大本営第二特務課の日常 (zero-45)
しおりを挟む

この話に出てくる人とか色々 この話に出てくる人物まとめ(西蘭泊地)

 以前より登場人物まとめを冒頭にという事を受け、追加人物を加えた改訂版を設置する事になりました

【※ご注意】

・内容は話の筋で更新、変化、追記する事になると思います
・各員の所属や基礎データは随時更新予定ですが、ストーリーに追い付かない場合もあります
・確定情報しか上げないので、憶測や諸々の物は記載致しません
・ストーリーに関わる人員が膨大な為、現状は西蘭泊地所属の物しかありません


 どうか宜しくお願い致します

2018/10/23
 内容更新

2018/10/30
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました京勇樹様、リア10爆発46様、Jason様、じゃーまん様、MWKURAYUKI様、K2様、坂下郁様、源治様、rigu様、有難う御座います、大変助かりました。


─────────

西蘭泊地

─────────

 

●吉野三郎(よしの さぶろう)

西蘭泊地府司令長官、海軍少将

元特務課工作員

第二特務課課長

 

 ツッコミモブ、ヒョロ助、文官という形で周りから認知されているが最近は良く判らないという評価を受ける

 毒飲料と諜報のエキスパート、何気に狙撃はそれなり

 とある理由で体の七割程は艦娘由来の細胞に置き換わっており、更にそれを定着させる為に深海棲艦由来の細胞も取り込んだ"モザイク"

 そのせいで健康面では不安定な部分が多く、深海棲艦からも人間扱いされないという一面も持つ、通称髭眼帯

 

 

【秘書艦ズ】

●時雨

単冠湾泊地建造、西蘭泊地秘書課筆頭

海軍内では一度登録を抹消後、同鎮守府「深海棲艦艦隊所属」として再登録される

 

 艦娘と深海棲艦とのハイブリッドな存在、故に「白露型」の銘は現在公式的に喪失しているというややこしい状態になっている

 自称提督LOVE勢筆頭、そしてコーラの横を駆け抜ける冒険活劇飲料をこよなく愛するテイスター

 短時間ではあるが深海化しての戦闘は可能だが、継戦力が無く、時間経過と共に行動不能に陥るという弱点を持っている

 陸上限定ではあるが同鎮守府最強と言われている、サバイバルテクニックとジビエ料理に秀でたサバイバー

 

 

●暁型二番艦 響

呉鎮守府建造、西蘭泊地秘書課所属

第二次改装が施されている為登録上はВерный(ヴェールヌイ)なのだが、本人は頑なに響と言い張る為同鎮守府では響と呼称される

 

 吉野がまだ丁稚時代に呉で同じ作業班に居た内の一人、毒舌&フリーダム

 ペナン基地時代は対潜の任に就いており、実はそれなりにエキスパート

 提督LOVE勢を自認、事務能力に秀で、悪巧みに秀でる、またその手のテクニックは加賀譲りという恐ろしい一面を持つ

 酒はザルと呼ばれる程強いが、吉野が飲まない為最近は自粛しているらしく、その反動か毒飲料に興味を持ち始めているらしい

 

 

●陽炎型四番艦 親潮

大本営建造、西蘭泊地秘書課所属

嘗て大坂鎮守府の人員増員計画時に負担が増えるだろうという事で、大本営から引き抜かれてきた

 

 元大本営総務課課長、能力はoh淀仕込みですこぶる高く、家事全般もエキスパートである為主に秘書艦業務の補佐全般を担う

 主任務は一応司令長官の身の回りの世話という事になっている、地味と言われているが、黒の下着を愛着するなど割とアグレッシブ

 戦闘もそれなりにこなすという妙高が駆逐艦になった様な存在、ドジっ子属性でもあるが地味な為に目立っていない

 一応提督LOVE勢だが地味な為目立っていない、元ワーカーホリッカーでエナドリ愛飲者であるが地味な為目立っていない

 

 

●陽炎型 二番艦 不知火

ラバウル基地建造、西蘭泊地秘書課所属

元ラバウル基地第四艦隊所属

 

 先天性の視力喪失というハンデを背負い、本人は解体を希望していたが、司令長官の説得と姉妹や同僚の支えによりそのビハインドを克服する

 直視の戦闘は行えないが電探やソナーでの雷撃・対潜戦闘は可能であり、索敵能力に秀でる事から大坂鎮守府では母艦での支援任務を担っている

 夕張謹製の超々視力矯正眼鏡を使用する事で軽度の近眼並みの視力を得る事が出来た為、ウキウキと吉野の執務補助に就く事もしばしば

 提督LOVE勢であり匂いフェチというダメな面も持つが、丸文字を駆使したり可愛い物収拾が趣味という乙女な部分も併せ持つ

 

 

【戦艦ズ】※航空戦艦含む

●長門型一番艦 長門

大本営建造、西蘭泊地艦隊総旗艦

史上初の建造戦艦であり、元大本営第一艦隊二代目旗艦

 

 通称人修羅(ひとしゅら)、数々の伝説と逸話を持つが、一時期表舞台から消え去り単冠湾泊地にて隠遁生活を送っていた

 最近第二次改装が実施されナガモンに磨きが掛かったと言われている、一応提督LOVE勢だがくちくかんLOVEの色の方が濃い

 大本営第一艦隊旗艦を努めた大和、武蔵の実質的な教育者、そして時雨の師匠でもある、長門流極限空手開祖

 米づくりまろやか仕込み愛飲者、遠・近どちらもこなす老眼鏡の如き戦上手、スプー壱号機パイロット

 

 

●金剛型三番艦 榛名

大本営建造、西蘭泊地特務課所属

各地を転々とし勇猛を馳せ、"改金剛型"とまでいわしめた存在

 

 通称武蔵殺し(むさしごろし)、大本営第一艦隊旗艦の武蔵を二度に渡り下し、その勇猛さ故に51連装砲を武蔵本人より贈られる

 一時期戦闘依存症を患い第二特務課へ送られたが病状は奇跡的に回復、後に独自の戦闘スタイルを確立し、現在に至る

 近接戦闘に特化し、姫級相手でも単艦で相手が出来ると言われているが、防御面に難がある為実はそれなりに脆い面も併せ持つ

 提督LOVEを自認し、それを表に出すも何故か力づくが多いという残念な一面も、ひやしあめを愛飲する天然素材

 

 

●大和型一番艦 大和

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

史上初の大和型として建造される、元大本営三代目旗艦

 

 通称鉄壁(てっぺき)、大本営時代は異名の通り守りに秀で、淡々と敵を駆逐するスタイルで一時代を築く

 坂田元帥大将が一線を退くと共に秘書艦として隠遁していたが、吉野が大坂鎮守府へ異動する際自ら志願し同鎮守府所属となる

 守りだけに限定すれば同鎮守府の一番とされ、榛名が前線に出る際は必ず一緒に抜錨するのが現在のスタイルとなっている

 一応提督LOVE勢だが周りの好き好きオーラに押されて一歩退いている、スプー弐号機パイロット

 

 

●金剛型一番艦 金剛

大本営建造、西蘭泊地防衛隊総括

元横須賀鎮守府艦隊総旗艦、史上初の金剛型戦艦として建造された

 

 20年以上横須賀鎮守府艦隊総旗艦を勤め、大本営艦隊と同じ程にネームバリューを持つある意味有名人

 戦上手であり、拠点を背負っての防衛に関しては比類なき力を発揮する、国内でもそうだが国外での評価が実は高い

 絵に描いた"金剛"という人物で、提督の"髭"LOVE勢筆頭、何気に昔大和とのガチンコ勝負に引き分けたという実績もある

 ティータイムに拘るという英国面を持ち、得意料理もウナギのゼリー寄せというデータもあるが、それはまだ炸裂していない

 

 

●大和型二番艦 武蔵

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元大本営第一艦隊四代目旗艦

 

 吹雪達を除き恐らく一番吉野との付き合いが長い艦娘、妙に異名を付けたがる艦娘界に於いて珍しく二つ名を持たない存在

 しかしそれは歴代第一艦隊旗艦中、最も完成されバランスが取れた存在であった為であり、"武蔵と言えば大本営旗艦"と言われていた為である

 戦働(いくさばたらき)き以外の部分では世間知らずの面が顕著で、ネット通販にハマって吹雪に給料を差し押さえられたり、吉野に踊らされる一面を持つ

 また榛名と同じく51連装砲を扱う大艦巨砲主義の権化、何気に長門譲りの格闘術は時雨とは違った意味で一つの極みに至っているらしい

 

 

●伊勢型二番艦 日向

舞鶴鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

元大本営第一艦隊所属、史上初の航空戦艦

 

 航空戦艦という新たな存在となった為に大本営に召還され第一艦隊所属となる、北辰一刀流のガチでの皆伝を持つ

 瑞雲という存在と邂逅し、新たなる戦術を開眼、以後北辰一刀流と瑞雲の同時運用による独特の戦闘スタイルで瑞雲教の教祖となる

 他者に対しての認知度は瑞雲かそれ以外かという極端な物しか無く、一応相手が誰かは理解しているが、名前までは覚えていない

 瑞雲を利用しての瞬間移動を駆使し、鎮守府のどこにでも生えてくる、また瑞雲を利用して宇宙の真理にも辿り着いたらしい

 

 

●金剛型二番艦 比叡

大本営建造、西蘭泊地防衛隊所属

元横須賀鎮守府第一艦隊副艦

 

 金剛の片腕として長らく横須賀鎮守府の第一艦隊の副艦を勤める、金剛型姉妹の中では一番地味であるが、実はそれなりの猛者

 経歴故か拠点防衛の任に就けられる事が多いが、大本営の予備戦力の筆頭であった彼女はどちらかと言うと攻撃面で能力を発揮する

 幾度か手が回らない大本営第一艦隊の代わりに定期清掃の任へ就いており、上位個体との戦闘経験はかなり積んでいる

 料理の腕はテンプレ通りヒエーだが、何故か洋菓子の腕前だけはプロのパティシエ並という、ティータイムに命を懸ける乙女である

 

 

●金剛型四番艦 霧島

大本営建造、西蘭泊地防衛隊所属

元横須賀鎮守府防衛隊所属

 

 横須賀では金剛を筆頭に"攻めの比叡、守りの霧島"と謳われ、金剛並みに拠点防衛の能力が高いと評価を受けていた

 ただスマートな戦い方を好む金剛に比べ、彼女は敵を駆逐する事で守るという"攻撃は最大の防御"思想の持ち主で脳筋

 本人は前に出る事を好まないが、金剛型を逸脱したタフさを持つ為、比叡と組むとそら恐ろしいデストロイが展開されるという

 横須賀時代は"大本営眼鏡序列三位"と呼ばれ、全ての眼鏡のヒエラルキー上位に君臨していた、一応頭脳派というか、考えはする、一応

 

 

●Bismarck級 一番艦 Bismarck drei

Blohm + Voss(ブローム・ウント・フォス)ドイツ連邦軍海軍大工廠建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元ドイツ連邦海軍NATO派遣艦隊所属

 

 ドイツ連邦共和国主導で行われた大坂鎮守府へ譲渡された艦娘の一人、生粋のドイツ艦娘でありNATO派遣艦隊ではエースと言われていた

 元々潔癖症のきらいがあり、更に箱入り娘という一面も持つという色んな意味で属性が盛られたゲルマン娘である

 大きな暁と称される性格はそのままに、世間知らずが相まってしまい流されるまま「青のドナウ」所属となってしまっている

 ゲルマン娘の割に実は下戸、飲むと性格が変わり甘えん坊になるという、マジで属性盛り過ぎ艦娘

 

 

●Queen Elizabeth級 二番艦 Warspite

英国海軍デヴォンポート海軍工廠建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元英国海軍本国艦隊第二戦隊旗艦

 

 英国貴族院を中心とした派閥が主導する大坂鎮守府との取り引きにより譲渡された艦娘、本国では前世とは違い割りと武闘派で通っていた

 海に出ると性格が一変するという二重人格的な面を有しており、静かな佇まいではあるが好戦的という生粋の戦闘狂の面を見せる

 平時は逆に大人しい性格で周りに流されがちというダメダメな一面を持つ、また他人と同じ事をしていないと落ち着かないらしい

 意外にも金剛程ティーに関するこだわりは無いが、アルコールには並々ならぬ造詣を持つ、スコッチ以外は認めないウーマン

 

 

●Iowa級 一番艦 Iowa

ニューヨーク海軍造船所建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元米国大西洋艦隊所属

 

 EUと大坂鎮守府が深く結び付くのを嫌った米国海軍主導の下譲渡された艦娘、本国では主に沿岸警備の任に就いていた

 実艦が存在しつつも艦娘化した初の存在であり、それまでの艦娘に対する仮説の一部を否定する結果を齎す存在となる

 海へ沈むという前世を持たない故か性格は穏やかで、誰にでもフレンドリー、そして意外にも成熟した考えを持つ

 政治的差配で送られてきたという事を納得済みであり、どうせならと吉野の嫁としてのポジションを狙っているらしい

 

 

●Гангут級 一番艦 Гангут

プティロフ造船所建造、西蘭泊地防衛隊所属

元大洋艦隊北方艦隊所属

 

 ロシアが初めて邂逅した艦娘、吉野達が北方棲姫との邂逅を果たす為北極海を目指す途上、ロシアからの刺客として投入される

 本来は大量の通常艦隊をバックアップに運用する筈であったが、ロシア北方艦隊は北方棲姫の猛襲を受け壊滅状態にあった為、ほぼ単艦による作戦投入をされ大破、その後米国領海に置き去りになった為鹵獲される

 その後政治取り引きによりハワイの仁科元海軍大佐に譲渡され、更に彼女の希望により大坂鎮守府へ渡る結果となる

 性格は豪胆かつ直情的、色々と変化球しか投げてこない大坂鎮守府の面々に揉まれつつ、嘗ての所属が同じだった響と行動を共にする事が多く、また影響された為髭眼帯には割りと好意的であったりする

 

 

●Richelieu級 一番艦 Richelieu

ブルターニュ、ラ・ド・ブレスト工廠建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元フランス海軍海峡海軍所属

 

 フランスがEU内での発言力を得る為、独自に政治取り引きを行い着任させた艦、製造はブレスト工廠とあるが、この個体は大坂鎮守府が欧州救援作戦へ参加した際ドロップした艦であり、正確にはフランスの麾下に属した事は一度も無いが、書類上の処理の都合上フランス海軍からの譲渡艦という事になっている

 性格は物静かであり、読書や絵画鑑賞等文学的に趣味を持ち、潜水艦隊所属の伊8と良い関係にあるようである

 また料理に長け、暇になると金剛達のお茶会に菓子片手に参加する事もしばしば、明石セレクションのメイドシリーズが大好きというアレな面も実はあったりする

 

 

●伊勢型 一番艦 伊勢

大坂鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

前歴なし

 

 鎮守府人員拡充計画の下、大本営所属吹雪の選定により大坂鎮守府で建造された、第四次鎮守府建造艦の一人

 本人自身はテンプレ通りの伊勢ではあるが、片割れと言われる日向が元大本営第一艦隊所属の日向とあり、ネームバリューと性格の特異性に振り回され、それに悩むという不憫な日々を送っていたが、第二次改装を施されたのを期に悩みが払拭されたとか

 例の大坂鎮守府初期育成プログラム戦艦部門の被験者でもあり、即成状態で航空戦艦、そして二次改装へと成った

 初春と妙にウマが合い甘味処間宮を根城としているらしく、また生来の性格故ツッコミポジに回る事が多い

 

 

●V.Veneto級 二番艦 Italia

OTO社リヴォルノ工廠建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元イタリア王立海軍外洋部隊司令部所属

 

 吉野達が大坂鎮守府から西蘭泊地へ異動してきた際、イタリア王立海軍の差配によって政治取り引きとして譲渡された艦

 一応実戦配備はされていたが、建造間も無く戦闘経験も乏しい

 性格的には実直で責任感が強く、また人当たりも良いという頼られ系お姉さんという評価がされている

 ただそれらが過ぎ何かあればストレスが胃に直撃するという弱点もあり、常備薬として胃薬を常に携帯してるとかなんとか

 

 

【正規空母ズ】

●加賀型一番艦 加賀

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元大本営第一艦隊所属

 

 吉野が丁稚時代からの付き合いであり、同期と言う事で昔から組んで色々と良からぬ事を繰り広げていたらしい

 "大本営一番ドックの不思議艦"の一人であり、建造時は改装前の初期型三段甲板空母として生まれてきた、その為砲撃戦もこなす

 何かに付けてマイペース、吉野をハメたり悶絶させたりするのがある意味ライフワーク、響とはズットモの関係であるらしい

 フィンランドのダークマター(サルミアッキ)を常食する味覚破綻者であり、暴食の女王という一面も持つ

 

 

●大鳳型 一番艦 装甲空母 大鳳

タウイタウイ泊地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元リンガ泊地第三艦隊所属

 

 タウイタウイ大鳳四姉妹の三女、元々第二特務課に着任する筈であったが、戦局の急変に伴いリンガ泊地所属として同泊地へ異動する

 その後第二特務課主導のアンダマン沖海戦時に同課へと仮編入され、作戦後はそのまま第二特務課所属となる

 生真面目かつ努力家、割と提督LOVE勢なのだが周りに遠慮してソロ活動は控えている、航空母艦の筈なのに瑞雲がメインウエポン

 日向とは瑞雲的なずっ友であるが、立場的にはライバルという関係であるため孤高の瑞雲活動に勤しんでいる、フラットフェニックス

 

 

●Graf Zeppelin級 一番艦 Graf Zeppelin

Blohm + Voss(ブローム・ウント・フォス)ドイツ連邦軍海軍大工廠建造、西蘭泊地特務課所属

元ドイツ連邦海軍国境警備群特殊任務部隊所属

 

 ドイツの艦娘運用の暗部と言われる対テロ部隊に従事していたが、対人戦闘が常であった為精神に異常を来し直属の上司を手に掛ける

 当時のドイツ国内情勢と軍の内情が絡みそのまま解体されず、日本へ譲渡と言う形で追い遣られ大本営預かりとして舞鶴に所属していた

 第二特務課が大阪へ居を構える際、当て付け人事として舞鶴より異動してきたが、深海化した時雨との対決に負け吉野の軍門に降る

 後に吉野の内面的狂気と人とは違った精神構造に触れ、同族的親愛と絶対的服従心が芽生え、提督LOVE勢の一角となった、天然マイペース

 

 

●翔鶴型 二番艦 装甲空母 瑞鶴

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元ラバウル基地第一艦隊所属

 

 元々大本営第三艦隊所属であったが、第二特務課が引き起こした一連の騒動に巻き込まれ戦力再配置としてラバウル基地へと送られる

 同基地第一艦隊の所属となるも結局基地に馴染む前に大坂鎮守府へと異動する事になり、神通とは顔見知り程度の付き合いでしか無い

 そして陽炎と不知火とは入れ替わりで配置された為に、大坂鎮守府で初めて邂逅するという色んな意味で複雑な着任経緯を辿る

 呉の演習にて大坂鎮守府に対した大本営艦隊所属の翔鶴は実姉に当たり、今も何かと連絡を取り合っている、フラットクレイン

 

 

●Lexington級 二番艦 Saratoga

ニューヨーク海軍造船所建造、西蘭泊地防衛隊所属

元米国大西洋艦隊所属

 

 EUと大坂鎮守府が深く結び付くのを嫌った米国海軍主導の下譲渡された艦娘、本国では主に沿岸警備の任に就いていた

 平時は理知的であり、個性派揃いの大坂鎮守府内でも常識的な立ち位置に居るという希少な存在であるが実はアニオタ

 稀に"夢見るアリスちゃんスイッチ"が入ってしまうと性格が急変し、メルヘン思考へとシフトしてしまうという悪癖を持つ

 また吉野に対し王子様的依存を持つ為、メルヘン状態だとヤンデレ的行動を起こしたりする、一応提督LOVE勢であり、隠れ腐女子

 

 

●雲龍型 三番艦 葛城

単冠湾泊地建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元単冠湾泊地所属

 

 軍の戦力再配置計画によって単冠湾より大坂鎮守府所属となった艦娘

 航空戦体フラット5構成員、フラットグリーン

 本人はまっとうな感性の持ち主であるが、何故かいつも巻き込まれる系の不幸体質である

 他の葛城と同じく瑞鶴へのリスペクト力が強い艦娘ではあるが、それが災いしてフラット5構成員というポジに馴染んでしまった悲しい存在でもある

 陽炎型航空母艦というワードが地雷であり、その言葉を口にした者にはそれ相応の報復がなされるという噂も

 

 

●飛龍型 一番艦 飛龍

舞鶴鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

元舞鶴鎮守府第二艦隊所属

 

 舞鶴司令長官輪島博隆(わじま ひろたか)中将と吉野の間に交わされたトレードにより着任した艦

 本人曰く冒険してみたかった、そんな理由でトレードに名乗りを上げたのはいいが当時の大坂鎮守府という魔境に飲み込まれ没個性という不可避の壁によって悲しいポジに収まってしまった彼女

 それになりに熟達した戦いのできる艦なのだが、何故か目立たない、寧ろ裏では哨戒に大活躍しているのだが壊滅的に目立たないという悲しいポジに収まっている

 

 

●飛龍型 二番艦 蒼龍

舞鶴鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

元舞鶴鎮守府第二艦隊所属

 

 舞鶴司令長官輪島博隆(わじま ひろたか)中将と吉野の間に交わされたトレードにより着任した艦

 "飛龍が行くって言うなら当然私もでしょ"とトレードに立候補した彼女であったが、先に手を挙げた飛龍がご覧の有様となっている現状、寧ろ飛龍以上に目立たないポジとして今日も一生懸命哨戒の任に励んでいる悲しい空母

 一時は私服Modeで復権を果たしたが、悲しいかなポテト勢からの一部残念な声に押されポテトビレッジの民へと逆戻りしてしまう

 基本事なかれ主義であるが、その実恋に恋する乙女を内包するウーマンらしく、いつかそれがどこかで暴発するかも知れない

 

 

●赤城型一番艦 赤城

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元大本営第一艦隊所属

 

 日本海軍が初めて建造に成功した正規空母であり、長門、武蔵の代と編成が異なる大本営第一艦隊に所属していた唯一の艦であり、嘗ては叢雲と共に教導艦隊として軍の拠点を巡っていた

 後に軍部のレンドリースを利用した戦力再配置を機に大坂鎮守府へ異動を希望して(・・・・・・・)着任を果たす

 ネームバリューで言えば長門達二つ名持ちに引けは取らず、また加賀の教導艦という事もあり軍では知らぬ者の方が少ない

 ただ大本営第一艦隊に所属していたというイメージが強くあり、実績の割りには二つ名を持たない珍しい艦とも言える

 

 

●Ark Royal級 一番艦 Ark Royal

英国海軍デヴォンポート海軍工廠建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元英国海軍本国艦隊第一戦隊所属

 

 吉野達が大坂鎮守府から西蘭泊地へ異動してきた際、英国貴族院の差配によって政治取り引きとして譲渡された艦

 先任であるウォースパイトとは既知の仲であり、英国に居た頃はプライベートでもそれなりに付き合いもあった模様

 割と直情型であり、後先考えずに行動する部分もあるが、基本的に裏表のない性格故周りから生暖かい目で見られてるとか

 教導過程で仕込まれた騎士道を拗らせてしまい、結果として正しくクッころ騎士としての地位を確立した

 

 

●Aquila級 一番艦 Aquila

Ansaldo造船所建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元イタリア王立海軍第二フリゲート戦隊司令部所属

 

 吉野達が大坂鎮守府から西蘭泊地へ異動してきた際、イタリア王立海軍の差配によって政治取り引きとして譲渡された艦

 イタリア王立海軍にて実戦配備されていた生え抜きの一人、本来ならレンドリースによって大本営へ所属する事になっていた

 割と自由奔放な性格であり、余り細かい事には囚われない性質というか一言でいうと適当をそのまま形にした性格だとか

 また物凄くポジティブな面も顕著で、ある意味ムードメーカーである事は確かなのだが、言い換えればKYな艦といえたりするかも知れない

 

 

●Essex級 5番艦 Intrepid

ニューヨーク海軍造船所建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元米国大西洋艦隊所属

 

 吉野達が大坂鎮守府から西蘭泊地へ異動してきた際、米国海軍の差配によって政治取り引きとして譲渡された艦

 データ上の基本性能は既存の正規空母中上位とされ、艦種が極めて少ない米国のある意味切り札的扱いであったという

 取り敢えず欧州連合に足並みを揃え西蘭へ送られて来た形になっているが、この差配には以前吉野と直接作戦で関わった米国海軍の上級将校の強い意向が関わっているという

 性格は温和と言われ、妙に一航戦や特型駆逐艦達とウマが合うという噂が囁かれている、そしてポテト料理が大好物という事実も確認されている

 

 

【軽空母ズ】

●龍鳳型 一番艦 龍鳳

リンガ泊地建造、西蘭泊地主計課居酒屋鳳翔所属

元リンガ泊地第二艦隊所属

 

 リンガ泊地司令長官斉藤信也(さいとう しんや)少将との取り引きにより第二特務課へと異動してきた艦娘、元同課のコック長

 豆腐メンタルの持ち主でありながら、一度メンタルが折れた後に第二形態が存在するらしく、その時は無類の強さを発揮するらしい

 精神のバロメーターが目のハイライトとして確認出来る親切設計であり、また何かととばっちりを食う被害者ポジである

 大物食い的な派手な戦いを好み、一撃必殺を旨とした戦い方をする武闘派でもあるが、戦場を離れると豆腐メンタルに戻ってしまう

 

 

●龍驤型 一番艦 龍驤

岩国基地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元岩国基地艦隊総旗艦

 

 岩国基地司令長官染谷文吾(そめや ぶんご)少将の退任後に於ける内紛の処理の為自身を犠牲とし、解体される予定であった

 しかし妙高と染谷の嘆願を受けた吉野が政治取り引きにより身柄を引き受け、大坂鎮守府へと異動する事になり現在に至る

 所属は防衛隊となっているが、実質大坂鎮守府に所属している艦娘のプライベート面での取り纏め役であり、相談役とも呼ばれている

 同泊地平たい胸族族長であり、航空戦隊フラット5旗艦でもある、また彼女の前では決してまな板というワードを口にしてはいけない。

 

 

●鳳翔型 一番艦 鳳翔

岩国基地建造、西蘭泊地主計課居酒屋鳳翔店主

元岩国基地主計課総括

 

 岩国基地での騒動を受け、自身が残った際の基地への影響を考慮し龍驤と共に大坂鎮守府へと自ら異動してきた艦娘、通称オカン

 吉野の良き理解者であり、また苦言を呈する数少ない存在、そして日々鎮守府の者達へ癒しを提供する居酒屋の店主でもある

 実は提督隠れLOVE勢であるが、どちらかと言うと正妻よりも愛人ポジに憧れるという少し特殊な性癖を持っている

 性能面では他の者に劣るが、実は龍驤に戦いを仕込んだのは彼女であり、嘗ての日本海奪還作戦では鬼人(きじん)の二つ名で恐れられていた

 

 

●飛鷹型 一番艦 飛鷹

ブルネイ泊地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元ショートランド泊地第二艦隊所属

 

 嘗てのインドネシア海戦にて捨て艦作戦に投入されたが、当時作戦に従事していた長門の暴走とも言うべき行動により生還を果す

 軍部に対する不信感は今尚残っているが、長門への信頼と、そして吉野の独特な鎮守府運営に興味を持ち、同鎮守府に骨を埋める事を決める

 隼鷹と行動を共にする事が多く、その世話を焼く為目立っては居ないがかなりの酒豪であり、飲んでもシラフを保つという鉄の肝臓を持つ

 付き合いで嫌々ながら着用したバニーメイド服にハマってしまい、今は明石セレクションの熱狂的なファンとなってしまっているという

 

 

●飛鷹型 二番艦 隼鷹

ブルネイ泊地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元ショートランド泊地第二艦隊所属

 

 飛鷹と同じくインドネシア海戦での生き残り、飛鷹以上に長門へ傾倒し、また自由な気風の大坂鎮守府を気に入っている

 居酒屋鳳翔の常連であり、酒好きではあるが飲む量はそれ程では無く、酒量は飛鷹の方が遙かに多いが酒癖の悪さから悪目立ちしている

 ノリが服を着て歩いていると言われる程軽い性格をしているが、一度戦場へ出ると烈火の如く立ち回り、周りを驚かせることも珍しくない

 嘗て死地を経験したせいか、彼女の死生観は独特の物を含んでおり、"何時沈んでもいいように生きる"が彼女の座右の銘であるという

 

 

●祥鳳型 二番艦 瑞鳳

舞鶴鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

元舞鶴鎮守府第三艦隊所属

 

 舞鶴司令長官輪島博隆(わじま ひろたか)中将と吉野の間に交わされたトレードにより着任した艦

 嘗ては可もなく不可もなくという評価の元、それなりの評価であった艦であったが第二次改装時の不具合を鳳翔に矯正されて以降、艦隊の一翼を担うまでに成長を果たす

 また元々料理好きという属性があってか、軍務の合間には居酒屋鳳翔に足を運ぶようになり、現在は非常勤スタッフと化しているという

 フラット厚焼き玉子

 

 

●祥鳳型 一番艦 祥鳳

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元大本営第三艦隊所属

 

 艦娘が出現して以降初期の頃から生き残り、長門や大和と同じく"最初の五人"から二つ名を引き継いだ古強者

 生きる為に見出した戦い方は嘗ての漣を連想させ、また軽空母でありながら大本営麾下の艦隊に常駐し続けた処から"千里眼"と呼ばれている

 他の個体とは違い内面的な面で称すれば一航戦の赤城に近いと言われるが、本人曰く目指したのは嘗て日本海沖海戦で勇猛を馳せた鳳翔だったという

 ある意味近寄りがたい空気を纏う彼女であるが、実は人には言えないとある趣味を持つという噂が囁かれているとか

 

 

●Casablanca級 19番艦 Gambier Bay

ニューヨーク海軍造船所建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元米国大西洋艦隊所属

 

 吉野達が大坂鎮守府から西蘭泊地へ異動してきた際、米国海軍の差配によって政治取り引きとして譲渡された艦

 アイオワやサラトガが大坂へ着任してから後に邂逅した艦である関係で、二人とは一面識もないが、何故か着任した日からアイオワファーム(仮称)に取り込まれアニモーの飼育係として使われるハメに

 そしてやはり属性としては迷子、偵察として艦載機を出せばきっちりと仕事をこなすのに、何故か本人は自身の位置を見失う

 故にアイオワファームでは敷地で遭難する事が多く、牧羊犬に救助されるのが日常と化しているらしい

 

 

【重巡洋艦ズ】※航空巡洋艦含む

●妙高型 一番艦 妙高

岩国基地建造、西蘭泊地特務課所属

元岩国基地筆頭秘書艦

 

 第二特務課立ち上げの際岩国基地より移動してきた艦娘、当時の岩国司令長官染谷(そめや)少将の抱える問題を受けて無理矢理異動させられた過去を持つ

 紆余曲折を経て第二特務課所属となるが、その際吉野を半殺しにするという恐ろしい一面を見せた

 また愛飲する飲料は毒飲料界でもレジェンドと言われるギャラクシードリンクであり、見た目より内面は極めてデンジャーである

 明石酒保謹製の戦闘文房具と無銘のドスで深海棲艦を沈める事も出来る戦闘事務員、自他共に認める提督LOVE勢

 

 

●高雄型 三番艦 摩耶

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元大本営第二艦隊旗艦

 

 大本営では一番矢面に立つと言われていた第二艦隊旗艦を長年勤め、何でも屋の異名で呼ばれていた、じゃんけんがすこぶる弱い

 その艦歴は凄まじく、第二艦隊所属時代10年程の間の損耗率は八割を越えるという、大本営の運営方針に振り回された精鋭部隊にはあるまじき記録を残している

 その間殆どの僚艦を失ったせいか性格が荒み、南海への執念のみで生きていた為危険視され、前線をたらい回しにされる

 後のアンダマン海戦を経て吉野達と邂逅、仇敵を討つと共に影ながら吉野が自身を大本営から庇い立てていた事を知り、恭順の意を示す

 

 

●妙高型 三番艦 足柄

呉鎮守府建造、西蘭泊地職場環境保全課室長

元呉鎮守府職場環境保全課室長

 

 呉海域での大坂鎮守府と大本営艦隊との演習を目の当たりにし、吉野の艦娘主体とも取れる鎮守府運営に理想を求め、大坂鎮守府へ異動してきた

 性格はサバサバしているが相手を思い過ぎる面もありしばしば自分を追い込む癖がある、妙高とは馬が合ったのか実の姉妹の様な関係を築いている

 シルクの純白ランジェリーが勝負下着であり、理想の男性を求める行動も見せるが、いつも芳しくない結果になると言うのが常となっている

 司令長官に対してLOVE的な感情を向けるのは安易だという拘りがあり、吉野に対しては恋愛感情を持たないという意思表示を見せている

 

 

●古鷹型 一番艦 古鷹

呉鎮守府建造、西蘭泊地総務課所属

元大本営管轄施設依佐美送信所所属

 

 吉野の呉時代の同僚、当時加賀、響、能代、吉野という濃いメンツに囲まれ日々スカートめくり等の被害に遭っていた苦労人

 後に戦闘力を喪失したが艤装の機能を通信・サポート系の物へ置き換え、軍の通信拠点のオペレーターとして長年従事する

 大坂鎮守府人員増員の為召還され、平時は事務方勤務、母艦を伴っての出撃の際はオペレーターとして出撃するのがデフォになっている

 裏も表も無くただただ癒し系、でも不幸を呼び寄せる体質なのかいつも何かに巻き込まれる苦労人、隠れ提督LOVE勢、一応パンツは履いている

 

 

●Admiral Hipper級 三番艦 Prinz Eugen

Blohm + Voss(ブローム・ウント・フォス)ドイツ連邦軍海軍大工廠建造、西蘭泊地特務課所属

元ドイツ連邦軍海軍NATO派遣艦隊所属

 

 ドイツ連邦評議会の圧力により同国海軍から大坂鎮守府へと送られた艦娘、政治的事情が絡み上官の企みを携えて吉野と邂逅を果す

 結果としてそれは彼女と彼女を心配した元上官の理想とする形の結果となり、それを受けて彼女は吉野への恭順を示す事となる

 グラーフに巻き込まれた形で提督親衛隊という秘密結社に身を置く事になるが、それでも吉野に対する純粋な尊敬の念から納得はしている模様

 本当は情報課への転属を希望したいが海外艦という見た目の為軍内での活動が難しく、現在内務的に従事する為の方法を模索中という

 

 

●青葉型 一番艦 青葉

大本営建造、西蘭泊地特務課所属

元呉情報課所属

 

 嘗て大本営の広報課時代、軍部も関わったスキャンダルを単独で追うも陸軍特殊部隊の作戦に巻き込まれ拘束され、あわや解体の危機に陥る

 しかし当時特務で同隊の作戦に従事していた吉野が青葉を尋問し、その縁で軍事法廷での証人弁護をしたお陰で事無きを得る

 その後呉にて数年情報関係に従事するが、大坂鎮守府立ち上げ後の漣が諜報関係の枝葉を広げている最中に知り合い、当時の情報を知るに至る

 大坂鎮守府の諜報に対する力の入れ方と、吉野に対する強い憧れがありほぼ無理矢理という形で呉から転任、以後情報室の実務に就く

 

 

●最上型 四番艦 航空巡洋艦 熊野

呉鎮守府建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元呉第三艦隊所属

 

 大坂鎮守府の人員拡大の支援として大隅の依頼で呉が輩出した人員、足柄達と共に転任してきた為当初は艦娘お助け課へという話もあった

 しかし艦娘お助け課のハードワークを呉時代から知っており、本人の強い希望で教導隊所属となる

 着任直後第二改装が実装されウキウキ状態であったが、結果胸部装甲の増量は据え置き、密かに龍驤との友情を深める事となった

 実は瑞雲教の信者であり、北辰一刀流(瑞雲)の皆伝持ち、更にはフラット5構成員というマルチキャラな一面も併せ持つ、フラットベアー

 

 

●高雄型 二番艦 愛宕

大本営建造、西蘭泊地職場環境保全課所属

元呉鎮守府職場環境保全課所属

 

 職場環境保全課が呉から大坂鎮守府へと移管された為足柄達と共に異動してきた艦娘、人当たりが良く主に相談員として活躍する

 同時に同課の人員に対しての健康管理も自発的に行い、癒しの愛宕と呼ばれ日々オッパイに顔を埋めてモフモフされるという日々も送っている

 普段はポワポワとした天然系の空気を醸し出しているが、元は呉第一艦隊に所属していた事もあり戦闘もそれなりにこなす才女

 元々は大本営所属であったが寺田中将が呉の司令長官として着任するのに随伴して呉所属となる、実は摩耶の実姉

 

 

●Zara級 三番艦 Pola

OTO社リヴォルノ工廠建造、西蘭泊地防衛隊所属

元イタリア王立海軍特殊作戦群所属

 

 イタリア王立海軍と大坂鎮守府の折衝により譲渡された艦娘、史実ではザラ級重巡洋艦三女に当たるが現在次女のフィーメが発見されておらず次女ポジ

 個体の性格かお国柄なのかとにかく陽気な性格で、そして生粋の飲兵衛、ヒャッハーとは飲み友であり良く廊下で酔い潰れているのを見掛けるとか

 イタリア本国では過酷な実験任務に身を置き、擬似的な轟沈や無理な特殊兵装の開発実験等多岐に渡り酷使された末取り引き材料として利用された

 その為アルコールが入っている間は陽気だが、素面での戦闘時は苛烈な戦いを展開する程の変貌を見せ、本国では"物言わぬ恐怖"と呼ばれ恐れられていた

 

 

●高雄型 一番艦 高雄

単冠湾泊地建造、西蘭泊地事務方所属

元単冠湾泊地所属

 

 軍の戦力再配置計画によって単冠湾より大坂鎮守府所属となった艦娘

 前所属泊地では事務方総括にあった為、大坂鎮守府でも事務方へ所属する事となる

 単冠湾泊地立ち上げ時の生え抜きであったが、まだ北方が猛威に晒されていた時期の過酷な戦線に投入され続けたせいで戦闘力を喪失、事務関係専任という形で軍務に就いている

 雷とは別ベクトルで世話好きであり、それは事務方に留まらず各所へ猛威を奮っているのだという

 髭眼帯へ対してもそういう行動を起こす素振りを見せているが、既に秘書課の手厚い世話包囲網が敷かれている現状、虎視眈々とその機会を伺う毎日なのだという

 

 

●青葉型 二番艦 衣笠

大坂鎮守府建造、西蘭泊地特務課所属

前歴なし

 

 鎮守府人員拡充計画の下、大本営所属吹雪の選定により大坂鎮守府で建造された、第四次鎮守府建造艦の一人

 大坂鎮守府初期教練プログラム重巡枠の被験者、即成によって改二に至っている

 所属は特務課となっているが、主に青葉の暴走ストッパーとしてのポジと、後は課内での雑務がメインの状態にある

 仕事全般をそつなくこなし、また能力も低くはないが、周りが濃いメンツの為器用貧乏的な面が顕著になってしまい、ある意味苦労人という状態の悲しい艦娘である

 

 

●最上型 三番艦 航空巡洋艦 鈴谷

大坂鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

前歴なし

 

 鎮守府人員拡充計画の下、大本営所属吹雪の選定により大坂鎮守府で建造された、第四次鎮守府建造艦の一人

 俗称「執務室の座敷鈴谷」、執務室の利便性と髭眼帯が放任主義という環境下に居心地がいいという事で、軍務以外の時間は殆どそこに居付いてしまったダメな航空巡洋艦である

 大坂鎮守府では軽空母の枠がそれなりに埋まっている為、熊野と鈴谷は航空巡洋艦以上の改装はされない方針らしい

 結構だらけてはいるが頭脳派の面も持ち、また執務を横で覗き見るのが常である為、防衛隊所属ではあるが特務課的な立ち位置という特殊な艦娘でもある

 

 

●妙高型 二番艦 那智

呉鎮守府建造、西蘭泊地艦隊総副艦

元呉鎮守府特務課所属

 

 軍部の戦力再配置の煽りを受け、呉鎮守府より自ら進んで大坂鎮守府に着任してきた艦娘

 戦闘面では相当な手錬(てだれ)であり、また本人も自身は武官という認識にあるが、鎮守府艦隊の副艦という立場に就いてしまった関係上、内務関係を現在勉強中にある

 また艦娘お助け課総括の足柄とは実の姉妹の関係にあり、酒の席やプライベートでは彼女をいじり倒すというのが常であったりする

 

 

●Zara級 一番艦 Zara due

OTO社リヴォルノ工廠建造、西蘭泊地防衛隊所属

元イタリア王立海軍掃海部隊司令部所属

 

 吉野達が大坂鎮守府から西蘭泊地へ異動してきた際、イタリア王立海軍の差配によって政治取り引きとして譲渡された艦

 妹のポーラとは違う意味で実験的な運用をされてきた過去を持つ

 ポーラが無茶を詰め込まれたと言うなら、ザラは徹底した効率化と管理の下運用され、それが功を奏したのかイタリア艦で初の第二次改装を可能としたのがこのザラであった

 性格としてはイタリア艦全般に見られるポジティブさも持つが、妙に特定方面へ好奇心が強いと言うかぶっちゃけ惚れっぽい性格であるとかないとか

 

 

【軽巡洋艦ズ】※重雷装巡洋艦・練習巡洋艦含む

●大淀型 一番艦 大淀

大本営建造、西蘭泊地事務方総括

元大本営事務方総括

 

 大本営時代は執務棟の主やらヒエラルキーの頂点として恐れられたという艦娘、また大本営眼鏡序列の頂点に君臨していた存在でもある

 第二特務課がまだ大本営に居を構えていた頃から事務手続きに携わっていたが、その独特の運営や、吉野の裏で行っていた行動を見る機会も多かった

 その提督としてはどうかという行動と、艦娘主体の部隊運営に惹かれていき、第二特務課が大阪へ移動する際明石に誘われて異動する決意を固める

 元々の能力の高さと、発言力の大きさから初期の大坂鎮守府の運営、果ては政治的圧力に対する盾となった立役者、隠れ提督LOVE勢でもある

 

 

●球磨型 一番艦 球磨

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元横須賀鎮守府水雷戦隊総括

 

 第二特務課の水雷戦隊発足の為当時横須賀鎮守府より引き抜いてきた艦娘、何気に南洋海域開放作戦時代前線を転戦してきた武勲艦である

 大本営の防衛拠点の側面を持つ横須賀鎮守府の水雷戦隊を任されていた事もあり、金剛も一目置く程の古強者

 本人の性能はそれ程でも無いが戦場を広く見る視野と、判断能力はズバ抜けた物もあり、個としてではなく司令塔としての能力が買われている

 曲者揃いの大坂鎮守府内では希少な常識人で突っ込みキャラ、しかし諦め易いという性格をしており、しばしば吉野に無駄な足掻きはするなと忠告する

 

 

●川内型 二番艦 神通

舞鶴鎮守府建造、西蘭泊地特務課所属

元ラバウル基地水雷戦隊総括

 

 元々の指揮能力と戦闘能力を買われ長年ラバウル水雷戦隊の長として努めたが、南洋海域での作戦で大敗を喫したのを境に独特な戦いをする艦となる

 元々は第二特務課の初期人員として名を連ねていたが、本人が召還に対し拒否したのと、当時のラバウルの戦力事情からその話は流れる

 しかし戦局が更に変化し、本人の特異な戦い方が同基地では扱い切れなくなった為に大坂鎮守府とのトレード人事を経て着任を果す

 実直な性格、格闘系に秀でた立ち回り、そして提督LOVE勢を隠す事無く公言する様は榛名と被る部分もあり、しばしば暴走したりもする

 

 

●球磨型 五番艦 木曾

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元大本営第一艦隊副官

 

 史上初の重雷装巡洋艦として改装され、大本営第一艦隊へ編成される、球磨の実妹であり、吉野とは大本営時代マヴダチだった

 性格は至って冷静、第一艦隊時代は武蔵の暴走を諌めたり艦隊の代理指揮を任されたりと、実は頭脳派の一面を併せ持つ

 戦い方は立ち回り重視でヒットアンドウェイを好むが、一度腰の剣を抜けば敵に張り付いての猛攻も見せる等、多彩な戦い方を見せる

 "眼帯の会"という集団に属し、厨二病を患うというプライベートも持つが、それは公然の秘密とされている

 

 

●長良型 二番艦 五十鈴

ラバウル基地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元ラバウル第三艦隊旗艦

 

 度重なる戦力再配置に翻弄され、大本営からの指示で運営変更を余儀なくされた同基地の人員再配置の末大坂鎮守府へ送られてきた艦娘

 対潜能力と対空能力に秀でるという能力を併せ持ち、吉野からは一粒で二度美味しいという評価を得ているツンデレンコパイパイ

 長良型姉妹の系譜を色濃く引く為に努力家と言うより訓練フェチの気があり、吉野を引きずり出しては射撃訓練を行うというのが最近のトレンド

 意外にも隠れ提督LOVE勢だが、現在ツンしか発動しておらず、デレの気配は微塵も見せていないという慎重派、大鳳とはトレーニング仲間だったりする

 

 

●長良型 六番艦 阿武隈

ブイン基地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元ブイン第二艦隊旗艦

 

 嘗て榛名とは同じ釜の飯を食った関係ではあるが、何故か覚えられていないという不幸な艦娘、物凄く協調性を気に掛ける苦労人

 個人の能力は高く前任地でも水雷のエースを張っていたが、キワモノ揃いの大坂鎮守府という魔境に放り込まれた為、今一輝けない苦労人

 料理洗濯家事全般もかなりのレベルでこなす女子力の高さも併せ持つが、他にその手のエキスパートが存在する大坂鎮守府では今一目立たない

 親潮と妙に馬が合いプライベートでは良く行動を共にするが、親潮も目立たない勢筆頭である為二人で行動しても悲しいかな華が無いと言われている

 

 

●阿賀野型 二番艦 能代

呉鎮守府建造、西蘭泊地職場環境保全課主任

元リンガ泊地情報部所属

 

 嘗て吉野が呉で丁稚奉公していた頃、同じ作業班に属していた艦娘、元々は大隅の下特務課へ従事する為教育を施されていた

 大隅が大本営へ戻る際同班は解体となるが、当時リンガ泊地再編の為大隅の差配により斉藤の下へと送られ、以降同泊地の諜報任務に就いていた

 そして吉野が司令長官となり、その元へ嘗ての呉愚連隊のメンツが集結しつつあるというのを耳にし、疎外感故か数々の企みを擁して着任を果す

 足柄と出会い、その業務に興味を持った為職場環境保全課に属し、能力の高さ故に同課のNo.2である主任となる、凄く腹黒い

 

 

●川内型 一番艦 川内

ラバウル基地建造、西蘭泊地特務課所属

元ラハウル基地第一艦隊所属

 

 前任地では第一艦隊の固定メンバーとして軍務に就いていた、夜戦を好むという性質は他の個体と変らないが、神通の件があって以降そのナリは潜めた

 戦闘時に於いては極めて冷徹で、更に理詰めタイプの思考で行動する、妹の神通とセットで「技の川内、力の神通」と称される事もある

 割と交友関係が広く、艦娘界隈の事情通という一面も持つ、実は艦娘裏掲示板のラバウル基地スレの管理人もしていたりした

 戦闘時に頭を使うせいか、平時は無意味な行動や、何も考えずその辺りを探検する事に喜びを感じる、廃墟マニア

 

 

●香取型 一番艦 香取

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部付け教導担当教官

元艦隊本部付け訓練教官

 

 艦娘育成の為と言う事で艦隊本部に所属していた練習巡洋艦、しかし戦闘力が低い為に何かと不遇な扱いを受けていた

 当時の艦隊本部主流派は即成教育を押しており、彼女の教導プランは殆ど通らなかった為、ある意味艦隊本部には失望していた

 輪島が吉野に接近する為の餌として利用するという話を持ち掛けられた際は、大坂鎮守府の実情を調べ上げ、逆に歓喜したという

 実直であり慎重派、吉野の独特な艦娘運用に新たな可能性を見出しており、ある意味傾倒している面もある、カトリーヌ

 

 

●香取型 二番艦 鹿島

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部付け教導担当教官

元艦隊本部付け訓練教官

 

 姉の香取と共に在る意味艦隊本部に飼い殺しされていた艦娘、香取よりも艦隊本部の事を嫌っており、大坂鎮守府への着任の話には諸手を挙げて喜んだという

 乗り物に乗ると性格が変る一面があり、やや危ないという性格ではあるが、仕事の時はその辺りは弁えている

 無類のバイク好き、車好きの為実は吉野とその辺りの話が出来るとワクテカしていた、愛車は初代HONDAインテグラ

 その見た目故提督諸氏からのアレなアプローチも度々受けたらしいが、その辺りは全スルーという徹底振り、童○コロスウーマン、なんとなく提督LOVE勢

 

 

●長良型 四番艦 由良

大坂鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

前歴なし

 

 鎮守府人員拡充計画の下、大本営所属吹雪の選定により大坂鎮守府で建造された、第四次鎮守府建造艦の一人

 大本営から移設されたプロトタイプ建造ドックから稀に生まれるという「幼体」という状態を経て、鎮守府に着任する

 幼体時の世話を主に髭眼帯がしていた為、刷り込み的に数々の常識的な部分におかしい物を持つ、ぶっちゃけナチュラル提督LOVE勢という特殊な状態にある

 現在は電や時雨監修の元矯正中という状態であるが、その成果は芳しく無いらしい

 

 

●阿賀野型 三番艦 矢矧

大本営建造、西蘭泊地特務課所属

元大隅麾下特務課所属

 

 吉野達が西蘭泊地に異動後大本営から送られて来た艦の一人

 嘗て吉野へ特務課の工作員として教育を施した教官の一人であり、大隅の麾下であった頃は搦め手ではなく、表の調整に就く情報士官の役割を担っていた

 各国の軍部筋や外交に絡む人脈に太いパイプを持つ為、西蘭でも引き続き情報面に於ける表の顔として動く事となった。

 因みに西蘭泊地艦娘お助け課主任の能代は"矢矧より後に生まれた実姉"というややこしい関係にある

 

 

【くちくかんズ】

●白露型 四番艦 夕立

大坂鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

前歴無し

 

 大坂鎮守府初の建造艦、生まれた時から周りがアレな環境であった為、少々常識面にぶっ飛んだ部分を持っている、通称ポイヌ(夕立)

 提督LOVE勢であり何かとアプローチはするが、その常識は大坂鎮守府に染まっている為にとても残念な物になっている

 艦としての性能は元々高かったがそれを育て上げたのはあの武蔵殺し、当然戦い方もそれに準拠した物となり、駆逐艦としては異質な立ち回りをする

 一時期実戦経験を積む為リンガへ出向していたが、司令官の斉藤をして「ソロモンの悪夢が再来した」と言わしめた程の戦いを繰り広げていたという

 

 

●陽炎型 一番艦 陽炎

ラバウル基地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元ラバウル基地第二艦隊所属

 

 嘗て神通の代わりとして第二特務課へ送られてきた艦娘、ぬいぬいの実姉、身体能力に長け大坂鎮守府水雷戦隊では万能艦としての立ち回りを見せる

 同鎮守府では毒飲料界の尖兵、お茶会テロリストと呼ばれ、ジョーンズソーダ信者としての無差別爆撃を敢行、数々の逸話を残している

 ラバウルに所属していた頃は神通の僚艦を勤めており、師弟の関係ではあるがその戦いのフォローに回る事が多かったのが今の身軽さへと通じている

 第二改装を経た現在以前とは違い艦隊を率いる事もしばしばであり、それで自身が付いたのかめでたく提督LOVE勢を公言する事となった

 

 

●陽炎型 十番艦 時津風

大坂鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

前歴無し

 

 大坂鎮守府第一次建造組、教導を大和が施した為守りに秀でた立ち回りを得意とする、その為平時では暁型が使用する盾を両手に抜錨する事が多い

 ポワポワしつつも妙に感が鋭く、要所要所ではいつの間にか騒動の輪に加わっている事が多い、提督パパ好き勢筆頭

 愛称子犬(時津風)、以前は夕立と組む事が多かったがLOVE的価値観の違いからユニットを解散、現在は島風、天津風と共に風トリオを結成している

 戦闘では矢面に立つ事が多く大破率が高いが、その防御テクニックはそれなり以上の物があり、何気に球磨との演習で引き分けた事もある

 

 

●朝潮型 一番艦朝潮

大坂鎮守府建造、西蘭泊地艦隊本部所属

前歴無し

 

 大坂鎮守府第一次建造組、教導を大鳳が担当した為と、元々の性格から手堅い立ち回りと艦隊支援に特化した戦いを見せる

 くちくかんの真面目枠、提督LOVE勢であるが、生真面目が過ぎる為に色々と損をしているくちくかんでもある

 現在は球磨の指導を熱心に受け、大坂鎮守府では珍しくスタンダードな戦いをする艦であり、水雷戦隊の縁の下の力持ち的存在となっている

 明石セレクションのアニマルメイドシリーズが大のお気に入りで部屋着は全てそっち系という徹底振り、給料の殆どはそっち系へと消えてしまうとか

 

 

●神風型 三番艦 春風

大坂鎮守府建造、西蘭泊地主計課"元祖間宮"所属

前歴無し

 

 大坂鎮守府第一次建造組、一応限界練度には達しているが、本人の希望により間宮の元で給糧任務に就く傍ら、甘味修行をしている

 おっとりとした性格で、気遣いの出来る立ち振る舞い故皆に愛される存在である、通称"大正ドリル"提督LOVE勢を公言している

 史実での性能はそれ程でも無いとされている割には運動能力が高く、かつポイヌ(夕立)の背後すら簡単に取るという駆逐艦

 たまに見掛ける"和装チャイナメイド服"姿ではその能力が更に発揮され、物理的法則も捻じ曲げるという噂も囁かれている

 

 

●陽炎型 九番艦 天津風

大坂鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

前歴無し

 

 大坂鎮守府第二次建造組、一応錬度は限界迄達したもののまだ実戦経験が浅くカッコカリは予約状態でヤキモキしているガール

 立ち回りは陽炎に似たスタイルだが、連装砲君を展開し島風、時津風と組むと攻撃面に寄った立ち回りを見せる、割と攻撃的

 元々は提督パパ好き勢であったが、吉野が鎧甲冑スーツに身を包みハードボーラー(ハンドガン)で射撃調整をしている様を見てLOVE勢へ転向

 以後色々とこじらせてしまい現在に至るが、基本的にツンデレタイプなのでそれ程壊滅的行動には及んでいない、しかし煙突の煙でモロバレであったりする

 

 

●島風型 一番艦 島風

大坂鎮守府建造、西蘭泊地工廠課"夕張重工"所属

前歴無し

 

 大坂鎮守府第二次建造組、提督パパ好き勢、天津風と同じく限界練度に達しているが実戦経験が少なく限界練度に未だ達していないが、カッコカリをすれば速くなれると聞きワクテカしているのは変わらない

 連装砲ちゃんのメンテをしてくれる夕張とは仲良しで、兵装実験にも良く付き合っている事からしばしばトンデモ装備で哨戒に出る事もあるという経験を経て、めでたく工廠課に身を置く事となった

 更にロボが大好きな為現在夕張と共に良からぬ計画を立て、日々夕張と共に怪しい開発に携わっているのも相変わらずである

 また自由気ままな性格であるが、構ってくれる吉野ダイスキ的な性格が災いし、暇な時はペッタリとくっ付き子泣き爺と化するのがオキニだという

 

 

●朝潮型 十番艦 霞

大坂鎮守府建造、西蘭泊地職場環境保全課所属

前歴無し

 

 大坂鎮守府第二次建造組、朝潮とは実の姉妹関係、教導中に足柄の指名を受け第二次改装を施した時点で同課の所属となる

 生粋のツンデレであるが、フロントとしての能力が高く、相談員としては無くてはならない存在だという、ワーカーホリッカー、眠眠打破愛飲者

 基本とてもクールビューティー、実務面で吉野の差配を直に受けるポジである為その能力の高さは認めており、クズとは呼ばない

 プライベートでは朝潮と大の仲良しさんであり、共に明石セレクション好きの同士だったりする、尚部屋着はもうお察しである事は言うまでも無い

 

 

●吹雪型 三番艦 初雪

大本営建造、西蘭泊地特務課所属

元横須賀鎮守府所属、登録抹消艦

 

 横須賀鎮守府時代は漣のメル友であり、プライベートも良くつるんでいた関係で、大坂鎮守府が整備された時点で漣と共に同鎮守府へ着任を果す

 それに伴い元々所属であった横須賀鎮守府関係の縛りを漣が色々しちゃうついでに、情報室へ就く関係上彼女の軍籍は消去した形になっている

 実働関係はてんでダメダメだが、内務関係は漣も頼りにする程の凄腕である、が、生粋のニートである為色々と台無しの評価を受けている

 一年365日中部屋の外に出るのは10日程と言われており、彼女の姿を見ればその日は何かいい事が起こるという都市伝説も存在する

 

 

●白露型 八番艦 山風

大坂鎮守府建造、西蘭泊地工廠課"夕張重工"所属

前歴無し

 

 大坂鎮守府第二次建造組、人に構われるのを嫌う自由人、何時の間にか傍に出現し、一方的に攻撃した後掻き消えるという不思議戦術の使い手

 艦娘お助け課要員として教育されていたがが本人は余り興味が無く、結局は工廠課に所属する事となった

 吉野の鎧甲冑スタイルにビビってしまい実は苦手意識を持っているが、扱う銃器には興味津々な為差し引きゼロという微妙な印象を持っているとか

 以前夕張が吉野の銃を地面に置き、棒で支えたザルを設置して暫し放置していたら、その罠に彼女が掛かっていたという形容のし難い事件があったという

 

 

 

●Maestrale級 三番艦 Libeccio

リヴァ・トリゴソ工廠建造、西蘭泊地防衛隊所属

元イタリア王立海軍地中海防衛戦隊所属

 

 イタリア王立海軍と大坂鎮守府の折衝により譲渡された艦娘、現時点でイタリアが有する唯一の駆逐艦級艦娘でもある

 対潜能力に秀で前任地ではそれなりに活躍したが、地中海は元々深海棲艦の脅威がそれ程無く、彼女自身も余り戦いに関して積極的では無い

 大坂鎮守府の件で譲渡艦の選定時にポーラと知り合うが、酔った彼女の世話を主に彼女がしていたせいで、互いの間に奇妙な友情が芽生える

 と言うかリベが保護者的立場という笑えない関係であったりする、唯一の駆逐艦という環境にあった為見た目に反ししっかり者、でも見た目コ○ックLO艦風味

 

 

●神風型 五番艦 旗風

西蘭泊地給糧課居酒屋鳳翔所属

前歴なし

 

 大坂鎮守府が欧州救援作戦展開中に邂逅した艦娘

 姉の強い影響を受け戦闘職より給糧関係に強い興味を示し、結果居酒屋鳳翔に先任として着任する事になる

 また好事等も姉の春風に強い影響を受けている為、行動もそれに近い物になる事が多く、鳳翔所属ではあるが間宮所属の姉と一緒にあれこれしている時が多い

 また髭眼帯をラストサムライ的な誤解を抱いたまま姉の提督LOVE勢という部分に感化され、致命的な偏愛行動を取る困った艦になってしまっている

 

 

●綾波型 六番艦 狭霧

西蘭泊地防衛隊所属

前歴なし

 

 大坂鎮守府が欧州救援作戦展開中に邂逅した艦娘

 大坂鎮守府の者達には「いつのまにかそこに居た」と称される程に影と幸の薄い艦、それ以外は割りと優秀な艦である

 同じ影の薄い勢である親潮、あぶぅとはズットモの仲であり、親潮の影響を受けて提督LOVE勢になった後色々とモーションを掛けているつもりではあるが、悲しいかな存在感が薄過ぎてインパクトが今一となってしまっている

 現在鎮守府の駆逐艦の中でも珍しくスタンダード的な真っ直ぐな戦い方をし、屈指の戦上手に育ったのだが、悲しいかな影が薄い為に余り出番が回ってこないという報われない生活を送っている

 

 

●陽炎型 十一番艦 浦風

大坂鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

前歴なし

 

 大坂鎮守府第三期建造艦の内の一人、業務拡張計画の為に建造された内の一人

 ムチムチ同盟に駆逐艦の戦士枠と目されていたが、金剛に見出されフレンチクルーラー派に招致される

 類似の艦にはぱい風も居る為住み分けが必要ではという言い掛かり的な事を周りから言われ、通称おっぱい風という不名誉なあだ名がつけられる

 本人は給糧課鳳翔所属を希望しているが、戦闘人員の不足にある鎮守府の事情により現在それは保留となっている

 

 

●朝潮型 九番艦 霰

大坂鎮守府建造、西蘭泊地工廠課所属

前歴なし

 

 大坂鎮守府第三期建造艦の内の一人、業務拡張計画の為に建造された内の一人

 同課の山風と同属性故か行動を共にする事が多く、その縁で誘われ工廠課に所属する事になった

 一度手を付けた物はとことん完成度を求める傾向にあり、工廠課では「匠」と呼ばれる程の凝り性である事が発覚してしまう

 また無口なだけで内面は頑固一徹なきらいがあり、納得いかない仕事は絶対受け付けない、正に匠の名のまんまな艦娘でもある

 

 

●秋月型 一番艦 秋月

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元大本営第一艦隊所属

 

 武蔵が大本営第一艦隊旗艦であった頃に防空の任を一手に引き受けていた艦

 大本営の方針でレンドリース艦を中核とした艦隊の再編成の煽りを受けて大坂鎮守府へ異動となる

 艦娘としての防空駆逐艦としては最古参となる彼女は、建造されて以降ほぼ戦いの中に身を置くという特異な人生を歩んできた

 つまり軍務に就いてないと落ち着かないワーカーホリッカーである、加えて質素倹約に美徳を感じる艦というか所謂貧乏性という悲しい属性を持つ艦であるらしい

 

 

●白露型 九番艦 江風

単冠湾泊地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元単冠湾泊地所属

 

 軍の戦力再配置計画によって単冠湾より大坂鎮守府所属となった艦娘

 戦力の偏った運用と冷や飯食いと言われる北方戦線の拠点に所属していた為、軍部に不信感を抱き大坂鎮守府に送られて来た当時は反抗的な面も見せていた

 その後大坂鎮守府教導システム(初期教練プログラム)の全力による地獄のしごきに耐え、僅か一ヶ月で改二にまで至る

 現在は夕立と組んで前線へ出る機会が多く、また実際の戦場へ出る事になった現在は着任当初の劣等感が消え失せた様で、現在はのびのびと泊地ライフを送っている模様

 

 

●白露型 七番艦 海風

単冠湾泊地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元単冠湾泊地所属

 

 軍の戦力再配置計画によって単冠湾より大坂鎮守府所属となった艦娘

 江風の保護者、兎に角心配性

 潜在能力は夕立に迫る物を持ってはいるが、その力は戦場では無く主に鎮守府生活内で発揮されるという残念な仕様になっている為、周りからは才能の無駄遣いと揶揄されている

 現在はその不名誉な評価を払拭する為長門に師事し、長門流極限空手を学ぶ毎日という、またしても間違ったベクトルで努力を積んでしまう状態になっているという

 

 

●夕雲型 四番艦 長波

単冠湾泊地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元単冠湾泊地所属

 

 軍の戦力再配置計画によって単冠湾より大坂鎮守府所属となった艦娘

 高い戦闘能力と、高い調理能力と、そして時雨に感化されてしまった為高いジビエ料理能力を身に着けてしまった艦娘

 大坂鎮守府初期教練プログラムの被験者となってしまった為、短期間で江風と同じく改二へ至る事になる

 最近は何故か髭眼帯の微妙料理に興味を持ちそれを身に着けようと奮闘する毎日、お陰で変なベクトルで提督LOVE勢になってしまう事になり、調理する際は頭にタオルを巻き、Tシャツにエプロンとラーメン屋オヤジスタイルという、独特の格好をする様になってしまったという

 

 

●綾波型 一番艦 綾波

単冠湾泊地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元単冠湾泊地所属

 

 

 大坂鎮守府初期教練プログラムの被験者組、当然改二に至っているが教練を担当したのが球磨とあり、割とまとも枠に分類される

 実力は夕立と互角と言われているが、戦い方のベクトルが違う為に双方に衝突は無く、また本人の性格故か協調性が高い為、どの戦場に於いても駆逐艦枠には彼女が編入される事が多い状態の様である

 ジョーンズソーダ愛飲者

 

 

●暁型 三番艦 雷

単冠湾泊地建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元単冠湾泊地所属

 

 軍の戦力再配置計画によって単冠湾より大坂鎮守府所属となった艦娘、謂わずと知れたロリオカンである

 元単冠湾泊地筆頭秘書艦であったが、仕えていた提督が中央へ召還された事に伴い、自身の能力を鑑みた結果随伴する事を辞し、大坂鎮守府へ着任する者達を気遣い共に着任してきた、マジオカンである

 掃除料理洗濯はオカンレベルでこなし、バブみ成分100%という恐ろしい能力を有する

 平時は提督私室に棲み部屋の管理を独自に行っているが、髭眼帯が部屋に居る時は他の者が大抵随伴している為遠慮して他の者の世話焼きへ回るという気遣いを見せる、どこまでオカンなんだという艦

 

 

●陽炎型 十二番艦 磯風

単冠湾泊地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元単冠湾泊地所属

 

 軍の戦力再配置計画によって単冠湾より大坂鎮守府所属となった艦娘

 この者も他の移籍組と同じく大坂鎮守府初期教練プログラムの被験者組である

 本人は強く給糧課への所属を希望しているが、マミーヤも鳳翔も拒否状態にあり、日々自力で料理の研鑽に励むというテロの準備に余念が無いという生活を送っている

 秋刀魚に病的な拘りを持ち、鎮守府では彼女が出現した際は「ヤツ(秋刀魚)が来た」と称される程秋刀魚然としている

 艦娘を表現するのに秋刀魚然としているという言い方はどうかと思うが、実際そうなのだから仕方ない

 そして秋刀魚活動を認知してくれた(実際はスルーされているだけ)髭眼帯に対し、敬意の念を抱く→LOVE勢へ変化という、間違った経緯で現在に至る

 

 

●初春型一番艦 初春

単冠湾泊地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元単冠湾泊地所属

 

 軍の戦力再配置計画によって単冠湾より大坂鎮守府所属となった艦娘

 この者も他の移籍組と同じく大坂鎮守府初期教練プログラムの被験者組である

 のじゃロリ筆頭、軍務は忠実にこなすがそれ以外は間宮に常駐するという変わり者

 甘味に対する舌は相当なレベルにあるらしく、間宮の新作は大抵初春の意見を取り入れているという事実から、周りからは軍部の間宮基準は実は初春にあるとまで言われている

 

 

●陽炎型 八番艦 雪風

大本営建造、西蘭泊地防衛隊所属

登録抹消の後技術本部へ披検体として従事

 

 嘗ての艦娘運用実装計画に披検体として投入され、後に大坂・舞鶴鎮守府合同による作戦によって鹵獲され現在に至る

 その所属経緯は複雑な物になっており、前歴が表に出せない関係上、建造は大坂鎮守府の艦という偽装が施されている

 運用状態が特殊かつ壮絶であった為、本来艦娘本人に備わる筈の精神的リミッターという部分が消滅した状態にある、その為肉体が保持不可能な上位武装の幾つかが使用可能という特殊な状態にある

 また他者に対する意思疎通が極めて苦手である為無口、かつ会話に於いても要点しか口にしない為色々誤解されがちという不憫な状態にある

 

 

●秋月型 三番艦 涼月

ドロップ艦、西蘭泊地府防衛隊所属

前歴なし

 

 大本営主導で行われた作戦時に邂逅した艦娘、初期教練が艦政本部にて行われるという経緯を経て大坂鎮守府へ着任してきた

 対立派閥の麾下にあった事で髭眼帯に対しては当初ネガティブな印象しか持ってなかったが、着任後姉の秋月と行動を共にし鎮守府の実態に触れ、その部分は無くなりつつある

 全てが姉基準で行動してしまった為やたらと質素な面が顕著となってしまったという不憫な一面も持つ、また影がやや薄い為最近は親潮達と行動を共にする機会が増えているという

 

 

●白露型 五番艦 春雨

呉鎮守府建造、西蘭泊地防衛隊所属

元呉鎮守府第三艦隊所属

 

 那智の大坂異動に伴って自ら大坂へ異動してきた艦娘

 元々は呉の水雷戦隊に常在していた要であったが、ある時を境に思い悩む事になり戦場から遠ざかる事になってしまう

 大坂へ異動してきた当初も戦えない状態であったが、雪風と行動を共にする事で精神的な不安が取り除かれる事になり、正式に大坂鎮守府の艦隊員として活動を再開する事になる

 現在は白露型メイド隊というコミュに所属し、日々メイドとは何かという事に打ち込むのが最近のトレンド

 

 

●Ташкент級 一番艦 Ташкент

ドロップ艦、西蘭泊地艦隊本部所属

前歴無し

 

 吉野達が北方領土にて作戦中に邂逅した駆逐艦、未確認ではあるが恐らく世界で初じめて邂逅したソビエト駆逐艦級の艦娘

 邂逅時の吉野がキレノン、そしてドロップさせたのがナガモン化した長門であった事が影響してか、独特の精神構造をしていると言うかぶっちゃけ唯我独尊

 自重しないキレノンが色々やらかしてしまった為に吉野を運命の人と勘違いしているという、吉野自身も知らない地雷を抱えている

 また早い段階でガングートと邂逅し、自重しない響に誘導され正確は恐ロシアというか歪んだ共産主義に系統しているという

 

 

●J級 一番艦 Jervis

英国海軍デヴォンポート海軍工廠建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元英国海軍本国艦隊第二戦隊所属

 

 吉野達が大坂鎮守府から西蘭泊地へ異動してきた際、英国貴族院の差配によって政治取り引きとして譲渡された艦

 艦種が整い戦力再配置の為に英国が追加建造した艦であり、本来ならレンドリースにより大本営に所属する筈だった

 建造され戦闘経験もないまま英国から西蘭へ送られた為、帰属意識は薄く、また英国で建造されつつも吉野が初めての提督という特殊性を持つ

 性格は天真爛漫だが聡い部分も併せ持ち、移籍組の中では最も早く西蘭内部の人間関係を看破し、外国勢よりも泊地古参の者達寄りの物の考えで動くという処世術に長ける一面を持つ

 

 

●朝潮型 四番艦 荒潮

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元パラオ泊地第四艦隊所属

 

 吉野達が西蘭泊地に異動後大本営から送られて来た艦の一人

 既に第二次改装を施された状態で送られて来た艦で実力は折り紙つきと言われているが、パラオでは何かしらの問題を起こし「懲罰人事」として西蘭に送られて来たという経緯を持つ

 兎に角奔放な性格で気分屋、気に入った物にはとことん固執するが、その逆も然りというか気に入らない物にはとことん辛辣だという

 

●陽炎型 十三番艦 浜風

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元呉鎮守府艦隊本部所属

 

 現呉鎮守府司令長官寺田是清(てらだ これきよ)中将の初期艦であり、秘書艦として長く勤めた陽炎型おっぱい枠の代表格

 軍のレンドリース施策に伴って不和が広がっていた呉鎮守府の内規粛清の為、敢えて自身を見せしめに仕立て懲罰人事として西蘭へ流れてきた

 長らく呉の事務方に身を置いていた事から運営方面の能力が高く、また大本営にも顔が効くというおっぱい

 また吉野の丁稚時代を知る者の一人であり、人間関係で言うなら矢矧や加賀ですら頭が上がらないおっぱいだという

 

 

●暁型 一番艦 暁

西蘭泊地建造、同泊地艦隊本部所属

前歴なし

 

 西蘭泊地第一期建造組の一人であり、泊地非公認組織『お世話し隊』の一人

 全ての艦娘を配備するという泊地の方針により建造され、既に着任していた雷が教導を受け持つ事になった為に何故か戦闘技能より家事全般から仕込まれる事となった哀れなレディ

 性格は言わずと知れたレディであるが、お世話活動の一環として医局の手伝いをしていた時、苦しむ時雨の様を目の当たりにし以降電(最初の一人)の活動に感化される事となる

 だがしかし残念ながら彼女はレディ(仮)であり、この先も恐らくレディ(意訳)なのはは変わらないだろう

 

 

●暁型 四番艦 電

西蘭泊地建造、同泊地艦隊本部所属

前歴なし

 

 西蘭泊地第一期建造組の一人であり、泊地非公認組織『お世話し隊』の一人

 暁と共に雷に初期教練を託されたすでのな、元祖ハワワ枠の一人である

 西蘭には同じ名の、そして違う存在の電が居るが、対外的に彼女は(でん)と呼ばれ、この電は正しく(いなづま)と呼称される

 (でん)に対しては成長しない自身の未来を強く感じ、多大な影響を受けるが何故か暁とはベクトルが違い、主に果樹園関係のスキルを伝授されていく事になる。

 

 

●朝潮型 三番艦 満潮

西蘭泊地建造、同泊地艦隊本部所属

前歴なし

 

 "全ての艦娘を配備する"という方針を打ち出した吉野の差配により建造された艦、西蘭泊地二期建造組の一人

 性格は正しくご褒美ありがとうございます艦であり、またお迎えに霞が出張った事もあって西蘭泊地艦にしては珍しくテンプレな性格をしている

 寧ろどうしてご褒美有難う艦に限ってテンプレなんだと吉野は密かに嘆いたと言うがそこはそれ、ちゃんと育てていけばデレるからという荒潮の甘言により、初期教練は朝潮が担う筈だった

 が、翌日には例のフレンチクルーラ族の長(金剛)に取り込まれてしまい、様々な色々を仕込まれてしまう運命にあった

 

 

【海防艦ズ】

●択捉型 七番艦 対馬

大本営建造、西蘭泊地艦隊本部所属

元横須賀鎮守府第四艦隊予備戦力

 

 吉野達が西蘭泊地に異動後大本営から送られて来た艦の一人

 日本の軍としては久々になる新たな艦種である海防艦、そのテストヘッドとして性能試験的に横須賀鎮守府で運用されていた内の一人

 軍部からは内地で活用するには性能が尖り過ぎていると言う事で、積極的に前線へ送られる事になった為、この艦も西蘭へ送られて来たという体となっている

 性格は兎に角特徴的、見た目園児にも関わらず中身がアレと言うか、海防艦の如月とか荒潮とか、兎に角そういうポジらしくクズロリをして「愛でるという行為に多分なリスクが伴う艦」と言わしめたりする

 

 

【潜水艦ズ】

●巡潜乙型改二 三番艦 伊58

大本営建造、西蘭泊地潜水艦隊旗艦

元大本営潜水艦隊旗艦

 

 三代目大本営潜水艦隊旗艦として歴代最長の旗艦暦を努め上げた艦娘、大本営時代は吉野、明石、加賀、ゴーヤでつるんで色々とやっていたらしい

 強行偵察というある意味尖兵として立ち回る機会が多く、また部隊損耗率もそれなりであった為に、割と悲惨な戦場を目の当たりにする事が多かった

 提督LOVE勢、大坂鎮守府ムチムチ同盟の発起人の一人、またこれまでの経歴から割りと古参連中からは一目置かれているムチムチである

 潜水艦娘と言えばスク水というイメージが先に立つが、ゴーヤに関して言えば普段着は割とオシャレさんであり、それなりの衣装持ちであったりする

 

 

●UボートIXC型 U-511改・さつき一号(ゆーちゃん)

Reiherstiegwerft(ライアースティーグヴェルフト)工廠建造、西蘭泊地潜水艦隊所属

元ドイツ連邦海軍本土防衛隊所属

 

 ドイツ連邦共和国主導で行われた大坂鎮守府へ譲渡された艦娘の一人、未改装状態であるが錬度は限界値まで達している

 譲渡時の条件として未改装状態での深海棲艦上位個体との戦闘データ収集するという縛りがあり、基本呂号への改装は想定されていない

 でっちダイスキ勢、そして提督パパ好き勢、そのホワホワした雰囲気から(潜水棲姫)、山風と並ぶ不思議ちゃん三強の一角と称される

 西蘭泊地奉行所(執務棟)内の池か寮の露天風呂を根城とし、でち公か髭眼帯が呼べばそこから現れるという性質を持つが、基本人に懐かない生態であると言われている

 

 

●巡潜乙型 七番艦 伊26

ドロップ艦、西蘭泊地潜水艦隊所属

前歴無し

 

 ゴーヤがゆーちゃんを連れて慣熟航海という名の暴れ道中にドロップした艦娘、一応レア艦であったがゴーヤの強い希望で大坂鎮守府所属となる

 元々は明るく天真爛漫な性格であった筈が、破天荒な大坂鎮守府の色々に触れメンタルが時々ポッキリ折れたりする

 "潜水艦の龍鳳"とも呼ばれ、ポッキリした際は目のハイライトでポッキリ度が推し量れる仕様になっている

 しかし甘味がダイスキで、彼女がポッキリしていても甘い物を与えると即モチベが回復するという部分は、元鯨の上位互換とも言える

 

 

●巡潜乙型 三番艦 伊19

ドロップ艦、西蘭泊地潜水艦隊所属

前歴無し

 

 ゴーヤがゆーちゃんを連れて慣熟航海という名の暴れ道中に(以下略、ムチムチ属性でありながらオッパイ勢というハイブリットな存在である

 テンプレでは"泳ぐ18禁"だの"艦これがDMMゲームなのを思い出させる存在"だのと散々な評価を受けているが、この個体は周りがカオスな為逆に常識艦となってしまった

 任務以外の時は常にジャージか私服を着用し、ピンク的な行動は殆どしない、というかはにかみ行動という萌え行動すらしてしまう

 ちなみに提督LOVE勢という部分はテンプレを引き継いでいるが、「いくいくの~」とか言ってピンク行動には走らない、常識艦である

 

 

●巡潜甲型改二 二番艦 伊14

ドロップ艦、西蘭泊地府潜水艦隊所属

前歴無し、但しレ級であった前世の自覚あり

 

 ゴーヤがゆーちゃんを連れて慣熟航海という名の暴れ道中に(以下略、但しその存在は特殊で現在は大坂鎮守府所属として経歴は秘匿とされている

 上位個体として沈めば黄泉還らない筈の日本近海で沈んだ、嘗ての(空母棲鬼)が連れていた僚艦であるレ級の生まれ変わり

 現在その辺りの事情は調査中だが、まだそのプロセスの手掛かりは掴めていない、また朧気ながら吉野が(空母棲鬼)を仕留めたという前世の記憶も有している

 その強い印象と、深海棲艦の強い者に惹かれるという生態に引き摺られた為提督LOVE勢になったという、大酒飲みであり、ヒャッハーやポーラの盟友でもある

 

 

●三式潜航輸送艇 まるゆ

大坂鎮守府建造、西蘭泊地潜水艦隊所属

前歴無し

 

 大坂鎮守府第二次建造組、駆逐艦レシピで建造されてしまったという夕張重工特有の事情の末着任となる

 元々は陸軍の独自技術由来の輸送艇(海軍の関与も実は幾らかある)という事で、潜水艦と言うより潜航艇という性能しか有していない

 しかしそこはそれ大坂鎮守府、現在は夕張が色々とその辺りの改善策を練っており、工廠主導の"まるゆ超改二プラン"に漸く目処が立ったという

 吉野の事を"隊長"と呼ぶのはどのまるゆにも見られる特徴だが、その声を聞くと癒されるという不思議な効能があるという

 

 

●伊400型潜水艦 伊401

大本営建造、西蘭泊地潜水艦隊旗艦

元大本営潜水艦隊所属

 

 吉野達が西蘭泊地に異動後大本営から送られて来た艦の一人

 軍の中にあって絶対数が少ない潜水艦、その中でも特に希少と言われている艦であった伊401だが、たまたま大本営大工廠で同種艦が建造されたという事で、以前より吉野が希望していた異動人事に応える形で着任となる

 勿論それらは色々が絡む裏の都合があっての結果であり、大本営が西蘭へ"貸し"となるよう仕向けた人事と言う方が正確である

 また伊58に建造されてからずっと行動を共にしており、本人が大坂鎮守府へ異動を強く希望していたという事もこの人事に関係していると思われる

 

 

●巡潜甲型改二 一番艦 伊13

大本営建造(ドロップ)、西蘭泊地潜水艦隊旗艦

元大本営潜水艦隊所属

 

 吉野達が西蘭泊地に異動後大本営から送られて来た艦の一人

 現在建造不可と言われている艦の内の一人であり、大本営技術本部で性能試験運用されていた艦でもある

 旧鷹派の粛清の一環として技本の一部施設が解体され、性能試験と称して囲われていた艦も大本営に接収される事となった

 本来ならこのヒトミもそうなる筈だったが、大本営潜水艦隊には既に同型艦が存在した為、伊401の異動と同じく"貸し"としての取引材料として異動する事となった

 

 

【水上機母艦ズ】

●秋津洲型 一番艦 秋津洲

ペナン基地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元クルイ基地防衛隊補給艦隊所属

 

 クルイ警備府を再編し、基地として運営するに当たり人員の再配置を進めた際、諸般の事情により同基地より大坂鎮守府へ送られた艦娘

 前線でありながらも後方任務という特殊な立ち位置で任に就いていた為、戦闘能力はそれなりだが、広域索敵能力には目を見張る物がある

 しかし出撃時に要する燃料はコストが重く、常用するには小規模拠点では難があるという面も含め、色々と不遇であった艦でもある

 現在は、また西蘭泊地の哨戒任務の中核として運用され、哨戒分野の要として頼られる存在に成長したという

 

 

●神威型 一番艦 神威

ドロップ艦、西蘭泊地防衛隊所属

前歴無し

 

 軍内の派閥闘争を受け独断行動を取った鷹派が作戦時に拾ってきた艦、派閥間の絡みで他艦数隻と共に大坂鎮守府へと送られる

 他艦は其々クェゼリン・クルイ其々の運用に適していた為着任が決定したが、秋津洲と同じ艦種という理由で彼女は大坂鎮守府に着任となった

 大坂鎮守府ムチムチ同盟のニューフェイスとして期待され、盟主の叢雲直々のスカウトを受けるムチムチ界の新星ムチムチ水上機母艦である

 そして毒飲料、毒食品の知識は吉野に匹敵し、あろう事かそれらをテイストしてもダメージを受けない"毒食品のマエストラーレ"として君臨する

 

 

●C.Teste級 一番艦 Commandant Teste

ブルターニュ、ラ・ド・ブレスト工廠建造、西蘭泊地防衛隊所属

元海峡海軍所属

 

 フランスがEU内での発言力を得る為、独自に政治取り引きを行い着任させた艦、製造はブレスト工廠とあるが、この個体は大坂鎮守府が欧州救援作戦へ参加した際ドロップした艦であり、正確にはフランスの麾下に属した事は一度も無いが、書類上の処理の都合上フランス海軍からの譲渡艦という事になっている

 大坂鎮守府では珍しく普通にお洒落さんである、着ぐるみパジャマでもメイド服でも無く普通に流行の服に興味を持っている。

 ただそういう方面でしかストレスのハケ口が無いのか、給料の殆どを服で散財するという悪癖も持つ

 戦闘職より事務職に強い関心を持ち事務方所属を強く希望しているが、着任経緯と所属暦が浅い為、今は防衛艦隊所属となっている

 

 

●瑞穂型 一番艦 瑞穂

単冠湾泊地建造、西蘭泊地防衛隊所属

元単冠湾泊地所属

 

 軍の戦力再配置計画によって単冠湾より大坂鎮守府所属となった艦娘

 所属は一応防衛隊となっているが、霊的能力の高さを買われ現在は航空母艦施設群の管理を主に任されている

 その為自室も同施設群の中にあり、大坂鎮守府の頃と同じく中々他所で姿を見る機会が無いという

 その様な現状の為またしてもあだ名は「赤蜻蛉神社神主」で定着してしまうのであった

 

 

【特殊艦】

●特種船丙型 揚陸艦 あきつ丸

大坂鎮守府建造、西蘭泊地特務課総括

前歴無し

 

 大坂鎮守府第一次建造組、元々の能力的な傾向を買われ、吉野自身が短期で仕込んだ諜報特化艦娘、また漣の(つて)も引き継いだ割と凄い艦

 最近は職務の傍ら、川内等と戦闘訓練に励み、実働面の活躍にも磨きがかかってきたという

 その能力の高さ故"大坂鎮守府の影法師"と呼ばれる事もあり、現場では大隅配下の特務課を出し抜く等活躍も目覚しい、が、その度吉野の毛根にはダメージが入る

 なんのかんのと自分の持つ技術や(つて)を惜しみなく与えてくれる吉野に対しては、尊敬の念とそれ以上の親愛の情を抱いているという

 

 

【非戦闘員ズ】

●給糧艦 間宮

大本営建造、西蘭泊地主計課"元祖間宮"店主

元大本営間宮本店店主

 

 間宮界のドン、史上初の給糧艦、大淀が大坂鎮守府へ異動する際誘って引き抜いてきた人員、鎮守府の食を支える一人であり甘味の女王である

 異動の理由を色々と口にしているが、摩耶を巡る大本営のやり方にそれまでの不満が爆発、吉野の艦娘運用方針を大淀から聞かされ今までと違う可能性を感じ着任する

 その意図する処は己がある意味特別と知っているからこその、大坂鎮守府の政治的盾という存在としての着任であったという

 キレると京言葉に変化し(潜水棲姫)がチビる程の殺気を放つ、隠れ提督LOVE勢だが最近はある意味オープンになりつつある

 

 

●給糧艦 伊良湖

大本営建造、西蘭泊地主計課"元祖間宮"主任

元大本営間宮本店主任

 

 間宮と並ぶ給糧艦、この伊良湖も史上初という厄介な存在、間宮程自己主張をしないが彼女の作る最中には熱狂的信者が存在する為、発言力は大きい

 間宮に誘われて大坂鎮守府へ異動してきた、能力的には間宮と遜色ないと言われているが、本人は間宮を師として行動している

 色々と大物染みた存在ではあるがやや影が薄い、何故か間宮と行動する事に固執し、カッコカリ時の理由も"間宮に誘われたから"であった

 甘味系に定評があるが、当然料理の腕も相当な物であったりする、デコ出しヘアーがチャーミングという一部提督らのファンクラブも存在する

 

