

ちょっと顔を動かせばキスも出来そうなその距離の女子の顔を

見て、顔全体を真っ赤にしつつ視線を泳がせた。

しかし……。

部員A「あぁ!ずるい抜け駆け!」

と、他の部員たちに見つかってしまった。

   「先輩ズルいです!今の機龍君は私達陸上部の

    共有財産なんですから!」

と、(色々問題発言でもあるが)そう言って抗議する後輩部員。

部員「ふっふっふ、な~に言ってるの。確かに機龍君は

   今、陸部のマネージャーしてるけど、今や学園の全校生徒が

   狙ってる機龍君なのよ?どんな時でも仕掛けなきゃ。

   ライバルが100人越えの恋なんだもの。

   ね、機龍君」

   『チュッ』

機龍「はぅ」

不意に、機龍の頬にキスをする部員。それによって顔を赤くし、

びっくりして可愛い悲鳴を漏らした。

すると……。

   『『『『『ぶはっ!!』』』』』

その様子を近くで見ていた部員が鼻血を吹き出した。

血を吹き出し倒れる生徒達を見てアワアワと慌てる機龍。

しかし……。

部員A「ねぇ機龍君。折角だから今夜は、私と良い事

    しない?」

機龍「ふぇっ!?」

良い事とはつまり、『そう言う事』への誘いだ。

  「え、えっとあのあの!えっとその!そそそ、そう言うのは

   こここ、困ります!」

その事に顔を真っ赤にし戸惑い目を回す機龍。そして……。

  「あ!僕使い終わった道具片付けてきま~~す!」

そう言って一目散に逃げ出す機龍。

部員A「あ!機龍君!……くっ、逃したか。でも次こそ」

と、どこか狩人のような目をする部員。

 

その後、何とか無事に陸上部の手伝いを終えた機龍。

 

しかし彼の参加を希望する部活は多く、もはや放課後の

部活参加が恒例になりつつある機龍だった。

 

今日も今日とて……。

 

機龍「王子、行けません。私のような村娘などと……」

場所は演劇部が練習用に貸し切ったステージ。

そこでは村娘を演じるために女装した機龍と……。

部長「構う物か。誰が何と言おうと私は君を愛している」

逆に男装した演劇部部長の演劇のワンシーンの練習が

行われていた。

それを見ている観客の演劇部員たち。今回はリハーサル

程度の物と機龍は聞かされていたのだが……。

  「この地位が君と私の間を塞ぐ壁となるのなら、

   私は喜んでこの地位を捨てよう。全ては、君に添い遂げる

   ために」

そう言って女装した機龍の手を引き、自らの腕に抱く部長。

そんなワンシーンに観客は色めき立ち、機龍は密に顔を真っ赤に

しつつも演技を続ける。

機龍「王子様。これは一時の迷いです。私など、王子様には……」

部長「美しき者に立場など関係無い」

機龍「ですが!」

部長「お願いだ。私の愛を受け取り、頷いてくれ。

   でなければ私は、君が頷いてくれるまで君のその麗しい唇を

私の唇で塞いでしまうよ」

そう言うと、彼女はグイッと機龍の体を引き寄せ、所謂

顎クイで機龍の視線を上げさせた。

顔を真っ赤にして視線を逸らす機龍に、見ている部員たちも。

彼を前にしている部長も興奮を抑えられなかった。

そして……。

  「私の愛の証、受け取っておくれ」

機龍「王子様。……ん」

王子役の部長の方から機龍を抱き寄せ、彼の唇を奪った。

 

そして、流れとしてはここで村娘が頷き、二人は互いを

愛する、と言うはずだったのだが……。

  「王子様、私は……」

部長「まだ、頷いてくれないのかい?」

機龍「え?んっ!」

言葉を遮り、疑問符を浮かべる機龍の唇を奪う部長。

部長「ん、ん。ぷはっ。やはり君は美しい。そのすべてが、

   この私の心を熱く滾らせる!」

と、台詞と本音が混ざり合った言葉が出る部長。

機龍「ま、待ってくだ、んん!んぁ」

部長は機龍の背中に両手を回し、がっしりと抱きしめると舌を

絡ませるディープキスをし始めた。

 

部長「君のその小さな体躯も、金色の瞳も、銀に輝く髪も、

   美しいその肌も、その声も、仕草も、心も!

   全てが私を惹き付ける!まさに君は魔性の姫だ!」

機龍「ぶ、部長さん!目が怖いです!と言うか、演劇が

   もう違う方向に……」

部長「今の私は私であって私ではない!王子にして狩人!

   君と言う最高の獲物を狙う狩人なのだよ!」

機龍「そ、それって僕を食べるって意味ですか~!?」

部長「おうともさ!私は君の全てを×的な意味で食べたい!」

(※ ×に何が入るかは読者様のご想像にお任せします)

 

機龍「それはダメですよ~!」

部長「いいや!ダメではない!愛に年齢は関係ない!愛しい人を

   その胸に抱き、体を重ねる事に何の罪があろうか!

   恋とは戦争!恋とは略奪!君の心を射止めるためならば、

   私は悪魔とだって取引をしよう!」

と、どこか劇のようなやり取りをする二人。しかし……。

部員A「それを言うなら、私達だって!」

と、そこに今度は劇を鑑賞していた演劇部員たちがステージの

上に上がってきた。

部員B「私達だって機龍君をぱっくんちょしたいんです!」

機龍「それ表現としてどうかと思いますけど!?」

部員C「わ、私だって、機龍君とあんなことやこんな事して、

    そ、それで~。えへへ、うひひ」

機龍「お願いですから現実に戻ってくださ~い!」

と、機龍のツッコみも空しく、皆が皆機龍を襲う気

満々なようだ。そして全員が機龍への包囲網となり

彼に向かってジリジリと足を進めていたその時。

 

スコール「やれやれ。あなたの人気にも困ったものね」

と、どこからか声がしたかと思うと、上のスポットライトの

フレームの上から人影が下りて来て着地した。その人物とは

相も変わらず並みの女優以上のダイナマイトボディを惜しげもなく

晒す露出度の高い服装のスコールだった。

機龍「す、スコールさん」

スコール「博士が念のためって私に貴方の様子を見に行くように

     言われて来てみれば、ドアは何十にもロックされて

開かないから、別の所から侵入してきたのだけど……」

そう言いつつ、機龍を抱きしめる部長の方に視線を向けるスコール。

部長「渡しはしない!我らが姫の心!必ずやここで落として見せる!」

機龍「そこは普通掴んで見せるでは!?」

と、ツッコむ機龍。しかしスコールはそんな二人を無視して

部長に歩み寄ると、瞬く間に機龍の腕を引いて彼を取り返した。

スコール「彼の人気は相変わらず。まぁかく言う私もこの子の

     事が好きなのだけど……」

部長「負けない!私は!」

そう言って手を伸ばす部長。しかし……。

   『パシッ!』

スコールは機龍を離すと、その手で彼女の手首を掴み……。

スコール「私、女の子も大好物なの」

部長「えっ!?」

ペロリ、と舌なめずりをしたスコールは驚く部長を

抱き寄せ……。

  「ん!ん~~!」

その唇を自分の唇で塞いだ。

更にそこから部長のズボンの股下辺りに膝を入れグリグリとする

スコール。

  「ん!ん~ん!んふ、んん~」

キスをしたまま、次第にトロンとした表情を浮かべる部長。

その余りにも慣れた手つきに機龍がポカンとしていると……。

 

   『シュルルルッ!』

部員「「「「きゃ~~~っ!」」」」

不意に後ろから悲鳴が聞こえたので振り返る機龍。見ると、

そこにはアラクネを展開し部員たちを糸で縛り上げる

オータムの姿があった。

機龍「オータムさん」

オータム「そらよ。いっちょ上がりっと」

部員A「動けないよ~~~~」

部員B「あとちょっとだったのに~~~!」

オータム「ったく。おい、大丈夫か?」

機龍「はい。おかげ様で助かりました。ありがとうございます、

   オータムさん」

そう言って、屈託ない笑みを浮かべる機龍に、オータムは

顔を赤くすると踵を返して機龍の方に背を向けた。

オータム「言っとくけどこれは博士に頼まれただけで別に

     お前の為とかじゃ……」

と、どストレートなツンデレを発動させるオータム。

しかし……。

部員A「あ~!オータムさんツンデレだ~!」

部員「「「「「ツンデレだ~~~!!」」」」」

と、その様子を部員たちに見られていたためにそれを

暴露されぶ~ぶ~とブーイングまで始まった。

オータム「ばっ!?だ、誰がツンデレだ!ふざけた事

     言ってると足腰立たなくなるまで調教して

     やるからな!」

と、そう言ってオータムは部員たちと子供クラスな口喧嘩を

始めたり……。

部長「あぁ、お姉さまぁ、もっとぉ」

いつの間にか部長を堕としているスコール。

 

機龍「こ、これで良かったのかな~」

そして、機龍は一人その状況の中で疑問符を浮かべるのだった。

 

 

ちなみに、他の部活ではと言うと……。

 

水泳部。

部員「き、機龍きゅん!こ、この水着を着て見て!極薄素材の

   マイクロビキニ!ぜ、絶対似合うから!」

と、明らかに来てもスケスケなビキニを手にハァハァと完全に

ヤバい息遣いでにじり寄って来る水泳部員。

しかも大半の者は水辺だと言うのに高そうなカメラなり

スマホを構えている。

機龍「い~や~で~す~~!」

そして、水泳部員たちの表情から危機感を覚えた機龍は脱兎の

如く涙目を浮かべながら逃げ出した。

部員A「待って~~!」

それを水着やらスマホやらを片手に追いかける水泳部員たち。

部員B「さぁ機龍きゅん!お姉さんたちとくんずほぐれつ、

    極上の天国へ行きましょう!

    大丈夫!痛く、痛くしないから!」

機龍「じゃあ何でそんな水着とかカメラまで持ってるんですか~!?」

部長「それはもちろん!思い出として写真に残して~、

   夜な夜な私達が×××するための~」

(※注 ×の部分は読者様のご想像にお任せします)

 

そして、その単語を聞いた機龍はボッと擬音がしそうな勢いで

顔を真っ赤にした。

機龍「だっ、ダメです!尚更ダメです~!と言うか部長さんが

   それ言って良いんですか~!?」

部長「問答無用!私達は今、可愛い男の娘に飢えている!

   よって機龍君を全力でぱっくんちょするのです!」

機龍「そんな~~~~!?」

(ある意味末期な)水泳部員たちから逃げつつ、機龍は叫ぶのだった。

ちなみにその後、水泳部員は事態を聞きつけた千冬が粛清した。

 

美術部。

部員A「さぁ機龍きゅん!デッサンのモデルよろしくね!」

機龍「は、はい。あの、それで僕はどうすれば……」

部長「そうね。とりあえず……。脱いでっ!」

機龍「へ?」

悪びれも無く、そう叫ぶ美術部部長。一瞬呆けた機龍だったが、

数秒後……。

  「え~~~~!?!?ぬ、脱ぐって何言ってるんですか!?」

部長「あれ?私変な事言った?」

と、彼女が周囲の部員たちに問いかけると……。

部員「「「「「「いいえ」」」」」」

全員が首を横に振った。

部員A「お願~い。今日はヌードデッサンの日なの~。

    だ・か・ら~」

そう言いつつ、機龍に詰め寄る部員たち。

   「お願いっ!脱いで機龍きゅん!!」

機龍「ダメですよ!?そんなの、そんなの絶対ダメです~!!」

そう言って逃げ出す機龍。

 

部長「くっ!各員、目標を逃がすな!良い!?ヌードデッサンの

   後事故で『そう言う事しちゃった』漫画展開を実現

   するために必ず機龍きゅんを捕えなさい!」

部員「「「「「「はいっ!!」」」」」」

そう言って機龍を追い駆け出す部員たち。

もはやここも末期であったのだった。

 

と、結局の所、優れた雄が大勢の雌を惹き付けるように、機龍の

王たる血筋と彼の持つ力、彼の示した覚悟が大勢の女生徒たちを

惹き付ける結果となったのだった。

……機龍本人にとってはかなり不本意かもしれないが……。

 

 

その後、今日も今日とて生徒達に追いかけまわされた機龍は

夕食後、バテバテになりながら部屋に辿り着き、すぐさまシャワー

で汗を流すとパジャマに着替えてベッドに倒れこむようにして

体を横たえた。

と、そこへ。

   『ガチャッ』

簪「ただいま~」

大浴場の方へと行っていた簪がパジャマ姿で戻ってきた。

機龍「あ、お帰り簪」

そう言いつつ、何とか体を起こして簪を迎える機龍。

簪「ただいま機龍。……って、機龍大丈夫?」

機龍「あ、え~っと。正直に言うと疲れてる」

そう話をしつつ、機龍の横に腰を下ろす簪。

簪「そうだよね。機龍、毎日みんなに追いかけられてる

  もんね」

機龍「うん」

と、頷きながらもお疲れモードな機龍を見て、簪は……。

簪『よし!こんな時こそ』

と、意気込むと機龍の体を自分の方に倒し、膝枕を

し始めた簪。

 

