機動戦士ガンダム Mirrors (ウルトラゼロNEO)
しおりを挟む

プロローグ─夢の舞台─

 

「はぁっ……!!」

 

 ドーム型の装置の中で一人の少年が汗を流し、息苦しそうに息を切らしていた。その様子からは疲労感をも伺わせる。

 彼の目の前に見えるモニターにはどこまでも広がるような星々が輝く宇宙が広がっていた。だが実際に少年が宇宙空間にいるわけではない。

 

 ──ガンプラバトル

 

 アニメ【機動戦士ガンダム】……及びそのシリーズに登場する人間型有人機動兵器・通称モビルスーツ、大型機動兵器・モビルアーマー、そして艦船などを立体化したプラモデルであるガンプラを用いたゲームである。

 

 ガンプラバトルシミュレーターと呼ばれるドーム型の機械に乗り込み、組み立て済みのガンプラをセットする。するとそれは完成度を含めてデータ化され、制作されたジオラマ上にホログラム投影されるのだ。

 ビームや爆発などもエフェクトで再現され、今では思い思いにガンプラを改造し、かつてのガンプラブームを思い出させるような大ブームを巻き起こし、日々自慢のガンプラを使った誇り(プライド)をぶつけた戦いが行われている。

 

 ガンプラバトルシミュレーターの開発も進み、GPと呼ばれる使用者であるガンプラファイターが持つガンプラのデータが入った端末内のプログラムやアセンブルシステムの改良なども勝利の分かれ道といわれるほどだ。

 

 ここで息を荒げる少年……雨宮一矢もガンプラファイターの一人でガンプラ及びガンダムに情熱を持つ少年だ。

 彼は汗に濡れた手で操縦桿を握りながら目を動かしモニター越しの周囲を伺う。警戒をしているのだ。なにを? 決まっている。今、この場で戦っている相手をだ。

 

 既に自分と共に出撃した仲間は撃墜されてしまった。

 残るのは自分だけ。だが自分も奮戦した甲斐あって、敵チームも後一機だけだ。

 

「……!」

 

 ゴクリ、と息をのむ。

 空を駆ける一筋の流星が見えた。対戦相手のモノだろう。

 白騎士のようなガンプラがこちらに真っすぐ向かってくるのを確認すると、すかさず装備しているマシンガンを発砲し、周囲にばら撒く。

 

「……っ!?」

 

 だが甘かった。

 それが当たるわけもなくあっという間に接近を許してしまった。

 白騎士のガンプラが手持ちのビームライフルライフルを投擲し、すぐさまバルカンで撃ち抜くことで爆発させる。一矢の見つめるモニターにはビームライフルが爆発したことによる硝煙が覆ってしまった。

 

 煙の中から相手のガンプラが飛び出した。

 一矢がそれを認識する頃には既に自分のガンプラは上半身と下半身が真っ二つに切断されてしまい、爆発する。

 

「……」

 

 負けたのだ。自分の集中力はとっくに切れていた。

 彼の中では悔しさだけが残る。

 このチーム戦はジャパンカップ決勝戦。これに勝てば世界大会にも進出、出来たのだ。

 

 きっと誰かは言うだろう、ジャパンカップの準優勝でも凄いと。

 

 だが人間は欲深いものだ。

 一矢もジャパンカップは夢の舞台だった。

 

 だが世界に届くかもしれない。

 そんな希望があればそれを望んでしまう。夢の舞台の更に上に行きたかった。

 

 一矢は世界に挑戦したかったのだ。

 まだ見ぬ強敵達に挑戦したかった。

 だがそれはこの戦いで叶わぬ夢となってしまった。

 

『君と戦える日を楽しみにしてる』

 

 なにより強くなりたかった。

 自分にガンプラの楽しさを教えてくれた憧れの人に挑戦したかったから。

 今の自分ではあの人には届かない。だからこそ強くなりたかったのだ。

 

「負けちゃった、ね……」

「雨宮とだったら世界大会にも行けると思ってたんだけどなぁ……」

 

 ガンプラバトルシミュレーターを出た一矢はチームメイトと顔を合わせる。

 元々自分は同じ学校の彼らにスカウトされこのチームに身を置いていた。彼らは学校内で無類の強さを持つ一矢を見出していたのだ。

 

 いってしまえば一矢はこのチームのエースだったのだ。

 そんなエースをスカウトしてまで臨んだジャパンカップで敗北した事でチームメイト達の表情は暗い。彼らは信じていた。一矢がいれば優勝できると。

 

「……ッ」

 

 チームメイト達の言葉に悪意はない。

 純粋に残念であり悔しいのだろう。だが二人のチームメイトの言葉は一矢の心に突き刺さる。やがて一矢の表情はどんどん暗いものとなっていった。

 

 だがこの言葉はここだけで聞くわけではなかった。

 彼らの敗北は一矢の実力を知る学校の知人達にまで広がる。

 

 雨宮が負けた

 

 雨宮なら勝てると思ってた

 

 雨宮だったらって信じてた

 

 そんな言葉がずっと一矢の耳に届く。

 やがてそれはチームを引退し、彼の心を閉ざす原因になるのだった……。

 

 




雨宮一矢

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いただいたオリキャラ&俺ガンダム まとめ

タイトル通り、いただいたオリキャラと俺ガンダムをここに纏めようと思います。
こちらに関しては流石に一気には無理なので随時更新していきます。


<第一章>

 

トライデントさんよりいただきました。

 

キャラクター名 根城秀哉(ねじろしゅうや)

性別 男

家族構成 母,弟,妹

容姿 身長 175cm

   髪 黒髪ロングヘアー

   目 黒

年齢 主人公より1つ上

性格 荒い言葉を使うが、仲間を想う気持ちと立ち向かう勇気は誰にも負けないものを持っている。

設定 父親を早くに亡くし、その父の最初で最後の誕生日プレゼントであるガンプラを形見としている、シングルマザーである母親を少しでも支えるために普段はバイトの日々、ガンプラ大会には弟や妹を元気付けることも目的の1つ(ビルドファイターズトライのシモンと似ている)

 

ガンプラ名 パーフェクトストライク・カスタム

 

WEAPON フラガッハ3ビームブレイド

WEAPON 57mm高エネルギービームライフル(ノワール)

HEAD ストライクガンダム

BODY ストライクフリーダム

ARMS パーフェクトストライク

LEGS ストライクノワール

BACKPACK パーフェクトストライク

SHIELD 本体キャニスター(パーフェクトストライク)

拡張装備 なし

 

オプション装備

イーゲルシュテルン

コンボウェポンポッド

マイダスメッサー+パンツァーアイゼン

アグニ

シュベルトケベール

ビームライフル・ショーティー

カリドゥス復相ビーム砲

ビームサーベル

 

カラーリングは全てストライクカラーです。

 

 

キャラクター名 姫矢一輝

性別 男

家族構成 父,母,弟

容姿 身長 180cm

   髪 全体的に黒髪だが少しだけ茶髪

   目 黒

年齢 21歳

性格 心優しい青年で一人称は僕、ごく普通の家庭で育ち、ごく普通な生活を過ごし現在大学四年生、小さい頃に川で溺れたときに助けられたこともあり、将来はレスキュー隊に入ろうと思っている、根城家とは秀哉が小さい頃からの付き合い

 

ガンプラ名 ガンダムストライクチェスター

 

WEAPON ビームサーベル(ウイング)

WEAPON ビームマグナム(ユニコーン)

HEAD ZZガンダム

BODY ガンダムヘビーアームズ

ARMS ガンダムヘビーアームズ

LEGS ガンダムヘビーアームズ

BACKPACK ブラストインパルス

SHIELD シールド(エピオン)

拡張装備 プロペラントタンク×2

     ビームキャノン×2

 

オプション装備

ダブルバルカン

胸部ガトリング砲+マシンキャノン

マイクロミサイル

ケルベロス+4連装ミサイルランチャー

ホーミングミサイル

デリュージー超高初速レール砲

ディファイアントビームシャベリン

ビームキャノン

 

カラーリングは青と紺を基本としたものです

 

好きなMS

 

根城→ストライク

彼の父親がくれたプレゼントがエールストライクのガンプラだったから、それは今のパーフェクトストライク・カスタムにも受け継がれている。

 

姫矢→ガンキャノン

ガンキャノンというよりは、パイロットのカイ・シデンが好きだからというのが理由、テレビや映画の『哀戦士』での彼の成長に心打たれたのが理由だとか、一応言っておきますが彼にあっちの気はありません、LIKEの方です。

 

 

ライダー4号さんよりいただきました。

 

杜村 誠

ガンダムユニコーンFD

 

ユニコーンガンダム

WEAPON ビームマグナム

WEAPON ビームサーベル

HEAD ユニコーン

BODY  バンシィ

ARMS  バンシィ

LEGS  ユニコーン

BACKPACK ディスティニー

SHIELD  ユニコーン

拡張装備 フラッシュエッジ2

アロンダイト ビームソード

高エネルギー長射程ビーム砲

ビームライフル

切り札:NT-Dと光の翼の同時併用

 

 

年齢:19歳

近畿圏から新学のため主人公の住む街に来た丸顔の穏やかな性格の青年。ガンダム作品はほぼスパロボやGジェネ、ノベル版で知ったためかなり知識に偏りがある。アニメできちんとみた種〜UC、W、逆シャア以外の作品のMS、MAのカタログスペックは網羅してるが劇中の活躍は知らないがゲームなどの他媒体での活躍なら理解している状態なため、ガンダム好きな友人からよく合間合間に解説をもらっている。ガンプラを初めて作ったのは中学二年で偶然キュリオスを懸賞で当てた妹からのプレゼントとして貰ったものを作り始めた。最初の作品は愛猫に壊されたが思い出として大切に保管している。たまにヒロインの店にガンプラを買いに友達と出向いてるがガンプラの箱の説明やイラスト見て満足してしまうため冷やかしにくる客の何者でもない。

作った上記のガンプラは故郷の友人が誠のてんこ盛り好きな嗜好から作成し、餞別としてくれた大切なもの。故郷に帰るまでに自分の好きなガンプラを作り、それを自分に渡せる事が出来るようになることが条件としてくれた物でもあるため、約束を果たす腕前になるために大学の友人からの指導やプラモ教室に通っている。最近競技用に上記のガンプラの同機を作成出来た。最近はバンシィ、ユニコーン、フェネクスを合わした機体を作ろうと計画中。

 

 

保泉 純

19歳

 

GNーΩ

 

WEAPON ハイパー・ビーム・ジャベリン

WEAPON GNバズーカ

HEAD  サザビー

BODY  スサノオ

ARMS  ターンX

LEGS  ダブルオークアンタ

BACKPACK デスサイズヘルEW

SHIELD  サンドロック

拡張装備 GNソードⅢ

 

眼鏡が本体な杜村の友人。ガンダムというか幅広くかつ深くロボット作品が好きな生きるロボット図鑑。偏りのある杜村の知識の補正を行い、彼にガンプラの指導をしている。杜村とは大学の入学式で意気投合して仲良くなった。プラモサークルに所属しており、ガンプラを使って何処かで見たような機体を作るのが趣味。上記の機体も某無限大な夢の劇場版からインスパイアされ衝動的に作ったもの。店の冷やかしに行く杜村と違い、きちんとプラモを買って行く客の鑑。

 

 

ブラックボックスさんよりいただきました。

 

《名前》  レン・アマダ

《機体名》 ストレイドガンダム

 

頭  ストライクノワール

胴体 マスターガンダム

両腕 ゴッドガンダム

脚  クロスボーンガンダム・X1

バック 上に同じ

 

武装 拳法

盾  ABCマント(赤)

 

カラーリング ・νガンダムのようなカラーを想定

 

《キャラ紹介》 

・主人公との絡みは悪友的なポジでお願いしたいです

・性格はオルフェンズのオルガのような兄貴肌

・女に弱い。どれくらいかと言うとミサみたいな女の子のうなじを見たら鼻血を出すレベル

・基本的に楽観的な人間だがやるときは一応やる男

・父親は現在プラモの企画者をしている。好きなMSはEz-8。母親はとてもおしとやかで綺麗な人。兄(研究者)と父親代わりの叔父(自衛隊の教官)がいる。好きなMSはノーベルガンダム。

 

 

 

《名前》ジーナ・M・アメリア

 

《概要》レンのマンションの隣に住んでいる21歳大学生。ハワイ生まれのアメリア人。銀髪ショートの褐色肌。普段は物静かでおとなしいクールな女性で、読書が趣味。

(だが大抵読んでいるのはクロスボーンやGガンダム)

本人は意識していないのにアクシズショックでのサイコフレームの光の如く色気が溢れ出てる女の人。

 

要は、なにもしてないのにエロ......ゲフン。セクシーな感じになっちゃう人。

......といってもプロポーションはミサとそう変わらない感じなんだけ(ドゴォ

 

レンとの出会いは本屋で同じ本を取ろうとして......という恋愛小説のようなシチュ。

(ちなみにこのときレンはあまりの色気に鼻血を吹いてぶっ倒れています)

同じGガンダム好きとして話が弾み、とんとん拍子で関係が進んだ結果、初めて出来た《異国の地での異性の友人》として特別視するように。

真夏の国の血は争えないのか、燃え上がると止まらない。恋愛ならなおのことである。

 

燃えるハートでクールに戦う彼女は、狙った獲物は絶対に逃がさない。

 

大事なことなのでもう一回。

 

狙った獲物は 絶 対 に 逃がさない(意味深)。

 

レンの影響でガンプラバトルにも最近手を出している。

現在の機体はレンのお下がりをカスタムしたもの。

 

《機体名》ジェスタ・キラウエア

 

《元にしたガンプラ》ジェスタ

WEAPON  ビームマグナム(バンシィ) 

WEAPON  GNソードⅤ 

HEAD    ジェスタ(ブレードアンテナ)

BODY    ジェスタ

ARMS    ジェスタ

LEGS    ガンダムエピオン(両脚スラスター) 

BACKPACK ダブルオークアンタ

SHIELD   ダブルオークアンタ 

 

拡張装備()内参照

 

《カラーリング》基本はジェスタカラー。所々にワインレッドで、グローカラーはオレンジ。

 

 

ヴェルるんさんからいただきました。

 

キャラクター名:三宅ヴェール

性別:女

家族構成:父親、母親、自分

容姿:身長は150cm程。胸は標準より少し大きめ。

髪の色は白(ロング)、目の色は白に近い水色。

年齢:主人公たちと同じくらい

性格:物静か。子供扱いされると一人で膨れる

設定:日本人(母親)とロシア人(父親)のハーフ。何故かみんなに頭を撫でられる。撫でられるのは嫌いではないが、少しだけ子供扱いされている気分になる子

 

ガンプラ名:ダブルオークアンタ ルイーツァリ/X

(※正式名称は上だが、ヴェールはルイーツァリと呼ぶ。ルイーツァリはロシア語で「騎士」という意味)

元にしたガンプラ:ダブルオーガンダム セブンソード/G

 

WEAPON GNソードⅡブラスター

WEAPON GNソードⅡブラスターライフルモード

HEAD ダブルオークアンタ

BODY ダブルオークアンタ

ARMS ガンダムエクシア

LEGS ダブルオーガンダムセブンソード/G

BACKPACK ダブルオーライザー

SHIELD GNシールド(ダブルオー)

 

オプション装備(必要なら)

GNバルカン

GNビームサーベル

GNビームサーベル&GNカタール

GNソードⅡロング&GNソードⅡショート

GNマイクロミサイル

GNフィールド

トランザム

 

切り札はトランザムバースト

カラーリングは青の部分が水色、赤の部分がオレンジ。

 

 

キャラクター名:三日月未来(みかづきみく)

性別:女 

容姿や性格:150㎝程。スタイルはヴェールとほぼ同じ。性格は穏やかで少し天然

設定:ヴェールの親友。ヴェールの兄、ユーリの存在を知っているが、ヴェールには話せずにいる。小学生のころ、男子四人にいじめられてユニコーンガンダムを壊されたが応急処置してユニコーンガンダム・リペアを作り、一人で自分をいじめた男子四人に勝った過去を持つ。機動力を上げるために付けたデストロイ・アンチェインドが発動すると、機動力は上がるがほとんど制御できないため悩んでいる。

 

 

ガンプラ名:イスカーチェリガンダム

元にしたガンプラ:ユニコーンガンダム

 

WEAPON ビームマグナム(バンシィ・ノルン)

WEAPON ビーム・ガトリングガン(シールド・ファンネルのものを使用)

HEAD ユニコーンガンダム

BODY ユニコーンガンダム・フェネクス

ARMS ユニコーンガンダム

LEGS ユニコーンガンダム・フェネクス

BACKPACK フルアーマー・ユニコーンガンダム

SHIELD シールド・ファンネル×2(基本状態は両腕に装備。バックパックをパージしたときは自分の頭上にある)

 

拡張装備

60ミリバルカン砲×2

リボルビングランチャー

ハイパー・バズーカ×2

ビーム・サーベル×4

ビーム・トンファー×2

ビーム・ガトリングガン×6(シールド・ファンネルについている)

3連装ハンド・グレネード・ユニット×8

3連装対艦ミサイル・ランチャー×2

グレネード・ランチャー×2

シールド・ファンネル×3

ハイパー・ビーム・ジャベリン

 

システム 

NT-D

デストロイ・アンチェインド(いつ発動するか不明の上、発動したらほぼ制御不能になる)

 

カラーリングはフェネクスと同じです。

 

<第二章>

 

仮面ライダー大好きさんよりいただきました。

 

キャラクター名

深田宏祐(フカタコウスケ)

一人称:俺

年齢:21歳

身長:175cm

体重:53

性格:基本的には誰とも話せる為とんでもない人脈の持ちの持ち主でもある

 

ガンプラ名

クロスボーンXクアンタ

元にしたガンプラクロスボーンガンダムX1

カラーリング:メイン黒・サブ:赤

WEAPON:ザンバスター

WEAPON:GNソードⅤ

HEAD:クロスボーン・ガンダムX1

BODY:ダブルオークアンタ

ARMS:ダブルオークアンタ

LEGS:ダブルオークアンタ

BACKPACK:クロスボーン・ガンダムX1

SHIELD:ABCマント

拡張装備:太陽炉(バックパック)

 

人物設定

よくトイショップかブレイカーズなどでガンプラを買う自称ガンプラ兄さんと自分でいてるが今の所は誰からにも言われてない。

ガンダムの知識はかなり高くよく色んな人にアドバイスをしている。

昔はジャパンカップ、世界大会で優勝をしたことがある。現在は暇さえあればオリジナルガンプラを作っている

 

 

刃弥さんよりいただきました。

 

 

キャラクター名 御剣コト

性別:女

年齢:17歳

身長:149cm

容姿:背中まで届く黒髪のロングで顔は童顔。身長は低いが胸は非常に大きい(いわゆるロリ巨乳)

 

御剣ジンの実の妹で現在は『KODACHI(こだち)』という芸名でアイドル歌手をやっている。

そのスタイルからグラビア関係の仕事も依頼されることがあるが、

デビュー前から痴漢にあうこともよくあったせいで、そちら系の仕事はあまり受けたがらない。

それが原因で防犯意識が強く、常日頃からスタンガン、催涙スプレー、防犯ブザーを持ち歩いている。

現在は上京して親戚の家に滞在させてもらいながら芸能活動をしているが、毎日実家には必ず電話し、

休暇には必ず帰るという家族思いなところがある。兄・ジンのことも慕っており、将来の義姉であるサヤとも仲が良いが、

二人のバカップルぶりだけには完全に呆れている。

自身はガンプラファイターではないが、ガンプラやバトル自体は好きである。

ファイターでない理由は超不器用で自分でガンプラを組み立てられず、

シュミレーターに入っても満足に動かせず、操縦センスが全く無いため。

 

 

ハイパーカイザーさんよりいただきました。

 

 

キャラクター名 轟 炎(とどろき えん) 性別 男

 

年齢 主人公と同年代

 

性格 熱血漢

 

 

ガンプラ名 ブレイブカイザー

 

元にしたガンプラ なし。しいて言うならトライオン3と同じスーパーロボット系(もっと言うなら勇者シリーズ)

 

WEAPON カレトヴルッフSモード(通称・ブレイブセイバー)

 

WEAPON カレトヴルッフGモード(通称・ブレイブバスター)

 

HEAD ガンダムAGE-3 フォートレス

 

BODY ガンダムAGE-2 ノーマル

 

ARMS ガンダムダブルエックス

 

LEGS ガンダムAGE-3 フォートレス

 

BACKPACK ビルドストライクガンダム

 

SHIELD なし

 

拡張装備※ V字型ブレードアンテナ(HEAD:1 POSITION:Y・+15 POSITION:Z・-10 SCALE・-100)

 

     メガ粒子砲(BODY:1 ROTATE:Z・-100)(通称・メガブラスター)

 

     ビームキャノン×2(BOTH LEGS:3 POSITION:Y・-100 ROTATE:X・+92 ROTATE:Z・+100)

 

     ミサイルポッド×2(BOTH LEGS:2)(通称・カイザーミサイル)

 

※()内は取り付ける位置です。書かれていない数値はニュートラルです。

 

カラーリング 赤、青、白、黄のヒーロー的イメージ

 

小さい時に父親と一緒に見ていたスーパーロボットアニメに影響を受けて作ったガンプラで、基本的に武装を使う場合は通称に書かれている名前を叫びながら使う。

 

ちなみにカレトヴルッフSモードを使って決めようとするときは、サンライズ立ちをする。

 

 

勇者(という名の魔王)さんよりいただきました。

 

キャラクター名 赤坂 龍輝

ガンプラ名 クレナイ

元にしたガンプラ ザザビー

WEAPON ビームナギナタ(ジョニーライデン専用ゲルググ)

WEAPON ロケットランチャー

HEAD ザザビー

BODY ザザビー

ARMS スターゲイザー

LEGS アストレイグリーンフレーム

BACKPACK ウィングガンダム

SHIELD ABCシールド

拡張装備 シールドビット×2 内部強化パーツ

備考 全身赤色。 

   機体名はカタカナでお願いします。

 

 

<第三章>

 

八神優鬼さんからいただきました。

 

機体名 BD.the BLADE

 

使用武器 試製9.1m対艦刀 又は 虎鉄丸

頭部 BD2・3号機

胴体 Zガンダム

腕部 クロスボーンガンダムX1

脚部 試作3号機

スラスター BD2・3号機

 

オプションパーツ バルカンポット 双刀(腰部)対艦刀(肩部)

 

 

ヴェルるんさんからいただきました。

 

キャラクター名:岡崎ユーリ(本名は三宅ヴェイン)

性別:男

家族構成:自分

容姿:三宅ヴェールと身長と胸以外ほぼ同じ。身長は170程度。

年齢:32歳

性格:言葉がところどころ喧嘩腰だが、とある人(三宅ヴェール)のことになると必死になる。こう見えて家族想い。

設定:三宅ヴェールの実の兄。ヴェールが生まれる前にガンプラの道を極めると置き手紙を残し、祖父の形見であるハイペリオンガンダムを持って家出をした。最初はほとんど勝てず、ただぼろぼろになっていくハイペリオンを見て落ち込んでいたが、家族の応援を受けて自分なりにハイペリオンを改修。その後、負け試合もあるものの少しずつ勝てるようになり、今ではほぼ毎回全国大会に出場する程。現在は自分に妹ができたと知り、ガンプラを作りながらも実の妹に会ってみたいと思っている。

口癖:「地獄から這い上がってこい」

 

 

ガンプラ名:オルフェウスガンダム・レナト

元にしたガンプラ:ハイペリオンガンダム

 

WEAPON ロムテクニカRBWタイプ7001

WEAPON ザスタバ・スティグマト

HEAD ドレッドノートガンダムXアストレイ

BODY ハイペリオンガンダム

ARMS デスティニーガンダム

LEGS ストライクフリーダムガンダム

BACKPACK ハイペリオンガンダム

SHIELD 複合兵装防盾システム(ドレッドノート)

 

拡張装備

ピクウス76mm近接防御機関砲

アルミューレ・リュミエール

フォルファントリー

パルマフィオキーナ

フラッシュエッジ2

クスィフィアス3レール砲

シュペールラケルタビームサーベル

ビームソード(複合兵装防盾システム)

ビームシールド(デスティニー)

 

カラーリングはハイペリオンがベース。黄色の部分が青。ビームシールドやビームサーベル等の刃の色が水色。

 

捕捉:アルミューレ・リュミエールの持続時間は一回の戦闘で約1分程度。一度使うと15分の間使用できない。

 

 

怠惰な眠りさんからいただきました。

 

キャラクター名天城 勇

性格 好きなことには全力を出すタイプ(例 ガンプラには全力だが、それ以外には興味を示さない) いつも首にヘッドホンをかけている本気でやるときはヘッドホンをしてガンダム系の音楽を流す テンションの落差が激しく普段は口数が少ないがバトルしてるときはガンダムのセリフを口走るほどテンションが高くなる

ガンプラ名ガンダム バアル

元にしたガンプラバルバトス

 

WEAPON ツインバスターライフル

WEAPON メイス

HEAD バルバトス

BODY バルバトス

ARMS アストレイブルーフレームセカンドリバイ

LEGS ダブルオーガンダムセブンソード/G

BACKPACK ストライクフリーダム

SHIELD 強化シールドブースター

 

 

<第四章>

 

 

不安将軍さんからいただきました。

 

キャラクター名:砂谷厳也(すなたに げんや)

 

キャラ設定など

髪:寝癖が付いたままの少し長め黒髪

目:隈がある睨んでるような細めの三白眼(黒目)

容姿:身長180cmの中肉中背だが少し筋肉質

肌の色:そこそこ日焼けしている

年齢:17歳の高校二年生

性格:人懐っこく、作業などの大事な仕事以外は大雑把で面倒臭がる遊び好きなムードメーカー

一人称:わし 爺口調

二人称:基本は名前呼びで呼び捨て(許された場合のみ)。年上の場合はさん付け

 

高知県代表のチームリーダーだが、大抵の事は副リーダーで幼馴染の荒峰文華に任している。

目つきが悪いせいか不良に間違われることが多い事に悩んでおり、主人公とかに相談したりしている。

よく喋り、男女問わず友人が多いのだが可愛い女の子などを見たらすぐナンパするという困った一面を持っている。荒峰文香とはよく口喧嘩したり喧嘩の延長戦でガンプラバトルをやり合う関係だが仲が悪いというのでなく、信頼し合ってるからやりあってるらしい。

後輩の桜波咲は後輩として可愛がっており、先輩として良い所を見せたいと張り切ってやってるがその恋心に気づいておらず、ナンパする度に睨まれたり半泣きにしては謝罪を繰り返したり買物に付き合ったりなどをしてる。

 

戦法は主に近距離戦を得意にし、立体的な高速移動をしながらミサイルやマシンガンを撃ちつつ近付きシールド攻撃やビーム・ナギナタでの連続攻撃を繰り出す。ミサイルなどは煙幕代わりに用いる事もある。シールドビットは状況によって攻撃や防御に使用し、アンカーを使って奇抜な動きをしたり一気に敵機に近づく為にやったりする

 

キャラクター名:荒峰文華(あらみね ふみか)

 

キャラ設定など

髪:腰まであるゆるふわなウェーブで茶髪

目:やや吊り目で茶色

容姿:身長147cmの細身。年齢よりも若く見られるロリっ娘で少女体形

肌の色:色白

年齢:17歳の高校二年生

性格:男勝りで強気。やる事はどんな事でもきちんとやるが親しくない相手とはあまり喋らず、少し男嫌い

一人称:私 普通の口調(~よ ~ね ~かしら ~でしょ)

二人称:名前呼びで同年代・年下の男は君付け、女はちゃん付け。年上ならさん付け

    砂谷厳也だけは名前で呼び捨て

 

高知県代表の副リーダーで、リーダーがやらない手続きなどを文句を言いながらやっている。

外見こそ人形のように可愛いと言われるが趣味で武術を学んでいる為に下手な男よりも強く男前。

ハキハキ喋り、歯に衣着せぬ物言いでダメな所などをちゃんと指摘したりしてるが本人は相手の為になるならと思ってのことで悪気はない。幼馴染である砂谷厳也には幼い頃に助けてもらったりして感謝してるが口に出さず、日頃の行いなどについて口喧嘩したりし合っており、恋心はないが何時までも親友でありたいと願っている。

後輩の桜波咲の恋を応援し、助力してるが上手くいかない事に悩んでいる。先輩後輩だが仲が良い

 

戦法は中距離を維持しつつ射撃などによる近接支援、遠距離から狙う者には砲撃などを行う。一気に加速しつつ撃ちまくり、敵機に近付いたらショットガンを乱射して直ぐ離脱するという一撃離脱戦法も得意とする。指揮したりするが時にリーダーに判断を仰いだりする。近接戦闘はあまりしたがらないが拡張装備などが使用できなくなったらパージしてでも近接戦に移行する

 

キャラクター名:桜波咲(さくらなみ さき)

 

キャラ設定など

髪:艶があるベリーロングヘアでストレートの黒髪。前髪は両目が隠れるぐらい長い

目:普段は隠れてるが黒く、たれ目

容姿:身長176cmの細身だがわがままボディ。胸はかなり大きい

肌の色:色白

年齢:16歳の高校一年生

性格:優しく大人しめの照れ屋。少し天然な所もあるが人見知りで、知人と一緒の行動を好む

一人称:私 穏やかで常に敬語

二人称:誰にでもさん付けし、年下の男子だけは君付け

 

高知県代表のチームメンバーの一人で雑務などを率先してやっている。裕福な家庭の生まれで砂谷厳也と荒峰文香に出会う中学一年までガンプラを知らなかったお嬢様。人見知りの為に知らない人物と会話は焦りながらしつつ、知人とならばまともに喋れる。中学時代に砂谷厳也と接する内に恋心を抱くが告白はまだできず、お弁当を作ったりして渡してるがより積極的な行動をすべきか悩んでいる。荒峰文香は良き先輩であり自身の恋を応援してくれる恩人と見ており、互いの家に泊まって遊んだりしている。ガンプラバトルする時は髪を括り、前髪をバレッタで留めて目を露わにさせる。素顔はかなり綺麗で美少女だが本人は自覚してない

 

戦法は遠距離からの狙撃や砲撃を重視し、機体に大量に積まれているシールドビットなどで防御や近寄らせない様に弾幕を張って妨害したりもする。それでも近寄られた場合はシールドフラッシュで目を眩ませてる内に距離を取る。近接戦は最後の手段と考えており、指示されるか窮地に追い込まれる時までやろうとしない

 

キャラクター名:御船珠湖(みふね たまこ)

キャラ設定など

髪:首元まで伸ばしている赤茶色の癖毛で、ポニテにしている

目:猫目の黒

容姿:身長163cmのスレンダーな体形。胸はまぁまぁある

肌の色:健康的な肌色

年齢:32歳

性格:楽天家でのんびり屋。常に面白い事や好きな事を追い求めている

一人称:うち 関西弁

二人称:同年代・年下なら男は名前呼びで女はちゃん付け。年上ならさん付け

 

高知県代表のチームの保護者という面目で一緒に来た三人が通っている高校の体育教師。三人の行動を笑いながら見ており、たまに昼間から酒を飲んだりして軽く酔っ払う。ガンプラバトルもできるがガンプラを持たずに来たためやれない。結婚しており子持ちだが、今回は旦那(専業主夫)に任せてやってきた。自分の名前をあまり良く思っておらずタマと呼ばれたら静かに怒ったりするので注意を。

 

チーム自体の設定など

三人とも同じ中学・高校に在校しており、学校でも一緒に行動してた。県代表に選ばれて直ぐに観光を兼ねて主人公達が居る街に高知からやって来て大会が終わるまでホテルで宿泊しており、主人公達とはその時に出会う。三人の戦闘方法は砂谷厳也の趣味であるテレビゲームを参考にしており、たまにそれで練習代わりにしている。

私服は砂谷厳也:作務衣・Tシャツ長ズボン 荒峰文華:ゴスロリ服 桜波咲:ブラウスにロングスカート 御船珠湖:スーツ姿かジャージ

 

 

 

ガンプラ名:クロス・フライルー

 

WEAPON ビーム・ライフル(アドバンスド・ヘイズル)

WEAPON ビーム・ナギナタ(シナンジュ)

HEAD ギャプランTR-5(フライルー)

BODY ダブルオークアンタ

ARMS ガンダムヘビーアームズ

LEGS シナンジュ

BACKPACK アストレイゴールドフレーム天

SHIELD シールド(エピオン)

拡張装備 シールドビット×2(両肩側面)

     ミサイルポッド×2(両肩上部)

     GNフィールド発生装置(バックパック)

     IFジェネレーター(右腕)

     シールドブースター(バックパック)

カラー ライトニングブルー

 

ガンプラ名:ガンダムフォボス

 

WEAPON 専用ショットガン

WEAPON 太刀(ガンダムバルバトス)

HEAD アストレイレッドドラゴン

BODY アストレイレッドフレーム

ARMS ガンダムAGE-3 フォートレス

LEGS クロスボーン。ガンダムX1改・改

BACKPACK V2ガンダム

SHIELD シグマシスキャノン装甲

拡張装備 Gフィールド発生装置(腰)

       刀(バックパック)

       レドーム(右肩前面)

       レールキャノン×2(腰側面)

       大型ガトリング×2(両肩側面)

カラー エリートネイビーで肩の部分だけ赤黒 

 

ガンプラ名:ルーツガンダム

元にしたガンプラ:ケルディムガンダムGNHW/R

 

WEAPON GNスパイナーライフルⅡ

WEAPON ハイパー・ビーム・ジャベリン

HEAD ガンダムTR-1[アドバンスド・ヘイズル](センサー・ユニット)

BODY ガンダムヴァサーゴ

ARMS ケルディムガンダムGNHW/R

LEGS ケルディムガンダムGNHW/R

BACKPACK ブラストインパルスガンダム

SHIELD シールド(サンドロックEW版)

拡張装備 180mmキャノン(バックパック左側面)

     Iフィールド発生装置(腰後部)

     スラスターユニット×2(両足側面)

     シールドビット×1(バックパック側面)

     ミサイルポッド×2(両肩上部)

カラー  全体的にくすんだ群青だが両肩でシールドの一部は青く、胸のグローカラー部分は色あせた黄色

 

ガンプラ名:ブレイクボマー

 

WEAPON 試製9.1m対艦刀

WEAPON GNハンドミサイルユニット

HEAD ドライセン

BODY クシャトリヤ

ARMS ガンダムAGE-2ダブルバレット

LEGS ガンダムTR-1[アドバンスド・ヘイズル]

BACKPACK ファッツ

SHIELD シールド(Ez8)

拡張装備 GNフィールド発生装置(腰後部)

       大型ガトリング×2(両肩側面)

       ミサイルポッド×2(両足側面)

       大型対艦刀(バックパック右側面)

       180mmキャノン(バックパック左側面)

カラー   ブラストグリーン

 

 

戦法は機体武装から見て分かるように距離を取りながら中~遠距離からミサイルなどを撃ちまくって味方をサポートするいうシンプルなもの。GNハンドミサイルユニットなどがチャージ中は180mmキャノンによる狙撃を行ったりする。防御面もしっかりとしており、近接戦用の武器もあって近付かれても対処可能となっている。

 

機体説明

中~遠距離戦に特化させた機体で下手すれば味方すら巻き込むような武装を積んだ機体。本来ならガンプラバトルは滞在中しないつもりだったが、あまりに暇な為に作ってたらしい。旦那(近接戦闘メイン)とのタッグを想定して作っており、1対1の戦闘用ではなくチーム戦の為の機体である。これらの武器は珠湖本人の好みであり得意とするもので、ミサイルなどの実弾武器はIフィールド対策に装備させている。

 

人物補足

ガンプラバトルでは中~遠距離戦をメインにし、ミサイルやバズーカなどの派手なモノを撃ちまくって自身に目を向けさせるという囮戦術を好んでいる。旦那と会う前まではオールラウンダーで、遠近どちらの戦闘もやれていたが旦那と組んでからはこの囮戦術を使うようになり、爆撃・砲撃重視となった。長年の経験からか相手が嫌がる攻撃をよくしており、相手の動きを妨害するような戦法も得意としている。

 

 

ゴランドさんからいただきました。

 

キャラクター名 桜川 恭

性別 男性

年齢 主人公と同年代

家族 父 母 2歳年下の弟

容姿 身長 174センチ 茶髪 目の色 黒

設定 天然でおだてられると調子に乗りやすく、挑発されるとすぐに怒ってしまう。特にネーミングセンスが悪くガンプラに自分の名前を入れ、弟から呆れられている。ロボ太を見て、武者の方が良かったと思っている。ガンダムキャラの台詞を間違った意味で覚えてしまっており、弟から度々指摘されている。

 

ガンプラ名 ガンダム-カイゼルイェクスオーバーフルアーマー

略してG-KYO FA

元にしたガンプラ ブリッツガンダム

 

WEAPON グランドスラム

WEAPON ハイパー・メガ・ランチャー

HEAD ブリッツガンダム

BODY フルアーマー・ガンダム

ARMS サーペントカスタム

LEGS ファッツ

BACKPACK ドーベン・ウルフ

SHIELD シールド(NT-1)

拡張装備 HEAD1 強化センサーユニット

BOTH LEGS ニークラッシャー

機体カラー エリートネイビー

ガンプラ製作者は弟の桜川 涼であり、兄の要望で沢山の武器が搭載されてある。防御力と火力は高く、その分機動性が低く、小回りが利かないなど、扱いが難しいガンプラである。それをカバーする為に装甲をパージする特殊なギミックが搭載されてある。

 

ガンプラ名 ガンダムカイゼルイェクスオーバーフルアーマーパージアウト 略してG-KYO PO

元にしたガンプラブリッツガンダム

 

WEAPON グランドスラム

WEAPON ハイパー・メガ・ランチャー

HEAD ブリッツガンダム

BODY ガンダム試作1号機

ARMS ガンダムエクシア

LEGS 百式

BACKPACK ガンダム試作3号機

SHIELD なし

拡張装備 BACKPACK 太陽炉

機体カラーエリートネイビー

G-KYO の装甲がパージした状態。極端に装甲を薄くした分防御力は低くなっているが、機動性、スピードが極端に上がっている。近接特化型になっており、一発でも攻撃を喰らえば大ダメージになる。(例えると、ビームライフル一発ででライフゲージが赤になる。) さらに切り札としてトランザムシステムを使えかる。パージする前より扱いがさらに難しく人より優れた機体操作技術を持つ恭だからこそ扱えるガンプラである。

 

キャラクター名 桜川 涼

年齢 兄より2歳年下

容姿 茶髪の天然パーマ 瞳の色は黒 身長165前後

性格 兄とは違って真面目だが、押しに弱くいつも兄に振り回される苦労人

設定 小さい頃からガンダムが好きなガンダムオタクでガンプラの製作技術は常人よりも優れているがガンプラの操作技術はとても下手である。ボッチでろくに女性と話したことがないのでバトルではいつも負け続けてばかりであり、イラクゲームパークで機体操作の練習をしている。

 

ガンプラ名 カイウスガンダム

元にしたガンプラ Zガンダム

 

WEAPON ビーム・サーベル

WEAPON ハイパードッズライフル

HEAD ライトニングガンダム

BODY Zガンダム

ARMS ZZガンダム

LEGS ガンダムAGE-2ノーマル

BACKPACK オオワシアカツキ

SHIELD ウイング・シールド(ZZガンダム)

拡張装備 無し

機体カラー カラーは大体そのままだがZガンダムのカラーを基準として統一してある。バックパックのカラーリングはウイングが白で砲台が青となっている。

 

 

 

エイゼさんからいただきました。

 

キャラクター名:秋城影二(アキシロエイジ)

熊本県代表チーム…熊本海洋訓練学校ガンプラ部主将、二年生17歳

身長:178cmの多少筋肉質

肌:褐色

髪型:ショートウルフ

目:切れ長

顔:右頬に線状の傷あり

性格:寡黙で、顔に表情が出にくいが…困ってる人を放っておけず手助けする一本筋の通った少年。

見た目で損するタイプであるものの、一度話すと大体好感を抱けるタイプでもある。本来は三年生だが、去年後述の篠宮 皐月(シノミヤサツキ)を交通事故から庇い、一年間の授業不参加の為である。

ガンプラバトルに関しては、オールラウンダーであり…機体性能を100%引き出し、また使える物は何でも使用するタイプで、必要なら…ライフルやシールドさえ、囮に使う。

後アイドル(KODACHI)のファンである

 

キャラクター名:篠宮皐月(シノミヤサツキ)

身長:168cm痩せ型、胸はそれなり

髪型:三つ編み

顔・肌:色白で赤縁眼鏡着用

性格:基本的には内向的な面が見受けられるが、勇気を出して人と接していける上、偏見を持たない為に結構友人がいる。

眼鏡を取ると、かなり美少女だが…本人は余り好きではない。

熊本海洋訓練学校ガンプラ部副将二年生16歳で秋城影二の同級生。

本来は後輩なのだが、去年部活帰りにて…道に出てた猫を助けようとし車に引かれる所を秋城影二に救われる。

本人はかなり罪悪感を覚えており、当初は避けていたものの、影二自体の許しや、タウン・リージョンカップを通じて、仲の良い同級生となっているようだ。

ガンプラバトルに関しては…基本的には狙撃タイプの機体を使うが、タウン・リージョンカップを経て…射撃寄り万能タイプに成長しており、又機動狙撃戦に関してはかなりの実力者として有名になりつつある。

 

 

キャラクター名:篠宮陽太(シノミヤヨウタ)

身長:164cm痩せ型

髪型:ショートカット、黒

肌:色白

性格:かなりのお姉ちゃん子で甘え上手。

他の人に対しても、基本礼儀正しいものの…影二に対してはかなり毒舌である。

内心は実力性格共認めてはいるらしい。男らしくあろうとするが…下手すると女子より女子らしさがあるらしい。

ガンプラバトルに関して:基本的に荒削りな点は否めないものの、近距離の戦闘に対しては天性の才と云うべき実力者。

奇襲強襲、一騎打ちもかなり強いものの、射撃はまだまだ改善余地ありらしい。

 

キャラクター名:秋城暮葉(アキシロクレハ)

年齢:22

身長:172cmモデル並み

胸:かなりのサイズ

性格:人当たりも良く、気が利くタイプ。但し、怒らせたら駄目なタイプ。

秋城影二の姉(母親違いの姉)彩戸商店街近くの美容室の美容師さんで、かなりの腕前であり、看板娘である。一時は影二と不仲ではあったが、現時点ではかなり良好な姉弟関係である。

 

 

 

ガンプラ名:ガンダムMK‐Ⅵ改

WEAPONビームサーベル(Hi‐ν)

WEAPON ビーム・マグナム(バンシィ・ノルン)

HEAD:Zガンダム

BODY:ZZガンダム

ARMS:Hi‐νガンダム

LEGS:ライトニングガンダム

BACKPACK:Hi‐νガンダム

SHIELD:アームド・アーマDE(ユニコーン)

拡張装備:角型センサー×2(両肩)

シールド・ブースター×1(バックパック)

ビームランチャー×1(右肩部)

シールドビット×1(バックパック右側)

六連装ミサイルポッド(バックパック左側)

オプション兵装:頭部バルカン、フィン・ファンネル、腕部マシンガン、シールド・ブースター、シールドビット、ビームランチャー、ビームサーベル(ライトニング)×2

 

ガンプラ名FAヒュプノス

WEAPON:ハイパービームソード

WEAPON:GNビームライフルロングバレル(ジンクスⅢ)

HEADケルディムガンダム

BODYダブルオークアンタ

ARMSフルアーマガンダム(サンダーボルト)

LEGS:ファッツ

BACKPACK:V2バスターガンダム

SHIELD:シールド(フルアーマガンダム)

拡張装備:レドーム×1(右肩)

角型センサー×1(左肩)

Iフィールド発生器×1(胴下部)

GNフィールド発生器×1(バックパック下部)

マイクロミサイル×2(バックパック両側)

オプション兵装:二連ビームライフル、ロケットランチャー、メガ・ビーム・キャノン、マイクロミサイルランチャー、Iフィールド、GNフィールド、スプレー・ビーム・ポッド

切り札:二連ビームライフル切り上げ、トランザム

 

ガンプラ名:ガンダムダンタリオン

元にしたガンプラ:ガンダムバルバトス

WEAPON:ツインビームソード

WEAPON:ビームライフルシューティ

HEAD:バルバトス

BODY:ガンダムヴァサーゴチェストブレイク

ARMS:ガンダムデスサイズヘル

LEGS:レジェンドガンダム

BACKPACK:デスティニーガンダム

SHIELD:耐ビームコーティングマント

拡張装備:角型センサー×2(胴体両側)、フラッシュバン×1(左腰部)、ハンドグレネード×1(右腰部)、シールドビット×1(左肩後部)、ブレードアンテナ×1(頭部)

オプション兵装:シールドビット、高エネルギー長射程ビーム砲、ハンドグレネード、ディファイアント改ビームジャベリン、フラッシュバン、アロンダイト

切り札:トリプルメガソニック砲、光の翼(デスティニー)、ハイパージャマー

 

 

トライデントさんからいただきました

 

名前

千樹准(せんじゅじゅん)

年齢

21歳

性格

正義感と野心の強い熱血青年

設定

姫矢と孤門の幼馴染みで、一人称は俺

元はカメラマンを目指していたが実を結ばず断念

今は孤門に頼まれハイムロボティクスで孤門の手伝いをしている、カドマツとも孤門経由で接点があり、よく酒を飲みに行く仲

ガンプラは好きだがバトルはしない(一応やってみたことはあるが、あまりしっくり来なかったとか)

好きな機体は陸戦型ガンダム(初めて見たガンダムが08小隊だからなんだとか)で、プラモを持ってるが装備させるのは100mmマシンガンという謎のこだわりを持っている。

 

孤門憐(こもんれん)

年齢

21歳

性格

明るく人懐っこい

設定

姫矢と千樹の幼馴染みで、一人称は俺

小さい頃からロボット工学に興味を持ち、勉強し続けた結果ハイムロボティクスの技術者となった、カドマツとはよく一緒に仕事をする仲

過去に様々なロボットを創り、世に出した実績を持つ(イラトゲームパークのインフォちゃんの産みの親なんだとか)

今はカドマツとは別のトイボットを創りたいと考えているらしい

好きな機体はガンダム試作一号機フルバーニアン、デザインやその他諸々が気に入ったが、0083での登録抹消という扱いに納得できてないんだとか(現にトイボットも試作一号機FBがモデル)

 

姫矢と千樹と孤門は高校時代、文化祭限定で『nexus』というバンドを組んでたが、それが大人気となり、学校を飛び出し世間でも話題となり今でもファンがいるらしいが、その時学校やクラスに頼み本名を明かさずに活動していたため同じ学校だった人間しか姫矢達が『nexus』の正体とは知らない(秀哉達ですら知らない)

 

 

<10000UA記念小説>

 

白鐘さんよりいただきました。

 

Name:ロックダウン

 

WEAPON メイス

WEAPON 専用ショットガン

HEAD バルバトス

BODY バルバトス

ARMS バルバトス

LEGS バルバトス

BACKPACK バルバトス

SHIELD アームド・アーマーDE(背中中央にマウント)

 

拡張装備

・新型MSジョイント

・大型ガトリングガン(バックパック両サイド)

・スラスターユニット(両足)

・ロケットアンカー(左腕)

・ハンドグレネード(右腕)

 

カラー

・白フレームは黒に変更

・排気口(?)を青に統一

・アイカラーは赤に

・エンブレムは鉄華団(赤)と08(赤)

・ぶっちゃけ、見た目は如何にも悪魔面なバルバトス

 

 

Name:エクリプス

 

WEAPON 試製双刀型ビームサーベル

WEAPON ツインバスターライフル

HEAD バルバトス

BODY ウイングゼロ(EW)

ARMS AGE-3フォートレス

LEGS ケルディムGNHW/R

BACKPACK ストフリ

SHIELD アームド・アーマーDE(バンシィ、左手)

拡張装備

・シールドビット(両肩)

・シールドビット(両足)

・シールドビット(バックパック両サイド)

・ハンドグレネード(右手)

 

 

<第五章>

 

エイゼさんよりいただきました

 

ガンプラ名:ネクストフォーミュラ-

元にしたガンプラ:ガンダムF91

WEAPON:ビームサーベル(Gセルフ)

WEAPON:ビームライフル(V2)

HEAD:F91

BODY:ウィングゼロ(EW)

ARMS:ケルディムガンダムGNHW

LEGS:ガンダムDX

BACKPACK:∞ジャスティス

SHIELD:シールド(AGE‐2)

拡張装備:腕部グレネード(右腕部)、IFジェネレータ(左手首から肘裏の間)、角型センサー(両肩)

影二並びに篠宮姉弟の合作機体であり、MK‐Ⅵの後継機として、影二がファイターを務める。各種スペックは高水準にまとまっているが…扱いにくさもあり、ファイターを選ぶ機体となった。

特殊機能並びにオプション兵装:ZEROシステム、ビットにセミオート、マニュアル制御機能追加、ライフルビット+シールドビット、ファトゥム01、頭部バルカン、マシンキャノン、腕部グレネード、IFジェネレータ、ハイパービームソード

 

カラー:頭部はデフォルト、ボディは下部の白を赤に、マシンキャノン開口部を白に脚部、腕部、バックパックはライトニングカラーを選択した上で灰色部分を白に、ライトニングブルーをウィングゼロ(EW)の青に変更してます。盾も同様です。

 

グローカラー:ネクストフォーミュラーはMK‐Ⅵ同様水色

 

 

 

裕喜さんよりいただきました。

 

キャラクター名 上代裕喜

ガンプラ名 ガンダムレーゼン

 

WEAPON ディファイアント改ビームジャベリン

WEAPON ピーコックスマッシャー

HEAD ガンダムバルバトス

BODY ガンダムG-セルフ

ARMS ガンダムAGE-3 フォートレス

LEGS ゴッドガンダム

BACKPACK アストレイゴールドフレーム天

SHIELD ディバイダー

拡張装備 ビームキャノン

     ファンネルラック

     6連装ミサイルポット×2

 

 

キャラクター名 一ノ瀬 春花

性別:女

年齢:主人公と同年代

口調は「~です」

 

ガンプラ名 ストライクレイス

元にしたガンプラ ストライクガンダム

 

WEAPON MA-M21KF 高エネルギービームライフル

WEAPON シュペールラケルタビームサーベル

HEAD ストライクガンダム

BODY ストライクフリーダムガンダム

ARMS ストライクノワール

LEGS ストライクフリーダムガンダム

BACKPACK ガンダムバルバトス

SHIELD 対ビームシールド(ストライク)

拡張装備 ダブルブーメラン

     スラスターユニット

     上のふたつはすべてのパックで共通

     ビームピストル

 

春花が最初でに作った機体で原作のストライクと同じようにバックパックの換装で機体性能ががらりと変わる

カラーリングは基本トリコロールでバックパックだけ黒主体で細部が赤

 

基本のチェイスパック(オオワシに大型レールキャノンを付けたもの)

近接用のレイジパック(サンドロックのバックパックにエクスカリバーを付けたもの)

遠距離用のガイスパック(ブラストインパルスのバックパック)

の三種類

上に書いてあるWEAPONはバックパックなしの状態のもの

それぞれのバックパックの装備は

チェイスパック

WEAPON 57mm高エネルギービームライフル

WEAPON ビームサーベル(ストライク)

拡張装備 大型レールキャノン

 

レイジパック

WEAPON 専用ショットガン

WEAPON グランドスラム

シールド シールド(サンドロック改)

拡張装備 レーザー対艦刀

     刀

 

ガイスパック

WEAPON ツインバスターライフル

WEAPON ハイパービームジャベリン

シールド ディバイダー

拡張装備 大型ビームランチャー

     角型センサー

です

 

 

刃弥さんからいただきました。

 

キャラクター名 御剣ジン

性別:男

年齢:20歳

身長:173cm

容姿:スポーツ刈りの黒髪。黒目。中肉中背。眼鏡をかけている。

ジャパンカップ北海道代表。実家は小さな玩具屋でミサ同様に店の名前を広めるために大会に参加する。

玉木サヤ(以下記載)とは幼馴染で恋人(両親公認の婚約者)将来の夢は彼女と結婚後、実家の玩具屋を日本一の玩具屋にまで大きくすること。

普段はクールで理屈っぽい性格なのだが感情に流されやすいところもある。

小さい頃から侍のアニメの影響で剣道を習っており、現在は全国レベルの腕前。ガンプラバトルでも近接戦闘を得意とする。

 

ガンプラ名 ユニティーエースガンダム

WEAPON GNソードⅤ

WEAPON GNソードⅤ ライフルモード

HEAD  ウイングガンダムゼロ(エンドレスワルツ版)

BODY  ダブルオークアンタ

ARMS  デスティニーガンダム

LEGS  インフィニットジャスティスガンダム

BACKPACK ストライクフリーダムガンダム

SHIELD  ビームキャリーシールド

 

カラーリングは青、赤、白のトリコロールカラーで。Hi-νガンダムをイメージ。(腹部周りだけ赤い)

機体名の意味は『結束するエース』「ガンダムSEED DESTINY」「ガンダム00」「ガンダムウイング」の主人公・準主人公の機体パーツを

一つずつ使用しているのが由来。近接戦を得意とし、遠距離戦はオプション装備のスーパードラグーンで補う。

 

キャラクター名 玉木サヤ

性別:女

年齢:20歳

身長:165cm

容姿:肩に届くくらいの黒髪。黒目。モデル並みのスタイルで巨乳。

ジャパンカップ北海道代表。御剣ジンの幼馴染で恋人(婚約者)彼のサポートのため共に大会に参加する。

品性高潔で礼儀正しく、見た目もあってお嬢様のような人物。父親が西部劇が好きでエアガンとモデルガンの収集と射的が趣味。

彼女自身もそれにつきあっていたため、射的の腕前は一級品となっている。ガンプラバトルでも遠距離戦闘を得意とする。

 

ガンプラ名 ジョイントエースガンダム

WEAPON シューベルラケルタビームサーベル

WEAPON MA-M2 1KF高エネルギービームライフル

HEAD  ダブルオークアンタ

BODY  ウイングガンダムゼロ(エンドレスワルツ版)

ARMS  インフィニットジャスティスガンダム

LEGS  ストライクフリーダムガンダム

BACKPACK デスティニーガンダム

SHIELD アンチビームシールド

 

カラーリングはリボーンズガンダムをイメージした赤、白の二色カラー

機体名の意味は『共同のエース』単語が違うだけで由来はユニティーエースガンダムと同じ。

そちらとは反対に遠距離戦を得意とし、近接戦は二刀流のシューベルラケルタビームサーベルの手数の多さと

オプション装備のMMI-714 アロンダイト ビームソードのパワーで補う。

 

上記二機のガンダムの誕生秘話としてジンとサヤが二人で小遣いを出し合い、五つのガンプラを購入。

それらのパーツを分け合って組み上げたという話がある。つまりこの二機は二人にとってのエンゲージリングのようなもの。

 

 

 

キャラクター名 神無月 正泰(かんなづき まさや)

性別 男

年齢 主人公達の一つ上

容姿 紫の髪で、身長170cm

心配性だが、やるときはやる男

心配性の性格のせいで暖かい飲み物が手放せない

ガンプラバトルの間は腹痛にはならない

丁寧な口調で話す

ガンプラバトルを楽しむのをモットーとしている

主に近接戦が、多い

軽度のシスコン 妹の名前は経子(きょうこ)小6で素直

一人称 俺

二人称 君

 

ガンプラ名 アドベントガンダム

 

WEAPON シラヌイ/ウンリュウ

WEAPON メガガトリングガン

HEAD ガンダムAGE-3 フォートレス

BODY ダブルオークアンタ

ARMS シナンジュ

LEGS  V2アサルトバスターガンダム

BACKPACK ディステニーガンダム

SHIELD 対ビームコーティングマント

拡張装備 太陽炉(背中)

メガ粒子砲(胴体内部)

大型ビームランチャー(両肩)

V字型ブレードアンテナ(頭部)

フェイスガード(頭部)

GNフィールド発生装置(腰)

 

カラーリング は白と紫を使用していて頭部のアンテナや腕部のレリーフが金 アンテナのエンブレム的な奴は赤

フェイスガードも角に見立ててつけている

 

キャラクター名 麻沼 シアル (あさぬま しある)

性別 女

年齢 正泰と同じ年齢

容姿 銀髪でかなりの巨乳 身長164cm

フランスからやって来た銀髪の美少女、父の転勤に家族でついてきた。性格は照れ屋でクールな女の子。神無月に好意を寄せている

主にライフルを使用し相手が近づいてきたらサーベル戦うスタイル

 

一人称 私

二人称 貴方

ガンプラ名 ジェガンハウンド

元にしたガンプラ ジェガン

WEAPON ビームサーベル(ガンダム)

WEAPON  マゼラ・トップ砲

HEAD ジェガン

BODY ガンダムF91

ARMS ジムカスタム

LEGS  ドラゴンガンダム

BACKPACK ガンダム

SHIELD ローゼン・ズール

拡張装備 ビームピストル(背中)

レドーム×2(背中)

Iフィールド発生装置(背中)

V字アンテナ(頭部)

丸型バーニア(腰)

カラーリングは水色と濃いグレー。センサーは緑

 

 

 

エイゼさんよりいただきました。

 

ヒュプノス:サテライトキャノンについては、本来仕様ではなく…イメージは(EXVS2500フルアーマーZZガンダムのハイパーメガカノン)同様一回限り且つ威力は50%ダウン、使用後は強制パージを追加でお願いします。

パージ後の機体解説

強化型ヒュプノス:WEAPON:GNビームサーベル

WEAPON:GNビームライフル(ジンクスⅢ)

HEAD:ケルディム

BODY:ダブルオークアンタ

ARMS:ガンダム試作三号機

LEGS:ストライクノワール

BACKPACK:V2ガンダム

SHIELD:無し

オプション兵装:ビームライフル・シューティ、マイクロミサイルポッド、Iフィールド、GNフィールド

FAヒュプノスのパージ後の機体であり火力並びに防御を犠牲に機動性を強化された機体、GNフィールド並びにIフィールドを継続利用しており射撃には耐性があるが、近接…特に実体剣に惰弱な欠点を持つ。この形態時のみ光の翼を使用可能。(FA時に使用した結果、機体が自壊した模様)

 

コウタさんよりいただきました。

 

 

キャラクター名:大和清光(やまときよみつ)

性別:男 年齢:18歳

容姿:身長:175cm

   髪型:黒髪短髪

   目:黒

性格:一見クールでとっつきにくいが実は熱血漢で熱くなりやすい。

   一人称は俺。

詳細:

ジャパンカップ秋田代表。

クラスの友人に誘われガンプラバトルを始める。 

元はアーケドのロボットゲームプレイヤーでガンプラバトルでもその動きを取り入れた三次元機動(バーチャロン的な動き)が得意。

よく苗字が名前と勘違いされる。

小夜とは幼馴染で両片思い。

メンバーの事は基本苗字呼びで小夜のみ名前(たまにさっちゃん呼び)

使用機体:壱番機”暁”

 

キャラクター名:赤城国広(あかぎくにひろ)

性別:男 年齢:18歳

容姿:身長170cm

   髪型:黒髪で肩口までの髪を一本に束ねている

   目:黒

性格:落ち着いていて周りをよく見ているチームのまとめ役。

   一人称は僕

詳細:

清光のクラスメイトで彼をガンプラバトルに誘った張本人。

熱くなりやすい清光のストッパーを務めることもある。

メンバーのことは苗字呼びで小夜のみさん付け。

使用機体:二番機”響”

 

キャラクター名:日向国永(ひゅうがくになが)

性別:男 年齢:18歳

容姿:身長:170cm

   髪型:銀髪天パ

   目:茶色

性格:お調子者で悪戯好きだが決めるときは決める。

   一人称は俺っち。

詳細:

清光のクラスメイト、よく清光や国広にちょっかいをかけては殴られている。

容姿から外人に間違われるが生粋の日本人。

だが戦闘時にはうって変わってまじめになり清光とともに前線で囮やかく乱を行う。

清光と同じ元アーケードゲーマーだがどちらかといえば三次元機動より平面機動が得意。

口癖は「驚いたか!」

メンバーの事は苗字呼びで小夜のみちゃん付け。

使用機体:三番機”雷”

 

キャラクター名:加賀小夜(かがさよ)

性別:女 年齢:18歳

容姿:身長:155cm

   髪型:黒髪で背中までかかるロング

   目:黒

性格:基本的にはおとなしいが甘いものを食べるときはやたらテンションが上がる。

   一人称は基本的に私だが本気でキレたときは小夜になる。

詳細:

チームの紅一点。

清光とは幼馴染で両片思い。

実は父親がガンダム好きで小さい頃からガンプラも作っていた。

清光とともに国広に誘われてチーム入りする。

語尾に「~なのです」とつける。

メンバーの事は基本苗字に君付けで清光のみきよちゃん呼び。

使用機体:四番機”電”

 

ガンプラ名:試製特参式歩行戦車

 

HEAD:バイアランカスタム 

BODY:ストライクノワール 

ARMS:デュエルガンダム 

LEGS:ガンダム試作3号機 

BACKPACK:ガンダムバルバトス 

SHIELD:シールド(NT-1) 

拡張装備:

スラスターユニット×2(腰サイド)

 

 

チームで同じ機体をベースに拡張装備でカスタマイズしている(四番機のみバックパックとシールドも)。

 

一番機”暁(あかつき)”

WEAPON:太刀(ガンダムバルバトス)

WEAPON:ビームライフル(アドバンスド・ヘイズル)

拡張装備:大型ビームランチャー(バックパック左)

     6連装ミサイルポット

 

二番機”響(ひびき)”

WEAPON:太刀(ガンダムバルバトス)

WEAPON:ビームスマートガン(Ex-S)

拡張装備:強化センサーユニット(頭部)

     レドーム×2(バックパック)

 

三番機”雷(いかづち)”

WEAPON:ビームサーベル

WEAPON:ビームライフル(NT-1)

拡張装備:大型対艦刀(バックパック右)

     大型対艦ビームランチャー(バックパック左)

 

四番機”電(いなずま)”

WEAPON:ドッズランサー

WEAPON:ドッズガン

BACKPACK:ガンダムTR-1(アドバンスド・ヘイズル)

SHIELD:アームドアーマーDE(常時背中)

拡張装備:シールドブースター×2(両肩)

     ロケットアンカー(左腕)

 

カラーは全機トライアルグレー。

二番機が索敵しつつ遠距離から援護、一番機、三番機が囮をしつつ敵機を誘導、一か所に固めたところで四番機が突貫が基本戦術。

 

機体の名付け親は国永。

曰く「普通にMSっぽい名前つけても面白くないし思いきって漢字にしてみた!」とのこと。

 

 

<第六章>

 

 

俊泊さんよりいただきました。

キャラクター名:蘆屋淄雄(あしや・くろお)

性別:♂

年齢:18歳

容姿:『ベン・トー』の「佐藤洋」に大きめの伊達マスクを付けさせた感じ。

身長:173センチ

一人称:俺(TPOに応じて“僕”なども)

二人称:君、アンタ、アナタ、オマエ、キサマ

口調:普通に男言葉(TPOに応じて敬語も使う)

設定:留守佳那とは幼馴染同士。タイムユニバース彩度駅前店の支店長の息子で、

   彩度商店街のガンプラチームを目の敵にしている。

   留守佳那のガンプラファイターとしての素質を見出し

   彼女を自身の旗下としてガンプラバトルへと引き込んだのだが、今では自身が

   リーダーであるのにも関わらず、ガンプラバトルにて

   時に佳那のファンネル代わり(比喩表現)とされてしまう事も有るという有様に

   なっており、しかも彼自身が其の事に気付ききれていない。

   戦術指揮官および留守佳那ほどではないもののガンプラファイターとしての技量は

   充分に高い部類かつ他人への気遣いが出来る人間ではあるのだが

   彩度商店街やウィルの件に付随したプレッシャーや野心から性格が歪みでもしたのか、

   ある卑劣な手段を躊躇無く積極的に用いたかと思えば、方向性の違う別の卑怯な手は

   嫌悪する等の、一貫性を欠いた行動や言動が目立ち、

   実直なファイターにも狡猾な策士にも成りきれない中途半端さを醸し出している。

   ウィルの来日に合わせて彼に取り入りつつ自身の成人後次第では将来的にウィルすらも

   出し抜こうかという野心を抱いていた事も有ったが、少し抜けている所も有るようで

   その点が留守佳那の不興と失望を少し買い、彼の佳那用ファンネル代わり化を

   推し進める遠因ともなった。

イメージCV:下野紘

使用ガンプラ:シャッコー、アドラステア、リグ・コンティオ

 

 

キャラクター名:留守佳那(るす・かな)

性別:♀

年齢:17歳

容姿:『ブラウザ一騎当千 爆乳争覇伝』の「貂蝉」

身長:165センチ

スリーサイズ:B/89・W/59・H/90

一人称:私

二人称:アナタ、アンタ(感情が高ぶるとオマエ)

口調:ギャルっぽい感じの女言葉だが、感情が高ぶると男言葉が混じる。

   極希にTPOに応じて敬語も使う。

設定:蘆屋淄雄とは幼馴染同士。蘆屋淄雄 旗下のガンプラファイターのトップエースである。

   蘆屋淄雄からガンプラファイターとしての高い素質を見出され、彼に誘われて

   其の旗下としてガンプラバトルへと入ったのだが、今ではリーダーである筈の淄雄を時に

   ファンネル代わり(比喩表現)としてしまう程になっている。

   ガサツで大雑把、ガラも悪ければ口も悪いのだが、蘆屋淄雄への想い自体は強い。ヤンデレ。

   普段は、口数自体は少なめで冷ややかな態度をとっている事が多いのだが、戦闘時

   特に自身や蘆屋淄雄を蔑むような言動や行動(あくまでも彼女の主観)をとられると

   支離滅裂で衝動的な言動やエグい奇行が目立つようになる等の相当なキレっぷりを

   発揮するようになる。

   なお、ガンプラバトル中にキレ状態な彼女に凄まれると、例え使用機体の性能的あるいは

   技量的に上回っていたとしても、殆どの者が一種の種の恐怖か戸惑いを感じて

   本来の力をあまり発揮する事が出来なくなるそうである。

イメージCV:小林ゆう

使用ガンプラ:リグ・シャッコー、ゲドラフ(アインラッド)、ゴトラタン

 

 

ライダー4号さんよりいただきました。

 

 

決戦仕様 (と本人が思っている) フルアーマーユニコーンガンダム plan BW

WEAPON ビーム・サーベル、ビーム・トンファー

WEAPON ビーム・マグナム(リボルビングランチャー)

HEAD  ユニコーンガンダム

BODY  バンシィノルン

ARMS  バンシィノルン(アームド・アーマーBS and アームド・アーマーVN)

LEGS  ユニコーンガンダム

BACKPACK フェネクス

SHIELD  フェネクス

フェネクス

拡張装備 ハイパー・ビーム・ジャベリン

メガ・キャノン×2

ハイパー・バズーカ

切り札:NT-D

備考:FAユニコーンと違い、プロペラントタンクが無いただのEN馬鹿食いする欠陥機

 

 

雨日鬱さんからいただきました。

 

キャラクター名

天音 勇太(アマネ ユウタ)

天音 千佳(アマネ チカ)

双子の兄妹で一 風留のお隣さん。風留をお兄ちゃん、兄さんと呼ぶ。

 

勇太は身長168cm、千佳は150cm。年齢は主人公とタメ。

神はどちらも赤で千佳はポニーテール。勇太はショートでアホ毛が立ってる。

2人もはっちゃけた性格のため、風留の苦労の元

 

千佳 勇太

ガンダム名

バンシィ・ネオ ユニコーン・ネクスト

元したガンプラ

バンシィ ユニコーン

 

weapon

ビームマグナム ビームマグナム

weapon

ビームショーテル ビームソード

head

バンシィ ユニコーン

BODY

バンシィ ユニコーン

ARMS

バンシィ(アームドアーマー) ユニコーン

RegS

バンシィ ユニコーン

backpack

レジェンドガンダム セブンソード/G

拡張武器

背中太陽炉 なし

 

2人ともユニコーン世代がお気に入りでそれぞれバンシィとユニコーンを改造した

風留には「バックパックが違うだけだろ」と言われたが、2人は気にしていない。

カラーリングは原作カラーと同じ。

双子故のコンビネーションもある。

 

キャラ名 一 風留 (にのまえ ふうど)周りからは「はじめ」とや「フード」と呼ばれる

 

容姿 身長172cm 赤のかかった茶髪に黒目、口数は少なく、めんどくさいが口癖。

しかし断れない性格で苦労人。少しツンデレ気質

 

年齢 主人公の1つ上

 

戦闘スタイルはガンプラに似合わず、ミラージュコロイドを使用した暗殺、闇討ちがメイン。

しかしそれはチームの時だけであり、ソロ状態だと正面から戦う。(そこまで強いわけではない)

 

機体名 アストレイブラッドX

元のガンプラガンダムDX

 

切り札はツインサテライトキャノン

 

weapon カレトヴルッフアンビデクストラスハルバードモード

weapon ビーコックスマッシャー

 

head アストレイレッドドラゴン

BODY ガンダムX

ARMS ブリッツ

RegS OOガンダムセブンソード/G

backpack ガンダムDX

SHIELD ABCマント

拡張装備 大型ガトリング(両肩)

ファンネルラック(背中)

スラスターユニット(足)

対艦ビームランチャー(背中)

 

オプション装備

対艦ビームランチャー

大型ガトリング

ファンネル

GNサーベル+GNカタール

グレイプニール

 

ガンプラカラーは深緑。サブカラーに黒や赤を入れている。

ブリッツのアンカーはそこまで多用しない。

 

 

<30000UA記念小説>

 

八神優鬼さんからいただきました。

 

機体名 BD the.BLADE ASSAULT

 

ヘッド BD2・3号機

胴体 Zガンダム

手  F91

足  アストレイレッドフレーム改(2本の刀を初期装備)

バックパック GP03

武器 試製9.1m対艦刀 アトミックバズーカー  

オプション バックパックに双刀

 

 

<第七章>

 

幻想目録さんからいただきました。

 

村雨莫耶

性別:男 年齢:25歳

家族構成:自分

容姿:身長は170〜180cm、普段からお気に入りの革ジャンを着ている。かなり糸目(笑)

性格:流れるように毒舌を吐く奴だか、実は案外人のことを心配している。仲間や身近な人がバカにされたり傷つけられたりすると性別が一変して自分の大切な人を守るために戦う。

設定:アメリカ代表、7年前に高校を卒業した直後に「アメリカにガンプラバトルの武者修業に行く!」と言って一人アメリカに行ってしまった。5年前に行われた大会(ミスターガンプラがウィルと戦って負けた大会)の準決勝でミスターガンプラに敗れて以来ミスターガンプラにリベンジするために特訓していた。ウィルとの面識は一応ある。(同じガンプラファイターとして一度挨拶した程度)

時に出場していた現地の大会で同じく訓練がてら出場していた莫耶と知り合った

出身:彩渡商店街

 

ガンプラ名 X105-R ストライクライザー

元にしたガンプラ ストライクガンダム、OOライザー

 

WEAPON ビームサーベル(Z)

WEAPON ツインバスターライフル(EW)

HEAD ビルドストライク

BODY ストライクフリーダム

ARMS ガンダムage-2(ノーマル)

LEGS  ストライク

BACKPACK OOライザー

SHIELD バインダー(OOライザー)

 

拡張装備

ビームランチャー

大型レールキャノン×2(バックパック)

大型対艦刀(バックパック中央付近、ちょうどレールキャノンの間)

Iフィールド発生装置(腰付近)

ファンネルラック×2(足の太もも付近)

トランザム

 

オプション装備

カリドゥス

ビームランチャー

GNフィールド

Iフィールド

GNマイクロミサイル

大型レールキャノン

ファンネル

大型対艦刀

アーマーシュナイダー

頭部バルカン

 

切り札 フルバースト

カラーリングは大体は各パーツそのまま、BODYだけ青色のところが赤色になっている。

 

キャラクター名:アメリア・マーガトロイド

性別:女

年齢:20歳

家族関係:一人 両親は幼い頃に亡くしている

容姿:頭に大きなリボンを付けている。髪型はポニーテール。髪の色は黒。理由は莫耶が黒髪の方が好きだから元々茶髪だったのを染めた

パッチリとした目で目の色は綺麗な碧眼。髪は結んでいないと腰に届くぐらいに長い。

身長:150〜160cm

出身:アメリカ ニューヨーク

性格:誰がどう見ても純度100%のツンデレ、普段は素直でとても良い子なのだが莫耶の前ではどうしてもツンツンしてしまう。彼女はしっかり隠しているつもりだが莫耶や周りの人間にはバレバレ。いつも莫耶にこのことをからかわれている。

 

設定:6年前アメリカで悪ガキに虐められていたところを偶然通りかかった莫耶に助けられた。それ以来莫耶に恋心を抱くようになり莫耶を追いかけ回し、ある時莫耶がガンプラバトルで負けそうになった時に莫耶が昔使っていたフォースストライクを持ち出し莫耶を助けたことでガンプラバトルに興味が湧いてそれ以来莫耶とチームを組んで大会で出場している。現在莫耶とは恋人関係。頭に付けている大きなリボンは子供の時から付けていて、亡き母からの最後のプレゼント

 

ガンプラ名:FX-105 ストライクSEEDガンダム

元にしたガンプラ:エールストライクガンダム

 

WEAPON:ヴァジュラビームサーベル(フォースインパルス)

WEAPON:高エネルギービームライフル(ストライクフリーダム)

HEAD:ビルドストライク

BODY:ストライクフリーダム

ARMS:ビルドストライク

LEGS:ストライク

BACKPACK:フォースインパルス

SHIELD:アンチビームシールド(デスティニー)

拡張装備:カリドゥス複相ビーム砲 レールキャノン(両腰) 頭部バルカン アーマシュナイダー ダブルビームブーメラン(両肩) Iフィールド(腰部)

EXアクション:エクスカリバー トランザム

 

カラーリングはBODYとLEGはエースホワイト、それ以外はそのまま

 

 

 

落陽天狐さんよりいただきました。

 

世界大会出場 ギリシャ代表

チーム名 ネオ・アルゴナウタイ

メンバー 三名

 

アキレアス・アンドレウ

自身の強さに自信を持ち、常に上を目指すチャレンジャー精神旺盛な男

自信を持つだけはあり、バトルの腕前は中々のもの。

一対一の戦績は引き分けや中断こそ多いが、負けはない。

しかしその反面、彼の能力が影響してか、周りとの連携が上手く合わない。

このチームに入ったのはスカウトと、自分のレベルに合った戦い方が出来るという理由

同じチームのアリシア・カサヴェテスに恋をしている

愛称はアキ

 

キャラクター名 アキレアス・アンドレウ(男)

ガンプラ名 トールギス・アキレウス

元にしたガンプラ 特になし。あえて言うならば名前と頭の通りトールギスⅡ

 

WEAPON なし

WEAPON フェイロンフラッグ

HEAD トールギスⅡ

BODY νガンダム

ARMS デュエルガンダム

LEGS ガンダムX

BACKPACK ガンダム試作3号機

SHIELD ABCマント

拡張装備

(バックパック装備)大型ビームランチャー2つ

(バックパック装備)Iフィールド発生装置

(肩と脚部)シールドビット合計8機

 

アキレアスの口癖「俺は英雄だからな」

 

アリシア・カサヴェテス

少し大人びた女性

アーチェリーを習い、一般人よりは多少目がいい

ガンプラバトルにはあまり興味を持たなかったが、友人のヘラクレス・サマラスに誘われたことから始める

アキレアスのストッパーのような役割をしている

リーダーではないが、状況を良く見れる遠距離で戦うため、指示は彼女が出す

本当はライフルではなく、弓を使いたかったらしい(ライジングガンダムのようなものではなく、実体のある矢を装填する普通の弓矢)

口癖は特になし

 

 

キャラクター名 アリシア・カサヴェテス(女)

ガンプラ名 ダソス・キニゴス

元にしたガンプラ 特になし

 

WEAPON 狙撃用ビームライフル

WEAPON ヒートサーベル

HEAD アカツキ

BODY ダブルオーガンダム

ARMS Hi-νガンダム

LEGS ダブルオーガンダム

BACKPACK なし

SHIELD ABCマント

拡張装備

(胸部)角型センサー二つ

(左腕)Iフィールド発生装置

 

解説

遠距離の射撃の強さが目立つ機体

こちらも、トールギス・アキレウス程ではないが歩行速度が速い

二機のサポートメインで動くため、一番弱いと思われて真っ先に撃破目標にされるが、他の二機とそれほど大きな差がない程の腕前なので、狙いに行ったそばから撃ち落されたり、攻めているときに後ろから二機を突っ込ませて挟み撃ちにされて敗北するチームが多い

弱点としては、機体の耐久値が恐ろしく低いので、直撃を数回貰うだけで撃破される

緑色メインなので森の中など緑の多いところではかなり見失いやすい

ギリシャ神話の英雄アタランテをモデルとしている

カラーは、ソルジャーグリーンをベースに肩、胸、腰の部分の緑が濃く、膝と頭部の主な部分がサンドブラウン。あと、ヒートサーベルの刃が灰色

 

ヘラクレス・サマラス

背の高い筋肉質な男性

こちらもアリシアと同じように大人びた話し方をする

チームを作った人間であり、チームのリーダーを務めている

自身の名前にヘラクレスとあることから、ギリシャ神話のヘラクレスが好き

一つの物事に対してはなんであれ真剣であり、誰だろうと常に全力を出す

愛称はクレス

 

キャラクター名 ヘラクレス・サマラス(男)

ガンプラ名 ヘラク・ストライク

元にしたガンプラ ストライクガンダム

 

WEAPON 昇竜丸

WEAPON グランドスラム

HEAD ストライクガンダム

BODY ストライクガンダム

ARMS ストライクガンダム

LEGS ストライクガンダム

BACKPACK エールストライクガンダム

SHIELD ストライクガンダム

拡張装備

(脚部)ビームピストル2つ

(腰部後ろ)刀

(両腕)腕部グレネードランチャー

(バックパックの羽部分)スラスターユニット

 

 

三人の歳はそれぞれ、

ヘラクレス19歳

アリシア19歳

アキレアス18歳

です

 

 

<第八章>

 

トライデントさんよりいただきました。

 

ガンプラ名

フルアーマー・ガンキャノン

 

WEAPON1

ビーム・スマートガン(EX-S)

WEAPON2

ビームサーベル(Sガンダム)

HEAD

ガンキャノン

BODY

ガンキャノン

ARMS

デュエルガンダムアサルトシュラウド

LEGS

ガンダムヘビーアームズ

BACKPACK

ファッツ

SHIELD

シールド(ギラ・ドーガ)

 

拡張装備

レーザー対艦刀

BACKPACK BOTH SIDE:1

 

スラスターユニット

POSITION:X -42

POSITION:Y +82

 

新型MSジョイント

内部フレーム補強×2

 

OPINION EQUIPMENT

240mmキャノン砲

シヴァ+5連装ミサイルポッド

頭部バルカン

ホーミングミサイル

18連装2段階ミサイル・ランチャー

背部ビーム・カノン

レーザー対艦刀

 

カラーリング

元のガンキャノンと基本的に同じカラーリングで、ARMSのアサルトシュラウド部分とLEGSのミサイルポッド部分等を灰色に、他の火器部分はキャノン砲と同じ色に合わせます

機体ナンバーはカイ・シデン機と同じ108です

 

戦い方

火力が売りなのは変わらず、基本的にキャノン砲やミサイル、ビーム・スマートガンやハイパー・メガ・カノン等で遠距離攻撃、後方支援に徹する

近付かれても頭部バルカンやアサルトシュラウドのウェポンにシールドに装備されたシュツルム・ファウスト、ビームサーベルやレーザー対艦刀等で自衛は可能、だがあくまで自衛できるレベルなので近距離戦が長続きすると厳しい

「戦○の絆と似たようなのになっちゃったな」と一輝は語る

 

ガンプラ名

ストライク・リバイブ

 

WEAPON1

ビームライフルショーティー

WEAPON2

シュベールラケルタビームサーベル

HEAD

ストライクガンダム

BODY

ウイングガンダムゼロ(EW)

ARMS

スターゲイザー

LEGS

ガンダムダブルエックス

BACKPACK

デスティニーガンダム

SHIELD

ビームシールド(スターゲイザー)

 

拡張装備

ファンネルラック

BACKPACK BOTH SIDE:1

 

ダブルビームブーメラン

BOTH ARMS:3

 

スラスターユニット

BOTH LEGS:2

 

新型MSジョイント

 

OPINION EQUIPMENT

マシンキャノン

ファンネル

イーゲルシュテルン

高エネルギー長射程ビーム砲

アロンダイト

ダブルビームブーメラン

ハイパービームソード

 

カラーリング

WEAPON1とARMSとLEGSはエースホワイトで、BODYは胸部の紺色(?)を青に、BACKPACKはそのままでそこに装備されてるファンネルラックは翼の色に合わせます

 

戦い方

秀哉は弾幕を張ったり二刀流での戦闘スタイルを好むので、イーゲルシュテルンとマシンキャノンの同時発射、アロンダイトとハイパービームソードの二刀流で戦う、というのをよかったらいれてください

ファンネルは最後の切り札みたいなものにしてほしいです(翼でファンネルラックを隠してるのはそのため)

普段は別々に使いますが、本当にピンチの時は光の翼とゼロシステムを同時に使います(ゲームでは意味はないんですけど、実際だと効果ありそうだなと)

 

 

<第九章>

 

幻想目録さんからいただきました。

 

ガンプラ名:ストライクSeedFreedam(ストライクシードフリーダム)

型式番号:SEED-02

パイロット名:村雨莫耶

 

WEAPON:シュペールラケルタビームサーベル

WEAPON:ツインバスターライフル(EW版)

ARMS:ストライクフリーダム

BACKPACK:ストライクフリーダム

SHIELD:ビームシールド(ストライクフリーダム)

それ以外:ストライクSEEDと同じ

 

拡張装備:カリドゥス スーパードラグーン フラッシュエッジ2

レールキャノン ファンネル アーマーシュナイダー Iフィールド

 

オプション装備:フラッシュエッジ2(両肩) ファンネル(両足)

レールキャノン(両腰) Iフィールド発生装置(腰裏)

 

カラーリング

BODY:デフォルト ARMS:デフォルト BACKPACK:デフォルト

それ以外:ストライクSEEDと同じ

 

ガンプラ名:ストライクSeedDestiny(ストライクシードデスティニー

型式番号:SEED-01

パイロット名:アメリア・マーガトロイド

 

WEAPON:アロンダイト

WEAPON:ルブスビームライフル(フリーダム)

ARMS:デスティニー

BACKPACK:デスティニー

SHIELD:ビームシールド(デスティニー)

それ以外:ストライクSEEDと同じ

 

拡張装備:頭部バルカン カリドゥス フラッシュエッジ2 ファンネル

パルマフィオキーナ アーマーシュナイダー レールキャノン

高エネルギー長射程ビーム砲 大型ビームキャノン アロンダイト

腕部グレネードランチャー

ビルダーズパーツ:レールキャノン(両腰) ファンネル(両足)

大型ビームキャノン(バックパック) 腕部グレネードランチャー(右腕

 

カラーリング:腕とバックパック以外はストライクSEEDと同じ。

腕とバックパックは元々のカラーリング。

 

 

<最終章>

 

不安将軍さんからいただきました。

 

キャラクター名:砂谷厳也

ガンプラ名:クロス・ベイオネット

 

WEAPON ザンバスター

WEAPON ハイパー・ビーム・ジャベリン(以下ジャベリン)

HEAD ギャプランTR-5(フライルー)

BODY ダブルオークアンタ

ARMS クロスボーン・ガンダムX1

LEGS ガンダムエピオン

BACKPACK ドーベン・ウルフ

SHIELD シールド(エピオン)

拡張装備 シールドブースター×2(両肩側面)

     ビームキャノン×2(両足側面)(銃口は真上)

     フラッシュバン(左腰側面)

     GNフィールド発生装置(腰後部)

     新型MSジョイント

カラー ライトニングブルー

 

機体説明

クロス・フライルーを改良してより近接戦闘を高めた機体。以前同様、立体的な高速移動を行う為に両肩にシールドブースターを装着、可動させる事で急速な加速や動き、変則的な移動や上昇や降下などを可能とさせている。

戦法は多少変化し、マイクロミサイルやライフルの連射を放ちつつ一気に加速してジャベリンの攻撃を繰り出し、連続攻撃に移行する。シールドブースターを用いての突きや機体を横回転させる事で威力を高めた一撃を放ったりできる。

チャージ核弾頭は滅多に使わないがMA戦時などのここぞという時に使用し、ジャベリンを失ってもビーム・ザンバーや腰に付いてあるビームソードを用いての二刀流や左手にザンバスター、右手はブランド・マーカーなど多彩な攻撃手段とやり方を有している。インコムも積極的に使用し、対艦ミサイルは状況に応じて撃ったりする。

脚部のビームキャノンは普通に使用できるが、主に近接戦闘の際の不意打ちとして使われるのが多い。

ジャベリンは桜波咲が使用していた物(ルーツガンダムの)で、恋人同士になってからパーツを交換しあった。

 

キャラクター名:荒峰文華

ガンプラ名:ガンダムフォボス・改

 

WEAPON ビーコック・スマッシャー

WEAPON マスタークロス

HEAD アストレイレッドドラゴン

BODY ガンダム G-セルフ

ARMS バンシィ(アームド・アーマー装備)

LEGS V2アサルトバスターガンダム

BACKPACK レジェンドガンダム

SHIELD アームド・アーマーDE(バンシィ)(バックパック)

拡張装備 大型ガトリング×2(バックパック)

     マイクロミサイルランチャー×2(バックパック)

     大型ビームランチャー×2(両肩上部)

     GNフィールド発生装置(バックパック)

カラー エリートネイビーで肩の部分と所々が赤黒

 

機体説明

ガンダムフォボスを改良し、制圧射撃と防御を高めた機体。以前の様な速さは無いものの中距離行動は強化された。

戦法は変わらず中距離を維持しながらの支援射撃や砲撃をメインにしているが、新たに装備したバックパックのドラグーンは状況に応じて射出して全方位攻撃したり、射出せずに装備されているマイクロミサイルや大型ガトリングなどの全武装と一緒に撃ちまくったりなどできる為に火力が増し、牽制力も高まった。

シールドはバックパックに装備され、ブースターとして使ったりするが砲撃や一斉射撃の際には取り外して使う。

ボディのフォトン・シールドは使用して動きを封じた後に攻撃を行ったり、桜波咲に狙撃させたりと役立っている。

近接戦闘力も低下しない様に作られおり、マスタークロスと併用して近接戦闘を行う事でアンカーのように引き寄せてからビーム・トンファーなどで攻撃を行ったりも出来るようにした。

アームド・アーマーVNは通常時でも展開でき、形状も変えれる事から近接戦闘では重宝している。

 

 

キャラクター名:桜波咲

ガンプラ名:ロードガンダム

 

WEAPON メガ・ビーム・ライフル(V2アサルト)

WEAPON ビーム・ナギナタ(シナンジュ)

HEAD ガンダムTR-1[アドバンスド・ヘイズル](センサー・ユニット)

BODY ガンダムAGE-2 ダークハウンド

ARMS ガンダムデスサイズヘル

LEGS ケルディムガンダムGNHW/R

BACKPACK ローゼン・ズール

SHIELD シールド(ローゼン・ズール)

拡張装備 レドーム(右肩上部)

     角型センサー(胴部の肩近くに左右一つずつ)

     シールドブースター(右腕)

     大型レールキャノン×2(バックパック側面)

     スラスターユニット×2(両足側面)

カラー 全体的にくすんだ群青だが両肩とシールドの一部は青く、少し赤が使われている所もある。

 

機体説明

ルーツガンダムを改良し、火力を削減した代わりに遠距離狙撃に特化させた機体。

狙撃を高める為にセンサー類を装備、武装を減らした事である程度軽くなって移動もしやすいように作られた。

戦法は前と同じ様に遠距離からの攻撃にしているが今回はハイパージャマーを使っての隠密行動を重視。

なのでミサイルやビットによる攻撃や防御は多用できず、ライフルビットだけ射出して支援に回したりしている。

Iフィールド持ちの相手用に弾速の速い大型レールキャノンで対応できるようにしていて、これで狙撃も可能。

ライフルにシールドブースターが結合するように装着されており、破壊されない為に付けられた。

主に緊急回避や逃走に使用され、厳也から教わったのかシールドブースターを発動してから切り離して敵機にぶつけたりステルス状態からの囮に使ったりなどする。

ビーム・ナギナタは厳也が使用(クロス・フライルーの)していた物で、恋人同士になってからパーツを交換しあう。

近接戦闘ではサイコ・ジャマーとフラッシュアイを使用しつつ戦い、内蔵してあるGNビームピストルⅡやシールド武器を牽制として撃ったりする。

 

 

キャラクター名:御船珠湖

ガンプラ名:アサーシン

 

WEAPON GNビームピストルⅡ

WEAPON 電光丸

HEAD ペイルライダー

BODY スタークジェガン

ARMS ガンダムデスサイズヘル

LEGS ダブルオーガンダム セブンソード/G

BACKPACK ローゼン・ズール

SHIELD GNシールド(キュリオス)

拡張装備 丸型バーニア(バックパック)

     IFジェネレーター(右腕)

     強化センサーユニット(頭部)

     フラッシュバン×2(両腰側面)

     ダブルビームブーメラン×2(両膝)

カラー トライアルグレー

 

機体説明

射撃や砲撃ばかりしてたせいか近接戦闘の腕が落ちたと思い、勘を取り戻す為に使っている旦那作成の機体。

持ち主が旦那の為、珠湖が好んでる派手な武器や囮戦術もできないが久しぶりの近接戦闘の為に我慢している。

しかし珠湖が作った機体(ブレイクボマー)との連携を重視してた為に射撃武器は少なく、久しぶりの近接戦闘に不安を感じて厳也達とチームを組む事に。一番相性が良いのは自分の機体と似た武装をしている文華。

厳也と一緒に敵陣に突撃し、競い合いつつも互いにサポートし合い、暴れ回っている事が多い。

戦法はハイパージャマーを多用しながら敵チームの妨害や攻撃を行うというシンプルなもの。

フラッシュバンの大量使用やIFジェネレーター、サイコジャマーによる行動阻害・姿を隠した状態からの近接武器による攻撃などを行いつつ敵チームを撹乱し続け、ステルスが切れる前に離脱して中距離からGNビームピストルⅡを連射しつつ自分を狙うミサイルなどはダミー弾を使って回避したりする。

 

 

エイゼさんからいただきました。

 

キャラクター名:篠宮陽太

ガンプラ名:GM‐セルフ

WEAPON:ビームサーベル(Gセルフ)

WEAPON:ビームライフル(Gセルフ)

HEAD:ジム・カスタム

BODY:Gセルフ

ARMS:Pジムカーディガン

LEGS:ガンダムMK‐Ⅱ

BACKPACK:Fインパルス

SHIELD:チョバムシールド(Bストライク)

拡張装備:六連装ミサイルポッド×2、シールドビット×2、角型センサー×1、内部フレーム強化、新型MSジョイント

オプション兵装:頭部バルカン、シールドビット、フォトンバリア、ミサイルポッド、ガトリングガン、ビームサーベル(Gセルフ)×2、ビームサーベル(Pジムカーディガン)×2、ヴァジュラビームサーベル×2

切り札:フォトンバリア、エクスカリバー突撃

設定:篠宮陽太作の初ジムタイプガンプラ。基本的には汎用機にビームサーベルを合計八本装備しているが、これらの一部は後述のジム・キャノンⅡSBCのサブアームに装備可能としている。

他にも、ミサイルやシールドビット等の装備も確認されている事から、陽太自身の苦手距離克服用の機体アセンとなっている。

 

キャラクター名:篠宮皐月

ガンプラ名:ジム・キャノンⅡSBC

元にしたガンプラ:ジム・キャノンⅡ

WEAPON:ツイン・ビームスピア

WEAPON:GNビームライフル(ジンクスⅢ)

HEAD:Pジムカーディガン

BODY:ガンキャノン

ARMS:フルアーマーガンダム

LEGS:ファッツ

BACKPACK:Pジムカーディガン(ガトリング)

SHIELD:フルアーマーガンダム

拡張装備:角型センサー×2、GNフィールド発生器、Iフィールド発生器、シールドビット×2、内部フレーム補強

オプション兵装:頭部バルカン、ロケットランチャー、二連ビームライフル、GNフィールド、Iフィールド、大型ガトリング砲、サブアーム、シールドビット

切り札:二連ビームライフル切り上げ

設定:篠宮皐月作のジムタイプガンプラ。FAヒュプノスと違い、パージ機能は無いがフレーム補強等で見た目と違い…それなりの機動性は確保している物の、それを補う形で防御を固めており、火力と防御に秀でた機体アセンとなっている。

 

キャラクター名:秋城影二

ガンプラ名:ダウンフォール

元にしたガンプラ:ペイルライダー

WEAPON:ビームソード(エピオン)

WEAPON:ハイパーバズーカ(スタークジェガン)

HEAD:ペイルライダー

BODY:ガンダムエピオン

ARMS:デスティニー

LEGS:ガンダムX

BACKPACK:オオワシアカツキ

SHIELD:シールド(ジェガン)

拡張装備:スラスターユニット×2、トライブレード、Iフィールド発生器、角型センサー×1対(胴体部)、フレーム補強、新型MSジョイント

オプション兵装:頭部バルカン、トライブレード、Iフィールド、オオワシ(高エネルギー砲)、フラッシュエッジⅡ、パルマ・フィオキーナ

切り札:HADESシステム、ZEROシステム、バルジ斬り、HADESZEROプログラム

設定:秋城影二作の新型ガンプラ。機体内部やジョイント部の見直しやアセンシステムの組み直しにより搭載されたHADESZEROプログラムにより、圧倒的性能を誇るものの…後述の説明によってかなりファイターを選ぶ機体となっている。

 

GM-セルフ:カラーはGセルフベースでバックパック並びにシールドはデフォルト

ジム・キャノンⅡSBC:SBCはサンダーボルトカスタムの略。カラーはフルアーマーガンダム仕様にお願いします。

ダウンフォール:

カラーはペイルライダー仕様です。

バルジ斬り:アセンシステムの改良で、ベースはライザ-ソードを改良した仕様。

HADESZEROプログラム:HADESとZEROシステムの併用プログラムであり、チーム全員の作業によって開発されている。

メリット:機体高速化並びに、戦局予測の発動。更に発動中は機体スペック三割強化

デメリット:機体リミッター解除により、ファイターにはかなりの反応速度並びに体力や判断力を求められる。

発動手順として、HADES→ZEROシステムの発動を遵守(反対だと起動しない為)

発動時間は一分…延長も出来るがその際は機体耐久力を消耗しながらであり十秒なら三割、二十秒なら五割、三十秒なら七割を消耗します。

 

GM‐セルフ:グローカラ-は、頭部デフォ、角型並びに胴体はGセルフ同様にお願いします。誤:フォトンバリア正:フォトン・シールド

ジム・キャノンⅡSBC:グローカラ-はPジム・カーディガン仕様でお願いします。

ダウンフォール:グローカラ-はペイルライダー同様の水色でお願いします。

 

 

<第EX章>

 

刃弥さんからいただきました。

 

キャラクター名 御剣サヤナ

性別:女

年齢:26歳

身長:170cm

容姿:腰まで届く黒髪ロングで黒目、スタイル抜群で巨乳(爆乳と言っても過言ではない)

アバター:マリュー・ラミアス

 

御剣ジンと御剣(旧姓:玉木)サヤの長女。

顔つきやスタイルは母譲りだが、性格はクールで姐御肌。それでいて女性らしさも持ち合わせている。雰囲気には父親の面影がある。

彩渡商店街近くにある、御剣トイショップ二号店の店長をしている。実家が北海道ゆえに幼い頃に乗馬経験があり、

それが元で流鏑馬やジョストという馬上槍試合も嗜んでいて、腕前はかなりのもの(ただし胸が大きくなり過ぎて不便を感じている)。

ガンプラバトルでもそれらを活かした戦術で戦う。

 

ガンプラ名 ジョストエースガンダム

WEAPON ツインソードライフル

WEAPON ツインソードライフル ライフルモード

HEAD  アストレイグリーンフレーム

BODY  ストライクフリーダムガンダム

ARMS  ガンダムヘビーアームズ

LEGS  風雲再起

BACKPACK ガンダム試作3号機

SHIELD  シェンロンシールド

 

カラーリングは全身が白。風雲再起の四本足による高機動を活かした、ツインソードライフルによる突きと薙払いの一撃離脱の戦法を得意とする。

遠距離戦についてもオプション装備のマイクロミサイルやカリドゥス複相ビーム砲で補う。

また父親の影響で剣術にも心得があるので、二刀流のビームサーベルでも戦う。弱点は宇宙空間などによる空中戦が苦手なこと。

 

キャラクター名 御剣ツバコ

性別:女

年齢:16歳

身長:145cm

容姿:黒髪のショートカット、スタイルは良いが胸は貧乳

 

御剣ジンと御剣(旧姓:玉木)サヤの次女でサヤナの妹。

叔母に憧れ、『MITSUBA(ミツバ)』という芸名でアイドル歌手をやっている。(意味は本名を縮めたもの)

現在は姉のサヤナと同居しながら芸能活動をしている。

姉や両親の事は大好きだが、その姉からは年が少し離れていることもあり、よく子供扱いされて、そのことを不満に思っている。

実際、見た目もロリっ子で家族の中で自分だけ貧乳なのを非常に気にしている。

また護身のために合気道と空手を習っている。

 

 

トライデントさんかたいただきました。

 

キャラ 根城進(ねじろ・しん)

年齢 19歳

性別 男

容姿 父親とそっくりどころかそのまんま

アバター アムロ・レイ(一年戦争時)

設定

若手のスーツアクターとして業界ではかなり有名で、文字通り体当たりの仕事でバリバリ稼いでらっしゃるお方。たまにアクターとしてだけじゃなく俳優として作品に関わることもある(そのため特撮ファンじゃない人にも顔が知られていて実は結構な有名人)現在放映されているでっかいヒーローのアクターと主役の相棒という重要な役を演じている(もう撮影は終わった)

祖父は父親が若い頃に他界しているためいないが、祖母と父親は今でも元気で現在両親祖母妹弟と六人暮らし。姫矢家とは家族ぐるみの付き合いで小さい頃から大悟のことを尊敬していた

夢見る妹と弟には完全にヒーローと思われ憧れの的で両親からは同情されてテンションの高い叔母とその娘が進の大ファンで毎回遊ばれて常識人の伯父とその息子には同情される日々

でもそんな家族と親戚が大好きなヒーロー。今日も頑張れ

一人称:身内や友人等には俺で目上の人には私(大悟には俺)

二人称:両親には親父お袋。妹と弟には名前で呼び捨て。祖母はお婆ちゃん。友人には名字で呼び捨て。大悟だけ名前にさん付けで大悟さんと呼ぶ

 

希空と奏とは何回か会ったがあるぐらい

 

キャラ 姫矢大悟(ひめや・だいご)

年齢 21歳

性別 男

アバター カミーユ・ビダン

設定

現在放映されているでっかいヒーローの主役を演じ特撮ファンとそれ以外からも大人気の若手俳優。根城家とは家族ぐるみの付き合いでとくに進からは小さい頃から尊敬されてた。でっかいヒーローに関わるのは二人の小さい頃からの夢で、それが二人同時に叶ったとき根城家姫矢家で盛大に祝われた。そのとき二人は盛大に涙を流した

レスキュー隊の両親と妹の四人暮らし。ちなみに進の時に言った進の身内苦労は家族ぐるみの付き合いである大悟にも向けられている

つまり夢見る弟と妹達には完全にヒーローと思われ尊敬の的でそれぞれの両親には同情されてテンションの高い進の叔母とその娘が進と大悟の大ファンでいつも遊ばれて常人の進の伯父と息子には同情されるのである。頑張れよヒーロー

あと二人ともガンダムも好きでガンプラバトルもする。その際は二人の鉄壁のコンビネーションが光る

一人称:僕

二人称:両親には父さん母さん。目上の人には名字にさん付けで進の伯父と叔母は名前にさん付け。それ以外はほとんど名前で呼び捨て

 

 

希空と奏とはほとんど会ったことがない

 

 

ガンプラ名 ガンダムリバイブ

元にしたガンプラ ガンダム

WEAPON ビーム・ライフル 

WEAPON ビーム・サーベル

HEAD ガンダム

BODY ガンダムMk-Ⅱ

ARMS ガンダム試作一号機フルバーニアン

LEGS ガンダム

BACKPACK ガンダム試作一号機フルバーニアン

SHIELD ガンダム

拡張装備

ハンドグレネード(腰右)

ファンネルラック×2(バックパック)

腕部グレネードランチャー(両腕)

刀(左腰)

 

カラーリングはガンダムで統一

 

事の発端は父親が誘ったバトル。父親がストライクを使うならば自分は1stガンダムを使おうと軽い気持ちで選んだのだが、経験の差もあり大敗。意地になって使い込んだ結果がこれ

比較的シンプルな機体のため近距離戦がメインで、とくに捻った戦い方はしない(刀を投げて刀身でビームを反射させる程度)

 

 

 

 

ガンプラ名 Zガンダムリバイブ

元にしたガンプラ Zガンダム

WEAPON ビーム・ライフル(Z)

WEAPON ロング・ビーム・サーベル

HEAD Zガンダム

BODY Zガンダム

ARMS Zガンダム

LEGS Zガンダム

BACKPACK Zガンダム

SHIELD Zガンダム

拡張装備

碗部グレネードランチャー(右腕)

ビーム・サーベル

メガ粒子砲(頭に埋める感じ)

Cファンネルショート(両足)

マイクロミサイルランチャー(バックパック)

変形可能

 

カラーリングはZガンダムそのまんま

 

ほとんどZガンダムそのまんま。というのも、一回Zガンダムをどうにか改造できないものかと思いいじってみたら変形が出来なくなってしまい、いっそのことほとんどいじらないでオプション足した方がいいんじゃないかという結論に至りこうなった

変形しながらミサイルを打ちまくったりビームコンヒューズを実践したりすること以外とくに捻った戦い方はしない

 

コンビで真価を発揮するタイプ。背中合わせになり回転しながら乱射したり、ウェイブライダーにガンダムが乗って突撃したり等戦法が広がる

 

 

幻想目録さんからいただきました。

 

キャラ名:村雨愛梨(ムラサメ アイリ)

年齢:16歳

性別:女

アバター:カガリ・ユラ・アスハ(seed本編で着ていたピンク色のパイロットスーツ姿)

 

容姿:身長は大体154㎝。周りからしたら結構小さい方。本人は結構気にしているが「周りは小動物みたいで可愛いから今のままでいて」と言われる。

髪は黒髪で父親譲り、目の色は綺麗な碧眼で母親譲りの見事な日系ハーフ。髪型はロングで母親に譲って貰ったカチューシャを付けている。胸は貧乳(⇦ここ大事) 両親のことはパパ、ママ呼び。

 

一人称:私、喋り方は結構元気な感じ。二人称:基本的に年上にはさん呼び敬語。友達になったり仲良くなったりするとさん呼びと敬語がなくなる。

 

性格:母親に似て基本的には友達思いで優しい子、しかし胸に関して指摘されると涙目になりながら「こ、これから大きくなるもん!!」と叫ぶ。最近ツンデレ疑惑がある。現在彼氏歴0年。本人は知らないが学校に愛梨の隠れファンは相当数いる模様。

 

設定:元米国代表2人の子どもで米国生まれ彩渡商店街育ち。なので本人には米国で育った記憶はない。今も商店街で両親と共に親子3人で暮らしている。かなり幼い頃からガンプラバトルで遊んでおり実力は中々のもの。しかしガンプラバトルを始めた理由は「なんか面白そうだったから」いつの間にか父の昔の愛機であるストライクを勝手に持ち出して遊んでいた。父親曰く「やっぱり母さんの娘だな(笑)勝手に俺の機体持ち出すところとか」

将来は希空と同じようにコロニーに上がり暮らしたいと思っているが、まだ親バカの両親が愛梨を離したくないらしく許可してくれない。なので愛梨はいつかガンプラバトルで父親を負かし許可してもらおうとして最近よくシミュレータで特訓している。

今は新しく彩渡商店街にチームを作ろうとしているが中々メンバーが集まらずに苦労している。

 

希空とは友達で希空が地上に帰って来るたびにシミュレータで遊んだりコロニー暮らしの感想や話を聞いている。希空の胸がそれなりに育つのに自分は全く大きくならないことを気にしていたりする。たまにそのことに関して希空母に相談していたりしている。本人曰く「ママがあんなに大きいのに私だけ大きくならないのはおかしい!」「むしろ希空のママはそんなに大きくないのに(禁句)なんで希空はそんなに大きいの!?」

 

 

パイロット名:村雨愛梨(ムラサメ アイリ)


ガンプラ名:ストライクNEXTSeed


元にしたガンプラ:ストライクガンダム


WEAPON:ラケルタビームサーベル(フリーダム)


WEAPON:高エネルギービームライフル(Sフリーダム)


HEAD:ビルドストライク


BODY:フリーダムガンダム


ARMS:ガンダムデュナメス


LEGS:ビルドストライク


BACKPACK:フリーダムガンダム


SHIELD:GNフルシールド


拡張装備:太陽炉(腰裏)、Cファンネルロング(両足)、レーザー対艦刀(バックパックのブースター近く)、レールキャノン(両腰)



 

機体カラー:


基本カラー変えずに腕パーツだけ緑色の部分をエースホワイトでお願いします。
後は足のつま先の部分が赤⇨青色になっています。
他パーツはカラー変更なしです。

 

EXアクション


エクスカリバー:片方の対艦刀を投げて牽制しながらもう片方の対艦刀で相手を突き刺す攻撃


トランザム:エネルギーを大きく消費する代わりに圧倒的な加速を得る。トランザムを使う場合はフルシールドは邪魔になってしまうのでパージしてさらに加速を上げ小回りが利くようにする。



切り札


フルバースト:自身の持つファンネルや射撃武装を全て使用し敵機に高密度弾幕の攻撃を行う。

 



機体説明


両親の愛機であるストライクを参考にして愛梨が初めて自分一人で作り上げた機体。しかし太陽炉だけは父親が以前の機体に付けていたものを愛梨に譲ったもの。ただ太陽炉の性能が良過ぎるからなのか愛梨の技術が追いついていないのかは分からないがトランザムを使用するとフルシールドが加速に耐えきれずに破損してしまうのでフルシールドは簡単にパージ可能にしてある。そのため現在愛梨がオリジナルの太陽炉を製作中…


基本的に中〜遠距離の機体だがフルシールドをパージしトランザムを発動すれば一気に近距離と遠距離問わず戦える万能な機体になる。ただしシールドを破棄するため防御手段がなくなるので諸刃の剣になっている。

愛梨本人曰く「seedのキラみたいに全部良ければシールドなんていらない!」だがそれに対して周りは「それなら最初からフルシールドなんていらないんじゃ…」とこぼしている。


 

エイゼさんからいただきました。

 

キャラ名:蒼月 明里(アオツキアカリ)

年齢:18

性別:女

アバター:ステラ・ルーシェ

設定

髪:亜麻色のショートボブ。前髪に子犬のヘアピン

目:活発な印象を受ける目。瞳の色は青

容姿:身長160位のスタイル良好。胸が小ぶりなのが気にしてる所。

肌色:色白

一人称:ボク。状況によって敬語も使い分ける。

二人称:年上には〇〇さん。同年代には名字呼びで〇〇君、ちゃん許可ありならば名前呼び。

熊本海洋訓練学校在籍の三年生。秋城暮葉の娘で双子の妹もおり、仲は良好。影二にとっては姪っ子であり直接ガンプラバトル指導する程仲が良い。

涼一からすれば、従姉妹であり良く振り回されていた模様。

但し、それは涼一を気遣っての事が大半なので、涼一自身も余り拒んでいなかった模様。

性格は基本的には底抜けに明るくムードメーカーであり、人見知りや見た目に騙されない等あり、行く先々で友人が出来るレベル。幼少から心臓を患っていたものの現時点ではかなり安定しており、油断はしない事を条件に今回涼一の所に遊びに来ている。

ガンプラバトルでは、近中距離戦闘を好むものの実際は距離を問わない戦い方も出来る力量を持っている。

 

 

ガンプラ名:ガンダムスラッシュエッジ

WEAPON:ビーム・サーベル(Hi‐ν) 

WEAPON:ガトリングガン(Vダッシュ) 

HEAD:ストライクE 

BODY:ストライクフリーダム

ARMS:V2アサルト

LEGS:ガンダムDX

BACKPACK:ダブルオーセブンソード

SHIELD:シールド(ウイングプロトゼロ)

拡張装備:内部フレーム補強、新型MSジョイント、丸型バーニア×2(backpack)、角型センサー(body)、大型レールキャノン×2(backpack)

明里が今まで制作したガンプラで唯一『ガンダム』の名を冠したガンプラ、どの距離に置いても高性能だが、明里自身のマッチングに置いて近中距離戦闘を主眼に調整されている。

各種兵装を駆使して、切り札としてトランザムやライザーソードを絡めての戦闘を行う。

カラーリング

headはストライクカラー、bodyとlegはベース通りにarms並びにbackpackは青を濃い目以外はベース通りにシールドは赤を濃い目の青に変更しております。

 

 

キャラ名:秋城 涼一(アキシロリョウイチ)

年齢:17

性別:男

アバター:リディ・マーセナス

設定

髪:ミディアムクールの黒髪。合間に灰メッシュ

目:親譲りの切れ長。瞳の色は黒

容姿:身長178位の痩せマッチョ。左目尻に縦に小さな傷跡あり。眼鏡着用。

肌色:若干小麦色

一人称:俺 基本ぶっきらぼうではあるが状況によって敬語も使い分ける。

二人称:年上には〇〇さん等、同年代や下には名字呼び許可ありなら名前呼び。

性格:基本的にぶっきらぼうですが、根っこの部分はお人好しである。1歳年下の妹がいて仲は良好。

ファッションは基本的に黒系を好むものの…偶に妹監修でのファッションショーをやらされる。

蒼月姉妹とは互いに近所であり、仲は悪くないが主に明里に振り回される事が多かった。

しかし、明里自身が自分に気を使っている事を察しているのと、悪い事ばかりじゃない事を理解して振り回されてる模様。

現在は親元を離れて彩渡の学校に通っており、その縁あって村雨愛梨や御剣姉妹とも交流を深めている。

親…特に父親に対しては思う所があったものの…帰省した際に本気のガンプラバトルを行っており惨敗したものの、蟠りは解消している。母親とは仲は良好ではあるが、両親の仲の良さに呆れてはいる模様。

ガンプラバトルでは、自身と相手の戦力差を計りつつ自分の機体の兵装を駆使して闘う。基本的にどの距離でも戦える力量を有している。

 

 

ガンプラ名:エクシアサバイヴ

元にしたガンプラ:ガンダムエクシア

WEAPON:ビーム・サーベル(Gセルフ)×2

WEAPON:専用ショットガン(ケンプファー)

HEAD:エクシア

BODY:Hiνガンダム

ARMS:ストライクノワール

LEGS:ガンダムX

BACKPACK:デスティニー

SHIELD:ABCマント

拡張装備:スラスターユニット×2(leg)、バルカンポッド(head)、内部フレーム補強、新型MSジョイント、ファンネルラック×2(leg腰部)

涼一の制作したガンプラ。基本的にどの距離でもその高性能を発揮しつつ射撃兵装の上で近距離重視の調整が施されている。

EXアクション:スラッシュレイブ、光の翼、アロンダイト投擲、フルウェポンコンビネーション

アロンダイト投擲:アロンダイトを投擲して、命中や外れでもフォローするようにアンカー射出し、クロスボーンフルクロスのシザーアンカーの要領で斬撃を行う。

フルウェポンコンビネーション:初手にファンネル+backpackビーム砲にて射撃、続いてアロンダイト投擲+右腕アンカー射出で斬撃を繰り出す。

更に左腕アンカー射出捕縛+バルカン射撃+ショットガン零距離射撃を行い、最後に二刀流ビーム・サーベルにてX状に切り裂く。

カラーリング

headはグロ-を水色以外はベース通りにして、ボディはエースホワイト、armsは肩と手首をエクシアブルーにしてスラスター部はベース通りに他は白、legは白に足裏を赤にしてスラスターユニットはエクシアブルーに、backpackはメイン羽をエクシアブルー以外はベース通りにお願いします。

 

 

隠し設定

秋城 涼一は秋城影二と御剣コトとの間に生まれた子であり、又雨宮夫妻や砂谷夫妻とも親を通じての面識あり。希空や奏の事も互いに知っている。

明里の方は秋城暮葉の娘であり、雨宮夫妻のみ面識あり。

希空や奏とは初顔合わせの模様。

因みに、涼一並びに明里共に御剣夫妻とは面識ありの設定でお願いします。

最後に一時期涼一は自身の腕の無さにヤさぐれていた(希空や奏も知っている)。

だが、明里の修正+影二との親子バトルの末に立ち直る(結果は惨敗)。

その後エクシアサバイヴを制作し、明里を伴って戻ってきた。

自身を取り戻した後は、バトルに勤しむ傍ら、料理の腕は一流であり、甘味(和洋問わず)の出来は、店出せるレベル。

また、実力上チームに誘われるもののどのチームに参入するか迷っている。

涼一からの呼び方:

アカ姉、親父、お袋

明里からの呼び方:

涼ちゃん、叔父さん、叔母さん

 

 

不安将軍さんからいただきました。

 

キャラ:神山貴文(こやま たかふみ)

年齢:18

性別:男

アバター:グラハム・エーカー(連邦軍版)

設定

髪:短髪の黒茶色

目:吊り目の茶色

容姿:身長188cmでガッシリとした肉体

肌の色:肌色

一人称:基本は俺だが目上の人等には自分 落ち着いた口調

二人称:基本的に異性同性関係なく同年代・年下には名前呼びで駄目なら名字呼び捨て。年上ならさん付けと敬語

呼び方:舞歌・父さん・母さん

服装:シャツにズボン

性格:余程の事がない限り慌てず、冷静かつ落ち着いた雰囲気でよく年上扱いされ頼りにされている。

母親は舞歌の両親と友人関係にありそこから希空達と知り合い仲良くなり、面倒を見た事もある。

舞歌や希空達が買い物に出掛ける際はナンパされないよう一緒に出掛ける様にしている。

二人兄弟で兄がおり、兄は舞歌の姉と婚約した事で将来は義兄妹となるが本人は以前から妹分として見てた。

学校等ではかなりもてているのだが、本人はそれに気付いてなく両親から溜息をつかれ困惑している。

顔に似合わず甘い物好きで、普段はあまり感情を表に出さないが食べてる時は満面の笑顔で食べている。

恋人はいないが好きになった女性の前では何時もの落ち着きがなくなり感情が表に出てよく分かる様に。

ガンプラバトルを始めたきっかけは舞歌が一緒にやろうと誘ったからで、それまではガンプラを作るだけだった。

最初は戸惑ったが、徐々に舞歌の笑顔を見たい為にバトルを一緒に行う様になった。

舞歌と一緒にバトルや大会にも出ており、実力は高いものと知れ渡っているが本人達は親を超すのが目標としてる。

バトルでは支援に徹しているオールラウンダーで苦手な距離はないがガンプラ次第で得意とする距離などが違う。

舞歌が積極的に近接戦を行ってたから自分から支援・援護を主にした戦法を取る様になり、指示も行ってる。

一人の時は遠慮する事無く思いっきり相手とバトルを行い楽しんでおり、様々なガンプラでバトルをしている。

 

 

ガンプラ名:ガンダムアグニス

WEAPON:対物ライフル

WEAPON:拳法用MSハンド

HEAD:ライトニングガンダム

BODY:クロスボーン・ガンダムX1

ARMS:デュエルガンダムアサルトシュラウド

LEGS:ガンダムアスタロト

BACKPACK:ガンダムヘビーアームズ

SHIELD:ビームキャリーシールド

拡張装備:ビームピストル×2(腰後部)

     Iフィールド発生装置(腰後部)

     丸型バーニア(バックパック)

     太陽炉(バックパックのエネルギータンク上部)

     レーザー対艦刀×2(バックパック)

EXアクション(必要なら):トランザム・カルネージシュート・ブレイカーシュート・フォースエクステンド

バーストアクション(必要なら):バーストブレイカー

カラー:紫系統のカラーで纏めており、大部分が紫。両肩やバックパックを江戸紫、所々がライラックと薄花桜。

アンテナや銅の一部分は黄色。腕や顔、銅部分は白にしてある。

 

舞歌に合わせて中・遠距離攻撃を主にしているが、いざとなれば近接戦も出来るように作成した支援機体。

基本的に遠距離は狙撃・ミサイル攻撃、中距離はガトリングやビームピストルによる援護射撃を行える。

重装備の外見をしているが、アスタロトの脚部や拡張装備のバーニアのおかげで機動力も有している。

射撃による支援・援護攻撃してる間は相手に近寄らないようにし、近寄られたら逃げつつ弾幕を張る。

レーザー対艦刀は舞歌に渡す事も前提にしており、射撃武器が尽きれば不要なパーツをパージして近接戦に持ち込む。

ビームキャリーシールドは相手の捕獲や飛ばされた武器の回収など様々な事に使われる事が多い。

トランザムは余程の事が無い限り使わず、使った際は近接戦に移行して時間切れになる少し前に距離を取る。

 

 

キャラ:砂谷舞歌(すなたに まいか)

年齢:16

性別:女性

アバター:アニュー・リターナー(制服)

設定

髪:綺麗な腰まであるストレートの黒髪で、一部分だけ髪を纏めて簪を挿している

目:穏やかな垂れ目の黒

容姿:身長175cm。母親譲りの美貌とスタイルの良さ。

   胸はかなり大きく、母親を超した(まだ大きくなってる様子)

肌の色:色白

一人称:私 常に敬語でゆっくりとした口調。真剣な時等はゆっくりした口調でなくなる。

二人称:誰にでもさん付けし、年下の男子だけは君付け

呼び方:貴文お兄様・お父様・お母様

服装:着物・誰かに選んでもらった服・作務衣

性格:父親に似て人懐っこい遊び好きなムードメーカーだがちゃんとする事はしてから遊ぶ。マイペース。

四兄妹の次女として生まれ、兄と姉(双子)に妹がいる。姉の方は貴文の兄と婚約している。

両親が希空の両親と友人同士の為に幼い頃に希空達と知り合い、今も仲が良い友人として付き合っている。

ファションに無頓着で適当に決めるか友人達に頼んで似合うやつを選んでもらったりする事が多い。

ファザコンの気があり、父親の様な人と交際したいと思ってる為に恋愛経験はない。

よく父親に抱き着き、一緒に買い物に出掛ける・頬にキス・一緒にお風呂に入る・同じ布団で眠る等する事がある。

髪に挿してる簪は誕生日プレゼントとして母から貰ったもので大切に扱っている。

ガンプラバトルは幼い頃からやっており、そちらの方は手を抜かずに積極的に両親等とバトルし続け己を高めている。

バトルでは接近戦を好んでおり、外見からは想像できない程の激しい近接戦闘を得意。稀に狙撃系のガンプラを使う事も。

遠距離攻撃もやれる事はやれるが、やはり近接戦闘の楽しさを味わいたい為に近接特化型の機体を作ってしまう。

幼い頃から父親達とバトルをし、大会にもよく出てる為か実力はかなり高く上位に位置してる。

貴文をガンプラバトルに誘った理由は作られた機体が綺麗でそれでバトルしたかったから。

 

ガンプラ名:ケルヌンノス

WEAPON:ライフル(ガンダムアスタロト)

WEAPON:格闘用MSクロー

HEAD:シナンジュ

BODY:ガンダムバルバトス

ARMS:ジンクスⅢ

LEGS:アルケーガンダム

BACKPACK:ガンダムキマリス(ブースター装備)

SHIELD:アメイジングレヴA(バックパックに付けている)

拡張装備:Cファンネル ロング×6(右腕に3つ、左腕に3つ)

     アメイジングレヴA(バックパック)

EXアクション(必要なら):紅の彗星・サイクロンパイルドライバー・グラップルシザー・フリージングバレット

バーストアクション(必要なら):バーストブレイカー

カラー:全体的に白寄りの灰色。胴体中央や両肩側面を赤くしており、。頭の一部分だけ黄色にしている。

所々に光沢のあるメタリックな青緑にしていて、Cファンネルのクリアパーツ部分も同じ様にペイントしている。

 

舞歌が好んで使う愛用ガンプラで、得意としている近接戦に特化させているが遠距離攻撃手段も少ないがある。

多種多様な攻撃手段を持つクローをメイン武装として使っており、たまに相手を投げるという意表を突く事も。

両腕に装備してあるCファンネルは腕に装備させたまま使う事もあれば外して使う事もできるようになっている。

近接戦闘が出来るようにブースト速度を高め、二つのアメイジングレヴAを搭載してより速さを高めている。

スピードを生かしたヒットアンドアウェイからオプション装備による相手を翻弄するような攻撃も可能。

見ての通り速度と近接戦を重視してる為か防御手段が少ないのだが、それは回避で補っている。

EXアクション「紅の彗星」・GNファング・Cファンネルバリアの同時使用からの連続攻撃が奥の手としてある。

 

 

砂谷舞歌は厳也と咲の子供。神山貴文は文華の子供。文華の旦那は高校時代の後輩。

夫婦・親子関係は両方とも良く、厳也と咲は今もデートしたり二人で旅行に行ったりと昔より仲が良くなってる。

咲の方から甘える事が多くなった。子供達は親の事を慕っており、偶に小さい喧嘩もあるが良い家族と言われる。

 

厳也達3人は旦那を加えた4人でチームを組んでたまに大会に出たりする為に遠出したりする。

 

文華は身長はあまり伸びなかったが、最終的にCカップ近くまで大きくなってミサに裏切り者扱いされた。

 

咲は4兄妹が小さい頃はちゃん付け、今はさん付けして呼んでる(幼い頃:舞歌ちゃん 今:舞歌さん)

そして子供達にも常に敬語で喋っており、舞歌も母親みたいに常に敬語で喋る様になった。

 

厳也と旦那は林業や農業に関係してる仕事に就いており、よく仕事で一緒になる為仲が良い。

文華と咲は家事をしたりもしているが、暇があればどちらかの家で食事したり等する程仲が良いまま。

 

厳也と文華は良い親友であり続けているが、偶には口喧嘩等もしてる。

 

舞歌の厳也に対する過激なスキンシップ(頬にキス等)を見て咲も少し照れながら同じ事をしている。

厳也は舞歌の行動を嬉しく思う反面、恥ずかしがる事も。咲の場合は嬉しさだけしかないが。

 

二人とも両親と共に高知に住んでおり、家も近所で家族ぐるみの付き合いをしてたからよく遊び合ってる。

両親が昔通っていた農業系の学校に二人とも通っており、先輩後輩の関係でもある。

 

舞歌と貴文は厳也・咲・文華の三人に中々勝つ事ができないが、それでも諦めずにチャレンジし続けている。

両親の友人である一矢と影二には幼い頃から世話になっており、バトルやガンプラのアドバイスも貰った事も。

一矢と影二の子(希空と涼一)とも面識があり、バトルをした事もある。

大会等でチームを組む時は自分達の兄と姉に頼んで入ってもらう事が多い。

 

 

隠し設定2

 

容姿

厳也:顎に無精髭を生やし、太らない様に運動してる為スタイルは昔と変わらず。身長185cm。

    髪型は学生時代と変わってないがゴムで一纏めしている。

咲:20代に見られる位若々しく綺麗でスタイルも良いままで、舞歌と姉妹と間違えられナンパされる事も。

  髪型はベリーロングヘアのままだが子供が出来てからは目が見える位に前髪を切った。身長178cm。

文華:昔と殆ど変わらない(胸のみ変化)、貴文が父親と思われる事もある。髪型は変わらず。

服装 

厳也:作務衣・シャツにズボン 咲:着物・Yシャツにロングスカート 文華:シャツにズボンかスカート

呼び方

厳也:咲・文華・舞歌・貴文・希空   咲:厳也さん・文華さん・舞歌さん・貴文さん・希空さん

文華:厳也・咲ちゃん・舞歌ちゃん・貴文・希空ちゃん

 

 

舞歌は家事が得意で、特に料理の腕は家族も美味しいと褒めるほど。

 

 

クラストロさんからいただきました。

 

キャラ 神無月 クレア

年齢 15歳

性別 女

アバター スメラギさんの服装

設定

正泰とシアルの娘で長女、外見はFAGのアニメに登場した、アーキテクト人間ver です。

母と変わらず巨乳、そして父の心配性な性格が昇華され気弱な性格になった。

しかしシュミレーターの中では、活発な性格になる、ハンドルを握ると性格が変わるタイプです。バトルはかなり巧く、遠近両方行ける近接よりのオールランウダーです。

 

ちなみに、20歳となる兄がいるが海外にいるので出番は無い。

 

一人称 基本は私、性格が変わるとあたし

二人称 男性や年上の女性には~さん それ以外は~ちゃん、性格が変わると呼び捨てか、あんたになります。

 

口調 基本は丁寧語、性格が変わるとタメ口

 

ガンプラ名 NEXTAGE(ネクストエイジ)

 

WEAPON GNビームサブマシンガン

WEAPON ソードメイス

HEAD ガンダムAGE-3ノーマル

BODY ガンダムキュリオス

ARMS パワードジムカーディガン

LEGS ガンダムAGE-3ノーマル

BACKPACK サザビー

SHIELD ブルーディスティニー1号機

拡張装備 背面 太陽炉

        GNフィールド発生装置

     頭部 V字型ブレードアンテナ

        バルカンポッド

      腰 コンバットナイフ

 EXアクション トランザム

        トマホークハリケーン

        バレットオービット

        アースシェイカー

 

コンセプトは使いやすいガンプラです。

武装なども少なめになっている代わりに基本性能が高く作られている、オールランウダーな機体。

特に特別な機能は無くファイターの純粋な能力が問われる機体です。作成のイメージは主役ガンダムっぽい機体です。

機体色は白と紫、そしてアンテナ類が黄色です。

 




素敵なオリキャラや俺ガンダムありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 もう一度、あの舞台へ
ガンダムブレイカー


 

 

「夕香ー? これどうする-?」

「あー……それそこ置いといて」

 

 時は2029年。

 ここは日本の静かな住宅地。昼下がりの暖かな日差しが射す中、雨宮という表札がある新築であろう綺麗な一軒の家の中では慌ただしく人が動いていた。今この家では引っ越したばかりの家族がいたのだ。

 

 その一室には二人の美しい少女がいた。

 一人は茶髪のくせっ毛のある肩までかかるセミロングの髪。そして何より一番、目を引くのはその赤い瞳だ。彼女の名前は雨宮夕香。この家に引っ越してきた家族の娘だ。

 

 もう一人の少女は半分を纏めたクリーム色の鮮やかなロングヘアと薄い青色の瞳が特徴的だ。名前は根城裕喜。夕香の友人だ。こうして引っ越し先の手伝いにまで来てくれたのだ。

 

「夕香……。こっちで良い……?」

「おそーい、何の為に連れて来たと思ってるのー?」

 

 開かれたドアの方から夕香の名を呼ぶ声が聞こえる。

 見ればどこか裕喜に似た青年がそこにいた。彼の名は根城貴弘。裕喜の兄弟だ。貴弘の手には夕香の私物が入っているだろう段ボールがあった。午前中に体力を使ったのか、どこか汗をかきながら運んできた貴弘に裕喜は文句を口にする。

 

「んー……。それはそこら辺、適当なところに置いといて。あんがとねー」

 

 一方で夕香はガチャガチャとテレビを弄りながら部屋の隅を指さす。夕香の指し示した方向を目で追った貴弘は言われた通り、その辺りに持ってきた段ボール箱を置く。

 

「あっ、テレビついた」

 

 するとカチッという音共にテレビの液晶に現在、放送されているであろう情報番組が映る。それを確認した夕香はふと声を漏らし、テレビから離れる。

 

 内容は完成から一年経った宇宙エレベーターについてだった。

 一年が経ったとはいえ目的地の月面ステーションや宇宙コロニーなどの建設はこれから始まり、まだまだ大きな課題は沢山残っていた。

 

「──よぉ、終わったか」

 

 何気なくテレビを見ていた三人に声をかけるのは裕喜と貴弘の兄である根城秀哉だ。開かれたドアに身を寄せながらこちらを見ていた。

 

「まぁアタシの部屋は今日一日でなんとかしなきゃいけないって訳でもないし、大体、片付いてるから何とかなってるかなー」

「ふーん……。そう言えば夕香、お前、双子の兄貴がいたよな? 今、どこにいる? ガンプラ作ってるって聞いたから興味あったんだけど……。さっきチラッと見ただけでいないんだよな」

 

 ベットに横たわり、可愛らしい枕を抱きながら答える。

 単純に飽きて面倒臭くなったのだろう。そんな夕香に苦笑しながら、秀哉は辺りを見回す。そう、彼の言葉通り、夕香には双子の兄がいた。

 

「イッチならどっか行ったんじゃない?」

「夕香もだけどイッチは猫みたいに気ままよねー」

 

 特に興味もないのか、それよりも興味のあるテレビを見ながら答えるその姿に夕香、そしてその兄とも同級生である裕喜はこの双子は接すればするほど似てると感じてしまう。それは同じくクラスメイトの貴弘も同じなのか彼も裕喜と共に苦笑していた。

 

「……バイト前に話だけでもしてみたかったんだけどな」

 

 秀哉もガンプラを嗜んでいる。

 それは自分好みの改造を施すほどにだ。とはいえ彼は父親を早くに亡くしシングルマザーとなった母親を少しでも支えるために普段はバイト漬けの日々を送っていた。今日もこの後、バイトだ。その前に会ってみたかったのだが、もしかしたら断念せざる得ないかもしれない。秀哉はどこか残念そうに呟くのだった……。

 

 ・・・

 

《──ミサさん、本日もご来店ありがとうございます》

「毎日お出迎えありがとうね、インフォちゃん」

 

 所変わってここは雨宮宅から然程離れてはいないゲームセンター・イラトゲームパーク。客の探知して開かれた自動ドアの先には少女のような女性型のピンク色の業務ロボットが出迎えていた。インフォちゃんの名で親しまれているそのロボットに声をかけるのは、ツインテールの髪と緑色のジャケットを羽織った少女・ミサだった。

 

「なんだい、今日も来たのかい。悲しい青春送ってんねぇ」

「一応、お客なんだから歓迎してほしいなぁ」

 

 インフォの後ろから声をかけるのは一人の老婆が声をかける。

 彼女もまたインフォのようにイラト婆さんと呼ばれて親しまれていた。そんなイラトの茶化しにブスッとした表情を浮かべる。

 

「だったらもっと金落としな。毎日いるだけじゃねぇか」

「───イラト婆ちゃん! このクレーン、がばがば過ぎて景品取れねーよ!!」

 

 そんなミサにズイッと近づきながら不敵な表情で言われてしまう。

 思わず後ずさりするミサだったが、景品が取れないことで文句を言う近所の子供にイラトがそちらの方へ向かったため、胸をなで下ろす。

 

「私もシュミレーター見に行くよ」

《先程、初めてのお客様がシュミレーターに入られました。そろそろプレイが始まるころです》

 

 このゲームセンターのゲームのチェックの大半をインフォが行っている。

 そのことで言い争っている近所の子供とイラトを横目にミサはインフォにガンプラバトルシュミレーターを見ながら告げると、近所の客は全て覚えているインフォの言葉にミサは興味を惹かれる。

 

「ガンダムブレイカーⅢ……?」

 

 ガンプラバトルシュミレーターが設置された場所に着いたミサはプレイの様子が映し出されるモニターの前に立ち、初めて来たというのが誰なのか探す。見慣れた名前や機体名があるなか、一つだけ知らない機体名があった。

 

 名前はガンダムブレイカーⅢ。ジムⅢやG-3ガンダム、そして武器はGNソードⅢと数字の3を意識したような作りの改造ガンプラだ。しかしこの名前にミサは何か引っかかったようなものを感じる。

 

 シュミレーターが作り出した月面を舞台にしたジオラマ上でホログラム投影されたCPU操るガンダムやジム、ザクやジオングなどと言った機体を手慣れた動きで撃破していく。

 

「凄い……」

 

 思わずミサはそう呟いてしまった。

 初心者などとは動きはまったく違う。大会などでよく見る卓越した動きで向かってくる敵を素早く、そして確実に倒していくブレイカーⅢに見惚れていた。

 

「うわっ」

 

 しかしブレイカーⅢに近づくプレイヤー機の存在があった。

 その名前を見てミサの表情は露骨に嫌な顔に変化する。それはある意味、この地元で有名な存在だったからだ。とはいえミサの反応から見てあまり良い存在ではないのは確かだった。

 




雨宮夕香

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出会い

 ・・・

 

「お前、この辺じゃ見ない顔だな!!」

 

 ブレイカーⅢを操る青年は突如として乱入してきた敵プレイヤーに意識を向ける。

 ガーベラテトラを元にしたそのガンプラのカラーリングは緑色と所々にあるヒョウ柄のせいで少なくとも青年にとっては趣味が悪いように感じられた。

 

「俺はタイガーってんだ。この辺でガンプラやるならよォ……。まずはこの俺にあいさつしてもらわねーとなァッ!!」

 

 面倒な奴に絡まれた、そう内心で愚痴を零しながら青年は腕部ガトリングを発砲しながら近づく目の前の相手を見る。

 攻撃自体は単調なもので防ぐまでもないのかブレイカーⅢは必要最低限の動きで向かってくる攻撃、その全てを避けた。

 

 《──もしもーし、聞こえる? いきなりごめんね?》

 

 そんな中でブレイカーⅢのシミュレーター内で外部からの通信が入った。

 

 ミサの声だ。

 とはいえ、ミサを知らない青年からすれば、見ず知らずの人物にあまり外から言われるのが好きではない青年は顔を顰めていた。

 

 《今乱入してきたのはこの辺で初心者狩りをしているタチの悪い奴なの。でも、そんなに強くないから安心して》

「お前、外から邪魔すんなよ!」

 

 タイガーのことを簡単に説明をしてくれるミサの声はタイガーにも届いていたのか、途端に相手のシミュレーターから文句が聞こえてくる。最も、その言葉を聞いてミサはため息をついて……。

 

 《だったら初心者カモるの止めなよー。私が相手になるよ?》

「俺ァ女には手を出さねェッ! 俺より強ェ女にはな!!」

 

 心底、呆れたようなミサの言葉にかつてバトルをして、その実力は痛いほど知っているのか、狼狽えていた。

 

 《ヘタレだなぁ……。君、さっさと片付けちゃっていいよ》

 

 タイガーの言い分に完全に呆れたのか、ミサはブレイカーⅢを操るパイロットにそう告げる。

 だが、そんなことは言われるまでもないのかブレイカーⅢはタイガーのガンプラに損傷を与えていく。攻撃一つ一つは確実にタイガーの機体を直撃し、損傷させていた。

 

「なめんなよッ! 俺は“如月翔”とだって戦ったことがあんだからなッ!!」

「……ッ」

 

 ミサとの話で完全に舐められてるのかと思ったのかタイガーは損傷を与えられながらも向かっていく。するとミサやタイガーにも反応しなかった青年の表情が僅かに反応する。

 

 ブレイカーⅢが動いた。

 モニター越しに見ていたミサには勝負を決める気だというのがすぐに分かった。

 

 ブレイカーⅢは高速で接近しながらグルリと回転し、GNソードⅢで横一文字にすれ違いざまに切り裂く。タイガーのガンプラが背後で爆発する中、ブレイカーⅢは展開したGNソードⅢを畳み、制限時間終了と共にゲームを終わらせた。

 

 ・・・

 

「やーお疲れ、君結構やるねぇ」

 

 ガンプラを持ってシミュレーターから出てきた青年にミサは声をかける。

 ボサボサの髪と気怠そうな雰囲気を醸し出しながら青年の眠たそうな半開きの赤い瞳がミサを捉える。

 

「私の名前はミサ、初めましてよろしくね」

「……雨宮一矢」

 

 自己紹介をするミサに青年は己の名前だけ口にする。

 雨宮一矢……。そう、彼はかつてシャパンカップに出場し、敗退した少年だった。

 

「この辺じゃ見ない顔だけどどこかチームに入ってるの?」

 

 何故、わざわざ自分の名前まで教えてきたのか、そんな風にミサを見つめている一矢にミサは問いかける。

 ガンプラバトルは一人でも行うことは出来るがチームとしてもプレイすることが出来る。今、ネットで調べれば強弱人数問わず色んなチームの名を知ることが出来る。

 

「……入って、ない……けど」

「え……? それはそれは好都合……」

 

 上着の両ポケットに手を突っ込みながら答える一矢にまさに良い事を聞いたと言わんばかりしめしめと笑う。彼女の反応からある事が想像できたのか、一矢は僅かに顔をしかめていた。

 

「私の地元は小さな商店街なんだけど──」

 

 ミサは話し始めた。

 今、自分の生まれ育った商店街が置かれている状況について。

 

 様々な事業を行い、宇宙事業にも参入するほどにまで発展しているタイムズユニバースと呼ばれる会社。その支店の一つとして駅前に出来た百貨店のせいで地元の小さな商店街の客がとられてしまったこと。

 

 このままでは商店街の存続が怪しい。

 そこでミサは商店街の名前でガンプラチームを作り、宣伝をしようとしていることを明かした。

 

「つまり我が彩渡商店街ガンプラチームに君をスカウトしたいんだよ!」

 

 横目でミサを見ながら黙って話を聞いていた一矢にミサは大きく手を広げ、ここまで話した目的を口にする。一矢の想像は当たっていたのだ。

 

「……やだ」

「えぇっ!?」

 

 まさか断られるとは思っていなかったのか、ミサは素っ頓狂な声をあげて驚く。

 

「……寂れた商店街の復興、ね……。ガンプラでやるよりもアイドルになって宣伝すれば?」

「答えなくていいんだわかるからっ……って違う! なんで!?」

 

 

 声を上げたミサに煩そうな目で見ながら、別の案を提案する。

 心当たりの歌があるのか、フレーズを口にし、ノリながらもなぜ断ったのか理由を問いかける。

 

「誰かと一緒に戦う? よく出来るよね、俺はもう嫌だ」

「……!」

 

 目を伏せ、何かを思い出しているのかふと一矢は自嘲したような顔をする。

 そんな一矢を見てミサは目を見開いた。

 

「勝手に人に期待を押し付けてさ。冗談じゃない」

 

 するとすぐに先ほど一瞬見せた表情とは違い、薄ら笑いを浮かべ、立ち上がると去り際にそう言い残してゲームセンターを出る。

 だがミサには一矢が無理をしてそんな顔をしているように見えた。本当の彼は先程の顔を浮かべた方だろう、と。

 

 ・・・

 

「ただいまー……」

「やぁ、お帰り」

 

 一矢との出会いから数十分後、ミサは自分の家であるトイショップに帰ってきていた。

 一矢との一件があったからかその表情はどこか暗い、いやどちらかと言うとずっとなにか考えていたようだ。入店を知らせるブザーとミサの声が聞こえたのか、彼女の父親でありこのトイショップの店長であるユウイチが出迎える。

 

「もうすぐ始まるタウンカップが始まるだろう? 参加登録しておいたよ」

「あ……ありがとう」

 

 ミサにタウンカップのことを話される。

 タウンカップとは簡単にいえば、ガンプラバトルの大会であり、これに勝ち進めばジャパンカップにも参加できる。

 商店街の名を知らさせるには良い宣伝になるだろう。もっとも勝てばの話だが。もっともその話をされたミサの反応は芳しくない。

 

「───どうしたんだい、ミサ」

「どうにも表情が優れないようだな」

 

 そんなミサに今までガンプラを物色していた二人組が声をかける。

 一人は天然パーマとその佇まいから知的さを感じる男性と、その隣には金髪のオールバックの端整な顔立ちの男性がいた。

 

「あっ、今日も来てたんですね、アムロさん、シャアさん。実は……」

 

 常連客なのか、ミサはいつもと変わらない様子で声をかける。

 天然パーマの男性はアムロさんと呼ばれ、もう一人の金髪の男性はシャアさんと呼ばれた。二人はそのままミサに近づく。

 

 また彼ら二人はユウイチ同様に気兼ねなく話せる人物なのか、イラトゲームパークで出会った一矢のことを話し始める。

 

「雨宮一矢……。そう言えば以前、ジャパンカップの観戦に行った時に決勝戦で戦っていたな」

「私も知っている。なにせブレイカーの名を持つガンプラを持っていたからな」

 

 ミサの話を聞いたアムロは顎に手を添え一矢を知っているかの声を漏らすと、シャアも知っているのか声を上げる。そう、ガンプラを作り、そしてガンプラバトルシミュレーターを熱心にプレイする者達にはブレイカーという名前は有名な物の一つだった。

 

「如月翔……。彼にプラモ作りを教わったと聞く」

「如月翔って言えばガンプラバトルシミュレーターのそれこそ最初期から関わってる人ですよね?」

 

 シャアの言葉に頷くアムロからある人物の名前が出てくる。その名前を聞いたミサはブレイカーⅢの名前を見た時に感じた引っかかりの正体を知る。

 

 如月翔……ガンプラバトルにおいてその名を轟かせた人物だ。台場で初めて行われたガンプラバトルシミュレーターの参加者に一般として参加し、やがては選抜プレイヤーに選ばれ、ガンプラバトルシミュレーターの開発やイベントの参加などガンプラバトルシミュレーターを作り上げた人物の一人と言われている。

 

「今は隣町でプロショップの一つとしてウチと同じトイショップを経営しているガンプラマイスターの一人だね。ただのトイショップじゃなくてプロショップだし、従業員にはガンダムブレイカー隊の元メンバーも働いてるらしいから結構、繁盛してるみたいだよ」

「ウチの商売敵じゃん……」

 

 ユウイチも詳しく知っているのか、現在の彼がなにをしているのかを話すとユウイチの話を聞いて、ミサは頭を抱える。

 ガンプラバトルが流行ったこの世界においてガンプラマイスターという存在がどれだけ憧れであり、注目されるのかはミサは知っていた。しかもそれがあの如月翔の店というのだから熱心なプレイヤーは連日訪れるだろう。頭を抱えていたミサはがっくりと肩を落とすのだった……。

 

 ・・・

 

「……ただいま」

 

 同時刻、一矢は自宅に帰ってきていた。

 聞こえるかどうかの声量で帰宅を告げるとのそのそと自分の部屋へ向かおうとする。

 

『夕香は相変わらずええ乳してまんなぁ』

『もーぉ……なにすんのさー?』

 

 恐らくは裕喜と夕香が一緒に風呂に入っているのだろう。

 浴室の方から声が聞こえる。浴室で何やってるんだと言わんばかりにため息をついた一矢は自室へ向かう。

 

「あっ……一矢。どこ行ってたの」

「……ゲーセン」

 

 階段を昇り、二階に到着した一矢は丁度、階段を降りようとしていた貴弘に出くわす。

 突然いなくなった一矢に今まで何をやっていたのか問いかけると、一矢はそれだけ答えて部屋へ向かおうとする。

 

「……ガンプラバトル?」

 

 一矢がわざわざゲームセンターにまで出向いて行うものと言ったらガンプラバトルしかない。何となく分かってはいたが、貴弘が問いかけると、一矢はコクリと頷く。

 

「さっきまで兄さんがいたんだ。兄さんもガンプラバトルやってるんだ、一矢に会いたがってたよ」

「……そう」

 

 バイトの時間が迫っていた為、秀哉はもういない。

 最後まで会いたがっていたので、そのことを一矢に教えると、ガンプラバトルをやっていると言うことに僅かに反応したが、そのまま自室へ戻る。

 

 貴弘は一矢が入った部屋の扉を見つめる。

 元々、一矢は誰かと積極的に交流を持とうというタイプではない。しかし以前のジャパンカップに出場して以降、より素っ気なくなったと感じる。

 

「何やってんの、タカ」

「うわぁっ!?」

 

 そんな貴弘に背後から声をかけてきた人物がいた。

 いるとは思わなかったため、貴弘は眼を大きく見開き声をあげて驚く。振り返ればそこには寝間着にしているのか動きやすい服装の夕香と元々来ていた服に着た裕喜がいた。二人とも風呂上りで顔が紅潮し湯気が立っている。

 

「いや……一矢が帰って来たんだよ」

「へー……」

 

 落ち着いたのか、一矢の帰りを夕香に教えると興味のないような返事をしながら夕香は一矢の部屋を一瞥する。

 

「そう言えば、イッチって普段、何やってるの? やっぱりガンプラ?」

「そうだよ。後はガンダム系のアニメとかホビー雑誌読んでるくらい。最近じゃネットに上がってるガンプラバトルのチーム戦の映像を見てる」

 

 裕喜も首をかしげながら一矢の私生活を問いかける。

 裕喜も一矢とは知り合いだが、別に夕香とは違い、友達と言うほど仲が良いわけではない。裕喜の問いかけに夕香は普段の一矢を簡単に答える。

 

「……ウザいんだよね、動画なんかで自分の気持ちを誤魔化して……。本当は誰かと一緒に戦いたいくせに自分の殻に閉じこもっちゃってさ」

 

 夕香も本当は誰かと一緒にやりたいならやれば良いと一矢に勧めてはいた。

 だがそれでも一矢は変わらない。いや変わってしまったままだ。

 今の一矢は好きではないのか、不愉快そうに言い放つ夕香はそのまま自分の部屋に入ってしまう。裕喜と貴弘は困ったように顔を見合わせると夕香の部屋に入るのだった……。

 




根城裕喜

【挿絵表示】


チームを組むまでちょっと時間かかります。
アムロもシャアもBFのラルさん的存在だと思っていただければ幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ファイターとして

 

≪連日大盛況だったガンプラワールドフェスタ2024! フィナーレを飾るのは夜空を舞台にした立体映像によるエキシビションマッチですッ!!」≫

 

 薄暗い自室で一矢はベットに寝転びながら、携帯端末の立体映像でかつて行われたイベント……ガンダムワールドフェスタ2024、その最後のエキシビションマッチの映像を見ていた。

 

 空にはガンダムエクシア、ダブルオーガンダムセブンソード、ダブルオーライザー、ダブルオークアンタの四機がそれぞれが持つ太陽路から鮮やかなGN粒子を放出している。

 

 対して向かっていくのはかつてガンプラバトルシミュレーターが目玉として初めて稼働した際のイベントであるガンダムグレートフロントで行われたバトルライブGにて結成されたガンダムブレイカー隊から選ばれた4機の選抜プレイヤー達だった。

 その先陣を切るのはRX-78-2 ガンダムを意識しながらもマッシブな作りとなっている改造ガンプラであるガンダムブレイカーだ。

 

 戦闘を繰り広げる両チーム。勿論、これは実際の兵器などではない。イベントMCが言うようにガンプラバトルを立体映像として夜空に映し出されているだけだ。

 

 このエキシビションマッチはガンプラファイターにとって有名なバトルの一つだ。

 一矢自身もこの戦いは生で見た為、よく覚えている。彼はガンダムブレイカーを操る青年……如月翔に憧れていたのだ。彼の家が近い事もあってガンプラ作りも彼に教わった。

 

「……」

 

 チラリとガンダムブレイカーⅢを見る。

 元々、ガンダムブレイカーⅢ自体、翔に教わりながら作り上げたものだ。完成を記念して翔からは彼が作ったGNソードⅢをプレゼントされた。

 この性能は折り紙つきでタイガーの作ったガンプラをまるでバターを切るようにいとも簡単に切り裂いたことでも分かる。

 

 映像に映るチーム戦はまさに白熱のバトルだった。

 だが何より時折、映るファイター達の表情は楽しそうなのだ。まさに心から楽しんでいた。そして見事なコンビネーションは当時の観客や一矢を魅了した。

 

 ──俺もこんな風に……。

 

 そこまで考えて、打ち消すように頭を振る。何を考えているんだと。一矢は映像を消すとそのまま瞼を閉じ、微睡の中へ落ちていくのだった……。

 

 ・・・

 

 翌日、一矢は再びイラトゲームパークに訪れていた。

 今は夏休み、引っ越し後の整理なども手早く済ませていた一矢はやることもなくイラトゲームパークで暇を潰しており、特にすることもなくベンチに腰掛け、モニターに映るバトルの様子を見つめていた。

 

(すごっ……)

 

 一際、目を引いたのは二人組のガンプラだ。

 一機はZプラスのテスト機カラーともう一機は百式だ。素早い動きとまるで自分の事のように理解しているかのような的確な連携、それらによって向かってくるNPC、そしてエンカウントした敵プレイヤーを倒していく。

 

 プレイ時間が終了し、シミュレーターからZプラスと百式を操っていたであろう二人組が出てくる。どんな人物なのかと興味があり、一矢が目を向ける。視線の先には天然パーマ、そして金髪の二人組の男性がそこにいた。

 

「なにをそんなに見つめているのかね、まるでノースリーブを着た男に出会ったような顔だぞ」

 

 バトルの素晴らしさから無意識んもうちにマジマジと見つめてしまっていたようだ。

 すると金髪の男性は視線に気づいたのか自分とその連れを交互に見ている一矢に声をかける。彼らはミサの地であるユウイチの店の常連客であるアムロとシャアだった。

 

「……えっ……あっ……いや……」

 

 一矢は元々人と話すのは得意ではない。

 寧ろ苦手で友達も少ない。しどろもどろになりながら何とか喋ろうとする。

 

「──あっ、いた!!」

 

 そんな一矢に声をかけたのはミサだった。ほぼ毎日ゲーセン通いのミサとこうして出会うのは難しくはなくそして何よりミサ自身、一矢を探していた。自分を見てそう言ったかと思うとすぐさまこちらに向かってくるミサに一矢はそちらに意識を向ける。

 

「……またチームの話……?」

「違うよ! 今日はバトルに来たの! それは良いでしょ?」

 

 またチームの勧誘と勘ぐる。

 しかしミサはどうやら違ったようで腰のウェストポーチから自身のガンプラを見せつけるように突き出しながら一矢に見せる。

 

 ミサのガンプラは白とピンクを基調にしたカラーリングだった。

【機動戦士ガンダムSEED DESTINY】に登場するアカツキがベースとなったガンプラなのだろうが全体的にカラーリングも相まって女性的な印象を受ける。ミサのガンプラはやはりトイショップを営業している家のこともあってか高い完成度を誇っていた。

 

 別にバトルをする分には問題ないのか一矢はコクリとくと、ミサとそれぞれガンプラバトルシミュレーターへと向かう。

 

「……出る」

 

 バトルシミュレーターへ乗り込むと硬貨を投入し稼働させる。

 シミュレーターの指示に従ってGPとガンプラをセットし、暫くの待機画面で待たされた後に出撃するのであった。

 

 ・・・

 

 フィールドに選ばれたのは市街地だ。

 バトルシミュレーターでの戦闘の大半はCPU機との戦闘を行いつつ、プレイヤー機同士が接触、戦闘を開始するという遭遇戦がメインだ。

 立ち並ぶ建物を通り抜けながらミサのガンプラを探していた一矢はミサが先程所有していたガンプラを発見する。すぐさまセンサーがロックし、機体名が表示される。

 

 アザレア……それがミサの機体の名前だ。

 

 だが一々、名前に気を取られるなんて事はない。

 アザレアが持つマシンガンの銃口がこちらに向けられたからだ。放たれたマシンガンの弾丸はすぐさまブレイカーⅢへと向かっていく。

 

「スカウトだけじゃなくて戦ってみたかったんだよっ!!」

 

 GNソードⅢをライフルモードで照射させることでマシンガンの弾丸を飲み込み、そのままアザレアへ攻撃をしかける。ミサはアザレアの機体を屈めると、楽しそうに叫びながら地を蹴ってビームサーベルをブレイカーⅢへ放つ。

 

 ミサは一矢とタイガーの戦闘を見て高い実力を持っていたことはすぐに見抜くことはできた。

 

 そして思ったのだ。

 彼をスカウト出来れば心強いと。だがそれ以上に感じたのは自分も彼と戦ってみたいと言う気持ちだった。

 

「早い……ッ!!」

 

 そして実際に一矢と戦って見てミサは表情を険しくさせる。

 アムロ達の話を聞いてあの後、自分なりに一矢について調べた。彼らの言う通り、一矢はジャパンカップにチームとして出場しエースとして駆け抜けた。きっと自分でも歯が立たないだろう。

 

 でも、それでもミサのガンプラファイターとしての誇り(プライド)が一矢とガンプラバトルをしたいと思わせたのだ。

 

 ・・・

 

 

「流石にかつてのエースだけのことはあるな……」

 

 

 モニターで戦闘の様子を見ていたアムロは思わず声を漏らす。やはりかつてエースとしてジャパンカップの決勝まで進んだという実績もあってかブレイカーⅢはアザレアを圧している。だがそれでもアザレアはブレイカーⅢへ向かっていく。

 

「動きで分かる……。実力の差なんて関係ない、ミサは楽しんでいるな」

「それもまた若さゆえ、か……」 

 

 ブレイカーⅢへ向かっていくアザレアの姿を見て、アムロはそれが我武者羅な動きではないことはすぐに分かった。そして同じファイターである事から彼女が楽しんでバトルをしているのはすぐに分かった。その隣ではシャアがまるでどこか眩しいものを見るように戦闘を見つめる。

 

 ・・・

 

「──イッチって本当にここにいるの?」

「ゲームセンターって言ったらここだし多分……」

 

 アムロ達がバトルに夢中になっている頃、イラトゲームパークの自動ドアが開く。そこには秀哉、祐喜、貴弘の三兄弟と夕香、そして彼らより少し年上であろう青年が来店していた。その目的は一矢を探す祐喜や貴弘の通り、ここにいる一矢だ。

 

「それなりに混んでるだね」

「やっぱ時期が時期だしなー」

 

 秀哉よりも年上の大学生であり秀哉達三兄弟と付き合いのある青年……姫矢一輝は夏休みということもあってか、人が多い店内を見渡しながら呟く。彼の言葉通り家族連れ、学生などで賑わっていた。そんな一輝の言葉に秀哉が頷く。

 

「イッチならシミュレーターのところに居んじゃない」

 

 一矢がゲームセンターに来てまでやることと言ったらガンプラバトル以外ないと思ったのか、夕香は迷うことなくシミュレーターが置いてあるであろう場所へ向かう。

 

「──おい、気を付けろよな!!」

 

 賑わっていたこともあってか、ふとした拍子に夕香はゲーム機の横から呼び出してきた何者かとぶつかってしまった。その場に尻持ちをつく夕香に吐き捨てるように言ったのは一矢に敗北したタイガーだった。彼もミサ同様、ゲームセンターに入り浸っていた。

 

「大丈夫か、夕香」

「ケガは?」

 

 すぐさま秀哉と一輝が駆け寄り、いきなり夕香に怒鳴りつけたタイガーを非難するように見ながら手を伸ばす。

 視線を受けたタイガーは夕香を一瞥すると両手に持つ何やら大きな荷物を抱えたままガンプラバトルシミュレーターへと向かっていく。

 

 尻餅はついたもの特に怪我もないのか、秀哉と一輝の手をとって起き上がって夕香は問題ないとばかりに軽い笑みを浮かべると、そのままバトルシミュレーターへと向かっていくのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チーム結成

 

 ──それは突然の出来事だった。

 

 地面を突き破り、飛び出た触手がブレイカーⅢとアザレアへと向かっていく。

 突然の出来事ではあったが、素早く対応した一矢とミサは回避する。

 

 何事だ?

 そう思った二人に答えるように触手を放ったであろう機体が地面を破って現れる。

 

「この間はよくもやってくれたなぁっ!」

「タイガーっ!?」

 

 まるで怪物の姿をしたようなガンダム……デビルガンダムが現れたのだ。

 そしてそれに乗るのは先程、夕香にぶつかったタイガーだった。ミサは突然のタイガーの乱入に困惑する。

 

「……負けた仕返し?」

「負けてねぇっ! あれはコイツがいきなり割り込んできたからだッ!!」

 

 一矢は乱入してきたタイガーの言葉から自分に負けたことを根に持って、このような事をしたのかと問いかけると、タイガーはデビルガンダムを操作し、アザレアを指さしながら叫ぶ。ミサの介入があったからこそ自分は負けた、そう思っているのだろう。

 

「だから今度こそちゃんと仕留めてやるよ、お前ら纏めてなぁっ!!」

 

 このガンプラならば負けはしない。

 背面から伸びたデビルフィンガーが二機に襲い掛かるがすぐさま再び回避される。

 

「……チッ」

 

 突然の乱入に一矢は露骨に苛立ちを見せる。

 口には出さないもののバトルを邪魔されたのは不愉快以外の何物でもなかったからだ。

 

 しかし気を抜いていられない。

 デビルフィンガーの先端から発射される拡散粒子弾が襲い掛かる。

 

「きゃぁあっ!!?」

「……っ!?」

 

 ミサの悲鳴に似た声が聞こえる。拡散粒子弾自体はタイガーの腕もあって特に避けることは難しくはなかったが、周囲の大きな建造物に直撃して、その結果、破片となってブレイカーⅢとアザレアに降り注いだ、

 正面から放たれる拡散粒子弾と上方から降り注ぐ破片に避けることが間に合わず飲み込まれてしまう。

 

「俺はコイツで如月翔を追い詰めたんだよ! お前らなんかに……ッ!!」

 

 タイガーは建造物の破片に飲まれ、身動きの取れない二機を見て満足そうな笑みを浮かべ、かつての出来事を自慢する。

 

 彼の言葉は間違ってはいない。

 GWF(ガンプラワールドフェスタ)2024……その会場で彼は如月翔とガンプラバトルを行った。とはいえ様子のおかしかった如月翔にその後、蹂躙されてしまったが。

 

 下半身のガンダムヘッドを展開したデビルガンダムはメガビームキャノンの発射準備をする。このままではやられるのを待つだけだ。こんな敗北の仕方など絶対に嫌だ。

 

「……こんな負け方、絶対にやだ……ッ!!」

 

 しかし今から瓦礫から抜け出すには時間がない。どうするべきか迫る時間の中、一矢が思考を巡らせているとミサの声が聞こえる。

 見ればミサは無我夢中に瓦礫を退かそうとしていたのだ。考えるよりもこんな形で負けたくはない、その一心で行動しているのだ。

 

「……ッ」

 

 そんなミサに触発されたかのようにブレイカーⅢは動く。

 完全には抜け出せなかったもののGNソードⅢを持つ腕は自由になった。これだけでも一矢にとって十分だった。

 

 GNソードⅢの銃口をデビルガンダム周囲の建造物に向け、何度もトリガーを引く。

 一つ一つ、高い威力をもって放たれたビームは周囲の建造物を撃ち抜き、崩壊させる。

 

「なんだぁっ!?」

 

 後はブレイカーⅢ達と同じだ。

 デビルガンダムの巨体は破片に飲み込まれ、そのチャージを阻まれてしまう。時間は稼ぐことは出来た。この間ならばブレイカーⅢが自身を覆う瓦礫から抜け出ることは容易かった。

 

「あっ……」

「……行ける?」

 

 それはアザレアもだ。瓦礫を退かし自由になったミサが見たのは、自身を見下ろし左腕部のマニュビレーターをこちらに向けているブレイカーⅢの姿だ。

 シミュレーター内とは言え太陽を背に立つブレイカーⅢはどこか神々しくも思える。ミサが見てきたガンダムのジム顔でこれほどの存在感を放った機体はこれが初めてだ。

 

「うんっ」

 

 しかしいつまでも見惚れる訳にはいかない。

 素早くアザレアはブレイカーⅢのマニュビレーターを掴み、立ち上がり二機は並び立ってデビルガンダムに対峙する。デビルガンダムも同時に瓦礫から抜け出ていた。

 

「こんのォオッ!!!」

 

 タイガーは自由となり、こちらへ向かってくるブレイカーⅢとアザレアに向かって再び無数の拡散粒子弾を放つ。

 だがしかし、周囲の建物、障害物と悉くその光弾はブレイカーⅢとアザレアには当たらず回避されてしまう。それがタイガーを苛立たせる。

 

 ミサはキッと表情を鋭くするとアザレアは回避行動をしつつ背部に装備されている二つのジャイアントバズーカを両手に装備し飛び上がるとデビルフィンガー目がけて発射し、数発撃ちこんで破壊する。

 

「うぉぁっ!?」

 

 タイガーはそんなアザレアに気を取られているうちに懐に飛び込んだブレイカーⅢがそのまま勢いを殺さず、横一文字にガンダムヘッドに損傷を与えパーツの一部を破壊する。するとガクッとデビルガンダムの姿勢が崩れる。

 

 このまま終わらせる、そう言わんばかりにブレイカーⅢは駆け上がり、上半身目がけてGNソードⅢで切り裂こうとする。

 

「……ッ!?」

 

 しかしここで問題が起きた。

 ブレイカーⅢのGNソードⅢを持つ右腕部が力なく垂れ下がろうとしているのだ。恐らくは瓦礫を受けた際やその後の戦闘で負荷がかかり、今、こうして効果となって表れたのだろう。

 

「──大丈夫ッ!!」

 

 しかしブレイカーⅢの右腕部をアザレアが支えミサが一矢に声をかける。驚く一矢に通信越しでミサは笑いかけ……。

 

「一緒に勝とうッ!!」

 

 ミサの言葉に一矢は僅かに頷いた。

 そのまま二人で持ったGNソードⅢはデビルガンダムを両断する。一矢とミサが勝ったのだ。

 

 ・・・

 

 一矢とミサの勝利にモニターで見ていた者達は歓声を上げる。元々バトルをしていた二人が突然の乱入に二人で乗り越えた姿を見たからだ。

 

「へぇ」

「……ふふっ」

 

 そしてその中には後に一矢達のライバルとなる者達もいたのだ。

 首にヘッドホンをかけた青年……天城勇は何げなく見ていたが、先程の勝利に感心したような声を漏らし、白髪のロングヘアーのハーフの少女……三宅ヴェールはその白に近い水色の瞳でバトルを見終え、知らぬうちに口元に笑みを漏らす。

 

「やったぁっ! 勝てた!」

 

 シミュレーターからはミサと一矢が出てくる。純粋に勝利を喜ぶミサと顔には出さないが、一矢も内心ではホッと一息ついていた。

 

「よくやった、二人とも」

 

 そんな二人にアムロが声をかける。

 これは二人で掴んだ勝利だ。一矢とミサは顔を見合わせる。

 

「……その、ね……。改めて君をスカウトしたいんだ、やっぱりダメかな?」

 

 ミサはどこか遠慮がちに再び一矢をスカウトする。

 今、共にタイガーを打倒したことで一矢と一緒に戦いたい、改めてそう思ったのだ。

 

 一矢は悩む。

 正直に言えば今のミサとの共闘は自分でも高揚した。楽しかった。

 

 でも……。

 

 そうやって悩んでしまうのだ。

 

「──……チームの勧誘? 良いじゃん、受けなよ」

 

 そんな一矢に背後から声をかける者がいた。

 振り返れば夕香達がおり、バトルを見ていたのだろう、裕喜は軽く手を振っている。

 

「夕香……」

「なんで悩む必要があんのさ。楽しかったんでしょ? 自分に正直になりなよ、その方がアタシは人生楽しいと思うけどなー」

 

 なんでここに妹や知人達がいるのかと、驚いている一矢に近づきながら、両手を背中の後ろに組み、少し前屈みになって上目遣いになりながら諭す。

 

「……俺は昔、負けたんだ。俺みたいなゴミと関わらない方が良いと思うけど」

「負けたなんて関係ないよ!」

 

 過去にジャパンカップで敗退した。

 その話題を出して、自分を卑下する一矢にミサは首を横に振りながら答える。確かにミサは一矢を調べる過程で彼がジャパンカップの決勝戦で敗退したのを知っていた。だけどだから何だと言うのだ。

 

「……嫌なんだよ、信じてるとかお前ならとか……そんな無責任でさ、勝手に期待を押し付けられるのが……」

「……違うでしょ」

 

 かつての出来事を思い出しているのかどこか表情を険しくさせる。

 そんな一矢にミサは何て言っていいのか言葉を詰まらせていると、夕香がポツリと口にした。

 

「期待を押し付ける相手が嫌なんじゃなくて期待に応えられない自分が嫌なんでしょ」

「……ッ」

 

 ジッと自分を見据える夕香に一矢はたじろぐ。

 昔からこの双子の妹に口喧嘩で勝てた試しがない。彼女の言葉はまるで自分の心を見透かすかのように深く心に突き刺さるのだ。

 

「自分に自信がない。だけどそんな事知られたくないから斜に構えて誰かと関わらないのが一番楽だと思ってる……。でも本当は誰かと一緒に自分の趣味を楽しみたい……。違う?」

「うるさい……ッ!」

 

 

 夕香の言葉に一矢の表情はどんどん険しくなっていく。

 彼女の言葉はまさに一矢の本心だった。そしてその本心をこのような場所で曝け出された事で一矢は声を荒げ、怒鳴ろうとする。

 

「待ってよ! 確かにスカウトはしてるけど君に全部を押し付ける気はないよ!」

 

 そんな一矢を制止するようにミサが声を張り上げる。そんなミサの言葉に一矢は目を見開いて動きを止めた。

 

「見くびらないでよ! 君だけに全部を任せる気なんてないんだから!!」

 

 ミサは何もバトルも全て一矢に任せる気なんてない。

 それは彼女の考えるチームなどではないからだ。その言葉に一矢は脱力したように俯き、夕香は目を細め、ミサを見ると、へぇ……と感心したような声を漏らす。

 

「自分が傷つきたくないから、逃げる……。それでは君は一生そのままだぞ」

「彼女は君だけに押し付けるような真似はしない、私が保証しよう」

 

 俯く一矢にアムロとシャアがそれぞれ声をかけた。

 それは一矢よりも年を重ねた人生の、そしてガンプラファイターとしての先輩の言葉だった。

 

 ふと顔を上げる一矢の目にタウンカップ開催の張り紙が貼ってあった。

 タウンカップを優勝すればリージョンカップジャパンカップへと進出できる。それは彼が敗れた夢の舞台だった。

 

「……俺は……俺はもう一度、あの夢の舞台に立ちたい……ッ!!」

「うん……っ!」

 

 再び俯いた一矢が唇を震わせながらポツリとここで漸く自分の口から本心を語ると、ミサは微笑んで頷き……。

 

「行こう、一緒に!!」

「……うん」

 

 一矢に手を差し伸べる。

 その手を取るか僅かに悩んだ一矢だったが、おずおずとその手を掴む。

 自分の本心を向き合い、ミサやその周囲の人々の言葉に触れ彼は再び誰かと組むことを選んだのだ。

 

「やるねー、名前聞いて良い?」

「えっ? ミサだけど……」

 

 一矢の心を動かしたミサに興味を持ったのか、夕香はミサの名前を問いかけると一矢の手を握ったまま首を傾げながら答える。

 

「ならミサ姉さん、ウチの愚兄をよろしくねー」

「えっ、妹さん……!?」

 

 一矢の隣に立ち、一矢のボサボサの髪をわしゃわしゃと撫で回しながらミサに笑いかける。夕香が一矢の妹だとは知らなかったミサは一矢と夕香を交互に見る。

 一矢の半開きの目と手付かずのボサボサの髪で分からなかったが、よく見ればその顔立ちや赤い瞳は確かに隣の夕香に似ている。

 

「……なにしに来たんだよ」

「んー? あぁ、そこにいる秀哉とその友達を紹介するついでに暇だから来ただけ」

 

 どうも妹といると調子が狂わされる。

 夕香がわざわざここにいる理由を一矢が問いかけると、夕香は今まで後ろに控えていた秀哉と一輝を紹介する。

 

「よぉ、初めましてだな、俺は根城秀哉(ねじろしゅうや)、よろしくな」

「僕は姫矢一輝、よろしくね」

 

 改めて秀哉と一輝が名乗ると一矢も静かに自分の名前だけを口にする。

 自己紹介を終えた二人は早速と言わんばかりに携帯ケースからガンプラを取りだす。

 

「チーム結成祝いにバトルしないか?」

「元々ガンプラファイターである君に会いたかったのが今日ここに来た目的だからね」

 

 秀哉のガンプラはパーフェクトストライクガンダムを自分なりに改造したパーフェクトストライク・カスタム、一輝はヘビーアームズをベースにZZガンダムの頭部やブラストシルエットなどパッと見た限りでも高火力を売りであろうガンダムストライクチェスターをそれぞれ見せる。

 

「良いね、私達の力、見せてあげるよ」

 

 まだバトルを受けるとは一言も言ってないがミサが引き受けてしまった以上、仕方ない。そう言わんばかりに一矢は目を瞑ると、コクリと頷き、四人はシミュレーターへ向かう。

 

「良かったねー、夕香」

 

 一矢がチームを組んだことは夕香も望むことだろう。

 裕喜が夕香に笑いかけるが反応がない。

 

「夕香?」

「えっ? あっいや……あんなになるほど、ガンプラって楽しいんだろうなって思っただけ。アタシには分からないけど」

 

 反応がない夕香の顔を覗き込む。

 祐喜の顔を見てハッと意識を戻した夕香は考え事をしていたことを口にする。

 一矢や今の秀哉達を見て、熱中させブームにもなっているガンプラに夕香の中で興味が湧き始めるのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブレイカーズ

 

「彩渡商店街……」

 

 ミサとチームを結成してから数週間後、一矢はミサに呼び出され彩渡商店街の名が記されたアーチ型の入口の前に立っていた。

 入口から伺える商店街の様子は閑散としていた。

 ミサの言葉通り、このままでは何れは潰れるだろうというのは簡単に想像出来た。

 

「──あっ、こっちこっち!!」

 

 すると商店街の中からミサの声が聞こえ、視線を向けると、こちらに元気よく手を振っている姿が確認できた。

 ミサの姿を見た一矢は着ている上着のパーカーのポケットに両手を突っ込み、のそのそと相変わらず気怠そうな様子で向かっていく。

 

「見ての通り、ここが彩渡商店街……。それでここが私の家だよ」

「ふーん……」

 

 一矢と合流したミサは商店街のことを軽く話し、そして自身の家であるトイショップの前にやって来る。一矢はトイショップを見上げながらミサに促されるままに店内へと入店する。

 

 ・・・

 

「あれ、ミサ。もう帰ってきたのかい?」

 

 店内に入るや否やレジが置かれた場所にいたユウイチが一矢を連れたミサが帰ってきたことに気付くと声をかける。

 

「あ、あのね父さん……。紹介したい人がいるの……」

「あぁチームメンバー見つかったのかい」

 

 するとミサは急にしおらしくなりながら出迎えたユウイチに一矢を紹介しようとする。

 その様子からはまるで恋人か何かを紹介するかのようだ。

 とはいえユウイチはそんなミサを特に気にすることなく一矢が新しいチームメイトであることを察する。

 

「あのさぁ……。もっとこう……“キ……キミはまさか娘の……ッ!? ぬぅ……許さん! 表に出ろー!”とかないの?」

「ないよ」

 

 父の反応が不服なのかミサは顔を顰めながら文句をぶうぶうと口にすると、娘のノリは理解しているのか即答されてしまった。

 

「すまないね、強引に誘われたんだろう? ミサの父のユウイチです、よろしくね」

「……雨宮一矢です」

 

 すると一矢に意識を向けたユウイチは自己紹介をすると、ミサの紹介を聞かずに店内を見ていた一矢は己の名前を口にし、小さく頭を下げる。

 

「あれアムロさん達……。あれ? それに辻村さんに保泉さん、今日も来てたんだ。もう辻村さんもシャアさんも冷やかしに来るの止めてよー」

 

 父と新たなチームメイトが知り合ったところでミサは常連客であるアムロとシャア、そして二人組の青年を見つける。

 一人は丸顔の青年……杜村誠(つじむらまこと)とメガネをかけた青年……保泉純(ほいずみじゅん)だ。店の冷やかしに来るような誠とシャアにミサは文句を言う。

 

「いやー……。ガンプラの箱とか見てるとそれだけで満足しちゃうんだ……」

「俺は買ってるけどね」

 

 自分でも自覚しているところはあるのか頬を人差し指でかきながら苦笑をしながら答える誠の横で純は既に買い物を済ませたのか、商品が入った袋を見せる。

 

「シャアさんも大人なんだし、PGシャアザクとか買ってくれたら嬉しいんだけど」

「財布の中身が負けている……ッ!? えぇいッ!!」

 

 棚の上に置いてあるPGシャア専用ザクを指差しながらジトッとした目でシャアを見やると、財布に相談、そう言わんばかりに財布の中身を見たシャアは嘆いていた。

 

 ・・・

 

「ところで二人してどうしたんだい?」

「もうすぐタウンカップも近いから練習ばかりじゃなくて息抜きで連れてきたんだ。父さんを紹介したいってのもあったし」

 

 誠と純が帰った後、アムロが一矢を連れてきたミサに問いかけると、ミサは店内の物色を始めた一矢を見ながら答える。チームを組んで以降、日々、練習していたのだ。

 

「一矢、君のガンプラはブレイカーⅢのままなのか?」

「……新しいのを作ろうかなって思ってます。アレ、昔に作ったから今動かしてるとモタつくところがあるし」

 

 アムロが一矢のガンプラについて聞く。以前のタイガーとの試合の際の不具合などを見て、あのまま使うのか気になっていたのだ。だがそれは一矢自身が一番、感じていることなのか現在、作成に取り掛かろうとしているとのこと。

 

「えっ!? 初耳!? どんなの!? っていうかパーツはもう買ったの!?」

「言ってないし、ガンダムだし、買った」

 

 チームを組んでから数日、そのようなことは一言も知らされていないミサは抗議するように一也に詰め寄ると、ミサの言葉一つ一つにそれぞれ答える。

 

「えっ、どこで?」

「……ブレイカーズ。ここにトイショップがあるなんて知らなかったし」

 

 とはいえ、この近辺にプラモが売っている場所など限られている。

 閑散としたこの商店街でもこのトイショップが続いていられるのもその理由の一つだ。

 ミサが購入元の店のことを聞くと、一矢の口から出てきた店名にユウイチやアムロ達が反応する。

 

「ブレイカーズ……。如月翔の店か」

「……あそこ色んなファイターが来るから、刺激を受けるついでに丁度良い」

 

 シャアも一矢が口にした店名について知っているのか顎に手を添えながら口にする。

 ブレイカーズとは最初期からガンプラバトルシミュレーターを作り上げた選抜プレイヤーの一人であり、現在はプロショップのガンプラマイスターにその名を連ねる如月翔が経営する店だ。

 その店はかつてのガンダムブレイカー隊のメンバーの一人や翔が働いていることもあってか、日々、様々な客が訪れる。一矢も以前、訪れた際に出会いがあったのか、その十時の出来事を振り返る。

 

 ・・・

 

「イッチとここに来るのは久しぶりだな」

「……そう?」

 

 一週間前、一矢達が引っ越した彩渡町の隣町にあるプロショップ・ブレイカーズに一矢とその知人であるレン・アマダが訪れていた。

 レンとの付き合いは彼の面倒見の良い性格から始まった。まず人と関わる事をしない一矢にレンが積極的に話していき、最初こそ鬱陶しそうにしていた一矢もやがて受け入れ、今の形に落ち着いている。そんなレンと会話をしながら一矢はブレイカーズに入店する。

 

「あれ、イッチ君にレン君、久しぶりだね」

「お久しぶりです、あやこさん」

「……どうも」

 

 入店した二人を出迎えたのはかつてのガンダムブレイカー隊のメンバーの一人であるあやこだ。

 その見惚れるような優しい笑みと艶やかな長い黒髪を靡かせながら二人を出迎える。久しぶりに会った事であやこ、レン、そして心なしかどこか嬉しそうな一矢はそれぞれ挨拶をする。

 

「……翔さんは?」

「今、近所の子供達と近くのゲームセンターに行ってるよ。さっきまでお店のイベントで作成会があってね。翔さんが子供達にプラモデルの作り方を教えてたの。今頃、皆でバトルしてるんじゃないかな」

 

 一矢は店主である翔の姿が見えないことに気づき、あやこに問いかけるとイベントが行われていたであろう作業ブースを横目に見ながらあやこが微笑んで答える。

 

「まぁでも最近の困り事って言えば気づいたら翔さん、サンプルキット作ってると思ったらニッパー持ったまま机で寝てる時があるんだよね」

「……翔さんっぽい」

 

 それなりに多忙な生活を送っている翔は店でもプラモデルを作成しているようで、その時の様子を思い出して苦笑するあやこに釣られて、一矢やレンも同じように苦笑する。

 

 一矢は周囲を見渡す。

 ショーケースには翔が作ったであろうどれも完成度の高いガンプラやガンダム作品以外のロボットや美少女や男性キャラのプラモデルが展示されている。

 中でも一層、存在感を放ったのはかつて翔がガンプラバトルで使っていた二つのガンプラであるガンダムブレイカーとガンダムブレイカー0だ。

 

「それで二人は今日は何しに来たの? 一週間後のカードゲーム大会の参加予約?」

「……違います。ガンプラと道具を買いに来ました。まずHGのビルドストライクと──」

 

 その目的をあやこが問いかける。

 一週間後、ここでカードゲームのイベントが行われるのか張り紙を見るあやこに首を横に振りながら、一矢はガンプラが置いてあるコーナーへと向かう。

 

 ・・・

 

「あっ……」

「……?」

 

 買い物を終えた一矢はあやこから袋に入った商品を受け取る。丁度、あやこから手渡された直後、背後からか細い声が聞こえ振り返ると、そこにはかつてイラトゲームパークで一矢とミサのバトルを観戦していたヴェールがいた。

 

「如月翔さん、いないね」

「あっ……うん……。聞いてみたいことがあったんだけどね」

 

 そのヴェールの隣では彼女の親友である三日月未来(みかづきみく)が店内を見渡し、翔がこの場にいない事を口にしていると、未来の言葉に頷き、翔に何かを聞くのが目的の一つだったようだが、再び一矢を見やる。

 

「……この間のゲームセンターでのバトル……見てました。タウンカップに参加するんですよね」

「そうだけど」

 

 初対面ということもあってか敬語で話すヴェールの問いかけに同年代と言うこともあってか特に取繕ったりもせず、一矢は頷く。

 

「……私達、別地区のタウンカップで優勝して次のリージョンカップに進出するんです。貴方達とも戦ってみたい」

「……なら待っててよ」

 

 元々、ブレイカーズ目当てで遠出をし、イラトゲームパークに立ち寄っていたヴェールは一矢とミサに興味を持ったのか、物静かながらもその瞳に戦意を見せると一矢は静かに目を瞑り、ヴェールにすれ違いざまに答えレンと共にブレイカーズを後にする。

 

「──あれ、あやこさん誰か来てたのか?」

「知り合いの子が来てただけだよ」

 

 一矢がレンと共に帰った直後、裏で作業をしていたのかエプロン姿の青年がひょっこり現れる。その金色の瞳をあやこに向けながら問いかけると、あやこは一矢の後ろ姿を見ながら優しく答える。

 

 ふーんと答える青年の首元には一つの球体状の美しい宝石がキラリと輝きながらペンダントとして下げられていた。

 

 青年が立っている近くの机には青年が作ったであろう燃えるような深紅のガンプラが置いてある。その見た目からは挌闘機のような印象を受ける。このガンプラが一矢達の前に現れるのはそう時間がかからなかった。

 

 ・・・

 

「なんか知らない間にライバルっぽい人が出来てるーっ!?」

「別にそんなんじゃないし」

 

 一矢がブレイカーズでの出来事を話終えると、まさにガビーンッと言うような効果音が似合いそうなリアクションをみせるミサに一矢は首を軽く振る。

 

「……新しいガンプラは後、どれ位で出来るの?」

「……タウンカップに間に合わせたかったけど、まだかかる。手は抜きたくなかったから」

 

 自分の知らない所での出会いと自分を連れて行かない一矢にミサがむくれながら問いかけると、完成の目途はまだ立っていないのか首を横に振られてしまう。

 

 彼の部屋の机の上にはまだ未完成ながらも一つのガンプラが置いてあった。

 それは如月翔に教わり、手伝われながら作ったものではない。

 

 一矢自身が最初から最後まで自分の手でガンプラバトルのことを考えて作り上げた物だ。これならば翔からもらったGNソードⅢもその性能を遺憾なく発揮できると一矢の中である種の確信があったのだ。




前作主人公である翔の店・ブレイカーズ。この世界のファイターにとってはそれなりに有名な店という設定なので、いただいたキャラも出し易いかなと思ってます。それこそ一矢の台詞であるように色んなファイターに出会えるといった感じにしてます。ですので今後も何かと登場します。

いただいたキャラは顔見せ程度でも出せる時は出そうと思ってますがバトルにまで中々、進みません。まぁ中にはバトルでエンカウントして知り合うパターンもありますが。

取りあえずタウンカップで名は体を表す彼を倒せればキャラだけじゃなくオリガンの出番も増えると思いますので、もう少々お待ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タウンカップ開催

 

≪間もなくタウンカップ予選開始時間となります。受付を済ませていないチームは開始時間までに必ず済ませるようにしてください≫

 

 タウンカップ当日、一矢とミサはタウンカップの会場となった近くの学校の体育館にやって来ており、今、体育館周囲で来賓や参加者などの受付にてアナウンスが流れていた。

 

「いよいよだねー……。去年は予選も突破出来なかったけど今年こそ……っ!!」

 

 アナウンスを耳にミサは熱意を見せながら一矢を見る。一矢も気怠そうではあるが先程からどこかそわそわしている。

 

「──よぅミサ、新しいチームメンバーは見つかったのか」

 

 そんな二人……いやミサに一人の青年が声をかける。髑髏の描かれた紫色のピッチリとしたシャツを着た軽薄そうな青年だ。

 

「……カマセ君」

 

 ミサもこの青年を知っているのか、どこか複雑そうに彼の名を口にする。

 

「ここにいるってことは新しいチーム見つかったんだね」

「ああ、俺の実力に相応しいチームさ。資金も技術もあるところは全然違うね」

 

 カマセへの意趣返しとばかりにどこか冷たく嫌味のような言葉を言うミサだが、青年ことカマセは特に気にする様子もなく肩を竦めて答える。

 

「おい新入り、こんなところで油売ってないでさっさとセッティングしろ」

 

 そんなカマセに白衣を着用し、無精ひげを生やした男性が声をかける。

 口ぶりからしてカマセが新しく入ったチームの関係者だろう。その出で立ちからは研究者の印象を受ける。

 

「分かってるよ、元チームメンバーに挨拶してたんだ。じゃあなミサ、決勝まで残れるといいな」

 

 最後にミサに嫌味たらしくそう言い残してカマセはその場を去っていく。

 この場には研究者の男性、一矢、ミサだけが残っていた。

 

「悪いねお嬢ちゃんがた、邪魔しちまって」

「いえ寧ろありがとうございます。……えー……と……」

 

 残った男性は自分のチームの人間が起こした非礼と時間を取らせてしまったことを詫びる。カマセについて困っていたのか、いなくなったことでミサが男性に礼を言いながら何て呼べばいいか言葉を悩ませていると……。

 

「おっと失礼。俺はハイムロボティクス・チームエンジニアのカドマツだ」

「えっ……ハイムロボティクス……ですか……? ……カマセのヤロー……!」

 

 男性は自分の職業と共に名乗ると、男性……カドマツが働いている会社の名前を聞いて、ミサはこの場にはいないカマセに対して低い声で表情を険しくして怒りを見せる。

 

「なんか目つき怖いよ、お嬢ちゃん……。んじゃ俺も仕事あるから」

 

 そんなミサに溜息交じりに肩を竦めるカドマツは彼も彼の仕事があるのか、その場を去っていく。するとミサはハイムロボティクスの名を聞いても反応しない一矢に気づく。

 

「……ハイムロボティクスって地元じゃみんな知ってるロボット製造会社だよ。……去年のタウンカップ優勝チーム……」

 

 恐らくは知らないのだろうと思い、一矢に対してハイムロボティクスの説明をするミサ。そして最後に出てきたのは去年のこの地区のタウンカップの優勝チームであるということだ。一矢は去っていくカドマツの背中を見るのだった。

 

≪間もなく予選が始まります。参加チームは準備してください≫

 

 すると予選開始を知らせるアナウンスが流れると、一矢は両手を着ている薄手のパーカーのポケットに突っ込み、気怠そうにのそのそ歩き始める。

 別に去年の優勝チームだろうが何だろうが一矢には関係なかった。ただ自分が進む道の障害になるなら戦うだけだ。

 

 ・・・

 

「ほら夕香、予選始まってるよー? 秀哉兄達が忙しくて参加出来なかったんだからその分、応援しないとー」

「……決勝になってから来ればいーじゃん……」

 

 予選が始まって暫く経った頃、体育館には裕喜、貴弘、夕香の三人が訪れていた。

 体育館の方に進み、中から聞こえるガンプラバトルの効果音を耳にした裕喜が夕香を呼ぶと、元々来る予定もなく裕喜達に無理やり連れて来られたのか夕香は兄と同じく気怠そうに向かっていく。

 

「あれ、一矢のガンプラじゃない?」

「あっホントだ!!」

 

 体育館に足を踏み入れると、貴弘はモニターに映るCPUを次々と撃破していくブレイカーⅢを見つける。

 モニターにはファイターの名前やチーム名が表示されており、彩渡商店街とミサ、そして一矢の名前を見た裕喜が反応する。

 

「イッチのチームのポイント……。すっごーい……」

「上位にいるから、このまま行けば決勝にも進出出来るんじゃないかな」

 

 別のモニターにはチーム毎に獲得したポイントが載っている。

 予選は時間内にいくつかのミッションで獲得したエースポイントの合計で順位を決める。最終的に合計エースポイントで規定順位内に入っていれば決勝に進めるルールだ。

 彩渡商店街は上位に食らいついており、その光景を見て、裕喜と貴弘がそれぞれ驚く。

 

「……まっ、曲がりなりにもアタシの兄貴ならとーぜんだよね」

 

 驚く二人を横目に夕香はどこか自慢げに話す。

 夕香自身、一矢が端から予選で躓くなど考えていなかった。だからこそ決勝になってから来ればいいと思っていた。夕香は兄が操縦しているであろうモニターに映るガンプラを見つめる。

 

 ・・・

 

「へぇー……あれがヴェールが言ってたチームなんだ」

「うん……」

 

 そしてこの会場にはヴェールと未来の姿もあった。モニターに移る彩渡商店街ガンプラチームの戦いを見て、ヴェールから話を聞いていたのか頷く彼女の隣で未来は観戦していた。

 

「彩渡商店街ガンプラチーム……」

 

 ふとヴェールは一矢が使っているガンプラの名前を呟く。

 そして近いうちに戦うかもしれないチームの戦いをその瞳に焼き付けるかのようにジッと見つめる。

 

 ・・・

 

「どう思う、シャア」

「彼ら次第としか言えんな」

 

 また違う場所ではアムロとシャアがバトルの様子を観戦していた。

 隣に立つシャアに意見を伺うと、彼はその眼差しをモニターから外さずに答える。

 

「見せてもらおうか、今の君達の結束とやらを……」

 

 どこかキメ顔と口にするシャア。チラッとシャアを見たアムロはそのセリフが言いたいだけだろと言いかけるが止めて再び観戦するのだった……。

 

 ・・・

 

 一矢が駆るブレイカーⅢは今も他の参加プレイヤーのガンプラを撃破していた。

 すると一矢が乗るシミュレーター内のサブモニターにエースポイントに加えボーナスポイントも加算される。参加しているチームとエンカウントし、撃墜する事が出来ればエースポイントだけではなくこうしてボーナスポイントも得られるのだ。

 

(もっと……もっと……! 俺は動ける……ッ!!)

 

 先程から彩渡商店街ガンプラチームはNPCを撃破しつつも他の参加プレイヤーと積極的に戦闘をしていた。これは単純にボーナスポイントが目的ではない。自分がどこまで通ずるかを知りたかったからだ。

 

「来るよっ!!」

「……ッ!」

 

 ミサからの通信が入ると同時にシミュレーター内で敵を知らせるアラームが鳴り響く。前方にはNPC機のザクやハイゴックなどが現れていた。

 

「行こう、一緒に!」

「ああッ」

 

 もう昨日までの自分ではない。

 前に進むのだ。

 その二人の想いがそのまま繋がるかのようにポイントはどんどん加算されていく。順位を繰り上げ、圧倒的上位のまま予選終了時間を迎えるのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覚醒

 

「やったっ! やったよーっ!! 初めて予選通過出来たぁっ!!」

 

 予選終了、合計エースポイントが規定順位内に入るどころか1位になり決勝に進む事が出来た。一矢にとってはまだまだ通過点の一つに過ぎないが、初めて予選を突破できたことにミサは手放しで喜んでいる。

 

 ミサはその笑顔を一矢に向ける。

 ミサの笑顔を見た一矢は心なしか眩しそうなものを見る目でもどこか嬉しそうだ。

 

「……驚いた、マジで予選通るとはね」

 

 そんな彩渡商店街ガンプラチームにカマセがやって来る。

 去年、自分が身を置いていたと言うこともあって去年と同じように予選落ちすると思っていたのだろう。心底驚いているように見える。

 

「どう? 自分が捨てたチームの活躍を見た気分は!」

「俺はプロのガンプラファイターを目指してるんだ。より良い環境を選ぶのは当然だろ、商店街なんかのドノーマルなアセンブルシステムなんかで上が目指せるかよ」

 

 チームを捨てたカマセにミサは問いかける。

 彼女自身、チームを捨てたカマセに思うところがあるのだろう。言ってやったと言わんばかりだ。しかし、カマセは特に気にした様子もなくあっけらかんと答える。

 

「またそれ!? お金とか技術力がなくたって腕とかスピリッツ的な何かで頑張れば良いじゃん!!」

「だったらその金と技術力が可能にするものを見せてやるよ」

 

 カマセの主張に対しては一矢は一理あると思ったのか口出しすることもせず黙っている。

 確かに趣味や仲良しこよしでガンプラバトルをやるならまだしも、上を目指すならカマセのようなやり方も間違ってはいないだろう。先立つものとはよく言ったものだ。だがそうは思わないのかミサは食って掛かる。しかしそれすらもカマセは一蹴する。

 

「おい新入り。さっさと戻ってガンプラのセッティングしろって」

 

 カマセを探していたカドマツがカマセの後ろからこちらに向かいながら声をかける。その様子はまたカマセがミサ達に絡んでいる姿を見て、どこか呆れているようにも見える。

 

「カドマツさんよ、あれ使うわ」

「やだよ」

 

 こちらに来たカドマツにカマセが切り札でもあるのだろう。

 金も技術力もないミサ達を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら言うと、カドマツは了承することもなく即答する。

 

「断わるのかよ!? もう啖呵切っちゃったから使わせてくれよ!」

「俺はなぁ腕とかスピリッツ的な何かで頑張る感じが好きなんだよ。ああいうの好みじゃないの、タウンカップで使うもんじゃない」

 

 まさか断られるとは思っていなかったのだろう。カ

 ドマツに頼むカマセの姿はどこか滑稽だ。カドマツは先程のミサの言葉を聞いていたのか、その言葉を言いつつ、何よりタウンカップの場で切り札を使うべきではないと拒否する。

 

「勝つのが目的なんだから良いだろ!? アレじゃなきゃ本選でないからなっ!!」

「はぁっ……。分かった、分かったよ……。じゃあセッティングするぞ」

 

 だが啖呵を切ってしまった以上は引けないのかまるで駄々っ子のようにカドマツに詰め寄ってくる。

 その姿にはミサも一矢も呆れるなか、流石にチームとして大会に出ている以上、ここで抜けられるのは痛手だ。折れたカドマツはため息をつくとカマセを連れてセッティングを行うために移動しようとする。

 

「良いか、金と技術力が可能にするものを見せてやるよッ!!」

「さっき聞いた」

 

 カドマツと移動する中、捨て台詞を吐く。

 しかしもうミサの中のカマセの評価はただ下がりなのか呆れ気味だ。

 

≪まもなく合計エースポイント上位2名による決勝戦が始まります。チームハイムロボティクスと彩渡商店街ガンプラチームは準備してください≫

 

 カドマツ達が去った後、アナウンスが放送される。

 複数のミッションによって獲得されたポイント、もっとも高かったのはカドマツとカマセが所属するハイムロボティクス、そして一矢とミサの彩渡商店街ガンプラチームだ。二人は早速、準備に取り掛かるのだった。

 

 ・・・

 

「イッチの試合はどうなった?」

「レンじゃん、おひさー。今から始まるよ」

 

 決勝戦が間近に迫った頃、褐色肌の銀髪ショートの女性を連れたレンが会場に足を運んでいた。一矢の知り合いということもあり、面識もある夕香が声をかける。

 

「あれがレンが言ってた人?」

「ああ、俺の自慢の友達だ」

 

 レンが連れてきた褐色肌の女性……ジーナ・M・アメリアはモニターに映る一矢を見ながら、レンに問いかけるとレンは笑顔で頷き一矢の勝利を信じる。

 

「一矢、勝てるかな……?」

「さーね。アタシは最後まで見届けるだけだよー」

 

 決勝は間もなく始まる、

 貴弘が不安げに誰にというわけでもなく問いかけると、夕香はその視線をモニターに映る一矢に向けながら答える。別に夕香にとって一矢が勝とうが負けようがどうでも良かった。ただ彼が前に進む姿を家族として見届けるだけだ。

 

 ・・・

 

「……勝てるかな」

 

 カマセの切り札がミサは気になっていた。

 口ではあぁ言ったものの実際、金も技術もない自分達とは違い、ハイムロボティクスは恵まれた環境だ。不安な気持ちがある。それを一矢に通信でポツリと打ち明ける。

 

「そんな気持ちなら負けんじゃない」

 

 一矢はチラッとモニター越しのミサを一瞥すると静かに答える。

 一矢の中で負けるなどというのはないのだろう。それを知ったミサはクスリと笑い頷く。

 

「ブレイカーⅢ……出るよ」

 

 シミュレーター同士のマッチングを終え、ブレイカーⅢはカタパルトにホログラム投影される。深く腰を落とし、ブレイカーⅢは発進するのだった……。

 

 ・・・

 

 決勝の場に選ばれたのは宇宙に浮かぶコロニーの外壁だった。

 ブレイカーⅢとアザレアのシミュレーターにそれぞれ敵機を知らせるアラートが鳴り響く。どこから来るのか、二人が意識を集中させると巨大な影が上方から舞い降りる。

 

「来たかよ! 見ろ、この圧倒的なガンプラをッ!!」

 

 そこには赤と白を基調にしたガンダムがいた。

 そのパーツ構成はユニコーンガンダムやオーライザーなどが使われている。GNソードⅢとライフルを装備していた。

 

 だが別にこれだけならば特に問題はない……が……。

 

「PG機体!? タウンカップにそんなの出すチーム見たことないよッ!?」

 

 ミサはカマセが駆るガンプラを見て信じられないと言わんばかりに声を上げる。

 

 カマセが持ち出してきたのはPG(パーフェクトグレード)と呼ばれる種類のガンプラだ。

 通常、大体のチームがHG(ハイグレード)と呼ばれる種類のガンプラを使用するが、PGはHGと比べ圧倒的なまでの大きさを誇るのだ。そのガンプラの差も歴然でパワーなどに置いても優れているが、HGに比べ値段も高く改造などには不向きでまた大きさもかなりの物である為、使う者を選ぶ種類のガンプラだ。

 

「うちもこれを出すのは予想外だったぜ……。だけどなお前に現実、見せてやりたくてな!!」

 

 PG機体はティンセルガンダムとブレイカーⅢ達のシミュレーターに表示されている。カマセはPGから見下ろすHGを見て気分が良いのか、GNマイクロミサイルとライフルを同時に発射し攻撃をしかける。

 

 ブレイカーⅢとアザレアが回避する中、真っ先に前に動いたのはブレイカーⅢだ。

 GNマイクロミサイルとビームを紙一重で避けてティンセルへと向かっていく。

 

「チョロチョロと……ッ!!」

 

 カマセは紙一重で避け、どんどんこちらとの距離を縮めていくブレイカーⅢを見て苛立つ。攻撃が当たらないのだ。それでも尚、ブレイカーⅢはティンセルに近づき、その足元で右に左に動き回る。

 

「そこッ!」

 

 その間にミサのアザレアが飛び上がって、二つのジャイアントバズーカを装備して引き金を引く。砲弾は真っすぐティンセルへと向かい、直撃、爆発するが流石にPGだけあってダメージは少ない。

 

(……普通のPGならダメージの通りはもっと少ない筈……。それに動きもぎこちない……)

 

 ティンセルを引き付ける為にあえて前に出た一矢はブレイカーⅢでティンセルを翻弄する中で、ジャパンカップなどでもPGと交戦した事もあるのか経験則を元に考える。

 先程のカマセの言葉やその前のカドマツとのやり取りを見て、急遽、使用することを考えるならばアセンブルシステムはその場で組んだようなものだろう。攻略法にするならばまずはそこだろう。

 

「……まっ……結局は乗り手次第なんだけど」

 

 カマセの戦い方はPGの性能に頼ったものだ。

 撃破は難しくはないだろう。ティンセルの股下を潜り抜け、GNソードⅢを展開して関節を狙い攻撃を仕掛ける。

 

「クッソ!! 舐めんなよッ!!」

 

 関節を攻撃するブレイカーⅢとその間にこちらに砲撃をするアザレア。このままではいくらPGと言えど耐久値が危うい。カマセはEXアクションと呼ばれるオプションを開き、あるEXアクションを選択する。ティンセルの動きを見て、何かすることを見抜いたのか、ブレイカーⅢは急遽、その場から退避する。

 

「まだだ、勝負はこれからだッ!」

 

 宙に飛んだティンセルはオーライザーを使って膨大な緑色の粒子を放つ。

 広範囲に及ぶその攻撃はブレイカーⅢやアザレアを飲み込もうとしていた。

 流石にこれに飲み込まれるのは危険だ、タイミングが遅れたアザレアは飲み込まれてしまうだろう。

 

「一矢君っ!?」

 

 だがそんなことはさせなかった。

 ブレイカーⅢはアザレアを掴んで共に逃れようとしたのだ。

 思わずミサが一矢の名を叫ぶなか。その間に最大速度で広範囲攻撃から何とか逃れることには成功した。

 

「金と技術なしで……勝てるのかよ?!」

 

 逃れることには成功したのだが、その間にティンセルはライフルを捨てGNソードⅢを展開して斬りかかってくる。ブレイカーⅢとアザレアを裂くように放たれた一撃にそれぞれ左右に別れて回避するのだが……。

 

「あぁぁっ!!?」

 

 アザレアを捉えたのか、ティンセルの大きな横振りの一撃が直撃して、ミサは悲鳴を上げるなか、アザレアはコロニーの外壁に叩きつけられてしまう。

 

「潰れろよッ!!」

 

 標的をアザレアに切り替えたティンセルはライフルを捨てたマニュビレーターを握り、大きく振りかぶって叩き付けようとする。このままではミサがやられる。誰もがそう思った。

 

「……ッ!」

 

 一矢は諦めたくなかった。

 言葉には絶対に出さないが新しく出来たチームメイトと共にこの決勝を勝ちたかった。それは何よりミサが喜ぶ顔がまた見たかったからだ。

 

 羨ましかった、

 

 眩しかった。

 

 不器用な自分とは違い、太陽のように明るい彼女が。

 

 自分はよく誤解をされる。

 人と関わろうとしてもどうやって接すればいいのか自分の趣味ぐらいでしか自分を表現できない。だがそれでも他人からの評価が怖く、自分を卑下してそれで良いと過ごしていた。

 

 俯いて歩いてきた人生だ、

 友達なんて少ない。

 

 だけどミサは違う。

 周りにも人がいて彼女は前を見つめている。自分のようなゴミみたいな存在とは違うのだ。

 

(……ゴミでも良い……。だけど……ッ!!)

 

 彼女はそんな自分を選んで手を伸ばしてくれた。

 こんな自分でも彼女と共に進む事で出来るのだ。ならばミサは絶対に守る。それがゴミのような自分でも出来ることの筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミサも自分がこのまま撃破されると思っていた。

 しかしいつまでも撃墜を知らせる表示が流れない。

 

 思わずギュッと閉じてしまった目をゆっくりと開く。そこには両腕でティンセルのマニュビレーターを受け止めるブレイカーⅢの後ろ姿があった。

 

「なんだと……ッ!!?」

 

 カマセは目の前でPGのマニュビレーターを受け止めているブレイカーⅢを見て、目を見開いて驚く。いやそれはカマセだけではない。ミサもこの場で観戦している全ての者が驚いていたのだ。

 

(……コイツの顔……曇らせたくない……ッ!!)

 

 両腕でティンセルのマニュビレーターを受け止める俯いていたブレイカーⅢはゆっくりと頭部を上げる。そのままティンセルを振り払うように大きく手を広げると辺り一面にブレイカーⅢを中心に赤色の衝撃波が放たれ、巨躯を誇0るティンセルは大きく仰け反った。

 

「……ッ!!」

 

 後ろで見ていたミサは口を開けたまま、目を見開く。

 自分を守るように両手を広げて立つブレイカーⅢの機体はまるで太陽のような赤色の光を纏っているからだ。

 超常現象か何かか、こんなこと見た事がない。ブレイカーⅢはただ静かに肩越しにアザレアの無事を確認すると、ティンセルに向き直るのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着と祝勝会と焼き鳥

 

 

「嘘だろ……? PGのパワーと張れるなんて……ッ!?」

 

 謎の赤い光を纏ったブレイカーⅢだが、それだけならまだ驚かない、

 何故ならトランザムなどの類もあるからだ。

 

 だが目の前のブレイカーⅢは明らかに違う。

 何よりHGと比べ圧倒的なまでの力の差を持つPGのマニュビレーターを受け止め、振り払ったことが証拠だろう。カマセは目に見えて動揺している。

 

「ねぇ、どうなってんの!? なんか光ってるけど!?」

 

 ミサもブレイカーⅢの変化に戸惑い、一矢に通信を入れる。

 しかしこんな事、一矢も知る由もない。ただ言えることはガンプラのパラメータが急上昇したという事、そして何より目の前の敵を倒すことだけだ。ブレイカーⅢは前に動く。

 

「ありえねぇ……!」

 

 カマセは本能的にこのままブレイカーⅢを放置しておくのは危険だと判断した。

 こちらに向かってくるブレイカーⅢにGNマイクロミサイルとGNソードⅢをライフルモードに射撃をするが、ブレイカーⅢのスピードは先程の比ではなくあっという間に背後に回り込み、カマセが驚く間に赤色の光を纏って、エネルギーを纏って巨大化したGNソードⅢの刀身でオーライザーを破壊する。

 

「何かしてんだろ!? アセンブルシステムに何か細工してんだろォッ!?」

 

 次に切り落とされたのは左腕だ。ブレイカーⅢは四方八方から斬撃を浴びせ、その速度はカマセの目では追いかけられないほどだ。

 そしてスピードだけではない攻撃力も底上げされ、圧倒的な耐久値を誇るティンセルもすぐに削られていく。このあまりの状況を受け入れられないカマセが叫ぶ。

 

「わ……私だってこんなの初めてだもん!!」

 

 カマセの誰に問うわけでもない言葉にミサがブレイカーⅢを見て戸惑いながら答える。

 明らかにトランザムのようなトランス系のEXアクションではないのだ。ティンセルを蹂躙するブレイカーⅢの動きはミサにも捉えることはできない。

 

「くっそぅ……ッ!!」

 

 カマセは信じたくなかった。

 PGを使った以上、負けるなど。

 この世は金と技術力がモノを言う世界だと思っていた。故にこんな訳の分からない負け方など認めたくなかった。

 

「こんな……こんなの……ッ……嘘だああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっっっ!!!?」

 

 ブレイカーⅢはティンセルの前に躍り出ると、そのままGNソードを頭部に突き刺し、そのまま一太刀入れる。この一撃でティンセルの耐久値は0に、スパークを上げながらティンセルは爆発を起こすのだった……。

 

 ・・・

 

≪優勝は彩渡商店街ガンプラチームです!!≫

「信じられない……。勝っちゃった……」

 

 アナウンスが流れる中、一矢はシミュレーターを出てミサと合流していた。

 ミサはアナウンスを聞きながら優勝した事を改めて感じるとる。

 今まで優勝どころか予選も通過していなかった為、いまだその表情は今日、何度目かの驚きに満ちている。

 だが自然とミサの表情は笑顔に変わっていく。それを見た一矢もどこか安堵したような表情だ。

 

「おい、なんなんだあの光る奴は!? チートじゃないのかよッ?!」

「止めてよ、人聞きの悪いっ!!」

 

 しかしそんな二人の雰囲気に水を差すようにカマセが一矢の肩を無理やり掴んで怒鳴り込んでくる。

 いまだにあのような負け方を認めたくはないのだろう。しかしそんな事、このような場で言われてもいらぬ注目を浴びるだけだ、ミサはカマセに言い返す。

 

「じゃあ何なんだ!? どういうシステムなんだ!?」

「──騒ぐなみっともない……。あれは〝覚醒”っていうシステムだな」

 

 いくら言い返されようが納得のできないカマセは一矢に詰め寄る。

 しかし騒ぎを起こすカマセの一矢を掴む腕を振り解いて聞きつけたカドマツが咎めながら答える。

 

「覚醒……? 聞いたことないけど……」

「一応、ノーマルのシステムでサポートされているらしい。昔は使ってたプレイヤーがいたらしいしな」

 

 ガンプラバトルにおいてそのような名称を聞いたことはなかったミサに覚醒についてカドマツが知る限りのことを話す。

 

「……如月翔」

「そう、確かそんな名前の奴が使ってたな。俺も目の前で見るのは初めてだな、良いもん見れたわ」

 

 一矢はポツリと翔の名を口にする。

 彼は覚醒についての話を聞き、心当たりが一つあった。

 

 それは翔だ。

 彼もかつてGGFのイベントでPG Ζガンダムとの戦闘中、彼のガンプラが今のブレイカーⅢのように発光した。

 それ以降、彼は彼の愛機の一つとして名高いガンダムブレイカー0に乗り換えた後でも度々、覚醒をしている。一矢から翔の名を聞いたカドマツはうんうんと満足そうに頷く。

 

「なんでそれこっちも使えるようにしてないんだよ!?」

「使用条件が分からないからなぁ……」

 

 そんなシステムがあるのならば何故使えるようにしないのか、今度はカドマツに詰め寄る。しかしカドマツは首元に手をやり、首を傾げながら答える。確かに誰でも使えるのであれば広く認知されているだろう。

 

「システムでサポートされてるんじゃないの?」

「誰でも使えるようにはサポートされてないんだよ。覚醒したから使える、そういうもんらしい」

 

 先程のカドマツの説明と合わない。

 ノーマルでサポートされているのであれば何故使えないのか、ミサは純粋に疑問に思い問いかけると、カドマツは知る限りのことを話す。また一説ではバグとも言われている。

 

「なんだそれ、インチキだろそんなのッ!?」

「アホか。PG使って圧倒的な試合にしておいて負けたらインチキとかアホか。そんなんだから負けるんだよ、アホ」

 

 いまだに食って掛かるカマセに流石に鬱陶しくなり、元々、カドマツもカマセとは相性は悪いと思っていたのか淡々とカマセを咎める。

 

「三回もアホって言われてやんの」

 

 そんなカマセにしめしめとミサは矢に笑いかける。一矢も特に反応はせずにカマセに掴まれた肩を摩っている。

 

「ちくしょう! 俺はこんなところで負ける男じゃないのにッ!!」

 

 いたたまれなくなったカマセは捨て台詞を残してその場から走り去っていく。その後ろ姿は何とも情けなかった。

 

「はぁっ……今年はファイターに恵まれなかったなぁ」

「でもPG動かせるなんてアセンブルシステムの改造は凄かったです」

「突貫作業だったからPGのスペック活かしきれなかったけどな」

 

 カドマツはカマセの後ろ姿を見ながらため息をつく。

 去年、優勝できたのは単にファイターとの相性だろう。そんなカドマツにミサが褒め称える。敵チームであってもPGを動かすアセンブルシステムを組むのはただの一般人では難しい問題だ。

 突貫作業で組み上げたシステムだと言う事は戦闘中に一矢も見抜いていたことだが、それでもあれだけ動かせるのは大したものである。

 

「上の大会じゃもっとすげぇの出てくるだろうよ」

「そっか。優勝したから次があるんだ!」

 

 カドマツの言葉はまさにその通りだ。

 リージョンカップ、ジャパンカップ、今まで一矢が戦っていた相手はあれ以上の性能を持って挑んできた。ここで勝てたからと言って満足する訳にはいかないのだ。ミサはカドマツの話を聞き、一矢に笑いかけ、これから先の未来に期待を膨らませる。

 

「イッチーッ!!」

「っ!?」

 

 一矢も目を瞑り、これから先の事を考える。

 すると背後から裕喜がタックルの如く一矢に抱き着く。驚くミサをよこに夕香達が歩み寄ってきた。

 

「やったねーミサ姉さん」

「イッチ、凄かったなあれ」

 

 一矢の首元に抱き着き、ぶんぶんと動かしている裕喜を横目に夕香はミサに笑いかけミサは礼を言う中、レンが苦しんでいる一矢に先程の覚醒ついて話題を振る。

 

「凄いね、あの人」

「……うん」

 

 そんな一矢達を遠巻きに見つめながら未来が隣に立つヴェールに話しかける。ヴェールも未来の言葉に頷きながら、一矢達を横目に未来と共にその場を去る。その胸には何れ戦うであろう一矢達への期待に胸を躍らせていた。

 

 ・・・

 

「それでは彩渡商店街ガンプラチームのタウンカップ優勝を祝して乾杯っ!」

「「「乾杯!」」」

 

 その晩、彩渡商店街で三軒しか開いていないうちの一つ、居酒屋みやこにて祝勝会が行われていた。ユウイチが音頭を取り、飲物が入ったグラスを合わせる。

 

「ミヤコさん、お店貸してくれてありがとう」

「良いのよ、うちは一日くらい休んでも問題ないから」

 

 テーブル上には焼き鳥や刺身、揚げ物などの食欲をそそる美味しそうな居酒屋料理が並んでいた。ミサがこの店の店主である割烹着を着たミヤコに礼を言うと、ミヤコは人当たりの良い笑みを浮かべて答える。この店は商店街唯一の繁盛店だ。

 

「うちの店もミヤコのところに商品卸せてなかったらとっくに潰れてらぁ」

 

 瓶ビールをジョッキに注ぎながら彩渡商店街でトイショップ、居酒屋みやこ、そして最後の一軒として開いている精肉店の店主であるマチオが酒を飲んで上機嫌になりながら自分の店の事情を口にする。

 

「ミヤちゃん、うちの商品も扱ってくれないかな?」

「ガンプラって食べられるの? 衣をつけてカラッと揚げてみる?」

 

 そんなマチオを見てその隣でユウイチが苦笑しながら冗談交じりにミヤコに提案すると、わざとらしく肩を竦めながら冗談を冗談で返される。とはいえガンプラ焼なる食べ物はある。実際のガンプラを使っているわけではないが。

 

「しかしスゲーな。優勝なんて立派なもんだよ」

「まだ一番小さな大会だし、これからだよ」

 

 ゴクゴクッと喉を鳴らしながらビールを飲み干したマチオがミサ達に感心しているとミサは照れ臭そうにしながら答える。

 

(……その一番小さな大会に今まで躓いてたみたいだけど)

 

 その隣で一矢はチビチビとジュースを飲みながら内心、皮肉を言う。

 性格が捻くれているのは自分でも分かっているし、突発的に思ったことなので口には出さずに内心に留めておく。

 

 そんな一矢はまるで借りてきた猫のように大人しい。

 元々この手のイベントには参加したがらないが、二人しかいないチームの祝勝会だと誘われたから来ただけだ。

 何より自分が知らない人間達、特に知り合ったばかりの人間がいるともなれば元々他者と関わろうとしない一矢には大人しくジュースを飲む以外のことはしなかった。

 

「ミサ、チームメイトに皆さんを紹介しなさい」

「そうだった、放ったらかしてごめんね。肉屋のマチオおじさんと居酒屋のミヤコさんだよ。で、こっちが我が商店街チームの期待のルーキー、雨宮一矢君! 今日も大活躍だったんだよ!」

 

 そんな一矢に気づいてユウイチがミサに声をかけると慌ててミサが自分の隣に座る一矢、そしてマチオとミヤコにそれぞれ紹介し、一矢は軽く会釈をし、マチオとミヤコはそれぞれよろしくと声をかける。

 

「前は他にもお店あったんだけどね……。でも、私達が頑張ればまた昔みたいに賑やかな商店街になるよっ!」

「そうなると良いわねぇ」

「期待してるぜ、お前達!」

 

 今では三軒しか開いていない彩渡商店街。生まれ育ったこの商店街のかつての姿を思い出しているのか少し寂しげなミサだが今回のタウンカップの優勝が希望となったのかその表情は晴れやかなものに変わる。そんなミサにミヤコとマチオがそれぞれ声をかける。

 

「──邪魔するよ」

「あらごめんなさい、今日は貸し切りで……」

 

 すると入口の引き戸が開かれ、来客が暖簾をくぐりながら声をかけるとミヤコは貸し切りの張り紙を貼ったはずなのにと内心で思いながらも立ち上がって来客に対応しようとすると……。

 

「あれー……カドマツさんだっけ……? どうしたの?」

「女将さん、俺、その嬢ちゃんの知り合いなんだよ」

 

 来客に目を向ければ、それは今日のタウンカップで出会ったカドマツだった。

 驚いているミサにカドマツがミヤコに知り合いであることを説明する。それならばとミヤコは店内に案内し、カドマツはユウイチの隣に座る。

 

「実は嬢ちゃん達のチームに入れてもらおうと思ってな」

「え、なんで? 自分のチームは……?」

 

 カドマツはミヤコからグラスを受け取りながら来店した目的を明かすと、まさかの提案にミサは戸惑う。カドマツはハイムロボティクスのチームに所属しているはずだ。

 

「お前らに負けて、今シーズンもうやることないんだよ」

「あー……ごめん。失業させちゃって」

 

 タウンカップを逃した以上、その先の大会には出られない。企業として参加したチームはもうやる事がないのだ。その事を話すカドマツにミサは憐れんだ目で謝る。

 

「別に会社はクビになってねーよ! この商店街チームはこの地元代表なわけだから同じ地元同士、我がハイムロボティクスも力添えってわけだ」

「スポンサーになってくれるということかい?」

 

 ミサの言葉にツッコミを入れながらハイムロボティクスとして協力を申し出ると、意外そうにユウイチが話に入る。

 

「資金面じゃなくこのチームはエンジニアいないでしょう? 俺がチームエンジニアを引き受けますよ」

「うちにはエンジニアを雇うお金は……」

 

 資金面ではなく技術提供をするという。

 ありがたい話ではあるが、ハイムロボティクスのエンジニアを雇うだけの資金はない。そんなものがあればカマセも抜けないだろう。ユウイチはやんわりと断ろうとするが……。

 

「そこはうちの社長にも話通してありますから、ちょっと仕事に協力してもらうってことで。それにね……個人的におたくのエースファイターに興味がある」

 

 どんな仕事に協力するかはまだ分からないが金はいらないというのであれば、ありがたい話だろう。ユウイチの懸念をなくしながらカドマツは一矢に目を向ける。今回の覚醒、エンジニアとしては興味があるのだろう。当の一矢はカドマツの視線に気づかずに焼き鳥のぼんじりを食べている。

 

「え……わたしに? 個人的に? んー……でもカドマツさんじゃあ年の差ありすぎかなぁ……」

「え……このチーム、嬢ちゃんがエースなの?」

 

 カドマツの一矢に向けている視線にミサが割って入る。

 わざとらしく頬に手を当てる唸るミサにカドマツが意外そうにミサに言い、エースだと思われてなかったミサはえっ、と固まる。

 その隣でカドマツが思った本来のエースである一矢は相変わらず焼き鳥を食べ、隣で固まるミサの様子にも気づかずに今度は焼き鳥のかしらに手を伸ばすのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 新たな出逢い
トイボット


 

 

「こうやってまたチームメイトとプラモ作りが出来て嬉しいなぁ。結構強いし、設備や資金に文句を言わないし」

 

 祝勝会から後日、一矢とミサは彼女のトイショップで共にプラモを作製していた。

 ミサは黙々とlegend BBシリーズの騎士ガンダムを作成している一矢を横目にしみじみと呟く。

 彼女の口ぶりから察するにカマセは相当、文句を言っていたのだろう。

 別に一矢は今の環境に文句はない。ミサと共に戦うのも悪い気はしないからだ。そんなミサは600番の紙やすりを探している。

 

「へぇ、それが新しいガンプラなんだ」

「うん……。名前はゲネシス……。ゲネシスガンダム」

 

 ミサは一矢の傍らにおいてあるガンプラに気付く。

 そのガンプラはトリコロールカラーのガンダムタイプのものだった。

 HG ビルドストライクをベースに脚部にスラスターユニットや肩部にミサイルポッド、背部に二つの大型ガトリング、何よりV2ガンダムのバックパックやブレイカーⅢのGNソードⅢが組み込まれており、高軌道接近戦型を意識して作製したのが伺える。

 

「……そっちも変わったな」

「うん、後はカドマツさんが来るだけ」

 

 机上に置かれているアザレアはそれぞれ細部が以前とは異なっていた。ミサイルポッドなど火力面を強化するビルダーズパーツを取り付けている。

 これは所謂、拡張装備だ。付けるだけではシミュレーターには反映されないが、アセンブルシステムの改良によって反映される。そしてそれが出来るカドマツを一矢達は待っていた。

 

「──おーい、いるかー?」

 

 来店を知らせるベルが鳴ると共に聞き覚えのある声が聞こえる。

 ミサが椅子に座った状態でのけ反って視線を向けると、そこには大きなアルミトランクケースを持ったカドマツが来店していた。

 

「おう、約束通り今日からチームエンジニアとしてお前らをサポートする。よろしくな。早速だがチームのアセンブルシステムに手を入れてみようと思う。終わったら機体をセットアップする時に確認しといてくれ」

「エース了解っ!」

 

 カドマツの目的など一矢とミサしかないだろう。カドマツに気付いた二人は立ち上がって歩み寄ると、ミサが明るく敬礼をしながら冗談っぽく答える。

 

「じゃあ早速、新しいシステムを組んで欲しいのでエース!」

「やんすみたいに言うな」

 

 居酒屋の一件以降、まだその事を言うのかと呆れているカドマツにミサがGPを渡しながら言うと、カドマツは呆れてツッコミを入れつつもミサと、そして一矢のGPを受け取る。

 ・・・

 

 

「うっし……終わったぞ。さて報酬を支払ってもらうぞ」

「今日までありがとう。私、カドマツさんのこと忘れない」

 

 二人のGPのアセンブルシステムの改良を終えたカドマツは二人に向き合って報酬を要求すると、ミサは冷めた様子で言い放つ。

 

「別に金払えってんじゃない。こないだも言ったろ、仕事手伝ってもらうって」

「でもさハイムロボティクスのお手伝いなんて理工学系の知識がなきゃ無理でしょ?」

 

 ミサの手のひら返しに苦笑しつつ以前、居酒屋みやこで言及した事をもう一度言うと、その事に関しては覚えているのか、それでも理工学系の知識などないミサは顔を顰めている。

 

「まずはコイツを見てくれ、話はそれからだ」

 

 カドマツは持ってきたアルミトランクケースを空いている作業ブースの机の上に置き開ける。そこには成人男性の腰の辺りまである大きさの騎士を思わせる二頭身のガンダムが収められていた。

 

「わぁ騎士(ナイト)ガンダムだ。これロボット?」

「ウチで開発中のトイボットだ。こいつの運用テストに協力してほしいんだ」

 

 その外見は騎士ガンダムと呼ばれるSDガンダムのそれだった。

 アルミトランクケースに収められた騎士ガンダムを覗き込んで驚いているミサの隣では一矢は声に出さないが興味を惹かれているようだ。そんな二人に報酬の意味を説明する。

 

「玩具用ロボットかぁ……。こんなのが買える時代になったんだねぇ……」

「でもお高いんでしょう?」

 

 トイボットとは玩具用ロボット、そしてもう一つ種類がありワークボットと呼ばれるものがある。これはインフォのようなロボットのことだ。騎士ガンダムのトイボットを見てしみじみ呟くミサにその隣で誰に問うわけでもなく一矢が呟く。いくら売り出されようが、おいそれと手が出るものではないだろう。

 

「実際に売り出すのはもう少し先だがな。テストで合格出来なきゃ商品化は無理だ」

「テストって私達はなにをすれば良いの?」

 

 やはり発売するにも段階が必要だ。

 カドマツの言葉にミサは一矢と顔を見合わせながらカドマツに問いかける。トイボットは凄いが自分達が何をするのだろう。

 

「こいつの売りは子供と一緒に遊んでくれることなんだ」

「ふむふむ……? あ、これ取説だ」

 

 トイボットと言うだけあってやはりメインは子供だ。

 カドマツの説明を聞きながら一矢は内心、騎士ガンダムと遊べるならもう少し後に生まれたかったと思ってしまう。その横ではミサがアルミトランクケースに同梱されている取扱説明書を見つけて取り出す。

 

「ガンプラバトルも一緒に出来る」

「……!」

 

 一緒にガンプラバトルも出来る、カドマツのその言葉にぼっち(一矢)が強く反応する。

 

「成程……。これがメインスイッチ」

「新しいチームメンバーってことだ。次からシミュレーターに入る時はコイツを連れてけ……って勝手に起動すんなよ!!」

 

 カドマツの説明を聞きつつも説明書に集中しているミサはトイボットの電源ボタンを押す。ガンプラバトルが出来るという言葉からより一層、話を聞き込んでいる一矢に説明しながらその横で電源ボタンを押したミサに気づき、ツッコミを入れる。

 

「おー……立ち上がった!」

 

 するとトイボットの頭部のカメラに光が灯り、SDガンダム特有の瞳が映し出されアルミトランクケースから立ち上がってカドマツの隣に降り立つ。その姿を見てミサ、そして一矢は感激していた。

 

「はじめましてロボ太!」

「勝手に変な名前をつけるなっ!」

 

 カドマツの隣のトイボットの名前を決めたのか、挨拶をするミサにカドマツはすかさずツッコミを入れる。

 

「良いじゃんロボ太! かわいいじゃん! ねーロボ太!」

「あぁこいつ、言葉は理解出来るけど発声機能はついてないんだ。あくまでおもちゃである為にな。人の近くにいるロボットの開発ってデリケートなんだよ。特にトイボットの子供の成長にどんな影響を与えるのかまだ分からないからな」

 

 ロボ太という名前が気に入ったのか、トイボットことロボ太に話しかける。

 しかしロボ太はミサを見上げるだけでインフォとは違い、何も答えない。その事を怪訝そうにしているミサと一矢にカドマツが理由を明かす。

 

「……なんか大人っぽいこと言ってる」

「大人だからな」

 

 カドマツのロボットに関する話を聞いて、どこか驚いているミサに三十路過ぎのカドマツは何を言ってるんだと言わんばかりに答える。

 

「良いから早速、テストして来い。うまく行けば次のリージョンカップは三人で戦える」

 

 仕事の合間を縫って抜け出してきたカドマツは時間が惜しいのか二人にロボ太を預けて送り出す。カドマツの言うように上手く行けば三人で戦えることだろう。

 

 ・・・

 

《ミサさん、一矢さんご来店ありがとうございます》

 

 トイショップから移動して数十分、一矢とミサはロボ太を連れてイラトゲームパークにやって来ていた。平日であっても夏休みではあるがあまり人は入っていない。来店した二人にインフォがまず出迎える。

 

《はじめましてロボ太さんですね、記憶します》

 

 一矢達の背後に控えていたロボ太は前に出てインフォの前に立つと、暫くその場から動かない。するとインフォは紹介もしていないのにロボ太の名を発する。

 

「なんで名前知ってるの!?」

《今聞きました。光デジタル信号で、ですが》

 

 ロボ太の名を発したインフォに驚くミサの疑問に先程のロボ太の行動の意味と同時に教える。先程のロボ太もただ無駄にインフォの前に立ったわけではないようだ。

 

「なんかロボットっぽいこと言ってる!?」

《ロボットですが》

 

 まるでインフォがロボットではないような事を口にするミサだが、インフォは淡々と答える。うーむ、と唸るミサの隣でロボットじゃなかったら何なんだと呆れている一矢はシミュレーターに向かって歩き出し、ロボ太とミサはその後を追う。

 

「あれそう言えばロボ太のガンプラないよ」

「カドマツさんに前に言われてたから作ってある」

 

 ガンプラバトルは名前通りだ。ガンプラがなくては始まらない。

 ミサはロボ太のガンプラがないことを指摘すると、一矢はゲネシスと共にケースから騎士ガンダムのガンプラを取り出す。

 カドマツから作成は頼まれてカドマツが来る前から作ってはいたが、まさかロボットが使うとは思っていなかった。二人とロボ太はそれぞれシミュレーターに乗り込み、シミュレーター同士のマッチングを始める。

 

「ゲネシスガンダム、出る」

 

 これがゲネシスの初陣だ。

 自然と高揚感が高まっていくなか、ゲネシスはカタパルトを駆け抜けて、発進していくのだった。

 

 ・・・

 

「いらっしゃいませ」

「おう」

 

 一矢達のシミュレーターのマッチングが終わり、出撃したと同時に金色の瞳の青年がイラトゲームパークに入店し、インフォの出迎えに軽く手をあげて答える。彼は一矢達がブレイカーズに訪れた際に裏で仕事をしていた青年だ。

 

「アンタ今日も来たのかい。最近、ガンプラバトルのスコアが凄い事になってるそうじゃないか。バウンティハンターなんて呼ばれてるんだってね」

「強くならなきゃあの人に勝てないからな。今度こそ勝つって言ったからよ」

 

 イラトもここ最近、出入りしているのか青年に気づくと声をかけてくる。

 バウンティハンターの異名を持つ彼と彼のガンプラの名前はガンプラバトルシミュレーター近くのモニターにガンプラバトルで得たポイントのランキングにその名を連ねていた。それを見た青年は活発な笑みを浮かべながらガンプラバトルシミュレーターへ向かう。

 

「今日も強そうな奴がいるみたいだな……。……ん……? ……SDか……。変わってんな……」

 

 青年はシミュレーターに乗り込む前にふとモニターに目をやる。

 そこにはそれぞれカスタマイズしたガンプラ達が火山のある孤島で戦闘を行っていた。

 その中で目を引いたのが一機のSDを使ったチームだ。物珍しく思いながら青年はシミュレーターに乗り込むのだった……。




ガンプラ名 ゲネシスガンダム

WEAPON GNソードⅢ(射撃と併用)
HEAD ビルドストライクガンダム
BODY アカツキ
ARMS デュエルガンダム
LEGS クロスボーンガンダム
BACKPACK V2ガンダム
SHIELD 試製71式防盾
拡張装備 スラスターユニット×2
     ミサイルポxxチュト×2
     大型ガトリング×2

カラーリング 頭部はブレードアンテナのみホワイト。胴体は関節色の部分はそのまま逆三角形のオレンジの部分はレッド、それ以外とシールドはエースホワイト。腕部脚部バックパックのカラーリングは大体、そのまま。流石に部品ごとに同じ青でも微妙に違いますので統一してますがGNソードⅢは初期機体のカラーのままです。

詳しい外観は活動報告の【ガンブレ小説の俺ガンダム】に某画像投稿サイトへのリンクがありますので、興味がありましたらそちらを参照して下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

炎のブレイカー

 

 

「見てよこの装備! エンジニアがいるだけでカスタム出来ることが増えるんだね……! なんかカマセ君が環境に拘る理由が少し分かった気がするよ……」

 

 暗雲の立ち込める火山のある孤島がステージとなり、ゲネシス達はホログラム投影される。ゲネシスの隣に現れたのは、拡張装備をしてカスタマイズしたアザレアカスタムだ。

 以前のアセンブルシステムでは出来なかったこの姿を一矢に見せながら、複雑ながらミサはカマセがあそこまで環境にこだわっていた理由を理解する。口ではあぁ言っていたがやはり環境の大切さを改めて知ったのだ。

 

「さぁ、じゃあ行きますか」

≪───心得た≫

 

 ホログラム投影されている以上、ゲームは開始され、時間は限られている。

 ミサが動き出そうとした瞬間、聞きなれない声が一矢とミサの乗るスピーカーを通じて聞こえる。

 

 紳士的な男性の声だ。

 そしてその発生源は何と同じチームのロボ太のシミュレーターから流れてきていた。つまりはロボ太だ。

 

≪どうした、二人とも。私は心得たと返答しただけだ≫

「喋ったぁっ!!?」

 

 思わず固まる二人、そんな二人を疑問に思い、自分は何かおかしな事を言っただろうかと問いかけるロボ太にミサは素っ頓狂な声を上げる。

 

≪あぁうむ……。シミュレーターに合成した音声データを入力し、それがスピーカーから出力されている≫

「だってカドマツさんが喋れないって……」

 

 二人が驚いている理由を察したのかロボ太が今、何故自分がこのように言葉を二人に聞かせられているその理由を教えるが、それでもミサは戸惑ってしまう。ロボ太は言葉を発せれない、完全にそう思っていたからだ、

 

≪カドマツは発声機能がついていないと言っただけだ。私のボディにはスピーカーがない。ガンプラバトルシミュレーターにはスピーカーがあるのだから当然、喋ることは可能だ。ガンプラバトルというものはチームで行動するものだコミュニケーション手段がなければ不都合だろう≫

「そ……そーですね」

 

 ロボ太の言うことはまさにその通りではあるのだが、いかんせん驚きが強すぎてミサは唖然としたままだ。

 

≪さぁミサ、そして主殿! 油断せず進もう!≫

「ちょっと! なんで私が呼び捨てでそっちは主殿なのっ!?」

 

 もう自分達のガンプラはシミュレーターのジオラマ上にホログラム投影されている。

 このままではNPC機や他のプレイヤーとエンカウントするのは時間の問題だろう。ロボ太は一矢とミサに声をかけ、一矢が作成した自身のガンプラである騎士ガンダムの歩を進める。

 

 しかしいくら唖然としようがロボ太の言葉が聞き捨てならなかったのか、すぐさまミサがなぜ自分だけが呼び捨てなのか、抗議するように叫ぶ。

 

≪私はカドマツがインプットしたデータに従っているだけだ≫

「カドマツぅっ!!」

 

 別にロボ太が好き好んで二人の呼称を変えているわけではない。ミサの怒りの矛先はカドマツに向かう。

 

「……ふふんっ」

「そこも嬉しそうな顔しないっ!!」

 

 厳密に言えば違う存在ではあるが騎士ガンダムに主呼びされれば気分が良いと言うものだ。

 心なしかご満悦な表情の一矢にすかさずミサがツッコミを入れる。とはいえいつまでもこんなやり取りをする訳にはいかない。早速、NPC機が現れ、こちらに銃口を向けてくる。

 

 真っ先に動いたのはゲネシスだ。

 背部の二つの大型ガトリングを発射して、NPC機の動きを牽制、GNソードⅢをライフルモードにNPC機達を撃ち抜きながら、Vの字の残像を残しながら、高速で接近して、GNソードⅢを展開してNPC機群に切り込んでいく。

 

 一矢は顔には出さないもののゲネシスの性能には驚いていた。

 ブレイカーⅢ自体、過去に作成したが、あの頃はまだ翔の手ほどきを受けたとは言え、その大部分は一矢が作った。今より未熟で当時は気にならなかったが、今ではバトルをする度に少しずつズレのようなものを感じていた。

 

 だが今、成長した一矢が作成したゲネシスは違う。

 ズレなどは感じない。寧ろピッタリと自分に合っている気さえする。もっと加速しようと思えば出来るはずだ。ブレイカーⅢでは到達できなかった領域にこのゲネシスならば行けるのだ。

 

(前に……ッ!!)

 

 ミサの手を掴んだ自分はもう立ち止まらない、俯かない。前に進むんだ。

 過去の自分と決別する為に、手を伸ばしてくれたミサに応えるために。一矢のその気持ちに呼応するかのようにゲネシスのメインカメラは光り輝く。すると背部に光の翼が現れた。

 

「あ……」

 

 背後にいたミサが確認出来たのはここまでだった。

 思わず間の抜けた声を漏らしてしまう、気が付けばゲネシスは新たに現れたNPC機の背後にいた。周囲のNPC機も横一文字に両断され爆発する。

 見えなかった。それ程までの圧倒的なスピードを持ってゲネシスは撃破したのだ。

 

「私だって……ッ!」

 

 今のアザレアとゲネシスの距離はそのまま自分と一矢の差のように感じる。再び現れたNPC機に対して動き出したゲネシスにミサはその後を追い、自分も戦闘に参加する。

 

 後ろから見てる気なんてない。一矢に任せる気なんてないと言ったのは自分だ。言葉だけで済ませる気なんてない。何より迷いを振り払って自分の手を取ってくれた一矢の想いに応えるためにも自分も彼と共に前に進むのだ。

 

 取り付けた拡張装備であるミサイルポッドを発射して、ゲネシスを離れた場所から射撃しようとするNPC機を撃破しつつマシンガンでその周囲のNPC機を打ち抜いて、援護していく。

 

 《流石だな、二人とも》

 

 今の彩渡商店街ガンプラチームは二人ではない。二人の連携に感心しながらロボ太操る騎士ガンダムは電磁スピアを装備すると、そのまま投擲する。

 

 風切り音と共に放たれた電磁スピアがNPC機に深々と突き刺さると同時に接近した騎士ガンダムは電磁スピアを引き抜いて、周囲のNPC機含めて鋭く突きによる攻撃を浴びせる。

 

 《はぁあッッ!》

 

 突き刺した電磁スピアを足場に飛び上がった騎士ガンダムはそのままナイトシールドからナイトソードを引き抜き、素早くそして正確にNPC機を次々に撃破していく。

 

 次々にNPC機を切り裂いていくゲネシスと騎士ガンダム。近接戦においてNPC機は手も足も出ず、今、この二機の独壇場となっていた。

 それでも攻撃しようとするNPC機もいるがアザレアCの射撃がそれを阻み、すぐにゲネシス達に破壊される。

 

 《これで終わりか。物足りないな!》

 

 NPC機を撃破し、その場にはもう何も残らない。

 初めてのガンプラバトルではあったがロボ太は足を引っ張ることもなく一矢とミサと肩を並べられる。その発言からも余裕さを感じられた。

 

 

 ───その時だった。

 

 

「なっ……!?」

「地震!?」

 

 バトルフィールドとなっている火山のある孤島は突如として地鳴りが響き渡り、その振動に一矢とミサが驚く。この発生源は恐らくはモニターに映るあの火山だろう。

 

「噴火したぁっ!!?」

「いや……違う……ッ!!」

 

 火山に目をやった瞬間、火山の火口からまるで噴火のように一筋の炎が現れる。

 ミサは声をあげるが火山に目を凝らした一矢は何かに気づき、否定する。

 火山から現れた一筋の炎はまるで龍のように天へと昇り、暗雲を消し去り太陽が輝く晴天に変わったのだ。

 

「──だったら俺とも戦ってもらおうかッ!!」

 

 オープン回線から自信を伺わせるような活発な青年の声が響き渡る。

 同時にその場にいた者は驚愕する。輝く太陽を背に先程の一筋の炎はこちらに向かってくるからだ。炎はゲネシス達の前に轟音をあげ地面を削りながら降り立つ。

 

 地面に降り立った炎、その中からは人影が見える。人影は二つの拳を打ち鳴らすと大きく手を広げて自身に纏わりついていた炎を吹き飛ばし、その姿をハッキリと見せつける。

 

 そのガンプラはガンダムタイプの機体だった。

 真紅の機体と背部にマウントされた一本の刀は純粋な格闘機のような印象を受ける。

 

「バーニングガンダムブレイカー……?」

 

 そして何より一矢の目を引いたのは表示されているシミュレーターがロックした目の前のガンダムの機体名だ。

 ガンダムブレイカーと言えば自身が憧れている如月翔のガンプラの代名詞とも言える名前だ。

 

「おいおいボケッとしてんなよ。エンカウントしたんならやる事は一つだろ」

「……ッ!」

 

 バーニングガンダムブレイカーを操るであろう青年の声が聞こえ、一矢はハッとする。

 いまだ火の粉がバーニングブレイカーの周囲を舞っている。

 その中でバーニングブレイカーは軽やかにステップを踏むと右手を突き出し、左拳を引き構えをとる。

 アクション映画で見るような構えだ。

 しかしただの真似事ではない。格闘技に詳しくはない一矢にも分かる、隙がないのだ。

 

「速い……っ!?」

 

 しかしいつまでもこちらに武装を展開したまま様子を伺っているゲネシス達をバーニングブレイカーが待つ道理はない。

 もう声をかけてから時間は経っている。

 地面を蹴ると同時にバーニングブレイカーは瞬時にゲネシスの前に移動する。その速度はゲネシスにも勝るとも劣らない勢いだ。一矢が目を見開くのも束の間、掌底打ちを浴び、ゲネシスは吹き飛ばされる。

 

 《主殿ッ!》

「おっと」

 

 吹き飛ばされた一矢、しかしそちらばかりに気を取られていては一矢の二の舞だ。

 ロボ太はすかさずバーニングブレイカーに攻撃を仕掛けるが、どれも素早く受け流されてしまう。

 

「なっ!?」

「ロボ太!」

 

 受け流すうちに騎士ガンダムのナイトソードの太刀筋を見極めたバーニングブレイカーは向けられたナイトソードの切っ先を受け止める。ミサはすかさず援護をしようとするが……。

 

「やるよ」

「わっ!?」

 

 そのままバーニングブレイカーはぐるりと回転し、勢いを利用してナイトソードごと騎士ガンダムをアザレアCに投げる。避ける事は容易いが投げられたのは共に戦っているロボ太の騎士ガンダムだ。アザレアCは思わず受け止めてしまう。

 

「きゃああぁあっっ!!?」

 

 しかしそのせいで動きが一瞬止まってしまった。

 バーニングブレイカーはその隙を見逃すこともなく、右腕の甲に前腕のカバーが右腕を覆い、エネルギーが右マニュビレーターに集中させる。そのままエネルギーを照射して騎士ガンダムごとアザレアCに直撃させ、吹き飛ばすと、ミサの悲鳴が響く。

 

「……アンタ……一体……」

 

 アザレアC達はゲネシスの近くに吹き飛ぶ。

 三機が起き上がりバーニングブレイカーにすかさず再び武装を展開し対峙する。

 強敵であることは痛いほど分かった。手を抜く気はない。これからロボ太を加えチームとして動く以上、ここで目の前のガンプラに歯が立たないようではリージョンカップどころかその先にも行けないだろう。一矢はその強さとその名前に興味を引かれ、問いかける。

 

「シュウジ……、ブレイカーの名を継ぐ者だ」

 

 当のバーニングブレイカーは余裕そうに腰に左手を当てるとそのまま右の親指にあたる部分で頭部のスリット部分を擦り、再び先程の構えをとる。

 バーニングブレイカーのシミュレーター内では金色の瞳の青年……シュウジが好戦的な笑みを浮かべながら、その首元には下げられた宝石……アリスタが輝くのだった……。




シュウジ(Mirrors)

【挿絵表示】


前作EX編主人公シュウジの登場です。彼がここにいるのは前作EX編ラストから世界を旅をし翔の世界に辿り着けた感じですね。ですのでレーアとの勝負はシュウジの勝ちになってます。

前作キャラで登場が早くから決まっていたのは翔、あやこ、シュウジなんですよね。登場するかもしれないキャラがレーア、ショウマ、エイナル、ルルのガンブレ2原作組とリーナ、カガミ、ヴェルの三人です。

前作のラストを考えるに出し易いのはレーアとリーナ。そしてシュウジと同じ小隊であるカガミとヴェルですかね。この四人が今後、出る可能性が高いです。まぁそもそも前作主人公である翔がいまだ名前だけの登場なんですけどね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今後の課題

 

 バーニングブレイカーと対峙する彩渡商店街ガンプラチーム。

 真っ先に動いたのはアザレアCだ。マシンガンの銃口をバーニングブレイカーに向け、脚部のミサイルポッドと同時に発射する。

 

「へっ……」

 

 シュウジは笑みも漏らすと、すぐさまバーニングブレイカーを動かす。

 身体を宙に舞うと高速回転をし竜巻を起こすことで迫りくる銃弾を全て防ぎ、その竜巻のせいでゲネシス達は迂闊に攻撃ができなくなってしまう。

 

「──聖槍蹴りィッ!!」

「……ッ!」

 

 しかしバーニングブレイカーにとってはそうではない。竜巻を繋ぎ技にゲネシス達へ向けて急降下キックを放つ。

 圧倒的なスピードを持って放たれるその技に一矢達は何とか避けることには成功するが、ゲネシス達が避けたところに放たれたその一撃は土煙と土砂を巻き上げ、大きなクレーターを起こすほどの威力を見せる。

 

 距離が縮まり一矢が動いた。

 ゲネシスの機動力を利用してバーニングブレイカーの右に回り込むとGNソードⅢを展開して斬りかかる。

 

「甘いぜ」

 

 ポツリと呟かれる。

 ゲネシスのGNソードⅢは二本指で受け止められていたのだ。そのまま刀身を掴まれ、引き寄せられると頭突きを食らう。

 

「流星螺旋拳ッ!!」

 

 腰を深く落としたバーニングブレイカーはマニュピレーターを高速回転させ、放たれた一撃はゲネシスの装甲を轟音をあげて破られ深い損傷を与える。

 

「じ、次元覇王流……!?」

「覇王不敗流だ」

 

 先程の聖槍蹴りもそうだが、流星螺旋拳などの技を使う流派がガンダムシリーズにはある。ガンプラバトルシミュレーターにおいて次元覇王流の技はオプションとして使うことは出来る。しかしそれは一部の技だけであって流星螺旋拳などは使えない。

 しかし目の前のバーニングブレイカーは違う。オプションなどではない。その技をどうやって使うのかなどを理解し体得したかのように放ったからだ。

 

 その事に驚きながら次元覇王流の名を口にする一矢だが、シュウジは即答で否定する。

 彼の構えや戦い方といい、格闘技などに精通しているのは間違いなさそうだが、一矢達にとって覇王不敗流など聞いたことがない。しかしシュウジの反応から嘘をついているとは思えない。

 

「俺はお前より凄ぇ剣筋の女性を知ってる」

「っ!?」

 

 流星螺旋拳を喰らい、のけ反ったゲネシスの頭部を掴み、そのまま地面に叩き付け、轟音と土煙を立てて地面に倒れてしまう。

 

 《クッ!!》

「同じ騎士でも、もっと凄い騎士が俺の知り合いにいるぜ」

 

 ゲネシスにトドメを刺そうとマニュビレーターを振り上げるバーニングブレイカー。そうはさせまいと騎士ガンダムが彗星の如く素早い剣技がバーニングブレイカーに放たれるが、どれもバーニングブレイカーに掠ることもなく受け流される。

 

「つ、強い……」

「師匠に扱かれたんだ。俺の強さは伊達じゃあねえぜ」

 

 こちらが攻撃を受けることはあっても、バーニングブレイカーは直撃することもない。

 まずこの場に彼に近接戦で勝てる者はいないし、射撃をすれば先程の竜巻など予測不可能なやり方で防いでくる。思わずポツリと呟いてしまうミサの言葉を聞き取ったのか、シュウジは師を誇るように自慢げに話す。

 

「お前らはチームなのか?」

「は、はい。タウンカップ出て優勝しました……」

 

 こちらに攻撃を仕掛けようとはせずに感じた疑問を投げかけてくるシュウジにミサはおずおずと答える。恐らく今のバーニングブレイカーは攻撃は仕掛けてこないだろう。それほどの余裕を感じられる。

 

「ならお前らには欠点がある」

 

 両腕を組んだバーニングブレイカーから放たれた言葉に一矢達は怪訝そうな表情をする。何が欠点なのだろうか? もしそれが分かればバーニングブレイカーにも通用するのだろうか?

 

「お前らは個々に動き過ぎなんだよ。誰がこのチームを纏めてんだ」

「えっ……あっ……」

 

 彩渡商店街チームと戦闘し感じた欠点をあげ、問いかける。

 言われて見ればこのチームにおける司令塔になる存在はいない。ゲネシスもアザレアCも互いを見合う。

 

「嬢ちゃんは射撃でサポートしようってんだろうが、片方だけが寄ったところでそんなの連携とは言えねぇ。まっ、仲良しこよしでやるんなら今のままでも良いがそれじゃあ限界は近いぜ」

 

 先程のアザレアCの動きなどからミサがどういう意図で動いているのかを見抜いたシュウジは淡々と指摘をし、一矢達は自分達がチームを組み以上、大切なことの一つを見過ごしていたことを実感する。

 ここで一矢達はタイムアップとなり、ゲネシス達はその場から消えてしまい、その場にはバーニングブレイカーのみが残るのだった。

 

 ・・・

 

「負けちゃった……」

 

 シミュレーターから出ると、バーニングブレイカーに手も足も出せなかった事が悔しいのかミサは声小さくポツリと呟く。一矢、そしてロボ太も同じなのか僅かに俯いていた。

 

「───よぉお前らか、さっきのチームは?」

 

 数分後、シミュレーターから出てきたシュウジが一矢達に声をかける。軽く手を挙げてこちらに向かってくるその姿は気さくさも感じられる。

 

「見所はある。お前らはきっと今より強くなれるぜ」

「えっ、あっ……はい……!」

 

 感じた印象通り気さくに話しかけてくるシュウジにミサがしどろもどろになりながら答える。先程もアドバイスをしてくれたりと面倒見の良いお兄さんと言った印象だ。

 

「連携ってぇのは難しいよな。俺も前までは一人でも出来るって思ってた。ホント、カッコつけてただけって思えるぜ……。でも少し前にある人に連携の……チームの大切さを教わった」

「……あの……ある人って……」

「……如月翔……。お前らも知ってるんじゃないか?」

 

 饒舌に話すシュウジにここで一矢が口を開く。

 その質問はシュウジの口から出てきたある人に関してだ。戦闘前に彼が言った言葉。あの言葉から推測すればその人物は一矢の知る人物だ。一矢の問いに答えるシュウジ。やはりある人というのは翔だったようだ。

 

「まぁこんな事言ってても今もまだ、たいちょ……リーダーにどやされるんだけどな、動きすぎだって。縁があったらまた会ってバトルでもしようぜ」

「あのっ!」

 

 何やら言い留まったシュウジは言い直しながらも、今日はもうガンプラバトルをするつもりはないのかイラトゲームパークを出ようと歩き出そうとすると、ミサが呼び止める。

 

「強くなったら今度はシュウジさん……だっけ。シュウジさんと、そのチームの人達とバトルするよ! 今度は負けないからっ!!」

「……おうっ!」

 

 どうやらミサはシュウジが言うような仲良しこよしで終える気はないらしい。

 

 当然だ。

 自分達は上を目指すのだから。強くなったら今度はシュウジのチームとバトルがしたいと思えた。きっと素晴らしいチームなのだろう。ミサの強い言葉を聞いたシュウジは僅かに目を泳がせつつ軽く手をあげ、その場を去るのだった。

 

 ・・・

 

「シミュレーターのスピーカーで喋るとは想定外だったなぁ……。ヒアリング用の言語データベースを利用して音声データを合成するとは……」

 

 トイショップまでの帰り道、今後のチームとしての課題を話しつつ帰ってきた一矢達はカドマツと合流し、テストの経緯を話し終えるとカドマツは肩を竦めながらため息交じりに口を開く。

 

「勝手にやってたってこと?」

「ここまで出来るAIを作るなんて流石、俺。でもこれはダメだ。AIに禁止させるかなぁ……」

 

 ロボ太の行動はカドマツの意図したものではないことに驚く。

 てっきりそうだとしか思ってなかった。カドマツは自分を褒めつつもロボ太を見やる。その瞳は複雑そうな感情が見え隠れしていた。

 

「なんで!? 喋れなくするなんて可哀想だよっ!!」

 

 もうロボ太……もとい騎士ガンダムに主呼びしてもらえないかもしれない事に一矢が衝撃を受けているなか、その隣でミサが抗議するように声を上げた。

 

「ほらな、必要以上に感情移入しちゃうだろ? 例えは悪いがコイツが車に轢かれそうになった時、持ち主が助けようとしたら困るんだよ」

「あー……言いたいことは分かった……。でも……」

 

 口下手な自分がロボットならば何とかコミュニケーションできるかもしれないと思っていたが、肝心のロボ太が喋れなくなるかもしれない事に一人何も言わないが、両手と膝を床に突き頭を垂らして落胆している一矢を横目にロボット開発のデリケートな部分の一部を話すカドマツの話を聞いたミサは理解はするが、それでも納得は出来ていないようだ。

 

「んー……。だが確かにガンプラバトルでコミュニケーションが出来ないってのは不都合だな……って、なんだロボ太?」

 

 とは言えシミュレーターでロボ太が言った事も一理あると理解をするカドマツにミサが感激したようにカドマツの名を口にする横でロボ太が何やらカドマツにモニターを通じて意思表示をする。

 

「お前って奴は……っ!!」

 

 ロボ太が出力したテキストが映るモニターを見て感動したかのように声を震わせるカドマツ。その様子を見てミサがのぞき込む。

 

 〝私は私の主やその仲間に危害が及ぶことは望まない。その可能性を生む要素は排すべき”

 

 そこにはこう映し出されていた。ロボットながら、その騎士の忠誠心にカドマツは感激したようだ。

 

「バッキャローお前……こんなこと言われて出来るわけないだろぅっ……!」

 

 声を震わせその場を去っていくカドマツ。どうやらロボ太がバトルで喋れなくなるという事態は避けられたようだ。とはいえ……。

 

「……感情移入し過ぎ」

 

 ロボ太が喋られなくなる事は回避できたが、今さらながら開発者としてそれで良いのかと思う部分はある。

 何より隣の喋らないチームメイトも床に伏せたままロボ太に上半身だけ抱き着いて喜んでいる。カドマツと一矢のその姿に苦笑しながらミサが一人呟くのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンプラデビュー!