 

●夕張型 一番艦 "工作艦" 夕張

大本営建造、西蘭泊地工廠課"夕張重工"総責任者

元大本営第二艦隊所属

 

 嘗て大本営麾下艦隊に所属し、現代に続く対潜の礎を築いたという"対潜のエース"、その名は教練書にも刻まれある意味長門や大和と同じ程のネームバリューを持つ

 作戦行動中艤装の戦闘能力の殆どを喪失してしまい前線を去るが、その後自力で艤装を改装、工作艦として軍務に就く事になる

 興味がある事に対する探究心は相当な物で、妖精さんと組んでは謎テクノロジーを駆使した数々の装備を世に送り出している

 手段の為なら目的は選ばず、ロマンを追い求め過ぎる為に吉野の私物はいつも夕張の手でロボに改造されてしまうという、メロン子、ユウバリンコ

 

 

●暁型 四番艦 電

自然発生体、"最初の五人"、西蘭泊地医療部門、研究ラボ責任者

初代大本営第一艦隊所属

 

 人類が初めて邂逅した艦娘という存在の内の一人、どこで生まれ、どうやって日本へ来たのかの記憶は本人達には無いという

 嘗ては"対潜の電"と謳われ、たった一人で二桁を越す深海棲艦を相手にするのも珍しくは無く、今の艦娘よりも高性能、そして低燃費だったという

 彼女達のメンテナンス及び研究責任者だった吉野の母に母性を強く感じ、そして当時幼かった吉野とは身内として接していた

 戦闘能力の喪失後は吉野の母が携わっていた研究を継ぎ、今は吉野と時雨の主治医をする傍ら、今も研究を続けている

 

 

●吹雪型 五番艦 叢雲

自然発生体、"最初の五人"、西蘭泊地艦隊本部所属

初代大本営第一艦隊副官

 

 電達と共に現れた五人の内の一人、当時は"人修羅叢雲"と呼ばれ、戦闘面では一番苛烈な戦いを繰り広げていた

 戦闘力と頑丈さに特化した造りであった為に戦闘能力は喪失しないでいたが、時間経過と共に艤装に引き摺られ精神をすり減らしていった為一時機能を封印される

 それからは教導隊を率いて各拠点を転々とするが、大坂鎮守府が再整備されたと聞き教導隊の総括として着任を果すが、後に自分の在り様に思う処があり、封印していた機能を開放する

 その際五月雨の協力の下自壊という形で戦闘能力を喪失するも、同鎮守府で建造された母艦に艤装を通じて繋がる事によって再び海へ出る事となる

 

 

●綾波型 九番艦 漣

自然発生体、"最初の五人"、西蘭泊地特務課主任

初代大本営第一艦隊所属

 

 電達と共に現れた五人の内の一人、"千里眼漣"と言われ敵感知の精度、範囲は大型電探を搭載した戦艦をも凌ぐ能力を有していた

 当時の者達をして現在の艦娘は劣化量産型と言わしめるほどの性能を誇り、漣自身も戦闘力で言えば雷撃が可能な大和型クラスの艦娘であったという

 その短い前線生活から退いた後、元々諜報関係に疎い日本の体質を受け継いだ当時の軍内に本格的な諜報機関を作り上げ、防諜面で軍に尽くした

 しかしその組織が軍内の派閥闘争の道具と成り果てた為見限り、大坂鎮守府が整備される迄隠遁生活を送っていた、また情報収集能力が高いが吉野の様に実務の知識は持ち合わせていない

 

 

●天草早苗 深海棲艦研究学者

西蘭泊地生態研究部門総括

元艦娘研究会主任技師

 

 嘗て吉野の母と共に最初の五人を交え艦娘研究の礎を築いた研究者、高速修復剤や艤装を利用しての能力改修等の研究結果を残す

 研究が一定の成果を挙げ、場を大本営所管の施設に移動する際、軍部と自分の考える研究の方向性の違い故在野に下る

 吉野の整復術の協力をしたり、軍が検体として引き上げるという事を耳にした時は、吉野家へ渡りを付けたりと割と吉野との縁は深い

 研究と言う物に没頭し、全てを捧げる余り予算の獲得に苦心した末、己の体を実験台に使う等狂気的な思考も持つ

 

 

【深海棲艦艦隊ズ】

●防空棲姫 朔夜(さくや)

西蘭泊地深海棲艦艦隊旗艦

元艦娘"初月"だったという深海棲艦上位個体

 

 最初の五人、五月雨との縁に導かれ吉野と邂逅した深海棲艦上位個体、第二特務課の全てを変える切っ掛けになった存在

 深海棲艦故の凶暴性も持つが、吉野達との付き合いが進む内に理知的な部分が勝つ様になり、現在はかなり温和な性格になっているという

 深海棲艦側の情報に明るく、また顔が広い、そして自身は大和型の攻撃力に戦艦棲姫以上の防御力を有するという破格の戦闘力を持つ

 現在は深海勢を取り纏める役割をしている為余り外へ出る機会が無いが、一度戦場に出れば屍の山が連なる地獄が展開される、提督LOVE勢

 

 

●空母棲鬼 空(そら)

西蘭泊地深海棲艦艦隊副艦

元艦娘"鳳翔"だったという深海棲艦上位個体

 

 まだ深海棲艦との戦争が始まって間もない頃、捨て艦として沈んでいった鳳翔が黄泉還った存在

 元々は朔夜(防空棲姫)と吉野の邂逅を阻止し、朔夜(防空棲姫)を亡き者にする為戦いを挑んできたが、それに敗れた為に朔夜(防空棲姫)の指揮下に入る

 前世の最後の経験からか、力でねじ伏せる事にある種のステータスを感じる深海棲艦にあって、どんな形でも勝てば良いという独特の思考を持つ

 当初は第二特務課関係者に敵意を以って接していたが、吉野との本音トークで渇望していた心が満たされ、恭順する事になった、提督LOVE勢

 

 

●戦艦棲姫 扶桑

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

元艦娘"扶桑"だったという深海棲艦上位個体

 

 深海棲艦として黄泉還り安寧の地を求め海を転々としていた、アンダマン海域ではそこのテリトリーを支配していた"金色のヲ級"と密約を交わし、仮初の宿を得ていた

 その後第二特務課主導で行われた作戦によって鹵獲され、なし崩し的に朔夜(防空棲姫)の軍門に下るが、それも本人にしてみれば仮初のつもりであった

 しかし後に変異した為に苦しむ時雨と接し、また艦娘達と行動を共にする事で扶桑としての自我を強く意識する様になり、吉野へ恭順の意を示す事となった

 戦艦棲姫の扇情的な姿に扶桑の淑女感が内包されるというある意味反則的な存在であるが、平時のやる気の無さがそれをダメにさせている、提督LOVE勢

 

 

●戦艦棲姫 山城

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

元艦娘"山城"だったという深海棲艦上位個体

 

 扶桑と同じ経緯を辿り大坂鎮守府の一員となった、戦艦棲姫姉妹の妹、扶桑に比べリアリスト的な面もあるが、深海棲艦勢の中で実は一番常識人である

 テンションのアップダウンの差が激しく、一度マイナスゲインに突入するとそのオーラは滲み出すだけでなく周りをも侵食するという

 色々な事があったが現在は時雨と仲良し、間宮で羊羹を食しまったりと過ごす時間に至上の喜びを感じているという

 尚扶桑よりも実は戦闘能力が高いのだが、即精神が折れてしまう為にいつも残念な結果に終わっている、割と提督LOVE勢

 

 

●潜水棲姫 碧(あおい)

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

元艦娘"マックス・シュルツ"だったという深海棲艦上位個体

 

 嘗ての作戦でインド洋に沈み、沈み逝く時に見た光景に囚われ潜水棲姫として黄泉還る、そして望郷の念に囚われ海を彷徨う

 しかし日本で建造された前世の為彷徨った挙句日本の領海に迷い込み、そこで演習をしていた吉野達に鹵獲される事となる

 前世の記憶を幾らか持つが、それはあくまで記憶という情報と割り切っている為、彼女自身自分は潜水棲姫の碧だという個の認識を強く持っている

 行動を良く共にした時雨と仲が良く、また吉野に強い父性を感じる為朔夜(防空棲姫)の配下では無く、吉野の直下の者として直接の麾下に属している

 

 

●重巡棲姫 静海(しずか)

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

 

 キリバスエリアの主海湊(泊地棲姫)の名代として大坂鎮守府へ詰めていたが、髭眼帯と海湊(泊地棲姫)の関係が改まったのを期に正式に大坂鎮守府へ譲渡されるに至る

 その関係上朔夜(防空棲姫)の麾下では無く髭眼帯への直接譲渡となり、彼女の現状は(潜水棲姫)と同じ状態なのだという

 性格は実直かつ冷静であり、無能に対してはとことん辛辣という様を見せる反面、一度恭順を示すとことん没頭してしまうという困った性格をしている、その為現在髭眼帯麾下にある彼女がどういう状態かというのは色々お察しである

 

 

●空母水鬼 水晶(みずき)

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

元艦娘"飛龍"だったという深海棲艦上位個体

 

 元々は南洋で活動していたものの、追われる日々が嫌になり北方棲姫のテリトリーへ逃亡、後に大坂鎮守府の存在を知る事になり、自ら着任を希望し着任を果たす

 北方棲姫の麾下から外れた彼女は、現在朔夜(防空棲姫)の麾下という形では無く髭眼帯に直接恭順した状態にある為、(潜水棲姫)と同じ立ち位置の深海棲艦上位個体にある

 楽観的な性格と刹那的な部分という相反する性格を内包する為、平時と戦場に居る彼女は別人の如くの様を見せるという

 

 

●軽巡棲鬼

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

元艦娘"名取"だったという深海棲艦上位個体

 

 元々は南洋で活動していたものの、追われる日々が嫌になり北方棲姫のテリトリーへ逃亡、後に大坂鎮守府の存在を知る事になり、自ら着任を希望し着任を果たす

 前世が名取という艦娘であった事と、同じ大坂鎮守府に所属する五十鈴とは実の姉妹関係にあった事実と微かな自覚があるが、その殆どの記憶を消失した状態である為事実認定は不可能な状態にある

 陸上では艤装をパージする関係上足を生成して二足歩行状態にあり、また北方棲姫経由での着任にある為髭眼帯の直接麾下という立ち位置での着任となっている

 

 

●飛行場姫

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

元艦娘"初春"だったという深海棲艦上位個体

 

 北方棲姫から吉野へ送られて来た深海棲艦上位個体

 深海勢で唯一吉野の事を(あるじ)殿と呼ぶ姫であり、口調も艦娘であった頃の色が濃く出ている

 元はマレーシアを根城として活動していたが、軍部の台頭によりテリトリーを追われ北方棲姫の元に身を寄せていた

 "黄泉還り"した艦にしては珍しく前世の記憶をそれなりに持つらしいが、その事実は伏せているらしい

 

 

●離島棲姫

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

元艦娘"熊野"だったという深海棲艦上位個体

 

 北方棲姫から吉野へ送られて来た深海棲艦上位個体

 飛行場姫と共にマレーシアを根城にしていた過去を持つが、北極圏からの異動には否定的だった。

 上位個体となって以降人類側の動きに辟易としており、また"黄泉還り"した存在にあって純粋な深海棲艦としての色が濃いという特徴を持つ

 飛行場姫曰く、前世での出来事が原因だろうと語られてはいるが、その出来事は本人すら感知していないという

 

 

●装甲空母姫

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

元艦娘"蒼龍"だったという深海棲艦上位個体

 

 北方棲姫から吉野へ送られて来た深海棲艦上位個体

 吉野麾下の深海勢の内最も前世の影響を受けていない存在、故に感性は深海棲艦そのものと言えたりする、が、基本脳筋

 空母系なのに殴りにいく、そして後先考えないという直情型でグラップラー

 吉野との初邂逅時はキレノンだったという救えない状況かつ色々吹き込まれてしまった経緯があり、なんと提督LOVE勢という近接格闘空母である

 

 

●駆逐棲姫

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属、大坂鎮守府出向組筆頭

元艦娘"弥生"だったという深海棲艦上位個体

 

 北方棲姫から吉野へ送られて来た深海棲艦上位個体

 吉野達が内地に居ない代わりに日本近海の深海棲艦を押さえるべく大坂鎮守府に常駐する任に就く

 深海勢の自由人と言うか自他共に認めるコミュ障である。

 孤高を好む為大坂ではゆーちゃんが去った現在中央運河の主となっているが、一応くちくかんである事から日々九頭よりのアプローチに悩む毎日を送っているという

 

 

●リコリス棲姫

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

元艦娘"葛城"だったという深海棲艦上位個体

 

 北方棲姫から吉野へ送られて来た深海棲艦上位個体

 姫級としてはかなり初期の頃から生き延びてきた"黄泉還り"した上位個体であり、朔夜(防空棲姫)程ではないがあちこちの海を渡り歩いたという事情通

 実際の処戦闘力はそれなりなのだが、行く先々で揉め事や争いに巻き込まれ割を食うという不幸体質の持ち主だという

 そういった過去が原因で深海棲艦としての闘争本能がとても折れ易く、物凄く周りに流されてしまうという苦労人でもある

 

 

●水母棲姫

西蘭泊地深海棲艦艦隊所属

元艦娘"瑞穂"だったという深海棲艦上位個体

 

 リコリス棲姫と共に北方棲姫から吉野へ送られて来た深海棲艦上位個体

 他の者と違い、実は彼女は元々北方棲姫配下の姫であったが、内に秘めた前世の想いが強く人への敵意が皆無という事情を鑑み西蘭へ送られる事になった

 元々の性格も温和で、前線へ出るよりも後方支援に回る事を希望し、現在は間宮の元で料理修行に勤しむという変わり者でもある

 ただ性格が大人しいから弱いかと言えばそうではなく、寧ろ覚悟を決めて戦う事になった際は相当な戦闘力を発揮するという

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ 辞令を受けた日

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。
 


2016/11/30
 誤字脱字箇所修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたSERIO様、テリオスZ様有難う御座います、大変助かりました。
 


「おう、来たか、入れ」

 

 

 白い軍装を身に着け、少し豪華な椅子に深く腰を掛けている大柄な男は、部屋の入り口に立つ同じ格好ではあるが少しくたびれた雰囲気を持つ男に対して開口一番、軍施設内の、それも高官執務室で投げ掛けるにしては少しどうなのであろうかと云う言葉を発し腕を組んだ。

 

 

「先程報告書を提出した際、事務方にて大隅(おおすみ)大将殿より出頭せよとの伝令を受けまして、特務課主任、吉野三郎(よしのさぶろう)大尉出頭致しました」

 

 

 投げっ放しな言葉を苦々しい表情と溜息で流しつつ、入り口に立つ男はやる気の無い雰囲気一杯の海軍式敬礼を取りながらそう答える。

 

大隅と呼ばれた男は腕を組んだまま暫く何かを考える素振りを見せた後、入り口に立つ男に対し傍にある来客用のソファに座る様勧めながら傍に控えていたおさげの少女に声を掛けた。

 

 

「おい吹雪、すまんが茶を頼む、ついでに朝事務方(じむかた)から回ってきたアレもここに」

 

 

 吹雪と呼ばれた少女は軽く頷くと、給湯設備があるのであろう資料棚脇の通路奥へ向かっていった。

 

 

「まぁナンだ、長々と地方の調査ご苦労だった、吉野大尉」

 

 

 吉野と呼ばれた男は勧められたソファーに腰掛けつつ

 

 

「いえいえ自分も軍属の身ですから、例え24時間無休の三ヶ月間勤務であろうと、帰還後休暇も無く報告書を作成し、提出した後即出頭を命じられようと、それが直属の上司である大将殿のご命令であればそれに従うのが義務でありますので。」

 

 

〔義務〕と云う言葉のイントネーションを多少強めに吉野は返事を返す、心無しその目が相手に対して非難めいてるのは恐らく気のせいでは無いであろう。

 

 その言葉を受け、ばつが悪そうに頭をかきながら大隅も吉野の向いにあるソファーに移動しながら、一応フォローの言葉を考えていた。

 

 

「お、おう、三ヶ月だったか、それはご苦労だったな、で、帰還したのが……」

 

「昨日の1500であります大将殿。」

 

「う、うむ、ご苦労、で、報告書は……」

 

「急ぎとの事でしたので無休で仕上げ、本日1015に提出致しました大将殿」

 

 

 言葉を重ねる度に空気の質量が増す気がするのは気のせいだろうか?、繰り返し返答の最後に〔大将殿〕と付けるのはどういう意図なのだろうか?

 

 気まずさ故その部下の顔を直視するのを避けた大隅の視線の先、そこにある柱時計の時刻は午前10時30分を指していた。

 

 

「うむ、ん、ご苦労、報告書は後で目を通しておく」

 

 

 とは返したものの、大隅の向かい、ソファーに腰掛ける吉野の目は眠気の為かうっすらと目の下に隈が張り付いており、その相は某三つ編みの重雷装ハイパーさんとお揃いのヘソ出しルックな片割れがキャッキャウフフ中、横から無遠慮な声を掛けた時に向けられるアレに勝るとも劣らない雰囲気が醸し出されていた。

 

 

「何か問題は無かったか?」

 

「特に口頭にて報告する様な〔緊急の物〕はありません、詳細は報告書をご確認下さい、大将殿」

 

 

 念の為に繰り返しておくが、冗談抜きでヘソ出しの片割れである非三つ編みのアレは、戦場で大破の時にエリレに遭遇した際に感じるソレに勝るとも劣らない。

 

 目の前のくたびれた男が今出している空気を判り易く言うなれば、ヘソ出しのエリレがジト目で冷たい酸素魚雷を半笑いで磨きつつ 「死にたい船はどこかしら~」 と虚ろな目でどこぞの二番艦ばりの台詞を吐くアレを連想させる程の空気の重さを醸し出しているのである。

 

 

 特に〔緊急の物〕辺りの言葉を強調する辺り、緊急の事案でも無いのに何ケツに蹴り入れて働けって言ってくれちゃってんのコンチクショウと、上司に向けるそれでは無い相を隠す事もせず目の前の男は無言の非難を浴びせているのである。

 

 

 一応報告書を急かした事も、出頭を命じた事もちゃんとした理由があるのだが、それを説明する為の物が現在大隅の手元には無い。

 

 場を繋ぐ為に何か会話をと模索するも、そんな相を浮かべる相手に何か言っても余り愉快な返事が返って来そうに無い雰囲気をどうしたものかと思案していた処…

 

 

「どうぞ」

 

 

 奥から現れた吹雪が応接テーブルに茶を満たした来客用の湯飲みを置きつつ、これも来客用であろう茶菓子が入った器をその傍に置く。

 

 とりあえずではあるが幾らか場の空気が軽くなった気がする、多分。

 

 吉野は一つ溜息を吐くと出された茶を静かに(すす)った。

 

 

「有難うパンツさん……美味しいです」

 

「私だって本気を出せばやれるし……」

 

「んんん?」

 

 

 重苦しい空気から一転、人の秘書艦をパンツさん扱いする部下も部下だが、パンツさん扱いされたにも関わらず、何食わぬ顔で三女の台詞を使い返事を返す我が秘書官の行動に、思わず間抜けな声を出す大隅であったが、直前の重苦しい空気を引きずるのもアレだと流す事を決め込み、茶を啜った。

 

 

「そう言えば司令官」

 

「何だ?」

 

「提督?ご連絡があるみたいです」

 

 

 吹雪はそう言うとA4大の茶封筒を物理的にはとても収まりそうにないスカートのポケットから取り出し大隅に手渡す。

 

 封筒を手渡された大隅はうんと頷きながらそれを受け取った瞬間、どこぞのコメディアン宜しく秘書艦の少女を綺麗に二度見した。

 

 

「おい吹雪、今しれっと何処からコレを取り出した? って言うか何で急に提督呼び?」

 

「大将殿、吹雪さんが少し垂れ目になり、髪が三つ編みになったら司令官から提督呼びにシフトするらしいです」

 

「磯波か? 磯波の台詞かそれ!?」

 

 

 思わず突っ込んだ大隅の言葉に、口角を少し上げサムズアップをする吹雪と、何も無かった様に茶を(すす)る吉野。

 

 嗚呼そうだった、三ヶ月間地方調査と云う名目で国内よりも更に南方に放り出していたので忘れ掛けていたが、この吉野と云う男は良く言えばマイペース、悪く言えば慇懃無礼が服を着たまま唯我独尊を地で行き、更にはこの男に関わった艦娘は何故かおかしな行動を始める。

 

 

 普段は少し無口な処が他の個体とは違う以外は概ねまともである我が秘書艦吹雪も、漏れなくこの男が近くに居るとおかしな行動に走る。

 

 先程とはベクトルの違う意味での心労を感じつつ大隅は吹雪から手渡された茶封筒に視線を落とす。

 

 

 だからこそ、この任務はこの男が適任だと上が判断し、自分もそれに同意したのだと手にした封筒を目の前で茶を(すす)るくたびれた男に差し出した。

 

 

「吉野三郎大尉、辞令だ、この度新設する第二特務課々長の任に就く為現時刻を持って特務課主任の任を解く」

 

「第二特務課ですか? 今の特務課と何が違うので?」

 

「それの説明を含め、任務内容・人員・装備等この書類に記載されている、着任は明後日0700だ、それ迄に資料に目を通し確認しておけ、問題がなければ辞令書に署名・捺印を行い事務方へ提出せよ、尚、同課へ着任したと同時に貴様の階級は艦隊指揮権の関係で大尉から中佐へ二階級特進する事になる、以上だ」

 

 

 大隅から辞令と共に差し出された茶封筒を左脇に抱え立ち上がると、これまた入室した際見せた、やる気がなさそうな海軍式敬礼をしつつ吉野三郎は

 

 

「了解致しました、吉野三郎大尉、特務課主任の任を離れます、以後明後日0700新しい課へ着任の為準備に入ります」

 

 

 直属の上司から新たに発せられた任務内容を復唱した。

 

 




 手直しに伴いサブタイトル等も変更しております。

 ご意見ご要望があればご遠慮なくどうぞ。



 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白露型二番艦 準備を始めましょう

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



2018/03/21
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、黒い明星様、紅雪様、黒25様、物数寄のほね様、対艦ヘリ骸龍様、有難う御座います、大変助かりました。


 吉野は現在大本営内にある職員宿舎の一室に居た。

 

 其処は元々吉野の為に割り当てられた部屋であったが、所属する部署の性質上海軍の力が及ぶ地域の端から端迄飛び回る毎日を送る様な生活をしていた為、生活の拠点というより大本営に居る間の仮の宿的な使い方しかされていなかった。

 

 

 因みに吉野三郎には血縁者は居ない、配偶者も居ない、天涯孤独の身であって自他共に認めるロンリーガイである。

 

 更に言うと住民票の所在地すら大本営の宿舎になっている有様、従って毎朝ゴミ出しの時顔を合わせ挨拶をする近所のマダムとの禁断のアバンチュールも無ければ、毎朝優しく起こしてくれるちょっと天然の入った可愛い幼馴染とのキャッキャウフフなライフなんぞはディスプレイの遙か彼方の存在である。

 

 

 そんなマイホーム(仮)の中、事務机の前で吉野は大隅大将から受け取った書類を片手に色々思考を巡らせていた。

 

 

 時間は午前4時過ぎ、あの大将執務室で辞令を受けた後、空腹で限界の胃を満たす為士官食堂に飛び込み、一航戦の赤いヤツばりなペースで食い物を胃に詰め込んだ後、宿舎に戻り眠れるだけ眠った。

 

 

 結果目が覚めたのは日付も変わった午前3時、眠気スッキリの思考バッチリなコンディションであるが、時間が時間だけにやる事は限られていた、と云うより通達された部署に着任する迄時間にして28時間。

 

 それまでに確認しやっておかなければならない事を頭の中で順序立てつつ先ずは大将から受け取った書類の確認を始めた… と云うのが現在の状況である。

 

 そしてその封筒の中身であるが、入っていた書類には着任予定の人員詳細と極々僅かばかりの命令文が記された書類が数枚入っていただけである。

 

 

「えらいざっくりきたなぁ……」

 

 

 任務詳細には第二特務部課々長着任の日時、そして同課に与えられる執務室の場所、優先的に使える施設一覧、最後に

 

『当該特務に耐え得る人員育成の為着任予定の艦娘を迎え、艦隊を編成せよ、尚以降の任務については追って発令するものとする。』

 

 という最初の任務内容が記載されている。

 

 

「要するにアレだ、自分にこんな命令を下すって事は艦娘に戦闘方面じゃなくて、搦め手(からめて)を仕込めって事だよなこれ?」

 

 

 書面に書かれた文章には特に行動内容についての記載は無く、【当該特務(とうがいとくむ)】と記されている。

 

 となればやる事は今迄吉野が従事してきた任務を艦娘と共に継続して行えという意味として認識しても良いだろう。

 

 

 そしてこれ迄吉野がやってきた【特務】とは有り体に言えば諜報活動と作戦実施前の調整役、それも特定の物は扱わず、攻略海域周辺の情報収集から各地方施設の内部事情の洗い出し、果ては那珂ちゃんのライヴツアーをする上で効果的に艦娘のイメージアップをする為のスケジュール作成や開催場所の選定等、もはやなんでも屋宜しくあちこち飛び回っていた。

 

 

 大本営には諜報活動を専門に行う部署は他にもあったが、そちらは専らお偉方の派閥争いの為の粗探しや政権闘争等の道具に使われ、中立的な運用は殆どされていない状態であったので、各将官クラスの者は自分の配下で独自に情報収集の為の組織を持つのが普通であった。

 

 吉野が所属していた特務課というのは大本営直下の組織ではなく大隅大将()下の組織であり、当然そのあり方も中立では無い。

 

 

「艦娘に大将んチのペス(愛犬)の世話させたり、那珂ちゃんの付き人させたり……」

 

 

 吉野の頭の中ではペスという可愛い名を付けられた獰猛なドーベルマンの顔が浮かんでいた、噛まれた時は死ぬかと思った。

 次に那珂ちゃんのリクエストで午後ティーをコンビニまで買いにパシらされた(ダッシュ強要)時の苦い思い出も浮かんでいた、ちょっと泣きそうだった。

 

 

「後は黒っぽい高官を拉致って情報をゲロさせたり、証拠が揃い切らなかったクズを始末したり……」

 

 

 犬の世話から始まりパシリ、誘拐拷問、暗殺等同列に扱いつつこなさなければならない程度には【特務課】の仕事は多岐に渡っていた。

 

 

「要するに先ず組織作りから始めろって事ですかね・・・」

 

 

 誰に言うでもなくそう一人ごちた吉野が手にしたのは、自分の部下になるであろう着任予定である艦娘達の情報がまとめられたファイル。

 

 

「これ中身を見なくても普通じゃないって判るよね」

 

 

 (くだん)のファイル表紙には着任予定である艦娘の名が記されていた、その数六名、上から順に着任予定らしい奥付がされている。

 

 

時雨改二(秘書艦)

榛名改二

妙高改二

神通改二

不知火改

大鳳改

 

 

 正直有り得ない。

 

 

「全部改二まで改装済みって事は高錬度だろうし、顔ぶれもちょっとした泊地とかだったら第一艦隊張ってるよーなメンツだろこれ、地球の裏側まで午後ティーパシらせろってか?」

 

 

 しかもわざわさ一番上に書かれている時雨改ニの欄には(秘書艦)という指定までしてある謎仕様。

 

 

 

「どういう事なの?……」

 

 

 

 困惑気味にファイルのページをめくると、其々の艦娘がここに着任する直前の所属部隊名、そこでの略歴、通常使用している装備の順で書かれた履歴書の様な物がまとめられていた。

 

 

 最初は駆逐艦時雨の項。

 

 第二特務課発足に合わせて着任予定、前所属は単冠湾泊地、約三年前に同泊地にて建造され、凡そ一年半に渡り第一艦隊と第二艦隊を行ったり来たりしている。

 

 通常第一艦隊とは水上打撃艦隊や空母機動艦隊、そして水雷戦隊と云った戦闘面では主力を担う編成が主で、第二艦隊は泊地レベルで言えば第一艦隊への決戦支援や随伴と、これまた主力を張る戦力とみていいだろう。

 

 

 この時雨はほぼ全ての作戦においてその主力の一翼を担っていた訳だが、ある日を境に第三、第四艦隊へ編成される事が多くなり、最後の半年に至っては泊地警邏隊の所属になっている。

 

 

「艦娘が警邏隊所属?」

 

 

 吉野がいぶかしむのも無理は無い、通常艦娘とは深海凄艦を相手に戦闘を行う物である。

 

 対して基地施設の警備に就くのは海軍施設ならば海兵隊から選抜された警邏隊、施設外の周辺は陸軍管轄の憲兵隊が担う、また主目的が対人である為従事するのも人間が普通である、艦娘がその任に就くと云う事は、人に向けてその力を奮う可能性を示唆しており、通常なら有り得ない配置である。

 

 

 そしてページの末尾、この時雨と云う艦娘が常より装備している武装一覧を確認するとこう記載されている

 

 

 第一スロット : カイザーナックル

 第二スロット : カイザーナックル

 第三スロット : 関孫六(せきまごろく)

 他軍隊格闘術等

 

 

 

「んんんん?」

 

 

 

 目を凝らして装備欄の文字を確認しても、消しゴムでこすってみても、あぶり出しなのかと裏からライターの火をあててみても特に記載内容に変化は無い。

 

 どこをどう見ても、何をどうしても一遍の曇りも無く、そこにはメリケンサック二つにポン刀一本の表記しかない、いや備考には軍隊格闘術習得済みのお知らせもあったか。

 

 古の軍艦の魂を宿し、海原を駆け、人類の天敵である深海凄艦と死闘を繰り広げる艦娘の装備が、しばき倒し、ぶっ差し、止めに締め上げるという連撃仕様だというのだ。

 

 むしろ清々しい程近接特化と言うべきだろうか? いやそれ以前に深海凄艦に対して切った張ったは通用するのだろうか?

 

 

 そこで吉野ははたとしてファイルの表紙を確認し直す。

 

 

時雨改二(秘書艦)

 

 

「あー……、これはアレですわ、秘書艦(執務補助)ってより、秘書艦(用心棒)って事ぉ?…… 今度の部署は憎まれ系がメインになるのかなぁぁぁ?」

 

 

 自分の職務に対する先行き不安感MAXな思考を抱きつつ、次のページを確認する。

 

 

 次にあるのは戦艦榛名の項。

 

 第二特務課発足から7日間後での着任予定、前所属はブイン基地、五年前に大本営にて建造され、横須賀鎮守府、ブルネイ泊地、リンガ泊地と転任し、最終的にブイン基地に着任したとある。

 

 略歴には全ての任地で第一艦隊所属を外れた事は無く、ブイン基地においては艦隊総旗艦も勤めていた様だ。

 

 

「ブインの榛名? ……ブイン? ……知ってる……知ってるぞぉぉ、この榛名って確か【武蔵殺し】の榛名じゃないかぁぁ?」

 

 

 その昔、大本営で開催された大演習(と云う名の御前試合)において、当時呉所属第一艦隊旗艦の大和型二番艦武蔵にタイマンで挑み、一方的にボコボコにした金剛型戦艦が居たという。

 

 また一時期南方海域で猛威を奮っていたレ級率いる艦隊をいとも簡単に駆逐し、あまつさえそのレ級を舎弟に据えた金剛型戦艦が居たという。

 

 夜むずがって中々床に就かない駆逐艦達に『いい子にしてないと武蔵殺しがお仕置きにやって来る』と怪奇物語として囁かれる金剛型戦艦、それがこの【武蔵殺しの榛名】である。

 

 

 普通こんな話を聞かされても何かの冗談か酒の席でのヨタ話と一蹴してしまいそうだが、吉野はその職務上様々な情報に触れており、先の逸話を含めてこの金剛型三番艦にまつわる数々の伝記が事実である事は認識していた。

 

 

「上の連中はウチに一体何を求めてるんだ?……」

 

 

 そう呟きながら確認した装備欄にはこう記載されている。

 

 

 第一スロット : 試製51cm連装砲

 第二スロット : 試製51cm連装砲

 第三スロット : 一式徹甲弾

 第四スロット : 一式徹甲弾

 

 

「まあ… 主砲は… そう… まあ… そうねぇ…」

 

 

 主砲はまぁいい、色々突っ込みたい処だがとりあえずそれは横に置いておく、この威力の主砲に合わせるにしては一式徹甲弾と云うのは些かオーバーキル……

 

 まぁ言いたい事はあるが脳筋思考としては許容範囲と言えなくは無い、しかし、しかしだ、何故一式徹甲弾が複数のスロットを占有しているのか?

 

 普通そこは観測機か電探なのではないか? 百歩譲ったとしよう、同じ弾薬として被せてくるならそこは三式弾辺りでは無いのか? 何で一式徹甲弾マシマシなのか? 徹甲弾押しなのか?

 

 

 此処に至って吉野は深く考えるのは辞めにした、物言わぬ書面に突っ込みを入れた処で答えが返ってくるで無く疲労が増すばかりだからだ。

 

 この辺りは本人が着任した時にでも確かめればいいだけの話である、ただ脳筋思考の理論が理解出来るかどうかはまた別の話なのだが。

 

 

 ペラリとページをめくると三人目、ここからはどうやら詳細な着任時期は凡そ半月後辺りを予定しており、日程調整中との注釈が入っている。

 

 

 重巡洋艦妙高

 

 岩川基地にて建造、時期不明、転任歴は無しとある。

 

 

「建造日時が不明?」

 

 

 略歴、主に秘書艦を勤め専ら事務方に従事していた模様、尚戦闘記録及び演習記録は確認されておらず。

 

 

「え? 戦闘記録無いの? 改二でしょ? それならかなりの戦闘数こなしてる訳だから記録が見当たらないっておかしくない?」

 

 

 装備欄

 

 お好みで。

 

 

「えー…… ナニこのファジーさ、お好みってそんなシェフの気まぐれランチちっくな事書かれてもさぁ、どうしたらいいのさ?」

 

 

 別の記載が無いか備欄の文字を確認しても、消しゴムでこすってみても、あぶり(ry         (※)無駄でした。

 

 

 無駄な突っ込みはしないと決めた直後に見た資料は突っ込みたくても何処の部分突っ込んで良いやら謎過ぎる物であった為、当初の目的は果たしているが違う意味で心労を重ねてしまうという結果に至った。

 

 

「落ち着け~、落ち着け自分、まだ半分だ、まだ半分残ってる、まだ……まだ、大丈夫でち!」

 

 

 そう呟く吉野の眼は、某伊号潜水艦がデイリーを兼ねたオリョクルセット終了時に見せる様な独特の雰囲気が醸し出されていた。

 

 少しインターバルを置く為コーヒーを淹れ、たっぷり一時間は掛けて間を空けただろうか、赤疲労マークがオレンジ辺りまで回復したのを自覚した処でデータ確認の作業に戻る。

 

 

 

 軽巡洋艦神通の項。

 

 四年前に舞鶴鎮守府にて建造されるもそのまま着任にならず、水雷戦隊強化の必要に迫られてたラバウル基地へ着任、以後転任歴無し。

 

 略歴には当該基地第二艦隊旗艦を勤める、二年前の南方海域における大規模作戦参加時に甚大な損傷を受け一時戦線離脱をしたものの半月後には原隊復帰、以後変わらず第二艦隊旗艦の任に就いていたらしい。

 

 

「神通って言えば水雷屋ってイメージだが、どうやらこの神通も戦歴を見るにそっちの方に特性があるみたいだな」

 

 

 装備欄

 

 第一スロット : 61cm五連装(酸素)魚雷

 第二スロット : 試製Fat仕様九五式酸素魚雷改

 第三スロット : 潜水艦53cm艦首魚雷(8門)

 

 

「……OK、了解、判った、水雷屋のお仕事は魚雷で相手を沈める事だよネ、スロット全部魚雷で埋めるのは正直どうかと思うが最低限本来の役割は果たしていると思う? ……のでまぁ良しとしよう」

 

「んでもさぁ? 試製Fat魚雷って記憶違いじゃなきゃ潜水艦専用装備じゃなかったっけ? むしろ三スロ目のソレ明らかに潜水艦って名前書いてるよね? しかも艦首魚雷って……神通さん艦首に発射管増設したの? 構造上どうなのそれ?……」

 

 

 艦隊運用方としては大艦巨砲主義が行き過ぎたオーバーキル戦艦に砲戦を担当させつつ、雷撃は神通で行う、そして雷撃可能距離まで詰めるのに時雨を護衛に充てれば艦隊運営としては問題は無い。

 

 と云う選択肢の無い艦隊運営を頭の中で整理しつつ、そろそろこの異常なデータ群に慣れてきた自分に果たして正常な判断を下せるのであろうかと一抹の不安がよぎったのは内緒の話である。

 

 

 

 駆逐艦不知火の項。

 

 二年前にラバウル基地にて建造、以後転任歴無し。

 

 略歴には主に船舶の護衛任務を専任し、主力艦隊が出撃した際には拠点の哨戒に就いていたらしい、しかし駆逐艦でありながら何故か資源回収目的の任務は殆ど参加した記録が無い。

 

 

「護衛専任ってまた尖った運営させてたんだな、意外と索敵能力に秀でてるとか? っと、着任地が神通と同じか、多分顔見知りではあると思うが……」

 

 

 装備欄

 

 第一スロット : 10cm連装高角砲

 第二スロット : 10cm連装高角砲

 第三スロット : 61cm三連装(酸素)魚雷

 

 

「うん、装備関係で壮大なオチがあるかもって不安だったけど至って普通だった、普通って素晴らしい、ビバ! 普通!」

 

 

 しかし後に吉野三郎第二特務課々長(28歳独身)は述懐する、『異常の中に存在する普通、実はこれが一番厄介な存在なのだ』と……。

 

 

 

 最後に、装甲空母大鳳の項。

 

 二年前にタウイタウイ泊地にて建造、同泊地所属大鳳四姉妹の三女、転任歴無し。

 

 

「いや確かにタウイタウイなら大鳳だろうけど、四姉妹って資源関係焼け野原になってないかここ?……」

 

 

 略歴

 

 特定の艦隊には所属こそしなかったが、大鳳四姉妹はローテーションで満遍なく作戦に投入されていたらしく、錬度も比較的高めとある。

 

 

 装備欄

 

 第一スロット : 彗星十二型甲×30

 

 

「おお、最近のトレンドは1スロ目には艦爆を積むと有効と話しはあるし、装備自体は平凡だが最大機数が1スロ目の大鳳だと結構期待が持てるな、いいぞ」

 

 

 第二スロット : 九七式艦攻×24

 

 

「おぉぉ、2スロ目に艦攻か、1スロ目が命中率に劣る艦爆なのに対し、2スロ目は安定した命中率の装備をフォローとして入れるとはナイスな選択肢、中々やるじゃないか大鳳」

 

 

 第三スロット : 流星×24

 

 

「ん? ここで艦戦じゃなく艦攻を持ってきたか、制空権が取り辛いのは痛い処だが、最大の恩恵を受けるはずのウチの戦艦には着弾観測装備が微塵も無いのを考えると、これはウチに限ってはむしろアリかも知れない、いいぞぉ!」

 

 

 第四スロット : 瑞雲12型×8

 

 

「何ぁ故だ大鳳!? どうした大鳳!? 一体どうしたら瑞雲なんて代物を積もうと思ったんだ!? むしろフロート機をどうやって離発着させるんだ大鳳!? トンボ釣り用の装備があるというのか大鳳? もしかしてこれは記入ミスか? 瑞雲じゃなくて彩雲の間違いじゃないのか? いや待て彩雲に12型なんてあったか? そこんとこどうなんだ大鳳!?」

 

 

「そうだ、艦載機を放って突撃。これだ」

 

「っ!? ……どちら様で?」

 

「伊勢型超弩級戦艦、妹の日g」

 

「師匠、それ以上はいけない」

 

「今何やら私を呼ぶ声が聞こえた様な気がしたんだがな、気のせいだったか?」

 

「いやこれっぽっちも、微塵も呼んだ記憶は無いのですが……」

 

「航空戦艦、いい響きだろ?わかるか、そうか…… よし飲もう!今日は朝まで帰さんぞ」

 

「人の話を聞いて下さいお願いします」

 

「提督なんだその顔は……表面温度も上昇している。病気か? 一緒に寝てやろうか?」

 

「微妙に改装前後のケッコンカッコカリ台詞を並べて何がしたいんですかってうわその瑞雲どうするつもりなんですかヤメロ!?」

 

 

 

 大本営職員宿舎、此処は訪問販売や某国営放送からの取立てとは無縁の世界だが、瑞雲教やポイポイ教など……

 

 独自の文化と教義が蔓延(はびこ)る伏魔殿である事は、睡眠意外で殆ど利用した事の無い吉野三郎(28歳独身絶賛彼女募集中)には認知されていなかった。

 

 結局この日は資料の確認と各施設の下見だけで殆どの時間を費やすハメとなった、人間は間宮や伊良湖ではキラ付けは愚か疲労を抜く事は出来ないのだ。

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルを手直ししております。


 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘書艦着任、その名は時雨

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/11/30
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたテリオスZ様、有難う御座います、大変助かりました。


「僕は白露型駆逐艦、「時雨」。これからよろしくね」

 

 

 黒いお下げと特徴的に跳ねた髪、その髪と同じ色のセーラー上下に身を包んだ少女。

 

 白露型駆逐艦二番艦時雨は、掌を見せない形で軽く脇を締めた形の、所謂海軍式敬礼を取りつつ着任の挨拶を口にした。

 

 

 ここは大本営執務棟二階にある新設された第二特務課事務室である。

 

 

 部屋の中には木製の少し造りが上品な物が一つ奥に置かれており、その前にスチール製のいかにも事務机といわんばかりの物が六つ並べられている。

 

 また来客時や休憩に使われる為の応接セットが少し離れた場所にパーティションで仕切られた状態で置かれており、部屋の広さは凡そ30畳程と中々広い。

 

 

 時刻は現在0700、新設された第二特務課がその業務を開始した瞬間である。

 

 

「はじめまして、この課を預かる事になった吉野三郎中佐だ、自分も今日着任になるので君と同じく新任となる、まぁ宜しく頼むよ」

 

 

 吉野は敬礼を解かずにこちらを見る少女に対し、答礼では無く握手の意味を込めて右手を差し出した。

 

 その差し出された右手と吉野の顔を交互に見詰め、差し出された右手の意味が判らないという事であろうか、時雨は敬礼の姿勢のまま小首を傾けた。

 

 

「あー、仕事をやっていけば大体判ってく事だろうけど、ここはちょっと他から見れば特殊な部署でね、形式的な物や手続きに必要ない余分な部分を出来るだけはしょって実を取る形にしている、なので基本同じ部署の者同士では上下関係含め敬礼は省き挨拶は口頭で」

 

 

 それを聞いた時雨は右手をそのまま降ろしたが、視線は差し出された手を凝視したままの状態である。

 

 

「はい握手、初めまして、宜しく。」

 

「成程、小児愛好的な意味とか女性に触れてみたい為の行動かと思ったけど、握手してって意味だったんだね?」

 

 

 そう呟いた時雨は、納得したかの様に微笑みつつ、差し出された手を握り返した。

 

 

「握手を求めただけで、どうして性犯罪者的扱いを受けないといけないのかな?」

 

「提督って立場の人は多かれ少なかれペドっ気がある人が大半だと思っていだんけど……」

 

「ちょっと時雨さんモニターの向こうの提督達に謝って!? いたいけな駆逐艦の口から夢も希望も無い言葉の刃物を突き付けられるとダメージハンパ無いからね!?」

 

「そうなんだ?」

 

「後ペドとかロリとかタダで食う飯は美味いか? とかそんなキーワードも禁止の方向で、いいね?」

 

「君たちには失望したよ…」

 

 

 多少の精神的ダメージは受けつつも、お互いの見解の相違を埋めつつ着任の挨拶を交わした二人は部屋の隅にある応接セットの処迄移動していた。

 

 

「時雨くんは朝食は摂ってきたのかな?」

 

「うん、初めての転任だったから先に食事は済ませて来た方がいいかと思って、少し早めだったけど食堂が空いててよかったよ」

 

「ああここは前線と違って24時間どこかしらの部署が動いてるからね、酒保や食堂は基本閉まる事は無いよ」

 

「そうなんだ、でも流石に明け方から牛丼が食べれるなんて思ってもみなかったかな」

 

「うへ、朝一に牛丼? 時雨くんって結構食事関係はガッツリ系?」

 

「ううん、大本営からお知らせが来て、四月の九日迄はなるべく食事は牛丼関係をお願いしますって…」

 

「ああ○き家……いやうん、大変だね君達も……」

 

 

 そう言いつつ応接セット脇の給湯設備の前に移動した吉野は…

 

 

「時雨くんは飲み物は温かいの? 冷たいの?」

 

 

 どんな飲み物がいいのかという意味で時雨に質問をしたつもりだったが、当の時雨はソファーに腰掛ける事なく吉野の傍に着ていた。

 

 

「僕の仕事は秘書艦って聞いてたんだけど、それが間違いじゃないならお茶を淹れるのは提督じゃなくて僕がやるべきじゃないかな?」

 

 

 自分の部下を持った事の無い吉野には人を使うと云う行為に違和感があり、その為無意識でやっていた行動であったが、秘書艦という立場にある時雨からしてみればそういう細々した雑務は自分がやるのが当然の事であり、立派な職務の内であるとの事を聞かされた吉野は

 

 

「成程、じゃお願いしていいかな? 自分はドクペで、そこの冷蔵庫に入ってるから、コップはいらないよ?」

 

「ドクペ?」

 

 

 時雨は怪訝そうな顔をしつつ流しの横に据えてある冷蔵庫を開け、中で冷やされている物を確認してみる、するとそこには各種清涼飲料水に混じって独特な赤いメタリックな色の缶が何本か収められていた。

 

 

「これかな?」

 

 

 恐らくそれてあろう缶を吉野に見せると、肯定という意味で首が縦に振られたのを確認した時雨は、自分の分の飲み物も冷蔵庫から取り出すと、吉野の向かいでは無く隣に座りながら飲み物を手渡した。

 

 

「ん? なんで隣?」

 

 

 対面にあるソファーに座るものだと思っていた時雨が、それが当たり前の様に隣に腰掛けたのを見て吉野は疑問を口にした。

 

 

「え? 何が?」

 

「他にも席空いてるんだけどなんで隣?」

 

「え? 秘書艦なのに隣以外の席に座るの?」

 

「んんんん?」

 

 

 

 隣でジュースの缶を両手に握り、こちらを見上げながら小首をかしげる時雨を見る、ついでに周りも見渡してみる。

 

 周りにはテーブルを挟んで二人掛けのソファーが一脚、なのに横に座る時雨。

 

 そう言った時雨が手にしている飲み物は世間ではドクターペッパーに勝るとも劣らない評価を受けているサスケであるのだがまぁ別にこれは……え? サスケ? まだ生産されてたの!?

 

 

「ナニ? サスゥケェ?」

 

 

 唐突にカットインされた神父が受話器に向って放った片言の台詞の様な言葉を吉野が呟いたのを聞いた時雨は、会ってから初めて心から出たであろう満面の笑みを浮かべたのである。

 

 

「ダメモトで明石さんに作ってってお願いしたら自分用に作った物があるからってお裾分けして貰ったんだ、凄いよね、でも提督もこれ知ってたなんてびっくりだよ」

 

「何? 明石ってマニアックなのは知ってたけどウチ担当の明石ってそっち方面にマニアックなの? 確かに自分のドクペも明石に頼んで入れて貰ってるけど、何でもかんでも都合の悪い部分を明石フィルター通してそれでOKな風潮はヤバくない?」

 

「こうでもしないとコーラの前を横切る冒険活劇飲料は手に入らないんだから、仕方ないんじゃないかな?」

 

「あーあーメタいメタい、そーゆー懐古ネタは人を選ぶのでよしなさい、で、君が隣に腰掛けているのはどうしてなのかな?」

 

「秘書艦だから」

 

「え? なにそれどこの常識?」

 

「僕の居た泊地の秘書艦が言ってたんだけど、秘書艦はおはようからお休みまで提督の全てを見守る存在で……」

 

「何その歯ブラシとか洗剤とか小脇に抱えてそうな秘書艦……」

 

「三度の食事は常に隣に居て、アーンとか食b」

 

「はーいストップー、いきなりアウトから始まっちゃってる感じがするんだけど、それってそこの提督が命令してやらせてるの?」

 

「命令と云うか、普通に秘書艦が当たり前にやってた事だけど?」

 

「秘書艦から?」

 

「うん、雷とか早霜とか瑞鳳とか如月とか…」

 

「駆逐艦に挟まれたその他一人の名前にグループ分け的な違和感を感じないのは自分だけでは決して無いはずだという一抹の不安は横に置いとくとして、時雨くん?」

 

「何かな?」

 

「秘書艦ってのは確かに提督の補助をする立場の存在という事に関しては【お世話をする人】と云う言い方は正しい事なんだけど…」

 

「うん」

 

「あーんとか、お背中お流ししますとか、添い寝は宜しいですか? とかは秘書艦業務には含まれてないし、出るとこ出ちゃうとケンペイ=サンに俳句を強要されるハメになっちゃうから…」

 

「そうなの? 今言ったあーん以外の良い大人の発言としてはちょっとどうかなって事は別として、あっちじゃそれが当たり前だって聞いてきたし、別にケンペイ=サンにお世話になったとか聞いた事ないからちょっと今困惑してるかな?」

 

 

 手に持った怪しい飲料の缶を見つめつつ何か思案している時雨を横目に、吉野は一つの提案をしてみる。

 

 

「とりあえず時雨くんが事前に仕入れてきた秘書艦の情報は心の隅に仕舞っておいて、ここでは主に自分の補佐的な仕事をしてくれればいいよ、ぶっちゃけこっちから何かを頼んだ時以外は声が届く範囲でなら自由にして構わないし、何か問題が起きた時はその都度指摘するから」

 

「それって命令以外の事は好きにすればいいって事かい?」

 

「常識の範囲内、でね」

 

 

 

 再び思案顔をした時雨であったが、何を思ったのか無言で立ち上がった後、吉野の向かいのソファーまで移動して座ってみる。

 

 

 

「……」

 

 

 

 更に何かを思案するかの様に小首を傾げていたが、何か納得したのか一度誰に見せるでも無く頷いた後、また吉野の隣に戻り先程の位置に座り直した。

 

 それを見た吉野はどこぞの小動物……特徴的な癖毛からイメージすると柴犬か紀州犬辺りだろうか、そのワンコに初めて作った小屋を与えたものの、結局そこはお気に召さず自分の傍から離れない……

 

 

 

「……」

 

 

 

 横に座り、自分の事を下から見上げる秘書艦に対しては随分失礼な事を思ったもんだと苦笑しつつも、確認の為時雨に声を掛ける。

 

 

 

「結局そこなんだ?」

 

「うん、ちょっと言葉じゃ説明はしにくいんだけど、なんとなくここがいいかなって」

 

「君がそこでいいならまぁいいか、で早速で悪いんだけど仕事の話に移ろうか?」

 

 

 

 一度頷いた時雨の雰囲気は先程とは変わらないものの、こちらの発する言葉を聞き逃すまいという真摯な気持ちはその眼に現れていた。

 

 それを見て納得したのか、吉野三郎中佐(28歳独身貴族秘書艦というワンコ付き)はこの第二特務課初になるであろう仕事を始める事にした。

 

 




 再掲載に当たりサブタイトルを変更しております。


 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

時雨のヲモイ、テイトクのキモチ

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



2018/12/27
 誤字脱字修正致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、orione様、雀怜様、有難う御座います、大変助かりました。


「さて、着任後やるのは順番としてはおかしいけど、今から面談を始めま~す」

 

 

 一部の者からは湿布の味がする炭酸飲料と称される缶飲料片手に、吉野は妙に間延びした口調で、横に座る秘書艦時雨に水を向ける。

 

 

「僕に興味があるの? いいよ、何でも聞いてよ」

 

「ん? 今何でもって言った?」

 

「そうだね、とりあえず聞きたい事があるなら何でも聞いて貰っても構わないかな? 但し返答は言葉だけじゃなくて肉体言語も含まれるかもしれないけど」

 

 

 そうにこやかに返す時雨の左手には彼女のお気に入りとされるコーラの前を横切る冒険活劇飲料が入った缶が、右手には鈍い光を放つごつい指輪状の物が連結されたブツ、所謂メリケンサック的なアレが装着されていた。

 

 

「やめてください死んでしまいます」

 

「大丈夫だよ提督、こんなの使うつもりはないし、もし使ったとしても一瞬だから」

 

 

 それは一瞬だけ使うと云う意味なのだろうか? それとも使ったら一瞬でその用を為すと云う事なのだろうか? どっちとも取れる意味合いだが結論としてどちらの答えも一緒なのでその先は考える必要が無いのは確かであろう。

 

 吉野は軽く冗談のつもりで発した言葉だったが、それに対する時雨は笑顔でメリケンサックという返答、この辺り本気での警告なのかそれとも彼女なりのジョークなのか、付き合いが浅い相手だけにさじ加減が判らないのは辛い処である。

 

 

「んーあー、じゃあ面談始めますね? 先ず最初に確認しておきたいんだけど、君はここに転任する際にどれだけの事を知らされているのかな?」

 

「それって辞令とかその辺りの話かな?」

 

「それも含めて、誰かから聞いた噂とか、上司から聞いた前評判とか全部」

 

 

 時雨は一瞬考えた素振りを見せたが、スカートのポケットに手を突っ込むと、おもむろにA4大のバインダーを取り出し、その中から一枚の紙を抜き出した。

 

 

「あ、君も四○元ポケット使えるんだ…」

 

「僕が知っているのはこの辞令書の控えに書いてある事と、ここに着任してから提督に聞いた話だけだね」

 

「ん、ちょっと拝見させて貰うね」

 

 

 時雨から受け取った紙は彼女が受け取った辞令書のコピーだった、良くある書式のそれには前に吉野が大隅大将から受け取った内容と酷似した文章が並んでいた。

 

 

 

海軍単冠湾泊地駆逐艦白露型二番艦時雨

 

任海軍大本営第二特務課秘書艦(武装警護)

 

平成二十八年三月二十八日

 

軍令部総長 大隅巌

 

 

 

 どこにでもある軍書式移動辞令書の内容(一部を除く)である。

 

 繰り返し言おう、どこにでもある軍書式移動辞令書の内容(一部を除く)である。

 

 

 

「ん……んん……ん~」

 

 

 その辞令書(控)を片手に思案する吉野の姿を例えると、渋い表情で何かを考え、やや軽く前傾し、軽く握った拳を口元に当て、そしt

 

 

「ああ、何だか【考える人】っぽいポーズだよね」

 

 

 ぶっちゃけ某ロダンの彫刻【考える人】のポーズで固まっていた、と言うかナレーションに対し突っ込みはどうかと思うのだがそこの処どうだろう時雨君?

 

 

「僕もお手伝いができたらいいのに」

 

 

 サラっと時報ネタで返すのは辞めて頂きたい。

 

 

「ありがとう時雨君、状況は大体掴めたからこれ返すね、それともう少し聞きたい事があるんだけどいいかな?」

 

「うん、何かな?」

 

 

 

 今度は吉野が机の上に置いてあったファイルを持ってきて中から一枚抜き出すとそれを時雨に手渡した。

 

 

「これは僕の個人データだね、僕が見てもいいの?」

 

「内容を見たら判ると思うけど、ただの履歴書みたいなもんだから見られて困る様な物じゃないよ、それよりもここ…」

 

 

 吉野が示す部分には【装備一覧】と書かれた文字、それを見た時雨は成程といった表情を見せる。

 

 

「提督は僕の装備が普通の艦娘とは違うから、それがどうしてかって事を聞きたいんだね?」

 

「察しが良くて助かるよ、良かったら聞かせてくれるかな?」

 

「うんいいよ、じゃとりあえず今持ってる装備ここに出しておくね?」

 

 

 そう言うと時雨は右手にはめてあったメリケンサックと左手の缶飲料をテーブルの上に並べる、そして左手をポケットに突っ込むとテーブルの上にある物と同じ形のメリケンサックを取り出し置いてある物の横に並べた。

 

 

「やっぱりポケットから出すんだ……ん?」

 

 

 なにやら横で時雨が身をよじりつつ、右手を首の後ろ、襟の中に突っ込んでいる。

 

 

「ちょっと待ってね、ん~…」

 

 

 そう言いつつ右手を襟から引き抜くと、ズルリと棒状の物体が姿を現した。

 

 

「え、そこから!? 何か新パターンなんだけど!?」

 

 

 

 時雨が襟から引き抜いた刀はイメージした物とは少し違い、一般の日本刀に比べ鍔が少し小さく、柄の先端に房が付いた飾り紐、鞘には鞘金具が取り付けられている。

 

 

「僕の孫六は見ての通り普通の拵えとは違って九十四式軍刀の拵えになっててね、ちょっと長さと重心をいじってて片手で使い易い作りになってるんだ、まぁ趣味みたいなものなんだけど」

 

「成程軍刀か、これで全部かい?」

 

「今携帯してる分は全部だよ、ドックの火器保管室にはまだ色々あるけど、全部近接武器で普通の砲とか魚雷は無いかな」

 

「まだあったりするんだ…」

 

「ちゃんとリストを作っておくべきだったね、少し時間を貰ってもいいかな?」

 

「リスト作る程あるんだ……」

 

「ここに来るまではテーブルに置いた物だけだったんだけど、明石さんにサスケを貰った時世間話で装備の話しになった時にね、ちょっと…」

 

「んんん? ちょっと?…」

 

「手持ちに色々武器があるから使ってみないかって、いいよって答えたら武器ロッカー丸々5つ分位の量が」

 

「明石ぃぃぃぃ、なにしちゃってんの明石ぃぃぃぃぃ、駄目だろ明石ぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 色々聞きたい事や話をしたい事があるのに中々話しが進まない、半分程は自分の突っ込みせいだと判っていても止められない…。

 

 精神的に疲れた視線の先にあるのは真新しい壁時計、時刻を見ると丁度0900を指していた。

 

 

「マルキュウマルマル。世間は忙しないね」

 

「あっはい、サーセンシタ」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「メッコールとかサルミアッキとか一体何層を狙って入荷してるんだアイツんトコは」

 

「何か近い内に需要が発生する予感がしたので取り寄せたって言ってたね」

 

「悪い冗談としか思えない話だけど、こと商売と怪しい装備に関してはアイツの嗅覚は異常な的中率を叩き出すからねぇ」

 

「まぁそのお陰で僕みたいな艦娘や提督みたいなマイノリティ気味の人間でもある程度快適に過ごせる訳だし、感謝はしていいと思うんだけど」

 

 

 結局あの後話しを継続させるには微妙な雰囲気になってしまったので気分転換と称する当ても無い散歩に出掛け、ついでだからと足りない細々した備品の購入ついでにでっかい釘を刺すつもりで明石の酒保を尋ねた訳だが当の店主は工廠へ出ており店番の酒保妖精さんしか見当たらなかった。

 

 そしてその後も惰性で歩き続け、気分転換という名目の散歩は、とうとう執務棟から外れた出撃ドック迄続くハメになる。

 

 

 因みにこの妖精さんにも色々な種類の存在が活動しており、鎮守府レベルで言えば司令官以外は全て艦娘と妖精さんと云うのは珍しくもない話である。

 

 例えば世間的に知られている妖精さんと言えば手の平サイズのカワイイ妖精さんのイメージが殆どであるが、実は妖精さん全体の数からしてみれば三分の二程である。

 

 小さな妖精さんは艦娘と云う艦船をスケールダウンさせた存在の戦闘をカバーする為に艤装の補助を行ったり、艦載機の操縦をしたり、建造・整備等する為その最適なサイズとしてあの大きさになっていると云う。

 

 では残りの三分の一の妖精さんはどうなのかと言うと、事務や雑務、食堂施設の手伝いや明石酒保の売り子等多岐に渡って活躍し、その大きさは普通の人と変わらない、ただ前出の妖精さんとの違いを挙げるなら、大きさだけでなくその容姿も人のそれと変わらず、ちゃんとした会話も成立する、但しこれも謎の一つなのだが人間サイズの妖精さんは艦娘と同じ年齢層で女性しか存在しないので、その辺りは何か艦娘と関係性があるのでは無いかと言われている。

 

 

 そんな妖精さんの謎を話し合いつつ、気がつけば自然と時雨の装備に話題が及んだ、と言うより彼女からその話題にいくような不自然な話し方に少し違和感を覚える。

 

 

「僕が通常装備を持たないのは"使わない"んじゃなくて"使えない"からなんだ」

 

「使えない?」

 

「出撃中轟沈寸前の傷を負っちゃってね、それが多分原因で装備関係に不具合が発生しちゃってる」

 

「轟沈寸前って…… 修復は済ませたんでしょ? それでもダメだったと?」

 

「うん、砲装備自体は稼動出来るんだけど、上手く艤装と武装がリンクされてないみたい、主に狙いがね… 妖精さんが言うには僕の体側に何かしら問題があるらしくて、射撃の時僕がここだって思った位置と実際に艤装側が調整する位置にズレが出ちゃってるみたいなんだ」

 

「ズレ? それってどの程度の?」

 

「陸上で体を固定して試射した結果だけど、着弾点のバラつきに法則性は無し、有効射程内での停止標的に対する命中率10%以下、砲も標的も固定してるのに毎回違う距離と射角が頭に浮かぶんだ」

 

「雷撃関係も駄目なのかな?」

 

「……発射菅すら作動しなかった…」

 

「それは……」

 

「三式弾みたいな砲弾があればって思った時期もあったけど、僕達駆逐艦用の小口径散弾なんて製造されてないし、もしあったとしても元の狙いが曖昧じゃ満足な結果は残せない」

 

 

 淡々と語る彼女の横顔からは何も感情を感じる事は出来ない、こんな話をしているにも関わらず、不自然な程に……。

 

 

「それで……警邏隊……かぁ」

 

「そう、提督は僕の略歴を見たよね? 最初は主力艦隊に編成されてたけどある日を境に"前線落ち"してる、何か不自然に思わなかった?」

 

 

 これといって返答的に地雷は踏んだ覚えは無い、と云うのに目の前の少女は言葉を発する度に苛立ちを募らせる様に見えてならない。

 

 

「まぁあれだけ露骨に所属が変わってれば誰が見ても何かあったんじゃないかという位にはね」

 

「そうだね、誰が見てもそれ位判る記録なんだけど、どうしてその事を提督は僕に聞かないのかな?」

 

 

 今彼女が言っている部分は問題の本丸の部分であり、予想では一番触れて欲しく無い部分のはずである、それが何故か彼女からその部分の話題が振られているという状況は良いものか悪い物かはまだ判断が付かない。

 

 

「装備関係の確認って事で話しは聞いたはずだけど?」

 

「そこ違うよね、提督みたいな理詰めで考える人がわざわざそんな回りくどい聞き方はしないはずだよ、"前線落ちした時何があったか"を直接聞けば装備の事だけじゃなく"何故そうなったか"全部判るはずなのにあえて装備関係限定の話ししかしなかった」

 

 

 

 突き詰めればそこである、"どうして近接武器しか使わないのか"と聞くより"何故そんな事になったのか"という理由を聞く方が合理的だ、でもそれを聞かないのはその話題が彼女の何かを踏み抜く地雷の様な気がして聞くのを躊躇わせた、そして彼女はそんな自分の心を見透かして責めているのは間違いない。

 

 

「……何が言いたいんだい?」

 

「僕はここに来る前警邏隊に居たんだ、満足には戦えないって判ってたから仕方なくだけどね、でも本当は遠征でもいい、何でもいい、とにかく海の上に居たかったんだ、そうすれば主力艦隊に居なくても、多少なりとも敵の数を減らせる機会はあったはずだから……」

 

「君がそれで良くても君の周りの仲間は正直承知しないんじゃないかな?、幾ら近接戦闘で敵を叩ける様になってもそれだけじゃ駄目だ、どんなに頑張っても君は駆逐艦だ、防御力に関しては適切な距離を置いて"攻撃を受けないよう回避する事でしかその身は守れない"、近接戦闘はこれを真っ向から否定している」

 

「……」

 

 

 彼女は俯いたまま唇をかみ締めている、聡い彼女の事だ、こんな事わざわざ言われなくても自覚しているはずだ、なのに敢えてその話しをしている、何が望みなんだろうか。

 

 

「原隊に復帰した直後は色々な事を試したよ、偏差射撃でなんとか調整は出来ないか試したり、速射で面制圧してから近寄って魚雷を投擲してみたり…」

 

「それは随分と無茶をしたもんだ」

 

「本当にね、やればやるだけボロが出て、出撃すれば小破どころか中破は当たり前で、気が付いたら周りと連携なんてとても出来る状態じゃなかったよ」

 

「それは確かに前線から干される訳だ、話しだけ聞いてても無茶し過ぎだって判るよ」

 

「そうだね……だから皆は僕が傷つかない様、沈まない様前線から遠ざけた、皆優しいんだ、提督だって家族だって言ってくれたんだ、だから我慢したんだ、ずっとずっと来る日も来る日も皆が無事で帰ってきますように、だれも沈みませんようにって」

 

 

 戦いから遠ざけられた艦娘、それは自分の存在を全否定されてるような物だ、そして彼女の不幸は周りの仲間も彼女自身も優し過ぎた事、優しさ故に戦いから遠ざけ、優しさ故に戦えない自分を責め、お互いがお互いを知り過ぎた結果どうにもしてやれない。

 

 人は単体では生存が出来ない、物理的にも精神的にも、そして同一の感情のみではだれも救えない、同一の感情のみで形成されたコミュニティーは人を殺す、流れの無い水が腐るのと同じだ。

 

 

「でもね、こんな僕でも必要だから来ないかって話しが来たんだ、正直皆と別れるのはとても辛かったよ、でもこんな僕でも必要としてくれるなら、まだ誰かの役に立てるならもう一度やってみたいって思って」

 

 

 それがウチからの辞令だったって訳か。

 

 

「……ねぇ提督、僕たちは前線には出ない艦隊になるんだろうけど、それでも【武装警護】って指定が来る程には危険な任務をするんだよね?」

 

「……、正直相手が深海凄艦じゃなくて人間に置き換わる分、やり口が巧妙でド汚くなるのは確かだね」

 

「じゃ僕たちはこれからお互いの命を預けながら任務をこなさないといけない訳だ」

 

「まったく以ってその通りで」

 

「……なのに何で危険になるかも知れない問題をそのまま放置するのかな? 会ったばかりだと言っても僕は秘書艦で身辺警護も担当するんだよね? そんなに信用出来ないかな? 砲雷撃が出来ないポンコツだから? 実戦から遠ざかって使い物にならないから? 弾除けにすらなれないって事なのかな?」

 

 

 何故そんな回りくどい聞き方をするのかと彼女は責めた、信用してないのかと彼女は怒った、そして自分は弾除けにもなれないのかと涙を流した……

 

 

「自分の命を軽く見るヤツには背中は預けられない、自分を使い捨てとしてしか見れない人間が他人の命を背負うことなんてできはしないんだよ、時雨君」

 

 

 戦う事を諦めないといけないという不安に、心が半分折れ掛けた処に振って沸いた転任辞令、もしかしたらもう一度、誰かの為に……

 

 

「君も皆と同じ事言うんだね、判ってるんだよ、ちゃんと判ってるんだよ、でもね、目の前で妹が沈んで、僕は何も出来なくて、やっと海に立てると思ったら武器も上手く使えなくなってて、それでも皆の役に立ちたい、少しでも誰かが沈む危険を減らしたい、でも誰もそれを許してはくれないんだ、こんなのってないよ、僕は生きる事も死ぬ事も出来ないままあの村雨が沈んだ海にまだおいてけぼりになったままなんだ!」

 

 

 転任するには相当な覚悟が必要だったのは間違いないだろう、そしていざ着任してみたら本音を喋らずのらりくらりと話題を逸らす上司、駆逐艦としては致命的な程歪んでしまった自分の有様が原因で必要とされてない、不要と捨てられる、なまじ人よりも聡いが故に少女はそう判断した、一度入った皹は心をいとも簡単に砕いてしまう…

 

 

「……」

 

「変に優しくしないで欲しいんだ、駄目なら駄目ってちゃんと言って欲しいだけなんだ、僕だって自分がおかしいって判ってるから、君はいい人だよ、だから一言言ってくれれば諦められる、会ってすぐの君に言わせるのは酷だと思うけど……」

 

 

 

 

 

『僕の解体命令を……出して欲しいんだ』

 

 

 

 

 

 ……手遅れだ、もう心が折れてしまっている、そうなった人間を元に戻すのは並大抵ではないのは嫌という程経験してきた事だ。

 

 

「誤解の無い様言っておくけど、自分の秘書艦に君を指名したのは上の誰か、恐らく大将か秘書艦の吹雪さん辺りだと思う」

 

 

 人一人が壊れる瞬間、こんな糞ったれなもんはそれこそこの世界じゃ道端に転がってる石ころ程度には良く見る普通の光景だ。

 

 

「……だから?」

 

 

 腹の底から沸き上がるドロドロとした物を一度飲み込んで心をフラットに持っていく。

 

 

「君の事は既に秘書艦として決定済みの状態で自分の処に回ってきた、そして自分はそれを拒否しなかった、何故か? それは自分の上司が決定した事だからね、それに君は今日着任したばかりだ、その君を今解体するのは任命責任に問われるので到底その願いは聞き入れられない」

 

 

 一度心が折れたんなら元に戻すなんて事せずに全部放り出せばいいんだ、全部一度砕いて捨てちまえばいい、そして何も無くなったらそこから全部詰み直していけばいい、ああそうだ簡単な話しじゃないか。

 

 

「要するに命令だからって理由で秘書艦に僕を据えたって事なんだよね? 信用も出来ないのに? まともに戦えるかどうか判らないのに? 命令されたから仕方ないし、上の目があって解体命令も出せない、軍隊って本当に大変な処だね……本当に……本当に君たちには失望したよ」

 

 

 そうして言ってやるのさ、この糞ったれってな!

 

 

「駆逐艦時雨!!」

 

 

 今迄のらりくらり喋っていた男が突然大声を上げる、張り裂けんばかりに、肺の中身全てを吐き出す様に。

 

 突然大声で呼ばれたせいで驚きの為時雨は肩を跳ねらせ声の主を凝視する。

 

 

「俺の部署は生き馬の目を抜く様な汚い世界にあって、毎日騙し合い、化かし合いが普通で、命の重さなんてクソ程の価値も無い糞ったれな処だ!」

 

 

 突然豹変し、大声を上げたかと思えば自分の所属する部署を罵倒し始めた男に気が触れでもしたかと唖然とする少女。

 

 

「だけどな、そんな糞ったれな場所で俺は死なずに何年も生きてきた、何故だ? 運がいい? やり手だから? アホ抜かせっ! そんな猫でも跨いで通る様なちんけな理由で自分より強くて醜くてでかいやつ等と鉄火場張れる訳ねーだろが!」

 

「ぇ…あの……」

 

「俺の上司を舐めるなよ? どんなに糞ったれで殺してやりたい程いけ好かないヤツでも、俺の上司は絶対俺の命を捨て駒にしなかった! 何が天秤の片方に乗ってよーが反対に俺の命が乗ってるなら迷わずそっちを選ぶ大間抜けだ!」

 

「……」

 

「そんな糞ったれが選んだ秘書艦がお前だ! なら何を迷う事がある? 戦えない? 信用されてない? くだらねぇ! それをどうにかするのが俺の仕事だ!!」

 

「う…うぅ……」

 

「上が選んだ、そして俺が認めた、その時点でお前は俺の秘書艦以外! 何処の! 誰でもねぇ! 誰にも文句は言わせねぇ! 時雨、お前自身にもだ!」

 

「……」

 

「自己嫌悪に陥るのは仕方が無い、だけど自分を貶めるな、それは周りにいるヤツ等を、命を預けて一緒に戦う戦友を貶しているのと同じだ」

 

「ック……うん……」

 

「考えないヤツは阿呆だ、でも考えに飲まれるヤツはただの愚図だ、死にたくなければ考える事は辞めるな、最悪の中の最良を掴み取れ」

 

「うん……」

 

「俺が今秘書艦に求めるのは優秀なヤツでも強いヤツでも無い、白露型駆逐艦二番艦、時雨、お前だ」

 

「僕?」

 

「納得したか?」

 

「僕はまだ、ここにいても大丈夫なのかな……」

 

 

 

 涙で顔をぐちゃぐちゃにした少女の目の前に男の右手が差し出される。

 

 その右手と男の顔を交互に見つめ、少女は少し小首を傾げる。

 

 

 

「……はい、握手、宜しく」

 

「……グスッ、成…程、小児愛好的な意味とか…女性に触れてみたい為の行動……かと思ったけど、握手してって意味だったんだね?……」

 

 

 そう呟いた時雨は、納得したかの様に微笑みつつ、差し出された手を握り返した。

 

 数時間前似た様な言葉を交わしたのは多分気のせいでは無いはずである。

 

 その時と違のは少女が涙顔なのと、男がやっちまったなぁ的な自己嫌悪が面に張り付いた顔をしている処だろうか。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

~後日の何気無い会話にて~

 

 

「ねぇ提督?」

 

「何かな時雨君?」

 

「提督って理詰めで行動する人だって思ってたんだけど、案外勢いだけでやらかしちゃう人だったんだね?」

 

「んんん……んー、なになに何を言い出すのかな君は?」

 

「あれ? 今日はお前って言わないの?」

 

「ええと自分、そんな事言った覚えは無いでござるよ?」

 

「あれ? 俺って言わないんだ……?」

 

「記憶にゴザイマセン」

 

「そう言えばさ提督」

 

「だから何かな時雨君?」

 

「昨日頼まれてたお使いで、ドクペ買ってきたんだけど」

 

「うんそれで?」

 

「ちょっとした手違いでチェリーコーラ買ってきちゃったんだけどダメかな?」

 

「なんだとぉぅ!? 俺のドクペとチェリーコーラ間違えただとぅ!?」

 

「そうそれ、それが見たかったんだ、はいこれ」

 

「」←ドクペガチンジュフニチャクニンシマシタ-

 

 

 

 

 暫くの間は秘書艦にお仕返しという名の玩具扱いされた吉野中佐(28歳独身武装秘書艦に弄ばれ属性ナゥ)は、気分が高まったら素数を数えるというスキルが新たに開花した模様。

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。



 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 大本営第一艦隊旗艦、大戦艦飲兵衛

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2017/11/12
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました鷺ノ宮様、sat様、orione様、有難う御座います、大変助かりました。


「グェェ……ップ」

 

 

 開幕一番がゲップで始まるこのSSは正直どうなんだろうかと云うメタイ話しは横に置いといて、場所は大本営付属出撃ドック横。

 

 その少しある堤防突堤で一人の男、大本営第二特務課々長である吉野三郎中佐(28歳独身この前の健康診断でやや脂肪肝と診断された)が一部消費者よりCD-Rの匂いがすると称されるいつもの清涼飲料水を片手に海を眺めていた。

 

 

 時間は日付を跨いだ辺りだろうか、男の見る先には空と海とが混ざり合った黒い世界が広がっており、少し手前に視線を移せば背後でまだ作業が続いているであろうドックから漏れた光が僅かばかり反射して細やかな変化を見せている。

 

 吉野にとっては新しい課に着任し、人生初となる部下となる艦娘と出会い、互いのちょっとした意見の相違で少しばかりの意見の摺り合わせを行い、親睦をほんの少し深めた処で業務を終了し、風呂メシトイレと済ました後、互いの新しい部屋に持ってきた私物を整理した後疲れたであろう秘書艦を寝かしつけた後、ぶらりと散歩がてら訪れた最終地点がここであった。

 

 

 尚、新しい課に着任したのと同時に吉野には新しい部屋が与えられ、そちらに住所と共に移る事になったのだがそれはまた別の機会に語られる話。

 

 

"プシッ"

 

 

 吉野はここに居座ってから二本目である世間では杏仁豆腐+炭酸飲料っぽい味がすると言われる飲料のプルトップを跳ね上げる。

 

 今日は色々あった、実際に起こった出来事もそうだが、それにも増して精神的部分の変化やそれに伴う自身の仕事に対する方向性への迷い。

 

 今迄は上から命じられた仕事を淡々とこなし、結果をより精度の高い物にする為の模索をする為だけの日々であったと言ってもおかしくない。

 

 それは基本一人で行動し、背負う手間も責任も一人分であった為に可能な物だった。

 

 しかし今日初めて部下を持ち、更にその部下が人では無く艦娘であった為、色々自分が今まで知ってはいたが深く触れる事の無かった部分を垣間見る事になり、自身のこれから就くであろう任務に対してこれまでの様な形での遂行は不可であり、それに伴う方向転換を模索しなくてはいけなくなった事に対しての不安がこの深夜の放浪に至ったと云う訳だ。

 

 

「ゲフッ」

 

 

 本来ならこの様な時酒でも煽れば多少は気分も変えられるのであろうが、生憎とこの吉野三郎中佐(28歳独身実はたれパンダグッツ集めが密かなマイブーム)は酔うと云う事が出来ない。

 

 物理的に飲酒し、アルコールを胃に収める事は可能だ、しかしそのアルコールは吉野の体に影響を与える事は無い、エチルでもメチルでもだ、あったとして少々胃を荒らす程度で酩酊は愚かほろ酔いすら出来ない。

 

 これは体質などと云う生物的特徴に因る物ではなく、極めて科学的な、そして本人にはこの先生きている間ずっと付き纏う呪いの内の一つである。

 

 故にこの男は酒を嫌う、他人が飲む分には無関心だが自身に向けられた場合は目に見えて不愉快な相を露にする。

 

 

「ゲ~~~ップ」

 

 

 三度目のゲップである、世に色々綴られる物語はあれど、物語りが始まって主要人物が終始吐く台詞がゲップのみと云うのはどうなのだろうか?。

 

 くどい様だが三度目である。

 

 

「邪魔をするぞ」

 

 

 そんな無言で炭酸ガスを吐き続ける男の横にドカリと腰を落とす人物……

 

 

「こんばんは、武蔵さん」

 

 

 褐色の肌、世間的にはどうなのだろうかと云う際どい衣装というかサラシにピッチリ身を包んだ艦娘、大和型二番艦武蔵である。

 

 

「ドックから見えたものでな、久しいな、影法師(かげぼうし)

 

 

 武蔵の口から出た影法師と云う言葉に少し苦々しい表情を相に出しつつ吉野は深い溜息を吐いた。

 

 

「艦娘さんは目がいいですね、ドックから此処までたっぷり一キロはあると思うんですが」

 

「なに、何も無い海のド真ん中で米粒より小さい距離の白坊主(しろぼうず)共を51センチで打ち抜く事に比べれば、ドックの先一キロなぞほんの足元にある空き缶を蹴り飛ばす様なものだ」

 

 

 吉野の足元に転がるドクペの缶を指で差しながら武蔵はカラカラと笑った。

 

 

「後気配を殺して近付くのは辞めて貰えませんかね? 漏らすかと思いましたよ」

 

「フッ、気付いてた癖に良く言う」

 

「真後ろに立たれた時ですけどね、戦場なら死んでるとこですよ」

 

「艦娘でもこれに気付ける者はそう多くない、誇っても良いと思うのだがな?」

 

 

 武蔵はそう言いつつ右手をスカートの中に突っ込むと日本酒の瓶を取り出した、サイズ的に4合瓶の様だが武蔵の履いているスカートの丈的に考えるとそこは例の四次元的なアレの機能に因るものだろう。

 

 次いで左手でパチンと指を弾くとぐい飲みがその手に納まった、突っ込まない、突っ込まないぞと吉野はぐっと堪える。

 

 

「っと、ツマミはこれで良いか」

 

 

 そう言うやいなや酒の瓶を傍らに置いた武蔵は、右手で胸のサラシに手を突っ込んだかと思うと、ズルリと某軽巡と同名のマークが入ったさきイカの袋を取り出す、因みにお得用の様でかなりのボリュームだ。

 

 

「そっちか~…… いつか誰かやるとは思ってたんだけど武蔵さんか~…… そうか~……」

 

「む、食うか?」

 

 

 開封したさきイカの袋を差し出す武蔵。

 

 右手に持つドクターペッパーとさきイカの織り成すハーモニー、うん、無いな、それは無い、そう判断した吉野は口の中で発生するであろうハルマゲドンを回避する為遠慮を示す右手をさきイカの袋の前にかざした。

 

 

「そうか、なら飲むか?」

 

 

 プラプラと酒瓶を揺らす武蔵だが、吉野は露骨に嫌そうな表情を表に貼り付け首を横に振った。

 

 

「あーあーつまらん、嫌う理由は判るが、酒は人の口を滑らす道具にもなれば人間関係を円滑に回す油にもなる、下戸の建てた蔵はないと言うぞ? 少しは(たしな)んでみてはどうだ」

 

 

 そう言うと酒瓶の口を切り、そのまま瓶を煽ると中身の半分程を喉に流し込む、酒豪らしい武蔵の飲み方である。

 

 

「武蔵さん?」

 

「何だ?」

 

 

 吉野は武蔵の脇に転がるぐい飲みを無言で指差す、それを見た武蔵は、ああと頷いて……

 

 

「折角新技を披露したのにスルーされてしまったな」

 

「なにしてんの大和型二番艦!? 連合艦隊旗艦ってそんなワザ編み出しちゃったりする程暇なの!? ねぇ!?」

 

「アッハッハッ、相変わらずで何よりだ、貴様と飲むと肴がいらんので酒代が安くて済む」

 

 

 そう、今目の前で酒瓶を煽り、胡坐をかいて豪快に笑う呑兵衛、銘を大和型戦艦二番艦武蔵、日本海軍大本営第一艦隊旗艦にして連合艦隊旗艦、立場だけで言えば日本の艦娘の頂点に立つ内の一人である。

 

 

「相変わらずって事ならお互い様じゃないですかね、何でいつも小ネタを仕込んでくるんです?」

 

 

 ジト目でそう返す吉野に対し、ヒラヒラと手を振りながら武蔵はさきイカの一本を口に放り込みながら不満気に愚痴を(こぼ)す。

 

 

「最近つまらんルーチンワークの繰り返しでストレスが溜まっててな、こういう事は身内にしか出来んしまぁ何だ、許せ」

 

 

 ガハハと笑いつつ背中をバンバン叩く武蔵、その勢いで本日四度目のゲップを口から漏らす吉野であった。

 

 

「ケフッ、ルーチンワーク? ……ああ定期清掃に出撃してたんでしたっけ?」

 

「……うむ」

 

 

 【定期清掃】、数ヶ月に一度大本営所属の艦隊が制海権内に発生した深海凄艦を討伐する為に出撃する事の隠語である。

 

 

 人類が深海凄艦と呼ばれる天敵と相見えてから30年。

 

 最初の5年程は人類の持つ兵器が殆ど効果を発揮しない相手に対して一方的な敗北を繰り返し、一時期瀬戸内海を含め一部の内海以外が深海凄艦のテリトリーとなった、海路を閉ざされ、敵の分布が比較的薄い場所を縫う様に飛ばねばならぬ空路も増え続ける深海凄艦の為に用を成さなくなった。

 

 海岸線から大きく内陸へ疎開し建て直しを図ったものの、海に囲まれ資源の殆どを国外に依存していた日本は緩やかな死を迎えるのも時間の問題と思われた。

 

 それから更に3年、"最初の五人"と呼ばれる艦娘が妖精という存在と共に現れ極僅かながら主要都市周辺の海域を奪還、同時に政府はこの艦娘と妖精に接触を図り協力を取り付け、軍の再編と艦娘の建造及び運用法を確立し、日本に面した海岸線全てを開放するのに更に2年。

 

 その後は順調に橋頭堡(きょうとうほ)を設け、艦娘の数を増やし、爆発的に制海権を広げた軍は大々的に反抗戦を展開、その時の試算では10年も要さずに世界の海を深海凄艦から奪還出来るはずだった。

 

 

 そう"はずだった"のである。

 

 

 それはある程度海域を開放した時の事である、それまで数は多いものの特に戦略的な行動をしていなかった深海凄艦が徐々に組織的な行動をするようになってきたのである。

 

 更にそれに呼応するかの様にそれまで確認されていなかった上位個体、後に姫や鬼と分類される深海凄艦が現れた為、軍は更なる戦力投入を余儀なくされ徐々にその勢いが無くなっていく。

 

 

 問題はそれだけでなく、支配下に置いた筈の海域では時間経過と共に駆逐した筈の深海凄艦が増えていき、最終的に姫や鬼といった上位固体までもが現れるという現象が発生、爆発的に増えないものの、定期的に間引かなければ維持が出来ないという事態に陥る。

 

 一方の人類側はある程度艦娘が建造されそれなりに戦力は整いはしたものの、ある程度の数が建造されると艦娘本体ではなく艤装のみが出来上がるという事案が頻発、海域で稀に邂逅する艦娘にも同じ現象が見られる様になった。

 

 艤装自体は既存の艦娘の改修に使用されある程度の強化が可能ではあったが個体数の増加に比べ戦線の拡大という戦果を残すにはそれでは不充分であった。

 

 

 それならばと一部の前線基地では、"捨て艦"と呼ばれる手法でわざと性能の劣る艦娘を沈め、より戦果の期待出来る強力な艦娘を迎えようとしたが、意図的に艦娘を沈めた基地では艦娘はおろか艤装すら建造が出来なくなり基地機能が維持出来なくなった為閉鎖を余儀なくされた。

 

 

 紆余曲折と多大なる犠牲の末現在では新たに海域を攻略するのは戦力と資材を潤沢に使える程の準備が整った時のみ行い、平時では各前線基地が一定数の深海凄艦を間引き、強力な上位個体が確認された時にのみ大本営が持つ強力な艦隊で駆逐するという"ルーチンワーク"が出来上がった。

 

 