機龍「あ、えっと、簪?どうしたの?」

いきなりの事で、彼女の顔を見上げる機龍。

簪「え、えっと、その。機龍、疲れてるみたいだし、

  ひ、膝枕を」

そう言いつつ、やった自分も恥ずかしいのか顔を赤らめている簪。

そして、彼女の言葉を聞いた機龍は、僅かに体をもぞもぞと動かすと、

静かに目を閉じ、彼女に見守られると言う安心と疲れから

すぐに微睡み、やがて眠りについた。

 

簪「機龍?」

機龍「すぅ……すぅ」

数分後、機龍が眠った事に気付いて声をかける簪だが、肝心の機龍は

可愛い寝息を立てて眠っていた。

簪「機龍、よっぽど疲れてたんだね」

そう言って、息子を見守る母親のような笑みを浮かべた簪は、

少しだけ彼の髪を撫でると、彼をベッドの正しい位置に横たえ、

電気を消し彼と同じベッドに潜り込んだ。

 

 「おやすみ、機龍」

   『チュッ』

最愛の彼の額にキスをすると、簪もまた最愛の男性、

機龍を抱き寄せながら眠りについたのだった。

 

 

これは、世界を守った銀龍と、彼らが愛する仲間たちの、

騒がしくも楽しく、にぎやかな平和と日常の物語。

 

   日常編 第1話 END

 




と、言うわけでちょっとした日常のお話です。
続くかは分かりませんが、もしかしたら今後とも
続くかもしれません。


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日常編第2話 『勉強会』

気分転換に書いた日常編のお話です。この日常編は時系列の設定が
曖昧な部分があります。なので原作等とは殆ど絡みません。


~これまでの鋼鉄の銀龍~

突如として出現した紅蓮の悪魔、デストロイアとの戦いを制した

3式機龍と仲間たち。IS学園の全生徒、教師たち。更には

世界各国首脳部に対し正体を晒す結果となった機龍だったが、

それでも彼の人徳と周囲の努力もあり、機龍は戦いの後も

IS学園の生徒としての生活に戻るのだった。

 

 

普段通りの日常が続くIS学園。しかし、ここ最近は生徒達が

ピリピリしていた。と言うのも……。

 

千冬「あ~。今日の授業はこれまでだが、お前達も知っての

   通りそろそろ中間考査が近い。赤点を取った者には

   それ相応の補習が待っている。それが嫌なら精々

   テストまでの間、頭に知識を詰め込んでおく事だな。

   それでは、以上。解散」

と言うと、出席簿を片手に教室を後にする千冬。彼女が教室を

後にすると、生徒達は各々駄弁り始めた。

そして、機龍達も……。

 

一夏「あ~。マジか~。もうすぐテストか~」

ぐで~っと机に突っ伏している一夏。

鈴「全く。情けないわよ一夏。もっとシャキッとしないよ」

そんな彼を見て呆れている様子の鈴。

ちなみに、現在では鈴と簪は刀奈の手回しによって1組に

籍を置いていた。

一夏「……。じゃあ鈴はテストで赤点取らない自身が  

   あるのかよ」

鈴「うっ!?そ、それは……」

と、逆に聞かれ自信がないのか口ごもる鈴。

 

一夏「なぁ機龍。お前らはテストどうだ?自信あんのか?」

機龍「僕は、大丈夫かな。理系は元々得意だったし、文系も

   簪に教えてもらったし」

簪「私は逆に理系が苦手だったけど、機龍と一緒に勉強してたら

  段々出来るようになっちゃった」

マドカ「私も、こいつに数学を教わった。後は大体出来る」

と、周りの者達は殆どが赤点のボーダーラインを超えられる

だろうと予測していた。

 

一夏「え~。嘘だろ~。それじゃあヤバいの俺と鈴と

   箒だけかよ~」

箒「なぜそこで私の名前が出る」

一夏「だって箒も理系は苦手だろ?」

箒「うっ!?」

最初はムッとした表情だったが、鈴と同じく図星を当てられ

唸る箒。

機龍「一夏お兄ちゃん達が苦手なのって、やっぱり理系?」

一夏「あぁ。まぁそうだな。俺は理科と英語。数学はまだ

   出来るんだけどなぁ」

鈴「私は理科の化学式と数学ね。あんな数字と文字の羅列、

  見てるだけで眠くなってくるのよね~」

箒「私は英語と数学だ。どうも文法や公式を覚えるのが

  苦手でな」

と、各々の弱点を口にする3人。一夏達はそのまま揃って

ため息をつき、そんな彼らを見た機龍は頭を捻ってから

ある事を思いついた。

 

機龍「そうだ。折角だからみんなで一緒に勉強会をしようよ」

一夏「勉強会?俺らみんなでか?」

機龍「うん。一緒に勉強していれば分からない所を僕達が

   アドバイスできるし、そうする事で僕達もテスト範囲の

   復習が出来ると思うんだ」

セシリア「成程。それは確かに良い考えですわね」

シャル「そうだね。……あ、でもどうしよう?

    流石にこの人数が集まるとなると、場所が……」

そう言って周りを見回すシャル。

メンバーは、一夏、箒、鈴、シャル、機龍、簪、セシリア、

ラウラ、モーラ、マドカの10人。流石にこのメンバーを

集めるとなると、各自の二人部屋では狭すぎるし、かといって

教室や食堂に集まる訳にも行かない。

 

機龍「あ、多分そこは大丈夫だよ。場所なら束の家で

   良いんじゃないかな?あそこはまだ使ってない部屋や

   たくさんの人が集まれる広間みたいな部屋もあるし。

   許可とかは僕が束にお願いしておくから」

モーラ「そうですね。では、日程はどうします?」

機龍「う~ん。あ、じゃあこれから毎週の土日、束の家に

   集まる事にしない?1日や2日で身についても

   間が空いちゃうと忘れちゃうかもしれないし」

ラウラ「それでは、これから毎週の土日。私達で集まって

    勉強会、というわけだな」

機龍「うん。それじゃあみんな、早速だけど明後日の土曜日、

   朝の10時に束の家の前に集合でも良い?」

一夏「あぁ、俺はそれで問題ないぜ」

と言うと、箒やシャル、簪たちも頷いた。

機龍「うん。それじゃあみんな、テストに向けて勉強

   がんばろ~!」

8人「「「「「「「「お~~!」」」」」」」」

機龍の掛け声に呼応するように、各々やる気を示す8人。

そしてそんな彼らを見て、やれやれと言いたそうな表情をしながらも

秘かに笑みを浮かべるマドカだった。

 

そして、土曜日。朝。

束の邸宅の前に私服姿で集まる10人。時間になり全員が集まると

機龍たちは早速束の邸宅の2階にある、どこか和風旅館的な部屋に

移動し、ちゃぶ台を全員で囲うような姿勢で早速勉強を始めた。

一夏、箒、鈴の3人はまず苦手科目である理系を機龍やセシリア、

モーラなどに見てもらいながら学び、他の面々もそのすぐ隣で

市販の問題集などを使って復習をしていた。

 

   『カリカリ』

そして、しばらくは静かな部屋にシャーペンや鉛筆を走らせる

音だけが響いていた。

一夏「なぁ機龍。ここの化学式なんだけど」

機龍「あぁ、それはね……」

箒「すまないモーラ。ここの数式はどうすれば良いの

  だろうか?」

モーラ「えっと、ここですね。ここは2ページ前の公式を

    ですね……」

と、時には隣に居るメンバーに助言をしてもらったりしつつ、

10人は着実に勉強をしていた。

 

そして、時間はあっという間に過ぎ去り……。

 

   『キーンコーンカーンコーン』

 

不意に、学校の方から時報の鐘の音が聞こえて来た。

その音に気付いて、10人はノートや教科書に落としていた視線を

上げた。

簪「時報。もう12時だね」

そう言って部屋の壁に掛けてあった時計に目を向ける簪。

一夏「彼此2時間か~」

ん~と伸びをしながらもグルグルと肩を回す一夏。

鈴「お腹も減ったし、どうする?みんなでお昼に学食でも行く?」

ラウラ「しかし、時間も時間だな。この時間帯だといつも混んで

    居たような気がするが……」

と、話していた時。

シャル「大丈夫」

そう言って、シャルは近くに置いていた鞄の中から大きな風呂敷を

取り出すとそれを机の上に置いた。

   「実はこんな事もあろうかと、お弁当作ってきたんだ~」

そう言って風呂敷を広げるシャル。包まれていたのは

3台の重箱だった。

と、更に……。

モーラ「あ、実はその、私もお弁当を」

機龍「え~っと、僕もサンドイッチを少し……」

そう言って更にお弁当箱やカラフルなタッパーを取り出す

モーラと機龍。

 

それを見ていた一夏が一言。

一夏「んじゃ、このままここで飯にするか」

という事で、一度勉強道具を片付けた彼らはそこでシャル、

機龍、モーラの3人が作って持って来た弁当で昼食を

取るのだった。

 

ちなみに、シャルはから揚げやサラダと言ったおかず類。モーラは

様々な具材を使ったおにぎり。機龍も卵やレタス、ハムなどを

ふんだんに使ったサンドイッチを作ってきていて、10人で

見事たいらげたのだった。

 

その後も午後4時まで各々の勉強をしてその日は解散になった。

 

その日の夕方。夕食時。

相も変わらず学食には大勢の生徒達が、休日と言う事で私服なり

なんなりで大勢集まっていた。

そんな中、モーラは1組のクラスメイト達と一緒に食事を

していたのだが……。

本音「あ~う~。テストが近い~。赤点怖い~」

と、項垂れる本音。どうやら彼女も一夏達と同じく赤点に

なりそうな科目があるようだ。

モーラ「本音さんも、ですか。どの科目が苦手なんです?」

本音「私は歴史~。年号とか人の事覚えるの苦手~」

お手上げ、と言わんばかりにパタパタと手を振る本音。

モーラ「歴史、社会ですか」

本音「う~~。このままじゃ赤点だよ~。赤点やだ~」

モーラ「こればっかりは努力次第ですからね。赤点を取る取らないは

    今後の本音さん次第です」

静寐「まぁそうなんだけどさ~。あ、そうだ。いっその事

   休みの日にでもモーラが教えてあげたら?」

と、近くに居た静寐が頷きつつも提案してきた。

 

モーラ「え?私がですか?」

静寐「うん。だってモーラって成績は1組でも上の方でしょ?」

モーラ「それはまぁ、そうですが。……ただ、休日は既に

    先約が……」

静寐「あれ?誰かと勉強でもするの?」

モーラ「はい。これからテスト当日までの間の休日は束博士の

    邸宅に集まって、一夏さん達や機龍と一緒に勉強を

    する事になっていまして」

清香「え!?マジで!それってみんなで勉強会してるの!?」

と、その話題に食いつく清香。

  「ねぇねぇ!それって私達も参加してもいい!?」

モーラ「え、えぇ?」

静寐「わ、私もぜひその勉強会に参加させてください!」

本音「私も~~!」

と、グイグイ押し気味に来る清香に続いて挙手する本音と静寐。

結局、モーラは曖昧にYESと返事をすることしか出来ないのだった。

 

また、別の場所では……。

2組生「ねぇねぇ!凰さんって一夏君や機龍君と一緒に勉強

    してるってホント!?」

と、鈴の元に、元クラスメイトである2組の生徒達が集まって

きていた。

鈴「そ、そうよ。テストに向けてみんなで休みの日に集まって

  勉強してるのよ」

2組生「そうなんだ!じゃあ私達も参加していい?