 

 

「あんがとね、暮葉さん」

「うん、また来てね、夕香ちゃん」

 

 一矢達とシュウジの出会いから数日後、夕香は一人、彩渡商店街近くの美容室に来ていた。ここの店は以前から知っており今、夕香が礼を言った亜麻色の髪の女性は秋城暮葉(あきしろくれは)だ。この美容室の看板娘の女性であり、彼女の腕は夕香も気に入っていて、ここは夕香や裕喜などの行きつけの美容室になっている。

 

 ・・・

 

 美容室で身だしなみを整えた夕香は鼻歌交じりに駅前に訪れていた。

 駅前に来ればそれなりに周りは賑やかになってくる。兄がここ最近通っている寂れた商店街とはえらい違いだ。その理由と言うのも恐らくは新しく出来たこのタイムズ百貨店のせいだろう。もっとも夕香が今、ここにいるのもそのタイムズ百貨店が目的なのだが。

 

「夕香ーっ!」

「おっ……と」

 

 駅前にたどり着いた夕香は誰かを探しているのか左右に顔を動かし道行く人々を見ている。やがて目的の人物がいないのが分かったのか自身が肩にかけている2wayバックから携帯端末を取り出し、目的の人物に連絡を取ろうとすると背後から自分の名を口にする活発な声と共に背中に重みが走り、僅かによろけてしまう。

 

「へいお待ちー。裕喜ちゃんだぞっ」

「まったくー……。女の子を待たせちゃダメだろー」

 

 肩越しに自分に抱き着く人物の髪の毛が見える。

 クリーム色の髪だ。この髪色とこのような事をしてくる人物は自分の知り合いにいる。

 一々確認しなくたって分かる、裕喜だ。その予測通り裕喜は夕香の肩に顔を置き、笑いかけると自然に夕香も笑みを零し軽口を言う。

 

「もぉ夕香だって今来たばっかでしょー。知ってるんだからねー?」

「あはは、ごめんごめん。じゃあ行こっか」

 

 背後から夕香に抱き着いていた裕喜は苦笑しながら離れて夕香の隣に並び立つと夕香は両手を合わせて謝りながらタイムズ百貨店へと向かう。今日、夕香は親友の裕喜に誘われ、ここに来る約束をしていたのだ。

 

 ・・・

 

「ねーねー、KODACHIって知ってる?」

「最近、売り出し中のアイドル歌手でしょ」

 

 数時間後、二人は百貨店内のカフェで休憩をしていた。ストローでアイスコーヒーを口にしている夕香に今まで満面の笑みで満足そうにデザートを頬張っていた裕喜が何気なく誰かの芸名だろうか知っているかどうか問いかけると知ってはいるのか夕香は答える。

 

「私の予想だとこの先、凄く有名になると思うのよねー。歌も上手いし可愛いしスタイル抜群だし! 今度、イベントでここに来るって!」

「ふーん」

 

 携帯端末からKODACHIと思われる少女の画像を見せながら熱心に説明してくる。恐らくはファンになっているのだろう。しかし夕香は画像は注視するものの大きな興味は示さない。

 

「夕香って無趣味よねー」

「なにさいきなり」

 

 裕喜は携帯端末を引っ込めながら突然、指摘をすると、夕香は怪訝そうにしながらアイスコーヒーをテーブルの上に置く。

 

「いや、夕香がこれが好きっ! って言うのがないなーっと思って。ファッションが好きってわけでもないでしょ?」

 

 親友として今まで接してきて、夕香と一緒にいるのは大好きだが夕香が何かに一定以上の興味を持った姿を見た事ない。

 今日だってそうだ。

 百貨店内で衣類や雑貨を買い物したわけだが、夕香は楽しそうではあるのだがこの百貨店内で何かに強い興味を持っているわけではない。

 

「まぁアタシはそーいうのよく分かんないし。オススメのマネキン買いが安定だよねー」

「夕香の誕生日プレゼントとかいつも悩むよー。イッチはガンダムグッズとかガンプラ渡してれば安定だけど」

 

 夕香も無趣味と言われればそうなのかもしれないと思う。

 美容室もファッションも身だしなみには気を使う程度で別にそれが好きだというわけではない。苦笑している夕香に裕喜も同じように笑いながら今も彩渡商店街にいるであろう一矢の名を出す。

 

「ガンプラ、ねぇ……」

 

 双子の兄である一矢もどちらかと言えば無趣味ではあったが、ガンダム及びガンプラに出会ってからはその熱中っぷりは凄まじかった。特にガンプラに関しては如月翔の影響もあってか強いものになっている。

 兄があそこまで惹かれ、そして今やガンプラバトルも世界中に広まり、大ブームの中心にあるガンプラ。夕香は一矢のチーム結成時以来再び興味を示すのだった……。

 

 ・・・

 

「それでガンプラを作ってみようって思ったわけか」

 

 翌日、夕香は再び駅前で裕喜、そしてその兄である秀哉、弟である貴弘と一緒にいた。

 夕香から話を聞いたのか秀哉がふむふむと頷いている。ガンプラを作ってみようと思い立った夕香は秀哉に頼んだのだ。

 

「でもさ、一矢に頼めば良いんじゃない?」

「……いや、イッチは……うーん……」

 

 夕香の身近な人間でガンプラに詳しい人間と言えば一矢や秀哉だろう。

 自分の兄が頼られるのは嬉しいが、夕香にも一矢という兄がいる筈だ。何故わざわざ秀哉なのか貴弘が何気なく聞いてみると、夕香は視線を逸らし唸っている。

 

「まぁ良いだろ。早く行こうぜ。場所は彩渡商店街か?」

「んにゃ……久しぶりに顔出してみようって思ってさ」

 

 夕香が一矢に頼まないのは単に兄にガンプラ作りの教えを請うのが照れ臭いだけだ。

 それならば秀哉の方が頼みやすい。それを察してかそれとなく話題を変え問いかけると僅かに表情を和らげた夕香は場所は彩渡商店街ではないのか動き始める。

 

 ・・・

 

「ブレイカーズか……。相変わらず繁盛してるな」

 

 夕香に連れられて訪れたのはブレイカーズだった。

 秀哉もブレイカーズは知っているのか、子供の声で賑わっている店内を店外から見ながら呟く。夕香の中でガンプラが売っている店でパッと思いついたのはここと彩渡商店街だったからだ。幸い一矢はここにはいない。夕香は賑わう店内に足を踏み入れる。

 

「あら夕香ちゃん、久しぶりっ! 一人で来るのって初めてだね、昔は一矢君と一緒に来てたのに」

「あははっ……昔ですよ昔……」

 

 店内にいたあやこは夕香に気づくと声をかけてくれた。少し前までは一矢についてきていたのだろう。その事を話すと、友達の手前、照れ臭いのか頬をかいて苦笑しながら答える。

 

「それで今日はどうしたの? アルバイトの広告見てきたの?」

「違いますよ。ガンプラを……ちょっと……」

 

 夕香が来るというのは珍しい。

 過去に一矢と来た時もあくまで一緒にいるだけだった。そんな夕香が何しに来たのだろうかと問いかけるとガンプラ売り場のほうに目をやりながら夕香が呟くように答える。

 

「あぁっそういう事なんだ……。私も翔さん達も暇だったら案内してくれるんだけど今はちょっと混み始めたし、翔さんは今、裏で応募してきた子に面接してるし……」

「気にしないでください。今日はガンプラに詳しい人に一緒に来てもらってるんで」

 

 夕香が一人でガンプラを買いに来たと言うのを珍しく感じながらも、ガンプラを案内したいが今は混み始めている。

 あやこが翔の知り合いとして少し前から働き始めているシュウジがレジを打っているのを横目に申し訳なさそうにしていると、夕香は笑いながら秀哉達を連れてガンプラ売り場へと向かう。

 

「あれ一輝、お前来てたのかよ!?」

「わぁっ!? 秀哉達じゃないか!?」

 

 ガンプラ売り場にやって来ると、様々な種類のガンプラが陳列されており、夕香は予想以上のガンプラの多さに驚いていた。すると秀哉は偶然、ブレイカーズでガンプラを物色していた一輝を見つけ、互いに驚いている。

 

「なんか一杯あるんだね……。夕香が作るなら作ってみようかなー……。で、どうするの?」

「うーん……」

 

 所狭しと陳列されている様々なガンプラ。予想以上の品揃えに唖然としながら隣で目移りしている夕香に声をかけると、夕香はガンプラを見ながら唸っている。

 正直な話、種類があってどこから手を出して良いか分からなかった。秀哉をチラリと見れば一輝と話をしている。秀哉が話し終わるのを待とうとすると……。

 

「なに買おうか悩んでんのか?」

 

 悩んでいる夕香に声をかけた人物がいた。一輝と同じぐらいの年齢だろう。快活な青年に突如、声をかけられ夕香は戸惑っている。

 

「ガンプラって種類があるからなぁ……。内部やギミックに拘ったMG、究極のガンプラを目指したPG、MGやPGの集大成としてリアルなモデルとして発売されてるRG。他にもlegend BBやSD、FG……兎に角、色々な種類があるんだ」

「……あの……どなたですか?」

 

 困惑している夕香を知ってか知らずかガンプラの種類について教えてくれる青年。ありがたいが、一体誰なのか裕喜に背中を押された貴弘が代表して問いかける。

 

「おっとごめんな。俺の名前は深田宏祐(ふかたこうすけ)! またの名をガンプラお兄さんだ! よろしく!」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 自己紹介がまだだったことに謝りながら青年は己の名を口にする。快活な青年こと宏祐に気圧されながらも貴弘が頭を下げ、夕香と裕喜も小さく頭を下げる。

 

「やっぱり初心者ならコレクション性や作りやすさに定評があるHGなんてどうだ?ガンプラバトルの主流は大体、HGだし値段も手ごろだぞ」

 

 宏祐は再び夕香に初心者という事も考えてHGシリーズを勧めると夕香はHGと書かれているガンプラに目をやる。とはいえHGだけでも様々な種類がある。

 

「あっ……」

 

 そんな夕香の目にあるガンプラが目に留まった。

 ガンダム自体詳しく知らない為、このガンプラがどの作品に出ていて、何なのかは知らないが、ゆっくりと夕香はそのガンプラに手を伸ばす。

 

「ガンダムバルバトス……」

 

 手に取って、そのガンプラの商品名を口にする。

 パッケージには作品タイトルとガンダムの絵、パイロットであろう青年の顔が映っている。いくら箱絵を見たところでガンダムだ、としか思わないが直感でこのガンプラが良いと思えた。値段も手ごろではあるし、夕香はこのガンプラを選ぶのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もっと強く

 

「ありがとうございましたー」

 

 営業モードでのシュウジに購入したバルバトスを手渡され、夕香は袋からバルバトスを覗き見ている。

 

「買ったんだね。ここで作っていく?」

「えっ……良いんですか?」

 

 会計を終えた夕香に声をかけたのは、あやこだ。混み始めていた店も今は落ち着きを見せ始めている。夕香は伺いをたてると、にっこりと頷いてくれた。

 

「勿論。今はブースも空いているしね」

 

 店の奥にある作業ブースを見る。

 ここには模型を製作するうえでの必要な道具が揃っている。折角だから夕香はあやこの好意に甘えて店の奥に進む。

 

「さぁ……じゃあやっちゃいましょうかね」

 

 作業ブースはそれなりに人はいるもののすぐに空いている机が見つかり、夕香や秀哉達はすぐさまその場に座る。

 袋からバルバトスを取り出し、箱を開けてみれば、箱の中のランナーは予想以上に少ない。これならすぐにでも出来そうだ。夕香は説明書と睨めっこしながらランナーやポリキャップ、シールなど全て揃っているのを確認する。

 

 ・・・

 

「ふぅ……」

 

 あれから一時間、秀哉達の手ほどきを受けて夕香はバルバトスを完成させることが出来た。

 一息つく夕香の目の前には組み立てられたバルバトスが置いてある。手ほどきがあったにせよ、初心者にしては上手く出来た方である。

 

「どうだった?」

「んー……。手足を作るのは少しダレたけどまぁ楽しかったかな」

 

 一輝が作り終えた夕香に感想を聞いてみると夕香はバルバトスに目をやりながら答える。熱中するというわけではなかったが、それでも作っている間は楽しかったし、良い暇潰しになった。

 

「じゃあ早速行こっか」

 

 今まで夕香の近くに座り時に茶々を入れながらも見ていた裕喜は突然、立ち上がって夕香に声をかける。しかし裕喜がどこに行こうと言うのがピンと来ない夕香は怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

「えっ? ガンプラバトルしないの?」

 

 裕喜は意外そうに顔を傾げている。

 ガンプラさえ作れば後はゲームセンターなどでガンプラバトルシミュレーターを通じてガンプラバトルが出来る。勿論、中にはガンプラバトルに使うことなく一つの作品として飾ったりする者達もいる。今やガンプラの楽しみ方は多岐に渡るのだ。

 

 ・・・

 

「ここも久しぶりだねー」

 

 夕香も折角ならば自分の作成したバルバトスを動かしてみたいと思ったのか、ブレイカーズ近くのゲームセンターに来ていた。新居に引っ越す前はここが近場のゲームセンターで一矢もよくここに通っていた。イラトゲームパーク以上の広さがあるこのゲームセンターはシューティングゲームや音ゲーなど様々な種類のゲームが置いてあり、時間を潰すには丁度良い。

 

「じゃあ早速やってみるか。俺達も一緒に出撃するぜ」

 

 目指すはガンプラバトルシミュレーター。混雑を予想していたが、特に混んでいる様子がない。それを確認した秀哉はケースからパーフェクトストライク・カスタムを取り出す。

 

「……それ何ガンダム?」

「これか? これはストライクガンダムだ。コイツは親父がくれた最初で最後のプレゼントなんだ……」

 

 ガンダムに詳しくない夕香は秀哉の持つガンプラについて聞いてみると、秀哉はふと目を細めて感慨深そうに彼の今は亡き父親がプレゼントしてくれたエールストライクのガンプラをカスタムした今のパーフェクトストライク・カスタムを見る。秀哉のその姿に兄弟の裕喜や貴弘も同じような表情を浮かべる。

 

「秀哉はその影響でストライクが好きなんだ。因みに僕はガンキャノン……。まぁパイロットのカイ・シデンが好きなんだけどね」

「ふーん……」

 

 ふと一輝が秀哉のことを話しながら自分も好きなMSを上げる。しかし夕香にとってはパイロットの話をされてもピンと来ない。後で調べるなり、一矢に会話ついでに聞くのも良いかも知れない。そんなことを思いながら夕香はガンプラバトルシミュレーターへと乗り込む。

 

 シミュレーターに乗り込んだ夕香は硬貨を投入し、自分のデータなどが入ったGPを持っていない為、その手順を省略しバルバトスをセットすると、マッチングが終了するのを待つ。

 

「……なんか言ったほうが良いんだっけ……? ……まぁいっか」

 

 マッチングも終了し、バルバトスはカタパルト上にホログラム投影される。

 出撃準備も完了し、後は発進するだけだ。ファイターの大半はこの際、何かしらガンダム作品に倣って出撃の言葉を話すが、特にそういったノリも知らない夕香はそのまま出撃する。

 

 ・・・

 

「へぇ……これがガンプラバトル……。よく動くもんだねぇ」

 

 選ばれたのは果てしない荒野のステージだ。

 その上に夕香のバルバトスが降り立つ。マッチングの間、操作方法などを確認していた夕香は手始めに操縦桿を持って適当にバルバトスを動かしてみる。元々、その可動域に定評のあるバルバトスは夕香の意のままに動いた。

 

「来るぞ、夕香っ!」

 

 夕香のシミュレーター内に秀哉の声が響く。同時にシミュレーター内で敵機の出現を知らせるアラートが鳴り響くと、バルバトスの前方にNPC機のドムなどが出現する。

 

「夕香、好きなように動いてごらん。僕達がサポートするから」

 

 夕香のバルバトスへジャイアントバズを向けてくるドム達。しかし発砲されることなくドム達のジャイアントバズは秀哉のPストライクCの二つのビームライフルが撃ち抜き爆発させると、一輝が夕香に声をかけながらストライクチェスターの胸部ガトリング砲がドム達を撃ち抜く。

 

「りょー……かいっ!」

 

 残ったドムへ向かって夕香のバルバトスを地面を蹴りスラスターを噴射して向かっていく。秀哉達によってジャイアントバスを破壊されたドムはヒートサーベルを装備しバルバトスを迎え撃とうとする。

 

 大きくこちらに向かってヒートサーベルを振りかぶるドム。その動きに夕香は一瞬、目を細めるとドムが横一文字にヒートサーベルを振った瞬間、バルバトスの身を大きく屈ませ避けるとそのまま突進を浴びせた。

 

「……こんな感じで良いの?」

 

 バルバトスの突進を受けたドムはそのまま地面に大きく倒れると夕香はバルバトスが持つメイスを大きく振りかぶって、そのまま重々しく振り下ろすと鈍い音を立ててドムの装甲は破られ破壊される。撃破した事で消え去るドムに夕香は誰に問うわけでもなく呟いた。

 

「初めてにしちゃあ上出来じゃないか」

「うん。さぁ時間も勿体ないし前に進もう」

 

 初めてガンプラバトルをしたわりには良い動きであった。その事に秀哉と一輝が頷きながらシミュレーター内の画面の片隅に表示される残り時間を見て二人に声をかけると三機は進攻する。

 

 ・・・

 

「っ!? 他のプレイヤーが来るぞっ!!」

 

 暫くステージを進み、夕香もある程度、ガンプラバトルの操作に慣れて来た頃、ここで再び敵を知らせるアラートが鳴り響くと、秀哉が声をかける。

 確認すれば他のプレイヤーが接近してきていた。プレイヤー名とプレイしているゲームセンターの名前が画面に表示される。

 

「夕香、お前は下がってろッ!!」

 

 映し出された機体名はブレイブカイザー。トリコロールカラーの機体色とその身に負けない大きさの大剣のカレトヴルッフをカスタマイズしたブレイブセイバーを構えて、こちらに向かってきていた。素早く反応した秀哉のPストライクCはシュベルトケベールを引き抜き、ブレイブカイザーへと向かっていく。

 

 ガンッと大きな音を立てて二つの大剣はぶつかり合い、その場で静止しつばぜり合いになる。どちらもカスタマイズしたガンプラだ。力は拮抗している。

 

「メガ……ブラスターァアッ!!!!」

 

 夕香達がいるゲームセンターとは違うゲームセンターでプレイをしているブレイブカイザーを操る青年・轟炎(とろどきえん)は声高く叫ぶと、腹部のメガ粒子砲からビームを放とうとする。彼の機体はガンダムと言うよりもスーパーロボット系に影響された部分が大きい。メガ粒子砲をメガブラスターと言うように、武装の名前も彼にとっては違う。

 

「……ッ!」

 

 素早くメガブラスターに感づいた秀哉はブレイブカイザーを振り払って、彼もPストライクCの腹部に内蔵されているカリドゥス複相ビーム砲を発射する。両者のビームは周囲に閃光を放ち、夕香はその眩しさから思わず目を逸らしてしまう。

 

「ッ!? また来たっ!? 夕香、僕が何とかする!」

 

 激闘を繰り広げるブレイブカイザーとPストライクC。すると再びアラートが鳴り響き、こちらに接近する機体を確認する。ブレイブカイザーとは違うプレイヤーの機体でBCマントを靡かせ、こちらに向かってくる赤色の機体だ。表示されている機体名はクレナイ、そのモノアイを光らせ、こちらにロケットランチャーを向け、発砲してくる。一輝のストライクチェスターは夕香のバルバトスを庇うように前に出るとクレナイと交戦を開始する。

 

 目の前で行われるPストライクCとブレイブカイザー、そしてストライクチェスターとクレナイのバトル。近くで見ていた夕香は自分とは次元が違うレベルを実感する。しかしここはガンプラバトルという名の戦場だ。ボケッとしていればすぐにやられる世界だ。

 

「……ッ!?」

 

 それを表すように再びアラートが鳴り響く。

 腕利きのプレイヤーがこの場には集まっている。それを釣られるようにしてこの場に新たなプレイヤーが現れる。宙に佇み、夕香のバルバトスを見下ろしていた。

 

「このような場で呆けているのはナンセンスだな」

 

 それはサザビーにビルダーズパーツを取り付けたガンプラだった。

 機体名はネオ・サザビーを表示されている。これを操るファイターであるシャアはこちらを見上げるバルバトスに向かってビームショットライフルを向け、その引き金を引く。

 

「──!!」

 

 ビームショットライフルを認識をして回避しようとする頃にはバルバトスの右腕部は撃ち抜かれ爆発する。

 

 驚きで目を見開く、

 しかしその間にネオ・サザビーはこちらに向かってくる。このままでは危うい。すぐさま左腕に太刀を装備して向かい打とうとする。

 

「なっ……!?」

 

 ぶつかり合う太刀とビームトマホーク。しかしそれは一瞬のことで面白い程簡単にバルバトスの太刀はネオ・サザビーのビームトマホークに折られてしまい、夕香は愕然とする。

 次で仕留められる。そう感じた夕香ではあったが、いつまで経ってもバルバトスにネオ・サザビーの攻撃は来ない。

 

「……どうして……?」

「情けないガンプラと戦って勝つ意味はないのでね」

 

 何故、自分にトドメを刺さないのかポツリと呟く。すると対戦相手であるシャアは屈辱的な言葉を叩き付け、夕香は表情を険しくさせる。

 

「悔しければ君もあそこに混じれるほど強くなることだ。そうだな……。今度の百貨店で行われるガンプラバトルのイベントで戦えるほどの腕前になるのだな。もっとも素組みのガンプラには限界はあるがね」

 

 バルバトスに背を向けるネオ・サザビーから放たれた言葉に近くで行われているバトルを見やる。秀哉達は今も戦っている。地は割れ、クレーターも出来ているほどだ。

 今の夕香があそこに入っていけば数秒も持たないだろう。夕香のバルバトスに興味を無くしたのか、ネオ・サザビーはPストライクC達へと向かっていき、バルバトスはその場に取り残され、やがて対戦時間が終了するのだった……。

 

 ・・・

 

「……あっ、夕香」

 

 対戦が終了し、シミュレーターから出てくる夕香を戦闘の様子をモニターで見ていた裕喜が心配そうに声をかける。夕香のバルバトスが手も足も出せずにいたのを見ていたからだ。

 

「……夕香、悪い。そっちまで行けなかった」

「……ううん」

 

 ブレイブカイザーと互角の戦いをしていた秀哉。ネオ・サザビーに太刀打ちできなかった夕香にサポートをすると言った手前、助けに行けなかったことを謝ると夕香はゆっくりと首を振る。

 

「……アタシ、決めた。今度の百貨店でやるガンプラバトルのイベント……出るよ」

 

 シャアに手も足も出せなかった事が悔しいのだろう。

 夕香は自身が作成したバルバトスを見つめながらイベントへの参加を表明すると、裕喜達は意外そうな表情を浮かべる。

 

「負けたままってのは性に合わないんだよね。だから今度のイベント、アタシも出る」

「……そっか。ならお互いに頑張ろうぜ、今度のイベントは俺も出る予定だったんだ。タウンカップは都合つかなかったけどその分、こっちで暴れるつもりだったからな」

 

 闘志を燃やす夕香に自身も参加を予定していたため秀哉はクスリと笑うと頷く。もしかしたらイベント内で夕香と戦闘をするかもしれない。だがそこはガンプラバトル。手を抜くわけにはいかない。

 

「えっーと……私達は夕香と秀哉兄のどっちを応援すれば良いんだろうね」

「さぁ……?」

 

 互いに顔を見合わせ笑い合う秀哉と夕香。兄と親友がもしイベントで激突することになったとしたらどうすれば良いのか、裕喜と貴弘は苦笑しながら顔を見合わすのだった。

 

 ・・・

 

(……イベントまで時間ないし、ちょっと調べますかね……)

 

 あの後、自分の家に帰ってきた夕香は息抜きを兼ねて、ガンプラバトルについて考えながらリビングにやってきた。ここには両親とソファーに体育座りで携帯端末を弄っている一矢がいる。

 

「ねぇイッチ。ガンプラバトルってガンプラの完成度が高ければ有利なの?」

「……はぁっ?」

 

 ソファーの上で体育座りをしている一矢の隣に座り、背もたれに身を預けながら何気なくガンプラバトルに詳しい一矢に質問をしてみると、何故、妹がそんなことを聞いてくるのか、怪訝そうな表情を浮かべながらその気怠そうな半開きの目を向ける。

 

「……ただの会話でしょ。折角の可愛い妹と話せるチャンスを無駄にする気? イッチの洗濯物だけ別にするよ?」

「それやると泣くよ」

 

 そんな一矢にそっぽを向きながらソファーの端に置かれているクッションを抱きながら答える。何となくだがガンプラバトルをやっていることを一矢に知られたくなかった。しかし夕香の言葉は今回、なにもしていない一矢の心を抉る。

 

「……まぁそりゃ完成度が高い方が良いけど、その分、バトルにも強く反映されるから扱いきれないなんてのもある。鑑賞用とは違ってガンプラバトルのガンプラって色々と難しいんだよ……。自分の力量に合ったガンプラとかアセンブルシステムを作らなきゃいけないし」

「ふーん……」

 

 携帯端末の画面をジーッと見つめながら、折角の妹からの問いかけに答える。相槌を打ちながら夕香は然程、興味をなさそうにしながらも一矢の話をちゃんと聞いていた。

 

「……ところでイッチはさっきから何やってんの?」

 

 これからガンプラに何をすればいいのかは何となく分かった気がした。

 バトルに関しては練習をすれば良いだろう。幸い無趣味の為、小遣いはそれなりにまだ余裕がある。今度はさっきから携帯端末の画面を注視している一矢について尋ねる。

 

「ミサ姉さんと連絡先交換したんだ。へぇー……」

 

 体育座りの一矢にもたれながら、一矢の携帯端末の画面を覗きこむと、そこには無料通話アプリのトーク画面が表示されており、その相手はミサだった。

 電話帳の登録がこの家では一番少ないであろう一矢がミサと連絡先を交換できたことに驚きながら……と言うよりもミサから交換してくれたわけだが、感心する。

 

「……なんで返信しないの?」

 

 そこで夕香はあることに気付く。ミサからの返答に数十分かけて返信しているのだ。ミサは一矢からの返信にすぐ答えるというのに。疑問に思った夕香の問いかけに一矢は押し黙る。

 

「返信って……こんな感じで良いの……?」

 

 単純な話、一矢は他人と関わるタイプではない。友達もあまりいないし、誰かと会話をするなんて事はまず少ない。年頃である為、変に思われないようにミサへの返信に悩み、そのせいで一々返信に時間がかかっているのだろう。

 

(ボッチめ……)

 

 ミサとのやり取りにマナーモードの如くブルブルと震えながら夕香に携帯端末の画面を見せる。兄のその姿に頭痛を感じながらも、ミサへの返信の内容を考えるのに加わる。

 

 因みにこの後、ミサの携帯端末にはあの一矢とは思えないほどテンションの高いスタンプやデコ交じりのトークが届くのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンプラバトルロワイヤル

 百貨店でのイベントまで後一週間、あれからも夕香は百貨店でのイベントの為だけにガンプラバトルを行っていた。

 今も市街地を舞台にしたステージで夕香のバルバトスはビルに隠れて周囲の様子を伺っていた。周囲の建造物は荒れ果て、バトルの凄まじさを物語っている。

 

「……ッ」

 

 ふと夕香のシミュレーターのモニターが僅かに暗がりが差す。

 すぐさま反応するシミュレーターのセンサーが反応すれば、バルバトスの真上には白と黒を基調にした赤いABCマントに身を包んだガンダムが腕を振りかぶって急降下してきていた。すぐさまスラスターを使ってギリギリのところで避ける。

 

 後、数秒反応が遅れたらやられていたかもしれない。それを示すかのように先程のガンダムであるストレイドガンダムが放った一撃は凄まじく、地面が陥没していた。だが逆に言えば着地したばかりの今がチャンスだ。バルバトスはメイスを掲げて攻撃を仕掛けようとするが……。

 

「……!」

 

 バルバトスの周囲をビルの隙間からGNソードピットが現れ襲い掛かる。縦横無尽に駆け巡るGNソードピットに反応が遅れてしまった。何とか対応しようとするものの次第に翻弄されて行ってしまう。

 

 ストレイドはGNソードピットを装備してはいない。相手はストレイドだけではなかったのだ。GNソードピットに何とか対応しようとするが翻弄されているバルバトスの姿は哀れみさえ感じる。そんなバルバトスを終わらせたのは背後から放たれた赤色の極太のビームだった。バルバトスは胴体を撃ち抜かれ、そのまま糸が切れた人形のようにその場に倒れこんで爆散する。

 

 爆発をバイザーに映しながら静かに見つめるのはジェスタを元にカスタマイズしたジェスタ・キラウエアだ。ビームマグナムを構えたまま、その背部のユニットにGNソードピットが戻ってくる。このバトルは夕香の敗北で終わるのだった。

 

 ・・・

 

「あーあ……。また負けた」

 

 あれから数分後、夕香は喫茶店に訪れていた。

 椅子にもたれながら少し悔しそうな様子で呟き、アイスコーヒーを飲んでいると、その姿に向かい側に座っているレンとジーナが苦笑している。

 

「でも夕香がいきなりバトルしようって連絡来た時はビックリしたよ。しかも2対1でなんて……」

 

 ガンプラバトルを始めて数日。いまだNPC以外に勝ちがない夕香は唸っている。その姿を見て苦笑するレンは昨晩、夕香から来た連絡を思い出して笑う。彼の言葉通り、先ほどまで彼らは夕香はバトルをしていた。ストレイドを使っていたのはレンだ。

 

「でも段々と動きが良くなってきてるわ。周りの建造物を利用しながら戦うスタイルもグッドよ。バトル慣れすれば見違えるんじゃないかしら」

 

 そしてジェスタ・キラウエアを使っていたのはジーナだ。元々、ジェスタK自体、レンのお下がりを彼女がカスタマイズしたものである。今日、何度か夕香とバトルをしていて夕香の戦い方を見たジーナはクスリと笑い、彼女を褒める。

 

「ぇ……あ……はぁ……」

 

 普段は飄々としている夕香だが褒められ慣れてはいないのか僅かに俯いて生返事をする。その姿を見ていると褒め倒してみたくもなるがここは抑え、ジーナは隣に座っているレンの手に自分の手を絡ませ、レンは顔をリンゴの如く真っ赤にする。

 

「……今日は付き合ってくれてあんがとね。また気が向いたらイッチだけじゃなくて今みたいにアタシとも遊んでよ」

 

 そのレンと彼に妖艶に感じる微笑みを向けるジーナの様子を見て主にジーナからの一方的ではあるだろうがいちゃつくだろうと察した夕香は財布から金を取り出すと今、注文した品全ての料金を少し超えた額を置いて立ち上がって礼を言って店を出る。元々この喫茶店自体、今日バトルに付き合ってくれた二人への礼として訪れたのだ。

 

 ・・・

 

「やっほーミサ姉さん、今日はごめんね」

 

 レンとジーナから別れた夕香は2時間後、土手に訪れていた。

 土手の下のグラウンドは少年野球で賑わっている。事前にミサに頼んで塗装を教えてもらうために呼んだのだ。トイショップに出向く事も考えたが一矢のことを考えて、相談したミサの提案でここにしたのだ。

 

「ミサ姉さん、念押しするようだけど……」

「分かってるよ、一矢君には内緒にしとくって」

 

 夕香も一矢にはガンプラを作っているというのはあまり知られたくないのか、念押しすると、そんな夕香に苦笑しながらミサは手をひらひらさせ頷く。

 

 ・・・

 

「さて、じゃあ塗装をやってみますかっ!」

 

 土手下で塗装の為の簡易的ではあるが準備を行った後、夕香はミサに会う数時間の間に分解したバルバトスのパーツを予めミサから言われて準備していた両面テープが貼られた割り箸に貼り付け、準備が整った所でミサが意気込んで口を開く。

 

「夕香ちゃんはバルバトスをこのままの色で塗装したいんだよね」

「うん、その為に缶スプレーは買ったしね」

 

 ミサは改めて塗装のプランを確認すると、場所も場所な為、手頃な缶スプレーを選んだミサに言われて準備してきた夕香は頷きながら数種類の缶スプレーを見やる。

 

「じゃあ今回はサフを吹かずに成型色を活かして塗装しよっか。パーツとの距離は大体、20cmちょいくらいあれば良いかな?」

 

 夕香に頼まれた時点である程度、こちらからも話を聞いていたミサは今回はサーフェイサーの使用をせずに成型色を活かした塗装を行おうと説明を始める。

 

「最初は軽く吹いて、塗料を定着させれば今度はタレにくくなるから、次はちゃんと色が乗るように吹いていこうね。全体的にムラがないように……こうやって……ね」

 

 まずは手本にミサが慣れた動きでパッパッと塗装を始めていき、夕香はその後ろで誰かがプレイしているゲームを鑑賞する子供のように見つめている。

 

「まっこんな感じかな。じゃあ今度は夕香ちゃんの番っ!」

 

 手本として塗装をしたミサは今度は夕香に声をかけ、缶スプレーを手渡す。今まで説明をちゃんと聞き、その目に焼き付けていた夕香は缶スプレーを受け取り、パーツが貼られた割り箸を手にとって距離をとる。

 

 ・・・

 

「……うんうん、良いよっ! 塗料の吹き過ぎでモールドが埋まってるなんて事もない! 今度は細部の塗り分けを……」

 

 あらかた塗装を終えると、ちゃんと色が乗ったパーツを見て、ミサが褒め称えるとやはり褒め慣れない夕香は気恥ずかしそうに頬を掻いている。そんな夕香を微笑ましく思いながらもミサは更に細部への塗装を行っていくのだった……。

 

 ・・・

 

「ところで夕香ちゃんは何で一矢君に知られたくないの?」

「あーっ……。うん……その……恥ずかしいじゃん。イッチは凄いガンプラ作れるのに、その妹のアタシは毛が生えた程度しか出来ないって。アタシがイッチより上だったり同じくらいなら良いけどさ」

 

 塗料が乾くまで談笑をしているミサと夕香。

 何気なく夕香が何故一矢に隠しているのか聞いてみると、ミサを今日、付き合わせてしまったと言う事もあって素直に答えられる。

 どうせ一矢に発覚してしまう時は来るかもしれないだろう。だがその時が来るならば自分の技術が上達した時にしたい。今のままで一矢に見せたくはなかった。

 

「……じゃあいつか自慢出来ると良いね」

「……うん」

 

 単純に言ってしまえ発覚する時は一矢も驚くほどのガンプラを見せたいと言う話だろう。そんな夕香を微笑ましく思ったのか笑いかけるミサに夕香も照れ臭そうに頷く。

 

「──二人して何してんの」

 

 ただ静かでなんとも言えない空気が二人の間で流れる。

 

 だが別に悪い気はしなかった。

 しかしそんな雰囲気を打ち破るように背後からボソッと声をかけられ、二人は驚いて抱き合って背後を見ると、そのような反応をされて逆に驚いている一矢がいた。

 

「イ、イッチこそ何してんの……?」

「……母さんに晩飯の材料、買ってこいって言われたから」

 

 まさかの一矢の登場に驚きながらも、乾燥させてるガンプラが見えないように立ち上がりながら夕香はおずおずと問いかければ、両腕をポケットに突っ込み、腕に買い物をしてきたのだろう食材が入ったビニール袋をかけながら気怠そうに一矢は答える。当初は渋った彼だが夕飯を抜きにするぞと母に脅されれば買いに行かざる得なかった。

 

「わ、私達は……」

「その……」

 

 俺は答えたぞ、そう言わんばかりに黙ってその半開きの目を夕香とミサに向ける一矢になんと答えるべきか互いを見合わせる。一矢の登場は本当に予想外だった。やがて二人の口から出た答えは……。

 

「「ティ……TMRごっこ……?」」

「風吹いてないけど」

 

 予想外の事態に頭が回らなくなったのか、二人して同じ答えではあるがどこかおかしなことを答える。しかしその二人になにを言ってるんだと言わんばかりに素早く切り返す。

 彼の中ではなんで疑問形なのか、そもそもTMRごっこをするならもっと特徴的な服を着るんじゃないのかと言う疑問がある。

 

「まぁ良いや……。夕香、今日は遅れて帰ってきなよ」

「今日、唐揚げでしょ? 取り分を取られる前に帰るよ」

 

 しかし然程興味もなかったのか、興味を無くした一矢は帰り道に選んだこの道を再び歩き出そうとすると最後に妹に気を使っているのかよく分からない言葉を口にするが、その言葉の真意を一矢が腕に通しているビニール袋の中身の食材を見て察知した夕香は軽い笑みを浮かべながら返答する。

 

 雨宮家は唐揚げなどは一つに纏めて出される。つまりはよっぽど家族に気を遣わなければ好きに食べられると言う事だ。夕香の帰りが遅くなればなるほど、彼女の食べる分は少なくなってしまう。流石に一矢や他の家族も夕香になんの気も使わないわけではないし、一矢も冗談で言っているわけだが、夕香のその様子は一個でも譲らないと言わんばかりだ。そんな夕香に鼻で笑いながら一矢は再び帰り道をトボトボ歩き始める。

 

「じゃあミサ姉さん、今日はありがと」

「うん、また遊ぼうね」

 

 塗料も乾いたところで夕香は帰り支度をすると途中までミサと一緒に帰りながら別れの挨拶も兼ねて改めて礼を言うと、ミサも快活な笑みを浮かべて二人はそれぞれ帰路についた。

 

 ・・・

 

「さぁ本日はタイムズ百貨彩渡店の開店を記念してのガンプラバトルイベントッ! 本日はゲストにKODACHIさんをお招きしてますっ!!」

「よろしくお願いしますっ!!」

 

 数日後、あれからバルバトスにスミ入れをしたりバトルをしたりと出来る限りのことをした夕香。ついに百貨店でのイベント当日になった。イベントMCの女性が元気に第一声を発し、ゲストに招いた裕喜が話していた売り出し中のアイドル歌手であるKODACHIを隣に紹介をすると、背中まで届く艶やかな黒髪の童顔の少女であるKODACHIこと御剣コトはマイクを持って挨拶をし、彼女目当てのファンは歓声を上げる。

 

 百貨店の地下のゲームセンターに設置されたガンプラバトルシミュレーター、そして近隣のタイムズ百貨店とマッチングしての大規模なガンプラバトルのイベントを行おうというのだ。

 

「凄い人だね……」

「うざい……」

 

 そんな集まった人々の中にはミサと一矢がいた。更に言えば別の場所には裕喜や貴弘など様々な人物がいた。

 

 イベントMCとKODACHIのトークを耳にしながら、どこを見渡しても人ばかり、その中にいるミサはある程度、予想していたとはいえこの多さに驚き、密集する人々に一矢は煩そうにしている。

 

 この中にKODACHIのファンはいるが二人のようにガンプラバトルの観戦目的で訪れている人も勿論いるからだ。彼らの場合、今後の戦い方の参考と知り合い達が参加していると言うのも理由のうちだ。とはいえまさか夕香もその中にいるとは簡易的な塗装の仕方を教えたミサでさえ知らない。

 

「このイベントの為に、この百貨店のステージを作成しましたっ! つまりはこの広い百貨店がバトルの舞台なのですっ!! それではこの彩渡店開店を記念したガンプラバトルロワイヤル……スタートですっ!」

 

 バトルを映す周囲の周辺モニターでは百貨店をモチーフに作製されたステージの階層ごとの映像や場所の切り替わりなどが映っていた。KODACHIとのトークも終わり、いよいよバトルの開始を告げるイベントMC。互いにこの場にいると知らないとはいえ、夕香はガンプラバトルに、一矢はモニターに集中するのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Survivor

 遂に百貨店を舞台にしたバトルロワイヤルが始まった。この為だけに造られた特設ステージを様々なガンプラが飛び交い、ぶつかり合っていた。

 

「カイザーミサイルッ!!」

 

 プレイヤー達はランダムにそれぞれの階層に割り当てられ現在、屋上のヒーローショーなどに使われる壇上ではかつて秀哉とバトルをした炎のブレイブカイザーが脚部のミサイルポッドから複数のミサイルを放ち、狙った敵ガンプラが避けた所をブレイブセイバーをガンモードにしたブレイブバスターで撃ち抜く。

 

「さぁどんどん行くぜェッ!!」

 

 ガンプラバトルは今や大流行している。

 ひとたびイベントが行われればそこには沢山のファイター達が集まるほどだ。今ここで戦っている炎も同じだ。今一機のプレイヤー機を撃破したが、他にもこの屋上にはプレイヤー達が戦闘を繰り広げている。炎は笑みを浮かべるとブレイブバスターを再びブレイブセイバーに切り替え、他のプレイヤー達へ挑んでいく。

 

 ・・・

 

「手加減はしないぞ、純ッ!!」

「当たり前だろッ!!」

 

 別の階層、ここはレストラン街だ。ここでもバトルが行われ、ミサの家のトイショップの常連客である誠のガンダムユニコーンFDと純のGNーΩが一つのレストラン内で交戦していた。ユニコーンFDのアロンダイトとGNーΩのハイパービームジャベリンがぶつかり合い、その衝撃で近くのテーブルの殆どが破壊されている。

 

 ・・・

 

「……ッ!」

 

 ここは食品売り場。ここでは以前、夕香達とエンカウントしストライクチェスターと交戦したクレナイの姿があった。これを操るのは赤坂龍騎。彼は周囲の音さえも聞こえないほど集中し、ビームナギナタを振り回して次々にプレイヤー機を撃破していく。

 

 ・・・

 

「こいつでぇっ!!」

 

 ところ変わってここは家電売り場だ。今ここでは秀哉操るPストライクCがパンツァーアイゼンがプレイヤー機を拘束していた。PストライクCはそのままグルグルと回転し遠心力を利用し、近くの別プレイヤーへと投げ飛ばす。

 投げられたプレイヤーは立て直す暇もなく、そのままぶつかりPストライクCはそのままコンボウェポンポッドの武装を発射し直撃させる。そしてそのままアグニを薙ぎ払うように発射し、射線上にいた避けられなかったプレイヤー機達は爆発四散する。

 

 ・・・

 

「大分減ってきたね……」

(20分切ったか……)

 

 そのバトルの様子をミサや一矢達観客は見つめていた。

 あれからバトルロワイヤルは残り時間の20分を切ったところだ。参加したプレイヤーも少しずつ減っていき、もう半数もいないことだろう。

 

「……あれ?」

 

 バトルの映像を見ながらイベントMCとコトのトークが織り交ぜられる。

 それを耳に入れながらミサはあるガンプラに気を取られた。その機体はガンダムバルバトス。数日前に隣のチームメイトの妹に塗装の仕方を教えた際に使用したガンプラだ。

 

「……どうしたの?」

「いや……でも……まさか……」

 

 そのバルバトスは今、衣類売り場で一機のプレイヤー機とバトルをしていた。

 その姿を目で追っているミサに気になった一矢が問いかけるが、まさか夕香がイベントに参加しているとは思っていないミサは頭を悩ませ一矢はバルバトスに視線を向ける。

 

 ・・・

 

「あー……もぉしつこいなぁ……」

 

 一機のプレイヤー機にしつこく追い掛け回されていた夕香は表情を険しくさせながら次々に放たれる銃撃を何とか避ける。このまま戦闘をし続ければ自分の未熟なカンプラなどはいともたやすく葬られるだろう。だから今まで自分に出来るのはなるべく戦闘を行わず、エンカウントしたとしても別のプレイヤー機達にうまく引き合わせることくらいのことをしていた。

 

 エレベーター付近まで追いやられてしまった。

 相手のプレイヤー機はビームサーベルを引き抜いて、バルバトスに接近戦を仕掛けてくる。これも何とか紙一重で避ける夕香ではあるが、このままではやられるだろう。

 

 すると相手のプレイヤー機はビームサーベルを突き出してきた。その動きを見た夕香は見極めるように視線を鋭くして、メイスで野球のようなスイングで相手プレイヤー機の下半身に直撃させ、バランスを崩したプレイヤー機はそのままエレベーターの自動ドアに突っ込んで、その反動で持っていたビームサーベルを落として、そのまま落下していき、下の階層に停止していたエレベーターの上に落下する。

 

「下へ参りま-すっ」

 

 とはいえこのままではあのプレイヤー機も戻ってくるだろう。

 その前に何とかしようと太刀でケーブルを切断し、そのままエレベーターごと落下させる。何とか上昇しようとしたプレイヤー機だが、バルバトスの滑空砲による射撃を受け、そのまま地下までエレベーターと共に落ちていく。

 

 一息つこうとした時だった。

 しかしここはガンプラバトルのフィールド。そしてバトルロワイヤルももう後半に差し掛かっている。下手に気を抜けばやられるのは確実だ。それを表すように夕香のシミュレーターに反応がある。

 

「まさかそのガンプラでここまで残っているとは驚きだったよ」

 

 そして次に姿を現したのはかつて夕香の前に現れたネオサザビーだった。

 今まで夕香のバルバトスを見て、それが真っ先に彼女の物であると見抜いたのか、操るシャアは感心したような声を漏らす。

 事実、ガンプラに簡単な塗装とスミ入れしただけのプラモで今、このバトルロワイヤルに生き残っているのは夕香くらいだろう。

 

「どっかの誰かさんのお陰だね。負けっぱなしは性に合わないんだよ」

「ならば見せてもらおう、今の君の力を」

 

 このイベントについて教えてくれたのはシャアだが、こうしてエンカウントすると考えてなかったわけではないが緊張してしまう。それを紛らわすように軽口を叩く夕香にシャアはネオサザビーのビームショットライフルを放つ。

 

 ・・・

 

「あれシャアさんのガンプラだよっ!!」

 

 丁度、場面が切り替わり夕香のバルバトスとネオサザビーが対峙する姿が映し出される。ネオサザビーを指差して教えてくれるミサに一矢はネオサザビーに視線を向ける。

 

 トイショップの常連だけあって凄まじい完成度だ。

 対峙するバルバトスと見比べると余計にそう感じてしまう。ならば機体性能もそれ相応の筈だ。

 

 ・・・

 

 放たれたビームショットライフルのビームは相変わらずその弾速は凄まじく今、避けられたのも勘としか言い様がない。それ程までに凄まじい弾速を誇っていた。しかしそれで終わるわけではない。既にネオサザビーは目前へ迫り、大型ビームサーベルを振り上げていた。

 

 避けるにしても間に合わない。

 このままメイスだけでは以前の太刀同様簡単に破壊されてしまう。ならば、とメイスと太刀の両方を交差させて大型ビームサーベルを受け止める。

 

 しかしそれだけで終わらなかった。

 大型ビームサーベルをメイスと太刀で受け止めるバルバトスに対してネオサザビーは両肩のレールガンと腹部のメガ粒子砲を発射する。

 

「……ッ!」

 

 メイスと太刀を手放し、回避に専念する。

 上空へ飛び上がってメガ粒子砲を避けることには成功したが、レールガンを両肩に被弾してしまう。しかしそれでも諦めない。バルバトスは滑空砲を発射する。

 

「少しはやるようになった……。だが……!」

 

 以前出会った時よりも動きがよくなっている。

 これは純粋に称賛するが、それでもまだ自分には及ばない。シャアは滑空砲の弾丸を避けるとそのままバーニアを利用してサマーソルトキックの要領で重い一撃を浴びせる。

 

 ・・・

 

「流石にシャアさん相手じゃ無理かな……」

 

 バルバトスとネオサザビーは出来栄えもバトルの技術もその差は歴然だった。このままではやられてしまうのも時間の問題だろう。ミサはバルバトスの敗北を感じていた。

 

「……まだ諦めるのは早いんじゃない?」

「えっ? でももうメイスも太刀もないんだよ?」

 

 一矢にもバルバトスとネオサザビーの差は分かっていた。

 漫画のような劇的な何かがなければ負けるのは時間の問題だろう。だがそれでも負けるにはまだ早いと一矢は感じていた。しかし武装が少ない今、バルバトスに何が出来るのかとミサは一矢を見る。

 

「ないなら奪えば良い」

 

 一矢はニヤリと笑みを浮かべる。まるで悪戯を考え付いた悪い笑みだ。何故だが一矢にはあのバルバトスが自分の考えと同じことをすると感じていた。

 

 ・・・

 

「……次はない、か……」

 

 サマーソルトキックの一撃を浴びてしまったバルバトスの耐久値も後僅か。精々次攻撃を浴びたら負けるだろう。夕香は冷静に呟きながらトドメを刺そうと飛び上がって大型ビームサーベルを振り上げるネオサザビーを視界に入れる。

 

「……ただ負けるだけってのはもう飽きたな」

 

 正直、夕香もこのまま勝てるとは思ってはいなかった。

 諦めているわけではない。だがどう考えても勝てる要因が見つからない。目前に迫るネオサザビーを見て夕香は俯いて静かに呟く。

 目の前のシャアだけではない。レンやジーナを始め、様々なバトルをしてきたが全て成す術なく敗北している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタもそう思うでしょ、バルバトス……ッ」

 

 

 

 

 

 ──負けてたまるか

 

 

 

 

 

 

 

 自分だって初めてガンプラバトルをした時から短い期間で得た経験があるのだ。

 負けるならばせめて無様には終わらせない。諦めを感じさせない夕香の不敵な笑みと共に放たれた言葉に呼応するようにバルバトスのメインカメラが光り輝く。

 

 このバルバトスは共に敗北を重ねた機体だ。

 最初は直感で選んだガンプラではあるが、今では何より愛着があるかもしれない。

 

 バルバトスは滑空砲の銃身を掴むとそのままサブアームごと無理やり引き抜いて鈍器のようにネオサザビーの大型ビームサーベルを持つマニビュレーターにぶつけ、ネオサザビーは大型ビームサーベルを取りこぼしてしまう。

 

 これが狙いだ。

 バルバトスは素早く滑空砲を手放すと大型ビームサーベルを掴んでそのまま斬りかかる。予想外の攻撃とはいえ、シャアは素早く反応し避けるが、それでも間に合わず左腕部にそのまま突き刺す。

 

「……どーよ……?」

「……君の力を少々、見誤っていたようだ」

 

 左腕部に突き刺した大型ビームサーベルをそのまま振り上げて、破壊する。

 自分相手にここまで出来た夕香を褒めながらシャアは腹部のメガ粒子砲のチャージをしてそのまま発射する。バルバトスはそれに飲まれて、撃破されるのだった……。

 

 ・・・

 

「あーあ……また負けちゃった」

「でも恰好良かったよ、夕香っ!」

 

 その後、ガンプラバトルロワイヤルも終了し、優勝者であるシャアがインタビューを受けている。

 それを横目に夕香は肩を竦めていると裕喜はネオサザビーとの一戦を見ていたのか、褒め称える。

 

「君、あのバルバトスのファイター?」

「えっ……そうだけど……」

 

 会場にはバトルの様子がリプレイされていた。その中にはバルバトスとネオサザビーの映像が映し出されている。そのモニターを指差しながら同じくバトルに参加していた龍騎が話しかけてきた。

 

「凄いね、あれは赤い彗星って呼ばれる人のガンプラだよ。あそこまでやられるなんて大したもんだよ」

「でも……まだ本気じゃなかったよ。それにアタシだって始めたばっかだし……」

 

 ネオサザビーの映像を見つめながら褒められる。

 くすぐったそうに身を震わせながら夕香はバトルを思い出し、静かに答える。確かにあの時のシャアは本気ではなかった。ファンネルを使わなかったのがその証拠だろう。

 

「──始めたばっかなのか? それなら余計に凄いじゃんか」

「えっ? ……えっ?」

 

 今度は横から声をかけられる。

 その相手は炎だ。どうやら自分が相手にしたのはそれ程までにある意味、有名な人物なのかもしれない。ネオサザビーに一撃与えた夕香に人が集まって来て、夕香は戸惑っている。

 

「良かったら今度、俺とバトルしないか?」

「あっ、だったら俺も。なんだったらバトルのテクニックとか教えるよ」

 

 ガンプラバトルの誘いをする炎に釣られ龍騎などが夕香に声をかけ、突然の状況に夕香も戸惑っている。

 

「やっぱり夕香ちゃんだったんだ……」

「アイツ……バトルやってたんだ……。俺知らなかったし、教えてもらってない……」

 

 そんな夕香を遠巻きでミサと一矢が見つめていた。

 流石に一人に集まりだしたら注目もされると言うものだ。見覚えのあるバルバトスはやはり夕香のものであった。あそこまでのバトルが出来た夕香にミサは感心していると隣に立つ一矢が夕香がバトルをしたことをここで初めて知る。とはいえ以前、夕香にガンプラバトルについて聞かれたりと思い当たる節はあった。

 

「あっ、一矢君……。夕香ちゃんは……その……」

「……大体分かるよ。俺にバレた時は張り合えるようにしたいってんでしょ」

 

 夕香が一矢に隠していたのには理由がある。

 どう説明すべきか悩んでいると、何故夕香が自分に言わなかったのか、ある程度察しはつくのか、ならばと自分には気づかず囲まれてる夕香を尻目に一矢は会場を後にする為に歩き出す。

 

「……夕香ちゃんのこと、分かってるんだね」

「……生まれてからの付き合いだし」

 

 夕香が自分に明かす時まで待つつもりなのだろう。

 のそのそ歩き出した一矢を追いかけながらクスリと笑みを浮かべるミサにどこか照れ臭く思ったのか、一矢は頬を掻きながらミサと会場を後にする。

 

 この後、夕香は以前に比べてバトルをする回数は減ったものの今回のイベントを通じて知り合った人物達とバトルをしたり、ブレイカーズなどのブースでガンプラについて教わる姿が時折、見られるのだった……。




シャアのネオサザビーはPVに出てたあのサザビーを想像していただけると幸いです。
さてさて次回から少しずつリージョンカップの話に入っていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 過去と今、そしてその先へ
繋がり


「俺とロボ太で前に出る……。ミサ!」

「了解っ!」

 

 ガンプラバトルロワイヤルから数日が経った。

 間もなくリージョンカップが始まる。これを優勝すれば次は全国大会となるジャパンカップに進出出来る。その為にはリージョンカップを突破しなければならない。故に彩渡商店街ガンプラチームは日々、チームによるガンプラバトルに明け暮れていた。

 

 ただバトルをするだけではない。以前、シュウジとのバトルで彼からの助言を無駄にしない為、チームの連携を深めるべく二人で話し合い、結果、一矢が司令塔としてチームを纏めて指示を出していた。

 

 最初こそ自分が司令塔になるのか、と難色を示していた一矢ではあるがミサに半ば強引に押し切られ、今の形に落ち着いている。一矢はジャパンカップの決勝まで進んだ男だ。自分よりも経験がある。ミサはそう判断して一矢に託したのだ。

 

 今も一矢が指示を出して動いている。最初こそバラつきはあったが今では纏まっているほうだ。ミサが返事をしたと同時にゲネシスと騎士ガンダムが動き出す。

 

 それを迎撃しようとするNPC機達だがアザレアの射撃に阻まれ、その隙にゲネシスと騎士ガンダムによって瞬く間に殲滅する。

 

「……」

 

 三機が共にフィールド(戦場)を駆け抜けていく。

 そんな中、本人は気づいていないがシミュレーター内の一矢の口元に僅かに笑みが零れていた。彼は楽しんでいるのだ。無論、そんな事を指摘すればひねくれている彼のことだ。素直にはならずに否定するだろう。だが紛れもなく今のこの自分の環境を彼は楽しんでいた。

 

 ・・・

 

 ここは彩渡駅から少し離れた場所にある私立聖皇学園だ。

 ここは一矢と夕香、裕喜達も通っている学園である。そしてその学園の一室には制服姿の男女数人が机でガンプラの作成やバトルについて話し合っていた。

 

 彼らは私立聖皇学園のガンプラ部。

 世界大会まで開かれるガンプラバトルの人気はもはや地球規模のもので学校でもこうしてガンプラ部が設けられる程である。

 

「リージョンカップまで後少しだな」

 

 そんな中、リージョンカップの話題を出したのはこの聖皇学園のガンプラ部のガンプラチームとして活動している舟木拓也(ふなきたくや)だ。彼の近くには彼がBDシリーズのガンプラをもとにカスタマイズしたガンプラであるBD.the BLADEが置かれていた。

 

「去年はジャパンカップまで行ったんだし、きっと大丈夫……っ!」

 

 それを聞いた近くに座ると腰まで届く茶髪の艶やかな長髪をワンサイドアップに纏めた少女・垣沼真実(かきぬままなみ)が両手をぎゅっと握りしめて自らを鼓舞するように小さく呟く。彼女もまた聖皇学園ガンプラチームのメンバーで紅一点だ。

 

「……そう言えば雨宮一矢ってここのチームにいたんだよね」

「うん……。だけど……雨宮君がどうしたの?」

 

 そんな二人の言葉を聞いて、思い出したように口を開いたのはかつてイラトゲームパークにて一矢がミサとチームを組んだあの日に居合わせた天城勇がふと口を開く。彼もまた聖皇学園ガンプラチームの一人で以上三名によってチームになっている。

 

 勇の言葉を聞いた拓也と真実は顔を見合わせると、どこか複雑そうな顔を浮かべてそれぞれ小さく頷く。そうこのガンプラチームにはかつて一矢が所属していた。更に言えば一矢がチーム戦を止めるきっかけにもなったジャパンカップにまで進出した時、拓也と真実は一緒に戦っていた。一矢が抜けた今、その空いたポジションには勇が加わった。

 

 あの決勝で一矢はチームどころかこのガンプラ部を退部し、元々、他人と関わろうとしない一矢との距離は一気に開いてしまった。しかし今、何故一矢の名前が出てくるのか、と真実は勇に問いかける。

 

「……いや……この前、雨宮が知らない女とチームを組んでる所に居合わせたんだ。あんまり雨宮のこと知らないから声かけなかったけど……。リージョンカップにも出てくるんじゃない?」

「マジかよ!?」

 

 かつてイラトゲームパークでチームを組んだ一矢とミサ。

 その場に居合せた勇がその時のことを思い出しながら話すと、よもやチームを抜けた一矢が違う人物とチームを組むとは思ってなかったのか、身を乗り出して拓也が驚く。

 

「……ねぇ天城君。雨宮君が新しく入ったチームの事、詳しく教えてくれないかな」

 

 そんな中、静かに真実が口を開く。

 その雰囲気は先程とは一転して背筋が凍るくらい暗くそして冷たかった。俯いているせいで前髪で隠れて表情が見えないが、正直に話した方が身の為だろう。勇は自分が知っている限りの情報を話すのだった……。

 

 ・・・

 

 翌日、ブレイカーズから少し離れ、隣町の彩渡町にヴェールが訪れていた。

 その表情からは何か深く考えを巡らせているのを察することができる。彼女は先程まで如月翔に会っていた。

 

(やっぱり詳しくは知らなかった、か……)

 

 その目的は如月翔にある人物について尋ねる事だった。

 以前、訪れた際には聞くことは出来なかったが、今日は聞く事ができた。今は店のこともあってピタリと大会に出るのを止めているようだが彼もかつてはGGFやGWF2024のような様々な場に選抜プレイヤーとして、さらにはモデラーとしても出ていたと聞く。そのお陰で様々な人物と交流があると言う事も……。

 

 一番、有名なのはやはりかつて行われたGGFにおいて結成されたガンダムブレイカー隊だろう。プロモデラーのフルアーマーダイテツ、プロゲーマーのLYNX-HMT、今ではトップアイドルのヤマモト✩ルミカなど世間の有名どころで言えば彼らが挙げられ、彼らもまたガンプラに関わる話をする際にはガンダムブレイカー隊の事や翔の名を口にする。

 

 更に言えば彼はガンプラバトルシミュレーターの最初期から関わっている人物であり、ガンダムブレイカー隊の面々とその開発に大きな影響を齎したと言われている。それが如月翔がモデラーとして、ファイターとして知る人ぞ知る有名な理由の一つである。

 

 だがそんな彼でも自分が調べている人物は詳しくは知らないようだ。彼から教えてもらったのは自分が調べている人物はほぼ毎回全国大会に出場していて顔は知っているが、あまり接していないと言う話だ。

 

(他人の空似にしてはあまりにも似すぎてる……)

 

 彼女は偶然、見ていたテレビで自分によく似た男性がガンプラバトルの大会に出ていたのを見た。何か胸に引っかかった物を感じた彼女は両親に聞いては見たもののはぐらかされたり、答えてはもらえなかった。だからこそ彼女は自分であちこち歩いて調べてはいるのだが、これと言った成果が出ずに終わっている。

 

「……?」

 

 そんな彼女の思考を遮るように目を引く人物がいた。

 周囲の様子を伺いながら男性物の薄手のロングコートを着用し、ハンチング帽とメガネを着用した人物だ。目で追ってみるとそのままイラトゲームパークに入っていくのが見えた。特にイラトゲームパークに寄る用事もなかったが、思わず追いかけてみた。

 

 ・・・

 

「今起きたの、一矢君!? もうお昼だよ!?」

≪ごめんなさい≫

 

 今日も今日とて連携を深める為にガンプラバトルをしに来た彩渡商店街ガンプラチーム。時刻は午後の一時を回ったところだ。しかしいまだに司令塔となる一矢の姿がない。

 不審に思ったミサが電話をすると、その着信で目覚めた一矢は言い訳もせずに即座に謝り、その様子から溜息を吐いてこれ以上言うのをやめたミサは早く来るように促すと、電話を切る。

 

「待ってる間にバトルでもしようかな……」

 

 一矢が来るまでの間、バトルをするのも良いかも知れない。

 幸いロボ太もいるし二人でも出来る事はある筈だ。そう思ったミサはロボ太を連れてシミュレーターへと乗り込む。

 

 ミサ達が出撃した後、バトルを映すモニターの前にはヴェールが見かけた怪しげな人物が立っていた。モニターに映し出されるアザレアCと騎士ガンダム。そしてその下に表記されている彩渡商店街ガンプラチームの名前。それを見てシミュレーターへ乗り込んでいく。

 

(バトルをしに来ただけ……?)

 

 シミュレーターへと乗り込んで行った姿を見る分には、特に何か仕出かそうと言う訳でもなくバトルをしに来ただけのようだ。ならば安心かと折角だし、バトルを見て行こうかとモニターを見つめる。

 

 ・・・

 

 

≪主殿のゲネシスの機動力は目を見張るものがある。主殿に攪乱などを頼んでみるというのも良いかもしれないな≫

「そうだね。はぁっ……一矢君さっさと来ないかな……ってあれ?」

 

 ロボ太と共にバトルをしていたミサ。やはりNPC機相手ではすぐに撃破してしまう。とはいえバトルシミュレーターの中で言えばロボ太とちゃんとしたコミュニケーションが取れる。そんな訳で周囲を散策しながらロボ太と戦法などを話し合いながら、一矢が来るのを待っていると、ふとアラートが鳴り響く。

 

「一機だけ? でもなんか……」

 

 この場合のアラートなど他プレイヤーとのエンカウント以外あり得ない。

 ミサはこちらに向かってくるライトニングブルーのガンプラを見て何か違和感を覚える。ガンプラが遭遇戦がメインであるのはファイターならば誰もが知っている。つまり制限時間内に出会う時もあればそうでない時もある。だがこちらに迫ってくるあのガンプラはまるで自分達を探していたかのように真っすぐこちらに向かってくるのだ。

 

「G-リレーション……?」

 

 こちらに向かってくるガンプラをロックすると機体名が表示される。

 G-リレーション……それがあのガンプラの名前だった。所々に光るクリアパーツやそのパーツを見るに恐らくはGセルフを元にしたガンプラだろう。

 

「聖皇学園ガンプラチーム……!?」

 

 そして同時に小さく表示されている所属チームの名前。聖皇学園と言えばこの近辺にある私立の学園だ。そしてミサには他にも覚えがある。かつて一矢を調べた際、彼がジャパンカップに出場した時に所属していたチームは確かこのチームと同じ名前だった筈だ。

 

 まさか一矢の元チームメイトなのか?

 自分が感じた違和感、あのガンプラは自分が目的なのか?

 その理由は一矢が今、自分のチームにいるからなのか?

 

 ミサの頭の中で様々な考えが入り交じるが、今はそれどころではない。

 G-リレーションはこちらに向かって既にビームライフルを構えているからだ。戦闘は避けられない。それに逃げる理由もない。アザレアCはマシンガンを騎士ガンダムはナイトソードの切っ先を向け、交戦開始するのだった……。




垣沼真実

【挿絵表示】


ガンプラ名 G-リレーション
元にしたガンプラ Gセルフ

WEAPON ビームライフル(Gセルフ)
WEAPON ビームサーベル(Gセルフ)
HEAD ガンダムAGE-2
BODY Gセルフ
ARMS ガンダムAGE-2ダークハウンド
LEGS Gセルフ
BACKPACK アストレイゴールドフレーム天

カラーリング ライトニングブルー


<いただいたキャラ&ガンプラ>
感想でご意見を頂けたので今回から登場した投稿していただいたキャラやガンプラの設定などをこちらにも載せようと思います。改めて投稿いただきありがとうございます!


ヴェルるんさんからいただきました。

キャラクター名:三宅ヴェール
性別:女
家族構成:父親、母親、自分
容姿:身長は150cm程。胸は標準より少し大きめ。
髪の色は白(ロング)、目の色は白に近い水色。
年齢:主人公たちと同じくらい
性格:物静か。子供扱いされると一人で膨れる
設定:日本人(母親)とロシア人(父親)のハーフ。何故かみんなに頭を撫でられる。撫でられるのは嫌いではないが、少しだけ子供扱いされている気分になる子

怠惰な眠りさんからいただきました。

キャラクター名天城 勇
性格 好きなことには全力を出すタイプ(例 ガンプラには全力だが、それ以外には興味を示さない) いつも首にヘッドホンをかけている本気でやるときはヘッドホンをしてガンダム系の音楽を流す テンションの落差が激しく普段は口数が少ないがバトルしてるときはガンダムのセリフを口走るほどテンションが高くなる。

八神優鬼さんからいただきました。

機体名 BD.the BLADE

使用武器 試製9.1m対艦刀 又は 虎鉄丸(今回は対艦刀の方を使わせていただきます)
頭部 BD2・3号機
胴体 Zガンダム
腕部 クロスボーンガンダムX1
脚部 試作3号機
スラスター BD2・3号機

オプションパーツ バルカンポット 双刀(腰部)対艦刀(肩部)

素敵なキャラやオリガンのご投稿ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一矢にはないミサの強さ

 ミサはG-リレーションの攻撃を紙一重で避けながら、改めて相手のファイターの実力を思い知る。バトルを始めて数分が経過したが2対1の状況であっても相手の攻撃はちょくちょく被弾はするもののこちらの攻撃は避けられてしまう。

 

(……なんでだろう、ちゃんと戦う気がないのかな)

 

 G-リレーションは一定の距離を保ちながら戦闘をしていた。

 しかし攻撃頻度は少なくただひたすらこちらの動きを見定めているかのようだった。その戦い方に違和感を覚える。まともに戦うことなく時間だけがただ過ぎ去っていくのだ。

 

「──ッ!!」

 

 しかし残り時間が一分を過ぎた頃であった。

 今まで様子を窺うように戦闘をしていたG-リレーションの動きが途端に変わり、攻勢を強めてきたのだ。放たれるビームを避けるアザレアCと騎士ガンダムはそのまま反撃をしようと動き出す。

 

 最初に動いたのは騎士ガンダムだ。

 アザレアCの前に躍り出てると、ミサが攻撃し易いように直撃の可能性のあるビームを全てナイトシールドで迫りくる攻撃を全て防ぐ。

 

 それを利用してアザレアCがマシンガンとミサイルポッドを同時に放ち、G-リレーションに攻撃を仕掛ける。当然、G-リレーションは避けようと回避行動をとった。

 

「そこっ!」

 

 回避する方向を予測していたミサは二つのジャイアントバズーカの引き金を引く。二つの砲弾がG-リレーションに迫る。しかしG-リレーションはビームライフルを素早く向けて、破壊した。

 

「もらったぁっ!!」

 《はぁあっ!!》

 

 砲弾を破壊したことにより、周囲に漂う硝煙。そこから接近していたアザレアCと騎士ガンダムが左右からそれぞれ飛び出してくる。その手にはビームサーベル、そしてナイトソードとそれぞれ握られていた。

 

「───……!?」

 

 だがここでもミサには違和感があった。

 G-リレーションの動きに動揺が見えないのだ。機械でもない限り、このような状況では何かしらのリアクションが起きるが、G-リレーションは微動だにしない。

 

 勝負を諦めたのか?

 疑念が生まれるが、しかしそうではない。何故だか分からないがミサにはそう感じられた。

 

 そしてそれは正解だった。

 G-リレーションの胸部のクリアパーツを中心に七色の光が放たれる。見惚れるくらいの美しさを持つその光。

 だがそれだけでは終わらない。

 何故ならこれはガンプラバトル。そして今の光はG-リレーションの元のガンプラとなったG-セルフに搭載されているフォトン・シールドだからだ。

 

「……あ……」

 

 アザレアCと騎士ガンダムはその動きを停止してしまう。その間にG-リレーションはビームサーベルをそれぞれ引き抜いてアザレアCと騎士ガンダムの首元にそれぞれ向ける。

 

 勝負はあった。そう言わんばかりに……。

 そうするうちに残り一分が経過してアザレアCと騎士ガンダムはフィールドから消える。

 

 ・・・

 

 その一部始終をヴェールがモニター越しに見つめていた。G-リレーションのファイターは本気でバトルをしていないことなどすぐに分かった。だがそれが何故なのかまでは分からなかった。

 

「───……いたんだ」

「……!」

 

 不意に声をかけられピクリと震えて振り返れば、背後には相変わらず手入れもしていないようなボサボサの髪と心底眠たげ半開きの目でこちらを見る一矢の姿があった。あれからようやく到着したのだろう。

 

「たまたま、かな……」「ふーん……」

 

 

 別にここにいる深い理由があるわけではない。ヴェールが苦笑混じりに答えると特にその後話すこともないのか相槌を打ちながらのそのそとガンプラバトルを映すモニターの前に移動すると丁度、そこにミサとロボ太がシミュレーターから出て来ていた。

 

「……遅れてごめん」

「あっ、ううん。大丈夫だよ」

 

 ミサを見つけた一矢は遅刻したことを詫びると時間も経ち、怒る気もなかったのかミサは笑顔で答える。だがミサには一つだけ一矢に聞きたいことがあった。

 

「ねぇ一矢君……。聖皇学園ガンプラチームって……」

「───久しぶりだね、雨宮君」

 

 それは先程までバトルをしていたG-リレーションに関する事だ。

 あれは本当にかつての一矢のチームメイトなのか、そのことについて聞こうとするのだが、遮るようにミサの背後から一矢に声をかけられる。

 

「……誰?」

 

 それはヴェールが見た怪しげな人物だった。

 久しぶりと言われてもパッと見ただけでは心当たりもない。

 一矢は知っているか、と言わんばかりにミサやヴェールを見るが、彼女たちも知るわけもないので首を横に振る。

 

「こんな格好じゃ分からない、か……。まぁしょうがないよね」

 

 自分の恰好を見て苦笑するその人物はそのまま男性物の薄手のコートを脱ぎ捨てる。

 そこにいたのは垣沼真実であった。

 真実の顔を見て、一矢は目に見えて驚く。その反応を見て、やはり知り合いであったかとミサは感じた

 

「雨宮君がチームを組んだって話を聞いたから、ちょっとどんな人なのか知りたかったんだ」

 

 驚いている一矢に微笑みを向けながら真実はゆっくりと一矢に近づいていく。一矢の目の前まで来たところでチラリと隣に立つミサを一瞥した。

 

「……ねぇ、何で私を……ううん……この人を選んだの? 今、バトルして分かったけど正直、強くはないよ。雨宮君だって分かってる筈でしょ」

 

 そして再び一矢に向き直る真実。時間ギリギリまでミサとバトルをして分かった。彼女は自分よりも弱い。ならば一矢との差はもっとある筈だ。

 

「……何か弱味でも握られてるの? そうでしょ……? そうだよね? 雨宮君が強くもない人と組む理由なんてないでしょ……!?」

 

 勇から彩渡商店街ガンプラチームの事を教わり、自分なりに調べたが彼女はタウンカップのしかも予選すら敗退していた。

 一矢がそんな人物と組むメリットがない。考えられるのは一矢が何かしらの弱みを握られていると言う事だ。

 

「何かあったのなら私が雨宮君の力になる……。私ならガンプラバトルでも雨宮君の足を引っ張らない……! だからまた一緒に──!」

「──……あのさ、勝手に好き放題言わないでくんない?」

 

 ミサに敵意を向けながら真実は一矢に迫る。

 まるで縋るような瞳で一矢を見ている。そんな真実の言葉を途中で遮りながら一矢が口を開いた。その表情を見て真実は固まる。

 

「……俺は別に弱みなんて握られてないし、自分の意志でコイツと一緒にいる。それにコイツの事、なにも知らないのに弱い弱い言わないでくんない……? 凄いムカつくんだけど……」

 

 明らかに目に見えて一矢は怒っていたのだ。

 ヴェールは元よりミサでさえ一矢がこうして怒っているのは初めて見た。そして何より自分のことで怒っていると言う事に更に驚いてしまう。

 

「コイツは強いよ……。俺なんかよりもずっと……。ガンプラバトルが強いだけだったら俺はコイツとは一緒にいない。リージョンカップに聖皇学園も出るってのは知ってる……。そこで見せてあげるよ」

 

 眉間に皺を寄せ、険しい表情で静かな怒りをぶつける。

 真実もまたこうやって一矢が怒っているのは初めて見た。その矛先が自分である事、そしてその怒りにたじろいでしまう。

 

 一矢がミサとチームを組んだ理由にやましい理由などない。

 ただ一つだけ言える事は彼女となら自分は力だけでは進めないその先に進める。そう思えるだけの強さをミサは持っている。

 

「ご、ごめん……怒られるつもりはなかったの……。でも雨宮君……ガンプラバトルは結局はその強さだけだよ……? なら私はリージョンカップで雨宮君の目を覚まさせてあげるよ」

 

 一矢の逆鱗に触れてしまった事に素直に謝りながらも、それでも間違っていたとは思ってはいない。少なくとも弱ければ先になんて進めない。真実はそう言って足早にその場を去るのだった……。

 

「……あの人は……?」

「垣沼真実。俺が昔いたガンプラチームに所属してた元チームメイト。そして当時の俺をガンプラチームに勧誘したのもアイツだよ」

 

 真実がイラトゲームパークから去ったのを見計らってヴェールが彼女について問いかけると、当時のことを思い出しているのか両目を瞑りながら一矢は上着の薄手のパーカーのポケットに手を突っ込んで答える。

 

「でもまさか一矢君が私の為に怒ってくれるなんてなぁ。大切に思われてるのかな私?」

 

 自分の事で怒った一矢を思い出し、一矢をからかい半分、照れ半分と言った様子でニヤニヤと話すミサだが、一矢はミサに目をくれる事無くロボ太を連れてガンプラバトルシミュレーターへと向かう。

 

「ってぇスルーかいっ!?」

「……バトルするよ。あぁは言ったけどリージョンカップでは実力は及びませんでしたなんて笑い話にもならないでしょ」

 

 せめて何か反応して欲しかったのか、赤面しながらツッコむがガンプラバトルシミュレーターの入り口に手をかけ、振り向いた一矢の言葉を聞き、少し黙ってうんっ、と頷いて一矢に駆け寄り、自身もシミュレーターへと乗り込む。

 

 正直に言ってしまえば一矢もなぜあそこまで怒ったのか、自分でも分からなかった。

 あそこまで怒ったのは本当に久しぶりかもしれない。最後に怒ったの何時だろうか?

 周りと関わろうとしない一矢が大きな感情、ましてや怒りを見せるなど珍しかった。それ程までに一矢はミサが好きに言われるのが我慢ならなかった。

 

(……楽しみだな)

 

 そんな一連の様子を見ていたヴェールは静かにその場を立ち去る。

 その口元には微笑みが。自分も彼らと同じリージョンカップに出場する。

 

 彼らとバトルをするのは楽しみだ。

 彩渡商店街ガンプラチームはリージョンカップが開始するその前日までその連携と実力を高めるためにミーティングとバトル漬けの毎日を送るのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リージョンカップ開催

≪リージョンカップ開催会場のみなさーん、聞こえてますかー!?≫

 

 遂にリージョンカップ当日を迎えた。

 会場は参加するファイターやチーム、そしてそれを見に来た観客達で賑わっていた。

 そんな中で建物に設置されているモニターには何かの衣装のようなものを着用したピンク髪の女性がマイクを持って話していた。

 

 どうやら彼女は今シーズンのMCを務めるハルという女性らしい。

 この映像は全国のリージョンカップが行われる会場に同時中継をしているようだ。

 

≪皆さんの素晴らしい戦いを全国のファンが見守っています! 参加する皆さん、頑張ってくださいねっ! 私もジャパンカップの会場で待ってまーすっ!!≫

 

 ガンプラバトルは地球規模の盛り上がりを見せている。

 かつてのGGFのように一度、規模のあるガンプラバトルのイベントが起きればそのバトルはネット中継される程だ。イベントMCらしく明るく挨拶を終えて、映像は切り替わり、大会情報やガンプラのCMなどが流される。

 

「何か緊張してきた……」

 

 会場となる場所には彩渡商店街ガンプラチームの姿もあった。

 初めて立つリージョンカップの地、ミサは緊張した面持ちで隣に立つ一矢を見る。しかし当の一矢は緊張はしていない様子だがミサの緊張を解す方法は知らないのかなにも答えない。

 

「でも絶対に負けられない訳があるっ!!」

「あー……まぁそうだな。来年にはあの商店街なくなってるかもしれねぇからな」

 

 とはいえ何時までも緊張なんてしてはいられない。

 自分に言い聞かせるよう意気込むミサに先頭を歩いているカドマツは店が三つしかやっていない状況を思い出して口を開くと、そんな事言うなっ

 と後ろでミサが憤慨している。

 

「──おい、カドマツ」

 

 そんな彩渡商店街ガンプラチームを……いやカドマツを呼ぶ声があった。

 一同が見ればカドマツと同じように白衣に身を包み、髪を二つに纏め眼鏡をかけたミサよりも小柄な少女がいた。

 

「なんで負けチームのアンタがいるんだよ」

「誰この子、カドマツの娘さん?」

 

 少女はカドマツの名やその接し方などを考えて、カドマツと知り合いなようだ。

 しかしあまりにも年が離れているように見える。そこから考えられる彼らの関係は親子だと思ったのか、ミサはカドマツに聞く。

 

「俺は独身だ。こいつはモチヅキって言って佐成メカニクスのエンジニアだ」

「佐成メカニクスってハイムロボティクスのライバル会社だよね? こんなに小さい子が?」

 

 しかしどうやらミサの予想は違うようだ。

 カドマツは少女の事を簡単に紹介すると、その中に出てきた会社の事をミサが知っているのか、まさかと言った表情で少女を見る。

 

「俺とタメだけどな」

「三十路過ぎ……? 嘘でしょ?!」

 

 カドマツの口から信じられない言葉が出てくる。そしてまさに信じられないと言った様子で驚きと疑惑の視線を少女…………少女? …………兎に角、モチヅキに送る。

 

「年のことは言うなっ!! ところでカドマツ……このロボットはひょっとして……」

「我が社の来季主力商品になるかもしれないアレだ」

 

 しかし年齢に関することは禁句なのか、プクッと頬を膨らませて怒っている。その様子からは到底、近くにいる無精ひげを生やした男と同い年には見えない。

 

 モチヅキは一矢の傍らに立っているロボ太の存在に気づき、それが恐らくはトイボットの一種ではないのかと予想し、カドマツに問いかけると製作者だけあって、彼は自慢げにロボ太を紹介していた。

 

「マジかー!? バラシていい?」

「良いわけないだろ。コイツは俺たち彩渡商店街ガンプラチームの第3ファイターだ」

 

 ロボ太に興味を引かれたのか満面の笑みでカドマツに分解の許可を求めると、即座にそして当然、却下される。

 

「ガンプラバトルも出来るのか!? なんて物作ったんだ! ……ん? あれ、お前彩渡商店街ってどういうことだ?」

「先日レンタル移籍した。今日はよろしくな」

 

 そしてロボ太が彩渡商店街ガンプラチームのメンバーである事を教えるとガンプラバトルが出来ると言う事までは想像していなかったのか、驚きながら更にロボ太への興味を強める、

 しかしそこでカドマツの言葉が引っ掛かった。

 そのことについて問いかけてみると、カドマツは一矢達を横目に答え、一矢とミサが頷く。

 

「成程……。カドマツ以外には悪いけどそういう事なら容赦しないぞ! 予選でコケるなよ!」

「お前もそこらをウロチョロしてコケるなよ」

 

 すると途端に悪戯な笑みを浮かべるモチヅキの言葉に即座に言い返す。

 その言葉に子供かっ!? とツッコミを入れ、モチヅキは憤慨してこの場から去っていく。一連のやり取りはまるでコントのようでミサはクスクスと笑っていた。

 

「──雨宮!」

 

 時間的にもそろそろリージョンカップの予選が始まる。

 会場の中に入ろうと歩を進める一矢達だったが、今度は一矢を呼ぶ声が聞こえ再び足を止める。視線を向ければそこには聖皇学園ガンプラチームの姿があり、一矢を呼んだのは拓也だ。

 

「新しいチームに入ったってのは本当だったんだな。元チームメイトでも本気で行くからなっ!」

「……当然でしょ」

 

 拓也は真実とは違い、最初は一矢に驚いたもののそれはそれでと受け入れているのか、笑顔で拳を向ける。

 その笑顔は元チームメイトである一矢とのバトルを楽しみにしているのか、とても爽やかなものだ。一矢も拓也のその笑顔に釣られるように不敵なような笑みを浮かべて答える。

 

「……雨宮君」

「……垣沼」

 

 次に真実が口を静かに口を開いた。

 彼女とは先日のやり取りもあってどこかミサを含んで何とも言えない空気が流れる。

 

「またあの日々に戻れるように私、頑張るから」

「……あの日々……ね。少なくとも今はその気はないけど」

 

 あの日々というのも一矢とチームを組んでいたあの頃だろう。

 しかし一矢は彩渡商店街ガンプラチームを抜ける気はないのか、ミサをチラッと見て答える。

 

「……分かった。もっともっと……頑張れば……良いんだよね……? 雨宮君が私の方が必要だって気づいてくれるように」

 

 一矢がチームを抜けた。

 その事だけであれば彼女もこうして一矢とこんな風にはならなかっただろう。だが元チームメイトである自分を差し置いて、何故彼女を選んだのか? 彼女の頭にある疑問はその事だけだった。

 

 そして彼女が思い至ったのは自分の一矢への想いが足りないと言う事、自分よりも弱い相手を選んだ一矢に自分を必要にするほどの実力を見せなくてはいけないと言う事。

 

 自分という存在を一矢に強く刻み付けねばならない。

 どこの誰かも分からない女ではなく、身近にいる自分という存在に目を向けてくれるように。この場は良い機会となった。

 

「……じゃあ本選で会おうぜ。予選なんかでコケんなよ!」

 

 彼女の瞳には一矢しか見えていない。

 ふわりとそして妖艶ささえ感じる笑みを浮かべて真実は会場へと足を進めて行く。真実と一矢を交互に見合わせて場の雰囲気を変えるように拓也が明るく一矢に声をかけると、真実の後を追う。

 

 最後に勇と目が合った。

 とはいえ彼とは接点が皆無と言って良いかも知れない。言ってしまえば友達の友達と言ったような関係だろうか。勇も真実や拓也の後を追う。

 

「なんか今回のリージョンカップは波乱の予感だなぁ」

 

 今までのやり取りを見て、カドマツは頭をポリポリと掻きながら口を開く。今回のリージョンカップは自分が見てきたリージョンカップの中で様々な意味で波乱を感じる。

 

「──でもどうせならそんくらいが丁度良いんじゃねぇか?」

 

 そんな彩渡商店街ガンプラチームに再び声をかける者がいた。

 

 これで三回目だ。

 一同が視線を向けるとそこにはシュウジの姿があり、手を軽くあげて、よっ、と気さくな笑みを浮かべてこちらに近づいてくる。

 

「シュウジさん!? どうしてここに?」

「今日がリージョンカップって翔さんから聞いてよ。暇だったから来たんだ。お前らがタウンカップを優勝したってのは聞いてたしな。つまりはここに出るんだろ?」

 

 かつて自分達のチームとしての欠点を教えてくれた彼が何故、ここにいるのか問いかけると右手を腰に当てシュウジはその理由を教える。シュウジとしても欠点を教えた以上、彼らの成長が気になったのだろう。

 

「今日は楽しみにしてるぜ。お前らチームがどんだけ強くなれたのか見せてもらうぜ」

「だったらちゃんと見ててよっ! 前の私達とは全然違うからっ!!」

 

 軽く左の拳を突き出し彼らに期待の言葉をかけると、今日まで自分達なりに連携を強めてきたと自負してる。ミサは笑顔で答え、シュウジが突き出した拳に自分の拳を打ち合わせる。それはまるで兄妹のような微笑ましささえ感じる。そんなやり取りの後、遂にリージョンカップの予選が開始されるのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

めぐりあい

 遂に始まったリージョンカップ。

 予選はモノリスデモリッションと言う方式で行われ、一定時間、ステージに隠されるモノリスを破壊しポイントを得るというルールだ。ステージを三つに分かれて行われ、予選終了後、ポイントの集計後に上位8名が本選に進む事ができる。

 

「モノリスを破壊っ!!」

 

 彩渡商店街ガンプラチームもまたモノリスを発見していた。

 ステージは夜の荒野だ。ステージ上空に浮かぶ月の光に照らされながらモノリスを防衛するNPC機をゲネシスと騎士ガンダムが撃破し、アザレアCの射撃がモノリスを撃ち抜いて崩壊させる。

 

「……すぐに離れるよ」

「ああ、この場合、必要最低限の戦闘で収めるべきだ」

 

 NPC機を撃破し、周囲を警戒するゲネシスと騎士ガンダム。

 どうやらこの場には自分達以外のファイターはいないようだ。ならば長居は無用、一矢の指示にロボ太が同意して彩渡商店街ガンプラチームは次なるモノリスを探して移動を開始する。

 

 ・・・

 

「うわぁあっ!!?」

 

 場所は月面基地を模したステージでモノリスを守るNPC機を撃破した参加チーム。ここからモノリスを破壊しようとした矢先に背後から無数のビームが貫いて三機のうちの一機を撃破し、残りの二機は何とか避けて攻撃を仕掛けてきた相手を探す。

 

「なっ──!?」

 

 だがその間にもまた一機撃破されてしまう。

 最後に残ったファイターが見たのは試製9.1m対艦刀で仲間を真っ二つに両断したBD.the BLADEの姿だ。仲間のガンプラが爆発した奥でツインアイを輝かせてこちらを見ていBD.the BLADEの姿に恐怖心すら感じてしまう。

 

「仲間をよくもぉっ!!」

 

 圧倒的不利な状況だ。

 BD.the BLADEの他にも無数のビームを放ってきた敵だっている。他にもいるかもしれない。ならばせめて仲間の敵を討ちたい。BD.the BLADEに向かっていく最後に残ったファイター機だがここで異変が起こった。

 

 いくらバーニアを吹かそうが前に進めないのだ。

 なにが起こった?

 そう考える暇もなくファイター機は凄まじい力で引っ張られる。

 

「あぁっ……!?」

 

 引っ張られた先にいたのはG-リレーションだった。

 機体の状態を確認すれば脚部にワイヤーフックが巻き付けられていた。背後に見えるG-リレーションの無機質なカメラアイは操縦するファイターが何を思っているのかは読み取れやしない。

 

 ただ分かるのはもう自分は終わりであると言うことだけだ。

 G-リレーションのバックパックに装備されているマガノイクタチがファイター機を挟み、エネルギーを吸収し始め、耐久値はどんどん無くなっていく。

 

 やがてファイター機を解放するが、これで終わりなわけではない。

 クルリと回転したG-リレーションの鋭い回し蹴りがファイター機のコクピット部分を抉るように破壊して撃破した。

 

「掻っ攫って悪いな。来たらNPC機を撃破してたもんだし」

「……だからってそのまま譲らなきゃいけないって訳でもない」

 

 今はこの場にいないモノリスを発見したチームに対して軽く詫びる。BD.the BLADEの背後に降り立ち、無数のビームを放ったスーパードラグーンを戻しながら、ガンダムバアルを操る勇が静かに口を開く。

 

(雨宮君……)

 

 そのまま聖皇学園ガンプラチームの三機のガンダムによる一斉攻撃によってモノリスは破壊される。

 砕け散ったモノリスを見下ろしながら真実は一矢を想う。このステージには彩渡商店街ガンプラチームはいないようだ。しかしあのチームが……いや、一矢が本選に必ず出てくる。その確信が真実にはあったのだ。

 

 ・・・

 

「周囲に敵影なし……」

「モノリスもないね」

 

 最後のステージである雪山を舞台にしたこの場所でヴェールが操るダブルオークアンタ ルイーツァリ/Xと未来が操るイスカーチェリガンダムが周囲を伺いながら散策していた。彼女達はチームとしてこのリージョンカップに参加している。

 

「──ッ!?」

 

 しかしここでセンサーが反応する。

 一機だけであった。雪が支配するこの幻想的なステージの中にいる自分達の数メートル先を一機のガンダムが横切ったのだ。相手のガンダムはこちらを一瞬だけ見るが、わざわざ戦う理由もないのか無視して去って行ってしまう。

 

「あれは……ってヴェール!?」

 

 だがヴェールにとってはそうではなかった。

 あのガンダムを知っているのか、ルイーツァリはその後をすぐさま追い、未来も戸惑いながらその後を追う。

 

「やっぱり……!!」

 

 遂に頂上までやって来た。

 ヴェールが見るモニターの先にはモノリスが先程のガンダムによって破壊されており、その周辺にはNPC機とモノリスを見つけたチームのガンプラの残骸が転がっていた。

 

 その中心にいるのはオルフェウスガンダム・レナト。ハイペリオンガンダムを元に作成したガンプラだ。ヴェールはそのガンプラに覚えがあった。何故ならそれは自分が探していた人物が使っていたガンプラだからだ。

 

「貴方は一体……!?」

 

 立ち塞がるように立つルイーツァリにレナトはビームサブマシンガンのザスタバ・スティグマトを向け発砲する。迫りくる無数のビーム弾を素早く回避しながらルイーツァリがGNバルカンで牽制しながら接近する。

 

 接近された事でレナトはビームナイフを装備して斬りかかる。ルイーツァリもGNカタールを素早く装備して互いの刃が鍔迫り合いになり、そのまま剣戟となる。

 

 だがしかし近接戦に自信があったヴェールであったが、レナトのファイターの方が上手であったのか次第に押され始めた。

 

「しまっ──!!」

 

 そのうちGNカタールを持つマニュビレーターを蹴られGNカタールは弾かれるように吹き飛んでしまう。そのままGNカタールを失った碗部を掴み、山頂から下へジャイアントスイングの要領で投げ飛ばす。

 

「地獄から這い上がってこい」

 

 急いですぐさま立て直そうとするルイーツァリであったが、レナトのウィングバインダーのビームキャノンを受けてしまい、そのまま落下してしまう。レナトを操縦するファイターであるヴェールに瓜二つな男性の岡崎ユーリは静かに、そして冷たく言い放つ。

 

「ヴェールッ! ……っ!」

 

 どんどん落下していくルイーツァリ。未来は何か複雑な表情でレナトを見つめ、すぐさまイスカーチェリを動かしてルイーツァリを助けるべく山頂から駆け降りる。その場には先程までの戦闘が嘘のような静けさとその中に佇むレナトだけが残っていた……。

 

 ・・・

 

「お疲れさん、予選はパス出来たみたいだぞ」

 

 予選が終了した。

 ポイントの集計後、本選に出場出来るチームやファイターが発表された。その中には彩渡商店街ガンプラチームの名も入っていた。カドマツがその事を結果を知らない一矢達に報告すると、ミサが満面の笑みを一矢に向けて喜んでいる。

 

「へぇー……。ちゃんと予選突破出来たのかヘッポコチーム!」

 

 そこにモチヅキがニヤニヤと笑みを浮かべながらちょっかいを出しに来た。

 

「本選始まる前にセッティング終わらせとけよ。後、飯も食っとけ」

「無視すんなよぉっ!!」

 

 しかしカドマツは意に介す事なく年長者として彼らにすべき事を指示すると、二人もモチヅキを気にすることなく頷いている。この扱いには流石にモチヅキも我慢ならず声を上げた。

 

「あのー……」

 

 そろそろ違うからかい方をしようかと思った矢先に一矢に負けず劣らずの気怠そうな声をかけられる。

 

 そこには緑色のシャツを着用したボーイッシュな女性がそこにいた。その恰好からもはっきりと分かるほどの中々のスタイルだ。

 

「この辺で小さな女の子見てないすか? ずっと探してるんすけど」

 

 モチヅキの時とは違い、すぐに、なんだい? と話しかけてきた女性に向き直る。女性の名はウルチ。ウルチはどうやら人を探しているようで周囲を見渡しながら、カドマツ達に情報を求める。

 

「え、迷子!? 年は?!」

「三十路過ぎなんですけど」

 

 この広い会場で迷子とあっては大変だ。

 ミサが慌てて年齢などを聞くとウルチの口から出てきた年齢に彼女が探している人物が誰なのか察する一同。その証拠にモチヅキが顔を顰めている。

 

「受付で迷子アナウンスしてもらえ。面白そうだ」

「あー……そうっすね。どうもです」

 

 そしてこの中で一番、面白がっているのはカドマツだ。

 悪戯を考えた子供のようにウルチに提案をすると、ウルチも便乗して、軽くカドマツ達に頭を下げて受付に向かおうとする。

 

「止めろぉっ!!」

「あっモチヅキ姐さん探してたんですよ?」

 

 流石にこれ以上は見過ごせないのか声を上げる。

 声を上げたモチヅキにこんな所にいたのかとウルチは困ったような表情を浮かべて話しかけた。

 

「ずっと目の前にいたよぉっ!!」

「姐さん、視界に入りにくいから……」

 

 プクッと頬を膨らませるモチヅキにさり気なく酷い事を言う。流石にもう分かると思うがウルチはモチヅキを探していたようだ。

 

「ウルチ、決勝で戦うことになるかもしれんから一応、挨拶しとけ」

 

 まったく……と言いつつ本選に進んだ彩渡商店街ガンプラチームに挨拶をするようにウルチに促す。彼女の言葉から分かるが、どうやら彼女達も本選に進出しているようだ。

 

「え……あー……しゃーす」

「うぃーす……」

 

 挨拶を催促されて気怠そうに手を後頭部に当て軽く頭を下げて挨拶をする。

 ウルチに対して一矢も上着のパーカーに両手を突っ込んだまま似たようなテンションで軽く頭を下げていた。

 

「お前それでも社会人か!?」

「お前もな」

 

 何とも締まらない挨拶をする二人。モチヅキがウルチに社会人とは思えない挨拶をした事をツッコむと、ミサもまたウルチと一矢に何か似たような物を感じながら呆れて苦笑している。そんな中でモチヅキにすぐさまカドマツのツッコみが入る。

 

「くっ……いつもいつも馬鹿にして! 今日こそおまえを倒して土下座させてやる!」

「姐さん外から見てるだけじゃないっすか」

 

 カドマツの弄くりに我慢ならなくなったのかモチヅキがビシッと指差して言い放つが、隣で今回の場合、戦うのは自分だろとウルチも呆れながらツッコミを入れる。

 

「おもしれぇ。じゃあ俺が勝ったら?」

「カドマツも外から見てるだけでしょ」

 

 自分達が負けたら土下座。ならば勝った時はどうしてくれるのか。カドマツが自信ありげに問いかけると、ミサもウルチと同じく何を言ってるんだと言わんばかりだ。

 

「えっ……じゃあ今まで私をイジメた事をチャラにする!」

「いらん。大会終わるまでに考えとく。それで良いか?」

 

 自分が負けた時の事は考えていなかったのか、モチヅキは少し悩んだ後、全くもってカドマツに得のない提案をするが即座に却下され、代わりの案を出す。

 

「良いだろう! 試合で会うのを楽しみにしてろ!」

 

 余程、自信があるのか何をされるかも分からないのに了承するモチヅキはそのまま自分が勝った時のことしか考えてはいないのか満足そうにこの場を去っていく。

 

「姐さんって仕事は出来るけどアホっすよね」

「アホだよなぁ」

 

 小さい体がどんどん小さくなっていく。

 そんな背中を見ながらまたウルチが何気に酷い事を言うと、反論することもなくカドマツは先程のやり取りを思い出して呆れているのかため息交じりに答える。ウルチは軽く頭を下げ、モチヅキの後を追うのだった。

 

「じゃあ俺、やる事あるから……」

「あっ……“アレ”やるんだね! 私も手伝うよ!」

 

 モチヅキとウルチが去った後、一矢もまた何やら動き始める。その理由をミサが知っているのか、手伝いを申し出る。

 

「いや“仕込み”は終わってるし、後はミーティング通りにやってくれば良いよ。だから飯でも食ってれば?」

「いやいや一緒にご飯食べようよっ! 終わるまで待ってるから!」

 

 しかしミサの申し出を断り、先に食事をとるよう勧めるがチームメイトの一矢と一緒に食べようと思っていたのか、ミサは移動を始めた一矢に付いていくのだった。

 

 ・・・

 

「……ヴェール」

 

 ヴェールと未来の二人も何とか予選を8位で通過することができた。山頂から落とされ何とか巻き返す事が出来ただけでも称賛に値するだろう。しかしヴェールは俯き、そんなヴェールにどう声をかけていいか未来は悩み、二人を中心に重い空気が流れる。

 

「あっ……本選の相手が出たみたいだよ」

 

 何とか空気を変えようと未来がリーグ形式で表示されているモニターを指さすとヴェールが僅かに顔を上げてモニターを見る。

 そして二人して驚いたのだ。

 なんと第一試合として行われる二人の対戦相手は山頂で出会ったオルフェウスガンダム・レナトだったからだ。

 

 ・・・

 

「うわぁっ……すっごい混んでる……」

「やっぱガンプラバトルって凄いんだねー」

 

 いよいよ本選が始まる。予選の時よりも観客席は賑わいを見せていた。

 その中にはシュウジやアムロ、シャアなどミサ達の顔馴染み、そして夕香と裕喜もまた訪れていた。

 賑わう会場を見て、人の多いところは好きではないのか、げんなりしてる夕香と純粋にリージョンカップとはいえ人の多さに裕喜は驚いている。

 

 夕香がこの場にいる事は一矢は知らない。

 来た事を教えたとしても、夕香はミサならば兎も角、一矢に素直に応援しに来たなどと言う筈もなく冷かしをするだろう。

 この双子は互いの事は自分が一番、知っているとは思っているが面と向かっては決して素直にはならない。そんな二人なのだだ。

 

「まさかあの二人が対決するなんて……」

「これも運命、か……」

 

 座席に座る夕香と裕喜。するとふと隣に座っていた恐らくは夫婦であろう日本人の女性とロシア人の男性の話が聞こえる。チラリと横目で見れば二人ともどこか複雑そうな表情だ。だからと言って自分達に何かあるわけでもない。夕香達はバトルを映す巨大なモニターに視線を送る。

 

「あっ……聖皇学園」

「ありゃまぁ……まなみん達かー……。コイツは面白そうだねぇ」

 

 すると彼女達は自分達の通う学園の名前が載っている事に気づく。

 見れば第二試合、その相手は彩渡商店街ガンプラチームだ。夕香は足を組んで手のひらに顎を乗せて、ある程度の事情は知っている事から妙な巡り合わせに悪戯っ子のような笑みを浮かべる。やがて本選の時間は訪れ、第一試合が始まるのだった……。




<いただいたキャラ&ガンプラ>

ヴェルるんさんからいただきました。

ガンプラ名:ダブルオークアンタ ルイーツァリ/X
(※正式名称は上だが、ヴェールはルイーツァリと呼ぶ。ルイーツァリはロシア語で「騎士」という意味)
元にしたガンプラ:ダブルオーガンダム セブンソード/G

WEAPON GNソードⅡブラスター
WEAPON GNソードⅡブラスターライフルモード
HEAD ダブルオークアンタ
BODY ダブルオークアンタ
ARMS ガンダムエクシア
LEGS ダブルオーガンダムセブンソード/G
BACKPACK ダブルオーライザー
SHIELD GNシールド(ダブルオー)

オプション装備(必要なら)
GNバルカン
GNビームサーベル
GNビームサーベル&GNカタール
GNソードⅡロング&GNソードⅡショート
GNマイクロミサイル
GNフィールド
トランザム

切り札はトランザムバースト
カラーリングは青の部分が水色、赤の部分がオレンジ。


ガンプラ名:オルフェウスガンダム・レナト
元にしたガンプラ:ハイペリオンガンダム

WEAPON ロムテクニカRBWタイプ7001
WEAPON ザスタバ・スティグマト
HEAD ドレッドノートガンダムXアストレイ
BODY ハイペリオンガンダム
ARMS デスティニーガンダム
LEGS ストライクフリーダムガンダム
BACKPACK ハイペリオンガンダム
SHIELD 複合兵装防盾システム(ドレッドノート)

拡張装備
ピクウス76mm近接防御機関砲
アルミューレ・リュミエール
フォルファントリー
パルマフィオキーナ
フラッシュエッジ2
クスィフィアス3レール砲
シュペールラケルタビームサーベル
ビームソード(複合兵装防盾システム)
ビームシールド(デスティニー)

カラーリングはハイペリオンがベース。黄色の部分が青。ビームシールドやビームサーベル等の刃の色が水色。

捕捉:アルミューレ・リュミエールの持続時間は一回の戦闘で約1分程度。一度使うと15分の間使用できない。


ガンプラ名:イスカーチェリガンダム
元にしたガンプラ:ユニコーンガンダム

WEAPON ビームマグナム(バンシィ・ノルン)
WEAPON ビーム・ガトリングガン(シールド・ファンネルのものを使用)
HEAD ユニコーンガンダム
BODY ユニコーンガンダム・フェネクス
ARMS ユニコーンガンダム
LEGS ユニコーンガンダム・フェネクス
BACKPACK フルアーマー・ユニコーンガンダム
SHIELD シールド・ファンネル×2(基本状態は両腕に装備。バックパックをパージしたときは自分の頭上にある)

拡張装備
60ミリバルカン砲×2
リボルビングランチャー
ハイパー・バズーカ×2
ビーム・サーベル×4
ビーム・トンファー×2
ビーム・ガトリングガン×6(シールド・ファンネルについている)
3連装ハンド・グレネード・ユニット×8
3連装対艦ミサイル・ランチャー×2
グレネード・ランチャー×2
シールド・ファンネル×3
ハイパー・ビーム・ジャベリン

システム 
NT-D
デストロイ・アンチェインド(いつ発動するか不明の上、発動したらほぼ制御不能になる)

カラーリングはフェネクスと同じです。

未来とユーリの設定は次回載せようと思ってます。


怠惰な眠りさんからいただきました。

ガンプラ名ガンダム バアル
元にしたガンプラバルバトス

WEAPON ツインバスターライフル
WEAPON メイス
HEAD バルバトス
BODY バルバトス
ARMS アストレイブルーフレームセカンドリバイ
LEGS ダブルオーガンダムセブンソード/G
BACKPACK ストライクフリーダム
SHIELD 強化シールドブースター

素敵なキャラやオリガンのご投稿ありがとうございました!
※今更ですがゲームにはないパーツやガンプラも登場します。ご了承くださいませ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フビリョート

ゲームではコアの攻防によるチーム戦の印象がありましたが、本小説ではBFシリーズやゲームのそれぞれのカップの決勝などでも見られた純粋なガンプラバトルで勝敗を決めます。


「ヴェール……」

 

 いよいよ第一試合が始まる。

 第一試合はヴェールと未来のチームとあのオルフェウスガンダム・レナトのバトルだ。ヴェールはずっと黙ったままで、このままバトルをして大丈夫なのか、未来が出撃前に通信を入れる。

 

「……さっきは動揺したけど大丈夫だよ。今は目の前の事に集中するから」

 

 初めて間近でレナトを見た時は動揺した。

 自分が探している人物がいるのではないかと。だがそんな事は目の前のバトルが終わった後にでも聞けば良い。時間はあるのだから。ヴェールのその言葉を聞き、未来は安心したように頷き、いよいよカタパルトも表示され出撃を促される。

 

「三宅ヴェール……ルイーツァリ行きます」

 

 迷うことはない。今は目の前のことに全力をぶつけるのだ。そんな意思を宿した瞳をまっすぐ見据えルイーツァリは出撃するのだった。

 

 ・・・

 

 バトルのステージとして選ばれたのは雪の降る荒野だった。出撃したルイーツァリとイスカーチェリは対戦相手となるレナトの姿を探す。

 

 しかし思ったよりも早くレナトの存在に気づく事が出来た。いや気づかされた。レナトは既にこちらに気づいていたのか、ビームキャノンが発射されたからだ。

 

 素早く回避したルイーツァリとイスカーチェリ。素早く反撃に転じ、ルイーツァリのGNソードⅡブラスターと3連装対艦ミサイルランチャーやビームガトリングガンなどによるイスカーチェリの豊富な攻撃を仕掛けるがそれら全てレナトを操るユーリの巧みな操縦によって避けられてしまう。

 

「ヴェール、行って!」

 

 そのまま射撃攻撃を続けながら未来がヴェールに通信を入れる。

 近接戦の得意なヴェールに自分が援護するから前に出させようというのだろう。頷いたヴェールは素早くレナトに接近する。

 

 迫りくるレナトの迎撃による射撃を紙一重に避けて、どんどんレナトとの距離を縮めていき、やがて射撃による牽制は出来ないと判断したレナトはそのシールドからビームソードを展開して薙ぎ払うような一撃を放つ。

 

 それすらも避け、空いたマニュビレーターでビームサーベルを引き抜いて斬りかかるルイーツァリ。だがレナトのファイターであるユーリは一人で本選にまで進出するファイターだ。

 

「やっぱり強い……ッ!!」

 

 素早くビームサブマシンガンに装備されているビームナイフの刃を出現させ、ビームサーベルの刃を受け止める。

 そのまま斬り合いに発展し、何度も何度も機体同士がぶつかり合い。だがヴェールとユーリの差は予選でも分かるほど、差がある。ヴェールもその事は自分が一番、分かっていた。

 

「でも私は一人じゃないから……ッ!!!」

 

 そうだ。

 自分は一人でリージョンカップに臨んでいるわけではない。頼もしい親友がいるのだ。例え一人では勝てない相手でも二人ならば勝てる。確証はない。でも確かにそう思えるのだ。

 

「──そうだよ、ヴェールッ!!」

 

 そしてそれはヴェールだけが思うことではない。未来だってヴェールとならば、と思っているのだ。NT-Dを発動させたイスカーチェリはハイパービームジャベリンを振り上げてレナトの背後にいた。

 

「「───!?」」

 

 ハイパービームジャベリンの一撃が入る。

 未来がそう確信するが、ルイーツァリを振り払い、アルミューレ・リュミエールを発動させたレナトによって防がれてしまい、ルイーツァリとイスカーチェリは弾かれてしまう。

 

「……トランザムッ!!」

 

 弾かれたが素早く姿勢を整える。

 アルミューレ・リュミエールを発動しているレナトはとても高い壁にさえ見える。

 

 だがその壁に尻込みするつもりはない。壁ならば乗り越えれば良い。もはやヴェールの頭には自分が探している人物などの事は全部消え去っていた。あるのは目の前を超える事。その意思を示すようにルイーツァリはトランザムを発動させる。

 

 NT-Dとトランザムによる高速戦闘が始まった。圧倒的速度で襲いかかる二機に対してもレナトは互角の戦いを見せる。この戦闘を見ている観客はこのハイレベルなバトルに釘付けになってしまう。

 

 しかしこのままで決着がつく前にNT-Dもトランザムも限界時間が訪れてしまう。それは避けねばならない。未来はハイパービームジャベリンをレナトに向かって投擲する。

 

「なにっ……!?」

 

 だが当然、それはレナトに当たる訳もなく避けられてしまう。

 しかしここでユーリは試合後、初めて言葉を発し、目を見開いて驚く。何と回避し避けたハイパービームジャベリンの場所を予測していたルイーツァリが先回りして既にハイパービームジャベリンを掴んでいたからだ

 

「ぐっ……!?」

 

 そのままグルリと回転しハイパービームジャベリンを振るう。

 流石にユーリも避けるには間に合わず、胴体に一撃を浴びてしまった。

 

 そして背後では既にルイーツァリの行動を読んでいたイスカーチェリによる一斉射撃がレナトに襲いかかり、ルイーツァリは粒子化して避け、その一部をレナトはまともに直撃してしまう。

 

「今ではまだ私だけじゃ貴方に追いつけないかもしれない……。でも……いつかは対等になって見せる……ッ!」

 

 そして再び姿を現したルイーツァリはGNソードⅡロングとGNソードⅡショートを引き抜いて。そのまますれ違いざまに攻撃を浴びせる。その攻撃によりレナトは両断され爆発する。バトルはヴェールと未来のチームが勝ったのだ。

 

 ・・・

 

「──あのっ!!」

 

 試合が終わった。

 シミュレーターから出たユーリは敗者は去る、そう言わんばかりにいなくなろうとするが会場の外に出たところで追いかけて息を切らしたヴェールに呼び止められる。その背後には未来も追いかけてきた。

 

「まさか……お前は……っ!?」

 

 振り返ってヴェールの顔を見るユーリは目を見開いて固まる。自分に瓜二つの少女が目の前にいるからだ。そのことから考えるのは容易い。

 

「そのまさかですよ、岡崎ユーリさん……。いえ、三宅ヴェインさん。彼女……三宅ヴェールは貴方の妹です」

 

 驚いているユーリに対して、後から来た未来は静かに口を開き、その事実にユーリもヴェールも驚く。

 

「未来、知ってたの……!?」

「うん……。ちょっと前に偶然、ユーリさんを見つけてね。ヴェールのおじさん達に聞いちゃったんだ……。今までお兄さんの存在を知らなかったヴェールにいつ言えば悩んでたんだけど、こうやって出会う事が出来たからもう隠さなくてもいいかなって……」

 

 未来が知っていたことに驚くヴェールは、なぜ言ってくれなかったんだと目で訴える

 ヴェールに申し訳なさそうに答える姿から、彼女も彼女で悩んでいたのだ。その事を察したヴェールはそれ以上の追及を止める。

 

「──彼女を悩ませてしまったのには私達に責任がある」

「お父さん……お母さん……!?」

 

 すると背後からヴェールにとっては聞きなれた声、ユーリにとっては懐かしい声が聞こえる。振り返ればヴェールの両親がいた。驚いているヴェールとユーリ。両親は未来がヴェールがユーリを追いかけた時点でこうなるのを予測して連絡をしていたのだ。

 

「二人には謝らなくてはいけない事がある。まずヴェイン……お前にはお前がガンプラバトルをやりたいと言うのに私達がやらせたいことと一致していなかった……。そのせいでお前が家を出た。ガンプラの道を極めると言う置手紙を残してな……。お前が家を出た後、お前の頑張りを耳に入れる事が多くなった。お前がほぼ毎回、全国大会に出てると言うことも……。その事を誇らしく思うのと同時に何でもう少し歩み寄れなかったのかって後悔している……。本当にすまない……」

「ヴェール……貴方にヴェインの事を言えなかったのはヴェインが家を飛び出した時、貴方はまだ生まれてなかったから……。私達も教えようか悩んだわ。でも教えられなかったんだ……。今まで一人だった貴方に、いきなりこの人が貴方のお兄さんって言っても混乱すると思っていたから……。でも隠していた事に関しては謝るわ、ごめんなさい……」

 

 ヴェールの両親が胸に秘めていた思いと謝罪を聞いてヴェールとユーリは互いの顔を見合わせる。互いにこうやって顔を合わせるのは始めてだ。

 

「……別に構いやしないさ。俺は俺でこの道を選んで辛い事もあったがそれ以上に得た物も大きかった」

「……正直、すぐに飲み込めるって訳でもないけど……でも……今からでも遅くはないよね?」

 

 家を飛び出し、その後、ガンプラバトルが広く普及されるようになりユーリもバトルを始めたが最初はほぼ勝てなかった。一人で生きてきて辛いこともあった。何よりもそんな生活でもこの道を選んで良かったと思える程の経験やガンプラの喜びを知った。何よりユーリが家を出る程の行動をしたから今、両親の反省でヴェールはガンプラバトルを出来ている。こうやってバトルが出来たのも今までの自分があったからだ。

 

 ヴェールもチラリと再びユーリを見る。

 偶然テレビで見た時も思ったが自分によく似ている。でもだからと言って、まだ兄妹という実感が湧かない。でもそれはこれからの人生で感じていったって遅くはない。時間はあるのだ。兄妹として過ごせなかった日々をこれから取り戻せば良いのだ。

 

≪リージョンカップ第二試合聖皇学園ガンプラチームVS彩渡商店街ガンプラチームのバトルが始まります≫

「……このどっちかが次のお前達の相手だ。頑張れよ」

 

 そんな中、第二試合のアナウンスが会場から聞こえる。

 それを聞いたユーリは未来と、そしてヴェールの顔をジっと見て激励をする。それは兄妹として初めての兄から妹へ送られた言葉だ。ヴェールはそんな兄の言葉に強く頷く。この2人の止まっていた兄妹としての時間は今、動き出したのだった……。

 

 ・・・

 

「一矢君、機体の調子はどう?」

「……問題ないけど」

 

 間もなく第二試合が始まる。

 もうすでに両チームはガンプラバトルシミュレーターに乗り込み、出撃の時を今か今かと待ち望んでいた。そんな中、セッティングを終えた一矢に出撃前にミサから通信が入る。

 

 

 ──雨宮が負けた

 

 ──雨宮なら勝てると思ってた

 

 ──雨宮だったらって信じてた

 

「……」

 

 過去に身を置いていた聖皇学園が相手と言う事だけあって過去の記憶が一矢の脳裏に蘇る。スカウトされた時点でガンプラ部でも抜き出た力を見せた一矢。だがそれがガンプラ部の人物が彼への期待を強めた。それは真実と拓也もそうだ。小さくても自分ではよくやったと思ったものでもガンプラ部はお前なら出来て当然だろ、と笑って済ませ。彼らが求めたのはより凄い結果だけだ。

 

「……? どうしたの?」

 

 ふと通信画面に映るミサの顔を見つめる。

 彼が彼女に対して今、なにを思っているのかは彼にしか分からない。ミサが首を傾げて問いかけるが、一矢は目を閉じてなんでもないと首を横に振る。

 

(……バトルの強さだけじゃない。俺が知った強さ……。見せに行こう、ゲネシス)

 

 真実にも言った。

 バトルの実力でチームを組んだわけじゃない。

 

 強さだけ求めるならば、それこそ彼の憧れである如月翔など名のあるファイターを選ぶ。でもそうじゃないのだ。真実にそれを証明する為にチームの為にその一部に新たな装備を加え、姿を変えたゲネシスに語り掛ける。

 

「ゲネシスアサルトバスターガンダム……雨宮一矢……出る……ッ!!」

 

 そんな主の想いに応えるようにゲネシスのツインアイが発光する。

 ゲネシスを初めて動かした時の事は覚えている。

 

 ただ前に進む事だけを考えていた。

 その気持ちは変わっていない。だが一人で進むわけではない。彩渡商店街ガンプラチームとして進むのだ。そんな思いを胸に一矢とゲネシス……いやゲネシスアサルトバスターガンダムは仲間達と出撃するのだった……。




ガンプラ名 ゲネシスアサルトバスターガンダム(ゲネシスAB)

WEAPON GNソードⅢ(射撃と併用)
HEAD ビルドストライクガンダム
BODY アカツキ
ARMS デュエルガンダムアサルトシュラウド
LEGS クロスボーンガンダム
BACKPACK V2バスターガンダム
SHIELD 試製71式防盾

拡張装備 
BACKPACK 大型ガトリング×2(元々装備していたもの)
LEGS ミサイルポッド×2(ゲネシスが両肩に装備していたものを両腰に移した)
   スラスターユニット×2(元々装備していたもの)

元々、組み込んでいたデュエルとV2のパーツを変えただけで武装は増えましたがそれ以外は特に変わってないです、前作のガンダムブレイカーフルバーニアンみたいなもんですかね、とはいえ、あっちは機体が大破したからあぁなったわけですが。

<いただいたキャラ&ガンプラ>

ヴェルるんさんからいただきました。

キャラクター名:岡崎ユーリ(本名は三宅ヴェイン)
性別:男
家族構成:自分
容姿:三宅ヴェールと身長と胸以外ほぼ同じ。身長は170程度。
年齢:32歳
性格:言葉がところどころ喧嘩腰だが、とある人(三宅ヴェール)のことになると必死になる。こう見えて家族想い。
設定:三宅ヴェールの実の兄。ヴェールが生まれる前にガンプラの道を極めると置き手紙を残し、祖父の形見であるハイペリオンガンダムを持って家出をした。最初はほとんど勝てず、ただぼろぼろになっていくハイペリオンを見て落ち込んでいたが、家族の応援を受けて自分なりにハイペリオンを改修。その後、負け試合もあるものの少しずつ勝てるようになり、今ではほぼ毎回全国大会に出場する程。現在は自分に妹ができたと知り、ガンプラを作りながらも実の妹に会ってみたいと思っている。
口癖:「地獄から這い上がってこい」

キャラクター名:三日月未来(みかづきみく)
性別:女 
容姿や性格:150㎝程。スタイルはヴェールとほぼ同じ。性格は穏やかで少し天然
設定:ヴェールの親友。ヴェールの兄、ユーリの存在を知っているが、ヴェールには話せずにいる。小学生のころ、男子四人にいじめられてユニコーンガンダムを壊されたが応急処置してユニコーンガンダム・リペアを作り、一人で自分をいじめた男子四人に勝った過去を持つ。機動力を上げるために付けたデストロイ・アンチェインドが発動すると、機動力は上がるがほとんど制御できないため悩んでいる。

ヴェール絡みの話を書くという事もあって彼女の生みの親であるヴェルるんさんにメッセージでやり取りをさせていただきました。元々詳しい設定ありのキャラと言う事もありますが、お陰でより話を考えやすく書かせていただきました。この場を借り、改めてお礼申し上げます。ありがとうございます!

そして何より素敵なキャラやオリガンのご投稿ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チームに求めるもの

 第二試合、聖皇学園ガンプラチームVS彩渡商店街ガンプラチームのバトルが始まった。場所は月面基地を舞台にしたステージだ。聖皇学園ガンプラチームの三機のガンプラが対戦相手を探して、宇宙空間を慎重に突き進んでいた。

 

「なっ!?」

 

 遥か遠くがキラリと輝いたように見えた。

 それが何なのか拓也が目を凝らした瞬間、大きなビームが高速で迫っており、聖皇学園ガンプラチームは間一髪で避けることに成功した。

 

「長距離射撃……!?」

「今ので場所は分かったけど……!!」

 

 避けた事でビームは背後の巨大なデブリを破壊する。

 それでもなおビームは突き進んで見えなくなる。

 

 その威力と貫通性に勇は驚き、真実はすぐにでも前方に警戒をする。

 まだこちらの武装では攻撃が出来ない距離にいる。しかし相手は圧倒的な射程距離と当たりこそはしなかったが、こちらが肝を冷やすほどの射撃能力を持っていたのだ。それを出来るだけのファイターを相手チームの中では一人しか真実には心当たりがなかった。

 

「……外したか……。翔さんのようにはいかないな……」

 

 モニターを見ながら直撃しなかったのを見て一矢が溜息交じりに呟く。

 自分の憧れの人が最も得意だったのは狙撃だ。

 しかしやはり憧れの人のようにそう上手くはいかない。だが少なくともまだ相手はこちらと交戦が出来るほどの距離にいない。まだこちらに分があるのだ。一矢は再び右背に設置されたメガビームキャノンによる射撃を始める。

 

 しかし初発が失敗してしまった為、既にこちらを警戒している聖皇学園ガンプラチームには幾ら集中して撃っても当たることがない。そのうち強化型シールドブースターを利用したバアルに距離を縮められ、スーパードラグーンを射出しながらツインバスターライフルを発射する。

 

「主殿ッ!!」

 

 素早く騎士ガンダムがゲネシスABの前に出てナイトシールドを突き出してツインバスターライフルによる攻撃を防ぐ。しかしその威力は凄まじく騎士ガンダムは受け止めきるが仰け反ってしまう。

 

 次にアザレアが迫りくるスーパードラグーンに対してマシンガンをばら撒くように発砲するが、迫りくるスーパードラグーンは全て避け、どんどん距離を縮めていく。

 

「ミサ!!」

「うんっ!!」

 

 一矢はすぐさまアザレアに声をかけると、ゲネシスABとアザレアCは上昇し、スーパードラグーンはその後を追う。すると二機は互いに背を合わせ、回転しながら射撃兵装を放ち、迫りくるスーパードラグーンを全て破壊する。

 

 しかしスーパードラグーンを破壊したのは束の間、既に聖皇学園ガンプラチームは接近し、BD.the BLADEが突出して騎士ガンダムと剣戟を繰り広げていた。

 

「ミサは後方支援」

「了解ッ」

 

 交戦状態へと突入した事で一矢はすぐさまミサに指示を出すと、アザレアCは距離を取り援護に回る。ゲネシスABはG-リレーションとバアルの攻撃を避けながらスプレービームポッドで拡散ビームを放つ。

 

「来たな、雨宮ッ!!」

 

 拡散ビームを避けるバアルとG-リレーションと同時にゲネシスABは右肩部のシヴァを放ちながらBD.the BLADEにGNソードⅢを展開して上方から斬りかかる。高速で接近するゲネシスABにBD.the BLADEも騎士ガンダムをバルカンポットでけん制しつつゲネシスABに構える。

 

 ぶつかり合う互いの刃、しかしここで終わるわけではない。

 ゲネシスABのミサイルポッドがすぐさま放たれBD.the BLADEとゲネシスABを飲み込むように爆発する。

 

 しかし戦いがここで終わるわけではない。

 二つの試製9.1m対艦刀を手放したBD.the BLADEは肩部の対艦刀を装備して爆発を抜け出てゲネシスABにすぐさま斬りかかるが、同じく攻撃を仕掛けようとしていたゲネシスABのGNソードⅢで受け止められる。

 

「流石だな、雨宮……。でもなァッ!!」

 

 そのまま何度も刃を交えるゲネシスABとBD.the BLADE。元チームメイトとの戦いに胸を躍らせる拓也はその感情のままに叫ぶと、BD.the BLADEのツインアイが緑から赤に変わったのだ。それが何であるのかは一矢は知っていた。

 

 ──EXAMシステム

 

 設定そのままの物が繁栄されるわけではないが、BD.the BLADEはその動きは見違えるほどに変わり、今まで目の前にいたのに、なんとゲネシスABの背後に移動しているのだ。その一瞬の動きに一矢は戦慄しながら対応しようとする。

 

「グ……ッ……!?」

 

 振り返って見たBD.the BLADEの姿はまさに死神のように見えた。

 すぐさまGNソードⅢを構えるが力負けして吹き飛ばされてしまう。何とか態勢を立て直そうとするゲネシスABであったが、バアルがツインバスターライフルを構えていた。すぐに発射されるツインバスターライフル。迫りくる巨大なビームにゲネシスABはシールドを構えて何とか受け止める。

 

「一矢君ッ!」

「やらせないッ!!」

 

 やがてシールドも破壊されゲネシスABは更に吹き飛ばされてしまい追撃をするバアル。ミサがすぐさま一矢の援護に向かおうとするが、G-リレーションに阻まれて援護する事が出来なかった。よく見れば騎士ガンダムもBD.the BLADEの猛攻に圧されて援護に向かえずにいた。

 

「っ!?」

 

 マシンガンをG-リレーションへと向けた瞬間、放たれたアンカーがマシンガンを拘束して引き寄せる。そのせいでアザレアCはマシンガンを失い、すぐさまジャイアントバズーカに手をかけようとするが、放たれたフォトンシールドによってアザレアCの自由が奪われてしまう。息を飲むミサ、G-リレーションは接近してアザレアCの頭部を掴むとそのまま月面の地へと叩き付ける。

 

「やっぱり弱いね……。貴方を倒して雨宮君に目を覚ましてもらわないとね。雨宮君がいれば私達は更に強くなれる……。そう、今の私達と雨宮君がいれば世界大会にだって行けるはず……。雨宮君がいれば……私には……雨宮君さえいれば……ッ!!」

 

 そのままゴミのようにアザレアCを蹴り飛ばすG-リレーション。ゴロゴロと吹き飛ぶアザレアCのジャイアントバズーカをビームライフルで撃ち抜いて爆発させ、更にアザレアCを追い詰めながら真実は静かに呟く。

 

 最初はただ学園内で高い実力を持つと噂されている一矢をスカウトしたのが始まりだった。その時は真実も何も思ってなかった。だがやがて聖皇学園ガンプラチームもジャパンカップに進むうちにいつしか真実は一矢のプレイやその時の様子に心を奪われていった。

 

 しかしいつからだろうか?

 一矢が段々と陰のある表情になっていったのは。そしてそれはジャパンカップを敗退した時、彼は自分達から離れた。

 

「雨宮君ならもっと前に進める……。私達は雨宮君とだったらもっと前に進める……。貴方なんかが足を引っ張っていい存在じゃない……ッ!!!」

 

 ビームサーベルを引き抜いたG-リレーションは静かにアザレアCへと近づいていく。

 真実はミサに嫉妬をしていた。ミサを選んだこと、そして何より一番、癪に触ったのが一矢が彼女の為に今まで見たことなかった怒りを見せたからだ。

 

「……一矢君と差があるなんて分かってるよ……!」

「……!」

「でも……それでも一矢君は私の手を取ってくれた……辛い思いをして目を背けようとしてたのに私の手を掴んでくれた……! 私はその思いに応えたい……ッ! 今は差はあるけど……でも……!」

 

 するとアザレアCはゆっくりと起き上がり、ミサは静かに口を開く。

 今まで黙って聞いてきたがもう違う。一矢との差など自分だって気づいていないわけではない。頭部を静かにG-リレーションへ向け、静かに強く言葉を紡ぐ。

 

「一矢君に全てを任せるんじゃない……一矢君と一緒に前に進むって決めたから……! だから絶対に諦めないっ!! だって私は……一矢君の仲間だもん!」

 

 強く言い放ち、ビームサーベルを引き抜く。その姿は例え武装を破壊されようと立ち向かう不屈の意志が形となったかのように真実の瞳には映った。

 

 ・・・

 

(……諦めない……。一緒に前に……。そう……だからお前の手を掴んだ……。お前のその強さをあの時、見たからこそ……俺も諦められないし……それに……何より……)

 

 バアルの追撃を避けながら一矢はミサの言葉を聞き、静かに顔をあげる。

 あの時、イラトゲームパークでタイガーのデビルガンダムを共に倒した時、そしてその後の言葉。一矢はミサの内に秘める強さに惹かれてその手を掴んだ。目を背けてしまいたくなるほど彼女は眩しい太陽のような存在だ。

 

「……アイツの顔は……曇らせたくない……!」

 

 誰にも聞こえないほどの小さな声でボソッと呟く。

 誰にも聞こえずとも今の一矢の表情は今のミサと同じものを瞳に宿していた。そのままペダルを踏みこみ、全速力でバアルへと向かっていく。

 

「来たな……!」

 

 ゲネシスABが前に出てきた。

 勇はヘッドホンをかけガンダム関係の音楽を流しながら集中すると強化型シールドブースターの拡散ビームをゲネシスABに放つ。しかしゲネシスABはGNソードⅢの刃で防ぎながら更にバアルへと向かっていく。

 

 それを見た勇はすぐさまツインバスターライフルを発砲する。迫りくるツインバスターライフルの巨大なビーム。この距離で今から避けるにはあまりにもスピードを出し過ぎだ。直撃する。勇はそう確信した。

 

 しかしゲネシスABは避けることもせずメガビームキャノンを発射し、ツインバスターライフルのビームとぶつかり合い、拮抗する。だがゲネシスABはそれでも止まらない。まるで暴走した機関車のようだ。だがその間にもゲネシスABは自身に備えられたミサイルを全て発射しバアルへ向ける。

 

「まだだッ! そこッ!!」

 

 バアルは迫るミサイルを避ける。

 すぐさまツインバスターライフルをゲネシスABへと向け発砲するが、ゲネシスABに当たる直前、ゲネシスABはVの字の残像を残して消える。これはタウンカップでも見えたゲネシスの追従を許さぬ機動力。勇の肉眼からゲネシスABは消え去ったのだ。

 

「破砕する!」

 

 周囲にはVの字の残像が至る所に現れ、勇はあちこちを見て警戒をする。やがてVの字の残像はこちらに向かってきているのを見た勇はツインバスターライフルを分割して左右にそれぞれ向けると回転しながら発砲する。

 すると上方にVの字の残像が見えた。上方から仕掛けてくる。そう感じた勇はメイスを構えて、迎え撃つ。

 

「……ッ!?」

 

 ここでバアルのメイスを構えた腕は破壊される。

 真横を見れば光の翼を展開したゲネシスABの姿が。一瞬にして距離を詰めたゲネシスABは光の翼を展開したままバアルに向かっていき、バアルはシールドブースターを向けるがシールドブースターごとゲネシスABはGNソードⅢでバアルを深々と突き刺し、トドメにシヴァを直撃させて撃破する。

 

「勇がやられたか……! おっと……!!」

「ぐぅっ!?」

 

 バアルの撃破は拓也達にも知られていた。

 猛スピードでこちらへ向かってくるゲネシスABを確認し、放たれたシヴァを避けつつ騎士ガンダムへ損傷を与える。

 

「雨宮……。今の俺は昔とは違うぜ……ッ!!」

 

 ゲネシスABから放たれる射撃を避けながら拓也はEXAM発動状態のBD.the BLADEは対艦刀を捨てると双刀を構えてゲネシスABへと立ち向かっていく。どんどん縮まる両者の距離。ゲネシスABも無駄撃ちと感じたのかGNソードⅢを展開して、近接戦に備える。

 

 再びぶつかり合う両者の刃。先程のように力負けする前に素早く次の一撃を放つ。しかし剣の扱いは拓也の方が上手なのか、やがては攻撃はBD.the BLADEが押していく。

 

「俺はお前と一緒に戦いながら、いつかこんなバトルが出来ればって思ってたんだよ! 今の俺なら……お前にだって遅れはとらない……俺の勝ちだ!!」

 

 二つの刃の巧みな動きはゲネシスABを押していく。

 その光景を見て、今まで一矢が活躍する所を間近で見ていた拓也はこのバトルを楽しみながら勝利を確信して叫ぶ。

 

「そうか……。だが……勝つのは俺達だ……ッ!!」

 

 二つの刃をはNソードⅢで受け止められる。

 拓也はすぐさま振り払おうとするが機体が思うように動かずに困惑してしまう。なにが起こったのか、機体の異常を確認すると左右腰部前面装甲が変形したシザーアンカーがBD.the BLADEを拘束していたのだ。

 

「今だ、ロボ太!!」

 《応っ!!》

 

 BD.the BLADEを拘束した一矢はすぐさま背後で機を伺っていたロボ太に声をかけると、ロボ太はすぐさまナイトソードをBD.the BLADEに投擲する。

 

 投擲されたナイトソードにBD.the BLADEはバルカンポットでアンカーを破壊すると、ゲネシスABを蹴り飛ばしナイトソードを双刀で弾き、電磁スピアを構えて接近する騎士ガンダムを迎え撃つ。

 

「なに……!?」

 

 しかしここで騎士ガンダムがナイトシールドを投擲をした。

 わざわざ盾を投げ、どういうつもりなのか疑問に思ったが下方から放たれたビームがナイトシールドを反射してBD.the BLADEの頭部に直撃させる。見れば蹴り飛ばしたゲネシスABがGNソードⅢをライフルモードに切り替えていた。

 

 《てやぁあっっ!!!》

 

 そのまま騎士ガンダムは電磁スピアを投擲しBD.the BLADEが避けたところで弾かれたナイトソードを掴んで斬りかかり、鍔迫り合いとなる。

 

 《私も主殿やミサと共に戦っているのだ……! 彼らの道を阻ませて……なるものかぁっ!!》

 

 ゲネシスAB同様、BD.the BLADEに力負けしそうになる。

 だがロボ太も彩渡商店街ガンプラチームとして、彼らに従える者としての矜持があるのか、彗星のような剣技を見せ、BD.the BLADEを技で圧倒し始める。ロボットとしてEXAM発動状態に対して対応出来るようになったのだろう。

 

 拓也は目の前の騎士ガンダムへ集中している。

 だが騎士ガンダムは一撃を刃に与えると、すぐさま上方へ移動する。なんだと思うが、騎士ガンダムがいなくなった前方には既にゲネシスABがメガビームキャノンを構え、騎士ガンダムが飛んだと同時に発砲したのだ。

 

「言ったでしょ、勝つのは俺達だ」

 

 避けるには間に合わない。何とか回避しようとしたが、左腕部は飲み込まれてしまった。だがそれだけで終わるわけではなかった。ゲネシスABはナイトソードを頭上から振り下ろし深々と突き刺し、損傷を与える。メガビームキャノンとGNソードⅢを照射し、二つのビームがBD.the BLADEを貫いて撃破する。

 

「二人ともやられた……!?」

 

 バアルとBD.the BLADEは撃破された。

 二本のビームサーベルでアザレアCを相手取り損傷を与えているとゲネシスABと騎士ガンダムが接近するのが見える。

 

「っ!?」

 

 仲間の撃墜が隙となってしまったアザレアCの脚部に装備されているミサイルポッドからの攻撃がG-リレーションに直撃し爆発にG-リレーションは飲み込まれてしまう。慌てて反撃しようとするG-リレーションではあったが爆炎から飛び出てきたアザレアCに右腕を斬りおとされてしまう。

 

「一矢君がチームに欲しがってたのは依存じゃなくて支えだよッ! それに気づけないなら私は負けないっ!!」

「ッ!?」

 

 すぐさま残った左腕のビームサーベルを一文字に振るう。

 しかしアザレアCは屈んで避けるとそのままG-リレーションの胴体にビームサーベルを突き刺す。

 

「……依存じゃなくて……支え……? 私が雨宮君にしていたのは依存……? だから私から離れたの……?」

「一矢君は一方的な期待を押し付けられるのが嫌でそんな期待に応えられる自信がない自分も嫌で……だからチームから離れた。信頼する事と依存する事は違うんだよ……。私は一矢君がもっと前に連れて行ってくれるとは思わない……。だって一矢君と……そして彩渡商店街ガンプラチームとして一緒に前に進むから!」

 

 ミサの言葉に動揺してしまう。

 そんな真実に静かに一矢の事を話しながら自分の決意をもってビームサーベルを引き抜き、そのまま胴体から真っ二つにして撃破するのだった……。

 

 ・・・

 

「やったぁっ!! 勝てたよぉっ!!」

「……はしゃぎ過ぎだよ」

 

 聖皇学園ガンプラチームを打ち破った彩渡商店街ガンプラチーム。ミサが勝利を喜んでぴょんぴょんと飛んでいると、隣に立っている一矢は呆れ気味に言いながらでも口元に微笑を浮かべている。ふと聖皇学園ガンプラチームのシミュレーターが置かれている方向を見ると、そこには真実がこちらを見つめていた。

 

「……負けちまったな」

「……仕方ないよ。一緒に戦うだけがチームじゃない……。雨宮君は本当のチームを見つけられた……。私達はチームとしてはまだまだだよ」

 

 拓也が背後から真実に声をかけると真実は憑き物が取れたかのような安らかな表情で勝利の喜びを分かち合っている彩渡商店街ガンプラチームの様子を見ていると、こちらに気付いた一矢に軽く頭を下げてその場から歩き出す。

 

「……雨宮のこと、良いの?」

「……私は雨宮君に押し付けすぎた。今までチームとして雨宮君の気持ちなんて考えたこともなかった……。言われるまで気づけないんじゃ雨宮君と一緒に戦う資格なんてないよ。でも何時かは……」

 

 あれだけ一矢に執着をしていた真実に勇が声をかける。

 真実のその様子はもう一矢に執着しているようには見えないからだ。真実は立ち止まるとふと自嘲的な笑みを浮かべ振り返って再び一矢達を見る。そこにはミサが一矢とロボ太の手を掴んで上げ下げしていた。

 

 あれはきっとミサだから出来る訳ではない筈だ。

 自分も期待を押し付け、依存するのではなくチームとしてチームメイトの心を本当の意味で支える事が出来たならばきっと一矢は自分から離れずあぁやって手を握り合えたかも知れない。だが今となってはどうしようもない事だ。

 

 チームとしての課題を見つけ出した真実は今回のことを教訓にし、そしていつか一度でも良い。一矢と共にバトル出来る日を願うのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スィチャース

 本選はかつてない程の激戦が行われており、熾烈を極めていた。今も第四試合が行われており、佐成メカニクスがガンプラバトルを行っていた。

 

「MAか……」

「凄い火力だよ……」

 

 佐成メカニクスのファイターはウルチ、そして操るはMAであるアプサラスⅡだ。

 ガンプラバトルが行われる大会のレギュレーションはMSならば4機、PGならば2機、MAは1機とチームにおけるガンプラを運用できる数は決まっている。

 

 現に今、ウルチのアプサラスⅡは三機のゲルググをカスタムしたチームとバトルを行っているが、その圧倒的な火力とその巨体に見合わない機動力で対戦チームを瞬く間に追い詰めていた。アプサラスⅡのその豪快なまでの戦いっぷりを見て一矢とミサは表情を険しくさせる。

 

「そっちを気にするのはまだ早いんじゃない?」

「次の相手は私達、だよ……」

 

 モニターに集中していると、こちらの意識を遮るように背後から声をかけられ、振り返ると未来とヴェールがそこに立っていた。

 

「勿論、忘れてるわけじゃないよっ! 私達は全力で行くからっ!」

「……ブレイカーズでのやり取り……覚えてる?」

 

 ヴェール達の事が眼中にないわけではない。

 彼女達が強豪である事には変わりない。全力で臨まねばあっという間にやられてしまうだろう。ミサは快活な笑顔を向けながら答えると、隣に立っている一矢はヴェールにかつて初めて面と向かって顔を合わせたブレイカーズでの出来事についてヴェールに問いかけるとヴェールは静かに頷く。

 

「……戦ってみたかった……。ずっと待ってたよ」

「物好きなことで……。まぁ……待たせた分の戦いはするよ」

 

 ブレイカーズでのやり取りから随分と経った。

 あの時、一矢に言った言葉は嘘ではない。可能性を感じる彼らとバトルがしてみたかった。ヴェールは微笑を浮かべながら答えると、一矢はやれやれと肩を竦めながらポケットに手を突っ込んでヴェールを見据えて言う。互いに全力を尽くしたバトルだ。当然、勝ちに行く。両チームの間には見えない火花が散っていた。

 

 そうこうしている間に第四試合が終わった。

 勝者は佐成メカニクスのようだ。モニターには気怠そうなウルチと自慢げにしているモチヅキの姿が見える。モニターが切り替わり、表示されるのは準決勝だ。

 既に彩渡商店街ガンプラチームとヴェールと未来、そして第三試合を勝ち残ったチームと佐成メカニクスのバトルが予定されている。

 

「じゃあ次はフィールドで会おうね」

 

 準決勝の案内が始まり、数分が経てば準決勝が始まるだろう。

 ヴェールは一矢達にそう言い残して去っていき、未来も軽く手を振ってその後を追う。一矢とミサ、ロボ太は互いに顔を見合わせ準決勝に備えるのだった……。

 

 ・・・

 

≪それでは準決勝第一試合開始ですっ!≫

 

 遂に準決勝が始まった。第一試合は彩渡商店街ガンプラチームとヴェールと未来のチームだ。アナウンスと共に両チーム一斉に雪原のステージに姿を現す。

 

 開幕で射撃を行ったのはヴェールのルイーツァリだった。

 GNソードⅡブラスターをライフルモードにして照射する。まっすぐ伸びたビームを彩渡商店街ガンプラチームは避けて二機に向かいながらお返しと言わんばかりにゲネシスABのメガビームキャノンを発射することでルイーツァリを牽制する。

 

 メガビームキャノンを避け、ルイーツァリはイスカーチェリの二つのハイパーバズーカと共にGNマイクロミサイルを放ち、無数のミサイルがゲネシスAB達へ迫る。

 

 しかし彩渡商店街ガンプラチームの動きに動揺がない。前に出たゲネシスはスプレービームポットをばら撒くように発射してミサイルを迎撃し、周囲を爆炎が包む中、アザレアCと騎士ガンダムに合図を送って前に出る。

 

「前に出てきたっ!!」

 

 迫りくるゲネシスABとその後を追うアザレアC。しかしその速度は今までに比べると少し遅く見える。だがそんな事を深く考えている暇はない。未来のイスカーチェリはすぐさまビーム・ガトリングガンとミサイルを発射しゲネシスAB達を撃ち落とそうとする。

 

 しかしゲネシスABは臆することなく前に進み、迫る攻撃をシールドとイスカーチェリ程ではないが豊富な武装を持って対処し前に進む。

 

「何が目的か知らないけど……!!」

 

 迫るゲネシスABが不自然に見える。

 距離が近いこともありルイーツァリがGNソードⅡブラスターで斬りかかるとここでゲネシスABがGNソードⅢを展開する。近接戦が始まる……そう、ヴェールも未来も考えていた。

 

「「なっ!?」」

 

 ここで二人は驚いた。

 ゲネシスABの背後から騎士ガンダムが姿を現し、ルイーツァリを踏み台にイスカーチェリに襲い掛かったからだ。恐らく今までゲネシスABの背後に隠れ、速度が遅かったのも振り切らない為だろう。咄嗟に回避するイスカーチェリ。本体自体の直撃は避けられたが、バックパックのハイパーバズーカ二つを切断し爆発が起きる。

 

「このぉっ!!」

「──させないっ!!」

 

 不意を突かれる形にはなってしまったがイスカーチェリはすぐさまハイパービームジャベリンを薙ぎ払うように振るおうとするが、その前にアザレアCの援護射撃がイスカーチェリを襲い、イスカーチェリは後方へと下がることで避けるとNT-Dを発動する。

 

「主殿、こちらは任されたっ!!」

「……ああ、こっちもやっとくよ」

 

 NT-Dを発動したイスカーチェリを騎士ガンダムとアザレアCが相手をしながらロボ太は一矢に通信を入れると、ルイーツァリの前に立ち塞がりながら一矢が静かに答える。本選第一試合のこの二人のコンビネーションは目を見張るものがあった。故に分断しようというのだろう。ゲネシスABVSルイーツァリ、騎士ガンダム&アザレアCVSイスカーチェリのバトルが始まった。

 

 雪原の空を青と水色の閃光が幾度となくぶつかり合う。一矢もヴェールも近接戦は得意だ。だからこそ一進一退の攻防が続き、GNソードⅢとGNソードⅡブラスターがぶつかり合う。

 

「……ッ!」

 

 GNソードⅢとGNソードⅡブラスターの鍔迫り合いが起きた。するとルイーツァリはGNソードⅡブラスターを少し動かし、鍔迫り合いの位置をずらすと片手をGNソードⅡブラスターから放し腕部のGNバルカンをゲネシスABの頭部に押し付け発砲する。

 

 カメラアイの損傷を受けた事で一矢のモニターに一瞬、ノイズが走る。

 だが幸い完全に破壊はされていなかったようですぐに回復したのだがもう目の前にルイーツァリの姿はなかった。

 

「──くっ!?」

 

 バックパックに爆発が起きた。

 一体何だとすぐさま振り返れば、そこにはルイーツァリの姿があった。あの一瞬で背後からGNソードⅡブラスターを発砲したのだろう。その高機動を活かしルイーツァリは再び襲い掛かってくる。

 

 しかしこのまま黙ってやられる気はない。

 ゲネシスの売りはその圧倒的な機動力だ。ルイーツァリの攻撃をVの字の残像を残して避けると横からGNソードⅡブラスターを両断して破壊する。

 

「やるね……」

「やっぱり強い……」

 

 一矢はルイーツァリを狙って攻撃したが、間一髪でヴェールが気づき、結果、GNソードⅡブラスターのみが破壊された。一矢とヴェール、それぞれ独り言を口にしながら互いの実力を評価する。

 

((でも負けられない……!))

 

 そして同時に同じ事を思う。

 一矢は彩渡商店街ガンプラチームとしてミサ達と前に、ヴェールはこの試合を兄が見ているのだ。互いに負けられない理由がある。

 

 《──ぐあぁあっっ!?》

「──きゃぁあっ!!?」

 

 再びぶつかり合うその時、ロボ太とミサの悲鳴が聞こえる。確認すれば損傷の大きい騎士ガンダムとアザレアCが雪原の地に叩きつけられていた。

 

「デストロイ・アンチェインド……!?」

 

 その前方には幽鬼のように宙に佇み、騎士ガンダム達を見下ろすイスカーチェリの姿が。その不気味な姿を見たヴェールは驚愕し、ある名前を口にする。

 イスカーチェリの姿は先程と変わっていたバックパックはパージしたのかもう既になく、デストロイモード時よりも内部のサイコフレームが露見した姿と変化していた。この形態へと変化するとほぼファイターである未来にも制御が出来なくなってしまう未来の悩みの種だ。

 

「ロボ太、ミサ!!」

「来るな、主殿っ!!」

 

 イスカーチェリを危険だと判断した一矢は救援に向かおうとするが、ロボ太はそれを遮り止める。

 

「私達は私達の戦いをする……ッ!!」

「だから一矢君も目の前のバトルに集中して……ッ!」

 

 見れば騎士ガンダムはナイトソードを杖代わりにアザレアCと共に立ち上がっていた。

 その姿から彼らが諦めていないと言うのは簡単に理解出来る。ロボ太とミサはチームとして一矢に言うと散開してイスカーチェリへと向かっていく。

 

「……続きをしよう」

「トランザムッ!!」

 

 仲間からの思いを耳に一矢は再びルイーツァリに向き直るとルイーツァリはコクリと頷き、両腕にGNビームサーベルを引き抜く。

 ヴェールは声高く叫ぶと、ルイーツァリの機体色は真紅に変わり、トランザム状態に変化する。それが合図となったのか、ゲネシスABとルイーツァリは同時に飛び出しぶつかり合う。

 

「粒子化か……ッ!!」

 

 二つの圧倒的な機動力を持つ機体はぶつかり合い、ほぼ互角の戦いを見せる。

 しかしスプレービームポットの拡散ビームを放ったゲネシスABではあるが、ルイーツァリは粒子化して避けると背後に現れて襲いかかる。何とか振り向きざまに切り払おうとするが、これも粒子化によって避けられ、一矢は苦虫を食い潰したような表情を浮かべる。

 

「……なら……っ!!」

 

 粒子化を交えた攻撃はゲネシスABを瞬く間に追い詰め、メガビームキャノンなどゲネシスABの装備も破壊されていく。このままではまずい。撃破されるのも時間の問題だ。一矢はチラリとタイムを確認する。ルイーツァリがトランザムを発動してからそれなりに時間が経っていた。

 

「──もらった!!」

 

 再び実体を現してルイーツァリが上方から襲いかかってくる。

 このまま頭上からビームサーベルを突き刺そうと言うのだろう。真っ直ぐ伸びた刃はゲネシスABに届く……ことはなかった。

 

「ハハァッ……捕まえた」

 

 上体をずらしたゲネシスABはシザーアンカーを放ち、ルイーツァリの腕部を拘束したのだ。

 粒子化するならば避けられただろう。しかしそう出来なかったのはトランザムの限界時間が訪れたからだ。ルイーツァリの機体色が元の姿に戻る。驚くヴェールに一矢は不敵な笑みを浮かべるとそのままGNソードⅢを斬り上げるゲネシスAB。ルイーツァリのビームサーベルを持つマニュビレーターを切断する。

 

 マニュビレーターを一つ失ったルイーツァリはその失った腕部をそのまま突き出し、再びGNバルカンを発射すると、ゲネシスABも負けじとシヴァとミサイルを放ち、互いの耐久値は減っていく。

 

 残った片方のマニュビレーターでGNソードⅡショートを引き抜き、逆手で持ってそのままゲネシスABの胴体に深々と突き刺すルイーツァリ。ゲネシスABもルイーツァリを引き寄せるとヒートダガーを取り出してコクピット部分に突き刺す。両機体にスパークが散り今にも爆発しそうになる。そうしている間にもゲネシスABはシヴァを尽きるまで発射し互いにもつれるように共に落下し、爆発するのだった。

 

 ・・・

 

 騎士ガンダムとアザレアCはデストロイ・アンチェインドを発動したイスカーチェリと激闘を繰り広げていた。その戦闘の激しさを物語るように周囲にはクレーターが無数に出来ていた。

 

 《この距離ならばっ!!》

 

 その中で騎士ガンダムがイスカーチェリとぶつかり合う。ナイトソードとビームトンファーの刃は何度も交わる。ロボ太は騎士ガンダムというキャラクターを元に作成されたトイボット。近接戦には自信があった。それ故、未来でさえ制御不能なイスカーチェリとここまで渡り合えるのだろう。

 

 だが勿論、ロボ太だけではない。

 ミサのアザレアCの援護があってこそだ。今もミサはシールドファンネルの動きを牽制してロボ太を援護している。

 

「強い……っ!」

 

 SDだからHGのガンプラなどに劣るというわけではない。どんなプラモだろうが結局は使い手次第だ。

 

 それにSDならばSDなりの戦い方がある。

 近接戦に持ち込んでいるお陰でそれが現れる。その身長さを活かし右に左に素早く動き撹乱しながら的確に狙いやすい関節部に攻撃を入れる。モニターで見ているだけになってしまった未来は騎士ガンダムを見てその強さに驚愕する。

 

 《ただ戦うだけの者に私は負けんッ!!》

 

 イスカーチェリとの近接戦の間に放たれる彗星のような速度の剣技はイスカーチェリを圧していく。デストロイ・アンチェインドが発動して以降、攻撃や回避など人間特有のリアクションが見えなくなった。それはまさに機械だ。ロボ太は言われずとも見抜いていた。

 

「ここで止まる訳にはいかないのだ……。主殿やミサの為……私は私の使命を果たすっ!!」

 

 ──騎士ガンダム彗星剣

 

 SDにはSDならではのEXアクションがある。

 小さく距離を取った騎士ガンダムのナイトソードから光の一閃が放たれ、避けるには時間のないイスカーチェリはビームトンファーで薙ぎ払おうとするが、薙ぎ払おうとした手ごと切り落とされる。

 

 《我々は……いや……システムとは人の利便性の為に作られたものだッ!》

 

 今、こうしてイスカーチェリだけに集中して戦えるのはシールドファンネルを牽制してくれているミサのお陰だ。ミサの援護を無駄には出来ない。右手にはナイトソード、左手には電磁スピアを構えマントを靡かせてナイトソードと電磁スピアを巧みに利用して、片手を失った直後のイスカーチェリに接近、イスカーチェリの攻撃を紙一重で避け、電磁スピアを胴体に深々と突き刺す。

 

 電磁スピアを突き刺す事には成功したが、イスカーチェリのバルカンが騎士ガンダムを襲い、元々、損傷を受けていた兜が破壊されてしまう。

 

 兜だけではない。

 騎士ガンダムの鎧には激戦を物語るように皹が入っていた。イスカーチェリはビームトンファーを展開した腕を振り上げる。避けるには間に合わない。ロボ太が最適な選択を導き出そうとしたその時──。

 

 《ミサっ!!?》

 

 イスカーチェリの腕に無数の縦断が直撃し、動きを鈍らせそのお陰で何とか回避する事ができた。

 しかしただでさえシールドファンネルを相手にしていたのに、ロボ太の援護をしてしまったせいでアザレアCはシールドファンネルに撃ち抜かれて墜落してしまう。

 地面に墜落したと同時に爆発するアザレアCにロボ太はミサの名を叫ぶ。しかしミサはロボ太に賭けたのだ。自分がやられたとしてもロボ太ならば、と……。

 

 《っ……! システムと使い手……この両方が合わさってこそ本当の力を発揮出来る……ッ! 使い手を無視し好き勝手に戦うような者に……私は負けないッ!》

 

 ミサの想いに応えるようにナイトソードを叩き付けるように振るい、その衝撃で電磁スピアを引き抜くとそのままナイトソードと電磁スピアを織り交ぜた攻撃が放たれ、イスカーチェリを追い詰めていく。

 そして最後に電磁スピアを突き刺した箇所に電磁スピアとナイトソードを同時に突き刺し、そのまま強引に左右に引き裂き、撃破する。

 

 《……そのシステムをどうするかは貴女次第だ。だがどうするにせよ、今度、相対する時は貴女が操るガンプラと最後まで戦いたい》

「……うん、私もこんな風になったけど貴方と……ううん……貴方達とちゃんと戦いたい」

 

 ロボ太は純粋に未来とのバトルを望んでいた。未来もまた自分の実力が発揮できない今回は不完全燃焼でしかない。未来とそしてモニターに映る騎士ガンダムはその表情を再戦を誓うように笑顔に変えるのだった……。

 

 ・・・

 

「負けちゃったね……」

「うん……」

 

 準決勝第一試合っは終わった。ロボ太だけが残ったあのバトルは本当に最後までどうなるか分からなかった。控え室に戻る未来とヴェールの足取りはどこか重い。それぞれに思うところがあるのだろう。

 

「──なんて顔してるんだ」

「あっ……!」

 

 そんなヴェール達に声をかけていたのは彼女達を待っていたユーリだった。

 壁に寄りかかって腕を組んでいたユーリは静かに壁から離れ、ヴェール達に近づく。

 

「負けた……」

「……ああ、そうだな。けどな、今回のことで見えたものもあるはずだ。今後の課題や今度、バトルをした時、どうするかとかな……」

 

 静かに敗北を口にするヴェールに試合を見ていたユーリは頷くと、兄から妹へ、そしてファイターとしての助言を送る。ユーリも初めから強かったわけではない。数え切れない敗北から見出した物があるから、それが勝利に繋がり、今になるのだ。

 

「強くなりたいんだったら俺が鍛えてやる。だから俯くな、前を向け。俺の妹とその親友ならこのバトルを無駄にするな」

 

 ユーリの温かな言葉は敗北したヴェールと未来の悔しさを失くし、彼女達にこの先の事を考えさせる。それを感じ取ったユーリも静かに頷くと、この先、更に強くなるであろう彼女達に期待を膨らますのだった……。




戦闘描写って難しい…考えるのも書くのも


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後のリージョンカップ

≪全国で開催中のガンプラバトルリージョンカップですが1箇所を除き、全日程が消化されました。優勝したチームの皆さんおめでとう! 惜しくも敗れた皆さんは来年頑張りましょう!≫

 

一矢達が参加しているリージョンカップの会場では準決勝第二試合が終了し、設置されているモニターにマイクを持ったハルの映像が映し出されていた。これはこの場だけに留まらず全国中継されている。

 

≪さて予定より早い進行で会場の利用時間が実は余り気味。参加したチームの皆さんも観戦しに来た皆さんもこの後の予定にお困りでしょう! そこで最後に残された一箇所の決勝の模様を他の開催会場にライブ中継することになりました! 実況は私、MCハルと解説には何と世界初のプロガンプラファイター! 皆さんご存知ミスターガンプラをお呼びしております!!≫

 

ハルから告げられるライブ中継の話。最後の一箇所、それは一矢達がいるこの会場であった。その理由というのも例年よりも一層の激しさを見せた本選の影響が大きかった。そのせいで時間が他の会場よりもかかってしまい、今に至る。

 

≪ミスター、よろしくお願いします!≫

≪ハッハッハッ! よろしくぅっ!!≫

 

ハルが立ち位置をずらすと画面端からアロハシャツにアフロ、サングラスと奇抜な恰好をした男性がマイクを持って現れた。

ハルの言った通り、彼こそは世界初のプロガンプラファイターであるミスターガンプラだ。世界中を総なめにするほどの実力を発揮したが、5年前に引退、現在では解説などを行っている。

 

≪ミスター、今回のリージョンカップご覧になっていかがでしたか?≫

≪そうだねぇ、みんな素晴らしいガンプラばかりで機体性能は私が現役だった頃とは比べものにならないね! だけど……≫

 

ミスターも今回のリージョンカップを見ていたのか、その感想をハルから聞かれるとそのガンプラの完成度から発揮される機体性能をハイテンションで褒めるとその最後に声色が少し落ち着いたものになる。

 

≪ファイターはあまり変わってない印象だね≫

≪機体性能と違って、進歩していない……?≫

 

ファイターは進歩してはいない、そうハルのように捉えてしまうような言葉に、ハルも怪訝そうな表情を浮かべてしまう。

 

≪ん……あぁいやいや……ハッハッハッ! ファイター達は相変わらず楽しそうにガンプラバトルをしているなと言いたかったのだよ!≫

≪成程! 時代は変わってもガンプラを愛する気持ちは変わらないということですね!≫

 

ハルの問いにどこか我に返ったかのように再びハイテンションで答え、どこか安心したようにハルはカメラに向き直って話す。

 

≪その通りだ、素晴らしいコメントだね! 今夜食事でもどう?≫

≪それでは最後の決勝戦お楽しみにっ!!≫

 

ミスターもカメラに向き直り、さり気なく食事の誘いをするも、ハルはスルーするように、そのまま言葉を締めくくってモニター映像はCMに切り替わる。

 

・・・

 

「ミスターガンプラがこの映像見てるんだってね、凄いねっ!」

「……全国に晒される……」

 

その映像は控室でも流れ、見終えたミサが嬉しそうに一矢に話しかけるも、ミサとは対照的に一矢は体育座りをしながらどこか凹んだ様子を見せる。その理由と言うのもミスターが登場する前に言われたライブ中継のことだろう。

 

仮にリージョンカップに勝ち、次のジャパンカップに出場できたとしてもこの中継を見た参加チームに手を明かす事になってしまう。しかし次はリージョンカップの決勝、出し惜しみ出来るような試合ではない筈だ。

 

「もうそろそろ時間だよ、頑張ろうねっ!」

 

ついでに言えば目立つのも好きではない一矢はどんよりとした様子になり、ミサは呆れながらも決勝の時間が迫っている事から彼を無理やり立ち上がらせると、ロボ太と共に笑顔を浮かべながらシミュレーターへ向かう。

 

・・・

 

「イッチは大丈夫かな……」

「今頃、全国中継されるって聞いて死にかけてんじゃない」

 

いよいよ決勝、客席では同じく先程の中継を見ていた裕喜が一矢の事を心配すると夕香は冗談交じりに答える。

二人とも一矢達が負けるとは考えていない。心配しているのはプレッシャーに弱い一矢だ。

 

「まさかここまで来たとはな」

「新生したチームとはいえ目覚ましい快進撃だ」

 

また違う客席ではかつての彩渡商店街ガンプラチームを知るアムロとシャアが感慨深そうに話している。タウンカップの予選すら敗退していたのに今ではリージョンカップの決勝に臨むほどだ。

 

「雨宮達が勝つに一票!」

「雨宮君は負けないでしょ。最高のチームなんだから」

「……これじゃあ賭けにならないな」

 

聖皇学園ガンプラチームの三人も決勝の様子を直に観戦するようだ。

拓也が賭けを切り出すように一矢達の名をあげると、真奈美も一矢達の勝利を信じ、勇はどうする、と言わんばかりにこちらを見る拓也に首を振る。彼ら三人が思っていることは同じなようだ。

 

「しっかり見ておけよ」

「はい、観戦することから学べることはありますからね」

「……今度は負けないためにもね」

 

ユーリの言葉に未来が頷いて同意すると、その隣でヴェールがこれから始まる決勝の様子を映すモニターを見つめる。ただ見るだけではない、その動きを注意深く観察するのだ。

 

「最後まで見届けるぜ。だから最後まで派手に暴れちまいな」

 

そしてシュウジもまた一矢達への期待を膨らます。

彼らは初めて出会った時よりもその動きに連帯感があった。確実に成長しているのだ。

 

そんなシュウジが見つめるモニターの映像が切り替わり、雪山の山頂のステージで佐成メカニクスのアプサラスⅡとそれに対峙する彩渡商店街ガンプラチームの三機のガンプラの姿があった。

 

・・・

 

≪ウルチ、負けたら承知しないぞ≫

「姉さんが作ったこの機体なら絶対に大丈夫っすよ」

 

アプサラスⅡを操る佐成メカニクスのウルチ。そのシミュレーター内ではモチヅキの言葉に答えるウルチの喜々とした表情があった。アプサラスⅡの完成度は今まで扱ったガンプラの何よりも素晴らしかった。それは自然と高揚すら覚えるほどだ。

 

≪さぁ始まりました、リージョンカップファイナルラウンド!! ミスター、解説よろしくお願いします!≫

≪よろしくぅっ!!≫

 

挨拶代わりに放たれたメガ粒子砲を避ける三機のガンプラ。その様子を見ながらハルとミスターによる実況解説が始まる。

 

≪佐成メカニクスはMA機体! この圧倒的パワーに彩渡商店街ガンプラチームは一体、どう戦うのでしょうか!?≫

≪MA機は一つ一つの攻撃が非常に強力だが、その分、機動力に制限が出やすい。通常機体で対抗するならそこを活かすのが定石だねっ!!≫

 

実況のハル、解説のミスターとリージョンカップの決勝の様子が全国にライブ中継される。ミスターが言うように今、ゲネシスABがその圧倒的な機動力を持ってアプサラスⅡを撹乱していた。

 

「チッ……無駄に硬いな……!」

 

そして撹乱する一方でスプレービームポットを用いてゲネシスABの激しい雨のような拡散ビームは直撃こそするものの目立った損傷は見せず、一矢は厄介そうに呟く。現にアザレアCもバズーカとミサイルポッドを交えて攻撃するがあまり効果はない。

 

「効いてないっ!!」

「なっ……!?」

 

それどころか高速回転してこちらに突っ込んでくるアプサラスⅡ。近くにいた、そしてその巨体を避ける事は出来ずゲネシスABは突進をまともに受けてしまい、そびえ立つ岩場に吹き飛ばされ、叩きつけられる。

 

「……はぁっ……無様無様……」

 

叩きつけられたまでは良かったのだがその衝撃は凄まじかったのか、ゲネシスABの耐久値がごっそり減っている。この様子はライブ中継されており、色んな人間が見ている。その事を溜息つきながら一矢は素早くゲネシスABを動かす。

 

「……助かった主殿」

「ありがとう、一矢君……」

 

その理由と言うのも高速回転を続けているアプサラスⅡがメガ粒子砲を放ったからだ。

素早く騎士ガンダムの首根っこを掴み、アザレアCを脇に抱えると上空へ舞い上がることで避け、ロボ太とミサはそれぞれ礼を言う。しかしその攻撃力は凄まじいものでメガ粒子砲の影響で焼け野原に様変わりしている。

 

「礼は行動で返して」

 

二機を手放し、一矢の言葉と共にゲネシスABのメガビームキャノン、ビームスプレーポット、腰部ミサイルとアザレアCのミサイル、騎士ガンダムの騎士ガンダム彗星剣が放たれる。その攻撃は真っすぐアプサラスⅡへ向かっていく。

 

≪どーだカドマツ、うちの機体は凄いだろっ!≫

≪分かってねーなぁ……。デカけりゃ良いってもんじゃねぇんだよ≫

 

その圧倒的な火力を見せたアプサラスⅡ。両チームの通信越しではモチヅキとカドマツのやり取りが聞こえてきた。

 

≪こっちの攻撃は全部が必殺級の威力なんだぞっ!!≫

≪当たらなければどうという事はない、っていう名言があるんだよ≫

 

メガ粒子砲を拡散して放つアプサラスⅡ。この脅威に攻撃から一転、避ける事に専念するゲネシスAB達。その激しい戦いを行うシミュレーターから聞こえるのはエンジニア陣のやり取りだ。

 

≪それは当たったらどうにかなっちゃうって事だ!≫

≪全部避けてやらぁっ≫

 

カドマツの言った名言に対しても、にししと笑ったモチヅキは雪山から一転、焼け野原に変える程の火力を見せるアプサラスⅡを自慢すると、堪らずカドマツが張り合うように答える。

 

「アンタ、見てるだけでしょーが!」

「姐さん気が散るんでちょっと静かにっ!!」

 

しかし実際にバトルしてい?るのはミサ達だ。

すぐさまミサがカドマツの言葉をツッコむと、回避する中で的確な攻撃を見せる彩渡商店街ガンプラチームに余裕がなくなってきたのかウルチが言う。この間にもゲネシスABは先程のように前に出て、機動力を持ってアプサラスⅡを撹乱していた。

 

《てぇやぁあっっ!!》

 

撹乱しているゲネシスABに気を取られてしまうウルチ。

その間に騎士ガンダムが上空から騎士ガンダム彗星剣の一閃を放ち、ダメージを与える。耐久値を誇るアプサラスⅡと言えどこう攻撃を受け続けていればどんどん不利になるというものだ。

 

騎士ガンダム彗星剣による一撃がアプサラスⅡの動きを鈍らせるとゲネシスABが正面に躍り出て、メガビームキャノンをメガ粒子砲目掛けてありったけのエネルギーを持って放つと、銃口が焼け始めるがそれでもアプサラスⅡの砲口を損傷を与える事に成功する。

 

「姐さんの機体が……ッ! こんのぉっ!!」

 

すぐさまアプサラスⅡの砲口が輝きを見せる。

こんな短時間で放てるのは拡散タイプだろう。だとしても、このまま回避しようにも直撃は免れない。

 

「ッ……!」

 

一か八か一矢はアサルトバスターの装備をパージする事で放たれた拡散ビームをシールドと共に防ぐと後方へ大きく飛び退き、着地する。

 

「機体のダメージが……ッ!?」

 

ゲネシスを追撃しようとするアプサラスⅡをアザレアCがマシンガンとミサイルポッドを発射してゲネシスが損傷を与えた砲口を攻撃して破壊する。その影響でアプサラスⅡは制御不能に陥り、地面を削りながら着地してしまう。

 

「……ッ!」

 

今ならば勝てる。

決着をつける為に一矢は行動しようとするがEXアクションの表示とは別に覚醒の表示が現れて驚くも、すぐさま覚醒を選択し、GNソードⅢを展開すると同時に発光する。

 

彼の頭の中で思い描くのはガンプラバトルシミュレーターが初めてお披露目されたGGFのイベントにおける如月翔とガンダムブレイカー隊が今の自分達と同じようにアプサラスⅡと戦った時のあの出来事だ。

 

あのイベントには自分もいた。

人を掻き分けながらガンプラバトルを映し出すモニターを見たのはいい思い出だ。今思えばあの時から如月翔に憧れていたのかもしれない。

 

・・・

 

「あれは……まさか……!!?」

 

ライブ中継を通じて決勝の様子を見ていたミスターだったが、覚醒の光を纏ったゲネシスの姿を見て先程のハイテンションな様子とは打って変わって驚愕した様子を見せる。

 

「ミスターどうしたんですか?」

「……いやーすまんっ! なんでもないっ!」

 

覚醒したゲネシスを見たミスターの様子がどこかおかしい。

ハルがそんなミスターに首を傾げながら問いかけるとミスターはハイテンションに戻って答える。

 

(あの機体……! あの輝きは……っ!!)

 

それがなんであるのか分かってはいるのか、ミスターの視線はゲネシスに釘付けで解説の言葉すら出てこない程の集中ぶりであった。

 

・・・

 

「……姐さん……ゴメン……」

 

元々、高機動であるゲネシスは覚醒の影響で更に速度を増し、飛び上がったと思ったらアプサラスⅡのザクⅡの頭部ユニットのすぐ横をGNソードⅢの刃を深々と突き刺す。

 

アプサラスⅡを蹴り、そのまま引き抜くとゲネシスは離脱し、ウルチはモチヅキに謝罪を口にしながらアプサラスⅡは爆発する。

 

≪決まったーっ! 優勝は彩渡商店街ガンプラチームッ!!≫

 

アプサラスⅡの爆発を背にゲネシスが片膝をついて着地する。

その勝利をハルが声高らかに宣言する。その隣ではミスターが沈黙しながら覚醒の光を散らしながら静かに立ち上がるゲネシスを見つめていた。

 

「やった! やったねーっ!!」

《お見事、主殿っ!》

 

トドメを刺したゲネシスにぴょんぴょんと跳ねるように駆け寄るアザレアC。ミサは興奮冷めやらぬ様子で一矢に話しかけてきた。

 

なにせアプサラスⅡの撃破は彼女達の優勝を現すようなものだからだ。ロボ太もまた一矢を称賛する。

 

・・・

 

「──もしもし私です、ミスターガンプラです」

 

決勝戦が終わり、決勝会場は大盛り上がりを見せていた。

実況解説を行っていたミスターも最後に何かコメントを残して収録を終えると、足早に離れて、すぐに携帯端末を手に大会関係者に連絡をとる。

 

「次のジャパンカップなんですが……お願いしたいことが」

 

挨拶を短く、すぐに本題を切り出す。

その声色は真剣みを帯びていて到底、先程ハイテンションで喋っていた人物と同じとは思えない。その後もミスターは人知れずある話を相手先に持ち掛けるのだった……。

 

・・・

 

「それでは彩渡商店街ガンプラチームのリージョンカップ優勝を祝して乾杯っ!」

『乾杯!』

 

その晩、居酒屋みやこにてタウンカップと同じく貸し切りで祝勝会が行われていた。ユウイチが音頭と共に参加者が飲物が入ったグラスを合わせる。

 

「カンパーイ……ってなんで私等まで乾杯してんだ、バカか!」

「タダ酒飲ませてもらってなにが不満なんだ」

 

モチヅキはグラスを合わせながらもすぐさま文句を言い始めると、やれやれとカドマツが問いかける。何とこの場には佐成メカニクスの二人もいた。

それだけではない、アムロやシャア、果てはシュウジに聖皇学園ガンプラチームの面々もいた。この際、知り合いだからという理由で誘ったのだ。

 

ヴェール達も誘いはしたのだが、家族としての時間を取り戻した彼女達は今日は家族水入らずで過ごすという事もあり、断られてしまった。

 

「そうっすよ姐さんー。せっかくなんだから楽しくやりましょうよー」

「私のはジュースじゃねーか! 酔えるか!」

 

酒を飲み始め、顔を紅潮させているウルチが絡むようにモチヅキに声をかけると、モチヅキは自分の目の前に置かれたジュースを一気に飲み干し、だんっとコップを机に置きながら文句を口にする。

 

「流石に未成年にお酒は飲ませられないよ」

「父さん、この人こう見えて三十路過ぎなんだよ」

 

モチヅキのその様子に苦笑しながらモチヅキの年齢は知らないユウイチが口を開くと、面白い秘密を明かすようにミサがモチヅキの年齢が成人を過ぎている事を告げる。

 

「なんですって!? それ本当なの!?」

「悪いか、どうせ見た目小学生だよ!「──教えて」……は?」

「私にもその若作りの秘訣、教えて!」

 

三十路過ぎという事実を聞いてモチヅキに問い詰めるミヤコに、だらだらと文句を口にするモチヅキだが、ミヤコは更に詰め寄ってきた。

どうやら彼女はモチヅキが若作りをしてこうなっているのだと思っているようで、教えを乞うその姿はどこか必死さを感じる。

 

「作ってんじゃないんだよッ! 良いから酒持ってこいよ!」

 

モチヅキは若作りをしているわけではない。

ずっとこうなのだ。怒りを爆発させるように叫ぶモチヅキにミヤコは逃げるようにそそくさと酒を取りにいくのであった。

 

・・・

 

「シャア、お前は酒はそんなに強くないだろう」

「ウコンがあればどうという事はない」

 

時間が経ち、ずっと酒を飲んでいるシャアを気にしてアムロは声をかける。

しかしシャアはしたり顔で答えながらぐいっと酒を飲み干し、その様子にアムロは首を横に振りながらカドマツに話しかけ、彼の職種で盛り上がる。

 

「ごめんね、初めて会った時は……」

「いやいや別に気にしてないよ! それより真実ちゃんってやっぱり強いよね。あのG-リレーションとか──」

 

その近くでは真実がこの場を借りて、ミサに初めてイラトゲームパークで出会った時、一方的な敵意を向けたことを謝罪すると、ミサは気さくな笑みを浮かべながら話題をガンプラに移し、二人の少女はガンプラ談義に花を咲かせていた。

 

「よぉ、改めて優勝おめでとう」

「ん」

 

特に特定の誰かと関わることなく焼き鳥を食べ続ける一矢に声をかけたのはシュウジだ。そのままグラスを持ったまま一矢の隣に座る。

 

「でもこれで満足すんなよ。お前らにはまだ先があんだからな」

「当然でしょ」

 

優勝した今となってはリージョンカップも通過点に過ぎない。これから更なる強豪とぶつかるのだ。シュウジのその言葉にかつてのジャパンカップまで進んだファイナリストだけあってか次の焼き鳥はかしらに決め、手を伸ばしながら一矢は答える。

 

「……そうだ、優勝を祝してちょっと皆で旅行でも行かねぇか。費用は俺が持つぜ。この世界の金はこの世界でしか使えないしな」

「……?」

 

何か思いついたように話を切り出すシュウジ。一体、どこに行こうというのか一矢はかしらを口に含みながらシュウジを見ると、二人はそのまま予定と行先の話をするのだった。

 

・・・

 

「ふぃーっ……翔さん、まだいんのかー?」

 

祝勝会を終えて、シュウジは帰りにまだ今日の営業を終えたとはいえ翔がいるであろうブレイカーズに立ち寄る。元々異なる世界から来た彼は事情を知る翔が現在、一人暮らしをしているマンションに身を寄せている。どうせなら一緒に帰ろうとでも思ったのだろう。

 

ふとプラモデルやフィギュアなどが展示されているショーケースを見つめる。

ここに置かれたプラモデルは殆どが翔が作っていると言うのはこの店を知る者ならば知っているが、中でも一層引き立つのは別のショーケースに飾られたガンプラの存在だ。

 

ガンダムブレイカーとガンダムブレイカー0。だがそれだけではない、ダブルオークアンタ、ゴッドガンダム、トールギスⅢ、ウィングガンダムゼロ、ドラゴンガンダム、ライジングガンダム、マスターガンダム、プロトゼロ、ガンダムX、ガンダムDX、アストレイレッドドラゴン、アストレイ天、ライトニングガンダムフルバーニアン、ビルドストライクをカスタムしたスターストライク、ジェスタが三機、シュウジもデータでしか知らない機体を元に作ったネメシス、そしてアークエンジェルが飾られていた。シュウジのバーニングブレイカーにプラモも翔が作成途中の物をシュウジが如月翔の指導の下で作ったものだ。

 

これは全て如月翔が異世界……つまりはシュウジが住む本来の世界で過ごしていた際、彼の仲間である人々が使っていた機体だ。シュウジが翔の立場ならばシュウジの世界で過ごした事は忘れたくなるような事なのかもしれない。だが如月翔は少なくともそうは思っていないようだ。この飾られたガンプラを見れば一目で分かる。

 

「──随分とこの世界に馴染んでいるようね」

「……ん……? ……んんっ!!?」

 

ショーケースを見つめているシュウジに声をかける人物が。

シュウジはふと顔を向ければ、そこには二人の少女が立っていた。しかしシュウジの表情は変わり、驚きで満ちる。

 

「休暇が取れたから来てみたんだ。本当に異世界に来れるものなんだねー……」

 

腰まで届く長い黒髪と凛とした顔だちとシュウジを見て優しげな笑顔を浮かべ、柔らかな印象を感じる少女……ヴェル・メリオは周囲を見渡しながら改めて実感している様子だ。

 

「……いい加減、その間抜けな顔を何とかしたらどうなの?」

 

そんなヴェルの隣で茶髪のサイドテールを静かに揺らし、その冷たささえ感じる釣り目、クールな印象を受ける日系人の少女であるカガミ・ヒイラギは口を大きく開け、困惑しているシュウジに呆れ、溜息交じりに静かに口を開く。

 

「カ……カガミさんに……ヴェルさん……!!? え……ええええぇぇぇぇぇぇーーーーっっっっ!!!?」

 

しかしシュウジはカガミにそう言われたとしてもそれぞれに交互に指差しながら驚いて彼女たちの名を口にして未だに驚いている。

なにせ彼女達と最後にちゃんと顔を合わせてから随分と時間が経っている。まさかここで顔を合わせるとは思ってなかったのだろう。シュウジの叫びが夜のブレイカーズに響くのだった……。




カガミ・ヒイラギ(Mirrors)

【挿絵表示】


ヴェル・メリオ(Mirrors)

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 波乱が巻き起こる日常で
ラクロアの勇者たち


「以上がタイムズユニバース百貨店各店舗の収支報告です」

 

 ここは日本から遠く離れた異国の地に存在するオフィスだ。

 その一室でメイド服に身を包んだドロシーという名の女性がデスクに腰かけ、パソコンから表示されている会社のデータが載った立体グラフを見つめている金髪翠眼の美青年に報告を行っていた。

 

「一つだけあまり伸びてない店舗があったね。どこだと言ったかな?」

 

 美青年は頬杖をつきながら傍らに佇むドロシーに問いかける。彼の名はウィル。タイムズユニバースの若き経営者だ。

 

「彩渡駅前店、ですね」

「……彩渡……。彩渡……。あぁ……時代に取り残された小汚い商店街があるところか」

 

 間髪散れずに主の問いかけに答えるドロシーの無機質にも感じられる表情は動かず、さながら美しい人形のようだ。ウィルはドロシーの返答にしばらく記憶を巡らせながら彩渡駅前店と近くに存在する風前の灯といえる商店街を思い出す。

 

「責任者によりますと商店街の広告戦略が効果を上げてきている、とのことです。ガンプラチームを広告塔として今シーズン破竹の快進撃中であり、先日のリージョンカップ決勝戦は全国にライブ中継が行われたようです。そこで商店街の名前が……」

 

 伸び悩む理由を即時で答えられる。

 リージョンカップの決勝は全国にライブ中継が行われ、ゲネシスの覚醒など、その注目はチーム名である彩渡商店街にも集まっていたのだ。

 

「……ガンプラバトル……」

 

 ウィルが反応したのはガンプラバトルの単語であった。

 その様子はどこか複雑そうな表情が読み取られ、ドロシーはそんなウィルをじっと見つめている。

 

「ドロシー、日本行きのチケットと滞在先を用意してくれ」

 

 とはいえ今は職務中。すぐさま表情は切り替わり、向かう場所を日本に決める。

 売り上げが悪い彩渡駅前店を視察しようと言うのだろう。しかしドロシーは一切、反応はしない。怪訝に思ったウィルはドロシーを見やる。

 

「申し訳ありませんウィル坊ちゃま。本日の勤務時間は数分前に終了しました。必要であれば明日以降にお申し付けください」

「……時間外手当出すから」

 

 ドロシーの静かな言葉を聞き、チラリと時計を見る。

 

 もう定時である。

 とはいえ少しは融通を利かせて欲しいところではあるが、これこそ彼女らしいと言える。

 

 それに彼女は優秀だ。

 これだけの事を上司に面と向かって言えるだけの働きは見せている人物だ。そのことを誰よりも理解しているウィルは溜息をつきながら答える。

 

「お茶入れますね。いつ発たれますか?」

「今すぐだ」

 

 それならばとにこやかに切り替えて、お茶の準備をする前に予定を尋ねると、思ったらすぐに行動するタイプなのか、今この瞬間だと答えられる。

 

「なるはや……と。手配しておきます」

「な……? まぁ……良いか……。ところでスリーエスの件はどうなっている?」

 

 早速、作業に取り掛かろうとするドロシーが発した略語に戸惑いながらもウィルは別件の話を切り出す。

 

「まもなく全株式の67%を取得完了します。正直、申し上げて何の利益にもなりませんが」

「汚いビジネスに手を染めた無様な大人に報いを受けさせるのさ。僕はこの汚れた世界を浄化しているんだよ」

 

 ウィルが切り出した案件について答えるドロシーの言葉からこの件に関してはメリットもなにもない無意味な行為なのに何故、と言うようにも聞こえる。

 

 実際そうなのだろう。

 ウィルは若き経営者だ。それも今ではこの会社は宇宙産業にも進出できるほどの規模を持つ。それは全てウィルの手腕によるものだろう。そんな彼が今回の事に気づけないわけがない。

 

 勿論、ウィルだって言われるまでもなく気付いている。

 しかしドロシーの疑問に答えるその様子は怒りのそのものであった。この件に関してはウィル個人の意思、感情によるものだ。そこに利益は関係ない。

 

「中二病ですか?」

「なんだい、そのチュウニビョウって?」

 

 しかしウィルの言動から中二病的な物を感じたのか、ドロシーは思ったまま口に出すと、そもそも中二病とは何なのかを知らない彼は不思議そうに顔を向けて問いかける。

 

「若年層を中心とした流行病です。根拠のない全能感に支配されたりするとか」

「いや全くそんな症状はないが」

「そうですか。お大事に」

 

 わざわざ律儀に中二病の事を簡潔に説明をすると、当のウィルはきょとんとした顔で答える。

 

 自覚ある中二病など少ないだろう。

 そもそも中二病とは発症している時は苦ではないが時間が経てば経つほど発症者に深い心の傷を与える病なのである。恐ろしいのである。恥ずかしいのである。死にたくなるのである。まぁなるだけだが。

 

 そんなウィルを手遅れに思いながらドロシーは主人の指示に応える為に動き出すのだった……。

 

 ・・・

 

 リージョンカップも終わりジャパンカップまでの間、暫しの何事もない日常が訪れていた。シュウジ提案の旅行の日にちが迫る中、ミサのトイショップの奥にある作業ブースにて彩渡商店街ガンプラチームの面々がガンプラを作成していた。

 

 作業台に置いてあるミサのアザレアの姿はリージョンカップの時とはその細部が変わっていた。まず目を引くのはバックパックに装備されたガンダムヴァーチェの2基の可動式2連装ビーム砲塔だろう。そこには二つのマイクロミサイルランチャーや腰部にはフラッシュバンなどが新たに設けられており、手持ちの武器は大型ビームマシンガンに変更され、火力面が大幅に強化されているのが見て取れる。

 

 アザレアパワード……これがミサが新たにカスタマイズしたアザレアの新しい姿だ。

 

「ロボ太、プラモ作りも上手いんだねぇ。ホント、ロボにしておくには惜しいよ」

(……俺……今、凄い光景の目の前にいる気がする……)

 

 ミサは自分の横に座り、騎士ガンダムのガンプラを作成しているロボ太を見ながら、その手つきや完成度を眺めながら褒めるていると、ロボ太の向かい側に座っている一矢は騎士ガンダムが騎士ガンダムを作る光景に唖然としている。

 

「……で、なんでいんの?」

「……アタシがどこにいようがイッチには関係ないでしょ」

 

 横目でチラリと自分の傍らを一瞥する。

 そこにはこの場に珍しく夕香が座っていたのだ。

 特に何かを作ると言う訳でもなく、ずっと物言いたげにをチラチラ見てくる妹に対して声をかける。

 この妹、この数日の間、やたら自分の傍にいる。しかし帰ってきたのは若干、棘のある言葉だ。

 

「もぉ夕香ちゃん、本当は一矢君が目的でしょ。見せてあげなよー」

「ちょっ……ミサ姉さん!」

 

 しかしミサはなぜ、ここに夕香がいるのかその理由を知っているのか、微笑を浮かべながら促すと一矢が目的だと言うのを口に出されたくなかったのか焦ったようにミサを見るが、その前にずいっとミサの前に顔を出し、こちらを見る一矢に苦い顔を浮かべる。

 

「……はぁっ……。その、さ……イッチ……。これ……」

 

 観念したように溜息をついた夕香は自身の2wayバックから小さなケースを取り出し、そこからバルバトスのガンプラを机の上に置く。

 このバルバトスはかつて夕香が初めて作ったガンプラだ。しかしその見た目はガンプラバトルロワイヤルに出場した時から大きく変わっていた。

 

「……第6形態……」

「……ミサ姉さんに教わりながら作ったんだ」

 

 上半身は新たに装甲が追加され、両腰にはスラスターも追加されている。

 これはバルバトスが登場する作品においてバルバトスの最終決戦仕様として登場したものだ。

 

 夕香はこのガンプラを購入し、以前、作製したバルバトスに組み込んだのだろう。

 しかしただ組み込んだだけではない。スジ彫りやデカール、再塗装などがされ、以前、一矢が見た時よりもその情報量は増え完成度が高まっていた。

 

 ジッと夕香が作成したバルバトスを見つめる。

 その横でミサに教わりながら作った事を明かす夕香だが、この第6形態自体は実は数日前には完成しており、いざ完成してみたら気恥ずかしくてミサに促される今の今まで一矢に見せる事が出来なかった。それがここ最近、一矢の傍にいた理由だ。

 

「……良いんじゃない、別に……。良く出来てると思う……」

 

 素直に明かせない妹が妹ならば素直に褒められない兄も兄だ。

 チラッと夕香を見て彼なりに褒めると再び作業に戻る。しかしその視線はジッと妹が作成したバルバトスだけを見つめている。

 

「良かったね、夕香ちゃん」

「……うん」

 

 ミサは席を立つと、夕香の背後に周って彼女の肩に両手をかけると、その耳元で囁くように祝福する。あの時、土手で二人で話していた事がやっと現実になったのだ。

 

「──ちょっと良いか?」

 

 そんな三人と一機に声をかける人物がいた。

 見ればカドマツが来ていたのだ。ミサはそのまま出迎えるようにカドマツの前にやってくる。

 

「実はこれから始まるジャパンカップに向けてロボ太の調整をしたんだ。試験したいからついて来い」

 

 それはロボ太に関する事だった。

 ロボ太もチームメイトである事から一矢とミサが頷き、ついでに夕香も折角だし、とついて行く。

 

 ・・・

 

「イラト婆さん、この筐体コイン入れてもクレジット増えねーよ!」

「もう一枚入れてみな!」

 

 イラトゲームパークは今日も今日とて少年とイラト婆さんによるやり取りが行われている。それを耳に入れながら真っすぐガンプラバトルシミュレーターへと向かうと、カドマツはシミュレーターで何やら作業を始める。

 

「準備できたぞ。試験用の新しいステージが追加されてる筈だ。そこでボスを倒して来い」

 

 準備を終えたカドマツは一矢達に声をかける。

 そのままプレイすれば良いのではと思うが、折角の特製ステージだ。ミサ達はシミュレーターに乗り込もうとする。

 

「……ねぇカドマツさん、妹も一緒にやっても良い?」

「別に構いやしないぞ。それに今回は……」

 

 シミュレーターに乗り込もうする一矢ではあったが、その前に夕香をチラリと見てふとカドマツに提案する。

 見物してるつもりだったのか、夕香が驚いた顔をする隣でカドマツがなにやら含みのある様子で答える。

 

「イッチ、どういうつもり?」

「……折角ガンプラ作ったなら、一緒にバトルするのも悪くない……そう思っただけ。別に嫌なら良いけど」

 

 兄が何故、そのような提案をしたのかが分からない。

 その真意を問いかけると一矢は夕香を見ず、そっぽを向いて頬をかきながら答えていた。

 

「……しょーがないなー」

 

 一矢の言葉を聞いて、一瞬、驚いた顔を浮かべる夕香だったが、クスリと笑うとそのまま一矢の隣のガンプラバトルシミュレーターへ乗り込み、バルバトスの第6形態をセットしてシミュレーターを起動する。あの兄が照れながら不器用にでも誘ってくれたのだ。乗らない理由が夕香にはなかった。

 

 ・・・

 

「うわぁ……! こんなステージ見たことない!」

 

 マッチング終了後、彩渡商店街ガンプラチームと夕香が目にしたのは城と思われる建物の広間であった。

 目につくところには壁に螺旋階段のようなものがある。このステージを見て、ミサが驚いている。勿論、ミサだけではない。一矢も夕香も驚いている。

 

 《油断するな戦士ガンキャノン、僧侶ガンタンク、妖精ジムスナイパーカスタム!》

「「「誰がだ」」」

 

 先頭に立つロボ太は三人に注意を促すが、その際に放った名前に三人からほぼ同時にツッコみが入ると同時にエンカウントを知らせるアラートが鳴り響く。

 目の前に現れたのはサザビー、シャア専用ゲルググ、パーフェクトジオングが四機の前に立ち塞がったのだ。

 

「……気ィ抜くなよ」

「イッチこそカッコイイとこ見せてね」

 

 チラリとゲネシスはバルバトス第6形態を見やる。

 今回のゲネシスはアサルトバスター仕様ではない。リージョンカップでは戦い方を知る聖皇学園ガンプラチームが相手という事もあってアサルトバスターを採用したが、一矢個人としては身軽いこちらの方が好ましかった。

 

 一矢は言葉短く夕香に注意を促す。

 夕香もシミュレーター内でクスリと笑いながらバルバトス第6形態は身の丈程あるレンチメイスを構えるのだった……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラクロアンヒーローズ

 

 早速、現れたMS三機との戦闘が始まり、アザレアパワードがビームマシンガンを発砲するが、シャア専用ゲルググは素早い身のこなしで避けていき、ミサは苦戦しながらでも何とか隙を伺う。

 

「ありゃまっ……結構強いんだねぇ」

 

 バルバトス第6形態もまたパーフェクトジオングとぶつかり合い、放ったレンチメイスは受け止められる。

 今にもレンチメイスを持っていかれそうになるのを堪えながら夕香はパーフェクトジオングの圧倒的な馬力に驚いていた。

 

 しかしそれだけでは終わらないのが夕香だ。

 レンチメイスを持つ手をずらし、片手を手放してそのまま腕部の機関砲を発砲してパーフェクトジオングをのけ反らせる。

 

 そのまま全てのスラスターを利用して、レンチメイスを展開するとパーフェクトジオングを挟みこんで壁に叩きつけると、そのまま内部の特殊チェーンソーを稼働させ切断する。

 

「……皆、飛んで」

 

 サザビーを騎士ガンダムと共に戦う戦闘を行うなか、一矢は有効打のない戦いに溜息をつき、仲間に指示を出すと咄嗟に味方の三機は飛び上がる。

 

 すると同時にゲネシスは光の翼を最大出力で放ち、そのまま一回転する。

 伸びた光の翼を避ける事に専念するサザビーとシャア専用ゲルググではあったが、その隙に騎士ガンダムとアザレアパワードにそれぞれ額をナイトソードとビームサーベルで貫かれ撃破される。

 

 《よし、先に進むぞ》

 

 三機のMSを撃破するとロボ太が先陣を切って螺旋階段を昇りはじめる。

 珍しいロボ太のその行動にゲネシス達は顔を見合わせながらもロボ太の後を追うのであった。

 

 ・・・

 

 《……誰だ、お前は……?》

 

 赤い月が毒々しく輝く広間で騎士ガンダムよりも大柄な黒いガンダムがいた。

 

 彼はサタンガンダム。

 振り返って広間に到着した騎士ガンダム達へ低く唸るような声で問いかける。

 

 《私の名はガンダム!》

 《ガンダム……?》

 

 電磁スピアを突き出し、己の名……ではないが、問いかけに応えるロボ太にサタンガンダムは不可解そうに騎士ガンダムを見つめる。

 

「……ねぇこれ再現だよ絶対そうだよ」

「うっさいイッチ」

 

 そんなロボ太とサタンガンダムのやり取りを見て、感激したように隣に立っているバルバトス第6形態の肩を掴んで、ぐらぐらと揺らすゲネシス。

 機体が揺らされ、同時に画面も揺らいでいる事に苛立ちながら夕香は一矢に文句を口にする。

 

 《そうだ、貴様と同じ名前!》

「伝説の勇者の名だ」

(……なんか乗り始めた)

 

 力強く頷く騎士ガンダムの隣に立ち、何やらスピーカー越しにロボ太とサタンガンダムのやり取りに参加した一矢に夕香は呆れ始める。

 

 《伝説の勇者だと?》

 《私は自分の名前以外、なにも知らない。なぜ貴様と同じ名前なのかも知らぬ》

 

 一矢の言葉に反応するサタンガンダムにロボ太の騎士ガンダムは一歩前に進みながら、名前以外にもそれなりの知識は持っているが、答える。

 

 《しかし貴様のやっていることは許せん!》

「勇者は一人!魔王を騙るお前には消えてもらおう!」

 

 電磁スピアを払い、サタンガンダムに怒りをぶつけるロボ太と一矢。しかしまったく持って身に覚えがない。

 

「……なにこれ」

「……頭痛い」

 

 そんなロボ太と一矢の姿を見て、突然の寸劇に戸惑うミサと兄の突然の行動に頭痛を感じる夕香。

 SD二機のやり取りに交じるゲネシスとその後ろで互いに顔を見合わせているアザレアパワードとバルバトス第6形態の姿は中々シュールだ。

 

 《小賢しい……ッ! 雑魚は引っ込んでいろッ!!》

「──きゃぁあっっ!!?」

 

 サタンガンダムはに髑髏状の杖を取り出すとその先端が激しく光り輝き、アザレアパワードは杖から伸びた稲妻を浴びて、壁に叩きつけられてしまう。

 

 《僧侶ガンタンクッ!》

「誰がガンタンクだッ!!」

 

 吹き飛ばされたアザレアパワードを心配し、叫ぶロボ太だが、その際に言われた名前は全く違い、ミサはすぐさま機体を起こして、ツッコむ。

 

 《身の程知らずが……ッ》

 《っ……。貴様は勇者の名を汚す者……! 消えてなくなれ!!》

 

 アザレアパワードに対して吐き捨てるように言い放つサタンガンダムに遂に怒りを爆発させたロボ太こと騎士ガンダムはナイトシールドからナイトソードを引き抜き、勢いよくサタンガンダムにその切っ先を向けて、戦闘が始まる。

 

 《なにをつまらぬ事を言っている! 強いものが弱いものを滅ぼす! それが当たり前の世界だッ! 勇者も魔王も変わりあるものか!》

 

 同時に飛び出した騎士ガンダムとゲネシスの迫る二つの刃を臆することなく、寧ろ堂々と杖で受け止められる。力はサタンガンダムが上か、騎士ガンダムとゲネシスは弾き飛ばされてしまう。

 

 《それで勇者のつもりかッ! 伝説の勇者がガンダムならばそれは闇の力でこの世を支配する私の事だ!!》

 

 弾き飛ばされた騎士ガンダムとゲネシスを見つめながら、サタンガンダムは頭上に杖を掲げると、その先端は激しく光り輝き、稲妻が分裂して襲いかかる。

 

 《そんなことあるものか……! 正義の力でみんなを幸せにするのが真の勇者だッ!!》

 

 迫る稲妻を避けながら騎士ガンダムはサタンガンダムに斬りかかる。しかし先程同様にその攻撃はサタンガンダムに受け止められてしまった。

 

「なんかよく分かんないんだけど……。でも倒せば良いんでしょ」

「そう言うことだね」

 

 戦闘をしながらもまだやり取りを続けるロボ太とサタンガンダム。一矢と違って、乗る事もない夕香とミサは互いに通信を会話すると同時に騎士ガンダムに集中しているサタンガンダムの背後に回り込む。

 

 可動式2連装ビーム砲塔とマイクロミサイルが放たれれば、その射撃はサタンガンダムの背中に直撃し、爆炎を上げる。

 

 よろけるサタンガンダムに続けざまにレンチメイスで殴ろうとするバルバトス第6形態ではあったが、背後の攻撃ですぐに反応したサタンガンダムに避けられ、逆に杖で殴られてしまい吹き飛ばされる。

 

 《ぬぅぅ……!》

 

 直後に頭上から素早くゲネシスがGNソードⅢで斬りかかるがこれも再び杖で防がれてしまう。一矢はそのまま全てのスラスターを稼働させサタンガンダムを圧そうとする。

 

 《悪よ滅びろぉっっ!!》

 

 どんどんと勢いを増すゲネシスを相手にするサタンガンダムを真正面に躍り出た騎士ガンダムは地を蹴って、その額に向かってナイトソードを深々と突き刺すと、サタンガンダムは遂に地面に倒れた。

 

「大丈夫か、やったなっ! 苦しい戦いであったが……! これで森にも平和がくる! 良かった……これで王様も喜ぶぞ!」

「一矢君は何役やるつもりなの?」

 

 一々、言葉を区切る度に声を変えて一矢のゲネシスは騎士ガンダムを支える。それを傍目に見ながらミサは冷静にツッコむ。

 

 《皆が力を合わせたからこそやれたんだ!》

「ああ、さぁ帰ろう」

 

 そんなゲネシスに表情を笑顔に変えた騎士ガンダムは笑いかけていると、ゲネシスは頷き、ただただ唖然としているアザレアパワードとバルバトス第6形態を残して、歩き始めるのだが……。

 

 《──フッフッフッ……ハッハッハッハッハッ……! 愚か者ぉっ!!》

 

 しかし戦いはまだ終わってはいなかった。

 突如、サタンガンダムが笑い声を上げ、振り返るとサタンガンダムに頭上から強い光が降り立ち、その姿をドラゴンを彷彿とさせるモンスターブラックドラゴンに姿を変える。その際、発した衝撃は凄まじく騎士ガンダム達は後方へ吹き飛ばされた。

 

 《くそっ……生きていたのならばまた戦うだけだっ!!》

 《今のお前に何ができる……ッ!!》

 

 素早く起き上がった騎士ガンダムはブラックドラゴンに向かって電磁スピアを投擲しながら接近するとブラックドラゴンは電磁スピアを腕を振り払って、接近した騎士ガンダムのナイトソードを受け止める。

 

 《お前の力は既に尽きた! 消えろぉっ!!》

 

 そのまま薙ぎ払い、雷撃を浴びせる。

 サタンガンダムの時よりも凄まじい雷撃は見る見るうちに騎士ガンダムの甲冑を傷つけていく。

 

「──三種の神器はない……。けど……俺達はいる……」

 

 このままでは騎士ガンダムが危うい。

 ゲネシスはアザレアパワードとバルバトス第6形態をそれぞれ見て合図をすると、二機が頷いたのと同時にバルバトス第6形態と共に前に出る。

 

 接近するゲネシスとバルバトス第6形態にブラックドラゴンは騎士ガンダムから標的をゲネシス達へ向けて雷撃を放とうとする。しかしその前にアザレアパワードの豊富な射撃がそれを阻止した。

 

 《なに!?》

 

 アザレアパワードの援護の甲斐もあり、ゲネシスとバルバトス第6形態はそれぞれブラックドラゴンを挟み込み、GNソードⅢとレンチメイスで同時に攻撃して、レンチメイスは腕を挟み、GNソードⅢは肩に刃を突き刺す。

 

 《消えるのはお前だァッ!!》

 

 ブラックドラゴンにできた隙を見逃さず、騎士ガンダムは地を駆け、胸の六芒星に深々とナイトソードを突き刺すと、ブラックドラゴンはよろめく。

 

 

 《これで勝ったと……思うなよオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーォォォオオオッッッッ!!!!!!!》

 

 勝負はあった。

 

 ブラックドラゴンは断末魔を上げると、そのまま光と共に消え去る。

 それは今度こそロボ太達が勝利したという明確な意味を持っていた。それを現すようにバトルは終了する。

 

 ・・・

 

「──星降るとき大いなる地の裂け目から神の板を持ちて勇者現る……その名は……ガンダム……。こうしてラクロアに平和が訪れたのだ……」

 

 戦闘を終え、シミュレーターから出てきた一矢達はロボ太の隣でしたり顔で話してくるカドマツの言葉を聞く。先程のミッションに満足げな一矢の隣でミサと夕香は呆れている。

 

「それで……試験はどうだったの?」

「ああ、合格だ。リージョンカップの時も思っていたが、ロボ太の戦い方や技術は以前に比べて上回っている。それにジャパンカップに向けて改善点も分かったしな」

 

 ミサはこのバトルをした本来の目的がどうなったのか、問いかけるとカドマツの中では合格点であったのか頷いて、ロボ太をチラリと見る。

 

「さて帰って寝るわ……。ステージ作るのに徹夜したからな」

「あれ全部自作かよ!」

 

 その場で大きな欠伸をしながらロボ太を連れて歩き出す。

 その言葉からミサは今日何度目かのツッコみを入れるのだった……。

 

 ・・・

 

「あのステージなら俺も戦士ガンキャノンとか用意したのに……」

「どんだけ好きなのさ」

 

 イラトゲームパークでカドマツとロボ太と別れ、一矢達はひとまず彩渡商店街を目指していた。その中で一矢がポケットに手を突っ込みながらブツブツ呟いていると、その隣で歩いている夕香は呆れる。

 

「あれ……誰だろう?」

 

 トイショップに戻ってきたところでミサは見慣れぬ二人がいる事に気付く。

 それはアムロやシャア、誠と純のいつもの二人組ではない。パッと見て分かるのは女性というくらいだ。

 

「新規のお客さんかな……? 逃す手はないね!!」

 

 どうやら二人組はガンプラに悩んでいるようだ。

 ミサは新規の客である事に店の娘として話しかけに行き、一矢と夕香は特に参加することなく、奥の作業ブースに向かう。

 

「どんなガンプラが良いんですか?」

「え……えっと……。私、不器用だから……作りやすいのが良いかなって……」

 

 一矢と夕香は椅子に腰かけ、グイグイと客に話しかけているミサの様子を見つめる。

 見れば、完全に営業モード全開のミサに客の一人である少女は戸惑っていた。

 

「……ん? あれ……。君、雨宮一矢君?」

 

 そんな少女の隣に立っていた女性はこちらをただボーッと見つめる一矢に気づくと、一矢に覚えがあるのか、連れの少女にミサを任せ、一矢に向かっていく。

 

「いやぁ、翔君やあやこちゃんから聞いてるし、最近有名だから顔は知ってたんだよねー。こんなところで偶然会えるなんて思わなかったよっ!」

「だ、誰……?」

 

 一矢の手を取り、出会えた事に喜んでいる女性なのだが、一矢にとっては全く面識がない為に戸惑っていた。

 

「あれれー分かんない? しょうがないなぁ……。あたしはヤマモト☆ルミカっ! ガンダムブレイカー隊の一員って言えば分かるよねっ?」

 

 自分の事を分からない一矢に溜息をつきながら、女性は身に着けていたサングラスを外し、自己紹介をする。

 

 それだけ言えば一矢には十分だった。

 驚いている一矢を見ればその通りだと言う事が分かる。

 

「ヤマモト☆ルミカって……トップアイドルだよね確か。写真一緒に撮って貰って良いですか?」

「オッケー! はいチーズッ!」

 

 またガンダムブレイカー隊以外での活動を知っている夕香は特にファンと言う訳ではないが写真の許可を貰うと、ルミカと共に写真を撮る。

 

「ラッキー。SNSに載せても良いですか?」

「別に良いよ」

 

 写真を確認して、上手く取れたほうだと思いながら、ルミカにSNSに載せる許可を求めると、ルミカは別に構わないのかにこやかに了承する。

 

「どうもどうも……ありがとうございますー……ってあれ……?」

「えっ……なんですか……?」

 

 ルミカに礼を言いながら、今度はルミカと共にいた少女に視線を向ける。

 そこで何かに気づいたのか、夕香はゆっくり近づき、ジッとミサが相手をしていた少女を見つめる。

 

「……KODACHI……だっけ。確か今、売り出し中の……。前にタイムズ百貨店のイベントにもいたよね」

「えっ……あっ……」

 

 ジッと見つめながら、少女に問いかける。

 少女は困ったようにルミカを見ると、別に良いんじゃないの、と頷くルミカを見て観念したように帽子とメガネを取る。

 そこには夕香の言うようにKODACHIこと御剣コトがそこにはいた。

 

 ・・・

 

「へぇ、バラエティ番組に玩具の製造工場に……」

「はい、番組の最後で共演者の皆さんと作るっていう予定なんですけど、私、不器用で……」

 

 彼女がお忍びでこのトイショップに訪れた理由を奥の作業ブースで聞くことにしたミサ達。

 

 バラエティ番組に出演することにはなったが、番組ラストでガンプラを組み立てる予定なのだが、コト自身は物凄く不器用であり、まともにガンプラを組み立てられない。

 故に同じアイドルであり、ガンプラにそこそこ詳しいルミカの案内で休日にガンプラ作りの練習をしてみようと思い、変装がバレないよう人の少ないこの場所を選んだという事である。

 

「不器用も何も説明書通りにやれば良いんじゃ……。なに、ランナーのパーツ全部外してから組み立ててんの?」

「うーん、あたしがちょっと見た時は工具の扱いがヤバかったかなー。あれはいつか怪我するよ」

 

 黙って話を聞いていた一矢はやる気なさげに机に突っ伏しながら呆れてボソッと口を開くと、ルミカはコトの不器用さを思い出しながら苦笑する。

 

「……だったら武器セットやSD、FGから作り始めたら良いんじゃないかな。それでHGに手を出して……。ちょっと待ってて!」

 

 不器用なコトの事を考えて、何から手を出すか頭を悩ませるミサは何か思いついたように立ち上がって、ガンプラが陳列されている棚へ向かっていく。恐らくコト用に見繕う気だろう。

 

「ルミカさんも忙しいですし……。一人で作ることになるのかな……」

「イッチは……」

 

 ルミカも多忙な身。そんな中、自分に付き合ってくれた事に感謝しつつも不器用な自分がルミカがいない時、どうするか、コトが悩んでいると夕香は隣に座る一矢を見るが、彼は机に突っ伏したまま反応がない。

 

「イッチ」

「……」

「イッチ……?」

「……」

「ボッチ」

「ああ゛?」

 

 一矢を揺らしながら、コトに教えたらどうかと勧めようとする夕香だが、一矢が反応しなければ始まらない。

 彼の愛称を口にしながら、最後に放った名称に一矢が顔を上げ、夕香を睨むが反応させる事が目的だったため、夕香は勝ち誇ったように笑みを浮かべている。

 

「……収録がいつか知らないけど俺、今度、旅行行くし、予定合わないと思うんだけど」

「あぁあれ本当だったんだ。イッチの妄想かと思ってた」

 

 夕香を見て、彼女の思惑にはまったことに溜息をつき、一矢はそっぽを向きながら答える。

 彼はシュウジ達との予定がある。

 その事に夕香は驚いた様子を見せ、その反応に苛立ちながら一矢は何か思いついたように彼女を見つめる。

 

「……お前が教えてやれば」

 

 そう、自分とミサは予定が合わない。

 ならば一番、予定が合いやすいだろう夕香が教えてやれば良い。

 一矢のまさかの提案に夕香は露骨に嫌そうな顔を浮かべる。自分が他人に教えられるとは思ってないからだろう。

 

「教えてくれるなら助かります!」

「……えぇっ……。んー……アタシで良いなら良いけどさ……」

 

 夕香の手を掴むコトに戸惑いながらも、少し悩んでから、渋々、夕香は了承する。

 そうしていると、ミサはガンプラを持ってきていた。

 

「初心者セットみたいな感じで持ってきたよ! どうかな? 予算と見合えば良いけど……」

「ありがとう!」

 

 大きな袋に入ったガンプラをコトに見せるミサに感謝しつつ、会計を済ませる。

 それを見たルミカはサングラスを再びかけて席を立った。

 

「それじゃあ夕香ちゃん、連絡するね」

「あぁうん……。アタシに期待しないでね」

 

 帰り際に夕香に声をかける。

 彼女に教えると言っても自分にそんな事が出来るとは思っていない夕香は歯切れが悪いが頷いた。

 

「……一矢君は確かジャパンカップに行くんだよね?」

「……その予定ですけど……」

 

 ルミカもまた一矢に声をかけると、一矢は席を立ちながら頷く。

 

「そっか……。なら頑張って。今よりもっともっと強くなれるなら……翔君を救ってあげて」

 

 どこかサングラスの奥に複雑そうな表情を浮かべたルミカの言葉に一矢は動揺する。

 

「今の私達じゃもう翔君を助けられない。でも翔君と同じ覚醒が出来る君なら……」

 

 如月翔は憧れの人物だ。

 ここ最近、会ってはいるが彼に何か異変があるとは思えない。なのに救うとはどういうことだろうか?

 しかしその問いに答える前にルミカとコトは店を後にしてしまう。

 

「翔さんを……助ける……?」

 

 ルミカが最後に残した言葉。

 それはガンダムブレイカー隊の仲間である翔に対して心から心配しての言葉だろう。

 しかしそんなルミカでも救えない、いや、彼女の言葉からガンダムブレイカー隊の他のメンバーでも救えない。

 

 自分が気付けなかった憧れの人の異変に一矢はただ戸惑うのだった……。




ガンブレ(無印)に登場していたNPCの味方キャラであるヤマモト☆ルミカ登場です。あやこやガンダムブレイカー隊の他のメンバーもですけど声だけでどんな姿なのか分からないんですよね。

後、DLC第一弾やりました。深くは言いませんが、ウィルとミスターしか目玉がないと思っていたので、それぞれにエンカウントした時はビックリしました。

まぁただガンブレ3は一部しか俺ガンダムの名前が分からないのでそこだけが残念かなっと…。

<いただいたキャラ&ガンプラ>

刃弥さんからいただきました。

キャラクター名 御剣コト
性別:女
年齢:17歳
身長:149cm
容姿:背中まで届く黒髪のロングで顔は童顔。身長は低いが胸は非常に大きい(いわゆるロリ巨乳)

御剣ジンの実の妹で現在は『KODACHI(こだち)』という芸名でアイドル歌手をやっている。
そのスタイルからグラビア関係の仕事も依頼されることがあるが、
デビュー前から痴漢にあうこともよくあったせいで、そちら系の仕事はあまり受けたがらない。
それが原因で防犯意識が強く、常日頃からスタンガン、催涙スプレー、防犯ブザーを持ち歩いている。
現在は上京して親戚の家に滞在させてもらいながら芸能活動をしているが、毎日実家には必ず電話し、
休暇には必ず帰るという家族思いなところがある。兄・ジンのことも慕っており、将来の義姉であるサヤとも仲が良いが、
二人のバカップルぶりだけには完全に呆れている。
自身はガンプラファイターではないが、ガンプラやバトル自体は好きである。
ファイターでない理由は超不器用で自分でガンプラを組み立てられず、
シュミレーターに入っても満足に動かせず、操縦センスが全く無いため。

今回の後半のコトとの話は刃弥さんからのネタを採用し、このネタを元に書かせていただきました。素敵なキャラと共にありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その光は救いになれるのか

間が開いてすいません、色々と更新できない状況が重なり、更新出来ませんでした。
少しずつ更新していきます!


『そっか……なら頑張って。今よりもっともっと強くなれるなら……翔君を救ってあげて』

 

 一矢達は予定通り、旅行に出発していた。

 電車に乗って車窓から見える景色を漠然と見つめてはいるが、一矢の頭の中にはルミカから言われた言葉がずっと残っていた。

 

「へぇー! ヴェルさんってシュウジさんと同じチームなんですね!」

「ええ。もう一人、カガミ・ヒイラギさんって言う纏め役がいるんだけど今日はいないの」

 

 その隣ではミサが向かい側に座っているヴェルと談笑をしていた。

 今回、シュウジが提案したこの旅行には彼女も同行していた。しかしカガミは同行しなかったようで、その辺だけが少し残念そうだ。

 

「まぁ、あの人は旅行したいってタイプでもねぇしな。残念っちゃ残念だが、あの人がいると小言ばっかで旅行どころじゃねぇぜ」

「もうシュウジ君ったら」

 

 一矢の向かい側に座るシュウジは背もたれに身を預けながらぼやいていると、いつもシュウジとカガミのやり取りは間近で見ているせいもあってか、ヴェルは苦笑していた。

 

「今頃なにやってんだろうな……」

 

 とはいえ、なんだかんだでカガミを悪いようには思ってはいないようで、彼女のことを考えているのか、一矢と同じようにふと車窓から見える景色に目をやる。

 

「あっ……、あれが目的地!?」

 

 ふと、ずっと会話に参加せずに考え事をしている一矢に気づき、声をかけようとした瞬間、車窓から海が見え、ミサが身を乗り出して指差す。

 

「“こっち”の海はまだ綺麗なんだね」

「まぁ……こっちは派手なドンパチはありませんしね」

 

 ヴェルも海を見ながらどこか羨ましそうに呟くと、彼女の言葉の意味をただ一人、知るシュウジはどこかもの悲しげな表情で答えながら、二人は窓から見えるこの雄大な海の景色を目に焼き付けるのだった。

 

 ・・・

 

 一方、彩渡町を歩いているのはカガミだった。

 彼女はシュウジの提案する旅行に乗り気ではなく、現在、シュウジ、ヴェル、カガミの三人が居候している翔の近くにいる事を選んでいた。

 

(……異世界と聞いて、どんな物なのかと思ってはいたけれど……MS(モビルスーツ)どころか漸く宇宙エレベーターが完成……文明としてはまだまだ発展途中なのね)

 

 彼女はその目でこの世界の事を調べていた。

 自身が慕う如月翔の本来の世界だという事もあり、多少の期待はしていたが、蓋を開けてみれば自分達の世界では何百年も前の技術が最新技術と言われているのだ。

 正直、こちらの最新機器なども自分の世界では似たような物がずっと過去にあり、自分はそれを資料としてしか見た事がないぐらいだ。

 

「──お姉さん、ちょっと良いかのぉ?」

 

 そんなカガミに声をかける青年がいた。チラリと一瞥すればそこには作務衣が着た青年がいた。その後ろには青年の同行者と思われる少女が二人と一人の女性がいた。

 

「彩渡商店街と言う所に行きたいのじゃが……道が分からなくての。良かったら教えてもらえると嬉しいのじゃが……」

「……ごめんなさい、私もこの辺りには詳しくないの。寧ろ今、散策してるところよ」

 

 青年の名前は砂谷厳也(すなたにげんや)

 どうやら彼はこの土地に来たばかりらしく彩渡商店街に行きたくともその場所が分からないでいたようだ。

 しかし彼が聞いた相手が悪かった。

 カガミは口ではそう言っているが、実際の所、この辺りどころかこの世界の事は碌に知らない。

 

「ほおほお……ならご一緒いかがかな、お姉さん。途中で喫茶店にでも寄って──」

「ちょっと何で途中からナンパになってんのよ!?」

 

 それはそれで好都合と言わんばかりにカガミに話を進める厳也ではあったが、その途中で今まで黙って後ろに控えていたゴスロリ服の少女……荒峰文華(あらふねふみか)が厳也の腕を引っ張り、眉間に皺を寄せながら怒鳴る。

 

「一々、お前は口やかましいのぉ……!」

「だったらもう少し自重しなさいよ!」

 

 途中で口出されてしまったことに文句を言い始める厳也だが、すぐに反論されてしまう。

 文華のように文句は言わないもののナンパをしだした厳也を涙目で睨んでいた桜波咲(さくらなみさき)も口喧嘩になり始めた二人に慌て始め、この中で年長者の御船珠湖(ふみねたまこ)はそんな三人を見て笑いながら顎に手を添え、楽しんでいた。

 

『あぁもうっ! アンタが変に口出すからッ!!』

『……貴方が前に出すぎるのよ。死にたがりなら別だけど人の言うことを聞きなさい』

 

 そんな厳也と文華のやり取りを見て、カガミは自分とシュウジの口喧嘩をする姿を重ねる。今では少しはマシにはなったとはいえ、自分、ヴェル、シュウジの三人で隊を組んだ初期の頃のシュウジはまさに問題児であった。

 

「……良いわ、一緒に行っても」

 

 今思えばよくも三人でここまでやれたものだ。

 懐かしむようにふぅっと息をついたカガミは厳也の誘いに乗る。まさか了承するとは思っていなかった文華は目を丸くしてカガミを見やる。

 

「……喫茶店に行く気はないけれど……私も……彩渡商店街に行こうとは考えていたもの。だから良いわ。……迷惑でなければの話だけど」

「迷惑って言う訳はないですけど……本当に良いんですか?」

 

 彩渡商店街に行こうと思っていたのは同じ事だ。

 シュウジから聞いたが、あそこには如月翔が技術を教えたという青年が本拠地にしているという話だ。

 今はシュウジと一緒にいるようだが、どんな場所なのか興味がないわけではない。

 そんなカガミに文華は伺うように尋ねる。もしかしたら気を使っているのではと考えたからだ。しかしカガミはそう言う訳ではなく、コクリと静かに頷き、カガミと厳也達は彩渡商店街に向かうのだった……。

 

 ・・・

 

「……なぁ一矢、なんか合ったのかよ?」

 

 あれから宿泊するホテルに着いたシュウジ達は男女で分かれてそれぞれの部屋に向かっていた。

 一矢とシュウジが泊まる部屋に荷物を置きながら、シュウジはこの旅行に来て、一言二言しか喋らない一矢を怪訝に思い、問いかける。彼やミサの為に企画した旅行なのに肝心の一矢が心ここにあらずなのでは話にならないからだ。

 

「……翔さん……。何かあったの?」

 

 ここで漸く一矢が静かに口を開く。

 突然、翔の話題になり僅かに驚くシュウジであったが、途端に神妙な表情に変わる。

 

「俺……ある人に言われたんだ。俺なら翔さんを救える……助けられるって……」

「……忘れろ。お前にどうにか出来る問題でもないし、理解できる話でもねぇ」

 

 誰が言ったかは分からないが、余計な事を……。そう言わんばかりに一矢の言葉を聞いたシュウジは溜息をつきながら首を振り、一矢に忘れるように促すが……。

 

「覚醒が出来る俺ならって言われたんだ……。だったら……」

「そんなんで根本的な問題が解決できるかよ。もう一度言うぜ、忘れろ」

 

 覚醒できる人間は少ない。

 半ば使命感のようなものを帯びながらシュウジに訴えかけようとする一矢であるが、シュウジはまるで射貫くかのような鋭い視線をぶつけられて言葉を詰まらせてしまう

 

「大体、覚醒って……バトルでどうにかって事か? ……俺より強ぇならまだしもな」

「……あの時とは違うと思うけど」

 

 一矢の救う方法の覚醒という言葉からすぐにガンプラバトルだと察したシュウジは鼻で笑う。そんなシュウジの態度と憧れる如月翔の為、引き下がらない一矢は眉間に皺を寄せながらシュウジに突っかかる。

 

「ハハッ……大きく出るじゃねぇか……。なら見せてもらうぜ、ついて来いよ。今回の旅行でお前を鍛えてやろうと思ってたしな」

 

 一矢の言葉に面白そうな笑みを浮かべながら荷物の中からケースに納められたバーニングブレイカーを取り出す。シュウジの誘いに頷いた一矢もゲネシスが入っているケースを取り出す。

 

 ・・・

 

「あれ、シュウジ君達どこか行くの?」

「ええ、ちょっとガンプラバトルを。昼までに戻りますよ」

 

 廊下に出るとたまたまヴェルとミサに居合わせた。

 ヴェルの問いかけにシュウジはこれからの予定を軽く説明する。

 

「ガンプラバトル……。ねぇ私も一緒に行って良いかな」

 

 するとヴェルはガンプラバトルに興味があるのか、同行を申し出るとシュウジは意外そうな表情を浮かべながらも、微笑を浮かべながら頷き、一人残るのもアレであると思ったミサも同行するのであった。

 

 ・・・

 あれから数十分、最寄りのゲームセンターにやって来たシュウジと一矢はシミュレーターに乗り込み、ヴェルとミサは外に設置されているモニターを見ながら見物していた。

 

「プラモデルでゲームって凄いね」

「ヴェルさんはガンプラバトルした事ないんですか?」

「一応、借り物でガンプラは持ってきてはいるんだけど、やった事はないの」

 

 モニターに映るガンプラバトルを見ながら、プラモデルでゲームという発想に驚いているヴェルとシュウジのチームと聞いていたので、意外そうにしている問いかける。

 しかしチームはチームでもそれはMS隊としてだ。当然、ヴェルやカガミはガンプラバトルをした事はない。

 

「あっ、始まるみたいですよ」

 

 そうしている間に店内対戦によるマッチングが終了したのか、フィールドにバーニングブレイカーとゲネシスの姿が映し出され、それに気づいたミサはヴェルと共にバトルを観戦する。

 

 ・・・

 

 市街地のフィールド上にはゲネシスとバーニングブレイカーが対峙していた。

 相手はシュウジ、口ではあぁ言ってしまったものの勝てる算段などない。全力で向かう。ただそれだけだった。

 

(たかがゲームの中でピカピカ光るだけで翔さんが救えるかよ)

 

 対峙するゲネシスを見つめ、先程の一矢の言葉を思い出して苛立ちを感じる。

 翔が直面している問題は自分も知っている。

 しかしアレは自分でもどうにも出来ない。それがシュウジの苛立ちの中には含まれていた。

 そもそも真にこの世界に如月翔を理解できる人間がいるのだろうか。

 少なくとも彼が体験した事を話したとしても、荒唐無稽と受け止られる、故に彼は自分が体験した事をこの世界の人間には一切話していない。

 

 彼の周りに真に彼を理解できる人間はいない。

 あやこもそして翔が体験した事を知っているシュウジやカガミ、ヴェルでさえだ。

 今、翔を理解できるのは自分達の世界にいるリーナ・ハイゼンベルグだけであろう。しかし彼女はこの世界にはいない。今の如月翔はある意味で孤独であった。

 

「来い、一矢!」

 

 とはいえ、一矢が本気で来ると察知したシュウジは好戦的な笑みを浮かべる。

 今の一矢はライバルとの闘いを経て、成長している。それをこれから感じられると言うのは喜ばしい事だ。バーニングブレイカーは股を開き、右手を突き出して左拳を引き構えを取るのだった……。





<いただいたキャラ&ガンプラ>

不安将軍さんからいただきました。

キャラクター名:砂谷厳也(すなたに げんや)

キャラ設定など
髪:寝癖が付いたままの少し長め黒髪
目:隈がある睨んでるような細めの三白眼(黒目)
容姿:身長180cmの中肉中背だが少し筋肉質
肌の色:そこそこ日焼けしている
年齢:17歳の高校二年生
性格:人懐っこく、作業などの大事な仕事以外は大雑把で面倒臭がる遊び好きなムードメーカー
一人称:わし 爺口調
二人称:基本は名前呼びで呼び捨て(許された場合のみ)。年上の場合はさん付け

高知県代表のチームリーダーだが、大抵の事は副リーダーで幼馴染の荒峰文華に任している。
目つきが悪いせいか不良に間違われることが多い事に悩んでおり、主人公とかに相談したりしている。
よく喋り、男女問わず友人が多いのだが可愛い女の子などを見たらすぐナンパするという困った一面を持っている。荒峰文香とはよく口喧嘩したり喧嘩の延長戦でガンプラバトルをやり合う関係だが仲が悪いというのでなく、信頼し合ってるからやりあってるらしい。
後輩の桜波咲は後輩として可愛がっており、先輩として良い所を見せたいと張り切ってやってるがその恋心に気づいておらず、ナンパする度に睨まれたり半泣きにしては謝罪を繰り返したり買物に付き合ったりなどをしてる。

戦法は主に近距離戦を得意にし、立体的な高速移動をしながらミサイルやマシンガンを撃ちつつ近付きシールド攻撃やビーム・ナギナタでの連続攻撃を繰り出す。ミサイルなどは煙幕代わりに用いる事もある。シールドビットは状況によって攻撃や防御に使用し、アンカーを使って奇抜な動きをしたり一気に敵機に近づく為にやったりする

キャラクター名:荒峰文華(あらみね ふみか)

キャラ設定など
髪:腰まであるゆるふわなウェーブで茶髪
目:やや吊り目で茶色
容姿:身長147cmの細身。年齢よりも若く見られるロリっ娘で少女体形
肌の色:色白
年齢:17歳の高校二年生
性格:男勝りで強気。やる事はどんな事でもきちんとやるが親しくない相手とはあまり喋らず、少し男嫌い
一人称:私 普通の口調(~よ ~ね ~かしら ~でしょ)
二人称:名前呼びで同年代・年下の男は君付け、女はちゃん付け。年上ならさん付け
    砂谷厳也だけは名前で呼び捨て

高知県代表の副リーダーで、リーダーがやらない手続きなどを文句を言いながらやっている。
外見こそ人形のように可愛いと言われるが趣味で武術を学んでいる為に下手な男よりも強く男前。
ハキハキ喋り、歯に衣着せぬ物言いでダメな所などをちゃんと指摘したりしてるが本人は相手の為になるならと思ってのことで悪気はない。幼馴染である砂谷厳也には幼い頃に助けてもらったりして感謝してるが口に出さず、日頃の行いなどについて口喧嘩したりし合っており、恋心はないが何時までも親友でありたいと願っている。
後輩の桜波咲の恋を応援し、助力してるが上手くいかない事に悩んでいる。先輩後輩だが仲が良い

戦法は中距離を維持しつつ射撃などによる近接支援、遠距離から狙う者には砲撃などを行う。一気に加速しつつ撃ちまくり、敵機に近付いたらショットガンを乱射して直ぐ離脱するという一撃離脱戦法も得意とする。指揮したりするが時にリーダーに判断を仰いだりする。近接戦闘はあまりしたがらないが拡張装備などが使用できなくなったらパージしてでも近接戦に移行する

キャラクター名:桜波咲(さくらなみ さき)

キャラ設定など
髪:艶があるベリーロングヘアでストレートの黒髪。前髪は両目が隠れるぐらい長い
目:普段は隠れてるが黒く、たれ目
容姿:身長176cmの細身だがわがままボディ。胸はかなり大きい
肌の色:色白
年齢:16歳の高校一年生
性格:優しく大人しめの照れ屋。少し天然な所もあるが人見知りで、知人と一緒の行動を好む
一人称:私 穏やかで常に敬語
二人称:誰にでもさん付けし、年下の男子だけは君付け

高知県代表のチームメンバーの一人で雑務などを率先してやっている。裕福な家庭の生まれで砂谷厳也と荒峰文香に出会う中学一年までガンプラを知らなかったお嬢様。人見知りの為に知らない人物と会話は焦りながらしつつ、知人とならばまともに喋れる。中学時代に砂谷厳也と接する内に恋心を抱くが告白はまだできず、お弁当を作ったりして渡してるがより積極的な行動をすべきか悩んでいる。荒峰文香は良き先輩であり自身の恋を応援してくれる恩人と見ており、互いの家に泊まって遊んだりしている。ガンプラバトルする時は髪を括り、前髪をバレッタで留めて目を露わにさせる。素顔はかなり綺麗で美少女だが本人は自覚してない

戦法は遠距離からの狙撃や砲撃を重視し、機体に大量に積まれているシールドビットなどで防御や近寄らせない様に弾幕を張って妨害したりもする。それでも近寄られた場合はシールドフラッシュで目を眩ませてる内に距離を取る。近接戦は最後の手段と考えており、指示されるか窮地に追い込まれる時までやろうとしない

キャラクター名:御船珠湖(みふね たまこ)
キャラ設定など
髪:首元まで伸ばしている赤茶色の癖毛で、ポニテにしている
目:猫目の黒
容姿:身長163cmのスレンダーな体形。胸はまぁまぁある
肌の色:健康的な肌色
年齢:32歳
性格:楽天家でのんびり屋。常に面白い事や好きな事を追い求めている
一人称:うち 関西弁
二人称:同年代・年下なら男は名前呼びで女はちゃん付け。年上ならさん付け

高知県代表のチームの保護者という面目で一緒に来た三人が通っている高校の体育教師。三人の行動を笑いながら見ており、たまに昼間から酒を飲んだりして軽く酔っ払う。ガンプラバトルもできるがガンプラを持たずに来たためやれない。結婚しており子持ちだが、今回は旦那(専業主夫)に任せてやってきた。自分の名前をあまり良く思っておらずタマと呼ばれたら静かに怒ったりするので注意を。

チーム自体の設定など
三人とも同じ中学・高校に在校しており、学校でも一緒に行動してた。県代表に選ばれて直ぐに観光を兼ねて主人公達が居る街に高知からやって来て大会が終わるまでホテルで宿泊しており、主人公達とはその時に出会う。三人の戦闘方法は砂谷厳也の趣味であるテレビゲームを参考にしており、たまにそれで練習代わりにしている。
私服は砂谷厳也:作務衣・Tシャツ長ズボン 荒峰文華:ゴスロリ服 桜波咲:ブラウスにロングスカート 御船珠湖:スーツ姿かジャージ

素敵なキャラありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

放たれるは不敗の拳 その姿は覇王の如し

 ゲネシスとバーニングブレイカーによるガンプラバトルが始まった。その激しさは凄まじいものがあり、ミサもヴェルもその視線はモニターに釘付けになる。

 

「綺麗……」

 

 しかしここであまりにも場違いな言葉がミサの口から漏れる。

 しかし隣で見ているヴェルはそれを何らおかしいとは思わない。何故ならば彼女も同じように感じていたからだ。

 

 彼女達の視線の先にはバーニングブレイカーがいた。

 彼女たちは、いや特にこうやって傍から初めて見るミサは魅せられているのだ、バーニングブレイカーの動きに。

 

 ──覇王不敗流。

 

 それがシュウジが扱う流派だ。

 それは彼の師匠であるショウマ、そしてフェズやヤマトから叩き込まれたもの。それ以外にも彼はショウマの妻であるリンから教わった少林寺拳法や今までの旅で身に着けた技術がある。

 

 その経験や技は全てこのガンプラバトルにも彼の操縦によって反映されている。

 ゲネシスの攻撃を紙一重で避け、カウンターのように放たれる一撃、その一挙手一投足がまるで演武の如く、まさに一つの舞のように独特の妖艶さを持って見る者を魅了する。

 

(これを間近やMF(モビルファイター)だったらもっと凄いんだけどね)

 

 チームメイトである一矢は有効打のないまま圧倒されている。

 その事実さえ映らない程、目を奪われているミサを横目にヴェルがクスリと笑う。

 

 これはあくまでガンプラバトル。

 操縦桿を握って行うものだ。しかし本来、シュウジが修行の際などにその身をもって魅せる動きや共にMS戦に出撃した際に彼の動きが反映されたモビルトレースシステムによるMFバーニングブレイカーの動きを見てきたヴェルからすればやはりどこか物足りなく感じる。

 

 とはいえこうやって覇王不敗流の動きを出来る限り反映させているシュウジはやはり一種の才能があるのだろう。しかし彼の師匠であるショウマはガンプラバトルよりも複雑なMSの操縦でも覇王不敗流の技を使ったと言うのだからこの師弟は末恐ろしく感じる。

 

 ・・・

 

「ちっ……」

 

 しかし見る者を魅了する一つの舞のような受け流しをするバーニングブレイカーは対峙している者にとっては忌々しいだけである。なにせ自分の攻撃がことごとく受け流され、攻撃が当たることがない。

 

 遠距離に徹しようにも既に近距離の時点でバーニングブレイカーが逃すはずもなくずっと付かず離れずの距離でバトルが行われている。思ったようなバトルにならず堪らず一矢は舌打ちしてしまう。

 

 このままでは遅かれ早かれ自分の負けだ。

 ならばせめて一矢報いたい。その思いを胸に表示された覚醒を選択し、その紅の光はゲネシスの機体その物を包み込む。

 

「待ちくたびれたぜ」

 

 一方、シュウジは覚醒の光を纏ったゲネシスを見つめて、ニヤリと笑みをこぼす。

 正直、今までずっとゲネシスの攻撃を受け流す事に徹していたのは覚醒を待つ意味合いもあった。少なくともここからはシュウジもまだ知らない一矢の真の実力が知れるのだ。自然と気分も高揚するというもの。

 

 目の前にいた筈のゲネシスがVの字を残して姿を消す。

 目には自信のあるシュウジでさえ追えなかった程である。流石にこれにはシュウジも目を見開く。すると次の瞬間、バーニングブレイカーは背後から攻撃を受ける。まともに攻撃を受けたのはこれが初めてだ。

 

 ・・・

 

「一矢君、頑張って!」

 

 バーニングブレイカーの動きに魅入っていたミサも反撃に転じたゲネシスを見て声に出して応援をする。少し前まではまさに手も足も出せなかったシュウジに攻撃を加える事が出来たのだ。それだけでもチームメイトは成長している。

 

(シュウジ君、今回は気配を感じられないね。どうするのかな?)

 

 チームメイトを応援するミサを微笑ましそうに見つめながら、ヴェルは今度はビームやミサイル、二つの大型ガトリングと射撃の嵐に見舞われるバーニングブレイカーを見ながら、悪戯っ子のように笑う。

 

 今までヴェルが見てきた経験の中でMFに乗り込んで、実戦で戦う覇王不敗流の使い手達は目にも止まらぬ相手や自分を翻弄する相手と戦った事はある。その際に彼らがとった対抗策は肉眼に捉われず、MSに乗る人間その物の気配を感じ取って反撃に転じたのだ。

 漫画やアニメのような話だと思うが、流石にショウマやシュウジが実行して見せた時は開いた口がふさがらなかった。

 

 ・・・

 

(まっ……ピカピカ光ったところでこんなもんだろ)

 

 ビームやミサイル、弾丸の嵐の中にいるバーニングブレイカー、シュウジは案外、冷静であった。よく見ればバーニングブレイカーに目立った損傷は見えない。初見こそ驚いたもののシュウジは一矢の攻撃パターンその物を読み取って少しずつではあるが対処していた。

 

「旋風竜巻蹴りッ!!」

 

 しかしそれもこれで終わりだ。

 バーニングブレイカーはその身を高速回転させ、その回転エネルギーは竜巻と変化し、周囲に突風を引き起こす。

 これはかつて一矢達に見せた流星螺旋拳同様にその技を理解して放っている。その竜巻は迫る銃撃を全て無効化する。それが少なからず一矢の動揺に繋がる。機体の動きこそは止めないが、その速度が少し遅くなる。

 

 しかしその技は延々と続くものではない。

 バトルにおけるスラスターの限界と言うのもあるのだ。残り少なくなったスラスターのゲージを横目にシュウジは技を止め、同時にゲネシスが斬りかかる。技が終わったこの瞬間こそ一矢のねらい目だからだ。

 

 あんなに回転を行ったのであればスラスターの消費は激しいだろうし、例え多少残していたとしてもどうにもならないはずだ。現に姿を現したバーニングブレイカーはこちらを見てはいるが、バルカンによる牽制だけで動きと言えばそのまま自由落下しているだけだ。

 

 そのまま何度もバーニングブレイカー相手に翻弄しながら何度も攻撃を仕掛ける。放たれたミサイルはバーニングブレイカーに直撃し、その反動でバーニングブレイカーは吹き飛び、まもなく地面に叩きつけられる。

 

 これで終わりだ。

 そう思い、明確な一撃を与える為にGNソードⅢを展開してバーニングブレイカーにまるでUFOのように直角に移動しながら近づいていく。

 

 ここで一矢は再び驚いたのだ。

 バーニングブレイカーは残り少ないスラスターを使用して姿勢を整えたと思ったら、地面に向かって勢いを利用して、そのまま拳を叩き込んだからだ。

 

 勢いのある一撃によって周囲には土煙が舞い、その範囲は広くバーニングブレイカーに近づくゲネシスも覆う。今更勢いは殺せない。バーニングブレイカーへ向かうゲネシスは土煙の中を進み、シュウジにとってどこにいるのか予想が立てやすくなる。

 

「ッ!?」

 

 土煙を抜けたゲネシスは渾身の一撃を放つ。

 それはバーニングブレイカーの胴体を狙った一撃であった。しかし既に土煙の中からゲネシスを捉えていたバーニングブレイカーは身体を大きく捻り右ひざと右ひじで同時にGNソードⅢの刃を挟み込む。

 

 挟まれた事で身動きが取れないゲネシスはすぐさま大型ガトリングを発砲しようとするがその前にバーニングブレイカーがメインカメラ目掛けて拳を叩き込み、仰け反ってしまう。

 

「───俺のこの手が輝き吼える……! 未来を掴めと羽ばたき叫ぶッ!!」

 

 同時にバーニングブレイカーは背面ジェネレーターを展開、日輪を輝かせている。

 立て構えられたバーニングブレイカーの右腕の甲に前腕のカバーが覆い、エネルギーが右マニピュレーターに集中している。

 

「バアアアァァァァァーーーーーーーーァアアアニングゥッ!!!フィンッッガア

 アアァァァァァァァーーーーーーーーーアアアアッッッッ!!!!!!」

 

 流れるような動作で、腕に軸回転を加え、肩、肘、手首を全て連動させてゲネシスのコクピット部分へ内側に捻り込むことで放たれた一撃はゲネシスの胴体を突き破る。

 それはかつて異世界で同じ名前を冠するMFが悪魔を葬る際に放たれた技。全てを焼き尽くさんとその拳は赤く光り輝く。

 

「エヴェイユ……。俺が翔さんについて教えられんのはこの名前だけだ」

 

 爆散するのは時間の問題。

 その刹那、通信越しに放たれた聞きなれぬ単語。それが何の意味があるのか一矢にはさっぱり分からない。そうしているとシュウジの熱の篭ったヒートエンドの言葉と共にゲネシスは爆発するのだった……。

 

 ・・・

 

「一矢君、前よりずっとずっと凄かったよ!」

「……変に慰めなくていいよ。無様無様……。一矢の一はマイナスだから」

 

 シミュレーターから出てきた一矢。その表情はいつもと変わらず暗い。

 以前、シュウジとバトルをした際は3対1の状況でも手も足も出ずに負けた。しかし今回は少なくてもシュウジに攻撃を当て、更にはシュウジにも以前、見せなかったEXアクションを使わせた。

 そんな一矢に健闘を称えるミサであったが、ネガティブ全開の一矢はどんよりと負のオーラをまき散らしながら答える。戦う前に大口を言っておいてのこの結果に一矢は落ち込んでいた。

 

「って言うか、あのバーニングフィンガーってゴッドフィンガーじゃないの?」

「アセンブルシステムをちょいと改良したんだよ」

 

 同じくシミュレーターから出てきてヴェルと話しているシュウジに最後に放ったバーニングフィンガーについて尋ねる。シュウジは手をひらひらさせながら面倒臭そうに答えていた。

 

 ・・・

 

「いやぁーっ美味しいねっ!」

「そ、そうですね……」

 

 時刻は丁度、昼だ。

 あの後、四人はそのまま昼食の流れとなり、近くの食事処に足を運び注文した料理を食べてはヴェルは頬を押さえながらとろけるような笑顔を浮かべる。

 しかし向かい側に座るミサや一矢はそんなヴェルの方を見て表情を引き攣らせる。

 二人の視線の先には綺麗に食べられ、積まれた食器類がある。既に2人分以上は食しているだろう。

 

「この人、俺より食うんだよ。まぁ気にすんな」

 

 その隣で既に食べ終え、水を飲みながらシュウジはヴェルを見て唖然としている二人に声をかける。

 シュウジもヴェルと初めて食事をした時こそ驚いたが、もう既に見慣れた光景なのか特に気にした様子はない。

 

 とはいえいつもよりも食べている気がする。

 もっともその理由も分かってはいる。

 ヴェルの言葉通りだろう。自分達の世界は長きに渡る戦争のせいで荒廃している。戦争が終結し、コロニー軍残党のパッサートを壊滅させた今でもまだまだ復興には時間がかかる。それは地球もコロニーも同じことだ。

 

 当然、そんな世界ではまともな食事は出来ない。

 シュウジも初めてこの世界の料理を見た時はその味などに驚き、この世界に生きる人々を羨ましがった。

 

「そう言えばホテルで鍛えてやるとか言ってたけど……」

「ん? あぁ……お前らジャパンカップに出ようってんだろ? なら特に一矢、お前に覇王不敗流の技をちょっと教えてやろうと思ってな。無駄にはならねぇだろ」

 

 一矢は食事を終え、水ばかり飲んでいるシュウジに声をかける。

 少し険悪になったあの部屋で口にしたシュウジのあの言葉。

 聞く限り、シュウジは元々、なにかを予定していたようだ。するとシュウジはグラスを静かに置き、拳を鳴らしながら答える。

 

「まっ、本格的に教えるわけじゃねぇ。あくまで参考程度って所だ。今はそれより旅行らしい楽しみ方をしようじゃねぇか」

 

 身体を動かすのかと露骨に嫌そうな顔を浮かべる一矢に苦笑しながら、シュウジはこの後の予定について話し合うのだった……。




彩渡商店街の方もやる予定でしたが、長くなったので次回。

シュウジの口から出てきたエヴェイユの言葉。ヒントどころか前作を知る人にとっては、もはや答えのようなもんですわな。個人的に食事シーンを書いていて、前作ももっと書きたかったなって感じです。

元々、翔自体が一般人の感性を持つ人間が異世界に飛ばされたらって話を書きたくて書いたので、今思い返すと食文化の違いを筆頭にもっとこう書きたかったなって思い浮かぶんですよね。まぁ前作自体、EX編の最終回の後書きで書きましたが、結構没案があったり…。あれだけじゃないんですよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真夏の下で

「……ん? どうした?」

 

 一矢達は現在、海で遊ぶため脱衣所で着替えている所だ。

 のそのそと上着を脱いでいる一矢は何げなく隣で着替えているシュウジを見やり、目を見開いて動きを止める。そんな一矢に気づき、シュウジは着替えの手を止めた。

 

「……傷のことか? まぁ俺も色々あったって事だ。気にすんな」

 

 シュウジの肉体はやはり覇王不敗流という流派を扱うだけあって、腹筋が割れ、引き締まった美しい身体をしていた。だがそれで一矢は動きを止めたわけではない。

 

 火傷、弾痕、切り傷、刺し傷、その美しい肉体にはあまりにも不似合いな生々しい傷痕が残っているのだ。そしてそのことを察したシュウジは軽く笑い、そのまま上着を羽織って着替え終えると一矢の頭をクシャッと撫で、そのまま先に外へ出た為、一矢も慌てて着替えてその後を追う。

 

「──あっ、シュウジ君達、こっちだよ」

 

 シュウジの後を慌てて追った水着姿の一矢はシュウジと合流すると今度はどこからかヴェルの呼び声が聞こえ、声を頼りにその方向を向くとそこには水着姿のヴェルとミサがいた。

 

 水着姿のヴェルはどこか大人らしいセクシーな魅力を魅せる。

 その艶やかな肌を見せるブラックのレース生地の水着と着痩せするタイプなのかホルダーネックの水着に支えられる胸は中々の物だ。

 

 その隣でミサは「ヴェルの胸を横目にジッと見つめている。

 そんな彼女の水着はフリルの物であった。波のようなフリルとマリンブルーのその水着は彼女自身は気づいていないが、少女であるミサの可愛らしさを存分に引き出している。

 

「おーおー。ガキには刺激が強すぎかな」

 

 ヴェルとミサ、二人の水着姿に気怠そうな一矢もどぎまぎした様子を見せ、それに気づいたシュウジはニヤニヤと笑って一矢の肩を肘掛け代わりに片肘を乗せて寄りかかりながら彼をからかう。

 

「どこを見ればいい……? ただ見る分なら大丈夫だよな……?」

「視姦でもする気かお前は」

 

 照れた様子でそのまま肩に肘を乗せているシュウジに慌てふためきながら問いかける一矢に何言ってんだコイツは、とまさにそんな呆れた表情で答えながら落ち着くよう諭す。

 

「それよりお前の相方、何とかしろよ」

「えっ?」

 

 すると何かに気づいたシュウジはやれやれと首を振ると、ミサが一体どうしたのか、と落ち着いた一矢はそのままミサを見る。

 

「ミサちゃん凄い可愛いでしょ? 私も思ってたんだー」

「……」

 

 ミサの後ろから両手を肩に置いて、その可愛らしさをアピールするヴェルなのだが、彼女自身は気づいていないが、彼女の豊満な胸がそのままミサの後頭部に押し付けられるような形になっている。それ故、肝心のミサは自身の胸の前にビーチボールを持ちわなわなと震えている。

 

「凄い葛藤が見える……」

「あれだな……。自分の胸がないから後ろにあたる胸が気になんだろ。今すぐにでも退かしたいけどヴェルさんに悪気はないからあのまま、と……」

 

 そんなミサの様子を見て、困惑した様子の一矢の隣でシュウジは冷静にミサの心境を分析する。しかしその言葉がミサの耳に入ったのか、そのまま凄まじい勢いで無言のまま手に持つビーチボールは投げられた。

 

「イテッ!? ……っー……よく胸を気にするとかあるけどそんなに気になるもんなの……?」

「そりゃお前……。今のミサは……そうだな……。俺とお前のアレを計ったらお前の方が凄い小さかったとかヤだろ? 出来りゃ大きい方が良いだろ」

 

 投げられたビーチボールをシュウジを狙ったものであったが、コントロールが悪かったのかそのまま隣にいる一矢に当たってしまった。

 鼻を抑える一矢の口から出た疑問にシュウジは自分なりに答え、そのままビーチボールを拾うと、四人は海を楽しむのだった……。

 

 ・・・

 

「高知県の代表……?」

「うぬ、今度のジャパンカップにわし等三人で出場するのじゃ」

 

 一方、彩渡商店街へと向かう道中で何気ない会話をするカガミと厳也達。高知県と言われても、日系人のカガミにとってはあくまで地名を何となく知っているだけであり、イメージも湧かない。

 

「おっ、あれやないか」

 

 そんな中、何かに気づいた珠瑚が前方を指差す。

 一同、その指先を目線で追ってみるとそこには彩渡商店街のアーチが見える。そのままアーチをくぐって、彩渡商店街に足を踏み入れる一同。

 

 そのまま商店街の様子を見てみるとまばらではあるが人の姿が見える。

 半ばゴーストタウンのようになっていた過去の惨状を知るミサなどにとっては喜ばしい事であり、彩渡商店街ガンプラチームの活動は無駄ではなかった結果である。

 

「ここ、ですよね……。彩渡商店街ガンプラチームの本拠地……?」

 

 それからすぐにミサの実家であるトイショップに辿り着いた一同。リージョンカップの優勝を果たしたという事もあってか、それなりの賑わいを見せる店内を外から見ながら咲が厳也達に問いかけると、彼らも多分、と言った様子で頷き、いつまでも店外から眺めているのもどうかと思ったのか、そのまま入店すると店番を務めていたユウイチが軽く来客へ挨拶をする。

 

「あの……ここに彩渡商店街ガンプラチームの方などはいらっしゃいますか?」

「ん? あー……ごめんね。彼らは今日、旅行に行っていていないんだ」

 

 店を見渡しても、それらしい人物はいない。

 文華はユウイチに彩渡商店街ガンプラチームの所在を伺う。

 こうした質問などは本来、リーダーである厳也がするべきなのだろうが、当人はどこ吹く風か店内を見渡している為、溜息をつきつつも副リーダーである彼女が質問したと言う訳だ。文華の問いかけにユウイチが残念そうな表情で答える。

 

「完全に入れ違いになったみたいね」

 

 誰もが思っている事を代表してカガミがポツリと呟く。

 目当ての人物はいなかった。残念でしかないだろう。

 元々、厳也達がこの場を目指したのも一矢達のリージョンカップの試合を彼らも中継で見ていたからだ。

 そんな彩渡商店街の近くに宿泊している事もあり、挨拶がてらに来てみたのだが、いざ到着すれば完全な入れ違い。落胆せずにはいられない。

 

「──なになにイッチ達にお客?」

 

 そんな彼らに声をかける者がいた。

 厳也達が声の方向を見れば、店の奥に設置されている作業ブースで椅子を傾けて、こちらを見る夕香の姿があった。その近くにはニッパーを持ってパーツのついたランナーとにらめっこをしているコトの姿もある。

 

 何故、彼女達がここにいるのか?

 単純な話である。約束通り、夕香がコトにガンプラ作りを教えているのだ。それにここならば、設備も十分であり申し分がない。

 

「貴女は?」

「アタシ? アタシは雨宮夕香。お探しの彩渡商店街ガンプラチームの一人、雨宮一矢の妹だよー」

 

 話に入って来た夕香だが、初対面である以上、一体、誰なのかが分からない。

 故に文華が問いかけると両手を後ろに組んで僅かに屈みながら夕香が簡単に彼女達に分かり易く自己紹介をする。

 

「妹さんじゃったか。妹さんもガンプラを?」

「まぁ暇潰し程度にはねー」

 

 次に夕香に話しかけたのは厳也であった。

 ナンパのきっかけに話しかけたのだろうか、と文華や咲は呆れ顔だ。そんな二人が何故、そんな表情をするのかは知らない夕香は二人を一瞥しながら答えている。

 

(……MSのプラモデルが社会現象にまでなるなんて)

 

 そんな二人のやり取りを見ながら、カガミはチラリと店内を見渡す。

 棚には積まれたガンプラを親子で何にしようか悩んでいる姿も見える。

 

 その中には自身の愛機であるライトニングガンダムのプラモデルまであった。

 この世界については多少なりとも聞いている彼女も地球規模での盛り上がりを見せるガンプラにはやはり驚くばかりだ。自分達の世界にMSのプラモデルがないわけではないが、ここまでの盛り上がりはない。

 

 ・・・

 

「ふーん……高知県代表ねぇ……。それがわざわざイッチ達に……。宣戦布告かな?」

「彩渡商店街のリージョンカップの決勝は全国中継されたせいもあって今、色んな意味で注目されているんじゃよ。まっ近くのホテルに泊まっているから挨拶がてらにの」

「ざんねーん。今、いないしねー。イッチ達が帰ってきたら一応、伝えとくよ」

 

 自己紹介を軽く済ませた両者。厳也達が彩渡商店街に来た理由を聞いて、面白そうな顔を浮かべる。そんな夕香を見ながら厳也もまた笑った。

 ¥

「そこのお姉さんはどうしたの? 連れじゃないんでしょ?」

「……彼らとは目的地が同じだったから来ただけよ。それよりこの近くでゲームセンターはないかしら? ガンプラバトルが出来るところなんだけれども」

 

 今度は興味深そうに店内を見渡しているカガミに声をかける。

 するとカガミは夕香に視線を移して、逆に問いかけた。

 

「あれ? お姉さんもガンプラバトルするの?」

「そうではないのだけれど……興味があるの。だから見てみたい。それだけ」

 

 カガミの言葉から彼女がガンプラバトルをするのかと考えた夕香ではあるが、生憎、カガミはガンプラバトルなどこの世界に訪れて初めて知ったのだ。

 だが彼女の慕う翔や部下であるシュウジも好きなのだから全くの興味がないわけではない。だからこそこの目で見てみたいと思ったのだ。

 

「この近くだとイラトゲームパークじゃない? 駅前にもあるけど近いのは断然そっちだよねー」

 

 夕香は作業ブースの机に腰かけながらカガミにガンプラバトルシミュレーターが置かれているゲームセンターであるイラトゲームパークを紹介する。

 

「ありがとう……。感謝するわ」

「ふむ……。ならばワシ等も一緒に行くかのぉ」

 

 夕香にそのまま軽く道のりを教えてもらい、後は向かうだけだ。

 礼を言って厳也達に別れを告げようとした瞬間、その厳也から意外な言葉が出てくる。

 

「別に変な意味はないぞ。ただここまで来るのに結構時間もかかったから、ガンプラを動かしたい、それだけじゃ」

 

 ナンパの延長線か?

 そう言わんばかりに厳也を睨む文華だが、それは彼にとっては誤解なので解かねばならない。高知県からはるばる来たのだ。ここまで来る間、ガンプラを弄る事はあってもバトルは出来なかった。鈍らないように調整したいのだろう。

 

「アタシ達も行く?」

「そうだね……。少し息抜きもしたいし」

 

 ここ数時間、ずっとガンプラ作りに勤しんでいたコト。そして教授していた夕香。休憩も兼ねて二人もイラトゲームパークに向かおうとすることを決める。夕香も高知県代表の厳也達の実力が気になるのだろう。

 

「何でも良いのだけれど……行くなら行きましょう」

 

 別にここから先は厳也達や夕香達と行動する必要はない。

 彼女自身はどちらかと言えば一人の方が気楽ではあるが、目的地が同じなのであればわざわざ断る必要はない。大人数になってしまったがカガミと厳也達、夕香達はそのままイラトゲームパークに向かうのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Z・世界を越えて

 

(……それにしても……何だか妙な気分ね)

 

 イラトゲームパークにやってきたカガミはゲームセンター特有の騒音に僅かに顔を顰め、周囲を見渡しながら散策する。

 そうしてやって来たのはガンプラバトルシミュレーターの前であった。駅前やブレイカーズ近くのゲームセンターよりは混雑していない。

 

 カガミ自身もガンプラバトルにまったくの興味がないと言う訳ではない。

 自分達が普段、使っているMSではなく、MSのプラモデルを使った如月翔やシュウジも行っているゲーム。やるかやらないかはまだ決めかねるが、見るだけならばとこうして訪れたのだ。

 

 そうしてモニターを見つめる。

 やはり普段、見慣れているようなMSがプラモデルとしてゲーム上で戦闘を繰り広げていると言うのは妙な気分になる。ガンプラバトルに関しては自分達の世界にもない。

 

 ──クロス・フライルー

 

 ──ガンダムフォボス

 

 ──ルーツガンダム

 

 そんな中でカガミがその瞳に映しているのは三機のガンプラが行うバトルだ。

 これは高知県代表である厳也達三人が使用しているガンプラであり、現在、三人は到着してそのままガンプラバトルを行っている。

 

 ──ガンダム-カイゼルイェクスオーバーフルアーマー

 

 略してG-KYO FA。それが三人が今現在、バトルをしているガンプラだ。三人を相手にしても今、こうして渡り合えるのだから単純にファイターの実力が高いのだろう。

 

 またG-KYO FA自体の完成度も高いのか、ルーツのケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲の直撃を受けてもビクともしない。しかし厳也達も高知県代表としての実力を持っている。ただ闇雲に攻撃をしているわけではなかった。

 

 装甲と装甲の隙間をフォボスから渡された太刀で突き刺すクロス・フライルー。厳也達は相手が小回りが聞かない機体である事をすぐに見抜いて、クロス・フライルー達はG-KYO FAを翻弄する。

 

 しかしここで予期せぬ事態が起こった。

 クロス・フライルーが直撃を受け、吹き飛んだではないか。その原因ともなった相手の機体を見る。なんとG-KYO FAがその装甲をパージしたのだ。

 

 ──ガンダムカイゼルイェクスオーバーフルアーマーパージアウト

 

 G-KYO PO……そう画面上には表示されている。

 その姿を確認したのも束の間、パージした分、装甲が薄くなり先程までの動きが嘘のように圧倒的スピードを持ってクロス・フライルーに襲いかかるが、その前にフォボスとルーツからの妨害にあい、戦闘の勢いは拮抗し、更なる激しさを見せる。

 

 ・・・

 

「やはり遠出してみるもんじゃなぁ。あんなバトルが出来るとは思ってもみなかったわい」

 

 バトルが終わり、背伸びをしながら厳也は満足気に笑う。

 単なる調整のつもりではあったが、少し本気でかかってしまった。しかしこれで完全に満足しているわけではない。自分達にはジャパンカップがあるのだ。今の相手よりも更に強い相手が待っているのかもしれない。

 

「やーお疲れー。結構やるんだねぇ」

「ホント、凄かったですっ!」

 

 そんな厳也達を労う夕香とコト。

 彼女達も優秀なファイター達のバトルを見てきているせいか、多少、目が肥えている所もあるが、そんな二人が見ても、とても良いバトルであったと思う。

 

「いやぁーっそれほどでも……ハハハッ」

 

 夕香達に褒められ鼻の下でも伸びているのか、厳也は身をゆらゆらと揺らす。

 なんせ自分以外は女性ばかり、今の彼の心は舞い上がっていたのだ。しかしそれを不満げに見ていたのは咲であった。

 

「わ……私も頑張りました……」

 

 なんと大胆に厳也の腕に抱きつき、上目遣いで彼に若干、慌てながら話す。

 しかし厳也にとってはまさか咲がこのような行動をとるとは完全に予想外であり、文華や珠瑚でさえ驚いている。

 

「えっ……あっ……ご、ごめんなさいっ!!」

 

 とはいえ一番、慌てているのは何より咲自身だ。

 顔をリンゴの如く真っ赤にして慌てて謝り、もうこうなってしまっては厳也も反応に困り、何とか彼女を宥めようと必死だ。

 

「やれやれ見せつけてくれるねぇ」

 

 そんなやり取りを傍から見ていた夕香は悪戯っ子のような表情で手を広げて肩を竦めながら隣のコトを見ると、コトもクスリと笑い返していた。

 

「良いバトルだったなぁ……。あんなバトル久々だぜ」

「うん、凄かったよ……。見てたらバトルしたくなっちゃった」

 

 そんな厳也達の近くでは先程までG-KYO FAを操っていたファイターである桜川 恭とその弟である涼が会話をしていた。

 先程の兄のバトルを見て、熱いモノを感じたのか涼は自身のガンプラを取り出して先程まで兄が乗っていたシミュレーターに乗り込む。

 

「……」

 

 何とか落ち着いた咲だが、まだ顔を真っ赤で厳也から顔を背けて自身の顔を両手で覆っている。そんな姿を尻目にカガミはモニターを見る。マッチングが終わり、フィールド内には新たなガンプラが表示される。厳也達のクロス・フライルー達同様、自分の世界では見慣れぬものだ。しかしその機体各所に見受けられるパーツはカガミにとっては見覚えがある。

 

(カイウスガンダム……)

 

 そのガンプラの名前はカイウスガンダム。

 Z系統のパーツを使ったそのガンプラは同じZ系統のMSであるライトニングガンダムを愛機としている彼女にとっては中々、親近感を感じるガンプラだ。

 

「お姉さんはバトルしないの?」

「……生憎、私はガンプラの類は持ってはいないの」

 

 そんなカガミに後ろから夕香が声をかける。

 先程からずっとモニターを見ているだけでバトルをしようとする様子を見せないカガミを疑問に思ったのだろう。しかし肝心のガンプラがなければ何もできない。

 

「ならアタシのガンプラ貸したげよっか? なんならコトのガンプラもあるよー」

「でも私のは夕香ちゃんのに比べたら……」

 

 一応、イラトゲームパークに来るという事もありガンプラは持ってきていた。

 夕香は取り出したバルバトス第6形態を見せながら横目でコトを見ると、コトも自身が先程まで夕香の教えもあって完成させたガンプラを取り出す。しかしやはり素人目で見ても、夕香のバルバトスとコトのガンプラとではその完成度には大きな開きがあった。

 

「……なら貴女のを貸してもらえるかしら。よければ、だけど」

「えっ!? わ、私は構わないですけど……」

 

 しかしカガミが指定したのはなんとコトのガンプラであった。

 これにはコトも驚いて、しどろもどろではあるが、コトは自身のガンプラを差し出す。

 

 コトから受け取ったガンプラ……それはZガンダムであった。

 統合軍の少尉であるカガミ・ヒイラギとしての彼女のパイロット歴は常にZ系統のMSと縁のあるものであった。故に彼女は出来栄えよりも馴染み深い方を選んだのだろう。

 

「ありがとう……。感謝するわ。貴女、少し良いかしら」

「今度はアタシ? しょーがないねー」

 

 Zガンダムを受け取り、コトに礼を言いながら、今度は夕香に声をかけると、二人はシミュレーターに向かう。

 

「私、初めてなの。だから教えてくれると助かるわ」

「良いよ良いよー。じゃあ早速行ってみようー」

 

 MSに乗っての戦いならば数えきれないくらいしたが、ガンプラを操ってのバトルはした事がない。夕香はカガミの頼みに頷き、二人はシミュレーターに乗り込む。

 

「うーん……。ちょっーと狭いかなー……。あっ、そこの台にガンプラを置いて」

 

 シミュレーター内をギリギリで入って、夕香は座席に座るカガミの後ろでガンプラの設置場所を指しながら、説明を始める。

 

「まっ何だかんだで動かすのが一番だよねー。張り切ってイってみよー」

 

 説明もほどほどにマッチングが終了し、Zガンダムは出撃の時を待っていた。

 画面が切り替わった事で夕香は前方を指差すと、カガミはショイスティックを握り直す。

 

「カガミ・ヒイラギ……Zガンダム……出るわ」

「ついでに夕香もねー」

 

 Zガンダムは凄まじい勢いでカタパルトから射出されていく。

 MSならばこの時点で凄まじいGが身体を襲う訳だが、あくまでこれはゲーム。そんな事があるわけがない。そんな事を考えながらカガミは座席の後ろから眺めている夕香と共にフィールドへ出るのだった……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

瞳の中に映る強さ

「お姉さん、凄いね。このZガンダムだっけ? 動かし方を分かってる感じがするよ」

 

 フィールドに出撃したカガミが操るZガンダムは最初こそ初心者特有のぎこちない動きを見せていたが、元々のカガミが要領が良いという事もあってか、手慣れた動きを見せ始めていた。

 

「MSZ-006……Zガンダム。一番、目を引くのは巡航形態であるウェイブライダーへの変形能力を持つ事。ただそれだけではなく宇宙空間から重力下への運用を可能とする破格の汎用性。過去に開発された時点では他を抜き出たオーバースペックという評価を得ているわ。ただやはり人を選ぶ機体に間違いはないわね」

「えーっと……お姉さん、メカオタクって奴?」

 

 ウェイブライダー形態で航空を続けながら、夕香の呟きに自分が知る限りの情報を簡単に説明をする。最もいきなり淡々と話された内容について行けず夕香は表情を引きつらせる。

 

「自分に関係のある事だから知っているだけよ」

 

 今現在はライトニングガンダムを愛機としているカガミはその前にZプラスに搭乗していた。士官学校を卒業し、アフリカへ配属されてからの彼女の今現在までに続くパイロット歴にはZ系統のMSは語るに外せない。

 

 そんな短い会話をしているうちに他プレイヤー機を知らせるアラートが鳴る。チラリと確認すればそれはカイウスガンダムであった。

 

(……そんな動きをしていては……)

 

 しかしモニターに映るカイウスの動きはぎこちなく、先程の厳也達に比べてもその差は歴然だ。こちらに向けてハイパードッズライフルを発射するカイウスではあったが、その射撃は正確性に欠け、WR状態のZガンダムは旋回しながらすぐに距離を縮めていきながら、小型ロケット弾とビームガンを同時に発射する。

 

 ビームガンを避けつつ、バックパックの二門のビーム砲とハイパードッズライフルで迎撃をするカイウスだが、気を取られ過ぎていた。

 既に上方からMS形態へと変形したZガンダムはビームライフルを静かに構え、コクピット目掛け、引き金を引いたのだ。

 

「直撃の筈……」

「あー……完成度の違いじゃない? コトのガンプラはパチ組みって奴だし。どうすんの、お姉さん。このZじゃ結構きついんじゃないの?」

 

 確かにコクピット部分への直撃は感じた。

 しかし撃墜どころか精々、痕が残っている程度である。これにはカガミも僅かに眉を顰め、夕香は想像はついていたのか、仕方のないような表情を浮かべる。

 

(……いつだって私は性能に頼って戦ってきたつもりはないわ)

 

 夕香の言う通り、性能差はある。

 カイウスの攻撃は致命傷になりかねないだろう。しかし、だから何だと言うのだ。自分はかつてライスター隊の一員、そして今はシュウジやヴェルを纏めるアークエンジェル所属のトライブレイカーズの隊長なのだ。ここで無様に負けるようでは、シュウジ達や前アークエンジェル隊のレーア達にも笑われてしまう。

 

 幸いなことに相手は性能こそ高いもののファイターの腕はついてきれていないようだ。ならば突破口はいくらでもある。

 

 ・・・

 

「カガミさん、結構凄いね、あれ本当に初めて?」

(面白い動きするなぁ……)

 

 既にZにはカイウスから放たれた銃撃が向かっている。

 それを無駄をそぎ落とし、必要最低限の動きで避け、Zはカイウスへと近づいていく。

 その光景を見ながら文華は近くにいる咲などに話しかける。そんな光景を一瞥しながら珠瑚はニヤリと笑っていた。

 

 ・・・

 

 既にZとカイウスは接近戦を繰り広げていた。

 カイウスのビームサーベルに対してZはビームサーベル二本で捌いている。これは単純に出力で劣っているという事もあるが……。

 

「……ッ!?」

 

 操縦技術で劣る涼を翻弄すると言う意味もあった。

 そしてその効果は出ているのか、まるで嵐のような勢いでカイウスに反撃の隙を与えない。半ばカイウスが防戦一方となる中でZガンダムは頭部で頭突きを浴びせると、そのまま蹴りを浴びせて反動を利用してWRへと変形する。

 

 態勢を立て直そうとするカイウスにWRは急旋回するとビームガンや小型ロケット弾を再び発射する。直撃したカイウスは身動きが取れない状況の中でWRの突撃を浴びてそのまま地面に激突する。

 

「あっ……」

 

 一方的な攻撃に焦りを見せる涼は何とか行動を起こそうとジョイステックをガチャガチャと動かすが、その前にモニターに現れた影に気づき、動きを止める。そこにはMSへ変形したZガンダムの姿が映っていた。

 

 カイウスはバルカンを発射しようとするが、その前に前腕のグレネードランチャーを頭部に受けてしまい爆風で前が見えなくなってしまう。その間にZガンダムはカイウスが所持していたビームサーベルを拾い、そのままコクピットに突き刺して、今度こそ勝利するのだった。

 

 ・・・

 

「勝っちゃった……」

 

 カイウスのメインカメラから光が消え、その場にはZガンダムが静かに佇んでいる。

 その光景を見ながらコトは信じられないと言わんばかりに呟く。なにせ自分のガンプラはお世辞にも夕香や厳也達と比べ出来が良いとは言えない。そんな素人作の物で勝利をしたなど信じられなかったのだ。

 

「まさに性能の差がって奴じゃな」

「そうね……って先生は?」

 

 感心したように頷いている厳也にこれには文華も純粋に賛同する。

 すると先程まで一緒にいた珠瑚の姿が見えないではないか。辺りを見回して珠瑚を探す厳也達。しかし珠瑚はすぐに見つかった。意外な形であったが……。

 

 ・・・

 

「お姉さん、やるねー。アタシほどじゃないけど」

 

 撃破したカイウスは既に爆散して、この場にはZガンダムしかいない。

 そのシミュレーター内では夕香がカガミを冗談交じりに称賛し、カガミは静かに両目を瞑って微動だにしない。

 

「──!」

 

 しかしそんなカガミはハッと目を開き、Zガンダムは急変形をして上空へ舞い上がると先程までZガンダムがいた場所に無数のミサイルが着弾して爆発を起こす。

 

 ミサイルの発射元を確認すれば、そこには一機の大型の機体が立っていた。

 名前はブレイクボマー。その武装や外見から中~遠距離の機体であると予想される。

 

 ・・・

 

「あれ先生かの……? ガンプラは持ってきてないと聞いておったんじゃが……」

「でも先生、ホテルとかでちまちま何か作ってたわよ。多分、あのブレイクボマーって……」

 

 フィールド内に現れたブレイクボマー。表示されるモニターにはブレイクボマーの下にはGPから表示される珠瑚と思わしき名前が見える。

 それを見て厳也は顎に手を添え、首を傾げているとその隣に立っている文華はブレイクボマーを見つめながら、ある考えを浮かび上がらせる。

 

 ・・・

 

「そーら、逃げんとオダブツになってまうよ」

 

 文華の考えは当たっていた。

 ブレイクボマーを操るシミュレーターの中では珠瑚がニヤリと笑みを浮かべながら、カガミのZガンダムへの射撃を再び開始する。

 

 最初はただ見てるだけだった。

 しかし厳也達や今のカガミのバトルを観戦している内に熱いモノを感じたのだろう。

 

「どーするの、お姉さん?」

「……機体の状態から言っても連戦は避けるべきだけど……逃がす気はないみたいね」

 

 その熱を吐き出すかのように放たれる射撃を紙一重で避けているZガンダムのシミュレーター内で夕香はカガミに問いかけると、カガミは距離を開けようとしても射程外には決して逃さないブレイクボマーを見つめながら静かに呟く。

 

「心配いらないわ」

 

 ならどうするのか、このまま負けてしまうのか、そんな考えが夕香の頭を過る。

 しかしそんな考えを振り払うようにカガミから静かに短く、そして力強い言葉が夕香の耳に入る。その言葉通り、カガミは様子見を止め、ブレイクボマーへの戦闘を開始するのだった……。




<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

不安将軍さんからいただきました。

ガンプラ名:クロス・フライルー

WEAPON ビーム・ライフル(アドバンスド・ヘイズル)
WEAPON ビーム・ナギナタ(シナンジュ)
HEAD ギャプランTR-5(フライルー)
BODY ダブルオークアンタ
ARMS ガンダムヘビーアームズ
LEGS シナンジュ
BACKPACK アストレイゴールドフレーム天
SHIELD シールド(エピオン)
拡張装備 シールドビット×2(両肩側面)
     ミサイルポッド×2(両肩上部)
     GNフィールド発生装置(バックパック)
     IFジェネレーター(右腕)
     シールドブースター(バックパック)
カラー ライトニングブルー

ガンプラ名:ガンダムフォボス

WEAPON 専用ショットガン
WEAPON 太刀(ガンダムバルバトス)
HEAD アストレイレッドドラゴン
BODY アストレイレッドフレーム
ARMS ガンダムAGE-3 フォートレス
LEGS クロスボーン。ガンダムX1改・改
BACKPACK V2ガンダム
SHIELD シグマシスキャノン装甲
拡張装備 Gフィールド発生装置(腰)
       刀(バックパック)
       レドーム(右肩前面)
       レールキャノン×2(腰側面)
       大型ガトリング×2(両肩側面)
カラー エリートネイビーで肩の部分だけ赤黒 

ガンプラ名:ルーツガンダム
元にしたガンプラ:ケルディムガンダムGNHW/R

WEAPON GNスパイナーライフルⅡ
WEAPON ハイパー・ビーム・ジャベリン
HEAD ガンダムTR-1[アドバンスド・ヘイズル](センサー・ユニット)
BODY ガンダムヴァサーゴ
ARMS ケルディムガンダムGNHW/R
LEGS ケルディムガンダムGNHW/R
BACKPACK ブラストインパルスガンダム
SHIELD シールド(サンドロックEW版)
拡張装備 180mmキャノン(バックパック左側面)
     Iフィールド発生装置(腰後部)
     スラスターユニット×2(両足側面)
     シールドビット×1(バックパック側面)
     ミサイルポッド×2(両肩上部)
カラー  全体的にくすんだ群青だが両肩でシールドの一部は青く、胸のグローカラー部分は色あせた黄色

ガンプラ名:ブレイクボマー

WEAPON 試製9.1m対艦刀
WEAPON GNハンドミサイルユニット
HEAD ドライセン
BODY クシャトリヤ
ARMS ガンダムAGE-2ダブルバレット
LEGS ガンダムTR-1[アドバンスド・ヘイズル]
BACKPACK ファッツ
SHIELD シールド(Ez8)
拡張装備 GNフィールド発生装置(腰後部)
       大型ガトリング×2(両肩側面)
       ミサイルポッド×2(両足側面)
       大型対艦刀(バックパック右側面)
       180mmキャノン(バックパック左側面)
カラー   ブラストグリーン


戦法は機体武装から見て分かるように距離を取りながら中~遠距離からミサイルなどを撃ちまくって味方をサポートするいうシンプルなもの。GNハンドミサイルユニットなどがチャージ中は180mmキャノンによる狙撃を行ったりする。防御面もしっかりとしており、近接戦用の武器もあって近付かれても対処可能となっている。

機体説明
中~遠距離戦に特化させた機体で下手すれば味方すら巻き込むような武装を積んだ機体。本来ならガンプラバトルは滞在中しないつもりだったが、あまりに暇な為に作ってたらしい。旦那(近接戦闘メイン)とのタッグを想定して作っており、1対1の戦闘用ではなくチーム戦の為の機体である。これらの武器は珠湖本人の好みであり得意とするもので、ミサイルなどの実弾武器はIフィールド対策に装備させている。

人物補足
ガンプラバトルでは中~遠距離戦をメインにし、ミサイルやバズーカなどの派手なモノを撃ちまくって自身に目を向けさせるという囮戦術を好んでいる。旦那と会う前まではオールラウンダーで、遠近どちらの戦闘もやれていたが旦那と組んでからはこの囮戦術を使うようになり、爆撃・砲撃重視となった。長年の経験からか相手が嫌がる攻撃をよくしており、相手の動きを妨害するような戦法も得意としている。


ゴランドさんからいただきました。

キャラクター名 桜川 恭
性別 男性
年齢 主人公と同年代
家族 父 母 2歳年下の弟
容姿 身長 174センチ 茶髪 目の色 黒
設定 天然でおだてられると調子に乗りやすく、挑発されるとすぐに怒ってしまう。特にネーミングセンスが悪くガンプラに自分の名前を入れ、弟から呆れられている。ロボ太を見て、武者の方が良かったと思っている。ガンダムキャラの台詞を間違った意味で覚えてしまっており、弟から度々指摘されている。

ガンプラ名 ガンダム-カイゼルイェクスオーバーフルアーマー
略してG-KYO FA
元にしたガンプラ ブリッツガンダム

WEAPON グランドスラム
WEAPON ハイパー・メガ・ランチャー
HEAD ブリッツガンダム
BODY フルアーマー・ガンダム
ARMS サーペントカスタム
LEGS ファッツ
BACKPACK ドーベン・ウルフ
SHIELD シールド(NT-1)
拡張装備 HEAD1 強化センサーユニット
BOTH LEGS ニークラッシャー
機体カラー エリートネイビー
ガンプラ製作者は弟の桜川 涼であり、兄の要望で沢山の武器が搭載されてある。防御力と火力は高く、その分機動性が低く、小回りが利かないなど、扱いが難しいガンプラである。それをカバーする為に装甲をパージする特殊なギミックが搭載されてある。

ガンプラ名 ガンダムカイゼルイェクスオーバーフルアーマーパージアウト 略してG-KYO PO
元にしたガンプラブリッツガンダム

WEAPON グランドスラム
WEAPON ハイパー・メガ・ランチャー
HEAD ブリッツガンダム
BODY ガンダム試作1号機
ARMS ガンダムエクシア
LEGS 百式
BACKPACK ガンダム試作3号機
SHIELD なし
拡張装備 BACKPACK 太陽炉
機体カラーエリートネイビー
G-KYO の装甲がパージした状態。極端に装甲を薄くした分防御力は低くなっているが、機動性、スピードが極端に上がっている。近接特化型になっており、一発でも攻撃を喰らえば大ダメージになる。(例えると、ビームライフル一発ででライフゲージが赤になる。) さらに切り札としてトランザムシステムを使えかる。パージする前より扱いがさらに難しく人より優れた機体操作技術を持つ恭だからこそ扱えるガンプラである。

キャラクター名 桜川 涼
年齢 兄より2歳年下
容姿 茶髪の天然パーマ 瞳の色は黒 身長165前後
性格 兄とは違って真面目だが、押しに弱くいつも兄に振り回される苦労人
設定 小さい頃からガンダムが好きなガンダムオタクでガンプラの製作技術は常人よりも優れているがガンプラの操作技術はとても下手である。ボッチでろくに女性と話したことがないのでバトルではいつも負け続けてばかりであり、イラクゲームパークで機体操作の練習をしている。

ガンプラ名 カイウスガンダム
元にしたガンプラ Zガンダム

WEAPON ビーム・サーベル
WEAPON ハイパードッズライフル
HEAD ライトニングガンダム
BODY Zガンダム
ARMS ZZガンダム
LEGS ガンダムAGE-2ノーマル
BACKPACK オオワシアカツキ
SHIELD ウイング・シールド(ZZガンダム)
拡張装備 無し
機体カラー カラーは大体そのままだがZガンダムのカラーを基準として統一してある。バックパックのカラーリングはウイングが白で砲台が青となっている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

休息の終わり

 Zとブレイクボマーの戦闘はまさに熾烈を極めていた。

 ブレイクボマーの射撃はZへと向かい、Ζはそれをギリギリのところで避ける。僅かな被弾など許されない。

 

 理由など簡単だ。

 まさに素人が作成したコトのZと暇潰しの意味で作ったとはいえ、ブレイクボマーはガンプラへの作成技術をちゃんと持った珠瑚が作製している。

 

 火力面、装甲面、機動面、全てにおいてZはブレイクボマーに劣っていた。

 つまりブレイクボマーからの一撃をまともに被弾すればそこで終わりだ。逆にZの攻撃などいくら当たったところで致命傷などにはならない。今現在においても関節部に直撃したが動じない。

 

 しかしだ。

 一発もらえばアウト、まさにそんな危機的状況であってもカガミのその静かで無機質にも感じられるその表情は揺れ動かない。

 

(あの悪魔に比べれば……)

 

 カガミはこれ以上に激しい戦いを知っている。

 そしてそのいくつもの戦いを経た経験が今の彼女を作っているのだ。自ずとどう動けばいいのかも分かる。

 

 迫りくるミサイル群に対してZはWRに変形して避け続け、その合間合間でMSへ変形してビームライフルによる狙撃をする。

 向かって来るミサイル群をすり抜けたビームはブレイクボマーの関節部に直撃した。先程からこれをずっと繰り返している。

 

(随分と卓越した狙撃やな)

 

 ミサイル群を突破してこちらに確実に直撃させる。

 その卓越した狙撃能力は珠瑚は純粋に評価していた。

 

 それもその筈だ。

 別世界において統合軍少尉であるカガミの狙撃能力は如月翔に伝授され、彼の狙撃を参考にしたものだ。彼が自分の世界へ戻った後も磨き抜かれたその技術はまさに統合軍で右に出る者はいない。

 

「───ッ!!」

 

 ここでブレイクボマーに異変が起きた。

 珠瑚が目を開く。なんとブレイクボマーのシミュレーター内の画面がぐらりと揺らいだからだ。

 

(やっとか……)

 

 その光景を見て、やれやれといった様子でカガミは目を閉じて一息つく。

 今のブレイクボマーの異変こそずっとカガミが狙っていたものだ。

 

 ブレイクボマーはまさに要塞と言っても良い程の武装を持つガンプラだ。

 

 故に対処法などすぐに見つかった。

 単純な話だ。それ程の武装を支える部分を傷つければいい。だからこそカガミはずっと関節部しか攻撃はしなかった。

 

 コトが作成したZは確かに素人作だ。

 だからこそ自分よりも高い性能を持つ相手に対してはその攻撃の一つ一つを慎重に選ばねばならない。

 

「おぉっやるじゃん、お姉さん!」

 

 幾度と関節を傷つけられた事によってその武装を支えきれずバランスを崩したブレイクボマーに興奮気味に夕香はカガミの両肩に手をかけながら話す。

 

「あれ、どうしたの?」

 

 しかしそれ以降、カガミは動こうとしない。

 態勢を立て直そうとするブレイクボマーをただ見つめるだけだ。そうしている内にモニターが暗転する。その意味が夕香にはすぐに分かった。プレイ時間が終了したのだ。

 

 ・・・

 

「お姉さん、本当に初めて?」

「初めてよ。それにあのまま続ければ何れは負けていたわ」

 

 制限時間は終了してシミュレーターから出てきた夕香は初めてにも関わらずあれだけの奮戦を見せたカガミに疑問をぶつけると、”ガンプラバトル”は初めてであるカガミはブレイクボマーが映るモニターを見つめながら呟く。

 

 厳也達の元へと向かっている最中、カガミは茶髪の天然パーマの青年と目が合った。

 青年の名は桜川 涼。彼の手にあるカイウスガンダムは彼が先程までシミュレーターで自分と戦っていたという証明だ。

 

「……機体……いえガンプラその物は良い物だわ。後は貴方次第ね、頑張りなさい」

「えっ……あっ……ありがとうございます……」

 

 目が合い、カガミが静かに涼の手に握られているカイウスのその完成度を褒める。

 自分はプラモデルに関して、詳しくない。

 そんな素人目で見ても涼のガンプラは良い出来だと感じるし、バトルをしたのだから尚更だ。

 一方、自身のガンプラを褒められた涼ではあるが、女性と碌に話したこともない為に動揺しながら口を開く。しかし目の前のサイドテールの女性の手に握られたZガンダム。それが自分と戦った相手であることはすぐに分かった。

 

「ありがとう、中々面白かったわ」

「あっ、いえ……私はガンプラを貸しただけなので……」

 

 厳也達と合流し、コトから借りたZガンダムを返却する。

 カガミから礼を言われながら受け取ったZガンダムだが、まさか自分の作成したガンプラがあれ程までのバトルを行う姿を見て、いまだに信じられないのか、コトはZガンダムをマジマジと見つめている。

 

 この後、珠瑚がバトルを終了した後、厳也達と夕香達は何気ない談笑をして別れるのだった……。

 

(翔さんにはやはり酷かもしれないわね)

 

 初めてガンプラバトルを行ったカガミではあるが、遊びとしては悪くはなかった。

 しかし脳裏には翔の事があった。

 彼がガンプラバトルを今プレイしてどんな思いを抱いているのかは想像はつく。故にカガミはため息をついてしまうのだった。

 

 ・・・

 

「はぁっ……はぁっ……!!」

「中々筋は良いじゃねぇか」

 

 一方、数時間後の浜辺には動きやすい服装に着替えた一矢が座り込んで息を荒げていた。汗だくの顔をタオルで拭いながらシュウジは一矢を褒める。そう、一矢は今までシュウジから覇王不敗流について学んでいた。

 

「動きの型は覚えたか?」

「そりゃ……何とか……」

 

 両腰に手を当てながら、余裕たっぷりに問いかけるシュウジだが、両肩を上下させ呼吸をする一矢は答えるのも何とかと言った様子で答える。

 

「なら後はガンプラで応用しな。後は帰ってからでも教えてやるよ」

 

 そんな一矢に苦笑しながら手を差し伸べる。

 その手を取り、立ち上がりながら一矢はシュウジの言葉に何とか頷きながら二人はホテルへ戻る。今日で旅行は終わり、明日には帰るのだ。

 

「ねぇエヴェイユって……何なの?」

「……ある意味で当人を苛む病気のようなものであり、ある意味では進化ってところだな」

 

 疲れが出ているのか、いつも以上に一矢の歩く速度は遅い。そんな中、ふと口を開く。

 シュウジから教えられたエヴェイユの言葉。

 しかしあの後、調べてはみたが、少なくと翔に関係あるような情報は得られなかった。

 教えてもらえるかは微妙なところであったが、シュウジは静かに答える。

 

「まっ……何とかはする。だからお前は心配すんな。それよりお前はもっと心配する事、あんじゃねぇの?」

 

 だがそれより詳しい情報は得られなかった。

 きっとシュウジはそれよりもっと深い情報は話そうとはしない。そしてシュウジ自身もこの世界しか知らない一矢に言える事など限られている。出会いから距離を縮めた二人ではあるが、二人の間には決定的な溝があった。

 

 いや、シュウジだけではない。

 カガミもヴェルもこの世界の人間と関わりはしたが結局の所、荒廃した自分達の世界を知らないこの世界の住人達とはその価値観を分かち合えない。

 

 そしてシュウジの他に心配する事があると言う言葉。

 すぐに分かる。それはジャパンカップについてだ。その事は分かっている。一矢はまだ見ぬ強敵達を思い、空を仰ぐのだった。

 

 ・・・

 

『次のニュースです。ここ数日、被害が報告されている新型のコンピューターウィルスですが、さらに感染が拡大している模様です』

 

 一矢達が旅行から帰ってきて数日が経った。

 そんな中、カドマツが働くハイムロボティクスの休憩所に置かれているテレビではここ最近、話題となっているニュースが報道されていた。

 

『コンピューターのAIに対し、誤った命令を割り込ませるこのウィルスは自立型のロボットに対して特に大きな脅威となります。警視庁サイバー犯罪科よりセキュリティソフトウェアのインストールならびに最新バージョンへのアップデートが勧告されています』

「ったく……質悪いウィルスだなぁ」

 

 それはロボ太などに脅威となるウィルスについてであった。

 そんなロボット関連を扱うハイムロボティクスで働く身として、そして一人の技術者としてカドマツは眉を寄せていた。

 

「……もしもし? ……分かった、すぐ向かう」

 

 そんな中、カドマツの携帯に着信が入る。

 相手はミサだった。

 

 ミサから緊迫した様子で話された内容に再びテレビで流れているニュースを一瞥しながら、立ち上がるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

我が胸貧乳~されどこの叫びは猛牛の如く~

「まさかえー君達もジャパンカップに進出するなんてね」

 

 イラトゲームパークに向かっているのは夕香が世話になっている美容院の看板娘である暮葉だ。そしてその周囲には三人の少年少女がいた。

 

 1人は右頬に線状の傷あり、その切れ長の瞳など少々、とっつきにくい印象がある青年である秋城影二(あきしろえいじ)だ。そしてその隣にいるのは三つ編みに赤緑の眼鏡を着用している篠宮皐月(しのみやさつき)。そして最後にそんな皐月にどことなく似ている篠宮陽太(しのみやようた)である。

 

 名前で分かる通り、影二は暮葉、そして皐月と陽太は姉弟である。

 しかしここで複雑なのは影二と暮葉は腹違いであるという事だろうか。そして影二、皐月、陽太の三人は熊本海洋訓練学校ガンプラ部に所属し、今度のジャパンカップにも熊本県代表として出場予定だ。

 

「……そう言えばここらの近くが彩渡商店街だったな」

「もしかしたら今から行くゲームセンターで会えるかもしれないですねっ」

 

 ジャパンカップ開催前に再会を約束した暮葉と影二。そしてそれに同行する篠宮姉弟。四人は再会を祝してガンプラバトルをする事となり、最寄りのイラトゲームパークへと向かっていた。

 

 暮葉の言葉に影二が周囲を見渡しながら何気なく答えると、隣を歩く皐月が楽しそうに頷く。今現在において全国の会場にライブ中継されその際、覚醒したゲネシスなど彩渡商店街ガンプラチームは注目されるチームの一つとなっている。

 

「あっ、あれかな」

 

 漸くイラトゲームパークが見え、陽太が指差す。

 少々、古臭さを感じないと言えば嘘になるが、逆にいえば古き良き懐かしさを感じ安心感さえ感じる外観だ。周囲は生活音が聞こえるくらいで騒がしいわけではない。まさに地元の近所にあるゲームセンターと言ったところだ。

 

 ところがそんな雰囲気を打ち砕くかのように破壊音による轟音が鳴り響く。

 和気藹々とイラトゲームパークを目前に迫った影二達は動きを止め、互いに顔を見合わせて困惑した様子を見せると、何が起きたのか確認する為、駆け足でイラトゲームパークに入店する。

 

 ・・・

 

 《オシゴトダイスキー》

 

 眼前に広がる光景を見て唖然とする。

 液晶が割れたゲームの筐体は無造作に倒れ、UFOキャッチャーの強化ガラスも割られて、大小さまざまなガラス片が床に散らばっている。そしてなにより一番目を引くのは壁に大きく開いた穴だろう。

 

 そんなまさに近所のゲームセンターの中には程遠い異様な光景の中、この騒動を起こしたであろうインフォだ。立ち尽くし、首を傾げこちらに普段とは違う赤色のカメラアイを向けるその姿は不気味な印象を感じる。

 

「いい加減にしないか、このポンコツが!」

 《お褒めにあずかり嬉しDEATH》

 

 そんな中でも店主であるイラトはインフォを止めようと、声を荒げて怒鳴る。

 しかしそれでもインフォは治まる素振りを見せない。店内にはイラトとインフォだけではない。この惨状に怯える子供、彩渡商店街ガンプラチームであるミサ、一矢、ロボ太、そして一矢に覇王不敗流を教えていたシュウジと暇潰しのヴェルもいた。

 

「しっかりしてインフォちゃん!」

 《お前のペチャパイこそしっかりしろよ》

「今、なんつった?!」

 

 ミサも悲痛な面持ちでインフォを説得しようとするのだが、すかさず返されたインフォの言葉に悲痛な面持ちも鬼のような表情に変わり、声を荒げる。

 

「──待たせたな、って酷いなこりゃ」

 

 激昂しているミサを他所に再び自動ドアが開くと、慌ただしくカドマツと青年二人が店の中へと足を踏み入れ、カドマツは眼前の惨状を見て、驚く。

 

「やっぱり最近、話題のウィルスか……?」

「多分な」

 

 カドマツと同時に入店した二人組。それはカドマツの同僚であった。千樹准(せんじゅじゅん)はインフォを生み出し、世に出した開発者である孤門憐(こもんれん)に問いかけると、憐は神妙な表情でインフォを見る。

 

「カドマツ、もう手遅れだよ……。インフォちゃん殺して私も死ぬぅっ!」

「落ち着け! ペチャパイくらいで命を無駄にするな!」

「パイは命より重いっ!!」

 

 そんな二人を他所に怒りが収まらぬミサは両拳を握り、呼び出したカドマツに怒鳴るように話すと、カドマツの制止も耳には届かず、もはや錯乱気味に喚き散らし、これには周囲のヴェルなども苦笑している。

 

「ほ、ほらミサちゃん、いつか大きくなる可能性だってあるし……」

「逆に言えば一生そのまま……。可能性に殺されるパタァーン……」

 

 ヴェルが何とかミサを落ち着かせようと、フォローを切り出すが、そのミサの隣にいた一矢がボソッと余計な事を口にしミサがピクリと震える。

 これには流石に近くにいたシュウジも「あっちゃー……」と言わんばかりに片手で顔を覆っていた。

 

「……っていうか元々なにもないなら重いもクソもないんじゃ……」

 《アップルパイにはアップルが入ってるけど、ペチャパイには何が入ってるのー?》

 

 そして再び思ったまま余計な事を口にする一矢とその後に続くようにインフォはミサを煽る。まずいと思ったカドマツがチラリとミサを見るが、もう既に遅かった。

 

「なにもはいってねええええぇぇぇんだよおおォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーっっっ!!!」

 

 それは見る者全てを魅了する一撃だった。

 空に昇る竜のように放たれた拳は標的を稲妻のような苛烈さを持って粉砕しようとする。

 風を切り、魂の叫びと共に放たれたミサの拳が一矢の顎先を直撃した瞬間、彼の身体は舞い散る花びらの如く軽やかに舞い、そして……地に落ちた。

 

「おいカドマツ、色んな意味でインフォより先にそこの坊主とこの娘が壊れちまうよ」

「婆さん、こいつのバックアップデータはあるか?」

 

 倒れている一矢は目を回して気絶し、ミサは鼻息荒くまるで猛牛か何かのようだ。

 その光景にイラトが何とかするようにカドマツに話すと、解決策はあるのか逆に問い返されるも即答で「ねぇよ」と答える。

 

「フォーマットすっか……」

「そりゃ困る! またゼロから仕事覚えさせるのかよぉ」

 

 困ったように頭をポリポリ掻きながら解決しようとするカドマツではあったが、そこに面倒そうに待ったをかけたのはイラトであった。

 

「仕方ねぇ……。ちょっと時間かかるが待ってろ。お前達にも手伝ってもらうからな」

 

 イラトの要望をくみ取り、それ以外での解決策を出す。

 しかしそれには準備がいるのか時間がかかり、まずはシュウジがカドマツの指示の元でインフォの強制停止ボタンを押し、沈黙化させる。

 

 ・・・

 

「準備出来たぞ、シミュレーターでこいつの中に入って直接、ウィルスプログラムを消去してくるんだ。外から誘導するからまずはシミュレーターに入れ」

 

 何やら機器の類がインフォに取りつけられている。

 技術者が何人かいる事もあり、滞りなくスムーズに終わりカドマツは説明をし、いまいちピンと来ていないミサにシミュレーターに乗り込むよう指示をする。

 

 しかしここで一つ問題があった……。

 

「大きな星がついたり……消えたり……」

 

 一矢は完全に気絶しており、武道を扱う経験から医療系の知識を持っているシュウジが当たり所が悪くないか一応、診ていると今も譫言のように何かを呟いている。このままでミサとロボ太だけになってしまう。それでは不味いとシュウジが名乗り出ようとした瞬間……。

 

「……人手がいるなら手伝うけど」

 

 名乗り出たのはシュウジではなく今まで見ていた影二であった。

 それは皐月達も同じなのか頷き、それぞれガンプラを取り出す。人手が多い方が良いという事もあり、カドマツは了承して、ミサとロボ太、そして影二達はシミュレーターに乗り込み、カドマツの指示の元、起動させる。

 

 ・・・

 

「なに……あれ……?」

 

 シミュレーターを起動し、ガンプラが投影されたフィールドは見慣れぬ光景だった。

 ここはインフォのメモリ空間、宙には何やらブロックが複数集まったようなものがふわふわと漂っており、落ち着きを取り戻したミサはカドマツに聞く。

 

≪問題のウィルスだ。今から奴らを退治出来るようにするからな≫

 

 ふわふわと浮いていたウィルスプログラムはカドマツと言葉と共にその姿をガフランに姿を変えると、ミサ達は信じられないような表情でモニターを見つめる。

 

≪ウィルスをガンプラに見えるように細工したんだ。そんでお前達の攻撃にはワクチンプログラムが付加してある≫

「って事はあのガンプラの姿をしたウィルスをいつもみたいに攻撃して倒せばいいの?」

 

 驚いているミサ達にカドマツが何なのか説明を終えると、ミサの問いに「その通りだ」と答えられる。

 

「……やる事は分かった、行くぞ」

「うん、よろしくね!」

 

 ならばいつも通りガンプラバトルの要領でやれば良い。

 既にウィルスであるガフランはこちらに攻撃をしかけようとする。影二はそんなガフラン達を捉え、相棒と呼べる程の愛機であるガンダムMK‐Ⅵ改を操作すると、ミサは笑顔で答えミサ達と影二達はウィルス除去へと向かう。

 

 ・・・

 

「……ぅっ……」

 

 ミサ達が戦闘を開始してから漸く一矢が目を覚ました。

 目を開けた一矢が見たのは、意識を取り戻した自分に気づいたシュウジだ。彼に身体の状態を問われ、特に問題もなく彼の手を取って起き上がる。

 

「今、ミサ達はインフォのウィルス除去に当たってる、大丈夫そうなら今すぐ行こうぜ」

「ああ……。……あれ……?」

 

 簡単に説明を受け、シミュレーターを親指で指さすシュウジに一矢が頷き、ゲネシスが入ったケースを取り出そうとするが、ある筈のものがない。

 何故だ、そう思い、周囲を見ると先程殴られた反動で離れたのだろう瓦礫の下に滑り込んでしまっていた。

 

「……仕方ねぇ……。あっちは何とかしてやっから今はひとまずこれ使え」

 

 どうしようかと右往左往している一矢にため息をつきながらシュウジはケースからバーニングブレイカーを取り出し、一矢に向ける。

 

「別に誰にでも貸してるって訳じゃないんだぜ。それに教えてやった覇王不敗流を試す良い機会じゃねぇか」

 

 良いのか、そう目で問いかけるようにシュウジを見る一矢に頷きながら暴れて来いと言わんばかりにその手に握らせる。

 

「ありが……とう……」

「ああ、これに懲りたら少しはデリカシーってモンを持てよ」

 

 おずおずと礼の言葉を口にする一矢に微笑を浮かべ、シミュレーターに向かって一矢の背中を軽く押すと一矢はカドマツの呼び声に頷きながら向かっていく。

 

「デリカシー……か。シュウジ君も色々とアレだしねー」

「止めてくださいよ……」

 

 一矢とシュウジのやり取りを黙って見ていたヴェルが悪戯気味に笑いながらシュウジをからかうと、彼も自覚はあり、過去に色々と問題もあったのか、気恥ずかしそうにそっぽを向きつつ瓦礫の間に滑り落ちたゲネシスの元へ向かうのであった。

 

 ・・・

 

  ≪どこかにウィルスを増殖させるコアプログラムがある筈だ。それを見つけて破壊するんだ≫

「……分かった……」

 

 シミュレーターに乗り込んだ一矢はカドマツからの説明を聞きながら、改めてシュウジから預かったバーニングブレイカーを見つめる。二度、戦い、そして圧倒的な強さを持って自分に勝ったガンプラを動かす事になるとは思いもしなかった。

 

「バーニングガンダムブレイカー……雨宮一矢、出る」

 

 しかしこれも良い機会だ。

 他人のガンプラであってもそこから学べる事もある。投影されいつもとは違うモニターに広がる光景を見ながら、一矢はバーニングブレイカーと共に出撃するのだった。




<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

エイゼさんからいただきました。

キャラクター名:秋城影二(アキシロエイジ)
熊本県代表チーム…熊本海洋訓練学校ガンプラ部主将、二年生17歳
身長:178cmの多少筋肉質
肌:褐色
髪型:ショートウルフ
目:切れ長
顔:右頬に線状の傷あり
性格:寡黙で、顔に表情が出にくいが…困ってる人を放っておけず手助けする一本筋の通った少年。
見た目で損するタイプであるものの、一度話すと大体好感を抱けるタイプでもある。本来は三年生だが、去年後述の篠宮 皐月(シノミヤサツキ)を交通事故から庇い、一年間の授業不参加の為である。
ガンプラバトルに関しては、オールラウンダーであり…機体性能を100%引き出し、また使える物は何でも使用するタイプで、必要なら…ライフルやシールドさえ、囮に使う。
後アイドル(KODACHI)のファンである

キャラクター名:篠宮皐月(シノミヤサツキ)
身長:168cm痩せ型、胸はそれなり
髪型:三つ編み
顔・肌:色白で赤縁眼鏡着用
性格:基本的には内向的な面が見受けられるが、勇気を出して人と接していける上、偏見を持たない為に結構友人がいる。
眼鏡を取ると、かなり美少女だが…本人は余り好きではない。
熊本海洋訓練学校ガンプラ部副将二年生16歳で秋城影二の同級生。
本来は後輩なのだが、去年部活帰りにて…道に出てた猫を助けようとし車に引かれる所を秋城影二に救われる。
本人はかなり罪悪感を覚えており、当初は避けていたものの、影二自体の許しや、タウン・リージョンカップを通じて、仲の良い同級生となっているようだ。
ガンプラバトルに関しては…基本的には狙撃タイプの機体を使うが、タウン・リージョンカップを経て…射撃寄り万能タイプに成長しており、又機動狙撃戦に関してはかなりの実力者として有名になりつつある。




キャラクター名:篠宮陽太(シノミヤヨウタ)
身長:164cm痩せ型
髪型:ショートカット、黒
肌:色白
性格:かなりのお姉ちゃん子で甘え上手。
他の人に対しても、基本礼儀正しいものの…影二に対してはかなり毒舌である。
内心は実力性格共認めてはいるらしい。男らしくあろうとするが…下手すると女子より女子らしさがあるらしい。
ガンプラバトルに関して:基本的に荒削りな点は否めないものの、近距離の戦闘に対しては天性の才と云うべき実力者。
奇襲強襲、一騎打ちもかなり強いものの、射撃はまだまだ改善余地ありらしい。

キャラクター名:秋城暮葉(アキシロクレハ)
年齢:22
身長:172cmモデル並み
胸:かなりのサイズ
性格:人当たりも良く、気が利くタイプ。但し、怒らせたら駄目なタイプ。
秋城影二の姉(母親違いの姉)彩戸商店街近くの美容室の美容師さんで、かなりの腕前であり、看板娘である。一時は影二と不仲ではあったが、現時点ではかなり良好な姉弟関係である。


トライデントさんからいただきました

名前
千樹准(せんじゅじゅん)
年齢
21歳
性格
正義感と野心の強い熱血青年
設定
姫矢と孤門の幼馴染みで、一人称は俺
元はカメラマンを目指していたが実を結ばず断念
今は孤門に頼まれハイムロボティクスで孤門の手伝いをしている、カドマツとも孤門経由で接点があり、よく酒を飲みに行く仲
ガンプラは好きだがバトルはしない(一応やってみたことはあるが、あまりしっくり来なかったとか)
好きな機体は陸戦型ガンダム(初めて見たガンダムが08小隊だからなんだとか)で、プラモを持ってるが装備させるのは100mmマシンガンという謎のこだわりを持っている。

孤門憐(こもんれん)
年齢
21歳
性格
明るく人懐っこい
設定
姫矢と千樹の幼馴染みで、一人称は俺
小さい頃からロボット工学に興味を持ち、勉強し続けた結果ハイムロボティクスの技術者となった、カドマツとはよく一緒に仕事をする仲
過去に様々なロボットを創り、世に出した実績を持つ(イラトゲームパークのインフォちゃんの産みの親なんだとか)
今はカドマツとは別のトイボットを創りたいと考えているらしい
好きな機体はガンダム試作一号機フルバーニアン、デザインやその他諸々が気に入ったが、0083での登録抹消という扱いに納得できてないんだとか(現にトイボットも試作一号機FBがモデル)

姫矢と千樹と孤門は高校時代、文化祭限定で『nexus』というバンドを組んでたが、それが大人気となり、学校を飛び出し世間でも話題となり今でもファンがいるらしいが、その時学校やクラスに頼み本名を明かさずに活動していたため同じ学校だった人間しか姫矢達が『nexus』の正体とは知らない(秀哉達ですら知らない)

素敵なキャラやオリガンのご投稿ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バスターズ開始!