「成程、確かに武蔵さんが愚痴を零したくなる気持ちも判らんではないですが、海域維持も大切なお仕事ですよ? それがなきゃ国民が餓えるし軍は干上がっちゃいますからね」

 

「まぁな、今こうして私が酒を煽ってる瞬間この海のどこかで同胞が血を流し、命を散らしている、それをルーチンワークなんぞと云う言葉で片付けるのは冒涜だ、しかしな、もう足踏みを始めて20年は経つ、初めて会った時は鼻垂れ坊主だったヤツがその筋では"影法師"と恐れられる位に成長する程にはこの戦争は停滞したままだ」

 

「そっちの名前で自分を呼ぶのは武蔵さんと叢雲さんだけですよ、カンベンして貰えませんかね?」

 

「ふふふ、連合艦隊旗艦と"最初の五人"の一番槍にそう呼ばれてるんだ、光栄な事じゃないか?」

 

 

 からかいの相を表に出しつつ眼鏡の位置を直す仕草をする武蔵の手にはチーかまが握られていた。

 

 

「ん?」

 

「んきぎ…… ん? 何だ食いたいのか? ほれ」

 

 

 包装ビニールからチーかまを出す為に噛り付いていた武蔵はもう一本チーかまを取り出した、眼鏡フレームから。

 

 

「んんんん?」

 

「何だ? まだ欲しいのか? この欲しがりやさんめ、ほれ」

 

 

 更に一本武蔵はチーかまを取り出すと吉野に投げして寄越した、眼鏡フレームから。

 

 

 念の為補足しておくと、眼鏡とは目の屈折異常を補正したり、目を保護したり、あるいは着飾ったりするために目の周辺に装着する器具であり、金剛型戦艦四女の本体と噂される物である。

 

 眼鏡フレームとはその眼鏡の一部を構成する部品であり、多くはプラスチックやスチール、チタン等と云う素材で作られており、高級品には水晶やべっ甲を使用する物もある、また金剛型戦艦四女の本体と噂される物の一部を構成する部品でもある。

 

 更に補足すると、一般的にその素材として小物入れやスーパーのレジ袋等は使用されていない。

 

 そう、収納に関する要素は皆無である、微塵も、毛の先程も。

 

 

「うぉぉぉぉ明石ぃぃぃぃ、明石ぃぃぃぃぃぃぃ、明石の技術は世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「むっ? どうした藪から棒に」

 

「いやいやいや、いいんですよ、判ってます、明石なんでしょ? その眼鏡」

 

「うん? 何を言いたいのか良く判らんがこの眼鏡なら通販で買った物だがそれがどうかしたのか?」

 

「え? 通販?」

 

「そうだ、霧島に教えて貰ってな、中々良い品揃えをしていたので試しに一つ購入してみた」

 

「ど……どこの通販でしょう?」

 

「確か○天とか言ったか、注文したら3時間で届いたぞ? 中々便利だなあれは」

 

「楽○んんんん!?」

 

「他にも霧島専用(3倍界王拳)とか大淀専用(艦隊司令部施設)とかも売っていたぞ」

 

「へ…… へ~ そうなんだ…… へ~……」

 

 

 そうにこやかに言う武蔵は次のツマミであるサラミスティクに噛り付いていた、当然眼鏡フレームから取り出した物だ。

 

 

 吉野は謎技術は軍の、特に明石と妖精の専売特許で特別な物と思っていたが、案外自分が知らない処で普通な物なかもしれないと感じ、後学の為に帰ったらリサーチしてみようと心に決めたのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ところでな」

 

「はい」

 

「情報一つと忠告一つ、あと伝言が一つある」

 

「やっと本題ですか……」

 

「戦いの後だ、火照りを冷ますのと舌を湿らすのに僅かばかりの酒は必要だとは思わんか?」

 

「一升以上空けといて僅かばかりなんて言うのはどうかと思うんですけどねぇ……」

 

「こんなご時勢だ、いつ私も靖国に呼ばれるのか判らん、せいぜい心残りが無い程には飲ませて貰うさ…… さて」

 

 

 そう言うと武蔵は胡坐のまま体を吉野の方に向け、真面目な相を向ける、つい今しがたまで酒を口にしていた飲兵衛のそれでは無く、武人としての戦艦武蔵の顔だ。

 

 

「近々ウチの加賀が貴様の下に就く」

 

「加賀さんですか? またそりゃどうしてです?」

 

「貴様の処に行くはすだった大鳳の着任な、あれが無しになったらしい、恐らくその穴埋めだろう」

 

「はぁキャンセルですか、どこ情報ですそれ?」

 

「上司と"世間話"をしている時に聞いた」

 

「ほ~そりゃまた、何かあったんです?」

 

「リンガに奇襲があったらしくてな、定期清掃で主力が出ていた関係で守りが薄くなっていたんだろう、結果として防衛線が抜かれて泊地施設に直接弾がズドン! だ」

 

「基地施設に直接? 冗談でしょ?」

 

「冗談だと良かったんだがな、お陰で上は大騒ぎさ」

 

「【定期清掃】した海域に、作戦終了直後、更に艦隊が帰還する前のピンポイントで奇襲ですか、きな臭いですね……」

 

「ああ、航路上の敵も主力艦隊も確かに潰してきた、幾ら沸いて出るヤツらとてたった一日二日で元通りなんて事はまずあるまい……」

 

 

 そう言うと武蔵は顔を吉野に寄せてきた

 

 

「ここだけの話、奇襲を掛けて来たヤツらの中には姫級も居たらしい、その辺りの事を考えると、間違いなく他海域から来たヤツらだ」

 

「今までテリトリーを離れて進軍する姫級は稀だったし、あったとしても強行偵察程度だったはず……」

 

「そうだ、これでこっちはまた一つ戦略を潰された、ついでに海域の維持に何か手を打たなければないという頭の痛い問題も発生した」

 

「成程、とりあえず近隣の動かせる戦力をリンガに移動させて支配海域外からの進軍を抑える事にした ……と」

 

「その結果、大鳳は中央の貴様の処ではなく南方へ移動にと ……まぁこういう訳だ」

 

 

 両の掌を上げ肩を竦める武蔵

 

 

「……ところで武蔵さん、穴埋めは判るんですがなんで加賀さんなんです?」

 

「ほぉ? それを私に聞くか? "影法師(かげぼうし)"」

 

「情報を頂けるんじゃなかったんです?」

 

「私は"上司との世間話で聞いた事しか喋らん"よ、そして貴様の上司は私の上司でもある、判るな?」

 

「はぁ…… 幾ら漏洩のリスクを減らす為だからって武蔵さんを使う事ないでしょうに……」

 

「まぁそう言ってやるな、アレも立場が微妙だからな、正規の手続きでは伝えられん事の一つや二つはあってもおかしくはあるまい?」

 

「そしてその煽りを食うのはいつもこっちなんですけどねぇ」

 

「納得いかないなら自分で色々かき集めてみるんだな、それが石になるのか(ぎょく)になるのか判らんが、少なくとも私と違ってその手の事は貴様が専任だろ? 違うか?」

 

 

玉石混淆(ぎょくせきこんこう)ねぇ…… 嫌な予感しかしないんですが」

 

「まぁ、そういう事だ、寝首を掻かれたく無かったら精々情報収集に励むんだな」

 

 

「そしてここからは"私個人としての忠告"だ」

 

「……伺います」

 

「特務課に補充要員が充てられる、数はまだ確定しておらんようだが確実に桁は一つ増える算段だ、私たち第一艦隊も平時はこちらに含まれる、更に大本営所属のまま前線に出していた戦力を一旦戻し、戦力の再編を行う予定だ」

 

「はぁ!? 戦力の再編成!? 全軍のですか!?」

 

「"上司"が動かせる範囲での、な、ついでに貴様が今迄やっていた類いの業務は引き続きこっちでやる事も確定事項だ、……ああペスと那珂の辺りは依然貴様の管轄らしいがな」

 

「ちょっとぉぉ~ なんで犬の世話とかパシリとかだけそのまんまなのぉ? ……って自分は諜報関係引継ぎ一切やってないですよ? どうすんですそっちは?」

 

「貴様の抱えてた案件は全て消化したんだろう? それに貴様が使ってる(つて)は他のヤツでも使えるものなのか? まぁそういう訳だ」

 

「まぁそう言われれば確かにそうなんでしょうけどねぇ……」

 

 

 大きく溜息を吐いた吉野は半分以上残っている缶飲料の中身を一気に胃に流し込んだ

 

 

「貴様の秘書艦は護衛しか出来ないものの、リ級エリートを落とした事もある格闘能力を持っている」

 

「……グエエップ」

 

 

 本日五回目である、あえて何がとは言わない。

 

 

「仮にではあるが着任が決定している加賀も大本営の屋台骨を長年支えてきた古強者だ」

 

「……」プシッ

 

「おまけにこの武蔵をサシで仕留めた【武蔵殺し】までお前の元に来るという…… っておい貴様! ちゃんと人の話を聞いているのか?」

 

「……真面目に聞いてるからヤケドクペでもしないとやってらんないんですよほんとにもぅ」

 

「何訳の判らん事を言っているのだ、 ……まぁしかし改めて考えてもだな、幾ら大本営の機関だといっても新設の、しかも一介の中佐に与える戦力では無いな」

 

「ですよねぇ、しかも課の設立決定から着任までの時間が短過ぎますし、それこそ諸々の手続きをすっ飛ばしてトップから現場へ直接命令を出さないと無理な早さですよこれ」

 

「手続き関係の話ならちゃんとした訳があるがそれはまだ言えん、しかし近日その理由は明らかになる、それまで待て」

 

「はぁ、なら武蔵さんの忠告というのはこれからウチがやる業務内容について気を付けろって事でいいんですかね?」

 

「そうだ、この武蔵が直接忠告する程特別厄介な物だと思えばいい、私が言える事はここまでだ」

 

 

 ガシガシと頭を掻く吉野、今頭の中ではバラバラになった情報を繋ぎあわせて形にしようとフル回転中である。

 

 

(こっちの専門は(から)め手、しかしそっちの業務は別部署が引き継ぐと……)

 

「……」

 

(しかも部下として送られて来るのは戦闘寄りの能力に特化した艦娘が多数)

 

「……」

 

(更にこのタイミングで南方戦線に大きな変化と、戦力配置の再編と、ふむ……)

 

「……」ペラッ

 

 

 いつになく真面目な相の吉野、視線の先には胡坐(あぐら)をかいたままスカートを捲り上げる大和型二番艦戦艦武蔵、意味が判らない。

 

 

「……武蔵さん」

 

「何だ?」

 

「見えてます、紐パン」

 

「うむ、ちなみにこれは紐パンとやらではなくサラシだ」

 

「ある意味ただの紐と言えなくも無いですね、それでですね武蔵さん」

 

「ん? 何だ欲情したか? まだ話しはあるのだがこのまま場所を移して寝物語(ねものがたり)にしてもいいんだぞ?」

 

「ちぃがぁうのぉぉ~ 真面目に考えてたのぉぉ~ 何? パンツ? パンツさんなの? 吹雪さんなの?」

 

「サラシだ、フフフ、怖いか?」

 

 

 そう言う武蔵はスカートの裾をパタパタと上下させる、成程、ある意味恐怖を感じなくもない。

 

 

「それで、話の続きって何です?」

 

「うむ、私としてはこれが一番重要な話なのだが」

 

「それよりいい加減スカート降ろして下さい、大和型戦艦二番艦痴女」

 

「うむ」

 

 

 武蔵は素直に頷くと、スカートの裾から手を離す。

 

 

「でだな」

 

「はい」

 

「痴女とは何だ?」

 

「アンタ知ってて聞いてるだろ!? カマトトなの!? 痴女でカマトト属性ってどんな新ジャンル!?」

 

「……すまんが言ってる意味が判らんのだが?」

 

「……マジデスカ?」

 

「うむ」

 

「……」

 

「……」

 

「とりあえず用法ですが、大将の執務室に行きます」

 

「うむ」

 

「スカートを捲くり上げサラシを大将に見せ付けます」

 

「……良いのか?」

 

「良いのです、そして『痴女です』と言えばいいのです」

 

「? ……それでどうなるのだ?」

 

「恐らく新世界が広がります」

 

「……ふむ? 何やら判らんがやってみよう」

 

「御武運を」

 

 

 珍しくビシリと敬礼を向ける吉野、同じく答礼する武蔵、ここだけ抜き出せば正しく海軍の姿であるが、色んな意味で間違っていると言う事は補足しておく。

 

 

「まぁそれでだ」

 

「はいはい何でしょう?」

 

「えらく気の抜けた返事だな、まぁいい先々代連合艦隊旗艦から伝言だ」

 

「先々代?」

 

 

 武蔵の口から出た言葉に困惑の色を見せる吉野、それもその筈、歴代連合艦隊旗艦を勤めた艦娘は4人。

 

 

 初代は"最初の五人"の内の一人、現在日本海軍大隅巌(おおすみ いわお)大将の秘書艦を勤める吹雪

 

 二代目は大本営で建造された初の戦艦長門型一番艦長門

 

 三代目は現、元帥大将の秘書艦である大和型一番艦大和

 

 そして四代目は現在の武蔵となっている。

 

 

 この中で吉野が見知っているのは吹雪、大和、武蔵。長門が旗艦を勤めていた時期はまだ軍に席を置いていなかったので残念ながら接する機会が無かった。

 

 

 因みにややこしい話ではあるが、日本海軍での最高位は大将であり、良く勘違いされているのは元帥というのは大将に与えられる称号の事を指す、元帥と云う階級は存在しない。

 

 何故そうなのかは判らないがとりあえず一番偉い大将が元帥大将、大将flagshipとと呼んでもいいかも知れない、そしてその次にただの大将、これは大将eliteになるのだろうか。

 

 と言う事は大隅巌(おおすみ いわお)大将(elite)の部下になる吉野三郎は吉野中佐(後期型)辺りになるのだろうか? 心底どうでも良い。

 

 

「そうだ、何年か振りに連絡が来たと思ったら『どうか妹を宜しく頼むと伝えてくれ』のたった一言だけ、それも電文でだ」

 

「どういう事です? 自分に陸奥さんの知り合いは居ませんが?」

 

「あいつの妹は北に沈んだ、当時の僚艦も一緒にだ、そしてあいつだけが残った、姫級と始めて遭遇した戦いだと聞いている、その後連合艦隊旗艦を辞して妹が沈んだ海に一番近い泊地へ転任した、単冠湾泊地だ、今もそこで旗艦を張ってる、恐らくだが貴様の秘書艦に昔の自分を重ねて見たんだろうな」

 

「……成程、時雨君の事ですか」

 

「私は今迄あいつ程戦場対して苛烈に向き合う艦娘を見た事が無い、そしてあいつ程仲間に対して情に厚い艦娘も他に見た事が無い」

 

「"人修羅(ひとしゅら)の長門"……」

 

「そんな名前もあったか、まぁ何だ、落ち着いたらでいい、便りの一つもくれてやる様に言っといてくれ」

 

(うけたまわ)りました」

 

 

 そう言うと吉野は手に持った一部消費者より青酸の香りがすると評判の炭酸飲料を飲み干すと、足元に転がる缶と一緒にビニール袋に詰め込んだ、そして……

 

 

「始末、お願い出来ます?」

 

 

 それを聞いた連合艦隊旗艦大和型二番艦武蔵は己の眼鏡を指でトントンと指しつつ

 

 

「後かたづけも、作戦の内だ」

 

 

 と答えるのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ~後日、某楽○サイトショップ検索の結果~

 

 

 

【送料無料】【オーダメイド受け付けます】【大容量収納】【ポップカラー】武蔵専用眼鏡

 

 全品ポイント10倍♪ 【処方箋(しょほうせん)の確認不要】

 

                     -眼鏡・コンタクトの明石家-

 

 

 

「明石ぃぃぃぃ! やっぱりかぁぁぁぁ! やっぱりお前か明石ぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 

 

私物のノートパソコンの画面に向って本気度MAXの突っ込みを入れる吉野三郎中佐(28歳独身実は紐パンがちょっぴり気になるお年頃)の姿が事務室にあったのはまたいつか語られる日がくるかも知れない。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますがその辺りご容赦頂けたらと。


 それではどうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

金剛型三番艦 戦艦榛名、ダンボールで着任しました。

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



2017/12/03
 誤字脱字修正致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、対艦ヘリ骸龍様、有難う御座います、大変助かりました。


「高速戦艦榛名でーす、あなたが提督なのね?・・・・まあいっか、適当でも」

 

 

 色々駄目な台詞が混じった言葉をやる気無さ気に口から押し出しつつ、金剛型三番艦榛名はゆっくりとした動きで敬礼を取り着任の挨拶を済ます。

 

 

「うん?…… もっちー…… ああうん、あー…… え、どういう事なの?」

 

 

 困惑気味な着任挨拶が展開されているのは大本営執務棟二階、第二特務課の事務室である、時間は1050、因みに場所は事務室隅に設置されている応接コーナーだ。

 

 何故着任の挨拶が応接コーナーで行われているのかという理由はこれより約5分ほど前に遡る。

 

 

 その前にちょっと説明になるが、この第二特務課という部署に割り当てられている専用の設備は事務室だけではない。

 

 事務室に併設して課長私室、廊下を挟んで向かいが艦娘の為の私室が六つ、奥にはリビングと呼ばれるキッチンを備えた空間があり、最奥には浴場や洗面所等が配されていた。

 

 これらの施設が設置されたフロアを認証が必要な強固なドアを使って蓋をする事で、機密保持とプライベートを確保した一つの部署として運用している。

 

 この様に執務から私生活まで簡易ではあるが全て賄う事が出来る形に纏めたフロアを大本営内では【小さな鎮守府】と呼んでいる。

 

 大本営執務棟にはこの小さな鎮守府施設が各階2つ、2階から4階に計6つ設置され、現在第一艦隊から第四艦隊に各1つ、そしてそれに第二特務課を足した5つの部署に割り当てている。

 

 大本営には他に鎮守府棟というものが存在し、他の鎮守府同様の運営がされている、当初大本営直轄の艦隊もここに居を構えていた。

 

 しかし大本営直轄である第一艦隊から第四艦隊は軍を代表する強力な艦娘が集められた関係上固定メンバーで構成され基本入れ替わりが無い。

 

 更に各艦隊は大将以下大本営に所属する特定の将官の麾下に於いて任に就いている関係上非常に機密保持が高い環境が求められた。

 

 その結果鎮守府棟では他拠点と同じ周辺海域を防衛する通常艦隊を置き、大本営直轄艦隊はその拠点を執務棟に移す事になった。

 

 

 小さな鎮守府という特殊な施設が執務棟に入っているのはこの様な特殊な理由故の事である。

 

 

 その為生活と執務を同じ場所で行う第二特務課に新規着任する艦娘は、荷物をこの小さな鎮守府にある其々に割り当てられた私室に運び込む事になる。

 

 

 話を戻そう、0800、第二特務課施設に着任予定の榛名の荷物が運ばれて来た、雑務の妖精さんの手によって。

 

 普通引越し荷物等はパンダな業者かニャンコな業者が運んできそうなものだがそこは軍事施設、機密保持の関係上民間の手は入れられない、そこで荷物は軍直轄の運搬部隊が収拾・配達を行っている。

 

 

 次々と運び込まれるダンボール、横には【明石配送サービス】の文字がプリントされている、もはや名称が部隊のそれでは無い気がするがやっぱり明石か、そうか、明石か。

 

 先任の時雨が持ち込んだのはほんの手荷物程度だった事に比べ随分多く感じるが、艦娘と言えどそこは年頃の乙女、本来ならこの程度の量は当たり前なのだろう。

 

 

 1030、荷物の搬入が完了する、荷主である榛名の着任がまだなので吉野が受け取りのサインを伝票に書き込む、サインをしたのは軍書式の書類ではなく宅配伝票風な何かなのは気にしないでおこう、明石なのだからそれは仕方が無い。

 

 問題は運び込まれた荷物の多さでも、作業をしている妖精さんの格好が明らかに引越し業者風のユニホームなのでも無く、ましてや妖精さんが去り際に置いていった伝票控えと共に明石運輸という名前が入ったパンフレットが添えられていた事でもない。

 

 

 

 運ばれた荷物の中に一つだけ 【必着:特務二課吉野三郎様宛て】 と云う伝票が貼られた大きな荷物があった。

 

 

 

 やたらクソデカイく重量もそれなりにあった為、妖精さんにお願いして運んで貰う、割れ物注意の張り紙があったので床に直接置く訳にはいかない、仕方なく応接セットのソファーの上にそれは置かれた。

 

 とりあえず荷物搬入を見届け終了を確認後、事務室に戻りやれやれと応接セットのソファーに腰を下ろす、向かいのソファーの上には構成素材がダンボールで無ければ棺桶と言われても納得してしまいそうな物体が自己主張をしていた。

 

 何故だか物凄く中身を見るのが躊躇われる、自分宛のダンボールではあるが開けてもいいのだろうかというかぶっちゃけ開けたくない。

 

 虎柄のチャンチャンコを着た例の少年が 「父さん、妖気を感じます!」 という台詞と共に頭頂部の毛髪がピコーンとそそり立つ光景が思考の隅を掠める、何故だろうか。

 

 

「……」

 

 

 棺桶然をした物体を前にどうしたものかと考えていた処に、妖精を見送ったのであろう秘書艦時雨が事務室に入って来た。

 

 

「妖精さんの撤収は完了したよ、提督、お茶でも淹れようか?」

 

「お疲れ様時雨君、そうだねぇ一服入れようか」

 

 

 コクリと一度頷いた時雨は応接セット脇に設置された冷蔵庫からコーラの前を横切る冒険活劇飲料と、吉野の分であろう一部のユーザーに初見殺しと言われる飲料が入った赤いメタリックの缶を取り出す。

 

 茶を淹れると言いつつも冷蔵庫にある飲み物を出すのはどうだろうかと思われるだろうが、現在ここに居る二人の間では休憩時に供される飲み物は冷蔵庫の中で冷やされている特定のブツだというのは、ここ一週間の間に定着したお約束事なのである。

 

 

 吉野の視線は依然目の前に横たわるダンボールに注がれていた。

 

 開封の儀は送り主の到着まで先送りするという選択肢もあったが、謎のダンボールを眺めつつドクターペッパーを片手に過ごすという妙にシュールな光景が頭に浮かぶ。

 

 一度溜息を吐くと精神衛生上先に中身を確かめ荷物を片してしまった方がいいと判断し、意を決して立ち上がる。

 

 執務机のペン立てからカッターを持ち出すとダンボールに封をしているガムテープの部分に刃を差し込む。

 

 

 

 時間は1048。

 

 

 

 閉じられていたダンボールの蓋を開ける

 

 中身、金剛型戦艦三番艦高速戦艦榛名を確認。

 

 目が合う。

 

 暫し見詰め合う。

 

 一旦ダンボールの蓋を閉じる。

 

 

「……」

 

 

 再びダンボールの蓋を開けて中身の確認をしてみる。

 

 金剛型戦艦三番艦高速戦艦榛名を確認。

 

 再び目が合う。

 

 暫し見詰め合う。

 

 静かに蓋を閉じる。

 

 

 そのままテーブルに備え付けの電話を取る。

 

 

「あ~明石酒保? あ、妖精さん? 自分自分、え? 自分自分詐欺は巣にカエレ? いや何その新ジャンル!? じゃなくて第二特務の吉野だけど、うんうんその吉野、あのさ明石居る? え? 留守? どこ行ったの? うん、え? 明石連合決起集会? 明石の明石による明石の為の労働環境改善? え? なに労組なの? ゲティスバーグなの? うんうん…… あそう、そうなんだ…… へぇ~…… うん判った」

 

 

 電話を切ると同時にゴソゴソという音がダンボールから聞こえ蓋が開かれる。

 

 横たわるダンボールからムクリと上半身を起こした艦娘が吉野を見る、訳が判らない。

 

 因みに応接セット脇では時雨が冷蔵庫から取り出したブツを両手に持った状態で何とも言えない表情をして固まっている。

 

 妖精さんが置いていった吉野宛のダンボールの中身は第二特務課に配属になる二人目の艦娘、銘を金剛型三番艦高速戦艦榛名、ブイン基地より今日着任予定と聞いていた艦娘だ、全く以って意味が判らない。

 

 

 壁に掛けてある時計の針は1050を指し、カチコチと秒針が刻む音だけが静かに事務室を支配する。

 

 

 ダンボールから姿を現した榛名が気だるそうな仕草をしたかと思うと微かに息を吸う音がその場の空気動かす、かくしてその口からは吐息の変わりに着任の報告の為と思われる挨拶が吐き出されたのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「さて、ウチでは着任時にある儀式を行う事になってるんだけど……」

 

 

 そう言う吉野の目の前には味付け海苔の缶が4つ、応接テーブルの上に逆さの状態で立てられている。

 

 向かいにはダンボールから這い出してきた榛名が、左隣には秘書艦時雨が座っている。

 

 

「特にこれといって特別な事しないんだけどね、まぁ色々一緒に仕事をしていく上でお互いの事を理解してないと色々とマズいし、急遽立ち上げになった課なもんだから自分の処には君達の情報詳細が無いんだよね。」

 

 

 そう吉野が言う横では時雨がテーブルの上に置いている缶の一つをスススス……と持ち上げる、中に見えるのはドクターペッパー、吉野が愛して止まない炭酸飲料だ。

 

 チラリと時雨は榛名の顔色を伺う。

 

 

「……」

 

 

 榛名の表情に変化無し、吉野に視線を移すとコクリと頷いたのでドクペの缶を吉野の前に移動させる。

 

 

「まぁそれで確認の為色々と聞かせて欲しいんだけど……」

 

 

 スススス…… と二つ目の味付け海苔の缶を時雨が持ち上げる、次に姿を現せたのはサスケ、時雨に与えるとキラが一つ付くというコーラの横を駆け抜ける冒険活劇飲料。

 

 先程と同じく榛名の様子を伺う。

 

 

「……」

 

 

 反応無し、サスケの缶は時雨の前に。

 

 

「早い話、面談的なものをしようかと思うんだな、うん。」

 

 

 三つ目の缶を静かに上げる、中から現れたのはメッコール、"結論は3本目からにしてほしい"というキャッチコピーが有名の麦茶in砂糖炭酸だ、因みに吉野は二本を飲み三本目は壁に叩き付けた覚えがある、一般人が結論を出すのに3本目は致死量と判断したからだ。

 

 榛名の表情に変化無し。

 

 時雨はメッコールの缶をテーブルの脇に移動した。

 

 

「まぁ面談といっても確認する事はそんなに無いから時間はそんなに掛からないと思う。」

 

 

 そう言うと最後の缶は位置的に時雨から遠かったので吉野が持ち上げる、中に鎮座するのはひやしあめの缶、一見するとそばつゆの缶に見間違えそうな風体をしているが中身はショウガと大量の水飴がぶち込まれただけの水という物だがシンプルながら殺傷力がバツグンの関西からの刺客。

 

 

「……」ピクリ

 

 

 ほんの僅かだが、榛名の眉根がピクリと動いた。

 

 

「え……うそん?」

 

 

 試しにひやしあめの缶をゆっくりと左右に移動してみる、榛名視線は依然缶を追っている、何という事だ、てっきりメッコールが本命だと思っていたのだが、何かの罰ゲーム用にと冷蔵庫にぶち込んでいた物に榛名が反応を示している。

 

 

「……粗茶ですが」

 

 

 そう言って榛名の前にひやしあめの缶を移動させる、無言だが榛名はその缶をじっと見つめている、眉根を寄せて。

 

 

「え? もしかしてHOT派なの!?」

 

 

 そう、このひやしあめ、夏はキンキンに冷やしてゴクゴクと飲む物らしいのだが、冬になると暖めてフーフーと啜る飲み物としても供される、その証拠に榛名から見た缶にはひやしあめと達筆な毛書体で文字が書かれているが、吉野側から見ると同じ書体であめゆと書かれた文字が確認出来るリバーシブル仕様、ひやしあめをHOTにするとあめゆという飲み物になる、関西圏では常識らしいが缶の表裏で名称が変わる商品というのはJARO的にアウトなのではと思うがまあいい、暖かい大量の水飴、際立つショウガのフレーバー、うん、テーブルをひっくり返したくなる。

 

 試しに缶を回してあめゆの方にチェンジしてみる、榛名の眉間の溝が更に深くなる。

 

 

「やっぱこっちなの?」

 

 

 再び缶を回してひやしあめの面を向ける、榛名の表情は相も変わらずひやしあめの缶を睨んだままだ、吉野は表裏どちらが正解なのか判らず頻繁にひやしあめの缶をくるくる回す。

 

 

「えっと、一体何をしているのかな?」

 

 

 時雨が首を傾げるのも無理は無い、端から見れば無意味にくるくる缶を回しているだけなのだから。

 

 しかしひやしあめ愛飲者とあめゆ愛飲者の間には千島・カムチャツカ海溝より深い溝が横たわる、そう、某きのこたけのこ戦争の様に、なまじ温度が違うが中身が同じという飲料故両派閥の言い合いはもはや同属嫌悪、相手を攻撃する内容は天に唾するかの如く自分にブーメランとして返ってくるのという悲劇の連鎖を生み出すのだ、遺恨の根は限りなく深い、そう、ニューヘブリデス海溝よりも、だからどうした。

 

 

「時雨君、人の生み出す負の連鎖はどこまで続くんだろうね……」

 

「提督が何を言ってるのかちょっと僕には判らないかな」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「あー、えっとそれじゃ改めて、面談いいかな?」

 

「……どうぞ」

 

「あ、うん、えーとじゃあ先ずこれなんだけど見て貰っていいかな?」

 

 

 そう言って吉野が差し出した紙は榛名の略歴が記載された書類、例の辞令と共に渡された書類の一枚だ。

 

 

「これは……」

 

「それは自分がこの課の辞令を受けた際一緒に受け取った一枚だね、それで大体君達の略歴とか諸々確認したんだけど、榛名君から見てその内容ってどうだろうか? 何か不足している部分とか間違った部分とかあれば教えて貰えると助かる。」

 

「略歴は…… はい、概ねこの通りです、提督はこの書類を見てどう思いましたか?」

 

「略歴を見てという事だよね? んー……」

 

「……」

 

 

 思案顔の吉野を榛名は凝視している、ここに来てから殆ど自発的な言葉を発しなかった榛名が始めて会話らしい受け答えをした。

 

 

「普通中央から徐々に前線へ転任していくのはこう言ってはナンだけど、戦力的な数合わせの交換の意味合いが強い、例えば戦力が高いと判断された艦娘を一人中央に召還する変わりに、総合的に釣り合いの取れる数の艦娘を前線に送るという形、数が欲しい前線と質を求める中央との利害が一致するパターンだね」

 

「はい」

 

「一体多数みたいなトレードが全てじゃないけど大抵はそんな形の移動に落ち着く、これは前線に行く程戦略的にベストじゃなくてベターという選択肢にならざるを得ないからね、一人の強力な艦娘より、そこそこ戦える艦娘が複数居る方が戦線を維持する上でより多い選択肢を取れる」

 

「その通りです」

 

「で、榛名君の略歴には転任時期とそこでの所属歴しか記載されてないからトレードなのかどうかは判らないけど、君は時間経過と共に最前線へ転任している…… これは転任を繰り返す艦娘に良く見られるありがちなパターンと言える」

 

「そうですね」

 

「今言った戦力的トレードでの転任は最前線へ行くに従って先ず支援艦隊や予備人員へ配置になる事が多い、どの拠点でも主力は大抵固定に近い状態だし、その場所で長期間戦っている艦娘が重用されているからだ、でも君はどの任地でもいきなり第一艦隊所属、それも旗艦を経験している、これは戦力として請われて転任した結果なんじゃないかと自分は思う」

 

「……」

 

「そして最後、君は自身の希望では無く中央からの召還で帰ってきた、これは自分が今言った事の裏付けになっていると思う、なので客観的に評価をするなら君の能力は一定水準以上…… それも大本営直轄の艦隊に配備される艦娘並みには高いんじゃないかなと思う」

 

 

 吉野はそう自分の考えを言うと、その答えが求められている物かどうかの確認の為榛名の返事を待つ…… が、いつまで経っても返事は無く、その代わりに手にした書類の装備欄の部分に何かを書き加え始める。

 

 

吉野 「ん?」

 

 

第一スロット : 試製51cm連装砲Al

第二スロット : 試製51cm連装砲Al

第三スロット : 一式徹甲弾HL

第四スロット : 一式徹甲弾APHE

 

 

 

「砲は試製51cm連装砲に高速自動装填装置を組み込んでて、通常では徹甲榴弾を、対空時には火薬増量弾を組み合わせて使っています」

 

「対空に徹甲弾使ってるの!? てかこのアルファベッド何!?」

 

「AlはAutoloader自動装填装置、HLはHot Load火薬増量弾、APHEはArmor Piercing High Explosive徹甲榴弾の略称です」

 

「あ……うん、徹甲弾マシマシなのね、何と言うかごはんにおかゆかけて食うみたいな? それどこの究極アンドロイドなの……」

 

「僕も今ごはん定食の歌を思い出したよ」

 

「時雨くんも大概マニアックだね…… ところで榛名君、対空射撃の場合徹甲榴弾だと貫通しちゃって面防御辛くない? 三式弾じゃない理由は?」

 

「三式弾を積むとスロット一つ埋まってしまって総合的な火力が低下してしまいます、対空射撃は…… 言葉では説明し難いので、出来れば実弾射撃が出来る場所で実際に見て頂く方が早いと思います」

 

「成程…… ちょっと射撃訓練施設の空きあるかどうか確認してみるから、とりあえずひやしあめでも飲んで待っててくれるかな?」

 

「……判りました」

 

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主砲!砲撃開始!!

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/07/23
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました様MWKURAYUKI、有難う御座います、大変助かりました。


ジュルジルジルジル……

 

 

 事務室に何とも表現のし難い湿った音がする。

 

 音の元を確認すると金剛型三番艦榛名がひやしあめを啜っている、眉間に皺を寄せて。

 

 

「ヘーイサブロー、ヘーイヘーイ、紅茶は無いですカー?」

 

 

 榛名の隣では金剛型一番艦、ネームシップであり四姉妹の長女金剛が授業参観の時にアピールしまくる小学生宜しく右手を盛大に挙げ、紅茶を要求している。

 

 

 吉野は榛名の希望で実弾射撃が出来る施設の使用申請の為総務課の大淀の処まで赴き手続きを済まして来た、設備の整った総合演習場は生憎空きが無かったのだが、兵装調整用の試射場は昼から三時間程の空きがあったので一時間の枠を取っておいた。

 

 そして事務室に戻ると、丁度待機中の金剛が榛名に会いに来ていたと云った次第。

 

 

「紅茶です? えーと午後ティーか午後ティーならありますがどれにします?」

 

「それどっちも午後ティーでショ!? もっとちゃんとした紅茶はナイノ?」

 

「午後ティーをバカにする者は午後ティーで泣きを見るハメになるんですよ、主に那珂ちゃんにパシられる的な」

 

 

吉野は虚ろな目でノロノロと冷蔵庫の中から二本のペットボトルと缶飲料を取り出し、金剛の前に並べる。

 

 

「お好きなのをチョイスして下さい。」

 

「fm……ペットボトルのは紅茶みたいデスネー、後この缶の飲み物はナニ?」

 

「缶のはメッコールという麦茶系(謎)の清涼飲料水、後の二つはハニーレモンティーとアップルティーです、メッコールはお茶繋がりって事で」

 

「ちょっと待つネ、今(謎)って言わなかっタ? サブローは毒飲料フェチだからまた変なモノじゃないでショーネ?」

 

 

 

 金剛はジト目で吉野を睨むが、元々表情がコロコロ変わる上、基本陽気な性質で知られる金剛なのでどちらかと言うと子供が拗ねた様な印章を受ける。

 

 因みに金剛の怒りは三段階存在し、第一段階はカワイイ金剛、第二段階は激オコプンプン金剛。

 

 そして最終段階はブチ切れ金剛といい、怒りゲージがMAXになると顔が何故か劇画チックに変貌し、何処からともなく現れた建機に飛び乗り破壊の限りを尽くすというデストロイモードに突入する。

 

 

「ちゃんと一般の販路に乗って流通している飲み物ですって」

 

「……じゃこのアップルティーを頂くネ」

 

「ちなみにそれ等の正式名称はアップルティーソーダとハニーレモンスパークリングと言います」

 

「Hey!それどっちも炭酸ネ!! どうしてそんな偏ったラインナップしか置いてナイノ!?」

 

「ラベルにプリントされたクマの○゜ーさんがプリティですし、こだわり素材で作られてますって書いてますし、後炭酸だからですしおすし」

 

「ヤッパリ炭酸が決め手デスカ!?」

 

 

ジュルジルジルジル……

 

 

「あの……提督?」

 

「……何かな時雨君?」

 

「えっと、榛名さんに質問の続きしなくてもいいのかな?」

 

 

 時雨の視線は榛名に釘付けになっている、その榛名といえば唇を尖らせ、眉間に皺を寄せ、ショウガフレーバー溢れる飲み物を無言で啜っている。

 

 いや、ただ啜っているだけでは無く、何故かそこだけ夏イベントのE7甲ラストダンスちっくな空間が展開されている、今その辺りに突っ込みを入れると云うのはギミック解除無しで連合艦隊を投入する様な物だ。

 

 

「ああ質問ね、うん質問……うん」

 

 

 第一艦隊に大和型と装甲空母、支援には長門型にポイポイイタ艦をぶち込んで火力増し々の総力戦、、既にバケツは枯渇して資源はハゲ散らかしている、後は無い。

 

 夜戦最後に雪風カットイン、ハハハ勝ったと思ったらカスダメ、結果防空凄姫のHPは妖怪1残り、雪風…… 何故なんだ…… 何故いつもお前はここ一番で一撃大破やなんちゃってカットインなんだ……。

 

 

「しゃーなかったんや…… ギミック解除用の資源無かったんや…… アブゥのカットインは全部ダイソンに吸われてもーたんや……」

 

「oh……サブローの変なスイッチが入っちゃったネ、こうなったら暫く元に戻りませんカラ、ハルナ、シグシグ、少し早いですケドLunchにでも行きましょうか」

 

「はい、榛名は大丈夫です」

 

「え……いいのかな?」

 

「no problemネ、それじゃ行きましょう」

 

「ヤメテェェェ! 提督は自然回復教じゃないの! クの付く魔法のカードはらめぇぇぇ!」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 兵装調整用試射場

 

 それは深海凄艦との戦いが始まる以前、まだ世界の海が通常艦艇で行き来出来た昔に基地設備として稼動していたドックを転用した施設の名称。

 

 艦娘用のそれとは違い、それまでの艦艇を扱うドックは水深が10m、幅30m、延長が150m程もあり、ドックゲートの開閉で海へと繋がる仕様上波の影響も調整可能という環境の為、各種艦娘の装備試験には当時うってつけの施設であった。

 

 現在そこは設備の老朽化や最新設備の整った専用施設が他に設置された為、主に出撃前に砲調整をしたり新装備の慣らしに使用される射撃場として利用されている。

 

 

 シューティングレンジには艦娘の体が固定し易い様調整式の固定台が幾つか設置されており、標的操作用のパネルらしき物がが併設されていた。

 

 固定台から先、海の方向へはスロープ状の傾斜が付いており、そのまま進水し水上射撃も出来る様になっている。

 

 

「はーい、お待たせ?兵装実験軽巡、夕張、新鋭艦に使う兵装は、私がきっちりチェックするからね!」

 

 

 明るいグリーンのツナギに身を包んだ艦娘、兵装開発部門所属にしてこの射撃場の責任者である夕張型一番艦夕張の声がシューティングレンジ奥の操作室からスピーカーを通して聞こえてくる。

 

 小部屋の上には様々な情報が表示されるワイヤーメッシュで保護された大型モニターが設置され、現在は夕張が入力したのであろう[v( ̄∇ ̄)]という顔文字が大きくモニターに表示されていた。

 

 

「どうもバリさん、今日はお世話になります」

 

 

 吉野は挨拶をしつつ首に装着している骨伝導マイクに手を添える、ここで主に使用されるのは艦娘の砲装備の為、試射場内では騒音で音声が掻き消されない様に声紋の振動を直接音声出力に変換する骨伝導マイクが使用されている。

 

 又、同様の理由に加え、鼓膜保護を兼ねた大型のヘッドホンを頭に装着した吉野は射撃レンジ脇、防弾アクリルで保護された射弾観測室からレンジ内に佇む榛名の様子を見ていた。

 

 

「Well……私達艦娘はこんな装備必要無いんですケド……」

 

「一応そういう規則らしいし、しょうがないんじゃないかな」

 

「シグシグは真面目ですネー」

 

 

 室内には午後からも予定が空いているのか、金剛も時雨と共に吉野と同じ装備を身に着けていた。

 

 

 その三人が見守る先、射撃位置を示すブイの傍らには榛名が目を閉じて佇み、瞑想にも似た雰囲気を漂わせながら静かに待機している。

 

 

 その身に纏う艤装には通常金剛型に搭載される35.6連装砲の代わりに試製51連装砲が載せられている、古に計画だけで終わった【超大和型】、大和型を越える大型戦艦の主砲として設計された物であり、現存する艦娘用装備中最大火力を誇る艦砲である。

 

 現存数は予備も含め4セット、その内装備として使用しているのは武蔵と榛名のみ、大和も当然搭載可能ではあったが、彼女は一撃の威力の為に立ち回りを制限されるこの砲は好まず、大和型最適装備とされる46三連装砲を好んで使用している。

 

 

 大和型一番艦をして立ち回りを制限されるというこの武装を背負ったその金剛型戦艦の姿は、見る者に対し【武蔵殺し】の二つ名を連想させるには充分な迫力を醸し出していた。

 

 

「いや~、ゴーイチ拝めるのなんて前に武蔵さんが試作品を持ち込んだ時以来だからテンション上がっちゃうわ~。」

 

「あ~、そう言やあの時バリさん担当でしたっけ?」

 

「そうそう…… って、ひっど~い、忘れてた? 三郎さんもあの時一緒してたでじゃない!」

 

 

 モニターの顔文字が【(#`・ω・´)プンスコ】に変わる。

 

 

「(#`・ω・´)プンスコ」

 

「(#`・ω・´)プンスコ」

 

 

 手持ち無沙汰な金剛型長女と小さな秘書艦は、モニターの顔文字を真似て面白フェイスを披露していた。

 

 

「いやぁ、忘れてた訳じゃ無いんですけどねぇ、あの時はホラ、色々あってバタバタしてましたし」

 

「あ~…… 確かにアレは大変だったわ、うん、主に後始末的な意味で」

 

「(#`・ω・´)ネエネエ」

 

「(#`・ω・´)ナニナニ」

 

 

 手持ち無沙汰な金剛型長女と小さな秘書官艦、尚も面白フェイスで暇を潰している、ちょっとかわいいかも知れない。

 

 

「……あれ? 試作試験以来って…… 武蔵さんここには来ないんです?」

 

「来ないっていうか、アレ(試製51連装砲)、機密扱いだから触らせて貰えないのよね~、調整とか整備はアッチ(専属)の工廠担当なの」

 

「(#`・ω・´)ムシシナイデホシイカナ」

 

「(#`・ω・´)メヲハナサナイデッテイッタノニー」

 

 

 手持ち無沙汰な金剛型長女と小さな秘書官艦の面白フェイスは、どこまで続くのか、うんまぁ中々コミカルではある。

 

 

「今日は弄るのが目的じゃないですよ? 弄るのが目的じゃないですよ? 大切な事なので二回言いましたよ? OK?」

 

「OKOK! それじゃ確認するわね? 今日のメニューは主砲を用いた静止標的と動標的に対しての連続砲撃ね、標的はオーダーされた通り距離30,000m相当になる様サイズ調整しておいたわ、後はクレーを艦載機に見立てて対空射撃も行うって事でいいのかしら?」

 

「(#`・ω・´)コノボクヲココマデオイツメルトハネ」

 

「(#`・ω・´)コウチャガノミタイネー」

 

 

手持ち無沙汰な金剛型長女と小さな秘書官艦はそろそろ焦れてきたようだ、正直ウザい。

 

 

「だそうだけど榛名君、それでいいかな?、それと他二名、出荷して欲しいの?」

 

「(´・ω・`)えー、僕は見学だから難しいことはわからないよ」

 

「(´・ω・`)扱いがぞんざいデース、あやまって?」

 

 

 手持ち無沙汰な金剛型長女と小さな秘書官艦は、どうやら出荷を免れたようだ。

 

 

 端でワイワイと騒がしい三人に榛名は特に興味を示した様子は無く、夕張に対して射撃標的の設定に間違いが無い事を伝える。

 

 程無く艤装から鈍い駆動音と共に振動が発生し、足元の海面に幾重にも波紋を描く。

 

 同時に砲塔基部から砲弾の装填音と思われる鈍い音が連続して響き、今迄鉄の塊だった物に暴力と云う名の生命が循環する。

 

 バラバラだった音が調和の取れた旋律に変わる時、艤装に引かれてか今まで力の無かった榛名の眼には闘志が宿り、巨大な砲塔を背負った【武蔵殺し】と云う名の獣が首をもたげ始める。

 

 

「いやぁ雰囲気がガラリと変わったねぇ、さっきまでやる気0な雰囲気プンプンだったけど」

 

「fm……ワタシの知ってるハルナは普段ニコニコしてていいコなんだケド、ちょっと前から何か様子がおかしいデース」

 

「え~…… もしかしてひやしあめが地雷だったのか…… やはりメッコールだったのか?…… まさかバニラコーラというダークホースの可能性が!?」

 

「いい加減毒飲料ネタから離れるネ……」

 

「サスケは毒なんかじゃないと思うんだけどな…… それより提督、榛名さんの主砲って51cm連装砲だよね?」

 

「だねぇ、色々イジっててワンオフっぽい感じになっちゃってる気がしなくもないけど」

 

「さっき夕張さんが武蔵さんの51cm連装砲は機密で触らせて貰えないって言ってた気がするんだけど、ここで使っても大丈夫なのかな?」

 

「あー……それねぇ」

 

 

 吉野は深く溜息を吐くと、やれやれといった仕草を見せつつ時雨の質問に答え始めた。

 

 

 

アレ(試製51連装砲)が機密ってより、大和型の存在自体が機密なんだよねぇ」

 

「えっ、存在が機密?」

 

「そう、昔々大和型が建造されて間もない頃の話、当時彼女達はその戦闘力と希少性から虎の子扱いされてたらしくてね、存在自体が機密扱い、運用もそれに添って行われてた」

 

「それって昔の事でしょ? 今は普通に皆知ってるよね?」

 

「だねぇ、一般人でさえ艦娘って言えば先ず大和型って言うんじゃないかな?」

 

「それで、何が機密になるのかな?」

 

「全部、名前も含めて、何もかも、トップシークレット(笑)」

 

 

 

 ネタ好きの酒豪二番艦の顔を思い浮かべ、吉野は苦笑いをしつつそう答える。

 

 

「……ごめん、ちょっと良く判らないかな?」

 

「Secretって言葉をSpecialと勘違いしてるアンポンタンが多いって事デース」

 

「正にソレ、ぶっちゃけ機密って扱いに特別な意味を感じてる権威主義者が上に幾らか居て、もう誰でも知ってる事を未だに機密っていう言葉で差別化を図ってるというバカらしい構図が今も展開されてます、はい」

 

「うわぁ……」

 

「その関係で第一艦隊の装備は今も機密扱いのままだから専属工廠から出すのはNG、でと、その点ウチは第一艦隊でも無いし、権威のケの字も無い新設だしぃ…… ね?」

 

「あー、うん、なんとなく判ったかな……」

 

「サブローがTopの時点で権威がヘソで湯を沸かしてダージリンを淹れるデース」

 

「ヒェー、金剛お姉さまの暖かいお言葉で涙がちょちょ切れそうですわ…… さてと、そろそろアッチも始まりそうな雰囲気だけど、バリさんそろそろスタートです?」

 

 

 その言葉への返答の変わりに大型モニターへ【(・д・)σ<Ready>】と文字が表示される。

 

 

「は~い、ドックゲート開放するわね~、実弾試射だからターゲットは施設外に出すわ、申請された時間帯は近隣海域に立ち入りの予定は無いけど、こっちのセンサーに感があったら中断の警報鳴らすから砲撃は即中止してね。」

 

 

 夕張のアナウンスが聞こえてくるのと同時に、ドックゲートの作動中を示すサイレンが鳴り響き、中と外との海水が混ざり合って僅かな渦を描き出す。

 

 注意隆起の為に赤色を振りまいていた回転灯が沈黙した瞬間 ──────

 

 

 一瞬の静寂

 

 

 ドカンと云う音と共に周囲へ襲い掛かる空気の壁、遮音壁と防弾アクリルで守られた空間でも外から叩き付けられる空気の奔流は射弾観測室を中身ごとシェイクする。

 

 予想以上の衝撃で体勢を崩してしまい、吉野の体は床に投げ出される。

 

 自分の体が重力に引かれ床と正対してると自覚した時は既に手遅れで、思わず腕で顔を庇ったが、その瞬間体が床とは反対に浮き上がる。

 

 

 引き寄せられる感覚に視線を巡らせると脇腹の辺りに時雨の顔が見える、どうやら体勢を崩した吉野を時雨が咄嗟に引き寄せて支えてくれた為、床にキスをすると云う粗相は回避出来た。

 

 

「ははっ…… これは……」

 

 

 連装砲から発生する衝撃波の大きさにも、大の大人がよろめく揺れの中でさえ平然と立つ事は愚か、自分を軽々と支える己よりも遙かに小さい少女の膂力にも二重の意味で驚き、自然と苦笑が口を吐いて出る。

 

 

「有難う時雨君、助かったよ。」

 

「やっと秘書艦らしい仕事ができたね。」

 

 

 周りを支配する轟音の中でするには穏やか過ぎる笑顔を浮かべた時雨は、吉野の腰に腕を回して体を支え直すと、砲撃を開始した榛名に視線を戻し、その様子に驚きの呟きを漏らす。

 

 

「凄いね、僕も長い間長門さん達みたいな戦艦と一緒の艦隊で戦ってたから41cm砲クラスの衝撃には慣れてたんだけど、あの砲は全然違うよ、もし僕が艦砲戦が出来る体だったとしても並んで行動は出来ないと思う。」

 

「そんなに?」

 

「うん、あれだと多分中型以下の随伴艦は近寄れないんじゃないかな、衝撃が大き過ぎて電探やソナーが使えなくなるだろうし、砲撃のコントロールにも影響が出ると思うよ。」

 

 

 時雨が感想を述べている間にも榛名の主砲からは膨大な運動エネルギーを乗せた弾頭が吐き出され続け、遙か遠くの水面に盛大な水柱を立たせている。

 

 暴力的なエネルギーは砲弾に乗るだけで無く、撃ち出した本人にも降り注ぎ、その身体を後方へと吹き飛ばそうと襲い掛かる。

 

 抗う為には踏み込むだけでは足りず、衝撃で波打つ水面には明らかに推進の為と思われる水流が不自然な弧を描いて渦巻いている。

 

 

「発砲する度に機関を前進させて勢いを相殺してるのか、とんでもないバランス感覚だねぇ……」

 

 

 手元にある端末には常にアラームが鳴り響く、そちらに視線を落とすと観測機器から入るスコアが砲撃の音と共に数を増やしていく。

 

 驚くべき事に、増え続ける文字の羅列は全て命中弾を指す"HIT"で統一され、表示が流れる速度は大型砲が撃ち出す結果にしては尋常な速度では無い。

 

 

 小口径砲並みの連射速度、夾叉すら出さずに全ての砲弾を的に叩き込む精度、相反する物理法則を力で捻じ伏せ尚衰える気配は見せない。

 

 

「これは……ちょっとしたホラーかも知れない」

 

「ハルナのやってる事はホラーでも何でも無いヨ、チョット無茶してるとは思いますけどネ」

 

「え~、結構とんでもない事しちゃってると思うんですけどねぇ」

 

「ン~…… ワタシ達姉妹は最初期に建造された戦艦デス、戦艦の中ではトテモLightなClassに入りマース」

 

 

 榛名の鬼気迫る砲撃とは裏腹に、いつもの調子を崩さず金剛が語りだす。

 

 

「ムサシやナガトみたいに頑丈じゃ無いですし、ヤマトやムツの様な高い攻撃力もナッシング、唯一のAdvantageは他のコ達より速く動ける事だけネ」

 

 

 静かに、淡々と語るその口調は目の前で繰り広げられる異常事態と相まって聞く者の興味を否応無しに掻き立てる。

 

 

「だから私達は戦う時そのAdvantageを生かして敵の砲弾を避け、相手の装甲の薄い部分にピンポイントで攻撃を当てマース」

 

「……ふむ?」

 

「知ってマスカ? 砲撃って狙って当てるだけの簡単なオシゴトですケド、狙うってprocessだけでも砲の角度、相対距離・速度、風向き、気温、地球の自転もゼンブ自分で考えて計算しないといけないノ」

 

「電子機器の能力が低かった時代の射撃計算ですか」

 

「Yes、ワタシ達は他のコ達みたいに足を止めて撃ち合う事は出来ないネ、火力も低目だから有効な攻撃を当てるchanceも少ないネ、だから砲撃管制はトッテモ大事、ワタシ達の戦い方はその計算が速くないと成り立たないネ」

 

 

 人差し指を立て、ここがポイントとばかりにその指をクルクル回し、金剛型の演算力を自慢気に説明したかと思うと、その指を口元に当て、何かを考えながら榛名の戦い方についての仮説を口にする。

 

 

「ハルナは多分、立ち回りや回避を最低限にして、持てるリソース全てを砲撃に注いでマース、あの精度は早い演算力を更に突き詰めた結果ネ、ワタシ達金剛型だからこそ出来る芸当デース」

 

「……じゃ金剛さんもアレ、やろうと思えば出来ると?」

 

「ムリ」

 

「今言った事全否定!? どうしたの金剛型!?」

 

「全部否定する気は無いネ、命中精度はもっと上げられますけど、回避を捨てて撃ち合うには火力が足りないネ、ハルナみたいに大きな主砲はそもそもワタシ達は積めないからダメネ」

 

「あー、フィット装備かぁ、すっかり忘れてましたよ」

 

「ソソソ、何故だか判らないけどハルナ以外のSistersは41cm以上の砲詰んでも妖精さんがオシゴトしてくれまセーン。」

 

「稀にアンフィットでも使える人は居るらしいけどね、それが有効かどうかは判らないけど」

 

 

 時雨が自身を指差しニッコリと微笑んだ、ここが実弾砲撃中の試射場で無ければ心がときめいていたかも知れない。

 

 しかし殴り付けられる様な衝撃の中、まともに立っていられず自分よりも小さな少女に支えられている現状では苦笑いしか出ない。

 

 

「そっかぁ~、時雨君が今使ってる装備もアンフィットって言えばアンフィットだよねぇ」

 

 

吉野の中で"アンフィット"と云う言葉にひっかかりを感じる、何か忘れている様な……。

 

 

「あーうん、ウチに着任予定の艦娘、殆どそうだわ……」

 

 

 着任予定の艦娘のデータを頭の中から引っ張り出す。

 

 合計6名、その内確実に装備が異質だと判明しているのは時雨、榛名、神通、これはアンフィットと云うより装備不可能な部類の装備を使用している。

 

 そして着任が流れた大鳳、空母では離発着不可能な水上偵察機を装備していた、出来ればどうやって運用しているのか見てみたくはあったが、この辺りを掘り下げると某師匠に瑞雲を使ったあんなプレイやこんなプレイを強要されるハメになりそうなので辞めておこう。

 

 後は妙高、全て謎過ぎる、まるで闇鍋の中にINしている巾着の様な物だ、とても嫌な予感がする、中身が餅のつもりで口に放り込んだらおはぎでした的な、餡子が余計だ、料理は足し算だと言うが何でも足せばいいというものでは無い。

 

 そしてぬいぬい、このメンツの中で唯一普通のプロフィールだった、この辺りもたった一人の例外として何かあるのではと考えずにはいられない、実はプロフィールには無い何かがあるのかも知れない、例えばコテコテの関西弁の使い手だとか、常時落ち度しか無い行動しか出来ないだとか、何それ恐ろし過ぎる。

 

 

「不知火や。ご指導ご鞭撻、よろしゅうな。 ……ふふふ割とアリかも知れない」

 

「何キモイ顔してブツブツ言ってるネ…… そろそろ対空射撃始まるヨ、目を離しちゃNoなんだからネ」

 

 

 最終的に集計されたスコアは水上標的に対する命中率97%、大型モニターに映し出されたスコアは訓練射撃と云う限られた条件下で行われた結果と云う事を差し引いても、異常な数値である事は間違いない。

 

 

 そして対空射撃の準備をする為、ほんの少しインターバルが入る、徹甲弾でどう対空戦を行うのだろうか?

 

 少し赤みを帯びた砲身から熱気を帯びた空気が立ち上り、榛名の姿をゆらゆら揺らす。

 

 大型モニターにはクレー射出装置の準備が整ったという事が表示され、それを知らせる為のブザーがシューティングレンジに鳴り響き、白い陶器の円盤が高速で射出され始めた ──────

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

榛名流対空砲火

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



2018/03/01
 誤字脱字修正致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、黒25様、ちゃんぽん職人様、対艦ヘリ骸龍様、じゃーまん様、有難う御座います、大変助かりました。


[(;゚ロ゚)]

 

 

 操作室上部に設えている大型モニターには何とも表現のし難い顔文字が表示されていた。

 

 時雨はそのまま視線を自身が支える男、吉野三郎第二特務課々長(28歳独身非自然回復教)へ移す。

 

 

吉野 ( д)     ゚ ゚

 

 

 とても表現が難解な相を表に貼り付けている、更に視線は吉野の向こうで吉野と同じく外の様子を見ている金剛へと向けられる。

 

 

金剛 ( ̄ー ̄)

 

 

 これは判る、所謂ドヤ顔と云うヤツだろう、場所が離れているので表情が見えない夕張は別として、この二人の表情の対比は同じ環境に身を置き、同じ物を見ている反応としては、普通はちょっと理解し難い物である。

 

 時雨の視線はその二人が見ている物、その原因となっている物の方へと移っていく。

 

 

 兵装調整用試射場、その施設から凡そ500mは離れているだろうか、その海上でドカンドカンと云う爆発音と共に火球が弾け飛んでいる。

 

 オレンジ色のソレは花火としては些か地味で、その光が滞空している時間も短い。

 

 

 人の目から見たそれはたったそれだけであるが、その距離でも装備している武装の射程範囲内である艦娘から見れば、そこで現在何が起こっているか手に取る様に判る。

 

 激しく爆発の華が咲くそこには弾けるオレンジ色と燻る黒に混じって白い破片が宙を舞っている、大小様々であるがそれはどれも間違い無く、元は仮想敵機として空中に射出された円盤の成れの果てである。

 

 適度に散開された位置から射出される陶器製の円盤、宙を飛ぶのは同時に五~六枚だろうか?、その円盤が描くであろう軌跡が交わる付近でその爆発は起こっている。

 

 特に直撃しているのはその中の一枚、使用されている砲弾は徹甲弾、当たれば当然陶器製であるそれは砕け散るであろう、しかしそれだけだ。

 

 運動エネルギーを貫通力へ変換する事を目的として使用されるその砲弾では複数の標的を同時に墜とす事は不可能である、が、実際その砲弾は爆散し、周囲の標的はその爆風と破片に巻き込まれ塵となっている。

 

 普通に考えれば近接信管か触発信管の類いを組み込んだ砲弾なのではと思うのが普通だ、事実対空用砲弾として開発された三式弾は時限信管を用いて任意の位置で砲弾を炸裂させ、可燃性の子弾を撒き散らす仕組みになっている。

 

 対して今空中で弾けている砲弾は徹甲榴弾、確かに内蔵された炸薬を起動するのに遅延信管辺りは内蔵されているかも知れない、しかしその用途的に徹甲榴弾は構成素材が硬い物でないと用を成さない為、対空砲弾として利用するには問題がある。

 

 例えば内部に炸薬を詰めた徹甲榴弾を三式弾と同じく信管を作動させ爆発させたとしても、何も無い空中では精々幾つかの破片になって飛び散る程度で、砲弾その物を粉々に砕く程の爆発エネルギーを発生させる事は不可能である。

 

 徹甲榴弾とは相手の装甲に命中させ、或いは貫き、その運動エネルギーと衝撃で潰れた砲弾自体を内蔵した炸薬で爆発させ、破片を子弾として撒き散らす事でダメージを増加させる弾頭だ、"潰れると云う前提"無しで対空力を得る程には破片の拡散効果は望めない。

 

 

 姫級・鬼級の装甲すら貫く威力のエネルギーを発生させる大口径砲弾は当然頑強に造られており、仮想敵を模した磁器の円盤は愚か、艦載機の装甲程度では精々引っかき傷程度しか付かず、潰れる事など在り得ない。

 

 なのに目の前ではその砲弾が綺麗に爆散し、破片を思う存分周囲に撒き散らしている、何故か?

 

 

「し……時雨君? ええとその、わんもぁぷりーず……」

 

「えと、榛名さんの撃ち出した榴弾が榛名さんの撃ち出した徹甲弾? で打ち抜かれてるね、結果榴弾が空中で弾けて周りの標的が吹き飛んでる……と思うよ?」

 

 

 とんでもない事実がそこにあった、古の名将の言葉を模すなら [爆ぜぬなら、射抜いてしまえホトトギス] 辺りだろうか、余す処無く脳筋理論が散りばめられた対空砲撃であると言える。

 

 

「榛名君が撃った榴弾を榛名君が撃った徹甲弾で打ち抜いてその後榛名君が撃った榴弾が空中で爆発して榛名くんは対空標的を撃ち落してるって事でいいのかなと言うか榛名君何人居るのかな? なぜなぜどうしてティーチ・ミー・ホワイ?」

 

「提督、少し落ち着こう? 言葉が意味不明な上に語尾がどこかの魔法のプリンセスになってるよ? 懐古ネタは禁止じゃなかったのかな?」

 

「フッフ~ン、どうネ? あれぞハルナスペシャルデ~ス」

 

 

 パクパクと腹話術人形の如く意味不明な言葉を吐く吉野の隣では、金剛が某吹雪型四番艦ばりのネーミングセンスで妹の射撃技術を鼻高々に自慢している。

 

 吉野が徐に、遙か彼方で爆発を繰り返す辺りを指差し金剛の方を見る。

 

 

「ハルナスペシャル」

 

 

 砲撃を続けている榛名へ指を向ける。

 

 

「ハルナ?」

 

 

 更に元の爆発が見える辺りに指を戻す。

 

 

「ハルナスペシャルデ~ス!」

 

「榛名君が撃った榴弾を榛名君が撃った徹甲弾で打ち抜いてその後榛名君が撃った榴弾が空中で爆発して榛名くんは対空標的を撃ち落してるアレは榛名君のスペシャルな技だと榛名君のお姉さんである金剛さんは仰いますか?」

 

「Hey! ハルナのバーゲンセールみたいな言い方は辞めるネ!」

 

「でもアレはちょっとオカシイデ~ス、タマがピューンでガツーンでドカーンでパンツデ~ス、在り得ないデ~ス、後妖怪紅茶お化けはいつも言い方があざといデ~ス」

 

「おぅテメェ何どさくさに紛れて人の事ディスってんだ表出ろやコラ」

 

「ハイ…… サーセンシタ…… チョウシ乗ってました……マジカンベンして下さい……」

 

 

 時雨は真顔で吉野の襟首を掴む金剛の向こうに

 

 ナニカ

 

【挿絵表示】

 

 

 を見た気がしたが、艦娘としての勘でその辺りに突っ込むのは命に関わる気がしたので敢えてスルーする事にした。

 

 

 

 現実逃避をする吉野の前では、事の張本人である艦娘が未だ対空射撃を絶賛継続中である。

 

 水上標的への射撃時と比べ、より一層腰を落とした姿勢、そして足を前後に踏ん張る姿は時折風圧で捲くり上がるスカートも相まって吉野がパンツと評する様に扇情的と言えなくも無いが、異常な速度で吐き出される轟音と、赤く焼けた砲身がその姿を異質な物に見せている。

 

 連続で砲撃してはいるが、基本二射ワンセットで砲弾を射出しているらしく、空に向けた大口径艦砲はドドン、ドドンと云う左右の砲から打ち出す独特なリズムで発生する爆音を虚空に刻み込んでいる。

 

 

「総合的なダメージ値を稼ぐ為に徹甲弾、そして対空効果を得る為に少しでも爆散効果の望める徹甲榴弾を装備して、より効果を発揮する為に飛翔する徹甲榴弾を徹甲弾で狙撃して潰しつつ爆散させる」

 

「デスネ~」

 

「先に打ち出した砲弾を潰す為には更なる速度と運動エネルギーを持つ砲弾が必要になる…… ので、次弾には発射用炸薬を増量設定したホットロード弾」

 

「あ、火薬増量弾って榴弾の火薬を増した物じゃ無いんだ……」

 

「あのハジけ具合だと榴弾の炸薬も幾らかは増量してるかも知れないねぇ…… でも物理法則的にどうなの? 砲撃のエネルギー全部と装甲に当てた衝撃でやっと潰れる砲弾を、空中で狙撃した程度の衝撃で爆散出来るもんなのかねぇ?」

 

「ン? ナニ言ってるデスカ? 二発目のホットロード弾の弾頭はAPFSDSネ、幾ら徹甲弾でもハルナスペシャルをするには威力が足りないヨ」

 

「ハィィ? 侵徹徹甲弾んん!? ちょっと待って!? しぐしぐ……時雨君、榛名君が撃ってる二発目の砲弾ってどんな形してるか判る?」

 

 

 時雨は榛名を暫く凝視し、少し申し訳なさそうな表情でその様子を口にする。

 

 

「えっと、少し普通の砲弾より細い感じかも知れないけど、良く判らないかな?、後空中で何か分解してるかも……」

 

「oh、シグシグはいい目してますネ、アレはウィリアム・テルの矢みたいな形をしてマース、細く見えるのはそのせいデスネー、空中で何か見えるなら多分サボだと思うネ」

 

「待った!」

 

「何ネ?」

 

 

 吉野は手元に持ってきた鞄から一枚の書類を抜き出し、その書類を金剛の目の前に突き出した。

 

 

「さっき榛名君が書き足した装備一覧です、ほらココ、ココです、徹甲弾HLって書いてるデショ!、HLってホットロードでショ! APFSDSなんて一文字も書いて無いデショ!?」

 

「oh、それネ、えっと装備申請時にホットロードって書かないと予算通らないからそう書けと言われてるらしいデスヨ?」

 

「誰に?」

 

「明石」

 

「ぬぉぉぉぁぁぁぁぁぁ! おかみぃぃぃぃぃ! 明石! 明石をココに呼べぇぇぇぇ!!」

 

「マァ弾頭の形がチョット違うだけで、火薬マシマシにした徹甲弾なのは事実だからソレで問題ないネって言ってたヨ? HAHAHA。」

 

「アホかーーーいっ!? 全然違うわーーーい! 何してんだアイツは、ヘタしたら虚偽の申請で懲罰食らう恐れだってあるのにぃぃぃぃ」

 

「ン~、でもそれ処理してるの大淀デショ? ホラ、あの二人が関わってるなら…… ネ?」

 

 

 金剛の言葉を受け、吉野の頭の中ではある場面が思い浮かぶ。

 

 

 夜、屋敷の一室で悪代官と悪徳商人が差し向かいつつ謀議が繰り広げられている。

 

 上座には黒髪メガネ、しきりにメガネをクイクイと位置調整をしているのは神経質な性質だからか?。

 

 下座にはピンクのモミアゲ、その顔には悪人ヅラ然としたいやらしい笑顔が張り付いている。

 

 二人は不自然極まりないわざとらしい酒宴を装いつつも、これはお約束と言わんばかりに杯を傾ける。

 

 その口から出る台詞は当然あの台詞以外にあるまい。

 

 

 [大淀様の好物をお持ちしました、金色の菓子で御座います] 

 

 [くっくっくっ、明石家、お主も悪よのぅ]

 

 

 しかし違和感が丸っきり感じられないのは自分だけでは無いはずだと吉野は更に思考を埋没させる。

 

 

 大淀……確かに大本営の財務大臣とか、影のヒエラルキーの頂点だとか、三大怒らせてはいけない眼鏡の内の一人だとか呼ばれてた気がする。

 

 因みに後二人の眼鏡は武蔵と霧島である、三人が揃うと撲殺・滅殺・抹殺のジェットストリームナントカが発動すると言われている、飽くまで噂である、多分、恐らく、そうである事を祈る。

 

 

 

「お…… oh淀さんですか…… そうですか…… まぁうん、はい」

 

 

 

 何故だか吉野は乾いた笑いを口元に浮かべ、視線を泳がせている、小市民が経済の暴力とモノホンの暴力に屈した瞬間であった。

 

 

 

「えっと提督、質問ばかりで申し訳ないんだけど、そのエーピーなんとかってどんな砲弾なのかな?」

 

「あー、んっと侵徹徹甲弾?、正式名称は装弾筒付翼安定徹甲弾と言って、まぁナンだ、ぶっちゃけ徹甲弾の正統進化系って言われてる砲弾だねぇ」

 

「進化系?」

 

「そそ、例えば砲弾による運動エネルギーを装甲にぶつけるとして、そのエネルギーを受け止める表面積は小さければ小さい程装甲面に対する影響は高くなる」

 

「うん」

 

「突き詰めればある程度運動エネルギーを受けた物体は熱を持ち、流体に変化する、ぶっちゃけ溶けちゃう訳だ、そしてその流体は当然運動エネルギーが向くべき方向へ飛散する、要するに散弾で言う処の子弾だね、まぁこの辺りは"貫通力を高める為のアプローチによる結果がもたらした副産物"だけど、今は結果としてそっちの方面に有用性が見出されてるかなぁ」

 

「装甲が溶けるんだ……」

 

「金槌で金属を叩いてみると判るよ、叩いた箇所はほのかに温かくなってるから、物理的に熱は金属を流体に換える性質を持っている、それを応用して貫通力を高める様効率的に運動エネルギーを熱交換する形状にした砲弾兵器がAPFSDSってヤツだね、まぁ艦娘の武装としては正直不適格だと自分は思うけど」

 

「え? でも今使ってる徹甲弾より威力があるんでしょ? 何が駄目なのかな?」

 

「APFSDS、和名は装弾筒付翼安定徹甲弾、金剛さんが言った様に弾頭の形は羽の付いた棒、つまり矢に酷似してるんだけど、通常砲弾と違って直径が細いのが特徴になっててねぇ」

 

「うん」

 

「まぁ効果云々は割愛するけど、初速がとんでもなく速いんだ、そして細い弾頭、結論として弾道がブレる、安定しないんだな、その為砲弾に翼をくっ付けた上でサボットって云う砲口に合わせた台座に固定して撃ち出す、余分なパーツが増える分衝撃にも弱くなる、撃たれない事前提のこれまでの兵器とは違って、ある程度その可能性を見越している艦娘の兵装としては不適格だ」

 

「そっか、細い弾頭を普通の口径の砲から撃つ為に栓をして隙間を埋めてるんだね…… それでも僕にはまだプラスの部分が勝ってる感じがしちゃうかな」

 

「自分もそう思うよ、でもね、実はもっと致命的な欠陥がある」

 

「まだ何かあるの?」

 

「あるんだなこれが、えっと…… 艦娘の使う砲には砲弾の弾道を安定させる為にライフリングが切ってある、これはまぁ知ってるよね?」

 

「そうだね、確か砲弾の質量が増すごとにライフリングの回転も増やさないと直進性が安定しない……だっけ? 座学で聞いた覚えがあるよ」

 

「良く勉強してるね、そう、ww2当時の兵装を模してる艦娘の砲関係は全てそれに準拠する、でも今言った装弾筒付翼安定徹甲弾は、安定翼を付けた関係で砲弾自体が回転すると空力バランスが崩れて逆に直進性に大きな障害が生まれる、つまり真っ直ぐ飛ばなくなる」

 

「え…… それじゃ……」

 

「そう、APFSDSを射出する砲は基本ライフリングが切られていない滑腔砲だ、艦娘の砲では射出出来ない、もし性能を保ったまま運用しようとするならライフリングが切られていない専用の砲身を備えた物を用意する必要がある」

 

「砲の改造なんてしちゃうと妖精さんがスネて仕事してくれなくなるんじゃ……」

 

「拗ねるかぁ、時雨君はそう表現するんだねぇ、まぁ実際の処ww2以降の武装は基本妖精さんには認識されないってのが回答だったらしいけどね、つまり余程の事が無い限りAPFSDSなんて艦娘の装備としては採用出来ない」

 

「それじゃ弾頭の性能とか言う以前の問題だね…… それで提督は結局何を言いたいのかな?」

 

「そこにアンフィット装備を使う艦娘が居るじゃろ?」

 

 

 そう言いつつ吉野は榛名を指し示す。

 

 

「あ……」

 

「片方の砲はライフリング有りの通常砲、そして片方はライフリング無しの滑腔砲、ハイブリッドと言えば聞こえはいいけど、携帯してる砲弾は共に互換性は無いというリスキーな組み合わせ、常にその砲弾の使用比率なんかも計算して戦わないと対空射撃なんてとても出来ないと思うんだな」

 

「そう、だね」

 

「さてと、困ったね、卓越した技術と法外な破壊力を得た代わりに、汎用性と安定性が明後日の方向へトンズラしちゃいました、どうしたもんかねぇ……」

 

「……」

 

 

 時雨の視線は榛名見据えたまま動かない。

 

 暫くの間、砲撃の音と振動だけが世界の全てになる。

 

 時雨は尚視線を動かさず、吉野は黙したまま、そしてずっと二人の会話を横で聞いていた金剛は腕を組んだままその相を崩す様子が見られない。

 

 

 暫く時間が流れ、遠い彼方で幾許かの砲弾が弾け飛んだ時、時雨は吉野の脇から正面に移動して両の手を吉野の胸に添える。

 

 その手は硬く握られていた、そしてそれを示すかの如く両の眼には一つの決意が滲み出ている。

 

 

「榛名さんが何を望んでるのかは僕には判らない、けど僕がしなきゃならない事は判るよ」

 

「それはまたえらく抽象的な答えだね」

 

「そうだね、ちゃんと榛名さんと話して、一緒に過ごして、それから、榛名さんに足りない物を僕が埋めるんだ」

 

「大きく出たねぇ、それってかなり難しい事だと思ったりするんだけどな?」

 

「難しいよ、多分ね、だから少しでも大丈夫って思える様にする為に、僕の足りない部分は榛名さんに埋めて貰うんだ」

 

「それでも足りない時は?」

 

「……それでもだよ、関係ない、僕は絶対引かないし、前しか見ない、"考える事を辞めるな"、"最悪の中の最善を掴み取れ"、全部提督が言った言葉だよ、これが今の僕の全部、だったら……」

 

 

 時雨が次の言葉を紡ぐ前に吉野の体は壁に叩き付けられる。

 

 首を万力の様な力で締め上げ、怒りの相貌を湛えて、吉野の目の前には金剛型一番艦金剛が殺意を以って立っている。

 

 

「サブロー……」

 

「……何です?」

 

「このコに一体ナニをシタ?」

 

「何をとは?」

 

「一体ナニをシタらこんなに"真っ直ぐな眼"をスルようにナル?」

 

「真っ直ぐな眼です? それに何か問題が?」

 

「トボケルナ! この眼ハ自分の死を受け入れた者ノ眼だ! 覚悟なんかジャナイッ! 死ヌ事を前提ニ海に出タ…… "捨て艦として追われた"あの時の同胞がしてたモノと同じ眼ダ!!」

 

「……申し訳無いですが、その当時まだ自分は軍属では無かったんで、金剛さんの仰ってる事がどういった物なのか判り兼ねます」

 

「オマエ……」

 

 

 ミシリと嫌な音と共に、首を締め上げる力が更に大きくなる、あと少し力が掛かれば喉が潰れ、折れてしまうだろう。

 

 それが証拠にさっきから吉野の口からは言葉では無く、空気が僅かばかり吐き出されているだけだ。

 

 それが言葉として耳に届いているのは骨伝導マイクが声帯から振動を拾っているからであり、全員がヘッドホンを装着しているからに過ぎない。

 

 その僅かばかり吐き出される空気すら止まろうかと云う時、金剛の首筋に何か冷たいモノが当てられた。

 

 

 その正体を確認する為金剛が視線を巡らせると、どこから取り出したのであろうか、軍刀を握った時雨がその手の得物を金剛の首筋に添えている。

 

 

「シグレ……」

 

 

 視線の先の少女は静かに首を左右に振る、その手にある刀は深海凄艦の装甲を両断した事もある業物だ、少しでも力を入れて引いたなら金剛の首は簡単に胴から落ちるだろう。

 

 

「だめだよ金剛さん、それ以上やるなら僕は金剛さんを斬らなくちゃいけなくなる」

 

「……シグレは騙されていル、コノ男に何を言われたか知らないケド、進んで死ヲ受け入れた先には何も残らナイ、生きていタ事スラ無かった事にサレル」

 

「……」

 

「国ノ為と盾ニなり、見知ラヌ国民ノ為と血ヲ流シ…… 誰かノ勝手な都合だと判ってても…… それでモ守る為ダト笑って沈んだあのコ達ニオマエ達が残したモノは、沈んだ日付と、場所が…… 名前も書かれず番号だけが並ぶ紙切れダケだった!」

 

「金剛さん…… 僕はその人達じゃないけど、その人達が何で笑って死んでいったか判るよ」

 

「……」

 

「何も出来ない、させて貰えないのは物凄く辛いんだ、何もさせて貰えないのは死ぬよりもっと辛いんだ」

 

 

 金剛は吉野を掴む手を離し時雨に向き合う、そして時雨も刀を鞘に納め、金剛を真っ直ぐ見つめる。

 

 

「でもここに居れば僕は提督を守る事が出来る、提督が命令すれば死ぬ事が出来る、僕にはもう戻れる場所は無くなっちゃったかも知れないけど、命令された中で生きる事も死ぬ事も出来るんだ」

 

「それはただ誘導されているダケネ……」

 

「金剛さんの友達は"守る為だ"って言ってたんでしょ? 笑ってたんでしょ? ならそこを死に場所だって自分で決めたんだ」

 

 

 あの時見送った娘達は笑っていた、そうだ笑っていた、行く先は間違いなく死地と判ってても尚その笑顔に陰りは無かった。

 

 

「違ウ、シネと命令されたかラ、あのコ達に選択肢は無かっタ、ソコに自由意志なんてあるハズが無イ」

 

「命令なんて切欠でしか無いよ、そこに戦うべき敵が居て守るべき物があるなら、僕なら迷ったりなんかしない、絶対引いたりしないよ、だって僕は艦娘なんだ、その僕の生き方を勝手に哀れむのは、金剛さんの友達を哀れむのは、冒涜以外の何物でもないよ」

 

 

 見送る事しか出来ず、戦艦だからと云う理由だけで庇護された自分は、涙を流す代わりに握り締めた拳から血を滴らせる事しか出来なかった。

 

 

「……死ぬ事を正当化するのは ……間違ってマス」

 

 

 金剛は震える手で時雨を抱き締め、愛おしそうにその頭を撫でる、殺気は既に無く、誰に言うでも無く呟きを口から吐き出した。

 

 

「何でですカネー…… もうあの時の地獄は終わったハズナノニ、何でまだこんな眼をしたコが居るんですかネー…… こんなコが出ない様に必死で戦ってきたハズナノニ……」

 

「……金剛さんが怒ったのは僕の為だけ? それだけじゃないよね?」

 

 

 そう言う時雨が見る先には一人の艦娘の姿があった。

 

 何時の間にか砲撃音が止み、辺りには波が奏でる静かな水音と

 

 

「……」

 

 

 こちらを静かに傍観する榛名の相貌。

 

 背負う艤装からは待機状態特有のフラットな駆動音が聞こえ、砲塔は沈黙をしたままである。

 

 

「え~っと、何か良く判らないけど、修羅場っちゃったりしちゃってる?」

 

 

 夕張の戸惑混じりな声がヘッドホンから聞こえてくる、この兵装調整用試射場に居る全員はヘッドホンを装備している、全ての会話はこの場にいる者に共有される。

 

 

「ハルナ……」

 

 

 そう呼ばれた艦娘は抑揚の無い眼を虚空に向けて、大きく息を吸い込んだ。

 

 

「榛名さんの事は本当に何も判らない、でも榛名さんの眼は、ここに来るまでの僕と同じ眼をしてるんだ…… だから僕は、榛名さんがあのままなら、一緒に居なくちゃダメなんだと思う」

 

 

 金剛は時雨を抱き締めたまま榛名を見つめる、先程怒りに染まっていた両の眼には迷いとも悲しみとも受け取れる色が浮かんでいる。

 

 

「……サブロー」

 

「はい」

 

「聞きたい事があるネ……」

 

「何でしょう?」

 

 

 金剛型一番艦が発する物としては珍しく、諦めの篭った言葉が口から吐き出された ──────

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

"オネーチャン"として、軍人として、提督として

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


「サブロー……艦娘は"何"だと思うネ?」

 

 

 金剛は呟く様にその言葉を口から押し出した。

 

 時雨を抱き締めたまま、その視線は榛名へ向いてはいるが、本当に見ている物は恐らくそうでは無い。

 

 

「何、とは?」

 

「そのままの言葉ネ、兵器だとか、人間だとか、提督達の考えはそれぞれバラバラネ、サブローも部下に艦娘を持つなら一応提督ということにナリマス、ワタシはサブローがどう思ってるか知りたいネ」

 

 

 吉野は金剛の背中を見つめている、そしてそれは抱き締められている時雨を正面から見る事にもなり、答える言葉はそのまま時雨に語る様にも見える。

 

 

「学習し、感情を持ち、己の判断で行動する、少なくとも兵器ではありえませんね」

 

「じゃあサブローは艦娘は人間で、家族だ、そんな言葉をこのコ達に言うんデスカ?」

 

「まさか? 個人的な意見ですが、そんな事を言う指揮官はこの世で最も唾棄される類いの輩だと自分は思いますよ?」

 

 

 吉野は明らかに不快な表情を露にする。

 

 

「じゃあサブローはこのコ達の事をどう扱うつもりデス?」

 

「扱いですか? それは兵であり、部下であり、共に戦う戦友ですね、家族を死ぬかも知れない場所へ送り出す事なんて自分には出来ませんよ、そんな事を言う輩は偽善者か、本当にそう思ってるなら狂人としか言い様が無い」

 

「武器や道具として扱うノ?」

 

「武器とは使う者の殺意を形にする道具です、使う者の意思は介在しても使えば常に結果は一つだけです、気分や体調でその結果が変わる、そんな不安定な存在が武器なんてナンセンスですね」

 

「随分ドライな考え方ネ……」

 

「そんなこじ付けや無理な型にはめようとするから軋轢が生まれ、精神が壊れていくんですよ、貴女達は艦娘で、兵だ、違いますか?」

 

「身も蓋も無い言い方ネ」

 

「広義としては貴女達も自分も、軍と云う組織の中では等しく兵であり、駒以外の何物でも無い、書類上は数字で処理され、計算上では只のコストとして計上される、その上で艦娘とは何かと聞かれたなら……」

 

 

 真っ直ぐこちらを見る金剛の目から視線を逸らすでなく、吉野は自分の心の内を隠す事なく打ち明ける。

 

 

「生れ落ちた瞬間には既に個として独立した自我を確立し、喜怒哀楽を持ち、人より優れた身体的特徴を備え、代謝をしない為に肉体的老化とは無縁、人間の上位互換に当たる生命体、それが艦娘だと自分は答えるでしょうね」

 

「人間以上の生命体デスカ、正にバケモノって事デスネ……」

 

「そうです、人より優れているから恐れられ、敬遠される、知っていますか? 人が何かを"化け物"と比喩する時は、醜く、嫌悪する対象をそう呼ぶ時と、己より優れ、手の届かない対等以上の存在に対して畏怖した時に使う二種類の意味があります」

 

「モノは言い様デスネ、そう持ち上げた言い方をしても、必要なら貴方もシネとこのコ達ニ命令するんでショ?」

 

「当然です、自分は軍人です、そして彼女等も軍人です、どうしても必要ならば迷わず死ねと命令を下しますよ」

 

 

 但し……と付け加え、視線を時雨に向け、吉野は言葉を続ける。

 

 

「作戦とは、戦いとは始めた時点でもう八割は決しています、確実に死ぬと判っている作戦に送り出す、そんな状況になっているって事は殆どの場合自分の不手際が招いた結果でしょう、自分の仕事はそうならない様に段取りを進め、調整をする事です」

 

 

 視線は時雨から金剛、そして榛名へと移しながら喉元のマイクに手を添えてこう言った。

 

 

「もし力及ばず、彼女達を死地へ送らなければならなくなった時、その時は当然自分もその責任を取るのが当たり前です、そしてその時、自分が彼女達に最後に掛ける言葉は不甲斐ないですが"死んでこい"では無く"一緒に死んでくれ"になるでしょうね」

 

「……自分のミスで作戦は失敗するって言ってる割には、部下を巻き込んで、一緒に死んでくれなんてトンデモナイ事を言う上官ネ」

 

「そうですね、その時は無能な指揮官の下に就いたのが不幸だったと彼女達には諦めて貰うしかありません」

 

 

 金剛は時雨から手を離す、吉野に背を向けたままなのでその表情を伺う事は出来ない。

 

 傍らに立つ時雨は無言のまま、それでも満足気に微笑みを浮かべると、金剛へ一度頷き吉野の隣へ移動した。

 

 

 金剛は屈んだままでいた姿勢を伸ばし、正対する先を見つめる、そこには自身と同じ白い巫女装束をモチーフとした衣装に身を包んた艦娘がこちらに向っていた。

 

 その艦娘に向って金剛は静かに、自虐的とも悲しみとも取れる表情を露にしながら語り掛ける。

 

 

「だそうデスヨ、ハルナ、貴女の提督は軍至上主義の塊で、極端な現実主義者デス」

 

 

 ハルナと言われた少女は既に(おか)に上がり、射弾観測室へ歩みを進めている。

 

 

「それでも貴女達を艦娘のまま受け入れ、最後は一緒に死んでくれると言ってマス」

 

 

 榛名は射弾観測室の扉を潜り、吉野の前でその歩みを止める。

 

 その眼は吉野を真っ直ぐに捕らえており、色は濁り切っている、生気は僅かばかり感じられるが其処には個の意思は微塵も感じられず、光を反射するだけの黒に近い何を詰めたガラス玉の様だ。

 

 

「ハルナはココで建造されました…… ただ"幼体"として生まれてきた為に、暫くは育成艦として管理されていましタ」

 

 

 

 "幼体"─────

 

 大本営にある艦娘建造ドック、その四機の装置は艦娘を建造する為に設置された設備であり、深海凄艦との戦いに駆り出された初期の艦娘はここから多く産み出された。

 

 時間経過と共に戦線は拡大し、主戦場は外洋へ移り、建造自体は前線に近い鎮守府が行う事が多くなった為、現在では大本営の建造設備は余り使用されていない。

 

 建造ドック自体の造りや規模はどの場所の物も等しく同じであるが、大本営にある建造ドック、それも史上初に作られた一番ドックだけは何故か他のドックとは違う建造結果を生み出す時がある。

 

 

 通常艦娘が建造された場合、艦種や種別毎にテンプレートと言われる決まった形でその姿を現す。

 

 改装以外には変化しないと言われる体躯、意思疎通を交わせる程の言語力、成人レベルに近い思考力、一般生活には困らない程度の知識と理解力、その全てを備え、凡そ生命体としては完成に近い形でその存在は生まれてくる。

 

 しかし大本営一番ドックからは稀にそれ等の水準に満たない"子供"が生まれて来る場合がある。

 

 駆逐艦と比べても尚幼い体、つたない言語、未熟な思考に合理性を欠く行動。

 

 凡そ一ヶ月前後でテンプレートとして認知される程には成長するが、その間は艦娘の身体能力を有した只の子供。

 

 その子供を大本営では幼体と呼び、成長する迄の僅かな期間は大本営に所属する姉妹艦、若しくは教育に適した艦娘に預けられる。

 

 

「良く笑い、すぐ泣いて、多少お転婆が過ぎましたがどこにでも居る可愛い子供だったネ」

 

 

 そう言う金剛は吉野の前に立つ榛名を見詰めつつ、昔の記憶を言葉に乗せる。

 

 

「そのハルナですが、ある日ちょっと目を離した隙に一人で部屋を抜け出した時があったんですケド、その時立ち入り規制がされていタ区画に迷い込んでしまいまシテ、ちょっとしたトラブルに巻き込まれマシタ」

 

 

 いつの間にか射弾観測室の前には制御室から出てきた夕張の姿が見える。

 

 

「その日の夕方ハルナは全身血まみれの状態でバリー(夕張)に連れられて戻ってきましタ、体に傷はありませんでしたが…… あの時はもう心臓が口から飛び出るかと思いましたヨ」

 

 

 そう言われた夕張は少し考えた風を見せたが、すぐ嗚呼と手を叩いて榛名を指差した。

 

 

「……えっ!? あの時のオチビちゃん、榛名さんだったの!?」

 

「デース、そう考えればここに居るのはシグシグ以外全員関係者って事にナリマスネー」

 

「……はい?」

 

「ほら! 武蔵さんがゴーイチ(試製51連装砲)暴発させた時、見学に来てた三郎さん迷子だってちっちゃいコ連れてたじゃない? あのコが……」

 

 

 夕張が榛名に向けた指を啄木鳥(きつつき)の様に忙しなく前後する。

 

 

「んんんん?」

 

 

 夕張の言う"武蔵の暴発事故"は覚えている、当時の吉野は特務課内ではまだ駆け出しのルーキーで、一人で仕事を任せて貰えてはいたものの、扱いはパシリに毛が生えた程度、周りからも"丁稚"と呼ばれていた。

 

 その駆け出しの丁稚がたまたま手掛けた案件の内、辺境部隊の間で行われていた物資の違法横流しの特定の為押さえた物証の中に、偶々廃棄されるハズであった試製51連装砲の図面が紛れ込んでいた。

 

 大型の新規装備と云う機密書類と言えば聞こえはいいが、廃棄される寸前であったその図面は精度に欠け、とても装備として実装される程の水準では無かった為、証拠として使われた後は資料として倉庫の奥に眠るか、再び廃棄される運命にあった。

 

 

 しかしその紙切れは廃棄されずに日の目を見る事になる。

 

 その不完全な図面を形にし、装備として運用しようとした艦隊かあったからだ。

 

 

 その艦隊とは当時遅々として進まない南方海域の攻略の為、大本営から一時的に呉鎮守府へ送り込まれていた大隅巌の艦隊である。

 

 

 南方海域と云えば空母や潜水艦を従えたレ級が入り組んだ潮流の先に居座り、沸いてくるザコですらどれもこれもflagshipという悪夢の様な海域だった。

 

大隅率いる呉第一艦隊はザコを蹴散らし、最深部へ攻め入り、幾度か相見えてはみたものの、対空と対潜に随伴の戦力を振り分けなければいけないせいで、肝心のレ級を落とすには一手足りないと云う一進一退を繰り返していた。

 

 鳴り物入りで投入された戦力、しかし蓋を開けてみれば惨敗とは行かぬまでも、僅かばかり及ばぬ戦果に艦隊司令の大隅は元より旗艦であった武蔵の心は焦れに焦れていた。

 

 そんな折に自分が子飼いしていた丁稚がどこからか拾ってきた 〔戦艦用新型大口径砲〕 の図面、僅かに届かぬ戦力を埋める為リスクと戦果を秤に掛けた結果、図面の装備を形にする作業が行われる事になった。

 

 

 限られた時間の中、碌なテストも行われず組み立てられたソレ(試製51連装砲)は砲撃試験の為大本営の兵装調整用試射場へ持ち込まれる。

 

 そんな無理に無茶を重ねて造られた兵器が引き起こす結果は火を見るより明らかだった。

 

 

 

 その時自分の見つけた図面が実用に耐えない物だと云う評価を受けていたのを知っていた吉野は、無理を押して雑務を引き受けると云う体でその試験に同行させて貰っていた。

 

 筋から言えばその新装備が役に立とうが立つまいが、吉野に責任は一切無い、しかしそれでも自分が関わった事から始まったこの一連の出来事を無関係と割り切るにはまだ吉野は若過ぎた。

 

 

 そして迎えた砲撃試験は、戦艦武蔵を(おか)で轟沈一歩手前迄追い込む事態を引き起こす。

 

 

 吉野は当時の惨状を思い出し、苦々しい表情で辺りに視線を巡らせる。

 

 今吉野等が居るこの場所は、正にあの時試製51連装砲の砲撃試験を行った場所であった。

 

 当時の様子を思い浮かべる、確かに忘れられない出来事ではあったが、その"惨事"ばかりに思いがいき、自分が連れていたという"迷子"と云う言葉に辿りつかない。

 

 

「あの事件の後すぐにハルナは成体になりまシタけど、ワタシ達とはチョット違う艦娘になってたネ、普段は優しくて思いやりがある明るいコだっタけど、負けん気が異常に強くテ、普段からムサシが残していった46cm砲を使っていましタ」

 

「うわぁ…… 最初から大和砲(46三連装砲)使ってたんだ……」

 

(おか)の上では"他のハルナ"とそんなに変わらないコだったヨ、でも戦場に居る時の"このコ"はいつも思い詰めた顔をして戦ってマシタ、まるで何かに追い立てられるみたいに」

 

 

 その艤装には本来搭載不可とされていた主砲を背負い、取り憑かれたかの如く戦場で砲火を放ち、歪な自分を戦場で晒して、それでも欲した物は何だったか?