    その勉強会に!」

鈴「え?う、うんまぁ大丈夫だと思うけど……」

と、彼女もまた曖昧に返事をしてしまった。

 

そしてさらに、簪の元にも……。

4組生「お願い!私もその勉強会に参加させて!赤点回避の

    為に!」

一緒に食事をする簪の前で手を合わせ、頭まで下げている生徒達が数人。

簪「う、うん。わかった。みんなには私から伝えておくから」

と、彼女は彼女たちのお願いに押される形で承諾してしまった。

 

で、翌日の日曜日の朝。

マドカ「………。何で人数が一気に倍加してるんだ」

呆れつつため息交じりで集まった集団を見つめるマドカ。

昨日までは10人だったはずの勉強会の参加メンバーが

今では既に20人以上に増加していた。

本音「私達も勉強会に参加するのだ~」

そう言って腕を振る本音。

静寐「い、いや~その、私達もテストで赤点取りたくない

   と言うか、その~~」

と、本音でもありもう一つの理由を悟らせないように言葉を

濁す静寐。

彼女たちにしてみればテストに向けた勉強と一夏や機龍の

二人と仲良くなっておきたい、という一石二鳥な状況を

逃したくなかったのである。

 

機龍「まぁ良いんじゃないかな。テストまでもうあんまり

   日もないし、みんなでの勉強も互いの弱いところを

   教え合うって事で」

一夏「そうだな。俺も問題はないぜ」

彼の言葉に箒やシャル、簪たちが頷いた。

と、言うわけで早速昨日と同じ部屋に集まった彼女たちは

各々の得意科目を教え合う形で勉強を再開した。

 

本音「ねぇねぇおりむー。ここ、どうすれば覚えられる

   かな~」

一夏「あぁ、そこの年号か。そこは俺が中学時代に教えて

   貰った語呂合わせが良いと思うぜ、えっと……」

静寐「機龍君、ここの化学式って分かる?」

機龍「あぁうん、そこはね……」

と、何だかんだで機龍達は順調に勉強をしていた。

ちなみに、その日のお昼はと言うと……。

 

一夏「あ、そうだ。俺実は差し入れとして色々

   作ってきたんだ」

モーラ「私も昨日に引き続きお弁当を……」

鈴「じ、実は私も酢豚も」

箒「私も手巻き寿司の類を少し」

機龍「えっと、僕と簪からも色々と……」

静寐「あ~え~っと。私も勉強教えて貰うって事で

   少々差し入れを……」

と言って、5人はお弁当箱なりなんなりを机の上に置いた。

機龍「う~ん。……みんなで食べよっか」

一夏「だな」

そんなわけで、今日も彼女たちは一夏や機龍達が作った

お弁当を食す事になったのだった。

その後もまた4時ごろまで集まって勉強をした後解散する

一夏達。

 

しかし、翌週の土曜日には……。

マドカ「……。何でまた増えてるんだ」

と、呆れを含みつつ追加されたメンバーを見て呟くマドカ。

今の彼女たちの前には40人以上の女生徒たちが各々の恰好で

立っていた。

 

清香「い、いや~その、何と言いますか~その。土日の勉強会で

   結構勉強できた~ってみんなに言っちゃったらこの通りで  

   ございます」

一夏「ど、どうする機龍?」

機龍「え~っと。一応あの部屋、壁を動かせば隣の部屋と繋げ

   られるし、多分大丈夫だと思うよ」

というわけで、結局と言うか、いつの間にか機龍のような

成績トップクラスなメンバー達は他の同級生たちに先生の

ような事をして回る事になったのだった。

 

更に翌日には……。

マドカ「………」

もはや何も言う気が無いのか、束の邸宅の前に集まった

生徒達を見て押し黙っているマドカ。

どうやらネズミ算式に勉強会の噂が広まっているようで

今では2組や4組以外の生徒まで集まっていた。

 

で、結局機龍達はいつの間にか巨大化した勉強会をテスト

当日まで開くのだった。

 

そして、運命のテストの日が過ぎた数日後。

とうとうテストの結果が発表される日がやってきた。

まずは教壇に立つ真耶によって1組の各教科テストの

平均点が発表され電子黒板に投影された。結果は……。

ラウラ「ほう?」

モーラ「あら、これはまぁ」

と、映し出された平均点に驚くメンバー達。それもそのはずだ。

なぜかと言うと……。

 

真耶「皆さんすごいですね~!何と、平均点全科目が70点越え!

   しかも一部は平均点90点越え!すごいです!」

と、生徒達の奮闘を自分の事のように喜ぶ真耶。そして……。

千冬「んんっ、私としては今回のお前達の点数に驚いている所だ。

   聞くところによれば機龍や織斑たちが中心となって勉学に

   励んでいたようだな。よくやった。今後とも勉学に励む

   ように」

生徒「「「「「「はいっ!」」」」」」

珍しくも千冬からお褒めの言葉をいただいた生徒達は元気よく

返事をするのだった。

 

その後の夕食時。

食堂に集まっている一夏や機龍達。みんなで集まって各々の

料理を食べながら駄弁っていた。

一夏「は~~。これでやっとテストから解放されたぜ」

鈴「ホント、ここ最近テスト勉強ばっかりで頭が痛くなり

  っぱなしだったわよ」

シャル「けどすごかったよね。平均点が90点越えの科目まで  

    あったなんて」

ラウラ「結局、勉強会には1組の生徒の全員が参加していたからな。

    それが功を成したのだろう」

セシリア「聞いたところによりますと、1年の中では私たち1組が

     最も成績が良かったそうです」

簪「へ~」

モーラ「それもみんなで勉強して教え合った結果ですね。

    私も実は英語が少し苦手だったんですけど、おかげ様で

    89点も取れました」

箒「私もだ。苦手だった数学でかなりの点数を取れた。正直、

  自分でも驚いているよ。まさかここまでとは」

機龍「そうなんだ。マドカちゃんはどうだった?」

マドカ「……まぁまぁだ。ただ、いつもよりは、出来た気がする」

いつものようにそっけないが、それでも肯定するマドカ。

その周囲では機龍達が笑みを浮かべていた。

 

一夏「……また集まるか。テスト前には」

シャル「あ、良いねそれ。みんなでまた勉強会しようよ」

機龍「じゃあ、今度は1年だけじゃなくて楯無さんや

   レイン先輩たちも呼んでみんなでやろうよ。

   みんなで勉強して、一緒にお弁当食べたりしてさ」

モーラ「最終的には全校生徒も集めます?」

と、笑みを浮かべながら冗談交じりに言うモーラ。

簪「束博士の家の部屋数、足りるかな?」

一夏「束さんがその気になったら1時間で増築できそう

   だけどな」

セシリア「あの方ならやり遂げてしまいそうですわね」

そうやって、各々笑みを浮かべる一夏と機龍達。

 

こうして、一夏達は協力し合い勉強する事で学生の

難敵、テストを無事乗り切るのだった。

 

     日常編 第2話 END

 




とまぁ、こんな話でした。
気分転換で書いているので、続くかはわかりませんが、
今の私の頭の中では、題材としてハロウィンの町に仮装した
一夏や機龍達が繰り出す、とか、季節外れの寒波で寒くなり、
束の提案でIS学園全生徒教員まとめて、束が所有する
南国の島にみんなで行く、とかまぁそんな話を考えてます。


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日常編第3話 『欲望』

今回はまるっきりギャグです。シリアスなど期待しないでください。


ある日のIS学園。その一角にある学生寮。の隣に立てられた

天才(と紙一重の天災)であるISの生みの親である篠ノ之束博士の

邸宅。そんな邸宅の中のとある一角に、邸宅の主である束と、

ゲームの魔術師のようなフード付きローブで顔まで隠した

者達が数人ほど集まっていた。

 

???「篠ノ之博士、例の物は?」

やがて、ローブ集団の一人が静かに口を開いた。部屋が暗いのと

フードのせいで口元以外ははっきりとわからなかったが、声から

ローブの人物が女性である事は分かった。

束「うん、もちろん出来てるよ。君達のお望みの物は……。

  これでしょ?」

そう言うと、束はキーボードなどが置かれたデスクの上に

置かれていた小瓶を取り、ローブの人物に見せるようにした。

中には数個の錠剤が入っており、それがディスプレイの光を

受けて怪しく輝いていた。

???「「「おぉぉ」」」

小瓶と薬を見て、ローブ姿の数人が驚嘆の声を漏らした。

 

やがて、代表者と思われるローブの人物が小瓶に手を伸ばした。

???「つ、ついに我々の悲願が叶うのですね!」

小瓶を受け取り、それを宝物のように頭上に掲げるローブの人物。

束「約束、忘れてないよね?」

そんなローブの人物に不敵な笑みを浮かべながら問う束。

???「えぇ。もちろんです。計画が成功すれば、かなりの報酬を

    ご用意できるかと」

束「ふふ、それは何より、だよ。君達の成功を祈っているよ」

???「ありがとうございます」

束の言葉に、ローブの人物はペコリと頭を下げると後ろにいた

メンバーの方へと振り返った。

 

   

   「同志諸君!いよいよこの薬が手に張ったのだ!あの夢を

    抱いてから幾星霜!ついに我々の計画は最終段階へと

    入るのだ!」

???「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」

どこぞの秘密結社のように、右手を突き上げるローブの人物たち。

???「さぁ!我々の至高の計画を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    機龍キュン犬っ子化計画を始めようっ!!」

 

 

ここに、IS学園女生徒によるヘンテコ計画が始まってしまった。

 

時間は遡る事2週間前。IS学園、服飾部部室

部長「はぁ~~♪機龍キュンの笑顔はやっぱり、ス・テ・キ♪」

そう言って、服飾部の部長である彼女は部屋の一角に飾られた

機龍の笑顔の写真を見つめながら恍惚とした表情を浮かべていた。

ちなみに周囲では……

部員A「き、機龍君!あぁ、機龍きゅん!」

部員B「き、ききき、機龍君と、機龍君と、うぇひひひ」

既に末期な妄想に突入している部員たちが数人。しかし部長や

周囲の者達はそれを異常だとは思わない。

 

いや、正確には異常と思わない程、他のメンバー達も機龍に

心酔しているからだ。

しかしこれらは服飾部に限った話ではない。既にIS学園の

大多数、と言うか教師陣も含めて大勢の人間が機龍の虜

なのである。

 

デストロイアとの戦いで自らの正体を晒した機龍が、目立った

拒絶も無く受け入れられたのもこの辺りに起因している。

可愛く、愛らしく、勇気がある男の娘で、人々を惹き付ける

覇王の血筋、ゴジラ一族ゆえの圧倒的なカリスマ。

真の強者が人々を惹き付けるのは必定。しかし力だけではない

機龍の優しさが、大勢の女たちの心を惹き付けて離さないのだ。

 

そのせいで機龍は色々な生徒達から終始狙われるようになって

しまったのだが………。

 

ともかく、今やIS学園内において機龍はアイドルや英雄として

周りの者達から讃えられる存在になりつつあったのだ。

IS学園生徒の大半がショタコン趣味だからではない!

絶対に!多分、恐らく………。

 

とまぁ、そんなこんなで人々に好かれる機龍だが、周りの一部の

生徒達の好きは既に色々限界突破していた。服飾部や写真部、

情報処理部が良い例である。

この3部は、以前合同で機龍の抱き枕カバーを作って配布した事が、

この時は機龍の素性がバレていないにも拘らず大人気商品と

なった。

ちなみに、後々機龍への好意に目覚めた生徒は、かつての学園祭で

一般に出回り、オークションに掛けられた物を中古にも拘らず

数十万で落札した強者まで居たとか、居ないとか……。

 

元から機龍の美貌(?)に目を付けていただけあって、彼の素性と

その思い、更には告白を聞いた後はもう止まらなかった。

あの告白を聞いて3部の部員全員の思いはリミットブレイク。

力の王子様であり美の姫様でもある機龍への想いは恋人である

簪やセシリア、ラウラやモーラにも負けない勢いだった。

(若干変な方向にブレイクしてしまったのは否めないが……)

 

ちなみに、少し前また3部合同で機龍の写真集を作り、学校側の

許可を貰った上で、数百冊作って有料(1冊2000円)で売った所、

僅か10分で完売してしまったと言う。

(また、この人気に追随するように漫画研究部は機龍と一夏の

BL漫画を作ったり、機龍を女体化させて周りのメンバー達と

百合百合な漫画を作って売った所、爆儲けしたとか何とか……)

(加えて漫画の購買者には教師も数名居たとか何とか……)

 

こうして機龍の人気はうなぎ上り所の騒ぎではないのだったが……。

 

ある日の服飾部は壁にぶち当たっていた。

 

部長「何か、良い案は無いかしらね~」

そう言って腕を組み人差し指を顎に当てている部長。

彼女の近くでも他の服飾部の部員たちが頭を捻っていた。

理由は唯一つ。

 

『今後の機龍君に来て欲しい服は?』だった。

前述のとおりの人気ぶりの機龍の写真集発売の際、数字が三桁に

届くまでのページ数を作ったが故に、大体の服は機龍が着てしまったの

である。チャイナ服、ナース服、制服や私服、大体のジャンルは

着てしまった機龍に、次は何を着てもらうか。と言うのが今回の

会議の題目だった。

 

部員C「やっぱり、未だにトライしていないセクシーランジェリーを

    着て貰うとか」

部員B「それはどうかしら?機龍君にもみんなに見せて良い限度

    があると考えるべきよ。それにもし仮に、学園の外に

    その画像が出回ったらどうするの?今はまだ超絶可愛い

    男の娘のプリティ女装写真だから良いけど、流石にそこまで

    行くと外に画像が出回った場合機龍キュンの迷惑に

    なるわ。……見て見たいけど」

部員D「そうね。流石に機龍キュンに迷惑をかける行為はご法度よ。

    ……見て見たいけど」

部員C「う、う~ん。でもやっぱり、ねぇ?」

そう言って周囲に同意を求める部員C。

部員A「じゃあもし、仮に校外にあなたの女友達が居るとして、

    その子が機龍キュンに気があるって知ったあなた。

    しかも手元にはそのランジェリー姿の機龍キュンの

    写真集がある。あなたはどうする?」

部員C「超絶マッハでその写真集を見せて機龍キュンを推します!