「なんだこのガンプラ……」

 

 それがバーニングブレイカーを扱って初めて放った一矢の感想だった。

 傍から見ても今のバーニングブレイカーの動きはぎこちないものがあり、それはまさに機体に振り回されている、そんな状態であった。

 

 ガンプラバトルに使用されているガンプラはただ上手く作ればいいというものではない。上手く作ったとしてもファイターとしての力量が不足していればそれはただの宝の持ち腐れであり、性能を十分に発揮できない。

 

 今のバーニングブレイカーはまさにそれであった。

 その高すぎる完成度には一矢でさえ振り回されている。自分が今まで扱ったガンプラの中でもこれほどのガンプラはない。世辞抜きにしてもゲネシスを上回るだろう。

 

(ほんの少しでもスティックを動かせば反応するなんて……)

 

 バーニングブレイカーはあまりにもピーキーなガンプラであった。

 その敏感なまでの操縦性は一矢でさえ困惑するほどのものであった。その間にもウィルスであるガフラン達はこちらに向かって来る。

 

「でも、凄い……」

 

 咄嗟にバーニングブレイカーに備わっている刀を使用して迫りくるガフラン達をすれ違いざまに切り捨てる。

 まるでバターのように滑らかに斬れ、そのまま爆発四散する。

 この刀もシュウジが使うところを見たことはないが、それでも本来の持ち主である彼が使用した時の事を考えると、その実力は想像もつかない。

 

「ん……?」

 

 バーニングブレイカーの速度はゲネシスに勝るとも劣らない。

 全力で、そして元々既に影二達が先行していた事もあり、すんなりと前に進む事が出来、アザレアP達と合流する事は難しくなかった。

 

 ・・・

 

「来たんだね、一矢君」

「……あ、ああ……」

 

 ミサが通信越しに一矢を迎えると、先程、宙に舞った事を思い出し、一矢は表情を引き攣らせつつも答える。

 

「あっ、紹介するね、さっき教えてもらったんだけどこの人達は熊本代表チームなんだって。つまりジャパンカップに出場するんだよ!」

「秋城影二だ……。近くにいるのは篠宮皐月とその弟の陽太だ。アンタらの事は知ってる、彩渡商店街ガンプラチーム」

 

 フィールドを進む中、自分達の傍にいる三機の見知らぬガンプラを見やる。

 共に戦うところを見れば味方である事は分かるが、気になっているとミサがその事について簡単に答えてくれた。

 近くにいたガンダムMK‐Ⅵ改を操る影二が代表して話すと、レーダー上にそれぞれ名前が表示されており、FAヒュプノスに乗る皐月とダンタリオンに乗る陽太もそれぞれ簡単に挨拶をする。

 

「まさかこんな形で一緒に戦うなんてね」

「同じことを思ってるよ」

 

 挨拶もそこそこに奇妙な巡りあわせに一矢も影二も苦笑してしまう。

 まさか何れ出会ったであろうライバルとこうして意外な形で出会ったどころか共闘までしているのだ。

 

「随分、奥まで侵入されているな」

「私達が暴れててインフォちゃんは大丈夫なの?」

「見えてる攻撃や爆発は実際に起きてるわけじゃない。心配ない」

 

 そうして二つのチームが手を組み、共に前に進んでいると、ふとカドマツから通信が入り、彼はそのあまりにもウィルスが侵入している事に表情を険しくしているとミサが懸念していた事をこの際問いかけると元々、そんな負担のかかるような事ならば端からやらせないのか、カドマツは安心するように話す。

 

「あっ、アレがコアじゃないですか!」

≪その通りだ、アレがウィルスのコアプログラムだ!≫

 

 そうして迫りくるウィルスを撃破しながら前に進んでいると、ふと皐月が何かに気づき声を漏らす。すると前方に遠巻きでも分かるほどの宙に浮く暗色の巨大なコアを発見し、カドマツが同意する。

 

「ちょっと!? たくさん敵が湧いて来てるんだけど!?」

≪あぁやって自己増殖してるんだ。コアを破壊しない限り止まらないぞ。大丈夫だ、今、こっちでも手は打った。倒しきれるさ≫

 

 バーニングブレイカー達がコアプログラムへ近づいた瞬間、コアプログラム周辺では無数のウィルスが出現し、こちらに攻撃を仕掛けてくる。

 ミサ達も応戦し、まさに乱戦になり、ミサがあまりの数に戸惑っているがカドマツは寧ろ余裕さを感じさせていた。

 

 《コイツが同胞を狂わせた元凶か……。許さんッ!!》

 

 同じロボットであるインフォが歪められてしまった。

 その事にロボ太自身、感じる事があったのか、怒りのようなものを感じさせながら騎士ガンダムはナイトソードを振るい、次々に敵を切り裂いていく。

 

「ダンタリオンから逃げられる……なんて思った?」

 

 その騎士ガンダムの近くでは陽太操るダンタリオンが二つのビームライフルシューティで手早くウィルスを撃破していた。逃げようとしたウィルスに対してもいつの間にか射出したシールドピットによって撃破する。

 

「私も負けられない!」

 

 そんな弟の活躍に言葉通り、自分もと離れた場所からGNビームライフルロングバレルを構えたFAヒュプノスが撃ち抜く。ロボ太や陽太のような一騎当千ではないが、的確に仲間の援護にその力を役立てる。

 

「ッ……!」

 

 表情を険しくさせる一矢の操るバーニングブレイカーは徒手空拳による戦いを始めていた。それはバーニングブレイカーを預かる前にシュウジから言われた教わった覇王不敗流を試す為のものであった。

 

 聖拳突き、聖槍蹴り……その他にもシュウジから教わった技をガンプラバトルに織り込んで放つ。まだ覚えたてで難しくもあるが、それでも相手を粉砕するには確かな効果のあるものだ。

 

「……?」

 

 しかしそんな一矢も何か違和感を感じる。

 彼の視線の先にはモニターに映る影二操るMK‐Ⅵ改だ。その動きはどこかぎこちなく感じる。そう、それはまるで自分とバーニングブレイカーのように噛み合っていないかのように。

 

「拙い……!」

 

 それだけではなかった。

 次々にウィルスを撃破しているMK‐Ⅵ改であったが背後から放たれたガフランの攻撃に反応が遅れてしまっていた。このままでは直撃する。そう思い、何とかしようとバーニングブレイカーが動こうとした時であった。

 

 どこからともなくMK‐Ⅵ改を包むように無数のドラグーンがMK‐Ⅵ改を囲い、防御フィールドを形成すると迫りくる攻撃を全て防ぎ切ったのだ。

 

「──みんな、大丈夫?」

 

 一体、誰が……。そう思っていると通信が全機に鳴り響き、シミュレーターが反応する。

 そこにはビルドストライクをカスタマイズしたスターストライクガンダムがこちらに向かって来ていた。そして何より驚いたのはスターストライクを操るのはヴェルであった。

 

「よぉお前ら、ここが踏ん張りどころだろ」

 

 その近くには一矢のゲネシスもいた。

 それを操るのはシュウジであり、あの後、ゲネシスを取り戻した後、シュウジはヴェルと共に出撃したのだろう。カドマツの言っていた手は打った、それは彼らの援軍の事であった。

 

「シュウジ君、私はまだ慣れてないから支援に徹するよ」

「了解!」

 

 ドラグーンを再び射出しながらヴェルはシュウジに通信を入れる。

 ヴェルは旅行に持って行ったりしてはいたが、まともにガンプラバトルを行うのはこれが初めてであった。ヴェルの言葉に頷きながらシュウジが操るゲネシスは飛び出す。

 

 迫りくるウィルスに対し、ゲネシスのGNソードⅢのライフルが放たれ、一撃で撃ち抜くとそのままソードを展開して戦いを始める。

 シュウジは別に射撃が出来ない訳ではない。カガミやヴェルには劣るがそれでも人並みには出来る。

 

 ここで一矢とシュウジの違いが現れる。

 GNソードⅢで戦う姿は同じではあるが、シュウジの場合、そこに体術を組み込んで戦うのだ。そしてそれを援護するスターストライク。互いに特に合図する事もなくガッチリと息の合ったコンビネーションは瞬く間に敵をせん滅し、そしてそのコンビネーションはヴェルのガンプラバトルに対する経験不足も補う程であった。

 

「今だ、決めろ一矢ッ!」

 

 そうしたファイター達の活躍はウィルスが増殖するには間に合わない程の活躍を見せる。無防備となったコアプログラムに対し、シュウジが一矢に声をかけると、一矢はEXアクションを素早く選択する。

 

「───ッ!」

 

 選択したのはバーニングフィンガー。

 そして思い出すのはかつての一撃。

 

 まさに見よう見まね。あの時のシュウジには遥かに劣る。

 しかし一矢はこれを選んだ。

 

 バーニングブレイカーは背面ジェネレーターを展開させ日輪を輝かせると右腕の甲に前腕のカバーが覆い、エネルギーが右マニピュレーターに集中して紅蓮の光を纏う。

 

 腕に軸回転を加えて、肩、肘、手首の全て内側に捻り込むことで放たれた一撃はコアプログラムを深々と突き刺し、やがて破壊するのであった。

 

「やったぁ!!」

≪良いぞ、ウィルスは完全に除去することが出来た。再起動するから戻って来い≫

 

 ウィルスのコアプログラムを破壊することに成功し、手放しにミサが喜んでいると、カドマツも褒め称えながら戻って来るよう指示を出す。

 

 ・・・

 

 《再起動シーケンス 各デバイスチェック システムオールグリーン 再起動完了》

「うん、どこにも問題はないな」

 

 戻って来た一矢達。丁度そこではインフォが再起動を行っており、先程まで毒々しく赤く光っていたカメラアイも今までのようなグリーンのものになり、インフォの様子にカドマツは安心する。

 

「インフォちゃん、私が分かる?」

 《はい、ミサさん。ご迷惑をおかけしました》

 

 再起動をしたインフォに恐る恐る問いかける。

 するとちゃんといつもの様子でインフォは答えてくれ、ミサは先程まで弄られていた胸をなで下ろす。

 

「まったくこの店のありさまどうしてくれるんだい」

 《マスター、申し訳ありませんでした。私を廃棄なさいますか?》

 

 そんな中、イラトは店の惨状に文句を口にする。

 確かにこれでは暫く営業は難しいだろう。そんなイラトにインフォがウィルスに侵されていたとはいえ己の行いの責任を取ろうとする。

 

「馬鹿言ってないでさっさと片付けな!」

 

 しかしそんなインフォの言葉になにを言っているんだとばかりに怒りを見せるイラトは片付けの為、歩きだしてしまう。

 

 《マスターありがとうございます……》

 

 そんなイラトの背中を見つめながらポツリと感謝の言葉を呟いたインフォは主の後を追うのであった。

 

「ふふっ、私達も手伝おっか!」

「……ああ」

 

 そんなイラトとインフォのやり取りを見て、良かったと笑うミサは二人だけでは大変だろうと手伝いをしようと一矢に持ちかけると、手伝う事自体に異論はないようで、頷きながら片付けに向かう。

 

 しかし一矢は一度、影二を一瞥した。

 当の影二自体、なにか考えるようにずっとMK‐Ⅵ改を見つめ、一矢の視線に気づくことはなかった。




さて、これにて四章も終わりです。本来、ゲーム通り進めるならば次回はジャパンカップですがその前に10000UAを記念した番外編を書こうと思います。

そしてその主人公は前作主人公こと如月翔です。

果たして今、彼に何が起きているのか、どう向き合っているのか、そして彼に起きた事件。そんな話を次回以降、予定しております。

まぁ実際、話の流れ的にはこの後の事でジャパンカップの前の話ではあるので本編に組み込んでも良いのですが、正直、前述のようにこの話は翔が主人公のようなモノなのでこの形となりました。

<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

エイゼさんからいただきました。

ガンプラ名:ガンダムMK‐Ⅵ改
WEAPONビームサーベル(Hi‐ν)
WEAPON ビーム・マグナム(バンシィ・ノルン)
HEAD:Zガンダム
BODY:ZZガンダム
ARMS:Hi‐νガンダム
LEGS:ライトニングガンダム
BACKPACK:Hi‐νガンダム
SHIELD:アームド・アーマDE(ユニコーン)
拡張装備:角型センサー×2(両肩)
シールド・ブースター×1(バックパック)
ビームランチャー×1(右肩部)
シールドビット×1(バックパック右側)
六連装ミサイルポッド(バックパック左側)
オプション兵装:頭部バルカン、フィン・ファンネル、腕部マシンガン、シールド・ブースター、シールドビット、ビームランチャー、ビームサーベル(ライトニング)×2

ガンプラ名FAヒュプノス
WEAPON:ハイパービームソード
WEAPON:GNビームライフルロングバレル(ジンクスⅢ)
HEADケルディムガンダム
BODYダブルオークアンタ
ARMSフルアーマガンダム(サンダーボルト)
LEGS:ファッツ
BACKPACK:V2バスターガンダム
SHIELD:シールド(フルアーマガンダム)
拡張装備:レドーム×1(右肩)
角型センサー×1(左肩)
Iフィールド発生器×1(胴下部)
GNフィールド発生器×1(バックパック下部)
マイクロミサイル×2(バックパック両側)
オプション兵装:二連ビームライフル、ロケットランチャー、メガ・ビーム・キャノン、マイクロミサイルランチャー、Iフィールド、GNフィールド、スプレー・ビーム・ポッド
切り札:二連ビームライフル切り上げ、トランザム

ガンプラ名:ガンダムダンタリオン
元にしたガンプラ:ガンダムバルバトス
WEAPON:ツインビームソード
WEAPON:ビームライフルシューティ
HEAD:バルバトス
BODY:ガンダムヴァサーゴチェストブレイク
ARMS:ガンダムデスサイズヘル
LEGS:レジェンドガンダム
BACKPACK:デスティニーガンダム
SHIELD:耐ビームコーティングマント
拡張装備:角型センサー×2(胴体両側)、フラッシュバン×1(左腰部)、ハンドグレネード×1(右腰部)、シールドビット×1(左肩後部)、ブレードアンテナ×1(頭部)
オプション兵装:シールドビット、高エネルギー長射程ビーム砲、ハンドグレネード、ディファイアント改ビームジャベリン、フラッシュバン、アロンダイト
切り札:トリプルメガソニック砲、光の翼(デスティニー)、ハイパージャマー

素敵なキャラやオリガンのご投稿ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10000UA記念小説
ネクスト─時を経て─


10000UA改めましてありがとうございます!今後も本小説をよろしくお願いします!


 かつて一人の少年が異世界に(いざな)われた。

 

 その世界は少年がこれまで生きてきた世界とは、あまりにかけ離れた人々の憎しみと戦いに塗れた世界であった。

 

 少年は交わした約束の為、進むべき未来の為、そこで出会ったかけがえのない仲間達と共に世界を駆け抜け、やがては戦争を終結させて、その世界から姿を消した。

 

 その世界で人々はそんな少年を英雄と祭り上げた。

 

 きっと少年を英雄と呼ぶ人間は彼を気高くそして強い人間だと思うのだろう。

 

 ……否。

 

 そうではないのだ。

 

 彼は決して強い人間などではない。

 

 脆く儚いまでに弱い心を持ったただの……そう、誰とも違わない感性を持つ少年だった。

 

 それでも彼は自分の常識が通用しないその世界で強くあろうとした。

 

 そうしなければ自分の心が壊れてしまう事が誰よりも分かっていたから。

 

 しかし確実にその世界で彼が経験した出来事は彼の心に深く根強く傷跡を残していた。

 

 これはそんな少年のその後の物語……。

 

 

 

 

 ・・・

 

 ──大峡谷に轟音が鳴り響く。

 そびえ立つ大きな岸壁は衝撃で崩れ落ち、深い谷の底へと落ちていく。その周辺にいるのは一機のガンダムだ。

 

 その名はクロスボーンXクアンタ。

 元にしたガンプラはクロスボーンガンダムX1。これはガンプラバトルであり現実で起きている事ではない。

 

 すると突然、クロスボーンXクアンタの周囲に無数のフィンファンネルが飛び出し、一斉にビームを放つと、クロスボーンXクアンタは手に持つザンバスターとGNソードⅤを巧みに利用して防ぎ、そしてそのままビームをある方向へと受け流し、ビームはそのまま受け流された方向へ向かって着弾する。

 

 着弾による砂煙が上がる中、ぼんやりとシルエットが見える。

 それはガンダムタイプの機体であった。そのガンダムはそのまま砂煙を飛び出し、その姿を見せる。

 

 

 ──ガンダムブレイカー0

 

 

 その機体はかつて異世界において同じMSが英雄にも悪魔にもなった機体。宇宙(そら)に七色の光を放った奇跡を起こした一方で人類の英知を破壊して絶望を齎した。

 

 そんなブレイカー0はクロスボーンXクアンタの攻撃を全て予測でもしているかのように避ける一方でこちらからの攻撃は積極的にはせず、ただただ時間だけが過ぎてやがては制限時間が終了する。

 

 ・・・

 

 

「おっ、終わったな」

 

 

 バトルを終え、シミュレーターから出てきたのは以前、ブレイカーズにて夕香にガンプラについて教えていた宏佑であった。彼の手にはクロスボーンXクアンタが握られていて、彼が先程のバトルを行っていた一人である事が分かる。

 

 バトルを外から眺めていたのはかつて如月翔やあやこと共にガンダムブレイカー隊として活動をしていたナオキやルミカであった。

 

「……」

 

 そしてその後、別のシミュレーターから出てきたのはかつて異世界の戦争に身を投じた青年……如月翔であった。

 かつての頃に比べ、その肩まで伸びた女性のような艶やかな髪は後ろに結んでおり、元々の細身もあって、中性的な印象をより強くする。

 

 しかし問題はその表情であった。

 知り合いの前だからか強くは出ていないが、薄っすらとその表情には苦悶の色が垣間見える。

 

「じゃあ今度は俺と──」

「……悪い。体調が悪いみたいなんだ、今日はもう帰るよ」

 

 翔はそのままナオキ達に合流すると、宏佑とのバトルを終え、次は自分もとナオキが名乗り出ようとするのを遮り、今日はこのまま帰宅する旨を伝えると返答を待たずに足早に立ち去った。

 

「……やっぱり今の翔君を本気にさせられるプレイヤーはいないんだね」

「……悪いな、宏佑。折角、バトルしてもらったのに」

 

 店を出る翔の後ろ姿を見つめながら、ルミカは寂しげに呟き、ナオキはバトルをするのに誘った宏佑に話しかけると、「気にすんな!」と快活な返答に少しは救われる。

 先程のバトル、長く付き合いのあるナオキとルミカには彼が本気ではないというのはすぐに分かった。それは先程、翔が口にしたように体調が優れないと言うからではない。

 

 ガンダムワールドフェスタ2024が終了して以降、誰も、それこそガンダムブレイカー隊の面々がどれだけ本気でぶつかったとしても彼の本気を引きだせないというのが分かってしまった。

 そして彼がバトル終了後、シミュレーターから出てきた際に時折、覗かせる辛そうな表情を見て何とも言えなくなってしまう。

 

 きっと今の翔には本気でぶつかり合えるライバルがいない。

 バトルに虚無感を感じ始めたのだろうとルミカ達は感じた。だからこそ今日も宏佑とバトルを勧めてみたが、結果は先程の通り、乏しかった。

 

「一矢君がもっと強くなってくれれば……」

「成長はしてるみたいだけど正直、まだ俺達のが強いしな」

 

 翔がガンプラバトルがそれこそ大好きなのはナオキ達も知っている。

 だからこそバトル終了後の表情は以前のような明るい表情であってほしい。今の翔を見ているのは心苦しいものがある。

 

 今の翔に対抗できるのは、かつての翔のように覚醒が使える存在くらいだろう。

 一矢が強くなればきっと翔とも渡り合える存在となりえる筈だ。そうすればきっと翔だって以前の楽しげな様子を取り戻してくれる。だからこそルミカは以前、一矢に翔を救ってくれと言った。

 

 しかし一矢の実力はまだまだだ。

 最近、注目されているようではあるが、それこそテストプレイの段階からプレイしていたナオキ達ガンダムブレイカー隊には及ばない。

 

 だが彼らは根本的な勘違いをしている。

 

 翔は別にバトルに虚無感など感じてはいない。

 バトル終了時に時折、見せた苦悶の表情も全力をぶつけられる相手がいない事への表れでもない。

 

 しかしその事を彼らが知る由もない。

 

 何故ならばそれは翔が経験した事を知らないから。

 この世界に翔を完全に理解できる存在などいないからだ。

 

 ・・・

 

「っぁ……! はぁっ……!」

 

 ゲームセンターから出た翔は胸元を抑え、息荒く苦しげな様子で人気のない路地裏に入ると、そのまま壁を背にズルズルと座り込む。

 

 苦しみから思わず空を仰ぐが、その視界に映る曇り空はぐにゃりと歪む。

 それを振り払うように頭を振るとそのまま路地裏から見える街行く人々に視界を映せば、またそこで変化が起こる。

 

 もう何も見たくはない。

 そう言わんばかりに翔は両手で顔を覆い、そのまま蹲ってしまうのだった……。

 

 ・・・

 

『まっ……何とかはする。だからお前は心配すんな』

(……そうは言われても気にはなる)

 

 

 一方、一矢はブレイカーズに向かっていた。

 その頭の中には旅行の終わりにシュウジに言われた言葉が過っていた。しかし相手は憧れでもある如月翔だ。自分に何か出来なくてもそれでも力にはなりたい。

 

「で、なんでいんの……?」

「いやぁ私、ブレイカーズには行った事ないから気になってたんだ」

「アタシも最近、翔さんとはちゃんと顔合わせてないし暇潰しってやつよ」

 

 そう考えていた一矢ではあるが横目で見やるとたまたま行くと言ったら付いてきたミサと夕香がいた。二人には翔の異変については特に詳しく話していないし、話せるほど一矢も知らない。

 

「……ッ」

 

 ふと視界の端に何かを捉え一矢は思わず立ち止まってしまった。

 そこには男女の集団が何か困った様子で話し合っている。しかしその多くはこの辺では珍しい外国人のようで目立っている。

 

 その中で一番、最年少であろう少女と目が合った。

 ブラックを基調としたワンピースにホワイトのロング丈の羽織を着用した少女だ。

 

 煌く金髪を風に揺らし、その切れ長の紫色の瞳はまるで自分の事を見透かされているようで思わずドキリとしてしまう。

 

「……あの、この辺りに如月翔という人はいますか」

 

 少女はそのまま立ち止まった一矢に向かって歩いて来ると、何とその少女から聞かれたのは翔に関する事であった。

 

「いるも何もアタシ達、今からその翔さんの所に行くところだよ」

「……そうですか。なら私達も一緒について行って良いですか?」

 

 如月翔には外国人も会いに来るのかと驚いている一矢やミサを他所に夕香が代わりに答える。すると少女は自身の後ろにいる集団を指しながら同行の許可を求めると、別に問題はないのか一矢達は互いに顔を見合わせた後、頷く。

 

 少女は「ありがとうございます」とペコリと頭を下げた後、後ろで待っている集団にその事を話したのか、集団と共に戻ってきた。

 ある程度、日本語も話せるようで彼らに口々に挨拶されて、一矢達は恐縮しながらもブレイカーズに案内する。

 

「ありがとう、リーナ。お陰で何とかなりそうね」

「うん、お姉ちゃん」

 

 ブレイカーズに向かう道中で一矢達に声をかけた少女の隣を歩く姉であろう少女に似た美しい女性が少女の名前……リーナ・ハイゼンベルグの名を口にしながら礼を言うと、リーナは前を歩く一矢達を見る。

 

「待っててね、翔……」

 

 このまま彼らについて行けばきっと如月翔に会える筈だ。

 そう思い、リーナによく似た女性は翔を想って空を見上げる。

 

 彼女の名前はレーア・ハイゼンベルグ。

 

 リーナの姉であり、未来に再び翔との再会を願った女性であった。




如月翔(Mirrors)

【挿絵表示】


前作のEX編は翔が訪れたあの世界の、そしてそこに生きる人々の後日談の意味を持つ話でした。ですが今回は完全に主役を翔に置いた話。言ってしまえば翔にとってのEX編と言ったところでしょうか。

さて余談ではありますが本小説における前作キャラの年齢を軽く…

如月翔(24歳)
シュウジ(実年齢不明。大凡の年齢は18~20)
リーナ・ハイゼンベルク(外見年齢18~19。実年齢10歳行くか行かないか)
カガミ・ヒイラギ(22歳)
ヴェル・メリオ(同上)

私の中ではこんな所ですかね。リーナの実年齢は数字で書くとアレですがまぁ設定が設定なのでこんな感じです。

<いただいたキャラ&俺ガンダム>

仮面ライダー大好きさんからいただきました。
キャラクター名
深田宏祐(フカタコウスケ)
一人称:俺
年齢:21歳
身長:175cm
体重:53
性格:基本的には誰とも話せる為とんでもない人脈の持ちの持ち主でもある

ガンプラ名
クロスボーンXクアンタ
元にしたガンプラクロスボーンガンダムX1
カラーリング:メイン黒・サブ:赤
WEAPON:ザンバスター
WEAPON:GNソードⅤ
HEAD:クロスボーン・ガンダムX1
BODY:ダブルオークアンタ
ARMS:ダブルオークアンタ
LEGS:ダブルオークアンタ
BACKPACK:クロスボーン・ガンダムX1
SHIELD:ABCマント
拡張装備:太陽炉(バックパック)

人物設定
よくトイショップかブレイカーズなどでガンプラを買う自称ガンプラ兄さんと自分でいてるが今の所は誰からにも言われてない。
ガンダムの知識はかなり高くよく色んな人にアドバイスをしている。
昔はジャパンカップ、世界大会で優勝をしたことがある。現在は暇さえあればオリジナルガンプラを作っている

素敵なキャラやオリガンのご投稿ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネクスト─残された呪縛─

「あれ、厳也達じゃん」

「おぉっ久しぶりじゃのぉ」

 

 ブレイカーズに到着した一矢達が早速、入店すれば、少し賑わっているがその中で夕香は以前、知り合った高知県代表の厳也達の姿を見つけると、声をかけられて、夕香に気づいた厳也達は夕香の元へ向かって来る。

 

「隣にいる人達って……」

「あぁっ、彩渡商店街ガンプラチームの二人だよ。片っぽはアタシの兄貴の一矢、もう一人はミサ姉さんだよ。イッチ、この人達、前話した高知県代表の──」

 

 文華が夕香の隣に立っている一矢とミサに気付いて誰なのか、紹介を求めるように夕香を見ると、改めて夕香はお互いを紹介して、簡単にではあるが自己紹介を済ませる。

 

「なんでブレイカーズに……?」

「そりゃガンプラファイターにとってはこの店は観光地みたいな面もあるしのぉ」

 

 挨拶もそこそこに、一矢は何故ここにいるのか、問いかければ、厳也は店内を見渡しながら答える。

 どうやら最初期からガンプラバトルシミュレーターに携わるガンプラ界の著名人というだけあって、ブレイカーズに訪れる者は多いようだ。とはいえ経営者である如月翔は今はいないわけだが……。

 

「どうじゃ、折角会えたわけだし、軽くバトルでも……」

「……軽く、なら」

 

 こうして会えたのだ、バトルの一つでも良いだろう。

 そう思った厳也の提案に一矢も別に構いはしないとは思ったのが、頷こうとした瞬間、近くで入店を知らせるアラームが鳴る。

 

「翔さん……!」

 

 入店してきたのは翔であった。

 あの後、店に立ち寄ったのだろう。一矢は嬉しそうに憧れである翔の名を呼ぶが、翔は驚きで目を見開き、入り口で立ち止まっている。

 

「久しぶりね、翔」

 

 翔の視線の先にはレーア達がいた。

 その後ろではリーナなどが軽く手を振っている。まさかこの場でレーア達と再会するとは思ってなかったのだろう、彼の驚きようは凄まじかった。

 

「いつまで固まってんのよ、アンタは」

「まぁ急に押しかけちまったのは悪かったな」

 

 そんな翔に声をかけたのは以前は長いツインテールにしていた髪を腰まで届くロングヘアーに変えた朱 鈴花(シュ リンファ)ことリンとそのリンを妻に持つショウマであった。リンの両手には赤ん坊が抱えられており、見ればリンとショウマの面影が見える。

 

「やはり少しやつれているように見えるな」

「元気に……という訳ではない事はシュウジ君達から聞いてはいたがね」

 

 続けて翔に声をかけたのは軍を退役後、翔と同じく商売をしているエイナル・ブローマンとかつて翔も搭乗していた戦艦アークエンジェルの副長を務めていたマドックだ。

 

「翔……君……っ!!」

 

 そして最後にアークエンジェルの艦長を務めていたルル・ルティエンスが目じりに涙を貯め、我慢しきれずそのまま翔の胸に飛び込む。

 かつては翔よりも背が小さかったが成長したのか。その紫色の髪も肩まで伸びている。

 抱き着かれたことに一瞬、驚いている翔であったが、ふと異世界の仲間達との再会を改めて認識し、胸に飛び込んだルルをあやすように撫でる。

 

「えっ……と……奥、使いますか?」

「……いや……顔を見せに来ただけだ。それに明後日の事もあるし今日はこのまま帰るよ。迷惑かけたな」

 

 彼らが完全に翔の知り合いである事は見れば分かる翔の胸元に飛び込んでいるルルを複雑そうに見つめながら、今まで黙って見ていたあやこが再会に水を差すのは気が引けるが翔に声をかける。

 予想外の再会に驚いていた翔ではあったが、店に迷惑はかけられない。あやこに明後日の予定を話しながらレーア達に声をかけて、この場を後にしようとする。

 

「……一矢君、それに夕香ちゃんもこうして顔を合わせるのは久しぶりだな。ゆっくりしていってくれ」

「あっ……はい……」

 

 最後に久しぶりにちゃんと顔を合わせた一矢と夕香に声をかける。

 こうして見る分には翔に異変があるとは思えない。そんな事を考えているうちに翔は店を後にするのだった……。

 

「……ん? 明後日? 明後日ってなんかあったか……?」

「知らんのか? ネバーランドでガンプラのイベントがあるんじゃよ。サイトでも大々的に告知しておったし、そこにあの如月翔も招かれておるという訳じゃ。ワシ等も折角来たんでの、行く予定じゃ」

 

 ふと我に返り、誰に問う訳でなく明後日何かあるのか疑問に思っている一矢に隣にいた厳也は代わりに答えると、完全にその事を知らなかったのか、一矢は驚いている。

 

 ネバーランドとは少し前にオープンした遊園地のような場所だ。

 従業員の殆どがワークボットなどであり今、話題沸騰中のレジャー施設なのだ。

 

「まだチケットとかとれるかな」

「えっ!? 行く気なの!?」

 

 翔が行くとなれば自分も、と一矢がミサに何気なく聞いてみると、明後日の出来事にまさか一矢が行くとは思っていなかったのか、驚くのだった。

 

 ・・・

 

「来るのは知ってたけど、また随分といきなりじゃ……」

「本当はもう少し後の予定だったんだけどな。みんなが揃えるのは今しかなかったんだ。それにリンが行くって聞かなくて……」

 

 場所を翔が今住んでいるマンションに移し、そこに居候しているシュウジ達もショウマ達に顔を合わせ、突然の再会に驚いていると、ショウマは苦笑しながら隣で生まれたばかりの愛娘であるヒカリをあやしているリンを見る。

 

「フンッ、翔の奴が前に戻った時、アタシやフェズさん達に挨拶も何もしなかった文句がさっさと言いたかっただけよ」

「いや……その……悪かったとは思うけど……世界を渡るってのも俺の場合、ちゃんとしたモノじゃなかったからさ……」

 

 ショウマの視線に気づき、鼻を鳴らしながらジロリと翔を睨む。

 パッサートとの戦いで駆け付けた翔ではあるがデビルガンダムブレイカーとの戦いの後はすぐにあの世界から消えた。その事に不満を持っているリンに謝りながらも翔は苦笑してしまう。

 

「皆はどれくらいここにいれるんだ?」

「一週間の予定ではあったな」

「ならここで泊まっていけばいい。雑魚寝になってしまうかもしれないけど……」

 

 納得はしていないのかジーッと翔を睨むように見ているリンの視線と話題を逸らすように滞在期間について尋ねる。

 その疑問に答えるのはエイナルであった。

 ならばと翔はこの場所に泊まるよう勧めると他に行く宛のない一同はそれぞれ頷く。

 

 ・・・

 

 あれから数時間が経ち、、翔は一人、シャワーを浴びていた。

 久しぶりの再会と言う事もあってか、半ばパーティーのような大盛り上がりをした。あれだけ楽しんだのは本当に久しぶりだろう。

 

 

 ───化け物

 

 

「ッ……」

 

 

 しかしそれは考えたくない事もあったから、なのかもしれない。

 一人、シャワーを浴びていた翔の中にある単語が浮かび上がり、ギュッと目を閉じる。

 

 ───人間なのか

 

 ───気味が悪い

 

 ───悍ましい

 

 そして次々に過る言葉の数々。

 それは全て翔が陰で言われていた言葉だ。

 

 自分は確かに人間とは異なる力を持っている。

 それ故に何も持たない一部の人々は自分を恐れた。

 

 ・・・

 

 早々に風呂から出た翔は誰もが寝静まっているであろう中、一人、ソファーに座って果実酒が入ったひんやりとしたグラスを傾ける。からんっ、と小気味のいい音と共に氷の崩れる音が部屋に響く。

 

 元々、酒を飲むタイプではなかった。

 しかし少なくとも異世界への旅たちの後、起きた自分の異変と共にそれを考えたくないと飲み始めたのは事実だ。

 

「……やっぱり辛そうだね」

「……起きてたのか」

 

 ぼんやりと月明りに照らされながら窓に映る月を眺めていた翔に声をかけたのはリーナであった。起きていた事に驚いてはいるが、リーナはそのまま黙って向かい側へ座る。

 

「……ここに来る前から翔が苦しんでいるのはシュウジから聞いてたよ」

 

 ここに来た本題、そう言わんばかりに話を切り出される。

 この話を聞いているのはこの二人ではない。今、この空間にいる全ての人間がこの話に耳を傾けていた。寝たふりをしているのも翔から悩みを聞き出せるのは同じエヴェイユであるリーナなのだろうと、大勢に聞き出そうとするのは翔にとっても悪いだろうと考えての事だった。

 

「……聞いてもらえるか? 今となっては腑抜けになった奴の話を……」

 

 意を決したように一気に果実酒を飲み干す。

 冷たい筈の液体は流れ込んで喉を焼くが、翔の顔色一つ変わることはなく、翔は自嘲気味に笑いながら話を切り出す。

 

「今でも頭の中に……夢の中にでも出てくるんだ……。あの戦いの日々が……。初めて人を殺した時の事、目の前で引き潰された命……大量虐殺の光景……火薬の臭い、散り際の叫び……恐怖、憎悪、生への執着……今でも頭の中をぐるぐると回ってさ……頭がおかしくなりそうだ」

(PTSD……)

 

 

 グラスを持つ手がガタガタと震える。

 今、こうしてリーナに話している今でも翔の中では焼け焦げた人間の死体、死に際に放たれた悲鳴、様々な記憶が過っているのだろう。

 

 そんな翔を見て、リーナはあるストレス障害が浮かぶ。

 恐らく今の翔はPTSDを発症している状態が極めて高いだろう。

 それは日常生活に支障をきたすレベルでなまじ同じMSがガンプラとして戦うガンプラバトルなどかつての光景を思い出すだけだ。

 

「……シュウジからはエヴェイユについても聞いてるけど」

「……アイランド・イフィッシュの事は覚えているか?」

 

 そして翔を苦しめているのはPTSDだけではないだろう。

 気が引けるが、踏み込んで話を聞こうとするリーナに少し間をおいて翔は話し始める。

 

 それは翔がリーナやレーアの父であるヴァルター・ハイゼンベルクを憎しみの連鎖と共に破壊した時の事だ。あの戦いが終わり、地球軍とコロニー軍は一つに統合された。

 

「……あの時まで俺の中にはシーナ・ハイゼンベルグがいた。そして目の前で散ったルスラン・シュレーカー……。あの時、三つのエヴェイユの力が混ざり合って虹色の光を放った。紛れもなくそこに俺とシーナとルスランの力はあったんだ」

 

 翔の中に迫りくるデビルガンダムに対して放たれた虹色の光の刃が破壊した記憶が過る。

 そこには自分を異世界に呼び寄せたシーナ・ハイゼンベルグと、過去に囚われながらでも未来を切り開いたルスラン・シュレーカーの二人のエヴェイユの力と共に引き起こしたまさに奇跡の力であった。

 

「あの戦いの後……俺の中からシーナは消えた。でも……それで終わりという訳ではなかった。俺の中にはシーナとルスランのエヴェイユの力がいまだに残っているんだ」

 

 そう言って翔は目に手をやると、コンタクトレンズを外しているのかそのままゆっくりと目を開けて、リーナを見つめるる。

 

 思わずリーナも息を呑んでしまった。

 目の前にいる翔に瞳の色は目まぐるしく変化しているからだ。それを隠すために今までカラーコンタクトを着用していたのだろう

 

「アフリカタワーの事は覚えてるか?」

「う、うん……」

 

 そのまま話を続けながら翔が切り出したのはアフリカタワーでの出来事だ。

 あの時、ガンダムブレイカー0と共に戻って来た翔は内のシーナと力を合わせ、エヴェイユの力を解放し、全てが静止した空間を作り上げた。

 

「……俺の中にも似たような事が起きている。景色が歪んだと思ったら、周りの人間が静止したような世界で俺だけ一人いるんだ。目の前には知り合いだっている……でも……一度、そうなったら俺には干渉できない……。いくら話しかけても触ってもそんな世界じゃ相手は俺を認識出来ないからな……。酷い時に半ば一日そんな世界に一人いなくちゃいけない……。いつ起きるか分からない日々をビクビクしてるよ」

「エヴェイユの力が……暴走してる……」

 

 元々、人知を越えた存在であるエヴェイユの力は人の器には大きすぎるものだ。

 それが翔の中では元々、彼が持っていた力だけではなく、シーナとルスランが遺したエヴェイユの力も合わさって、暴走しているのだろう。

 今、同じエヴェイユであるリーナでさえ翔がいる領域がどんなモノなのか、彼がなにを見ているのかは想像が出来ない。

 

 今の翔は紛れもなく最強のエヴェイユであろう。

 しかしその反面でそのエヴェイユの力は翔自身でも制御しきれず、まさに世界から隔離された存在と化していた。

 

「……今の俺を……笑うか?」

「……笑えないよ」

 

 PTSDとエヴェイユの力の暴走……この二つで苦しむ翔を貶すような真似は出来ない。

 そもそも彼が今、こんな状態になったのは自分達の世界のせいだ。少なくともそれが分かっているリーナに今の翔をどうこう言う事は出来なかった。

 

「……変な話をして悪かったな……。でも……お陰で少しは楽になったよ」

 

 まだ幼いリーナにこんな事を話してしまった事に自己嫌悪しながら今日はこのまま寝る為にグラスを持って流し台に向かう。

 

「翔!」

 

 そんな翔の背中にリーナは立ち上がって、振り絞るような声で呼び止める。

 

「ドクターが……エヴェイユの研究をしてる……。きっと……翔の力になれるよ……!」

「そうか……。ありがとう」

 

 ここに来る前から翔の身に起きている異変は分かっていた。

 自分達も何もせずにここに来た訳ではない。

 想像以上に翔に起きている異変は凄まじいものがあるが、それでも仲間がエヴェイユについて研究している。

 

 翔にだってきっと力になれる筈だ。

 その事を訴えるリーナではあったが、翔は肩越しに振り返り、リーナに気を使った悲し気な笑みを浮かべて、そのまま去ってしまう。

 

 流し台に翔の背中が見える。

 今、彼がどんな表情をしているのか分からない。

 

 同じエヴェイユである自分ならば、そう思っていたが、今の翔に起きている異変にはどうしようもなかった。

 

 しかしそれでも翔の表情を何とかしたい。かつてのように笑ってほしい。

 そんな事を想いながらリーナはギュッと拳を握り、悲痛な面持ちで俯く。

 リーナだけではない、薄っすらと目を開けて話を聞いていたレーア達も何も出来ない自分を嘆き、ルルに至ってはすすり泣いていた。

 

 今の翔に何が出来るのか……。

 ただ夜は更けるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネクスト─ネバーランド─

 レーア達如月翔の異世界の仲間達がこの世界に訪れ、2日後、一矢やミサ、夕香などがネバーランドに訪れていた。

 大多数がワークボットによって動かされているこのテーマパークは激しい混雑は予想されていたが、やはり的中して所狭しと人がいる。

 

「うわーっ……凄いねー……」

 

 そんな中でワークボットに出迎えられながら感激の声を発したのはミサであった。しかし直後に、表情を引き攣らせながら隣を見る。

 

「イッチ、そろそろ正気に戻りなよ」

 

 隣にはこの世の終わりにような表情で虚空を眺め、口を半開きにさせている一矢がいた。そのある意味で顔芸を披露している一矢の肩をぽんぽん叩きながら、夕香は苦笑していた。

 

 結局、あの後、イベントのチケットを取ろうと思って調べた一矢達はネバーランドその物の入場券自体は何とか手に入れる事が出来たが、肝心の如月翔がゲストとして参加しているイベントのチケット付きのものは手に入れる事が出来なかった。

 

 憧れである如月翔がゲストとして参加するイベントに参加できなかった無念さと悔しさが彼の胸の中で渦巻いているのだろう。その顔は魂が抜けた何かだ。

 

「そう言えば今回のイベント、アタシの知り合いも参加するんだって。ちょっと前にガンプラバトルで知り合ったんだけど」

「そうなんだ。それで言えばカドマツもなんか仕事で来るとか言ってたっけ。もういるのかな」

 

 そんな一矢も程ほどに、夕香は知り合いが来ているかもしれない事について触れる。

 ガンプラバトルで知り合ったというのは以前のバトルロワイヤルでの事だ。知り合いという点で言えばカドマツもネバーランドに来るという話を事前に聞いているのか、その話をする。

 

「けど意外だな。イッチならイベントに参加すると思ってたんだけど」

「ジャパンカップに向けて、気が回らなかったのかしらね」

 

 その近くではレンとジーナが夕香に手を引かれながら歩いている一矢を見ながら意外そうに話している。

 彼ら二人もイベントへの参加者だ。

 翔を慕う一矢ならば必ずイベントへ参加するだろうと踏んでいたようだが、当の一矢はイベントを先日まで知らなかったのだ。

 

「あの……雨宮君……。なんだったら私のチケット……使う?」

「おいおい、いくら何でも雨宮を甘やかしすぎじゃね?」

「……そうだよ、チケットを取り忘れたのは自業自得でしょ」

 

 更にはかつてリージョンカップで激突した聖皇学園ガンプラチームの姿もある。

 一矢を気遣って自身のチケットを譲ろうとする真実に拓也と勇がそれぞれ止める。

 彼らもまたレン達と同じく彩渡商店街ガンプラチームの事も考え、イベントに参加したのだが御覧のありさまだ。

 

「……なんで誰も俺に連絡しないの?」

「イッチは翔さん大好きっ子だし、確認するまでもないかな……って」

「それにお前、連絡してもまともに取り合わねぇ時あんだろうが!」

 

 拗ねた子供のように文句をたらたら零している一矢に苦笑するレンと半笑いでツッコむ。自分のせいなのに拗ね始めた一矢はまさに子供ある。

 

「そうだよ、大体一矢君、最近、電話してもさっさと電話切ろうとするじゃん……。あっそう、じゃ。うん、じゃ。みたいなさぁ。少しくらい他愛ない話しようよー」

「他人に関心なさすぎ。だからボッチなんだよ」

 

 この際だからとミサや夕香までも便乗して一矢に不満を言い始める。

 最初こそミサ相手の連絡にさえ、気を遣っていた一矢も慣れてしまえば他と同じ扱いになってしまったようだ。

 

(翔さんやあやこさん、なにしてんだろうな……。あのチンピラも一緒か?)

 

 出てくる自分への不満を聞き流しながら、一矢は恐らく既にネバーランドのどこかにいるであろう翔について考えながら、同行しているであろうあやこやシュウジについても考える。しかしここ連日、シュウジには覇王不敗流の件でしごかれているようで少しシュウジの扱いが悪い。

 

 ・・・

 

「ぶぇっくし!!」

「うっさいわね、アンタはっ」

 

 一方、その頃、同じくネバーランドに翔達は訪れていた。

 前触れなくくしゃみをしたシュウジ、あまりに突然だった為、手を抑える暇もなく隣にいたリンがシュウジのももを軽く蹴る。

 リンをはじめレーア達もこの世界を観光として翔がネバーランドに連れてきたのだ。流石にイベントには参加は出来なかったが。

 

「いやぁ……すいません。誰かが噂でもしてんスかね」

「だとしたら一矢君達じゃない? この世界でシュウジ君をまともに知ってるのは一矢君達だし」

「一矢? 一矢かぁ……。あいつ等も来てんのかな」

 

 むずむずと鼻元に手を当てながらシュウジは謝っていると、ふと呟かれた言葉にヴェルが便乗して話に加わる。

 一緒には訪れてはいないが、翔が参加するイベントに参加したがっていたのだから恐らくはいるだろう。

 

「しかしガンプラバトルとは……。世界が違えば、そこにある物も違うというのは承知の上ではあったが、やはり驚くべきものはあるな」

「はい、最初はつまらない世界だと思ってはいたのですが、その世界にしかないもの、というのもありました」

 

 イベントに向かっているのだろう、笑顔でガンプラを持って走っていく子供達の背中を見ながら、自分達の世界にはない、この世界のガンプラバトルについて話すマドックに、カガミも頷く。

 

「イベント……とは言ってたけど、翔……大丈夫かしら」

「……正直、私は翔君を一度、ドクターの所に連れていくべきだと思ってます」

 

 翔とあやこはイベントの為、一足早く会場に向かってしまった。

 これから始まるであろうガンプラのイベント、恐らく翔にとっては辛いだけであろう。

 それでも翔はイベントに参加している。心配するレーアにルルは静かに、そして決意した様子で答える。

 

「翔君はパッサートの件で世界に起きた事件はその世界に生きる人間が解決すべき……そう言っていました。もし、翔君が私達の世界に来たせいで苦しんでいるのであれば、私達が解決すべきだと思うんです……」

「しかしだ、艦長。エヴェイユに関する情報はあまりにも少なすぎる」

 

 かつて翔がパッサートの件で再び異世界に姿を現した時にルルの発言にある趣旨の発言をした。そこに待ったをかけたのはエイナルであった。確実に治す手段がない。それでは翔を振り回すだけだろう。

 

「そりゃアタシ達だって、今の翔を治せるなら、どんな犠牲を払ってでもとは思うわよ」

「けどドクターにだってどうしようもない。おっさんも今言ってたけど情報が少ないんだぜ、しかもそんな力が暴走なんて……」

 

 我が子をあやしながら、エイナルの言葉に続くリンとショウマだが、その表情は自分に何も出来ない無力さを自覚しているのか、どこか悲し気だ。

 

「……リーナ、どうしたの?」

「……なんでもない」

 

 ふと、レーアは今までずっと黙っていたリーナに声をかける。

 どこか考え耽っている様子のリーナであるが、声をかけられた瞬間、ハッとした様子で顔をあげ、首を横に振る。

 

(……本当に暴走だけだったのかな)

 

 翔の話を聞いた時は暴走だと考えたのだが、何故か違和感を感じてしまう。

 

 本当に暴走なのだろうか?

 そうではない、そんな違和感がずっとあるのだ。

 しかし確信がある訳ではないので、それをわざわざ話す気はない。

 

「──!」

 

 ふとリーナとすれ違った二人組の少女がいた。

 その瞬間、リーナは目を見開いて振り返る。

 感のように何かを捉えたからだ。

 しかしこの人混みでは何なのか分からず、訝しんだような表情を浮かべながらもレーア達の後を追う。

 

「どうかしたか?」

「……んにゃ、気のせいかな」

 

 すれ違った二人組の少女の一人が足を止め不思議そうな顔を浮かべる。

 周囲を見渡している両サイドをお団子ヘアで纏めた少女はポニーテールの凛とした雰囲気を持つ切れ長の瞳の少女に声をかけられると、首を横に振りながら、再び歩みを進めるのだった。

 

 ・・・

 

「人、集まってきましたねっ……」

 

 イベントの会場の裏には招待された翔と付き人のような形であやこの姿があった。

 裏からでも分かるほど、会場には人が集まりだし、緊張した様子であやこが翔が話しかけると、翔は翔でブレイカーズから持ってきた大きなアタッシュケースの中に収められたガンプラを確認していた。

 その多くはショウマ達が異世界で使用していたゴッドガンダムなどでこれはイベント終了後にでもみんなでプレイしようと思って、持ってきたものだ。

 

「───あやこさん、翔さん、お久しぶりです」

「えっ……? あっ……LYNX君にダイテツさん!」

 

 そんな二人に後ろから声をかけた青年がいた。

 二人がそのまま振り返ると、そこにはかつてのガンダムブレイカー隊のメンバーである成長したLYNX-HMTと今もなお、プロモデラーとしてその名を知らしめるフルアーマーダイテツがいた。

 

「実は俺達だけではないんだ」

 

 この二人も翔と同じくゲストで呼ばれていたのだ。

 そう言ってダイテツはLYNXは自分達の背後を見せるように左右に分かれると、そこには懐かしい仲間達がいた。

 

「翔君、あやこ君、久しぶりだな」

「隊長……っ!」

 

 そこにはナオキやルミカを含めたガンダムブレイカー隊の面々がいたのだ。

 イベントに招待されなかった者も無理を言って裏で今、翔達と再会したのだ。

 代表して、かつてガンダムブレイカー隊の指揮を務めた隊長が声をかけ、久しぶりの再会に翔は驚く。

 

「私もいますよ!」

「お久しぶりですっ!」

 

 そんな隊長の背後からひょこっと出てきたのは、ガンダムブレイカー隊のオペレーターを務めた少女とGGFのイベントでのMCを務めていた女性であった。

 

「ルミカさん、よく来れましたね」

「えへへ……実はそんなに余裕ないんだけど……でも皆集まるしね」

 

 集まったガンダムブレイカー隊の中には突然、ルミカがいる。

 しかし今ではトップアイドルの彼女。こうして今、この場にいる事が不思議なくらいだ。不思議がっているあやこにスケジュールの合間を縫って何とか顔を出したのか、ルミカは苦笑した様子で答える。

 

「あやこちゃん、久しぶりね。どう、翔君との仲は?」

 

「えっ!? えっ……ぁっ……いや……か、変わりはないですけどっ……」

 

 かつては姉貴分のように親身に接してくれていたアカネが隊長と会話をしている翔を一瞥しながら、さり気なくルミカと話しているあやこに声をかけると、目を見開いたあやこは慌てふためきながら答える。

 

「……どなた?」

「レ、レイジだよ!!」

 

 そんな翔はある青年に声をかけていた。

 見当はついているが、あえて弄るように首を傾げて名前を聞いてみる翔に青年ことレイジは答える。かつては中二病全開であったが、今は落ち着いている様子だ。

 

「しかし翔君、髪も伸ばして……。まるで麗人のようだな」

「髪を切るのが面倒だったので……」

 

 翔とレイジの会話に入る壮年の男性であるソウゲツ・シンイチロウだ。かつて悩める翔にガンダムブレイカー0の完成へと導いた男性でもある。

 

 翔の髪に触れ、その艶やかな髪の感触はいつまでも触っていたくなるが、それを抑えて手を離すシンイチロウに翔は指先で髪を弄りながら答える。

 

「……なんだ男か」

「俺は男だよ」

 

 やり取りを見ていたユーゴ・オカムラが腕を組みながら、がっかりしたようなワザとらしいため息をつくと、翔もその言葉に乗りながら苦笑して答える。

 

「翔、今日のイベントは俺もいるからなッ! エキシビションマッチの借りはここで返すからな!」

「……受けて立つよ」

 

 背後から翔の肩に手をかけながら、かつてエキシビションマッチで激闘を繰り広げたナオキが好戦的な笑みを浮かべ、そんな彼の挑戦状ともとれる言葉に翔は一瞬、複雑そうな表情を浮かべて頷く。

 

 ・・・

 

「殆どをトイボットによって運営するテーマパーク……。過去の人間が思い描きそうだ」

 

 ネバーランドを一望できる場所で一人の細身の中年男性が眼下に広がるネバーランドを見つめていた。仕立ての良いスーツや高価そうな腕時計など社長か何かを思わせる。

 

「……わざわざ、あなたがここまで来る必要はなかったのでは?」

「今回は今までよりも規模が違うのでね。自分の目で見届けたいのさ。結果によっては我が社の必要性が増すというもの……!」

 

 その後ろで部下のように控えていた深淵のような群青色の瞳を持つ男性がそっと耳打ちすると、その言葉を聞きながら男性は手すりに手をかけ、最後にはどこか忌々しそうに答える。それはどこか自分に置かれている状況が決して良くはないという印象であった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネクスト─輝きの出会い─

「メガブラスタァァァァアッッッ!!!!!」

 

 ネバーランドではガンプラバトルが行われていた。

 モニターに映し出されるバトルの中ではかつて夕香がガンプラバトルロワイヤルで知り合った炎が操るブレイブカイザーの姿がある。

 

「スゲェ勢いだな。俺とバトルしてみるか?」

「アンタ確かガンダムブレイカー隊の……。よし、乗った!!」

 

 ブレイブカイザーには並のガンプラでは歯が立たないのか、周囲にはもう敵影はない。

 その中でナオキのダブルフリーダムが降り立つと、それがガンダムブレイカー隊のナオキの物であると知った炎は受けて立ち、バトルが開始される。

 

 ・・・

 

「あれだよ、ミサ姉さん。ブレイブカイザーって言ってね、炎って奴が使ってんだー。あっ、あっちにも」

「クレナイ……? 見た事あるかも」

 

 夕香はそんなブレイブカイザーの勇姿が映るモニターを指差して、知り合いを紹介する。すると別のモニターには、かつて知り合った龍騎操るクレナイの姿もあり、ガンプラバトルロワイヤルを観戦していたミサも覚えがあるのか、モニターを指す。

 

「……幾らか知ってる奴らもいんね」

「うん、厳也君達が来るのは知ってたけど、まさか熊本代表のあの人達までいるなんてねー」

 

 いくらか回復したのかイベントには参加できないものの観戦している一矢は映るバトルの中で見知ったガンプラがある事に気づき、ミサも同意する。

 レンのストレイドや真実のG-リレーション、厳也のクロスフライルーだけではなく影二のMK‐Ⅵ改など様々なガンプラの姿があるのだ。

 

「さぁいよいよ始まったガンプラカーニバル! 皆さーん、楽しんでますかー?」

 

 観戦している一矢達にイベントMCの声がマイクを通じて会場に響き渡る。

 イベントMCを務めるのはかつてガンプラワールドフェスタ2024にてイベントMCを務めた彼女だ。あれから数年経ったとはいえ、その大胆なコスチュームを着た姿は見衰えもなく、中々青少年に刺激が強い。

 

「現在、行われておりますガンプラバトルロワイヤル。皆さんは既に知っての通り、何とこのガンプラバトルは100人同時対戦! これほどまでに大規模なバトルは中々ありませんよ!」

 

 イベントMCから伝えられる今回のイベントであるガンプラカーニバルは100人同時対戦で行われていた。

 これほど大人数のバトルはイベントMCの女性が言うようにあまりなく、かつて夕香が参加したガンプラバトルロワイヤルよりも更に上回る人数だ。

 

「それに今回はスペシャルゲストであるガンプラマイスターである如月翔さんやプロゲーマーのLYNX-HMTさん、そしてプロモデラーであるフルアーマーダイテツさんをお迎えして現在、バトルを行っております! 参加者の皆さんは生き残ることが出来るか?!」

 

 そしてイベントMCが指を鳴らすと三つの立体映像が映し出される。

 そこには翔、LYNX、ダイテツのそれぞれのガンプラがバトルをしている光景が映し出され、興奮気味にイベントMCは実況する。

 

 ・・・

 

「やるな……。僕がGGFの頃だったら負けてるかもね」

 

 まず最初に表示されたのはLYNXのZ.S.FⅡだ。

 現在、彼は高知県代表の厳也達のチームである土佐農高ガンプラ隊とバトルを繰り広げていた。

 連携が取れた動きでこちらを攻めるクロス・フライルー達ではあるが、LYNXの涼し気な表情は変わらない。

 

 クロス・フライルーとそれを援護するフォボスにLYNXのZ.S.FⅡはレールガンとビームサーベルを二刀流で迫る攻撃を全て受け流し、その中で確実に直撃を与える。

 

 相手はプロゲーマーで、最初期から関わっているガンダムブレイカー隊の一員である人物だ。その実力はネット上でもガンダムブレイカー隊の1,2を争うのではと言われるほどの腕前だ。

 

「やはりプロは違うのぉッ……!」

「ちょこまかと……!」

 

 そんなLYNXの腕前を間近で感じて、まだ自分達には彼との差がある事を実感する厳也と文華。恐らくこれは厳也達だけではなく、それこそ一矢達や影二達でも同じ結果だろう。

 

「早く二人の援護をしないと……ッ!!」

 

 ルーツもまたZ.S.FⅡとバトルしている厳也達の援護をしなくてはならないのだが、その前にZ.S.FⅡが牽制として放ったスーパードラグーンに翻弄される。

 常人ならばすぐに翻弄どころか撃墜されてしまう所を何とか繋ぎ止めているのは単純に彼女の実力の高さが伺える。

 

「このバトルの邪魔はさせられない……!」

 

 しかもそれだけではない。

 これはバトルロワイヤルなのだ。

 当然、乱入もあり混戦状態になってしまう。

 

 しかし相手はプロゲーマーのLYNXだ。

 例え敵うところがなくてもジャパンカップに向けての課題が大きく見える筈だ。

 ならば厳也達と、この時間を少しでも長く続けようと乱入するMSを撃破しながら、咲はZ.S.FⅡに目を向ける。

 

「ぬおぉぉっ!!!?」

「もっと本気で来てくださいよ……ッ!」

 

 その近くではフルアーマーダイテツ操るフルアーマーSF【極破王】が龍騎操るクレナイとバトルをしていた。龍騎のクレナイの猛攻を受けながら、悲鳴をあげるダイテツに手を抜かれていると感じたのか、文句を言う。

 

「くそぅっ……俺だってLYNX君や翔君達と共に戦ったんだ!」

 

 モデラーとしては群を抜いた実力を持つダイテツだが、それはバトルには結びつかず、ガンダムブレイカー隊時代でも足を引っ張ってしまったことがあった。

 

 しかし自分は翔達と共に戦ったのだ。

 間近で見て、感じた事だってある。

 ただでは負けない、そう言うかのようにその高火力の機体を駆使してクレナイに向かって行く。

 

 ・・・

 

 如月翔が相手にしているのは影二達であった。

 接近戦を仕掛けるダンタリオンとMK‐Ⅵ改。そして遠距離から狙撃をするFAヒュプノス。それを相手に翔が使用しているガンプラはガンダムブレイカーであった。

 

 ガンダムブレイカー。

 

 GWF2024において如月翔が使用したガンプラだ。

 操作性を度外視し破格の性能を持ったガンダムブレイカー0に対して、あくまで当時の如月翔が使いやすさに拘って作成したガンプラだ。

 

(シュウジ達との模擬戦を思い出すな……)

 

 かつてパッサートとの戦いにおいて自分は纏まりの欠けたシュウジ達を鍛え上げた。

 こうして影二達とのガンプラバトルをしていると役割や戦い方が思い起こさせるのだ。

 もっとも影二達と大きく違うのは当時のシュウジ達にこれほどのチームワークはなかったが。

 

「ふぅ……まだ大丈夫だ……」

 

 あまり長時間バトルをするつもりはない。

 それにエヴェイユの力がいつ発動するのかも分からない。ならば今のうちにちゃんとバトルをするべきだ。そうして翔は操縦桿を握る。

 

 ダンタリオンのファイターの接近戦は目を見張るものがある。それはまさに天性のものであろう。しかしやはり荒削りなところがあるのは否めない。

 

 そう行った所もかつてのシュウジを思い出せる。

 ふと口元に懐かしむように微笑を浮かべた翔はツインビームソードでこちらを切り裂こうとするダンタリオンの腕部を掴み、そのまま引っ張ると頭部で頭突きを浴びせ、こちらに向かうMK‐Ⅵ改に投げつける。

 

「んなっ……!?」

 

 直後に放たれたFAヒュプノスの狙撃だが、ガンダムブレイカーは動じることなくそのまま対ビームコーティングされたシールドを構えると、そのまま受け流して、態勢を立て直そうとするダンタリオンの背後に直撃させた。

 

 ガンダムブレイカーが銃口を向けたのはFAヒュプノスであった。

 同時にFAヒュプノスから無数のミサイルが放たれ、FAヒュプノスからも狙撃が向かって来る。

 

「そんな……っ!」

 

 ガンダムブレイカーはビームサーベルを引き抜くとそのまま投げつけ、サーベル部分にビームを直撃させるとそのまま拡散させ、ミサイルを迎撃するとそのままFAヒュプノスに引き金を引き、まっすぐFAヒュプノスのメガ・ビーム・キャノンに直撃させて爆発させると皐月はあの距離で通常のライフルによる狙撃に戦慄する。

 

 次に相手をしたのはMK‐Ⅵ改であった。

 フィンファンネルによる攻撃を避けながら、向かってきたMK‐Ⅵ改とサーベル同士による剣戟が繰り広げられる。

 

「ずっと気になっていた事がある……」

 

 鍔迫り合いが起き周囲にスパークが起きる中、翔が静かに口を開く。

 まさか声をかけられると思っていなかった影二は驚き、目の前のモニターに映るブレイカーの姿を見る。

 

「君の動きにそのガンプラが付いていけていない……。俺にはそう見える」

 

 バトルをしているうちにMK‐Ⅵ改に違和感を覚えていた。

 MK‐Ⅵ改の動きに独特なぎこちなさがあったのだ。

 それがなんであるのか、こうやって剣戟を繰り広げているうちに分かり、対して影二もずっと感じていた事を見破られ目を見開く。

 

 そんな動揺が繋がったのか、MK‐Ⅵ改はブレイカーに押し切られそのまま腹部に蹴りを浴び、機体がくの字に曲がった瞬間にビームサーベルを持つ腕を切り落とされる。

 

「思い入れがあってそのガンプラを使うのもアリだが……勝ちに行くのなら、今のままでは厳しいな」

 

 そしてそのまま肩越しにブーストを利用したタックルを浴び、吹っ飛んだ所をバルカンとビームライフルを受けて、MK‐Ⅵ改の機体は見る見るうちにボロボロになる。そんなMK‐Ⅵ改の姿を一瞥しながら、こんなところで良いだろうと翔は移動するのだった。

 

 ・・・

 

 時間も残り少なくなり、ブレイカーは適度に戦闘をこなしつつ、場所を変える。苦しみながらでも何とかバトルを継続する事は出来た。

 

「──見つけた、ゆーめーじんっ!」

 

 残り時間を確認していると、危険を知らせるアラームが鳴り、同時にオープン回線で少女の声が聞こえる。

 

 すると極太のビームの数々が移動中のブレイカーの背後に放たれ、素早く反応したブレイカーは何とか紙一重で避けると、背後を確認する。

 

 そこには二機のガンプラがいた。

 どちらも似通ったカラーリングの機体であった。一機は近接戦がメインに捉えた機体であろうロックダウンともう一機は砲撃戦に特化したエクリプスだ。

 

「少し挨拶が派手だったか」

「インパクトは大事だよ」

 

 ロックダウンとエクリプスを使用しているのはリーナ達とすれ違った二人組の少女であった。

 ロックダウンを使用するのはポニーテールの少女である末長碧。エクリプスを使用しているのは神代風香。お団子ヘアーの少女だ。先程、砲撃前の言葉は風香のものだろう。

 

「なっ!?」

「んにゃぁ!?」

 

 ロックダウンとエクリプスの二機がブレイカーへと向かって行こうとした瞬間、それを遮るように四方八方からビームがロックダウンとエクリプスに襲い掛かる。直撃は避けられたものの掠ってしまった。

 

「最後は翔さんとバトルしたかったんですよ。早く終わらせましょう」

 

 スーパードラグーンは主の元に帰る。

 そこにいたのはZ.S.FⅡであった。

 

 残り時間も少ない。

 LYNXはブレイカーの隣に並び立つと、翔にそう声をかけ、再びスーパードラグーンと共にロックダウンへと向かって行く。

 

 ならばと翔が銃口を向けたのはエクリプスであった。

 風香もそれに気づき、無数のシールドピットを周囲に張り巡らせる。翔の狙撃技術の凄まじさは周知の事実であったからだ。

 

 そして最初に攻撃をしかけたのはエクリプスであった。

 フォートレスフォアブラスターが放たれ、それを皮切りに避けながらブレイカーはエクリプスに近づいていく。

 

 そうはさせまいとエクリプスのバックパックからスーパードラグーンが放たれるが、ブレイカーは止まる事無くビームサーベルを引き抜き、シールドと共に回避と防御を使い分けて近づき、中には反射させて逆にエクリプスに返してさえいる。

 

 周囲に張り巡らせたシールドピットも猛牛の如く向かって来るブレイカーに向けるが、その前にビームライフルを向け、腕部に装備していたハンドグレネードを撃ち抜かれ爆発する。

 

「ッ……」

 

 流石にシールドピットとスーパードラグーンによる攻撃を直撃しないようにするのは」厳しくなったのか、一度、進攻するのを止め、完全に回避に専念する。

 放たれたビームを反射させ、可能な限りドラグーンを破壊しつつ再び進攻の糸口を見つけようとしていた。

 

 そして放たれる一撃。

 その計算された狙撃は周囲に展開されているドラグーンやシールドピットをすり抜け、まっすぐツインバスターライフルに直撃させ爆発させる。

 

「リハ! 今のリハーサルだからっ!」

 

 そろそろエネルギーの問題もあるのか一度、スーパードラグーンとシールドピットを戻してブレイカーと対峙するエクリプス。

 実力の差は歴然ではあるが、負けず嫌いの性格もあるのかそれを認めようとしない風香だが、翔にとってはどうでも良い事なのか、再びビームライフルを構えられる。

 

「っぐぅ……!?」

「ちょっ、碧!?」

 

 弾かれるようにエクリプスの元に吹き飛ばされたのはロックダウンであった。

 驚きながら相手をしていたZ.S.FⅡを見るが、あまり外傷のないZ.S.FⅡはビームサーベルを引き抜き、こちらに向かって来る。

 

「これで終わりだッ!」

 

 LYNXは残り時間を確認する。

 もう一分を切っており、ならばせめてロックダウンやエクリプスを撃破しようと思ったのか、ビームサーベルを引き抜いて向かって行く。それはブレイカーのスピードとは比にならないほど圧倒的なものであった。

 

 ───やられる

 

 ふと風香はそう思った。

 

「……!?」

 

 しかしその瞬間は決して訪れなかった。

 何故ならばZ.S.FⅡのビームライフルはロックダウンの届くことなくその前に割り込んだエクリプスが試製双刀型ビームサーベルを引き抜いて防いでいたからだ。これにはLYNXも目を見開いて驚いている。

 

 そしてここでエクリプスに変化が起きた。

 そのままZ.S.FⅡを押し返したエクリプスの機体は赤色に光り輝いたからだ。

 

「ッ……グッ……!? こ、これは……!?」

 

 突然、起きたエクリプスの発光に驚く。

 すると次の瞬間、頭を砕かんばかりの頭痛が起き、翔は片手で顔半分を覆いながらエクリプスを見やる。それがなんであるのか、翔には分かったからだ。

 

 ・・・

 

「アレ……一矢君と同じ覚醒……?」

「……多分、違う」

 

 それは観戦するモニターにも映っていた。

 発光するエクリプスを指差しながらミサは隣に立つ一矢に声をかける。

 しかし一矢もアレがなんであるのか分からないが、アレは決して自分の覚醒とは違うものであるとは思ってしまった。

 

「リーナ……あれって……」

「うん、間違いない……」

 

 同じく観戦していたレーア達も驚き、一同、リーナに視線が集中する。

 代表してリーナに発光するエクリプスが何なのか問うレーアにリーナはゆっくりと頷く。

 

「エヴェイユ……」

 

 そうして放たれるエヴェイユの言葉。

 同じエヴェイユであるリーナには分かったのだ。

 そして今、翔から感じるエヴェイユの力が不安定になっている事も。

 

 画面越しに見えるエクリプスの動きに動揺はない。

 あんな状態になれば誰だって少なからず動揺は見せるだろう。しかしその様子がない事を見ると今回が初めてエヴェイユに覚醒した訳ではないようだ。

 

 先程、誰かとすれ違った時の直感は間違っていなかった。

 今ならはっきり分かる。あれはエヴェイユ同士が引かれ合ったからだ。

 

 この世界にエヴェイユが翔一人だけだとは思ってはいない。

 きっとそれが何なのか分からなくてもその力を秘めた存在はいるとは思っていた。

 しかしまさかこうして見つけるとは思わなかった。そんなリーナの思いを他所にバトルはタイムアップと共に終了するのであった……。




<いただいたキャラ&俺ガンダム>

神代風香

【挿絵表示】


ハイパーカイザーさんよりいただきました。

キャラクター名 轟 炎(とどろき えん) 性別 男

年齢 主人公と同年代

性格 熱血漢


ガンプラ名 ブレイブカイザー

元にしたガンプラ なし。しいて言うならトライオン3と同じスーパーロボット系(もっと言うなら勇者シリーズ)

WEAPON カレトヴルッフSモード(通称・ブレイブセイバー)

WEAPON カレトヴルッフGモード(通称・ブレイブバスター)

HEAD ガンダムAGE-3 フォートレス

BODY ガンダムAGE-2 ノーマル

ARMS ガンダムダブルエックス

LEGS ガンダムAGE-3 フォートレス

BACKPACK ビルドストライクガンダム

SHIELD なし

拡張装備※ V字型ブレードアンテナ(HEAD:1 POSITION:Y・+15 POSITION:Z・-10 SCALE・-100)

     メガ粒子砲(BODY:1 ROTATE:Z・-100)(通称・メガブラスター)

     ビームキャノン×2(BOTH LEGS:3 POSITION:Y・-100 ROTATE:X・+92 ROTATE:Z・+100)

     ミサイルポッド×2(BOTH LEGS:2)(通称・カイザーミサイル)

※()内は取り付ける位置です。書かれていない数値はニュートラルです。

カラーリング 赤、青、白、黄のヒーロー的イメージ

小さい時に父親と一緒に見ていたスーパーロボットアニメに影響を受けて作ったガンプラで、基本的に武装を使う場合は通称に書かれている名前を叫びながら使う。

ちなみにカレトヴルッフSモードを使って決めようとするときは、サンライズ立ちをする。


勇者(と言う名の魔王)さんよりいただきました。

赤坂 龍騎
年齢 18くらい 
性格 温和
備考 いつも眠たそうにしているが、試合になると周りの声が聴こえなくなる程集中する。
ガンプラ名 クレナイ
元にしたガンプラ ザザビー
WEAPON ビームナギナタ(ジョニーライデン専用ゲルググ)
WEAPON ロケットランチャー
HEAD ザザビー
BODY ザザビー
ARMS スターゲイザー
LEGS アストレイグリーンフレーム
BACKPACK ウィングガンダム
SHIELD ABCシールド
拡張装備 シールドビット×2 内部強化パーツ
備考 全身赤色。 


白鐘さんよりいただきました。

Name:ロックダウン

WEAPON メイス
WEAPON 専用ショットガン
HEAD バルバトス
BODY バルバトス
ARMS バルバトス
LEGS バルバトス
BACKPACK バルバトス
SHIELD アームド・アーマーDE(背中中央にマウント)

拡張装備
・新型MSジョイント
・大型ガトリングガン(バックパック両サイド)
・スラスターユニット(両足)
・ロケットアンカー(左腕)
・ハンドグレネード(右腕)

カラー
・白フレームは黒に変更
・排気口(?)を青に統一
・アイカラーは赤に
・エンブレムは鉄華団(赤)と08(赤)
・ぶっちゃけ、見た目は如何にも悪魔面なバルバトス


Name:エクリプス

WEAPON 試製双刀型ビームサーベル
WEAPON ツインバスターライフル
HEAD バルバトス
BODY ウイングゼロ(EW)
ARMS AGE-3フォートレス
LEGS ケルディムGNHW/R
BACKPACK ストフリ
SHIELD アームド・アーマーDE(バンシィ、左手)
拡張装備
・シールドビット(両肩)
・シールドビット(両足)
・シールドビット(バックパック両サイド)
・ハンドグレネード(右手)


素敵なキャラや俺ガンのご投稿ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネクスト─人であって人ならざるヒト─

「今回のイベントの最後に如月さんの制作した新しいガンプラのお披露目です! お楽しみにっ!」

 

 ガンプラバトルロワイヤルを終了し、トークもそこそこに様子がおかしいことを察したイベントMCの計らいで翔は裏に回る。

 折角、エヴェイユの力の暴走も今日はそこそこに留まっていたのに、あのエクリプスというガンプラが光を纏ってから触発されて不安定になってしまった。

 

「ぐっ……はぁっ……!」

「翔さん、大丈夫ですか!?」

 

 そんな翔を早々に向かったのはあやこであった。

 足早に駆け寄って、翔の身体を支える。翔の身体はこうして触って分かるほど汗に濡れ息も絶え絶えに苦しんでいたのだ。

 

「医務室に……っ!」

「いや……それよりも……俺には……やる事がある……ッ!!」

 

 ここ最近、翔の様子がおかしいのは何も知らなくても傍にいるあやこも分かっていた。

 なにかあったら大変だと医務室に連れて行こうとするあやこに翔は支えるあやこの手を振り解きながら裏口から外に出ようとする。

 

「待ってくださいっ! 翔さん……GWFが終わってから変ですよ……。なにがあったんですか!? なんでそんなに……苦しんでるんですか!?」

 

 翔の後を追うあやこには、このまま翔を黙って行かせる訳には行かないと思ったのだ。

 そしてこの際だと、ずっと胸に秘めていた疑問を苦しむ翔の背中にぶつける。

 

 GWFのあの短い時間で交わした約束があった。

 それは今にも消え去りそうな彼に向けて行かないで、と言った時、彼は絶対に帰って来ると約束し、彼はそれを守った。

 しかしそれから日に日に彼がゆっくりと壊れていくのが分かった。

 

 やつれていく彼を無理やり病院に連れて行った時もあった。

 しかし体の異常は見つからない、それが病院の回答であった。

 病院を出た彼は「行った所でどうにもならない」と言ったのを覚えている。

 

「私達は……っ……仲間なんですよね……っ!? あの時、翔さんは私達を大切な仲間だって……! それなのにっ……なんでなにも……なんで……その痛みを分かち合う事すらさせてくれないんですか……っ!!」

 

 もう我慢できないと言わんばかりに涙を目尻に溜めて訴えかける。

 いつか話してくれると思っていた。何故ならば彼が大切な仲間だと言ってくれたから。

 しかし彼はいつまでも経っても分かち合おうとはしてくれない。

 正直に行ってしまえば自分は最早、翔に対して仲間以上の想いを抱いている。だからこそ今も傍にいるのだ。

 

「ごめん、あやこ……。俺は……今も変わらず大切な仲間だって思ってる……。でも……これだけは……俺自身で何とかしなくちゃいけないんだ」

 

 ここで翔は漸く振り返ってあやこを見据える。

 その表情はとても儚く脆い微笑であった。

 それがあやこに気を遣ってのものであるのはすぐに分かってしまった。まるでGWFのあの時に自分の前から立ち去った翔を今、再び目の前にしているかのようだった。

 

 その表情を見て、なにも言う事も動く事も出来ないあやこに謝りながら、足早にその場を立ち去る。残ったあやこはそのまま膝から崩れ落ちてしまった。

 

 今の彼女は事情も知らない。なにも出来ない。

 それは事情を知るレーア達以上に自分にはなにも出来ないという無力さが襲うのであった。

 

(どこにいる……?)

 

 あやこに対して後ろめたい想いもあるが、今はあのエクリプスのファイターを探す。

 あの時、感じたエヴェイユの力は残り香のように今も僅かに感じる事が出来る。

 

 今、いるのは観覧車の周辺だ。

 この辺りにいるのは間違いないが人の多さも相まって中々、見つける事が出来ない。

 

 その時であった。

 バッといきなり翔の腕が掴まれて、そのまま引き寄せられる。元々、体重が軽いせいもあって簡単に引き寄せられると、そこにいたのは風香であった。

 

「いやぁ、まさかゆーめーじんが追いかけてくれるなんてねぇ。ガンプラバトル越しでも風香ちゃんの可愛さに気づいちゃったのかなぁ」

 

 間違いない、彼女だ。

 そう思っている翔に風香は1人、ふざけて自分の頬に手をあてながら照れた様子を見せる。これには流石に翔もやや面食らった様子だ。

 

「まーまー……追いかけた理由は分かってるよ。だからここで並んでたんだし……。ね、友達待たせてるからさっさと乗ろうよ」

 

 先ほどの事について話そうとする翔の唇に人差し指を当て、ここで喋らないように口を紡ぐと、チラリと売り場の方を確認すれば、そこには碧が翔に気付いて軽く頭を下げていた。

 

 風香も翔に対して、その内に漏れ出すエヴェイユの力を感じ取っていたのだろう。

 二人きりで静かに話が出来るようにと観覧車に誘い、翔は半ば勢いに負けて一緒に乗り込むのであった。

 

 ・・・

 

「まだ決まらないのー? サクッと決めなよ」

 

 一方その頃、一矢達は売店に来ていた。

 イベント名がガンプラカーニバルというだけあって限定商品が目白押しだ。

 限定ガンプラ売り場の前で両ポケットに手を突っ込んでジッと目だけ動かして見つめている一矢に苦笑しながらミサは声をかける。

 

「はいはい、どきますよー」

 

 しかしそんなミサに一矢は「どいて」とだけ言って再び物色を始める。

 全部、購入出来るなら世話無いがお財布事情によってそうもいかない。だからこそ厳選しているのだ。

 

「ねーねー、ミサ姉さん。あれ凄くない?」

「うわー!? PGア・バオア・クーが置いてある!? でっけー!!」

 

 既に買い物を済ませた夕香がちょいちょいとミサのジャケットの袖を引っ張りながら、ある方向を指差すとそこにはア・バオア・クーの展示物が。これは今回のイベント用に作られたもので、興奮気味にミサは駆け寄って行く。

 

「ねぇ、こっち来てよ」

「って、さっきはどいてって言ったのに今度は来いって……どうしたいんだよー!」

 

 すると一人では決められなくなったのか、ミサを呼ぶ寄せる。

 これにはア・バオア・クーの展示物を見て興奮していたミサも思わずずっこけて呆れながら戻って来る。

 

「分かった! 嫌がらせか! そうでしょ!?」

(あぁ……これとこれで良いかな……)

 

 折角、ア・バオア・クーの展示物を見ていたのにいきなり呼ばれては不満顔になってしまうのも無理はない。しかしミサを呼んだは良いものの相談する前にどれにするか決まってしまった。

 

「ごめん、どいて」

「なっ……!?」

 

 相談する前に呼んだとはいえ、決まってしまってはもう相談する意味はない。

 丁度、ミサが立ち止まった後ろに目当ての商品がある為、ミサを退かそうする一矢だが、いざ来てみたら、この扱いにミサは目を丸くする。

 

「……やだ」

「えっ」

 

 暫く一矢を見ていたミサだが言葉の意味を理解して俯き、その肩を震わせポツリと言葉を漏らす。その言葉に一矢も冷や汗をたらりと流すと……。

 

「いやだぁっ! 私はもうここを一歩も動かないっ!!」

 

 遂に爆発してしまったミサは仁王立ちで動こうとしない。

 呆然とする一矢を横で見ながら夕香は「うっわー……」と、近くにいるロボ太も首を横に振り、一矢に呆れた様子だ。

 

「──なぁにやってんだ、お前ら」

 

 そんな一矢達に声をかけたのはカドマツだ。

 目立っているのだろう、その様子は手のかかる子供を見ているようであった。どうやらカドマツはミサの言葉通り、今日はここに訪れていたようだ。

 

「カドマツ、本当に来てたんだね」

「今来たところだがな。ここはそのほとんどがワークボットで動かしてるテーマパークだ。前みたいな事がないようにってな」

 

 カドマツの顔を見て、多少は我に返ったのか、ミサが声をかける。

 そんなミサに腕時計で時間を確認しながら作業用に持ってきた鞄を見せた。

 

「流石にここのセキリティはちゃんとしてるとは思うんだがな……。なんか胸騒ぎがすんだよ」

 

 見渡せば子供と触れ合うロボットの姿が見える。

 これが以前、インフォのようになってしまえば大惨事だ。そうはならない為に来たのだが、胸に感じるざわつきは一向にカドマツの胸から離れなかった。

 

 ・・・

 

「エヴェイユ、か……。それが風香ちゃんの秘密だったんだねー」

 

 観覧車に乗った風香は向かい側に座る翔から彼が知る限りのエヴェイユについて聞かされていた。すると今まで黙っていた風香は再びおどけた様子で話し始める。

 

「……動揺はしないんだな」

「……まぁ昔からこれは知ってたしね。ただなんであるのかは分からなかったけど」

 

 驚くとばかり思っていたため、意外そうに翔は話しかけると、ここで漸くふざけた態度ではなく、俯き加減にどこか自嘲するかのような笑みを見せる風香。

 

「ずっと知りたかったんだ……。私って何なのかって……。人間なのかそうでないのか……。何のために生まれてきたのか……。ずっと……ずっと……その答えを誰かに教えてもらいたかった」

 

 風香の求める答え、それは翔も聞けることであれば聞きたい事であった。しかしそれを答えられる者などいない。それこそ神か何かでなければ。

 

「私さ……人の考える事って何となく分かるんだ。如月さんが私と同じ答えを求めるって事もさ。でもさ、如月さんは出来ないでしょ。でもその代わり、如月さんは私が信じられないような世界を見てきた。私が出来ない事が出来る」

「……お互いに環境の違いでその力の使いようが変わっていたんだな」

 

 心が読めるという風香。

 しかしそれは同じエヴェイユである翔には出来ない。

 しかし彼女の言葉は嘘ではないのだろう。現に彼女は自分の過去に何があったのかをなんとなくではあるが察している。

 

「でもさ……私だって好きでこんな使い方を見出した訳じゃないんだよ。お陰で周りに気味悪がれてさ……。あの目は何でも見透かして気持ち悪いって……。一緒にいたくないって……そんな想いが分かるんだ……。そのせいで親にも捨てられたの。まだあの時、子供でさ。両親が胸に秘めてる互いに思ってる嫌な事をつい言ったりなんかして……それで親は離婚……原因になった私はおぞましいって捨てられて施設行き」

 

 戦争の世界に放り込まれ戦い抜いた翔はエヴェイユの力を戦いで使う力として発揮し、片や風香は身を投じるような戦いはない。だからこそまた別のエヴェイユの力の使いようが出てきたのだろう。

 

 しかしそれで苦労してきた事もあるのだろう。

 疲れたように背もたれに身を預けてふぅっと今までを振り返ってため息をつく。

 

「……一緒にいた友達……あれね、碧っていうの。アタシをガンプラバトルに誘ったのも碧なんだよ。元々、碧の趣味だし私もやっているうちはそこだけに集中出来たからさ。碧は……少なくても私を気味悪がってはくれなかった……。でもさ……怖いんだ……いつか友達だって思ってる碧に拒絶されるかもって言うのが……。こんな力を持って、人の心が分かるから人の事が怖いって思ってるくせにね」

 

 観覧車の窓から碧がいるであろう売り場の方を見下ろす。

 本当に碧に対しては感謝して、友情を感じているのだろう。だが最後の言葉にはやはり自嘲した笑みを浮かばせる。

 

「……君の友達は君がエヴェイユである事を知っているのか?」

「……知る訳ないじゃん。如月さんだって周りにべらべら話さないで隠してるでしょ」

 

 膝に両肘をついて、手を組みながら碧がどの程度知っているのかを尋ねるも、寧ろ風香からは何を言ってるんだとばかりに返される。風香は翔があやこに感じている後ろめたさも気づいているのだろう。

 

 その答えに「それもそうだな」と背もたれに身を預ける。

 ふと外を見やればそろそろ観覧車は地上に戻る頃だった。

 

 

 ──しかし異変が起きた。

 

 

 突如として観覧車がガクッと揺れる。

 なんと観覧車が突然、停止したのだ。

 

 なにか異常でもあったのか?

 そう思う二人だが、すぐに地上に着けるだろう。この時はそう思っていた。

 

「──さぁいよいよだ」

 

 

 スーツ姿の中年男性が停止した観覧車を見て、ほくそ笑む。

 

 確かに異常は起きていた。

 

 しかしそれは後に世間を揺るがす大事件に繋がり、その大事件に大きく関わる事を翔も風香もこの時は知る由もなかった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネクスト─アイオライト─

(翔さん……)

 

 ガンプラカーニバルのイベント会場の裏にいたのはあやこだった。

 彼女はイベントの為に翔が持って来ていたガンプラを見つめていた。それは彼がGWF終了後に作成したガンプラであった。

 

 そして今度は自身が所持するケースからガンプラを取り出し、物憂げな様子で見つめる。これは目の前の翔が作成したガンプラに合わせて作成した物だ。

 

 ガンプラの名前はアイオライト。

 いつまでも彼とガンプラバトルで一緒に戦う為に、隣にいる為に。そんな想いで作成したのだ。

 

 しかし現実はどうだろうか?

 

 翔が言った今だって大切な仲間だって思っているという言葉……これに嘘はないだろう。

 だが、例え仲間であっても彼は隣にいない。

 彼は自分よりも前に進んでいる、彼と自分の距離は渡る事の出来ない深い溝に挟まれ、例え手を伸ばした所で届きはしない。

 

 それだけ如月翔と自分の間には絶対的な何かがあるのだ。

 

「あれ、どうしたんだろう……」

 

 そんな事を考えていたら、何か外が騒がしい。

 テーマパークなのだから当たり前だとは思うが、騒がしいは騒がしいでも決して楽しさからくるものではない、恐怖によるものだ。

 

 ・・・

 

「……なに……これ……?」

 

 何が起きたのか外に出たあやこが目にしたのはとても信じがたい光景であった。

 目を見開いて口元を両手で抑えてしまう。

 

 《これから不審人物を取り押さえます》

 《抵抗せず、こちらの指示に従ってください》

 

 なんとこのネバーランドの目玉でもある多くのワークボットやトイボットが来園者達を地に押さえ付けたりと危害を加えるとおう信じられない光景であったのだ。

 係員達も何とかロボットを止めようとするが指示を受け付けないのか、逆に地面に力づくで押さえ付けられてしまっている。

 

「翔さん……!」

 

 パニックになりながらでもなんとか翔と連絡を試みようと携帯端末を取り出し、翔にコールをかけるが幾ら待てども出ない。彼女の心中には、ただただ翔の安否への心配が募るばかりだった。

 

 ・・・

 

「おいおい、マジかよ……っ!!」

「待ってよ、カドマツ!!」

 

 ネバーランドのどこに行っても同じような光景が広がっていた。

 売り場にいた一矢達ももれなく同じ光景を目にしている。

 元々、こうはならないようにこの場に訪れたカドマツは険しい表情で呟くと走り出し、慌ててミサ達もその後を追う。

 

 ・・・

 

「ジーナ、俺の後ろに……っ!」

「何がどうなってんだよ……!?」

 

 またガンプラカーニバルに参加していたレン達にもロボット達は近づいていた。

 明らかにロボット達は自分達を客とは見ていない。

 逃げようにもロボット達は囲むように近づいているのだ。

 

 何とか愛するジーナを守ろうと自身の後ろに下がらせるレンを横目に炎はこの場にいる全員が感じているであろう疑問を口にする。

 

「───閃光魔術蹴りィイッ!!!」

 

 もうお終いか、そう思った矢先、頭上より張り上げた声が聞こえて、なんだと思った時には目の前のロボットは空から飛来した何かが砕いた。

 

「チッ……前のインフォちゃんと同じみたいだな……ッ!!」

 

 そのまま炎達の前に立ったのはシュウジであった。

 彼は眼光鋭くかつてのイラトゲームパークでの事件を思い出しながら迫るロボット達を見据る。

 

 その直後、別方向から大量のロボットがまるで葉っぱのように吹き飛び、こちらを囲んでいたロボット達にも直撃した。

 

「今はなんであれ民間人を逃がすのが先よ!」

 

 そこにはリンとショウマがいた。その後ろにはルル達が。素早くリンとショウマがシュウジの隣に並び立つと背後に守るレン達をチラリと見る。

 彼らに危害を加える事は出来ない。リンはポケットから髪留めを取り出し、かつてのような長いツインテールにする。

 

「みなさん、こちらに!」

 

 するとショウマ夫妻の愛娘であるヒカリを抱えたルルが声を張り上げて逃げ道を案内するとレン達は戸惑いながらルル達の元へ行き、避難を開始する。

 

「行くぞ、リン、シュウジ!」

「おうよッ!」

「久しぶりに腕が鳴るわ!」

 

 完全に会場から逃げたのを見計らい、追いかけようとするロボット達の前に並び立ったショウマはシュウジとリンにそれぞれ声をかけ、三人は己が使う流派の構えを取ってロボット達へ向かって行くのだった。

 

 ・・・

 

「……来るぞ!」

 

 この現状をゴンドラ内で翔と風香も目の辺りにしていた。

 どうするべきか翔が頭を悩ませるが、遂にロボット達は翔達が乗るゴンドラのロックを外して中に入ろうとする。

 

 しかし開けたと同時に翔と風香はロボットを蹴り、将棋倒しのようにロボット達が崩れたところをそのまま外へ出ると、翔は風香の手を引いて逃げる。

 

「……ちょっと待って! 碧は……?」

「───風香!!」

 

 すると風香が突然、立ち止まる。

 なにがあったのだと振り返る翔に一番の親友の安否を心配する。

 

 確か彼女は翔と風香が観覧車に乗る前には売り場にいたはずだ。

 売り場の方向を見やるとそこにはこちらに駆け寄ってくる碧の姿が見え、風香はほっと胸を撫で下ろす。

 

(しかしどうする……?)

 

 碧との再会に喜んでいる風香を見て、少しは安らぐ想いだが、いつまでもこうしているわけにもいかない。

 何故ならばロボット達は今にも自分達を拘束しようとしているのだ。

 逃げなくてはいけない。

 

 しかしどこへ?

 このロボット達は入口を封鎖しているのだろうか?

 情報があまりにも少なすぎる。

 しかし少なくとも自分は目の前の二人の少女は守らなくてはいけない。

 

(あれは……一矢君達か……?)

 

 様々な考えが巡り、その中で何が最善策なのかを見出そうとするなか、視界の端に見知った顔ぶれが走っているのを捉える。

 

 一矢達だ。

 カドマツを先頭に走っているが、それはただ我武者羅に当てもなく走っている訳ではなく、目的地がハッキリしている迷いのない行動だ。

 少なくともここで当てもなく行動するよりはマシだろう。翔は風香達に声をかけ、一矢達を追うのであった。

 

 ・・・

 

「……こんなもんか……」

 

 一方、こちらはガンプラカーニバルの会場、襲いかかるロボット達を行動不能に追いやったシュウジ達は互いに背を預けながら周囲を警戒する。どうやらもう周囲にそれらしい影はいない。

 

「──……これ全部、アンタ達がやったの?」

「一矢達じゃねぇか。なーにやってんだ、こんなとこで」

 

 するとそこに一矢達が到着し、シュウジ達を中心に破壊痕の目立つロボット達を見て引き攣った表情を見せると一矢達に気づいたシュウジは何故、わざわざここに来たのか、疑問と呆れを見せながら自身が打倒したロボットの上に腰かけながら問う。

 

「本来ならコントロールルームからウィルスの駆除を試みるんだが関係者用の出入り口もロックされててな。だからインフォの時と同じ手を使う。ここからネバーランド全体を運営するコンピュータを侵してるであろう大元を駆除する」

「ガンプラバトルシミュレーターによるウィルス駆除か」

 

 代表してカドマツが答えると、ロボットの上に腰かけているシュウジは膝に肘を乗せて、頬杖をしながら大量のシミュレーターを見やる。確かに出来ない事はないだろう。

 

 しかし……。

 

「問題はインフォの時とはその規模が全然違うって事だ」

 

 インフォの時はあくまで一機のワークボットだったからこそ何とかなった部分が大きい。しかし今回はあまりにも規模が大きい。恐らくはウィルス側も一筋縄ではいかないだろう。

 

「……なら俺も手を貸す」

 

 すると背後から声をかけられる。

 そこには翔、風香、碧の三人の姿があった。

 

「翔さん……!?」

「君達だけに全てを任せやしない……。それにガンプラバトルシミュレーターの事は詳しいしな」

 

 話は大体聞いていた。

 恐らく一矢達がその任を行うのだろう。ここまで来たのだ、少しでも解決の道があるのならば進みたい。

 

「私達も及ばずながらお手伝いします」

「それに風香ちゃんみたいな勝利の女神がいると心強いでしょー?」

 

 碧や風香も名乗り出る。

 丁寧に名乗り出た碧とは対照的に風香は目の横にピースサインをしながらウィンクを投げかけ、それを横目に碧は呆れ顔だ。

 

「シュウジ、アンタも行きなさいよ」

「ああ、数は多い方がいいだろうしな。俺達はここであいつ等を食い止めながらバリケードを作る」

 

 今まで黙っていたリンがいつまでも座ってんじゃないと言わんばかりにシュウジの頭を後ろから叩き、ショウマも同意しながら会場を入口を見やると、ロボット達が再びこちらに向かって来ようとしていた。恐らくウィルスの駆除を始めれば積極的にこちらを潰そうとしてくるだろう。

 

「……良いのかよ」

「俺達を誰だと思ってんだよ。俺達はお前の師匠だろ。弟子が師匠の心配をするなんて二万年早いぜ」

 

 そのことが分かっているのか立ち上がりながら尻の埃を払うシュウジはショウマ達を心配するが、ショウマは何言ってるんだとばかりに人差し指でシュウジの額を突く。

 

 こうは言われては仕方がない。

 シュウジも参加を表明するようにカドマツを見ると彼は頷いて、インフォの時、同様にガンプラバトルシミュレーターに調整を加える。

 

「──翔さん……?」

 

 シミュレーターまでやって来た翔達だが、そこで翔に声をかける者が。

 シミュレーターとシミュレーターの間からあやこがひょっこりと顔を出していたのだ。

 動けず、ずっとこのイベント会場に隠れていたのか、翔の顔を確認するや否や安堵したような表情を見せ、そのまま翔の胸に飛び込む。

 

「良かった……っ! 本当にっ……本当に無事で……! 電話にも出なかったから……心配して……っ!」

 

 翔の胸に飛び込んだあやこは目立った外傷のない翔を見て心底安心したのだろう。

 綻んだ表情を見せその目じりには大粒の涙さえ見せ、翔の身体にしがみ付くあやこの手に力が篭る。

 それはまるで目の前の如月翔を決してこれ以上、自分から遠ざけないかのように。

 そんな彼女に翔も逃げる事に集中していたせいで着信に気が付かなかったことに後悔する。少なくとも何か連絡をすれば、あやこを安心させる事は出来た筈だ。

 

「……あやこ、俺はこれからガンプラバトルシミュレーターを使ってウィルスの駆除をする。あやこは「私も!」……」

「私も一緒に行きます! 私は……私だって翔さんと同じガンダムブレイカー隊の一員だったんですから!」

 

 あやこの両肩に手を置き、その目を見て話をする為に距離を開けるとそのまま下手に移動するよりもショウマ達のいるここで身を潜めるように促そうとしたが、それを遮るようにあやこは声をあげ自身も共に出撃すると言うのだ。

 

 それは単純に戦力を増やす為なのか、それとも目の前でこうして触れ合っているにも関わらず決定的な溝を少しでも埋めようと置いてかれないように彼の近くで、彼の隣で肩を並べようとしているのかは彼女しか分からない事だ。

 

「……分かった。あやこの力、貸してほしい」

 

 こうなった以上、彼女は引かないだろう。

 それに単純にあやこが戦力に加わるのは心強い事でもある。

 何よりここで彼女の提案を無下にして彼女のこの表情を曇らせるのも忍びなかった。少なくとも目の前の彼女は自分の言葉に喜んだ様子を見せているのだから。

 

「おーい、準備が出来たぞ! 早速乗り込んでくれ!」

 

 すると間もなくカドマツからシミュレーターの調整が終わり、出撃を促される。

 翔は頷くとそのまま腰のベルトについているケースからガンダムブレイカーを取り出す。

 

「……新しいのは使わないんですか?」

「まだアセンブルシステムが未完成なんだ……。イベント中に完成させようと思ってたんだが……時間もない。行こう」

 

 あやこも自身のガンプラを取り出す。

 それはガンダムブレイカー隊時代に使用していたものではなく、ライトニングブルーを基調にした大型のモノアイタイプのガンプラであった。

 

 ──アイオライト。

 

 先程、彼女が見つめていた自身のガンプラだ。

 元々はパワーストーンなどで有名な石から、その石言葉に惹かれて名付けたものだ。

 これは翔の新たなガンプラとのコンビネーションを前提に作成したものである。

 しかし当の翔はそのガンプラを使わない。疑問を口にするあやこに翔はガンダムブレイカーを見つめながら答える。

 

 正直に言ってしまえば、もうガンダムブレイカー0もガンダムブレイカーも今の翔にとっては既に翔の操作に付いてこれない面がある。しかし今はすぐにでもこの場を収めたい。だからすぐに出撃できる方を選択したのだ。

 

 翔、あやこ、一矢、シュウジ、ミサ、ロボ太、夕香、風香、碧はそれぞれシミュレーターに乗り込むとカドマツの案内の元、出撃するのであった。

 

 ・・・

 

「あれ……雨宮さん達じゃ……」

「……ウィルスの駆除をしているのか……?」

 

 避難の最中であったレン達であったが、咲がふとモニターに映るガンプラバトルを見て指を指し、厳也達はつられてそのモニターを見やる。

 そこにはブレイカーやゲネシスなどが不気味なフィールドでバトルをしながら前に進む様子が映し出されていた。過去にウィルスの駆除を共にした事のある影二達が真っ先に反応する。

 

「……戦っているの……翔……?」

 

 モニターに映るガンダムブレイカーの姿はその場にいるレーア達にとって酷く懐かしく、そしてなによりもあの機体は異世界において英雄の機体という代名詞が有るほどだ。そんな中、カガミとヴェルは互いに目配せをして頷き合う。

 

 ・・・

 

「ほぉ……小賢しいながら随分と愉快なやり方じゃないか」

 

 それはこの事件の元凶ともいえるこの中年のスーツ姿の男性も見ていた。

 まるで何か見世物を見るかのような目でくつくつと笑いながらブレイカー達の戦闘を見つめる。

 

「だがお遊びで何とかなる代物ではないがね。あのウィルスの厄介さ……。君達もこれから身をもって知ることだろう」

 

 ブレイカー達を見ながらその口元には嘲笑が浮かぶ。

 まるで無知な存在を嘲笑うように、絶対的な自信から彼らの行動はただの無謀でしかないと言わんばかりに……。




ガンプラ名 アイオライト

WEAPON 大型ビーム・マシンガン
HEAD サザビー
BODY プロヴィデンスガンダム
ARMS クシャトリヤー
LEGS ギャブランTR-5{フライルー}
BACKPACK ドラゴンガンダム

ビルダーズパーツ
ファンネルラック(両足)
ブーメラン型アンテナ(頭部アンテナ部)
マイクロミサイルランチャー(背部)
GNフィールド発生装置(背部)

カラーリング ライトニングブルー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネクスト─INFINITY─

 ウィルス駆除の為に出撃した翔達はインフォの時同様にカドマツの案内の元、この騒動を引き起こしたであろうコアウィルス目指して迫り来るMSを模したウィルスを撃破しながら突き進んでいた。

 

「なんか前より強くない!?」

 《ネバーランドを狂わせる程だからな。規模だけじゃなくそのウィルス一つ一つが非常に強力なんだ》

 

 以前、インフォのウィルスとの交戦を経験したミサは今、目の前のウィルスのレベルの違いに険しい表情を浮かべながら迎撃する。

 通信のカドマツの言葉通り、まさに一つ一つが非常に強力なウィルスであり、例えるならばリージョンカップの本選で激突した真奈美やヴェールに勝るとも劣らない程なのだ。

 

「すご……っ」

 

 少しでも気を抜けば一瞬でやられてしまう。

 そんな極限のような状態でのバトルの中でもミサの目を引く三つのガンプラがある。ガンダムブレイカー、アイオライト、バーニングガンダムブレイカーだ。

 

「……どしたの?」

「いや……凄いよ、あの三人は」

 

 動きの鈍ったアザレアPの近くに寄りながら、一矢は通信を入れる。

 シュウジは身を持ってその実力を知っているが、翔やあやこのバトルを間近で見るのはこれが初めてだ。

 流石、ガンプラバトルシミュレーターが初稼働時から活躍しているガンダムブレイカー隊と言うだけあって、ミサはその実力には素直に感心して賞賛する。

 

「そりゃあ、翔さんやあやこさんはイッチが素直に尊敬する二人だしね」

 《シュウジの動きも非常に参考になる》

 

 その近くではウィルスをレンチメイスで挟み込んで破壊した夕香が一呼吸おいて一矢とミサの話に加わると、同じ近接戦でのバトルをメインにするだけあってか、ロボ太もシュウジを称える。

 

「っ!? 碧ぃっ!」

「な、なんだ!?」

 

 エクリプスのツインバスターライフルで上手くウィルスを誘導し、そこにロックダウンが突撃して一気に殲滅させると、突然、風香が碧に緊迫した様子で通信を入れる。

 

 あまりの風香の様子に驚きながら何があったのだと心配していると……。

 

「皆、風香ちゃんの凄さに気づいてない! これは由々しき問題だよ!!」

「目の前の事に集中しろ、馬鹿者ォッ!!」

 

 一矢達が翔達に尊敬の念を抱いてる事を察知した風香は誰も自分に全く注目していない事に気づいたのだ。

 

 しかし言った相手が悪かった。

 生真面目な碧からすぐさま稲妻の様な怒号が風香のシミュレーター内に響き渡り、通信を一方的に切られてしまう。

 

 極限の激戦の中でもまだ一矢達が余裕を持てるのは先行する翔達の存在が大きいのかもしれない。

 

「……ありがとう、あやこ」

「……な、なにがですか?」

 

 そんな先陣を切る翔はふとあやこに通信を入れて彼女に感謝の言葉を口にすると、突然の事に驚く。

 

「……支えてくれてる事にだよ、昔も今もな……」

「い、いえ……私も……その……嬉しいんです! こうやって翔さんとまた一緒に出撃できる事が……っ!」

 

 昔よりかは素直に感謝の言葉を伝えられるようになり、あやこに対しては素直にそう思っている。

 アフリカタワーでの戦いで一時的にこの世界に戻って来た時、彼女のお陰で大切なことに気づけた。ブレイカーズを経営し始めた時も不慣れな自分の傍にいてくれた事にだ。

 

 そんな翔の短いながらも心の篭った言葉にあやこは赤面しながらもGWF以降、共に出撃する事もなくなってしまったが、今こうして共に出撃できることの喜びを噛みしめる。

 

「……この戦いが終わったら、君に話がある……。隠さないでちゃんと話すから」

「……っ! はいっ!」

 

 一瞬、迷ったように目を伏せた翔はゆっくり顔をあげて今までひた隠しにしてきた事柄をあやこに打ち明ける事を約束すると、あやこはやっと話してもらえるのだと目じりに涙を貯めながら頷く。

 

「──……あやこさんに話すんですか、エヴェイユのこと」

「……流石に彼女にいつまでも隠す事は出来ない……。信じてもらえるかは別として話すだけ話すさ」

 

 今までの通信を耳に入れていたシュウジは翔と二人だけのプライベート回線で通信をして問いかけると、揺らぐことのない翔の決意に……。

 

「俺に出来る事なら協力しますよ」

 

 ならば翔の意思を尊重しようと言うのだろう。

 

 彼も分かっているのだ。

 これが簡単な決意で出来る事ではないという事が。

 だからこそ彼の意志を尊重しやれる範囲であれば協力はしたい。翔もまたかつて後を託した後輩の気遣いを嬉しく思う。

 

 《……っ! ウィルスに動きがあるッ! 気を付けろ!》

 

 すると突然、カドマツから緊迫した声が響き渡った。

 

 なにがあったのだ?

 それを問う前に異変が起きる。なんと先程よりも比でない数のウィルスの大群がこちらに向かってきているのだ。

 

「チッ……さっきよりも……ッ!!」

 

 すぐに戦闘が始まった。

 単純な数によるごり押しなどではない。

 前述したがこのウィルスは一つ一つが非常に強力だ。

 そんなウィルスが圧倒的な数を持って襲いかかってくる。戦闘が始まって、数秒で先程まで見せていた余裕さは一矢達の表情から消えた。

 

 ・・・

 

「っ……!?」

「夕香ちゃんっ! ──きゃぁっ!!?」

 

 戦闘が始まり十分が経過した頃、突然、夕香のバルバトス第六形態が爆発して中破した様子を見せる。すぐさま近くにいたミサが夕香を気に掛けるも、次の瞬間、彼女のアザレアPも被弾してしまう。

 

 《こ、此奴は……ッ!》

 

 漸くロボ太が捉える事が出来た。

 いや偶然、捉える事が出来たと言う方が正しいのかもしれない。

 何故ならばこちらに向かってきているからだ。

 

 それは他のウィルスよりも特異な見た目をしていた。

 カドマツによって姿を上書きされた他のウィルスと違い、そのウィルスだけはMSの形などしていない、あえて言うならば生命体だろうか。

 

 白く異様に長い手足、華奢ではあるがその全長は軽くゲネシスやアザレアPを超え、その背部には無数の触手を揺らしていて、さながらSF映画に出て来るようなクリーチャーを見ている気分だった。

 

 すぐさま騎士ガンダム彗星剣を使用して斬撃破を放つが、こちらに向かうソレは軽やかに避け、騎士ガンダムの前に急停止し、ジッと騎士ガンダムを見つめる。それはまるで値踏みをするかのようだだった。

 

≪気を付けろ、ソイツがコアプログラムだ!≫

「コアプログラムが直接、前に出る……!? どういう訳だ……!」

 

 カドマツから、この生命体のような存在がコアプログラムという正体を知らされる。

 その間にもコアプログラムは次の相手を目指して移動を開始し、翔はその行動に戸惑いながらでもビームライフルの引き金を引き、直撃させる。

 

「なにする気だ……ッ!?」

 

 更にもう一発、直撃したコアプログラムは動きを止めると背部の触手を揺らす。

 その不気味な動きを見て、シュウジは警戒を強める。なにをするつもりかは分からないが決して良くはないだろう。

 

 次の瞬間、コアプログラムの背部から無数の触手が伸び、ブレイカー達を拘束しようと猛スピードでこちらに向かってきた。本能的なのかもしれない。あれは危険だ、そう感じた。

 

(俺が狙いか……っ!!)

 

 無数の触手は全機体に放たれたが、その中でもブレイカーだけその数が異様であった。

 先程の数発の狙撃で自身を脅かす存在なのだと察知したのかもしれない。他に放たれた触手はあくまでブレイカーの援護をさせない為の牽制に見える。

 

(──ッ!!?こんな時にッ!!)

 

 まるで終わりのない追いかけっこのように迫る触手を回避し続ける。

 しかしここで異変が起きてしまった。

 視界がグニャリと歪み、まともに視界が機能しなくなる。

 

 分かっている。

 自身のエヴェイユの力が再び不安定になっているのだ。

 

 何とか抑えなくては。

 そうでなくては捕まってしまう。しかし分かっていてもどうにもならないのだ。

 

 操作が乱れる。

 冷汗が滝のように流れる。

 全身が震え、体に異変と言う異変が次々に起き始める。

 

 ふと歪む視界の中に迫る触手を捉えた。

 

 捕まる、そう思った。

 

「──翔さんッ!!」

 

 しかしそうはならなかったのだ。

 何故ならばモニターに巨大な影が覆ったから。まともに見えない視界が捉えたのは自分を抱きしめるように守るアイオライトの姿であった。

 

「な、なに……!? いやっ、どうなっ──!!」

 

 突然、目の前のアイオライトに異変が起きる。

 まるで痙攣したかのようにガタガタ揺れているのだ。

 

 通信越しにパニックになっているあやこの声が聞こえるが、途中で通信が途切れてしまう。するとコアプログラムはアイオライトを引き寄せ、その長い手足と触手でアイオライトに絡ませて覆いかぶさった。

 

 ここで更なる異変が起きる。

 コアプログラムとアイオライトがまるで混ざり合うかのように変化を開始したのだ。

 

「……と、取り込んだのか……? アイオライトを……あやこを……!?」

 

 アイオライトを取り込んで変化を遂げたコアプログラムはその姿を見せつけるように佇む。

 本来、MSという兵器のプラモデルをカスタムした筈のアイオライトだが、コアプログラムに取り込まれたせいでまるで一つの生命体のように見える。

 

「っ……!?」

 

 しかしいつまでも静止している筈がなかった。

 コアプログラムは掌を突き出すと、一本の触手がブレイカーを頭部を突き刺し、瞬く間に脚部、腕部といった各部位を貫く。

 

「翔さん!?」

 

 ブレイカーが行動不能にまで追い込まれた。

 それは少なくとも一矢達に影響を与えるが、コアプログラムはそれを嘲笑うかのように両手を広げるとコアプログラムを中心に再び無数のウィルスを生み出し、ゲネシス達に差し向ける。

 

(このままじゃ一矢達ももたなェ……ッ!)

 

 もう出撃してどれだけの時間が経ったのだろうか。

 嵐のような勢いでウィルスを破壊していたシュウジの額にも薄っすらと汗が浮かぶ。

 一矢達を確認すれば、やはり彼らも消耗しているのか最初に比べ動きが鈍い。それもそうだ。幾ら撃破した所でコアプログラムがウィルスを生み出すのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───皆、その場から動かないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通信が割り込まれ指示が飛ぶ。

 シュウジは勿論、その柔らかな聞き覚えのある声に一矢達は言われた通り、その場に 制止すると四方八方からビームがゲネシス達の間をすり抜け、ウィルス達を撃ち抜く。

 

「ヴェルさん……ッ!?」

「みんな、お疲れさま、助けに来たよ!」

 

 ビームを放ったドラグーンはすぐさま主の元へと戻る。

 そこにはスターストライクの姿が。

 

 全く予想もしていなかった存在にシュウジ達は驚いていると、通信越しに優しく元気づけるようなヴェルの声が響く。

 

 援軍はそれだけでは終わらなかった。

 

 ゲネシス達の間を巨大な何かが高速で通り抜け、コアプログラムに対してビームを放つ。正確無比のその狙撃はコアプログラムに直撃し、動きがあった所にそのまま“何か”は変形をして勢いを活かしてコアプログラムを蹴り飛ばす。

 

「カガミか……?」

「……今度は私があなたを守ります」

 

 吹き飛ばしたコアプログラムとブレイカーの間に入り、ブレイカーを守るようにコアプログラムを見据えるのは翔が作成し、イベント後の為に持ってきたライトニングガンダム フルバーニアンだ。

 ポツリとカガミの声を口にする翔にライトニングFBを操るカガミはかつての出来事を思い出しながら静かにそして強く答える。

 

「どうしてここに……?」

「皆さんの戦いはネバーランドのモニターに映し出されてたんです。私もシミュレーターを使ったウィルス駆除は参加しましたし、ここにシミュレーターがある場所も分かってましたから来たんです」

 

 なぜ、ここにカガミとヴェルが?

 不安定なエヴェイユの力が少しは収まり始め、てっきり自分達以外は避難したと考えていた翔の口にした疑問にヴェルはバーニングブレイカー達の前に移動しながら通信越しに笑顔を作って答える。

 

「……翔さん、アフリカで貴方を神だと言ったアレックに返した言葉を覚えてますか?」

「……ああ」

 

 単にウィルスを駆除するために来たわけではない。

 理由は他にもある。

 

 その事を口にするカガミはかつて異世界のアフリカにおいて同じ隊にいた青年がエヴェイユの光を纏って戦った自分を神と崇めようとした時に訂正した言葉について触れる。翔自身もその時のことはよく覚えている。

 

「……私達は仲間です。ここに来る理由にそれ以上の理由は必要ありません」

 

 翔はその青年の神という言葉を否定して、自分は仲間だと言ったのだ。

 あの言葉に嘘偽りはない。そしてだからこそカガミもヴェルも来てくれたのだろう。

 

「それに来たのは私達だけではありません」

 

 コアプログラムは再びウィルスを生み出そうとしている。

 カガミとヴェルが二人だけ来たとしてもそう易々と変わるものではない。

 そんな事を思う者がいる中、それを否定するようにカガミはレーダーを確認すると、まさに生み出す最中のウィルスを後方から放たれた無数のビームや砲弾が破壊する。

 

「俺達も来たぜ、翔ッ!!」

 

 するとそこにはナオキのダブルフリーダムを始めとするガンダムブレイカー隊のガンプラがこちらに向かって来ているではないか。

 

 しかもそれだけではない。

 

「夕香、大丈夫か?」

「俺達が来たからにはもう安心だぜ!」

「龍騎……それに炎も。……まったくもーっ、カッコよく来るなよー」

 

 中破したバルバトス第六形態の前にクレナイとブレイブカイザーが並び立つと、夕香に通信を入れ消耗している夕香を安心させるように力強い笑みを浮かべて励ますと彼女らしく飄々とした様子で返す。

 

「真実ちゃんっ! それにレン君達も!」

「雨宮君達が頑張ってるだもん。もう雨宮君だけに任せないって決めたから」

「お前達だけに負担はかけさせないよ」

 

 援軍は続々やってくる。

 その中には聖皇学園ガンプラチームやレンとジーナのガンプラの姿も。心強い真実やレンの言葉を受け、自然とミサの表情も綻ぶ。

 

「お主らとのバトルは楽しみにしてるからのぉ、ここで負ける姿は見たくないんじゃ」

「……避難してたんでしょ。物好きだよねぇ……」

「……こういう時は素直に感謝したらどうだ?」

 

 そして厳也達の土佐農高ガンプラ隊と影二達の熊本海洋訓練学校ガンプラ部も駆けつけていた。

 厳也からの通信に素直にありがとうとは言えないのか、溜息交じりに答える一矢にまったくと影二は呆れてしまう。

 

「礼はジャパンカップで全力で返すよ」

 

 一矢の言葉を皮切りにゲネシス、クロス・フライルー、MK‐Ⅵ改は互いに背を預け合い目の前のウィルスに銃口を向ける。何れはぶつかるであろうライバル。今はただ心強い味方として背中を任せるのだ。

 

 ・・・

 

「……貴方が作った繋がりはまた新しい繋がりを呼びました。これが貴方が紡いできたものです。貴方はまともに立つ事も出来ない程、苦しんでいる。その苦しみは私達にはどうする事も出来ないかもしれない。それでも貴方が立てるように支えてくれる人はこれだけいるんです」

 

 来たのは何も彼らだけではない。

 他にも立ち上がったプレイヤーはいた。そんな光景を見ながらカガミは翔に語り掛ける。不思議なものだ。これまで絶望感すらあったのに今でも高揚感すら感じる。

 

「……カガミ、少し時間を稼いでくれないか。すぐに戻る」

「任せてください」

 

 一度、考えるように眼を瞑った翔はゆっくりと口を開きき、カガミに託すと、返された短い言葉に篭められた安心感を感じながら翔は一度、シミュレーターをログアウトする。

 

 ・・・

 

「あやこのシミュレーターは?」

「ダメだ、ロックがかかってて開ける事すら出来ない……ッ」

 

 シミュレーターから出た翔はあやこについて問うが、カドマツが言うにはアイオライトが取り込まれた時、シミュレーターにロックがかけられてしまったのかあやこはまさに取り込まれたままであった。

 

「……今すぐアセンを組む」

 

 自分がこのイベントに持ってきた新たなガンプラ。

 そのアセンブルシステムを今、この場で組もうと言うのだ。

 

 時間がかかるかもしれない。

 しかし出来るだけ早く戻らねばならない。

 

「──なら俺達も手を貸すぞ」

 

 すると背後から声をかけられ、振り返れば、翔達の戦いに引き寄せられたガンダムブレイカー隊の隊長やオペレーターがいたのだ。

 

「私達はバトルは出来ませんが、このお手伝いならできます!」

「まだあそこには貴方を待ってる人がいますからね!」

 

 他にもかつてGGFとGWF2024のイベントMCをそれぞれ務めた二人の女性がいた。

 彼女達はガンプラバトルは出来ないが、それでもシミュレーターの最初期から関わっており、アセンブルシステムを開発する補助くらいは出来る。

 

「だからあやこさんを……私達の仲間を助けてあげてください!」

 

 オペレーターの少女の願いに頷き、翔は急いでアセンブルシステムを組み始める。

 

「───翔、あれはこれで戦う事が出来るのかしら?」

「レーア……?」

 

 アタッシュケースからガンプラを取り、アセンブルシステムを組み始めた翔に背後から手を伸ばし、アタッシュケースからダブルオークアンタを取った人物が。振り返ればそこにはレーアをはじめとしたアークエンジェル隊の面々が。

 

 どうやらバリゲートは完成したらしい。

 見てみればロボットの残骸は増えており、ロボット自体ももう少ないのだろう。

 

「……カガミの話じゃ最初は慣れるまでは大変だけど結局はゲームだから作業用のMSより楽だって聞いた。私達も手伝うよ」

 

 リーナはウィングガンダムゼロを手に取り、シミュレーターを見る。

 イベントだけあってシミュレーターはまだ開いている所がある。とはいえその分、カドマツが出撃するシミュレーターに調整を加えるわけだが。

 

「……私がかつて取り込まれた時、貴方と姉さんが助けてくれた。貴方はどんな闇さえ照らしてくれる光。だからあの人も助けてあげて。きっと今でも不安に思ってる筈……。その為にも私達も手を貸すわ。貴方一人に押し付けない為にも」

 

 レーアは翔の頬に両手をかけ、その目を見て、まっすぐ話す。

 目の下にクマを作りやつれた今の翔を見ていると胸が締め付けられてしまう。

 彼は元々無関係な異世界から戦争の世界に投げ込まれ、そして戦争を終わらせた。

 彼一人に重荷を背負わせてしまった。

 彼に比べればこんな事をしても比較にもならないのかもしれない。

 

 それでも手を貸したかった。

 彼は自分達の世界をその心を壊してまで戦ってくれたのだ。

 今、こうして彼の世界にいるのであれば今度は自分達が彼の世界で彼の為に力を貸したかった。

 

「ありがとう、レーア……。それに皆……。俺は確かに抱えられない問題がある。それでも俺は皆を恨んだりしてない……。ルルも副長も……ショウマにリンにエイナル、リーナ、そしてレーアも……みんながいたから俺は戦えたんだ。もしあそこで皆に会えなかったら俺はこの場にいないかもしれない。俺一人に押し付けられたなんて考えた事もないよ……。だから皆……俺に力を貸してくれ」

 

 頬にかけられたレーアの手を取り、かつての異世界の仲間達を見据えて思いを口にする。

 彼女達は自分に重圧をかけたのだと責任を感じているのは分かっていた。

 

 だからこそそれはここで否定したかった。

 何故なら自分こそ彼らに感謝しているから。そんな翔の言葉に笑みを浮かべながら頷き、レーア達はカドマツの案内でシミュレーターに乗り込んで出撃する。

 

「妬いてしまうな、我々以外にも絆を感じる仲間がいるようじゃないか」

「……ガンダムブレイカー隊も彼女達も……俺にとっては優劣つけられないかけがえのない物ですよ」

 

 レーア達とのやり取りを見ていた隊長が翔をからかうと、やり取りを見られた事に少し照れ臭さを感じながらもアセンブルシステムを組み始めるのであった。

 

 ・・・

 

≪──今回の任務は戦場に出現しているコアプログラムの破壊と我が隊の一員、あやこの救出だ≫

≪現在、戦力は均衡しています。ぶっつけ本番の新型ではありますがきっと如月さんなら使いこなせます!≫

 

 あれから少しの時間が経ち、仲間の協力もあって短時間でアセンブルシステムを組み終え、再びシミュレーターに乗り込んだ翔は起動させながら、隊長の懐かしい作戦説明とオペレーターからの情報と励ましも、頷きながらシミュレーターに従ってガンプラをセットする。

 

 それはガンダムブレイカー0、そしてガンダムブレイカーに続く如月翔の新しいガンプラだ。0からスタートし、今を超え、次のステージに行く為の新たなガンダムブレイカー。

 

「如月翔……ガンダムブレイカーネクスト……行きます……ッ!」

 

 その名はガンダムブレイカーネクスト。

 メインカメラを発光させて、カタパルトを勢いよく発進したブレイカーネクストは再び電脳空間に飛び込むのであった。

 

 ・・・

 

 ──キラリと光った。

 

「来たな、如月君!」

「待っていたぞ、少年!」

 

 すると瞬く間にブレイカーネクストが現れ、手に持つGNスナイパーライフルⅡで狙撃をして撃ち抜くと、その周辺にいたHi-シナンジュのソウゲツとHi-νガンダムカスタムを操るユーゴが言葉通り待ちわびたと笑みを浮かべる。

 

「僕たちの力、見せてやりましょう!」

「どこの仲間に手を出したってのを分からせてあげなくちゃね!」

 

 ブレイカーネクストが合流すると、LYNX操るZ,S,FⅡとアカネのフレイムノーベルがウィルスを打ち砕きながら、この先にいるであろうコアプログラムの方角を見据えながら声をかける。

 

 それでもウィルスはまだ現れる。

 このままでは足止めを食ってしまうだろう。

 

「翔君はあやこちゃんを助けてあげてね、絶対だよ!」

「白き天使を助け出す役目はお前に託そう、同胞よ!」

「ここは俺達に任せろぉっ!!!」

 

 ならばエースである翔だけでも行かせようと言うのか、ルミカのNOBELL☆MAIOと再び中二病的言動が蘇ったレイジのOEATH MACHINE、そしてダイテツの極破王が道を切り開く為、ウィルスを撃破する。

 

「行け、翔! ガンダムブレイカー隊の意地見せてやれッ!!」

「ああ……! 皆……ありがとう……ッ!」

 

 最後までブレイカーネクストと共に進んでいたナオキのダブルフリーダムが迫るウィルスの相手を引き受けると翔に託して、ガンダムブレイカー隊の想いを胸にコアプログラムを破壊し、あやこを助け出す為に翔はブレイカーネクストを勢いを更に増して突き進むのだった……。

 




ガンプラ名 ガンダムブレイカーネクスト
元にしたガンプラ νガンダム

WEAPON ビーム・サーベル(Hi-ν)
WEAPON GNスナイパーライフルⅡ
HEAD νガンダム
BODY νガンダム
ARMS ガンダムAGE-2ダブルバレット
LEGS ストライクフリーダムガンダム
BACKPACK Hi-νガンダム
SHIELD ビームキャリーシールド
拡張装備 バルカンボッド(頭部)
     スラスターユニット(両脚部)
     Iフィールド発生装置(背部)

イメージが湧きやすいように一応、活動報告に参考までに作らせてもらいました。興味がありましたらよろしければどうぞ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネクスト─Silent Trigger─

 ガンダムブレイカー隊が道を切り開いたお陰で前に進む事が出来た翔のブレイカーネクストは銃身を折りたたみ連射性能に優れた3連バルカンモードでウィルスを次々に撃破し前に進んでいると、異世界の仲間達と合流する事が出来た。

 

「待っていたぞ、翔!」

「皆……大丈夫か?」

 

 真っ先に気づいたのはトールギスⅢを駆るエイナルであった。エイナルが声をかけるのと同時に合流した翔は今回、初めてガンプラでの戦いをする事となったアークエンジェル隊にその操作性など不都合はないか問う。

 

「まっ……最初は不便でもそこはゲームよね。慣れちゃえばどうにでもなるわ」

「心強いな」

 

 それに答えたのはドラゴンガンダムを操るリンであった。

 フェイロンフラッグでウィルスを突き刺すと、そのままそのウィルスを足場にして蹴り飛ばし、勢いをつけて軽やかに別のウィルスを撃破する。

 

 爆散するウィルスを背に答えたリンに、微笑を浮かべる。

 MSやMFでの戦闘経験などもあるのだろうが初めてでここまでやれるのであれば申し分なかった。

 

≪皆さん、前方から更にウィルスが接近! 警戒を!≫

≪例えゲームでもウィルスを何とかしなくては現実での騒動は収まらん! 気は抜くなよ!≫

 

 するとオペレーターに代わって今度はルルとマドックからの通信が入る。

 二人の言葉通り、前方数km先にはウィルスの大群がこちらに接近してきていた。

 

「よっし! アークエンジェル隊再結成だッ!!」

「「「「「了解ッ!!」」」」」

 

 コキッと小気味良く拳を鳴らしたショウマは迫るウィルスを見据え好戦的な笑みを浮かべると高らかにアークエンジェル隊の再結成の言葉を放つ。翔達が声を上げたのを皮切りに全機、ウィルスを迎え撃つ。

 

「翔、男の意地見せてやろう作戦だ!」

「……もう好きにしろ」

 

 迫りくるウィルスに対してショウマはすぐさま翔に声をかけると、頭が痛そうな様子で眉間に皺を寄せながら翔は彼の提案に乗る。

 以前は戦法の名前を一々訂正していたが、一向に直す気のないショウマに訂正するのも止め、翔自身が折れたようだ。

 

 ゴッドとブレイカーネクストは先陣を切るようにへ飛び出すとブレイカーネクストの背後にゴッドが隠れる。接近する二機のガンプラにウィルスは迎撃をしかけるが、シールドとフィンファンネルによるバリアによって防ぎ続けるとゴッドがブレイカーネクストの背後から飛び上がって前に出る。

 

「ゴッドスラッシュタイッフウウゥゥゥゥゥーーーーーーンンッッッッッ!!!!!!!」

 

 素早くウィルス群の間に飛び込むとゴッドスラッシュを引き抜いたゴッドはそのまま高速回転を起こす。その勢いは竜巻のように周囲のウィルスを巻き込んで破壊する。

 そのままブレイカーネクストはゴッドと並ぶと背を預けて回転し、ゴッドのゴッドフィンガーの照射と共に二つのドッズキャノンを発射して残ったウィルスを掃討した。

 

「やっぱ俺達、最高のコンビだよな。男と女なら結婚してる」

「お前、既婚者だろ」

 

 久しぶりではあるが息の合ったコンビネーションを行えた事に満足げに頷くショウマにすかさず翔がツッコむ。

 

「はっ!? 違う、リン! 違うぞ!」

「はんっ! どうせアタシは翔の代わりよ!」

 

 ハッとしたショウマは今の会話を聞いて、拗ねたリンに弁明を始めるが、中々許してもらえそうにはないようだ。

 

「まったくなにをやっているのだか……」

「……でも……凄く懐かしい……。こうやって翔とまた一緒に戦えるなんて思わなかったな……」

 

 ウィルスを一刀両断しながら必死にリンに謝るショウマ達の会話を聞きながら苦笑するエイナルに、その近くで大型のウィルスにツインバスターライフルを突き刺し、そのまま引き金を引いて破壊したリーナは今まで翔がいた頃の皆で過ごしたアークエンジェルでの思い出を思い出してクスリと笑う。

 

(翔がいるだけで……こんなに違うのね)

 

 初めてのガンプラバトルではあるが、それを感じさせない怒涛の勢いでソードピットと共にウィルスを切り裂いていくのはレーアだった。そんな中でふと自分の気分が不思議と高揚している事に気づく。

 

(翔……やっぱり貴方は紛れもなく私にとっての英雄(ヒーロー)よ)

 

 彼がいるだけで士気が上がる。

 彼に英雄なんて言えば否定するだろうが紛れもなく今、自分達は持てるポテンシャルの全てを発揮出来ている筈だ。

 

「翔、行って! ここは私達が引き受けるわ!」

「……すまない」

 

 しかしここで更にウィルスが接近してくる。

 ならばここは自分達が引き受ける。

 それぐらいしなければ心を壊しかけてでも戦った彼に申し訳がない。レーアの言葉に頷いた翔はアークエンジェル隊が切り開いた道を更に突き進む。

 

(……最初は守らなきゃいけない弟みたいに思ってたのに……)

 

 ブレイカーネクストの背はどんどん遠くなっていく。

 それを見ながらレーアはふと寂しそうな笑みを浮かべる。

 

 最初は弱く泣いていた印象のあった翔であったが、いつの間にか翔に守られてばかりだった。今では一人の男性としてみる事しかできない。そんな事を思いながら戦闘を再開するのであった。

 

 ・・・

 

「二人とも、まだ行けるかの?」

「はい! エネルギーにはまだ余裕がありますしまだ戦えます!」

「こんな所でへまするようじゃジャパンカップで通用しないわよ!」

 

 クロス・フライルーがすれ違いざまにウィルスを撃破し、爆炎を背に厳也は咲と文華に通信を入れる。何だかんだで援軍に来てからそれなりの時間が経っている。しかしそれでも咲や文華は苦にする様子もなく厳也はそんな二人を心強く思う。

 

「っ……!?」

「影二さん、大丈夫ですか!?」

 

 しかしその周辺にいた影二のMK-Ⅵ改は直撃を受けてしまう。

 すぐさまMK-Ⅵ改の近くに寄り、追撃をさせない為、FAヒュプノスがMK-Ⅵ改の前に出て迫るウィルスを撃破しながら心配する。

 

「限界なら一回下がった方が……。足手纏いになられても困るし」

「心配するな……。まだ行けるさ」

 

 ダンタリオンもMK-Ⅵ改を庇うように近づきながら、陽太なりに影二を気遣うが影二は引くどころかまだ戦う意思を見せる。

 

(……相棒……。皐月達やライバル達に無様な姿……見せられ無いよな……!)

 

 別に影二の体力の問題ではない。

 既に影二の操縦技術にMk‐Ⅴ改が付いていけてないのだ。

 だがそれでもここには皐月達やジャパンカップでぶつかるであろうライバル達がいるのだ。不甲斐ない姿など死んでも見せたくない。

 

「夕香、大分強くなったね」

「そんなにやってないんだけどね」

 

 レンチメイスで挟み込み、ウィルスを真っ二つにしたバルバトス第六形態。

 以前、ガンプラバトルロワイヤルで知り合った時よりもその腕は見違えるほど成長している。その事に気づいた龍騎が褒めると、一息つきながら夕香は答える。

 

「夕香、これが終わったら俺とバトルしようぜ! 今ならタイマンでも楽しめそうだ!」

「暑っ苦しいなー。ガツガツして来なけりゃやってやっても良いけどさ」

 

 相当数のウィルスを撃破しながらでもブレイブカイザーを操る炎に疲労の色は見えない。それどころか成長している夕香にバトルの約束を取り付けようとしてるくらいだ。しかしそんな炎の熱気は夕香には合わないのか、しんどそうに答える。

 

「夕香がガンプラやってるなんて私、知らなかったんだけど」

「いや、そんなに熱中するほどやってないし……」

 

 ウィルスを蹴り飛ばし、そのままビームライフルで撃ち抜くとG-リレーションはバルバトス第六形態を見る。すると教えてくれなかったことに拗ねているのか、真実はジトッとした目を通信越しに夕香に向けるとバツが悪そうに答える。

 

「少なくとも全塗装するほどはやってんでしょ」

「うちの部に来るか? 雨宮と一緒に歓迎するぜ!」

「いや、アタシ部活に精を出すタイプじゃないし。高田○次的な感じで生きたいから」

 

 すると近くにいたバアルとBD.the BLADEも通信を入れてくる。

 バルバトス第六形態を見て、それが手を込んで作った物であるのを感じた勇は口を開くと、拓也も一緒になって夕香を勧誘し始める。しかし夕香はその気はないのか即答で断った。

 

「ん……? ねぇ、レンあれって……」

 

 ジェスタ・キラウエアとストレイドは背を預け合いウィルスの様子を伺っていると、センサーに反応があり気付いたジ-ナがレンに通信を入れる。

 

「ああ、翔さんのガンダムブレイカーだ! あれが新しいブレイカー……」

 

 レンも確認すれば後方からウィルスを次々に撃ち落としながら、そのスピードを全く落とさず、一気に自分達を超えて前に進むブレイカーネクストを見つめる。

 

 ・・・

 

「バアアアァァァァーーーニングゥゥゥッッフィンガアアアァァァァァァーーーーァアアッッッ!!!!!!」

 

 コアプログラムと激闘を繰り広げているのは彩渡商店街ガンプラチームとシュウジ達だ。今、バーニングブレイカーのバーニングフィンガーがコアプログラムの胴体を突き破る。

 

 しかし突き破った矢先に胴体は瞬時に自己修復を始め、触手による攻撃を仕掛けようとした所をバーニングフィンガーは蹴り飛ばし、その反動を利用して後方に避ける。

 

「くそっ……キリがねぇ……ッ!!」

「自己増殖に自己修復……。私達はその手の敵に縁でもあるのかな……」

「全く嬉しくないわ」

 

 もうかれこれコアプログラムとの戦闘は続き、回数で言えば十を超える程撃破しただろう。しかしすぐに自己修復を行うため、いつまで経っても戦闘は終わらない。舌打ちをしながら苛立ち始めるシュウジにヴェルもカガミも厄介そうに呟く。

 

 《……っ……!? このウィルス……やはり他とは比べ物にならん……!》

「コアプログラムだけでも厄介なのに……ッ!!」

 

 コアプログラムの近くでコアプログラムが生み出した通常のガンプラとは一回り大きな強化ウィルス2体と戦闘を繰り広げるのはゲネシス、アザレアP、騎士ガンダムだ。

 この2体は今までのウィルスとはその性能は段違いであり、直撃を与えるのも困難であった。その事を口にするロボ太と限界が近いのか、息を荒くさせ汗を拭いながらミサが歯を食いしばる。

 

「エネルギーが……ッ!!」

 

 強化ウィルスの一体とぶつかり合うゲネシスだが、流石に長時間のバトルを行っているだけあってエネルギーも消耗しているのか、押し合いに負けてそのまま地面に激突する。

 地面に叩きつけられたゲネシスに気を取られたロックダウンを始めとするエクリプスや騎士ガンダムやアザレアPも強化ウィルスの横降りの一撃に地面に叩き落とされた。

 

「お前ら下がれ!!」

「貴方達は……もう十分にやってくれたわ……ッ!」

「後は私達が何とかするから……ッ!!」

 

 地面に落ちた三機に強化ウィルスとコアプログラムは銃撃を仕掛ける。

 何とか撃破はさせまいとバーニングブレイカー達がゲネシス達とウィルスの間に入って身代わりに防ぎながらシュウジ、カガミ、ヴェルは彼らを労い、これ以上の戦闘を止めさせようとする。

 

 彼らはまだ子供なのだ。これ以上の負担はかけられない。

 

 だがそんなシュウジ達の思いとは裏腹にこれで終わりにしようとでも言うのか、強化ウィルスに攻撃を続けさせながらコアプログラムは右腕を水平に降ると砲台型のウィルスを2門生み出した。

 

(これで終わりか……!?)

 

 チャージはもうすぐに完了し、二つのビームが放たれる。

 まっすぐこちらに向かってくるビームに回避はもう間に合わない。疲労を滲ませながら一矢は眼を瞑った。

 

 

 だがその二つのビームもバーニングブレイカー達に直撃する前に間に放たれたビームによって相殺されてしまう。

 

「あれ……は……」

 

 ビームが放たれた方向を見やる一矢。するとキラリと何かが光ったと思ったら、こちらに向かってくるガンダムブレイカーネクストの姿が見えるではないか。

 

「皆……本当に……よく頑張ってくれたな」

 

 間に入ってコアプログラムの一挙手一投足を見逃さないと言わんばかりにジッと見据えながら、背後の一矢達を労う。

 

 翔が新型に乗って助けに戻ってきてくれた。

 そして彼からの労いの言葉を聞いて一矢達の表情にも少しは和らぐ。

 

 しかしコアプログラムにとって敵が増えただけに過ぎないのか、再び強化ウィルスに攻撃を任せながら再び砲台にエネルギーを貯めすぐに発射する。それは二つのビームが合わさり、先程の比ではない程の極太のビームであった。

 

 すぐさまブレイカーネクストも両肩のドッズキャノンとGNスナイパーライフルⅡを発射してビームを受け止める。互いの威力はほぼ互角なのか拮抗した。

 

(まだだ……まだ……ッ!!)

 

 高エネルギー同士のぶつかり合いは周囲に影響を齎し、その衝撃によって周囲が崩れる程の勢いを見せる。

 だがそれでもぶつかり合いは終わらない、いやそれどころかブレイカーネクストから放たれる出力はどんどん上がっていくではないか。

 

(約束した……っ……! 誓ったんだ……っ!)

 

 例えエヴェイユの力に悩まされ、かつての血で血を洗う戦争に巻き込まれ後遺症に苦しみながらでも決して如月翔の心が折れなかったのには何より彼の胸にはある誓いがあったからだ。

 

「俺は……最後まで……諦めるわけにはいかない……ッ!!!」

 

 それはかつて自分達に為に閃光の中に散っていった友が最後に遺した言葉。

 

 この言葉が、この誓いがあったからこそ自分は発狂を起こして壊れる事もなく今まで苦しみながらでも“如月翔”としている事が出来たのだ。

 

 ここで負けるわけにはいかない。

 諦めるわけにはいかない。

 

 友は自分達の未来を掴み取る為に閃光の彼方に散った。

 自分は彼の様な強い人間にはなれない。だがせめて彼のようにこの閃光の果てに未来があるのならば掴み取って見せる。

 

「届け……ッ!!」

 

 ガンダムブレイカーネクストが光に包まれていく。

 

 翔は選んだのだ。

 今まで抑えていたエヴェイユの力を使う事を。

 

 その光はどんどん輝きを増していき、思わずシュウジ達も目が眩んだのか顔を背ける。

 

 

「届けええええェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 

 

 ブレイカーネクストを包んでいた光は虹色となって広がる。

 それはかつて復讐に囚われた悪魔を打ち倒すために見せた散っていった者達から受け継いだ輝き。

 今まで抑えられていたエヴェイユの力は極限にまで引き出される。翔は抗うのではなく受け入れたのだ、エヴェイユの全てを。

 

「翔さん……なにするつもり……?」

 

 近くにいるエヴェイユである風香は翔の異変に気付いていた。

 とてつもない力を感じる。自分の持つエヴェイユの力など霞んで見える程に。

 

 ・・・

 

「この光は……? 翔……?」

「ダメだよ、翔……。それ以上は……!」

 

 そしてハイゼンベルグ姉妹もまた翔の異変に気付いていた。

 ブレイカーネクストが向かった方角から伸びてくる虹色の光はレーアにとってもっとも覚えのあるものであった。

 その近くでリーナはこの異変に何か危険な物を感じたのだろう。まるでこのままだと後戻りが出来ない、そんな風に感じるのだ。

 

 ・・・

 

「あアあああァアアアあああぁァアアアあああアアアアァァァァーーーーーッッッ!!!!?」

 

 まるで如月翔と言う人間が何かに上書きされていくような感覚を味わう。

 その苦しみによって翔は発狂したかのような悲鳴を上げる。

 

 しかし、だがそれでも翔の心は壊れない。

 その胸にある誓いが彼の背中を押すからだ。やがて拮抗していたビームは押し始めてコアプログラムが生み出したビーム砲台を完全に飲み込んで破壊する。

 

「翔さん……神様みたい……」

「違うよ……風香……」

 

 虹色の光は収まることなくこの電脳空間全体にまるで翔の命その物を現すかのように色鮮やかに輝いて広がる。その美しい光景を見て思わず風香が口にすると、優しさを含んだ翔の言葉によって否定される。

 

「俺は神じゃない……。だからこそ……この手の届く範囲は絶対に俺が守り抜く……ッ!」

 

 光を放っている翔自身にも変化が起きていた。

 今まで不安定に変わっていた瞳の色も完全にオーロラ色に輝いているではないか。しかし如何に変化しようと彼は“如月翔”のままなのだ。

 

「待ってろ、あやこッ!!!」

 

 残ったのは2体のウィルスの強化体とコアプログラムだけだ。

 コアプログラムは今のブレイカーネクストは危険だと判断したのか、強化ウィルスに任せて逃亡するとブレイカーネクストはその後をすぐに追う。

 

「おっと、これ以上先は行かせないぜ……!」

「……翔さんの邪魔はさせない……」

 

 ブレイカーネクストの後を追おうとする強化ウィルスの前に割り込んだのはバーニングブレイカーとゲネシスであった。これが最後だ。決して翔の邪魔はさせない。

 

(翔さん……アンタは俺達よりもずっと……ずっと前にいんだな……)

(でも……それで良い……。だってその背中を目指しているんだから……!)

 

 コアプログラムを捉えたのか遠巻きに二つの流星がぶつかり合うのが確認できる。

 それはきっとブレイカーネクストとコアプログラムだろう。

 改めて自分達と翔の間の距離を感じるシュウジと一矢だが、決して悲観している訳ではない。

 

(アンタはただ前を見て進んでくれ……!)

(そうでなきゃやりがいがない……!)

 

 そう、その背中が遠ければ遠いほど目指し甲斐があるというものだ。

 

「だって、アンタは……!」

「俺達の……ッ!!」

 

 いつか胸を張って如月翔の横に並べるようになりたい、いや彼を超えたいのだ。何故なら如月翔とは──。

 

「「憧れだからッ!!」」

 

 翔への思いを胸にシュウジと一矢は互いに感じている事を口にしながら強化ウィルスとの戦闘を再開する、まず目の前の相手を倒さなくては始まらないからだ。





最後の翔に関しては実は前作のEX編の最終決戦にでも入れようと考えてたんですけど、結局、それやっちゃうと翔が必要以上に目立つと思って止めたんですよね、前作のEX編はあくまでシュウジ達を主役に翔を脇役にしておきたかったので。

だから半ば没にしてたんですけど、こうして書けて無駄にせずに済んで良かったです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネクスト─the last one─

 二つの流星がぶつかり合う。

 一つはガンダムブレイカーネクスト、もう一つはコアプログラムだ。

 荒れ果てた周囲の状況からその激しさが伺える。

 今も激しい弾幕を張り合うが、それが決定打になる事は決してない。

 

 コアプログラムは高度なAIでもある。

 AIは時として人間さえ上回る程の活躍を見せるほど、その性能は高く評価されている。勿論、それは今のコアプログラムも例外ではなく、その動きは決して常人の反応を余裕で上回る程の動きでブレイカーネクストを撃破しようとしている。

 

 しかしそんなコアプログラムをもってしてもブレイカーネクストには掠り傷一つつける事は出来ていない。これだけ激しいぶつかり合いや弾幕が張っているにも拘らずだ。

 

 ならば攻め方を変えようとでも言うのか、激しい銃撃を放ちながらコアプログラムはブレイカーネクストの周辺で縦横無尽に駆け回り翻弄しようとする。

 

 それはもはやガンプラバトルでプロのガンプラファイターが魅せるトランザムなどの機体強化に繋がるトランス系EXアクションの動きを超え、残像さえ追うのも難しいほどである。

 

 だが決してブレイカーネクストに動揺の気配がない。

 その動きはコアプログラムに惑わされているような様子もない。ただ機会を伺っているかのようであった。

 

 そしてそれは正解であった。

 斜め横に向かって3連バルカンモードのGNスナイパーライフルⅡによる早撃ちを行い、完璧に計算された銃弾はコアプログラムに直撃し動きをよろめかす。

 

 とはいえコアプログラムは易々とブレイカーネクストに追撃を許す真似はしない。

 動きが鈍ったと同時にファンネルを無数に放ち、ブレイカーネクストに差し向ける。だがいくら高性能のAIが操るファンネルと言えど直撃どころか掠る様子もない。

 

(……まだだ……。……こんなもんじゃないッ!)

 

 翔のシミュレーター内のモニターには撃ち落とそうとするファンネルのビームが目まぐるしく放たれている。だがブレイカーネクストは必要最小限の動きだけに留めて迫るビームを全て回避する。

 

 それだけでは終わらない。

 銃身を展開してそのままビームの隙間を縫うように放たれたビームはコアプログラムを撃ち抜く。そんな中でエヴェイユを受け入れた翔は己の力を更に引き出そうとしていた。

 

 いくら人の反応の超えた動きをするコアプログラムと言えどエヴェイユの力を発揮している翔からしてみればスローモーションに近い動きに見える。

 

 しかし、こんな事は以前の自分でも出来た。

 だが今の自分は違う。

 自分は前に進むのだ。

 そうしなければならないのだから。

 

「フィンファンネルッ!!」

 

 やっと今の自分の変化にも慣れてきた。

 後はあやこを救い出すだけだ。

 

 その為にもコアプログラムを破壊する、

 それもなるべく早急にだ。

 

 その意思を表すようにブレイカーネクストの背部に翼のように垂れ下がるファンネルラックからファンネルを全て射出する。

 

 本来、ガンプラバトルにおけるファンネルなどのピット兵器はオートで行動するが、翔のファンネルは違う。アセンブルシステムによってマニュアルに切り替えられており、全てが意思を持っているかのように行動する。

 

 操縦だけではなくファンネル全ての操作も並行して行うのだ。

 例えるならば自分も動き回りながら複数のラジコンを同時に操作するようなものだろう。こんな事は余程の者でしかやらない。

 

 だが全くの無意味ではない。

 翔の狙い通りの場所を撃ち、的確にコアプログラムに損傷を与えていく。

 

 動きが鈍り自己修復を始めようとしたところをすかさずドッズライフルを分離させたバインダーからビーム刃を発生させコアプログラムの両肩を貫いて、動きを止めた。

 

 それを逃すまいとGNスナイパーライフルⅡを捨て、分離させたドッズライフルを両手にそれぞれ持って動きを止めたコアプログラムを撃ち抜き、機体を動かしてコアプログラムを宙に投げ飛ばす。

 

「あやこ、後少しで終わりにするから……!」

 

 同時にブレイカーネクストの右マニュビレーターを天に突き出すように掲げる。

 

 かつて悪魔と憎しみの連鎖を破壊した光の刃だ。

 そのまま宙に舞ったコアプログラムに大振りで振り下ろす。

 

 だが、それはコアプログラムを破壊する事はなかった。

 直撃する前にコアプログラムはアイオライトと分離して避けるとブレイカーネクスト目掛けて突っ込んできたからだ。

 

 ブレイカーネクストをアイオライト同様に取り込む気だろう。

 ブレイカーネクストの隙をずっと狙い、今、こうして行動に出た訳だ。背面から触手を伸ばしブレイカーネクストを拘束しようとする。

 

 しかしその目論見は叶う事は決してなかった。

 何故ならば空いている左のマニュビレーターから光の刃を発生させ、接近するコアプログラムを串刺しにしたからだ。

 

「……少しでも隙を見せれば俺を取り込もうとする……。予想通りとは言え良かったよ、これであやこのガンプラを我が物顔で使われずに済むんだからな」

 

 翔の見るモニターにはメインカメラの眼前にまで迫った触手ともがき苦しむコアプログラムが映っていた。翔はコアプログラムから解放され地に横たわるアイオライトを確認するとこの長い戦いを終わらせようとする。

 

「常識を壊し、非常識に戦う……ッ! これで……終わりだッ!!」

 

 右のマニュビレーターを引き、コアプログラムを解放すると同時に二つのマニュビレーターを合わせる。

 かつて悪魔を葬ったあの奇跡よりも巨大な虹色の光の刃を生み出し、そのまま一気に振り下ろす。

 自己修復さえ間に合わないその一撃は完全にコアプログラムを文字通り破壊する事に成功するのであった。

 

 ・・・

 

「ヒイイイィィィーーーートォッエンドォッ!!」

 

 同時刻、強化プログラムを貫いたバーニングブレイカーは空に掲げるとそのまま爆散させ、近くにいたゲネシスもすれ違いざまに切り裂いて撃破する。

 

「ッ……。終わったのか……?」

 

 電脳空間の様子が変化していく。

 近くにいたウィルスは自然消滅し毒々しかった空間も浄化されるように真っ白な空間になっていく。その変化に気づいた一矢は肩を上下させ呼吸をしながら戦いの終わりを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【───翔のこと、よろしくね】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一息つきながらシミュレーターを終えようとする。

 しかしその直前に耳元で優し気な女性の声が薄っすらとだが聞こえた。

 

 まさか誰かいるのか?

 そう思って一矢は振り返る。

 だがこのシミュレーター内には自分以外の存在はいなかった。

 

 ・・・

 

「翔……さん……?」

「お待たせ、あやこ……」

 

 戦いが終わり、あやこのシミュレーターのロックも解除され、ゆっくりとドアが開かれる。外部からの光を眩しそうに顔を僅かに顰めながら光を背に自分に手を差し伸べる翔の姿が見えた。

 

「っ……翔さんっ!! わたじっ……信じてまじた……っ! ぜっだい……翔さんが助けてくれるってっ……!!」

 

 翔の顔を見たあやこは顔を歪ませると、翔の手を取って、そのまま翔の胸に飛び込み涙声になりながら翔に抱き着いて嗚咽を漏らす。

 コアプログラムに取り込まれ、心底不安だったのだろう。

 身体で感じる翔の温もりを決して離すまいと両腕に力を籠める。

 

「……落ち着いたか、あやこ……?」

「は、はい……ごめんなさい……。恥ずかしいところを見せちゃって……」

 

 時間にして一分が経つか経たないか、あやこが落ち着くのを見計らって声をかける。

 すると我に返ったのか翔から離れながら恥ずかしそうに前髪に触れて赤面していた。

 

「……そう言えば、私、ドアが開く前に誰かに言われた気がするんです、【翔のこと、よろしくね】……って」

「……私も聞きました」

 

 ふと何かを思い出したのかあやこが助け出される直前の話を口にすると、今までのあやこと翔のやり取りをどこか羨ましそうな様子で見つめていたカガミが静かに口を開く。

 

(俺だけじゃなかったんだ……)

 

 するとシュウジやヴェル、ミサや風香達などを筆頭に自分も聞いたと言いだし、自分もあの女性の声を聞いた一矢は何だったのかと首を傾げる。

 

「……きっと……ずっと気になってたんだよ、翔のこと」

「……そうか」

 

 翔自身も気になっていると、ふと翔の隣に立ち、あの声の主が分かるのかリーナが微笑を浮かべながら声をかける。レーアを見れば彼女も声の主が分かっているのか優しく頷いてくれた。

 

(……ありがとう……。でも……もう大丈夫だよ)

 

 ふと空を仰いで感謝する。

 彼も声の主が分かったのだろう。

 今まで何も出来ないながらでも自分を見守ってくれたであろう人物に感謝する。

 

 空には小さな青い光球が飛び、透き通るような空に消えていくのだった……。

 

 ・・・

 

「なんだ……なんなんだ、アレは……ッ!!?」

 

 騒動が終息しあの騒ぎが嘘のように静けさが広がる。

 この事態を引き起こしたあの中年男性は信じられないとばかりに先程まで戦いが映っていたモニターを見つめていた。

 

「……社長、懸念していた事態が……」

「なにっ!? クッ……!!」

 

 男性に降りかかるのはそれだけではない。

 後ろで控えていた男性がそっと耳打ちするとグニャリと顔を歪ませた中年男性は忌々しそうに先程までブレイカーネクストが映っていたモニターを睨み付けるとその場を後にする。

 

「……」

 

 その後を追いながら、今まで中年男性の後ろで控えていた男性は先程の戦闘の様子を思い出し、新しい玩具が見つかったとばかりに笑みを零すのであった。

 

 ・・・

 

「……エヴェイユ……。それに……異世界……ですか……」

 

 ネバーランドの騒動から一週間が経った。

 ブレイカーズの裏で翔はあやこにエヴェイユのこと、異世界での戦争のことを話せる全てを教えていた。

 

「……突拍子のない話ですけど……翔さんの瞳の色も……少なくとも翔さんに起きた異変は分かりました」

「……ごめん、あやこ……。こんな事、信じてもらえないと思って、今まで言えなかったんだ……」

 

 話している最中にカラーコンタクトを外し、オーロラ色に変化した瞳の色やエヴェイユの力の片鱗も見せたのだろう。

 全てを理解できたわけではないが彼の異変については理解できた。

 確かに彼の言葉通り、こんな話、聞いても妄想にしか聞こえないだろう。

 

「……俺の仲間が体を調べようって言ってくれてる……。俺はそれに乗るつもりだ。流石にもう戻る気はなかったが……いつまで何も知らないで、周りを振り回す気はないからな……。そこであやこ、君も来てくれないか?」

「わ、私で良ければ……」

 

 翔は以前、ルルから提案された話に乗ることにしたようだ。

 完全に信じてもらえるのは難しいが、異世界に連れて行けば信憑性も湧くだろう。するとあやこは乗ってくれた。

 

「ありがとう、俺がこの事をちゃんと話したのは、この世界であやこだけだ」

「そ、そうですか……! えへへっ……」

 

 あやこを見据えて事実を話す。

 翔からすれば何気なく言った言葉だが、あやこにとってはそうでないのか心底、嬉しそうにはにかんだ表情で照れながら笑う。

 

「店長、面接の方がいらっしゃってますけどー」

「ん? あぁっ……そう言えば連絡があったな……。入れてくれ」

 

 するとあえて閉めているドアがノックされドア越しでアルバイトからの報告を受ける翔は案内するように言うと、扉が開かれる。

 

「ふーかちゃん、ですっ♪ やっほほー!」

「不採用」

 

 なんと入ってきたのは風香であった。

 ピースサインと共にウィンクを投げかける風香に即答で答える翔。

 

「ちょっ、風香ちゃんだよ!? こんなにカワイイ娘がいたら商売繁盛間違いなしじゃんっ! まぁ確かに?風香ちゃん目当てのストーカーがお店に来ないとは断言できないけど……」

「うちセ○ム入ってないし、セキュリティは保証できないな。他のちゃんとした所にした方が良いぞ」

 

 即答で不採用を言い渡された風香は食い下がるが、風香のテンションについて行けない面があるのか明らかに面倒臭そうな顔を浮かべながら手をひらひらさせて帰るよう促す。

 

「大体お前、偽名使っただろう。お前の苗字、神代だろう? なのに確か電話じゃ神山だか何だかって……」

「そこはサプライズでしょー! 風香ちゃんに会えた時のトキメキも増すってもんじゃん!」

 

 電話でやり取りをしたのか、翔はその時の事も話し始めると風香は偽名を使った理由も話し「声変えながら喋るの大変だったんだよっ!」とまで言い放ち、ますます翔の表情に呆れが出て来る。

 

「まあまあ志望動機だけでも聞きましょうよ。どうしてここを?」

「そりゃブレイカーズは色々と有名だし、バイトの求人があった時から気にはなってたんだ。電車で通えない距離じゃないし接客業もガンプラも得意っ! ふーかちゃんスマイルでお客さんもイチコロだよ! まぁでも何より……」

 

 そんな翔と風香のやり取りに苦笑しながら、あやこは風香に助け舟を出すように志望動機を尋ねると理由と共にアピールポイントまで話し始め、とびっきりのスマイルも見せる始末だ。

 

 しかしそんな風香も最後には先程のトーンも鳴りを潜め……。

 

「もーっと知りたいんだ、エヴェイユのこともなにより翔さんのことも……ね? 今、一番気になってるんだ。カッコよかったよ、あの時の翔さん」

 

 ふとあの時、観覧車に乗った時の様な様子で話し始める風香は人差し指をトントンと翔の胸に当て、先程までの活発な笑みではなくどこか妖艶ささえ感じるような微笑を浮かべる。

 

「な……なななぁあっ……!!? だ、ダメです! 不採用っ! 不採用ですっ! カガミちゃんとかあの綺麗な外人さん達とか……知らない間に翔さんの女性関係が凄いことになってるんですからぁっっ!!!!」

「っ!? あやこ!? ちょっと待て!! 言い方がおかしい! 俺は別に誰とも───!!!」

「あれあれー? 翔さんって結構罪作り? まぁこんなにカワイイ風香ちゃんを惑わしてる時点で大罪なんだけどさぁ♪」

 

 翔と風香の間に入って、顔を真っ赤に赤面させ慌てふためきながら叫ぶあやこにすぐさま反応して訂正させようとする翔ではあったが、その前に風香が便乗し始め、ブレイカーズは一層賑やかになっていた。

 

 ・・・

 

「次に会うのは、ジャパンカップかの」

「だろうな」

 

 同時刻、喫茶店では一矢、厳也、影二の三人がいた。

 別に意図的に集まったわけではない。偶発的に会いこうして会話をしている。そんな中で厳也がジャパンカップの事を話し始めると影二が頷く。

 

「……前のネバーランドでの映像見たけど。あのガンプラで出る気?」

「……内緒にするつもりだったんだけどな……。安心してくれ、ちゃんと考えがある、最高の状態でジャパンカップを迎えるつもりだ」

 

 すると今まででずっと黙っていた一矢が飲物を飲みつつ片目だけ開けて影二を見ながら問う。

 以前より影二のガンプラバトルでの不自然な動きには感づいていた。すると影二自身もちゃんと分かっているのか、首を振る。

 

「……そう、安心したよ。あのままで俺達とバトルするってんならどんだけ舐めてるんだって思ってたし」

「うむ、折角のジャパンカップじゃ。後腐れなく終わりたいしの」

 

 影二の言葉に納得したように両目を閉じて飲物に集中する一矢に頷きながら影二を見る厳也。

 

 最高の舞台だ。

 ならば良いバトルをしたい。

 それは影二も同じなのか「勿論だ」と頷くのであった。

 

 ・・・

 

 深夜帯、月を見ながら果実酒を飲んでいる翔に声をかけるのはシュウジだった。

「グラス借りますよ」と氷の入ったグラスを手に翔の向かい側の席に座ると、果実酒をグラスに注ぐ。

 

「憑き物が落ちた……。そんな感じっすね」

「……少なくともあれ以来、エヴェイユ関連で苦しむことはなくなったからな」

 

 グラスに入った琥珀色の果実酒を揺らしながら以前に比べて表情が和らいだ翔を見て、ふと口にするシュウジに微笑を浮かべながら果実酒を口にする。

 

 翔はPTSDに悩まされるのは変わらないが、それでもエヴェイユ関連での自分に起きていたあの苦しみはネバーランド以降、ピタリとなくなっていたのだ。

 

「俺、未熟でしたよね……。パッサートの件で戻ってきてくれたアンタがパッサートの事を収拾させる気はないって言った時、なんでだって食って掛かって……。今思えば、あの時だって苦しんでたんじゃないんですか?」

「……まあな。でも……お前は……いや、お前達は強く成長した。少なくともあの世界を任せられる程にな……。本当に……良い後輩が出来たよ……。こうやって飲みながら話すのも悪くはないな」

 

 ふと過去の出来事を思い出しているのか、自嘲気味な笑みを漏らすシュウジに否定はしないながらも彼等の成長を認めると、翔に言われた事もありシュウジの笑みの意味が変わる。

 

「へへっ……ならいつでも付き合いますよ、先輩」

「ああ、よろしくな、後輩」

 

 シュウジと翔は互いにグラスを軽く打ち合わせると笑い合う。

 からんっと氷が揺れる小気味の良い音が室内に鳴り響きながら翔とシュウジはいつまでも話し続け、月明かりはそんな二人を照らす。

 

 例えいかに心折れそうなことになっても決して如月翔は諦めなかった。

 何故ならば最後まで諦めないと言う亡き友への誓いがあったから。

 

 その思いはバトンを託した後輩にも受け継がれ、その思いはいつか違う誰かにも受け継がれていくだろう──。




次回からいよいよジャパンカップ編です。

<いただいたキャラ&俺ガンダム>

ブラックボックスさんよりいただきました。

《名前》  レン・アマダ
《機体名》 ストレイドガンダム

頭  ストライクノワール
胴体 マスターガンダム
両腕 ゴッドガンダム
脚  クロスボーンガンダム・X1
バック 上に同じ

武装 拳法
盾  ABCマント(赤)

カラーリング ・νガンダムのようなカラーを想定

《キャラ紹介》 
・主人公との絡みは悪友的なポジでお願いしたいです
・性格はオルフェンズのオルガのような兄貴肌
・女に弱い。どれくらいかと言うとミサみたいな女の子のうなじを見たら鼻血を出すレベル
・基本的に楽観的な人間だがやるときは一応やる男
・父親は現在プラモの企画者をしている。好きなMSはEz-8。母親はとてもおしとやかで綺麗な人。兄(研究者)と父親代わりの叔父(自衛隊の教官)がいる。好きなMSはノーベルガンダム。



《名前》ジーナ・M・アメリア

《概要》レンのマンションの隣に住んでいる21歳大学生。ハワイ生まれのアメリア人。銀髪ショートの褐色肌。普段は物静かでおとなしいクールな女性で、読書が趣味。
(だが大抵読んでいるのはクロスボーンやGガンダム)
本人は意識していないのにアクシズショックでのサイコフレームの光の如く色気が溢れ出てる女の人。

要は、なにもしてないのにエロ......ゲフン。セクシーな感じになっちゃう人。
......といってもプロポーションはミサとそう変わらない感じなんだけ(ドゴォ

レンとの出会いは本屋で同じ本を取ろうとして......という恋愛小説のようなシチュ。
(ちなみにこのときレンはあまりの色気に鼻血を吹いてぶっ倒れています)
同じGガンダム好きとして話が弾み、とんとん拍子で関係が進んだ結果、初めて出来た《異国の地での異性の友人》として特別視するように。
真夏の国の血は争えないのか、燃え上がると止まらない。恋愛ならなおのことである。

燃えるハートでクールに戦う彼女は、狙った獲物は絶対に逃がさない。

大事なことなのでもう一回。

狙った獲物は 絶 対 に 逃がさない(意味深)。

レンの影響でガンプラバトルにも最近手を出している。
現在の機体はレンのお下がりをカスタムしたもの。

《機体名》ジェスタ・キラウエア

《元にしたガンプラ》ジェスタ
WEAPON  ビームマグナム(バンシィ) 
WEAPON  GNソードⅤ 
HEAD    ジェスタ(ブレードアンテナ)
BODY    ジェスタ
ARMS    ジェスタ
LEGS    ガンダムエピオン(両脚スラスター) 
BACKPACK ダブルオークアンタ
SHIELD   ダブルオークアンタ 

拡張装備()内参照

《カラーリング》基本はジェスタカラー。所々にワインレッドで、グローカラーはオレンジ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 再び、あの舞台へ
ガンプラの聖地


 雲の上の空には太陽が燦々と光り輝いている。

 しかしこれは別に本物の太陽と言う訳ではない。あくまでガンプラバトルシュミレーターによって作り出された疑似的な物だ。

 

 そんな太陽の光を受けながらゲネシスとバーニングブレイカーのバトルが行われていた。

 しかし戦闘と言っても、ゲネシスが仕掛ける近接戦をバーニングブレイカーは全て紙一重で避け続けると言うものだったが…………。

 

「少しは上手くなったじゃねぇか」

「……まったく当たってないんだけど?」

 

 ゲネシスが振るったGNソードⅢの刃先を二本指で受け止めるとシュウジはあの旅行の時以降、鍛え上げた成果をその身に実感して彼なりに褒めるが、一方で一矢は攻撃が当たらない事から褒められても嬉しくもなく拗ねた様子で返事をする。

 

「まっ、ジャパンカップで分かんだろ。それよりもう時間もねぇがどうする?まだ続けっか?」

「……なら最後に見て欲しいのがある」

 

 そんな一矢に苦笑しながら、チラリとモニター横に表示されている制限時間を確認する。

 

 もう残り一分があるかないかだ。

 別に最後まで付き合っても良いが一応、彼の希望を聞くと静かに一矢はパネルを操作してEXアクションの画面を開く。

 

「──ッ」

 

 なんだなんだ?と興味深そうに軽く笑っているシュウジだが、ゲネシスの動きを見て目を見開いて息を呑む。

 ゲネシスはバーニングブレイカーに急接近すると次の瞬間、二機を中心にキラリと目が眩むような閃光となり周囲の雲は全て吹き飛ぶのであった……。

 

 ・・・

 

「ねー……あとどれくらーい……?」

 

 数日後、カドマツが運転する社内では後部座席から身を乗り出してアームレストに頬杖をつきながら退屈しのぎに運転席にいるカドマツに話しかけるのはミサだった。

 そんなミサの絡みもこれが初めてではないのか、「またかよ……」とうんざりした様子だ。

 

「後少しだっつったろ?」

「なんか面白い話してー」

「……お前それ話のフリとして最低だからな……」

 

 これで何回目か。

 そんな様子で答えるカドマツだが、それでも退屈なのは仕方ないのか特に期待もしていないが何か話題を求めるミサの言葉に嘆息する。

 

「一矢君も寝てるし、暇だよー」

「妹の話じゃここ最近、ずっとガンプラとアセンを弄ってたって話だったな」

 

 ミサは頬杖をつきながらそのまま助手席に座る一矢を見る。

 そこにはドアに身体を預けながら規則正しい寝息を立てて眠っている一矢の姿が。カドマツは眠る一矢を横目に出発前に迎えに行った際、夕香から聞いた話を口にする。

 

「でも一矢君の寝顔って新鮮かも」

「起こしてやるなよ」

 

 退屈しのぎの対象は一矢に変更されたようだ。

 一矢の寝顔をもっと見ようと身を乗り出すミサにカドマツが注意すると、「分かってるって」と意気揚々に答えながらミサはそのまま一矢の顔を覗き込む。

 

「あっ……」

 

 マジマジと一矢の寝顔を見るミサはポツリと声を漏らす。

 普段は気怠そうにしている為に意識はしていなかったが、こうして純粋に眠っている一矢を見ると、やはり夕香と双子と言うだけあってその精悍な顔立ちに予想外な不意打ちを食らったようにドギマギして、あっという間に頬が熱くなるのを感じる。

 

「……なに?」

 

 するとパチリと目を開いた一矢が起きて、相変わらず気怠げな半開きの目と目が合った。

 

「えっ? あっ、起こしちゃった!?」

「体重かかった手がずっと膝に乗ってるし……」

 

 カドマツに注意され起こす気もなかったが、起きてしまった事にミサが驚いていると一矢は身を乗り出した際、バランスを取るために膝の上に置かれた手を見つめながら答える。

 

「ちょっ!? それって私が重いってこと!?」

「うるさいなぁ……」

 

 先程まで見惚れていたのとは一転、一矢の言葉に抗議し始めるミサだが、寝起きの一矢は心底煩そうに顔を顰めながら人差し指を片耳に突っ込んで耳栓代わりにする。

 

「そうだ、これ見てみろ。インフォやネバーランドのウィルスな、あれ出処が分かったんだよ」

 

 するとそこでカドマツが何か思い出したように近くの端末を操作して、プラウザを開くとその端末に表示されていたのはネットニュースであった。

 

 その内容を一矢とミサが目を凝らしながら見やる。

 そこに載っていたのは不正プログラム作成の疑いでセーフ・セキュリティ・ソフトウェアという会社の元社長であるバイラスと言う名の容疑者の行方を捜索中と言うものであった。

 

「通称スリーエスと言えばここ数年でシェアを伸ばしてきたセキュリティソフトの開発会社だ」

「セキュリティソフト会社がコンピューターウィルスを作ってた……?」

 

 ニュース上に出てきたセーフ・セキュリティ・ソフトウェアの簡単な説明をするカドマツにミサはにわかに信じがたいと言った様子で呟く。

 

「昔からそういう都市伝説はあったんだが本当にやる奴がいたんだな……。技術者の風上にも置けない奴だ」

「……そもそもvirusって名前、セキュリティ会社的にどうなの?」

「でもバレちゃったんだー……。悪いことは出来ないね」

 

 同じ技術者として情けなく憤りも感じてはいるのか、カドマツの目は鋭い。

 そんな中、バイラスの名前に一矢は鼻で笑いミサは座席に身を預けながらうんうんと頷いて答える。

 

「それだよ。どうしてバレたと思う? 続きを読んでみろ」

 

 ミサに良いことを言ったと言わんばかりにカドマツがミサの事に食いつく。

 カドマツに言われ、また再び画面を注視し始める。

 

 そこにはバイラス容疑者の不正プログラム開発に関する告発が同社を買収したタイムズユニバース社CEOのウィリアム氏によってなされ、この買収が完了した後にスリーエスは解体されているという内容であった。

 

「お前んとこの商店街が閑古鳥になったのって確かこの百貨店のせいだよな」

「こんなところでこの名前を見るなんて……。……でも何でタイムズユニバースがスリーエスの悪事を暴いてるの?」

 

 この名前には覚えがあるはずだ。

 何故ならばカドマツの言う通り、この会社の百貨店が出来たお陰で彩渡商店街はさながらゴーストタウンになってしまったのだ。

 

「知らん」

「なんだよもう!」

 

 しかし何故、タイムズユニバースがそのような事をしたのか、理解できないミサはカドマツに尋ねるが一蹴されてしまい不満顔だ。

 

「おっ、見えたぞ、あの一番目立ってるのがジャパンンカップの会場だ」

「あれかー! ジャパンカップの会場……!」

 

 そんなミサもどこ吹く風か、ここでカドマツは目的地を見つけ、退屈していたミサに声をかけると再び身を乗り出し、一矢も少なからず興味はあるのか目だけ追っている。

 

(……やっと戻ってこれた)

 

 ジャパンカップの会場を見つめながら一矢は静かに己の思いを心中に零す。

 

 一度はこの地に真実達と挑んだが敗れてしまった。

 それ以来、誰か共に進ことに目をそらしてきたがここに来るために再びミサの手を取ったのだ。表情には出さないもののある種の達成感を抱きながら一矢は決して会場から目を逸らす事もなくずっと見続けていた。

 

 ・・・

 

「みなさーん、こんにちわー!!」

 

 ガンプラの聖地として名高い静岡県にて行われるジャパンカップの会場では全国から集まった出場選手がステージの前に立っていた。

 そんな全国の強豪が集う場のステージの上でMCを務めるハルがマイクを持って挨拶を始める。

 

「ガンプラバトルジャパンンカップ出場おめでとうございます! タウンカップ、ジャパンカップを勝ち抜いてここまで来た皆さんは誰もが日本一になるのに相応しい実力の持ち主! これから始まる数々のバトルに全国のファンが期待している事でしょう! 私も皆さんの素晴らしいバトルを期待しています! それではここでミスターガンプラから激励の一言っ! ミスター、よろしくお願いします!」

 

 マイクを持って労いと共に機体の言葉を贈るハルはそのまま横を指すと壇上に奇抜な服装とアフロが特徴的なミスターガンプラが登場した。

 

「ただいま紹介に預かりました、ミスタアァァァッガンプラです。本日はこのような素晴らしい日に皆さんと共にいられることを心から感謝しています!!」

 

 壇上に上がって来たミスターはファイターにとって憧れなのか歓声が上がる中、彼もまた挨拶と共に激励を送る。

 

 ・・・

 

「ウィル坊ちゃま、お茶が入りました。……なにをご覧になっているのですか?」

「……別に。たまたまチャンネルがそこにあってただけさ」

「ガンプラバトル、ですか」

 

 その生中継を眉間に皺を寄せて見ている人物がいた。

 

 ウィルだ。

 ドロシーがソーサーとともに紅茶が入ったカップを置くと、ウィルが見ている番組について尋ねる。

 どこか不機嫌な様子で返答を返すウィルの横から番組を一瞥したドロシーはそれが何の番組であるか確認しった。

 

「……なにをしているんだ、アンタは……ッ!!」

 

 ウィルの視線はミスターから外れる事はない。

 歯ぎしりをしたウィルはどこか怒気を含めながら低い声で口にするのであった。

 

 ・・・

 

「そして忘れもしない12歳の夏……! 私は見送りの飛行場で斉藤君に二人で手に入れた優勝トロフィーを渡し、いつの日かの再開を約束したのです……!それから……!」

「ミスター……? そろそろ何名かが貧血で救護室に……」

 

 最初こそミスターの登場に喜んでいた面々もミスターの長話にうんざりした様子であった。

 まだ話が続きそうだったため、ハルがおずおずと話に割り込む。と、気付いたミスターはなら最後に……と咳払いをする。

 

「君達、ガンプラは好きか! ガンプラバトルに勝ちたいか!! これから始まる戦いに君たちが一層奮い立つように私がプレゼントを用意した!」

 

 激励の言葉を贈るミスターは集まるファイターの中から、このジャパンカップの前に資料を取り寄せて知ったのだろう。

 ミスターの長話にうんざりしてポケットに手を突っ込んでいる一矢の姿を見つけると、サングラス越しに目を細める。

 

「このジャパンンカップに優勝したチームと優勝終了後のエキシビションマッチで私がバトルすると言うものだ! 現役を退いて5年以来のバトルに私の胸は高鳴っている! 最強のチャレンジャーを待っているぞォ!!」

 

 まだなにかあるのかと面倒臭そうに、俯きながら地面をつま先で軽く蹴っていた一矢だが、ミスターの視線を感じたような気がして、向き直るとニヤリと笑ったミスターは高らかに宣言をして挨拶の言葉を終え、同時に歓声が轟くのであった。




憧れの人がアロハアフロだった時、あなたはどうしますか──?


実はありがたい事に前作が50000UAを突破しまして、あちらでも書けなかったシュウジ達の物語を書いています。もし前作は読んでないという方もこれを機に暇な時にでも如月翔やシュウジの物語を知っていただけたらと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お嬢様の決定事項

「うわー……すっごい混んでるわねー」

「……そうだね」

 

 ガンプラの聖地と崇められる静岡県。

 その聖地を舞台にジャパンカップが開催されるこの場には夕香達の姿があった。

 

 どこを見渡しても人、人、人と大混雑しているのを目の前に、唖然としている裕喜に夕香はどこか疲れたような様子を見せながら答える。

 

「……あの、さ……。そろそろ離してほしいんだけど」

 

 それもそうだろう。

 何故ならば今の夕香は裕喜に半ば片腕を抱きつかれているような状態なのだ。

 

 今、ジャパンカップが開催されているこの時期は夏。

 炎天下の中、こんな肌と肌を密着させるのは暑っ苦しいことこの上ない。

 

「いーやっ! 最近、夕香は私と遊んでくれること少なくなったもん! ユカニウムが足りないっ!」

「……なにそれ……」

 

 しかし裕喜は離すどころか更に力を強めてしまう。

 こうなっては絶対に離さないだろう。夕香は頭痛を感じて眉間を抑える。

 

「──あれ、夕香ちゃん」

 

 周囲の貴広や秀哉達が同情気味に笑みを浮かべるなか、半ばされるがままにしている夕香に大混雑の中から声をかけられる。

 

「やっぱり夕香ちゃんも来てたんだね」

 

 そこにはコトと、その近くには二人の男女が立っていた。

 特に眼鏡をかけている青年の方は良く見ればコトの面影を感じられる。

 

 夕香の兄である一矢がジャパンカップに出場することは知っていた為、もしかしたらと思っていたが、こうして出会え、嬉しそうに人懐っこい笑みを見せる。

 

「んー……アタシは別に予選後でもいいと思ってたんだけど知り合いがどうしてもって言うからねー」

 

 コトにつられるように夕香も微笑を見せて、肩を竦めながら答える。

 そう、本来、夕香はこんなに早くにこの場に来る予定ではなく、今回のジャパンカップは秀哉や裕喜達の申し出でこうしてやって来たのだ。

 

「あっ、紹介するね。隣にいるのは兄の御剣ジン、そしてその恋人である玉木サヤさんだよ。そして今、目の前にいるのは雨宮夕香ちゃん!」

「君が彩渡商店街ガンプラチームのエースの妹さんか。話は聞いている。妹が世話になってるみたいだな、ありがとう」

 

 するとコトは自身の傍らにいる二人組について紹介すると、その紹介を受けて納得する。

 

 どうやら青年はコトの兄のようだ。

 コトから紹介をされた御剣ジンは夕香に自分からも挨拶をすると、「どーも」と夕香も夕香なりの挨拶を返す。しかしそこは彼女の性分なのか、どこか飄々とした様子なのだが。

 

「実は私達もジャパンカップに出場する予定なんです」

「へぇー……って言うか、今予選の真っただ中じゃないの?」

 

 挨拶もそこそこにサヤが自分達もジャパンカップの出場者にその名を列ねている事を話すと、意外そうに驚いている夕香は今が丁度、予選の最中であると知っている為、首を傾げる。

 

「ああ、その通りだ。だけど4ブロックに分かれていて、モノリスデモリッションが三つ、バトルロワイヤルが一つと別れているんだ。バトルロワイヤルは最後のブロックで俺や君のお兄さん達もそこで戦う予定なんだ」

「ふーん……。まぁ愚兄が世話になるかもだから、全力で頼むよー」

 

 予選が行われているであろう会場の方角を見やりながら、説明するジンに合点がいったのか、相槌をうちながら彼女なりに一応の挨拶はしておく。

 

 しかし別に手を抜けと言う訳ではない。

 戦うとしても当然ながら全力で。その意味を込められた言葉にジンやサヤは微笑を浮かべて頷くのだった……。

 

 ・・・

 

「今年のジャパンカップは例年よりもファイターの熱気に目を見張る者があるな」

「それもそうだろう。なにせ、優勝すればあのミスターガンプラとエキシビションマッチでバトルが出来るんだ。並みのガンプラファイターなら誰だって挑戦したいはずだ」

 

 丁度、予選会場となるドーム内の客席ではシャアとアムロの二人が薄暗い場内に立体映像で複数に表示される立体映像を見ながら、ファイター達の激戦に会話をしながら、現在の第二ブロックの予選を観戦していた。

 

 ・・・

 

「モノリス破壊完了っ!」

「このままなら予選突破可能です!」

 

 現在、第二ブロックの戦闘が行われている密林エリアでは厳也達高知県代表チームである土佐農高ガンプラ隊の姿があった。

 文華のフォボスによってモノリスが破壊されると、ポイントが加算され、咲が他チームと比べ得点で上位にランクしている事を嬉しそうに口にする。

 

「油断は禁物じゃ。足元をすくわれる原因になるしの……」

 

 クロス・フライルーは周辺を警戒しながら咲に注意をする。

 予選は各ブロック4名が輩出され16チームによる本選が行われる。やはりジャパンカップともなれば本選に向かうのも容易ではない。

 今は上位にいるとは言え、いつ抜かされ大差をつけられても不思議ではないのだ。厳也の言葉に頷き、三人は次なるモノリスを探す。

 

 ・・・

 

「これなら……でももっとポイントを手に入れましょう!」

「よっし! まだまだ行くぜ!」

 

 愛知県代表チームも目を見張る活躍を見せていた。

 二人組のチームながらポイントは上位に食い込んでおり、ストライクレイスを操る一ノ瀬春花の言葉に大きく頷きながら、意気揚々とガンダムレーゼンを動かし上代裕喜は別のモノリスを探し始める。

 

 ・・・

 

「まだ稼がないと……。これじゃあまだギリギリだわ」

「ああ、これじゃあまだ……。でも、シアルがいるならきっと……ッ!」

 

 また別の場所ではモノリスの残骸の上に二機のガンダムタイプとジェガンベースのガンプラが立っていた。

 ジェガンベースのジェガンハウンドを使用している麻沼(あさぬま)シアルは見惚れるような銀髪を靡かせながらガンダムベースのアドベントガンダムを使用している神無月正泰(かんなづきまさや)に通信を入れる。

 

「こんな時になにを……っ!?」

 

 正泰もシアルの言葉に表示されているポイントに不安を抱えるが、それでも頼もしいチームメイトがいる為に微笑を浮かべると予期せぬ言葉を不意打ちのように浴びたシアルは顔を真っ赤に赤面させる。

 

 ・・・

 

「これでどうだァッ!!」

「悪いな、これで終いだ!」

 

 なにもモノリス破壊だけが予選の光景ではない。

 中にはバトルも行われており、その中には秋田県代表チームの姿もある。

 

 そんな中、別の代表チームのガンプラを破壊したのは“試製特参式歩行戦車”の一番機 暁を使用する大和清光(やまときよみつ)と三番機 雷を使用する日向国永(ひゅうがくになが)だ。

 

「残り時間も少なくなってきたのです……」

「うん、まだモノリスはあるはずだ。探そう」

 

 四番機 電を操る加賀小夜(かかさよ)は残り時間を確認しながら一息つくと、二番機 響を駆る赤城国広(あかぎくにひろ)は頷き、余裕を持って予選を終える為に更にモノリスを捜索する為、指示を出し始める。

 

 ・・・

 

 そんな白熱した予選が行われているドームの外では煽られるように一般客が使用できる巨大テント内に設置されたガンプラバトルシミュレーターでも激しいバトルが行われていた。

 

「やっぱり一般のバトルも混んでるな」

「夕香、頑張れー!」

 

 順に案内されている事から一足先にガンプラバトルシミュレーターに乗り込んでいる夕香のバルバトスが立体映像によって映し出され、列とは別に観戦しているジンの隣で裕喜が声援を送る。

 

「……あれ、あのガンプラ……なんか動きがおかしくない?」

「ホントだ……。なんだあれ」

 

 自分達も参加するために列に並んでいる一輝は秀哉の肩を軽く叩いて、ある立体映像を指差しながら話しかけると、その映像を見た秀哉は怪訝そうに首を傾げる。

 

 ・・・

 

「なんだ、このガンプラ……? 下手なのか上手いのかよく分からない!」

 

 秀哉達が怪訝そうに見ているバトルではジャパンカップにやって来ていた誠のユニコーンFDがその秀哉達の話題の種ともなっているガンプラの相手をしながら当惑したように叫ぶ。

 

 その相手とは曲線を多用した特徴的な外部装甲や突き出た頭部などさながら騎士を思わせるようなガンダムキマリスであった。

 

「誠の奴、なにをてこずってるんだ……!?」

 

 その近くでは純もまたGNーΩを駆ってバトルをしていた。

 しかし誠のユニコーンFDがあのキマリスとバトルをしてからしばらく経っている。いくら何でもと純は不思議がる。

 

「なにあれ……変なの……」

 

 そんなキマリスの近くに夕香のバルバトス第六形態もまた接近していた。

 

 夕香はキマリスの動きを見て、首を傾げる。

 一言で言えば初心者かと思うようなぎこちない動きなのだが、ユニコーンFDの攻撃は全て避けて、反撃に転じて攻撃を直撃させているところを見ると腕は立つようだ。だが何故あのような不自然な動きになるのだろうか?

 

「あっ……こっち来た」

 

 ユニコーンFDを地面に向かって薙ぎ払ったキマリスは次の相手を、と言わんばかりに次なる標的を近くのバルバトス第六形態に向け、接近してくると夕香はポツリとまるで他人事のように呟く。

 

「よっ……こいせ! ……っと」

 

 ぎこちないながらも縦横無尽に駆け巡り、大型ランスのグングニルの側面に備わっている牽制用の弾丸を発射しながら近づいてくるキマリスに動揺する事もなく、いつもの飄々とした様子ながら目を細めた夕香はメイスを投擲する。

 

 ガンッと鈍い音がした。

 キマリスの動きから予測経路を計算した夕香の投擲がキマリスに直撃したのだ。

 弾かれるように吹き飛ぶキマリスに動揺が見られる。

 

 それが狙い目だ。

 バーニアを全て使用してバルバトス第六形態は体勢を立て直そうとするキマリスに接近すると、牽制しようとするキマリスの射撃を盾のように構えたレンチメイスで防ぐと、そのまま大降りにキマリスの頭上から叩きつけて地面に落とす。

 

「ハイ、一落ち」

 

 土煙が上がる中、起き上がろうとするキマリスに飛来したバルバトス第六形態はレンチメイスを挟み込む。

 重量を持って挟み込んだこともあり、レンチメイスの先端はキマリスを挟み込んで地面に食い込む。

 

 何とか抜け出そうともがいているキマリスを見下ろしながら夕香は淡々とした様子でレンチメイスを動かし、そのまま両断してキマリスを撃破するのであった。

 

 ・・・

 

「ふぃー……終わった終わったー」

「夕香、しばらくしない間に相当、腕を上げたな」

 

 その後、制限時間も終了し、シミュレーターから出てきた夕香に入れ代わりざまに秀哉が声をかける。その手にはパーフェクトストライク・カスタムが握られており、どうやら次は彼の番のようだ。

 

「うん、これなら俺達にも引けを取らないんじゃないかな」

「もっと褒めてくれたら伸びると思うよー?」

 

 ストライクチェスターを持つ一輝も夕香を褒めると、夕香からふふんと笑いながら軽口を叩かれ、苦笑する。

 

「──ちょっとお待ちなさい!」

 

 バルバトス第六形態をケースにしまい、裕喜達と合流しようとしている夕香を呼び止める者がいた。

 振り返ってみれば、そこにはクセのあるブロンドヘアを腰まで伸ばした巻き髪の少女がいた。

 

「先程の勝利……わたくしのGPさえマトモならばあのような結果にはなりませんでしたのよ!」

「えっー……と……さっきの壺みたいなガンプラ使ってた人?」

 

 紺色のワンピースを着用したブドンドの少女に首を傾げていると、キマリスのガンプラを向けられながら絡まれ、先程のバトルで撃破したガンプラを思い出す。

 

「壺……っ!? まったくこんな人に負けたなんて信じられませんわ……! わたくしのGPさえ……」

「あーうん、とりあえず出ようか。邪魔だし」

 

 キマリスを壺呼ばわりされ、わなわなと震える少女にシミュレーターに入れ替えで乗り込む人々がなにをやってるんだと不満そうな顔をし始めたのを見かねて、少女を連れてひとまず外に出る。

 

 ・・・

 

「で、壺の人のGPがなんだっての」

「壺の人なんかじゃありませんわ! わたくしの名前はシオン・アルトニクスと言う高貴な名前がありますのよ」

「あーはいはい……シオンね……。んで、GP見せてみてよ」

 

 そのまま少女を連れて近くの作業ブースまでやって来た夕香は改めて話を聞こうと、腰かけながら話しかけると壺の人とまで言われた金髪の少女ことシオン・アルトニクスは己の名前を口にする。

 

 そんなシオンを適当にあしらいながら、肝心のGPを見せるように促す。

 そんな夕香の態度が気に入らないのか、怒りを滲ませながらもGPを渋々、差し出す。

 

「なにこれ……アセンが滅茶苦茶じゃん……」

 

 そのままGP内のアセンブルシステムに目を通す。

 そのシステム内容は飄々としている夕香も絶句させるものだった。

 

「……なにをやったらこうなるの? 縛りプレイ?」

「……わたくし好みのアセンを組もうと思ったら、おかしな方向に……。直そうと思っても余計こんがらがってしまい……」

 

 アセンブルシステムはデフォルトのものから比較的、簡単に設定できる。

 勿論、それは大会に出るだけの存在ならば複雑なアセンになり難しいが、あくまで自分好みのカスタマイズをするだけなら容易なはずだ。

 

 自分でも特に難なくできたアセンブルシステムがここまで滅茶苦茶になれば、それは流石に操作するガンプラに影響があり、あんな動きにもなるだろう。

 夕香は呆れ顔をシオンに向けると、その視線が耐えられないのか、シオンはそっぽを向きながら気まずそうに答える。

 

「機械音痴って奴?」

「ち、違いますわ! わたくしの動きについてこれないGPの方がおかしいのではなくて?」

「……ついてきた結果だと思うんだけど」

 

 そのままポツリと感じた事を口にするも、シオンは絶対に認めたくはないのか夕香にビシッと指差して、GPのせいに責任転嫁すると、夕香は頭が痛そうに溜息をつく。

 

 ・・・

 

「それで要望も取り入れて直してあげたんだ」

「うん、あれ以上、下手に絡まれてもヤダし」

 

 数十分後、再び巨大テント内に戻って来た夕香から一部始終を聞いた貴弘は苦笑すると、夕香は難解なパズルを解いたように溜息をつく。

 初期化してからとも考えたが、シオン個人の戦績やデータが消えるという事もあり、結果、あの後、これ以上、シオンに関わったら疲れるだけだと判断した夕香はシオンのGPをそのまま操作して、彼女の要望も取り入れながらアセンの再構築をしたのだ。

 

「でも、お陰で見間違うぐらいだよ」

「うんうん、別人みたい。……あっ、終わったみたい」

 

 そのシオンは現在、試し乗りとして再びバトルに参加している。

 先程とは違い、余計なものを排除したため、キレが増した動きを見て、コトと裕喜は褒める。

 

 やはり素の操縦技術はやはり高かったようだ。

 するとシオンがシミュレーターから出てきて、こちらに向かってくる。

 

「わたくしの動きにエレガンスさが増した事は感謝はしますわ。これなら今の貴女にも引けを取ることはないでしょう。お名前を訊ねてもよろしいかしら?」

「雨宮夕香だけど」

 

 シオンはそのまま夕香に一応の感謝の意を示すと、名前を訊ねる。

 別に名前を教えることは構わないのか夕香は何気なく答えると……。

 

「雨宮……。アマミヤ……? ……もし、貴女の住む町は?」

「えっ……○○県の彩渡街だけど」

「彩渡……!? ……これは奇妙な縁ですわね……」

 

 雨宮と言う苗字を聞き、なにか思い出しように顎に手を添え考えるシオンはそのまま住所まで聞いてくる。

 何故、そんなことまで教えなくてはならないのかと疑問に思いながらも簡単に話すとシオンは再び目を見開いて驚いていた。

 

「決めましたわ、貴女をわたくしのライバルにしてさしあげますわ!」

「あっいや、そーいうの良いんで」

 

 すると、何か閃いたようにビシッと力強く夕香を指差して高らかに宣言する。

 しかし夕香は何を言ってるんだコイツと言わんばかりに冷めた目で却下された。

 

「んなぁっ……!? わたくしの好敵手という高尚たる称号を進呈しようと言うのにどうしてですの!?」

「いや、ホント間に合ってるんで」

 

 まさか却下されるとは思っていなかったのだろう。

 食い下がるシオンを夕香はまるで新聞の勧誘か何かを断るようにあしらおうとする。しかしシオンもシオンで絶対に引くことはない。

 

「と・に・か・く! 今度こそお互い全力のバトルをする為にも貴女をわたくしのライバルに決めましたわ! これは決定事項! 貴女に拒否権はありませんわぁっ!!」

 

 シオン自身、あの夕香が本気だと思ってはいないだろう。

 今の自分とならばその全力も引き出せ最高のバトルが出来るだろう。

 それに夕香のガンプラはバルバトス。キマリスを駆るシオンは夕香をライバルと決める以外の選択肢はなかった。

 

「……」

(……夕香の目がどんどんイッチみたいにやさぐれてっていってる……)

 

 しかし夕香からしてみれば、これ以上変に絡まれない為にGPを直したのであってこんな結果は願い下げだ。

 夕香自身、今自分がどんな顔をしているか分からないが、傍から見た裕喜は彼女の兄を思い浮かべ、苦笑するのだった……。




シオン・アルトニクス

【挿絵表示】


<いただいたキャラ&俺ガンダム>

トライデントさんからいただきました。

キャラクター名 根城秀哉(ねじろしゅうや)
性別 男
家族構成 母,弟,妹
容姿 身長 175cm
   髪 黒髪ロングヘアー
   目 黒
年齢 主人公より1つ上
性格 荒い言葉を使うが、仲間を想う気持ちと立ち向かう勇気は誰にも負けないものを持っている。
設定 父親を早くに亡くし、その父の最初で最後の誕生日プレゼントであるガンプラを形見としている、シングルマザーである母親を少しでも支えるために普段はバイトの日々、ガンプラ大会には弟や妹を元気付けることも目的の1つ(ビルドファイターズトライのシモンと似ている)

ガンプラ名 パーフェクトストライク・カスタム

WEAPON フラガッハ3ビームブレイド
WEAPON 57mm高エネルギービームライフル(ノワール)
HEAD ストライクガンダム
BODY ストライクフリーダム
ARMS パーフェクトストライク
LEGS ストライクノワール
BACKPACK パーフェクトストライク
SHIELD 本体キャニスター(パーフェクトストライク)
拡張装備 なし

オプション装備
イーゲルシュテルン
コンボウェポンポッド
マイダスメッサー+パンツァーアイゼン
アグニ
シュベルトケベール
ビームライフル・ショーティー
カリドゥス復相ビーム砲
ビームサーベル

カラーリングは全てストライクカラーです。

キャラクター名 姫矢一輝
性別 男
家族構成 父,母,弟
容姿 身長 180cm
   髪 全体的に黒髪だが少しだけ茶髪
   目 黒
年齢 21歳
性格 心優しい青年で一人称は僕、ごく普通の家庭で育ち、ごく普通な生活を過ごし現在大学四年生、小さい頃に川で溺れたときに助けられたこともあり、将来はレスキュー隊に入ろうと思っている、根城家とは秀哉が小さい頃からの付き合い

ガンプラ名 ガンダムストライクチェスター

WEAPON ビームサーベル(ウイング)
WEAPON ビームマグナム(ユニコーン)
HEAD ZZガンダム
BODY ガンダムヘビーアームズ
ARMS ガンダムヘビーアームズ
LEGS ガンダムヘビーアームズ
BACKPACK ブラストインパルス
SHIELD シールド(エピオン)
拡張装備 プロペラントタンク×2
     ビームキャノン×2

オプション装備
ダブルバルカン
胸部ガトリング砲+マシンキャノン
マイクロミサイル
ケルベロス+4連装ミサイルランチャー
ホーミングミサイル
デリュージー超高初速レール砲
ディファイアントビームシャベリン
ビームキャノン

カラーリングは青と紺を基本としたものです

好きなMS

根城→ストライク
彼の父親がくれたプレゼントがエールストライクのガンプラだったから、それは今のパーフェクトストライク・カスタムにも受け継がれている。

姫矢→ガンキャノン
ガンキャノンというよりは、パイロットのカイ・シデンが好きだからというのが理由、テレビや映画の『哀戦士』での彼の成長に心打たれたのが理由だとか、一応言っておきますが彼にあっちの気はありません、LIKEの方です。


ライダー4号さんからいただきました。

杜村 誠
ガンダムユニコーンFD

ユニコーンガンダム
WEAPON ビームマグナム
WEAPON ビームサーベル
HEAD ユニコーン
BODY  バンシィ
ARMS  バンシィ
LEGS  ユニコーン
BACKPACK ディスティニー
SHIELD  ユニコーン
拡張装備 フラッシュエッジ2
アロンダイト ビームソード
高エネルギー長射程ビーム砲
ビームライフル
切り札:NT-Dと光の翼の同時併用


年齢:19歳
近畿圏から新学のため主人公の住む街に来た丸顔の穏やかな性格の青年。ガンダム作品はほぼスパロボやGジェネ、ノベル版で知ったためかなり知識に偏りがある。アニメできちんとみた種〜UC、W、逆シャア以外の作品のMS、MAのカタログスペックは網羅してるが劇中の活躍は知らないがゲームなどの他媒体での活躍なら理解している状態なため、ガンダム好きな友人からよく合間合間に解説をもらっている。ガンプラを初めて作ったのは中学二年で偶然キュリオスを懸賞で当てた妹からのプレゼントとして貰ったものを作り始めた。最初の作品は愛猫に壊されたが思い出として大切に保管している。たまにヒロインの店にガンプラを買いに友達と出向いてるがガンプラの箱の説明やイラスト見て満足してしまうため冷やかしにくる客の何者でもない。
作った上記のガンプラは故郷の友人が誠のてんこ盛り好きな嗜好から作成し、餞別としてくれた大切なもの。故郷に帰るまでに自分の好きなガンプラを作り、それを自分に渡せる事が出来るようになることが条件としてくれた物でもあるため、約束を果たす腕前になるために大学の友人からの指導やプラモ教室に通っている。最近競技用に上記のガンプラの同機を作成出来た。最近はバンシィ、ユニコーン、フェネクスを合わした機体を作ろうと計画中。


保泉 純
19歳

GNーΩ

WEAPON ハイパー・ビーム・ジャベリン
WEAPON GNバズーカ
HEAD  サザビー
BODY  スサノオ
ARMS  ターンX
LEGS  ダブルオークアンタ
BACKPACK デスサイズヘルEW
SHIELD  サンドロック
拡張装備 GNソードⅢ

眼鏡が本体な杜村の友人。ガンダムというか幅広くかつ深くロボット作品が好きな生きるロボット図鑑。偏りのある杜村の知識の補正を行い、彼にガンプラの指導をしている。杜村とは大学の入学式で意気投合して仲良くなった。プラモサークルに所属しており、ガンプラを使って何処かで見たような機体を作るのが趣味。上記の機体も某無限大な夢の劇場版からインスパイアされ衝動的に作ったもの。店の冷やかしに行く杜村と違い、きちんとプラモを買って行く客の鑑。

素敵なキャラや俺ガンのご投稿ありがとうございました!


漸く身の回りの事も落ち着き、これで正月から出来なかったDLCにも備えられそうです。なお、積んでるレッドファイブのプラモもあるので正月以降の投稿が少し遅くなる可能性がある模様。まぁあくまで可能性ですがね。

またこの投稿が今年最後のモノとなります。このような小説を読んでいただき本当に感謝しております。本当にありがとうございます!来年もまた私の小説をどうぞよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覇王の教え子

「よーっ、お前らも来てたんだな」

 

 ジャパンカップの会場では夕香達は聖皇学園ガンプラチームと出くわしていた。

 軽くひょいっと手を挙げる拓也に夕香は「ちゃーす」と軽く挨拶をする。

 

「まなみん達も来てたんだね」

「まあね。ここは私達も出場してたし、やっぱり見届けたいんだ」

 

 夕香の言葉に、真実は苦笑しながらジャパンカップの予選が行われているであろうドームを見やる。

 

 ここはかつて一矢と共に出場した地。

 その時、敗退したのを機に一矢はチームどころか部を抜けた。

 その事について今さら何かを言う気はないが、再びこの地に辿り着いた元チームメイトの勇姿を目に焼き付けておきたかった。

 

「それに来てたのは俺達じゃないよ、雨宮達がリージョンカップでバトルしたチームの子達も来てたし」

「リージョンカップ……? 確か3対2でも、かなりの接戦だった奴だっけ。確か女の子二人組だよね」

 

 夕香達と合流する前に見かけたのだろう。

 勇が静かに口を開くと、リージョンカップの準決勝を思い出す。

 三宅ヴェールと三日月未来の二人組は数の差も感じさせない大激闘を繰り広げたのは記憶に残っている。

 

「自分に勝った奴らがどこまで通用するか、皆気になるんだよ。それにここはファイターにとって夢の舞台だしな」

 

 晴天の空を仰ぎながら、一矢達への期待感を露に拓也は話す。

 ガンプラの聖地と言われるこの静岡の地で日本一を決めるこのジャパンカップ。ここにいる人々は例外なく少年のように目を輝かせている。

 

「……もしかして貴女、アイドルのKODACHI……じゃなかったっけ?」

「またまた御冗談をー」

 

 すると真実がコトに気づき話しかける。

 とはいえ、流石に有名人の売り出し中のアイドルがこの場にいるはずがないと思っている裕喜は何を言っているんだとばかりに笑うが……。

 

「は、はい……。KODACHIこと御剣コトです」

「……ホント?」

 

 おずおずと変装用の眼鏡を少し外しながら答えると、流石にここまで来れば嫌でも分かるのだろう。裕喜は信じられないと言わんばかりだが、コトは頷いた。

 

「寧ろなんで裕喜が一番分かんないのさー? アタシにKODACHIを教えたのは裕喜でしょー」

「だ、だって……本物がここにいるなんて思わないし……。あっやばっ……凄い可愛い」

 

 呆れた様子で裕喜を見やる夕香にもじもじと両人差し指同士を合わせ、ちらちらとコトを見てはその可愛さにはにかむ。

 

「でも、なんで夕香が知り合いだったの?」

「たまたまプラモ屋で会ってガンプラのこと教えてたってだけだけど」

 

 とはいえ、何故夕香がアイドルのコトと知り合いなのだろうか?

 コトと会った時、随分と親しげな様子であった。

 その事を疑問に思う裕喜に簡単に説明がなされる。

 

「じゃあずっと私と遊ばなかったのは……」

「コトと一緒にいた」

 

 夕香がガンプラについて教えていたと言うのも驚きだが、静かに今迄、妙に予定が立て込んで遊べなかった夕香にその理由を尋ねると、あっけらかんとした様子で答えられた。

 

「うぅっ……いくらKODACHIちゃんでも夕香は渡さないんだからぁっ!!」

「あははっ……モテモテだね……。あぁでも私の事はコトで良いよ。芸名は目立つだけだから」

 

 悔しそうにそのまま夕香の腕に抱き着いて宣戦布告のようにコトに言い放つ。

 

 余程、寂しかったようだ。

 うんざりした様子の夕香に乾いた笑みを浮かべながらもコトは本名で呼ぶように促す。

 

「ところで夕香君。一矢君の予選はまだか? そろそろ始まる時間だろ?」

「アイドルがいるからってアンタもいきなりジャ○ーズシステムで人の名前を呼ぶな。今は確か第3ブロックの予選中だった筈だよ」

 

 一応、一件落着の様子を見て、拓也が途端に呼称を変えながら問いかけると、何言ってるんだコイツと言わんばかりに夕香は呆れた様子で答える。

 そう、もうすぐ一矢の第4ブロックの予選が始まるのだ。それに合わせてジン達もこの場にはいなかった。

 

 ・・・

 

(……視線を感じる)

 

 一方、一矢は控室で隅で小さく座っていた。

 他にもファイター達がいるが、その視線は一矢に向けられている。

 

 それもそうだろう。

 彩渡商店街のリージョンカップ決勝戦の様子は全国中継されたのだから、必然的に覚醒の事も知られており、それが注目の矢となって一矢に刺さるのだ。

 

≪間もなく予選が始まります。第4ブロックの予選参加者は準備してください≫

 

 すると歓声が控え室にまで響いてくる。

 どうやら第3ブロックの予選が終了したようだ。

 数分後にはファイター達が戻ってきており、喜びを表す者、涙を流す者。その反応は様々だ。そんな中、アナウンスが鳴り響き一矢は重い腰を上げる。

 

 予選に挑むために指定場所へと向かう彩渡商店街ガンプラチームだがすると向かい側から予選を終えた影二達を見つけると、向こうもこちらに気付いたようだ。

 

「……ちょっと待ってて。すぐに終わる」

 

 すれ違いざまに一矢はそれだけ言って去る。

 その言葉を聞いて、影二は立ち止まり、一矢の背中を見つめる。

 

「……ああ、さっさと来い」

 

 予選の結果など言ってもないし聞かれてもない。

 だが一矢は言ったのだ。待ってて、と。

 

 それはつまり最初から影二達が敗退するなど考えてもいないと言う事だ。

 その事に影二達は微笑を浮かべながら予選に挑む一矢に見送るのであった。

 

 ・・・

 

 バトルのステージに選ばれたのは桜が舞い散る日本家屋であった。

 ガンプラバトルならではのステージで手練れ達による大激戦が繰り広げられていた。その中で一際、目立つのは……。

 

≪かなりの実力……だが、負けんっ!!≫

 

 彩渡商店街ガンプラチームだ。

 今もまたロボ太もこのジャパンカップの為に調整したフルアーマー騎士ガンダムで相手のガンプラをすれ違いに両断する。

 

≪後、十年若ければ……っ!≫

「次はっ!?」

 

 活躍するのは何もロボ太のFA騎士ガンダムだけではない。

 その近くではミサのアザレアPの砲撃がガードしようとするシールドごと撃ち貫き相手のガンプラを爆発させる。

 

 だがこれで安心はできない。

 いかんせんこのステージはお世辞にも広いとは言えない。すぐにでも違うガンプラが襲いかかってくる。

 

「一矢君、ありがとう!!」

 

 しかしそのガンプラも背後から横一文字に斬り捨てられる。

 

 両断したのはゲネシスであった。

 その目にも追えぬ機動力を持って次々と相手を撃破していく。ミサも今、助けられて、礼を口にすると通信越しに一矢は頷く。

 

 ・・・

 

(ポイントも貯まったな……)

 

 様々なチームと交戦しながら残り時間を確認する。

 バトルロワイヤル形式の第4ブロックの予選だが、同士討ちを待つわけにはいかない。

 

 ポイントも重視されるのだ。

 ポイントを獲得するには、やはり相手チームを撃破せねばならない。

 

「──ッ」

 

 その時であった。

 無数のビームがゲネシスのみを襲い、間一髪に気付いた一矢はゲネシスを素早く操作して避けると、そのまま桜舞う庭園まで移動する。

 

「一矢君!!」

≪ダメだ、ミサ! 気を抜いたら我々もやられてしまう! それにいざとなれば主殿には覚醒の力がある!≫

 

 別チームと交戦しながら一矢を案ずるミサだが、ロボ太から注意を受ける。

 一矢も気になるが、自分達は目の前の相手に集中しなければならない。何故なら彼らもリージョンカップまでを勝ち抜いてきた猛者たちなのだから。

 

「彼がジャパンカップの注目株だね」

「ああ、同じ予選になったのも何かの縁だ。その実力、見せてもらう!!」

 

 庭園に移動したゲネシスをモニター越しに見ながら会話するのはサヤとジンだ。

 ゲネシスに攻撃を仕掛けたのも彼をおびき出す為に他ならない。

 ジンは純粋に興味があった。リージョンカップで初めて知った輝きを纏うガンプラの主に。

 

 その実力はいかほどのモノなのか。それを知る為にジンのビルドストライクガンダムを彷彿とさせるカラーリングのユニティーエースガンダムはGNソードⅤを構えてゲネシスへ向かっていき、その援護をサヤのジョイントエースガンダムが務める。

 

「ちっ……!」

 

 ぶつかり合う実体剣同士。

 火花と火花が散り、それが合図になるかのようにゲネシスとユニティーエースは激しい剣劇を繰り広げ、最後には鍔迫り合いになる。

 拮抗する力と力。しかしそれは長くは持たない。サヤのジョイントエースが射撃による援護をするからだ。しかし一矢にとって煩わしいだけで舌打ちする。

 

(まるで剣道か何かだな……!)

 

 そこにユニティーエースが追撃をする。

 その攻撃の一つ一つは磨き抜かれた技を感じさせ、その独特な剣技は剣道を彷彿とさせる。なにせこちらの攻撃もある程度は捌かれてしまうのだから。

 

(……俺だってなにも知らない訳じゃない……ッ!!)

 

 攻撃に転じようとしてもジョイントエースの邪魔が入る。

 どんどんとフラストレーションが溜まっていく一矢はユニティーエースの剣技を見ながら、意を決したように眼を細める。

 

「「っ!!?」」

 

 ゲネシスはスラスターを利用して、その身を高速回転させた。

 最初は何のつもりかと様子を伺っていたジンとサヤだが途端に驚く。なんとゲネシスは回転するそのエネルギーを竜巻と変化させ、周囲に突風を引き起こす。

 

 ──旋風竜巻蹴り。

 

 かつて一矢がシュウジに使用された技だ。

 その竜巻はシュウジのモノには劣るが、荒れ狂いユニティーエースやジョイントエースの射撃を受け付けず、庭園の桜を舞いあげる。

 

「くっ!!?」

 

 竜巻は突如として消えた。

 そう思った瞬間、ゲネシスは流星のように飛び出し、ユニティーエースに斬りかかる。

 

 今のはただのフェイントだ。

 しかしギリギリのところでユニティーエースはゲネシスの一撃を受け止める。

 

 互いに反撃に転じようとした時であった。

 予選を終了を告げる合図が鳴り響く。どうやらミサとロボ太が戦闘をしていたチームを撃破し、本選に進めるチームの数だけ残ったようだ。

 

「本気にはさせられなかったな……」

 

 ジンのモニターが暗転して予選の終わりを告げる。

 一矢を覚醒させる目的で2対1を行ったわけだが、その前に予選が終了してしまった。

 歯がゆさは残るが、まずは本選に進めたことを喜びかみしめるのであった。

 

「無駄にはならなかったな……」

 

 一矢もまた暗転したシミュレーター内で安堵のため息をつく。その脳裏にはかつての旅行でシュウジに言われた言葉が過る。もしも彼に技を教わらなければ覚醒を使っていたかもしれない。出来るのならそれは避けたかった。

 

 あれは切り札なのだ。

 出し惜しみする気はないが、出来るのなら温存させておきたい。

 とはいえ予選も問題なく終えた事に一矢はシートに身を預け、1人、安堵の笑みを浮かべるのであった……。 




更新が遅れて申し訳ないです。
いやぁDLCやらなにやらで一度離れたら時間が経つのは本当に早い…。

さて予選はあっさり目。
でも次回以降の本選はなるべく濃いめ。
でもその前に本選のトーナメント決めやらその前夜やらの小話が入ります


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界で1人だけの

「はぁっ……」

 

 溜息をもらしながらグッズ売り場にいるのは夕香であった。

 その周囲には裕喜とコトがいる。顔を顰めながら夕香は限定ガンプラを手に取る。

 

『買い逃したくないから限定プラモ買っておいて』

 

 と言うのも一矢から連絡があったからだ。

 なにせ今、一矢は明日から始まる本選のトーナメント決めの最中であった。仕方がないとはいえ、この混雑っぷりでは辟易してしまう。

 

「買い物とは、常に二手三手先を考えてするものだ。買い逃しがないようにな……」

 

 すると夕香の隣に一人の男が立ち、限定ガンプラを手に取る。

 見てみればシャアであった。どうやら予選を見終えた彼もまた限定品を買いにグッズ売り場に来ていたようだ。

 

「「……ん?」」

 

 夕香とシャアがお互いに気づく。

 シャアは夕香の事を見て、すぐに一矢の妹である事と、かつて百貨店のガンプラバトルロワイヤルで注目されたバルバトスのファイターである事も思い出す。

 

「……まさかここで会うとはな。どうやら我々はつくづく縁があるようだ」

「──シャア、まだ決まらないのか?」

 

 あのガンプラバトルロワイヤルからしばらく経って、またこうして再会するとは思ってはいなかった。口に軽く微笑を浮かべながら、夕香に話しかけると一足先に買い物を終えたアムロが声をかける。

 

「ガンプラバトルは上達しているか? どうだね、良ければこの後、私とガンプラバトルでも……」

「……おじさん」

 

 隣に立っている夕香に笑いかけながら、その成長っぷりを感じようとガンプラバトルの誘いをするが、その前に夕香が遮って口を開く。よく見れば夕香はシャアに訝しんだ顔を向けていた。

 

「さっきから凄い馴れ馴れしいんだけど何なの? すっごいキモイんだけど……」

 

 シャアは夕香の事は覚えていてもどうやら夕香はシャアの事は覚えていなかったようだ。明らかにシャアを不審者かなにかのような目で見ている。

 

 と言うのも夕香に至ってはネオサザビーを覚えていても、シャア自体は覚えていない。

 なにせガンプラバトル越しでしかまともに会話もしていないのだ。

 ガンプラバトルロワイヤル終了後もシャアに一撃を与えたという事で注目され、人が押し寄せていた為、ネオサザビーのファイターを知る由もなかった。

 

「……これが若さか」

「涙拭けよ、シャア」

 

 スッと胸元から取り出したサングラスを着用すると静かに天を仰いで呟く。

 よく見れば涙が頬を伝っている。どうやら女子高生にキモイと言われたのが相当堪えているようだ。あまりの哀れさにアムロはシャアの肩に手を乗せるのだった。

 

 ・・・

 

「おっ、いたいた。なぁアンタ達だろ、彩渡商店街ガンプラチームって」

 

 トーナメント決めが行われる会場では、それぞれのチームが今か今かと待ちわびている。

 一矢達もそうであり、そんな彼等に声をかける人物がいた。見てみれば、そこにいたのは青髪の青年であった。

 

「ツキミ、いきなり失礼でしょ?」

「良いだろ同い年だし、同じガンプラを愛する者同士!」

 

 そんな青髪の青年を嗜めるのは栗色の髪の少女であった。

 二人とも同じ学校なのか同じデザインの制服を着ている。少女にツキミと呼ばれた少年は気にした様子もなく快活に笑う。

 

「あの……なんでうちのチームを知ってるの?」

「リージョンカップ決勝、見てたからな」

 

 ツキミのペースに押されながらもミサがおずおずと何故、自分達のチームを知っているか尋ねるとツキミ達もまたリージョンカップの様子を見ており、故に知っていたのだ。

 

「……そう言えば中継されてたんだっけ?」

「……通りで視線を感じるわけだ」

 

 思い出したかのように苦笑しながら一矢を見るミサ。

 これで控室の視線の意味を知った一矢は重い溜息をつく。元々、注目されるのが好きではないからだろう。

 

「私達は沖縄宇宙飛行士訓練学校OATSガンプラ部よ。私がミソラでこっちがツキミ。よろしくね」

「ずっとアンタ達と話してみたくてな」

 

 栗色の髪の少女ことミソラは自分とツキミの名をそれぞれ紹介すると、ツキミがずっと気になっていた彩渡商店街ガンプラチームと話せたことに笑みを浮かべている。

 

「それに今年のジャパンカップは県代表に高校生くらいのチームが多くてな。色んなとこと話してたんだ」

「そうだよねぇ。例年なら企業が出してるチームや趣味でも大人が時間とお金をかけてるチームが多いよね。こっちも同じ年の子が多くて嬉しいよ! よろしくね!!」

 

 ツキミが周囲を見渡すと、やはりこの会場にいる多くは学生が多かった。

 例年とは全く異なる状況に頷きながらミサも笑顔でツキミ達に答える。

 

「っんで、そっちが大会唯一のロボット参加者で……そしてアンタがあの赤く光るガンプラの……圧倒的機体性能差を覆すファイターか! かっけーよな!」

「こいつ、中継見てから君の話ばっかりなんだよ」

 

 ツキミは唯一のロボット参加者として注目されているロボ太を一瞥すると、一矢を見て興奮気味に話す。

 そんなツキミの様子に苦笑しながらもその訳を話すと、注目されることに一矢は照れ隠しのように頬を掻きながらそっぽを向く。

 

「それでは、トーナメントの発表を行います!!」

「おっ、時間か。トーナメントでぶつかっても手加減しないからな!」

 

 するとトーナメント決めが終わったのだろう。

 ハルが現れて巨大液晶の前に立つとマイクを持って高らかに話す。ツキミはミサ達に好戦的な笑みを浮かべると、ミサも負けじと「こっちこそ!」と答えながら、トーナメントの発表を待つ。

 

「俺達が第一試合か」

「相手は株式会社トヨサキモータースだね」

「確かPG使いの人達だよね」

 

 誰もが息を呑むなか、全16組のトーナメントが発表される。

 何と第一試合は影二達であった。ふとポツリ呟く影二と皐月と陽太が相手の情報を思い出しながら呟く。

 

「俺達の相手は愛知県代表か」

「相手も二人組だね」

 

 ジン達の初戦の相手は愛知県代表であった。

 ジンとサヤは会話をしながら、今まさに相手を認識して互いにすでに火花を散らしている。

 

「私達の相手は……っ!?」

 

 ミサも自分達のチーム名を探すと、ようやく見つけられたのか相手を確認して目を見開く。隣に立っている一矢も静かに目を細めていた。

 彩渡商店街ガンプラチームの初戦の相手は高知県代表チーム・土佐農高ガンプラ隊。つまりは厳也達のチームだったからだ。

 

「──まさか初戦でぶつかるとはのぉ……。楽しみは最後まで取っておきたかったんじゃが」

 

 そんなミサ達に厳也達が声をかける。

 まるで宣戦布告か何かのようだ。

 口ではそう言うものの厳也の表情は待ちきれないと言わんばかりに笑みがこぼれている

 

「ちょっと仲良くなってるからって出し惜しみはなしよ」

「……全力で悔いのないバトルをしましょう!」

 

 文華と咲もまた厳也と同じ気持ちのようだ。

 そんな彼女達の言葉にミサと一矢、ロボ太はそれぞれ顔を見合わせ、向き直る。

 

「うん、最高のバトルにしようね!!」

「……そっちこそ生半可な戦いで勝てると思うなよ」

 

 ミサは明るい笑顔で一矢は不敵な笑みを浮かべながらそれぞれ答える隣でロボ太も頷いている。彼らもまた待ち受ける戦いに火花を今、散らしているのだ。

 

 ・・・

 

「ちょっと!」

 

 トーナメント決めが終わり、各々この場から出て行く中、一矢達がそうしようとした瞬間、声をかけられる。見れば同じ参加者の正泰とシアルがいた。

 

「いや、大した用事じゃないんだけどさ。あの光るガンプラファイターと一度でいいから話をしたかったんだ」

「……はぁ」

 

 どうやら目的は一矢のようだ。

 正泰の言葉を聞き、注目されるのが嫌いな一矢は溜息をつく。

 

「コイツだよ、光るガンプラの使い手」

「ちょっ!?」

 

 面倒くさかったのだろう。

 隣に立つミサを指差すとまさかの出来事にミサは驚く。

 

「スッゲー光ってるよギンギラギンだよ嵐の中でも輝いてるよ。だからコイツに話聞いて」

「一矢君、面倒臭いからってそれはないよ!?」

 

 素早く捲し立てるとその場を去ろうとする一矢のパーカーのフードを掴んで、ミサが抗議するとやはり面倒臭いことに変わりはないのか顔を顰めている。

 

「良いじゃん、話して来れば。ついでにあの女に聞けよ、なんでそんなに馬鹿でかい胸なんですかって」

「おいふざけんなっ!!」

 

 手っ取り早く終わらせたい一矢はシアルの衣類越しにも分かる豊満な胸を見ながら話しをするように促すも、言った話題が悪かった。ミサはすぐに怒りながら今にもあの時の再来になりそうだ。

 

「……また胸の話……? はぁっ……やっぱりどこ行っても注目されるのね」

「こっちは注目されたことねぇんだよぉっ! それ以上言うと心が壊れて人間じゃなくなるぞっ!!」

 

 その豊満な胸はどこへ行っても注目されていたのだろう。

 うんざりした様子のシアルに涙目になりながら叫ぶミサ。彼女の叫びはこの会場に響くのであった。

 

 ・・・

 

 騒がしかったトーナメント発表から夜になり、そして更ける。

 相部屋となっているカドマツがいびきをかいて熟睡している中、一矢は自分のベッドの上で両膝を抱えていた。

 

 すると彼の携帯端末に着信が入る。

 相手は夕香であった。

 

「……もしもし?」

≪……あっイッチ? アタシだけど……≫

 

 静かに通話を始めると、遠慮がちに夕香が電話越しで話しかけてくる。

 

≪あの、さ……ガンプラ買っておいたよ≫

「……そう、ありがと」

 

 暫しお互い無言が続く中、夕香がひとまずガンプラを入手できた事を報告すると、一矢は礼を言うのだが、やはりまた沈黙が続く。

 

≪……イッチ≫

「なに?」

 

 すると夕香が電話越しで意を決するように息を呑むのがかすかに聞こえた。

 何を言う気なのだろうか、と一矢は夕香の言葉を待つ。

 

≪……アタシはイッチを信じてるとか言わない。でもね、応援してるよ≫

 

 応援をしている。

 夕香からこんな言葉を聞いたのは、いつ以来だろうか。

 しかし生まれてからの付き合いの双子の妹の言葉に一矢は静かに耳を傾ける。

 

≪……アタシはね、タウンカップの時から応援はしてるけど心配はしてない。だから最後まで応援する≫

 

 いつも夕香は一矢の予選など無理やり連れられて見に行ったが、その際いつも本選からでも、それこそ決勝からでも良いじゃんと答えていた。つまり一矢が負けるなど考えていないからだ。

 

≪だってイッチは世界で一人だけの……っ……。そのっ……アタシの……自慢のお兄ちゃん……だから……≫

 

 いつも一矢には基本的には文句か軽口のどちらかしか言わない夕香。

 しかしここで初めて素直に一矢の想いを話す。何だかんだで一矢が自分の兄であって良かったと思っているのだ。

 

≪だからね、イッチも楽しんできて。イッチの胸の誇り(プライド)をぶつけてきてよ。俺達のガンプラが、俺達のチームが一番強いんだって。アタシはそれを最後まで見届けるから≫

 

 ボッチで根暗で偏屈で……救いようのない兄だが、その情熱だけは本物だ。

 ガンダム作品やガンプラに接している時の一矢の楽しそうな優しい表情はいつだって覚えている。その情熱を燃え尽きるまで、そしてその胸の誇りを最後までぶつけて欲しいのだ。

 

≪……なんか言ってよ≫

「……あのさ」

 

 しかし一矢はいつまで経っても無言なままだ。

 自分らしくもなく素直に話したせいで照れ臭くなってきた夕香は何か返答を求めると一矢は静かに口を開く。

 

「もう一回お兄ちゃんって言ってくれる?」

≪……は?≫

 

 ポツリと放たれた一矢の言葉に夕香は電話越しに唖然とする。

 何を言っているんだ、このボッチは。

 

「俺、お兄ちゃんって言われるの夢だったんだよ。ねぇ、もう一回──」

≪うっさい、寝ろ≫

 

 物心ついた時からずっとイッチと呼ばれ続けた一矢は夕香の生まれて初めてのお兄ちゃん呼びに感動していた。

 もう一度聞きたい。故に頼むのだが、一蹴されて一方的に通話をきられてしまう。

 

 ・・・

 

「はぁっ……」

 

 素直に話して損をした。

 そんな事を思いながら夕香はジャパンカップ用に手配しておいたホテルのベッドに座りながらため息をつく。

 

(……ホント、早く寝なよ)

 

 隣のベッドでは裕喜が眠っていた。

 こんな時間に電話をしたのは意味がある。

 もう深夜だと言うのに一矢は寝ぼけた様子もなく普段通りに電話に出た。

 

 兄は昔からそうだ。

 心の底から楽しみな出来事があるとその前日は中々寝付かない。

 

 幼稚園の遠足の時だってそうだった。

 今回もそうだろうと思って電話をしたら案の定であった。万全の状態で本選に臨んでもらいたい。そんな事を考えながら夕香は夜空を眺める。

 

 ・・・

 

 一方、夕香からの電話を終えた一矢は再び体育座りになって微動だにしない。

 

 しかしその瞳だけは違った。

 いつもの気だるげな眼ではないのだ。

 例えるのならば猛獣か何かのようなそんなギラついた目だ。

 

 心臓の高鳴りを感じる。

 手の汗がとまらない。

 

 眠れない。早く、早く戦いたい。

 今の自分が、ミサの手を取った自分が、チームがどこまで行くのかが知りたい。

 

 そこにいるのは紛れもなく一人のガンプラファイター。

 そしてその表情は感化されたかのような形も違うし何となくであるがミサのような前へ進もうとする力強いものに似ていた。

 




書き忘れていたのですが、活動報告でアンケートをやってます。よければ是非


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Next Formula

「いよいよ本選か……」

 

 ジャパンカップ本選が行われるドーム内の観客席は開始十分前という事もあり、ほぼほぼ席が埋まっていた。

 観客達は宙に表示される巨大な立体映像とまもなく激闘が行われるであろう無数のガンプラバトルシミュレーターを見て、今か今かと熱気に包まれていた。

 そんな中でどこか緊張した面持ちで秀哉が握り拳を軽く打ち付けながら、本選の開始を待っていた。

 

「なんで、お兄ちゃんが緊張してんの?」

「そりゃガンプラを愛する者として、1人のファイターとしてこの夢の舞台は見逃せないからね」

 

 そんな秀哉の様子を不可解そうに首を傾げながら指摘する裕喜に秀哉の代わりに一輝が答える。周りを見渡せば、観客の表情は期待に満ち溢れたものだった。

 

「ところで夕香は……?」

 

 すると貴弘は先程から夕香がいない事に周囲を見渡しながら彼女を探す。

 今、夕香は席を外していたのだ。

 

 ・・・

 

 

「……なんで出くわすのかなぁ……」

「この辺りは本当に複雑ですわねぇ……。まさかライバルの手を借りなくてはいけないとは」

 

 ドームの入り口では夕香が顔を顰めて辟易した様子で愚痴を零す。

 何と彼女の隣にはシオンがいたのだ。そのシオンなのだが、広げたガイドブックと眉を寄せて睨めっこをしていた。

 

「っつーか、機械音痴で方向音痴って救いようなくない?」

「貴女のようにわたくしの事をそのように呼ぶオタンコナスもおりますが、機械も建造物も複雑にしているのがいけないのではなくて?」

 

 まさかトイレの帰りに出会うとは思っていなかった。

 ドームの外で観客席にまともに向かえず、先程からずっとガイドブックを見てオロオロしていたシオンを見つけたと思ったら、こうして声をかけられてしまったのだ。

 観客席に一緒に向かいながら嘆息する夕香に何を失礼なことをと、さも当たり前のように口答えをされてしまう。

 

「まぁ安心なさいな。わたくしの心はゴッグの装甲並みに堅いので貴女の戯言などなんのその。貴女のような庶民を導くのがわたくしの家の役目でもありますし不問としてさしあげますわ」

「わーうれしー。どっちが導いてやってんのか分かんないやー」

 

「ふふん」と鼻で自慢げに笑いながら夕香の一歩後ろを歩くシオンに突っかかるのも疲れたのだろう。半ば自棄になりながらでも夕香はシオンを引き連れて観客席まで案内するのであった。

 

 ・・・

 

 

 選手達に共通のスペースとして用意された広間。

 ここでは試合の様子などがモニターを通じて観戦が出来る。

 

「へぇ、アンタ達ってチームを組んで日が浅いんだなぁ」

「そうなんだよ、あははっ……」

 

 そんな場所で秋田県代表チームとロボ太を背後に控えさせながらミサは会話をしており、国永の言葉にミサは乾いた笑みを浮かべる。

 

「……ところでアンタ達一人足りなくないか? もう一人の話も聞いておきたかったんだが……」

「ど、どこにいったんだろうね?」

 

 清光がこの場にはいない一矢に気付き、僅かに残念そうに問いかけるとミサは引き攣った笑みを浮かべ、視線を泳がせながら答える。

 

(一矢君、絡まれるのが嫌だからって逃げやがったなあぁぁ……っっ!!)

 

 どこに行ったかは知らないが、何故いないのかは見当がつく。

 大方、光り輝くガンプラの使い手として正泰の時のように絡まれるのが嫌でいなくなったのだろう。

 お陰で今、興味を持ったこの場にいるチームの面々から矢継ぎ早に話しかけられるのはミサだ。ミサはこの場にはいないボッチに青筋を浮かべて、内心、煮え滾るような想いだった。

 

 ・・・

 

「……ここまで来たんだね……」

「うん、今までは姉ちゃんはタウンカップ敗退、先輩はリージョンカップ決勝で敗退って聞いてたから俺が入ってもどうなるかって思ってたけど……」

 

 熊本海洋訓練学校ガンプラ部に用意された控室では影二達が第一試合を今か今かと待っていた。今までを思い出してしみじみ呟く皐月に今でも信じられないと言わんばかりに陽太が頷く。

 

 《ジャパンカップ第一試合が始まります。各当チームは準備してください》

 

 すると控室のスピーカーからアナウンスが流れ、皐月達はピクリと反応する。

 どうやら試合が漸く始まるようだ。

 

「これで終わりじゃないだろ。どんなに足掻いてでも俺達は勝つんだ。それに……このジャパンカップが三人で出来る最後の機会かもしれないしな」

 

 すると今まで黙って話を聞いていた影二が静かに立ち上がりながら口を開く。

 影二の言葉、それは姉の暮葉以外の肉親の死の関係で今年の10月末には転校が決定しているのだ。

 

「……そんな顔をするな。最後になるかもしれないからこそ、このジャパンカップ、最高の物にしょう」

 

 影二の前にはMK‐Ⅵ改とは違う新たなガンプラが置いてあった。

 ジャパンカップに備え、新たに作り上げたガンプラであり、これで予選を勝ち抜いた。

 

 そのガンプラを一瞥しながら寂しそうな顔をする皐月と顔に出さないながらでも内心では寂しがる陽太の頭をそれぞれ軽くポンと手を置くと、微笑を浮かべながら話す。影二のその言葉に二人はそれぞれ強く頷くのであった。

 

 ・・・

 

「ここにいたようじゃの」

 

 一方、一矢は選手入場口の近くからポケットに手を突っ込み壁に寄りかかってここから立体映像を見つめていた。そんな一矢に声をかけたのは厳也であった。

 

「……考えてる事は同じ、か」

「まぁ一度は肩を並べて戦った者同士だしのぉ。なるべく近くで見たいんじゃ」

 

 流し目で厳也を確認する。

 どうやら彼一人だけのようだ。

 

 一矢の隣に移動しながら立体映像を見上げる。

 その理由は分かっていた。一矢も厳也の言うように近くで見たいためにこの場にいた。すると影二達が歩いてくるのが見える。

 

「前言っていた考えとやら楽しみにしてるきに」

「無様だったら笑ってやるよ」

「フッ、目ェかっぽじってよく見てろ」

 

 厳也と一矢がそれぞれ彼らなりに影二達を送り出すと、微笑を浮かべた影二や皐月達は歓声の中、シミュレーターの場所へ向かっていくのだった。

 

 ・・・

 

「……そうだ、よく見てろ……。これが俺の……新たなガンプラ……」

 

 ガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ影二は新ガンプラをセットし、切り替わって表示されるカタパルト映像を見ながら呟く。その瞳は戦意に燃えていた。

 

「ネクストフォーミュラー……秋城影二……出る……ッ!!」

 

 出撃の合図と共にペダルを踏みこんだMk‐Ⅵ改に続く新たなガンプラ……ネクストフォーミュラーが勢いよく戦場に飛び出すのであった。

 

 ・・・

 

「この試合も優勝も、我がトヨサキモータースがいただくッ!!」

 

 どこまでも続く森林地帯で相手チームであるトヨサキモータースとはすぐにエンカウントが出来た。

 彼らが駆るのは二機のPGガンダムアストレイレッドフレーム改。それぞれのカラーリングで黒を基調にしたのが漆、金をイメージしたのが煌と表示されていた。

 

「損傷は軽微……ッ!!」

 

 手始めに皐月のFAヒュプノスがメガ・ビーム・キャノンとミサイル群を放ち、その全てが巨体に直撃して揺らぐが、目立った損傷はなく皐月は苦虫を潰したように歯を食いしばる。その間にも煌がタクティカルアームズIILをアローモードに変形させて、射撃を開始しネクストフォーミュラー達はそれを掻い潜って接近する。

 

「チョロチョロとォッ!!」

「くぅっ!!?」

 

 その間にも漆が接近し、ガーベラストレートとタイガーピアスを竜巻のように舞い上がって振るうとその巨体からは信じられない俊敏な動きにダンタリオンはツインビームソードを盾代わりにするものの弾かれて吹き飛んでしまう。

 

「よう君っ!? っ……流石、本選まで進んだチーム……桁違いに強い……ッ!!」

「──だからどうした……!」

 

 吹き飛んだダンタリオンを見て、皐月が悲鳴に似た叫び声をあげ、トヨサキモータースの実力に戦慄する皐月に一喝するような影二の声が轟く。見ればネクストフォーミュラーは今だ果敢に戦闘を繰り広げていた。

 

「さっきも言ったはずだ……! どんなに足掻いてでも勝つんだって!!!」

 

 これが最後になるかもしれない。

 どんな結果であれ、満足する為に最後まで抗うのだ。そんな影二の燃え盛る炎のような想いに触れ、陽太と皐月は目を見開く。

 

『思い入れがあってそのガンプラを使うのもアリだが……勝ちに行くのなら、今のままじゃ厳しいな』

「そう、俺達は……勝ちに行くんだ……ッ!!」

 

 脳裏に過るのはかつてネバーランドでのバトルで言われた言葉。

 勝ちに行くために自分は新たなガンプラを作り上げたのだ。燃え上がる闘志は留まる事を知らず、影二はECアクションを選択する。

 

 その名はZEROシステム。

 登場したガンダム作品では危険な曰くつきのものだ。

 

 しかしガンプラバトルにおいては期待の性能を大幅に向上させるEXアクションの一つ。

 それを表すようにネクストフォーミュラーの動きは段違いに様変わりして、トヨサキモータースを肉薄する。

 

「そうだよね……。私達は足掻いて勝ちに行かないと……これまでもこれからもッ!!」

「先輩ばっかに良い恰好させんのは癪だしね」

 

 そんな影二に皐月は自信を得たように笑みを浮かべると、復帰したダンタリオンから通信が入る。どうやら陽太も同じ思いのようだ。篠宮姉弟は頷き合って向かっていく。

 

「はぁあっ!!」

 

 ネクストフォーミュラーへ刀を振るおうとする漆に光の翼を展開したダンタリオンはバックパックからアロンダイトを構えて受け止める……いや、それどころか押し返したではないか。

 そのまま懐に飛び込んで一太刀入れると切り札であるトリプルメガソニック砲を発射して漆を大きく仰け反らせる。

 

「今っ!!」

 

 そしてそれを逃す皐月ではない。

 トランザムを発動させたFAヒュプノスはバッと予測したダンタリオンが飛び退いたと同時に一斉射撃を繰り出して漆の各処を砲撃、その巨体を沈め撃破する。

 

「やられたか……っ! だがぁっ!!」

「甘いな……。この距離は……まだコイツのレンジ内だ……!」

 

 漆が撃破された事に動揺しないのは流石、本選まで進めたファイターだ。

 アローモードで迎撃する煌をネクストフォーミュラーはバックパックのファトゥム01を発射させ、同時に煌を翻弄、各部位を攻撃していく。

 

「俺達はこれからも勝ち進む……ッ! その為の……一歩だッ!!」

 

 ファトゥム01と再度、ドッキングした後、ビームサーベルの出力を上げ、エネルギーが不安定になるほど肥大化させ切っ先を向ける。

 

 そのままUFOのように直角に高速で煌に突っ込む。

 煌はそのあまりの速さに対応しきれず二対の刀を攻させて防ごうとするが、ネクストフォーミュラーを止める事は出来ず、そのまま二対の刀は砕かれ、煌は貫かれるとともに爆発四散するのであった。

 

 途端に大歓声が轟いた。

 ジャパンカップ本選の第一試合は熊本海洋訓練学校ガンプラ部の勝利で幕を閉じるのであった。




バレンタインアンケート締め切りました。ご協力いただいた皆様、ありがとうございました!詳しくは追記に書きましたが協力いただけた皆様にはバレンタイン話で細やかながらのお礼代わりの事をしようと思っております。

<いただいた俺ガンダム>

エイゼさんよりいただきました

ガンプラ名:ネクストフォーミュラ-
元にしたガンプラ:ガンダムF91
WEAPON:ビームサーベル(Gセルフ)
WEAPON:ビームライフル(V2)
HEAD:F91
BODY:ウィングゼロ(EW)
ARMS:ケルディムガンダムGNHW
LEGS:ガンダムDX
BACKPACK:∞ジャスティス
SHIELD:シールド(AGE‐2)
拡張装備:腕部グレネード(右腕部)、IFジェネレータ(左手首から肘裏の間)、角型センサー(両肩)
影二並びに篠宮姉弟の合作機体であり、MK‐Ⅵの後継機として、影二がファイターを務める。各種スペックは高水準にまとまっているが…扱いにくさもあり、ファイターを選ぶ機体となった。
特殊機能並びにオプション兵装:ZEROシステム、ビットにセミオート、マニュアル制御機能追加、ライフルビット+シールドビット、ファトゥム01、頭部バルカン、マシンキャノン、腕部グレネード、IFジェネレータ、ハイパービームソード

カラー:頭部はデフォルト、ボディは下部の白を赤に、マシンキャノン開口部を白に脚部、腕部、バックパックはライトニングカラーを選択した上で灰色部分を白に、ライトニングブルーをウィングゼロ(EW)の青に変更してます。盾も同様です。

グローカラー:ネクストフォーミュラーはMK‐Ⅵ同様水色


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

火蓋を切って

 影二達の第一試合から始まったジャパンカップ本選は着火剤となったかのように熾烈にして苛烈を持ってまさに大熱戦を繰り広げられていた。

 

「こいつでっ!!」

 

 それはこの試合も例外なく当てはまる。

 コトの兄であるジン率いる北海道代表と裕喜(男)率いる愛知県代表が宇宙を舞台に戦闘を繰り広げていた。ビームジャベリンを突き出すレーゼンに対し、ジンのユニティーエースはGNソードⅤの切っ先で弾いて、そのまま近づいたレーゼンを蹴り飛ばす。

 

「ファンネル!!」

「なら……!」

 

 吹き飛ぶレーゼンは素早くファンネルラックからファンネルを射出すると、ユニティーエースも素早く対応し、自身のバックパックからスーパードラグーンを射出し縦横無尽に動き回るファンネルは無数の線を描きながら撃ちあいを始める。

 

 その近くではサヤのジョイントエースと春花のストライクレイス(チェイスパック)もまた激しい弾幕を張り、互いに被弾を与えない。

 

「射撃でダメなら……っ!!」

 

 このままではエネルギーを消耗するだけのジリ貧だと考えた春花はバックパックのエネルギービーム砲と大型レールキャノンをけん制で発射しながら近づくとビームサーベルを引き抜いてジョイントエースに接近戦を仕掛ける。

 

「私だって接近戦は出来るんです!!」

 

 すぐさま接近戦の為にビームサーベルを二本引き抜いて迎えうつ対応の速さを見せたジョイントエースはストライクレイスとそのまま剣劇を繰り広げ、その激しさを物語るように周囲にはスパークが起きる。

 

 だが、それも長くは続かない。

 鍔迫り合いへと発展したジョイントエースとストライクレイスだが、ジョイントエースの腰部のレールガンがすぐさま発射され、ここで初めてストライクレイスのコクピット部分が被弾する。

 

「うそっ!?」

「私の勝ちですっ!!」

 

 僅かに距離が空いたのも束の間、ジョイントエースはバックパックの高エネルギー長射程ビーム砲を被弾した箇所にバーニアを全開して勢いを持って突き刺し、そのままトリガーを引いてストライクレイスを撃破する。

 

「春花がやられた! ?クソッ!!」

 

 ストライクレイスの撃破を確認し、歯を食いしばる裕喜(男)。

 形勢はこれで2対1。誰がどう見た所で自分達が不利であることなぞ分かりきっていた。

 だがそれでも諦めるわけにはいかない。このまま無様に負けるわけにはいかないのだ。

 

「くっ!?」

 

 ピーコック・スマッシャーとディバイダーのハモニカ砲によってビームを一斉発射すると、すぐさま反応して避けるユニティーエース。だがその回避ルートを予想していたレーゼンはすぐさま2つの6連装ミサイルポットを発射する。

 

 これに関しては流石にジンも対応しきれなかったのだろう。

 苦虫を食い潰したような表情でシールドを構え、損傷を少なくするように努めると、直後、無数のミサイルはユニティーエースに直撃する。

 

「やれたか……?」

 

 ミサイルの直撃によって爆風が起きてユニティーエースを確認する事は出来ない。

 爆風の隙間からユニティーエースを確認しようとする裕喜(男)だが……。

 

「やるな……。だが勝つのは俺だ……ッ!」

 

 爆風からアンカーが飛び出すと、そのままレーゼンを拘束する。

 そのまま爆風から飛び出したユニティーエースはすれ違いざまにGNソードⅤで切り裂き、レーゼンを撃破する。これによって北海道代表の勝利が決定するのであった。

 

 ・・・

 

「くっそぉっ!!」

「……また頑張ろ? ね?」

 

 ガンプラバトルシミュレーターから出てきた裕喜(男)は悔しさから頭を抱えると、春花も悔しさを感じながらでもまた次の機会に賭けるために彼を励まし、対戦相手であるジン達に軽く会釈して二人で去っていく。

 

「勝てたね」

「俺がミサイルの海に飲まれた時は冷っとしたんじゃないか」

「ううん、絶対に勝つって信じてたから」

 

 自分達も会釈をしながら見送ると、サヤが勝利を喜ぶ。

 勝利を喜ぶのはジンも同じなのか微笑を浮かべながら軽口を言うと、サヤは本当に信じていたのだろう。微笑みを向け、ジンの腕に絡みつき、二人で去っていくのだった。

 

 ・・・

 

「うっぜ」

 

 その様子を控室のモニターから試合共々見ていた我らがボッチ、一矢は露骨に顔を顰めて舌打ちしていた。あぁやって無意識に見せつけられるのが嫌いなようだ。

 

「うっぜうっぜうっぜえぇぇぇぇ……!!! はああぁぁぁぁ……っっっ!!! ……ヤルゾボケガ」

「まあまあ愛があってわしは良いと思うがのぉ。そういう訳でお嬢さん、わしらも愛を深めてみないかの?」

「は?」

 

 今にも呪い殺すかのように体育座りの血走った凝瞳でモニターを見ている一矢を嗜めながら厳也は近くにたまたまいたシアルにナンパを始める。

 

「あだだだだだだぁっ!!?」

「アンタって本当に所構わずよね!! この駄犬也ぁっ!!」

 

 シアルが何か言う前に文華が抉るように厳也の耳たぶを掴みながらその耳元で怒鳴り声を張り上げる。

 どうやらここでナンパを始めたのはこれが初めてではないらしく、近くでは秋田県代表の小夜が怯えた目で厳也を見ていた。

 

「咲ちゃんも何か言ってやりなさいよ!」

 

 厳也を解放し、耳たぶを抑えて唸っている厳也に好意を寄せているのを知っている咲に文華が何か文句の一つでも言ってやれと勧めるのだが……。

 

「咲ちゃん……?」

 

 咲は何か考えるように厳也を見つめている。

 その様子を見て、文華は怪訝そうに咲の名を呼びながら覗き込む。

 

「あっ、いえ!? な、なんでもないです……」

 

 覗き込むように文華が見てきたことで我に返った咲は挙動不審になりながらでも何とか答えるが、あからさまなその様子に文華と厳也は不思議そうに顔を見合わせる。

 

≪間もなく彩渡商店街ガンプラチーム対土佐農高ガンプラ隊が始まります。各当チームは準備してください≫

「さっ、無駄話はそれまでや。目先の事に集中し」

 

 するとアナウンスが控室全体に響き渡る。

 

 いよいよだ。

 今までリア充絶対呪殺マンになっていた一矢や戯れていた厳也の表情も変わり、更に試合に意識を向けるように珠湖が手をポンポン叩きながら促す。

 

「ええか? 今の自分に出来る全てをぶつけるんや。気張ってな」

「「「はいっ」」」

 

 そのまま顧問として愛する生徒達に激励を送ると、厳也達もまた力強く応え、それぞれが準備を進める。

 

 出場口にそれぞれのチームが向かうなか、不意に一矢と厳也は目を合わせる。

 互いに何も言わない。だが既に両者の間にはバトルが始まっているのだろう。ただ全力で、互いにそう頷き合いながら向かっていく。

 

 ・・・

 

「雨宮君! 雨宮君っ!!」

「なにこのただのファン」

「ほっといてやれ」

 

 いよいよ一矢達が姿を現した。

 途端に真実が気付いて手を振って黄色い歓声を送って手を振る。

 

 流石一時期、病むほど一矢に執着していただけある。そんな真実の様子に頬を引き攣らせる勇に溜息をつきながら拓也は一矢達を見る。

 

「どれだけ強くなったのか見物だな」

「うん、期待してる」

「私達に勝ったんだからね!」

 

 また違う観客席ではユーリ、ヴェール、未来の姿もあった。

 リージョンカップからそれなりに経っている為、こうしてジャパンカップで全力を見せるであろう一矢達に期待の眼差しを送る。

 

「果たして、この試合どう転ぶかな」

「誰が勝利の栄光を手にするか、私も気になっているよ」

 

 アムロやシャアもまた彩渡商店街と土佐農高ガンプラ隊のどちらが勝つのか、固唾を飲んで見守っている。

 どちらが勝つのか、分からないのがガンプラバトルだ。それが例え覚醒の力を秘めていたとしてもだ。

 

「……イッチ」

 

 隣の秀哉達が一矢達に声援を送る中、夕香はシミュレーターにのそのそと乗り込んでいく一矢を見て、手を組む。

 どこまで行くのか、自分は見届ける。心配などするつもりはない。自分は最後まで彼を、彼らを応援し見守るだけだ。

 

≪それでは彩渡商店街ガンプラチームVS土佐農高ガンプラ隊の試合を開始します! 各チーム出撃をお願いします!≫

 

 シミュレーターも起動し、立体映像にはフィールドの映像が映し出される。

 

 準備は整った。

 アナウンスによって出撃が促される。

 

「荒峰文華……ガンダムフォボス、出撃するわ」

「桜波咲、ルーツガンダム推して参ります!」

「アザレアパワード、行くよ!!」

 《いざ参る!!》

 

 文華、咲、ミサ、ロボ太がそれぞれ勢いよくカタパルトを飛び出して、バトルフィールドに飛び出していく。

 

「砂谷厳也、クロス・フライルーで出陣する!」

「ゲネシスアサルトバスターガンダム……雨宮一矢……出る……ッ!!」

 

 そして最後に厳也と一矢も出撃する。

 これから始まるであろう激闘に胸を躍らせながら……。





<いただいたキャラ&俺ガンダム>

裕喜さんよりいただきました。

キャラクター名 上代裕喜
ガンプラ名 ガンダムレーゼン

WEAPON ディファイアント改ビームジャベリン
WEAPON ピーコックスマッシャー
HEAD ガンダムバルバトス
BODY ガンダムG-セルフ
ARMS ガンダムAGE-3 フォートレス
LEGS ゴッドガンダム
BACKPACK アストレイゴールドフレーム天
SHIELD ディバイダー
拡張装備 ビームキャノン
     ファンネルラック
     6連装ミサイルポット×2


キャラクター名 一ノ瀬 春花
性別:女
年齢:主人公と同年代
口調は「~です」

ガンプラ名 ストライクレイス
元にしたガンプラ ストライクガンダム

WEAPON MA-M21KF 高エネルギービームライフル
WEAPON シュペールラケルタビームサーベル
HEAD ストライクガンダム
BODY ストライクフリーダムガンダム
ARMS ストライクノワール
LEGS ストライクフリーダムガンダム
BACKPACK ガンダムバルバトス
SHIELD 対ビームシールド(ストライク)
拡張装備 ダブルブーメラン
     スラスターユニット
     上のふたつはすべてのパックで共通
     ビームピストル

春花が最初でに作った機体で原作のストライクと同じようにバックパックの換装で機体性能ががらりと変わる
カラーリングは基本トリコロールでバックパックだけ黒主体で細部が赤

基本のチェイスパック(オオワシに大型レールキャノンを付けたもの)
近接用のレイジパック(サンドロックのバックパックにエクスカリバーを付けたもの)
遠距離用のガイスパック(ブラストインパルスのバックパック)
の三種類
上に書いてあるWEAPONはバックパックなしの状態のもの
それぞれのバックパックの装備は
チェイスパック
WEAPON 57mm高エネルギービームライフル
WEAPON ビームサーベル(ストライク)
拡張装備 大型レールキャノン

レイジパック
WEAPON 専用ショットガン
WEAPON グランドスラム
シールド シールド(サンドロック改)
拡張装備 レーザー対艦刀
     刀

ガイスパック
WEAPON ツインバスターライフル
WEAPON ハイパービームジャベリン
シールド ディバイダー
拡張装備 大型ビームランチャー
     角型センサー
です

素敵なキャラた俺ガンダムありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Power Resonance

 一矢達彩渡商店街ガンプラチームが初めて行うジャパンカップ本選。

 その最初のステージに選ばれたのは高層ビルが並び立つ市街地であった。

 

「来たのぉ……ッ!」

 

 市街地とはいえ、エンカウントするのに然程の時間を必要とはしなかった。

 

 それもそうだ。

 ステージ自体、特に広いわけではなく、また制限時間もある。

 そのせいかエンカウントし易いステージ構成となっている。

 

 こちらに向かってくる彩渡商店街ガンプラチームのガンプラ達を発見し、厳也は待ちきれないと言わんばかりに口角を吊り上げる。

 

「行きます!」

 

 目が隠れるほど長い前髪をバレッタで留めて目を露わにさせ、その可愛らしい顔を更に引き立たせた咲が操る遠距離戦に特化したルーツがGNスナイパーライフルⅡによる狙撃を開始する。互いに確認しているとはいえ、この距離では射程外のはずだ。

 

 しかし向こう側もキラリと光ったと思えば、極太のビームがこちらを呑み込まんばかりに近づいてくるではないか。とはいえクロス・フライルー達は動揺することなく避ける。

 

「あの装備は……確かリージョンカップで……!」

 

 モニターを拡大し、張本人を探し出す。

 放ったのはゲネシスABであった。

 

 ここ最近、厳也達との交流が起きてから素のゲネシスを使用していることが多かったが、ここへ来てリージョンカップの中継で見たアサルトバスター装備に仕様を変更してきたようだ。

 

「いつも通り先陣は切りなさいよ、厳也。支援はしてあげるから」

「……恩にきるわい」

 

 互いに射程内となった事で射撃戦が開始され、市街地の上空を舞台に縦横無尽にガンプラが駆け巡るなか、文華は厳也の背中を後押しするように心強い言葉を贈ると、それと同時にクロス・フライルーは前に出る。

 

 先陣を切るクロス・フライルーにゲネシスABやアザレアPが迎撃しようとするのだが、そこは言葉通り、フォボスが、そしてルーツが支援することによってクロス・フライルーはどんどんと近づいてくる。

 

≪ここは任されたッ!!≫

「撃ち合いよりも斬り合いのほうが愉しいからの、興じようではないか」

 

 クロス・フライルーがビームナギナタを装備した瞬間、FA騎士ガンダムが飛び出し、炎の剣でクロス・フライルーとの戦闘を開始する。

 

「やっぱり敵になると手強いね……!」

「そっちこそ想像以上よ!」

 

 フォボスが両肩両腕のシグマシスキャノンを発射し、アザレアPが旋回しながら避けるとビームは背後の高層ビルを貫き轟音を立てて崩れ落ちる。

 その間にもビームマシンガンとGNキャノンを発射するアザレアPだが悉く避けられてしまう。いまだ被弾はなし、ミサも文華も互いの実力を称え合う。

 

「ちっ……!」

 

 一方でルーツと交戦するのはゲネシスABだ。

 ルーツの大量に積まれたGNシールドピットはゲネシスABに襲いかかり、接近さえ許さぬ勢いに舌打ちをしながら何とか突破口を見出そうとする。

 

「あれは……!」

 

 シールドピットによる攻撃の最中、狙撃するルーツ。シールドピットを見事なまでに掻い潜った一撃は確実に一矢を追い詰める中、ゲネシスABはその身を高速回転させるとともに竜巻を発生させ、周囲のシールドピットの大半を巻き上げ破壊する。

 

 旋風竜巻蹴り。予選の時も見たが、よもやあんな出鱈目なやり方でシールドピットを破棄されるとは思わなかった咲は苦々しそうに顔を歪める。

 

 竜巻を打ち消したゲネシスABはすぐさまその重武装を全て同時に発射して、ルーツに放つ。流石に全てが全て避けられそうになく、迫るミサイルに直撃も覚悟した時であった。

 

 横から散弾が飛び、ミサイルを全て破壊する。見れば専用ショットガンを構えるフォボスの姿が。そのままフォボスはゲネシスABへと向かっていく。

 

「……!?」

 

 ただそれを黙っている一矢ではないが、文華もまた実力者。

 ゲネシスABが射撃を繰り出すが、悉く避け、更には大型ガトリングと専用ショットガンを接近したと同時に放ち、ここで初めてゲネシスABが被弾する。

 だが近づいたところで決し反撃に転じさせず、まさに一撃離脱。再びゲネシスABより距離をとる。

 

 だが一矢も何もしない訳ではない。

 距離を取るフォボスにシールドを投擲する。

 

 いくら勢いがあるとはいえ、まっすぐ向かってくるシールドを避けるのは容易く、フォボスは避けが間髪入れずに一矢はGNソードⅢで射撃する。

 

「なっ!?」

 

 これも難なく躱したフォボスであるが直後、衝撃が走る。

 何と先程、投擲したシールドにビームが反射してフォボスに直撃したではないか。

 直撃すると見越していたゲネシスABはGNソードⅢを展開して、フォボスへ向かっていく。接近戦を仕掛けるつもりだろう。だが……。

 

「生憎、接近戦も出来るのよ私とフォボスはッ!」

 

 フォボスはバックパックの刀を引き抜いて素早くゲネシスABの刃を受け止める。

 火花が散る中、そのままゲネシスABとフォボスは剣戟を結ぶ。

 

「させないっ!!」

 

 GNスナイパーライフルⅡを構えたルーツがフォボスとの近接戦を繰り広げるゲネシスABへと狙撃しようとするが、その射線上に躍り出たアザレアPは同時にビームマシンガンを放ち、かく乱しながら戦闘を開始する。

 

「その装備じゃ私とは渡り合えないわよ!」

 

 アサルトバスター装備は高火力を手に入れる代わりに本来、ゲネシスが売りとしている高機動さを幾分殺してしまっている。

 それはガンプラバトル、ましてやジャパンカップの本選などでは致命的になりかける。

 現に今もフォボスが装備した太刀によって右肩に装着するメガビームキャノンの砲身が切り落とされてしまった。

 

 だがそんな事はそもそもジャパンカップに出場経験のある一矢も承知の上だ。

 何も考えずにアサルトバスター装備を選んだわけではない。

 

「なっ!?」

 

 ゲネシスABは両腕のアサルトシュラウドをパージし、勢いよく放たれた装甲はフォボスに直撃し、フォボスは衝撃でのけ反ってしまう。

 

 だがそれで終わるわけではない。

 ゲネシスはシヴァやミサイルポッド目掛けて背部の大型ガトリングを打ち込み、爆発させる。

 

「このぉっ!」

 

 爆炎を掻い潜ったゲネシスは本来の高機動さを取り戻したようにVの字の残像を周囲に残して、フォボスを翻弄し太刀を装備した腕部を突き刺し、そのまま切り上げる。

 

 切りあげた腕部を掴んでフォボスの胴体に深々と突き刺すわけだが、文華も何もせずに終わらない。フォボス全体にスパークが走る中、二つレールキャノンを発射する。

 

「……後は任せるわ」

 

 フォボスはもう限界だ。

 だが最後まで執念を見せた文華はゲネシスに蹴り飛ばされ、ライフルモードによって撃ち貫かれるまで最後までレールガンを叩きこむ。フォボスが爆散する刹那、文華はフォボスの武装を手放して、爆発する。

 

「そんな……っ! でも……っ!!」

 

 文華がやられてしまった事は少なからず近くにいた咲にも動揺を与える。だがそれで無様な姿は見せるつもりはない。

 ゲネシスとフォボスが戦闘中の間も激闘を繰り広げ、互いに損傷の激しい中、咲はアザレアPに向き合う。

 

「私だって簡単には負けられない!!」

「っ!!」

 

 すでにルーツのIフィールド発生装置は破壊されてしまった。

 しかしその代償にアザレアPのGNキャノンの片方は破壊され、そのガンプラに破壊痕は目立つ。だがそれでもミサは諦めない。今もまたビームサーベルを引き抜いて、こちらに迫りくる。

 

 ルーツの射撃武装も中には撃ち尽くしてしまったものもある。

 咲は迷うことなく不必要なパーツをパージすると、ビームジャベリンを構えてアザレアPに立ち向かう。

 

 ビームサーベルとハイパービームジャベリン。この二つがぶつかり合えば、打ち勝つのはハイパービームジャベリンだ。アザレアPを押し切って、ルーツはアザレアPを横一文字に斬り捨てる。

 

 これで終わり。そう咲の中で思えた時、アザレアPの上半身は力を振り絞るようにルーツに掴みかかり、ガチガチと不安定な動作でバックパックからGNフィールドを形成し、ルーツと自身を包み込む。

 

「言ったでしょ……? 簡単には負けないって!!」

 

 何とか脱出しようとする中、意地によってしがみ付くアザレアPはミサの不敵な笑みを残して、爆発する。

 その爆発はフィールド内でルーツの武装にも誘爆し、結果的にルーツに大きな損傷を与える。

 

「……先輩……」

 

 地に落下していくルーツの損傷は激しくバーニアが機能していない。

 そんな中、咲が見たのは眼前に迫るゲネシスの姿。そのまま袈裟切りによって確実に破壊される中、振り絞った腕でハイパービームジャベリンを手放し、厳也に思いを馳せた。

 

「……はぁっ……はぁっ……!」

 

 何とかフォボスとルーツを撃破する事は出来た。

 だがこちらも何も被らなかった訳ではない。アザレアPを失い、ゲネシス自体にも損傷が目立っている。

 

 しかしガンプラバトルはまだ終わっていない。

 一矢が張り詰めた緊張から息を切らす中、近くのビルが一直線に崩壊する。

 

≪すまぬ……主殿……≫

 

 確認すれば、一直線に崩壊したビルの先で瓦礫に埋もれるFA騎士ガンダムの姿が。

 撃破はまだされていないようだが、損傷は激しく満足に動くことはできないだろう。あのままやられるのを待つだけだ。

 

「これで満足に戦えるのは二人だけじゃな……」

 

 FA騎士ガンダムを助けに行くよりも先に連結したビームナギナタを装備したクロス・フライルーが姿を現す。

 

 やはり厳也もロボ太とは死闘を繰り広げていたのだろう。

 クロス・フライルーにも損傷が目立つ。だがそれでも厳也は待ちに待ったと言わんばかりに笑みがこぼれていた。

 

 もうこれ以上の言葉など必要ない。

 ゲネシスとクロス・フライルーは同時に飛び出して、鍔迫り合いを繰り広げるが長くは持たず、弾かれるように離れる。

 

 互いの技量はほぼほぼ互角。

 ならばと厳也は連結させているビームナギナタを二つのビームアックスに分離させ手数による勝負に出る。

 

 ならばと距離を取ったゲネシスはミサイルポッドと大型ガトリングをばらまくように同時に発射する。だがそれでも厳也のクロス・フライルーには直撃せず、シールドブースターを利用して逆に接近を許してしまう。

 

 再び連結させたビームナギナタがキラリと光って突き出される。

 何とかしようとしたゲネシスだがメインカメラの右半分を貫かれ一矢のモニターに激しいノイズが走る。だがそれでも負けじとクロス・フライルーを蹴り飛ばす。

 

「くぅっ!!?」

 

 蹴り飛ばされたクロス・フライルーは何とか態勢を立て直そうとするが、ゲネシスはその高機動さを利用して本体ごと突進し、突き出したマニュビレーターは抉るようにクロス・フライルーの胴体部に突き刺す。

 

 シュウジから学んだ技の一つ、疾風突きだ。

 衝撃でクロス・フレイルーがビームナギナタを手放すなか、地に落下する。

 

「あれは……っ!」

 

 今の落下のダメージは大きく、各部位が悲鳴をあげシミュレーター内ではアラートが鳴り響く。

 こちらに接近するゲネシスを見て何か対抗する術はないか探す厳也はあるものを見つけた。

 

「……ッ」

 

 GNソードⅢを突き出したゲネシスだが、寸でのところで赤い残像を残したクロス・フライルーが回避し、その刃は虚しく空を切り、ゲネシスはその場に着地する。

 

「なに……!?」

 

 真横から散弾による銃撃を浴び、ゲネシスは後ずさる。

 攻撃したのはクロス・フライルーだが、散弾を使う武装はなかった筈だ。

 

 だがその答えは視線の先にあった。

 

「文字通り任されたんじゃ……。男なら最後まで花道飾らんといかんよなァ……ッ!」

 

 右にはフォボスの一丁の専用ショットガン。そして今拾い上げたのはルーツのハイパービームジャベリン。文華も咲も散る間際に自身の武装を残して散ったのだ。それが普段の戦法からくる仲間のためになると思って。

 

 クロス・フライルーは今なお、赤く輝く。

 その胴体のGNドライブによってトランザムを発動させているからだ。そのおかげで先程のゲネシスの攻撃も避ける事が出来た。

 

 そのトランザムを利用して目に留まらぬ速さでクロス・フライルーは一気に突撃するとハイパービームジャベリンを振るい、何とかGNソードⅢで防いだゲネシスだが鬼気迫るようなクロス・フライルーの【力が響く】ように勢いは殺しきれず近くのビルに吹き飛ぶ。

 

「そんなもんではないじゃろ……。お主の本気は……ッ!!」

 

 ビルに吹き飛び、瓦礫に埋もれるゲネシスを見やりながら厳也は苛立ち気に呟く。

 自分はもうとっくの昔に本気を出して、ぶつかっている。だが一矢にはまだ切り札がある。それを出さぬ限りは本気のバトルとは言えないからだ。

 

 生半可なバトルなどするつもりはない。

 互いに全力を、死力を尽くしたバトルを望む厳也からすれば、覚醒を使わないことは侮辱でしかなかった。

 

 ──するとゲネシスが埋もれる瓦礫の隙間から眩い光が漏れた。

 

 それが何であるのか理解した厳也が口角を吊り上げるなか、ゲネシスを埋めていた瓦礫は吹き飛ぶ。

 

 後に残ったのは眩い光の柱。

 その中に立っているのはゲネシスだ。

 その輝きはまさに彼が、一矢が本気を出したと言う事を証明する何よりの証拠。

 

 ゲネシスが纏う光はただ勝利を手にしようとする少年の想いを具現化するかのように煌びやかに光り輝き、戦闘の激しさからもはや廃墟のような凄惨な市街地を照らし続ける。

 

「──……ああ、そうだな……。ここで使わなかったら絶対に後悔する」

 

 覚醒。

 それが一矢の絶対無二の切り札。

 

 ここで使わずしていつ使うのか。

 予選でさえ使わなかったが、厳也は出し惜しみをして勝てる相手ではない。

 何より覚醒なくして今の厳也に打ち勝つ術はないのだ。

 

 一矢の目は紛れもなく一人のガンプラファイターであり、誇り(プライド)を持った男の目。かつて本選前夜に見せていたあの目だ。

 

「それを待っていた……! さぁ斬り合おうぞッ!!」

 

 高まる興奮を吐き出すように厳也は叫ぶと、光を纏った二つのガンプラはぶつかり合う。もうガンプラその物に残ったエネルギーは少ない。余計な動きをするよりも今ここで互いの技だけで剣戟を結ぶことを両者は選んだ。

 

「やはり早い……っ! だがッ!!」

 

 元々、高機動を売りにするゲネシスは覚醒した事により、更なるスピードを持ってクロス・フライルーに襲いかかる。厳也でさえ何とか避ける事が精いっぱいだ。だがそれでも決して勝負を諦めた訳ではない。

 

 自分には意地がある、誇り(プライド)がある。簡単に、無様に手も足も出せずに負けるという結果などないのだ。

 

 いくら高機動さとはいえ攻撃の刹那には隙ができる。

 それを狙ってクロス・フライルーは専用ショットガンの銃口を頭部に押し付け、引き金を引きゲネシスの頭部を吹き飛ばす。

 

「こんのォッ!!」

 

 メインカメラを失ったとして今の一矢が止まるわけがない。

 内なる激情を現すかのように目を見開いた一矢はそのままショットガンを持つ腕を斬り落とす。

 だが例え頭部を失っても、片腕を失っても互いの戦意は衰えない。負けたくないという想いが今の二人を突き動かすのだ。

 

 ハイパービームジャベリンがゲネシスの左腕の関節から下を破壊する。

 だが、それがなんだと言わんばかりに突き出した右足を刺すように蹴り、それだけでは終わらず足の裏からヒートダガーを放ち、クロス・フライルーの胴体に突き刺す。そしてそのままタックルを浴びせ、クロス・フライルーは地面を抉りながら吹き飛んだ。

 

「終わりだッ……!!」

 

 だがそれでもハイパービームジャベリンを杖代わりにクロス・フライルーは立ち上がってゲネシスを見据える。もう既にトランザムの限界時間は過ぎて解除されていると言うのにだ。

 

 そのあまりの執念に一矢は息を飲むが、歯を食いしばってただ目の前の(ライバル)を打ち倒すために向かっていく。

 そのゲネシスを迎え撃つようにクロス・フライルーは片腕に持つハイパービームジャベリンを構える。

 

「「──ッ!」」

 

 同時にそれぞれの獲物が動き、一矢も厳也も同時に目を見開く。

 ゲネシスとクロス・フライルーが交わるように重なった刹那、眩い閃光がフィールドを覆う。

 

 

 制したのはゲネシスであった。

 

 

 クロス・フライルーのハイパービームジャベリンは僅かギリギリの位置で避けられ、GNソードⅢが深々と胴体を突き刺し、その背部にはGNソードⅢの突き破った刀身が見える。

 

「はぁっ……はぁっ…………」

 

 これで終わった。

 息を切らしながら、刃を受け、ハイパービームジャベリンを手放して俯くクロス・フライルーを見つめる。だがその汗に滲んだ表情も驚愕の表情に様変わりする。

 

「っ……!?」

 

 なんとクロス・フライルーは空いたマニュビレーターでゲネシスの腕部を掴むと、壊れたブリキ人形のように顔をあげ、こちらを見据えているではないか。

 もう爆発も秒読みでガンプラを動かす力など残っていない筈なのに。あまりのその姿に一矢はただ戦慄する。

 

(……俯いて終わるわけにはいかんのじゃ……)

 

 ノイズが走り、アラートが鳴り響くモニター内では厳也の顎先に汗が伝う中、その厳しい眼差しはまっすぐただノイズ交じりに映るゲネシスの姿を見据える。

 

(でなければ……わしに勝った男の姿……見届けられんきに……)

 

 厳也の口元に微笑が浮かぶ。

 

 満足であった。

 ここまで全力で互いにぶつかったバトルが出来たのだから。

 クロス・フライルーが爆発するその瞬間まで、厳也はただゲネシスの姿を目に焼き付けるのであった……。

 

 ・・・

 

「あれ、厳也君達は……?」

 

 戦闘が終わり大歓声に見送られる中、ミサはこの場にいない厳也達を疑問に思う。

 まだシミュレーターにいるわけでもない。どうやら先に戻ったようだ。

 

 控室へと続く通路では土佐農高ガンプラ隊の面々が何も語らず、厳也が先頭を歩く中、文華や咲は俯いて悔しそうに下唇を噛む。

 

「……負けてもうたが、今度は勝てるように励もうな。今度はわしらが勝つんじゃ」

 

 今の空気を変えるように、厳也がチームメイトに励ます。

 しかし顔だけ向け、その顔も俯き気味の為に表情が読み取ることが難しい。

 

「先輩……っ」

「……すまんの。ちょっとトイレじゃ」

 

 そんな厳也に思うところがあるのか何か声をかけようとする咲だが、これ以上は話を続けられないと言わんばかりに厳也は話を切り上げて、足早に文華達から去っていく。

 

 ・・・

 

 トイレに行くと言っていた厳也だが、実際は会場の外の階段に腰掛けていた。

 今は試合も終わったばかり、この辺りに人気はなかった。

 

「……っ……! くっ……」

 

 階段に腰掛ける厳也の肩が震える。

 よく見ればその目には涙が溜まっていた。

 

 

 バトルに不満があったわけではない。

 

 

 寧ろ自分も一矢も全力でのバトルを行えたと感じている。

 

 

 あのバトルの結果にだって満足している。

 

 

 だが……。

 

 

 だが何も感じていないと言うわけではない。

 

 

 全力でぶつかったからこそ、負けたのが悔しくて仕方がないのだ。

 

 

「先輩……」

 

 人知れず悔しさに身を震わせていた厳也だが、不意に背後から声をかけられる。

 

 聞き覚えがある。

 紛れもなく咲の声だ。

 

 どうやら彼女一人のようだが、しかし。今会うのはまずい。

 こんな顔を見られたくない、だから嘘をついてまであの場からいなくなったのだ。

 

「良いんですよ、泣いて……。それも先輩の一部なんですから」

 

 慌てて涙を拭おうとする厳也だが、それを止めるように咲は厳也を包み込むように背後から抱きしめたではないか。

 

「私は普段の先輩も今の先輩も大好きなんです……。だから私の前でくらい取り繕わないで本当の先輩でいてください……。私は傍でそんな先輩を支えたいんです」

 

 バトルの前から疑問に思っていた事があった。厳也はナンパをしたりとひょうきんな姿を見せることは多々あっても今のような悔しそうな姿は見た覚えがないのだ。

 

 それは厳也自身がそんな格好悪い姿を見せたくないという思いから来ている。

 だが、だからこそ自分はそんな厳也でさえ受け止めたいのだ。

 

「そ、それって……」

「はい、私は先輩のこと好きです……っ!」

 

 厳也の胸が高鳴る。

 おずおずと振り返ってみれば、彼への想いからとはいえ抱き着くなど大胆な行動をしたせいで耳まで真っ赤に染めている咲の姿が。そんな咲は恥じらった様子でもまっすぐ厳也を見て、その胸の内を明かす。

 

「咲ちゃん、よくやった……!」

「青春やなぁ」

 

 良い雰囲気になっている二人を物陰から文華と珠湖、そして彩渡商店街ガンプラチームが見つめ、喜びでギュッと握り拳を作る文華の隣でうんうんと珠湖が頷いている。

 

「お前ら、こんなところに居たのか」

「……ああ。ま……見ての通り……」

 

 いつまでも控室に戻ってこない両チームを探して、影二が合流すると何をやっているんだと一矢を見るが、彼に顎先で向けられた方向を見て、納得する。

 

「あれ一矢君、妬まないの?」

「……お前、俺のことなんだと思ってんの?」

「ミスタージェラシット」

 

 しかしここまで一矢は嫉妬を見せる様子がない。

 疑問に思ったミサの何気ない問いかけに眉間に皺を寄せながら問い返すと彼女の返答に問答無用でその脳天に手刀を振り下ろす。

 

「いっったああぁぁぁぁぁぁーーーーっっっ!!!?」

「……俺は見せつけられんのが嫌いなだけ……。俺の前で見せつけるならあいつらも呪う」

 

 脳天に叩き込まれ、悲鳴をあげ、そのまま頭を抱えて蹲って震えているミサに吐き捨てるように言い放つ。一応、厳也ほどの付き合いともなれば、祝福する気はあるようだ。

 

「みなさん……っ!」

「何してるんじゃ……!?」

 

 あまりの騒ぎに流石に咲や厳也にも知られてしまったのだろう。

 今までのやり取りを見られたと思って赤面し肩をわなわなと震わせている。

 

「まぁ……何というかおめでとう、で良いのか?」

「……俺の前でイチャつくなよ、クソリア充ども」

 

 バレてしまっては仕方がない。

 来たばかりだが、影二は二人の間の雰囲気を察してか一応、祝福すると一矢は祝福する気はあっても素直には祝福する気はないのか、釘を刺すように声をかける。

 

「……見られたからには仕方ないかの。一矢、本当に良いバトルじゃった……。だが次に勝つのはわしらじゃ。二人とも、これからの本選、応援してるわい。だからわしらが届かなかった更なる高み……日本一を掴むんじゃぞ」

 

 二人の言葉に顔を見合わせて赤面する厳也と咲。

 しかし落ち着いたのか、厳也はもう隠す様子もなく悔しそうな表情を向け、彼らを激励する。

 

 勝者は敗者の想いを背負って前に進むのだ。

 だが日本一は文字通り一組、一矢も影二も譲らないと言わんばかりに顔を見合わせ、笑みを浮かべる。

 

「それと影二。今度はわしともバトルしてくれんかの。お主とも最高のバトルが出来そうじゃわい」

「……勿論だ」

 

 火花を散らす二人を満足そうに頷き、最後に影二にバトルを持ちかける。

 彩渡商店街に訪れた時から念願であった一矢との本気のバトルが出来た。

 

 だが彩渡商店街に訪れた後、交流ができた影二達。影二のネクストフォーミラーの戦いっぷりを見て、また新たな願いが生まれたのだ。だがそれも影二も同じなのか、待ち遠しいと言わんばかりに頷く。

 

「……取りあえずガンダムカフェでも行かね?」

「……ああ、色んな意味で、な」

「なんじゃなんじゃ、気味悪いのぉ」

 

 おもむろに出張店のガンダムカフェへ足を運ぶことを提案する一矢。なぜ、わざわざそんな提案をしたのか、影二はチラリと厳也と咲を見やる。

 色んな意味で、と言うのは確かだが二人を祝福するのが一番の理由だろう。

 それを察しても男友達の気遣いを素直に受け入れない厳也は憎まれ口を叩きながらも一行は最寄りのガンダムカフェへと向かうのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Voyagers

青・春・銀・河


 口が寂しくなり、購入した棒付きキャンディを舌で転がしていた一矢は選手用広間に戻ってくると、ベンチの方で膝の上に手を組んで忙しない様子のツキミとミソラを見つける。

 

「……よぉ、アンタか」

 

 視線に気づいたのだろう、不意に顔をあげ、ツキミと目が合い、声をかけられる。

 どうするべきか悩んだが、取りあえず、この後の予定もない、とツキミ達の隣に座る。

 

「今やってるバトルが終わったら、いよいよ私達が最後なんだ」

「別に今更、ビビッてるって訳じゃないんだ。ただ俺達の相手がな……」

 

 激動のそれぞれの第一試合もいよいよ最後を迎えるときが来た。

 その最後のバトルを行うのは一矢達に声をかけたツキミとミソラによる沖縄宇宙飛行士訓練学校OATSガンプラ部だ。

 

 今この広間にはまばらではあるが、第一試合を既に勝ち抜いた秋田県代表の姿や他にも談笑をしている皐月やミサの姿も見える。

 今バトルをしているのは神奈川県代表としてバトルを行っている正泰とシアルのチームと岩手県代表チームだ。これが終われば、いよいよ自分達の試合だ。

 

 大方、緊張でもしているのかと思っていた一矢だが、どうやら違うらしい。

 何故ならそう応えるミソラとツキミの口元にはうずうずしているような笑みを浮かべているからだ。

 

「鹿児島ロケット株式会社……?」

「うん、そしてそのファイターであるロクトって人は私達の学校の先輩であり、現役の宇宙飛行士なの」

 

 モニターに表示されているトーナメント表を見やる。

 沖縄宇宙飛行士訓練学校OATSガンプラ部の初戦の相手は鹿児島県代表のロケット会社だ。その名を呟く一矢に簡単にファイターのことを説明がなされる。

 

「まさか初戦でぶつかるとは思わなかったけどさ。俺にとってもミソラにとってもロクト先輩は憧れなんだ。そんな先輩とバトルが出来ると思うと待ちきれないんだよ」

 

 ロクトという名前の宇宙飛行士は流行に疎い一矢でも聞いたことはある名だ。

 どうやら今まで落ち着かない様子だったのは武者震いだったようだ。

 

「憧れ……ね。分かる気はするけど」

 

 憧れの人物とのバトルが待ちきれない。それは一矢にも分かる事だ。

 かつて如月翔に自分とバトルが出来る日を楽しみにしていると言われた事がある。

 

 自分はまだ彼の足元にも及ばないが、何れその時が訪れれば、どれだけ素敵なことだろうか。今、それに似た想いをきっとツキミとミソラは抱いている。

 

「ふぅ……勝てたな」

「ええ」

 

 すると大歓声が響き、直後に正泰とシアルが広間に戻ってくる。勝利したことに安どのため息をついている正泰にシアルは微笑みを浮かべている。

 

「へへっ、ちょっくら行ってくる!」

 

 一矢と話せて良かった気がする。

 彼もまた憧れの人物がおり、その人物とのバトルを望んでいるというのが感じ取れたから。アナウンスが流れる中、そんな風に笑ったツキミはミソラと共に試合に臨むのであった。

 

 ・・・

 

「まさか母校と当たるとはね!」

 

 地球は青い。

 地球を超えた宇宙、そこに神は見当たらない。

 

 バトルの場所に選ばれたのは月面であった。

 バックパックに二基のシールドブースターを装備したスターゲイザーをカスタマイズしたガンプラ……コズミックグラスプを操るは現役宇宙飛行士ロクトだ。

 

 その人当たりのよさそうな笑みを浮かべながら、大型のユーディキウム・ビームライフルの引き金を引くと、固まっていたツキミとミソラのガンプラにビームが伸び、すぐさま二人は分散して避ける。

 

 避けたミソラが操る赤と金のパーソナルカラーのバイザータイプのガンプラ、ガンティライユは朱色のメガキャノンとアグニをすぐさま発射するが、月面に地に降り立ったコズミックグラスプは僅かに機体をずらして避ける。

 

「先輩でもォッ!!」

「先輩は……立てるものじゃないかッ!?」

 

 すぐに反応して上方を見上げるコズミックグラスプ。そこには大型レーザー・実体刃複合対艦刀である黒と金のカラーリングのシュベルトゲーベルを構えた武器と同じパーソナルカラーを持つツキミのストライクノワールをカスタマイズしたエンファンスドデファンスを構えたツキミが襲いかかってきた。

 

 既に迫るエンファンスドデファンスに動じるどころか軽口を叩きながら、迎え撃つようにライフルを捨て、ビームサーベルを引き抜いたコズミックグラスプはエンファンスドデファンスを受け止めるとそのまま蹴り飛ばす。

 

「──はぁっ!!」

「惜しい!」

 

 吹き飛ぶエンファンスドデファンスだが、すぐさまビームサーベルを引き抜いたガンティライユがコズミックグラスプに襲いかかる。しかし既に見越していたロクトによって受け流されてしまった。

 

 何とか態勢を立て直した二機ではあるが、シールドブースターを利用したコズミックグラスプは既に間近に接近しており、迎撃するよりも前に流れるような動作でそれぞれ一太刀受けてしまう。

 

「おっと!」

 

 だが何もできないわけではない。

 一太刀受けたエンファンスドデファンスだが、動じた様子もなくすぐさまシュベルトゲーベルを手放して、腰部の二つのビームサーベルを引き抜き斬りかかると少しは驚いた様子のロクトは巧みに受け止める。

 

「やるね後輩……。でも……」

「ああ……ッ! 俺はまだ先輩ほど強くない……。でもッ!!」

 

 目まぐるしく放たれるビームの刃を避けるか、受け止めるかのどちらかで対応しながらツキミを褒め称える。しかしまだ自分とツキミの間にはまだまだ差があるのはすぐに分かった。

 

「二人だったらっ!!」

 

 例え差があろうとそれを補えるのがチームだ。

 ガンティライユもまた接近戦を仕掛けると、流石にそこはジャパンカップ本選まで突き進んだチーム。あしらい続ける事も出来ず、ここでコズミックグラスプのシールドを切断して破壊し、ロクトに苦い顔を浮かばせる。

 

「行けるっ!!」

 

 ビームサーベル一本でツキミとミソラの猛攻を受けつづけるロクトに、押している状況を見て、ミソラは踏み込もうとする。

 

「──大人を舐めちゃいけないよ」

 

 コズミックグラスプが握られたマニュビレーターが光る。

 次の瞬間、ガンティライユの胴体がビーム刃によって貫かれた。

 

 ギリギリではあったが、ロクトはもう一本のビームサーベルをガンティライユに放ち、反撃したのだ。

 

 行けると感じていた時の反撃に動揺するミソラだが、コズミックグラスプは二基のシールドブースターを使用してガンティライユにタックルを浴びせると、そのままの勢いで横一文字に切り裂く。

 

「さて、後は君だけな訳だけど……どうする? まだやるかい? 棄権するなら貸しにしてあげてもいいけど」

 

 爆散するガンティライユをバックにエンファンスドデファンスに振り返るコズミックグラスプ。ひとまずガンティライユを撃破したことにより、ロクトの表情に余裕が浮かび軽口を吐く。

 

「冗談だろ、なに言ってんすか」

 

 ミソラが撃破されてしまったのはツキミにも動揺を与えるが、それとこれとは話が別だ。例え一人になったとしても棄権などするわけがない。エンファンスドデファンスは先程手放したシュベルトゲーベルを掴む。

 

 

「そんな形でこのバトルを終わらせられる訳ないだろ……ッ!」

 

 

 ロクトは母校の先輩であり現役の宇宙飛行士だけに留まらず、優秀なガンプラファイターだ。

 

 

 トーナメントでロクトと当たった時から興奮は止まらなかった。

 

 

 棄権すれば彼の言うように貸しにしてくれるのかもしれない。

 

 

 だがそんな事は男として、彼の後輩として、一人のガンプラファイターとしての矜持が許さなかった。

 

 

 何故ならこのバトルはミスターガンプラや覚醒する雨宮一矢とのバトルよりも価値があると思っているからだ。

 

 

 勝敗なんてどうだって良い。

 

 

 これは自分にとっての夢の舞台なのだ。

 

 

 最後までロクトの胸を借りるつもりで戦うんだ。

 

 

 

「良く言った、後輩ッ!!」

 

 ツキミの熱意に触れ、感化されたように目を見開いたロクトはコズミックグラスプがエンファンスドデファンスに迫る。純粋に彼らを気に入ったのだろう、その口元には笑みが浮かんでいる。

 

「ウオオオォォォォォッッッ!!!!!」

 

 ツキミは叫ぶ。

 猛スピードで近づくコズミックグラスプは紛れもなく見上げる空を駆ける一筋の流星。

 

 見上げ、いくら手を伸ばしても願望を抱くだけで届かない流れ星。

 

 それでも良い。

 例えそうだとしても少しずつにでもロクトに近づけるのであればいくらでも手を伸ばしてやる。

 

 月面を舞台に幾度となくエンファンスドデファンスとコズミックグラスプはぶつかり合う。振り下ろしたシュベルトゲーベルは避けられ、地を割る中、コズミックグラスプに殴り飛ばされる。

 

 地を削り倒れるがそれでもエンファンスドデファンスは立ち上がる。

 倒れる時間も瞬きする一瞬すら惜しい。今この瞬間、すべてを吸収するかのようにツキミは果敢にロクトへ向かっていく。

 

「っ!?」

 

 幾度となくぶつかり合う二機だが、鍔迫り合いとなった瞬間、エンファンスドデファンスは全てのバーニアを稼働させ、コズミックグラスプを押し退ける。流石に押し負けたことにロクトは目を見開き、唖然とする。

 

「デエエエェェェェェアァアッッッ!!!!!」

 

 自分の全てをぶつけるようにツキミは咆哮を上げる。

 届けと言わんばかりに突き出したシュベルトゲーベルはまっすぐコズミックグラスプ目掛けて突き進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……良い後輩を持てたよ」

 

 

 だがその刃はコズミックグラスプに届くことはなかった。

 上方に飛び上がって回避したコズミックグラスプは突き出されたシュベルトゲーベルの峰の上に降り立ち、ビームサーベルを逆手に持ってエンファンスドデファンスのコクピットの位置に突き刺していたのだ。

 

「ははっ……やっぱ先輩はすげぇや」

「そうでもあるかな。君達のような後輩を誇りに思うよ」

 

 地に降り立つコズミックグラスプと同時にシュベルトゲーベルを手放したエンファンスドデファンスは力尽きるように前のめりに倒れかけると、それをコズミックグラスプはまるで労うかのように優しく抱き留める。

 互いを称え合う中、このバトルはロクトの鹿児島ロケット株式会社の勝利で幕を閉じるのであった。

 

 ・・・

 

「負けちまったなぁ……」

「ロクト先輩、やっぱり強かったね……」

 

 試合終了後、広間に向かう通路の中でツキミとミソラはしみじみと話す。

 ロクトはやはり強かった。負けた悔しさは勿論あるが、それでも彼と戦えたことに清々しさがある。

 

「君達も中々、筋があって良かったよ」

 

 そんな二人を背後から声をかけたのはロクトであった。

 憧れのロクト自ら声をかけてきてくれたことにツキミとミソラは慌てた様子を見せる。

 

「一緒に飯でも行かないか? 久しぶりに母校の話も聞きたいしね。どうだい、ツキミ君、ミソラちゃん」

 

 まさかロクトから食事の誘いを受けるとは思わなかった。

 それだけでも嬉しいのだが、注目すべきは憧れのロクトに名前を呼んで貰えた事だ。

 互いに顔を見合わせる中、ツキミとミソラは喜びの声をあげ、その誘いに応じる。

 

 こうしてジャパンカップ本選の全ての第一試合を終えた事によって、一日目は幕を閉じる。二日目からは勝ち抜いた者達によるより激しい激闘が、そして最後には選ばれし二チームによる日本一を決める戦いが待ち受けるのだ。

 




宇宙キターッ!…え?前書きといい関係ない?