 

 

「ハルナは"ムサシの様になりたい"、その為に強くなりたいと口癖の様に言ってたネ」

 

 

 金剛型としては異質な道を辿り始めた艦娘は強さを求め、その目標を戦艦武蔵を超える事としていた。

 

 

「……皆が知っての通りハルナは武蔵と演習をして勝ちましタ、多少幸運に救われたな面もありましたが、その勝ちを引き寄せたのは間違い無く、それまでハルナが重ねてきた努力と執念が生んだ結果ネ」

 

 

 

 金剛は榛名の艤装に載せられた、無骨で巨大な砲塔を見詰める。

 

 

 

「周りではムサシが手を抜いていただとか、南方海域での疲れで本領を発揮出来なかったとか言ってましたケド、二人は実力を出し切り、正々堂々勝負をしたとワタシは思いマス、その証拠にムサシは演習の後、 「次に()る時は互いに同じ条件で相見える事を願う」 と言って自分の使っていた装備をハルナに贈ってきましタ」

 

 

 

 その試製51連装砲の砲身には 〔乾坤一擲(けんこんいってき) 大和型弐番艦戦艦武蔵入魂〕 の掠れた文字が刻まれていた、文字通り魂を削り、使えるまでに仕上げ、死線を共に潜り抜けてきたソレ(51連装砲)を相手に贈ると云うのは、戦艦武蔵が榛名に対してどう云う想いを抱いたかと察するにしては余りある証ではないだろうか。

 

 

 

「ハルナが目標だったムサシに勝った事をワタシ達姉妹は喜んだネ、勝負に勝った事もそうでしたが、これでもう無茶な事をしなくなる、明るくて優しいハルナが戻ってくると思ってましたから、……でもそうはならなかったネ」

 

「……と言うと?」

 

「ハルナはムサシとの勝負の後暫くは大人しかったデス、でも暫くすると前よりも戦闘にのめり込む様になっていったネ……」

 

 

 金剛が見る榛名は相変わらず無言で、感情の抜け落ちた人形の様な姿を晒したままだ。

 

 

「無茶自体はそれまでと変わらなかったけど、榛名自身何故そんなに焦りがあるのか自分でも判らないと言ってました」

 

「戦闘依存症?……」

 

 

 夕張が悲壮な表情で言う"戦闘依存症"、戦いが常である艦娘が、己の存在意義を強く感じる戦場に長く身を置き過ぎた結果、それ以外の場所では自我を確立出来なくなり、精神的に不安定になる艦娘特有のPTSD(心的外傷後ストレス障害)の一種。

 

 今の榛名は見た目確かに戦闘依存症に近い状態にも見える。

 

 

「どうなんでしょうネ…… それを確かめる前にハルナは新海域防衛の為、戦力再編成の召集に応じて前線へ行きましたから……」

 

「呉に出向していた第一艦隊が大本営に再編成された辺りですか……」

 

「デース、それから暫くハ手紙や電文でハルナとは連絡を取り合っていましたが、徐々に返事も少なくなって、ブインに着任した頃にはまったく返事が来なくなりましタ。」

 

「金剛さんはそれまで一度も榛名さんと会ってなかったの?」

 

「Yes、ワタシは"大本営横須賀鎮守府棟第一艦隊旗艦"デス、ココを守る責任がありマス、ハルナも任地では第一艦隊旗艦をしてると聞いてました、お互い任地を離れる事は出来ません」

 

 

 時雨の問いに、金剛は静かに首を横に振り、悲し気な表情でありながらもきっぱりとそう答えた。

 

 

「で、やっと久し振りに会えた榛名君は以前とは大分違う感じになっていたと……」

 

「違うなんて次元じゃないデス、何を言っても返事は返ってくるけど、全然感情が篭ってないネ」

 

「ですか」

 

「"あの"ムサシよりも強く、自分の感情も持たない、今のハルナは前戦で戦う指揮官からすればとても都合のいい艦娘だと思うヨ」

 

「そうでしょうねぇ……」

 

「……でも、私の自慢の妹は人形なんかじゃないネ、今日まで何があったか知らないけど、今のままのハルナを道具として扱う指揮官の下に就ける訳にはいかないネ」

 

「自分に預けるのは反対だと?」

 

「"味方の中の敵"をどうにかするのが今までサブローのしてきた仕事ネ、切り捨てる事に長けていないと出来ない仕事ヨ、友人として付き合えても妹を預ける指揮官としては一番信用出来ない部類の人間ネ」

 

「そう言われてしまうと自分としては何も反論は出来ないのが辛い処ですね……」

 

「シグレの事情も少しだけですケド、ブッキー(吹雪)に聞いてはいました、その上でさっきシグレが言おうとした"死を匂わせる言葉"は、シグレの立場や心につけ込んで、サブローが自分の道具として使うつもりで誘導してる風に見えました」

 

「ある意味それは間違ってはいないと──── 」

 

「でも──── 」

 

 

 吉野の言葉に被せる様に金剛が言葉を重ねる、その表情はたった今吐き出した苦言とは裏腹に、とても穏やかな相を表に滲ませている。

 

 

「でも、サブローは何かあればこのコ達と一緒に死んでくれるとイイマシタ、ワタシ達艦娘は別に多くは望みません、ワタシ達を在るが儘に受け入れて貰えるなら、傍に居てくれるならそれだけで命を掛けられマス」

 

「自分が言ったのは心構えです、実際そうなった時にそんな行動が出来るかどうかは保障できません」

 

「貴方は自分の感情を殺し、身内でも仕事なら迷う事無く排除する事ができる"軍の(いぬ)"デス、だから仕事に関する嘘は絶対言わないネ、もし言えない事なら嘘なんか吐かずにちゃんと"言えない"ってイイマス」

 

「それは当たり前の事でしょう?」

 

「それは違うネ、サブローは自分の立場が悪くなる事だろうと"自分の信念(仕事)に関する事で嘘は吐かない"ネ、そしてワタシが知っている〔吉野三郎〕という"友人"は、出来ない事は口にはしない臆病者デス、それだけは間違いはアリマセン」

 

「褒められてるんだか貶されてるんだか……」

 

「……今のワタシはハルナの傍に居てあげられる事が出来ないし、このコが背負ってる物を一緒に支えてあげる事が出来ないネ、……サブロー、勝手なお願いだと思いますけど、このコが探している何かを一緒に探してあげてほしいネ」

 

「探し物ですか…… あの時ここで起こった事故に何か関係があるなら、自分が一緒に探してみる価値はありそうですけど……」

 

「もしそれが見付からなかったとしても別に構わないネ、ただその時はこのコを、ハルナを"戦艦榛名"として傍に置いてあげて欲しいデス。」

 

「……」

 

「ワタシ達は寿命で死ぬ事は無い、だから終わる場所は海の上しかないネ、穏やかな死が望めないならせめて納得いく想いか、理由を持たせてあげてクダサイ。」

 

「自分も人の事言えた義理じゃありませんが、金剛さんも大概ドライですね」

 

「ワタシは金剛型戦艦ネームシップであり、戦艦榛名のオネーチャンデス、大本営横須賀鎮守府棟第一艦隊旗艦は、ワタシの名前と同じ金剛石(ダイアモンド)の様な砕けない心を持ってないと勤まらないネ!」

 

 

 敢えて自身の役職を最後に言う事で無理やり心を内へ押し込んだ金剛は、それでも最後は笑ってみせた。

 

 恐らく最後の時を迎える時であってもこの女性は今と同じく笑ってみせるだろう、そう思わせる程の様を見た吉野は静かに溜息を吐き、こう言うのであった。

 

 

「ご希望に添えるかどうか判りませんが、やれるだけ、やってみましょうか。」

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

箱庭の楽園、少女の戦場

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/12/03
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、対艦ヘリ骸龍様、有難う御座います、大変助かりました。


 あれは何時の事だったろうか、幼い彼女はまだ戦場を知らず、庇護された存在だった頃。

 

 大本営と云う場所は戦争を主導する中心であったが、皮肉にも一番戦火とは遠く、幼い彼女にとって楽園と言えた。

 

 

 優しい姉に連れられ、穏やかに流れる時間、見て回る物は全て物珍しく、初めて触れる物には興味が尽きなかった。

 

 

 そんな宝探しの様な毎日、幼子はちょっとした好奇心と悪戯心に誘われ小さな大冒険に出た。

 

 ほんの少しだけ、足を踏み出した場所はお世辞にも散歩とは言えない程の距離、それでも姉の目を盗んで抜け出し、行き先を初めて自分で選ぶと云う行為は幼子にとっては間違い無く"小さな大冒険"であった。

 

 

冒険に出る  ────  

 

 

 そうは云ってもそこは子供の行動力、普段姉と行った事のある場所を回るのが関の山だった、何時もの様に中庭で戯れ、少しばかりベンチで休み、そして来た路を戻る、それだけで冒険は終わるはずだった。

 

 

────   その日少女はいつもとは違うモノに出会う。

 

 

 少しヤレた白い軍装に身を包んだ男、そのやる気の一片も感じられない雰囲気と見た目は、大本営と云う上位組織では風紀上褒められた風では無く、少女が接してきた"大人"とは掛け離れていた為に興味の対象になった。

 

 更にその男の足元では見たことの無い小さな生き物が四本の足で忙しなく男の周りを駆け回っている。

 

 そんな"物珍しいモノ"を発見した少女が黙って見ているはずは無く、好奇心のままに行動を起こすのは自然な行動と言えた。

 

 

 男が"丁稚奉公"と呼ばれる雑務の一つ、上司の愛犬ペスの散歩中、軍の中枢である施設に居るはずが無い"子供"からハイパーなお下げが放った魚雷ばりの攻撃を受ける。

 

 

 小さな襲撃者は男を前のめりに倒す、倒された男は突然の事に驚き、固まったままだ。

 

 少女は男の背に乗ってケラケラ笑っていた、端から見れば微笑ましくも、事案発生とも見れる光景だ、なにせ満面の笑みを表に出す少女を乗せた四つん這いの男は混乱の為に半笑いであり、"幼女から絶賛ご褒美受けてます"に見えなくもない。

 

 

 一しきり人間ロデオを堪能した少女の標的は、四足で歩く己より小さなモノへと移る。

 

 生を受けて短い期間、恐怖心とは無縁の世界で育った少女は、溢れ出す好奇心を満たす為に謎の生物にしがみつき、ねぶり倒す。

 

 

 この少女からの一方的な先制砲撃から始まり着弾観測射撃至るコンボは、男が正気を取り戻す迄の数分続く事になる。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「で? 嬢ちゃんはどっから来た訳?」

 

 

 男は鈍く光を反射する赤いメタリックの缶に口を付けつつ、隣で男の持ってきたビニール袋を漁る少女へ質問してみる、が、一心不乱に袋の中身を物色する様子を見るに、恐らくはまともな返事は返ってこないだろう事は想像に難くない。

 

 

「あっち!」

 

 

 男は少女が指差した方向へ首を向ける、そこには凪いだ海、吸い込まれそうな蒼を広げた空が広がっていた、成程、海か、そうか。

 

 溜息を深く一回、視線を少女へ戻すと次の獲物を決めたのであろう、その手には毛書体で"ひやしあめ"と書かれた缶が握られていた。

 

 ペスの散歩の前、小休止の時に飲もうと愛するドクペを買いに酒保へ寄った際、明石に試供品として渡された物だ。

 

 

 そのブツを渡す明石の顔は明らかにニヤけていたが、古今東西の毒飲料に精通している男はその中身がナニか知っていた、故にこの後行く予定である兵装調整用試射場の誰かにそれを"陣中見舞い"として振舞おうと画策していた。

 

 

「……飲むか?」

 

 

 そう聞かれた少女は男に満面の笑顔で肯定の意を表す、男も何故か満面の笑顔で答える、正にゲスである。

 

 

ッポ、ゲフゲフゲフ!

 

 

 ストレートに喉を通すには甘過ぎる液体、後から襲ってくる生姜の刺激、大の大人でも初見では苦悶するソレを物心も付かぬであろう少女が耐えられる訳は無く、噴出すのも当然の結果だろう。

 

 その様子を見た男はフヒャヒャヒャと膝を叩いて笑い転げる、人間のクズだ。

 

 咳き込む少女は涙目で男に抗議の視線を投げる、声を出そうとしても喉に絡む刺激が邪魔をして上手くいかない。

 

 その少女の非難染みた視線に少し罪悪感を覚えた男は、バツが悪そうにボリボリと頭を掻く。

 

 

「あ~、悪ぃ悪ぃ、子供にはまだ早かったかぁ、今から違うの買ってきてやるから、そう怒んなよ。」

 

 

 自分の手にある缶を差し出そうとしない辺り、少しは反省をしているのであろう。

 

 

「ムー、ちゃんと飲めるもんっ!」

 

 

 しかしそう言われた少女は何か思う処があるのだろうか、頬を膨らませて再び手に持つ缶に口を付ける、が、先程の勢いは無く、恐る恐る、眉間に皺を寄せ、唇を尖らせて……

 

 

ジュルジルジルジル……

 

 

 飲む、というより(すす)っている、お世辞にも行儀が良い行いとは言えないが、飲料と種別されてはいるものの、劇物なソレを口に含むには仕方が無いのだろう。

 

 

ッパ

 

 

一口啜り終え、少女は誇らし気に、そして盛大なドヤ顔を男に向ける、成し遂げた、そう表現するに相応しい貌だ。

 

 

「お…… おう、Good…… job?」

 

 

 してやったりと満足気に少女は鼻息を漏らすと、再び缶の中身を啜り始める。

 

 

ジュルジルジルジル……

 

 

 何かを飲むという爽快感は皆無だが、その手にある物を啜ると不思議とくどさは薄らぎ、丁度良い甘みが舌に伝わる、生姜の刺激もそれ程気にならなかった。

 

 

「あま~い!」

 

 

 また一つ、少女の小さな小さな宝箱の中に宝石が一つ転がり込む。

 

 

 しかしこの宝箱の中身はすぐに消える事になる、何故なら少女は艦娘、幼体から成体へと成長すると、それまでの記憶は戦う者としての知識と置き換わり、全て失われてしまう。

 

 しかしそれでも生まれた瞬間から戦場へ駆り出される多くの同胞に比べれば、それは幸せと呼べる物である事には違いない。

 

 

 其処は小さく、余りにも狭くはあったが、それが全てだった少女にとっては間違いなく楽園であった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

ギャリギャリギャリ

 

 

 鉄と鉄が擦り合わさる音、鼻を付く油の匂い

 

 

「は~い、弾薬の装填OKよ?、さぁ!色々試してみても、いいかしら?」

 

 

 館内放送から聞こえる喧騒、緊張が肌の表面を刺激する様に撫でる。

 

 兵装調整用試射場と呼ばれる場所では、とある装備の砲撃試験が行われようとしていた。

 

 

 様々な計測用の物であろう機械に囲まれ、その場の中心で腕を組んで時を待つ艦娘、防護用のゴーグルの奥にある相貌は閉じられたまま。

 

 その背中には一目見ただけで普通では無い巨大な砲塔が据えられている。

 

 

 その規格外とも言えるサイズの砲塔はまだ不完全なのであろうか、それともそうする事が必要なのだろうか、砲室を保護すべきフードは取り付けられておらず、中の機構が表に晒された状態である。

 

 

 今その砲塔が産声を上げようかとする時、兵装調整用試射場の射弾観測室のすぐ後ろで男と少女は砲塔を背負う艦娘を見ていた。

 

 

 本来なら迷子である子供をこの様な場に連れて来るのは道義上に於いて、同時に機密保持の観点に於いてもしてはならない事であった。

 

 しかし男が中庭で子供を預けそうな人物が見当たらず、更に探す時間も無かった為、兵装調整用試射場の操作室にでも押し込んでおけばいいかと取り敢えず連れて来てはみたものの、想像以上に慌しい状況に割り込む事は適わず、仕方無く少女を保護しつつの見学となってしまっていた。

 

 

 男と手を繋ぎ、喧騒の外れから場の中心を見る少女の顔には笑顔は無かった、その代わり好奇心がその目に色濃く表れている。

                          

 今迄浸かっていた穏やかな時の流れとは違い、周りの空気は体を無遠慮に撫でていき、聞こえる音は鼓膜に大きく響く、今迄とはまったく正反対の極みにある世界。

 

 

「わぁ……」

 

 

 それでも恐怖や驚きよりも好奇心の方が勝っているのは、幼くとも少女が艦娘だからに違いあるまい。

 

 

「観測機器全作動確認OKよ、いつでもいっちゃって!」

 

 

 スピーカーから聞こえる声に対し、今迄微動だにしなかった艦娘の相貌が見開かれる、獣の様な相を露にし、口角を吊り上げ、声高らかに ────

 

 

「大和型弐番艦、武蔵……推して参る!」

 

 

 ガチリ…… 名乗りと共に金属の噛み合う様な音、続く轟音。

 

 弾ける空気の奔流と虚空に描かれる炎の波紋。

 

 そのどれもこれもが規格外であり、中腰で少女の手を握っていた男は空いていた手で顔面を思わず庇う程に、目に見えない暴力が無骨な砲から周囲へ撒き散らかせられていく。

 

 連続して生まれる厚い空気の渦と衝撃、それを身に浴びても男の隣に居る少女は変わらず、微動だにしなかったが、只一つ、見開かれた目には変化が現れていた。

 

 その目に浮かぶのは好奇心では無く羨望、食い入る様に見るそれは幼い見た目には不釣合いで、酷く不自然に見えた。

 

 

 徐々に熱を帯び、顔を(しか)めてしまう程の煙流が漂うその場でも少女は只一点を凝視する。

 

 

──── その場所は軍の中では珍しくも無い一施設。

 

──── 行われているのは戦いでは無く只の砲撃試験。

 

 

 それでも"小さな大冒険"を経て辿り着いた其処は、兵装調整用試射場という小さな箱庭で行われている"ただの砲撃試験"であったとしても、小さな艦娘にとっては、間違い無く、生まれて初めて触れた戦争であった。

 

 頬を撫でる熱気も、耳を叩く轟音も、眼を焼き尽くすかの様に煌めく発砲炎も、"本来己が在るべき世界の物"だと云う事を少女の本能が告げていた。

 

 酩酊(めいてい)にも似た甘い眩暈が頭を揺らし、永遠に続くかと思われたその世界は唐突に砕け散る事となる。

 

 

 海へ向っていた炎の柱は艤装の根元で弾け、破片を撒き散らかせながら砲塔を鉄の塊へと変える。

 

 

飛び散る油と赤い飛沫 ────

 

"何か"が少女の体にぶつかる感覚 ────

 

 

 身を焼く熱気と衝撃に、逸らした眼を再び開けた時、そこにあったのは無残にささくれ、めくれ上がった砲身であった物と、中身をぶち撒け空になった砲室 ……そして右肩から先を失い、赤い飛沫を散らす艦娘の姿。

 

 

「武蔵ぃ!」

 

 

 横に居た男は艦娘に駆け寄り、支えようとするが、その艦娘はそれを振りほどき拒絶の言葉を吐き出す。

 

 

「触るな! この武蔵は日ノ本の矛となりし者、たかが砲が爆ぜた程度で膝を屈する事は許されん!」

 

 

 艦娘の左眼が男を睨め付ける、右眼は吹き飛んだ腕と同じく既にそこには無かった。

 

 誰が見ても明らかに死に体である事は明らかであり、普通なら痛みに耐え切れず地に身を投げ出してもおかしくは無い有様。

 

 それでも武蔵と名乗るその艦娘は立っていた、艤装を背負ったまま、その両の足で地を踏みしめている。

 

 

「何言ってんだ、意地張ってる場合かよ! タンカだ! 早く入渠ドックへ連れてくぞ!」

 

「しつこいぞ貴様! 要らぬと言ったら要らん! 其処をどけっ…… 此れ位誰の手も借りんでも問題ない!」

 

 

 尚も近寄る男を再び振りほどいた艦娘は艤装をその場で切り離す、ドスンと音を立ててそれを足元に転がすと、ゆっくりと、しかし一人で外へ続く扉を潜っていった。

 

 

 全身に返り血と油を染み込ませ、苦悶に唇をかみ締める男、周りでは蜂の巣を突いたかの様に走り回る工廠妖精。

 

 男が艦娘を追おうと一歩を踏み出した時、その袖を掴む者があった。

 

 

 その主を見る、そこには男と同じく血に塗れ、袖を掴む少女が居る。

 

 その懐には千切れ飛んだのであろう武蔵の右腕が抱かれていた。

 

 武蔵から離れていたはずの少女が血塗れなのは恐らくその右腕を抱いている為か、それとも爆風で飛び散った血を浴びた為か。

 

 

「ムサシ?……オネーチャン、大丈夫?」

 

 

 真っ赤に染まった少女は泣きもせず、怯えもせず、その口から出たのは懐に抱く腕の主を気遣う言葉。

 

 

 轟沈寸前であっても、己の矜持に従い誰の手も借りずにその場を去った艦娘。

 

 血塗れになり、狂気の只中であろうと傷ついた者を気遣う少女。

 

 

 

──── 嗚呼艦娘とは何と苛烈で、そして真っ直ぐな存在なのだろうか

 

 

 

 男は少女に向き合い、そして目線を合わせる様にしゃがみ、懐に抱く腕を受け取る、それは主から切り離されてもまだ温かさを失わず、赤い雫を垂らしている。

 

 

「武蔵お姉ちゃんなら心配無いって、手もほら、お嬢ちゃんが拾ってくれたからすぐ元通りになるさ」

 

 

 男は血塗れの相とは酷く不釣合いな笑顔を浮かべ、少女の頭に手を載せ撫でながら言葉を続ける。

 

 

 

 

 

     『なんせあの武蔵は日本一強い艦娘だ、これ位屁でもない』

 

 

  

 

 

「日本一……つよい?」

 

「ああ、俺の知ってる艦娘の中で最強さ、だから心配しなくていい」

 

 

 そう言った男はこちらに駆け寄ってきた艦娘と二言三言言葉を交わした後、もう一度少女の頭を撫で、赤い跡が続く扉へ駆け出した。

 

 

「うわぁ!? 何コレ血塗れじゃない!? お嬢ちゃん大丈夫? どこか怪我してない?」

 

 

 男と入れ替わりに来た艦娘の言葉に力無く頷く少女。

 

 

 

 其処は戦場から一番遠い楽園だった。

 

 

 "小さな大冒険"を経て少女が辿り着いた其処は何の変哲も無い軍の一施設だった。

 

 其処で行われたのは只の砲撃試験で、たまたま不具合が起こした事故が起きただけの事。

 

 しかし其処は箱庭の中であったとしても、少女にとって初めて生と死に触れた戦場である事は間違いは無かった。

 

 そして其の戦場は、鉄を散りばめたコンクリートの上で赤く、紅く咲き乱れる血の華があるだけの小さな小さな花壇の様な世界だった。

 

 

 

 

 

 そんな小さな戦場を経験した少女は、この日から間も無く艦娘へと成長し、長く、無謀とも言える己との戦いに身を投じる事になる ────    

 

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

はい、榛名は大丈夫です!

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2017/08/11
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました黒25様、ちゃんぽん職人様、有難う御座います、大変助かりました。


「成程、随分と腑抜けた面になった物だな金剛型三番艦」

 

 

 武蔵は目の前に居る榛名を睨め付けつつ、不機嫌な相を表にそう吐き捨てる。

 

 

 時は榛名が試射を行ってから七日後、場所はその時と同じく兵装調整用試射場前水域。

 

 そこには艤装を背負い、正対する二人の戦艦の姿があった。  ─────────

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 あの試射を行ってから数日、吉野は出来る限りの時間を榛名と共に過ごし、観察をする事でこの艦娘の事を理解しようと勤めていた。

 

 

 一日目、特に何をさせるでも無く、事務室休憩用ブースで共に過ごす、黙ったまま微動だにしないその様は、物言わぬ人形と変わりは無かった。

 

 二日目、とりあえず散歩と称して執務棟の外に連れ出す、榛名は何を言わずとも吉野の後ろを離れず着いて来ては居たが、周りの様子を気に掛ける様子は無く、いたずらに体力だけを消費しただけだった。

 

 三日目、前の日と同じく、只二人で無目的に歩くだけの一日が過ぎた。

 

 

 四日目

 

 宛ても無く、散歩という名の徘徊の途中で中庭に立ち寄った。

 

 

「榛名君、ちょっと休憩にしようか」

 

 

 そう言ってベンチへ腰掛けつつ、吉野は榛名へひやしあめの缶を差し出す。

 

 

「……有難う御座います」

 

 

 受け取った缶を暫く見詰めていた榛名は、缶のプルタブを跳ね上げ中身を啜り始める。

 

 

ジュルジルジルジル……

 

 

 春先の中庭は、穏やかな陽気も相まって、まるで時間の流れが止まった別世界の様な印象を受ける。

 

 

ッパ

 

 

 周りから聞こえるのは風に揺れる木々のざわめきと、花壇に植えられた華が揺れる微かな音のみ。

 

 

「……あまい」

 

 

 そう口から漏らした榛名の胸の奥では形容のし難い疼きが生まれ、両手で握った缶に視線が釘付けになる。

 

 

「……提督」

 

「何かな? 榛名君」

 

「……榛名は何か…… 大事な物をどこかに置いてきた気がします」

 

 

 榛名の表情に変化は見られない、しかし口から発した言葉にはこれまでに無かった"榛名自身の心の内を吐き出した感情"が確かに篭っていた。

 

 

「ん~…… そっかぁ、大事な物かぁ、思い出せないってのはむず痒いモンだねぇ」

 

「……ずっと長い間それが何なのか考えて…… 探してきました、でも…… もう疲れました」

 

 

 要点だけを並べただけの、酷く尻切れとんぼな言葉。

 

 

「……」

 

 

 その表情は相変わらず人形の様に変わってはいない。

 

 それでも吉野にはそれがこの艦娘が必死に心の中から掬い上げ、漸く口から吐き出した言葉なのは判っている。

 

 

 吉野の視線は榛名が缶を握る両手に注がれている。

 

 その手は微かではあるが小刻みに震えていた、感情を表に出し、言葉にする事すら今の彼女には難しい物だとその様子が充分に語っている。

 

 

 昔、ほんの少しだけ行動を共にした少女、微かに思い出されるその表情は、無邪気に笑う歳相応の物だった。

 

 その表情を殺し、感情すら表に出せない程にこの榛名という艦娘の精神を磨り減らした物とは何なのか?、それを自分は探す事が出来るのか?

 

 それが見付かったとして、この目の前の艦娘の心を救う事が出来るのか?  ─────────

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

─────────  五日目

 

 榛名の事を秘書艦時雨に任た吉野は、大本営()下第一艦隊に宛てられていた"小さな鎮守府"に出向いていた。

 

 

「武蔵さん、ちょっと、頼まれて、くれませんか、ねぇ?」

 

 

 そう用件を口にした吉野は、何故か武蔵にバーリトゥード宜しくマウントポジションを取られ、雨あられと振り下ろされる拳をヒョイヒョイと避けていた。

 

 

「貴様がっ! 泣くまでっ! 殴るのをっ! 止めないっ!」

 

 

 武蔵が放つ殺意を込めた拳が吉野を掠め、ドスンドスンと鈍い音と共に床へ叩きつけられていく。

 

 

「のぉ木曽よ、アレは何をしておるのじゃ?」

 

 

 唐突に廊下で始まったアルティメット・チャンピオンシップを横目で眺めつつ、利根は酷く冷静に、しかし真っ当な疑問を、横に居る同僚の木曽へぶつけていた。

 

 

「あー、アレなぁ……」

 

 

 木曽がボリボリと頭を掻きつつ利根に事のあらましを説明し始める。

 

 

 それは先日の事、最近戦況が芳しくない南方海域の対策を練る為、大隅巌大将が関係者を呼び出し会議をしていた。

 

 召集されたのは戦略研究室の室長、当該海域基地所属の副司令級文官数名、そして大本営()下第一艦隊から第四艦隊の旗艦及び副艦。

 

 内容は緊急を要し、また問題解決の糸口が見出せない状況であった為、酷く緊張した物だったらしい。

 

 

 現場と指揮する側との意見の剥離、互いに譲り合う事無くそれは平行線を辿り、生産性皆無の時間が流れる。

 

 互いの口数も徐々に少なくなり、緊張していた空気が険悪に変化し掛けた時、それまで無言を貫いていた武蔵が突然席を立った。

 

 

 何事かと周りの者が見守る中、武蔵は肩で風を切る様に上座へと移動し、席に着く大隅の傍らで歩みを止る。

 

 訝しむ表情の大隅を睨み付けるその眼は、幾多の深海凄艦を海へ沈めてきた武人・戦艦武蔵が戦場で見せるソレであった。

 

 

 水を打ったかの如く静まり返る会議室、誰も空気に飲まれ動けない、動く事が出来ない、そして周りが固唾を呑んで見守る中、武蔵は大隅に向ってスカートを捲くりあげた。

 

 

 堂々と、胸を張り、武人然とスカートの中身を大隅に見せ付ける、其処に一切の躊躇いは無く、威風堂々とスカートの中身を大将に見せ付ける大戦艦武蔵の姿があった。

 

 

 再び水を打ったかの如く静まり返る会議室、誰も動けない、動こうとはしない、そして周りが固唾を呑んで見守る中、武蔵は大隅に向ってこう言い放った。

 

 

「ふふふ痴女だ、怖いか?」

 

 

 其処には姫級を沈めた時の様に、武人としてやり切った感を存分に漂わせた戦艦武蔵と、訝しむ表情のまま固まった大隅、そして凍りついたままの会議室があったという。

 

 

「……何じゃそれは?」

 

「俺は副艦として会議に参加してんだけどな、その時吹雪さんに言われて武蔵の姉御を会議室から連れ出す手伝いをしたんだ……」

 

「ふむ、それで?」

 

「まぁ後は吹雪さんお決まりの折檻コースになった訳なんだけど、その時姉御が言うにはどうもサブ(三郎)に何か吹き込まれたらしくてな」

 

「それが何でスカート捲りに繋がるんじゃ?」

 

「さぁ? 泣きながらナンかサラシだの新世界だの訳の判んねぇ言葉を言ってた気がするけど、結局意味が判らずじまいでね」

 

「要するに三郎がまた何かやらかして武蔵の逆鱗に触れた訳じゃな? ほんに彼奴(あやつ)はいつも懲りん奴じゃのぅ」

 

「ウワア~ン木曽えも~ん、たぁすけてぇぇぇ」

 

 

吉野がクネクネと凶弾から器用に身を躱しつつも、やたらと緊張感の欠如した命乞いの言葉を上げている、ヒートアップした武蔵の形相と比較すると、とても珍妙な空間がそこに繰り広げられている。

 

 

「だそうじゃぞ木曽えもん、そろそろアレをなんとかせんと下の第四艦隊から苦情が来るやも知れん」

 

「誰が木曽えもんだっつーんだ、……ハァ、武蔵の姉御、そろそろ止めとかないとまた吹雪さんが飛んできちまいますよ?」

 

 

 廊下で繰り広げられていた大本営アルティメット・チャンピオンシップは、レフリー・キソーがゴングを鳴らしつつ介入した後、ほんの少しの場外乱闘を経てノーコンテストが成立した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「……で? 頼みとは一体何だ?」

 

 

 苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、武蔵はぶっきら棒にそう言った。

 

 その頭にはタンコブらしき膨らみが見える。

 

 

「ええと、その、ちょっと演習をお願い出来ない物かと……」

 

 

 武蔵が座るソファーの前で正座したまま吉野が用件を口にしている。

 

 その頭には、某31アイスクリームで期間限定の時に販売されるトリプルなアレの如きタンコブが乗っている。

 

 

「……」

 

 

 そして武蔵の横では、大本営アルティメット・チャンピオンシップの真の覇者である吹雪がジト目で二人を監視している。

 

 

「演習? そうかそうか貴様も提督の端くれになったのだったな、艦娘にその身を挺して見本を見せようと云うその心意気は天晴れだ、今すぐ表へ出ろ、存分に砲弾をくれてやる」

 

「は? いやいやナニ言っちゃってくれてんです? 自分がやる訳無いじゃないですかヤダー、これだから脳筋痴女はコワイワー」

 

 

 まるで小学生が争うレベルの舌戦は、開幕した瞬間ハイパー壱号、クレイジーサイコ○ズ、キャプテンキソーの甲標的が放つ無慈悲な雷撃を浴びた哀れな駆逐艦の如く消し飛んだ。

 

 

「……相手は何処の艦隊だ? 貴様の処にはまだ二人しかおるまい?」

 

 

 武蔵の頭には更にタンコブが一つ追加されている、一つ目から正確に対を成す位置にそれは鎮座し、更に大きさが寸分違わぬ物である事から、それを作ったタンコブ職人が只ならぬ技量の持ち主だと伺える仕上がりとなっている。

 

 

「……いえ、艦隊戦じゃなく、うちの榛名君と()って頂きたいんですが」

 

 

 静かにそう返す吉野の頭には通天閣の如き四連タンコブがそそり立つ、某不幸戦艦妹がその部分だけを見た場合、姉と勘違いしてしまうのでは無いであろうかという程ジェンガジェンガしている。

 

 

「……」

 

 

 武蔵の隣では初代大本営アルティメット・チャンピオンシップ覇者であり、同時にタンコブの匠である吹雪の目が金色のオーラを放つ三白眼になっている。

 

 恐らくその視線だけで空母凄姫を新型赤艦載機ごと屠れる程の力があるだろう事は想像に難くない。

 

 

「……ほう? 単艦での演習か? 昔の意趣返しをさせてくれるとは有難い話だな、それで? 貴様は何を企んでいる?」

 

「特に何も、只ちょっとお願いしたい事がありまして……」

 

「……言ってみろ」

 

「演習は本気でお願いします」

 

「この武蔵、()るからには演習だろうが実戦だろうが手など抜かん事は判っているな? その上で念を押す理由は何だ?」

 

「その辺りは当日になれば判るかと…… お願い出来ますか?」

 

「ふむ…… 良かろう、空いてる時間を調べて後で連絡する、場所は大演習場でいいか?」

 

「いえ、兵装調整用試射場でお願いします」

 

「兵装調整用試射場? 単艦同士で()るなら狭いという事は無いだろうが、何故其処なのだ?」

 

「ちょっとした事情で、そこでなければ意味が無いんですよ」

 

 

 吉野の目は真っ直ぐに武蔵を捉えている、先程の飄々としたそれとは打って変わり、仕事の時に見せる"影法師(かげぼうし)"の(かお)になっていた。

 

 

「成程、理由は判らんが貴様が本気ならこちらに断る理由は無い、場所を押さえるのはそちらに任せる、それでいいか?」

 

「すいませんが、宜しくお願いします。」

 

 

 そうして時を経た七日目、戦艦武蔵と戦艦榛名は二度目となる単艦による演習を迎える事となる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

─────────  武蔵が吐き捨てた言葉に榛名は特に反応を見せる様子は無い、只無言で正対し、作り物の様な表情を向けたままそこに立っていた。

 

 

 

「何があったかは知らんが三郎が念を押した意味が判った、確かにそう言われてなければ"人形相手の演習"なんぞ馬鹿らしくて放り出してた処だ。」

 

「……」

 

 

 向かい合う二人の距離は凡そ50m程、砲の有効射程距離を考えると、互いに砲身を額に当てている様な物だ。

 

 そして二人が艤装に搭載しているのは試製51連装砲、日本海軍で稼動している二組しか無い装備がそこで対峙していた。

 

 

「えーっと、そろそろ確認してもいいかしら? 今回はお互い単艦での演習、エリアはこの施設に割り当てられている海域一杯で、使用弾種は演習用ペイント弾"赤"」

 

 

 夕張が言ったペイント弾"赤"、それはそのまま演習弾の中に詰められているペンキの色を示す。

 

 通常演習で用いられているペイントの色は、蛍光塗料が混ぜられた緑や黄色が一般的であり、血の色を彷彿させる赤は忌避され殆ど使用はされない。

 

 それでも稀に使用される時がある、その意味する処は演習弾を使用した物であったとしても、それは真剣勝負であり、"死合い"だという意思をお互いに示した時のみである。

 

 

「時間制限無し、終了はどちらかの"轟沈判定"が出た時のみ、被弾箇所にペイントが観測された時は、被害状況を想定した制限を妖精さんが動きに反映させるから気をつけてね」

 

「死なない、傷を負わない以外は実戦と同じ状況を作り出す、双方弾切れの時は補給をした後、寸前のダメージを残したまま仕切り直す、"あの時"戦った時と同じ条件だ、異存は無いな?」

 

 

 夕張の説明に合わせ、武蔵が確認の為そう言葉を被せる、そして榛名がそれに肯定の意を示す頷きを一度だけ返す。

 

 吉野は陸側から二人に一番近い位置に陣取り、その様子を眺めていた。

 

 

「提督、そこだと流れ弾が飛んで来るから危険だよ?」

 

 

 その横では時雨が周りを確認しつつ場所の移動を促すが、当の吉野にその提案を受け入れる気配は微塵も無い。

 

 

「あ~、かも知んないねぇ」

 

「操作室ならカメラで様子が見れるだろうし、防弾壁に囲まれてるから安全だと僕は思うんだけど」

 

「だねぇ…… でもあそこからじゃ自分の目で見るには遠過ぎるんだよね」

 

「移動する気は、無いのかな?」

 

「悪いけど……無いね、それじゃ、意味が無い」

 

 

 そう言う吉野を暫く見詰めていた時雨は、背中から愛刀"関孫六"を引き抜き、それを腰へ添えると海と吉野の間に割り込んだ。

 

 身長差がある為、時雨が目の前に立っても吉野の視界を遮る事は無い。

 

 

「砲弾斬りは余り得意じゃ無いんだけどな……」

 

「ん~、時雨君にはいつも迷惑を掛けるねぇ~」

 

 

 吉野が如何にも時代劇で出てきそうな台詞を口から漏らしつつ、頼りになる秘書艦の頭を撫でると、時雨はホニャっと表情を崩した。

 

 

「おとっつぁん、それは言わない約束だよ」

 

 

 変わり者の提督の秘書艦は、割とノリの良い変わり者だった。

 

 

「観測器と艤装のリンクを確認、周辺海域に感無し、いつでもどうぞ」

 

 

 館内放送と共に演習開始を示すサイレンが鳴り響く。

 

 互いに初弾を放ち、演習を開始する。

 

 

 缶の圧力は一杯に、決して単純な航跡を描かぬ様時計回りに相手との距離を保つ。

 

 それは必然的に歪な円を水面へ刻み込み、その中は何人たりとも進入を許されない死の世界へと変貌する。

 

 

 撃ち合いが開始されて数合目、榛名が対空砲火で見せた"連なり撃ち"で武蔵の周りにペイント弾の中身を撒き散らす。

 

 微細な飛沫が少しづつ武蔵の艤装へ付着し始め、赤色が目立ち始める。

 

 

「なんだ、前線で経験を積んできたのかと思ったが、何の事は無い、小賢しい小手先の技を増やしてきただけとはな。」

 

 

 その武蔵の言葉に少し片側の眉根を上げた榛名は、砲撃の頻度を上げ、武蔵の周りを爆発炎で囲んでいく。

 

 そして武蔵の艤装に付着するペイントが、そろそろ主機へ影響を及ぼすかと思われたその時……

 

 

「そんな無理な撃ち方をしてれば体幹がブレて足元がお留守になる、そしてそれに合わせ至近弾で止めていた狙いを命中弾にしてやれば、そら」

 

 

今迄掠る気配も見せなかった武蔵の砲弾が榛名の左砲塔を直撃する。

 

 

「何だ、木偶(でく)の様な顔をしていたからてっきり無反応だと思ったが、こんな安い挑発に乗って向きになって撃ちまくってくるとは可愛いものだ」

 

「……」

 

「そして覚えておくがいい、駆け引きとはこうする物だ、小手先に頼る者は寄る辺が無くなれば何も残らん」

 

 

 直撃した砲弾の威力は凄まじく、直接砲弾を受けた砲塔は元より、その後部の砲身にも幾らか飛び散ったペンキが付着していた、その為爆発により砲身が歪みを及ぼしたと判定され使用不可能にななる。

 

 これは単純に手数が減っただけでは無く、撃てる砲弾数を半減させ、継戦力を著しく下げてしまう結果となった、そしてそれは弾薬補給の機会があったとしても回復しない致命的なダメージになる。

 

 

「榛名さん、第三砲塔に直撃弾、内部弾薬が暴発し第四砲身に歪み判定、腔発(砲身内暴発)を避ける為に使用不可になります」

 

 

 判定状況を告げる夕張の声が、僅かにハウリングを伴いスピーカーから聞こえてくる。

 

 

「つまり、たった一発の直撃弾で左側の武装が全てオシャカになった訳だ」

 

 

 飛び交う砲弾の数が目に見えて減っていき、武蔵の言葉が結果として現れる。

 

 それは万遍無くと云う訳では無い、当初速射砲の如く連撃を繰り出していた榛名が精密射撃に切り替えた為、弾幕の密度が大幅に薄くなっている。

 

 対して武蔵はと云うと開幕から砲撃のペースは変わらず、蓄積する一方だった弾幕がほぼ無くなったお陰で立ち回りが更に巧妙になる。

 

 

「榛名さんの弾筋がブレてきたね……」

 

 

 明らかに精度が落ちた榛名の砲撃を確認しつつ、更に流れ弾が来る確立が上がった事を警戒する時雨は、ほんの僅かだが吉野の方に体を寄せる。

 

 

「地力の差……かな? 武蔵さんは元々実戦でも人型を相手にする事が多いし、平時でも演習の量は普通の艦娘より遙かに多い、"駆け引きが物を言う戦場"では滅法強いんだ」

 

「そうみたいだね、最初の一撃を貰った後から一方的な展開になっちゃってる」

 

「時雨くんの見立てではどんな感じ?」

 

 

 後方に見える大型モニターには 榛名 -中破- の文字と、行動制限の詳細が羅列されている。

 

 

「榛名さんの行き脚(航行速度)が徐々に落ちてきてる……と思う、このままだと、どんどん死角に回られちゃって対処出来なくなるんじゃないかな……」

 

「足を止めての撃ち合いになると?」

 

「それまで榛名さんの装甲が持てばいいんだけどね、お互い一撃の威力が大きいから、長期戦にはならないんじゃないかな」

 

「成程ねぇ……」

 

 

 榛名は中破判定が出た直後から船速が極端に落ち、防戦寄りに動く事を強いられる。

 

 

「どうした? あの時"の貴様はそんな腰の引けた戦い方なんぞしなかったぞ」

 

 

 戦場で殺意を以って砲を向けられた事は幾許かあったが、己を否定される事や一方的に嬲られる経験は榛名には無かった、それ故いとも簡単に榛名は武蔵の挑発に乗せられてしまう。

 

 

「……黙れ」

 

 

 煽られる言葉に反応すれば、その隙を衝いて凶弾が喰らい付いてくる、既に缶の出力は半分以下に制限され、限界まで振り絞らなければ回避する事さえままならない。

 

 

「逃げるか? それもいいだろう、だがな、我等戦艦は当ててナンボ、喰らってナンボだ、盾にも矛にも成れない者が戦場で一体何をするというのだ」

 

「……ダマレ」

 

 

 限りなく至近弾に近い夾叉、主機を庇ったせいで二番砲塔沈黙、水柱が視界を遮る、邪魔だ、まだ相手は小破の判定すら出ていない、ならば回避を捨てて撃ち合うしか無い。

 

 

「ほう? やっと()る気になったか、だが遅い、もう貴様には私を追う足も、砲弾を受け止める装甲も残っていない、大人しく白旗を揚げてはどうだ?」

 

「黙れぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 撃ち出される砲弾は互いに至近弾、しかし続けて撃ち出そうとした二射目は更なる被弾で逸れ、あらぬ方向へ飛んでゆく、武蔵の砲は四機全て健在で、榛名に残されたのは一機のみ。

 

 偏差で撃たれれば四倍の手数に適うはずも無く……

 

 

「っ!? 提督っ!」

 

 

 榛名の放った砲弾は流れ弾と化し、吉野が居る場所へ墜ちてくる、が、時雨が辛うじてそれを叩き切る。

 

 爆発こそ無いものの、内部に充填された赤い液体は周囲を朱に染め上げる。

 

 

「……時雨君、助かったよ、君が居なかったら直撃してるところだった」

 

「……実弾だったら僕も提督も完全にアウトだったね」

 

 

 吉野を含め、辺りはペイント液で真っ赤になっている、これが実弾だった場合、その染まった箇所は死亡確定のキルゾーンになっている。

 

 

「うん、次からはもうちょっと考えて行動する事にするよ」

 

「こんな状況になっても一歩も動く気配の無い人が言っても、全然説得力に欠けると思うよ」

 

 

吉野と同じく全身を朱に染めた時雨は操作室のモニターを見詰めている。

 

 

「でも…… もう終わり、なのかな?」

 

 

榛名 -大破- 主機沈黙 第一砲塔基部破損の表示がそこに表示されていた。

 

 

「終わり、だな、結局貴様は器用に砲を操ってはいたが、肝心の心はここに無かった、信念も無く、只反応だけする腑抜けに私は"それ"(試製51連装砲)を預けた覚えは無い」

 

「……」

 

 

 榛名は既に其処から動く事は出来ず、更に攻撃する手段も尽きた。

 

 目の前でこちらを睨む艦娘と、更に向こうに見える朱に染まった人影が視界に映る。

 

 

 ……何故か心臓が跳ね上がる感覚を覚える。

 

 

「もう戦えない相手に砲を向ける程私は酔狂では無い」

 

 

 視界の中の艦娘が踵を返す。

 

 一度は超えるべき目標として憧れ、自分の全てをぶつけた相手。

 

 

「"武蔵殺し"の看板は貰っていくぞ」

 

 

 遠ざかる後姿。

 

 あの人に勝ち、全ては達成されたはずだった、でも何かが足りなかった。

 

 

 そう…… 決定的な何かが。

 

 

 それを考える日々、戦ってる間だけは足りない何かが埋まっている気がした。

 

 なればその足りない物は戦いの中にあるのでは無いか?、そう思い全てを戦場へ注ぎ込む事にした。

 

 

 しかし容赦無い砲撃も、無慈悲な雷撃も、その足りない部分を埋める事は無かった。

 

 

 無謀な作戦程望んで参加し、形振り構わず戦う様になった。

 

 

 沈めた敵の数は増えたが、その代償として自分の戦い方はどんどん常識とは外れていき、周りには誰も居なくなった。

 

 前線を渡り歩き、足りない物の影すら掴めず、死生観が麻痺する毎日に、どんどん磨耗していく自分に気付いた時には、既に引き返せない処まで来てしまっていた。

 

 

「……」

 

 

 今、自分に背を向けて遠ざかっていく艦娘は確かに自分が目標とした存在だった。

 

 もうすぐこの演習も終わるのだろう、でも、本当にこのまま終わっていいのだろうか?

 

 迷う視線の先には、戦艦武蔵の背中と、そしてその向こうで全身を真っ赤に染め、こっちを見ている人物の姿がやけに鮮明に見える。

 

 

「……ぁ」

 

 

 胸の奥底、錆びて転がっていた小さな箱から軋む様な音が聞こえる、其処から疼きが広がり、渇望が止め処なく湧き上がってくる。

 

 このまま終われない、終わっていいはずが無い、本能がそう告げている。

 

 

 

─────────  何時か見たあの眼は、あの場所は

 

─────────  心を掻き乱すあの赤い、紅い色に咲くあの華は

 

 

 

 自分が望んだ物が、全部と引き換えにしてでも探した"何か"がすぐ目の前にあると云うのに、このまま届かないまま終わってなる物かと闘争本能に火を点ける。

 

 

「ああああ嗚嗚嗚嗚呼!!」

 

 

 回らない主機を、動かない砲塔を、引き摺る様に持ち上げ、其れを武蔵へ向ける、まだ、演習の終了は宣言されていない。

 

 その雄叫びに振り向く武蔵は、声の主を見て口角を僅かに上げた。

 

 

「……ほぅ?、やっと狩るべき獲物の眼になったな、そうか、なら止めをくれてやる、沈め!!」

 

 

 再装填される砲弾、四機八門全てにそれが送り込まれる。

 

 対して榛名は動かない砲塔に右手を振り降ろす、グシャリと嫌な音を立て激しい痛みが襲ってくるが、それを無視して再度拳を叩き込む。

 

 無理やり動かした砲が相手を正確に捉えたか確認する術も時間も無い、相手の方向へ砲身が動いた事を確認すると、武蔵を睨み付け ───────── 

 

 

 

 

 

「勝手は!榛名が!許しません!」

 

 

 

 

 

 互いの砲が火を吐き出す、片方からは八発の斉射、対する片側からはたった一発。

 

 

 刹那

 

 演習弾が着弾し、弾ける独特の音が聞こえ、衝撃が霧散する。

 

 

 

 一瞬轟いた轟音は、徐々に、糸を引く様に小さくなり、やがて波の音だけが聞こえてくる。

 

 

 

 そして演習終了のサイレンが鳴り響き、操作室上部に設置された大型モニターには新しい文字が更新される。

 

 

 

榛名 -轟沈-

 

 

 

 武蔵が放った砲弾はそのどれもこれも全て榛名を捕らえ、全身を余す処無く赤く染め上げていた。

 

 

「……」

 

 

 対する武蔵は愉し気に、そして獰猛な笑みを表に貼り付け、榛名を睨んでいる。

 

 

 

武蔵 -轟沈-

 

 

 

 その首元から赤く広がる色は、上半身の至る処に飛び散っていた。

 

 命中箇所に実弾を受けたと仮定するなら、それが大和型の強固な装甲があったとしても、胴から首が千切れ飛んでいたであろう。

 

 

「二度、同じ相手に殺されるとはな、私もまだまだだったと云う事か」

 

 

 只一撃、残された全て、意地と、想いを吐き出し、最後に武蔵を撃ち抜いた砲身。

 

 榛名の全てを武蔵に届けたその砲身には 〔乾坤一擲(けんこんいってき) 大和型弐番艦戦艦武蔵入魂〕 の文字が刻まれていた。

 

 

「ボロボロに…… されてしまいました」

 

「こちらも最後にしくじった、今回は痛み分けだ」

 

「はい…… でも、まだ終わってはいません」

 

「うむ、まだ私は負け越したままだ、いつかこの借りは必ず返す、それまで"それ(51センチ連装砲)"は預けておく」

 

「はい、今度は榛名も無様な姿を晒しません」

 

 

 榛名の言葉に満足したのだろうか、それ以上の言葉は口にせず、只カラカラと笑いながら武蔵はその場を後にする。

 

 

「……」

 

 

 黙って武蔵を見送った後、榛名は大きく、静かに、一度だけ深呼吸する。

 

 戒めが解かれた主機に火を入れて、自分を見ているだろう岸に立つ男の下へと航路を定める。

 

 

 そして首に貼り付けたマイクに手を添え、(はや)る気持ちを押さえ付け、言葉を選んで問い掛ける。

 

 

「……提督、榛名は"強くなりましたか?"」

 

 

 そう榛名が問い掛けた男の姿はまだ遥か彼方、それでも艦娘の視力を以ってすれば、表情の変化すら捉えられるだろう。

 

 

「え…… いやまぁ君が弱いって言うなら、誰の事を強いって言えばいいのかなぁ」

 

 

 そう苦笑交じりに男が返事を口にする、それは榛名が聞きたい答えでは無い。

 

 少し不満気な相を表に出しながら、再び榛名は男に問い掛ける。

 

 

「榛名は…… 榛名は……」

 

 

 

 

    『日本一の……ムサシさんより、つよく、なったでしょうか?』

 

 

 

 

 榛名の問いに、昔自分が少女に言った言葉を思い出し、驚きの表情を浮かべた男は、それでもすぐに口元を綻ばせて

 

 

 

 

 

    『ああ、俺の艦隊の戦艦榛名は、武蔵を倒した日本一強い艦娘さ』

 

 

 

 

 

 そう答えた。

 

 

 

 榛名の心の奥に転がる、二度と開くはずが無かった、錆び付いた小さな箱の蓋が開け放たれる。

 

 其処には何も入っていなかった、少女が艦娘になった時、其処に詰まった小さな宝石は全て消えたのだから。

 

 それでも再び開いた小さな箱には、たった今、"あの日"と同じ小さな宝石がコロリと一つ転がり込んだ。

 

 

 

─────────  巨大で歪な砲を背中に据えた艦娘の目からは、涙がはらはらと(こぼ)れ落ちた

 

 

─────────  声も無く、しかし頷きもせず、只はらはらと両の目から涙を(こぼ)した。

 

 

 

 自分は強くなりたかった。

 

 武蔵の様な強い存在になりたかった。

 

 そして今なら判る、自分はただ強くなりたかった訳では無く。

 

 

 あの日血に塗れた、それでも笑って戦艦武蔵を強いと言ったこの男に自分は認めて貰いたかったのだと。

 

 この"吉野三郎"という男に強いと言って欲しかった、ただそれだけだったのだと。

 

 

 

 碌に覚えていない微かな思い出、小さな決意。

 

 それを探す長い長い時間はやっと終わりを告げた。

 

 

 戦場に身を置く榛名には、これから終わりの無い戦いに身を投じる日々が続くだろう。

 

 それでもその胸の奥にある宝箱には、終わってしまうその日まで、小さな宝石が少しづつ転がり続ける。

 

 そしてそれは二度と消える事は無い、何故ならもう榛名は少女では無く艦娘なのだから。

 

 

「随分とまぁ、派手にやられたモンだねぇ、大丈夫かい?」

 

 

 そう苦笑交じりに頭を掻く男に

 

 金剛型戦艦三番艦榛名は、涙を拭く事もせず、あの日、小さな箱庭で見せた少女と同じ満面の笑顔を浮かべてこう答えたのだった。

 

 

 

 

「はい、榛名は大丈夫です!」

 

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 逝こうよ! 動○の森

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2017/02/12
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました物数寄のほね様、有難う御座います、大変助かりました。


 東山三十六峯(ひがしやまさんじゅうろっぽ)草木も冥る丑満刻

 

 

 場所は日本海軍大本営2F、第二特務課リビングルーム。

 

 吉野三郎中佐(28歳独身梅干は塩分20%以上の物しか認めない)は、部屋の真ん中で固まっていた。

 

 

 部屋の明かりは消えているが、雲の薄い空には下弦の月が浮かんでおり、少し目を凝らす程度で部屋が一望出来る程は明るくなっている。

 

 差し込む月明かりは幻想的で、窓際に設えたソファーの上に佇む物体を柔らかく照らしている。

 

 

「く…… 熊?」

 

 

 ソファーの上には熊?が正座で、ゆっくりと首を前後に揺らし船を漕いでいる。

 

 熊? が正座でソファーに鎮座している、熊では無い、熊? だ。

 

 

 その頭は某メロン熊ばりにリアル不気味系ではあるが、頭部に比べ首から下が妙にちんまい。

 

 誰がどう見ても例のメロン熊の頭部を乗せたピクミンがそこに居た。

 

 

 人は突発的な出来事に遭遇するとパニックを起こし、思考が停止する。

 

 たれバンダのパジャマを着た吉野三郎第二特務課々長(28歳独身かつぶしオクラ牛丼がジャスティス)も例に漏れず、熊?を凝視したまま由緒正しい重雷装巡洋艦のポーズで固まっていた。

 

 

 その何とも言えない異空間が30秒程続いたであろうか、熊?がビクリと痙攣すると、のろのろと頭を持ち上げた。

 

 

「ッヒ…… んぅ…… ふぁ……」

 

 

 良く見るとメロン熊っぽい頭部の下部には穴が開いており、そこから見知った顔が覗いている。

 

 

「え~っと、時雨、くん?」

 

「あふ…… ん、てい……とく? おはよう?」

 

「いや…… 今超夜中なんだけど……」

 

「……いい雨だね?」

 

「……うん、その、めっさ晴れとるし」

 

 

 正体不明のメロン熊みたいな何かは、日本海軍大本営第二特務課秘書艦、白露型二番艦時雨であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「で、こんな時間にどうしたのかな?」

 

「んと、ちょっと寝付きが悪くてね、気分転換のつもりでリビングに来たんだけど、そのままうたた寝しちゃったみたい」

 

「そっかぁ、うたた寝しちゃったかぁ、寝付けないのは仕方ないけど、まだ夜は寒いから気を付けないとねぇ」

 

「それなら大丈夫、このパジャマ寝袋の代わりにもなるから」

 

 

 結局あの後、熊? 改め時雨と二人で深夜のお茶会(炭酸飲料)に突入したのはいいのだが、いつもの距離で時雨が隣に座ると、主に頭部のゴワゴワとした感触が二の腕に当たるので妙にこそばゆい。

 

 そっちに視線を向けると本物より物騒チックな造詣がより際立って見える。

 

 

「ああ…… うん、それパジャマなんだ? 何と言うかその、うん」

 

「カワイイでしょ? これインナーも蒸れない素材になっててね、結構スグレモノなんだ」

 

「え、カワイイ?…… うん、カワイイ…… のかな?」

 

 

 古今東西、年頃の乙女が言う〔カワイイ〕は、某ガンダム世界のミノフスキー粒子並みになんでもアリな表現ではなかろうかと思ったりもするが、そこはそれ、本人がカワイイと言うなら他人がどうこう言う事では無いのだろう、多分、そう納得しておく。

 

 

 おもむろにリアルベアーヘッドを撫でてみる。

 

 ゴワゴワしている、そして前言撤回、どう見てもやはりキモい。

 

 

 吉野が思案顔で着ぐるみの頭を撫でくり回していると、ゴソゴソと頭部のそれを脱いだ時雨が頭をこちらに寄せてくる。

 

 

「んぇ? な…… 何かな?」

 

「えっと、撫でるなら直に撫でて欲しいかな?」

 

 

 そう言われてしまうと、特に断る理由は無いので差し出された頭を軽く撫で付ける。

 

 東山三十六峯草木も冥る丑満刻、熊の着ぐるみを着た少女の頭を無言で撫でる三十路前の男、異空間の層が厚くなった気がした。

 

 

「あら? お二人共こんな時間にどうしたんです?」

 

 

 廊下からそう声がしたのでそちらへ振り向いた。

 

 

「と…… 虎?」

 

 

 そこには某東洋の黄色い悪魔の様なリアルタイガーヘッドから顔を覗かせた、全身余す処無く虎柄の着ぐるみを着込んだ、日本海軍大本営第二特務課所属金剛型三番艦榛名が首を傾げてこちらを見ていた。

 

 因みに榛名の方が時雨より身長があるので、等身的には違和感が僅かばかり緩和されてはいるが、やはりそれは虎では無く虎?、である。

 

 

「や…… やぁ榛名君、おはよう?」

 

「あの提督…… おはようと言うかまだ夜中だと思うのですが……」

 

 

 

 くどい様だが東山三十六峯草木も冥る丑満刻である、夜明けまではまだ遠い。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

ジュルジルジルジル……

 

ッパ

 

 

「あまいです」

 

 

 深夜のお茶会にまた一人メンバーが加わった。

 

 

 吉野三郎中佐(28歳独身実はパジャマだけじゃなくパンツもたれパンダ柄)の左には秘書艦時雨、リアル球磨もといクマ頭は後ろに転がっている。

 

 右には高速戦艦榛名、かのタイガーマスクな頭装備は首の後ろに垂れ下がっている。

 

 そして何故か両手で其々の頭を撫でながら、時雨にドクぺを飲ませて貰っている。

 

 どうしてこうなった?IN東山三十六峯草木も冥る丑満刻。

 

 

「ナニ?、なんなの? 今時の艦娘界隈はアニモーなパジャマ流行ってんの? ねぇ?」

 

「これですか? 何でも最近の出来る艦娘のナイトウェアは獣系と聞いたので……」

 

「明石?」

 

「うん」

 

「……」

 

 

 吉野の貧乏揺すりが残像を残す程の速度に達した、最早人間業では無い。

 

 

「えっと君達、その、何だ、余りピンクのモミアゲの言葉に踊らされない様にね? いやマジで」

 

「確かに明石さんに勧められたから買ってみたけど、これはこれで良い物だと僕は思うんだけど、カワイイし」

 

「ですよね! 皆さんの評判もいいみたいですし」

 

「……皆さん?」

 

「はい!」

 

「他に誰かその、アニモーなパジャマ買った人居るの?……」

 

「僕らは第一艦隊の皆と買いに行ったけど」

 

「第一艦隊って…… 利根ちんとか?」

 

「え? 全員とだけど、ね?」

 

「はい、結構バリエーションがあるので皆さんと被らないように一緒に買いに出掛けましたが」

 

「ぜ…… 全員…… 第一艦隊が全員着ぐるみ……」

 

 

 吉野の記憶が正しければ、大本営麾下第一艦隊と言えば、泣く子も黙る武闘派集団だったハズ。

 

 

旗艦 大和型二番艦 戦艦武蔵

副艦 球磨型五番艦 重雷装巡洋艦木曽

伊勢型二番艦 航空戦艦日向

加賀型一番艦 正規空母加賀

利根型一番艦 航空巡洋艦利根

秋月型一番艦 駆逐艦秋月

 

 

 利根と秋月辺りならまぁ判らなくもない、百歩譲って木曽もまぁ、利根に無理やり押し切られて仕方なくと云う可能性もあるかも知れない。

 

 しかし…… しかしである、残りのメンツが途方もなく、壊滅的に着ぐるみとイメージが結び付かない。

 

 

「……因みに他の人ってどんな着ぐるみ買ってたの?」

 

「着ぐるみじゃなくてパジャマなんだけど…… ん~と、確か利根さんはキツネだったかな」

 

 

 キツネか、まぁ妥当か? いや着ぐるみの時点でもう何か間違ってる気がしないでも無いのだが、そうか、利根がキツネなら筑摩は緑な狸とか買いそうだなと吉野は思った。

 

 

「秋月ちゃんは確かワンコでしたね」

 

 

 ワンコか、どっちかって言うと時雨辺りがそっち系だと思うのだがまぁ当たり障りはないなと吉野は頷いた。

 

 

「木曽さんは……鳥? だったと思うんだけど……」

 

「ああ、オウムでしたっけ?」

 

「オウム?…… オウム……ああ、キャプテンクック…… うん、キャプテン繋がりかぁ……」

 

 

 何故自ら自虐方面に走るのか木曽よ、そう思っても口に出せないのは自分だけではないハズだと吉野は遠い目をした。

 

 

「個人的には加賀さんのが一番可愛かった気がするけどね」

 

「ですよね~」

 

「加賀さん可愛い系なんだ…… どんなの?」

 

「青いペンギンさん」

 

「……はい?」

 

「ペンギン、青いの」

 

「ん…… んん~ 加賀さん開発失敗でもしちゃったとか?」

 

「提督、あっちのペンギンは黒ですよ?」

 

「ああうんこの際色は余り関係ない…… いやうん、そっか、そっかぁ……ペンギンさんかぁ、結構冒険したねぇ……」

 

「パーソナルカラーの青が入った物で、空母だから鳥系かしらって言ったら明石さんがこれどうぞって渡してたね」

 

 

 確かに鳥類だし青いなら顧客の要望は満たしているのだろう、しかし肝心の部分が根本的に駄目なのは気のせいだろうか、空母と鳥は関係性アリだと思うが、飛べないペンギンというチョイスはどうかと思わなくは無い。

 

 

「武蔵さんはピンクのウサちゃんですね」

 

「うわぁ、ものっそファンシー路線、武蔵さん桃色ウサギなの? うわぁ……」

 

 

 ピンクのウサギの着ぐるみを着た戦艦武蔵…… 何故だろう、とても不安な気分になる、何と言うかもう、表現に困るがテトリスで初手で1コマずれて、そのまま一番下でずっと開いたままのの隙間を見てるみたいな……

 

 

「榛名のパジャマを選んで貰ったので、お礼に武蔵さんのは榛名が選ばせて貰いました」

 

 

 物凄くいい笑顔で榛名はそう答えた…… 善意が時として人の命を奪う、その瞬間を吉野は垣間見た気がした。

 

 しかし榛名だが、ついこの前まではニコリともしなかった人物と同じとは思えない程明るくなったと思う、それが何故だか判らないが何か思う処があったのだろう。

 

 そう物思いに耽る吉野の肩に時雨は手を置いて、黙って首をゆっくり左右に振っている。

 

 

「え? 何かな時雨君?」

 

「それ以上言っちゃうと武蔵さんの覚悟が無駄になっちゃうから……」

 

「覚悟しないと着れないパジャマって……」

 

 

 吉野がそう言うと、時雨は物悲しそうな表情で目を伏せる。

 

 それを見た吉野は自然と心の中で、ピンクのウサちゃんの着ぐるみを着た大和型二番艦に向けて敬礼をしていた。

 

 

 

 暫く黙祷(もくとう)を捧げた吉野は、壁の時計に目をやった、時刻は午前三時を回った処、これ以上お茶会を続けていると寝るタイミングを逃してしまうと判断した為、お茶会のお開きの言葉を口にしようとした。

 

 あともう一人着ぐるみを買った第一艦隊の艦娘が居た様な気がするが、それは聞いてはいけない気がするので聞かない事にする、むしろ聞きたくない、聞くと危険が危ない。

 

 

「日向さんは瑞雲だったね」

 

「ええ、凄く瑞雲でした」

 

「…………何て?」

 

 

 気のせいだろうか? 今着ぐるみとは酷く剥離した物の名称を聞いた気がする。

 

 

「え? だから日向さんは瑞雲かなって」

 

「はい、瑞雲でした」

 

「いや君達、主語と述語というか、何かこう…… 言ってる事おかしくない?」

 

 

 思わずそう突っ込んだ吉野の肩を誰かが掴んだ。

 

 嫌な予感がして恐る恐る振り向くとそこには……

 

 

「そうだ、艦載機を放って突撃。これだ……」

 

「!? クッソ出やがったなこの妖怪コーメラン!!」

 

「四航戦、出撃するぞ!」

 

「出撃しなくていいから! 帰って!」

 

「航空戦艦の真の力、思い知れ!」

 

「その右手の瑞雲で何する気だうわヤメロやめて下さい死んでしまいます!」

 

 

 助けを求めようと周りを見渡すが、既にそこには吉野と瑞雲(ガチ)の二人以外の姿は無かった。

 

 

 

 

─────────

───────

────

 

 

 

 

「瑞雲、それは~、君が~見たひかり~、ボクが~み~た~きぼおうおうおうおう」

 

 

 

 

 

 

 早朝、何故か朝日に向って某線香の替え歌を虚ろな目で口ずさむ、吉野三郎(28歳独身(瑞雲))の姿があったが、何故そうなったのかと云う話は後に語られるかも知れないと言うか語れない。

 

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大本営の武術事情

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



2016/09/20
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました紅雪様、有難う御座います、大変助かりました。


「えっと提督、今日はここで何をするのかな?」

 

 

 大本営指定の小豆色のトレーニングウェア、世間一般では芋ジャージと呼ばれる上下を着用した時雨が、上司である吉野三郎に現状の説明を求める。

 

 

 胸にはゼッケンの様な布が縫い付けてあり、「れぐし」と右読みの平仮名で名前が書かれている。

 

 

 場所は大本営総合練武場、幾つかある艦娘が自己鍛錬をする為に設けられている屋内トレーニング施設の一つだ。

 

 内部は凡そ80m四方はあろうかと云う広さで、その内2/3程は板張り、残りは畳敷きになっており、名前の通り武道の鍛錬に使用される事もあれば、一部には板の上にコートラインが描かれており、バスケやバレーボールも出来る様になっている。

 

 要するに体育館みたいな施設になっている。

 

 

「指定運動着で集合と云う事は、何かトレーニングでもするのでしょうか?」

 

 

 時雨と同じ芋ジャージ上下姿の榛名が、同じく疑問を口にしている。

 

 

「うん、ちょっと確かめたい事があって練武場に集合して貰ったんだけど、その前に、えと、榛名君?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「えーと…… その、胸のそれ、何?」

 

 

 吉野がそう言いつつ指差したのは、榛名のトレーニングウェア胸部に縫い付けられたゼッケン。

 

 本来なら「なるは」と書かれているべきそれには、何故か「スーデ」と謎の暗号が記入されていた。

 

 

「あ、すいません、指定の運動着が転任の引越しの時荷物のどこかに紛れてしまったみたいで、急いで金剛お姉さまの物を借りてきたのですが……」

 

「……ああうん、何となくそうなかって思ったんだけど…… なんで"デース"なの?」

 

「うーん、金剛さんだから、デース?」

 

「ええと…… 榛名もそれをお姉さまに聞いてみたんですが、何故か笑顔のまま(デースデース)と肩を叩くばかりで……」

 

「え、ちょっ、何それ怖い……」

 

 

 暫く三人の間に無言の間が流れるが、結局判らない物を考えても仕方ない事だし、何より進んで人の闇を覗き込む事はあるまいと結論付け、スルーする事にした。

 

 

「あー、えっと、今日二人に集まって貰ったのはこれを確認しようと思ってね」

 

 

 そう言って吉野は二人に一枚の紙を見せる。

 

 

「それって、僕の事前調査書?」

 

 

 その紙は吉野が着任前に手渡された時雨に関する調査書であった。

 

 

「そそそ、この時雨君の調査書なんだけど、これに書かれているコレの事をちゃんと確認してない事を思い出してね。」

 

 

 そう言って調査書の装備欄の下、特記事項の欄にある"軍隊格闘術等"の文字の辺りを指でなぞった。

 

 

「一応時雨君の事は色々聞いたから、どれだけの能力があるかは把握したつもりだったんだけど、ここに書いてある軍隊格闘術ってのに全然触れてなかったなと思ってね」

 

「成程、それじゃ今日は格闘術の実演をすればいいんだね?」

 

「だね、その辺り何が出来て何が出来ないとかの把握を自分がしとかないと、いざ何かあった時の判断に困るかも知れないから確認させて貰おうかなと」

 

「それじゃ榛名は時雨ちゃんの仮想敵を務めればいいのでしょうか?」

 

「概ねそんなカンジで、ただ時雨君の動きで何か榛名君が有用だと思った物は教わってみるのもいいだろうし、その辺りは個々の判断にお任せって事で」

 

「了解したよ、じゃあ基本的な物から見せた方がいいかな……」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 時雨が榛名の前で左手側を前に「半身の構え」で立ち、パンチンググローブを嵌めた手をプラプラさせつつこれから見せる技の説明をしていた。

 

 

 

「僕の習得している格闘術は長門さんから教わったもので、主に打撃技中心の戦い方になるね」

 

「ふむ」

 

 

 軍隊格闘術と聞いていたので、てっきりどこかの教官から教わった正規の軍隊格闘術だと思ってたのだが、確かに前線基地では艦娘が戦いを行っているので、技を教わる相手が艦娘であってもおかしくは無いなと吉野は頷いた。

 

 

「戦艦は一番前で戦う事が多いし、時には接敵する事もあるから、砲撃より徒手空拳の方がいい場合もあるらしくて、長門さんは対深海凄艦用に格闘術を編み出したんだ」

 

「ふむふむ」

 

 

 確かに彼女達の戦っている相手は人では無く深海凄艦だ、既存の対人格闘術では何かと不都合なのだろう、その為の技が編み出されるのは道理であると吉野は再び頷いた。

 

 

「その名も"長門流極限空手"」

 

「ふむふ…… んんんんんん?」

 

 

 突然内容が胡散臭くなった気がした。

 

 

「ちょちょちょ、あの、時雨君?」

 

「何かな?」

 

「今何て?」

 

「え? 長門流極限空手?」

 

「きょ…… 極限流?」

 

「違うよ? 長門流極限空手(・・・・・・・)。」

 

「長門流かぁ…… 空手なんだ……そうかぁ……」

 

 

 その時天狗の面を被った謎の空手家が、時雨を相手に人外の技を伝授している様が吉野の脳裏に浮かぶ。

 

 そうなると時雨の相棒はフェラーリを乗り回す、関西弁を喋るイタリア人のポイポイなのか? その辺りはどうなのかと吉野は現実逃避をしていた。

 

 

 吉野が忘却の彼方に思考を飛ばしてる前では、パンチングミットを構えた榛名の前で時雨が技の説明を続けている。

 

 

「先ず基本の技なんだけど、肘を左脇の下から離さぬ心構えで、内角を狙い、えぐり込むように……打つべし! 打つべし! 打つべし!!」

 

 

 ビシッ! と空気を裂く音を響かせて時雨の左ジャブが繰り出される、そう、左ジャブだ、何故だ。

 

 

「それ空手じゃないからね!? って言うか何で明日のジョーなの? 編み出したんじゃないの長門!?」

 

「左を制する者は世界を制するんだよ提督」

 

 

 左を制する者は世界を制する、確かにそうかも知れない、だが聞きたいのはそこじゃない、むしろ彼女はどの世界を制するつもりなのだろう。

 

 

「そしてジャブが当たったらすかさずロシアンフックを…… こう!」

 

 

 肩を内側に回す独特な打ち方で時雨の右拳は豪快な音を立ててパンチングミットへめり込む、空手要素は微塵も含まれていない。

 

 

「なんでいきなりボブチャンチンなの!? どうして北の最終兵器なの!?」

 

「そしてトドメに暫烈拳!(ざんれつけん)

 

 

 時雨の放つ連撃が拳の残像を残す程の勢いで繰り出される、それに巻き込まれた榛名は一瞬体を浮き上がらせ、更にトドメのアッパーが炸裂し、後方へ吹っ飛ばされる。

 

 

「ギャーーーーーやっぱり極限流!? じゃなくてハルナくーーーーん!!」

 

 

 突っ込みもそこそこに、吹き飛ばされた榛名の元に駆け寄る吉野だったが、当の榛名は何事も無かった様に立ち上がった。

 

 

「凄い…… 凄いです! 榛名もその技使ってみたいです! 時雨ちゃんその技教えてくれませんか!」

 

 

 流石武蔵殺しと恐れられた艦娘、その体にはかすり傷一つ付いていなかった、そして傷の代わりに何故かキラが付いていた、一体どこにそんな間宮的要素があったのだろうか?。

 

 

「流石榛名さんだね、僕の暫烈拳(ざんれつけん)を受けてもノーダメージだなんて、こうなったらもう覇王翔吼拳(はおうしょうこうけん)を使わざるを得ない」

【挿絵表示】

 

 

「そんな物騒な究極奥技出さなくていいから!? ちょっと落ち着こうか時雨君!?」

 

「はい、榛名は大丈夫です!」

 

「榛名君が大丈夫でも練武場が大丈夫じゃないからね! ヤメテ! 提督からのお願い!」

 

「……判ったよ提督、じゃあ長門スペシャルで勝負を決めるよ」

 

「何が判ったの!? てかいつから勝負になったの? それに何その深雪スペシャルばりに謎胡散臭いの……」

 

 

 時雨は無言で榛名に近付き掌底を体ごと叩き込む、そして不自然な動きで背後に移動すると体勢を崩した榛名の背に己の背中ごとぶつけ、トドメに両手の掌底を突き出す様に放つ。

 

 

「それ長門スペシャルじゃなくてアキラスペシャルだから! なんでフッフッハッなの!? 何目指してるの長門!? ねぇ!」

 

 

 

 唐突に繰り出される崩撃雲身双虎掌(ほうげきうんしんそうこしょう)、流れる様に入る吉野の突っ込み、その時周りで様子を見ていた艦娘達には、とても良い笑顔の榛名が吹っ飛んでいく様がスローモーションで見えたという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「それにしても長門先生が某刃牙とかホーリーランドっぽい何かの愛読者じゃなくて助かったよ……」

 

 

 休憩の為、練武場の床に腰を降ろし、一部の消費者の間で狂気のケミカル飲料と称される炭酸飲料を口にしつつ、吉野三郎中佐(28歳独身ネオジオはROM派)が盛大な溜息を吐いている。

 

 ただ見学してただけなのに、体を動かしていた部下二人よりも数倍疲れを引き摺っているのは決して運動不足からの疲労では無いはずだ。

 

 

「ちょっと熱くなり過ぎて周りが見えてなかったよ…… 榛名さんごめんなさい……」

 

 

 コーラを薄めて炭酸を足したモノと訳の判らない評価を受ける冒険活劇飲料の入った缶を両手で持ち、肩を落として猛省している時雨が榛名に謝罪していた。

 

 

「はい、榛名は大丈夫です! ですので時雨ちゃん、良かったら最後のあの技も教えて貰ってもいいですか?」

 

 

 縁日の型抜き宜しく壁に空いた人型の穴の前で、榛名は関西の民が投下した爆弾もといひやしあめを啜りつつ、満面の笑みを浮かべながら時雨にそう答えている。

 

 そして体の方は当然無傷である事は言うまでも無い、更に何故かキラが3重掛けになっていた、どうやら長門スペシャルには間宮伊良湖のW給糧効果がある様だ。

 

 

「きょ…… 極限流空手の伝承は諸事情により禁止にします……」

 

「えっ!? そんなぁ~ 役立ちそうな技があったら教えて貰いなさいって提督言ってたじゃないですかぁ」

 

 

 このまま黙って放置し、人外の格闘者が増殖してしまうと、大本営がサウスタウンと化して某KOF(キングオブファイターズ)開催なんて危険がデンジャーな状況になりそうな予感がしたので、全力でそれを阻止する事にする。

 

 ちらりと榛名の様子を見てみる、3重だったキラが一枚剥げた気がするが、放置すると吉野の胃粘膜が一瞬で剥げてしまいそうなのでここはグっと我慢する。

 

 

「しかし最後は龍虎乱舞(りゅうこらんぶ)辺りが来ると思ったのに、いきなりバーチャとか斜め上にも程があるんじゃないかな、あと時雨君には聞きたい事が一つ出来たんだけど聞いていい?」

 

龍虎乱舞(りゅうこらんぶ)は足元の雷撃や投げに吸われちゃうから、起き攻め辺りにしか使えないんだ、それで提督は僕に興味があるの? いいよ、なんでも聞いてよ」

 

「出来るんだ龍虎乱舞(りゅうこらんぶ)じゃなくて、軍隊格闘術(格ゲー)はなんとなくだけど把握したと思う…… うん、まぁ…… うん、で、得物関係の方も、もしかして長門さんに教わった…… とか?」

 

「得物?…… ああ刀、剣術関係って事でいいのかな?」

 

「そそ、この前の演習の時に飛んで来た砲弾を切り飛ばしてたし、それなりの技量があるのは判ってるんだけど、一応確認の為に…… ね?」

 

「んと、長門さんは手持ちの武器は使わないから、長門流極限空手には素手の技しか無いんだ、だから僕の剣術…… と言っていいのか判らないけど、これは完全に我流だね」

 