    ……はっ!?私は何を!?」

どうやら無意識下に叫んだのか、すぐに疑問符を漏らす部員C。

 

部長「やっぱりね。機龍キュンの美しさはもはや麻薬の域よ。

   一度でもその美に触れてしまったら二度と逃げられない

   美の蟻地獄。けど、機龍キュンに迷惑をかけるのだけは

   私達の本意ではない。そうでしょ?」

彼女が問いかけると、周囲の部員たちが一斉に頷いた。

 

  「とはいえ、ここに来て題材が無くなってきたのも事実。

   何か新しい物はないかしら?」

そう言って頭を捻る部長と部員たち。そんな時。

部員C「あ~あ~。こんな時こそ、猫化機龍キュンをモフモフ

    したいな~」

そう言って長机に突っ伏す部員C。その時。

 

   『ピキィィィィンッ!』

部長『それだっ!』

その時、部長の中で閃きが起こった。

  「そうよそうよ!どうして気が付かなかったのかしら!」

唐突に立ち上がり、叫ぶ部長とそれに驚く部員たち。

部員B「ぶ、部長?どうしたんですか?」

部長「ふふふ、思いついたのよ!あなた達、ペットと言えば

   猫と何?」

部員A「え?え~っと、犬?」

部長「そう犬よ!機龍キュンは今、以前の出来事がきっかけで

   猫化できるようになったわ!だったら、逆に犬化して

   犬耳や犬の尻尾を生やせるようにだってなるはずよ!」

部員C「け、けどあれは確か不慮の事故が原因のはず。まさか

    また機龍キュンを同じ目に合わせると?」

部長「まさか。私はそんな事考えてないわよ。忘れたのかしら?

   私達には心強い同志が、天才篠ノ之束博士が居るのよ!」

部員「「「「「あっ!」」」」」

部長「ISを生み出した程の天才ならば、機龍キュンを犬っ子に

   する事だって出来るはずよ!」

部員「「「「「な、成程!」」」」」

部長「よ~し!そうと決まれば早速行動開始よ!私達

   服飾部は今ここに、機龍キュン犬っ子化計画を

   始めます!各自、異議は!?」

部員「「「「「異議なしっ!」」」」」

 

こうして、(色々末期な)IS学園服飾部によるヘンテコ計画が始まった。

 

そして時間は冒頭の薬を手に入れた後へと巻き戻る。

 

束より薬を入手した服飾部の面々は、まず同志を集めた。

当然、それは機龍絡みで何度も力を合わせた写真部や情報処理部の

面々だ。彼女たちも全員、服飾部に負けず劣らずの末期集団と

化していた。

今は部長と部の副部長らが集まって服飾部の薄暗い部屋で、

丸いテーブルを囲むようにして会議を開いていた。

写真部部長「成程。猫の次は犬、と。で、そのための薬も既に

      準備完了な訳ね。乗ったわ。機龍君の可愛い写真が

      撮れるのであれば、私達写真部が断る理由はないわ」

情報部部長「私達も同じくよ。犬っ子の機龍キュン。良いじゃない。

      我が部の機龍キュンフォルダに神の恵みがまた

      増えるのは、あの子の一信者として大歓迎よ」

写真部部長「けど、薬はあってもどう機龍君に服薬してもらうの?

      まさか正直に真正面からお願いするの?」

服飾部部長「えぇ。私達はそう考えているわ。むしろ、あの薬を

      機龍キュンを騙す形で飲ませた、なんて周囲に

      知られたらボーデヴィッヒさんやフラワーさん達、

ラバーズが黙っていないわ。機龍キュンを騙す

      のは私達の本意ではないし、それは私達の首さえも

      絞める愚策中の愚策よ」

情報部部長「確かにね。……わかったわ。なら私としては

      この計画のかじ取り役をあなたに任せるわ」

服飾部部長「え?良いの?」

彼女自身としては部長3人により計画を動かそうと思っていたの

だが、

写真部部長「そうね。提案者であるあなたにはこの計画を進める

      権利があるわ。同志として、私達はあなたの指示に

      従うわ」

彼女の言葉に、情報部や写真部の部長や副部長たちが頷く。

服飾部部長「みんなっ!ありがとうっ!」

そう言って笑みを浮かべる服飾部の部長。

……絵面は良いが彼女たちはもはや末期な者達だった。

例えば……。

 

情報部部員「失礼します!」

と、そこに会議中にもかかわらずタブレット型の端末を持った

情報部の部員がやってきて部長を見つけるなり、彼女の

元へと駆け寄った。

情報部部長「何事?」

情報部部員「部長に至急見て頂きたい案件が。これです」

そう言って、憤怒のような表情を浮かばせながらそれを抑えつつ

部長にタブレットを渡す部員。

そして、部長はタブレットの画面を見るなり……。

 

   『ギシッ!』

何とタブレットが僅かにきしみ始めた。次第に情報部の部長も

憤怒のような表情を浮かべた。

写真部部長「ど、どうしたの?」

余りの事に気になって声をかける写真部の部長。すると

情報部の部長の彼女はハッとなってからタブレットをテーブルの

上に置いた。

情報部部長「由々しき事態よ。これを」

タブレットを180度回転させ、他の二人に見せる彼女。

残りの二人がその画面をのぞき込むと、そこには情報部が運営している

サイトの画面が映し出されていた。そのサイトでは、一部機龍の

女装した姿の写真がダウンロード可能な画像として貼られていて、

更にはコメントまで送る事が可能になっていたのだが……。

 

写真部部長「ッ!!これは……」

   『何だよこいつ。これで男かよ』

    『気持ちワル、変なもん見た』

     『美少女(笑)www』

そのコメント欄には、機龍の女装姿を嘲笑するようなコメントが

いくつか連続で投稿され、そのコメントにいくつかいいね、まで

押されていた。

 

サイトではご丁寧に『誹謗中傷お断り・男の娘に関するサイトのため

苦手な方はブラウザバックをお勧めします』と警告していたにも

関わらず、である。

 

コメントを見て、コンマ数秒も立たずに他の二人からも圧倒的な殺気が

放たれた。

それこそ今なら千冬や束に素手でも挑んでいきそうな勢いであった。

そして、すぐに……。

3部長「「「総員戦闘態勢!!!」」」

彼女たちはすぐに立ち上がって叫んだ。すると瞬く間にどこから

ともなく3部の部員全員が集合する。

情報部部長「情報部部員各自!このコメントの主及びいいねボタンを

      押した愚民の居場所を突き止めろ!」

写真部部長「写真部部員各自!同志博士の元に急行し事態を説明し

      協力を仰げ!」

服飾部部長「各員傾注!これは我々の聖戦であるっ!」

と、どこぞの軍事国家みたいな演説を始める服飾部部長。

     「我らが王子であり姫である機龍キュンを侮辱した

      輩には何が相応しいかっ!それは死だ!

      絶望に絶望を重ねただけではまだ足りぬ!

      奴らには地獄の業火でもまだ足りぬ!

      剣を掲げよ!正義は我らにありぃぃぃぃぃぃっ!!」

部員「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」」」」

 

 

……。もはや軍事国家の親衛隊顔負けの統率力である。

しかも今の彼女たちの目からしたら、立ちふさがる者

皆切り捨て御免。そんな目をしているから余計ヤバい。

もはやこいつら、機龍の為に国すら滅ぼさん勢いである。

 

更に束もそれに同調して……。

束「殺せぇぇぇぇぇっ!皆殺しじゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

護衛の為とか言って増産し続けていたゴーレムⅢを数百機。

更に3部全員に打鉄を与えてIS学園から日本に向けて

侵略ばりの突撃をしようとしたのだ。

それが出来る天才なのだからもはや質が悪いどころではない。

 

で、結局。

 

千冬「お前らが人を殺したとしったら、機龍が泣くぞ。

   それでも良いのか?」

 

彼女たちの前に立ちふさがった千冬の一言で殲滅部隊は

板挟み状態になった。

結局妥協案として、コメントといいねをした人間のパソコンを

ハッキングしてデータを全部ぶっ壊す事になった。

(それでも十分違法だが……)

 

ちなみに、その後千冬は廊下で……。

  「………」

   『キリキリッ!』

   『ズキズキッ!』

痛みに苛まれる頭とお腹を押さえていた。

  『心労で胃に穴が開いたら、私も人間だったと

   言う事か』

  「ハァ。……ここはバカばっかりなのか」

  『……。今度、カウンセリングにでも行くか』

末期な生徒達と親友(と向こうは思っている)束の暴走に

ため息をつきながら心底疲れた様子でそんな事を考えているのだった。

 

ちなみに、犬っ子化計画はと言うと……。

 

機龍「あ、あの。これで良いですか?」

そう言って、頭から銀色の耳と、腰元から銀色の尻尾を

生やした機龍が撮影スタッフに顔を赤くしながら問う。

 

写真部部員「うんうん!最高だよ!最っ高だよ機龍キュン!

      あぁダメ!もう、意識、が……」

その鼻から、川のように血を流していたカメラマンスタッフの

生徒が顔面蒼白で倒れるが……。

写真部部長「次っ!4番!」

写真部部員「はいっ!」

また新たなカメラマンがすぐに現れ、写真を撮りまくる。

結局、機龍は犬っ子になる事を少し驚きつつも、特に害も

無いから、と言う事で納得して無事に犬っ子になる能力まで

獲得してしまった。

そして始まった撮影会。

 

その様子を後ろの方で見ている一夏達。

 

一夏「何か、機龍もすっかりアイドルみたいだよな~」

箒「みたい、と言うよりもはやアイドルだろう」

鈴「そ~ね~。……私も今度機龍の写真集、買ってみようかな?」

ラウラ「そう言えば、数日前にあの3部の部員が暴れていたと

    聞いたような気がしたが、理由は何だったんだ?」

セシリア「さぁ?でも確か、聖戦、ジハードだとか天の捌きだ、

     などと言って騒いでいる方たちは見かけましたわ」

簪「て、天の捌きって」

と、会話をしている一夏達は、その理由など知る由も無かった。

 

写真部部員「あぁ!良いよ!良いよ~機龍キュン!ワンって

      鳴いてみて!」

機龍「は、はい。……。わ、ワン」

写真部部員「最っ高っですぅぅぅぅっ!」

   『ブシャァァァァァッ!』

またしてもカメラマンが鼻血を吹き出して倒れた。

 

こうして、彼女たちの欲望はまた一つ叶えられた形と

なったのだった。

 

ちなみに、製作された、犬っ子化機龍の写真を追加した新装版の

写真集は以前より部数も多く値段も高かったにも拘わらず、

販売開始から1分で完売したとか……。

 

 

今日もIS学園は、そこそこ平和であったのだった。

 

     END

 




IS学園生徒の一部は既に末期。もはや誰も後戻り(元には戻れない)できない。


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日常編第4話 『ハロウィン』

今回はハロウィンのイベントをベースにした日常編です。


これは、機龍と一夏達の、平和なイベントのお話。

 

 

相も変わらず少し変わった学園、IS学園。季節は巡り、秋。

そんな1年1組の教室では……。

マドカ「ハロウィンのイベント?」

機龍「うん」

授業が終わった放課後。教室で帰り支度をしていたマドカに

機龍がその話題を振った。

そして彼は頷きつつ、鞄の中から一枚のチラシを取り出して

マドカに渡した。

  「丁度学園島向かいの街でハロウィンのイベントが

   行われるんだ」

と、説明を受けつつチラシに目を走らせるマドカ。

  「そこでは仮装大会とか色々イベントをやってるみたい

   なんだ。それでね、一夏達と話し合って、折角だから

   みんなで仮装して行ってみようって事になったんだ。

   だからマドカちゃんも行こうよ!」

マドカ「は?……私もか?」

機龍「もちろん!」

一瞬、理解できなかったのか呆けてから疑問符を浮かべるマドカ。

  「折角の機会だから、楽しまなくちゃ!それに

   マドカちゃんも一緒の方が僕は嬉しいし」

そう言って笑みを浮かべる機龍。それを見て、最初は

断ろうとしたマドカだが……。

マドカ「ハァ、わかった。私も行こう」

と、ため息をついてから頷くのだった。

機龍「ホント?!じゃあ早速マドカちゃんに似合う仮装を

   探さなくちゃ!」

マドカ「は?お、おい待て!私は仮装までするとは一言も!」

機龍「大丈夫!きっと可愛い仮装が出来るよ!」

マドカ「なっ!?か、可愛いとか言うなっ!」

と、そんな押し問答をしつつ、結局マドカも仮装する事に

なったのだった。

 

 

で、イベント当日。

IS学園のモノレール駅には、仮装姿なり学生服、私服なりの生徒達

が集まっては駅から対岸の街へと向かって行った。

そして、そんな駅近くの一角では……。

一夏「お?お~い機龍~。こっちだこっち~」

一足先に来ていた一夏達が機龍や簪、セシリアやラウラ、

クロエや楯無、マドカ達に気付いて手を振る。

機龍達も一夏達に気付いてそちらに向かった。

機龍「ごめん、少し遅くなっちゃった。着付けに時間掛かっちゃって」

一夏「大丈夫だぜ。俺達もさっき集まったばかりだからな」

 