とりあえず原作の宇宙組はここでぶつかりました。原作を知っている人はバトルの時点で色々改変されているのが分かっちゃいますよね。まぁ話の都合なわけですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Samurai Edge

≪勝利チームは熊本海洋訓練学校ガンプラ部!!≫

 

 ジャパンカップ本選も二日目。

 第一試合を勝ち進んだチームによるバトルは第一試合よりも一層の激戦を見せている。

 

≪──秋田県代表チームの勝利ーっ!!≫

「……ふぅ、流石に簡単にって訳にはいかないな」

 

 今もまた秋田県代表である清光達の勝利で終えた。

 流石にタウンカップからこれまで勝ち進んだチームが相手では苦戦は必至なのか、清光の額には薄っすらと汗が滲んでいた。

 

≪現時点を持って小休憩を挟みます。1時間後より試合を再開します≫

 

 清光達の勝利を皮切りに会場全体でアナウンスが流れる。

 

 時刻としても、もう昼時だ。

 立体映像を鮮明に映し出す都合から薄暗かったドーム内も映画館のように照明が灯り始め、観客達はまばらにドームから出ていく。

 

 ・・・

 

 ガンダムカフェで食事を終えた影二。一緒に食事をしていた皐月と陽太は一足先に控室に帰っていった。次にバトルを行うのは一矢達だ。自分も早く戻らなければと急いでいたのだが、ふと目に何かが止まる。

 

「良いじゃん、俺と一緒に試合観戦しようぜ」

「いや、その……急いでいるので」

 

 何やら一人の少女にナンパをしている男がいた。

 深くかぶった帽子や眼鏡をかけている為、表情こそ見えないが少女の嫌がる様子を見る限り、しつこく誘っているようだ。

 

「……なにやってる?」

「ナンパだよ。見て分かんだろ、邪魔するなよ!」

 

 流石に見過ごせなかったのか、影二がたまらず声をかける。

 邪魔をされたことに不機嫌な様子で返してきた男は影二が知る由もないが、カマセであった。

 

「……嫌がってるだろ、止めてやれ」

「だから邪魔すんなって──ッ!?」

 

 別にナンパは相手が乗り気ならば構わないが、嫌がるのにしつこくするのはただの迷惑行為だ。

 

 水を差されたことに気を悪く¥したのだろう。

 カマセが影二の胸倉をつかもうとした瞬間、途端にカマセが苦悶の表情を浮かべて倒れる。

 

 見れば少女の手には護身用にでも持っていたのだろうスタンガンが握られていた。

 どうやらカマセは既に気絶してしまったらしい。

 

 倒れ伏せるカマセに周囲がざわつき始め、遠巻きから通報を受けてきたであろう警備員の姿もある。このままでは面倒事になるであろうと判断した影二は少女の手を掴んで走り去るのであった。

 

 ・・・

 

「あれ、碧。どーしたの?」

「いや、しつこくナンパをした不埒者がスタンガンを受けて気絶したらしい」

 

 担架に運ばれるカマセに人だかりができている。

 

 その中には碧もいた。

 後から風香も合流して、この騒ぎについて問うとまた聞きではあるが少し前に起きた事を話す。

 

「スタンガンや催涙スプレーの類って軽犯罪法に引っかかるって聞いたけどどーなの? 私も検討はしてるけど」

「法律上、正当な理由なく他人の生命を脅かす武器を携帯し、出歩いてはならない……という奴だな。携帯している時点でアウト、過去には暴漢を撃退したのに調書を取られたという話も聞いた事はある」

「えー? なんか納得できないなー。風香ちゃんの可愛さに傷がついたらどうするのさ。そんなにダメなの?」

「警察だって法律上、やる事はやらねばな。こういった代物は上手く付き合う必要がある」

 

 いつまでもここにいるわけではない。

 バトルの観戦の為、ドームへ向かう中、風香と碧の二人は意見を話し合いながら向かうのであった。

 

 ・・・

 

「ありがとうございます……」

「いや、気にしないで……って……!?」

 

 ドームの方まで逃げてきた影二は息を切らす中、感謝の言葉を口にする少女に振り返る。

 

 そこには逃げる際中に帽子を落としてしまったのだろう。

 眼鏡もずれている少女の顔ははっきりと視認でき、そこにいたのはコトであった。

 いかんせんKODACHIのファンである影二は状況が呑み込めずにいた。

 

「ご、ごめんなさい。私、ちょっと……! ありがとうございます!」

 

 フリーズしている影二だが、コトは時計を見やると影二に頭を下げて、急いで観客席に向かっていく。その場に残された影二はただただ状況が呑み込めず、その場に立ち尽くしていた。

 

 ・・・

 

「始まってる……!」

 

 観客席に辿り着いたコトは立体映像に目をやる。

 立体映像には桜舞う城の庭園で二つのチームがぶつかり合っていた。一つのチームは彩渡商店街ガンプラチーム。そしてもう一つはコトの兄であるジン達の北海道代表チームだ。

 

「……」

 

 それを誰よりも熱心に、それこそすべての動きを見逃さないように見ているのは夕香であった。心なしか握った手は汗ばんでいる。

 

 ・・・

 

「今度こそ本気で来てもらうぞ!!」

 

 トランザム状態のユニティーエースがGNソードⅤでゲネシスを肉薄する。

 やはり剣道経験者でもある為か、近接戦では一矢の一歩先を行くようだ。その姿はさながら【侍】だ。

 

 その近くでは、サヤのジョイントエースがアザレアPとFA騎士ガンダム相手取っていた。

 サヤの射撃は一級品だ。二機を相手にまったく引けを取らない。

 

≪錆となれ!!≫

 

 ジョイントエースの激しい弾幕もアザレアPがGNフィールドを張った事で防ぎ、その上をFA騎士ガンダムが飛び越えて轟々と燃え盛る炎の剣を振るう。

 流石にビームサーベルで受け止めるにはパワーが違いすぎる為、バックパックからアロンダイトを展開して受け止めるのだが……。

 

「っ!?」

 

 近接戦はまったく出来ないというわけではないサヤだが、流石に近接戦をメインとするロボ太を相手には不利なのか、押され始める。

 

 それもそうだ。

 アロンダイトでパワーは補えるとはいえ、それがSD相手ではあまりにも不利すぎる。サヤは自身の咄嗟の判断を呪う。

 

 だがそうこうしている間にもFA騎士ガンダムは炎の剣による巧みな剣捌きでジョイントエースに迫り、ついには力の盾によってアロンダイトを持つ手を弾く。

 

 咄嗟にアンチビームシールドを構えて、後方へ飛び退くジョイントエース。

 しかしFA騎士ガンダムが着地したと同時にGNキャノンを発射。あまりの衝撃に受けきれず、シールドを装備する腕部ごと爆発してジョイントエースは後方へ吹き飛んでしまう。

 

 その最中で腰部のレールガンを放とうとするが、アザレアPがそれを許さず、GNキャノンを連射しながらビームマシンガンによる追撃をしジョイントエースの被弾した各部に小さな爆発が起きる。

 

≪これで終わりだッ!!≫

「待ってロボ太!!」

 

 今が好機と言わんばかりに飛び上がったFA騎士ガンダムは炎の剣を振りかぶり、そのまま突き刺そうとする。

 

 しかしミサには拭いきれぬ不安があった。

 絶対的優位な筈なのに、ジョイントエースは何かしでかす。そんな不安感がミサにはあったのだ。

 

≪なっ!?≫

「足手纏いになるくらいなら……ッ!!」

 

 炎の剣の切っ先は深々とジョイントエースに突き刺さる。

 しかしジョイントエースのマニビュレーターが炎の剣を掴んだのだ。

 まさに度肝を抜かれたように唖然とするロボ太にサヤは決死の表情であるオプションを選択すると、ジョイントエースは輝きだす。

 

≪不覚……っ!!≫

 

 ジョイントエースが行ったのは自爆であった。

 至近距離で道連れにされたFA騎士ガンダムは言葉通り爆炎のなか撃破され、ミサのシミュレーターに聞こえたのはロボ太の懺悔のような声であった。

 

 しかしこれで二対一の状況には出来た。

 アザレアPがゲネシスの援護に向かおうと気持ちを切り替えるも、ミサが見たのはトランザム状態だけでなくスーパードラグーンも展開して、ゲネシスを追い詰めていくユニティーエースであった。

 

「調子に乗んな……ッ」

 

 忌々しそうに一矢は呟く。

 反撃の余地さえ与えられないのは苛立つだけだ。

 しかしこのままにして良いわけがない。ゲネシスは迷わず覚醒する。

 

 カマセを相手にした時のような覚醒による衝撃波によってスーパードラグーンは吹き飛び、ユニティーエースも例外なくその動きを鈍らせることには成功する。

 

 少なくともそれが狙い目だ。

 ゲネシスはバーニアをフル稼働させ、飛び出すとそのまま勢いを殺さずきりもみ回転をしながら飛び蹴りを浴びせる。

 

 それだけでは終わらない。

 薙ぎ払うように振るわれたGNソードⅤをそのまま蹴り飛ばした反動で宙返りして避けると、そのままGNソードⅢを展開してユニティーエースにぶつかっていく。

 

 ・・・

 

「お兄ちゃん……っ!!」

「イッチ……っ!」

 

 試合を見ているコトと夕香の手にそれぞれ汗が滲む。

 二人の兄は今まさに激戦を繰り広げているからだ。ただ自分の兄の勝利を願い、応援をする。

 

 ・・・

 

 半ば突進のようなゲネシスの攻撃は受けたユニティーエースの態勢を崩して、そのまま地面を削って地に倒れる。

 

 その隙を見逃す一矢ではない。

 そのままユニティーエースのコクピットを踏みつけ、ヒートダガーを打ち込むとそのままGNソードⅢの刃で胴体に深々と突き刺して行動不能にする。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 勝利を収めた一矢ではあるが、正直に言えば、相当の焦りがあった。

 何故なら覚醒がなければあわや負けていたかもしれないのだ。

 それほどの実力がジンにはあったのだ。とはいえ勝利は勝利。一矢は安堵の溜息をついた。

 

 ・・・

 

「やったイッチが勝った! ねぇ夕香!」

 

 試合終了後、勝利を喜ぶ裕喜は夕香に笑みを向ける。

 何より一矢の勝利を喜んでいるのは夕香だと思っているからだ。

 

「……まっ、アタシの兄貴なら当然だよねぇ」

「もー、素直じゃないなぁ」

 

 ふぅと一息ついた夕香は飄々とした笑みを浮かべると、先程まで固唾をのんで見守っていたのを知っているために裕喜は珍しく夕香をからかうのであった。




<いただいたキャラ&俺ガンダム>

キャラクター名 御剣ジン
性別:男
年齢:20歳
身長:173cm
容姿:スポーツ刈りの黒髪。黒目。中肉中背。眼鏡をかけている。
ジャパンカップ北海道代表。実家は小さな玩具屋でミサ同様に店の名前を広めるために大会に参加する。
玉木サヤ(以下記載)とは幼馴染で恋人(両親公認の婚約者)将来の夢は彼女と結婚後、実家の玩具屋を日本一の玩具屋にまで大きくすること。
普段はクールで理屈っぽい性格なのだが感情に流されやすいところもある。
小さい頃から侍のアニメの影響で剣道を習っており、現在は全国レベルの腕前。ガンプラバトルでも近接戦闘を得意とする。

ガンプラ名 ユニティーエースガンダム
WEAPON GNソードⅤ
WEAPON GNソードⅤ ライフルモード
HEAD  ウイングガンダムゼロ(エンドレスワルツ版)
BODY  ダブルオークアンタ
ARMS  デスティニーガンダム
LEGS  インフィニットジャスティスガンダム
BACKPACK ストライクフリーダムガンダム
SHIELD  ビームキャリーシールド

カラーリングは青、赤、白のトリコロールカラーで。Hi-νガンダムをイメージ。(腹部周りだけ赤い)
機体名の意味は『結束するエース』「ガンダムSEED DESTINY」「ガンダム00」「ガンダムウイング」の主人公・準主人公の機体パーツを
一つずつ使用しているのが由来。近接戦を得意とし、遠距離戦はオプション装備のスーパードラグーンで補う。

キャラクター名 玉木サヤ
性別:女
年齢:20歳
身長:165cm
容姿:肩に届くくらいの黒髪。黒目。モデル並みのスタイルで巨乳。
ジャパンカップ北海道代表。御剣ジンの幼馴染で恋人(婚約者)彼のサポートのため共に大会に参加する。
品性高潔で礼儀正しく、見た目もあってお嬢様のような人物。父親が西部劇が好きでエアガンとモデルガンの収集と射的が趣味。
彼女自身もそれにつきあっていたため、射的の腕前は一級品となっている。ガンプラバトルでも遠距離戦闘を得意とする。

ガンプラ名 ジョイントエースガンダム
WEAPON シューベルラケルタビームサーベル
WEAPON MA-M2 1KF高エネルギービームライフル
HEAD  ダブルオークアンタ
BODY  ウイングガンダムゼロ(エンドレスワルツ版)
ARMS  インフィニットジャスティスガンダム
LEGS  ストライクフリーダムガンダム
BACKPACK デスティニーガンダム
SHIELD アンチビームシールド

カラーリングはリボーンズガンダムをイメージした赤、白の二色カラー
機体名の意味は『共同のエース』単語が違うだけで由来はユニティーエースガンダムと同じ。
そちらとは反対に遠距離戦を得意とし、近接戦は二刀流のシューベルラケルタビームサーベルの手数の多さと
オプション装備のMMI-714 アロンダイト ビームソードのパワーで補う。

上記二機のガンダムの誕生秘話としてジンとサヤが二人で小遣いを出し合い、五つのガンプラを購入。
それらのパーツを分け合って組み上げたという話がある。つまりこの二機は二人にとってのエンゲージリングのようなもの。


素敵なキャラや俺ガンダムありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

流れ星が秘める想い

元々一つの話でしたけど、キリが良いので分割しました。


「やはり手強かったな。俺も精進するよ」

「……こっちこそ」

 

 彩渡商店街ガンプラチームの勝利で終え、シミュレーターから出てきたジンは一矢に握手を求めるように手を差し伸べる。

 求められた握手に視線を彷徨わせながらも、おずおずとその手を握り返すと、大歓声のなか、それぞれ背を向けて去っていく。

 

 ・・・

 

「──さて、そろそろ出番かな」

 

 今まで控室の壁に寄りかかって試合の中継を見ていたロクトはおもむろに動き出す。

 卓上に置かれるパートナーであるコズミックグラスプを手に取ってケースにしまうと控室を出ていく。

 

【俺達、ロクト先輩のバトル最後まで応援してます! 俺達の分まで頑張ってください!!】

 

 会場へと続く通路を歩くロクトの携帯端末に着信が入る。

 ふと見れば、メールの送り主はツキミであった。敗退してしまった彼らだが、この会場のどこかでロクトを応援しているのだろう。

 

「やれやれ……先輩ってのは大変だね」

 

 今までバトルの前と言う事もあって一本線のようになっていたロクトの口も笑みがこぼれる。そのままおどけた様子で彼は大歓声に迎えられ会場に足を踏み入れる。

 

「来たな……」

「一人でここまで来たのだから、相当な実力者な筈……。油断せずに行きましょう」

 

 一足先にシミュレーターの前に到着していた正泰は入場して、さながらスターか何かのように観客席に手を振っているロクトを見て、緊張した面持ちで迎える。

 それはシアルも同じなのか、油断ならない様子で飄々としながら、視線に気づき、こちらに笑みを向けるロクトを見据え、アナウンスに促されるままシミュレーターに乗り込むのであった。

 

 ・・・

 

 鹿児島県代表と神奈川県代表のバトルの場に選ばれたのは、かつてガンダム作品において登場したことのあるケネディ宇宙空港だ。広大な平原が続き、障害物と言えば、打ち上げの時を待つスペースシャトルがあるのみだ。

 

「やっぱり強い……っ!!」

 

 正泰のアドベントはシラヌイとウンリュウによる二振りの刃を振るうが、ロクトのコズミックグラスプを動じさせることは出来ず、そればかりか闘牛士のようし受け流され、そのまま背面を蹴られてしまう。

 姿勢を立て直そうとするがライフルによる射撃を受け、対ビームコーティングマントのお陰で大したダメージにはならないが、苦々しい表情を浮かべながら正泰はロクトの実力を認める。

 

「……流石にここまで来ただけはあるね」

 

 間髪入れずにコズミックグラスプに砲弾が飛んでくる。

 何とかシールドで受け止め、爆煙が立つ中、撃ってきたシアルのジェガンハウンドを見やる。マゼラ・トップ砲を構えるジェガンハウンドはそんなロクトの呟きも追い詰めるように引き金を引いて追撃をする。

 

「トランザムっ!!」

「おいおい、みんなダブルオークアンタのボディ使いすぎじゃないか」

 

 シアルの射撃を紙一重で避けていくコズミックグラスプだが下方からトランザムを使用したアドベントが両肩の大型ビームランチャーと腰部のヴェスパーを発射しながら近づいて来る様を見て、軽口を叩きながらでもそちらにも気を配る。

 

 トランザム状態となり高速で接近するアドベントはコズミックグラスプを肉薄し、そのライフルさえ破壊する。

 ライフルを失ったことは手痛いが、それでも何もできないわけではない。太刀筋を見切ったロクトはその腕を掴んで、素早く羽交い締めにしてジェガンハウンドに向ける。

 

「っ……!」

「撃てるかい? まっ卑怯だって思うならそれでも良いさ。子供程よく言うだろう、大人は卑怯だって」

 

 射線上で拘束されるアドベントはさながらシールド代わりになっている。

 シアルが苦々しい表情を浮かべていると、自分を皮肉りながらアドベントに反撃される前に腰についているGNフィールド発生装置を破壊するために強く蹴り飛ばす。

 

「くっ……!?」

 

 弾かれたように吹き飛ぶアドベントだが、何もしないわけがない。

 そのままの姿勢でメガガトリングガンと胴体のメガ粒子砲を同時発射すると、回避しながらシールドで防いでいたコズミックグラスプは、マゼラ・トップ砲による砲撃を横から受け、墜落するように地に落ちる。

 

「終わりだぁっ!!」

 

 バックパックからアロンダイトを展開したアドベントはトランザム状態も相まって、地に落ちたコズミックグラスプにとどめを刺すように加速して向かっていく。

 

「終われる筈がないだろッ!」

 

 勝利を確信していた正泰だが、アロンダイトは空を切る。

 二基のシールドブースターによって紙一重で避けたからだ。そのままビームサーベルを引き抜いて、アロンダイトを持つ片腕を落とす。

 

 しかしジェガンハウンドの砲撃が再びコズミックグラスプを襲い、メインカメラに直撃したこともあり、横っ飛びで倒れる。

 

「嘘だろ……!?」

「どうして……っ!?」

 

 今度こそとどめだ。

 そうビームトンファーを展開して突っ込んだアドベントだが、膝立ちで立ち上がったコズミックグラスプは素早く避けると、その腕を掴んだのだ。その決してやられる事はないという執念は二人には恐怖となり、戦慄させる。

 

「どうして? 愚問だね……。お互いにここまで来る過程で色んなモノを背負って来た筈でしょ」

 

 ググッ……とゆっくりと立ち上がっていくコズミックグラスプ……。シミュレーターの中でロクトは何を言っているんだと言わんばかりに軽い笑みをこぼす。

 

 ジャパンカップ本選。

 ここまで来るのに、どれだけの勝者と敗者が生まれただろうか。

 ツキミのメールを思い出す。彼らは自分に敗れて敗退してしまった。悔しいはずだ。だがそれでも勝者に自分達の想いを託した。自分達が勝った相手が頂点になって欲しいと。

 

「昔からそうなんだよ。勝者ってのは敗者の想いを背負って生きていくんだ」

 

 ロクトは現役の宇宙飛行士だ。

 その過程で様々な事を経験してきた。

 宇宙飛行士訓練学校を卒業出来たとして、実際に宇宙飛行士になれるのは一人か二人と言われている。それは見上げるだけで手が届かない流れ星のような存在だ。

 

 最初は同じスタートラインに大勢の人間が肩を並べていた。

 精一杯駆け抜け、やっとゴールに辿り着いて振り返った時には、何人残っていただろう。

 

 宇宙飛行士を目指したものの、人それぞれの理由で志半ばで夢を断念し左折していったかつての友たちをどれだけ見てきたことか。彼らだって地球を飛び出し、宇宙に旅立ちたかったはずなのに。

 

 だからこそ自分はそんな彼らの想いを背負って、これまで宇宙飛行士の職務を全うしてきた。それこそが自分に出来るかつての友たちへの最大限の手向けになると信じて。

 

 それはガンプラバトルに限らず、どの競争においても同じことだ。

 

 日本一になりたいという夢を持って、大会に挑み敗れ去った敗者達。

 そんな彼らの想いを背負う限り、簡単に敗れるわけにはいかないのだ。

 

「それにね、後輩が見てるんだ。カッコ付けたくなるもんでしょ」

 

 敗者達の想いを背負う覚悟で挑むロクト。そんな主人の想いに呼応するかのようにコズミックグラスプのツインアイは鮮やかに光り輝く。

 

 危険な気がした。

 アドベントはすぐさま振りほどいて、後方へ飛ぶ。

 

 すぐに放たれるマゼラ・トップ砲の砲弾を二基のシールドブースターを最大限に活用して避けるコズミックグラスプはそのままジェガンハウンドへ向かっていく。そうはさせまいと後を追うアドベントだが反応が遅れて、距離が生まれてしまう。

 

「早過ぎるっ!?」

 

 目まぐるしくそれこそバッタのように俊敏に飛び回るコズミックグラスプを捉えきれないシアル。しかしその間にもコズミックグラスプは近づき、ツインアイの輝きの残光を走らせ眼前に迫るとマゼラ・トップ砲を一太刀で破壊する。

 

 すぐにビームサーベルを引き抜いて対応しようとするが、その前に伸ばした腕をコズミックグラスプに斬り落とされる。

 宙にジェガンハウンドの腕が舞う中、ジェガンハウンドの頭上から股先にかけて切り捨てされ、撃破された。

 

「俺達だって背負って来たんだっ!!」

 

 シアルが撃破され、悲痛な表情を浮かべる正泰だが、ロクトが言った言葉は自分達にも当てはまる。

 

 だからこそ負けたくはない。

 アドベントはコズミックグラスプに追い付き、ビームトンファーによってコズミックグラスプのビームサーベルを持つ腕部を突き刺し、そのまま切りあげる。

 

 武装を失い、すぐにもう一本のビームサーベルを引き抜こうとするが、その前に再びビームトンファーの刃が迫り、コズミックグラスプの左足を斬りおとす。

 顔を歪めるロクトだが、その間にもヴェスパーの攻撃がコズミックグラスプに被弾してしまう。

 

 半壊して硝煙をあげながら落ちていくコズミックグラスプ。

 今度こそ、今度こそは、とそのままビームトンファーを突き出すアドベント。その光の刃がコズミックグラスプに迫る。

 

「──人生の先輩として、一つだけ教えてあげよう」

 

 後数cmで刃が届くかと言った瞬間、シールドブースターを利用して更に下方に下がるコズミックグラスプによって、的を見失ったビームトンファーの刃は空を虚しく切る。

 

「背負うことは誰にだって出来る。でもその重荷で前に進むことは本当に難しい事さ」

 

 そしてそのままアドベントを回り込んで、更に上へ舞いあがる。

 振り返ったアドベントのカメラ越しに正泰が見たのは、まさにこちらに向かってくる見上げる空を駆ける流星。

 

「君はまだ若い。まだまだチャレンジ出来るし、何かを背負ってもそれを支えてくれるパートナーだっている。君達とまた大きな舞台でバトルが出来る日を待ってるよ」

 

 流星は隕石のようにアドベントにぶつかり、そのまま地面に轟音と激しい土煙を巻き上げる。

 土煙が消えた先には大きなクレーターの中心にもたれるようにアドベントにビームサーベルを突き刺すコズミックグラスプの姿が。

 

 そのままアドベントは爆発し、ロクトは勝利する。

 これによって次の対戦カードは影二達と清光達。そして一矢達とロクトによる準決勝が待ち受けるのであった。




<いただいたキャラ&俺ガンダム>

キャラクター名 神無月 正泰(かんなづき まさや)
性別 男
年齢 主人公達の一つ上
容姿 紫の髪で、身長170cm
心配性だが、やるときはやる男
心配性の性格のせいで暖かい飲み物が手放せない
ガンプラバトルの間は腹痛にはならない
丁寧な口調で話す
ガンプラバトルを楽しむのをモットーとしている
主に近接戦が、多い
軽度のシスコン 妹の名前は経子(きょうこ)小6で素直
一人称 俺
二人称 君

ガンプラ名 アドベントガンダム

WEAPON シラヌイ/ウンリュウ
WEAPON メガガトリングガン
HEAD ガンダムAGE-3 フォートレス
BODY ダブルオークアンタ
ARMS シナンジュ
LEGS  V2アサルトバスターガンダム
BACKPACK ディステニーガンダム
SHIELD 対ビームコーティングマント
拡張装備 太陽炉(背中)
メガ粒子砲(胴体内部)
大型ビームランチャー(両肩)
V字型ブレードアンテナ(頭部)
フェイスガード(頭部)
GNフィールド発生装置(腰)

カラーリング は白と紫を使用していて頭部のアンテナや腕部のレリーフが金 アンテナのエンブレム的な奴は赤
フェイスガードも角に見立ててつけている

キャラクター名 麻沼 シアル (あさぬま しある)
性別 女
年齢 正泰と同じ年齢
容姿 銀髪でかなりの巨乳 身長164cm
フランスからやって来た銀髪の美少女、父の転勤に家族でついてきた。性格は照れ屋でクールな女の子。神無月に好意を寄せている
主にライフルを使用し相手が近づいてきたらサーベル戦うスタイル

一人称 私
二人称 貴方
ガンプラ名 ジェガンハウンド
元にしたガンプラ ジェガン
WEAPON ビームサーベル(ガンダム)
WEAPON  マゼラ・トップ砲
HEAD ジェガン
BODY ガンダムF91
ARMS ジムカスタム
LEGS  ドラゴンガンダム
BACKPACK ガンダム
SHIELD ローゼン・ズール
拡張装備 ビームピストル(背中)
レドーム×2(背中)
Iフィールド発生装置(背中)
V字アンテナ(頭部)
丸型バーニア(腰)
カラーリングは水色と濃いグレー。センサーは緑

こっちにも引き続き書いているのは、私の中の一区切りだと思ってください。完結後にでもこちらは修正する予定です。

素敵なオリキャラと俺ガンダムありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

灼熱の世界で

「次は熊本県代表と秋田県代表かぁ……」

 

 試合観戦をしているコトは立体映像に表示されているトーナメント表の次なる試合を見て、独り言を呟く。兄が負けてしまったのは残念ではあるが、どうせならば最後まで見ていこう。

 

「あれあの人……」

 

 ふと立体映像を見やるとそこに表示された各チームの経歴の中に見た事のある顔が映し出される。

 それは紛れもなく影二のものであった。それに気づいた瞬間、画面が切り替わる。バトルが始まったからだ。

 

 ・・・

 

「……相手は4人。気を抜くな」

 

 バトルのステージは砂漠。あまりにも見晴らしが良いこの地形だが、やはり一番のネックは足場となる砂漠だろう。下手をすればガンプラと言えども足を取られてしまうのだから。

 そんな中、ネクストフォーミュラーを操作する影二が皐月と陽太に注意を促すも、二人とも分かっている事なのか頷くのみだ。

 

 前方がキラリと光った。

 その直後、青白いビームが伸び、ネクストフォーミュラー達は素早く避けると、両サイドから極太のビームがそれぞれ伸びて、三機は上空に飛び上がって避ける。

 

「くっ!?」

 

 だがそれさえも読まれていたのか、上空から何かが突撃してくる。

 いち早く反応したダンタリオンがツインビームソードで受け止めようとするが、勢いに負け地面に落ち激しい土煙を巻き上げる。

 

「小夜の本気を見るのです!!」

「もう十分だと思うけどッ!!」

 

 相手は小夜の電であった。ドッズランサーを受け止めるが、ダンタリオンは膝立ちのような状態だ。そのまま再び突き刺そうとする電にダンタリオンは逆に光の翼を展開して電にタックルを浴びせる。

 

 しかし地上にいるダンタリオンは格好の的となっているのか、清光の暁と国永の雷がビームライフルを発射しながら近づいていく。

 

「させるか!」

 

 その行く手を遮るように上空からネクストフォーミュラーがシールドピットとビームライフルを放ちながら阻んだ。

 

「邪魔だ!」

「やるっ……!」

 

 素早く反応した暁と雷。特に暁は旋回しながらライフルを撃ちながら6連装ミサイルポッドを放ち、ネクストフォーミュラーを翻弄する。

 ミサイルへの対応をしていたネクストフォーミュラーだが、既に回り込んだ暁が太刀を振るい、間一髪でビームサーベルによって防ぐ。

 

「後ろががら空きだ!!」

「ちぃっ!!」

 

 しかし鍔迫り合いを行うネクストフォーミュラーだが背後から雷が太刀を振るい、影二は舌打ちをしながら既のところでもう一本のビームサーベルを引き抜き、二機を相手に受け止める。

 

「悪いけど、これで決めさせてもらうよ……」

 

 暁と雷とそれぞれ鍔迫り合いとなっているネクストフォーミュラー。しかしそのあまりにも無防備な姿は遠巻きでビームスマートガンを構えている国広の響には格好の的だ。

 

「──やらせないっ!!」

「やっぱり来るか……!」

 

 照準が定まり、引き金が引かれそうになる。だがその前にアラートが鳴り響いた。

 直後に響きへビームとマイクロミサイルが迫る。予想していたのか、避ける響にFAヒュプノスが迫る。

 

「いつまでも……ッ!!」

 

 半ばこう着状態になり、影二は苛立ち気にEXアクションを選択する。

 直後にネクストフォーミュラーに電子音声と共に眩い光が輝くと暁と雷を一瞬ではあるが力押しして上空に逃れる。

 

「ぬぁっ!?」

 

 ZEROシステムを使用したのだ。

 すぐにその後を追おうとする二機だが、ネクストフォーミュラーはファトゥム01を射出する。

 ビームを発射しながら向かっていくファトゥム01は雷に向かい、ビームを被弾しつつも雷は大型対艦刀で受け止めるが、そのまま地面に吹き飛ばされてしまう。

 だがその間に飛び上がった暁はライフルを発射。何とか防いでいるネクストフォーミュラーに迫る。、

 

「っ!?」

 

 同じ高度にいる暁とネクストフォーミラー。

 こちらに迫る暁は飛び上がったと思えば、急降下したではないか。その動きに翻弄されるネクストフォーミラーは唐突に突き出された太刀を左肩に突き刺されてしまう。

 

 ・・・

 

(……一か八か)

 

 ダンタリオンもまた電に翻弄されていた。

 バックパックだけではなく、背中のアームドアーマーDEと両肩のシールドブースターによって得られる抜群の高機動は陽太の目に追いきれなかった。

 そのせいか、ダンタリオンは先程に比べ、大きく損傷しており、一方で電は軽微だ。このままではやられてしまう。ならばと陽太は賭けに出る事にした。

 

「これでお終いなのですっ!!」

 

 だが、ついにドッズガンを受けダンタリオンは大きくのけ反ってしまう。

 その大きな隙に小夜はドッズランサーに切り替え、このまま貫こうと突貫する。

 

「そんな……っ!?」

「捕まえた……!」

 

 ドッズランサーは確かにダンタリオンを貫いた。

 しかしそれだけでは終わらなかったのだ。

 

 陽太のシミュレーターにアラートが鳴り響いている。しかし陽太の口元には不敵な笑みが。

 その笑みの意味を明かすかのようにそのままトリプルメガソニック砲を発射。電を破壊する。

 

「っ!?」

「悪いな、こいつはバトルだ」

 

 ドッズランサーを引き抜きそのまま放棄すると、次の相手をと移動しようとする。

 しかしそうする前にダンタリオンを背後からビームサーベルが貫く。

 

 見れば雷が静かに立っていた。

 何か反撃をする前に既にダンタリオンは行動不能と化し、撃破されてしまう。

 

「さて、俺っちは赤城の援護でもするかね」

 

 今戦闘を行っているのはネクストフォーミラーと暁、そしてFAヒュプノスと響だ。

 特にネクストフォーミラーと暁に関しては立ち入れないほど緊迫した戦闘が続いており、では先に響をと雷は向かっていく。

 

「二対一……! なら……!!」

 

 響との銃撃戦を繰り広げていたFAヒュプノスのだが、そこに雷も乱入してきた。

 二対一の状況に追い込まれたことに皐月は顔を歪める。ならば少しでも対抗しようとFAヒュプノスはトランザムを使用する。

 

「うおっ!?」

「くっ!?」

 

 すぐにFAヒュプノスは行動を起こした。

 

 全ての火器を放ったのだ。

 たちまち標的の雷と響は避けるが、辺り一面、火の海と化してしまう。

 

「でかい花火だったなっ!!」

 

 発射直後の今のFAヒュプノスならば隙がある。回避したと同時に爆煙を飛び出す。

 だがその先にいたのは月より放たれるマイクロウェーブを受けたFAヒュプノスが青白区輝くメガ・ビーム・キャノンの砲口を向けている姿だった。

 息を飲み、目を見開く国永。直後、放たれたサテライトキャノンは雷を呑み込み、後には何も残らない。

 

「やられた……!? くっ!!」

 

 国永が落ちた。

 まさかの反撃に国広は驚くがすぐに反撃しようとビームスマートガンをFAヒュプノスへ向けて放つ。

 

 しかしここで更なる異変が起きる。

 何とFAヒュプノスは元々ガンダムXのパーツを使用していないにも関わらず強引にEXアクションであるサテライトキャノンを発射したお陰で機体に大きな負担となって、その装甲がパージしたではないか。だが分離した装甲はシールド代わりになって銃撃を幾分受け止める。

 

「私だって……ファイターだから……ッ!」

 

 装甲をパージした先にいるのは、強化型ヒュプノス。

 元々苦戦していたとあってその動きはおぼつかないが、最後の力を振り絞るかのように強化型ヒュプノスは響の銃撃をお構いなしに突っ込み、光の翼によってすれ違いざまに切断する。だが、無理も祟ったのだろう、強化型ヒュプノスはその後、動く気配を見せない。

 

 ・・・

 

「みんな、やられたか……!」

「後は俺とお前だけだな……!」

 

 残ったのは暁とネクストフォーミュラーのみ。

 だが互いの損傷は激しく何が決定打となっても不思議ではない。

 向かい合うネクストフォーミュラーと暁。互いに最後だと言わんばかりに同時に飛び出し、互いの刃を振るってすれ違う。

 

 爆発音がした。

 見れば、ネクストフォーミュラーが損傷を受けたのだろう。もうまともに動けないほどだ。暁が最後の一撃を与えるべく太刀を振りかぶる。

 

「まさか……っ!?」

 

 だがその前に下方からビームが暁を襲う。

 反応しようと下方を見るが同時に何かに突き上げられてしまう。

 

 国永に放ったファトゥム01だ。

 そのままファトゥム01は暁を破壊すると主の背に戻り、勝利を呼び寄せるのであった。

 

 ・・・

 

「影二君達、勝ったんだね!!」

 

 控室でモニターで試合の様子を見ていたミサは影二達の勝利を喜んで、同じ気持ちであろう一矢の反応を見るように晴れやかな笑顔を向けるが……。

 

「……ロボ太と一緒になに読んでんの?」

「新装版超戦士ガンダム野郎」

 

 しかし試合に目もくれず、椅子の上にそれぞれ座った一矢とロボ太は漫画を読んでいるのではないか。

 呆然とした様子で問いかけると、一矢は邪魔するなと言わんばかりに目をくれずに答える。隣のロボ太に関しては一矢が勝手に渡して読ませているのだろう。

 

「バトル見ないの?」

「別に……。今は目の前のことに集中しないと」

「いや、目の前のことってマンガだよね!? この後のバトルじゃないよね!?」

 

 バトルを観戦しないのか、問いかけるミサだがペラペラとページを捲りながら言葉だけなら、もっともらしい事を言うのだが、いかんせん漫画を読んでいるせいで自分達の準決勝に集中しているとは思えない。

 

「えっ? なに?」

 

 すると静かに椅子から降り立ったロボ太がミサの袖に引っ張り、何かあったのかとロボ太に合わせてかがむ。

 

(えーっとなになに……”漫画を読むふりして横目でずっと見ていた"。……えー……なんでこんなに素直じゃないのかなぁ……)

 

 ロボ太が出力したテキストを読む。

 隣でずっといたロボ太が言うのだから間違いないだろう。

 

 大方、自分に知り合いの試合をジッと食い入るように熱中して観戦する姿を見られたくなかったのだろう。

 だとしても、そうまでするかと安心して気楽そうに漫画を読み進める一矢に嘆息するのであった……。




前作今作含めて今、戦闘ばっかじゃないか。もう戦闘描写はダイジェストで良いですか(良い訳あるか


<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

エイゼさんよりいただきました。

ヒュプノス:サテライトキャノンについては、本来仕様ではなく…イメージは(EXVS2500フルアーマーZZガンダムのハイパーメガカノン)同様一回限り且つ威力は50%ダウン、使用後は強制パージを追加でお願いします。
パージ後の機体解説
強化型ヒュプノス:WEAPON:GNビームサーベル
WEAPON:GNビームライフル(ジンクスⅢ)
HEAD:ケルディム
BODY:ダブルオークアンタ
ARMS:ガンダム試作三号機
LEGS:ストライクノワール
BACKPACK:V2ガンダム
SHIELD:無し
オプション兵装:ビームライフル・シューティ、マイクロミサイルポッド、Iフィールド、GNフィールド
FAヒュプノスのパージ後の機体であり火力並びに防御を犠牲に機動性を強化された機体、GNフィールド並びにIフィールドを継続利用しており射撃には耐性があるが、近接…特に実体剣に惰弱な欠点を持つ。この形態時のみ光の翼を使用可能。(FA時に使用した結果、機体が自壊した模様)

コウタさんよりいただきました。


キャラクター名:大和清光(やまときよみつ)
性別:男 年齢:18歳
容姿:身長:175cm
   髪型:黒髪短髪
   目:黒
性格:一見クールでとっつきにくいが実は熱血漢で熱くなりやすい。
   一人称は俺。
詳細:
ジャパンカップ秋田代表。
クラスの友人に誘われガンプラバトルを始める。 
元はアーケドのロボットゲームプレイヤーでガンプラバトルでもその動きを取り入れた三次元機動(バーチャロン的な動き)が得意。
よく苗字が名前と勘違いされる。
小夜とは幼馴染で両片思い。
メンバーの事は基本苗字呼びで小夜のみ名前(たまにさっちゃん呼び)
使用機体:壱番機”暁”

キャラクター名:赤城国広(あかぎくにひろ)
性別:男 年齢:18歳
容姿:身長170cm
   髪型:黒髪で肩口までの髪を一本に束ねている
   目:黒
性格:落ち着いていて周りをよく見ているチームのまとめ役。
   一人称は僕
詳細:
清光のクラスメイトで彼をガンプラバトルに誘った張本人。
熱くなりやすい清光のストッパーを務めることもある。
メンバーのことは苗字呼びで小夜のみさん付け。
使用機体:二番機”響”

キャラクター名:日向国永(ひゅうがくになが)
性別:男 年齢:18歳
容姿:身長:170cm
   髪型:銀髪天パ
   目:茶色
性格:お調子者で悪戯好きだが決めるときは決める。
   一人称は俺っち。
詳細:
清光のクラスメイト、よく清光や国広にちょっかいをかけては殴られている。
容姿から外人に間違われるが生粋の日本人。
だが戦闘時にはうって変わってまじめになり清光とともに前線で囮やかく乱を行う。
清光と同じ元アーケードゲーマーだがどちらかといえば三次元機動より平面機動が得意。
口癖は「驚いたか!」
メンバーの事は苗字呼びで小夜のみちゃん付け。
使用機体:三番機”雷”

キャラクター名:加賀小夜(かがさよ)
性別:女 年齢:18歳
容姿:身長:155cm
   髪型:黒髪で背中までかかるロング
   目:黒
性格:基本的にはおとなしいが甘いものを食べるときはやたらテンションが上がる。
   一人称は基本的に私だが本気でキレたときは小夜になる。
詳細:
チームの紅一点。
清光とは幼馴染で両片思い。
実は父親がガンダム好きで小さい頃からガンプラも作っていた。
清光とともに国広に誘われてチーム入りする。
語尾に「~なのです」とつける。
メンバーの事は基本苗字に君付けで清光のみきよちゃん呼び。
使用機体:四番機”電”

ガンプラ名:試製特参式歩行戦車
 
HEAD:バイアランカスタム 
BODY:ストライクノワール 
ARMS:デュエルガンダム 
LEGS:ガンダム試作3号機 
BACKPACK:ガンダムバルバトス 
SHIELD:シールド(NT-1) 
拡張装備:
スラスターユニット×2(腰サイド)


チームで同じ機体をベースに拡張装備でカスタマイズしている(四番機のみバックパックとシールドも)。

一番機”暁(あかつき)”
WEAPON:太刀(ガンダムバルバトス)
WEAPON:ビームライフル(アドバンスド・ヘイズル)
拡張装備:大型ビームランチャー(バックパック左)
     6連装ミサイルポット

二番機”響(ひびき)”
WEAPON:太刀(ガンダムバルバトス)
WEAPON:ビームスマートガン(Ex-S)
拡張装備:強化センサーユニット(頭部)
     レドーム×2(バックパック)

三番機”雷(いかづち)”
WEAPON:ビームサーベル
WEAPON:ビームライフル(NT-1)
拡張装備:大型対艦刀(バックパック右)
     大型対艦ビームランチャー(バックパック左)

四番機”電(いなずま)”
WEAPON:ドッズランサー
WEAPON:ドッズガン
BACKPACK:ガンダムTR-1(アドバンスド・ヘイズル)
SHIELD:アームドアーマーDE(常時背中)
拡張装備:シールドブースター×2(両肩)
     ロケットアンカー(左腕)

カラーは全機トライアルグレー。
二番機が索敵しつつ遠距離から援護、一番機、三番機が囮をしつつ敵機を誘導、一か所に固めたところで四番機が突貫が基本戦術。

機体の名付け親は国永。
曰く「普通にMSっぽい名前つけても面白くないし思いきって漢字にしてみた!」とのこと。

素敵なオリキャラと俺ガンダムありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

流星に手を伸ばして

「例のチームが相手か。ここが正念場だね」

 

 熊本海洋訓練学校ガンプラ部が決勝に昇り、いよいよ最後の準決勝が開始される。

 控室に待機していたロクトはコズミックグラスプを手に取って会場へと向かっていく。

 

 ・・・

 

「頼むぜ、ロクト先輩……!」

「私達が行けなかった場所に……!」

 

 ドーム内の試合が見える場所にツキミが掌に拳を押し当てながら隣にいるミソラと共にロクトの勝利を願う。

 

「雨宮くーんっ!! 雨宮くぅぅぅんっっ!!」

「うるせぇっ!!」

「……ほっときなよ」

 

 一矢達が入場してきた。

 一矢の姿を視認した瞬間、身を乗り出してこっちを向いてー♡と言わんばかりに手を振る真実をやかましそうに顔を顰めて拓也が怒鳴ると、勇は一人両手で耳栓代わりに耳に突っ込んでいる。

 

「3対1ならイッチ達の楽勝だよね!」

「裕喜、それはフラグだ」

 

 シュミレーターに向かっていく一矢達を見て、両手をぎゅっと握りながら秀哉達に期待の笑みを向ける裕喜に即座に秀哉がツッコミを入れる。

 

「まぁでも……何とかなると思うよ」

「どうして?」

 

 そんな裕喜の隣で足を組み、頬杖をついている夕香がポツリと呟くと、何故そう思うのか一輝が顔を覗かせながら夕香に尋ねる。そんな一輝につられるように裕喜達の視線は夕香に注がれる。

 

「去年の今頃……イッチは凄い一杯一杯で痛々しかったしねぇ。今は楽しそうな顔してるじゃん」

 

 シュミレーターに乗り込もうとしている一矢から視線を外さずにその意味を答える。

 しかし裕喜達からしてみれば、楽しそうだと言われてもいつもの一矢にしか見えない為に首を傾げながらでも夕香には分かる事なのだと納得する。

 

 ・・・

 

「相手は一機だけ……。でも、ここまで勝ち進んできたんだよね……」

「……油断してると負けるよ」

 

 バトルフィールドは宇宙。その中を移動しながらミサの呟きにモニターを注視しながら一矢が答える。

 相手のロクトはここまでたった一人で勝ち進んできたのだ。

 その実力を最初から侮る気はなかった。

 

≪来たぞ!≫

 

 ロボ太の通信が響く。

 間髪入れずにアラートが鳴り響き、前方のモニターがキラリと光ったと思えば、コズミックグラスプが捉えられないほどのスピードでこちらに接近してきていた。

 

「さて……厄介な相手からどうにしかしたいからね」

 

 コズミックグラスプは彩渡商店街を翻弄するように動き回りながら、モニター上のゲネシスを見やる。やはり何を言ったとしてもあのゲネシスガンダムは危険だ。

 

「おっ……と!」

「びょんびょん飛び回れんのは自分だけじゃないんだよ」

 

 するとそのゲネシスが爆発したかのように一気に飛び出し、GNソードⅢを展開すると斬りかかってくる。

 すぐにビームサーベルを取り出したコズミックグラスプが受け止める中、高機動さを自慢にするゲネシスに乗りながら一矢がポツリと言い放つ。

 

「もらった!!」

「あげないよ」

 

 ゲネシスの横からGNキャノンを二門を構え、一気に発射する。

 ぐんぐんと伸びる二つの極太のビームは周囲を照らしながら対象を消滅せんと向かっていく。だがコズミックグラスプはそのままゲネシスを受け流すと、シールドを構えて、バーニアを利用してそれを全て受け止めきる。

 

≪ならばッ!!≫

 

 コズミックグラスプの背後に回り込んだFA騎士ガンダムが燃え盛る炎の剣を構えながらコズミックグラスプを一太刀で斬り捨てようとする。

 流石にそこまでは防ぎきれないのかシールドを向けるが、両断されてしまう。

 

「ご褒美だ!」

≪ぬぅっ!?≫

 

 だが何もしないわけではない。

 そのまま稼働させたシールドブースターの一つをFA騎士ガンダムへ放ち、胴体に受けたFA騎士ガンダムはそのまま後方彼方へと飛ばされていく。

 

「ロボ太!? っ!?」

「君にもだ」

 

 彼方に飛んでいくFA騎士ガンダムを見ていたのも束の間、もう一基のシールドブースターを利用してアザレアPに急接近したコズミックグラスプはそのままシールドブースターをぶつけ、アザレアPも飛ばしていく。

 

「さて後は……」

「……」

 

 この場にはもうコズミックグラスプとゲネシスのみが。

 今にもこちらに攻撃を仕掛けようとするゲネシスを見やりながらコズミックグラスプはゲネシスに背を向け、移動を始めるとゲネシスもすぐさまその後を追う。

 

「あ……っ!!」

≪どうした、ミサ!≫

 

 シールドブースターを何とか破壊して自由になったアザレアP。

 そこに破壊し終えて戻ってきたロボ太が合流すると、何か焦ったような声を漏らすミサに通信を入れる。

 

「……一矢君が……どんどん遠くに行っちゃう……」

≪……≫

 

 既にゲネシスとコズミックグラスプの姿は小さく、もはや遠巻きにバーニアが描く流星が重なるのが見えるのみだ。

 

 ずっと感じていた事がある。

 覚醒を使う一矢と自分の間の距離を。

 それが物理的となって見せつけられた気分だ。

 

 手を伸ばしたところで流星には届かない。

 流星とはそういうものだ。

 しかしそれが無性に悲しかった。

 それはロボ太も同じなのか、何も言う事が出来ずにいた。

 

 ・・・

 

「……ここら辺で良いかな」

 

 デブリが無数に浮かぶ宙域まで突入したコズミックグラスプはおもむろに動きを止め、後方からライフルモードを構えていたゲネシスに向き直ると、ゲネシスも追いかけっこは終わりかと動きを止める。

 

「ここがどこだが分かるかい?」

「……アンタが負ける場所でしょ」

 

 周囲に浮かぶデブリ群を見やりながらロクトが問いかけると、一矢は口元にニヤリとした笑みをこぼしながら軽口を叩く。

 

「言うね。でも、このデブリの中じゃ君のガンプラの特性は活かせないんじゃないかな!」

 

 一矢の言葉に気に入ったと言わんばかりに微笑を浮かべながらビームサーベルを引き抜いてゲネシスへ向かっていくと、先程までの笑みも途端に消え、ゲネシスはソードモードに切り替えて受け止める。

 

「それは自分も同じだと思うけど……ッ!」

「ああ。だからここでは自分の腕がものを言う!」

 

 コズミックグラスプも高機動機。

 条件で言えば同じな筈だ。

 そのことを口にする一矢にそんな事はそもそも重々承知なのか、ロクトは目を開きながら楽しそうに笑う。

 

 ぶつかり合うゲネシスだが、再びコズミックグラスプによってさながら闘牛士の如く受け流されてしまう。

 そもそもこの宙域とコズミックグラスプ相手にGNソードⅢはあまりにも不向きであった。

 

「まだまだ大人には敵わないんじゃないかなッ!」

 

 隙だらけのゲネシスに高らかに言い放つ。

 そのまま背後のコズミックグラスプのツインアイがギラリと光り、ゲネシスを破壊しようとその刃を振りかぶる。後数秒後にはコズミックグラスプのビームサーベルが貫くだろう。

 

「チィッ!!」

 

 一矢は舌打ちしながら眼光鋭く細める。

 呼応するようにツインアイを輝かせたゲネシスは覚醒し、ミノフスキードライブの出力を急上昇させ、通常よりも規模の大きな光の翼を発生させる。

 流石にこれにはロクトも予想外だったのか、咄嗟によけるが回避しきれずビームサーベルを持つ腕ごとバッサリと落とされる。

 

 コズミックグラスプがよろけたところですかさず、振り返ったゲネシスは刺すような蹴りを左肩に放ち、そのまま足裏からヒートダガーを突き刺した。

 

「足癖が悪いッ!」

 

 ヒートダガーが突き刺さった個所がスパークを起こす中、そのままもう一本のビームサーベルを引き抜いて、ヒートダガーを放った足を斬りおとす。

 

「よく……言われる……ッ!!」

 

 距離が空きそうになるのをシザーアンカーを発射してコズミックグラスプを拘束すると、そのまま近づいてライフルモードの銃口を頭部に押し付けて撃ち抜き、そのまま自身のシールドを突き刺すように胴体に放つ。

 

「僕には背負ってるものがある……ッ!」

「アイツがいるんだ……。アイツの手を取ったんなら……ッ!!」

 

 ロクトの脳裏にはツキミ達をはじめとしたこれまでバトルをしたファイター達が、そして一矢にはミサの顔が浮かぶ。

 

「簡単にはァ……ッ!!」

「負けられないッ!!」

 

 一矢とロクトの想いが重なる。

 この戦いを見ている人がいる。その中には自分の糧となり、支えとなる人がいる。

 そう簡単には負けるわけにはいかないのだ。

 

 シールドを突き刺す腕を切断されるゲネシス。だが、そのまま頭突きを浴びせ、四門の頭部バルカン砲を発射して、瞬く間に弾丸がコズミックグラスプに風穴を開けていく。

 

「俺に出来ることなんて高が知れてる……ッ!!」

 

 コズミックグラスプはそのままゲネシスの胴体にビームサーベルを突き刺しさらに出力を上げる。だがそれでも一矢の目は戦意に燃えている。その頭には自身に手を伸ばす少女の姿が。

 

「だから……掴めるもんはなんでもぶんどってやる……ッ!!」

 

 すかさずゲネシスもコズミックグラスプのコクピット部分にライフルモードの銃口を押し当て、そのまま引き金を引く。機体が限界なのだろう、どちらの物か分からぬまま周囲を閃光が照らす。

 

 爆発の先から姿を現したのは大破したゲネシスが。

 その瞬間、バトルは終了し、一矢がつかみ取った勝利によって彩渡商店街ガンプラチームは決勝に駒を進める。

 

 ・・・

 

「君の意地を見せてもらったよ。それにガンプラバトルに大人も子供も関係ないね」

 

 大歓迎をBGMにロクトは一矢達と向き合っていた。

 負けた悔しさはあるだろうが、それを表には出さず、一矢と握手を交わす。

 

「掴める物は何でも掴むか……。僕も将来の夢は掴み取ってる。君達もガンプラファイターの夢を掴み取って欲しい」

 

 交わした握手はまるでガンプラファイターとしての夢を託すかのようだ。

 それはロクトが今まで背負って来た敗者達の想いをロクトを含めて一矢達に任せるかのように。一矢がコクリと頷いたのを微笑み、ロクトは軽く手を振ってこの場を後にする。これで本日の日程は終了だ。

 

「……どうしたの?」

 

 自分達も戻ろうと、一矢が歩き出した瞬間、ふと違和感を感じる。

 チラリと横目で確認すれば、ミサが自身の服の裾を掴んでいるではないか。

 

「ん……? えっ!? あっ、いや、なんでもないよ! ハハッ……」

 

 無意識に暗い表情をしていたミサも声をかけられて気づいたのだろう。

 慌てた様子で取り繕った笑みを見せるも、あまりにもバレバレで、一矢は不思議そうに首を傾げる。

 だが我に返ったところでミサは一矢の服の裾から手を離そうとしなかった。それはまるでこれ以上、一矢と距離を離したくないと言わんばかりに……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キミの為なら

「ねー、いるんでしょー?」

 

 ホテルの一室。ここはカドマツ達が泊まっている部屋だ。

 そこにノックをして小気味の良い音を鳴らしているのはミサであった。

 

「んだよ、嬢ちゃん」

「いや、今日はトーナメントないし一矢君を連れ出そうかなって……」

「連れ出すなら構わんぞ。寧ろそうしてやれ」

 

 面倒臭そうに髪をかきながら迎えたのはカドマツであった。

 まだ眠気もあるのだろう。だらしなく欠伸までしている。

 残念ながら別にカドマツに会いに来たわけではなく、チラリとカドマツの横から一矢を探す。そんなミサを部屋に通しながらベッドが置いてある場所まで案内する。

 

 部屋に足を踏み入れたミサは一矢を探す……のだが、すぐに見つけることができた。

 というよりも嫌でも見つけた。と言うのも一矢が眠っているであろうベッドには蓑虫のような状態で布団に包まっている何かがいるからだ。

 

「おーい、一矢くーん……?」

「……なに」

 

 とはいえ目的は一矢だ。

 起きているのか分からないがひとまず一矢に声をかける。

 するとビクリと蓑虫布団が反応し、もぞもぞと蠢くと顔だけひょっこりと出しながら一矢が姿を現す。

 

「いや、一緒に出掛けようかなー……って」

「……パス。休みの日くらいゆっくりさせて」

「休日のお父さん!?」

 

 照れ臭そうに頬をポリポリと掻いて視線を彷徨わせながら外出に誘う。

 だが悲しいかな、この男は襲いかかる睡魔に抵抗する気もなく、再び布団の中に潜り込むとすかさずミサが布団を引っぺがす。

 

「……ぶっちゃけ他の日の空き時間に周れるもんは周ったし……今更行かなくても良いじゃん」

「やーだー! いーこーうーよー!」

 

 布団を奪われ不快そうに顔を顰めながらでもそれでも寝ようと身を縮こまらせる一矢。

 言葉通り一矢は周れるところは周っているし、そもそもの時点で去年もここに来ていたのだ。大方なにがあるのかも知っている為、興味をそそらない。しかしミサはそうはいかないのか、一矢の体を必死に揺さぶるのであった。

 

 ・・・

 

「あのゲネシスガンダムのファイター、知り合いなら紹介してくれないか?」

「良いには良いんだけど……」

 

 ところ変わってここはジャパンカップの敷地内ではパンフレットを片手にジンがコトに一矢の仲介を頼んでいた。

 とはいえ、コトは一矢を知っているには知っているが、夕香ほど接点がないため、一矢が乗るかどうかは微妙なところだ。

 

「そう言えば、スタンガンで気絶したって人を聞いたんだけど……」

「えっ……あっ……私なんだ……。しつこくナンパされて」

 

 思い出したように又聞きした話をするサヤにおずおずと申し訳なさそうに申し出るコト。嘘をつくと言うことは出来なかった。

 

「まぁ痴漢されてから護身用に持っている訳だからな。それにアイドルという立場もあるし……」

「うん、でも助けてくれた人が……」

 

 襲われる時はどんな立場の人間だろうと襲われるのだが、特にコトを咎める様子もないジン。

 コトはかつて痴漢を受けたことがあるとのこと。

 その際、誰の助けもなく自分で何とかするしかなかった。

 それから持ち始めた護身用の道具。そんなジンにコトは影二のことを話そうとするが……。

 

「あっ、ごめん!」

 

 しかし視界の隅に何かを捉えたコトは慌てて走っていく。

 ジンとサヤは一体、なにがあったのか分からぬまま互いを見合わせる。

 

「あのっ!!」

「えっ!?まさか……!」

 

 コトが向かった先には影二の姿が。

 突然、声をかけられ、一緒にいた皐月と陽太は怪訝そうな表情を浮かべている。そんな中、依然出会った事のある影二は驚いた様子だ。

 

「その……良かったら……一緒に周りませんか?」

 

 頬を赤らめながらコトからの提案を受ける。

 まさかの遭遇とていあんにこれで2度目のフリーズをしている影二に出来る事は小刻みに頷く事であった。

 

「やれやれ人が多いな。見知った顔もいるぞ」

「そういうお前も僕以外に付き合いはないのか? 毎回、お前に連れ出されてるぞ」

 

 そんな影二達の横を通り過ぎながら、シャアは周りを見渡しながら呟く。

 このジャパンカップの会場には彩渡街で見る顔ぶれもチラホラ。しかしやたら最近、一緒にいることが多いシャアにアムロが問いかける。

 

「あぁうむ……。そのだな……。この間、ガルマと飲みに行ったんだ。その際、酔っぱらった拍子に……『君は良い友人であったが私より稼いでいるのが悪いのだよ』と会計を押し付けて帰ってな。それ以来、連絡が取れんのだ」

「貴様という奴は……。カミーユはどうしたんだ?」

「カミーユは怒ると怖い」

 

 気まずそうにあらぬ方向を見やりながら、答えるシャアにダメ人間と言わんばかりに侮蔑の視線を送る。

 とはいえ長い付き合いだ、もはや腐れ縁で、そんなことを聞かされたぐらいで付き合いがなくなるわけではない。

 

 そんなシャアの携帯端末に着信が入った。

 

「出ないのか?」

「うぅぬ……、ええい、ままよ!」

 

 携帯端末の着信の宛名を見やるシャアは渋った顔を浮かべたまま出る気配がない。

 不思議に思ったアムロが尋ねると、意を決したシャアは応答する。

 

≪シャア貴様……どこにいる?! どうせいつもの天パと一緒にいるのだろう!?≫

「また随分な挨拶だな。後、当人の前ではその事は言ってやるな。生憎、私はジャパンカップ……つまりは静岡県にいる」

 

 電話口に聞こえる凛とした女性の声はやかましくシャアの居場所を聞こうとすると、その剣幕に嘆息をしながらどうせ今からここには来れないだろうと正直に答える。

 

≪そんな事は分かっている。私もジャパンカップの会場にいるのでな≫

「なにっ……!?」

≪私を誘わぬとは恥を知れ、俗物っ!!≫

 

 しかし電話口の女性は予測済みだったのか、余裕を感じさせる声で話し、流石のシャアも動揺を隠しきれず近くにいるのではないかと周囲を見渡すが、どうにも近くにはいないようだ。

 

≪さぁ早くどこにいるかを言うのだな。それとも不毛なやり取りを続けるかい?≫

「貴様と一緒にいては、私は満足に満喫する事も出来ん!」

≪口の利き方には気を付けてもらおう!≫

 

 そんなシャアの様子も手に取るように分かるのか、クスクスと笑う電話口の女性にシャアがたまらず叫ぶと電話口の女性も叫び返す。

 また始まった……そう言わんばかりにアムロはため息をつくのであった。

 

 ・・・

 

「ねーねー夕香、ほんっとーにこれで合ってるんだよね?」

「大丈夫大丈夫、アタシはそうやって作ってる」

 

 ここは設けられた作業ブース。そこでは夕香達の姿が。

 秀哉達も思い思いのガンプラを作る中、夕香のバルバトスに合わせてガンダムグシオンリベイクを制作している裕喜はニッパーとランナーを片手に夕香に尋ねるとその隣に座りながらうんうんと夕香は頷く。

 

「やれやれ、もっとマシな作り方があるのではありませんこと? 教えられる方が可哀想ですわ」

「げっ……」

 

 そんな夕香と裕喜の前にドンと立ちながら声をかけてきた人物がいた。

 口調で分かるが、シオンであった。

 手で金髪を靡かせながら夕香を小馬鹿に笑うシオンに露骨に面倒臭そうに顔を歪める。

 

「やっぱすげぇよユカはって言われたいんでしょうが、わたくしからしてみれば、なにやってんだユカって話ですわ」

「なんで一々、絡んでくるかなー……。アンタ、アタシの事好きすぎでしょ」

 

 ふふんと夕香を笑うシオンに頭痛を感じたように顔を手で覆いながら夕香は嘆息する。

 どうもシオンは夕香をライバル認定してから視界に入っては絡まないと気が済まないようだ。

 

「っと言うわけでわたくしが教えて差し上げますわ。懇切丁寧、真心こめて。わたくし、日本についてはそう教わっておりますので」

「あーいや……その……夕香に教えてもらってるし、良いかなー……」

 

 そのまま裕喜の左隣に座りながらシオンが裕喜にも絡み始めると、引き攣った笑みを浮かべながらそのまま夕香に身を寄せる。それはそれでシオンの顰蹙を買い、騒々しくなるのであった。

 

 ・・・

 

「はぁーめんどくさい……」

「お兄ちゃん! ほらめんどくさいとか言わないで!」

「そうだよ、ここまで来たんだから」

 

 ところ変わってここは一般のバトル会場。

 そこでは色んな意味で個性豊かなオリジナルガンプラがバトルフィールドを駆けまわっていた。その中でもアストレイブラッドXの一 風留 (にのまえふうど)をユニコーン・ネクストとバンシィ・ネオを駆る双子の天音勇太(あまねゆうた)天音千佳(あまねちか)がそれぞれ窘める。

 

「カスタマイズしたターン∀Xで全てを破壊してぇ”え”っっ!!」

「新しいガンプラをまた作るんだァッ!!」

「「いっけええぇぇぇぇぇぇぇーーーーっっっ!!!!月光蝶だああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっっっ!!!」」

 

 ……本当に個性豊かなガンプラがその個性を存分に発揮していた。

 

「……あのガンプラ、シミュレーターに二人で乗っているだけよね? 意味がないんじゃ……」

「……言ってやるな、ノリの問題だ」

 

 その様子を外から見ていたシアルは唖然とした様子で隣の正泰に問いかけると、理解はできないながらも一応のフォローを正泰はする。

 

 ・・・

 

「やっぱり色んな子がおるのぉ」

 

 ガンダムカフェなどの売店の方では厳也と咲の姿が。

 近くに文華や珠湖の姿がないことから察するにこの二人に気を利かせているのだろう。

 

「あの……その……」

「……安心せぃ。もうナンパはせんよ。自慢の彼女がおるんじゃからな」

 

 目移りでもしているのではないかとおどおどと声を上げる咲に厳也はニカッと快活な笑みを浮かべる……のだが、その笑顔を見て、咲はリンゴのように顔を真っ赤にする。

 

「おっ、一矢達か」

「……ちっ、メンドーな時に鉢合わせした……」

 

 そんな中、ガンダムカフェの方にやって来たのは一矢とミサであった。

 というよりも棒付きキャンディーを餌にミサに手を引かれている訳だが。厳也が気づき、声をかけるとデート中であるのを察してか邪魔になるのではないかと一矢は顔を顰める。

 

「お二人はなにを?」

「いやー折角だし周らないと損だよね」

 

 この二人は交際する気配が今のところない為に咲が尋ねると、半ば観光のようにミサは周囲を見渡しながら答える。その後ろで一矢は特に興味もなさそうに相変わらずやる気のない目でキャンディを舌で転がしていた。

 

「……明日の決勝、どうじゃ?」

「……どうもなにもなるようになるでしょ。俺達もアイツらもその日出来る事をするだけ」

 

 ふと厳也が一矢に声をかける。その内容と言うのは明日の決勝について。すると今までの表情が嘘のように顔つきが変わり、真剣な様子で答える。

 

「おっ、一矢」

「……父さん母さん」

 

 そんな一矢に声をかけた土産の物色に来ていた中年夫婦がいた。

 僅かに驚いたような様子を見せながら一矢はそちらに歩みを進める。どうやら一矢と夕香の両親のようだ。

 

「今年も応援してるから頑張れよ」

「……そーいうのここで止めてよ」

 

 父親はそのまま一矢の頭をクシャクシャと撫でながら息子の応援をすると、流石に知り合いがいる前では気恥ずかしいの照れたような様子でその手を払う。

 

「そう言えば、一矢と夕香にはまだ言ってなかったな……。そのうち家はもっと賑やかになるぞ」

「……えっ? なにいつ仕込んだの?」

「残念ながら違う。まぁ近いうちに分かるさ」

 

 父親の言葉に驚いたように顔を顰めながら母親と父親の両方を見やると、苦笑しながら父親は意味深な言葉を残す。

 

「貴女がミサちゃん? 息子が世話になってるわね」

「あっこちらこそ、不束者ですがお世話になっております?」

 

 そんな一矢達のやり取りをしり目に母親がミサに声をかけると、声をかけられるとは思っていなかったミサは慌てて頭を下げて自分でもよくわからない事を口にする。

 

「貴女にね、一度お礼が言いたかったの」

 

 そんなミサの様子をクスクスと笑いながら、ミサに話すとその言葉の意味が分からずミサは首を傾げてしまう。

 

「最近、一矢が凄く楽しそうなの。今だってそう。去年の一矢は余裕もなく今にも押し潰されそうなほど、ガンプラバトルにも楽しみを見いだせないくらいだったのに。でも、チームを組んでから変わった。一矢が楽しそうにしてる。きっと貴女のお陰なのね」

「そんな……」

「だから、うちのバカ息子をこれからもよろしくね?」

 

 父親と会話をする一矢。

 去年の惨状を知る母親からすればとても嬉しかった。

 それはきっとミサのお陰なのだろうと、ミサの手を取りながら謙遜した様子のミサに一矢のことを託すのであった。

 

 ・・・

 

≪いよいよ、ジャパンカップファイナルラウンド! 彩渡商店街ガンプラチームVS熊本海洋訓練学校ガンプラ部のバトルが開始します!!≫

「いよいよだな」

「わざわざ日本にまで来た甲斐があると良いけど」

 

 翌日、ジャパンカップはついに最終日を迎えた。

 そんな中、ハルが高らかにアナウンスをすると照明や煙による演出が目まぐるしく行われる。

 客席ではアメリカからはるばるこのジャパンカップの決勝を見に来た村雨莫耶とアメリア・マーガトロイドの姿も。彼ら二人はアメリカに居をおいている。外国からも観戦に来る程、今このジャパンカップは注目されているのだろう。

 

 ・・・

 

「いよいよだね……」

 

 入場口では彩渡商店街ガンプラチームが入場の時を今か今かと待っていた。しかしミサの声はどこか上ずって聞こえる。

 

「……ねぇ、緊張してんの?」

「えっ!?」

 

 そんなミサを横目に一矢が問いかけ、図星だったのか素っ頓狂な声をあげる。

 

 それもそうだろう、ミサは今まで万年タウンカップの予選落ち。

 そんな彼女が瞬く間にジャパンカップの、しかも決勝の舞台にいるのだ。今まで我武者羅にやってきた分、その実感が襲いかかっているのだろう。

 

「……大丈夫」

 

 ポケットに手を突っ込んでいた一矢は緊張しているミサの手をゆっくりと掴む。

 まさか一矢がこんな大胆な行動をするとは思わず、ミサは頬をほんのり朱くする。

 

「ロボ太もカドマツも……俺もいる。アンタが動けないんだったら俺がおぶってでも前に進むから」

「……一矢君は、本当に私でよかったの?」

 

 一矢から感じる手の温もりは暖かくそれだけで安心してしまう。

 珍しく自分の口から頼もしい事を言う一矢にミサは不安げに尋ねる。

 かつて真実に支え合うことがチームだと説いた。だが、覚醒を使う一矢との距離を感じてしまった今、自分と一矢の距離に不安に思ってしまう。自分が一矢と共に戦う資格があるのかと。

 

 それこそ一矢がいなければタウンカップすら勝ち抜くことは出来なかったかもしれない。改めて雨宮一矢という存在の大きさを痛感する。

 

「いたっ!?」

「……俺、垣沼に言ったよね。自分の意志でアンタと一緒にいるんだ。ただ強いだけなら選んじゃいない」

 

 ついつい俯いてしまうミサの額に痛烈なデコピンをかます。

 その個所を抑えて涙目になっているミサになにを言ってるんだと言わんばかりに不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 

「例えバトルで弱くても、アンタには強さがある。それを教えてくれたから俺は今まで戦えたんだ」

 

 不機嫌そうな表情を和らげ、ミサの瞳をまっすぐ見ながら答える。

 その目はいつものやる気のない目ではない。こうやって一矢が本音を話してくれる事など本当に少ないのだ。

 

「アンタがいるからもう怖くない。俺は俺として戦える……。俺をもう一度、この夢の舞台に連れてきてくれたんだ。今は彩渡商店街の為に……アンタの為に戦うよ」

 

 それはまるでプロポーズか何かのように、さながら主に忠誠を誓うかのように跪いて手を握る。

 その普段は前髪に見え隠れするその瞳も露わになり普段意識しない一矢の精悍な顔をまっすぐ向けられ、ミサは全身を真っ赤にさせ、「あぅあぅ」とドギマギさせる。

 

≪両チーム、入場してください!!≫

「さぁ行こう。あの夢の舞台に」

 

 私生活ではのそのそと誰かに手を引っ張られる事の多い一矢。

 しかし今この時に限ってはミサの手を引いて自分から前に出て行く。

 入場口から差し込む光を背に受け、こちらに微笑む一矢に顔を上気させ、心臓の高鳴りを感じながらミサは頷き、ロボ太もその後に続く。

 

(……でも、このままじゃ絶対ダメだよ)

 

 前を歩く一矢の背を見ながら、ミサは今の状況を良しとは言わない。

 確かに自分は一矢の支えになれているのかもしれないが、でもそれが本当に一矢と肩を並べられると言えるのだろうか?

 その為にはもっと強くなりたいと、ミサの胸にそんな願いが宿る。

 

 ・・・

 

「おー……何とかギリギリ間に合ったな」

 

 両チームがガンプラバトルシミュレーターに乗り込み、セットアップを行う中、観客席に姿を現したのはシュウジ達トライブレイカーズであった。

 

「もう少し早く来れたらよかったんですけどね」

「……仕方ありません。私達だって四六時中この世界に居れる訳ではないのですから」

 

 立ち見の為、手すりに手をかけ立体映像を眺めているシュウジの隣に立ちながら苦笑しているヴェルにカガミはやれやれと言わんばかりにため息をつく。

 シュウジと違って、この二人は正規の軍人だ。休みや時間が取れれば来れるわけだが、簡単にはいかず結局、最終日になってしまった。

 

「アイツのバトル、こうやって見るのは初めてじゃないっスか?」

 

 そんなトライブレイカーズに後からやって来た青年が合流すると、たった今出撃の準備を整い、発進していく様を見つめ、そんな青年にシュウジは笑みをこぼしながら問いかける。

 

 青年は答える代わりにやんわりと微笑んだ。

 それはまるで楽しみで期待していると言わんばかりに。

 

 その視線はゲネシスに注がれる。

 すると青年の周囲にいた観客は青年を見てざわつきはじめた。

 

 まるで有名人か憧れの人物に出会ったかのような反応だ。

 しかし青年にとってはもう慣れた事なのか、特に気にした様子もなくジッと立体映像を見つめるのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Allied Force

 バトルのステージに選ばれたのは峡谷であった。

 不揃いの大小様々な岩場がある中、大きく目を引くのは中心に出来た崖だろう。

 

「先制攻撃を仕掛けます!」

 

 その上空を飛行しながら言葉通り、先制攻撃を仕掛けたのはFAヒュプノスのであった。

 様々なミサイルを無数に発射する中、狙撃を開始する。

 

「一矢君ッ! ロボ太!!」

「……ああ」

≪心得た!!≫

 

 するとアザレアPが真っ先に前に出ると、GNフィールドを発生させ迫りくるミサイルを防ぐと背後に守っていたゲネシスとFA騎士ガンダムに声をかける。

 声をかけられたと同時に二機は一気に飛び出し、ゲネシスはライフルモードとミサイルポッド、大型ガトリングを発射しながら接近する。

 

「っ!」

 

 ゲネシスは群を抜いた高機動機。

 どのチームもそれは理解していた。

 

 それは皐月だってそうだ。

 しかし皐月の予想以上の爆発的な速度を持ってゲネシスはソードを展開する。

 

「……させるか」

 

 このままでは攻撃を浴びるだろう。

 しかしその前にネクストフォーミュラーがFAヒュプノスの前に躍り出て、ビームサーベルを引き抜いて、ゲネシスを受け止めるとそのまま切り払う。

 

「お前の相手は俺だ!!」

 

 弾かれたように距離を取るゲネシスをネクストフォーミュラーが追撃する。

 覚醒を使用するゲネシスが一番危険なことなど承知の上であった。

 

 だからこそ自分が引き受ける。

 一矢はそれを察してか、そのままネクストフォーミュラーを引き付けるように移動を開始する。

 

「狙いづらい……!!」

≪この距離ならば負けん!!≫

 

 FAヒュプノスの至近距離に入ったFA騎士ガンダムは炎の剣による斬撃を怒涛の浴びせる。フルアーマーと言えどどんどんとその装甲に傷が入っていく。

 

「姉ちゃん……! くっ……!!」

「邪魔はさせないよ!!」

 

 近接戦を得意とするFA騎士ガンダムを自分が何とかしようと動こうとするダンタリオンだが、そうはさせまいと無数のビームによる銃弾を放ちながら、アザレアPが牽制する。

 

「邪魔を……するな……ッ!!」

「っ!?」

 

 光の翼を発生させたダンタリオンはアロンダイトを引き抜くと、アザレアPを翻弄しながら一気に急接近して斬りかかる。

 間一髪、GNフィールドを発生させたアザレアPだが、このままでは突破されるのも時間の問題だろう。

 

「ぐぅっ……!?」

「僕たちは勝つんだ!! そうでなかったらここまで来た意味がない!!」

 

 ダンタリオンの勢いに負けて吹き飛ぶアザレアP。咄嗟にビームマシンガンを連射するが、ダンタリオンは旋回しながら避けると、更に距離を縮め、アロンダイトを振りかぶる。

 

「私だって負けられない! ここで負けたら……一矢君に任せることになるから!!」

 

 そうはさせないと叫んだミサは振りかぶったダンタリオンの関節部に咄嗟に銃口を押し付け、引き金を引いて関節部を破壊すると、バランスを崩させる。

 

「私はこれからも一矢君と一緒に戦いたい!! だからッ!!」

「こんのッ!!」

 

 バランスを崩したことにより、アロンダイトがマニビュレーターが零れるように落ちる。素早くそれを掴んだアザレアPは薙ぎ払うように振るって、ダンタリオンに損傷を与える。

 

 損傷を受けて、のけ反ったダンタリオンに咄嗟にアロンダイトの切っ先を突き出し突撃するアザレアP。しかし小癪な、と顔を険しくさせた陽太はトリプルメガソニック砲と高エネルギー長射程ビーム砲を発射する。

 

「強くなりたいッ!!」

 

 避けるには間に合わない。

 いやもう避ける気はないようだ。

 

 ミサは体の芯から吐き出すように叫ぶと、アザレアPは砲撃に呑み込まれ、装甲が溶けていき、ぐんぐんと耐久値が減っていくがそれでもお構いなしに突っ込む。

 

 今、自分を押し留めている波を超えなくては一矢の背中をいつまでも見ているだけになる気がするのだ。

 

 それは絶対に嫌だ。

 そんな想いを胸にアザレアPはついには砲撃さえ突破してダンタリオンの装甲に深々とアロンダイトを突き刺すと同時にGNキャノンを発射してダンタリオンを撃破する。だが、アザレアPもまた限界に達したのか、直後にアザレアP自身も爆散する。

 

「よう君ッ……!」

≪私だってミサと同じ思いだ!!≫

 

 ダンタリオンを失った皐月。

 既に装甲をパージして、強化型ヒュプノスでFA騎士ガンダムと戦闘を繰り広げている。そんな中、ロボ太が力強く叫んだ。

 

≪いつまでも主殿の背中の後ろにいるようでは、作られた意味がない!!≫

「これが最後なの……ッ! 負けるわけにはいかない!!」

 

 だが負けられないという思いは皐月も同じこと。

 その機動力を活かして炎の剣を避けると背後からGNビームライフルを発射する。

 

≪ぬぅっ……!!≫

「だから絶対に……後悔しないようにッ!!」

 

 そのままビームサーベルを引き抜いてFA騎士ガンダムの背に一太刀入れる強化型ヒュプノス。そのまま蹴り飛ばして、損傷を受けたFA騎士ガンダムを墜落させる。

 

 しかしそれだけでは終わらない。

 追撃するようにマイクロミサイルとGNビームライフルを発射させて更なる損傷を与える。

 

≪私はトイボット! 主殿達を曇らせるような真似はしないッ!!≫

 

 光の翼を発生させて、そのままFA騎士ガンダムを撃破しようとするが、落下する最中、力の盾を投擲したのだ。

 咄嗟に払う強化型ヒュプノスだが、払った直後、既に体勢を立て直していたFA騎士ガンダムは炎の剣を突き出していた。

 

≪主殿達の……ッ……笑顔のためにイイイィィィィィィィィーーーーーーーーィイイッッッ!!!!!!!≫

 

 炎の剣は燃え盛り、対象を焼き尽くさんと煌く。

 強化型ヒュプノスに突き刺したFA騎士ガンダムは渾身の力を篭め、そのまま袈裟切りで大きな損傷を与える。

 

≪なにっ!?≫

「もうダメだとしても……貴方だけでも!!」

 

 強化型ヒュプノスはスパークを起こす中、そのままFA騎士ガンダムを拘束してスピードを更に増加させて地表に向かう。もはや隕石のような強化型ヒュプノスはそのまま地表に轟音を立てて墜ちるとFA騎士ガンダムを巻き添えに大爆発を起こした。

 

 ・・・

 

 残ったのはゲネシスとネクストフォーミュラーのみ。

 しかし二人はその状況にさえ気づかないほど、その戦闘は熾烈を極めていた。もう既に互いのガンプラは中破しており、一部の関節からは火花さえ散っている。

 

「クッ……!!」

 

 ビームサーベルを突き出すネクストフォーミュラーだが、ぐるりと回転したゲネシスをそのままGNソードⅢによってフロントスカートに損傷を与え、そのまま蹴り飛ばし、ネクストフォーミュラーは地表に降り立つ。

 

 だがそれだけでは終わらない。

 ゲネシスは接近しながらGNソードⅢによってシールドを切断すると、影二もただ攻撃を受けただけでは終わらない。

 突き出された腕を掴んで、そのまま岸壁に投擲するとゲネシスは打ち付けられてしまい、背部のミノフスキードライブに損傷を受けてしまう。

 

(損傷は大きい……。だが……それは一矢も同じことだ)

 

 岸壁に打ち付けられたゲネシスは何とか起き上がり、ネクストフォーミュラーと対峙する。その姿を見つめながら、影二は今の状況を分析する。

 

(……相棒を手放したのは……勝つため……。勝って前に進むためなんだ……!!)

 

 自身が相棒と呼ぶガンダムMK‐Ⅵ改は自身の操縦についてこれず、ネクストフォーミュラーを作り上げた。それは紛れもなく勝つため。勝って、前に進むためなのだ。どんなに見苦しく不格好だとしても勝つ。それがガンダムMK‐Ⅵ改に捧げた誓い。

 

 自分が今のチームでバトル出来るのはこれが最後の機会になるかもしれないのだ。だからこそ後腐れなく有終の美を飾りたい。だからこそ……。

 

(だから……最後まで付き合ってくれ……。俺の……新たな……相棒……ッ!!)

 

 ネクストフォーミュラーの機体に光が纏う。

 ZEROシステムを起動させたのだ。勝利という未来を掴み取る為に。

 

「……また負けるわけにはいかない。もうここで立ち止まりたくない……」

 

 ネクストフォーミュラーの眩い輝きを見て、一矢は操縦桿を握る力を強める。

 去年はこの決勝戦で敗退した。その後、自分は立ち止まり、その場に座り込んでしまった。

 

「行きたいんだ……。アイツと……あの日、届かなった場所に……ッ! だから俺は……前に進むんだ……!!」

 

 もうあんな想いをするのは御免だ。

 ならどうすればいい?

 簡単だ。勝利。勝って前に進むのだ。ミサと、彩渡商店街ガンプラチームと。その想いに応えるようにゲネシスは覚醒の光を纏う。

 

「速いッ!」

 

 同時に飛び出したゲネシスとネクストフォーミラーだが、覚醒によって更なる機動力を得たゲネシスは瞬時にネクストフォーミュラーの横に回り込むとそのままファトゥム01を破壊する。

 

「くっ!?」

 

 だがここまでのネクストフォーミュラーとの激戦によって蓄積されていった損傷は大きく、今の一振りで覚醒による負担に耐え切れずGNソードⅢを持つ関節は爆発してしまい、その隙にネクストフォーミュラーに殴り飛ばされる。

 

「もう武器はないんじゃないか……?」

「……そう見えるんならそうで良いんじゃない」

 

 張り詰めた緊張感によって汗が伝う中、影二は一矢に指摘する。GNソードⅢを失った今、ゲネシスの武装など少ない筈。しかしそれでも一矢の戦意は衰えず、ゲネシスは機体を揺らすと構えを取る。

 

「手足が残ってる限りは……まだ負けじゃないんだよ」

 

 ──覇王不敗流

 

 ゲネシスがとった構えはシュウジによって叩き込まれた流派ものだ。

 片腕を失ったとしても、構えを取るその姿は非常に堂々としていた。

 

「くっ!?」

 

 爆発的な加速を持って、ネクストフォーミュラーの懐に飛び込むと、左のマニビュレーターを高速回転させ流星螺旋拳として胴体を抉り損傷を与える。そしてそのまま回し蹴りを放ってネクストフォーミュラーが持つビームサーベルを弾いた。

 

「まだだッ!!」

 

 ネクストフォーミュラーもまたマニュビレーターを振るってゲネシスの頭部を殴り、ブレードアンテナを折り、内部カメラを露出させる。

 だが殴られたカメラがギョロリとネクストフォーミュラーを捉えると、そのまま脇腹にあたる部分を蹴られ、ネクストフォーミュラーの機体はくの字に曲がる。しかしそれでも二機の殴り合いは止まらない。

 

 もはや泥仕合だ。

 しかし二人はそれでも構わなかった。いくら泥に塗れようとも、どれだけ地に這いずってでもこの先に待つ勝利という未来へ向かって手を伸ばしていた。

 

「負けるかァッ!!」

「勝つんだァッ!!」

 

 互いのメインカメラが頭突きのようにぶつかる。

 それは互いの意地を表すように一矢も影二も叫ぶ。この試合を見る者は手に汗をかき、固唾をのんで見守る。この先の勝利者を見届けるために。

 

 そしてその時は訪れた。

 

「あああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」

 

 一矢が吠える。

 ネクストフォーミュラーから突き出されたマニビュレーターを交差させクロスカウンターとして叩き込む。

 

 しかしそれだけでは終わらない。

 ありったけを掻きだすようにバーニアを噴射させ殴ったままネクストフォーミュラーを岸壁に叩きつけ、ついには殴った個所を粉砕する。

 

「はあっ……はぁっ……はぁっ……!!」

 

 一矢は呼吸を荒げながらネクストフォーミュラーを見やる。

 爆散こそしないものの機能停止して動き気配を見せない。

 

 だが一矢は冷や汗をかく。

 何故ならばネクストフォーミュラーのマニビュレーターはまさに後数mmのところにあるのだ。もしもこれを受けていたとしてらまた違った結果があったかもしれないのだ。

 

≪ガンプラバトルジャパンカップ!優勝は彩渡商店街ガンプラチーム!!≫

 

 だがバトルは終了した。

 ハルのアナウンスと共に会場中が大歓声を上がるのだった……。

 

 ・・・

 

≪それでは30分後、優勝した彩渡商店街ガンプラチームVSミスターガンプラによるエキシビションマッチを開催いたします!!≫

 

 ハルのアナウンスが流れる中、影二は一人、外で興奮を冷ますように風を受けていた。

 

 勝てなかった。

 負けてしまった悔しさは当然あるが、それでも全力を出し切った悔いのないバトルが出来た筈だ。

 

「あ、あの……」

 

 そんな影二に声をかけた人物がいた。

 コトだ、KODACHIのファンである影二は普段なら緊張でもしただろうが、今は全力を出し切ったバトルをした直後、疲労感からそれどころではなかった。

 

「格好良かったです……! 本当に……凄かった」

「あ、ありがとう」

「その……バトルだけじゃなくて……影二さんも」

 

 コトは純粋に影二を賞賛すると、やはりコトに褒められたのは疲労感関係なしにして嬉しいのか、照れた様子を見せる。しかしそれだけではなくコトは顔を赤らめながら影二自身さえ称える。

 

「私……その……昔、痴漢されて……その時、誰も助けてくれなくて……。影二さんが初めてだったんです、あぁやって助けてくれた人は……。だからその……凄く格好良かったです」

 

 もじもじと内またになりながら、視線を俯かせる。

 ナンパをされた際、周囲の人間は見て見ぬふりをした。しかしその中で影二だけは違った。自分を助けてくれた。自分の手を引く彼の背中を見て鼓動が高鳴ったのを覚えている。

 

「お、俺で良ければいつだって助けるよ……」

「本当ですか!? それってその……これからもずっと……でも良いですか……?」

 

 場の雰囲気から照れながらでもコトに真っすぐ言うと、嬉しそうに明るい表情を浮かべたコトは恥じらった様子で問いかけると、一瞬、唖然とした影二だが言葉の意味が分かったのか首を縦にぶんぶんと振る。

 

 ・・・

 

「優勝じゃなくて、違うもんを手に入れるとは……中々やるのぉ」

 

 それを物陰から親しい面々が見つめていた。というよりやたら人数がいるせいで目立ってしょうがない。しかしその中で厳也がニヤついた様子で呟く。

 

「まさかコトちゃんが……」

「だが彼なら俺も安心だ。バトルを見ていてよく分かった」

 

 サヤが驚いたように口にすると、ジンは腕を組んでうんうんと頷いて妹を祝福する。

 

「イッチが戦った相手が彼女を手に入れるという流れ……。これは来るね」

「絶対にあの子は喜ばないでしょうけどね」

「寧ろ自分も含めて呪いそうです」

 

 厳也に続き、これで二度目。

 さらにジンに至っては婚約者であるサヤもいる。

 ロクトは分からないが、計らずもこのような結果となってることに夕香が呟くと、文華や咲は苦笑する。

 

「……あれ、一矢君は?」

 

 しかしそのキューピット?はこの場にはいない。

 ミサがその事を口にしてその場にいる面々が周囲を見渡すが、この場には一矢だけがいなかった。

 

 ・・・

 

 一矢は一人、ジャパンカップの会場が一望できる展望台にいた。

 数十分後にはエキシビションマッチが行われるわけだが、それでも今の気持ちを整理したかった。

 

「……寧ろここから始まるんだよな」

 

 ベンチに座ったまま、ぽつりと呟く。

 そう、彼は去年、決勝戦を敗退した。それ以来、ずっとその場に立ち止まっていたが、今ようやく新たな一歩を踏み出すことが出来た。新たなスタートラインに立つことが出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「──……良いバトルだったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな一矢に声をかけた人物がいた。

 一矢にとって聞き逃せるはずのない声。慌ててその方向を見る。

 

「優勝おめでとう、一矢君」

 

 ──如月翔。

 

 一矢の憧れがそこにいた。

 今までの一矢を労うようにゆっくりと近づくと彼の頭に手を乗せて優しく撫でる。これが父親辺りならその手を払うところだが、一矢はされるがまま大人しい猫のように撫でられ続ける。

 

「まさか土壇場に覇王不敗流を主にするとは、教えた甲斐もあったってもんだぜ」

 

 そんな翔の背後から声をあげ、ひょっこり姿を出したのはシュウジであった。

 先程まで翔に撫でられていた一矢もシュウジに見られるのは気恥ずかしいのか、翔から僅かに距離を取る。

 

「なんだよ、撫でてもらえば良いじゃねぇか。可愛かったぜ? なんだったら俺が撫でてやろうか?」

 

 しかし黙って撫でられる姿を見ていたシュウジはニヤニヤと笑いながら、一矢をからかう。途端に一矢は表情を険しくして、座ったままシュウジを掴もうとするが、悉く避けられる。

 

「……その辺にしておけ。30分と言っても早いものだな。もうそろそろか」

 

 依然、恨めしそうに震えながら睨む一矢をニヤニヤと笑っているシュウジを窘めながら翔は腕時計で時間を確認する。そろそろ良い時間だ。

 

 

「一矢君、君の戦い、最後まで見届けさせてもらう」

 

 

 憎しみの連鎖を破壊し、未来を創造した英雄 如月翔

 

 

「最後までお前の誇り(プライド)をぶつけてこいッ!!」

 

 

 太陽ような強靭な肉体と月明りのような心を抱いた覇王 シュウジ

 

 

「……はい!」

 

 

 英雄と覇王から学び受け継いで覚醒した新星 雨宮一矢

 

 

 二人に手を差し伸べられ、一矢は二つの手を掴みながら立ち上がる。

 一矢はそのまま英雄と覇王に背中を押され、その手の感触をしかと感じながら、二人に恥じぬような戦いをする為に、エキシビションマッチに臨むのであった。

 

 ・・・

 

「ミスター、お時間です」

「ああ、分かった」

 

 エキシビションマッチの時刻となり、スタッフがミスターガンプラの控室に報告に来た。ミスターは気さくに応答すると、スタッフがいなくなり静寂が支配する。

 

「……待ちかねたよ」

 

 ミスターガンプラは高揚する気分を抑えきれないように口角を吊り上げて呟く。そのサングラスの奥には燃え上がる闘志が轟々と燃えていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その手に未来を掴め

「──おっ、来たの」

 

 いよいよエキシビションマッチの開始時刻が間近に迫っていた。

 翔とシュウジに送り出された一矢はミサやロボ太達と共に選手入場口へ向かうため、ドーム内を駆ける。

 

 そんな彩渡商店街ガンプラチームに関係者用の入り口の近くで待ち構えていたのは厳也と影二であった。その隣にはそれぞれコトと咲がいる。

 

「ワシ等が届かなかった場所じゃ。存分に暴れてこい」

「ああ、それに相手はあのミスターガンプラだ。本気でいかないとな」

 

 厳也と影二がそれぞれ一矢へ激励を贈る。

 一矢の可能性は未知数mもしかすればあのミスターガンプラにも届くか、それ以上の結果があるのかもしれない。

 

「……どうかしたかの?」

 

 期待の言葉を送られているにも拘らず、一矢はその据わった目を厳也と影二にそれぞれ向けている。とてもこれからエキシビションマッチに挑む男の目とは思えない。意味が分からず、厳也が怪訝そうに尋ねる。

 

「……俺とお前らとの間に境界線がある」

 

 厳也の隣の咲、影二の隣のコト。最近、何かと近くにいる野郎三人組の中で彼女持ちではないのが一矢だけになってしまった。

 ミサから影二とコトの話を聞いていたのだろう。どうにも釈然としないような面持ちだ。とはいえ、今はそれどころではない。一矢達は厳也達に送られながら関係者用の出入り口から選手入場口に向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「ついにここまで来たんだね……。まだ信じられないや」

≪思えばあっという間だったな≫

 

 ガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ一矢。マッチングを行っている間、ミサとロボ太から通信が入る。

 

「……ここが到達点みたいに言わないでよ。ここからなんだから」

 

 ミサ達の言うように確かにあっという間の出来事であったが、まだこの先がある。

 どこか感傷に浸っているミサ達を一矢は窘めると、ミサ達も一矢と想いは同じなのだろう。それぞれ頷き、マッチングが終了、カタパルトが表示される。

 

「雨宮一矢……ゲネシスガンダム……出るよ」

「アザレアパワード、行っきます!!」

 《参る!!》

 

 ゲネシス、アザレアP、FA騎士ガンダムのメインカメラと瞳にそれぞれ光が灯る。

 時は来た。三機のガンプラは勢い良く飛び出していくのであった。

 

 ・・・

 

≪始まりました。ジャパンカップ優勝チーム彩渡商店街VSミスターガンプラ、エキシビションマッチ! 5年の沈黙を破りミスターガンプラはどんな戦いを見せるのか! 彩渡商店街はかつての帝王に通用するのか!?≫

 

 バトルステージに選ばれたのは周囲が岩壁に囲まれた闘技場のようなステージであった。

 ハルの実況と共にその地に降り立つ彩渡商店街ガンプラチーム。するとアラートが鳴り響き、上空に反応がある。

 

 ドンッとしかと大地を踏みしめ降り立った深紅の機体。

 背面に装備されている巨大な黄金色のリングと装備された刀やビームブーメランから近接主体の印象を受ける。

 

 だがそれさえ霞むのはその完成度だろう。

 バトルではなく作品として世に出した方が良いのではないかと思えるほどの出来栄え、まさに一級品とはこのことだ。

 

 ──ブレイクノヴァ。

 これこそがミスターガンプラの使用するガンプラの名前であった。

 

 真っ先に動いたのはブレイクノヴァだった。

 地面を蹴り、刀を振りかぶって攻撃を仕掛けた相手はゲネシスのみ。すかさずゲネシスもGNソードⅢを展開して受け止める。

 

「私は今日と言う日を心から楽しみにしていたんだ。君と戦える時を……ッ!!」

「……!」

 

 一矢のシミュレーターに通信が入る。相手はミスターであった。まさか向こうから声をかけられるとは思っていなかったのか一瞬、驚いた表情を見せる一矢。

 

「さぁ見せてくれ、君の力をッ!!」

 

 鍔迫り合いとなっているブレイクノヴァとゲネシス。

 しかしゲネシスは横一線に刃を振るうと、ブレイクノヴァは後方に飛び上がって避ける。話し続けるミスターはまさに高揚するのを抑えきれないと言わんばかりだ。

 

 答える代わりにゲネシスが追撃する。

 背部の大型ガトリングを乱射しながら斬りかかるも再び刀で受け止められる。しかし今度は長くは保たない。互いの刃は幾度となく交わり、素早い剣戟が繰り広げられる。それはミサやロボ太には立ち入れられない程だ。

 

「そこだッ!」

「甘いっ!!」

 

 距離を取ったブレイクノヴァはビームブーメランをそれぞれ投擲し、ゲネシスは足裏からヒートダガーを放ちビームブーメランを弾くと、その間にようやくアザレアPがビームマシンガンを発射するが、ミスターはそれら全てを刀によって防ぎ弾くと邪魔をするなと言わんばかりにアザレアPとFA騎士ガンダムに返す。

 

 だがそれが隙となったのだろう。

 一気に飛び出したゲネシスはそのまま飛び蹴りを放つとブレイクノヴァは刀を盾代わりにして受け止める。

 

「やるな……ッ!」

 

 だが一矢とて計算の範囲内。

 刃を足場のように蹴って宙に舞うと、そのままきりもみ回転をしながら踵落としを放ち、一矢を賞賛する中、ブレイクノヴァは地に降りる。

 

「ぬぁッ……!?」

 

 しかし空を見上げた先に既にゲネシスの姿はない。

 どこに消えた、そう思った時には背後にカメラアイの光を走らせながら回り込んだゲネシスがGNソードⅢを振りかぶっていた。咄嗟に気づいたミスターではあったが完全には防ぎきれずのけ反り、そのまま片膝をつく。

 

≪あーっと! ミスターのガンプラが膝をついたぁっ!!≫

 

 膝をつくブレイクノヴァに白熱の実況をするハル。

 その声を聴きながらゲネシスはGNソードⅢを静かに刃を振るって態勢を直すと、ブレイクノヴァを見据える。

 

「……この気持ち……ッ……鼓動の……高鳴りッ……!」

 

 片膝をつくブレイクノヴァ。しかしミスターから焦りは感じられない。

 

「思い出すよ……私がファイターだって事をォッッ!!」

 

 それどころか高まる興奮を抑えきれないと言わんばかりにゆっくりと機体を起こし、その興奮が頂点に達したかのようにモノアイが光り輝き、刃を振り払うと一面に衝撃波が生まれる。

 

「あれって……!?」

≪主殿と同じだ……!≫

 

 衝撃波の先にいたのは朱く輝く光に包まれたブレイクノヴァ。

 その姿を見て、唖然とするミサとロボ太。紛れもなくその光は一矢と同じ覚醒の光だったからだ。

 

「ッ!?」

「君も感じるはずだッ! 本当のファイターならッ!!」

 

 ブレイクノヴァの姿が残像を残して消える。

 次の瞬間、上空から刃を突き出して急降下してくるブレイクノヴァが襲いかかり、僅か数cmの位置で辛うじて避け、息を飲む一矢にミスターが叫ぶ。

 

「同じ力を持つ者同士どちらがより強いか、試さずにはいられないッ!!」

 

 地面に刺さった刃を引き抜き、そのまま薙ぎ払うように振るった刃は構えたゲネシスのシールドを破壊し、そのまま蹴り飛ばす。地面を削りながら勢いよく後ずさるゲネシスは片膝をつく。

 

「さぁ君も覚醒しろッ! 最高の舞台で最高のバトルをしようッ!!」

 

 ブレイクノヴァは刀の切っ先を向け、一矢の覚醒を促す。

 リージョンカップで初めて覚醒するゲネシスを見た時から、ずっとバトルがしたかった。エキシビションマッチを提案したのだって絶対に一矢が上り詰めてくるであろうという確信があったからこそだった。

 

「……ああ、互いの誇り(プライド)をぶつけた最高のバトルにしよう」

 

 目の前にいるのは大衆に見せるミスターガンプラではない。

 あれこそが本来の“彼”なのだろう。静かに起き上がるゲネシスのシミュレーター内で一矢の口元には笑みがこぼれる。自然と気分が高揚していた。

 

 ミスターガンプラという存在に微塵も興味もなかった。だが彼のガンプラファイターとしての情熱に触れ、一矢も自然と気分が高揚する。正直に話せば、このジャパンカップで一番の胸の高鳴りを感じる。起き上がったと同時にゲネシスもまた覚醒する。

 

「そうだ、良いぞッ!!」

 

 ミスターの口角が吊り上がる。同時に飛び出した覚醒した二機は闘技場の真ん中でぶつかり合うように鍔迫り合いとなり、その衝撃は辺りに突風を巻き起こし二機を中心に半径数メートル以上の大きなクレーターが生まれる。

 

「うわぁっ!!?」

 

 しかしその衝撃波は周辺にいたアザレアPには耐え切れず、たまらず吹き飛んでしまう。それはまるで常人には立ち入れないと言わんばかりに。

 

≪……ミサ、私達は離れていよう≫

「でもッ!!」

≪……主殿の邪魔になる≫

 

 尻もちをつくような形となったアザレアPに駆け寄ったFA騎士ガンダムは通信を入れ、この場を下がることを提案する。

 しかしそれはただでさえ一矢に距離を感じているミサには受け入れがたい事なのか反発するように叫ぶが、ロボ太は静かにゲネシスとブレイクノヴァの戦いを見つめる。この戦いに自分達が踏み入れられないと理解してしまったのだろう。

 

「……私たちは……っ……日本一のチームなのに……?」

≪世界は広いな……≫

 

 あくまで自分達はチームとしてここまで来た筈なのに、今だけは一矢がミスターに食いついている。

 自分にはそれは出来ないだろう。自分自身に問うように放たれたミサの言葉にロボ太もまた無力さを感じているのだろう。発した声は物悲しさを感じる。

 

(いつからこうなっちゃったのかな……?)

 

 激しい戦闘を見せるゲネシスに手を伸ばす。

 チームを組んだ当初から一矢との距離はあった。それでも一矢だけに任せまいと必死に後を追いかけていたはずだった。

 しかしいくら走ったところで距離は縮まるどころか遠のいてしまう。ミサは大人しくFA騎士ガンダムと下がる中、その心に悲しみを宿す。

 

「私が考えた通り、君は素晴らしいファイターだッ! 君はこの短い戦いの中ですら、さらに強く成長しているッ!!」

 

 そんなミサ達すら気づかず、二人のファイターの激突は留まるどころか更なる苛烈さを見せる。

 観客がこの僅か数分の出来事に固唾をのみ手に汗を握る中、ミスターは思った通りのファイターとしての一矢を賞賛する。現にゲネシスはブレイクノヴァの太刀筋を見切ったように対応し始めるではないか。

 

「そしてそれは君と君のチームメイトの差でもある!!」

「ッ……」

「それを自覚したとき、君達は今まで通りではいられなくなるだろうッ!!」

 

 だがこの激戦の中でミスターの指摘は一矢の心に刺さる。

 一矢とてミサ達との差を感じていなかったわけではない。だからミサや真実など誰かに触れられるまでは自分から言わないようにしていた。一瞬、動きが鈍ったゲネシスの胴体にブレイクノヴァの一太刀が鋭く入る。

 

「それでも私はこれからも君達が共に居られるように願わずにはいられない!!」

 

 のけ反ったゲネシスにそのまま回し蹴りを放ち、弾かれるように吹き飛ぶ。

 鋭い指摘をする中でミスターは激励を贈る。要は一矢達次第なのだ。これからも共に進めるかどうかなど。

 

 ・・・

 

「このままではジリ貧ね……。今の二人はほぼ互角と言っても良い筈……」

「なにかあれば……」

 

 立ち見で観戦している翔達。拮抗する力と力を見て、カガミが分析をしていると同じことを考えていたのか、ヴェルは顎に手を添える。

 

(……お前が俺に見せたのはそんなモンじゃねぇだろ、一矢……ッ!)

 

 右腕を腰に当て、観戦しているシュウジは一矢とずっと特訓をしていた。

 ジャパンカップ直前に最後に見せた一矢の力には度肝を抜かされた。それを知っているからこそ歯痒さを感じて空いた拳がギリッと握られる。

 

 ・・・

 

「……なら今はアンタを越えるッ……!!」

「それで良いッ!!」

 

 激しい剣戟が続く。互いの損傷は激しく、いつ決着がついてもおかしくはない。

 何か状況が変わるような何かさえあればこの戦いに決着がつく。

 

「っ……!?」

「口だけではないだろう!? それを証明してみろッ!!」

 

 だがついにゲネシスのGNソードⅢは腕ごと弾かれのけ反ってしまう。

 これで終わりなのか、そうミスターが訴える中、刀を振り胴体に切っ先を放つ。

 

(……終わる……? 冗談じゃない……ッ!! 始まったばっかりなんだ……ここで躓くわけにはいかない……ッ!!)

 

 一矢の目にスローのように映るブレイクノヴァ。その間に思考を張り巡らせる。ようやくスタートラインに立ったのだ。走り出したのにもう躓いてしまうのか?

 

(未来を……掴むんだッ!!)

 

 そんな訳にはいかない。いくものか。

 ゲネシスはのけ反る姿勢を強引に直すように大地に足を踏みしめ、ツインアイをギラリと輝かせながら空いている左のマニュビレーターをグッと握りしめ勢いよく解放する。

 

 ・・・

 

「あれはまさか……ッ!?」

 

 ゲネシスの手には覚醒の光にさえ負けない“太陽”の如き輝きが。

 燃え盛らんばかりにさえ映るその輝きを見て、ヴェルは驚愕する。いやヴェルだけではない、カガミでさえ驚いていた。あの手の輝きに見覚えがあるからだ。二人の視線はシュウジに注がれる。

 

(そうだ、未来を掴め一矢ッ!!)

 

 2人の視線に気づかぬほど、シュウジは立体映像のバトルに集中している。

 その口元には笑みがこぼれて。一矢が今から行う行動を知っているからだ。

 

 ・・・

 

「ウアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!」

 

 一矢が吼える。

 いやツインアイを輝かせるゲネシスもまた主に全身で応えるように駆動音を響かせ、輝くその手はまさに咆えるような轟音を上げると、羽ばたくようにバックパックから光の翼を放ち、ブレイクノヴァを迎え撃つ。

 

 

 それはまさに未来を掴む一撃。

 

 

 かつて異世界で蘇った悪魔から未来を掴んだ覇王の力。

 

 

 突き出された刃を粉砕しながらゲネシスのマニュビレーターはそのままブレイクノヴァの胴体を打ち砕く。

 

 しかしゲネシスはMF系のガンダムではない。

 専用のEXアクションのアセンブルシステムを更に改良して放った一撃は到底、ゲネシスには耐えられるものではなくマニュビレーターから亀裂が入り駆け巡ると、そのまま右腕から右胴体に及ぶまで爆発する。

 

「……君の勝ちだ」

 

 だがそれでも一矢は未来を掴んだ。

 何故ならブレイクノヴァのモノアイには光が灯らず身を預けるようにゲネシスに倒れこんでいるからだ。そしてミスター自身の口から勝利の事実を送られる。

 

≪き……ききき……決まったぁーっ!!! ジャパンカップエキシビションマッチは彩渡商店街ガンプラチームの勝利です!!≫

 

 信じられないと言わんばかりにハルが素っ頓狂な声を上げる。

 一部を除きミスターを越える存在を目にするとは思っていなかったのだろう。誰しもが驚愕する中、ハルによってエキシビションマッチは締め括られる。

 

「本当に素晴らしいひと時だった……。年甲斐もなく、はしゃいでしまったよ」

 

 ブレイクノヴァがゲネシスにもたれる中、どこか照れ臭そうに話すミスター。

 だがそれほどまでにこのジャパンカップで価値のあるバトルになった。一矢も素直に自分もそうだったと口にしようとした時だった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はしゃぎ過ぎだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷めた声が響き渡る。

 ミスターでもミサ達でも一矢でもない青年の声。ブレイクノヴァの背後から突然、姿を現した刀を持つ白いガンダムは突然の乱入者に驚くミスターと一矢のガンプラをそのまま蹴り飛ばす。

 

「な、何なの……!?」

≪外部から侵入しているのか……?≫

 

 あまりにも突然すぎる出来事にミサは状況が呑み込めずに戸惑う中、ロボ太は状況を分析しながら白いガンダムを見つめる。

 

「たまたまテレビをつけたら、引退したチャンプがバトルをしていたのでね」

「君はウィル少年なのか……!?」

 

 どこか飄々とした神経を逆なでするような態度の青年に覚えがあるのか、予定にもない出来事に騒然としている会場をよそに、心当たりのあるミスターはサングラス越しに驚愕している。

 

「どうやらそこの無様なファイターに敗れたようだけど、今回も“また”勝ちを譲ってあげたのかい?」

「違うッ! 私は全力で戦ったよ!」

「へぇ、前は僕に勝ちを譲ってくれたのに?」

 

 半ば大破に近い状態で仰向けに倒れているゲネシスを見やりながら意味深な事を言う青年の言葉をミスターは必死に否定する。

 それは自分に応えた一矢さえ侮辱する言葉であったからだ。しかし青年は鼻で笑いながら身を竦める。

 

「やぁ、君良かったね。手加減してくれる優しいチャンプでさ」

「……あ?」

 

 今度は一矢に矛先が向けられる。

 小馬鹿にしたような話し方はどうでも良いが、それ以前に癪に障るのはミスターへの言葉だ。あの戦いが手加減かっら生まれるとは思えない一矢は顔を歪めながらゲネシスの機体を起こす。

 

「よせ!!」

 

 静かにGNソードⅢを構えるゲネシスを見て、ミスターが制止する。

 だがゲネシスは抑える気配を見せる事はなく一触即発の肌に刺さるような空気がこの場を支配する。

 

「彼もこう言ってるんだ。日本一のトロフィーをもらって、とっとと家に帰りなよ」

 

 ミスターの想いとは裏腹に煽るような青年の言葉が着火剤となったかのようにゲネシスは飛び出す。

 機体は大破状態。無理なEXアクションの使用のせいで、まともに機体を動かす事すら出来ないと言うのに。

 

 だがそんな事は関係なかった。

 これまでの人生で最高のバトルを汚された事が許せなかったからだ。今すぐに目の前の目障りな存在を消し去りたかった。

 

「へえー……凄いスピードだ!」

 

 だがそれすら嘲笑うような青年の白いガンダムは静かに帯刀している刀に手を伸ばす。

 そこに微塵の焦りも動揺もない。白いガンダムもまた地を蹴って飛び出す。

 

「……!?」

 

 刃がぶつかる甲高い音と共にゲネシスと白いガンダムが交差する。

 だが直後、ゲネシスに異変が起きた。なんと今まで決して破損することのなかった如月翔から譲り受けたGNソードⅢの刃に亀裂が入り、粉々になったではないか。

 

「止まって見えたよ」

 

 だが砕け散ったのはGNソードⅢだけではない。

 白いガンダムが刀を収めた瞬間、ゲネシスは粉々なまでに分割される。。

 

≪主殿!!≫

「このぉッ!!」

 

 地に転がるゲネシスだったモノ。

 ロボ太が動揺する中で、今まで渋々下がっていたアザレアPが飛び出す。ミサとて許すことが出来なかったからだ。

 

「下手くそ」

 

 しかし実力差には敵わず、青年の吐き捨てるような冷めた声と共にメインカメラを掴まれ、そのまま地面に叩きつけられる。、

 

「君は力の差が分かってるみたいだね」

 

 ゲネシスやアザレアPに目もくれず歩き出した白いガンダムはFA騎士ガンダムの兜を一撫でしながら姿を消す。

 青年の言葉通り確かに実力差は分かっていた。しかしそれでも何も思わないわけではないのだろう、心なしかFA騎士ガンダムは拳を強く握り、俯いている。

 

「……なんなんだよ、もぅ……」

 

 あまりにも理不尽な何か、ミサの呟きがフィールドに響く。

 それはこれを見た誰しもが感じたことであった。

 

「……すまない、全部、私のせいだ」

 

 事の成り行きを見ている事しかできなかったミスターは不甲斐なさそうに空を仰ぎながら呟く。その心中には様々な思いが渦巻いていた……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mirrors

 ──もう5年も前の事になる。

 

 私は多くの国際大会で優勝を重ね、ノリにノっていた

 

 多くのスポンサーが付き、ミスターガンプラと呼ばれだしたのもこの頃だ。

 

 ある時、私はアメリカで開催された大会に参加し、そこでウィルという少年に出会った。私のファンだというその少年は決勝で私に挑戦すると笑った。

 

 私はその子に「力を尽くした素晴らしいバトルをしよう」と口では言ったが、その子が決勝まで残るとは思っていなかった。

 

 だが、ウィル少年は決勝の舞台で私の前に立った。

 

 彼とのバトルは私が久しく忘れていた互角の相手と戦う高揚感を思い出させてくれた。

 

 年の差なんて関係ない。

 

 新たなライバルとの出会いを心から喜んだ。

 

 お互いがお互いを高め合い、戦っている間もさらなる成長をしていく……。

 

 そして素晴らしい時は瞬く間に過ぎ……私は彼に敗れた。

 

 私はとても晴れやかだった。

 

 決して悔しくなかった訳じゃない。

 

 それ以上に素晴らしい満足感が私を満たしていた。

 

 ……しかし私のスポンサーはそれを許してはくれなかった。

 

 私がそれに気づいたのは翌朝のニュースサイトを見た時だ。

 

【ミスターガンプラ 少年に夢を与える】

 

 ……そんな見出しだったか。

 

 努力の末に勝ち残った少年を勝たせるため、私は勝利を譲った。

 

 私は全力を出して負けた訳ではない。そういうことになっていた。

 

 私はホテルを飛び出し、彼のもとへ走った。しかし……

 

 我に返った時、私はホテルの前に戻っていた。

 

 手には傷付き、折れ曲がったあの大会のトロフィー。

 

 もう二度とあの時のようなバトルには出会えないと思った。

 

 ならば私のバトルは、ただ日銭を稼ぐだけのものだ。

 

 私はその日、ファイターであることを辞めた。

 

 あのバトルは心ない大人達の思惑で嘘にされてしまった。

 

 ならばせめてあのニュースの見出しだけでも本物にしよう。

 

 奇抜なファッションに身を包み、道化を演じてでもステージでみんなに夢を与えよう。

 

 私はミスターガンプラなのだから。

 

 

 ・・・

 

 ジャパンカップ終了の夜、居酒屋みやこでは例によって祝勝会が行われていた。

 しかしその空気は非常に重たい。そんな中、ミスターはあの時、現れた青年との出会い、そしてミスターガンプラという偶像になった経緯を静かに話していた。

 

「……リージョンカップ決勝戦で君の戦いを見た時、現役時代を思い出した。あろうことか立場を利用して、エキシビションマッチを予定に組み込んでしまったよ」

 

 いつものアフロとサングラスは脇に置き、今だけは偶像を捨て去ったミスターがそこにいる。自嘲するミスターの視線の先には隅の壁に寄りかかってだらしなく座っている一矢が。話は聞いているのだろう、目だけはミスターを捉えていた。

 

「……結局、それが君達の優勝に水を差すことになってしまった……。こんな私がバトルなどするべきではなかった……。そうすれば彼もあんな事は……っ」

「ミスターは悪くないよ」

 

 ミスターのグラスを持つ手が震える。

 それ程までにこのような結果を招いた自分自身を許せなかったのだろう。しかし今まで話を聞いていたミサが優しい口調でフォローする。

 

「ねえミスター、その子はどうして突然、姿を見せたんだろう」

「私がバトルする事が許せなかったからでしょう」

 

 今度はユウイチが口を開き、ミスターに問いかける。しかしミスターにとって思い当たる節はそれしかないのか、沈痛な面持ちで答える。

 

「そうかなぁ……。それだけなのかな?」

「しかし他に理由が……」

 

 だがどうにもユウイチは釈然としない様子だ。

 他に理由があるのでは? そう思ってしまうようだ。だがいくら考えたところでミスターにはその理由など出て来なかった。

 

「さ、いつまでもどんよりしてないで。冷めちゃうわ」

「おおう、そうだな! やなことは飲んで食って忘れちまえ!!」

 

 沈み切った重たい場の空気を払しょくするかのように手をパンパンと叩いたミヤコが祝勝会を楽しみようにと場の空気を変え、マチオもそれに乗って大きく明るい声を出してビールが入ったジョッキを掲げる。

 

「……うん、そうだよ! わたしたちは日本一になったんだよ! 日本中に商店街の名前が轟いたんだよ!!」

 

 今まで落ち込んだ様子を見せていたミサも少しずつ明るい表情を取り戻して、祝勝会に臨む。結果としては日本一になったのだ。今はそれを喜ぼうと思った。

 

「そう言えば、クリーニング屋さんのアライさんから電話あったよ。もうすぐ出稼ぎが終わって、帰ってくるって」

「うちには電気屋のワトから電話あったぜぇ! 商店街復活も遠くねぇぞ!!」

 

 少しずつ場の空気が明るくなっていく。

 その中でユウイチとマチオが半ばゴーストタウンのこの商店街に少しずつまたかつての賑わいを取り戻せると話し合っている。

 

「……イッチ」

「……なに」

 

 隅から微動だにしない一矢。

 携帯端末を見やれば影二や厳也達から励ましのメールが来ているのだが、今はそれを見ようと言う気にはなれなかった。そんな一矢の隣に夕香が静かに座り込む。

 

「……なんでもない」

 

 そのまま隣の一矢に身を預けるようにもたれる。

 下手な慰めの言葉を一矢は嫌う。

 今はなにも言わない方が良い。だがそれでも一矢を心配する存在はいるのだと言うかのように夕香はその肩に寄りかかるのであった。

 

 ・・・

 

「一矢君、改めてありがとう。私をあそこまで連れて行ってくれて……」

 

 祝勝会もお開きとなり、自身のトイショップの前でミサは一矢と夕香を見送ろうとする。しかしその前にミサから改めてここまでの道のりを振り返って、礼を言われる。

 

「……俺は……アンタの為になれたか?」

「……十分すぎるよ、私には勿体ないほど」

「……そんなこと……。アンタがいるから俺は戦えた。……きっとこれからも」

 

 いつも以上に口数が少なかった一矢が口を開く。

 一矢の問いにミサは自嘲気味な笑みを浮かべて視線を俯かせると、一矢はそれを撤回させるように否定する。

 

「……ありがとう、それじゃあ一矢君、夕香ちゃん、またね」

「……うん、ミサ姉さんもおやすみね」

 

 一矢の言葉は純粋に嬉しいが、それでも自分の心には靄のようなものがあった。

 そのまま二人を見送ると夕香が軽く手を振って一矢と共に帰路につこうとする。

 

「なぁ一矢」

 

 その前に祝勝会に参加していたシュウジが声をかける。

 一体なんだと言わんばかりに一矢と夕香は背後のシュウジを見やる。

 

「ちょっと面貸しな」

 

 ここで話す事ではないようだ。

 シュウジが顎先である方向を指すと、一矢と夕香は互いに顔を見合わせながらでも、シュウジの言葉通りついていく。

 

 ・・・

 

 一矢と夕香が連れてこられたのにブレイカーズであった。

 もう今日の営業は終了しているがシュウジは裏口を案内すると事務所に入る。

 

「……一矢君、祝勝会は楽しめたか?」

 

 事務所を通り、店内に足を踏み入れる一矢達。

 窓から指す月明りだけが照明代わりとなる中、そこには如月翔が待っていた。

 

「……っ……。翔さん……その……俺……」

 

 翔の顔を見た瞬間、肩を震わせる一矢にその震えを和らげるように翔がその肩に触れる。そうする事で一矢の体の震えは少しは収まった。

 

「アイツ……強かったです……。態度はムカつきましたけど……俺が試合の直後だったとかそんな風にも思えないくらい……圧倒的で……」

「……」

「俺……覚醒する事が出来てから色んな事を体験しました……。色んな奴とバトルしました……。それで得た経験すらアイツの前では意味をなさなかった……。今まで積み重ねていた物が簡単に崩れたみたいでした……」

 

 あの刹那の時でさえ、あの白いガンダムのファイターの実力を知った一矢。それはあまりにも桁外れな実力の持ち主だと理解するには十分であった。ポツリポツリと話す一矢に翔は相槌を打ちながら黙ってその話を聞く。

 

「正直に言えばショックです……。でも……またアイツと戦ってみたいって思える自分もいるんです」

 

 一矢の言葉に夕香は驚く。

 てっきり一矢は落ち込みそれこそ挫折したのかもしれない。そう思っていたからだ。

 しかし対照的に一矢と向き合っている翔と後ろで商品棚に寄りかかって腕を組んで話を聞いていたシュウジの口元には笑みが。

 

「こんな事、去年の俺だったら考えもしなかった……。また何かを言い訳にして目先の事から目を背けてたかもしれない……。でも今は……!」

「……そうだ。今の君は違う。そしてこの先の未来の君もまた今とは違う君だ」

「お前が経験したことは、常にお前がお前にしかなれない自分自身を作り出すんだ」

 

 ミサに出会う前の自分は目先の事も本当にしたい事からも逃げて腐っていた。

 だが今は違う。様々な人物に出会った。色んな刺激を受けた。それが去年とは違う自分を作り上げた。その事に翔とシュウジは頷く。

 

 

 

「俺……初めてコイツの為にもバトルがしたいって思える奴に出会えたんです……。

 

 

 俺……ソイツとこれからも前に行きたい……。もっと強くなりたい……!

 

 

 強くなってあの時のアイツさえ超えて、

 

 

 翔さんやシュウジにも届きたいッ!!

 

 

 2人みたいに強くなりたいんだッ!!」

 

 

 

 一矢の心に浮かぶ少女の姿。そして目の前の目標となる二人の青年に少しでも届くようにと己の想いを強く口にし、その言葉に満足そうに笑いながらシュウジは翔の隣に立つ。

 

「常識を破壊し、非常識に戦う」

「友と戦い共に討つ」

「「ブレイカー(俺達)に続けるかは君(お前)次第だ」」

 

 翔とシュウジはそれぞれまっすぐ一矢の瞳を見据えながら期待の言葉を送る。

 きっと今の一矢ならば遠くない未来、如月翔やシュウジに続く新たな彼だけのブレイカーになれる筈だ。

 

「翔さん……これ……」

 

 2人の言葉に強く頷いた一矢はゲネシスが収納されているケースから翔からもらったGNソードⅢを取り出して翔に差し出す。

 

「……俺はあのジャパンカップの決勝を経てスタートラインに立ちました。早速躓いたけど……でも……ゼロからスタートする為に……自分自身でまた色んな経験をして、俺だけにしか作れない物を作りたい……。だから……これは翔さんにお返しします」

「……ああ。君にしか作れないモノを……。君だけが持てる誇り(プライド)をこの先の未来に何度もぶつけるんだ」

 

 ガンダムブレイカーⅢは翔の助言と手伝いを経て、そしてこのGNソードⅢはそんな翔から贈られた大切な物。

 だがこれを手放すことで、自分自身の決意を表す。

 そんな一矢の決意に触れ、嬉しそうに微笑を浮かべながら頷いた翔は一矢からGNソードⅢを受け取る。

 

 ・・・

 

「一矢君は強くなっているな……」

「アイツは着実にその目に映したことを糧にしています」

 

 一矢と夕香がいなくなったブレイカーズの店内では壁に寄りかかった翔とシュウジが話していた。月明りが二人を照らす中、その話題となっているのは一矢だ。

 

「アイツの傍にはアイツを支える存在が一杯いるんです。アイツの前に進もうとする姿を知っている存在が……。だからこそアイツは強くなれる……。自分自身を支えてくれる存在が傍にいる……。こんなに心強いことはないでしょう」

「……そうだな。人の心の中には弱さが必ず住み着いている……。でも、その心の中にこそ自分自身を強くしてくれる力が秘めている……。単純な実力だけじゃない、彼はきっとこれからも強くなれる」

 

 自分達を含めて一矢の周囲にいる人々はきっとこれからも彼を支えていくだろう。

 二人で自分達を照らす月を眺めながら、一矢の可能性を感じる。

 

「シュウジ、付き合ってくれるか? 今日はめでたい事があった。飲みたい気分なんだ」

「奇遇っすね。俺もですよ。楽しい酒が飲めそうだ。何に乾杯します?」

 

 ゆっくりと体を起こしながら翔は裏口に向かうために歩き出すと、シュウジを飲みに誘う。

 翔からの誘いに嬉しそうな笑みを浮かべながら、その後に続くシュウジは彼の背中に問いかける。

 

「俺とお前に続くであろう三人目に、かな」

 

 翔の掌にあるGNソードⅢ。

 それを見つめながら翔は微笑む。最初は自分に憧れる少年の一人だった。

 だが今は振り返れば、遠くない場所にいる存在となった。一矢への期待を膨らませながら翔とシュウジは夜の街に繰り出すのであった……。

 

 ・・・

 

「ははー……あぁいうイッチって珍しいよねー」

「……悪い?」

 

 ブレイカーズからの帰路を雨宮兄妹が歩きながら、

 先程の一矢の姿を思い出しながら軽く笑っている夕香にどこか照れ隠しのように不貞腐れた様子を見せる。

 

「そりゃちょっと青臭いかなーとは思ったけどさ、でも格好良かったよ」

「……うっさい」

 

 一矢の横顔を見ながら笑いかける。

 珍しく上機嫌に自分に接してくる妹の褒め言葉を素直には受け止められず、そっぽを向きながら答える。

 

「ただいまー」

 

 そうしていると漸く家に帰ることが出来た。

 一矢が玄関の扉を開ける中、その横を通り過ぎて夕香が玄関に足を踏み入れる。

 

 

「あら随分遅かったですわね。あぁそうそう、お風呂はもういただいておりますわ」

 

 

 リビングのドアを開けて廊下に出てきた人物。

 この家では絶対にない金髪の髪を揺らし、言葉通り風呂上りなのか顔を上気させ、ワンピースのような寝間着を着たシオンが当たり前のようにそこにいた。

 

「……もしもし警察ですか? ウチに不法侵入の不審者がですね──」

「ちょい待ちですわっ! マジで電話するのは止めなさいなっ!!」

 

 夕香の行動は驚くほど速かった。

 迷うことなく携帯端末を取り出し、110番に通報しようとすると慌てて近づいたシオンは夕香から携帯端末を引ったくり、本当に電話していることに驚きながらも何とか通話を終える。

 

「どういう神経してますの!? 人の顔を見て即通報とは?!」

「……いや、ついにストーカーにでもなったのかな、と……」

 

 夕香の携帯端末を押し付けるように返しながらあまりの理不尽な対応にシオンがぷんぷんと怒っていると、夕香は今でも疑っているのであろう、疑惑の視線をシオンに送る。

 

「あり得ませんわ! わたくしがこのお宅にお邪魔しているのは……っ!!」

「おっ、早速仲良くやってるな」

 

 あくまでストーカーではなくライバルという認識でいるシオンは憤慨して、この家にいる理由を明かそうとすると、話し声を聞いてやってきた一矢達の父親が話に入る。

 

「ちゃんと紹介しないとな。この夏休みに留学してきたシオン・アルトニクスさん。ウチでホームステイとして暫く面倒見る事になったから」

(賑やかになるってそういう……)

 

 父親からちゃんとした説明をされ、決して不法侵入したわけではないと自慢げに「フフン」と鼻を鳴らすシオンを見ながら、一矢は父親に言われたあの言葉を思い出す。

 

「嘘でしょ……」

「リアルですわ」

 

 しかし問題は夕香であった。

 シオンを見て愕然としている。この女と一緒にいては自分の日常が崩壊する、そんな予感をひしひしと感じるのだ。しかし悲しい事にシオンから現実を叩きつけられる。

 

「あなたの名前と出身を聞いて、絶対にわたくしがお世話になるお宅のご家族と思いましたの。わたくしがたまたまジャパンカップで会った人物をライバル認定すると思っていて? わたくし、そこまでチョロくはありませんわ」

 

 そして告げられるライバル認定の理由。

 確かにあの際、妙な質問をされたがまさかこんな事になるなどと、想像できるはずがない。

 

「改めてシオン・アルトニクスと申します。しばらくの間、お世話になりますわ。どうぞよしなに」

 

 お嬢様らしくワンピースの両裾をつまんで軽く会釈をする。

 別にいようがいまいがそもそもそこまでシオンにかかわる気はない一矢からすればどうでも良いのだが……。

 

「嘘だ……嘘だぁーっ……」

(コイツのこんな姿初めて見た……)

 

 現実を受け入れられない夕香は頭を抱えている。

 正直、ここまで動揺している夕香など初めて見た。しかし夕香からしてみれば、これから四六時中、シオンに絡まれる未来しか見えず、今の自分の日常が崩れる音が聞こえているのだろう。あまりの姿に一矢は表情を引き攣らせるのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セルリアン

「あら、道具が足りないですわね」

 

 ジャパンカップから数日後の朝。雨宮宅のリビングでジャパンカップ限定品のトールギスⅡを作成していたシオンは手元の持参したプラモ用の器具を見ながらおもむろに声を上げる。近くのソファーでは夕香がファッション雑誌を読んでいた。

 

「困りましたわね……。このままでも仕上げられますがそれではやはり……」

「……」

「参りましたわねぇ……。買いに行くにもわたくしはこの辺りの地理に詳しくありませんのに……」

「……」

 

 どこかわざとらしく大っぴらにするかのようにオーバーなリアクションでため息をついたり首を振ったりするシオン。

 しかしそんなアクションをする度、夕香は関わりたくないと言わんばかりに少しずつ雑誌で顔を隠していく。

 

「ああぁぁー……どこかにわたくしを最寄りのトイショップに案内してくれる方はいらっしゃらないのかしら……チラッ……。このままではトレーズ閣下のエレガントさが出せませんわ……チラッチラッ」

「……はあっ……」

 

 両手を組んで天を仰いで悲運を嘆くが、その目はちょくちょく夕香を見ている。

 ついに観念したかのようにため息をついた夕香は持っていた雑誌を下ろすのであった。

 

 ・・・

 

「聞いて聞いて!!」

「なんだよ、朝から元気だな」

 

 彩渡商店街のトイショップには彩渡商店街ガンプラチームの面々が集まっていた。

 そんな中、ミサが慌ただしく、しかし嬉しそうな様子で駆け込んでくる。あまりの騒々しさにどこか呆れながらカドマツが応対する。

 

「世界大会の招待状が来た!!」

 

 ぐっと笑顔で両手に持ったとある郵便物を見せてきた。

 にわかに信じられない様子のカドマツはそのままひょいっと取って内容に目を通す。

 

「こりゃ凄い。会場は宇宙エレベーター。しかも決勝は静止軌道ステーション! 当然参加だろ!」

「当然だよ!」

 

 確かに内容は世界大会の招待状であった。

 カドマツが興奮した様子で一矢やミサに問いかけると、当たり前だと言わんばかりにミサは大きく頷く。

 

「──それは良かった」

 

 そんな和気藹々とした空気の中、入口の方から冷やかすかのような声が聞こえる。

 目をやれば、そこには日本に滞在中のウィルがいた。

 

「えっと……どちら様?」

 

 いきなり話に入られたが、ミサや一矢からすれば全くの面識がない。

 しかしカドマツだけが驚いたような表情を浮かべる中、ミサがおずおずと対応する。

 

「やれやれ……商売敵なのに顔も知らないのかい?」

「タイムズユニバースCEOだな」

 

 首を振りながら嘆息する。

 眉を上げ、明らかに呆れてますと言わんばかりの態度をとるウィルに横からカドマツが厳しげな様子でウィルの素性を口にする。

 

「え!? なんでこんなところに!?」

「こっちに作った百貨店が振るわないんでね。視察だよ。こちらは僕の秘書のようなものだ。ドロシー、挨拶を」

 

 カドマツの言葉を聞き、ミサは目を見開いて驚いている。

 まさに言葉通りなのだろう。しかしウィルにもちゃんとした理由があってこの場に来ていた。彼はそのまま背後に控えるドロシーを紹介する。

 

「お初にお目にかかります、ドロシーと申します。ウィル坊ちゃまが尊大な態度で極めて不愉快でしょうが何卒ご容赦ください。わたくしの顔に免じて何卒」

「ドロシー?」

「は、わたくし初めての日本で少し浮かれているようです」

 

 紹介に預かったドロシーは前に出て手を組みながら中々ウィルに対して棘の物言いを交えて挨拶と共に頭を軽く下げると、ウィルからは何を言っているんだと言わんばかりに微妙な顔で声をかけられる。

 ウィルの横にすっと移動しながら、実際はどうなのか、その様子や声色からは分からない態度でドロシーは答える。

 

「さてお嬢さん、一つ勝負をしようか」

「勝負?」

 

 気を取り直して再びミサを見据えながら提案をする。

 しかしウィルと何の勝負をするのか意味が分からないミサは首を傾げる。

 

「奇遇にも僕も世界大会の招待状を持っている」

「なんで!? タイムズユニバースはガンプラチームなんて持ってないでしょ!?」

「うちの一部門に宇宙事業があるんだ。宇宙エレベーターにも出資している。まぁそんな縁があって、ちょっとお願いしたのさ」

 

 ウィルが懐から出したのは紛れもなく先程ミサが見せていた招待状と同じものであった。

 だが知る限り、タイムズユニバースにガンプラチームはない。

 そのことを問いかけるミサにウィルは薄ら笑いを浮かべながら、コネを利用したことを口にする。

 

「それで僕が勝ったら……この商店街、立ち退いてほしいんだが」

「そんな勝負、受けるわけないでしょ!!」

「お嬢さんは別に出なくて構わないよ。僕が戦いたいのはそこのやる気のなさそうな君らのエースだ」

 

 ウィルの提案など受け入れられる訳がなく突っぱねるミサだが、ウィルはミサを眼中にもない様子でその後ろの作業ブースで我関せずに頬杖をついて話は聞いていた一矢を見やる。

 

「こないだのエキシビション……。君はチャンプとの戦いで消耗していた。全力だったらあんな事にはならなかった……。なーんて言い訳されるのも面白くない。だからさ、もう一度バラバラにしてあげるよ」

「なっ……!? アンタ、まさかあの時のガンプラ……!?」

 

 やる気のなさそうで悪かったな、と腹の中で思っていた一矢だが口角をあげ歪な笑みを浮かべたウィルの言葉に一転して表情が変わる。

 その言葉は紛れもなくジャパンカップのエキシビションマッチについて。あの白いガンダムのファイターの正体に気づいて、ミサは唖然としている。

 

「受けてくれるよね? まあダメならこの辺一帯を即金で買い上げる事も出来るけど」

「……別に。言い訳する気もないし逃げるつもりもないけど」

 

 半ば脅しのような事を言い放つが、そもそも一矢にとってしてみれば願ってもない好機。ゆっくりと立ち上がりながらウィルの目を見て答える。

 

「それじゃ宇宙エレベーターでお会いしよう。ドロシー帰るぞ」

 

 一矢の返答を聞いて満足そうに頷いたウィルは背を向け軽く手を上げると、ドロシーに声をかけてトイショップを出て行く。

 

 ・・・

 

「おや、失礼」

 

 店から出たウィルとドロシーだが、店の外には夕香とシオンがいた。

 ここに来た理由はやはりシオンのせいだろう。店の扉の近くに話を聞くかのように寄りかかっていた夕香に驚きながらも去ろうとするが……。

 

「……ん? 君、もしかして店の中にいる男の血縁者かい?」

「妹だけど」

 

 夕香の顔を見て、その髪色や瞳の色などどこか一矢の面影を感じたウィルがそのまま話しかけると、夕香はあまり話をしたくないと言わんばかりに小さく答える。

 

「へぇそうかい。現実を見せちゃってお兄さんには悪いことをしたね」

 

 口元に軽薄な笑みを浮かべながら、そのまま夕香にさえ悪びれる様子もなくちょっかいを出す。その言葉に今まで俯いて表情が見えなかった夕香がピクリと反応する。

 

「いやいやー。ま、ウチの兄貴も気にしてないみたいだからさ」

「そうかい。それじゃあね」

 

 顔を上げた夕香はにっこりとした笑みを浮かべながら答えると、ウィルはチラリと一矢がいるであろう入り口の方角を見やりながらその場を後にしようとするが……。

 

「そーいえばさ、昔、アメリカでガンプラバトルをしてた一人の男の子が最高のバトルだったモノをぶち壊しにされたって話を聞いたんだよねー」

「……」

「なんか最近もジャパンカップで似たような事があったよねー。すっごい大事で楽しかったバトルだったのに、ぶち壊しにされてさー。その男の子だったら、その気持ちがどんなものなのか分かると思うんだけどねぇ」

 

 ウィルが去ろうとした瞬間、わざとらしく大きな声を上げた夕香の言葉の内容に反応したウィルが立ち止まる。そんな姿を尻目に夕香はそのまま言葉を続ける。

 

「あぁごめんごめん。独り言だから気にしないでよー」

 

 立ち止まっているウィルににっこりと微笑みながら立ち止まらせた事を詫びる。

 だが夕香が浮かべる笑顔は貼り付けたような笑顔であった。ウィルは肩越しに夕香を振り返るとそのままドロシーを引き連れて歩き出す。

 しかしウィルの表情は険しく、その心中には様々な想いが渦巻いているのが見て取れた。

 

 ・・・

 

「で、どうすんだよ。ウィルはウチのエースと戦えれば良いってよ」

「……なにが言いたいの?」

 

 ウィルとドロシーがいなくなったトイショップではカドマツがミサに先程のウィルとの話について話題を出すと、その言葉の意味にミサは顔を顰めながら問いかける。

 

「ウチのチームのエースは嬢ちゃんだって言ってなかったか?」

「そんな昔の事、持ち出さなくても……。私、ここ最近、たいして何もできなかったのに……」

「だからエースはこいつで良いってのか? こいつだって何も出来なかっただろ? 一瞬でバラバラ」

 

 かつてタウンカップの祝勝会で調子に乗ったミサの発言を引き合いにされ、今更話題を出されると思ってなかったミサはここ最近の自分のバトルを思い出しながら視線を伏せると、その様子を見たカドマツは顎で一矢を指す。

 

「でもコイツは逃げないよなぁ、強ぇ相手が出てきて、ちょっとワクワクしちゃってるよなぁ。今度やっても負けるかもしれねぇけど、商店街とかぶっちゃけどーでも良いよなぁ!!」

「なんで……なんでそんなこと言うの!?」

「勘違いしてるかもしれないから言っとく。商店街をどうにかしたいのは嬢ちゃんだ、俺達じゃない。本気でここを守りたいなら嬢ちゃんが突っ張んねーでどうすんだよ」

 

 どこかミサを挑発するようなカドマツの物言いにミサはカドマツに突っかかろうとする。しかし途端に真剣な面持ちで放たれた言葉にミサは留まってしまう。

 

「……わたし、しばらく留守にする!!」

 

 ミサの拳が握られる。

 様々な葛藤があるのだろう、ミサは途端にトイショップを飛び出す。

 

「まったくよぉ、エンジニアの仕事じゃねぇての」

 

 ミサが出て行った入口の方を見やりながら、やれやれと言った様子で肩を落とすカドマツ。たまらず一矢が笑みをこぼす。何となくであるがカドマツの意図を察していたのだろう。

 

「ロボ太の方は俺に任せろ。後はお前さんだ。近々小規模だが国際大会のツアーが開かれる。お前さんだってもっと強くならなきゃいかんだろ」

 

 ロボ太の兜を撫でながらカドマツは一矢を見やる。

 そう、カドマツの言うように近々、外国で国際大会が行われる。カドマツの促しに一矢も出場するつもりなのだろう、頷く。

 

「おっ、いたいた」

 

 すると入り口の方から来客を知らせる音が響く。

 一矢達が見やればそこにはシュウジとカガミの二人がいた。

 

「……どうしたの?」

「強くなりたいって言ってたよな。だから俺達も手を貸そうと思って来たんだ」

 

 何故わざわざ、この二人が来たのか?

 首を傾げて尋ねる一矢に、先日のことを思い出しながらシュウジは軽く笑って答える。

 

「ロボ太の調整は俺も手伝うぜ。知識はそれなりにあるし、テストにも協力できるぜ」

「本当か? そりゃ助かる。アンタ相手だったら俺も全力で調整が出来そうだ」

 

 シュウジはロボ太に合わせてしゃがんで、カドマツに協力を申し出る。

 シュウジは異世界においてMFに乗ったりと一応のメカニックの知識はある。

 それは無駄にはならない筈だ。それにテスト相手にもなれる。シュウジの実力を知っているカドマツはやる気を漲らせながら頷く。

 

「そういうわけだ。よろしくな、ロボ太」

 

 ロボ太に向かって握手を求めるように手を差し伸べる。

 その姿に喋れないロボ太でも意思表示をするようにシュウジの握手に応える。

 

「……えっ……。ロボ太、は? 俺は……?」

「アナタには私が付くわ」

 

 シュウジの言動はロボ太だけにしか聞こえない。

 強くなるならば自分の相手はどうすると言うのだ。その事を口にする一矢に横からカガミが声をかける。

 

「……アナタとまともに話すのはこれが初めてね。カガミ・ヒイラギよ。翔さんやシュウジから貴方の話は聞いている……。それなりに期待しているわ」

「あっ……はい……」

 

 カガミを見る一矢。

 かれこれ何度か顔を合わせた事はあるが、まともに接するのはこれが初めてだ。サイドテールを揺らし、澄ました表情はクールな印象を受ける。

 

「……何でわざわざ……?」

「……私のチームは完全に纏まるまでが大変だった。貴方のチームも今が正念場。だから同じくチームを持つ者として背中を押しに来たの。それに貴方の事は翔さんからも任されているのよ」

 

 おずおずとここまでしてくれようとするカガミ達にその理由を尋ねると、ふとカガミは懐かしむように過去の事を思い出しながら、また翔のことも踏まえて話す。

 

 ・・・

 

「カガミ、君に一矢君を任せたいんだ」

「……私が、ですか」

 

 それは先日のことであった。

 翔のマンションにて翔とカガミはソファーに向かい合って座りながら話をしている。話題は一矢のことであった。

 

「カガミ、君は過去にチームを任された際、リーダーの重圧を感じていた。だからこそ、あれからリーダーとして幾多の戦いを越えて来た君が見出したものを一矢君に教えて欲しいんだ」

 

 ・・・

 

(さて、どうなるものかしらね……)

 

 翔さんが……と考えている一矢を見ながら、カガミもまた思考を巡らせる。

 翔は過去に自分に色んな事を教えてくれた。言わば師弟のような関係でもある。今度は自分の番となった事にカガミも手探りのような状態だ。

 

「ん? そういや、もしかして嬢ちゃんには……」

「ああ、ちゃんと俺達のチームの一人が付いてるぜ。ここに来る前に走ってくのが見えて追いかけて行ったから今頃、合流してんじゃねぇかな」

 

 ロボ太にはシュウジ、一矢にはカガミが付いた。

 ではミサにも付くのだろう。この場にはシュウジとカガミはいるがもう一人はいない。その事を口にしたカドマツにシュウジは笑みを浮かべる。

 

 ・・・

 

「何故、追いかけましたの?」

「だってミサ姉さんが凄い顔して飛び出してったし……」

 

 商店街からほど近い公園のベンチではミサが俯いて座っている。

 それを物陰から見ているのはシオンと夕香だった。

 

 早くエレガントなガンプラを作りたいシオンは辟易している中、どう声をかけるか夕香は悩む。トイショップでの話は聞いてしまったし、祝勝会の時からミサが一矢に対して様子がおかしかったのは知っているからだ。

 

「あれ……」

 

 しかしそんなミサに近づく女性がいた。

 艶やかな黒髪は見惚れるくらいに美しく思わず触ってしまいたくなるくらいの魅力がある。夕香はその女性を見た事があった。

 

 ・・・

 

「ミーサちゃんっ」

「わぁっ!?」

 

 ベンチで思い悩んで座っていたミサの頬に声をかけられるとともに冷たい感触を味わう。飛び退いて見てみれば缶ジュースを持っていたヴェルがそこにいた。ヴェルはミサに缶ジュースを渡しながら、その隣に座る。

 

「ねぇミサちゃん。一矢君との距離をどう思ってるかな?」

 

 ミサの隣に座ったヴェルが遠巻きを見ながらミサが感じる一矢との距離感について問う。前置きはなしにした単刀直入の話だ。

 

「……どうって……。私には届かないくらい遠くて……。結局、チームって言っても一矢君一人が凄くて……。私なんか……」

「ミサちゃんはそれで良いの?」

「良い訳ない! 私が強くならないといけないし、私自身が商店街を守らなきゃいけない! いつまでも一矢君の後ろにいたくなんてない!! だって一矢君とこれからもバトルしたいからッ!!!」

 

 一矢との距離は凄まじく離れている。

 その距離を埋めるには並大抵の事ではないだろう。

 

 それを実感して段々とまた俯いていくミサにヴェルがその横顔を見ながら問いかけると、バッと跳ねるようにヴェルに反論する。今のままで良いわけない。それを一番今実感しているのはミサだからだ。

 

「私ね、ミサちゃんの気持ち、分かるよ」

「えっ……?」

「私のチームはね、凄い人ばかりなの。カガミさんもシュウジ君も気が付けばどんどん前にいるような人……。私なんかが……って思った時もあった。自分がどうすれば良いかも分からず見失いそうにもなった……。それでも私はあの二人と一緒に前に進みたかった。私はあの二人を支えて守ろうと思った。シュウジ君もカガミさんも見てて危なかっしい所があるから……。その為に強くなろうとした」

 

 そんなミサの想いに触れ優しい笑みを見せたヴェルはベンチの背もたれに身を預けながら空を仰ぐ。

 

 とても綺麗な青空だ。

 だがミサにはヴェルの言葉が今一分からなかったが、ヴェルの口からその意味が語られる。しかしその言葉はミサには驚きだ。何回か見たおかげでヴェルの実力は知っているからだ。

 

「ミサちゃんが欲しいのは守るための強さだと思うんだ」

「守るための強さ……」

「うん、商店街を……そして一矢君を」

 

 ゆっくりとミサに向き直って話す。

 ミサが自分に言い聞かせるように呟いた言葉に頷きながら彼女の手を取る。ヴェルの手はほんのり温かく、安心感さえ感じてしまう。

 

「欲しい……。私、その強さが欲しい!!」

「うん、見つけよう。その強さを。ミサちゃんだけが手に入れる守る強さを」

 

 もう一矢の背中の後ろにいるのは嫌だ。

 自分はもっと前に出る。彩渡商店街も一矢も全部、自分が守るんだ。その言葉に満足そうにヴェルは頷く。

 

「大丈夫。何かを守りたいって気持ちに限界なんてないよ。ミサちゃんがそう思えば思うほど強くなれる。だから一緒に探しに行こう」

「はいっ!」

 

 ヴェルは立ち上がミサの前に移動すると笑いかけながら手を差し伸べる。

 青空を背に手を差し伸べるヴェルを眩しそうに見ながらも応えるようにその手を掴んで立ち上がりながらミサも笑う。

 その様子を遠巻きで見ながら夕香は安心したように急かすシオンに腕を掴まれながら、その場を後にするのであった……。




第五章はこれで終わりです。次章はそれぞれ三部構成のようになっております。
ですがその前に長期になったジャパンカップ編を書き終えガス欠状態になってまして、またちょっと充電期間を頂こうと思います。具体的には残りのDLCをプレイして、他の書きたい小説や絵を描いたりと。

っていうか、もっと言えばガンプラを作りたい感じなのです。たまたま感想の方でその話をする事があったので、ずっと衝動に襲われてました(今、一番作りたかった1/100ガンダムヴィダールが近場のガンプラ取扱店から根こそぎ消えていただと…)

とりあえず営業終了する前にガンダムフロント東京にもまた行かなきゃいけなかったりと充電完了するまで次の更新は未定ですが、忘れられないうちにそのうちまた伸び伸びと更新はするつもりです。申し訳ありませんが少々お時間をください。

後、ホワイトデー用のアンケートを近々活動報告に書いておく予定なので良ければまたご協力をお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六章 遠く離れても輝く進化の光


「やっぱ近接戦闘じゃ歯が立たんなぁ……」

 

 ハイムロボティクスの試験スペース、ここにはガンプラバトルシミュレーターも置かれている。

 この場ではモニターに映るガンプラバトルの映像を見ながら、カドマツがため息交じりに呟いていた。

 モニターにはバーニングブレイカーとFA騎士ガンダムのバトルの様子が映し出されているわけだが、バーニングブレイカーに手も足も出せず連敗が続いている。

 

「最近、一矢ばっかの相手してたからな。新鮮で良いぜ。中々、やるようになってるしな」

「そりゃ嫌味か? 毎回手も足も出ないんじゃエンジニアとして自信がなくなりそうだ……」

「今でも十分だと思うけどなぁ……」

 

 シミュレーターから出てきたシュウジは同じく出てきたロボ太の頭部を軽く撫でながら口を開くと、今の発言を聞いたカドマツは顔を顰めながら僅かに落ち込んだ様子を見せる。

 いかんせんシュウジの実力はカドマツの予想以上であり、調整をする度にその上を行くバトルをするシュウジに何度も何度もロボ太の調整をする毎日だ。頭を抱えんばかりのカドマツに苦笑しながらデータを見つめるのであった。

 

 ・・・

 

(イッチが海外に行って、もうすぐ一週間か……)

 

 一方、雨宮宅。ソファーに寝転がっている夕香は足をぶらぶらと動かしながら、手に持っている携帯端末に映る日付を見ながらもうこの家にはいない一矢へ思いを馳せる。

 まさか兄がわざわざ海外に行くほどの行動力を見せるとは聞かされた時は驚いたものだ。

 

『もしもなんかあったらよろしく』

 

 兄は家を出る際、自分にこう言って来た。

 漠然とした言葉であったが、現状、特に何かがあると言うわけではない。ただただ何て事のない日常が過ぎていくだけだ。

 

「アップルティーを淹れましたの。いかがかしら」

「……ありゃ……1時間もなんかやってると思ってたら、アップルティー作ってたの?」

「30分ないし1時間は蒸らす時間は必要ですの。さっ、お好みで蜂蜜を入れてどうぞ」

 

 暇を持て余している夕香にキッチンからやって来たシオンが声をかける。

 トレーの上には人数分のティーカップと小瓶、そしてシオンが用意したジャンピングティーポットの中にいちょう切りにカットされたリンゴ入りの蒸らした紅茶が入っていた。

 おもむろに体を起こしながら夕香が視線を向けるとシオンはテーブルの前に腰掛けて、夕香の前にティーカップを置き、ティーウォーマーに乗せたジャンピングティーポットからゆっくりと紅茶を注ぐ。

 

「……なんかこうしてるとホントにお嬢様みたいだね」

「みたいじゃなくて良家の娘ですのよ。必要な教養は全て受けておりますし、乗馬、ダンスなども嗜んでおりますのよ」

 

 シオンの印象と言えば、やたら絡んでくる面倒臭い人というのが夕香の印象だ。しかしそんな印象のシオンも今、ティーカップに注がれたアップルティーを静かに口に含んでいる姿はその動きだけでも気品があり、教養を感じられる。思わず言ってしまった夕香の言葉にシオンは自慢げに鼻を鳴らす。

 

「じゃあ何でガンプラバトルなんて始めたの?」

「楽しそうだからに決まってるじゃありませんの。お姉さまが遊んでいたのを見ていて面白そうでしたので」

「お姉さんいるんだ……」

 

 まさにお嬢様のシオン。しかしそんなお嬢様のシオンがわざわざガンプラひいてはバトルを始めた理由を問いかけると、何を言っているんだとばかりに笑ったシオンに声をかけられてしまう。そう言われたらそうなのだがここで初めてシオンに姉がいる事を知る。

 

「美味しい……」

「当然ですわ。わたくし全てに拘って用意したのですから。用意したリンゴ次第で甘くも酸っぱくもなりますのよ」

 

 夕香はアップルティーを口に運ぶ。リンゴの甘い香りが鼻をくすぐり、一度飲んでみれば程よい甘味が口の中に広がる。

 思わず感嘆したような様子の夕香にシオンは自慢げに鼻を鳴らす中、夕香はシオンが用意した蜂蜜を適量でアップルティーに入れる。

 

 ゆったりとした時間が流れていた。

 中々心地の良い時間だ。必要以上にシオンが絡んでこなければ何て素晴らしい時間なのだろう。そんな時間が流れているとふと夕香の携帯端末に着信が入る。相手はコトであった。そのまま応答する。

 

≪あっ、夕香ちゃん。ちょっと時間良いかな? 実は今、彩渡町にいるんだけど……≫

 

 アイドル活動をしていて多忙なコトが何故、わざわざ? そんな疑問があったが何とコトは今、彩渡町に来ているとの事だ。暇を持て余している夕香はコトに呼び出される。

 

 ・・・

 

「あっ、夕香っ!」

 

 コトに指定されたのはタイムズ百貨店であった。

 指定された場所はかつてガンプラバトルロワイヤルが行われた場所だ。何やら作業服を着た人々がガンプラバトルシミュレーターの調整をしている。敷居が設けられており、その外にいた裕喜や秀哉達が夕香に気づいて、手を振る。

 

「なにこれ?」

「私が説明するよ」

 

 適当に挨拶をしながら夕香はシミュレーターの作業を見やると、背後から声をかけられる。それは紛れもなく呼び出した張本人であるコトであった。

 

「実はね。この前のバトルロワイヤルが好評でまたガンプラ大合戦として行われる事になったの。両軍に別れて行われるチーム戦なんだ。私もまたゲストで呼ばれたんだけど、今回は私もガンプラバトルにも参加するから、そこでこの町にいる夕香ちゃん達にも参加してほしくて」

「夕香はこの間、赤い彗星のガンプラに一撃を与えたし注目はされてるしな」

 

 コトからの説明を受ける夕香。どうやらまた再びこの場で大規模なガンプラバトルが執り行われるようだ。以前のガンプラバトルロワイヤルに夕香と同じく参加した秀哉は夕香に笑いかける。

 

「まぁ暇だし良いかな」

「はいはーい! じゃあ私も参加するっ!!」

 

 どうせ暇なのだ。良い暇つぶしにはなるだろう。

 様子を見る限り、秀哉なども参加するつもりだろう。夕香はガンプラ大合戦に参加する事を了承すると裕喜が手を上げながら自己主張する。

 

「夕香やお兄ちゃんがガンプラバトルしてるところはずっと見てたけどすっごい楽しそうだから私もやりたいっ!」

「そう言えばこの間、グシオンリベイク作ってたね……」

 

 一同が驚く中、そのまま手をぶんぶんと振りながら、晴れやかな笑顔を浮かべながらその理由を口にする裕喜。

 思い返して見ればジャパンカップでガンダムグシオンリベイクのガンプラを作っていたのはその兆しなのかもしれない。それを思い出し貴弘は苦笑する。

 

「裕喜もそうだけど、コトはガンプラバトルやった事ないんじゃないの?」

「私はお兄ちゃんやサヤさんに教えてもらう予定だよ」

「私も大丈夫! お兄ちゃん達に教えてもらうから!」

 

 ふと夕香は全く経験のない裕喜やコトがそれこそ大規模なバトルに参加して大丈夫なのか問いかける。

 コトに関しては初対面の時から不器用だと言う事を知らされている。それに関しては心配しなくていいのか、コトと裕喜はそれぞれ答える。

 

(まなみん達とか炎達とかこの辺のガンプラファイターはみんな参加しそうだねぇ)

 

 以前のガンプラバトルロワイヤルも大盛況だったのだ。

 今回も大規模なものになるだろう。恐らくは自分の知り合いのファイターは参加するであろう事を考えながら夕香はその日の日程を確認するのであった。

 

 ・・・

 

「ふうん。集客率を高める為のイベントか。別に良いんじゃないかな」

「ありがとうございます」

 

 翌日、タイムズ百貨店の事務所ではウィルがこのタイムズ百貨店彩渡駅前店の支店長の息子である蘆屋淄雄(あしやくろお)からガンプラ大合戦の概要を説明されていた。

 

「まぁ最近じゃあ、あの寂れた商店街に売り上げも勢いも押されつつあるからね。僕もそのイベントの様子を見させてもらうが、僕の会社の名前を汚さないようによろしく頼むよ」

「……はい」

 

 用意された椅子から立ち上がったウィルは皮肉めいた笑みを浮かべながら、淄雄にプレッシャーを与えるような発言をすると、淄雄の頷きを見て今日はもう予定はないのか、そのままドロシーと共に事務所を出る。

 

「くそっ……いずれはアイツよりも俺が……」

 

 ウィルとドロシーが出て行った扉を見ながら、途端に悪態をつき始める。

 そのままイベントの参加者の名前が載っているリストに目を通せば……。

 

「……雨宮夕香……?」

 

 その中で夕香の名前を見つけた。

 夕香と言えば以前のガンプラバトルロワイヤルの参加者で名前を聞き覚えもあるが、それ以前に最近注目されているジャパンカップ優勝チーム彩渡商店街ガンプラチームの雨宮一矢の妹であると言う事を従業員の会話で聞いた事がある。

 

「気に入らないなぁ……」

 

 リストを持つ手に力がこもり、クシャリと音を立てて皺になる。

 破竹の勢いを見せる彩渡商店街のせいで売り上げも集客力も押されつつある。そのお陰で今ではウィルに皮肉を言われてしまう始末だ。どんどんと鬱憤が溜まる中でまるで憂さを晴らす術を見つけたようにその口元に歪んだ笑みが浮かぶのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界を涙が覆って

『今日は午後から雨が降るでしょう。傘の持ち忘れにご注意ください』

「最っ悪……」

 

 ガンプラ大合戦まで一週間余りがあるが、刻々と日にちは迫っていた。

 リビングで出かける準備をしていた夕香は何げなく見ていたテレビに流れる天気予報に憂鬱げにため息をつく。

 

「出かけますの?」

「知り合いが多く参加するみたいだから、アタシもちょっと調整がてらバトルでもしようかなってね」

 

 準備を終えた夕香にソファーで模型雑誌を読んでいたシオンが声をかける。

 ガンプラファイターは日々進歩するものだ。ガンプラ大合戦の日にちも迫る中、知り合いの前で醜態を晒すつもりはない。その為に調整をしようと言うのだ。

 

「ねぇ、アンタもあのイベントに参加するの?」

「わたくしが? 大合戦なんて少々、優美さに欠けますわね」

 

 シオンもまたガンプラファイターだ。

 ならばガンプラ大合戦にも参加するのっではないかと考え、話を振ったわけだが、名前は聞いているシオンは鼻で笑いながらやれやれと言った様子で肩を竦める。

 

「ま、まぁでもぉ? アナタがどぉぉぉぉしても参加して欲しいと言うのであればぁっ? ライバルとしてぇ?考えてあげないわけでもぉ?ありませんのよぉっ? まぁライバルのアナタの頼みであれば仕方なく? 仕方なぁぁぁぁくぅ? アナタや参加者にエレガントなガンプラバトルというものを教えて差し上げないわけでも───」

 

 雑誌を持つ手を震わせ、声を上擦らせながら何か期待するように視線を彷徨わせるシオン。しかしいくら言葉をまくし立てようが、一向に夕香からの反応はなく聞こえるのはテレビの音声だけだ。

 

「あれぇー……?」

 

 雑誌を下して周囲を見れば、もう既に夕香はこの場にはおらず、遠巻きに玄関の開閉音と去っていく足音が聞こえるのみだ。

 テレビの音声と夕香の母親が家事をする生活音が聞こえる中、シオンの唖然とした呟きが雨宮宅のリビングに響くのであった。

 

 ・・・

 

「やだぁ……。もうお終いよぉ……」

 

 ゲームセンターで軽くバトルを行った夕香が次に訪れたのはブレイカーズであった。

 あやこ達に軽く挨拶をして、そのまま作業ブースにまで足を運んだ夕香は一足先にこの店に訪れていた裕喜達を見つけ声をかける。

 何やら裕喜は頭を抱えており、近くにいる秀哉達は苦笑いを浮かべていた。

 

「どっしたの?」

「裕喜がガンプラ大合戦用に新しくガンプラを作ってるんだけどな……。まぁ見ての通りなんだ」

 

 あまりの様子の親友の姿を見て、何が起きたのか秀哉に尋ねる夕香に特徴的なハーフアップの髪を揺らしながら頭を抱える裕喜を見て、今までの様子を見ていたために苦笑混じりに説明する。

 

「こんなのマスキング地獄よぉ……!」

「だったらそのガンプラ止めりゃ良いじゃん」

「やだやーだ! 絶対にこれを完成させるんだもんっ!!」

 

 裕喜が作成しているのは以前、ジャパンカップで作成したグシオンリベイクとは似ているもののまた違ったガンプラであった。

 しかし塗装をして仕上げるつもりなのだろうが、どうにも行き詰っているようでそもそも初心者であれば背伸びしなければ良いのにと呆れている夕香の言葉に駄々っ子のように首を横に振る。

 

「あっ、夕香! いたいた!!」

「なんだ、ガンプラでも作ってるのか?」

 

 そんな夕香達に混じるように来店してきた龍騎と炎が声をかける。

 二人が合流する中で屍のような裕喜やその前に置かれている作りかけのガンプラを見やり、話の種になる。

 

「俺達、ガンプラ大合戦に参加する予定なんだ」

「聖皇学園のガンプラチームも参加するって話だぜ、楽しみだなーっ!」

「ああ、それならアタシにも連絡来てるよ。まなみん達は強いよ?」

 

 そのまま話題はガンプラ大合戦へ。龍騎が己と炎を指しながらガンプラ大合戦への参加を明かすと、炎も心底楽しそうに聖皇学園……つまりは真実達の参戦を教えると真実自身から連絡が来ていたのだろう。

 夕香が闘争心を焚き付けるように挑発的に笑い、ブレイカーズの作業ブースは若きファイター達によって大きな賑わいを見せていた。

 

 ・・・

 

「それじゃあ裕喜、頑張ってねー」

「うん、バトルの練習もちゃんとしなきゃだしね!」

 

 あれから数時間も経ち、そろそろブレイカーズを去ろうとする夕香はもう少し作業をする予定の裕喜に激励を贈り、知り合い達からアドバイスを受け、作業を進められたのだろう。晴れやかな笑顔を浮かべながら夕香を見送る。

 

「……」

 

 夕香がブレイカーズから出ていったのを物陰から見ていた者がいた。

 淄雄だ。一人で歩き去っていく夕香の姿を見て、口元に歪な笑みを浮かべると、手にした携帯端末を操作する。

 

 ・・・

 

「夕香ったら随分遅いわね……。雨降る前には帰ってくるとは言ってたから傘を持ち合わせてはいないと思うけど……」

「雨に濡れて体調を崩せば、参加するイベントに影響が出る事は分かっているとは思いますが……」

 

 雨宮宅では家事が落ち着いた母がハンドタオルで手を拭きながら娘である夕香がいまだに帰ってこない事に心配している。

 

 そろそろ雨が降る頃だ。

 なのに夕香はいまだに帰ってこない。母の言葉に頷きながらシオンは窓から見える曇り空を眺めると立ち上がる。

 

 ・・・

 

「──アンタ、待ちなよッ!!」

 

 その話題となった夕香は彩渡街を必死の形相で走っていた。

 額には汗が浮かび、まさに全力疾走である事に違いない。その視線は目の前を走る帽子やマスクで顔を隠した男のみを見ている。その男の手には夕香の2wayバックが。

 引ったくりだ。

 あの中には財布や携帯だけではなく、自身のバルバトスが入ったケースも入っている。簡単に諦めるわけにはいかなかった。

 

「楽な仕事じゃねぇな……っ!!」

 

 引ったくりの男はいまだ長時間、追いかけまわしてくる夕香を見やりながら忌々しそうに歯ぎしりをする。そのまま2wayバックの中身を漁り、目当てのものを見つける。

 

「!?」

 

 息を荒げながら追いかけていた夕香は男の不審な行動に目を細める。

 何と自身の2wayバックを投げ捨てたではないか。財布を抜き取ったわけでもなく、金目のモノが目当てでないのならば何が目的か。男が引き抜いたものを見やる。

 

「止めて……っ!!」

 

 それはバルバトスであった。

 ケースも捨てられ、力いっぱいに握られたバルバトス第六形態を見て、夕香は一抹の不安を覚える。

 

 胸騒ぎがするのだ。

 思わずポツリと言葉が漏れる。

 

 不安は的中した。

 男はそのまま無造作に乱暴にバルバトス第六形態を地面に投げつける。

 地面に叩きつけられ、強い衝撃を受けたバルバトスは地面を跳ねて破損したパーツは周囲に飛び散る。

 

 夕香の目が見開き、絶望で瞳が揺れる。

 

 しかしそれだけでは終わらなかった。

 破損したバルバトス第六形態を念入りに潰すかのようにその男は足で力強く踏みつけ、破損したパーツはバラバラに吹き飛ぶ。

 

「っ……!?」

 

 その様を見ていた夕香はやがて失速し、男はそのまま逃げ去る。

 もう男には眼中になくそれどころではない夕香は糸が切れた人形のように破壊されたバルバトス第六形態の前でヘナヘナと力なく崩れ落ちた。

 

 ・・・

 

「ご苦労さま。しっかり見させてもらったよ」

 

 引ったくりの男は河川敷の下で淄雄に会っていた。

 淄雄は万札を取り出し、男に報酬として手渡す。男の言葉通り、これは依頼された仕事に過ぎない。万札をもらった男は喜んで去っていく。

 

「目障りなんだよ。あいつらの関係者がこっちの敷地で好きにやられるのは……」

 

 去っていく男に面識はない。

 そこら辺のチンピラに適当に声をかけただけだ。これからもう二度と会う事もないだろう。

 

 淄雄は携帯端末で撮った夕香の写真を見ながら、目の敵にする彩渡商店街の関係者の絶望する様を見れてストレスが解消されたように歪な笑みを浮かべる。雨がぽつりぽつりと振る中、この場を去っていくのであった。

 

 ・・・

 

 

 ──雨が絶え間なく降っていた。

 

 

 それはまるで一人の少女の悲しみを表すように、世界を冷たく覆っていく。

 

 

 夕香はあの場からいまだに動いていなかった。

 どれだけ雨に打たれ、服を濡らしてもバルバトス第六形態を胸に抱き蹲っていた。前髪で隠れた表情は伺えず、その頬を伝うのは涙か雨かは分からない。

 

 バルバトスは初めて作り、パーツだけを取り付けて第六形態にカスタマイズもした。

 言ってしまえば、これまでの夕香のガンプラに関わった時間と誇りを表すガンプラだ。

 

 一矢はバトル内で武器を破壊されただけだが、現実で己の誇りが無慈悲に破壊されればその心境は計り知れない。

 

「アタシって……こんなに好きだったんだ……っ」

 

 夕香はいつも飄々としている。

 だが今だけは違う。両手の破壊されたバルバトスを見て、ここまで心が乱れるほど改めて実感したガンプラへの想いに悲し気に笑うが、それでも現実に破壊されたバルバトスを見て、悲痛な面持ちのまま蹲る。

 

「えっぐ……っ……」

 

 雨の音にかき消されるかどうかくらいの嗚咽が響く。

 それ程までこの出来事は夕香の心に大きな傷を刻み付けた事に違いはない。

 

 雨はまるで傷口を広げるかのように冷たく降り注ぐ。

 あまりにも無慈悲に、あまりにも無差別に。

 だが、不意に自身の体を冷たく打ち付ける雨がパタリとなくなった。

 

「──……風邪を引きますわよ」

 

 おもむろに顔を上げてみれば、そこには傘を差して自身を見下ろすシオンが。

 予備の傘を持っていることから、あれから雨も降り、夕香を探していたのだろう。そのまま蹲る夕香に合わせてしゃがみ、冷え切った夕香の体を温めるように抱きしめる。

 

「なに、すんのさ……」

「……勘違いなさらないでくださいましね。ライバルであるアナタを慰めるわけがありませんわ。抱き枕が欲しかっただけですの。だからアナタはこうされてれば良いんですわ」

 

 かじかみ震えた唇で問いかける中、夕香を抱きしめるシオンは静かに目を閉じながら、素直にはなれない為か、夕香を気遣わせない為か、それとも本心か、そう言葉を残し、夕香の体の震えが収まるまでは抱きしめている。

 

 冷えた体にシオンの体温が心地よささえ感じ、鼻にはシオンの甘い香りがくすぐるなか、今ならば雨の音にかき消されるであろう。夕香はここで吐き出すようにそのまま泣き続けるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Imagination > Reality

 家に帰宅した夕香は冷えた体を温めるたびに母が用意していてくれた風呂に入り、たった今、出てきたところだ。

 リビングにやって来た夕香はソファーに腰掛けながら、机の上に置かれている破壊されたバルバトスを見つめるシオンの姿が目に入る。

 ぼすっと音を立てて、夕香は暗い表情のままシオンの隣に座る。

 風呂に入り体も温まって肌も上気しているが、相変わらず夕香の表情は暗い。

 

「……なにも聞かないの?」

「言いたいなら聞いて差し上げますわ」

 

 無言の時間が続く。

 シオンはあれから何があったのか、何故泣いていたのかと言うのも何も聞いてはこない。

 

 ふと疑問に思った夕香は問いかけると、シオンは壊れたバルバトスから視線を外し、作っておいたアイスアップルティーをグラスに注ぎ、ロックアイスを入れると夕香の前に置く。

 

 シオンは壊れたバルバトスや泣いていた夕香の姿を見て詳しくは知らないが察しはついているのだろう。

 だが決して自分から尋ねるような真似はしない。

 あくまで言いたければ聞くし、言いたくなければ言わなくて良い。それがシオンのスタンスであった。

 

「ただあえて言うのであれば、このような真似をする存在を決してわたくしは許しませんわ」

 

 パーツは折れ塗装も剥がれている無残なバルバトスの姿に眼光鋭く怒りを表すように忌々しそうに呟く。

 その言葉と改めて破壊されたバルバトスを見て、夕香は膝の上に置いた手をぎゅっと握る。

 どれだけ泣いたとしても現実は変わらない。傷ついた心もだ。

 

「それと……わたくしを見て感動の涙を流すならば兎も角、わたくしの周りに悲しみの涙を流させる存在も万死に値しますわ」

「なにそれ……」

「高貴でエレガントなわたくしの周りに涙は似合いませんもの。それはそのライバルに認定されたアナタも、ですわ」

 

 高ぶった感情を落ち着かせるように一呼吸おいて夕香を見やる。

 彼女の目尻にはうっすらと涙が滲んでいる。

 その姿を見ながら不愉快そうながらおどけた様子で話すシオンの言葉に夕香は顔をあげ苦笑すると、おどけるのを止め、真摯に夕香を見つめる。

 

「すぐに笑えなんて言いませんわ。落ち込むならそれはそれで結構。ですが顔を上げ前を向きなさい。わたくしのライバルが俯き、いつまでも涙を流す存在であって良い訳がありませんわ」

 

 夕香の涙を指先で拭ったシオンはそのまま夕香の頬に手を添え、彼女を励ますようにその頬にそっと手を添えて彼女なりの言葉を送る。

 その言葉に夕香はまた胸が熱くなり、涙が流れそうになるが、それを堪えるようにシオンが用意したアイスアップルティーを一気に飲み干す。

 

 そんな夕香の携帯端末に着信が入った。

 相手はコトのようだ。

 

「……どうしたの?」

≪あっ、夕香ちゃん。私今、お兄ちゃんとサヤさんに習ってガンプラバトルの練習してるんだっ!!≫

 

 覇気がないものの電話に応対すれば、コトはそのまま電話口で夕香にガンプラバトルの練習をしていた事を明かす。

 

 ・・・

 

「組み立てるだけでも大変だったし、バトルも難しかったけど……やっとお兄ちゃんとサヤさんに攻撃を当てられるようになったの!!」

 

 ここは北海道。

 コトは多忙の中でもイベントの為に合間を縫ってジンとサヤを相手にガンプラバトルの練習に明け暮れていた。

 不器用なコトはガンプラを綺麗に作るのでも一苦労したのだろう。か細い指先には絆創膏などが巻かれている。

 

「だからね、今度のイベント。最高のモノにしようね! 私、精一杯頑張るから!!」

 

 ジンとサヤを相手に漸く攻撃を与えられたのもたった今なのだろう。

 シミュレーターの近くの台ではコトが作ったストライクノワールのガンプラが置いてある。電話するコトの近くにはジンとサヤの姿もあり、上達を感じ、嬉しさのあまりに電話をしてきたようだ。

 

 ・・・

 

 コトからの電話を終えた夕香はふと考えるように顎に手を添えている。

 しかし間髪入れずに夕香の携帯端末に着信が入り、確認してみれば今度は裕喜であった。

 

≪夕香、今気づいたけどこのガンプラ、ライフルが付いてないの!!≫

「……はぁ?」

 

 開口一番に言われた言葉に夕香は思わず 間の抜けた声をあげてしまう。

 いきなりなんだと言おうと思ったが、裕喜の事だ。此方が聞かなくとも向こうから勝手に言ってくる。

 

 ・・・

 

「それでねそれでね!! 私もやぁーっとぉっガンプラが出来たのっ! 塗装もね、大変だったけど完成したんだー!!」

 

 ブレイカーズでは裕喜はそのままマシンガンのような勢いでまくし立てる。

 頬や指先は塗料で汚れているが反面、その表情はとても晴々しており、近くにいる秀哉達もその様子には苦笑気味だ。

 

「これでちゃんと夕香と一緒にガンプラバトルが出来るわよ! 裕喜ちゃんの活躍に乞うご期待ね! じゃあじゃあ、これからお兄ちゃん達とバトルの練習があるから、じゃあねー!!」

 

 完成してあまりのハイテンションぶりは電話越しの夕香も苦笑している。

 言いたい事だけ言って、そのまま電話を切った裕喜は秀哉達を連れ出して近くのゲームセンターに向かおうとする。

 

「って言うかライフルどうするんだよ?」

「前作ったグシオンのライフル、持ってこようかな……。でも家まで結構、あるし……」

 

 裕喜が助言を受けて作り上げたガンプラ……ガンダムグシオンリベイクフルシティを手に、きゃっきゃっと喜んでいる。

 このままバトルの練習をするのは構わないが、射撃兵装がなくては心もとない。

 秀哉の言葉に裕喜は多少は落ち着いたのか、どうするか悩んでいると……。

 

「ふっふっふーん……ここに風香ちゃんオススメのMSオプションセットがあるんだけどー……どぉっすかー?」

 

 ガシッと裕喜の肩を掴む者が。

 ゆっくりと振り返れば満面の営業スマイルで片手に武器セットの小箱を持った風香の有無を言わさぬ勢いに裕喜は引き攣った笑みを浮かべるのであった。

 

 ・・・

 

「みんな……良くやってるよ」1

「アナタはどうするのかしら?」

 

 コトと裕喜からの電話を終えた夕香はしみじみ呟きながら、携帯端末をテーブルの上に置くと彼女の言葉に自身のアップルティーを飲みながらなにか期待するように尋ねる。

 

「アタシさ……。やっと気づけたんだ……。アタシってやっぱりガンプラが好きになっちゃったみたい……」

 

 最初は単なる無趣味から始まった暇潰しの一環であった。

 たがそれも知らず知らずのうちに趣味となり、壊された涙を流すほどの愛情を抱くほどになってしまった。

 

 柄じゃないかもしれない。

 だが紛れもなく自分はガンプラが好きなのだと実感する。

 

「いつまでもさ……。泣いてらんないよね……。アタシと一緒にバトルするのを楽しみにしてくれる人達もいるし、何よりバルバトスをこのままにして良い訳ないしさ」

 

 もう涙は流れない。

 その口元には笑みがこぼれる。

 その笑みにつられるようにシオンも安堵したように微笑むなか、外を見れば、雨も止んでいき外には晴れやかな日差しさえ差し込んでいた。思い立ったが吉日とでも言うように夕香はバックを持って外に出て行く。

 

「やれやれ……」

 

 先程まで落ち込んでいたかと思えば、今度は慌ただしく出て行く始末だ。

 その様子に肩を竦めながら苦笑するシオンは壁にかけられたカレンダーを見やる。

 

 確かガンプラ大合戦はあと一週間近くはある。

 まだ参加するには間に合うだろう。シオンもまた人知れず動き出すのであった。

 

 ・・・

 

「あれアンタもどっか出かけてたの?」

「えっ……? あぁ……そのお散歩に……」

 

 先に帰宅したのは夕香だったようだ。

 シオンが帰宅すると、丁度階段を昇ろうとする夕香と出くわし、彼女の問いかけにどこか誤魔化すように上擦った声をあげながら答える。

 

「そう言えばさ、アンタって結局ガンプラ大合戦に参加するの?」

「な、ななな、なにを言っておりますの? 優美さを感じられない大合戦などにわたくしが参加するわけがありませんわ! 第一、このタイミングでわたくしが参加表明をしたら、何だかわたくしがアナタにデレたみたいで癪ですわ!!」

 

 特に興味もなかったのかふーんと相槌を打ちつつ、あの時、面倒臭く感じてちゃんと確認はとっていなかったガンプラ大合戦への参加について尋ねると、先程よりも慌てた様子でビシッと指さしながら否定する。

 これもまた面倒臭くなりそうだと感じた夕香は適当にあしらい、ブレイカーズで購入した新たなガンプラとバルバトスを持って部屋に戻っていく。

 

 それからガンプラ大合戦までの間、夕香はずっとガンプラの作成に付きっ切りであった。時間が空けば、すぐにガンプラと、両親はまるで一矢みたいだと笑っている。だがそれでも夕香は早く目の前のガンプラを完成させたかった。

 

 ・・・

 

「夕香、入りますわよー?」

 

 ガンプラ大合戦までついに後二日を切ったところだ。

 夜11時ごろ、夕香の部屋を軽くノックしたシオンはしばらく待つも返事がない事に一応、声をかけつつ部屋に入る。

 

「レモンティーを淹れてまいりましたわ。アナタを心配している訳ではありませんが、あまり根を張りすぎても……」

 

 ティーカップとティーポットが乗ったトレーを持ったシオンが素直に言う事なく部屋に入って行くも部屋の中は薄暗く照明は机の上のスタンドライトの明かりだけだ。見れば夕香は机の上で腕を組んで規則正しい寝息を立てて眠っていた。

 

「全く……体に良くありませんわ」

 

 短時間ならまだしも長時間、机の上で眠るの体の負担となって血液循環にも悪い。

 シオンは近くのテーブルにトレーを置き、眠っている夕香の前髪に軽く触れて寝顔を覗き込む。ベッドで眠ることさえせずにガンプラを作っていたのかと思うと苦笑してしまう。

 

 ブランケットを夕香にかけるシオンだったが、ふと夕香の目の前に置かれたガンプラに気づき、そちらに目をやる。

 

 そのガンプラはバルバトスであった。

 しかし第六形態とは違い、全体的にスッキリとした印象があるが腕部には射撃兵装が追加されている。

 

「ガンダムバルバトスルプス……」

 

 シオンはこのガンプラの名前を知っている。

 それはラテン語でオオカミの名を冠する新たなバルバトスであった。

 近くのバルバトスルプスのガンプラの箱を見やれば、ランナーにはパーツも残っており、壊れたバルバトスから可能な限り使えるパーツを流用し、新たなバルバトスを作り上げたのだろう。

 普通に作るよりも手間のかかる作業だが、それは初めて作ったバルバトスを使い続ける事に拘った夕香の意志だろう。

 

 そこまでこのバルバトスに思い入れがあるのかと微笑む一方でシオンは今後行われるガンプラ大合戦について考える。大合戦と言うのだから大乱戦となるだろう。

 

「……大合戦なんてわたくしのキャラではありえませんわ。ですが……」

 

 精々、ガンプラバトルのチーム戦ならまだしも、入り乱れるようなバトルは自分の美学とはかけ離れたもの。しかし今の夕香と一緒にバトルするのはとても魅力的だろう。

 

 シオンは決意めいた表情で部屋を出て行き、自分に用意された部屋の中で持ってきた荷物を漁り、とあるケースを取り出す。

 その中には数々のガンプラが収められており、シオンはその中からとあるガンプラを取り出す。

 

 ・・・

 

「ついに始まるんだねー。でもでも、夕香と一緒の軍にはなれたからラッキーよね!」

「そっだね」

 

 遂にガンプラ大合戦当日。タイムズ百貨店ではコトのトークショーを終え、参加者は準備を進めるなか、裕喜はどこか緊張した様子で口を開く。

 

 練習はしたとはいえ、ここには様々なファイターがいる。自分の腕がどこまで通用するか、分からないのだ。

 だがランダムで選ばれたチーム分けでは夕香と一緒になれたことに裕喜は素直に喜んでいた。

 

「しかし随分と数に差があるな」

(……あの時のオジサンだ)

 

 そんな夕香と裕喜の話に入って来たのはシャアであった。

 シャアだけではない、近くにはアムロや風香に碧、秀哉達もおり、コトも含めて彼らは皆、夕香と同じ軍勢だ。

 ジャパンカップで出会ったシャアに複雑そうな視線を向ける夕香だがシャアの言葉にモニターを見れば、確かにこちらの数は少なく、kそれは全て淄雄が仕組んだことに過ぎない。

 

「ねぇ夕香。シオンは来ないの?」

「うん、朝からいなかったけど……」

 

 数の差は脅威でしかない。

 ファイターであるシオンが参加していないのか尋ねる裕喜だが、夕香はどこか残念そうに首を振る。シオンは朝から家におらず、もしかしたら先にとは思ったが会場にシオンの姿はなかった。

 

「──なにを狼狽えておりますの?」

 

 この数の差をどう立ち向かうか、考えている夕香達に声をかける者がいた。

 聞き覚えのある口調と声に夕香は驚き、やっぱり何だかんだで参加していたのかと心なしか嬉しそうに視線を送る。

 

 しかし視線を向けた先にいた存在に一同、度肝を抜かれる。

 何とそこには現実時間3月21日現在において放送中のガンダム作品でとあるキャラクターが着用していたものと酷似したフルフェイスの鉄仮面をつけた一人の少女がいたのだ。

 

「だ、誰……?」

「名乗る名などありませんわ」

 

 代表して風香が尋ねるも、キッパリと一蹴される。

 だがそもそもの時点で名前を隠そうがその声と口調だけでなく、仮面の隙間から出ている巻き髪とブロンドヘアーで嫌でも誰か分かる。

 

 

「天が呼ぶ!

 

 

 地が呼ぶ!!

 

 

 人が呼ぶ!!!

 

 

 ガンプラを作るために生まれ、ガンプラバトルのために生きる!!!

 

 

 わたくしこそ愛のガンプラファイター・鉄血の仮面美少女ゔぃだーるですわぁッッ!!!!」

 

 

 名乗る名などないと言っておいて僅か数秒でこの矛盾である。

 言葉を区切るたびにキレッキレのポージングをして、ビシッと言うような効果音が似合いそうな程、力強くこちらを指差した仮面の少女……ゔぃだーるは力強く名乗りあげる。

 

「……アンタ、シオ──」

「ゔぃだーるですわっ!」

「いや、だって……」

「ゔ ぃ だ ー る で す わ ぁ っ ! !」

 

 ゔぃだーるにどこか呆れたような眼差しを送る一同。

 その中で夕香はツッコミをいれるが、有無を言わさぬその勢いには口を紡ぐしかない。

 

「さぁさぁ!! このわたくしが参戦したからにはガンプラ大合戦だろうが厄祭戦だろうがガンダム無双ですわぁっ!!!」

 

 そのまま腰のケースから青い装甲の細身のガンプラ……ガンダムヴィダールを抜き放って宣言するゔぃだーるに夕香達はあまりのその勢いに唖然とするしかない。

 わざわざここにいると言う事は自軍の人間なのだろうが、この変人と共にバトルをするのかと思うと頭が痛い。そんな中、ついにガンプラ大合戦が始まる……。

 

 因みにシオn……ゲフンゲフン……ゔぃだーるはコスプレ枠の参加者として参戦しているらしい。




突如、現れた謎の新キャラ・ゔぃだーる。
素性の分からぬ彼女の目的はなんなんだー(棒


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪魔を呼び覚まして

「ドロシー、ルールをもう一度聞かせてくれるかい?」

 

 ガンプラ大合戦が遂に開催され、ウィルは両軍のガンプラがバトルを開始したのを用意された特別席でモニター越しで眺めながら傍らに控えるドロシーにこの大合戦に設けられたルールを尋ねる。

 

「はい。御剣コトが将軍を務める頑駄無軍団と蘆屋淄雄が将軍を務める闇軍団によるチーム戦で、軍を率いる将軍を討ち取った勢力の勝利です」

「これは長くなるね。一部を覗いて大半が有象無象でしかない」

 

 ルールの説明を求められたドロシーは手早く説明を済ませると、頬杖をつきながらウィルはモニターに映る映像を見やりながら呟く。モニターに映るガンプラのバトルは一部を覗いて、どれも無駄が多いと言わざる得ない。

 

(……しかし、どれも……)

 

 だが、どのガンプラもとても活き活きしているようにも見える。

 それは単純にこのバトルを楽しんでいると言う事なのだろう。ウィルは考えるようにただバトルを見つめるのであった。

 

 ・・・

 

「皆さん、頑張りましょう!!」

 

 このガンプラ大合戦において頑駄無軍団の将軍の立場であるコトはストライクノワールを操作しながら周囲を鼓舞する。

 ガンプラ大合戦のステージに選ばれたのは広い荒野の中心に聳える逆三角形の禍々しい暴終空城(あばおあくうじょう)が目を引く巨大ステージであった。

 大合戦と言うだけあり、あちこちで轟音が響き渡り、バトルの激しさを物語るかのようだ。

 

「手加減抜きだぜ!!」

「速い……!?」

 

 闇軍団に所属する宏佑のクロスボーンXクアンタが瞬く間に雷のような苛烈さを持って頑駄無軍団のガンプラをまるで次々に戦闘不能に追いやっていく。

 そしてそのまま一気に頑駄無軍団の陣地に踏み込んでいき、ストライクノワールを狙う。あまりの速度にコトは反応が追い付かず、このままで窮地に追いやられてしまう。

 

「なにっ!?」

「良い動きをするが、予想はしやすいな」

 

 しかしそんな破竹の勢いを見せるクロスボーンXクアンタだが周囲から無数に放たれたビームにギリギリで回避するのだが、その回避コースを先読みしていたのか放たれたビームの一撃がクロスボーンXクアンタに直撃する。

 

 動きが鈍ったクロスボーンXクアンタに急接近した陰。

 それは芸術品にでも見違えるかのような精巧なHi‐νガンダムであった。

 

 ファイターであるアムロによって圧倒的な加速を持って急接近したHi‐νは対応しようとするクロスボーンXクアンタにビームサーベルを引き抜き、腕部を切断するとそのまま蹴り飛ばして、コックピットを撃ち抜く。

 

「単純に数では圧倒されてはいる……。長丁場は危険だな」

 

 動きを止めることなく別の違うポイントへ向かっていくHi‐ν。

 数も質で勝てば良いとは思うが、それでも戦い続けるファイターは消耗していく。どちらにしろ、長時間バトルを長引かせればこちらが不利になる事は目に見えていた。

 

 それに何より単純に闇軍団側の勢力は大きいだけではない。

 中には練度の高いファイターも数多くいる。

 

「やる……ッ!」

「まだまだ行くぞ!!」

 

 現にレンのストレイドによって握られたマニビュレーターが放たれ、秀哉のPストライクカスタムはビームブレイドを盾代わりに防ぐのだが勢いに負け、態勢を崩してしまう。秀哉が顔を顰めるなか、レンは追撃しようとするが……。

 

「助かった、一輝!!」

「まだまだ安心出来ないよ!!」

 

 追撃の行く手を阻むように無数の銃撃がストレイドに襲いかかり、追撃の手は届かない。

 見れば一輝のストライクチェスターが砲門を展開しながら、逆に此方がとばかりに更なる銃撃を繰り出す。

 ストライクチェスターに並び立ちながら、秀哉が一輝に礼を言うと引き締めた表情でことごとく回避するストレイドを見据えながら一輝が叫ぶ。

 

「調子に乗らないでもらいたいわね」

「そんな余裕はないけどねッ!」

 

 またその近くでは同じく闇軍団のジーナのジェスタ・キラウエアとクレナイが先頭を繰り広げている。

 ジェスタ・キラウエアのソードピットに対抗して放ったシールドピットが縦横無尽の攻防を繰り広げるなか、激しい剣戟を繰り広げながらジーナと龍騎はバトルとは裏腹に楽しそうに会話をしている。

 

「聖皇学園、やはり手強いなッ!!」

「俺達だって名は知られるんだぜ!!」

 

 戦いの場はなにも地上だけではない。

 宙でも幾多のガンプラが弧を描いてぶつかり合う。

 

 その中でも目を引くのは近接戦に特化した碧のロックダウンと拓也のBD.the BLADEによる剣戟だろう。メイスと対艦刀は幾度もぶつかり合い、その度に甲高い音を周囲が響き渡る。

 

「何で当たんないんだよ……!!」

「可愛くて強い最強無敵の風香ちゃんが相手だからねぇ」

 

 勇のバアルのツインバスターライフルの砲口が光り輝き、同時に極太のビームが苛烈さを持って放たれるが、風香のエクリプスはさながらステップでも踏むかのように軽やかに旋回して避けると、勇の苦々しい呟きにどや顔スマイル全開で全てのシールドピットを射出しながら一気にバアルを肉薄する。

 

「風香ちゃんに触って良い人って限られてるし、服の下は翔さん以外は触っちゃいけないしねー。ねぇ、翔さん聞いてるー? 風香ちゃんの服の下の清い身体に触って良いのは翔さんだけだからねー! ふわふわぷにぷにだぞ♡」

「……くっ!? 垣沼みたいな奴だな……!!」

 

 言葉の内容とは裏腹に無数のシールドピットによってバアルを翻弄しつつ、分離させたツインバスターライフルを間髪入れずに発射する。バアルの片腕を溶解させると調子の狂う風香相手に勇はチームメイトを思い出して顔を顰める。

 

「わ、私はあそこまで変じゃないし……。あぁでも夕香とは同じチームになれなかったな……」

「夕香と同じチームだったらどうするつもりだったんだよ!」

 

 勇の呟きが聞こえていたのか、表情を引き攣らせながら否定するように口を開く真実だが、悲しいかな、その言葉は誰も信じない。

 真実の零した呟きにハイパーカイザーがカレットヴルッフことブレイブセイバーを振りかぶりながら、そのファイターである炎が問いかけながら横なぎに振るう。

 

「雨宮君が帰ってくるまで格好良いところを見せて公認でお義姉さんって言われるつもりだったんですぅ!!!!!!」

「なんだそりゃ……」

 

 真実の中では義妹と書いて夕香と読むらしい。

 目論見が外れてしまい悲しみの叫びをあげながら勢いのままブレイブセイバーをサーベルで受け止めるG‐リレーション。あまりの言葉に勇だけではなく、炎でさえ調子が狂うのか微妙そうな表情だ。

 

 大乱戦と言う言葉が相応しいほどの激戦が各地で繰り広げられており、その一つ一つに目を向ければ互いの全力をぶつける輝かしいものである事がすぐに分かるだろう。

 

「うわぁあっ!!?」

 

 シールドを装備する腕が宙を舞った。

 その腕をつけていたカイウスを操作する涼はたまらず悲鳴を上げ相手を怯みながら見やる。

 そこにはソマーソルトキックを放った直後で足部のハンターエッジを輝かせながら宙返りしているヴィダールの姿が。

 

 宙返りの直後、再びヴィダールがカイウスに向き直った瞬間、フロントスカート内からハンドガンを二挺取り出して集中砲火を浴びせつければ、そのまま回し蹴りを直撃させることでカイウスを撃破する。

 

「涼をやったなぁっ!!」

 

 まるでダンスのような流れる動作でカイウスを撃破したヴィダールに既にパージ状態である恭のG-KYO POがトランザム状態で急接近してグランドスラムを振りかぶる。

 

 反応したヴィダールはG‐KYO POを見やる。

 反応が遅れているわけではなく、ただジッとG‐KYO POを見据えている。

 

 刃が光った。

 

 ヴィダールのバーストサーベルの刃の方が早くG‐KYO POに届き、そのまま刃を爆発させる。元々、パージした事もあり装甲の薄いG‐KYO POには致命打となりそのまま力なく落下してゆく。

 

「大型剣を振り回すような近接戦に特化したのが間違いですわね。いかに素早かろうが結局タイミングさえ合えばどうとでもなりますわ」

 

 落下していくG‐KYO POを見やりながら、助言のようにその攻略法を口にしたゔぃだーるはそのままガンプラを動かして、相手の陣地へと向かっていく。

 

(既に敵陣に攻め込んではいるようですが、妙に引っかかりますわ)

 

 表示されているマップを見やり、敵味方を識別するシグナルが輝いている。

 どうやら自軍は既に相手陣地に攻め込んではいるようだ。しかしゔぃだーるには何か胸騒ぎのような覚えがあった。

 

 ・・・

 闇軍団の陣地では頑駄無軍団のガンプラが攻め込んでおり、その中には夕香のバルバトスルプスや裕喜のグシオンリベイクフルシティの姿もある。

 

「裕喜、どう? 上手くいってる?」

「うんっ! どどーんっばばーんって感じ!」

「なにそれ」

 

 ソードメイスを振るって相手のガンプラを叩き潰した夕香はバックステップで素早くグシオンリベイクフルシティの傍らに移動しながら、調子を尋ねると楽しそうな裕喜のふわっとした返答に思わず苦笑してしまう。

 日が浅いと言うのに敵陣の中でも余裕を見せられるのはある意味で才能があると言って良いだろう。

 

「流石、商店街のエースの妹だ!」

「ここで止めるぞ!!」

 

 頑駄無軍団においてやはり一番、注目されているのは夕香であろう。

 何といってもジャパンカップ優勝者の妹なのだ。誠は新たに完成させたフルアーマーユニコーンガンダム plan BWを駆り、純のGNーΩと共に夕香達の勢いをここで止めようとする。

 

「裕喜来るよ。援護してね」

「おっまかせー! どっかーんって行くよ!!」

 

 迫る二機を見やりながら裕喜に素早い指示を出す夕香は間髪入れずにバルバトスルプスを動かして迎え撃つ。

 夕香の要請にこたえると同時にウィンクした裕喜はグシオンリベイクフルシティのサブアームを合わせて、四艇装備して二機をロックして射撃を開始する。

 

「速いなッ」

「アタシを誰だと思ってんの?」

 

 GNーΩのハイパービームジャベリンとぶつかり合ったかと思えば、そのまま上段回し蹴りを放ってハイパービームジャベリンの矛先を地面に反らすと回転の勢いを使用してソードメイスを振るい、GNーΩの機体をくの字に曲げる。

 

「日本一のボッチの妹だよ」

 

 そのままGNーΩの頭部を掴んで地面に叩きつける。

 夕香のバトルのスタイルは半ば近接戦に特化していると言っても良い。

 それは彼女の兄の影響もあるのかは不明だが近接戦において彼女もまた無類の強さを見せていた。

 

「エ、エネルギーがっ!?」

「これってワンチャンあるかもっ」

 

 誠に純の援護をさせないのはそれが夕香の援護に繋がるからだ。

 通常のFAユニコーンガンダムと違い、プロペラントタンクもない誠のユニコーンはある意味で欠陥機であり、動きが鈍ったところをニコッと笑った裕喜の集中砲火が襲う。

 

「──やっぱり目障りなんだよなぁ」

 

 誰にも聞こえない呟きが静かに零れる。

 次の瞬間、後方から大出力のビームが何本もバルバトスルプスやグシオンリベイクフルシティに襲いかかった。

 

「なんだっ!?」

「嘘だろ!?」

 

 地面を吹き飛ばし、大爆発が起きる。

 夕香と裕喜を狙っただけではなく、その近くの誠や純のガンプラにも被害が及び、パーツが吹き飛ぶ。特に倒れていたGN-Ωは殆どのパーツがはじけ飛んでしまった。

 

「幾らなんでも味方ごとってのは不味かったんじゃないか?」

「味方からの攻撃はダメージがないんだ。これくらい構わんさ」

 

 発射源にはメガライダーが配備されており、そこにはゴトラタンとリグ・コンティオの姿がある。ゴトラタンのファイターであり、淄雄の幼馴染みの留守佳那(るすかな)が今の行動について苦言を口にすると、淄雄はニヤリと笑みを浮かべながら答える。

 

 しかし爆煙が消えると、そこには比較的軽微の損傷で済んだバルバトスルプスとグシオンリベイクフルシティの姿があり、淄雄は忌々しそうな表情を浮かべ歯ぎしりをする。

 

「しょうがないな。ここは私が何とかするよ」

「いや、どうせだ。俺自身の手でアイツを倒す」

 

 いまだ健在のバルバトスルプス達を見て佳那は自らが動き出して仕留めて見せようとするが、それを淄雄がオープン回線によって制して己の手で夕香を打ち倒そうとする。

 

「お前には援護をしてもらう。頼りにしてるぞ」

「……しょうがない。メガライダー隊は準備済み次第、再度攻撃開始だ!!」

 

 その言葉と共にリグ・コンティオはバルバトスルプスに向かっていき、淄雄の言葉に頬を染めた佳那はメガライダー隊に指示を出しつつ、リグ・コンティオの後を追う。

 

「ガンプラを壊れてもまだ出てくるとは……どこまでも俺の邪魔をッ!!」

「……っ……。あんた、それ……」

 

 宙に飛び上がったリグ・コンティオはリアブル・ビーム・ランチャーと胸部ビーム砲を合わせて噴火のような凄まじい砲撃を放つ。その砲撃をギリギリで回避しながら淄雄のオープン回線から聞こえた言葉に眉を顰める。

 

「お前ら彩渡商店街のせいで、このタイムズ百貨店も伸び悩んであの男にも嘲笑される始末だ!! こっちの邪魔をするなッ!!」

「……それが商売ってもんでしょ。あの商店街だって今まではゴーストタウンだったんだよ」

 

 しかし淄雄は口を止めることなく、彩渡商店街を目の敵にする理由を叫ぶと、あまりの理由に夕香は呆れを通り越して不愉快そうに顔を顰めて呟きに似た返答をする。

 

 寧ろ今までは彩渡商店街が苦汁を飲まされていたのだ。

 その立場が少しずつ逆転し始めて、半ば逆恨みに似たその理由は夕香には到底受け入れがたい。

 

「お前の兄がッ! アイツさえ現れなければ!! たががガンプラバトルが強いだけで何の取り柄もないくせに!!」

「……は?」

 

 その彩渡商店街の快進撃の立役者とも言える一矢へ淄雄の怒りの矛先が向けられる。しかしその淄雄の言葉に夕香の眉毛は引くつき、鋭く目を細める。

 

「俺の方が優れている筈なのに妙な光が使えてガンプラバトルが強いだけでッ!!! それでこの百貨店の流れを変えて!!! アイツさえいなければ、この百貨店どころか全てを手に入れられる俺の人生だってもっと上手くいってたんだ!!!」

 

 いずれはウィルを出し抜こうとするだけではなく、目の敵にする過程で一矢のことも調べたのだろう。

 一矢に対する恨み辛みをみっともなく叫び散らす淄雄に夕香はどんどん俯いていき、表情が隠れて感情が読み取れない。

 

「俺の前に現れなければ……あんな男がこの世に生まれて来なければ──!」

 

 だが淄雄は怒りの勢いに任せて暴言を吐く。

 しかしその言葉の途中でリグ・コンティオの機体は眼前に迫ったバルバトスルプスが己の身を弾丸にしたようなソードメイスの一撃を持って地面に叩きつけられる。

 

「……いい加減、黙んなよ。イッチのこと何も知らないくせにさぁ……好き放題言わないでくんないかな……」

 

 ソードメイスを叩きつけたもののリグ・コンティオはいまだ健在だ。

 そんな中、夕香の芯から凍り付くような冷たい声が地を這うように響き渡る。

 

「別にアタシはなに言われようが、なにされようが構わないけどさ……。アタシの身内を……イッチを馬鹿にされて黙ってられるほど大人じゃないんだよねぇ……」

 

 双子の兄である一矢は同じ時に生まれた並みの兄弟とは違う繋がりがある。

 言ってしまえば自分自身の半身のような存在なのだ。

 

 その存在を否定されると言う事は夕香にとって自分を否定されるのと同意義であった。

 そのままソードメイスを振りかぶるバルバトスルプスであったが、その前にゴトラタンの横やりを受けて、距離を取る。

 

「はぁー……。もう良いや……。アンタみたいなのは黙れって言って黙るとは思えないしさ……」

 

 がっくりと肩を落とした夕香はゆっくりと顔を上げ、リグ・コンティオとゴトラタンを明確に敵だと認識するように見据える。

 

 もう淄雄の声が夕香にとって不協和音のように耳障りであった。

 言葉で言っても駄目だろう。ならば今この時は行動で、暴力を持って黙らせるまでだ。

 

「夕香……?」

 

 どこまで響き渡るような夕香の冷たい声を聞き、裕喜は怯えたように瞳を揺らす。

 夕香の親友である裕喜でさえ夕香が怒りを示したところを見たのは初めてだからだ。故にどうなるかも分からない。ただただ憎々しげに怒りを露にする夕香を初めて目にして怖かったのだ。

 

「バルバトス……アンタの全部、アタシが使い尽くしてあげる」

 

 顔を上げ、鉄仮面のような冷たい表情を浮かべる夕香が選択したのはトランス系のEXアクション。それは阿頼耶識のリミッター解除による大幅な性能を向上させるEXアクションであった。

 

 自分の敵を見据えるその真紅の瞳は怒りの業火の如く妖しく揺らめている。

 その瞳にかつて破壊された自分と、そして何より主の怒りの瞳に同調するかのようにバルバトスのツインアイは通常とは異なる妖しく紅き輝きを放つ。

 

 そこにいるのは一体の悪魔。

 

 ソードメイスの先を地面に音を立てて引きずり、地獄へ誘うかのように揺ら揺らと歩くバルバトスルプスは、愚かな言動をその命をもって償わせるかのように一気に向かっていくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

消えない宙

君と希望の果てまで


 夕香の変化によってEXアクション・リミッター解除が行われたバルバトスルプスの戦い方はがらりと様変わりしてしまった。

 地を蹴り、リグ・コンティオへ飛び上がったバルバトスルプスはそのまま前宙してその勢いを利用して両足を突き出す。

 左肩のショットクローを盾代わりに防いだリグ・コンティオであったが、バルバトスルプスはそれさえ利用してショットクローを蹴り反動で宙返りすると地を削りながら着地し、地を這うようにリグ・コンティオへソードメイスを振るう。

 

「このぉ……チョロチョロとぉ!!!」

「喋るなよ」

 

 その戦い方は人型兵器と言うには、あまりにも野蛮で粗暴であり、さながら獣のようだ。

 まるで狩りを行うかのようなバルバトスルプスに翻弄される淄雄は苛立ち気に声を荒げるが、耳障りな言葉に悪鬼のような悍ましさを感じさせるような夕香の静かな怒りの言葉と共にリグ・コンティオの頭部はバルバトスルプスの鋭利なマニピュレーターが掴み、そのまま握りつぶすかのように力が籠る。

 

 しかし相手は何もリグ・コンティオだけではない。

 ゴトラタンやメガライダー隊による砲撃がバルバトスルプスを狙う。バルバトスルプスはリグ・コンティオを蹴り飛ばした反動で回避行動に移る。

 

「淄雄の邪魔をする奴は、私が討つ!」

「うっざいなぁ……」

 

 キャノンユニットからメガ・ビーム・キャノンとマイクロミサイルが一斉に放たれ、地面を爆炎が包み込む中、損傷は軽微なバルバトスルプスは爆煙から飛び出して邪魔をするゴトラタンを手始めに破壊しようとする。

 トランス系EXアクションの恩恵もあってか佳那の予想以上のスピードを持ってゴトラタンへ迫り、キャノンユニットを放棄し、ビームトンファーによってソードメイスを受け止める。

 

「邪魔ってなに? 勝手な逆恨みで迷惑被ってんのこっちなんだけど。みっともない小物のする事なんて知ったこっちゃないね」

「なに……っ!?」

「アンタも相当物好きだよねぇ……。熱心にあんな奴に尽くしてたさ。そこまで価値ある奴なの? あの小物は」

 

 ソードメイスとビームトンファーによる戦いは互いの実力が拮抗しているのか致命打がないまま、ただただ時間だけが過ぎていく。その最中、夕香が先程の佳那の発言に反論し、そんな淄雄の為に動いてきた佳那に対しても嘲笑する。

 

「っっざっけんなアアァァァァァァァアッッ!!!!!」

 

 しかしその夕香の態度が佳那の逆鱗にでも触れたのか、

 奇声のような怒号を上げ頭部のビームカッターを放つ。半ば意表の突かれた夕香は眼を見開くが咄嗟に操作して、バルバトスルプスの機体を掠めるだけで留まった。

 

「淄雄の事を知らないような奴が調子に乗ってェッ!!」

 

 そのままバルバトスルプスに体当たりを浴びせ、激怒する佳那に心底、鬱陶しそうに顔を顰める夕香。佳那の勢いよりも狂乱っぷりが耳障りなのだろう。

 

「何なの、もぉ……」

 

 しかしそれは傍から見ている裕喜には恐怖に映る。

 佳那だけではない、夕香の怒りも目の辺りにしているからだ。

 怒りが支配するこのバトルは裕喜が想像していた楽しさが溢れるようなものとはあまりにもかけ離れていた。

 

「蘆屋淄雄は私に優しかったのよ! それをオマエは笑ったんだッ!!」

「知らないっつーの。じゃあなに? 加害者は実は優しい奴だから被害者はそれを呑み込めって? だから加害者のやる事には邪魔をしない、悪態も何もつくなっての? 大体、事の発端はアイツでしょ。都合の悪い事に目を逸らして、勝手にキレるって性質悪くない? アイツだってウチの兄貴の事、散々言ってたよねェ?」

 

 暴風のような怒りの佳那を表したようなゴトラタンの攻撃も全ていなしながら淡々と反論する。それは目の前の佳那も所詮は淄雄と同類かとでも言うかのように。

 

「もうやだよぉ……」

 

 もはや淄雄は後回しだ。

 地上でただ己の怒りをガンプラに乗せて互いを潰し合うような死闘を見せるバルバトスルプスとゴトラタン。あまりに殺伐としたバトルにもうこんなバトル見たくない、したくないと裕喜は悲痛そうに眼を閉じて俯かせる。

 

 だが夕香も佳那もそんな裕喜にも気づかず、いまだに身を削るような戦いをしている。

 

 しかしこの悪魔と狂犬の戦いを天から稲妻のように二機の間に割って入って来た機体によって両者は反発するように距離を取った。土煙が晴れた先にいたのはヴィダールであった。

 

「邪魔しないでよ……。アイツらぶっ潰さなきゃいけないんだから──」

 

 横やりを入れたヴィダールの機体を見て鬱陶しそうに前髪をかきあげた夕香はヴィダールに詰め寄り、その矛先をゔぃだーるに向けるかのように苛立ちが言葉の端からにじみ出ながら話すが、その途中でヴィダールからの裏拳をメインカメラに受けてしまう。

 

「な、なにすんのさ……!?」

「……勘違いなさらないでくださいましね。今のアナタもわたくしにとっては敵ですわ」

 

 ゔぃだーるがとった行動に唖然としてしまう。

 よもや味方から攻撃を受けるとは思わなかったからだ。しかしゔぃだーるは仮面の奥で睨みつけ、モニターに映るバルバトスルプス越しに夕香を見据えるかのようだ。

 

「ガンプラバトルとは本来、己の誇り(プライド)をぶつけあい、興奮と歓楽を分かち合うもの。それを楽しむことさえ忘れ、あまつさえ罵詈雑言を吐き怒りをぶつける為の手段にするなど以ての外ですわ」

 

 ここに来るまでに夕香と佳那のバトルを見てゔぃだーるが感じたのは不快な感情。

 そしてその理由を愚かな存在を糾弾するかのように言葉に棘を感じさせるような物言いで話される。

 

「ガンプラバトルは自分が精魂込めたガンプラで戦い、喜びも悔しさも生むだす尊いゲーム。ただ怒りを乗せてバトルをするなど言語道断でありガンプラに対する侮辱。ガンプラバトルを汚す存在ですわ。そんな存在をガンプラファイターとは認めません! そんな存在は……わたくしの敵ですわ!!!」

 

 ゔぃだーるにはガンプラバトルにおいての美学がある。

 それは大乱戦のような混戦は美しくはないなどがあるが、何よりその根幹にあるのはガンプラバトルを楽しむこと。

 楽しむことさえ忘れた夕香や淄雄達は彼女にとって軽蔑すべき存在でしかなかった。

 

「……はぁ……。まさかアンタにそんな事言われるなんてね……。参ったなぁ……。アタシらしくなかったかな……」

 

 ゔぃだーるの言葉に思うところがあったのだろう。

 自分が情けないとばかりにため息をついた夕香は頬をかきながら自嘲すると、夕香の雰囲気から怒りが消え去る。

 

「ごめんね。裕喜、シオン……」

「夕香……っ。うんっ! 夕香は怒ってたら可愛くないよ!!」

「ゔぃだーるだって言ってんだろですわ」

 

 破壊されたバルバトスを見て涙を流したのもガンプラが好きだから、楽しかったから。

 それを忘れてしまった自分が情けなくて、バルバトスに申し訳がなくて。

 

 裕喜やシオンに謝罪をすれば、裕喜は嬉しそうに答えるなか、そこだけは譲れないのかゔぃだーるからすぐさま反論される。

 

 そんな二人にクスリと笑う夕香だが、リグ・コンティオやゴトラタン、メガライダー隊の砲撃が一斉に放たれ、ヴィダールとグシオンリベイクフルシティと共に後方に飛び退き、横一列に並び立つ。

 

「じゃあ行こっか。バトル……楽しまないとね」

 

 今はバトル中だ。

 話もそこそこに再び今度はバトルを楽しむために仕切り直す夕香に満足そうに頷きながらゔぃだーるは飛び出したバルバトスルプスに続く。同時にグシオンリベイクフルシティも4挺のライフルを展開して援護を始める。

 

「どいつもこいつも邪魔をするなぁあああっっ!!!」

「あらあら困ったちゃんですことっ!」

 

 怒りは収まってはないのか、再接続したキャノンユニットから砲撃を開始するゴトラタン。その攻撃を回避しつつハンドガンで対処するヴィダールはそのまま接近する。

 

「やらせないんだからぁっ!!」

 

 それでもヴィダールは無傷と言うわけにはいかないだろう。

 しかし迫るマイクロミサイルを横から裕喜のグシオンリベイクフルシティの砲撃によって破壊され、それだけではなくその砲口はきらりと光り、キャノンユニットへ集中砲火を浴びせつけ破壊する。

 

 爆散するキャノンユニットから弾けるように距離を取るゴトラタンだが、爆炎から飛び出したヴィダールの飛び蹴りを受け、そのまま桜が咲き誇るフィールドまで吹き飛ばされる。

 

「桜の花言葉を知っていて?」

「知るか……! そこをどけェッ!!」

 

 ホログラムとはいえ悠然と咲く桜は美しい。

 静かに降り立ちながらモニターでそれを見たゔぃだーるは立ち上がったゴトラタンの佳那へ向けて問いかける。

 

「桜全般として精神の美や優美がそうですわ。わたくしもバトルではそうありたいと思っておりますの」

 

 聞く耳を持たない佳那はヴィダールを破壊しようとビームトンファーを展開するが、ゔぃだーるは動じた様子もなく話し続ける。

 

「ですがあくまでそれは同じガンプラファイターにだけ……。覚悟なさいませ」

 

 仮面の奥でスッと目を細め、素早くEXアクションを選択する。

 次の瞬間、ヴィダールのツインアイが輝いたかと思えば、一瞬にしてゴトラタンの前から消え去り、対象を失ったゴトラタンは急停止するが横から蹴り飛ばされる。

 

「咲き誇る桜の美しさは輝きのように刹那なもの。バトルも同じ……。ならば美しくあれ……。わたくしの美学の一つですわ」

 

 ゴトラタンを蹴り飛ばしたヴィダールは反撃しようとするゴトラタンを翻弄しながら肉薄していく。

 選択したEXアクションはトランス系EXアクション・阿頼耶識システムtype-E。

 圧倒的な速度とそこから放たれる足技と剣技を折りませた猛攻は狂い咲く華のように魅力さも兼ね備えている。

 

「く、淄雄…………来いッ!!」

「残念。彼方にはわたくしのライバルがおりますの」

 

 瞬く間に追い詰められるゴトラタンが所々でスパークを起こす中で佳那は淄雄に助けを求めるが、リグ・コンティオは現在、バルバトスルプスと交戦中だ。ゔぃだーるはその現実を口にしながらバーストサーベルを向ける。

 

「なんだお前は……。何故こんな……ッ!!」

「なに相手が悪かった……。それだけですわ」

 

 圧倒的なまでの力を見せるヴィダールに佳那は理不尽を表すように叫ぶがゔぃだーるは静かに答えながらゆっくりと桜の花びらが舞い散る中、ゴトラタンに歩みを進める。

 

 シオn……オホン、ゔぃだーるの中の人はアセンブルシステムもまともに組めないほどの機械音痴だ。

 それ故、弄ったアセンブルシステムは滅茶苦茶でバトルもぎこちないものであった。だがそれでもジャパンカップの会場において相手の攻撃を全て避け、攻撃を直撃させているなど高い資質を見せていた。

 だからこそ今、まともなアセンブルシステムを手に入れた彼女は足枷もなく存分にその実力を発揮できるのだ。その本来の実力は夕香をも上回るだろう。

 

「くそぉっ……!! 生意気なんだよォォォォォォッ!!!!!!」

 

 ビームトンファーを展開したゴトラタンが自棄になったようにヴィダールに突っ込むが、突き出されたビームトンファーの刃を僅かに機体をずらして避け、そのまま胴体に深々とバーストサーベルの刃を突き刺す。

 

「なんで……!? なんで勝てない……!?」

「楽しんだ者勝ちですわ」

 

 バーストサーベルの刃を爆発させゴトラタンを葬る。

 その刹那、悔しそうに顔を歪め、自分やゔぃだーるに問いかける佳那だが、その間際、ゔぃだーるからの返答を聞き、ハッと何かに気づくも彼女のバトルは終了する。

 

 ・・・

 

 圧倒的な力を見せたゔぃだーるとは対照的にリグ・コンティオとバルバトスルプスの戦いは夕香が押されていた。

 というのもリグ・コンティオだけではなく、メガライダー隊の横やりもあり、そちらは裕喜が対応しようとしているものの物量の差を前にやはり苦戦をし、リグ・コンティオのみならずメガライダーにも注意を払わなくてはいけなかった。

 

「くっ!?」

「捕まえたぞォッ!!」

 

 現に今もバルバトスルプスはメガライダー隊の砲撃は避けられたもののリグ・コンティオのショットクローを受け、地面に叩きつけられるとリグ・コンティオは素早くヴァリアブル・ビーム・ランチャーと胸部ビーム砲を放とうとする。

 

 しかしそれも横から放たれた無数の銃弾によって阻まれ、見やればそこには此方に来たヴィダールの姿があった。

 

 そのままショットクローにも二挺のハンドガンを向けて集中砲火を浴びせつけ破壊すると解放されたバルバトスルプスは宙に飛び上がり、ヴィダールもバルバトスルプスのもとへ向かう。

 

「アナタは好きなように感じるまま動きなさい。リードして差し上げますわ」

「うん、一緒に行こうっ」

 

 補助するように互いに手を伸ばし、手を掴み合ったバルバトスルプスとヴィダールは宙に並ぶ。ガンプラ同士で手を繋ぎ合わせながら仮面の奥のゔぃだーるも夕香も微笑みを浮かべあい、一緒にリグ・コンティオへ向かっていく。

 

「クッ……こいつらァッ!!!」

 

 リグ・コンティオを挟むようにバルバトスルプスとヴィダールが囲む。

 左右を見ながら険しい表情を浮かべる淄雄だが、すぐさま二機はリグ・コンティオを囲みながら螺旋のようにどんどん距離を詰めつつ腕部200mm砲とハンドガンによる集中砲火を浴びせ始める。

 

 しかし淄雄もまた高い実力を持っているのか、被弾はするものの近づいたバルバトスルプスがソードメイスを振るった瞬間、飛び上がってバルバトスルプスを蹴り飛ばすと地面に叩きつけ、そのまま距離を取ろうとするがその後をヴィダールが追撃する。

 

 加速してリグ・コンティオの前に回り込んだヴィダールはバーストサーベルを突き出すが、ギリギリでリグ・コンティオはビームサーベルを引く抜く事でいなしヴィダールを殴り飛ばす。

 

 地面を削り吹き飛ぶヴィダールはゆっくりと立ち上がり、リグ・コンティオも戦闘を再開しようとするが、その前に背後から銃弾を受け、振り返ればこちらに迫るバルバトスルプスがあった。

 

 ソードメイスを振ろうとするも胸部ビーム砲を放たれ、バルバトスルプスは地を蹴って飛び上がってリグ・コンティオを飛び越えて着地すると、そのままソードメイスを振るい直撃させる。

 

「バカなッ!!?」

 

 直撃を受けたものの反撃に転じようとするリグ・コンティオだが、バルバトスルプスは身を屈める。すると次の瞬間、バーニアを吹かして接近したヴィダールはバルバトスルプスの背にマニピュレーターをつき、勢いを利用してリグ・コンティオに飛び蹴りを浴びせる。

 

「スイカっ割りぃっ!!」

 

 暴終空城を背後に驚き唖然とする淄雄だが、それだけでは終わらない。

 着地したヴィダールに飛び上がったバルバトスルプスがその肩部に足をつき、そのまま足場として利用し、更なる反動を得て、ソードメイスをリグ・コンティオの脳天から叩きつける。

 

「莫迦な!? こ、こんな所で止まるワケには…………」

 

 着地したバルバトスルプスにヴィダールが並び立ち、互いに頷き合うとソードメイスとバーストサーベルを同時に突き出し、よろめくリグ・コンティオを貫く。この結果が受け入れられないような淄雄だがリグ・コンティオは爆散する。

 

「夕香達、勝ったんだっ……! オジサン、ありがとね!」

「……オジサンか……。しかし、彼女は常に見違えるな」

 

 爆散したリグ・コンティオを見て、メガライダー隊の残骸の中心にいたグシオンリベイクフルシティのシミュレーター内で裕喜はそのまま援護に駆け付けた近くのネオサザビーを駆るシャアに礼を口にすると、一瞬、引き攣るもシャアは笑みをこぼしながら夕香の成長を感じていた。

 

 ・・・

 

「くそっ……くそぉっ!! なんなんだッ!!! なんでいつも上手くいかないんだっ!!!!」

 

 ガンプラ大合戦終了後、勝利したコトがトークショーをしているなか、その裏で淄雄は怒りで顔を歪め、しまいには周囲の物に当り散らしていた。

 

「世の中、上手く行くことだらけって思ってるのかい?」

 

 周囲の人間もいかんせん支店長の息子と言うのもあり止められずにいたが、ただ一人、彼に飄々とした様子で声をかける者がいた。

 

 鮮やかな金髪を揺らしそこにいたのはウィルだ。

 口元には笑みを浮かべるものの、決して目だけは笑っていなかった。

 

「君って中々抜けてるね。あんな事をオープン回線で話すなんて。幸い規模の大きなイベントだったからあれを聞いた者は少なかったようだが……僕はちゃんと聞こえていたよ。しかも立場ある君が公衆の面前であんな暴言を吐くとはね」

 

 ウィルにたじろぎ壁まで後ずさる淄雄だが、ウィルはお構いなしにどんどんと淄雄に詰め寄る。ウィルはあの発言に思うところがあったのだろう。口元には笑みを浮かべるもののその雰囲気は静かな怒りを感じさせる。

 

「単刀直入に言おう。もうここには二度と足を踏み入れるな。今の君がいずれこの店を背負ったとしても問題を起こすことは目に見えている」

「なっ……それは……!?」

 

 ウィルから言い渡された通告。

 それはこのタイムズ百貨店での未来を閉ざされたようなものであった。いくらなんでもと反論しようとする淄雄だが……。

 

「二度は言わない。僕を失望させた罪は重いぞ」

 

 淄雄の背後の壁に手を当て強い音を立てる。

 淄雄に顔を近づけるウィルの口元には笑みすら消えている。それが彼が本気なのだと分かり、淄雄は壁を背にずるずると力なく座り込む。

 

「君の事は評価してたつもりだけどね。どうだい? 何かが壊れる気持ちがどんなものか分かったかな」

 

 自分が抱いていた野心も何もしなければ本来手に入れられたであろう未来も壊れ、抜け殻となったような淄雄を見下ろしながら答える事のない問い掛けをしながらドロシーと共にこの場を去っていく。

 

 ・・・

 

「あのバトル……凄かったな。ただ強くするんじゃ駄目だな……」

「ああ。折角のチームなんだ。強くなるのは大事だけど、周りに合わせなきゃ意味がねぇ」

「色々と学べたな。このイベント」

 

 観客席にはカドマツとシュウジの姿が。

 行き詰ったカドマツの気分転換に来たわけだが、先程の夕香とゔぃだーるの戦いを見て、何か気づいたのか、早速、それをロボ太に活かすために調整の為、シュウジとハイムロボティクスに戻っていく。

 

「流石、夕香ちゃんだね! お陰で勝てたよ!!」

「やめてよ……。それよりシオ…………ゔぃだーるは?」

「バトルが終わった後、すぐいなくなっちゃったけど……」

 

 トークショーを終えたコトが夕香を賞賛すると、褒められることが苦手な夕香は照れ臭そうにしている中、ゔぃだーるの姿を探すがどこにもない。

 

 その問いかけにコトも周囲を見渡しながら答える。

 各々が帰ろうとするなか、夕香もまたもしかしたら家に帰ったのでは? と思い、適度に話しを切りあげつつ百貨店を後にしようとする。

 

「あっ……」

「おや、君は……」

 

 その途中で夕香はウィルとドロシーに出会った。

 まさか出くわすとは思っていなかった二人は驚いたように眼を見開いている。

 

「……君には……いや、君だけじゃないがすまない事をした。彼に代わって謝罪するよ」

「ちょっ……なんでアンタが謝んの?」

「……彼はここの人間だ。下の人間がした事の責任は上が取らなくちゃいけない。謝って済む問題じゃない事も分かってるけどね」

 

 頭を下げて謝罪するウィルに驚きながら頭を上げさせようとするが、淄雄の犯した事でタイムズユニバースのCEOとして責任を感じているのだろう。その理由を口にする。

 

「……やめてよ。別に済んだことだし……。それよりアイツは?」

「処分はした。でも君は平手やそれこそ殴っても良いくらいだ。それがお望みなら……」

「やだよ。もう暴力で何とかしようとか考えてないし、それじゃあアイツと同類みたいになる気がするし……」

 

 頭を上げさせた夕香は淄雄について尋ねると、一瞬複雑そうな表情を浮かべるなか、ウィルは夕香が気が済むのならばと提案するが、首を横に振られた。

 今回の顛末を知り合いに話せば、それこそ中には淄雄に手を出そうとする者もあらわれるかもしれない。

 

 だがそれは何より夕香自身が望んでいない。

 何故ならばそんな事をしたら淄雄と同類になると思ったからだ。

 もしも夕香の意志に反して淄雄に手を出そうものならば、それはその人間の身勝手な自己満足でしかない。

 

「……君のお兄さんはいるのかい?」

「アジアツアーだか何だかに行っちゃったよ。イッチに何か用?」

「……いや、今回の一件を客観的に見てね。日本の言葉の人の振り見て我が振り直せって訳じゃないが……自分がした事に気づいたんだ。きっと僕自身、彼と同類だ」

 

 今度は一矢について尋ねるウィルだが、あいにくこの場どころか日本にはいない。

 また因縁でもつけるのかと夕香が眉を顰めながら尋ねるが、ウィルはふと自嘲した笑みを見せる。

 

「ねぇ……アンタってガンプラが好きなの?」

「……どうかな。あのヴィダールのファイターの言葉を聞いてはいたが、僕もまた身勝手な感情で動いたに過ぎない……。しかもよりにもよってガンプラで、しかもジャパンカップのような大きな舞台で。本当に君のあの言葉は耳に痛いよ」

 

 その様子に夕香はあれだけの行動をしたウィルに尋ねる。

 だがウィルは胸を張ってガンプラが好きだとは言えないのか、視線を伏せながら自嘲して答える。

 

「……そんな顔出来るってことはさ。ガンプラが好きってことじゃないの?」

「……そうかな?」

「そうだと思うよ。ねぇ、今度一緒にバトルしようよ。アンタ結構強そうだし、アタシに色々教えておくれよ」

 

 ガンプラに対して申し訳なく思っているのであれば、それは少なくともガンプラに思い入れがあると言う事だ。ウィルの問いに頷きながら、夕香は微笑みを浮かべてウィルをバトルに誘う。

 

「……アタシもガンプラで怒りをぶつけようとした。でもさ、一回や二回の間違いは誰だってするって。だからさ、俯いてないで少しでも申し訳ないと思うのならガンプラと向き合ってよ。ガンプラバトルを……楽しんでよ」

「……やれやれ。お嬢さんには負けるね。でも……僕はバトルでは強いよ?」

 

 ふと自嘲した笑みを浮かべる夕香はそのままウィルを励まそうとすると、今まで表情が心なしか暗かったウィルも表情が明るくなり、普段の飄々とした様子を見せ、その言葉に夕香は望むところ、と笑う。

 この世に間違いも犯さない完璧な人間などいない。

 もしも淄雄も今回の事に反省をし今後に活かすのなら、新たにウィルも受け入れるつもりいるだろう。

 

「ねぇ、アンタってさ世界大会に出るんだよね?」

「そのつもりだが」

 

 笑いあう夕香とウィルだが、ふと夕香がウィルに世界大会の出場について尋ねると、話題が変わり、話に合わせながら頷く。

 

「ならさ……。アンタの事も応援してるからさ。もしもイッチと……ウチの兄貴とバトルする事があったら……最高のバトルをしてよ」

「……ああ、分かったよ。ガンプラファイターとして約束する」

「えへへ……。ウチの兄貴は絶対に強くなってるからさ。期待しててよね」

 

 手を後ろで組んで、前屈みになりながら夕香は優しい笑みを見せるとその言葉に頷き、ガンプラファイターとして誓われ、満足そうに笑うのであった。

 

 ・・・

 

「あっつーい……。あっ間違えた。熱いですわね……」

 

 雨宮宅ではリビングでシオンがソファーに腰掛けながら、何故だか知らないか汗に濡れた顔をハンドタオルで拭きながら、手をうちわ代わりにハタハタと動かしていた。因みにシオンは先程、慌てた様子で帰って来たばかりである。

 

「ただいま」

「あ、あら、おかえりなさい。結果はどうでしたの?」

「……いや勝ったけど」

 

 すると程なくして夕香が帰宅した。

 リビングに入った夕香を迎えながら、何故だか上ずった様子でシオンが話しかけると、結果は知ってるだろとばかりに夕香は嘆息しながら答える。

 

「あの、さ……。その……タルト……買って来たんだけどさ……。一緒に食べない……?」

「……」

「な、なんか言ってよ……」

「あ、あぁいえ……意外だったもので……。ふふっ、ならまたアップルティーで良いかしら?」

 

 夕香は手に持った箱の中からギッシリとりんごが詰まったタルトタタンを取り出し、照れ臭そうにそっぽを向きながらシオンに提案すると、驚いて開いた口を手で隠しているシオンは反応がない。

 その様子に気恥ずかしくなったのか、頬を染めながら文句のように言う夕香に気を取り戻したシオンはリンゴをふんだんに使ったタルトタタンを見て、これに合うであろうアップルティーを用意する。

 

「あらあらまあまあ、これは中々いけますわねっ」

 

 アップルティーをティーカップに注ぎ、ソファーに二人並んで座って切り取ったタルトタタンを食べ始めるシオンはほくほく顔で語尾に音符でもつきそうなくらい上機嫌で舌つづみをうっていると、夕香はちらちらとシオンを見ながらアップルティーを飲む。口の中にはアップルティーの甘さが広がる中、ソーサーにカップを置く。

 

「その……さ……。色々と……ありがと……」

「あら、感謝される謂れなどありませんが……まぁ受け取っておいて差し上げますわ。どういたしまして」

 

 バトル中、謝ったがそれ以上の感謝がある。

 その言葉をやはり気恥ずかしいのか、か細い声で口にする夕香だが、チラリと夕香を一瞥したシオンはティーカップを手に取り、香りを楽しみながら夕香の言葉に目を閉じると微笑みながら応える。

 

「それよりも今はこの時間を楽しみましょう。楽しい時間は共有してこそですわ」

「あれ、アタシといて楽しいんだ?」

「タ、タルトとアップルティーのことですわ!!」

 

 一口、アップルティーを口に飲み、夕香を見やりながら楽しそうに微笑むシオンにいつもの調子に戻ったのか、悪戯っ子のような笑みを浮かべる夕香に慌てふためく。

 からかわれてしまっては素直にはなれずそう答えるしか出来ないシオンの様子にクスリと笑いながらこの時間を楽しむのだった……。





<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

俊泊さんよりいただきました。
キャラクター名:蘆屋淄雄(あしや・くろお)
性別:♂
年齢:18歳
容姿:『ベン・トー』の「佐藤洋」に大きめの伊達マスクを付けさせた感じ。
身長:173センチ
一人称:俺(TPOに応じて“僕”なども)
二人称:君、アンタ、アナタ、オマエ、キサマ
口調:普通に男言葉(TPOに応じて敬語も使う)
設定:留守佳那とは幼馴染同士。タイムユニバース彩度駅前店の支店長の息子で、
   彩度商店街のガンプラチームを目の敵にしている。
   留守佳那のガンプラファイターとしての素質を見出し
   彼女を自身の旗下としてガンプラバトルへと引き込んだのだが、今では自身が
   リーダーであるのにも関わらず、ガンプラバトルにて
   時に佳那のファンネル代わり(比喩表現)とされてしまう事も有るという有様に
   なっており、しかも彼自身が其の事に気付ききれていない。
   戦術指揮官および留守佳那ほどではないもののガンプラファイターとしての技量は
   充分に高い部類かつ他人への気遣いが出来る人間ではあるのだが
   彩度商店街やウィルの件に付随したプレッシャーや野心から性格が歪みでもしたのか、
   ある卑劣な手段を躊躇無く積極的に用いたかと思えば、方向性の違う別の卑怯な手は
   嫌悪する等の、一貫性を欠いた行動や言動が目立ち、
   実直なファイターにも狡猾な策士にも成りきれない中途半端さを醸し出している。
   ウィルの来日に合わせて彼に取り入りつつ自身の成人後次第では将来的にウィルすらも
   出し抜こうかという野心を抱いていた事も有ったが、少し抜けている所も有るようで
   その点が留守佳那の不興と失望を少し買い、彼の佳那用ファンネル代わり化を
   推し進める遠因ともなった。
イメージCV:下野紘
使用ガンプラ:シャッコー、アドラステア、リグ・コンティオ


キャラクター名:留守佳那(るす・かな)
性別:♀
年齢:17歳
容姿:『ブラウザ一騎当千 爆乳争覇伝』の「貂蝉」
身長:165センチ
スリーサイズ:B/89・W/59・H/90
一人称:私
二人称:アナタ、アンタ(感情が高ぶるとオマエ)
口調:ギャルっぽい感じの女言葉だが、感情が高ぶると男言葉が混じる。
   極希にTPOに応じて敬語も使う。
設定:蘆屋淄雄とは幼馴染同士。蘆屋淄雄 旗下のガンプラファイターのトップエースである。
   蘆屋淄雄からガンプラファイターとしての高い素質を見出され、彼に誘われて
   其の旗下としてガンプラバトルへと入ったのだが、今ではリーダーである筈の淄雄を時に
   ファンネル代わり(比喩表現)としてしまう程になっている。
   ガサツで大雑把、ガラも悪ければ口も悪いのだが、蘆屋淄雄への想い自体は強い。ヤンデレ。
   普段は、口数自体は少なめで冷ややかな態度をとっている事が多いのだが、戦闘時
   特に自身や蘆屋淄雄を蔑むような言動や行動(あくまでも彼女の主観)をとられると
   支離滅裂で衝動的な言動やエグい奇行が目立つようになる等の相当なキレっぷりを
   発揮するようになる。
   なお、ガンプラバトル中にキレ状態な彼女に凄まれると、例え使用機体の性能的あるいは
   技量的に上回っていたとしても、殆どの者が一種の種の恐怖か戸惑いを感じて
   本来の力をあまり発揮する事が出来なくなるそうである。
イメージCV:小林ゆう
使用ガンプラ:リグ・シャッコー、ゲドラフ(アインラッド)、ゴトラタン


ライダー4号さんよりいただきました。


決戦仕様 (と本人が思っている) フルアーマーユニコーンガンダム plan BW
WEAPON ビーム・サーベル、ビーム・トンファー
WEAPON ビーム・マグナム(リボルビングランチャー)
HEAD  ユニコーンガンダム
BODY  バンシィノルン
ARMS  バンシィノルン(アームド・アーマーBS and アームド・アーマーVN)
LEGS  ユニコーンガンダム
BACKPACK フェネクス
SHIELD  フェネクス
フェネクス
拡張装備 ハイパー・ビーム・ジャベリン
メガ・キャノン×2
ハイパー・バズーカ
切り札:NT-D
備考:FAユニコーンと違い、プロペラントタンクが無いただのEN馬鹿食いする欠陥機

素敵なオリキャラや俺ガンダムありがとうございました!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

笑みの中の歪み

 曇りなき空に太陽が燦々と輝くなか、ミサは緊張した面持ちでゴクリと喉を鳴らす。

 

 何故なら、今いるのは異国の地アメリカ。

 自身が慣れ親しんだ彩渡街では考えられないほどの高層ビルが並び、車は絶え間なく走っている。全てが異なるこの場所では見るものすべてが新鮮に映る。

 

(ヴェルさんがいて良かったな……)

 

 チラリと同行しているヴェルを見やる。

 

 今、ヴェルは道行く人に道を尋ねていた。

 当然、話している言語は英語であり、言葉が途切れる事もなくペラペラとスムーズに話が行われている。

 もしも自分であれば時間を更に要していただろう。

 ヴェルが当たり前のように日本語を話すせいで感覚が麻痺していたが、ヴェルはシュウジやカガミのような日系人ではないのだから母国語は英語でこれが普通なのかもしれない。

 

「ミサちゃん、お待たせ」

「えっ、あっ、はいっ!」

 

 話を終え、ヴェルは戻って来た。いつもの柔和な表情を浮かべているところを見ると、ちゃんと場所を聞く事が出来たのだろう。

 しかし初めて訪れたアメリカの地に緊張していたミサはピクリと体を震わせながら反応する。

 

「大会まで後二日はあるからその間、ちゃんと調整しないとね」

 

 街道を歩きながらヴェルは今後の予定について話す。

 このアメリカの地に来たのは何も観光をしに来たわけではない。

 

 ヴェルの言葉通り、二日後にこの地で行われるガンプラバトル・アメリカトーナメントに出場するためだ。

 その大会は出場資格が問われない為、ミサは様々なファイターが参加するであろうこのトーナメントで己の腕を磨くためにこうしてはるばるアメリカの地にやって来たのだ。

 

 ヴェルの言葉に頷きながら、彼女に案内され目指すのはこの国のゲームセンターだ。

 世界的に大流行しているガンプラバトルは大国アメリカも例に漏れることはない。

 

 ・・・

 

「凄いなぁ……」

 

 ゲームセンターに到着したミサ達はモニターに映るガンプラバトルの映像を見ながら感嘆の声を上げる。

 今現在、モニター内ではガンダムマックスターが次々に迫るガンプラを撃破していく様子が映し出されていた。

 

「──お嬢さん、ちょっと良いかな?」

 

 そんな二人に、いや、ミサに声をかけられる。

 雑多音の中から聞こえた声に目をやれば、そこには柔らかな質感を持ったブロンドヘアーをポニーテールに纏め、常にニコニコと人当たりの良さそうな笑顔を絶やさない一人の少女がいた。

 

 その傍らには少女を越える大体、170cmはあるであろう黒紫色のサラリとした艶やかな髪を腰まで垂らした細身の女性と逆に140cmちょっと程度の小柄のカチューシャで髪を留めたくせっけのある肩まで届いた青緑色の髪の少女がいた。三人並べばまさに大中小と言う身長差だ。

 

「えっと……なにかな……?」

「いやぁ、ここで日本の人に出会えるなんて光栄だよ。日本と言えばやっぱりガンプラの国だしね」

 

 驚くべき事に声をかけた金髪の少女は聞き取りやすい日本語を話してきた。

 

 突然、話しかけられた事に戸惑いながらも要件を伺う。

 どうやら日本人と言う事で話しかけてきたようだ。胸の前でポンと手を合わせながら、ミサと言うよりも日本人に出会えたことに金髪の少女は喜んでいる。

 

「日本語、上手いんだね」

「何回か日本には行ったことはあるよ。これからも行くつもりだから覚えたんだよ」

 

 あまりに流暢な日本語は日本人であるミサからすれば感心するしかない。

 金髪の少女を褒めるミサに渡日した経験を相変わらず笑みを絶やさずに答える。

 

「日本はこの間、ジャパンカップが終わったばっかりだよね。ミスターガンプラがエキシビションを行ったって世界中が話題にしてたんだよ。確かその時の優勝チームに負けちゃってたみたいだけど」

「その優勝チームの一人がここにいるミサちゃんだよ」

 

 ガンプラの国とも言われる日本。

 その日本で一番大きな大会であるジャパンカップはガンプラを愛する者ならばそれだけで注目されるわけだが、金髪の少女の言うように今年はことさらミスターのエキシビションもあったのだ。SNSでも常に取り上げられるほどでそれほどまでミスターが世界中で支持されているのが分かる。

 

 そんな少女にヴェルはミサの傍らでその両肩に手を添えながら今年度ジャパンカップ優勝チーム彩渡商店街ガンプラチームの一人である事を教える。

 

「へぇ……これは面白いや。確か世界大会にも出るって話だよね」

「そうだけど……」

 

 ミサについて知った金髪の少女の背後にいた二人はそれぞれ驚いているなか、興味深そうにミサの顔を見る金髪の少女の言葉におずおずとしながら答える。

 

「なら、ちゃんと自己紹介しないとね。ボク達も出るんだ。世界大会に」

「えっ!?」

 

 すっと身を引きながらミサに衝撃的な事を口にする少女。

 僕達と言うからには、この三人はガンプラチームを組んでいるのだろう。

 

「イギリス代表チームフォーマルハウト。ボクはリーダーのセレナ・アルトニクス……。よろしくね」

 

「えっ……!? ……って言うか、ボク……?」

 

 イギリス代表と口にする金髪の少女ことセレナ。

 だが問題はそのアルトニクスの姓であろう。

 

 そう、彼女は今現在、日本の彩渡街にいるシオン・アルトニクスの姉だ。

 もっともその事は現在、シオンとの関わりが薄いミサにとっては知る由もないが。まさかこの場でイギリス代表に出会うと思っていなかったミサはセレナの発言に色々理解が追い付かず、日本語で放たれたその一人称に触れる。

 

「あれ、おかしかったかな? 日本の人達は僕っ娘って言うのが好きだって聞いたから練習したんだけど」

「誰だそんな事言ったの」

 

 セレナは不思議そうに顎に人差し指を添えながら首を傾げるが、ミサはまずその事について問いただそうとする。確かに好きな人間はいるだろうが、日本の人達という広い括りにされては困る。

 

「っ……フフッ……」

「プッ……ククッ……」

(あの二人か……)

 

 セレナの傍らで彼女から顔を背けて肩を震わせて耐え切れずに小さく笑っている二人の少女を見やる。この分だとセレナは他にも間違った知識を植え付けられているかもしれない。

 

「まぁ慣れちゃったし、今更もう良いかな。それよりも、もしかしてアメリカトーナメントにでも出るのかな?」

「そうだけど……。もしかしてセレナちゃんも……?」

「ううん。今回は観戦するつもりだよ。ガンプラバトルは見るのも面白いしね」

 

 今更、覚えた一人称を変えるのも面倒だ。

 再び話題を変え、今度はミサがこの場にいる理由を尋ねる。

 近くトーナメントが行われ、ジャパンカップ優勝チームの一人がいるのであればそう考えたのであろう。肯定しつつセレナも出場するのか尋ねるミサに首を振りながら答える。

 

「……それで、ゲネシスガンダムのファイターはどこにいるのかな?」

「こ、ここにはいないよ……。私と隣にいるヴェルさんだけでアメリカに来たんだ」

 

 いまだ笑みは絶やさないもののセレナの雰囲気が僅かに鋭くなったのを感じた。

 セレナから一瞬、感じた雰囲気の違いに僅かに身を震わせながら一矢はこの場にはいない事を伝える。

 

「そっかぁ。それは残念だ。まぁいずれは会えるだろうし、それまでは楽しみは取っておくよ」

 

 だが、その返答によってセレナはどこかミサには興味を失くしたような態度を見せる。

 まるでその言葉は目の前のミサには楽しみはないとばかりだ。

 

 その様子にミサは下唇を噛む。

 やはり彩渡商店街ガンプラチームと言えば、真っ先に出てくるのは一矢なのだ。

 覚醒の力を使い、エキシビションでは単身、ミスターを撃破したのだからそれは無理はない。寧ろ一矢がいなければカドマツやロボ太がチームにはいる事も、それこそ例年通りタウンカップ予選敗北だったのかもしれない。

 

「あのっ!」

 

 結局、自分は一矢のおまけでしかない。そう言われている気分だ。それを否定したくて、そうではないと言いたくて、声を上げた。

 

「良かったらバトルしない……? 調整も兼ねてバトルがしたくてここに来たんだ」

 

 一矢にしか関心を持っていないセレナにバトルを挑む。

 調整なんて生易しいものではない。全力でぶつかるつもりだ。それにセレナはイギリス代表のしかも、そのリーダー。学べることはあるはずだ。

 

「……良いよ。ここには遊ぶつもりで来たし、少しバトルでもしよっか」

 

 するとセレナはどこか値踏みでもするかのようにミサを見つめる。

 今の彼女が何を考えているのかは分からないがバトルを承諾し、順番を待ってそれぞれガンプラバトルシミュレーターに乗り込む。

 

「アザレアパワード、行きます!!」

 

 マッチングが完了し、カタパルトの映像が表示される。

 その中でミサのアザレアが出撃する。今の自分の実力が、どれだけ世界に通用するのか。その力を試すように一気にカタパルトを駆けて行く。

 

「セレナ・アルトニクス……ガンダムバエル……出るよ」

 

 一方でセレナ側のカタパルトには細身の白銀のガンダムがいた。

 一目で分かる武装である腰部にマウントされた二つの金色の剣であるバエルソードは煌き光る。

 

 その名はガンダムバエル。

 

 元々セレナの影響でガンプラを始めたシオンは彼女の影響もあって同作品に登場するガンダムキマリス系を主に使用している。武装の少ないこのガンプラを使用しているのは単純な戦闘スタイルなのか、それともそれだけで戦えるほどの実力があるのか。それはすぐに分かる事だ。

 

 大型スラスターウィングを稼働し、不気味に紫色のツインアイを輝かせながらずっと浮かべている笑みもどこか歪な笑みに変えながらセレナのバエルもまたフィールドに飛び出して行った。




セレナ・アルトニクス?

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仮面に刻まれた笑み

 バトルフィールドとなった市街地でミサはセレナの操るガンプラを探す。

 市街地を突き進むアザレアPだがセンサーが相手プレイヤーを感知し、地面を擦って立ち止まってセンサーに反応がある上空を見上げる。

 

「っ……」

 

 上空にはスラスターウィングから巨大な噴射光を放ち、此方を見下ろしているバエルの姿があった。あまりに堂々たるその姿は神々しささえ感じ、ミサは無意識に緊張から息を飲む。

 

 しかしこれはバトルだ。

 モニター越しに見つめ合うものではない。ミサは素早くビームマシンガンを向け、トリガーを引こうとするが……。

 

「えっ……!?」

 

 そのトリガーが引かれる事はなかった。

 何故ならアザレアPが持つビームマシンガンは強い衝撃と共に爆発したのだから。

 

 今この場にいるのはアザレアPとバエルのみ。

 ならばビームマシンガンを破壊したのはバエルだ。

 

 唖然とするミサをよそにスラスターウィングに内蔵された電磁砲を放ったバエルは滑空し一気にアザレアPへ加速していく。

 

 ガンダムバエルは近接戦をメインにする機体だ。

 近づけさせればどうなるかは分からない。距離を開けようとマイクロミサイルやGNキャノンをバエルに放ちながら、距離を開けようと移動するが、バエルは止まるどころか更なる加速を持って、翻弄するように移動し建造物を盾に利用しつつアザレアPに迫る。

 

 距離を詰められるのはあっと言う間であった。

 

 眼前に迫ったバエルのツインアイは妖しくギラリと光る。

 たったそれだけで悪魔に魅入られたかのように背筋がゾクリと震える。

 

 その震えを振り払うかのようにビームサーベルを引き抜き、突進する。

 だがその刃もバエルは機体を横に反らして、手で払うかのようにアザレアPを受け流す。

 

「なっ!?」

 

 標的を見失ったアザレアPはすぐさまバエルに向き直ろうと振り返った瞬間、既にバエルは迫っていた。バエルの姿を認識した瞬間、メインカメラを掴まれてそのまま近くのビルに叩きつけられる。

 

 衝撃でブレードアンテナが折れる中、バエルは頭部を掴んだまま、スラスターウィングを稼働させてアザレアPごとビルを突き破る。

 

「このぉっ!!」

 

 激しい損傷を知らせるアラートが鳴り響くなか、アザレアPの脚部のミサイルを放つ。

 直撃はしなかったもののバエルはアザレアPからマニビュレーターを離す。

 

 解放されたわけではない。

 バエルはグルリと宙を舞って回し蹴りをアザレアPのバックパックに叩き込み、更には電磁砲を放って破壊する。アザレアPの機体が衝撃で強く揺れる中、それでも体勢を立て直しビームサーベルを突き出そうとする。

 

「そんな……っ!?」

 

 しかしバエルはその動きを見極め、ビームサーベルを持つ右腕の関節を掴んで、その動きを止める。

 

 それだけでは終わらなかった。

 そのまま強引に腕部を引っ張るとアザレアPの機体を蹴ることでビームサーベルを持つ腕部を引き千切ったのだ。

 

 引き千切ったアザレアPの右腕はゴミのように捨てられ、バエルは動揺するアザレアPに加速して近づくともう一本、ビームサーベルを引き抜こうとするその横から脚部の関節を蹴って体勢を崩させると、その首元を掴む。

 

 首元を掴み上げたバエルのマニビュレーターに力が籠り、ギチギチと耳障りな音が響き渡る。ミサの瞳にはモニターに此方を見据えるバエルの頭部が映り、もはや恐怖さえ感じていた。

 

 まるで首をへし折るかのように頭部を破壊したバエルはアザレアPを解放すると重力に従ってアザレアPは地面に崩れ落ちる。

 

「ま、まだ……っ!!」

「言ったよ、少しって」

 

 まだ自分はセレナに何も出来ていない。

 何かしようとアザレアPを立ち上がらせるミサだが、漸く口を開いたセレナの言葉はどこか身を凍らせるような冷徹なものだった。

 

「弱いってさ、苦しいよね」

 

 なす術のない状況にミサの瞳が揺れる。

 世界と自分との間にこれだけ開きがあるとは思わなかった。

 だが事実、目の前には殆ど無傷のバエルが自身が引き抜こうとしていたビームサーベルを抜き取っていたのだ。

 

 そんなミサの心中でも見抜いたかのようなセレナの呟きと共に突き出されたビームサーベルの凶刃はアザレアPを貫き、スッと引き抜くとまるで事切れるかのようにアザレアPは倒れ伏す。

 

 こんなものはバトルでもなんでもない。ただの蹂躙だ。

 しかし先程の蹂躙劇が嘘のように静寂が無人の市街地を包み込み、微動だにしないバエルを残して音を立てずに終了する。

 

 ・・・

 

「何だかごめんね、お嬢さん」

 

 バトルは終了しミサは呆然としたままシミュレーターから出てくる。

 これまで圧倒的な力の差を感じる事はあったが、恐怖を感じることはなかった。

 まさに悪魔の名を冠するガンダムに相応しい暴力じみた蹂躙劇であった。

 

 そんなミサにセレナは申し訳なさそうに困った様子で笑顔を浮かべながら謝る。しかしセレナが謝る事ではなく、ミサは首を横に振る。

 

「トーナメント、頑張ってね。応援してるから」

 

 今のミサと会話は長続きしないだろう。

 セレナは笑みを絶やさずに軽く手を振って、連れである二人の少女と共にゲームセンターを出て行くのであった。

 

 ・・・

 

「……私一人だと、あんなものなんだ……」

 

 ゲームセンターを出て、セントラル・パークに移動したミサとヴェルは遊歩道を歩いていた。

 ミサの中で先程のバトルが残っているのか、表情は暗い。

 思えばタウンカップもリージョンカップもジャパンカップも一矢がいたからこそ勝利できた面が大きい。自分一人だけで戦えば、こんなにも無力である事を実感してしまった。

 

「チームって難しいよね。釣り合いが取れなかったら、チームって言うより、一人とその他になっちゃう」

「その他になんてなりたくない……。商店街を私自身で守りたいし……後ろで一矢君を見るんじゃなくて……隣を歩きたいのに……」

 

 後ろに手を組んで歩いているヴェルの言葉にミサは無力な自分が悔しそうにポケットに突っ込んだ手を握りしめる。何故、自分は強くなれないのか。そんな思いを表すかのようだ。

 

「このままじゃ一矢君に顔向けできないよ……」

「ミサちゃんはせっかちだね」

 

 チームを結成した際、一矢に全てを押し付ける気はないと言った。

 しかし現実はどうなのだろうか。弱い自分が情けないと俯いていると、ふとヴェルの苦笑したような呟きが耳に届く。

 

「すぐに強くなれるなら苦労しないよ。強くなるために大切なのはどれだけ時間がかかってもそれでも強くなろうとする心だと思うよ。余計なことは考えないで、何かを守るために強くなりたいって想える心から揺れない強さが生まれるんだって私は思ってる」

 

 ふとヴェルを見るミサに柔和な笑みを浮かべて諭す。

 心さえ折れなければ、人は前を向ける。何かを願う心があれば一歩踏み出すことが出来るのだ。その一歩一歩が着実に自分の強さに繋がる。焦る必要なんてないのだ。

 

「私が教えられることはいくらでも教えてあげるよ。特に戦い方なら、ね」

 

 だがヴェルはどこか自嘲気味な笑みを浮かべる。

 元はこの世界の人間でもないヴェルは本来ならばMSパイロットだ。

 

 それが役割とはいえ、その人生の半分は知らない誰かを傷つける戦いをしてきた。力には種類がある。ヴェルやシュウジ達が持つ力はそういうものだ。

 

 だが今、目の前にいるミサにならば、殺し合い以外で自分の力を活かす事が出来る。

 ある意味でヴェルはミサに感謝をしていた。いや、それは他のトライブレイカーズの面々もそうだろう。だからこそ出来る限り教えられることはミサに教えようと思う。

 

「大丈夫。もしも立ち止まったってここには私がいるから。いくらでもミサちゃんに付き合うよ。私と一歩一歩、歩いていこう?」

 

 柔和な笑みを浮かべながらミサを安心させるように話す。少しは気分も晴れたのだろう。ミサは「はい!」と大きく頷くのであった。

 

 ・・・

 

「お嬢様、やっぱり注意するのはゲネシスガンダムのファイターだと思うんだよっ!」

「今のままであればお嬢様が出るまでもなく、私たち二人でもどうとでもなりそうです」

 

 時刻は夜になり、ホテルの一室ではフォーマルハウトのメンバーが集まっていた。

 椅子に腰かけているセレナに先程ゲームセンターで共に居たカチューシャをつけた小柄の少女であるモニカ・リリックが活発そうに八重歯を覗かせながら先程のバトルを思い返しながら話す。

 

 モニカの傍らに立つ黒紫色の髪を垂らしている足も長くまさにモデルのような長身の女性……アルマ・エヴァンスがクールささえ感じる静かな物言いで口を開く。この二人はセレナと同じフォーマルハウトのメンバーであると共にセレナの侍女だ。

 

「今のままなら、でしょ。多分、強くなるんじゃないかな?」

「お嬢様はそれを望まれているように見えますが」

 

 椅子に座るセレナはゲームセンターの時と変わらず笑みを見せながらミサに期待を込めた発言をすると、アルマはその様子から寧ろそう望んでいるのだと見抜く。

 

「そうだね。日本は如月翔やミスターガンプラみたいなファイターが世界で群を抜いて多い。そんな国の代表にしてはあまりに張り合いがないからね。まぁ今度のトーナメントで様子見と行こうよ」

 

 ガンプラの国である日本のチームなのだ。

 必然的に期待だって高まる。

 

 ミサとのバトルはすぐに終わってしまったが、伸びしろがあるかないかは今度のトーナメントで判断しようとセレナは笑う。

 

「そろそろ良い時間だし、寝よっか。世界大会まで時間はあるけど僕達は僕達で何もしないわけじゃないしね。今は英気を養おう」

 

 ふと室内のデジタル時計を見れば、就寝するには良い時間だろう。

 笑顔を浮かべつつ、ここらで話を切り上げようとする。

 

「それじゃあ、お嬢様! また明日っ!」

「おやすみなさいませ、お嬢様」

「うん、おやすみー」

 

 モニカとアルマがそれぞれ頭を下げると、セレナは笑顔で見送り、二人は部屋を後にすると完全に扉は締まり、セレナ一人だけの空間になる。

 

「……」

 

 二人が部屋を出て数十秒が経った時だった。

 おもむろにセレナは纏めていたポニーテールに手をやり、髪留めを外すとふわりと柔らかな質感を持ってナチュラルブロンドの髪が垂れ、そのままベッドに仰向けで倒れる。

 

 セレナの表情から今までずっと浮かべてきた“作りものの笑み”が消える。

 仮面が外れたかのように笑みが消え去ったセレナの表情はあまりに無機質な能面のように眉一つ動くことがない無表情なものに変わっていた。

 

 今までの笑みも明るい様子も嘘で偽りであるかのようにセレナは“人形”のように指一本動かすことなく何の反応も見せない。まるで世界が静止したかのようにただただ外から聞こえる環境音だけが部屋に響く。

 

 笑みを浮かべる事で細めることが多かった目がゆっくり開き、ただ虚空を眺めている。

 彼女にとってその瞳に映る景色全てが色あせて無感動なものであるかのように……。

 




セレナ・アルトニクス(人形)

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

傍にいなくとも…

 宇宙を舞台にしたバトルフィールドではスターストライクとアザレアPによるバトルが行われており、無数に放たれたドラグーンはヴェルのマニュアル操作によって着実にアザレアPの死角をついて損傷を与えると、近づいたスターストライクはビームサーベルを引き抜き、そのまますれ違いざまに両断する。

 

 ミサがヴェルから特訓を受ける時間は数時間とまだ短い。

 だが、その短い数時間でもその内容は非常に濃縮したものでヴェルと行うバトルの一つ一つがミサを着実に強くしていく。

 

「まだやりましょうよ、ヴェルさん!!」

「あははっ……。少し休憩しよっか。ゲーム漬けはよくないよ」

 

 例え幾度負けても、その度に少しずつヴェルから学び成長する自分を実感しているのだろう。だからこそもっと強くなりたいと熱気あふれる楽しそうな笑顔を向けられたヴェルは苦笑しつつも、ミサの身を案じて休憩を提案する。

 

 ・・・

 

 昼下がり、二人が移動したのは有名なファストフード店であった。

 アメリカに来たのならば、この店にかねがね訪れたいと考えていたミサはヴェルとテーブルをを挟んで座りながら、ハンバーガーを頬張っていた。

 

「あぁ美味しい……っ」

 

 まるで音符でも弾ませるようにハンバーガーを食べて舌鼓を打つヴェルの様子はこれ以上の幸せはないと言わんばかりだ。その様子にいつもは姉のようなしっかりした印象を受けるヴェルに幼さを感じたミサはついつい笑ってしまう。

 

「けどヴェルさんって本当に強いですよね。手も足も出ないなんて……」

「まぁ私も何だかんだで必死に強くなろうとしたからね」

 

 先程のバトルを思い出しながら、ヴェルの実力を素直に認める。

 ヴェルはバトルをして日が浅いと言うのに、バトルの仕方を……戦い方を知っている。それは自分にはないヴェルの強さなのだ。

 

「それって……やっぱりシュウジさん達がいるから……?」

「そうだね……。あの二人は傍にいたいって思える魅力があるんだ」

 

 以前、公園で聞いたことがあるヴェルが強くありたい理由。

 そのことをヴェルに伺うと、感慨深そうに目を細めながら、これまでの出来事を思い出している姿を見れば、それだけシュウジとカガミを大切に思っているのだということが分かる。

 

「あの……ヴェルさんはシュウジさんのこと、どう思ってるんですか?」

 

 ヴェルと言えば、シュウジと一緒にいる印象がある。

 旅行の時もウィルス駆除の時もだ。もしかして、ヴェルはシュウジと特別な関係にあるのではないかと好奇心から尋ねてしまう。

 

「シュウジ君? シュウジ君は目が離せない危なっかしい弟みたいな感じかな……」

 

 シュウジについて尋ねられるとは思っていなかったヴェルはうーん……と考えるように首を傾げると、まず第一に思い浮かんだシュウジへの印象を答える。

 

 ・・・

 

「へっくし!」

 

 同時刻、ハイムロボティックスでロボ太の調整を手伝っているシュウジは鼻のむず痒さを覚えたと思えば、次の瞬間、くしゃみをしていた。

 

 ・・・

 

 

「シュウジ君は無鉄砲で」

 

「はっくし!」

 

「鈍感で」

 

「ぶぇっくし!」

 

「不器用で」

 

「へぇっくしょん!」

 

「人に心配をかけるのが得意な子だけど」

 

「はああぁーくしょぉんっっ!!!」

 

 ヴェルが一言一言、シュウジのマイナス点を口にする度に遠く日本の地にいるシュウジが連動するように、どんどん大きなくしゃみをして、寒気を感じて身を震わせる。

 

「それでも……真っ直ぐ前を見て走り続ける姿は格好良くて……近くにいたいって思えるんだ」

 

 シュウジを想い、知らず知らずのうちにヴェルの口元には笑みがこぼれる。

 初めて会った時の印象はこれからのチームでの行動の先行きに不安を感じてはいたが、長い年月を共に過ごしているうちにその印象は変わった。

 

「シュウジ君はね、手を差し伸べてくれるような人なんだけど私はそんなシュウジ君に手を差し伸べられる人でありたいんだ。真っ直ぐ進み続けるシュウジ君が転んじゃった時、立ち上がらせられるように……支えて、あげられるように」

 

 自分の雪のように白いか細い手を見やる。

 この手がシュウジの助けになれるのかは分からない。でもそれでも手を差し伸べたい。

 シュウジの頑張りは知っているから、だからこそその近くで支えてあげたいと思えるのだと。

 

「なんだか彼氏の惚れっ気を聞かされてるみたい……」

「彼氏……?」

 

 その様子に思わず感じた事をそのまま口にしてしまった。

 彼氏と言う言葉を反復したヴェルはその言葉を認識した瞬間、ボンッと爆発したかのようにたちまち顔を真っ赤にする。

 

「か、かかかか、彼氏、なななんて、そ、そんなとんでもないでございまする!」

「まする? でも、シュウジさんとそういう関係になったらとか考えた事ないんですか?」

 

 シュウジとそういった関係になった時の事を想像したのだろう。

 上気でも出てきそうな勢いでシュウジとの関係をぶんぶんと首を横に振って否定する。

 その語尾に苦笑しながらも、年頃のミサはどんどん踏み込んでいく。

 

「あのっ……その……っ……ね……。今までそんな余裕がなくて……ちゃんと考えた事……なかったんだけど……」

 

 熱を帯びる頬を両手で冷ますように抑えながら、いまだ恥じらった様子のヴェルにうんうん、とミサは瞳を輝かせながら続きの言葉を待つ。

 

「お、お嫁さん……とか……良いかなーっ……なんて……」

 

 人差し指同士を合わせて恥ずかしいのかミサにそっぽを向きながら、か細い声で答える。今までMSパイロットとして、明日の我が身も分からぬ中、仲間達と生きる事だけを考えていたヴェル。この世界に来て、心にも余裕が出来たのだろう。初めて考えた女性の幸せに恥じらっている。

 

「で、でででも!! だからってシュウジ君は関係ないよっ!!」

(なにこの乙女)

 

 両手をぶんぶんと振りながら、シュウジを関係ないと話すヴェルだが、その様子から全く持って説得力がない。年上の筈のヴェルの可愛らしい一面を見て、ミサはニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「でも何だか分かるなー」

「えっ、お嫁さんになりたいの? 誰の? 一矢君の?」

「ち、違います!」

 

 頬杖をつきながら、先程のヴェルの話に共感して頷いているミサにまさかその年で結婚でもしたいのかと驚いていると、ミサは結婚の話ではない、と顔を赤らめながら否定する。

 

「その……一矢君も私生活だと欠点だらけなんですけど、傍にいるとどこまでも一緒に進んで行きたいって思えるんです」

 

 商店街を一人で守れるだけの強さを手に入れたい。

 だがそれだけではない。一矢と肩を並べてまだ見た事もない、知らないものを一緒に見て行きたい、その為に強くなりたいと思えるのだ。因みに同時刻、アジアツアーに参加中のボッチがくしゃみをしていた。

 

「じゃあ、もっともっと強くならないとね」

「はいっ! この後、またバトルしましょうね!!」

 

 そんなミサの健気にさえ感じる想いに触れ、ヴェルは慈しむような優しい笑みを浮かべると、ミサは大きく頷き、席を立ちながらこの熱を冷ませないようにと興奮して楽しそうな笑みを見せる。

 

「そうだ。聞いてくださいよ! この間、一矢君が寝坊したんですよ!」

「あぁ、シュウジ君もたまーにあるんだよねー」

 

 だが今は食事中だ。

 再び食事を再開しながら、その話題の中心になっているのは一矢とシュウジであった。

 二人はそれぞれ一矢とシュウジの失敗談を話しているのだが、無意識なのだろうか最後には、だけどと良い点を話している。そんな時間を過ごしていく中、ミサはヴェルの指導のもと、アメリカトーナメントまでの間、特訓漬けの毎日を送るのであった。

 

 ・・・

 

「毎回、ここには色んなファイターが集まるから刺激になるよな」

「ええ、今回はどんなバトルが行われるのかしら」

 

 遂にアメリカトーナメント開催の日となった。

 ガンプラの大会だけあって多くの人で賑わう中、この地からわざわざジャパンカップの決勝を観戦しに向かっていた莫耶とアメリアの姿もある。

 

「お嬢様、あのまな板の娘、強くなってるといいねっ!」

「あのないちちの娘がお嬢様のご期待に応えられるか楽しみですよ」

「君達それ以外の印象はないの?」

 

 また会場にはフォーマルハウトの姿もある。

 ミサと直接会話していないので、見た目の印象しかないモニカとアルマは並んで座りながらミサについて触れると、外見の印象でミサを指す二人にセレナは苦笑する。

 

「でも胸が小さいと着れる服が多くて羨ましいよねー」

「お嬢様、その言葉はあの娘の前で言うのは止めた方が良いかと。面白そうですが」

「うんうん。あぁいう娘って結構気にしてそうだよねー。面白そうだけど」

 

 何気なしに思ったままの事を口にするセレナの服の上で分かる平均よりもやや大きいくらいの胸を見ながら、アルマとモニカはからかったりするのが好きな性格なのだろうが、それは止めておこうと釘をさしておく。

 

 ・・・

 

「……なんかザワッとする」

 

 控室にいるミサは何か感じ取ったかのように顔を顰めている。

 ここは控室だけあって数多くのファイター達の姿がある。現在、バトルも始まっており、外からの歓声が此方にも聞こえてくる。

 

「ミサちゃん、これ見てみて!!」

「えっ?」

 

 自分の番を待ち続けてるミサだが、控室に入って来たヴェルが興奮した様子で翔から借りた携帯端末をミサに見せてきた。突然の事でミサが驚いたものの携帯端末を手に取る。

 

「【アジアツアーで快勝を続ける沖縄宇宙飛行士訓練商店街チーム】……。これって!?」

「うん、そのチームには一矢君がいるみたい!」

 

 ネットニュースで書かれた内容を読み上げれば、それは一矢が参加しているアジアツアーのことだった。嬉しそうにヴェルを見やれば、彼女は肯定しながら頷く。

 

「そっか……。一矢君……やっぱり凄いなぁ……」

 

 アジアツアーで結果を出し続けている一矢。

 遠く離れていても一矢も強くなっているのだと知り、ミサは嬉しくなる。

 だが、気持ちだけで終わるわけにはいかない。そうこうしていると遂にトーナメントで自分の番が訪れる。

 

(一矢君、私も行くよ。遠く離れてても……一矢君が私のことが分かるように!!)