「あ、そうなの? 刀持ってる姿割と堂に入ってたように見えたから、それなりに使える人に仕込まれたんだと思ってたよ」

 

「例え誰かに教わらなかったとしても、強くなる事は可能です、それしか選択肢が無いなら尚更…… ですよね? 時雨ちゃん」

 

 

 榛名は少し苦味を含む笑いを表情に浮かばせてそう言うと、その苦味を中和させる為か、手にある缶に口を付ける。

 

 

ジュルジルジルジル・・・・

 

ッパ

 

 

「……うん、そうだね、そうしないとどうにもならないから、自然と身に付いた技術だね」

 

「でも、やっぱり一人では限界がありました、最後の一歩、後もう一押しって処からは誰かに助けて貰わないと前には進めないと思います」

 

「成程ねぇ…… 榛名君にとっての最後の一歩はこの前の演習で、最後の一押しをしてくれたのは武蔵さんって訳だ」

 

「50点」

 

「ん?」

 

「50点です、榛名を助けてくれた人は武蔵さんだけじゃありません、それ以上に大事な部分が提督の答えには含まれてません、だから、50点、です」

 

「んんんん? 大事な部分?」

 

 

 吉野が思案顔で首を傾げている、左隣では時雨が苦笑いを浮かべ、右隣では楽しそうにひやしあめの缶を啜る榛名の姿。

 

 

「榛名さん、提督にその手の話はストレートにしないとダメだと思うんだ」

 

「そうですね、駄目そうですね」

 

 

 思案顔のダメ男を挟んで、ダメ出しをした二人の艦娘は、楽しそうな顔でニコニコと笑っている。

 

 

「でもアレだ、時雨君の剣術はどうなの? 誰かにきちんと師事しなくて大丈夫?」

 

「あ、その辺りの事なんだけど、僕もちょっと不安な部分があってね、ちゃんとした剣術を修めている人にお願いして一から教えて貰う事にしたんだ」

 

「も…… もしかして、飛天ナントカ流とか某虎眼流とかその辺りなのかな?」

 

「? 提督の言う流派は生憎聞いた事は無いかな、僕が教えて貰おうと思ってるのは北辰一刀流なんだけど」

 

「あそうなの? 結構マトモ…… ゲフゲフ、有名処じゃない」

 

 

 海軍大本営とは軍の最上位機関である、故に集う人材も文武両道の人間が多い。

 

 そう考えると剣術の心得がある人間を探すのはそれ程手間では無いとは思うのだが、問題はここに来てまだ日が浅い時雨がどうやってその人物に渡りを付けたのだろうかという疑問が沸いてくる。

 

 

「んで誰に教わるの?」

 

「日向さん」

 

「……ほ…… ほぅ? 日向というのはあのその、伊勢型二番艦のあの人の事かな?……」

 

「え? うんそうだけど?」

 

「へ…… へ~ 彼女剣術出来るんだ…… へ~……」

 

 

 何故か吉野の目からハイライトが消えている。

 

 

「えっと、時雨くん……」

 

「何かな?」

 

「何と言うかその、師しs… 日向さんだけど、北辰一刀流…… なんだよね?」

 

「うん、そうだけど」

 

「その北辰一刀流ってオプション的な何かが付くとか、オリジナル要素を多分に含むとかそんな事言ってなかった?」

 

「? 提督が何を言いたいか判らないんだけど……」

 

「ああいや、ほら、稽古で使う道具とか、例えば瑞雲とか瑞雲とかぶっちゃけ瑞雲とか」

 

「ごめん、まだ稽古を付けて貰った事無いから、詳しい事は判らないんだ」

 

「あ、そうだネ、まだ始めて無いんだネ、うん」

 

「明日の朝からやるんでしたっけ?」

 

「そうだね、始業の二時間前から一時間だけやるって言ってたかな」

 

 

 始業時間は午前七時、そこから二時間前だと午前五時、稽古をする時間としては少し早い気もするが、彼女達の休みが合う時だけやるとなると回数が限られてくる、なら仕方が無い事なのだろう。

 

 吉野は心のメモ帖に"午前五時、要監視案件"の文字を記憶させた。

 

 

「毎朝四時起き位かぁ、頑張るのはいいけど無理の無い程度にね」

 

「うん、判ったよ」

 

「でも剣術って割と嗜んでいる方多いんですね、皆さん朝早くから頑張ってるみたいで」

 

「…………皆さん?」

 

 

 何だか雲行きが怪しくなってきた気がするのは気のせいだろうか? つい最近このパターンからロクでもない展開になったよーな……。

 

 

「だね、お陰で僕も稽古のお願いがし易くて助かったよ」

 

「えーと、その、稽古って割と団体でしちゃったりするの?」

 

「そうだね、全員揃うのは稀らしいけど、毎朝誰かしら稽古をしてるって言ってたよ」

 

「へぇ、他にも稽古してる人が居るのかぁ」

 

 

 少しだけ安心した吉野は、心のメモ帖に書いた"午前五時、要監視案件"の文字を"午前五時、一度は見学に行こうかな"と書き換えた。

 

 

「伊勢さんや扶桑とか、後山城辺りは毎日顔を出してるみたいだね」

 

 

 伊勢は日向の姉なのでまぁ一緒なのは判るのだが、伊勢型をライバル視している扶桑姉妹が一緒に何か行動してるのは珍しいと思ったが、同じ航空戦艦として何か通じる物があったのだろう、仲良き事は美しき事(かな)と吉野は深く頷いた。

 

 

「最上ちゃんも割りと熱心に稽古に出てるって言ってましたね」

 

 

 最上か、剣術とは余りイメージが合わない気がするが、常日頃から日向の事を師匠と慕っていたのでまぁ一緒に稽古していても不思議では無いなと吉野は頷いた。

 

 

「後常連組と言えば鈴谷とか熊野さんとかも居るって言ってたね」

 

 

 鈴谷に熊野か、はっきり言って稽古と云うストイックな行いとは最も縁が無い艦娘だとは思うのだが…… 何か思う処でもあるのだろうか? 吉野は少し首を傾げた。

 

 

「そう言えば時雨ちゃんと一緒に瑞穂さんも始めるらしいですね?」

 

「う…… うん? 瑞穂?」

 

「うん、千代田さんが最近軽空母になっちゃって、あんまり参加しなくなったからって、ゴーヤが誘ったらしいね」

 

「千代田甲…… 千代田航?…… おやぁ?」

 

 

 航空戦艦、航空巡洋艦、水上機母艦、潜水空母、物凄く共用できるブツというか装備というか飛行物体がイメージされる、気のせいだろうか?。

 

 

「榛名も参加してみようかなぁ…… 確か北辰一刀流セット持っていけば参加出来るんでしたっけ?」

 

「ほ……北辰一刀流セットぉ?」

 

 

 何故か剣術という硬派な話しのイメージから一転、某幸せの壷か、青年誌の背表紙に印刷されたラッキーアイテムの通販ばりの胡散臭さがその場に漂い始めた。

 

 

「だね、明石さんとこで注文すれば買えたと思うよ、榛名さんだとLサイズかなぁ」

 

「……時雨くん」

 

「何かな?」

 

「その北辰一刀流セットって何?……」

 

「え? んと、胴着でしょ、竹刀でしょ、後は……」

 

 

 そう言うと時雨は胸のゼッケン脇に手を突っ込み、よいしょと言いながらやや大振りなホームベース状の金属板を取り出した、物理的に其の大きさのブツは当然ゼッケン裏のスペースに収まる大きさでは無いがまぁ些細な問題だ。

 

 

「なんで明石んトコで飛行甲板売ってるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ明石ぃぃぃぃぃぃぃ! 駆逐艦に飛行甲板売り付けてどうするんだ明石ぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「大丈夫だよ提督、これSサイズだから僕でもちゃんと持てるし」

 

「時雨君サイズの問題じゃないからね!? 艦種的なアレが…… ね? ほら、ワカルデショ!?」

 

「Lサイズだと日向さん達と同じサイズになりますね、榛名に上手く扱えるでしょうか?」

 

「いやだから榛名君も提督の話聞いて? てゆか君51連装砲に飛行甲板て何がしたいの?」

 

 

 そう突っ込みを入れた吉野だが、自身に向けられた鋭い視線に思わず振り向いた。

 

 

「航空甲板が気になるのかい?」

 

「……うん? モガミンどうした?」

 

「海の中からこんにちはー !」

 

「海じゃねーし! 何? あれデッチまでどうしt……」

 

「とぉぉ↑おう↓!! 一捻りで黙らせてやりますわ!」

 

「え!? クマノン? 何を黙らせるつもりだって何ナニハナセヤメロお願い何でもしますから!」

 

 

 

 

 

 その日吉野三郎大本営特務二課々長(28歳独身(メンズ飛行甲板))が、腕に盾を装備した艦娘の一団に用具室へ引き摺られて逝くのを多くの艦娘が目撃したという。

 

 

 尚、この日から数ヶ月後、異例の早さで駆逐艦時雨が北辰一刀流(仮)の印可を某航空戦艦から授けられたのは、またいつか語られる可能性は皆無である。

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妙高型一番艦 宇宙な武装事務員

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


「妙高型重巡洋艦、妙高です。最後の日まで、共に頑張り抜きましょう」

 

 

 いつもの如くいつもの場所で。

 

 大本営執務棟2F、第二特務課事務室内の休憩用ブースにて、この日新たに同課に着任となった妙高型一番艦重巡洋艦妙高がそう挨拶を口にする。

 

 

 最初から備え付けだった応接セットは撤去され、着任予定の艦娘全員+2名程が座れる程のソファーに差し替えたそこは、三人掛け×2と一人掛け×2の椅子を配置している。

 

 現在妙高が三人掛けソファーに一人で、向かいには吉野三郎中佐(28歳独身ポテチうす塩派)が座り、その左には秘書艦時雨、右には榛名と云うサンドイッチ状態で向かい合っている。

 

 

 この休憩ブースで行われているのは、新しく着任した艦娘に対して行われる面談と云う名のレクリエーションであるが、三対一と云う妙に偏った配置の座り方を部外者が見れば圧迫面接に映りそうな気がしないでもない、……が。

 

 

 その裏山サンドイッチのある意味具である吉野の顔は、苦悶の表情に染まっていた。

 

 その視線の先にあるのは透明な三本の瓶、中に入っている液体は左から青、黄、赤の鮮やかな色を放っている。

 

 

 この"いつもの"面談の際は、吉野の個人的嗜好の一つ、新任の艦娘に対する毒飲料のテイスティングが行われる場でもあるのだが、今回はいつもと違っていた。

 

 

 それは"いつもの如く"時雨が冷蔵庫から数々のブツを取り出そうとした時に、ソファーでニコニコしていた妙高が発した言葉から始まった。

 

 

「吉野中佐のお噂はかねがね伺っております、何でも非常に珍しい飲み物に傾倒しておられるそうで……」

 

「え? あ、うん珍しい?…… うん、まぁ珍しいのかな?」

 

「はい、実は私の大好きな飲み物もその…… 周りの方には余り受けが良くないみたいで……」

 

「あ、妙高さん何かリクエストあれば教えてくれるかな? ここの冷蔵庫には大抵の物は揃ってるし、絶版品なら明石さんに相談すれば手に入ると思うから」

 

「そうなんですか? 岩川から離れてしまったので補充はどうしようかと思ってたので助かります」

 

 

 

 そう言いつつ妙高は袖口からガラス製の瓶を三本取り出し、吉野の前に並べる、瓶一本当たり350mlのそれは当然袖の中に納まるハズは無いのだが、その辺りはもはや様式美なのだろうと吉野は愛想笑いで流しておく事にした。

 

 ……が、その笑いは並べられた瓶を見た瞬間凍りついた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「今日はそんな同好の士である吉野中佐に、私の大好きなこれを飲んで頂こうかと思いまして、丁度三種類ありますし、皆様でどうぞ」

 

「……ギャ……ギャラクシーだとぅ!?」

 

 

 青、黄、赤と云う信号機のそれと同じ並びで置かれた瓶のラベルには、某スターウォーズに出てきそうなマシンが描かれており、原色を放つ中身と相まって独特の雰囲気を醸し出している。

 

 

「綺麗な色してますね~」

 

「ほんとだね」

 

「綺麗な色してるだろ?…… これって炭酸飲料なんだぜ?……」

 

「え? どうしました提督? 随分震えてらっしゃいますけど……」

 

「榛名君、時雨君…… 青1号、黄4号、赤2号、どれがいい?……」

 

「え? その数字は何なのかな?」

 

 

 吉野が言った番号はこの炭酸飲料に混入されている合成着色料の名称である、因みに中身はこの色素以外はほぼ同じ成分…… つまり色以外基本同じ物と言える。

 

 そしてこの別名宇宙の信号機と称される炭酸飲料は、見た目は筆洗いバケツの中にある絵の具を溶かし込んだ汚水と色も成分も同じであり、飲んだら最後舌がその色に染まるだけでなく、排泄物ですらカラフルにしてしまうという破壊力を持つ。

 

 味は飲んだ消費者が一貫して"ベニヤ板の味がする"と、もはや建材に例えられる程壊滅的な物に仕上がっている。

 

 キャッチコピーは"ギャラクシードリンク宇宙味"、恐らく口にしたら最後、宇宙の真理を垣間見てしまうかも知れない。

 

 

「じゃ…… じゃあ自分は赤2号を…… ん?」

 

 

 手を伸ばした先には、やや暗い色の青い液体が詰まった瓶、左右を確認すると二人の艦娘其々の手には赤と黄色のブツが……

 

 味は同じであるが、口内や排泄物が染まる色を考えると、青が一番ダメージが深刻なのは想像に難くない、碌な情報も与えていないのにこの危機回避能力、流石幸運艦と呼ばれた艦娘達である。

 

 

「……ジーザス」

 

 

 震える手で栓抜きを掴み、瓶の蓋をもぎり落とす、時雨と榛名は豪快に指で栓を弾き飛ばす。

 

 揃って瓶の中身を口へ流し込む。

 

 

 吉野の顔は飲み込んだ液体と同じ色になったまま遠くを見つめている。

 

 時雨は口を手で押さえ、雨に打たれた子犬の様に涙目でプルプル震えている。

 

 榛名は満面の笑みのまま微動だにしない。

 

 

 正にギャラクシードリンク宇宙味、その時大本営特務二課の休憩ブースは赤青黄の色が煌くコスモが広がっていたと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「あ゛ーん゛ん゛ん゛、えっと、それじゃ妙高君、質問が幾つかあるんだけどいいかな?」

 

 

 モゴモゴと口を動かしつつ、吉野はテーブルの上に一枚の書類を差し出した。

 

 

「えっと、この事前調査書に書いてある内容で、妙高君自身、訂正する箇所とか追記する物とかあるかな?」

 

 

 その調査書を妙高に差し出した吉野の顔は、微妙な相を表に貼り付けている。

 

 ・建造日不明

 ・戦歴無し

 ・使用装備欄 お好みで

 

 正直名前以外白紙と同じ意味が記入されている状態であり、質問するというより基本的な事から確認しなければいけない状態のブツがそこに鎮座している。

 

 

「あら…… これは、どうしましょう」

 

「ああうん、まぁ調べた人が何を思って書いたか判らない内容なんだけど、これからお互い命を預けて任務をこなしていく訳だし、出来るだけ相互理解は深めておきたいなと思う訳なんだけど、どうかな?」

 

「そうですね、これでは事前調査書の体を成して無いと思われても仕方無いと思います、ですが……」

 

「ですが?」

 

「困った事に、この調査書の内容は表現が問題なだけで、ちゃんと事実を記していると思います」

 

「うん? と言うと?」

 

「例えば私の建造日が不明なのは、岩川基地がまだ正式に活動を開始する前の時期、建造ドックのテスト稼動の時に私が建造されました、生憎とその時はまだ提督が着任しておらず、担当技師の方すら決まって無い時期だった為に正式な記録が残されて無いと聞いています」

 

「え? 岩川基地活動前って……」

 

 

 

 岩川基地、場所は鹿児島県鹿屋に居を構え、鹿児島湾を守る様な位置にあるそこは、元々内陸部に存在した海軍航空基地を移設した前線基地。

 

 横須賀、呉、佐世保、舞鶴と云う所謂四大鎮守府に次いで歴史が古く、深海凄艦との戦争突入初期に活動を開始した国内拠点の一つである。

 

 

 妙高が建造されたのがその基地の創成期と云う事は、重巡としては最初期に生まれた艦娘と云う事になる。

 

 

「もしかして妙高君って……」

 

「私が重巡洋艦妙高として一番最初に呼ばれたと云う訳ではありませんが、建造順と云う事なら恐らく一桁台なのは間違い無いと思います」

 

「成程ねぇ、確かにあの混乱期で、しかも新設の基地で建造されたんなら、記録が残ってないのも仕方が無い事かも知んないねぇ」

 

「私自身建造された後、色んな作戦で飛び回っていましたし、正直こちらに呼ばれた日の事は覚えてないんです」

 

「それじゃ私達からしてみれば大先輩になりますね、榛名、感激です!」

 

「無駄に長い間生きてるだけですよ、前線に出ていたのは最初の数年で、後は基地で事務方(じむかた)に納まっていましたし……」

 

「それでも凄いんじゃないかな、あの当時から生き残ってる人なんて殆ど居ないって言うし」

 

「成程、それじゃ戦闘記録が無いのも、その時期に戦ってた為に残されて無かったと…… まぁ今まで相当な期間現役で活動してきたんなら、改二まで錬度が上がってても不思議じゃないよねぇ」

 

「え? 改二ですか? 私は主に事務仕事で錬度を上げて改二になりましたけど……」

 

「……はぃ?」

 

「ですから、戦闘で第一改装までは錬度は上がりましたけど、その後はコツコツと事務仕事で第二改装まで錬度を上げました」

 

 

 歴戦の重巡洋艦は、建材風味の宇宙ドリンクをクピクピと飲みつつ、シレっとそう答えた。

 

 

「えっとぉ、事務仕事で? 改二?…… 出来るの?」

 

 「はい、ちょっとしたコツが必要になりますが可能です」

 

 

 事務仕事で錬度を上げる、荒唐無稽な話だが、もしそれが本当なら平和的に戦力の底上げが可能となる、もしかすると例の黒髪眼鏡も事務仕事が過ぎて強大な力を手に入れたのかもしれない。

 

 

「……参考までにそのコツってヤツを聞いていいかな?」

 

「そうですね…… 例えば書類を書き上げる時はなるべく高速で文字を記入するとかですね」

 

「え? それだけ?」

 

「そうです、その時注意しないといけないのは、ペンと手の平の間に生じる摩擦で炎が発生してしまうので、書類を燃やさない様に気を付けないといけません」

 

「は? 炎!?」

 

 

 何故物書きで炎が発生するのだろう? むしろ提督が事務仕事をしている横で、秘書艦が炎を吹き上げていたら大惨事なのではなかろうか? それとも前線基地の事務とはそれが普通なのだろうか?

 

 

「後はそうですね…… ギャラクシードリンクを飲みつつ、大自然のエネルギーを体に集め、自らの生命力を使って書類を一気に書き上げる、名づけて超新星スーパーノヴb」

 

「それゲームセンターあらしだから! 最初期艦だからってネタまで古くする必要ないからね!?」

 

 

 妙高がインベーダーキャップを被った出っ歯なら、大本営所属の吹雪は謎の人にパッションパンティを授かったアーケードゲーマーなのだろうか? 成程、パンツ的要素は充分被っているのでその辺りは無理が無いなと吉野は現実逃避した。

 

 

「う…… うん、まぁ錬度やその辺りは要検証って事でいいかな…… うん、それで妙高君の主任務が事務仕事だったのは判ったけど、武装関係はどんなカンジなのかな?」

 

「装備でしょうか? そうですね…… 主にボールペンや消しゴム、それとプラスティック定規なんかでしょうか」

 

「ん? それ事務用品だよね? そうじゃなくて前線で戦ってた頃はどんな武装を使ってたの?」

 

「はい、ですからボールペンや消しゴム等の文房具で……」

 

「……んんんん?」

 

 

 一瞬無言の間が事務室を支配する。

 

 

「前線で?」

 

「はい」

 

「ボールペン?」

 

「はい」

 

「……どうやって?」

 

「例えばボールペンならこうやって……こう」

 

 

 妙高は胸ポケットに差してあったボールペンを取り出し、しっかりと握り込むと、ボヒュッと空気を裂く勢いで前方へ突き出した。

 

 

「狙いは眼窩か、鼻腔辺りの柔らかい部位を狙います、そして刺した瞬間ひねり込むと尚効果的です」

 

「ア…… ハイ、トテモ刺突デスネ……」

 

 

 真顔でそう答えた妙高は、事務室の窓をおもむろに開け放ち、袖口から取り出したプラスチック定規の端に消しゴムを載せ、定規をたわませ、その反動で消しゴムを海へ向けて弾き出した。

 

 少しの間を置いて、遙か彼方の海面に盛大な水柱が立つのがハッキリと見える、この前榛名と武蔵が行った演習の時に見たアレを彷彿させる程の威力が見て取れる。

 

 

「す…… 凄いです! 榛名もその技使ってみたいです、妙高さん、その技教えて頂けませんか!」

 

「いや榛名君!? 何でも食いつけばいいってモンじゃ無いからね!?」

 

「そうか…… あれなら僕にも砲撃戦が可能になるかも……」

 

「時雨君も! 文房具で深海凄艦が倒せる訳ナイデショ!?」

 

 

 時雨は抗議の視線を吉野に向け、プクっと頬を膨らませながら、水柱が立った方向へ指差している。

 

 

「スネても提督は許しませんからねっ! 第一プラスチックな文房具なんかすぐ砕けちゃうデショ!!」

 

「強度的な事ならこの戦闘用事務用品を使えば問題ありませんよ?」

 

 

 文房具的に間違った名称が付与されたそれを妙高が吉野に手渡す。

 

 そのボールペン(戦闘用)を観察してみると、〔明石酒保謹製〕の文字が刻まれているのを確認した吉野は、テーブルに備え付けの電話を手に取った。

 

 

「もしもし明石酒保? あ、妖精さん? 自分自分、え? 自分探しの旅は青春18キップで? やだなぁ自分もう28だから無理って…え? バレなきゃ大丈夫? いやまぁ妖精さんも腹黒いねぇ、ところで明石居る? え? 取り込み中? 何? 明石は明石の上に明石を造らず明石の下に明石を造らず? 何言っちゃってんノ!? 諭吉さんなの!? 学問のススメなの!? うんうん…… え…… うん、なにそれコワイ、そっかぁ…… うん、そうなのかぁ……」

 

 

 

 静かに電話を置いた吉野は、小首を傾げてこちらを見る三人の艦娘に向って乾いた笑いを口から漏らしつつ、今日着任した武装事務員を大本営の主要箇所へ案内する為に、のろのろとソファーから立ち上がるのだった。

 

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

老将、語る

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/09/16
 誤字脱字修正致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、有難う御座います、大変助かりました。


「ふむ、存外抜けた顔しとるのぉ」

 

 

 開口一番、白い髭を乗せた口からそう言葉を発した人物は、壁に設えられた大型の液晶画面の中で口角を僅かに上げている。

 

 

「はっ、締まらない(つら)は生れつきであります故、申し訳ありませんが自分では如何とも出来兼ねます、少将殿」

 

 

 その液晶画面に向って、そう言葉を返す吉野三郎中佐(28歳独身マックではフィレオフィッシュしか食べない派)は、やる気無さ全開で敬礼をしつつそう答えた。

 

 場所は大本営執務棟地下3F、有事の際シェルターの役割を兼ねる地下施設の最も警備が厳重な〔地下指令施設群〕の内の一つ、"小会議室"。

 

 

 "会議室"は大中小各一部屋づつ存在し、平時でも利用可能な施設でもあるが、基本将官以上の人間しか利用を許可されない。

 

 軍の中枢にあって防諜が常である大本営に於いて、地下会議室は"盗聴が不可能な唯一の場所"として存在し、盗聴機器の設置や監視用機器の設置・持ち込みは厳禁とされており、管理者も定められていない。

 

 軍の中には派閥が多数存在するが、この場は"完全な共有空間"として暗黙の了解の下運用されており、例え軍のトップであろうがここの中で行われている会話を知る術は無い。

 

 

 吉野は重巡洋艦妙高が着任した夜、業務終了時に"前任地の提督からの預かり物"として封筒を一つ渡された。

 

 その中を確認すると、時間と場所を指定した文章のみが書かれた紙が一枚入っていた、文末には岩川基地司令の染谷文吾少将の直筆のサインと、それを証明する印が押されている。

 

 

 それから二日後の1900、指定された場所、大本営地下小会議室にて、吉野は岩川基地司令長官染谷文吾少将との会談の場に着いていた。

 

 

「いやすまんのぉ、儂は思った事がすぐ口をついて出る性質(たち)らしくてのぉ、まぁナンだ、愛嬌のある顔?、とでも言うか……」

 

「いや少将殿…… お気遣い大変有り難く思いますが、無理にフォローをいれなくとも…… その……」

 

「そうか? ふむ、なら遠慮はせんでおこうかの、それと儂の事は染谷で良い、少将殿と畏まられてはこそばゆい」

 

「はっ…… しかし」

 

「良い、今日は本音で話す為に会議室を押さえた、いらん気遣いで話を濁らせたく無い」

 

「……承知致しました、染谷長官」

 

「堅いのぉ、まぁ自分の上司の師匠を前に緊張するのは仕方ないが、相手の求めとるモンを汲んで合わせる事も礼儀の一つじゃぞ?」

 

「はっ、勉強させて頂きます」

 

 

 岩川基地司令長官、染谷文吾(そめやぶんご)少将。

 

 艦娘が世に顕現する以前、まだ日本の防衛組織が"自衛隊"と呼ばれていた頃から深海凄艦と戦ってきた猛者であり、この戦争では国内から前線に至るまでの補給線を敷き、安定させた立役者であり、戦闘面においても"用兵の染谷"と称される程、艦娘の運用法では相当評価が高い。

 

 本来なら大本営に召還され、階級も大将を用意されるはずであったが、本人がそれを辞し、生涯現場主義を貫いている為、一拠点の司令長官に収まっている。

 

 しかし兵站の中枢を支えている事もあり、現場・大本営共に影響力は強く、大将の上の少将等と揶揄される時もある。

 

 

 それより吉野にとってやり難いのは、この染谷文吾少将は、自分の上司である大隅巌大将の師匠であり、その現秘書艦吹雪の最初の司令官だった人物であるという処だろうか。

 

 顔を会わせた事も無ければ話した事も無いが、自分が逆らえない人間の更に上の人間と話す事になるのだから、多少の緊張は仕方が無い。

 

 

「ところでどうだ妙高は、中々面白かろう? アレは見た目上の者を立てて見せるのが得意じゃが、無能に対してはとことん辛辣じゃ、おんしがどんな扱いを受けとるか聞きたい処じゃがのぅ」

 

「扱いと言いますか、初対面で色々見せて頂きました、後は…… まぁ、少々特殊な飲み物をご馳走になった位で……」

 

「う…… うむ、そうか…… あの絵の具水を飲まされたか、それはまぁ…… 難儀だったのぅ……」

 

 

 そう言う染谷はどこか遠くを見る目になり、対する吉野の目からはハイライトが消えている、恐らく二人の心は、赤青黄色の宇宙の彼方に旅立っているに違いない。

 

 

「まぁ、アレの特殊な嗜好は別としてじゃ、おんしに言うておく事があってのぅ」

 

「何でしょうか?」

 

「今回の異動の件に関して、アレは納得しておらん、艦娘として命令には逆らえんからそっちに行ったが…… 送り出すのも相当苦労したわい。」

 

「一応彼女には拒否権があったはずでは? 何故無理やり異動させたのです?」

 

「儂は老い先短い、恐らくもう片手の指を数えるまでにはこの席に座っておる事も無いじゃろうて」

 

「それはまた……」

 

「もし儂がおらん様になって次の司令官が来たとしたら、恐らく妙高は排斥される、アレは事務方としては優秀だが長く裏を見過ぎた、今更他の拠点に送ってもそこの連中には手に余るじゃろう」

 

「自分の認識としては、染谷長官の元で腕を振るっていた秘書艦を就けて貰えるなら、後任の指揮官は色々楽なのではと思うのですが」

 

「儂のやり方を知り、そして長年基地の艦娘をまとめてきたアレが居たとして、後任が自分流のやり方をしようとしても邪魔になるだけじゃよ、そして基地の艦娘達も恐らく妙高と意見を同じくするだけじゃ、そうなると指揮官にとっても艦娘にとっても双方に(えき)は無い」

 

「それが判っているなら、今からでも後継者を育てるか探してみては如何です?」

 

「時間が足りんわい、それに今の戦局を見るに、儂の息が掛かったモンをこの要所に据えるなんぞ大本営が許さんじゃろう」

 

 

 染谷文吾という男は用心深く、そして石橋を叩いて砕く程の慎重派で通っている。

 

 大規模作戦実施時に於いてもそのやり方は顕著に見られ、少しでも不確定要素があれば絶対に首を縦に振らない、そういうスタンスでずっとやってきた。

 

 岩川基地は南方方面に対する兵站の要である、そこが機能しないと前線への物資や戦力の供給がままならない、故にそこの主である染谷が動かなければ作戦自体成り立たない。

 

 なまじ発言力があり、そして武勲も申し分ない人物であったからこそそれは認められてはいたが、逆を言うと新規海域を開放して支配海域を増やしたい"鷹派"と呼ばれる連中には目の上のなんとやらには違いない。

 

 その邪魔者がやっと居なくなるのに、その後継となる人物を置く事は今後の作戦立案に大きく影響を及ぼす事は火を見るより明らかだ。

 

 恐らくそれに関係してであろう、岩川基地の後任人事に関して染谷少将が関わろうとしても"何故か"いつも芳しい結果に結びつかない。

 

 

「現場に拘り過ぎ、周りを鑑みなかったツケが回ってきたのも知れんのぅ」

 

「しかし染谷長官のやり方に賛同する勢力もあったはずですが……」

 

 

 そこで吉野は大隅大将含め、慎重派と言われている面々の名前を口に出そうとしたが、モニターに映る染谷の表情を見てその言葉を飲み込んだ。

 

 薄く自嘲の笑みを表に貼り付ける老骨の少将の目は、既に何かを悟っている者特有の色をしている。

 

 恐らくは自分が考えている諸々の事など既に実行したに違いない、そしてそれが徒労に終わった事も、長年傍に置いていた秘書艦を異動させた現状を見れば既に答えは出ている。

 

 

「まぁ儂の方も色々ある訳じゃが、そんなジジイの愚痴よりもじゃ、今は妙高の話じゃ」

 

「ああはい、確か無理やり異動させた……と仰いましたね」

 

「そうじゃ、アレは誰に似たのか頑固者でのぅ、異動させられるのなら解体しろとまで言うての、ほとほと困っておったんじゃ」

 

「それだけ染谷司令に陶酔しておられたのでしょう」

 

「うむ…… 共に長く居過ぎた、アレには部下というより娘に近い接し方をしていたのは認めよう、しかし現状艦娘の絶対数は限られとる、ジジイが引退の時連れて行くなんぞ許される訳は無いし、解体するのも忍びない」

 

「心中お察し申し上げます」

 

「そこでじゃ、心当たりの幾つかに妙高の件で打電したらの、丁度新設する部署で事務能力の高い人材が必要なので引き取ると大隅から返事が来ての」

 

「成程、確かにウチに必要な人材ではありますね」

 

「で、先に異動手続きをする事で周りを固めておいて妙高に異動命令を出した訳じゃが、まぁゴネにゴネまくってのぅ……」

 

「あー…… ですかぁ」

 

「仕方無いんで、"もしお前が仕えるに値しない輩なら、お前の好きにすればいい"と言うて納得させたんじゃが……」

 

「……ええと、その、好きにすればいいとは…… どういった内容で?」

 

 

 歴戦の将官の言葉に、静かに相槌を打っていた吉野だが、何故か物凄く、とても嫌な予感がした。

 

 例えるなら大規模作戦が実施され、ガッツリ海域を攻略していったが、一向にE6の攻略が進まず、もしかしてE5おかわりしないといけないのではないかとギミックを疑う攻略勢の心境に似ている。

 

 むしろあの地獄のE5アゲインは資源と頭皮に深刻的なダメージを及ぼしたと思うのだが、春風タソのドリルに免じて許してやらん事も無い。

 

 そしてアイオワは何故母港の台詞が全部英語なのに改修時の台詞は流暢な日本語交じりなのだろう?、でもエロいから許すというメタい話はどうでもいい。

 

 

「うむ、それなんじゃが…… 恐らくこの異動が納得いく物で無いと判断した時は、アレは己の命を絶つじゃろう」

 

「……はい?」

 

「アレの行く先はもう前線には無い、常に儂の影が付き纏う故に指揮官クラスの者は使い辛いじゃろうしの、現に引き取りの意思を伝えてきたのは大隅だけじゃったわい」

 

 

 悪い予感という物は得てして当たり易い物だ、むしろ良い予感という物に巡り合ったと云う経験の方が稀では無いだろうか?。

 

 この時吉野の中では現実逃避と言われてもおかしくない思考が渦巻いていた。

 

 この第二特務課に召還される艦娘は確かに能力こそ高いものの、それは一芸特化と言うには手に余る代物で、しかも今まで着任した艦娘は漏れなく致命的な問題を抱えて来た者ばかり。

 

 もしかするとこの部署は何か任務をこなす為に設立された訳では無く、ここに来る艦娘をどうにかする為に創ったのでは無いだろうかと疑う程前途多難な惨状である。

 

 

 現にまだ確たる任務が与えられてる訳では無く、その前段階である艦隊編成の時点で既に吉野の毛根にはかなりのダメージが蓄積している。

 

 仮にこのまま上手く任務がこなせる状況まで持っていけたとしても、その頃には吉野の頭は江戸時代の侍か、某国民的アニメの波heiさんのチョロ毛HEADみたいになっているのではなかろうか?。

 

 いつもならガリガリと頭を掻くのが吉野三郎(28歳独身まだ育毛剤で間に合うハズ)のクセではあるが、今回ばかりは指で優しく頭を撫で付けていた。

 

 

「アレは見た目歳若い小娘じゃ、しかしの、儂が岩川で戦ってきた時は常にアレが横に()った、儂が経験してきた事はアレも経験している、故にアレも古強者に違いは無い、艦娘は歳は取らんが心は歳を取る、古今東西年寄りは人の話は聞かんし、頑固者と相場は決まっておる。」

 

 

 そう言った老少将は、吉野を睨む様に見据えた。

 

 

「儂はおんしが何者か知っておる、何故そうなったかも知っておる」

 

 

 その言葉に一瞬吉野の顔が強張ったが、すぐに老少将が言う処の"抜けた顔"を装う。

 

 

「何物か…… ですか?」

 

「大隅がおんしを拾ってきた時にの、ちぃと頼まれ事を引き受けての、海軍三校に席を置いた事も無い者を大本営に置くには、当時の奴にはツテが儂しか無かったようでのぅ、まぁその縁で色々聞いてはおる」

 

「そうでしたか…… 成程」

 

 

 一度は平静を装ってみたが、染谷の言う自分の情報が嘘ではあるまいと判断した吉野は誤魔化す事を止め、無遠慮な視線をモニターに向ける。

 

 その顔からは表情が抜け落ち、一切の感情を内に閉じ込める。

 

 

「……ほぅ? それがおんしの"もう一つのツラ"か、まるで表情が読めんのぅ、儂も色んな"影法師"を見てきたが、大隅が言っとった"一番狗に向いてる男"と言うのも満更では無いのかも知れん」

 

「それで、自分の出自が今回の妙高君の件に関して何か関係が?」

 

「まぁの、"どっち寄りでも無い"中立的な見方が出来るおんしなら、情に流されず、関わった艦娘に正当な評価と待遇を与える事ができるじゃろ」

 

「救ってくれ、とは言わないんですね」

 

「先に言うたが儂はアレと長く居過ぎた、娘と思う程にの、じゃからもうアレの事に関しては贔屓目抜きでは見れんよ、しかし軍の、それも一端であれ現場を指揮する者としてはそれでは筋が通らんのじゃよ」

 

「だから自分に任せると、しかもそれは最悪彼女の生き死にに関わる物だと、こう仰いますか」

 

「まぁそうじゃのぅ」

 

「少将殿、それを世間では"丸投げ"と言うんですよ?」

 

「カッカッカッ、おんしは知っとるかのぅ? 将官の仕事の八割は厄介な仕事をそれに適した人間に回す事じゃ」

 

「後の二割は?」

 

「酒の席で部下の愚痴を黙って聞いてやる事じゃの」

 

「申し訳ありませんが、生憎と自分は酒に酔う事が出来ません」

 

「知っとるよ、まぁ難儀な体じゃな、しかし逆に言えば潰れんなら部下の愚痴も聞き放題ではないかのぅ?」

 

 

 〔のれんに腕通し〕、吉野がこの会話で出した結論を端的に現すならこう言うだろう。

 

 妙高を無理やりにでも異動させた経緯といい、この会談といい、既に逃げ場を無くしてから相手と話を進める。

 

 確かに狡猾だ、厄介な仕事をそれに適した人間に回すという仕事をきっちりこなしている。

 

 要するに今回も"また"頭皮に優しくない厄介事が目の前に転がってる訳だ。

 

 ならやるしか無いだろう、なんせ今自分はその"厄介な問題を抱えた艦娘"の提督なのだから。

 

 

 そう腹を括った。

 

「それとの、もし妙高が自分をどうにかしようとした時は無理に止めるでないぞ?」

 

「何故です?」

 

「アレは目的の為には手段を選ばん性質(たち)でのぉ、邪魔すれば道連れ待った無しじゃ、確実に殺されるでの。」

 

「えぇぇ~……」

 

 

 

 吉野の提督としての覚悟は僅か30秒も経たずに崩れ去った。

 

 

 

                                    




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妙高の覚悟、提督の覚悟

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2017/04/19
 ルビの打ち間違いを修正、誤字修正。
 
 坂下郁様、orione様、ご報告有難う御座いました、大変助かりました。



「吉野中佐の仰っている事が今一つ理解出来ないのですが」

 

 

 そう言う重巡洋艦妙高は、笑顔の割には近寄りがたいオーラのバリアで防御を固め、向かいに座る吉野三郎中佐(28歳独身コイケヤよりカルビー派)に攻撃的な視線を向けている。

 

 場所は大本営執務棟2F、第二特務課施設リビングルーム、時間は0025、深夜である。

 

 

 岩川基地司令長官染谷文吾少将との会談から数えて三日、吉野は今目の前に居る重巡艦娘の"破滅へのカウントダウン"阻止の為、何か出来ない物かと無い知恵を搾り出していた。

 

 まぁ搾り出すと云うか"無い知恵を絞る"為の情報が少な過ぎて時間を無駄に浪費しただけだったのだが。

 

 

 では何故吉野の行動が徒労に終わったかと云うと、それはまったく単純な事で、この妙高が抱えている問題の核は、他人が関わるという外因的な物の類いでは無く、心の問題、要するに個人的な物が起因であった事。

 

 幾ら情報を集めようと、理知的な解決法を模索しようとしても、人の心という何ともファジーで理不尽な部分が大本なのだから、結局の処本人と話をして原因を特定し、説得するしか方法は無いのである。

 

 

 まぁこの辺り、そんな単純な事に気付くのに数日要してしまったのは褒められた物では無いだろうが、他に試せる手段を模索する時間も余り無いのは間違い無い上に、部の悪い賭けに負けたとしても無くすのは最悪吉野自身の命だと云うのもあって、多少無謀であるが吉野は行動を起こす事にした。

 

 

 作戦名〔当たって砕けろ〕

 

 砕けるつもりは毛頭無いが、もう色々ややこしい事をこねくり回して頭皮のダメージを蓄積するなら、本人と直接話をしてどうにかしてしまおうと、この男は半分投げやり的な行動に出たのである。

 

 先ず失敗すると流血沙汰になると聞いていたので、部外者が立ち入らない特務課施設で、そして第三者が絡まない様に深夜に妙高を呼び出し、更に簡潔に話を進める為に吉野が発した第一声が

 

 

「妙高君、どうすれば君の自決を思い留まらせる事ができるかな?」

 

 

 であった。

 

 この行動を簡潔に表現すればバカである、いきなり夜中に呼び出されて一体何事かと思ってみれば、唐突に口から出た第一声がこれ。

 

 普通いきなりこんな事を言われれば相手の正気を疑う事は間違いないだろう、当然の事だ。

 

 そして結果として妙高の口から出た言葉が、冒頭での物であるのは極自然な物であろう事は難くない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ん? ああいやそのまんまの意味だけど?」

 

「ですから、何故私が自決しないといけないのでしょうか?」

 

「あ~ 一昨日にさ、自分、染谷少将殿と会談したじゃない?」 

 

 

 染谷の名を吉野が口にした瞬間、妙高の表情が更に訝しむ物になる。

 

 

「んでその時言われたんだよね、今回の異動に妙高君は納得してなくて、もし異動先の上司が気に入らない人物なら多分自決するだろうって」

 

 

 暫しの静寂。

 

 妙高は押し黙ったままテーブルに視線を落とし何かを考えていたようだったが、すぐに何か思い至ったのだろう、深く溜息を吐くと吉野に視線を戻した。

 

 

「成程、吉野中佐が何を考えてらっしゃるかは判りませんが、染谷司令が何を中佐に吹き込んだのかはよっく判りました」

 

「それは何より、んで、妙高君の自決を止める方法ってどうすればいいのかな?」

 

「ですから、何故私が自決なんか─────  」

 

「─────妙高君」

 

 

 吉野はテーブルに肘をついて頬をその上に乗せると、じっと目の前の艦娘の目を覗き込む様に見詰める。

 

 

「本音で、話そうか、君が抱えてる問題の核は君自身の異動人事に関しての事…… というか、ぶっちゃけ自分と君の間にある関係性の問題だと認識しているんだけどどうだろうか?」

 

「何故そう言い切れるのです?、それ以前に私が何故現状に不満を抱いていると言うのです?」

 

「少なくとも君は自分の事を上司として認識してはいないよね?」

 

「……」

 

「多くの艦娘は人の強い想いに呼ばれこちらに顕現(けんげん)し、人を守る為の戦いに身を置く事で自身の個としての存在をより強く認識する、そして艦娘は己に戦う場所を与え、命令を下す…… 自身が付き従うべき人間に依存する傾向にある」

 

「……」

 

「そして前線から長らく遠のいていた君が、自身の上司に依存をしないと云うのはちょっと考え難い、更に、今現在君は自分の事を"吉野中佐"と呼び、染谷少将殿を"司令"と呼んでいる」

 

「……そうですね」

 

「そして現在君が自分の上司として認めているのは染谷少将殿だとしたら、当然君自身の認識では今も変わらず、所属は岩川基地になっているんじゃないのかな?」

 

「仮に私の認識がそうであったとして、何故私が自決すると云う結論になるのか判りません」

 

「今君が言ったのが本音か嘘か判らないけど、現状君にはもうここ以外居場所は無いという事は判ってるはずだ、そしてその状態でこのままいけば間違い無く君自身は自決の道を選ぶ、それは君が一番信用している染谷少将殿が言い切った事なんだよねぇ、そこんとこどうなのかな?」

 

 

 再び二人の間には静寂が訪れる、妙高としては適当に理由を並べこの場を取り繕う事は簡単な事ではあったが、それは同時に染谷が己の仕えるべき主である事を自ら否定する事に他ならない。

 

 何があってもそれだけはしない、出来るはずがない、何故なら吉野が言う様に、今もこの妙高型一番艦の中で主は只一人、染谷文吾少将のままなのだから。

 

 

 

「無理に返事は聞かないさ、無言というのが君の出せる精一杯の答えなんだろうしね、まぁそれを踏まえて重ねて聞くけど、どうすれば君に自決をさせず、自分が君の提督として認めて貰えるのか教えて貰えるだろうか?」

 

「……私が提督として付き従う方は染谷文吾少将只一人です、あの方と共に戦い、あの方と共に生き、そしてあの方が靖国に入るのであれば私も共に逝く、それが私の願いであり、私自身の存在意義です」

 

 

 吉野を見据える妙高の目には迷いは無く、何物も寄せ付けぬ意思の強さがそこに表れている。

 

 成程、共に居た時間の長さも相当だが、生きる事も死ぬ事も分かち合い、肉親よりも硬く結ばれた絆を第三者がどうこうしようだなどと云うのは、土台無理な話に違いない。

 

 

 ならこのまま"彼女が自身の身の振り方を決める"のを認め、その後補充の人員を申請した方が状況的に楽だろうし、双方丸く収まる良い方法なのでは無いだろうか?。

 

 

「…………ははっ、無いな、それは無い」

 

 

 そう自嘲交じりの言葉を吐き出した吉野は、さぁやるかと腹を括り、目の前の艦娘が見据える視線を真っ向から受け止めた。

 

 

「成程、君の考えは理解した、その上で自分は君の上司(・・・・)として話をしよう、現状自分は岩川基地司令長官染谷文吾少将から正式な手続きを経て、妙高型一番艦妙高を受領し、自分が指揮する艦隊へ編入した」

 

 

 その言葉を聞いた妙高の目には明らかな怒りと、そして殺意が見え隠れしている。

 

 

「そして君は今現在自分の指揮下に在り、この第二特務課の貴重な戦力の一翼を担っている、故にその戦力の損失に繋がる行為は如何なる理由があろうとも、"提督として"認める訳にはいかない」

 

「私がその"提督の命令"を拒否したとしたらどうされます?」

 

「軍規に則って、君の命令拒否の理由が認められるかどうか、然るべき筋へ話を振って、判断を仰ぐ事になるだろう」

 

「成程、私は"手続き上"異動命令を受け入れ、こちらに編入されていますから…… "提督の命令"に対する拒否が認められる事はなさそうですね」

 

「そうだろうね、君の抱えてる事情は極個人的な問題だ、そんな物(・・・・)に指揮官からの命令が曲げられる事は先ずあり得ない」  

 

「成程…… なら、仕方ありませんね」

 

 

 妙高はそう言うと、小さく溜息を吐き、袖口から短刀を抜き放つと、己の喉元を裂こうと刃を引いた。

 

 

 

─────────  噴出す赤い飛沫

 

 

 

「……邪魔をするなら貴方も死ぬ事になりますよ?」

 

 

 短刀は妙高の喉には届かなかった、その代わりにそれを遮る形で割り込ませた吉野の左腕の、肘から先が足元に転がり、傷口からは(おびただ)しい量の鮮血が噴出している。

 

 

「……ああ、染谷のジイサンが…… そんな事…… 言ってたっけな」

 

 

 そう言う吉野は切り落とされた腕に構う素振りも見せず、右手で妙高の襟首を掴み、自身へ引き寄せ、お互いの額と額が触れ合う程近くに顔を寄せてきた。

 

 一瞬眉根を寄せた妙高は、右手に握られた短刀を迷わず吉野の左脇腹に突き立てる。

 

 

 刃渡りは30cm程はあろうかと思われるそれの2/3程が吉野の腹の中に埋没する。

 

 焼きゴテを腹の中に差し込まれたのではと思われる程の熱を感じ、思わず悲鳴を上げそうになるが、ぐっとそれを喉に押し込んだ。

 

 

「聞こえなかったんですか? 邪魔をしないで下さい」

 

「話は…… まだ、終わって…… 無いんだけどなぁ……」

 

 

 腹部に感じていた熱は、少し収まる代わりにそれ以上の痛覚を呼び覚ます、今刺さっている短刀は内臓のどこかへ達しているのは確実だろう、それをほんの僅か、少し捻ねれば死は避けられないと云う状況。

 

 それでも吉野は一歩も引かない、引かないと腹を括ったからには引いてやる理由は無いと意地で妙高を見据える。

 

 

「提督!?」

 

 

 後ろから悲鳴に近い時雨の声が聞こえる、それ程大きな音を立てた覚えは無いのだが、通常課の者は寝静まっている時間帯であった為に、リビングに隣接した部屋に居る時雨にはその僅かな争う音が聞こえたのだろうか、様子を見に出てきた様である。

 

 そしてそこに現れた小さな秘書艦は、自分が守るべき提督が凄惨な状況で目の前に居る事に一瞬唖然としていたが、すぐさま状況を飲み込み、自分がするべき事を成す為に行動を起こした。

 

 

 恐ろしく早い速度で距離を詰めつつ軍刀を抜き出す、そして迷い無く振り抜かれる刃、それを吉野の脇腹から引き抜いた短刀で妙高は受けた、小振りの物だが時雨の振り抜いた関孫六を受け止めて折れない処をみると、短刀も結構な業物なのだろう。

 

 ほんの一瞬で行われたその様を横目で見た吉野は、修羅場で出すには間の抜けた調子で言葉を口から搾り出した。

 

 

「あー…… エフッ、寝てるとこ起こしちゃったかなぁ…… すまないねぇ……」

 

「何言ってんのさ提督っ! なんで…… 何これ? どうして!」

 

 

 どうやら時雨は軽く混乱している様だ、軍刀を握る手は震え、短刀と交わる刀からはカチカチと音が響く。

 

 

「……今、ちょっと込み入った話をしててねぇ、すまないけど引いてくれないかな?……」

 

「そんな命令聞ける訳ないじゃないか!」

 

「時雨!!」

 

 

 怒鳴り声に肩を跳ねて動きを止める時雨、その声に妙高も体を強張らせる。

 

 

 

「……問題ない、まだ、大丈夫……」

 

 

 

 そう言った吉野の目は時雨を真っ直ぐ見詰めている、その苦し気な表情を見ると体の芯から熱が抜け、震えが止まらなくなるが、それでも自分の主が大丈夫だと、そう言った。

 

 一緒に居た時間はそれ程長い訳では無かったが、自分が主と決めた男はこんな時に嘘や誤魔化しは言わないのは知っている。

 

 

「何をしてるんですかっ!」

 

 

 声がする方向へ目を向けると、騒ぎを聞きつけたのであろう榛名が、今正にこちらへ飛び掛ろうとしている処だった。

 

 それを見た時雨は、榛名の体に抱きつく様に押し留め、それ以上榛名が前に出れない様に足を踏ん張った。

 

 

「時雨ちゃん!?」

 

 

 小さな秘書艦は顔を上げれない、ポロポロと涙を流しながら榛名を押し留める事しか出来ない、それが今主が自分に対して求めている事だと判っているからだ。

 

 

「どうしたの!? 離して時雨ちゃん! 提督が…… 提督が!」

 

 

 視界の隅で榛名に必死でしがみ付き、呻き声しか上げない自分の秘書艦を見た吉野は、泣かせてしまった罪悪感と、徐々に増してくる痛みに顔を歪めながらもう一度二人の艦娘に声を掛ける。

 

 

「ちょっと今お話し中でね…… まぁアレだ、ヤバくなったらギブアップするからその時はヨロシク」

 

 

 一方妙高は、その時吉野の様子がおかしい事に戸惑っていた、正確に表現するなら吉野の体の様子が、だが。

 

 ついさっきまで鮮血を(ほとば)せていた左腕からは、今は赤い雫が垂れる程しか出血しておらず、突き刺した脇腹からの出血もほぼ止まっている。

 

 止血などしていない、体内の血液が全て流れ出たなんて事もあるはずが無い、なのに出血が止まっている、一体何が起こっているのだろうか?。

 

 不可解な様に気を取られていたが、不意に掛けられた言葉にその思考が中断される。

 

 

「さあ、話の続きをしようか妙高君……」

 

 

 そう言った男の顔は先程から変わらぬ、ややくたびれた相を表に貼り付けた物だった。

 

 自分の右手を見る、そこにはまだ短刀が握られたままだった。

 

 後一刺し、もう一振り、それだけでこの男の命は奪えるはずだ。

 

 その証拠に目の前の男は出血は止まっているものの、顔面からは血の気が引いており、自分の襟首を掴む手は微かに震えている。

 

 

 ほんの少し、後もう少し、行動を起こせば自分の望んだ結果が得られるはずだ、なのに何故?、どうしてそうしない?。

 

 

 

「どこまで話したっけな…… ああもうめんど臭ぇ……」

 

「め…… 面倒って……」

 

「ええと、あー…… 要するにだ、君は前任地の司令官に放り出された、もうお前の席はここに無いから、次大本営な? だったか……」

 

「なっ!? 貴方は一体何を言って……」

 

「ぶっちゃけた言い方だけど、要するにそういう事でしょ?」

 

「違います! あの方は先の事を見据えて…… 私の事を考えてこの異動を仕組んで……」

 

「何をどう繕おうが…… 実際問題変わんないでしょ」

 

「違う!、貴方に一体あの方の、私の気持ちの何が判ると言うのですか!」

 

「判んないねぇ…… だって本音話して貰った事無いんだし、それに"君の事を心底考え抜いて"、生きて欲しいと願って送り出した人の気持ちを無視して、只だだをこねているだけの我侭娘の言葉なんか……判りたくも無い」

 

「この…… この気持ちが我侭というなら…… 共に在りたいと思う気持ちがいけないと言うのなら、これ以上…… 私にどうしろと言うのですか!」

 

 

 冷静で冷徹な仮面を被っていた艦娘は、一番触れて欲しく無い部分に触れられて我慢出来なくなっていた。

 

 父と慕った老将に命令され送り出される、それが意味する事は、軍人として残された時間が僅かな老将との、そう遠くない未来にある今生の別れを受け入れる覚悟が必要だった。

 

 しかしその覚悟をするにはこの異動は余りにも突然で、そして心の逃げ場すら用意されていなかった。

 

 その先に必ず来るであろう孤独と不安に自分は耐える事は出来ないだろう、だからせめてその孤独が訪れる前に自分自身にケリを付ける、そう決めて妙高はここに来た、そう決めていたはずだった。

 

 

「私に…… どうしろと…… 言うのですか……」

 

 

 自分を律する為、自分の弱さを隠す為の仮面はいつの間にか剥がれ落ちていた。

 

 その仮面の下にあったのは、年甲斐も無く、ただ何かに怯え、涙で顔をくしゃくしゃにした艦娘の顔だった。

 

 

 吉野は襟首を掴んでいた手を妙高の背中に回し、自分へと抱き寄せ、今にも飛びそうな意識に渇を入れながら、泣きじゃくる艦娘へ言葉を掛ける。

 

 

「残念ながら…… 俺は釈迦(しゃか)でも菩薩(ぼさつ)でも無いから…… そんな厄介な問題をどうにかしてやる事は出来ないな……」

 

 

 もうちゃんとした考えが出来る程思考が回らない、だから投げっぱなしの、伝えないといけないと思う事を淡々と、今耳元で声を殺して泣いている艦娘に伝える事にする。

 

 

「それでもだ、俺は染谷少将から…… 君の事を任された、命を託された、なら俺は、俺にできる事で君に向き合う事しか出来ない」

 

 

 そうしてゆっくりと肺に空気を溜め込んで、掠れる声で言葉が消されない様にしっかりと口から言葉を搾り出す。

 

 

「君は、……いや、この俺の艦隊に所属する君達の命は、任務の為、守る為にこの俺が使わせて貰う、その代わり俺の命はくれてやる、全身全霊を以って俺が君達に命令を…… 生きる価値と、居場所を与えてやる」

 

 

 足元から力が抜けていき、ズルズルと体が重力に引かれていく。

 

 

 

───────── 暗転

 

 

 

 大本営第二特務課々長吉野三郎は、そのまま崩れる様に倒れ、意識を手放した。

 

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結局、押し切る事になる

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2017/07/25
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、鷺ノ宮様、有難う御座います、大変助かりました。


「三郎ちゃんのやる事は突飛過ぎて、呆れて物が言えないのです」

 

 

 三白眼から睨みを効かせた視線を振りまいて、暁型四番艦電は目の前に居る大本営第二特務課々長吉野三郎(28歳独身入院中)に、やや怒気を孕んだ言葉を投げ掛けた。

 

 

 場所は大本営医務局、海軍に所属する者全ての健康を一手に担い、更に日々艦娘だけでは無く、深海凄艦の生態調査まで取り扱う海軍の研究施設である。

 

 

 その研究施設の長を勤めるのは暁型駆逐艦四番艦電、"最初の五人"と言われた艦娘の内の一人。

 

 他の四人共々戦争初期の海軍を支え、数々の戦場を渡り歩いたが、まだ艦娘運用も禄に確立されていない時代に無茶ともとれる転戦を繰り返したせいで、軍の戦力が整い、本格的に反抗戦を始める頃には既に前線へ立てる状態では無くなっていた。

 

 これは他の四人も概ね同じ状態で、現在は其々一線は退いているものの、各々が得意とされている分野へ従事しており、この電は医療面で艦娘を支える道を選び、研究者として医務局の長を勤めている。

 

 

 その容姿は他の"駆逐艦電"と変わらぬ物であるが、暁型駆逐艦が身に着けているセーラー姿では無く、青いタートルネックのセーター、黒いタイトスカートに同色のタイツ、そして白衣を羽織った姿は小さい体躯も相まって一見アンバランスにも見える。

 

 しかし髪を下ろしたその横顔からは見た目とは反して落ち着いた雰囲気が感じられ、彼女が少女の姿をした艦娘ではあるが、内面は充分成熟した大人なのだと言う事が見て取れる。

 

 

「大体の事情は聞きましたし、お仕事ならある程度の無茶は仕方がないのかも知れませんが、物には限度というものがあるのです」

 

 

 半分小言然とした言葉を聞かされている吉野の姿は、切断された左腕をギプスで固定され、首元や四肢の根元に液体が流れる管や、ケーブルの様な物が刺されている。

 

 ベッドの周りには医療用の機器であろうか、用途不明な機械が並び、さながらICU顔負けの雰囲気を醸し出している。

 

 

「デンちゃん…… 良っく判ったのでそろそろ勘弁して欲しいんだけど……」

 

「い・な・づ・ま、なのです、はぁ…… それだけ憎まれ口を叩ける余裕があるなら今日は面会させても大丈夫そうですね」

 

「無理言って申し訳ない」

 

「判っているとは思いますが、本当はまだ眠ってないといけない状態なのです、痛みも相当残っているのでしょう?」

 

「まぁ…… 多少は」

 

「もぅ…… 電はモニターを監視しています、もし数値に異常が現れたら問答無用で睡眠措置をとりますからね?」

 

「出来たら面会が終わるまで見逃して欲しいんですが……」

 

「い・い・で・す・ね?」

 

「ア、ハイ」

 

 

 第二特務課で起こった流血事件は、あの後昏倒した吉野が医務局に緊急搬送され、手術の後入院となり全治三週間。

 

 事件を起こした妙高は一時大隅大将麾下特務課に捕縛され、取調べの為二日程拘束されたが、何故かお咎めなしの状態で開放され、現在第二特務課私室にて軟禁されている。

 

 

 一応上官反逆罪という罰則が下されてはいるが、その内容は吉野に一任され、本人が医療施設から戻って来るまで保留と云う扱いになっている。

 

 

 因みに現在はその流血事件から五日経っているが、この通り吉野が入院状態なので指揮する者が不在の為、第二特務課の臨時責任者は吹雪が執っており、時雨と榛名は執務施設から出る事を禁止されていた。

 

 

 

「来たみたいですね、重ねて言いますが、余り無理しちゃ駄目なのですよ?」

 

「……了解」

 

 

 

 軽いノックが四回、返事を待たずに入室してきたのは駆逐艦吹雪、そして妙高型一番艦妙高がそれに続く。

 

 妙高の手には仰々しい手錠がはめられており、更にその手は後ろ手にされた状態で固定されていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「しかし妙高君の方から面会の申し入れがあったとか、ちょっと提督びっくりです」

 

 

 その言葉を聞いた妙高は眉根に深い皺を刻み吉野を睨みつける、良く見ればその目の下には濃い隈が張り付いており、心なしかやつれている様にも見えた。

 

 

「てか、ちゃんと寝てる? 目の下すんごい(くま)なんだけど」

 

「お陰様で、気分は最悪です……」

 

「やっぱ寝てないのかぁ、それ、美容に良くないよ?」

 

「大きなお世話です、それよりも自分を殺そうとした相手を前にして、良くそんな軽口がポンポン口を吐いて出ますね?」

 

「何? じゃあ恨み言なんかタラタラ垂れた方がいいの? わざわざ見舞いに来た部下相手に? ナニソレ感じ悪ぅ」

 

「茶化さないで下さい! 私はそんな話をしに此処に来た訳じゃありません!」

 

「え? 見舞いじゃないの? ちょっと提督ショックなんだけど……」

 

「~~~~~!」

 

 

 唇を噛み締め、顔を真っ赤にして吉野を睨む妙高であったが、後ろ手に掛かる手錠の感触が、辛うじて口から出そうになる罵倒を押し留める。

 

 

「何故あの時…… 邪魔をしたのです?」

 

「ん? 何の事かな?」

 

「いい加減真面目に話を聞いてくれませんか?」

 

「ふむ…… まぁ聞くだけなら、でも自分が君に伝えるべき事はあの時全て伝えたから、質問されても碌な返事は出来ないと思うよ?」

 

「話が噛み合ってません、私はあの時貴方が言った提督としての戯言みたいな何かを聞きたかった訳ではありません、それ以前の問題です、私は貴方の事を提督として認めていないと言ったはずです」

 

「ああそれ? うん別にいいんじゃないかな? 自分も色々考えたんだけど、結局人の心は無理に変えられる物じゃないんだ、だから自分の本音と出来る事を君に伝えた、後は君が時間を掛けてでも君自身で答えを出すしかないよね」

 

「考えるも何も、私の答えは最初から決まっています」

 

「君のソレは現実逃避って言うんだよ、答えなんて言える代物じゃ無いねぇ」

 

 

 妙高は咄嗟に反論しようとしたものの、吉野の目を見た瞬間また何も言えなくなった、何故だろう、あの修羅場の只中でも、この男の目を見た瞬間何も出来なくなっていた、否定する気持ちや、喉元まで競り上がった怒りの言葉が自然と引いていくのは何故なのか?

 

 

「戦場で生きる者には自分の死に場所を選ぶ権利はあると思う、でもね、意味の無い死を選ぶのは罪だと自分は思うんだ、少なくとも君が今のまま、自分自身で全てを終わらせたとしたら、必ず涙を流して後悔する人が居るはずだ、少なくとも自分はその人物に心当たりがある、なら、君はまだ死ぬべきではない」

 

 

 淡々と語るその男の目は自分しか映っていない、そしてその言葉は他人の事などお構いなしの、乱暴なまでに自分の答えを一方的に押し付け、己の信念を貫く傲慢さを多分に含んでいる。

 

 

「もう一度、周りの事も含めて考えてみるといい、そしてその答えが今と変わらず死を望むというのなら…… 仕方が無いね、その時は」

 

 

 この目を知っている、傲慢で、頑固で、そして ─────────

 

 

「何度でも、全力で止めてやる」

 

 

───────── 優しくて、厳しい、こんな無条件に、他人の為に己の命を迷わず差し出す程の人間は 

 

 

 嗚呼そうか、似ても似つかぬ容姿、捻くれた態度、その見た目に故に囚われていたが間違いない、今目の前で死に体の、それでも目いっぱい虚勢を張っている男は、自分が共に生き、共に在ると誓ったあの老将と同じではないか。

 

 口をへの字に曲げ、鼻息も荒い男の顔を見ると全身の力が抜けていく、全てが馬鹿らしくなった、最初から自分の決意は無駄だったのだ、この手の人間に真っ向から勝負を挑むのは無駄以外の何物でも無いのだ。

 

 

 何故なら、自分の負けを考えず、認めない、そんな人間に負けなど存在しない、人はそれを馬鹿と呼ぶ。

 

 世の中には色んな馬鹿が存在するが、この男の馬鹿さ加減は群を抜いている、飛び切りの馬鹿だ、それもとてつもなく厄介な、そして多分殺してもそれは変わらない、ずっと付き従っていた自分の父(染谷文吾)もそうだったのだから。

 

 

 今一度確かめ、答えを得ようとした自分の考えは全否定され、望みも断たれた、もうこの男とこの件で話す事は何も無いだろう。

 

 

 妙高は黙って席を立つ、後ろ手の手錠からは鎖が摺れる音が僅かに聞こえる、そしてその顔には怒りも悲しみも張り付いてはおらず、何故か自嘲気味の、苦笑いの相が表れていた。

 

 

─────────

──────

──

 

 

「それじゃ投薬を再開するのです、それとソレ(・・)はどうするのです?」

 

 

 今吉野の枕元には、病室には不釣合いな短刀が一本転がっている。

 

 妙高が席を立った時、横で控えていた吹雪は何も言わず腕の拘束を解いた。

 

 そして両手が自由になった妙高は袖口から短刀を一本引き出すと、吉野の枕元にそれを置いて出て行った。

 

 その短刀は間違い無くあの時吉野の腕を切り落とし、刺し貫いた"彼女が所有する唯一の武装"であった。

 

 

「邪魔にはならないから、このままでいいかなと」

 

「判ったのです、それにしても三郎ちゃんはこれからが大変ですね」

 

「ん? 何が?」

 

「 『責任、取って下さいね』 」

 

 

 妙高が去り際に口にした言葉を器用に真似て、ニヤニヤと笑いを堪えつつ機械の操作をする電、血の気が引いたまま虚ろな目で遠くを見詰める吉野、二人の肩は小刻みに震えているが、その意味する処は180°違う物であるのは間違いない。

 

 

「まぁでも、これでまた…… 死ねない理由を一つ背負い込んじゃった訳なんだけどねぇ……」

 

 

 そう呟いた吉野は静かに眠りに堕ちる、そしてそれを確認した電は、ほんの少し悲しみの混じった笑顔をしたまま病室を後にした。

 

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼女達のその後、提督のカラダ

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/06/11
 脱字加筆修正致しました。

 坂下郁様、ご報告有難う御座いました、大変助かりました。


「先程吉野中佐に私の命を預けてきました。」

 

 

 場所は大本営医務局々室、部屋の中には主である暁型四番艦電と、第二特務課秘書艦時雨、戦艦榛名、駆逐艦吹雪、そして重巡洋艦妙高が集っていた。

 

 今回、治療を続けていた吉野の容態が安定し、現在の容態の確認と、職場への復帰時期の相談等、本来なら同課代理を務める吹雪と電が打ち合わせをする予定であったが、何故か同課に所属する全員を電がここに呼び出していた。

 

 先に部屋には電、時雨、榛名が待機していたが、其処に吹雪に連れられて妙高が合流する形で全員が集まった。

 

 

 あの事件の後、妙高は自室で軟禁されていた訳だが、意図して吹雪は他の二人には妙高を会わせて無かった為、こうやって彼女達が顔を合わせるのは、実は事件の後始めてであった。

 

 

 妙高が入室するとピリピリと空気が張り詰める室内、時雨は勤めて冷静にしようとしていたが、その横に座る榛名は明らかに怒気を孕んだ目で妙高を見詰めていた。

 

 そんな中、妙高が二人の先任の二人に対して言った第一声は冒頭の台詞であり、続けて言ったのは

 

 

「それでもまだ私は中佐からお許しを受けてはいませんし、先任のお二人にも、ご迷惑をお掛けしたお詫びをしていません」

 

 

 それを聞いた榛名は妙高の左腕を掴み上げ、お互いの鼻が触れる程の位置まで顔を寄せてきた。

 

 濁った眼、感情の一切が抜け落ちた相、それでも底冷えのする様な冷たい殺意を向けている目の前の艦娘は、普段のおっとりとした"榛名"では無く、戦場で幾多の敵を海の底に沈めてきた"武蔵殺しの榛名"という艦娘だった。

 

 

「貴女は提督の腕を落としました」

 

「はい」

 

「貴女は提督を刺しました」

 

「はい、そうですね」

 

「なのに何故貴女は無傷なんでしょう?」

 

 

 ミシリと榛名に掴まれた腕から骨が軋む音が聞こえる、それでも妙高は顔色一つ変えず、真っ直ぐ榛名を見詰め返した。

 

 

「何故、貴女は、まだ生きて此処に居るんです?」

 

「……腕を落とせと言われるなら落としましょう、腹を貫けというなら貫きましょう、でも、私はまだ"死ね"と命令を受けてはおりません、ですから死ぬ訳にはまいりません」

 

 

 二人の艦娘の間には、今にも弾けそうな危うい緊張感が漂っている。

 

 暫く室内には、二人の艦娘が発する険悪な空気が生み出す緊張感が漂っていたが、ソファーに座っていた第二特務課の秘書艦がその沈黙を終わらせた。

 

 

「妙高さんはさ、提督と会って話をしてきたんでしょ?」

 

「……はい、つい先程少しだけ」

 

「提督は何て言ってたの?」

 

「恐らくですが…… あの人は自暴自棄にならず、良く考えた上で、死を選ぶ以外の可能性を模索しなさいと…… そう仰ったと思います」

 

「そっか…… ならもういいんじゃないかな、ね、榛名さん」

 

「……」

 

「提督が言った事に対する妙高さんの答えが、"命を提督に預けてきた"って事なんだったら、もう僕達に言える事は何も無いんじゃないかな」

 

 

 榛名は無言で時雨の方へ視線を向ける、黙ってはいるものの、その怒気は少しも収まってはいなかった。

 

 

「だってさ、あの提督だよ? 自分が死ぬかも知れないって時に、意地を張って説教しちゃうような頑固者なんだから、今更僕達が何を言っても仕方ないとは思わない?」

 

 

 今にも流血沙汰になりそうな雰囲気の中で、この小さな秘書艦はあっけらかんと、溜息を吐きながらそう結論を下した。

 

 

「時雨ちゃんは…… 怒っていないんですか?」

 

「怒ってるさ、当然でしょ? でも僕が怒っているのは妙高さんにじゃなくて提督にだよ、いつも無茶ばっかりして、その度に心配するこっちの身にもなって欲しいよ」

 

 

 怒りの言葉というより、愚痴と表現した方が良い言葉を口にする秘書艦の顔は、何故か笑顔になっている。

 

 

「だけどさ、提督が意地になって我侭を言う時は、自分の為じゃなくて、必ず誰かの為に(・・・・・・・)何かをしようとしてる時なんだよね」

 

「……」

 

「僕の仕事はそんな提督を支えて、守る事だと思ってる…… まぁ今回はちょっと失敗しちゃったけど」

 

 

 再び無言のまま時雨を見ていた榛名だったが、大きく溜息を一つ吐くと、握っていた妙高の腕から手を離し、視線を目の前の重巡洋艦へと戻した。

 

 

「まだ榛名はちゃんと納得はしていません」

 

「はい」

 

「時雨ちゃんが提督の盾になるのなら、榛名の役目は、目の前に立ち塞がる一切全てを薙ぎ倒す矛になる事です」

 

「……そうですか」

 

 

 榛名の貌は相変わらず無表情のままだが、先程とは違い、妙高を見る眼に殺意は殆ど含まれてはいなかった。

 

 

「貴女は提督の敵ですか?」

 

「……私が此処で何を求められるのかは判りません、でも居場所と存在意義を与えられた分、命令をこなし、意地汚くても精一杯生きて……」

 

 

 そして妙高は、榛名に対して不適な笑みを口元に浮かべつつ、こう宣言した。

 

 

「"提督"が言った答えと云う物を、一緒に探していこうとと思います」

 

 

 その言葉を聞いた時雨はソファーから立ち上がり、榛名の横に並びつつ、妙高の目の前に右手を差し出した。

 

 

「僕は白露型駆逐艦、時雨、改めて、これからよろしくね、後、ウチでは身内同士での敬礼は基本省略する事になってるから、握手して貰えると嬉しいかな?」

 

 

 時雨から差し出された右手を妙高は握り返す、それを横で見ていた榛名も何かに満足したのだろうか、ゆっくりと右手を差し出して、妙高に負けじと口元に挑戦的な笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「金剛型三番艦、榛名です、ようこそ第二特務課へ、妙高さんには恋も、戦いも、負けませんよ?」

 

 

 榛名は姉である金剛型二番艦の台詞を織り交ぜた言葉で、和解と歓迎と、ちょっとばかりの宣戦布告の意思を妙高へ示す。

 

 対する妙高も黙ってその右手を握り返したが、その時ほんの少しだけ強めに力を込めたのは、榛名の挑戦に対する彼女なりの返答の為による物であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「そちらの話し合いがまとまったみたいなので、電が三郎ちゃんの容態の説明と、少しだけ皆さんに知っておいて欲しい事をお話します、いいですか?」

 

 

 電の言葉に三人の艦娘は黙って頷いた、その三人の後ろでは吹雪が電に向かって一度だけ、軽く首を縦に振った。

 

 それを確認した電は、手元にあるカルテに視線を落としつつ、吉野の傷の具合と、治療の進捗状況の説明を始めた。

 

 

「先ず切断された左腕ですが、筋組織と神経の接続、及び骨の整複は問題なく終了しているので、今は固定した状態で経過を診ているのです、恐らく後遺症は残らず、二週間程でギブスは外れると思うのです」

 

「え?、腕の切断が二週間程度で治るのですか?」

 

「完全に元に戻る為にはそれから暫くリハビリが必要になりますが、傷自体は二週間程で概ね元に戻ると思うのです、治癒の早さに妙高さんが驚くのは無理の無い事とは思いますが、その理由は後でちゃんと説明しますから、少し待って欲しいのです」

 

「そうですか…… 話の腰を折ってしまい申し訳ありません、話の続きをお願い致します」

 

「ありがとうなのです、それでは腕の以外の部分についてですが、腹部の創傷ですが、左の脇腹から刺し込まれた刃物が肝臓を貫通し、小腸まで刃先が達した状態で一時大量出血を起こしていましたが、止血が行われた為大事には至って無いです、こちらも現在治療は完了し、ほぼ完治している状態なのです」

 

 

 止血をした、そして僅か五日でその傷は完治している、そんな在り得ない事を聞いた三人は驚きを隠せない。

 

 

「ただ、治療をする上で少し強めのお薬を投与していますので、暫くはその後遺症で上手く体が動かないかも知れませんから、皆さんにはその手助けをお願いしたいと思うのです」 

 

 

電はそう言うと、カルテを机の上に置きつつ、視線を吹雪の方に向ける、そして吹雪が軽く頷くと、今度は電の話を継いで吹雪が三人に説明を始めた。

 

 

「三郎さんの体についてですけど、彼のプライベートに関わる事と、軍事上の機密を含んだ物が幾つかあるので、全て貴方達に説明する事は出来ません、ただこれから先彼と共に任務に就くなら知っておいた方が良い情報を、私の独断で貴方達に伝ておこうと思います、当然これは他言無用でお願いします、いいですか?」

 

「その秘密と言うのは、どれだけの人が知ってるんだい?」

 

「大隅大将、大本営第一艦隊員、元特務課に所属していた若干名と、私を含む"最初の五人"全員です。」

 

 

 吹雪が言った事は、吉野の体の事は、大隅大将麾下の身内には知られている程度の事であると同時に、"最初の五人"と呼ばれた艦娘と吉野は何かしらの繋がりがあるという事実を伝えている。

 

 

「三郎さんと私達"最初の五人"と呼ばれている艦娘は、部下や同僚という関係じゃなくて、姉弟の様な物だと思ってくれればいいと思います」

 

「ですね、三郎ちゃんは電達の弟なのです」

 

「弟…… ですか?」

 

「なのです、詳しいお話は電達からでは無く、三郎ちゃんから貴女達に伝えるべきだと思うので、もしその辺りが知りたいと云うのなら、三郎ちゃんから直接聞いて欲しいのです」

 

「判りました」

 

「それでは三郎さんの体についてですが、先ず彼の体は"死に難く、治り難い"造りになっていると思って下さい」

 

 

 死に難く、そして治癒がし難い体、いきなり説明されたその体の特徴は矛盾を含んだ物だった。

 

 

「三郎さんは子供の頃、とある事情で全身に重度の火傷を負い、体の皮膚を四割程人工皮膚に置き換えています、そして火傷を負った際に発症した多臓器不全と敗血症の為肝臓機能を失っています」

 

 

 人間の皮膚は体を覆い、保護する働きを持っている。

 

 その皮膚が失われた際、人体からは体液と血液が流出し、脱水症状による内臓へのダメージと、失血によるショック症状で生命を維持するのが難しくなる。

 

 火傷の段階は症状により四段階に分類され、重篤と呼ばれ、治療に皮膚移植を要するⅡ度熱傷以上の段階に至っては、成人では皮膚面積の凡そ20%に達した時点で死に至る可能性があるという。

 

 

「通常肝機能が働かない場合、体内の毒素を排出する機能が失われてしまうので、肝臓を移植して健康体に戻すか、人工透析によってその機能を補います、ですが三郎さんには肝移植に適合する人が見つからず、幼い為に人工透析に絶えられる程の体力はありませんでした、そこで三郎さんの体内には、ある装置が埋め込まれています」

 

「ここからは医療的な説明が必要なので、電が説明するのです、今三郎ちゃんの体には、五つ、生体組織由来のフィルターを組み込んだ小型プラントが埋め込まれています」

 

「プラント?」

 

「なのです、四肢の根元にある動脈に一つづつ、そして延髄にある動脈に一つ、このプラントで体内の毒素をろ過し、定期的にそれを排出します、そしてそのプラントなのですが、毒素をろ過する以外にも幾つか副次的な機能が存在します」

 

 

電は一旦話を切り、横に置いてあったペットボトルから一口水を飲み込むと、咳払いをした後話の続きを始めた。

 

 

「この装置を動かし続ける為に、プラント内部には血流を利用した発電装置があるのですが、その装置は血流が一定以上の数値を超えた時、プラント部分で弁を調整して血流をコントロールする働きがあります、そしてもし血流量が異常を示した際、弁を閉じてそこで血の流れを止める機能を持っています」

 

「血流制御…… あっ!」

 

「三郎ちゃんが腕を切断された時でも、出血多量で死ななかったのは、このプラントが弁を閉じて止血をしていたからなのですよ?」

 

「だから…… あの時、血が止まって……」

 

「ですね、ただ緊急的に弁が閉じてしまうと、自発的に開放はしませんから、早急に医局でその弁を開く処置をしないとダメなのです、でないとそこから先の部位が壊死してしまいますから」

 

「成る程……」

 

「そしてこのプラントのフィルターを維持する為に、三郎ちゃんは定期的な薬の投与と、毒素の排出の為にメンテナンスをしないと死んでしまいます」

 

「定期的にと言うと、どの程度の頻度で?」

 

「大体三ヶ月に一度位ですが、飲酒や過剰なカロリーの摂取でフィルターの寿命が縮まってしまいますから、不摂生な生活は厳禁なのです」

 

「だから…… 提督は普段から"酒は飲めるが酔えない"って言ってたんだね」

 

「お酒だけじゃ無いのです、本来血液に含まれない物は全てプラントがろ過して回収してしまいますから、治療の為の薬や麻酔といった類の物は三郎ちゃんには殆ど効き目が無いのです」

 

「え…… それって……」

 

「はい、三郎ちゃんは麻酔や痛み止めが効かない体なので、現在は脳へ直接眠剤を投与して強制的に眠らせている状態です、そうしないと痛みに耐え切れないですから……」

 

 

 吉野三郎が飲酒の誘いを固辞し、それを呪いと称するのはこの機能故の事であるが、それ以上に薬が効かず、体に刃を入れる治療行為には相当な覚悟と我慢を必要としている。

 

 

「脳の負担の事を考えると、長時間の薬の投与は避けなければいけないので、気休め程度の処置でしかないのですが……」

 

「無茶ばかりするから……」

 

「ですねぇ、だから皆さんにはくれぐれも三郎ちゃんが無茶をしない様に、お願いしたいのです」

 

 

 そう言って電は目の前の三人に頭を下げた。

 

 

「電さんに言われなくてもそれが僕の仕事だから」

 

「ですね、提督の事は榛名がきっちり監視しておきます」

 

「今回の件は私に責任があります、全てこの妙高にお任せ下さい」

 

 

  三者三様の様子を見て、電は苦笑しつつも、少しだけ肩の荷が降りた気がした。

 

 

「それより、今説明されたプラントと云うのは肝臓の代替だと言う事は判りましたが、どうしてそれが治癒期間の短縮に繋がるのか判りません、他に何か別の機能でもあるのでしょうか」

 

「それは……」

 

「それはさっき言った機密と、三郎さんのプライベートに関わる事なので、私達から説明する事は出来ないの」

 

「成る程…… そうですか」

 

「ただ、三郎さんに当時移植された皮膚組織は人の物では無く、艦娘由来の生体組織で、それを体に定着させる為に、当時開発されたばかりの高速修復剤と、ある物が大きく関係しています」

 

「艦娘の皮膚組織!? そんな…… 人と艦娘の生体組織は全然違う物のはずです、それをどうやって……」

 

「三郎ちゃんの命を救ったのは、艦娘の体と、高速修復剤、とあと一つ・・・、これは多分、本人の口から聞くべき事なので言及しませんが、聞く側にも言う側にも覚悟が必要な事だと思うので、無理に聞き出さず、三郎ちゃん自身から話をするまで待ってあげて欲しいのです」

 

「傷の治りが異常に早いのも、高速修復剤を使っているからですか?」

 

「厳密には高速修復剤とは別の物なのですが、概ね間違いでは無いのです、そして三郎ちゃんの体は、人以外の生体組織を復元する事ができませんから、多少の傷なら人と同じく自己治癒をするのですが、今回の様に重症を負った場合、医局で適切な処置をしないと傷が完治する事は無いのです」

 

「だから"死に難く、治り難い"体……」

 

「私達から説明出来る事はこれで全部かな…… 申し訳無いんだけど……」

 

「ううん、色々聞けて良かったと僕は思うよ、ただ残念なのは、この話を提督から聞きたかったって事位で……」

 

「……さっきなのですが、病室で三郎ちゃんがポツリと 「死ねない理由がまた出来た」 と言ってました」

 

 

 電の言葉を聞いた吹雪は、珍しく驚きの表情を見せた。

 

 

「三郎ちゃんは、体だけじゃなくて、心にもちょっと問題を抱えています、無鉄砲なのも、自分の命を粗末に扱うのも、それが原因なのです」

 

「電ちゃん……」

 

「吹雪ちゃん、もしかしたら、この子達と一緒に居る事で、三郎ちゃん自身が救われるかも知れないと、電は思うのです」

 

「そう……そうだと、いいね」

 

「電は皆さんには期待しているのです、いつか三郎ちゃんが自分の事を皆さんに全て話す日は、そう遠くは無い事だと思うのです、ですからそれまで、どうか電達の弟の事を、宜しくお願いしますね?」

 

 

 そう言うと、大本営医務局々長の暁型四番艦電は三人の艦娘へ再び頭を下げた。

 

 

                       




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 全自動ランチ、惨事のオヤツ

 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/06/11
 一部記載情報の不備を修正致しました。
 黒25様、ご指摘有難う御座います、とても助かりました。

2017/08/11
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたちゃんぽん職人様、有難う御座います、大変助かりました。


 吉野三郎は苦悩していた。

 

 

 

 今ちょっとした治療の為に入院している訳だが、そのちょっとした傷の為に左腕が使えなくなっている。

 

 そしてちょっとした特異体質の為に普通の治療が施せず、割と強力な薬品を使用して体を治す為に、暫くの間副作用に悩まされる結果になっている。

 

 その薬品は長い時間を掛けゆっくりと血液に投与する類のブツなのだが、余りに効きが強すぎるそれは、連続投与をすると血液の流れが滞りがちになり、手足の末端神経に大きな負担を掛けてしまう。

 

 

 例えば手足の末端に痺れが残ったり、感覚が麻痺する等の症状が現れる。

 

 

 そして現在吉野の手足は薬の副作用の為に末端部、主に手首から先と、そして足首から先に痺れが発生していた。

 

 判り易く説明すると、今吉野の手足には、長時間慣れない正座した後、足を崩した後数分間襲ってくる、"痛痒いアレ"が常時発生してる状態であった。

 

 

 その痛痒い状態がどの程度の物かと具体的な例を挙げるとすると、便意を催してトイレットに移動するのに、某アルプスの少女の話に出てくるのクララっぽい少女が車椅子から立ち上がる程度の些細な覚悟が必要になったりとか。

 

 若しくはBigベンやSmallジョンの為トイレットに篭ると、事を成して処理をする為にたっぷりと30分は時間を要し、下から排泄する以上の水分を冷や汗として排出するハメになるとか。

 

 そんな割と壊滅的な状況にある。

 

 

「ウエッ、フヘッ、フヒャヒャ……」

 

 

 当然、トイレットで事を成している間も、痺れて動けない足をつつかれて、悶絶する程の"あの痛痒い地獄"をセルフで味わう事になるので、用を足す度にトイレからは苦悩に染まった吉野の情けない声が絶え間なく聞こえてきたりする。

 

 

 そしてそれを見た吉野の主治医である暁型四番艦電は、生来から困った人を見ると黙って居られない性格故か、聖母の様な自愛に溢れた笑顔を浮かべ 『仕方ありませんね、それじゃ三郎ちゃん、パンツを脱ぐのです』 と言いつつ、何か液体を入れる為の大きなポリパックと、透明な細長いチューブを白衣の胸ポケットから取り出した。

 

 何故胸ポケットにそんな物が入ってるのだろうか? もしかして常備してるのか? それより何故そんな嬉しそうな顔をしているのか? そんな突っ込みを吉野は入れそうになったが、何故かそれを聞くと取り返しがつかない事になりそうな予感がしたので、黙っている事にした。

 

 

 因みに笑顔の電が持つそれは何に使う物かと言うと、ナニに使う物なのだが、諸般の事情により明言は避けておく事にする。

 

 

 そしてそれを見た吉野は、当然、男としてのプライドと云うか、人としての尊厳というか、ぶっちゃけそんな恥辱にまみれた状況に身を晒すのは真っ平御免だったので、電の提案を全力で拒否した。

 

 その結果、両者の間には某春イベントの如き争いが勃発したのだが、まともに動けない吉野は、苛烈を極める電の攻撃に身を晒され、劣勢を強いられていた。

 

 例えるなら、E5攻略を"もぅムーリィィ"と妥協して乙でクリアしてしまったものの、結果として報酬の飛燕のランクを落とす結果になり、E7攻略の際基地航空隊へ空襲がある度に、ボーキと錬度と毛根がぶっ飛ぶと云う地獄を見た乙提督の様な状況を味わっていると言えば判って貰えるだろうか?