と、話をしつつ互いの仮装を見る各々。

機龍「へ~。一夏のそれはドラキュラ?」

ラウラ「ふむ、よく似あっているな」

その時の一夏の姿は、黒いスーツに裏地の赤い黒マント。更に

口には作り物らしき牙があった。

一夏「へへ、ありがとな。仮装って言ったらやっぱこれかなって

思ってさ。そう言う機龍のそれは、和服か?」

そう聞かれた機龍は黒っぽい和服に身を包んでいた。

機龍「うん、わかりづらいかもだけど、座敷童だよ。 

   小さい妖怪なら何かなって探して、これにしたんだ」

そう言って、その場でクルッと回る機龍。

箒「うむ、似合っているぞ機龍」

機龍「えへへ、ありがとう箒お姉ちゃん。……あ、そういう

   箒お姉ちゃんは振袖なんだ」

顔を赤くしつつ、改めて彼女を見ると、箒は白く雪のような

模様の振袖に身を包んでいた。

箒「雪女をイメージしてみたんだが……」

楯無「うんうん!箒ちゃんらしくて良いじゃない♪」

簪「うん、すっごく似合ってるよ。ね、織斑君」

一夏「あぁ。箒すっげぇ似合ってるぞ」

箒「そ、そうか。あ、ありがとう」

 

意中の一夏から褒められ、顔を赤くしつつ袖で口元を隠す箒と、

笑みを漏らすセシリアやラウラ達。

鈴「ちょっとちょっと!私達の服装に感想は無いわけ一夏~!」

シャル「僕達も忘れないでよね一夏」

と、肘で一夏を小突く鈴と相槌を打つシャル。

 

そんな二人の恰好はと言うと……。

鈴はチャイナドレスに似た黒い服装と頭の上に黒い特徴的な帽子を

被っていた。更に、帽子の側面にはお札らしき物を下げていた。

シャルの方は、可愛らしい服装だが、腰元からはヘビを

思わせる尻尾、背中には小さいドラゴンのような翼が

生えていた。

機龍「鈴お姉ちゃんのそれは、キョンシー?」

鈴「そうよ。中国のお化けの一種」

機龍「へ~。でも、シャルロットお姉ちゃんのそれって?」

シャル「これは『メリュジーヌ』。フランスの伝承にある

    蛇の下半身とドラゴンの翼、人間の上半身を

    持った女性の事なんだよ。流石に、足をヘビっぽくは

    出来なかったから尻尾にしたんだけどね」

と、恥ずかしそうに顔を赤くするシャル。

一夏「へ~。二人とも、結構気合入ってるんだな。

   鈴の方は王道っぽいけど、似合ってるし、

   シャルの方も尻尾とか翼とかカッコいいと

   思うぞ」

褒められると、顔を赤くする二人。

鈴「と、当然よ~私に掛かればこれくらい!」

シャル「えへへ、ありがとう一夏」

と、箒に続き二人も笑みを浮かべる。

 

一夏「所で、セシリア達の恰好は?何がモデルなんだ?」

セシリア「私は北欧に伝わる民間伝承に登場するエルフですわ」

そう言う彼女の服装は、緑のドレスと少し耳をとがらせる

アイテムを使っていた。見た目は、ドレスを着た金髪のエルフ、

と言った感じだ。

ラウラ「私とクロエは、以前の機龍の猫耳からヒントを得て猫の

    妖精、ケットシーを真似てみた」

クロエ「丁度同じ題目に行きついたので、色を変えて対照的に、

    という事で私もケットシーの仮装です」

と言って、腰に手を当てるラウラの服装は、黒いゴスロリ系の

服装にいつもの眼帯、更に黒い猫耳と猫の尻尾を付けていた。

対照的に、クロエは白系の清楚な服に、銀に近い白の

猫耳と猫尻尾を付けていた。

 

楯無「私達はモーラちゃんがモスラの時に一緒にいた双子の

   妖精の話を思い出して、そこからこんな感じの

   対照的な服にしてたわ♪」

(※ イメージモデルはゴジラVSモスラのコスモスの衣装)

一夏「へ~。だから二人とも袖が片方ずつなんですね」

機龍「うん、二人とも、それにラウラお姉ちゃんやセシリア

お姉ちゃん、クロエもとっても似合ってるよ」

簪「う、うん。ありがとう機龍」

褒められ、顔を赤くする簪たち。

モーラ「私は妖精をイメージして羽を背中に

    つけてみましたが……」

機龍「殆ど能力の部分開放と変わらない感じに

なっちゃったんだよね」

そう言って苦笑している機龍。実際、今のモーラはドレスに

がさばらない程度の羽を背中に着けていたが、確かに機龍の言う通り

能力で翼を出しているようにしか見えなかった。

モーラ「むぅ、これは少し選択を間違えてしまいました」

 

  「でも、その姿も可愛いと思うよ」

モーラ「そ、そうですか?ありがとうございます」

と、最初は頬を膨らませていたが、褒められ顔を赤くするモーラ。

箒「さて、最後はマドカだが、その恰好は?」

と、ここにきて話題をマドカに振る箒。みんなの視線が

集まった先では、見られて恥ずかしいのか顔を赤くしながら

視線を逸らすマドカ。今の彼女は、水玉模様の水色の

振袖を着ていた。

機龍「マドカちゃんは箒お姉ちゃんと同じように雨女を

   意識して服をコーディネートしたんだって」

モーラ「マドカさんの黒髪なら和服が似合うと思った

    私の判断です」

と、事の次第を教える二人。

一方のマドカは……。

 

マドカ「さ、さっさと行くぞ!イベントが始まるのだろう!」

恥ずかしいのか顔を赤くしながらそう言って歩き出し、

他の面々も笑みを浮かべながら彼女の後に続いて、モノレールで

街へと向かうのだった。

 

モノレールで海を渡り、駅に降りる一夏達。そして駅の外に

出たのだが……。

一夏「結構人多いな~」

周りを見回しながら呟く一夏。実際、駅の周りだけでも

かなりの数の人が行きかっていた。

どうやら、街レベルでイベントが行われているらしく、店先

にはジャックオランタンの風船や置物、デフォルメされた

お化けのシールや風船がそこかしこに設置されていた。

 

機龍「わ~~~!!」

煌びやかに彩られた街並みに驚き、目を輝かせる機龍。

  「あ!あれってジャックオランタンだよね!」

そして、街角に置かれた巨大なジャックオランタンを、

年相応な少年のように驚き、見上げる機龍。

それに笑みを浮かべながら続く一夏達。

楯無「ジャッコランタンとも呼ばれるこのランタンには、

   善霊つまり良い霊を引き寄せ、悪霊を遠ざける効果が

   あるとされているわ」

一夏「へ~」

楯無「でも大本のアイルランドではカブのランタンだったり、

   死者の魂が彷徨う鬼火だって説があったり、元は

   真逆の話でもあるのよね」

機龍「へ~。楯無さんは物知りなんですね!」

楯無「そ、そう?ありがと」

褒められ、顔を赤くしつつ扇子で口元を隠す楯無。

 

一夏「さて、街に来たけど、まずはどうするかな?」

箒「時間は、6時過ぎか」

手元の腕時計を見て時間を確認する箒。

シャル「折角だからどこかで何か軽く食べない?」

モーラ「そうですね。色々見て回る前に少し腹ごしらえ、

    という事で」

鈴「私も賛成。……あ、でもどこにしよっか?」

セシリア「あ、それでしたらここなど如何でしょうか?」

そう言って、手に提げていた鞄から一枚のチラシを取り出す

セシリア。

簪「セシリアさん、それは?」

セシリア「先ほど駅前で配っていたチラシです。何でも

     この近くのお店でハロウィンフェアをしているとの

     事でしたので」

機龍「へ~。じゃあ行ってみよっか」

と、言う事で一夏や機龍達はセシリアのチラシのお店に

行ってみたのだが……。

 

シャル「あれ?ここって」

やがてお店に辿り着いたのだが、そのお店を見てシャルロットは

ある事を思いだした。

そしてそれは機龍やラウラも同じだった。

ラウラ「む?ここは確か……」

機龍「『@クルーズ』だ。懐かしいな~」

そう、その店を機龍、シャル、ラウラの3人は知っていたのだ。

そのお店こそ、夏休みの終わり間際、3人がアルバイトしていた

のだから。

 

一夏「あれ?機龍達この店知ってるのか?」

機龍「うん、実は訳あってこの店で一日だけバイト

   した事があるんだよ。シャルロットお姉ちゃんや

   ラウラお姉ちゃんと一緒にね」

シャル「店長さん、僕達の事覚えてるかな~?」

そんな話をしつつ、中に入る機龍と一夏達。

   『カランカラン』

店員「は~い、いらっしゃいま、って、あぁ!機龍君!

   それにデュノア君にボーデヴィッヒさん!」

ドアを開けると、鐘の音が成りそれに気づいた店員の

一人が彼らに気付いて、その中に見知った顔があった

事に気付いて駆け寄ってきた。

機龍「こんにちは。お久しぶりです」

店員「ホントだよね~!って、あ、ごめんごめん。

   今日はお客様としてきたんだよね」

機龍「はい」

店員「それじゃ、お客様12名ご案内で~す!」

そう言って、一夏達をテーブルに案内する店員。

 

席に着いた彼らは早速メニューを開く。

一夏「ハロウィンってだけあって栗とかカボチャの

   デザートが多いな」

箒「モンブランに、カボチャのプリン。カボチャの

  ムース。確かに色々あるな」

鈴「あ、こっちには柿のアイスもあるわよ」

機龍「へ~。そんなのまであるんだ」

簪「この梨の入ったゼリーも美味しそう」

マドカ「……ドラゴンフルーツのアイス。

    ドラゴンフルーツは夏と秋が旬らしいぞ」

セシリア「まぁ、本当ですわ」

と、メニューを見ながらワイワイと賑やかな機龍達。

 

その後、各自それぞれのデザートやドリンクを頼んで

待って居た。

そして待つ事数分。

店員「お待たせしました~!」

ワゴンを押しながら女性店員がやってきて彼らの前に

デザートを置いてく。

そして……。

 

一夏「それじゃぁ」

機龍「うん」

各々、スプーンやフォークを手に取りデザートを

口に運んで行く。

一夏「ん!美味い!」

機龍「う~~ん、これも美味しい!」

口々に、感想を述べて行くメンバー達。そんな中。

楯無「機龍君のそれ、美味しそ~ね」

機龍「え?」

不意に、機龍の隣に座っていた楯無が彼の方を見ながら呟く。

そして……。

楯無「私にも一口頂戴♪」

機龍「え、えっと、良いですよ?」

そう言って皿を楯無の方に寄せるが……。

楯無「あ~ん♪」

彼女は口を開いて彼の方に体を向けた。

機龍「ふぇ!?」

それには、内心驚いて顔を赤くする機龍。やがて……。

  「え、えぇっと、それじゃあ」

食べていたデザートのモンブランをフォークで分けて……。

  「あ、あ~ん」

楯無「あ~ん♪」

   『パクッ』

  「うん、美味し♪」

彼女に食べさせた。しかも、それを見た簪たちが……。

簪「じゃ、じゃあ機龍には私が……」

ラウラ「機龍、私にも味見させてくれ」

セシリア「あ、わ、私のケーキもどうぞ!」

モーラ「ま、負けません!」

と、何やら競い合うように声をかける簪やラウラ達。

マドカ「……相変わらずだな」

それを、やれやれと言わんばかりに見ているマドカ。

一夏「アハハ、機龍も大変だな~」

そして近くに座っていた一夏も他人事のように笑っていたが……。

   『クイクイ』

  「ん?」

不意に誰かが一夏の袖を引っ張った。それは、顔を

赤くしている箒だった。

箒「い、一夏。その、私も、一夏のを味見してみたい、

  と思ってだな、その」

鈴「あ!それなら私にも頂戴よね!」

シャル「僕だけのけ者、何てことは無いよね?一夏」

更に便乗する鈴と怖い笑みを浮かべるシャル。

一夏「お、おうもちろん良いぞ!」

  『な、なんだこの空気!?断れねぇ!』

結局、彼の方も似たり寄ったりだった。

 

その後、@クルーズを後にした機龍達は駅前の商店街の

方へと戻り、アクセサリーショップやイベント

のために開かれている露店などを見て回っていた。

そんな時。

スコール「あら?」

千冬「ん?」

一・機「「あ」」

不意に、スコール、オータム、束、千冬、真耶と言った

大人組と遭遇する一夏達。

真耶「あ、織斑君達でしたか。こんばんわ」

機龍「こんばんわ」

束「お~。みんなも仮装してきたんだ~」

クロエ「はい。……ところで束様、その恰好は?」

と、指摘したクロエ。実際、今の千冬と束は、髪を

ポニーテールにして大き目のサングラスをかけ、

さながら男装のように黒いスーツをビシッと

着こなしていた。

束「いや~ほらさ~。私達って有名人じゃん?