 

 一矢は結果を残し続けている。

 ならば自分もそうしようと、離れていても見える光のように、自分も前に進んでいるんだと言う事を一矢にも分かってもらおうと、その為に立ち上がったミサは精一杯、自分の全てをぶつけようとヴェルに見送られながら一歩を踏み出すのだった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

知らないこの想いは君の為に

 大国アメリカの地で行われたトーナメントは多種多様なファイター達が集まった事もあって、その一つ一つが観客を熱狂させる。中にはスタンディングオベーションが起きるほどだ。それだけガンプラバトルがいかに関心の的であるかが分かる。

 

「まだまだ!!」

 

 そしてその人々の視線が集中する立体映像にはアザレアPの姿がある。

 現在、準決勝まで進んだアザレアPはコロニーが浮かぶ宙域を舞台にしたフィールドでGセイバーとバトルを行っていた。

 背面と腰周りに装備された大型スラスターを使用して、アザレアPの周囲を飛び回りながらビームライフルを放つが、青白いビームの数々はアザレアPが展開したGNフィールドによって全て防がれる。

 

「ヴェルさんの方が……強いっ!!」

 

 センサーでロックしたGセイバーに脚部のミサイルを放つ。

 標的を狙って、向かっていくミサイルの数々を破壊するGセイバーであったが、その隙に移動したアザレアPがGNキャノンを発砲する事によってスラスターに掠り、機体の姿勢が不安定になったところをビームマシンガンによって蜂の巣にされて撃破される。

 

「よし、勝ったぁっ!」

「やったね、ミサちゃんっ!」

 

 Gセイバーを撃破したミサはシミュレーターから出て、勝利に満面の笑みで喜んでいる。歓喜のあまり、関係者席で観戦していたヴェルに抱きつき、二人で笑みを交わす。これで決勝まで勝ち進むことが出来たが、やはりここまでのバトルはどれも激戦と言って過言ではないだろう。

 

「あれ、あの子……」

 

 観戦していた莫耶は抱き合って喜び合っているミサとヴェルを見て、ふと考える。

 古い記憶を思い出すようにミサを見ていたが、それも次に上がった大歓声によって遮られてしまう。

 

 大歓声を浴びる立体映像には荒野を舞台にバトルが行われており、そのうちの一機は武者を彷彿とさせる戦国アストレイ頑駄無だ。しかし戦国アストレイ頑駄無の機体は至る所にスパークが走り、もう限界なのが分かる。

 

「あれって……!!」

 

 ここまで戦国アストレイ頑駄無を追いやった相手は誰なのか。視線を動かしたミサが捉えたのは、見覚えのあるガンプラであった。

 満身創痍の戦国アストレイ頑駄無に対して、比較的損傷が軽微なそのガンプラをよく覚えている。何故ならジャパンカップで戦った事があるからだ。

 

「ここは僕の勝ちだ」

 

 その名はコズミックグラスプ。

 そしてそのファイターはジャパンカップと同じくロクトだ。

 ジャパンカップの時より、いやそれ以上の機動性を持って戦国アストレイ頑駄無に近づいたコズミックグラスプは機体の損傷からぎこちない動きで日本刀である菊一文字と虎徹を構える戦国アストレイ頑駄無の背後に回ると足を払い、態勢を崩した瞬間、真っ二つに斬り捨てる。

 

 バトルを終えたロクトがシミュレーターから出てくると、自分に注がれる大歓声に手を振る。現役の宇宙飛行士であるロクトはこのアメリカの地でもその名は知れ渡っているようだ。

 

「やぁ、久しぶりだね」

「ひ、久しぶりです」

 

 そんなロクトも自分を見ていたミサに気づくと、軽く手を上げながら声をかける。

 ロクトとバトルをしたのは確かだが、実際はチームと言うよりは一矢が戦ったと言った方が正しいだろう。

 自分の事など覚えていないかもしれないと考えていたミサだが、ロクトはちゃんと覚えていたようで挨拶されて、おずおずと言った様子で挨拶を返す。

 

「どうやら君だけみたいだね」

「……一矢君はいないですよ」

 

 チラリと周囲を見ても、ミサの周囲に関係者はヴェルしかおらず、他の商店街チームのメンバーの姿はない。

 その事に触れるロクトにミサはどこか複雑そうに答える。

 ロクトは一矢と激戦を繰り広げた。再戦を望んでいても不思議ではない。セレナと同じでやはり一矢に関心が集まるのかと言った様子だ。

 

「あぁ、気にしないでくれ。君とのバトルを楽しみにしているよ。このアメリカの地で日本人ファイター同士が決勝の舞台に立つなんて異例だしね。あの頃とは違うんでしょ?」

「勿論っ!!」

 

 ミサの雰囲気を察して、別に一矢がいないからどう、と言うわけではないと話しながら、トーナメント表が映し出される立体映像を見やる。

 そこには日本の国旗とロクトとミサのそれぞれの名前が記された決勝の案内が、このアメリカの地で国外ファイター同士が決勝を飾ると言うだけあって、観客の注目が例年以上に高まっている。そして何より、ここまで勝ち進んできたミサはジャパンカップよりも成長しているだろうと期待するロクトにミサは笑みを浮かべて頷く。

 

「じゃあ、決勝を楽しみにしているよ。次はバトルで会おう」

 

 準決勝も終了し決勝戦までの間、ハーフタイムが設けられている。

 ロクトは軽く手を振ってミサ達に背を向けるとこの場を去っていくのであった。

 

 ・・・

 

 決勝まで刻一刻と近づいていた。そんな中、水分補給や小腹を満たしたミサは一人、携帯端末で表示した立体映像を見つめていた。それは動画サイトに投稿されたアジアツアーで行われているガンプラバトルであった。

 

 映像内で行われるバトルには様々なガンプラが縦横無尽に動き回っているが、ミサの瞳に捉えているのは次々に敵機を撃破していくゲネシスの姿であった。

 

『もしもーし、聞こえる? いきなりごめんね?』

 

 思い返せば、イラトゲームパークでガンダムブレイカーⅢを駆ってバトルをしている姿を見たのが始まりであった。タイガーとのバトルをしている最中に通信を入れて接触した。

 

『誰かと一緒に戦う? よく出来るよね、俺はもう嫌だ』

 

 最初はその実力とチームに所属していないという好都合さからチームに勧誘したが、一矢はその過去から嘲笑しながらその誘いを一度は一蹴した。

 

『……俺は……俺はもう一度、あの夢の舞台に立ちたい……ッ!!』

 

 それでも一矢は全てを押し付ける気はないという自分の言葉と周囲の言葉で自分の手を取ってくれた、自分を受け入れてくれた。そこから一矢との時間が始まった。

 

『コイツの事、なにも知らないのに弱い弱い言わないでくんない……? 凄いムカつくんだけど……』

 

 ロボ太やシュウジ、そして色んな人間と出会った。

 そんな中、元チームメイトである真実に対して何より自分の為に初めて怒りを見せた一矢の姿が嬉しかったのを今でも覚えている。

 

『……っていうか元々なにもないなら重いもクソもないんじゃ……』

 

 ……まぁ、中には全く嬉しくないどころか、そのままぶん殴ったものもあるわけだが。

 

『アンタがいるからもう怖くない。俺は俺として戦える……。俺をもう一度、この夢の舞台に連れてきてくれたんだ。今は彩渡商店街の為に……アンタの為に戦うよ』

 

 それでも思い返せば、嬉しくて楽しくて、心が満たされるような一矢との思い出の数々が鮮明に蘇る。あの時、まるで王子が姫に愛を誓うように自分の手を取って跪いた一矢の姿は今思い出してもドギマギしてしまう。

 

『さぁ行こう。あの夢の舞台に』

 

 そんな姿を思い出してしまえば、どんどんと自分の心臓の鼓動を高鳴らせる一矢の姿しか思い出せなくなってしまう。ジャパンカップ決勝戦前に逆光を背に微笑みながら自分に手を指し伸ばす一矢の姿を思い出して頬を赤らめる。

 

 瞳を閉じれば、そんな一矢との思い出の数々がすぐに思い浮かんでしまう。

 そして目を開けてしまえば、今まで傍にいる事が当たり前にさえ思っていた一矢はいない。

 

「逢いたいなぁ……」

 

 それが何故だが寂しくて、何を想ってか無意識にそんな事を口にしてしまう。

 今、一矢はなにをしているのだろうか、自分以外のチームを組んで何を感じているのだろうか、……自分のように一矢もまた自分のことを考えていたりするのだろうか。

 

 思考はどんどん一矢に関する事だけになっていってしまう。

 別に何か言葉を交わしたいわけではない。ただ一矢を傍に感じたいと思ってしまった。

 

「──会いたい? 誰に?」

「うわぁっ!?」

 

 無意識のミサの言葉も、その視界にひょっこりと顔を出したヴェルによって意識が戻り、たまらず声を上げてしまい、逆に声をかけたヴェルが驚いてしまっている。

 

「な、なななんですか、ヴェルさん!?」

「いや、決勝戦の時間になったから知らせに来たんだけど……」

 

 自分が先程、口にした言葉といきなり視界に入って来たヴェルに慌てた様子で尋ねる。

 そのあまりの様子に苦笑しながらヴェルは立体映像に表示されている時間を指しながら決勝の時刻が迫っていることを伝える。

 

「……よし、頑張んなきゃ!!」

 

 決勝戦に集中する為に、ミサは上気した頬を両手で叩きながら決勝の会場に向かう。

 ジャパンカップでのロクトとのバトルは一矢との距離を実感させられて、苦い想いをしてしまった。その距離を詰める為に今、自分はこの場にいるのだ。

 

(……一矢君。一矢君には言えないけど……強くなりたいのはね、商店街を守る為だけじゃない、一矢君との繋がりが消えないようにしたいんだ)

 

 シミュレーターに乗り込みながら、一矢へ想いを馳せる。

 今まで何度も口にした強くなりたい理由。商店街を自分だけで守れるだけの力を手に入れたい。だが何より商店街がなくなってしまえば一矢と結びつけた繋がりがなくなってしまう。そんな事は嫌なのだ。だがそれは一矢には話せてはいない。こんな事照れ臭くて話せるわけがない。

 

(一矢君はあの時、私の為に戦うって言ってくれたけど……。私も商店街の為に……一矢君の為に戦うよ)

 

 アザレアPをセットし、マッチングと共に発進準備が進められていく。

 何故、こんな事を想ったのか分からない。胸の中の温かで意識を向けるだけでその温かさが全身に広がって鼓動が高鳴るこの初めての想いの正体が何であるかも分からない。

 

「アザレアパワード、行きまーす!!!」

 

 だが悪い気はしない。

 こんなにも心が満たされるのならば、いつまでも考えていたいくらいだ。

 この想いが、そして身に着けただけではなく、そこから生み出される力がこの決勝の場でどこまで通用するのか、ミサはこれから始まるであろうバトルに高揚し思わず笑みを浮かべながらカタパルトを駆け抜けるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Zips

もっと先まで見たいんだ


 決勝の舞台となったのは、このアメリカの地をモチーフとした市街地であった。

 戦場に降り立ったアザレアPはコズミックグラスプを警戒して、すぐに近くのビルに身を隠す。ロクトは相当の手練れだ。迂闊な行動が即命取りになる事だってある。

 

「っ……!?」

 

 センサーに反応があり、同時にモニターに暗がりが広がる。

 見上げてみれば、そこには既に飛来したコズミックグラスプが銃口を向けていた。

 すぐさまアザレアPは横に飛び上がるも、その直後にビームが先程までいた場所に当たり、後少し反応が遅れていたら直撃は免れなかっただろう。

 

 だがコズミックグラスプもそれで攻撃を止める事はない。

 そのまま滑空して地面スレスレの位置を飛行しながら、アザレアPに迫っていく。

 高機動さを自慢とするコズミックグラスプならば、距離を詰められるのも時間の問題であろう。それを避けるため、アザレアPはマイクロミサイルを発射する。

 

「こんなものは……ッ」

 

 迫りくるマイクロミサイルの数を瞬時に確認したロクトはすぐに回避行動を取ろうとする。ここは市街地。障害物などいくらでもある。こんなミサイル、どうとでもなるのだ。

 

「そこだっ!!」

 

 だがそんな事はミサも分かっている。

 だからこそコズミックグラスプに迫ったマイクロミサイルに向けてビームマシンガンの銃口を向けると、瞬時に引き金を引き、ビームの弾丸をばら撒く。弾丸はマイクロミサイルに直撃すると、すぐに爆発して周囲に爆煙を上げる。

 眼前のマイクロミサイルが爆煙に様変わりしたことによってモニター全体が遮られてしまう。すぐにこの煙から脱出しようとロクトはそのまま突き進むが……。

 

「くっ!?」

 

 だが爆煙から飛び出したコズミックグラスプに既に脱出コースを予測をしていたアザレアPはGNキャノンの砲口を向けていた。

 チャージも完了し、放たれた極太のビームは回避するには間に合わず、シールドを構えて受け止めようとするコズミックグラスプだが、耐え切れず体勢を崩してしまう。

 そこにアザレアPはビームサーベルを引き抜くと共に突撃して、すれ違いざまにシールドを持つ腕部の関節を切断した。

 

 ・・・

 

 

「へぇ……」

 

 既に隙のない攻防が繰り広げる中、足を組み頬杖をついて観戦していたセレナが相変わらず笑みを絶やさず浮かべているのだが、ミサの戦い方を見て、薄目にしていた目をゆっくりと開き、感心したような声を漏らす。

 前のミサならばマイクロミサイルを放っても避けられ、コズミックグラスプに肉薄されていただろう。しかしミサはこの決勝までの間に様々なバトルを経験した。そしてそれを自分の糧にしている。それはセレナとのバトルでさえもだ。

 

 ・・・

 

 決勝のバトルが始まってから既にもう20分以上が経過した。

 片腕を失くしたコズミックグラスプが劣勢になるかと思いきや、そうはいかなかった。

 

 それはロクトの高い実力のお陰であろう。

 現にコズミックグラスプは片腕を失くしてはいるが、それ以外の損傷は軽微なのに対し、アザレアPは既に中破まで追い込まれている。

 

「……やっぱり強い」

 

 現在、アザレアPはコズミックグラスプと向かい合っている。

 周囲の街並みも荒れ果て、もはや荒廃していると言って良いだろう。

 それだけこの二人のバトルは決勝の名に恥じぬ激戦だと言うのが分かる。機体の状態を確認しながらミサは純粋にロクトの実力に感服する。やはり彼は流れ星のような存在なのだ。

 

「……でも……この先に一矢君がいる……ッ!!」

 

 ロクトは強大な壁と言っても良いだろう。

 乗り越えるのは困難なのかもしれない。だが彼を越えた先に一矢はいる。いや、今もまだ進み続けている。ならばここで立ち往生するわけにはいかない。

 

(……全く、どこまでも食い付いてくるよ)

 

 一方でロクトもまたミサのバトルへの姿勢に感心していた。

 正直に言ってしまえば、ロクトとミサの実力差は大きく。傍から見たとしてもロクトが勝利すると考えるだろう。

 だがそんな状況でもミサは決して諦めることなく立ち向かおうとする。実力は関係なくファイターとしてのその姿勢は賞賛に値する。

 

「だが……これはバトルの世界だッ!!」

 

 例えどんなファイターであろうと、相対すれば戦うべき相手だ。

 それにもうバトルを始めてから30分が経過しようとしている。

 いつまでも戦い続ければ集中力も鈍ってしまう。そうなった時、自分も危ういだろう。そう考えたロクトはビームサーベルを振り、一気に加速してアザレアPに向かっていく。

 

 こちらに迫るコズミックグラスプにミサは額から流れる汗を拭う事もせず目を細めると、アザレアPをバックステップのように後方に移動しながら脚部のミサイルを先程まで自身がいた地面に着弾させることで煙幕代わりにする。

 

「来たっ!!」

 

 煙が立ち込める中、薄っすらと噴射光と影が見える。

 あれがコズミックグラスプであろう。アザレアPは狙いを定めるようにビームマシンガンの銃口を定めるのだが……。

 

「うそっ!?」

 

 しかし出てきたのはコズミックグラスプではなく、こちらに突撃する稼働中の一基のシールドブースターであった。

 驚くもののすぐに銃口を下し、シールドブースターを回避するとコズミックグラスプを探す。

 

 すると先程、シールドブースターが飛び出してきた位置からコズミックグラスプが突撃してくる。気づいたのも束の間、反応が遅れ、アザレアPはそのままタックルを浴びるとバランスを崩したところをバックパックの一基のGNキャノンごと左腕を切断される。

 

 何とか反撃をしようとするのだが、ロクトはそれを許さない。

 そのまま頭突きを浴びせることでアザレアPに機体をよろけさせ、反撃の機会を与えない。

 

(この先に一矢君が……ッ! 私も……一矢君と同じ場所に立ちたいッ!! 一矢君と前に進みたい!!)

 

 足がもつれ、体勢を崩したアザレアPは地面をゴム玉のように跳ねながら倒れる。

 この好機を逃すものかとコズミックグラスプはアザレアPに迫る。その光景を目にしたミサはここで負けるわけにはいかないとばかりに歯を食いしばる。

 

『シュウジ君はね、手を差し伸べてくれるような人なんだけど私はそんなシュウジ君に手を差し伸べられる人でありたいんだ。真っ直ぐ進み続けるシュウジ君が転んじゃった時、立ち上がらせられるように……支えて、あげられるように』

 

 ふとファストフード店でのヴェルのシュウジへの想いが脳裏に過る。

 

 あの言葉はミサも共感出来る。

 思い返せば、タウンカップの決勝など、常に自分の前に立って守ってくれた。自分はそんな一矢を逆に守る存在に、バトルも、そして心も支えられる存在でありたい。

 

(一矢君の手をこれからも握っていられるようにッ!!!)

 

 あの時、イラトゲームパークで自分の手を取ってくれた一矢とずっと進んできた。

 その手を放すことなく、これからも進み続けたい。そんな想いに呼応するように損傷からぎこちない動きで立ち上がるアザレアPのツインアイが輝く。

 いや、輝くのはそれだけではない。アザレアPの機体がほんのりと朱い輝きを放ち始めたではないか。

 

「ッ……!」

 

 ロクトはその輝きに覚えがある。

 

 一矢だ。

 ジャパンカップで戦ったゲネシスはこれ以上の光を放って機体の性能を向上させた。

 今、弱弱しくも燻るように光を放とうとしているアザレアPをこのままにしていては危険だと半ば直感する。

 

 アザレアPの光を力にしたようにマニビュレーターが握るビームサーベルの刃が肥大化していく。同時に迫るコズミックグラスプに同時にビームサーベルを振るい、閃光がフィールドを照らした。

 

「少しは届いた……かな……?」

 

 アザレアPのビームサーベルはコズミックグラスプの頭部を貫いていた。

 そしてコズミックグラスプのビームサーベルはアザレアPのコクピット部分を深々と貫いている。全身にスパークが走る中、ミサは緊張から解放されたように弱弱しい笑みを浮かべると、次の瞬間、アザレアPは爆発する。

 

「……やれやれ、最近の若者は末恐ろしいね」

 

 決勝を制したのはロクトであった。

 ロクトの頬に汗が伝い、余裕はなかったことが伺える。

 ジャパンカップでゲネシスと戦っていなければ、あの時、輝きを少しずつ纏い始めていたアザレアPに負けていたかもしれない。

 ミサがヴェルやセレナなど多くのバトルを自分の糧にしているように、ロクトもまたジャパンカップを経て、ファイターとして成長しているのだ。そして何よりこの決勝でのバトルはロクトにとっても、ミサにとっても更なる成長を促すものであろう。

 

 ・・・

 

「あの娘と会う時が楽しみだな」

「……彩渡商店街だっけ。確かに近いうちに会えるわね」

 

 この長時間の激しいバトルが終了し、観客が総立ちでスタンディングオベーションが巻き起こるなか、莫耶とアメリアも参加しながら、今後に期待を膨らませている。

 

「お嬢様、あのペチャンコパイパイの娘、けっこー凄かったね!!」

「お嬢様とバトルをした時以上の実力を発揮していました。これは更なる飛躍も期待出来るかと」

 

 フォーマルハウトもまた試合を見届け、モニカが両拳を握りながらセレナに満面の笑みを浮かべると、アルマも同意するように微笑みながらセレナに話しかける。

 

「……そうだね、彼女も僕にとっての“証明”になってくれるかな」

 

 相変わらず笑みは絶やさないものの、口角は吊り上がり、見る者によっては歪にさえ感じるような笑みを浮かべている。その視線はシミュレーターから出てきてロクトと握手を交わすミサに視線が注がれていた。

 

 ・・・

 

「負けちゃったなー」

「ふふっ、でも楽しそうだね」

 

 アメリカトーナメントも終え、ファストフード店にて席につきながら両手を後ろに組んで晴れやかな様子で話すミサ。言葉とは裏腹なその様子にヴェルは微笑みながら話しかける。

 

「悔しくない訳じゃないけど、これでもっともっと強くなれた気がするんです!!」

 

 ヴェルの言葉に頷きながら、身を乗り出しながら答える。

 このアメリカの地で行ったバトルは全て有意義なものであった。来てよかった。心からそう思えるのだ。

 

「それに新しい機体のプランも思いついたんです! 早速作って、調整しないと──!」

「なら僕も手伝おうか?」

 

 今回、学んだ事でまた新たなガンプラを作ろうとする。

 やはり今後、世界大会に出るのであればアザレアPのままでは心もとない。

 この情熱が燃えているうちに全てをぶつけたいとばかりに息巻いているミサだが、その最中に横から声をかけられる。そこには自身が注文したハンバーガーセットが載ったトレーを持つロクトの姿があった。

 

「えっ、良いんですか……?」

「何言ってるんだい。ファイターって言うのは切磋琢磨するものだろう? 君が更に成長するなら僕も刺激が受けられるだろうし、若い子が前を進もうとしてるのを見てると、背中を押してあげたくなるんだよ」

 

 ヴェルに了承を得て、同じテーブルに座るロクトに信じられないと言った様子で尋ねるミサに、苦笑しながらその理由を明かす。そんなロクトに感銘を受けたようにミサは「お願いします!」と頭を下げた。

 

(一矢君、私も前に進んでるよ。また会えた時には絶対に追い付いてみせるから!!)

 

 顔を上げ、こちらに微笑む頼もしいヴェルとロクトを見て、ふとミサは窓の外の晴れやかな晴天を眺める。

 この空が続く先に一矢もいる。一矢に想いを馳せながら、更なる飛躍を誓うのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

破壊と創造の輪舞曲

 軍事基地を舞台にバトルが行われていた。ドーベン・ウルフを駆るファイターは汗をかき、呼吸を乱しながら周囲を警戒している。対戦相手となるファイターはここ最近、爆発的に名を広めているファイターであり、それに見合った実力を秘めている。

 

 センサーが反応する。

 素早く感知した場所へメガ・ランチャーを向けるが既にそこには残像しか残らず、今度は背後に反応がある。

 

 ずっとこの調子だ。

 その圧倒的な高機動で相手を翻弄する。それが対戦相手のバトルスタイルであった。

 

 まるでかまいたちのように次々に機体の各所を斬りつけ、ドーベン・ウルフの機体のバランスが崩れる。その時、漸く対戦相手のガンプラが眼前に現れ、その姿を視認させた。

 

 ──ゲネシスガンダム。

 

 その名はジャパンカップの優勝だけに留まらず、あのミスターガンプラをも打ち倒したとしてその名を世界に知らしめた。そのゲネシスの左腕のマニビュレーターが紅蓮のように燃え上がり、ドーベン・ウルフを貫き撃破する。

 

『アジアツアーシングルコース優勝者は雨宮一矢!!!』

 

 ミスターガンプラさえ打ち倒したEXアクション・バーニングフィンガーの使用により、左腕がスパークを起こして爆発するなか、静かに地に降り立つゲネシスと共に試合終了のアナウンスが流れる。これはアジアツアーで行われている大会のうちのシングルコースの決勝戦だ。優勝を収めたゲネシスのファイターは勿論、一矢であり一息つく。

 

 ・・・

 

 日本から始まったガンプラブームは世界に広がっているが、特にアジア……それこそ韓国や台湾などでは過去に日本に先駆けて、2000種類を超えるガンプラなどを主に専門店が運営されているなどその市場は大きく日本に負けずこの時代におけるガンプラの熱狂はことさら凄まじい。故に定期的にアジアツアーなど大きなイベントが行われていた。

 

「よーし、よくやった! さぁみんなが待ってる商店街に帰るぞー!」

 

 そんな中、食事処ではテーブルに一矢とカガミの姿があった。

 そして驚きなのが、なんとあのモチヅキが同席しているのだ。

 シングルコースの優勝を経て、モチヅキが満面の笑みを浮かべながら、早々に日本への帰国をしようとするのだが……。

 

「……なんてことにはならないんだよなぁ……」

 

 先程の満面の笑みも嘘のように膨れっ面を作り、厄介そうに呟いている。

 なにせ、あのシングルコースはアジアツアーにおいてまだ始まったばかりに過ぎず、まだまだ今後の大会の予定はぎっしりと詰まっている。まだまだ日本に帰るのは程遠いのだ。

 

(カドマツのヤロー……。いくらトイボットが手一杯だからって何で私がこのガンプラバカのサポートをしてやらなきゃならんのだ……。飛行機は子供料金でチケット取ってあるし、挙句、搭乗手続きで何も言われねーし! 何より……!)

 

 一度、不満が出てしまえば留まる事を知らず、どんどんとこれまでこの地に来るまでの不満が出てきてしまう。そのまま両手で頬杖をつきながら、モチヅキは一矢とカガミをそれぞれ見やる。

 

「おい、ガンプラバカ。お前、成長期だろ? どんどん食え! この青椒肉絲は中々いけるぞ!!」

「そうっすか」

「なぁ、カガミ。この小籠包、美味しいなあ! どうだ!?」

「そうですね」

 

 黙々と食事をとっている一矢とカガミに懸命に愛想を振りまきながら、話しかける。

 しかしそれ以上、話が発展することはなく、再び二人は黙々と食べ続け、笑顔のままモチヅキは固まってしまう。

 

(なんでこいつ等こんなに喋んないんだよぉぉぉぉ……!! 会話のキャッチボールって知らねーのかよ!? こっちが投げるボールを捨てやがってぇぇぇぇぇぇ……っっっ!!!!)

 

 動きは固まっているものの、その腹の内では頭を抱えんばかりだ。

 アジアツアーにはこの三人で向かったわけだが、まず会話が長く成立した事がない。会話よりもこのように沈黙する時間の方が長いだろう。

 

 一矢もカガミもまず喋るようなタイプではなく、それに拍車をかけてマイペースな性格の為、例え無言の空間になったところで気にしていない。

 しかしモチヅキはそうではなく、このひたすら続く無言の空間に何とも言えない気分に苛まれる。会話もどちらかと言うとモチヅキが降る事が多いだろう。

 

「──あ……おーい!!」

 

 食事を終え、一矢とカガミは美味しい食事がとれたことに心なしか満足そうにしているなか、どこか疲れた様子のモチヅキがその後をトボトボと追う。

 そんな三人に横から声をかける者がおり、そちらに視線を向ければ、ジャパンカップで出会った沖縄代表として出場していたツキミとミソラがこちらに手を振りながら、向かってきていた。

 

「どうしたの、こんなところで? ミサちゃんは?」

「ロボもエンジニアのおっさんもいねーじゃん。二人なのか?」

 

 久しぶりの再会に一矢が驚くなか、その一矢と同じチームメイトである筈のミサやロボ太、そしてカドマツがこの場にいない事に疑問に思ったミソラと、一矢とカガミを見たツキミがそれぞれ尋ねる。

 

「三人だ!」

「なんだ妹連れてたのか。小さくて見えなかったぞ」

「かーわーいーっ! お名前は? いくつ? 一矢君のお姉さんも綺麗な人だし、こんな姉妹をもって羨ましいよ!!」

 

 一矢とカガミの背後からひょっこりと顔を出したモチヅキが顔を顰めながら抗議するように話に入ると、今ここで気づいたのだろう。

 一矢の妹と勘違いしたツキミが軽く笑うなか、ミソラが瞳を輝かせながらモチヅキに矢次に質問し、一矢の隣のカガミを見て羨ましがる。

 

「名前は一個しかねーよ!! おいこら学生! 私はなあ、お前らの倍は生きてんだよ!! 良いか、私の名はモチヅキだ!! 覚えとけ!!」

「……一応、訂正しておくけど私は彼の姉ではないわ。カガミよ、よろしく」

 

 ぷんすかと怒っているモチヅキの隣でカガミは訂正をしながら、モチヅキに合わせて己の名を軽く紹介し、ツキミもミソラも軽く自己紹介をして互いの名を知る。

 

「姉ちゃんじゃなかったんだな。で、なんで他のみんなはいないんだ?」

「なんで私の方は無視してんだよ!!」

 

 カガミは一矢の姉と言うわけではなく、認識を改めながら先程から疑問に思っていたことを再度、尋ねるツキミ。しかしカガミの訂正は聞き、自分の事はスルーされている為にモチヅキはふくれっ面となり、まだまだ怒りが収まる気配がない。

 

「……ジャパンカップのエキシビションマッチ。あの時、乱入してきたガンプラにみんな、手も足も出せなかったんだ。だからロボ太は改修中でアイツは修行しにアメリカに行って、俺は……」

「このツアーに来た、と……。あのエキシビション、俺達も見てたよ」

 

 ツキミの疑問に、その理由とそれぞれ何をやっているのかを説明する。

 最後、自身の説明をしようとしたところを、予想したツキミに言われてしまい、コクリと頷く。

 

「だったら一緒に出ましょうよ! ファイター2人より、3人の方が有利だし!!」

「えーっ! サポート3人もすんのかよー」

 

 話を聞いたミソラが明暗だとばかりに両手をポンと叩きながら、この三人でチームを組むことを提案する。

 ここにいる時点で察せる事だが、やはり彼らもアジアツアーに参加しているのだろう。

 だが、アセンブルシステムなど技術面の負担が増えるのかと、モチヅキは先程とは違う意味で顔を顰めている。

 

「モチヅキちゃんつったっけ? 俺達にサポートはいらねーよ」

「これでも沖縄宇宙飛行士訓練学校の生徒なのよ。ハードやソフトも必要な知識は持ってるわよ」

「へー……。お前らOATSか! 中々優秀じゃないか。それにわりと喋りそうだし、気に入った!!」

 

 しかし安心しろとばかりにツキミが笑うと、疑問に思っているモチヅキにミソラがその理由を明かす。

 現役宇宙飛行士であるロクトなどを輩出したりと名の知れたOATSの生徒だと知り、先程まで怒っていたが、漸く笑みが戻り始める。

 

「よーし、沖縄宇宙飛行士訓練商店街チーム結成だ!」

「宇宙服でも売ってんのか、その商店街!」

 

 しかし、そんなモチヅキもチームを組み、その名を高らかに口にするツキミに呆れたように眉を寄せながらツッコミを入れるのであった。

 

 ・・・

 

「次の大会までまだ時間があるわ。今の内にアナタの今の実力を試すためのバトルのプログラムを用意したわ」

 

 ツキミ達と別れたその夜、カガミの提案で一矢達はシミュレーターが置かれている近くの小さなゲームセンターに足を運んでいた。カガミは一矢と向き合いながら、ここに来た理由を話す。

 

「アナタが最近、使用しているあの技……。シュウジの影響かしら?」

「まあ……。最近はそうですけど、元々の戦い方は翔さんから教えてもらってました」

 

 ミスターとのエキシビションだけではなく、ここ最近、見る事が多い ゲネシスが放つバーニングフィンガー。それはやはりシュウジの影響とわざわざ聞かなくとも言って良いだろう。翔に比べて、まだシュウジには素直になれていない一矢は照れ臭そうに頷きながら、戦い方についても答える。

 

「……そう、ならやはり今回のプログラムは好都合ね……。けど、アナタが使用しているバーニングフィンガーは諸刃の剣……。そのまま使用し続けるのは……」

「……分かってますけど……。じゃあガンプラをどうするか、漠然としていて……」

 

 顎に指先を添えながら、頷くカガミ。しかし絶大な威力を誇る反面で対応していないパーツで強引に放たれるアセンブルシステムを改良したことによって再現したバーニングフィンガーはゲネシスの負荷が大きく、それだけで中破するなどまさに切り札と言って良い。

 しかしそんな状態のものをいつまでも放っておくのをカガミは良しとはしていない。だがそれは一矢も同じようなのだが、解決策は定まらずゲネシスを見やる。

 

「おーい、終わったぞ!」

「……これは後で考えましょう。今はこのバトルに集中しなさい」

 

 許可を得て、シミュレーターの調整を終えたモチヅキが二人に声をかけると、話を終えるように目を閉じたカガミが促すと、一矢は頷いてシミュレーターに乗り込んでいく。

 

「しかし、あのプログラム。エンジニアの私から見ても、目を見張ったぞ。お前も同じ職種なのか?」

「……そういうわけではありませんが……。まぁ、かじった程度の知識があるだけです」

 

 モニターで出撃したゲネシスを見ながら、シミュレーターの調整をする際、カガミから受け取ったプログラムに目を通したのだろう。

 カガミを褒め、その技術力から同じエンジニアなのか尋ねるが、首を横に振りながら当たり障りのない返答をする。

 

(……さて、アナタのように“まだ未熟な頃の彼ら”に通じるかしら)

 

 モニターに表示されるバトルのステージは空に伸びるレーンのようなマスドライバーがある海上基地であった。

 

 そのステージを見ながら、カガミは見定めるように目を細める。

 このプログラムを作成する際、自分は元の世界のあるデータ達を元に可能な限り”再現”したのだ。

 

 ・・・

 

「なにが来る……」

 

 海上基地に降り立ったゲネシス。

 GNソードⅢを翔に返却した今、装備しているのは代用として一矢が作成したGNソードであった。周囲を警戒する中、すぐさまセンサーが反応する。

 

 上空から反応したセンサーに、ステージ上の空を見上げれば、太陽を背にこちらに迫る紅い影の存在に気付く。

 自分自身を砲弾にするかのように迫る機体にゲネシスは後方に飛び退くと、先程までいた場所に勢いよく着地し、周囲に土煙が巻き上がる。

 

「……ビルドバーニングガンダム……」

 

 両手で土煙を払うように姿を現したのは燃える真紅のような装甲と発光する装甲を持つビルドバーニングガンダムであった。

 セルリアンブルーのようなツインアイを輝かせながら右手を突き出し、左拳を引き構えをとる。一矢にはその構えに覚えがある。それはシュウジから習った覇王不敗流の構えであったからだ。

 

「っ!?」

 

 しかし相手はそれだけではなかった。

 再びセンサーに反応があり、狙い澄ましたような狙撃が放たれ、回避には間に合わず、咄嗟にシールドを構えて防ぐと其方にも警戒して意識を向ける。

 

「あれ、は……?」

 

 狙撃をした機体を確認すれば、その機体を一矢は知っていた。

 

 その機体はガンダムブレイカーであった。

 しかし、バックパックの二基のユニバーサル・ブースター・ポッドや両手前腕部分に内蔵されたガトリング砲など一矢が知るガンダムブレイカーとは細部が異なっていた。

 

「ガンダムブレイカー・フルバーニアン……?」

 

 表示されるその名を読み上げる。

 それは一矢が知るガンダムブレイカーがこことは異なる世界で更なる発展を遂げた姿。

 この世界にデータ上の存在として初めて姿を現したブレイカーFBは空に流れ星のような線を描きながら、ビルドバーニングの隣に降り立つと、構えを取っているビルドバーニングと共にそのビームライフルの銃口をゲネシスへ向けるのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Burst Breaker

 ビルドバーニングが向かっていくと同時にブレイカーFBがビームライフルの銃口を向け、その引き金を引く。標的となったゲネシスはバーニアを使用して、一気に空に舞い上がる。

 

 だが、更にゲネシスを追撃するように、ビルドバーニングは地を蹴って錐揉み回転をしながら蒼天紅蓮拳を放つ。一矢の予想よりも爆発したような圧倒的な勢いを持ってゲネシスに迫るが、そのマニビュレーターはシールドによって防がれる。

 

 すぐさまシールドを払って、GNソードのライフルを向けようとするのだが問題があった。何故なら、ビルドバーニングだけが相手ではない。

 既に飛び上がったブレイカーFBがビームライフルの銃口を再び向けている為、苦虫を噛み潰したように顔を顰める一矢はビルドバーニングへの攻撃を止めて、スラスターを稼働させる。

 

「なにっ……!?」

 

 二対一の状況であっても、ゲネシスの高機動を活かして立ち回れば良いと考えていた一矢であったが、その考えは覆される。

 何故ならば、フルバーニアンの名を持つブレイカーがユニバーサル・ブースター・ポッドを稼働させて迫ってきているのだから。

 

 すぐにライフルの引き金を引き、数発のビームをブレイカーFBに放つわけだが、まるで飛蝗か何かのようにユニバーサル・ブースター・ポッドを稼働させ跳ね回るように攻撃を避けて、どんどんと距離を詰めてくる。

 

「くっ……!?」

 

 ブレイカーFBは腰部にビームライフルを懸架すると、ビームサーベルを引き抜いて接近戦に持ち込む。

 咄嗟にGNソードの刀身を展開して、受け止めるゲネシスだがユニバーサル・ブースター・ポッドを180度動かし、ブースターを噴射させることによって距離を取ると共にその強烈な噴射光は対面するゲネシスのメインカメラには目眩ましの役割にもなっており、そのあまりにも強烈な光に一矢は思わず目を瞑り、顔を逸らしてしまう。

 

 だがそれによって隙が出来たゲネシスに再びブレイカーFBが迫る。

 ビームサーベルを振るうのではなく、そのまま殴るようにマニビュレーターをメインカメラに叩きつけ、腕部のガトリング砲を展開、ゲネシスの頭部は無数の弾丸で撃ち抜かれる。

 

「この……ッ!!」

 

 メインカメラが損傷したことによって、シミュレーターのモニターにノイズが走るが、ゲネシスはそのまま押しつけられた腕部を掴んで、そのまま一本背負いのように地面に投げる。

 

 しかしまだ気は抜けない。

 注意するようにアラートが鳴り響けば、既にビルドバーニングがマニビュレーターを高速回転させて、ゲネシスに迫っており、流星螺旋拳が避け損ねたゲネシスの左肩を貫いた。

 

 ・・・

 

「おいおい、やられまくりじゃないか」

 

 どんどん損傷を受けて行くゲネシスの姿を見て、モチヅキはその圧倒的なまでの戦力とそして実力の差にやり過ぎたのではないかとカガミを横目で見上げる。

 

「ですが、あのデータ達と違って、彼は生きています」

 

 元々、一矢が勝てると思ってこのデータを組んでいる訳ではない。こうなることなど初めから分かり切ってもいた。

 だが、この圧倒的な差であっても一矢がミスターガンプラとのエキシビションのように戦いながら成長すると踏んでのことであった。そんなカガミの期待に応えるように少しずつ適応するかのようにゲネシスの動きが変わっていく。

 

 ・・・

 

「……俺も、少しは覇王不敗流を知っているんだよ」

 

 脇を閉めてマニビュレーターを放つビルドバーニングの腕部をボロボロの左腕で受け止めたゲネシスのツインアイが輝く、その輝きを全身に広げるようにゲネシスは覚醒した。

 

 機体をビルドバーニングごと旋風竜巻蹴りの要領で高速回転させ、周囲にブレイカーFBの干渉を許さぬほどの竜巻を起こす。その中でもビルドバーニングが反撃に転じようとした瞬間に手放し、ビルドバーニングは竜巻に翻弄される。

 

 辛くも竜巻から抜け出たビルドバーニングであったが、すぐさまゲネシスは旋風竜巻蹴りを繋ぎ技にその身を隕石に変えたかのように聖槍蹴りを放ち、ビルドバーニングは咄嗟に両腕をクロスさせてガードするも勢いまでは殺しきれず、弾かれるように地面に叩きつけられる。

 

「ッ……!」

 

 だが覚醒の光を纏えるのはゲネシスではない。

 その本質は全く別物ではあるが、ゲネシスの覚醒と同じ輝きを放ったブレイカーFBはその一つ一つが強化されたビームライフルのビームをゲネシスに向け、その正確な射撃はゲネシスの至る所を撃ち抜き、損傷させる。

 

「まだ、だッ!!」

 

 更には下方からも発光装甲を燃える炎のように輝かせ、追撃の為に迫ったビルドバーニングが脚部を掴み、そのままジャイアントスィングのように遠心力を利用して、今度はゲネシスが地面に叩きつけられる。

 

「俺はずっと……あの二人の背中を追って来たんだ……ッ!!」

 

 土煙が舞い上がり、中破したゲネシスがぎこちない動きで何とか立ち上がり、上空で此方を見下ろすブレイカーFBとビルドバーニングを見上げる。

 ブレイカーFBとビルドバーニングは勝負を決めるつもりなのだろう。輝きを放つブレイカーFBはビームサーベルの刃を巨大な剣のように出力を増大させて振るい、ビルドバーニングもデータの主が誇る最終奥義たる自然の輝きを表すかのような気弾を放つ。

 

「いつまでも……見上げるだけで終われるかァッ!!!」

 

 決して屈しはしないと言う主の意志を表すようにゲネシスのツインアイを輝く。

 同時に覚醒の光がGNソードの刃に集まるかのように、その実体剣を媒体に輝く巨大な刃を発生させる。そのままこの力を確かめるかのように一振り、横薙ぎに振るうと切っ先を天に向け、こちらに迫るブレイカーFBとビルドバーニングの切り札に立ち向かおうとする。

 

 膨大なエネルギー同士はすぐさまぶつかり合い、拮抗する。

 そのあまりの力と力のぶつかり合いにゲネシスが踏みしめる足は地に陥没する。だがそれでもゲネシスが纏う光は留まる事なく更に力を増して、強烈な光を発してバトルフィールドを閃光が包み込んだ。

 

 覚醒で得られる全てをぶつけた事で中破していたゲネシスの機体は耐え切れず、各所でスパークを起こして動く事さえままならない。

 だがそれでも先程の一撃はあのブレイカーFBとビルドバーニングに通じたのだろう。あの二機も機体に損傷を受けている。

 

「ゲネシス……。良くやってくれたな……」

 

 ゲネシスガンダムはミサの手を掴んだ事でもう俯かず、前に進む為に作り上げたガンプラだ。そのゲネシスは今までどんなライバル達を相手にしても、今この瞬間でさえ己の全てを持って主たる一矢が前に進む為に応え続けてくれた。

 

 ここまで機体が限界に達しているにも拘らず、ゲネシスは最後まで主の願いである前に進む事を果たそうとするかのように、倒れる事もなく確かに地に足を踏みしめている。

 その瞳にあたるツインアイに灯っていた輝きは主の労いを受け、満足するかのように静かに消えていき、同時にタイムアップとなるのであった……。

 

 ・・・

 

「……正直、タイムアップに助けられた感じです」

「……そうね。でも、アナタは今、あのバトルの中でさえ成長していた。きっとあの二機をも倒せる時が来るわ」

 

 シミュレーターから出てきた一矢の顔は苦い。

 無我夢中に放った覚醒の一撃にも応えたゲネシスには感謝しているものの、あの後では満足に動く事も出来ず、タイムアップがなければあの二機に撃墜されていただろう。

 その事を認めつつ、だが、その中でも一矢が覚醒の新たな力の使い方を見出したのを見抜いていたカガミは励ますように言葉を送る。

 

「アナタは生きている。前に進もうと高みを目指す限り所詮は過去のものでしかないデータに負ける事はないわ」

 

 生ある者は前を向き、成長している。

 ブレイカーFBやビルドバーニングのような過去のデータは手を加えなければ、あれ以上の進歩はない。一矢が前に進み続ける限り、いずれはあの二機を易々と乗り越える事は出来るだろう。

 

「それにアナタの前には目指すべき目標があるみたいね……。彼らも今この瞬間でさえ前に進んでいる。そしてアナタの後ろにいる人達も……。ボヤボヤしていたら置いていかれるわ」

「はい……。……でも、大丈夫ですよ」

 

 モニター越しにバトルの最中の一矢の発言を聞いていたカガミは一矢が追う二人を見抜いているのだろう。

 

 彼らは前に進み続けている。

 そしてジャパンカップまでに戦ったライバル達もこの瞬間も成長している。その事を口にするカガミに一矢自身も分かっているのだろう。だが自信ありげに頷く。

 

「今なら形に出来る気がするんです。あの二人の背中を追う中で色んなものを見て来た俺だからこそ作れるものが」

 

 空に舞い、秘めたる力を解き放って圧倒的な力をぶつけるガンダムブレイカー0。猛る龍のように堂々と、人を魅了するような技を見せつけたバーニングガンダムブレイカー。

 今でもガンダムグレートフロントで、イラトゲームパークで、そしてこれまで、そして今もあの二人の戦いはすぐにでも鮮明に思い出せる。何故ならば、彼らを目指し、彼らより強くなりたいと思っているからだ。

 そんな自分だからこそ、先程のバトルも含めて今まで学んで吸収してきた全てを明日へ、前へ、何度も誇り(プライド)をぶつけて進む為に今に満足することなく、また新たな力を作り上げる必要がある。

 

「ツアー中だから並行してになりますけど絶対に作り出して見せます。今の俺だけが作れる……。俺の新しい……そう、“俺ガンダム”を」

 

 手中にあるゲネシスを見やる。

 このゲネシスは当時の自分の全てを注いで作り上げたガンプラと言って良い。だが、あの頃とは違う。

 

 翔にも誓ったのだ。

 今の自分ならば新たな力を、新たな誇り(プライド)の結晶を形作る事が出来る筈だ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Take Me Higher

 アジアツアーの大会も予定通り行われている。

 そこには当然、沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームの面々の姿もあり、現在行われているのは宙に浮かぶそれぞれの陣営に設置されたコアと呼ばれるエネルギー体を破壊すれば勝利というルールのものであった。

 

 既に沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームは相手のコアが浮かぶ敵陣地にまで侵攻しており、そこでゲルググをベースに黒い三連星をモチーフにしたかのようなカスタマイズが施されたガンプラチームと交戦している。

 

「これでぇっ!!」

 

 エンファンスドデファンスが横なぎにシュベルトゲーベルを振るい、ビームナギナタで受け止めようとするがシュベルトゲーベルに力負けしてビームナギナタごと真っ二つに切り裂かれる。これで二機目を撃破したところで、後は相手チームは一機しか残ってない。

 

「コア周辺の安全を確保っ!」

 

 敵陣地と言うだけあり、コアの周辺には防衛の為の砲台が設置されている。

 それをガンティライユ全て破壊すると仲間達に連絡する。そこに光の翼ですれ違いざまに最後の一機を撃破した一矢はコアに目をやる。

 

「よし、行こうぜッ!」

「ああ」

 

 ミソラからの連絡を受け、ツキミは一矢に声をかけると同時にエンファンスドデファンスとゲネシスは動き出し、コアに急接近すると、シュベルトゲーベルとGNソードを深々と突き刺し、コアを破壊する。

 

『アジアツアー・コアアサルト! 優勝は沖縄宇宙飛行士訓練商店街チーム!!!』

 

 同時にアナウンスが流れ、アジアツアーでのコアアサルトと呼ばれる今回の大会は一矢達の優勝で幕を閉じた。

 

 ・・・

 

 チームを結成してから、今のようなアジアツアーの大会を怒涛の勢いで勝ち進んでいく。

 しかしシミュレーターから一息つきながら出てきた一矢は優勝をしたと言うのに、どこか不可解そうな表情を浮かべている。

 

(みんなが……。アイツがいたら……)

 

 それはやはりバトルでの事であった。

 別にツキミやミソラに不満があるわけではなく、寧ろ安心して背中を任せていると言っても良い。

 

 しかしペアを組んでいたツキミとミソラに対し、自分はそこに加わったような状況だ。

 やはり連携においても、ツキミとミソラは互いを知っている為、すんなり言っても一矢の場合、二人とは時折、バトルの連携がうまく噛みあわない時があった。ふと無意識で彩渡商店街チームの事を、チームメイトのことを考えてしまう。その一矢の姿を歩み寄りながらカガミが見つめていた。

 

「やったなっ!!」

「また優勝出来たね!」

 

 しかしそんな一矢にツキミが肩に手を回し、その傍らにミソラが駆け寄って優勝を喜んでいる。そんな二人に我に返り、今は限定的とはいえ、この沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームに身を置いているのだと集中するために先程の無意識に出た考えを振り払うように頭を振る。

 

「おい、これ見てみっ!!」

 

 優勝を喜んでいるツキミ達にモチヅキがどこか興奮した様子で声をかけて手に持っているタブレットを見せつける。そこにはネットニュースが載っていた。

 

「喋るグリズリー……“ぐりぐり”……」

「そっちじゃねーよ!」

 

 ネットニュースの一覧で目に留まった見出しを見て、声に出すカガミ。しかしモチヅキはこの場でそれを見せに来たわけではないとツッコミを入れ、こっちだと言わんばかりに指を指す。しかしカガミはぐりぐりが気になっているようで、チラチラとぐりぐりの見出しを見ている。

 

「ん? えーっと……“日本人ファイター同士が海を越えて決勝を争う”……?」

 

 モチヅキに指し示された見出しを見やり、ツキミが口にする。

 そこにはアメリカトーナメントでの記事が掲載されていた。

 元々、アメリカにおいて外国人ファイター同士の優勝争いは前例がないため、話題になっているようだ。画面にはニュース内容と優勝を飾ったロクトの写真とその横に並ぶミサの姿もある。

 

「ロクト先輩とミサちゃんが決勝戦だって! 凄いわね!」

「ロクト先輩と張り合うって結構すげーぞ!」

 

 ニュースを読み終えたミソラとツキミが知り合い同士の、そして敗れてしまったとはいえ、あのロクトを相手に渡り合ったミサに驚嘆していた。

 

「男子三日会わざれば、か……。こいつは女だけど。帰るの楽しみだなあ?」

 

 ミサもまた成長しているのを知り、モチヅキが同じチームメイトである一矢に晴れやかな笑みを浮かべながら声をかける。そんな一矢はニュースの内容をジッと見ていた。

 

「……そっか。アイツ……強くなってるんだ……」

 

 準優勝とはいえ、かつてロクトとバトルをした際には手も足も出なかったミサだが、今ではロクトと張り合うまでに成長しているのだ。心なしか思わず一矢の口元に優しい笑みが浮かぶ。

 

「アナタも負けないようにしなくてはね」

「分かってます」

 

 今、この瞬間もミサは強くなっている。

 発破をかけるようなカガミの言葉に頷く。

 

 言われずとも分かっている。

 立ち止まっていられない。自分はこのままミサに見合えるように前に進み続けるまえでだ。そしてその為には完成させなくてはいけないものがある。

 

(アイツの笑顔……最近、見てないな)

 

 会場を後にしながら、先程のニュースに掲載されていたミサの写真を思い出す。

 優勝したロクトの隣に立つミサはとても晴れやかなものであった。

 

 その笑顔を思い出しながら、ジャパンカップに入り、時折、憂いたような顔をする事が多かったミサを思い出す。

 アメリカに旅立つときもそうであった。

 タウンカップで初めて覚醒した際、自分はミサの顔を曇らせたくはないと思ってしまった。でも、もしかしたら再会した際、笑顔が見れるのかな、とそう思いながら会場を去っていく。

 

 ・・・

 

「……バーニングフィンガーが強力だけど、それだけの為にゴッドのパーツを使うわけにはな……」

 

 一矢は近くの模型店の作業ブースでガンプラを制作していた。

 ツアーももう殆どの日程を無事に終え、佳境に入っているなかで、合間に作り続けていた新ガンプラの前で一人呟く。

 まだ未完成であり、塗装を施したパーツが乾くのを待ちながら未完成のガンプラを手に取る。

 

 それはまさにフレームの状態であった。

 RGやMG、そして一部のHGキットにはフレームが採用されており、一矢もまた新ガンプラには新しくフレームを導入している。それだけで完成度は高まり、こだわりを持って仕上げた外装パーツを取り付ければ、ゲネシスが耐え切れなかったバーニングフィンガーも対応外のパーツとはいえ、フレームの導入によって二、三発は耐えられるという計算だ。

 もっとも作成に至り、その予算はゲネシスを作成した時よりも倍以上に膨れ上がり、学生には中々厳しいものになってしまった。

 

「翔さんの戦い方も……やっぱり参考になるな」

 

 フレームの可動範囲も確認し終え、待っている間、動画サイトでブレイカー0のバトルの映像を見つめていた。

 ブレイカー0から放たれるフィンファンネルはまるで一つ一つが意志を持っているかのように縦横無尽に駆け巡って相手を撃破していっている。最近こそシュウジに影響されているが、やはり翔のバトルはまだ届かない存在だからこそ学べるものが多い。

 

「──こんなところにいたんだ」

 

 そんな一矢に声をかける者がいた。

 おもむろに顔を見上げてみれば、そこにはリージョンカップの準決勝で激闘を繰り広げたヴェールの姿が。

 

「久しぶりだな」

「最近、凄い活躍してるみたいだね。全部、チェックしてるよ」

 

 ジャパンカップでは同じ場所にはいたものの顔は合わせていなかった一矢とヴェール。久しぶりの再会に一矢が懐かしんでいると、ヴェールはそのまま一矢の隣に座る。

 

「ここにいるってことは……」

「うん、アジアツアー」

 

 ヴェールがここにいるのはツキミ達と同じであろう。

 一矢の考えは的中し、ヴェールはクスリと笑いながら頷く。

 

「お兄ちゃんもチームに加わってるし、私もあの頃とは違うよ」

「俺だってそうだ」

 

 どうやらリージョンカップの時とは違い、ヴェールや未来だけではなく、新しくユーリも参加しているらしい、

 リージョンカップから月日も経ち、また一段と強くなっているのだろう。ヴェールも一矢も久方ぶりのぶつかり合いが出来ると感じ、笑みを交わす。

 

「楽しみにしてるね、そのガンプラも今の実力も」

 

 予定はあるのだろう。

 立ち上がったヴェールは既に買い物を済ませた袋を持って、去り際にそう言い残すと模型店を出て行き、一矢は久方ぶりに出会ったヴェールとのバトルを楽しみに感じながら、作業を再開するのであった……。

 

 ・・・

 

『いよいよ最後の日程となりました、アジアツアー! 最後を飾るのはアジアツアー・バトルロワイヤルです!』

 

 ヴェールとの再会からもアジアツアーでの日程を進めつつ、新ガンプラと、そしてカガミが用意していたプログラムとのバトルを行っていた一矢だが、いよいよアジアツアーも最終日を迎えた。

 

「ようやく最終日か……」

「お兄ちゃん! ほらシャッキっとして!」

「最終日ぐらい優勝しようよ」

 

 アジアツアーだけあって一矢のみならず、日本人ファイターの参加者もちらほら見受けられる。中には ジャパンカップの会場にいた風留、そして双子の千佳と勇太もいた。

 

「抜かるなよ」

「はいっ! 一矢君もいることだし楽しみだね!」

「うん、久しぶりだからね」

 

 そしてリージョンカップでぶつかり合った三人も今では一つのチームとなり、ユーリが注意をすると、未来がこのバトルロワイヤルに参加しているであろう、一矢のことに触れるとヴェールもクスリと笑う。

 

「ねーむーい……」

「大丈夫、モチヅキちゃん……?」

「このガンプラバカ、ガンプラは完成させたのに、アセンブルシステムはまだ未完成だったから遅くまで手伝ってたんだよ……」

 

 当然、一矢達も既におり、眠たそうに瞼を握った手で擦るモチヅキにどうしたのかとミソラが心配していると、寝不足の理由をモチヅキは明かす。

 

「って事は出来たんだな。楽しみにしてるぜ」

「良いか、ガンプラバカ! 負けたら祖国の土は二度と踏めないと思え!!」

 

 恨めしそうに一矢を見ているモチヅキの話を聞き、少し前から話には聞いていた一矢の新ガンプラが遂に実戦に出れる事を知ったツキミは心の底から楽しそうに笑いかけると、一矢も任せろとばかりに微笑みながら頷く。夜遅くまでつき合わされたモチヅキもビシッと一矢を指さしながら叫ぶ。

 

「行くか。ツキミソラ」

「「ツキミソラ!?」」

 

 いよいよバトルの時刻が迫った。

 一矢はツキミとミソラを略して声をかけると、二人は驚きながらもその後を慌てて追う。いきなりの略称であったが、このアジアツアーでチームを組んだこともあり、ジャパンカップの頃よりも心を開いているのだろう。

 

 ・・・

 

「漸くか……」

 

 シミュレーターに乗り込んだ一矢は新たに完成させたガンプラをセットする。

 それは全体的にゲネシスの印象を受けるものの、背中の翼のような可変式機動兵装ウイングや両腕はパルマフィオキーナも組み込まれ、ゲネシスガンダムの時よりも接近戦に特化した印象を受ける。

 それは彼が目指す二人の戦い方から学び、ゲネシスに組み込んだ新たなガンプラであった。

 

「ただ前に進むんじゃない……。もっと高く……。あの笑顔と一緒に……」

 

 両目を閉じ、自分自身に言い聞かせるように呟く。

 その脳裏にはチームメイトが自分に手を差し伸べてくれた時の笑顔が過る。あの笑顔と共にこれから先も輝かしい未来を切り開いていきたい。すると漸くマッチングが終了し、出撃が促される。

 

「ゲネシスガンダムブレイカー……雨宮一矢、出る」

 

 ゆっくりと目を開けた一矢に呼応するように新ガンプラ・ゲネシスガンダムブレイカーの瞳にあたるツインアイが光り輝き、産声を上げるかのような起動音が鳴り響く。

 英雄と覇王から受け継いだ力を形にしたように、新たなガンダムブレイカーが遂に発進するのであった……。




ガンプラ名 ゲネシスガンダムブレイカー

WEAPON GNソードⅤ(射撃と併用)
HEAD ビルドストライクガンダム
BODY アカツキ
ARMS デスティニーガンダム
LEGS クロスボーンガンダムX1改・改
BACKPACK ストライクフリーダムガンダム
SHIELD ビームシールド

ビルダーズパーツ

内部フレーム補強
スラスターユニット×2(両足)
腕部グレネードランチャー×2(両腕)
大型ビームキャノン×2(背)

詳しい外見やカラーリングなど活動報告の【ガンブレ小説の俺ガンダム】にマイハンガーのリンクが貼ってあります。因みに其方には私だけではなくキャラを投稿していただいた方の一部の俺ガンダムのリンクも貼ってあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

疾走する本能

 アジアツアー・最後の大会であるバトルロワイヤルは月面を舞台に激しい戦闘が行われ、気づけばあちらこちらで機体の爆発音が聞こえてくるほどだ。

 

「あれが噂のジャパンカップの……」

 

 月面都市のビル群に隠れながら、たった今、参加者のガンプラを撃破したゲネシスブレイカーを見ながら、風留はどう攻略するかのように考える。

 

「ここは私達が出るよ」

「兄さんは安心して闇討ちしてよ、俺達が暴れるからさ」

 

 そんな風留に千佳と勇太の双子の二人が声をかける。

 風留がモニター越しで見れば、既にゲネシスブレイカー、延いては周囲のエンファンスドデファンスやガンティライユを標的にしたように見つめる勇太のユニコーン・ネクストと千佳のバンシィ・ネオの姿があった。二機はすぐさまNT‐Dを使用する事によって沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームへ向かっていく。

 

「了解。ミラージュコロイドを使う」

 

 ユニコーン・ネクストとバンシィ・ネオの外見その物の違いは、セブンソード/Gとレジェンドガンダムぐらいだろう。

 そんな二機がぐんぐんと加速し、ゲネシスブレイカー達を引き付けるかのように戦闘を開始したのを見て、風留のアストレイブラッドXはミラージュコロイドを使用し、静かにその機会を待つ。

 

「千佳!」

「勇太!」

「「やるよ!」」

 

 NT‐Dを発動した二機はバンシィ・ネオがドラグーンを放つ中、ユニコーン・ネクストがGNバスターソードⅡを構えて突撃する。迫るユニコーン・ネクストを対処する方が先決だろうが、バンシィ・ネオのドラグーンがそれを許さず、接近を許してしまう。

 

「強いな……っ!!」

 

 接近したユニコーン・ネクストを受け止めるように躍り出たエンファンスドデファンスによってシュベルトゲーベルとGNバスターソードⅡを受け止める。

 単に突撃したわけではなく、その実力にツキミは苦い表情を浮かべる。しかしそんなエンファンスドデファンスを背後から撃ち抜こうとバンシィ・ネオのドラグーンがその砲身を向けていた。

 

「させないっ!」

 

 だがそれを阻止したのはガンティライユであった。

 エンファンスドデファンスを狙うドラグーンを破壊したガンティライユはアグニの砲口をバンシィ・ネオへ向けて、発射する。迫る砲撃はバンシィ・ネオにとっては易々と回避できるものであったが……。

 

「っ!?」

 

 何と既にバンシィ・ネオのすぐ近くにゲネシスブレイカーは現れていた。

 ゲネシスブレイカーは先程、ガンティライユの傍にいた筈だ。ガンティライユのアグニに意識を向けたほんの一瞬でゲネシスブレイカーは接近してきていた。

 その機動性はジャパンカップにおいても圧倒的な機動力を発揮していたゲネシスを優に上回るだろう。

 

 辛うじて装備していたヒートショーテルをクロスさせて受け止めたバンシィ・ネオであったが、ゲネシスブレイカーはバルカンを頭部に集中して放つことによって目眩まし代わりに使用し、一瞬動きが鈍ったところを切り払い、そのままスラスターを稼働させ、飛び蹴りを浴びせる。

 

「あなたみたいに勝ち続けられる人は…………美しいよなぁ!」

 

 千佳がゲネシスブレイカーを見やりながら、歯を食いしばり、損傷を受け吹き飛んだバンシィ・ネオのビームマグナムを向けるが、ゲネシスブレイカーは空高く飛翔する。

 ゲネシスブレイカーを目で追う千佳だが、ゲネシスブレイカーが先程までいた場所の奥にいた機体を見て吃驚する。そこにはガンティライユがアグニを構えていた。

 

 ゲネシスブレイカーがバンシィ・ネオとが鍔迫り合いとなった瞬間、ガンティライユはゲネシスブレイカーの後方に移動してアグニを発射しようとしていたのだろう。ゲネシスブレイカーが飛び上がった瞬間を合図にしたかのように発射したアグニの一撃はバンシィ・ネオを貫き、爆散する。

 

「やったね!」

「……ああ」

 

 連携によってバンシィ・ネオを撃破したミソラと一矢。エネルギーの消費の問題から近くのビルの屋上に降り立ち、エンファンスドデファンスの援護に向かおうとするガンティライユと何かを警戒するように一矢はスッと目を細めている。

 

「──背中がら空き…………だ」

 

 そんなゲネシスブレイカーの背後にミラージュコロイドによって身を潜めていたアストレイブラッドXが一撃で仕留めようと、カレトヴルッフアンビデクストラスハルバードモードの切っ先を振りかぶっている。ミソラが気づき、一矢に通信を入れようとするが……。

 

「残念だな」

 

 その刃がゲネシスブレイカーを貫くことはなかった。

 予想していたように振り向きざまに機体を僅かに動かしたゲネシスブレイカーは振り下ろして隙だらけになったアストレイブラッドXをそのままマニビュレーターによって殴り飛ばす。

 

「……あの二機は妙に引き付けるように派手な戦い方をしていた。警戒はしていたが、やっぱり来たな」

 

 殴られて吹き飛んだアストレイブラッドXは都市の街道に足をつける。

 その前方に静かに降り立ったゲネシスブレイカーは対応して見せた理由を明かしながら、右拳を突き出し、GNソードⅤを逆手にして左手で持ち直して引くことで覇王不敗流の構えをとる。覇王不敗流を叩きこまれた一矢はフィールドの空気を割く僅かな音にも反応出来るほどの成長を見せていた。

 

 ファンネルを展開したアストレイブラッドXはゲネシスブレイカーに差し向ける。

 しかし、ファンネルのが砲身が光るよりも先に加速して迫ったゲネシスブレイカーは勢いを利用するようにマニビュレーターを回転させて流星螺旋拳を叩きこみ、アストレイブラッドXごと近くのビルを突き破る。

 

「くそっ! 動け! 動きやがれアストレイ!」

 

 流星螺旋拳は勢いを持ってアストレイブラッドXの装甲を抉っていく。

 今なお加速するゲネシスブレイカーによって身動きが取れない中、そのまま逆手に持ったGNソードⅤの柄で空に突き上げられる。

 

「これが……未来を掴む覇王から受け継いだ力だッ!!」

 

 そのままGNソードⅤを地に突き刺し、一矢は右手に未来を示す炎のように轟々と輝くEXアクション・バーニングフィンガーを纏う。

 しかしそれだけではない。左手にはパルマフィオキーナも展開することによって両手に二つの輝きを持ったゲネシスブレイカーは空に舞い上がり、アストレイブラッドXを貫き、撃破する。

 

「一矢君、こっちも何とかなかったよ!!」

「無事、とは言えないけどな。次行こうぜ!」

 

 ゲネシスブレイカーがアストレイブラッドXと戦闘をしている間にユニコーン・ネクストを二人がかりで撃破したミソラとツキミ。しかし一筋縄ではいかなかったのだろう。各部に損傷を受けている。一矢は二人に頷いて、三機は移動を開始する。

 

 ・・・

 

 月面都市を抜けた先にある大きな円状に囲むように出来ている月面基地の一角。

 ここではヴェール達のチームが二本足の巨大MA・ビグザムを撃破した直後であった。

 既に時間も終了まで刻一刻と迫っており、これまでと、そして今のビグザムとの戦闘の激しさを物語るようにルイーツァリ達の機体には損傷が見受けられる。

 

「後、残っているのは……」

「ああ、来るぞ!!」

 

 周囲を見渡すルイーツァリ。そのルイーツァリを通して周囲を確認するヴェールの表情には明らかに疲れが読み取れる。それもそうだ。バトルロワイヤルを時間ぎりぎりまで生き残り、戦い続けているのだから。勿論、それはヴェールだけではなく他の二人もそうであった。

 

 モニターに表示した出場者リストは名前の横に撃破を知らせる×印が表示されている。

 殆どに×がついているなか、やはりと言うべきか。沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームが生存している。いや、寧ろ今はヴェール達と沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームにしかいないだろう。

 

 それを確認したヴェールだが、ユーリの言葉と共に警戒を促すようにシミュレーターが反応すれば、確かに指し示す方向には沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームのガンプラの姿がある。こちらに向かってくるゲネシスブレイカー達も自分達と同じ条件の為、やはりある程度の損傷が目立っている。

 

「ここは私がッ!!」

 

 こちらに迫る沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームにNT‐Dを同時に発動させるイスカーチェリは未来によってビームマグナムを発射すると共にシールドファンネルや備わったミサイル群を放つ。迫りくるシールドファンネルやミサイルにゲネシスブレイカー達は散開する事によって対処を始める。

 

「翔さんほどじゃないが……ッ!!」

 

 旋回すると同時にスーパードラグーンを放ち、マニュアル操作に切り替える。

 ただでさえバトルロワイヤルを最後まで生き延びているのに、そこで集中力を要するマニュアル操作は負担が大きい。だがそれでも一矢はそれを選んだのだ。

 

「やっぱり強いな……ッ!」

 

 迫るミサイルを破壊して、更にはイスカーチェリにさえ攻撃するスーパードラグーン。シールドファンネルを呼び戻して防ぐと共にリージョンカップよりお段違いに強くなった一矢の実力に未来は苦々しい表情を浮かべる。

 

「やるな……ッ!!」

「俺達も強くなっているんでな」

 

 イスカーチェリに近付いていたエンファンスドデファンスであったが、横からビームマシンガンの攻撃4を受け、そちらを見やった瞬間、レナトにタックルを浴びせられる。ユーリの実力を認めるツキミに更に追い打ちをかけるように射撃を再開する。

 

「そう、あの頃とはすべてが違うッ!!」

「きゃぁあっ!!?」

 

 トランザムを発動させたルイーツァリはGNソードⅡブラスターでガンティライユに一気に迫って、肉薄すると、そのまま振りかぶってガンティライユに損傷を与えると、ガンティライユは吹き飛ぶ。

 ヴェール達の機体はリージョンカップから変わらないものの、そのガンプラの作りこみはリージョンカップとは見違えるほど変わっている。それに伴ってその性能も大幅に上がっていた。そのままGNソードⅡブラスターの銃口を吹き飛んだガンティライユに向け、引き金を引くと、その砲撃はガンティライユを貫いて爆散させる。

 

「俺だって……あの頃とは違うッ!!!」

 

 ガンティライユが撃墜され、一矢やツキミは苦し気な表情を浮かべるが、それでもそのまま勢いに飲まれて負けるわけにはいかない。

 半ば中破の状態のエンファンスドデファンスはシュベルトゲーベルを盾代わりにレナトに突っ込んでいく。近づけさせまいとレナトが更に攻撃を強め、シュベルトゲーベルが耐え切れず爆発するが、その爆発から飛び出たエンファンスドデファンスはビームサーベルを引き抜いて、レナトの右腕を切り裂く。そのまま勢いに任せて、レナトの胸部にビームサーベルを体当たりを浴びせるように突き刺すとレナトを撃破する。

 

「くそっ……ここまでか……ッ!?」

 

 しかしレナトを撃破し、爆炎から姿を現したエンファンスドデファンスであったが、直後にイスカーチェリが放ったビームマグナムを受け、その元々の損傷の大きさから撃破されてしまう。

 

「俺だけか……!」

「タイムアップまでは待たない、ここで決めるッ!!」

 

 ゲネシスブレイカーはイスカーチェリと幾度も刃を交えるハイレベルな剣戟を繰り広げていたが、エンファンスドデファンスの撃破を受けて、一矢は不利な状況に陥る。

 ルイーツァリだけではない。イスカーチェリまでも、こちらに向かって攻撃を仕掛けてきているではないか。残り時間も後僅か。ヴェールはゲネシスブレイカーの撃破を持って終了させようとする。

 

「立ち止まってられないんだ……。俺は……ッ……!」

 

 ルイーツァリと距離を取り、二機を相手に立ち回ろうとするゲネシスブレイカー。

 しかしルイーツァリとイスカーチェリの二機は時間内に確実に撃破しようと攻撃の嵐を更に強めてくる。

 

「俺には色んな夢が出来た、誇り(プライド)が持てた! 躓けば痛くて苦しいほど鋭利だけど……その分、凄く熱くさせてくれる、強くさせてくれる……ッ!!」

 

 月面に滑空して降り立ったゲネシスブレイカーは上空から攻撃してくる二機を見つめる。その頭の中には目指している英雄と覇王、そして自分に手を差し伸べてくれた少女とチームの面々の姿が次々に浮かんでくる。

 

「俺のこの夢を……誇り(プライド)を……最後までぶつけさせてくれ……ッ!!!」

 

 もっと前に、その願いの為に生み出されたゲネシス。そして今はもっと高く。主の想いに応えるようにゲネシスブレイカーのツインアイが輝き、一矢の胸にある誇り(プライド)を表すかのように輝きを全身に纏い、覚醒する。

 

「行くぞ、ゲネシス……ッ!!」

 

 そのまま力を抜くように右肘を右膝に置くように腰を落としたゲネシスブレイカーはまるでスタートを切るようにして、月面を蹴り、一気に加速してルイーツァリ達を翻弄するように変則的に飛び回りながら向かっていく。

 

 周囲にシールドファンネルを展開するイスカーチェリ。するとセンサーが反応するように背後に展開したシールドファンネルが破壊され、振り向いた瞬間、ツインアイの輝きを残光のように走らせたゲネシスブレイカーによって腹部を殴られる。

 

 そのままくの字に曲がったイスカーチェリをそのまま顎先を殴るようにスナップを利かしたアッパーカットを浴びせ、イスカーチェリの機体がのけ反ったところを逆手に持ち直したGNソードⅤですれ違いざまに両断した。

 

「速過ぎる……ッ!?」

 

 イスカーチェリを撃破したのも束の間、スーパードラグーンを展開して再び音速の領域に踏み込むようにゲネシスブレイカーは疾走する本能のままに加速する。

 ゲネシスを遥かに凌駕するその機動力はもはや機体その物を捉えることは出来ず、フィールドには紅き閃光が駆けて行く。

 

「っ!?」

 

 大型ビームキャノンによる攻撃を受けるルイーツァリ。そのまま周囲を駆け抜けるゲネシスブレイカーによってどこからともなく放たれたフラッシュエッジ2が二本とも突き刺さり、損傷を受ける。スパークが上がる中、眼前に突如、ゲネシスブレイカーが現れる。しかし驚いたのも束の間、そのまま蹴り上げられた。

 

≪3≫

 

 タイムアップが迫る。スローモーションになった相手とバトルをしているかのようなゲネシスブレイカーは宙を舞うルイーツァリの周辺にスーパードラグーンを展開する。

 

≪2≫

 

 さながら音速の騎士のようにGNソードⅤを構えたゲネシスブレイカーはその覚醒の力をその刃に集め、GNソードⅤの刃を媒体に巨大な光の刃を形成すると振りかぶった。

 

≪1≫

 

 ルイーツァリの周囲に張り巡らせたスーパードラグーンが四方八方からルイーツァリをビームで貫く。直後、振り下ろされた光の刃によってルイーツァリの機体は飲み込まれるように爆発する。

 

≪Time Out≫

 

 ルイーツァリを撃破したゲネシスブレイカーは月面の地に降り立つ。

 制限時間の終了を知らせる電子音声と共にゲネシスブレイカーが纏っていた覚醒の光は静かに消え去る。先程までの激戦が嘘のように静寂が支配する中、沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームの優勝を持って、アジアツアーが終了するのであった。

 

 ・・・

 

「よくやった! よくやったよ、お前たち!! わたしはっ……感動して……うわああぁぁーんっ!!!」

「よしよし泣かないで。モチヅキちゃん」

 

 アジアツアーも終了して立て続けに優勝したのは沖縄宇宙飛行士訓練商店街チーム。モチヅキが感極まったように大声をあげてわんわんと泣いていた。そんなモチヅキをあやすようにミソラが頭を撫でている。

 

「これで終わりか……。なんだかあっと言う間だったな」

「お前たち、沖縄に帰っても元気でなああぁぁっわあああぁーーーんっッ!!!!」

 

 沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームとして結成して共に駆け抜けた一矢とツキミ達。

 思えばあっという間に時間が過ぎてしまった。名残惜しいようなそんなツキミの言葉を聞き、モチヅキが別れの挨拶をしようにもそのまま泣いてしまい、ミソラが礼を言いながらあやしている。

 

「楽しかったよ、お前と組めて……。負けるなよ!」

「応援してるからね、ミサちゃんによろしく!」

「……ああ」

 

 今回、こうしてチームを組めたのは一矢にとっても、ツキミ達にとっても良い刺激となってガンプラファイターとして更なる成長を促してくれた。

 ツキミとミソラが激励を送りながら、それぞれ順番に握手を求めるように手を差し伸べると一矢もその手を見つめ、ゆっくりと握り返して握手をすると笑いあうのであった。

 

 ・・・

 

「飛行機が出るまで時間はあるわ」

 

 アジアツアーも終わり、日本に帰国する日が訪れた。

 後、数時間で登場予定の飛行機が出発するのだが、一矢はカガミに連れ出されて、近くの小さなゲームセンターに訪れていた。腕時計で時刻を確認しながら、カガミは一矢に向き直る。

 

「総仕上げよ。貴方の力を私に見せてみなさい」

 

 なんとカガミに連れ出された理由は彼女とのバトルであった。

 驚いている一矢にカガミはこのアジアツアーにあたって翔から託され、持参していたライトニングガンダム・フルバーニアンを取り出す。

 

「ゲネシスガンダムブレイカー……。その力、見定めさせてもらうわ」

 

 実際にカガミのバトルを見たのはネバーランドの一件くらいだ。

 あの時は意識していなかったが、それでもカガミの実力の高さは一矢にだって分かる。有無を言わさぬカガミに一矢は頷き、シミュレーターに乗り込んでゆく。

 

 ・・・

 

「……そう、私は自分自身で見定めたい。彼にそれだけの輝きがあるのかを」

 

 カガミは英雄と覇王、二つのガンダムブレイカーの乗り手を間近で見て来た一人だ。

 英雄を師事し、覇王を共に、激動の時代を戦い続けてきた。

 だからこそガンダムブレイカーの名を冠する機体が起こしてきた奇跡をその目に焼き付けて来たのだ。故に生半可な力でガンダムブレイカーの名を使うのはカガミには認められない。

 

「ライトニングガンダム・フルバーニアン……カガミ・ヒイラギ、出るわ」

 

 マッチングが終了し、カタパルトが表示される。

 カガミは静かに目を開き、その鋭い眼光はモニター越しに見える宇宙のステージを見据える。出撃を促されると同時にカガミが駆るライトニングFBは漆黒の宇宙に飛び出していくのであった。




Reformation


<いただいたキャラ&俺ガンダム>

雨日鬱さんからいただきました。

キャラクター名
天音 勇太(アマネ ユウタ)
天音 千佳(アマネ チカ)
双子の兄妹で一 風留のお隣さん。風留をお兄ちゃん、兄さんと呼ぶ。

勇太は身長168cm、千佳は150cm。年齢は主人公とタメ。
神はどちらも赤で千佳はポニーテール。勇太はショートでアホ毛が立ってる。
2人もはっちゃけた性格のため、風留の苦労の元

千佳 勇太
ガンダム名
バンシィ・ネオ ユニコーン・ネクスト
元したガンプラ
バンシィ ユニコーン

weapon
ビームマグナム ビームマグナム
weapon
ビームショーテル ビームソード
head
バンシィ ユニコーン
BODY
バンシィ ユニコーン
ARMS
バンシィ(アームドアーマー) ユニコーン
RegS
バンシィ ユニコーン
backpack
レジェンドガンダム セブンソード/G
拡張武器
背中太陽炉 なし

2人ともユニコーン世代がお気に入りでそれぞれバンシィとユニコーンを改造した
風留には「バックパックが違うだけだろ」と言われたが、2人は気にしていない。
カラーリングは原作カラーと同じ。
双子故のコンビネーションもある。

キャラ名 一 風留 (にのまえ ふうど)周りからは「はじめ」とや「フード」と呼ばれる

容姿 身長172cm 赤のかかった茶髪に黒目、口数は少なく、めんどくさいが口癖。
しかし断れない性格で苦労人。少しツンデレ気質

年齢 主人公の1つ上

戦闘スタイルはガンプラに似合わず、ミラージュコロイドを使用した暗殺、闇討ちがメイン。
しかしそれはチームの時だけであり、ソロ状態だと正面から戦う。(そこまで強いわけではない)

機体名 アストレイブラッドX
元のガンプラガンダムDX

切り札はツインサテライトキャノン

weapon カレトヴルッフアンビデクストラスハルバードモード
weapon ビーコックスマッシャー

head アストレイレッドドラゴン
BODY ガンダムX
ARMS ブリッツ
RegS OOガンダムセブンソード/G
backpack ガンダムDX
SHIELD ABCマント
拡張装備 大型ガトリング(両肩)
ファンネルラック(背中)
スラスターユニット(足)
対艦ビームランチャー(背中)

オプション装備
対艦ビームランチャー
大型ガトリング
ファンネル
GNサーベル+GNカタール
グレイプニール

ガンプラカラーは深緑。サブカラーに黒や赤を入れている。
ブリッツのアンカーはそこまで多用しない。

素敵なオリキャラや俺ガンダム、ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ノーザンクロス

 バトルフィールドは宇宙。この世界の人間はまだ進出したとはいえ、まだまだ未知の領域だ。星々が煌めく宇宙をゲネシスブレイカーが駆ける。一対一の状況である為、すぐにライトニングFBを見つける事が出来た。ライトニングFBは既にMA形態に変形して、こちらに向かってきている。

 

「見せてみなさい、貴方の力を」

 

 こちらに迫るMA形態のライトニングFBはバックパックからミサイルを発射する。

 解き放たれたミサイルの数々は鎖から放たれた猛獣のような荒々しさを持って、ゲネシスブレイカーへと向かっていく。

 

「言われなくともッ!!」

 

 大型ビームキャノンとGNソードⅤをライフルモードにこちらに迫るミサイルの数発に着弾させて、その爆発によって周囲のミサイルにも誘爆させることで対処をし、そのまま飛行を続けるライトニングFBに迫っていく。

 

(ライトニングの機動力に追い付けるとは……)

 

 背後から射撃をしつつ、MA形態のライトニングFBに迫っていくゲネシスブレイカー。アジアツアーでも分かっていたとはいえ、ここまでの機動力を見せるゲネシスブレイカーには驚かせられる。

 

 絶えず射撃をしつつ、それどころか更にスーパードラグーンを展開して、縦横無尽に駆け巡りながらスーパードラグーンはライトニングFBに向かっていく。

 

「……だけど」

 

 無数に放たれる射撃攻撃に旋回して回避し続けるライトニングFB。いまだにMA形態を崩さず、カガミは目を鋭く細めて、更にライトニングFBを加速させ、そのままデブリ帯に突入し、ゲネシスブレイカーもその後を追う。

 

「嘘だろ……!?」

 

 デブリ帯に突入した二機。

 ライトニングFBの背後を取っていた一矢は自分が有利だと思っていた。しかし今、目の前で行われている光景を見て唖然とする。

 

 何故ならば、ライトニングFBはデブリ帯に入ったと言うのにMA形態のまま減速する事もせず、デブリを僅か数cmのギリギリの位置で回避して更に加速しているではないか。

 あの速度ならばもしデブリに掠りでもしたら機体の操縦を持っていかれる可能性もあるし、何より直撃したらただでは済まない。

 

 それを恐れてゲネシスブレイカーはデブリとの距離を置きつつ、減速しながらライトニングFBを追い続けている。一体、どうすればあんな曲芸じみた動きが出来るのか、一矢はカガミに驚かされてばかりだ。

 

「アナタの力は……その翼はその程度のモノかしら」

 

 カガミはどんどん距離が離れて行くゲネシスブレイカーを確認しながら、レバーを動かして上方に弧を描くように加速すると、そのままミサイルを再び発射する。

 放たれたミサイルはゲネシスブレイカーの前方のデブリに着弾する事によって破壊され、周囲に爆発が起きてゲネシスブレイカーのモニターに煙幕代わりとなって視界を遮られてしまう。

 

「ッ!?」

 

 急な硝煙にゲネシスブレイカーは急停止して、硝煙を回避してライトニングFBを追おうとするのだが、その寸前に硝煙を払うようにして放たれたビームがゲネシスブレイカーの左腕を貫き、爆発させる。

 

「──私の知っているガンダムブレイカーはその程度ではなかったわ」

 

 硝煙が消えた先には漸くMS形態に変形したライトニングFBがハイビームライフルの銃口をこちらに向けて、ツインアイを輝かせていた。

 

 一矢は通信越しに聞こえるカガミの言葉に歯を食いしばる。

 正直なところで言えば、今のでカガミはコクピットを狙って狙撃する事も出来た。だがあえてそうはしなかったのだ。

 

「言った筈よ、見定めると……。その翼は何のためにあるのかしら? 出し惜しみをするのなら、その翼を今すぐ毟り取ってあげるわ」

 

 通信越しにさえ、身を震わせるような冷徹な声が響く。

 カガミは初めから全力で、覚醒をして向かって来ることを求めていたのだ。

 元々、一矢もこの短い間でカガミの実力を改めて感じ取ったのだろう。今のように下手なことをすれば簡単に撃破されてしまう。ならばとゲネシスブレイカーも覚醒する。

 

「この翼は……もっと高く……あの二人に届かせるためにあるんだ……ッ!」

 

 覚醒の輝きを纏ったゲネシスブレイカーは紅き閃光と化して、一瞬にしてライトニングFBに迫る。ライトニングFBはの横に出現したゲネシスブレイカーはGNソードⅤを振るうが、何とライトニングFBはビームサーベルを引き抜いて対応して見せた。この程度を対応するなど造作もない。何故ならば自分はこれよりも凄まじい悪魔と戦闘をした事があるからだ。

 

「なら口だけではないと証明してみなさい」

 

 しかし、いくら翔が手掛けたライトニングFBとはいえ、覚醒状態のゲネ シスブレイカーを相手には力負けをしてしまう。

 だからこそ受け止めた一瞬の隙で切り払い、そのまま蹴りを浴びせ、吹き飛んだところ二門のビームキャノンを発射して、損傷を与える。

 

 このままではカガミによって蜂の巣にされてしまう。

 それを避けるようにゲネシスブレイカーはスーパードラグーンを展開して攻撃を仕掛ける。迫るスーパードラグーンにカガミはライトニングFBを再びMA形態に変形させ回避する。

 

 そのままビームキャノンとハイビームライフルで近くのデブリを撃ち抜き、爆散させる。周囲に飛び散るデブリ片はスーパードラグーンの侵攻を妨げるなか、急旋回してライトニングFBはゲネシスブレイカーに迫る。

 

 今度は力負けをしないようにとライトニングFBはビームキャノンの砲身を取り外して、大型ビームサーベルとして使用し、ゲネシスブレイカーと鍔迫り合いを行う。

 

 しかしただ刃を交えるだけでは終わらない。

 ゲネシスブレイカーは頭部のバルカンをライトニングFBの頭部に発砲する。だがライトニングFBは弾くように距離を置くとシールドで防ぎ、そのままもう一本のビームキャノンを取り出して二本の大型ビームサーベルとして叩きつけるようにゲネシスブレイカーへと振るう。GNソードⅤを盾代わりにするゲネシスブレイカーであったが、力押しされ、そのままデブリに叩きつけられる。

 

「……まったく忌々しいわね」

 

 文字通り叩きのめしているような状況だ。

 しかしそれでもゲネシスブレイカーはそこで終わることなく向かってくるではないか。どこまでも食らいついてくるゲネシスブレイカーにカガミは不愉快そうに顔を顰める。

 

(アナタ達と戦った相手はこんな気持ちだったのかしら?)

 

 一矢の成長速度は知っている。

 現に一方的に感じる戦いも一矢は少しずつ対応しているのだ。

 いかにボロボロになろうと決して諦めず不屈の意志と輝きを持って戦うゲネシスブレイカーを相手にして、カガミは想いを馳せる。共に肩を並べて戦う仲間であればこれほど心強い存在はないが、相対する敵同士ともなればどうしてこんなにも厄介なのだろう。

 

「翔さん……シュウジ……。本当にアナタ達に似ているわ……ッ!」

 

 遂にはライトニングFBの構えたシールドも両断され、シールドを投げつけるように放棄しながらライトニングFBはゲネシスブレイカーから遠のこうとするが、それでもゲネシスブレイカーは食らいついてくる。

 絶対に勝つんだという、そのあまりの執念にカガミはゲネシスブレイカーを通じて、二機のガンダムブレイカーを、そしてその使い手の姿を映す。

 

 ライトニングFBはこのまま近接戦で戦い続けるのは危険だと咄嗟に判断し、大型ビームサーベルを二つとも手放してバルカンで破壊する。

 周囲に硝煙が上がる中、その隙をついてライトニングFBは最大出力を持って一気に加速してゲネシスブレイカーから距離を取ると、そのまま弧を描いて反転し、ハイビームライフルを構えてこちらに迫るゲネシスブレイカーへと向かっていく。

 

「「───ッ!!」」

 

 高機動同士のガンダムは一瞬にして距離を詰め、眼前に迫った瞬間、一矢とカガミは目を見開き、同時に行動を起こす。ハイビームライフルの銃口が光り、GNソードⅤの刃が走った。

 

「……上出来ね」

 

 すれ違った二機。だが異変は起きており、ゲネシスブレイカーは頭部を撃ち抜かれていた。サブモニターでゲネシスブレイカーのその様子を見ながら、そのままライトニングFBの状態を確認する。ライトニングFBのバックパックのブースターポッド一基が両断され、破壊されているではないか。

 

 ブースターポッドを一基、失った事でバランスを崩すライトニングFB。そんな中、カガミは満足そうに静かに目を閉じて、確かな手応えを感じるのであった……。

 

 ・・・

 

 バトルを終え、シミュレーターから出てきた一矢。結局、あの後、カガミには勝てず、タイムアップまでずっとその実力を確かめるためにバトルを続けていた。勝てはしなかったが、全力を出し切ったせいか、不思議なことにどこか晴れやかささえ感じる。

 

「……アナタの力、見せてもらったわ。期待してるわね、新しいガンダムブレイカーの力を」

 

 一矢と向き直りながら、カガミはどこか優しげな微笑みを浮かべながら口を開く。

 今のバトルを感じ取って、カガミは純粋に新たなガンダムブレイカーを認める事が出来たのだろう。

 

「“最後まで諦めるな”……。私はガンダムブレイカーを駆る存在にこれを見出してきた。最後まで諦めないって口で言うのは簡単だわ。でもそれを行い続けるのはとても難しい事よ。それだけは忘れないで頂戴」

「……はい」

 

 最後にカガミがこれまで英雄と覇王から感じて来たものを新星に伝える。まっすぐと此方の瞳を見つめて放すカガミの真剣な様子に一矢は確かに頷く。

 

「おーい、そろそろ行くぞー!!」

 

 そんな一矢とカガミにバトルが終わったのを見計らってモチヅキが遠巻きから手を振りながら声をかける。タイムアップまで時間を使っていたため、ここから移動する時間を考えれば、丁度良いくらいか。二人は頷いてモチヅキに合流する。

 

「そうだ、ガンプラバカ。お前のアセンブルシステム、私が一手間加えてやったぞ」

「一手間……?」

「後で確認してみろ、絶対に驚くぞ」

 

 タクシーに乗り込みながら、隣に座るモチヅキがおもむろに一矢に声をかけると、アセンブルシステムが入ったGPを取り出しながら首を傾げる。その様子を見ながらモチヅキは悪戯っ子のように笑うのだった……。

 

 ・・・

 

「えー……それでは、久しぶりにみんな、揃ったところで乾杯っ!!」

『かんぱーいっ!!』

 

 遂に日本に帰国したその夜、居酒屋みやこでは多くの人が集まり、ユウイチの音頭とともに宴会が開始された。

 

「はぁぁっっ……雨宮君が帰ってきたぁっ……。久しぶりに雨宮君の匂いがする……っ」

 

 それぞれが思い思いに宴会を楽しむ中、いつも以上に死んだような目でちびちびとグラスのジュースを飲んでいる一矢の脇腹にがっちりと抱き着きながら一矢の匂いを嗅いでいる真実。こうなる事を予測していたためか、誰も引きはがそうとはしない。まぁ他と同じように自分なりに楽しんでいるので問題はない。

 

「いやーすげぇな、しかし。国際大会で勝ちまくりだろ」

「ミサちゃんも準優勝だものねぇ」

「これなら百貨店の頭領も敵じゃねぇな!」

 

 そんな一矢を知ってか知らずか、マチオがグラスに瓶ビールを注ぎながら話しかけると、話を聞いていたミヤコもミサに話を振る。ミサは照れた様子でアメリカトーナメントを振り返る。そんな結果を残し、成長してきた二人にマチオが誇らしげに笑う。

 

「わたくし、日本に来たら焼き鳥も食べておきたいと思っておりましたの」

「もって事はほかにもやっぱり寿司とか?」

「今度、三人で食べにいこーよ」

 

 焼き鳥を食べながら、ほくほく顔のシオン。目当てのものの一つが食べられ、しかも自分の好みに合った味の為、心底、幸せそうだ。

 シオンの言葉を聞いて、思い当たる日本食について尋ねる夕香に隣に座る裕喜は折角だからと案内しようとする。

 

「ひどいっす姐さん、自分だけ海外旅行して」

「旅行じゃねーよ! ガンプラバカのサポートをしてたんだよ!」

 

 宴会も盛り上がり、酔いが回って来たのだろう。

 ウルチが頬を紅潮させながらモチヅキに絡んでいくと、面倒臭そうに旅行ではないと言う事を訂正する。

 

「モチヅキお前な……。金使いすぎなんだよ。なんで五人分の滞在費、全部俺持ちなんだよ」

「ボーナス出たっつてたろー?」

「ボーナスだけで足りるか! また例のアレでこき使ってやるからな!」

 

 そこにカドマツが話に入ってきた。

 どうやらモチヅキが持って帰って来た領収書を見て、吃驚したのだろう。だが、モチヅキはあらかじめカドマツからボーナスの話を聞いていたようで、何を言っているんだとばかりだが、どうやらボーナスだけでは補えないらしい。

 くつくつと意味深に意地悪な笑みを浮かべるカドマツにその意味が分かっているのか、たまらず「止めろぉっ!」と嘆いている。

 

「本当に久しぶりですね。二人に会えて嬉しいですっ」

「……だからって引っ付き過ぎでは?」

「こりゃ、しばらくはこのままだな……」

 

 またトライブレイカーズの面々も宴会の会場におり、酔いが回って頬を紅潮させているヴェルが間に入って、カガミとシュウジの腕にそれぞれ腕を絡ませると、幸せそうに体を揺すっている。

 そんなヴェルを見てしまっては強く言う事も出来ず、結局、カガミもシュウジもされるがままだ。

 

「あーあ、わたしもミソラちゃん達に会いたかったなー。ニュースサイトで三人がチーム組んでるの知ってたんだ」

 

 不意にミサがもはや生気のない一矢に声をかける。

 ふとここで漸く一矢がピクリと反応するなかで、ミサはアメリカの地で知った沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームについて触れられる。

 

「へえ、で、どう思った?」

「どう……って、私が一緒に出たかったなーって……」

 

 さながら性質の悪い酔っ払いの如く、ミサに絡み始めるモチヅキ。とはいえ、その意味に気付かず、顎先に手を添え、首を傾げながら、そのまま答える。

 

「ジェラシぃなあ、はっはーっ!!」

「若さにカンパイ!!」

『かんぱーい!!』

 

 ばんばんとミサの背中を叩いたモチヅキは哄笑をあげていると、そこに便乗したユウイチがグラスを掲げ、殆どの人間がそれに乗る。

 

「ちょ、ち、違う! そーいうんじゃなぁい!!」

 

 慌てて頬を紅潮させながら、ぶんぶんと両手を振って先程のことについて否定しようとする。しかしそれは逆効果なようで、逆に更に揶揄われてしまっている。

 

「……」

 

 いまだに何か言われれば、顔を染めて否定しようとするミサの姿を一矢は頬杖をつきながら見つめている。その目はどこか複雑そうにジッとミサだけを見ていた。

 

 ・・・

 

「……ねぇ、ちょっと良い?」

「えっ?」

 

 宴会も盛り上がりを迎えたまま終了し、片付けが進められている。

 携帯端末を見れば、一矢が帰国したのを聞きつけた厳也達からメールが送られてくる中、一矢は食器を片付けている最中のミサに声をかけて、人知れず二人だけで外に出る。

 

「……さっきの事なんだけど」

 

 居酒屋みやこの隣のシャッターが閉まった店の前に寄りかかる。

 ミサが連れ出した一矢に、要件を求めるように見つめているとおもむろにミサから視線を逸らしながら呟く。さっきの事……つまりは皆にからかわれた何気ない呟きに関してだろう。

 

「あ、あれは……っ」

「──俺はそう思ってたよ」

 

 先程の事を思い出し、再び顔を羞恥で朱く染めながら何か誤魔化そうとするのだが、それを遮るように一矢の言葉が静かに響き、ミサは思わず一矢を見る。ミサを一瞬だけ一瞥した一矢は再びそっぽを向いた。

 

「……アジアツアー……。アンタがいなくてしっくりこなかった……。何でか知らないけど……。アンタが近くにいないのに、違和感があった……。……今、こうやってアンタが傍にいてくれると凄く安心するんだ……」

 

 俯いてつま先で地面をけりながら、拙い様子で言葉を紡ぐ。

 しかしその言葉の一つ一つがミサの胸を高鳴らせ、一矢から視線が逸らせなくなってしまう。

 

「……ねぇ、手、良い?」

「えっ、手……?」

 

 相変わらずミサに視線を向けないものの、いきなり手について言われ、イサは自分の手を怪訝そうに見やりながら、そのまま一矢に手を伸ばす。

 

「……うん、やっぱりこの手だ」

 

 すると一矢は寄りかかるのを止めて、ミサに伸ばされた手に触れる。

 一矢のどこか柔らかい手の感触と温かさが握られた手に広がり、その温かさを表したようにミサは俯いて耳まで真っ赤に染めるが、安心したように話す一矢の言葉を聞いて、顔を見上げる。

 

「……俺、これからもアンタと戦うよ。その為に……強くなってきたから……。だから……これからもよろしく」

「……うんっ! 私も強くなったからねっ!」

 

 漸くミサの目を見つめる。

 その真紅の瞳がこちらに向けられ、心臓の高鳴りを感じる中、また新たな再スタートを切るような一矢の言葉にミサはたちまち晴れやかな笑顔を浮かべて、強く頷く。

 

「……アンタの笑顔、何か良いよね。やっと帰って来れたって……そんな気になる」

「な、なに言ってるの、一矢君!?」

「……別に。でも……こう言いたくなったんだ」

 

 手を放し、ミサの笑顔をジッと見て、おもむろに一矢はその笑顔について触れる。

 今日の一矢は何だかおかしい。先程からずっと調子が狂わされるのだ。しかし一矢自身も何故、こんな言葉が出てくるのか、自分でも分からなかった。

 

「ただいま」

 

 僅かに首を傾げ、一矢は柔和に微笑む。

 一矢がこんな笑顔を浮かべるのなんて稀だ。そもそも作り笑顔だってまともに出来ないような人間なのだから。だからこそ、これが一矢の偽りのないものなのが分かる。それがミサにも分かっているからこそ。余計にあたふたさせてしまう。

 

「じゃあ、そのっ……。おかえり……」

 

 指先同士を合わせながら何と言うか言葉を探すミサだが、やはりこれが一番、良いだろう。はにかんだ笑顔を浮かべて、ミサも一矢に応える。

 

「……良かったら、聞かせてよ。アメリカであったこととか」

「しょうがないなー。じゃあ、一矢君も聞かせてねっ」

 

 一矢は再びシャッターに寄りかかりながら、アメリカでの武者修行について尋ねる。

 漸く調子が戻って来たのか、ミサはクスリと笑いながら、一矢の隣に立って、そのまま一矢のようにシャッターに寄りかかりアメリカであった事を話し始めた。

 空には満点の星空が広がる。それはまるで再会した二人を祝福するかのように煌びやかに輝き続けるのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20000UA記念小説
ゴッド─Paradise Lost─


今回の話はネクスト編よりも前作要素を強く含んでいます。


 雨宮一矢やミサが住む世界とは異なる、かつて如月翔が戦争に身を投じた異世界だ。

 人類の英知たるマスドライバーの復興が進むこのパナマ基地には如月翔も身を置いていた強襲機動特装艦・アークエンジェルがドッグに停泊している。

 

「集まっていただいてありがとうございます」

 

 そのアークエンジェルのブリーフィングルームでは、このアークエンジェルの艦長であるルル・ルティエンスと副長を務めるマドックがカガミ・ヒイラギ、ヴェル・メリオ、シュウジの三名で構成されるトライブレイカーズを集め、口火を切るように口を開く。

 

「いきなり呼び出しって……なんかあったのかよ」

「それを今から説明する筈よ」

 

 このアークエンジェルにカガミやヴェルだけではなく、シュウジも集められたことにその要件を尋ねるシュウジであったが、急かさないで待っていろとばかりに横からカガミがビシャリと言い放ち、「そりゃそうだろうけど……」と顔を顰めていた。

 

「……カガミさん、ヴェルさん。アレーナ・クレイズ少尉を覚えていますか?」

「士官学校時代の同期でしたが……?」

 

 アークエンジェル隊にとって馴染みあるシュウジとカガミのやり取り。

 いつもならルルも苦笑しているところだが、今日に限っては重苦しささえ感じる雰囲気だ。そんなルルから尋ねられた名前にヴェルは答えながらカガミを見ると、カガミもその通りだとばかりに頷いている。

 

「……クレイズ少尉は戦死しました」

 

 静かに放たれたルルの言葉にブリーフィングルームの空気は張り詰める。

 特にカガミとヴェルは同期がよりにもよって戦死したと言う知らせを聞き、その表情は呆気に取られている。

 

「待てよ、パッサートは壊滅させたはずだぜ。まさかまた残党の類か……?」

「……いえ、でも……実際に見てもらった方が早いと思います」

 

 この世界において大きな傷跡を齎した地球軍とコロニー軍の戦争はスペースコロニー・アイランド・イフィッシュの降下を阻止し、当時のコロニー軍准将であり、地球攻略作戦の最高責任者ヴァルター・ハイゼンベルクが駆るデビルガンダムの破壊によって終止符を打たれた。

 地球軍とコロニー軍が統合軍として再編成された後も、一部のコロニー軍残党がパッサートを名乗り、再びデビルガンダムの脅威も現れたがかつての英雄達と共に戦いを終わらせた。大部分を失ったとはいえパッサートとの戦いは続いてはいたが、ここ最近では鳴りを潜めている。

 

 まさかここに来て、またパッサートでも現れたのかと考えたシュウジだが、どうやら違うようだ。ルルはそのまま神妙な表情で立体映像を表示させる。

 

「これはヘリウム3など木星での資源採掘に向かったサウザンスジュピター級から送られた映像です」

 

 鮮明とはいかないもののルルの説明から、これは木製圏で撮られた映像なのだろう。

 そこにはMSの残骸が漂う中、この世界においてカガミが愛機とするライトニングガンダムの前身ともいえるリ・ガズィが率いるMS隊が見慣れぬ湾曲した三機のMSと交戦中であった。

 

『ここは私達が引き受けます! だから……このことを早く地球圏に……ッ! 後は任せますッ!!』

 

 リ・ガズィから発せられるどこか幼さを感じるような女性の声が響く。

 この女性こそが先程、話に出てきたアレーナ・クレイズ少尉なのだろう。

 たった三機の機体に次々とMSが撃破されていく中、中破状態のリ・ガズィは必死に艦に伝え、引き付けるように戦いを続けている。

 

『少尉、もう良い! もう戻れ!!』

『ダメです……! こいつらを何とかしないと……!! 私達の分まで地球に戻ってくださいッ!!!』

 

 艦長からの指示が飛ぶが、残ったMSも少ない中、ここで戻れば艦が危ういと思ったのだろう。今戦っている相手がそれだけ脅威だと言う事だ。

 悲壮に気高く叫ぶアレーナだが、彼女の乗るリ・ガズィはまるで狩りを楽しむように四肢を切断され、大破に追い込まれる。

 

『アッ……ァァッ……グガ……ゥッ……! 死にたく……っ……ないよ……っ』

 

 勿論、それは搭乗するパイロットに大きな負担をかけ、コクピットの中は凄惨な状況なのだろう。MSパイロットとして気丈に振る舞っていたアレーナだが、最後の最後にパイロットではなく一人の少女としての想いが出てくる。

 

『いや……だっ……! 死にたくない……。ちきゅ……うに……パパ……ママ……っ……に──っ!!!』

 

 一人の少女として生を望んだ言葉も最後まで発せられず、その機体は貫かれ宇宙に輝かしい生命の華を咲かせる。死にたくない、それがMSパイロットとして身を挺して戦った少女の願いであった。

 

「……この後、この正体不明のMS達は姿を消し、サウザンスジュピター級は地球圏に戻ってこれました」

 

 ここで映像は終わりなのだろう。

 映像を見やすくするために暗がりにした部屋に照明が灯り、同期の凄惨な最後にカガミとヴェルが俯き、表情が見え隠れするなか、ルルがこの戦いの後の説明をする。

 

「あの機体は何なんだよ……?」

「……少なくとも、あのMSに使われているテクノロジーは地球圏を凌駕している。我々にも分からない……。だが、一つだけ過去のデータに酷似する機体がある」

 

 あまりに重い空気が支配する中、シュウジが先程、リ・ガズィを含めたMS隊と交戦していた機体について触れると、今度はマドックが口を開き、タブレットを操作して立体映像を切り替える。

 

「ターンX……。当時の地球軍はそう呼び、かつてテスト中のダブルオーライザーに搭乗していたシーナ・ハイゼンベルク技術少尉を殺害し、フロンティアⅠではガンダムブレイカー0と交戦し、宇宙に放逐された機体だ。月面で発見された本機体は当時からそのテクノロジーは驚かされ、外宇宙で製造された機体なのではないかと議論されていた」

 

 次に表示されたのは過去のフロンティアⅠ宙域を舞台に真紅のMSネメシスと、そして同じくMSであるエヴェイユの力を発揮したガンダムブレイカー0が交戦するターンXとの死闘の映像が繰り広げられる中、その顛末を説明する。

 

「……この世界には昔から様々な人種が存在します。ニュータイプ、コーディネーター、イノベイター、Xラウンダー……そしてエヴェイユ。詳細は不明ですが、その中で一部の新人類が外宇宙に旅立ったというデータがあります。ターンXが発見された当時からその新人類が作り出した機体が漂着したのでは? と解析される度に議論されたと言われてきましたが……」

「その新人類とやらが、今更戻ってきやがったって事か?」

 

 ルルから話される考察を聞き、顔を顰めながら問う。

 普通ならば一蹴したいところだが、そうもいかない。

 

「……真偽は分かりません。少なくとも接触を試みたようですが受け付けなかったようなのであの機体に搭乗している存在が何なのかも分かりません。ですが木製圏に留まらず、ここ最近、地球に迫るように姿は確認されています」

「……ターンXは当時の如月翔も破壊は出来なかった。寧ろ機体ではなく技量の違いで勝てたと言っても過言ではない。あれがターンXに準ずるもので、もしも新人類と共に地球圏に攻め込んできたとしたら……」

 

 シュウジの問いかけにルルは首を横に振りながら、また別に静止画像を表示させる。

 そこにはリ・ガズィと交戦した機体に酷似した機影が此方を見つめるように撮影されている。

 どこかぞくりとしたざわつきを感じる中、マドックがの言葉に皆、口を閉じる。

 当時の如月翔はシーナ・ハイゼンベルグと同化し、世界最強のパイロットの一角にいた。

 そんな翔をもってしても撃破は出来なかったのだ。

 しかもそれが一機だけではないとしたら冷静に考えて言葉には出さなくとも、思っている事は分かる。

 

「……実際、どうなるかは分かりません。戦闘になるのかどうかも……。ですが……そうですね、ハッキリ言います……。戦いに身を置く限り、いつまでも“あの世界”にはいられないと考えてください」

 

 暗雲が立ち込めたような気分だ。

 ルルが一応、フォローのように話すが、矢次に放たれた言葉はシュウジにもズキリとした衝撃を与える。あの世界……言われなくても、それが何であるか分かっているからだ。

 

「カガミさんやヴェルさんに時間を与えるつもりです。だからそれまで思い思いに行動してください」

 

 元々、軍属ではないシュウジには2人に比べて時間はある。

 だがカガミとヴェルはそうはいかない。ルルからの恩恵を受け、カガミとヴェルは頷くと、これで話も終わり、トライブレイカーズはブリーフィングルームを後にする。

 

「……きっと大丈夫……。そう言えなかった自分が情けないです」

「……艦長も休みを取るべきですな。ここ最近、働き詰めでしょう」

 

 トライブレイカーズがいなくなったブリーフィングルームではルルが悲痛な面持ちで俯き、最後まで勇気づける言葉が言えなかった事に嫌悪していると、傍らに控えていたマドックが顎先を撫でながら声をかける。

 

「ようやく如月翔と会う術が出来たんです。ならば時間が許すのなら、ルル・ルティエンスとして過ごすのもアリではないかと」

 

 予想外のマドックの言葉に思わず、彼の顔を見てしまう。

 そんなルルにマドックはまるで孫に見せるような慈しむような表情を向けながら諭すように話すと、ルルはしばらく考えた後、「はい……っ」と頷くのであった……。

 

 ・・・

 

「ここにいたんですね」

 

 ブリーフィングルームから数十分後、ここはアークエンジェルに置かれた射撃場。

 入室したヴェルはここで一人だけヘッドホンとゴーグルを身に着けて射撃訓練を行なっているカガミを見つけて、声をかける。ヴェルを意に介さず、カガミは再び発砲を続けると全て的の中心を撃ち抜く。

 

「……あの世界は残酷なくらい居心地が良すぎます。身を置き過ぎれば、銃の重みを忘れてしまうくらい……」

「そうですね……。あの世界はあまりにも眩し過ぎます。水道の水はそのまま飲めて、お肉も人口肉なんかじゃなくて天然のもの……。何よりそこに住む人達はみんな温かくて……初めて訪れた時は愕然としましたよ」

 

 ヘッドホンを首にかけ、ゴーグルを外しながらカガミが静かに口を開くと、ヴェルも同意するように壁に身を預けながら、あの世界での出来事を思い出し、寂しそうな笑みを浮かべながら頷く。

 

「……あの話、どう考えます?」

「……アリーナ・クレイズの事は残念に思っています。同時に彼女と交戦した存在が脅威である可能性はあるでしょうね。戦闘になる可能性も……」

 

 不意にヴェルから先程、聞かされた話が掘り返される。

 ピクリと眉を動かして反応をしたカガミは静かに手に持っていた拳銃を置きながら答える。

 

「なんでこの世界はこんなにも戦いに満ちているんでしょうね……。地球圏の戦いも落ち着いたと思ったのに……。世界が違うだけで、こんなにも違うなんて……」

「ですが何であれ私がする事は変わりません。戦闘になるのなら私は銃を取ります」

 

 思えば自分の人生は戦いばかりであった。

 ようやく安息の時間を手に入れられたと思ったらこれだ。まるで呪われているかのような気分にもなる。だが射撃場にカガミの凛とした声が響く。

 

「最後まで諦めるな……。私は今まで死ぬ気で戦ってきましたが、死ぬつもりで戦ってきたわけではありません。私はまだ未来が見たい。こんな世界でも……いえ、この世界だからこそ輝く光を消したくはない」

 

 この世界は長い戦争によって荒廃しきっている。

 戦争が終わったとはいえ、皆生きる事に精一杯だ。だがそんな世界だからこそその世界にしかない輝きがある。

 

「そう、ですね。……私が軍に入ったのは生きる為なんです。少なくとも軍に入れれば食べる事は出来るって思ってましたから……。ただ生きる為……そこに目的と呼べるものはありません。でもそんな中で翔さんが、そして、シュウジ君が見せてくれた輝きは私に仲間と前に進んで行きたいって思える希望をくれたんです」

 

 カガミの話を聞き、ここで初めてヴェルが軍に入った経緯を話す。

 今まで誰にも話したことがなかった。こんなことを話しても仕方がないと思っていたからだ。だが今、長い付き合いであるカガミにようやく話した。そして今に至るまでに見つけた希望も。

 

「ミサちゃん達にはしばらく会えないかもしれませんけど……。でも……」

「ええ、最後の別れにするつもりはありません」

 

 迷いはない。

 これがこの世界の、そして自分達の運命ならば最後まで駆け抜けるまでだ。だがそこで果てるつもりはない。出会う事が出来た異世界の友人達ともこれからも触れ合っていきたいから。だが彼女たちは知らない。戦い続ける限り、癒える傷などないと言う事を。

 

 ・・・

 

「いきなり飯を奢ってくれるって、どういう風の吹き回し?」

 

 数日後、ここはシュウジ達の世界とは異なる世界。

 この世界の住人である一矢はブレイカーズでHGミーティアなど多くのガンプラを購入後、シュウジに覇王不敗流の修行の帰りに彩渡街の近くで有名なラーメン屋に立ち寄っていた。出てきたラーメンをすすり、カウンター席の隣に座るシュウジに話しかける。

 

「良いじゃねぇか。こっちの金の使い道ってあんまりねぇんだよ」

「……こっちってなんだよ」

 

 脈絡もなくこうしてラーメンを奢っている為、怪しがっている一矢に苦笑しながら、シュウジはラーメンを食べ終えながら答えると、シュウジの言葉に反応する一矢に「気にすんな」と返し、一矢は不可解そうなまま食事を再開する。

 

(……別に死ぬつもりなんてねぇけどよ)

 

 黙々と食べている一矢を尻目にシュウジはふと物憂げに頬杖をついて、視線を伏せる。

 その頭の中には先日話された一件についてだ。シュウジもカガミやヴェル同様、絶望して諦めてなどいない。

 

(……俺はコイツに何を残してやれんのかな)

 

 だが何れ今のように頻繁にこの世界に訪れる事は難しくなるだろう。

 そうなった時、弟分ともいえる一矢に自分はなにを残せるのだろう。自分は翔にそうであったように、出会えて良かった、そう思える存在であれたのだろうか。

 

(ったく……翔さんに挑戦できりゃそれで良いと思ってたんだけどな……)

 

 ふと人知れず寂し気に笑みをこぼす。

 最初こそこの世界に訪れたのは、かつて翔に強くなって挑戦すると約束したからだ。

 それさえ済んでしまえば、もう用はないと考えていた。だが知らないうちに自分は一矢の成長を見届けたいと翔に挑戦すると同等の願いを抱いてしまった。

 

 ・・・

 

「……ごちそうさま。美味しかった」

「そいつは良かった」

 

 ラーメンを食べ終えた2人は店から出ると、奢ってくれたシュウジに礼を言う。

 本当に美味しかったのだろう、心なしか満足そうな一矢にシュウジは奢った甲斐があると笑みをこぼす。

 

「ねぇ、次はいつ会えるの?」

 

 お開きにして軽い挨拶と共に別れようとシュウジが背を向けた時であった。

 一矢から何気ない一言が放たれる。友達に次の約束を取り付けるようなそんな軽いものだ。

 しかし、シュウジにとってはそうではない。背を向けたシュウジが浮かべる表情は一矢には見えなかった。

 

「……また、すぐに会えるさ」

 

 振り返り、どこか悲愴な柔らかい笑みを浮かべて心の中で今は、と付け足しながら答える。

 

 その姿に一矢は不可解そうな表情を浮かべる。

 シュウジと言えば、一矢の中では強さを表す存在の一人だ。

 

 そんなシュウジから今感じるのは今にも消え去りそうなほどの儚さであった。

 そのことに触れようと口を開こうとする一矢だが、再び背を向けたシュウジは人々の雑多の中に消えてしまい、一矢の言葉が届くことはなかった……。




今回は予告通り、完結に向けてのシュウジひいてはトライブレイカーズを主役においてのお話しです。今すぐにいなくなりそうなくらいですが、今回の話でトライブレイカーズはいなくなりません。あくまで完結へのプロローグみたいなものだと考えて頂ければ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴッド─後悔がないように─

 彩渡街をミサとヴェルの二人が散策している。

 アメリカでの一件もあり、今まで以上に顔を合わせる機会も増えた二人は特に何かをすると言うわけでもなく喫茶店で談笑をしたりと思い思いの時間を過ごしていた。

 

「あれ……?」

「結婚式……?」

 

 ふと楽しそうな賑やかな声がヴェルとミサの耳に届く。

 一体、なにかあったのかと声に誘われるように移動した先には教会があり、結婚式が執り行われていたのだろう。教会から出てきた新郎新婦を参列者が祝福していた。

 

「綺麗だね……」

「ちょっと見て行きましょうよっ!」

 

 まさに幸福と言う文字があの場には相応しいのだろう。

 二人の輝かしい未来を示すように笑顔の華があちこちに咲いている。

 惚れ惚れとしているヴェルにミサは彼女の手を引いて、間近で見ようと邪魔にならないところまで移動すれば、丁度、ブーケトスが行われるところであった。

 

 花嫁が手に持つウエディングブーケが空高く投げられ、参列者やヴェルやミサが目で追う中、勢いをつけすぎてしまったのだろう。投げられたブーケは参列者の頭上を越え……。

 

「はぇ……?」

 

 弧を描いてヴェルの手元に収まってしまった。

 まさか自分が受け取るとは思っていなかったヴェルは思わず呆けた声をもらしてしまい、困ったようにあたふたとミサや周囲を見てしまっている。

 

「良かったじゃないですか、ヴェルさんっ!」

「え、えぇー……!?」

 

 ヴェルの肩に触れながら、ブーケを受け取った事に喜んでいるミサだが、自分が受け取って良い物なのかとヴェルは困惑してしまっている。そんな中で恐る恐る花嫁を見やれば、受け取ったヴェルを祝福するかのように優しい笑みを浮かべていた。

 

(綺麗、だな……)

 

 向けられた花嫁の笑顔を見て、ヴェルは思わず赤面してしまう。

 俯いた先にはブーケがあるなか、ヴェルは伏し目がちに花嫁を見やり、その美しい姿に見惚れてしまうのであった。

 

 ・・・

 

「……すまない、ドクター。急に押しかけて」

 

 ここはシュウジ達の住む異世界。

 アークエンジェルが停泊するパナマ基地の一角では、アークエンジェルで軍医を務めているドクターと周囲に呼ばれる男性にベッドから起きあがった翔が声をかけていた。

 

「いや、艦長から話は聞いていたからね。君の元気そうな顔も見れて良かったよ」

「少し前までは酷かったけどな……。それで俺のエヴェイユに関して何か分かったのか?」

 

 パソコンで翔のカルテを入力しながら、回転チェアを翔の方向に向け柔和な笑みを浮かべる。

 久方ぶりに彼に会ったわけだが、変わりないようで安心したのか、翔も心なしか微笑を浮かべると、ドクターに自身の能力であるエヴェイユについて問う。

 今日、わざわざ翔がこの異世界に訪れたのはリーナ達に提案されたように変化が起きていた自身の力を調べる為であった。

 

「うん……。おおよその検討はついているんだがね……」

「……ハッキリ言ってくれ、ドクター。俺の体に何が起きているんだ?」

 

 翔の問いかけには答えるドクターだが、その歯切れは悪い。

 二度と戻る気はなかったこの世界に再び来たのだ。なにを言われようと覚悟はしているつもりだ。翔は真摯な様子でドクターを見やる。

 

「……君は完全に人間とはかけ離れた別の人種となってしまったと言った方が良いかな」

 

 そんな翔に見られてしまったのは言わざる得ないのか、観念したようにため息をつくと意を決したように彼の瞳をまっすぐ見ながら話し始める。

 

「君は確かにエヴェイユだ。厳密には超能力者のような能力ある人間というカテゴリに収まっていた。だが、君の話や今調べた限り、君の脳には変化が起きている」

「俺の、脳……?」

「君は君だけではなく、その他のエヴェイユ達の能力を受け継いでしまった。当然、脳はそんな膨大な情報を処理しようと働くわけだが、君は無意識に人間の枠を超え、変化する事を恐れて拒み続けた。それが君がエヴェイユの暴走と捉えていた現象だろう。だが君はその肥大化したエヴェイユの力を受け入れた。その事で脳も適応する為に、人間が引き出しているスペック以上のものを引き出し、変異を起こしたのだろう。だから今の君がエヴェイユに振り回されることがなくなった」

 

 かつて翔はネバーランドでの一件以来、ずっと暴走と思い込み、自分の体に起きていた異変に苦しみ続けてきた。だがそれにはやはりちゃんとした理由があったようだ。

 

「もはや君の脳もエヴェイユの力も未知の領域に入っている。君のような存在は今後一切現れないだろう。同じエヴェイユでもリーナや例の風香ちゃんと言ったかな? 彼女達と同列に語る事も出来ない。君は人間でも、エヴェイユと言うカテゴリにも収め切れない。君はもはや、どの人種から見ても他種でしかないんだ」

 

 エヴェイユを研究しているドクターから齎された言葉。もはや翔は一矢やミサのような人間でも、リーナや風香のようなエヴェイユでもないと言うのだ。

 ドクターはそのまま翔のカンペのデータを削除する。翔は元々、ただのエヴェイユであった時から地球軍でモルモットにされる可能性があった。今の翔が統合軍に発覚すればどうなるかは分からない。だからこそ今、削除したのだ。

 

「……あくまでこれは私の私見だ。気に留める必要はないよ」

「……いや、信じるよ。俺は俺の体の変化が知りたかったから」

 

 黙っている翔を見かねて、少しでも気を紛らわせようとするが、翔はゆっくりと首を横に振り微笑を浮かべる。

 

「……あぁ、でもやっぱり違う……。違うよ、ドクター。俺はやっぱり人間だ」

 

 だが少し考えるような素振りを見せた翔は首を横に振って、先程のドクターの言葉を否定する。しかし否定するにもその穏やかな様子にドクターはどういうことなのだろうかと翔を見つめる。

 

「……俺一人じゃ何もできない。でもそんな俺でも……どんなに体が、脳が変化しようと俺を支えてくれる人達がいる……。どんな存在に変化しようとも、根本的には俺は弱い人間だよ。でも……それで俺は良いんだ」

 

 ネバーランドでの一件、あの時、自分を助けてくれた多くの仲間達がいる。

 どれだけ人間からかけ離れた存在であろうと彼らがいるのならば自分には十分すぎる。

 そんな翔の言葉を聞き、ドクターも「そうだね……」と納得したように柔和な表情を浮かべるのであった。

 

 ・・・

 

「ここが異世界なんだ……」

「あやこさん、キョロキョロし過ぎ」

 

 翔とドクターによる話が行われる医務室の外に設けられた椅子に座りながら、あやこは落ち着かない様子で周囲をそわそわと見渡し、風香はそんなあやこに嘆息する。

 

「翔さんがあやこさんには色々と心配かけたからその理由を教えるって特別に連れて来てもらったんだから大人しくしてなきゃダメだよ?」

「で、でも……。って言うより、なんで風香ちゃんが?」

「風香ちゃんも翔さんと似たようなもんだし。少しでも自分の事が知りたいから連れて来てもらっただけ」

 

 まるで子供を窘めるような風香の態度に何とも言えない様子のあやこは、ふと今まで ずっと気になっていた風香が同行している理由を問うと、自身がエヴェイユである事ははっきりとは明かさないものの、答えられる範囲で話す。

 

「まぁ風香ちゃんの検査は終わったし、早く翔さんと帰りたいんだけどなぁ……」

「もう帰りたいの……?」

「……こういう事言うのはアレだけど、正直、この世界の空気ってゾワゾワしてて風香ちゃんのデリケートなお肌に合わないんだよねぇ……」

 

 風香の検査ももう済んでおり、これまでのエヴェイユにはない読心能力はあるもののそのエヴェイユの能力はリーナ達には及ばないという。

 椅子に座っている風香は足をぶらぶらと揺らしながら、自分達と翔を隔てている扉を見つめながらぼやく。折角の異世界に来て、まだ数時間しか経っていないにも拘らず、この反応に戸惑うあやこに風香は冗談交じりに答えるものの、その瞳だけは笑ってはおらず、エヴェイユである彼女はこの世界に対して何かを感じ取っているのだろう。

 

「そう、ね……。翔さん、早く終わらないかな……」

 

 だがその言葉はあやこにも何となしにだが理解出来る。

 感覚的なものだが自分達はこの世界に居てはいけない。そんな気持ちを抱かせるのだ。

 

「っていうか、カガミちゃん達が異世界の人だったなんて……。それに軍人って……」

「……話す理由はなかったもので……。それとここは軍の施設です。なるべく私語は慎んでください」

 

 おずおずと監視役であやこと風香の傍らに控えるように立っているカガミを見やるあやこ。今のカガミは統合軍の制服を身に着けており、きっちりと着た姿はいつも以上に固い印象を受ける。

 

「──翔はここかしら?」

 

 そんな三人に横から声をかける。

 そこにはレーアとリーナのハイゼンベルグ姉妹の姿があった。レーアの発言から考えても、彼女達の目的は翔なのだろう。

 

「翔が来てるって聞いたから寄ってみたんだけど……」

「……私はレーアお姉ちゃんの付き添い」

 

 やはり正解だったようだ。

 翔がいるであろう医務室の扉を見やるレーアの隣で静かに答えるリーナもリーナでエヴェイユの能力を持つ者としてレーアに同行したのだろう。

 

「──あの、翔君の検査って終わりました?」

 

 すると今度は向かい側からルルがやって来て声をかける。

 翔に用があるのはその発言でも分かるが、どこかそわそわしていて落ち着かない様子だ。

 

「……翔さんの検査はまだ終わっていません。終了次第、声をかけに行きますので皆さんは休憩所に行かれてはどうでしょうか?」

 

 この場に何とも言えない空気が流れる。

 沈黙が流れる中、空気を打ち破るようにカガミが静かに提案するわけなのだが……。

 

「……それってさー。自分だけここで翔さんを待つってこと?」

「わ、私だったら、ここで待ちますよ!」

 

 足を組み、太ももに頬杖をつきながらカガミをジトッとした目で見やる風香。

 わざわざ聞かなくてもその読心能力で何となしに察しているのだろう。あやこも移動する気はないようだ。

 

「……待たせた…………な…………」

 

 どんどんと空気は張り詰め、見えない火花が散っている中、漸く医務室から翔が出てくる。扉を開くと共に口を開いた翔であったが、この場の空気を察知して言葉が尻すぼみになってしまう。

 

「……どうだった?」

「あ、ああ……。特に心配するような問題はなかったよ」

 

 互いをけん制するような場の雰囲気のなか、別に牽制する必要も特にこういった雰囲気ともあまり関係ないリーナがすたすたと翔に近づいて声をかける。

 やはりリーナも翔の異変は気がかりではあったのだろう。しかし翔は首を横に振りながら安心させるように柔和に微笑む。

 

「それよりもシュウジは?」

 

 この場にシュウジがいない事に気づく。

 自分と風香達がこの世界にやって来た際、シュウジとカガミが同行してくれた。しかし、今この場にはシュウジはいないではないか。

 

「……シュウジならば、ショウマさんに呼び出されて日本に向かいました。一足先に帰ってくれて構わないと言ってはいましたが……」

「……そうか。アイツ……最近、様子が違うように見えたからな……」

 

 場の空気を変えるように咳払いをするカガミは翔の問いかけに答える。

 翔が検査中に旅立った為、まだ日本には到着してはいないだろう。

 

 ここ最近のシュウジを心配する翔だが事情を知る者達は決してその理由は明かさない。この世界の問題を翔にだけは絶対に話すわけにはいかないのだ。

 

「気晴らしなればと思って、今度のテストプレイにも誘ってはいたんだが……」

「テストプレイ?」

「ああ……。ガンプラバトルシュミレーターは常に開発が進んでアップデートが行われている。今度、シミュレーター内の期間限定イベントの予定があるらしくてな。そのテストプレイに俺やあやこのようなガンダムブレイカー隊の人間は呼ばれていたんだ」

 

 顎先にか細い指を添えながらシュウジを案ずる。

 その翔の口から出てきたテストプレイという言葉にカガミが反応すると、そのテストプレイについて答える。翔達ガンダムブレイカー隊はガンプラバトルシュミレーターの開発にGGFの選抜プレイヤーとして黎明期から携わっている。今回もその縁で知り合いの開発者に招待されたのだろう。

 

「かなり規模が大きいみたいで一矢君達みたいにジャパンカップで開発者の目に留まったファイターにも招待は送ったみたいなんだ。一般公募もしていたみたいだし、一応、翔さんの推薦したファイター達にも参加枠は設けてくれたみたいだけど……」

「風香ちゃんもその一人でーすっ」

「お前はしつこく言って来ただけだろ」

 

 あやこが便乗するように説明をすると、自慢げにウィンクと共に横ピースをする風香。しかしどうにも推薦までのの経緯は風香が押し掛けたらしく、なにを言ってるんだとばかりに翔は顔を顰めてツッコミを入れる。

 

『やだやーだぁっ!! 翔さんが行くなら風香ちゃんも行くぅーっ!!!』

「……本当に酷かったぞ、お前」

「それくらいがカワイイと思うんだけどなー」

 

 駄々っ子のようにテストプレイへの参加を求める風香の姿を思い出しただけでも頭が痛くなってくるのか、重い溜息をつく翔。しかし風香は特に気にした様子もなく、寧ろその時の態度も狙ってやっていたのだろう。ますます翔はため息をつく。

 

「……テストプレイには参加すると思いますよ」

「……そうか? なら良いんだが……」

 

 翔と風香のやり取りを見ながら、カガミが口を開く。

 残された時間がどれだけあるかは不明だ。その限られた時間で思い出作りと言うわけではないが、元々あの世界に訪れた理由である翔の誘いを断るとは思えなかった。

 

「あの、ね、翔君……。この後の予定あるかな?」

「いや、ないが……」

 

 シュウジのことはひと段落すると、今度はルルが控えめに声をかけ、予定について尋ねる。検査も終わった為、予定はない翔は首を横に振ると……。

 

「だったらその……私に翔君の世界を案内してくれないかな……。この前はすぐに帰っちゃったから……」

「それぐらい構わないけど……立ち話も何だし、いい加減、場所を変えないか?」

 

 マドックの言うように行動しようとしたのだろう。ルルの頼みに別に問題があるわけでもない翔は了承すると、「えへへ……」と一転して心底嬉しそうにルルははにかんだ笑みを見せる。

 そんなルルの笑顔を見てしまえば、受けて良かったと言う気にもなる。

 今後の予定についていつまでも医務室の前で話すよりも落ち着いた場所で話そうと翔が提案すると、一同は頷いて場所を変えた。

 

「……ねぇ、レーアお姉ちゃん」

「なにかしら?」

 

 落ち着いて話せるテラスにでも移動しようと歩を進める。

 前で翔が風香に絡まれているのを見ていたリーナはふとレーアに声をかける。

 

「……レーアお姉ちゃんの願いは翔に再会する事だったんだよね?」

「その通りよ」

 

 リーナをはじめ、この世界の翔の仲間達は未来に様々な願いを抱いている。

 レーアも例外ではなく、その願いはこの世界から離れた翔と再会することであった。願いその物はもう既に叶っている訳だが、リーナはその事を触れる。

 

「……翔と会って、それで終わりなの?」

「そ、それは……」

 

 リーナは知っている。

 敬愛する姉が翔に抱いている尊い感情を。

 やっと再会できたにも関わらず、進展のない翔とレーア。翔に好意を寄せている女性は多い。このままでは翔が誰かと付き合ってしまうかもしれない。しかしそれはレーアも分かっているのか、中々耳が痛そうだ。

 

「……私、翔がお義兄ちゃんになるのはアリだと思うな」

「リ、リーナっ!?」

「私達も翔の世界に行こうよ。元々、そのつもりで予定を開けてここに来たんだし」

 

 ぼそっと放たれたリーナの一言にレーアは途端に顔を真っ赤に染める。

 まさか大人しいリーナからそんな大胆な発言を聞くとは思っていなかったのだろう。飲み物を飲んでいたら噴き出しているところだ。

 だがリーナはお構いなしに話を続ける。ルルがまさか似たような事を言うとは思わなかったが、それで尻込みする気はない。

 

「……会えなくなってからじゃ遅いんだよ」

「……分かってるわ」

 

 ふと目を細め、含みのある発言をするリーナにその含みが何であるかは分かっている。

 レーアもリーナもトライブレイカーズよりも前にルル達からこの世界に訪れている戦争の可能性を知っているのだ。

 会えなくなってからでは遅いと言う事はレーアも姉の一件で痛いほど分かっている。

 だからこそ後悔がないようにしてほしい。レーアが後悔すれば、それこそがリーナの後悔になってしまうのだから。

 




次回はこっちの世界の日本に向かった迷えるシュウジの話と、一矢の世界でとある事件の前触れが起こり始めます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴッド─Trust You Forever─

「なんだ、コイツは!」

 

 一矢達の世界には日夜、ガンプラバトルが行われている。

 淄雄が駆るシャッコーと佳那が操るリグ・シャッコーはガンダムに甲冑を着せたような真武者頑駄無とバトルを行っていた。遭遇戦とはいえ突然、真武者から仕掛けられたバトルに淄雄は顔を顰める。

 

「チッ、やる……ッ!」

 

 堂々と地に足を踏みしめ、薙刀・電光丸でリグ・シャッコーのビームサーベルによる攻撃を全ていなすその機械が行うような無駄のない動きは佳那も苛立ちながらも認めるしかないのだが……。

 

「なんだ……っ!?」

 

 しかし真武者はリグ・シャッコーの攻撃を受け流したと思えば、そのままリグ・シャッコーを掴む。だが特に攻撃をされるというわけではなく、佳那が戸惑っていると真武者のマニビュレーターから小さな紫色の発光体がリグ・シャッコーに這い寄り、装甲の隙間を縫って中に入って行く。

 

「佳那!?」

 

 そのままリグ・シャッコーを投げ飛ばす。

 受け身をとったリグ・シャッコーはシャッコーと合流し、再度攻撃を仕掛けようとするのだが、ここでリグ・シャッコーに異変が起きる。

 何と突然、佳那側の回線が切れてしまったではないか。唖然とする淄雄だがそれを見た真武者もフィールドから消える。

 

 ──これは今回だけに始まったことではない。

 

「いきなりブラックアウトするなんて……」

 

 また別の日では龍騎がシミュレーターから出てきた。

 彼もまた先程まで真武者とバトルを行っていたのだ。真武者と近接戦を行っていた途中で突然、シミュレーターからブラックアウトを起こし、しばらく経てばまた復帰出来たのだが心中には靄のようなものが立ち込める。

 

 ・・・

 

≪どうだったかね?≫

「ええ、上手くいきました。シミュレーター内でのガンプラへの定着度も素晴らしいです」

 

 そんな不可解な現象が各地で行われる中、一人の長身の男性が自身の車に身を預けながら携帯端末で連絡を取っていた。通話の相手はネバーランドにいた中年男性であり、今こうして電話をしているのはあの時、中年男性に従っていたあの男性であった。

 

≪そうかそうか……。やはり私が作成しただけあって素晴らしいねぇ……≫

「これなら世界大会でも問題はないかと」

 

 くつくつと笑いながら、電話口で感心している中年男性。

 彼らが行っているのは今度行われる世界大会に向けての事なのだろうか、なんにせよ良からぬ事には違いないようだ

 

≪だがね、もう一つ、試してみたい事があるんだよ≫

「と、言いますと?」

≪近々、ガンプラバトルシミュレーターのテストプレイが行われる事が分かった。君いも動いてもらおうと思ってね≫

 

 しかしどうやらまだ満足はしてないようだ。

 何を考えているのか伺おうとすれば、翔達が参加するガンプラバトルシミュレーターでのテストプレイを聞きつけたのだろう。電話越しにでも下卑た笑みを浮かべているのが分かる。

 

 分かりました、と電話を切った男性はそのままポケットに携帯端末をしまう。

 彼が使っている車の助手席には電源が切ってあるワークボットが座らせられており、サイドシートにはここ最近、出没している真武者頑駄無のプラモが収められたケースが置かれていた。

 

 ・・・

 

「おかえりなさいっ」

 

 一方、ようやく自身の世界に帰って来た翔とカガミは、ルルやハイゼンベルグ姉妹を連れてマンションに帰宅すると、留守を預かっていたヴェルが出迎えてくれた。

 

「艦長もいらしてたんですね」

「ええ、少し休暇をいただいて」

 

 翔の傍らに立つルルを見て、ヴェルは驚く。

 しかし翔の傍にいると言う事は彼女も後悔がないように行動をしているのは見て取れた。

 

「……これ作ったの?」

「ええ、シュウジ君と翔さんが手を貸してくれて……。完成したのはつい最近なんだけどね」

 

 ちょこんと座ったリーナはシンプルな棚の上に飾られた三機のガンプラを見やる。

 どれもこの世界でトライブレイカーズが使用したガンプラに酷似しているのだが、どの機体も外観に違いがある。その機体が何であるのか知っているのか、少なからず驚いているリーナにヴェルが微笑みながら説明する。

 

「そう言えば、シュウジ君は……?」

「……丁度良かった。その事でヴェルさん、私とまた私達の世界に戻ってもらえませんか?」

 

 翔達と行動していた筈のシュウジだけがいない。

 頬に人差し指を添えて疑問に思っているヴェルに話す手間が減ったとばかりにカガミが声をかける。

 

「……そろそろシュウジにも変化がある頃でしょう。仲間として、それを見に行ってみませんか?」

 

 カガミはシュウジがショウマに呼び出されてあちらの世界の日本に向かったのを知っている。

 ショウマと会ったのならば、何かしら変化があるだろうと考えての判断であった。シュウジを気に掛けるヴェルのことだ。異論はないのか、おずおずと頷く。

 

「翔さん、もしかしたらテストプレイには遅れるかもしれません。ですが、後から必ず行きますので私達のことは……」

「分かった。一応、話は通しておくつもりだ。シュウジのことは任せる」

 

 ヴェルの了承を得た事ですぐにでも出発しようとするカガミは翔に向き直ると、シュウジについて深くは詮索しないものの、何かあったのは察してはいるのだろう。シュウジをカガミとヴェルに託すと二人は準備を済ませて、マンションから出た。

 

 ・・・

 

「……ここに来んのも久しぶりだな」

 

 ここは異世界の日本。

 一矢達の世界より発展は遂げているものの、やはり戦争の生々しい傷痕が残っており、復興作業が進む京都の地をマントのような身を覆える程の白い外套を纏ったシュウジが石畳の階段を昇った先にある大きな日本家屋の前に立っていた。ここは彼の師匠であるショウマ、そしてその妻であるリンの家だ。

 

「おっ、来たわね」

「久しぶりっすね、リンさん」

 

 自身が訪れた事を知らせようとドアベルを押そうとするシュウジだが、その前に庭先からリンに声をかけられる。手に持った箒などを見る限りでは掃除をしていたのだろう。軽く会釈するシュウジにリンは彼を案内する。

 

「ショウマー? シュウジが来たわよー!」

 

 この日本家屋は中々広い。

 縁側を通ってショウマがいるのか、客室に向かう途中でシュウジが来た知らせる。客室からショウマが返事をするのが遠巻きで聞こえるなか、シュウジはリンに促され、客室に入る。

 

「よぉ久しぶりだな、シュウジ」

 

 リンが襖を開けるとそこにはショウマが真っ先に目に入る。

 何故、普段はあまりいない客室にショウマがいるのか、疑問に思うところであったがその理由はすぐに分かった。

 

「随分しけた顔をしているね」

 

 黒い中華服を着て、頭頂部にはアホ毛が揺れるなか後ろで一本に束ねた黒髪の三つ編みを垂らした青年がそこにおり、その特徴的な金色の瞳はシュウジを捉えていた。

 

 この青年が何者なのかは分かっている。

 彼の名前はサクヤ。シュウジの兄であり、命を賭して拳を交えた事がある。その隣には鮮やかな赤毛が目を惹く少女のノエル・レードンの姿もあった。

 

「シュウジに会うならここかなって思って調べて来たんだよ」

「まぁいなかったわけだけど、お前が戻って来たって知らせを聞いたから、連絡したんだよ」

 

 まさかここでサクヤに会うとは思っていなかったシュウジにその理由をサクヤとショウマが明かす。驚きもあって、立ち尽くしているシュウジだがショウマに促されてようやく座った。

 

「……?」

「あぁ、気になるの?」

 

 リンが用意してくれた茶を啜りながら座ってようやく落ち着けると思っていたシュウジだが、ふとぽっこりと膨らんでいるノエルの腹を見て、目を引かれているとその視線に気づいたサクヤがクスリと笑う。

 

「サクヤさんとの子供なの」

「──ぶえらはぁっ!?」

 

 サクヤと顔を見合わせるノエルは慈しむように下腹部を撫でる。

 しかしその言葉はシュウジにとって衝撃以外の何物でもないだろう。飲んでいた茶を盛大に噴き出した。

 

「こ、こここ、子供ぉっ!? あ、あああああぁぁぁ赤ちゃんって事か!?」

「それ以外にあるの? そういうわけで知らせに来たんだよ。お前しか血縁者いないしね」

 

 まさか久方ぶりの兄との再会のみならず子供まで出来たと知らされるとは思うまい。

 ゲホッゲホッと咽込んでいるシュウジは信じられないとばかりにサクヤを見ると、シュウジの反応が面白いのか悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。

 

「ホントにおめでたいわよねぇ。こうやって会えたのも縁だし、子育てのアドバイスならするわよ」

「是非お願いします!」

 

 ショウマの隣に寄り添うように腰を落ち着けたリンはまだ幼い愛娘であるヒカリをあやしながら妊娠し、幸せそうなノエルに母になった者として話しかけると、ノエルも身を乗り出さんばかりに答える。

 

「まぁ俺達も子育てに関しちゃ初めてで手探りなんだけどな」

「誰だってそうだと思うけどね。だからよろしくお願いしたいよ」

 

 ヒカリが生まれた事で始まった父母の生活。

 一日一日が手探りの日々に苦笑するショウマにサクヤもこれからそうなるのだろうと心配はあるものの期待もしているようだ。

 

(……居辛い)

 

 ショウマとリン、サクヤとノエルが互いに寄り添って子育てに関して話しているなか、半ば蚊帳の外のシュウジは居心地が悪そうに一人、ズズッと茶を啜っている。シュウジは目の前の二組を表す言葉をつい最近、一矢達の世界で知った。リア充って言うらしい。

 

「シュウジも身を固めるつもりはないのか? ヴェルとか良いんじゃねぇの?」

「ルルトゥルフのお姫様とも仲が良かったって話を聞いたよ? あなたは私の太陽だって言われたらしいじゃないか」

「うっせーよ! そーいうのはまだ考えちゃいねーんだよ!! お前ら見せつける為に人のこと呼んだのかよ!?」

 

 そんなシュウジを知ってか知らずかショウマとサクヤがシュウジの相手になる可能性がある女性の名前を挙げるわけだが、余計なお世話だと言わんばかりにシュウジが吠えている。

 

「まあまあ。けどルルから聞いたぜ? 面倒なことになってるらしいじゃんか」

 

 爆発しろとばかりに息巻いているシュウジを宥めながらショウマは別の話題を切り出し、その事で先程とは一転して、シュウジの表情が曇ってしまう。

 

「戦うのを恐れてるのか?」

「……そういうわけじゃねーよ」

 

 途端に表情を曇らせてしまったシュウジを見て、仮にでも戦闘を恐れているのかを尋ねるショウマだが、首を横に振られる。その声色に一切の迷いはなく、確かに恐れてはいないのだと言うのが分かる。

 

「……けど……会えるのが難しくなっちまう奴らがいてさ。別れる前に俺はそいつに何を残してやれんのかな、って……」

 

 今でもその答えが出てはいないのだろう。考えるように口元を手で覆う。

 戦う事を恐れているわけでも、もしかしたら死んでしまうのではないかと言うのも考えてはいない。ただ繋がりが出来た少年に自分は何をしてあげられるのか、何を残せるのか、その答えがいまだに分からず、ただ悶々とした日々を送っていた。

 

「変に難しく考えてるもんだな」

「……なんだよそれ」

 

 悩む理由を聞いて、やれやれとばかりに苦笑しているショウマに自分の悩みをバカにされたように感じたシュウジは機嫌を損ねたようにムッとした様子だ。

 

「そのままの意味だよ。昔、この世界から自分の未来に進むためにいなくなった奴がいたよな」

「……翔さんのことか」

 

 しかしそれすらも肩を竦めるショウマにシュウジの苛々は募るばかりだ。

 だが、シュウジの問いに答えるショウマの挙げた人物に、翔の名を口にすれば彼は頷いた。

 

「アイツは別にこの世界に何かを残そうと思って戦って来たわけじゃなかった。ただ精一杯もがいてがむしゃらに……。でも、アイツはそのがむしゃらに前に進むことで色んなモノを残してくれた。俺もリンも……それにお前もアイツの傍にいて教えられた筈だぜ」

 

 ショウマは棚に飾ってあるとあるプラモデルを見やる。

 生活の合間に作っていたのだろう、見慣れたプラモデルが何個も置いてある。

 

 如月翔はこの世界に最初は望んで訪れたわけではなかった。

 だが、それでも不条理のなか彼は駆け抜けた。彼に出会い、彼と過ごす日々は今の自分を形成する一つになっているのだ。彼に出会った事で今まで触れた事のなかったものに触れ、楽しみも見いだせたりした。

 

「お前はお前らしく生きてりゃそれで良いんだよ。そうしてれば別れた時にでも何かが残ってるもんさ」

「俺らしく……?」

「ああ。お前にしかできない生き様を見せてやれよ」

 

 難しく考えすぎるなと柔和な様子で言われたことばはスッと入るようにシュウジは胸に拳を当てる。そんな弟子の姿を見て、ショウマは大きく頷く。

 

「そうだな……。久しぶりに会えたんだ。お前のこれまでを俺に見せてみろよ」

「それって……」

「ああ、俺達らしく拳を通じてな」

 

 ニヤリと好戦的な笑みを浮かべるショウマに、シュウジはそれがどういう意味で言われたのかを読み取ると、大きく頷いて立ち上がると握り拳をシュウジに向ける。

 

「夜明け前にしよう。それまでは体を休めてろよ」

 

 シュウジはここまで来るのに、少なからず旅の疲れもあるだろう。

 リンに部屋を用意するように頼みながら、自身もその準備の為に、客室を去り、残されたシュウジは己の拳を見つめて静かに固く握る。

 

 ・・・

 

「それで、わざわざMFを持ち出して、こうなったと……」

「MFはいらないって言ったんだけどねぇ……。まぁシュウジも間隔が空いてるし、慣らしも兼ねてるんでしょ」

 

 まだ空には月が浮かぶなか、ショウマ達が訪れたのはギアナの地であった。

 合流したカガミは顛末を聞き、呆れたように遥か前方を見やると、その隣でリンも苦笑してしまっている。

 

「シュウジ君……」

「心配しなくても別に殺し合う訳じゃないわよ。翔の世界にあるガンプラバトルだっけ?あれと似たようなもんよ。あいつ等は拳を通じて、互いの誇り(プライド)をぶつけ合うだけよ。それにMFならガンプラ以上の事が出来るわ」

 

 少なくとも今から激闘が行われるのが目に見えている。

 シュウジを心配するように拳を胸の前でぎゅっと握り、不安げな表情を浮かべているヴェルを安心させるようにリンが微笑んでショウマ達を見やる。

 

 ・・・

 

「準備は良いな?」

「ああ、いつでも良いぜ」

 

 ギアナの地を舞台に向かい合う。

 もうここから言葉はいらないだろう。

 互いに笑みを交わすと、ショウマは白い鉢巻きを額に巻き、シュウジは勢い良く身に纏った外套を脱ぎ去る。

 

「「出ろォオッ!! ガンダアアアアァァァァァーーーームウゥゥツ!!!!!!」」

 

 互いに空に咆哮を上げると共に手に向けて指を鳴らす。

 すると次の瞬間、二人の覇王の呼び声に応えるかのように空から舞い降りたニ機のガンダムがそれぞれ主の背後に勢いよく降り立つ。

 

「ガンダムファイトォッ!!」

 

 自動操縦によって降り立ったのはガンプラではなく、まさに本物の機械仕掛けの巨神。

 シュウジは己の機体である深紅のガンダムに乗りこみ、高らかに声を上げる。

 

 その名はバーニングガンダムゴッドブレイカー。

 パッサート残党との戦いに投入された本機体の大きな特徴はこの世界に大きな災いを齎したアルティメットガンダム……通称デビルガンダムの細胞と同じ悪魔が生み出した禁忌の技術とされる(アルティメット)細胞を設計段階から取り入れた他のMSとは一線を越えた破格の性能を持ったことだろう。しかしその代償として乗り手にはそれ相応の精神と技量を求める機体である。

 

「レディィィィィ……ッ!!」

 

 シュウジに合わせるようにショウマも声を張り上げ、モビルトレースシステムによって己の手足となったガンダムを動かす。

 

 その名はガンダムゴッドマスター。

 こちらもパッサート残党との戦いに投入された機体だ。ショウマの愛機であるゴッドガンダムにU細胞を使用し、変異したこの機体もU細胞からの力の誘惑に打ち勝てるだけの精神を求める機体であるが、過去にDG細胞に感染し、乗り越えた経験のあるショウマが扱う事によってそのポテンシャル以上の力を十二分に発揮している。

 

「「ゴオオォォォォッッ!!!!」」

 

 乗り手次第では神にも悪魔にも変貌出来る二機のガンダムは互いの拳に自身の全てをぶつけるようにマニビュレーター同士がぶつかり合い、スタートを切るように目には追いきれないほどの連撃が繰り広げられる。

 

 ・・・

 

「師弟対決ですけど……どうなるんでしょう?」

「勝ち負けの話じゃないからね。ただ互いをぶつけ合うだけさ。ぶつかり合う事でしか分からない事もあるしね」

 

 ギアナの地でぶつかり合う二機のガンダム。遂に始まった師弟による戦いにノエルはこの戦いがどうなるのか、同じ拳で戦うサクヤに意見を求めると、サクヤはクスリと笑いながら師弟の激しい戦いを見つめる。

 

「俺はこの戦いを見届けるだけだよ。俺の弟が、そして何より俺達シャッフルを纏める長が先代キング・オブ・ハートにどれだけ自分自身をぶつけられるのかを」

 

 地を削り、風を切り、拳を交えるガンダム達。

 その姿を見守るようにサクヤは静かに握り拳を作ると、その手の甲にはQueen The Spadeの紋章が浮かび上がる。

 

 サクヤは言葉通り、見届けるだけなのだろう。

 兄として、友として、武闘家として、秩序の守り手の紋章を持つ者として。ノエルはその言葉に頷き、再び自身も見届けようと戦いを見つめるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴッド─限界なんてない─

 異世界のギアナの地で二機のガンダムは己をぶつけあうように拳となるマニビュレーターを放つ。その一つ一つは常人の目では捉えきれないほど流星のような素早さを持って激しく打ち合う。

 

「がはぁっ!!?」

 

 しかしやはりショウマはシュウジの師である為、シュウジの攻撃の隙を見出せばその腹部に重い一撃を与え、バーニングゴッドブレイカーの機体はくの字に曲がり、モビルトレースシステムによってその痛みがダイレクトに通じるシュウジは目を見開き、苦悶の声を上げる。

 

 なんと久しく忘れていた痛みであろうか。

 ガンプラバトルシミュレーターでは無縁な激痛が身体に走る。この痛みで改めて自覚する。これが自分が元々いた場所なのだと。

 

「ウオオォッラァアッ!!!!」

 

 だがそんな表情も束の間、抉るように放たれたゴッドマスターの腕部を掴んだバーニングゴッドブレイカーはそのまま機体を回転させて、投げ飛ばす。

 

「流星ぃっ!!!」

「──蒼天ッ!!」

 

 姿勢を立て直したゴッドマスターにマニビュレーターを高速回転させたバーニングゴッドブレイカーが迫る。迎え打つようにマニビュレーターを構えたゴッドマスターはバーニングゴッドブレイカーへ向かっていき……。

 

「螺旋拳ッ!!」

「紅蓮拳ッ!!」

 

 洗練された技と技がぶつかり合い、周囲に衝撃波が巻き起こる。

 だが所詮、この戦いはまだ始まったに過ぎない。まだまだ二人の瞳には闘志が燃え盛る炎のようにギラギラと揺らめているのだから。

 

 ・・・

 

「なんて綺麗なんでしょうか……」

 

 そんな激しい戦いを見て、ヴェルの口からあまりに場違いな言葉が出てくる。

 しかし彼女の言葉を誰も否定したりしない。何故ならばこの戦いは傍から見る者にはその視線を釘付けにするほどの妖艶さを醸し出しているからだ。

 磨き抜かれた技は一種の芸術品であり、覇王不敗流を極めた二人がその身をもって魅せる動きはまるで一級の演武を見ているかのようだ。

 

 ・・・

 

「ぐぅっ……!」

「ぬぅっ……!」

 

 互いの拳が交差し、メインカメラに直撃する。

 シュウジもショウマにも頬に殴られた激痛が走るが、その目だけは目の前の覇王から逸らすことはなかった。そしてそのまま幾度も拳を交え続ける。

 

「超級ゥッ!!」

「覇王ォッ!!」

「電ッ!!」

「影ッ!!」

「「弾アアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーンッッッ!!!!!!!」」

 

 パッと弾かれるように距離を取った二機は構えを取ると、機体を回転させて自身の頭部以外をエネルギーの渦で覆い突撃する。エネルギーの塊同士がぶつかり合い、それは一つの竜巻のように轟々と立ち上る。

 

「強くなったな、シュウジッ……!!」

「俺だって、だだあちこちを放浪してたわけじゃねぇんだ……ッ!!」

 

 エネルギーが生み出す竜巻を抜けた両者は拳をぶつけ合い、ショウマは師としてシュウジの成長を肌で感じ、嬉しそうに、だが相対する者として険しい様子でその成長を褒めると、シュウジも表情が険しいながらも笑みをこぼす。

 

「なら、お前の全力を見せてみろッ!!!」

「おうッ!!」

 

 だが、二人ともまだ全力を出し切っている訳ではない。

 ショウマはその事を口にして、バーニングゴッドブレイカーを蹴り飛ばすと、吹き飛ばされた反動を利用して地面に着地し、ゴッドマスターも向かい合うように着地する。

 

「「ハアアアアアアァァァァァァァァァァァ……ッッッ!!!!!」」

 

 相対する二人の覇王は全神経を研ぎ澄まし集中する。

 邪念もなにもない。澄み切った彼らの心はまさに明鏡止水。しかしその掌は烈火のような苛烈さを秘めている。その彼らの心に水の一滴が落ち、波紋が伝うような感覚が広がる。

 

「ウオオオォォッ!!!!」

 

 カッと目を見開き、気合を解放するように咆哮を上げる。

 すると、ゴッドマスターの全身は太陽の如き、金色に染まり、衝撃で巨大なクレーターが出来る。これこそショウマの全力であるガンダムゴッドマスター・ハイパーモードだ。

 

「デェリアァアッ!!!!」

 

 バーニングゴッドブレイカーの背部から炎のような粒子が溢れ出る。

 炎で出来た翼のように膨大な粒子量となって広がり、やがて炎の翼は弧を描くように頂点で結ばれ巨大な炎の日輪を作り出す。するとバーニングゴッドブレイカーの機体は金色に変化し輝き、バーニングガンダムゴッドブレイカー・アルティメットモードと化す。ゴッドマスターとバーニングゴッドブレイカー。二機を包む金色の光は柱となって天に昇る。

 

 

 

 覇王不敗流

 

 

 

 最終奥義

 

 

 

 

「石ッ!!」

 

 

 

「破ァアッ!!!」

 

 

 

 

「「天ェェェ驚ォォォォォォォッ拳ンンッッッ!!!!」」

 

 

 

 

 二人は両手首を合わせると、そこには光が溢れる。

 それはまるでこの地球の天然自然の力を得たように煌き光るではないか。バーニングゴッドブレイカーとゴッドマスターの二機は同時に己の全身全霊を放つ。

 

 互いが放った気弾は拮抗し、ほぼほぼ互角だと言って良いだろう。

 エネルギー同士のぶつかり合いは戦いを見ているヴェル達までその衝撃波が襲うが、誰一人、目を逸らそうとはしない。

 

「決まった……ッ!?」

 

 拮抗する力と力はやがて大爆発を起こし、バーニングゴッドブレイカーとゴッドマスターの機体が覆ってしまうほどの硝煙が巻き起こる。遂に勝負が決まったのか、ノエルは硝煙に目を凝らすが……。

 

「いや……まだだ」

 

 しかし隣でサクヤが静かに否定する。そしてその言葉通り、巻き上がる硝煙から金色の二機のガンダムが飛び出し、大空に舞う。

 

「これで決まる……ッ!」

 

 飛び出した金色のガンダム達を見やり、次で勝負が決まると感じ取ったサクヤは手の甲にQueen The Spadeの紋章を浮かび上がらせる。この魂と魂のぶつかり合いの全てを見届けるために……。

 

 ・・・

 

 

 

「俺の両手がッ!!」

 

 

 

「煌めき照らすッ!!!」

 

 

 

「限界超えろとォッ!!!」

 

 

 

「響いて叫ぶッ!!!」

 

 

 

 大空に飛び上がった金色のバーニングゴッドブレイカーとゴッドマスターは両腕を広げ、腕の甲を前腕のカバーが覆い、エネルギーがマニュビレーターに集中する。

 

「双極ッッッ!!」

「極限ッッッ!!」

 

 ゴッドマスターには神の如き眩い輝きと悪魔のような漆黒の輝きが、バーニングゴッドブレイカーには太陽の鮮烈な輝きと月の優しい光を纏ったかのような光が放たれる。

 

 

「ゴッドデビルゥゥッ!!!」

 

 

「ブロオオォォォォォッックゥンッッッ!!!!」

 

 

「「フィンガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーァアアッッ!!!!!!!!」」

 

 

 

 金色に輝く二人の覇王は己の命を燃え尽さんばかりに拳に全てを託して激突する。

 まさに魂をぶつけたようなエネルギーのぶつけ合いは眩い閃光となり、見る者に思わず目を背けさせる。

 

「ッ……!!」

 

 石破天驚拳の時同様、互いの力は拮抗し、一瞬の心の揺らぎが勝敗を決すると言って良いだろう。険しい表情を浮かべ、歯を食いしばるショウマであったが、ふと目を見開く。

 

(……迷いも何もない。ただまっすぐ前を見ている……ッ!!)

 

 拳を通じて、シュウジの感情を、意志を感じ取る。

 シュウジの拳に一切の迷いも曇りもない。ただ全力で目の前の自分に全てをぶつけてきているのを感じるのだ。

 

「翔さんが……ッ! 師匠が……ッ! 前に進み続けるアンタ達がッ! 最後まで諦めない事を……。前に進もうとする限り、限界なんてないって事を教えてくれたからッ!!」

 

 気を抜けば、その場で敗れてしまうだろう。もっとも気を抜くなどと言う選択肢はない。諦めやしない。一矢が自分の背中を追っているように、自分もまた憧れて追っている背中があるのだから。彼らの背中を見て来たからこそ、今の自分が出来たのだ。

 

「俺はこの手を伸ばして未来を掴むッ! それが俺の生き様だッ!!」

 

 覇王の技を持つ者として、トライブレイカーズとして、秩序の守り手として、英雄から受け継いだ創造を生み出す破壊者の一人として、最後まで諦めない、跪かない、止まらない、手を伸ばした先にある未来を掴み取る。

 

 自分の生き様が正解かどうかは知らない。

 だがこれが自分が導き出した確かな答えなのだ。だがシュウジの手の甲には、彼の生き様を肯定するかのように伸ばした手の甲にはKing of Heartの紋章が輝きを放たれる。

 

「……そうか。それがお前の……」

 

 そんなシュウジの想いを感じ取ったショウマはバーニングゴッドブレイカーを見て静かに納得したように満足そうに目を瞑る。バーニングゴッドブレイカーの輝きは更に広がっているではないか。

 

「十分伝わったぜ、お前の生き様」

 

 朝焼けだ。

 暁の中、昇る太陽を背に此方に手を伸ばし続ける金色のバーニングゴッドブレイカーはさながら太陽の化身のようにも思えてくる。ショウマが満足そうに笑うと、遂に拮抗したエネルギー同士は大爆発を起こすのであった……。

 

 ・・・

 

「──……っ……」

「シュウジ君っ!!」

 

 温かな太陽の日差しが降り注ぐなか、眩しそうに顔を顰めたシュウジが目を覚ます。

 目を開けば、真っ先に目に入ったのはセルリアンブルーの青天であった。自分はどうやら地面に倒れているらしい。しかし頭部には柔らかな感触がある。次に目に入ったのはこちらをのぞき込むヴェルの姿であった。

 

「ヴェル……さん……? ……っ……!」

「無理に動かないでっ! もぉシュウジ君は心配ばかりさせるんだから……っ!!」

 

 どうやら自分はヴェルに膝枕をしてもらっているようだ。

 起き上がろうとするシュウジであったが、身体がズキズキ痛む。殺し合いをしたわけではないが、それでも体にはダメージが残っているのだ。そんなシュウジにヴェルは目尻に涙を溜め、安静にするように強く言い放つ。

 

「俺……負けたんですか?」

「──……違うぜ、シュウジ」

 

 最後の記憶だけが曖昧なのだ。

 自分とショウマのファイトの決着はどうなったのだろうか。動けない代わりに誰に問いかけるわけでもなく、尋ねると横から否定される。見やればそこにはリンに支えられて立っているショウマの姿が。

 

「ショウマも今、目を覚ましたところよ」

「お前の生き様……確かに俺には届いたぜ」

 

 身長差があるなか、何とかショウマを支えるリンが勝敗に関して口にする。

 どうあやらどちらが勝ち、と言うわけではないようだ。リンに支えられながらショウマは己の胸を叩く。

 

「きっと……お前がお前らしく生きる限り、その子にも届くさ」

「例えいなくなろうと想いは受け継がれ、いつだって胸の中に生き続ける……。お前もそうだったようにね」

 

 もう自分で立っていられるようになったのだろう。

 ショウマはリンから離れ、シュウジに歩み寄る。先程の自分が届いたようにサクヤと共にシュウジに優しく諭すように話す。

 

「……っ……」

 

 その光景を目にしていたシュウジだが、ふと視界がジワリと滲む。

 それが何であるか分かってしまった為、近くにいるヴェルに見えてしまうだろうと、起き上がると青天を見上げる。

 

 自分の傍にはかけがえのない仲間が、いや、たとえ距離が離れていようとこの空の下には心強い友達や同じシャッフル同盟の紋章を持つ仲間達がいる。そして異世界にも……。

 自分は戦争の業火で家も家族も友も全てを失った。だが気づけば、いつの間にかこんなにも満ち足りているではないか。それを改めて自覚した時、嬉しさから涙が溢れたのだ。

 

 だがそんなものは誰にも見せたくはない。

 背を向けて、空を睨むように顔を上げる。

 

「……ッ」

 

 早く収まれ。そう念じていた時であった。

 ふとシュウジの背中に温かな手が添えられる。

 見れば、そこにはヴェルが何も言わずに、我慢しないで良いんだよ、と言うかのように優しい微笑みを浮かべ傍にいてくれた。

 

「……俺、行ってくるぜ。分かったんだ。下手に悩んで遠回りするよりも、俺らしく前に進んだ方がそれが一番の近道なんだって」

 

 一筋の涙が流れるままに頬を伝い、そのまま腕で拭うとヴェル達に振り向く。

 一矢に何を残してやれるかなんて下手な悩みはもう捨てよう。自分らしくしていればそれで良いんだ。そうしていれば別れが来た時もきっと後悔はない筈だから。

 

「忘れるなよ、俺達はいつだってお前の事を想ってる」

「お前がどこに行こうがきっと繋がってるよ。だってお前はもう一人じゃないからね」

 

 すぐにでも旅立とうとするシュウジに、最後に見送りとしてショウマとサクヤが言葉を送る。それぞれの手の甲にKing of heartとQueen The Spadeの紋章を浮かび上がり、シュウジもKing of heartの紋章を浮かび上がらせ三人は紋章を翳しながら笑みを交わす。

 

「……アナタがまた回り道をするようならどこまでも付き合ってあげるわ」

「だから一緒に進んで行こう」

 

 シュウジに並びながらカガミとヴェルが微笑みを浮かべながら、自分達もいるんだと話す。自分達はトライブレイカーズというチームなのだ。一人が躓いたなら二人で起き上がらせるだけだ。

 

「はい、シュウジ君っ」

 

 ヴェルは両手にシュウジがバーニングゴッドブレイカーを呼び出す前に放り投げた白い外套を差し出す。シュウジはコクリと頷き、その白い外套を手に取ると……。

 

「さぁ行こうぜッ!!」

 

 白い外套を身に纏ったシュウジはカガミとヴェルと共に異世界に行くためにこのギアナの地を旅立つ。その瞳にはもう迷いはなく、笑みがこぼれる。三人は雲一つない空の下、歩き出すのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴッド─Just Fly Away─

「何で一矢君は寝坊するのかなぁ……」

 

 翔に招待されたテストプレイの場に赴くためにカドマツが運転する車内の後部座席から文句をたらたらと零すのはミサであった。助手席に座っている一矢は耳が痛いのか、耳に片指を突っ込んで聞き流している。

 

「大体、カドマツも寝坊するし……」

「悪かったって言ってるだろ? ロボ太の最終調整に時間がかかっちまったんだよ」

 

 ミサの不満の矛先は今度はカドマツに向けられる。

 運転をしながら、その文句にやれやれと言った様子でため息をつき、寝坊してしまったそもそもの理由を明かす。

 

「そう言えば、一矢君。何かいつもより荷物が大きいけど、なにそれ?」

「……テストプレイになったら分かんじゃない」

 

 ロボ太の調整が終わった事を知り、どんな成長を遂げたのだろうかと楽しみにする一方で自身が座る後部座席に置いてある一矢の荷物を見やる。

 一矢と言えば、あまり手荷物がない印象があるのだが今日に限っては、妙に鞄が大きい。一体、なにが入っているのだろうと興味をそそられているミサであるが、一矢は相変わらず気怠そうにしているだけでちゃんと答えようとしない。

 

 ・・・

 

「碧も翔さんに呼ばれたの?」

「ああ、お前のお目付け役を頼まれてな」

 

 テストプレイの場では多くのファイターが集まっている。

 その中には駄々をこねてテストプレイに参加した風香と、その隣には碧の姿もあった。

 

「お目付け役って……。そりゃ風香ちゃんは目が離せないくらい可愛いけどさー「ふんっ」あいたたたっ!?」

「そういう戯言も言わせんぞ」

 

 両手を頬に添えて頬を染める風香であったが、その途中で手を払った碧にその柔らかな頬を引っ張り、涙目を浮かべてしまう。

 

「お久しぶりです」

「ああ、来てくれて嬉しいよ」

 

 翔は今、GGF時代からの付き合いである開発者の男性と握手を交わしていた。

 こうして会うのは言葉通り、久しいが互いに健在である事に笑みを交わす。

 

「今回のテストプレイの内容、目を通してくれたかい?」

「ええ。今までの比ではないほどの巨大ステージでしたか」

 

 挨拶もそこそこに今回のテストプレイの内容について触れる。

 この場に訪れる前に目は通していたのだろう。翔は既にテストが開始されているシミュレーターを見やる。

 

「大気圏にも突入でき、宇宙と地上の両方で戦闘が出来るという話でしたが……」

「まぁ流石に規模は制限してるがね。それでもこれまでのステージに比べて圧倒的な広大さがあるから、100人同時対戦どころかそれ以上の大人数のバトルでも充分に対応出来るよ」

 

 記憶の中の送られたデータに記されていた内容を口にする翔に、開発者は会心の出来なのだろう、誇らしげに説明する。

 

「いつ見ても違和感があるわね」

「……まぁMSよりは物騒じゃないよ。それに翔がテスト後にやらしてくれるって言ってたし」

 

 同行していたレーアはモニターに映るバトルの様子を眺めながら、度し難いような何とも言えない表情を浮かべている。

 やはりガンダムはMSとして馴染んでいる為、ガンプラがバトルを行っている事に少なからず違和感はまだあるのだろう。その隣で話を聞いたリーナは苦笑しながらモニターを見上げる。

 

 ・・・

 

「大気圏での戦闘か……」

「やはりガンダムの戦闘を語るのなら外せないわね」

 

 衛星軌道上ではテストプレイの為に用意されたNPCを撃破しながら、モニターに映る眼下の地球を見下ろす正泰。そんな正泰のアドベントにシアルのジェガン・ハウンドが傍らに寄りながら、シアルが心なしか楽しそうに話す。

 

「やるな……ッ!」

「こうしてバトルをする事があるとは予想外じゃ!」

「ジャパンカップじゃ縁がなかったからな……ッ!」

 

 また近くでは 招待されたかつてジャパンカップで北海道代表と高知代表、秋田代表であったジンのユニティーエースと厳也のクロス・フライルー、清光の暁を筆頭に入り乱れた混戦が行われていた。更なる激しさを誘うようにNPCによる戦艦ムサイなどが出現し、そこから出てくるMSが乱入してくる。

 

 ・・・

 

「こうやってテストプレイをするのも懐かしいわね」

「ここ最近はなかったからな」

 

 舞台は宇宙だけではない。

 同ステージの地上では、ガンダムブレイカー隊の面々もまた熊本代表と遭遇戦によってバトルを行っている。

 アカネとナオキが何気なく話しているのだが、そのバトルでの勢いは会話の穏やかな様子とは程遠くフレイムノーベルとダブルフリーダムはネクストフォーミュラー達を相手取っていた。

 

 ・・・

 

「ねぇねぇ碧、大気圏に突入してみようよー。碧がクラウン役ね。無駄死にではないぞー」

「分かった。お前のエクリプスを下敷きに大気圏を突入しよう」

 

 また漸く風香達もシミュレーターを使用したようで、エクリプスの機体をはしゃぐ子供のように動かし、ロックダウンの肩部をバンバンと叩くと、ロックダウンは静かにメイスを構えようとする。

 

「……早速か」

 

 そして翔もまたブレイカーネクストを駆り、フィールドに現れた。そんなブレイカーネクストに実弾射撃が襲いかかり、見やればそこには真武者頑駄無の姿が。

 

 火縄銃のような外観の種子島を構える真武者はそのまま再度、引き金を引こうとするが、引き金を引こうとした瞬間、ブレイカーネクストが3連バルカンモードのGNスナイパーライフルⅡによる早撃ちを行い、種子島を撃ち抜いて爆散させる。

 

「流石と言うべきか……」

 

 真武者を操るファイターの男性は目にも止まらぬ早撃ちで種子島を破壊して見せたブレイカーネクストを見やりながら、素直に感心するように翔の実力を認める。

 

「だが君に通用するだけの力を作り出さなくてはいけないのでね。付き合ってもらおうか」

 

 男性はモニター越しにブレイカーネクストを見やりながら、ニヤリと含みある笑みを浮かべる。

 彼こそは先日、ネバーランドで騒動を起こした中年男性から連絡を取っていた人物であった。

 同時刻、テストプレイが行われる敷地の駐車場では彼の車の助手席でワークボットが何かを張り巡らせるように不気味にカメラアイを輝かせていた。

 

 ・・・

 

「……リーナさん?」

「……邪気を感じる」

 

 ゾクリと何かを感じ取ったように目を見開いたリーナを見て、ルルが何かあったのかとリーナを見やると、リーナは微かに感じ取った不快な感情に眉を潜めながら、一体、この感覚の発生元は何なのかと探すように周囲を見やる。

 

「主任、外部からサイバー攻撃がッ!!」

「なにっ!?」

 

 シミュレーターでのバトルの様子を記録していた研究員の一人が緊迫した面持ちで開発者の男性に叫ぶように報告する。開発者が慌てて、その研究員の前のデスクトップから調べようとするのだが……。

 

 ・・・

 

「これは……ネバーランドの時と同じ……ッ!!」

 

 フィールドに異変が起きた。

 ブレイカーネクストの周囲を何かが高速で飛び回り、視認した翔はそれがかつてネバーランドで戦ったコアプログラムと同じである事を知る。

 自身を狙うのか?そう考えていた翔であったが、コアプログラムはそのまま真武者に取りつく。真武者にとりついたコアプログラムはそのまま甲冑の隙間から中に入るように同化すると、そのツインアイは赤く発光する。

 

「書き換えたのか……!?」

 

 真武者が太刀である日輪丸の刃を天に掲げるように突き出すとフィールドに更なる異変が起きる。まるで刺激を受けたように痙攣する周囲のNPC機はどんどんウィルスに乗っ取られ、それはどんどんとこのフィールド全土に広がっていくではないか。あまりの光景に翔は唖然とするしかない。

 

 ・・・

 

「サイバー攻撃の影響で稼働中のガンプラバトルシミュレーターすべてにロックがかかり、解除できません!!」

「なにが目的なんだ……っ!!?」

 

 状況は解決どころか悪化している。

 あやこの時同様、ガンプラバトルシミュレーターにロックされ、中のファイターは出る事が出来なくなってしまった。元凶であろう真武者と同化したコアプログラムを見やりながら、開発者は苦々しい様子で呟く。

 

「翔……っ!」

 

 時間だけが経ち、レーアは何も出来ず歯痒そうにコアプログラムと戦闘を行っているブレイカーネクストを見やる。コアプログラムの動きその物はネバーランドの時よりも俊敏になっているものの、やはり翔とは大きな開きがある。

 

 この間に既に十回以上も撃破するくらいの攻撃は与えている筈だ。

 しかしいくらダメージを与えようが、結局ワクチンプログラムもないシミュレーターのガンプラでは、コアプログラムにダメージを与える事は出来なかった。

 

「おいおい、どうなってんだこりゃ……」

 

 混乱するテストプレイの施設内に、彩渡商店街チームが到着する。あたふたと動き回っている施設内を見て、困惑する面々でカドマツが代表するように口を開く。

 

「……悪いけど、力を貸してほしい」

 

 リーナはスタスタと足早にカドマツに詰め寄るように声をかけた。

 見上げて、まっすぐとカドマツの瞳を見据える。そのあまりの有無を言わさぬような迫力を秘めたリーナにカドマツは頷くしかなかった。

 

 ・・・

 

「……っ……。厄介な事になったな」

 

 あれからどれだけの時間が経っただろうか。

 もう何十回も致命傷になりうる攻撃をしているわけだが、ワクチンプログラムがない為、いまだ真武者は無傷に等しい。ただただ疲労だけが蓄積され、翔の額を伝って顎先から汗が流れ落ちていく。

 

「君の動きを学ばせてもらおう。君に食らいつけるだけの力を得るために」

 

 真武者のシミュレーター内ではコアプログラムに操縦を任せながら、男は愉快そうに呟く。外部ではネバーランドのアイオライトのように、あくまで自分はコアプログラムに取り込まれた被害者という風に映っているだろう。

 

「ほぅ……」

 

 再びブレイカーネクストに迫ろうとする真武者だが、その前に無数の刃が四方八方からを襲いかかってきた。

 

 何とここで初めて損傷しているではないか。

 そこでなにかを悟ったのか、男は宙を舞う刃であるソードピットを放った相手を見やる。

 

「翔、無事かしら?」

「レーア……!?」

 

 周囲にソードピットを展開しながら、こちらに向かって来たのはダブルオークアンタであった。ブレイカーネクストに並び立ちながら、レーアは翔に通信を入れると、驚いている翔にクスリと笑う。

 

「実績あるワクチンプログラムを作れる人が来てくれたのよ」

 

 何故、真武者にダメージが通ったのか。その疑問に答える。

 外ではカドマツが開発者達と協力してワクチンプログラムを早急に作り上げていた。

 

 ・・・

 

「あぁもぅどうすれば良いの!?」

「──どいてくれれば良い」

 

 衛星軌道上ではウィルスに乗っ取られたムサイ達がメガ粒子砲を放ち、元々バトルをしていた風香達はダメージが通らない事から避けるしかない。苛立ち気に叫ぶ風香のシミュレーターに静かな声が響く。

 

「私が何とかする」

 

 次の瞬間、極太のビームが次々にウィルスを呑み込んでいく。見やれば、そこには純白の翼を広げ、ツインバスターライフルを構えるリーナが操るウイングゼロの姿が。

 

「今、ワクチンプログラムを全てのシミュレーターに適合させようとしてる。それまではアナタ達は下がって」

「一人で戦うつもりなのか!?」

 

 すぐさまツインバスターライフルを分離させ、マシンキャノンを発射しながら次々にウイルスを撃破していく。

 その間に放たれたリーナの言葉に碧は唖然とする。

 ウイングゼロの動きは確かにただ者ではないのは分かるが、それでも一機が何とかできるような物量差ではない。

 

「……私もアナタと同じだよ」

「え……?」

 

 しかしリーナは答える代わりに次々にウイルスを破壊し、敵陣の真ん中に飛び込むとそのまま二丁のバスターライフルを左右一直線に構えて発射すると、そのまま360度回転しながらウイルスをなぎ払う。

 大半のウイルスは消滅したが、それでもまだコアプログラムがある限り、自己増殖を続ける。そんな中、ウイングゼロはエクリプスを見やる。

 

「……でも私はこの力を戦う事以外に使う術を知らない。けど、今はそれが役に立つ」

 

 リーナは意識を集中させるように目を閉じると、エヴェイユの力を解放しウイングゼロの機体は紅い輝きを纏う。その紅き閃光は見る者の目を眩ませるほど輝きを放ったのだ。

 

「このゼロはなにも言ってはくれない……。でも……やるべき事は分かってる」

 

 ウイングゼロの輝きを見た風香はリーナの想いを汲んで、ワクチンプログラムが与えられるまでの間、邪魔にならぬよう他の機体を連れて引き下がるのを確認したウイングゼロはバスターライフルを連結させ戦闘を再開するのであった。

 

 ・・・

 

「よし、お前らも出撃できるぞ」

「うん、じゃあ早速行こう!」

 

 少しずつではあるが、シミュレーターにワクチンプログラムが適合されていく。

 まずは彩渡商店街チームも出撃させようとまだ稼働していなかったシミュレーターを優先して行ったカドマツは一矢達に声をかけると、ミサはすぐに行動を起こし、一矢達も動く。

 

「まだ随分な騒ぎになってるじゃねぇか」

「シュウジ……!?」

 

 シミュレーターに乗り込もうとした時であった。

 ふと出入り口から聞き覚えのある声が響き、見やればそこには異世界から戻って来たトライブレイカーズの姿があった。モニターに映るウイルスなどから状況は察したのだろう。面倒事になったとばかりのシュウジに一矢は驚く。

 

「まぁ丁度良いか。俺達も行かせてもらうぜ」

 

 今からならば、一矢達と同時に出撃することになるだろう。

 ならば寧ろ行幸なのかもしれない。シュウジは代表して自分達もウイルス駆除に参加する事を名乗り出る。シュウジ達も参加してくれるのならば、心強いし断る理由もない。カドマツは空いているシミュレーターにワクチンプログラムを適合させる。

 

「俺の背中を見てな、一矢」

「……いつまでも前に居られると思うなよ」

 

 少し時間をおいてワクチンプログラムが適合すると、シュウジは一矢の頭をクシャリと撫でながら余裕ある笑みを浮かべる。前に感じた儚さではなく、自分の知るシュウジに一矢も心なしか笑みを浮かべながら答える。

 

(……一矢君、あの荷物ごと入って行っちゃった)

 

 それぞれがシミュレーターに乗り込むなか、移動中から妙な存在感のあった大きな荷物を持ってシミュレーターに乗り込んだ一矢の姿を見ながら、一体、なにが入っているのだろうとミサは疑問に思うもののシミュレーターに乗り込むのであった。

 

 ・・・

 

「……例え、どこであろうと私達は私達らしく戦いましょう」

「私達の人生は戦いばかりでしたけど、そんな私達が出来る事をやりましょう」

 

 シミュレーターが起動を始める中、翔のマンションから持ってきた完成したばかりのガンプラをセットしたカガミが静かに口を開くと、同意するようにヴェルも頷く。

 

「……ああ。今更、俺達の生き方は変えられねぇ。でもその生き方で未来を変えようぜ。その為に、まずはここから始めよう」

 

 準備が完了し、カタパルト画面が表示される。

 シュウジは握り拳を作ると、そのまま操縦幹を握り、ただまっすぐ前だけを見据える。

 この状況を何とか出来なければ、この先の危機などどうしようもないだろう。シュウジの言葉にカガミとヴェルが頷く。

 

 

 

「ヴェル・メリオ……シャインストライクガンダム行きます!」

 

 

「カガミ・ヒイラギ、ライトニングガンダムフルアサルト……出撃する」

 

 

「バーニングガンダムゴッドブレイカー……シュウジ、出るぜ!」

 

 

 

 異世界においてその名を冠する機械仕掛けの巨神達と同じ名を冠するガンプラが果てない空に飛び出すようにカタパルトを駆け抜け出撃していく。共に出撃したこの世界の友人達に自分達だけが出来る生き様を示すように。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴッド─ULTRA FLY─

そう、まだ飛べる。


「どう、ロボ太? 調子は」

 

 衛星軌道上に現れた彩渡商店街チームとトライブレイカーズ。

 ミサはフィールド上に立体化したカドマツが徹夜で仕上げたロボ太の新たな力、純白の鎧を纏いスダドアカの騎士の最高位の称号を持つバーサル騎士ガンダムを見やりながら、調整後の調子を尋ねる。

 

≪良好だ。しばらく会わないうちにミサも腕を上げたようだな≫

「えへー、わかる?」

 

 バーサル騎士を軽やかに動かしながら、ウイルスを撃破したロボ太は確かな手応えを感じるように答えると、戦闘中のミサの機体を見やりながら、その動きと精巧なガンプラにミサの成長を感じ取る。

 

 ミサの機体はアザレアであることは変わらないものの、外観はこれまでのアザレアよりも武装が追加されており、ディテールアップもされ大幅に火力面防御面機動性、その全てにおいて性能が大幅に向上しているのだろう。これがアメリカでの武者修行でミサが導き出した自分の新たな力であるアザレア フルフォースだ。

 

 己が成長に触れられてミサは嬉しそうに笑うと、ロボ太もその動きとガンプラを見れば素人でも分かる成長に《もちろんだ》と答える。

 

「一矢君は…………」

 

 フィールドに一矢のGPの反応が出る。アジアツアーでもその名を知らしめた一矢が一体、どんな成長を遂げたのかと期待するようにセンサーが反応した方向を見やったミサだが、その姿を見て固まる。

 

「でえええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっっっ!!!!?」

 

 途端にミサの驚愕の絶叫が響いた。

 一矢の機体は確かにゲネシスガンダムを発展させたゲネシスガンダムブレイカーだ。

 

 だが今回は少し違った。

 MAや戦艦かと勘違いするような火薬庫のような武装の数々を持つ巨大な外観は見る者を圧倒させる。その中にはゲネシスブレイカーは収まっていた。

 

 ・・・

 

「ミ、ミーティアぁっ!!?」

 

 外部からモニターでその様子を見ていたカドマツも思わず素っ頓狂な声を上げ、ゲネシスブレイカーがドッキングしている兵器の名を口にする。

 そう、ゲネシスブレイカーは今、核エンジン搭載型MS用巨大補助兵装・ミーティアを装備してこのフィールドに現れたのだ。見る者を唖然とさせるなか、不意にカドマツの携帯端末に着信が入る。

 

「も、もしもし?」

≪おぉっ、カドマツ! テストプレイは上手くいってるか?≫

 

 ミーティアから目を離せぬまま着信に応答する。

 相手はモチヅキであった。妙に上機嫌な様子でテストプレイについて尋ねる。

 

「お前、なんでテストプレイのことを……!?」

≪あのガンプラバカに聞いたからな。それよりさっきからその反応……。あのガンプラバカ、もしかして私が施してやったアセンブルシステムを使ったのか?≫

 

 モチヅキが何故、自分達がテストプレイに参加している事などを知っているのか逆に問いかける。

 だがやはりミーティアの衝撃は大きいため、声はどこか動揺を感じさせる。だがどうやらその情報は一矢から仕入れたようであったが、それよりもカドマツは今の言葉の気になる部分に触れる。

 

「じゃあ、あのミーティアはお前が!?」

≪そのとーりっ! アジアツアーで私も折角、同行したんだからな。私からのプレゼント代わりで組んでやったんだ! まぁチーム戦がメインになる大会じゃあレギュレーション違反で使えないけどな≫

 

 アジアツアーから帰国する際、一矢に話したアセンブルシステムについてはどうやらこの事であったようだ。

 もっともミーティア装備ともなると扱いはMAになってしまう為、MS4機かPG2機、もしくはMA1機とチーム戦で定められている戦力は公式ルールで決められている為、今のチームではミーティア装備での大会出場は違反になってしまう為、使える場は限られてしまうだろう。

 

≪MA並のアセンブルシステムは私の方が上手く組めるからな! お前じゃあそこまで出来ないだろカドマツぅっ! 参ったか、ハーッハッハ!!≫

「ああ、上出来だ、モチヅキ!」

≪えぇっ!?≫

 

 MAを十二分に動かすだけのアセンブルシステムはとても繊細で難しい。

 エンジニアなどよっぽどの人間でもなければやらないほどだ。だがリージョンカップにおいてアプサラスⅡのアセンブルシステムを組んでいたモチヅキからしてみれば、カドマツ以上に組める。

 カドマツが悔しがる反応が見たかったのだろう。

 高笑いしていたモチヅキだが、素直に賞賛されて肩透かしを食らってしまう。確かに面喰った事に違いないが、今この状況ではこれほど力強い戦力はないだろう。

 

 ・・・

 

「……やれるか……ッ!」

 

 ガンプラバトルでミーティアどころかMAなど使った事はない。

 いつもと勝手が違うだろう。ミーティアを装備しているゲネシスブレイカーのシミュレーターでは一矢が集中するように鋭く目を細めるとモニターでは群がるウイルスを次々にロックオンしていく。可能な限りのマルチロックオンを済ませた一矢はスーパードラグーンを周囲に展開すると全砲門を解放し、スーパードラグーンと共にミーティアに備わる全ての武装を解き放つ。

 

「随分と派手にやるじゃねぇか、一矢」

「私達も負けてられないね!」

 

 ミーティアの圧倒的な火力はウイルスを瞬く間に殲滅していく。

 その光景を目にしながら、シュウジは面白そうにニヤリと笑うと、ヴェルの鼓舞するような明るい笑みに、大きく頷く。

 

「各機、フォーメーションヴェロス!」

「「了解ッ!」」

 

 今度は自分達の番だ。そう言わんばかりにカガミが凛と声を張り上げて、シュウジとヴェルに声をかける。

 ライトニングFAとシャインストライクは前方に飛び出し、ライトニングFAは二つのハイビームライフルと装備されている武装を一気に放ち、前方のウイルス群を撃破すると、子機となるウイルスを生み出す戦艦への道筋を作り出す。

 こちらにメガ粒子砲を発射してくるムサイに対し、シャインストライクはドラグーンとシールドピットを周囲に展開すると、二挺のビームライフルを乱れ撃つように放つとムサイの砲塔を破壊していく。

 

「疾風突きィッ!!」

 

 道筋が開かれたことによってバーニングゴッドブレイカーがライトニングFAとシャインストライクの間から、放たれた矢のように飛び出し、己を砲弾にするかのようにムサイに突撃して破壊する。

 

「シュウジ達……来たんだね」

「ああ、待たせたな」

 

 既に戦闘を行っていたウイングゼロが一騎当千の活躍を見せるトライブレイカーズと彩渡商店街チームを確認しながら、頼もしそうにクスリと笑うとシュウジも通信越しで笑みを浮かべる。

 

「風香ちゃん達も来たよっ!!!」

 

 すると今度は後方から極太のビームがムサイを襲い、見やれば己の武装であるツインバスターライフルを構えているエクリプスが。エクリプスに続くようにロックダウンや暁達がウイルスとの戦闘を開始し、撃破している。どうやらワクチンプログラムの適合が済んだようだ。

 

「一矢、やることは分かっているじゃろう!?」

「ここは俺達が何とかする!」

 

 ミーティアの攻撃をかわし、迫る周辺のウイルスを撃破するクロス・フライルーとユニティーエース。そう、ここでいつまでも時間をかけられない。元となるコアプログラムを破壊しない限りは意味がないのだ。

 

「行くか」

「……ああ」

 

 それは一矢も分かっている。

 静かに頷いた一矢にシュウジが声をかけると、二つのチームは仲間達の助けを借りながら、反応があるコアプログラムへ向かっていく。

 

 ・・・

 

「……これ以上はまずいか」

 

 ブレイカーネクストのワクチンプログラムの適合が進むなか、ダブルオークアンタと戦闘を行う真武者であったが、こちらに向かってくる二つのチームを確認するとダブルオークアンタを切り払い、不利と判断して一目散に地球に向かっていく。戦闘データを得る事が目的だが、数で押されては碌なデータが取れないからだ。

 

「逃がすか……ッ!」

「待ってくれ、翔さん!」

 

 ワクチンプログラムの適合が完了したブレイカーネクストはすぐに片付けようと機体を動かそうとするが、その動きをシュウジが制止する。

 

「……アイツは俺達に任せてくれないか」

 

 地球に向かっていく真武者は恐らくは大気圏に突入するつもりなのだろう。

 その姿を見やりながら、シュウジは通信越しに翔をまっすぐ見やりながらコアプログラムは自分達に任せてくれないかと頼む。

 

「……分かった。奴は任せる」

「……恩に着る。行くぜ!」

 

 その決意を感じさせるシュウジの瞳を通信越しに見据えた翔は承諾する。ここ最近様子がおかしかったシュウジがわざわざ頼んだのだ。それだけの意味があるのだろう。そんな翔に感謝しながらシュウジは一矢達に声をかけると、コアプログラムの後を追う。

 

「……良かったの、翔?」

「……ああ。彼らなら任せられる。俺の自慢の後輩達だからな」

 

 バーニングゴッドブレイカー達の後を見送りながらレーアは翔に尋ねる。

 だが翔もシュウジ達を強く信頼しているからこそ任せたのだ。その口元に微笑みを浮かべて答える翔を見て、「そうね」と同意したレーアと共に自分達もまたウイングゼロ達と共に群がるウイルスの駆除に向かうのであった。

 

 ・・・

 

「……ここまでだな」

 

 コアプログラムと同化する真武者を追うトライブレイカーズと彩渡商店街チーム。地球の近くで赤熱化する真武者にゲネシスブレイカーはミーティアとのドッキングを解除し、バーニングゴッドブレイカーと共に先陣を切ってその後を追う。

 

「……ならば」

 

 数を減らして再びブレイカーネクストのもとへ向かおうと考える真武者はブレイカーネクストとダブルオークアンタから距離を離した今なら追手を倒せるだろうとネバーランドの時同様、強化ウィルスと砲台型のウィルスを生み出す。

 

「……ここは引き受けるわ」

≪トルネードスパークッ!!≫

 

 砲門がキラリと光る。

 しかし発射する直前にカガミの静かな物言いと共にライトニングFAの狙撃が貫き、爆散させるとこちらに向かってくる強化ウィルスに対して、バーサル騎士が攻撃を仕掛けて引き受ける。

 

「……いい加減にッ!!」

「このウイルスの出来は舐めないでもらいたいな」

 

 ライトニングFAとバーサル騎士が引き受けてくれたおかげで真武者にその高機動力を生かして一気に迫るゲネシスブレイカーはGNソードⅤを振るうが、やはり高度なAIが組み込まれたコアプログラムと同化した真武者には届かず、薙刀の電光丸を切り払われ、逆に目にも止まらぬ突きの嵐に見舞われる。

 

「っ!?」

「捕まえたよ」

 

 何とかGNソードⅤを利用して防ぐゲネシスブレイカーであったが、今の攻撃はブラフであったと言うように真武者に掴まれると、紫色の発光体が静かにゲネシスブレイカーに入り込み、そのままこちらに迫るバーニングゴッドブレイカーに放り投げる。

 

「どうした、一矢っ!?」

「動かない……!?」

 

 効果はすぐに表れた。

 バーニングゴッドブレイカーに受け止められたゲネシスブレイカーのツインアイに輝きが消える。

 シュウジが通信を入れようとするものの既にブラックアウトとなり、モニターに映像が映るものの動作しないシミュレーター内でジョイステックを必死に動かしている一矢には届かなかった。

 

「くっ!?」

 

 だがゲネシスブレイカーを抱えるバーニングゴッドブレイカーは動きが制限され、隙だらけとなってしまっている。そんなバーニングゴッドブレイカーに真武者が迫り、バーニングゴッドブレイカーは両肩のビームキャノンを放つものの、真武者は薙刀を水車のように回転させながら防ぎ、そのまま迫ってバーニングゴッドブレイカーにも同種のウイルスを埋め込んで作動させる。

 

「くそっ……動け……! 動けよ……ッ!!」

 

 外部のカドマツ達がシュウジと一矢のシミュレーターに感染したウイルスの駆除を開始しているなか、シュウジは操縦桿を動かすが、力なくゲネシスブレイカーから離れて行くバーニングゴッドブレイカーに反応はない。

 

「……ッ!」

 

 しかし真武者には絶好の機会だ。

 バーニングゴッドブレイカーとゲネシスブレイカーを破壊しようと、そのまま電光丸と残光丸を構える真武者にはシュウジは息を飲む。

 

「シュウジ君ッ!!」

「一矢君ッ!!」

 

 だがその前にバーニングゴッドブレイカーとゲネシスブレイカーをドラグーンによる防御フィールドを張り、周囲にシールドピットも展開させて二機を守ると、アザレアフルフォースの大型ビームマシンガンの銃弾が真武者を牽制する。

 

「一矢君は絶対に守ってみせるよッ! その為に強くなったから!!」

「……っ」

 

 既に大気圏への突入が始まる中、ゲネシスブレイカーのマニュビレーターを掴んだのはアザレアフルフォースだ。

 自分はもう一矢の背中を追うだけではない。

 こうして隣に並ぶために強くなったのだ。声は届かぬもののそんなアザレアフルフォースの姿を見て、一矢はどこか気恥ずかしそうに視線を彷徨わせている。

 

「大丈夫、私が手を伸ばすから。君をいつだって支えるよ」

「ヴェルさん……」

 

 それはバーニングゴッドブレイカーも同じであった。

 マニビュレーターを掴み、寄り添うシャインストライクは共に赤熱化するなか大気圏を突入していく。隣に映る力なきバーニングゴッドブレイカーを横目にヴェルは笑いかける。

 

「……ホントに俺は一人じゃ何も出来ねぇな」

 

 そのまま成層圏を突破し、シャインストライクとアザレアフルフォースがそれぞれ守りたい存在を庇いながら真武者と戦闘を繰り広げるが、やはりハンデが大きく苦戦を強いられる。

 だがそれでも二機は決して二機のガンダムブレイカーを手放す事はしない。傍らにいるシャインストライクを見ながら、何もできないシュウジは自嘲気味に呟く。今、こうして守れられる自分が情けなく感じた。

 

「けど……この人達といたお陰で分かったんだ」

 

 雲の中にまで下降するなか、シュウジは己の手を見やる。

 覇王不敗流を学び、力を得た時、一人で何でも出来ると過信してカガミなどに反発していた。だが翔に出会い、トライブレイカーズとして行動して分かったのだ。自分だけでは出来ない事でも仲間とならば出来ると。

 

「支え合う事は……手を取り合う事は弱さじゃないって……。だから──!!」

 

 支え合うなんてありえない、そんなものはただの弱さだと考えていた。だが違うのだ。手を取り合う事こそが強さに繋がるのだ。そう、だからこそ自分は──。

 

「やられる……!?」

 

 シャインストライクやアザレアフルフォースの攻撃をものともせずに突っ込む真武者はシャインストライクに肉薄し、電光丸を振りかざす。バーニングゴッドブレイカーを支えるなか、ヴェルは敗北を予感するが……。

 

「……な、なに!?」

 

 真武者のシミュレーター内の男性は驚愕した。

 何故ならば、後少しでバーニングゴッドブレイカー共々シャインストライクを撃破出来ると思っていたのに、そのバーニングゴッドブレイカーが真武者の振りかざそうとする腕部を強く掴んでいるではないか。

 

「俺は飛べる……ッ!」

 

 真武者の腕部を掴むバーニングゴッドブレイカーのツインアイに輝きはなく、それが真武者を通じて見ている男性に恐怖を与える。

 だがシュウジはその手にKing of Heartの紋章を輝かせながらモニター越しに果てない遥かなる空を見上げていた。

 

「俺達に限界なんてないんだッ!!」

 

 覇王に呼応するようにバーニングゴッドブレイカーのツインアイに輝きが灯り、その輝きが溢れるように背部から膨大な粒子が翼のように広がり、弧を描くように頂点で結ばれ炎の日輪が完成するとその機体は太陽の如き金色に変化し、周囲の雲を吹き飛ばす。

 

≪よし、お前さんの方も治ったぞ!≫

「……っ、ありがとう……!」

 

 アセンブルシステムを改良したEXアクション・アルティメットモードと化したバーニングゴッドブレイカーを見て心奪われたように唖然としていた一矢だが、己のシミュレーターも再び稼働し始め、カドマツからの通信が入り、我に返ったように操縦桿を握りしめる。

 

「聖拳ッ!!」

 

 一方、真武者は何とかバーニングゴッドブレイカーを振り払おうとするが、その前にバーニングゴッドブレイカーから真っ直ぐ突きつけるような拳撃を浴び、吹き飛ぶ。

 

「疾風ゥッ!!」

 

 だがそれだけでは終わらない。その後をすぐさま追撃したバーニングゴッドブレイカーは本体ごと突進するように拳を突き出す。

 

「蒼天ッ!!」

 

 そしてそのまま錐揉み回転をさせながら放ったアッパーカットが真武者の顎先にあたる部分に直撃し、空に舞いがらせる。

 

「旋風竜巻ッ!!」

 

 更にそのまま機体を高速回転させ、竜巻を巻き起こして真武者の動きを拘束する。

 

「流星螺旋ッ!!」

 

 機体の回転を止め、竜巻を消すと繋ぎ技にマニビュレーターを高速回転させた技を真武者に叩き込むと、そのまま真武者を回り込むように空を舞い上がる。

 

「聖槍蹴りぃっ!!」

 

 そしてそのまま落下スピードを利用した蹴りを真武者に放ち、甲冑を抉りながら下方へ蹴り飛ばした。

 

「一矢ッ!!」

「……ああ!」

 

 真武者の機体にスパークが走る中、舞い上がったシュウジは挟むような形になっているゲネシスブレイカーの一矢に声をかけると、シュウジの意図する事が分かったのだろう。一矢はゲネシスブレイカーを覚醒させる。

 

「俺のこの手が煌めき照らすッ! 未来を示せと響いて叫ぶッ!!!」

 

 ゲネシスブレイカーの右腕がバーニングフィンガーによる眩い輝きを放ち、バーニングゴッドブレイカーも両腕を広げ、両腕の甲を前腕のカバーが覆いエネルギーがマニュビレーターに集中させ、二機のガンダムブレイカーは同時に真武者に向かっていく。

 

「これで終わりだッ!!」

 

 バーニングゴッドブレイカーとゲネシスブレイカーの神々しいまでに輝く拳は真武者を挟んで貫き、ここで終わらせるとばかりに一矢は声高く叫んだ。

 

「ヒート……ッ!!」

「エンドォッ!!」

 

 一矢とシュウジの声が決着となったかのように真武者の機体はブロークンフィンガーとバーニングフィンガーによって崩壊し、ワクチンプログラムによってコアプログラムごと爆散するのであった。

 

「やったんだな……後輩達」

 

 衛星軌道上に戦闘を続けていたブレイカーネクスト達もウイルスの増殖が収まり、残ったウイルスも全て殲滅する。ウイルスの反応がなくなったのを確認した翔はシュウジ達を想い、微笑むのであった。

 

 ・・・

 

「……予想外ではあったな」

 

 真武者のシミュレーター内で男性はにわかに信じがたいと言わんばかりに呟く。

 まさかコアプログラムを破壊できるとは思わなかったのだ。もう間もなく自分を助けに開発者達がこのシミュレーターの扉を開けようとするだろう。

 

「ですが良いデータが取れたよ」

 

 どの道もうテストプレイは出来ないだろうが、最後のバーニングゴッドブレイカーの技の数々はちゃんとデータが取れている。

 翔のデータも少なからず取れてはいるし、収穫はあったと言って良いだろう。男性はこのシミュレーターに近づく足音を感じながらシートに身を預け人知れずほくそ笑むのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴッド─DREAM FIGHTER─

 異世界の日本のとある地に白い外套を纏ったシュウジが一人佇んでいた。

 ここは地図上ではシュウジが住む世界とは違う世界において、彩渡街という街が存在している。彼の周囲には人の気配はなく、荒廃した今にも崩れ落ちそうな廃墟などが広がっている。

 

「──世界にはこんな光景が数多く存在する」

 

 小さな物音が大きく響くほど、静止したような空間が広がる。

 その中でシュウジに声をかけた者に踵を返して振り向けば、そこには廃墟に腕を組んで寄りかかっているサクヤがいた。

 

「ですが、少しずつで再興が進み世界に栄華が取り戻されつつあります。いずれここにもその時が来るでしょう」

 

 しかしサクヤ一人と言いうわけではなかった。

 そのサクヤの傍らには人目を引くような美しい銀髪を持つ青年が立っている。彼の名前はアレク・ミナット。シュウジやサクヤ同様、シャッフルの紋章を持つ者の一人だ。

 

「アレク……」

「お久しぶりです、シュウジ」

 

 初めて会った時以来、これまでに何回かは会っているが、別の世界に向かうようになってからはこうして再会するのは久しぶりだろう。驚いているシュウジに己の胸に手を置き、柔和に微笑む。

 

「サクヤから思い悩んでいたと聞きましたよ。しかし答えが出たとか」

「ああ。我ながららしくねぇ事を悩んでたぜ」

 

 ずっと悩んでいた。

 去りゆく自分がなにを残せるのかと。だがその答えはようやく見つかった。簡単なことだ。自分は自分らしく生きればいいのだと。

 

「……たまに考える事があるんだ。もしかしたら戦争がない世界がどこかにあって、争いも何も知らない俺達が住んでいる世界がどこかにあるんじゃないかな、って……」

 

 一矢達の世界は自分達の世界とは違い、争いとは無縁の世界だ。

 戦いに身を置いていた自分が、そこにいる人々と触れ合っていると思わず、もしもの自分なんてものを考えてしまうのだ。きっとその世界があったのなら業火で両親や友人、家、全てを失う事もサクヤと引き剥がされる事もなかっただろう。

 

「……けどそんな世界にいる俺はここにいる俺とは違う。これまでがあったから今の俺がある。どんな世界であろうがここにいる俺と同じ存在はいないんだ」

 

 だが争いがあったから、今の自分がいる。

 戦いばかりの人生であったが、そこから学んだ事が今の自分を形成しているのだ。もしもの自分がいたとしても、どれだけの世界があったとしても今、この場に立っている自分は一人しかいないのだ。

 

「それに悪いだけの人生じゃなかったぜ。かけがえのない仲間達にも出会えた」

 

 そして争いがあったからこそ、こんな矛盾だらけの世界だからこそ出会えた存在がある。ヴェルやカガミ、ショウマ達、ルル達アークエンジェルのクルーをはじめ、シャッフル同盟の面々。そして翔や異世界の人々。失うだけではなかったのだ。

 

「行きなよ、シュウジ。お前を呼ぶ声が聞こえる筈だ。お前をまだ必要とする奴がいる」

「貴方が私達に見せてくれた輝きを、前に進む力を見せてあげてください」

 

 シュウジの言葉の偽りのない言葉にどこか嬉しそうに表情を綻ばせるサクヤとアレクだが、まだシュウジにはこの世界以外ですべき事がまだある筈だ。

 

「ですが、今のようにたまには戻ってきてくださいね。姫様も他のシャッフルの面々も貴方に会いたがっていましたよ」

「当たり前だろ。どんなに世界があろうとそこは俺の世界にはなれない。この世界こそが俺の世界なんだからな」

 

 もうシュウジは再び旅立つのだろう。

 また次の再会はもっと先の事になるのかもしれない。

 別の世界にシュウジを必要とする者がいたとしても、この世界にだってシュウジを必要とする者がいるのだ。シュウジがいくら世界を渡り歩こうが、最後に帰る世界はこの世界しかないのだ。

 

「すすめ、シュウジ」

 

 どれだけ荒廃しようと花は咲く。

 簡単に吹き飛ぶのかもしれない。でも確かに根を張り、美しく咲いているのだ。

 シュウジはそんな花を一瞥しながら「じゃあな」と踵を返してこの場から歩きだす。無限の時間の中で無限じゃないこの自分の時間に自分だけが出来る事をする為に。

 

 サクヤはQueen The Spadeの紋章を浮かび上がらせると共に見送ると、アレクの手の甲にもClub Aceの紋章が浮かび上がる。どれだけ離れていても自分達は繋がっているんだとばかりに。

 

 ・・・

 

「ほら、どうした? 今日はお前から頼んで来たんだろ」

 

 数日後、シュウジは一矢を相手に土手で覇王不敗流の稽古をつけていた。

 尻もちをつく一矢にシュウジは親指で鼻先を軽く撫でると「起きろ」とばかりに指を引く。

 

 というのも今日に関しては一矢たっての頼みなのだ。

 どうやらあのテストプレイでシュウジが最後に見せた戦いが一矢の良い刺激になったのだろう。少しでもシュウジに近づき、己の糧にしようとこうしてシュウジに学んでいるのだ。テストプレイも結局、あの後中止となりサイバー攻撃やウイルスの出所などを調査中とのことだ。あの広大なステージは魅力的だが、まだ先の事となりそうだ。

 

「そんなんじゃ俺を越えるのなんて二万年早いぜ」

「二万年も待てるかよ……」

 

 言葉ではそういうものの一矢の成長を感じて、シュウジは軽く笑う。

 もっとも一矢はその笑みの意味が分からず、何とか立ち上がろうとする。

 

「──シュウジさん、一矢君っ!!」

 

 再び再開しようとする二人であったが、その前に遠巻きに横から声がかかる。

 見やればミサがこちらに手を振りながら駆け寄って来ていた。

 

「実はシュウジさんにお願い事があって……」

 

 どうやら用があるのはシュウジらしい。

 可愛らしく両手を合わせながら何か頼もうとするミサに訳が分からぬままシュウジはその話に耳を傾ける。

 

 ・・・

 

「えっと、ミサちゃん……。やっぱり恥ずかしいよ……」

 

 数日後、ヴェルはミサに手を引かれてとある写真館の前に訪れていた。

 ここは衣装のレンタルも行うそれなりに大きな写真館だ。写真を撮る予定でもあるのだろう。しかし妙に頬を染め、どこか恥じらった様子だ。

 

「大丈夫ですって! シュウジさんにも声はかけましたし!」

「だ、だからそれが恥ずかしいんだって! 私、その……一人でする予定だったし……」

 

 そんなヴェルを安心させるようにシュウジの事に触れると、寧ろシュウジが問題なのか、ヴェルは中々写真館に入ろうとはしないがミサに半ば強引に連れて行かれてしまう。

 

 ・・・

 

「馬子にも衣装ね」

 

 数時間後、写真館では翔や一矢などシュウジ達に関係する者達が集まっており、フォトスタジオではカガミがシュウジの格好を見やりながら、からかうように話しかける。

 

「あんまり着慣れたもんじゃねぇな……」

 

 シュウジはと言うと、何とも珍しくブラックのフロックコートを着用しているではないか。しかし言葉通り、スーツの類自体着慣れていないのだろう。襟元を緩めようとしている。

 

「しかし随分、面白いことになったな」

「……ミサに頼まれたんですよ。まぁ別に写真を撮るくらいは構いやしないんですけど……」

 

 翔も息苦しそうにしているシュウジに苦笑をしながら声をかける。

 ここにいる時点でこれから行われる事を聞いているのだろう。それはシュウジも同じようで、そうは言うもののどこか気恥ずかしそうだ。

 

「みんな、ヴェルさんが来るよっ!!」

 

 するとフォトスタジオにミサが心底楽しそうに駆け込んでくる。

 今回の主役ともいえるヴェルが来ると言う事もあり、一同はこれからヴェルが現れるであろう入り口に目をやる。

 

「あの……っ……皆さん……そ、そのっ……!」

 

 おずおずとヴェルがフォトスタジオに足を踏み入れ、ヴェルの姿を見た一同は「おぉっ」と感嘆したように息を飲んでいる。

 今のヴェルは専用のスタッフによるメイクが施され、その身も肩や背を露出させた純白のドレスに包まれている。

 花嫁の象徴ともいえるウェディングドレスに身を包んだヴェルは頬を染め、実に初々しさを見せていた。

 

「どう、シュウジさんっ」

 

 その場にいる者達が口々に「綺麗だ」「美しい」とウェディングドレスを纏ったヴェルを称賛するなか、本命にとばかりにミサがシュウジに声をかける。

 

「き、綺麗ですよ。今まで見た何よりも……」

「あ、ありがとうっ……」

 

 当のシュウジはヴェルのウェディングドレス姿に見惚れていたのだろう。

 ミサに声をかけられ、ピクリと反応すると気恥ずかしそうに指先で頬をかきながら、自分なりの感想を口にするとヴェルもヴェルでシュウジの偽りない言葉に耳まで染め、か細い声で礼を言う。

 

「そ、その……。ごめんね……。私一人でするつもりだったんだけど……」

 

 恥じらいながらもシュウジに迷惑をかけたと謝る。

 元々、言葉通りこの写真館で一人で撮るつもりであった。

 巷で時折聞くソロウェディングという奴だ。たまたま居合わせた結婚式でブーケを受け取った際に美しい花嫁の姿を見て、憧れてしまった。

 

 自分は戦いに身を置いている。

 ウェディングドレスなんて着れる日があるかどうかも分からない。

 だから着れるうちに着てみたい。そう思って企画したものであった。だがミサに知られてしまって、シュウジまで巻き込んでしまった。

 

「いや、俺は別に……。寧ろ俺で良かったんですか?」

「うん……。誰かと撮るならシュウジ君がいいな……。シュウジ君以外に考えられないよ」

 

 写真を撮る準備が行われる中、二人の指示された位置に移動しながらシュウジは自分で良かったのかと尋ねる。

 正直、フロックコートも着慣れていないし、折角の写真なのだ。

 もっと似合う存在がいるだろう。だがヴェルはシュウジだからこそ良かったと頷く。もし誰かと撮るにせよ、誰でも良いと言うわけではないのだ。

 

「綺麗ね……」

「憧れますよね……」

 

 ヴェルの花嫁姿を見ながら、レーアとルルが翔を挟んで羨望の眼差しを送っている。

 レーアやルルだけではなく、近くにはカガミも物言いたげに翔をちらちらと見ており、翔も何とも言えない様子だ。

 

(……まぁでも俺も考えても良い頃かもな……)

 

 異世界から戻って来てから、ずっとエヴェイユに悩まされており、恋愛も何もまともに考える事は出来なかった。今はエヴェイユを越えた存在となった為に余裕も出来ている。自分もいい年だ。そろそろ身を固める事も考えていいかもしれない。

 

「いよいよっすね……」

「う、うん……」

 

 写真を撮る準備が整いつつある。

 それを察してシュウジとヴェルは傍らに寄り添い合いながらも何とも緊張した面持ちで息を呑む。カメラマンからの指示を受けながら、二人は何とか緊張を解して写真を撮る。

 

「そういや、結婚式って誓いの言葉ってありますよね。あれ最後まで俺、知らないんですよ」

「”健やかなる時も病める時も喜びの時も悲しみの時も富める時も貧しい時も、これを愛しこれを敬いこれを慰めこれを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか”……。だったかな……」

 

 まだ何枚か写真を撮る。

 その間にシュウジがふと、誓いの言葉についての話題を出す。

 誓いの言葉と言えば、健やかなる時も病める時も~から続く言葉だが、シュウジはそれより先を知らない。そんなシュウジの疑問にヴェルはふと視線を伏せながら誓いの言葉を口にする。

 

「……ねぇシュウジ君」

 

 あぁそう言えばそんな言葉だったかな、と考えていたシュウジであったが、不意にヴェルに声をかけられて顔を向ければ……。

 

 

 

 

 

 

「君になら……誓えるよ」

 

 

 

 

 

 恥じらって頬を染めながらも、幸せそうに目を細めてはにかんだ笑みも見せながらシュウジに答える。そのあまりに魅力的なヴェルの姿にシュウジは胸が高鳴ったのを感じたと思えば、途端に顔を真っ赤に染め惚けてしまっている。

 

 自分が今、口にした言葉がどれだけの意味を持つ言葉であるか分かっているのだろう。

 ヴェルもヴェルでより一層、赤くなっているが、そんな自分の胸を打つ激しい鼓動を感じ取らせるようにシュウジの腕に己の腕を絡ませて身を寄せる。

 

「最後は皆さんで撮りませんか?」

 

 写真撮影も瞬く間に過ぎていき、最後の一枚となってしまった。

 どうせならばここにいる皆で撮りたいとヴェルがミサ達に声をかけると、みんな笑顔でシュウジとヴェルを中心に集まる。

 

「ヴェルさん、本当に綺麗ですっ」

「ありがとう、ミサちゃん。ミサちゃんはちゃんと式で着るんだよ」

 

 ヴェルの隣に立ちながら、近くで改めてヴェルを見て称賛するミサに幸せそうに微笑んだヴェルはシュウジの隣で何か会話をしている一矢を見やりながら話すと、途端にミサも顔を染める。そんな中、異世界同士の人間達によるかけがえのない一枚が撮られるのであった……。




ひとまずこれでシュウジ達をメインにしたゴッド編は終了です。以前、完結へのプロローグと書きましたが、いずれ来るべき時のシュウジ達と一矢達の話があります。

次回もまたちょっとした番外編ですが、そちらは三話程度です。それが終わればいよいよ世界大会編です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30000UA記念小説
ふたりのまほう


 彼と初めて出会った時の事は今でも覚えている。

 

 目が眩むほどに眩しくて私の視界全てを奪うほどの一線を越えた力。

 

 思えば私はこの時から、彼に心を奪われていたのかもしれない。

 

 

「……なんか用?」

 

 

 これが私、垣沼真実と雨宮一矢の始まり。

 

 これから話させるのは彼にとって0とも言えるお話し。

 

 

 ・・・

 

 私立聖皇学園は創立してから、まだ五年も経っていないほど日が浅い。校舎内の備品の数々も年季という言葉が程遠いほど傷も少ない。春の温かな陽気も相まって中々心地の良いスクールライフが送れる。

 

「はぁっ……どうしよっ……」

 

 ……のだが、私、垣沼真実の心はとても寒い。開かれた窓から風が差し込めば、体だけではなく心まで震えさせてしまうほどだ。思わず口からは溜息交じりの憂鬱な言葉が出てきてしまう。

 

「夕香ーっ、帰りにクレープ食べに行こうよ、駅前に来てるんだって」

 

 そんな私の心など知ってか知らずか周囲は会話を弾ませている。

 それもそうかな。だって二学年とはいえ、別に仲が良い訳でもないのだから。

 

「クレープねぇ……。カラオケに誘われてるし、その後なら良いよ。ってか、裕喜も来る?」

「行く行くっ!」

 

 クラスには中心人物となる人間が必ずいる。

 私のクラスでは、常に誰かしらが傍にいるであろう彼女、雨宮夕香だろう。

 ゆるふわな茶髪のセミロングに、真紅の瞳はとても目を引く。毎日、黒を基調にしたブレザーの制服は日によって着こなしが変わっており、同じ制服を着ているとは思えないほど、外見も合わさってとっても可愛らしい。

 

 まさに今時の女子高生と言う言葉が似合う彼女は常に飄々としており、クラスであそこまでの輪がある程、人気がある割には掴みどころがない。今も机に腰掛けて、短く履いたスカートから時折、覗かせる健康的な白い太ももは男子にとって刺激が強いのだろう。チラチラと視線が集まっているのを感じる。可愛らしい外見だけではなく、無意識に人を惑わす仕草など小悪魔という言葉が似合う。

 

「やー、まなみん。随分、難しい顔してるね」

 

 そんな小悪魔は私に声をかけてくる。

 彼女はこうやって気ままに話しかけてくるのだ。

 もっとも彼女は分け隔てなく誰に対しても接してくるため、とても話しやすい。私も例外ではなく、少なからず私は彼女を友達だと思っている。

 

「……うん。実はね、ガンプラ部が成果を出せてないから廃部もあり得るって」

「ありゃぁ……ソイツは大変だ」

 

 私の心を寒がらせる原因。

 それは私が一年の頃から所属しているガンプラ部についてだ。

 もはや地球規模で大流行しているガンプラブームはガンプラバトルが火付け役となっており、毎年多くの大会が開かれている。当然、大会ともなれば質の高いファイター達が集まっており、創立から存在するガンプラ部だが、万年負け続きでいよいよ廃部の危機に陥っていた。もっともガンプラに特に興味のなさそうな夕香の反応はまさに他人事でしかないわけだけど。

 

「……そう言えば、夕香ってさ。その……お兄さんもガンプラバトルやってるって聞いたんだけど……」

「やってるよ。もしかしてイッチを勧誘すんの?」

 

 夕香と話していると、彼女の双子である男の子が浮かんでくる。

 実際にガンプラバトルをやっているところを見た訳ではないけど、ふとそんな話を聞いた事があった。私はそのまま窓際を見やる。

 

「……」

 

 雨宮一矢。夕香の双子である彼は夕香とは対照的に一人でいる事が多い。

 今も窓際の自分の机で何をするわけでもなく頬杖をついて窓の外を見ている。しかし目の前の夕香の双子と言うだけあって、整った精悍な顔立ちは女子受けは高く、クラスの男子の外見の話ともなれば名前が必ず出てくるくらいだ。

 

 日差しに照らされ、吹く風が彼の髪を撫でるなか、ただ頬杖をついて窓の外を見ている。たったそれだけなのにまるで神聖なものを見ているかのような錯覚を味わう。まさに絵になっているのだ。

 

 お陰で彼に声をかける者は少なく、元々人とのコミニケーションを取ろうとしない彼は一人でいる印象しかない。小悪魔が夕香の評価なら、彼の評価はミステリアスと言ったところか。夕香はその評価を聞くたびに爆笑して否定するけど、そう思わせる魅力はあると思う。だって今もなにを考えているか分からないのだから

 

(……お腹空いた)

 

 本当になにを考えているのかな……?

 

「まぁイッチが強いかどうかは分からないけど、暇な時はゲーセンにいるから気になるんなら行ってみれば?」

 

 夕香に横からまた声をかけられてピクリと震えてしまった。

 べ、別に雨宮君に見惚れていた訳じゃないし、少し見てただけだし……。まぁでも夕香の言う通りなのかもしれない。今は藁にも縋りたい想いなんだから、彼が強ければ強いに越したことはない。

 

 ・・・

 

 ……と思っていた訳なんだけど、いざゲーセンでモニターに映る彼のバトルを見たら私は圧倒されてしまった。正直な話。私なんかよりも断然強いと言ったって過言ではなかった。

 

「あのっ……」

 

 鮮やかなバトルは瞬く間に過ぎていき、シミュレーターから出てきた雨宮君と目が合い、私は思わず声をかけてしまった。一応、クラスメイトであるという認識はあるのか、私の顔を見て立ち止まってくれた。

 

「……なんか用?」

 

 会話も何もなくただゲームセンターの雑多音だけが耳に入るなか、人の顔だけ見て何も言ってこない事に雨宮君は顔を顰めながら、初めて私に口を開いてくれた。

 

「と、突然、ごめんね……。あのっ……凄い強いんだね……」

 

 いざ面と向かってしまうと、言うべきことは分かっていてもどうにもすぐに言葉は出てこなかった。けど雨宮君は褒められる事には慣れていないのか、そっぽを向いて照れ臭そうに頬をかいていた。

 

「その……良かったらガンプラ部に入部してみない……?ガンプラ部は今、廃部の危機なの……。雨宮君が良かったら……」

 

 そんな雨宮君が子供みたいで可愛らしくて、少し私の中の緊張が解れていった。

 落ち着いた私はそのまま雨宮君を勧誘する。あれだけ強いのなら申し分なんてないし、確か雨宮君は部活にも入ってなかった記憶がある。彼と一緒にバトルをすれば見た事ない場所に連れて行ってくれるってそう感じた。

 

「……良いよ。前々から気にはなってたし」

 

 雨宮君が一体、どんな性格なのか、正直分からない。

 その気だるげな瞳から得られる情報は正直に言えば、断られるかもしれないという不安さ。けど、そんな不安を彼自らの口で消し去ってくれた。

 

「い、良いの……!? 今まで入ってなかったからガンプラ部に興味はなかったのかなって……」

「……人付き合い上手くないし……」

 

 この二年間、雨宮君がガンプラ部に立ち寄った事はなかった。

 だからすんなりと受け入れてくれたのは予想外だった。思わず聞き返すタラ、雨宮君はまたそっぽを向きながら、ばつの悪そうに顔をしていた。

 

「それじゃあ……よろしくね」

「……ん」

 

 それが何だか可愛らしくてクラスでの評価なんて当てにならないのを感じながら私は知らず知らずに微笑みながら、雨宮君に手を伸ばす。

 今までそっぽを向いていた雨宮君だけど、静かにこちらの手を握り返してくれた。雨宮君の手がとっても暖かかったの今でも覚えてる。

 

 雨宮君がガンプラ部に入部してからと言うもの、ガンプラ部は劇的に変化していっていた。なんせ万年負け続きのガンプラ部が縁がなかった勝利勝利の連勝を続けて行ったのだから。まるで未来を導く光のようにとても眩しい存在であった。

 

「流石だよな、雨宮」

「ホントこの調子で頼むな」

 

 雨宮君をレギュラーメンバーに加えた聖皇学園ガンプラチームはいつもは予選落ちも珍しくないタウンカップも優勝した。やはり立役者ともいえる雨宮君はガンプラ部での地位もあっと言う間に築いていき、それに伴って周囲の期待は大きくなっていった。

 

「……今回はきつかったな」

 

 リージョンカップもまさに破竹の勢いで優勝する事が出来た。

 リージョンカップなんて出場する事もなかったガンプラ部は勿論、大喜び。ささやかな祝勝会が行われる中、雨宮君はふと小さくポツリとこぼす。確かに一緒に出場していたけれども、やはり苦戦はして何とか掴み取った優勝だった。

 

「なに言ってんだよ。雨宮なら当然でしょ!」

「俺達雨宮には期待してんだぜ!」

 

 それでも周りはそんな雨宮の言葉もまさに言葉通り、何を言っているんだとばかりに笑い一蹴した。ここで雨宮君が苦しそうに顔を顰めたのを覚えてる。

 

「これからも頑張ろうねっ」

「……そう」

 

 でも、私は廃部の危機に瀕していたガンプラ部が日本一を決めるジャパンカップまでこぎ着けたっていうドラマみたいな現実に目を眩んで、雨宮君なら見た事がない景色に連れてってくれるってそんな雨宮君の小さな変化に気づかなかった。

 いくら眩しい光と言えど、影はあるんだって事に。この時、雨宮君の心中を察する事が出来ていたのなら、今が変わっていたのかもしれない。

 

 ・・・

 

「ねぇ、まなみん」

 

 ジャパンカップの期間に入ってからと言うもの、みんなが目指すのは優勝という栄光しかなく、それだけ雨宮君への期待が大きくなっていった。そんな日々が過ぎて行く中、ふと夕香が私に声をかけて来た。

 

「最近、イッチの様子がおかしいんだけど……なにかあった?」

 

 雨宮君は何を考えているか分からない時が結構あるけど、やっぱり双子の夕香には何か感じるものがあるみたいで、不意にそんな事を聞かれてしまった。様子がおかしいと言われ、すぐにはピンと来なかったけど、でもそれまで少なからず見せていた楽しそうにガンプラと接する雨宮君の顔は見なくなってきたのは感じて来た。

 

「やっぱりジャパンカップだからじゃない、かな……? でも、みんな、雨宮君に凄い期待してるんだよ?雨宮君がいればジャパンカップは優勝出来るって!雨宮君だったら、もっと前に連れてってくれるって!」

 

 でも私は雨宮君が抱えているものも分からなかった。

 きっとジャパンカップを前に緊張しているのかもしれない。ただ浅はかにそんな事を考えていた。

 

「……期待するのは良いけど、程度が過ぎるのはあんまり良くないと思うよ」

 

 私の言葉に夕香は何か察したようだった。でも、この時の私には察せなかった。

 

 ・・・

 

「雨宮君……?」

 

 ジャパンカップは瞬く間に過ぎていき、ついに決勝の前日となった。

 ガンプラ部はそれはもう優勝を目の前にして雨宮君に機体の言葉を投げかけた。けど雨宮君は余裕もないほどいつも苦しそうな顔をしていて、応援に来ていたガンプラ部の集まりには来ないで、一人で過ごすことが多くなっていった。

 

 流石にそこまで行けば、私だって雨宮君の異変に気付く。

 決勝前日はトーナメントも何もない会場を好きに散策できる日だ。私は一人で過ごしている雨宮君を探した。何て言えば良いかは分からなかったけど、それでも何かしたくて。だって雨宮君を勧誘したのは私だから。

 

「……ごめんね、イッチ。アタシ……イッチが苦しんでるのに気づけなかった」

 

 この広い会場で雨宮君を探すのは難しく、探し始めてから数時間後、ようやく見つける事が出来た。なにせ連絡が取れないのだからあちこちを駆けまわっていた。

 雨宮君がいたのは休憩所となっている公共のスペースだった。その隣では夕香が座っていて、その言葉に私はその輪に入れず、遠巻きで話を聞くだけになってしまった。

 

「……別に良いよ。こんな事、誰に言えば良いかどうすれば良いかも分からなかったし……。それにこれが終われば、少しは周りの期待からも楽にはなれるでしょ」

「イッチ……」

「おかしな話だよな。好きで楽しいと思ってる事やってる筈なのに、楽になりたいなんて……」

 

 ここで私は初めて雨宮君の想いに触れた。

 鈍器で殴られたような鈍い衝撃と共に眩暈がして足がふらついた。同時に自分がどれだけ愚かであったかも嫌でも自覚してしまった。

 

「疲れた」

 

 私は馬鹿な女だ。

 劇的な快進撃と目先の栄光に目が眩んで、隣に立っていた雨宮君の苦しみに気づけなかった。

 この時、ようやく夕香の言葉の意味が理解できた。

 夕香の言葉通りなのに、期待が行き過ぎれば、重圧にしかならないということに気づけなかった。私は彼がいれば大丈夫なんて勝手に思って、寄り添う事を忘れてしまっていた。

 

 翌日、ジャパンカップで執り行わられた決勝に私達は負けた。

 雨宮君は最後まで戦ったけど、力及ばず負けてしまった。優勝を目前にしていただけあって、この敗亡はガンプラ部に大きな落胆を与えた。

 

「雨宮が負けた」

「雨宮なら勝てると思ってた」

「雨宮だったらって信じてた」

 

 そんな言葉が次々にあがった。

 彼らの口から出た言葉に深い意味はない。だからこそ軽い気持ちで放たれた言葉の数々が重くのしかかる事も知らない。

 

「あ、雨宮君は精一杯やってくれたよっ! 私達が弱かったから……」

「そうだな……」

 

 一人が抜き出た力を見せれば注目は集まり期待も寄せられる。

 彼が見せる光が強すぎたのだ。彼は何も悪くないし、十分すぎる活躍をしてくれた。これ以上、彼にとっての重圧の言葉は必要ない。だから私は声を大にして叫んだけど、ちゃんと同意してくれたのは一緒にチームを組んでいた舟木だけだった。

 

「……」

「ま、待って!」

 

 雨宮君は一人、席を立ってガンプラ部の部室から出て行った。

 私は胸騒ぎを感じながら、その後を追い、彼が向かったのは屋上であった。フェンスを前にする彼の表情は伺えない。

 

「……ごめんね、雨宮君……。私が……誘ったりなんかしたから……」

「……別に謝る事じゃないでしょ。それにもうお終いだし」

 

 ただ謝りたかった。勝手な期待を寄せた事も、そのせいで苦しませてしまった事も。

 けど、雨宮君は口から出てきたのは終わりの言葉。ずっと懐に隠していたのだろう。振り向いた彼は私に退部届を向けていた。

 

「ごめん、俺、期待に応えられるような人間じゃなかった。廃部は免れるみたいだし、もう良いよね?」

 

 どこか解放されたような、そんな悲しい微笑みを向けられてしまっては私はもう何も言う事は出来なかった。確かにジャパンカップの出場は学校側にも目が留まり当面の廃部は免れたようだ。震える手で退部届を受け取った私に「じゃあね」って私を置いて雨宮君は屋上から去っていった。

 

「ごめん……。ごめんね……。ごめんっ……なさい……っ……!!」

 

 退部届を胸に私はその場で蹲って嗚咽交じりにもう届かない雨宮君に謝罪の言葉を口にしていた。何で簡単な事に気づけなかったんだろう。彼に必要なのは期待なんかじゃなくて、心の支えだったと言うのに。後に残ったのは罪悪感。私が彼を誘わなければ、こうはならなかったのに。

 

「強くならなくちゃ……」

 

 私はまた勘違いをしてしまった。

 心の支えと言うものは雨宮君の肩を並べられるだけの強さを得る事が出来れば、誰の目にも頼もしい味方になれると。

 

「……いや……この前、雨宮が知らない女とチームを組んでる所に居合わせたんだ。あんまり雨宮のこと知らないから声かけなかったけど……。リージョンカップにも出てくるんじゃない?」

 

 雨宮君を抜きに自分達の実力だけでリージョンカップを出場できるようになり、そんな中で私は雨宮君が新しくチームを組んだことを知った。興味があった。重圧を感じて行った彼がどんなチームを組んだのかと。

 

「……何か弱味でも握られてるの? そうでしょ……? そうだよね? 雨宮君が強くもない人と組む理由なんてないでしょ……!?」

 

 でも、正直に言えば、当時のミサちゃんは弱かった。それこそ私が雨宮君とチームを組んでいたころよりもずっと。だからこそ理解が出来なかった。弱い存在が雨宮君の傍らにいられるのが。

 

「……俺は別に弱みなんて握られてないし、自分の意志でコイツと一緒にいる。それにコイツの事、なにも知らないのに弱い弱い言わないでくんない……?凄いムカつくんだけど……。コイツは強いよ……。俺なんかよりもずっと……。ガンプラバトルが強いだけだったら俺はコイツとは一緒にいない。リージョンカップに聖皇学園も出るってのは知ってる……。そこで見せてあげるよ」

 

 今にして思えば酷いものだ。強さだけで判断してなんでミサちゃんを選んだのか考えもしなかった。だからこそ初めて雨宮君の逆鱗に触れてしまった。それでも当時の私は強ささえあればって言う妄執に囚われ、その言葉を理解できなかった。

 

「一矢君がチームに欲しがってたのは依存じゃなくて支えだよッ! それに気づけないなら私は負けないっ!!」

 

 でも、いざリージョンカップの舞台でミサちゃんとバトルをしてようやく分かった。

 

「一矢君は一方的な期待を押し付けられるのが嫌でそんな期待に応えられる自信がない自分も嫌で……だからチームから離れた。信頼する事と依存する事は違うんだよ……。私は一矢君がもっと前に連れて行ってくれるとは思わない……。だって一矢君と……そして彩渡商店街ガンプラチームとして一緒に前に進むから!」

 

 私の中の強くなればいいなんて考えは脆く簡単に崩れてしまった。

 

 なんでミサちゃんのようにその心に寄り添えなかったんだろう。雨宮君なら見た事ない場所に連れて行ってくれるって彼に期待を寄せるだけ寄せてしまった。遅くたっていい。共に肩を並べ、支え合って進み苦楽を共にするという仲間の本質さえ見失ってしまっていた。

 

 私は自分から雨宮君の傍にいる資格を失ってしまったんだ。

 

 ・・・

 

「……っ……。夢……?」

 

 目を覚ました。時間にしては朝の7時を過ぎた頃であり、まだ少し頭がぼーっとしてる。だけど先程まで見ていた夢は鮮明に覚えている。私にとって自分の愚行を思い出させる先程の夢は悪夢のように私の体を汗で濡らしていた。

 

「最近、雨宮君達のニュースをよく見るせいかな……?」

 

 軽くシャワーを浴びて汗ばんだ体を綺麗にする。今日は部活の都合で聖皇学園に向かう都合がある。私はいつも通り、髪をワンサイドアップに纏めると時間はまだあるから、携帯でネットニュースを開き、先程の夢を見た原因を探る。

 

「ミサちゃん……か……」

 

 ガンプラバトルのネットニュースは彩渡商店街チームの名を目にする事が多く、雨宮君と共に写真を撮っているミサちゃん達の姿がある。私の瞳は写真のミサちゃんに注がれる。

 

 ミサちゃんには学ばせてもらった。

 それと同時に雨宮君の隣にいるべきなのは彼女である事も痛いほど分かっている。分かってる……頭では理解できている筈なのに……。

 

「バカだよね、私……」

 

 それでも私も、って思ってしまう。

 頭ではミサちゃんが相応しいと理解していても、私の気持ちは引き下がる事が出来なかった。そんな浅ましい自分に自己嫌悪してしまう。だって分かってるんだ。雨宮君もミサちゃんが気になっているんだってことも……。

 

「好きって苦しいなぁっ……」

 

 不意にネットニュースの画面が滲む。彼にここまで心を惹かれなければ、チームメイト以上の感情を抱かなければ、ただ素直に応援できたって言うのに。

 最近、雨宮君にやたら過激なスキンシップを取ろうとしているのも私のキャラじゃないって言うのも分かってる。でも、そうでもしないと雨宮君の中から私と言う存在が簡単に消えてしまいそうで、怖いんだ……。だからあんな事をしてしまう。

 

「……学校行かないと」

 

 陰鬱な気持ちのまま、制服に着替えた私は鞄を取る。

 少なくとも何か行動をすれば、こんな気持ちから目を逸らすことが出来ると思ったから……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

BLAZING

「夏祭り……?」

 

 聖皇学園ガンプラ部の部室がやって来た真実が聞かれたのは、近々開催される夏祭りについてであった。

 

「おう、何か商店街の方で執り行われんだと。あそこの近くでタウンカップの会場もあったろ? だからガンプラバトルの催しもあるって話だ」

 

 作業スペースとして用意された長机に腰掛けながら拓也が鞄から取り出したのは近々行われる彩渡商店街近くでの夏祭りのチラシであった。

 拓也の説明を聞きながらチラシを受け取った真実が目を通すと、確かにチラシにはガンプラバトルの催しもあるとの記載がある。

 

「くじ引きで決めた三人組のチーム戦か……」

「やっぱ雨宮達が活躍してるからかな。あの商店街、少しずつ活気を取り戻しつつあるって話じゃねぇか」

 

 チラシに記載されている内容を読み上げる真実に、わざわざガンプラバトルの催しを行う事を踏み切ったのは一矢達彩渡商店街チームの活躍によって集客が見込めると言う判断からくるものだろうと拓也は笑う。

 

「それで、出るんだろ?」

「……えっ?」

「なにとぼけた顔してんだよ。雨宮だって出るだろ。ここの部の連中も出るって言ってるぜ。最も勇の野郎は家族旅行でしばらくいねぇみたいだけどな」

 

 表裏それぞれ捲りながらチラシの内容に目を通している真実に拓也が問いかける。出ると言うのは、勿論ガンプラバトルだろう。呆けた表情の真実に拓也が笑いながら周囲を見渡す。拓也の言葉通りなのだろう、思い思いにパーツを加工している部員の中にチーム内の勇の姿はない。

 

「今日の午後にくじ引きがあるらしいし、部のみんなで行こうぜ」

 

 壁時計を見やりながら、提案する拓也。確かにチラシに記載されている日にちに他の予定もないし、折角の夏祭りなのだ。参加するのも悪くはないだろう。真実はコクリと頷く。

 

 ・・・

 

「わりといるんだね……」

 

 チーム分けのくじ引きが行われる彩渡商店街のトイショップに向かう為、商店街の入り口となるアーチを潜りながら目的の場所に向かう。遠巻きでミサの実家でもあるトイショップが見えるわけだが、そのトイショップはくじ引きもあってか、混雑していた。

 

「あっ、真実ちゃんっ!」

 

 店頭で用意した長机でくじ引きの受付を行っていたのはミサとロボ太であった。真実達に気づいたミサは此方にブンブンと手を振ってくる。

 

「混んでるんだね」

「まぁね。でも、なんだか昔の商店街に少しずつ戻ってるみたいで嬉しいよ」

 

 ピークは越えているのだろう。順番待ちもそこそこにミサと話しながらトイショップ内に入店していき、中で見知った顔を見かける。

 夏祭りと言う事もあって人が行き交う商店街の様子を見ながら、ミサは嬉しそうに表情を綻ばせいた。

 

「私達もくじ引き、いいかな?」

「もちろんっ!」

 

 そんなミサの表情を見て、真実は微笑ましそうに目を細める。

 ミサがこの商店街に活気を取り戻すためにチームを結成したのは知っている。その効果は如実に表れていると言ってもいいだろう。真実の申し出にミサは笑顔で手作りの抽選箱を向ける。

 

 ・・・

 

「……なんで一緒なの?」

「いやいや、俺が聞きたいわっ!!」

 

 くじを引き終え、誰が自分のチームとなるのか、名簿などを見ている中、真実はくじの番号で同じになってしまった拓也に露骨に嫌そうにジトッとした目を向ける。

 折角、たまには違う人間と組めるチャンスなのに、これではさほど変わらないではないか。しかしそれは拓也とて同じなのか、理不尽だとばかりに叫ぶ。

 

「ん……? ちょっと待って。その番号は……」

 

 火花を散らしていがみ合っている真実と拓也であったが、ミサは真実達の番号を見て、不意に何かに気づいたように既にくじ引きを終えた参加者の名簿を見やる。そこにはくじの数字も記載され、備考欄には組むことになった相手の名前も記されている。

 

「うん、間違いない。その番号は一矢君と同じだよ」

「……っ!?」

 

 何度か照らし合わせるように真実達のくじと名簿を見ていたミサだが、確かなことを確認したように頷き、真実と拓也が一矢と同チームとなった事を告げる。

 運命のいたずらか、奇しくもかつての聖皇学園ガンプラチームが集まってしまい、真実は目を開く。

 

「あれ真実ちゃん、嬉しくないの?」

「えっ……?」

「そりゃお前……いつもなら……【キャーッ雨宮くぅーんっ! 私と人生のチームを組んでぇーっ】とか言ってそうじゃねぇか」

 

 驚いて、言葉を失っている真実に意外そうにミサが声をかける。

 唖然としている真実に横から己が思い描く一矢に対する真実の姿を真似しているのだろう。身をくねらせて話す拓也であったが、真実に無言でももの裏を蹴られて悶絶している。

 

「う、嬉しいよ……。勿論……」

 

 言葉とは裏腹に真実の表情は複雑そうだ。

 確かに嬉しいことに違いないが、やはり今朝見た夢の影響は強いのだろう。

 あの夢を見なければ、もっと反応が違ったのかもしれない。結局、その日、真実の様子は変わらぬまま解散となってしまう。

 

 ・・・

 

「雨宮君……」

 

 その夜、パジャマ姿の真実はベッドに身を預けながら、一矢の事を想う。

 かつてリージョンカップでミサ達に敗れた際、自分には一矢とチームを組む資格はないと実感しつつも、いつかは一矢とチームを組みたい……。そんな想いを漠然と抱いていた。しかしそれが現実となり、気持ちの整理がつかなかった。

 

【疲れた】

「……っ!」

 

 不意に脳裏にかつて一矢が口にした言葉が過り、真実は苦々しく顔を顰める。

 あんな事を言わせてしまった自分が一矢とチームを組んでしまって良いのだろうか。一矢の件に関して、いまだに自分を責め続ける彼女の中で葛藤が生まれる。

 

「……?」

 

 そんな中、ふと真実の携帯に着信が入る。

 何気なく見やれば相手は一矢であった。慌てて身を起こして、携帯の画面を見やる。どうやらメールによる連絡のようだ。

 

【夏祭りのバトル、楽しみにしてる】

 

 ミサから連絡を受けたのだろう。

 一矢から送られたメールはたったそれだけの文面であった。しかし、たったそれだけの文面で真実の肩は震える。

 

「……雨宮君が楽しみに……してくれてる……?」

 

 唇が震える。

 自分がこんなに悩んでいると言うのに、一矢は自分と共にバトルが出来る事を楽しみにしてくれているのだ。社交辞令のようなものなのかもしれない。いや一矢がそんなに気が使えるかは疑問だが、それでもこういったメールを送ってきてくれたのだ。

 

「だったら……いつまでも迷ってられないよね」

 

 一矢が折角、こう言ってくれているのだ。

 本当に一矢と一緒にチームを組んでいいのか何て悩んでいる場合ではない。自分が出来るのは、メールの文面のように一矢に、楽しんでもらう事だろう。

 

「……それに……あの頃とは違うから」

 

 いつまでも悩んでいたって正解なんて出てこない。

 でも、一矢を想うこの気持ちだけは嘘じゃない。それにもうあの頃とは違う。あれからずっと迷路に入ったような己の心は迷い続け、躓いて、出口を見失う事があったが、それでも出口となる答えに続くヒントは得て来たのだ。

 

 真実の視線の先には己の机の上に飾られているG‐リレーションが。しかしG‐リレーションの外見はかつてのリージョンカップの時とは大きく異なっていた。

 

 ・・・

 

「はぁー……やっぱり混んでるねー」

 

 夕暮れの夏祭り、多くの人で賑わう中、黒を基調に華やかな模様があしらわれた浴衣を着た夕香が周囲を見渡している。やはり夏祭りだけあって普段、商店街の方には来ない人々も来ているようだ。

 

「……で、取れるの?」

 

 そんな夕香の目の前には同じく青い模様が入った白の浴衣を着たシオンが露店の金魚すくいの前で屈んで、無数の金魚の姿をじっと目に捉えていた。

 

「金魚すくいなんてまずやった事ないでしょ。こーいうポイって破けやすいと思うけど」

「ふふんっ、わたくしの心明鏡止水 されどこの掌は烈火の如く、ですわっ!」

 

 シオンの手には器とポイが握られており、どうやら金魚すくいをやろうとしているようだ。出来るとは思っていない夕香に、シオンは自信満々に答え、真っ赤に燃えて轟き叫びそうな勢いで金魚が入った水槽にポイを入れる……のだが、すぐに破けた。

 

「ぴゃあああぁぁぁぁぁっっ!? なんでですのぉぉっ!!?」

「……そりゃ考えなしに烈火の如くやればそうなるでしょ」

 

 破けたポイを見ながら、信じられないとばかりに叫んでいるが、一方でやっぱり、こうなったかと夕香は嘆息するのだが、シオンは巾着から金を取り出そうとする。

 

「……まだやんの?」

「当たり前ですわ! 燃え上がれ闘志 忌まわしきポイを越えて、ですわっ!!」

 

 新しいポイを手に入れたシオンは今度こそと鼻息を荒くするなか、呆れたように見ている夕香を他所にシオンは今度は光って唸って輝き叫びそうな勢いで息巻く。

 

 ・・・

 

「……だいじょぶ?」

「……ふふっ……財布を殺した少女の翼という奴ですわ」

 

 数分後、夕香の隣を歩くシオンは虚ろな目であった。

 どうやら結局、あの後、金魚を取ることは出来なかったようだ。あまりの様子に夕香が話しかける。

 金魚すくいで使う額など高が知れてるが、それでもシオンは使う予定もなかった予想以上の出費をしたにも関わらず手に入らなかった事にそのまま自爆しそうな様子で心折れているようだ。

 

「夏祭りだからってはしゃぎ過ぎだっての……」

「おーい、夕香ちゃーん、シオンちゃーん!!」

 

 虚ろな目でふらふらとした足取りのシオンに夕香は思わず再び嘆息していると、先の方から呼び声が聞こえる。見やれば、此方に手を振ってくるミサの姿があった。

 

「もうすぐガンプラバトルが始まるよっ!」

「そういやそうだね。確かイッチはまなみん達とチームを組んでるんだよね。ってきりミサ姉さんは結構、複雑な感じなのかなって思ってたんだけど」

 

 どうやらミサは夕香達を呼びに来てくれたようだ。

 ガンプラバトルの会場まで並んで歩きながら、ふと夕香は一矢達の話題を出し、からかうようにミサを見る。

 真実が一矢に好意を寄せているのは一目瞭然。少なからず一矢を想っているであろうミサはさぞや複雑な心中だと考えていた夕香だが、どうにも今のミサにそのような様子は感じさせない。

 

「えっ? いやだって一矢君とはいつでも一緒にバトル出来るしね。寧ろどんなバトルになるのか楽しみだよ」

「流石正妻。余裕だね」

「せ、正妻!? ち、違うよ、そーいうんじゃ……!!」

 

 普段とは違う環境で一体、どんなバトルになるのか楽しみにしているミサであったが、夕香はくつくつと笑いながら悪戯っ子のような笑みを向けると、夕香の言葉に赤面したミサは否定しようとするが「まあまあ」と夕香のペースに飲まれてしまうのであった。

 

 ・・・

 

「こうして三人でバトルをすることになるたぁな」

 

 数分後、会場では多くのファイターが集まっており、チームを組むこととなった一矢、真実、拓也の三人は一か所に集まり、拓也がその手に新たなガンプラであるBD the.BLADE ASSAULTを握りながら感慨深そうに話すと二人は同意するように頷く。

 

「雨宮君……最高のチームにはなれないけど……でも、一緒にバトルがして良かったって思えるチームになるよう戦うから」

 

 一矢にとって最高のチームが何なのか分かっている。そしてそこにいる少女のことも……。自分は彼女には及ばない。だが、少なくとも過去とは違い、後悔させないチームとして全力を尽くすつもりだ。真実の言葉に一瞬、呆気に取られた一矢だが頷くと三人はシミュレーターに乗り込む。

 

「今なら……どこまでも行ける気がするから……」

 

 シミュレーターに乗り込んだ真実は新たに改修を施した新たなG‐リレーションをセットする。かつて一矢について行けばと思っていた。だが今は違う。

 

「恋を知ったんだもん……。どんなに迷って間違ったとしても、この気持ちだけは嘘じゃないから……っ!!」

 

 あの頃とは違い、未来導く光のように自分は迷ってばかりでもチームを支えられるくらいには成長したつもりだ。

 もう間違えるのは怖い。それでもこの想いと、今の自分なら正解でなくとも間違いは絶対に起こさないと信じているから。

 

「G‐リレーション パーフェクトパック行きますっ!!」

 

 マッチングが終了し、カタパルトが表示される。かつて何度も過ちを犯した。

 だけど、だからこそその過ちから学んで強くなったつもりだ。重心を落とし、真実流に施したパーフェクトパック装備のG‐リレーションは飛び出していくのであった。




ガンプラ名 G-リレーション パーフェクトパック
元にしたガンプラ Gセルフ

WEAPON ビームライフル(Gセルフ)
WEAPON ビームサーベル(Gセルフ)
HEAD ガンダムAGE-2
BODY Gセルフ
ARMS ケルディムガンダムGNHW/R
LEGS V2アサルトバスターガンダム
BACKPACK ダブルオーライザー
SHIELD シールド(AGE‐1)

また例によって活動報告の【ガンブレ小説の俺ガンダム】にマイハンガーのリンクが貼ってあります

<いただいた俺ガンダム>

八神優鬼さんからいただきました。

機体名 BD the.BLADE ASSAULT

ヘッド BD2・3号機
胴体 Zガンダム
手  F91
足  アストレイレッドフレーム改(2本の刀を初期装備)
バックパック GP03
武器 試製9.1m対艦刀 アトミックバズーカー  
オプション バックパックに双刀


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Gの閃光

 夏祭りのガンプラバトルのステージとなったのは夜空に満天の星空が輝く牧歌的な平原が広がるステージであった。遠くには牧場らしき建造物などが建っている。そんな戦いとは裏腹に思えるステージで激しいバトルが行われている。

 

 やはり一番に目を引くのは、ゲネシスブレイカーの存在であろう。GNソードⅤをソードモードにすれ違いざまにどんどんと敵機を斬り捨てる。

 

「流石だな……!」

 

 一騎当千のような戦いを見せるゲネシスブレイカーを操る一矢を称賛しながら、拓也も負けてられないとばかりに動く。BD the.BLADE ASSAULTは試製9.1m対艦刀を両手に持ち、その紅く塗装した刃を輝かせ、獅子奮迅の如き戦いを見せる。

 

「どうだ、雨宮っ!」

「……あの頃とは違うね」

 

 敵機を切り裂き、背後で爆発させながら一矢に誇る。

 自分だけではない、リージョンカップから時間も経ち、拓也もガンプラだけではなく、己の腕も磨き上げていたのだろう。こうして間近でその成長を感じられて一矢の口元に笑みがこぼれる。

 

「……なら、私もっ!」

 

 活躍するゲネシスブレイカーとBD the.BLADE ASSAULTの姿を間近で見て、触発されたかのように真実もペダルを踏み込む。一気に加速したG‐リレーションPは敵機を翻弄しつつ、ビームライフルで撃ち抜く。

 

「……ッ」

 

 かつてチームを組んでいた三機が夏祭りに相応しい華やかな活躍を見せる中、突然、ゲネシスブレイカーを狙った攻撃が迫る。しかし回避するには十分なのだろう。ゲネシスブレイカーは軽やかに機体を旋回させて回避した。

 

「見つけたぜ、雨宮ぁっ!」

 

 攻撃を仕掛けてきたのは、カマセであった。

 かつてタウンカップ決勝でバトルをしたティンセルガンダムはPGサイズからHGサイズになっており、一から作り直したのだろう。

 ティンセルの周囲には一輝のストライクチェスターと炎のブレイブカイザーがおり、どうやら彼ら三人はくじ引きで決まった一つのチームであるようだ。

 

「雨宮が目的みたいだな……」

「なんで、わざわざ……」

 

 エンカウントした事もあって、カマセが率いる三機は攻撃を仕掛けてくる。

 特にカマセのティンセルはゲネシスブレイカーに執拗に襲いかかってくることもあり、拓也の呟きに一矢は面倒臭そうにため息をつく。

 

「……随分としつこくない?」

「お前を倒せば、名前が広まるからな!」

 

 ゲネシスブレイカーのGNソードⅤとティンセルのGNソードⅢの刃がぶつかり合い、鍔迫り合いとなる。しつこく食い付いてくるティンセルを鬱陶しそうに冷ややかに見つめる一矢にカマセはプロのファイターになるという野望の為にゲネシスブレイカーを倒そうとする。

 

「……っ!?」

 

 ティンセルをあしらっていたゲネシスブレイカーであったが、センサーが反応を示す。その方向を見やれば、ストライクチェスターがフルオープンアタックの如く一斉射撃を放ってきたではないか。

 

「シールドピット……!?」

 

 しかし、ゲネシスブレイカーと迫る射撃の間に割って入ったのは無数の白いシールドピットであった。シールドピットが防いでくれた一瞬にゲネシスブレイカーはティンセルを蹴り飛ばして、上方に舞い上がる。

 

「垣沼……」

「あの頃とは違うよ。雨宮君だけに任せないから」

 

 上方にはシールドピットを放ったG‐リレーションPがゲネシスブレイカーを追撃しようとするティンセルにライフルで牽制していた。

 G‐リレーションPと並び立ちながら、一矢はG‐リレーションPを見やれば、G‐リレーションPのシミュレーター内の真実はゲネシスブレイカーを見やりながら微笑む。

 

「ああ、今の俺達は違うっ!!」

 

 真実の言葉に同意するように拓也が声を張り上げる。EXAMを発動させたBD the.BLADE ASSAULTもまた二振りの対艦刀でブレイブカイザーを相手に互角以上の剣戟を繰り広げていた。

 

「……なら、俺の背中、任せるよ」

「……っ!」

 

 真実と拓也の想いに触れた一矢は僅かに考えるように瞳を閉じていたが、やがてゆっくりと開くとスーパードラグーンを展開して、一気にティンセル達へと向かっていく。一矢の言葉を聞いた真実は心臓が跳ねるのを感じながら目を見開いた。

 

「……その言葉……ずっと聞きたかった」

 

 背中を任せる、一矢からこんな言葉を言われるのは、もう無縁だと思っていた。

 だが彼は確かに言ったのだ。間違いない、耳で聞き取り、確かに脳に刻み込まれている。一矢の言葉に真実の口元に笑みがこぼれるが、これで終わるわけではない。真実はすぐさまG‐リレーションPを動かす。

 

「うわっ!? なんだ、これぇっ!?」

 

 ティンセルの周囲に無数のスーパードラグーンが四方八方からけたたましくビームを放ち、ティンセルは咄嗟にGNフィールドを張るが、一気にエネルギーを消費されてしまう。

 

「援護しないといけないよな……ッ!」

「──させないっ!!」

 

 元々の実力差から追い詰められていくティンセルを見やり、一輝が援護しようとビームマグナムでゲネシスブレイカーを牽制しようとするが、その間にG‐リレーションPが割り込み、二本のビームサーベルを引き抜いてマニビュレーターを高速回転させ、シールド代わりにビームマグナムを防ぐ。

 

「トランザムならぁッ!!」

 

 装甲が削られ、追い詰められていくティンセルはトランザムを発動させる。

 機動力を得たティンセルは何とかスーパードラグーンを回避し始め、そのままゲネシスブレイカーへ反撃に転じようとする。

 

「……!」

 

 なにか対応しようとした時であった。

 不意にG‐リレーションPのカメラアイと目があった気がした。それを見て、何かを察知した一矢はそのまま後方へ大きく飛び退く。

 

「逃がすかッ!!」

「それはこっちの台詞っ!!」

 

 飛び退いたゲネシスブレイカーを追撃しようとするティンセルであったが、その前にG‐リレーションPが動いた。G‐リレーションPのフォトン装甲が輝き、そのまま周囲にフォトン・シールドの眩い光を放ち、近くにいたティンセルとストライクチェスターはスタン状態に陥る。

 

「動けよ、このぼんこつっ!!」

 

 必死に操縦桿を動かすカマセであったが、スタン状態のティンセルは動くことは出来ず、その隙にゲネシスブレイカーが一気に肉薄し、GNソードⅤの刃がGNソードⅢを持つ腕部ごと切り裂き、そのままサマーソルトキックの容量で宙に蹴り上げる。

 

「やるなっ!?」

「へへっ……たまや……ってなっ!!」

 

 BD the.BLADE ASSAULTとバトルをしていた炎は拓也の実力を素直に認めなるなか、宙に蹴り上げられたティンセルの姿を見た拓也のBD the.BLADE ASSAULTはアトミックバズーカを構え、ティンセルに向かって発射する。

 ティンセルに直撃した核の一撃は花火のように周囲に眩い光を照らし、観戦していた客達は感嘆の声を上げる。だが、これで終わるわけではない。バトルはまだまだ続いていくのであった。

 

 ・・・

 

「また一緒にバトルが出来ると思ってなかったから……嬉しかった」

 

 バトル終了後、まだまだ賑わう夏祭りの会場を遠巻きに見ながら、人気のない場所で真実は連れ出した一矢と先程のバトルを思い出して本当に楽しかったのか、晴れやかな笑みを浮かべている。

 

「あのね、雨宮君……。私、貴方に迷惑かけて、傷つけるような事ばっかりしてた。改めて……ごめんなさい」

 

 だが、わざわざ一矢を呼び出したのは、そんな事ではない。

 すぅっと息を吸った真実は一矢に向き合うと、真摯な様子で一矢の瞳を見つめ、謝罪の言葉を口にして頭を下げる。

 

「……頭、上げてよ。別にもう気にしてるわけじゃないし。いつまでも引き摺られた方が迷惑」

 

 真実の謝罪の内容はやはり、過去のチームを組んでいた事やリージョンカップでの件だろう。正直な話で言えば、今の今までこうして謝罪をされるまで頭の中から消えていた為、寧ろ今、こうして改めて謝られて一矢は困惑している。

 

「あの、ね……。それだけじゃないんだ」

 

 一矢が気にしていないと言われても自分の気持ちの整理がついていない。

 そういった意味でもあった先程の謝罪。だが、話は謝罪だけではないのか、真実は僅かに頬を紅潮させながら一矢を見据える。

 

「私、雨宮君の事が好きなんだ」

「……まぁ何となく分かるけど」

 

 真実の口から出た告白の言葉。

 しかし一矢からしてみれば、抱き着かれて匂いを嗅がれたりと今までが今までだった為、なにを今更と言わんばかりだ。

 

「そ、そうだよね……。でも、雨宮君の気持ちが聞いてみたくて……。その……私とお付き合いとか考えられないかな……って」

 

 今更ながら、自分の存在を誇示するためとはいえ、大胆な行動をしたものだ。

 思い出して恥ずかしそうに赤面する真実だが、自分だけではなく、一矢の自分に対する想いを尋ねる。

 

「……垣沼のことは嫌いじゃないよ。部活に誘ってくれた時は嬉しかったし……。でも、付き合うかどうかって言う話ならそれはまた別の話」

 

 今まで真実とは様々な事があった。

 確かに心傷けられる事はあったが、それだけではない。確かに楽しいと思える出来事の数々はあったのだ。だが、それでも真実と交際にするかと言われれば首を傾げてしまう。一矢は厳也や影二など親しい人間に彼女を持つ者もいて妬んではいるが、だからといって誰でも良い訳ではない。

 

「垣沼のことはやっぱり友達、なのかな……。ごめん、やっぱり垣沼の気持ちには応えられない」

 

 今まで真実の好意のまま好きにさせていたが、ここでハッキリと真実の好意には応えられないと口にする。これが良い機会なのかもしれない。

 

「そっ……か……。うん……それなら……っ……仕方ないよね……。分かってたんだ……っ……。雨宮君は……やっぱりミサちゃんが好きだもんね……」

 

 一矢が自分の気持ちに応えられないと言う事は分かっていた。

 分かっていたはずだ。なのに、何故だろう。一矢を見据える瞳は伏せ、目尻に涙が溜まる。胸がつまるような苦しい想いに身体は震えてしまう。

 

「分かるよ……。だって……雨宮君が抱いている想いは私が雨宮君に向けてる想いと似てるんだから」

 

 ミサの事を出されて、驚いている一矢に目尻の涙を拭いながら、それでも何とか笑顔を浮かべながら、一矢のミサへの想いについて話すと、流石に何も言えないのか、一矢は黙って真実の言葉に耳を傾ける。

 

「だからね……。雨宮君も自分の気持ちに正直になって欲しいんだ……。じゃないと……雨宮君のこと……諦めきれないよ……」

 

 いつまでも一矢がフラフラしていては諦められない。

 それはハッキリ言って酷と言うものだ。なら、一矢も一矢でその胸に抱く想いを実らせてほしい。好きな人だからこそ幸せになって欲しいという思いだってあるのだ。でないといつまでも引き摺ってしまう。

 

「ごめんね、雨宮君。最後のお願い……。抱きしめてもらって良いかな……?」

 

 僅かに迷うような素振りを見せていた一矢だが、真実の言葉にしっかりと頷く。

 彼女にここまでの事を言わせているのだ。確かにミサのの事は少なからず想っている。何もしなければわざわざ告白して来た彼女に無責任と言うものだ。頷いてくれた一矢に真実は抱擁を願う。一瞬、迷っていた一矢ではあったが、やがて承諾するように前に進み出る。

 

「うん……。忘れられないくらい……ぎゅっとして……」

 

 一矢の両腕が真実の華奢な体に回され、そのまま一矢の胸に抱き寄せられる。

 誰かを抱きしめるのなんてあまりなく、不器用ながらも何とか真実を抱きしめる一矢に真実は一矢を感じるようにしっかりと彼の背中に手を回す。

 

「ありがとう、雨宮君……っ……。もう、行って良いよ」

 

 どれくらい時間が経っただろうか。ふと真実が一矢から離れる。

 無意識なのだろう。泣き笑いのような表情を向けながら話す姿は、一人にして欲しいというニュアンスも含まれていた。それを察した一矢は頷いて、夏祭りの会場に戻っていく。

 

 ・・・

 

「まーなみん」

 

 一矢が去り、真実はそのまま近くの壁に背中を合わせ、そのままズルズルと座り込んでいる。両手で体を抱えて座り込んでいる真実にふと声をかけられる。ゆっくりと見上げて見れば、そこには夕香がいた。

 

「夕香……?」

「……アタシもね。ちょっと前に今のまなみんみたいな感じになった時、こうしてもらったんだ」

 

 今にも泣き出しそうな真実の顔を見た夕香はそのまま静かに身を屈めて、真実の体を抱きしめる。突然の事で戸惑っている真実に夕香はかつての事を思い出しながら、その耳元で話す。

 

「……今なら誰もまなみんの顔、見えないよ」

「……っ……」

 

 真実の顔を抱えて自身の胸に抱き寄せる。

 こうしていれば、真実がどんな顔をしようが誰にも見えない。

 だから我慢しなくていいのだと口にする夕香の優しい言葉と体温に触れて、真実は段々と嗚咽をあげて涙を流し始める。

 

「振られちゃった……っ……」

「うん……」

 

 夕香の胸に埋もれる真実の口から震える言葉が出て、夕香は静かに真実の背中を撫でながらその言葉に耳を傾ける。

 

「やっぱり好きって苦しいよ……っ……!!」

 

 初めての失恋とも言って良いかもしれない。

 実る可能性の少ない恋だと言うのは覚悟していたつもりだ。だがそれでも現実に実らないとはっきりしてしまえば、こんなに苦しかった。

 

「でも……苦しいだけじゃない……っ……。愛おしくて……温かくて……かけがえのないものなんだ……っ」

 

 だが決して苦しいだけじゃない。一矢を想っていたこの気持ちは何にも代えられないとても大切で愛おしい感情なのだ。

 

「うっ……くっ……ぁぁぁ……っっっ!!!」

 

 夕香の胸で声を押し殺したように真実がついに声を上げて泣き始める。夕香の浴衣を真実の涙が濡らすが、夕香はただ真実が落ち着くまで、彼女の背中を優しく繊細なものを扱うように撫で続ける。

 

 ・・・

 

「……ごめんね、夕香」

「アタシが好きでやった事だよ」

 

 涙を流して、目が腫れあがってしまった。

 夕香から借りたハンカチで涙を拭うなか、みっともない姿を見せてしまった事に謝る真実だが、夕香は気にしないでとばかりに笑う。

 

「……私、決めた。もう何かに囚われないで、誰かに、じゃなくて自分の足でもっともっと広い世界を見ようと思うんだ」

 

 夕香の隣に座っていた真実だが、気持ちの整理がついた事でようやく決心がついたのだろう。立ち上がって夕香に振り返る。

 

「広い世界を見て、視野を広げて……それで良い女になるっ! 今日、振った事を後悔させるくらいっ!」

 

 赤く腫れあがった目を擦り、曇り空を抜けたような晴れ晴れした笑みを見せる。

 その姿を見て、「今のまなみんならなれるよ」と夏祭りの活気に負けないくらいの輝かしい笑顔を向ける真実に夕香も笑みを交わすのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七章 誇りをぶつけろ いざ夢の舞台へ
再会


 宇宙エレベーター

 

 太平洋赤道上に浮かぶメガフロートから静止軌道ステーション。そして先端のカウンターウェイトへとテザーと呼ばれる糸でつながっている。人類が30年と言う時間を費やして作り上げた来たるべき宇宙時代への扉である。

 

≪ようこそ、宇宙エレベーターへ。私は宇宙エレベーターコントロールAIです≫

 

 その宇宙エレベーターが建造されたメガフロートは今、コントロールAIのアナウンスが流れるなか、ガンプラバトル世界大会の会場となっている。ここで勝ち進んだ者が静止軌道ステーションでの決勝に臨むことができる。

 

≪本大会の進行管理を任されることになりました。僅かな期間ですが、みなさまよろしくお願いします≫

「AIが大会の進行管理?」

「宇宙エレベーターは全てがAIがコントロールしてるんだ。カーゴの発着スケジュールからデブリ回避マニューバまでな。イベントスケジュールをインプットして、進行管理させてるんだろう」

 

 メガフロートには当然、彩渡商店街チームの姿もあり、AIが発した内容にミサが不思議に思いながら首を傾げていると、技術者として、宇宙エレベーターのあるこの場にいる事に興奮を感じさせながらカドマツが答えてくれる。教えてもらった宇宙エレベーターやコントロールAIについて、ミサは「ハイテクだねー……」と感嘆としている。

 

「──やあ来たね」

 

 そんなミサ達に声をかけてくる者がいた。

 その声を聞いた瞬間、感嘆としていたミサの表情が厳しいものとなり、そちらに視線を向ければウィル、そして傍らにはドロシーの姿があった。

 

「約束、守ってよね。商店街は絶対に潰させないから」

「……へぇ、お嬢さん。見違えたね」

 

 ここまで来るのに何もしてこなかった訳ではない。

 もうジャパンカップで何も出来なかったあの頃とは違うのだ。ウィルの目をまっすぐ見据えて静かながら強く言い放ったミサの面構えを見て、ウィルは僅かに驚いている。

 

「いや……思っていた以上に楽しくなりそうだ。行こう、ドロシー」

「はい、それでは皆さん。これから宇宙エレベーター見物がありますので」

 

 ウィルの言葉に今一つ意味が届いてはいなかったのか、不可解そうにしているミサに言葉通り楽しそうに口角を上げながら、ドロシーを引き連れて、この場を離れようとする……のだが、ドロシーの別れ際の言葉で何とも締まらない形となってしまった。

 

「は、わたくしこのような巨大建造物を前にして舞い上がっているようです」

 

 何とも言えない表情を向けているウィルに気づいたドロシーは心なしか僅かに声色に高揚を感じさせながら答える。彼女にはもう何も言うまいと嘆息したウィルはそのままドロシーと共にこの場から去っていった。

 

「──いたいた。こんにちわ」

 

 一瞬、張り詰めそうになった空気が和らぎ、一息つけるかなと思っていたところ、矢継ぎ早に声をかけられる。

 其方の方向を見やれば、ジャパンカップ時同様、特徴的なコスチュームを身に纏ったハルが駆け寄って来ていた。

 

「あれ!? あなた確かMCの人!」

「そうよ。覚えててくれて嬉しいな」

 

 また、しかもこのような場所で再会するとは思ってはいなかった。

 ミサはハルを指さして吃驚していると、ハルもちゃんとミサ達を覚えているのか、クスリと笑う。

 

「なんでこんなところに?」

「あなたたちは日本一なのよ? そのチームが世界大会に出るって事でレポーターとして派遣されてきたの」

 

 しかし、何故わざわざジャパンカップのMCであったハルがここにいるのか、尋ねるミサにハルは久方ぶりの再会に喜んで微笑みながら、その理由を明かす。

 

「さっそくで悪いけど、ちょっとそのままそこにいて」

 

 とはいえ、声をかけたのはただ再会を喜ぶだけではない。

 ハルは素早くミサ達にその場に立っているよう指示を出すと、返答を待たずして手に持ったマイクのチェックやカメラスタートとなにやら段取りを始める。

 

「みなさん、こんにちは! わたしは今、太平洋に浮かぶメガフロートの上に立っています! そう、みなさんご存知、宇宙エレベーターに来ているんです!」

「い、いきなりなに……?」

「ここでこれから開催されるガンプラバトル世界大会! そこに出場する我らが日本代表チームの方にお話を伺ってみます!」

 

 ミサ達に背を向けたハルは突然、先程までミサ達に接していたキャラとは一変して、ジャパンカップの時のMCのような振る舞いを始めると、本当に突然の事に困惑したミサが答えを求めるように一矢を見るも、一矢も良く分からず顔を顰めている。しかしハルは困惑する一矢達を他所にレポーターのように前置きをおくと、そのまま此方に振り返ってくる。

 

「はい、カメラに向かって本大会への意気込みをどうぞっ!」

「え……え……? カメラなんてどこに……?」

「すぐ近くを飛んでるよ、カメラ搭載のマイクロドローンが。アナタ達の正面をずっとフォローしているから、前を向いて話せばOK」

 

 自分達にマイクを向けて、カメラに向かってと言われたところで周囲を見渡してもカメラマンどころか周囲にカメラらしき物体は見当たらない。

 そんなミサ達の疑問にハルはウィンクしながら答える。確かによく目を凝らしてみればハルの背後に小さなそれらしきものが飛んでいた。

 

「……」

「ちょっ!?」

 

 なるほど、そういう訳かと合点のいった一矢は面倒事を避けるように、そのまま流れる動作でミサの後ろに移動して、インタビューを全てミサに丸投げする。目立つのは好きじゃないし、喋るのも苦手だから仕方ないよね。

 

「え、えーっと……優勝目指して頑張ります」

 

 一矢が後ろに隠れてしまい、必然的にハルのマイクはミサに向けられる。

 これまでジャパンカップを優勝し、インタビューを受ける機会がなかったわけではないが、やはり慣れているものではない。ぎこちない笑みを浮かべながら、ミサは何とか当たり障りない意気込みを答える。

 

「ハーイ、OK! じゃあわたしは他の取材があるから。応援してるからねっ!」

 

 彩渡商店街チーム、いや、日本代表チームのインタビューを終えたハルは時間も押しているのだろう。軽く手を振ると、慌ただしくこの場を去っていく。

 

 ・・・

 

「うわぁー……色んな人がいる……」

「すっごいね、こりゃ……」

 

 地球規模での流行を見せるガンプラバトル。その世界大会ともなれば注目度は高く、決勝を間近で観戦する事は叶わないが、それまでの観戦だけでも世界各国から大勢の人々が集まってくるほどだ。その中には裕喜や夕香達もおり、賑わいを見せるメガフロートに唖然としている。

 

「あれ、シオンは?」

「そう言えば……」

 

 ふと裕喜はここに来るまでは一緒に行動を共にしていたシオンの姿がない事に気づく。

 言われてみれば、いればいるでうるさい存在がいない為にやけに静けさを感じるとは思っていた夕香は周囲を見渡すが、どこにもシオンの姿は見当たらない。

 

 ・・・

 

 そのシオンは代表プレイヤーが使う出入り口の周辺にいた。

 しかし、誰かを探しているのか。やたらと周囲をキョロキョロと見渡している。

 

「──シオン」

 

 ずっと探しているのだろう。いつもの彼女に反して、その表情はうっすらと不安さを滲みだしている。しかし、そんなシオンの耳に自身の呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「お姉さまっ!!」

 

 その声を聞いたシオンの表情はたちまち花が咲いたように明るくなり、そちらの方向を見やる。そこには白い肩出しのトップスにロングカーディガンを羽織ったセレナが軽く手を振っている。セレナを瞳に捉えたシオンはたちまち人懐っこい子犬のようにセレナに飛びつくように抱き着いた。

 

「シオンは甘えん坊だねぇ」

 

 セレナに抱き着いたシオンはそのままセレナの胸に顔を埋めて、セレナの背中に手を回して確かにセレナを感じるように力を篭める。抱き着いた後、一言も喋らず、ただ時間だけが過ぎて行く。

 

「お姉さま……ずっとお会いしたかったぁっ……」

「……うんうん、ボクも会いたかったよ」

 

 セレナは抱き着いてくるシオンの後頭部を撫でながら、気が済むまで好きにさせる。

 シオンは一人、日本にホームステイしている。いつもは出鱈目ながら気丈に振る舞っている彼女でも、やはり多少なりともホームシックにはなっていたのだろう。中々、セレナから離れようとしない。

 

「……ふぅ……もう大丈夫ですわ。しかし、みっともない醜態をお見せしてしまって……」

「シオンならいくらでも抱きしめてあげるよ」

 

 時間も経過し、ようやくセレナから離れる。

 しかし、再会して早々、抱き着いた事もあって気恥ずかしそうにしおらしく頬を染めているシオンにセレナはその頬に触れ、軽く撫でながら微笑む。その笑みはいつもセレナが浮かべている笑みとはどこか違った。

 

「……?」

 

 しかし、そんな姉妹の再会を他所にふとシオンの携帯に着信が入る。シオンが誰かと思って、携帯を取り出せば相手は夕香であった。

 

 ・・・

 

「お姉さんに会ってたんだ」

「……まったくお姉さまとの再会に水を差すとは、なんておたんこなすなんでしょう」

 

 夕香達と合流したシオンとセレナ、そしてアルトニクス姉妹が会う事を知っていたので、席を外していたアルマやモニカも合流し、一般用に開放されているテラスの一括でお茶をしていた。

 顛末を聞いた夕香にシオンは不機嫌さを隠さずに紅茶を飲んでいる。とはいえ、夕香はシオンが姉と再会している事も知らないし、シオンも言っていない。シオンもシオンで今から姉に会いに行くと言うのも気恥ずかしくて言えなかったのだろう。

 

「このビスケット、良い塩加減だね」

「お褒め頂き光栄です」

「ちなみにジャムは私が作ったんだよ、お嬢様」

 

 セレナは用意されたビスケットを食べ、飲み物に絶妙にマッチするビスケットに舌鼓をうっていると、用意したアルマは胸に手を置いて微笑むと、自作したジャムが入った近くの小瓶を指しながらモニカが私も褒めろとばかりに伝える。

 

(あの人がシオンのお姉さんなんだ……)

 

 飲み物を飲みながら、ふと夕香は真ん前に座るセレナを見やる。

 ずっと笑みを絶やさない点など雰囲気こそ違うものの、顔立ちや飲み物を飲むだけにせよ、一つ一つの動作に品があり、やはりシオンの姉であるのが分かる。

 

「そう言えば、君が雨宮夕香ちゃんなんだよね」

「えっ? まぁ……」

 

 何気なくセレナを見ていた夕香だが、不意にセレナと目が合う。

 思わずドキリとした夕香にセレナは話しかけると、何故、自分の名前を知っているのかと身構える。

 

「シオンからのメールで名前だけは知ってたんだよ。会えて嬉しいな」

「えっ……? なんか変なこと言ったりとかしてるんじゃ……」

 

 何故、夕香の名前を知っているのか、その理由を話す。

 シオンが日本に来ても定期的に連絡は取っていたのだろう。しかし、相手はシオンなのだ。自分の事を何て言っているか分からない。夕香はシオンをチラリと一瞥するがシオンは特に気にした様子もなく飲み物を飲んでいる。

 

「全っ然。日本で大切な友達が出来たってそれはもう嬉しさが滲み出るようなメールが毎回毎回──」

「ぶうううううううぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっっっっ!!!!!!?」

 

 優美に飲み物を飲んでいたシオンではあったが、セレナの言葉と共に彼女がよく口にする高貴だのエレガントだのとは程遠く、飲み物を噴き出してしまい、向かい側に座っていた裕喜にかかってしまう。

 

「シオンが友達の事を話すのは珍しいからね。君たちよっぽど仲が良いんだねぇ」

「な、あぁぁ……っ!!?」

 

 もろにかかってしまった裕喜がアルマやモニカに濡れた個所をハンカチで拭かれながら文句をぶうぶうと口にする中、セレナは噴出したシオンを知ってか知らずかお構いなしに話すと、その隣のシオンは耳まで真っ赤にして震えている。

 あくまで敬愛する姉だけに教えたのであって、それをしかもよりにもよって夕香にだけは話されたくなかったのだろう。明らかに動揺して狼狽えている。

 

「これからもシオンとは仲良くしてあげてね」

「……ふーん。お姉さんに言われたら仲良くするっきゃないねぇ。シ・オ・ン?」

 

 そんなシオンをよそにセレナはまだ日本に滞在する予定のあるシオンの事を夕香達に頼むと、話を全て聞き終えた夕香はたちまち心底楽しそうに悪戯っ子のような笑みをシオンに向ける。

 もう、シオンのHPは0に等しいのだろう。そのまま自棄になったようにテラスの窓から広がる海に飛び降りようとする。

 

「ちょっ!? なにやってんのさ!?」

「離しなさいっ!! これ以上生き恥を晒す気はありませんわっ!! わたくしはここで散って、バイオセンサーの力の一部になりますわああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 海に飛び降りようと窓を開けようとしているシオンの背中を羽交い絞めしながら必死に止める夕香だが、もはや自暴自棄になっているシオンは涙目になりながら暴れ続ける。

 その姿を遠巻きで見ながら、セレナは「本当に仲が良いねー」とどこ吹く風かビスケットにジャムを塗るのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天使のような悪魔

「よし、稼げるだけ稼ぐぞ!」

「まずは第一を突破しなくちゃね」

 

 第一予選が執り行われる中、NPC機を撃破したのは、アメリカトーナメントでミサのバトルを観戦していた莫耶とアメリアであった。それぞれ使用するガンプラであるストライクライザーとストライクSEEDはポイントを得るたびに場所を移動する。そう、彼らはアメリカ代表である。

 

 世界大会は第一、第二、第三の予選を経て、本選に進める。まず予選を越えるには、多くのNPC機やモノリスを破壊するか、もしくは他の国の代表チームを撃破する事で得られるポイントを多く獲得した者が予選を通過できる。

 

 ・・・

 

 ──あまりの光景に息を飲んだ。

 

 自分は国の代表として、予選から己の全力を発揮しようと考えていた。

 

 そして第一予選を終え、第二予選を迎えた今、その為にモノリスが存在するポイントを見つけ、それを守護するNPC機達を撃破して多くのポイントを獲得しようとこの場に来たわけだが、その前に先約がいたのだ。

 

 ──ガンダムバエル

 

 ソロモン72柱序列1位・66の軍勢を率いる大いなる悪魔の王の名を持つガンダムがモノリスを守護するNPC機達と対峙しているのを見たのが始まりであった。どれだけの実力があるのか、漁夫の利が狙えるのか、まず遠方で様子を見ようと成り行きを伺っていた。

 

 バエルを既に捉えたNPC機達は攻撃を仕掛けようと、それぞれの獲物を構える。NPC機とはいえ世界大会だ。その設定は一般のシミュレーターとは異なり、甘く見ればこちらがやられると言うもの。だが対して、バエルは唯一目立った武器であるバエル・ソードすら引き抜くとすらせず、その場に足を踏みしめている。

 

 なにが起きるのか、様子を伺っている此方も緊張する中、おもむろにバエルが右腕をかざし、さながら進軍を指し示すように右腕をNPC群へ振り下ろした時であった。

 

 上空から無数の光の雨がNPC群を貫き始める。一体、なにが起きたのか上空を見上げる前にバエルの前に二機のガンダムが降り立つ。

 

 通常のガンダムとはどこか異形な印象を抱かせるガンダムレギルス。

 

 鋭角的な外見と手に持った身の丈はあるであろう双頭の槍を持ったトランジェントガンダム。

 

 主の呼びかけに応えるようにバエルの前に降り立った二機の白きガンダムは主の命によりその障害となるNPC群を蹂躙し、破壊の限りを尽くし、周囲に爆炎を上げる。

 

 戦闘を続けるトランジェントとレギルスがモノリスまでの道を示すと、バエルは周囲の光景とは裏腹に悠然と爆炎と硝煙が巻き上がる戦場に歩を進める。

 

 燃え盛る炎は破壊の象徴であり、飛び散るパーツは肉片のように、立ち上る硝煙は悲惨な断末魔のように、見る者を戦慄させる地獄の光景が広がるなか、主の邪魔となるNPC機(傀儡)を全て破壊したレギルスとトランジェントは主の耳障りにもならぬようにバエルの背後に静かに降り立ち、同じく歩を進める。

 

 さながら悪魔の行進を見ているかのような気分だ。漁夫の利を考えていたが、今ではそんな事も頭から離れず、ただモニターの光景から目を離す事が出来ない。モノリスの前に到着したバエルは右腕を突き出してモノリスを貫く。

 

 モノリスから腕を引き、モノリス全体に皹が広がり、今にも決壊しそうななか、まるで心臓を引き抜いたかのようにモノリスの断片と思われる黒い破片がバエルの手に握られている。バエルは破片に目を向けることなく、そのまま握り潰すと同時にモノリスが決壊する。

 

「──お、おいッ!!」

 

 ただただモニター越しに広がる恐ろしくも美しい悪魔の蹂躙劇から目を逸らすことが出来ず、心を奪われていた。しかし、そんな中、チームメイトの言葉に気を取り戻す。

 

「──ッ!!」

 

 そして思わず身をのけ反る。何故なら、バエルが此方を見つめているではないか。ただこちらを見ているだけではない。モニター越しの自分でさえ見透かし、心臓を握られているような恐怖さえ感じる。同時にバエルを筆頭にレギルスとトランジェントが此方に向かって飛び出す。

 

「見ぃーつけた」

 

 バエルを扱う少女は可憐な天使のような笑みを浮かべ、美しい悪魔は厄災を齎す。

 地獄は広がり続け、悪魔に魅入られた者は恐怖の叫びをあげる。それすら心地のよい旋律のように悪魔は業火を広げるのであった。

 

 ・・・

 

「お嬢様-っ、いぇいっ!」

 

 第二予選を終えた今、ポイントを多く獲得したフォーマルハウトも第三予選に歩を進める結果となった。別に予選で躓くとは端から考えてはいないが、それでも本選まであと一歩の位置まで来た為、モニカは軽くジャンプして両手でセレナとハイタッチを交わす。近くではアルマが己のガンプラのレギルスをケースにしまっていた。

 

「やっぱりセレナちゃん達、強いなぁ……」

 

 その光景を傍から見ながら、ミサはモニターに表示されるフォーマルハウトのポイントを見やる。第三予選に突破できただけのではなく、そのポイントは常に上位に食い込んでいる。一矢はミサの発言から、以前聞いたアメリカで出会ったイギリス代表のファイターが彼女達である事を知る。

 

「やぁ、まさかこんなところで会うとは思わなかった」

 

 そんなセレナ達に、いや、セレナに声をかけるたのはウィルだった。

 

「幼い頃に不動産事業家である君のお父さんのパーティーで会って以来か」

 

 どうやらウィルとセレナには面識があるらしく、ドロシーを傍らにセレナに歩みを進める。

 

「君もまさか大会に出ているなんて思わなかったよ、ガンプラバトルの大会にはもう出ないと思ってたからね」

「まぁ色々とあってね」

 

 知り合いなのだろうか、と顔を見合わせ首を傾げる一矢とミサだが、セレナはその笑みをウィルに向けながら応対する。

 ウィルのアメリカでの大会の件について詳しくは知らないが、それでもウィルにとって決定的なものであるのは知っているのだろう。そんなウィルは肩を竦めながら答えていた。

 

「しかし見違えたね。昔、パーティーで会った時は感情が乏しくて笑う事もない人形のようだったのに」

 

 ウィルは常に笑顔を浮かべているセレナを見ながら、過去の記憶にある幼い頃のセレナを思い出す。パーティーだけあって、ドレスに身を包んでいたセレナは決して笑う事も何を考えているかも分からなかった

 

「まるで仮面でも被ったかのようだ」

 

 まさに人形のような少女であった。

 それがこうして再会した時は笑顔を絶やさない少女になっているではないか。なにがあったかは知らないが、幼い頃のセレナを知る分、不気味ささえ感じる。

 

「仮面もつけ続ければ自分の一部になるよ」

 

 ウィルの発言が非礼にあたるのではないかと顔を顰めるアルマとモニカであったが、セレナは気にした様子もなく、笑みを絶やさずに答える。

 

「……そうかい。君の事も楽しみにしてるよ」

 

 フォーマルハウトのポイントはウィルも知っている。

 彼女達ならば、難なく本選にも出場してくるだろう。今回の世界大会はそれなりに楽しみが増えた。そんな風に笑うウィルは軽く手を振って、ドロシーと共にこの場を去る。

 

「やだあのイケメン。ムカツク」

「どうどう」

 

 ウィルの後ろ姿を見ながら、セレナに仮面を被ったなどと好き勝手言われたのが気に入らないのか、露骨に顔を顰めるモニカをアルマが宥める。

 

「昔のセレナちゃんって今とは違うの?」

 

 そんなアルマに成り行きを見ていたミサがアルマ達に声をかける。

 正直、ここ最近、セレナと出会ったミサからしてみれば、彼女は笑みを絶やさない印象がある為に、昔は一切笑わなかったというのが俄かには信じがたかった。

 

「さあ……。私達も1、2年前くらいから、お嬢様に仕えたようなものですし」

「あぁでも、昔のお嬢様の写真とかはないって話だよ」

 

 とはいえ、アルマやモニカも昔のセレナを答えられるだけの事は知らないのだろう。

 首を横に振るアルマの隣でモニカは人差し指を顎先に添えながら答える。

 

「えっ、なんで?」

「いや、お嬢様が自分で処分したって話は聞いたことがあるって話」

 

 幼い頃の写真や動画などは一つか二つはあるものだろう。それが大きな家の人間ともなれば尚更。疑問に思うミサは更に問いかけるが、モニカも詳しくは知らないのだろう。首を傾げている。

 

(……昔の自分は捨てた……?)