 

 

 まぁそんな些細な争いが病室で繰り広げられていた訳だが、事の外傷の治療自体は順調に進んでおり、本日めでたく面会謝絶が解かれ、現在、彼の病室には部下の艦娘三人が見舞いに来ていた。

 

 

 そんなアンニュイなお昼時、今、吉野の目の前には、時雨が差し出す白米の乗ったスプーンと、榛名が突き出す人参の煮物が突き刺さったフォークと、妙高が構える塩鯖をつまんだ箸が並んでいた。

 

 これは世間一般で云う処の、所謂"ア~ン"と云うヤツであり、見目麗しい女性、それも三人から同時にされた者に対し、"リア充爆発しろ"とか"死ね、氏ねでは無く死ね! "と罵倒されても可笑しくは無い羨まハーレム状態のはずであるが、当の吉野の顔は冒頭に述べた通り苦悩に染まっていた。

 

 

 ベッドに備え付けられた簡易テーブルの上には栄養のバランスを考え作られた食事が並んでいる。

 

 当然食べるのは吉野三郎(28歳独身乙提督)唯一人、そしてそのベッドの脇では、不自然に身を乗り出した三人の艦娘が差し出す食べ物が、吉野の眼前に突きつけられている。

 

 

「はい提督、あ~ん」

 

 

 何故だか従わないときっと良くない事が起こる、そんな予感がゆんゆんしたので、黙ってその命令に従う事にする。

 

 

「はい提督、これもどうぞ」

 

「塩鯖もいい具合に焼けていますよ、提督」

 

 

 スプーンと同時にフォークと箸が問答無用で口に差し込まれる。

 

 ここに絶対提督殺すウーマンが三人居ます、そう吉野は死んだ魚の様な目をして心の中で呟いた。

 

 

 白米と人参の煮物と塩鯖が織り成す味のハーモニー、そんな物を味わう余裕は一切無い。

 

 何故なら吉野の口の中には既に数回分食べ物が放り込まれたままの状態で、休日の某ネズミーランドのスプラッシュなマウンテンの前に並ぶ行列の如く、絶賛咀嚼待ちの食べ物が長蛇の列を作り出していた。

 

 

 何故こんな状態になっているのか?、吉野はつい先程からの出来事を思い出していた。

 

 

─────────

──────

────

 

 

 それはいつもの様に昼食が配膳された時、いつもの如く病室には吉野しか居らず、痺れた手で震えつつも、フォークを使ってゆっくりと食事を摂っていた。

 

 しかし先に言った様に現在吉野の面会謝絶は解除されており、たまたま見舞いに来た榛名がプルプルと震えながら悪戦苦闘しつつ昼食を摂っている吉野を見ると、小走りでベッドの脇に駆け寄り、吉野の使っていたフォークを手に取って、食事を手伝い始めた。

 

 最初は恥かしがって手伝いを断っていた吉野だったが、少し悲しそうな顔をした榛名の顔を見て罪悪感でも沸いたのであろうか、渋々差し出されるそれを口にした。

 

 

「ああうん…… 頂きます」

 

「はいっ、どうぞ」

 

 

 思えばこの辺りから何かがおかしくなっていったのだと思う。

 

 榛名から与えられる食べ物を二口程咀嚼し飲み込んだ辺りだろうか、今度は時雨が電と共に病室を訪ねて来た訳だが、何故か時雨は無言でポケットからスプーンを取り出し、そそくさと榛名の横に移動すると、汁物や白米をスプーンに掬っては吉野に与え始めた。

 

 

「はい提督」

 

「あ、時雨君ナニ? え……うん、い……頂きます?」

 

「……」

 

「……」

 

 

 その時二人は笑顔で交互に食べ物を差し出していたが、どうした事か部屋の空気が徐々に張り詰めた物に変わっていった。

 

 そしてそれに比例して、二人の食べ物を差し出すペースが徐々に早くなっていくのに吉野は戸惑いを隠せない。

 

 怪訝な表情で二人の向こうに視線を巡らせると、電がこちらを見詰め、ニヤニヤと笑いを浮かべているのが見える、どうしてだろう、とても嫌な予感がする。

 

 

 食事を手伝ってくれる者が二人になった為に、ちょっと咀嚼が間に合わなくなってしまったので、ペースを落として欲しいと吉野が言おうとした時、今度は妙高が病室を訪ねてきた。

 

 そして部屋に入った妙高だが、時雨と同じくベッドへ近付くと、流れる様な動作で袖口から箸を抜き出しつつ、榛名を挟んで時雨とは反対側へ無言で陣取り、料理の中から主菜を摘み上げると吉野の口へ放り込み始めた。

 

 

「あらあら駄目じゃないですか提督、食事の時はちゃんとバランス良く食べないといけませんよ? ごはんの後は主菜です、さぁ口を開けて下さい」

 

「え? ナニ妙高君? どうしたの? ってアハイ、ワカリマシタ」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

───

─────

─────────

 

 

 

 以上がランチ開始から現在まで起きた出来事なのだが、実際の処吉野は暢気に回想に思いを馳せている場合ではなかった。

 

 

 今日は晴天で、春らしい暖かい風が窓から流れ込んでいるはずなのだが、どうして寒気がするのだろう?

 

 そして食べ物が口へ投入されるペースが、一人で食べる時に比べ体感では5倍程になっている気がする、三人で食べさせて貰っているのに何故その速さが3倍では無く5倍なのだろう? 数学的には1×3=5と云うのは少し違う気がするというか明らかにおかしい、むしろ吉野は命の危険が危ない気がしてならなかった。

 

 ついでに三人の向こうでは相変わらず電がニヤニヤと腕を組んで笑っている、なんとなく命の危機を感じた吉野は視線でSOSのサインを出してみるが、それに対する電の返答は物凄く良い笑顔でのサムズアップと云う物であった。

 

 

 この世に神は居ない、そう悟った吉野は意を決して、口の中の物を無理やり飲み込もうと試みたが、その直後ピタリと動きが止まり、顔面を蒼白にしてプルプル震え出した。

 

 

「ゴホッ、ゲフッ、ンググッ!?」

 

「あらあら、大丈夫ですか提督?」

 

 

 それを見た妙高は、落ち着いて吉野の背中を優しくさすりつつ、湯飲みに入った飲み物を差し出した。

 

 吉野は慌ててそれを飲み下す。

 

 

 喉を駆け抜けるスパークリングな感触、鼻を突き抜けるベニヤ板の風味、目の前に広がる黄色いコスモ、今吉野は病人食を食べながら何故か宇宙を感じるという珍しい体験をしていた。

 

 

「グホッ!? ゲフゲフッ! ちょっ…… なんでギャラクシー……」

 

 

 妙高の差し出した湯飲みの中の液体は、シュワシュワと炭酸特有の細かい泡を立てる黄色い絵の具水が入っていた、和食に炭酸飲料は合わないというか、ベニア風味な絵の具炭酸に合うような食べ物は多分この世には存在しない。

 

 判り易く言うと、吉野の口の中では白米と人参の煮物と塩鯖とベニア板が炭酸でシェイクされつつ宇宙旅行をしている状態である。

 

 

「て、提督!? 大丈夫ですか!?」

 

 

 妙高を押し退けた榛名は、慌てて手に持った湯飲みを吉野の口に添え、問答無用で湯気の立つ暖かいそれを口へ流し込んだ。

 

 

「qあwせdrftgyふじこlp!?」

 

 

 優しく人肌に暖められたそれを飲み込むと、舌が痺れる程の生姜の刺激が口一杯に広がり、温められる事で更に凶悪さを増した甘みがねっとりと舌を包み込む、榛名の差し出した湯飲みの中身の正体、それは冷やしあめを温めたブツ、その名をあめゆと言う。

 

 因みにひやしあめだろうがあめゆだろうが、和食をというか、食事と共に口にするには一般人にはハードルが高過ぎると言うかショックで命が危ない。

 

 喉を詰まらせて窒息死する前にショックで命の危機にある吉野の口の中を判り易く説明すると、白米と人参の煮物と塩鯖と生姜とベニア板が暖かい水飴で包まれ炭酸でシェイクされつつ宇宙旅行をした後関西へ着陸した状態である、例えが全然判り易く無いのは恐らく気のせいだ、多分、きっと。

 

 口の中に広がる大惨事に悶絶し、涙に霞む視線の向こうでは、何故か時雨がいそいそとポケットの中から白と黒のチェッカーフラッグ柄の飲料を取り出す姿が見えた。

 

 今吉野の口の中は四次元な食べ合わせに悶絶しつつ、宇宙一周の旅から奇跡的に関西へ軟着陸した状態である、この上忍者風味な何かが参戦してしまうと確実に良くない事が起きる、主に吉野の命的な意味合いにおいて。

 

 

「し……時雨君、ヤメテ、提督のライフはもう0よ……」

 

 

 そのかすれた声を聞いた時雨はピタリと動きを止めて吉野の方を見た。

 

 時雨の動きが止まった事を確認した吉野は、口の中で渦巻いている大惨事を収束させる為に、鼻で荒い息をしつつ精神統一しようとしたが、それは適わなかった。

 

 足から連続して響く鈍痛、そしてそれに伴う痛痒い痺れ、情けない悲鳴を上げつつ何事かと足の方に目を向けると、何故か頬を膨らませた時雨が、涙目で吉野の足にチョップを繰り出している。

 

 

「ウヒッ!? 時雨君ちょっと!? 痛っ! カユッ! ヤメッ、ちょっ、アアン」

 

 

 痛痒地獄から逃れる為に、脇に居る二人に助けを求めるが、何故か榛名も妙高もプイッと横を向いたままこちらを見ようとしない、まるで意味が判らない。

 

 そう思った吉野は三人の後ろに居るはずの電へ視線を向けるが、何故か電は肩をすくめ、溜息を吐きながら首を左右に振っていた、さっきから何故にムカツクアメリカンジェスチャーで肉体言語を駆使するのか意味不明なのだが、とりあえず援軍が来る可能性は極めて低い事を吉野は理解した。

 

 

「oh・・・サノバビッチ」

 

 

 この後、涙目の時雨が黙って差し出したコーラの横を駆け抜ける冒険活劇を吉野が綺麗に飲み干す迄、ペシペシとチョップ地獄は続き、全てが終わった後にはベッドの上で真っ白に燃え尽きた吉野三郎中佐(28歳独身臨死体験中)の姿が横たわっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 同日1500、吉野の病室では三時のおやつと称し、ベッドの横で妙高がリンゴの皮を剥いていた。

 

 その隣には笑顔の榛名、更にその隣には同じく笑顔の時雨、何がどうなったかは判らないが、機嫌は直ったみたいだが、吉野の顔は相変わらず苦悶の表情のままであった。

 

 

 ちらりと足元を見ると謎のあみだくじっぽい何かが書かれた紙が見えている、アレは一体何の順番を決める為に行われたものなのだろうか?、妙にその紙の存在が気にはなったが、彼女たちの機嫌が直った理由の一つはアレなんだろうと吉野は深く考えるのを辞めた。

 

 

 そして視線を横に向けると、妙高が器用にリンゴの皮をクルクル剥いている、短刀で。

 

 繰り返し言おう、果物ナイフでは無く、短刀でリンゴの皮を剥いている。

 

 因みにその短刀は吉野の腕を切り飛ばし、ブッスリと串刺しにしたあの短刀だ。

 

 

「あの…… 妙高君?」

 

「あ、お待たせして申し訳ありません、もう少しで皮が剥けるのでお待ち下さいね?」

 

 

 吉野は早くリンゴが食べたくて仕方が無いと云う意味で声を掛けた訳では無い、どうしてドスでリンゴの皮を剥いてるのか、それを使うのに何か意味があるのか? その辺りの事を聞きたかったのだが、何故か艶かしく光を反射する刃を見ると、どうしてだろう、脇腹辺りがシクシク痛み出した。

 

 

「お待たせしました、はい、どうぞ」

 

 

 妙高はそう言うと、綺麗にカットされたリンゴに楊枝を突き刺して、アーンと口を開ける仕草をしつつ、ドスっぽい何かで処理をした果実を吉野の前に差し出した、恐らくそのまま食べろ、そういう意味なのだろう。

 

 

「い…… 頂きます」

 

「はい、召し上がれ」

 

 

 吉野はリンゴに噛り付いた、程よく熟れたリンゴ特有の、酸味の混じった甘みが口の中一杯に広がった、そして何故か左腕がピリピリと痛んだ。

 

 

「お…… 美味しい、です」

 

「それは良かったです」

 

「それはそうと妙高君はアレだ、その、器用なんだね? ドs……短刀で果物を剥いちゃったり」

 

「はい、これは昔からずっと使ってきた私の分身みたいな物なんです、これを提督に預けたのはそういう意味も…… ゴホン、いえ、それでも提督が大事な物みたいだから持ってなさいと渡してくれた時、信用されているんだと思って、とても嬉しかったんですよ?」

 

「ああうん、随分業物みたいだし、大事にしてる物なのはなんとなくだけと判ったからね」

 

「そうですね…… まだ私が前線で戦っていた時には、コレに何度も命を救われました」

 

「あ…… うん実戦で使ってたんだ…… うん、成る程、どうりで上手くリンゴの皮が剥ける訳ダネ……」

 

「そうですね、最近はめっきり深海棲艦にコレを使う機会が少なくなってしまって、この頃は料理の時か、台所に出る害虫の駆除くらいにしか使ってませんでしたね。」

 

 

 今ドス的な用途はとりあえず横に置いておくとして、同列で並べるのにはおかしい目的を聞いた気がしたが、気にしないでおこう、例えそれが聞いてはいけないんじゃないかと言う幾つかの標的を含んでいた件に関しても考えない事にする、特に一番最後のヤツ、それ、アカンヤツや、そんな事は思ってても言えるハズが無い。

 

 ハイライトの消えた目で、吉野は乾いた笑いを吐き出しながら視線を泳がせている。

 

 

 その視界の隅では榛名が鼻歌交じりにリンゴが入った籠へと向かっている、何が一体そんなに楽しいのだろうか? 取りあえず吉野はこの微妙な空気をどうにかしたくて、なんとなくだが榛名に話の矛先を向けてみる事にした。

 

 

「な、何か榛名君はやけに楽しそうだけど、どうしたのかな?」

 

「あ、はい、"次は榛名が提督にご馳走する番"ですので、とっておきの物をご用意しようと思いまして」

 

 

 満面の笑顔でそう答えた榛名は、おもむろに服の胸辺りに手を突っ込むと、ズルリとピッチャーを取り出した。

 

 ピッチャーと言うのは牛丼屋やラーメン屋のカウンターに置いている、お冷やお茶が入っているポットの様なアレの事をそう呼ぶだがそれよりも、何故戦艦娘はやたらと胸の辺りから物を出したがるのか? もしかして艦娘の間では何かポケット的な格差社会とかそんな物が存在するのだろうか?。

 

 もしそうなら良く駆逐艦に間違われる某エセ関西弁の軽空母や、たべりゅたべりゅを連呼する卵焼き軽空母は収納的に大きなハンデが存在するのではなかろうか、それって戦闘面(胸部的な)では最初からT字不利な戦いを強いられる事になっているのでは無かろうかとか、どうでも良い事を考えていた。

 

 

「へ…… へ~ それは楽しみだねぇ、一体何をご馳走して貰えるんだろうか」

 

「濃縮還元100%アップルジュースです!」

 

 

 

 満面の笑顔でそう答えた榛名は、鷲掴みにしたリンゴを パキュッ というやたら軽い音だけをさせて握りつぶしていた、人の拳よりも大きなその果実は一瞬で全ての水分を搾り出され、再び手を開いた榛名の手の中には、ピンポン玉大の変わり果てた何かが転がっていた。

 

 

「ちょっと榛名君…… それ圧搾(あっさく)って言うヤツなんじゃないかなぁと提督は思うんだけど、ほら、濃縮も還元もしてないし……」

 

「本当なら椰子の実なんかがあればもっと美味しい飲み物をご用意出来たのですが、今はリンゴしかありませんので……」

 

「どうしていつも君は提督の話をガン無視するの!? てゆか今椰子の実とか言わなかった? それをどうやって何をするつもりなの? ん?」

 

 

 そんな会話(?)をしてる間にもリズミカルにパキュパキュとリンゴを握り潰す榛名は、あっという間にピッチャー一杯のリンゴシュースを絞り上げた。

 

 

「椰子の実ですか? それは…… こうやって…… こう」

 

 

 榛名は一度手の平をこちらに向けると、キュッとそれを握り込んだ。

 

 

「んんんん?」

 

「ああそれならこんな事もあろうかと、電は部屋から椰子の実を持ってきているのです」

 

 

 さっきまでニヤニヤ笑っていた電が、どこぞの宇宙戦艦の某工場長が言う常套句みたいな台詞を言いながら、白衣の胸ポケットから大きな椰子の実を幾つか取り出すと、はいどうぞと榛名にそれを手渡した。

 

 

「有難う御座います、榛名、感激です!」

 

「いやデンちゃん、幾らなんでもソコから椰子の実は無理があるんじゃないのかな!? ってかなんで椰子の実なんか携帯してる訳? 一体何処の誰にそんな需要があるの? ねぇ?」

 

 

 電から椰子の実を受け取った榛名は、新たに胸元から取り出したピッチャーをテーブルの上に置き、その上で椰子の実を バキュ というやたら軽い音だけをさせて握り潰していた、人の頭よりも大きなその果実は一瞬で全ての水分を搾り出され、ピッチャーの中に白い果汁をぶち撒けていた。

 

 そして再び手を開いた榛名の手の中には、ピンポン玉大の変わり果てた何かが転がっていた、色んな意味で何かがおかしいとは思うだろうが、実際そうなのだから仕方が無い。

 

 

 唖然とする吉野の目の前に、榛名が満面の笑みでピッチャーを二つゴトリと並べた、良く見るとコップやグラス等は用意されておらず、何故かストローがピッチャーに直に刺さっている、まさかとは思うがピッチャーから直接、それも二つも吉野に飲めというつもりで榛名はそれを置いたのだろうか?。

 

 

「……Really?」   

 

 

 プルプルと振るえつつピッチャーに手を伸ばそうとしたその時、ピッチャーの縁に可愛くウサちゃんカットされたリンゴがそっと添えられる、力無く横を向いたそこには、ドスで器用にウサちゃんリンゴを量産している妙高と、白衣の胸ポケットからポイポイと、おかわりのリンゴを供給している電が見えている。

 

 うず高く、組体操の如きピラミッドが着々と吉野の目の前で出来上がりつつある、当然それはリンゴのウサちゃんで構成されているのを見た吉野は、無我の境地へ至ろうとしている。

 

 

「それじゃ"今度は僕が提督へデザートを振舞う番"だね」

 

 

 いつの間にか帯刀していた時雨は、両手で頬を叩いて気合を入れている。

 

 そしてそれを見た吉野の頭には、何故かとても不安が広がっていた。

 

 

「はい、時雨ちゃんのリクエストのパイナップルです、どうぞなのです」

 

「有難う電さん」

 

 

 電は白衣の胸ポケットから大きなパイナポーを一つ取り出すと、それを時雨に手渡している、何だあの白衣は、もしかしてあのポケットの中には果樹園でも存在しているのだろうか。

 

 そう余計な事を考えている間にも、時雨はテーブルの上にパイナポーを据えて、仰々しく一礼をすると、おもむろに軍刀を抜き放った。

 

 

「時雨、行くよ!」

 

 

 素早い踏み込み、刀身が空気を裂いたのであろう風切り音が何度か聞こえるが、正直それを吉野の目が捕らえる事は出来なかった。

 

 そして鞘にそれを戻した時雨は再び礼をして、吉野に向かってドヤ顔を見せた。

 

 テーブルの上のパイナポーを見ると、何と言うか顔っぽい何かが刻まれている、そう、ハロウィーンの時に良く見かける、あのカボチャっぽいアレがパイナポーに刻まれている。

 

 更に時雨はヘタの部分に手を添えると、そこがパカっとズレて、中のパイナポーの果肉が綺麗にサイコロ状に刻まれた状態で収まっているのが見えた、なんでやねん。

 

 

「ちょっ!? 思いっきり物理法則無視してないそれ!?」

 

「何が?」

 

「なーかーみぃぃぃ! くり抜いてもいないのになーーーかーーーーみぃぃぃぃぃ!」

 

 

 必死に突っ込みを入れる吉野を無視して、時雨はズズイとパイナポーを吉野の前に置き、中の果肉に楊枝をぶっ刺すと、アーンと口を開ける仕草をして、それを吉野の前に差し出した、そうか、食えと言うのか、そうか、君もか。

 

 

 やってる事が三者三様バラエティ(?)に富んではいるのだが、どうして最後はアーンに繋げようとするのか?、それも何故か微妙に気合が先走っているというか、正直怖くてまともに目を合わす事が戸惑われる。

 

 フと気付くと、ピッチャーに刺さっているストローが二本に増殖しており、何故かそれはハート形に絡まった状態で、片方を榛名が咥えたまま待機している。

 

 

「榛名君、どうしたのかな? え? 何そのカップルストロープレイって? えうそん提督もチューチューしなければいけないの? それどこのルール? って言うかどうして睨むの? ああほらブクブク泡を立てるんじゃありません! ストローは吸うものであって、吹くものでは無いんですっ!」

 

 

 更にその横では、皿に盛られたウサちゃんリンゴで出来たピラミッドが完成していた、さっき見たピラミッドは体育祭の組体操レベルのはずだったのだが、ほんの数分目を離している隙に、何故かそれはギザのピラミッドクラスに変貌していた。

 

 

「ちょっと妙高君、そんなにウサちゃん増殖しても食べきれないでしょ! ほら下の段のウサちゃんなんか酸化しちゃってまっ茶色になってるし! え何? 早く食べない提督のせいって無茶振りにも程があるデショ!? ていうかドスから手を離しなさいホントお願いします」

 

 

 青い顔をして妙高に突っ込みを入れていた吉野の袖を時雨が引っ張る、何事かとそっちへ向くと、テーブルの上の顔面フルーツが何時の間にか一つ増えていた、ただし気を効かせたのか、今度はパイナポーでは無くスイカの顔面フルーツが鎮座していた。

 

 まぁ同じ物を出さないという気遣いは有難いのだが、チョイスする果物が間違っている、何故ならスイカの果肉から染み出した赤い汁が、彫り抜いた目鼻口から滲み出しているそれは致命的に何かヤバい物にしか見えない。

 

 

「ああ…… うん、み、見事だね? え? 北辰一刀流奥義? いやなにフルーツカットが奥義ってどういうこと!? 全国の北辰一刀流の人から苦情が殺到しちゃうからよしなさいっ! ってなんで足にチョップをするのウヒッ!? 痛っ! カユッ! ヤメッ、ちょっ、アアン」

 

 

 

 

 

 面会一日目の吉野三郎(28歳独身幽体離脱中)の三時のオヤツの時間は、諸々の意思の疎通がすれ違い、更にホンの少し暴走してしまった結果、何故か惨事なオヤツの時間へ変貌していた。

 

                                  

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

退院しました、引越ししました

 物語再開です。

 艦隊員はまだ揃ってはいませんが、物語は少しづつ動いていきます。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/07/2
 誤字脱字箇所修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたMWKURAYUKI様、有難う御座います、大変助かりました。


「蒼い空…… 碧い海…… 私はここで生まれ、戦ってはきたけれど、この世界を色として認識して見ては来なかった…… しかしこうして見ると、同じアオでも海と空ではこんなにも違うモノなのね……」

 

 

 海の(いろ)とは対照的な真っ赤な双眸を眩し気に細め、海原に立つ少女は溜息を漏らす。

 

 

「随分とご機嫌だねボーちゃん、キミが戦いの時以外に饒舌になるのって珍しいじゃん」

 

 

 黒いパーカーを着た少女が無邪気な笑顔浮かべ、水面(みなも)を滑って少女と並ぶ。

 

 

「海ねぇ…… 確かにのんびりと眺めた事なんて無いけどさぁ、そんなに面白いモンなのかなぁ」

 

「レ級はもうちょっと心に余裕を持つべきね、自然を愛でるくらい視野を広げないと色々勿体無いわよ?」

 

「ん~、ボクにはボーちゃんが言いたい事は良く判んないなぁ、こんなとこでじっと海を眺めてるくらいならパ~っと暴れた方がよっぽど楽しいと思うけど」

 

 

 レ級と呼ばれた少女は、首を(かし)げ、隣に並ぶ少女へそう答える。

 

 子供の様に無邪気な笑顔を浮かべつつも、言っている事はとても物騒だ。

 

 

「ほんと、バトルジャンキーねぇ、そんなので大丈夫なの?」

 

「んん~? 何が?」

 

「何がって…… ちょっとしっかりしてよ、そんなので大丈夫なの? 相手をいきなりボコって話をぶち壊さないでよね」

 

「あ~ それなら大丈夫じゃないかなぁ、あっちにはハルナが居るっていうしさ、ボクが幾ら暴れようとしても逆にボコられるんじゃないかなぁ?」

 

「ハルナ?…… 確かムサシゴロシって名前の戦艦だった? 本当にそんなに強いの?」

 

 

 その言葉を聞いたレ級は口をヘの字に曲げながら、巨大な尻尾をパタパタ揺らす。

 

 

「ハルナは強いよ! ボクが本気でかかっていってもボッコボッコにされちゃったんだから」

 

「まぁレ級がそう言うなら強いんでしょうけど…… ねぇ五月雨、ムサシゴロシって戦艦、そんなに強いの?」

 

 

 少女は溜息を吐きながら、後ろに控える青い髪の少女に話を振った。

 

 

「え~っと、防空凄姫さんが言ってるムサシゴロシさんはどれだけ強いか判りませんけど、あたしの弟くんの艦隊には確かに榛名さんって人は居たはずですよ?」

 

「ハルナ? ムサシゴロシ? どっちなの?」

 

「んと、榛名さんっていうのが名前で、ムサシゴロシって言うのは……ん…… ぁ……そう、あだ名です!」

 

「…………五月雨って何て言うか、時々抜けてるのよね、まぁ話し合いが目的だから、そのハルナ? って戦艦が強いか弱いかなんて関係無いんだけど」

 

「あたしそんなに頼りなく見えますかぁ? 頑張ってるんだけどなぁ……」

 

 

 もはや生ける伝説と呼ばれる"最初の五人" その内の一人としては威厳の欠片も見られない少女、白露型六番艦五月雨はガックリと肩を落とし、涙目になりつつそう呟いた。

 

 

「あ~、もぅそんなに落ち込まないでよ、今回の件は貴女が頼りなんだから、お願いよ」

 

 

 防空凄姫は苦い顔で、必死にフォローを入れつつ五月雨の頭を撫でる。

 

 大海原のド真ん中で姫級に慰められながら、頭を撫でられる伝説の艦娘、良く判らない世界がそこに展開されていた。

 

 

「ん…… そう、ですね、あたしがしっかりしないと、弟くんとかが大変な事になっちゃいますね、うん…… あたし、頑張っちゃいますから!」

 

「……本当にこんな調子で大丈夫なのかしら」

 

 

 防空凄姫と呼ばれた少女は、風になびく銀髪を手で()くいながら深い深い溜息を吐くのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 吉野三郎は治療を終え、今日から通常業務へ戻る為に医務局を出た、本来ならばこの後は大本営執務棟にある第二特務課の居室に戻っているところであったが、緊急の呼び出しを食らって大隅大将の執務室を訪れていた。

 

 

 呼び出された先、大将執務室の主である大隅巌は絵に描いたようなしかめっ面をしながらから吉野へ黙って一枚の紙を手渡した。

 

 

 無言で渡されたそれを訝しげに受け取った吉野は、記載された内容に目を通すとそこには、長ったらしくも色々難解な言い回しを含ませた文面と、眉を(しか)めそうになりそうな嫌味の数々が混じった文が書かれた命令書という名の物であった。

 

 ある意味お役所の中で見るに相応しいその書類の内容は、要約してしまうと第二特務課は新設の拠点へ移動するようにとの文言が記されている。

 

 

「拠点内部での刃傷沙汰、艦娘の暴力による建造物の破壊、おまけに第一艦隊が鎮圧に出動とくりゃそらお前、追い出されて当然だわな」

 

 

 大隅が眉根を指で揉みながら、溜息交じりの苦言を吉野へ吐き出していた。

 

 

「建造物破壊ですか? 誰が?」

 

「武蔵殺しだよ、妙高との接触を禁止してたんだが、廊下に木曽と秋月を立たせて監視してたらだ、何を思ったのか部屋の壁をぶち抜いて隣の妙高の部屋へ乱入しようとしやがった」

 

「ファッ!?」

 

「そいつを取り押さえようと監視してた二人が奮闘した訳だが…… なぁ、アレが本気になったらどうにもならんだろ? そんな訳で途中から吹雪やら武蔵やらも参戦してちょっとした修羅場になっちまった」

 

「な…… 成る程、それはお手数をお掛けしました……」

 

「幾ら俺でもそこまでやっちまっちゃ庇いきれん、他の目もあるし、第二特務課は執務棟からの退去と、暫くの間出入り禁止になった」

 

「退去ですか…… て事は、自分らは放逐され流浪の民として大本営を彷徨う事に?……」

 

「流浪の民てお前……」

 

 

 半分冗談交じりに吉野はそう言ったが、ある意味緊急事態であった為、最悪人数分のテントとキャンプ用品を調達して、敷地外れの突堤辺りで野宿をしなければならないかもと覚悟を決めていた。

 

 実際艦娘による刃傷沙汰に破壊行為という前代未聞の大事件を起こしたとなれば、本来なら関係した艦娘は解体され、上司は管理責任を問われ軍法会議が妥当な処分である。

 

 それ故執務棟からの退去だけで済んでいるのは正直異常であり、幾ら大将の直属組織であってもこの処分は余りにも不自然であった。

 

 恐らく大隅が目一杯権限を使って庇ってくれたのだろうが、それ故暫くは表立ってサポートは受けられないはずと、吉野は今後の事を模索し始めたのである。

 

 

「本来なら艦娘も解体で、お前もそれなりの責を負わされる処なんだが、今進行中の案件でお前達の力がどうしても必要になった、だからとりあえず今は処分保留って事で他の連中を抑え込んだ」

 

「任務…… ですか」

 

 

 一つ間違えば反逆罪も適用されるような事をしでかしているのに、それを保留にしてでも優先しないといけない案件があるという。

 

 まだ艦隊の形も整ってない現状で発令される案件とは、当然厄介極まりない物であるのは間違いない。

 

 吉野の表情も自然と厳しいものになり、言い渡されるであろう命令を聞く為に思考を"影法師"へと切り替える。

 

 

「実際動いて貰うまで暫く掛かるだろうが、内容はマルトク、詳細は吹雪に聞け、アイツは今お前らの新しい拠点に行ってるはずだ」

 

 

 マルトク、特務に類する案件の内、優先順位、秘匿性、達成難易度、これら全てが最上位の物であり、吉野ですら年に一度携わるかどうかの厄介な任務である。

 

 

「マルトクですか…… って新しい拠点?」

 

「ああ、お前が入院している間に用意しておいた、あそこなら多少暴れても問題ないし、元々扱いに困ってた場所なんでな、そこを利用させて貰った」

 

「……どこなんですそこ?」

 

「お前も良く知ってる場所だがな……」

 

 

 こうして第二特務課は、大本営執務棟から追い出され、新たな拠点へ身を寄せる事になった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ブェェックションってコンチクショウ!」

 

 

 吉野三郎中佐(28歳リハビリ中)は、昭和のヲヤジ臭たっぷりなクシャミをひねり出し、目の前の巨大な建物を()め付ける。

 

 後ろは海、今日は晴天で波はそんなに立っておらず、ヒャアヒャアとウミネコの鳴き声が遠くから聞こえる。

 

 

「提督…… オッサン臭いですよ?」

 

「あぁもうすぐ三十路に突入するから、オッサンとか言われても不思議じゃないかもねぇ…… にしてもバリさん」

 

「夕張とお呼び下さい、提督」

 

「あ…… ああうん、えっと夕張君、その…… ここ(・・)が?」

 

 

 海辺に立つ巨大な箱型建造物の前で、吉野は苦い相を表に貼り付け夕張の話を聞いていた。

 

 

「はい、兵装調整用試射場改め、第二特務課秘密基地へようこそ吉野提督!」

 

「秘密基地て……」

 

 

 まるで巨大な工場のような外壁をした建物には、割とどこにでもありそうなスチール製の扉が一つが建て付けてあり、その横には 『第二特務課秘密基地』 と達筆な筆文字が入った(ひのき)の板が貼り付いていた。

 

 

 兵装調整用試射場

 

 大本営設営時初期に建てられたこの施設は、現在艦娘の装備試験の為に使用するという建前で現在も存在しているが、組織の巨大化に伴い施設が整備され、多様化した結果、立地の不便さと設備の老朽化に伴い利用価値がなくなっていた。

 

 それでもまだここが存在しているのは、妖精が建てた建物であるため、強度が尋常ではなく撤去が困難なのと、なにより内部にその妖精が活動する工廠が存在しているからである。

 

 

 妖精は場所に居付き、仕事に(こだわ)り、そして人の選り好みが激しいという性質を持つ。

 

 その為妖精が建てた建造物をむやみに撤去する、仕事を奪う等をした場合、彼女らの協力を得られなくなるばかりか、最悪その地に居た妖精が去ってしまう可能性がある為、彼女達が絡む施設の運用には細心の注意が必要とされる。

 

 

 結果、この施設は利用価値が無くなってしまってもそのままの形で残されており、ある意味大本営では扱いに困っている物件の一つになっていた。

 

 

「いゃ~ 久々の大仕事だったから、妖精さん張り切っちゃって、施設の大改装とか三日で終わらせちゃったんですよ~」

 

「ああうん…… それはまぁ…… 凄いねぇ」

 

 

 夕張の足元には小さな妖精さんが数人、ドヤ顔で吉野に敬礼をしている。

 

 最近仕事を干され気味だったのだが、施設の改装と再利用の為久々に全力で仕事をした為だろうか、彼女達には何故か盛大にキラが付いていた。

 

 そしてこの施設が第二特務課の拠点になったと同時に、そこの管理者であった夕張も自動的に第二特務課へ編入され、拠点設備の管理を任される事になった。

 

 夕張の顔を見ると、足元の小さな生命体と同じくキラが付いているのは、仕事を干され気味だったのは妖精さんだけではなかったようだ。

 

 

「えっと夕張君、聞きたい事があるんだけど……」

 

「はい、何でしょう提督」

 

「軍港脇に堂々と建ってるここが何で"秘密基地"? ちょっとおかしくない?」

 

 

 吉野がドア横に張り付いた看板を指刺しながら、至極まっとうな事を夕張に問い掛ける。

 

 

「何言ってんですか提督! ここは存在が秘密の基地じゃありません! この基地には26の秘密が隠されているんです! だから『第二特務課秘密基地』なんですよ?」

 

 

 ドヤ顔でどこぞの昭和ライダーみたいな建物の成り立ちを説明する夕張、そしてその足元ではコクコクと頷く妖精達。

 

 正直吉野の頭には不安の二文字しか思い浮かばなかった。

 

 

「そっかぁ、26の秘密かぁ…… しかし短期間でここまで仕上げたのもビックリだけど、良くこんな大量の資材を準備できたねぇ」

 

 

 新しい拠点施設は巨大な箱型の建物になっている、元は開放型の屋根付きドックだったのを考えると、外装に使用されている資材だけでも相当な物である事が予想された。

 

 

「ええそれなんですけど、『こんな面白い事を黙って見てるのは勿体無い』って色々資材を融通して貰っちゃって、お陰さまで諦めていた色々なギミックを盛り沢山設置する事が出来たんですよ!」

 

「へ~ 明石から資源供給があったんだぁ」

 

「はいっ!」

 

 

 吉野は思いっきり足元の石ころを海へ投げ捨てた、その石は物理的法則を無視して水面を跳ねながら水平線の彼方へと消えていった。

 

 そんな吉野の苦悩を知ってか知らずか、夕張はさっさと建物の前まで移動すると、その中に入る様吉野を促した。

 

 

「そのドアは一見普通のスチール製ドアに見えますが、ノブに指紋認証の装置が埋め込まれてて関係者以外ロックが外れないようになってます、更にドア本体は特殊軽合金のハニカム構造になってて対爆仕様、付近には壁に偽装されたカメラが設置されていて、画像認証装置に登録された人以外がドアノブに触れると迎撃システムが作動します」

 

「そ…… そうなんだ、それは防犯対策バッチリだねぇ……」

 

 

 一見するとどこにでもあるスチールドアに、要塞並みの防衛システム、誰がどう見ても過剰設備というか、ある意味知らない人間にとっては即死トラップなのでは無いかと思うのだが、ニコニコする夕張と妖精さんに囲まれてそんな事を言える程吉野の精神力は太くは無かった。

 

 中に入る為にドアノブに手を掛ける、ガチャリという音と共に僅かな振動が手に伝わってきた、恐らくセンサーが働きロックが外れたのだろう。

 

 ドアを押し開けようとするが動かない、手前に引くタイプなのかと引いてみるがビクともしない、数度押したり引いたりを繰り返すがまるでドアが動く気配が無いので、どうなっているのかとの意味を込めて夕張を見る。

 

 その様子をニヤニヤと見ていた夕張は、吉野の代わりにドアノブを掴むとあっさりとそれを開け放った。

 

 

 ドアを横にスライドさせて。

 

 

「えぇ~…… なぁにこれぇ……」

 

「防犯というのは最新設備より、案外アナクロな物の方が有効なんですよ? これが秘密基地に隠された26の秘密の一つ、『羅生門』!」

 

 

 コントの小道具みたいなナリなのに、どこぞの映画タイトルの様なネーミングがされたドアを(くぐ)りながら、吉野はとても不安な面持ちで建物の中へ移動する。

 

 

 入り口から中に入るだけでコレである、夕張の言葉を信じるなら後25個はこんな訳の判らないカラクリが存在するという事になる。

 

 

 

 こうして吉野三郎中佐(28歳独身お引越し中)は、不安と共に第二特務課の新たな拠点となる建物に足を踏み入れた。

 

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密基地と枯山水

 前回のあらすじ

 大本営執務棟を放逐され、V3な秘密基地にお引越しする事になった第二特務課。
 大図解! これが第二特務課秘密基地だ! (仮)


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


「さぁ! ここが第二特務課秘密基地内部ですよ!」

 

 

 夕張がキラキラエフェクトをバックに両手を広げ、玄関ホールに吉野を招き入れる。

 

 第二特務課秘密基地。

 

 外見は一見して町工場にありがちなスチール複合板の箱形建造物であるが、一歩中に踏み込むと、そこに広がる光景は、天然木材をふんだんに使用した豪奢な造りになっていた。

 

 床は渋みを帯びた色のフローリングが敷き詰められ、壁は壁紙ではなく漆喰、ドアや階段は木製で、細かな意匠が施された仕上がりになっている。

 

 ホールの広さは凡そ30坪程あり、ドアを潜ると直線に赤絨毯が敷かれ、その先にやや大きめのドア、左右にもドアがあり、右手には廊下と上へ続く階段が見える。

 

 ホールの天井は吹き抜けになっており、吊るされたシャンデリアの間から、ステンドグラスより漏れる柔らかい光が差し込んでいた。

 

 

「え~ っと夕張くん?」

 

「何でしょう提督?」

 

「何と言うかその、やり過ぎじゃないかと思うんだけど……」

 

「あ…… ですよねぇ、実はこれには訳がありまして……」

 

 

 夕張の話によると、この施設の大改装をした際、元々ここに居た妖精さん達が張り切って作業してた様なのだが、特にこれといった制限も無く、しかも潤沢な資源をジャブジャブつぎ込んで好き勝手にやってたいたら、いつの間にか他の施設の妖精さんもワクテカして作業に参戦してたらしく、気付けば妖精さん同士の腕自慢大会の様な事になってしまい……

 

 

「結果としましては、大本営中の腕自慢(妖精)が、全ての技術を注ぎ込んだ建物になってしまっていたという訳です……」

 

「だ…… 大本営中の?」 

 

「です」

 

 

 大本営とは軍の中枢であり、歴史的にも古く、規模も最大である、そしてそこに居る妖精の数は正確に把握されている訳ではないが、少なくとも他鎮守府の数倍は居るのは確かであり、技術水準という面でも地方に展開する拠点より一歩抜きんでている。

 

 そんな妖精達が集団で、寄ってたかって、しかも好き放題に技術の粋を集めてしまった結果生まれたのが、第二特務課秘密基地であるらしい。

 

 

「……あ~ まぁ、うん、その、案内の続きをお願い出来るかな?」

 

「そうですね、それでは今見えてる範囲から……」

 

 

 夕張も流石にこれはやり過ぎたと思っているのか、 わざとらしい愛想笑いを浮かべながら、建物内部の説明を始める。

 

 

「右手のドアの向こうは会議室兼ブリーフィングルーム、内部は凡そ20名程は収容可能になってまして、外に出なくても直接出撃ドックへ出れる配置になってます。

 

「会議室て…… 事務室で事足りるんじゃないの?」

 

「まぁ土地が余ってますし、あって困るようなものじゃ無いですし、妖精さんがいつの間にか造ってましたし」

 

「ああ…… うん、妖精さんね…… うん」 

 

「そして左は応接室、正面は執務室、右の廊下を抜けると出撃ドックや入渠施設、各個人の部屋や生活空間は全て二階へ集約してまして、提督の自室もそちらになります」

 

 

 ロビーから見える物全てを口頭で説明しつつ、夕張が吉野を連れてきたのは二階へ続く階段前、これから二階の案内でもするのだろうかと思っていたが、何故か階段前で夕張は足を止めた。

 

 

「この階段なんですが、有事の際に使用する機能が組み込まれているので、一番上と下の手すりには衝撃を与えないで下さいね」

 

「うん? 有事の際?」

 

 

 いぶかしむ吉野の前で、夕張は階段の手すりを軽く殴る。

 

 パタパタと音を立て、踏み板が全て倒れると、階段が一瞬にして滑り台に変化する。

 

 

「ド○フなの!? ここの設備全部コントの大道具なの!?」

 

「有事の際は、ここで侵入者を足止めし撃退をする他、緊急出撃の際は二階から滑り降りるという画期的な造りになってます、これが秘密基地26の秘密二つ目、ヘルシューター!」

 

「ちょまっ!? ヘルシューターて撃退はいいけど緊急出撃するのに地獄に滑っちゃダメじゃん!」

 

「……ではヘヴンズシューター?」

 

 

 滑った先が天国だろうと地獄だろうと、使用者にとっては大差の無い悲劇だという事を夕張にどう説明したものかと吉野は悩んだが、当の夕張は説明が済むとさっさとどこぞへ移動を初めてしまい、結局この階段は天国への階段という名前で運用される事になった。

 

 

「では次にお待ちかねの執務室です、どうぞ~」

 

 

 特に待ちかねた訳ではなく、どちらかと言えば不安一杯の面持ちで吉野は執務室の中に足を踏み入れる。

 

 そこは玄関ホールに負けず劣らず豪奢な造りで、木製の調度品が品良く並ぶ広い空間になっていた。

 

 目の前には艦娘達が使うのであろう木製の机が六卓並び、既に私物を持ち込んだのであろう幾らかの書類と事務用品がその上に並んでいる。

 

 左を見ると、壁際に一際大きく、重厚な造りの机が置いてあり、それが恐らく吉野の机であろう事が見て取れる。

 

 

机に近づいてみる、それは遠目から見るより遥かに凝った造りをしており、重厚で、とても左官クラスの者が使う備品では無いように見え、余りに豪華なそれに吉野は少し引き気味になるがある事に気付く。

 

 ……何故か机があるのに椅子がない。

 

 周りを見た感じではそれっぽい物も無い…… いや、少し離れた処に何故か安っぽいパイプ椅子が一脚立て掛けてある。

 

 とりあえずそれを持ってきて机にセット、座ってみる。

 

 

「…………」

 

 

 豪華な机にパイプ椅子、とてもシュールな絵図(えずら)である、これはアレか、新手の苛めなのだろうかと吉野は無言で夕張を見る。

 

 

「あれぇ? 何で椅子無いんだろ? ちゃんとセットしたはずなんだけどなぁ、あ、提督、ちょっとそこどいて貰えます?」

 

 

 夕張はそう言うと吉野をそこからどかせ、机の引き出しから取り出したリモコンの様な物をいじり始めた。

 

 するとガコンという音と共に天井の一部が開き、ゴンゴンゴンという作動音と共にそこから椅子が降下してくる。

 

 それは机とセットであろうと判る豪華な造りをしており、何故かそれには暁型四番艦電が足を組んで座っていた。

 

 

「んんんんん?」

 

 

 吉野と夕張が形容のし難い顔をしつつ、無言で電を乗せた椅子が机の位置まで移動するのを眺めている。

 

 

「三郎ちゃん、おかえりなさいなのです」

 

 

 吉野は詳細な説明を求めるつもりで夕張を見たが、夕張は顔の前で判らない、という意味で手をパタパタと左右に振った、吉野は首を(かし)げながら視線を電へ向ける。

 

 

「何か椅子に座ったら肘掛にスイッチがあったので、マッサージ機能でもあるのかと押してみたのですが、何故か三郎ちゃんの部屋へ運ばれてしまったのです」

 

 

 首を(かし)げたまま、再び吉野は夕張を見ると、ああ、と何も無かったかの様に椅子についての説明を始めた、いや、椅子もそうだが、何故自室から執務室へ椅子で出入りしなければいけないのか、何故そこから降下してきた電がドヤ顔なのか等色々と聞きたかったのだが、どうやらその願いは聞き入れられないらしい。

 

 

「それは秘密基地26の秘密その三、魔の艦長s……」

 

「待てや!」

 

 

 夕張が椅子の名前を言い終わる前に、吉野から突っ込みが入る。

 

 

 魔の艦長席

 

 某宇宙な戦艦の白い髭面艦長が自室と艦橋を行き来する為の個人用エレベーター、艦長専用設備であるため本来最も頑丈でなければならないはずのその艦長席周辺は何故かやたらと脆く、不沈艦のごとき耐久力を誇る例の宇宙の戦艦にありながら、敵と激戦を行うと高確率で崩落、爆発し艦長だけが犠牲となってしまう事が多い。

 

 また、この席に座ると持病が悪化したり、自爆特攻をせねばならなかったりして、座ったものは例外なく最低一度は戦線を離脱するか死亡するというジンクスがあり、同艦第三艦橋と共に"関わるだけで死亡フラグが立つ"と称される恐ろしい設備である。

 

 

「え? 何です?」

 

「どうして君はこう…… ネーミングチョイスが不吉な物ばかりなの? てか何で自分の部屋と執務室が椅子で直通なの? プライベートどこ? ねぇ!」

 

「え? 提督と言えば艦隊指揮官、艦隊を船に例えるなら提督は艦長と同じじゃないですか、ならその提督の椅子とくれば魔の……」

 

「よーっしOK、了解、判った、夕張くん、ちょっと提督お話があります」

 

 

 とりあえず吉野は不吉極まりないネーミングがされた椅子の機能をオミットさせようと夕張と話をしようとしたが、何故か電に袖を掴まれ、壁際にある書類棚の前まで連れてこられる。

 

 

「え? 何デンちゃん?」

 

「い・な・づ・ま、なのです、新しい拠点ではしゃぎたい気持ちも判りますけど、皆が待っているのでそろそろ行かないといけませんよ?」

 

「いやあの、はしゃいでる訳じゃなくて、え? 皆? 待ってる?」

 

 

 電は書類棚の脇を『コン・ココン』と独特のリズムでノックする、するとどうだろうか、天井に届くほどの巨大な書類棚がズズズ…… と音を立ててスライドを始める。

 

 

「ちょっとぉ…… 幾らなんでも詰め込み過ぎでしょ…… てか普通の入り口無いの? なんでわざわざ執務室に隠し扉な訳?」

 

「ちなみにそのギミックはプライベートに関わる物ですから、基地の秘密(・・・・・)に含まれません」

 

 

 吉野的にはそんな的外れでどうでもいい説明を聞かされながら、電に連れられて隠し扉の向こうに引っ張り込まれると、そこにはまったく予想にしかなった光景が広がっていた。

 

 

 執務室よりまだ広い空間、やや広めの上り(かまち)には靴が数組綺麗に並べられており、その向こうは総畳張りの部屋。

 

 その部屋の中央には茶を()てる為の炉が埋め込まれており、第二特務課の面々が車座になって座っているのが見える。

 

 

 カッポーンという鹿威(ししおど)しの音と共に茶を(すす)る音が聞こえ、そちらを見ると吹雪型一番艦吹雪が恍惚の表情で『はぁ…癒されます。感謝ですね~』とソロモンの黒豹のセリフを口にしていた。

 

 

「あぁ…… うん、何と言うか、これ何?」

 

 

 部屋の壁に丸く開けられた窓に見える枯山水(かれさんすい)を力なく見詰め、吉野の思考は()()びの彼方へ旅立っていた。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

波乱の予感、更に着任

 前回のあらすじ

 秘密基地には滑り台と魔の艦長席があった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2018/12/27
 誤字脱字箇所修致しました。
 ご指摘頂きました梁矢 狼様、坂下郁様、KK様、雀怜様、有難う御座います、大変助かりました。


「すいません、これ、どういう状況なの?」

 

 

 目一杯困惑の表情をした吉野三郎中佐(28歳独身秘密基地司令)の炉を挟んで向かいには、吹雪が茶筅(ちゃせん)で椀の中の抹茶をシャカシャカと攪拌(かくはん)し、その横では何故か電がパック牛乳を(すす)っている。

 

 そして吉野の左には榛名が座り、右には妙高。

 

 当の吉野本人は吹雪の真正面で胡坐(あぐら)をかいた状態で座っており、秘書官時雨はすっぽりと吉野の懐に納まっている。

 

 

「現状提督の脇には左右各一名、合計二人しか並べません、このような状態で(いさかい)いを避け、円滑な艦隊運営を実施しようとした結果、最適解として導き出された陣形がこれなのです」

 

 

 妙高が至極真面目な表情でそう述べる、その言葉に榛名は頷き、時雨は耳まで真っ赤にしながらも、何故か吉野の膝にペシペシとチョップを繰り出していた。

 

 カッポーンという鹿威(ししおど)しの音と、とシャカシャカと抹茶を攪拌(かくはん)する音、そしてペシペシと膝を叩く打撃音が連なり、良く判らない世界がそこに展開されていた。

 

 

「そ…… そっかぁ、陣形なのかぁ…… なら仕方ない? かな、うん……」

 

 

 意味をまったく理解してはいないが、思考する事を放棄し半笑いの吉野の目の前に抹茶が入った椀が差し出された。

 

 目の前のそれを時雨経由で受け取った吉野は中身の半分程を(すす)り、精神統一を試みる。

 

 

 口に広がる独特の苦味、鼻腔に感じる深緑の香り、それらを肺に流す様に空気を吸い込み一息吐くと、目の前の吹雪に視線を向ける。

 

 

「結構なお手前で、で? 吹雪さん、(みやび)一時(ひととき)に無粋だとは思いますが、本題に入って貰えると有難いのですが……」

 

「そうですね、三郎さんを待ってる間にゆっくり楽しませて頂きましたし、彼女達にも"特務とはどんな物か"という基本的な説明も出来ました、そろそろ今回の作戦についてお話してもいいでしょう」

 

 

 吹雪がそう言うと、少し離れた位置で控えていた夕張がポケットから一抱え程の紙束を取り出すと、そこに居る者にそれを配り始めた、物理的にそれ程の大きさも量もポケットから出すのはおかしいのではあるが、その辺りはもう今更なので誰も突っ込まない。

 

 夕張から配られた紙束に視線を落とすと、それの表紙には『捷号作戦概要(しょうごうさくせんがいよう)』という文字が確認できる。

 

 

「し…… 捷号(しょうごう)作戦!?」

 

 

 吉野は思わず目を見開く、吹雪と電以外の者も吉野とそう変わらず驚きの表情を露にしていた。

 

 

 捷号(しょうごう)作戦

 

 太平洋戦争時、大本営立案の元、陸海軍合同で展開された同名一号から四号まで行われた大規模作戦。

 

 マリアナ沖海戦でアメリカに大敗し、絶対防衛圏と言われていた南方戦線サイパン周辺を抜かれ、本土攻勢の可能性も考えなくてはいけなくなった日本軍が、残存兵力のほぼ全てを投入し戦況の打開を図った総力戦。

 

 戦線の維持の為に必須となる資源還送航路の死守を主眼としたこの一大作戦は、結果として多くの命を散らしたにも関わらず大敗を喫し、資源確保を断たれた国は軍事経済とも大きく傾き、日本を破滅の道へ追い立てることとなった。

 

 この作戦では当然多くの艦船も海に没し、当時の記憶を有する艦娘達にも数々のトラウマを植え付ける物になっている。

 

 

「捷号作戦…… ですか」

 

 

 妙高が苦々しい表情でその文字を睨む、彼女だけではなく他の二人も同様なのは間違い無く、姉妹を、或いは戦友を、そしてそれ以上の物を彼女達はあの海へ置き去りにしていた。

 

 南方海域と一括りにするには戦場は広大で、行った海戦は数え上げればきりが無く、時雨にとってはスリガオで西村艦隊壊滅の憂き目に遭い、榛名はマリアナで、妙高はシブヤン海で大破撤退を余儀なくされている。

 

 

「今回の作戦はある意味国家の存亡に関わる案件です、現状消耗戦を強いられている我々にとって、新たな可能性を見出せるかも知れないこの作戦はどうしても成功させなければなりません」

 

 

 国家の存亡を掛けた作戦、故に捷号(しょうごう)作戦。

 

 (いにしえ)の、国を破滅へと導いた切欠となったこの名を再び冠し、作戦を発令した大本営の決意は如何ほどの物か語る事も無いだろう。

 

 

「前世で私達は事を成せませんでした、しかし今は昔と違います、私達は意志を持ち、己の力を奮って守りたい物を守る事が出来ます、皆さんはこの作戦名に思う処があるのは当然だと思います…… だからこそこの作戦を成功させ、忌まわしいこの名を、あの時の屈辱を、悲しみを、今世で清算しなければならないと私は思います」

 

 

 彼女自体、サボ島沖海戦で没した為この作戦に参加してはいなかったが、多くの妹を失ったこの作戦に対して無関心であるはずが無い、むしろ艦娘でこの作戦に何も思わない者は一人も居ないだろう。

 

 

「では作戦概要を説明します、現在大本営では今作戦の為、各方面へ出向している戦力を再編成し、国内の泊地・基地へ配置しました、同時に大本営麾下第二から第四艦隊を呉、佐世保、舞鶴に派遣、防衛戦を構築しています」

 

「は!? 国内防衛線て…… 本土決戦でも想定してるんですか?」

 

 

 制海圏沿いでの"外側"の戦力は据え置き、いきなり国内の拠点へ戦力を集中、暴挙とも言える配置に吉野が思わず聞き返す。

 

 

「作戦が最悪の形で進行すればそうなる可能性も出てきます、今回第二特務課に発令されたマルトク案件とは、深海棲艦上位個体との接触とネゴシェーション、そして日本近海での不可侵条約の締結になります」

 

 

 吹雪の言葉に第二特務課面々が度肝を抜かれる。

 

 知性は持つものの、人と深海棲艦はその生態と社会性が違いすぎる為に、理性的な関係を築く事が不可能とされているのが通説である。

 

 それがいきなり不可侵条約の締結という高度に政治的な話になっているのだ、驚くのも無理は無い。

 

 

「今回の接触において、人選はこちらではなく、あちらが指定してきたもの(・・・・・・・・・・・・)です」

 

「……はぃぃ?」

 

「接触を図ってきたのは防空棲姫、交渉する者には"影法師"吉野三郎を指定し、その麾下にある艦隊員のみ随伴を許可するとの事です」

 

「ぼ…… 防空棲姫ぃ? なんで姫級が自分を名指しで指定…… てか、自分の事知ってるんです?」

 

「なんとなく…… ですが予想は付いてます、ただそれは憶測の域を出ませんから、今後の作戦に対しての影響も考慮しここでは言及しません」

 

 

 吹雪の言葉に何故か隣の電が苦笑いをしている、恐らく事情を知っているのではあろうが、吹雪が理由を述べないと宣言している以上、そこから理由を知る術はあるまいと吉野は理解した。

 

 

「日本近海は幸いというか…… 過去から現在まで高度な知性を有した上位個体は存在しませんでした、故に存在する深海棲艦は下位個体のみで、数はそれなりにあっても組織的行動は見られませんでした」

 

 

 深海棲艦との戦争が始まって暫く、日本という国が艦娘という決定的な戦力を有するまで数年持ち堪えたのは(ひとえ)にこの環境故の事である。

 

 群れても下位個体のみで編成され、更に散発的な攻撃しか受けなかったので辛うじて生き永らえた、単純にそんな事情があったからこその幸運であった。

 

 

「しかし今回交渉が決裂し、防空棲姫が日本近海まで侵攻してきた場合、深海棲艦の生態上日本近海の下位個体は彼女の下に集い、組織的に本土を強襲する可能性が出てきます、防空棲姫という指揮官を得た"軍"という形で」

 

「成る程…… それを見越して国内拠点に戦力を再配置した訳ですね?」

 

「そうです、しかし逆を言えば交渉に成功し、不可侵条約を結ぶ事ができれば日本近海の深海棲艦との戦闘は心配しなくて良い事になります」

 

「そして後顧の憂い(こうごのうれい)は断たれ、その分浮いた戦力を存分に外側に向ける事が可能になるといった算段ですか……」

 

「三郎さんは恐らくご存知かと思いますが、制海圏周辺の深海棲艦が今までと異なった動きを見せています、現有戦力でこれに対処しようとすれば、幾らか戦線を下げ、これに対処しないといけなくなります」

 

「結果、資源の枯渇と辛うじて国交が結べている諸外国との繋がりが切れ、日本は孤立、それによって更なる弱体化の悪循環に陥る…… と」

 

「そうですね、どの道このままでは我々に打てる手はありませんでしたし、今回の件はある意味渡りに船だったのかも知れません」

 

 

 以前武蔵から聞いた"特別厄介な案件"と"南方戦線で起きている変化" バラバラだった点が吉野の中で(ようや)く一本の線として繋がった。

 

 気掛かりだった事は一先ず解消されたが、それを上回る困難が目の前に壁として立ち塞がった形になる。

 

 吉野は盛大に溜息を吐き、無意識の内に胡坐(あぐら)の中に納まる時雨を抱き締め、丁度あご下にある頭に己の頭部を預ける。

 

 

「わ…… あの、て……ていとく?」

 

 

 その突然の行動に、当然時雨は慌てた訳だが、思ってもいなかった難題に直面した吉野はそれどころでは無かった。

 

 

「あ~ 時雨君はあったかいねぇ、申し訳ないんだけど、暫くこのままで」

 

「ぇ!? ぁ…… うん、ボクは別に構わないけど……」

 

 

 今後の事に向けて吉野の頭の中はフル回転中だった為に、無意識に行った行為と、自然に口をついて出た言葉であったが、抱き枕にされた時雨は湯気が立ちそうな程真っ赤になり、逆に左右からは凍てつく波動が発せられていた。

 

 牛乳を飲み終わった電はやたらニヤニヤした笑顔を浮かべ、隣の吹雪は溜息を吐いている。

 

 そしてその輪の少し外で夕張は、ハブ気味になっている状態に口を尖らせているのに誰も気付かないという少し悲しい状態で放置されていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 第二特務課出撃ドック、艦娘六名を同時に艤装を装着させ送り出す事の出来る施設の横では、一隻の高速船が停泊されていた。

 

 

「じゃじゃ~ん、これが妖精さんの技術の粋を集めて建造された高速揚陸艇"轟天号(ごうてんごう)"です!」

 

 

 プチハブられた為か、やたら大袈裟に夕張がその船のお披露目をする。

 

 ドックに停泊されたその船は、船体全てが漆黒で塗装された全長50m幅10m程の箱型中型船で、船体脇には小型の翼が喫水線下に備わっていた。

 

 

「ドリル付いてない、やり直し!」

 

 

 某怪獣映画の水中戦艦の名前を付ける夕張の偏った知識もどうかと思うが、それに対して当然のように突っ込みを入れる吉野もまた普通では無かった。

 

 

「しょうがないじゃないですかぁ~ 技術的には可能だったんですよ? でも用途を説明したら吹雪さんに却下されちゃったんですよ~」

 

「まぁそりゃ深海棲艦にラムアタックとか、普通に考えたら頭オカシイとか言われても仕方ないんじゃないかな?」

 

「頭オカシイとまで言われてませんって!」

 

 

 実は言われて無いだけで実際思われているとは知らない夕張であったが、それをここで指摘しないのは吹雪の優しさ以外の何物では無かった。

 

 

「えっと、この船は通常機関としてガスタービンエンジンを搭載した水中翼船ではありますが、緊急時には別搭載のパルスジェット推進に切り替え、水面航行する事によって約80ノットの全開航行が可能となってます」

 

 

 夕張の言葉を聞いたその場の者全員の認識が、吹雪準拠になった瞬間であった。

 

 

「艦内装備その他は後で説明して下さい、それよりこの作戦で第二特務課へ新たに二名の艦娘を編成する事を通達します、彼女らは本来もう少し後での着任予定となっていましたが、今作戦の為急遽予定を繰り上げ合流する事になりました、急な話で連携等に不安が残るとは思いますが、作戦遂行に欠かせない人員ですのでその辺りの調整はよろしくお願いします」

 

「航空母艦、加賀です。三郎さんが私の提督なの? 不幸だわ……」

 

「不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです」

 

 

 知らされてなかった二人の編入、片方の青いのは某不幸戦艦のセリフ混じりに、そしてもう片方の駆逐艦は何故か明後日の方へ敬礼をしつつ着任の挨拶を済ます。

 

 更に作戦実行まで暫く時間が掛かると思っていた面々は、ある事情(・・・・)の為にこのまま出撃しないといけないという緊急事態に少々…… いやかなり混乱の極みにあった。

 

 

「不安しか思い浮かびません……」

 

 

 半分放心状態の吉野の肩を誰かが優しく叩く。

 

 そちらを向くと、とても良い笑顔を浮かべ、何故かサムズアップをする電の姿。

 

 

「成るようにしかならないのです、幾らチキンの三郎ちゃんでもこれだけの支援があればもしかすると奇跡的に多分なんとかなるかも知れないのです?」

 

「デンちゃん、何故最後に疑問符つけた?」

 

「嘘を吐くのは罪だと電は思うのですが、今回の場合は辛うじてそれも許される気がしましたので…… つい……」

 

「……何かもぉ色々台無しだよもぅ……」

 

 

 

 

 かくして大本営発令、凄号作戦完遂の為、大本営所属第二特務課は初となる任務に就くのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

捷号作戦・序 捷号作戦開始

 前回のあらすじ

 新たなる指令を受けた吉野中佐、ご乱心の為時雨を抱き枕にする。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2018/01/06
 誤字脱字修正致しました。
 ご指摘頂きましたKK様、orione様、ぱたかぱた様、有難う御座います、大変助かりました。


1400(イチヨンマルマル)

 

第二特務課出撃ドック、高速揚陸艇"轟天号(ごうてんごう)"は必要物資を積み終わり、出航の時を待っていた。

 

 大本営発令、マルトク案件"捷号作戦(しょうごうさくせん)"、目的は深海棲艦防空棲姫(ぼうくうせいき)と接触し、交渉、そして日本近海における不可侵条約の締結という過去に類を見ない異種文明との融和。

 

 この作戦の為日本国内は優に及ばす、海軍が掌握している全ての拠点に対して戦力の配置転換がなされ、日本沿岸に強固な防衛線を築いていた。

 

 そしてこの作戦の中核を成す第二特務課は現在、交渉の場へ向かう為の準備を済ませ、吹雪型一番艦吹雪と最後の打ち合わせをしていた。

 

 

 この交渉については極秘を旨とされていた為一度出航すれば無線封鎖が成される、その為あらゆる事態を想定した行動を連絡無しで連携して行わねばならない、これはその為の情報を再度確認する為の打ち合わせであり、これが終われば第二特務課は孤独な戦いへ赴く事になる。

 

 

「これで全ての情報について()り合わせが終わったと思います、何か気になった点はありますか?」

 

「いえ、多分これ以上考えても逆に身動きが取れなくなるでしょうし、充分だと思います」

 

 

 吉野と吹雪は、手元の作戦概要を記した書類を確認し合いながら、最後の打ち合わせを終えていた。

 

 その書類は赤いボールペンで修正された箇所が幾つか散見され、吹雪はこの後その修正箇所を作戦へ反映する為大隅大将へ報告に行くという。

 

 

「それでは執務棟へ戻りますね、以後は申し訳ないですがこちらから直接的な援護は出来ませんので、くれぐれも気をつけて下さい」

 

「了解です、有難う吹雪さん」

 

 

 にこやかに握手を交わし、話を終えようとした吹雪だったが、何か伝え忘れでもあったのだろうか、慌ててポケットをまさぐりだした。

 

 

「そうそう忘れてました、これを渡しておかなくては……」

 

 

 ポケットから1m以上はあろうかという大きな黒いアタッシュケースを引きずり出す吹雪、慣れたとはいえ流石にこれだけの物を見ると吉野は苦笑を抑え切れなかった。

 

 

「姫級相手にこれが役に立つとは思えませんが、一応」

 

 

 そう言って吹雪は吉野にアタッシュケースを手渡した。

 

 床に置き、中身を確認するとその中には無骨で巨大なライフルが納まっている。

 

 

「これは……」

 

 

 〔XM109ペイロード〕25mm対物(アンチマテリアル)ライフル

 

 バレット社のM82シリーズの改良型、25×59BmmNATO弾5発を装填するそれは、人では無く軽車両や屋内の対象を狙撃する目的として作られた大口径狙撃銃である。

 

 対外的な言い訳として"対物用"と銘打ってはいるが、対人用として製造されたのは間違い無い、そしてそれは大口径であるが故に四肢以外の部位に命中すればほぼ絶命するという威力を誇り、残されたモノ(・・・・・・)の凄惨さ故に、世間からの非難を避ける為に、あえて製造元が名称を対物用としたものである。

 

 体力的にも戦闘面でも兵として並以下であった吉野が、そういう特務(・・・・・・)をこなす為には遠距離から、しかも屋内であろうが車内であろうが対象を無力化できるコレはうってつけの装備であった為、一時は常に手の届く処へ置いていた。

 

 

 深海棲艦との戦争が続き、対人としての大規模戦闘がほぼ無くなって久しいこの時代とって、この様な装備はある意味珍しくもあったが、それでも特務課は主に"人間相手に戦う事が多い部署"であった為に、この手の装備は潤沢に支給されていた。

 

 

「あー、まぁ一応持ってきはしますけど、これじゃイ級辺りの足止めが関の山かも知れませんねぇ」

 

 

 そう言う吉野に対して、吹雪は予備のマグから一発の銃弾を引き抜くと、それを大事そうに手に乗せこう呟いた。

 

 

「これの弾頭は靖國に祭られていた14cm副砲を鋳潰(いつぶ)した物です、威力はそれ程では無いのかも知れませんが、貫く力は私達の武装と変わりありません」

 

 

 靖國の14cm副砲、それは戦争締結を待たず"謎の爆発事故"の為海へ沈んだ戦艦陸奥の物。

 

 まだ核兵器が使用される以前に海へ没したその船体を構成する鉄は、核に由来するコバルト60の影響を受けていない希少な物。

 

 

陸奥鉄(むつてつ)…… ですか」

 

「はい、(いにしえ)の船体、それも靖國の加護を受けたそれを鋳潰(いつぶ)したこれは、例外的に艦娘の兵装以外で深海棲艦へ打撃を与える力を持っています、でも希少な物の為に使い潰す程の量は生産出来ません」

 

「成る程……」

 

「過去、まだ戦争初期はこれを携えた多くの兵が私達と共に深海棲艦に挑み、海へ散っていきました、あの時は力及ばす、目の前で消える命を私達は取りこぼし続けました……」

 

 

 まだ深海棲艦との戦いで人が直接戦場に出ていた頃、吹雪達はその時代から戦ってきた、それは目の前で人が死ぬ、それが当たり前の日常で、"守る為に顕現(けんげん)した"彼女達にとってそれは身を裂かれる想いをする日々だったに違いない、それ故に彼女は他の固体と違い、無口に、そして感情を表に現さなくなった。

 

 

「これはその時靖國から頂いた物の残りから作成しました、三郎さん…… 無理はせず、必ず帰って来るんですよ?、それでは、御武運を」

 

 

 敬礼をする吹雪に答礼をし、吉野は部下が待つであろう舟へ乗り込んでいった。

 

 

 出航し、遠くへ消える船を吹雪は見送っていた、その脇から見上げる様に電が吹雪を覗き込む。

 

 

「『直接的な援護は出来ません』でしたか?、銃といい"アレ"といい、吹雪ちゃんは随分と過保護なんですね?」

 

「……何の事です?」

 

「さて、何の事なのでしょう?」

 

 

 ニコニコと見詰める電、苦虫を噛み潰したかの様な表情の吹雪、対照的な雰囲気の"最初の五人"と呼ばれた艦娘二人がそこに居た。

 

 

「……間宮の羊羹でどうでしょう?」

 

「ん~ 今はクリームあんみつの気分なのです」

 

「判りました、ではそれで手を打ちましょう」

 

 

 何かしらの駆け引きが終了し、ドックを後にする二人、その後ろをご相伴にあずかろうと数人の妖精さんが追っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 海は()ぎ、見渡す限りの水平線。

 

 大本営を出航し、南東を目指す高速揚陸艇"轟天号(ごうてんごう)"艦内では遅めの昼食を摂りながら、第二特務課の面々は今後の予定の再確認をしていた。

 

 

「これから向かうのは南鳥島、ここは今軍の管轄にあるんだけど、防衛ラインから少し内に入ってる事もあって常駐してる部隊は無く、気象観測機器と僅かな補給設備があるだけで、特に要衝とは位置付けはされてない」

 

「"三角島"ね、あの辺りははぐれの小物しか確認されて来なかったし、島が小さいからリスクを犯してまで人員を派遣する事は無いので放置されていると聞いているわ」

 

 

 南鳥島

 

 まだ人類が海を掌握してた頃、日本本州から1,800km離れたその島は本州最東端、日本の領海と接していない唯一の"飛び地"であった

 

 そこは最高でも標高が10mにも満たなく、高波による危険があり、更には日本海溝の傍にある為、島の脇はすぐ水深1,000mになる海域とあって、加賀が言うように要塞化には不向きな島であった。

 

 

「まぁ近隣から使える土砂を採取し難いだろうし、水深があれだと潜水艦が大深度航行(だいしんどこうこう)で来られても気付き難いから使い辛いだろうねぇ」

 

 

 溜息を吐きつつ吉野は加賀を見る、今日の昼食は船内という事もあって握り飯とたくわんという質素な物であった。

 

 一航戦加賀はその握り飯を上品に、そして高速に消費している。

 

 こんな事を書くと『まぁ一航戦だから』と言われそうなので彼女達の名誉の為書き加えると、艦娘は艤装に消費される資源は普通に船として大量に消費する、そして大型艦になるとそれはより顕著になる。

 

 しかし実際肉体的な部分、人と同じく経口して消費する食事量はほぼ人と変わらず、駆逐艦に至っては小食と言われてもおかしくは無い程度にしか消費されない。

 

 彼女達曰く『満腹感は得られないが、ある程度食事をすれば満足感が得られる』との事なので、肉体の維持と、戦意高揚の為にある程度の食事は必要なのだが、どこぞのフードファイター並みに大量消費する事は無いという。

 

 しかし今吉野の目の前でしずしずと握り飯を口に運ぶこの一航戦の青いのは、どうやらその満足感の天井が高いらしく、先程から大量の握り飯を消費していた。

 

 

「あ…… 相変わらず加賀さんは健啖(けんたん)なようで」

 

「えぇ、このお握りはおいしいですね、コシヒカリかしら? とても気分が高揚します」

 

 

 何度も言うが、この加賀は食べ方はとても上品なのだ、チラリと見る程度ではその消費される食料の違和感すら気付かない程に。

 

 例えて言うと、赤いのが炊飯器からしゃもじで中の飯を直接食う食の権化なら、この青いのは上品に茶碗でお代わりを続け、炊飯器の中身を食べ尽くす食の権化である。

 

 どちらにしても食の権化である事は変わりが無いのだが、その辺りは気にしてはいけない。

 

 

 半笑いをする吉野の視線に気付いたのか、加賀は(かじ)り掛けの握り飯と吉野の顔を交互に見比べ、何かに納得したのだろうか、その握り飯を吉野の眼前に突き出した。

 

 

「え…… 何です?」

 

「……ん」

 

 

 もぐもぐと咀嚼しつつ、握り飯を突き出す加賀、そしてそれを凝視する吉野。

 

 

「あの…… もしかして食べろと言ってるんじゃ……」

 

 

 困惑気味な榛名の言葉に、加賀はコクコクと頷いている。

 

 

「いやその…… 自分に遠慮せずに、どうぞ」

 

「ん!」

 

「折角加賀さんが食べてって言ってるんだから、それを無視するのはどうかと僕は思うけど」

 

 

 時雨の言葉に多少思う処があったが、入院中に起こった惨事を思い出すと吉野にはそれを口にする勇気が沸いてこなかった。

 

 

「成る程、それがこの艦隊に()ける交流の仕方なのですね? それでは不知火も失礼して……」

 

「いや違うからね!? ってぬいぬい、壁に向かってお握り差し出してどうするの?」

 

「あ、失礼しました、こちらでしたか」

 

「すいません、提督はあちらです」

 

 

 妙高から苦笑いで指摘を受けた彼女、ラバウルから第二特務課へ転任してきた陽炎型二番艦ぬいぬい、その眼光は噂に違わぬ鋭いものであったが、実はそれはド近眼であった為に目付きが悪くなっていただけである。

 

 

「ん!!」

 

「あ、こちらでしたか」

 

「ちょっと加賀さん押し付けるのヤメテってかぬいぬい! そこ提督の口じゃなくて目だから! よしなさい!」

 

 

 結局の処、アーンを固辞しようがどうしようがこの手の不幸は避けられないのは吉野三郎(28歳独身米粒まみれ)の運命である様だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「あー…… それでは、現地に着いた後の事をもう一度確認しておきます」

 

 

 米粒だらけの顔を時雨に拭いて貰いながら、吉野は打ち合わせの続きをしていた。

 

 

「現地で交渉に望むのは当然自分なんだけど、君達は同伴可能なのか、それとも離れた場所で待機なのかはまだ判らない、なのでとりあえずは待機になると仮定して準備は進めておこうと思う」

 

 

 何事も最悪を基準として行動する、それが吉野のスタイルである、その為交渉時には随伴無しでの人員配置を考え、それを全員に伝えていた。

 

 

「向こうから指定してきた事だから、随伴しても別にいいんじゃないかな?」

 

「時雨君の言う事も(もっと)もだけど、そうじゃなかった場合面倒になりそうだから、一応……ね」

 

 

 ゴホンと咳払いを一つ、吉野は話を続ける。

 

 

「先ず夕張君は船で待機、いつでも主機に火を入れれる状態にしておいて欲しい」

 

「判りました」

 

「榛名君は迎撃の要になるだろうから、艤装を展開して甲板に、砲には弾薬を装填してて欲しい」

 

「はい、判りました」

 

「妙高君は今回三号砲二門と観測機、そして電探装備で、榛名君のサポートに回って欲しい、砲装備は久し振りだろうけど、大丈夫かな?」

 

「大丈夫です、お任せ下さい」

 

「加賀さんは今回艦戦と偵察機は積まない方向で、戦うとしてもいきなり近距離で()るハメになるだろうし、制空権は今回に限り捨てていいから、全力で叩いてくれるかな」

 

「成る程…… なら艦爆を多目に積んでおくわ」

 

「それでお願い、後は……」

 

 

 吉野は残り二人の内、不知火の方を見る。

 

 

「確かぬいぬいは電探系ガン積みで策敵専門なんだっけ?」

 

「不知火です、申し訳ありません、視力が仇になってしまい通常戦闘ではお役に立てないと思います、前任地でもずっと策敵専門としてやってきましたので……」

 

「ああ気にしなくていいよ、今回は加賀さんも索敵捨ててるから逆に有難い、それじゃぬいぬいは全方位警戒を、時雨君はぬいぬいの護衛の為に随伴して欲しい」

 

「判った、提督も気をつけてね?」

 

 

 

 こうして道中に全て準備を終わらせ、幸いにも戦闘も無いまま何事も無く進み、第二特務課は人類初となる深海棲艦との交渉の場である南鳥島へ上陸を果たすのであった。

 

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

会談、そしてセカイノナゾ

 前回のあらすじ

 出航、打ち合わせ、そして米粒まみれになった提督。

 (※)今回はいつもより長いです、倍くらい、そして会話が中心。
 そういった物が苦手な方はブラウザバック推奨です。
 

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。

2016/06/17
 誤字脱字箇所修致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、有難う御座います、大変助かりました。


 南鳥島

 

 本土から遥か東南、周りを海に囲まれたその孤島は島の西に辛うじて使用可能な滑走路が一本、東側に気象観測用の機器が据えられた幾つかの建造物が建つだけの無人島。

 

 島の周りは珊瑚に囲まれ、その先は深度1,000以上の水深の為海の色は濃く、また一番高い所でも海抜8mしか無いそこはほぼ平らと呼んで良い地形の為、島から見ればぐるりと海が見渡せる。

 

 海岸線の総延長は凡そ6,000m、早朝のジョギング程度で周れてしまう程度の大きさしかないその島は、三角形の特徴的な形をしていた。

 

 島の滑走路、その南端、珊瑚が見える海岸脇には小さなビーチパラソルとテーブルがポツンと据えられており、そしてそこには色白の半裸と呼べる程際どい姿の女性と、その女性の肌色と同じ色の軍装を纏った男が一人。

 

 

 「遠路はるばるようこそ、貴方に会えるのを楽しみにしてたわ、……って言っても、この島、貴方達の国の物だから私達が勝手に占拠してるよーなモンなんだけどね」

 

 

 テーブルに両肘を付き、気だるそうに男を見つめる女性の名は防空棲姫(ぼうくうせいき)、深海棲艦の脅威度カテゴリー的に言えば上位から数えた方が早い個体であり、その艦種は駆逐艦である。

 

 駆逐艦、そう聞くと艦娘を知ってる者なら見た目は歳若い少女のイメージになりそうなのだが、それはこの個体には当てはまらず、見た目少女どころか色々立派に育った体躯を備え、半裸に近いその姿はややスレンダーながらも均整がとれており、白い肌と紅い目という特徴が無ければ世の男共を虜にしてしまうのではないかという妖艶さを醸し出している。

 

 しかしこの個体の特徴はその容姿では無くその能力にこそにある、秋月型を超える対空迎撃力、そして大和型を編成した超攻撃力偏重艦隊からの全力攻撃ですら意を介さぬ程の防御力。

 

 この女性と相対した世の提督からは例外なく『お前のような駆逐艦がいるか』と全方位突っ込みが入る、そんな個体がこの防空棲姫である。

 

 

「まー半分放棄した感じの島ですし、バレなきゃいいんじゃないでしょうかねぇ、あ、すいません、自分日本海軍所属、大本営麾下第二特務課の課長やってます、吉野三郎です、この度はご指名有難う御座います」

 

 

 そしてその超弩級駆逐艦の前で、どこぞのセールスマンよろしく軽口交じりに挨拶をする男は、吉野三郎中佐(28歳独身バカンスしたい)はさも当たり前の様に目の前の深海棲艦とにこやかに握手を交わしている。

 

 

「そう言って貰えると助かるわ、なんせずっとややこしいのに追っかけられたり、ここまで来るのに迷いまくったから陸が恋しいかったのよぉ、あーやっぱ地に足をつけるのって落ち着くわねぇ~」

 

 

 現在の海の覇者と言っても良い存在がどこぞの船乗りの様な事を言ってのける、どうやら深海棲艦も陸が恋しいらしい、イメージぶち壊しである。

 

 

「成る程、それはお疲れ様ですねぇ、大変だったでしょう? ちなみに防空棲姫さんはどちらからここに?」

 

「ん? えっと出身? そうねぇ確かインド洋の……モーリシャス辺りかしら? まぁ私が発生したのはその辺りだけど、あちこち放浪してた時間の方が長かったから厳密にはどこの出とかって言われてもイメージ沸かないわねぇ」

 

「そうなんですか、このご時勢のんびりクルージングなんてこっちとしては自殺行為ですから、羨ましい限りです」

 

「そんないい物じゃないわよ、食料調達も寝床も全てセルフだし、何も無いだだっ広い海ばっかりだし、たまに会うヤツらなんか『イー』とか『ロー』とかしか喋らないし」

 

 

 吉野の脳裏には黒い流線型の、口から魚雷を吐き出すポピュラーなあの深海棲艦のイメージが思い浮かぶ、成る程、ヤツらの名前は単純に泣き声辺りからきてるのかと思ったのだが、そうすると戦艦辺りは『ルー』とか言うのか? それじゃ仮面を被った雷巡なら『チー』とでも鳴くのだろうかとどうでもいい事に想いを馳せていた。

 

 

「成る程…… 確かにそれは退屈そうだ…… 時に防空棲姫さん」

 

「何かしら?」

 

「つかぬ事を伺いますが、自分と防空棲姫さんって以前どこかでお会いした事ってありました?」

 

「何? ナンパでもしようって言うの? ふ~ん、まぁ見た目はギリ合格って感じだし、グっとくる口説き文句の一つでも聞かせて貰えるなら相手をしてあげなくもないわよ?」

 

「ああいえそうじゃなく、何で今回の交渉で見ず知らずの自分を指名したかって事なんですが、その辺りがサッパリ判らないもんで」

 

「あっさりスルーしたわね、って貴方を指名した経緯が判らないって事かしら、成る程、確かに一面識も無いのにいきなり名指しでこんなトコに呼ばれれば(いぶか)しむのも当然よねぇ、まぁ理由は単純、興味があったと言うか面白そうだったから」

 

 

 興味があった、面白そうだから、防空棲姫が言うのは"何故吉野をここに呼んだのか"であって、"何故吉野の事を知っているのか"の答えになっていない。

 

 そう吉野が言おうとしたが、その言葉が口から出る前に防空棲姫から聞きたい言葉が返ってきた、それも予想外の人物の名と共に。

 

 

「五月雨がねぇ、何かあると弟くん弟くんって言うのよ、もぉずっとよ? 最初はハイハイって流してたんだけど、流石に四六時中そんなの聞かされてたら嫌でも興味が沸いちゃうじゃない?」

 

「はぃぃぃ? 五月雨ちゃんんん?」

 

 

 "最初の五人"白露型六番艦五月雨

 

 言わずと知れた最初に顕現(けんげん)した艦娘五人の内の一人、戦闘力は並、特に特筆した装備も持たずどちらかというと不器用…… と呼ばれるには生易しい程そそっかしいこの艦娘は、最初期の五人の中で唯一現役で前線に居る(・・・・・・・・・・)艦娘である。

 

 海を往けば転倒し艦隊の足並みを乱す、砲撃すれば砲弾が明後日の方向へ消えていく、そんな超絶ドジっ子であるが、周りからはそれとは真逆の評価をされている。

 

 転倒した時は、艦隊が足を止めたお陰で誰かに直撃するはずだった魚雷を回避させ、逸れた砲弾が待ち伏せの為隠れていた敵艦をたまたま直撃し奇襲を潰す。

 

 そんな彼女の行動は無意識下で周りから危険を遠ざけ、自身は高確率で敵からの被害を受けずに帰還する、幸運艦と呼ばれる某陽炎型八番艦を更に上回る豪運を、ドジと共に撒き散らすこの駆逐艦は『奇跡の五月雨』と呼ばれ、軍の中ではある意味生ける都市伝説の様な扱いをされていた。

 

 まぁそれでも本人のドジに由来する損傷はそれなりという残念な結果も伴っているので、前述にある幸運艦の如く"一部では死神扱い"という畏怖される存在で無いのは確かなのだが。

 

 

「丁度ハワイ辺りを彷徨ってた時だったかしら、遭難して流されたとかで波間にプカプカ浮いてたあの子を拾ったんだけど」

 

「ハワイまで流されたって何してんのサミー!? てか艦娘なのに遭難ってどういう事!?」

 

 

 流石奇跡の五月雨と呼ばれた駆逐艦、遥か遠くのハワイまで敵と遭遇せずに流された挙句、友好的な、それも防空棲姫という上位個体に拾われるという天文学的確立を引き当てていた、もはやファンタジーである。

 

 

「な~んか話聞いてたら放っとけなくなっちゃって、日本まで送り届ける事になったんだけど途中色々聞いてる内に興味が沸いちゃってね」

 

「は…… はぁ、色々突っ込みたいところは目白押しですが、自分の事は五月雨ちゃんに聞いてたって事で納得しました、で、そのドジっ子駆逐艦は今どこに?」

 

「ん? 五月雨? それならここに着くなり『南で呼ばれているよーな気がします!』とか言ってどっか行っちゃったわよ」

 

「サミー…… どんだけフリーダムなんだ……」

 

 

 日本の危機を救うかも知れない深海棲艦を吉野に引き合わせた駆逐艦は、今日も何処かで盛大にしくじりながら、豪運を振り撒いてるようだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「それで? 別に随伴艦を連れて来ていいって言ってたはずなんだけど、貴方一人でこんな所に来て良かったの?」

 

「ええ、そちらも同伴してるはずのレ級を洋上に待機させてるみたいですし、交渉するならお互いに条件はイーブンでないと不公平でしょう?」

 

「ふーん、随分と律儀ねぇ、まぁレ級が沖に居るのはそんな理由じゃなくて、"外側の事"警戒してあそこに居るだけなんだけどまぁいいわ」

 

「うん? 外側?」

 

「いえ、それはこっちの事情、気にしなくていいわよ、それじゃ交渉とやらを始めましょうか…… とその前に、色々とお互いの認識面での情報を摺り合わせておく必要があるわね」

 