  だから変装しようって事になってさ~」

箒「成程、それでそのような格好を」

束「えへへ~♪どうどう?似合うでしょ~!」

そう言って、ビシッとポーズを決める束。

 

それを見た箒達は……。

箒「確かに、普段の姉さんより『しっかり』した感じが

  増していますね」

   『グサッ!』

しっかり、と言う単語が束の胸に突き刺さる。

クロエ「普段から今のイメージの半分でも『しっかり』

    していてくだされば良いのに」

   『グサグサッ!』

マドカ「……普段とイメージが真逆すぎる」

   『グサグサグサッ!』

実妹に義理の娘二人の言葉が束の胸に突き刺さる。

そして……。

束「うわ~~~ん!みんなのバカ~~~!

  どうせ私は不真面目だよ~~~~!」

機龍「た、束~~!?」

泣きながら町中を激走していってしまった。

咄嗟に呼び止める機龍だが、もはや遅く彼女は遠くへと

行ってしまった。

呆然としている機龍と苦笑を浮かべている一夏や鈴、簪たち。

千冬「ハァ。全くあのバカは。お前ら、遊ぶのも良いが

   問題だけは起こすなよ?ではな」

そう言って、千冬は真耶やスコール達と共に束の後を

追いかけて行った。

機龍「えっと、どうしよっか?この後?」

一夏「とりあえず、もっと色々見て回るか」

シャル「そうだね」

と言う事で、機龍達は再びハロウィンに沸く町中を色々

散策して回っていた。

 

そんな時だった。

   『『『『『ワァァァァァァッ!』』』』』

どこからか歓声が聞こえて来た。

一夏「何だこの声?」

機龍「なんだか、人が集まってるみたいだね」

聞こえた声に疑問符を浮かべつつ、興味本位でそちらに

向かってみる一夏と機龍達。

 

やがて彼らは、広い場所に作られた仮設ステージらしき

場所へとやってきた。

そのステージの上には、大きなプレートにデカデカと

『ハロウィンフェス特別ステージ・フリーカラオケ大会』

と書かれていた。

一夏「カラオケ?」

その文字を見て疑問符を浮かべる一夏。すると……。

セシリア「あら。見てくださいまし、司会者の様な方が」

そう言って舞台袖の方を指さすセシリア。彼女の言う通り、

舞台袖からサングラスに金髪の、いかにもテンション高めの

MCらしき男性が現れ、舞台に置かれたスクリーンにその姿が

映し出された。

 

MC「こんばんわ~エブリバディ!!この度はこの

   ハロウィンフェス特別ステージ、フリーカラオケ

   大会の会場によくぞお出で下さいました~!」

見た目の通り、テンション高めの挨拶と説明を始めるMC。

  「このイベントは今回のフェスティバルの大目玉でも

   あります!やる事は簡単!ただ歌うだけ!しかも

   飛び入り参加型だ~~!自分の歌唱力に自信がある人、

   無い人誰でもカモンッ!ソロでもデュエットでも、

   もちろんグループでもOK!」

一夏「へ~。誰でも参加して良いのか」

説明を聞く一夏達。

MC「さぁ!早い者勝ちだ!誰か、我こそはと言う参加者は

   居ないかな!」

と、MCが呼びかけるが、誰も挙手はしない。

  「あ~~!もしやみんな緊張してるのか~!?

   仕方ない!ここはひとつ、ランダムだ!」

そう言うと、ステージ後方に置かれていたスポットライトが

観客の居る場所を照らし始めた。更にステージの方から

『ダララララ』とドラムらしきBGMが聞こえて来た。

一夏「ハハ、こういう演出はどこも同じだな」

機龍「そうだね~」

 

なんて話をしていた直後。

MC「さ~!このフェスの一番槍はぁ……!君だっ!」

   『パッ!!』

機龍「ん?え?」

談笑していた機龍を、スポットライトの光が照らしだす。

それに気づいて呆けた声を出してしまう機龍。

更にステージ後方の大型モニターに機龍の姿が

映し出される。

MC「おぉ~っと!これはすごい!何とも美しい和服の美少女!

   さぁ!そこのガール!どうする!?チャレンジか、

   ノットチャレンジか!」

機龍「え、えっと。どうしよう?」

いきなりの事でオロオロしつつ隣にいる一夏達の方へと

向く機龍。

一夏「ど、どうせだからやってみたらどうだ?

   機龍、歌すっげぇ上手いから大丈夫だと思うぞ?」

彼の言葉に、一度は彼の歌を聞いた事がある簪や箒達が頷く。

機龍「そ、そうかな?じ、じゃあ」

褒められ、顔を赤くしつつも決心した機龍は……。

  「や、やってみます!」

そう言って手を上げた。

MC「お~~!参加してくれるか~!ありがとう!

   じゃあまずはこっちまで来てくれ!」

 

人々の合間を通って、ステージの方へと向かう機龍。

そして、一度舞台袖に入って歌う曲をリクエストしてから

マイクを手にステージに上がる機龍。

  「ようこそステージへ!まずはエントリーナンバー1番!   

   銀髪の和服美人!しかし皆の衆!驚け!何とこの美人さん!

   実は男の子だという!信じられるか!?

   俺は信じられない!」

機龍「よ、よろしくお願いします」

と、相変わらずテンションの高いMCと衝撃の事実(?)に

観客たちから、『え~~!?』と言う声が上がる。

 

MC「しかぁし!その歌唱力は未知数だ!果たして

   彼の声はどんな歌を聞かせてくれるのか!

   さてまずは一曲目、『たった1つの想い』だ!

   どうぞ!」

と言うと、ステージの半分が暗転し機龍にだけスポット

ライトが当たる。

そして、静かに歌が始まる。

 

(※ ガンスリンガーガール 第2期 OP 

   『たった1つの想い』)

 

機龍「たった1つの想い貫く、難しさの中で

   僕は、守り抜いて見せたいのさ♪」

 

以前、一夏達の前で歌った時のようにソプラノの歌声を

響かせながら歌う機龍。やがて、5分ほどを掛けて

機龍は歌を歌いあげた。

 

歌い終わった機龍は、マイクを握っていた腕を下げ、

静かに一礼をする。次の瞬間

   『『『『ワァァァァァァァッ!!』』』』

   『『『『パチパチパチパチッ!』』』』

会場から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。

MC「ウワァァオゥッ!何というハイクオリティ!

   まさかの猛者現る!ありがとうシルバーボーイ!」

機龍「い、いえ。緊張しましたけど、うまく歌えて良かった

   です」

そう言って機龍はマイクを返し、恥ずかしさから顔を赤くしつつ

もう一度、観客席に向かって一礼をしてからステージを

後にした。

MC「最初はかなりの高レベルの彼だったが、臆するなみんな!

   こういうのは楽しんだもん勝ちだ~!さぁ~!

   次の挑戦者は誰だっ!!」

そう言ってMCが呼びかけると、今度はチラホラと手を

上げている人たちが出てくる。

 

そして、二人目の人が準備している間に一夏達の元へと

戻る機龍。

一夏「いや~。凄かったな機龍」

シャル「うんうん。本物の歌手顔負けだったよ!」

セシリア「うふふ♪機龍、将来は歌手になるというのも

     良いかもしれませんわね」

楯無「凄かったわね~♪あ~、何だか私も歌いたく

   なって来ちゃった♪」

そんな話をしていると、二人、三人と続いて4人目の

参加者を募集し始めた。

それを見た楯無が……。

  「はいはいは~~い!妹とデュエットで

   参加しま~~す!」

手を上に上げ、ブンブンと振りながら自己アピールをする。

簪「えぇ?!お姉ちゃん!?」

一方、突然巻き込まれて驚く簪。

MC「おぉっと!今度は先ほどのシルバーボーイの

   お友達がデュエットでエントリーだ!

   良いねぇ!と言うわけで、次はあの二人だぁっ!」

   『パッ!』

MCが二人の方を指さすと、スポットライトが二人を

照らしモニターが二人を映し出す。

簪「え、えぇっ!?」

楯無「やった~!さぁ簪ちゃん!行くわよ~!」

簪「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?」

驚き戸惑う簪をお構いなしに引っ張っていく楯無。

 

そして、ステージに上がってしまう二人。

楯無「イエ~~~イ!!」

簪「あう、あぅぅ」

テンションの高い楯無と、顔を赤くして俯く簪。

 

MC「さてお次は、どこか南国風を思わせるペアルックの

   姉妹さん達だ!ここにきて最初のデュオ参加者!

   楽曲は、『REASON FOR』!どうぞ!」

 

(※ 仮面ライダーシティウォーズ OP)

 

そう言うと、舞台が暗くなり曲の伴奏が流れ出す。

簪『あ~~!もう!こうなったらやってやるんだから!』

そして、どうやら簪も高をくくったようだった。

 

楯・簪「「全てだと思ってた、小さな世界から、

     見えてる。嘘と本当が全部交錯する景色♪

     染まりそうになる♪」」

 

マイクを手に、二人そろってズレることなく同じ歌を

歌い上げる。

そして、歌い終われば……。

   「「「「ワァァァァァァッ!」」」」

機龍と同じように歓声と拍手が鳴り響く。

楯無「ありがと~~~!」

そんな観客に手を振る楯無と、少し息が上がっているが、

どこか満足した表情を浮かべる簪。

 

そして、それだけにとどまらず……。

鈴「く~~!見せつけてくれるじゃないの!

  こうなったら、箒!シャルロット!今度は

  私達3人で行くわよ!」

箒「は!?」

シャル「あ!良いねそれ!」

箒「え!?ま、待て!私を巻き込むな!」

とか言いつつも……。

MC「さぁ今度はこの3人だ!」

箒「うぅ、何で私まで」

結局、二人に引っ張られてステージに上がってしまった箒。

 

MC「さぁどんどん行こうか!次はこの曲、

   『Ready Go』だ!どうぞ!」

 

(※ 仮面ライダービルド 挿入歌)

 

箒・鈴・シャ「「「Believe forever!

         Alive together!明日をこの手で

         創るため!」」

そして、何だかんだ言っても箒も他の二人と一緒に

ノリノリで歌を歌いあげて行く。

 

モーラ「おぉ!盛り上がってきましたね!

    セシリアさんラウラさん!私達も行きましょう!」

ラウラ「うむ!」

セシリア「望むところですわ!」

 

そして、その後も更にモーラ・ラウラ・セシリアの3人で

『Time Of Victory(※仮面ライダーエグゼイド挿入歌)』を

歌ったり、更に機龍と一夏のデュオで

『COSMIC MIND(※仮面ライダーフォーゼ挿入歌)』を

歌ったり、更に一般のお客さんやIS学園の生徒達まで

混じって、カラオケ大会は凄まじい盛り上がりを見せた。

 

ちなみに……。

スコール「あらあら。またあの子達ね」

そんな会場の様子を、少し離れた場所にあるカフェの

2階、そこにあるテラスの一角からスコールや千冬達が

それぞれお酒のグラスを手にしながら見ていた。

    「若いって良いわね~」

真耶「あ、また機龍君達ですね。って、あ。みんなで

   ステージ上がってますね」

オータム「お?マドカも歌うのか?」

と、ステージの方に興味津々の3人に、千冬も静かに

笑みを浮かべながらグラスの中身を飲む。そんな時。

 

束「何かさぁ」

千冬「ん?」

彼女の隣で頬杖を突きながら会場の方を見ていた束が

笑みを浮かべながら呟く。

束「良いよね。こういう平和な日々ってのも」

愛おしそうに、ステージで汗を流しながらも

笑みを浮かべながら歌う機龍達を見つめる束。

そして、千冬も……。

 

千冬「あぁ。そうだな」

そう言ってステージの方へと目を向けるのだった。

 

こうして、カラオケ大会は盛況。一夏達はまた一つ、

思い出と言うアルバムに新たな一ページを追加するの

だった。

 

     END




作中で歌った歌はほぼ私の趣味です。
以前にも似たような事をしていたから多分大丈夫だと
思いますが、ヤバかったら削除したり変更を加えるかも
しれません。
感想や評価、お待ちしています!