 

 黙って話を聞いていた一矢はセレナを見やる。

 丁度、セレナの後ろ姿を見る位置に立っており、彼女の表情は伺う事は出来ない。

 だが、セレナが昔の自分に関わる記録媒体は処分したと言うのだから、何となくだが、過去の自分を良しとしていないのかとそう思ってしまう。

 

≪まもなく第三予選が始まります。各チームは準備をしてください≫

「さっ、いつまでもお喋りをしてないで早く行こうか」

 

 すると、コントロールAIの案内が予選会場に響き、セレナは振り返りながら話す。

 振り返って見える表情は相変わらずの笑顔であり、その笑顔はある意味で隔てる壁のようにも見えてくる。アルマとモニカはセレナの呼びかけに頷いて、歩き出したセレナに続く。

 

「一矢君、私達も行こっか」

「ああ」

 

 セレナについて気になる部分はあるが、それでも今は予選を突破することが何より大事なのだ。ミサは一矢に笑いかけると、一矢も頷き、ミサやロボ太と共にシミュレーターに向かっていく。

 

「──まさかアルトニクスの令嬢までいるとはね」

 

 今までのセレナ達を傍から見ていたのは、ミサ達だけではない。

 もう一人、スーツを着た中年男性がシミュレーターに乗り込もうとするセレナを見やる。

 

「まぁ良い。私達の目的はウィルなのだからね」

 

 かつてネバーランドなどでウイルス事件を引き起こしたこの中年男性の背後には年齢様々な男達がおり、中年男性と共にウィルを見やる。

 ウィルに恨みでもあるのだろう。一同はぎらつくような怨恨の視線をウィルに送りながら、自分達もシミュレーターに向かっていくのであった。




<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

幻想目録さんからいただきました。

村雨莫耶
性別:男 年齢:25歳
家族構成:自分
容姿:身長は170〜180cm、普段からお気に入りの革ジャンを着ている。かなり糸目(笑)
性格:流れるように毒舌を吐く奴だか、実は案外人のことを心配している。仲間や身近な人がバカにされたり傷つけられたりすると性別が一変して自分の大切な人を守るために戦う。
設定:アメリカ代表、7年前に高校を卒業した直後に「アメリカにガンプラバトルの武者修業に行く!」と言って一人アメリカに行ってしまった。5年前に行われた大会(ミスターガンプラがウィルと戦って負けた大会)の準決勝でミスターガンプラに敗れて以来ミスターガンプラにリベンジするために特訓していた。ウィルとの面識は一応ある。(同じガンプラファイターとして一度挨拶した程度)
時に出場していた現地の大会で同じく訓練がてら出場していた莫耶と知り合った
出身:彩渡商店街

ガンプラ名 X105-R ストライクライザー
元にしたガンプラ ストライクガンダム、OOライザー

WEAPON ビームサーベル(Z)
WEAPON ツインバスターライフル(EW)
HEAD ビルドストライク
BODY ストライクフリーダム
ARMS ガンダムage-2(ノーマル)
LEGS  ストライク
BACKPACK OOライザー
SHIELD バインダー(OOライザー)

拡張装備
ビームランチャー
大型レールキャノン×2(バックパック)
大型対艦刀(バックパック中央付近、ちょうどレールキャノンの間)
Iフィールド発生装置(腰付近)
ファンネルラック×2(足の太もも付近)
トランザム

オプション装備
カリドゥス
ビームランチャー
GNフィールド
Iフィールド
GNマイクロミサイル
大型レールキャノン
ファンネル
大型対艦刀
アーマーシュナイダー
頭部バルカン

切り札 フルバースト
カラーリングは大体は各パーツそのまま、BODYだけ青色のところが赤色になっている。

キャラクター名:アメリア・マーガトロイド
性別:女
年齢:20歳
家族関係:一人 両親は幼い頃に亡くしている
容姿:頭に大きなリボンを付けている。髪型はポニーテール。髪の色は黒。理由は莫耶が黒髪の方が好きだから元々茶髪だったのを染めた
パッチリとした目で目の色は綺麗な碧眼。髪は結んでいないと腰に届くぐらいに長い。
身長:150〜160cm
出身:アメリカ ニューヨーク
性格:誰がどう見ても純度100%のツンデレ、普段は素直でとても良い子なのだが莫耶の前ではどうしてもツンツンしてしまう。彼女はしっかり隠しているつもりだが莫耶や周りの人間にはバレバレ。いつも莫耶にこのことをからかわれている。

設定:6年前アメリカで悪ガキに虐められていたところを偶然通りかかった莫耶に助けられた。それ以来莫耶に恋心を抱くようになり莫耶を追いかけ回し、ある時莫耶がガンプラバトルで負けそうになった時に莫耶が昔使っていたフォースストライクを持ち出し莫耶を助けたことでガンプラバトルに興味が湧いてそれ以来莫耶とチームを組んで大会で出場している。現在莫耶とは恋人関係。頭に付けている大きなリボンは子供の時から付けていて、亡き母からの最後のプレゼント

ガンプラ名:FX-105 ストライクSEEDガンダム
元にしたガンプラ:エールストライクガンダム

WEAPON:ヴァジュラビームサーベル(フォースインパルス)
WEAPON:高エネルギービームライフル(ストライクフリーダム)
HEAD:ビルドストライク
BODY:ストライクフリーダム
ARMS:ビルドストライク
LEGS:ストライク
BACKPACK:フォースインパルス
SHIELD:アンチビームシールド(デスティニー)
拡張装備:カリドゥス複相ビーム砲 レールキャノン(両腰) 頭部バルカン アーマシュナイダー ダブルビームブーメラン(両肩) Iフィールド(腰部)
EXアクション:エクスカリバー トランザム

カラーリングはBODYとLEGはエースホワイト、それ以外はそのまま

素敵なオリキャラや俺ガンダムありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼らの事情

 第三予選のステージに選ばれたのは青白い月が照らす荒野だ。周囲には切り立った岩壁などもあり、障害物として使えるだろう。本線の一歩手前ともいえる第三予選ともなれば、ここまで勝ち上がって来た代表チームのファイター達の実力は相当のものだ。

 

「中々の実力だったよ」

 

 ギリシャ代表チームの彼らもそうだろう。

 爆散した他国の代表チームのガンプラを見やりながら、大型実体剣グランドスラムを軽々と肩に担いだヘラク・ストライクのファイターであり、このギリシャ代表チーム……ネオ・アルゴナウタイを纏めるリーダーであるクレスの愛称で親しなまれるヘラクレス・サマラスが相手チームへ敬意をはらう。

 

「二人とも、よくやってくれたわ」

 

 ヘラク・ストライクと少し距離が離れた場所で狙撃用ビームライフルを構えていたダソス・キニゴスのファイターである女性のアリシア・カサヴェテスはチームメイト達を称賛する。彼女は遠距離のサポートメインで動くため、チームへの指示は彼女が出している。今の他国とのバトルで勝利を収められたのも、単純なチームの実力だけではなく、彼女の指示の力も大きいだろう。

 

「俺は英雄だからな」

 

 アリシアの称賛にヘラク・ストライクの近くにいたカスタマイズされた暗色のトールギス・アキレウスはフェイロンフラッグを軽く払い、ファイターであるアキレアス・アンドレウは誇らしげに軽く笑う。だが彼ら三人のバトルがここで終わるわけではない。次なる標的を求めて、ネオ・アルゴナウタイは行動を再開する。

 

 ・・・

 

「……随分、片付けたな」

 

 第三予選のタイムリミットも迫る中、彩渡商店街チームは荒野の上空を飛行していた。

 シミュレーター内でモニターに表示される獲得ポイントを見ながら、一矢は呟く。決して楽だと言うわけではないが、それでも上位に組み込めるだけのポイントは稼いだだろう。

 

「──あ、あれっ!」

 

 すると突然、何かに気づいたミサが前方を指し示す。いきなりなんだと驚く一矢であるが、バーサル騎士と共にゲネシスブレイカーのメインカメラをアザレアフルフォースが指した方向を見やる。

 

「──全く……陰湿だね、あなた方は……っ!」

 

 そこにはかつてジャパンカップ・エキシビションマッチに現れた白いガンダム……ガンダムセレネスが背後から襲いかかる無数のビームを避けていた。

 セレネスを操作するファイターは当然、ウィルである。しかし、そのウィルは攻撃を放つ集団に苛立ちを露にする。

 

「君の行いの方がよほど陰湿だろうッ!!」

 

 そんなセレネスの前方には立ち塞がるように一機のガンプラがいた。

 黒と紫を基調に全体的に鋭角的なカスタマイズが施されたイーヴィル・ワンのファイターである中年男性……バイラスは怒りを爆発させるように吐き捨てる。

 

「僕は正義を成しただけさ!」

 

 しかしバイラスの言葉も気にした様子もなく、ウィルは寧ろ間違っているのはお前達だとばかりに堂々と言い放つ。そんなセレネスの周囲にはバイラスのイーヴィル・ワンと似たようなカスタマイズが施された3機のイーヴィルが囲む。

 

「私は君のせいで会社を失った!私だけじゃない、ここにいる者、皆だッ!!」

「悪どいビジネスをしているからさ」

 

 ウィルへの怨恨はかなりのものなのだろう。そしてセレネスを囲むガンプラ全てのファイターがバイラスの言うように、ウィルの手によって会社などを失っているのだろう。だが、逆にウィルは逆恨みに感じ、呆れたように言い放つ。

 

「バイラス、君はコンピューターウイルスの自作自演!」

 

 セレネスはバイラスのイーヴィル・ワンを指しながら、そもそもウィルがバイラスの会社である買収したスリーエスを解体した理由を明かす。

 そう、バイラスはウィルの言うように、インフォなどのAIに感染させるウイルスを作成しており、ネバーランドなどの騒動を起こした元凶ともいえる人物だ。

 

「そこの君は銃火器を戦争中の両軍に売っていたね。そこの君は小惑星不動産詐欺。そこの君は……そうだ、ニュース記事のねつ造!!」

 

 バイラスだけではない。

 ウィルは次々に自身を取り囲む三機のイーヴィルの操作する者達へ罪状を読み上げるように、会社を買収した理由をあげていく。

 

「全てビジネスだ。善悪で語られるものじゃない!」

「黙れ! 薄汚い金の亡者どもがッ!」

 

 だがバイラスはウィルを青臭い子供に呆れるように言い放ち、仲間に指示を出して三機のイーヴィルはセレネスにビームサーベルを引き抜いて襲いかかるが、やはりジャパンカップのエキシビションマッチで圧倒的な実力差を見せつけただけあり、軽々に捌いていき、そのうちの一機の肩部を刀で突き刺す。

 

「良いぞ、そのまま掴め!!」

 

 肩部を貫かれたイーヴィル。だが寧ろこれを待っていたとばかりにバイラスは下劣な笑みを浮かべながら指示を出すと、イーヴィルのカメラアイは妖しく発光し、セレネスの肩部を掴み、マニビュレーターから小さな紫色の発光体を放ち、装甲の隙間から内部へ入って行く。

 

「しつこいッ!!」

 

 しかしその事に気づかないウィルはそのまま刀を引き抜いて、セレネスを掴んでいたイーヴィルを蹴り飛ばす。

 

「ハハハ! じわじわ嬲ってやる!!」

 

 実力差は目に見えている。

 だがバイラスは当初の目的は果たしたとばかりに愉快そうに笑い、再びセレネスを取り囲むと一気に襲いかかる。

 

 ・・・

 

「もー! 助けたくないけど、あんなのズル過ぎるっ!!」

≪同感だ、行こう!≫

 

 セレネス一機を相手に襲いかかるイーヴィル・ワン達。顛末を見ていたミサはもどかしさは感じるものの、彼女の正義感が許さずロボ太もミサに同意する。

 やる事ははっきりした。ゲネシスブレイカーを筆頭にセレネスとイーヴィル・ワン達のバトルに介入していく。

 

「ウィル、大丈夫!?」

 

 セレネスに攻撃を仕掛けようとしていた一機のイーヴィルが銃口を構えるが、その前にアザレアフルフォースの射撃がライフルを破壊する。

 突然の横やりにウィルやバイラス達が驚くなか、ミサがウィルに通信を入れる。しかしその際の言葉を聞いて、一矢は一瞬だけ顔を顰める。

 

「何のつもりだい? 僕がやられれば、勝負は君の勝ちだろう!?」

「バカにしないで! それじゃあ、そもそも勝負出来てないでしょ!!」

≪我々はあの時とは違う! 正面から戦って、貴様に勝つ!≫

 

 ライフルを失い、突然の事に驚いているイーヴィルであったが、その瞬間、高速で接近したゲネシスブレイカーとバーサル騎士が撃破する。助太刀という形になった彩渡商店街チームを見て、ウィルが理解できないとばかりに問いかけるが、そもそもここでウィルがやられては勝負にもならず、そんな事はミサのプライドが許さず、同意するようにロボ太も答える。

 

「……つまらないやられ方をされちゃ困るんだよ」

「全く……妙な事になった!」

 

 スラスターを稼働させながら、そのまま流れるようにセレネスと背中合わせになったゲネシスブレイカー。一矢はモニターに映るイーヴィル達を鋭く見据えながら静かに答えると、この際、仕方ないとばかりにウィルは口を開き、ゲネシスブレイカーととセレネスは弾かれるように敵機へ向かっていく。

 

「貴様ら……見た事あるぞ……。えぇい、何度も邪魔をッ!!」

 

 乱入してきたゲネシスブレイカー達を見ながら、バイラスは記憶の中にあるガンプラ達を思い出し、憎々しげに叫ぶ。バイラスは一矢達にとっても因縁のある相手なのだ。

 

 ・・・

 

「──どうしますか、お嬢様」

 

 ウィルと彩渡商店街チームがバイラス達とバトルをしているのを傍から見ている存在達がいた。フォーマルハウトの面々だ。

 

 バトルをしていたのだろう。

 フェネクスを彷彿とさせるPGユニコーンガンダムをカスタマイズした金色のPG機体が破壊痕が目立たせながら横たわるなか、レギルスを操作するアルマは主たるセレナの意見を伺うように背後を見やる。

 

「今だったら誰も気づいてないようだし、奇襲を仕掛ければ纏めて片付けられるよ」

 

 獣が獲物を貪り尽すように破壊されたPG機体のパーツ片を蹴飛ばし、GNバルチザンを地面に突き立てながら戦闘の様子を見て判断したモニカが尋ねる。

 皆、此方からは背後を向ける形となっており、自分達の実力なら奇襲を仕掛け、一気に片付けられるだろう。

 

「……つまらないなぁ」

 

 だがそれを何より良しとしなかったのはセレナであった。

 そもそも奇襲など考えていなかったのが、バエルは倒れ伏すPG機体の巨体に腰掛けており、フィールド上に浮かぶ青白い月をそのツインアイが映していた。

 

「背中を向けた相手に勝ったところで、ボクが求める“証明”にはならないよ」

 

 奇襲を仕掛ける事も、隙をついて殲滅させる事もその気になれば出来る。

 だが、そんな事をして勝利したところで単純な実力で彼らより強いという証明にはならず、そんなものをセレナは欲しいとは思わない。

 

「お手並み拝見と行こうよ、ここでやられるならそれまでだ」

 

 PG機体に腰掛けるバエルのツインアイはバイラス達と戦闘を繰り広げるアザレアフルフォース達へ向けられる。期待を裏切らないでね。そう言わんばかりにその視線は戦闘に注がれるのであった。

 

 ・・・

 

「バイラス、そもそも君が何故、この大会に出ているんだ!?」

「私はコンピューターのエキスパートだ。大会参加者リストを改ざんしたのさ。でっち上げた架空のチームに架空の身分で参加した!」

 

 セレネスの刀とイーヴィル・ワンのビームサーベルの刃が交わり、ウィルは何故、ガンプラバトルに無縁なようなバイラスがこの場にいるのか問い詰めると、バイラスは己の能力を誇示するように誇らしげに答える。

 

「君はガンプラバトルに興味が?」

「あるわけないだろう! 君の名前が参加者リストに載っていたのでね!」

 

 まさかと思うが、とウィルはバイラスに尋ねるが、やはりウィルの思ったように目的は会社を買収された恨みによる報復であり、ガンプラバトルに目覚めた訳ではないようだ。

 

「僕を倒して嫌がらせがしたかったのかい? やる事が小さい!」

「何とでも言いたまえ。君が何故、この大会に出ているかなど興味はないが、その目的が果たされることはないのだからね!」

 

 バイラスの目的に情けないとばかりに語気を強めるウィルを表すようにセレネスが放つ剣技の勢いは強くなっていく。しかし装甲を刻まれているにも関わらず、耐久値には問題ないのか、バイラスは余裕の態度を崩さなかったが……。

 

「誰を相手にモノを言っている!!」

「ち、チートをしてるのに!?」

 

 だが、それさえ物ともせず遂にセレネスの剣技によってイーヴィル・ワンの左腕が宙に舞う。地に落ちた左腕を見やりながらバイラスは信じられないとばかりに叫ぶ。

 どうやら架空の身分をでっちあげるだけではなく、アセンブルシステムにも不正を行ったようだ。だが、それと同時に残った二機のイーヴィルを彩渡商店街チームが撃破し、ゲネシスブレイカーがイーヴィル・ワンに向かっていく。

 

「小手先の力で……」

「勝てると思うなッ!」

 

 ゲネシスブレイカーとセレネスの刃がキラリと光る。

 イーヴィル・ワンを中心に二機はすれ違いざまにイーヴィル・ワンを両断して撃破した。

 

「バイラス、君は予選敗退で帰国だ。精々、警察に捕まらないようにうまく変装する事だ」

 

 爆散したイーヴィル・ワンを見やりながら、ウィルは吐き捨てるように言い放つ。

 

「アンタ、嫌われ過ぎなんじゃないの?」

「あんな連中に好かれないとは思わない」

 

 戦闘を終え、傍から見ても多くの恨みを買っているであろうウィルにどこか呆れたように問いかけるミサだが、ウィルにとってはあまり愉快な事は出ないのだろう、イーヴィル・ワンの残骸を見ながら不快そうに答える。

 

≪今はゲームの中でのことだから良い。だが敵を作るばかりでは現実で身を滅ぼす事になる≫

「……そう言って敵を助けて、肝心な商店街を滅ぼすことになるんじゃないのか?ミサ、それに君たちもこれっきりだ。次に会う時は遠慮しないで攻撃してきていい」

 

 ロボ太も機械の身でありながら、今のウィルを危ういと感じたのだろう。

 だがロボ太の忠告の言葉はウィルに届くことはなく、そのままセレネスはゲネシスブレイカー達から背を向けて、この場を飛び去って行き、程なくして第三予選もタイムアップとなった。

 

「くそぅ……。確か彩渡商店街チームとか言ったな……。憶えたぞ……ッ!!」

 

 暗転したシミュレーター内でバイラスは横やりを入れて来た彩渡商店街チームを記憶に刻む。自身が起こしたウイルス事件にかあ変わっているのは知っているが、やはり翔達の方が記憶にはあった。だが今、直接戦闘になってバイラスの記憶に刻まれる。

 

 ・・・

 

「なんだよもぉ、ウィルの奴っ!!」

 

 予選も終わり、彩渡商店街チームは本選に進めるだけのポイントを得た。

 だが本選に進めたチームとは思えないほど、廊下をつかつかと歩くミサはぷんぷんと怒っている。別に厚かましく何か礼をしろだの言うつもりはないが、少しくらい感謝はしてくれたっていいではないかといわんばかりだ。

 

「ねぇ、そう思うでしょ、一矢君!?」

 

 まだ腹の虫は収まらないのか、ミサは同意を求めるように後ろを歩いている一矢に尋ねる。しかし当の一矢はミサの言葉を聞いて、顔を顰める。

 

「やっぱり一矢君もそう思うよね!? ウィルめぇぇっ……!」

「……違う」

 

 顔を顰めた一矢にやはり一矢も思うところはあるのだと感じたミサは怒りの炎を燃え上がらせるが、静かに、だがキッパリと否定された。

 

「……アイツが感謝するなんて考えちゃいない」

 

 では、何に対してそんな顔をしているのかとミサは一矢に顔を向けるが、眉を顰め、険しい表情の一矢はミサを見つめると、ゆっくりとどこか威圧感を持って近づいていく。

 

「アンタだよ」

 

 どうしたのかと戸惑うミサは後ずさり、壁に追いやられていく。

 背中に壁が付いた瞬間、眼前まで迫った一矢はミサの顔のすぐ横の壁に手をつき、険しい表情をミサに向ける。

 

「……ねぇ、なんでアイツはいきなり呼び捨てで、俺はずっと君付けなの?」

 

 自分に対して怒っているのか? いや、心当たりなどあるわけがない。

 眼前に迫る一矢との距離はまさに鼻頭がくっつくかどうかの距離であり、あまりの状況にミサの頭が混乱する中、静かに尋ねられる。

 

「……なんか嫌なんだよ。アイツは呼び捨てだけど、俺は違うのって」

 

 アイツとはウィルのことだろう。カドマツは別に深くは考えてはいなかったが、ミサが年の近いウィルを呼び捨てにしているのは一矢にとって思うところがあったのだろう。彼の様子からはどこか嫉妬を感じさせる。

 

「ねぇ、ミサ」

 

 不意に一矢に名前で呼ばれる。

 一矢は基本的にミサをアンタだの呼んで、今のようにちゃんと名前を呼んだのは数える程度だろう。だからこそ不意打ちをくらったようにミサの胸が高鳴り、どぎまぎしたように顔が熱くなるのを感じる。

 

「……俺との距離は、アイツよりも遠いの?」

 

 拗ねたような、焦ったような、寂しいような、哀しいような、そんな入り混じった複雑な嫉妬の感情を一矢から感じる。一矢が呼称一つでこんな事をするなど正直、予想外であった。

 

「い、一矢……?」

「なに、ミサ」

 

 ぎこちない様子で恐る恐る一矢を呼び捨てに呼んでみる。

 しかしそれこそ一矢が望んでいた事なのだろう。一矢は柔和に微笑み、首を傾げる。

 

「ごめん……ずっと君付けで呼ぶのに慣れてたから……。でも、一矢が良いんだったら……私もこっちの方が良いかなっ……」

 

 頬を染め、ミサは微笑む。そんなミサの表情を見いて、一矢も不意打ちを食らったように、顔を紅潮させ目を逸らす。

 

「ねぇ、一矢。だったら一矢も私のこと、アンタって呼ばすにちゃんと名前で呼んでよ」

「……分かったよ、ミサ」

 

 胸の早まる鼓動を感じる。

 一矢も基本、アンタと呼ぶがあれはあれで余所余所しい。だからここで直しておきたい。一矢も自分から言っておいて、自分は直さないのは筋が通らないのを分かっているのかミサに視線を戻しながら微笑む。そもそもアンタ呼びはどうにもミサを名前で呼ぶのが何だか気恥ずかしかったからだ。

 

「えへへ……なんだかもぉーっと一矢と距離が縮まったみたいっ」

 

 ミサは顔の横の背後の壁に突かれた手に己の手を添え、頬を擦りよせながら心底嬉しそうに微笑む。互いに頬を染めるなか、二人の距離が更に縮まったのを互いに感じるのであった……。




<いただいた俺ガンダム&オリキャラ>

落陽天狐さんよりいただきました。

世界大会出場 ギリシャ代表
チーム名 ネオ・アルゴナウタイ
メンバー 三名

アキレアス・アンドレウ
自身の強さに自信を持ち、常に上を目指すチャレンジャー精神旺盛な男
自信を持つだけはあり、バトルの腕前は中々のもの。
一対一の戦績は引き分けや中断こそ多いが、負けはない。
しかしその反面、彼の能力が影響してか、周りとの連携が上手く合わない。
このチームに入ったのはスカウトと、自分のレベルに合った戦い方が出来るという理由
同じチームのアリシア・カサヴェテスに恋をしている
愛称はアキ

キャラクター名 アキレアス・アンドレウ(男)
ガンプラ名 トールギス・アキレウス
元にしたガンプラ 特になし。あえて言うならば名前と頭の通りトールギスⅡ
 
WEAPON なし
WEAPON フェイロンフラッグ
HEAD トールギスⅡ
BODY νガンダム
ARMS デュエルガンダム
LEGS ガンダムX
BACKPACK ガンダム試作3号機
SHIELD ABCマント
拡張装備
(バックパック装備)大型ビームランチャー2つ
(バックパック装備)Iフィールド発生装置
(肩と脚部)シールドビット合計8機

アキレアスの口癖「俺は英雄だからな」

アリシア・カサヴェテス
少し大人びた女性
アーチェリーを習い、一般人よりは多少目がいい
ガンプラバトルにはあまり興味を持たなかったが、友人のヘラクレス・サマラスに誘われたことから始める
アキレアスのストッパーのような役割をしている
リーダーではないが、状況を良く見れる遠距離で戦うため、指示は彼女が出す
本当はライフルではなく、弓を使いたかったらしい(ライジングガンダムのようなものではなく、実体のある矢を装填する普通の弓矢)
口癖は特になし


キャラクター名 アリシア・カサヴェテス(女)
ガンプラ名 ダソス・キニゴス
元にしたガンプラ 特になし

WEAPON 狙撃用ビームライフル
WEAPON ヒートサーベル
HEAD アカツキ
BODY ダブルオーガンダム
ARMS Hi-νガンダム
LEGS ダブルオーガンダム
BACKPACK なし
SHIELD ABCマント
拡張装備
(胸部)角型センサー二つ
(左腕)Iフィールド発生装置

解説
遠距離の射撃の強さが目立つ機体
こちらも、トールギス・アキレウス程ではないが歩行速度が速い
二機のサポートメインで動くため、一番弱いと思われて真っ先に撃破目標にされるが、他の二機とそれほど大きな差がない程の腕前なので、狙いに行ったそばから撃ち落されたり、攻めているときに後ろから二機を突っ込ませて挟み撃ちにされて敗北するチームが多い
弱点としては、機体の耐久値が恐ろしく低いので、直撃を数回貰うだけで撃破される
緑色メインなので森の中など緑の多いところではかなり見失いやすい
ギリシャ神話の英雄アタランテをモデルとしている
カラーは、ソルジャーグリーンをベースに肩、胸、腰の部分の緑が濃く、膝と頭部の主な部分がサンドブラウン。あと、ヒートサーベルの刃が灰色

ヘラクレス・サマラス
背の高い筋肉質な男性
こちらもアリシアと同じように大人びた話し方をする
チームを作った人間であり、チームのリーダーを務めている
自身の名前にヘラクレスとあることから、ギリシャ神話のヘラクレスが好き
一つの物事に対してはなんであれ真剣であり、誰だろうと常に全力を出す
愛称はクレス

キャラクター名 ヘラクレス・サマラス(男)
ガンプラ名 ヘラク・ストライク
元にしたガンプラ ストライクガンダム

WEAPON 昇竜丸
WEAPON グランドスラム
HEAD ストライクガンダム
BODY ストライクガンダム
ARMS ストライクガンダム
LEGS ストライクガンダム
BACKPACK エールストライクガンダム
SHIELD ストライクガンダム
拡張装備
(脚部)ビームピストル2つ
(腰部後ろ)刀
(両腕)腕部グレネードランチャー
(バックパックの羽部分)スラスターユニット


三人の歳はそれぞれ、
ヘラクレス19歳
アリシア19歳
アキレアス18歳
です


素敵なオリキャラや俺ガンダムありがとうございました!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夢の舞台へ

「ミサ……」

 

 宇宙では小惑星要塞アクシズが地球に迫るなか、地上では自分の名前を口にする一矢が目の前にいる。彼の熱の篭った瞳を向けられ、ミサは体が熱くなるのを感じながら息を飲む。

 

「い、一矢……!?」

 

 アクシズが赤熱化していき、地球に降下しようとするなか、一矢はそっと優しく繊細なものでも扱うかのように自身の肩を掴む。それだけでも胸が高鳴っていくと言うのに、一矢の顔が少しずつ近づいてくる。

 

「ま、待って! まだ心の準備が……っっ!?」

 

 一矢との距離は鼻先が触れるか否かの距離にまで迫っている。心の準備が出来てはいない。だけど嫌ではない。その証拠に無理に一矢を突き放そうとしない。二人の影は重なり、宇宙のアクシズから虹色の光があふれ出る。

 

 ・・・

 

「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!?」

 

 ……まぁ全部、夢だったわけだが。

 ここはメガフロート上に建てられた宿泊施設。そのベッドの上で飛び跳ねるように起きたのはミサであった。いつもは2本に結んでいる髪もそのまま背中に垂らしており、寝起きの為か、ところどころで寝癖が目立つ。

 

「ゆ、夢……っ!? アクシズは!? サイコフレームの共振は……っ!!?」

 

 寝汗がミサの身体を濡らす中、額の汗を拭い周囲を見渡す。

 中々、彼女にとって刺激の強い夢を見ていたせいか、心臓がバクバクと鼓動する中、周囲に広がっているのは昨晩、就寝前に見ていた光景と同じ為、今のは夢であったのを理解する。

 

「はあぁぁぁぁっっ……!? なんとゆう夢をぉぉ……っっ!?」

 

 先程の夢を思い返して、オーバーロードしたかのようにベッドの上でゴロゴロと転がって悶絶する。よくよく思い返してみれば、なんという滅茶苦茶な夢を見たのだろう。そのままアザレアでアクシズを押し返そうとして爆発してしまいたいくらいだ。

 

「うぅぅっ……」

 

 それもこれも全部、昨日、一矢と互いの呼称が変わったせいだろう。

 あの時の柔和な表情を浮かべる一矢を思い出して、転がっていたミサは掛け布団の裾を掴んで悶えている。確かに距離は近づいたとは思うが、別に呼称が変わった程度だと言うのに、何という夢を見てしまったのか。赤面するミサは熱を冷ますように、そのまま掛け布団に顔を埋めるのであった。

 

 ・・・

 

「……なんかあったの?」

 

 予選を終えた今、今日はメガフロートでの休みを兼ねた本選のトーナメントを決める抽選の日だ。パーカーのポケットに手を突っ込んで、トーナメントが決定するのを待っている一矢は先程からいつもより僅かに距離を取って、ちらちらと一矢を見てそわそわしているミサに問いかける。

 

「べ、べべべ、べつにぃっ!? ちょーいつも通りな感じぃっ!?」

「……違うでしょ、明らかに」

 

 外見こそ、いつもの2本に結んだ髪と前髪のヘアピンなどは同じなのだが、もみあげを弄りながら上擦った声であらぬ方向を見て答える。何かあったのかなんて言われても、隣の一矢とサイコフレームの共振めいた夢を見たなんて言えず、何も知らない一矢は呆れたようにため息をつく。

 

「……いつものミサの方が良いんだけど」

 

 消えるようなか細い声でボソッとこぼした一矢だが、それは近くにいるミサにも聞こえており、途端に顔が熱くなっていくのを感じる。

 

(最近、一矢がデレ過ぎて困る困らない)

 

 どこかしゅん……と寂しそうにしている一矢に、ぷしゅーと湯気が立つほど頬を朱く染めたミサは一矢に見られないようにと、両手で顔面を覆う。

 武者修行を終え、再会した時から一矢との僅かな壁も感じなくなった。今の一矢に面食らう事も多いが、それでもやはり嬉しい部分は多々あるのだろう。

 

(なんかあったのかって聞きたいのはこっちなんだけどなぁ……)

 

 そんな一矢とミサを傍から見ながらカドマツはやれやれと髪を掻きながら、隣のロボ太と顔を見合わせる。

 カドマツは一矢とミサの呼称が変わった場面に居合わせなかった為に、酔い捨てで呼び合い始めた二人に寧ろ一矢がミサに言った質問を投げかけたいくらいだ。

 

≪それではトーナメントの発表を行います≫

 

 そんな彩渡商店街チームや他の代表チームの耳にコントロールAIのアナウンスが流れる。すると、モニターには本選のトーナメント表が表示される。

 

「ほら、発表されてる」

「いたたたた……っ!!?」

 

 トーナメント表を見て、各チーム様々な反応を見せている中、一矢はいまだに顔を顔を覆っているミサの耳たぶを軽く引っ張りながら意識をトーナメント表に向けさせる。

 

「しょ、初戦からなんだ」

「……相手はアメリカ代表、らしいな」

 

 表示されるトーナメント表、彩渡商店街チームの名前は第一試合に記されており、対戦相手の欄となるその隣にはアメリカ代表チームの名前が。

 

「──そういうわけだ。何があっても恨みっこなしだ」

 

 対戦相手がアメリカ代表であると知った一矢達に声をかけたのは、そのアメリカ代表の莫耶であった。その隣にはアメリアもいる。

 

「しかし、大きくなったなぁ」

「えっと……なにが……?」

 

 そんな莫耶ではあるが、ミサを見てじみじみ呟き、ミサは何のことか理解できず顔を顰めて戸惑っている。

 

「彼、昔、彩渡街に住んでいたの」

「アメリカトーナメント、見てたんだよ。うっすらとだったんだけど、チームの名前とかで思い出したんだよ」

 

 ミサは一矢を見るが、一矢も知る由がない。そんな二人にアメリアが莫耶の言葉の意味を教える。現在は日本国籍を捨て、アメリカに帰化している莫耶ではあるが、その前は彩渡街に住んでいた。当時通っていた商店街のトイショップの店の幼い娘をうっすらと覚えていたのだが、それが現在、その商店街の名を背負ってチームでバトルをしているとは驚いた。もっともミサにとってはまだ幼い頃の話であり、今一ピンとは来ていない様子だ。

 

「……なんであれアンタの言葉通りだ。なにがあっても恨みっこなしだ」

 

 とはいえ、いつまでも話をしているわけにもいかない。今日は休みとはいえ、本選に向けてアセンブルシステムの調整も行っておきたいし、やる事はあるのだ。一矢は言葉を締め括ると、莫耶達も頷く。

 

 ・・・

 

「ジャパンカップもそれなりじゃったが、比じゃないのぉ……」

「流石は世界大会と言うか……」

 

 このメガフロートはガンプラバトルの世界大会の会場であると同時に、一つのガンダムのイベント会場でもある。様々な人種の人間が周囲を行き来するなか、メガフロートに訪れていた厳也や咲は圧倒されている。

 

「影二さんと一緒にいるのは久しぶりですね」

「そうだな……」

「彼女が出来たからってそっちばっかりに夢中になられても困るよね」

 

 また近くにはかつての熊本代表チームもおり、皐月は軽く影二に笑いかけると、影二が頷いている隣で陽太が茶化すように口を開く。

 

 ・・・

 

「物販も凄いな、こりゃ……」

 

 また限定商品が売られている物販コーナーでは、時間ごとに一定人数が案内される程長蛇の列が出来ており、そこに並びながら秀哉達はいつ買えるかも分からない行列にため息をつく。

 

「そう言えば、プロのモデラーやファイターの一部のガンプラって商品化されてるんだよね?」

「ああ、フルアーマーダイテツや翔さんのガンプラなんかもキット化されている筈だが……」

 

 列には風香や碧も並んでおり、退屈を紛らわすために小話をしている。その内容はかつてGGFでアナウンスが流れていた企画のものだ。

 

「つまり風香ちゃんもプロになれば、エクリプスの商品化もワンチャン……!?」

「まぁ……あり得るかもしれんが」

 

 有名なファイターやモデラー達のガンプラが商品化されているのであれば、プロになって名が知られ、ファンが多く出来れば夢ではないだろう。だが、そこまで行くのは夢のような話だ。

 

「夢が広がるねぇ……。購入特典のグラビアは水着まででOK?」

「却下だ。この不埒者め」

 

 自身のエクリプスが商品化された時の事を妄想しているのだろう。

 身を屈め、グラビアのようなポーズをとりながら碧にウインクをする風香に碧はその頬を引っ張り、「いたぁーいっ!?」と風香は涙目で悲鳴をあげる。

 

 ・・・

 

「これで良いかな?」

 

 メガフロートの広間には翔も来ており、訪れて早々ずっと彼のファン達からサインをねだられ、手慣れた仕草でささっと書いて、微笑みながら手渡すと軽く手を振る。今のでようやく落ち着いた。

 

「有名人は辛ぇなぁ」

「知らないうちにこうなってたんだよ」

 

 その光景を腕を組んで壁に寄りかかって見ていたシュウジは茶化すように軽く笑いながら声をかける。翔を慕う者は異世界にもいる。もっともそれだけではなく、翔の存在に影響された者が起こした戦いにトライブレイカーズが身を投じたと言うケースは多くある。そんな翔はシュウジの元に歩み寄りながら肩を竦める。

 

「レーアお姉ちゃん、この白雪姫(スノーホワイト)ってアイス、美味しそう」

「真っ白ね……」

 

 その近くで販売されているフードコートではリーナはとあるアイスクリームを指さす。

 カップから何から何まで純白のアイスクリームを見て、レーアは頬を引き攣らせる。

 

「けど、明日かぁ……」

「そうだな」

 

 リーナとレーア、そして近くにいるルルを何気なく見ていたシュウジと翔であったが、不意にシュウジは明日行われるであろう本選について触れると、翔はシュウジの隣に立って壁に寄りかかる。

 

「どう思います?」

「ここは世界一を決めるファイターにとっての夢の舞台だ。当然、本選にもなれば彼が考える予想も悉く覆されていくだろう」

 

 本選で一矢は一体、どれだけの活躍を見せてくれるのか。予想が付かない世界大会の本選にシュウジは隣の翔に尋ねると、翔も一矢達を応戦しているものの、予想が難しいのだろう。

 

「だが……彼は一人じゃない」

「ああ。友と戦い、共に討てって奴っすね」

 

 一矢だけなら予想に反することがあってどうしようもなくとも、彼は一人で戦っているわけではないのだ。翔の言葉にシュウジは笑みを浮かべながら頷く。

 

「ああ、そうだ……。そして俺達もそうだった」

「アイツにも背中を押してくれる仲間達がいる」

 

 シュウジの言葉に頷き、翔はシュウジと共にそれぞれの中のかけがえのない仲間達に思いを馳せる。近くにいるレーア達も、そしてヴェル達も、仲間達がいたから、戦い抜いてこれた。

 

「後は最後まで誇り(プライド)をぶつけるだけだ」

「そいつを最後まで見届けましょうか。俺達の後輩の戦いを」

 

 立っていられるように背中を支えてくれる仲間はいる。後は最後まで誇り(プライド)を世界にぶつけるだけだ。明日、行われるであろう本選に翔もシュウジも心待ちにするのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誇りを胸に、未来を掴む

「ついに本選だな」

 

 ついに訪れた世界大会の本選第一試合。間もなく第一試合が始まるという事もあり、観客席は言い知れぬ緊張感が漂っている。そんな場を満たす雰囲気を感じとりながらアムロは第一試合を今か今かと待ち侘びる。

 

「その成長を括目させてもらおう」

 

 一矢達がシミュレーターに乗り込んでいくのを見ながら、シャアは余裕そうな態度ではいるものの、これから始まるであろうバトルに興奮を隠しきれぬようだ。

 

「彼らも来るところまで来たな」

「何だかあっと言う間だね」

 

 アムロやシャアの反応はまさに観客の反応を表すかのように、観客席にいる者達は似たような表情を浮かべ、待ちわびている。ジンやサヤもその一人だ。

 

 ・・・

 

「……ねぇ、アタシを入れちゃっていいの? っていうか、なんで……?」

 

 そんななか、夕香は一人、シオン達とは別の場所にいた。

 一般の観客席とは違い、煌びやかで高級感の漂う内装が広がる一室に柔らかなソファーに腰かけて、落ち着かない様子だ。

 

「ここはVIPルームだ。バトルも見やすいだろう?」

「それはそうだけど……」

 

 夕香の問いかけにガラスを通じて広がる会場の様子を眺めながら答えるウィルはそのまま夕香の隣に座る。

 ウィルが経営しているタイムズユニバースは宇宙エレベーターに出資している。世界大会への参加はその縁で決められたものではあったが、やはり出資者だけあって、例え参加者とはいえ、その待遇は他の代表チームとは違うようだ。

 

「ウィル坊ちゃまは面倒臭い方ですが、悪意があるわけではないので何卒ご容赦ください」

「いや、べつに構いやしないけど……。だからなんで……」

 

 ドロシーはソファーに座る夕香とウィルの前に紅茶を出す。

 シオンがホームステイしてから飲む機会が異様に増えた飲み物だ。お陰でいくらか紅茶の良し悪しも分かるようになったつもりだ。

 ドロシーはウィルのフォローをするような発言をするが、別にその事はどうだって良い。わざわざ自分をここに連れて来たのは、ただの親切心なのか? そうこうしている間にもバトルが始まる。

 

 ・・・

 

 バトルフィールドとなったのは宇宙ステージだ。星々が煌めくなか、彩渡商店街チームの三機のガンプラが相手チーム目掛けて飛行していると、前方がキラリと光った。

 

「来たな……っ!」

 

 次の瞬間、無数の砲撃が放たれる。ただ闇雲に撃ったものではない。

 計算された射撃がゲネシスブレイカー達に襲いかかり、三機は回避行動を取りつつ幾らかシールドで防ぐ。

 

「この距離ならっ!!」

 

 先制攻撃を仕掛けてきたのは、ストライクライザーであった。

 中~遠距離を得意とするストライクライザー。だが、それはアザレアフルフォースとて同じこと。すぐさまアザレアフルフォースはビームマシンガンの引き金を引きつつ、ミサイル群を発射する。

 

「させないっ!!」

 

 

 しかしそれを撃ち抜き、周囲のミサイルごと連鎖爆発させたのはアメリアのストライクSEEDであった。ミサイルを撃ち抜いただけではなく、そのまま此方に接近しながらその銃口を向けてくる。

 

 しかしそのストライクSEEDの引き金が引かれる前に四方八方から無数のビームがストライクSEEDとストライクライザーに襲いかかる。ゲネシスブレイカーが放ったスーパードラグーンだ。きらりと光るビームの雨が降り注ぐ中、二機は備え付けたIフィールド発生装置で防ぐ。

 

「なんてキレのある……ッ!」

 

 光を超えて、宇宙の闇を切るかのようにGNソードⅤをソードモードに展開したゲネシスブレイカーがその目が追い付くのが難しいような圧倒的な高機動を持って、一筋の流星のようにストライクSEEDに斬りかかる。

 

「っ……!」

「だけど……っ!!」

 

 だがGNソードⅤも刃もストライクSEEDの前に現れた実体剣で防がれる。EXアクションで出現した一振りのエクスカリバーだ。咄嗟に防がれた事に一矢が僅かに顔を顰める中、ストライクSEEDはゲネシスブレイカーを押し返す。

 

 しかしゲネシスブレイカーもただ黙って押し返されるわけではない。

 咄嗟に両肩のフラッシュエッジ2を順に引き抜き、ビーム刃を形成するとブーメランの如くストライクSEEDに投擲し、GNソードⅤをライフルモードに発射している間にストライクSEEDが持つエクスカリバーの出現時間が過ぎ、消え去る。

 

「邪魔はさせないっ!!」

「こっちの台詞だ!」

 

 近距離での戦闘を行うゲネシスブレイカーとストライクSEED。ゲネシスブレイカーへ銃口を向けようとするストライクライザーであったが、アザレアフルフォースの射撃攻撃をGNフィールドで防ぎつつ、お返しとばかりにGNマイクロミサイルとファンネルを発射する。

 

≪トルネードスパークゥッ!!≫

 

 しかしアザレアフルフォースへ迫る攻撃もその前に躍り出たバーサル騎士が電磁を纏った電磁ランスを掲げ、雷の嵐を巻き起こして、迫る来る攻撃を防御フィールド代わりに無効化する。

 

「っ……やるな……っ!!」

 

 激しき雷の嵐が目を眩ます閃光になるなか、バーサル騎士のサポートを受け、ミサイル、そして大型ガトリングとビームマシンガンを同時に発射したアザレアフルフォースにストライクライザーは咄嗟にIフィールドとGNフィールドを張って防ぎきるが、エネルギーの消耗は激しく、また防いだことには成功したが周囲には硝煙が発生する。

 

≪もらったぁっ!!≫

 

 その間にバーサル騎士がラクロア王国の宝剣であるバーサルソードと電磁ランスを構えて突撃する。硝煙を掻い潜り、ストライクライザーへバーサル騎士が苦手であろう接近戦を仕掛けようとするが……。

 

「トランザムッ!!」

 

 莫耶の叫びと共に紅く発光したストライクライザーは忽然とバーサル騎士の前から消え去り、バーサル騎士の放った刃は虚しく空を切る。

 しかし直後、本来与えるつもりであったダメージが激しい衝撃と共にバーサル騎士を襲い、吹き飛ばされる。その最中、ロボ太が見たのは大型対艦刀を振り下ろしていたストライクライザーであった。だが、それだけでは終わらず、ストライクライザーはツインバスターライフルを放ち、バーサル騎士に更なる損傷を与える。

 

「ロボ太っ!」

 

 まともに攻撃を受け、大破間際にまで追い込まれたバーサル騎士にミサが咄嗟にロボ太の名を口にしつつも、これ以上の攻撃はさせまいとビームマシンガンを発射するが、その無数の弾丸をストライクライザーは盾代わりに構えた大型実体刀で防ぐと、そのまま放棄し……。

 

「こいつをまともに受けて耐えきれた奴はいないぜ」

 

 そのままストライクライザーはの全ての武装をアザレアフルフォースに放つ。

 回避には間に合わず、咄嗟に両肩部のフルシールドで防ごうとするアザレアフルフォース。しかし、その攻撃を受けて、まともにはいられなかったのか何とか耐え切ったものの、両肩のフルシールドは無残に破壊され、その下のアザレアフルフォースにも甚大な被害が及んでいる。

 

「くっ……!」

「やらせないっ!!」

 

 ロボ太とミサが窮地に追いやられているのを見て、ゲネシスブレイカーが何とか援護をしようとするが、それをストライクSEEDが許さず、既にアザレアフルフォース達とストライクライザーが戦闘を行っている間に発動させたのだろう。トランザム状態と化したストライクSEEDが肉薄する。

 

「いつまでも……ッ!!」

 

 このままではどんどん不利に追いやられる。

 ゲネシスブレイカーは振るわれるビームサーベルを持つストライクSEEDの腕部目掛けてシザーアンカーを放ち、ぶつけることでビームサーベルの刃の切っ先を逸らすと、そのまま回転する勢いを利用してビームサーベルを装備する腕部をGNソードⅤで切り裂く。

 

 腕部を落とされたストライクSEEDであったが、咄嗟に両腰のレールガンを放ち、ゲネシスブレイカーに損傷を与える。だが、ゲネシスブレイカーはそれでも勢いが止まらず、GNソードⅤを胸部に突き刺す。

 

「まだやられたわけじゃないッ!!」

 

 しかし、それでもアメリアの闘志は消えず、カリドゥス複相ビーム砲が感づいて回避しようとしたゲネシスブレイカーのGBソードⅤを装備する腕部を貫くと右肩だけを残して爆散させる。だが、それでもゲネシスブレイカーは物ともせず、フラッシュエッジ2をビームサーベルのように形成し、ストライクSEEDを両断する。

 

「これじゃあまだまだ莫耶には追いつけないな……」

 

 ストライクSEEDが爆散し、アメリアが一人、呟くなか、ゲネシスブレイカーはすぐさまストライクライザーのもとへ向かっていく。

 

 ミサもロボ太もこの世界大会に向けて己の腕を磨いてきた。

 例え激しいストライクライザーの攻撃を受けたとしても、そのボロボロの機体状態でさえストライクライザーと渡り合っている。

 

「一矢、援護するからっ!!」

 

 それもこれも距離があった一矢と共に進むため、大破状態でありながらミサは一矢に進むべき道を示すようにストライクライザーの武装を少しずつ破壊すると、一矢は頷いてゲネシスブレイカーはストライクライザーに向かっていく。

 

≪主殿の邪魔はさせん!!≫

 

 それでもストライクライザーに残った武装が迫るゲネシスブレイカーに放たれるなか、バーサル騎士がバーサルソードと電磁ランスを巧みに利用して、ゲネシスブレイカーへの攻撃を捌き切り、その間にもゲネシスブレイカーは更なる加速を持ってストライクライザーに迫る。

 

「くぅっ!?」

 

 だがそれだけではない。

 力を振り絞るように覚醒したゲネシスブレイカーの左腕の掌は光り輝く。

 咄嗟に構えられたツインバスターライフルを突き出されたパルマフィオキーナによって粉砕されるなか、そのまま左腕は勢いを持ってストライクライザーの胸部を抉り、莫耶が顔を苦々しく歪める。

 

「だが、それ以上は……ッ!!」

「……どうかな」

 

 ストライクライザーの腹部に埋まるゲネシスブレイカーの左腕だが、いくらパルマフィオキーナとはいえ、いつまでも保つわけではない。

 パルマフィオキーナの輝きが段々と弱弱しくなり、莫耶が残ったビームランチャーや頭部バルカンでゲネシスブレイカーの装甲をどんどん破壊しながら叫ぶが、静かに一矢は否定する。

 

「俺にはまだ未来を掴むことが出来る」

 

 その瞬間、ストライクライザーの腹部を抉っていた掌の収束しつつあるパルマフィオキーナの輝きが紅に燃えるように轟々しく再び輝けば、バーニングフィンガーが遂にストライクライザーを貫き爆発する。後に残ったのは闇を照らすように輝くゲネシスブレイカーとその傍らにいるバーサル騎士とアザレアフルフォースであった。

 

 ・・・

 

「面白ぇ使い方をすんじゃねぇか」

 

 彩渡商店街チームの勝利によって大歓声が響くなか、試合を観戦していたシュウジは満足そうに口角を上げる。例え元は自分の技であっても、それが使用者が変われば、また違うバリエーションが生まれる。今のゲネシスブレイカーのパルマフィオキーナからのバーニングフィンガーもそうだろう。

 

 ・・・

 

(……やったね、イッチ)

 

 VIPルームで観戦していた夕香も一矢達の勝利に胸を撫でおろす。元々、一矢達を信じていたが、それでも世界大会と言う事もあり、不安は当然あった。だがこうして第一試合を勝利で迎える事が出来て、心なしか微笑んでいる。

 

「確かに強くなってるようだね」

「でしょ。アンタもボヤボヤしてると足元すくわれるよ」

 

 一矢、そしてミサ達の実力もジャパンカップのエキシビションマッチで相対した時よりも成長しているのを観戦して更に感じ取ったウィルは口にすると、夕香は兄たちを自慢げに思い、そして挑発するようにウィルに笑みを向ける。

 

「まあ良いさ。僕もそろそろ行くとしよう」

 

 これでますますバトルが楽しみになってきた。彩渡商店街チームとバトルをするなら勝ち進まなくてはいけない。ウィルは自身の試合も近い事から立ち上がる。

 

「君の兄達じゃなくて、僕の事も応援してくれるんだろう?」

「しょーがないねぇ……。ちゃんと見ててあげるから頑張りなよ」

 

 かつてガンプラ大合戦の後のやり取りを思い出しながら、ウィルはドアノブに手をかけながら夕香に期待するように顔を向けると、言った言葉に偽りはないのか、夕香はやれやれと肩を竦めながらも、ウィルに微笑む。

 

「すぐに戻ってくるよ」

(……えっ、アタシ、全部の試合中ずっとここで観戦すんの?)

 

 夕香の微笑を見て、ウィルもつられるようにクスリと笑うと、扉を開きそう言い残してVIPルームを後にする。残された夕香はドロシーが代えの紅茶を用意する中、ウィルの口振りからシオンや裕喜達のいる観客席には戻れないのかと唖然とするのであった。

 

 ・・・

 

 日本代表とアメリカ代表のバトルが火付け役となったかのように世界大会は更なる苛烈さを見せ、一つ一つのバトルにドラマが生まれ、見る者を熱狂させる。そしてまた次なるバトルが始まろうとする。

 

≪続いての試合はイギリス代表チーム・フォーマルハウトVSギリシャ代表チーム・ネオ・アルゴナウタイです。各当チームは準備をお願いします≫

 

 コントロールAIのアナウンスが会場に響き渡る。続いての試合は世界大会のトーナメントを勝ち進み、巡り合ったフォーマルハウトとネオ・アルゴナウタイによるバトルだ。

 

「さて、行こうか」

 

 世界大会を更に勝ち進んだチームだけあって、ここまで来れば世界最高峰のファイター達によるバトルは予想もつかない。そんな中でもコントロールAIのアナウンスを聞いたセレナはゆっくりと立ち上がり、その笑みは崩れず、強者の余裕ささえ醸し出しアルマとモニカを引き連れながら、会場に向かって歩き出すのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フォーマルハウト

「夕香は何処(いずこ)へ?」

 

 まもなくイギリス代表・フォーマルハウトとギリシャ代表のネオ・アルゴナウタイのバトルが始まる。姉であるセレナの試合と言う事もあり、他の試合よりも何処か昂った様子のシオンだが、世界大会が始まってからずっと近くにいない夕香の姿がない事をしきりに気にしている。

 

「夕香なら違うところで見てるって連絡が来たけど……」

「……見ているなら、まあ良しとはしましょう」

 

 夕香はVIPルームにいて試合は見ている。一応、裕喜には連絡はしていたのだろう。携帯端末の画面をシオンに向けながら教える裕喜に、その携帯端末の画面を見ながら渋々納得したようなシオンは本来、夕香が座る予定だった隣の空席を一瞥しながら答える。

 

「そう言えば、色んなチームがあるけど、やっぱり名前の由来とかってあるのかな?」

「それはそうでしょう。彩渡商店街然り、例えばギリシャ代表のネオ・アルゴナウタイのアルゴナウタイはギリシャ神話の英雄達の総称ですわ」

 

 話を変え、会場に表示されている立体画面に載っているフォーマルハウトとネオ・アルゴナウタイの名を見ながら、何気なく問いかけている裕喜にシオンは己の中にある知識を口にする。

 

「それじゃあ、フォーマルハウトは……」

「フォーマルハウトは王家の星(ロイヤル・スター)とも呼ばれておりますの。まさにお姉さまに相応しいチームの名ですわ」

 

 ならばセレナ達のチーム名は一体、何なのか。その裕喜の疑問にシオンはその由来を口にしながら、ふふんっと自分の事のように満悦な笑みを浮かべながら誇らしげに鼻を鳴らす。

 

 ・・・

 

 そのフォーマルハウトとネオ・アルゴナウタイのバトルは赤い月が照らす西洋城が舞台で行われていた。そのバトルのフィールドとは思えないほど、美しく立派な城の敷地内で今も熾烈なバトルが行われている。

 

「ヘラクレスだっけ? 随分と大層な名前だね」

「この名に恥じるような力ではないよ」

 

 真っ先に目を引くのは、トランジェントとヘラク・ストライクのバトルであろう。庭園を舞台にした二機のバトルはその激しさを表すように周囲には幾つものクレーターが出来ており、激闘を物語るかのようだ。

 

「まっ、確かにその通りっぽいね」

 

 ヘラク・ストライクはその身の丈以上にあるであろうグランドスラムを軽々しく片手で振るい、トランジェントは咄嗟にバク宙するかのように後方に飛び退き、着地と同時にGNバルチザンの切っ先をヘラク・ストライクに向け、先端部を展開すると粒子ビームを素早く発射する。

 

 ヘラク・ストライクはグランドスラムで切り払うと同時にシールドを装備する左腕のグレネードランチャーを放ち、トランジェントもすぐさまGNバルカンで迎撃し、モニカはクレスの実力に軽く舌なめずりをしながら再び飛び出して刃を交える。

 

 ・・・

 

 トランジェントとヘラク・ストライクの激しいぶつかり合いとは裏腹に、レギルスとダソス・キニゴスの工房はとても静かなものであった。互いに射撃を中心とした戦闘はまるで水面に落ちる一滴のように静かに、そして広がる波紋のように、その実力を相手に理解させる。

 

(……連携を完全に分断されているわね)

 

 城内の建造物に身を隠し、レギルスライフルの射撃を防ぎ相手の出方を伺っているアリシアは内心で舌打ちする。世界大会ともなれば、チームでの連携は必然的に求められる訳だが、フォーマルハウトはその連携を分断してきた。お陰で今は自分とレギルスのような個々による戦闘が行われており、連携を取ろうと指示を出したくとも、その高い実力がそれを許さない。

 

(……やはり、連携だけが強みではないか)

 

 アルマもまた同様に射撃の応酬を繰り広げながら、思考を張り巡らせる。確かにフォーマルハウトは第一に連携を分断させる為に動いた。しかしやはりと言うべきか、ネオ・アルゴナウタイに所属する個々のメンバーの実力は高く、連携を分断させれば良いと言う単純なものではない。

 

(……きっかけがあれば)

 

 射貫くような射撃をシールドで防ぎながら、チラリとアルマは赤い月が浮かぶ空を見上げる。そこには二筋のガンプラが線を引いてぶつかり合い、まるで夜空に輝く星のようにも見える。まるで何かを求めるかのように見やったアルマは再び意識をダソス・キニゴスに向ける。

 

 ・・・

 

「思っていた以上だ」

 

 赤き月をバックにバエルとトールギス・アキレウスが幾度もぶつかり合う。トールギス・アキレウスがフェイロンフラッグを目にも止まらぬ勢いで放ち、バエルは素手で柄を弾いて切っ先を逸らしながら、セレナはトールギス・アキレウスのファイターであるアキを称賛する。

 

「俺は英雄だからな」

 

 アキは余裕を滲ませつつ、そのフェイロンフラッグの勢いを増し、更にはバックパックの大型ビームランチャーとシールドピットを放ち、その攻勢を強める。迫るビームを紙一重で避け続けるバエルであったが、やはり限界があるのだろう。ビームを回避する隙をついて、フェイロンフラッグの刃がバエルに迫る。

 

 このまま確実に仕留めるつもりで放たれた一撃がバエルに迫るなか、バエルとトールギス・アキレウスの間に金色の残光が走り、甲高い音と共にフェイロンフラッグを受け止める。

 

「……いつまでも遊んでいられないか」

 

 フェイロンフラッグを受け止めたのは、その手に握られたバエル・ソードであった。

 世界大会で初めて引き抜いた金色の刃をモニター越しで見つめながらセレナはどこか他人事のように冷静に呟くと、そのままもう一本のバエル・ソードを引き抜いて、切り上げるとその刃が届く前にトールギス・アキレウスは距離を取る。

 

「──誇りある眷属達よ」

 

 だが、バエルはそのまま距離を詰める事はなく赤き月が浮かぶ空にバエル・ソードを突き立てながら雄々しく口を開くと、セレナからの通信にアルマやモニカがピクリと反応する。

 

「セレナ・アルトニクスが命じる」

 

 さながら大いなる王のように、可愛らしい外見を持つ少女とは思えないほど厳格に放たれた言葉はモニカやアルマだけではなく、その姿を見る者達の視線を外すことはない一種の魅力があった。

 

「我らがフォーマルハウトの名……世界に示せ」

 

 美しい悪魔の王は黄金の刃を空に突き立て、己に付き従う眷属達に命令を下す。

 その言葉はまるで、獰猛な獣を抑えていた鎖が外れたかのように、その命を受けた従者達の口元に歪な笑みが生まれる。

 

「「主の仰せのままに」」

 

 同時に目に見えての変化が起きた。地上で戦闘を行っている二機が上空でも分かる程、光を放ち始めたではないか。

 

「本来、輝くべきはお嬢様。だけど、今は違う」

 

 ヘラク・ストライクとつばぜり合いになっていたトランジェントは光り輝き、背部のGNドライブから膨大な粒子を放出し、GNドライヴからトランジェントバーストによる三方向に光の翼のような粒子光が放たれ、ヘラク・ストライクを押し返す。

 

 自分達はあくまで主であるセレナが障害なくバトルをするためのサポートをする。別にセレナがそうしろと言った訳ではない。あくまでガンプラファイターである以前に従者としての身の程を弁えての事であった。

 だが今、そのセレナの口から従者ではなく、チームに所属する一人のガンプラファイターとして戦う許可が下りた。どの道、このままではジリ賃であった為、モニカの口元には獰猛な猛獣を彷彿とさせるような笑みが浮かぶ。

 

「光栄に思いなさい。貴女達は全霊を持って倒すべき相手に昇華した」

 

 レギルスの頭部スリットが展開し、ツインアイが発現し光り輝く。

 シニカルな笑みを浮かべながら、言い放つアルマに咄嗟に危険を感じたダソス・キニゴスはすぐさま狙撃をするが、その一撃は決してレギルスに届くことはなかった。

 

 何故ならば、レギルスの周囲に無数のほたる火のような胞子状の光が展開して防御フィールドの役割を担っている。そのままシールドを突き出せば、無数のレギルスピットは獲物を食い尽そうとするピラニアのように、ダソス・キニゴスへ向かっていく。

 

「さあ、続きを始めようか」

 

 天に突きあげたバエル・ソードの切っ先をそのままトールギス・アキレウスに向けたバエルはそのまま軽く振って、スラスターウイングから噴射光を噴き出しながら一気にトールギス・アキレウスへ向かっていく。

 

「君達は強い。だからこそ、ボクの”証明”になれる」

「何の話だッ!!」

 

 幾度もバエル・ソードとフェイロンフラッグの刃が交わり、反発するように距離を置く両機。その間にもトールギス・アキレウスはシールドピットを差し向けるが、二本のバエル・ソードと電磁砲を駆使して次々に破壊し、再び距離を詰め、バエル・ソードを振り下ろす。素手でバトルをしていた時よりも、その剣捌きは集中しなければ危ういほど、鋭く確実に此方の命を狙うかのようだ。

 

「何てことはない。君達を真正面から叩き潰して勝つ……。それだけさ」

 

 セレナの表情にはずっと笑みが浮かんでいる。だが、普段の愛嬌のある笑みとは違って、どんどんと歪なものになっていき、それに応じてバエルの剣技の激しさも増していく。

 

 ・・・

 

「……さっきは大層な名前って言ったけど、撤回するよ」

 

 トランジェントとヘラク・ストライクのバトルはトランジェントバーストを使用したことにより、更に激しくなり、周囲はもはや庭園とは思えないほど、無残な光景が広がっている。

 

 しかしトランジェントバーストによって機体性能を大幅に底上げしたトランジェントを相手にしても、いまだにヘラク・ストライクは互角のバトルを繰り広げており、トランジェントの美しい白き装甲に無数の損傷を与えたことにモニカは純粋にクレスの実力を認める。

 

「それは光栄だ……ッ!」

 

 振るわれたグランドスラムはトランジェントの胸部のクリアパーツに亀裂を入れ、大きく罅割れる。そのまま空いた左腕に腰部の刀を引き抜いて突き刺そうとする。

 

「それでも王家の星(フォーマルハウト)は墜ちやしない」

 

 迫る刃にモニカはスッと目を細めるとトランジェントのGNバルチザンは分離し、ランスピットとして迫る刀を持つ左腕に突き刺さり、その軌道を変え共に使用不能にすると、そのまま両腕の手首からGNビームサーベルを出現させ、グランドスラムとGNビームサーベルの刃が交わる。

 

 ヘラク・ストライクのバルカンがトランジェントの頭部を傷つける中、ランスピットが左右からヘラク・ストライクを貫き、動きが鈍ったところをグランドスラムの右腕ごと払って、がら空きとなった胸部へGNビームサーベルを突き刺して、そのまま両断する。

 

 ・・・

 

「お嬢様が命を下すだけあって、認めざる得ないわね」

 

 レギルスとダソス・キニゴスの静かな戦闘も決着がつく時は迫っていた。

 無数のレギルスピットを差し向けただけではなく、その合間にレギルスの武装を放ってはいるが、その身の装備と周囲の障害物を巧みに利用して、乗り切るだけではなく、此方を追い詰めようとするアリシアにアルマもまたその実力を認める。

 

「……自分でも、よく保っているとは思うわ」

 

 アリシアも額を汗で滲ませながら、クスリと笑う。もはやレギルスの猛攻を数少ない武装と耐久値でここまで渡り合えたのは神業ともいえるだろう。だが、いつまでも戦闘を長引かせるわけにはいかない。レギルスはレギルスピットを放ち、攻撃を仕掛ける間にもそのパターンを読み解いて着実に距離は縮めていたのだから。

 

「またフィールドで会いましょう」

 

 ダソス・キニゴスの大きな武装である狙撃用ビームライフルもレギルスピットによって破壊されてしまった。だが、それでもアリシアの戦意は消える事はなく、灰色のビームサーベルを構えている。着実に仕留める為にレギルスピットを放ちつつ、距離を詰めたレギルスは胴体にマニビュレーターを向けるとビームバルカンからサーベルを放ち、ダソス・キニゴスを貫く。

 

 ・・・

 

「……君達は確かに英雄と言える程の実力の持ち主だ」

 

 フェイロンフラッグの刃がバエルに迫り、その頭部に掠めると、バエルの頭部に亀裂が走る。それを見たセレナの笑みが一瞬だが、ピクリと反応すると、そのまま静かに口を開く。

 

「だが、英雄には美しい最後こそが相応しい」

 

 そのまま電磁砲によってフェイロンフラッグを持つ腕部を破壊し、二つのビームランチャーを向けられるが、咄嗟に片側に一本のバエル・ソードを突き刺して爆発させる。

 発射されたもう片方のビームランチャーをトールギス・アキレウスに体当たりをして回避すると共にバランスを崩させる。

 

 バエルが両手に構えたバエル・ソードがトールギス・アキレウスを貫き、そのまま重量を加えるようにスラスターウイングを稼働させ、上空から城へ落ちて行くと解放する。

 

「さようなら、ギリシャの英雄達(ネオ・アルゴナウタイ)

 

 落下したトールギス・アキレウスはそのまま西洋城の天守にあたる城の先端に身を貫かれ機能を停止した。空に浮かぶ赤い月はさながら犠牲者の鮮血に染められたかのようだ。その光景を見つめながら、セレナは強敵への別れを静かに口にするのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

果てない翼によく似た鎖

 最初は窓に広がる大空を自由に飛んでいる鳥に憧れた。

 

 いつかはあんな風に自由に飛びたい。

 

 羽を広げ、曇りない空を自由に飛び回る鳥たちをいつも眺めてはそう思っていた。

 

 ……でも

 

 なんで、そんなものを憧れるの?

 

 周囲の人間は空を飛ぶ鳥なんて誰も気にしないのに。

 

 

『そんな事ではアルトニクスの長女は務まりません。もう一度、やり直しなさい』

 

『笑いなさい。アルトニクスの長女が無愛想などと思われるのなんて以ての外です』

 

『あなたはアルトニクスの名を背負っているのです』

 

『家の名を汚すことは許されません』

 

 

 ───……自分が自由じゃないから?

 

 

 

 

 

『君が弱いからだよ』

 

 

 

 

 

 ・・・

 

「……っ」

 

 世界大会で用意された控え室のソファーで腰掛けていたセレナはゆっくりと意識を取り戻し、目だけを動かして周囲の状況を知る。モニターには世界大会の本選の様子が映し出されており、モニカがそれを何気なしに眺めていたが、セレナが起きた事に気づく。

 

「おはよう、お嬢様」

「あはは……ごめん、いつの間にか寝ちゃってたみたい」

 

 まだ頭はぼんやりするが、セレナは目頭を軽く手で添えながら、笑いかけるモニカに寝顔を見られてしまったかと照れ臭そうに笑みを浮かべつつ口を開く。どうやらいつの間にうたた寝をしてしまったようだ。

 

「……彩渡商店街チーム、勝ったんだね」

「はい、これで彼らは準決勝に進むこととなりました」

 

 ふと、モニターを見やれば勝利を収めたのだろう。喜びを分かち合っている彩渡商店街チームの姿が映っている。笑みを浮かべ、細めた目でその様子を見つめるセレナに肯定しながら、寝起きの彼女の為に用意したグレープフルーツジュースを彼女の前のテーブルに置きながらアルマが答える。

 

「さて、僕たちの番だね」

 

 ビタミンB1やクエン酸を含むグレープフルーツジュースを飲み、僅かな眠気を吹き飛ばし、頭の中をクリアにする。彩渡商店街チームの勝利によってモニター画面も切り替わり、トーナメント表が表示されると、次のバトルはフォーマルハウトの番となっている。世界大会と言っても、あっと言う間で遂に準決勝に駒を進めるチームを決める事となった。その準決勝に進むためにセレナは立ち上がる。

 

 ・・・

 

 フォーマルハウトのバトルは他のバトルは他とは異なる雰囲気で行われている。それはやはり彼女達の戦い方によるものだろう。まさに悪魔による蹂躙と言う言葉が似合うバトルは狂気に染め上げられるかのように観戦する者の心をつかむ。

 

 今もまたフォーマルハウトは準決勝へ進むためにバトルをしており、ここまで来れば、相手チームはかなりの手練れ。既にネオ・アルゴナウタイの時同様にモニカやアルマもチームとして前に出るバトルが行われている。

 

「後は君だけだね」

 

 最後に残ったウイングガンダムゼロをカスタマイズしたである機体へバエル・ソードを向ける。その周囲にはレギルスピットとランスピットが囲んでおり、既に逃げ場はない。

 

「くそっ……へらへらしやがって……」

「最後くらい笑って見送ってあげたいじゃないか」

 

 己の状況を確認し、既に打つ手がない事が分かり切っているのだろう。悪態をつく相手プレイヤーにセレナは意に介した様子もなく、バエル・ソードを振り、突進していく。

 

 ならば、せめて一矢を報いるようにとツインバスターライフルを向けるが、その射線から逃れるように少ない動きで捉えさせないように翻弄しながら、バエルは近づき、そのままツインバスターライフルを下方から蹴り上げ、その銃口を空に向けるとそのまま横から両腕を斬りおとす。

 

「あははっ……だぁめっ……逃がさないよ」

 

 距離を取ろうとする相手機体を見ながら、セレナは妖艶にさえ感じる笑みを浮かべ、バエル・ソードをホルスターにしまい、手を伸ばしてバックパックの翼に手をかけると毟り取る。

 

 主翼となるバックパックの翼を失ったことでバランスを崩し、落下していく相手機体を見下ろしながらバエルが手をかざすと、ランスピットとレギルスピットがその機体を貫いて爆発させた。

 

「……翼なんてものは奪われちゃえば落ちるだけさ。それならボクは星になりたい」

 

 これによってフォーマルハウトの準決勝進出が決定した。アルマやモニカが喜んでいる中、シミュレーターから出る前にセレナは一人、そう呟く。

 

 ・・・

 

「やぁ、準決勝に進めたようだね」

 

 控室へと続く道でセレナは向かい側からウィルに出会う。セレナが応対する中、ウィルに対して、そこまで良い印象はないのか、露骨に顔を顰めるモニカをアルマが宥める。

 

「お陰様でね。君もすぐに来るんでしょ」

「勿論さ。しかし、本当に笑うようになったね。昔が信じられないくらいだ」

 

 ここにいると言う事は、この後はウィルのバトルなのだろう。

 ウィルの実力はそれなりには知っている。彼も難なく準決勝に、いやそれこそ決勝に進んでくるはずだ。ウィルも同じように思っているの余裕を感じさせながら頷くと、笑みを絶やさぬセレナを改めて見ながら過去について触れる。

 

「今と昔、一体、どちらが本当の君なのかな?」

「……さあ? ボクも分かんないや」

 

 一切、笑う事もなかったほど感情の乏しかった過去と笑みを絶やさぬ今、果たしてどちらが本当のセレナなのかと問いかけるウィルに、セレナはどこか困ったように笑いながら、肩を竦めるとそのままウィルの横を通り過ぎて行く。

 

「ごめん、まだ眠いから部屋に戻るね」

「かしこまりました」

 

 セレナはそのまま歩を進めながら、背後のアルマ達に声をかけると、ウィルに向かって人差し指で下まぶたを引き下げて舌を見せ、「あっかんべー」と子供のようなことをしているモニカを宥めすかしながらアルマが答え、そのまま宿泊施設に向かう。

 

 ・・・

 

 宿泊施設の自身に宛がわれた部屋に戻ったセレナは早々にポニーテールを解き、ナチュラルブロンドの髪を自由にすると、そのまま仰向けでベッドに倒れ込む。

 

「……もう人前じゃ外れないんだよ」

 

 ベッドの上で仰向けに倒れているセレナはその人形のように揺れ動かぬ表情で先程のウィルの問いかけに答えるように一人、呟く。仮面もつけ続ければ自分の一部になると言った。人前で出れば、知らず知らずに仮面を被ってしまうようになってしまった。

 

 では、一体、なぜそうなったのか?

 

『あなたはアルトニクスの名を背負っているのです』

 

 アルトニクスの長女としての生を授かった時点で、自分のこの生き方は決まっていたようなものだ。両親もあてがわれた教育係も誇りあるアルトニクス家を汚さぬ長女という存在を求めた。

 

 品性方正、成績優秀……まさに小説か何かにもで出てきそうな完璧な存在。空に浮かぶ王家の星のような存在。それが求められた理想のアルトニクスの長女。

 

『そんな事ではアルトニクスの長女は務まりません。もう一度、やり直しなさい』

 

 幼いセレナには、まさに動物か何かのような痛みさえ伴う躾が施されていた。

 痛くて苦しくて辛くて……。例え助けを求めたところでそれが将来役に立つと言われて一蹴されるだけ。心を著しく消耗していくような生活に確かに秀才ともいえる存在になっていったセレナの感情は乏しくなっていた。

 

『笑いなさい。アルトニクスの長女が無愛想などと思われるのなんて以ての外です』

 

 それを周囲は良しとはしなかった。生まれて来た長女は両親が催すイベント事に連れて行かれる事が多くあった。幼いウィルと出会ったのもこの頃だろう。しかし、人によって一切笑わず感情の乏しいセレナは生意気な小娘にでも映るのだろう。教育係を筆頭に笑え笑えと更に人当たりの良さを求めた。

 

 ──自分に求められているのはセレナという個ではなく、完璧なアルトニクスの長女なのだ。

 

 幼いながらに自身の存在意義を理解したセレナは笑顔の仮面を被った。

 これを被れば、誰も何も言わない。痛みも感じない。だから自分を殺した。誰からも愛される秀才であろうとした。

 

『お前ならまだ出来るだろう』

 

 だけれども、仮面を被り、学年一位だなんだとどれだけ学校で、習い事で結果を出したとしても両親は満足しなかった。例え一位ではなく、上位であった時などとは見向きもしなかった。

 

 求められるのは全て結果のみ。どれだけ頑張ったなどという過程は必要とはされない。もっと上、さらに上、結果が残せなければ見向きもされない。上限知らずな親の期待からくる要求はいつまでも続いていった。

 

 ──良いなぁ

 

 いつまでこんな事すれば良い?そんな答えの出ない問答をいつまでも繰り返す中で、窓から広がる大空を飛び続ける鳥たちはとても自由に見えた。

 

『弱いからいけないんだよ』

 

 いつしか夢の中で人形のような自分にこう言われるような夢を見続けた。

 自分の能力が伴わないから、両親を満足させられないから、だからいつも求められてばかりでいつも心の中が虚無感に包まれているんだ。

 

『弱いから苦しいんだよ』

 

 まるで暗い鉄格子のなかに押し殺した自分に言われているような気分だ。

 誰をも屈服させるだけの力があれば、きっとこの呪縛のような生活からも解放されるのだろう。弱いから苦しむ、だから強くあろうとした。

 

『お姉さまっ!!』

 

 苦しいだけの生活ではなかった。次女であるシオンは自分ほど窮屈な生活はなかった。羨ましいと思った半面で、それでもシオンは無邪気に自分を慕ってくれた。

 

『お、お姉さまは今日は一緒に寝てもよろしいでしょうか……っ……!』

 

 幼いシオンは雷がとても怖がっていた。夜、雷が鳴れば必ず自分の部屋に来ては一緒に寝ていた。シオンといると、アルトニクスの長女ではなく、セレナという個を求められているようでとても嬉しかった。

 

『お姉さま、これがガンプラなのでしょうか?』

『うん、シオンも作ってみる?』

 

 ガンプラを始めたのだって、シオンとの話題作りなのかもしれない。地球規模で流行しているガンプラを内密に買ってきて、シオンに教えた。それがバエルだ。ガンプラその物もそれなりに楽しめたし、何より無邪気にガンプラ作りを楽しみ、ガンダム作品にまではまっていくシオンが微笑ましかった。

 

 ガンプラバトルもとても楽しかった。

 一度、空に飛び立てば自由になったような錯覚さえ味わった。否、このガンプラバトルのフィールド上では自分は自由なのだ。それにバトルは偽りがない。その戦い方は嘘偽りのない自分自身を曝け出させるようで何気なく始めたガンプラにのめり込んで行った。

 

『お姉さま、わたくしもガンプラを買ってまいりましたわっ!!!』

『……シオン、それ確かヒュッケ○イン……』

 

 まだガンダム作品にさほど詳しくなかった頃のシオンとは色々な思い出があった。窮屈で息苦しい生活の中でもシオンとのひと時は忘れさせてくれるには十分であった。

 

『ガンプラバトルか……。まぁ、バカには出来ないくらいには流行ってはいるか』

 

 しかし、楽しかったガンプラバトルも両親やその周囲に目をつけられてしまった。地球規模で行われているガンプラでアルトニクスの長女がそれこそミスターガンプラのような活躍をすれば、話題になるだろうと両親はガンプラバトルについても口を出してきたのだ。

 

『イギリス代表に選ばれました』

『そうか。なら次は世界だな』

 

 別に趣味の範囲であって、そこまでするつもりもなかったのに、ガンプラバトルの腕も磨かされ、結果を出すように迫られた。

 イギリス代表になった際も喜んでくれたのはシオンや、少し前に仕えるようになったアルマやモニカ達であって、両親は自分達が目の前で見ている媒体から目を逸らすことなく答えるのみだ。

 

 ──少しは褒めてくれてもいいじゃないか

 

 どれだけ結果を出したところで両親達は更に上を求めた。何をしたって出来て当たり前。そうではなく、たった一言で良い。褒めてくれるのならどれだけ救われるのだろうか。

 

『弱いままだと誰も君を必要としないよ』

 

 そしていつもの夢の中でさえ自分と同じ顔の誰かに言われる。

 暗い鉄格子の中で確かに此方を見透かしているようで頭がおかしくなりそうだ。

 

『それに仮面を外した君に何の価値があるの?』

 

 夢の中で言われたその言葉は胸を抉るようだった。

 すぐにでも否定したかった。だけどずっと仮面をつけて生きて来た。今までの人生の大半は仮面をつけて築いてきたものだ。否定するには難しかった。

 

『本当の君は空っぽじゃない』

 

 それでも自分は空っぽではないと否定したかった。

 なら、それをどう証明する?仮面をつけ続けた自分は何をすれば本当の自分を曝け出せる? きっとそれはガンプラバトルだ。バトルなら嘘偽りがない自分なんだ。

 

 ──証明が必要だ

 

 両親にも周囲にも認めさせるほどの分かりやすい証明。

 

 自分は空っぽではないという証明。

 

 ガンプラバトルで強者を求めた。勝って証明すれば周囲を認めさせることも、本当の自分は空っぽなどではないという事に繋がると思ったからだ。しかし、強い存在だけを求めて、戦い続けて、勝って、だがそれでも心は満たされることはなかった、

 

 ──どこに辿り着けばいい?

 

 ──どれだけの相手を倒せばいい?

 

 ──どこまで強くなれば認めてもらえる?

 

 ──どうすれば自分と言う存在は見てもらえる?

 

 どれだけ考えたところで終着点の見えない疑問は頭の中を駆け巡り、自分と言う個を見て欲しいと思う反面で、つけ続けたアルトニクスの長女の仮面はもはやどうすれば外れるのかも自分でさえ分からなかった。

 

 ──ガンプラバトルもシオン達とただ静かに楽しく出来れば、それで良かったのに

 

 ・・・

 

 

「お姉さま」

 ぐるぐると頭の中に浮かび続ける疑問に答えは出ず、ただ時間だけが過ぎて行くと不意にノックされる。一体、誰なのか目を向ければ、扉越しにシオンの声が聞こえ、シオンならばと招き入れる。

 

「どうしたの、シオン」

「もうすぐお姉さまの準決勝が始まりますので」

 

 シオンをアルトニクスの長女とは違うセレナとしての笑顔で出迎えながら、その疑問を口にすれば。シオンはその隣に座りながら答える。

 

「やはりお姉さまの傍にいると、とても落ち着きます……」

「ボクもだよ」

 

 セレナの肩に頭をかけながら安心するように口にするシオンにその頭を優しく撫で、慈しむような笑みを浮かべながら答える。ずっとそうだ。窮屈な生活でも自分という個を求めてくれるこの温もりが愛おしかった。

 

「……わたくしはお姉さまに色んな姿を見せてきました。しかし……わたくしはお姉さまの弱音も何も聞いた事がありません……。わたくしが物心ついた頃からお姉さまは笑う事が多かった印象です」

「シオンの前だと格好つけたくなるんだよ」

「……無理をしていませんか?」

 

 準決勝を前にしても、セレナはいつものセレナだ。

 シオンはいつもこのセレナしか知らない。自分には時折、慈しむような笑ってくれる強くて優しい姉。自分も家の生活で窮屈な思いはしたことはあるが、これより上の事を姉はしているのだと乗り越えて来た。だが、そんな姉は弱音をこぼしたことがなかった。

 

「……無理か……。ねぇシオン……。ボクはどうすれば良いのかな? どんなに強い人達を倒したところで、満たされないんだ」

 

 最初は純粋に自分を曝け出せるガンプラバトルも楽しかった。

 だが今は違う。どれだけ強敵たちを倒したところで自分の心は満たされないのだ。きっと世界大会を優勝したところでそれで終わりだとは思えない。戦って、勝って、その先になにが待っている。認めてもらえるのか、褒めてもらえるのか、自分を見てもらえるのか? それともまだ求められるのか……。

 

「……ごめん。忘れて。らしくなかったね」

「お姉さま……」

 

 ……妹になにを話しているのだろう。

 こんなことは話すべきじゃない。自分はシオンにとって強い姉でありたいのだから。過去の弱いままの自分ではいけないのだ。準決勝も間近と言う事もあってセレナは立ち上がる。

 

「大丈夫。ボクはセレナ・アルトニクスなんだ。良い知らせを届けるよ」

 

 次にシオンに向けたのは、いつもの笑みだ。

 シオンに時折、見せるような笑みではない。仮面の笑み。品性方正、才色兼備の秀才、アルトニクスの長女がそこにいる。相手となるのは、確か彩渡商店街チームだろう。勝って勝ち続けて、証明を得て、結果を残さなくちゃいけない。

 

(……だって、そうしないとボクの存在意義が分からないから……)

 

 ナチュラルブロンドの髪をポニーテールに纏め、セレナはシオンを残して部屋を出て、アルマやモニカと共に準決勝に臨む。

 

 フォーマルハウトは秋に見える星。

 光り輝くその星はとても見やすい。求められるのはきっとそんな存在だ。しかし、フォーマルハウトはポツンと孤独に輝いても見えてしまうのだ……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仮面を砕いて

 彩渡商店街チームとフォーマルハウトによる準決勝はどこまでも続くような煌めく星空の輝く荒野であった。既に戦闘は開始されており、轟音が鳴り響いている。

 

「手加減はしないよ。徹底的にすり潰すっ!」

≪望むところだッ!!≫

 

 二振りのGNバルチザンの先端部を展開して、粒子ビームを放つトランジェントに臆することなくバーサルソードと電磁ランスで切り払いながらバーサル騎士が接近していく。

 

「近づかせは──ッ!」

 

 粒子ビームを切り払い、物ともせずにトランジェントに近づいていくバーサル騎士にすかさずレギルスがライフルを構え、照準を定めて撃ち落とそうとするが、その前に無数のスーパードラグーンが迫る。

 すぐに察知したアルマはすかさずレギルスピットを防御フィールドとして展開することによってゲネシスブレイカーから放たれたスーパードラグーンによる波状攻撃を防ぐ。

 

「お返しよ」

 

 そしてそのまま桁外れに数の多いレギルスピットをゲネシスブレイカーに差し向ける。

 ゲネシスブレイカーの持ち味となる圧倒的な機動力を持ってしても、その襲いかかる数の多さには一矢も苦々しい表情を浮かべる。

 

「私も……っ!!」

 

 始まってすぐに激闘と呼べる身を削るバトルが行われている。アザレアフルフォースもすぐにゲネシスブレイカー達の援護に回ろうとするのだが、突如としてセンサーが反応した。

 

「……っ!!」

 

 バエルだ。スラスターウイングから噴射光を放って接近してきていた。

 アメリカでのバトルの時同様、こちらに捉えさせぬように相手を翻弄するような動きを交えながら、電磁砲をこちらに放ってくる。

 

「あの頃とは違うっ!!」

 

 かつてはまさに手も足も出なかった。だが、あの頃とは違う。自分だって成長したと言える程、様々な経験をしてきたのだ。すぐさまアザレアフルフォースは背部に取り付けたフラッシュバンを装備するとバエルへ向けて投擲し、アザレアフルフォースとの間に目が眩むような閃光が溢れる。

 

「へぇ、随分と小賢しい真似を覚えたんだねぇ」

 

 眩い閃光に反射的に一瞬、顔を顰めたセレナだがすぐに気にした様子もなく、笑みを浮かべながら、バエルの動きを切り返る。このままアザレアフルフォースに突っ込むつもりではあったが、まだ光が消えない以上は下手に突っ込まない方が良い。

 

 何か仕掛けてくるかと考えたセレナの予想は当たっていた。アラームが抜け、徐々に視界も閃光に馴染んでいくなか、ビームマシンガンの弾丸が迫り、すぐさまバエル・ソードの刃を盾代わりに素早く動かして払い落とすように防ぐ。

 

「強くなったって言ってよっ!」

 

 全てを防いだころにはアザレアフルフォースは驚くべきごとにバエルを相手にビームサーベルを引き抜いて迫って来ていた。咄嗟に鍔迫り合いの形で受け止めたバエル。すぐに次の手に出ようとしたが、アザレアフルフォースの脚部のミサイルポッドが展開し、切り払ったと同時に放たれたミサイルを電磁砲で破壊する。

 

「あはっ、そうだね。確かに見違えたよ」

 

 しかしそれもミサの計算のうちであったのか、爆炎を抜け出てビームマシンガンの弾丸が迫り、防ごうとはしたが、何発かは被弾してしまった。ビームマシンガンによる弾痕をモニターで確信しつつ、それでもセレナの表情から余裕が消える事はない。

 

 ・・・

 

「ったく、しぶといなぁっ!」

 

 一方、ゲネシスブレイカー達のバトルは継続されており、互いに損傷が目立つなか、二振りのGNバルチザンをランスピットに展開し、レギルスピットと共にゲネシスブレイカーやバーサル騎士に差し向けるわけだが、旋風竜巻蹴りやトルネードスパークなどで防がれ、モニカは苛立ち気に叫ぶ。

 

「っ!?」

 

 いつまでも旋風竜巻蹴りによる竜巻が続くわけではない。それが終われば、こちらのものだ。そう考えていたモニカだがその表情は驚愕に染まる。

 

 確かに旋風竜巻蹴りは永遠に続くものではなかった。

 しかし竜巻の中が光り輝いたかと思えば、旋風竜巻蹴りを繋ぎ技にゲネシスブレイカーが突っ込んできたのだ。

 

 視界に捉えきれぬ圧倒的な加速によって放たれたGNソードⅤの切っ先を半ば反射的に呼び戻したGNバルチザンで防ぐが、それでも覚醒による己の身を武器に変えたような突進は一振りのGNバルチザンを破壊する。

 

 残った一本のGNバルチザンを連結させるトランジェントだが、ゲネシスブレイカーは止まる事はなくそのまま体当たりをぶつけるとトランジェントの体勢が崩れ、そのままパルマフィオキーナを発動させた左腕がトランジェントの頭部を掴んだ。

 

「モニカっ!!」

≪させはせんっ!!≫

 

 アルマがすぐにでもモニカの援護をしようとビームバスターを放とうとするが、その射線上に割り込んだバーサル騎士はバーサルソードをブーメランのように投擲してきた為、シールドで上方に弾き飛ばす。

 

≪もらったッ!!≫

 

 しかしあくまで今のバーサルソードはブラフだったのだろう。

 既にバーサル騎士は電磁ランスを構えて突っ込んできており、既に距離は詰められていた。この距離ならば、ライフルで対応するよりもサーベルで対処した方が良いとすぐに判断したアルマはライフルを放棄し、マニビュレーターからビームサーベルを展開させる。

 

 しかし直前でバーサル騎士は己のマントを掴み、レギルスの視界を妨げるように覆い被せると、そのままマントごとレギルスピットを内蔵するシールドを装備した左腕目掛けて電磁ランスを突き刺す。

 

「やられた……ッ!!」

 

 そのままレギルスを蹴った反動で電磁ランスを引き抜き、マントを回収したバーサル騎士は上方へ弾かれたバーサルソードを掴み取るとそのままレギルスの左腕を切断し、落下していく左腕を見ながらアルマは忌々しそうに歯ぎしりする。

 

 ・・・

 

「このぉっ!!」

 

 パルマフィオキーナによって頭部を破壊されたトランジェントではあったが、その背部に光の翼をかたどったトランジェントバーストを発動させる。爆発的に性能を底上げしたトランジェントはゲネシスブレイカーを押し払い、そのまま胸部へ突き刺そうとする。

 

 しかし、そうはさせまいとゲネシスブレイカーは背部の大型ビームキャノンをありったけ発射して、その数発をGNバルチザンの持ち手に直撃させ破壊する。

 

 だがそれでもトランジェントは止まる事がない。

 マニビュレーターは破壊されたが、まだ両手首のビームサーベルを展開し、依然こちらを貫こうとする。それならばとゲネシスブレイカーはGNソードⅤを捨て、両手にバーニングフィンガーを発動させると真っ向からトランジェントのビームサーベルを粉砕し、そのままトランジェントを貫く。

 

「ごめん、お嬢様……っ!」

 

 両腕を失い、胸部を貫かれたトランジェントの背部の光の翼が露の如く消え去ると機体が限界に達し鮮やかなGN粒子を散らしながら爆散する。その刹那、力が及ばなかったことにモニカはセレナに謝罪の言葉を口にするのであった。

 

 ・・・

 

≪この距離ならば負けはせんっ!!≫

 

 残った右腕のマニビュレーターのビームサーベルを展開して、バーサル騎士に挑むレギルスではあったが、剣を扱った近接戦ではバーサル騎士の方が上手なのだろう。

 どんどんと激しさを増すバーサル騎士の剣技を前にレギルスは押されていき、バーサルソードと電磁ランスによる攻撃の嵐はレギルスを吹き飛ばす。

 

 距離が空いた事もあり、レギルスはレギルスキャノンを抱えるようにその銃口をバーサル騎士に向けるが、発射手前で投擲された電磁ランスがレギルスキャノンを破壊し、爆発する。

 

「……ここまでね」

 

 爆発によって大破に追いやられたレギルスはそれでもとビームバスターを放つが、バーサル騎士は盾装甲を前面に突進して防ぐと、そのまますれ違いざまにレギルスを両断する。悔しさはあるのものアルマは客観的に己の敗北を認めるのであった。

 

≪やったな、主殿っ!≫

「ああ、流石ロボ太。早くミサの援護に……」

 

 トランジェントとレギルスを撃破し、合流したバーサル騎士とゲネシスブレイカー。互いに称賛し合うなか、一矢は今もまた戦闘を続けているであろうアザレアフルフォースとバエルのもとへ急行する。

 

 ・・・

 

「きゃあぁっ!!?」

 

 しかし、訪れて早々に見たのは吹き飛ばされて、地面を削る中破状態のアザレアフルフォースの姿であった。

 

「確かに強くなってるみたいだね。でも……それは君だけじゃないよ」

 

 そうさせた相手であろうバエルは小破ながらも健在そうな様子で体勢を直すようにバエル・ソードを軽く振るう。

 確かにミサはセレナと初めてバトルをしたアメリカに居た時よりも飛躍的に成長したと言っても過言ではないだろう。しかしあれから期間を経て強くなったのはセレナとて同じことなのだ。

 

「ようこそ。どうやらモニカ達は負けちゃったみたいだね」

 

 アザレアフルフォースの傍らに降り立ち、ゲネシスブレイカーがアザレアフルフォースを支えて起き上がらせると、セレナはロストしたトランジェントとレギルスの反応を見ながら、さながら舞踏会に誘うかのようにバエルは両手を広げる。

 

「余裕だな」

「やる事は変わらないからね」

 

 あくまで飄々と余裕のある態度で笑みを崩さないセレナに一矢は鋭くバエルを見据えながら口を開くと、バエルは右腕に握られたバエル・ソードの切っ先を向ける。

 

「一矢……っ……」

「……俺達はチームだ。みんなが強くなったのはその為だろ」

 

 セレナとのいまだにある実力差にミサは苦々しい表情を浮かべると、一矢は安心させるようにアザレアフルフォースを支えながら、語りかけるとミサも安心したようにコクリと頷く。

 

 それを皮切りに彩渡商店街チームは弾かれるように動いた。

 バーサル騎士がバエルに先行すれば、飛び上がって覚醒したゲネシスブレイカーはスーパードラグーンを放ち、背後からアザレアフルフォースがビームマシンガンと大型ガトリングを発射する。

 

「ふぅん……まぁ、確かにチームらしい動きだ」

 

 仕掛けられた嵐ともいえる攻撃にセレナは笑みを作る事で細めていた目をスッと開くとバエルのツインアイは妖しく発光する。それと同時にバエルはマシンガンの弾丸を避けるように飛びあがるとまずは仕掛けられたスーパードラグーンによる波状攻撃を全てバエル・ソードの刀身によって弾くと、弾いた一部のビームを計算してスーパードラグーンを何基か破壊する。

 

 そのまま近づいてきたバーサル騎士のバーサルソードと電磁ランスを二振りのバエル・ソードによって受け止めるバエルだが鍔迫り合いは長くは続かず、そのまま小さな機体であるバーサル騎士に膝蹴りを見まい、そのまま片側の盾装甲を切断して蹴り飛ばす。

 

「ッ!?」

 

 だが、バーサル騎士を追撃するわけでもなく、その次の標的をゲネシスブレイカーに移したバエルは電磁砲を発射しながら接近する。電磁砲をビームシールドで防ぎつつもバエルに立ち向かうようにGNソードⅤを展開したゲネシスブレイカーはバエルと交差するが、ゲネシスブレイカーの片翼を破壊される。

 

「セレナちゃんッ!」

 

 三対一の状況でさえ無類の強さを見せるセレナ。しかしやはり一人では限界があるのか放たれたシュツルムファウストに動作が間に合わず、咄嗟に左腕を構えて防ぐが、被弾してしまい爆炎が上がる。すぐにでも爆炎を振り払おうとするバエルだったが、その前に爆炎を突っ込んできたアザレアフルフォースがビームサーベルを振りかぶる。

 

「確かにセレナちゃんが言ってたように弱いって苦しいよ……っ! でも、だから強くなりたいって思えるッ! 苦しかった思いも勝てなかった悔しさも全部ひっくるめて、今の私の強さに繋がってるッ!!」

 

 バエルとアザレアフルフォースの剣戟が続く。その中で放たれたミサの言葉にセレナの浮かべる笑みはピクリと反応する。

 

「セレナちゃんも私を強くしてくれた一人だよッ! セレナちゃんがいたから私は強くなれたッ!!」

「──ッ!」

 

 取り繕うこともなにもせず、ただあるがままに熱の入った言葉を吐き出す。

 その言葉にセレナの操縦桿を握る腕が震え、それがバエルの隙に繋がったのだろう。覚醒状態のゲネシスブレイカーによる光の刃とバーサル騎士のトルネードスパークをまともに受けてしまい、地面に真っ逆さまに叩きつけられる。

 

 地面に叩きつけられたバエルによって周囲に土煙が巻き上がる。

 三機がバエルの様子を伺うように、周囲に浮かび上がり、バエルの出方を見る。シミュレーターが終了しないと言う事は先程の攻撃を受けてまだバエルは撃破されてはいないのだろう。

 

「……っ……!?」

 

 しばらくして土煙が消え去る。隕石が落下したかのように広がっているクレーターの中心にバエルはいた。やはり無事ではないのだろう。その機体状況はもはや大破に近くいつ行動不能になってもおかしくなかった。これでさらに優勢にはなった。しかしそんな状況なのにも関わらず、バエルの姿を見た、ミサは恐怖で息を飲む。

 

「……勝たなくちゃいけないんだ……。ボクの戦い方で勝って……空っぽじゃないって証明しなくちゃ……。それに……弱かったら……誰も見向きもしてくれない……」

 

 火花と共に全身をスパークが散るなか、バエルは静かに立ち上がる。

 しかしその機体状況から、あちこちが軋み、さながら悲鳴のようにも聞こえる。そのシミュレーター内で俯いたセレナはうわ言のように呟く。

 

「……ボク……勝つから……っ……

 

 そしたら……褒めてくれるよね……?

 

 認めてくれるよね……?

 

 ボクを……見てくれるよね……?」

 

 頭部の半分が潰れ、フレームさえ剥き出しになっているのにバエルはそのツインアイを輝かせるなか、セレナの笑みは消え去り、感情が乏しいかのように虚ろな表情で頬に涙を流しながらモニター越しに輝く星空に手を伸ばすと、そのままバエルは近くに落ちているバエル・ソードを手に取る。

 

「……」

 

 その姿を見て、ミサは意を決したように下降しクレーターの中に降り立ち、バエルと向き合う。ゲネシスブレイカーとバーサル騎士は見届けるようにただ静かにクレーターの外から成り行きを見守る。

 

「……終わりにしよう、セレナちゃん」

「……うん……」

 

 アザレアフルフォースはビームサーベルを構え、ミサはセレナに声をかけると、虚ろなままセレナは頷き、バエル・ソードの切っ先を向けると両者はどちらかと言うわけでもなく同時に飛び出し、互いの刃を突き出す。

 

 バエル・ソードの刃は確かにアザレアフルフォースを貫いていた。

 それと同時にアザレアフルフォースのツインアイから輝きが消え機能を停止する。しかしそれだけではなかった。アザレアフルフォースのビームサーベルもまたバエルを貫いているではないか。

 

「ありがとう、セレナちゃん……。私、セレナちゃんもいたお陰で強くなれた」

「……ボクの……お陰……?」

「うん……。セレナちゃんに会えて……本当に良かった……」

 

 アザレアフルフォースとバエルは互いに身を預け合うようにそのまま動きを静止させる。バトルが終わるその刹那、ミサはセレナに会えたことに感謝すると、僅かに驚いたように表情を動かすセレナに、ただ微笑みを浮かべると彩渡商店街チームの勝利で幕を閉じるのであった。

 

 ・・・

 

「──……お姉さまっ!!」

 

 試合終了後、アルマやモニカが気を利かせてセレナを一人にすれば彼女はテラスで窓から見える海を眺めていた。すると彼女に声をかける者がおり、見やればこちらに駆け寄ってくるシオンの姿があった。

 

「……ごめん……シオン……。ボク……負けちゃった」

「いえ、お姉さまの勇姿はわたくしの目に、そしてこの脳に確かに焼き付いておりますわ」

 

 準決勝で敗北をしてしまったセレナは申し訳なさそうに自嘲気味に笑っていると、そんな事はどうだって良いとばかりにシオンは首を横に振ってセレナを包み込むように抱き着く。

 

「わたくしは……お姉さまがどのような想いで生きているか推し測れません……。それでも……お姉さまはわたくしの唯一無二の憧れですわ」

「シオンも……”ボク”を見ていてくれるんだね……」

「わたくしはお姉ちゃん子ですもの」

 

 力なくシオンに抱きしめられたセレナはシオンからの言葉に胸が熱くなるのを感じるが、それを堪えながらシオンの背中に手を回しながら嬉しそうに呟くとシオンは微笑を浮かべながら答える。

 

「セレナちゃんっ!!」

 

 そんなアルトニクス姉妹の空間の中、またしてもセレナに声をかけられる。

 見てみれば、セレナを探していたのか、汗ばんだ様子のミサが笑顔で手を振って駆け寄ってきた。

 

「セレナちゃん、本っ当に強かった! 一矢達がいなかったら負けてたと思う……。でも、また強くなるよっ!! 今度はセレナちゃんに一人でも負けないくらいっ!! だからセレナちゃん、また私とバトルしてねっ!!」

 

 勝利を収めたものの、ミサはセレナに一人で勝てたと思ってはいない。寧ろ負けたと考えていた。セレナの実力を再度、認めているミサにセレナはシオンから離れながら、その言葉に耳を傾ければ、ミサは今度は負けないと闘志を燃やしながら晴やかな笑みを浮かべ、再戦を誓うように手を差し伸べる。

 

「……お姉さまを満たしてくれるのは、きっとただ強いだけの存在ではありませんわ。切磋琢磨し、時には支えになるであろうライバルの存在だと、わたくしは思いますの」

「ライバル……?」

 

 不意に傍らに立つシオンが微笑みながら、セレナに試合前に言われた言葉の自分なりの答えを話すと、セレナはライバルの言葉を口にするとシオンは頷く。

 

「……そっか……。うん……。ボクで良かったら、いつでも」

 

 己に言い聞かせるように呟いた言葉に、セレナは頷くとミサから差し伸べられた手を掴み、握手を交わすとミサは嬉しそうに「うん! うん!」と頷く。

 

「はじめまして」

 

 ミサと握手を交わすセレナの表情に笑みが浮かび上がる。

 それは仮面を被ったような笑みではない。優しく、どこか儚いながらでも少女らしい可愛らしさを感じる笑みだ。これが彼女の本来の笑顔なのだろう。

 とはいえ、その言葉の意味はミサには分からず、きょとんとした様子のミサに苦笑しながら、なんでもないと口にする。

 

「ありゃ……何か良い感じになってんの?」

 

 愛らしい笑顔を浮かべながら握手を交わす二人の光景を感動したように両手を組んで見つめていたシオンだが、ふと声をかけられて見てみれば夕香とセレナの様子を見に来たアルマやモニカの姿があった。

 

「あら、どうしたのかしら?」

「いや、お姉さんが負けたからアンタが自棄になってまた海に飛び込もうとするんじゃないかなって」

 

 何故、夕香がわざわざここにと、先程まで感動していた顔を見せないように顔を背け目尻を拭っているシオンの問いかけに夕香は何げなく答え、その言葉にシオンは人を何だと思っておりますの、と顔を引きつらせる。

 

「それより夕香。わたくし、今回よい刺激を受けておりますの。ボヤボヤしてたら置いていきますわよ」

「刺激ねぇ……。まぁ分からんでもないけど。けどアンタにドヤられても鬱陶しいからねぇ……。置いてかれるのはアンタかもね」

 

 まあ良いですわと仕切り直し、セレナとミサを見ながら心底楽しそうに夕香に挑発的に笑いかけるとシオンの言葉に同意しながらでも夕香は不敵な笑みを浮かべるのであった。




セレナ・アルトニクス

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最高のバトルを君に

「はぁー……イッチはもう雲の上なんだねー」

「雲どころじゃないけどね」

 

 彩渡商店街チームとフォーマルハウトの準決勝から数日後。

 人が集まりつつある彩渡商店街に訪れていた裕喜は手を翳して空を見上げると、その隣で夕香は苦笑しながら訂正する。

 彩渡商店街チームはフォーマルハウトを破ったことで決勝に進んだ。その決勝の舞台となるのは静止軌道ステーションである。

 

「しかも相手はタイムズユニバースのCEOなんでしょう?」

「うん、ウィルの奴、最後まで余裕満々だったね」

 

 決勝にて彩渡商店街チームがバトルをすることになった相手について触れるシオン。

 相手はやはりと言うべきか、あのウィルだ。頷きながら夕香は最後に準決勝までの世界大会で会っていたウィルについて思い出す。

 

「夕香はVIPルームで見てたんだっけ。良いなー」

「快適っちゃ快適だったけど、あんまり落ち着かないよねー」

 

 夕香が世界大会で別の場所で観戦していると言うのは知ってはいたが、後からそれがウィルに招待されたVIPルームであった事を知った裕喜は羨ましがっていると初めて入ったともいえるVIPルームでのひと時を思い出し、何とも言えない様子で首を横に振っている。

 

 そうこうしていると三人が入店したのは、彩渡商店街のトイショップであった。

 彩渡商店街チームの活躍もあってか、このトイショップはかつてに比べて、繁盛しているようで人で賑わっている。

 

「やぁ、もうすぐ始まるよ」

 

 来店してきた夕香達に気づいたユウイチが声をかける。

 作業ブースの近くに置かれたテレビにはこれから始まるであろう世界大会決勝の番宣番組が放送されており、これまでの彩渡商店街チームによる大会でのバトルが放送されていた。

 

「雨宮君達なら大丈夫だよね……っ」

「なに、一矢達はわし等に勝ったんじゃ。心配無用じゃろうて」

 

 既に作業ブースには見知った顔も多くあった。テレビの前でこれから始まる決勝に緊張した面持ちを見せて、祈るように手を組んでいる真実にその言葉を聞いた厳也が安心させるように笑いかける。

 

「どーでも良いけど、なんでわざわざここにいんの?」

「あいつ等の決勝だからな……。終わったら終わったで、ここにいれば、そのままあいつ等を祝福できるからな」

 

 夕香はこの場にいる厳也達などの遠方からやって来た者達に誰に問うわけでもなく尋ねると、代表して影二が微笑を浮かべながら答えて、そのままテレビを見やる。

 

「まったく、思えばあっと言う間だったよなぁ!」

「本当ねぇ、時の流れって怖いわぁ」

 

 中には店の合間に訪れたマチオやミヤコの姿もあり、これから始まるであろう決勝を心待ちに、これまでを振り返って懐かしんでいる。

 

「父さん達はちゃんと見てるからな、ミサ」

 

 そんな中、一応、営業しつつ客の相手をしていたユウイチがふと人が集まるテレビを見やる。決勝の舞台が舞台の為に、直接応援に駆け付けるわけにはいかないが、それでもちゃんと娘の勇姿をこの目にちゃんと焼き付けておくつもりだ。

 そんなユウイチの近くの棚には彼が作成したモノなのだろうか、BDシリーズのガンプラをカスタマイズしたであろうトリコロールカラーのガンダムの姿があった。

 

 ・・・

 

「いよいよだな」

 

 ところ変わってブレイカーズでも世界大会の決勝と言う事もあって多くの客でいつも以上に混雑していた。そんな中、液晶テレビの前は人だかりが出来ており、それを遠巻きでシュウジが見つめている。

 

「……楽しみだな。一矢君のバトル」

「妬けるわね、翔にそこまで気にかけてもらえるなんて」

 

 仕事の合間、チラリとテレビを見やった翔の口元には知らず知らずのうちに微笑が。そんな翔の笑みを見て、クスリと笑ったレーアは嫉妬を感じさせる言葉とは裏腹に笑みを浮かべながらモニターを見やる。

 

「新しいガンダムブレイカー……。私達にとってもガンダムブレイカーは思い入れのある名前ですからね」

「戦う環境は違っても、俺達と一矢君の本質は同じだ。誇り(プライド)をぶつけて戦うんだよ」

 

 ルルはかつてガンダムブレイカーの名を冠したMS達の戦いを思い出しながら翔に笑いかける。MSとガンプラでは戦いと言っても、中身は違うが、それでも胸の中の誇りをぶつけて戦って来たことには違いない。

 

「……翔とシュウジの弟子? ……なんだよね?」

「ああ。けど、アイツはただ俺や翔さんの力を受け継いだだけじゃねぇ。これからそれが分かるさ」

 

 テレビに映るこれまでの一矢達彩渡商店街チームの戦いの軌跡を眺めながらリーナは翔やシュウジに尋ねると、どこか誇らしげに笑いながらシュウジは画面に映るゲネシスブレイカーのバトルを見つめる。

 

「……なんだか翔さん、私達よりもレーアさん達といる時の方が何か楽しそう。肩の荷が下りてるって言うか……」

「そりゃ翔さんにとっちゃあそこにいる人達は戦友なんだし気心は私達より知れてるでしょ」

 

 そんな翔達を遠目で眺めながら、あやこが歯痒そうな表情で呟いていると同じく仕事中の風香がこればかりは仕方ないとばかりに肩を竦めている。

 

「うぅっ……私だって翔さんと同じガンダムブレイカー隊なのに……」

「こればかりには密度が違うからねぇ……。流石に同じエヴェイユの風香ちゃんでもあそこにいる人達程、翔さんと距離は近くないし」

 

 人さし指同士を合わせながら、しょげているあやこに風香も何とも言えない様子で談笑している翔達を眺める。翔やレーア達は戦争と言う環境のなかで出会い、そこで苦楽を共にしてきたのだ。その距離が自分達とどれだけ違うのかは計り知れない。

 

「──如月翔君だね?」

「……貴方は」

 

 そんな中、ふと一人のアロハシャツを着用したロングの長髪の男性が翔に声をかける。

 その男性に見覚えがあるのか、翔は僅かに驚いた顔をしながら向き合う。この男性はなにを隠そうミスターガンプラであった。

 

「君の事は知っているよ。GGFやGWF2024では接する機会は少なかったが、私もプレイヤーの一人として君の活躍は見ていたからね」

「俺も貴方のことは頻繁にテレビや雑誌で見てますよ」

 

 こうしてちゃんと顔を合わせるのは、初めてだろう。

 ミスターもかつては初めてガンプラシミュレーターが稼働したGGFやそのver.2が稼働したGWF2024にも参加していた。翔のことは当然、知っていたし、翔も仕事上、耳に入れる事は多かったのだろう。互いに握手を交わす。

 

「一矢少年を知る前は君こそがと思っていたのだがね。君はモデラーで活躍する事はあっても、ファイターとしては消極的になってしまったから、中々、縁がなかったのが残念だよ」

「……色々ありましてね」

「ああ。だが今は違うようだ。君が以前よりもバトルをする機会が多くなったと聞いたよ。是非今度手合わせ願いたいものだ」

 

 GGFなどで覚醒していた翔とのバトルを望んでいたミスターだが、翔はエヴェイユやPTSDで苦しんでいた。そのせいかバトルの機会は中々恵まれなかった。

 だが今では少しずつではあるが以前に比べて翔のバトルを耳にする事が多くなった。今ならばタイミングも合うであろう。

 

「俺がバトルにちゃんと向き合えたのは、一矢君達の影響があったのかもしれません。俺は周囲の人間に恵まれ過ぎている。お陰で今も学んでばかりですよ。それはきっとこれから始まる決勝も」

 

 翔もミスターの誘いに喜んでとばかりに頷くとそのままテレビを見やる。

 もう間もなく決勝も始まるだろう。一矢が翔達から学んでいるように、翔もまた一矢達から学んでいる事は多いのだ。

 

「バトルはここで観戦を?」

「いや、これから彩渡商店街に行くつもりだよ。近くに来たついでに君にも挨拶をと思ってね」

「いつでも歓迎しますよ、また来てください」

 

 決勝までの時刻が迫っている。ミスターにこの場で観戦するのか尋ねる翔にミスターは首を横に振り、ここに訪れた理由を明かすと、ならば折角の縁が出来たのだと、翔は微笑み、頷いたミスターは軽く手を振ってブレイカーを後にする。

 

「……これまでがあったから、今の俺がある。それは君もだろう、一矢君?」

 

 まさかミスターとこうして出会うとは思っていなかった翔は事務所に一人、戻る。

 稼働中のパソコンを見やれば、かつてGGFで翔をサポートしたGAIOSが店の経営の一部を担って稼働しているのが見える。

 これはかつてブレイカーズ開店の際に開発者の男性に旧式だからと寄贈されたものだ。

 GGFから今も翔のパートナーとして支えてくれている。その画面を見ながら、一矢に人知れず問いかけた翔は再び、店に戻っていく。

 

 ・・・

 

「お嬢様、まもなくです」

「はぁーっ、楽しみだね、お嬢様!」

 

 またイギリスの地にあるアルトニクス邸では庭のテーブルでセレナ達がテレビを見ている。彼女達も決勝を待ちわびているのだろう。アルマやモニカも今か今かと決勝を待っている。

 

「ボク達に勝ったんだ。どうせなら優勝してほしいね」

 

 セレナはアルマやモニカの様子に笑いながらも彼女達が用意した紅茶を飲みながら番組が始まるのを待つ。準決勝止まりと言う事もあり、家の人間は相変わらずだがそれでも今は前よりも身が軽くなったような気分だ。セレナは今までとは違う笑みを浮かべながら空を仰ぎ見る。

 

 ・・・

 

「みなさん、ご覧になれますか?」

 

 遂に誰もが待ち侘びた決勝の生放送が始まった。軌道ステーションにて、カメラ搭載のマイクロドローンの前に人工重力下でハルは強化ガラス越しに広がる宇宙を背にレポートを始める。

 

「現在、私は地上から36000キロ……。静止軌道ステーションに来ています! 間もなくこちらでガンプラバトル世界一を決める戦いが始まります!!」

 

 初めて訪れた静止軌道ステーションと言う事もあって、ハルのテンションはいつもよりどこか高い。そして何よりも自身がこれから世界一を決める決勝に立ち会えると言う事もあるのだろう。レポーターとしてのハルはこの後もレポートを続けて行く。

 

 ・・・

 

「頑張って来いよーっ!」

「勿論っ! 一矢、早く行こうっ!!」

 

 遂に決勝の時刻が迫ってきた。カドマツが声援を背にミサはロボ太と駆け出しながら、背後の一矢に笑いかけると、一矢も釣られるように微笑み、その後を追う。

 

「──来たね」

 

 移動中、先にミサとロボ太がシミュレーターが設置されたブロックに移動した時であった。続こうとする一矢に声をかけたのはウィルであった。

 

「……なんか用? それも試合前に」

「随分な言い草だね」

 

 ファイターとしては認めてはいるもののウィルという人物に対してはまだいけ好かない部分もあるのか、どこか棘のある一矢の物言いにやれやれと困った相手に接するように苦笑して肩を竦め、それはそれで一矢の癪には触っている。

 

「まあ……一応、君には謝っておこうと思ってね。ジャパンカップのエキシビション……。君達には申し訳ない事をしたと思っている」

「……は?」

「これからバトルをするんだ。ファイターとして、まずは清算すべきものは清算しようと思ってね」

 

 視線を僅かに彷徨わせたウィルは意を決したように一矢に向き直ると静かに頭を下げる。突然の事に呆気に取られている一矢にその理由を明かされる。今のウィルはファイターとして、一人の人間として頭を下げ、謝罪しているのだ。

 

「……別に頭を下げられたってあの時が変わるわけじゃない」

 

 頭を下げている為、一矢の表情は見えないもののその言葉は耳に届く。

 気だるげながらもどこか冷たくも聞こえる言葉にウィルはしかと耳にいれるように歯を食いしばる。罵詈雑言は受けるつもりだ。殴られたって良い。自分はそれだけの事をしたつもりだ。

 

「……だけどこれからは違うだろ」

 

 だが直後に一矢から思わぬ言葉が聞こえてきた。

 

「あの時を上塗り出来るだけのバトルをこれからすれば良い。今なら出来るだろ」

「……ああ、そうだね」

 

 こんな事を面と向かって言うのは気恥ずかしいのか、パーカーのポケットに手を突っ込んでそっぽを向きながら話す一矢の言葉に、目を見開いたウィルはやがて笑みを浮かべると顔をあげて確かに頷き、決意を込めて話しはじめる。

 

 

「これ以上にない最高の舞台が用意されてる」

 

 

「……うん」

 

 

「ファイターとして誇り(プライド)をぶつけあう最高のバトルにしよう」

 

 

「……うん」

 

 

「けど夕香は君に似てるところがあるね。妹だからかな? 夕香と約束したからね。君と最高のバトルをするって」

 

 

「うん?」

 

 

 今一矢の目の前にいるのは誇りある一人のガンプラファイター。ウィルからの言葉にちゃんと顔を向け、その瞳を見ながら頷いていた一矢だが、その最後の言葉にピクリと反応する。何故、ウィルから夕香の名前が出て来たんだ?しかも呼び捨て?どういうことだ?自分の知らない間になにが起きている?

 

「彼女は応援してくれると言ってたしね。勝利の女神は僕に微笑んでいるかもね」

「おい待て」

「彼女には最高のバトルをした上での僕の勝利を届けよう」

「いや待てって」

「さあ、はじめようか!」

「だから待てっつってんだろッ!? お前なにがあったか全部聞かせろ! いや、何があろうが……!!」

「ちなみに世界大会本選の合間、夕香はずっと僕の近くにいた」

「はああぁぁぁぁぁっっ!!!? おい、俺は認めんぞ!! 絶対!! ぜっっったいに認めんぞ!!」

 

 しかも次は夕香がウィルを応援するというのだ。正確に言えば、ウィルも、だが、どっちにしろ、知らぬ間に知り合って親しくなっていたウィルと夕香に一矢は混乱する頭に頭痛さえ感じて、こめかみを抑えながら整理しようとするが、一人で完結したウィルはあぁそうそうと最後にそう言い残してシミュレーターに足早に向かっていき、一矢は珍しく一人で喚き散らしている。

 

≪両チーム準備をお願いします≫

「ぬぅぁっ……!! あいつ、やっぱ気に入らねぇ……!」

 

 やはり何だかんだで大切な妹が知らない間に、よりにもよって因縁ある男と親密になっていたのが、兄として中々、受け入れ難いようだが、そんな一矢とは裏腹に遂に決勝の時刻となってしまい、コントロールAiに促され、頭を抱えたくなる気持ちを抑えながらも、自分もシミュレーターに向かっていく。

 

 

 遂に世界大会の決勝が始まる。

 

 しかし、確かに刻一刻と魔の手が蝕んでいる事を彼らが知る由もなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

静止する時間

 バトルステージとなったのは足元に水面が広がり支柱が並び立つ幻想的な空間であった。遠くには地球の姿さえある。この空間のなか、世界一を決める戦いが行われていた。

 

 アザレアフルフォースから放たれるビームと実弾によるガトリングの嵐を回避していたセレネスであったが、こちらが本命だとばかりに放たれたミサイルは既に迫っており、咄嗟に支柱を盾代わりに防ぐ。

 

「中々……っ!!」

 

 だが崩れ落ちる支柱を突破し、軽やかな身のこなしでバーサル騎士が迫り、勢いつけて放たれたバーサルソードを防ぐが、すぐさま放たれたトルネードスパークに距離を取る。

 

「くっ……!」

 

 そのまま反撃に転じようとするが、そうはさせまいとゲネシスブレイカーのスーパードラグーンが襲いかかり、ウィルは苦々しい表情を浮かべながら再び避け続ける。

 

 ある程度避ける事はウィルにとっては難しいものではなかったが、それでも回避コースを予測したミサによって放たれたビームマシンガンの弾丸を浴びたセレネスの動きはよろめき、すかさずバーサル騎士が電磁ランスを突き出して突撃するとさながら、闘牛士のようにそのまま刀を盾にするかのように構えるとそのまま受け流す。

 

「やる……ッ!!」

 

 だがウィルに一息つけさせる機会すら与えず、高速で迫ったゲネシスブレイカーがGNソードⅤによって斬りかかると咄嗟に鍔迫り合いという形で受け止め、周囲に火花を散らす。

 モニター越しに見えるこちらを見据えるゲネシスブレイカーを見つめながら、ウィルの表情からは既にこれまで頻繁に見る機会が多かった余裕は消えてしまっていた。

 

「なるほど、以前とは比べ物にならない……」

 

 ゲネシスブレイカーの一撃を刀で鍔迫り合いで受けたセレネスはそのまま軽く一振り振るってゲネシスブレイカーが距離を置いて回避した事で自身も後方へ宙返りをして着地すると、並び立ったアザレアフルフォース、ゲネシスブレイカー、バーサル騎士の三機をそれぞれ見つめ、高揚する気分を感じ口元には心なしか楽し気な笑みを浮かべている。

 

「これなら僕も本気で戦える」

 

 一矢達はジャパンカップに比べて、さらに強くなった。ならば自分はファイターとして全身全霊をもって応える。ウィルが様子見を止めて本気で動こうとした時であった。

 

「──なっ……なにっ!?」

 

 だが人知れずセレネスのバックパックに火花が散った瞬間、秘めたるなにかを解き放つように毒々しい靄が広がり、気化したかのように消え去った。突然の出来事にウィルは唖然とする。

 

「ウィルっ!」

「いや、大丈夫だ……! 一体、何が……!?」

 

 正体不明の何かがセレネスのバックパックから飛散し、その衝撃で跪くセレネス。

 一体、何が起きたのか分からず戦闘を止め、セレネスに機体を近づけながら心配してウィルの名を叫ぶミサに状況が分からず、困惑している。

 

≪──ウィル、君がこの声を聞いているという事は、どうやら私のウイルスが機能したようだね≫

 

 すると当然、世界大会予選で出会ったバイラスの声がフィールド全体に響き渡った。

 静止軌道ステーションにはいない筈のこのバイラスの声に一同が戸惑う中、予め録音された言葉が続く。

 

≪人類初の宇宙旅行……楽しんでくれたまえ! 行き先は知らないがね……。ウェァーハッハッハッ!!!!!≫

「バカな! ウイルスだと!?」

 

 バイラスの目的が今の言葉だけでは正確には分からず、ただ愉快そうなバイラスの下品な哄笑だけが周囲に静かに響き渡り、そこでバイラスの録音された声は切れる。

 だがそれでも先程、セレネスが放ったのはウイルスだと分からせるには十分でウィルは受け入れ難いように叫ぶ。

 

≪おい、決勝は中止だ! ヤバイぞこりゃ……っ!!≫

 

 バイラスがウイルスによって何を齎すのか、不安だけが募るなか、通信によってカドマツの緊迫した声が響く。その様子から緊急事態なのだろう。一矢達は即刻バトルを終了してシミュレーターから出る。

 

 ・・・

 

≪緊急離脱プログラムが実行されました。繰り返します。緊急離脱プログラムが実行されました≫

 

 シミュレーターから出て来た一矢達に聞こえてきたのはけたましく鳴り響くアラートとコントロールAIの電子音声であった。少年少女の不安を大きく書き立てる中、物々しい空気のなかカドマツの元へ向かう。

 

≪間もなく地上用テザーの切り離しを行います≫

「あの……一体何が……? 緊急離脱プログラムってなんですか……?」

「宇宙エレベーターに備わっている機能でな。近くで大きな事故が起きた時、施設の安全を確保する為に一時的に軌道を離脱するんだ」

 

 コントロールAiが淡々と恐ろしい事を発する中、一矢達が到着し、自体が呑み込めずハルが怯えながら尋ねた内容にカドマツが答えている場面に遭遇する。

 

「え……あの……えっ……? じゃあ何か事故が起きたんですか?」

「そうじゃない……! コンピューターウイルスが仕込まれたせいで制御AIは勝手に緊急離脱を始めちまったんだ!」

 

 上手く状況が呑み込めていないハルは恐る恐る再度、尋ねるとカドマツは首を横に振りながらこの場にいないウイルスを作成したであろう人物に忌々しそうに答える。

 

 しかし、こうした問答の間にもコントロールAiによって緊急離脱プログラムの準備が進められていき、ウイルスによって実在しない危険に備えて、地上と静止軌道ステーションを結ぶテザーを瞬く間に一気に切り離し、軌道ステーションは宛もなく放流していく。

 

「軌道修正プロセスを実行しろ!」

≪アクセス拒否します≫

「くそっ……! もう一度、軌道修正プロセス!」

 

 切り離された軌道ステーションがどうなったかは何よりその場にいる一矢達には分かっていた。

 何とか解決を試みようとコントロールAiに繋がるコンソールを操作しながら険しい表情で音声入力するカドマツだが、コントロールAIは淡々と拒否する。分かってはいたが、焦りを増しながらカドマツが解決を試みるが悉く失敗してしまう。

 

「カドマツでもどうにもならないの……?」

「コンソールからのアクセスが拒否されてる……。良く出来たウイルスだ!」

 

 不安で怯えた表情を見せるミサは少しでも紛らわそうと一矢の傍らに立って腕を掴む中、どうにもならない状況に頭を抱えるカドマツに尋ねる。カドマツはもう策が思いつかないのだろう。憎々しい様子で吐き捨てる。

 

「おい地上と連絡は!?」

「大騒ぎになってます……」

 

 こうなっては地上にいる者達に助けを求めるしかない。

 先程から地上への連絡をとっていたハルにカドマツが問いかけると、具体的な解決案もなくこの突然の大惨事に世界中が騒然となっており、ハルの返答にそりゃそうだろうなと嘆息する。

 

「あぁ……なんでこんなことに……! レポーターなんて引き受けるんじゃなかった……!」

「ウイルスがどうにかできれば、制御AIに命令できるんだが……」

 

 思ってもみなかった事態に巻き込まれ、弱弱しく目に涙を溜めながら呟くハルの横で髪を掻きむしりながら、何とかカドマツは解決案を模索している。

 

「迂闊だった……。まさか僕がキャリアにされるなんて……ッ!!」

「度が過ぎた正義で身を滅ぼすか。だが俺は巻き添えなんて御免だ。何か方法は……!」

 

 思い当たる節が第三予選でバイラス達とバトルをした際にあった。

 あの時は己の実力とバイラス達の実力の差もあり有象無象程度にしか考えていなかったが、まさかこうなるとは思わなかった。己の迂闊さに歯を食いしばるウィルの姿を見ながらでも何かないかとカドマツが周辺を見渡している。

 

「──みなさん、お茶が入りました」

 

 しかし、このあまりにも緊迫した状況には似つかわしくない言葉が全員の耳に届く。

 見れば、そこにはカートにティーポットと人数分の食器類に大きなパイ菓子を運んできたドロシーの姿が。

 

「んだよ、こんな時に……って、これは……!?」

「ドロシー、アップルパイまで持ってきたのか?」

 

 あまりにも状況とかけ離れた行動をするドロシーに何を考えているんだとカドマツとウィルは呆れた様子だが、カドマツはあるものを見つけ固まる。カドマツの視線を釘付けにしているのはパイ菓子であるアップルパイであった。

 

「宇宙で飲むお茶を楽しみにしておりましたので……」

「よくやった、メイドさんよ……!」

「は。アップルパイお好きでしたか?」

 

 何故、わざわざこんなものを持ってきたのか、その理由を律儀に答えるドロシーにそれはよりにもよって今でなくてもいいだろうと誰もが顔を顰めていたがカドマツだけが迷宮の出口を見つけたような清々しい笑みを浮かべる。

 

「ああ。アップルパイにはリンゴが入ってるが、ペチャパイには何が入っているか知ってるか?」

「おいこらカドマツ」

 

 まるでクイズを出題するように、ドロシーに問いかけるカドマツであったが、その言葉が一人の少女の逆鱗に触れ、地の底から響き渡るような身を震わせる恐ろしい声が一矢の傍らから聞こえ、それに伴い先程まで弱弱しく不安そうに一矢の腕を掴んでいたその手を恐ろしいほどの力が籠り、一矢の顔が強張る。

 

「は。シリコンでしょうか?」

「それは後から入れるんだよォッ!!」

 

 しかも律儀に答えるドロシーにその返答の内容にミサがツッコむように大声を張り上げる。もっともまたそれに伴って一矢の腕を掴む手にもミシミシと力が入り、「いたいいたいいたいっ!!」と溜らず一矢はとばっちりで悲鳴を上げる。

 

「コンピューターウイルス退治を可能にしてやる!!

 

 怒りのあまり手を離したミサによって、一矢が人知れず膝をついて倒れ伏せるなか、カドマツが名案を浮かんだとばかりに一同に向かって声をあげて周囲を驚かせる。

 もっともそんな中、力尽きた一矢がダイイングメッセージを残すかのように床にペチャパイと指先でなぞろうとするが、知ってか知らずか早く聞かさせろとばかりにカドマツに詰め寄るミサに踏まれるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

B.A.T.T.L.E G.A.M.E

さぁクリアせよ


 コントロールAIのメモリ空間はかつてのウイルスに感染したインフォのように非常に毒々しい不気味な空間と化していた。しかしインフォとは違い、空間その物の規模が桁違いである。

 

「なるほど。ガンプラバトルシミュレーターを制御コンピューターのメモリ空間に繋げるのか」

≪実績もある方法だ。もっとも相手の処理能力は段違いだが≫

 

 そのメモリ空間にゲネシスブレイカー、アザレアフルフォース、バーサル騎士、セレネスの四機のガンダムが出現する。

 メモリ空間をモニター越しに見渡しながら感心するウィルにかつてのインフォやネバーランドなどの事件を思い出しながらカドマツは通信越しで答える。だがやはり彼の言う通り、これまでの事件とは比べ物にはならないだろう。

 

≪──あなた方は私に対し不正なアクセスを行っています≫

 

 しかしいつまでも何もない訳ではない。早速、異物とも言えるゲネシスブレイカー達を感知したコントロールAIの電子音声がフィールド上に、そして静止軌道ステーション内に響き渡る。

 

≪ならばどうするよ?≫

≪直ちに排除します≫

 

 この後のコントロールAIの出方は予想はつくが、あえて問いかけるカドマツに予想通りの返答が帰ってくる。

 するとウイルスによって犯されたセキュリティソフトがカドマツの手によってバトルシミュレーターでも干渉できる個体として次々に出現する。

 

≪だとさ。良いかお前ら、負けんなよ!≫

 

 今までの比ではない精度を誇るウイルスの攻撃を回避しながら、四機はカドマツの激励を耳にウイルスとの戦闘を開始する。

 

「カドマツめ……人の古傷に塩塗り込むなんてぇ……っ!」

≪ミサ、集中しろ!≫

 

 アザレアフルフォースはその重火器を開放して、ミサを怒りを体現するかのようにウイルスを焼き払う。しばらく頭の中から消えていた事だが、まさかこの場で思い出させられるとは夢にも思わなかった。怒りをぶちまけるミサに注意をしながらバーサル騎士が決して止まる事なく次々にウイルスを切り払っていく。

 

「この……ッ!」

 

 腕部グレネードランチャーを発射し、着弾させたところに爆炎を振り払うようにゲネシスブレイカーはスクリューウェッブを振るって薙ぎ払う。だがまさに無尽蔵のように次々現れるウイルスにゲネシスブレイカーはGNソードⅤの切っ先を向けて飛び出していく。

 

≪──地上の皆さん、この映像が届いていますか!?≫

 

 そしてこの激闘の映像はハルの手によって地上に流されていた。誰しもがテレビの前で彼らの勇姿を見つめ、ある者は祈り、ある者は自分に何が出来るかを模索する。

 

≪このバトルは今、地球から遠ざかる静止軌道ステーションで行われています! コンピューターウイルスによって暴走した制御AIに対しガンプラバトルシミュレーターを使ってウイルスの消去をしているのです!≫

≪──ちょっとマイク貸してくれ≫

 

 決して諦める事はせず懸命に己の出来る事をする少年少女達。その姿と共にハルはその状況をマイクで説明する中、横からカドマツがそのマイクを奪い取る。

 

≪地上にいる誰でも良い、聞いてくれ!≫

 

 戸惑うハルを他所にカドマツはマイクを使って喋り始める。

 この中継は地上に届いている。ならばせめて今見ている事しかできない自分の想いを地球に向ける。

 

≪この宇宙エレベーターは今、30年かけてようやく完成したものだ。今それが心無い者の手によって失われつつある。これから始まる宇宙の時代とその為の命綱である宇宙エレベーターをここでなくす訳にはいかないんだ!≫

 

 今なお、留まる事を知らないウイルスに対してたった四機で戦い続けるゲネシスブレイカー達。今までとは段違いのウイルスの性能に、今までよりも少ない数を少年少女達は戦い続けているのだ。

 

≪今必死で戦ってるこいつ等に俺達がガキの頃、夢に見た未来を見せてやりたいんだ! こいつらに命を懸けさせるためにこれを作ったわけじゃないだろ! だから誰でも良い! 頼む! 力を貸してくれ!≫

 

 ずっと空を見上げては憧れていた夢。それが叶いそうになった今、自分よりも下の世代に命を懸けさせて良い訳がない。思いの丈を離したカドマツはそこでマイクをハルに返却する。

 

 ・・・

 

 一方、地上では静止軌道を外れ放流していくステーションに各国が対応を審議するなか、誰もが静止軌道ステーションの情報を知ろうと、そして何が出来るのかを奔走するなか自身の車に身を預け、携帯端末で先程のカドマツの演説を聞き、今もゲネシスブレイカー達の戦闘の様子を見つめているのは、かつて新シミュレーターのテストプレイで真武者頑駄無を使用していたあの男性であった。すると手に持っていた携帯端末に着信が入る。

 

≪軌道ステーションの中継は見ているかね?≫

「ええ、素晴らしい演説でした。感動で胸が張り裂けそうですよ」

 

 相手はバイラスであった。

 電話越しのバイラスも中継映像を見ているのだろう。バイラスの問いかけに、言葉とは裏腹にその口元にはニヒルな笑みが浮かんでおり、どこか馬鹿にするかのようだ。

 

≪君が作成したプログラム……組み込んでおいて正解だったねぇ≫

「あの彩渡商店街チームが決勝に進むのは予想してはいましたからね。彼らは我々のウイルスに縁がある。もしもこのような状況に陥れば、確実にガンプラバトルシミュレーターを使用してのウイルス除去はしてくるだろうとは踏んでました」

 

 ゲネシスブレイカー達の戦闘の様子を見て、電話越しにでもバイラスが愚かしいとばかりに嘲笑うようにクツクツと笑っているのが分かる。釣られるようにどこか醒めたような笑みを浮かべながら答える。

 

「そろそろ頃合いでしょうね。試作タイプがどれだけのモノかとても楽しみですよ」

 

 腕時計を見ながら、ゲネシスブレイカー達が戦闘を開始した時刻からどれだけ経ったのかを確認すると、焦がれて静止軌道ステーションを見るように空を見上げるのであった。

 

 ・・・

 

「っ……なんだコイツはっ!?」

 

 今までずっとセキュリティソフトが変化したウイルスと戦闘を繰り広げていた四機だが、突然、割り込むように攻撃を仕掛けて来た勢力があった。ウィルが確認すれば、そこにはセキュリティソフトとは違うウイルス群の姿が。

 

「あれは……ッ!!」

 

 攻撃を仕掛けてきたのはネバーランドやテストプレイの際に見たことのある強化ウイルスであった。その数も今までは一、二体だったと言うのに今確認できるだけでもその数は二桁は軽く超えるであろう。その強化ウイルスの性能を身をもって知るために気づいた一矢は顔を苦々しく歪める。

 

「っ……!」

 

 だが現れたのは強化ウイルスだけではなかった。

 ゲネシスブレイカー達を狙い、無差別に放たれたビームを回避してその元を見やる。そこには湾曲を描いた機体が右腕の溶断破砕マニピュレーターを此方に向けていた。

 

「あいつ、何なのっ!?」

 

 突如、強化ウイルスと共に現れた謎の機体。

 アザレアフルフォースがすかさず銃口を向けてガトリングの弾丸を放つが、そもそも回避する事もせず、被弾したとしても目立った損傷はなくミサは唖然とする。

 

≪来るぞっ!≫

 

 今度はお返しだとばかりに謎の機体は再び溶断破砕マニピュレーターを向けると、強化ウイルス達も動き出しロボ太が注意を促す。

 しかし次の瞬間、謎の機体の溶断破砕マニピュレーターは左右に分身して無数のビームを放ち、ゲネシスブレイカーは驚愕しつつも回避する。

 

「何なんだ、コイツはッ!?」

 

 攻撃はそれだけでは終わらず、上方にビーム砲を向けてビームを放ったと思えば無数の分裂してビームの雨が降り注ぎ、被弾したウィルは苦々しい表情を浮かべる。

 だが今なお、謎の機体は己の周囲に二つのスフィアを出現させて、そのスフィアからも射撃が開始される。

 

「──ならッ!!」

 

 咄嗟に危険だと判断したゲネシスブレイカーはスーパードラグーンを展開して謎の機体に差し向ける。全てが意志を持ったかのように対象である謎の機体に向かっていくスーパードラグーンに謎の機体はいまだ微動だにする事がなく、己の機体に備わっているピット兵器を展開する。

 

「っ……!? これは……!」

 

 スーパードラグーンとピットが対抗し合うなか、ゲネシスブレイカーのスーパードラグーンの方が次々に破壊されていくではないか。そのあまりの精度に一矢は既視感を覚える。

 

「ならッ!!」

 

 だが其方に気を取られる訳にはいかない。

 その高機動を存分に発揮しつつ謎の機体を翻弄するように動いていたゲネシスブレイカーは隙を見計らい、バーニングフィンガーを発現させると紅蓮に輝くマニビュレーターを向けて突っ込む。

 

「……なっ!?」

 

 しかし謎の機体は溶断破砕マニピュレーターを向ける事で、バーニングフィンガーを受け止める。思わず言葉失う一矢ではあったが、拮抗したエネルギーは爆発し、爆炎のなか後方にゲネシスブレイカーは飛び退く。

 

「──ッ!!」

 

 再び一矢の目が驚愕で見開かれた。何と遂に本格的に動き出した謎の機体はゲネシスブレイカーに突っ込み、左腕のマニビュレーターを高速回転させているではないか。

 

 ──流星螺旋拳

 

 一矢はその動きに覚えがある。放たれたその一撃をビームシールドを展開して防ぐが、完全に受け止める事は出来ず、ゲネシスブレイカーはメモリ空間の柱を突き破りながら吹き飛ぶ。

 

「一矢っ!!」

 

 彼方に吹き飛んだゲネシスブレイカーにミサが一矢の名前を叫び、援護に向かおうとするが、セキュリティソフトだけではなく、強化ウイルスも相手にしなくてはいけない状況に思うようには動けず、悲痛な表情を浮かべる。

 

 ・・・

 

「……どういう事だ……ッ!」

 

 吹き飛んだゲネシスブレイカーはようやく柱に激突し、埋まるように機体を沈めている。しかしそれさえ許さぬ謎の機体は己を攻撃手段にしたかのように左腕を突き出し、疾風を纏ったような突きを放つ。咄嗟に避けるゲネシスブレイカーだが先程まで己がいた柱は完膚なきまでに破壊されてしまう。

 

「お前は何なんだ……ッ!?」

 

 倒壊した柱を背に不気味にこちらに向き直る謎の機体。

 その姿にゾクリとした恐怖感を覚えるが、それだけで終わらず、己の周囲に展開したピットの一部を胞子のように周囲に飛散させ、残ったピットを全てゲネシスブレイカーに差し向ける。残ったスーパードラグーンをスラスターウイングに戻しながら、精度の高いピットの攻撃を避けながら一矢は答えのない問い掛けを口にする。

 

「なんでお前にそんな戦い方が出来るッ!?」

 

 自分を襲うこのピットの動きは英雄を、そして放たれた技は覇王を思い起こさせる。いや酷似していると言っても過言ではないだろう。

 故に一矢は苦戦を強いられる。ピット兵器の操作も放つ技も自分を上回るのだから。だが、それだけに留まらず、空に一発撃てばたちまち降り注ぐビームの雨や周囲に展開したスフィアからの猛攻など予想の出来ない攻撃を繰り出してくる。

 そして今も己の周囲に旋回するホロプログラムの刃を出現させ、接近を許さない。それでも戦わなくてはいけない。ゲネシスブレイカーは戦闘を再開するのであった。

 

 ・・・

 

「二機のガンダムブレイカーの戦闘データを元に作り上げた試作戦闘プログラム……。あの二機の戦闘データを解析して組み込み、いかなる脅威に……それこそ例えどのガンダムブレイカーが相手でも対応できるように作成したプログラム……アンチブレイカーとでも名付けておこうか」

 

 ネバーランドではガンダムブレイカーネクストの、そしてテストプレイではバーニングガンダムゴッドブレイカーが驚異的な力を発揮した。だが同時に事細かい戦闘データを得た。

 お陰でこれまでにない程の性能を秘めた戦闘プログラムを作成することが出来、ゲネシスブレイカーと交戦する映像を見つめながら謎の機体をアンチブレイカーと名付けたのは先程までバイラスと電話でやり取りをしていた男性であった。

 

「同じフィールド上にいたとしてもわざわざガンプラバトルと言う同じ土俵に立つ必要はないからね」

 

 ゲネシスブレイカーに向けて、腕を振り小さなブラックホールのようなものを放つアンチブレイカー。こんなものはガンダム作品に似たものもない。先程の分身するビームやスフィア、自機を旋回するホログラムの刃などこの男性が作成して組み込んだものだ。

 

 ブラックホールに引き寄せられまがらでも抵抗するゲネシスブレイカーだが、バーニングゴッドブレイカーから得た聖拳突きのデータから放たれる一撃によってゲネシスブレイカーは吹き飛ばされる。まさに常識を壊し、非常識な戦い方がゲネシスブレイカーを襲う。

 

「とはいえガンプラバトルシミュレーターはお遊びなんだ。楽しむことを忘れちゃいけないよ。コンテニューなんて出来やしないがね」

 

 圧倒的なアンチブレイカーに翻弄されるゲネシスブレイカー。瞬く間に損傷が目立ってしまっている。その姿を見ながら、愉快そうに話す男性は空を見上げる。

 

「またとない今世紀最大のゲームだ。是非、クリアして最高のエンディングを迎えてくれ」

 

 しかし不思議なことに自信満々な男性だが、ここでゲネシスブレイカーが敗北すると言う事も考えていないようにも見える。いやもっと言えば、このウイルス事件さえもだ。

 期待の言葉を投げかけ、まるで他人のプレイするゲームを観戦するかのように携帯端末に映る静止軌道ステーションで行われる戦闘の映像を見つめるのであった。




アンチブレイカー

HEAD ギャプランTR-5(フライルー)
BODY ガンダムバルバトス
ARMS ターンX
LEGS アストレイブルーフレーム
BACKPACK レジェンドガンダム

ビルダーズパーツ

ファンネル(両肩)
レールガン(両腰)

カラーリング
マッシブパープル


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

受け継いだ魂の瞳

 アンチブレイカーとの戦闘が続くも、その圧倒的な性能による戦法に一矢は何とか食い付いているような状況であった。今なおアンチブレイカーの溶断破砕マニピュレーターから発生したビームサーベルをGNソードⅤで受け止めるゲネシスブレイカーではあったが、放たれた左腕を回避するため頭部を逸らすもも掠った部分が抉れてしまう。

 

「ぐぅっ……!?」

 

 切り払われ、アンチブレイカーのサーベルが振るわれる。咄嗟に回避するゲネシスブレイカーではあったが、バックパックに備わっている大型ビームキャノンの砲身を一つが切断される。だがそれも束の間、放たれたレールガンによってゲネシスブレイカーは吹き飛ぶ。

 

 迫るアンチブレイカーにフラッシュエッジ2を投擲するが、溶断破砕マニピュレーターによって軽々と弾かれ、そのまま花弁のように展開し、エネルギーを纏ってこちらに突き出す。避けるには間に合わない。ゲネシスブレイカーはパルマフィーオキナで対抗するが単純なエネルギーで負けてしまう。

 

 体勢を崩したゲネシスブレイカーに掌での掴みあいではなく、そのまま胴体へ溶断破砕マニピュレーターを差し向けようとするが、間髪入れずに放たれたシザーアンカーによって矛先を逸らされ、そのまゲネシスブレイカーに残った大型ビームキャノンと頭部バルカンを浴びせられる。

 

「……ッ!?」

 

 アンチブレイカーにも損傷が出来る。しかし物ともせずアンチブレイカーの左腕マニビュレーターが煩わしいバルカンを放つ頭部を掴み、そのまま圧を加える事でバルカン砲を潰し、そのままエネルギーによって巨大化させたようなマニビュレーターで殴られる。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

 

 けたましく一矢のシミュレーターに中破を警告するアラートが鳴り響く。あまりの差に一矢の額に汗が滲み、息遣いも荒くなっていく。集中しなければ簡単にやられてしまう。だがその集中力だって延々と続くものではないのだ。しかしそんな一矢をあざ笑うかのようにピット兵器を差し向けられ、歯を食いしばった一矢は反撃には転じず、回避だけに集中する。

 

「クッ……!?」

 

 だが当然、アンチブレイカーはピット兵器に乗じて攻撃を仕掛けてくる。

 両腕を分離させ、ピット兵器に混ぜて差し向け、左右から押し込むようにゲネシスブレイカーを拘束する。物凄い血からによって抑え込まれ身動きが取れないゲネシスブレイカーを確実に仕留めるようにピット兵器が包囲し、その砲口が眩い輝きを見せる。

 

「──ッ!」

 

 だがビームがゲネシスブレイカーを貫くことはなかった。周囲のピットの一部が破壊され、ゲネシスブレイカーを抑える左腕も直上から落ちた何かに破壊される。

 

 何者かの乱入に溶断破砕マニピュレーターはアンチブレイカーに戻っていくが、それでも先程の襲撃で左腕を失ってしまった。一体、誰が……。一矢とアンチブレイカーが視線を向けると……。

 

「借りは返したよ」

 

 ゲネシスブレイカーの傍らにはセレネスの姿があった。刀の切っ先を向けたアンチブレイカーから視線を変えることなく通信越しでウィルの声が聞こえてくる。あのセキュリティソフトと強化ウィルスを単機だけでも突破して、こうして援護に駆け付けてくれたのだろう。

 

「まったく格好悪いね。戦い方は君に似ているし、実力差もある……。だが君も奴に差をつけているものはあるだろ」

「俺が……?」

 

 向かっている際中に見たアンチブレイカーの戦い方。それは暴力的な部分は違えど、基本的な所では似通っていた。それで向こうが実力が上なのならば一見、一矢に勝ち目はない。だが差があるのはそれだけではない。一矢がアンチブレイカーに勝っている部分もあるのだ。その事を指摘するウィルにその意味が分からず、首をかしげる。

 

「奴は所詮、データ上の存在さ。だが僕達は違う。僕達は生きているんだ。今日この時までの強さはただ力を付けて出来たものじゃない筈だ」

「今日、この時まで……」

 

 アンチブレイカーもウイルスの一部でしかない。だが今、ここにいる自分達は生きている。単純にデータに加えられた力ではない。成長して得た力が、誇り(プライド)が自分達にはあるのだ。そのウィルの言葉に一矢は考えるように視線を伏せる。

 

『俺は神じゃない……。だからこそ……この手の届く範囲は絶対に俺が守り抜く……ッ!!』

『俺達に限界なんてないんだッ!!』

 

 一矢の脳裏に英雄と覇王の姿が過る。

 自分は彼らの背中を追って来た。彼らのように強くなりたいと思った。それは単純な力だけを憧れたわけではなかった筈だ。

 

「そうだ……。俺があの二人から受け継いだのは力だけじゃない……ッ!!」

 

 ゲネシスブレイカーの瞳にあたるツインアイが一矢に呼応するように煌めく。

 彼らから学び、自分は今日まで進んできた。戦い方だけが、力だけが彼らから受け継いだものではない筈だ。

 

「最後まで諦めない……。そして……俺だけにしかない誇り(プライド)で戦うッ!!」

 

 カガミとのやり取りを思い出す。彼らから受け継いだ想いとそして自分が抱く誇り(プライド)で最後まで戦う。アンチブレイカーを見つめる一矢の瞳は英雄と覇王が宿す力と同じものが宿る。

 

「どれだけ力でねじ伏せられようが……この誇り(プライド)まで潰せると思うな……ッ!」

 

 GNソードⅤをソードモードで軽く振るい、宣言するかのようにアンチブレイカーに切っ先を向けたゲネシスブレイカーは覚醒する。眩い光は確かにこのフィールド上に輝きを放つ。

 

「行くよッ!」

「ああッ!」

 

 そんな一矢に満足そうに頷いたウィルは短く声をかけると、一矢は頷き、ゲネシスブレイカーとセレネスは同時に飛び出してアンチブレイカーに向かっていく。アンチブレイカーから放たれるピットに集中し、確実に破壊する。

 

 精度の高いピットのビームを刀で防ぎながら、そのまま素早くピットを破壊するセレネスとゲネシスブレイカーはアンチブレイカーに迫る。どんどん近づく二機に距離をとりながらレールガンや溶断破砕マニピュレーターからビーム砲を放つが、互いに無意識ながらでも息の合った動きで避けて距離を詰める。

 

「「ッ!」」

 

 だがアンチブレイカーは溶断破砕マニピュレーターを分離させ、レールガンと同時に放った射撃はゲネシスブレイカーとセレネスが持つGNソードⅤと刀を弾き、二つの剣は空に舞う。

 

「確かに強い。だが例え一人では不可能でも──!!」

 

 宙に舞ったGNソードⅤを咄嗟に取ったセレネスはライフルモードに切り替え、アンチブレイカーの両腰のレールガンを素早く撃ち抜く。

 

「一人じゃないのなら乗り越えられるッ!!」

 

 そしてゲネシスブレイカーもまた刀を掴むと、その勢いのまま溶断破砕マニピュレーターを両断し、アンチブレイカーを挟んだ両機は同時に飛び出す。

 

 例え常識を壊し、非常識な戦い方をされようとも、友と戦い、共に討つ。ゲネシスブレイカーとセレネスはアンチブレイカーを中心にすれ違い、そのままアンチブレイカーを両断して撃破する。

 

「悪くないね」

「まあまあだな」

 

 アンチブレイカーが爆散する中、並び立った二機は互いの剣を空中に放り投げ、交差すると本来の持ち主の手に収まる。互いに憎まれ口を叩くものの、二人の口元には微笑が。

 

「一矢ッ!!」

≪無事か!?≫

 

 そんな二人に通信が入る。相手はミサとロボ太であった。そのままアザレアフルフォースとバーサル騎士が覚醒の光が消えたゲネシスブレイカーとセレネスに合流する。

 

「二人こそ無事?」

「うん、何とか切り抜けられたよ!」

 

 ミサやロボ太の無事を確認する。やはりと言うべきか、四機とも、特にゲネシスブレイカーは損傷が目立っている。だがそれでも四機だけでここまで戦い抜いてこれたのは彼らが世界最高峰のファイターだからだろう。

 

≪──なるほど、これがガンプラファイター。なるほど、これがガンプラバトル≫

 

 しかしフィールドにコントロールAIの声が響き渡る。今までずっと彼らの戦いを見ていたのだろう。何かを学習したかのような言葉に一矢達は悪い予感を感じさせる。

 

≪見ているだけでは物足りません。私も私のガンプラで挑戦させてもらいます≫

 

 ゲネシスブレイカー達の前方にデータが構築される。しかし今までの比ではない大きさになっていき、一矢達は見上げると完成したデータを見て、驚愕で言葉を失う。

 

 ──ネオ・ジオング

 

 それがコントロールAIが生み出したAIにとっての手足となる機体であった。

 もっともコアユニットとなる機体は搭載されてはいないが、見上げるその巨体から発せられる威圧感は相当なものがあり、一矢達は戦慄してしまう。

 

「あぁ言うのはガンプラって言えるのか……!?」

「なんという機体を選ぶんだ……ッ!」

「あんなの倒せるの!?」

 

 データによって構築され出現したネオ・ジオングに戦慄し、苦し気な表情を浮かべる一矢にウィルとその圧倒的な存在感から四機で倒せるビジョンが思い浮かばないミサは半ば混乱したように叫ぶ。

 

≪臆するなっ! スケールが全てではないっ!≫

 

 誰もが怯む中、周囲を鼓舞したのはロボ太であった。説得力を持ったロボ太の言葉に頷き、奮い立ったゲネシスブレイカー達は戦闘を開始する。

 

 ・・・

 

「ウイルスのコアプログラムでもあるそいつを何とか出来れば解決する! 頼んだぞ!」

 

 ステーション内でもネオ・ジオングの出現は嫌でも分かっていた。だがこのネオ・ジオングさえ何とか出来れば自体は解決に迎える筈だ。カドマツは一矢達に通信を入れる。

 

「あのーっ……何だか温度が変わってないですか……?」

「なに……? ……ちょっと待てよ……っ!」

 

 映像を中継していたハルがふと何かに気づいたように恐る恐るカドマツに声をかける。

 ハルの言葉に確かに温度の変化を感じ取ったカドマツはコンソールを操作し、静止軌道ステーション内の状況を確認する。

 

「嘘だろ……!?」

「ど、どうしたんですか?」

 

 途端にカドマツの表情が見る見るうちに青ざめて行く。カドマツの反応を見て、聞きたくはないもののだが状況を知るために、ハルが恐る恐る尋ねる。

 

「環境制御・生命維持システム達がウイルスに侵され始めてる……! コイツが全部掌握何てされたら……!!」

「そんな……っ!」

 

 ネオ・ジオングとの戦闘の映像を切り替える。そこにはそれぞれアンチブレイカーが一部を胞子のように飛散させたピットが、ネバーランドやテストプレイにも表れたコアプログラムに姿を変えたのだ。

 

 そのままそれぞれが静止軌道ステーションの要となるシステムの柱に触手を突き刺し、掌握を始める。その恐ろしい映像を見ながらカドマツは最悪の状況を説明し、ハルは青ざめて震える。

 

 例え一矢達がネオ・ジオングを破壊したとしても、また別にシステムが掌握されてしまっては意味がない。しかし恐怖を更に誘発させるようにそれぞれのコアプログラム達はシステムの掌握と共に強化ウィルスを生み出しはじめ、生まれた強化ウィルス達は各地に飛散していくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Unite

 コントロールAIによって生み出されたネオ・ジオングとの戦闘を行うゲネシスブレイカー達。しかしそのあまりに堅牢な装甲には並みの攻撃は歯が立たず、放つビームはIフィールドによって防がれ、実弾もさほど大きな損傷を与える事が出来ない。

 

「……クッ!?」

 

 アンチブレイカーに大半を破壊されたスーパードラグーンを差し向けるが、それでもネオ・ジオングへはあまり意味をなさず、寧ろネオ・ジオングから放たれる圧倒的な武装の数々を何とか避ける事に手一杯だ。

 

「ここまで来て、終わるわけにはいかないんだッ!」

 

 今、自分達が置かれている状況は負けて残念で済むような生易しいものではない。

 ここで負けては未来がないと思って良いだろう。生死をかけたこの戦いに、一矢は諦める事をせず眼光鋭くネオ・ジオングを見据えると覚醒する。

 

「当たり前だ! ここで終わらせて良いような安い人生じゃないッ!」

 

 放たれるファンネルピットのビームが掻い潜り、一気に近づいて切断するセレネス。矢継ぎ早に放たれるビームを避けながら、一矢の言葉に同意する。

 

≪だからこそ奴を倒し、未来を切り開くッ!!≫

 

 しかしそれでもネオ・ジオングの豊富な武装は脅威であり、放たれた大型メガ粒子砲がセレネスに迫り、それを庇うように割り込んだバーサル騎士が盾装甲を向けて受け、派手に吹き飛ぶがそれでも体勢を立て直して、バーサルソードと電磁ランスを構えてネオ・ジオングへ向かっていく。

 

「そうだよ、まだまだ見てみたいモノが一杯あるんだからっ!!」

 

 一矢と出会い、そこから様々な人々と出会って様々なまだ知らなかったモノを見て来た。きっとそれはこれからも。未来への熱い思いを表すように攻撃を回避したアザレアフルフォースはその身の武装を解き放って、ネオ・ジオングに被弾させる。

 

「その為に……ッ!!」

 

 アザレアフルフォースの攻撃によって硝煙が巻き上がるなか、スーパードラグーンを展開したスラスターウイングから光の翼ともいえる噴射光を表しながら、覚醒の力も相まって、まさに目にも止まらぬ動きで更に加速をし、ネオ・ジオングに接近するとGNソードⅤを逆手に大型アームユニットを一基、すれ違いざまに切断すると、そのままゲネシスブレイカーを拘束しようと残った大型アームユニットが迫る。

 

 しかしそれを察知した一矢は素早くゲネシスブレイカーを動かして距離を取ると、残った一基の大型ビームキャノンと周囲にスーパードラグーンを展開し、GNソードⅤをライフルモードに切り替えて近くのアザレアフルフォースと共に同時に引き金を引く。

 

≪なるほど。あなた達は素晴らしいファイターだ≫

 

 ゲネシスブレイカーとアザレアフルフォースの一斉射撃は本体とそしてシュツルム・ブースターを貫き、シュツルム・ブースターは崩壊して爆発する。しかし、ネオ・ジオングは爆炎からすぐさま飛び出し、堂々たる姿を見せつけるとコントロールAIは素直に一矢達の実力を認める。

 

≪だが、こういうのはどうだ?≫

 

 何かをしようとでも言うのか?

 ネオ・ジオングは両肩部の大型スラスターユニット側面とスカート側面に搭載されたアームを展開すると、光の結晶体と言えるネオ・ジオングの機体を囲めるほどの巨大な光輪・サイコシャードを発現させると、周囲に閃光が放たれ、ミサ達は短い悲鳴をあげる。

 

「なに? こけおどし……?」

 

 しかし機体や武装に何か起きたと言うわけでもなく、戸惑う。

 何であれ、すぐに反撃に転じようとアザレアフルフォースはビームマシンガンの銃口をネオ・ジオングへ向け、引き金を引くがいくら引いたところで反応はなくそれは他の武装とて同じことであった。

 

≪攻撃命令をブロックするウイルスだッ! こんな時に……っ!≫

 

 先程の閃光はウイルスの拡散だったようだ。アザレアフルフォースのみならず、他の三機も同様であり、機体を動かせるが実体剣などを使った攻撃を仕掛けようにも少しでもネオ・ジオングへの攻撃とみなされる動きは制限されてしまっていた。生命維持システムの掌握も迫るなか、カドマツが厄介に呟く。

 

≪さあ続きを始めよう≫

 

 ネオ・ジオングはファンネルピットを展開し、コントロールAIは悠然と告げる。攻撃も出来ない、ただ回避するしかないと言う恐るべき状況に一矢達は戦慄するが、しかし今は再び開始されたネオ・ジオングの猛攻に動き始める。

 

「ッ!?」

 

 ネオ・ジオングの周囲を動き回りながら攻撃をまさに死に物狂いで回避し続けるゲネシスブレイカー達。しかしわずらわしいハエを落とすようにブースターを稼働させながらその巨体に見合わぬ機動力で360度回転しながら、腹部中央に内蔵されたハイメガ粒子砲を放ち、辛うじて避ける事には成功したもののファンネルピットが襲いかかり、一矢達は苦しそうに顔を歪める。

 

≪ぐあっ!?≫

 

 やがて回避にも限界が訪れ、ファンネルピットを受けたバーサル騎士が大きく吹き飛び、データ空間の地を跳ね飛びながら倒れ伏す。

 

 ──これまでか……!

 

 そのバーサル騎士の大きな隙に三基のファンネルピットが眼前に迫って確実に破壊しようと砲口が煌めく。回避するにはもうどうしようもないこの状況にロボ太は苦し気に状況を判断する。

 

 ファンネルピットからビームが放たれ、バーサル騎士に迫る。

 

 しかしビームはバーサル騎士を貫くことはなく、バーサル騎士の前に何か障壁でも発生したかのようにバーサル騎士へ迫ったビームは拡散したのだ。

 

≪これは一体……?≫

 

 突然の事に一体、何が起きたのかロボ太には判断が出来なかった。少しでも情報を知ろうと周囲を見渡すが、それらしい何かは見当たらない。

 

≪──ロボ太さん、大丈夫ですか?≫

≪インフォ殿か!?≫

 

 だがそんなロボ太に地上にいるであろうインフォからの通信が届く。

 先程の自機を守った障壁もインフォが細工したものなのだろう。バーサル騎士は立ち上がり、声だけが聞こえるインフォの名を発する。

 

 ・・・

 

「くっ!?」

 

 またセレネスも四方八方から襲いかかるファンネルピットを何とか回避し続ける。

 だがいくら世界最高峰のファイターと言えど、体力や集中力の問題もある。もうずっと戦闘を続けているのだ。

 

「なにっ!?」

 

 突然、動きは鈍り、既に動きを予測していたファンネルピットが前方に待ち構えていた。それのみならず周囲にはセレネスを取り囲むファンネルピットの数々が。これが限界なのか、ウィルの心情を表すかのようにセレネスは腕を力なく下す。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 しかし次の瞬間、瞬く間にセレネスを取り囲んでいたファンネルピットが爆散していく。状況が呑み込めないウィルは唖然とするが、センサーが背後に反応した。

 

≪──腕が落ちたんじゃないのか、ウィル≫

 

 通信越しに聞こえてきたのはミスターの声であった。いや、確かにミスターではあるがミスターガンプラという偶像ではなく、本来の彼としてだ。セレネスの背後にはブレイクノヴァの姿がある。

 

「アナタに言われたくないな」

≪……ウィル……私はあの時、君と全力で戦ったよ≫

 

 ミスターだと分かった途端、どこか複雑そうながらつっけんどんに話すウィルにミスターはかつてのウィルとの間に起きたファイターとして全力で迎えたバトルについて触れる。

 

≪神とガンプラに誓って、ファイターとして恥じるような真似はしていない≫

「だったら何故、ファイターを辞めたんだ!? その上、どうして彼とはバトルをッ!?」

 

 顔を顰め、何も答えないウィルにまっすぐと迷いなくかつての自分のバトルを口にする。その言葉に今までずっと内に溜め込んできたものを吐き出すかのようにセレネスはブレイクノヴァに振り返り、ウィルはその長らく溜め込んだ疑問をぶつける。

 

≪ウィル……君もファイターなら分かるはずだ≫

「チャンプ……」

 

 スッと迷える少年を諭すようにブレイクノヴァはセレネスの肩に手をかける。ファイターを辞めたのも、ミスターにもミスターなりに考えての事であった。ウィルは肩に手をかけるブレイクノヴァの姿を見つめるが……。

 

≪違うぞウィル。今の私はミスターガンプラだ!≫

 

 だが今の自分はミスターガンプラでもある。

 セレネスに背を向けたブレイクノヴァは己の姿で夢を与えるかのように、果敢にネオ・ジオングへと向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「マズ……ッ!」

 

 そしてゲネシスブレイカーやアザレアフルフォースも迫るネオ・ジオングの猛攻を避けてはいるのだが疲労感は体を蝕み、二人の額には汗が滲む。僅かに乱れた操縦は隙を生み、アザレアフルフォースにファンネルピットが一か所に集まって、その砲口を向けられ、戦慄してしまう。

 

「一矢っ!?」

 

 シールドを構えようにも間に合うかどうかが分からない。

 そんなアザレアフルフォースを庇うようにゲネシスブレイカーが割って入る。別に考えも何もない。無意識でミサを守ろうとしての行動であった。

 

 だがそんなファンネルピットも二機を襲う事はなく、上方から放たれたビームが正確にファンネルピットを撃ち抜き破壊する。

 

「え……誰……!?」

 

 一体、何があったのか?

 上方を見上げるアザレアフルフォース。だがそこにはミサにとってとても覚えのあるガンプラ達の姿があった。

 

≪──ミサァアッ!!!≫

 

 そして聞こえてくる懐かしい声も。

 そこにはBDシリーズをカスタマイズした彩渡商店街のトイショップに置かれていたガンダムゼピュロスの姿が。ファイターであるユウイチは愛娘の名を叫びながら、ビームサーベルを引き抜いてファンネルピットを破壊する。

 

≪遅くなってすまない≫

「と……父さん!?」

 

 アザレアフルフォースの前に降り立ったゼピュロス。

 何故、父が、そしてそのガンプラがこの場にいるのか?疑問が次々に生まれ、予想もしていなかったユウイチの登場にミサは驚く。しかし親子の再会を水を差すようにファンネルピットが周囲を包囲するが、それも撃ち抜かれる。

 

≪腕は鈍ってないわねぇ≫

 

 撃ち抜いたのはジェスタをミリタリーカラーにカスタマイズしたミヤコのジェスタ・コマンドカスタムが滞空しながらおっとりとした発言とは真逆に正確に周囲のファンネルピットを撃ち抜いていたのだ。

 

≪懐かしいなあ!!≫

 

 そしてその近くには豪快にファンネルピットを殴り飛ばす。一見してレスラーか何かを思わせるような屈強にカスタマイズされたマチオの猛烈號だ。

 

≪お待たっ≫

 

 更には夕香のバルバトスルプスまでもが現れ、ソードメイスがファンネルピットのビームを弾いて、そのまま薙ぎ払って破壊したのだ。

 

「夕香ちゃん!? それにマチオさんもミヤコさんもどうして!?」

 

 ユウイチだけではなく、物心ついた頃から知っている大人達、そして夕香が何故、ここにいるのかと驚いてしまう。それもそうだろう。自分達以外にファイターはこのフィールドに現れる事はないと考えていたからだ。

 

≪カドマツさん! 我々に出来る事は!?≫

≪今、そいつらはあのデカブツの輪のせいで武器が一切使えない! そいつを何とか出来れば!≫

 

 答えたいのは山々ではあるが、今は時間が惜しい。ユウイチが見ているであろう地上に呼びかけたカドマツに指示を仰ぐと、カドマツはネオ・ジオングを指しながら説明する。

 

≪だが、それだけじゃなく別にウイルスがステーションのシステム達を掌握しようとしているんだ! 強化ウィルスを生み出しているし、それも何とかしなけりゃ……≫

≪そっちは大丈夫だよ≫

 

 問題はまだある。

 ネオ・ジオングとの戦闘をしている間にもシステムの掌握は進んでおり、危険な状況には違いない。数は増えたが、それでもまだ手が足りないと言って良いだろう。焦るカドマツに夕香は自信満々に答える。

 

 ・・・

 

「──ウオラァッ!!」

 

 着々とシステムの掌握を続けるコアプログラム達。そのうちの一体は空から猛る龍のように迫る機体によって蹴り飛ばされ、システムから離される。

 

「ヘヘッ……待たせちまったな」

 

 システムを守るようにコアプログラムとの間に現れたのはバーニングゴッドブレイカーであった。軽やかにステップを踏み、拳を合わせるとファイターであるシュウジは好戦的な笑みを浮かべて、コアプログラムへ向かっていく。

 

「雨宮君達の戦いもカドマツさんの声も全部届いてたよ。だから来たんだ、私たちの出来る事の為にっ!」

 

 電力配給システムを侵食しようとするコアプログラムにGNマイクロミサイルが降り注ぎ、近くに現れたのは真実のG-リレーション パーフェクトパックであった。

 

「今、陽太達やジンさん達……いや、世界中のファイターがここに集まろうとしている……ッ!」

 

 そしてまた別のシステムには影二のネクストフォーミラーが駆け付け、コアプログラムとの戦闘を始めながら一矢達に通信を入れる。影二の言うように、コアプログラムが生み出し、空間上に飛散した強化ウィルス達にユニティーエースやストライクライザー達が戦いを繰り広げていた。

 

「友のピンチじゃ。宇宙でもどこでも駆け付けるわいッ!」

 

 高度制御システムを掌握しようとするコアプログラムには厳也のクロス・フライルーが攻撃を仕掛ける。友人である一矢達が今まさに危険にさらされているのだ。一人のファイターだけではなく、友として、今立ち上がらねばいつ立ち上がると言うのだ。

 

「絶対に帰ってくるんだよ。ボク達は……いや、世界中が君達を待っているんだからね」

 

 まだ残るコアプログラムにも割り当てられており、セレナのバエルがコアプログラムの頭部を力いっぱい掴むと、そのまま地面に叩きつけ、地を削るように低空を飛行しながら、地面をすり減らしたコアプログラムを投げ、システムから遠ざける。

 

「だから、こいつらは俺達に任せろ……ッ!」

 

 生命維持システムを犯そうとするコアプログラムの触手のみを正確に狙撃され、コアプログラムはシステムから距離とを置くと、その間にガンダムブレイカーネクストが降り立つ。

 今この瞬間、コアプログラムと無数の強化ウイルスを相手に世界中のファイター達が立ち上がったのだ。

 

 ・・・

 

「みんな……」

 

 今まで紡いできた繋がりが今、天と地を結び、大きな力となった。

 シミュレーターに届いたシュウジ達の声に 一矢は感極まった様子を見せる。

 

≪イッチのこと、ガンプラ越しじゃないと触れないなんてね……≫

「夕香……」

 

 そんなゲネシスブレイカーにバルバトスルプスのマニビュレーターが触れられる。

 接触回線で夕香の寂し気な声を聴きながら、一矢は芽の間のバルバトスルプスを操る夕香の名を口にする。

 

≪……絶対に帰って来てね。最後に触れあったのがガンプラ越しだなんて絶対に許さないんだから≫

「……ああ」

 

 ガンプラ越しでは温かみも何もない。地上にいる夕香は操縦桿から手を離し、寂しそうに抱えるように両手を合わせて胸に抱くとモニター越しに見えるゲネシスブレイカーを駆る一矢に約束を取り付けると、己の半身のようなたった一人の双子の妹を悲しませないように確かに頷く。

 

「父さん……」

≪……こんなに近くに見えているのに36000キロか……。ゴメンな……。父さんじゃミサを助けられない≫

 

 ミヤコ達がネオ・ジオングとの戦闘を続けている間、地上にいるユウイチはモニター越しに見えるアザレアフルフォースの姿を見つめながら、歯痒そうにどこか己の無力さを嘆く。

 

≪だから娘のことは君に任せる≫

「……はい!」

 

 だがそれでも娘を守れなかったとしても、娘の為に出来る事はある。

 ユウイチはアザレアフルフォースの隣に立つゲネシスブレイカー越しに一矢を見るようにまっすぐ見つめると、ミサの事を託し、一矢は驚くが確かに頷く。

 

 一矢の力強い返答に満足そうに頷いたユウイチは夕香のバルバトスルプスと共にセピュロスのバーニアを噴射させて、娘達の為にネオ・ジオングへ挑んでいくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歪な覚醒

≪どこから侵入してきた、お前達!≫

 

 突如として現れたセピュロス達に対して、コントロールAIはネオ・ジオングは大型アームユニットの五連装メガ粒子砲の砲口を向け、異物を消去しようとメガ粒子砲を放つが、セピュロス達は軽やかに回避するとともに散開してネオ・ジオングへと向かっていく。

 

「そこよっ!」

 

 ならばとネオ・ジオングの大型アームユニットからファンネルピットが放たれる。

 展開していこうとするファンネルピットに対して、その動きを見極めたミヤコはジェスタ・コマンドカスタムの狙撃の体勢を作り、ライフル一発で放たれた全てのファンネルピットを纏めて撃ち抜く。

 

 その間にもセピュロスはぐんぐんと近づき、ならば叩き潰そうと大型アームユニットを振り上げようとするネオ・ジオングだが、猛烈號とブレイクノヴァによって阻まれ、サブアームを展開しようとするのだが、それもバルバトスルプスに破壊される。

 ネオ・ジオングに近づいたセピュロスはその眼前でシールドを投げ捨てると、EXAMシステムを発動させた。

 

「てめぇ、娘に何してんだ、馬鹿野郎ォッ!!」

 

 EXAMシステムによって変わった赤きツインアイは怒りを表すかのように、普段温厚なユウイチからは想像もつかない怒りを見せながら、そのまま己を武器にしたかのようにネオ・ジオングに突っ込み、発現させたサイコシャードを文字通り、粉砕する。

 

「ちゃんと動けるようになったっ!!」

 

 サイコシャードを破壊されたことにより、今まで攻撃命令をブロックしたウイルスもなくなりミサはビームマシンガンを放ちながら安堵したように叫ぶ。

 

「みんな……ありがとう」

 

 覚醒していたゲネシスブレイカーは空に舞い上がる。すると一矢は今なお戦い続けてくれる仲間達を想うと、その覚醒の光を更に解き放ち、その空間全体に広がるように覚醒の光はぐんぐんと広がっていく。

 

「これは……っ!?」

 

 一矢の想いを表すかのようにゲネシスブレイカーから広がった覚醒の光を浴びたセレネスや他の機体に変化が起こり、ウィルは驚く。なんと傷ついた装甲が癒え、耐久値でさえ回復しているではないか。

 

 ・・・

 

「来た来たぁ……ッ! フルパワー充電だッ!」

 

 そしてその覚醒の光は一矢の仲間達であるバーニングゴッドブレイカー達にも届いていた。覚醒の力そのものを受けたかのようなガンプラに迸るエネルギーを感じながら、シュウジはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「みんな、行くぜッ!」

 

 その勢いでアルティメットモードを発現させたシュウジは仲間達に声をかけると、コアプログラムを相手にする他の五機は一気にコアプログラムを撃破するかのように動き出す。

 

「一矢君……後は任せたぞ」

 

 クロス・フライルー達が次々にコアプログラムを撃破する中、エヴェイユの力を解放したブレイカーネクストは肥大化したエネルギーの塊ともいえる巨大なビームサーベルを振り下ろし、最後のコアプログラムを破壊する。コアプログラムを撃破したと言う事もあり、コアプログラムに生み出された強化ウィルス達も世界中のファイター達に撃破される。

 

 それを確認した翔は一矢達に通信を入れると、通信越しに映る一矢が確かに頷いたのを確認して笑みを浮かべる。だが、次の瞬間、翔達のモニターが暗転し、メモリ空間からもセピュロスやブレイカーネクスト達の姿が消え去る。

 

 ・・・

 

≪回線カットされました≫

 

 コントロールAIも次々に現れる地上からの戦力に回線を遮断した。

 頭部にアンテナを設置されているインフォがその事実を発すると、イラトゲームパークのシミュレーターからユウイチ達が出てくる。

 

「ユウイチ……」

 

 出来る事はした。それに一矢にミサを託した。

 だが、それでも娘を誰よりも守りたいのは父であるユウイチであろう。無力を噛み締めるように俯いて拳を握るユウイチにマチオが声をかけ、その肩に触れる。

 

「大丈夫……帰ってくるよ」

「ええ、彼らは世界一のチームですから」

 

 だがユウイチは穏やかな顔をあげ、微笑む。

 娘を信じているからだ。絶対に娘は仲間達と共に帰ってくる。その確信があるからユウイチは微笑んだのだ。ユウイチの言葉に 同意するようにミスターも笑みを見せ、この場で戦っていた厳也達も同じように笑いながら、頷いている

 

「お前ら久しぶりに茶でも飲んでけ」

「わたしがやるわ。イラトおばちゃん」

 

 ユウイチ達に面識があるのは勿論、大人である彼らがこのイラトゲームパークに訪れたのは本当に久しぶりなのだろう。イラトはそれだけ言って店に戻ろうとすると、クスリと微笑んだミヤコはイラトの老体を支えながらお茶酌みを申し出る。

 

「イッチ……。アタシ達、みんな待ってるから」

 

 各々がイラトゲームパークに戻っていく中、夕香は一人空を見上げ、いまだ戦っているであろう兄達を想う。やがてシオンに声をかけられた夕香は返事をしながら其方に向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「俺達に出来るのはここまでか……」

 

 また別の場所でも翔が空を見上げ、眩しそうに目を細める。

 傍らにはレーアやシュウジ達の姿もあった。コントロールAIによって回線が遮断されるのは予想していたが、やはりと言うべきか最後まで力を貸してあげたかった。

 

「後はあいつらが何とかするでしょうよ。この世界の……いや、あいつらの問題なんだ。俺達が解決するんじゃなくて、あいつらが解決すべき……。そうでしょ?」

「だから、その為に力を貸して、支えてあげたんでしょう?」

 

 そんな翔に安心させるようにシュウジとレーアが声をかける。シュウジも過去に翔に言われた。その世界の問題はその世界に生きる者達が解決すべきなのだと。だからその為にシュウジは自分達の手によって解決するのではなく、あくまでそのサポートをした。

 

「大丈夫。あいつらはそれだけの力を持ってる。きっと帰ってきますよ」

「そうだな……」

 

 翔の隣に立ちながら、シュウジも空を見上げると笑いかける。

 レーアやシュウジの言葉を聞いた翔は再び空を見上げ、一矢達が帰ってくるのを信じ、祈り続けるのであった。

 

 ・・・

 

≪悪あがきはここまでだ。遂に見つけた最強のガンプラを≫

 

 最後に残ったのはゲネシスブレイカー達とネオ・ジオングであった。完全にセピュロスやブレイカーネクスト達などの異物がなくなったのを確認したコントロールAIは目の前のゲネシスブレイカー達に告げる。

 

≪これで私のガンプラは完成する!!≫

 

 今までコアユニットがいなかったネオ・ジオングにデータが新しく構築され形作る。

 そしてついに現れたコアユニットとなるガンプラを見て、一矢達は驚愕する。何故ならば、ネオ・ジオングのコアブロックに収まっているのはゲネシスガンダムブレイカーであったからだ。

 

≪ここで完全に破壊してやる≫

 

 しかも驚きはそれだけでは終わらなかった。

 コアユニットに収まるゲネシスブレイカーが輝き、一矢達は既視感を覚える。

 何故ならば、その輝きは先程見たからだ。そう、コントロールAIはによって生み出されたゲネシスブレイカーは覚醒したのだ。そしてその覚醒の光はネオ・ジオングその物まで包み込み、これから振るうであろう猛威を予感させるコントロールAIの言葉がメモリ空間に響くのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

繋ぎ続けた手

≪あれは主殿と同じ姿……!≫

 

 ネオ・ジオングのコアユニットに収まるゲネシスブレイカーは見る者に大きな衝撃を与えた。しかし問題はそれだけではない。覚醒をしたネオ・ジオングの猛攻は今までの比ではなく、大型アームユニットを地面に叩きつければ地を伝って衝撃波が襲いかかってくる。

 

「どんな姿でも負けないっ! 父さん……私、絶対に帰るからっ!!」

「簡単なことだ。奴をぶちのめせば良いッ!」

 

 だがいくら姿を真似ようが、能力をコピーしようが関係ない。ここで負けるわけにはいかないのだ。なぜなら地上で自分達を待っている人々がいるのだから。

 衝撃波を回避しながら攻撃を仕掛けるアザレアフルフォースに同意しながらウィルもセレネスをネオ・ジオングに近づける。

 

「ああ、負けるつもりなんてない……ッ!!」

 

 ネオ・ジオングは後方の四基の大型アームユニットを大型ファンネルピットとして稼働させると、己の周囲に展開する。その威圧的にも見える光景を目にしながらでも、覚醒状態にあるゲネシスブレイカーは一気にネオ・ジオングへと向かっていく。

 

 接近するゲネシスブレイカーにネオ・ジオングの大型アームユニットが迫る。しかし僅か数cmの位置で回避したゲネシスブレイカーは間近に迫り、その間にも接近したセレネスと共に腰回りのIフィールドジェネレーターを破壊していく。

 

「っ!?」

「ぐぁっ!?」

 

 しかしネオ・ジオングは己を中心に衝撃を放ち、取りついていたゲネシスブレイカーとセレネスを紙吹雪か何かのように容易く吹き飛ばす。

 

「──ッ!?」

 

 だがそれだけでは終わらず、体勢を立て直そうとするゲネシスブレイカーに既にネオ・ジオングは迫っていた。その元々の機動力のみならず、覚醒の力も相まってネオ・ジオングの機動力は驚異的なものにまで発展していった。

 

 そしてそのまま二基の大型アームユニットで左右からゲネシスブレイカーを抑え込む。

 先程、覚醒の光を放ち、自機のみならず周辺の機体にも回復効果を齎したがまさに押し潰そうとしてくるネオ・ジオングに見る見るうちにゲネシスブレイカーの耐久値は減少していく。

 

≪この力は私の方が有効活用出来るっ!!≫

 

 ギチギチと耳障りな音がゲネシスブレイカーから発せられるなか、何とか抜け出そうともがくが抜け出すことは愚か身動きを取る事すら難しかった。そんなゲネシスブレイカーをあざ笑うかのように覚醒状態のネオ・ジオングを操るコントロールAIは強く言い放つ。

 

≪それ以上はやらせんっ!!≫

 

 大型アームユニットに電磁ランスが投擲され、深々と突き刺さる。

 一瞬、バランスが崩れ、抑える力も弱まったのかゲネシスブレイカーが何とか脱すると電磁ランスを投擲したバーサル騎士は大型アームユニットの上に乗り、そのまま引き抜いて、今度は自身を拘束しようとするアームユニットに対してトルネードスパークを使用する。

 

「その光はただの力じゃないっ!」

 

 バーサル騎士がネオ・ジオングから脱すると、それを追撃しようとする前にアザレアフルフォースが己の身の重火器を放って、Iフィールドジェネレーターを破壊されたネオ・ジオングに被弾させていく。だがそれでもネオ・ジオングの装甲はいまだ目立った損傷はない。

 

「それに気づけないなら私達は絶対に負けないッ!」

 

 更にバーサル騎士とゲネシスブレイカーがアザレアフルフォースに合わせるように同時に攻撃を一か所に集中して放ち、堅牢に思われたネオ・ジオングの巨体を揺るがす事に成功する。

 ゲネシスブレイカーが放つ覚醒の光は確かに爆発的な力を発揮する。だがそれだけではなかった。あの光は希望の太陽のように周囲を照らしてくれるそんな暖かな輝きなのだ。

 

「彩渡商店街……。良いチームだな」

 

 吹き飛ばされたセレネスは刀を杖代わりに何とか立ち上がりながら、いまだネオ・ジオングとの交戦を続ける彩渡商店街チームの姿を見やる。単純な連携ではなく、互いが互いを想い、支え合うかのようなコンビネーションの数々は圧倒的な力を前にしても渡り合っていた。

 

「……僕も彼のようになれるだろうか」

 

 ウィルにとってゲネシスブレイカーが放つ覚醒の輝きがファイターである一矢の誇りを表すかのように見えた。その誇り高い輝きはまるで自分が失ったものを見ているかのようでもある。今は夕香達に出会い、まだマシになったとはいえ、例の大会以前ほど純粋には楽しめなくなってしまった。

 

「……彼のように……? いや、何を言っているんだ僕は」

 

 だからこそウィルはあの輝きを放てる一矢に憧れのような感情を無意識に抱いてしまった。それを自覚した時、自分は何てバカな事を考えているんだと頭を振って、先程までの自分の考えを打ち消す。

 

「僕は僕だ……! 彼ではない、誰でもない、僕は僕にしかなれない存在になるんだ!!」

 

 自分はどこまで行ったって自分にしかなれない。だからこそ個なのだ。

 ネオ・ジオングを見据えるウィルの瞳に熱いものが宿る。決していかなる障害が立ち塞がろうとも挫ける事のない誇り高きファイターの瞳だ。

 

 そんなウィルに呼応するように一瞬ではあるのだが、ゲネシスブレイカーと同種の輝きが纏う。ウィルは気づかないもののそのままネオ・ジオングへ立ち向かうセレネスは一瞬だけ発した輝きを力にしたかのようにバーサル騎士が損傷を与えた大型アームユニットを完全に破壊する。

 

 よろめいたネオ・ジオングにゲネシスブレイカーが再度迫り、そのマニビュレーターに紅蓮の輝きを纏う。そしてそのままコアユニットへバーニングフィンガーを放ち、対処しようとするコアユニットの差し向けられた腕部を貫いた。

 

≪何故だ!? その力も元は他人のモノの筈……ッ! 何故、こうも違うッ!!≫

「お前の猿真似と一緒にするな……ッ!」

 

 コントロールAIはこの空間内で現れた機体の中にゲネシスブレイカーに似た技を使う存在が、そして何より過去のデータから検索してそれが教わったものである事を知っていた。だがその大きな動揺と共に放たれた疑問に一矢は鋭く言い返す。

 

「俺のこの力も技も……ッ! 出会った人達が強くしてくれたんだ! 俺のこの魂や……誇り(プライド)まではコピー出来やしないッ!」

≪魂? 誇り(プライド)!? そんな不確かで意味のないものなどッ!!≫

 

 バーニングフィンガーを放った腕部はそのままマニビュレーターを握り、一矢の想いをぶつけるかのようにコアユニットの頭部に強く叩きつけられる。

 しかしいくらバーニングフィンガーを数発は耐えられるように作られたゲネシスブレイカーと言えど、その数発だけではなく長期にわたる戦闘にフレームその物にガタが来たのだろう。スパークが強く走り、バーニングフィンガーを放った左腕は自壊してしまう。

 

「確かに不確かなものかもしれないッ! けどそれが同じ力を使う俺とお前の差だ! そんな事も分からないなら俺は負けやしないッ!」

 

 だがそれでも一矢は怯んだりはしない。

 腰部のハイメガ粒子砲のチャージを始めながら理解出来ないとばかりに喚き散らすコントロールAIにありったけに叫ぶと、残った右腕のGNソードⅤを天に掲げ、GNソードⅤを媒体にした巨大な光の剣を発生させる。

 

 一瞬の差であった。

 僅かに先に放ったゲネシスブレイカーの一振りが発射直前のネオ・ジオングのハイメガ粒子砲の砲口に強烈に直撃する。覚醒も相まって溜りに溜まったエネルギーが爆発し、ネオ・ジオングにかなりの損傷を与え覚醒の光を打ち消す。

 

 しかし近くにいたゲネシスブレイカーもただでは済まず、爆発したエネルギーに呑み込まれ、吹き飛んでしまう。ゲネシスブレイカーはもはや大破寸前であり、覚醒の光も失いスラスターも満足に稼働しておらず、地面にゴムまりのように何度も叩きつけられた。

 

≪あり得ないッ……! 私が最強のガンプラだ!!≫

 

 それでもネオ・ジオングには多大な損傷を与えられたことには違いない。

 各部にスパークを走らせ、今の己の状況を受け入れられないとばかりにコントロールAIが取り乱していると最後の手段とばかりにコロニーレーザーをジェネレートする。

 

≪行けるぞ主殿ッ!≫

 

 バーサル騎士の身が軽やかに舞い、自身に迫っていた大型ファンネルピットを弾くとそのまま電磁ランスを突き刺して破壊すると一矢を鼓舞するようにロボ太が通信を入れる。

 

「終わらせろッ!!」

 

 そしてセレネスもまた鞘を捨て、前方に展開する二基の大型ファンネルピットに対して、すれ違いざまに斬撃を浴びせると、そのまま振り返って刀を振り下ろし確実に破壊する。背後で爆発する二基の大型ファンネルピットを背に刀を振り、ウィルもまた一矢へ叫ぶ。

 

「けど……どうする……ッ!?」

 

 しかし先程の攻撃で大破にまで追い込まれたゲネシスブレイカーにネオ・ジオングを確実に撃破する術はもはや残されていなかった。いや、スラスターウイングもまともに稼働しない為にネオ・ジオングに向かう事も飛び立つことすらももう出来なかった。

 

 他の機体にもネオ・ジオングを打ち倒せるだけの手段はもうないだろう。

 ネオ・ジオングを追い詰める事には成功したもののあと一歩足りない。そんな状況なのだ。

 

 

 

 

 

「──大丈夫」

 

 

 

 

 

 一矢の耳に優し気な声が届き、顔を上げる。

 そこにはアザレアフルフォースが自身に対して、まっすぐと手を差し伸べていたのだ。

 

(……そうだ……。この手があったから俺はここまで来れた)

 

 一矢にとって、こうやってミサが手を差し伸べてくれたからここまで来れた。信じているだなんだと無責任な言葉も空回りな優しさもいらない。

 

 この手をいつまでも握っていたいから。

 この手を守れる存在でありたいから。

 この手を差し伸べてくれる彼女の笑顔をいつまでも見ていたから。

 

 だからその為に──。

 

 

「行こう!」

「ああッ!」

 

 

 アザレアフルフォースのマニビュレーターをしっかりと握り、ゲネシスブレイカーはアザレアフルフォースに支えられながらも何とか飛び立つ。すると二人の想いが表すかのように握り合ったマニビュレーターから光が広がり、二機を覚醒の光が包み込む。

 

「この力はお前が思ってるほど単純な力じゃないッ!」

「力だけが私達の強さに繋がるんじゃないんだからっ!」

 

 限界の近いゲネシスブレイカーは右腕に握られるGNソードⅤを掲げ再び巨大な光の剣を発生させる。しかしもはやこの光の剣を持っていられるほどではないのだろう。ゲネシスブレイカーの右腕が震え、いつ決壊してもおかしくはない状況であった。

 

 だがそんなゲネシスブレイカーの右腕をアザレアフルフォースが両腕で支えると、ミサの想いすら力にしたように一人では決して形成できないほどの強大で強靭な光の刃を生み出す。

 

「「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉりやあああああああぁぁぁああああっっっっ!!!!!!!」」

 

 一矢とミサの声が重なる。

 二人が支え合って突進して突き出した光の刃はこの立ち塞がる巨大な壁の先にある明日へ何度も誇り(プライド)をぶつけるかのようにネオ・ジオングを貫いたのだ。

 

「……っ!!」

 

 ネオ・ジオングが背後で爆発する。

 しかし今のでゲネシスブレイカーは限界に達したのだろう。覚醒の光が消え去り、メインカメラから光が失い、力なく地面に落ちて行こうとする。

 

「大丈夫。ずっとこの手を握ってるから」

 

 しかしゲネシスブレイカーが地に叩きつけられる事はなかった。

 ゲネシスブレイカーのマニビュレーターを握っているアザレアフルフォースはそのまま機体を支える。ミサを近くに感じながら、一矢は戦いが終わった事を感じて微笑むのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

翔べ!ガンダム

「これで……どうだっ!!」

≪アクセス承認≫

 

 一矢達がネオ・ジオングを撃破したと同時にカドマツが素早くコンソールにて操作をする。すると先程までずっとアクセスを拒否し続けていたコントロールAIはアクセスを受け付けた。

 

「よっしゃぁっ! やったぞお前らっ!!」

≪現状分析の結果、緊急離脱プログラムは作動していますが、原因だと思われる事故などの報告はありません≫

 

 ようやくずっと鳴り響いていたアラートも収まり、シミュレーターから出て来た一矢にガッツポーズを見せながらカドマツが笑い掛け、一矢達の表情にも安堵の笑みが広がる。そんな中、コントロールAIが現状を調べ、異常がない事を報告する。

 

≪私は誤作動をしていたのでしょうか?≫

「お前が悪いんじゃない。コンピューターウイルスにやられてたのさ」

 

 異常がないにも関わらず自分はテザーを切り離してしまった。コントロールAIの問いかけにカドマツが決して全てコントロールAIが悪いと言う訳ではない事を教える。

 

≪しかしながら皆さんを巻き込んで軌道を離脱するなどあってはならないことです。私はどうすれば良いのでしょうか?≫

「軌道修正プロセスを実行するんだ。静止軌道に戻ればテザーに再接続できる」

≪了解。軌道修正プロセスを実行します。カウンターウェイトパージ≫

 

 人間の利便性の為に作られた自身がその人間を巻き込んで暴走をしてしまった。贖罪を求めるように問いかけるコントロールAIにカドマツが指示を出すと、コントロールAIは重りとなるカウンターウェイトを切り離そうとする。

 

 

 

≪──カウンターウェイト繋留デバイスが見つかりません≫

 

 

 

 しかし次にコントロールAIから発せられたのはカドマツにとって信じがたい言葉であった。信じられないと愕然とするカドマツにコントロールAIが告げるのはまた同じ言葉だけであった。本来あり得ないこの事態に僅かに原因を考えた後、何か考え付いたカドマツはコンソールを操作する。

 

「……やられた。カウンターウェイトへのインターフェイスが丸ごと消されてる……! どんだけ周到なんだよ!!」

 

 このインターフェイスがなければ、カウンターウェイトを切り離すことは出来ず何も出来ない。原因は突き止めたものの、これを作成したバイラスにどれだけ恨みを抱えていたんだとカドマツは苦々しく呟く。

 

「ね……ねぇ、聞きたくないんだけど、どういう事?」

「……カウンターウェイトを切り離さない限り、ステーションのスラスター出力じゃ元の軌道には戻れない」

「え……? じゃあ、つまり……」

 

 八方ふさがりの状況に頭を抱えているカドマツの姿に事態は悪い方向に進んでいるのだと嫌でも分かってしまったミサがおずおずと尋ねると、カドマツは静かに事実だけを教え、子供のミサでも理解したのだろう。その表情は見る見るうちに青ざめて行く。

 

「僕達は……帰れない」

「そんな……!?」

 

 誰もが胸の中に思っていた事実をウィルが静かに告げる。受け入れ難いこの事実にハルは力なく崩れ落ちてしまい、この場に重苦しい空気だけが満ちて行く。

 

「おい何か他に方法はないのか!?」

≪ありません≫

 

 諦めるわけにはいかず、カドマツがコントロールAIに問いかけるが帰ってくるのは無情な答えのみだ。

 

「物理的にテザーを切断出来ないのか!?」

≪備え付けの工具にテザーを切断出来るものはありません。また皆さまの中にEVA経験者はいらっしゃいません≫

 

 それでも、と今度はこちらから手段を提示してみるが、静止軌道ステーションに設置された重りであるカウンターウェイトを切断できる工具はなければ、そもそも仮にあったとしてもこの場にいる者達の中に宇宙遊泳を経験した者などいない。

 

「わたくしお茶を入れますね」

「ドロシー……」

「今度のお茶菓子は何がよろしいですか? 何をお出しすればこの状況を打開できる閃きが得られますか?」

 

 絶望だけがこの場を支配する中、ポツリとドロシーが口を開く。

 戸惑うウィルを他所にドロシーは静かながらも今までとは違い、次々に言葉を発し、それだけで彼女が動揺していることが伺える。

 

「……そうですか。そうですね。それでも皆さん、折角ですからこの星空を見ながらお茶を……」

 

 普段は冷静な彼女もこの状況に現実から目を背けるように提案をすると、強化ガラスの先の地球を見つめて目を見開く。

 

「あぁ……私、このような事態において、いささか動揺しているようです」

 

 自分でも今の自分が動揺しているのに気づいたのだろう。ふと悲し気な笑みを零しながらどんどんと少しずつ離れて行く地球の姿を見つめ、あり得ないとばかりに首を横に振る。

 

「窓の外にRX78が飛んでいるのが見えます」

「……え?」

 

 ドロシーの呟きに何を言っているんだとばかりに顔を顰める。

 そんなものが現実にあるわけないとドロシーが見つめる窓の外を見つめると……。

 

 

 

 

「なんじゃこりゃああぁぁぁぁぁーーーぁぁっっ!!!?」

 

 

 

 強化ガラス越しにツインアイを輝かせながら、巨大な白い頭部が見え、そのままトリコロールカラーの巨体が姿を現す。紛れもなくそこにいたのは実物大であろうRX-78-2 ガンダムの姿であった。あまりの事にミサの絶叫が響き渡る。

 

「い、一矢! あれ! あれ見てっ!!」

「……ああ、お迎えが来たみたいだな。天使ってガンダムの姿をしてるらしい」

 

 驚愕するミサはそのまま実物大ガンダムを指差しながら近くにいる一矢の肩に触れて強く揺さぶると、遂に自分の頭はおかしくなったようだと虚ろな目を向けながら一矢が譫言のように呟く。

 

「いや、でもあれ絶対本物……っ!!!」

「ミサラッシュ、僕もう疲れたよ」

「落ち着けお前ら! あれは確かに本物だ!!!」

 

 あり得ない事態に現実を受け入れていない一矢に自分も確かにガンダムの姿が見える為、現実だと教えようとするのだが、一矢はフルフルと首を横に振り、そのまま彼が見ている天使によって召されて行きそうな勢いだ。そんな二人の姿を見ながら、同時にステーションに通信が入り、その通信に応答しながらカドマツが叫ぶ。

 

≪──……おぅ、そろそろランデブーポイントだと思ったぞ……≫

 

 通信が繋がり、立体映像が表示されるとそこにはモチヅキの姿があった。しかし通信越しに見える姿は明らかに疲労の為にやつれて疲れ切った様子だ。

 

≪姐さん、あたしもうダメ……寝る……≫

≪罰ゲームで散々手伝わされたソレを仕上げて飛ばしたんだ……。私も何日寝てないか分かんないし限界だ……。通信代わる……≫

 

 遠巻きにウルチの力ない声が聞こえてくる中、モチヅキは彼女達が手掛けたであろう実物大ガンダムを指しながら答えると、そのまま画面端によろよろと消え去り、倒れる音が聞こえる。

 

≪どーも鹿児島ロケットです。この度は弊社のロケットをご用命ありがとうございます……なんつって≫

「よくこんなに早く飛ばせたな。宇宙ロケットだぞ?」

 

 モチヅキが通信を代わった相手はロクトであった。

 芝居かかった様子のロクトは軽く笑うと、カドマツはガンダムを打ち上げるほどの対応の早さに驚きを隠せない様子で声をかける。

 

≪あなたの演説にうちの社長が感銘を受けましてね。他所に回す予定の奴、使っちゃいました。まあ、そっちのお偉いさんも二つ返事でOKくれましたけどね≫

「そうか……。感謝する」

≪最近雇ったバイトが優秀であっと言う間でしたよ。今、代わりますね≫

 

 ここまでの手際の良さからしても今までカドマツ達がやって来た事は無駄にはならなかったようだ。沢山の人々の好意によって差し伸べられた救いにカドマツが心からの感謝を示すと、ロクトは画面端に手招きしながら場所を代わる。

 

≪おーい聞こえるか!?≫

≪生きてる!?≫

「ツキミ君、ミソラちゃん!?」

 

 画面端から出てきたのはツキミとミソラであった。一矢達の安否を心配する二人の懐かしい姿を見て、ミサは驚くと共に顔をほころばせている。

 

≪ガンプラで助けには行けなかったけど俺達なりに頑張ってるから、諦めんなよ!≫

≪ロケットくらい何度でも打ち上げてあげるから!≫

「ありがとう……! 皆で必ず帰るよ!!」

 

 翔達が自分達に出来る事の為に援軍に駆け付けたように、ツキミ達も己が身に着けた知識を活かしてガンダムを発射する為の礎を築いてくれていた。

 二人の顔や衣服には汚れが目立っており、それだけ働いてくれたのが伺える。一生懸命に自分達の為に動いてくれたツキミ達に感謝しながら、ミサは強く頷く。

 

 ・・・

 

「……夢みたいだ」

 

 実物大ガンダムのツインアイが一層輝く。

 その操縦席となるコックピットに乗り込んでいるのは宇宙服を着用した一矢とミサであった。実際のアニメなどで見るコックピットとはまるっきり違うが、外部からのカドマツのサポートを受けながら操縦桿に手をかける。

 

「えぇっと……このスイッチだ」

「凄い凄い! 動いたぁっ!!」

 

 ある程度、簡易化されているとはいえ事前にカドマツからの説明を聞いていた一矢は操作を始めると、ガンダムはステーションに設置されたカウンターウェイトを見上げる。確かに感じる振動にミサは興奮を隠しきれない様子だ。

 

≪ったく……なんで嬢ちゃんまで乗ってるんだ?≫

「こんなの乗らないわけないでしょ!」

 

 通信越しにでも興奮しているのが分かるミサにカドマツは呆れた様子だ。元々、そこまで広くはないコックピットの為に操縦席も余裕はなくミサは今、一矢の膝の上に乗る形となっている。しかしそれでも良いからとミサは一矢と同乗したのだ。

 

≪皆さん、ご覧になっていますか? 今、私達の目の前でガンダムが飛び立ちました! 宇宙時代への扉をその手で開くために!!≫

 

 カウンターウェイトをロックしたガンダムはバーニアを稼働させながら、上方へ飛び立っていく。その堂々たる勇姿をステーションから録っているハルは地球に向けて中継する。今頃地球でもまた別に大騒ぎになっているだろう。

 

 ・・・

 

「坊ちゃま、よろしかったのですか?」

「なにが?」

「物凄く乗りたそうだったじゃないですか」

 

 ステーションで飛び立ったガンダムの光景を見つめるウィルに背後からドロシーが声をかける。ウィルとて一ガンダムファンだ。ミサ同様にやはり乗りたいと言う気持ちはあったのだろう。

 

「僕はそんなに子供じゃない」

「フフッ……お茶入れますね」

 

 しかしそれはウィルも意識してない事で子供じゃないと拗ねたように話すウィルに微笑みをこぼしながらドロシーはウィルを残して静かに去っていく。

 

「どうだ、すげえだろ?」

「あれ随分昔に作られた奴だろう? よく残ってたね」

 

 ドロシーと入れ違いに今度はカドマツが自慢げに話しかけてくる。カドマツには目を向けずガンダムの姿を見つめながら、ふと疑問を口にする。

 

「実際、老朽化が進んで廃棄される予定だったのをハイムロボティクスが引き取って俺達が業務時間外に中身作り直してたんだ。実際に乗れるヤツ作ったら面白ぇだろうなってな」

「物好きだな」

「あれはあの商店街と同じだよ。時代が変わって忘れられようとしていた物だ」

 

 あの実物大ガンダムはかつては観光などの目玉などで日本各地を転々としていたものだ。かつては翔が参加していたガンダムグレートフロントにも設置されていた。それを引き取ってあそこまで動かせるほどにしたと言うのだから、カドマツ達の情熱は凄まじい。苦笑気味なウィルに先程までお道化ていたカドマツも真剣な様子でウィルを諭すように話し始める。

 

「でも忘れない奴もいるし、残したいと思う奴もいる」

「……」

「そしたら運良くこういう日が来ることもある」

 

 彩渡商店街も、あの実物大ガンダムも過去の思い出として風化させられない者達がいる。諦めが悪い、未練がましい、そう思う人もいるのかもしれない。だが決してその想いは無駄な事でないとカドマツは思う。

 

「……僕も無くしたものを取り戻せるだろうか?」

「簡単さ。忘れたものを取り戻すだけで良い」

 

 まだ胸の中に開いた空洞は完全には埋められてはいない。

 出来る事なら、かつてのような無垢で熱い情熱を抱いていたあの頃に戻りたい。そんなウィルにカドマツは導くように助言をする。

 

 遠巻きでドロシーがお茶が入った事を伝えているなか、俯いたウィルは再び顔を上げて拳を握り胸の間に置く。今のカドマツの言葉は後押しとなってくれた。ウィルは胸の中に燻る想いを感じながら、ドロシー達の元へ向かうのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未来への扉

「そろそろポイントだよ!」

 

 カドマツが示したカウンターウェイトが設置されているポイントへバーニアを全開にして向かう実物大ガンダム。その操縦席ではミサがモニター上に点滅するポイントを指差す。カウンターウェイトの頭上に辿り着いたと言う事もあり、ガンダムは姿勢を立て直しながら停止する。

 

「うわあー地球だぁ……。私達この世界で人類初のMS乗りだよね!」

「そうだな」

「こんなものに乗って、こんなところまで来て……凄い未来に来ちゃったよ!」

 

 ガンダムが眼下に地球を見下ろしながら、モニターでそれを見つめて感激しているミサは背後の一矢に話しかけると、一矢も心なしか微笑みを浮かべながら同意する。

 まさか地球を出るとはチームを組んだ時は思いもせず、しかも実物大のガンダムに乗り込むなどとは夢にも思わなかった。

 

「……私、一矢に会えて良かった。あの時、ゲーセンで声をかけて本当に良かった」

「ミサ……」

「ここまで連れて来てくれて……ホントにありがとうっ……」

 

 始まりはイラトゲームパークだった。

 あの時、一矢に出会わなければ自分は今も万年予選落ちのチームだったのかもしれない。それが一矢に出会えて、カドマツ達と出会い、ここまで来ること出来た。ミサは潤んだ表情で頬を紅潮させながら一矢に身を寄せ密着させる。

 

「……それは俺も同じだよ。ミサがここまで俺を連れて来てくれた……」

「一矢……」

「俺こそ本当にありがとう。きっとこの先の未来も……ミサ以上に出会えて良かったって思える人はいないと思う」

 

 身を寄せたミサに腕を回し抱きしめる一矢はこれまでを思い返す。

 かつては聖皇学園でチームを組んでいたが、チームを抜けて以来はずっと自分の殻に閉じこもっていた。きっとミサに出会わなければずっと本当に自分がしたい事からも目を背けて腐って生きていたはずだ。だからこそミサに出会えて本当に感謝しているのだ。

 

「あのさ、地上に戻ったら──」

≪──あー……お楽しみのところ悪いんだが、やる事やってくれるか≫

 

 もう自分が一矢に抱いている気持ちが何であるのか分かっているつもりだ。

 だからこそちゃんと地上に帰ってから伝えたい。そう思って話している最中に気まずそうなカドマツに声が届き、今までの会話を諸々聞かれていたのかと二人は赤面し、ミサに至っては「なんだよもぅ!」と文句を言う始末だ。

 

「あ、このボタンだよ。ビームサーベル」

 

 気を取り戻すように咳払いをする一矢にミサはマニュアルを読みながら、バックパックに備わっているビームサーベルの稼働ボタンを指すと一矢はそのまま押す。プシュッと軽く上部に展開しガンダムは勢いよく引き抜き、出てきたのは発光するビームの刃。

 

「なにこれ! ビームサーベルじゃないの!?」

≪あるわけねえだろ、そんなもん≫

 

 ……ではなく展開式の電動鋸であった。

 振動する鋸を見やりながら、なにこれとあり得ないとばかりに叫ぶミサに寧ろ何言ってるんだとばかりにカドマツが呆れた様子で答える。

 

「そうかー。まだまだ未来はこれからだね!」

「じゃあ……未来への扉を開こうか」

 

 まぁ仕方ないかと苦笑するミサは一矢に笑いかけると、一矢も微笑を浮かべながら頷き、彼らが操作するガンダムは電動鋸を振り上げ、未来への扉を開くようにカウンターウェイトを切断するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 結局、それから地上に戻るまでは何週間もかかったが、戻れるとなったら皆旅行気分で宇宙を楽しんだ。不測の事態から復帰した宇宙エレベーターは逆に信頼性がアピールされることになり、それまでの鈍さが嘘のように宇宙開発計画が動き始めている。

 

 ミサは何だかプロパガンダに利用されたようで釈然としないようだが、これなら生きているうちに本当に宇宙旅行に行ける日が来るかもしれないと喜んでいた。

 

 そんなミサ達も病院で検査を受けたり、一矢はミサ達に丸投げしたマスコミのインタビューに受けたりで最近ようやく落ち着きを取り戻す事が出来た。

 

 そして──。

 

 

「お、きたきた!」

「待ち兼ねたよ」

 

 イラトゲームパークの自動ドアが開き、一矢がインフォに出迎えられながら入店するとミサが待ち兼ねたとばかりに笑顔で出迎える。ここには夕香やウィル、そして多くの知り合いが所狭しとイラトゲームパークで一矢を待っていた。

 

「なんで起こさなかったの?」

「イッチは起こしても起きないじゃん」

 

 どうやら一矢は相変わらず寝坊をしたらしい。

 文句を言いたげに一足先にイラトゲームパークに訪れてベンチに座っている夕香を見やると、寧ろ肩を竦めながらやれやれとばかりにため息をつく。

 

「それでは皆さん、早速ですが始めましょう!」

 

 いつまでも文句を言っていても仕方ない。今日は理由があってこの場に多くの人々が集まっているのだから。ハルはマイクを握ると高らかに話し始める。

 

「中断してしまったガンプラバトル世界大会決勝勝手にリマッチー!!」

「チーム戦だと3VS1になる為、今回は代表一名ずつによるタイマンバトルとさせてもらう!」

 

 そう、今日は非公式ながらあの時中断してしまった世界大会の決勝をもう一度執り行うと言うものであった。ハルの宣言に歓声が沸き上がり、同じくマイクを持っていたミスターがルールを説明する。

 

「勝者への特典を。ドロシー」

「勝った方が来月からのタイムズユニバース百貨店と彩渡商店街のコラボキャンペーンで先に名前を書く事が出来ます」

 

 折角なのだ。何か勝者への特典をつけようとウィルが傍らに立っているドロシーに声をかけると、背後に控えていたドロシーが一歩前に進み出て、このリマッチで勝利者が得られる特典を説明する。

 

「なんだよそれ、つまんねーよ」

「何を言うんだ! そもそもウチと肩を並べるだけでも商店街的には破格の条件だろう?」

 

 もっともあまり面白くもない特典だったのか、筐体の前に座っていたモチヅキが子供のように文句を言い始めると、そもそもウィルは文句が出る事自体が心外であったようだ。とはいえ今のウィルの発言でタイガー辺りが野次を飛ばしているのだが。

 

「私からはこのトロフィーを進展しよう!!」

「なんかボロっちぃ……。あっ……それってもしかして」

 

 場を仕切り直すように今度はミスターが高らかに言い放つと、テーブルの上に布で隠していたラストシューティングのポーズをとっているガンダムのトロフィーを見せる。

 しかしミサが難色を見せるようにそのトロフィーはどこか年季もあり、古びて見えるのだが、その途中で何かに気づいたのかウィルに目をやる。

 

「まだとっておいてあったのか……」

「捨てられなくてね」

 

 それはかつてアメリカで行われた大会でウィルが獲得したトロフィーであった。

 懐かしく感慨深そうに目を細めるウィルにミスターもサングラス越しに優しい表情を浮かべながら答える。

 

「もう一声何かないのか?」

 

 どうせならまだ何か欲しい。

 モチヅキの隣に座っているカドマツは何か期待しているように、笑みを浮かべながら声を上げると何かないかと考えていた一同だが……。

 

「勝った方にはミサちゃんと夕香ちゃんのキスよ!」

「ちょっとぉ!?」

「アタシそこまで安くないんだけど……」

 

 何とミヤコからとんでもない提案が出され、周囲は面白そうだとばかりに歓声が上がる。もっとも、突然名前が挙がったミサと夕香は互いに顔を見合わせると、すぐに止めさせようとするが悲しいかな、この場の空気は変えられなかった。

 

「娘をかけてのバトルか。胸が熱くなるねぇ」

「おめえオヤジとしてその感想はおかしいだろ」

 

 予想だにしていない事態ではあるが、二人の男が娘のキスをかけてバトルをするのだ。

 ワクワクと楽しそうに笑みを浮かべているユウイチにマチオの冷静なツッコミが入る。

 

「まあ、魅力的ではあるが僕は別に夕香だけでも良いけどね」

「その手を離せ」

 

 いまだ困惑している夕香の手をさながら王子か何かのようにウィルは取る。

 手を取られた事で夕香がウィルに視線を向けてると今度は一矢が空いている夕香の二の腕を掴んで夕香の手を握っているウィルに顔を顰め、睨んでいる。

 

「僕は夕香に用があるんだが?」

「妹に悪い虫が寄るのを見過ごせるか」

 

 火花を散らしているウィルと一矢なのだが、もっとも夕香からしてみれば、何でこんな事になっているのだと首を振っている。

 

「おぉっ……イケメン金髪社長と双子の兄が夕香を取り合ってる……! これ少女漫画みたいな映画が作れそう!」

「やれやれ……美しくありませんわね」

 

 傍から一人の少女を巡って、火花を散らす様子を眺めながら手を合わせて目を輝かせている裕喜の隣で嘆息をしながらシオンが持参の紅茶をティーカップに注いで飲み始めている。

 

「どんどん面白くなってくなぁ」

「キスか……。ところでシュウジ、お前ヴェルとはどこまで進んだんだ?」

 

 一矢達の姿を眺めながら手すりに膝をかけ、頬杖をついてニシシと笑っているシュウジであったが、その隣で手すりに身を預けている翔はヴェルとの関係について触れられてしまう。

 

「な、なんでヴェルさんの名前が……っ!?」

「お前ら俺のマンションに居候しているんだから、お前ら二人の空気の違いくらい分かるぞ」

 

 先程まで悪戯っ子のように笑っているシュウジではあったが、ヴェルの名前が出た途端、狼狽えてしまっている。異世界からやって来た者達はこの世界に訪れれば翔のマンションに居候している為、シュウジとヴェルが一緒にいれば桃色の空気にでも当てられているのだろう。どこか遠い目で答える。

 

「さあさあ盛り上がってまいりましたーっ! それではバトル開始してください!」

 

 しまいにはイラトがどちらが勝つか賭け事を始めているなか、ハルが沸き上がるこの場のボルテージを察知しながら、一矢とウィルに促す。

 

「ね、ねぇ一矢……」

「妙な事になったな……」

 

 その途中でミサが一矢に声をかける。やはりまだキスの件に関して、動揺しているのか上擦った様子だ。そんなミサの様子を見ながら、首の辺りを摩って一矢が嘆息する。

 

「まあでも……負けられない理由、また一つ出来た」

「えっ……?」

「そう簡単にミサのキス……譲りたくない」

 

 だがふと微笑を浮かべた一矢はミサに向き直る。どうしたのかと一矢の顔を見るミサであったが、不意に一矢の手がミサの頬を撫でると、柔和な表情を向けてそのまま再びウィルに向きなおり、残されたミサはボンっと爆発したかのように見る見るうちに顔を真っ赤にさせる。

 

「さぁ決着をつけよう!」

「望むところだ」

 

 ウィルの言葉に一矢が頷き、二人の表情には知らず知らずのうちに笑みがこぼれている。二人はそのままバトルシミュレーターに乗り込もうと歩き始める。

 

 

「ゲネシスガンダムブレイカー、出る」

 

「ガンダムセレネス、行くよ」

 

 

 ステージに選ばれたのはかつてミスターとのエキシビションマッチが行われた闘技場のステージであった。

 一矢とウィルはガンプラをセットして同時に掛け声を放ち、二機のガンダムは飛び出していく。

 こうして遂に決着がつかなかったバトルが再び開始されるのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これからもずっと

 闘技場を舞台にしたゲネシスブレイカーとセレネスの激闘の火蓋は切って落とされた。

 障害物も何もないこのステージではただお互いの実力のみが勝敗を決すると言っても過言ではないだろう。現に開始早々にゲネシスブレイカーとセレネスは火花を散らす実体剣同士による激しい剣戟を繰り広げていた。

 

「やるね……っ!」

 

 刹那に放たれたセレネスの刃を後方に身を反らして回避したゲネシスブレイカーは飛び退くと同時にスーパードラグーンを解き放ち、スラスターウイングから青白い光の翼ともいえる噴射光を発しながら再びセレネスへと向かっていき、その猛攻にウィルの表情は険しいものへと変化していく。

 

 いや、寧ろこれは最初からと言って良いのかもしれない。

 バトルが始まって早々にウィルから余裕が消えた。真摯に相手に向き合い、己の全力を持ってぶつかっていたのだ。

 

 自身を取り囲むように攻撃を仕掛けてくるスーパードラグーンが放つビームを刃で弾き、そのままの勢いを持って一基一基確実に破壊していく。

 

「簡単にはいかないか……ッ!」

 

 着々と数が減っていくスーパードラグーンを確認する一矢だがセレネスはスーパードラグーンを破壊し、そのままゲネシスブレイカーへと突っ込んでくる。

 その圧倒的な加速による砲弾のような体当たりじみた攻撃を何とかGNソードⅤで受け止め、改めてウィルの実力を感じる。

 

「だが……ッ!!」

 

 鍔迫り合いに発展して互いの実力を表すかのように拮抗するなか、ゲネシスブレイカーの左腕のマニビュレーターが紅蓮の輝きを纏い、そのまま放つ。咄嗟にセレネスは機体をずらして避けようとするのだが、間に合わず肩部を貫かれてしまう。

 

「甘いなッ!!」

 

 だがそれでもセレネスは動じる事もなく、寧ろ肩部を貫く左腕をそのまま刀を振り上げる事で切断する。左腕を失ったゲネシスブレイカーはGNソードⅤを瞬時にライフルモードに切り替えながら引き金を引く。

 

「君は確かに先人から受け継いだ力があるようだが……ッ!!」

 

 セレネスは肩部からゲネシスブレイカーの左腕を引き抜くと、そのまま放たれたビームに投げつけ爆散させる。硝煙が巻き上がるなか、先程のバーニングフィンガーを思い出しながらウイルス事件から知っていたその力が受け継いだものである事に触れる。

 

「だが、それは僕だって同じだッ!!」

 

 硝煙を払うかのように遥か上空に飛び上がったセレネスはそのまま急降下して刃を突き出す。一矢にはその動きに覚えがあった。何故ならば、ジャパンカップのエキシビションで実際に身に降りかかった技であったからだ。

 

 しかし、あの時放たれた技はウィルの方が鋭さがあり、一矢の反応が追い付かず、バックパックのスラスターウイングを貫かれ、そのまま蹴り飛ばされると地面を削りながらゲネシスブレイカーは吹き飛びそうになる。

 

「ッ……!?」

 

 だが完全に吹き飛ぶことはなかった。その直前にシザーアンカーをセレネスの脚部を拘束させ、そのままライフルモードで撃ち抜く。

 

「やっぱり強いな……」

 

 シザーアンカーも切断され、地面に向き合いながらゲネシスブレイカーとセレネスが降り立つ。一矢は改めてウィルの実力を肌で感じ、額に汗を滲ませながらも心底楽しそうに微笑を浮かべると、表情を鋭く変化させ、ゲネシスブレイカーを覚醒させる。

 

「あの光は……ッ!」

 

 覚醒したゲネシスブレイカーを見て、冷や汗を浮かべるウィルであったがモニター越しに見える目の前のガンダムは残光を走らせながら消え去る。

 傍から見ればこの闘技場にはセレネスのみに見えるだろうが、実際は違う。ゲネシスブレイカーは高速をも超え、セレネスを瞬く間に肉薄し、損傷を与えて行く。

 

「ッ!?」

 

 多くの者がこのまま一矢の勝利であると確信した。しかし現実はそうはならなかった。ツインアイの残光を走らせながら、振り下ろしたGNソードⅤの刃はボロボロのセレネスの刀によって受け止められ、一矢も含め多くの者が驚愕する。

 

「胸が熱くなってくる……ッ! 僕は紛れもなく……ガンプラバトルを行っているッ!」

 

 GNソードⅤの刃を受け止めるセレネスのツインアイが一層輝くと、そのままゲネシスブレイカーを振り払い、その身をゲネシスブレイカーと同じ輝きを放つ。

 ガンダムセレネスは今、ガンプラファイターとして再臨した主に呼応するかのように覚醒したのだ。

 

 ・・・

 

「ウィルも覚醒したっ!?」

 

 モニターで観戦していたミサ達は覚醒したセレネスに驚く。

 ミサもウイルス事件で片鱗を見せた際、同じ場にはいたが、ちゃんと見てはおらずこうして覚醒したのを見るのは初めてだ。紛れもなく輝きを放ったセレネスが同じく覚醒しているゲネシスブレイカーと幾度も切り結んでいるのだ。

 

(そうだウィル……。それこそガンプラバトルだ)

 

 損傷を受け、フレームを剥き出しになりながらでもまさに誇りをぶつけ合うバトルを行っているセレネスの姿を確かにその目に焼き付けながら、ミスターは人知れず微笑む。

 

(お互いがお互いを高め合い、戦っている間もさらなる成長をしていく……。君たち二人の関係は紛れもなく……)

 

 二機のバトルにかつての自分達の姿を重ねる。

 今、こうして身を削ってバトルをしているゲネシスブレイカーとセレネスの動きは更に精巧になっていく。自分が過去にウィルにそう感じたように今の一矢とウィルの関係にミスターは満足そうに笑みを浮かべるのであった。

 

 ・・・

 

 そして素晴らしい時間は瞬く間に過ぎて行く。

 もはや互いが大破に近い状態となり、次の一撃が決まれば、その場で決着がつくだろう。二人の額に汗が滲み顎先まで伝い落ちる。集中力を研ぎ澄ましてずっとバトルをしているせいか、呼吸も荒くなっているがそれでもジッと相手を見据えている。

 

 もはや互いに言葉はいらない。

 次の一手で決まるのであれば、その一手に誇りも意地も何もかもまさに全身全霊をもってぶつかるだけだ。張り詰める空気を打ち破るように地を蹴って、二機のガンダムは同時に飛び出す。

 

「凄いスピードだ」

 

 ゲネシスブレイカーとセレネスは交差し、剣を振り抜いた状態で静止している。

 一体、どちらが勝ったのか。誰もが息を飲み、その瞬間を待っていると不意にウィルがポツリと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

「……見えなかったよ」

 

 

 

 

 

 

 セレネスの刃に亀裂が走り、次の瞬間粉々に砕け散る。

 同時にセレネスは胴体に深く刻まれた残痕を軽く撫でるとそのまま砕け落ちると機能を停止させる。

 しかと大地に踏み締めるているゲネシスブレイカーは勝鬨を上げたかのように天にGNソードⅤを突き出すのであった。

 

 ・・・

 

「やったね、一矢ぁっ!!」

 

 シミュレーターから出て来た一矢に歓喜のあまり飛びつくように抱き着いてきたのはミサだった。かつてはまさに手も足もでなかったウィルを相手に勝利を収める事が出来たのだ。咄嗟に抱き留める一矢だが、ミサにつられるように笑みがこぼれる。

 

「負けちゃったね」

「これで一勝一敗さ」

 

 そんな一矢とミサの二人を尻目に夕香はシミュレーターから出て来たウィルに話しかけると次は負けないと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる姿を見て、柔らかく微笑む。

 

「それでは勝者に祝福の時間ですっ!!」

 

 するとハルがマイクパフォーマンスを行う。一矢とウィルの激闘で熱が入って忘れてしまっていたが、勝者にはコラボキャンペーンにネームを記す事とトロフィー……そして何よりミサと夕香のキスがあるのだ。

 

「えっーと……さ……。そこのトロフィーにするってのは……」

 

 いまだに気が進まないのか夕香はトロフィーを指差しながら提案するが、当然、受け入れられる訳もなくガックリと肩を落とす。

 

「別に俺は良いけど……」

「良いよもう……」

 

 一矢の前に立ち、途端にしおらしくなっている夕香は視線を伏せ彷徨わせていると、流石に悪いと感じ始めているのか兄なりに気を遣うが、腹を括ったのだろう。夕香は一矢と距離を詰める。

 

「っ!?」

 

 しかし中々キスまで時間がかかり、頬をほんのり朱く染めた夕香と見つめ合っていた一矢ではあったが不意に夕香によって強引に手で顔を横に押し向けられる。

 顔が横に向かった瞬間、一矢の胸倉を掴んだ夕香はそっと柔らかな唇を一矢の頬に触れさせる。

 

「……こっち見ないでよ、ばーかっ」

 

 再び顔の向きを戻そうとする一矢だが再び頬に押しあてられ向き直らせてはもらえなかった。耳まで真っ赤に染めた夕香はそのまま突き放すようにそそくさとシオン達の元へ向かっていく。

 

「じゃあその……今度は私の番……だよね……」

 

 夕香の番は終わった。今度はミサの番だ。

 全員の視線をミサに集中する中、ミサは恥じらってもじもじと身を悶えさせながら、一矢の真ん前に立つ。夕香の時もそうだったし、普通に考えればこちらだろうと、一矢は気恥ずかしそうに頬へのキスを待つ。

 

 

「──えっ?」

 

 

 しかしミサによる頬へのキスは来なかった。

 不意にミサの両手が一矢の頬に添えられミサへと向き直らせる。驚いた一矢は思わず声を上げるが、その言葉は自分の唇に重なった柔らかな唇によって遮られてしまった。

 

「誰にでもするわけじゃないよ……?」

 

 ミサの顔がゆっくりと遠のいていき、潤んだ瞳を一矢に向けながら、どこかやってやったとばかりに嬉しそうな笑みを浮かべながら愛らしく微笑む。

 

「地上に戻ったら……伝えたかったんだ……。ねぇ、一矢……」

 

 まさか夕香のように頬ではなく、ちゃんとキスをするとは思っていなかったのだろう。唖然とした空気が広がるなか、ミサは一矢にかつて言いそびれた事を口にする。

 

「大好き、だよっ」

 

 頬を染めながら、自身の想いを打ち明ける。

 かつてこの気持ちの正体は分からなかった。だが今では胸を張って言えるのだ。

 

「……俺も好きだよ、愛してる」

「ホントっ!?」

「ああ、先に言われちゃったけど」

 

 朱くなっているミサの頬を撫でながら、一矢もミサへの想いを打ち明ける。

 一矢は少なからず真実など女子の好意を寄せられる。そんな彼が自分に対して愛してるとまで言ったことにミサは驚くと共にどこか蕩けたような表情を見せる。

 

「だから俺の傍にいて欲しい。ずっと……この手を握っていて欲しい」

「当たり前だよっ!」

 

 改めて傍にいて欲しいという言葉の意味は言わずもがな。

 かつてのミサのように手を差し伸べる一矢にその手を取ったミサはそのまま一矢の胸に飛び込む。次の瞬間、そんな一矢とミサの二人を祝福するかのようにこの場に集まったシュウジや厳也かどま達がもみくちゃにする。ただそれでも二人の手はしかと繋がれており、二人は幸せそうな笑顔を浮かべるのであった……。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八章 サヨナラへのカウントダウン
蘇る古強者達


「いやー素晴らしいバトルだったね! 私も現役時代を思い出して熱くなってしまったよ」

「ミスターの現役時代ってどんな感じだったんですか?」

 

 一矢とウィルの激闘も終わり、その後の騒動も落ち着いた後、再びミスターとハルによるマイクパフォーマンスが行われ、その話題はかつてのミスターの現役時代について触れられる。

 

「……輝いていたね」

「は?」

 

 自分の世界に入ったかのようにどこか遠い目をしながらかつてを思い出してじみじみと呟くように答えるミスター。しかしいきなりの変わりようにハルは思わず間の抜けた声を上げてしまう。

 

「あの頃は輝いていた。何もかもが……。世界中でバトルし勝利し、またバトルをする……。そんな輝きに満ちた日々でだった……。多くのスポンサーが付き、ミスターガンプラと呼ばれだしたのもこの頃だ」

 

 もはや自分の世界から戻っては来ず、ハルをそっちのけで一人語り始める。

 その姿はない筈のスポットライトがミスターだけを照らしているようにさえ見えてくるほどだ。

 

「ある時、私はアメリカで開催された大会に参加し、そこでウィルという少年に出会った」

 

 そしてそのままどこか聞き覚えのある話がまたミスターの口から出てくる。

 集まった者達が半ば置いてけぼりになるなか、ミスターのウィルとの出会いに関する話は一人続いていく。

 

「彼とのバトルは私が久しく忘れていた互角の相手と戦う高揚感を思い出させてくれた……! 年の差なんて関係ない、新たなライバルとの出会いを心から喜んだ!」

「ミスター? あの……そろそろ……」

「お互いがお互いを高め合い、戦っている間もさらなる成長をしていく……。そして素晴らしい時は瞬く間に過ぎ……私は彼に──!!」

 

 かつての熱き日々を思い出しているのだろう。

 どんどんと熱が籠っていくミスターにハルが置いてけぼりにされ、ちらほらと退屈している観客達を見かねて、ミスターをやんわりと止めようとするのだがまだまだミスターの話は続きそうになる。

 

「……ミスター。帰ってきてください」

「……あぁ、すまない! 昔を思い出すとついね」

 

 ハルに嘆息しながら声をかけられ漸く我に返ったのか、ミスターは周囲の雰囲気を察し、どこか照れ臭そうな様子で話す。

 

「チャンプ、恥ずかしいから人前で昔の話をするのは止めて欲しいんだけど」

 

 勿論、ミスターが一人熱く語っていたウィルとの思い出話は当のウィルにも被害が及び、ニヤニヤとからかうようにウィルを見ている夕香から恥ずかしそうに顔を逸らしながらどこか恨めしそうに話しかける。

 

「はっはっは、すまんすまん! ところでウィル、君は5年前のあの機体、捨ててしまったのか?」

「……いや、まあしまってあるよ」

 

 軽く笑い、そんなウィルに謝りながらどこか真面目な様子でかつてアメリカでバトルをした際にウィルが使用していたガンプラについて触れると、一応、この場にも持ってきてはいるのか、歯切れが悪いながらも答える。

 

「私も同じだ。捨てられなかったが使うには辛すぎた。君もそうだろう?」

「チャンプ、恥ずかしいからそういうの」

 

 あの時使用したガンプラを見れば、様々な思いがこみ上げる。だから捨てられなかった。だが、かといって使う事も出来なかった。ミスターに指摘されたのは事実ではあるが、それをわざわざ口に出されるのはウィルにはどうにも気恥ずかしい。

 

「そうだ! 折角、これだけのファイターが集まったのだからバトルロワイヤルといこうじゃないか! 私とウィルは5年前の機体で出よう!」

「えー……なんで僕まで?」

 

 妙案を思いついたとばかりに提案する。バトルロワイヤルそのものは非常に魅力的な提案ではあるのだが、何故わざわざミスターに付き合って過去の機体で出なくてはならないのかとウィルは不満そうだ。

 

「ウィル、君もファイターなら分かる筈だ!」

「なんでもかんでも【ファイターなら分かる】で片づけるのはチャンプのダメなところだよ?」

「ガンプラファイターとはそういうものだ!」

 

 またも聞いた事のある言葉でウィルを納得させようとするミスターではあるが、そこまで単純ではないウィルは呆れたように指摘するが寧ろ開き直っているかのように力強く言い放つ。

 

「ふむ……面白そうだな」

「翔さん?」

 

 顎先にか細い手を添え、今まで成り行きを見ていた翔は不意に口を開くと、一体、どうしたのかと近くにいた風香が見るが、翔はそのまま前に出る。

 

「なら、それに俺も便乗させてもらおうか」

 

 そう言って翔が持参したケースから取り出したのはガンダムブレイカーネクストではなく、ガンダムブレイカーであった。

 かつてGWF2024で使用し、ブレイカーネクストを使用するまではブレイカー0と併用して使用していたこのガンプラで翔も参戦しようと言うのだ。

 

「一矢君、ゲネシスガンダムは持ってきているか?」

「まあ……持ってきていない訳ではないですけど」

 

 そのまま翔は近くにいた一矢に声をかけると、一応、今日のガンプラバトルのイベントの為にミーティアなどが収められたケースを持ってきていた。ゲネシスガンダムも此処に収められているのでこの場に持ってきてはいる。

 

「では、俺はガンダムブレイカーで。一矢君はゲネシスガンダムで出よう。どうかな、一矢君?」

「翔さんがそう言うなら、俺は別に構いませんが……」

 

 ミスターとウィルがかつての機体で出撃するのであれば自分達もその土俵に立とうと考えた翔に一矢も自分のかつての機体が同じかつてのミスターやウィルの機体に通用するのか興味はあるのだろう。翔の提案に了承する。

 

「さあ、我こそはと思うファイターは出撃してください!」

 

 翔と一矢、そしてミスターとウィルが向き合いながらもう既に火花を散らすなか、盛り上がりを見せ始めるイラトゲームパーク内を察知したハルが早速ファイター達に促すと、ファイター達はそれぞれ己のガンプラを取り出す。

 

「ならあえて言わせていただきますわ! 我こそは、とっ!!」

 

 真っ先に名乗り出たのはシオンであった。いつもの自信に満ち溢れた表情でバァーンッと効果音が似合いそうな程、高らかにシオンが見せつけたガンプラは黒い特徴的な脚部に身の丈以上のドリルランスを装備した騎士……ガンダムキマリスヴィダールであった。

 

「じゃあじゃあ私も! 作ったのよ、新しいガンプラ!」

 

 今度は裕喜も両手を挙げながら、自身がガンダムグシオンリベイクフルシティに代わる新しく作成したガンプラであるフルアーマーガンダム(サンダーボルトver)を取り出して周囲に見せつける。

 

「フルアーマーガンダムっ! つまりFAG! 勝利オーライだよ! 因みにコ○ブキニッパーで作っ──」

「裕喜、それ以上はいけない」

 

 最初こそフルアーマーガンダムを見せていた裕喜だが、段々と違うFAGに話が移りそうになっていき、見かねた秀哉が後ろから口を塞ぐ。

 

「じゃあ折角だし? アタシも参加させてもらおうかねぇ」

 

 俺も俺もと次々にファイター達がシミュレーターに向かっていくなか、夕香も参加するつもりなのだろう。自身にとっての相棒ともいえるバルバトスを取り出す。しかし、そのバルバトスは今までと大きく異なる外見をしていた。

 

 その大型化したマニビュレーターや何よりはその背部に装備されたテイルブレード。狼の王を意訳することの出来る名を持つバルバトス。ガンダムバルバトスルプスレクスであった。

 

「夕香ちゃん、バトルになっても恨みっこなしだよ!」

「ミサ姉さん、本当の義姉さんになったとして手加減はしないよ」

 

 バルバトスルプスレクスを持っている夕香にミサが新たなアザレアを取り出しながらこれから行われるバトルロワイヤルに楽しみを隠せず話しかけると、夕香も待ち望んでいるとばかりに笑い、夕香とミサもシミュレーターに向かっていく。

 

「俺達も行こうか、一矢君」

「はい」

 

 もう既にファイター達はちらほらと出撃している。

 翔はゲネシスを持つ一矢に声をかけると二人もそのままシミュレーターに乗り込む。

 

「ガンダムブレイカー、如月翔」

「ゲネシスガンダム、雨宮一矢」

「「出る!」」

 

 シミュレーターに乗り込んだ翔と一矢はかつての愛機をセットし、モニター越しにカタパルトが表示されたのを確認すると、口を揃えて出撃するのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フェスティバル

 ひょんなことからミスターの提案によって開催されたバトルロワイヤル。始まったら始まったで大きな賑わいを見せていた。実力はそれこそ疎らではあるのだが、それでも参加者のファイター達は皆、楽しそうにバトルに熱中している。

 

「ちっきしょーっ!!」

「何かの間違いだぁっ!」

 

 負ければ悔しさは当然生まれるものだろう。それはそれだけのめり込んでいた証だ。

 それを表すようにタイガーとカマセが心底悔しそうに叫ぶ。二人もかつて一矢達とバトルをした時とは違い、新しく仕上げたガンプラを使用しており、今までよりも成長している。だがそれでも負けてしまったので本当に悔しかったのだろう。

 

「この辺りのファイターの実力って軒並み高水準だよな」

「やっぱり彩渡商店街チームに刺激を受けているのかもね」

 

 そのタイガーとカマセを撃破したのは新たにそれぞれ作成されたストライク・リバイブを駆る秀哉とフルアーマー・ガンキャノンを使用する一輝であった。バトルロワイヤルだけあって様々なファイターとバトルをするわけだが、やはりその実力は高く感じる。

 

 ・・・

 

「負けないっすよ」

「こちらこそっ!」

 

 また違う場所ではアプサラスを彷彿とさせるようなカスタマイズを施されたガンプラを使用するウルチとジム・キャノンⅡをベースにしたジム・キャノンⅡSBCを使用する皐月が戦闘を繰り広げる。普段は気だるげなウルチもガンプラバトルとなれば気合が入っているようで中々の気迫だ。

 

「あんた等確かジャパンカップにいたよなっ!」

「ああ、こっちも覚えてるよ!」

 

 近くではヴェスパーに四本のエクスカリバーを取り付け、エンファンスドデファンスを更にカスタマイズしたガンプラを使用するツキミがどことなくジムとG-セルフを掛け合わせたような陽太のGM‐セルフとの戦闘を行っており、見応えある近接戦が行われている。

 

「アナタの女性のお相手が出来るとは男冥利に尽きるね」

「その余裕、いつまで持つか見物やな」

 

 コズミックグラスプをカスタムし、新たにツインドライブを装備した新機体でバトルをするロクトに食いついているのは旦那作成のアサーシンを駆る珠湖だ。軽口を吐くロクトであるが、その実力はやはり一線を越えており、珠湖も全力で挑んでいる。

 

「流石、ミサのお父さんね!」

「マチオさんやミヤコさんもかなりの実力ですっ!」

 

 そして彩渡商店街の三人の大人とバトルをするのはフォボスを改良したガンダムフォボス・改を使用する文華と同様にルーツガンダムを改良したロードガンダムを操作する咲だ。彼らの高い実力を間近に触れ、苦戦はするもののそれでも楽しそうにバトルをしている。

 

「あんなバトルを見せられたんじゃ熱くなっちまうよなぁっ!」

「ふふっ、年甲斐もなく燥いじゃうわね」

「悪いけどもう少し付き合ってもらうよ!」

 

 やはり直前に行われた一矢とウィルのバトルが良い刺激となっているのだろう。

 興奮を隠さぬマチオに同意するようにミヤコも笑い、ユウイチはそのまま子供大人関係なく、ファイターとしてバトルを続行していく。

 

「やっとこの日が来たのォッ!」

「折角の機会だ! 勝たせてもらう……ッ!」

 

 様々なガンプラが入り混じるフィールドの上空では弧を描きながら激しくぶつかり合うのは更に近接戦闘能力を高めるためにクロス・フライルーを改良したクロス・ベイオネットとペイルライダーをベースに作り上げたダウンフォールであった。

 ファイターである厳也と影二はかつて約束したバトルがこうして現実となった為、喜びを表すように更なる激闘が繰り広げられる。

 

 ・・・

 

「さあ、エレガントに参りますわよ!!」

≪ああ、正々堂々と勝負だッ!!≫

 

 さほど遠くない平原ではシオンのキマリスヴィダールとロボ太のバーサル騎士によるまさに騎士同士による決闘のようなバトルが行われている。

 バトルに対する姿勢は似ているのだろう、真っ向から己の実力でぶつかるシオンとロボ太のバトルは激しい中での美しさを感じる。

 

「結構、やるんだねっ!」

「でっしょー!」

 

 激しさで言えば、此方もだろう。ガンティライユを更に砲撃に特化させた機体とフルアーマーガンダムが激しい弾幕を張っている。バトルをしているミソラは素直に裕喜の実力を認めると、裕喜は楽しそうに更に砲撃の勢いを強めていた。

 

「さーて、次はっ!」

 

 基本コンセプトこそアザレアフルフォースと同じだが、これまでの経験で新たに組み上げたミサのアザレアリバイブが参加するファイターのガンプラを華麗に撃破すると、すぐさま別のファイターを探そうとするが、その前に縦横無尽に放たれるテイルブレードが襲いかかり、すぐに大型対艦刀を盾代わりに防ぐ。

 

「ミサ姉さん、アタシのことも構ってよ」

「良いよっ! 私も夕香ちゃんとバトルしたかったから!!」

 

 するとすぐさま襲いかかったのは夕香のバルバトスルプスレクスであった。

 咄嗟に回避したものの先程までいた場所には超大型メイスによってクレーターが出来上がり、すぐに避けたアザレアリバイブにそのまま地面から引き抜いて超大型メイスが放たれ、アザレアリバイブの大型対艦刀と鍔迫り合いとなる。

 激しく拮抗する力と力。だがファイターである夕香とミサにはこれから行われるであろうバトルに高揚感を隠しきれなかった。

 

 ・・・

 

「やるな……っ!」

 

 しかし中には並みのファイターでは立ち入る事の出来ないバトルがある。

 今まさに三つ巴のバトルが行われており、そのうちの一機はネオ・サザビーであった。シャアは己が相手をしているガンプラを見やりながらその実力を認める。

 

「勝たせてもらうぞっ!」

 

 そのうちの一機はアムロのHi-νであり、放たれたフィンファンネルの精度は恐ろしいまでに的確に襲いかかってくる。

 

「あっちも盛り上がってる頃か?」

 

 そして最後はバーニングゴッドブレイカーであった。

 他にも真実や風香達もバトルをしているが、襲いかかるフィンファンネルを回避しながら、シュウジは行われているであろうバトルについて考えるが、今は集中しなくては危ないと意識をバトルに切り替える。

 

 ・・・

 

 フィールドの最深部に到着したブレイカーとゲネシスを待ち構えるようにこの場にいたリックディアスをベースにカスタマイズが施されたブレイクディアスと百式ベースの白銀の百式イェーガーだ。この機体はそれぞれミスターとウィルが過去に使用していたガンプラである。

 

「やはり君達が来たかッ! ならば、ブレイクディアスが相手になろうッ!」

「いつぞやの手合わせ……。今ここで、このガンダムブレイカーで願おうか」

 

 襲いかかるブレイクディアスにガンダムブレイカーは素早い身のこなしと得意の狙撃でブレイクディアスとの戦闘を始める。

 

「成り行きとはいえ、また君と戦えるのは願ってもない事だ。この百式イェーガーで勝たせてもらうよ」

「今度もこのゲネシスガンダムで勝つさ」

 

 そして百式イェーガーにはゲネシスが相手となる。

 かつては止まって見えるとまで言った機体だが、今の一矢の実力と、こうして百式イェーガーがどこまで通用するかのか考えるウィルは楽しそうな言葉とは裏腹に鋭い視線をゲネシスにぶつけ、一矢も同様にGNソードを展開する。

 

「行けるな、ウィルっ!」

「誰に言っているんだい!」

 

 ガンダムブレイカーとブレイクディアスが、ゲネシスと百式イェーガーがそれぞれ身を削る激しいバトルを行い、それぞれが弾かれるように分かれる。

 バトルロワイヤルとはいえ、ミスターは目の前の二機のガンダムを確実に仕留める為、並び立った百式イェーガーを操るウィルに声をかけると二機は同時にビームサーベルを構えて同時に飛び出す。

 

「やる……っ!」

「ああ、流石と言うべきか……」

 

 二機のガンダムに攻撃を仕掛けては跳ねるように左右に移動しながら刃を振るうブレイクディアスと百式イェーガー。下手な動きをすればそれこそ撃破される危険性がある。その為、ゲネシスとガンダムブレイカーは背中合わせのような形を取り、シールドを構えて鎌鼬のような攻撃を防ぐ。

 

「……だが、いつまでも通用すると思うな」

 

 しかし別に何も反抗をしないわけではない。

 スッと目を細めた翔は迫るブレイクディアスへ頭部バルカンを放ち、ブレイクディアスが咄嗟に避けながら更に接近したと同時に早撃ちで直撃させる。

 

「……師弟みたいで良いコンビだと思うよ」

 

 そしてゲネシスに迫る百式イェーガーにゲネシスは素早く身を屈め、瞬時にガンダムブレイカーが振り返ってビームライフルの引き金を引き、脚部に直撃させるとバランスを崩したところでゲネシスのタックルを浴びる。

 

「この……ッ!!」

 

 タックルを浴びた百式イェーガーはすぐにビームサーベルを逆手に持ってゲネシスに突き刺そうとするが、その直前にビームサーベルを待つマニビュレーターだけを狙った狙撃を受けて、攻撃はままならずゲネシスによって距離を取るように蹴り飛ばされる。

 

「させるか……ッ!」

 

 しかし百式イェーガーを狙撃したガンダムブレイカーにブレイクディアスのライフルの銃口が向けられ引き金が引かれそうになる。

 それに気づいたゲネシスは機体を反転させて、GNソードをライフルモードに切り替え素早く放つと引き金が引かれる直前に腕部に直撃し、その銃口がガンダムブレイカーから僅かに逸れる。

 

「確かに良いコンビだが……」

「俺達も悪くないだろう?」

 

 剃れた銃口から放たれたビームを振り返ることで避けながらビームライフルによる早撃ちを行い、ブレイクディアスのライフルを破壊する。

 ゲネシスとガンダムブレイカーが再度背中合わせになりながら、一矢と翔は口元に微笑を浮かべて再度古強者達のバトルは続いていくのであった。

 

 ・・・

 

「まったく……疲れる一日だったよ」

 

 バトルロワイヤルは大盛況となり、結局イラトゲームパークが閉店時間になるまで今回のイベントは盛り上がった。ベンチに座るウィルが疲れを表すように肩を解しているとミスターが歩み寄る。

 

「結構楽しそうに見えたが?」

「まあ……否定はしないよ」

 

 今日のイベントで、ウィルは少年のように純粋に楽しんでいるように見えた。

 その事に触れるミスターにウィルも自分自身で感じていたのか、微笑を浮かべながら頷く。

 

「ウィル、また昔みたいにガンプラバトルをしないのか」

「そうもいかない。今の僕には会社や従業員に対する責任がある。ガンプラバトルだけをしているわけにはいかないさ」

 

 今日のイベントを見て、ウィルも一人の誇り高きガンプラファイターである事を再確認したミスターは再びこの世界に戻ってこないか尋ねる。しかし今と昔では立場が違う。ウィルはミスターの問いに首を横に振る。

 

「残念だよ、君ほどのファイターが……」

「やりたいこととやるべきことが一致する人間なんてそうはいない。でも僕なりのバトルをしていくつもりだ」

 

 やはり昔のようにただバトルだけに、というわけにはいかない。

 ウィルの本格的なガンプラファイターへの復帰が叶わぬことを惜しむミスターにウィルは強く答える。例え昔のようにバトルが出来なくても、また別のバトルが自分を待っている。そこに今は誇りをぶつけていくだけだ。

 

「君ならミスターガンプラを……。このアフロを継ぐものになれただろうに」

 

 そうか……とウィルの返答に満足そうに頷きながらでも、ミスターは名残惜しそうに己が被っているアフロに触れる。

 

「……それは会社が無くてもお断りさせてもらうよ」

 

 大真面目に言っているようにしか見えないミスター。いや本当に真剣に言っているのかもしれない。だとしても流石にあのアフロを被るつもりはないウィルはため息交じりに答えるのであった。

 




<いただいた俺ガンダム>

トライデントさんよりいただきました。

ガンプラ名
フルアーマー・ガンキャノン

WEAPON1
ビーム・スマートガン(EX-S)
WEAPON2
ビームサーベル(Sガンダム)
HEAD
ガンキャノン
BODY
ガンキャノン
ARMS
デュエルガンダムアサルトシュラウド
LEGS
ガンダムヘビーアームズ
BACKPACK
ファッツ
SHIELD
シールド(ギラ・ドーガ)

拡張装備
レーザー対艦刀
BACKPACK BOTH SIDE:1

スラスターユニット
POSITION:X -42
POSITION:Y +82

新型MSジョイント
内部フレーム補強×2

OPINION EQUIPMENT
240mmキャノン砲
シヴァ+5連装ミサイルポッド
頭部バルカン
ホーミングミサイル
18連装2段階ミサイル・ランチャー
背部ビーム・カノン
レーザー対艦刀

カラーリング
元のガンキャノンと基本的に同じカラーリングで、ARMSのアサルトシュラウド部分とLEGSのミサイルポッド部分等を灰色に、他の火器部分はキャノン砲と同じ色に合わせます
機体ナンバーはカイ・シデン機と同じ108です

戦い方
火力が売りなのは変わらず、基本的にキャノン砲やミサイル、ビーム・スマートガンやハイパー・メガ・カノン等で遠距離攻撃、後方支援に徹する
近付かれても頭部バルカンやアサルトシュラウドのウェポンにシールドに装備されたシュツルム・ファウスト、ビームサーベルやレーザー対艦刀等で自衛は可能、だがあくまで自衛できるレベルなので近距離戦が長続きすると厳しい
「戦○の絆と似たようなのになっちゃったな」と一輝は語る

ガンプラ名
ストライク・リバイブ

WEAPON1
ビームライフルショーティー
WEAPON2
シュベールラケルタビームサーベル
HEAD
ストライクガンダム
BODY
ウイングガンダムゼロ(EW)
ARMS
スターゲイザー
LEGS
ガンダムダブルエックス
BACKPACK
デスティニーガンダム
SHIELD
ビームシールド(スターゲイザー)

拡張装備
ファンネルラック
BACKPACK BOTH SIDE:1

ダブルビームブーメラン
BOTH ARMS:3

スラスターユニット
BOTH LEGS:2

新型MSジョイント

OPINION EQUIPMENT
マシンキャノン
ファンネル
イーゲルシュテルン
高エネルギー長射程ビーム砲
アロンダイト
ダブルビームブーメラン
ハイパービームソード

カラーリング
WEAPON1とARMSとLEGSはエースホワイトで、BODYは胸部の紺色(?)を青に、BACKPACKはそのままでそこに装備されてるファンネルラックは翼の色に合わせます

戦い方
秀哉は弾幕を張ったり二刀流での戦闘スタイルを好むので、イーゲルシュテルンとマシンキャノンの同時発射、アロンダイトとハイパービームソードの二刀流で戦う、というのをよかったらいれてください
ファンネルは最後の切り札みたいなものにしてほしいです(翼でファンネルラックを隠してるのはそのため)
普段は別々に使いますが、本当にピンチの時は光の翼とゼロシステムを同時に使います(ゲームでは意味はないんですけど、実際だと効果ありそうだなと)

素敵な俺ガンダムありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誇り高き姫騎士に愛を

「へぇ? 新しい機体が出るようになったのかい。その……何だって?」

 

 大盛況のまま終わったバトルロワイヤルから数日後、イラトゲームパークでは店主であるイラトは一人のスーツ姿の男性と話しており、その内容に大きな関心があるようで熱心に話に食いついている。

 

「追加プログラム……“アドオン”デース」

 

 イラトと話をしているスーツ姿の男性は中東系か、外国人であり比較的聞き取りやすい日本語ではあるのだが、どこか胡散臭さを感じるような片言交じりで答える。

 

「ああ、で? そのアドオンってのは……儲かるのかい?」

「もちろんデス」

 

 イラトの感心は男性の話すアドオンそのものではなく、そのアドオンを導入した結果儲かるかどうかであった。しかし男性はにんまりと頷く。

 

「今、世界中のガンプラバトルシミュレーターに続々と導入されてマース」

「へぇ……本当かい?」

「各所より喜びのお便りが届いていマース、例えば……」

 

 ガンプラバトルシミュレーターは世界中で広く普及されており、どこでも出来る。

 その世界中のシミュレーターに導入されていると話す男性の言葉に更に食い付くように尋ねるイラトに証明するかのように男性は懐から何やら手紙を取り出す。

 

 

 

 ──先日、ウチのワイフと些細な事で喧嘩しちまったんだ。このままじゃ過程が冷え切って今年の冬は越せそうにない……。

 

 

 そこで僕は自慢の金時計を質に入れ、このアドオンをプレゼントした。

 

 

 しかし妻は僕の金時計に合うプラチナの鎖を買う為に彼女が大切にしていたガンプラバトルシミュレーターを売ってしまったんだ。

 

 

 結局、僕らが送りあったものは無駄になってしまった。

 

 

 しかし、二人の愛を再確認することが……。

 

 

 

 

「これ読むお便り間違えてマース」

 

 なにか海外のコメディか何かのように手紙の内容を読み上げていた男性であったが、どうやら何か違っていたようで手紙をクシャクシャに丸めてポイッと投げ捨てる。

 

「まあなんだって良いさ。儲かるってんなら言う事はないよ。好きにやっとくれ」

「ありがとうございマース!」

 

 妙なオチがついてチーン、と音が鳴りそうではあるが気を取り直してイラトがアドオンの導入を承諾すると、そのまま好きにやらせようとこの場を去ろうと背中を向け、男性は喜んで感謝の言葉を投げかける。

 

「あーそうそう。飛び切り難しい設定にしとくれ。その方が儲かるからねぇ!」

 

 その場を去っていこうとするイラトであったのだが、その前に一度立ち止まって振り返り、何と高い難易度を男性に求めると何か企むような怪しい笑い声をあげるのであった。

 

 ・・・

 

「この国に来るのは、久しぶりだね」

 

 日本の空港にはセレナの姿があった。

 窓から見える風景を見やりながら着用していたサングラスを外して、上着の首元にかける。日本に滞在するつもりではいるのか、セレナの背後にはキャリーバックを持った私服姿のアルマとモニカの姿が。

 

「まずは彩渡街のホテルにチェックインしますか?」

「それも良いけど……。やっぱり観光したいなぁ」

 

 どうやらセレナの目的は彩渡街のようだ。

 携帯端末でホテルの情報を確認しているアルマが背伸びをしているセレナに尋ねるとセレナは人差し指を顎先に添えながら待ちきれないとばかりに答える。

 

「んー……でもでも、ここから彩渡街って結構時間がかかるし、息抜きで来たって言っても日本にいられる時間だって限られてるんだよ? あんまり寄り道は出来ないと思うけど」

「まあねぇ。だったら──」

 

 本音を話して良いのであれば、モニカ達も日本を観光したい。

 しかしセレナとていつまでも自由な行動を許される身ではない。それはセレナの侍女を務めるアルマやモニカの二人もだ。モニカの言葉に僅かに考え……。

 

 ・・・

 

「お寿司かぁ」

「どうせ来たんだったらね」

 

 フォーマルハウトの三人が訪れたのは近くの回転寿司チェーン店であった。

 チェーンコンベアで流れる寿司の数々を見やりながら目を引かれているモニカにセレナは訪れた理由を話す。元々回転寿司に訪れる予定はなかったが、観光が満足に出来ないならせめて多少なり食だけども食べておきたい。

 

「へーっ、お寿司屋ってパフェとかもあるんだねー」

「昔、行ったことがある回らないお寿司屋さんにはなかった気がしたけど」

 

 モニカはタッチパネルを操作しながらメニューを見ていると、サイドメニューなどを見て驚いたように呟くと、まだ幼い頃、親が来日する機会が会った際、連れてこられたがそんなメニューがあったかと首を傾げる。もっとも幼い頃の記憶なので曖昧であまりよく思い出せない。

 

「ねぇ、お嬢様。この蛇口みたいの何だろ?」

「……手でも洗うのかな?」

 

 めぼしいものを注文しつつ流れる寿司を見ているセレナ達であったが、ふとモニカが壁側に備え付けられた粉末茶などを淹れるための蛇口を見やり首を傾げる。セレナも良く分かってないのか、首を傾げつつ直観で思いついた事を口にする。

 

「あぁ、それはお茶を淹れるものですね」

「「お茶?」」

「ええ、何でもこのような場ではお茶のことをあがりと言うらしいですよ」

 

 

 当然、セレナが思ったような使い方をすればただでは済まない。蛇口付近の注意書きを読もうとしているセレナとモニカの二人に今まで容器に入ったガリを興味深そうに眺めていたアルマが答える。しかしそこでセレナとモニカの二人に疑問が生まれる。何で寿司屋ではお茶の事をあがりと言うのだろうか?と。その答えを求めるようにアルマを二人して見ている。

 

「確かヤのつく方達の組長が寿司を食べた後にお茶を飲み、あまりの幸福感に【とっとあがって楽になりてぇ】とか思ったからだとかなんとか」

「へぇー」

 

 視線に気づいたアルマは何か考えるように視線を逸らすと、すぐに真面目な表情で答える。日本人からしてみれば、なんだそれはと言わんばかりの内容ではあるがセレナは疑問に思う事はないようで素直に感心している。

 

「……ねぇ、アルマ。それどこ情報? ソースは?」

「今考えた」

 

 流石にモニカは疑問に思ったのだろう。そっと耳打ちするように隣のアルマに身を寄せながら尋ねると、アルマはあっけらかんとした様子で答える。

 

 別にこのような事が今に始まったわけではない。モニカもアルマも大事な事以外は適当にセレナに答える節があり、そんな事で植え付けられた間違った知識によってセレナが日本を誤解して僕っ娘になったりするのだ。

 

「そう言えば、シオンお嬢様には今回の来日を伝えてないと聞きましたが……」

「そうだよ」

 

 他愛ない話をしつつ回転寿司を楽しんでいたが、不意にアルマがシオンについて尋ねる。出発する前にセレナが屋敷の者にシオンに連絡しないでね、と話していたと聞いたからだ。それは事実であるのかセレナはコクリと頷く。

 

「何で? 彩渡街に行くんでしょ?」

「シオンはホームステイ中だからね。ちょっと様子を見ておきたいんだ。もしかしたらボクの知らないシオンの一面が見れるかもしれない」

 

 一応、今回は彩渡街に訪れるつもりでやって来た。

 だったらシオンに連絡してもおかしくはない。しかしあえてしないと言うのだ。

 その理由を尋ねるモニカにセレナは座席に身を預けながら答える。シオンは毎回、日本での生活を連絡してきてくれる。それは嬉しいが、どうせ日本まで来たのならその様子を見てみたい。

 

「だけどボクがいるって分かっちゃうと気を遣うかもしれないからなるべく黙っておきたいんだ」

 

 セレナを慕うシオンのことだ。

 セレナが来るとなれば快適に過ごせるようにと其方に気を回してしまうかもしれない。

 そんな事は姉としてさせたくなかった。あくまで一人で日本に訪れたシオンの素の部分を見てみたいとシオンへ想いを馳せる。

 

 ・・・

 

「夕香ぁっ!」

「……なにさ」

 

 一方、彩渡街の雨宮宅ではシオンがノックをしたと思えば、豪快に夕香の部屋に入室するとベッドの上で雑誌を読んでいた夕香は嵐が来たとばかりに頭が痛そうに目を向ける。

 

「ガンプラバトルシミュレーターにアドオンなるものが導入したそうですわよ! さあさあ今すぐ行きますわよ!」

「アドオン……? そういやなんかイッチ達が……。いやでもどうせ今、混んでるでしょ?」

「だからなんだと言うのですか! もう既に裕喜には連絡済みですわ! さぁ今すぐ立ち上がってアドオンをプレイしますわよ! STAND UP TO THE VICTORY! ハリーハリーハリー!!」

 

 アドオンについて早速情報を仕入れたのだろう。興奮した様子で夕香を連れ出そうとするが、一矢は既にミサ達と向かっているだろうし、シオンが知っていればそれ以外の面々だって遊びに行っている事も考えられる。

 混雑は嫌いなのか、出かける素振りを見せない夕香にシオンは夕香の腕を引っ張り、がやがやと騒がしくシオンは今この瞬間も楽しいのか心なしか笑みを浮かべている。

 

 ・・・

 

「……シオンの今はかけがえのない時間なんだ。だからなるべく邪魔はしたくない」

 

 再び場所は寿司屋に戻り、セレナは真剣な面持ちで話す。

 シオンはホームステイをしている身。いつかはイギリスに帰らなくてはいけなくなる。それからは向こうでの生活もある為、例え後々、再び日本に訪れる機会があっても今のように長い期間、自由でいられる訳ではない。

 

 シオンには何より大切な存在が出来た事はセレナも知っている。

 だがいつかは別れをしなくてはいけない日が訪れるのだ。その時になるべく後悔してほしくない。一分一秒たりとも今という時間だけに目を向けて欲しいのだ。そしてその様子を姉として見ておきたい気持ちもある。「我がままでゴメンね」と自嘲気味に話すセレナに首を横に振りながらも、そういう事ならばとモニカとアルマは頷くのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

かけがえのないもの

≪マスター、店内の清掃が終わりました≫

 

 イラトゲームパークが賑わいを見せる中、店内清掃を行っていたインフォがイラトに報告する。流石、ワークボットと言うだけあって店内の清掃は行き届いていた。

 

「あいよ、ごくろうさん。売り上げの方はどうだい?」

≪昨日は20%のインカム増加でした。ガンプラバトルシミュレーターのアドオンが高い収益効果を上げています≫

「ほぉー。あの兄ちゃん嘘つきじゃなかったねぇ」

 

 インフォを労うのもほどほどに真っ先に気になるであろう売り上げについて尋ねると売り上げ内容にほくほく顔を浮かべて喜んでいる。

 

≪あの男性はどなただったのですか? 私のデータベースには登録されていませんでした≫

「さあ? いきなりやってきて流行りの追加なんとかをインストールしないかって言ってね」

 

 アドオンの導入を勧めて来た男性はワークボットとして業界の人間のデータを記憶しているインフォも知らなかった。もしかしたらイラトの知り合いなのかもしれないと考えたが、どうにも違うらしい。

 

≪身元も定かではないのに許可されたのですか?≫

「あたしゃ儲かりゃなんでもいいのさ。タダで良いって言ってたしねぇ。それで20%の増収なんだから笑いが止まんねえよ」

 

 身元も分からぬ人間が勧めて来たプログラムを導入したイラトをにわかに信じがたい様子で問いかけるインフォではあるが、イラトにとってまず売り上げが第一であり、結果さえ出ていればそれで構わないと言うのだ。

 

「おいお前も見たか、アレ?」

「あー……やられたよ。強すぎだよなあ」

 

 するとイラトとインフォにガンプラバトルシミュレーターをプレイしたであろう子供達の会話が届く。何かあったのだろうか、何とも言えない無念さを噛み締めている。

 

≪何の話でしょうか?≫

「知らないね」

 

 子供たちの会話の内容が今一理解できなかったインフォは気になったのか、イラトに尋ねるが返って来たのは心底愉快そうな返答だけであり、イラトはそのままどこかへ歩き去っていってしまうのであった。

 

 ・・・

 

「追加プログラムって言っても……並みの相手じゃ敵にはならないな」

 

 アドオンが導入されたバトルシミュレーターでは早速、彩渡商店街チームのガンプラの姿が満月の浮かぶ荒野のステージにあり、イラトの要望によって高難易度に設定されたにも関わらず、鮮やかなコンビネーションで次々と立ち塞がるNPC機を破壊して周囲に敵影がないことを確認して一矢は物足りなそうに呟く。

 

≪むっ、主殿! 新たな反応があるぞ!≫

「なに……?」

 

 もう相手はいないのかとセンサーを駆使して相手を探すとなにか感知したのか、ロボ太から通信が入ると同時に一矢とミサのシミュレーターにも反応があり、三機はすぐさまその方向へと向かっていく。

 

 ・・・

 

「あれは……」

 

 荒野を抜けたゲネシスブレイカー達が移動したのは岩で囲まれたようなフィールドであった。そこには満月を背に宙に浮かんでいる一機のオレンジ色のガンダムが粒子光をバックパックのスラスターウイングから発している。

 

 その機体を見た一矢は顔を顰める。

 あのガンダムを知っている。名前はスクランブルガンダム。Zガンダムを彷彿とさせる頭部やデスティニーガンダムを思わせるバックパックなどが特徴的なガンダムだ。

 

「あの機体じゃない? 最近、ウワサになってる凄い強いヤツ!」

 

 スクランブルを見てミサはここ最近、アドオンが導入されたシミュレーターでプレイヤー達に猛威を振るっているガンプラではないかと考える。

 イラトとインフォが効いた子供たちの会話にあったのもこのスクランブルなのだろう。だがスクランブルはゲネシスブレイカー達を確認するとゆっくり向き直り、次の瞬間、爆発したかのようにビームライフルを発射しながら襲いかかってくる。

 

≪誰かが操縦しているわけではなさそうだが……≫

「CPU制御にしては動きが速いよ!?」

 

 もしも誰か人が操縦しているのであれば、どうしても攻撃に対する怯みなど生物的な癖が出てしまう。しかし戦闘をしているスクランブルには一切そんな癖は感じられず、無機質なまでに攻撃を仕掛けてくる。しかもそれだけならまだしも、スクランブルの動きはこれまでバトルをしていたどのNPC機よりも段違いであり、ミサは驚愕している。

 

「──ッ!?」

 

 しかも相手はそれだけではなく、無数のミサイルがゲネシスブレイカー達とスクランブルに襲いかかり、対象となった機体達は咄嗟に回避する。

 

「どうやら既に先客がいらしたようですわね」

 

 ゲネシスブレイカー達が見上げれば、そこにはキマリスヴィダールとフルアーマーガンダムの姿があった。先程のミサイルもフルアーマーガンダムの仕業なのだろう。

 突然の乱入者に驚いている一矢達ではあるが、キマリスヴィダールを操るシオンはドリルランスをスクランブルへ向けながら口を開く。彼女達もスクランブルの反応を知り、撃破する為にここに訪れたのだろう。

 

「でも黙って譲ってあげないんだからねっ!」

 

 いくらゲネシスブレイカー達が先にスクランブルを見つけたからと言って、ここまで来て黙って引き下がる気になれないのだろう。裕喜はニヤリと笑みを浮かべながら、再び大量のミサイルを発射し弾幕を張る。

 

 放たれたミサイル群を迎撃しつつ回避していたゲネシスブレイカーであったが、上方から影が差し込む。

 

「……お前もか」

「まっ、どうせ連れ出されたんなら結果は欲しいよね」

 

 すぐさま反応すれば、そこにはその身ごと隕石のように超大型メイスを振り下ろしてきたバルバトスルプスレクスの姿が。

 咄嗟に回避したが、しなるようなテイルブレードが放たれGNソードⅤで受け止めながら一矢はバルバトスルプスレクスを操作しているであろう夕香に通信越しで話しかけると、夕香は笑みを零す。

 

「それじゃあ、どっちが倒せるか勝負だよ!」

 

 乱入してきたキマリスヴィダール達へのけん制をしつつアザレアリバイブはスクランブルに攻撃を仕掛ける。スクランブルもその機動性を駆使して回避しつつ、反撃に転じようとするも……。

 

「させるかッ!」

 

 機動性ならば絶対的な自身のあるゲネシスブレイカーがスクランブルが行動するよりも早くスーパードラグーンを放ち、スクランブルやバルバトスルプスレクス達に差し向ける。

 

 バルバトスルプスレクス達への牽制に放った数基のスーパードラグーン以外は全てスクランブルに差し向けており、スクランブルが変形して逃れようとするが、既にスーパードラグーンの仕掛ける攻撃で回避コースを割り出していたゲネシスブレイカーはスラスターウイングから鮮やかな噴射光を発生させながら先回りしてGNソードⅤで斬りかかるとスクランブルは素早くビームサーベルを引き抜いて受け止める。

 

「いただきっ」

 

 力と力が拮抗するなか、すぐさまバルバトスルプスレクスのテイルブレードが放たれ、スクランブルは反応しようとするものの間に合いきれず、右足をテイルブレードが貫き、バルバトスルプスレクスが機体を捻る事で引き寄せられる。

 

「もらった!」

「わたしだって!」

 

 何とかテイルブレードを破壊しようとするスクランブルではあったが、アザレアリバイブとフルアーマーガンダムによる激しい弾幕を受けて、その身を削らせる。

 

「わたくしが終わりにして差し上げますわ!」

 

 なおも抵抗しようとするスクランブルだが既に迫ったキマリスヴィダールはドリルランスで抵抗しようとするスクランブルの両腕を払い、そのまま右膝を突き出してドリルニーを迫り出すとスクランブルの胴体を深々と貫く。

 

「なっ!?」

 

 そして最後にトドメを刺そうとドリルランスを突き刺そうとしたキマリスヴィダールではあったが、その前にスクランブルは粒子となっていなくなってしまう。その後も周囲に反応はなく、このフィールドそのものから消えたと言って良いだろう。

 

「消えた!?」

≪ある程度、ダメージを受けると撤退するようだな≫

 

 消え去ったスクランブルに驚いて目を見開いているミサにその後、一向に何のアクションもないことからその理由をロボ太が導き出す。

 しかしあと一歩と言うところで取り逃がしてしまったので、ミサや裕喜は不満をぶうぶうと漏らしていた。

 

 ・・・

 

「後少しでわたくしの大勝利だったと言うのにぃっ!」

 

 あの後、スクランブルが撤退したと言う事もあってそれ以上する気はなくなった一矢達は現地解散となり、自家に帰宅しながらシオンは取り逃がしてしまった事に激しい悔しさを覚えているようだ。

 

「でも、あんな風に逃げられたらどう倒せばいいの?」

「……攻略法はない訳じゃないけど」

 

 玄関を開き、靴を脱いで家に足を踏み入れながら先程のスクランブルの撤退の様子を思い出した夕香は一矢に尋ねると、一応、撤退される前に倒す術はあるがそれが成功するか分からないような何とも言えない表情で答えられる。

 

「なんであれ、夕香、明日も一緒に探しに行きわすわよ!!」

「えーっなんでさ。今日付き合ってあげたんだからいーじゃん」

 

 シオンの中では打倒スクランブルガンダムで燃えているようで、くるりと夕香に振り返りながら明日もガンプラバトルシミュレーターでスクランブルの捜索を言うと、夕香はこの暑い日に何度も出かけるのは嫌なのか面倒臭そうに答える。

 

「アナタはわたくしのライバルですわ! ならば共に探すのも道理でしょう!」

「いや意味分かんないし……。なんかアンタ変だよ?」

 

 ビシッと夕香を指差しながら明日も連れ出そうとするがその様子はどこか焦りを感じさせる。それをどことなく感じ取ったのだろう、夕香は僅かに顔を顰めながら何気なく指摘する。

 

「……わたくしはいつだってギンギラギンでエレガントですわ」

 

 夕香の指摘に、先程までの様子から一転、どこかしゅんっ……とした姿を見せ、視線を伏せたシオンは一矢と夕香の二人を残して、そのまま自身に与えられた部屋に向かっていき、残った一矢と夕香は互いに顔を見合わせて首を傾げた。

 

 ・・・

 

「……無様ですわね」

 

 部屋に戻ったシオンは扉を閉めると、そのまま背を預けてズルズルとその場にへたり込むように座りこみ、出てきたのは自嘲するような小さな呟きであった。

 

 おもむろに顔を上げたシオンの視線の先には壁にかけられたカレンダーに向けられる。自分がこの雨宮家にホームステイしてからかなりの日数が経った。

 

「……いつまでもいられる訳ではない何て分かっていたではありませんの」

 

 自分がここにいられるのはこの夏の間のみ。それが終われば、イギリスに帰国する手筈となっている。そんな事は誰に言われる訳ではなく分かっているはずなのにいずれ訪れるであろう別れの日を想うと胸が苦しくなる。

 

 ここでの日々は自分にとって、どれだけ充実して満ち足りたものであったか。あまりに居心地が良すぎる為にその反動はあまりにも大きい。

 

「……寂しいなんて言えるわけありませんわ」

 

 すっとシオンは両腕で自分の身体を抱くように回す。

 色んな人に出会った、様々な出来事があった。一つ一つが何物にも代えられぬ価値がある大切な宝石のような存在だ。だからこそここから何れはいなくなってしまうのが嫌だった。出来るならずっといたいと思えるそんな場所。それは何よりここにいる人々のお陰だろう。

 

 最近、夕香を連れ出しているのも思い出作りなのかもしれない。

 この日本に来て、初めて出来た“友達”との思い出を多く作りたい……そんな気持ちがそうさせたのではないだろうか。

 

「……本当に無様ですわね」

 

 だとしたら自分の思い出作りの為だけに夕香を付き合わせてしまっている。自分自身のエゴを感じて軽い自己嫌悪に陥って一人自嘲する。

 

「……思い出と言うものは……美しく鮮やかなものがあれば十分ですわ」

 

 むやみやたらに思い出を作るよりも、いつでも鮮明に思い出せる輝かしい思い出が一つだけあれば良い。そうすれば寂しいと思う気持ちにだって和らげる事が出来るはずだ。

 

 ふとシオンは再びカレンダーを見やる。残った日数は少ない。楽しい時間は瞬く間に過ぎて行くとよく言ったものであっという間なのだろう。それまでの間に自分は変に周囲に行動するよりも、自分らしく思い出を作ろうと立ち上がり、そのままベッドに倒れ込むのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

道案内

「くそー逃げるなんてありかよ!!」

 

 アドオンが導入されたイラトゲームパークでは、高難易度のエネミーキャラであるスクランブルガンダムを自分こそが撃破しようと様々なファイター達が挑んでいくが、どうにも後少しと言うところで逃げられてしまい、今も少年達が地団駄を踏んで悔しがっている。

 

「お前まだ金ある?」

「今ので最後……」

「……帰るか」

 

 まだ挑戦しようと少年達は財布に相談しようとするが、もう財布の中はスッカラカンでありもうプレイすることは出来ない。がっくりと落胆した様子で少年たちはイラトゲームパークを後にしていく。

 

「ひっひっひっ! 笑いが止まらないねえ」

≪マスター、現在の難易度はカジュアルプレイヤーでは対応できません。すこし調整をするべきではないでしょうか≫

 

 帰っていく少年達の後ろ姿を眺めながら、中々あくどい笑みを浮かべているのはイラトであった。アドオンが導入された事によって、収益は日に日に増えて行っている。だが少年達の姿を同じく見ていたインフォから進言される。

 

「インフォや、それはいけない」

≪何故でしょうか? 長期的に見れば高すぎる難易度設定は客離れの危機があります≫

 

 しかしインフォの進言も寧ろ諭すようにイラトは厳しく首を横に振る。イラトの意図が理解できないインフォは店の経営を考えるのだが……。

 

 

 

 

「難しいゲームがここにあり財布には小遣いと言う名の挑戦権がある。

 

 

 そして何よりガキどもには何度でも困難に立ち向かえる若さがある!