「あーそうですね、ではその辺りから始めましょうか」

 

 

 そう言う防空棲姫は相変わらず両手に顎を乗せたまま、しかしその目に挑戦的な色を(たた)え、吉野を射すくめるように強く見つめる。

 

 

「私達深海棲艦の生態はもう説明しなくてもいいわよね?、テリトリーの話とか、その中の上下関係やそうなる条件とか」

 

「ええ、存じてます、ですから今回もなるべく最悪を回避する為に必死で交渉をしようと思ってますんで、どうかお手柔らかにして頂けたら助るんですが」

 

「お手柔らかにねぇ、……まぁいいわ、それで今私が日本近海に居付くと周りの有象無象(うぞうむぞう)もオマケに付いてくる訳なんだけど、これっておかしいとは思わない? ただそこに居るだけでそこそこの縄張りと手下が手に入るのに今まで誰もそうしなかった」

 

「ですねぇ、幾ら艦娘の本拠地が目と鼻の先だからといって、この30年一度も日本近海は上位個体の脅威に晒された事は無かったですし、ちょっと不自然な気はしますね」

 

「それなんだけど、先ず私達は基本的に人、若しくはそれ以外でもいいわ、海で沈んだ者の想念を核ににして生まれてくるのよ、そしてどこかで死んでもその想念があった場所で再び生まれ、また海へ(いざな)われる」

 

「想念…… ですか、艦娘は古の艦の、そして深海棲艦は沈んだ者の…… 存在は似通(にかよ)ってますが、その話が本当なら人間は深海棲艦に勝つ事は不可能って事になりますね……」

 

 

 言葉尻は柔らかいものの、険しい表情になる吉野を見た防空棲姫はそれとは逆に嬉しげな表情を表に貼り付ける。

 

 

「中々理解が早くて助かるわ、そう、元が船の艦娘と、大体が人の想念を元にした深海棲艦とは数が文字通り桁違いって事になるわね、海に沈んだ者が皆こっち側に来るとは限らないけど、それを差し引いても艦娘と深海棲艦の戦力比なんて計算するのも馬鹿らしいわよね」

 

 

 海に沈んだ者の想念、第二次世界大戦で日本という国の軍人で海に没した物だけと限定したとして、少なく見積もっても百万人は優に犠牲を出している、それに他国の者、更に民間人、これだけ加えてしまうとそれこそ桁がもう一つ跳ね上がるのは間違いない。

 

 対して艦娘はその大戦で戦ってきた軍艦から生まれてくる、同種同艦は幾らか存在したとしても、現状その数は頭打ち状態で万にすら届いてない状態。

 

 

 戦闘は、投入される数がある程度までは個の能力に左右されるが、規模が戦争と呼ばれるものに膨れ上がると単純に数で優劣が決定する。

 

 その理論でいうなら現状、人類側にとっての勝利の目は微塵も存在しないという事になる。

 

 

「仮に深海棲艦や艦娘の損耗を生き死にという概念にあてはめると、私達は死んだ海で生まれ続け、艦娘は人が呼び続ける、そして基本それは終わりが無く、循環し続ける」

 

「……輪廻(りんね)

 

「私達が生き物という扱いならその言葉に間違いは無いわ、だから深海棲艦は己が人として死に、そして苦しみと共に発生し、全ての起点になるその場所に(こだわ)る、深海凄艦は余程の事がなければその場から離れようとしないし、苦しみを与える人を排除しようとする、更に人に呼ばれた艦娘は己の発生源である人に(こだわ)り続け、結果として双方は絶対に相容れない関係になる」

 

 

 長年奪還してきた海域に無限ともとれる深海棲艦が発生し続けるのも、そしてエリアが隣接しているにも関わらず大規模な他海域からの侵攻が無いのもその仕組みがあったからこそなのだろう。

 

 真実か否かは吉野に判断はつかないが、少なくとも現状、今までの事を納得させるには防空棲姫の言う事は充分筋が通っている。

 

 

「でもね、日本という国はそのシステムの枠から外れているのよ」

 

「……と言うと?」

 

「他の国とは違い、あの時戦ってた日本人は天皇を現人神(あらひとがみ)(まつ)り、己をその臣民(しんみん)としてきたわ、戦地へ向かい死んだ者も、死せば魂として祭られ靖國に入ると信じられてきた」

 

「ええ…… 確かにそう教育され、実際そう認識していたでしょう」

 

「他の国ではそうじゃなくて、単純に国の為とか家族の為とか、個人的な意識が根底にあった、でも日本人全ての者がそうとは言えないけど、当時の日本軍に従属していた者の死生観(しせいかん)の先には少なからず靖國という対象が存在していた」

 

「……確かに」

 

「神なんて存在しないはずのこの世に、余りにも幾多の人間の想いが集ってしまった結果、靖國に神という名の力を降ろしてしまった訳よ」

 

 

 盛大な夢物語だ、そう表現するのが当然の様な話であった。

 

 しかし事実がどうあれ、当時の日本は諸外国に比べその多くは余りにも無知で、そして国がそう強いたであろう結果自然と同じ場所を見つめ、目指した。

 

 それが大きな渦となり、残った結果が言葉に出来ぬ悲劇だったとしても、歴史はそれを事実として刻んでいる。

 

 

「靖國が特別な物という事ですが、それと日本近海における上位個体の出現にどう関連するんです? まさかファンタジーみたいに聖なる何かとか大いなる力とかで深海凄艦から日本を守ってるとでも?」

 

「大体そんな認識でいいと思うわよ?」

 

「ばかな、その話が事実なら、そもそも下位個体であっても深海棲艦が日本近海に存在するのはおかしい、現に貴方は今こうしてこの靖國のテリトリーに何食わぬ顔で存在している、それに戦争初期は僅かながら本土侵攻までされたんですよ? 矛盾してませんかそれ」

 

「まぁそういう結論になっちゃうけど、靖國に影響されるのは知性が高い上位個体に限られるわ、この縄張りでは上位個体は生まれないし、外から来たモノがこの縄張りで死ねば元の海へ還らず浄化した魂として認識され靖國に取り込まれるの、ここで死ぬって事は輪廻から吸い出されて存在が消される……そういう事よ」

 

「なら今まで上位個体による大規模な侵攻が起きなかったのは、靖國があったお陰だと……」

 

「誰も好き好んで自分の存在が消されるリスクを犯してまで攻めようとは思わないでしょ? 周りを固めてさえおけば(いず)れほっといても資源が枯渇して自滅する国なのは間違いないんだし」

 

 

 確かに日本は資源に乏しく、外に依存しなければ成り立たない国である、輪廻という無限の時間を認識する深海棲艦にとって、危険を伴う場所を避け、時間を掛けてただ包囲し続けるだけで勝手に弱体化する国であればれば、無理に攻める必要はない。

 

 成る程、これ程効率的で、確実な攻め方は無いだろう。

 

 

「戦力比は絶望的、更にある程度締め上げておけば勝手に自滅する、難儀な状況ですねぇ、なのに防空棲姫さん、貴方は何故そんな分の悪い賭けの尻馬になんか乗っかろうとしてるんです?」

 

 

 吉野の言葉に口角を上げ、挑戦的な目を更に輝かせ、防空棲姫と呼ばれる女性が楽しげに口を開いた。

 

 

「あら? 最初に言わなかったかしら、理由なんて単純な事よ、面白そうだから(・・・・・・・)、もしここに居る事で私が満足する程楽しいモノがあるなら、今世で私がお仕舞い(・・・・・・・・・)になったとしても全然構わないわ」

 

 

 楽しければそれでいい、そんな刹那(せつな)的な理由でこの深海棲艦はここに来たという。

 

 永遠に巡る生の中で記憶を持ち越せるのかは謎ではあったが、目の前の白い存在は退屈は罪とばかりに言い放っている、全く以って危険極まりない破滅的な考えである。

 

 割と存在が危ぶまれる日本という国、本人達が認識していないだけで片足は棺桶に突っ込んだ状態、そんなどうしようもない詰んだ国を救うのに安全策なんてあるか判らない、手を選んでる時間も、探す手間も残されてはいない。

 

 

 つまりどちらにしても、この目の前の深海凄艦をこちらに引き込まなければこの先未来は無い、吉野の中ではそういう答えに至った。

 

 

「面白そうですか……成る程、では結論として防空棲姫さんは日本というテリトリーに居付いて、我々と不可侵条約を結んで頂けるんですかね?」

 

「ん~ それもいいんだけど貴方、えっと弟くん?」

 

「吉野三郎です」

 

「ああサブローね、貴方自身、この戦争ってどんなつもりで参加してるの? こんな危険なトコに一人で出てくる位だからなんとなくって理由じゃないわよね?」

 

「理由…… ですか? 最初は単純に巻き込まれたからですね、そして今は……ですが、効率良く戦争を回す為ですかね」

 

「……戦争を回す? また変な事を言うのね、それって判り易く説明して貰えるのかしら?」

 

「自分にとって、艦娘という存在と人間はほぼ同価値にあります、そしてそれを前提としてプライベートで関わってる人間関係は艦娘の比重の方が重い」

 

「回りくどい言い方ね、要するに人より艦娘の方が大事って言いたいんでしょ?」

 

「双方比べれば、というレベルでですよ、人間が嫌いな訳じゃない」

 

「ふ~ん、それで?」

 

「人というモノは生来、感情とそれによって生み出された理性を携えただけの"動物"です、否定したとしても間違い無くその根底には動物としての本能が根付いてます、そしてその本能は常に強者を生み出し弱者を蹴り落とす、種をより強い存在として維持しようとする自然の摂理に逆らえずに生きています」

 

「何かえらく壮大な話になってきたわね……」

 

「言い回しが大袈裟になるのは我慢して頂けたらと」

 

「まぁいいわ…… 聞いてあげる」

 

「そりゃどうも、まぁ色々突っ込みが入りそうなんでぶっちゃけると、人間ってのは元々群れると必ず自分その中で一番になりたい、そう出来てる生き物なんですよ、そしてそれがもたらすのは争い、規模が大きくなれば戦争、人間ってのはそんな生き物なんですよ」

 

「成る程ね、まぁそれには同意するわ」

 

「そして現況、深海棲艦という人類共通の敵が居るお陰で、人類は互いに争わずに済んでいます、さて、ここでもし深海棲艦という存在が居なくなったらどうか?、良かった良かった助かったと共に喜びを共有するのは最初だけでしょう、次に起こるのはまた人間同士の争い、まぁこれは人間という生き物の性質上仕方が無い話でしょうね」

 

 

 ここまで一気に説明すると、溜息を吐きながら一旦吉野は話を区切り、しかしと付け加えて話を続ける。

 

 その様は今までの飄々とした物は成りを潜め、真剣な面持ちで防空棲姫を見つめる。

 

 恐らくここからが本音の話になるのだろう、意図してそう見せた吉野の心情を汲み取り防空棲姫は黙ってその話を聞く事にする。

 

 

「人間同士で殺し合うのは構わない、しかし今は艦娘という強力な力を持ちつつも極めて従順な存在が手元にある、そして必ず起こる戦争、そこから導き出される答えは簡単だ、彼女らは否応無しに戦争の道具に使われる、それは守る対象を自らの手に掛けるという彼女らの存在意義に関わり、とてもまともな状態でいられなくなるでしょう、更に別の可能性として、戦争という利権のお陰で生きている人間は多数存在します、もしも深海棲艦を排除した後でその利権が危うくなれば当然次の"人類の敵"が必要になる、その結果、艦娘という人類を超えた存在を敵として仕立て上げる事をするかも知れない」

 

 

 艦娘という存在を身近に過ごす軍関係者でさえ彼女達に懐疑的な見方をする者も少なくない、ならその存在は知っていたとしても接した事の無い多くの者は、その存在自体を恐れ、遠ざけようとしても不思議ではない、もしそうなった場合、基本的に人に対して従順な彼女らに待ち受けるのは苦悩と悲劇しかない。

 

 

「人は群れを成し、社会を形成する生き物です、その中の少数派がどう認識してようと大多数の物の考えが結果として人類が出す答えになる、その認識を変える為には数世代に渡って少しづつ認識を変えていくしかない、だから……」

 

 

 そこから更にはっきりとした言葉で、吉野は自分の答えになるであろう考えを口から吐き出した。

 

 

「今は戦争を終わらすべきじゃない、少なくとも彼女達が良き隣人で、人と共存可能な存在なんだと社会が認識するまで、……後数世代は人が入れ替わるまで深海棲艦という人類共通の敵は存在し続けてくれなくては困る、終わらぬ様、そして人の意識が変わる為に次世代へ種を撒く、その時間を稼ぐ為戦争を効率良く回す(・・・・・・・・・)、自分はその為に軍の(いぬ)になっています」

 

 

 目の前の男は軍人でありながらその存在意義とは真逆の事を口にする。

 

 そしてそれは正論であっても人という立場からすれば暴論でしかない。

 

 そんなちくはぐで、矛盾だらけのこの男の生き方は、全てに退屈と判を押し、刹那(せつな)的な生き方を選択しているこの深海棲艦にとってはとても新鮮で、そして、とても愉快極まりない(・・・・・・・・・・)存在だった。

 

 

「ク…… クックックック…… アッハハハ…… アハハハハハハハハ!」

 

 

 意識せず、何時振りだろうか、心の底から笑いが込み上げてくる。

 

 こんなちっぽけな存在で、なんの力も持たない男が"戦争を効率良く回す"と言い切った、馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 

 

「アンタバカなの? 軍人なんでしょ? それに戦争を効率良く回すって…… 何様なのよ、あーおかしい」

 

「まぁ馬鹿げた話ですね、自分でもちょっと誇大妄想入ってると思いますよ?」

 

 

 腹を抱え、涙を流しつつ笑い転げる防空棲姫の前で、いつの間にか吉野はいつもの雰囲気に戻っていた。

 

 

「でも」

 

「……でも?」

 

防空棲姫という力(・・・・・・・・)を取り込めたなら、あながちそれは実現不可能な事ではないと思うんですがね?」

 

 

 吉野の言葉に防空棲姫の笑いは止まる、そして暫く両者の間に言葉は無く、只淡々と波の音だけが聞こえてくる。

 

 

「そう、成る程、要するに貴方は目的の為に私に力を貸せと、そう言うのね?」

 

 

 凄みを増し、辺りの全てを食い散らかすのではなかろうかという殺気が膨れ上がる、深海棲艦上位個体、その名に相応しい禍々しさを身に纏い、紅い瞳が吉野を睨む。

 

 

「是非とも、自分には貴女の力が必要です、何としても自分は貴女を手に入れたい」

 

 

 この世の中で、最も純粋で強大な殺意の塊、それを前にして心が折れそうだった吉野は、それでもすんでの処で笑いを顔に貼り付けた。

 

 『困難な時こそ笑え、そして相手を飲み込め、そこに根拠がなくてもだ』まだ駆け出しの頃、繰り返し先達(せんたつ)から聞かされた言葉、そして幾度となく自分を窮地から救った行動。

 

 気まぐれ一つで命を刈り取られる、そんな状況で最後に吉野が出来る行動はこれだった、後は防空棲姫の答えを待つのみ。

 

 

「何としても私が欲しい…… ねぇ、クックックッ、成る程…… 成る程…… そんなに私が欲しいなら構わないわ、そこまで情熱的に迫られたら流石にグラッときちゃうもの」

 

「……はい?」

 

「心臓が弱いヤツなら即死級の殺意を叩き込んでも笑ってられる神経の図太さ、トンデモ話を真面目に実現しようとする馬鹿さ加減、いい…… いいわ、最っ高よ貴方」

 

「えーと…… それは不可侵条約を結んで頂けるって事でいいんですかね?」

 

「えぇ、私は今から貴方の元に下ると決めたわ、上位者がそれを望むなら果たすのが配下の勤めだし、いいわよテイトク(・・・・)、不可侵条約でも何でも結んであげるわ」

 

「んんんん? テイトク? 今とっても不穏な単語混じってた気がするんだけど、ちょっと確かめさせて?」

 

 

 嫌な予感に冷や汗を流し、何やら致命的な誤解を生んでいる事を感じた吉野は慌てて話を聞こうとするが、それはある訪問者が訪れた為適うことはなかった。

 

 

「ボーちゃん」

 

「……えぇ判ってるわレ級、アイツらこんなとこまで追ってきたのね?」

 

 

 いつの間に来たのか、防空棲姫の横には黒いパーカーに太い尻尾、恐らく深海棲艦としては有名であり、同時に説明が不要な程悪名を轟かす深海棲艦レ級がそこに居た。

 

 

「……どうしたんです?」

 

 

 突然の来訪者に少し困惑しつつも、今まで笑っていた防空棲姫の雰囲気がガラリと変わった為か、吉野は只ならぬことが起きている事を感じ取った。

 

 

「……折角話が纏まりかけてたんだけどちょっと野暮用が出来たみたい、じゃテイトク、少し席を外すわね、貴方達は厄介事に巻き込まれない内にさっさとこの海域を離れなさい、上手く事が運んだらだけど、私は貴方の元へちゃんと戻るから、その時はちゃんと約束は守るわ」

 

 

 ウインク一つ、それだけ言うと防空棲姫はレ級と共にその場を後にした。

 

 

 事情が判らない為引き止める事も出来ずに取り残された吉野三郎中佐(28歳独身フラグ構築師)の耳に、緊急時にのみ聞こえるはずのコールサインが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二特務課艦隊(仮)、戦闘旗を揚げよ

 前回までのあらすじ

 防空棲姫に脅されガクブルながら説得に成功、しかしそうは問屋が卸してくれなかった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/07/02
 誤字修正致しました。
 ご指摘頂きましたSety様、KK様、有難う御座います、大変助かりました。


 海の上では砲火が瞬き、空では無数の艦載機が死の羽音を奏でながら、空と海の青を別の色へと染め上げている。

 

 

 三角形の孤島で行われていた深海棲艦と人類との会談、そこに横槍を入れたのは空母棲鬼が率いる艦隊、深海棲艦の数は6。

 

 不測の事態を避ける為、万全とはいかないまでも精一杯の警戒をしていたにも関わらず、その侵攻を察知できたのは南鳥島の僅か五海里に迫った時であり、それが判明した時点で取れる手段はそう多く無かった。

 

 

 先ず防空棲姫が提案したように、彼女達が戦っている間に第二特務課が退避する案、先ずこれは選択肢に入らない、襲撃者の詳細は判らないがこのまま防空棲姫が倒された場合、日本近海の安寧が得られないかも知れないばかりか、襲撃者が本土にそのまま侵攻してくる可能性が出てくる。

 

 次に防空棲姫を迎え、そのまま現海域から離脱するという案、これは強襲揚陸艇轟天号であれば逃げ切る事が可能でもあったが、もし襲撃者がそのまま日本近海に留まった場合、防空棲姫と空母棲姫という二人の上位個体による縄張り争いが発生し、日本近海が危機的状況になる可能性が高くなる。

 

 

 大本営としてはどちらにしても後が無いこの状況では、防空棲姫というカードを手に入れ、更に襲撃を仕掛けてきた一団を退けないといけないという選択肢しか無い。

 

 その為第二特務課は否応なしに彼女達と共闘するという道しか残されておらず、奇しくも初の艦隊戦は人類初となる深海棲艦と艦娘の混成艦隊によるものとなった。

 

 

 そんな戦闘が幕を開けた直後、ここに困惑気味で戦いに身を投じている艦娘が居た。

 

 銘を陽炎型二番艦不知火、視力が弱く、戦闘には不向きな艦娘であったが、それを補って余りある策敵能力を有し、更にその"策敵を以って見た"情報分析の精度も高い為、前任地では補給線を支える護衛任務を専任してきた。

 

 

 そんな彼女はこの戦場でも電探を活用しての"艦隊の目"として参戦していたのであるが、現在彼女が居る場所は主戦場になっている場所より約二海里程離れた南鳥島、そう、海の上では無く陸上であった。

 

 戦闘前の短いブリーフィングで受けた命令は『海に出ないで加賀さんに敵艦載機の動向を逐一伝え、余裕があるなら周囲の警戒をして欲しい』という物であった。

 

 

 その彼女の隣には大本営麾下第一艦隊からこの課へ移って来た航空母艦加賀、彼女もまた吉野の命を受け陸上から艦載機を操っていた。

 

 何故艦娘である二人が陸上からの参戦になっているかの理由は簡単で、潜水艦からの攻撃を受けるリスクを避ける為であった。

 

 現在第二特務課には駆逐艦二人が所属しているが、時雨は艤装は扱えても装備が使えず、不知火が対潜戦闘をするとなると視力の関係でリスクが高過ぎる、故に第二特務課には対潜戦闘がまともに行える人員は居ない状態なのでこの様な布陣となっている。

 

 

 海の上では榛名と防空棲姫、そしてレ級が共闘し、殴り合いとも呼べる程の近距離で砲火を交え、妙高はそれを支援する為やや後方から砲雷撃を行っていた。

 

 そして島の西端では夕張がもしもの事があった場合、速やかに海域を離脱し本土へ情報を届ける為に轟天号で待機している。

 

 『私が参戦出来れば少しは楽になるんだろうけど……こんな状態なんでごめんねぇ』と彼女が言うように、夕張は以前戦闘で致命的な損傷を受けた際自ら艤装に大改修を施した後、ほぼ"工作艦"として活動をしているので戦闘要員とは言い難い。

 

 

 この様な偏った戦闘しか出来ない艦娘と、初対面の、それも深海棲艦という存在を加えたトンデモ混成艦隊が完成した訳だが、それに相対している敵はある意味こちら以上にトンデモ艦隊であった。

 

 

 空母棲鬼を旗艦としてレ級一体、戦艦ル級二体、空母ヲ級二体。

 

 

 鬼級を筆頭にゴリ押し必死の空母打撃艦隊、しかも妙高の報告によればル級の片割れは、目から金色のオーラが立ち昇っているという。

 

 こんなえげつない組み合わせの艦隊を相手に、限られた攻め手しか無い現状、必死に策敵し、そのデータを分析する彼女の傍には指揮官である吉野三郎の姿は無かった。

 

 

 ブリーフィング時に一応作戦らしきもの(・・・・・・・)は聞かされている、しかしそれは色々と問題があり過ぎる物では無いかと不知火は感じていた。

 

 

 その作戦らしきものの内容は、不知火と加賀は陸上に展開、榛名は深海組と共に行動し、妙高はその三人の支援というザックリとした立ち回りに関した指示と、レ級は出来るだけ派手に暴れて欲しいという命令と言うには余りにも簡素な一言だけであった。

 

 そして肝心の吉野はと言うと、命令を艦隊員に発令し終わると、『やる事があるから暫くの間宜しく』と言い残し、時雨が抱えてきたアタッシュケースを受け取りどこかへ走り去っていった。

 

 ついでだが、秘書艦時雨は提督の護衛という仕事がデフォなのでという意味の言葉だけを残し、当然の様に吉野の後を追っている。

 

 

「偏った戦力に指揮官不在、こんな状態で大丈夫なんでしょうか……」

 

「三郎さんは貴女も知っての通りこれが指揮官としては初陣になります、そこに過度な期待を寄せるのは酷と言うものでしょう、 それに深海棲艦との共闘なんて経験誰もした事が無いんだし、細かい策を弄するよりある程度ザックリした指示の方がいいかも知れないわね」

 

 

 電探から感じる戦況を俯瞰(ふかん)しつつもそう呟かずにはいられない不知火に、艦載機のお代わりを空に放ちつつ加賀が苦笑しながらそう答えていた。

 

 

「それはそうなんでしょうが、こんな状況で指揮官不在なのはどうかと不知火は思います」

 

「大丈夫よ、それに関してはペナルティとして"間宮でメニュー右左往復の刑"だから、ああ何だか凄く気分が高揚します」

 

 

 指揮官不在の現況で出るべくして出た当然の苦言に対し、加賀は何故か口元を袖で拭いつつ真面目な顔でそう答えた。

 

 一体間宮のメニューで何が大丈夫になるのだろうかという疑問も加わり、不知火の不安は更に膨らみ続けるのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「こんな所まで追って来るなんて、貴女って相当執念深いのね」

 

 

 防空棲姫は目の前で艦載機を矢継ぎ早に放ってくる相手(空母棲鬼)に嫌味とも挑発とも取れる言葉を投げながら、頭上の艦載機を器用に捌いていた。

 

 

「うっさい! 元はと言えばアンタがこっちの縄張りで好き勝手やって逃げた挙句、禁域(日本近海)なんかにちょっかい掛けようとしたのが悪いんでしょ!」

 

 

 次々に()とされる艦載機を補うかの様に、凄まじい速さで艦載機を発艦させ続ける空母棲鬼。

 

 純粋な空母と防空駆逐艦、互いに天敵である為今一つ決め手に掛け、一進一退を繰り返す。

 

 これが艦娘の戦いなら、駆逐艦が艦載機の数に押し負け勝負が決まるのであろうが、この相対している二人は深海棲艦、しかもその中でも上位個体である鬼と姫。

 

 片や昼夜関係なく大量の艦載機を運用する規格外の空母なら、もう片方も戦艦すら裸足で逃げ出す体力と防御力を持ったイカサマ駆逐艦である、結果としてこの戦いは千日手(せんにちて)の如き展開になっても何ら不思議では無かった。

 

 

「縄張りに禁域(日本近海)ねぇ、そんなどうでもいい事に拘って殺し合いなんてするの? 面白く無さそうな人生送ってそうね貴女……っと!」

 

「縄張りも禁域(日本近海)も私達にとっては死活問題でしょ! 何なのアンタ、頭オカシイんじゃない?」

 

 

 銃弾が降り注ぎ、互いに殺意をぶつけ合いながらも同時進行で繰り広げられる舌戦。

 

 声が届く程の距離で戦うのは空母としては愚策であり、その空母の攻撃を真っ向からたった一人で受ける駆逐艦も愚者の行いには違いないが、それをするのは鬼や姫と言われた者の矜持(きんじ)なのか、それとも単なる意地なのか。

 

 

 そんな対照的な二人の戦いが見える程の所では、同型同種、見た目だけでなく存在が同じというレ級同士の戦いが繰り広げられていた。

 

 

 小柄ながらも艦娘の一艦隊に匹敵する程の戦闘力を持つ個体、その存在二つが戦場の中心で一撃必殺の狂気を撒き散らせ踊り狂っていた。

 

 双眸は血の色の如く赤く輝き、深海棲艦でありながらどこかラフという特徴的な見た目が相対しており、一見他の者からはどちらがどうなのか見分けは付かないが、片側は愉し気に、そしてもう片側は殺意を以ってその身を(おど)らせていた。

 

 砲雷撃・航空・対潜と海戦で行われる全ての手段を用いて攻撃し、全ての敵を迎え撃てる破格の戦闘生物、そんな存在同士がぶつかったらどうなるか、その場に誰も近寄ろうとしない時点でそれが答えになっている。

 

 

「アッハハハー! ご機嫌だねー、まっさか自分とこうやって全力で戦えるなんて思ってもみなかったよ!」

 

 

 屈託なく笑いながら片方は砲弾を放つ。

 

 

「それには同意するけどさ、キミ何なの? そのニヤけた笑いちょっとウザいなぁ」

 

 

 そう言いつつ片方は雷撃を行う、こちらは先の鬼姫とはまた違った意味で拮抗し、お互いに決め手を欠いていた。

 

 互いに戦闘狂を自負しつつもそこは経験故の事だろうか、お互いまだ"一線は越えていない"程度の探り合いであったが、それでもちょっとした艦隊戦と同じく手数があり、そしてその範囲も広かった。

 

 

 一方その艦隊戦並のタイマンと、加賀と妙高からの全力支援のお陰で榛名はル級二体相手に"戦艦同士の殴り合い"を邪魔されずに済んでいた。

 

 いや、flagshipを含む戦艦級二体を相手に"邪魔されずに済む"という表現は少しおかしいだろうと思うだろうが、そこは大和型とも渡り合える火力と、戦艦としては高速という脚があるお陰で互角に近い戦いをしていた。

 

 

 鬼と姫、ル級と榛名、もしこの相対している敵が入れ替わっていたとしたらどうだろうか。

 

 防空棲姫は時間がそれなりに掛かるだろうがル級二体ならば問題は無いだろう、しかし榛名の相手が空母棲鬼だったら恐らく遠方から一方的に攻撃されたに違いない。

 

 この二つの戦いを分断するかの如く真ん中でレ級同士が戦う。

 

 吉野は敵艦隊の編成が判明した時点でこの展開を読んでいた、そしてその上で保険を掛ける意味でレ級に"派手に暴れまわって欲しい"と言葉を添えていたのだった。

 

 

 防空棲姫からは『厄介な相手が追って来た』と聞いていた、更に彼女の性格だと間違い無く相手の旗艦である空母棲鬼を相手にするだろう。

 

 次にレ級は当然ながら最大戦力であるレ級を相手に選ぶのは明らかだった。

 

 そしてflagshipを含む戦艦二体は榛名一人で相手をする形になってしまうが、同席していたレ級が問題ないと太鼓判を押した為そのまま送り出す事にした。

 

 そして最後に残ったのはヲ級二隻、これは加賀一人では流石に全てを捌く事は難しいが、戦場の、それも榛名周辺に艦戦のみを投入し標的を艦爆と艦攻に絞る、そして残りの討ち漏らしやカバーには妙高を充てれば制空権は取れなくとも、雷撃と爆撃は心配ないレベルまでには抑えられる。

 

 そしてその上でこの戦場を三つに分断する為にレ級を誘導し、連携を取らせる事無く戦いを展開する。

 

 

 そのままぶつかり"まともな艦隊戦"になった場合勝ちの目はほぼ無くなってしまう、その為どうしても"個の戦い"に引きずり込む必要性に駆られた苦肉の策、それが吉野が指示し、不知火が懸念していた作戦らしきもの(・・・・・・・)の全容だった。

 

 確かに吉野が読んだ様に、戦場は分断状態で部分的には拮抗した戦いで推移している、しかしそれはあくまで"最悪の選択肢の中で引いた最適の選択"だっただけであり、必勝には程遠い物には違いない。

 

 このまま運良く押し切れればいいが、どこかでボタン一つを掛け違うとあっという間にそれは瓦解してしまい、文字通り水泡に帰してしまう可能性が高い。

 

 そんな綱渡りな戦いに勝てるという確立を引く為にはあともう一手足りない。

 

 現状ではまだその賭けを吹っかける為に相手を鉄火場に引きずり出すまでには至っていなかった。

 

 

 その一手を捻り出す為、役に立たない可能性が高いが、吉野は今自分で出来る事をする為に別行動をとっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 南鳥島西部にある滑走路、そこは軍用物資及び人員の輸送を目的として敷設された物であるが、深海棲艦の発生に伴い航空機の運用が極限られた用途でしかされていない為、最低限の整備しかされておらず、やや荒れていた。

 

 それでも一応滑走路としての機能は有しており、1,300m程の短い区間には左右に60m間隔で誘導燈が設置され、小屋の如き管制施設と倉庫がそれに隣接している。

 

 

 吉野は今滑走路の一番南に設置された誘導燈脇で腹這いになり、出発前に吹雪から渡された対物ライフル(XM109ペイロード)のスコープを覗いていた。

 

 

「えっと、提督は何をしてるのかな?」

 

 

 吉野が構える対物ライフル(XM109ペイロード)の先にはただ何も無い滑走路があるだけで、深海棲艦はおろか、島の近くで艦隊戦が行われている為海鳥すら見当たらない。

 

 そんな様子を見て吉野の護衛の為傍に居る小さな秘書艦が疑問を口にするのは仕方の無い事だろう。

 

 

「あ~ ちょっとコイツを使う為の準備でね、随分長い間使ってなかったから調整しないとダメなんだよねぇ」

 

 

 吉野は時雨の質問に答えつつも、慣れた手付きで弾倉を本体へ差し込み、薬室へ初弾を装填させる。

 

 

「準備?」

 

「そそ、狙撃って君達の砲撃と同じでね、風やら重力の影響をモロに受けちゃうからそれをスコープで修正した上で撃たないと当たらないんだ」

 

「成る程、その調整の為ここに来たんだね、でも何でここで?」

 

「本当は現場で調整しないとダメなんだけど、海に向かって撃った場合弾着位置が判り辛いし、味方に当たる危険性もある」

 

 

 そして初弾を撃つ、銃の大きさの割には音が限りなく小さいのは、吉野が使用してきた目的故の仕様でそうなっているからである。

 

 

「それに比べ、ここは弾着位置も確認し易いし、何より誘導燈が等間隔で並んでいるから測距もし易いのさ」

 

 

 吉野の持つ対物ライフル(XM109ペイロード)の射程距離は凡そ2,000m、射程距離目一杯の精密調整にはこの飛行場では距離が足りないが、それでもある程度の調整は出来る。

 

 後は現場でのぶっつけ本番になってしまうが、何もしないよりかは遥かにマシな事は確かだった。

 

 

「問題はコイツの有効射程距離に敵が居るかどうかなんだけどね」

 

「このライフルの射程距離ってどれ位なのかな?」

 

「んっとぉ、最大射程距離は確か2,000m辺りだったと思うけど、有効射程距離となると恐らく1,600~1,800m位じゃないかなぁ、ただそれでも深海棲艦相手だから、何とも言えないけどねぇ……」

 

「1,600って…… そんなに近くに居たら危険過ぎるよ」

 

 

 艦娘や深海棲艦の武装は艦であった頃の射程距離とそう変わらない、駆逐艦は凡そ17,000m前後、戦艦の大口径砲ともなると40,000mにも達する。

 

 これだけの射程を誇るのに彼女達は何故それよりも短い距離で撃ち合うのか、それは単に標的のサイズが人と同じ程に小さくなり、そして船とは違い在る程度転舵も自由である為より近付かなければ当たらないという理由からである。

 

 しかし近距離で撃ち合う理由はそれだけであって射程は艦の頃と同じだというのは間違いない、それは同時に安全圏は最低でも20,000m以上という事になり、吉野がライフルで深海棲艦を捕らえられる2,000m圏内とはどの艦種からでも確実に砲弾が届く可能性がある事を示す。

 

 

「いや時雨君、もうこの島のどこに居てもその危険性は変わらないし、もし自分に危険が迫ったら君が守ってくれるんでしょ?」

 

「もぅ…… それはそうなんだけどさ……」

 

 

 時雨は艦娘で、吉野に比べれば遥かに強靭な体の為、被弾したとしても死にさえしなければ傷の心配はしなくて良い、それは判っていても吉野自身そのリスクを彼女に背負わせるつもりはさらさら無かったが、この小さな秘書艦は割りと強情な処があったのでわざとそう言わざるを得なかった。

 

 時雨の感情を逆手に取った物言いは、我ながら下衆染みたものだと吉野は自分自身に嫌気が差すが、それを無理やり内に押し込みつつ、粗方調整が終わったライフルを持ち上げ肩に担いだ。

 

 

「さて、んじゃ逝きますかね、宜しく頼むよ、秘書艦殿」

 

 

 そう言って笑いかけた提督に対し、傍に控える小さな秘書官は三白眼になりつつこう答えた。

 

 

「何だか今の言葉に不穏な空気を感じたんだけど、あんまり無茶はしないでよね、提督」

 

 

 ほんの冗談のつもりで発した言葉が藪の中の蛇になった吉野三郎(28歳独身KY提督)は、秘書艦に嗜められた為オタオタ平謝りをしながら砲音轟く死の海へ向かうのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

弾雨の中の砲撃戦

 前回までのあらすじ

 戦闘の幕が開けた、でもかなり厳しそう、そしてKYな提督。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/06/26
 誤字修正致しました。
 ご指摘頂きましたSety様、坂下郁様、MWKURAYUKI様、有難う御座います、大変助かりました。


「くそっ、また弾かれた」

 

 

 気の抜ける程に軽い発射音とは裏腹に、ライフルとしてはほぼ最高の破壊力を持つソレから射出された鉄の粒、それはほぼ一海里を飛翔し海に立つ異形へ到達する。

 

 深海棲艦、その中でも戦艦と呼ばれるル級改二(flagship)

 

 吉野が狙いを定め、脇腹へ突き刺さる様に撃ち出した弾丸は、狙い通りの位置へと飛翔はしたものの、対象が動いているとあって有効な部位へ着弾しなかった。

 

 

 現在南鳥島で繰り広げられている海戦、その経過であるが防空棲姫と空母棲鬼、そしてレ級の戦いは依然膠着(こうちゃく)状態、互いにそこそこの損耗はしているもののまだまだこれからといった雰囲気。

 

 榛名と対峙していたル級二隻は、幸運な事に無印の方が立ち回りを失敗しレ級の戦いに巻き込まれる形で大破、そこに榛名が止めを入れたお陰でflagshipのみの相手となっている。

 

 そして後ろで航空戦を指揮しているヲ級だが、これに充てる戦力が無かった為放置した形であり、現在加賀がその戦力を榛名へ向けているのを感じたのだろうか、ヲ級の航空戦力もそちらに集中している状態である。

 

 

 そんな中、ライフルの調整を終えた吉野が微力ながらもと支援の為に狙撃準備を始め、先ず狙う相手を吟味した結果が榛名と対峙しているル級であった。

 

 戦闘は開幕した位置よりもどんどん島に近付いてる状態であり、前衛と呼べる位置で戦っている対象は全て射程距離には収まるのだが、いかんせん深海棲艦相手にどれだけ通用するか未知数であったので、撃てる相手の中から一番柔らかそうという理由で吉野の狙いはル級になっている訳である。

 

 

「てか、一番(やわ)そうなのが戦艦って時点でダメな気がするんだけど!」

 

 

 更に撃ち出した弾丸が大型の盾を兼ねた主砲に弾かれる。

 

 

 この部分だけ見れば吉野の狙撃の腕がダメのダメダメなだけに見えるが、実はこの男、狙撃の腕だけ(・・)はそれなりで、仕事で撃つ回数はある程度あったが、目的を遂行するのに二射目を要した事は片手の指でも余る程だった。

 

 なのに今命中弾を出せないのは(ひとえ)にその対象が凄まじい速さで動いているからに過ぎない。

 

 

 今そのル級に対して榛名は猛攻勢を掛けていた、以前吉野達の前で見せた精密射撃を軸としたアウトレンジからの戦いでは無く、文字通り互いをぶつけ合う程の距離での砲撃。

 

 ただ張り付いている訳では無く、適度に距離を取り、幾らかフェイントを掛けたかと思うと猛烈な速度で懐に飛び込み接射、更に離脱と所謂ヒットアンドアウェイという攻撃を繰り返している。

 

 

 そもそもこの榛名であるが、自分が強くなろうとした理由を探す為に色々模索していたのであったが、それが解決したからといって強さへの拘りが無くなった訳では無い、強さへのアプローチが形も判らない渇望から目に見える目的に転じただけの話であって、『武蔵殺し』の本質は何も変わっていなかった。

 

 以前より理性的になり、余裕が生まれた結果、その強さへ到達する手段は逆に増え、更にその結果はある程度の成果を生んだ。

 

 自分が一番効率的に相手を(ほふ)れる形、それは『戦艦武蔵に勝った時のやり方』の踏襲、原点回帰であった。

 

 

 ただその当時捨て身に近い戦い方でゴリ押ししていたやり方とは違い、色々経験を積んだ為更にその戦い方は無駄が無く、より苛烈に変貌した結果今のスタイルに落ち着きつつあった。

 

 一口にヒットアンドアウェイと言えば簡単であるが、海の上で艤装に機動力を依存している艦娘にはかなり難しい戦い方になる。

 

 今榛名が行っている様に"突然最速に近い速さで突っ込んでくる"そして"瞬時にその場から退避する"、そんな状態を成立させようとすれば、艤装の性質上主機は常にフル回転したままにしておかねばならず、尚且つ暴れ狂う足元をねじ伏せそれを推進力へ変えねばならないのは相当に力とバランスが必要になる。

 

 普通では在り得ない動きを成立させた結果、相手(ル級)は前に出る事は出来ずに防戦に徹する事になるが、それが故にル級は巨大な砲塔でガードを固め、更に受け流す事に集中させる結果となってしまい、攻めるに難い状況になっていた。

 

 

(流石にあの装備で守りに入られると砲弾を通す隙間が無いですね、いっそ被弾覚悟で体をねじ込んで足でも踏み潰しましょうか……)

 

 

 閉じ篭っているならこじ開ける、避けるなら足を潰す、単純明快ながらも効率的、清々しい程理知的な脳筋思考(・・・・・・・・)である。

 

 そしてそれを成せる程度には榛名には技量と火力があった、そう、装甲以外(・・・・)は全ての要素を榛名は持っていた。

 

 金剛型故に高速で接敵し、ヒットアンドアウェイを成立する事が可能であったが、金剛型故に装甲が己の力に耐えられなかった(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 意を決し、強固な二つの盾をこじ開ける為に己をぶつけたが、やはりあと少しだけ押し切る頑強さが足りなかった。

 

 ぶつけた砲は無事だったが、その基部がひしゃげ、それが緩衝材となってしまい、力の全てを相手に向ける事が出来ない。

 

 絡み合う体勢、しかも無理に力を掛けた為榛名がル級の盾に寄り掛かる形になった為、引くための推進力が上手く海面に伝わらず、逆にル級が僅かに盾を振る事で砲を榛名へ向ける事が出来る体勢となってしまう。

 

 

「っ!?」

 

 

 頭部を直撃されれば大破は必死、最悪轟沈の可能性が頭を()ぎる、その最悪の未来を凝視し、半ば覚悟を決めた榛名の目の前で、突然ル級が膝を突き、前のめりにその頭部を榛名の前に曝け出す。

 

 理由を考える前に体が反応する、死を目の前に極限まで高められていた感覚は必勝の機会を逃がす訳がない。

 

 

()った!」

 

 

 無防備な頭部に拳を叩き込み、仰け反る相手の盾をこじ広げ、曝け出された体躯に発砲可能な砲門から鉄甲弾の暴力が降り注ぐ。

 

 元々対戦艦用の高貫通力弾である、至近距離から無防備に釣瓶打(つるべう)ちにされれば一溜まりも無い。

 

 轟き続ける砲撃音と(おびただ)しい数の水柱。

 

 それが無くなった時に榛名の足元にあったのは、半分沈み掛けの形すら保っていない何か(・・)と赤く染め上がった水面(みなも)だけであった。

 

 

「……一応ル級の装甲には刺さるんだコレ」

 

 

 無理に突貫したお陰で榛名は危機的状況に身を晒してしまった訳だが、それは同時に一瞬だがル級の動きが止まる結果になった。

 

 そしてその好機を吉野が見逃す訳もなく、撃ち出した弾丸がル級の膝へ突き刺さる、それは貫通こそしなかったものの、肉を穿ち膝を突かせる程の効果はあった。

 

 先ず一手、戦況を転ずる為の吉野が放った陸奥鉄(むつてつ)の欠片は、その威力の何倍もの影響を生み出した。

 

 スコープから目を離さず、見える先にはチリチリと赤色し、陽炎が揺れる砲身を振り払う榛名の姿が捉えられている。

 

 

 一先ず安堵の溜息を漏らしたのも束の間、何故かその場から飛び退く様に退避する榛名。

 

 そして今まで榛名が居た場所に空から何かが突き刺さり、やや小さめな爆発と水柱が幾つが上がるのが吉野からは確認出来た。

 

 

「あっちゃ~ やっぱりそう来たか」

 

 

 榛名を目掛け空から襲い来る物、それは加賀が標的として狙う中で最も優先度を低く設定していた物、艦戦であった。

 

 対空戦を目的として投入されていたそれは、艦娘の、それも戦艦級への直接攻撃の効果は薄かった故に少数ではあったが殲滅を免れ、加賀と妙高が死守していた防空域を抜けていた。

 

 それを逆手に取り、今ル級が沈んだとあって是が否でも榛名を抑えないといけなくなったヲ級は艦戦その物を凶器としてぶつけ始めたのである。

 

 

「榛名君、暫くは全力回避、無理して敵を追わなくていい、出来ればそのままヲ級の航空戦力を引き付けておいて欲しい」

 

 

 結局の処ル級の始末には成功したが、榛名目掛けて投下される爆撃は、自由にそのコースを定められる航空機になった為に迂闊にヲ級へ近付けさせる事が出来なくなった。

 

 

「了解しました、暫く回避に専念しますね、それと提督、榛名の為に支援有難う御座います」

 

「え? 今の見えてたの?」

 

「やっぱり…… ル級の動きが不自然過ぎましたし、提督が幾度か狙撃を試みてらっしゃったのは確認出来てましたから」

 

 

 あの修羅場で2,000mも離れた位置の様子を確認出来るのは、艦娘だからという理由だけでは説明が苦しいと吉野は首を傾げた。

 

 

「何処に居ても榛名は提督の事を見ています」

 

 

 返り血を顔に貼り付け、空からの凶弾を紙一重に躱しながら満面の笑顔で榛名がそう言うのを見て、乾いた笑いでしか答える事が出来ない吉野の心中は押して然るべきではなかろうか。

 

 そして空から降り注ぐ凶弾の中、榛名へ近付く影が一つ。

 

 

「妙高さん……」

 

 

 妙高型ネームシップである艦娘は、榛名と比べても遜色の無い程軽やかに動き続け、あっという間に暴風雨の中心へ辿り着いた。

 

 

「三式が尽きました、あのままでは手持ち無沙汰でしたのでお仲間に入れて頂こうかと、的が倍になれば捌く敵機は半分になるでしょう?」

 

 

 反撃の手段も尽き、死が降り注ぐ只中躱す事しか出来ないのにも関わらず、それでも問題無いとばかりにその重巡は弾雨を涼しい顔で流していた。

 

 そしてその様子に苦笑しつつも榛名は右手を挙げ、対する妙高は不敵な笑顔でハイタッチ。

 

 それがスタートとばかりに二人が散開し、針山の如き水柱が立つ水面へ円を描きながら(はし)り始めた。

 

 

 それを見て吉野は苦笑を一つ、改めて戦場をスコープで覗きつつ、不知火から現在の敵と味方の位置関係を確認する。

 

 

 表に出ていた看板(ル級)は一つ潰したが、その代わり後方にあった戦力が形振り構わず牙を剥く。

 

 時間を掛ければ切り崩す事は可能かも知れないが、それまでに加賀一人で空を守るのであれば艦載機が尽きる可能性が高い、そして支援が無くなった榛名と妙高が今の様に敵の攻勢から身を躱し続けられる保障はどこにもない。

 

 防空棲姫とレ級の方も戦いは水物でどう転ぶか判らない、出来ればそっちにも何か支援を振り分ければと思うが、吉野の狙撃でそれが何処まで通じるか判らない。

 

 色々な手を考えてはそれを除外し、スコープ越しに見える状況を頭の中にある海図へと反映させていく。

 

 

 そんな思考に没入していた矢先、腹這いの吉野に時雨が膝立ちで(またが)り、腰の軍刀を抜き放った。

 

 

「提督! 動いちゃダメだよ!」

 

 

 その時雨の声はやや後方で弾ける爆発音で掻き消される。

 

 僅かに感じる風圧と、何かが散らばる乾いた音。

 

 どうやらル級を狙撃したのを見ていたのは榛名だけではなく、遥か向こうで杖を振るうヲ級もこちらを確認していた様である。

 

 

「時雨君!? 大丈夫かい?」

 

「大丈夫、提督はそのまま支援を続けて」

 

 

 脅威度としては並以下なのは確かなのだが、それでもル級を沈める切欠となった物を排除する必要があると感じたのだろうか、ヲ級は僅かだが榛名へ向ける航空機を吉野へ振り分け始めた。

 

 幾ら時雨でもそう何度も空から飛来する航空機を落とし続けるのは難しいだろう、それが証拠に吉野は気付いていなかったが、切り飛ばした機体のペラが頬を切り、赤い雫が吉野の背中に落ちていた。

 

 

 支援を続けるか、一旦退避するか、恐らくここが戦局を決める分水嶺(ぶんすいれい)となる、それを肌で感じた吉野は自然にライフルを握る手に力を込めていた。

 

 もう少し、あともうちょっと、物事を推し量る時にそう思った時には手遅れで、既に戻る事も出来ない地獄へ片足を突っ込んでいる。

 

 そんな生死を分ける状況でありながら、結局吉野には退くという選択は許されず、藁をも掴む思いで支援に当たったものの、結局足りない一手を埋めるには僅かばかり及ばなかった。

 

 万策尽きた状況の中、それでも続けるしか無いと腹を括ったその時に、通信機から聞き逃してしまいそうな程微かな音が吉野の耳に届いた。

 

 

「提督! 所属不明艦より特務符号による暗号文を受信!」

 

 

 特務符号による暗号文、それは今作戦において無線封鎖中に唯一許された外部との緊急連絡手段であり、今回の為に用意された使い捨ての暗号表を元にした通信である。

 

 

「は? 暗号文? 内容は?」

 

「その内容なんですが……『太いのをぶっ刺すぞ』です、何これ? えっと繰り返しますね? 『太いのをぶっ刺すぞ』、以上です」

 

 

 他人がこの内容を聞けば暗号を解析したのにその内容自体が暗号染みている、そう言われそうな物であったが、それを聞いた吉野は意味を理解したのであろう、口角を上げ首に貼り付けているマイクへ手を添えた。

 

 

「夕張君、平文でいいので返信を頼む、内容は『後ろはイヤン』、繰り返す『後ろはイヤン』」

 

「イヤンて……り、了解、内容復唱、『後ろはイヤン』、送ります!」

 

 

 割と修羅場な状況の中、とても軍用通信を利用してのやり取りとも思えないふざけた内容の物、通信機でその会話を拾った者は当然困惑の表情を浮かべるが、その中で唯一空の戦いを一手に引き受け弓を空に向け引き絞っていた加賀だけは違う反応を示していた。

 

 

「随分と懐かしいやり取りですね、私だけが仲間外れとはちょっと心外です」

 

 

 非難の言葉とは裏腹に、愉しげな表情を表に出しつつ加賀が最後の一本になる矢を空へ放った。

 

 

「これで打ち止めよ、そっちは何とかなりそう?」

 

「えぇ、多分どこかのパンツさんが世話を焼いてくれたんでしょう、最後の一手が整いましたよ…… さて時雨君、毎度無理させて申し訳ないけどもう少し頼らせて貰うよ」

 

 

 ほんの少し前とは違い、迷いの無い声で自分に跨る少女に対しそう告げるダメ提督。

 

 

「それは問題ないんだけど提督?」

 

「何かな?」

 

「余りその…… もぞもぞしないで欲しいんだけど、その、色々と…… ね?」

 

「お…… おぅふ、何と言うかその、スイマセン」

 

 

 繰り返し言うがそこは割りと死が我が物顔で往来する只中である。

 

 そんな状況で交わすにはちょっとどうだろうかという会話を黙って聞いていた陽炎型二番艦不知火は、指揮官が戻ったにも関わらず、解消されない不安が一杯に詰まった(つつ)ましやかな胸に手を添えて溜息を漏らすのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小さな欠片、動く戦場

前回までのあらすじ

 榛名がル級をフルボッコ。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



 ブンブンと五月蝿(うるさ)い羽音が耳を掠める。

 

 面倒臭いと腕を振るうと、流れる赤い筋が飛沫となって飛び散り、それが合図と対空砲火が空へ放たれ、空を舞う有象無象が次々と水面へ堕ちていく。

 

 防空棲姫は艤装に据えられた4inch連装両用砲四機の内背部にある二つを上空に向け振り回しつつ、目の前の(空母棲鬼)へ左右の二つで砲撃している。

 

 

「本当にしつこいわね…… いつまでブンブンと羽虫を飛ばしてくるのよ、っと!」

 

 

 白い肌には幾つか傷が見られ、満身創痍とはいかないまでも、苛立たし気な心中を表すかの如く、歪めた口元から発せられる言葉には幾らかの疲労が篭っていた。

 

 

「そんなの決まってるじゃない、アンタを沈めるまでよ!」

 

 

 対する空母棲鬼も致命傷は無いものの、額から流れる赤い筋を拭う暇も無く、長い白髪を舞わせながら艦載機を操っている。

 

 開幕から続く近距離での攻防は、空母棲鬼の不得意な距離でありながら、各種艦載機を織り交ぜての三次元攻勢によって防空棲姫を一定距離に寄せ付けない事を主眼においた戦い方と、防空能力には秀でてるものの、直接攻撃にはやや弱い防空棲姫の武装のせいもあり、削り合いという言葉が相応しい状況になっている。

 

 隙を見ては装甲に物をいわせて突っ込む防空棲姫と、それを受け流し、カウンターで艦載機を死角から送り込む空母棲鬼。

 

 当初はこの攻防に加え、片方が挑発し、それに片方が罵倒で答えるといった要素が含まれていたが、それも時間が経つと共に口数が減り、いつまで続くか判らないチキンレースという名の様相を呈していた。

 

 

 頑強な装甲を盾に迎え撃つ防空棲姫、アウトレンジから膨大な航空戦力で圧殺する空母棲鬼、本来の戦闘スタイルとは違う戦い方でありながら、互いの目的は『正面から相手を叩き潰す』という共通した物であった為、この様な異様な展開を見せている。

 

 

「わざわざ隣のテリトリーから何匹か手下を拾ってきて、こんな場所で青筋たててキーキーと、そんなに私の事が気に入らない?」

 

「当たり前じゃない、いきなり吹っかけてきたのはそっちだし、体勢を整えて潰してやろうって戻ったら消えてるし、探してみたら艦娘と一緒に禁域(日本近海)に入ってるし、普通どう考えてもおかいし事してるのはアンタでしょーに!」

 

 

 艦爆からの攻撃が足元で炸裂し、幾つか傷を増やすもお返しとばかりに空を舞う編隊を丸ごと叩き落す。

 

 防空棲姫は血の混じった唾を吐き出しつつ、空母棲鬼を睨めつける。

 

 

 防空棲姫としては、いつもの様に勝手気ままに海を渡り、邪魔になる者をあしらって、たまたま拾った艦娘を送り届け、面白そうな人間を見つけたので話をしていた、彼女にとってはそれだけの事だった。

 

 しかしそれは深海棲艦としては異質で、理解されない行動であり、空母棲鬼にとってはいきなり攻撃を受け、更に仇敵と言える艦娘と行動し、あまつさえ自分達が持て余してきた縄張りを、更に手が出し難い状況にしようとしている防空棲姫を黙って見過ごす事は出来なかった。

 

 双方にはそれなりの事情はあったが、結局の処それはお互いの常識や生き方故に理解出来る物ではなく、さりとて深海棲艦としての性は同じ物であった為に力を以って相手を屈服される以外に方法は無いのである。

 

 

「どう考えても? へぇ、縄張りを幾つも越えて、しかも禁域(日本近海)に足を踏み入れてる貴女がそんな事言うの?」

 

「どういう意味よ……」

 

「どういうもこういうも、貴女もあのレ級も私と同じモノ(・・・・・・)なんでしょう?」

 

 

 防空棲姫の質問に答えず、その代わりに艦載機の幾つかをそのままぶつけようとする空母棲鬼、その顔には明らかな怒りが表れていた。

 

 

「私が何者で、アンタと同じかなんて関係ないわ、今私はアンタを殺す事だけが全てなの、色々ムカつく事だらけでもっと言いたい事はあるけど、もう面倒くさいのは辞めにするわ」

 

 

 空母棲鬼は今出せる艦載機を全て空へ放つと、後方で展開しているヲ級に向けて新たな指示を飛ばした。

 

 現況航空戦力で言えば空母棲鬼の物は防空棲姫へ、レ級はレ級に、そしてヲ級の物は榛名達第二特務課艦隊へ充てている。

 

 それぞれは拮抗状態ではあるが、ヲ級の物だけは他に振り分ける程の物でも無かったが、やや余裕のある戦いを進めている状況である。

 

 空母棲鬼が出した指示はそのヲ級の航空兵力も全て防空棲姫へ向けさせる物であり、目の前の潰しておかなければならない最重要目標を数の力で圧殺し、それを以ってこの拮抗した戦いを一気に終わらせようと画策しているのである。

 

 その戦力の振り分けによってヲ級が榛名達に沈められる危険性はあったが、一気に防空棲姫を無力化する事が出来れば空母棲鬼の航空戦力をそちらへ向ける事が出来る。

 

 そうすれば対空力が枯渇している榛名達を始末する事が出来るだろうし、最悪それが無理でも防空棲姫を叩くという目標だけは達成される。

 

 それは正に吉野が当初どんな手を使ってでも避けようとしていた"連携した艦隊戦"が最後の最後で始まろうとする瞬間であった。

 

 

 空母棲鬼からの指示を受け、自らの操る航空機達へ目標の変更をさせようとしたヲ級達。

 

 後少し、もう一押(・・・・・・・・)しで目的は達成できる、空母棲鬼は目の前にある勝利という甘い果実をもぎ取ろうとし、それへ手を伸ばした。

 

 

 

『ゴーヤの魚雷さんは、お利口さんなのでち!』

 

 

 

 海を裂く水泡、弾ける爆音。

 

 後少しで枝からもぎ取れるはずだったその果実は、後方で起こった赤い水柱(・・・・)と共に手の届かぬ場所へ遠ざかった。

 

 

 『もう少し、あともうちょっと(・・・・・・・・・・・・・)、物事を推し量る時にそう思った時には手遅れで、既に戻る事も出来ない地獄へ片足を突っ込んでいる』

 

 

 吉野が前に呟いた言葉、それが今形となって空母棲鬼の前で吹き上がる、それは赤い水柱と共にボトボトと音を立てて水面に落ちる千切れ飛んだ何か(・・・・・・)と同じく、彼女が確信した勝利をバラバラにしてしまった。

 

 

 驚愕に目を見開く空母棲鬼、その彼女の視界は一瞬の後半分になった(・・・・・・)

 

 激痛にたまらず身を(よじ)る、それと同時に今まで彼女の周りを女王蜂を守るように飛翔していた艦載機の統率が乱れる。

 

 幾つかは堕ち、またぶつかっては爆ぜる、明らかに制御不能の状態。

 

 そしてその混乱、一瞬の隙、それは防空棲姫にとって一方的な攻撃を、致命的な一撃を浴びせる為の好機であった。

 

 

「オマエモ……イタクシテヤル…!!」

 

 

 一瞬で傾く天秤、唐突に切り札が吹き飛び、片目を失い(・・・・・)、更に敵に張り付かれたのでは反撃すらままならない。

 

 混乱したまま訳も判らず空母棲鬼は攻撃を受け続け大破、轟沈もかくやという程のダメージを防空棲姫から受けた。

 

 

 そしてヲ級が沈んだ事で囮をしなくて良くなった榛名と妙高の矛先はレ級へと向き、更に追い討ちを掛ける形で加賀の残存航空戦力が蹂躙していく。

 

 南海の悪魔と言われた深海棲艦であっても同種のモノを相手にしながら、それと遜色ない力を持つ艦娘、更に空から降り注ぐ暴力を受ければ後の結果は推して知るべしだろう。

 

 

 そうしていつ終わるかも知れなかった削り合いはあっけない幕切れとなり、辛うじて身の半分を浮かせた空母棲鬼を見下ろす形で防空棲姫は水面に立っていた。

 

 口元の血を拭い、水に浮かぶ仇敵から視線を島へ向ける。

 

 そこには少女に馬乗りにされ、腹這いになった間抜けな姿の人間が見える。

 

 その人間は深海棲艦を相手にするには余りにも非力な武器を構えていた、恐らくそれでは防空棲姫はおろか、空母棲鬼にすらかすり傷にもならないダメージしか与えられまい。

 

 しかし防空棲姫は見た、驚愕に陥っても尚周りの艦載機を統率し続ける空母棲鬼、その目に寸分違わず突き刺さる小さな欠片。

 

 後方より飛来したその欠片が空を支配していた女王を水面(みなも)へ引きずり落としたのだ。

 

 何の力も持たないはず(・・)の人間が、非力でかすり傷さえ与えられないはず(・・)の武器を使って。

 

 

「本当に…… 面白い人間…… 冗談のつもりで言ってみたんだけど、ねぇテイトク、私本気になっちゃった」

 

 

 愉しげに呟きながら、足元に浮かぶ空母棲鬼を引き上げ抱きかかえると、周りの艦娘と共にゆっくりと島へ凱旋する。

 

 

「……殺しなさいよ、何で止めを刺さないのよ…… 何処に連れて行くつもりなのよ」

 

 

 半死半生で殆ど意識も失いつつある空母棲鬼は、それでも最後の抵抗とばかりに防空棲姫へ恨み言を呟く。

 

 艦載機は制御できず全て海へ沈み、体も動かず、言葉を吐くのも実はギリギリ。

 

 そんな空母棲鬼に向けて、傷だらけの、それでも愉し気な表情の防空棲姫は何故か優しい目を空母棲鬼へ向けていた。

 

 

「さっきも言ったけど貴女、私と同じ(・・・・)なんでしょう? なら一緒に来なさいな、……まぁレ級は止める間も無く沈んじゃって残念だったけどね」

 

「どこに…… 連れて行くつもりなのよ……」

 

私達のテイトク(・・・・・・・)のところよ、きっと愉しい事が待ってるわ」

 

「ふざけないでよ…… なんで私が……」

 

「あら? 貴女は私に負けたのよ? なら私は貴女のボスじゃない?」

 

「…………」

 

 

 有無を言わさぬ防空棲姫の言葉、それは深海棲艦の生き方と反した者から出た言葉であっても、彼女達(空母棲鬼)にとっては覆す事の出来ない絶対の掟。

 

 それを悟った空母棲鬼は力なく項垂れ、最後に抵抗していた力を手放し意識を深い水底へ落としていくのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「敵艦轟沈5、無力化1を確認、周囲に感無し、引き続き索敵を続けます」

 

 

 不知火の言葉に安堵の溜息を吐きつつ、吉野はライフルから弾倉を引き抜いた。

 

 予備の物も含めて合計10発、それらを全て使い切り何とか事を終わらせた。

 

 左手にはまだ後遺症による痺れが残り、右手も僅かに震えている、掌を見れば意識していなかったが汗でじっとりと濡れている状態。

 

 

「我ながら、よくもまぁこんな状態で当てたもんだ……」

 

 

 そんな吉野の呟きを聞いて、背中に跨っている時雨は愛刀の関孫六を鞘に収める。

 

 頬には今だ血が止まらぬ切り傷と、それ程では無いが体にも少しばかりの傷を負っていた。

 

 

「これでとりあえず一段落、でいいのかな?」

 

「だねぇ、とりあえず今は、だけどね、それより時雨君」

 

「何かな?」

 

「そろそろ何だ、どいて貰ってもいいだろうか?」

 

「それは出来ない相談だよ、まだ皆が戻って来るまで危険かも知れないしね」

 

 

 何故か吉野の上でぽんよぽんよ跳ねつつ時雨は愉しげにそう答える、それに吉野は溜息を吐きつつも、命がけで盾になってくれる少女に敬意を表する意味で艦隊が島に戻るまで好きにさせておく事にした。

 

 これが後々色々と自身に不幸を呼び寄せる発端になるとも知らずに。

 

 

「提督、先程の所属不明艦より入電です」

 

 

 そんな間違えた選択をした吉野へ夕張からの通信が届く、それに対して吉野は返信をするが、背中で柔らかい何かが連続で跳ねているので声が震えている。

 

 

「ナいよぅハ?」

 

「え? 何か声おかしいですがお怪我でもなさったんです?」

 

 

 それを聞いた時雨はピタリとロデオを中断し、ペシペシと二回程軽く背中にチョップを入れる、どうやら空気読んでますよアピールのつもりらしい。

 

 それを苦笑いで流しつつも吉野は夕張に言い訳を一つ伝えると、通信の内容を伝える事を促す。

 

 

「えーっと、内容を伝えますね? 『丁稚へ、お使いは終了か?』、繰り返します、『丁稚へ、お使いは終了か?』、以上です」

 

 

 その言葉を聞いて吉野は頭を掻きつつ傍に居る加賀を見る。

 

 対して加賀はと言うと、さも可笑しそうな表情で掌を上げて首を左右に振っている。

 

 

「まぁいつまで経っても同期は同期よ、丁稚扱いされても仕方ないわね」

 

 

 その言葉に深い溜息を吐きつつ、吉野は夕張へ伝言を頼んだ。

 

 

「夕張くん、返信を頼む『ナイスガイよりデチへ、お使い終了おウチに帰る』、繰り返す、『ナイスガイよりデチへ、お使い終了おウチに帰る』以上、よろしく」

 

「……さっきからこれナンなんです? も~ 復唱しますよ? 『ナイスガイよりデチへ、お使い終了おウチに帰る』、以上、送ります」

 

 

 

 

 南鳥島より西の海、その暗い水中で、スクール水着という何とも寒々しい格好の少女四人が互いにハイタッチを交わしつつ、西へと回頭する。

 

 その先頭を往くのは銘を伊号58潜水艦、吉野三郎と加賀とは同期にあたり、互いに『丁稚』『デチ』と呼び合い今でも親交を持つ艦娘で、大本営潜水艦隊旗艦である。

 

 今回の捷号作戦に於いて、彼女らが受けた命令は日本近海に於ける防衛線上の索敵。

 

 その指令に従い作戦へ出る際、とある艦娘よりプライベート(・・・・・・)なお願いをされ、索敵のついでにちょっと西へ足を伸ばした結果、何故か偶然(・・・・・)友軍の戦闘に出くわしそれを支援する結果となった。

 

 尚、この海戦に於ける彼女らのスコアは空母ヲ級二隻の轟沈。

 

 しかし何故か帰投を果たし、彼女らが提出した報告書には『日本近海に於ける防衛線に異常なし、索敵の任に就くも敵との接触皆無』と記されていたという。

 

 

 

 

 海へ出ていた面々が目視で確認できる程になった時、吉野は相変わらずうつ伏せのまま笑顔で手を振っていたのだが、その顔が何故か段々と引きつった物に変わっていく。

 

 その視線の先では榛名と妙高が三白眼でこちらを睨み、何故か防空棲姫までもが殺意の篭った視線を投げ掛けている。

 

 その視線に一体何事と冷や汗を流す吉野の耳に、夕張からの無情ともとれる通信が聞こえる。

 

 

「提督、所属不明艦より返信、『丁稚へ、我ら間宮にて待つ』、繰り返します、『丁稚へ、我ら間宮にて待つ』、以上です」

 

 

 吉野は知らない事だったが、実は一航戦の青い方からの間宮でメニュー右左"往復"の刑は確定しており、更にこれ。

 

 結論を言うと彼女達だけに特別扱いは出来るはずも無く、ましてやそんな物(・・・・)に経費が落ちる訳も無く。

 

 

 人類初の深海棲艦との協定を成し遂げた、ある意味ヒーローな吉野三郎中佐(28歳独身ロデオマシーン)は、月末何故か、上司に泣きついて給料の前借りを懇願するハメになったという。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入渠施設にて

前回までのあらすじ

 
 南鳥島近海にて深海棲艦と戦い、勝利した末空母棲鬼を拉致る事に成功した第二特務課艦隊(仮)
 そして吉野課長の財布に危機が訪れる。



 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



2016/06/24
 文章の表現を一部修正致しました。
 ご指摘頂きましたKK様、有難う御座います、大変助かりました。


2018/12/27
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたMWKURAYUKI様、雀怜様、有難う御座います、大変助かりました。


船は往く往く水平線。

 

 大本営発捷号作戦の中核である防空棲姫との交渉の末日本近海に於ける不可侵条約を取り付け、更にその後強襲してきた深海棲艦の一団を迎撃、これを退けあまつさえその旗艦であった空母棲鬼を鹵獲した第二特務課艦隊(仮)

 

 大量に弾薬を持ち込んだ事もあり、戦闘の継続は可能であったが負傷者多数の為速やかに島から撤収、現在第二特務課艦隊の面々+αを乗せた強襲揚陸艇"轟天号"は、現在日本本土から南鳥島の凡そ中間点辺りを航行中。

 

 日は沈み、月明かりのみの海原は暗く、漆黒の轟天号はその(いろ)に溶け込みつつも、白い航跡を残しつつ北西へ向かっている。

 

 こんな表現をしているとさも伊達な印象を受けるがこの船、実はかなり致命的な欠陥を抱えている。

 

 

 それは船体を塗り上げている色、どこもかしこも真っ黒であり、夜の海では保護色として効力を発揮しているが、これが昼の海や透明度の高い水域になるとバカみたいに目立つのである。

 

 なにせ強襲揚陸艇と名は付いているが、内部には簡易の入渠施設や武器庫、そしてある程度の期間寄港せずとも活動が可能な様に極小ながらも工廠が据えられていた。

 

 その大きさは凡そ50m×10mの箱型であり、用途的には簡易拠点の様な物になっている。

 

 こんな真っ黒な船が昼間に海を航行していたら目立つ事請け合いであるのだが、建造指揮を採った夕張は、持ち前の厨二病をこじらせてしまい、『カッコイイから』という理由故に"保護色"という基本的な配色がすっかり抜け落ちた結果、この様な不気味な色の船となっていた。

 

 

 そんな轟天号の内部、丁度中央辺りにあるトイレでは吉野三郎(28歳独ペーパーはダブルエンボス派)が至福の時を過ごしていた。

 

 一体何が至福の時なのかは表現を控えさせて頂くが、そんな状態であった。

 

 

 得も言えぬ表情で溜息を吐き、鼻歌混じりにカラカラとトイレットペーパーを巻き上げ、最後の儀式を行い、(しめ)やかに全てが終わろうとしていた時。

 

 

 

『ニギャーーーーーー!!』

 

 

 

 しかし現実は無情、居るかどうかも判らぬ神は『これでFinish!?な訳無いデショ!』とどこぞの紅茶戦艦の台詞と共に全てをぶち壊し、文字通り吉野は便器から飛び上がる。

 

 余り聞かない類の珍妙な悲鳴に困惑しつつ、辛うじて粗相を免れた吉野は慌ててズボンを上げ、チャックにシャツの裾をチョロ出ししながらトイレから飛び出すと、悲鳴が聞こえたと思われる方へ駆け出した。

 

 

 細い艦内通路を船尾の方へ向かうと『入渠室』と表記されたプレートが壁に貼り付けられており、その下にあるドアが開かれたままになっていた。

 

 室内からは複数の切迫した声が聞こえ、ドアが開け放たれているからであろう、バタバタと走り回る足音が外まで響き、否応無しに緊急事態である事を吉野に認識させる。

 

 

「何があった!」

 

 

 慌てて中に踏み込むと、やや大きめなバスタブの様な物が二つ並び、其々横に高速修復剤の空バケツを持った榛名と妙高、奥には腕を組んで渋い顔の防空棲姫が壁に寄り掛かっており、更にその付近を夕張があたふたと走り回っていた。

 

 そんな室内の中心にあるバスタブからは、砲塔が生えた太い尻尾と尻だけがプカプカ浮かんでおり、もう片側のバスタブからはまるでシンクロナイズドスイミングでもしているかの如く、水面から白い足がピーンと一本生えていた。

 

 

「いやホント、何があったのコレ……」

 

 

 股間から布切れを生やし由緒正しい雷巡の格好のまま固まる吉野、痙攣した尻と足だけが見えるバスタブ、そんなシュールで気まずい空間がそこに出来上がっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 珍妙かつカオスな騒動が起こった訳。

 

 その発端は傷を癒す為、艦娘達が入渠施設を利用する処から始まる。

 

 現況は危機を脱したとはいえ今だ第二特務課は大本営に向けて航行中であり、更に防空棲姫が一応この海域のボスに座る事が確定したとはいえ、その縄張り全てを掌握するには実の処、後数週間程度は掛かる見通しである為、現在は安全面でも注意しないといけない状態にあった。

 

 幾ら下位個体しか居ないからといって迎撃手段も無いまま長距離を進む訳にはいかず、結論としては高速修復剤を利用して早急に全員の傷を癒し、戦力を整える事になったのである。

 

 そして艦娘全員の傷が癒えた後、問題になったのは深海組。

 

 海戦では彼女達も当然傷を負っていた、特に空母棲鬼のそれは酷く、自力で歩けない程のダメージを負っていたので早急にその負傷をなんとかしないといけない状態であったのだが、そこには幾つか懸念する事があった。

 

 

 一つは空母棲鬼、彼女はこちらを襲ってきた艦隊を指揮していた個体であり、戦いの結果、今はこうして鹵獲されてはいるものの、あくまで動けない状態なので周りに影響は無い状態だが、もし彼女の傷が癒えた場合、艦内で暴れられる可能性が危惧される。

 

 次に根本的な問題として、入渠システムや高速修復剤という物が深海棲艦に効き目があるのかどうか。

 

 

 結論としては、空母棲鬼の件は深海棲艦の生態上、現在彼女は防空棲姫の配下という位置付けになっており、本人の感情がどうであれ防空棲姫には逆らう事は不可能な為、その辺りは問題が無いらしい。

 

 二つ目の懸念は実際にレ級がバスタブに浸かる事でその効力を試してみた結果、艦娘と同じく傷が徐々に癒えていくのが確認されたので取り敢えずは有効と判断された。

 

 

 全てが安全という保障は無いが、現況戦える戦力は一人でも多いに越した事は無いという結論に至った第二特務課の面々は、深海組に対しても高速修復剤を使って傷を癒して貰う事にしたという。

 

 

 ここまでは特に問題は無かった、しかし事件は高速修復剤をレ級と空母棲鬼が浸かるバスタブに流し込んだ時に起こった。

 

 それは艦娘が使用した時と同じく二人の傷を文字通り高速で、瞬く間にして癒す効き目があった、それは驚くべき結果であり、同時に今の第二特務課にとっては朗報であった。

 

 しかしそれはレ級と空母棲鬼には喜ばしい結果にはならなかった、傷が癒え、痛みから解放されるはずのその結末は、居るかどうかも判らぬ神が再び『これでFinish!?な訳無いデショ!』とどこぞの紅茶戦艦の台詞と共に激痛を伴わせ、彼女達の心をポッキリと折ってしまったのであった。

 

 その激痛は戦艦クラスの攻撃を正面から受けても平然としているレ級すら卒倒させる程の威力があった様で、一瞬で消えたのは彼女達の傷だけではなく、深海棲艦としてのプライドすら消し去ってしまうという惨状をそこに引き起こしてしまった。

 

 

「まぁあんなビックリ体験したらトラウマになっても無理ないかもね」

 

 

 防空棲姫の言葉を裏付けるかの様に、入渠室の片隅ではレ級が壁に向かって三角座りのまま『バケツコワイバケツコワイ』とうわ言の様に呟き、空母棲鬼に至っては『何よ何よふざけるんじゃないわよウワーン!』と泣きじゃくりながら部屋を飛び出して行ってしまった。

 

 そんな彼女らの心中を他人事の様に解説する防空棲姫はというと、鼻歌を歌いながら涼しい顔でバスタブに浸かっている、そこには当然高速修復剤という薬用入浴剤は混入されていない、その代わりに何故かバスタブは山盛りの泡まみれになっており、彼女はマリリンなモンローさん宜しく持ち上げた片足を手で撫でながらアハーンウフーンのポーズを取っていた。

 

 ちなみにボディシャンプーや石鹸の類等では風呂をアワアワにする事は難しい、アレはそれ用のブツを混入しなければ出来ないのである。

 

 

 吉野は何故入渠施設がアワアワなのか、どうしてそこで防空棲姫はアハーンウフーンとクネクネしてるのか、壁際でプルプルと三角座りのレ級は放置プレイしたままでいいのかと、とても困惑した状況でパイプ椅子に腰掛けていた。

 

 防空棲姫のバスタブのドまん前で。

 

 

「えーっと…… 防空棲姫さん、えらくご機嫌ですね?」

 

「それはそうよ、湯にゆっくり浸かるのなんて久し振りだもの、お風呂よお風呂。汗臭いのはいや」

 

 

 半笑いの吉野の前では防空棲姫が、スケスケの際どい服を着たあの陽炎型九番艦の台詞を口にしつつ、相変わらずアハンウフンしていた。

 

 

「成る程、確かに風呂はイイデスヨネ風呂は…… てか、泡風呂はちょっと提督的にはどうかな~ って思ったりもしちゃうんですが……」

 

「え? これバスタブの横に備え付けてあったから使っただけなんだけど、ダメだったの?」

 

「え、備え付け?……」

 

「ほらそこ」

 

 

 防空棲姫が指差した先には確かに幾つか薬剤の入ったボトルが並んでいる。

 

 その中の一本を吉野は手に取ると、そこに貼り付けられているラベルを確認した。

 

 

-入渠用入浴剤バブルス-

 

 

 微妙にマイケルさんチのお猿さんチックなネーミングがされた入浴剤、そのラベルには腰痛・冷え性に効果的という、"体を完全修復する為に使用される入渠"に用いられる薬剤としては意味が無いのではという効能についての謳い文句と共に、明石薬品という製造元の名前が記されていた。

 

 吉野は無言でその入浴剤の蓋を開け、おもむろに防空棲姫のバスタブへ中身全てぶち撒けると、何故か額に青筋を立てたままそれを全力でかき混ぜた。

 

 

「ちょっ!? テイトクなに!? 泡が……って前見えないから! 一緒に入りたいなら服ぐらい脱ぎなさいよってキャーーーー!」

 

 

 結局全裸の防空棲姫が泡で滑るからと慌てて吉野に抱き付き、何とか鯖折りでその泡立てマシーンを鎮圧した頃には入渠室が泡まみれで、三角座りのレ級の怨嗟の声だけがブツブツと聞こえる異空間がそこに広がっていたという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「いやちょっと取り乱しました、申し訳ない」

 

 

 泡の塊から目と口だけを出し、某ビバンダムさんみたいな状態の吉野は泡の中に手を突っ込んで頭をボリボリと掻いていた。

 

 それを相変わらず泡が山盛りのバスタブに浸かりながら、防空棲姫は三白眼で睨みつけている。

 

 ついでに部屋の隅では依然レ級が三角座りでブツブツ何かを呟いていたが、見た目只の泡の山なのでとても不気味な状態になっている。

 

 

「一緒にお風呂する位は別に構わないんだけど、ちょっとこれはオイタが過ぎるんじゃないかしら?」

 

「いや別にそんなつもりは微塵も、っていうかハイ、イエ、ホント申し訳御座いませんでした……」

 

 

ミシュランなタイヤのイメージキャラクターぽい何かが頭を下げる、防空棲姫はチャプチャプと湯に浸かりつつ溜息を吐いた。

 

 

「ところで防空棲姫さん」

 

「あー、そういえばそれなんだけど」

 

「はい?」

 

 

 何かを思いついたのか、ジト目だった防空棲姫はコロリと表情を変えつつ、指を一本ピンと立てた。

 

 

「防空棲姫、それ確かに私の名前なんだけど、何ていうの? 名前っていうより個体名称な感じなのよね」

 

「ああまぁ確かに、ですねぇ」

 

「でね、折角こうして一緒に行動する事になるんだし、そんな呼ばれ方するよりちゃんとした名前で呼ばれたいっていうか、そうね……何かいい名前ないかしら?」

 

「ないかしら……って、また唐突ですね、その為に自分にここに残れって言ったんです?」

 

「あ、それとは別件で話もあるんだけど、それでもほら、兵は拙速を尊ぶって言うじゃない?、パパっとこう…… 優雅でエレガントな名前って無いかしら?」

 

 

 言ってる事は判るが、兵が拙速を尊んた処で優雅かつエレガントな名前が出る事は恐らく難しいのでは無いかと吉野は思った。

 

 

「名前ですか…… 防空棲姫さんの文字から幾らか拝借して、…… ボーキさんとか」

 

「それ本気で言ってるなら、また熱い抱擁で背骨を砕いてあげるわ」

 

「え!? ダメなんですか!?」

 

「それマジで言ってたの? ほんとにもう…… でもどうしようかしらね、艦娘の頃の名前名乗っても仕方ないし、適当に決めるのはちょっとねぇ、なんとなく思いついたにしては悩ましいわねコレ……」

 

「いやそりゃ名前ですから…… ってんんんんん?」

 

 

 指を頬に当て、悩まし気な表情の防空棲姫、その口からは割りととんでもない爆弾発言が転がり出た。

 

 今目の前で泡風呂に浸かる深海棲艦上位種の防空棲姫、彼女は今確かに自身を艦娘だったと言ったのである。

 

 固まるムッシュ・ビバン○ム、首を傾げながらそれを見る防空棲姫。

 

 

「ちょちょちょっ、防空棲姫さん?」

 

「……何?」

 

「防空棲姫さんって、艦娘だったんです?」

 

「そうよ?」

 

「いや島で話してた時、深海棲艦って人の想念から生まれてくるって言ってませんでしたっけ?」

 

基本的に人(・・・・・)若しくはそれ以外(・・・・・・・・)、そう説明してたと思うけど?」

 

 

 吉野は島で防空棲姫と話した内容を必死で思い出そうとしていた。

 

 

「話が長くなりそうだったし、理解し易い物にしようとしてはしょっちゃったんだけど、艦娘だった深海棲艦は少数だけど存在するわ、例えば私、そこのレ級と沈んだレ級、そして鹵獲してきた空母棲鬼」

 

「ファーーーーーーーーーーーー!?」

 

 

 はしょってはいけない大事な部分、しかもその事実がポロっと世間話のついで程度に出てきた。

 

 そしてその言葉を聞き、吉野の頭の中では島での会談以降、ずっと頭の中にあった可能性とそれを否定する根拠、それがまとめて吹っ飛び音を立てて別の物が組みあがっていく。

 

 

「え…… えっとですね、確認させて欲しいんですが、防空棲姫さん、貴女とレ級、そして空母棲鬼さんは元は艦娘だったと?」

 

「そうよ?」

 

「成る程…… そして貴女はレ級と世界を巡り、途中で空母棲鬼さんと揉めて以来、ずっと彼女に追いかけられていた」

 

「そうね」

 

「そうですか…… そしてその旅の途中五月雨ちゃんを拾い、彼女を送り届ける途中で色々話していった結果"面白そうだから"という結論に至り、貴女は我々と講和を結ぶ為に日本近海へ入った、更に貴女を追っていた空母棲鬼さんはそれを阻止しようとしてあの島までやって来た」

 

「講和が目的じゃなくて、テイトクと話をするのが目的だった訳だけど、結果としてはそれで間違い無いわ」

 

「防空棲姫さん……」

 

「何かしら?」

 

 

 泡の塊が身を乗り出してバスタブに寄り掛かり、防空棲姫を真っ直ぐ睨みながら、己の中にある仮説が合っているかどうか確認する為に最後の質問を口にした。

 

 

「もしかして……縄張り関係なしであちこち行けるのって、元艦娘だった深海棲艦だからですか?」

 

「そうね、元艦娘だった深海棲艦は縄張り関係無しにあちこち移動するし、割とその辺拘らないわね、ついでに元艦娘だった深海棲艦は多分…… だけど、意思の疎通が可能な(・・・・・・・・・)上位個体辺りしか居ないと思うわよ?」

 

 

 手の届く距離に前線基地があったとしても、そこが縄張りの外である限り侵攻してこなかった深海棲艦、不可思議ではあるものの、深海棲艦とはそういう物である(・・・・・・・・)と軍では認識されてきた。

 

 なのに近年南方海域周辺のみ(・・・・・・・・)ではあるが、別海域より上位個体による侵攻が確認される様になり、軍ではその対応に追われる結果となっているのが現状である。

 

 

 日本が制海圏としている海域の内、日本海側は大陸と挟まれている狭い海域であった為、戦力配置はそれなりではあったが多いとは言えず防衛寄り。

 

 また北方と西方も南方に比べ資源の回収や国交を結ぶ航路を殆ど開拓する余裕が無く、軍の戦力は今も不安定な南を維持する為に注がれ続けている、結果として余裕が無い北方と西方は積極的には戦闘を行えず、防衛に徹するしかなかった。

 

 

 つまり現在最も艦娘と深海棲艦が頻繁に戦闘を行い、最も多くの艦娘が沈んでいる海域は南方(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)という事になる。

 

 もし沈んだ艦娘も深海棲艦として蘇るのであるなら、そしてその元艦娘の深海棲艦だけ(・・)が縄張りを渡る習性を持っているというのなら…… 何故南方にのみ(・・)変化が起こっているのかの説明が成り立つ。

 

 

「そうか…… そういう事か…… 南方の攻勢がいきなり変化したのは、艦娘に引っ張られた人の想念が多い海域だからとかじゃなくて、艦娘自体が深海棲艦になってたからなのか……」

 

 

 南方海域では、前大戦で特に多くの人々が海で亡くなっている、他の海域とは違う動きがそこにあるなら原因はその辺りにあるのではと吉野は思っていた。

 

 同時に艦娘の殆どはその周辺を主戦場とし、沈んでいった物も多い、当然艦娘とそこに沈んでいる人の想念とは無関係とは言えない程の繋がりがあるのは当然だろう。

 

 

「あー、そういう解釈してたのね、ふーん、でも流石ね、間違いではあるけれどその考えはいい線いってるわ、私が知ってる限りでは艦娘が深海棲艦化するのって、沈んだ時に海の想念に触れて、その悲しみに引っ張られてそうなるらしいから、その想念が多く沈んでいる南で私達みたいなのが発生する確立は他の海域より高いはずよ?」

 

 

 人と共闘する艦娘、敵対する深海棲艦、今海原で覇権を掛け、死闘を繰り広げる三つの知的生命体、相反した関係でありながらもその間に絡み合い、互いに結ばれた線が僅かにではあるが吉野の頭の中で繋がった。

 

 

「……成る程、ちょっとまだ色々頭の中整理しないと考えがまとまりませんけど、色々と…… いやかなりこの先の希望が見えてきましたよ」

 

「あら、それはなによりね」

 

「それにしても防空棲姫さん、貴女はテリトリーの事とか、深海棲艦の成り立ちとか事情に詳しそうですが、他の上位個体って皆そんな物知りなんですか?」

 

「どうかしらね、私はあちこち旅するのが趣味だったし、その先々で合った姫とか鬼に色々話を聞いてたから物知りなのかも知れないけど、そうじゃないならあんまり事情に明るい個体は居ないんじゃないかしら?」

 

 

 防空棲姫は腕を組んで、やや得意げにそう答えた。

 

 彼女の話によると、テリトリーに縛られない存在である元艦娘の深海棲艦でも積極的に外へ出る者は少なく、また個体差はあっても戦うという行為は必要な時以外はなるべく避ける傾向にあるらしい。