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日常編第5話 『新たな家族』

今回はほのぼの系です。あと、もう本編が完結してるので、日常編は
ホントに日常しか描きません。バトル描写は皆無です。
アイデアが出る限りは続きますが、投稿頻度は低いと
思います。



それは、いつも朝の事だった。

3式機龍こと篠ノ之機龍は、いつも通りに

寮からIS学園校舎へと続く通学路を簪や

セシリアと歩いていた。

 

一夏「お?おはよう機龍」

そして、そんな彼らに気づいて後ろから

追いついて来た一夏や箒たち。

機龍「あ、おはよう一夏お兄ちゃん。

箒お姉ちゃん達も」

箒「あぁ、おはよう機龍。みんな」

挨拶をかわすと、再び歩き出す機龍や一夏達。

一夏「にしても、昨日の雨凄かったな~」

セシリア「そうですわね。風も強かった

ですし」

と、昨日の夜の天気の話をする一夏達。

鈴「おかげでこっちは寝不足よ。私なんて

音がうるさ過ぎて夜中に目ぇ

覚めちゃったんだから」

一夏「まぁ今朝は晴れたからまだ良いけどな。

あんな大雨の中傘をさして通学なんて、

考えただけでも億劫になるぜ」

シャル「アハハ、確かにね」

簪「確かにびしょ濡れのまま授業は受けたく

  無いかな」

と、談笑していた時だった。

 

   『……ミィ』

    『……ゥン』

機龍「ん?」

どこからか、機龍の耳に、人の聴覚を遥かに

超える機龍の聴覚に、微かな鳴き声のような声が

聞こえてきた。

足を止め、声のした方。海へと視線を

向ける機龍。

一夏「あれ?どうした機龍」

立ち止まった彼に気づいて、一夏達も足を

止め彼に声をかけるが、機龍は声がした方に

目を向けたままだった。

 

そして、一瞬だけそれを見た。

 

それは、波の合間に浮かぶ小さなダンボール。

そしてその淵から顔をのぞかせる子犬と子猫だった。

機龍「ッ!」

   『ダッ!』

それを見た瞬間、機龍はカバンを地面に落とすと海岸線に

向かって、それも常人離れした速度で駆け出した。

一夏「え!?ちょっ!?機龍!?」

   『バッ!』

   『ザッパァァァァンッ』

突然の事に一夏達が戸惑う中、機龍は砂浜から大きく

跳躍して海の中に飛び込むと、かつてのゴジラと同じ

泳ぎですぐさまダンボールの下まで回り込んだ。そして

ダンボールを慎重に下から支えつつ、彼はすぐさま

海岸線まで引き返した。

 

   『バシャバシャッ』

海水をかき分け、海岸線から砂浜に上がる機龍。

一夏「機龍~~!」

そこへ一夏や簪たち、さらに何事かと、他の生徒たちも

集まってきた。

やがて、砂浜に上がってから数歩歩いて波の来ない場所まで

歩くと、機龍は抱えていたダンボールを砂浜の上に

おろした。

   『ミィッ』

   『クゥゥンッ』

ダンボールの中にいた子猫と子犬が、機龍のほうを見て

小さく鳴き声を上げる。

機龍「良かった。間に合った」

二匹が無事な事に、心から安堵した表情を浮かべる機龍。

簪「機龍ッ」

そんな彼の元に歩み寄り、ダンボールの中を覗き込む

一夏達。

鈴「ね、猫と犬?何でダンボールに入って、それも海に

  なんて……」

そのことに戸惑う鈴。

箒「む?これは、防水仕様の強化ダンボールか」

一夏「それで海の上を漂っていられたのか」

ラウラ「まさか、捨て猫と捨て犬か?」

シャル「けど、何だって海になんか」

モーラ「……昨日の天候を考えると、もしかしたら学園島

向かいの町の近くを流れる川のそばに、二匹は

捨てられていた。それが昨日の大雨で氾濫。川の

水がこのダンボールを攫い、結果的に海まで

運んできてしまった。という所でしょうか?」

疑問符を浮かべる二人に答えるように推察を述べるモーラ。

 

そんな中、機龍は子猫と子犬が震えているのに気づいて、

彼は自らが持つエネルギー変換機構を使って毛布を

作りだし、それで子猫と子犬を包み込んだ。

更に……。

機龍「ふぅぅ……」

内なる力を呼び覚まし、自らの体からエネルギーを

熱気として放ち、周囲の温度を上げていく。

子猫と子犬をその熱気が暖める。

暖める事数分。

更に、己が視覚にサーモグラフィーとしての効果を掛け、

子猫と子犬の体温を測る機龍。

  「良かった。低体温症の症状は無いよ」

そこまで調べて、ようやく一安心して発熱機能を

解除する機龍。

 

その後、更にボロボロな段ボールに変わって周囲を透明な

アクリルの壁で覆ったケースを作り出し、そこに布を

敷いてから子猫と子犬を入れる機龍。

 

箒「しかし、この二匹は運が良かったのかもしれないな。

  もし機龍が気づかなければ……」

ケースに入れられる二匹を見ながら静かにつぶやく箒。

一夏や鈴が彼女の言葉の意味を考え、身震いする。

一夏「あぁ。マジで機龍が見つけて無かったら……。

   最悪な事になっていただろうな」

彼の言葉に、セシリア達が頷く。

ラウラ「しかし、この二匹はどうする?」

シャル「う~ん。とりあえず教室に行かない?

    それにミルクか何かもあげた方が良いんじゃ

    無いかな?きっとお腹をすかせてるよ」

モーラ「そうですね。私、食堂の人からミルクか  

    何か貰ってきます」

機龍「うん。じゃあ僕たちはとりあえず教室に」

そう言って、ミルクを取りに行ったモーラ以外は

子猫と子犬を連れて教室へとやってきた。

 

教室に入り、机の上にケースを置いた機龍は、まず

子猫を優しく取り出してその胸に抱く。

  『ミィ、ミィ』

機龍を見上げながら子猫が小さく鳴く。

  「ごめんね、少しだけ君のことを見させて」

そう言うと、視覚を強化した機龍は改めて、子猫に

異常が無いかを調べ始めた。

それを近くから見ている一夏たち。そこへ……。

 

本音「ね~ね~おりむー。あの猫ちゃん達って

   どうしたの?」

猫たちをつれて入ってきたのを訝しんだのか、

本音や数人の生徒が彼らに近づいて声を掛けた。

一夏「あぁおはよう布仏さん。あれはさっき機龍が 

   拾ったんだよ」

静寐「拾った?どこで?」

箒「先ほどまで、あの二匹は防水仕様の強化ダンボールに

  入れられたまま海の上を漂っていた。

  モーラの話では、昨日の大雨で対岸の街の  

  辺りから海へ流されたのだろう、との事だ」

ラウラ「そして、海の上を漂っていた二匹を機龍が

    見つけ、保護したという訳だ」

本音「そんな事あったんだ~。でも、助かって  

   よかったね~」

そう言いながら、ケースを見ようと機龍の机の

前に屈み込む本音。

 

そして、話をしている間に機龍は子犬の検査の方も終え、

二匹をケースに戻した。

一夏「どうだ機龍?」

機龍「肉体的な怪我や病気の兆候などは一切なし。

   雨ざらしだった事と空腹で少し元気が無い

   けど、それ以外は問題なしだよ」

そう言って、安堵した表情を浮かべる機龍。

彼の言葉に安堵した一夏達は、改めて子猫と子犬に

目を向けた。

 

一夏「猫の方は、黒に白と茶色だから三毛猫か」

箒「あぁ。犬のほうは、柴犬だろうか?」

簪「どっちも、まだ生後一か月くらいだね」

セシリア「ひどい話ですわね。こんなにも可愛いのに、

     捨てるなんて」

と、同情の言葉にラウラ達がうなずく。

そんな時。

   『ミィ、ミィ』

子猫、三毛猫の方がカリカリとケースを引っ掻いている。

それを見た機龍は……。

機龍「……」

   『パカッ』

無言でケースを開け、三毛猫を机の上に置く。

   『ミィ』

三毛猫は机の上をトテトテと歩き回り、機龍が指を

差し出すとそれに体をすり寄せ、ペロペロと指先を

舐める。

   『クゥゥン』

柴犬も、やがて恐る恐るケースから出てきて、機龍の

前でお座りする。それを見た機龍が、左手で

柴犬の頭を撫でる。

三毛猫や犬をやさしく撫でながら、笑みを漏らす機龍。

そして……。

 

  「大丈夫。もう、大丈夫だから」

 

そういって、聖母もかくやと言わんばかりにやさしい声色と

表情で三毛猫と柴犬に語り掛ける機龍。

そこへ。

モーラ「機龍」

食堂の方にミルクを貰いに行っていたモーラが戻ってきた。

その手にしていたミルクはすでに哺乳瓶に入れられ、ある程度

温められていた。

機龍「ありがとうモーラお姉ちゃん。お姉ちゃんはそっちの

   柴犬の子をお願い。こっちの三毛猫の子は僕が」

モーラ「はい」

そう言って、二人はそれぞれ胸に仔猫と子犬を抱くと、

二匹にミルクを与え始めた。

 

二匹とも、お腹がすいていたのかすぐにミルクを

飲み干してしまった。

食事を終えた二匹をケースに戻す機龍とモーラ。

すると丁度その時、千冬と真耶がやってみた。

千冬「ほら。全員席に着け。朝のHRを……」

と、言いかけて二匹に気づく千冬。

それを見た彼女は……。

  「……理由を聞いてやる。誰か説明を」

機龍「えっと、実は……」

 

数分を掛けて説明する機龍。

 

千冬「なるほど。事情は大体分かった。

   しかし授業中に鳴かれては話にならん。

   ……とりあえず、束の邸宅にでも置いてこい」

機龍「え?良いんですか?その、追い出したり、

とかは……」

千冬「学生寮にペット禁止の項目はないし、奴の家なら

   問題無いだろう。それより、授業が終わる前には

   戻ってこいよ?」

機龍「は、はい!ありがとうございます!」

そう言うと、機龍は二匹を入れたケースを手に一旦教室を

後にした。

 

そして一旦は束とクロエに事情を説明して三毛猫と

柴犬を預かって貰った。

 

更に時間は過ぎてお昼時。機龍は一度束の邸宅に

戻ってから一夏達と共に屋上へと向かった。

そこでは一夏を始め、簪達や楯無、マドカや

クロエと言った面々が集まっていた。

ケースから出された三毛猫と柴犬を囲む機龍達。

二匹には、先ほど機龍とモーラがミルクをあげた。

一夏「どうやら二匹は大丈夫みたいだな。所で

   こいつらの家とか、部屋ってどうするんだ?」

機龍「うん。そこは束の邸宅の一室を貸してもらえる

   ようにお願いしてあるから大丈夫。

   必要な道具やご飯は束とクロエが用意してくれるって

   言っていたから」

と、話をしている間も、三毛猫は機龍の手に体を

すり寄せ、犬は胡座を掻いて座っている機龍の

足の上で眠っていた。

  「よ~しよし」

その様子を見ていた一夏たち。その時。

一夏「所で機龍。こいつらに名前か何か

   付けてやったらどうだ?」

機龍「え?名前?」

シャル「そうだね。何時までも名無しじゃ

    かわいそうだよ」

彼女の提案に簪達が頷く。

機龍「名前、かぁ」

改めて、三毛猫と柴犬を見つめる機龍。

柴犬も起き上がり、二匹とも機龍の瞳を

不思議そうに見つめている。

 

やがて……。

  「じゃあ、柴犬のこの子は、『アヌビス』。

   こっちの三毛猫の子は、『テトラ』、かな」

シャル「アヌビスって言うと、ジャッカルの頭を

    したエジプト神話の神だね」

簪「アヌビスとテトラ。うん、良いと思う」

一夏「あぁ。良い名前だと思うぞ」

機龍の考えた名前に、皆笑みを浮かべながら

頷く。

鈴「じゃあちょっと試してみようかしら。

  テトラ~。来なさ~い」

鈴が名前を呼び、手を差し出すと……。

   『ニャァ~~』

機龍にすり寄っていたテトラが鈴の手に

すり寄り、体や鼻先を擦りつける。

 「へ~、可愛いわね~」

セシリア「では私も。アヌビス」

それを見ていたセシリアが名前を呼ぶと、

アヌビスが機龍からセシリアの方に視線を

移し、彼女の方へと歩み寄った。

そして、ペロペロと彼女の指先を舐める

アヌビス。

    「うふふ、くすぐったいですわ」

 

そうして、一夏達はアヌビス、テトラと

戯れていた。

そして、それを興味なさげな表情をしながらも

チラチラと見ているマドカ。

その時。

   『クゥゥン』

アヌビスがマドカにすり寄る。

マドカ「……」

それに、彼女は無言だったが、やがて……。

   『スッ』

静かに手を差し出し、アヌビスの頭を撫でる。

   『クゥゥン。ワンッ♪』 

撫でられ、嬉しそうに鳴くアヌビス。

マドカも、つられて微笑を漏らした。

ちなみに……。

 

   『ニヤニヤッ』

それを見ていた鈴やモーラが何やら笑みを

浮かべていて……。

   「はっ!?み、見るなっ!」

それに気づいたマドカが顔を真っ赤にしながら

叫ぶ一幕があったのだった。

 

 

そうして、アヌビスとテトラは束の邸宅の

一室に住むことになった。

休みともなれば、学園の敷地、芝生の広場に

行き機龍と戯れている事が多い二匹。

一緒にひなたぼっこをしたり、ボールで

遊んだりと、すっかり学園での生活に

なれた2匹。

 

しかし、事はまだ始まったばかりだった。

 

 

ある日の休日の事。機龍は趣味の料理のための食材を

買うため、学園島向かいの街へと足を運んでいた。

機龍「食材は、こんな物かな。さて、帰ろうっと」

目的の品を買い終えた機龍は、モノレールの駅に

向かって歩き出した。

 