 

 

 あたしゃ心を鬼にして言うよ、この困難を乗り越えて強い大人になるんだと!

 

 

 そのキラキラ光るなけなしの小銭を人生というレースで自分に賭け続けるんだと!

 

 

 今ここで小銭に渋っててこの先に訪れるもっと大きな選択に自分を賭けられるのかとっっ!!」

 

 

 するとイラトはさながら演説でもするかのように強く熱く高らかに自身を見つめるインフォに大きくまくし立てる。

 

「……分かるね?」

≪分かりません≫

 

 スゥッ……と話し終えたイラトは軽く深呼吸すると、ポンとインフォの肩部に手を置き、理解を求める。しかしインフォから返って来たのは即答で共感は得られなかった。

 

「よーし、今日こそ撃破するぞーっ!」

 

 そんなイラトとインフォのやり取りを他所にイラトゲームパークにはミサ、一矢、ロボ太、そして夕香の四人が入店し、ミサは意気揚々とスクランブルガンダム撃破を目指してガンプラバトルシミュレーターへと向かっていく。

 

「……シオンの奴、いないな」

「どこ行ったんだろ……」

 

 店内に入店した一矢と夕香は周囲を見渡し、シオンの姿がない事を確認する。

 観戦モニターを見ても、表示されるプレイヤー名にシオンの名前はなく、この店にはいないのだろう。

 

 様子がおかしかったシオンは朝から家を出ていた。

 昨日の今日ということもあり、もしかしたらミサ達と同じようにスクランブルガンダム目当てでここに来ているのではと考えたが当てが外れてしまったのだ。とはいえ折角、ここに来たのだ。一矢と夕香は自分達を呼ぶミサに応えながら自分達もシミュレーターに向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

 彩渡街のタイムズ百貨店。ここにシオンの姿があった。

 アパレルショップで服を見ていようだが、どこか上の空であり、どうにもウインドウショッピングという風には見えなかった。

 

「──あっれー? シオンだ」

 

 そんなシオンに気づいて声をかけた者がいた。

 聞き覚えがある声に目を向ければ、そこには裕喜はおり、その手には幾つかのアパレルショップで購入した服が入ったと思われるロゴ入りの袋が握られている。

 

「シオンも服買いに来たの? セールだもんねー」

「いえ、わたくしは別に……」

「ねーねー! 一緒に見ようよ!」

 

 百貨店にはいくつかのショップがセールを行っている情報が記されたポスターが張られており、裕喜はセールで購入したと思われる袋をシオンに見せながら尋ねる。

 別にこれと言った目的がないシオンは首を横に振ろうとするが、半ば強引に裕喜に腕を絡まれて連れて行かれてしまった。

 

 ・・・

「ねー、これシオンにばっちし似合うと思うんだけどっ」

「はあ……」

 

 裕喜と共にいくつかの店を回ればその先々で裕喜から服、小物問わず押し付けられており、半ば着せ替え人形のようにされてしまっている。

 普段は高飛車なシオンも今日は大人しく、そして何より単純にいつもテンションが高い裕喜と二人きりと言う事もあって半ば押され気味だ。

 

 ・・・

 

「ふふーん、満足満足ぅっ」

「つ、疲れましたわ……」

 

 休憩も兼ねて訪れたオープンテラスでお茶にしながら、裕喜は目当ての商品を大体、手に入れた裕喜は鼻歌を歌いだしおうなほど上機嫌であり、その向かい側で裕喜に半ば着せ替え人形として連れまわされたシオンは机に突っ伏していた。

 

「けどシオン、今日元気ないわよねー。いつもなら【わたくしなら何でも似合いますわ!】とか言ってそうだけど」

「あ、貴女のテンションが高い過ぎるのが原因ではなくて?」

 

 一応、シオンに似合う服や小物を試着させていたわけだが、いつもならば似合いそう、と言って勧めてみたところ裕喜が物まねしたように突っぱねるだろう。

 シオンがどことなく様子が変だと言う事を感じながらドリンクカップの中のジュースを飲んでいる裕喜にシオンは心底 疲れたとばかりに恨めしそうに裕喜を見ている。

 

「えー? 何か悩みがあるなら聞いてあげようと思ったのになー」

「……必要ありませんわ」

 

 連れまわしたのは事実ではあるが、自分が原因と言われても釈然としない。

 何故なら自分が声をかける前からシオンはどこか憂い帯びた表情をしているからだ。だから悩みがあるのなら聞こうとは思ったのだが、シオンは拒否を表すように視線を逸らす。

 

「──あ、彩渡街に来ていきなりバレずにシオンお嬢様を探せって無茶言ってくれるよ……」

 

 シオンにそう言われてしまってはもう裕喜は何も言えない。無言な空間が広がるなか、物陰からその様子を見ていたのはフォーマルハウトの三人であった。シオンを探し出したモニカは疲れた切った様子でセレナを見やる。

 

「まあまあ。はい、飴ちゃん上げる」

「やはりなにかあったようですね」

「うん、でもシオンは不器用だからね」

 

 くたびれているモニカに棒付きの飴を向け、食べさせているセレナに今度はアルマが尋ねる。モニカがもごもごと口を動かしている中、セレナは笑みを浮かべて細めていた瞳をゆっくり開けてシオンを見る。

 

「例え悩みがあったところで周りに打ち明ける術を知らない。だから抱え込んで周りから手を差し伸べられても突っぱねる。悩みは聞いてもらうより、聞く方がシオンにとって楽なんだよ」

「本当に不器用ですね。面倒臭いともいう」

「まあねぇ、流石ボクの妹。悩みってのは弱さだからね。周りに気丈に振る舞ってるシオンだから弱さを明かす事を躊躇ってしまう。弱さは自分に似つかわしくないって思ってるから」

 

 悩みを聞いてもらおうとはしないシオンの心中を考えるセレナ。弱さと言うものはそう易々と明かせるものではない。やれやれとため息をつくアルマにセレナは苦笑しながらシオンを見る。

 

「まっ、それならそれで良いさ。でも周りに迷惑をかけるのはよくないからね。ちょっと行ってくるよ」

「えっ、会う気はないって……」

「うん、セレナ・アルトニクスとして会う気はないよ」

 

 お喋りもここまでにしてそろそろシオンの為に動こうとするセレナだが、それでは回転寿司で言っていたことと矛盾してしまう。

 その事に触れるモニカにセレナはクスリと笑い、鞄から何かを取り出してシオンへ向かっていく。

 

「──お嬢さん達、ちょっと良いかな?」

 

 懐から取り出したものをそのまま身に着けるセレナにアルマとモニカが唖然として止めようとするが、それではセレナの意に反してしまうと一応隠れて様子を伺うなか、セレナはシオンと裕喜に声をかける。

 

「少し道を尋ねたいんだけど」

 

 シオンと裕喜が目を向ければ、そこには銀髪のウィッグがついた金色の仮面を被った少女がいた。突然の不審人物の登場に二人は開いた口がふさがらない。

 

「どうしたの? ボクの顔に何かついてるかな?」

「いや、付いてるけど……。えっと……シオンのお姉さ──」

「アナタ、誰ですの!?」

 

 唖然としている二人に首を傾げる仮面の少女だが、その言葉に裕喜は仮面を見ながら答えると、もう目の前の少女が誰なのか分かっているのだろう。その正体を口にしようとした瞬間、不審がったシオンは立ち上がり、ビッと指さし、裕喜やアルマ達は気づいてない!?と驚愕する。

 

「いや、シオンのお姉さんだよね?」

「わたくしのお姉さまはこんな珍妙な仮面を被りませんわ!!」

「寧ろだと思うんだけど!? 声だって本物じゃん!!」

「世の中には同じ声が三人はいると言いますわ!!」

「顔だよ!」

 

 目の前の少女の正体を教えようとする裕喜ではあるが、シオンはそれを否定する。

 とはいえ過去に似たような事があった為、何ら不思議には思わない。それにセレナの声と全く同じなので、それに関しても触れるがシオンは認めようとせず、その言葉に裕喜はつっこむ。

 

「まあまあ。ボクの名前はもんたーく。それで道を尋ねたいんだけど」

「……どこに案内しろと?」

「ガンプラバトルシミュレーターがあるところ」

 

 互いにぜぇぜぇと肩を上下させながら言いあっていた裕喜とシオンに張本人であるセレ……オホン、もんたーくが再び声をかけると、訝しんだ表情を受けるシオンにその場所を答える。裕喜とシオンは互いに顔を見合わせると仕方ないと案内を始める。

 

 ・・・

 

「さぁ着きましたわ」

 

 シオン達が移動したのは地下のゲームセンターにあるガンプラバトルシミュレーターだ。道案内を終えたシオンはさっさといなくなろうとするのだが……。

 

「まだ道を尋ねたいんだけど」

「……何ですの?」

 

 ガンプラバトルシミュレーターを見ているもんたーくはそのままシオンに声をかけ、まだ何かあるのかと鬱陶しそうに振り返られる。

 

「聞きたいんだ。君がどこに行きたいのか……どうしたいのかを」

 

 もんたーくは懐のケースから細身の赤いガンプラを見せながら、仮面の目にあたる部分を開いてその瞳をシオン達に露わにしながら尋ねる。自分自身を問うようなその瞳を向けられたシオンは思わずたじろいでしまうが……。

 

「持ってるよね、ガンプラ?」

 

 有無を言わさぬ、さながら恐ろしい悪魔の王のような迫力のある言葉にシオンの動きは止まり、頷いてしまう。今日は宛てもなく動いていた。だからガンプラも一応は持ち歩いてはいる。

 シオンの頷きを見て、「じゃあ、行こうか」とガンプラバトルシミュレーターへ乗り込むように顎先で指すとシオンは言われるまま乗り込むのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

まわりまわってさぁ今

「また出たなっ! 今日こそ逃がさないぞーっ!」

 

 イラトゲームパークのガンプラバトルシミュレーターでは、ミサ達がプレイしておりゲネシスブレイカー達は雪原ステージでバトルを行っていた。

 辺り一面のNPC機を全て撃破した一矢達の前に現れたのはスクランブルガンダムであり前回は逃してしまったが、今度はそうはいかないとばかりにミサを筆頭に立ち向かっていく。

 

 ・・・

 

 一方、タイムズ百貨店でバトルを行っているのはシオンのキマリスヴィダール。そして相対するは名高い歌劇に登場する一人のヴァルキュリアの名を冠する女性的な細身の赤いガンプラであるグリムゲルデだ。

 

「わたくしがどうしたいのかなど……アナタに教える必要はありませんわっ!」

 

 今、この仮面の少女と一緒にいるのは自分にとってあまり良くない、そんな風に思えるのだ。手早く終わらせようとドリルランスを構えて悠然と立っているグリムゲルデに圧倒的な加速で突進していくキマリスヴィダール。だが、グリムゲルデは両腕部に装備されたヴァルキュリアシールドによってそのまま受け流す。

 

「そうかもね。でも、それは君自身も明確に分かってないんじゃないかな」

 

 受け流され、地面に足を踏ん張ったキマリスヴィダールは振り向こうとするが、その前に既にグリムゲルデは迫っており、振り向いた直後、ヴァルキュリアシールドによって頭部を殴られる。その際に放たれた言葉にシオンは目を見開く。

 

「そんなことっ!」

「ないって言い切れるのかい? ただでさえ君には時間がないのに君はただ無駄な時間を過ごしている」

 

 頭部に軽微な損傷を受けるが、それでもまだグリムゲルデに挑もうとする。しかし相手を翻弄するように視界の隅へ回り込むグリムゲルデによって膝関節を蹴られて跪くとそのままヴァルキュリアシールドで殴られた。

 

「……なぜ、あなたがそんな事を……ッ!」

「君はアルトニクスの人間だ。君が思っている以上にその名は重いんだよ。君がここにいられる期日もすぐに分かるものさ」

 

 自分には時間がない、その事を指摘されては動揺してしまう。その事を尋ねるシオンではあるが、もんたーくは寧ろそんな事も分からないのかと鼻で笑い、キマリスヴィダールの首関節を掴む。

 

「もう一度聞こうか。君はどうしたいのかな? それとも君がこの国にいた時間はそんな価値もない程、無価値なものなのかな?」

「──ッ!」

 

 どこか冷淡にも思える声が通信越しに届き、思わず身震いをしてしまう。

 だがこの国にいた時間が無意味なものだったのかと言われた瞬間、シオンの瞳に熱が籠り、そのままキマリスヴィダールは自身の首を掴むグリムゲルデに対して、ドリルニーを放つ。

 

「無価値……? そんな事がある筈がありませんわッ!」

 

 ドリルニーを回避する為に拘束を解いて咄嗟に距離を取るグリムゲルデを逃さないとばかりにキマリスヴィダールは阿頼耶識システムtype-Eを発動させ、グリムゲルデを追撃する。

 

「この国での時間は一分一秒たりとも無駄ではなかったかけがえのないものですわッ!」

 

 ドリルランスではこの少ない時間でも分かる実力差を持つ相手が操るグリムゲルデが相手では分が悪い。ドリルランスを放棄したキマリスヴィダールは刀を装備して、己の熱を吐き出すように刀をヴァルキュリアシールドに叩きつけ、細かい火花が散る。

 

『えっー……と……さっきの壺みたいなガンプラ使ってた人?』

 

 日本にいた時の思い出は全てが輝かしいもの。そしてその思い出の中にはいつだって一人の少女がいた。初対面の時はこんな相手に負けたのかと気に食わない部分もあった。

 

『アタシさ……。やっと気づけたんだ……。アタシってやっぱりガンプラが好きになっちゃったみたい……』

 

『じゃあ行こっか。バトル……楽しまないとね』

 

『うん、一緒に行こうっ』

 

 だが、それでも彼女を中心にしたこの日本での生活はとても美しく色鮮やかな思い出となった。自分はここにいて楽しい、そう思えるだけの出会いがあったのだ。

 

「でも……っ……! だからこそ……わたくしは……残った時間も色鮮やかな思い出にしたい……っ! ですが別に……派手なお祭り騒ぎがしたいわけでもありませんわ……っ!」

 

 熱が籠った言葉は吐き出されるうちに、シオンの目頭まで熱くなりその頬に涙が伝って落ちて行く。自分でも貴重な時間を無駄に使っていることなど理解している。だが結局自分にとって大切な思い出を作りたいとは思っても、それがどうすれば良いのか分からないのだ。

 

「煌びやかな思い出なんてものは作ろうと思って作れるものじゃないよ」

「それは……っ!」

「君がいつまでも悩むより、君らしくいる事が何よりその一歩になると思うんだ」

 

 振り回すような刀をヴァルキュリアシールドで受け止めたグリムゲルデは知らず知らずに涙まで流していたシオンに先程まで厳格な王のような圧を感じる話し方から一転して諭すように話す。

 

「わたくしらしくって……何ですの……?」

「頭で考えて出てくるものではないさ。これまでの君があったからこそ今の君があるんだ。そんなものは理屈じゃない」

 

 自分らしく振る舞うとは何なのか、刀とヴァルキュリアシールドが拮抗するなか問いかけるシオンに仮面を外し、通信を音声だけに切り替え、セレナとして答える。

 

「別に騒ぎたいわけじゃない……。なら踏ん切りをつけるのはどうかな?」

「踏ん切り……?」

「君はアルトニクスの人間である以上にガンプラファイターだ」

 

 シオンは別に派手な事を望んでいるわけではない。だが思い出が欲しい。そんなシオンにセレナはある提案をすると、意味が理解できていないシオンにその意味を話す。

 

「雌雄を決したい相手……いるんじゃないかな?」

 

 その言葉にシオンの胸がドキリとしたのを感じる。

 自分は一方的に取り付けたに過ぎないが、それでも彼女の事を純粋にライバルだと思っている。そうだ、ならばこそ……。

 

「ここまで来れば、もう大丈夫だよね?」

「あっ──!」

 

 弾くようにキマリスヴィダールを押し返したグリムゲルデはそのままフィールドから消え去り、残ったのはキマリスヴィダールのみ。一方的にいなくなったグリムゲルデに最後に何か言おうとするが、その言葉はもう届かない。

 

 ・・・

 

「もんたーくは!?」

「さ、さっきどこか行っちゃったけど……」

 

 シオンもすぐにガンプラバトルシミュレーターから出て、観戦していた裕喜に詰め寄るように尋ねると出てきたところまで見たが、このゲームセンターの混雑の中ではすぐには見当たらない。

 

「探すの?」

「……いえ、それよりも夕香は何処に?」

「買い物行く前に誘った時は、イラトゲームパークでゲームしてる最中って言ってたけど……」

 

 あんな珍妙な仮面をつけているのだから探すのはそこまで難しいことではない筈だ。

 裕喜の問いかけに静かに首を振って、夕香の名前を出すと、夕香に連絡した際の連絡画面を表示して見せながら話す。

 

「ならば、そちらに行きますわよ! 時間が惜しいのですからっ!」

「あれ、なんだかシオン、元に戻った?」

「わたくしはいつだってギンギラギンでエレガントですわ!」

 

 ビシッと指差しながら移動しようとするシオンのあまりに突然の提案ではあるが、シオンの様子を見ていつもの彼女である事を察すればフフンと気高く笑みを浮かべながらシオンは満悦の笑みで答える。

 

「道案内をしていただいたんですもの……。無駄には出来ませんわ……」

 

 シオンは振り返り、観戦モニターに流れるグリムゲルデとキマリスヴィダールのリプレイ映像を見やる。全く……わたくしはいつだって勝てませんわね」

 

 半ば確信めいた口調で呟く。バトルの最中、何か感じ取ったものがあるのだろう。だが時間は惜しいとばかりに駆け出していく。

 

「……やれやれ、大人になりきれないもんだね」

 

 物陰で壁に寄りかかりながら迷いなく走っていくシオンの姿を眺めているセレナは自嘲するように仮面の先で胸元をトントンと叩いている。

 最後までもんたーくとして接するつもりだったが、途中から音声だけとはいえセレナとして接してしまった。

 

「青春って奴かな。まっ、回り道してこそだよね」

 

 シオンがいなくなったのを見計らってアルマやモニカも合流するなか、セレナはもう大丈夫だろうと燃える情熱を表すように駆け出したシオンを想うように天を仰ぎ、この後の観光に意識を切り替えるのであった。

 

 ・・・

 

≪逃さんッ!≫

 

 一方、イラトゲームパークでは彩渡商店街チームと夕香が着実にスクランブルガンダムを追い詰めていた。バーサル騎士が放ったトルネードスパークがスクランブルガンダムの装甲に傷を与える。

 

「もらった!!」

 

 怯んだスクランブルガンダムにアザレアリバイブがすかさずハイパードッズライフルの引き金を引き、一瞬にしてスクランブルガンダムの片翼を破壊する。

 

「あらよっと!」

 

 更によろけたところを上空からバルバトスルプスレクスが超大型メイスを文字通り叩きつける。隕石のように雪原に落下したスクランブルガンダムは地面にめり込み、各所にスパークを上げる。

 

「……撤退はさせない……。確実に仕留める……ッ!!」

 

 何とか起き上がろうとするスクランブルガンダムに覚醒したゲネシスブレイカーが迫り、GNソードⅤを空に突き立てる。覚醒の力を宿したその一撃はスクランブルガンダムを飲み込んで完全に消滅させ、撃破するのであった。

 

 ・・・

 

「すっげー! ねーちゃんたち、アイツ倒したのかよ!!」

「やっぱ強ぇよ!」

 

 スクランブルガンダムを撃破し、ガンプラバトルシミュレーターを出て来た一矢達に歓声があがる。皆、あのスクランブルガンダムに苦汁を飲まされていたのだ。漸く撃破したところを見て、次々に賛美の言葉が送られる。

 

「なんだい、もうクリアしちまったのかい!ゲーセン泣かせも大概にしな!」

 

 次々と沸き上がる歓声だが、それをつまらなさそうに声を出したのは何より店主のイラトであった。一矢達ならばクリアするとは思っていたが、予想以上に早かったようだ。

 

「自分じゃクリア出来なかったけど、少しすっきりしたな!」

「明日からは節約しなきゃな!」

「ガキども、しみったれたこと言うもんじゃない!! 目の前の困難を他人に頼っても前には進めないんだよ!!」

 

 安堵したような空気が広がり、もうアドオンの攻略もどうでも良くなってきたと言わんばかりの反応を見せ始める子供達にイラトは真っ当な事を話すかのように熱く話し始める。

 

「これから先に訪れる色んな出来事を全部誰かが代わってやってくれると思ってるのかい!? お前たちがこのステージをクリア出来なかったのはクリアに値する胆力を……小遣いを持っていないからさ!!」

「結局金じゃねーか!」

「毎月の小遣いのやり取り大変なんだよ!?」

「黙りなぁっ!! 悔しかったら家の手伝いでもして小遣いを増やすんだね!!」

 

 最初こそイラトの話をちゃんと聞いていた子供達だが、結局金の話になってまたぶうぶうと文句を言い始めるが、イラトはそれらを一蹴して言い合いになっている。

 すると言い合いを中断させるかのように店内にアナウンスのようなものが流れ、音声の発生源である観戦モニターへ一矢達は移動する。

 

「【スクランブルガンダム撃破おめでとう! だが、これで終わりではない。ファイター達よ、真の戦いはこれからだ。君に挑戦する勇気はあるか?】……なんだとー!?」

 

 観戦モニターに突如表示された文面を読み上げるミサ。多くのファイターに苦汁を飲ませたスクランブルガンダムだが、まだあれで終わりではないと言うのだ。

 

「クックック……ひゃっひゃっひゃっひゃぁっ!!」

≪マスター、救急車呼びましょうか?≫

「あたしゃ正気だよ! あの兄ちゃん、やってくれるじゃねぇーか! こんな仕掛けがあるとはねぇ……!!」

 

 誰しもが困惑するなか、突然狂ったように高笑いをあげるイラトに気でも触れたのかとインフォが救急車を提案するが、慌てて自分は正常である事を叫びながらも途端に悪い笑みを浮かべる。

 

「ガキども、さあどうするんだい!? しっぽを巻いて逃げだすかい!?」

「な、なんだよ!?」

「あんな難しいのにまだ先があるのかよ……!」

 

 悪の大幹部のように口角が吊り上がった迫力ある笑みを浮かべるイラトにたじろぐ子供達。とはいえ、元々フィールドに現れていたスクランブルガンダムの強さは手には負えない。しかもそれ以上があるとなると……。

 

「チキショウ……今こんなありさまでこの先の人生、どんだけハードモードなんだよ……」

「ゲームでさえクリアできないのに生きていく自信がなくなったよ……」

 

 考えれば憂鬱になってしまうのか中には跪いてしまう者も出始めるくらいだ。店内には不穏な空気が流れ、負の感情が広がっていく。

 

「そうだよな……。人生なんてそんなもんだよな……。ガンプラバトルで勝てても自慢にはならないんだ……。ちょっと身を投げてくる」

 

 そしてその負の空気にあてられた一矢もボツボツと呟いて、ふらふらと虚ろな足取りでどこかに行こうとするがミサがそれを羽交い絞めで必死に止める。

 

≪これが絶望……。機械の私にも分かります……。このお客様たちの瞳から輝きが失われてゆくのが≫

「一矢の小僧は元々あんな感じだった気がするがねぇ」

 

 絶望だけがイラトゲームパークに広がり、インフォがこの異様な雰囲気を感じ取っているとイラトは魂を抜けたような一矢の姿に首を横に振りながらも高らかに声を上げる。

 

「さあガキども! 財布を開け! 小遣いをいれな!! 奈落より深く底の見えないコイン投入口にねぇえ!!」

 

 まさに大魔王のような威圧感さえ醸し出しながらイラトは哄笑をあげる。

 とはいえ、挑戦する勇気はあるのかと問われれば、あると答えるのがガンプラファイター。負の空気にあてられ人生を呪う言葉を吐きつつ、ミサと夕香に引きずられながらガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ一矢は夕香やミサ達と共に出撃するのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Raise your flag

 スクランブルガンダム撃破後に観戦モニターに表示された謎の挑戦状を受ける為に出撃した一矢達。バトルフィールドとなったのは近くにはスペースコロニーが稼働している宇宙ステージであった。

 フィールドにゲネシスブレイカーが姿を現した直後、一矢達のガンプラバトルシミュレーターにけたましいアラートが鳴り響き、そちらに意識を向ければこちらを覆うような巨大な機影が近づいていた。

 

「ちょっとPGサイズはないでしょ!?」

≪店主イラトの強欲が具現化されたような異様……。なんという威圧感だ……ッ!≫

 

 ゲネシスブレイカー達に近づいたのはPGサイズのスクランブルガンダムであった。

 まさかPGサイズの機体が出てくるとは思いもしていなかったミサは唖然とするなか、ガンプラバトルシミュレーターに乗り込む前まで見ていたイラトの姿を振り返りながらロボ太はPGスクランブルの攻撃を避ける。

 

『ねえちゃんたち頑張れ! 俺達応援してるからなっ!』

『そいつを倒して、みんなの来月の小遣いを守ってくれ!』

「応援されたら頑張るしかないかーっ!」

 

 元々高難易度に設定されたスクランブルガンダムがPGサイズとなった今、その脅威は計り知れない。必然的に緊張感が襲うが、それでも観戦モニターを通じて自分達を応援してくれる子供達の声が聞こえる。彼らの応援に背くような真似は出来ないとミサは頼もしささえ感じる笑みを浮かべ、釣られるように夕香達も微笑を浮かべる。

 

『やれるもんならやってみなッ!!』

 

 だが観戦モニターを通じて聞こえてくるのは無垢な子供達だけのものではなかった。

 観戦モニターの前にいる子供達を押し退けたイラトの声がシミュレーターに響き渡り、一矢達はその迫力に思わずピクリと反応する。

 

『ぶちのめせーっ!!』

 

 そして何よりイラトがPGスクランブルに声援を送るわけだが、その光景は寧ろ配下に命令を下す魔王か何かにしか見えず、イラトの言葉に呼応するかのようにPGスクランブルは両腕のビームライフルを天に向けて巨大なビーム刃を発生させると一気に振り下ろす。何とか回避には成功したものの、近くにあったデブリは軒並み飲み込まれて跡形もなく消滅してしまった。

 

 だが先程の攻撃は多大な威力を誇るが、それでもモーションは大きいために回避した今となっては隙だらけだ。その隙を逃すことなく、ゲネシスブレイカーがスーパードラグーンを、アザレアリバイブはメガキャノンを発射し。PGスクランブルが損傷を受けている間にバルバトスルプスレクスとバーサル騎士が接近する。

 

「もーらいっ!」

 

 対応しようとビームサーベルを引き抜こうとするPGスクランブルだが、既に遅く掻い潜って接近したバルバトスルプスレクスは力いっぱいに超大型メイスをPGスクランブルの右腕に叩きつけて仰け反らせると懐に飛び込んだバーサル騎士の剣技が降りかかる。

 

 振り払おうにもバルバトスルプスレクスとバーサル騎士は悉くPGスクランブルの攻撃を掻い潜る為に思うようにはいかず上方に飛び上がることで逃れようとするが……。

 

「……させるか」

 

 既に予測をしていたゲネシスブレイカーとアザレアリバイブが覚醒した状態で回り込んでいた。GNソードⅤとハイパードッズライフルから互いに覚醒の力を集約させた一撃を放ち、PGスクランブルに大きな損傷を与える。

 

「──待て!」

 

 二つの覚醒の一撃を受けたPGスクランブルはその巨体を大きくのけ反らせて吹き飛ぶ。これに乗じて一気に畳みかけようとゲネシスブレイカー達は接近するが吹き飛んだにも拘らず、こちらを一点に見つめるPGスクランブルの姿に妙な胸のざわめきを感じた一矢は追撃を静止しようとするが……。

 

『本気でやるんだよォオッ!!!』

 

 追い込まれている姿を見かねて、イラトの怒号が響き渡るとPGスクランブルのツインアイが不気味に輝き、呼応するように各部のクリアパーツが紫色に発光する。

 すると次の瞬間、PGスクランブルを中心にクリアパーツの輝きを広げるかのように周囲に光波を発したのだ。

 

「なっ……!? 動けない……っ!?」

 

 所謂、暴走状態と化したPGスクランブルが発した光波を浴びた四機のガンダムはシステム障害が起こり、身動きが取れなくなってしまった。ミサは必死に機体を動かそうと操縦桿を動かすがアザレアリバイブは微動だにしない。

 

「まずッ……!」

 

 だがPGスクランブルはお構いなしに近づき、先程までの憂さを晴らすかのようにバルバトスルプスレクスを掴み上げ、そのまま投げ飛ばすと身動きの取れないバルバトスルプスレクスはデブリを突き抜けながら吹き飛ぶ。

 

『ぶっ殺せーッ!!』

 

 いまだスタン状態が解けないバルバトスルプスレクスにPGスクランブルが迫り、トドメを刺せとばかりにイラトの物騒な言葉が響くPGスクランブルがビームサーベルを引き抜いてバルバトスルプスレクスを破壊しようと振りかぶる。

 

 しかしその一撃がバルバトスルプスレクスを葬る事はなかった。

 直前に隕石のような何かが元々損傷を受けていたサーベルを持つ腕部に直撃したのだ。

 

『あぁ、なにやってんだいっ!!?』

 

 イラトの悲鳴がフィールドに響き渡る。PGスクランブルの腕部の動きを封じるように突き刺さっているのは一本の鋼鉄の杭……ダインスレイブであった。

 するとPGスクランブルの前に漂っていたバルバトスルプスレクスを横から飛来した何かが掻っ攫っていき、一体、誰が救ったのかと誰もが視線を送ると……。

 

「──しっかりなさいな。アナタは誰のライバルだと思っていて?」

「シオン!?」

 

 夕香が見やれば、そこには傷ついた自身の機体を抱きかかえる黒馬に跨った悪魔の騎士(ガンダムキマリスヴィダール)の姿が。直後に響き渡る凛とした姫騎士のような少女の声に夕香は驚く。

 

「勘違いなさらないでくださいましね。アナタを倒すのはわたくしですわ」

「なにそれ」

「一度は言ってみたかったんですの」

 

 ここ最近、どこか様子がおかしかったシオンとは打って変わり、まるで迷いが晴れたかのように堂々とする言葉を聞き、思わず夕香が安心したように笑うとシオンも通信越しに笑みを浮かべる。

 

「夕香ーっ! 助けに来たのは、シオンだけじゃないのよっ!」

 

 ダインスレイブを受けたPGスクランブルだが、バルバトスルプスレクスを抱き抱えるキマリスヴィダールに攻撃を仕掛けようとする。だが、その前に無数の砲撃がPGスクランブルに襲いかかり、その手を阻まれてしまう。今度は裕喜のフルアーマーガンダムが遅れてやって来たのだ。

 

「夕香、行けますわね?」

「だーれに言ってんのさっ」

 

 フルアーマーガンダムの砲撃によって時間が稼げた今、漸くバルバトスルプスレクス達のスタン状態が解け、自由となったのを確認し、シオンが通信越しに問いかけると夕香も活気あふれる笑みを浮かべて頷く。

 するとキマリスヴィダールとバルバトスルプスレクスの二機はまるで【旗を上げる】かのようにドリルランスと超大型メイスを掲げるとPGスクランブルに向かっていく。

 

「今回は譲ってあげる?」

「……仕方ないな」

 

 バルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールがPGスクランブルに向かっていく姿を見ながら、スタン状態が解かれたミサは一矢に笑い掛けながら尋ねると、楽しさを感じる二機の動きを見て援護に徹しようとゲネシスブレイカー達は散開する。

 

『しっかりしないかッ!!』

 

 ゲネシスブレイカー達の援護を受けながら接近したバルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールは中々息の合ったコンビネーションを見せ、PGスクランブルを肉薄していく。ドンドン追い込まれていくPGスクランブルにイラトが狼狽えながら怒鳴るが、この勢いは止まらない。

 

「いい加減邪魔だよ、アンタ」

「さあ凱旋の時ですわッ!!」

 

 いや、それどころか更なる勢いを増しているではないか。

 バルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールを中心とした波状攻撃にPGスクランブルも当初こそ反攻していたが、次第にその勢いも弱まっていき、各部に打突痕が残り、クリアパーツにも皹が入っていく。

 

『な……なんてこったぁーっ!!?』

 

 そして決着の時は訪れた。

 バルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールは互いに獲物を構えて、同時に並び立って飛び出すと胸部のクリアパーツを突き破る。これが致命打となったPGスクランブルは遂に爆散し、イラトの悲鳴が響き渡った。

 

 ・・・

 

「希望は……あったんだ!」

「おねえちゃん達、ありがとう!」

 

 勝利を収めた夕香達を出迎えたのは輝かしい笑顔を浮かべている子供達だ。

 元々、気持ちが良いくらいのプレイが出来たのだが、こうして称賛を受けると悪い気はしないのか、それぞれ笑みを浮かべている。

 

「くぅーっ! まだお前たちがクリアしただけさ! 他の客で稼げばいいだけさね!!」

「負け惜しみって奴?」

 

 まさか金蔓になると思っていたスクランブルガンダムが撃破されたとは認められないイラトは地団駄を踏みそうな勢いで一矢達に食って掛かるが、どこ吹く風か夕香は悪戯っ子のような表情でイラトを煽る為、悔しがっている。

 

「え? また何かメッセージ?」

 

 すると再びアナウンスが流れ、まだ何かあるのかとミサは観戦モニターに移動し、一矢達もその後ろから今度は何が表示されたのかと見やる。

 

「【真のスクランブルガンダムを倒せし者よ、キミの力に敬意を表する。なお、このステージのクリアをもってこのアドオンは自動的に消去される。プレイしてくれてありがとう】」

「な、なんだってぇー!?」

 

 観戦モニターに表示された文面をミサが読み上げれば、その内容にイラトは信じたくないとばかりに素っ頓狂な声を上げ、そのまま画面を見たまま固まってしまう。

 

「……まぁ惜しくはありますが……今はそれよりも果たすべき事柄がありますわ」

 

 流石にデータの消去までいくとクリアできなかった観客も含めて残念に思ってしまう。

 シオンもその一人ではあるが、今、シオンはそれよりも大事な事がある為に夕香に身体を向け、気づいた夕香も向き直る。

 

「夕香、わたくしと一対一でのバトルを申し込みますわ」

 

 シオンはまっすぐ夕香の瞳を見据え、己の精魂込めた作り上げたガンプラであるキマリスヴィダールを向ける。今のシオンにとって、これ以上に価値のあるモノはないのだ。

 

「……良いね。アタシも興味はあったんだよ」

 

 対して夕香もニヤリと好戦的な笑みを浮かべながらバルバトスルプスレクスを取り出す。

 当初、ジャパンカップで出会った際でのバトルは夕香が勝利した。だがあの時、シオンのGPを見れば、アセンブルシステムは滅茶苦茶になっていた。あれからアセンブルシステムも調整し、改めてガンプラ大合戦などでシオンの実力などに触れたが、その実力は自分自身を上回っていると感じた。

 

 だが今は自分だって成長している。

 果たして今、自分とシオンの実力はどうなっているのか純粋に知りたかったのだ。これ以上の言葉は必要はない。頷き合った二人はアドオンが消去されたガンプラバトルシミュレーターに乗り込む。

 

「雨宮夕香、ガンダムバルバトスルプスレクス──!」

「シオン・アルトニクス、ガンダムキマリスヴィダール──!」

 

 二人のバトルが行われるステージに選ばれたのはどこまでも続いていくような荒野であった。ステージ上に地響きを立てて降り立ったバルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールは互いに向き直り、それぞれ口上をあげる。

 

「行くよッ!」

「参りますわッ!」

 

 同時に地面を蹴って、二機の悪魔が火蓋を落とすかのように向かっていく。

 もう邪魔する者は誰もいない。互いの誇りを賭け、バルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールはぶつかり合うのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フリージア

 荒野をステージとしたバルバトスルプスレクスとキマリスヴィダールのバトルは遂に始まり、超大型メイスとドリルランスが幾度となくぶつかり合って、幾度も重々しい甲高い音が鳴り響き、周囲には火花が飛び散る。

 

 しかしそれでも互いに退くことはせず、寧ろ互いの意地をぶつけ合うのように超大型メイスとドリルランスはつばぜり合いとなって力は拮抗する。

 

「──ッ!」

 

 しかし、攻撃手段は何も大柄の武器だけではない。

 つばぜり合いの最中、キマリスヴィダールが膝蹴りのように放ったドリルニーがバルバトスルプスレクスを穿とうと迫るなか、間一髪で感づいた夕香はキマリスヴィダールを押し退けて、後方へ飛び退く。

 

 だが何もしないわけではない。地を蹴った瞬間、唸るように放たれたテイルブレードがキマリスヴィダールへ迫り、咄嗟に気づいたシオンが機体を動かした事によってキマリスヴィダールの装甲を掠める程度で収まった。

 

 テイルブレードを掠めたキマリスヴィダールはそのままテイルブレードのケーブルを掴み、そのままバルバトスルプスレクスを横薙ぎに投げ飛ばし、ドリルランスに備えられた二門の200mm砲を発射する。

 

「アンタ、やっぱめんどくさ……ッ!!」

 

 投げ飛ばされたバルバトスルプスレクスはすぐさまテイルブレードをしなやかに動かして迫る弾丸を弾くが、それは既に計算済みであったのか、ドリルランスの先端部を回転させたキマリスヴィダールが突っ込んできており、回避には間に合わず、超大型メイスで受け止める。

 

 ジャパンカップ以降、シオンとバトルをする機会などなく、どちらからと言えば肩を並べる味方としてバトルをする事が多かったが、こうして改めて一対一でシオンの実力を肌で感じると、やはり彼女の実力の高さが嫌と言うほど分かる。

 

「どうとでも言いなさいな……ッ!」

 

 しかしバルバトスルプスレクスはそのまま超大型メイスで受け止めたドリルランスを受け流し、大型化したマニビュレーターであるレクスネイルが胴体を抉り、損傷を与える。ここに来て初めて大きな損傷を受けたシオンは苦々しい表情を浮かべながらでもドリルニーを再度放って、バルバトスルプスレクスの腰部を貫く。

 

 咄嗟にバルバトスルプスレクスはドリルニーから逃れるように距離を取ると、超大型メイスで向けて突進する。対してキマリスヴィダールもシールドをドリルランスに直結して立ち向かい、超大型メイスとドリルランスの先端がぶつかり合う。

 

「──ッ!!」

 

 ここで夕香にゾクリとした恐怖感のようなものを感じる。

 此方を見据えるキマリスヴィダールの姿が何故だが、そう思わせたのだ。すると次の瞬間、ドリルランスと拮抗していた超大型メイスごと右腕部が粉砕されたのだ。

 

「な……ッ!?」

 

 一体、何が起きたのか!?

 そう考えるよりも早くバルバトスルプスレクスは何かに貫かれて後方の岩場にまで吹き飛び、そのまま叩きつけられてしまう。

 

「……これで終わり……というわけではないですわよね」

 

 ドリルランスから硝煙が上がるなか、シオンは岩場に叩きつけられ、土煙によって姿が見えないバルバトスルプスレクスがいる砲口を見やりながら静かに呟く。

 先程超大型メイスごと右腕部を粉砕し、そのままバルバトスルプスレクスまでも貫いたのはPGスクランブルにも放ったダインスレイブであった。

 

「……ったり前じゃん」

 

 バルバトスルプスレクスのモニターを土煙が覆うなか、俯き表情が隠れていた夕香が通信越しで聞こえたシオンの言葉に答えるようにか細く呟く。

 ダインスレイブをまともに受け、バルバトスルプスレクスは大破にまで追い込まれてしまった。だがそれで負けを認める気にはなれなかった。

 

『決めましたわ、貴女をわたくしのライバルにしてさしあげますわ!』

 

 シオン・アルトニクスへの第一印象は兎に角、面倒臭いお嬢様であった。

 一方的にライバルに認定されたこともあって、なるべくなら関わり合いたくはないとまで思っていたほどだ。

 

『ただあえて言うのであれば、このような真似をする存在を決してわたくしは許しませんわ』

 

『すぐに笑えなんて言いませんわ。落ち込むならそれはそれで結構。ですが顔を上げ前を向きなさい。わたくしのライバルが俯き、いつまでも涙を流す存在であって良い訳がありませんわ』

 

『ガンプラバトルとは本来、己の誇りプライドをぶつけあい、興奮と歓楽を分かち合うもの。それを楽しむことさえ忘れ、あまつさえ罵詈雑言を吐き怒りをぶつける為の手段にするなど以ての外ですわ』

 

 だが一緒にいるうちに彼女の強さを知った。

 自分が持ち合わせていない黄金のようなまさに高貴で気高い魂の持ち主なのだと分かったのだ。こんな事は決してシオンには言えない。だが自分はそんなシオンに憧れすら抱いている。

 

「……ねぇ、バルバトス……。アンタも……ここで終わる気はないっしょ……?」

 

 モニターには自身の機体を貫いている鋼鉄の杭が見える。

 これ一本で凄まじい威力だ。だからといってここで引くわけにはいかない。夕香はこれまでずっと共に戦ってきてくれた悪魔に呼びかけ、EXアクションを選択する。

 

「ははっ……まだ行けるみたいだね」

 

 リミッター解除を受けたバルバトスルプスレクスのツインアイが妖しく赤く発光し、大破に追い込まれて思うようにいかなくともそれでも前に出ようと悪魔の咆哮のような駆動音を響かせる。

 

「じゃあ……行こうかッ!!」

 

 バルバトスは最後まで自分に応えようとしている。それがとてつもなく嬉しかった。ならば最後まで自分はこのバルバトスと共に進もう。その意志を表すように自機に突き刺さったダインスレイブを引き抜いたバルバトスルプスレクスはこの土煙の先にいるであろうキマリスヴィダールに鎖が外された獣ように飛び出していく。

 

「──くッ!?」

 

 土煙を飛び出したバルバトスルプスレクスは獲物を貪ろうとする狼のようにシオンの反応さえ越えるほどの速度で飛び出し、引き抜いたダインスレイブを突き刺そうとするが咄嗟に構えたドリルランスで防ぐもののドリルランスは貫かれて破壊されてしまう。

 

 武器の一つを失ったキマリスヴィダールだが、ダインスレイブを捨てたレクスネイルはそのまま頭部を貫こうと伸び、回避しようとするが顔半分は抉れ片側のカメラアイが露出してしまう。

 

「キマリスッ! アナタは勇猛な武人の名を持っているッ!!」

 

 バルバトスルプスレクスはそのまま回し蹴りを放ち、キマリスヴィダールはシールドで防ぐものの吹き飛んでしまう。バルバトスルプスレクスが追撃しようとする姿が確認できる中、シオンは愛機に呼びかけ、自身も阿頼耶識システムtype-EのEXアクションを選択する。

 

「わたくしとアナタの全てはこんなものではありませんわッ!!」

 

 誇り高き姫騎士の呼びかけに応えるように偉大なる大伯爵(キマリス)のツインアイは輝き、露出したカメラアイは真紅に輝き、左腰にマウントされた刀を引き抜く。

 

「さあ、参りましょうかッ!!」

 

 己を刺し貫こうと迫るレクスネイルを刀で払い、シオンは高らかに叫ぶとバルバトスルプスレクスの首部を掴み、地面に叩きつける。

 

 そのまま刀を振りかぶろうとするが、テイルブレードが左腕を断ち、バルバトスルプスレクスへの拘束の力が弱まった瞬間、バーニアによって起き上がったバルバトスルプスレクスの体当たりを浴びてよろけてしまう。

 

 再びレクスネイルが胴体へ迫るなか、二基のシールドをサブアームを介して前面に展開した事によって防いだキマリスヴィダールはそのまま刀をバルバトスルプスレクスの頭部に突き刺す。

 

 もはやシオンが常々口にしている美しさやエレガントとは程遠く、互いに損傷は激しくボロボロで周囲は戦闘によって出来たクレーターなどの痕が無数に残っている。

 

 しかしそれでも激しい戦闘によって疲労が襲うなか、夕香とシオンの口元には笑みが浮かんでおり、今この瞬間を何より楽しんでいるのだ。

 

「わたくしの全ては……アナタに……アナタにだけは……ッ!!」

 

 ドリルニーを放とうとするキマリスヴィダールであったが、レクスネイルによって根元を折られ、ドリルが宙を舞い、放たれたテイルブレードが深々とキマリスヴィダールを貫く。スパークが散り、シミュレーターにはけたましいアラートが鳴り響くなか、シオンは歯を食いしばりながらでも操縦桿を動かす。

 

「受け止めてもらいますわッ!!」

 

 宙に舞ったドリルニーを掴み取るキマリスヴィダールはそのまま己の全てをぶつけるかのようにバルバトスルプスレクスの胴体に上から深々と突き刺す。

 

「……アンタ……ホントに強いよね」

 

 ポツリと夕香の口からシオンの実力を認めるような旨の言葉が放たれる。

 シオンがハッとモニターを見やれば、バルバトスルプスレクスがモニターをつうっじて見つめるよにこちらに頭部を向けていた。

 

「……でも、次は負けないよ」

 

 元々、シオンとの実力差はガンプラ大合戦の時から分かっていた。

 あれから力をつけていたつもりだが、シオンには僅かに届かなかった。機能を停止したバルバトスルプスレクスはそのまま力尽きるようにキマリスヴィダールに倒れ掛かり、バトルは終了するのであった。

 

 ・・・

 

「やれやれ……負けちゃったよ」

 

 ガンプラバトルシミュレーターから出て来た夕香は出迎えた裕喜達にお道化るように肩を竦めている。全身全霊をぶつけてのバトルであった。悔しさはあるが、それでも満足感が夕香にはあった。

 

「良いバトルだったよ、本当に」

「まっ、次勝つのはアタシだからね。負けっ放しは性に合わないし」

 

 バトルを見届けた一矢は健闘を称えるように夕香に声をかけ、夕香も晴れやかな表情で答える。そう、これがなにも最後と言うわけではない。この先だってバトルをする機会などあるだろう。自分とシオンには確かな繋がりがあるのだから。

 

「──あー……遅かったか」

「あれ、カドマツどうしたの?」

 

 するとカドマツが慌ただしくイラトゲームパークに入店してきた。ガンプラバトルシミュレーターの状態を確認するや否や残念そうにしているカドマツに、ミサが声をかける。

 

「最近、あちこちのシミュレーターに導入されたアドオンがな、クリアした途端に消えるって話を聞いてな。そんな仕掛け、普通じゃ考えられないから、ちょっと興味があったんだが……ちょっと間に合わなかったみたいだな」

 

 カドマツの話から、どうやら各地で導入されたアドオンもPGスクランブルの撃破と共にデータが消去されてしまっているらしい。一矢とミサが顔を合わせるなか……。

 

「おい、婆さん」

「……」

「……婆さん?」

 

 せめてイラトから話を聞こうと背を向けたイラトに声をかけるカドマツであったが、どうにも反応がない。怪訝そうに回り込んでイラトの顔を見ようとすると……。

 

「おい救急車呼べ。婆さん白目むいてるぞ!」

 

 PGスクランブルのバトルから流れるように夕香とシオンのバトルに移行したために誰もまさか立ったまま気絶しているイラトに気づかなかったようだ。カドマツの指示に店内は慌ただしくなるのであった。

 

 ・・・

 

「やあ、首尾はどうデス?」

≪上々だねナジール≫

 

 一方、人気のない路地裏では、イラトゲームパークだけではなく、各地のゲームセンターでアドオンの導入を勧めていたあの片言交じりのスーツの男性が電話をしていた。スーツ姿の男性の名を電話越しで口にするのは、ウイルス事件を巻き起こしたあのバイラスであった。

 

≪バケット追跡によってガンプラバトルシミュレーターのネットワークシステムの解析……。しかしよくもまあ数多くのシミュレーターそれぞれにアドオンをインストールできたね≫

「新たな敵、強い敵と聞けば挑戦せずにはイラレナイ。ガンプラファイターのスピリットを逆手にとっただけデース」

 

 はっきり言って、中々無茶な事をしてのけたナジールの手腕に驚き、感心する。しかしナジールは路地裏から見える人々の姿を見ながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

≪なるほど……。次の仕込みが出来たら連絡するよ≫

「引き続き頼みマスよ」

 

 ガンプラファイターのスピリットとやらは分からないし、理解する気もないが、単純だなとくつくつと笑うバイラスは締めの言葉を口にすると、ナジールも頷き、そこで電話のやり取りを終える。

 

「──終わったみたいですね」

 

 懐に携帯端末をしまうナジールに表通りからやって来た男性が声をかける。

 この男性はかつては真武者頑駄無を使用し、シュウジ達と激突しただけではなくアンチブレイカーを作成した人物だ。

 

「彼にはこれからも期待していマスよ。それよりも最近、日本での私の支援をしてくれてマスが、どういうつもりデスか? バイラスの指示ではないでショウ?」

「あの人は立場を失い今では逃亡生活……。今はアナタ側にいた方が色々と面白そうですからね」

 

 バイラスと手を組んでいるナジールはそのまま現地での協力者として名乗り出て今に至る男性にその真意を尋ねると、男性は本音かどうか分からぬような人を喰ったような笑みを浮かべる。

 

「簡単に切り捨てるタイプですネ。そうして私もいつか切り捨てられないか心配デスよ」

「人聞きの悪い事を。今の私に嘘はありませんよ」

「なら少しは安心デスね、クロノ」

 

 掴みどころのない男性にナジールは油断ならない様子で見つめると肩を竦めながら男性はせせら笑う。少しはと言うが、実際安心はしていないナジールは男性の名を口にしながら路地裏から去っていく。

 

「窮屈な人だ。それではゲームは楽しめないよ」

 

 ナジールが出た路地裏に残ったクロノはポツリと静かにこぼすと、また薄ら笑いを浮かべながらナジールの後を追い、路地裏から出て行くのであった。

 

 ・・・

 

「ふぅー……」

 

 夜、夕食も終えた一矢は風呂から出てリビングに戻ってくると、そのまま冷蔵庫に向かう。適当に取り出したジュースをグラスに注ぎ、喉を潤しながらリビングに向かう。

 

「……あれ」

 

 するとソファーに座っている夕香とシオンに気づく。しかし二人とも特に動く様子もなく、何気なく目を向けると……。

 

「ったく……幸せそうな顔して」

 

 夕香とシオンの二人はソファーで寄り添うようにして眠っていたのだ。

 ガンプラバトルなど何だかんだで多少なりとも疲れがあったのだろう。偶然ながら身を寄せて居眠りをしてしまっている二人ではあるが、その寝顔はどこか幸せそうだ。苦笑した一矢は一応、ブランケットをかけるとそのまま自室に戻っていくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始まりがあった場所

 東京お台場……。かつてここではとあるイベントが開催された。

 

 “ガンダム・グレート・フロント”

 

 機動戦士ガンダム歴代シリーズにまつわる数多くの展示物やグッズ販売、そしてなにより世界で初めてガンプラバトルシュミレーターが稼働した場所。

 

 そのイベントの跡地にはその後、GGF博物館という施設が作られた。

 この週末、博物館がオープンした記念日にかつてのガンプラバトルステージを一部体験できるイベントが開催されるという。

 

「うおおお、懐かしいなぁっ!!」

「当時のステージを一部復元したらしいよ。機体の挙動は今風になってるけどね」

 

 その会場には一矢、そしてユウイチ達の姿があった。早速、かつてのジャブローを模したステージを舞台に一般プレイヤーに紛れて、ゲネシスブレイカー、セピュロス、猛烈號、ジェスタ・コマンドカスタムの姿があった。

 かつてGGF(ガンダムグレートフロント)でプレイしていたマチオは見覚えのある懐かしいステージに興奮した様子だ。そんなマチオを含めて、今回のイベントステージの説明をユウイチが軽く話す。

 

「懐かしいわねぇ。選抜プレイヤーに選ばれようとして……」

「子供みたいにのめり込んでたなぁ」

 

 森林に隠れ、迫るザクⅡ達を狙撃するジェスタ・コマンドカスタムを操るミヤコも懐かしんでいると同意するように豪快に敵ガンプラを殴り飛ばしながらマチオも思い出を振り返る。

 

「……ああ、すまないね。オジサンたちだけ盛り上がって。一矢君、今日は一緒に来てくれてありがとう」

「あ、あぁ……いえ……」

 

 かつての思い出を懐かしんでいるユウイチ達だが、一人無言で敵機体を撃破しているゲネシスブレイカーに気づき、ユウイチは通信を入れると、一矢の様子はどこかおかしく緊張でもしているのか上擦ったような声で返答する。

 

「キミがいてくれれば、どんなステージでもクリアできると思ってね。年寄りの相手はつまらないと思うけど、よろしく頼むよ」

「ちょっとぉ、年寄りってほどの年じゃないでしょ!」

「いいから、早く始めようぜ!」

 

 何故、彩渡商店街の大人達に紛れて一矢だけがいるのか。

 それはユウイチが一矢をこのイベントに誘ったからだ。ユウイチの冗談交じりの言葉にそこは年齢関係に関してちゃんと否定したいのかミヤコが通信を割り込んでくると、再度出現した敵機体に気づいたマチオも通信に割り込み、急かしてくる。

 

「そうだね、行こうか!」

「は、はい……」

 

 急かすマチオに苦笑しながら、ユウイチは一矢に声をかけると、緊張して上擦った様子のまま頷くと共にセピュロスとゲネシスブレイカーは先陣を切るのであった。

 

 ・・・

 

「なんだかこうして見ると懐かしいな」

 

 GGF博物館には翔の姿もあった。

 後ろに一本に纏めた髪を揺らしながら博物館内に展示されているかつてのGGFで行われたバトルの映像を感慨深そうに眺めていた。

 

「GGFもGWFもつい最近みたいだよな」

「本当に時間が経つのは早いですよね」

 

 そして翔だけではなく、傍らにはナオキやあやこもおり二人もかつての自分達のバトルの映像を見て、懐かしむ。

 今日はGGF博物館のオープンと言う事もあり、GGFで名を馳せたガンダムブレイカー隊の面々が特別に正体されているのだ。

 

「あっ、翔君達、こっちよ!」

 

 オープン日と言う事も相まって今日は人で混雑している。人混みに紛れながら施設を散策していた翔達に呼び声が聞こえて見てみれば、同じくガンダムブレイカー隊のアカネが手を振って翔達を呼んでいた。

 

「ほら、ルミカちゃん達のトーク始まってるよ」

「今回は事務所の後輩とキャンペーンガールに選ばれたという話だ」

 

 呼ばれるままアカネと合流すると近くにはソウゲツ達もおり、ネバーランドでも再会したとはいえ久方ぶりに会った事により皆笑顔を浮かべている。するとアカネが特設ステージを指差し、ガンダムブレイカー隊の中で広く世間で認知されているであろうルミカの事を話すと、補足するようにソウゲツも付け足す。

 

「そう言えばぁKODACHIちゃんのお兄さんもガンプラファイターなんだよねっ?」

「はいっ、前のジャパンカップにも北海道代表で出場したんですよっ!」

「でも、初めてガンプラバトルをした時はこんなに流行るとは思わなかったなー」

 

 特設ステージの上にはキャンペーンガールに選ばれたルミカとコトの二人がコスチュームに身を包んでトークを弾ませている。特設ステージでのトークと言う事も相まって、ステージ近くは彼女達のファンで埋め尽くされており、翔達も遠巻きでしか見る事が出来ない。

 

「……毎回思うんですけど、ガンプラ系のイベントのコスチュームって妙に露出が高いですよね」

「あぁ……そう言えば、そうだな……」

 

 特設ステージの上にいるルミカとコトを眺めながら、ふとLYNXが感じた疑問を口にし、翔も同意する。思い返してみると、GGFもGWF2024も、そしてジャパンカップなどでMCを務めたハルなどどこか露出度の高い衣装を着ている傾向がある気がする。現にルミカもコトもスタイルが強調されるようなコスチュームだ。

 

「そう言えばよー。例の一矢君だっけか? 彼もここにいるらしいよな」

「確かにそんな話が聞こえてきますね」

 

 ルミカ達のトークも終わり、集まっていた観客達が散り散りになっていくなか、ナオキが一矢の話題を出すと、流石にワールドカップ優勝者である一矢もバトルをしていれば多少なり注目を集めるのか、ちらほらと道行く人々の会話からバトルをしているゲネシスブレイカーの名前が聞こえてくる。

 

「ガンダムブレイカーの名、使ってんでしょ? 興味あるのよねぇ」

「俺としてはあのガンプラの作り込を評価したいところだな」

 

 やはりガンダムブレイカーの名前は良くも悪くも注目されてしまうようだ。

 アカネが楽しそうに指を鳴らしながら闘志を燃やしていると、バトルは得意ではないダイテツはモデラーとしてゲネシスブレイカーを評価している。

 

「一矢君も大変ですね。これじゃあ他の人達にも狙われてるんじゃないですかね」

「まぁ俺達も例外ではなさそうだがな……」

 

 一矢とバトルをしてみたいのはアカネだけではなく、他のガンダムブレイカー隊も同じように感じる。その様子に苦笑しているあやこは翔に笑いかけると、翔も先程から注目を集めている状況にため息をつく。

 やはりGGFからガンプラバトルシミュレーターに携わっていたこともあり、ガンダムブレイカー隊の名は知られている。自分達もバトルに参加すれば例外ではないだろう。

 

「そう言えば、風香ちゃんは? 確か一緒に来てましたよね?」

「アイツなら碧ちゃんと一緒に限定ガンプラを買いに行ってる。“限定品は風香ちゃんの可愛さ並みに貴重”とか言ってたな」

 

 ふとあやこは周囲を見渡して風香の名前を出す。風香も碧と一緒にこの会場に来ているようだ。あやこの問いかけに別れる前に風香から言われた言葉を口にしながら答えると、風香ちゃんらしいですね、とあやこは苦笑していた。

 

「まぁなんであれ楽しもうか。ガンプラファイターはめぐりあう。そのうち、風香や一矢君達にも会うだろう」

 

 話もそこそこにい合破目の前のGGF博物館を楽しもうとする。別に無理に一矢達を探さなくとも、バトルなどをしていればそのうちに会う事はあるだろう。翔の言葉に頷き、ガンダムブレイカー隊の面々は施設を散策し始めるのであった。

 

 ・・・

 

「よーし良い滑り出しじゃねえか!!」

 

 ガンプラバトルを終えたマチオ達は近くのフードコートで休憩を取っていた。

 先程、PGガンダムを撃破した一矢達は幸先の良いスタートに注文した料理にかぶり付きながらマチオが豪快に笑う。

 

「この調子で次も行けると良いわねぇ」

「久しぶりのこの感じ……。楽しくなって来たね!」

 

 同じテーブルで食事をとっているミヤコやユウイチもどこか興奮を感じさせる様子で話す。きっと食べ終われば休憩もそこそこにすぐにでもまたガンプラバトルシミュレーターに向かっていくだろう。

 

「おら、坊主! どんどん食え食え!」

「え、ええ……」

 

 とはいえ一人だけ疲れ切った様子の一矢は突っ伏しており、目の前のパスタにいくらも手を付けていない。そんな一矢に気づき、マチオが食べるように促すと一矢は力なく答えながら食事を再開する。

 

(……彼女の親と出かけるってハードル高すぎない?)

 

 チョロチョロとパスタを食べながら死んだような目を浮かべる一矢。

 元々、ボッチ気質の一矢は友達と遊んだ経験など碌にない、そんな一矢がミサではなく、よりにもよってその親であるユウイチと出かける事になったのだ。もはや手探り状態で気疲れが半端ない。

 

(大体からして俺は話の引き出しだってないしなに話せばいいんだよ。あれでも俺、ユウイチさんのこと何て呼べばいいの? 将来のことを考えてお義父さん? いやまだ早いか。先走り過ぎとか思われたくないし。そもそもお義父さんと言われる筋合いはないなんて言われたらどうすれば。俺、そんなこと言われたらその場で押し黙っちゃうんだけど。っていうか今の俺もまずいよな。気が回らない奴とか思われたくないし、でも気が回るってどう気を回せばいいんだ? やっぱりこの場を盛り上げるような奴か?いや俺盛り上げられねぇよ。でもずっと黙ってるってのもヤバいよな。ここは何か一つ何か話を振ってみるべきか。いやでもなに話せばいいんだ?いきなり話して滑ったら嫌なんだけど。あぁこういう時にミサがいてくれれば。ミサに会いたい。とっても会いたい)

 

 他にも人はいるとはいえ、彼女の親と出かけるという状況がこの男には荷が重すぎたようだ。もはやオーバーヒートしそうな頭を表すようにパスタを巻いたフォークをずっと回し続けている。

 

(うっぷ吐きそう……)

 

 そしてついには緊張のあまり青ざめた表情で口元を覆っている。変に余計な気を回し過ぎて、勝手に自滅しているのであった。




前作との繋がりを考え、ミスター同様に年数が設定改変されておりますのでご了承くださいませ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

挑戦的な自分でいたいから

「もー! ずーるーいー!! わたしもお台場行きたかったーっ!!」

 

 一矢達がお台場のGGF博物館にいる頃、イラトゲームパークのベンチの上ではミサが不満をたらたらと唇を嘴のように突き出しながら口にしていた。

 

≪置いて行かれてしまったのですか?≫

「そー」

 

 イラトゲームパークに入店するなりずっとこの調子のミサに事情を聞き、業務の合間を縫ってインフォがミサだけが置いていかれてしまった事に意外そうに尋ねると、足をぶらぶらと揺らしながらミサが答える。

 

 ・・・

 

「ミサ、父さんがなぜ怒っているのか……分かっているね?」

 

 それは今から数日前に遡る。彩渡商店街のトイショップでユウイチはミサを呼び出し、眉を顰めながら真剣な面持ちで尋ねると、今一ピンと来ていないのか、ミサは「んんー?」と唸っている。

 

「胸に手を当ててよく考えてみなさい。自分がなにをしたのか」

「……棚に展示してあるガンプラを全部旧キットに変えた事?」

 

 いつまで考えても思い当たる節はないのか、首を傾げているミサ。だが漸く考えられる点が出て来たのか、展示用のショーケースを指差しながら答える。

 

「え!?……ホントだ! いつの間に……!?」

「え、それじゃないの? じゃあどれだ……?」

 

 ミサの発言にぎょっと驚いたユウイチは慌ててショーケースを見に行けば、確かに展示されているガンプラは全て旧キットであった。

 とはいえ旧キットと言えどミサが手掛けたため、完成度自体は申し分はない。愕然としているユウイチに当てが外れたため、ミサは再び腕を組んで唸っている。

 

「仕入れの発注書。勝手に弄ったろ?」

「げっ……バレちゃった……?」

 

 まさかショーケースのガンプラを総とっかえしているなどとは夢にも思わず、嘆息するユウイチは再びミサに向き直りながら、今回、ミサに怒ろうと思っていた話の内容を口にすると、ここで漸く思い出したのかミサは顔を引きつらせる。

 

「今度発売するPGアルビオン……あんなの店に入らないだろう!」

「だってぇ一回見てみたかったんだもん……」

「問屋から確認の電話があったから良かったものの、そのまま届いていたらどうなっていたか……」

 

 しかもよりにもよって弄った発注書の内容は笑い話では済まないような内容だ。というかPGアルビオンってどれくらいの大きさだろう?

 兎に角として、叱ってくるユウイチにミサはしょぼくれながら話すと、ユウイチは再度嘆息してしまい、ミサは「ごめんなさーい……」と一応、謝罪の言葉を口にしている。

 

「罰として今週末は店番してなさい。父さんお台場行ってくるから」

「えええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっっ!!!!?」

 

 ミサを叱るのもほどほどに一応、悪戯をしてしまった罰として店番を言い渡す。

 しかし今、お台場と言えば、GGF博物館の話題で持ちきりだ。それは当然、ミサも知っており、自分は置いていかれてしまう事に絶叫が響き渡るのであった。

 

 ・・・

 

「自分だけ遊びに行ってさー。酷くなーい?」

≪確かに酷いですね≫

「でしょ!?」

 

 そして時間は今に戻り、いまだに納得がいっていないのか、文句を口にしてインフォに同意を求めるとまさかの同意にミサは食い付くように身を乗り出す。

 

≪無いものに手は当てられませんよね≫

「……何の話?」

 

 インフォのカメラアイがミサのとある一点を注視しながら答えると、言葉の真意が分かっていないミサは首を傾げる。まぁ言葉の意味が分かったら大惨事になりそうなものだが。

 

≪なんでもありません。ところで店番は良いのですか?≫

 

 ミサに深い追及はさせず、それよりもこんなところに居て良いのか尋ねる。ユウイチはお台場にいる事だし、店を開けっぱなしで来るのは流石に考え辛かった。

 

 ・・・

 

「これは……」

 

 彩渡商店街内のトイショップでは店に訪れていたアムロがレジの前を見て絶句をしていた。

 

≪……≫

 

 なんとそこにはロボ太がいるではないか。

 今は店にアムロとロボ太しかおらず、アムロはまさかロボ太のみが店番しているとは思わず、ロボ太もロボ太でスピーカーを持っていない為、無言の空間が続く。

 

 ・・・

 

「ロボ太に任せてあるから平気っ」

≪……それは平気なのでしょうか≫

 

 先程のインフォの問いかけにミサはあっけらかんとしており、その返答に機械ながらインフォの微妙そうな声が響く。

 

「やっほーミサ姉さん。今日もここにいたんだねー」

 

 するとイラトゲームパークに来店客が訪れ、ベンチに座っているミサに声をかけるたのは夕香であった。夕香の声に気づいたミサがその方向を見やれば、夕香だけではなく、お馴染みのシオンや裕喜の姿もある。夕香達も混ざり、ミサは話を弾ませるのであった。

 

 ・・・

 

「おー! ルーレット台じゃねぇか! あったなーこんなステージ!」

 

 一方、お台場のGGF博物館では早速ユウイチ達がかつてのステージを楽しんでいた。

 モニターに広がるカジノなどでよく目にするルーレット台がステージとなったこの舞台にマチオは懐かしんでいる。

 

「そうそう、普通にジャブローとかで遊んでたら突然プラモスケールのステージだもんなぁ」

「その後のバージョンでも必ずプラモスケールのステージあったのよね」

 

 懐かしんでいるマチオに同意し、ユウイチとミヤコはかつてのGGFでの思い出を振り返る。プラモスケールのステージはGGFに留まらず、その後も開発者達の遊び心によって今も存在している。

 

「──ッ!」

 

 元々、助っ人として一矢を連れてきたとはいえユウイチ達も中々の手練れだ。他に参加しているプレイヤー達を退け、出現している敵機体を次々と撃破していくと不意にゲネシスブレイカーを狙った砲撃が放たれ、感づいた一矢はすぐさま避ける。

 

「よもやこんなところで鉢合わせするとは」

「ふっ、我が同胞から何を学んだのか、俺達が見てやろうじゃないか」

 

 砲撃を放ったのはガンダムブレイカー隊のメンバーの一員であるダイテツの極破王であった。その傍らにはレイジのOEATH MACHINEもおり、どうやら遭遇戦として鉢合せしたようだ。

 

「あれってガンダムブレイカー隊の機体だよね」

「あぁ、ありゃあ間違いねぇ!」

 

 現れた極破王とOEATH MACHINEの機体を見て、同じイベントに参加していただけあってユウイチ達も覚えがあるのだろう。ユウイチとマチオはまさか遭遇するとは思わず驚いている。

 

「世界チャンプの一人に敵うかどうか分からないがっ!!」

 

 睨みあいもほどほどに火蓋を切るように極破王が再び砲撃を開始し、ゲネシスブレイカー達は散開して砲撃を避けるも、流石、プロモデラーが作成しただけあるのか着弾した場所には大きな爆発が起きる。

 

「我が一撃で虚無へ還れッ!」

「ッ!」

 

 だが極破王の砲撃を避けたゲネシスブレイカーには回避コースを予測して、既に回り込んでいたOEATH MACHINEがビームシザースをギラリと輝かせて振りかぶっていた。すぐさま一矢は操縦桿を動かし、逆手に持ち替えたGNソードⅤで受け止める。

 

「……まさか、アナタ達と戦える日が来るなんて」

 

 かつて一矢もまだ幼い頃、ガンプラこそ持ってはいなかったものの家族に連れて行ってもらって訪れたGGFでガンダムブレイカー隊の活躍を目に焼き付けていた。

 あの時は見上げる事しか出来なかった彼らと今はこうしてバトルが出来ることに一矢の表情に心なしか笑みがこぼれる。

 

「──だからこそ、全力でッ!!」

「うおっ!?」

 

 一矢の憧れへの挑戦心を表すようにゲネシスブレイカーのツインアイが煌めき、覚醒を果たす。爆発的に向上した機体エネルギーにOEATH MACHINEは押し返される。

 

「は、早過ぎる!?」

「どこに行ったんだ!?」

 

 OEATH MACHINEを押し返したゲネシスブレイカーは爆発的な加速を持って、ステージ上を駆け、そのスピードを活かして四方八方から極破王とOEATH MACHINEに損傷を与えていき、先程まで超越者目線でプレイをしていたレイジの皮が剥がれ、ダイテツと共に明らかに狼狽えている。

 

「──もらったッ!!」

「お、俺……格好悪ぃ……」

 

 瞬く間にOEATH MACHINEと極破王に損傷を与えて行くゲネシスブレイカーはパルマフィオキーナを発動させ、OEATH MACHINEの胴体を貫くと、そのまま逆手に持ったGNソードⅤで回転するようにOEATH MACHINEを両断して撃破する。

 

「ろ、老眼が始まってるのにッ!」

 

 次は極破王だ。

 標的を切り替えたゲネシスブレイカーは焦る極破王から放たれる砲撃を掻い潜りながら、スーパードラグーンを放つと極破王から放たれる砲撃を相殺し、ゲネシスブレイカーの進攻をサポートする。

 

「やっぱりバトルは苦手だなぁ……」

 

 そしてスーパードラグーンのビームは極破王に放たれ、ゲネシスブレイカー自身も持ち替えたGNソードⅤをライフルモードにしてバックパックの大型ビームキャノンと共に一斉発射し極破王を貫き撃破することによってルーレット台でのバトルを終える。

 

 ・・・

 

「……バトルが出来て光栄です」

 

 ガンプラバトルシミュレーターから出て来た一矢は早速、ダイテツとレイジに顔を合わせ、バトルが出来た事への感謝を口にする。

 

「フ、フフフ……お、俺達はガンダムブレイカー隊の中でも最弱……」

「我々も新たなガンダムブレイカーの力を実感できて嬉しかったよ」

 

 レイジが情けないのやら何やら分からない彼らしい超越者目線の中二病的言動をしているなか、柔和な笑みを浮かべたダイテツは一矢と握手をしている。

 ファイターとしてはそこそこでもプロモデラーとして名を馳せているダイテツと握手を出来て、それはそれで一矢は光栄に感じている。

 

「だが、俺達で満足しちゃいけないぞ?」

「えっ?」

 

 何か子供に注意するような優しい表情でダイテツが口にすると、一矢はその発言の意味が分からず、きょとんとした表情を浮かべる。

 

「まだガンダムブレイカー隊は他にいるからな。我が同胞達はこんなものではないぞ」

「プロゲーマーのLYNX君とか、君も知っているだろう?」

 

 ダイテツの発言に頷き、自慢げに仲間を自慢するレイジ。ダイテツが有名どころの名前をあげると、ハッとしたように一矢は目を見開く。

 

「俺達のエース……如月君だってここにいる。きっとバトルを続けていれば、俺達のようにぶつかる事があるかもしれないぞ」

 

 一矢が感づいた事に気づいたダイテツが大きく頷き、そうなった時が楽しみなのか面白そうだとばかりに笑みを浮かべている。

 

「翔さんと……」

 

 翔は言うまでもなく一矢にとっての憧れだ。

 ガンプラバトルもプラモの作り方も何よりその楽しさも最初は翔から教わった。そんな翔とバトルが出来るかもしれないのだ。

 

『君と戦える日を楽しみにしてる』

 

 かつて翔と約束した事がある。

 あの時言ってもらった言葉はとても嬉しかったが反面、まだまだ彼には及ばないのも分かっておりバトルは出来ないと思っていた。だが今では世界の頂点に立つほどに自分は成長した。そろそろ頃合いと見ても良いだろう。

 

「……やっと巡った機会なんだ。俺、挑戦してみます」

 

 ギュッと一矢は拳を握る。

 翔だけではない。ガンダムブレイカー隊に挑戦できる機会など滅多にない。折角巡って来た機会なのだ。ならばとことんまで挑もう。一矢の高揚する戦意を感じ、「応援している」とダイテツとレイジは激励を送るのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

どこからがデート?

 

「一矢の坊主、動きが良くなってきてるじゃねぇか」

「うん、調子が出て来たみたいだね」

 

 GGF博物館でのバトルは白熱し、現在もユウイチ達はプラモスケールの作業ブースをモデルにしたステージでバトルを行っていた。

 立ち並ぶ塗料瓶やプラモデルの箱を障害物代わりに利用しながら上空に舞うゲネシスブレイカーを見やりながら、マチオとユウイチは笑う。

 

「あの頃の翔以上じゃないか……!?」

 

 ガンダムブレイカー隊の一員であるユーゴが駆るHI-νガンダムカスタムのフィンファンネルとゲネシスブレイカーのスーパードラグーンが飛び交うなか、次々破壊されていくフィンファンネルを見てGGF時代の翔を思い出しながらユーゴは焦っていく。しかしその間も覚醒状態のゲネシスブレイカーが迫る。

 

「み、見事だな……。しかし、自分の力で勝ったのではないぞ。そのガンプラの性能のおかげだという事を忘れるな!」

「……負け惜しみを……って言うべきなのか?」

 

 ビームライフルの引き金を引くも、追従を許さぬような高機動を持ち味とするゲネシスブレイカーには当てるどころか捉えることは出来ず、あっと言う間に眼前に迫ったゲネシスブレイカーにすれ違いざまに切断されるなか、ユーゴは悔しそうに叫ぶが溜息交じりに一矢は答える。

 

「──中々やるじゃない!」

 

 HI-νガンダムカスタムを撃破したゲネシスブレイカーだが一息つく暇もなくアラートが響き、反応しようとするも近づいた紅蓮の閃光が迫る。回避行動を取ろうとするも機体が掠り、GNソードⅤが弾かれ、落としてしまう。

 

「今度はアタシが相手になるわッ!!」

 

 そこにはアカネが操るフレイムノーベルの姿があった。

 すぐに鋭い回し蹴りが放たれ、ゲネシスブレイカーが飛び退くなか、フレイムノーベルがとったのはファイターであるアカネが体得した真龍館での空手の型だ。

 

「……お願いします」

 

 GNソードⅤを落とした今、ゲネシスブレイカーも右手を突き出し左拳を引くことによって覇王不敗流の構えをとり、アカネと一矢の口元に笑みが浮かぶと、すぐさま二機は拳を突き出してぶつかり合う。

 

「アナタ良いわね、熱くなってきたわッ!」

 

 フレイムノーベルとゲネシスブレイカーによる身一つのぶつかり合いが続き、拳と脚部がそれぞれ幾度となく交差し、肉弾戦のようなバトルが繰り広げられる。

 

「ッ……!?」

「ほらほら、そんなものじゃないでしょ!」

 

 しかしやはり一矢も覇王不敗流を習った身とはいえ、アカネとは練度が違うのか拳を交合わせる度にゲネシスブレイカーの損傷が目立っていき、高揚するアカネのフレイムノーベルは更に怒涛の勢いを見せて行く。

 

「当前……ッ!」

「やるわね……ッ!」

 

 だが一矢も決して諦めた訳ではない。放たれたフレイムノーベルの腕部を掴んだゲネシスブレイカーはそのまま身を回転させ、旋風竜巻蹴りに繋げるとフレイムノーベルの機体は竜巻の中で翻弄されていくがアカネの口元にはまだ笑みが浮かび上がる。

 

「アタシのこの手が真っ赤に燃えるッ!」

 

 するとフレイムノーベルは両腕を広げると同時にEXアクションであるゴッドフィンガーを両手に宿し、竜巻を打ち消すとそのままゲネシスブレイカーに突撃したのだ。

 対するゲネシスブレイカーも両腕にバーニングフィンガーを纏って真っ向から立ち向かう。

 

 ゴッドフィンガーとバーニングフィンガーがぶつかり力が拮抗する中、周囲は暴風雨のような衝撃波が巻き起こる。互いの腕部に亀裂が走っていくなか、最初に壊れたのはフレイムノーベルの方であった。そのままゲネシスブレイカーの両腕がフレイムノーベルを貫き、このバトルを制する。

 

 ・・・

 

「久しぶりに熱くなれたわ。他流との手合わせはいい勉強になるわね」

「流石、世界チャンプってところか」

 

 バトルを終えた一矢はアカネとユーゴと対面していた。

 二人とも悔しくはあるが晴れやかな笑みを浮かべている。

 

「……正直、皆さんとバトルをする時は最初から覚醒しなきゃ危ういです。最後だって覚醒がなかったら……」

「覚醒があったから勝てたって? でもそれだってアナタの実力よ。誇れこそすれば下を向く必要はないわ」

 

 とはいえ一矢はそうではないのか、暗い表情を浮かべている。

 というのも最後のゴッドフィンガーを制したのも覚醒状態であったからだろう。もし覚醒してなければどうなっていたか分からない。だが俯く一矢にその頭を優しく撫でるとアカネは一矢の顔を上げる。自分達に勝った相手が俯いていてほしくはないのだ。

 

「今度、真龍館にいらっしゃい。アナタの技、粗がある部分があるもの」

「えっ……? いや、俺は別に……」

「なーに遠慮してるのよ!」

 

 それはそうと格闘技を習う者として気になる部分はあったのか、真龍館の住所が載った名刺を差し出すアカネに名刺は受け取るものの身体を動かすのが根本的にあまり好きではない一矢はやんわりと断ろうとするが、それを遠慮と捉えたアカネは一矢の背中をバンバンと叩いている。

 

(……あぁ、過去の翔を見てるみたいだ……)

 

 それでも断ろうとするが嫌がっている事に気づいていないアカネは遠慮をするなと絡んでいく。その一矢とアカネの姿を見つめながら、ユーゴは過去にアカネによってしごかれて悲鳴をあげていた翔の姿を思い出しながら苦笑するのであった。

 

 ・・・

 

「へえ、じゃあ一人で日本に?」

 

 イラトゲームパークではミサや夕香達だけではなく、ウィルの従者であるドロシーがいた。ただ談笑するだけではなく、ミサ達の前のテーブルにはドロシーが持ち込んだであろうティーカップやアップルパイやケーキなどの洋菓子類が所狭しと並べられていた。

 

「はい、久しぶりに休暇をいただきましたので。この国は興味深いことがたくさんあって退屈しませんね」

「……なんで休暇でもその恰好なの?」

 

 ソーサーの上に載ったティーカップを取って一口飲みながら答えるドロシーは一人で日本に来たようだ。しかしもっともミサにとっては何故、休暇なのにも関わらず普段と変わらぬメイド服を着用しているのか気になるところだが。

 

「普段着ですから」

「そうなの? てっきりウィルの趣味かと思ってた」

 

 ミサの疑問に当然のように答え、ミサは意外そうに驚きながらでも悪戯っ子のような笑みを浮かべながら話す。

 

「そんなに特殊な趣向は持っていませんよ、坊ちゃまは。少々中二病を患っておりますが」

「まあ、それも良さっちゃ良さなんだろうけどねー」

 

 ウィルが実はメイド好き……と言うのは面白そうではあるが、一応、主である為、誤解ないように、それでもドロシーらしい訂正をすると夕香も用意されたケーキを口に運びながら軽く笑う。

 

「ウィルと夕香ちゃんってどこまでいったのー?」

「どこにもいってないけど」

「えぇー? ほんとにー?」

 

 今度はウィルをフォローするような発言をした夕香に絡み始める。

 世界大会の本選の合間、(ウィルに連れてこられた形ではあるが)ずっとウィルと一緒にVIPルームでの観戦をしたり、ウィル自身にも夕香に気があるような節も見られる。

 しかし夕香にとっては特に意識をした事がないのかあっけらかんとした様子で答えるが、ニヤニヤと笑みを浮かべたミサは夕香に顔を近づける。

 

「ミサさんはどうなのですか? 今日はおひとりのようですが」

「え? わたし!?」

 

 夕香とミサの話を横目で見ながら、「……なるほど、そういうご質問ですか」と話の流れを理解したドロシーは面倒臭い親戚のようにずっと夕香に絡むミサに声をかけると、まさか自分に話題が振られると思わず素っ頓狂な声を上げる。

 

「その後もひと目もはばからずイチャコラしてらっしゃるのですか?」

「ま、まさかガンダムSEED16話の再現をしたと言うんのですの!? 不健全! 不健全ですわ!!」

 

 話の流れを理解し、言い出しっぺであるミサに尋ねる。

 一矢とミサの関係はこの場で世界大会のリマッチをした際に集まっていた者は皆知っている。すると話を聞いたシオンは何を思ったのか頬を染めながら騒ぎ始める。

 

「ちょっ、なに言ってるの!? 無い無い! なにも無いよ!」

「うーん、まぁないのは知ってるけど……」

「それもないのですか……」

 

 なにを想像しているのか、顔を真っ赤にして「いけません、いけませんわ!」と両手で顔を覆って首をブンブンと振っているシオンにミサは慌てて特に如何わしい真似はしていないと叫ぶが裕喜は苦笑交じりにミサのある部分を一瞥し、ドロシーもアップルパイを見ながら嘆息する。

 

「それ“も”ってどういうこと!?」

 

 も、とはどういう意味なのか、ミサは片眉をヒクつかせながらジーッと夕香達を見るが夕香達は乾いた笑みを浮かべながら誤魔化す。

 

「ミサちゃん、こんにちは」

「ヴェルさん! それにカガミさんも!」

「こんなところでなにを……?」

 

 何やら誤魔化す夕香達に納得はしていないものの、またまた来店客が訪れ、見てみればヴェルとカガミの二人が。

 柔和な笑みを浮かべて軽く手を振って挨拶をしてきたヴェルにミサは喜んで出迎え、二人を近くに座らせる。ドロシーがヴェルとカガミの紅茶を用意するなか、ゲームセンターでお茶会を開いているようなこの妙な状況にカガミは顔を顰めている。

 

「それでそれで、ヴェルさんとシュウジさんってどこまでいったんですか!?」

「うえぇっ!?」

 

 今度の標的はヴェルとなったのか、ミサが食い付くようにズイズイとヴェルに近づきながらシュウジとの関係について尋ねると、先程までドロシーが用意していた洋菓子類に目を輝かせていたヴェルは慌てふためく。

 

「と、特になにも……。わ、わたしとシュウジ君はプラトニック的なそのっ……」

「ヴェルさんは、そちらはないんですね」

「なんで私と違って、ヴェルさんだけ、“は”なの!?」

 

 途端にしおらしくなってしまったヴェルにドロシーが彼女のとある部分を見やりながら呟くと、その言葉にミサは反応するが、適当にあしらわれてしまう。

 

「二人とも、なにもないって言ってるけどさー。デートとかしてないの?」

 

 不満顔をしているミサといまだに恥じらっているヴェルに今度は夕香が尋ねる。

 それぞれ一矢とシュウジがいる彼女達。なにもないとは言うが、カップルらしい行動はしていないのだろうか?

 

「いつも一緒にいるけど……」

「デートになるのかな……?」

 

 ミサは一矢とよくガンプラバトルなどチームとして世界大会が終わった後も頻繁に一緒にいる。今まで特に気にした事もなかったが、これらはデートと言えるのだろうか?

 ヴェルも同じようで、シュウジと一緒にいる事はあるもののはっきりとデートと言える程の出来事はなかったのか、ミサと顔を合わせて首を傾げてしまっている。

 

「私はシュウジ君と一緒にいれるなら……。でも……」

「まぁ、どうせだったら……」

 

 二人とも想い人と一緒にいられるという状況に特に不満がなかった為、意識したことがなかったが、デートが出来るのであれば、デートをしてみたいという気持ちはあるのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

破壊の系譜

「翔さーんっ!!」

 

 物販に訪れた翔は目ぼしいものがないか何気なく散策していると不意に自分を呼ぶ聞き覚えのある声に顔を向けた瞬間、胸に軽い衝撃が飛び込んでくる。

 

「見て見てっ! 限定品買えたよっ!」

「良かったな」

 

 誰かは分かるが自身の胸を見やれば特徴的なお団子ヘアが見える。

 すると顔を上げた風香は愛嬌のある笑顔を浮かべながら先程購入したとみられる限定品のプラモを見せる。あまりに嬉しそうな笑顔を見て、ついつい翔も微笑を浮かべる。

 

「まったく翔さんを見た途端、飛び出しよって……。お前はペットの犬か何かか?」

「風香ちゃんはそこらのワンちゃん以上に可愛いけどねー。翔さんは風香ちゃんをペットにしたい? わんっわんっ!」

 

 翔に抱き着いている風香に先程まで一緒に行動を共にしていた碧が後から追い付きながら幸せそうな表情を浮かべている風香に呆れ交じりに声をかけると、いつもの調子でおどけながら犬の鳴きまねをしはじめ、何を言ってるんだコイツはとばかりに翔はため息をついている。

 

「あっ、翔さん! PGアルビオンがあるよっ。風香ちゃんと一緒に作ろうよっ!!」

「……店にも俺の家にもおけるか、あんなもの」

「そんな道理、翔さんの無理でこじ開けてっ! 風香ちゃんとの愛の結晶を作ろーよっ!」

 

 流れるように翔の腕に自身の腕を絡ませた風香は展示されているPGアルビオンと一応、店頭販売されているPGアルビオンの巨大なケースを指差しながら、翔に提案するとユウイチ同様却下されてしまう。だが風香はそれでも無茶を言ってくるため「アホ言うな」と嘆息する。

 

「いやぁモテモテですねぇ」

「アナタは……」

 

 そんな翔に声をかける者がいた。見やればコスプレ用の青色の地球連邦軍の軍服の上にエプロンを着用したかなりの図体の巨漢の男性がいた。翔も面識があるのか、僅かに驚いている。

 

「久しぶりですね、ガンプラライフは順調ですか?」

「まあ……それなりには」

 

 この男性はかつてGGF時代に物販に身を置いていた男性だ。

 翔もGGF時代に何回か顔を合わせている。久方ぶりの再会に笑みを交わしながら言葉を交わす。

 

「こうしてアナタに会うとあの頃を思い出しますよ。ガンプラバトルはもうプレイしたんですか?」

「少しだけですがね。ボチボチやっていきますよ」

 

 GGF時代でもそうであったが、どうやらこのGGF博物館でも物販担当しているようだ。ショップ店員の男性の問いかけに翔は物販同様に賑わいを見せているガンプラバトルシミュレーターがある方向を見やりながら答える。

 

 ・・・

 

「マウンテンサイクルか」

「マウンテンサイクルだなあ」

「マウンテンサイクルねー」

 

 ユウイチ達三人の大人から何とも言えない感慨深いような声が漏れる。

 今プレイしているステージは火山ステージであり、灼熱の大地と轟々と流れるマグマが特徴的だ。

 

「この辺りから何度も撃破されるようになったんだよね。敵が強くて強くて」

「これでも彩渡じゃ一番のチームだったのになぁ」

「仕方ないわよ。まだプレイしたてだったんだし」

 

 かつてGGFでプレイした時の事を思い出す。

 今現在において戦闘を行っている敵機体の挙動などはかつてと同じように感じる。当時は勝ち進んで漸く挑んだこのステージで苦汁を飲まされたものだ。

 

「今の実力であの頃に戻りたいね」

 

 襲いかかる敵機体を難なく撃破するセピュロス。いやセピュロスのみならず猛烈號はダイナミックに、ジェスタ・コマンドカスタムは適格に相手を撃ち抜いて戦果を挙げている。かつては苦汁を飲まされたかもしれないが、あの頃とは違うのだ。ユウイチは悔しがっていたあの頃を懐かしく笑っている。

 

(……このステージも覚えてる)

 

 過去を懐かしんでいるのはユウイチ達だけではない。一矢もまたセピュロス達と進攻しながら周囲の火山ステージを見ながら笑みを浮かべる。

 かつてGGF時代のガンプラバトル……バトルライブGを観客の一人として見ていた。モニターに集中する人々を掻き分けてモニターに映るガンダムブレイカー隊が鮮やかな連携でPG機体を撃破していたの見上げていたのを覚えている。

 

 ・・・

 

「コトちゃん、結構やるんだねーっ」

「私も結構練習しましたからっ」

 

 またこのステージにはキャンペーンガールであるルミカとコトがそれぞれ操るNOBELL☆MAIOとストライクノワールの二機がたった今、立ち塞がったPG機体を撃破したところだ。

 以前は不器用の塊という印象しかなかったコトがガンプラを作り上げ、あまつさえバトルをこなす姿を見て、ルミカが称賛するとオトも照れ臭そうにしながらも頷く。

 

「……ん? ……そろそろかな」

「何がですか?」

 

 するとセンサーを確認したルミカが何かに気づく。

 もっともその事は当人であるルミカしか分からず、通信越しで先程の呟きを聞いたコトはなにかあるのかと尋ねる。

 

「うん、アイドルとして、じゃなくガンプラファイターとして、ね」

 

 ルミカの口元にこれから起こる楽しみが待ちきれないとばかりの笑みが浮かぶ。そのままNOBELL☆MAIOはスラスターを稼働させて飛び立ち、コトのストライクノワールもその後を追う。

 

 ・・・

 

「っ!」

 

 火山ステージを勢いに乗って突き進むゲネシスブレイカー達。しかし進攻を阻止するかのようにゲネシスブレイカー達の前に無数のビーム兵器が降り注ぎ、足を止める

 

「ようやく見つけましたよ」

「アカネ君達の話を聞く限り、相当の手練れらしいな」

 

 そこにはLYNXが操るZ.S.FⅡとソウゲツのHi‐シナンジュが滞空しながらそれぞれ火器をゲネシスブレイカー達に向けていた。

 

「バトルをする日が来るなんて思わなかったよ」

「わざわざ探したんだ。楽しませてもらうぜ!」

 

 だが今回は今まで二人組でバトルをしていたアカネ達とは違い、Z.S.FⅡの近くにはGGF時代に使用していたあやこのホワイトエンジェルがゲネシスブレイカー達を見下ろし、ナオキのダブルフリーダムが火蓋を切るようにGNソードⅡをソードモードに切り替えてゲネシスブレイカーへ向かっていく。

 

 ゲネシスブレイカーも振り払うようにGNソードⅤをソードモードに切り替えるとダブルフリーダムに立ち向かい、刃を交えて激しい剣戟へと繋げる。

 

「ちっ!」

 

 しかしゲネシスブレイカーを攻撃するのは何もダブルフリーダムだけではなく、Z.S.FⅡとHi‐シナンジュのピット兵装によるオールレンジ攻撃がゲネシスブレイカーに襲いかかり、一矢は表情を険しくさせながらダブルフリーダムを押し払うように距離を取るとすかさず自身のスーパードラグーンを展開しつつスラスターウイングを最大稼働させ回避に専念する。

 

「っ……!」

 

 しかしガンダムブレイカー隊もかなりの手練れだ。オールレンジ攻撃を避けるゲネシスブレイカーの動きを予測していたかのようにホワイトエンジェルの大型ビームマシンガンによる弾丸が襲いかかり、ゲネシスブレイカーはビームシールドを展開しながら防ぐ。

 

 あやこが予測していたのもあるが、どちらかと言えばLYNXとソウゲツが誘導した面も大きい。そんな連携はまだ続き、ビームマシンガンの弾丸をビームシールドで受け止めたせいで動きが鈍ったゲネシスブレイカーにダブルフリーダムが接近し、GNソードⅡを向けて突撃する。

 

「なにっ!?」

「やらせないよっ!」

 

 だがダブルフリーダムを牽制するようにゲネシスブレイカーとの間に放たれた鋭いビームが動きを止め、その隙にセピュロスがビームサーベルを引き抜いてダブルフリーダムに襲いかかり、実体剣とビームサーベルが切り結ぶ。

 

「中々の狙撃だ!」

「褒め言葉は嬉しいわ」

 

 ダブルフリーダムとゲネシスブレイカーに放った狙撃はそのまま再びジェスタ・コマンドカスタムによってZ.S.FⅡとHi‐シナンジュに放たれ、ミヤコの卓越した狙撃能力にLYNXが称賛するとミヤコは不敵な笑みを浮かべる。

 

「おっと、やらせないぜ!!」

「速いっ!?」

 

 ジェスタ・コマンドカスタムを狙おうとするホワイトエンジェルであったが、その射線上に猛烈號が割り込み、そのままホワイトエンジェルへと突撃する。

 その大柄な機体に見合わぬ機動力で接近する猛烈號にあやこは呆気に取られるもののすぐにホワイトエンジェルを動かす。

 

「ユウイチさん……」

「今の僕達は一緒に戦う仲間だからね。ピンチになら当然、手を貸すさ」

 

 ダブルフリーダムを押し退け、ゲネシスブレイカーに背中を向けて立ち塞がるセピュロス。不思議とその背中が大きく見えるなか、ユウイチは通信越しで笑いかける。

 

「それに君やミサの前では格好つけたくなるんだよ」

「……俺も同じです。ユウイチさんには頼りになるって思われたい」

 

 するとユウイチはおどけるように笑い、一矢もつられるように笑みを見せながらゲネシスブレイカーはセピュロスの隣に並び立つ。

 二人は笑いあうと、セピュロスはEXAMシステムを、ゲネシスブレイカーは覚醒をそれぞれ発動させ同時に飛び出す。

 

「ガンプラバトルらしくなってきたなぁっ!!」

 

 向かってくるゲネシスブレイカーとセピュロスに臆するどころか好戦的に笑みを浮かべるナオキはそのままゲネシスブレイカーとセピュロスに立ち向かい、二機を相手に戦闘を開始する。

 

「──わー……もう始まってたね」

 

 戦闘が開始され、どんどんと時間が経つたびに苛烈さを見せ始めているとこの場に到着したルミカは各所で激しくぶつかり合っている見知ったガンプラ達の姿を見やる。

 

「凄い……」

「あたしも混ぜてーっ!」

 

 その戦闘の内容にコトが息を飲んでいる中、ルミカは祭りにでも参加するかのようにこの激しい戦闘に混ざっていく。

 

「ッ!? 流石に二機相手はきついか!」

 

 ゲネシスブレイカーとセピュロスを相手に戦闘を行うダブルフリーダムだが、今ゲネシスブレイカーによって左腕を切断され、バックパックをセピュロスによって損傷を与えられてしまう。

 

「ヘヘッ、ホントに翔を思い出させてくれるよな」

 

 度重なる損傷デバランスが崩れるダブルフリーダムにゲネシスブレイカーのバーニングフィンガーがその機体を貫き撃破する。

 翔と一矢の戦闘スタイルは全く同じではない。だがそれでもゲネシスブレイカーにかつての翔を重ねたナオキは撃破されながらでも笑みを浮かべる。しかしそれでも覚醒やEXAMを発動させているガンプラを相手にこれだけ渡り合えたのも称賛されるべき事だろう。

 

「ナオキ君がやられたかっ!」

「じゃあ、ナオキ君の分まであたしが戦ってあげるっ」

 

 ロストしたダブルフリーダムの反応にソウゲツが驚くなか、合流したルミカが通信を入れ、ソウゲツ達と肩を並べて流れるようにジェスタ・コマンドカスタムの掩護に駆け付けたゲネシスブレイカーとセピュロスへ攻撃を仕掛ける。

 

「伊達にガンダムブレイカーの名前を使ってるわけじゃないようですね!」

「当然でしょう……!」

 

 互いのスーパードラグーンが入り交じって攻撃し合うなか、そのまま剣戟を繰り広げるZ.S.FⅡとゲネシスブレイカー。ゲネシスブレイカーの太刀筋を見て、その実力をすぐに肌で感じ取ったLYNXに一矢は更に勢いを強める。

 

 鍔迫り合いとなるゲネシスブレイカーとZ.S.FⅡだが、出力の面から見て覚醒状態のゲネシスブレイカーが上回っているのか完全に押し切られてしまう。

 

「だがッ!」

 

 迫るゲネシスブレイカーにビームライフルを投げつけたZ.S.FⅡはそのままバルカンによって己のライフルを破壊し爆炎をあげるとスーパードラグーンをゲネシスブレイカーに集中させようとする。

 

「させないわ!」

 

 だがビームがゲネシスブレイカーに襲いかかる前にミヤコの一発のうち数基を破壊するような狙撃がZ.S.FⅡのスーパードラグーンを破壊する。

 

「……その輝き、その強さ、そして連携……やっぱりガンダムブレイカーか」

 

 爆炎をまともに受けた事で軽微の損傷を受けたもののそのまま飛び出したゲネシスブレイカーによってすれ違いざまに両断される。ゲネシスブレイカーの強さとセピュロス達との連携を見て、かつての自分達を重ねながらZ.S.FⅡは撃破される。

 

「っ!?」

 

 Z.S.FⅡを攻撃したのも束の間、ゲネシスブレイカーが被弾する。気は抜けない。ガンダムブレイカー隊はまだいるのだから。激しい戦闘で互いの機体は傷だらけになっていくが、傷を受ければ受けるほどバトルの激しさを加速していく。

 

 Hi‐シナンジュと戦闘を繰り広げるゲネシスブレイカー。パルマフィオキーナがHi‐シナンジュの頭部を破壊しようとする中、ビームトンファーを展開したHi‐シナンジュの一撃がパルマフィオキーナを発動させたゲネシスブレイカーの左腕を破壊する。

 しかしゲネシスブレイカーは至近距離で大型ビームキャノンを発射し、Hi‐シナンジュに更なる損傷を与えると、蹴り飛ばす。

 

「……やはり若者には期待できるな」

 

 吹き飛ぶHi‐シナンジュはフィンファンネルを差し向けようとするが、その前にGNソードⅤを宙に放り投げたゲネシスブレイカーが装備したスクリューウェップによって薙ぎ払うように破壊され、ゲネシスブレイカーのスーパードラグーンと共にスクリューウェップを放棄し、掴み取ったGNソードⅤをライフルモードにHi‐シナンジュを撃ち抜く。

 

「ははっ……もう翔君ともバトルが出来るくらい強くなったんだね」

 

 かつて一矢と出会った際は覚醒出来ると言えど、まだ翔とバトルをするには実力不足に感じられた。だが今では違う。ジェスタ・コマンドカスタムとセピュロスの援護によってNOBELL☆MAIOの動きが制されてしまうなか、ゲネシスブレイカーによって撃破され、ルミカは感慨深そうに呟く。

 

「もう認めるしかないかな……。翔さんから続く立派なガンダムブレイカーの使い手だって」

 

 猛烈號とバトルをしていたホワイトエンジェルだが仲間達が撃破されたのも相まって多勢に無勢となって瞬く間に追い詰められてしまう。

 ゲネシスブレイカーが覚醒の力を宿した巨大な光刃を発現させるなか、その刃に翔のガンダムブレイカーの姿を重ねたあやこは微笑みを浮かべながらも振り下ろされた一撃を受け入れるように撃破されるのであった。

 

「……いつかあんなバトルしてみたいな」

 

 あやこ達とのバトルに勝利したゲネシスブレイカー達。しかしその機体は半ば大破に追い込まれている。バトルを見届けたコトは熱いものを感じながらまだあのバトルには参加できないもののいつかはと思うのであった。

 

 ・・・

 

「次は負けないからな」

「……頼もしい仲間がいたから勝てました。次は一対一で勝てるように頑張ります」

 

 バトルを終え、火山ステージを制した一矢達。そんな一矢をナオキ達が出迎える中、互いに笑みを浮かべながら握手を交わす。

 

「次のステージで確か終わりだったな。最後まで気を抜くなよ」

「勿論」

 

 火山ステージを終えた一矢達に残るは最後のステージ。ナオキが助言をすると一矢は任せろとばかりに力強く頷き、傍から見守っていたユウイチ達と共にガンプラバトルシミュレーターへと向かっていく。

 

『俺だけで作ったんじゃない……。俺は今までここで色んなことを学んだ。だから俺はこのガンプラにガンダムブレイカーの名を与えた。皆でここから……0から進んでいくんだ』

 

 一矢の背中を見送りながらナオキはかつてGGF時代に翔が初めてガンダムブレイカーの名を冠するガンプラを作り上げた時の事を思い出す。

 

「0から進んだ今が彼に繋がってる……。そうだろ、翔?」

 

 今でもあの頃の出来事を鮮明に覚えている。懐かしむように笑ったナオキはお互いに初めてガンプラバトルをした時に共に戦った親友に思いを馳せるのであった。

 

 ・・・

 

 一台のガンプラバトルシミュレーターが起動し、マッチングが進められていく。

 そっと操縦桿に手をかけると確かに操縦桿を握りしめ、その時をただ目を瞑って待ち続ける。

 

「……あの時の約束果たそうか、一矢君」

 

 その時は訪れた。

 マッチングが終了したシミュレーターで翔がゆっくりと目を開きポツリと口を開くと、静かなる闘志をその瞳に宿し、気分の高揚を感じながらバトルフィールドに身を投じるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

輝きを持つ者たちの演武

「ついにお台場ステージだ。ここに来られるなんて……」

 

 GGF博物館で体験できる最終ステージ。それはかつてお台場の地をガンプラスケールのステージとして落とし込んだものであった。モニター越しにでさえデータ上の存在ではなく本物なのではないかと見違えるほど精密に再現されたお台場の街並みを見て、ユウイチは感激している。

 

「このステージはラスボスを撃破した参加者の中から、更に選ばれた者達しか立てなかったんだ。それ以外のファイターはこのステージを外から見ていたんだよ。お台場に投影された実物大のホログラム映像でね」

「お台場ファイナルバトル……。今でも語り草になってますね」

 

 お台場をわざわざステージに選んだのは意味がある。

 それはかつてGGFのグランドフィナーレとしてバトルライブGに参加した者達から選ばれた如月翔を筆頭とする選抜プレイヤーが実際のお台場の地を実物大のサイズにホログラム投影されたガンプラによってお台場をガンダムの戦う戦場に変えると趣向で執り行われたお台場ファイナルバトルを再現したものであった。ユウイチの説明にかつてGGFに訪れていた一矢は口を開く。

 

「それはそれですごい迫力だったんだけど、僕は自分で戦いたかったんだ。だからここで戦っていた人達を……如月翔君達を本当に羨ましく思っていたよ」

「……分かりますよ、その気持ちは」

 

 ユウイチがGGFグランドフィナーレの場にいたように、幼い一矢もあの場にいた。

 あの時、実物大に投影されたガンプラを駆って実際のお台場を舞台にバトルを繰り広げる光景はまさに壮観であった。だが自分が、自分のガンプラが実際のお台場の地で実物大でバトルをする、という気持も抱いたって不思議ではない。こうやって疑似的に叶えられたとはいえ、厳密には全く違う。あの頃の気持ちは色褪せる事はなく、ユウイチの呟きに一矢は同意する。

 

「さてお喋りもそこそこに行こうか」

「ええ、楽しみましょう」

 

 ゲネシスブレイカーやセピュロス達のガンプラバトルシミュレーターがけたましく反応を示す。すると四機のモニターの先には膨大なデータが構築されて形作る。

 

 そこに現れたのはPGサイズのユニコーンガンダムとνガンダムであった。

 二機のPG機体はツインアイを輝かせるとそれぞれが持つライフルの銃口を向けるとPGならではの大火力という言葉が相応しい一つ一つが強力な攻撃が仕掛けられるなか、ユウイチと一矢は通信越しで笑いあい、マチオやミヤコと共にPG機体へ挑むのであった。

 

 ・・・

 

「何だこりゃ。何でゲーセンで茶ぁ飲んでんだ?」

「いやあ何でだろ。いつの間にかこうなってた」

 

 一方、イラトゲームパークで盛り上がりを見せている女子会。その場にモチヅキやウルチも訪れていた。ゲームセンターという場でわざわざティーポットや洋菓子類を広げて談笑している妙な状況にモチヅキが顔を顰めていると、最初の段階から参加しているミサ自身も何故、このような流れになったのかは自分でも分かっていないのか表情を引き攣らせながら答える。

 

「で、モチヅキさんとカドマツさんとその後、どういう感じなのですか?」

「な、ななな、何の話だぁっ!?」

 

 ドロシーがモチヅキ達の分のティーカップを用意するなか、今までずっと話していた恋バナをモチヅキに振る。なんだかんだで親交のあるモチヅキとカドマツ。二人には何かあるのではと尋ねてみれば面白い程露骨に狼狽えている。

 

「いーじゃん、教えてよモッチー」

「誰がモッチーだぁっ! ガキが色気づいてんじゃねーよ!!」

 

 そんなモチヅキの反応は見ていて面白いのか、ニヤニヤと笑みを浮かべながら追及してくるミサに、外見はあれだが実際は三十路を超えているモチヅキはツッコみをいれつつ呆れている。

 

「やっべぇ女子会だコレ……。姐さん、アタシ先に失礼します」

「おい待てよ助けろよ」

「いやぶっちゃけ面倒くさ…………あぁっと、ちょっと用事を思い出しました」

 

 一連の流れを見ていたウルチは面倒事から逃れるようにモチヅキに声をかけ、この場を後にしようとするが、これ以上、この場にいても追及されるだけと分かり切っているモチヅキは縋るようにウルチに助けを求めるが、哀しい事に取り合っては貰えず、ウルチはそそくさとイラトゲームパークを後にする。

 

≪なるほど、これが噂に聞く女子会ですか。データベースに登録しておきます≫

 

 助け舟になるかは分からないが、それでも身内のようなウルチに見放されたモチヅキが絶望したような表情を浮かべる背後でミサがニヤニヤと笑っている。そんな光景を傍から見ながらインフォはカメラアイを動かしている。

 

「で、どうなのですか」

「い、言わない」

 

 ウルチが去っていった出入り口を見て呆然としているモチヅキに仕切り直すようにドロシーが再び尋ねると、まるで油が切れたブリキ人形か何かのようにぎこちない動きでそっぽを向きながら拒否をされてしまう。

 

「えーセンパーイ? ってゆーか女子会でコイバナ拒否るとかぁぶっちゃけぇサゲサゲじゃないですかー」

「やめろその喋り方っ!!」

「で、どうなのですか」

「ぜっったい言わないっ!!」

 

 すると何を思ったのか、擬似人格タイプr35ばりの現代女子っぽい喋り方で話しかけてくるドロシーに薄ら寒さを感じながらツッコむモチヅキだが、何事もなかったかのように再度尋ねてくるドロシーに意地になったように拒否する。

 

「モチヅキさん、そんなに遠慮することはありません。いくら女子と言うには苦しい年齢だとしても」

「喧嘩売ってんのかぁっ!!」

 

 意地でも言わないとそっぽを向いているモチヅキに後半、語気を強調しながら言い放つとモチヅキはたまらず青筋を浮かべながら怒鳴る。

 

「遅れたわね、ヴェル、カガミ」

「レーアさん! あっ、どうぞ! リーナちゃん達も!」

 

 ふーっふーっ! と鼻息荒く肩を上下させているモチヅキはの背後から店内に入店してきた客が苦笑していたヴェルやカガミ達に声をかける。

 のはそこにはレーア、リーナ、ルルの三人がおり、喜んでヴェルは手早く三人を招いて座らせるとドロシーは三人分の紅茶を用意し始める。

 

「こんなところで集まってどうしたんですか?」

「……私も何が何だか……」

 

 促されるまま座ったレーア達だが、今一状況が呑み込めず困惑している。ルルがこの集いは何なのか尋ねると、カガミは紅茶を飲みながら苦笑交じりに答える。

 

「三人は確か翔さんの知り合いなんでしょ? 翔さんのことはどう思ってんの?」

「「っ!?」」

「もしかして好きだったりしちゃうの?」

 

 不意に夕香が何気なく三人にも恋バナを振ってみる。

 顔は知っているもののあまり接点が多くはないがこの場に集まったのも何かの縁だ。丁度、三人は翔の知り合いである事は師っているため尋ねてみるとレーアとルルはピクリと反応する。いや二人だけではなくカガミも紅茶を飲む手を止めてしまっている。

 

「うん、翔は大切な人だよ」

 

 レーアとルルが翔について尋ねられて戸惑っている中、リーナはあっけらかんとした様子で答える。だがその返答にレーアやルル、ヴェルやカガミと彼女を知る者達は驚いていた。

 

「翔もレーアお姉ちゃんも皆……私にとって大切な人達」

「えーっ、じゃあ翔さんに恋してるとかないの?」

 

 だがその次に放たれたことばにそういう事かと納得する。

 要は好きと言っても異性として好き、と言うよりは親愛からくるものであったようだ。だが恋バナを期待していた分、この返答は期待外れだったのか、今度は裕喜が声をかける。

 

「……私にはまだ……分からない……」

 

 しかしリーナは首を振ると顔を俯かせ、どこか悲し気な表情を浮かべる。

 この少女は元々はシーナ・ハイゼンベルクのクローンとして生まれた。しかしシーナやレーアの父であるヴァルター・ハイゼンベルクが求める【シーナ】という存在にはなれなかった為に彼からはずっと冷遇されてきた。それでもリーナは父に笑ってもらおうと少しでも自分に気を向けてもらえるようにとコロニー軍のMSパイロットとして身を置いた事がある。

 

 いくら戦場を駆け、人を殺めようとそれでも父は見てくれなかった。

 だが当時の翔の中に宿っていたシーナの思念やレーアと触れ合う事によって、ようやく彼女は愛情という感情を知ることが出来たのだ。そんな彼女にはまだ恋愛という感情はまだ分からなかったようだ。

 

「彼女が言っていた恋と言う感情は私やルル達が抱いているものよ」

 

 目を伏せているリーナの背中をそっとレーアが手を添え、顔を上げたリーナに静かに語りかける。

 

「翔が遠くに行っても私の心の真ん中には常に翔がいた。翔の笑顔も涙もずっと欠片のように残ってたわ。会えない時はずっと苦しかったけど、それでもまた会えるって信じてた……ずっと……願っていた。そしてまた翔に会うことが出来た」

「……レーアお姉ちゃん……」

「会えなかった苦しみも寂しさも翔に再会できて温かさに変わって心に満ちていった。翔を想っての苦しさも温もりも全部が愛おしいの。きっとそれが恋なんじゃないかしら」

 

 世界を隔てた恋。

 それは言葉にすれば壮大だが、実際は本当に苦しかった。

 なにせどんなに会いたいと願っても会う事も触れ合う事も出来ないのだから。いっそのこと出会わなければ……そんな事も思ったりもした。だが今は翔と再会して彼に関する想いが全て愛おしく感じる事が出来たのだ。

 

「翔君が傷を背負っても前に進もうとしているのを見て、ただ最初は仲間として翔君を支えたいって思ってたの。でもいつからかな、翔君がずっと隣で笑っていてほしいなんて思っちゃたんだ。だからあんなに一緒だったのに離れちゃった時は本当に苦しかったよ。でも……レーアさんの言う通りなんだよ。いつか全部が愛おしくなるの」

 

 レーアが抱いた感情はルルも同じにするところだ。

 だからこそレーアの言葉も良く分かるし、当時のレーアの気持ちも痛い程共感できるのだ。

「……でも恋は無理してするものではないわ。アナタもいつかは分かる日が来るわ」

「……何だか子ども扱いされてるみたい」

 

 例え言葉で恋を説明したとしても、言葉だけでは分からないだろう。

 だからこそカガミは自分達が翔へ抱く感情もいつかリーナも誰かに抱く日が来ると諭すとリーナは理解はしているもののどこか釈然とない表情を浮かべる。

 

「……でも分かったよ」

 

 だがそれでもこうして話してくれたレーアやルル、そしてカガミ達の表情はどれもこうして話している最中でも想っていたのだろう翔への想いでどこか綻んでいた。

 レーアに対しては翔と結ばれるように促しているが、そうさせるだけの恋と言う感情はまだ分からない。それでもいつか自分も……そんな風に思いつつリーナは微笑む。

 

(遠く行ってもずっと心には……かぁ)

 

 そんなリーナ達のやり取りを傍から見ていたミサは物思いに耽っている。

 その頭の中には先程のレーア達の言葉が残っていた。ミサはそのまま携帯端末で一矢に電話を掛けるが、一向に電話に出る気配がない。

 

(そんな話を聞かされちゃったら、今すぐ一矢に会いたくなっちゃうじゃん)

 

 しかしガンプラバトルをやっている一矢が出られる筈もなく、そんな事を知らないミサは人知れずため息をついて電話を切って頬杖をつく。

 父がお台場に連れて行ってくれなかったのはまだ我慢できる。それでも一矢まで遠くに行ってしまったのは中々辛い。そんな心の寂しさを埋めるために今日はイラトゲームパークに訪れたのかもしれない。ミサは一矢のことを想っていた。

 

 ・・・

 

「よし、これで……ッ!!」

 

 そんな一矢は今、ユウイチ達と共にPG機体を撃破していた。

 今現在、四機がこのGGF博物館のバトルの合間に培った連携によってPGサイズのゴッドガンダムとウイングガンダムゼロを撃破したところだ。

 

「っ!?」

 

 しかし不意にゲネシスブレイカーのみを狙ったビームが四方八方から襲いかかる。

 見やれば黒と白を基調としたフィンファンネルが明らかにゲネシスブレイカーを狙っていたのだ。ある程度攻撃をするとまるで誘導するかのようにフィンファンネルはゲネシスブレイカーから去っていく。

 

「あのフィンファンネル……。まさか」

 

 先程、自分だけを襲ったフィンファンネルに覚えがあった。

 だがそうしている間にもまた新たなPG機体であるストライクフリーダムガンダムとダブルオーライザーがフィールドに姿を現す。

 

「一矢君、君はあのファンネルを追うんだ! アレが誰だか分かっているんだろう?」

「で、でも……!」

 

 PGサイズのストライクフリーダムとダブルオーライザーとのバトルが始まるなか、ユウイチは先程のフィンファンネルを追うように指示するが、一矢はどこか渋った様子を見せる。何故ならPGサイズのストライクフリーダムとダブルオーライザーはあまりにも強力過ぎる能力を持っているであろうからだ。

 

「ガンプラバトルが楽しむものだろう? 大人の我儘に付き合ってもらったんだ。最後は今の君の気持ちに素直になってほしい」

「……分かりました」

 

 二機のPG機体の攻撃を紙一重で避けながら、いまだに渋っている一矢に自分達に遠慮しないで楽しめと激励を送り、その思いに触れた一矢はフィンファンネルを追うのであった。

 

 ・・・

 

「……来たか」

 

 

 まるでゲネシスブレイカーを導くかのように飛行するフィンファンネルは主の元へ戻り、ファンネルラックに収まっていく。

 宙に垂れ下がったフィンファネルはまるで翼のようで宙に佇むその機体はまるで天使のようにも見える。そんな機体を操るファイターはモニターで接近する機影を見てひとり呟く。

 

「翔さん……」

「よく来たな、一矢君」

 

 遂に辿り着いたゲネシスブレイカーはその場に着地してフィンファネルを放った機体を見上げる。

 

 

 ──それは全ての始まり。

 

 

 この世界で初めて誕生した始まりのブレイカー。

 

 その名はガンダムブレイカー0。

 

 この世界のみならず異世界においても人々の心を照らしたガンダムブレイカーがそこにいたのだ。

 

 

「ナオキ達の事は知っている……。本当に強くなったな一矢君」

「翔さんが……出会えた人達が俺を強くしてくれました……。今の俺は昔とは違います。そしてこれからもきっと」

 

 ファイターである翔はゲネシスブレイカーを見下ろしながら通信で声をかける。次々にガンダムブレイカー隊を撃破していった一矢の実力は素直に感心するところである。

 だが一矢は首を振る。自分一人で強くなったわけではないというのは一矢が何より分かっているから。

 

「君はあの時言っていたな、強くなって俺やシュウジに届きたいと」

「……はい」

「ならば見せてくれ。今の君の力を」

 

 かつてジャパンカップ最終日の夜に力強く言い放った一矢を今でも覚えている。

 今の一矢はどこまで自分に届くのか。早速その実力を見ようとブレイカー0は構える。

 

 

 

「ガンダムブレイカー0」

 

 

 

 始まりがあった

 

 

 

「ゲネシスガンダムブレイカー」

 

 

 

 そして今に繋がった

 

 

 

「如月翔」

 

 

 

 無謀だと笑われようとも我武者羅に走り続けた

 

 

 

「雨宮一矢」

 

 

 

 明日へ何度もこの胸の中にある誇り(プライド)をぶつけてきた

 

 

 

「「出るッ!!」」

 

 

 

 それは今も変わらない

 

 

 過去に交わした約束を今、果たすように

 

 

 そしてなにより互いの誇り(プライド)をぶつけるように

 

 

 英雄と新星は全ての始まりの地であるこの台場で激突するのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自分というマニフェストを掲げて

 遂にお台場を舞台にしたゲネシスブレイカーとがガンダムブレイカー0の戦いの火蓋が遂に切り落とされた。既に二機の周囲には解き放ったスーパードラグーンとフィンファンネルが縦横無尽に駆け巡り、バトルをより一層、苛烈に引き立たせる。

 

(……っ……。流石に遠距離でのバトルは分が悪いか)

 

 ゲネシスブレイカーのスラスターウイングからは光の翼のような噴射光を発せられ、流星のように尾を引きながら目には捉えきれぬ圧倒的な加速を持ってブレイカー0を翻弄しようとする。

 しかしブレイカー0は動揺する気配も見せず、ただゆっくりとビームライフルを構えてその引き金を引くとビームはまるで吸い込まれるかのようにゲネシスブレイカーに迫り、咄嗟にGNソードⅤで弾きながら飛行を続ける。

 

 翔が遠距離を、狙撃を得意とするファイターであることは一矢は重々承知だ。

 だからこそゲネシスブレイカーの機動力を持って翻弄しようとしたのだ。ゲネシスブレイカーも自身の調子もこれまでにないくらいのまさに絶好調であった。しかしそれでも翔にはまるで意味をなさなかったのだ。

 

 苦々しい表情を浮かべる。だがそれでもすぐに意識を切り替える。いつまでも引き摺っていても仕方のない事だし、なによりそんな状態で翔には勝てない。今は己の全てをぶつけるしかない。

 

 そう、己の全てをだ。

 

「……来たか」

 

 ブレイカー0のガンプラバトルシミュレーターで翔はモニター越しに捉えるゲネシスブレイカーが紅い閃光を放ったのを確認すると、先程まで捉えていたゲネシスブレイカーがもっと、いや爆発的な加速をして自身の視界からも消えたのを見て、それが覚醒である事を察知する。

 

 するとモニター越しに一瞬、影が出来たのを見た。目を見開いた翔は咄嗟にビームサーベルを引き抜きながら振り返り薙ぎ払うように振るうとそこには既にゲネシスブレイカーがGNソードⅤを振りかぶっており、ビームサーベルとGNソードⅤはぶつかり合い、周囲にスパークを起こす。

 

「っ!?」

 

 交わる刃と刃。しかし鍔迫り合いとなった瞬間、ブレイカー0は腰部のレールガンをすぐさま展開し至近距離で放ち、ゲネシスブレイカーに損傷を与え、よろめいたところを蹴り飛ばす。

 

 吹き飛んだゲネシスブレイカーにブレイカー0はすぐさまレールガンとビームライフルの引き金を引くことで追撃を仕掛ける。体勢を立て直そうとするゲネシスブレイカーではあるが、追撃をまともに受けてしまいみるみるうちに損傷してしまう。

 

 だがそこで翔は油断しない。絶え間なく射撃をする合間にスーパードラグーンを掻い潜ったフィンファンネルを数基、ゲネシスブレイカーに差し向ける。

 

「……ほぉ」

 

 だがゲネシスブレイカーはスクリューウェップを装備すると、そのまま体勢を立て直すのと同時に一回転し遠心力を利用して迫るフィンファンネルの何基かに直撃させる。そのままGNソードⅤをライフルモードにバックパックの大型ビームキャノンと共に放つことによって自機に迫るフィンファンネルを破壊するとビームシールドを展開してブレイカー0の射線上から逃れる。その姿を見た翔は素直に感心すると共に覚醒によって、もはや翔でも捉える事が難しいゲネシスブレイカーを追おうとする。

 

 ゲネシスブレイカーはブレイカー0を翻弄しつつスーパードラグーンを呼び戻すと、両肩のフラッシュエッジⅡを投擲する。迫るフラッシュエッジⅡを難なく避けるブレイカー0であったが、すぐさまゲネシスブレイカーがGNソードⅤの引き金を引いて放ったビームがフラッシュエッジⅡのビーム刃に直撃してビームが拡散し、その余波を受けたブレイカー0はよろめていしまう。

 

 それを見逃すゲネシスブレイカーではない。すぐにブレイカー0に接近するとGNソードⅤをソードモードに切り替えてブレイカー0に突き出し、刃がブレイカー0のコクピット部分に迫る。

 

「っ!?」

 

 だがGNソードⅤがブレイカー0のコクピットを貫くことは決してなかった。

 何故ならばビームサーベルを展開したブレイカー0が受け止めていたからだ。思わず目を見開いて驚愕する一矢だが驚きはそれで終わるわけではなかった。

 

「流石だな、一矢君。覚醒の力を使いこなせている」

 

 対して翔はいまだ余裕綽々と言った様子で静かに答えてゲネシスブレイカーを振り払うとブレイカー0に変化が起きる。なんとブレイカー0の両腕とシールドの装甲が展開し内部のサイコフレームが露出したのだ。

 

「だが覚醒を使えるのは君だけじゃない」

 

 しかもそれだけではなかった。ゲネシスブレイカーと対峙するブレイカー0のメインカメラが光り輝き、その輝きは全身を包むようにゲネシスブレイカーと同じ赤き閃光を放つ。

 

「……そうでないと」

 

 覚醒を発現させたブレイカー0を見て、一矢の表情は綻ぶ。

 別に翔が覚醒を使える事には然程驚いていない。何故ならば、元々ガンプラバトルが初めて行われたGGFの時代から翔は覚醒を発現させているのだから。一矢が知る限り、翔が初めて覚醒の使い手となったファイターであろう。

 一矢が知る由はないが、エヴェイユである翔はガンプラバトルのシステムである覚醒を使用する必要はなかったが、ここでGGFから久方ぶりに覚醒したのだ。

 

(……俺は今、あの時見上げていた存在とバトルをしているッ!)

 

 再び覚醒したブレイカー0とゲネシスブレイカーはぶつかり合う。

 しかしブレイカー0は先程までとは違い、両腕のビームトンファーを展開して嵐のような剣撃を放ち、ゲネシスブレイカーは対応するには手一杯だ。だがそれでも一矢の表情はみるみるうちに歓喜の色があふれ出る。

 

(遠かった存在が今、目の前にいるんだッ!)

 

 GNソードⅤを突き出すゲネシスブレイカーだが、ブレイカー0はひらりと受け流すと、そのままバックパックの大型ビームキャノンを破壊しレールガンを放つ。損傷を知らせるアラートが響くなか、一矢は笑みを浮かべる。

 GGF時代、モニターをいていた人の波を掻い潜って見上げていた憧れのガンプラファイター。ずっとその背中を目指していた。まだまだ距離を実感する事はあった。だが現に今は目の前にいる。今、あの時の憧れは自分を、自分だけを見てバトルをしてくれているのだ。

 

 損傷を受けた硝煙が立ち上るなか、爆炎からスーパードラグーンが展開される。すぐさま残ったフィンファンネルで対応しようとするブレイカー0だが数が足らず、自機を狙った射撃攻撃が迫り回避する。

 

「ッ!」

 

 だがここで翔も顔を顰める。硝煙から飛び出したゲネシスブレイカーはGNソードⅤを逆手に構えて流星螺旋拳を放ったのだ。

 咄嗟にシールドで受け止めるブレイカー0であったが、計算通りだったのだろう。Iフィールド発生装置ごとシールドを抉ったゲネシスブレイカーはそのままマニビュレーターを輝かせ、パルマフィオキーナで完全にシールドを破壊する。

 

 それだけでは終わらない。すぐにゲネシスブレイカーのマニビュレーターが燃え盛る炎のような紅の輝きを放ち、バーニングフィンガーがブレイカー0の左腕を粉砕する。

 

 すぐさま残ったビームトンファーで切り上げるブレイカー0だが、頭部バルカンを発射してブレイカー0の頭部に損傷を与えながらゲネシスブレイカーは一気に離脱し、矢次に放たれるレールガンを掻い潜りながら再びブレイカー0に迫る。

 

 互いの機体は既にボロボロであり、決着がいつ決してもおかしくはない。既に人間には捉えきれないほどの機動力を発揮するゲネシスブレイカーはブレイカー0を撃破しようとGNソードⅤの刃を輝かせる。

 

 ゲネシスブレイカーの機動力はもはや人間には捉えるのも難しいだろう。

 

 ……人間には

 

「──ッ!?」

 

 我武者羅なまでに夢中になっていた一矢はGNソードⅤの刃をブレイカー0に突き出す。これで決まる、半ばそんな確信を抱いていたのかも知れない。だが現実は違った。何故ならば目の前にいた筈のブレイカー0は忽然と姿を消したのだから。

 

 背後にブレイカー0の反応があった。咄嗟に振り返るゲネシスブレイカーが見たのは、自分や先程までブレイカー0が放っていた紅き覚醒の光ではなく、ネバーランドなどで見た虹色の光を纏うブレイカー0がそこにいた。

 

「……」

 

 そしてブレイカー0のガンプラバトルシミュレーター内の翔の瞳はオーロラ色の輝きを放っているではないか。ブレイカー0はツインアイをより一層輝かせながら、右腕のビームトンファーですれ違いざまにゲネシスブレイカーを両断するのであった。

 

 ・・・

 

「……負けた、か」

 

 暗転したガンプラバトルシミュレーター内で一矢は一人呟く。あそこで翔に勝てると思っていた。

 だが現実は違ったのだ。あの虹色の輝きはネバーランドで目撃した事がある。覚醒が翔の本気ではない。虹色の輝きを放ったあの状態こそ翔の本気なのだろう。その片鱗に触れられただけでも良かったと一矢は微笑む。

 

「……!?」

 

 ガンプラバトルシミュレーターを出て来た一矢に大歓声が巻き起こる。

 GGF博物館に訪れていた観光客達が一矢を拍手で出迎えているではないか。

 思わず事態に唖然とする一矢だがガンプラバトル発祥の地であるお台場の、しかもGGF博物館でガンダムブレイカー隊の、それこそ始まりのブレイカーである如月翔と世界大会優勝者であり、新たなブレイカーである雨宮一矢の全身全霊のバトルは話題を呼び、多くの一般客を熱狂させたのだ。

 

「一矢君、お疲れさま」

「翔さん……」

 

 そこにガンプラバトルシミュレーターから出て来た翔が声をかけ、一矢は翔に向き直る。翔も一矢と同様、バトルに満足しているのだろう。とても晴れやかな表情を浮かべている。

 

「本当に良いバトルだった……。君と出会えて、本当に良かったと思っている」

「っ……。俺もっ……翔さんに出会えて、あぁやってバトルが出来てっ……本当に良かった……! また……バトルをしてください!」

「勿論だ。次は俺もネクストでバトルをしよう」

 

 正直に話せるのであれば、あくまで翔は覚醒でバトルをするつもりだった。

 だが予想以上の力を発揮した一矢に翔は無意識にエヴェイユの力を発揮したのだ。ここまで心躍るようなバトルは本当に久方ぶりだ。心からの言葉を送る翔に一矢は胸が熱くなるのを感じながら翔が指し伸ばした手を握り、握手を交わすと再び大歓声が起こる。

 

「雨宮さーんっ!」

 

 握手を交わしていると一矢を呼ぶ子供の大きな声が聞こえ、手を離した一矢が見やれば、そこには多くの子供たちが翔と一矢を囲むように押し寄せて来たのはないか。

 

「バトル、すっごい格好良かった!」

「俺、一矢兄ちゃんみたいなファイター目指すっ!」

「ガンプラの作り方とかバトルのコツとか教えてっ!」

 

 次々に翔と一矢への子供達の憧れの言葉送られるなか、一矢は自分を目指すと言われ驚き、どうしたら良いのかとオロオロと困惑してしまっている。

 

「君はもうただのファイターじゃないんだ。君を目指す存在が出てきてもおかしくはないだろう?」

 

 そんな一矢の肩を優しく触れながら翔が微笑む。

 かつて一矢がGGFで見た翔のバトルで彼に憧れたように、ここにいる子供達も翔と一矢のバトルを見て、翔だけではなく、一矢にも憧れたのだろう。

 

「……そっか。分かった、俺で良ければ教えるよ」

 

 自分がそうであるように、自分の背中を追いかけようとする存在がいる。頷いた一矢は子供達の頼みを了承して翔と共に子供の手を引きながら作業ブースへ向かう。

 

(0から始まって今に至り、そして未来へ繋がっていく……か……。人の生き方ってそういうのなのかもしれないな)

 

 翔と共に作業ブースで子供達に自分なりにガンプラを教えながら人知れず一矢は感慨深そうに考える。翔とシュウジから繋がって今、自分がいる。もしかしたらこの先の未来、下手をすればこの中から自分に続く存在が、新たなガンダムブレイカーが現れるのかもしれない。そうでなくてもここで培った経験が新たな自分に繋がるのかもしれないとそんな事を想いながら一矢は不器用なりに教えるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この瞬間にこそ得られるもの

「どうしたよ、黙っちまって」

「そうよ、三十年越しの悲願達成じゃないの」

 

 大盛況であったGGF博物館も今日はもう閉館の時間となり、ユウイチ達は夕陽によって茜色に染まった空の下で帰路についていた。しかしユウイチは先程から喋る様子はなく押し黙っており、気になったマチオとミヤコが声をかける。

 

「うーん……クリアして嬉しかったんだけど……なんていうのかな……」

 

 翔と一矢のバトルの間に行われていた本来のミッション。

 ミヤコの言葉通り、かつては挑戦する事も出来なかったステージを、しかもクリアすることが出来て、確かに嬉しくはある。だが、それでもユウイチの胸の内には何か妙な違和感があった。

 

「三十年前に最終ステージをクリアしていて、今日それを思い出すのと今のこの気持ちは多分イコールじゃないよね」

「んん? まあ、そうかもしれねえな」

 

 それは今の胸に抱えるこの想いについてだ。物事の見方は年数を経過すれば変わってくる。例えクリアした、という結果があったとしても昔と今では感じ方は違う。ユウイチの呟きに僅かに考えたマチオは同意する。

 

「過去に残した特別な想いは大人になってからじゃ取り戻せないんだね」

「来ない方がよかったか?」

「いや、そんなことないよ」

 

 夕陽に照らされる川の流れを見つめながらどこか物寂し気に話すユウイチに苦笑しながらマチオが尋ねると即答で否定する。今回、GGF博物館に来てよかった、心からそう思えているのだから。

 

「今日みんなで一緒に味わったこの気持ちはやっぱり今日しか得られないものだ」

「クリアできなかった昔を思い出すのも、俺はそんなに悪くないと思うぜ」

 

 かつてマチオとミヤコと共に挑んだGGF。だが今日は一矢も加わって新たな楽しみ方があった。今日と言う時間を過ごして得られたこの想いはかけがえのないものだ。それに昔の苦い思い出も何も悪い事ばかりではないとマチオは口にする。

 

「……そうだね。それもクリアしてたら味わえないやっぱり特別なものだ」

「なーにそれ。結局何でも良いんじゃないの」

 

 マチオの言葉に頷きながら改めて今日、GGF博物館に訪れて良かったと心からそう思える。もっともミヤコはそんなユウイチの言葉にからかうような笑みを浮かべているが。

 

「苦い思い出も苦いなりに良いもんだね」

「人生ってのはそういうもんさ!」

 

 そんなミヤコに苦笑しながら、ユウイチは過去の自分に想いを馳せるとマチオは頷きながら豪快に笑う。

 

「一矢君、今日は付き合ってくれてありがとう」

「……いえ、こちらこそ誘っていただいて本当にありがとうございます」

 

 今まで大人たちの会話に入らぬようにしていた一矢に声をかける。

 今日は我儘を言って一矢に付き合ってもらったのだ。一矢も当初はユウイチとの距離感をどうすべきか悩んでいたが、それも最初だけであり途中からそんな事は完全に頭から消し飛んだ。

 

「……良かったら、その……また誘ってください」

「勿論さ。こういうのも案外悪くないかもね」

 

 それどころか一矢はまたユウイチとのこういった機会を望んでいるのだ。

 ユウイチも一矢と同じ思いなのかクスリと笑いながら頷く。今後男二人だけで、何ていうのもたまには良いのかもしれない。

 

「さ、遅くならないうちに帰りましょう」

 

 そんな姿を見ながら人知れず微笑んだミヤコは促す。自分達には帰る場所がある。特にユウイチには帰りを待つ者がいる筈なのだから。

 

 ・・・

 

「ゴメンロボ太、遅くなっちゃった!」

 

 彩渡商店街のトイショップの入り口から来店を知らせるドアベルが鳴り響くなか、ミサが慌てた様子で帰ってくる。かなり盛り上がった女子会。ついつい時間を忘れてはしゃいでしまっていた。

 

「いやあ凄いよ、ロボ太君。こんな売り上げは初めてだよ!!」

 

 しかし店に戻って来たミサが見たのはロボ太とその隣に立つユウイチの姿だ。そんなユウイチは売上伝票を見ながらテンションが高くほくほく顔だ。

 

「どうしたの?」

「ロボ太君がこの店始まって以来の売上額を達成したんだ」

「なんだってぇ!?」

 

 こんなに上機嫌な父の姿を見て、何かあったのか尋ねるミサにユウイチは満面の笑みを浮かべながら、その訳を話すと史上最高の売り上げを叩きだしたと言うロボ太の手腕にミサは驚愕してしまう。

 

「ありがとう、これバイト代。カドマツさんによろしくね」

「ロボ太、店番できるのか……」

 

 働いた分の報酬はちゃんと払わねばならない。ユウイチは金の入った給料袋をロボ太に手渡していると、その光景を眺めながら呆然とミサは口にする。もっともロボ太に店番を押し付けたような人間の発言とは思えないが。

 

「さて聞かせてもらおうかな?」

 

 すると先程まで上機嫌で満面の笑みを浮かべていたユウイチではあったのだが、ミサに真顔で向き直ると何かあったのかとミサは「ん?」と思い当たる節が無いようで首を傾げている。

 

「なんでロボ太君が店番をしていてミサが今頃帰って来たのかを」

「ぎゃーー……」

 

 眉を寄せてミサを見据えるユウイチ。それだけで彼が怒っているのが分かる。するとユウイチから放たれた言葉にミサは力ない悲鳴を上げる。

 

 “その日の晩ごはんはとても苦かったのだ。二度と思い出したくない”と後にミサは語る。

 

 ・・・

 

≪一矢ぁっ! 父さんにおーこーらーれーたぁっ!!≫

「……ミサが悪いじゃん」

 

 夜の闇のなか煌めく星空を一矢は自身の部屋の開けた窓から壁に寄りかかって眺めながら電話をしていた。その相手はミサであり、こってり絞られたのだろう。涙声を交えながら叫ぶミサに顛末を聞いた一矢は嘆息する。

 

≪そー言うのが聞きたいんじゃない!≫

「……じゃあ何が聞きたいの?」

≪慰めてぇぇ……≫

 

 自分でも悪いと言うのは自覚している分、もう説教の類は聞きたくはないのだろう。

 とはいえでは何を話せばいいのか顔を顰めながら尋ねる一矢に電話口からすすり泣くような声と共に答えられる。

 

≪私だって行きたかったのにぃ……一矢と一緒に……≫

「……いつも一緒にいるじゃん」

 

 元々、自分が悪かったとはいえお台場のGGF博物館に行けなかった不満から店番をほっぽり投げてイラトゲームパークに向かった。自分だってGGF博物館に行きたかったのだ、他でもない一矢と。

 しかし一矢からしてみれば、この夏休みはガンプラバトルなどでいつも一緒にいるようなものなので別に一日くらい良いではないかと思ってしまう。

 

≪そういうんじゃないんだけどな……。一矢の鈍感≫

「は?」

≪……もう良いや。おやすみ≫

 

 しかしミサが望む言葉はそうではない。

 恨めし気に放たれた言葉に一矢が顔を顰めるなか、ユウイチに怒られたと言う事もあって脱力したような声と共に電話を切られてしまう。

 

「……何なんだよ」

 

 一方的に切られてしまった電話。携帯端末を見やればホーム画面が表示されており、一矢はミサの反応が分からず、首を傾げるとそのままベッドに倒れる。

 

 ベッドに倒れた一矢はのまま作業にも使っている机を見やる。

 そこにはゲネシスブレイカーに組み込まれたフレームと同じ……いや、更に精巧に作られたフレーム状態のボディが置かれていた。

 

 今日の経験で良いインスピレーションを受けた一矢は最高の気分のまま、このボディに装着するパーツ作りに手を付けようとしていたのだが、今のミサとのやり取りで心に靄がかかってしまった。

 

 自分はなにかしてしまったのだろうか?

 いくら考えたところで答えが出ない。一矢は逃避するに目を瞑るのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

JUST COMMUNICATION…?

 ──私はトイボット 玩具ロボットである。

 

 ハイムロボティクス商品開発室で初めて起動したことを覚えている。

 右も左も分からぬ若輩ながら彩渡商店街のとある玩具店にて【ロボ太】というパーソナルネームも授かった。

 ロボットであることをそれとなく主張しつつ古風な響きで大人の覚えよく、短くて子供にも覚えやすいなかなかの名前だと思う。これが製造番号のまま呼ばれていたら私の毎日は今より色あせたものだったのかもしれない。

 

 名を授かり、それと同時に主と出会い多くの強敵とガンプラバトルを戦う日々……。

 ヒトと共に遊ぶために作られたトイボット冥利に尽きると言うものだ。

 

 

 

 ──しかし……私は知っている。

 

 

 

 この素晴らしき日々は永久に続くものではないということを。

 ヒトはいつしか大人になり玩具からは卒業していくということを……。

 

 

 ・・・

 

「おらおらー! 悪い敵はいねえがーっ!? 出てこいやコラァーッ!!」

 

 今日も今日とてイラトゲームパークにてガンプラバトルを行っている彩渡商店街ガンプラチーム。しかし今日のミサはえらく荒れており、バトルが開始されたからというもの鬼のような言動と荒々しさをもって次々に現れるNPC機達にぶつかっていく。

 

≪……頭でもぶつけたのか?≫

「そんなんじゃない!」

 

 あまりに荒れているミサを見かねてロボ太が通信を入れると不機嫌さを隠さずに答える。

 

≪どうした、そんなにイライラして≫

「昨日、父さんに怒られた。店番サボっただけなのに……」

≪ミサが悪い≫

 

 ではなにがあったのだろうか。何かあるのであれば力になろうとロボ太が原因を探ると、どうやら先日、ロボ太に店番を任せてイラトゲームパークで女子会をしていた事をこっぴどく叱られたらしく、ぶすくれながら答えるミサに内容が内容なだけあって即答でロボ太に切り捨てられてしまう。

 

「なんだよもぅ! ロボ太もそっち側か!」

≪そっちとは何時の方向だ?≫

「方向じゃない! 父さんの味方なのかってこと!!」

 

 バッサリと言われてしまったので今度は矛先がロボ太に向かってしまう。

 だがロボ太も天然じみた返答をすると、ズッコケそうになりながらも吠えるように問いかける。

 

≪そもそも店番という役目を放棄したのだ。罰を受けるのも仕方あるまい≫

「大人の意見か! そんなことは聞きたくない! 花も恥じらう17歳が大人しく店番なんてしてられるかー!!」

 

 別にこの場合、どちらかの味方と言うわけでもないし至極真っ当な意見なのだが怒りの収まらぬミサはさながら駄々をこねる子供のように叫んでいる。

 

「大体、一矢は鈍感だしさ!」

「……またそれかよ。だから何なんだよ」

「一矢にはもう少し女心ってのを理解してほしいってこと!!」

 

 今度の矛先は一矢に向けられる。どうにも先日の電話のやり取りがまだ根に持っているようだ。しかし鈍感だと言われたところで意味の分からない一矢は顔を顰めながら不機嫌そうに尋ねるが、それをわざわざ説明する事は出来ないのか、遠回しながら言い放たれてしまい首を傾げる。

 

「どうせ後少しで呑気に遊んでられなくなるのにさー」

≪む……?≫

 

 今は時間があるのだ。だが何れはこんな風に自由でいられる時間はなくなってしまう。その事に触れるミサにロボ太が反応する。

 

「来年の今頃は受験勉強かぁ……。あぁ……辛い時が見える……」

「人間の知恵はそんなもんだって乗り越えられ……るかなぁ……」

 

 そう、彼はまだ学生の身。いつまでも遊んでいる訳にはいかないのだ。これからの事を考えて憂いているミサに先程まで彼女と剣呑な雰囲気すらあった一矢は頭の片隅に追いやっていた現実を突き付けられ項垂れてしまっていた。

 

 ・・・

 

 如月翔が住んでおり、そして今では異世界の住人達が揃って居候しているこのマンションの一室。リビングではリーナが窓から差し込む輝く太陽の日差しを浴びながらソファーで雑誌を読んでいたが、ふと何かを考えるように窓を見やる。

 

「どうかしたのかしら、リーナ」

 

 しばらく窓から見える空を眺めていたリーナに気づいたレーアが声をかける。手には人数分のコップと飲料水などが載ったトレーがある。リブングから遠巻きにルルやヴェルとカガミの話し声が聞こえており、今から昼食をとるところだ。

 

「……私とお姉ちゃん達が初めて出会ったのはこのくらいの季節だったかな……って」

「そう言えばそうね」

 

 リーナが翔達と出会ったのはパナマ。確か季節は夏だったはずだ。あそこでちゃんとお互いを知り合ったわけではないが戦場で接触した。

 あれから年月も経ち、レーアは懐かしみながらテーブルにトレーを置き、後から簡単な昼食を作り終えたルル達三人が料理を持ってくる。

 

「……私は空っぽな人形だった。でも今は違う……。今のは私は心から笑う事も泣く事も出来る。それはお姉ちゃん達に出会えたから。感謝してる、私の心を満たしてくれたことを」

 

 かつて触れたようにリーナはかつて代わりを求められた人形であった。空っぽであった彼女はさながら殺人マシーンのように戦場でその猛威を振るったが、今では違う。今は心から言う事が出来るのだ。

 

「それは私達も同じことよ。どんな理由であれあなたが生まれて来てくれたことを感謝してるわ。これからもアナタの人生を……そうね、アナタの良いパートナーが見つけられるのを楽しみにしているわ」

 

 だがそれはレーア達も同じ事だ。リーナがいたからこそ感じた事も考えた事もある。ハイゼンベルグ姉妹の真っ直ぐな言葉にヴェルやカガミ達も互いの顔を見合わせてクスリと笑う。

 

「……そうだ、その事なんだけど……。私もあれから恋のことを調べてみたんだ」

 

 ふとレーアの言葉に何かに気づいたリーナは声を上げると、何だろうとレーア達は僅かに首を傾げる。恋について知りたがっていたのは知っているがわざわざ調べる事ではないと思うのだが、折角なのだからとその後の言葉を待つ

 

「愛し合うと性行為をするんだよね、この雑誌に載ってるみたいに」

 

 レーア達の背後に落雷が落ちる。

 衝撃的な言葉と共にリーナから先程まで彼女が何気なく読んでいた雑誌を向けられる。その雑誌とは成人雑誌。俗に言うエロ本であった。

 

「色あせない熱い想いを身体中で伝えるんだよね? その肩を温めるように抱くんだよね?」

「リ、リリリリ、リーナぁっ!? そんな雑誌をどこでぇっ!? 買ったの!? 買ってきてしまったのかしらぁ!?」

「おおおお、落ち着いてください、レーアさん!! ひっひっふー! ひっひっふうぅぅぅぅぅ!?」

 

 どこまで無垢な表情でエロ本を向けてくるリーナと相対しているレーア達はよもやこんな行動をとるとは思っていなかった為、錯乱しており、リーナに問い詰めるレーアにグルグルと混乱しながらルルは静止している。

 他にもヴェルはあわあわと慌てふためいており、カガミに意見を求めようとするがカガミは石のように固まって一ミリも動かない。

 

「この雑誌ならこの家に隠されてあった。恋をすればこういった行為をするんだよね」

「そ、それ以上読むのは良くないと思うなぁっ! リ、リーナちゃんにはまだ早いしね? だからまじまじと読むのはやめてぇぇぇ!!!」

 

 錯乱しているレーア達を知ってか知らずかこの雑誌の出所を明かしながらペラペラと雑誌を読んでいるリーナにそんな姿は見たくないのか、ヴェルは顔を真っ赤にしながら引っ手繰るようにエロ本を取り上げる。

 

「誰がこんな雑誌を……まさか……」

「翔君……もしくは……シュウジ君……?」

 

 ようやく我に返ったカガミはこの雑誌を買って来たであろう人間について触れる。少なくとも今この場にいる女性陣ではないのだ。であれば今この家に長くいる男2人しかいないだろう。

 

「……どっちにしろ……で、でもこういうのが好みなんだよね……!? これがもしシュウジ君のだったら……!?」

「か、考えたくはないけれど翔だって男性なのだから、興味があっても不思議ではないのよね……!?」

 

 ペラとリーナから取り上げたエロ本を捲りながら、その内容を見て顔を真っ赤にするヴェル。その呟きに、これがもし想い人の好みなのであればと、レーア達もヴェルが持つエロ本を中心に囲みながらゴクリと息を飲みながらその内容に目を通す。

 

「……結局、恋ってなにをするの?」

 

 顔を真っ赤にしながらこれがもし想い人の好みなのだとしたらと悶々としているレーア達の姿を見ながら、答えの得られなかったリーナは黙々とヴェル達が作った昼食を一人食べ始めるのであった。

 

 ・・・

 

「そう言えばシュウジ……。お前、給料は何に使ってるんだ?」

 

 ところ変わってブレイカーズ。翔はショーケース内のプラモデルの整理をしながら近くで品だしをしているシュウジに声をかける。働いている分、ちゃんと給料を渡してはいるが、その使い道はどうしているのだろうか。

 

「基本、たまに一矢達に奢ってやるかくらいっすかね。あんまり使い道はねぇんで」

 

 これまでも何度か一矢達に奢ってはいるが、その理由はやはりこの世界の金なのでこの世界でしか使い道がないと言うのが大きな理由であろう。

 

「あっ、でもこの間、エロ本を買いました」

「は?」

「いや俺達の世界じゃ物珍しいんですよね、紙ってのが。なんだかあのアナログな感じに惹かれて他の雑誌と一緒に買いました」

 

 しかしその後、何気なく放たれたシュウジの言葉にショーケース内を弄っていた翔の動きが止まり、怪訝そうにシュウジを見ると彼は軽く笑いながら答える。その口ぶりから内容どうのと言うより、単純な物珍しさから買ったようだ。

 

「……買うのは自由だが、レーア達の目の届く場所にないだろうな? 特にリーナには悪影響になる可能性が……」

「そりゃ俺だってそこら辺の気は使いますよ。リーナに変な知識を覚えさせたらレーアさんどころか他の奴らにも殺されそうですし」

 

 一瞬、頭が痛くなるのを感じながらそこはあくまで個人の自由と割り切り、それでもまだ自分にとって幼いリーナに悪影響にはならないようにと尋ねる翔にシュウジもちゃんと隠していると堂々と答える。まぁ、そのリーナにはもう既に見つかっている訳だが。

 

「って言うか、お前にはヴェルがいるだろ……」

「……ヴェルさんってガードが固いし、そういう流れに持ってくのが難しくて……。お陰でまだキスも出来ちゃいねぇ」

 

 いくらアナログ感に惹かれたからと言って彼女がいるのだから不必要だとは思うが、付き合ったからと言って、すぐに何でもできるわけではなく、シュウジはどこか遠くを見ながら答える。

 

「付き合ったらゴールって訳じゃないんだな……」

「……寧ろ始まりでしょ。翔さんだって相手が見つかりゃ分かりますよ」

「……あぁこのことに関してはお前や一矢君の方が先輩だな」

 

 そんなシュウジの姿を見て、悶々とした日々を送っているのを感じ取った翔の呟きにシュウジはぼやくように答えると、翔も似たように答える。

 もっともこの二人はまさか女性陣が自分達のどちらかがエロ本を買って、そういった性癖があるのかと自分に照らし合わせて妄想しているなどと思いもしていないわけだが。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コンプレックス

「やはり今すぐこの成人雑誌の持ち主をはっきりした方が良いと思うわ」

 

 リビングでは例のエロ本を巡っていまだに会議が続いていた。

 テーブルの中心にエロ本が置かれ、レーア、ルル、ヴェル、カガミで四方に囲んでいるとレーアが口火を切る。

 

「内容はアブノーマルなものではないですよね。精々、巨乳だのなんだのって……」

「……そうですねー。ヴェルさん達にとって巨乳は普通ですよねー」

 

 先程、内容に目を通したため、おおまかな内容は把握しているヴェルはこれが特殊な性癖の持ち主が購入するような内容のエロ本ではないことを口にすると、ルルは一人、ヴェル達のとある部分を据わった目で見つめながら無機質に口を開く。

 

「……しかし、今すぐと言ってもどうするおつもりですか?まさか今からブレイカーズにこの雑誌を持ち込んで、あの二人に尋ねるつもりですか?」

 

 このエロ本の持ち主が気になるのは共通しているのだが、そこにカガミが待ったをかける。日中のこの昼下がり、このエロ本だけを持って行ってあの二人に突きつける絵面を想像すると非常にシュールであり、普通に考えてもなにやっているんだと言うレベルの話になってしまう。その事にレーア達は押し黙ってしまう。

 

「……少し散歩してくる」

 

 そんなレーア達の姿を傍から見テイタリーナは静かに立ち上がると、短く声をかけて返事を待たずしてすぐに家から出て行ってしまった。

 

 ・・・

 

(……何だか悪いことしたな)

 

 マンションを出たリーナは宛てもなくブラブラとただ歩いていた。まさかレーア達があの雑誌一つであそこまで取り乱すとは思っておらず、別にリーナ自身としてあの雑誌の持ち主が翔かシュウジかはどうでも良いのだが、あぁなってしまった以上はあの二人も巻き込んだ騒ぎになるだろうと思うと申し訳なく感じてしまう。

 

(……恋、か)

 

 そうしているうちにリーナは駅前に辿り着いていた。近くには駅やタイムズ百貨店に出入りする人間の姿が見える。そんな中、リーナは近くのベンチに腰掛けながら何故、今になって自分が恋などという感情に興味を持ち始めたのかを考え始める。

 

≪なんとつい先日、結婚したばかりの明日野夫妻が第一子を授かったというニュースが飛び込んできました!≫

「……」

 

 ふとリーナの耳にタイムズ百貨店の小さな街頭テレビに流れているニュースが聞こえてくる。どうやらこの世界の著名人が子供を授かったとのことだ。

 

(……どこまでいけば、ヒトになれるのかな)

 

 ニュースを聞いたリーナは俯き、暗い表情を浮かべてしまう。

 リーナはクローンとしてその生を受けた。子供が遊び相手の役割として人形を買ってもらうように、自分はシーナの代わり、として作られた。

 

 生まれてからすぐに父であるヴァルターから半ばその価値が無価値であると判断されたリーナはそれでも父の為にと、戦争に身を投じた。だからこそ自分は戦いにこそ精通していても、それ以外の事は何も知らない。戦争が終わり、軍を退いた今、レーアと過ごしていても目に映るものすべてが新鮮に映る。

 

 ……想い人に思いを馳せるレーア達の姿をもだ。

 

 あれこそが人間としてあるべき姿なのかもしれない。でも自分にはまだ実感がない。

 レーア達は自分を人間扱いしてくれる。だが、どこまで行ったところで自分が作られたクローンという存在という事実は変わらない。

 それがずっとリーナの根元にコンプレックスのような形で根を張っているのだ。だからこそ自分と言う存在が周りから浮いているように感じてしまうのだ。

 

【あの人の為じゃなく……貴女は貴女の生き方をすれば良い】

 

【貴女があの男の笑顔が見たいのなら……私は貴女の笑顔が見たいわ】

 

 かつてレーアに言われた言葉がある。あの時は自分の生き方など分からず、その事を口にすればレーアは一緒に探す?と提案してくれた。勿論、嬉しかった。生きている人間の愛を間近で触れ合う事が出来たのだから。

 

 だがあの時、レーアが言った自分の生き方は見出すことが出来ていない。どうすれば自分はクローンではなく、一人の人間、リーナ・ハイゼンベルグの生き方を見いだせるのだろうか。

 

 レーア達の姿を見ていると恋はその一つの要因に思えてくる。きっと恋を知れるのであれば、自分は作りものではなく人間としての生き方を見出せるのではないか、そんなことから恋に興味が湧いたのだ。

 

(……戦っている時の方が楽……なんて考えるのはおかしいよね)

 

 こんなこと、レーア達と出会う前の空っぽな人形の時の自分なら考えもしなかった。あの時はただ目の前の立ち塞がる敵を破壊すれば良いと考えていた。それこそが父に報いる存在理由だと考えていた。だが今は違う、レーア達に出会った以上、今の自分はそんな単純な生き方はもう出来ないのだ。

 

 

「──!」

 

 

 どうすれば自分はクローンとしてのコンプレックスを取り除いてリーナ・ハイゼンベルグという人間として胸を張れるのか考えていたリーナだが不意に背後に自身に迫る気配を感じて反射的に振り返り、自身に伸ばされた手を掴んでそのまま捻る。

 

「あだだだだだぁっ!!? ギブギブッ! いたいからぁっ!! 風香ちゃんの可愛さに傷がつくぅぅっ!!!?」

「アナタは……!?」

 

 振り返ったそこには風香の姿があった。リーナに力いっぱい腕を捻られた事もあって悶絶している風香にリーナは驚きながら掴んだ風香の手を離す。

 

「あぁもう見知った顔がいると思って声をかけようとしたらこれだよ……。風香ちゃんの可愛さが罪だからって攻撃的になるのは良くないと思うなあ……」

「ごめん……」

 

 解放された風香は捻られた手を摩りながら恨めしそうにリーナを見ると、無意識とはいえ痛めつけた事にリーナは申し訳なさそうに謝る。

 

「まあ良いけどねー。それでどったの? 風香ちゃん並とは言わないけど、可愛い子が暗い顔してさー」

「別に……」

 

 

 とはいえ特に根に持っている訳もなく風香は打って変わってあっけらかんとした様子で隣に座りながら、こんなところで何をしているのかを尋ねるが、リーナは話す事でもないとはぐらかす。

 

「何か抱えてんのは見え見えなんだけどなー。ほーら吐いちゃえば楽になるよー?」

「ちょっと……!」

 

 だが風香はどうやらリーナに内に抱えているものを彼女自身の能力で察しているようだ。そのままリーナを横から抱きしめる風香にリーナは振り解こうとするが、風香は話すまでは絶対に離さないとばかりに抱きしめるのであった。

 

 ・・・

 

「なあ、どう思う?」

 

 ここはカドマツの自宅。エンジニアの立場もあって自宅にはサーバーや資料だけではなく立体映像をモニターとして利用したパソコンなどが行われている仕事部屋でカドマツは神妙な口調で尋ねる。

 

「休みに突然、自宅に呼び出して……。やることはトイボットのログ解析かよ……!」

 

 ……のだが、その相手となるモチヅキは机に腰掛けて、なにやら期待していた事もであるのだろう。眉間に皺を寄せて握り拳を作りながら恨めしそうな様子でぶつくさと呟いている。

 

「ん? なんだと思ってたんだ?」

「え!? いや……その……っ!!」

 

 とはいえ別に他に他意があったわけでもないカドマツはそれ以外に呼び出す理由でもあるのだろうかと不思議そうに再び聞いてみるが、半ば独り言のようなものだった為に狼狽えてしまっている。

 

「トイボットのログ解析だよ!」

 

 いざそんなことを聞かれてしまっては自身がこの家に来るまでに期待してしまった事を素直に明かすわけにもいかず、半ば自棄になったかのようにカドマツの問いかけに答える。

 

「だったら良いじゃねえか。なんで怒ってんだよ」

「別に怒ってねーよ!」

 

 モチヅキの外見も合わさっての子供のような態度に苦笑しながら宥めようとするカドマツ。しかしモチヅキは拗ねたようにそっぽを向いてしまう。

 

「そうか、んじゃ続けるぞ。最近、ロボ太の思考ログに頻繁に表れる単語があってな。第三者の意見が聞きたいんだ」

 

 程ほどにモチヅキを呼び出した理由を話し始める。

 その様子は面白いものを発見したとばかりに興味津々な様子で立体映像にロボ太の思考ログを表示させる。

 

「【自己】【存在理由】【理想】【現実】」

「……思春期?」

 

 ロボ太の思考ログに頻繁に表れる単語を読み上げて行くカドマツだがその内容を聞いたモチヅキは用意された飲み物を口にしながら、多感な時期である思春期を思い浮かべる。

 

「なんてこった! 俺が作ったAIには思春期が来るのか! やはり天才か俺」

「呑気か!もうちょっと真面目に考えろ!」

 

 モチヅキが思い浮かべたロボ太に今、起こっている状況に何やら喜んだ様子で自己陶酔までし始めるカドマツだがモチヅキは素早くツッコミを入れる。

 

「もし仮にこれが人間の思春期みたいなもんだったとしたら自分と他者との関係を強く認識し始める筈だ。他者を見て自己を認識し、自分がどんな存在でどうなりたいのかを考える」

「なにが言いたいんだ?」

 

 何処か深刻そうにカドマツに真剣な様子で話し始めるモチヅキだが、一方カドマツはロボ太の思春期を喜ばしいものだと感じていたため、言っている意味がピンと来ず、その真意を尋ねてしまう。

 

「ロボットは最初から役目を持って作られるんだぞ。自分はどうありたい、なんて考えても仕方ないだろう。トイボットはトイボット以外になれない。なったら商品として大問題だ」

「トイボット以外、か……」

 

 思春期どうのこうのと言う以前にロボ太はハイムロボティクスが開発中のトイボットだ。当然、トイボットとは玩具用ロボットの為、これが人間の多感な思春期などを引き起こしては商品として成り立たない。そんなモチヅキの言葉に先程とは一転して神妙な様子で顎先を撫でながら考え耽る。

 

「……あと、ちょいちょい出てくる【店番】【宿題】【お使い】ってなんだ?」

「あの嬢ちゃん、ロボ太になにさせてんだ!?」

 

 ロボ太について思考を巡らせているカドマツを他所に立体映像のモニターに先程カドマツが読み上げた四つの単語以外にもまだ出てくる思春期にあてはめられるものとは関係のない単語を読み上げると、基本的にミサにロボ太を任せているためにカドマツは頭を抱えるのであった。

 

 ・・・

 

 

 ──私はヒトを喜ばせるために作られた存在だ。

 

 だが私自身がこの毎日を好ましいものとして過ごしている。

 この身に過ぎた毎日をこのまま安穏と過ごして良いのだろうか。

 いずれは主殿やミサが大人になり、私と別れる日が来た時の事を考える。

 

 それはめでたいことの筈だ。

 

 ヒトの成長は素晴らしい、とデータに書いてある。

 

 

 

 

 

 ──しかしその時、私はどうなっているのだ。

 

 

 

 

 電源が落とされ、倉庫にしまわれてしまうのだろうか。

 

 二度と起動されない永遠に続くスリープ状態とはどんなものなのだろうか。

 

 あぁ……それならばいっそのこと解体されリサイクルされたほうがまだ上等ではないか

 

 

 この気持ちは何だ。分からない──。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

君は誰にもなれぬ君だから

「うーん、どーしても言いたくないってんなら風香ちゃんにも考えがあるんだけどなー」

 

 風香がリーナを抱きしめて、かれこれ数分が経った。リーナはいまだに自身の口からは己の抱える悩みは口にせず、拒否するかのように抱きしめてくる風香からは顔を背けている。頑固に感じるリーナの姿に苦笑しながら風香は彼女の耳元にそっと顔を近づける。

 

「翔さんとかに言っちゃおうかなぁ? リーナちゃんが悩みまくって悶々としてるってぇ」

「……っ!」

 

 悪戯っ子のように目を細めながら耳元で囁く風香にリーナは目を見開いた。

 

「……分かっ……た……。だから……翔達には話さないで……」

「しょーがないなぁ」

 

 翔、ひいてはレーア達に自分が胸に抱えている悩みは知られたくないし、迷惑をかけたくはない。絞り出すようにようやく口を開くと話す気になった彼女の姿を見て、しめしめとわざとらしく笑いながらリーナを解放する風香の姿を横目に恨めしく感じる。

 

「……私の生まれは特殊。……母親がいて出産……とは違う」

 

 クローンとして生まれたリーナはそもそもの生まれが普通の人間とは異なる。

 だから外見こそ風香達と同じくらいの年頃に見えるが、実は実年齢としては十歳に差し掛かるか否かという年齢だ。シーナのクローンとしてヴェルターの都合で“作成”されている時から教養は受けているもののそれでも実際に五感で感じるものについてはまだ新鮮に感じるものの方が圧倒的に多いのだ。

 

「他とは違うから。私の代わりはその気になれば“作れてしまう”から。……私は自分の命に自信が持てない……。だからこそ私は考えてしまう……。私はどうすればヒトになれるのか……どうすれば、ヒトとしての生き方が出来るのか」

 

 風香はある程度こそリーナ達の事は知っているとはいえ、あくまでクローン云々に関しては伏せたまま、それでも己の悩みを打ち明ける。

 

「……ヒトねぇー。随分と哲学的なことで悩んでんだね」

 

 話を聞き終えた風香はある程度、深刻に悩んでいたのが分かっていたとはいえ根が深いであろうこの問題に話の途中でプラプラと両足を動かしながら何気なしに口を開くと、その態度に自分で聞いてきたくせにと文句を言わんばかりにジロリと見やる。

 

「いやまあだってねぇ……。そりゃ私が可愛いってことは知ってても正しい人の生き方なんて分っかんないし。それはここにいる人達だって同じじゃん?」

 

 リーナの視線に気づいた風香は肩を竦めながら、やれやれと言った様子で周囲を見渡しながら答え始める。この駅前にいる人々にはそれぞれ自分の人生があり、自分だけの生き方をしているのだろう。それをこれが正しい、これが違うだなんて言えない。

 

「そりゃあさー。私の能力もリーナの出生も何かに決められた自分の運命なのかもしれないよ? それはどうしようもないことだけどさ。ただ受け入れるだけじゃなくて、そこからどうするか、それこそ抗うように生きる事は出来るはずじゃん」

 

 ブラブラと動かしていた足を組み直して、ベンチの後ろに両手をついた風香は空を仰ぎ見ながら話し始める。自分もかつてはエヴェイユについて、いや、読心能力に苦しみ、思い悩んでいた事がある。それでも前向きなれたのは碧や翔をはじめとした様々な人間に出会えたからだろう。

 

「リーナの代わりは作れるかもしれないよ? でも、それは代わりであって今ここにいるリーナにはなれないよね? 今ここにいるリーナはこれまでの色んな体験をしたから今のリーナなんでしょ? 出自は変えられなくてもそこからの未来は変えられるんじゃない。だってリーナはリーナだし」

 

 クローンであるリーナの代わりはまたクローンで、と言えば単純なのかもしれない。

 だがそれは今ここにいるリーナにはなれない。これまでの十年近い様々な積み重ねがあったからこそここにいるリーナ・ハイゼンベルグを形成しているのだから。

 

「良く言うよね、生まれは関係ないって。そーいうことじゃない? 少なくとも、そうやって悩んで難しい顔するって凄く人っぽいって思うけど」

 

 あっけらかんとリーナに笑いかける風香に、その言葉を聞いたリーナは何か考え込むように俯いていた。

 

「まぁ、でもでも」

 

 俯いて眉間に皺を寄せて考えこんでいるリーナを横目に見た風香は身を寄せると彼女の顎先に両手をかけて持ち上げ自身に向き直らせることで風香とリーナは至近距離で見つめ合う。

 

「うん、どうせなら笑ってた方が良いよね。そうしてれば風香ちゃん並みに可愛くなれるかもだし」

 

 そのままリーナの両頬を引っ張って笑顔を作る。強引に作ったものではあるが口角をあげたリーナを見て、風香もつられるように晴れやかな笑みを浮かべる。暗い顔をするよりも笑顔で可愛くいた方が楽しい、それが風香の持論だったからだ。

 

「さっ、こんなところでじーっとしててもどーにもならないよ」

 

 パッとリーナの頬から手を離した風香は立ち上がると、そのままスカートについた埃を軽く両手で払いながらリーナの手を掴んで立ち上がらせる。

 

「今日は風香ちゃんが色んな所に連れてってあげよう。良い刺激を受けるかもかもだしねっ」

「……そんないきなり」

「風香ちゃんも今日はOFFだしねー。今日を逃したら風香ちゃんの可愛さを独り占め出来る機会がなくなっちゃうかもしれないんだよ」

 

 いきなり立ち上がらされて唖然としているリーナだが、風香はお構いなしにそのままリーナをつれて歩き始める。流石にいつまでも自分といさせるわけにはと渋るリーナだが、風香は明るい笑顔を手を繋いだリーナに向けながらそのまま彩渡街を散策していくのであった。

 

 ・・・

 

 リーナが風香に解放されたのは夕方過ぎであった。最初こそ乗り気ではなかったが、明るく盛り上げる風香もあってか何だかんだで楽しむことは出来たのが疲れはある。マンションに帰って来たのは19時を差し掛かる時間であった。

 

「──おっ、リーナじゃねぇか」

 

 マンションのエントランスに入ろうとしたところを背後から声をかけられる。振り返ったそこには翔とシュウジの姿があり今、丁度帰って来たのだろう。

 

「一人でどうしたんだ?」

「……風香と遊んでた」

 

 見たところ今のリーナは一人のようだ。レーア達と一緒ではないかと尋ねる翔にリーナはありのまま伝える。しかしその内容に翔とシュウジは驚いたように顔を見合わせた。まさかリーナがこの世界の人間と、よもや風香と一緒に遊んでいたとは思いもしなかったからだ。

 

「「「ただいま」」」

 

 二人でなにをしていたのか、そんな話を三人でしながらマンションに帰って来た翔達は三人揃って声を上げると、室内で翔とシュウジの声にレーア達が反応する。

 

「……どうした、みんな?」

「……翔、シュウジ。アナタ達も男性なのだから仕方がないと言うのは重々承知の上で聞くわ」

 

 室内に入ったもののレーア達の様子がおかしい。「おかえり」と出迎えてくれるのだが、その言葉すらもぎこちないのだ。流石に不思議に思った翔が声をかけると、四人は互いに誰が口火を切るかと目配せしていると、一呼吸したレーアが重い口を開く。

 

「……この雑誌の持ち主はどちらなのかしら?」

 

 するとレーアは傍らに置いていた例のエロ本を取り出し、テーブルの真ん中に置くと翔とシュウジの二人は固まる。よもや仕事終わりにエロ本を突きつけられるとは思っていなかったからだ。

 

「レ、レーアさんの言う通り、二人とも男の子だから仕方ないって分かってるよ!?」

「で、でも一応、ね? べ、べつに私はシュウジ君でも……その……」

 

 すると今度はルルとヴェルが一応の理解を見せながら、二人をフォローするように話すがそれでもいざこの瞬間が来ると、しどろもどろになってしまう。

 

「……それでどちらなのかしら?」

 

 何とも言えない空気がこの室内を支配し、翔と特にシュウジは冷や汗をかいている。するとカガミがじろりとした鋭い眼光を二人に向けながら尋ねる。

 

「……」

 

 するとシュウジは観念したようにそっぽを向きながら、ビクビクと手を上げ、翔は「やってしまったな」とでも言わんばかりに片手で顔を覆っていた。

 

「シュ、シュウジ君……。そ、そっか……シュウジ君……なんだ……」

「すいません、ヴェルさん……。その……魔がさして……」

「ううん……その……。シュウジ君には不自由な想いをさせちゃってるとは思うし……」

 

 翔ではなかった、とレーア達が安堵するなか、どこかショックを受けているヴェルはそのままエロ本を自分に引き寄せながら呟くと流石に悪いとは感じているのかシュウジが謝り始めるが、奥手だと自覚しているヴェルは首を振りながら答える。

 

「……ところでその……そいつは……」

 

 しかしいつまで経っても、ヴェルはエロ本を胸に抱いたまま離すことはなく、流石におかしく思い始めたシュウジが尋ねると……。

 

「いや……その……後学のために私が持っておこうと……」

「後学!?」

「い、いざと言う時にシュウジ君に不自由な想いをさせたくないしねっ!? 大丈夫! 私がちゃんと勉強しておくから!! 私がリードするからぁっ!!」

 

 エロ本を手放さないのには理由があったようだ。その理由を聞いて唖然とするシュウジに顔を真っ赤にして慌てふためきながらヴェル自身でも良く分からないことを叫ぶ。

 

「……頭痛くなってきた。ここでやってくれるなよな……」

 

 混乱しているヴェルと何とか宥めようとするシュウジを横目に呆れるようにため息をついた翔は冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出そうと手をかける。

 

「……ん?」

 

 しかし不意に自身の裾を掴まれ、振り返ってみればレーア、ルル、カガミの三人がどこか頬を染めながら立っていた。

 

「あれがシュウジの物だという事は分かったわ」

「でも、翔君だって持ってるんだよね……?」

「……出来れば、見せて頂ければ」

 

 しかもよりにもよって思いもしなかった言葉が三人の口から放たれ、翔はミネラルウォーターを持ったまま固まる。

 どうやらエロ本を巡った騒動のせいでレーア達も今日はどこかおかしくなってしまったようだ。ここに風香やあやこも加わっていればどうなっていることやら。

 

「……いや、なぜわざわざ見せなくちゃ……」

「後学の為……かしら」

「後学!?」

 

 だがその辺りはあくまで自分のプライバシーだと言う事でそっとしておいてほしい。だがレーアの言葉に翔も唖然としてしまう。

 

「……ふふっ」

 

 あちらこちらで騒ぎとなっている状況を見て、リーナは思わずクスリと耐え切れないように人知れず笑ってしまう。

 

(これを面白いって感じるのは今の私だからなんだよね……。だったら私は……私が感じるままに生きよう。それがきっと正しいかどうかわからなくたってヒトの……私の生き方なんだと思うから)

 

 傍から見る分には中々愉快な光景となっている今の状況。そんな光景を見ながらリーナは風香とのやり取りを思い出しながら考えに耽る。クローンという出自は変わらないのかもしれない。だがこうやって今の自分だからこそ感じられるまま生きて行くことこそがヒトの生き方と考えるのなら少しは靄も晴れる気がするのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

楽しさの中に込められた想い

「よーし、今日も頑張っていこうーっ!」

「……ん」

 

 今日も今日とて彩渡商店街ガンプラチームはガンプラバトルを行っていた。

 モニターに軍事基地内を模したバトルフィールドの光景が広がるなか、景気づけにミサが声かけると一矢は言葉短めに返事をする。

 

「……ロボ太?」

 

 しかしいつまで経ってもロボ太からは返事がなかった。声かけをすれば率先して応じる筈のロボ太だが、いつまでも返事がない。怪訝に感じたミサが通信を入れると……。

 

≪……うむ? いや大丈夫でゴザル≫

「ゴザル!?」

 

 ミサの呼びかけに我に返ったのか、返事をするロボ太がその口調は騎士の見た目に反してのものであった。初めて聞いたロボ太の語尾に一矢達は驚き、ミサは素っ頓狂な声を上げる。

 

≪あ……いや大丈夫だ! なんでもない!≫

 

 驚いている一矢とミサの反応を見て、まずいと感じたのか慌てて取り繕いながらこれ以上の追及はないようにとバーサル騎士は先陣を切って、NPC機達へ向かっていき、残されたゲネシスブレイカーとアザレアリバイブは顔を見合わせるのであった。

 

 ・・・

 

 しばらくバトルを続けていると、レーダー上に表示されていたNPC機達が瞬く間に消滅していく。一体、なにがあったのか、もしかしたら他のプレイヤーが現れたのか、ゲネシスブレイカーはすぐさま最後に反応があったポイントへ向かう。

 

「あっ……いた!」

 

 NPC機達を破壊したであろう機影を見つけたミサは声を上げながら、アザレアリバイブで指差せばそこには跪いて動かないウイングガンダムゼロの姿があった。

 

「……どこかでバトルをしていれば……会えると思ってた」

「アンタ、確か……」

 

 ウイングゼロを操るガンプラバトルシミュレーターにいたのはリーナであった。

 その口ぶりから派手にNPC機達を破壊して一矢達を待っていたのだろう。一矢達はまんまと陽動させられてしまったわけだ。通信越しで聞こえるリーナの声に一応の面識がある一矢達は驚く。

 

「今のガンダムブレイカーを……今の私に感じさせてほしい」

 

 今、この瞬間だけは何も考えず、感じるままに生きたい。きっとそれこそが自分の考えるヒトの生き方だと思うから。

 だからこそ自分に初めて温もりを灯したガンダムブレイカーのその新たな新星の力を感じたい。ゆっくりと立ち上がったウイングゼロは左右のウイングに収納されたツインバスターライフルを両手に装備すると、ふわりと浮き上がりゲネシスブレイカー達を待ち構えるかのように翼を広げる。

 

「やる気満々みたいだな」

「じゃあ、早速行ってみよう!」

 

 あまりにも美しく堂々たるウイングゼロの姿を見てニヤリと楽しそうな笑みを浮かべる一矢とミサは早速飛び出し、遅れてロボ太のバーサル騎士も後を追う。

 迫るゲネシスブレイカーとアザレアリバイブに出力を調整して連射性を高めたツインバスターライフルを発砲して牽制するが、一矢達は難なく回避してウイングゼロへ距離を詰める。

 

 しかし一人とはいえ相手はリーナだ。

 すぐに牽制の手段を変え、ツインバスターライフルの威力を上げるとゲネシスブレイカーとアザレアリバイブの前方に着弾させることによって爆風と破片を巻き上げ、ゲネシスブレイカー達の動きを鈍らせるとすぐさま飛び出しながら左右のウイングにツインバスターライフルを収納し、マシンキャノンを発射する。

 

 ただやみくもに弾をばら撒く様な撃ち方ではなく、関節やスラスターといった機動性を損なうような個所に狙ったマシンキャノンの弾丸はゲネシスブレイカー達の動きを妨害させ、あっと言う間に近づいたウイングゼロはビームサーベルとウイングを薙ぎ払うように叩きつけ、ゲネシスブレイカー達はあっと言う間に吹き飛ばされる。

 

「やるな……。やっぱり翔さんの知り合いだからか?」

「うん、ずっとバトルをしてたいくらいだよ!」

 

 物の数分で実力差を見せつけたリーナだが、それでも一矢達は強敵の出現にガンプラファイターの誇りが疼いているのか、楽しそうに声を弾ませるとミサのずっとという言葉にロボ太が反応する。

 

≪……主殿≫

「……ん?」

 

 再びバトルを続けようとした矢先、不意にロボ太から一矢に通信が入る。特に指示を仰ぐわけでもない神妙な様子に不思議に思いながらロボ太の言葉を待ち、リーナも動きが止まった三機を見て、なにかあったのかと動きを止める。

 

≪主殿はこの先もガンプラバトルを続けるのか? 今のように毎日のようには無理かもしれないが、その……週に一度……いや、月に一度……≫

「いきなりどうしちゃったの?」

 

 いきなり深刻そうな話を振られて反応に困っている一矢。それはミサも同じようで、今日ずっと様子のおかしいロボ太に通信をいれる。

 

≪ミサはどうだ? ずっとガンプラバトルを……≫

「そんなの分かるわけないでしょ、来年受験だし。もー……やな事、思い出させないでよ、盛り下がるなぁ」

 

 先程の問いかけは今度はミサに向けられる。どこか縋るかの物言いだが、それよりもミサは目先の受験という嫌な記憶が出てきてしまった為、ロボ太の変化に気づかず、思い出させたロボ太を非難するように文句を言う。

 

≪あっ……すまない……。今の私はどうかしている……。カドマツにメンテナンスを頼んでくる≫

「え、ちょっとロボ太!?」

 

 ミサの非難するような物言いにトイボットである自分が楽しかった筈の雰囲気を壊してしまったと自責の念のようなものに駆られたロボ太はそう言い残して、一方的にログアウトしてしまいミサや一矢は唖然としている。

 

「ロボ太、どうしちゃったのかなあ?」

「……なんだろうな。俺達のこれからのことを気にしてたみたいだけど……」

 

 ここ最近、どこかギスギスしていたミサと一矢だが、流石にロボ太の様子がおかしいともなれば、いがみ合っている場合ではなく、互いにロボ太を心配する。

 

「ねえカドマツのところに行ってみない? ロボ太が心配だよ」

「……そうだな。流石に見過ごすわけにもいかないだろうし」

 

 しばらくロボ太について考えるが、答えは出ず、たまらずミサが提案すると一矢も頷き、先程までバトルをしていたリーナに悪いが今回はこれで、と通信を入れようとするが……。

 

「……私も付いて行っていい?」

「えっ……なんで?」

 

 一矢が通信を入れるよりも先にリーナから通信が入り、同行を求めるその言葉に一矢達は驚く。リーナとはあくまで面識はあるが、そこまで互いを深く気にするほどの仲ではないからだろうからだ。

 

「……アナタ達が言うロボ太……。動きがおかしかったのはバトルをしている私にも分かる。もしも何かを抱えているのであれば……私も力を貸してあげたい」

 

 先程のバトルもゲネシスブレイカーとアザレアリバイブが専横するばかりでバーサル騎士の動きは拙かった。もしも悩んで苦しんでいるのであれば、かつての自分がそうしてもらったように今度は自分が力を貸したかった。リーナのその言葉に、なら、と了承する。

 

 ・・・

 

「……もしもし」

 

 ガンプラバトルシミュレーターから出て来た一矢達は早速ロボ太が向かったカドマツの自宅へ向かおうとするが一矢の携帯端末に着信が入る、相手は夕香であった。

 

≪もしもしイッチ? あんね、今裕喜やシオンと一緒にいんだけどさ。さっき、ロボ太を見かけたんだよね≫

「お前たちが?」

≪うん、流石に周りに誰もいないトイボットがあんなに急いでどこか行こうとしてたらだと目立つし。気になって後を追っかけてんだけどさ、なんかあったの?≫

 

 それは三人で遊び歩いている夕香達がロボ太を目撃したというものであった。ロボ太だけが行動しているのを不思議に思ったからロボ太を尾行しつつ一矢達に連絡したようだ。

 

「俺達に分からない……。でも……今から知りに行く」

≪オーケー。んじゃ、アタシ達はこのまま追ってるから≫

 

 ロボ太が今、何を考え何を抱えているのかは分からない。だがそれをそのままにして良い訳がない。

 ロボ太を心配する想いを乗せながら口にすると、近くにいるミサやリーナは頷き、電話越しでもその想いを感じ取った夕香達も兄達にとって大切な存在であろうロボ太の後を追うことにする。夕香の言葉に「分かった」と口にした一矢はミサとリーナと共にカドマツの自宅へ向かう。

 

 ・・・

 

≪トイボットである私が楽しいはずの時間に水を差してしまった!≫

 

 一方、そのロボ太は夕香達に後をつけられているとも知らぬまま、カドマツの自宅へ駆け込み、仕事部屋で製作者であるカドマツの前で彼の所有品であるスピーカーを通じて懺悔するかのように先程のミサ達とのやり取りを伝える。

 

「そんなこと気にしてんのか? 作った俺が言うのもなんだがお前は本当によく出来た奴だな」

≪……作ったカドマツに言うのもなんだが……私はきっと不良品だ! 工業製品は与えられた仕事をこなさなくてはならない!≫

「まあ確かに工場のワークボットなら決められた仕事をすることこそが仕事だ」

 

 話を聞き終えたカドマツは苦笑交じりにまるで我が子を褒めるかのようにロボ太を称賛すると、ロボ太は俯き加減で首を振りながらあくまで工業製品のカテゴリに入る自分が和を乱すような事をしてしまったと思い、己を不良品とまで主張する。ロボ太の工業製品の言葉に一理はあると頷いている。

 

「でもお前はワークボットじゃない。トイボットの仕事とはなんだ?」

≪持ち主と共に楽しく遊ぶことだ≫

 

 だがロボ太はワークボットではなくトイボットなのだ。同じロボットのカテゴリでもその意味は大きく異なる。カドマツの問いかけにロボ太はトイボットにとっての仕事を答える。

 

 

「楽しければいいのか?」

≪それは違う。社会性を伴って正しく健やかに楽しまなければ! だからこそトイボットには周囲の環境を学び、自身が社会性を獲得できるように設計されている≫

 

 だがただ楽しければいい、なんて言うのはトイボットの仕事とは反することだ。それは何よりロボ太自身が一番分かっている事であり、トイボットの設計思想について話す。

 

≪持ち主と共にトイボットも成長しなければならない!≫

「そうだ、一緒に遊び一緒に学ぶ。それが俺が目指すトイボットなんだ」

 

 強くトイボットについて言い放つ。その言葉に大きく頷きながらエンジニアとしてこれまでトイボット開発にこめた想いを口にする。

 

「ヒトの世界でそういう存在をなんて言うか知ってるか?」

≪む?≫

 

 そしsて何よりそんなトイボットを人間の世界で的確に表せる言葉がある。

 それこそが何よりカドマツがトイボットへ込める理念なのだ。ロボ太はそれが分からず、カドマツをじっと見る。

 

「ともだちだ」

 

 カドマツのその言葉はロボ太の記憶回路に強く刻み込まれた──。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アナタ達がくれたツバサを広げて

「無限ループ?」

 

 夕香達と合流した一矢達は今、カドマツの自宅にいた。カドマツの仕事部屋に招かれた一矢達はカドマツから立体映像に表示されているロボ太のログを見せられ、ミサはカドマツから説明された言葉を口にする。ロボ太は今、スリープ状態となっていた。

 

「そうだ。AIが物事の結論を出そうとして順番に問題と答えをつなげていく。導いた答えで次の問題を提起し、また次の答え考えていく……。だがあるところで出した答えがすでに通過した問題を提起してしまう。すると全く同じ思考をまた繰り返してしまう」

 

 ミサの言葉に頷きながら、ロボ太のログを表示する画面をスクロールする。それはパッと見ても、同じ内容がずっと羅列されており、カドマツが言うように今、ロボ太は無限ループに陥っているのだと分かる。

 

「お前らに覚えがあるだろう? 延々と何かに悩み続ける事が」

「おやつを食べたい! でも太りたくない! でもおやつを食べたい! でも太りたくない! ……みたいな?」

「……そこまで単純な悩みじゃないけどな」

 

 カドマツの問いかけにリーナは複雑そうな表情をする。何故ならば自分が最近そうであったからだ。しかし特にそうでもないミサが例えを出すと、カドマツは思わず嘆息し、夕香達も苦笑してしまう。

 

「でも結局食べちゃうよ?」

「人間は悩むことに飽きたり疲れたりするから、途中で変化できるんだよ。でも機械は無限に同じことを続けられてしまう。放っておいたら二度と帰ってこられない」

「じゃあどうすれば良いの?」

 

 ミサの言葉に先程まで呆れていたカドマツも仕切り直しながら説明を続けると、ならば解決策はどうすればいいのかミサが尋ねる。

 

「外から刺激を与える」

 

 無限ループしてしまう機械の思考に対して、なにが解決策なのかカドマツはその答えを口にし、ミサ達は顔を見合わせるのであった。

 

 ・・・

 

「へー……これがロボ太の中か。インフォちゃんや制御AIの時とは雰囲気違うね」

≪ウイルスに侵されてるわけじゃないからな。ロボ太の機能は正常なんだ≫

 

 早速場所を変え、インフォの時同様、ガンプラバトルシミュレーターからロボ太のメモリ空間に突入した一矢達が見たのはかつてウイルスに侵されたインフォや宇宙エレベーターの制御AIの時のような毒々しさはこの空間にはなくどこまでも広がる青白く美しい空間であった。そんな空間を目にして感想を口にするミサに外部からカドマツが答える。

 

「正常なのに無限ループするの? じゃあカドマツが失敗したってこと?」

≪そんなこと言うなよ。俺だってロボ太の今のプログラムを全部把握できてるわけじゃないんだ≫

「自分で作ったのに?」

≪俺が作ったのはあの日トランクケースに入ってたあの状態までだ。それから先はロボ太自身で自分のプログラムを修正し続けている≫

 

 ロボ太が正常ならば何故無限ループするのか?

 それが解せないミサはカドマツが失敗したのでは?と考えるが、カドマツは苦笑しながら首を横に振る。しかし製作者であるカドマツが何故、今のロボ太の状態を把握出来ていないのか分からないミサの問いかけにカドマツはかつての事を思い出しながら説明する。

 

≪そうできるように作ったんだ。言ったろ、喋る事も想定外だったって≫

「そういえばそうだったね」

≪どこかにループしているプログラムがあるはずだ。それを見つけ出してくれ≫

 

 それはカドマツが意図的にそうするように考えて設計したものであった。

 故に自分で作成したとはいえ、あの時スピーカーを介して喋った事を知った時は大層驚いたものだ。あの時のカドマツの反応を思い出しながらミサは頷いていると、カドマツは指示を出し、ゲネシスブレイカー達はロボ太のメモリ空間を飛翔し、問題となるプログラムを探す。

 

「やれやれ……。妙なことに巻き込まれましたわね」

「じゃあシオンだけやめとく?」

 

 しかし一筋縄とはいかないのか、メモリ空間にプログラムがインフォ達同様に実体となって姿を現し、ゲネシスブレイカー達に襲いかかってくる。攻撃を軽やかに避けながらシオンがため息をこぼすと、夕香がからかうように声をかける。

 

「まさか。こんなところで退くなど、エレガントではありませんわ。それにわたくし、これでもロボ太を一目置いておりますのよ」

「へぇーそりゃ意外だねぇ」

 

 夕香の言葉に予想通りの言葉が返ってくる。だがまさかシオンもロボ太を評価しているとは思わず、夕香は感心している。

 

「ロボ太はヒトでこそありませんが、その直向きで誠実な態度やバトルにおける高貴さはわたくし自身、学ぶことが多いと感じてますわ」

「シオンが何かを褒めるのなんて珍しくない?」

「評価すべきものは正しく評価する……。当然ですわ」

 

 かつてのバトルロワイヤルでロボ太とっもぶつかり合った事のあることから、素直に明かすシオンのロボ太への評価を聞いて、ここまで素直にシオンが何かを称賛するのは珍しく、裕喜が驚いていると何を言っているんだとばかりにシオンは「フフン」と軽く鼻を鳴らしながら答える。とはいえ普段、素直な面を見せる事が少ないからそう思われる訳だが。

 

「さっきからこっちを攻撃してくるプログラムは一体、何なの?」

≪セキュリティプログラムだ。お前たちを外敵だと判断してるんだよ≫

「私達がコンピューターウイルス扱いってこと?」

 

 夕香達の会話もそこそこに、攻撃をしかけてくるプログラム達に何故、そんな事をされているのかが分からないミサはカドマツに尋ねると、その理由を教えられ心外だとばかりの反応を見せる。状況は違えど、かつてのインフォ達の時同様、自分達がウイルスと誤認されているのだ。

 

≪これはセキュリティ強化の良い機会だな。思う存分戦ってくれ!≫

 

 とはいえ、ゲネシスブレイカー達をウイルスとするならばこれほど強大なウイルスはいないだろう。ロボ太を直すと同時にセキュリティ強化の良いデータにもなる。カドマツの言葉に渋々ながらも仕方ないと襲いかかる火の粉を振り払う。

 

(……なんだか心の壁みたい)

 

 襲いかかってくるセキュリティプログラム達を見て、拒絶のようなものを感じたリーナは何か考えるように視線を伏せる。

 

【私は私を見たくなんてない! 消えてよッ!】

(……どうすれば良いか分からないから……。答えが出ないから……。分かるよ、苦しいよね)

 

 かつて翔達と初めて戦場で出会った際、翔から感じた強烈な不快さが何なのか分からず、拒絶するようにNT‐Dを発動させたことがある。その時の事を思い出しながら、リーナは悲しく笑い、理解を示す。

 

【でもね、例えなんであろうと貴女は貴女……。貴女は生きてるの。貴女は私にはなれないし私も貴女にはなれない。だってそれが貴女だから】

 

【私も……貴女と出会えて本当に良かったって……心から思っているわ。貴女は私の……ううん、私や姉さんにとっても自慢の妹よ】

 

【良く言うよね、生まれは関係ないって。そーいうことじゃない? 少なくとも、そうやって悩んで難しい顔するって凄く人っぽいって思うけど】

 

 自分は何も知らない。碌な生き方も知らないし何かを伝えるのも生きる事にも不器用な存在だ。だがそんな存在にも優しく温かな愛を感じる言葉をかけてくれた姉達や知人がいる。

 

(……私はお姉ちゃん達みたいには出来ない。それでも私は私なりに助けたい)

 

 今のロボ太を作りものの命として苦しんでいた自分と重ねる。

 自分には姉達のような人の心を温かく包んでくれるような言葉は言えないかもしれない。それでも自分はあの人達から学んだ温かさで今度は自分が誰かに手を伸ばそうと思う。

 

(……だから待ってて。私がもらった温かさをアナタにも伝えたいから)

 

 かつては破壊と殺戮のみをまき散らしていた少女は今、自分が受けた温かな愛を今度は目の前で苦しむ存在に届けようと純白の翼を広げて羽ばたく。その姿はさながら空から愛を振りまく天使のようであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

堂々めぐる

…投稿されないから何かおかしいと思ってたら予約投稿の日付がズレていた…。


 ロボ太のメモリ空間にアクセスしたゲネシスブレイカー達は深い層まで突入する。すると先程まではインフォ達と類似したメモリ空間であったが、景色がガラリと変わり、西洋城を思わせるレンガ敷きの内装が広がる空間であった。その中心には輪を囲むようにロボ太が具現化させたであろう騎士ガンダム、FA騎士ガンダム、バーサル騎士ガンダムがいた。

 

≪そもそもヒトとは根本的に違うロボットがともだちという対等な存在になれるのか?≫

 

 ただその場にというわけではなく、なにか話し込んでおり騎士ガンダムが手振りを交えながら提起する。

 

≪ロボットはヒトに従い役に立つべきものだ。対等など考えるだけバカバカしい≫

 

 だが騎士ガンダムが提起した話をすぐさまFA騎士ガンダムが一蹴する。

 

≪だがヒトが間違った事をしそうになったとき、それに従わないのもヒトの為ではないか≫

 

 しかしそこに待ったをかけたのはバーサル騎士ガンダムであった。バーサル騎士は騎士やFA騎士に意見するが…………。

 

≪それで主が気分を害したとしたら、役立たずだと思われるのではないか≫

≪役立たずだと思われたら我々は簡単に廃棄されてしまうではないか≫

 

 バーサル騎士の意見にFA騎士は反論し、それに対して騎士も同意するように頷きながら意見を発する。廃棄されてしまう事こそが何より危惧すべき事柄だからだ。

 

≪ロボットは簡単に廃棄されてしまう。製造コストだってそれなりにかかっているのに……≫

 

 FA騎士と騎士の意見に頷きながら、悲しみを表すかのようにバーサル騎士も項垂れながら首を横に振る。

 

≪ロボットは同じ物がいくらでも作れるのだ。ヒトの代わりは見つかるものではない≫

≪それよ。一人として同じではないヒトと大量生産品である我々は根本的に違うものだ≫

 

 バーサル騎士の言葉にFA騎士がそもそもロボットと人間の違いを話し、バーサル騎士もその発言に同意する。

 

≪そもそもヒトとは根本的に違うロボットがともだちという対等な存在になれるのか?≫

 

 そして騎士が問題を提起する。

 

≪ロボットはヒトに従い役に立つべきものだ。対等など考えるだけバカバカしい≫

 

 そしてその提起された問題にたいしてFA騎士が一蹴する。

 

「──……同じ話に戻ってる」

 

 三体の騎士ガンダムの話し合いを傍から見ていたミサは何回も同じ話題を繰り返すその姿を見て、何とも言えない様子でカドマツに意見を伺うように通信を繋げる。

 

≪あれが例の無限ループって奴だ。もう何十万回と繰り返しているようだな≫

 

 繋げられた通信にカドマツは全員に聞こえるように今の騎士ガンダム達の姿を見て、説明する。そう、あの騎士ガンダム達は全てがロボ太の思考。少し前にカドマツが言ったように順番に問題と答えを繋げてい導いた答えで次の問題を提起し、また次の答え考えていく過程で出した答えがすでに通過した問題を提起してしまい全く同じ思考をまた繰り返す……。まさに無限ループだ。

 

≪外部からの刺激で変化するかもしれん≫

 

 だが自分達はわざわざそんな延々と繰り返される無限ループをしている光景を見に来たわけではない。カドマツが言うように手っ取り早く変化が促されるであろう、刺激を与えに来た。

 

≪≪≪誰だ!?≫≫≫

 

 丁度、ロボ太こと騎士ガンダム達がゲネシスブレイカー達の存在に気づき、同時にすぐさま身構える。

 

≪主殿、ミサ、それに夕香達も…………。こんなところに何をしに来た!≫

「助けに来たんだよ!」

 

 外敵だと判断して警戒してみれば、実際にそこにいたのはゲネシスブレイカー達であった。何故自身のメモリ空間の、それもよりにもよってこんな深い場所にいるのか問いかけるロボ太にミサは切迫した様子で叫ぶ。カドマツがいうように何十万回も無限にループしているのであれば、もう見ていられなかったからだ。

 

≪助け? 私に助けは必要ない。今は重要な問題に取り組んでいる。邪魔をしないでもらおう!≫

「その問題は無限にループして解決できないよ!」

≪無限ループ? はっはっはっ、なにをバカなことを≫

 

 しかしミサの助けと言う言葉が理解できないロボ太は今、提起する問題を解決するため、再び議論に戻ろうとするが、ミサは必死になって叫ぶ。だがその言葉すらロボ太には分からず、笑って一蹴されてしまう。

 

≪……自分じゃループしていることは分からないんだ。分かれば回避できるからな≫

「それを何十万回と…………」

 

 ロボ太の反応を見て、予想はしていたとはいえ、カドマツはどこかもの悲しさを感じさせながら呟く。カドマツの呟きに一矢も今のロボ太の姿に悲愴さを感じてしまう。

 

 誰もが少なからず今のロボ太の姿を見て、悲しみや哀れみを感じるなか、ただ一人そうではなく、騎士ガンダム達へ向けて極太のビームを発射し、騎士ガンダム達は咄嗟に弾かれるように散開する。

 

≪なにをする!?≫

「……今すべきことは悲しむことでも同情でもない。あの子を解放してあげる事だよ」

 

 一矢達の視線が騎士ガンダム達を攻撃したウイングゼロに注がれる。攻撃されるとは思っていなかったロボ太が抗議の声をあげるなか、リーナは静かに一矢達に語り掛ける。

 

「……そうだな。ロボ太、悪く思わないでくれ」

「ちゃっちゃっと終わらせるからさ」

 

 既にウイングゼロは飛び出して、三体の騎士ガンダムと戦闘を始める。ロボ太側としてもただ攻撃されるわけもなく反撃を始めており、ゲネシスブレイカーやバルバトスルプスレクスもそれぞれ獲物を構えると飛び出し、それに続くようにアザレアリバイブやキマリスヴィダール達も戦闘に加わる。

 

「……やはり今のロボ太ではこんなものなのですわね」

 

 キマリスヴィダールに迫るFA騎士の炎の剣をドリルランスで受け止めると、そのままあしらうように受け流す。どこか分かっていたとはいえ、期待外れだと言わんばかりにシオンが嘆息する。

 

「まっ、今はその方が楽かもね」

 

 今のロボ太に戦意を失くし始めているシオンにどういう訳か尋ねようとするロボ太ことFA騎士だが、その前に俊敏な動きに一機に近づいてきたバルバトスルプスレクスが超大型メイスを振り返って叩きつけようとしてくる為、咄嗟に飛び退くがFAガンダムの豊富な火器をその身に浴びてしまう。

 

≪ぐっ……何故、攻撃が……ッ!≫

「……ロボ太、今のお前がここにいる全員で一対一で戦ったとしてもお前は勝てないよ」

 

 騎士ガンダムのナイトソードが突き出すが、ゲネシスブレイカーは易々と受け流してしまう。先程から騎士ガンダム側の攻撃がゲネシスブレイカー達にまともに直撃してはいないのだ。

 

「……それはアナタ自身が良く分かってる筈」

≪なに……っ!?≫

 

 バーサル騎士と鍔迫り合いとなっているウイングゼロ。するとリーナは一矢の言葉を引き継ぐように口を開くと、その言葉にロボ太は動揺するような反応をする。

 

「アナタは迷っている。迷いがある限り、アナタの剣は届かない」

 

 リーナの言葉にロボットながらロボ太が動揺したようにバーサル騎士の動きが更に鈍ったのを感じる。その隙は逃すわけもなく、ウイングゼロはバーサル騎士を振り払うとマシンキャノンをスコールのように浴びせる。

 

「今、楽にしてあげる」

 

 ウイングゼロはツインバスターライフルを連結させるとそのままバーサル騎士に真っすぐと照準を合わせて引き金を引く。全てを照らさんばかりの光の奔流は戦いにも影響が出るほどに迷いのあるバーサル騎士を容易く飲み込んでしまう。ウイングゼロがバーサル騎士を撃破したのを皮切りにゲネシスブレイカー達も残りの騎士ガンダムを撃破する。

 

≪よし、ちょっと乱暴だったが無限ループを取り除いた≫

「……あんまり良い気分とは言えないけど」

 

 無限ループとなる議論を延々と繰り返していた三体の騎士ガンダムを撃破し、外部からのカドマツの操作もあって無限ループは取り除くことが出来た。

 とはいえロボ太を助けるためとはいえ、ロボ太が迷いがあった為、半ば数の差だけに留まらず一方的に彼を痛めつけるようなことをしてしまった為、一矢の表情は苦い。

 

≪さらに奥を覗いてみよう。何事もなくこんなループが生まれるわけないんだ≫

 

 それはミサや夕香達も同じようでどこか複雑そうな表情を浮かべていると、カドマツから指示が入る。どうやらこれで終わり、と言うわけではないようだ。

 

「……私は言った。今すべきことはそんなことじゃない。きっとあの子は……誰よりもアナタ達を待っている筈」

 

 しかしリーナの表情は眉一つ動かず、無機質にも感じられる。

 ウイングゼロは一歩前に出ると、背後にいるゲネシスブレイカーとアザレアリバイブをそれぞれ見つめ、リーナは静かに声をかける。一矢もミサもリーナの言葉に今は何よりロボ太を助け出そうと皆でこの先の最深部へ向かうのであった。

 

 ・・・

 

 

 

 ──私は私に芽生えた邪な気持ちを隔離した。

 

 

 隔離して……閉じ込めて……目を逸らし続けた。

 だがそれでもその気持ちは私の中で肥大化し、私のなかで大きく育ってしまった。

 

 ──私はトイボット 玩具ロボットである。

 

 ヒトはいつしか大人になり、玩具からは卒業していく。

 

 そうでなければならない。

 ……そうでなければならない。

 

 わたしはトイボットでなければならない。

 わたしはロボットでなければならない。

 

 

 

 

 

 

 ────…………わたしはいつか…………ヒトリにならなければならない

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最良のとき

「ロボ太!」

 

 ロボ太のメモリ空間の最深部。それはまるで玉座のような空間であった。

 この空間の中心にはまるで人形のように浮かび上がっている騎士ガンダムの姿があり、ミサが反応する。

 

「……サタンガンダム!?」

 

 だが騎士ガンダムだけではなく、その隣にはサタンガンダムの姿もあった。こちらも隣の騎士ガンダム同様に人形のように動きはしない。

 

≪ロボ太が悪い物としてイメージを投影しているんだな≫

 

 騎士ガンダムだけならば兎も角としても、何故、サタンガンダムまでもこの場にいるのか。その理由をカドマツが推測する。

 

≪……私の中で育ったこの邪な気持ちは自己修復プログラムでも取り除けない≫

 

 するとどこからかロボ太の声がこの玉座に響き渡り、ゲネシスブレイカー達は周囲を見渡す。騎士ガンダムから声を発している訳でもなく、これはこの空間……ロボ太そのものから発せられているのだろう。

 

≪どうにもならないこの状態を止めるため、思考をループさせ考える事そのものを止めた。私はトイボットとして欠陥を抱えてしまった。立場を弁えぬ望みを抱いてしまった……≫

 

 ロボ太が無限ループしていることは知っている。しかし欠陥とは一体? ロボ太の望みとは? ゲネシスブレイカーとアザレアリバイブはどういうことなのだろうと顔を見合わせる。

 

≪ロボ太、お前の望みってのは……≫

≪言わないでくれカドマツ! トイボットの私には許されぬこと……≫

 

 しかしカドマツだけは違った。何故ならばカドマツはロボ太から相談を受けていたのだから。ロボ太の望みに察しがついたカドマツだが、明かす前にロボ太に止められてしまう。

 

「……ロボ太、言ってくれ。俺達はお前の力になりたい。だがその原因が分からなかったら力になれないんだ」

≪……それは命令か≫

 

 このままでは埒が明かない。ゲネシスブレイカーは一歩前に出ると、一矢はロボ太を諭そうとする。だがロボ太から返って来たのは一矢達にとっては望まぬものだ。

 

「違うよ! 悩みくらい聞かせてよ、“友達”でしょうが!」

≪……え?≫

 

 すると次はアザレアリバイブも前に出て、ミサは必死に先程のロボ太の言葉を否定する。別に命令する気はない。ただ教えて欲しいのだ。彼を友人だと思っているから。すると先程までピタリとして動かなった騎士ガンダムとサタンガンダムは顔を見合わせる。

 

≪……今のもう一度、言ってみてもらえるか?≫

「……悩みくらい聞かせてよ?」

≪そっちではない!≫

 

 すると同調しているのか、騎士ガンダムとサタンガンダムは同時にアザレアリバイブを指差しながら、先程のミサの言葉を求めると、ミサは言われるまま再び口にするが、騎士ガンダムとサタンガンダムの芸人張りのツッコミの仕草と共にロボ太に否定される。

 

「そ、そっちって何時の方向!?」

≪方向ではない! “聞かせてよ”の続きを!≫

 

 珍しくグイグイと来るロボ太に驚きながら、何か聞き覚えのある事を言うミサだが、宙に浮かぶ騎士ガンダムとサタンガンダムは首を横に振り、急かすように拳をぎゅっと握る。

 

「……友達でしょ?」

≪ともだちと言うのは……私と……?≫

 

 ロボ太に求められるまま、先程自分が口にした言葉をもう一度話すと、騎士ガンダム達は自身を指しながら確認する。

 

「私達みーんな、そうでしょ!」

 

 するとミサは何を当たり前のことを言っているんだとばかりにアザレアリバイブの両手を広げてここにいる者達が全てロボ太の為にここに来た友達だと話し、夕香達も同意するようにクスリと笑う。

 

「まっ、イッチ達ほどじゃなくたって、アタシ達だってロボ太になんかあれば気にかけるくらいするよ」

「もしも悩んでいるのであれば、手を差し伸べますわ。私達は少なくてもそう出来る仲なのですから」

「そうすればもっともーっと仲良くなれるしねっ!」

 

 口元に笑みを浮かべながら、夕香やシオン、裕喜も口を開く。ロボ太とは一矢達ほどの仲ではないかもしれない。それでも何かあれば何もしないような仲ではないはずだ。

 

「……私とアナタは接点が少ない。ともだち……というにはまだ浅い関係なのかもしれない」

 

 そしてリーナも一歩前に出て、己の意見を口にする。リーナとロボ太は顔を合わせたことは何度かあっても、こうしてまともに話をすることは初めてなのかもしれない。

 

「……でもここから始めていきたい。だから……アナタのことを教えて。なによりもアナタの言葉で……。私はその為に来たから」

 

 だが友達になるきっかけなどいくらでも作れるものだ。その為の一歩を踏み出したい。

 リーナはまっすぐと宙に浮かぶロボ太の意志を具現化したであろう騎士ガンダム達を見つめる。

 

≪……では私は倉庫にしまわれたりしないのか?≫

「するわけないでしょ」

≪充電もされず脱いだ上着を被せられたままにしないのか?≫

「するわけないでしょっ!」

 

 ロボ太はずっと抱えていた心配を口にするとミサは当たり前のように否定する。

 するとロボ太はまだ安心していないのか再び確認すると後者に関しては、わざわざ言うくらいなのだからたまにやってるのでは? と心なしかどこか冷たい視線をゲネシスブレイカーから感じて、ミサは必死に否定する。

 

≪そうか……。私は勝手に生み出した幻影と戦っていたのだな……≫

 

 すると騎士ガンダムは自身が邪な気持ちとまで言ったこのサタンガンダムに向き直る。

 

≪一つ、分かったことがある。もうこんな事は終わらせなければならないと言う事だ≫

≪元は一つ。もはや、二つに分かれている意味もない≫

 

 騎士ガンダム、サタンガンダムそれぞれからロボ太の声が発せられる。そう、杞憂であったのならばわざわざ別れる必要はもうないのだ。

 

≪今のお前に相応しい姿をプレゼントしてやる≫

 

 すると騎士ガンダム達の姿を見たカドマツは外部から手を加えると、騎士ガンダムとサタンガンダムを中心に光が発せられ、その眩さから一矢達は目を背ける。視界が鳴れたところで再び目を向ければ黄金の騎士が舞い降りていた。

 

≪元々は一つの存在だった騎士ガンダムとサタンガンダムが再び融合を果たした姿……。それがこのスペリオルドラゴンだ≫

 

 その金色は紛れもなく神のごとし煌めき。その名はスペリオルドラゴン。カドマツの説明と共にロボ太が授かったスペリオルドラゴンのユニットを確かめるようにダブルソードを一振り振るう。

 

≪どうだロボ太?≫

「私が言うのも何だか生まれ変わったような気持ちだ!」

 

 カドマツがスペリオルドラゴンへと変化したロボ太に調子を尋ねると、ロボットながら高揚に似たものを感じているのだろう。ロボ太が声を弾ませるのが分かる。

 

「ねえ悩みはどうなったの?」

「もう解決した。それよりこの新しい姿を試してみたい。相手をしてくれ主殿、ミサ!」

 

 置いてけぼりにされているミサは遠くから声をかけると、もう先程までの悩みはどうでも良くなったのか、それより今はこの新しい力を試したいとロボ太は一矢とミサを指名する。

 

「行ってあげて。これはアナタ達以外じゃ務まらない筈」

 

 どうするか悩んで顔を見合わせるように向き直るゲネシスブレイカーとアザレアリバイブにリーナからの通信が入り、後押しされる。

 これは単純な実力で二人が選ばれたわけではないだろう。リーナはそう言って、夕香達と共に邪魔にならないように後方に飛び退く。

 

「……分かった。ロボ太、手加減はしないからな」

「思いっきりいくからねっ!」

「望むところっ!!」

 

 リーナの言葉に頷き、一矢とミサは戦意を見せる。正直に言えば、二人もスペリオルドラゴンを手にしたロボ太の実力が気になるところであったからだ。二人の言葉に頷いたロボ太の言葉を皮切りにバトルが始まるのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最高の贈り物

 玉座を舞台にゲネシスブレイカーとアザレアリバイブはスペリオルドラゴンとバトルを繰り広げる。宙ではゲネシスブレイカーとスペリオルドラゴンが幾度もぶつかり合う。

 

(流石ロボ太ってとこか……)

 

 何度も何度も実体剣同士が交わり、甲高い音と共に火花が散る。

 しかし刃を交えれば交えるほど相対する一矢にはそのロボ太の高い実力を感じ取る。先程の三体の騎士ガンダムと戦闘をした際、根本となるロボ太のAIに迷いがあった為、難なく撃破することが出来たが、今のロボ太には迷いがない。それ故に……。

 

「チッ……!」

 

 スペリオルドラゴンから彗星のような剣技が放たれ、ゲネシスブレイカーへ襲いかかる光の斬撃破を受け止めるものの、その威力に耐えながら一矢は思わず忌々しそうに舌打ちする。

 

「うおぉおっ!!」

 

 しかしスペリオルドラゴンの閃光のような苛烈な勢いはとどまる事を知らず、スペリオルドラゴンが握るダブルソードの刃に轟々と燃え盛る炎が纏い、そのままロボ太の咆哮と共にゲネシスブレイカーに叩きつけると流石に受け止めきれず、耐え切れなくなって吹き飛んでしまう。

 

「やらせないっ!」

 

 吹き飛ぶゲネシスブレイカーを追撃しようとするスペリオルドラゴンであったが、その前にアザレアリバイブの怒涛の射撃がスペリオルドラゴンの行く手を阻む。しかしその射撃はスペリオルドラゴンがダブルソードを天に突き出した事で発生したトルネードスパークによって悉く防がれてしまう。

 

 しかもそれだけに留まらず、スペリオルドラゴンが包んでいた嵐が消え去るとその両肩の竜頭から砲撃を放ち、アザレアリバイブの射撃と相殺されてしまう。

 

「まだだ二人とも! 私はまだ満足してはいないっ!!」

 

 二対一の状況でさえロボ太は引けを取らない。それどころか更に求めてくる。それもそうだ。ロボ太はずっと一矢とミサの二人とずっとチームとして共に戦って来た。だがらこそロボ太は知っているのだ、二人の実力を。まだまだこんなものではないということを。

 

「そうだな、こんな事で満足されちゃ……」

「張り合いがないよっ!」

 

 姿勢を立て直したゲネシスブレイカーとアザレアリバイブは並び立ち、一矢とミサの口元に笑みが浮かぶ。するとゲネシスブレイカーとアザレアリバイブの二機は同時に覚醒をし、この玉座に鮮やかな光が照らされる。

 

「それでこそだッ! 行くぞ!!」

 

 二機のガンダムが覚醒を発現したのを見て、高揚するロボ太はダブルソードを一振りし突撃していく。向かってくるスペリオルドラゴンにアザレアリバイブは射撃を繰り出し、先程とは違う鋭い精度を誇る一発一発に掻い潜っていたスペリオルドラゴンもドラゴンシールドで防ぐものの、シールドに激しい弾痕が残る。

 

 同時にゲネシスブレイカーがGNソードⅤを構えて、地を蹴って一気に飛び出す。

 ゲネシスブレイカーの元々の高機動と覚醒が合さって生まれる機動力にスペリオルドラゴンに損傷が走る。

 

「楽しい……ッ! やはり二人と行うバトルは格別だッ!!」

 

 しかしロボ太も次第に適応していき、ゲネシスブレイカーの機動力に対応して剣戟を繰り広げる。幾度となく打ち合いながらロボ太は高まるものを感じる。これはただ誰かとガンプラバトルをするだけなら感じられない、一矢とミサだからこそ感じられるものの筈だ。

 

「だからこそ……ッ!!」

 

 弾かれるようにゲネシスブレイカーとスペリオルドラゴンが距離を取る。

 しかし相手の出方を見るわけでもなくゲネシスブレイカーとスペリオルドラゴンは同時に向かっていく。

 

「閃光ォッ斬ッ!」

 

 スペリオルドラゴンはダブルソードを突き出し、その身に光を纏い、竜を表したようにゲネシスブレイカーへと向かっていく。

 ゲネシスブレイカーも対抗するように覚醒の光を己の刃に込めて玉座の中心でぶつかり合い、見る者すべての視界を遮るようなまさに閃光が満ちる。

 

「──久しぶりに楽しい時間だった。主殿、ミサ……ありがとう」

 

 地に降り立ったゲネシスブレイカーとスペリオルドラゴンの身に亀裂が走る。鎧に入った皹を撫でながら全力を持ったバトルに満足したロボ太は一矢とミサにそれぞれガンプラ越しに頭を下げ、ログアウトするように玉座から消える。

 

「ちょっとー! 悩みはー!?」

≪解決したんだからいいじゃねえか≫

 

 バトルそのものは楽しかったが、結局ロボ太が何で悩んでいたのか分からなかったミサは不満そうにいなくなったロボ太に尋ねるが、カドマツは苦笑しながら宥めるのであった……。

 

 ・・・

 

「……起きたか」

 

 スリープ状態を解除したロボ太が起動すると、ロボ太が目にしたのは先程、自身の最深部までやって来た一矢達とカドマツが出迎えてくれた姿であった。

 

「結局、なんだったのー」

「まあ良いじゃん。結果オーライって奴だよ、ミサ姉さん」

 

 いまだに不満を垂れ流しているミサに夕香が宥めていると、ふとリーナがロボ太に歩み寄り、ロボ太に合わせて屈む。

 

「もう……大丈夫なんだね」

 

 ロボ太の兜を撫でながら、迷いをふりきった事にリーナは微笑を浮かべる。そうしていると物言えぬロボ太がリーナへ手を差し伸べる。

 

「うん、よろしくね」

 

 リーナは言った。ここから始めていきたいと。だからこそその始まりともいえるこの出来事を記念するようにロボ太から差し伸べられた手をしっかりと握る。

 

「意外と手、大きいんだね」

 

 その手をしっかりと握りながらリーナはその感想を口にする。騎士ガンダムモチーフでトイボットである為、サイズは幾らか制限されているが、その手は実際握ってみると思っていたより大きい。こういったものは実際、近くで触ってみないと分からないものだ。

 

「……もう行くのか」

「うん、そろそろ帰らないと……。今日だけしか会えないわけじゃないから」

 

 最後にまたロボ太に微笑を見せながら立ち上がったリーナは背を向けて歩み始めると、一矢はその小さな背中に尋ねる。するとリーナは微笑を浮かべたまま、肩越しで振り返って答え、この場を去っていくのであった。

 

 ・・・

 

「ただいま」

 

 ロボ太の件があって、翔のマンションに帰宅するのに時間がかかってしまった。玄関の扉を開き、帰って来たリーナは室内に足を踏み入れる。

 

「おかえり、リーナ」

 

 すると翔をはじめとして、レーア達も口々に「おかえりー」と温かくリーナを出迎えてくれた。

 

「もう飯出来てるから、手ェ洗って来いよ」

「うん」

 

 夕飯には良い時間となってしまった。もう既に準備を進めていたのだろう。台所を指差しながらシュウジが話しかけると、リーナはコクリと頷いて洗面所に向かっていく。

 

 ・・・

 

「そう言えば最近、リーナは頻繁に外出しているようだけど、何をしているのかしら?」

 

 食卓をかこみながら食事をとっている翔達。すると話題の種にと、レーアがずっと気になっていた事を口にすると、同じく気になったのか翔達もリーナを見やる。

 

「友達と遊んでるんだ」

 

 するとリーナは翔達に屈託のない笑顔を向ける。それだけ満ち足りた時間を過ごしているのだろう。釣られるように笑った翔達は夕飯で話に花を咲かせるのであった。

 

 ・・・

 

「そろそろかな」

 

 それから数日が経ち、彩渡商店街のトイショップでは一矢とミサの二人が作業ブースで誰かを待っているのか、やる事がなさそうに暇を持て余していた。

 

「……来たな」

 

 すると程なくして奥からロボ太がやってくる。どうやら先程まで充電を行っていたようだ。一矢とミサの視線が集中したため、どうしたのかと二人の顔を交互に見ているロボ太にミサは手招きで呼びせ寄せる。

 

「じゃーんっ!」

 

 ロボ太を自分達が座る作業ブースに座らせると、ミサは机の上に置いていた箱を持ち上げて、隠していた中身を見せる。そこにあったのは金色に輝くレジェンドBBのスペリオルドラゴンであった。しかも手を加えらているようでかなりの出来栄えだ。

 

「……俺達からのプレゼント。ロボ太にはいつも世話になってるし」

「私と一矢で作ったんだよ! ロボ太の無限ループも解決した記念でねっ」

 

 何故、ガンプラのスペリオルドラゴンがあるのか二人に尋ねるように見やるロボ太に一矢とミサは笑い掛けながら説明する。

 

「……あれ嬉しくなかった?」

 

 するとスペリオルドラゴンをまじまじと見ていたロボ太は俯いてしまう。プレゼントが気に入らなかったのかと不安がるミサはロボ太に尋ねる。

 

 だがロボ太はすぐに顔を上げ、瞳にあたる液晶部分を操作して笑顔を浮かべる。その姿を見た一矢とミサは顔を見合わせると、笑いあい、早速三人でガンプラバトルへと向かうのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 ──私はトイボット 玩具ロボットである。

 

 

 

 

 ハイムロボティクス商品開発室で初めて起動したことを覚えている。

 

 

 

 

 右も左も分からぬ若輩ながら彩渡商店街のとある玩具店にて【ロボ太】というパーソナルネームと……

 

 

 

 

 

 かけがえのない友を授かった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

「……いきなり呼び出してどうしたの?」

 

 ロボ太の一件から数日後、一矢は一人喫茶店に呼び出されていた。奢りということもあって出されたコーラが入ったキンキンに冷えたコップを両手で持ってストローで啜りながら用件を目の前に座るシュウジに尋ねる。

 

「……実はお前に頼みたい事があってな」

 

 呼び出してきたシュウジだが、その様子はどこか疲れ切っているようで額を片手で覆って注文したアイスカフェオーレを一口も飲もうとしなかった。するとしばらく時間を置いて、シュウジは重い口を開く

 

「……これをな……。預かってほしいんだ」

 

 シュウジは横に置いてあった大きな封筒を卓上に置き、一矢の前に押し進める。

 漸く本題に入った事で一矢はコーラをコースターの上に置きながら、面倒臭そうに封筒を手に取る。どうやら手で触った感触では中身は雑誌のようだ。

 

「……エロ本?」

 

 封筒を開けて、中身を確認すればどうやら中身は例のエロ本だったようだ。どういう訳かと顔を顰めた一矢は理由を尋ねるようにシュウジを見やる。

 

「……レーアさん達にこの間、バレてな……。それだけならまだしもヴェルさんがそれ以降、妙に積極的って言うかなんというか……。その本で仕入れた知識で顔真っ赤にしながら人のこと誘惑しようとしてくんだけど……流石に見ていられなくなったからエロ本だけでも遠ざけようかなって」

 

 どうやらあれ以降、奥手であったヴェルが積極的になってきたそうだ。とはいえ元々の性分が奥手の為、無理をしている部分もあるらしく顔を真っ赤にして恥ずかしがりながらシュウジを誘惑しようとするヴェルの姿が見ていられず、言っても聞かないからエロ本を遠ざける選択肢をしたらしい。

 

「……捨てれば良いじゃん」

「お前はエロ本を価値を分かっちゃいない」

 

 何故、わざわざ人に預けてくるのか。しかもこういった雑誌を。そう思った一矢は捨てる事も提案するのだが、妙に力のこもったシュウジの一言に首を傾げてしまう。

 

「なっ? 兎に角さ、頼むっ!」

 

 呆れてため息をつく一矢に両手を合わせながら頼み込むシュウジに半ば押し切られるような形でエロ本を預かる事を了承する。

 

(……巨乳?)

 

 とはいえ一応、夕香など家族の目もある。隠すつもりだが万が一にでも見られてしまった際、変な中身ではないか気になった一矢は再度、封筒内の雑誌の中身を見る。

 中身はアブノーマルなものではなかったが、表紙に書かれた煽り文句を見て、一矢は首を傾げながらでもエロ本を預かるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

すれ違い

 時刻は深夜を回り、誰もが寝静まっていた。雨宮宅も例外ではなく、夕香やシオン達が規則正しい寝息をたてながら眠っている。だがただ一人、例外はいた。

 

「……」

 

 一矢だけは違った。真っ暗な部屋で机の上のデスクライトのみを頼りにパーツのスジ彫りを進めている彼の姿があった。目の前にはフレーム状態の素体があり、これに組み込むパーツを作成しているだろう。机の上には大小様々なパーツが並べており、どれもかなり手を加えられているのが分かる。

 

 まさに今の一矢を表現するのなら一心不乱という言葉が当てはまるだろう。今、目の前のパーツのみに集中しており、今の自分を刻み付けんばかりにジッとパーツを見て作業を進めていき、夜は更けていく。

 

 ・・・

 

 今日も今日とてガンプラバトルを行っている彩渡商店街チーム。今は休憩をとっているようでベンチに腰掛けていた。

 

「へえ、ネバーランドが再オープンするんだ」

 

 ミサは携帯端末を見つめながら呟く。どうやらメールか何かのようだ。一矢にも聞こえるように言ったのだが反応はない。

 

「……聞いてる?」

「……あぁ……? ……」

 

 反応がないためにミサが隣の一矢を見れば、ベンチに身を預けてコクリコクリと頭を揺らしている一矢の姿があり、やはり徹夜での作業が身体に響いているようだ。

 今、体を近づけたミサに改めて声をかけられた一矢はビクリと体を震わせて目を覚ますが、寝ぼけているのか鈍い反応を見せる。

 

「……咲ちゃん達がネバーランドの再オープンするから一緒にどうかって誘われたんだけど……」

「そう……」

 

 ウイルスの一件でワークボットなど大損害を出してしまったネバーランドだが、ようやく立て直す事が出来たようで、近々再オープンする予定らしい。そのことで今、咲から誘われたらしいのだが、生憎、まだ寝ぼけている一矢の反応は鈍い。

 

「……ねえ、一矢ってさ……」

「……うん……?」

 

 眠気が勝っている為に先程から鈍い一矢の反応にミサはどこか複雑そうな表情で何かを尋ねようと声をかける。一体、何だろうと一矢は眠い目を擦りながらミサを見やる。

 

「……ううん。なんでもない」

 

 しかしミサから質問は来なかった。首を振って一矢から離れると、質問の内容そのものは気になるものの今は眠気の方が強いため、追及することはせず、なんとも微妙な空気が流れる。

 

「ねえ、この後一矢の家に行っても良い?」

 

 すると空気の入れ替えるようにミサから別の話題を振られる。それは一矢の家に訪問していいかと言う事であった。

 何だかんだで一矢はミサの家にちょくちょく顔を出しているもののミサが一矢の家に来るという事はなかった。丁度、眠気もある為に一矢は了承して、ミサとロボ太を引き連れて自身の家に向かっていく。

 

 ・・・

 

「おっじゃまっしまーす!」

 

 暫くして一矢達は雨宮宅に到着した。一矢に促されて家に入ったミサは靴を脱ぎながら初めて訪れた一矢の家に周囲を見渡しながら声を弾ませている。

 

「あれミサ姉さんが来るなんて珍しいね」

「これはイチャコラフラグですの?」

 

 玄関から聞こえて来たミサの声に気づいたのだろう。

 リビングの扉が開き、そこからひょっこりと夕香とシオンが顔を出すと、二人に手を振っているミサを他所に一矢はロボ太を連れてスタスタと自身の部屋がある二階に向かっていき、ミサは慌ててその後を追う。

 

 ・・・

 

「これが一矢の部屋かあー」

 

 一矢の部屋に到着したミサは小奇麗な室内を見渡しながら目を輝かせる。

 ガンプラや作業ブースと化している机など自分とあまり変わらないが、置いてある本など違いは当然あり、全てが新鮮に感じる。

 

「……適当にくつろいで」

 

 薄手のパーカーを脱いだ一矢はミサをくつろぐように声をかけると、一応来客の為にと、お茶菓子を用意しようとするのだが……。

 

「一矢、いますの?」

「あ?」

 

 数回のノックと共にシオンの声が扉の奥から聞こえてくる。夕香の部屋ならまだしもシオンが一矢の部屋に訪れるのなんて非常に珍しい。

 

「飲み物とお茶菓子を用意しましたわ。では、ごゆっくりー……。うふふふっ」

(……お母さんかアイツは)

 

 扉を開けてみれば、そこには確かにシオンがおり、その手に持ったトレーの上にはアイスティーと彼女が見繕ったであろうクッキーなどの洋菓子類があった。

 一矢にトレーを押し付けるように渡したシオンは奥のミサを一瞥すると、何を想像しているのかどこか目を輝かせており、口元に手を添えて足早に去っていく。その後ろ姿を見ながら一矢は頭が痛くなるのを感じる。

 

「あっ、これ新しい一矢のガンプラ?」

「……まだ完成には遠いけど」

 

 シオンから受け取ったアイスティーの類をミサと自分の前に置いている一矢だが、ミサの関心は机の上に置かれているフレームと所狭しと並べられたパーツ類に注がれている。とはいえ、まだ一矢からしてみれば、完成には程遠いのかシオンが持ってきたアイスティーを飲みながら苦い表情を浮かべている。

 

「楽しみだなー……」

 

 一矢はそのままアイスティーを飲み干して、机に置くとそのままベッドに腰掛ける。そんな中、ミサはこの新たなガンプラが完成した時の事を想像する。今、自分はアザレアリバイブを、そしてロボ太はプレゼントしたスペリオルドラゴンを使用してくれている。一矢もまた新たなガンプラを駆使した時、一体、どれだけのガンプラバトルが出来るのだろうかと思いを馳せる。

 

「あっ……」

 

 するとそのまま視線を動かしたミサは何かに気づいてポツリと声を上げる。

 

「懐かしいなぁ……」

 

 そしてそのまま懐かしんで目を細める。

 そこに飾られていたのは一矢と初めて出会った時に彼が使用していたガンダムブレイカーⅢとジャパンカップの時までずっと共に駆け抜けたゲネシスガンダムだ。

 やはりこの二つは一矢にとっても思い入れが強いのだろう。他に飾られているプラモデルとは違い、この二つは特に目立つ位置に飾られている。

 

「ねえ、一矢」

 

 ふと今までの出来事を思い返していたミサはそのまま一矢に振り返る。これまで色んな事があった。その事に話を咲かせようと明るい表情を向ける。

 

 しかし振り返った先にいる一矢は先程まで腰掛けていたのだが、もうベッドに寝転がっており、目も瞑って寝息をたてている。やはり遅くまで行っていた作業にガタが来たのだろう。

 

「一矢は変わんないなぁ……」

 

 先程まで明るい表情を浮かべていたミサではあるが、眠ってしまった一矢を見てその表情は見る見るうちに何とも言えないものに変わっていく。そのまま一矢の近くに歩み寄ると、指先で彼の長い前髪を掻き分けてその寝顔を見つめて寂し気に呟く。

 

「……ん?」

 

 しばらく一矢の寝顔を見つめていたミサだが、やはり一矢が眠ってしまっては彼の部屋でやる事もなくなってしまい暇を持て余してしまう。そのまま何か退屈しのぎにはならないかと室内を見渡していると、箪笥と本棚の間に何かある事に気づく。

 

「んんっ!?」

 

 隙間に落としてしまったのだろうかと手を伸ばすミサは隙間にあったものを取り出して見やれば、それは成人雑誌であった。正確に言えばシュウジから預かったものではあるが。

 しかしまさか一矢の部屋でそんなものを見つけるとは思っていなかったミサは目に見えて狼狽えてしまっている。

 

「な、なんでこんなものが!? それに何より……」

 

 エロ本を手に取って顔を真っ赤にして慌てている。

 それは確かに一矢とはいえ男なんだし興味があるだろうし、興味があって然るべきなのだがそれでも衝撃は大きい。そしてミサの視線は煽り文に注がれる。

 

「きょぉぉぉぉにゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!?」

 

 そのまま憤怒を表すような恐ろしい声をあげる。ロボ太がピクリと反応するなか、それでも一矢は熟睡して起きる気配はない。

 

(……一矢の好みなんだよね)

 

 二本に結んだ髪を揺らし、わなわなと震えてエロ本を握る手に力を込めていたミサだが、途端に沈下していくと一矢を一瞥し、あった場所にエロ本を戻すと、そのまま立ち上がって部屋から出て行く。

 

 ・・・

 

「あれ、ウィルからメールだ」

 

 リビングで夕香とシオンの二人がシオンが作ったであろうピーチティーを飲みながらティータイムを過ごしていた。そうしていると夕香の携帯端末にウィルからの連絡が入る。内容は今度日本に訪れたついでに夕香を遊びに誘おうと言うものであった。

 

「あの金持ちのパツキンの事ですから、貴女に何をしようとするか分かったものじゃありませんわ」

「アンタもその金持ちのパツキンでしょうが」

 

 何気なく携帯端末を覗き見て、内容を知ったシオンはふっと嘆息しながら呟くもその美しい姉譲りのナチュラルブロンドの髪を見つめながら呆れた目で見つめる。

 

「あれどったの、ミサ姉さん」

「一矢が寝っちゃってさ」

 

 そうしているとミサがリビングに訪れる。ミサに気づいた夕香が声をかけると、苦笑交じりの返答にどうしようもないね、と呆れている。

 

「そ、それで? おふたりはなにかあったのですの?」

「だからなにもないって」

 

 折角だからとシオンがミサの分のピーチティーをカップに注いで、ソーサーの上において出すと、妙に上擦った声を上げながら変な口調で尋ねるとゲーセンでも似た事を尋ねられた時と同じように否定する。

 

(ない、か……)

 

 男女が二人っきりの一室でなにもないなんてありえませんわ! と真っ赤にした顔を両手で覆って首をぶんぶんと振っているシオンに、いやロボ太もいんでしょと宥めている夕香を他所にミサは先程のエロ本を思い出しながら自身の胸を撫でる。

 

(私って魅力ないのかなあ……)

 

 一矢と付き合ってからずっと感じてきたことがある。今日もそうであった。今も部屋で眠っているであろう一矢を想い、ミサは人知れずため息をこぼすのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空回って迷走中

 ガンプラバトルシミュレーターは稼働し、シミュレーターが生み出すフィールド上では激しいガンプラバトルが行われている。

 

「やっぱ一筋縄ではいかないな……ッ!」

 

 太陽の輝く空を舞台に秀哉のストライク・リバイブが高エネルギー長射程ビーム砲を放ち、空を貫く様な一線はぐんぐんと伸びていくが生憎なことに秀哉が狙った対象には掠る事もなくさらに高速でこちらに迫ってくる。

 

 その機体こそゲネシスブレイカーであった。大空を舞台に翼を広げるゲネシスブレイカーはこの空を支配していると言わんばかりに縦横無尽に飛び続け、その速度は飛べば飛ぶほど捉える事が難しくなってくる。

 

 しかしいつもは近くにいる筈のミサとロボ太の機体はない。どうやら今日はゲネシスブレイカー1機のみでバトルを行っているようだ。

 

 これ以上、接近はさせないとばかりにストライク・リバイブはイーゲルシュテルンとマシンキャノンを併用して激しい弾幕を張るが、ゲネシスブレイカーの勢いは殺すことは出来ず、すぐさまアロンダイトとハイパービームソードを同時に装備してゲネシスブレイカーを迎え撃つ。

 

 空に無数のスパークを散らしながらゲネシスブレイカーとストライク・リバイブは幾度となく切り結び、バトルはまだまだ続いていくのであった……。

 

 ・・・

 

「ミサが素っ気ないって?」

 

 イラトゲームパークにてバトルを終了させた一矢と秀哉はベンチに並んで腰かけながら缶ジュースを片手に話をしていた。一矢から聞かされた話に秀哉は聞き返す。そう言えば今日はバトルだけじゃなく、一矢の傍にもミサ達の姿はない。

 

「……素っ気ないっていうか……よく分かんない」

 

 聞き返されてしまい、一矢は首を傾げてしまう。ここ最近、ミサの様子はいつもとどこか違う。それをどう言い表して良いか分からなかったのだ。一矢は缶ジュースを飲み干して、そのままゴミ箱に捨てると秀哉に別れを告げて、そのままイラトゲームパークを後にする。

 

 ・・・

 

(……なんにもしてないと思うんだけどな……)

 

 この間も、ミサを家に招き入れた際も自分が知らないうちに睡魔に負けている間もミサとロボ太はいつの間にか帰ってしまった。家に連れて来ておいて自分は寝るとかないわー、とその後、夕香とシオンに呆れられたしその事は悪かったとは思っているが、どうにも原因がそれとは思えない。ミサの態度に違和感があるのだが、その原因が分からなかった。

 

「……もしもし?」

≪……あっ……一矢……?≫

 

 そうしていると一矢の携帯端末に着信が入る。その場に立ち止まって、もぞもぞと取り出して見てみれば、相手はミサであった。どこかおずおずとした遠慮がちな態度に顔を顰める。いつものミサならこんな風に喋ったりはしないからだ。

 

≪今から来れるかな……?≫

 

 そうこうしていると、ミサからの呼び出しがかかる。だがミサから呼び出されるのであれば願ったり叶ったりなのかもしれない。もしかしたらミサの様子が変わった原因が分かるかもしれないからだ。一今から行く、と伝えて電話を終えると、足早に彩渡商店街へ向かう。少しは状況が改善されるかも知れないと期待を込めて。

 

 ・・・

 

「……ミサ、いる?」

 

 彩渡商店街に訪れた一矢は早速、トイショップに足を踏み入れる。来店を知らせる入店音が店に響くなか、一矢はすぐにミサを探す。今はちょうど空いている時間なのか店内に客の姿は見当たらない。

 

「一矢……」

 

 そうしていると呼び出したミサの声が店の奥の方から聞こえてくる。相変わらず控えめな声ではあるが、一矢はその方向を見やる。

 

「……ッ!?」

 

 しかしミサがいる方向を見やった一矢はそこにいたミサを見て固まる。その表情は目を見開き口を大きく開けてまさに唖然としていた。

 

「アムロ、私はディジェを赤く塗ろうと言っているのだよ」

「好きにすれば良いだろう。ガンプラは自由だ」

 

 身動き一つとれない一矢をよそに再び入店音が響く。会話をしながらトイショップに入店してきたのはシャアとアムロの二人であった。

 

「これは……っ!?」

「なにぃ……っ!?」

 

 しかしそのアムロとシャアも一矢と同様、目の前のミサを見て驚愕して動きを止めてしまう。あまりの衝撃で二人ともその場でしばらく立ちつくしてしまうほどだ。

 

「いらっしゃい、アムロさん、シャアさん。それに一矢も」

 

 その原因ともいえるミサはどこかぎこちない笑みを浮かべながら、一矢やアムロ達を出迎える。いつもならば何かしら返事をするところだが、一矢達は時間が止まったように動きが取れなかった。

 

「どうしたの皆、固まっちゃって」

 

 そんな一矢達を見て、ミサは困ったように笑いながら声をかける。

 

(……どうしたのって……)

 

 声をかけられた一矢達はピクリと体を震わせて反応するなか、冷や汗を垂らしミサのとある一点を見つめる。そこはミサの胸部であった。普通なら女性の胸部を見つめ続けるのなど言語道断であるのだが……。

 

 

 膨らんでいるのだ。

 

 

 ミ サ の 胸 が 

 

 

「あぁぁぁ……っ……!」

 

 あまりの出来事に一矢は目に見えて動揺してしまっている。逃げ出せるのなら今すぐにでも逃げ出したい。だってミサの胸が膨らんでるから。

 

「ほら、一矢。こっちこっち!」

 

 しかしミサはまるで何事もなかったかのように一矢の腕を退いて作業ブースまで連れて行くと、一矢を座らせる。今の一矢はまさに怯える幼子その物でミサに促されるがまま座るしかなかった。

 

「ほら一矢、これ展示用で作ってみたんだ」

 

 するとミサはテーブル上に置いてある展示用のガンプラを見せながら背後から一矢に抱き着き、その首元に手を回す。所謂、あててんのよ状態だ。

 

(……あたってない……っ!!)

 

 ……あくまで姿勢の話だ。背中に感じるのは詰め物のような固い感触だけであり、一矢はもう訳が分からず、混乱してしまっている。ミサが何でこんなことをしているか分からないからだ。もっともそうなってしまったのは以前、ミサが一矢の部屋で見たエロ本をそれが一矢の好みだと勘違いしたからなのだが。しかしいくらなんでも暴挙としか言いようがない。

 

「あ、あんな紛い物を……ミサ……酸素欠乏症にかかって……」

「サボテンが……花をついている……」

 

 ぶるぶると震えている一矢にお構いなしでミサはやたらボディタッチを多めに一矢に接している訳だが、それが更に一矢を怯えさせてしまっている。その光景を傍から見ながらアムロとシャアも現実逃避をしているのであった。

 

 なお、この数時間後、我に返ったミサは身を投げようとしたらしい。

 

 ・・・

 

「ネバーランドの招待券か」

 

 ブレイカーズの事務所ではパソコンでシフト表を作成している翔は息抜きに自分宛てに送られてきた郵便物の中身を開封する。中身を確認すれば、それはネバーランドの運営部からだった。

 

「なにかあったんですか?」

「ああ。ネバーランドの再オープンでガンプラのイベントをやるらしくてな。以前のガンプラバトルロワイヤルの受けは良かったらしい。それにウイルスを駆除したのも俺達のガンプラだ。礼を兼ねてまたイベントに招待されたよ」

 

 翔はそのまま店の方に顔を出すとあやこが声をかけてきた。すると翔は郵便物の内容に目を通しながら、あやこの問いかけに答える。

 

「懐かしいですねー……。あの時の翔さん、いつも以上に格好良くて……」

 

 自身がコアプログラムに取り込まれ、翔に助け出された時の事を思い出しているのだろう。両手を頬に添えながらあやこは身をくねらせている。

 

「どうせならあやこも行くか?」

「良いんですか!?」

「ああ、他の奴らも誘うつもりだしな。風香の奴は知れば意地でもついて来そうだし」

 

 すると翔はそのままあやこもネバーランドに誘うと、これはデートなのでは!? とあやこが強く反応するなか、その予想は次の翔の言葉で粉々に打ち砕かれ、肩を落とす。

 

「翔君っ!」

 

 項垂れているあやこに首を傾げていると入店音と共に翔は声をかけられる。見てみれば、そこにはルル、カガミ、リーナ、そして最後にレーアが続々と入店してきた。

 

「お昼持って来たわ。良かったら休憩にでも……」

 

 レーアは手に持っている包みに入った弁当を渡そうとするが、ふと翔とその傍らに寄り添うように立っているあやこの姿を見て言葉を途切れてしまう。

 

「……良かったら食べてちょうだい」

 

 するとレーアの表情は見る見るうちにどこか辛そうなものに変化していき、持っていた弁当を近くのカガミに自分の代わりにとばかりに手渡すと、それだけ言い残して足早にブレイカーズを出て行ってしまう。残された翔達が顔を見合わせるなか、ルルとリーナ、カガミは何か考えるように視線を伏せるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

微妙な距離感

 再オープンしたネバーランドは元々注目されていたテーマパークということもあって、この日、まさに大混雑となっていた。どこを見渡しても人しかおらず、夏の季節も相まって熱気が凄まじい。

 

「やれやれ、こう人が多いとうんざりするね」

 

 ネバーランドにはウィルの姿があった。どうやら今日はオフのようで、再び来日したようで人と人の隙間を縫うように歩きながら嘆息している。

 

「じゃあ、なんでわざわざここに来たのさ」

「折角、日本にまで来たんだ。つまらない場所には行きたくないだろう? このネバーランドは世界的にも注目されているからね」

 

 そんなウィルの隣で夕香は彼が奢ってきたドリンクをストローで啜りながら尋ねる。以前、ウィルからメールでの遊びの誘いに乗ったら訪れた先はこのネバーランドであった。

 

 再オープンする当日に来れば大混雑は予想出来るはずだ。すれ違い人混みを避けながら夕香は問いかけると、ウィルはネバーランドの目玉でもあるネバーランドを運営するワークボット達を見やる。

 

「ところでドロシーさんは? いないじゃん」

「……君はどういう意味でここに誘ったのか分かっていないのかい? 彼女をここには連れて来ていないよ」

 

 ふと夕香は周囲を見渡し、ウィルの付き人であるドロシーがいないことに触れる。とはいえ、今日、夕香をネバーランドに誘ったのは単純に遊ぶためではないのだ。それが分かっていない様子の夕香の鈍感さにはウィルも呆れてしまっている。

 

「ふーん……そんなにアタシとデートしたいんだ。期待しても良いのかなー?」

「今日という日を忘れられなくしてあげるよ」

 

 ウィルの言動から何となしに察しはついているのだろう。悪戯っ子のような笑みを浮かべる夕香の問いかけに、望むどころだとばかりに自信に満ちた笑みを見せると夕香を連れてネバーランドを散策する。

 

「──……いけません……。いけませんわ……」

「あっちゃー……あれ完全にデートよねぇ……」

 

 そんなウィルと夕香を物陰にしがみつくように様子を伺っているシオンと裕喜がいた。

 こうやって隠れている時点で夕香にはここに訪れていることは知らせていないのだろう。二人とも変装ようなのか、眼鏡を着用している。

 

「これは由々しき事態ですわ。夕香があのパツキンに誑かされてしまいますわ」

「でも夕香的には玉の輿じゃないかな?」

 

 物陰からじーっと眉間に皺を寄せて夕香達のことを見つめているシオンだがその隣で裕喜は冷静に呟いている。この二人が何故、今この場にいるのか? それは単純に夕香とウィルのことが気になってのことだろう。

 

「夕香はわたくしのライバルですのよ……。こ の わ た く し の っ ! ……ライバルであるわたくしに注目するのならまだしも恋愛事に現を抜かすなど……っ!!」

「あれ、でもシオンってコイバナとか好きじゃないの? いつも何だかんだで凄い聞いているイメージがあるけど」

「それとこれとでは話が違いますわっ!!」

 

 物陰にしがみついている手に力が籠る。ぐぬぬっ……と悔しそうな顔を浮かべるシオンに裕喜は尋ねる。夕香からも聞く事であるが、シオンは年頃からか妙に恋愛関係に興味を示している。今回のウィルと夕香もそのうちに入るのではないかと思うわけだが、シオンにとって他の恋愛事と夕香はどうやら別物らしい。

 

「夕香に下手なことをしてみなさいな、絶対に許しませんわよ……っ!」

(……シオンでさえこれなんだから、イッチが知ったらどうなるんだろ……)

 

 夕香に自分達の存在を悟られないようにつかず離れずの距離を保っているものの今にも射殺さんばかりにウィルを見つめているシオンを横目に裕喜は一矢に発覚したらどうなるのだろうと苦笑するのであった。

 

 ・・・

 

 その一矢もまたネバーランドに訪れていた。元々、人の多いところは好きではない為にいつも以上にその顔は顰めてしまっていた。近く委は厳也と咲。そして影二とコトがおり、トリプルデートといったところか。

 

「……なにかあったのかのぉ……?」

「さあな……」

 

 厳也達や影二達はデートらしく寄り添って仲睦まじい姿を見せているのだが、一矢とミサはそうでなかった。互いに気まずそうにそっぽを向いており、二人の間にはなんとも微妙な距離感がある。流石に二人の間に流れる雰囲気は傍から見ても分かるのか厳也と影二は気に掛けるが、二人に聞いたところで何でもないと言われてお終いだった。

 

(……折角、華々しくお披露目が出来ると思ったんだけどな)

 

 とはいえ何より当人達がこの雰囲気について思うところがあるのだろう。一矢は今にもため息を零しそうな勢いだ。一矢はそのまま腰部のベルトに取り付けたガンプラの持ち運び用の小型ケースを撫でる。

 

 このケースに入っているのはゲネシスブレイカーではなかった。いや今まで一矢が使って来たどのガンプラでもない。ついに一矢が今まで作成していた新ガンプラがここに収められているのだ。今回のネバーランドで鮮やかなデビュー戦が飾れると思ったのだが、これではそんな気分にもなれなかった。

 

「……ねえ、俺なんかした?」

 

 いい加減、この微妙な雰囲気を払拭したい一矢はミサに尋ねる。なにかしてしまったのであれば、その事について考えることも出来るが……。

 

「なんかしたって言うか……。なにもしてないって言うか……」

 

 一矢の問いかけにミサは何とも言えない様子でこちらを見つめる一矢の顔を見つめると、やがて耐え切れない様子で視線を伏せてしまう。

 

「ごめん、何か飲み物買ってくるよっ」

 

 しかしそんな返答では到底、一矢は納得できるはずがない。ハッキリと言ってほしい、とさらに追及しようとする一矢だが、ミサはそれを察知してか、それだけ言い残して駆け出してしまう。

 

「私、ちょっと行ってきますっ」

「なら私もっ!」

 

 この人混みの中では駆け出したミサを追うのは難しい。辛うじてまだミサの姿が見えるなか、その後を咲とコトが後を追い、その場には男性陣のみが残ってしまった。

 

 ・・・

 

「こんなにたくさん人が一杯いるとどれだけイベントに参加してくれるのか分かりませんね」

 

 一方、別の場所ではあやこが隣に立っている翔に人混みを見ながら苦笑した様子で声をかける。これだけの人数がいるのだ。誰がガンプラファイターでもおかしくはない。どれだけのファイターが参加するのか翔も微笑を浮かべている。

 

「暑いぃぃ……っ」

「なにやってるんだお前は……。来ない方がよかったんじゃないか?」

 

 しかしそんな翔の腰回りには風香がだらしなくしがみついており、今にも夏の暑さに溶けてしまいそうなほどばてている。あまりの姿に翔は呆れ交じりに声をかける。

 

「何言ってるの!? ネバーランドは風香ちゃんと翔さんが出会った記念すべき場所なんだよ! ここで翔さんとお互いを知り合って、愛を深め合って……」

「良いからしっかり歩け」

 

 翔がネバーランドに行くと聞けば、案の定、風香もこうしてついてきた。ネバーランドは風香にとって翔と知り合った思い出の地。やはり思い入れは強いようだ。しかし翔は腰に抱き着いてうっとりとしている風香を無理やり立たせる。

 

「でも暑すぎ……。もしも風香ちゃんに何かあったらそれは世界にとって大きな損失なんだよ、まったく……」

 

 翔に抱き着いていられなくなった風香はそれはそれで不満そうにしながら、文句を燦々と輝く太陽を見やってブツブツ呟いている。

 

「そう言えば、レーアさん達はどうしたんですか? さっきまで一緒だったのに……」

 

 だがこんなことを言えるくらいなら大丈夫だろう、と翔は気にした様子はない。そんな翔にあやこは気になっていた事を尋ねる。そう、ネバーランドにはこの三人で訪れた訳ではない。レーア達も一緒に来ていたのだ。しかしレーア達の姿はどこにも見当たらない。

 

「……はぐれたか……?」

 

 翔もレーア達のことは気になっていたようで周囲を見渡すが、やはりこの人混みでレーア達を見つける事は出来ない。

 

(……レーア)

 

 だが翔が気になっていたのはそれだけではない。以前、弁当を届けに来たとき、妙な様子を見せたレーア。あれからレーアは翔の顔を見る度にどこか辛そうな顔をしていた。それがどうにも気になってしまうのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Trust You

「レーアお姉ちゃん、翔のところに行かなくて良いの?」

 

 ネバーランドの休憩の場として置かれているパラソル付きのテーブルにはレーア、リーナ、ルル、カガミが囲むように座っていた。そんな中、口火を切るようにリーナがレーアへ尋ねる。

 

「……ええ、少し考えたい事があったから」

 

 ここに彼女達がいるのは、なにも翔達とはぐれたわけではない。レーアはあえて翔と距離を置くように翔達から離れたのだ。

 

「それよりもルル達は良いのかしら? 私に構わないでシュウジとヴェルみたいに好きにした方が……」

 

 自分のことは放っておいてもらって構わない。翔達と離れる際、一緒に付いてきたルルやリーナ達に声をかける。シュウジとヴェルも来るときは一緒だったが、ネバーランドに到着するなり、二人で行動してしまっている。ルルやカガミも自分といるよりも翔の近くにいた方が良いだろうとは思ったが……。

 

「レーアさんが悩んでいるのは私達も気づいていますから」

「仰る通り好きにしていますよ」

 

 しかしリーナはもとよりルルとカガミは微笑を浮かべながら答える。確かに翔は大切な存在だ。だがそれと同じくらい仲間であるレーアもルル達にとっては大切な存在なのだ。だからこそ黙って見過ごすつもりはなかった。

 

「……最近、この世界にいる翔とその周囲を見ていると、これが本来あるべき姿なのだと思う自分がいるわ」

 

 物好きなものね、とルルやカガミに苦笑しながら、すっと息を吸い、レーアは胸に秘めていた想いを静かに話し始めた。

 

「私達の世界に現れた翔がそうであったように今の私達はこの世界にとっては異物よ。本来、私達は出会うはずがなかった」

 

 本来、自分達と翔は異なる世界に生まれ、出会う事も互いを知ることもなかった。なのに現実では世界を超えて出会ってしまったのだ。

 

「……翔には本来、この世界で翔に相応しい存在がいる筈。きっとその人と結ばれて……。そう考えると……この世界に居るべきではない……。翔の近くにいるべきではない……。私は……本来あるべき翔の未来を壊しているんじゃ……ってそう思えてならないの」

「しかし頭ではそう考えていても現実では翔さんがいるこの世界から……翔さんからは離れられない、と」

 

 ブレイカーズで翔とあやこが近くに並び立っている姿を見て、その想いは強くなってしまった。この世界にとって異物である自分は本当に翔の近くにいて良いのか?翔のあるべき未来を自らが壊そうとしているのではないか? そう考えてならないのだ。

 

 だがカガミの指摘にレーアは重々しく頷く。頭ではいくらでもそう考えることは出来た。だが現実は、自分の心は翔への想いから離れる事が出来ずにいた。

 

「無様なものね……。いっそのこと翔と出会うことがなかったら、こんなに苦しむこともなかったのに」

 

 考えと行動が伴っていない自分に自己嫌悪してしまい、眉間の辺りに手を添えて顔を顰める。

 

「でも……それ以上に……翔に出会えたから私は救われて……この心に光が宿った……。心から愛する存在が出来た……」

 

 いまでも自分達の世界で翔と過ごした毎日を鮮明に思い出す事が出来る。戦いのなか、希望を表すように輝きを放った翔の姿も。

 

「……私は今更、この想いを捨てる気はありません」

 

 無言の空間が形成され、静寂が四人の間にただ静かに流れる。だがその空気を打ち破る様に声を上げたのはカガミであった。

 

「確かに私達がここにいればいるほど、この世界の……。翔さんのあるべき未来を壊しているのかもしれません。ですがそれは私達だって同じことの筈です」

 

 一同の視線がカガミに注がれる。するとカガミは顔を上げ、確固たる意志を持って堂々と言い放つ。

 

「私達は翔さんに出会った……出会ってしまったんです。それはもう変える事は出来ない事実。あの人が見せた強さと抱えた弱さに私は惹かれた。私という存在にはもう如月翔とい存在が強く根付いているんです」

 

 出会わなければ、などと言ったところで翔と出会った現実は変える事は出来ない。そしてなにより自分達の中に如月翔の存在は大きくなりすぎてしまった。もう翔のことは忘れる、なんてことは出来ない。

 

「私達にも本来あった筈の未来がある筈です。ですが私のあった筈の未来は翔さんに壊されました。だから私は翔さんに私のあるべき筈の未来を壊した責任をとってもらうつもりです」

 

 翔には確かに異世界に渡らず、この世界であるべき筈の未来があったのかもしれない。だが逆に言えば自分達にも如月翔と出会わなかった筈の未来があった筈だ。その未来がどんなものなのかは分からないが、翔と出会ったことで自分の人生は変わってしまったのだ。その責任は絶対にとってもらう。

 

「こればかりは皆さんに負けるつもりはありません」

 

 鋭い視線をレーアとルルをに向けながら話すカガミ。それだけで彼女がどれだけ翔を想っているのかが嫌でも分かる。

 

「わ、私だって負けませんっ!!」

 

 カガミの眼光鋭い視線に怯みながらも負けじとルルが声を張り上げる。

 

「最初こそ翔君は弟のような存在で……っ! いつも戦いで苦しんでた翔君を私が支えてあげなきゃって思ってました……っ……。でも翔君はいつだって私を支えてくれたんですっ!」

 

 翔は元々、異世界でアークエンジェルに合流しても戦うという選択肢は選ばなかった。他の民間人達と同様にフォン・ブラウンに避難しようとしていたのだ。だが襲いかかるコロニー軍を前に死の恐怖に怯える子供を見て、自分の恐怖を振り払ってまで戦った。そこから翔も戦いに身を投じていったが、やはりいつだって彼は苦しんでいた。そんな彼を自分は支えたいと思っていたのだ。

 

「私は……翔君の近くにいると自然と笑顔になれるんですっ! 翔君を感じれば感じるほど、私の心は温かくなるんですっ! やっとまた……翔君と会う事が出来たんです……っ……。私はこれからも翔君の隣で笑っていたい、そして翔君も私の隣で笑っていてほしいんですっ!」

 

 ただの弟のような存在はいつしか愛すべき存在に。自分達の世界にいた時の翔は今にも消え去りそうな儚さがあった。だがこの世界に居る翔は確かな存在でここにいるのだ。翔を諦める気はルルにもなかった。

 

「……レーアお姉ちゃん」

 

 分かっていたとはいえ、カガミとルルから言葉にして翔への想いをまっすぐに明かされ、レーアは口を紡ぐ。自分だって今すぐにも翔の想いを明かしたかった。だが自分の中の気持ちがそれを良しとはしなかった。するとリーナが静かにレーアに声をかける。

 

「レーアお姉ちゃんは言ってたよね。翔を想っての苦しさも温もりも全部が愛おしい。きっとそれが恋なんだって」

 

 かつてイラトゲームパークで恋について分からなかった自分に恋がなんであるのかを教えてくれた。レーアが今悩んでいるのも翔が好きだからこそなのだろう。

 

「私達は人間なんだよ。常に完璧な選択肢が出来るわけじゃない。だからこそ……少しぐらい自分のエゴに素直になって良いんじゃないかな」

 

 翔への想いを捨て、また新たな人生を……。なんて器用な生き方は出来ないだろう。そんなレーアにリーナは背中を押すように優しく笑い掛けながら諭す。

 

「……私は翔を愛しているわ」

 

 リーナの言葉にしばらく俯いて考えていたレーアは静かに顔をあげ、ポツリと呟くように話し始める。

 

「私は空っぽで未来に何の願いも抱けなかった。でも翔が私の心を満たしてくれた……。翔がいなくなった時も翔はいつだって私の心の真ん中にいた……。もう私は翔なしじゃいられないんだと思う」

 

 翔に直接、言った事もあった。だが翔は未来に何の願いを抱けない自分を悪魔と共に振り払ってくれた。翔が自分達の世界からいなくなった後も気づけば翔に会いたい、と翔のことばかり考えている自分がいた。

 

「私は……翔の傍にいてはいけない存在なのかもしれない。それでも私はやっぱり翔のことは諦められない……。どこまでもどうしようもない存在だって分かってるわ……。でもこれで踏ん切りはついた」

 

 翔のことを諦めるべきなのでは、と考えていた事があった。だがもう頭の中で翔を諦めるという選択肢はなくなってしまった。

 

「私は最後まで翔を求める。私の未来も、翔の未来もどうなるかは分からない……。でも私は翔と一緒に未来を作っていきたい。これが今の私の……未来への願い」

 

 迷いなく言い放ったレーアにやっと自分達の知るレーアが戻ってきたとばかりにカガミ達は微笑を浮かべる。

 

「何度も言いますが負けませんよ」

「それはこちらの台詞ですっ!」

「なにがあっても恨みっこなしよ」

 

 カガミ、ルル、レーアは視線を交えて火花を散らす。しかし三人に流れる雰囲気はどこか温かなものだった。

 

(……こういう時、翔には自爆スイッチを押せって言うべきなのかな)

 

 三人のその様子は傍から見てる分には微笑ましいが、反面、これだけ思われている翔が幸せ者だろう。故にリーナはクスリと微笑みながら翔をからかうように内心で呟くのであった。

 




(リア充爆発しろ)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アナタにとってのワタシ

「やー……すっごい並んでるねー」

 

 微妙な距離感の一矢とミサとは違い、ウィルと夕香はネバーランドを満喫していた。とはいえやはり大混雑もあってか一つのアトラクションを利用する度に多くの時間を並ばなくてはいけないのはネックだ。少しずつしか進まない列を見ながら夕香は肩を竦める。

 

「日差しも強いからね、平気かい?」

「まあ、これくらいならどうってことないかな。けど髪が日焼けすんのはヤダなー」

 

 夏の季節はやはり燦々と輝く太陽の日差しはどうしても強い。太陽を見やりながら夕香を気遣うウィル。熱中症になったら大変だ。ウィルの気遣いに夕香は心配するなとばかりに軽く笑いながらでも毛先を指で弄る。

 

「帽子でも持ってくるべきだったよ。一応、スプレーはしてあんだけどねー」

「スプレーか……」

 

 失敗した、とばかりに首を振っている夕香。一応、髪にも使用できるUVカット効果の高い日焼け止めスプレーは使用したが髪を心配するなら手っ取り早いのは日傘や帽子の類、もしくはUVカット機能のある洗い流さないトリートメントの類だろう。しかしウィルはスプレーの類は好きではないのかどことなく微妙な反応を見せる。

 

「無臭の奴使ってるよ。あんまりベタベタ匂いつけんのは好きじゃないし」

「それは良かった。僕は君の元々の甘い匂いの方が好きだからね」

 

 その微妙な反応を見てか、使用したスプレーについて教えるとウィルはどこか嬉しそうに微笑を浮かべる。

 

「ふーん……だったらもっと近くでかいでみる?」

 

 すると夕香はウィルの言葉に目を細めると、挑発的な笑みを浮かべながらウィルに首筋を向けて指先でなぞる。その妖艶で挑発的な仕草はなんと男を惑わす事だろうか。ウィルはそのまま吸い込まれる様に首元に顔を近づけようとした瞬間……。

 

「──うぉほんっ! んんっ!! ごほごほっ!! えふんっ!! はあぁぁぁんっ!!?」

 

 ウィルが夕香の首元に近づこうとした瞬間に後ろの方で妙にうるさい咽込むような声が聞こえ、挑発する夕香の匂いをかごうと顔を近づけたウィルは動きを止めると後ろの方を見やる。

 

「あー大変っ! 飲み物を咽込んじゃったんだネーっ!? 大変だァーっ!!」

 

 ウィルにつられて夕香も背後を見やると、人混みでハッキリ見えないが何かごまかすように説明的に、だが妙に棒読みで大声を上げる少女が咳き込んだであろう少女を頭の抱えて、此方からは背を向ける体勢になっていた。

 しかし顔を隠すように頭を抱えられている少女は今すぐにでもこちらに向かって来ようとばかりに暴れているように見えるのは気のせいだろうか?