 

 

「ちなみに防空棲姫さんって、艦娘だった頃の記憶ってあるんです?」

 

「無いわね、もしそんなのあったらそもそも人と戦う事なんてできる訳無いでしょ? 私が自分で判る事は、以前艦娘だった、そしてなんて艦だったかって事くらいね」

 

「え? 自分が何て艦娘だったかは覚えてるんですか!?」

 

「ええ」

 

「……ええと、その、それって……」

 

「ああ、別にそんなの聞かれても気にしないわ、私が昔何だったかなんて今は関係ないしね、私が艦娘だった頃は確か"初月"って艦だったかしら」

 

「うわぁ…… なんとなく秋月型かなって思ってたけど…… まさかのボクっ子て、性格違い過ぎて提督どうしていいかもぅ……」

 

「ちなみにそこでバケツバケツ言ってるレ級なんかは清霜って駆逐艦だったらしいわよ?」

 

「ファッ!? 清霜ぉ!?」

 

「あの子が元駆逐艦だったっていうのを考えると、多分艦娘の頃の特長とか因縁って深海棲艦化の結果にあんまり関係ないんじゃないかしら?」

 

「いえ清ピーはその…… 紛れも無く因縁というか執念が生んだ結果だと思います……」

 

 

 泡まみれでバケツという言葉を連呼しているレ級、吉野はいつか『大戦艦清霜』と呼んであげようと心に誓い、泡の奥の目頭をそっと拭うのであった。

 

 

 こうして後出しジャンケンで頭をピコピコハンマーで殴られた状態の吉野だったが、それでも何故か嬉し気な相を表に貼り付け、頭の中では情報の整理と今後のやるべき事への準備へ思いを馳せていた。

 

 

「ところでテイトク?」

 

「何でしょう?」

 

「私の名前、何がいいと思う?」

 

「あ…… ああうん、名前…… えーっと、防空棲姫さんの文字から幾らか拝借して、クウキさんってどうでしょう?」

 

「私はそんな存在感が薄くなりそうな名前はちょっと遠慮したいかしら」

 

「お気に召しませんか?、それじゃ……防空棲姫さんの文字から幾らか拝借しつつも、親しみやすい感じで、ボッキーさんというのは? いやいっそウッキー?」

 

「嗚呼…… そうね、テイトクってそういう感じの人間なのね……」

 

 

 日本海軍大本営麾下第二特務課々長吉野三郎中佐(28歳独身ムッ○ュ・ビバンダム)は、至って真面目に、そして誠実に防空棲姫の名前を考えていたが、結果としてそれが防空棲姫のお気に召すものが一つも出なかった事は言うまでもない。

 

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております。

 そして今回は皆様にちょっとしたお願いがあり、その事も書く予定では御座いますので、もしお暇が御座いましたらそちらに目を通して頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

捷号作戦、第一段階了

前回までのあらすじ


 風呂でトラウマを背負うレ級と空母棲鬼、更にアハンウフンしていた防空棲姫は元初月でしたという衝撃の事実、続々と投下される後出しの事実に提督は頭を抱えるのであった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



2016/07/02
 誤字脱字修正致しました。
 ご指摘頂きましたKK様、有難う御座います、大変助かりました。


 

 シャカシャカと茶を()てる音がする。

 

 炉の前で座り、周りの者へ振舞う為に吹雪が、そしてその向こう側では少し小太りのスーツ姿の男、年は六十はいってるだろうか、白髪を七三に分け、人が良さそうな顔でニコニコしている。

 

 その隣には二種軍装に身を包み、これまた白髪をオールバックに纏めた髭面の男、こちらもニコニコとしてはいるが、右頬にある大きな傷跡と、同じく右の耳が半分無いその見た目は少々厳つ目に見えてしまう。

 

 

 そして正対するのは日本海軍第二特務課々長吉野三郎。

 

 

 ここは第二特務課秘密基地内部の大茶室、茶室と言えば小さい空間に無限の世界を内包するという思想があり、普通は小ぢんまりした物なのだが、余ったスペースの有効活用と、()()びナニソレオイシイノな妖精さんがイメージだけで(こしら)えた空間であるので仕方が無い。

 

 茶室なのに柔道の試合が4つ程同時に行える広さがあろうとも、部屋の隅の水場に設置してある鹿威(ししおど)しからカッポーンと音が聞こえても、ましてや隠しスピーカーからやっすい寿司屋で流れてそうな琴の音色がチントンシャンと流れていようとも、それは妖精さん独自のジャパニズムなので突っ込みを入れてはいけない。

 

 

「吉野中佐…… だったか、先ずは作戦の完遂ご苦労様だったね」

 

 

 髭の傷がそう口にする、好意的な笑顔を向けているがその雰囲気は独特で、殺気の類は感じられないのにも関わらず、吉野の危険度センサーはさっきから針が振り切れている状態である。

 

 

「はっ、有難う御座います、元帥殿」

 

 

 吉野の目の前に居る二人の老人、白い軍装を身に纏った傷の髭は日本海軍元帥大将、坂田一(さかた はじめ)、そしてその横に居るのは内閣総理大臣、鶴田栄(つるた さかえ)

 

 軍のトップと政治のトップ、この二つが目の前に居る…… というより、どちらも実は政治関係の人間である。

 

 

 この世界の日本海軍は、五人の大将が実務を回し、その上に居る元帥称号を持つ大将が政治面を一手に引き受けている。

 

 そして戦時下という特殊な環境である為、日本の舵取りに軍が大きく関わっているのは確かだが、前大戦で軍部の暴走が日本を壊滅に追い込んだという経験故か、政治・経済・国防等、国に関わる其々の分野から代表を選出、元老院という物が組織され、国を動かしていた。

 

 

「そちらのお嬢さん達が今回の?……」

 

 

 坂田が吉野の両脇に座る二人の異形を見つつ、何とも言えない表情を表に出している。

 

 吉野の右には防空棲姫、左には空母棲鬼が座り、そして少し離れた処ではレ級が茶菓子を貪り食っていた。

 

 その彼女らなのだが、先ず防空棲姫には金刺繍が施され、立派な毛書体で『ボス』と書かれた(たすき)が掛かっている。

 

 空母棲鬼も銀の刺繍が入った物を掛けており、それにはゴシック体で書かれた『専務』という文字が刻まれていた。

 

 更にレ級であるが、彼女は何故かピンクでチューリップの形をした名札が付けられており、そこには何故か丸文字で『部長心得(ぶちょうこころえ)』とプリントされている。

 

 

「始めまして、私が防空棲姫の朔夜(さくや)、そこに居るのが専務の空母棲鬼、あそこで菓子を貪っているのはレ級の冬華(とうか)よ」

 

 

 無駄に胸を張り、口角を上げつつ不適な笑みを浮かべ、防空棲姫改め朔夜は傷の髭に自己紹介をする。

 

 そして吉野を挟んで向こう側では、空母棲鬼は眉を(しか)め、『何このタスキなんでこんなの付けないといけないのよどんなセンスしてんのコイツラ』とブツブツ独り言を吐き出していた。

 

 

「これは失礼、私は日本海軍元帥、坂田一といいます、一応軍の取り纏めをやっておりますが、名前だけの頭と思って頂ければ宜しいかと」

 

「ふーん…… 名前だけねぇ、それにしては物騒な雰囲気醸し出してるじゃない? それに貴方のいう事が言葉通りの物だとしたら、この会談ってそんなに重要な物では無いと思っていいのかしら?」

 

「ははは、これは手厳しい、いえ今回の朔夜さん…… でしたかな? 貴女達との取り決めは我が国の命運を左右する重要な案件、しかも軍部主導で行った物です、故に名前だけとは言え責任者たる者が何もせず…… という訳にはゆきますまい?」

 

「じゃ今回の件に関しては、貴方が国の窓口として私達と交渉するって事でいいのかしら?」

 

「話の窓口としてはそうなるでしょうな、しかし意思決定はまた別の組織が行います故、即答は期待なさらぬ様お願いしますよ」

 

 

 そうして吹雪から受け取った茶を啜りつつ、傷の髭は一息つくと、菓子を頬一杯に含んだレ級改め冬華を見て、孫を見る好々爺(こうこうや)の様な表情を浮かべている。

 

 その視線に気付いたのか、リスの様に頬を膨らませた冬華が手元にある饅頭と髭を見比べ、首を傾げながら一つ差し出し、それを髭がにこやかに受け取るという微笑ましい空間が出来上がっている。

 

 

「朔夜殿に冬華殿ですか、中々に流麗(りゅうれい)なお名前ですな、あ、失礼、私内閣総理大臣をしております、鶴田栄と申します、以後お見知りおきを」

 

 

 小太りのスーツが自己紹介し、髭と同じくにこやかに茶を(すす)っている、国家の行く末を決定する場で、しかも国の代表格二人がただのジジイと化し茶を(すす)っている光景は異様な世界と言っていいのかも知れない。

 

 

「いい名前でしょう? テイトクが『神から授かりましたよどうです褒めて褒めて』って決めてくれたのよ、まぁ横の専務はまだその名前に納得してなてみたいだから? 専務なんだけどね、名前」

 

 

 吉野が言う神というのは、以前特務課に所属していた先達で、現在大隅大将麾下の特務課再編の為一時的に戻ってきている人物であり、実は現在元帥麾下の諜報課を切り盛りしている大佐であった。

 

 朔夜は実の処、名前をボスである吉野に付けて貰いたかったのだが、クウキだのボーキだのという、便所でボッチ飯の挙句一航戦に狩られそうな名前と、朔夜という名前を比べた結果、一もに二も無く朔夜と名乗る事を決め、レ級も流石に『レレレ』だの、『レっきゅん』だのという珍妙な名前を付けられるよりはと冬華という名前を名乗る事にしたのであった。

 

 

「ほう、中佐がですが、成る程、貴女方の事は報告を受けて色々聞き及んでおりますが、元は我が国を守護しておられた方だと伺っております、これも何かの縁というもの、出来る事なら末永いお付き合いとなる様願いたいものです」

 

 

 小太りの爺はそう笑いつつも、朔夜が口にした『テイトク』の言葉に少し眉を顰めつつ、再び茶を口にする。

 

 そしてその視線を受けている吉野は、レ級が食べ掛けの饅頭を無理やり口に押し込もうとするのをなんとか凌ごうとしているのだが、その結果コントに出てくる口髭泥棒の様な状態になっており、とても軍人とは言えない威厳の無さを露呈してしまっている。

 

 

「確か朔夜さんが初月、冬華さんが清霜、そして空母棲鬼…… いえ専務殿が……」

 

「鳳翔よ、何よ悪い? オカンでも和美人でもなく毒舌白ギャルで申し訳ないわねっ!」

 

 

 毒舌系白ギャル、その前世は艦娘の中ではある意味とても有名で、全ての艦娘の母、母性の塊といわれたあの鳳翔だった。

 

 

「いやいや気分を害したのなら謝ります、ただ…… 私の身の回りの世話を焼いてくれているのは鳳翔でしてな、何と言うのか専務殿を見ていると、ウチのももしかしたら心の奥底で何か思う処があるのではと思いましてな」

 

 

 何とも言えない髭の元帥、毎日上げ膳下げ膳状態で身の回りを任せ、甲斐甲斐しく尽くしてくれている艦娘が、目の前の専務という(たすき)を掛けた存在と同種だっと言われれば戸惑うのも無理は無い。

 

 何せ鳳翔とはオカン・オブ・オカンなのである、世の年寄り提督やマザコン提督らの心のオアシスなのである、それが挨拶しないからと言って鬼に食われそうになるツンツン娘みたいな深海棲艦であっては決してならない。

 

 こんな提督の心をポキポキと折りまくりそうな鳳翔が世に拡散されると執務室に引きこもってしまい、ニート化する提督が続出してしまう危険があるかも知れない。

 

 ウチの鳳翔がオカンで良かった…… そう傷の髭は茶を啜りつつ、帰りには間宮に寄って羊羹の一つでも土産に買って帰るか等と安堵の溜息を漏らすのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「それでですな、肝心の不可侵条約の内容なのですが」

 

 

 鶴田は手元の紙に視線を落としつつ、その内容を吟味するかの様にゆっくりと口にしている。

 

 

「先ず、日本近海と呼ばれる海域には、朔夜殿が頭目として座り、他の深海棲艦を統べた上で代表とし、我が国との友好的な関係を築き、ここに不可侵を旨とする条約を締結する」

 

「そうね、ただ先に言ったとは思うけど、私の影響がこのエリアに行き渡るのはあと暫く掛かるし、そうなったとしても船舶や艦娘にちょっかいを出すはみ出し者は若干残ると思うけど、それは問題無いのかしら?」

 

 

 鶴田の読み上げた言葉に対し、朔夜がそう答えたが、それに対して坂田が問題ないとの見解を示した。

 

 

「船舶の往来や沿岸の警備は軍として基本的な業務ですし、戦時下としては危険性がゼロになる場所なんぞどこにもありますまい、組織的な侵攻やこれまでのリスクに比べたならそんな事は問題になる事は無いと断言できるでしょう」

 

 

 髭元帥は口元の髭を撫で付けつつ、しかし、と付け加える。

 

 

「条約の内容自体は問題無いのですがな、朔夜殿、この 『防空棲姫及び空母棲鬼とレ級は吉野三郎麾下に属し、彼の者と共に行動する』 とありますが、これはどういう事ですかな?」

 

 

 その言葉に周りの空気はやや張り詰める、今まで勤めてだろう柔らかい雰囲気でいた坂田一という男が、初めて相手に対し己の内を見せたのだ。

 

 それまでわざと空気として座っていた吉野もここからが本番だと餡子まみれの口元を引き締め、双方の様子を伺う。

 

 話の中心になるのは自分であってもそこに吉野の意見を挟む余地は今の処皆無、成り行きによっては立場は最悪になるだろうが、それは朔夜と事前に打ち合わせを行った時から覚悟は決めていた。

 

 後はこの場で出る答えに身を委ねるしかない。

 

 

「どういうもこういうも、言葉の通りよ、私達は深海棲艦の道理の元、私達に力を示したこの吉野三郎という男を私達のテイトクとし、共に行動する、そういう事よ」

 

「ふむ、では吉野中佐は日本という軍に属す兵でありますが、貴女方がその中佐の麾下にあるというなら、軍は貴方達に命令を下す事が出来る上位組織という事になりませんかな? 国と対当に条約を結びながら、しかしその国の一機関である軍の、それも一介の中佐の下に就く、これはとても矛盾していはいますまいか」

 

「関係性を繋げていけばややこしくなるかもね、でもあえて言わせて貰うわ、貴方達がこっちとの窓口になると言ってるけど、私達的にはこの一介の中佐が日本と私達を繋ぐただ一つの線よ、ぶっちゃけてしまえば不可侵条約も何もかも全てオマケ(・・・)に過ぎないわ、それ以外の人間の事なんて知らないし、勿論命令なんかされる謂れも無いわね」

 

 

 国として、そして組織として、其々の有体を真っ向から無視した暴論を軽く口にし、朔夜はそれに何か問題があるのかと髭の元帥に不適な笑みで返した。

 

 それはやせ我慢でもポーズでも無く、彼女達は実際国を相手に戦う力を持っている、個の戦力で言えば確かに大本営にある戦力を注げば駆逐は出来るだろう、しかし不完全とはいえ彼女は日本近海に居る深海棲艦を統べるボスである。

 

 その全てを敵に回す事は勿論、日本の立ち位置と状況を考えれば彼女の協力無くして先は無い。

 

 

 それら全ての事を含め、朔夜という防空棲姫は相手に選べと問答無用で問うているのである。

 

 

「国とは突き詰めれば人の集まり、つまり国民が国なのです、幾ら易があるとは言えたった一人の、それもたかが一介の中佐風情が、個人でそれだけの戦力を有するのは国民からの理解を得るのは難しい事だと思います」

 

 

 苦虫を噛み潰した様に鶴田がわざと『たかが一介の中佐』という言葉を用いて己の立場からの意見を述べる、その言い方はこの男の真意では無いが、国の代表であれば民の心情を明確に伝える義務がある、それ故そういう言い回しを用いている。

 

 それはここに居る者達には判っている事だが、それを判っていても気に入らないのは深海棲艦の彼女達だろう、朔夜は感情の篭らない目を小太りのスーツへ向け、冬華ですら冷めたモノ(・・)を見る目を向けていた。

 

 

「ちょっとそこの首相さん、国とか軍とかどうでもいいのよ」

 

 

 そんな雰囲気の中、場を一番冷めた目で見ていた人物が口を開いた、言葉の主は提督の精神ポキポキガールである専務もとい空母棲鬼である。

 

 

「アンタ達に道理があるように、私達にも譲れない道理があるわ、アンタ達が私達を従わせようとするなら、先ず私達を納得させる事ね」

 

「……と言いますと?」

 

 

 小太りの男の前で、空母棲鬼は左目の眼帯をトントン、と指で叩いた。

 

 本来入渠すれば潰れた目は再生しているはずだが、空母棲鬼は()えてそれはせずわざとその傷は残した、そして見た目醜いそれを隠す為と妙高が気遣い手縫いの眼帯を渡した結果、空母棲鬼の見た目はどこぞのふふ怖軽巡の様な風体になっていた。

 

 

コレ(・・)はアンタの言う『たかが一介の中佐』がやったのよ、海の上で全力で殺し合いをしているこの空母棲鬼に、たかが人間のこの男が」

 

 

 不機嫌な相をより一層歪め、殺意すら乗せて鶴田を睨む、そして酷く抑揚の無い声色で更に問い掛ける。

 

 

「人間ヨ、コノ男ノヨウニ貴様ハ私ヲ空カラ海へ()トス事ガデキルノカ? ナラバヤッテミルガイイ、ソレガドンナニ困難ナ事カ、身ヲモッテ判ラセテヤロウ……」

 

 

 チリチリと刺す様な殺気に鶴田は平然を装いつつもその視線をまともに見る事が出来ず、そしてその横の坂田は驚きの目で吉野を見ていた。

 

 

 確かに事のあらましは報告書で知り、その結果として二人がここで話をしていた。

 

 しかし目の前の吉野という男が現場で指揮していた事は知っていても、深海棲艦相手の戦いに直接参加している(・・・・・・・・)事など聞いてはおらず、ましてや鬼級相手に形に残る傷を残したという信じられない事を聞かされれば驚くのも無理は無い。

 

 生身の人間が深海棲艦と戦うのがどんなに困難な物なのか、深海棲艦が出現してからずっとそれを相手にしてきた者なら理解出来ないはずがない。

 

 だからこそ鬼級に目に見える傷を負わせた吉野に対し、坂田という軍人は驚くと共に親近感に近い念を抱かずにはいられなかった。

 

 なにせ最初から深海棲艦と戦い生き抜いて来たという事は、自身も同じく生身で異形と戦っていた時期があるのだから。

 

 

「中佐、彼女達はどうやら君を提督と言い、行動を共にすると言っているのだが、その事に対して何か君からの意見はあるかね?」

 

 

 傷面の元帥から真っ直ぐに見られ、それを受け止めつつ、吉野は餡子まみれの真面目な相で自分の考えを述べた。

 

 

「確かに彼女らの言う事は国家元首であらせられる閣下も軍を纏める元帥殿も首を縦に振るのは難しいと思います、しかし、事の発端になっている自分が言うのもおかしな話ですが、取り敢えず今は彼女達の交渉窓口は自分が勤める、程度の認識を落とし処としてみては如何かと」

 

「えらく軽い話だね、事は国を左右する物なのだが……」

 

「自分は御二方が仰る通りただの凡夫(ぼんぷ)であります故、申し訳ありませんが軽い答えしか出せません」

 

 

 餡子髭の男と傷の髭が黙って見つめあう、シュール過ぎる光景を周りは黙って見ていたが、その横で座っていた小太りの首相がハァと溜息を吐くと、こめかみを指で押さえ俯いた。

 

 

「まいったねぇ、私の任期中にこんな厄介事が舞い込むとは、これを世間に公表する時の事を思うと胃に穴が開きそうだよ」

 

「しかし閣下、我々に残された選択肢が他に無いのは確かでしょう、毒を食えばなんとやらですよ、ならば我々は(まつりごと)で国を支えるしかありませんな」

 

「判っているさ坂田君、この件で元老院を納得させる為に君にも人柱になって貰うと思うが、まさか知らんぷりはせんだろうね?」

 

「ハッハッハッ、一蓮托生という奴ですかな閣下、不肖この坂田、老骨でどれだけの物が支えられる柱になるか判りませんが、お供致しましょうぞ」

 

 

 

 日本の軍では中佐という階級に居る者にだけ言われるブラックジョークが存在する。

 

 古来日本軍では『特進』という制度が存在し、一般には名誉の戦死を遂げると二階級特進……という事が良く言われるがそれは大きな誤解である。

 

 兵は死ぬのを前提としている、そこに名誉があろうとも死ぬのを前提としているのだから没後も階級はそのままである、特進という制度はあるにはあるが適用される事はまず在り得ない物である。

 

 太平洋戦争時末期に特攻という非情な戦略が生まれた時、一時期乱発された経緯があり誤解されているが、本来二階級特進ともなれば国のトップから直接授与され、それこそ歴史の教科書に名を残す程の人物にしか与えられない物である。

 

 そして日本という国では将官は大将・中将・少将しか居ない、元帥というのも大将に与えられる称号であって階級では無い、そして准将という階級は一部の国では存在するが、日本という国では只の一度も存在しなかった階級である。

 

 この二つの物を以って『中佐は死ねば二階級特進し、准将になる』というもじりで"中佐ジョーク"と呼んでいた。

 

 

 

 吉野は髭と小太りに与えられた命令、ぶっちゃけて言えば 『んじゃ、これから深海棲艦関係の窓口担当兼責任者お前だから』 な内容を受け、大体の予想はしてたものの盛大に肩を落としてこう呟いたと言う。

 

 

「マジでリアル中佐ジョークてちょっとどうなの? ヤバくない?」

 

 

 これにて一応の取り纏めは終わった訳だが、まだ捷号作戦の全てが終了した訳では無い。

 

 史実と同じく、何段階にも分けられ、広大な海原を舞台に様々な謀略と戦いが繰り広げられる、そんな途方も無い困難が待ち受けている。

 

 そんな世界の中心に、まさか自分が巻き込まれてしまう事など想像すらしなかった吉野三郎中佐(28歳独身餡子髭ブラック)は、更に増す冬華の饅頭攻撃で顔面餡子率を上昇させつつ、乾いた笑いを口から出していた。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 彼女が求めたソラ

前回までのあらすじ

 茶室に髭と小太りが現れた! そして提督は餡子まみれになり、泥棒髭になった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


(※)今回はギャグ無しパートになっております、その辺り期待された方はスルー推奨です。


 目の前には暗く、そして波音静かな水面(みなも)が広がっている。

 

 港湾施設から漏れる明かりを淡く返し、空に点在する星の光とは違い、狭い帯を成して極限られた範囲だけに自己主張をしている海は、間違い無くそこが人のテリトリーだという事を示す証。

 

 係船柱に背を預け、膝を抱えながらそんな海をただじっと眺めている彼女。

 

 空母棲鬼は一人でじっと海を見つめている。

 

 

 一応日本との協力関係を持つ存在ではあるが、まだそれも決まったばかりで、更に一海域を収める程の存在であった彼女は、現在大本営の敷地で立ち入っても良い場所を大きく制限されており、極端な話をすると、第二特務課秘密基地建屋(たてや)及びその周辺ほんの数十メートルの範囲しか出歩けない状態であった。

 

 

 第二特務課秘密基地前数メートルの岸壁で、彼女はただ一人黙って海を見ていた。

 

 後ろの建物に入れば割と快適に過ごせる空間があるのに、彼女は何故かそこから逃げる様に外に出て、ずっと海だけを見ている。

 

 

「あぁ、こんなとこに居たんですか」

 

 

 そんな彼女に対し何とも間の抜けた声色で、そしてそれに負けぬ程抜けた顔の男が近寄ってきた。

 

 

「よいしょっと、失礼、お邪魔します、しますよ? いいですか? 座りますよ? 座りましたよ?」

 

 

 男は彼女の横へ訳の分からない言葉を呟きながら、並ぶ様に座り込んだ。

 

 それを空母棲鬼はジロリと睨んで迎えるだけで、暫くするとまた海へ視線を戻す。

 

 

「いやぁ、昼は暖かくなりましたが、夜ともなるとまだまだ冷えますねぇ、あ、これどうぞ」

 

 

 無視を貫く彼女の事などお構いなしに、男は手にしている赤いメタリック缶二つの内一つを空母棲鬼へ差し出した。

 

 

「……なによコレ」

 

 

 差し出された缶と男を交互に睨み、不機嫌な声色ながらも初めて彼女は口を開く。

 

 

「この世の至高、キング・オブ・炭酸、ドクターペッパーです」

 

 

 訝しむ空母棲鬼へ男は無理やりその缶を押し付け、もう一本の缶をさっさと開けてしまうとゴクゴクと中身を飲み始めた。

 

 それを黙って見ていた彼女もしぶしぶとプルタブを跳ね上げ、中身の炭酸飲料を口へ流し込んだ。

 

 

「オブッ!? ゲッホゲッホ…… な……なによコレなんなの!?」

 

 

 鼻を抜けるケミカル臭、世間ではそれ(・・)を飲む行為をソフト拷問と揶揄する程アレな飲料、そんな物を無警戒に口へ流し込めば素人は卒倒してしまうだろう。

 

 

「え? この世の至高、キング・オブ・炭酸、ドクターペッパーですが?」

 

「何が至高よバカじゃないの? こんなマズいもん良く平気で飲めるわねアンタ!」

 

 

 空母棲鬼は一口だけ飲んだ赤い缶を海へ向かって投げ捨て、プルプルと肩を震わせながら咳き込んでいたが、いきなり男が腕を掴むと、新たに取り出した赤い缶を何事も無かったかの如く手に握らせる。

 

 

「……なによ」

 

「誰もは最初同じ反応をするんですよ…… でも何度か口にしているとですね、これ無くては生きていけない体になるんですよ……」

 

「怖っ!? 何よそれってかアンタ目が据わっててキモいからって言うか何本も懐からそんなの出すのヤメなさいよっっ!!」

 

 

 困惑する空母棲鬼の前では、懐から次々と赤い缶を取り出した男が器用にそれを積み上げていく。

 

 程無くそれはアメリカのスーパーで良く見掛ける缶のピラミッドの如き山になり、満足したのか男は空母棲鬼に振り向くとニヤリと笑いつつ、また一本缶を差し出してきた。

 

 

「オカワリし放題です、どうです? 夢のようでしょう?……」

 

「夢は夢でも悪夢よコレ、ほんとアンタ何がしたいのよ……」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 空母棲鬼は相変わらず海を見ていた。

 

 その横では男が無言で缶に口を付け、同じく海を見ていた。

 

 

「……で? アンタ一体何しにここに来たワケ?」

 

 

 男はそう問われ、ああ…… と(ようや)く自分の用事を思い出したかの如く口を開いた。

 

 

「えっと、専務さんにはお礼を言ってなかったですから」

 

「……お礼? 何よそれ、てか専務言うな」

 

「えっとですね、昼間話がこじれ掛けた時ほら、フォロー入れてくれたじゃないですか? アレで随分と……その助かりましてですね」

 

 

 その言葉に苦い顔をしつつ、無言で海を見たまま空母棲鬼は眼帯に手を添える。

 

 何時からだろうか、何か考え事をしたり、手持ち無沙汰になったり、そんな時に無意識に眼帯に手を添えるのが癖になりつつある。

 

 

 彼女は元艦娘であるが今は深海棲艦である、本人もその認識に違和感無くこれまでずっと人類と殺し合いをしてきた。

 

 自分から積極的に攻めようとはしてこなかったが、それでも自分のテリトリーに敵が入れば戦ってきたし、それを沈めるのに何の疑問も感じてこなかった。

 

 なのに今は何故、仇敵である艦娘に囲まれても、ましてや人間とこうして話をしていても、殺意はおろか敵意すら沸いてこない。

 

 幾ら自分の上位者が敵対行為を禁止したからと言って、心まで縛るなんて事は出来ない、なのに今空母棲鬼は平然と人の傍で、しかも普通に言葉を交わしている。

 

 

 彼女は困惑している、だから気付かない。

 

 今まで確かに人類に敵対し、必要とあれば戦ってきた、しかし海の上でいつも戦ってきた相手は人間では無く艦娘だった事を(・・・・・・・・・・・・・)

 

 人間は敵と認識し、行動してきたが、その存在を憎んではいなかったという矛盾した認識を自分は持っていた事を理解していなかった。

 

 

「その目ですけど、何で治さなかったんです?」

 

 

 男の言葉で自分が眼帯を触ってる事に気付き、口元をヘの字に曲げて、顔の半分を膝に埋めるように男の視線から顔を隠そうとする。

 

 

ココ(・・)にはまだ弾丸が埋まってる、これはね、自分に対する戒めと誓い」

 

「戒めと、誓い……ですか」

 

「そう、いつかアイツ(防空棲姫)とアンタをぶっ殺して自由の身になったら、その時にコレ(銃弾)を抉り出すって決めてるのよ、絶対に…… いつか絶対に両目で自由になった海を見てやるんだから……」

 

 

 いつか殺してやる、口から出たその言葉は剣吞な意味を含んだ物にも関わらず、何故か弱々しく、そして彼女の内に戸惑いが在る為か、迷いを含んだ物になっている。

 

 物騒な言葉を吐く空母棲鬼という深海棲艦、彼女は鳳翔と呼ばれた艦娘とは全く正反対な存在と言ってもおかしくは無い。

 

 艦娘が深海棲艦として蘇るのにはどんな切欠があるのか、どうしてそうなるのか、彼女達にもそれは判っていない。

 

 別にそれを知ろうとも思わないし、何も問題は無かった、しかし今彼女は周りの環境に順応し始め、それに違和感を感じていない自分に戸惑っていた。

 

 もしかしてコレは自分が艦娘だった事が関係しているのだろうか、他の深海棲艦はもしこうなった時はどんな反応をするのだろうか。

 

 

 空母棲鬼は生まれて初めて自分の存在という物を深く考える事になったが、その元になるであろう前世の自分を知らないので答えに辿り付く事は出来ず悶々としていた。

 

 

 彼女は知らない。

 

 自分が昔艦娘だったのは知っていても、そして己が軽空母鳳翔だった事は知っていても、何故自分が、どうして空母棲鬼になったのか(・・・・・・・・・・・・・・)を覚えていなかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 彼女は見ていた、今とは違い夜では無く、ましてや静寂とは程遠い騒音の海。

 

 海には大小様々な水柱が立ち、弾着の轟音と降り注ぐ確かな殺意。

 

 

 空を見れば自分が放った艦載機は糸を引く様に煙を残し、次々と()ちて往く。

 

 

 周りを見れば傷付き、全身を朱に染めた少女達が一心不乱に前へと進もうとしている。

 

 遥か前方には深海棲艦と呼ばれる異形がひしめき、砲弾を、魚雷を、殺意と憎しみを乗せて放ってくる。

 

 戦況は劣勢と言うには余りに生易しく、もはやそれは蹂躙と呼ばれてもおかしくない有様。

 

 それもその筈、相手は戦艦空母を含む空母打撃群であり、対するこちらは鳳翔を含めて僅か二隻の軽空母以外は全て駆逐艦、しかも殆どの者は型遅れと言われ、更に錬度が低い少女達。

 

 何故こんな無謀な戦いを繰り広げ、それでも何故撤退をしないのか。

 

 

 『捨て艦』

 

 過去、艦娘の数が頭打ちになった事が確定し、戦力の拡充が絶望視された当初、一部の前線基地で行われた非情な作戦。

 

 まだ深海棲艦との戦いも安定しておらず、艦娘という存在すらまだまだ理解されていなかった当時、その不幸な戦略が一部の前線基地では行われていた。

 

 負ける事は許されない、そして限りある戦力をいかに有効に、効率良く運用出来るか、そうやって試行錯誤の中で行われたそれは余りにも多くの命を海へ沈めていた。

 

 

 送り出す指揮官は仕方ないと言いつつも、己が出す命令に心を蝕まれ続け、心を壊していった。

 

 そして死地へ往く艦娘達は、それでも誰を責めるでも無く、涙を流す指揮官に答える為、そこを死に場所と定め笑って出撃していった。

 

 何もかもが間違いで、それでも誰が悪い訳でなく、ただ理不尽と悲しみだけが海に広がっていた。

 

 そしてその帰還する事は無い出撃へ送り出されるのは、戦力として低い評価を受けていた旧型の駆逐艦、そして正規空母が台頭し始め補助的位置に収まりつつあった軽空が殆どであった。

 

 

 帰れぬと判っていても、恨む事はなく、ただ一隻でも多くの敵を沈め、少しでも自分がこの世に居た証を、自分の命は無駄では無かったと、何かを残す為に砲を振り回す。

 

 殆ど戦闘経験の無い彼女達は、ただ真っ直ぐに、敵へ喰らい付く為に死に物狂いで前へ出る。

 

 しかし錬度が低く、貧弱な装備で、更に相手は一撃でこちらを沈める事が出来る大型艦。

 

 少女の多くはそこに辿り付く事もなく散り、そして動けなくなった者は自ら仲間の盾になっていった。

 

 

 そして鳳翔の前にまた一人、動く事も難しい程に傷を負った少女が自分を庇って攻撃を受け、深い海へと沈んでいく。

 

 

「おかあさん…… ごめん、先に往くね……」

 

 

 また一人、目の前で一人の少女が沈んでいった。

 

 笑いながら、そして涙を流して。

 

 

 手を差し伸べる暇も無く、水柱が少女を水底へ引きずり込んで往く。

 

 艦載機を全て失い、動く事もままならず、鳳翔は死に染まった海を、そして絶望が広がる空を見ているしか無かった。

 

 自分にもっと力があれば、彼女は自分を庇う事も無く前へ進めたのでは無いだろうか。

 

 せめてもう一機でも空へ翼を届けられたなら、彼女が流す涙を見る事は無かったのではなかろうか。

 

 艦であった頃、死地へ向かう多くの同胞を見送る事しか出来ずに生き残り、生まれ変わった今は、力無く沈み往く少女達に守られて。

 

 そうして彼女は何も出来ないまま、後悔と悲しみに心を染め上げ、冷たい海に身を墜としていく。

 

 

 空を統べる力を、守られるのでは無く守れる力を、母と呼ばれた軽空母は渇望する。

 

 薄れ往く意識の中、その願いと悲しみだけが尾を引き、余りに強いその想いは海に眠る想念を引き寄せた。

 

 

 

 そして暫く後、広い海に空を統べる白い女王が誕生していた。

 

 彼女は正規空母を遥かに凌ぐ数の艦載機を持ち、戦艦と正面から戦う頑強さを備えていた。

 

 

 しかし彼女は知らない、鳳翔という軽空母だった自分が何故空母棲鬼になったのか。

 

 彼女は知らない、知っている筈が無い、彼女達は沈んでしまうと記憶や経験が一切消えてしまう。

 

 それでも最後に願った想いだけは、結果として彼女を空の女王としてそこに蘇らせていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 空母棲鬼は手に持った赤い缶に口をつけ、中身を口へ含むと顔を(しか)める。

 

 この吉野という男は本当に良く判らない人間だ、流れ弾一つであっけなく死ぬというのに生身で戦闘に出てきた。

 

 深海棲艦に対しても艦娘と同じ様に接し、ヘラヘラと笑っている。

 

 聞けば防空棲姫の前に艦娘の随伴無しで現れ、あまつさえ彼女の脅しすら笑って流したという。

 

 

「専務さん、お代わりいります?」

 

「いる訳ないでしょ! バカなのアンタ! 後何度も言うように専務言うなっ!!」

 

 

 吉野の言葉に突っ込みを入れ、思わず缶をまた海に投げ捨てようとしたが、それをグっと堪えて溜息を吐いた。

 

 それを海に投げ捨ててもまだ目の前には山になった赤い缶が積み上げられている、どうせまた無理やりそれを手渡され、堂々巡りになるに決まっているのだ。

 

 そんな彼女の諦め顔を見つつ、吉野は相変わらすマイペースなままドクペを一口飲み込むと、至極まっとうな質問を彼女に投げ掛けた。

 

 

「え~っと、専務さんでダメなら、空母棲鬼さんって呼べばいいんですかね?」

 

 

 そうだ…… と彼女は口に出そうとして、それでもその言葉を飲み込んだ。

 

 空母棲鬼、それは確かに彼女の名称だ、今まではそれに何か思う事は無かった。

 

 

 実の処、朔夜(防空棲姫)冬華(レ級)に吉野が名前を持ってきた時、空母棲鬼にも名前が用意されていた。

 

 それはとても綺麗な響きで、女性らしい物ではあったが、己は深海棲艦であるという反発からそれを拒絶した。

 

 その結果、何故か朔夜に無理やり"専務"という名前を強要され、しぶしぶそれに従わざるを得なかった。

 

 それを拒否する事は出来た、しかしその時朔夜が言った言葉 『貴女はその名称に違和感無いの? それってテイトクが"ワタシの名前はニンゲンです"って言ってるよーなモンなんだけど』 

 

 そんな事を言われ、専務という名称すら拒否するのは自分自身を否定する様な気がして言い返す事が出来なかった、さりとて一度拒否した名前を名乗るのは彼女のプライドが許さない。

 

 

 握った缶を胸に抱え、真っ暗で、それでも星が見え隠れする空へ視線を向ける。

 

 空母棲鬼、それは確かに自分の名称だ、でもそれは自分の名前じゃない(・・・・・・・・・・・・)

 

 そんな簡単な事すら、今までの自分は考えなかったのか、そんな自分にショックを覚え、そしてそんな事を考える自分に戸惑っていた。

 

 

 少し前の自分なら、こんな事で悩む事は無かっただろう、同じ事を言われたとしても鼻を鳴らして歯牙にも掛けなかったに違いない。

 

 

 しかし今横の男に『空母棲鬼』と呼ばれ気がついた、それは自分の名前では無い事を。

 

 そして気がついてしまった、そう呼ばれる事に対する違和感と、僅かながらも胸にチクリと走る痛みを。

 

 

「……考えなさいよ」

 

「……はい?」

 

「アンタが、私の名前を考えなさいよ……」

 

 

 消え入りそうな小さな声で、それでも彼女が無意識に発した言葉、それに驚いたのは吉野では無く、その言葉を呟いた本人だった。

 

 何故そんな事を言ったのか、どうしてそんな言葉が口を()いて出たのか、驚きはしたが、それを否定する気は沸いて来ず、空母棲鬼は黙って膝に顔を埋め、横に居る男の言葉を待った。

 

 

「名前ですか…… 前に神に頂いた名前で……」

 

「アンタに、考えてって……言ったのよ」

 

 

 顔は見えず、ただ小さく座り込んだ弱々しい存在、吉野の目には彼女の事がそう映った。

 

 何故自分にそれを求めているのかは謎だったが、本人がそう求めているなら考えねばならないだろう、そう思い頭をフル回転して色々な名前を捻り出す。

 

 クウキ、ボーキ、続々と前に考えた名前が羅列される、何故だろう?

 

 空母棲鬼、防空棲姫、……クウボセイキとボウクウセイキ、アカン、"ウ"の一文字あるかどうかでほぼ同じでは無いかと吉野は驚愕の事実に気付き、思わず天を仰いだ。

 

 暫く無言の時間が流れ、夜空を見ながらあーでも無いこーでも無いと吉野は頭をガシガシと掻いていたが、何かを思い付いたのか、ピタリと動きを止めた。

 

 

「安直な名前と怒られそうなんですが……」

 

「……なによ」

 

(そら)……というのは如何です? 空母棲鬼さんの一文字拝借していますし、何より貴女は空を支配する力を持っている、ならそう名乗ってもおかしくは無いかなと……」

 

 

 "空"という名前、そして吉野が言った"空を支配する力を持っている"という言葉。

 

 

 胸から湧き上がる色々な想い、言葉に出来ないそれは口から出る事は無く、その代わり涙となって瞳から流れ落ちた。

 

 

 そう在りたいと願い、沈み、力を得て再び海へ(かえ)ってきた。

 

 今の彼女を成す、それでも彼女が知らない根本の部分。

 

 

 記憶が無くとも魂がそれを覚えていた、そしてそれを誰かに認めて貰った。

 

 そうして初めて自分があの時在りたいと思った存在に成れたのだと魂が震えたのだった。

 

 

 

 空母棲鬼はどうして自分が鳳翔という艦娘とは真逆の存在として生まれたのか知らない。

 

 この先その答えは出る事は無い。

 

 

 

 それでも彼女は理解した、この瞬間、自分は空母棲鬼という深海棲艦から、空という名前の"唯一無二の自分"になったという事を。

 

 

「……空、安直な名前ね」

 

「やっぱ駄目ですかぁ、んじゃやっぱボーキさんとかクウキさんとか……」

 

「ぶっ飛ばすわよアンタ!」

 

「えぇ~、じゃ、やはりここは神から頂いた名前を……」

 

「……空でいいわよ」

 

 

 何時の間にか顔を上げ、ゴシゴシと顔をこすりながら、顔を隠すかの様に再び海を見る。

 

 

「いいんです? その名前で」

 

 

 吉野の言葉に暫くは無言で、前を見ていた彼女。

 

 それでも赤い缶に口を付け、顔を(しか)めるとポツリと呟いた。

 

 

「テイトクがそうなんだと言うなら、仕方ないじゃない、上位者の言葉は……絶対なんだから」

 

 

 この日、吉野三郎(28歳独身安直男)の元に、九番目の部下となる艦が、本当の意味(・・・・・)で着任した。

 

 

 

 その艦は母性とは程遠いツンツンした性格をしていたが、この時生まれて初めてデレという変化を垣間見せるに至った。

 

 しかしその化学変化に横に居る鈍い男も、更にツンツン娘自身さえも気付く事は無く、非常に残念な空間がそこに広がっていたという。

 

 

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パジャマ・DE・Party

前回までのあらすじ

 空母棲鬼さんの昔話、そして名前が決定したとか。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。
 
 (※)今回は全編ギャグになっております、その様な物が苦手な方、若しくは艦娘さん達のイメージが大きく崩れるのに違和感を感じる方はスルーして頂いた方がいいと思います、はい。


 

「えぇと…… 夕張君は一体何をしているのかな?」

 

 

 困惑の色を表に出しつつ、吉野三郎中佐(28歳独身麺は柔らかいのが好き)が目の前に座る艦娘、夕張型一番艦夕張(工作艦仕様)に対し説明を求めていた。

 

 時間は1930、場所は大本営内第二特務課秘密基地内の玄関ホール、その出入り口脇。

 

 夕張が座る前には町の公民館で使われてそうな長机が一卓据えられており、そこには『夜会受付』という文字が書かれた紙製の三角錐と、何やら記入する為の帳面が置かれており、更にその真ん中には早押しクイズの回答者がピポピポ押しそうなボタン付きの小さな箱が置かれている。

 

 

「あぁ提督、お疲れ様です~ いや今日って親睦会の日じゃないですか、だからその受付をしてるんですよ~」

 

 

 

 第二特務課というのは最近新設されたばかりの課であり、その人員の殆どが外部より転任してきた者で構成されている(深海棲艦組含む)。

 

 更に捷号作戦が大本営を挙げての長期作戦という位置付けになり、しかも第一段階目に際して各地に散っていた艦娘が再編の為現在大本営に帰ってきていた。

 

 その為、その艦娘が再び各地へ出向する前に第二特務課の艦娘達との顔合わせと親睦を兼ね、何かやってみてはどうかという意見が出た為取り敢えず親睦会的な物をしてみてはどうだろうかと計画した処、広大な畳敷きの大茶室を利用しての『お泊り会』なる物を開催する事になったという。

 

 

 吉野もその辺りの話は聞いていたが、何故葬式の受付的なカンジの物が必要なのか、そしてそこに置かれているボタンは何なのか、その辺りの説明を夕張から聞こうとしていたのである。

 

 

「えっとですね、この羅生門(玄関セキュリティ群)なんですけど、そのままだと危ないので今は停止してるんですが、ドアロックと連動しちゃってるので今は鍵かかってないんですよね~」

 

 

 という訳で、一応深海棲艦組という特殊な人物も居る為、万が一の事を考え受付を兼ねた見張りとして夕張がドア横で監視をしているのだという。

 

 

「成る程…… それはご苦労様だねぇ、時に夕張君、その…… そこのボタン的なそれは一体ナニ?」

 

 

 謎の早押しボタンを指差す吉野に夕張は手招きして横に来いとポーズを取るので、何だろうと受付側に移動する。

 

 そして横に吉野が来た事を確認した夕張は、某製菓のCMに出てくる桃太郎な侍ばりのアクションでボタンを叩くと、パカーンとドア前の床が1×2m程下に開いて深い穴が現れた。

 

 

「……ナニコレ」

 

「えっと、ほら、万が一危険人物が来た際その対処をしたり、捕縛するのって手間じゃないですか?」

 

「……それで?」

 

「ですからここからスポーンと落として、向こうで警邏隊に捕縛して貰えれば手間は無いかなぁって」

 

「うん? 警邏隊? この穴の底に居るの? どういう事?」

 

「えっとですね、この縦穴なんですが、執務棟の地下シェルター五階の警邏隊詰め所脇まで彫り抜いてまして、落ちた物は自動的にそこにボッシュートするという」

 

「ちょ待て、今地下シェルター五階て……」

 

 

 大本営執務棟地下シェルター五階、そこは有事の際作戦指揮所になる最重要区画であり、基本的にそこは将官クラスの者か、作戦補助に就く者しか出入りは認められていない大本営でも指折りの重要施設である。

 

 当然そこは厳重に警備されており、不用意にそこへ近付くとどんな理由があろうとも即捕縛・隔離になるという場所でもあった。

 

 

「シ……シェルター最下層に穴て……バレたら軍法会議物じゃないかなと提督は思うんですが……」

 

「一応後で埋めるという事で許可は取ってますから大丈夫ですよ」

 

「……誰に?」

 

「大淀さんに」

 

「ふ……ふ~ん、oh淀さんかぁ……そうかぁ……ならアレだうん、まぁ……うん」

 

 

 大本営総務課大淀、言わずと知れた大本営のカーストの頂点、彼女がOKを出せば例え大将だろうが元帥だろうがそれは通ってしまうという影の支配者。

 

 その眼鏡の支配者がOKと言えば問題は無いのだろう、むしろその辺り詳しく聞くと胃粘膜が一瞬で蒸発するかも知れないと思った吉野は納得しておく事にした。

 

 そして夕張がボタンを再び押すと、床はパタンと音を立てて元通りになると同時に『ピンポ~ン』という音が玄関ホールに響き渡った。

 

 

「あ、誰か来たみたいですね、はいは~い、どうぞお入り下さ~い」

 

 

 夕張の案内と共にドアが開かれ、それと同時に某ファミ○ーマートのドアを潜った時に流れるあの音楽が聞こえてくる。

 

 普通なら何故軍事拠点に出入りするのにそんな物を流す必要があるのかと突っ込みを入れる処だが、ドアを潜ってきたモノ(・・)を見た吉野はそれすら出来ずにそれ(・・)を凝視するしか無かった。

 

 

 それは2mはあろうかという大きさの黒い棒、それが次々と計6本ドアから入ってきた。

 

 良く見るとそのチョコバット風な何かからは手足が生えており、それがトコトコと珍妙な動きで受付の前に整列する、とても不気味極まりない。

 

 

「ゴーヤは魚雷さんで、おりこうさんなのでち!」

 

「でち公ナニシテンノ!?」

 

 

 良く見ると黒い棒はチョコバットでは無く、酸素魚雷を模した着ぐるみの様だ、何故着ぐるみなのか、どうして魚雷なのか、何から突っ込んでいい物か判らないというか全て意味不明である。

 

 

「え、お泊り会はパジャマで来て下さいって言われたでち、だからみんなでパジャマ着てきたんでちよ?」

 

「パ……パジャマ? それパジャマ?」

 

 

 恐らくはでち公が無理やりお揃いでとそれを着せ、ここまで引っ張って来たのだろう、吉野の突っ込みに対しでち公以外の者は痛々しい表情で目を伏せ、顔を背けている。

 

 

「いやパジャマというか…… いやまぁ、うん、ごめん…… でも何でそれ着たままここに来た訳? 中で着替えればいいんじゃないの?」

 

 

 良く見れば彼女達は手ぶらで手荷物らしき物を持っていない、それはつまり自室からここまでチョコバットで移動してきた事になる。

 

 大本営潜水艦隊は執務棟内の"小さな鎮守府"に居を構えている、そこからは中庭を通り、食堂施設の前を経て、更にグラウンドを通ってやっと岸壁沿いのここに来れるのである、そこをこの着ぐるみを着て来たというのだろうか。

 

 

「あ~ それなんですが、羅生門の警備システムの内、画像認証システムは基地のメイン電源と直結になっててOFFには出来なかったんですよ~」

 

 

 そう言う夕張の説明では、画像認証システムが切れない為、急遽参加者の形状登録をする事になったのだが、そのシステムは顔だけでなく全身の形を参照するタイプの物らしく、その登録をする為のデータを揃えるのが時間的に無理があった為、参加者へ問い合わせてどんなパジャマを着て来るのかを確認し、更に明石酒保のパジャマカタログにあるパジャマの形状をデータとして登録する事で無理やりシステムをパスさせる事にしたという。

 

 つまりセキュリティに掛からずここに入る者は、強制的に着ぐるみ装備でなければならないという罰ゲームの様な有様になっていた。

 

 

「いやまぁ…… ごめんなさい、て言うかでち公さん、それパジャマって言うけど、そんなの着て寝たら体痛くない?」

 

「何を言ってるでち、寝れないパジャマってバカにしてるのでちか? ほら、ちゃーんとフワフワで寝心地抜群なのでち! ……あ」

 

 

 床に寝転びコロコロと転がるチョコバット、それがピタリと動きを止め、プルプルと振るえだした。

 

 

「……起きれないでち、ヘルプ」

 

「もーでっちダメじゃない、ほら今起こしてあげるから ……あ」

 

 

 横たわるチョコバットを取り囲み、、手を差し出すチョコバット達、しかし体を少し傾けた状態でそれは動きを止め、プルプルと震えていた。

 

 

「これ以上屈めない……」

 

「うんうん! 無いね! 無いと思います!」

 

「酸素魚雷って…すっごい!」

 

「いや君達、バカなの?」

 

「バカじゃないのね! こっちも必死なのね!」

 

 

 吉野の突っ込みに勢い良く振り向く泳ぐ18禁水母、そしてそれに薙ぎ倒され、パタパタと放射線状に倒れるチョコバット達、もう訳が判らない。

 

 

「黒光りしてるし…目が光ってるし…」

 

 

 結局横たわった黒い棒をサルベージし、奥の大茶室まで案内した吉野はまだお泊り会の準備段階だというのに精神が既に赤疲労に突入していた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 溜息を吐きつつ吉野が受付まで戻って来ると、そこにはまたワイワイと団体が到着しているようであった。

 

 赤いキツネにカラフルな色のインコ、どうやら大本営第一艦隊のアニモーが受付で名簿に記入しているようである。

 

 

「うわっ、目ぇ痛った!?」

 

「るっせ、好きで着てんじゃねーんだ、ほっとけ」

 

 

 七色なインコで眼帯のキャプテンが吉野の言葉に不機嫌そうに答え、プイっと横を向きながら奥へと消えていき、更に記帳を終えたのであろう異形がぞろぞろと百鬼夜行の如く列を成してこちらへ向かってくる。

 

 一応今日はお泊り会という名の女子会のはずなのだが、どこでどう間違ったのか、何故かこれからアニモーに酸素魚雷が散りばめられたサバトが大茶室で始まろうとしていた。

 

 其々参加者は吉野に挨拶と少しばかりの世間話を交わし、続々と奥へ消えていく。

 

 それを乾いた笑いで見送りながら、フと受付を見ると新たに二人の艦娘が受付で記帳をしている最中であったが、それを見た吉野は思わす『え~』と間抜けな声を挙げていた。

 

 

「黒豹です」

 

 

 吹雪が黒いアニモーな着ぐるみの姿でそう述べる、それは貴女では無く妹さんなのではなかろうか、そう突っ込みを入れようとした吉野の視界に、同じ形で色違いの着ぐるみを来た電が吹雪の横に並んでいるのが見えた。

 

 

女豹(めひょう)なのです」

 

「いやそりゃ豹の着ぐるみ着たらそうなんだろうけど、ちょっとそれ安易過ぎないかなぁ!? てか吹雪さん最近11番目の妹さんディスリまくってるけど何かあったの!?」

 

「いえ、一応自分なりにアイデンティティを駆使した格好でと思ったんですが、そうなるとパンツ一丁で執務棟からここまで来ないといけなくなってしまいますので、仕方なく」

 

「あぁパンツ…… いや、うん、その、ええ…… はい」

 

 

 確かにパンツキャラ付けされてしまった彼女に選択肢は無いのだろう、そしてパンツ型の着ぐるみというのは酸素魚雷なチョコバットより難易度的に無理があるのは確かだった。

 

 だからと言って人のフンドシで相撲を取るというのはどうなのだろう、いやパンツ的にフンドシはOKなのか、あれそれってどいう事なのかと吉野は混乱していた。

 

 

「……見たいですか?」

 

「……ノーテンキュー」

 

 

 真剣な眼差しでこちらを見る吹雪に吉野はとても真面目な顔でそう答える。

 

 その言葉に黙って頷くと、黒豹と女豹はシッポをフリフリさせつつ奥へと消えていった。

 

 二人を見送る吉野の後ろからは、新たな来客を告げる某フ○ミマな音楽が軽やかに流れ、ドアから二人の人物が現れた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「これに記入すればいいのだな?」

 

 

 大本営第一艦隊旗艦、大和型二番艦武蔵は受付テーブルにある帳面に達筆な文字で己の名前を書いていた。

 

 ピンクのウサちゃんの着ぐるみを着て。

 

 

「ええ、はい、ソウデスネ……」

 

 

 そう答える吉野の視線は、武蔵の横に並ぶ女性に釘付けになっていた。

 

 切れ長の目、武蔵と同じ武人然とした雰囲気ながらも、どこか女性的な部分が滲み出る女性、まさしくそれは……

 

 

「亀?」

 

 

 緑で甲羅を背負った着ぐるみの誰かであった、何故亀なのか、どうして亀が自分を凝視しているのか、亀とウサギ……そうか、そうなのかと謎ながらも吉野は納得していた。

 

 

「いや、時雨が随分と世話になっていると便りに書いていてな、いつかは話してみたいと思っていた、私は単冠湾伯地で艦隊総旗艦をしている長門という」

 

 

 武蔵の横の緑の亀は、元大本営第一艦隊旗艦であった長門型ネームシップ、戦艦長門だった。

 

 成る程、時雨の師匠で元第一艦隊旗艦の長門か、成る程と吉野は納得したが、何故亀なのかは全然納得していなかった。

 

 

「む? コレか? いや今日は明石の処で扱っている寝巻きを着ての集いと聞いてな、武蔵に頼んで酒保に付き合って貰ったのだが」

 

「ああ……成る程、しかし何故亀を……」

 

「うん? 何でもナウなヤングとやらはタヌキを、エスプリの効いたユーモアを見せたいなら亀だろうと薦められてな」

 

「明石にです?」

 

「ああ」

 

 

 ナウなヤンガーがどうしてカチカチ山で、オヤジギャグが何故ウサギと亀でエスプリなのかは判らないが、吉野はそっと懐から携帯を取り出した。

 

 

「もしもし明石酒保? あ、妖精さん? 自分自分、え? ケン・タカクラよりケンタッキーの方が好き? いや自分不器用ですからとか言わないからね? 自分第二特務の吉野だけど、うんそうその吉野、てか明石居る? え? 留守? どこ行ったの? え? 何故山に登るのか? そこでカップ麺が700円で売れるから? ナニそれ富士山なの? 山頂の山小屋ディスってんの? え? ナニ? うっそまじでぇ…… あそう…… そうなんだ…… うんそう…… そうなんだぁ……」

 

「そう言えばさっき何やらゴツイ登山装備でゴソゴソしていたな」

 

「マジでカップ麺行商に行ったのかアイツは……」

 

 

 渋い顔で吉野は頭をボリボリ掻きながらも、長門に自己紹介をして色々と世間話や時雨の近況について話を交わす。

 

 正しく軍人としての芯を持ちつつも、女性的な柔らかさを持つ長門は武蔵とは違った武人としての完成系を思わせ、吉野は自然と背筋を伸ばす姿勢になっていた。

 

 そして亀の着ぐるみを見て伸びた背筋が猫背になっていった。

 

 

 暫く三人は取り留めない話をしていたのだが、徐々に武蔵と長門は二人揃ってそわそわとした仕草をする様になる、何かあったのだろうか。

 

 その原因を聞いていいものかどうか判断は付かなかったが吉野は一応今回の催しのホストである、聞けば今回だけでは無く機会があればまた同じ事をするかも知れないと聞いているので、問題があるならそれを解決して次回の参考にするのも吉野の役目であった。

 

 

「えっと、どうしました? お二人共何かこう、そわそわしてらっしゃいますが……」

 

「いや、何と言うかこのウサギの寝巻きなのだが…… どうもまぁ、な……判るだろ? え? 判れよ貴様」

 

「ア、ハイ、ソウデシタネ、デハ奥ニドウド……」

 

 

 顔を真っ赤にした仏頂面のウサちゃんは堂々とした猫背でコソコソと奥に向かったが、緑の亀は何故かソワソワしたままそこから動こうとはしなかった。

 

 着ぐるみを来たお陰で長身である彼女の今の背は2mを超えるガ○ラの様になっているが、それがクネクネと身をよじらせ何かを言おうとしているのである。

 

 正直キモかった。

 

 

「あの……何か?」

 

「いや……、奥にその、時雨が居るのだな?」

 

「ああ、ですねぇ」

 

 

 恐らく久し振りに会うからであろうか、武人然としたこの艦娘、ビッグ7と言われた大戦艦であっても、妹の様に可愛がっていた時雨と久々に会うのに戸惑っているのだなと思うと、吉野は自然とホロリとした気分になっていた。

 

 

「それでだな、吹雪殿も電殿もおられるのだったな?」

 

「え、えぇ居ますね」

 

 

 何故か長門のクネクネ度が増した気がした、そして同時に吉野のホロリ度が急低下していた。

 

 

「後はその……、ぬいぬいも居ると聞いているが」

 

「……居ますね」

 

 

 吉野は思った、ここにナガモンが居ます、駆逐艦逃げてー、チョー逃げてー! と。

 

 そしてクネクネした緑のガメラはスキップしつつ微妙な空気だけを残して奥へ消えて行った。

 

 

 盛大な吉野の溜息と同時にまたファミ○の音楽が流れ、またかと振り向いた先にはジェンガっぽい何かを頭に乗せた某不幸戦艦姉妹がドアから入ってきた。

 

 その格好はいつもの格好で着ぐるみは着ていなかったが、何故か手には飛行甲板が装備されている。

 

 

「あ、いらっしゃい、すいませんが参加者の方はお手数ですがそこの名簿にお名前を記入して頂けます?」

 

 

 吉野はそう言うと二人を受付へ誘導しつつ、いつの間にか夕張の姿が無い事に違和感を感じていた。

 

 

「あれ、確かパジャマ着てないとセキュリティが反応するんじゃ無かったっけ?」

 

 

 その言葉を聞いたジェンガ姉妹は、揃って飛行甲板をスッと持ち上げ優しく微笑んだ。

 

 

「ええ、これがパジャマですけど?」

 

「え…… それ飛行甲板…… え? パジャマ?」

 

「ついでに枕も持って来たわ」

 

 

 そう言いつつ二人は右手に持った瑞雲を吉野に見せ付ける。

 

 

「んんんん? それ瑞雲ですよね、てかプルプルプロペラ回ってますけどそれ頭の下に置いて寝るんです?」

 

 

 訝しみながらそう聞く吉野の耳に、新たな来訪者を告げる○ァミマのテーマが聞こえてきた。

 

 

「そうだ、艦載機を放って突撃。これだ…」

 

 

 その言葉を聞き終わるか否かの瞬間、吉野は受付テーブルの上の早押しボタンをア○ック25の回答者ばりのオーバーアクションで叩き押した。

 

 パカンという音と共に開く床板、勝利を確信した吉野は次の瞬間驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

「う……浮いてるだとぅ……」

 

 

 そこには穴の上でふよふよと浮いている伊勢型二番艦がドヤ顔をしている姿が目に飛び込んできた。

 

 

「まさかの航空戦艦の時代か?」

 

「いや航空戦艦って空飛ぶ戦艦の事じゃないからね!? むしろ何で飛んでるの!?」

 

「瑞雲とかって、どうかな? いける?」

 

「何だと!? 四方を囲まれただと!? って言うか四人でそのプロペラプルプルを何するつもりだヤメロヤメテいっやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 こうして第二特務課主催のお泊り会はホストの悲鳴によって幕を開ける事になり、好評を博したこの集いはある意味大本営の艦娘の間では名物的な催しとなるのはまた別の話である。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海に揺らめく鴇色(ときいろ)の火

前回までのあらすじ

 第一回、第二特務課主催着ぐるみサバト開催、そして何故か瑞雲に襲われる提督であった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


(※)今回はぬいぬいのお話です、前回とは違いギャグ無しの話です、そちらをお求めになられる方はスルー推奨です。


 

 第二特務課は現在捷号作戦(しょうごうさくせん)の次段階に備え準備に入っていた。

 

 まだ確たる命令は発令されてはおらず、課に所属の艦娘達には先がどうなるか判っていなかったが、課長である吉野三郎中佐(28歳独身丙提督)は色々何か画策しているらしく、秘密基地と執務棟を行ったり来たりしては執務室で唸りながら書類と睨めっこをしている。

 

 通常業務での打ち合わせや確認等なら足を運ばなくとも内線での話で事足りるはずだが、そうしないのは恐らく機密性が高い物を取り扱っているのと、それを話す相手が直接お伺いを立てねばならない程上位の者だからだろう。

 

 

 そんな吉野から現在課の者に通達されている業務内容は、課の者が連携しての立ち回りと役割を決めた状態での戦闘訓練。

 

 それだけ聞けば何の事では無い当たり前の物に聞こえるが、現在この第二特務課は深海棲艦との接触や交渉をこなし、尚且つその相手と行動を共にしている。

 

 更に取り敢えずであるが引き続きそういった物を扱う事が確定している現在、与えられた業務が戦闘訓練という事は、この先想定される戦闘は少なくとも交渉が可能な程高度な知性を持つ上位個体との物になる可能性があるという事になる。

 

 

 今までは目的も無く、雑務の様な事しかして来なかった彼女達は明確な目標を与えられ、更にそれが海域攻略の中心になる艦隊並みの働きを要求されるとあってかなりハードな訓練をこなしていた。

 

 元々吉野自体、艦隊戦のセオリーを押さえてはいたが、実際の処艦隊指揮の経験がほぼ皆無な為訓練の内容自体は各々に任せた物になり、色々な問題点や相談は業務終了時に報告という形で聞き、都度話し合いをするといった形になっていた。

 

 

 そんなある日の午後、既に日課になりつつある執務棟(もう)での帰り、吉野は第二特務課秘密基地より少し先の突堤で一人佇む艦娘の姿を見つけた。

 

 

 桜色の髪を短くポニーテールに纏め、陽炎型駆逐艦特有の黒い服に、風にはためく短いスカートからはスパッツの裾が見えており、両の手には白い手袋。

 

 背に負ったコンパクトに纏められた艤装には武装が載っておらず、代わりに各種索敵機器を満載したその姿は遠目からも誰だかすぐに判る。

 

 

 ()を陽炎型二番艦不知火。

 

 

 彼女は突堤の先で目を閉じ、それでもじっとしてる訳ではなく、何かに集中しながら電探を小刻みに調整し、見えない何かを確認しては同じ事を繰り返している。

 

 目を閉じた彼女には電探が捕らえられる範囲の動く物全てが俯瞰(ふかん)された状態で見えて(・・・)おり、それが何なのか、どう動くのかと確認と予想が目まぐるしい速度で、それも複数同時に行われていた。

 

 それはまるでチェスの盤上に乗る駒を眺めている様であり、次にその駒がどう動くのかを予想する指し手の如く思考を巡らせる。

 

 場所は海軍の中枢である大本営、航行する一般船舶の数も艦娘の多さも彼女が以前いたラバウル基地より遥かに多く、彼女にとっての"戦闘訓練"を行うにはは非常に好都合で、且つそれは濃密な物になっていた。

 

 

「索敵訓練かい? 精が出るねぇ」

 

「はい、前回の作戦では不覚を取ったので、その反省を踏まえ一から訓練をやり直しています」

 

 

 吉野が声を掛け、それに不知火が応じつつも電探の操作は止まる気配が無い、この辺りのマルチタスクな動きは彼女の得意分野であり、他の者は真似する事が難しい彼女のみの能力であった。

 

 そんな不知火に関心しつつも、帰ってきた言葉に吉野は思わず苦笑いの相を表に出した。

 

 『不覚を取った』、それは南鳥島にて(空母棲鬼)が出現した際、それを彼女が捕らえたのは電探の索敵可能範囲の遥か内側であった。

 

 艦隊の目としての役割を与えられていたにも関わらず、肝心な部分で自分は役に立てずに初動が大きく出遅れてしまった、彼女はそう理解し、それに責任を感じていた。

 

 この件に関して不知火は海戦が終了し、大本営へ帰港する間に吉野の元へ訪れ、任務遂行時の失態に対する処罰を求めてきたのだが、それに対する答えは今と同じく苦笑いと処分無しの言葉。

 

 不知火は何故自分のミスに対するお咎めが無いのかと半ば吉野へ食って掛かったが、それに対して帰ってきた言葉が『ミスなんてしてないのに何を処分すればいいの?』だった。

 

 

「司令が何を仰ろうとあれは間違い無く不知火の落ち度です、ならば二度と同じ失態を繰り返さないよう備えるのは当然の事です」

 

「ふむ、不知火君はアレが失態だと今も思ってるんだ?」

 

「当然です、何がどうあったとしても結果的に不知火は敵の接近を感知出来ませんでした、これを失態と言わず何と言うのです?」

 

「……そっか、何と言うか、今の君を見ていると哨戒任務を任せるにはちょっと不安が残る感じがするね」

 

 

 責められはしないが、自分の唯一出来る事、しかも他の者より遥かに上手くやれると自負している物に頼りないという評価を受け、不知火は少なからず落胆をした。

 

 そのせいか今まで流れるように操作をしていた電探の動きもぎこちなくなり、見えて(・・・)いた物の動きも読みきれなくなっていく。

 

 

「あの時君は自分の指示で島の西側に居た、そして(空母棲鬼)さん率いる艦隊は東側から来た」

 

「はい」

 

「そしてその敵艦隊は水上を航行して来た訳では無く、水中から現れた(・・・・・・・)

 

 

 深海棲艦、その存在は字面(じづら)だけでなく、全ての艦種は水中を航行する事が可能である、海の底からやって来る存在、だから深海(・・)棲艦と呼ばれている。

 

 しかしそんな能力がありながら、その異形が艦娘との戦闘が予想される海域で水中での移動をしているのを確認されるのは稀である。

 

 何故なら水上とは違い、水に潜った深海棲艦は潜水艦を除き航行速度が著しく低下する、そして浮上速度も遅く、更には水中での攻撃手段を持たない。

 

 これは艦娘側から見れば反撃の心配も無く、ノロノロと移動する的を一方的に攻撃するチャンスである、もし対潜装備が無くとも浮上時に優位な状態で取り囲み、相手を潰すのが容易な状況になるのは間違いない。

 

 それ故深海棲艦は艦娘と相対する可能性のある海域では水上を移動する、それが普通であり常識となっている。

 

 

 しかし(空母棲鬼)はそうしなかった、浮上の時間を逆算し、気付かれるれる距離ギリギリまで南鳥島へ水中を移動してきた。

 

 

 その時不知火は吉野が言う様に島の西からの(・・・・・・)索敵の指示を受けていた、不知火から見て島を挟んで東を潜航し近寄ってくる物体は例えソナーを持っていたとしても感知し様が無い(・・・・・・・)

 

 ソナーは音波を水中に放ち、物体から帰ってきた物を拾う事で相手の位置を探り出す装置である、島を挟んだ向こう側に索敵は出来ない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「物理的にそうであってもその事を進言し、可能性としての危機を知らせるのも不知火の役目だと思っています」

 

「それを言うなら、幾ら指揮経験が無い無能と言っても、その可能性を示唆しなかった責任は自分にある、なのに君は何の落ち度も無い部下に責任を押し付ける愚行を自分にしろと?」

 

「いえ、司令は艦隊全てを掌握し、戦略を練るのが役目です、不知火の仕事はその為の情報を的確にお伝えする事だと思っています」

 

 

 双方の言う事は尤もだが、限られた時間と刻々と変化する戦況に対し理想的な動きなどそう取れる物では無い。

 

 

「君の能力と、分析から得られる高い精度の情報は得難い物だと思うよ、でもね……」

 

 

 いつもの癖でボリボリと頭を掻き、頑として己の意見を曲げない少女に対し、酷く悲しげな目で見つめ、言い聞かせる様に吉野は言葉を続ける。

 

 

「それでも自分は指揮官なんだよ、矢面に君達を立たせ、血を流すのを強いている、そんな自分が君達に対して報いる数少ない事の内の一つ、それは艦隊の指揮を執り、その全てに責任を負う事なんだ、なのに君はその仕事を自分から取り上げると言うのかな?」

 

「いえ、不知火にそんなつもりは……」

 

 

 その言葉に動揺し、思わずスカートの裾を握り締める少女。

 

 その瞳は見えないまでも声色でその主の心情は汲み取っていた、なまじ見た目より内面を読んでしまう彼女はそれすら自分の責任と己を責め始めていた。

 

 

「今の君に必要なのは、より一層高みを目指す"足し算"じゃない、起こってしまった事を後悔として引き摺らず、すっぱりと捨ててしまう事の出来る"引き算"だと自分は思う」

 

「……引き算、しかし失敗から学ぶべき物は多いです、それを捨てろ……忘れろというのは納得いきません」

 

「失敗から学ぶのは確かに大切だけどね、君はそれに対して余りにも意味を持たせ過ぎている、そのやり方は、後悔はいつか君を殺す事になる、そんな状態で君に責任を負わすのは、とても不安が残るんだよ」

 

 

 今にも泣き出しそうな少女の頭に手を添えて、暫く黙ってその頭を撫で続ける。

 

 作戦実行に際して急遽編入されたこの少女、彼女を知るため観察を続け、同時に前任地の指揮官にも話を聞いていた。

 

 

 生まれ付き視力が弱く、ほぼ物が見えない状態であった為、解体を自ら進言した彼女に対し指揮官はそれを認めず、生きる道を探せと命令を下した。

 

 それに答え、必死にもがき、姉妹の助けの下彼女は他の者に無い唯一の力を手に入れた。

 

 しかしそれ故自分の仕事には過剰な程の責任を感じ、自らを追い込む癖がある事。

 

 その為前任地の指揮官は敢えて彼女の能力が有用なのにも関わらず、前線へは出さずに船舶護衛専任にしていたという。

 

 

 そんな不知火という少女、吉野は能力がある故にそれに(すが)り、そしてその能力故に追い立てられて常に不安を抱えている、彼女を見てそう感じていた。

 

 

「君は目に見える結果を出していないと不安があるんだろう、そして誰が君を認めてもその不安は消えないんじゃないかなとは思う」

 

 

 頭を撫でられながら、不知火は無言のまま僅かに首を縦に振る。

 

 

「昔ね、大本営の第二艦隊に対潜のエースと呼ばれたスペシャリストが居たんだ」

 

 

 いきなりそんな話を振られ、不知火は戸惑いつつもその話を黙って聞く事にする、その無言に先を促す物だと思った吉野は話を続ける事にする

 

 

「そのエースさんはね、特別な装備なんかしてないのに、他の人よりも多くの戦果を上げていた、どんな状況でも常に冷静な判断を下し、勝利に大きく貢献してきた、そんな彼女にある日僚艦の一人が聞いたそうだ、何故そんな的確に敵を捕らえる事が出来るのかと」

 

 

 大本営でもエースと言われる程の艦娘、その実力は間違い無く一流の物であり、そんな艦娘の技術に周りが興味を示すのは当然の事だろう、不知火でさえその話に引き込まれ耳を傾けていた。

 

 

「その僚艦に対して彼女はこう答えたらしい、 『自分の限界を知り、出来る事と出来ない事を常から把握しておく事、そうすればやるべき事に迷う事は無い』 って」

 

 

 その言葉に不知火は共感を覚えた、何故なら自分の限界を常に把握するという行為は、常に自分を追い込んだ先にしか見える物でしか無く、努力という行為を常に自分の内側に向けていないとならないからだ。

 

 それは今の不知火が常とする生き方であり、それを以ってエースとまで呼ばれる様になった艦娘へ対し、尊敬と羨望の念を抱くには充分な話である。

 

 

「常に戦果を上げ、仲間を水底(みなぞこ)からの脅威から守り続けた彼女は周りから当然頼りにされていた訳だけど、逆に彼女自身は常に恐怖と焦りに(さいな)まれていたらしいよ」

 

「え……戦果を上げていたのにですか?」

 

「うん、なまじ頼りにされている分失敗は許されない、そして自分の限界を知っているからこそ、より限界の枠を広げようともがいていたそうだ」

 

 

 不知火はこの話を聞いて理解した、恐らくこれは単なる先達の話では無く、吉野が今の自分に向けて何かしらの事を伝えようとしている物なのだと。

 

 

「ある日、いつもの如く定期的に行われていた海域一掃の任務に出た際、作戦海域周辺の天候が事前に予想された物とは違って大きく荒れた物になったらしい、時化(しけ)た海ではまともに陣を展開する事も難しく、作戦遂行も困難な状況と判断された頃には手遅れでね、索敵がままならないせいもあって、運悪く彼女達は潜水艦に包囲された状況になっていたそうだよ」

 

 

 時化(しけ)た海は確かに索敵は難しく、体勢が安定しない状況ではソナーの音を拾うのは困難である、水上艦にとっては危機であるが逆に海の底から狙う者にとっては絶好の機会となる。

 

 

「で、その艦娘さんはその状況を分析した結果、どうにもならないと判断したらしい」

 

「どうにもならない……ですか、それでその後はどうなったんです?」

 

「自分を囮にして他の艦を逃がす事にしたらしい、自分の限界を知っている、それを基準に考えて導き出された答えがそれで、そうする事が最善と判断したらしい、そうして彼女はわざと敵へ派手な攻撃を加え注意を自分へ向けさせ、止めに入る仲間を振り切って、単艦でその場から敵を引き離し犠牲を最小限にしようと行動したそうだ」

 

 

 不知火は思った、そんな状況になり、そして敵を自分に引き付ける事が出来るなら自分だって同じ事をするだろう、同じ沈むなら数は少ない方がいいに決まっている。

 

 

「そんな事をすれば彼女は只では済まない、大破し轟沈一歩手前、それでも結果としては生きて大本営に戻ってきた」

 

 

 時化(しけ)た海での対潜戦闘を単艦行い、それでも沈まず戻ってきたという話を聞いて不知火は驚いた、そんな絶望的戦いを繰り広げたにも関わらず生還出来たのかと。

 

 そんな不知火の顔を見て、吉野は苦笑しつつも事の顛末を話し出した。

 

 

「結局の処、彼女はある程度敵を沈める事には成功したけど、最後に彼女を救ったのは逃がしたはずの僚艦であり、撤退途中に合流した他の艦隊員達だったというオチなんだけどね…… 彼女は他の艦より自分が対潜に於いて優秀だと知っていたし、その限界も熟知していた、それらを基準に状況を判断し、即断即決で動いた、なまじ責任感が強いが為に自分を餌として迷わず敵へ差し出した(・・・・・・・・・・・・・・・・・)のさ」

 

 

 死と直面した時、平時より自分の限界を超えた事態の事を想定し、それを常に覚悟していたその艦娘は迷わず行動を起こした、それは間違いとは言えないが、同時にそれは他に存在するかも知れない可能性を全て切り捨てる行為であり、艦隊としての有体を壊す事に他ならない。

 

 それがもし正解だとしても、その前提に誰かの犠牲を伴うのを吉野は否定する、そしてそれは彼女と共に居た僚艦達も同じ気持ちだった。

 

 

「あの時もう少し誰かを頼っていれば、一人で全てを背負い込まずに自分が艦隊の一部だと認識していれば、多分別の、もっと良い結果が生まれたかも知れない、結局あの時自分は敵では無く自分を相手に戦い、そして負けたんだと、彼女はそう言ってたよ」

 

「自滅……」

 

「言い方は悪いけど、そういう事だろうねぇ、不知火君、責任ってのは背負う物だけど、過度にそれを意識して、己が縛られるのはちょっと違うんじゃないかなと自分は思うんだけど、どうだろうか?」

 

 

 頭を撫でられつつ、不知火は吉野の言葉を一つづつ咀嚼していく。

 

 全てに納得いく訳では無い、少し話をした程度で心変わりする程彼女の抱えている問題は軽い物では無いからだ。

 

 それでも幾つかは納得する部分もあり、吉野が自分に対してどう評価をしているのか、そしてそれに対して自分はちゃんとした答えを返したいという想いを抱くようになっていった。

 

 そしてそれと同時に自分と同じ考えで戦い、最後には答えを出した艦娘が居るのだという事に不知火は興味を示した、その艦娘の話をもっと聞けたなら、もしかしたら今以上に自分はこの艦隊に、司令に貢献出来るのでは無いだろうかと。

 

 

 撫でられる手は無遠慮だったが何故か心地良かった、それは恐らく言葉以上に目の前の人物が自分を思っているのを理解出来るからだろう。

 

 上官と部下ではあるが、その関係を含めた見方をしても、この人はちゃんと"不知火という艦娘である自分"を見てくれている、それが撫でる手を伝い感じる事が出来た。

 

 まるで子ども扱いされているにも関わらず、彼女は黙ってその手のぬくもりを感じていた。

 

 そして暫く後、吉野が話した第二艦隊に居たという対潜のエースについて不知火は聞いた、その彼女は生還したとの事だが今は何をしているのかと。

 

 

「あぁ、彼女の艤装は損傷が酷くてね、妖精さんもお手上げで結局原隊復帰にはならなかったよ」

 

「そうですか……」

 

「でも彼女は自分の能力を生かし、海に出る仲間をサポートする道を選んだ」

 

「!? まだその方は大本営にいらっしゃるんですか? 司令のお知り合いなんですよね?」

 

 

 不知火の言葉に吉野は首を縦に振り、ニヤリと笑って不知火の質問に答えた。

 

 

「元大本営第二艦隊所属、対潜のエースと呼ばれた彼女は今ウチに所属している、何か聞きたい事があるなら聞いてくればいい、彼女……夕張君なら今は確か工廠にいるはずだ」

 

 

 夕張型一番艦、軽巡洋艦夕張

 

 元大本営第二艦隊所属、後に自ら工作艦としての改修を施し兵装調整用試射場管理者となり、今は第二特務課所属の兵装及び施設管理をしていた。

 

 彼女が残した対潜戦闘による撃沈スコアは今も尚破られる事はなく、大本営所属の者は今だに彼女の事を"対潜の夕張"と呼ぶ者も少なくないという。

 

 

 いつもは吉野と漫才のようなやり取りを交わし、周りからダメ軽巡の烙印を押されている彼女。

 

 そして南鳥島では戦闘には参加出来ない己の事をサラっと『こんな状態なんでごめんねぇ』と称した彼女。

 

 その昔、己の身を迷わず敵へ晒す程の覚悟を持って戦っていた彼女。

 

 そんな彼女は自分に出来る事で今尚艦隊を支え、そして好きな事をして、目一杯自由奔放に生きていた。

 

 

 夕張が生きて生還を果たしたのは運の要素が大きく関わった結果だと吉野は思っている、そして夕張本人もそれは認めていた。

 

 そして今目の前に居る不知火、彼女もまた昔の夕張と同じく、自分の背負った物の重さを理解しないまま戦いに身を投じようとしていた。

 

 このまま戦い、もしギリギリの選択に迫られた場合、そしてその責任の強さ故己の身を敵へ晒した場合、夕張の時の様に幸運が救ってくれる可能性は殆ど無いだろう。

 

 

 その事を言葉として伝えても、理解してくれるかどうかは判らない、ゆっくりと理解して貰うにしても、現状の第二特務課にはその時間が余りにも無さ過ぎる。

 

 

「生き方を変えろとは言わないけれど、"最後の一線"を判断する状況になった時、恐らく今の君では危ういと自分は思うんだ、だからさっき 『今の君に哨戒任務を任せるにはちょっと不安が残る』 と言ったんだけど……」

 

 

 吉野は言葉を続けようとしたが、それは口から出る事は無かった、何故なら

 

 

「不知火は不器用で、目が良く見えないにも関わらず、目先の事しか見ていなかった様です、司令、まだ不知火は自分の答えを出せていませんが、貴方の為に忠義を尽くし、必ず暁の水平線へ勝利を刻む為のお力になる事を誓います」

 

 

 そう言葉を紡ぎ、少女は自分の頭を撫でていた手を掴み、それを己の頬へ持っていったから。

 

 

 彼女は思った、例えこの先結末がどうなろうとも、自分にはやるべき目標が出来たのだと、それがどんな物であっても、今までの形が見えなかった不確かな物では無く、はっきりとそこにある物として認識された、それはこんなにも暖かい物なのだと。

 

 見る事が困難な変わりにそれを肌で確かめ、そして心に刻んだ。

 

 

「もしもこの先不知火に何か落ち度があった時は、遠慮なく仰って下さい司令」

 

「ああ……、うん、こっちこそ宜しく、ぬいぬい」

 

 

 最後の最後でぬいぬいと呼ばれた桜色の髪の少女は、少し不満げに頬に添えた手をつねりつつ、こう述べたのだった。

 

 

 

 

「不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです。」

 

 

 





 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

朝ごはんだよ! 全員集合!

前回までのあらすじ

 ぬいぬいデレる、吉野中佐ロリ疑惑浮上、そして何気に凄い経歴のメロンさんであった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2018/03/01
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたじゃーまん様、有難う御座います、大変助かりました。


「あら? 提督ちょっと髪伸びました?」

 

 

 0630第二特務課秘密基地

 

 その二階食堂兼リビングにて、朝一番朝食を全員で採りつつ諸々の予定などを話していた最中、吉野の向かいに座っていた妙高が、箸でつまんだ茄子を差し出しつつ首を傾げそう言った。

 

 10人は座れるだろう丸いテーブルには朝っぱらから山盛りの肉ジャガだの、大皿に盛られた茄子の揚げ浸しなどががちょっとした食堂並みに並べられており、各人の前には茶碗や丼と共に味噌汁の椀と、おかずの取り皿が並べられている。

 

 茄子やジャガ、ウインナーといった差し出されたおかずを順に食べながら飯を自分で食う、食事の時、吉野の前にあるおかずの取り皿はいつも未使用というのが当たり前になってしまった光景はちょっとアレだと思うが、順応しなければ色々危険なので仕方が無い、主に吉野の命的な意味合いで。

 

 

「あ~ 最近忙しくて切りに行ってないなぁ、そんなに伸びた?」

 

「言われてみれば、って程度だと思うけど、いつも一緒じゃない人から見たらすぐ判るかも」

 

 

 はい、と甲斐甲斐しくもほぐした鮭を吉野の口に放り込みつつ、時雨はまじまじと髪を観察する。

 

 その会話を聞いて周りの者も一堂に吉野の頭を見て、同じ事を思ったのかうんうんと首を縦に振っていた。

 

 

 吉野の普段の髪型といえば、長過ぎず短過ぎず、七三でも無ければオールバックでも無い、とても中途半端で形容のし辛い物になっていた。

 

 これは一応ではあるが、意図してそういう髪型にしていた、元々は諜報に携わっていた関係で、平時では人の印象に残らない無難な形で、少し触ればどんな髪形にもし易い様にとの事でそんな髪型にしていたのであるが、流石にもう目立たぬ様にとか言ってられない立場であり、それ以上に色々と忙殺される毎日である為、手入れを疎かにしていた結果、僅かばかりではあったが髪が目立つ程に伸びていたようだ。

 

 

「う~ん、そっか、じゃ今日昼からちょい時間空けれそうなら切ってこようかな」

 

 

 むぐむぐと茄子を咀嚼し、榛名に差し出された味噌汁の椀をすすりつつ、口の中の物を飲み込むとそう呟いた、吉野の顔周辺は食べ物やら椀やら鈴生(すずな)りで、ヘタに顔を動かすとちょっとした惨事になりそうな雰囲気である。

 

 

「提督、もし良ければ私が髪を整えましょうか?」

 

「え? 妙高君散髪とか出来る系の人?」

 

「はい、前任地では染谷司令の髪は私が整えておりましたので、もし提督が宜しいと仰るなら……」

 

 

 成る程、それならわざわざ外に出る手間も無いし、頼んでみるのもいいかと吉野は思ったのだが、その時フと以前話した染谷文吾少将の顔を思い浮かべだ。

 

 あの時見た染谷の髪型、全体的にチリチリで、何と言うかモミアゲまで丁寧にチリチリで、貴方どこのサブちゃんですか競馬場で神輿(みこし)に乗って祭りだ祭りだと歌う人ですかと言いたくなる様な髪形をしていた。

 

 要するにパンチ、モミアゲまでびっちりの。

 

 

「妙高くん…… ちなみに君が使う道具にこう…… 髪挟んでクルクルしちゃう電気コードが繋がったブツとかあったりする?」

 

「え? はい6mmから2.8mmまで取り揃えていますから、頭の形が多少歪んでいても見た目バシッと決める事が出来ますよ」

 

「そ…… そうなんだぁ…… それは本格的だねぇ」

 

 

 何がどうバシッと決まるのかは謎なのだが、このままお任せすると自分の頭は奈良の大仏さんみたいになってしまう、しかし折角気を利かせて整髪を買って出てくれている妙高を無下にする訳にはいかず、吉野は梅干をかじりつつ顔を歪めた。