そして、歩いていた時。

   『クゥゥン……』

  「ッ」

不意に、近くの路地から声が聞こえてきた。

一瞬、足を止めてからすぐに路地の奥へと

進んでいく機龍。

そして……。

 

見つけてしまった。

   『クゥゥンッ』

   『ニャ~~』

先日のアヌビス、テトラと同じように。

ダンボールの中に捨てられた一組の猫と犬を。

灰色と黒のツートンの、

スコティッシュフォールドの子猫と、

ドーベルマンの子犬。両方とも、生後1ヶ月

程度のようだ。

ダンボールには、拾って下さい、の文字がマジックで

描かれていた。

二匹は、機龍を見て怯えているのか、震えていた。

機龍「……かわいそうに」

ダンボールの前に屈み込み、優しく

スコティッシュフォールドを撫でようと

手を伸ばす機龍。その時。

   『ウゥゥゥッ!ワンッ!!』

   『ガブッ!』

怯えるスコティッシュフォールドを守るように、

ドーベルマンが機龍の右手に噛みつく。

  「ッ!」

一瞬、顔を歪める機龍。しかし、彼は

ドーベルマンを振り払おうとはしなかった。

  「……憎いよね、人間が。君たちを

   身勝手に捨てた、飼い主が」

噛まれた箇所から、血が流れる。しかし、

今の機龍にはその程度の痛みなど、

痛みとも思っては居なかった。

そんなことよりも、彼は二匹を救いたいと

考えていたからだ。

  「それでも、僕を信じて欲しい。

   君たちを悪いようには、絶対にしない。

   だから……」

声を荒らげる事無く、優しく語りかける機龍。

 

やがて……。

   『ウゥゥッ、ウゥ。……クゥゥンッ』

ドーベルマンが静かに口を離し、謝罪の

つもりなのか、彼の傷口を舐める。

  「良いんだよ。そんな事しなくて。

   ……行こう」

そう言うと、機龍は二匹の入ったダンボール

を抱え、路地を出て学園へと帰っていった。

 

夕方。IS学園。篠ノ之邸。

今、束の家の廊下を一夏達が足早に歩いている。

やがて、一つの部屋を見つけてそこに入ると……。

一夏「機龍っ。また捨て猫とかが見つかったって

   クロエから――」

機龍「し~~っ」

入った一夏が言い切るよりも先に、機龍が

唇に人差し指を当て、静かにとジェスチャーで

遮る。

 

床に足を崩して座る機龍のすぐそば、クッションの

上であの二匹がすやすやと眠り、テトラとアヌビスが

近くでそれを見守っていた。

それを見て、手で口を塞ぎ、静かに機龍の側に

腰を下ろす一夏達。

  「さっき、ごはんを食べて眠った所なんだ」

一夏「……そうか。なぁ機龍、こいつらは、どこで?」

機龍「向かいの街の路地に、捨てられたんだ」

悲しそうな表情をしていた彼が、静かに二匹の寝顔を見つめる。

  「見捨てられなかった。見捨てたくなかった。

   だから、拾ってきたんだ」

そう言いながら、彼は静かにドーベルマンと

スコティッシュフォールドの頭を撫でる。

僅かに二匹の耳がピコピコと動く。

  「この子達も、この世界で生きている命だ。

   だから僕は、この子達の事も守りたい

   って思うんだ」

一夏「そうか。……お前らしいよ、機龍」

彼の言葉に、周囲の箒や簪達が頷く。

  「ところで、そいつらはその、大丈夫

   そうなのか?」

機龍「うん。二匹とも至って健康だよ。これといった

問題は無し」   

一夏「そっか。そういや、機龍は二匹の名前決めたのか?」

と、話を振る一夏。

機龍「うん。スコティッシュフォールドのこの子が

   『コロン』。ドーベルマンが『フェンリル』

   だよ」

セシリア「フェンリル。北欧神話の狼ですか」

一夏「へ~。カッコいいな」

と、そっちの話題に移っていく彼ら。

 

やがて……。

  「それじゃあ、俺達は行くわ。大勢で

   居ても騒いじまうし」

機龍「うん、ありがとう一夏」

一夏「あぁ。あと、俺等にも出来る事が

   あったら言ってくれ。俺らも、そいつらを

   助けたいって思ってるからな」

機龍「うん」

頷く彼を見て、一夏達は部屋を後にした。

ちなみに、その日の夜。機龍は4匹と

共に眠りについた。

 

それから、既に数日後。

休日の午前中。機龍は学園敷地の芝生の上に

寝っ転がっていた。

彼の周囲には、アヌビスとテトラ。更に

スコティッシュフォールドのコロン。

ドーベルマンのフェンリルが集まっていた。

機龍のお腹の上で眠るコロン。胸の上で

眠るテトラ。アヌビスとフェンリルは彼の両脇を

固める形で眠っている。

そして、機龍もまた静かに目をつむり、心と

体を落ち着けていた。

 

日の光が彼と4匹を祝福するかのように

照らしだし、そよ風が時折彼らの肌を撫でる。

その光景はどこか神秘的であり、絵画の

ように美しかった。

 

そして、それを遠巻きに見ていた者達が居た。

一夏達だ。

丁度草原に寝そべる機龍達が見える位置の

ベンチに座っている一夏達。

一夏「……。あいつら、気持ちよさそ~

   に眠ってんな~」

シャル「そうだね~。それにしても

    珍しいな~」

箒「珍しい?何がだ?」

シャル「ドーベルマンって、性格上飼い主には

    大きな忠誠心を持つんだけど、逆に

    それ以外の人間や他の犬には警戒心が

    強いんだって。でも、あのドーベルマン、

    フェンリルはアヌビスと喧嘩をしてる

    様子も無いし」

モーラ「恐らくですが、フェンリルにとっては

    既にアヌビスやテトラ、コロン達が

    家族なのでしょう。ドーベルマンは

    縄張り意識が強いとも聞きますが、

    恐らくアヌビス達3匹はフェンリルに

    家族と認められているのでしょう」

一夏「だから喧嘩したりしない、って事か」

モーラ「はい。彼らの仲を取り持っているのが、

    恐らく機龍なのです」

と、話をしている彼らだったが……。

 

ラウラ「む?おい、あれは……」

何かに気づいたラウラが視線を向けた先では、

ソロリソロリと機龍達の元へと向かう

カメラを持った女生徒達の姿があった。

セシリア「あれは、写真部の方達ですか?」

他の面々も気づいて、そちらに目を向ける。

 

写真部部員「グフフッ、機龍君の激カワ写真。

      撮ってみせるわよ~」

そして、写真部の面々が機龍に近づいていくが……。

   『ピクッ!』

   『バッ!』

フェンリルの耳がピクついたかと思うと、すぐに

立ち上がった。

   『ウゥゥゥゥゥッ!』

そして、近づいてくる写真部の面々に威嚇のうなり声を

上げるドーベルマン。その時。

機龍「大丈夫だよフェンリル」

眠っていたはずの機龍の手が、優しくフェンリルの

頭を撫でて、落ち着かせる。

  「すみません、この子達はまだここに

   来たばっかりなので、撮影とかは……」

首だけを動かして、写真部の部員達の方を向く機龍。

写真部部員「う、ううん。こっちこそごめんね~」

そう言うと、彼女たちはそそくさと去って行き、

機龍達は再び眠りについた。

 

はたまた、ある日のお昼。

 

その日機龍は一夏たちと一緒に食堂でお昼を

食べていたのだが……。

   『ニャァ~』

機龍「え?」

彼の耳に聞き慣れた声が聞こえ、そちらを向く機龍。

見ると、食堂の入り口にテトラとコロン、アヌビスが居た。

そのすぐ側には、まるで3匹を護るようにフェンリルの

姿もあった。

  「テトラ!コロン!アヌビス!フェンリル!」

慌てて名を呼ぶ機龍。

   『『ニャ~~!』』

すると二匹が機龍の元にトテトテと歩み寄る。

機龍がその場にしゃがみ込むと、二匹が彼の

足や手に体をすり寄せ始めた。

 

機龍「も~。みんなともダメだよ~。

   ちゃんとお留守番してないと」

   『『ニャ~~』』

   『ワンッ!』

優しくたしなめる機龍に、テトラとコロン、

アヌビスが声を上げる。

  「全くも~」

困った表情を浮かべる機龍。そんな中、

彼は3匹の後ろでお座りしているフェンリル

に気づいた。

  「ありがとうフェンリル。フェンリルは

   みんなを守ろうとしてたんだね」

笑みを浮かべながら、フェンリルの頭を

優しく撫でる機龍。

   『クゥゥンッ。ワンッ!』

するとフェンリルは、喉を鳴らし、嬉しいのか

一声鳴くと、尻尾を左右にブンブンと

振っていた。

 

すると、他の3匹が『構って』とばかりに機龍

の手や足にすり寄る。

  「あぁちょっと。慌てないの」

と、対応に困っていた機龍だったが、ここが

食堂だと言う事を思い出した。

  「ごめんみんな。僕この子達を家に

   戻してくるよ。悪いんだけど、食べ

終わった食器、片付けておいて

もらって良いかな?」

一夏「あぁ、良いぜ」

機龍「ありがとう。じゃあちょっと

行ってくるね。ほら、みんな行くよ」

   『『ニャ~~』』

   『『ワンッ!』』

機龍が歩き出すと、4匹は彼の後を付いて

歩き出した。

 

ちなみに、食堂を出て行く彼らを見送った

女子達は……。

   『『『カメラ、持ってくれば良かった』』』

とか思って居たり居なかったりしたと言う。

 

そうして、機龍と4匹は次第に仲を深めていった。

 

そして、なんやかんやで時間は流れ……。

 

数ヶ月後には、4匹は一般的な大きさへとなっていた。

 

ある日の休日。学園の草原に立つ機龍の側には、

大きくなったテトラ、コロン、アヌビス、

フェンリルが集まっていた。

 

機龍「それじゃあ、行くよ!アヌビス!フェンリル!」

そう言うと、機龍は手にしていたフリスビー2枚を

続けざまに投げる。

   『『ワンッ!!』』

するとそれを追ってアヌビスとフェンリルが駆け出す。

そして、二匹は同時にジャンプ。フリスビーを

咥えて機龍の元に戻ってきた。

  「ははっ。二人ともすごいよ!よく

   取れたね~」

機龍はその場に膝を突くと、二匹の頭を両手で

撫でながら、自分の事のように喜び笑みを

浮かべる。

更にそれが嬉しいのか、二匹もクゥゥンと

声を漏らす。

すると……。

『『ニャ~~』』

機龍に構って貰っている二匹を見ていた

コロンとテトラが機龍の足にすり寄る。

機龍「ふふっ、二人も遊んで欲しいの?

   しょうがないな~」

そう言って、機龍は笑みを浮かべると両手で

コロンとテトラの頭や顎。更に寝っ転がった

二匹のお腹などを撫でていく。

 

   『『クゥ~~ン』』

しかし今度はアヌビスとフェンリルも少し

悲しそうな声を漏らす。

機龍「大丈夫だよ。二人ともちゃんと遊んで

   あげるから」

そう言いつつ、機龍は4匹を撫でる。

 

その後も機龍は、テトラ、コロン、アヌビス、

フェンリルの4人と遊び続けた。

そして、夕暮れ時。

 

束「お~~い!リュウく~~ん!みんな~!

  ご飯だよ~!」

邸宅の方から束がやってきて、機龍と4匹に

向かって歩み寄って来た。

機龍「あっ。は~い!」

彼女に気づいて立ち上がった機龍。

  「それじゃあみんな。行こうか」

   『『ニャ~』』

   『『ワンッ』』

彼の言葉に4匹は尻尾を振り、彼と並んで

歩き出した。

 

そして、待っていた束とも合流し歩き出す

機龍達。

束「みんなもう、すっかりリュウ君に懐いたね~。

  何かもう家族って感じがするよ」

と、歩きながらそんな事を話す束。

機龍「うん。そうだね」

そして彼は、並んで歩く4匹を見ながら彼女の

言葉を肯定した。

そして……。

 

  「もう、君たちも立派な僕の家族だ」

彼は、4匹を見ながら笑みを浮かべそう呟いた。

そしてその4匹も……。

 

   『『ニャ~』』

   『『ワンッ』』

嬉しそうに、どこか、笑みを浮かべているようにも

見える表情で鳴くのだった。

 

そして、機龍と束、4匹たちは彼らの家へと

戻っていくのだった。

 

 

一度は人間に捨てられた命たち。しかし4匹は、

この世界で最も神に近い存在と出会い、その

庇護の元、王の家族となった。

 

それもまた、一つの運命なのかもしれない。

 

機龍にとって、仲間は、家族は、人だけではない。

 

テトラ、コロン、アヌビス、フェンリル。

 

名を与えられた彼らもまた、怪獣王の家族と

なるのだった。

 

     拾う神 END

 




って事で、新たな家族を迎えた機龍たち!
ちなみに私は犬と猫、どっちかって言うと猫派です!
でも犬も可愛いって思ってます!
と言うか甲乙付けられないっす!
家では拾った三毛猫飼ってます!


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