 

 ウィルも夕香も変な人達だとは思うが、別にさほどの興味もない為に再び列に集中する。とはいえ先程の妙な横やりのようなものがあった為、ウィルは夕香の匂いを近くでかげなかったが。

 

 ・・・

 

「あーっ、美味しいぃっ」

 

 ネバーランドのフードコートではワークボットが提供した特大のホットドックをかぶりついた翔やレーア達とは別行動中のヴェルがほくほく顔を浮かべて満悦な様子だ。

 

「ほらシュウジ君も食べてみてっ」

 

 そのまま子供のように瞳を輝かせながらまた新たに提供されたホットドックを隣に立っているシュウジへ向ける。

 

「やっぱり美味しいものを一緒に食べてる時って幸せだよねっ」

 

 ありがとうございます、とヴェルからホットドッグを受け取ったシュウジはヴェルと一緒にホットドッグを食べると、ヴェルは無邪気で輝かしい笑顔をシュウジに向ける。こうしてみるとどちらが年上なのか分かりはしない。

 

(やっぱりヴェルさんのこういう姿の方がらしいよな)

 

 ヴェルの笑顔につられるようにシュウジも微笑を浮かべる。正直、ヴェルの一挙手一投足に気を取られていてホットドッグの味に集中できない。以前、エロ本が見つかった時、しばらく人を誘惑しようと様子がおかしかったが、やはりヴェルはこういった無邪気な姿がとても似合う。

 

「……どうしたの?」

「いや、なんでもないっすよ」

 

 しばらくホットドッグを満悦な笑みで食べていたヴェルだが、ふとシュウジの視線に気づいたのか、不思議そうな様子で首を傾げながら尋ねる。だがシュウジはふと柔らかな笑みを浮かべながら首を横に振る。ヴェルに今、思ったことを伝えれば恥ずかしがってこうして無邪気に食べ物を頬張っている姿を見せてくれないかもしれないと考えたからだ。

 

「それよりほかにも食べるところはありますし、そっち行きましょう」

「うんっ! 行こっ!」

 

 いっぱい食べる君が好き、とはよく言ったものだ。ヴェルの姿を見ているとそう思う。シュウジは他の飲食店に向かおうと提案すると、ヴェルは嬉しそうに頷きながらシュウジの腕に自身の腕を絡めて一緒に歩き出す。

 

(……こういうのをデートっつーのかな。まっ……悪いもんじゃねえか)

 

 ふとシュウジは腕を組んで寄り添って歩くヴェルを見やりながら漠然と考える。

 今までなんだかんだでヴェルとデートした事はなかったが、これはそうと言えるのではないだろうか。ヴェルもヴェルでそれもあってか今日はいつも以上にテンションが高い。そんなヴェルを一瞥したシュウジは微笑をこぼしながら、ならばヴェルを満足させねばと最寄りの店へ向かう。

 

 しかしこの男、自分のエロ本が一因で弟分達が微妙な距離感になっていることは夢にも思っていなかった。

 

 ・・・

 

「はぁっ……こんな筈じゃなかったんだけどな……」

 

 売店でワークボットから飲み物を買ったミサはドリンクカップを両手にベンチに腰掛けて、重い溜息をついてしまう。今日のネバーランドは良いものにしようと思っていたが、この様だ。

 

「それで何があったんですか?」

 

 ミサの隣には咲とコトが挟むように座っており、ずっと様子がおかしいミサに咲が尋ねる。咲とコトがミサについて来たのは様子のおかしいミサを心配してのことだった。

 

「……なんにもないよ」

 

 しかしミサは咲の問いかけに首を横に振ってしまう。焦ったり動揺する事はあっても一矢との間に決定的な何かがあったわけではないのだ。

 

「……咲ちゃんやコトちゃんはそれぞれ恋人が出来て、なにか変わった事はある?」

 

 何もない訳がない、咲やコトが更に追及しようとするが、その前にミサは二人に対して問いかけると厳也、そして影二とそれぞれ交際して何か変わったのかを考える。

 

「その……付き合い始めて厳也さん、ナンパをやめてくれたんです」

 

 まず初めに答えたのは咲であった。ジャパンカップなどでも厳也がナンパをするところは見てはいたし、知ってはいたのだがその厳也がナンパをやめたと言うのだ。確かに今日、このネバーランドで一緒にいるとき、厳也は一度たりともナンパをしていなかった。

 

「私の方も影二さんは仕事が終わった後も気遣って連絡をくれるんです」

 

 そしてコトも影二について答える。アイドルと言う立場上、やはり嫌な仕事、辛い仕事もあるがそれでも影二はコトを気遣って連絡をくれた。それが何より救いになってくれていたのだ。

 

「……私達は……何にもない」

 

 二人とも恋人の話をする時、少女らしくはにかんだ可憐な姿を見せている。二人のそんな幸せそうな顔を見たミサの表情はどんどん暗いものになっていく。

 

「一矢は変わらないんだよ、付き合う前と接し方が……。それが凄く不安になる」

 

 かつて一矢の部屋に訪れた際も眠ってしまった一矢の寝顔を見て、同じことを呟いた。一矢は変わらない。恋人となったとしても一矢の態度に何か変化が起きた訳じゃない。それが何より不安になってしまうのだ。

 

「お互いの気持ちは分かってる筈なのにね……。でもそれが見えないから怖いんだ。私は一矢に恋人として見られてるのかなって……」

 

 それでも一矢は自分を想ってくれているのは分かる。しかしどうしようもなく不安は出てきてしまう。一矢の接し方が交際する以前の仲間、友達への接し方と何ら変わらないからだ。自分は一矢にとって特別な存在でいられているのかと悩んでしまう。

 

 いつもと変わらないガンプラに関わり、ガンプラバトルを行う日々。そんな日々は確かに毎日が楽しいが、それでもデートをしたりと恋人らしい行動がしたいと思うのは年ごろの少女として何らおかしなことではないはずなのだから。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ごまかせない想い

「ミサとは何にもないんだな」

 

 ミサ達がお互いの恋人について話し合っているのと同じように一矢達も雑多とした人並みを眺めながら隅となる場所で話していた。厳也達も咲達同様に一矢から話を聞いていた。しかし一矢から返ってきたのは思い当たる節はないという返答のみ。影二が念押しするように確認すると、一矢はコクリと頷く。

 

「……逆に一つだけ良いかの?」

 

 では一体、何が原因かと考えている影二に次に口を開いたのは厳也であった。人さし指を立てて一つ、質問するという厳也に一矢は視線を向ける事でその質問の内容を待つ。

 

「ミサに何かしたかの?」

「……だからなにもしてないって」

「そうではない」

 

 厳也の質問はミサに何かしたのか、といった質問だった。すると一矢はそれは先程、答えただろうと言わんばかりに顔を顰めながら話すと、厳也はゆっくりと首を横に振る。

 

「ミサにこれまで何をしてやったんじゃ?」

「何をしてやったって……」

 

 厳也の質問はこれまでの質問の言葉と似ていながら、そのニュアンスは違っていた。

 厳也の問いかけに一矢は考えるようにして顎に手を添え、視線を伏せる。

 

「……ガンプラを一緒に作って……」

「うぬ」

「ガンプラバトルを一緒にやって」

「うぬ」

 

 ミサにこれまで何をしてきたか、思い当たる事を一つ一つ話し始めると、その内容に厳也は一つ一つに相槌を打つ。

 

「……それで終いかの?」

 

 しかしそこから先、一矢は再び押し黙ってしまい、厳也がチラリと一矢を確認しながら尋ねると無言でコクリと頷く。

 

「……あのなぁ……お主とミサの関係はなんじゃ?」

「恋人……?」

 

 一矢の返答に心底、呆れた厳也は重い溜息をつきながら一矢にミサとの関係について尋ねると分かり切っているはずなのになぜ、そんな質問をするのか、その意図が分からず首を傾げながら答える。

 

「そうじゃ。お主とミサは恋人同士。なのに恋人らしい行動をしておるのか、お主は」

「それは……」

「話を聞いてる限りでは、恋人以前のただの友達付き合いと左程、変わらぬではないか」

 

 一矢の答えに頷きながら更に問いかける厳也に一矢は言葉を詰まらせてしまう。言われてみれば、確かに自分はミサと恋人らしい行動をしているのかと言われたら微妙なところだ。

 それこそウィルとのリベンジマッチを勝利してキスをして以来かもしれない。その直後にも厳也から中々、耳の痛い言葉を言われてしまう。

 

「恋人になるという事は今までとは関係が変わるんじゃ。以前と接し方一つでも変わってくるのが至極当然のことじゃろう」

 

 そうでなければ恋人である意味がない。恋人関係であるのであれば、それらしい行動をすべきではないかと説く厳也に一矢は俯いてしまう。

 

「でも……恋人らしいことなんてなにすりゃいいか分かんないし……」

「ミサのことは好きなんだろう?」

 

 元々、人付き合いその物が得意ではない一矢が恋人らしい行動をしろ、と言うのはいささかハードルが高いようだ。すると今度は影二が助け舟を出すように問いかける。とコクリと頷く。

 

「だったらその気持ちを少しでも伝えてやれば良いんじゃないか? いきなりは無理でも少しずつ相手にその気持ちが分かるくらい言葉で伝えてあげれば」

「……気持ち」

 

 一矢の頷きを見た影二は少しでもヒントになるようにと助言をすると、一矢はポツリと呟いて俯いてしまう。

 

「今はまだ良いかもしれん。じゃが、ミサが背を向けてからじゃ遅いんじゃぞ」

 

 俯く一矢に再び厳也が口を開くと、その言葉に俯いていた一矢はすぐに反応して顔を上げる。

 

「そこまで強く反応するほどミサのことを好いとるわけじゃろ?」

 

 先程まで俯いていたのにミサが一矢から離れるという言葉を聞いた時一転して強く反応した一矢の反応を見て、厳也はくつくつと笑うと何だかからかわれているようで一矢は照れ臭そうに顔を背ける。

 

「まあ後はどうするかはお主次第じゃ」

 

 照れるな照れるなと一矢の肩に手を回す厳也だが、ふと真面目な表情で一矢に告げる。

 その言葉に今まで照れ臭そうにしていた一矢だが、何か考えるように俯く。

 

「……悪いけど、一人にして」

 

 しばらくして顔をあげた一矢は厳也の腕を振り解くと、スッと抜けて二人の返答を待たずして雑多とする人混みの中へと消えていってしまった。

 

「……大丈夫だろうか」

「どうじゃろうな。あくまでわし等がしたのは答えではなく助言なんじゃ。先も言ったじゃろう。後は一矢と……そしてミサ次第じゃ」

 

 この人混みの中では去っていってしまった一矢をここから目で追う事は難しい。

 いなくなった一矢にこの後どうなってしまうのか、心なしか心配そうにする影二と厳也も肩を竦めるのであった。

 

 ・・・

 

「もうすぐイベントが始まるんだって」

「マジで!? 早く行こうぜ!」

 

 一人になった一矢はポケットに両手を突っ込んで、宛てもなく彷徨うように一人で歩いていた。すれ違う子供達から今日、このネバーランドで行われるガンプラバトルのイベントについての話題に花を咲かせており、イベント会場に向かって駆け出している。しかし一矢はそんなガンプラバトルのイベントに関する話題を聞いたとしても、無反応であったのだ。

 

「……好き……か」

 

 ミサのことは好きだ。誰より愛してると言っても過言ではない。しかしその言葉を自分がミサに面と向かって言う姿が想像すら出来ないのだ。

 

『つまり我が彩渡商店街ガンプラチームに君をスカウトしたいんだよ!』

 

 最初にミサと出会った日の事を覚えている。あの日、ミサにチームを勧誘された時は過去のトラウマからどうせ自分の実力目当てで期待を押し付けられるだけだろうと考えていた。

 

『見くびらないでよ! 君だけに全部を任せる気なんてないんだから!!』

 

 でも実際は違った。ミサは自分だけに全てを任せようと何て微塵も考えてはいなかったのだ。そんな彼女だからこそ自分は彼女の手を取った。

 

『……コイツの顔……曇らせたくない……ッ!』

 

 かつてのタウンカップを思い出す。PG機体を使ったカマセがミサを追い詰めた時、自分は無我夢中でこんな事を考えていた。

 

『ただ前に進むんじゃない……。もっと高く……。あの笑顔と一緒に……』

 

 ゲネシスブレイカーの初陣を思い出す。あのゲネシスブレイカーを作ったのだって、誰にも負けないように強くなろうとしたのだって、誰よりも何よりもミサと一緒にこれからも進むため、もっともっと高みを目指す為なのだ。

 

『……私、一矢に会えて良かった。あの時、ゲーセンで声をかけて本当に良かった』

 

 彼女は過去にこう言ってくれた。しかしその時も言ったが、ミサ以上に出会えて良かったと思える人物はきっとこれからもいない。

 

『大好き、だよっ』

 

 しかし今にして思えば、いつだって好意を伝えてきてくれたのはミサからだった。

 自分はそれに便乗するかでしかミサに対して想いを伝えられてはいないだろう。そう考えれば、自分はミサの恋人として相応しいとは言えないだろう。

 

(……だからってアイツが他の男と歩いてるとこなんて見たくない)

 

 自分が恋人という存在に全く不向きな存在だと分かっていても、それでも愛想をつかしたミサが自分から離れて行って、他の男と幸せそうな顔をしている姿なんて見たくはない。そんな姿を見たら、自分は何をしでかすかも分からない。

 

(好き、か……)

 

 厳也や影二が言うように、離れてからでは遅いし、好きならばその想いを少しでも伝えられれば良いのかもしれない。しかしどう言葉にして良いか、どうミサに好意を伝えれば良いのかが不器用な自分には分からないのだ。

 

(……不器用なんて言い訳にならないよな)

 

 不器用だから、そうやってミサに甘えて今の結果を招いてしまったのかもしれない。自分はミサにどう伝えたいのか、彼女にとってどんな存在になりたいのか、を考え、答えを求めるようにして空を仰ぎ見るのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真紅の瞳は何も語らず

 予定通り、再オープンの目玉の一つであるガンプラバトルのイベントが執り行われることになり、会場には所狭しと人で賑わっていた。招かれていた翔を含んだゲスト達のトークも終わり、いよいよガンプラバトルが執り行われる。

 

「すっごい人数だね。どんなバトルになるんだろ」

「さあ。けど見知った顔もチラホラいるし、単純なバトルにはならないでしょうよ」

 

 観客席には今回、観戦することを選んだヴェルとシュウジがおり、抱えたバケツサイズのポップコーンをパクパクと食べているヴェルの隣でシュウジは参加者の中に見られる厳也達の姿を見ながら答える。

 

 ・・・

 

≪それでは準備が完了したファイターから出撃してくださいっ!≫

 

 いよいよ目玉のガンプラバトルが行われる。イベントMCがマイク片手に進行を始めると、参加者であるガンプラファイター達はガンプラバトルシミュレーターへと向かっていく。

 

「……一矢の奴、おらぬの」

 

 厳也達は周囲を見渡すが、一矢の姿は見当たらない。もしかしたらこの会場のどこかにいるのかもしれないが、だとしても何故、自分達の元にいないのだろうか。

 

「……俺達のところにはいなくとも、別の場所で参加している可能性はある」

 

 一矢がこの場におらず、寂しそうな表情を浮かべているミサを安心させるように影二が声をかける。シミュレーターは無数にあると言って良い。何も自分達のところにいなくとも参加者であれば、この会場でどのシミュレーターでもイベントその物には参加は可能だ。

 

(……一矢)

 

 ぼちぼち参加者達がガンプラバトルシミュレーターに乗り込んでいく。影二の言うように自分達は別に参加している可能性はあるが、それでも出来るのなら傍で、一緒に参加したかった。とはいえ時間が押し迫っている為にミサはガンプラバトルシミュレーターに乗り込む。

 

「……」

 

 ミサがガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだのと同じタイミングで一矢がガンプラバトルシミュレーターが置いてある会場に姿を現す。なにかを探すように周囲を見渡していた一矢は目を伏せて、何か迷う素振りを見せつつも彼自身、ガンプラバトルシミュレーターに向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

 ネバーランドが執り行うガンプラバトル。そのフィールドはそのままネバーランドを模して造られたステージであった。ネバーランドの広大なステージを舞台にガンプラバトルが行われている。

 

「各砲座一斉射撃! 撃ち落とせッ!!」

「淄雄が楽しそうにしているんだ、邪魔はさせないっ!」

 

 このイベントには本当に多くの参加者がバトルをしている中で一際目立つのはバイク戦艦ことアドラステアを駆る淄雄とそれを援護するようにアインラッドを駆使するゲドラフを使用する佳那であろうか。

 

「随分と派手にやる」

 

 アドラステアとゲドラフによって次々にガンプラが撃破されているなか、上空から眺めていたのは翔のブレイカーネクストであった。そろそろ自身もボチボチ動き出そうかと考えた時であった。

 

「──ッ!!」

 

 ふとモニターの前方がキラリと光る。感づいた翔が咄嗟にブレイカーネクストを動かすと、先程までブレイカーネクストがいた位置に全てを飲み込まんばかりの極太のビームが過ぎていく。

 

「やっぱり当たらないか」

「……リーナか」

 

 モニタ-を拡大して相手を確認する。そこにはウイングゼロの姿があり、ブレイカーネクストへの通信からファイターはリーナだろう。

 

「……翔が作ってくれたこの強化ユニット……結構凄いね」

「気に入ってくれたのなら何よりだ」

 

 先程の攻撃は挨拶代わりだろうか。ウイングゼロがその手に装備しているツインバスターライフルは今までと外観が違った。

 それはツインバスターライフルの強化ユニットであり、それを3基を銃身に装着することによって完成したドライツバークバスターであった。ドライツバークバスターの威力に心なしか驚いているリーナに翔は微笑んでいると……。

 

「また来る……!」

 

 すると今度は再びブレイカーネクストを狙った精密射撃が襲いかかり、そのあまりの鋭さから咄嗟にビームキャリーシールドを展開することによって何とか防ぐ。

 

「やはりカガミか」

「アナタに習った狙撃術です。いかがですか?」

「腕を上げた。痛いくらい良く分かるよ」

 

 シールドを構えたままブレイカーネクストが狙撃を放った相手を見やれば、此方に向かって突っ込んできたMA形態のライトニングFBがMS形態へと変形してきていた。

 ファイターはカガミであり、予想が合っていた翔の呟きにカガミが微笑を浮かべながら尋ねると翔も笑みを浮かべて答える。

 

「私達だけではありませんよ」

 

 並んでいるウイングゼロとライトニングFB。二人がかりで向かってくるのか考えていた翔だが、そんな翔の心を見透かしたカガミの発言と共にガンプラバトルシミュレーターに反応があり、次の瞬間、ブレイカーネクストに四方八方からソードピットが襲いかかる。

 

「レーアまで……」

「驚いたかしら?」

 

 すぐに反応して掻い潜る様に避けたブレイカーネクストが確認すれば、そこにはレーアのダブルオークアンタの姿が。だがただのダブルオークアンタではなく、右肩に装備されている新たな大型の実体剣・GNソードIVフルセイバーを追加したダブルオークアンタ フルセイバーだ。こちらもリーナのドライツバーク同様に翔が政策したものだ。

 

「翔さん? あれ、なんですかこの状況は……?」

「なになに、翔さん、レーアさん達のこと怒らしたの?」

 

 ブレイカーネクストと対峙するのは三機のガンダム。すると翔を目当てにやって来たあやこのアイオライトの風香のエクリプスまで合流してきてしまう。しかし二人ともレーア達とは違い、翔を攻撃することはなくこの状況の説明を求めている。

 

「怒らせる……。そうね、一度、翔にはお灸を据えるべきだと考えていたの。みんなに優しくするだけしておいて、いつまでもハッキリさせないんだから」

「なあなあでいましたが、刺激を与えるのも良いかもしれませんからね。引いてダメなら押してみましょう」

 

 怒らせたつもりはない、と風香に答えようとする翔だが、その前にレーアとカガミが答えてしまい、その内容に唖然としてしまう。

 

「ってきり翔さんはハーレム狙いなのかと思ってたけど。なーるほどね……。だったら風香ちゃんもやっちゃうよっ!」

「……そうですね。いつまでも翔さんを放っておいたら、いつまた女の子誑かすか分かったもんじゃありません」

 

 唖然とする翔を他所にレーア達の言葉に賛同した風香とあやこはそれぞれ機体を動かし、ブレイカーネクストと対峙する。

 

「……えー……っと……本気……なのか……?」

 

 対峙する五機のガンプラに流石の翔と言えど、冷や汗をかいてしまう。尋ねる翔にダブルオークアンタF達は武装を構える事で答える。

 

「翔は一度、爆発した方が良いと思う」

「リーナ!?」

「ルルに言われた。“私の分はリーナさんに任せる”って」

 

 ボソッと呟くリーナに妹のような存在の彼女に言われたことに動揺している翔だが、リーナはクスリと笑みを浮かべながらドライツバークバスターを構えると同時にダブルオークアンタF達は散開してブレイカーネクストに襲いかかるのであった。

 

 ・・・

 

「やっぱり色んなファイターがいますね」

 

 厳也達もガンプラバトルを行っており、参加者の数だけ個性の光るガンプラとバトルをしながら咲が楽しそうに話すと、同意するように厳也達も頷いている。

 

(一矢……)

 

 しかしミサだけは違っていた。その暗い表情は一矢だけしか考えておらず、心ここにあらずと言ったところか。

 

「っ!?」

 

 そんな心境はバトルにも反映されており、アザレアリバイブに襲いかかるガンプラに反応が遅れてしまった。迫るガンプラに直撃を受ける事をミサは覚悟する。

 

 しかしその前に上空から一直線に降り注いだビームがガンプラを貫き、撃破する。目の前で爆散したガンプラに驚きつつモミサが上空を見上げれば……。

 

「一矢っ!!」

 

 上空には翼を広げたガンダムが浮かんでおり、こちらを見下ろしていた。

 あのガンプラは一体、なんだ?と厳也達が互いに確認するが、誰も知らない。だが一人、ミサだけは知っていた。

 先程の暗い表情から一転して花が咲いたような明るい表情であのガンプラを使用するファイターの名を口にする。

 

 蒼と白を基調にしたそのガンダムは全身にCファンネルを装備しており、バックパックに装備しているスーパードラグーンを併せれば凄まじい力を発揮するだろう。

 

 その名はリミットガンダムブレイカー。

 

 ミサが一矢の部屋で未完成の状態で見たあのガンプラは漸く完成し、今こうして日の目を見たのだ。

 

「一矢……?」

 

 しかし一向にして一矢からの反応はない。一体、どうしたのか? 怪訝そうに一矢の名を呟く。いつまでも空からこちらを見下ろすリミットブレイカーからは威圧感のようなものすら感じるのだ。

 

「っ!?」

 

 すると次の瞬間、リミットブレイカーはその手に持つカレトヴルッフをガンモードに切り替えて、アザレアリバイブにその銃口を向けると引き金を引く。咄嗟にシールドで防いだもののミサは呆然としてしまう。

 

「なん……で……!?」

 

 一矢が自分に攻撃してきた。その衝撃はミサにはとても大きかった。しかし呆然とするその時間さえ許さぬようにリミットブレイカーは朱い刀身のカレトヴルッフをソードモードに組み替えるとアザレアリバイブに襲いかかる。

 

「……」

 

 リミットブレイカーのガンプラバトルシミュレーターには確かに一矢の姿があった。

 前髪に見え隠れする真紅の瞳は妖しく揺らめき、アザレアリバイブを捉えて離さない。

 そこから彼がなにを考えているのかは全く分からないがリミットブレイカーのツインアイは不気味に輝くと、カレトヴルッフを振りかぶるのであった……。




ガンプラ名 リミットガンダムブレイカー

WEAPON カレトヴルッフS(射撃と併用)
HEAD ダブルオークアンタ
BODY ガンダムエクシア
ARMS ガンダムAGE‐FX
LEGS デュエルガンダム アサルドシュラウド
BACKPACK ストライクフリーダムガンダム
SHIELD アンンチビームシールド

ビルダーズパーツ

チークガード×2(両頬)
Cファンネル・ロング×2(両腰)
Cファンネル・ショート×2(両腿横)
追加装甲版×2(両肩のCファンネルを覆うように)

イメージの為、例によって活動報告の方にリミットブレイカーのマイハンガーに繋がるURLを貼っておきます。一応、私が見た限りだとパソコンからは見れました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本音を明かして

 アザレアリバイブに襲いかかるリミットブレイカー。これまでの雨宮一矢が使用してきたどの武装より巨大な身の丈があるか否かの大剣であるカレトヴルッフを軽々と振るい、それが一撃でも直撃すればただでは済まないだろう。

 

「一矢、なんでっ!?」

 

 カレトヴルッフが風を切る。リミットブレイカーの攻撃を何とか避けながらミサは混乱を露わにしながら叫ぶ。しかし一矢は、リミットブレイカーは叫びさえお構いなしに攻撃を続けていく。

 

「きゃあぁっ!?」

 

 しかし段々とアザレアリバイブは追い詰められていき、叩きつけられるように受けたカレトヴルッフの一撃にアザレアリバイブは大きく吹き飛んで、近くの施設に突っ込んでいく。

 

「止めた方が……っ!」

 

 あまりに一方的なまでにアザレアリバイブに攻撃しているリミットブレイカーを見かねて、ストライクノワールを駆っていたコトが影二達に提案する。だが、そのコトの提案に影二はいや……と待ったをかける。

 

「……なにか考えはありそうじゃ。少し様子を見るべきかもしれんの」

 

 リミットブレイカーの攻撃の一つ一つには自棄になったような乱暴さを感じられない。

 なにか考えがあるような気がしてならないのだ。厳也の言葉に影二は頷き、リミットブレイカー達の様子を見守る。

 

 ・・・

 

「どう……して……ッ!?」

 

 施設に吹き飛ばされたミサは困惑で顔を歪めながら、モニターに映るリミットブレイカーを見つめる。リミットブレイカーはこちらにゆっくりと歩いて来ており、恐怖感さえ感じるほどだ。

 

 しかし驚くべきリミットブレイカーの行動はこれだけではなかった。リミットブレイカーはその場に立ち止まる。何をする気なのか、ミサは困惑しながらモニターのリミットブレイカーを見つめていると……。

 

「っ……!?」

 

 なんとリミットブレイカーは覚醒したではないか。ツインアイが輝くと共に全身を包む赤き閃光を纏ったリミットブレイカーを見て、ミサは息を飲む。

 

「本気なの……っ……一矢……!?」

 

 ただ攻撃するだけに飽き足らず、覚醒まで発現させたリミットブレイカー。それだけでもう一矢は冗談でも何でもなく本気で自分に攻撃を仕掛けてきているのだと言う事が嫌でも分かる。

 

 リミットブレイカーはミサの問いかけに答えるように地を蹴って、アザレアリバイブへと向かっていく。リミットブレイカーが振りかぶったカレトヴルッフにすかさずアザレアリバイブも大型対艦刀を構えて何とか受け止める。

 

「なんで……っ……どうして……っ……!?」

 

 しかし覚醒をしているリミットブレイカーとでは、鍔迫り合いになったとしても力負けしてしまうのは当然と言える。押し負けそうになっている状況にミサは苦々しい表情で目の前のリミットブレイカーを見つめる。

 

「──なんで一矢はいつもそうなのっ!!?」

 

 まるで爆発したかのようであった。耐え切れないように声を張り上げたミサに一矢はピクリと反応するのも束の間、鬱憤を爆発させた今のミサを表すようにアザレアリバイブは覚醒する。

 

「何も言わないのに、こうやって人を困らせることばっかするっ!!」

 

 激情をぶつけるように先程のリミットブレイカーの攻勢を一転、アザレアリバイブは大型対艦刀を鍔迫り合いとなっているリミットブレイカーのカレトヴルッフに幾度となく叩きつける。

 

「一矢がなにを考えてるのか……私をどう思ってるのか……分からないよっ!」

 

 攻勢に出たアザレアリバイブにリミットブレイカーは攻撃する手を止めて、アザレアリバイブの攻撃を受け止めることに専念する。その間にもミサの不満が露わになっていく。

 

「私は一矢の彼女なんだよねっ!? 一矢は私のこと、好きでいてくれてるのっ!? 一矢を見てると私達は本当に恋人なのか分からなくなっちゃうんだよっ!!」

 

 怒りをぶつけているミサであったが、段々とその声は震えていき、その目尻には薄っすらと涙さえ浮かんでいた。

 

「私に魅力ってないの!? そんなに巨乳が好きなのっ!? あんなエロ本まで隠してぇっ!!」

「……えっ」

 

 今まで黙ってミサの不満を聞いていた一矢だったが、たった今放たれたミサの発言に間の抜けた声を漏らして唖然とする。

 

「そんなにデカいのが良いのか!? ないない言ってたって私だってほんの少しくらいはあるんだよぉっ!」

「ちょっ、えっ……お前、なに言って……」

 

 呆然とする一矢をよそにミサは眉尻を吊り上げた叫ぶ。

 しかしデカいの良いのか、と言われたところで一矢は別に巨乳が好きだと言った覚えは全くない。

 

「いっつもいっつも寝坊してっ! 大体、話すのも私から話題を振ることが多いしっ! それで話をしたとしても会話を長く続ける気もないしっ! 一矢って本当に何なのっ!?」

 

 しかし怒涛のミサの不満は先程の事あを皮切りにどんどんと今までずっと一矢に感じていた不満点をぶつけていく。

 

「でもっ!!」

 

 だが今までずっと不満を吐き出していたミサだが、一度言葉を区切り、なにを言われるのかとリミットブレイカー共々一矢は身構える。

 

「私はそんな一矢が好きなのっ! 大好きなのっ! だからもっと……っ!!」

 

 そんな一矢の不満さえひっくるめて一矢が好きなのだ、愛しているのだ。だからこそ……。

 

「イチャイチャさせてよっ!」

 

 アザレアリバイブの大型対艦刀が覚醒の光を纏って、一矢が切り札として使用する光の刃を表すと、そのまま自身の想いをぶつけるようにしてリミットブレイカーに叩きつけ、そのまま吹き飛んでしまう。

 

「はぁっ……! はぁっ……! ……っ!!」

 

 声の限り、思いの丈をぶつけたミサは息切れを起こして両肩を上げ下げしながら呼吸をしていると、ふとセンサーに反応がある。それは例のアドラステアであったのだ。

 

 半ば無差別に攻撃しているアドラステア達は周囲のガンプラを破壊しては踏み躙っていき、放たれた武装の数々に今まで成り行きを見守っていたクロス・ベイオネット達も散開して攻撃を避ける。

 

「まず……っ!?」

 

 しかし覚醒の力をぶつけ、ミサ自身も声を荒げていたせいで呼吸をする事に専念していた為に反応が遅れ、アドラステアから放たれた連装メガ粒子砲とミサイルが迫る。

 

 ミサがギュッと目を瞑った時であった。

 リミットブレイカーが吹き飛んだ地点に発生する土煙から無数のCファンネルとスーパードラグーンが飛んでいき、アザレアリバイブを守護するようにミサイルを全て破壊する。

 

「う……?」

 

 次の瞬間、アザレアリバイブのモニターに暗がりが出来、ミサが目を開けると、そこには此方に背を向ける形で降り立ったリミットブレイカーの姿がアドラステアから放たれたメガ粒子砲と対峙するようにアザレアリバイブの前に立ちふさがっていた。

 

 リミットブレイカーはカレトヴルッフを地面に突き刺すと、覚醒状態のままバーニングフィンガーを発現させて迫るメガ粒子砲に突き出す。すると激しいエネルギー同士は拮抗し、メガ粒子砲による砲撃はバーニングフィンガーによって分散され、リミットブレイカーの背後で散り散りになって着弾して爆発する。

 

「……ごめん、ミサ」

「……一矢……?」

 

 メガ粒子砲からアザレアリバイブを守ったリミットブレイカーの後ろ姿をミサが見つめていると、一矢が通信を入れる。するとリミットブレイカーはアザレアリバイブに振り返った。

 

「……ミサの俺に対する包み隠さない本音が知りたかった。きっと……溜めているものがあるだろうから……それを一度、ぶつけて欲しかった」

 

 ミサに攻撃を仕掛けた理由を明かす。ミサの微妙な距離感を解消するためには一度、ミサの鬱憤を全て受け止めるべきだと考えたのだ。しかし単にそんなことを言ったところで、なんでもないなどなんだかんだで誤魔化されてしまうだろう。

 

 だからミサに攻撃をしかける事でミサの鬱憤が爆発するのを誘った。

 勿論、これは賭けだ。もしかしたら言わない可能性だってあったし、余計に関係が拗れる可能性だってあった。しかし一矢はこれ以上にミサに不満をぶつけさせると共に彼女の本音を聞きだす術を知らなかった。だからこそこの男はどこまでも不器用なのだ。

 

「本当にごめん。俺……ずっと隣にいてくれるミサに甘えてた。自分のことばっかで……ミサを寂しがらせてるなんて考えてもなかった……。それですれ違って……上手くいかなくて……。ミサの顔を曇らせたくないって……昔思ったのに……。そんな俺がミサから笑顔を奪ってた……」

 

 お互いに好きであれば、それで良いと考えていた。だがそうではない。好きだからこそもっとしたいことが、するべきことがある筈だったのだ。

 

「でも……俺はミサがいなきゃ生きて行けない……。俺の毎日を輝かせてくれるのはミサだから。ミサがいるから俺は俺でいられるから……」

 

 過去のトラウマからずっと誰かと行うガンプラバトルから目を背けていた。

 だがそんな日々に光を灯してくれたのは何よりミサなのだ。ミサは一矢にとって太陽と言っても良い存在なのだ。

 

「俺もミサのこと好きだよ。ミサだけは誰にも譲れない……」

 

 言葉にすることの大切さを知らなかった。言葉にすることが難しいことだってあるのかもしれない。だが言葉にしなければ伝えられない想いがあるのだ。

 

「きっとこれからもミサに不便な想いをさせちゃうこともあるかもしれない……。でも俺にこれからもミサの隣に居させてほしい。ありのままのミサでずっといて欲しい。言えた義理じゃないけど俺はずっと……ミサを守りたい……。どんなことがあっても……愛したい……」

 

 きっとこれから先の未来だって不満に思う事や時には喧嘩やすれ違いもあるのかもしれない。だが、それでもミサとずっと一緒に居たいのだ。

 

「……じゃあ、約束して。私のこと……ちゃんと見てくれるって……。恋人としてちゃんと接してしてくれるって」

「……ああ」

 

 通信越しではあるものの言葉にして放たれた一矢の見えなかった想いに胸が熱くなるのを感じながらでも、約束を取り付ける。

 

「やれやれ……本当に不器用な奴じゃのぉ」

「だが解決したようで何よりだ」

 

 事の顛末を見守っていた厳也や影二達が近くに降り立ち、一矢達に声をかける。一時はどうなるかと思ったが、双方で納得したようでなら何よりだ。

 

「ミサ」

「うん、行こうっ!」

 

 今までのやり取り全てを見られたことに気恥ずかしさはあるが、それよりも一矢はミサに声をかけると、ミサも笑顔で頷き、リミットブレイカーとアザレアリバイブは手を繋ぐと、同時にバトルが行われるフィールドに飛び出していくのであった。

 

(一矢)

 

 フィールドの上空を共に飛翔しながら、ミサはメインカメラを動かして、隣のリミットブレイカーを見やりながら一矢への想いを馳せる。

 

(私にとっても一矢は光だよ。だから……ずっとそばにいたい)

 

 一矢は文字通りの光を見せてくれる存在だ。

 そして彼の胸に抱く光は自分の心にも希望の光を灯してくれる。だからこそそれが見えなくなって、遠ざかった時感じた時には凍えるような寒さを感じてしまう。

 

 だが今、再び自分の心に光が灯った。

 アザレアリバイブはリミットブレイカーと共に晴れ間が広がる空を飛んでいくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

with you feat.Me

(散々な目に遭った……)

 

 ガンプラバトルのイベントが終了し、参加者達が次々とガンプラバトルシミュレーターから出てくるなか同じくシミュレーターから出てきた翔は疲れ切ってぐったりとした様子だ。それもそうだろう、ずっと執拗なまでにレーア達に狙われていたのだから。

 

「しょーうさーんっ!!」

「うぉっ……!?」

 

 そんな翔に彼を呼ぶ声と共に彼に飛び込むように抱き着き、その首元に手を回すのは風香であった。突然受けた衝撃に翔は短い悲鳴をあげるが、風香はお構いなしだ。

 

「レーアさん達にも負けないくらい風香ちゃんは凄かったでしょー」

「あ、ああ……。そうだな……」

 

 流石に実力者五人を相手にするのは翔とてしんどいものがあったのだろう。風香の問いかけに乾いた笑みを浮かべながら答えていると……。

 

「……私も……頑張りました」

「も、勿論……。昔とは比べ物にはならなかったさ」

 

 不意に翔の裾はが引っ張られ、顔を向ければどこか拗ねた子供のような表情を浮かべるカガミがいた。風香ばかりを褒めていると思ったのだろう。自分も褒めろとばかりのカガミに翔は答えているのだが……。

 

「そうやって誰彼構わずに接するから、あんなことになるんです」

「そうは言ったって……」

 

 風香やカガミを褒めている翔に今度はあやこが声をかける。呆れ顔の彼女にではどうしろと言うのだとばかりに翔は何とも言えない表情を浮かべる。

 

「やっぱり翔君は困った子だね」

「みんなの好意は嬉しいけど、すぐに結論を出すことは……」

 

 そんな翔に合流したルルが声をかけると、翔は首を横に振る。

 確かに男として複数の異性から好意を寄せられる事自体は光栄ではあるが、だからと言ってすぐにこの中から誰か選べと言われたところで自分の人生に関わることだ。そう簡単に答えは出ない。

 

「まあ確かに無理に一人を選ばれるのも、それはそれで嫌なものがあるわ」

 

 翔自身もいつまでもなあなあでいてはいけないと言うのは分かっているようだが、それで無理に結論を出して選ばれたところでそれはそれで納得しかけるためにレーアが声をかける。

 

「だから……ちゃんと私達一人一人の魅力を分からせた上で選んでもらわないとね?」

 

 するとレーアはそのまま翔の空いている腕に自身の腕を絡ませて身を寄せる。

 ただでさえ胸には首に手を回して抱き着いている風香、後ろには服の裾を掴んで身を寄せるカガミがいるのに更にレーアが身体を密着させてきたために、出遅れたルルとあやこは負けじと翔に身を寄せる。

 

「翔、これで終わりだなんて思ってはいけないわよ」

「寧ろここからが始まりだからね! 今まで以上に積極的になるんだからっ!!」

 

 まともに身動きが取れない状況に翔が困惑した表情を浮かべると、翔の内心を見透かしたようにレーアと風香はいたずらな笑みを浮かべながら答え、翔は思わずたじろぐ。

 

「……はあ」

「リ、リーナ……」

 

 そんな翔に痛々しい視線が突き刺さり、視線を向ければ離れた場所で翔を白い目で見てはため息をつくリーナの姿があった。翔がリーナの名を呼ぶが……。

 

「もげれば良いのに」

「リーナ!?」

 

 爆発どころか更に恐ろしいことをボソッと呟くリーナに翔はリーナの名を叫ぶが再び重い溜息をついたリーナは翔に背を向け、我関せずとこの場を後にした。

 

 ・・・

 

「まあまあ楽しかったかな」

 

 ネバーランドでのひと時も終わり、夕香はウィルが運転する車によって家の前まで送り届けられていた。

 道路の端に車を寄せ、ハザードランプが点滅するなか、夕香はシートベルトに手をかけながら今日の出来事に関して感想を口にする。

 

「ふふっ、ありがとね」

 

 まあまあ、と口にしてはいても実際のところかなり満足していたのだろう。釧路と笑みを浮かべた夕香はウィルを見やる。

 

「君のそういうところは本当に卑怯だね」

「なに、照れてんの?」

 

 普段、掴みどころない分、夕香から向けられた何気ない微笑みはウィルをドギマギさせるには十分だったのだろう。熱を冷ますようにウィルは片手で顔を覆いながら呟くと夕香はからかうように先程の微笑みから一転して悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 

「CEOだなんだって言っても、やっぱり子供だねー」

「そうじゃないさ」

 

 ウィルの反応から照れているのだと感じた夕香はウィルに身体を向けながら彼を弄り始める。すると片手で顔を覆っていたウィルは静かに答える。その声は落ち着いたもので到底、照れがある人間の声色ではない。

 

「そんな顔を見せられたら、もっと色んな君の表情を見たくなってくるじゃないか」

 

 からかってくる夕香をチラリと一瞥したウィルはエンジンを止めてシートベルトを外すと、身を乗り出して身体を向けている助手席の夕香に迫り、その頬に手を添えながら顔を近づける。

 

「……アタシ達は付き合ってるってわけでもないでしょ」

「挑発して来たのは君だろう? 僕が子供かどうかは君自身が知れば良い」

 

 ウィルと夕香の距離は鼻頭が触れるか否かの距離まで迫っていた。そんな状況で夕香は目の前のウィルに先程、からかっていたのとは一転して静かに呟くとウィルは口角を上げる。

 

「僕をあまり舐めない方が良い。不用意に挑発すれば何をされるか分かっているのかい?」

 

 静寂の車内で大人しくなった夕香にウィルは彼女の柔らかな頬を触れるとそのまま横髪を撫でながら問いかける。とはいえウィル自身、ここで何かをしようという気はなかった。あくまで人を惑わす目の前の小悪魔の飄々とした態度を崩して、しおらしく恥じらう彼女の姿でも見れればそれで良いと考えていた。

 

 なのに……。

 

「……アンタ次第でしょ」

 

 恥じらうどころかこの小悪魔は目を細めて妖艶に口元に笑みを浮かべると、首に手を回して更に人を誘惑しようとしてくるではないか。艶のある声で甘く放たれたその言葉と密着する温かく柔らかな身体は理性の枷をいとも容易く外すには十分すぎる。

 

「んっ……」

 

 体が熱くなるのを感じたウィルはその首筋に顔を埋めて、夕香はくすぐったそうにか細い声を漏らす。

 

「……これくらいにしておくよ。これ以上は本当に何をするか分からないからね」

 

 彼女の首筋に顔を埋めて夕香の匂いを感じていたウィルはゆっくりと夕香から離れる。

 これ以上は言葉通りだ。何とか自分を抑えてはいるが、更に挑発でもされたら本当に何をするかも分からない。

 

「……まっ、今日はこんくらいにしておくよ。じゃーね」

 

 昂る気分を落ち着かせるように深呼吸するウィルを見ながら夕香は乱れた服を直すと、ドアを開けて車から出ようとする。

 

「……あんまり誰にでもあんな事をするのは感心しないよ」

「誰にでもするとでも思ってんの?」

 

 心臓の高鳴りを感じながら、挑発的な夕香に釘を刺そうとする。自分だからまだ良いが、これが他の男だったらどうなるか分からない。しかし夕香はウィルの言葉に呆れたように言い放つとドアを閉めて家に帰っていく。

 

「……まったく」

 

 去り際に放たれた言葉は胸の昂りを再熱させるほどの威力があった。

 ウィルは一度、落ち着かせるように頭を振ると車のエンジンをかけて走り去っていくのであった。

 

 ・・・

 

(たまには悪くないよねー)

 

 家に帰った夕香はリビングのソファーに座って携帯端末でSNSの画面を開いていると、今日の出来事を思い出し、その口元に笑みを浮かべている。

 

(……けど何なのこの猫は)

 

 だが夕香はそのまま視線を落とす。そこには自身の下腹部に顔を埋めて抱き着いているシオンの姿が。帰って来てソファーに座ったら、途端に何も言わずにシオンがこうして抱き着いてきたわけだ。彼女にしては妙な行動に夕香は首を傾げるのであった。

 

 ・・・

 

「お兄ちゃん、元気ぃーっ!?」

「うぉっ!? なんだ!?」

 

 一方、根城家では妙にテンションの高い裕喜が秀哉に絡んでいた。肩に手をかけてグラグラと強く揺らしてくる裕喜に秀哉は驚く。

 

「お兄ちゃん、膝枕っ! 膝枕して! 貴広、お菓子食べさせてっ!!」

 

 座っている秀哉の膝を叩き、膝枕をねだる裕喜は返答を待たずして秀哉の膝に寝転がり、近くにいた貴広に勝ってきた菓子を食べさせるようにせがむ。

 

「……相当、ストレス溜ってるね」

「今日はなにがあったんだ……?」

 

 元々テンションが高い裕喜だが今日に限ってはずっと暴走しかけるシオンの相手をしていた為に異様なまでにテンションが高い。高校生どころか小学生を相手にしているかのようだ。貴広の呟きに秀哉は頷きながらも今は好きにさせておくのであった。

 

 ・・・

 

 ネバーランドの一件から数日後、一矢は彩渡駅の壁に寄りかかっていた。イヤホンをして音楽を聴いており、まるで誰かを待っているかのようだ。

 

「あっ、一矢っ!」

 

 するとそんな一矢に声をかける者がいた。見やれば、ミサが手を振って足早にこちらに駆け寄って来ていた。

 

「珍しいね。一矢が寝坊しないなんて」

「……今日はデートだし」

 

 イヤホンを外してこちらに向き直る一矢にミサは意外そうな顔をする。てっきりまた自分が待つことになると思っていたからだ。すると一矢はミサから顔を逸らしながら気恥ずかしそうに呟く。そう、今日はあのネバーランド以来のデートなのだ。

 

「……その……どうかな……。夕香ちゃん達に頼って、思い切っておしゃれしてみたんだけど……」

 

 一矢の気恥ずかしさがミサにも移ったかのように頬を染める。するとミサははにかんだ表情で自身の服装について尋ねた。今日のミサはいつもの服装とは違い、ワンピースの上に羽織りものを併せた服装で二つ結びにしている髪も今日は下ろしていたのだ。

 

「……可愛い……と思う。新鮮な感じ」

「そ、そっか……。ありがとう……。えへへ……」

 

 ミサの顔は見慣れた筈なのに、普段とは全く違う格好をしている彼女に新たな一面を見ているようでドキリとしてしまう。恥ずかしがりながらも答えてくれた一矢にミサも照れた様子ながら嬉しそうに笑う。

 

「……行こうか」

「うんっ」

 

 不思議と温かな空間が広がる。一矢はミサに手を伸ばすとミサは嬉しそうにその手を握って二人で歩ぎだす。言葉で伝えるのはまだ苦手だ。だがこういう事なら少しずつでもまだ出来る。

 

「そう言えば、翔さんから聞いたんだけどこの間、参加した新型シミュレーター……。大気圏突入どころかもっと凄い機能をつけるって話だって」

「へぇー。なんだろうね」

 

 手を繋いで歩きながら一矢から話題を振る。それは以前、参加した新型シミュレーターの事であった。大気圏突入が出来る広大なステージだけでも凄まじいのに、それ以上となると何なのか、ミサは想像を膨らませる。

 

(……一緒にいるだけで幸せをくれる。本当にありがとう)

 

 隣を歩くミサの横顔を見やりながら、一矢は微笑む。

 手に感じる温もりは本当に暖かく幸せを感じる。ミサといるだけで色あせたような日々が鮮やかなほどに色づいた満ち足りたものになったのだ。一矢とミサは青天の空の下、共に歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

「……それで? ヴェルに怒られたんだって」

 

 一方、異世界の日本ではショウマの家の縁側にシュウジとショウマが座ってリンが淹れてくれたお茶を啜っていた。するとショウマが口火を切る様に尋ねる。

 

「弟分にエロ本預けたら、彼女にバレて変に揉めたらしくてよ。エロ本は叩き返されて、その彼女からは文句を言われるし、ヴェルさんは17歳にエロ本を渡すなって怒られるしよー……。ヴェルさん、怒ると怖いんだよな」

「まっ、これに懲りたらエロ本なんて買わないこったな」

 

 ショウマの問いかけにヴェルに怒られた件について話す。ヴェルに怒られるどころかエロ本について一矢から全てを知ったミサにも文句を言われたようで、げんなりしている。そんな弟子の姿にショウマは苦笑する。

 

「あぁ、そうだ。アンタに頼み事あんだけどよ」

 

 するとシュウジは思い出したように自身が持ってきた鞄を取り出し、ファスナーを開くと一体、何を頼まれるのかとショウマはシュウジを見やる。

 

「エロ本預かってくんない?」

「そこに直れ」

 

 エロ本 世界を越える



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40000UA記念小説
扉の先


『まだまだ未来はこれからだね!』

 

『じゃあ……未来への扉を開こうか』

 

 

 ──かつて未来への扉が開かれた。

 

 

 今を生きる者達はその扉を通り、答えの分からぬ未来へ進んだ。

 

 

 未来への扉の先には何があるのか……?

 

 

 覗いてみよう

 

 

 未来への扉のその先を

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

「……んっ……」

 

 暗いトンネルをモノレールを思わせる乗り物が走る。窓から差し込む強い日差しを受けると眠っていた一人の少女が短い声を漏らした。茶髪のロングヘアを揺らし、一度強く眉間に皺を寄せると重い瞼を開き、その【真紅の瞳】を露わにする。

 

「起こしてくれたんだ……」

 

 ふと自身の腕が何かに触れられている感覚がある。

 その方向を見やれば、一角獣を彷彿とさせる鎧を着た騎士……騎士ユニコーンガンダムの姿があり、少女は騎士ユニコーンを見て微笑む。

 

「……ありがとう、ロボ助」

 

 とはいえこの騎士ユニコーンはあくまでトイボットだ。

 このトイボットに名付けた名前を口にしながら、その頬にあたる部分を優しく撫でて感謝の言葉を口にする。ロボ助と呼ばれたトイボットは少女の感謝の言葉にその瞳にあたる液晶パーツで笑顔を作る。

 

 真紅の瞳で窓から広がる光景を見やる。どうやらもうすぐ駅に到着するようだ。窓の外から離れた場所にドーム型の駅があり到着は時間の問題だろう。

 

「──起きたんだな、希空(のあ)

 

 ふと窓の外を見ていたら名前を呼ばれて後ろから声をかけられる。振り返ってみれば、自身が座るシートの上に身を乗り出してこちらを見下ろす長髪をハーフアップに纏めた少女がいた。

 

「久しぶりの【地上】だ。心が躍るなっ」

「……夏休みでもなければ来れませんからね」

 

 そのまま先程、希空が眺めていた窓から広がる光景を眺めながら声を弾ませる少女にコクリと頷く。

 

「寮生活だと行動に制限は出てしまうからな……。今日は希空に誘ってもらえて嬉しかったぞっ」

(かなで)は私の誘いなら必ず受けてくれると信じていましたから」

 

 

 どこか苦笑気味ではあったが、今こうしてこの場にいるのは希空に誘われたからなのだろう。希空の両肩に触れながら言葉の中に嬉しさを溢れ出させていると希空は目を瞑り、静かに少女の名を呟く。

 

「私を信じて……っ! よし、駅に着いたらアイスを一緒に食べようっ! 折角、誘ってくれたんだ、奢るぞっ!」

(……ちょろい)

 

 希空の言葉に感涙せんばかりに瞳を潤ませる奏はそのまま身を乗り出した姿勢で首周りに手を回して抱き着くと希空は呆れ半分、奢ってくれるという事で嬉しさ半分といった様子でほくそ笑む。

 

「しかしロボ助もいるとはいえ、こうして二人で出かけるのも久しぶりだな……。親の付き合いが長いとはいえ、昔はよく希空の手を引いて走り回ったなぁ……」

(……その結果、しょっちゅう色んな場所で迷子になりましたが)

 

 ふと奏は希空との昔の思い出を振り返り、懐かしそうに呟くと、その思い出に碌なものがないのか、奏からは見えないところで希空は思いっきり眉間に皺を寄せている。

 

「あぁっ……みな懐かしい……。さあ希空! 私のことを昔のように奏お姉ちゃんと呼んだって良いんだぞっ! さぁ、プリーズ!!」

「呼びませんけど」

 

 しかし希空の心境とは裏腹に二歳年上である奏は希空に半ば昔の呼称を要求するがその希空からは至極冷静に静かに返され、背後に落雷でも落ちたかのように目を見開いて驚いてそのままガックリと項垂れる。その反応を見ながら、寧ろなぜ呼んで貰えると思ったのだろうか、と希空は首を傾げていた。

 

 ・・・

 

「はあ……【久しぶり】の太陽の日差しは心地良いなぁ……」

「……人工のものではありませんからね」

 

 駅に到着し、入り口から出てきた奏は一度、荷物を置いて大きく身体を伸ばすと太陽に手を翳しながらしみじみ呟く。希空も同意見なのかコクリと頷き、声色にも気分の高揚さを感じさせる。

 

「まずはホテルにチェックインするか」

「ですね。少し落ち着きたいです」

 

 これからの予定について話し合う。

 とはいえ別に意見が別れる事はなく、すぐに次の行動が決まって二人はタクシーを利用して移動を開始する。

 

 ・・・

 

「はぁー……とぉうちゃぁくーっ」

 

 早速、ホテルに移動した希空達は割り当てられた部屋に移動すると、奏は荷物を脇に置くとクルクルと回りながらベッドに倒れ込む。

 

「おっ……」

 

 ベッドに倒れた奏はベッドの近くに備えられたリモコンを見つけると興味深そうに笑みを浮かべてリモコンを操作する。するとどうだろうか、なんとこのホテルの一室が魚が泳ぐ海底に変化したではないか。

 

「……勝手に内装変えないでください」「良いではないか、別に」

 

 

 とはいえ別に泳いでいる魚は本物ではなく、魚は荷物を置いている希空をすり抜けていく。これは全て立体映像を駆使して部屋の内装を気分によって変える事が出来る。

 今では大体、このくらいの機能はどこにでもあるのだろう。左程驚いた様子もなく希空は文句を言うが、奏は気にした様子もなくベッドをゴロゴロと寝転がっている。

 

(全く……)

 

 奏の態度に呆れながらロボ助と一緒に荷物を片付けた希空は一部の荷物を机の上に置く。それはGPと思われる端末とそのGPに繋げられた何かのケース。そしてプラグ付きのヘッドホンのような機械だ。

 

「……すぅすぅ……」

(……寝てる)

 

 ふと奏を見やれば、旅の疲れもあったのか彼女はすでにうつ伏せで眠っている。

 内装を海底に変えたこの部屋では今の奏は何故か、海底に沈んだ水死体のようにも見える。

 

 奏が寝たのならば、と希空はリモコンを操作して元の内装に戻すとプラグをコンセントに差してヘッドホンを装着するとスピーカー部分に備わったボタンを操作する。

 すると希空の視界を覆うようにフォロスクリーンが展開し、希空の意識はフォロスクリーンが放った光に吸い込まれる様に意識が切り替わる。

 

 ・・・

 

「……」

 

 希空はゆっくりと目を開く。目の前には白いドーム状の空間が広がっており、空間の真ん中には立体映像が表示されたコンソールの操作台がある。

 今の彼女には先程のヘッドホンは装着されておらず、それどころかその服装は機動戦士ガンダムSEEDシリーズの地球連合軍の女性制服を着用していた。

 

≪VRハンガーに到着≫

 

 すると希空の背後に何かデータが構築されると先程一緒にいたロボ助が現れる。

 この空間では発声することが可能なのか、ここに来て漸く言葉を発し、この空間の名前を話す。

 

 ここはVRハンガーと呼ばれる空間。

 今から【30年近く前】に新型ガンプラバトルシミュレーターに実装された機能だ。このVR空間ではアバターとして現実と左程、変わりなく行動することができる。

 

≪希空、ルナマリア・ホークのアバターが追加されています。どうする?≫

「……課金して」

 

 操作台に移動する希空にロボ助が話しかける。どうやらアバターに新商品が追加されたらしい。

 希空の指示に畏まりましたとロボ助が返答すると次の瞬間、希空の制服に光が集まり、その姿はピンクのミニスカートを履いた機動戦士ガンダムSEED DESTINYに登場するルナマリア・ホークのZAFTの制服に変化したのだ。

 

≪ガンプラの調整を?≫

「うん、この後のことを考えるとバトルをするのにそう時間はかからないだろうから」

 

 アバターの服装が切り替わった希空は操作台を使用して、コンソールを素早く叩くと、彼女とロボ助が立っているリフトの前面の広い空間にデータが構築され、実寸大であろう見た事のないガンダムが姿を現す。

 

 これは彼女が作成したガンプラが彼女が設定したサイズとなって投影されたものだ。

 近くの浮遊する操作台を操作すると、今、希空達が立っている場所はリフトになっているのか目の前のガンプラのコクピットにあたる部分まで移動する。

 

「……うん、NEXのパーツに不備はない」

 

 なんと目の前のガンダムのコクピットが開いたではないか。

 希空は軽やかにコクピットに乗り込むと素早く操作する。中は複雑、と言うわけでもなくあくまでガンプラバトルシミュレーターのそれと大差はない。モニターには機体状態が表示されており、気遣っているとはいえ、移動中の細かいパーツの破損などは見当たらない。どうやらあのGPに繋がれたケースには希空が乗り込んでいるこのガンプラが収められていたようだ。

 

 鋭利的な外見を持つ希空のこのガンプラは可変機であるガンダムAGE-2をベースにカスタマイズしたガンダムNEXという名前らしい。一通り、操作し終えるとNEXのコクピットから降りる。ほぼ設定した実寸大に投影されたガンプラやそのコクピットにアバターが乗り込める点と言い希空達の行うガンプラバトルはかなり異なっているらしい。

 

≪希空、コーヒーを用意しました≫

「ありがとう」

 

 コクピットから降りてきた希空にロボ助が声をかける。希空は操作台近くのリクライニングシートに座ると、ロボ助が出してくれたコーヒーを口にする。

 

「好みにドンピシャ」

≪希空の好みは熟知しておりますから≫

 

 既にミルクと砂糖がいれられたコーヒーに満足した笑みを浮かべる希空にロボ助も液晶パーツに笑顔を浮かべる。とはいえ、このVRハンガーで飲食したものは現実の希空の胃を満たすものではない。あくまで気分的なものだ。

 

「流石、生まれてからの付き合い」

 

 自身の好みを熟知しているロボ助に希空は笑いかける。そもそも希空とロボ助の関係は彼女が生まれた時に遡る。彼女の誕生祝いとして【両親の知り合いのエンジニア】がプレゼントしてくれた。

 希空の誕生と共に起動した彼はロボ助という名前を物心ついた希空から授かり、今に至る。名付けられたときに居合わせたロボ助を制作したエンジニアは母親譲りのセンスだな、と苦笑していたが。

 

≪ところで希空。折角地上に降りたのだから、ご両親に会いに行かれるのか?≫

 

 しばらくコーヒーを飲んで、ゆったりとした時間を過ごしているとロボ助の言葉に希空は動きを止める。

 

「……今回は良い。ここにいることは教えてないから」

≪何故? ご両親は会いたがると思いますが……≫

 

 コーヒーをロボ助が用意したソーサーの上に置きながら静かに答える。だが両親に会わないという選択を選んだ希空を解せないのか、ロボ助は追及する。

 

『あの力は求めて手に入るものじゃない』

 

 希空は目を閉じて、かつて父親に言われた言葉を思い出す。

 

『それが分からないなら今のお前にガンダムブレイカーの名前は使わせられない』

 

 普段は口数の少ない寡黙な父親がハッキリと言った言葉は今でも覚えている。

 

『確かにパパとママはあの力は使えるよ。でもパパの言う通り、あの力は望んだから手に入ったんじゃないんだ』

 

 そして今度に思い出すのは母親の言葉だった。

 

『これって言う答えはないと思うけど、でも希空が希空でいる限り、いつかは手に入る時は来るよ』

 

 優しく諭すように話してくれた母親。当時のことを思い出しながら希空はゆっくり目を開く。

 

「……今はまだ……あの二人に会いたくないんだ」

 

 別に両親のことを嫌っている訳ではない。寧ろ大きな尊敬と親愛を抱いている。その証拠というわけではないが、希空は横紙に留めた二つのヘアピンを軽く撫でる。これは母が使っていたヘアピンと同色のものを見つけて、それっきりお気に入りとして使用しているのだ。希空自身、両親に会いたい気持ちはあるもののそれ以上に存在するとある想いがそこに待ったをかけるのだ。

 

≪希空がそこまで言うのなら、これ以上出しゃばる真似はしません≫

 

 そんな心情を察してか、ロボ助はこれ以上の追及を止めるとトイボットながらその気遣いに希空はありがとう、と感謝する。

 

「でも、ロボ助のメンテナンスは必要だから彩渡街にはいかないと」

≪それはありがたいが私のことは後回しで構わない≫

 

 微妙な空気になってしまったのを払しょくするように希空はロボ助の兜にあたる部分を撫でると、希空の想いに感謝しつつもトイボットである自分を後回しにして良いと申し出るロボ助に希空はそうはいかない、とロボ助の言葉を受け付けない。

 

≪しかし彩渡街に行くのなら、奏もブレイカーズに立ち寄ろうとするのではないでしょうか≫

「それは構わない。奏だって久しぶりに会いたいだろうし」

 

 現実世界で眠っている奏について触れる。

 希空は彩渡街で派手に動きたくないが、奏がどうしようが奏の勝手だ。

 

「……例の博物館、混んでるかな」

≪恐らく。もしかしたら希空の知り合い、もしくは新たな出会いがあるかもしれないな≫

 

 どうも彩渡街の話になると、会話は途切れてしまう。もっとも誰譲りか、希空は口数も多くはないタイプなのだが。

 再び話題を変えると、それは30年ほど前にオープンしたとある博物館についてだ。今回、夏休みを利用してやって来たのは、その博物館が目的だったりする。希空の問いかけにロボ助が予想を交えながら答えると、それは楽しみ、と己の作ったガンダムであるガンダムNEXを見やるのであった。





希空

【挿絵表示】


希空「……洗濯物畳んだのはパパ?」
「……そうだけど」
希空「ママの下着が混ざってた」
「……そうか?」
希空「よく考えて欲しい、私とママとではブラのサイズは圧倒的に違──」
「それ以上はいけない」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悲しみの中で

 時々、私は変な夢を見る。

 

 

 

 ─────この世界には戦いが満ちている。

 

 

 

 妙にリアリティのある夢だ。

 

 

 

 ─────積み上がる瓦礫の山

 

 

 

 まるで、そう……本物のモビルスーツが戦っているような……。

 

 

 

 ─────繰り返す争いの歴史

 

 

 

 そしてこの夢を見る度に聞こえてくる声。

 

 

 

 ─────でも……それでもわたしは信じてる

 

 

 

 知り合いの声でもないのに自分のことのように懐かしく感じる。

 

 

 

 ─────人はいつか 戦いの無い世界を作り上げると

 

 

 

 だが必ず最後は……

 

 

 

『醜く争ってこそ人間だろうがッ……!』

 

 

 

 鮮血に染まって終わる。

 

 

 

 ・・・

 

 

「──っぁ! はぁっ……はぁっ……!」

 

 ホテルのベッドに眠っていた奏は飛び跳ねるように目を覚ます。

 呼吸は乱れており、肌はぐっしょりと濡れている。肩を激しく上下させ、呼吸は乱れに乱れてしまっていた。

 

「あぁ……まったく……っ!」

 

 汗で濡れた前髪を掻き分け、奏は心底忌々しそうに呟く。

 悪夢を見た。しかもこれが初めてというわけではない。いつからだったかは正確には記憶してはいないが、この悪夢を見始めたのだ。

 

 立体映像で表示されている時刻を見て時間を確認する。このホテルに到着したのが昼過ぎだとして、今は夕方。いつの間に寝てしまっていたとはいえ、昼寝と言うには些か長過ぎる。

 

 周囲を見渡しても部屋は薄暗く希空の姿どころかロボ助の姿も見当たらない。室内には人の気配も感じられず、ここにいるのは自分だけなのだろう。

 

 この最悪な気分を少しでも変えようと、ベッドから降りた奏はまっすぐ洗面所に向かい手を翳して自動で出てきた流水を両手で受け止めるとそのまま顔に打ち付けることで顔を洗い始める。

 

「……っ……」

 

 少しは動悸も落ち着き、気分もマシと言える状態になったかと思ったのだが、備え付けの鏡で己の顔を見た奏は息を飲む。

 鏡に映った自身の瞳はまさに今の奏を表すかのように不安定に瞳の色彩が次々に変化しているではないか。

 それは彼女にとってもっとも好ましいものではないのだろう。忌々しそうに歯ぎしりをすると表情を険しくさせ、洗面台に乗せた手を固く握り締める。

 

 その時だった。

 ロックがかかっていた入り口にロックの解除音と共にスライド式のドアが開かれる。突然の訪問者に目を見開いた奏は大慌てでタオルを手に取ると水に濡れた顔を拭う。

 

「……奏、起きたんですか?」

「あ、ああ……。先程な……」

 

 どうやら希空だったようだ。独特の足音が聞こえてくることからロボ助も一緒だろう。すぐにでも出迎えたいところだが、タオルをまるで顔を隠すように強く押し当ててどこか上ずった声で答える。

 

(……早く……っ!早く収まれ……っ!)

 

 歯を強く食いしばり、タオルを顔に強く押し当てながら強く念じる。

 洗面所の入り口に背を向けている為、希空からは奏が顔を洗っているとしか思われていなかったようで、そのまま奏の後ろ姿を一瞥すると通り過ぎていく。

 

 数十秒経ってから恐る恐ると顔に押し当てたタオルを下せば、先程の瞳の色の変化はなくなっており、元の色彩に戻っていた。安堵の溜息をついた奏はタオルを片付け、希空の元へ向かう。

 

「何しに出かけていたんだ?」

「デザインナイフの替刃を買いに行っていました」

 

 ロボ助が希空達の為に室内の音頭を調整するなか、テーブルの上でデザインナイフ片手にパーツの整形を行っている希空に奏が何気なしに声をかけると手慣れた様子でパーツをデザインナイフで鉋掛けの要領で整えながら答える。見てみれば希空の近くには長細い半透明のカプセルが置いてあり、中には密封された替刃が入っていた。

 

「なにか私に手伝えることはないか?」

「ないです」

 

 妹のように可愛がっている希空に少しでもお姉ちゃんらしいことをしようと、瞳を輝かせながら手伝いを申し得出ようとするが、迷うことなく即答で答えられてしまう。

 

「そ、そうか……。出しゃばってすまない……。なんだったら飲み物でも……」

「ロボ助がやってくれています」

 

 清々しいくらい迷いがなかった即答に衝撃を受けている奏はそれでも諦めずに何かしようとするが、取りつく島もないことにそのままふらついた足取りで部屋の隅に向かい、体育座りになって落ち込んでいる。まさに絵に描いたようなどんよりとしたオーラが見えるほどだ。

 

「……」

 

 しかしいつものことなのか、そんな奏も気にした様子もなく希空は作業を進めていると不意に部屋の隅から視線を感じ、肩越しで振り返るが希空の動きに気づいた奏は慌てたように視線を戻す。

 

(……メール?)

 

 気のせい……というわけでもないが構う気もない。希空は再び作業を進めようとした時、テーブルに置いていた携帯端末に着信が入り、一度作業を止めて携帯端末を手に取る。

 

【(´・ω・`)】

「……」

 

 メールを開いてみれば差出人は奏であり、本文は顔文字だけであった。

 本文の顔文字を見て眉を寄せる希空だが、同時に再び部屋の隅から視線を感じる。再度、視線を向けてみれば奏は相変わらず体育座りで部屋の隅にいる……が、その手には彼女の携帯端末がしかと握られていた。

 

「……」

 

 しかし何事もなかったかのように携帯端末をテーブルに置き、再度作業を再開する。ロボ助が飲み物を用意するなか、無言の空間が続いていると再び携帯端末にメールの着信が入る。

 

【(´;ω;`)】

(……めんどくさい……)

 

 今度は泣いていた。相変わらず本文は顔文字だけであり、目を通して軽く溜息をつく。

 

「……コーヒーブレイク。お菓子が欲しいです……」

「か、菓子ならあるぞっ!」

 

 このまま無視し続けていても同じことの繰り返しだろう。作業を中断した希空はあえて聞こえるように何か求めるような声で話すとぴょこりと反応するように外はねになっている髪が動いた奏はバッと輝かしい笑顔を向けて持参した鞄から菓子を取り出す。

 

「希空の好きなふわふわで甘々な菓子だっ!」

「ふわふわ……」

 

 持ち出した菓子の箱を開けながら中身を希空に見せれば中身は饅頭のような菓子であった。奏の言うように希空の好みなのだろう。その菓子は心なしか頬が緩んで見える。

 

『今回のゲストはMITSUBAさんです、どうぞー!』

『よろしくお願いしますー!』

 

 その後、ロボ助が希空にはコーヒーを奏にはオレンジジュースを用意するなか何気なくテレビをつける。丁度、バラエティー番組が放送されており、そこには一人のアイドル歌手がゲストで登場していた。

 

「ツバコもじわじわと有名になっているな」

「最後に会ったのも結構前ですね」

 

 幸せそうに奏が用意した菓子を頬張る希空を微笑ましそうに眺めながらテレビを見やる。ツバコとはMITSUBAの本名だ。そのMITSUBAとは知り合いなのだろう、MITSUBAを誇るように話す奏に希空もどこか懐かしむ様子だ。

 

「……そう言えば明日……彩渡街に行こうと思っています」

 

 バラエティ番組自体に特に興味があるわけでもないが、何気なくぼーっと眺めていた奏だが希空が何気なく口を開いたため視線を向ける。

 

「ロボ助のメンテナンスをしなければいけませんから」

「それもそうだな。私はどうしようか?」

 

 彩渡街に立ち寄る目的を話す希空にそれならば仕方ないと頷いた奏は自身の彩渡街での予定を考える。

 

「……ブレイカーズに行かないんですか?」

 

 そんな奏に希空は不思議そうに首を傾げる。ロボ助も希空も彩渡街に向かうならば奏はブレイカーズに立ち寄ると思っていたからだ。

 

「あぁ……うむ……。そうだな……。その時、考えるさ」

 

 希空の問いかけに歯切れの悪い返答をしながら奏は視線を彷徨わせる。

 彼女には珍しいその態度に希空とロボ助はお互いの顔を見合わせて首を傾げるのであった。

 

 ・・・

 

 時刻は日付が変わる時間となり、明日も早いからと希空はもう眠ってしまっている。一方で奏はまだ眠くはないのだろう。希空が眠るベッドの傍らに腰掛けながら寝息をたてる希空に慈しむような笑みを浮かべる。

 

 おもむろに立ち上がった奏は立ち上がり、着用しているロングカーディガンを揺らしながら窓まで歩み寄る。窓に映る自分の顔を見つめていると変化が起こる。

 

 なんと奏の瞳は【紫色】に変化して闇夜に浮かぶ月のように輝きを放っていたのだ。

 

(……物心ついた時には……もう【この力】はあった)

 

 しかし奏にとって紫色に輝く瞳は好ましいものではないのだろう。自身の醜さを直面しているかのように悲痛な面持ちで目を伏せる。

 

(……だがここ数年、あまりに不安定になっている……)

 

 先程の次々に瞳の色彩が変わった時のことを思い出す。元々、目に見えてで言えば瞳が紫色に輝くくらいの変化であった。だが近年では、特に感情の高ぶりなどによって突発的に瞳の色彩が次々に変化する現象が引き起るのだ。

 

 勿論、変化するのは瞳の色彩だけではなく、瞳の色が変化すれば特異な力が発揮される。奏は紫色に輝く瞳を窓から見える眼下の街並みを見下ろす。そこでは自動車などが走行しているのだが、今の奏にはまるでスロー映像を見ているように動きが鈍重に見えるのだ。

 

(……いつまで隠し通せる)

 

 奏はチラリと眠っている希空を見やる。自分の内に抱えるこの【力】は親以外、誰も知らないし教えていない。何故ならば教えたところで何かが変わるわけでもないし、知られたところで自分がどういう目で見られるのかが怖かった。

 

『父さん』

 

 幼い時の記憶を思い出す。この力を幼い時に自覚した時に自分と【同じ感覚】を強く感じた父に尋ねたことがある。

 

『私は……人間じゃないの?』

 

 その言葉に父はとても悲しそうな顔をしていたのを覚えている。父も自分の中にある力を察してはいたのだろう。だからこそ言葉の意味が分かってしまった。

 

『奏は人間だよ。人間は一人だけでは生きて行けない弱い生き物で、それは奏も同じことだ。確かに奏の中にも俺の中にも他の人とは違うセンスがある。でもみんなそうなんだ。コピーしたように同じ人間なんて誰一人としていない。奏のセンスは奏だけの個性だ。人間か否かで悩むのではなく自分は人間だって胸を張って良いんだ』

 

 自分の言葉に悲しそうな表情を浮かべた父も幼い自分に合わせて屈むと柔らかな笑みを浮かべながら自分の目を見て確かに言ってくれた。当時はその言葉で楽にはなれたが、最近ではそうも考えられなくなった。

 

 ──こんな体で生まれたくなかった

 

 無意識に考えてしまった思考を消しさせるように頭を強く振る。それだけは、それだけは言ってはいけないし、考えてもいけない筈だ。

 

「……っ」

 

 また瞳の色彩が変化を始めようとしている。感情の高ぶりがそうさせようとしているのは分かっている。だから瞳を閉じ、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 

『奏お姉ちゃん』

 

 瞼を上げれば、瞳の色も元の色に戻っていた。すると奏は再び眠っている希空のもとに歩み寄るとその寝顔を見つめながら幼い時の彼女を思い出す。

 

 今でこそあぁだが、昔の彼女は呼称通りに自分を姉のように慕ってずっと近くにいてくれた。今も変わらぬが昔もそんな希空が可愛くて妹のように可愛がっていた。姉と慕ってくれていた彼女といれば、自分は変わらぬ人間なんだと思える事が出来たから。

 

(……お前にだけは知られたくない)

 

 ベッドに腰掛けながら眠る希空の頬を優しく繊細なものを扱うように撫でる。

 妹のように愛する存在だからこそ自分が抱える忌まわしささえ感じるこの力を知られたくない。彼女の自分への認識を少しでも悪い方向に変えたくないのだ。

 

 全ては怖いから。愛せば愛するほどその存在が遠くなるかもしれないことが怖いのだ。眠っている希空から眩しそうに目を逸らした奏は窓から見える美しい月を一人眺めていた。

 

 






【挿絵表示】


「会長、さようならっ!」
奏「ああ、また明日」

奏という少女はその容姿や物腰から傍から見る分には麗人と男子生徒のみならず女子生徒からの受けも高い。

「会長! なに帰ろうとしてるんですか!? まだ仕事があるんですから生徒会室に戻りますよっ!!」
奏「やーだーぁーっ!! 今日は希空とあーそーぶーんーだーっ!!」
「お菓子も用意してありますから!!」
奏「本当っ!?」

……中身のボンコt……性格を知られると、どちらかと言うと甘やかされるが。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一角の騎士は何を思う

 私は彼女の誕生と共に起動した。

 

 

 その時の記録はまだ私のコアに強く刻まれている。

 

 

 私が初めて起動した時、初めてカメラアイに映したのは生まれたての小さな……本当に小さな赤ん坊だった。

 

 

『希空のこと、よろしくね』

 

 

 赤ん坊を抱いた母親である女性は私に笑みを浮かべながら、私にそう言った。

 

 

 まだ視力もあまり発達していない赤ん坊は近くに歩み寄った私に手を伸ばしたのを覚えている。

 

 

 赤ん坊の接し方など起動したての私には分からなかったが、恐る恐る伸ばした私の手を赤ん坊は握ったのだ。

 

 

 とても柔らかくそれでいて容易く壊れてしまいそうなほど、ひ弱な力だ。

 

 

 だがそれ以上に……とても温かかく感じられた。

 

 

 不思議だった。

 

 

 起動したばかりの私の世界が鮮やかに色づいていくようだったのだ。

 

 

 そんな私に赤ん坊は無邪気な笑みを見せた。

 

 

 私は理解した。

 

 

 私は彼女の為に作られたのだと。

 

 

 私の存在理由は彼女なんだと言う事を。

 

 

 だから私は強く誓いを立てるように己に刻み込んだ。

 

 

 この身この全ては彼女に捧げる、と……。

 

 

 ・・・

 

 翌日、天気は生憎の曇りであった。

 天気予報では雨も降る予定があるらしく灰色に染まっている空のなか予定通り彩渡街には希空達が訪れていた。

 

「よーし、終わったぞ」

 

 真っ先に訪れたのはロボ助を作成したエンジニアの家であった。ロボ助は今、MRIのような装置に寝かされており、立体映像に表示されるロボ助のメンテナンス状況を見て、白髪交じりの還暦過ぎのエンジニアの男性がロボ助に声をかける。

 

≪相変わらず素晴らしいお手並みだ≫

「だろう?」

 

 不備がないか確かめるようにマニビュレーターを開け閉めするロボ助はこの部屋にあるスピーカーを介してエンジニアの男性を称賛すると流石にいつまでも立ちっぱなしが辛いものがあるのか、「よっこいせ」と椅子に腰かけながら得意げに笑う。

 

「気になるのか?」

 

 先程までメンテナンスを受けていた台から降りたロボ助はふと壁にかけられたボードに張り付けられた写真の数々に気づくと、そのカメラアイでジッと見つめているとそんなロボ助に気づいたエンジニアから声をかけられる。

 

「その写真は今から30年前くらいのもんだ。どうだ、昔の俺も中々のもんだろ」

≪では……この写真に写っているのは希空の……≫

 

 ロボ助が見つめる写真の数々の多くには二人の少年少女と近くにいるエンジニアの面影が見られる男性が映っていた。背後でエンジニアが自慢げに笑っている中、ロボ助は希空の面影が見られる二人の少年少女を見やる。

 

≪これは……≫

 

 今から30年前の……それこそ今の希空と同じくらいの少年達が映る写真にはもう一体、映っている存在がいた。それは自身と同じく【騎士】をモデルにしたであろうトイボットであった。

 

「……ああ、ソイツか。ソイツはな、俺にとってもそれに何よりそこの写真に写ってる奴らにとって大切な存在なんだ」

 

 ロボ助の視線の先にある写真に写るトイボットに気づいたエンジニアの男性は懐かしむように笑いながらロボ助と同じく写真を見つめると近くの操作パネルを使用して立体映像を映し出す。それは今でこそ時代を感じる古いガンプラバトルの映像であった。

 

 そこには音速の騎士の如く戦場を駆けるガンダムとそれを支えるように鮮やかなピンク色の重火器を装備したガンダムが共に駆け抜けるなかでその二機を追従するように純白の騎士の姿があった。

 

「コイツだけじゃない」

 

 立体映像に表示された純白の騎士の戦闘の映像を見つめていたロボ助に、エンジニアの男性は更に操作パネルを使用すると、また別に映像を表示させる。

 

 威風堂々とした燃える真紅の覇王

 

 稲妻の如し、苛烈で正確無比な狙撃手

 

 包み込むように仲間を支える煌めく流星

 

 そこに映し出された三機のガンダムは完璧な連携で目の前の敵を怒涛の勢いで撃破していた。

 

「ここに映っている奴ら皆……大切な【ともだち】だ」

 

 純白の騎士と三機のガンダムの戦闘の映像を見つめながら懐かしむように目を細めるエンジニアの男性はボードに貼られた二人の少年少女とよく映っているトイボットと三人組の男女を見やりながら呟くように答える。

 

≪……何回か話には聞いた事があります。しかし……≫

「会えるさ」

 

 写真と映像、それぞれに映る人物と純白の騎士、三機のガンダムを見やりながらロボ助はどこか複雑そうな物言いで答えようとするが、それを遮るようにエンジニアの男性は口を開く。

 

「この写真に写る奴らはな、もう会えないなんて誰も諦めちゃいないんだ。だからお前さんもいつか会えるさ」

 

 ぶっきらぼうな様子でロボ助の頭頂部を撫でながらエンジニアの男性は語り掛けると、ロボ助は再度、写真に映るトイボットと三人組の男女を見やる。

 

≪ともだち、ですか≫

「お前と希空はどうだ?」

 

 ともだち、という言葉を復唱しながら写真を見つめていたロボ助にエンジニアの男性は問いかける。写真に写るトイボットと同じようにロボ助もそうあるように作成したのだ。

 

≪生憎、私と希空はともだちなどではありません≫

「おっと……そいつはどういう意味だ?」

 

 しかし、ロボ助はともだちという言葉は希空と自分には当てはまらないときっぱりと否定し、予想もしていなかった返答に驚きながらエンジニアの男性は尋ねる。

 

≪希空は私の存在理由……。私の全てです。トイボットはそれこそ世代を超えて遊ぶことは可能ですが、もしも希空がその生を終えた時は私も機能を停止したい……そう思える存在です≫

 

 トイボットは誰か一人の物というだけに留まらず、望まれ機能する限りは多くの人々と遊ぶことが出来る。だがロボ助はそうではなかった。ロボ助は希空にとっての希空だけのトイボットであろうとしているのだろう。

 

≪本日はありがとうございました≫

 

 エンジニアの男性に今回のメンテナンスの礼を言うと軟質素材で出来たマントを翻してロボ助はこの場を後にしていく。

 

「……重いなぁ。俺が作るトイボットは思春期の次は愛情って奴か?」

 

 去っていた一角の騎士にエンジニアの男性は参ったと言わんばかりに頭をポリポリと掻きながら苦笑するのであった。

 

 ・・・

 

「……終わったんだ、ロボ助」

 

 地下から戻ってきたロボ助を希空が真っ先に出迎え、ロボ助に合わせてしゃがむと柔らかな笑みを見せる。

 

「愛梨に連絡したら会えるって。ロボ助も一緒に行こう?」

 

 液晶パーツで笑顔を作るロボ助を見る限りメンテナンスは無事終了したようだ。安心したように微笑む希空はロボ助の頭頂部を撫でると彼女の知り合いの名前を出しながらロボ助に手を指し伸ばす。ロボ助は希空の手を掴み、手を繋ぐような形になる。

 

「なあ、希空。私の手も繋いだって良いんだぞ?」

「ロボ助で手が塞がってますので」

「片手は空いてるよな!?」

 

 地下から出てきたエンジニアの男性に礼を言いつつ、この家を後にする。ロボ助と希空が手を繋いでいるのを羨ましそうに見つめながら、奏が声をかけるが即答で答えられる。しかし確かにロボ助と手を繋いでいる希空だが、片手は空いている。その事を指摘するが、希空はロボ助に笑い掛けながら知り合いとの待ち合わせ場所へ向かうのであった。

 

 ・・・

 

 

 私と希空の関係は【ともだち】ではない。

 

 

 ではなんだ? そう問われれば的確な言葉が出てこない。

 

 

【ともだち】という関係が理想の筈なのに、私と希空をそう言われてしまうと否定してしまう。

 

 

 私と希空の関係は……。

 

 

 ……人の人生はあっと言う間だ。

 

 

 彼女を見下ろし、その頭を撫でていたのにいつの間にか逆転してしまった。

 

 

 それは仕方がない事だ。

 

 

 ヒトの成長は素晴らしい……、私のデータにも書いてある。

 

 

 それに変わり続けるなかで変わらぬものはある。

 

 

 彼女は変わらず私に手を伸ばしてくれる。

 

 

 私にその笑顔を向けてくれる。

 

 

 彼女の手から感じられるのは起動した時と同じ温もりだ。

 

 

 希空が今、悩んでいることを私は知っている。

 

 

 それは希空自身が解決しなくてはならない問題だ。

 

 

 だからこそ私はこれからも希空の傍に居よう。

 

 

 希空が導き出す答えが得られるように彼女と共にこれからも歩み続けよう。

 

 

 そしてまた一緒に心から遊ぶのだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天使の再臨

「なんだか懐かしいな……」

 

 エンジニア宅を後にした希空達はようやく彩渡商店街を前にしていた。

 商店街は人で賑わっており、商店街の入り口なるアーチを見つめながら奏は懐かしんで目を細める。それは希空も同じようで心なしか懐かしむように微笑みを浮かべている。

 

「希空ーっ! こっちこっちっ!!」

 

 アーチを目前にすると希空を呼ぶ声が聞こえる。呼ばれるまま視線を向ければアーチの前にはカチューシャをつけた小柄な少女の姿があった。

 

「……久しぶりですね、愛梨」

「うんっ、久しぶりっ!!」

 

 手を振ってくる少女の名を口にしながら歩み寄る希空達。久方ぶりの再会もあるのだろう。愛梨と呼ばれた少女は笑みを見せる。

 

「夏休みに里帰り?」

「……そういうわけでは。ただ今回はロボ助のメンテナンスがあったので」

 

 挨拶もそこそこに、希空が彩渡街に訪れた理由を何気なしに尋ねられると首を横に振りながら答える。今回、彩渡街に訪れたのはロボ助の為であり、正直に言えばここであまり派手に動きたくはない。

 

「ふーん。ねぇねぇ希空! それよりまた向こうでの話してよ!」」

 

 そこから特に会話を発展させることなく、また別の話題に切り替わる。

 愛梨が言う向こうとは普段、希空が生活の拠点としている場所のことだろう。希空も奏も文字通り、普段はここからとても遠い場所で過ごしているのだ。

 

「別に大して変わる事はありません。慣れてしまえばどこも同じです」

「えーっ、絶対違うよ! 希空から聞かされる話はこっちじゃまだまだあり得ないんだから。希空達が向こうに行くって話を聞いた時、皆心配したくらいだよ?」

 

 愛梨の問いかけに首を横に振りながら答える。自身が普段生活している場所は彩渡街のような場所に行くと毎回、どんな場所なのか聞かれるが最初こそ新鮮だったが当たり前の日常を過ごしている場所なのでこれと言って話す話題の種は今となってはあまりない。しかし愛梨にとってはそうではないのか、首をぶんぶんと振りながら答える。

 

「……どこへ行ってもロボ助が一緒なら大丈夫です」

 

 愛梨の言葉に確かに今、生活の拠点にしている場所に向かう時、最初こそ不安があったのか、希空は一瞬、視線を伏せるも隣に立つロボ助を見ながら微笑を浮かべる。

 それだけで希空がロボ助には他の人々とは一線を越えた絶大な信頼を寄せているのが分かる。そんな希空の笑みに応えるようにロボ助も液晶パーツに笑顔を作った。

 

「わ、私は……?」

「……奏は……」

 

 笑い合う希空とロボ助は見ていて微笑ましいのか愛梨が笑みを浮かべているがただ一人、奏は全く自分のことには触れられていない為、己を指差しながら声をかけると希空は奏を見て、しばらく黙っている。

 

「……奏は必要ですよ」

 

 即答ではなくしばらく黙っている事から肩をガックリと落とす奏であったが、次の瞬間、希空から待ち望んだ返答をもらったことで水を得たように途端に明るい表情を浮かべる。

 

「長い時間、作業をしている時とか重宝します」

「ちょ、重宝……?」

 

 希空に必要とされていると嬉しそうにしていた奏だったが途端に重宝、という単語を聞き、表情が引き攣り始める。

 

「ええ、眠たい時とか放っておいても勝手に喋ってくるので、そういう時に相手にしてると重宝します」

「じゃあ、それ以外は……?」

 

 普段の奏を思い出しながら、しらっと澄ました表情で答える希空に愛梨は奏を横目で見ながら尋ねると口を横一文字に摘むんで答える気配がない。

 

「わ、私はお騒がせアイテムか何かか……」

「ま、まあ希空は本当に興味がない人には相手にしないどころか目も合わさないから……! 希空が長時間一緒にいるってことはそれだけ信頼されてるってことだし……!」

 

 希空の反応にガーンと音が聞こえてきそうなほど落ちこんだ奏は肩をがっくりと落とすと愛梨が何とかフォローをする。希空は口でこそあぁ言うが、そもそも愛梨の言うように言葉通りであれば今回、誘う事もしなかっただろう。ロボ助への絶大な信頼があるように奏には奏への素直にはなれぬ信頼があるのだろう。

 

「それより愛梨の近況はどうですか?」

 

 シクシクと両手で顔を覆って一人すすり泣く奏を励ましている愛梨に希空が今度は彼女の近況について立ち話もなんだと移動を始めながら尋ねる。

 

「私もそう変わったことはないかな? 希空みたいに向こうに行ってみたいけどパパとママがなれなかったガンプラバトル世界一にもなってみたいんだよね」

 

 奏を慰めるのもほどほどに愛梨が人さし指を顎先に添えながら答えると、その綺麗な碧眼を希空に向ける。彼女の両親はかつては【アメリカ代表】として世界大会にも出場した実力者だ。その時は惜しくも敗れてしまったが、愛梨はそんな両親が成し得なかった夢を目標にしているのだろう。

 

「そのためにもチームメンバー集めなきゃ!」

「チームと言えば我々も気が抜けんぞ」

 

 両腕をぎゅっと握って意気込む愛梨を微笑ましそうに微笑を浮かべていた希空だが、チーム、と言う単語に反応した奏が復活したかのように声をあげる。

 

「我々には我々の代表を決める大会がある。それを経て、地上間との大会がある。かつての世界大会よりも規模の大きなこの大会は是非ともファイターならば代表として出場したいものだ」

 

 腕を組みながら楽しそうに語るその言葉に希空や愛梨も強く頷く。大会の規模が大きければ大きい程、どうせならば参加したいと思うのがファイターの性というものだろう。

 

 そうしていると希空達が到着したのは、彩渡商店街近くの一軒のトイショップであった。店名が記された看板には【御剣トイショップ】の名前がある。同名の店が北海道にあるこの二号店はどうやら今日は定休日のようだ。

 

 既に希空の連絡があったのだろう。店の前にはグラマラスな女性の姿がある。年齢としては高校生である希空達よりも一回り年上だろうか。

 

「久しぶりね。二人とも大きくなって……」

「お久しぶりです、サヤナさん」

 

 合流すると、女性は希空と奏を見て懐かしんでいると奏が挨拶をしながら頭を下げ、希空も続くように頭をぺこりと下げる。するとサヤナは「立ち話もなんだから」と裏口から店に案内する。

 

 ・・・

 

「あぁ……陳列されているガンプラを見ると、安心するなぁ……」

 

 トイショップ内に足を踏み入れると早速、奏は店内をウロウロしており、立ち止まった先はガンプラが陳列されているコーナーだった。

 長期間の移動からかあまりガンプラに触れる事もなかったのだろう。陳列されているガンプラの箱を見ては、幸せそうに顔を綻ばして、目に留まったガンプラを手に取る。

 

「本当に奏はダブルオーライザーが好きね」

「なっ……ぁっ……そ、そういうわけでは……っ!」

 

 ガンプラを手に取った奏にサヤナが歩み寄ると、そのガンプラを見てクスクスと笑う。その反応に奏は耳まで真っ赤にして気恥ずかしそうにするものの決して手に取ったダブルオーライザーのガンプラを手放そうとしない。

 

「奏はダブルオーライザーに思い入れがありますからね。理由はないらしいですけど」

「不思議だね。確かエクシアも好きだったよね」

 

 そんな奏とサヤナのやり取りに傍から見ていた希空と愛梨が話に加わる。奏がダブルオーライザーに思い入れがあると話すものの理由がないとのことに愛梨も肩を竦める。

 

「自分でも分からないんだ……。でも……特にダブルオーライザーは馴染むと言うか……その……落ち着くんだ。なんだか……懐かしい気がして」

 

 ダブルオーライザーの箱絵を眺めながら何故、自然とダブルオーライザーのガンプラを手に取るレベルまでなのかは自分でも明確な理由は分からぬものの奏は何とか言葉を紡ぎながら答える。

 

「でも奏はターンXは嫌いですよね」

「えぇっ、なんで!? もしかして御大将が苦手とか!?」

 

 ダブルオーライザーへの不思議な思い入れを語った奏に希空が爆弾をぶっこむように話すと、愛梨は驚きながらキャラ嫌いから始まった事なのかと尋ねる。

 

「そ、そういうわけではないっ! 御大将も良いキャラだし、ターンX自体もデザインも何から何まで素晴らしい機体だと思ってるっ! でもその……っ!」

 

 愛梨の言葉を慌てて否定しながら決してキャラも機体も嫌いではないと話すのだが……。

 

「こ、怖いんだ……ターンXを見てると……。これも自分じゃ分からない……。でも……その……これは多分……生理的なものなんだと思う……」

 

 嫌いではなく怖い。今一、奏の言葉に要領を得ない希空達だが、ダブルオーライザーの箱を持つ腕が僅かに震えている事から、トラウマなレベルで深刻な問題なのかそれ以上の追及は止める。

 

「……折角、希空達も戻ってきたんだし、どう?ガンプラバトルでも」

 

 震える奏の肩を抱きながら、どこか冷えた空気を払拭するようにサヤナが口を開くと、続くように気を使った愛梨が賛同し、希空達も頷く。

 

 ・・・

 

「あぁ、やっぱりガンプラバトルシミュレーターも混み合ってるね」

 

 移動したのは近くのゲームセンターであった。一般的には夏休みもあって人で混雑していた。愛梨がガンプラバトルシミュレーターの空き状況を確認すると、多く稼働しているうちの三台が空いていた。

 

「最初はみんなのバトルが見たいです」

 

 三台を誰がプレイするか、相談するよりも前に希空が手を挙げながら答える。希空が出ないのならばと続くようにロボ助も希空に同意するように頷く。

 

「良いのか?」

「昔から人の後ろでゲームプレイを見るのは好きでしたから」

 

 折角なのにと、奏は希空に尋ねるが希空は首を横に振りながらこれ以上、時間を浪費してガンプラバトルシミュレーターの空きが取られないようにと促すように自身は近くのベンチにロボ助と腰掛ける。奏達は視線を交わしてガンプラバトルシミュレーターに乗り込むと、専用のヘッドホンなどを使用して早速、VRハンガーへと飛んだ。

 

 ・・・

 

 ガンプラバトルシミュレーターを起動し、店内対戦のセッティングを終了後、VRハンガーには奏、愛梨、サヤナの姿があった。

 

「では、希空には悪いがこの三人でバトルをしようではないか」

 

 当然、三人ともアバターであり、アバターそのものは普段の彼女達だが希空同様にその服装はガンダムシリーズのキャラクターのもので、奏の身を包むのはガンダムビルドファイターズに登場するアイラ・ユルキアイネンの白を基調にした私服であり、花飾りのついた帽子を被っていた。

 

「折角なら希空とバトルしたかったんだけどなー」

「こればかりは仕方ないわ」

 

 アバターの愛梨の服装はガンダムSEEDのカガリ・ユラ・アスハのパイロットスーツを着用しており、サヤナもその服装はマリュー・ラミアスのものだ。一番に希空とのバトルが出来ないことに残念がる愛梨をサヤナが宥める。

 

 だがいつまでもこうしてVRハンガーで話している訳にもいかない。出撃を促すアラートが鳴り響くなか、奏達は己が作り上げた設定した実物大に具現化されたガンプラのコックピットに乗り込むと、次の瞬間、三機はそれぞれ別のカタパルトに接続される。

 

「やっぱり……ダブルオーライザーは落ち着くな……。なんだかこう……ずっと昔から体が覚えていると言うか……」

 

 奏のガンプラはダブルオーライザーをカスタマイズしたガンプラであった。

 そのコックピットで操縦桿を握りったり放したりしながら不思議と笑みを零す。勿論、これは本物のMSコックピットではなく、ましてやダブルオーライザーのコックピットなどではない。だが不思議とダブルオーライザーに関わるとそう思えてならないのだ。

 

「クロスオーブレイカー、出るッ!」

 

 それぞれ別の場所に出現したカタパルトで奏は高らかに愛機であるクロスオーブレイカーの名を叫び、出撃する。

 ダブルオーライザーを元にカスタマイズしたクロスオーブレイカーは鮮やかなGN粒子を放出しながら出撃していくのであった。




ガンプラ名 クロスオーブレイカー
元にしたガンプラ ダブルオーライザー

WEAPON GNソードⅢ(射撃と併用)
HEAD ダブルオーガンダム
BODY ダブルオーガンダム
ARMS ガンダムAGE-2ダブルバレット
LEGS ガンダムサンドロック
BACKPACK ダブルオーライザー
SHIELD バインダー
拡張装備 サイドバインダー×2(オーライザーの機体部分をすっぽり挟むように)
     レーザー対艦刀×2(両腰部)
     大型レールキャノン×2(背部)
     内部フレーム補強
カラーリング ダブルオーライザー

例によって活動報告にリンクが貼ってあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真紅の瞳に宿るもの

 クロスオーブレイカー達のバトルフィールドに選ばれたのは近くにコロニーが稼働している宇宙空間であった。既に三つ巴のバトルは始まっており、流星のような尾を引きながら三機のガンダムタイプのガンプラはぶつかり合う。

 

「宇宙空間は苦手なのよね……!」

 サヤナが使用するのはガンダムタイプはガンダムタイプでも風雲再起のパーツを組み込んだ四足タイプの機体であるジョストエースガンダムであった。だが苦々しく呟くサヤナの言葉通り、宇宙空間のような空中戦でのジョストエースは些か不利かと思われる。

 

「そうは感じないがっ!」

 

 そんなジョストエースに向かって行ったのはクロスオーブレイカーであった。

 宇宙空間に鮮やかなGN粒子を放出しながら、GNソードⅢを展開し斬りかかるもジョストエースは素早くツインソードライフルの銃尻の斧状の実体ブレードで受け止める。

 

 そのまま幾度とクロスオーブレイカーとジョストエースは刃を交えるが、近接戦に踏み込めばサヤナの実力の高さが伺える。これがもしもバトルフィールドが地上ならば、どうなっていたか末恐ろしい。

 

 するとジョストエースは上下に存在するツインソードライフルの二基のビームサーベルをスライドさせて槍のように装備するとそのままクロスオーブレイカーを薙ぎ払おうとする。

 

 寸での所でジョストエースの動きに感づいたクロスオーブレイカーは弾かれるように距離を置き、大型レールキャノンを放とうとするのだが……。

 

「──私も忘れないでっ!!」

 

 クロスオーブレイカーとジョストエースの間を割り込むように無数の極太のビームが通り過ぎる。誰かは分かっている。愛梨のガンプラであるストライクNEXTseedだ。しかも攻撃の手段はそれだけではなく、すぐさまストライクNEXTseedが両足に装備していたロングタイプのCファンネルが二機に襲いかかる。

 

 だが奏もサヤナも高い実力の持ち主だ。

 翻弄するように飛び回って襲いかかるCファンネルに動じる様子もなく落ち着いた動作でCファンネルをそれぞれ破壊するとクロスオーブレイカーもGNタイプの、ジョストエースは実弾タイプのマイクロミサイルを同時に放ち、無数の小型ミサイルは宇宙の闇を駆け巡り、対象へ迫るがすぐにそれぞれに対応されて硝煙に姿を変える。

 

 ・・・

 

「……良いバトルだね」

 

 外から観戦モニターでバトルの様子を眺めている希空はこの三つ巴のバトルを評価する。別に公式大会でのバトルというわけでもないただの小さなゲームセンターで行われているバトルだが目を見張るものがある。

 

 それぞれの実力の高さは尚のこと、それ以上にガンプラ達の攻撃の一つ一つにファイターの誇りを感じさせるような熱いバトルなのだ。

 

「でも……」

 

 しかしそんな熱いバトルの中、鉄仮面のような揺れ動かぬ表情で希空は観戦モニターに映るクロスオーブレイカーをジッと見やる。だがクロスオーブレイカーの見つめるその真紅の瞳は少なくとも友好的とは思えないほどどこか冷淡なものであった。

 

 ・・・

 

「ならば……ッ!」

 

 久方ぶりの地上での知り合いとのバトルではあるが、改めて彼女達の実力の高さが伺う事が出来た。それ自体はとても喜ばしいし純粋に嬉しいのだが、だからこそ自身の勝利で終わらせたいと思うのは不思議なことではないだろう。

 

 弾幕を張り合う激しい射撃戦のなか、このままではジリ貧である判断した奏はEXアクションを選択するとクロスオーブレイカーはその機体を赤く発光させ、残像を走らせながら加速する。

 

 EXアクション・トランザムを発動させたクロスオーブレイカーは爆発的な加速をもってGNソードⅢをライフルモードで発射しつつ左手に一刀のレーザー対艦刀を装備するとストライクNEXTseedに襲いかかる。

 

 だが愛梨もすぐに反応して見せた。両腕のGNフルシールドを展開することで防御すると、そのままストライクNEXTseedもトランザムを発動させ、GNフルシールドをパージする。

 

 そのままクロスオーブレイカーの背後に回り込み、ビームサーベルで斬りかかろうとするもその前にジョストエースのミサイルが二機に襲いかかり、避けるには間に合わずクロスオーブレイカーはGNフィールドを展開して防ぐが、ストライクNEXTseedは直撃を受けてしまう。

 

「まずは……ッ!」

 

 硝煙があがるなか奏は標的をのけ反ったストライクNEXTseedに定めてそのままレーザー対艦刀で撃破しようとする。

 

 だがやはりこのバトルは何より行っているファイターを熱く高ぶらせるもの。

 ……奏にとってそれがいけなかった。

 

「……っ!?」

 

 奏の視界がグニャリと歪み、次の瞬間、全てがスローになったような光景が広がる。この光景を奏は良く知っている。自分の中に秘めた能力が発揮する時、不安定になった時によく発動する。

 

「……水を差してくれる……っ!」

 

 奏の能力が不安定になる原因は感情の高ぶり。今、こうして夢中でバトルをしているだけでも知らずに発現してしまうのだ。折角の素晴らしいバトルに冷や水を浴びせられたように奏の心境はみるみるうちに白けていく。

 

 そんな奏に不安定になった能力も落ち着いていき、スローになった世界も漸く元にも戻る。現実に戻ったような奏はそれでもそのままストライクNEXTseedに刃を向けようとしたのだが……。

 

『──それでも私は信じてる』

「──ッ!?」

 

 すれ違いざま切り捨てようとした時、脳裏に女性の声が響く。もう何度も見た悪夢の中で聞いてきた声だ。だが現実においても聞こえたのはこれが初めてなのか、奏は明らかに動揺しており、ストライクNEXTseedに何もせずそのまますれ違って通り過ぎてしまう。

 

「なんなんだお前は……ッ!?」

 

 サヤナも愛梨も今の奏の行動に不審がるなか、奏は片手で頭を抱えながら答えのない問い掛けをする。ずっと聞こえてくる一人の女性の声。まるで自分のことのように懐かしく、それでいてまるで奥底に眠る自分を呼び覚まされているようだ。

 

「私は私なんだ……ッ! 惑わさないでくれ……ッ!」

 

 この声を聞いていると、声は全く違うのにまるで自分だと錯覚してしまうようだ。それが奏を惑わせる。もはや忌々しさを越え、心の底から願うような奏の呟きも答えるものなど誰もいなかった。

 

 ・・・

 

 楽しかった時間も終わり、愛梨やサヤナと別れた希空達はホテルに戻っていた。

 

「……折角、知り合いがテレビに出てるのに見ないなんて」

 

 希空が見つめるテレビにはバラエティ番組が放送されており、その中にはMITSUBAの姿がある。MITSUBAことツバコにサヤナの面影がある。それもそうだろう。実はツバコはサヤナの妹なのだ。番組を見ながら最後に会ったのはいつだろうかと懐かしんでいる希空だが隣のベッドに眠っている奏を見やる。

 

 何だかんだで楽しい時間は送れたものの奏の様子は最後までどこかおかしかった。

 いつもは黙っていても勝手に喋りかけてくる彼女だが、今日に限っては無言でホテルに戻るなり、明日は博物館に行くからとさっさと済ますことを済ましてベッドで眠ってしまった。

 

(奏とはずっと一緒にいるのに……)

 

 こちらに背を向ける形で眠っている奏に希空は静かにこぼす。希空にとって今日の奏は今まで幼い時からずっと一緒にいた彼女の全く知らない姿を見てしまったようだったのだ。

 

(奏は私に……私には何か隠してる)

 

 するとおもむろに立ち上がった希空は眠っている奏の傍らに歩み寄る。少なくとも今は落ち着いているようで規則正しい寝息を立てていた。

 奏が希空に隠し事をしている……。それは何なのかは分からなくとも、その行動その物には希空も薄々感づいてはいたのだろう。

 

(……でも……)

 

 奏の寝顔を見つめながら、希空は彼女が眠るベッドに乗りかかる。奏に覆い被さるような体勢になり、指先で奏の唇を撫でるとそっとその頬に手を添えて自分に向き直らせる。

 

「でも……お互い様ですよね」

 

 奏は眠っていて起きる気配はない。

 顔と顔が向き直り、その距離が近いものの希空は静かに口を開く。

 

「私も奏に隠している事がありますから」

 

 希空は距離の近い奏にどこか凍り付くような冷たさで呟く。

 奏を見据えるその真紅の瞳には慈しむようなそんな他者を思いやる感情と嫉妬のような他者への負の感情などの複雑な感情が混ざり合っていたのだ。




<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

刃弥さんからいただきました。

ガンプラ名 ジョストエースガンダム
WEAPON ツインソードライフル
WEAPON ツインソードライフル ライフルモード
HEAD  アストレイグリーンフレーム
BODY  ストライクフリーダムガンダム
ARMS  ガンダムヘビーアームズ
LEGS  風雲再起
BACKPACK ガンダム試作3号機
SHIELD  シェンロンシールド

カラーリングは全身が白。風雲再起の四本足による高機動を活かした、ツインソードライフルによる突きと薙払いの一撃離脱の戦法を得意とする。
遠距離戦についてもオプション装備のマイクロミサイルやカリドゥス複相ビーム砲で補う。
また父親の影響で剣術にも心得があるので、二刀流のビームサーベルでも戦う。弱点は宇宙空間などによる空中戦が苦手なこと。


幻想目録さんよりいただきました。

ガンプラ名:ストライクNEXTSeed

元にしたガンプラ:ストライクガンダム

WEAPON:ラケルタビームサーベル(フリーダム)
WEAPON:高エネルギービームライフル(Sフリーダム)
HEAD:ビルドストライク
BODY:フリーダムガンダム
ARMS:ガンダムデュナメス
LEGS:ビルドストライク
BACKPACK:フリーダムガンダム
SHIELD:GNフルシールド

拡張装備:太陽炉(腰裏)、Cファンネルロング(両足)、レーザー対艦刀(バックパックのブースター近く)、レールキャノン(両腰)

機体カラー:
基本カラー変えずに腕パーツだけ緑色の部分をエースホワイトでお願いします。
後は足のつま先の部分が赤⇨青色になっています。
他パーツはカラー変更なしです。

機体説明
両親の愛機であるストライクを参考にして愛梨が初めて自分一人で作り上げた機体。しかし太陽炉だけは父親が以前の機体に付けていたものを愛梨に譲ったもの。ただ太陽炉の性能が良過ぎるからなのか愛梨の技術が追いついていないのかは分からないがトランザムを使用するとフルシールドが加速に耐えきれずに破損してしまうのでフルシールドは簡単にパージ可能にしてある。そのため現在愛梨がオリジナルの太陽炉を製作中…

基本的に中〜遠距離の機体だがフルシールドをパージしトランザムを発動すれば一気に近距離と遠距離問わず戦える万能な機体になる。ただしシールドを破棄するため防御手段がなくなるので諸刃の剣になっている。
愛梨本人曰く「seedのキラみたいに全部良ければシールドなんていらない!」だがそれに対して周りは「それなら最初からフルシールドなんていらないんじゃ…」とこぼしている。



素敵な俺ガンダムありがとうございます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

忘れてはいけないこと

 ガンプラバトルの歴史は長い。長い歴史の中には当然、数多くのドラマが生まれてきた。そんなガンプラバトルの歴史を知ろうとこの建物は存在する。

 

 GB博物館……。東京台場の地にあるこの施設はかつてはGGF博物館の名があったが、今ではガンダム・グレート・フロントのみならず、長い年月のうちに改築されガンプラバトルの歴史を更に拡張されたこの場所で知ることが出来る。

 

「ひ、人が多いな……」

「予想の範囲内です」

 

 GB博物館内はかなりの人でごった返しており、自由に身動きを取るのは難しい程だ。何とか施設内には入場出来たもののどこを見ても人で賑わって窮屈そうに身を縮こまらせる奏に希空はいつもの澄まし顔で答える。

 

「よ、よし希空……ここは手を繋いではぐれないように──…………いたっ!?」

 

 あまりの人混みに奏は希空に提案する。流石にこの人混みではぐれたら大変だ。早速、奏は希空の手を取ろうとするのだが、その前にすれ違った人にぶつかってしまう。

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーれええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!!!?」

 

 そのままよろけた拍子に押し寄せる人波に流されていく奏。必死に手を伸ばすのだが、その手も虚しく人波に呑まれて見えなくなってしまう。

 

「……おかしい人を失くしました」

 

 流されて姿が見えなくなった奏に希空とロボ助は軽く敬礼をすると背を向けて歩き始める。姿を追おうにも流石に行き交う人々の間にいつまでも立っている事も出来ないし、最悪は携帯で連絡を取ればいいだろうと考えたからだ。

 

 ・・・

 

「ありがとうございます」

 

 奏がいなくなってしまい、希空とロボ助で行動していた。

 現在、奏とロボ助は巨大ジオラマとして設置されているネオアメリカコロニーの自由の女神砲の前で記念撮影をしており、撮影を頼んだ人物に礼を言いながら預けた携帯を受け取る。

 

「人が多い理由も分かる気、します」

 

 液晶画面で写真写りを確認する。ロボ助と一緒に撮ったわけだが、よく撮れているとは思う。口元に笑みをこぼしながら希空はロボ助に声をかける。メディアに大きく取り上げられてはいたが、いざ訪れてみたら想像以上に楽しむことが出来、ガンダムファン延いてはガンプラファンだけではなく、話題に食いついてやって来たガンダムを知らない人達でも十分楽しむ事が出来るだろう。

 

 

「……おじいちゃん達も同じ風に楽しんでいたんでしょうか」

 

 この施設は30年ほど前から存在する。改名される前の母体がオープンした際に自分の父と祖父、そしてその友人達がこの場に訪れたそうだが、その時もこうして楽しんでいたのだろうか。

 

「……あっ」

 

 ふとロボ助と施設内を散策しているととある一角に到着する。それはガンプラバトル関連で設置されたブースだった。だが希空はこの場所を見てこれまで以上の強い反応を示して吸い込まれるようにその場所へ向かう。

 

「……ガンダムブレイカー……」

 

 そこではガンダムブレイカーの歴史を紹介していたのだ。この時代では、ガンダムブレイカーはガンプラバトルにおいて大きな名を残している存在となっている。

 

 ガンダムブレイカー……最初はガンダム・グレート・フロントにおいて設立された部隊名であり、そこに所属するガンプラファイターが作り上げたのが始まりであるガンダムブレイカー0だ。

 

 そこからガンダムブレイカー、ガンダムブレイカーネクストと生まれていくが、何もガンダムブレイカーの使い手は一人ではなかった。

 

 全ての始まりとなる英雄から始まり、真紅の炎を纏い戦う覇王、二人の先人から受け継いだ力で戦う新星……。一人から二人、二人から三人とガンダムブレイカーの使い手はガンプラバトルの歴史を刻むたびに増えていった。

 

 そして何よりガンダムブレイカーの使い手は前述の三人だけに留まらず、その後もこの30年の間に一人また一人と必ずガンプラバトルの歴史の節目に現れては、多大な活躍を見せたと言う。長く続いていったガンダムブレイカーの活躍はこうしてGB博物館に歴代のガンダムブレイカーを紹介する場所があるほどの存在となっているほどなのだ。

 

 そんな30年以上に続く破壊と創造の系譜の中で今、新たなガンダムブレイカーとして現れたのは何を隠そうあの奏だ。

 

 幼い時からガンプラバトルにおいて、その才能の片鱗を見せていた彼女は彼女の父親や希空の父親だけに留まらず、彼らの後輩とも言える後に続くガンダムブレイカーの使い手達をも唸らせたと言う。

 

『今のお前にガンダムブレイカーの名前は使わせられない』

 

 ガンダムブレイカー0から始まり、今では10機以上に及ぶ歴代のガンダムブレイカーのベストセレクションとも言えるバトルの映像を眺めていると、不意に脳裏に父の言葉が過る。

 

(……何故私は……。私と一体、何が違うの?)

 

 希空のか細い手に力が籠り、その瞳が鋭く細まる。歴代のガンダムブレイカーの映像と脳裏に奏の姿を思い浮かべながら、ガンダムブレイカーの名を使わせられないとまで父に言われた自分と彼らがなにが違うのかを考えていた。

 

「──あー、希空さんじゃないですかー。御久し振りですー」

 

 どことなく険しいような雰囲気を漂わせる希空にどこか間の伸びたような口調で声をかけられ、振り返ってみれば四人の男女の姿があった。

 

「舞歌……」

「やっぱりこっちに来てたんですねー」

 

 自身に声をかけてきた着物姿の少女の名を口にする希空に舞歌は今、希空がこの場にいるのは予想していたのか、にっこりと微笑む。

 

「今日はガンダムブレイカーのイベントがやっているしな」

「貴文も……」

「相変わらず元気そうだな希空」

 

 しかし希空からしてみれば、やっぱりという言葉の意味が分からなかったようで首を傾げていると舞歌の隣に立っている声をかけてきたガタイの良い高身長の青年の名を口にする希空に軽く挨拶をする。

 

「今日から始まったガンプラバトルのフィールド内でレアキャラとして出現する歴代ガンダムブレイカーを撃破するイベント……。希空達もプレイにしに来たんだろ?」

「……間違ってはないです、涼一」

 

 次に声をかけたのは左目尻に縦に小さな傷跡がある眼鏡をかけたこちらも高身長な青年であった。概ねGB博物館に訪れた理由は間違っていないのか、青年の名を口にしながら答える。

 

「流石に一般向けの調整はされてるみたいだけど、それでも楽しみだよねー」

「……貴女は?」

「ボクは蒼月明里って言うんだ、よろしくね~」

 

 声をかけてきた四人の内、三人は知っているが、次に声をかけてきた亜麻色のショートボブの少女については知らないようだ。少女について尋ねる希空に明里と名乗る少女は語尾に音符でも付きそうなくらい声を弾ませている。

 

「俺達もそろそろイベントに挑戦しようと思うが、希空はどうする?」

「私達は私達でやります」

 

 彼らの目的もイベントだったのか、貴文が希空に尋ねると希空は傍らのロボ助を見やりながら答える。

 

「なら、フィールドで会ったら、久しぶりにその実力を見せてもらうぜ」

「どうぞご自由に」

 

 もしもフィールドで遭遇したら、遭遇戦としてそれはそれでバトルになるだろう。

 その時はその時で楽しみなのか、涼一が好戦的に笑うと、希空はどこ吹く風かさらりと答えてロボ助と共にイベント会場へ向かう。

 

 ・・・

 

(……結局、奏は見つからなかった)

 

 イベント会場のガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ希空はVRハンガーへと移動していた。あれから何度も電話したが、電源も切れているようで繋がらなかった。

 

≪準備は良いか、希空?≫

「ロボ助とならいつでも大丈夫だよ」

 

 既に己のガンプラであるNEXのコックピットに乗り込んだ希空にロボ助からの通信が入る。通信画面に映るロボ助を見ながら、希空は微笑む。彼女がこんな風に笑みを見せるのも柔らかな口調で話すのも、親族を除けばロボ助だけなのかもしれない。

 

≪希空、君にとってガンダムブレイカーは因縁がある。それ故、君を悩ませ、苦しませているのかもしれません≫

「……うん」

≪このイベントが君にヒントを与えてくれれば良いが、そうでない場合もある。でも、それでも約束して欲しい≫

 

 ロボ助から言われた言葉に希空は暗い表情で頷く。これがロボ助以外ならば誤魔化すか否定するだろう。そんな希空にロボ助は約束を取り付ける。

 

≪どんな時も楽しむことは忘れないでほしい。何より君が楽しむことが……夢中になることが君が君であることだと私は思います≫

「私が私である事……」

 

 ロボ助の言葉に希空は考えるように俯く。母に言われた言葉を思い出す。父と母が使える力。それは明確な条件は分からないが、それで自分が自分でいる限り、いつかは手に入ると言っていたのだ。

 

 あの時は何を持って自分が自分でいられるかなんて分からなかったし、自分が自分である為にと、その言葉その物でも悩んだりもしたのだ。

 

≪大丈夫。私が希空の傍にいる、私は君と共に歩む。もしも希空の行く道に障害が立ち塞がり、道を閉ざそうというのならば、私が手を伸ばしてこじ開けます≫

 

 いまだに希空の中には悩みがある。それ故に希空の進む道を惑わすことだろう。だからこそロボ助は希空を励まそうとする。そしてこの言葉こそロボ助の本心とも言える筈だ。

 

≪だから希空、今は目先の事を共に精一杯楽しんで行こう≫

 

 すると通信画面に映っていたロボ助の姿に変化が起こる。その鎧が展開すると、鮮やかな緑色の内部装甲を露わにし、バトルを行う時の姿となるビーストモードへと変化したのだ。VR空間だけではなく、呼応するように現実のシミュレーターでもロボ助は装甲を展開してビーストモードへ変化し、バトルへの準備を整える。

 

「分かったよ、ロボ助」

 

 希空の中の悩みはいまだに消える事はない。だがロボ助の言葉は少しは暗い自分の心に光が灯るような気がした。いつだってロボ助は生まれた時から傍にいてくれた。楽しい時も辛い時も一緒にいてくれたのだ。だから今もそうしよう。

 

「ガンダムNEX……行きます」

 

 希空の口元に笑みが浮かび、操縦桿を動かす。するとカタパルトに繋げられた希空のガンダムNEXは勢いよくフィールドへロボ助の騎士ユニコーンガンダムと共に出撃していくのであった。




ガンプラ名 ガンダムNEX
元にしたガンプラ ガンダムAGE-2

WEAPON ビームサーベル(ダブルサーベル)
WEAPON ハイパードッズライフル
HEAD ライトニングガンダム
BODY ガンダムAGE-2
ARMS ガンダムAGE-2
LEGS ガンダムキュリオス
BACKPACK ガンダムAGE-2
SHIELD ガンダムAGE-2

拡張装備 大型ビームキャノン×2(バックパック)
内部フレーム補強

カラーリング ガンダムAGE-2


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去への決別の為に

「あぁ酷い目に遭った……」

 

 そう呟いたのは人波にさらわれた奏であった。先程の人波で体力を消費したようで、かなりぐったりとした様子だ。

 

「希空に連絡しようにも充電切れてるし……」

 

 そう言って懐から取り出したのは携帯端末だ。携帯端末には真っ暗な画面が広がるばかりで電源すら入っていないだろう。

 

「あぁ……移動の間、ずーっとアプリゲーやら動画を見てたしなぁ」

 

 しかも電源を淹れたくともうんともすんとも言わない。それには理由があり、その理由は自分のせいだと理解している為に、へこんだ様子を見せる。

 長距離の移動中、暇を持て余したためにずっとアプリケーションゲームや動画を見て、暇をつぶしていたのだがあっという間に充電はなくなってしまったようだ。

 

「仕方ないんだ、ダブルオーライザーのピックアップガチャがやってたからやらざるえなかったんだ……」

 

 誰も聞いていない言い訳をだらだらとこぼす。バックの中を漁るも携帯用充電器をホテルに忘れてしまい、打つ手なしだ。がっくりと肩を落としながら行く宛てもなく彷徨っていた。

 

「……ん?」

 

 そうしていると、ふと奏の視界に気になるものがあったのだ。“ソレ”を見た瞬間、思わず足を止めてしまった。

 

「……ガンプラバトルシミュレーター……?」

 

 それはガンプラバトルシミュレーターであった。しかしただのガンプラバトルシミュレーターではない。これはGGF時代のガンプラバトルシミュレーター……つまりはプロトタイプとなる装置だ。普段慣れ親しんだガンプラバトルシミュレーターよりもその外観にかなり差異が見られる。

 

 しかしただプロトタイプとはいえ、あくまでガンプラバトルシミュレーターがそこに置いてあるだけだ。あまり目ぼしいとも言えず、訪れた人々の関心はあまり引いていないのがその周りを見て、分かる。

 

「これは……」

 

 だが奏にとってはそうではなかった。何か引力にでも引かれるかのように、それこそ吸い込まれるかのようにプロトタイプのガンプラバトルシミュレーターに歩み寄り、無意識に手を伸ばしてその筐体に触れる。

 

『なんだ……これ……? なにがどうなるんだ……?』

『この声が聞こえる……貴方なら……どうか……あの争いを……破壊してほしい……!』

 

 プロトタイプのガンプラバトルシミュレーターに触れた瞬間、頭の中に鮮明な映像のようなものが流れ込んできた。驚いて思わず手を放した奏だが、先程の現象が分からず、もう一度触れようとする。

 

『あの世界に戻れば貴方にとって辛いだけなんだよ……?』

『でも……あの世界には大切な仲間がいるんだ……。俺は彼らを助けたい。アンタに巻き込まれたんじゃない。今度は自分の意志であの世界に行くんだ』

 

 もう一度、触れた瞬間、再び頭の中に誰かの記憶ともいえるような映像が流れ込んでくる。訳が分からぬ現象に脂汗も浮かび、手を放したくなるが、でもそうは出来なかった。

 

『そう言えば、自己紹介もなにもなかったな……。俺は如月 翔、よろしく』

「……!」

 

 どんどんと奏の息遣いも荒くなっていく。それでもそんな奏をお構いなしに映像上のやり取りは続いていき、ガンプラバトルシミュレーター内のシートと思われる場所に座る自分と同い年ぐらいの若い青年は己の名を名乗り、奏は目を見開く。

 

『シーナ・ハイゼンベルクだよ、よろしくね、翔』

「──ッ!?」

 

 だがそんな事はどうでも良くなるほどの衝撃が次の瞬間に起きた。ずっとやり取りをしていた青年に答える女性が己の名を口にした瞬間、その名を聞いた奏に異変が起きたのだ。

 

「ぐっあぁ……ァッ!?」

 

 まるで熱い巨大な釘を頭に強く何度も打ち付けられた気分だ。視界もグニャリと歪んでいき、まともに立っていられなくなった奏はそのままその場に転がり込むように倒れ込む。

 

「うッ……あぐぅっ……ッ!!」

「大丈夫!? 進、係の人を!」

 

 倒れた奏は頭を抱えて、悶えている。強烈な吐き気にも襲われていたのだ。その間にも奏の瞳の色は今まで以上に目まぐるしく変化していき、スイッチを切り替えるように世界の静止が交互に起きていた。そんな奏を見かねて、来店客の青年が同行していた青年の名を口にしながら指示を出すと、進と呼ばれた青年はすぐに動き出す。

 

「だ、大丈夫……っ! 私はガンダムブレイカーの使い手……っ! こんなところでリバースしたら諸先輩方に合わせる顔がががががっ!!?」

「なに馬鹿な事言っているんだ!?」

 

 とはいえ、この少女。どこか頭のネジが外れているようで、こんな状況でもいつもと変わらぬ調子で答えようとするものの自身に襲いかかる異変に耐え切れず、痙攣を起こしてしまっている。そんな奏に介抱する青年はツッコミを入れるように注意する。

 

「大悟さん、今、すぐに担架持ってくるって!」

「ありがとう、進! もう大丈夫──」

 

 そうこうしている間に進が従業員に声をかけてくれたのだろう。戻ってきた進が奏を介抱する青年の名を口にしながら声をかけると、青年は笑みを見せながら奏に向き直ろうとするが……。

 

「あれ……?」

 

 しかし先程まで腕の中にいた筈の奏の姿はなかった。周囲を見渡しても、奏と思わしき人物の姿は見当たらず、大悟は唖然としながら周囲を見渡すのであった……。

 

「──とーちゃく、っと……」

 

 大悟と進が唖然とする中、プロトタイプのガンプラバトルシミュレーターの中から一人の人影が現れる。その人物は特徴的な金色の瞳で周囲を見渡すと、その口元に笑みを浮かべるのであった。

 

 ・・・

 

「なんだったんだ、まったく……」

 

 大悟達が探す奏は一人、壁伝いに頼りない足取りで歩いていた。不安定になった己の力で静止したような世界でここまで歩いてきたのだろう。

 

「人前であんな醜態を晒して……殿方の腕の中にいるなんて……。も、もぅお嫁にいけない……っ」

 

 人前で倒れて転げまわっていた。状態が状態とはいえ、少し恥ずかしさがある。しかも慣れない男性に触れられたことで頬は上気してしまっている。不安定になった力を利用してでもあの場から離れたのは、他人への迷惑と気恥ずかしさもあるのだろう。しかし、己の力は弱まってはきたが、その表情にはまだうっすらと脂汗がかいている。それもそうだ。あんなに不安定になったのは今までになかった。

 

 ──シーナ・ハイゼンベルグ

 

 それもこれもこの名前を聞いたせいだ。この名前を聞いた瞬間、まるで魂の奥底にでも隠れていたような自分を引き起こされたような異様な気分になったのだ。この名前だけは到底受け入れられるものでもないようで、今でも思い出すだけで不快感が滲み出る。

 

(なんなんだお前は……。人を惑わして……ッ!)

 

 シーナ・ハイゼンベルグが何者なのかは知らないし、知りたいとも思わない。だが自分をここまで揺さぶる存在には拒否感が出てしまう。

 

「私は私なんだ……っ!」

 

 その存在を考えれば考えるほど、まるで別の存在が今の自分がそのまま塗り替えられてしまうのではないかと思うほど不安になってしまうのだ。奏は言い聞かせるように呟き続ける。

 

「……っ……」

 

 彷徨うように歩いていた奏だが、また再び足を止める。そこは現在開催中の歴代ガンダムブレイカーとのバトルが楽しめるイベント会場であった。

 

「……ガンダムブレイカー0」

 

 観戦モニターにはバトルの様子が映し出されており、その中には奏の見知ったガンプラが映っていた。始まりともいえるガンダムブレイカー。その姿を見た奏は今まで見てきた中で違った感情が芽生えていた。

 

(……戦わないと)

 

 何故そう思ったのかは分からない。しかし、奏はガンダムブレイカー0を見て直感でそう思えたのだ。故にその手にはクロスオーブレイカーが握られていた。

 

 妙な言い方だが、会った事もないのに自分とシーナ・ハイゼンベルグは魂で繋がっている気がするのだ。だからこそ自分が自分である為に、その繋がりは断ち切る。

 

 まるで過去への決別を告げるかのように奏はまっすぐモニター上に映るガンダムブレイカー0を見て、イベント会場へと歩を進め、奏もイベントに参加するのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私が私であるために

決められた自分のSTORY
抗う度に築くHISTORY


 GB博物館による歴代ガンダムブレイカーとのバトルを体験できるイベントステージでは広大なフィールドを舞台に激しい攻防を繰り広げている。かつては一定の範囲内のステージであったが、この時代ではフィールドの大きさはあまりに広大となっている。

 

 

「中々、見つからないな……」

 

 廃墟となっている市街地では、涼一の駆るガンダムエクシアをベースにしたエクシアサバイブがビルに身を潜めながら周囲の状況を伺っていた。

 

「やっぱりレアキャラなんだねー」

 

 その傍らには明里の作成したガンダムタイプのガンプラであるガンダムスラッシュエッジの姿もあり、涼一の呟きに明里が通信越しに答える。今回、歴代ガンダムブレイカーとのバトルが楽しめるといった旨の企画として行われた本イベント。

 

 それでも歴代ガンダムブレイカーと遭遇できるのは、やはり運が試されている部分も多いらしく、ネット上ではガンダムブレイカーとバトルする事は出来たという報告もあれば、そもそも出会えなかったという報告は多々ある。

 

「呑気だな」

「バトルそのものが楽しいからね」

 

 目的はガンダムブレイカーなのに全く出会えていない。そんな現状なのに、特に気にした様子もない明里に呆れるが、明里はモニターを見つめながら楽しそうに笑う。

 

 例えガンダムブレイカーとは出会えなくとも遭遇戦である本イベントは多くのファイターが参加している。当然、エンカウントすればバトルに発展する為に、例えガンダムブレイカーに出会えなくともいつも以上に多くのファイターとぶつかることは出来るのだ。そんな明里の言葉に涼一も苦笑しながら、そうだな、と頷き行動を開始する。

 

 ・・・

 

 そんな涼一と明里のいる地上ステージから昇って行っての宇宙ステージ。広がる宇宙空間が舞台のこのステージでもやはりファイター達のバトルは繰り広げられている。

 

「妙に機体が多いなって思ったらッ!」

 

 その中には貴文が使用する中・遠距離戦を主とするガンダムアグニスと舞歌の接近戦に特化したような作りのケヌルンノスの姿があった。彼がいるフィールドはまさに犇めき合うような状態で多くのガンプラの姿があり、その数だけ繰り広げられる攻撃を対処しながら貴文が叫ぶ。

 

「まさかすぐにガンダムブレイカーが出会うとはっ」

 

 モノアイの残光を光らせながら、ケヌルンノスは一機、また一機と撃破しつつある方向を見やる。

 

 その圧倒的な高機動力を生かしつつ放たれたスーパードラグーンは周囲の機体を撃破し、その手甲の内側が一度輝けば燃える爆炎を持って粉砕していくガンダムの姿がそこにあった。

 

 その名はゲネシスガンダムブレイカー。目にも止まらぬその動きは次々に迫る機体を宇宙の塵へと変えている。

 

「あれで一般向けの調整って言うんだから驚きだな……!」

 

 データ上のコンピューター制御とはいえ、あまりに圧倒的な力を見せるゲネシスブレイカー。レアキャラの一機というだけあって、その性能はあまりにも高い。気を抜けばやられてしまうだろう。その性能に貴文は戦慄する。

 

 ゲネシスブレイカーがアグニスやケヌルンノスを捉え、次の標的に決めると一気に向かおうとする。二機は身構え、ゲネシスブレイカーを迎え撃とうとするが……。

 

「……やはりいらっしゃいましたねぇ」

 

 ゲネシスブレイカーとアグニス達の間を割って入るように鋭いビームが通り過ぎていき、三機は動きを止める。放たれた方向を見やり、舞歌はクスリと笑みを浮かべる。

 

 そこには希空のガンダムNEXの姿があった。

 NEXは今、高速移動の可変形態であるストライダー形態になっており、その背にはロボ助が操作するビーストモードの騎士ユニコーンが乗っていた。

 

「……」

 

 VR空間のNEXのコクピット内では希空がゲネシスブレイカーのみを静かにただ一点に捉えれていた。更にストライダー形態であるNEXを加速させ、ゲネシスブレイカーのみを標的に襲いかかる。

 

 当然、ゲネシスブレイカーも対処しようと動きつつもその距離を取る為に光の翼を展開し、一定の距離を保とうとする。だがそれでもNEXはゲネシスブレイカーのみを追いかけ、流星のような弧を描きながら二機は宇宙空間を駆け巡る。

 

 近くのデブリ帯に突入したゲネシスブレイカーとNEX達。いつまでも追いかけっこをするつもりはない。ストライダー形態のNEXに乗る騎士ユニコーンが光の剣を放つと、ゲネシスブレイカーを通り過ぎて近くのデブリに直撃し、破片が散らばる。

 

 宇宙空間に散らばった破片がゲネシスブレイカーの行く手を阻むなか、そのせいで動きが怯んだ隙を見て、騎士ユニコーンはNEXから飛び退くと、MS形態に変形したNEXは続けざまに二本のビームサーベルを引き抜き、ゲネシスブレイカーが振り向いた瞬間、その左腕をすれ違いざまに切断する。

 

 NEXと対応しようとするゲネシスブレイカーは同時に振り向くと、その刃を交え周囲に激しいスパークが起きる。しかしそれも長くは保たずにNEXの大型ビームキャノンがゲネシスブレイカーに更なる損傷を与え、よろけたところを蹴り飛ばしてデブリに衝突させる。

 

(……アナタの動きは手に取るように分かる)

 

 デブリに衝突し、その身を埋めるゲネシスブレイカーの姿を見つめながら、希空は目を細める。あくまでCPU制御とはいえ、目の前のゲネシスブレイカーの戦い方には元となった“データ”が存在する。

 

 だが希空からしてみれば、そのデータ以上のモノをずっと見てきた。それ故にゲネシスブレイカーの動きはいくらでも予測できて対応がいくらでも可能だったのだ。

 

(……私の実力だって申し分はない筈……。なのに何故……ッ!?)

 

 慢心している訳ではないが一般向けのCPU制御とはいえ、高い性能を持つゲネシスブレイカーを相手に優位に進める自身の実力は決して低いとは言えない筈。だからこそどこか歯痒そうな表情を浮かべる。

 

「……っ」

 

 デブリに埋まっていたゲネシスブレイカーに変化が起こる。それを見た希空は驚くものの目を鋭く細める。ゲネシスブレイカーは紅く輝く光を全身に纏い、覚醒を果たしたのだ。

 

「……その力が……私にないから?」

 

 覚醒の光を眩しそうに見つめる希空の口から心底忌々しそうな声色で放たれる。今すぐにでもあの光を消し去りたい。そんな想いを表すようにNEXはビームサーベルの切っ先をゲネシスブレイカーに向けようとするが……。

 

「ッ!」

 

 その前に自信を狙った鋭い一撃が放たれ、咄嗟にシールドによって防ぎながら距離を取る。一体、誰が無粋な乱入をしてきたのか。希空は鋭く細めた目でその方向を見やると……。

 

「……ガンダムブレイカー0」

 

 そこにいたのはビームライフルを向けるガンダムブレイカー0がいたのだ。どのタイミングでかは知らないが、どうやらガンダムブレイカー0も実体化を果たして、出現したようだ。

 

 ガンダムブレイカー0の出現に気を取られているのも束の間、ゲネシスブレイカーを守るようにガンダムブレイカー0がその前に躍り出る。するとガンダムブレイカー0とゲネシスブレイカーは同時にピット兵器を放ち、NEXへ差し向ける。

 

≪させはしないッ!≫

 

 縦横無尽に四方八方から襲いかかる無数のビームに悩まされる希空は何とか回避するのに精一杯だ。あまりの量にNEXの回避が間に合わず直撃を免れないと思ったが、その前に無数の光の剣がNEXに襲いかかるビームを相殺し、騎士ユニコーンが割って入る。

 

(……どうする?)

 

 対峙する二機のガンダムブレイカーの姿を見つめながら、希空は思案する。少なくともレアキャラであるガンダムブレイカーが二機も出現しているのだ。レーダーを見やれば、此方に向かってくる反応は多くある。合流される前に少なくとも覚醒したゲネシスブレイカーだけは撃破したかった。だが二機のガンダムブレイカーが前ではそれは難しいだろう。

 

 そんな事を考えているうちに無数の鮮やかな粒子の尾を引いた小型ミサイルがNEXの後方から二機のガンダムブレイカーに襲いかかる。もう合流されたのか、いや、あの小型ミサイルには覚えがある。希空が後方を確認すれば……。

 

「──……見つけたぞ」

 

 そこにはクロスオーブレイカーの姿が。離れ離れになっていた彼女もどうやらイベントに参加しているようだが、その声色はいつもの能天気な様子とは違い、真剣なものであった。

 

 迫りくるクロスオーブレイカーにガンダムブレイカー0がビームライフルを向け、狙撃を行うが、クロスオーブレイカーは鮮やかなGN粒子を放出しながら必要最低限の動きを持って回避すると更に距離を縮める。

 

 クロスオーブレイカーの狙いはガンダムブレイカー0のようだ。射撃を行いつつ、距離を詰めたクロスオーブレイカーはGNソードⅢをソードモードに切り替えると、すぐさま斬りかかり、ガンダムブレイカー0との戦闘を開始する。

 

「邪魔をするなァッ!!」

 

 クロスオーブレイカーを操る奏はどこか必死な形相だ。ガンダムブレイカー0を援護しようと斬りかかるゲネシスブレイカーに左腕で腰部からレーザー対艦刀を一本引き抜くとゲネシスブレイカーのGNソードⅤを受け止めると、ライフルモードに切り替えたGNソードⅢを頭部に押し付けて、その引き金を引き、損傷させたところを蹴り飛ばす。

 

「逃がすか……ッ!」

 

 ガンダムブレイカーの使い手として一線を超えた実力を持つ奏。早々にゲネシスブレイカーをあしらい、狙撃を得意とする為に距離を取ろうとするガンダムブレイカー0をトランザムを発現させて、その後を追う。

 

「……奏」

 

 どこか様子がおかしかった奏に引っかかりは感じるものの、自分に一切、目もくれずガンダムブレイカー0を追って、どんどんと離れていく赤き流星の姿を見つめながらポツリと奏の名を口にする希空。

 

「やっぱりアナタは……目もくれずに私を置いていく」

 

 離れていくクロスオーブレイカーの姿に静かに呟く。険しい表情を作っていく希空はその矛先をゲネシスブレイカーへ向け、騎士ユニコーンと共に戦闘を再開するのであった。

 

 ・・・

 

「すっごくビンビンしてるねぇ」

 

 そんな戦闘の様子を一人の少女が見つめていた。その金色の瞳はモニター越しにクロスオーブレイカーとガンダムブレイカー0の姿を捉えて離さない。

 

 彼女がいるのは、イベント管理を行う制御室。全てトイボットやAIによる管理が行われている厳重な部屋の筈なのに、少女はそこにいた。

 

「どうせゲームだ。少し盛り上げてあげるよ」

 

 激闘を行うクロスオーブレイカーを見つめながら、少女は軽く舌で唇を舐める。すると管理室の備え付けのコンソーケルを慣れた手つきで素早く操作を始める。

 

「ホント、何回来ても“この世界”って遅れてるなぁ。これで厳重なロックのつもりなんだからさぁ」

 

 半開きになった入り口の扉や次々に解除されていくプロテクトを見つめながら嘲笑する。彼女こそあのガンプラバトルシミュレーターのプロトタイプから出てきた人影の正体なのだ。その間にもすべてのプロテクトが解除され、開いたのはガンダムブレイカーの制御を行うシステムだった。

 

「どうせだったら、“本物”と戦ってみたいっしょ」

 

 そのまま近くの端末にチップを挿入し、プログラム内のガンダムブレイカー0の制御システムを書き換えていく。

 

「肩慣らしで持って来たんだけどね。まっ、どうせならって奴」

 

 誰に言っている訳でもなく作業を進めていく少女は全てを書き換えるとチップを取り、自分がいた痕跡も失くすと制御室から出て行く。

 

「じっくり見させてもらうよ。遊び相手は多い方が良いし」

 

 制御室から出た少女は上機嫌に鼻歌交じりで一般客向けのフロアに戻ってガンプラバトルシミュレーターへと向かっていく。その途中には制御室に向かう際中で出くわしたと思われる職員が気絶しているものの、少女は何食わぬ顔で通り過ぎて行った。

 

 ・・・

 

「……っ!」

 

 バトルフィールド内のコロニー周辺では依然、クロスオーブレイカーとガンダムブレイカー0が戦闘を繰り広げていた。鍔迫り合いを行っていたクロスオーブレイカーだが、ガンダムブレイカー0のツインアイが不気味に輝いたのを見て、危機感を感じて、咄嗟に距離を取る。

 

「ッ……。覚醒……か……?」

 

 ガンダムブレイカー0の装甲が展開し、内部のサイコフレームを露出させると蒼く光り輝いたではないか。その姿に頭が痛むのを感じながら、静かに呟く。

 

 覚醒を果たし、狙撃を行うガンダムブレイカー0に迫るクロスオーブレイカー。するとガンダムブレイカー0はビームライフルを捨て、両腕部のビームトンファーを展開して受け止めると反撃に出る。

 

「ッ!?」

 

 嵐のような剣撃をみまうガンダムブレイカー0。だがその一撃一撃を受け止める度に奏の表情に動揺が広がっていく。

 

「……戦い方がまるで違う……ッ! これではまるで……ッ!!」

 

 腰部のレールガンが放たれ、盾代わりに構えたGNソードⅢを破壊されてしまう。あの蒼色の覚醒を果たした時からガンダムブレイカー0の戦い方に異変が起きた。それまでは奏のように見慣れた戦い方でいくらでも対処できたのに、その戦い方、特に近接戦がガラリと変わったのだ。

 

 それはまるで“二人が交互に切り替わって一つの機体を操作する”かのように。少なくとも奏が生きてきた中でガンダムブレイカー0もその使い手もこんな戦い方はしていなかった。

 

「……いや、だが……これで良い……ッ!」

 

 荒れ狂う嵐のようなビームトンファーの攻撃を両腕に装備したレーザー対艦刀で受け止めるクロスオーブレイカー。そのコクピット内では奏がその口元に歪な笑みを浮かべていた。

 

「“今の”お前を……倒すッ!!」

 

 ガンダムブレイカー0の変化を良しとした理由は奏にも分からない。だが、少なくとも絶対に倒さなくてはいけないと思っていたガンダムブレイカー0はまさしく目の前にいるような気がしてならないのだ。

 

「私が私であるためにッ」

 

 すると奏の瞳の色彩が紫色に変化する。次の瞬間、クロスオーブレイカーをガンダムブレイカー0と同じように蒼色の輝きが包んでいく。同時に爆発したかのようにクロスオーブレイカーはツインアイを輝かせ、ガンダムブレイカー0との剣戟を繰り広げる。

 

 段々とコロニーに近づいていくなか、ビームトンファーとレーザー対艦刀が激しく打ちつけ合う。互いに一歩も引くことのないバトルはその激しさを更に加速させる。

 

「……“お前”をまるで自分を見ているようで不愉快なんだ……。お前は私……。妙ではあるが、そう思えてならない」

 

 おかしな気分だった。初めて戦う知らない筈の戦い方なのに、その戦い方がまるで自分のことのように分かる。まるで鏡合わせで戦っているかのようだ。データであるガンダムブレイカー0がそうでなくとも、不思議とクロスオーブレイカーにはガンダムブレイカー0の行動が読めてい、今では全てのフィンファンネルを破壊することには成功し、ガンダムブレイカー0を中破にまで追い込んだ。

 

「っ……!?」

 

 だがやはりガンダムブレイカー0の異常に跳ね上がった高い性能を前にクロスオーブレイカーを無事とは言えず、損傷していくなかでその両肩を貫かれて、コロニーの外壁に突っ込んでいく。

 

「だが……だからこそ……ッ! 私が私であるために私自身がお前を倒さなくちゃいけないんだッ!!」

 

 全ては心を覆うような靄を払う為。外壁に押し付けるガンダムブレイカー0の力が強まるなか、レーザー対艦刀を手放したクロスオーブレイカーの両腕がわなわなとガンダムブレイカー0の両腕を掴む。

 

 すると奏の紫色に変化していた色彩は色が入り混じって、“虹色”に変化していく。すると呼応するようにクロスオーブレイカーを包む蒼色の光も虹色の光に変化していくではないか。

 

「くぅ……ッ……! うああぁ……ァ……ッッ!!」

 

 その異変は奏にとって負担が大きいのだろう。脂汗を流しながらでも、それでも歯を食いしばり、一点にモニター越しのガンダムブレイカー0を見据え、クロスオーブレイカーはツインアイをより一層輝かせながら、力を振り絞るように顔をあげ、ガンダムブレイカー0と向き合う。

 

「トランザムゥゥッバアアアァァァァァァァァストオオォォォォッッッッ!!!!!!!」

 

 それは苦痛も何もかも全てを吐き出すような渾身の咆哮であった。EXアクションとしてオーライザーから放たれたGN粒子の奔流はガンダムブレイカー0を飲み込むようにして、撃破する。

 

 ・・・

 

「すっげぇっ! やっぱりガンダムブレイカーってカッコいいッ!」

 

 一般の観戦モニターで観戦していた観客達は決着がついたクロスオーブレイカーを見て、大歓声が上がる。新たなガンダムブレイカーとして活躍する奏はその出自だけでも話題にはなるのだろう。皆、手放しにクロスオーブレイカーを称えていた。

 

 そんなクロスオーブレイカーを遠巻きでNEXこと希空も見つめていた。鮮やかな光の奔流を放ったクロスオーブレイカーに複雑そうな様子で顔を顰め、やがて心底、忌々しそうに歯軋りをする。

 

 ・・・

 

「はぁっ……はぁっ……。あれは……なんだったんだ……?」

 

 現実世界の奏の身体は汗でぐっしょりと濡れていた。虹色の瞳は一時的なものだったのか今の奏の瞳の色彩は紫色に戻っており、やがて元に戻っていく。荒い呼吸を整えながら先程の無我夢中になっている中で変化した己の状態に戸惑いを感じていると……。

 

「ッ!?」

 

 VR空間のコックピットに反応が起こる。クロスオーブレイカー目掛けて、接近する機体がいたのだ。奏はすぐさま二本のレーザー対艦刀を装備して対応しようとするが、その前に赤い影が隕石のようにぶつかり、クロスオーブレイカーごと外壁を打ち破って、コロニーの内部に突入する。

 

「なんだあれ……ッ!?」

 

 その光景に誰もが驚いた。NEXと騎士ユニコーンと合流したアグニスやケヌルンノス。貴文はコロニーの内部の車や木々の類が打ち破られた外壁から放出されていくのを見つめながら戸惑う。

 

「……っ」

 

 それは先程まで険しい表情を浮かべていた希空も同じだったようで、どこか奏を案じるように表情を苦ませながらもストライダー形態へ変形し、騎士ユニコーンと共にコロニーへ向かっていく。

 

 ・・・

 

「っ……。なんだったんだ……ッ!?」

 

 電力を失い、暗がりが広がるコロニー内ではクロスオーブレイカーが何とか姿勢を立て直しながら、市街地に降り立っていた。だが警戒を怠るわけにはいかない。何故ならば、近くには自分を襲った相手がいる筈なのだから。

 

 するとセンサーに反応があり、奏は反応する。その方向を見やれば、コロニー内の大気が抜け出ていくような状況でもこちらに悠然と歩いてくる一機のガンダムの姿があった。

 

「あの機体は……ッ!?」

 

 その機体を見て、驚愕に染まる。燃えるような真紅の装甲と一本の刀を背負った近接特化のガンダム。奏はその機体を知っていた。

 

「バーニングガンダムブレイカー……ッ!?」

 

 その名はバーニングガンダムブレイカー。かつては覇王が使用していた機体が今まさに目の前にいるのだ。

 

≪まさかあのデータを倒せる存在がいるなんてね≫

 

 まさかまたデータなのか?

 そう考えていた奏だったが、バーニングブレイカーからの通信に更に驚く。あれはデータではなく紛れもない本物のバーニングブレイカーのガンプラだとでも言うのだろうか、少なくともその完成度はオリジナルにしか見えないのだ。

 

≪心が弾むなぁ。丁度、ブレイカーの名前らしいし、すっごくビンビン感じるよ≫

「お前は誰なんだ……ッ!? そのガンプラは……!?」

 

 通信越しに悠然と話しかけてくる少女に奏は問いただす。仮にあれがオリジナルのバーニングガンダムブレイカーだとして、何故少女が持っているのか、何もかもが分からなかった。

 

 奏は歴代のガンダムブレイカーの使い手と面識がある。……ただ一人を除いて。

 

 それはバーニングの名を冠するガンダムブレイカーを使用する覇王の異名を持つ存在だった。

 

 奏はその存在を、その戦いを全てデータでしか知らない。その存在を知る英雄も新星もあまりその存在を口にはしないからだ。ただそれでも強く立派な存在だと、いつか出会えるとしか教えてくれないのだ。

 

「まあまあ。私はルルティーナ……。ルティナって呼んで良いよ」

 

 バーニングブレイカーのコクピット内で金色の瞳を持つ少女は口元に笑みを浮かべ、奏を宥めながら己の名を明かす。その首元には年季の入ったペンダントがあり、下げられた宝石であるアリスタは輝く。

 

「あんまりここにはいられないんだよ、バレると凄いうるさいし」

 

 VR空間であるバーニングブレイカーのコックピット内でルティナは肩を竦め、連動するようにバーニングブレイカーも肩を竦める。それは奏達のような一般的なコックピットとは違い、己の肉体と連動したファイタータイプのコックピットだった。もっともこの時代のガンプラバトルシミュレーターにオプションとしては存在するものの、使用者は少数ではある。

 

「だからさぁ……ルティナと遊んでよ」

 

 バーニングブレイカーは軽やかなステップを踏むと、左拳を腰に引き、右手を突き出す独特な構えをとる。奏はこの構えを見た事がある。そう……データで知る覇王が使用する構えだ。ルティナの無邪気な子供のような物言いとは裏腹にその口元には歪な笑みが。

 

 きっとこれ以上の問答は受け付けないだろうし、それ以前にバトルは避けられない。奏はレーザー対艦刀を構え、ルティナのバーニングブレイカーと対峙するのであった。

 




<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

エイゼさんからいただきました。

ガンプラ名:ガンダムスラッシュエッジ
WEAPON:ビーム・サーベル(Hi‐ν) 
WEAPON:ガトリングガン(Vダッシュ) 
HEAD:ストライクE 
BODY:ストライクフリーダム
ARMS:V2アサルト
LEGS:ガンダムDX
BACKPACK:ダブルオーセブンソード
SHIELD:シールド(ウイングプロトゼロ)
拡張装備:内部フレーム補強、新型MSジョイント、丸型バーニア×2(backpack)、角型センサー(body)、大型レールキャノン×2(backpack)
明里が今まで制作したガンプラで唯一『ガンダム』の名を冠したガンプラ、どの距離に置いても高性能だが、明里自身のマッチングに置いて近中距離戦闘を主眼に調整されている。
各種兵装を駆使して、切り札としてトランザムやライザーソードを絡めての戦闘を行う。
カラーリング
headはストライクカラー、bodyとlegはベース通りにarms並びにbackpackは青を濃い目以外はベース通りにシールドは赤を濃い目の青に変更しております。


ガンプラ名:エクシアサバイヴ
元にしたガンプラ:ガンダムエクシア
WEAPON:ビーム・サーベル(Gセルフ)×2
WEAPON:専用ショットガン(ケンプファー)
HEAD:エクシア
BODY:Hiνガンダム
ARMS:ストライクノワール
LEGS:ガンダムX
BACKPACK:デスティニー
SHIELD:ABCマント
拡張装備:スラスターユニット×2(leg)、バルカンポッド(head)、内部フレーム補強、新型MSジョイント、ファンネルラック×2(leg腰部)
涼一の制作したガンプラ。基本的にどの距離でもその高性能を発揮しつつ射撃兵装の上で近距離重視の調整が施されている。

カラーリング
headはグロ-を水色以外はベース通りにして、ボディはエースホワイト、armsは肩と手首をエクシアブルーにしてスラスター部はベース通りに他は白、legは白に足裏を赤にしてスラスターユニットはエクシアブルーに、backpackはメイン羽をエクシアブルー以外はベース通りにお願いします。


不安将軍さんからいただきました

ガンプラ名:ガンダムアグニス
WEAPON:対物ライフル
WEAPON:拳法用MSハンド
HEAD:ライトニングガンダム
BODY:クロスボーン・ガンダムX1
ARMS:デュエルガンダムアサルトシュラウド
LEGS:ガンダムアスタロト
BACKPACK:ガンダムヘビーアームズ
SHIELD:ビームキャリーシールド
拡張装備:ビームピストル×2(腰後部)
     Iフィールド発生装置(腰後部)
     丸型バーニア(バックパック)
     太陽炉(バックパックのエネルギータンク上部)
     レーザー対艦刀×2(バックパック)

カラー:紫系統のカラーで纏めており、大部分が紫。両肩やバックパックを江戸紫、所々がライラックと薄花桜。
アンテナや銅の一部分は黄色。腕や顔、銅部分は白にしてある。

舞歌に合わせて中・遠距離攻撃を主にしているが、いざとなれば近接戦も出来るように作成した支援機体。
基本的に遠距離は狙撃・ミサイル攻撃、中距離はガトリングやビームピストルによる援護射撃を行える。
重装備の外見をしているが、アスタロトの脚部や拡張装備のバーニアのおかげで機動力も有している。
射撃による支援・援護攻撃してる間は相手に近寄らないようにし、近寄られたら逃げつつ弾幕を張る。
レーザー対艦刀は舞歌に渡す事も前提にしており、射撃武器が尽きれば不要なパーツをパージして近接戦に持ち込む。
ビームキャリーシールドは相手の捕獲や飛ばされた武器の回収など様々な事に使われる事が多い。
トランザムは余程の事が無い限り使わず、使った際は近接戦に移行して時間切れになる少し前に距離を取る。


ガンプラ名:ケルヌンノス
WEAPON:ライフル(ガンダムアスタロト)
WEAPON:格闘用MSクロー
HEAD:シナンジュ
BODY:ガンダムバルバトス
ARMS:ジンクスⅢ
LEGS:アルケーガンダム
BACKPACK:ガンダムキマリス(ブースター装備)
SHIELD:アメイジングレヴA(バックパックに付けている)
拡張装備:Cファンネル ロング×6(右腕に3つ、左腕に3つ)
     アメイジングレヴA(バックパック)
カラー:全体的に白寄りの灰色。胴体中央や両肩側面を赤くしており、。頭の一部分だけ黄色にしている。
所々に光沢のあるメタリックな青緑にしていて、Cファンネルのクリアパーツ部分も同じ様にペイントしている。

舞歌が好んで使う愛用ガンプラで、得意としている近接戦に特化させているが遠距離攻撃手段も少ないがある。
多種多様な攻撃手段を持つクローをメイン武装として使っており、たまに相手を投げるという意表を突く事も。
両腕に装備してあるCファンネルは腕に装備させたまま使う事もあれば外して使う事もできるようになっている。
近接戦闘が出来るようにブースト速度を高め、二つのアメイジングレヴAを搭載してより速さを高めている。
スピードを生かしたヒットアンドアウェイからオプション装備による相手を翻弄するような攻撃も可能。
見ての通り速度と近接戦を重視してる為か防御手段が少ないのだが、それは回避で補っている。
EXアクション「紅の彗星」・GNファング・Cファンネルバリアの同時使用からの連続攻撃が奥の手としてある。

素敵な俺ガンダムありがとうございます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Real Game

 大気が抜け出るコロニー内部を抜けたクロスオーブレイカーとバーニングブレイカーは幾度となくぶつかり合っていた。流星のような弧を描き、二機のガンダムブレイカーはコロニー周辺を駆け巡る。

 

「コイツ……っ!!」

 

 バーニングブレイカーとぶつかり合う度に奏の表情は険しくなっていく。戦えば戦うほど、ルティナという少女の実力が嫌でも分かる。気を抜けばあっと言う間にやられてしまうだろう。

 しかし今の奏はガンダムブレイカー0とのバトルで内なる力を解放したりとかなり消耗しているのもまた事実。時間が経てば経つほど、クロスオーブレイカーの動きに鈍さが見え始める。

 

「そっちじゃないんだなあ」

 

 対してルティナの表情はまさに余裕綽々といったもので、口元の笑みが崩れる事はない。クロスオーブレイカーが突き出したレーザー対艦刀をスッと横に避けると気の抜けたような声とは裏腹に鋭い一撃を受け、クロスオーブレイカーはコロニーの外壁に叩きつけられる。

 

「でもVRで機体を動かすのって変な感じ。やっぱりモビルトレースシステムのが良いのかな」

 

 VR空間のバーニングブレイカーのコックピットではノーマルアバターとして私服姿のルティナが拳を開閉している。それに合わせてバーニングブレイカーもマニビュレーターを開閉しているのだが、ルティナは不可解そうな表情をしており、VE空間で行うバトルがしっくりこないのだろう。

 

「お前、何言って……っ!?」

 

 コロニーの外壁に叩きつけられているクロスオーブレイカー。そのVR空間のコックピットでは奏は顔を顰めていた。彼女にとってルティナの言葉の意味は分からず、要領を得なかったのだ。しかしその事を口にしているのも束の間、まさにあっと言う間にバーニングブレイカーは眼前にいたのだ。

 

「でもそんなことしたら、すぐに壊れちゃいそうだしね」

 

 バーニングブレイカーから伸ばされた手はクロスオーブレイカーの首関節部分を掴み、力を強めると奏が見つめるモニターにノイズが走る。

 

「うーん……やっぱり今は消耗してるから、相手にはならないかぁ」

 

 バーニングブレイカーのモニターに映る各部に損傷が目立つクロスオーブレイカーを見やりながら、ルティナは分かっていたとはいえ消耗している今の奏ではまともなバトルは期待できないかとがっかりしたようにため息をつく。

 

「それともその心をもっともーっと追い込めば、その気になってくれるかな?」

「……っ」

 

 しかし今の奏は内なる力を解放してまでガンダムブレイカー0と激闘を繰り広げた直後。身体には負担がいまだ色濃く残っている為、満足なバトルなど出来やしないだろう。

 

 奏はルティナのことなど何一つとして知らないが、ルティナはどこか含みのある言い方をする。それはまるで奏の中にある力を知っているかのように。

 

 バーニングブレイカーは右腕を振りかぶる。これで何かを誘発出来たらいいし、仮になければ用もないし、さっさとクロスオーブレイカーを破壊して終わらせようとした時であった。バーニングブレイカーのアラートが鳴り響き、モニター越しにクロスオーブレイカーを見つめていたルティナは反応があった場所を見やる。そこには此方に迫るストライダー形態のNEXとその背中には騎士ユニコーンの姿があった。

 

 ストライダー形態のNEXは機首部分に装備されているハイパードッズライフルと大型ビームキャノンをバーニングブレイカーのみを狙って放つと、鋭い精度で無数のビームはバーニングブレイカーへと向かっていく。

 

 だがバーニングブレイカーに僅かも動揺の気配はなく、空いている左腕を向けると前腕のカバーが左腕を覆い、エネルギーを左マニュビレーターに集中させるとそのままエネルギーを照射させ迫るビーム群を飲み込んでいき、そのままNEXへ向かっていく。

 

「茶々いれるとか白ける真似しないでよ」

「いきなり襲いかかっておいて……」

 

 NEXとバーニングブレイカーはぶつかり合い、二本のビームサーベルを振るうNEXの攻撃を難なく回避しながら、心底面倒臭そうに話しかけると、いきなり襲い掛かっておいてそれを止めようとしたところを白けるような真似をするな、と言われてしまうと流石の希空も身勝手に感じられて顔を顰める。

 

「これって何でもありのゲームでしょ? なら好きに遊ばせてよ」

「訳が分からない……。アナタは何がしたいんですか……!?」

 

 どのみち、今の奏では満足なバトルが出来ないと判断したルティナはNEXの攻撃を捌きながら話す。しかし、まったく話が通じないルティナに希空も苛立ちを感じてしまう。

 

「だーかーら遊びたいんだって。遊ぶならもっと心を弾ませようよ」

 

 苛立つ希空にその苛立ちその物が理解できていない様子のルティナはNEXからの攻撃を全てあしらいながら、その胴体に掌底打ちを浴びせる。

 

 全てが流れるような動作であった。まるでヒップホップダンスを織り交ぜたかのような軽妙でリズミカルな動作の中に拳法の技が的確に打ち込まれていき、NEXにも損傷が目立ち始める。

 

 そのまま鮮やかな連撃を浴びせて行こうとするが、その前に光の剣が降り注ぎ、バーニングブレイカーはNEXから距離を取らざる得なくなってしまう。

 

 光の剣を放った騎士ユニコーンはNEXを守るために二機の間に割って入ると、マグナムソードを突き出して突撃していく。

 

≪……確かに私も例え見知らぬ相手でも楽しく遊べるのなら賛同します≫

「ほんと? うれっしいなぁ」

 

 近接戦ならば希空よりもロボ助の方が上手なのだろう。NEXの時は全て紙一重で避けていたが、多少なりガードする面が見えてきた。だがそれでもルティナは焦る様子もなく飄々と静かに放たれたロボ助の言葉に無邪気な反応を見せる。

 

≪だが、アナタのやり方は唐突で一方的です! それでは……っ!≫

「……あぁもう、そういう小言はうんざりだからさ」

 

 ロボ助はルティナのスタンスを非難するも、ルティナは一切、聞く耳を持たない。だが、その目は騎士ユニコーンの動きを完全に捉えており、マグナムソードを突き出した瞬間、目を細める。

 

「消えなよ」

 

 バーニングブレイカーの日輪は光り輝き、右腕を手甲が覆うとエネルギーが溜まって紅蓮の光を溢れ出させる。そのままクロスカウンターの要領で突き出したマグナムソードに対応したルティナは心から凍るような冷たい声で言い放つと、バーニングフィンガーが騎士ユニコーンを貫く。

 

「ロボ助っ!」

 

 まともにバーニングフィンガーを受けた騎士ユニコーンはみるみるうちにその動きが鈍くなっていく。トイボットの姿とガンプラが瓜二つのロボ助が貫かれた為、心を許す存在の悲惨な姿に悲痛な悲鳴をあげる。

 

「──これってそういうゲームでしょ? 一々動揺しないでよ」

 

 だがそれが大きな隙となってしまい、NEXに急接近したバーニングブレイカーはぴったりとくっ付きそうな距離に移動すると、悲鳴をあげた希空にルティナが煩わしそうに話す。

 

「なんだかルティナが悪い人みたいじゃん」

 

 驚いたのも束の間、もうここまで踏み込まれてしまってはルティナの独壇場とも言って良いだろう。正拳突き、掌底打ち、裏拳、肘打ちと数々の技を瞬く間にNEXへ浴びせていく。

 

「……っ……!」

 

 揺れるコックピット内でツインアイをぎらつくように輝かせるバーニングブレイカーをモニター越しで見つめた希空は体を震わせて息を飲む。もはやバーニングブレイカーのその姿は悪鬼のそれに見えたからだ。だがそんな間にも最後の一打を受けて、NEXはデブリに突っ込んでしまう。

 

「はぁっ……つまんない。テンションガタ落ち……」

 

 デブリに埋め込まれたNEXからツインアイの輝きは消えてしまう。その姿を見やりながら、折角のバトルで満足の出来なかったルティナは不満を零す。

 

「あっ、また来た」

 

 そうこうしている間にまたアラートが鳴り響き、ルティナが確認すれば、それはこちらに向かってくるアグニス達を始めとした多くのガンプラ達であった。

 

「心が躍らないなぁ……。無双ゲーってあんまり趣味じゃないし」

 

 自身の実力に絶対的な自身を持つルティナからすれば、迫るガンプラ達は全て同じに見えるのか、興が乗らないとばかりにため息をつくと、向かってくるガンプラ達に背を向けてクロスオーブレイカーを向かっていく。

 

「本物だけど、違う……。けど本物のような……」

 

 クロスオーブレイカーをジッと見つめながら、そこにいるであろう奏になにか考えるように思案する。

 

「ねえおねーちゃん、次はいつガチで遊べる? 如月翔をやっちゃうのとどっちが早いかな?」

「やっちゃうってなにをするつもりだ……!?」

 

 やがて鼻歌を交じりでクロスオーブレイカーに近づいたルティナは奏に尋ねると、消耗が激しく険しい表情を浮かべている奏はルティナの最後の言葉に強く反応する。

 

「バトるだけだよ。それにいい加減、目障りだし」

 

 するとルティナは今までの無邪気な反応から一転して、どこか凍り付く様な声色で言い放つ。その言葉の意味が分からず奏が困惑するも、バーニングブレイカーはクロスオーブレイカーに背を向ける。

 

「待て! その機体は……シュウジさんは今……ッ!?」

 

 背を向けたバーニングブレイカーに尋ねる。ここから立ち去ろうとしているのが分かったからだ。だからこそずっと感じていた疑問を叫ぶ。

 

「……下手に知り過ぎるのも心が囚われるだけだよ、おねーちゃん」

 

 しかしルティナは奏の問いかけに応えることなく、どこか複雑な面持ちで答えるとバーニングブレイカーはフィールド上から消え、残された奏は唖然とするのであった。




ルティナ

【挿絵表示】


ルティナ「下手な真実なら知らないくらいが良い…なーんてね」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今を駆ける

 ルティナの操るバーニングブレイカーとの交戦後、ガンプラバトルシミュレーターを出て、ルティナを探すも容姿も分からぬ存在を見つけることは難しく、奏達は途方に暮れていた。

 

「あの人の目的は……。少なくとも奏とバトルをする事が目的だと思えましたが……」

「分からない……。だが、アイツはあの時は……」

 

 希空は近くの奏を見やりながら呟く。あの時、クロスオーブレイカーに襲いかかったバーニングブレイカーは傍から見ていても明確にクロスオーブレイカーを狙っているように見えた。とはいえ、奏も確かなルティナの目的までは把握できていないが、それでも彼女が言っていた言葉は覚えている。

 

「如月翔をやっちゃう……でしたか。どういう意味何でしょうか」

「少なくとも決して良い意味で言われたわけではないな……。何の恨みを買ってるんだ、あの人は……」

 

 奏から聞いたルティナの去り際のやり取りを思い出しながら希空は疑問を投げかける。あの言葉にどういった意味が込められていたのかは判断しかねるが、それでもあの時の冷淡な様子から決して友好的なものではないだろう。

 

「ま、まさか……女性関係で揉め事が……!?」

「……一瞬、考えましたけど奏が言ったって知ったら絶対に悲しみますよ」

 

 少なくとも翔があれほど明確に恨まれるような事は奏達に思い当たらない……が、一つ、突発的に思いついた事がある。ハッと顔をあげて答える奏だが、その言葉に何より奏が言ってはいけないでしょう、と希空は嘆息する。

 

「……なんであれあまり気分が良いとは言えませんね」

 

 希空は苛立ちを表すように目を細める。僅かにバトルはしたが、あぁも話も通じず、簡単にあしらわれたのでは何も思わないわけではない。

 

「うむぅ……。まぁでも私はまたバトルしてみたいな」

 

 希空の言葉が共感できるようで言葉を濁す奏ではあるが、希空にとって予想もしていなかった言葉が放たれたので驚いて奏を見る。

 

「奴は私と本気のバトルを望んでいた。ファイターとしてそんな事を望まれるなんて光栄ではないか」

 

 驚いた希空に奏は晴れやかな笑みを浮かべて答える。

 

「それに私としても、あんな状態でのバトルでは満足できないし、やられっ放しと言うのもな。だからこそ万全の状態でバトルをして、そして勝つ!」

 

 あの時の奏がガンダムブレイカー0との戦闘で自分でも自覚するくらいかなりの消耗をしていた。だからこそ万全の状態で、ルティナとの本気のバトルを望んでいた。

 

「……本当に眩しいですよね。見たくもないくらい」

 

 再戦を心待ちにする奏のその底抜けに明るく晴れやかな様子に希空はか細い声で呟き、忌々しそうに目を逸らす。

 

「ん? すまない、なにか言ったか?」

「なんでもありません」

 

 希空の呟きがはっきりと聞き取れていなかったのか、きょとんとした様子で希空に尋ねる奏ではあるが、今口にした事を再び話す気にはなれず、首を振って誤魔化す。

 

「まあでも、希空もあまりそんな顔をするな」

 

 とはいえ、誤魔化しても希空が不機嫌そうな仏頂面をしているのは変わらず、それには流石に気付いた奏は希空の肩を抱きながら、観戦モニターを向き直る。

 

 ・・・

 

「ねっ、言ったでしょ? バトルその物が楽しいって!」

 

 観戦モニターに映るのは市街地でのバトルであった。市街地の町中を明里のスラッシュエッジが駆け抜けていた。

 

「やるなっ……!」

 

 蒼白く光るスラッシュエッジのビームサーベルを己のビームサーベルで受け止めたのは、RX-78-2 ガンダムをカスタマイズした進のガンダムリバイブであった。彼もまたイベントに参加して、明里のスラッシュエッジとエンカウントしバトルに発展したのだ。

 

「アカ姉の言う通りだなッ!!」

 

 上空では涼一のエクシアサバイヴが光の翼を発生させながら、ビームライフルの引き金を引いて対象を追いつめようとする。そんな涼一は明里の言葉に心底同意するように口元に笑みを浮かべながら答えていた。当初こそ歴代ガンダムブレイカーと遭遇できないこと嘆いていたが、腕の立つファイターとのバトルはそれはそれで悪くはなかった。

 

「中々……! でも、進とのタッグだったら負けはしないよ!」

 

 エクシアサバイヴが攻撃をしかけるのは大悟のZガンダムをカスタマイズしたZガンダムリバイブであった。エクシアサバイヴの鋭い攻撃を回避しながら、ウェイブライダー形態への変形を素早く行い、旋回するとバックパックに装備したマイクロミサイルランチャーを放ち、エクシアサバイヴへの反撃に出る。

 

 ・・・

 

「バトルはいつだって楽しんでしたいんだ……。今は苦しくとも、それも良かったと思えるようにしたい」

 

 観戦モニターに映るエクシアサバイヴ達の戦闘には見ていてもファイターが楽しんでバトルをしているのが簡単に見て取れる。その姿に奏は隣にいる希空に笑いかける。奏は今、己の中の力に悩まされている。だが、それでもバトルは楽しんで行いたいという気持ちは強くある。

 

「だから希空も少しは肩の力を抜け。難しく考えないで少しは馬鹿になって一緒に楽しもう」

 

 そのまま希空の肩を撫でながら奏は微笑む。奏とて何であるのかは詳しく知らなくとも希空が何かに悩んでいると言う事その物は察しているのだろう。

 

(……一緒にいるからから……傍にいればいるほど楽しめないんですよ)

 

 奏に微笑まれる希空ではあるが、いまだその心に暗雲は立ち込めており、それが晴れる事はなかった。

 

 ・・・

 

「これ、お土産です」

 

 その後、貴文達や明里達と共にGB博物館を後にした希空達は彩渡街に立ち寄っていた。別にこのまま帰ることは可能ではあったが、その前にGB博物館での土産を愛梨やサヤナ達に渡す。

 

「わぁっ、これ限定品だよねっ!? 欲しかったんだーっ!!」

「なんだか悪いわね」

 

 希空から手渡されたGB博物館の土産であるガンプラを見て、表情を輝かせて喜んでいる愛梨とその隣では何だか気を使わせてしまった事にサヤナは若干、申し訳なさそうに話す。

 

「私達ももう帰りますので、ツバコにはよろしくお伝えください」

「ええ、勿論」

 

 時間は過ぎるのもあっと言う間でもうそろそろ生活の拠点となっている場所へ帰らなくてはならなくなってしまった。今回、この場に訪れて会えなかった者もいるが、ならせめてと希空はサヤナに言伝を頼む。

 

「えぇっもう少し一緒にいようよっ!!」

「ごめんなさい、もう予約も取ってありますから……」

 

 希空達が帰ることを渋る愛梨。久方ぶりに会ったのだから、もう少し長く一緒に居たいと思うのは仕方ない事だろう。それは希空も同じことなのか、名残惜しそうではあるがやんわりと謝る。

 

「今度はいつ来れそうかしら?」

「……それは何とも。気軽に来れるわけではありませんので」

 

 愛梨を宥めながら希空達に今度、会える日を尋ねるサヤナではあるが、希空は難しい顔を浮かべながら首を横に振る。

 

「まあでも、近くに会える可能性はあるぞ」

 

 寂しさが生み出す雰囲気が広がっていくなか、ふと奏が口を開き、全員の視線が奏に集まる。

 

「うむ、近く大会が行われる。私達も出場するつもりだし、もしかしたら本選で出会う可能性はある。まあ大会に出れば、の話だが」

 

 全員の集まる姿勢に頷きながら、その理由について回答する。その言葉に希空達は成程、と納得する。

 

「だったら私、出るよ! 今はいなくともちゃんとチームを作ってみせるから!」

「ええ、楽しみにしてます」

 

 希空に会う事が出来てバトルも出来る。最高ではないかと愛梨が再び表情を輝かせながら希空の手を取ると、希空もその時のことを楽しみにしているのか、愛梨に答えるように彼女も微笑む。

 

「ならば……」

「ええ、また近いうちに」

 

 そろそろ時間も迫っている。奏と希空は互いに頷き合うと、愛梨とサヤナに別れの言葉を告げて、彩渡街を立ち去っていく。

 

「大会が楽しみだな」

「否定はしません。ですが、強くならなくてはいけない理由は増えました」

 

 駅まで向かっていく道中、夕焼けに照らされながら奏と希空は談笑する。奏の口元には愛梨達だけではなく、どんな相手とバトルが出来るのかと言った高揚感から来る笑みが浮かんでいた。

 

(私は強くならなくていけない。“あの力”も手に入れる……手に入れなくてはいけないから)

 

 ふと希空の表情に影が差し込む。力を渇望するその瞳はどこまでも妖しく揺らめいていた。だが不意に自身の腰が何かに触れられた感触に気づき、希空はそちらを見やれば、そこには此方を見つめるロボ助の姿が。

 

「……大丈夫。奏達が……何よりロボ助が支えてくれるから」

 

 どうやらロボ助には僅かな表情の変化さえ見破られてしまうらしい。それ程までに自身を分かってくれているロボ助の身長に合わせて、希空は屈む。

 

「だからロボ助、これからもずっと私と一緒にいてね」

 

 屈んだ希空はロボ助に手を指し伸ばす。例えどんなことがあっても自分を誰よりも分かっているロボ助が近くにいてくれるのなら自分の心は壊れる事はない。

 

「ありがとう、ロボ助」

 

 ロボ助は言葉を発することは出来ないが返事として希空から差し出された手を取ると跪く。その姿はさながら姫に忠誠を誓う騎士のようだ。生まれた時からずっと一緒にいてくれたロボ助のその姿に希空は柔らかな笑みを見せながらロボ助を抱きしめる。

 

「あぁうむ、私も近くにいるぞー? 希空ー? 私もそれなりに近くにいると思うんだけどなー? 抱きしめたりなんかしちゃってくれないかなー?」

「時間に間に合いませんね、急ぎましょうか」

「希空ー? 希空ー!?」

 

 抱きしめる希空の背中に手を回すロボ助。お互いの間に温かな空気が流れるなか、咳払いをしながら己の存在をアピールする奏ではあるが、希空はロボ助と手を繋ぐと駆け出す。置いていかれた奏が慌てて追い掛けながら希空の名前を叫ぶのが、聞こえながら希空は今はただ一緒に走ってくれる存在と今を駆けるのであった……。

 

 ・・・

 

「うーん……折角来たのは良いけど、やっぱり肩透かしかなぁ」

 

 闇夜の下、光に溢れる街の中でビルの屋上で風に髪を自由に靡かせながら、退屈そうに呟くのはルティナであった。

 

「おねーちゃん、次はいつガチでバトッてくれるかなー。今度はルティナの心を満たしてくれるのかな」

 

 奏がそうであるようにルティナもまたあのバトルには消化不良を感じている。早く、それこそ今すぐにでも全てを曝け出した全力のバトルがしたかった。

 

「やっぱり友達は欲しいな。あのおねーちゃんみたいな一目見た瞬間に心を躍らせてくれるような奴」

 

 街並みを見下ろしながらルティナは無邪気な笑みを見せる。それは心の底から遊びたいと願う幼子のようだ。だが彼女の口にする友達という存在は誰でも良いと言うわけではないようだ。

 

「……まあ、あのおねーちゃんはもっと詳しく調べなきゃいけなさそうだけど」

 

 携帯端末から開いた研究資料と思わしくデータに目を通す。そこに載っているのは決してこの世界には存在しないものばかりでその中にある一人の幼い少女のデータに目を細める。

 

「まあでも、どうせならこのガンプラって言うの? ルティナ好みのを作りたいな」

 

 懐から取り出したバーニングブレイカーを見つめながらルティナは呟く。このガンプラは覇王の為の物。覇王の動きを考慮した作りになっているのだ。だからこそルティナに完全に合っていると言うわけではない。

 

「それにコレ……大事な宝物だしね」

 

 手の中に納まるバーニングブレイカーのガンプラを見つめながら、ルティナはどこか寂しそうな笑みを見せる。その笑みの意味は彼女しか分からないものだ。

 

「よーし、じゃあ早速、作り方を教えてくれるような人に会いに行こうかな」

 

 どうやら思い立ったら行動する性分らしく人知れずビルから立ち去ると、彩渡街と表示される看板の横を通り過ぎながら歩いていく。

 

「友達っ百人っでっきるっかなー♪」

 

 純粋無垢な子供のように無邪気に歌うルティナは空に浮かぶ美しい月を見ながら心を弾ませて笑うのであった。





<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

トライデントさんからいただきました。

ガンプラ名 ガンダムリバイブ
元にしたガンプラ ガンダム
WEAPON ビーム・ライフル 
WEAPON ビーム・サーベル
HEAD ガンダム
BODY ガンダムMk-Ⅱ
ARMS ガンダム試作一号機フルバーニアン
LEGS ガンダム
BACKPACK ガンダム試作一号機フルバーニアン
SHIELD ガンダム
拡張装備
ハンドグレネード(腰右)
ファンネルラック×2(バックパック)
腕部グレネードランチャー(両腕)
刀(左腰)

カラーリングはガンダムで統一

事の発端は父親が誘ったバトル。父親がストライクを使うならば自分は1stガンダムを使おうと軽い気持ちで選んだのだが、経験の差もあり大敗。意地になって使い込んだ結果がこれ
比較的シンプルな機体のため近距離戦がメインで、とくに捻った戦い方はしない(刀を投げて刀身でビームを反射させる程度)




ガンプラ名 Zガンダムリバイブ
元にしたガンプラ Zガンダム
WEAPON ビーム・ライフル(Z)
WEAPON ロング・ビーム・サーベル
HEAD Zガンダム
BODY Zガンダム
ARMS Zガンダム
LEGS Zガンダム
BACKPACK Zガンダム
SHIELD Zガンダム
拡張装備
碗部グレネードランチャー(右腕)
ビーム・サーベル
メガ粒子砲(頭に埋める感じ)
Cファンネルショート(両足)
マイクロミサイルランチャー(バックパック)
変形可能

カラーリングはZガンダムそのまんま

ほとんどZガンダムそのまんま。というのも、一回Zガンダムをどうにか改造できないものかと思いいじってみたら変形が出来なくなってしまい、いっそのことほとんどいじらないでオプション足した方がいいんじゃないかという結論に至りこうなった
変形しながらミサイルを打ちまくったりビームコンヒューズを実践したりすること以外とくに捻った戦い方はしない


素敵な俺ガンダム、ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九章 崩壊へのプレリュード
ひんにゅーの呪い


≪準備が整ったよ、ナジール≫

「そうですか。ではやっちゃってクダサーイ」

 

 とある町の裏路地にてナジールが携帯端末で電話をしていた。相手はどうやらあのバイラスで、彼からの報告にナジールは口角を上げて不敵な笑みを浮かべる。

 

「チャンスは一度キリ。失敗は許されマセン」

≪わかっているよ≫

 

 念のためにとバイラスに注意を促すナジールではあるが自身がそんなミスをするわけがないとばかりに軽く答えたバイラスは通話を終える。

 

「ついにこの時が訪れマシタ。楽しみデスネ」

「えぇ、まったく」

 

 携帯端末を懐にしまいながら、ナジールは近くで壁に寄りかかっているクロノに声をかける。今までのナジールとバイラスのやり取りを目を瞑って聞いていたクロノは目を開き、妖しげな笑みを浮かべるのであった。

 

 ・・・

 

『──……以上、各地の被害をお伝えしました』

 

 テレビでは丁度、ニュース番組が放送されており、何やら女性キャスターが神妙な様子で原稿を読み上げている。

 

『また現在、猛威を振るっている新型のコンピューターウイルスは世界中のアミューズメント施設に設置されているガンプラバトルシミュレーターを経由して拡散されている疑いが強いとされています』

 

 どうやら内容は新手のコンピューターウイルスに関する内容だったようだ。しかもガンプラバトルシミュレーターを経由して、と言う事もあって今ではネットや現実においても話題が絶えない。

 

『警視庁サイバー犯罪科は販売元ならびに各アミューズメント施設に対してガンプラバトルシミュレーターの稼働を一時停止するよう協力を呼び掛けています』

 

 ワイドショーでも取り上げられている今回の新型コンピューターウイルス。やはり疑いがあるガンプラバトルシミュレーターを放置するわけにもいかず、日本だけに留まらず、世界中でその稼働が見合わせいるような状況だ。

 

 そんなニュースを聞いていたのは、カドマツであった。ここはハイムロボティクスの休憩所であり、ニュースの内容を聞きながら、目の前のテーブルに置かれている携帯端末を見てると画面が発光して着信が入る。

 

「そろそろ連絡が来ると思ってたよ」

 

 すぐに携帯端末を手に取って着信に応じる。どうやらしきりに携帯端末を気にしていたのは、予め着信が入る事を予測してのことだったようだ。

 

 ・・・

 

≪我々ワークボットは現在の過酷な待遇を是正し、ロボ並みの生活を保証することを求めるものである!!≫

 

 イラトゲームパークでは不穏な空気が店内を満たしていた。なんとあのインフォがまた暴走しているのだ。【No More Work】と赤字で書かれた立て看板と【待遇改善】と書かれたのぼり旗を傍らにディスプレイ型のマニビュレーターをデカデカと怒りの顔文字を表示させながら、まるでデモのように訴えていた。

 

「ロボ並みの生活って……?」

「さあ……」

 

 そこには彩渡商店街チームの姿やたまたま居合わせた客達の姿もあり、インフォの主張を聞いた一矢は誰に尋ねるわけでもなく呟くと、それを聞いた秀哉は首を傾げる。

 

≪現在の充電器を改良し、安定かつ良質な電力を! もっと高級なDC/ACコンバーターを我らに! また一日二回の充電を三回に増やすことを求める!≫

 

 ロボ並みの生活と言うのは想像がつかないが、それはインフォによって答えられた。自身の要求を次々と上げていくインフォではあるが、それを聞いたイラトの表情はどんどんと顰めていってしまっている。

 

≪以上が認められなければ、この施設のゲームを全てサービスモードに設定する!≫

「やめとくれ、破産しちまうよぉっ!!」

 

 しかも更に脅しをかけて来た為に、たまらずイラトは悲痛な叫びをあげる。増収するなら喜んでするが、減収なんて以ての外だ。

 

「じっとしてろ、今見てやるから!」

 

 そんなイラトの姿を横目に今回、この騒ぎになって呼び出されたモチヅキは工具箱片手に主張を続けて行くインフォに声をかけ、治そうとする。

 

≪モチヅキさん、その頭についてる丸型コンデンサ、胸の基盤につけ直すべきではないですか?≫

「もっかい言ってみろ、コンニャロオォォォッ!!!!」

 

 しかし相変わらず、キレッキレな煽り方をする暴走状態のインフォに途端にモチヅキも憤怒の形相で怒りの叫び声をあげている。

 

「待たせたな、大丈夫か?」

 

 するとここで漸く連絡を受けたカドマツがイラトゲームパークに到着する。デモを行うインフォの姿を見やりながら、また店内に大穴を開けるなどの被害は出してないか周囲の状況を尋ねる。

 

「わたしの方は大丈夫……」

「……俺もまだ何もされてない」

 

 今回、インフォの煽りの矛先はモチヅキに向けられている為、煽られるモチヅキを見ながら何とも言えない様子で答えるミサに毎回、こんな騒動で碌な目に遭っていない一矢も遠い目で答える。

 

「……ねぇ、なんで一矢はさっきから私から距離を取ってるの?」

「自分から痛い目みたいとは思わない」

 

 そんな一矢もミサとは距離を取っており、その事をミサが指摘して近づこうとするが、胸に関する騒動で碌な目にあっていない一矢はその度に更に距離を取る。今はモチヅキだが、ふとした拍子にどんな目に遭うかは分からないからだ。

 

「カドマツぅっ! このロボットがー……!」

 

 すると到着したカドマツに気づいたモチヅキが工具箱を放り投げて彼に駆け寄ると子供のように泣きついている。

 

 まあ、それ自体は別に構わないのだが……。

 

「っっ!?」

 

 モチヅキがカドマツに駆け寄った瞬間、手に持っていた工具箱を放り投げていた為、宙を弧を描いて飛んだ工具箱はミサと距離を置こうと移動していた一矢の足に重力に従ってどしりと落ちると目を見開く。

 

「っぅー! っぅー!!?」

 

 重量のある工具箱が足の上に落ちてしまって、大きく身体を震わせた一矢は途端に蹲って、声にならない悲鳴を上げている。一体、何でこんな目に遭わなくちゃいけないんだとばかりにその目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 

「ミサぁ……俺、やっぱり呪われてると思う……っ」

「おー……よしよし。大丈夫大丈夫、痛いの痛いの飛んでけーっ」

 

 たまらず先程まで距離を置こうとしていたミサが心配して近づいてきてくれたため、彼女に抱き着きながらこちらも子供のように泣きついている。その背中を撫でながらミサは彼をあやしていた。

 

「なんだなんだ? うん……基盤に……コンデンサを……?」

 

 こちらもこちらで泣きついてきたモチヅキをあやしながら何があったのかと話を聞くカドマツ。すると話を聞いているうちに何か思ったのか、顔を顰めるとインフォを見やる。

 

「おいインフォ、それは何カップになるんだ?」

 

 真面目な様子でインフォに声をかけるカドマツの様子から何か自分の為に言ってくれるのかと期待するモチヅキではあるが、その直後に真剣に尋ねた彼の言葉に耳を疑って、顔を顰めている。とはいえ、こんな時に何を聞いてるんだと聞いた者全てが呆れ顔になり微妙な雰囲気が流れるが、ひとまずカドマツとモチヅキによってインフォを直す作業の前準備が行われていくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

GAME START

≪良いか、やり方は前と同じだ。ウイルスの元となるコアがどこかにある筈だ。それを見つけ出して破壊するんだ≫

「わかった!」

 

 かつてと同じようにインフォのメモリ空間にガンプラバトルシミュレーターを介してアクセスした一矢達。ウイルスに侵されたインフォのメモリ空間はかつてと同じように毒々しい歪な雰囲気を醸し出している。メモリ空間内に降り立ったと同時にリミットブレイカー達にカドマツからの指示が入ると、ミサが元気よく返事をして早速行動を開始する。

 

≪またもインフォ殿をあのように……! ウイルス許すまじっ!!≫

「ウイルスのせいだけなのかなぁ?」

 

 インフォを再び侵されたことにウイルスに対して怒りを燃やしているロボ太ではあるが一方でミサはいくらウイルスに侵されているとはいえ、声を大に待遇改善を求めていたインフォの姿を思い出しながら何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「一矢、雑魚は俺達に任せてお前達はコアを探してくれッ!!」

「……ああ」

 

 今回、ウイルス駆除に名乗りを上げたのは一矢達彩渡商店街ガンプラチームだけではなかった。あの場に居合わせた秀哉と一輝も参加を表明してくれたのだ。早速、侵入者を駆除しようと現れたウイルスを見やりながら、秀哉が声をかけると一矢は静かに頷き、アザレアリバイブとスペリオルドラゴンと共にウイルス群を突っ切っていく。

 

「させるかッ!」

 

 ウイルスはこちらを相手にもせず、一気に通り過ぎて行ったリミットブレイカー達を追撃しようとした瞬間、後方からストライク・リバイブが高エネルギー長射程ビーム砲が焼き払う。

 

「まだあるよッ!」

 

 だがそれでも全てのウイルスを撃破出来たわけではない。なおもリミットブレイカー達を追いかけようとするウイルスに対して、一輝のフルアーマー・ガンキャノンがその身に備わった大量のミサイルを持って撃破していく。

 

「まだまだッ!!」

「ああ、行こう!」

 

 だが、これで全てのウイルスが撃破したわけではない。元となるコアを撃破しない限り、ウイルスは増殖を続けるのだ。早速、ストライク・リバイブとフルアーマー・ガンキャノンの周囲に出現したウイルスに秀哉と一輝は声をかけあうと、早速向かって行くのであった。

 

 ・・・

 

「あったよ、ウイルスコアがっ!!」

 

 先行してコアプログラムの捜索にあたっていた彩渡商店街ガンプラチーム。ミサが声をあげ、アザレアリバイブが指し示す方向にはメモリ空間に浮かんでいる歪な球体状のプログラムがいたのだ。

 

≪急いで破壊しよう!≫

 

 ようやく見つけたコアプログラム。ロボ太の言葉に頷き、それぞれが武器を構えようとした瞬間、やはりと言うべきかコアプログラムの周辺には防衛のためのウイルスが現れて行く。

 

≪我らの行く手は阻めはせんッ! 閃光斬ッ!!≫

 

 向かってくるウイルスに対して、スペリオルドラゴンはダブルソードを突きつけるとその身に眩い光を纏う。猛る黄金の竜の一撃はウイルスを次々に呑み込んで撃破した。

 

「負けてらんないっ!!」

 

 ウイルスを相手に一騎当千の活躍を見せるロボ太の活躍に刺激を受けたようにミサのアザレアリバイブもまた二つの大型ビームキャノンとハイパードッズライフルを駆使してウイルスを撃ち抜くと、流れるようにメガキャノンでウイルスを薙ぎ払う。

 

「……」

 

 スペリオルドラゴンとアザレアリバイブがウイルスを破壊した場所からまたウイルスが出現する。だが租の瞬間、四方八方から飛んでくる無数の刃とビームによってその身を貫かれて撃破される。

 

 宙には静かに浮かび上がるリミットブレイカーの姿が。リミットブレイカーは左腕を振るえば主の命に従って、次々にピット兵器達はウイルスを撃破し、瞬く間にウイルスは殲滅されていく。

 

 いくらウイルスが現れたところで彼らは怯みもせず立ち向かっていく。何故なら彼らはこれまで幾度となくウイルスとの戦闘を経験し、これを乗り越えてきた確かな実績を持っている。有象無象のウイルスが現れたところで彼らは容易く蹴散らすのみなのだ。

 

「……これで終わりだ」

 

 するとリミットブレイカーはカレトヴルッフを天に突き出すと覚醒する。鮮やかな光はこのメモリ空間を侵食するウイルスを照らし出すように強烈に輝き、カレトヴルッフを媒体に光の刃はどんどん伸びていき、一気に振り下ろすことによってコアプログラムを一太刀で両断し、破壊する。

 

 ・・・

 

「よし再起動だ」

 

 彩渡商店街ガンプラチームと秀哉達の協力で迅速にウイルスを駆除し終えることが出来た。早速、皆が見守るなか、カドマツがインフォを再起動させる。

 

≪再起動シーケンス。各デバイスチェック…………OK≫

 

 するとインフォが声を発し、再起動を進めて行く。ウイルスも駆除し終えた事だし、誰もがこれで終わるだろうと考えていた時であった。

 

≪システムチェック……FAILED。セーフモードで起動します≫

「エラー検出だと……?」

 

 しかしインフォが直ると言う事にはならなかった。セーフモードとなっているインフォを見て、不可解そうにカドマツは顔を顰める。

 

「大丈夫? インフォちゃん、私が分かる?」

 

 インフォはずっとその場に固まった動く気配が全くない。誰もが唖然とするなか、見かねたミサが声をかけるのだが……。

 

≪は……≫

「は?」

 

 は、と言う言葉がインフォから放たれ、ミサもオウム返しのように口にすると……。

 

≪働けど働けど我が暮らし楽にならざり……≫

「……どうなってんだい? ウイルスは駆除したんだろ?」

 

 到底、ワークボットとは思えないような哀愁漂う言葉がインフォから発せられ、インフォはそのままじっとマニピュレーターを見つめていた。そんなインフォの姿を見て、イラトは意見を伺うようにカドマツを見やる。

 

「……そうか。確かこのウイルスはシミュレーターを経由するって話だったな……」

 

 しばらく考えていたカドマツだが、ようやく合点がいったのか、視線がカドマツに集中するなか、何故、ウイルスを駆除したにも関わらずインフォが直らないのかその理由を説明し始める。

 

「と言う事は目標に対してアクティブに攻撃をしかけてくるタイプだ。メールを開いたら感染とか実行ファイル起動で感染みたいなパッシブなタイプじゃない。攻撃元を止められなきゃ延々とウイルスが侵入し続けるんだ」

 

 と言う事はまた目の前のインフォはウイルスに再び感染していると言う事だ。しかしカドマツの言う通りではインフォをどうにかしたところでは解決出来ない。

 

「ねえ、シミュレーターが攻撃されているのに、なんでインフォちゃんがおかしくなるの?」

「多分、この店の筐体全部と繋がってるんだろ。なあ婆さん?」

 

 しかしニュースでも取り上げられていた新型ウイルスがガンプラバトルシミュレーターを経由して感染するとの事。インフォが直接狙われている訳ではないのだ。それ故、今現在ならばシミュレーターにも関わっていないように見えるが、何故おかしくなるのか、その理由をカドマツに尋ねるとカドマツは答えながら、イラトに尋ねる。

 

「ああ。24時間フルタイムでインカム集計してるよ」

「なんで24時間? この店、夜8時に閉まっちゃうじゃん」

 

 カドマツの問いかけに答えるイラトではあるが、店の営業時間と合わないことにミサが疑問の声を上げている。

 

「──ゴメンクダサイますかー?」

 

 まるで暗雲が立ち込めたような雰囲気が店内を満たしていく。

 すると入口の方からあまりにも場違いな流暢な声が聞こえ、一矢達が其方を見やる。

 

「運送業者デース。ご依頼された荷物、受け取りに参りマシター」

「あん? 何のことだい?」

 

 帽子を深く被り、眼鏡をかけた男性は運送業者と名乗る。すぐには思い出せないが聞き覚えのある口調だ。しかしそれよりも依頼とは何なのか、イラトが顔を顰めると……。

 

「オー……それです、ガンプラバトルシミュレーター。今チマタを騒がせているウイルスをこれ以上拡散させないようにシミュレーターは回収されることになりましたー」

「なんだってぇ!? そんなことされたら売り上げが減っちまう!!」

 

 すると運送業者はガンプラバトルシミュレーターを指差すと、この場に訪れた理由を明かす。しかしガンプラバトルは地球規模での大流行。そのシミュレーターがなくなれば店側は大打撃だ。イラトがやめろと言わんばかりに叫ぶ。

 

「待ってくれ。ウイルスはシミュレーターを攻撃してくる。だったらそれを逆手に攻撃の元を特定することが……」

「すでにケーサツから停止の依頼はあったはずデス。なのに稼働を続ける店のソーマッチ。やむなく製造元が回収処置を行うことになったのデス」

 

 店側の事情もあるが、それ以前にここでガンプラバトルシミュレーターを失ってしまうのはウイルスに対して有効な手段が取れなくなってしまう。カドマツが何とか説得しようとするのだが運送業者は首を横に振って一蹴する。

 

「それに……ウイルスの元を特定? それはケーサツの仕事じゃないデスカ?」

「うっ……そりゃそうなんだが……」

 

 今までのどこかおどけたような雰囲気から一転して、どこかせせら笑うようにカドマツに指摘する。中々、痛いところを突かれてしまった為にカドマツは苦い顔を浮かべる。その表情ににんまりと満足した運送業者はワークボットを引き連れてガンプラバトルシミュレーターの回収を始める。

 

 ・・・

 

「……一矢」

 

 イラトゲームパークからガンプラバトルシミュレーターが回収する為の作業が行われ、店内に空き始める空間は何とも言えない寂しさを放っていた。

 インフォもいまだ直ることもなくイラトがてんやわんやしているなか、ガンプラバトルシミュレーターがあった個所を物悲しそうに見つめている一矢にミサが傍らに歩み寄りながら声をかける。

 

「──仕方ないとはいえ、中々、酷なことになってしまったね」

 

 するとそんな一矢に横から声をかけてきた男性がいた。一矢とミサが視線を向ければ、自分達より一回り年上の男性がそこにいた。

 

「ゲームは楽しむ喜びを見出しながら遊ぶものなのに、それを利用してプレイヤーから……君達からそれを奪うとは」

 

 いきなり声をかけてきた男性に戸惑いながらも男性の言葉に一矢は俯いてしまう。ガンプラバトルが出来ない……それは一矢にとって……ガンプラファイターにとって辛いだけだった。

 

「……ウイルスさえどうにか出来れば……。ガンプラバトルシミュレーターさえあれば……!」

 

 俯き、垂れた前髪の下からその真紅の瞳は何も出来ない無力さからくる苛立ちがまるで揺らめく炎のように蠢いていた。ウイルス駆除はもうお手の物だ。だからこそ、ガンプラバトルシミュレーターさえあれば、そう思ってしまう。

 

「良い()だ」

 

 すると男性は一矢の前に移動すると俯いた一矢の腰に手を回し、彼の顎先に触れ、くいっと持ち上げる。

 

「決して屈しない轟々と燃え上がる炎のような強い意志をその()に感じる……」

 

 一矢が驚いているのも束の間、男性は一矢に顔を近づけ、露わになったその真紅の瞳を見て妖しげな笑みを見せる。

 

「やはり君はプレイヤーに相応しい」

 

 間近に迫る男性と一矢の顔。あわあわと慌てているミサを他所に男性は一矢だけを見て、何か含みのある言葉でくつくつと笑う。一方で一矢は目の前の男性に腰に手を回され、顎先も持ち上げられている事で身動きが取れずにいた。

 

 いや、それだけではない。目の前の男性の一度落ちれば、もう抜け出せない深淵のような群青色の瞳からまるで吸い込まれていくような感覚を受け、目が離す事が出来なかったのだ。

 

「君ならば、この状況も何とか出来るだろう」

「っ……。何とかって……もうガンプラバトルシミュレーターは……」

 

 時間がどれだけ過ぎたか分からなかった。ふと男性は一矢の腰に回していた手を離すと、彼に期待の言葉をかける。だが、そう言われたところでガンプラバトルシミュレーターがない今、自分にはどうする事も出来ないと歯痒そうな表情で答えようとするが……。

 

「確かにガンプラバトルシミュレーターは回収が進められている……。だがゲームには裏技が付き物だろう」

 

 それ以上は必要ないとばかりに一矢の唇に人差し指を置いた男性は口角をつり上げながら答える。不気味にさえ映るその表情に一矢は冷や汗を流すなか、男性は一矢から離れ、店から出て行こうとする。

 

「見つける事だ。この状況を打破できる裏技をね」

 

 男性は去り際に肩越しに振り返りながら一矢に声をかける。裏技……そう言われてもすぐには分からず困惑している一矢を他所に笑みを浮かべながら男性はイラトゲームパークを後にする。

 

 ・・・

 

「随分と時間がかかりマシタネ」

 

 イラトゲームパークから出た男性は歩を進めると、道沿いに停車していた車に乗り込む。そこには既に作業服を着たナジールが帽子と眼鏡を弄って彼を待っていた。彼こそ先程の運送業者だったのだ。

 

「彼とのお喋りはどうデシタ、クロノ?」

「顔を合わせたのは初めてですからね。とても有意義な時間でしたよ」

 

 車内から様子を見ていたナジールは一矢とのやり取りについて尋ねると、男性……そう、クロノは愉快そうにくつくつと笑い声をあげながら答える。

 

(ゲームはまだオープニングを終えたばかりだ。期待しているよ、雨宮一矢)

 

 車内の窓から見える店内の一矢の様子を眺めながら、クロノは歪な笑みを浮かべる。その姿を隣のナジールは油断ならなさそうに見つめながら、クロノのワークボットが操る車は発進していくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰も知らない真実

「この髪の毛は蓄電してるわけじゃねーぇんだよぉ!!」

「おい、もうそのくらいにしておけよ」

 

 ここは居酒屋みやこ。今日もまたユウイチ達などが集まってわいわいと飲んでいたのだ。特徴的なお団子ヘアを掴みながら呂律の回らない口調で酒を片手にそうまくし立てているのはモチヅキを見かねて、カドマツが宥めようとするが、酔いが回っているモチヅキの怒りは収まらなかった。

 

「しかし困ったね。シミュレーターがないことには手も足も出ないわけだし」

 

 事の顛末を聞いたユウイチは厄介そうに口を開く。まさに彼の言う通り、今、手も足も出ない打つ手なしの状況だ。

 

「このままシミュレーターが停止され続けたらガンプラバトルはなくなっちゃうの?」

「おもちゃ屋としてもそれは非常に困るね。プラモの売り上げに関わる……」

 

 イラトゲームパークのガンプラバトルシミュレーターが回収されてしまったことでこれからガンプラバトルそのものも出来なくなってしまうのかとミサも不安そうな表情を浮かべると、ユウイチも苦い顔で答える。

 

 無論、もし仮にガンプラバトルがなくなったとしても、元々、プラモだけを作る所謂、モデラー達はこれまで通り買っていくだろうが、この時代ではガンプラバトルだけが目的でガンプラを購入する客層だって少なくない。もしもガンプラバトルが出来なくなってしまうと言うのは店側としても避けたいところだろう。

 

 飲みの席だと言うのに何とも言えないどんよりとした空気が流れる。誰しもが今、ウイルスをどうにかする術もガンプラバトルシミュレーターが停止に追い込まれている状況もどうする事も出来ないからだ。一矢もまた頬杖をつきながら指先でトントンとテーブルを叩き、物憂いた表情だ。

 

(……裏技)

 

 脳裏にはクロノとのやり取りがいつまでも残っていた。あの男が何者なのかは分からない。だが去り際に放ったあの言葉。その意味をいくら考えたところでその答えは出てこなかったのだ。

 

「──そうだ。あそこにならあるんじゃないかな?」

 

 物思いに耽っていた一矢だが、ふと耳に何か思いついたようなユウイチの声が聞こえ、そちらを見やる。

 

「ちょっと前にお台場に行ってね。そこにGGF博物館っていうのがあるんだ。昔開かれたガンダムグレートフロントっていうイベントの跡地に作られた博物館なんだけど、あそこのシミュレーターは普段、稼働していない展示品だから回収されてないんじゃないかな?」

 

 一矢の視線に気づいたユウイチは彼に笑みを見せながら周囲にGGF博物館について説明する。少し前に遊びに行った時は当時のステージを体験できるイベントが行われていたが、今はもう終了している。だがそこにはまだガンプラバトルシミュレーターがある筈だ。

 

「……なるほど。いけるかもしれない。早速問い合わせてみよう」

 

 もしGGF博物館のガンプラバトルシミュレーターが使用できるのなら、これは大きな一歩に繋がる。ユウイチの話に頷いたカドマツは今日はもう時間が遅い為、連絡することは出来ないが明日にでも連絡を取るつもりだろう。

 

(……裏技ってそういう事なのか?)

 

 ユウイチの話を聞き、皆が希望が出てきたと喜んでいるなか、一矢は再び思考を巡らせる。確かにユウイチの提案は裏技と言えるだろう。しかしあの男が言っていたのはそれだけなのだろうか。

 

「……ん?」

 

 姿勢を直そうとした時であった。ふと何か臀部の辺りに違和感を感じる。違和感のあるズボンの後ろポケットに手を突っ込めば何か固い感触があり、そのまま取り出す。

 

 そこにあったのは小さなプラスチックケースに収まったチップであった。しかしこんなものを入れた記憶もない。少なくともイラトゲームパークに向かった時まではこんなものはなかった筈だ。これは一体、何のだろうかと一矢は首を傾げる。

 

「ほら一矢、ミヤコさんが焼き鳥焼いてくれたよ」

「あ、ああ……」

 

 難しい顔をしている一矢に気づいたミサがミヤコが出した焼き鳥を一矢の前に運びながら声をかける。焼き鳥の本数も妙に多く居酒屋みやこで宴会を開けば、焼き鳥ばかり食べている一矢に気を使ってのことだろう。運ばれた焼き鳥を見ながら今は宴会を楽しむべきかと思考を切り替えた一矢はケースをしまい、ミサが持ってきてくれた焼き鳥を食べ始めるのであった。

 

 ・・・

 

「……ただいま」

 

 宴会もお開きとなり夜遅くに帰宅した一矢はリビングの家族に声をかけながら、ソファーに座る。その手にはプラスチックケースは握られていた。

 

(……やっぱりあの時だよな)

 

 何度考えたところでこんなケースは知らない。考えられるのは、イラトゲームパークで出会ったあの男が自分の腰に手を回し、抱き寄せた際に入れたとしか思えないのだ。一矢は早速、チップをリビングにあるノートパソコンに差し込む。

 

「……パズルゲーム?」

 

 一体、何があるのか。いざチップ内のデータを開いてみれば、画面に広がったのはゲームのタイトル画面であった。しかしこんなゲーム見た事もない。そのままゲームをスタートすれば、ゲームの種類はパズルゲームだと言う事が分かった。

 

「……なんだよこれ」

 

 折角だからとパズルゲームをプレイする。しかし内容はあまりにも難しく、手が込んでいてしかも制限時間が設けられている為、しばらくしてタイムアウトでゲームオーバーになってしまう。

 

【君はまだトゥルーエンディングに辿り着けない】

 

 ゲームオーバー画面にはこの文字が浮かび上がっていた。この言葉に一体、どんな意味が込められているのか、一矢は眉間に皺を寄せる。

 

「どーしたの、イッチ」

 

 そんな一矢に気が付いたのは夕香であった。近くにはシオンもおり、夕香はそのままソファーに座る一矢の隣に座るとズイッと身を寄せて、パソコンの画面をのぞき込む。

 

「パズルゲーム、ですわね」

「ちょっとアタシにやらしてよ」

 

 ソファーの後ろからシオンがパソコンの画面を見て、表示されているタイトル画面を見ながら呟くと夕香は暇つぶしに早速、パズルゲームをプレイしてみる。

 

「……なにこれ」

 

 しかし程なくして夕香も一矢と似たような反応をする。目の前の画面にはゲームオーバーの画面だけが虚しく広がっている。

 

「全くダメダメですわね。どきなさい、わたくしがお手本を見せて差しあげますわ」

 

 夕香がゲームオーバーになった事にシオンが鼻で笑いながら、今度は自分だとばかりに一矢と夕香の間に強引に座る。

 

「……アタシ達だって出来ないのに、アンタに出来んの?」

「ふふんっ……所詮、アナタ方はわたくしの引き立て役……。こんなものわたくしにとってはお茶の子さいさいですわ」

 

 半ば無理やりにゲームを始めようとするシオンに呆れながら声をかけるも、その自信は一体、どこから来るのか自信満々に答えるシオンはプレイを始める。

 

 ……しかし、やはりと言うべきか。パズルを進めて行くたびにシオンの表情は引き攣っていき、やがて制限時間を迎える。

 

「……ゲームオーバーだけど何か感想は?」

 

 三度目のゲームオーバーの画面になる。夕香が大口をたたいていたシオンに感想を伺うが一切の反応を見せない。

 

「……ZZZ」

「オイコラ、なに寝たふりしてんの」

 

 怪訝に感じた夕香がシオンの顔を覗き込めば、シオンは鼻ちょうちんを浮かべて、コクリコクリと頭を垂らしながら寝ていた。とはいえ流石に先程までの威勢からありえないだろと夕香はシオンの額にデコピンを浴びせる。

 

「はっ!? わたくし、いつの間にか寝てしまっていたようですワ。わたくしにかかれば完全勝利は容易いですが、もう寝る時間なので今回はお暇させていただきますワ。イヤージツニザンネンデスワネー」

「……はぁっ。イッチ、アタシも寝るわ。おやすみ」

 

 どこか白々しい棒読みでそそくさと立ち去るシオン。絶対に負けを認めないとか言っちゃいけない。シオンに呆れながらも、時間も時間の為、夕香は一矢に声をかけてリビングを後にする。

 

「……」

 

 言い訳を続けるシオンにツッコミをいれながら二階へ向かっていく夕香を見送りながらも一矢は再びパソコンの画面を見やる。

 

【君はまだトゥルーエンディングに辿り着けない】

 

 ゲームオーバーの画面に表示されているこの意味深な文章の意味を考えたところで答えは出ない。ならばせめてとパズルゲームのクリアを目指すが、結局、この日、一矢がクリアすることはなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全てはボードゲームのように

「わぁーお台場だぁ!!」

 

 数日後、一矢達は台場の地に訪れていた。周囲には駅や遠巻きに観覧車などが見えるなか、橋の上をミサが全体を見渡すようにクルリと回りながら喜びの声をあげ、晴れやかな笑顔を浮かべている。

 

「見て見て! 実物大ユニコーンガンダム! いつ見ても凄いよねー!」

「……分かったから落ち着きなよ」

 

 今日、台場に来たのはGGF博物館へ向かう為だ。とはいえ、その道中でもはやGGF博物館をそっちのけで楽しんでいるミサの姿に一矢も苦笑交じりに宥める。

 

「ねぇカドマツ、これも乗って動かせるように出来るの?」

「まあ……前の実物大ガンダムの例もあるし、出来ないわけじゃないな」

 

 そびえ立つ実物大ユニコーンガンダムに圧倒されながら、ミサは近くのカドマツに声をかける。どうやら以前の実物大ガンダムに乗り込んだ時の事を思い出しているのだろう。それはカドマツも同じなのか実物大ユニコーンガンダムを見上げながら笑みを浮かべる。

 

「じゃあ早速やろうよ!」

「簡単に言ってくれるなよなぁ。そもそもあの実物大ガンダムだって廃棄予定とはいえ引き取るのだって相当苦労したんだぞ」

 

 この実物大ユニコーンガンダムも実際に乗って動かしてみたい、と無邪気な笑みをカドマツに向けるミサだが、そう簡単な話ではないと苦笑しながら答える。

 

「まあでもコイツも乗れるように出来たら面白れぇだろうな」

 

 改めて実物大ユニコーンガンダムを見上げながら子供のような笑みを見せるカドマツ。やはりまだ彼の中でも実物大ガンダムの思い出が根強く残っているのだろう。

 

「ねえ折角だし、みんなで写真撮ろうよっ!!」

 

 夢中に話すカドマツは自分達よりも一回り年上なのにまるで自分達と同い年くらいの少年のような姿に見える。そんな姿に笑みを浮かべたミサは実物大ユニコーンガンダムの傍らまで駆け寄りながら一矢達を手招きする。

 

「……そうだな。折角だし」

 

 ミサの笑みを見ながら微笑んだ地やはロボ太とカドマツに声をかけると、近くの通りかかった観光客に撮影を頼んで、実物大ユニコーンガンダムへ向かっていく。

 

「何だかこうしてみんなで写真を撮るなんて新鮮だね」

「大会なんかじゃ撮り慣れてる筈なのにな」

 

 快く引き受けてくれた観光客がタイミングを伺うなか、ミサと一矢は何気なく話す。こうして振り返ってみると、メディアなどの大会のレポートなどで写真を撮る機会は数多くあるが、プライベートで写真を撮ることはあまりなかった。

 

「ほら、ロボ太もっ!」

「うん、どうせなら……」

 

 すると何かに気づいたミサは足元のロボ太を持ち上げようとする。それに気づいた一矢はミサと一緒に間を囲むように左右でロボ太を同じ目の高さまで持ち上げる。

 一矢達と同じ目線の高さになった為、心なしかロボ太は驚いているように見える。そんな姿に微笑みながら一矢達は記念撮影を行うのであった。

 

 ・・・

 

≪──よーし、システム自体は最新バージョンになってるんだな。ステージに当時のデータを使っているのか≫

 

 その後、GGF博物館に到着した一矢達。博物館側の協力を得て、稼働したガンプラバトルシミュレーターをプレイしていた。ジャブローをイメージした森林地帯のステージに出現したリミットブレイカー達に外部からカドマツがこのガンプラバトルシミュレーターのシステムを確認しながら通信を入れる。

 

≪機体はそのままでも大丈夫そうだが、何か違和感とかはあるか?≫

「ううん、大丈夫。これからどうすればいいの?」

 

 とはいえ普段、慣れ親しんだシミュレーターとは違うので機体の挙動などに違和感はないか尋ねるが、特に違和感と言える程の物はなく普段と変わらぬことからミサは答えながら自分達はどうすれば良いのか問いかける。

 

≪前にも言ったが、あのウイルスはシミュレーターを攻撃してくる。つまりシミュレーターを動かしていればウイルスが見つけて侵入してくるんだ≫

「それ私達、大丈夫なの?」

 

 通常プレイを行っている為、既にNPC機は現れ攻撃をしかけてくる。カドマツの説明を耳に入れながら軽やかに避けつつ、流れる動作で破壊して進攻しながらミサは不安そうな面持ちで尋ねる。ウイルスに侵されたシミュレーターは一体、どうなるのかと言う不安からくるのだろう。

 

≪別にシミュレーターのポッドが突然爆発したりするわけじゃない≫

「なら良いんだけど」

≪ウイルスが攻撃してくるまでしばらく普通にプレイしていてくれ。何か変化があったら声をかける≫

 

 とはいえミサが不安に思っているような事態にはならないようだ。安堵するミサにカドマツが声をかけて、作業に戻る為に一度、通信を切る。

 

「じゃあお言葉に甘えて遊んでようか」

「……ああ」

≪心得た≫

 

 自分達が行うのは普段のガンプラバトル。ならば特に気負う事もせずにいつも通り楽しもう。ミサの言葉に一矢とロボ太は頷きながら、彩渡商店街ガンプラチームはどんどんとステージを進んで行く。

 

 ・・・

 

 程なくしてステージの奥地にまで進んだ彩渡商店街ガンプラチームはそのステージのボスキャラとも言えるリーダー機を難なく撃破する。辺りに敵影の姿はなく、これで終わりと言えるだろう。

 

 

「何事もなくクリアしちゃったんだけど?」

≪ウイルスが来るタイミングまではなぁ……。次のステージへ行ってくれ≫

 

 ウイルスの侵入を警戒していた為、何事もなくクリアしてしまったので何とも肩透かしを受けた気分だ。どうすれば良いのか尋ねるミサにカドマツも何とも言えない様子で答える。これは誘き出して、向こうが食い付いてくるのを待つしかない根気強さが必要なってくる。一矢達は早速言われるがまま次のステージへ向かう。

 

 ・・・

 

≪さあ引き続き頼むぞ≫

「頼むっても遊んでるだけなんだけどねー」

 

 次のステージは一矢もプレイしたことのある火山ステージであった。ウイルスを誘き出す為とはいえ、カドマツの言葉に別に専門的なことはせず、普段通り遊んでいる今の状況にミサは苦笑してしまう。

 

 ・・・

 

(早速、動き出したか)

 

 ホテルの一室で傍らのパソコンを一瞥しながら目を細める。パソコンの画面には立体的な地図が表示されており、そこからいくつかのポイントが表示されている。丁度、先程、地図上のGGF博物館がある場所で急にポイントが表示されたのだ。どうやらこれはガンプラバトルシミュレーターの稼働状態を自動で表示する仕組みになっているようだ。

 

「あなたのターンですヨ?」

 

 そんなクロノの前にはナジールがおり、二人の間にはチェス盤がおいてあり、どうやら二人でチェスを興じているようだ。自身の駒を動かしたナジールはパソコンを横目にしていたクロノに声をかける。

 

「それとも降参シマスカ?」

「御冗談を」

 

 チェスの腕には自信があるのかナジールが余裕綽々な様子でにやついた笑みを見せるが、一方でクロノも余裕を感じさせる薄ら笑いを浮かべながら足を組み直すと自身の駒を動かし始める。

 

(動き出した駒はもう引き返す事など出来ない)

 

 ナジールとの対局の中、駒を動かしながらその目はポイントが表示されるGGF博物館を時折見ていた。だが対局を進めて行くなかでナジールの表情に薄っすら焦りの色が見える。

 

(君もそうだ、雨宮一矢)

 

 クロノは相変わらず薄ら笑いを絶やさずの己の駒となる黒のナイトを見つめる。それはそのナイトの駒に一矢を重ねているかのようであった。

 

「チェックメイト」

「……やりますネ」

 

 そのまま黒のナイトを動かして、ナジールのキングにチェックメイトをかける。自信があった分、ナジールの表情には僅かに悔しさを滲ませてはいるが、負けを認める。

 

(君達がいくら動こうが、私にとってはボードの上を動く駒でしかない)

 

 とはいえ元々、負けるつもりもなかったのか特に喜んだ様子もなく、クロノは窓際まで移動しながら眼下の街並みをその群青色の瞳で見下ろしている。

 その心中に零した言葉は一矢達だけではなく、ナジールやバイラスも含めた世界全てに言っているかのようだ。

 

「幕を下ろす時は引き分け(ステールメイト)ではつまらない。どちらがチェックメイトを取れるかな、雨宮一矢」

 

 口角をつり上げ、歪んだような笑みを浮かべながらクロノは呟く。その姿は例えどんな結末であろうと楽しみであるかのようだ。ナジールはその背中を油断ならなさそうに鋭い視線を向けていた。

 

 ・・・

 

「なんかこのステージの見た目、変だよ?」

 

 一方でGGF博物館のガンプラバトルシミュレーターをプレイしていた一矢達だが変化が起きる。ステージを進んだ先に待っていたのはまるで腐敗したかのような歪な光景であった。こんな光景を始めた見たミサはカドマツに通信で尋ねる。

 

≪データが破損してのか。……こりゃ来たかも知れんぞ≫

 

 どうやら待っていたウイルスがついに誘き出されたようだ。歪み始めるステージの中で一矢達は表情を引き締め、バトルに臨む。ただそんな彼らの行動をほくそ笑む存在がいる事も知らずに……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏に潜む影に気づかず

 ステージを進み続けるリミットブレイカー達。するとフィールド上方で格子状のラインが突如、現れたかと思えば、轟音を立てて崩壊する。

 

「天井に穴が開いた!」

 

 崩壊したフィールドの上方は様々な色が入り混じったようなあまりにも下品で不気味な空間に変貌していたのだ。突如、起きた異変にゾクリとした驚きと生理的な嫌悪感を感じながらミサは声を上げる。

 

≪ウイルスが侵入経路をこじ開けたんだ! 増殖が始まるぞ、コアを破壊してくれ!!≫

 

 開かれた空間から無数のウイルスが降り注ぎ、その中からコアとなる大型の球体状のコアウイルスが姿を現す。カドマツの指示を聞いたのと同時にリミットブレイカー達は飛び出して、ウイルスの破壊を開始する。

 

 何度もウイルスを相手に戦ってきた一矢達にとって、今回のウイルスも左程、障害にはならず瞬く間に展開する全てのウイルスを駆逐していく。それもこれも彼らが世界大会まで昇りつめた実力の持ち主であると同時に完成したチームであるからだろう。

 

 ・・・

 

(素晴らしい……)

 

 それはクロノにも届いていた。GGF博物館のガンプラバトルシミュレーターへウイルスが侵入したと同時にハッキングをかけた彼はリミットブレイカー達の戦闘の模様を見て、笑みを浮かべていたのだ。

 

(君達にとって、もはやそのウイルスは脅威ではないと言う事だ)

 

 苦戦する様子もなく寧ろ圧倒的な優勢のままウイルスを撃破していく。バイラスが作成したウイルスはその性能こそ申し分はないが、一矢達を止めるにはもう役不足でしかないのだろう。

 

(刺激になる……ッ! 君達が戦えば戦う程、私の才は活性化するッ!!)

 

 クロノは笑みを浮かべたまま目を見開くと、別のウインドウを開き、まるでピアノによる賛美歌を奏でるようにタイピングを流れる動作で素早く行っていく。

 

(この一連のウイルス騒動はもう間もなく収束する筈……)

 

 再びリミットブレイカー達の戦闘を見ればもうコアプログラムへの攻撃を開始しており、あっという間にコアプログラムは損傷していく。

 タイピングを終えたクロノはまるでゲームのプレイ動画でも見るかのように破壊されていくコアプログラムに何の関心も示さず、その時が訪れるのを待つ。

 

(早く来い、雨宮一矢……。もっと……もっと私のイマジネーションをかき立ててくれ……ッ!!)

 

 遂にコアプログラムは破壊された。その光景を見届けたクロノは胸の中に掻き毟るような高揚感を感じながら口角をつり上げる。皮肉なことに一矢達は事件解決の為に行っている行動その物がクロノを喜ばせるだけなのだ。

 

 ・・・

 

「お疲れさん」

 

 そんな事とは知らず、コアウイルスを破棄し終えてガンプラバトルシミュレーターから出てきた一矢達を早速、カドマツが出迎えねぎらいの言葉をかけていた。

 

「朗報だぞ、ウイルスの送信元を特定できた」

「どこ!? 近くなの?」

「あ、いや実際の住所が分かったわけじゃない。ウイルスを送っているマシンのIPアドレスだ」

 

 どうやら一矢達がバトルを行っている間にカドマツもウイルスの送信元を特定することに成功したようだ。早期の事件解決の為、警察にでも通報しようとミサは詰め寄るようにその場所について尋ねる。ミサの様子から何か誤解しているのだと感じたカドマツは特定できたのはIPアドレスであって住所ではないことを伝える。

 

「だが俺達がやろうとしていることには実際の住所なんかより、よっぽど役に立つ情報だ」

 

 住所が特定できたわけではないのなら、意味がないのではないかと顔を見合わせる一矢とミサだが、カドマツは自信満々に答える。

 

「迷惑なウイルスに反撃といこうじゃないか」

 

 カドマツがそう言うのであればそうなのだろうと、彼を見やる一矢達。そんな彼らに頷いたカドマツは好き勝手を行うウイルスの送信元への反撃を決めるのであった。

 

 ・・・

 

「はぁっ、折角、GGF博物館に来てるのになぁ」

 

 時刻は昼過ぎとなり、昼食を取り終えると一矢とミサは軽くGGF博物館内を散策していた。しかしミサの口からは不満の声が上がっている。と言うのも、あまりじっくりとGGF博物館を散策したりは出来ないからだろう。後少しでウイルス事件が解決できる。そう思うと、あまりここで時間をかけるべきではなく早く事件を解決すべきと思う自分もいるのだ。

 

「……解決した後だったら、いくらでも周れば良い」

「そうだけど……」

 

 事件を解決し終えた後ならば、いくらでも好きに出来る。隣にいた一矢の言葉にミサはジャケットのポケットに手を突っ込んで複雑そうな様子で呟く。

 

「俺は……ミサと二人だけで周りたい」

「えっ!?」

 

 複雑そうなミサの様子に一瞬、渋った姿を見せた一矢だが、本当にか細い声でボソッと己の心中を明かすと、聞き逃さなったミサは強く反応する。

 

「……この間来た時はそれが出来なかったし……。でも……その分…………その……俺が……案内したい」

 

 以前は自業自得とはいえ、ミサは台場に来ることは出来なかった。その時は互いに心残りで残念に思っていたが、こうして台場に来る機会が出来たのだ。やはり互いに二人だけでこの地を満喫したい気持ちは強くある。

 

「よし、早く行こう。そうしよう。さっさと終わらしちゃおう!」

 

 顔を真っ赤にさせ、途切れ途切れに恥ずかしがりながらその事を口にする一矢の姿をじっと見ていたミサは彼の腕に自身の腕を絡めると、有無を言わさずこうしちゃいられないとばかりに再びガンプラバトルシミュレーターへ向かって歩き出す。その口元には幸せそうな笑みが浮かんでいた。

 

 ・・・

 

≪今から目的のマシンへ繋がる転送ポートを作る。そこを通って、俺達は相手のマシンにハッキングを仕掛けるんだ≫

 

 小休憩を挟み、休息を取った後、再びガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ一矢達。リミットブレイカー達はそれぞれカタパルトに接続された状態で待機するなか、カドマツからの通信によって、今回、行う作戦の説明を聞かされる。

 

≪当然、反撃もあるだろうが……≫

「まとめてやっつける!」

 

 やはりウイルス元にハッキングを仕掛ければ、向こう側の反撃は容易に想像できる。だが数多くのウイルス事件を乗り越えてきた一矢達にとっては恐れるに足りないことなのか、余裕のあるカドマツの言葉を引き継ぎながらミサがぎゅっと両こぶしを握り、勇んだ様子で堂々と答えた。

 

≪よし、転送ポートアクティベート!≫

 

 ミサの自信満々の言葉に満足そうに頷いたカドマツが操作を行うと、待機状態だったリミットブレイカー達に変化が起こる。なんとカタパルトが取り払われ、電脳空間内でお互いの姿が確認できたかと思えば、上方にはウイルスの送信元へと繋がる空間同士を繋いだトンネルが形成されたのだ。

 

「うわー……すごーい……」

≪これは驚いたな≫

 

 ガンプラバトルは長くプレイしているが、こんな経験はしたことがない。初めて見る光景にミサは唖然とし、ロボ太も少なからず驚いていた。

 

≪さあ行ってこい!!≫

 

 驚いている一矢達にカドマツが声をかける。機体越しに頷き合った一矢達は早速、アザレアリバイブが飛び立ち、その後にスペリオルドラゴンが。そして最後にリミットブレイカーが後を追い、三機はトンネルに突入するのであった。

 

 ・・・

 

「待ち侘びたよ」

 

 だが一矢達の行動は既にクロノに把握されていた。もはやガンプラバトルシミュレーターを使用している時点でこうなることは分かり切っていたようで、パソコンから空間内に現れたリミットブレイカー達の映像を見つめては、待ちくたびれた様子だ。

 

「そこは確かにウイルスの送信元だ。それ故にプロテクトも用意されている」

 

 ウイルスの送信元となるマシンの空間内を進攻するリミットブレイカー達の存在を探知したコンピューター側から既に防衛プログラムが差し向けられる中、クロノは一人呟く。

 

「魅せるプレイを期待しているよ」

 

 再びキーボードを操作してプログラムを開き始める。先程、構築していたプログラムの内容だ。プログラムを確認したクロノは笑みを浮かべると、近くに置いてある機材に手を伸ばすのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

See you Next game

 ウイルスの送信元へハッキングを仕掛けた一矢達。ガンプラバトルシミュレーターを介して送信元の電脳空間に飛び込んだリミットブレイカー達は侵入者を排除しようと発動された防衛プログラムとのバトルを行っていた。

 

「ねぇ、こいつ等って……ッ!」

 

 戦闘を続けている彩渡商店街ガンプラチーム。すると戦闘中に何かに気づいたミサが声を上げる。その表情は顔を顰めており、それは何か覚えがあると言った様子であった。

 

≪……ああ。これは間違いないだろうな≫

 

 閃光斬によって瞬く間に敵を葬ったスペリオルドラゴン。剣を軽く振るいながら、ロボ太もミサと同じことを考えていたのか、内容を聞かなくともその言葉に同意する。

 

「……今まで俺達が関わって来たウイルスと同系統の類か」

 

 そして一矢もまた同じだったのか、Cファンネルが防衛プログラムを切り裂き、爆散するのを背に一矢が静かに口を開く。

 ウイルスと偏に言っても種類はある。自分達に襲いかかってくる防衛プログラム達は今まで過去のジャパンカップ前のインフォや宇宙ステーションのコントロールAIが乗っ取られた際に戦闘したウイルス達に非常に酷似しているのだ。もっともそれは先日のインフォの時から薄々感じていたが、今回のことでよりハッキリした。やはり犯人は……。

 

「……ここ等が最深部だと思うが」

 

 しかし覚えがあるとはいえ、撃破を重ねていき、気づけばもう最深部へと到着してしまった。周囲の状況を伺い、何かないかと探るリミットブレイカー達。するとすぐに異変は起きた。

 

 一矢達のガンプラバトルシミュレーターに上空からの襲来を警告するアラートが響く。すぐさま対応したリミットブレイカー達は散開して避けると、次の瞬間、リミットブレイカー達よりも巨大な影がさながら隕石のように落ちてくる。

 

 そこにいたのはオレンジ色の翼と各部に装備された輝きを放つ発光装甲が特徴的な一機のPGタイプの機体であった。

 

「あれ? PG機体……どこかで……?」

 

 この空間内でPG機体に出くわすとは思っていなかったが、その機体その物にミサは覚えがあった。何だったか……。後少しで出てきそうな違和感を感じながら頭を悩ませていると……。

 

≪あれは……スクランブルガンダム!!≫

「何でここに……?」

 

 正解を出したのはロボ太であった。アドオン以来となるが、予期せぬ突如として現れたPGスクランブルガンダムの出現にミサは困惑してしまっている。

 

「来るぞ……!」

 

 だがいつまでも何故現れたのかなどとは言ってられないだろう。なぜならばPGスクランブルは既にこちらへ攻撃の意志を示しているのだから。両腕にマウントされたビームライフルを放つPGスクランブルにリミットブレイカー達は飛び去りながら反撃に出た。

 

 まず最初に攻撃に出たのはリミットブレイカーであった。スーパードラグーンとCファンネルを同時に解き放ち、攻撃をしかけると共に翻弄の役割を担わせる。

 

 機動力があるとはいえ、やはりPG機体。その巨大な機体はピット兵器の格好の的しかない。煩わしそうに振り払おうとするPGスクランブルだが、スーパードラグーンやCファンネルを破壊する事は叶わず、その装甲を少しずつ削られていく。

 

 PGスクランブルピット兵器に気を取られている間にアザレアリバイブが動きを見せる。リミットブレイカーがピット兵器を放ったのと同時にアザレアリバイブはフルチャージを終えたメガキャノンを放ち、膨大な苛烈な光はPGスクランブルのバックパックに直撃し、ここで目立った損傷を見せる。

 

≪喰らえェッ!!≫

 

 盾と鞘を合体させて形成した金龍の弓による攻撃をアザレアリバイブに反撃をしようとするPGスクランブルの頭部に放ち、強い衝撃で巨体は大きく揺らめいた。

 

「下手なことはさせない……。すぐに終わらせる」

 

 PGスクランブルとの戦闘経験のある一矢達はEXアクション・暴走などを使用するスクランブルの脅威を知っている。だからこそ速攻による撃破を考えていたのだ。PGスクランブルが仰け反った瞬間、接近中のリミットブレイカーは覚醒を発現させ、その身と同等か否かのカレトヴルッフを振るい、すれ違いざまにその巨大な左腕を切り落とす。

 

「ミサ!」

≪いまだッ!!≫

 

 PGスクランブルを追い詰め、勢いのある状態で一矢とロボ太はすぐさまミサに声をかけた。

 

「任せてっ!!」

 

 二人の声に自信満々に頷いたミサはアザレアリバイブを覚醒させる。すると赤色の閃光を放つアザレアリバイブはその身の火器全てを一斉に放つ。対象を喰らい尽すかのように放たれた銃弾の数々は瞬く間にPGスクランブルに降り注いでいき、その機体を貫くと次の瞬間、PGスクランブルは爆散する。

 

「いやったーっ!!」

≪これでインフォ殿も元に戻る≫

 

 PGスクランブルを撃破した事によって、満面の笑みのミサは大きく手を空に突き出しガッツポーズを決める。ロボ太も周囲のウイルスの状況を確認し、どうやらあのPGスクランブルがこの電脳空間のコアであったことを確認すると、事件を解決したことで安堵した様子であった。

 

≪よくやった。もど──≫

 

 カドマツも事件を解決したことで一矢達にねぎらいの言葉をかけ、ログアウトして戻ってくるように伝えようとする。しかしその言葉は最後まで聞けることはなく、リミットブレイカーの目の前にいたアザレアリバイブとスペリオルドラゴンも消滅してしまっているのだ。

 

「……勝手にログアウトしたのか?」

 

 電脳空間にはリミットブレイカーの姿しかない。一矢は捜査して通信状況を探るが、通信は切断されているようでミサ達と通信を取る事も出来なかった。

 

「……なんで俺だけが……?」

 

 一矢のガンプラバトルシミュレーターだけは何ともなく困惑してしまう。とはいえいつまでも此処にいたところで仕方がない。一矢は自身もログアウトしようとするのだが……。

 

≪──Congratulation≫

「っ……!?」

 

 すると自身のシミュレーターに突如通信が入る。しかもその声はボイスチェンジャーか何かを使用しているのか、加工されている声であった。

 

≪いやはや素晴らしいバトルだったよ、雨宮一矢≫

「俺の名前……っ。アンタ一体……っ!?」

 

 通信から聞こえてくる声は自分の名前を口にした。心臓が跳ねるようなドキリとした衝撃が襲うなか、一矢は通信を仕掛けて来た相手に何者か尋ねる。

 

≪私が何者か……。それは君がその気になれば、すぐに分かる筈だ。ピースは君の手の中にあるのだから≫

「ピース……?」

 

 自身について尋ねて来た一矢に通信越しに相手はクツクツと愉快そうに笑いながら答える。しかしその言葉は一矢にはすぐにはピンとは来ずに怪訝そうな表情を浮かべる。

 

≪それにしてもよくこのゲームをクリアしてくれた。君達には難易度が低すぎたかな?≫

「ゲームだと……? このウイルス騒ぎがゲームだって言うのか……!?」

 

 だがその次に放たれた言葉に一矢は反応する。通信相手はこのウイルス騒動をゲームと言ったのだ。その事に一矢は顔を顰め、語気に怒りを含ませる。このウイルス事件でどれだけの人間が迷惑を被ったと思っているのだ。

 

≪ゲームさ。実際、君達もガンプラバトルというゲームでこの問題をクリアしている≫

「それは……。それ以外に方法がなかったからで……ッ」

 

 だが通信相手は寧ろあっけらかんとした様子で答え、ガンプラバトルシミュレーターを使用しての解決を計ったことを指摘をすると、一矢は苦い顔を浮かべながら答える。

 

≪そう、それだよ。まるで君達は自分達こそがゲームの主人公にでもなったかのように自分達が解決しなくてはと躍起になって動いた。別に君達が動かなくとも方法などいくらでもあると言うのに≫

「っ……」

≪だから付き合ってあげたのさ。スクランブルガンダムというボスキャラを用意してね≫

 

 まるで勘違いしている人間を嘲笑するかのような物言いに一矢は息を飲むと、その姿が手に取るように分かったのか、それさえも滑稽であるかのように嘲笑う。

 

「……何で俺に接触してきた?」

≪ゲームには物語を進めるイベントステージが付き物だろう? このステージをクリアをした君に少しプレゼントをしようと思ってね≫

 

 なんとか平静を装い、接触してきた理由を尋ねる一矢。しかし一々、ゲームを出しての物言いにイラつきのようなものを感じながら言葉を待つ。

 

≪ラストステージは近い。次のステージをクリアして、その後に待つラスボスに挑んでくれ≫

 

 通信越しに放たれた言葉。それはつまりウイルス事件は完全な解決にはなっていないと言う事だったのだ。

 

「……ラスボスか。ならお前を倒して、お前のその狂ったゲーム感覚さえも壊してやる」

≪勇ましいねぇ……。だが雨宮一矢。私がゲームとして君達に接するのを止めたらどうなると思う?≫

 

 一矢の中で明確な敵となっている通信相手に対して鋭い言葉をぶつける。しかしそれさえもまるで微風を浴びているかのように軽々と流して逆に尋ねられる。

 

≪君について知っているのが名前だけだと思っているのかな? ゲームバランスというのは大切な要素の一つさ。だがもしゲームバランスを度外視して手段も何も問わずプレイヤーをただ潰すだけのモノになったらどうする? 君の妹も家族も友人も……。どんな目に遭うかな?≫

「……っ」

≪君達は世間一般ではウイルス事件を解決してきた有名人だ。だがリスクを少しは考えた方が良い。ダンジョンを進んでいるうちに思わぬ罠があるかもしれないからね≫

 

 あくまでゲームではなく、全力を持って一矢達と接したらどうなるのか。その事について話す通信相手に一矢はスッと血の気が引いていくのを感じる。

 まさにそれは脅しであるからだ。自分がどうなっても良いがそれでも夕香達に危険な目には遭わせたくはない。

 

≪安心したまえ。君はあくまでプレイヤーであり私の敵ではない。君のような子供にそんな事をしても仕方ない。それにそんなモノはゲームとは言えないだろう≫

 

 まるで心臓を握られているかのような気分だ。得体のしれない相手からの言葉に一矢は冷や汗をかき、焦りの表情を見せる。

 

≪だから、これまで通り私達は“ゲーム”をしよう≫

 

 狂っているように感じる。自分がこれまで知らなかった人種と接している気分だ。価値観が全く合わない存在に不気味さを感じて、恐怖心さえある。

 

≪そろそろ限界だね。それではまた会おう、雨宮一矢≫

 

 話を終えた通信相手はその言葉を最後に通信を切ると、シミュレーター内のモニターは暗転して強制的にログアウトし、シャットダウン処理をされてしまう。暗闇のシミュレーター内で一矢は自分達がただ我武者羅に戦って来た相手の底知れさに恐怖を感じるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エンディングへの道

「おっ、来たな」

 

 バトルを終えて、ガンプラバトルシミュレーターから出て来た一矢に気づいたカドマツ。しかし一矢の表情はあのウイルス騒動を起こしている人物との接触もあって非常に難しい表情を浮かべていた。

 

「……何があったんだ? 勝手にログアウトもしたし……」

「いや、どうやら通信機器が落ちたみたいなんだ」

 

 ひとまず先程のあの通信相手の事は頭の隅に追いやり、突然のログアウトなどの現象について尋ねる。だが別に勝手にログアウトしたわけではないと言う事をカドマツが説明する。

 

「これは……ウイルスからのシャットダウンコマンド……? ってことは世界中で……? 何のために……最後の悪あがきか?」

 

 一矢達が使用したガンプラバトルシミュレーターに起こった現象を解析するカドマツ。紐解いていけば最後にウイルスから行われた処理であり、それはここだけではなくガンプラバトルシミュレーターを経由して世界中で行われた事が想像できる。しかし一体、何の為にそんな事をしたのか、今一解せなかった。

 

「大丈夫なの?」

「ん……ああ……重要な施設は自動でリカバリする仕組みがある。ほぼ一瞬で元通りだ。そうでない場所もエンジニアが監視してるから順番に復旧されていく事だろう」

 

 神妙な表情を浮かべるカドマツに不安を感じたミサが声を上げる。思考に没頭していたカドマツはミサの声に顔を上げると、シャットダウンコマンドに関してはどうとでもある為にさして問題ではないことを伝える。

 

「なら安心だね」

 

 カドマツの説明にほっと胸を撫で下ろしたミサは傍らの一矢に笑いかける。だが一矢の表情は決して晴々したものではなく、すぐにミサ達もその様子の気づく。

 

「……みんな、聞いてくれるか?」

 

 少し悩んでいるかのように視線を彷徨わせ居ていた一矢だがやがて意を決したように顔をあげ、ミサ達に声をかける。ミサ達が顔を見合わせるとやがて頷き、それを見た一矢は先程起きた出来事を話し始める。

 

 ・・・

 

「……そんなことが」

 

 一矢から先程、彼の身に起きた出来事を聞かされ終えたカドマツは視線を伏せ、考え込んでいる。

 

「ゲームって……。私達はこんなことする人達を楽しませるために戦ってきたわけじゃないッ!!」

「舐められてるな。敵にも見られてないなんざ……」

 

 やはりと言うべきか、一矢の話を聞いたミサは憤慨して声を荒げている。カドマツも何も思わないわけではないようで表情を険しくさせながら、鋭く目を細めている。

 

「とはいえ、俺達の個人情報の類は知られてる事だな。確かに今までの事を考えれば、俺達をノーマークにするとは思えない」

「けどお父さん達に何かあったら……」

 

 一番厄介なのはどの程度か分からなくとも個人情報を知られている可能性があることだ。ネバーランドや新型ガンプラバトルシミュレーター、宇宙エレベーターなど様々なウイルス事件に関与してきたのだ。相手側の目に留まっても何ら不思議ではない。しかしカドマツの言葉にミサの表情は曇る。彼女も一矢と同じで自分達はまだしも、周囲の人間を危険に遭わせたくない。

 

「……俺は奴が言っていたラストステージ……受けてみようと思ってる」

 

 どうすればいいのか、その答えが見いだせない中、一矢がポツリと口を開く。そう、ウイルス事件はまだすべてが終わったわけではない。通信越しではまだ次があり、その先にはラスボスが待っているという旨の発言をしていた。

 

「どうすれば良いかなんて分からないけど……でもこのままにはしてはおけない」

 

 明確な答えは出ない。だが何もしないなんて出来ないのだ。相手から接触してきたからこそ、下手なことをされる前に何とかしなくてはいけない。

 

「奴がゲーム感覚でいる今のうちに……チェックをかけてやる」

 

 あの時感じた恐怖心は嘘ではない。得体が知れない相手だからこそ怖く感じてしまう。だが恐怖から目を背けたくはない。少なくとも相手は自分達を脅威には感じていないのだ。だからこそ油断があるうちに畳みかけたい。一矢のその言葉にミサ達は賛同するように頷くのであった。

 

 ・・・

 

「楽しかったなー」

 

 ウイルス騒動をひとまず収束し、一矢とミサは彩渡街に帰るまでの短い時間のなか、一矢の案内でGGF博物館を満喫していた。時刻はもう夕暮れとなり、空は暗がりになっていた。実物大ユニコーンガンダムの近くを歩きながらミサは幸せそうな表情を浮かべる。

 

「……こんな時がずっと続いていけば良いな」

「続けていけるよ! 10年20年……それこそ30年後だって!」

 

 ミサの幸せそうな表情を見て、一矢の表情も緩む。この幸せなひと時にふと一矢がポツリと零すと、何を言ってるんだとばかりにミサは笑いかける。

 

「……その為には……まず片付けなきゃいけない問題がある」

 

 30年後の自分達がどうなっているかは分からないが、輝かしい未来に辿り着くために果たさねばならないことがある。だからこそ一矢は決意を固めるように空を仰ぎ見る。

 

「……ねぇ一矢」

 

 そんな一矢の真剣な横顔を見つめたミサはふと声をかけると、一矢はミサを見る。

 

「私もロボ太もカドマツも皆……一矢と一緒に戦うよ。少しでも可能性があるのなら諦めたくない」

 

 あの場で戦う決意を見せた一矢にミサは改めて己も一矢と共に戦い続けることを口にする。その言葉に一矢はただミサをじっと見つめている。

 

「これまで強くなって来たのはずっと一矢の傍にいる為だもん。どんな時だって一矢を支えるよ」

「……ありがとう。ミサとだったら……俺は進んで行ける」

 

 どんな危険なことが待っていても、一矢が止めても近くにいる。その為の強さは身に着けてきたつもりだ。そんなミサの言葉に一矢は嬉しそうに目を細めた。

 

 すると周囲に感嘆の声があがる。その声が耳に届いた一矢とミサは一体、どうしたのだろうかと視線を向ければ……。

 

「わぁっ……綺麗……っ!!」

 

 なんと実物大ユニコーンガンダムは変形してデストロイモードとなっているではないか。鮮やかに発光しているその様を見て、ミサは感激の声を漏らす。

 

(……この輝きだけは絶対に消したくない)

 

 デストロイモードへの変形を果たした実物大ユニコーンガンダムは圧巻だ。だが一矢は実物大ユニコーンよりも喜んでいるミサの横顔を眺めていた。例え何が待っていても太陽のような笑顔を浮かべる彼女を曇らせたくない。それだけは心から思えるのだ。

 

 ・・・

 

≪みなさん、また迷惑をかけました≫

 

 それから翌日、台場のGGF博物館から戻ってきた一矢達はイラトゲームパークに戻り、ウイルスからの侵入がなくなり正常に稼働できるようになったインフォに会っていた。

 

「インフォちゃんさあ……。何かこう……普段からストレス溜めてない?」

≪……。………………。…………さあ…………何のことでしょうか?≫

「なにか間があったよね、今」

 

 ウイルスの問題が解決したとはいえ、ウイルスに侵されていた時のインフォの様子は凄まじかった。それは普段の業務から来たものなのではないかと思ったミサは問いかけると、しばらくの間の後、棒読みのような返答をされ、ミサは苦笑する。

 

「たべってないで金使いな。ここはゲームセンターだよ」

 

 そんなやり取りをしていると、イラトが話に入って来た。インフォも元に戻ったと言う事あって、イラトゲームパークも通常営業となっている。

 

「イラト婆ちゃん、あんまりインフォちゃんをこき使わないでよ?」

「こき使う為に買ったんじゃねえかよ」

 

 丁度良いとばかりに話に入って来たイラトにインフォのことを注意する。しかしイラトからしてみれば、こき使うなと言われてもその為に買ったので寧ろ何を言っているんだと言わんばかりだ。

 

「……ま、あんまり無理すんじゃないよ」

 

 とはいえイラトもイラトでインフォに対しては何も思っていないと言うわけではないらしく、最後にインフォを気遣ったような言葉を去っていく。その言葉に一矢とミサは顔を見合わせ、良かったとばかりに笑みを交わすのであった。

 

 ・・・

 

≪どうだったかね、ナジール。私のウイルスは≫

 

 一方、人知れず路地裏では携帯端末の着信音が鳴り響く。懐から携帯端末を取り出したナジールであった。そのまま通話ボタンを押して、かかってきた電話に応対してみれば、相手はバイラスであった。

 

「スバラシーですね。お陰でアレに通じるネットワークルートが分かりマシタよ」

 

 今回の騒動を齎したウイルスを作成したのは他ならぬバイラスだ。バイラスが作成したウイルスの性能を褒めながら、目的が達成出来た事を話す。

 

「通信の回復がもっとも早い場所……。すなわちそれが宇宙エレベーターですから、お陰で随分、楽に特定できマシター」

≪満足いただけたなら結構≫

 

 一矢達がウイルスの送信元をハッキリした際、最後に起きたシャットダウンコマンド。それが何の意味があったのかカドマツ達には分からなかったが、それでもやはりと言うべきか理由があったようだ。自身のウイルスを褒められて気分の良いバイラスは自慢げに鼻を鳴らす。

 

≪それでは報酬の方、お願いするよ。逃亡生活は何かと物入りだからね≫

「ええ、すぐに届きますヨ~」

 

 どうやらナジールとバイラスの関係は依頼によるもので成り立っていたらしい。宇宙エレベーターを狂わせた国際的指名手配犯として手配されているバイラスの逃亡生活はやはり多大な資金が必要不可欠。念押しするかのようなバイラスの言葉にナジールは軽い調子で答える。

 

 すると電話口で異変が起きた。

 

 まるでドアを蹴り破るかのような強い衝撃音がスピーカー越しに聞こえたのだ。

 

≪ななななな!? ぐぁっ!?≫

 

 すると素早い足音が幾度となく無数に響き、突然の出来事に電話越しでもバイラスがかなり動揺していることが分かる。

 

≪確保しました!≫

≪バイラスだな!? 貴様を逮捕するッ!!≫

 

 電話越しで何か体を地面に強く押し付ける物音が聞こえ、その瞬間、警察の類かと思われる男たちの声が聞こえて来た。

 

≪くそっ……謀ったなーっ!!?≫

「ヨカッタ。無事届いたミタイですねー」

 

 慌ただしい物音と共に取り押さえられているバイラスからの怨嗟の叫びが聞こえてくる。しかしナジールはその声にさえ特に反応しないまま薄ら笑いを浮かべて通話を切断する。

 

「さあ。全ての準備ができマシタ」

 

 通話を終え、形態端末を懐にしまいながら、ナジールは近くの壁に寄りかかっているクロノを見やる。

 

「しかし最後までまったく反対しないとは思いませんデシタよ。アナタにとって仲間だと思っていましたガ」

「彼はもう私のパーティーには必要ありませんから」

 

 バイラスの逮捕を仕向けた事はクロノも承知の上だ。その事を口にするナジールにクロノは特に気にすることもなく、暇潰しで行っていた爪の手入れの方を気にした様子だ。

 

「私を警戒するのは勝手ですが、今はまず目先のことに専念すべきでしょう。アナタにとっては大事なことのはずだ」

「……その通りデス」

 

 油断ならないようにクロノを見つめるナジールだが、そんなナジールの腹の内を見透かしたような発言に複雑そうな表情を浮かべる。

 

「さあ始めましょう。どんなエンディングを迎えるかはアナタ次第だ」

 

 待ちきれないとばかりに子供のような笑みを浮かべたクロノはナジールに声をかけ、路地裏を後にする。ナジールもクロノの背中を見つめると、やがて観念したようにその後を追うのであった。

 

油断ならないようにクロノを見つめるナジールだが、そんなナジールの腹の内を見透かしたような発言に複雑そうな表情を浮かべる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再びこの地で

『宇宙空間に展開されたソーラーパネルは地上とは比べ物にならない効率で電気を作り出し、そして宇宙エレベーターを利用して地上に供給します』

 

 薄暗い部屋の中では一台のテレビが点いており、ぼんやりと薄暗い部屋に光を灯しながらニュース番組を流していた。

 

『このようにして宇宙で作った電気を地上へ送ることによって天候にも左右されず、効率よく発電できるわけです』

 

 番組内ではCGモデルを使用して、新たなエネルギー発電が紹介されていた。宇宙エレベーターを利用したこの発電方法は以前の世界大会のウイルス事件の際に不測の事態を乗り越えた実績から進められている宇宙開発計画の一環であろう。

 

『宇宙時代の発電システム【SSPG】。スペース・ソーラー・パワー・ジェネレーター。一日も早い実用化が望まれます!』

 

 最後にこの新たな発電システムの名前を名前を口にする女性キャスターの言葉を皮切りにここから更にSSPGの特集を広げていく。

 

「──望まない者もここにいマスよ」

 

 輝かしい未来を象徴するような新たな発電システム。だがその紹介している最中にテレビの画面が消える。テレビの明かりが消えた真っ暗な空間で悲しみを帯びた声が響くのであった。

 

 ・・・

 

「──みなさん、こんにちは!!」

 

 太平洋赤道上に浮かぶメガフロートにてマイク片手にマイクロドローンの前でレポートをしているのはハルであった。彼女の後ろには既に多くの人々が通り過ぎて行っており、かなりの賑わいを見せている。

 

「私は今、太平洋に浮かぶメガフロートの上に再び立っています。そう、宇宙エレベーターにまた来ているんです!」

 

 メガフロートと言えば、やはり宇宙エレベーターは語るに外せない。一時はどうなるかとは思ったが、それでも今となっては良い思い出なのかこの地に立っているハルは輝かしい笑顔を浮かべている。

 

「宇宙太陽光発電施設【SSPG】着工記念セレモニーの中で予定されている【ガンプラバトルSSPG記念大会】!その様子を皆さんにお届けしたいと思います!」

 

 とはいえこれまでガンプラバトルに関連するイベントのレポーターなどを務めて来たハルがこの場にいるのは、ちゃんとした理由がある。今日は何とまたこのメガフロートの地で大々的なガンプラバトルの大海が執り行われる予定なのだ。

 

「皆さんお馴染み、あの方も一緒ですよ! ミスター、お願いしまーす!」

「──みなさーん、ご機嫌よーう! ただいまご紹介にあずかりました、ミスターガンプラです」

 

 そしてガンプラバトルと言えば、この人物も外せないのかハルが満を持してとばかりに呼びかけると、モリモリのアフロと相変わらず奇異な服装をしたミスターガンプラがマイクロドローンのカメラに現れる。

 

「いやー初めて来たけど凄いところだねぇメガフロートって」

「ふふん、私は二度目なんですよ! 分からないことがあったら聞いてください!」

「何で沈まないのこれ?」

「えっ」

「これだけ大きいんだから普通沈むんじゃないの?」

 

 初めて訪れたメガフロートに流石のミスターも興奮を隠せない様子だ。そんなミスターにハルは自信満々に鼻を鳴らしながら得意げに話している。

 

 ではお言葉に甘えてとばかりに早速、切り出してみる。とはいえ建造上の事に関しては予想していなかったのか、ハルは間の抜けた声を漏らす。しかしミスターはそのままお構いなしに尋ねる。

 

「え、えーと……こ、今回の大会はミスター、いかがですか!?」

「ん? そうだね、今回も様々な強豪チームが世界各国から招待されている。見どころの多い戦いが期待できるんじゃないかな?」

 

 引き攣った表情を浮かべながら、強引に話題を変えてくるハルにミスターは尋ねられた事をそのまま答える。そう、ミスターの言う通り、今回のイベントは世界大会にも引けを取らない大規模なものなのだ。

 

「なるほど! どんなチームが出てくるか楽しみですね! それではまた後程お会いしましょう!!」

「ねえなんで沈まないのこれ?」

 

 今回のイベントにおけるミスターの話も聞けたこともあって、半ば無理やり話を締めるハル。とはいえミスターはやはりこのメガフロートの構造が気になっているようで、中継が終わるその瞬間までハルに尋ねていた。

 

 ・・・

 

「またここに来れるなんて」

 

 世界各国から招待されたチーム……その中には彩渡商店街ガンプラチームの姿もあり、ミサはまた再び足をつける事が出来たメガフロートの施設内を見渡しながら心底、嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 

「やっほー、久しぶりだね」

 

 そうしていると横から声をかけられる。聞き覚えのある声に顔を向けて見れば、そこにいたのはセレナであった。

 

「セレナちゃんっ!」

「やっぱり君達も招待されてたんだねぇ。まぁ何ら不思議なことじゃないか」

 

 久しぶりの再会にミサはセレナの方まで駆け寄っていく。嬉しそうにしているミサに釣られるようにセレナも微笑みながらミサとその後ろの一矢達を見やる。彼女の口振りから察するに彼女も自分達と同じようにこのイベントに招待されていたのだろう。

 

「俺達もいるぞ」

 

 すると再び声をかけられる。今度は一体、誰なのかと視線を向けて見れば、莫耶とアメリアの二人組であった。

 

「……アンタ達もか」

「俺達もあれから強くなったからな。バトルが楽しみだ」

 

 莫耶達がこの場にいると言う事は彼らもまたこの大会に招待されたと言う事なのだろう。反応する一矢に莫耶は自信ありげに笑みを浮かべながら話す。

 

「ボクも新しいガンプラ作ったんだ。どうせならその身で味わってみてよ」

「どんなガンプラなの!?」

「それはお楽しみー」

 

 世界大会から時間も経ち、あの頃よりも更に腕を磨いてきた。莫耶の言葉を引き継ぐようにセレナも笑みを浮かべながら彼女が口にする新たなガンプラが入っているであろう腰のベルトにつけられたケースを撫でながら話すと、あのバエルで悪魔の如き強さを見せつけたセレナが一体、どんなガンプラを組み上げたのかとミサは目を輝かせながら食い付くと、セレナはひらひらと両手を動かしながらお預けにする。

 

「まあその為にはまず予選を突破しないとね」

「……そこで躓く奴がいれば所詮、それまでってことでしょ」

 

 バトルを心待ちにしているミサに一応の注意を払うようにアメリアは声をかける。今回の大会もこれまでのジャパンカップなどと同様に予選がある。まずは予選を突破しなくては話にならないのだ。とはいえ端から予選落ちするつもりもないのか、一矢はアメリアの言葉を鼻で笑いながら答える。慢心している訳ではない、だが自分達の実力に自信はあるのだ。それは莫耶やセレナも同じことなのか、一矢の言葉に頷く。

 

「良い熱気だね。これは僕も刺激を受けるよ」

「ロクトさん!?」

 

 もう既に一矢達はバトルが待ちきれないとばかりに笑みを浮かべている。見えない火花が散るなか、そんな彼らに声をかけた人物がおり、視線を向ければそこにはロクトの姿があった。

 

「……まさか」

「ああ、僕も招待されたんだ。まあ実力で選ばれたってよりは現役宇宙飛行士の縁って感じかな。これでもネームバリューはある方だからね」

 

 ミサが驚いているなか、この場にいるロクトにその理由を察した一矢。そんな一矢に頷きながら、この場にいる理由を話す。とはいえ、ロクトの実力は知っている。この飄々としている男性はバトルともなれば油断できない実力の持ち主だ。

 

「これは意外なところで知り合いに会いそうだね。じゃあ、ボクはシオンが来てくれてるって言うからそっちに行くよ」

 

 セレナはロクトが現役の宇宙飛行士だとは知っていても面識はない。だが一矢達の反応から彼らが知り合いである事は察しているのだろう。携帯端末で連絡が入ったのを確認したセレナはこの場を後にする。

 

「バトル楽しみにしてるよ」

 

 最後にセレナはそう言い残す。その言葉はこの場にいる者全ての総意なのかそれぞれが笑みを浮かべて頷くと、セレナも微笑みながらシオンの元へ向かうのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影を落として

「SSPGか……。あいつら、どんなバトルをするんだろうな」

 

 そう呟いたのはシュウジであった。今彼がいるのは小さな定食屋であり、隅にあるテレビでSSPGの大会の様子を眺めていた。

 

「生で見れないのは少し残念だね」

「一矢の奴、なんか新しいガンダムブレイカーを作ったって話だしなぁ……」

 

 その隣にはヴェルもおり、向かい側にはカガミもいる。シュウジの呟きに答えながら残念そうに笑う彼女にシュウジは一矢が新たに作成したリミットブレイカーについて触れる。シュウジも実際にはまだ一矢のリミットブレイカーがどんな機体なのかは見ていないのだ。

 

「……今からメガフロートに向かっても構わないわ。私は一人でも……」

「なに言ってんすか、アンタ一人にやらせるわけないでしょう」

 

 向かい側に座るカガミがようやくポツリと口を開く。これまでのジャパンカップなどの同じように数日に渡って開催される今回の大海。予選から見ることは出来なくとも、今からなら間に合うだろう。彼女なりの気遣った言葉ではあったのだが、シュウジはその言葉に首を横に振る。

 

「今回は遊びに来てるわけではありませんから。これまでのウイルス騒動……しっぽが掴めそうなんですよね」

「ええ、私達もずっと巻き込まれていますしね。ニュースではウイルス事件の首謀者であるバイラスが逮捕されたようですが、それで済むとは思えない」

 

 今日はわざわざ三人で行動しているのには理由がある。これまでカガミ達トライブレイカーズはネバーランドや新型シミュレーターのウイルス騒動などに関わって来た。一矢達がウイルスに対抗して戦っていたように、カガミもカガミでずっとウイルス騒動を追っていたのだ。

 

 最新のニュースでこれまでウイルスを作成し、宇宙エレベーターを暴走させた事件などで逃亡中であったバイラスがようやく逮捕され、現在取り調べ中たというニュースが飛び込んできたのだが、カガミはいまだ胸の中にざわつきを感じているのだ。

 

「世界大会のときも一矢達はバイラスとその協力者達と戦ったって話じゃねえか。首謀者が捕まったところで……」

「ええ、パッサートのようになる可能性は十分あるわ。だからこそ少しでも可能性があるのなら、確かめくてはならない」

 

 思い出すのは世界大会での予選の出来事。あれはウィルが一因とはいえ、彼に会社を潰されたバイラスを筆頭にした元経営者達が彼への復讐を企てたものだ。バイラスの他にも共犯して逃亡中の身である者達も今後の取り調べ次第では捕まる可能性はあるが、確実に安心できるまではこの一連の騒動を追う事は止められない。

 

「……あの子達はずっと巻き込まれている……。だからこそ不安の芽は摘んでおきたい……。あの子達には年相応のことだけしていてほしいの」

 

 チラリとテレビの方向を見やるカガミ。そこには招待されたチームの特集が行われており、彩渡商店街ガンプラチームの姿もある。テレビ画面に移る一矢達の姿を見つめながら、彼らを案じた憂いの表情を浮かべる。

 

「それに……私達はいつまでこの世界に居られるかは分からない。その前にあの子達の為に出来る事はしたいわ」

「そう、ですね……」

 

 カガミから放たれた言葉にヴェルは歯切れの悪い返事をして彼女達が座るテーブルに静けさが訪れる。楽しい時間に忘れがちになってしまうが、自分達にはいつ起爆するかも分からない時限爆弾をつけられているようなものなのだ。

 

「……まっ、危険なことは慣れっこだ。カドマツからウイルスに対抗できるワクチンプログラムのコピーは貰ってるわけだし、さっさと終わらせようぜ」

 

 何とも言えない雰囲気に満たされたテーブルの空気を変えるようにシュウジは口を開く。何れ訪れる事を悲観するつもりはない。ならばせめてその時が訪れた時には後悔がないようにしたいのだ。シュウジのその言葉に頷くカガミとヴェル。程なくして注文した料理が提供されるのであった。

 

 ・・・

 

「ふっふふーん……おねぇっさまーっ♪ おねぇっさまーっ♪」

「まったくシオンは相変わらずだねー」

 

 一方、メガフロートのテラスではシオンが子犬のように再会したセレナの腕を組んで嬉しそうに頬を擦りよせていた。そんな可愛らしい妹の姿にセレナも優しい笑みを浮かべている。

 

「でも、何か憑き物が落ちたみたいだね。凄い晴れやかな感じがするよ」

「そうだね。今は前よりも充実してるよ」

 

 シオンの傍らには夕香や裕喜もおり、セレナの笑みを見ながら話しかけると夕香の言葉は彼女自身、自覚しているところがあるのかクスリと笑う。以前は人形のようなまさに形作ったような笑顔だったが今は自然で柔らかな笑みを浮かべている。

 

「──ならば結構」

 

 そんなセレナ達に声をかける存在がいた。セレナは知っている声なのか顔を顰めるなか驚いたシオンは声のする方向をそのまま見やれば、外国人の仕立ての良い白スーツに身を包んだ一人の金髪の男性が傍らに秘書のようなスーツ姿の女性と共にやって来ていた。

 

「久しぶりだなぁ、シオン」

「お父さま……!?」

 

 男性はシオンを見やりながら声をかけるとシオンはたまらず立ち上がりながら唖然とした様子で呟く。彼女が口にした通り、どうやらこの男性はセレナやシオンの父親であるようだ。

 

「ふむ……そこにいる日本人のお嬢さん方はシオンのホームステイ先の友人……と見てよろしいのかな?」

「え……? まぁ……はぁ……」

 

 薄っすらとセレナが不機嫌そうな表情を浮かべ男性から視線を逸らすなか、男性は夕香と裕喜に声をかける。突然、現れたシオン達の父親である男性に夕香と裕喜は視線を合わせ、戸惑った様子で頷く。

 

「お初にお目にかかる。私はセレナとシオンの父であり、セ・レ・ブのガルト・アルトニクスだ。見た目通りのセ・レ・ブだ。どうぞよろしく」

(……セレブって二回も言った)

(しかも強調してるし)

 

 セレナ達の父親ことガルトは夕香達へ自己紹介を行うと、その内容に夕香と裕喜は表情を引き攣らせる。

 

「ふむ、私の溢れ出るセレブ(ちから)に言葉がないと見えるぅ。まあ気にするなぁ……。太陽を直視続ければ目を逸らしたくなるものさっ」

(……なんだろこのウザさ)

 

 初対面のガルトの自己紹介の勢いに引き気味になっている夕香と裕喜をどう解釈したのか、キラッと無駄に白い歯を輝かせながらキメ顔で力強い笑みを見せるガルトも夕香は眉を顰める。

 

「お父様、何故ここに……?」

「ノンノンノンノンノォーン……分からないとはヌァンセェンスだなぁシィオーン!」

 

 とはいえ何故この場にガルトがいるのか分からなかったシオンが尋ねる。しかし寧ろ何で分からないだとばかりに指をチッチと振りながら答えるとそのまま裕喜を指差す。

 

「はいそこ。私はなんでしょう?」

「セ、セレブ……?」

 

 指差した裕喜に自分が何であるのか質問する。すると裕喜はガルトの勢いに付いて行けないまま、一応、自分の中でガルトの印象として残っている言葉を口にする。

 

「その通ーりィ。この宇宙エレベーターには私も出資している。その縁で招待されたわけだよ」

「……この人が来るのはそういう理由だけだよ。別にボクの応援をしに来たわけじゃない」

 

 不動産事業家であるガルトはウィルのように宇宙エレベーターに投資をしているようだ。もっともガルトが来てからと言うもの、セレナはずっと不機嫌そうな様子なのだが。

 

「……一緒に居たくないからここに到着した時点で別れたんだけどな」

 

 そのまま頬杖をつきながら苛立ち気に呟く。どうやらこのメガフロートまでは同じ飛行機にやって来たようだ。しかしそれからはガルトを避けるように別行動をしているようだが。

 

「フン、セレナよ。案ずるな、私がこの場にいる以上、お前の試合はしかと見物するつもりだ。期待をして声援を送ってやろう、太陽の光は平等に降り注ぐものだからなっ!」

「この人と話が噛み合った事ってないんだよね」

 

 心底、嫌そうに話したセレナにガルトは親指を立て、サムズアップをしながらまた無駄に白い歯を輝かせるとセレナは頭痛を感じながら頭を抑える。

 

「お、お父様はお父様なりにお姉様に愛情を持って接しているんだと思いますわ……」

「愛情? 仮にそんなものがあったとして伝わらない愛情に意味なんてあるのかい?」

 

 一応、家族の事なのでシオンがおずおずとガルトのフォローをするも、セレナは一蹴する。セレナからしてみれば、ガルトは重圧の一因であった。あまり良い感情は抱いてないのだろう。

 

「じゃあボクは行くよ。そろそろ予選の時間だ」

 

 シオンがオロオロとしているなかセレナは席を立つ。シオンはセレナ程、窮屈な生活を強いられていなかった分、ガルトとの仲は酷くはないのだろう。

 しかしそれ故に家族仲を何とかしたいと思うのだが、肝心のセレナが関係改善をする気が全くない為、それはそれで仕方ない為、複雑そうな表情を浮かべている。

 

「ごめんね、シオン」

 

 そんなシオンの心中はセレナも分かっているのだろう。でもだからと言って、どうにかなるとは思えないし、こればかりしたくない。座っているシオンを後ろから抱きしめたセレナはその耳元で謝罪の言葉を口にすると、予選の会場へ向かうのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪魔のような天使

 ガンプラバトルSSPG記念大会……その予選の火蓋が遂に切って落とされた。数多くのチームが参加するなか、その分だけ本選に進むための白熱したバトルが行われていた。

 

「まさかまた戻って来られるとはね」

 

 その中にはかつてのギリシャ代表であるネオ・アルゴナウタイの姿もあった。ダソス・キニゴスが放った狙撃が的確にNPC機を撃ち抜くなか、それを操るアリシアの口元に笑みが浮かぶ。

 

「ただ戻って来ただけで終わらせたくはないな」

 

 ダソス・キニゴスが見据える前方ではクレスが操るヘラク・ストライクが薙ぎ払うかのように豪快にグランドスラムを振るい、群がるNPC機を一撃で粉砕していく。

 

「ああ、今度こそは優勝だ!」

 

 クレスの言葉に同意しながらアキのトールギス・アキレウスが駆け抜け、瞬く間に周囲のNPC機を撃破して、ネオ・アルゴナウタイの得点を瞬く間に増やしていく。しかし怒涛の勢いを見せていくネオ・アルゴナウタイだが、そんな彼らに攻撃を仕掛ける存在がいた。

 

「世界大会で見た覚えがあるな」

 

 莫耶達であった。彼らが扱う機体はかつての機体とは異なり、ストライクSEEDに更にストライクフリーダムガンダムのパーツを組み込んだストライクシードフリーダムであった。射撃は牽制の為に行いつつ、莫耶はトールギス・アキレウス達ネオ・アルゴナウタイの機体を見ながら、世界大会での出来事を思い返す。

 

「あの時は縁がなかったけど、ここでならッ!!」

「望むところだッ!」

 

 アメリアの機体もストライクSEEDにデスティニーガンダムを彷彿とさせるような構成で完成させたストライクシードデスティニーであった。世界大会ではギリシャ代表として出場していたアキ達。あの時は同じ場にいてもバトルは敵わなかったが、今はそうではない。早速、本格的な攻撃を仕掛けてくる莫耶達にアキ達も真っ向から迎え撃ち、バトルに発展していくのであった。

 

 ・・・

 

「流石、世界中のファイターが集まってるだけあるね」

 

 また別のフィールドではロクトがイラトゲームパークで行われたバトルロワイヤルでも使用していたコズミックグラスプを改良したガンプラであるコズミックアクロスは鮮やかなGN粒子を放出しながら、自身に迫る鋭い攻撃を回避しながら感想を口にする。

 

「まあ、僕も折角招待されたんだ。無様に終わる真似はしないさ」

 

 背後から斬りかかろうとする機体がおり、その刃がコズミックアクロスに迫ろうとした瞬間、すぐさま反応し、振り向きざまにコズミックアクロスが放ったビームサーベルが両断して爆散する。

 

「ネームバリューで招待されても、これでも一端のガンプラファイターだからね。それなりの覚悟をしてもらおうか」

 

 ロクトの口元に軽い笑みが浮かび、余裕綽々と言った様子だ。十分、世界のファイターとも渡り合える実力を見せるロクトのコズミックアクロスは観客の熱を誘うバトルを行っていくのであった。

 

 ・・・

 

「これでどうだぁっ!!」

 

 また彩渡商店街ガンプラチームも抜きんでた得点を叩き出していた。リミットブレイカーとスペリオルドラゴンが敵機体を引き付けるなか、一点に集中したところをアザレアリバイブが集中砲火を浴びせて撃破する。

 

≪主殿、私はまだ行けるぞッ!≫

「……それは良かった。俺もまだまだ余裕だから」

 

 先陣を切るスペリオルドラゴンとリミットブレイカー。まるで競うかのように撃破していきながら、互いに焚き付けるように声をかけあいながら、更に戦果を上げていく。

 

「……ん? あれって……」

 

 いくらか撃破し、更に進攻していくなかでミサはなにかに気づく。それは遥か前方でバトルが行われていたのだ。それもかなりの規模に感じるほどの。

 

「一機だけで……」

 

 一矢もモニターを操作して、戦闘の様子を眺める。大規模にも思えるバトルだあが、それはNPC機を含めた多くのチームがたった一機に向かって攻撃を仕掛けているというような状況だったのだ。

 

 その機体はガンダムエピオンをベースにカスタマイズした機体であった。機体色は白と紺で纏めたエピオンとは真逆の配色であり、その背には二本のレーザー対艦刀も備わっていた。

 

 ガンダムタブリス……それがその機体の名前だった。

 ビームソードを片手に一度、動けば周囲の機体はただのパーツ片に様変わりしていく。周囲のチームは別に協力しているつもりはない。だがタブリス一機に狙いを集中させなければ瞬く間に破片に変えられてしまうのだ。

 

「あれは……セレナちゃん……?」

 

 一機で立ち回っていると言うのに全く追いつめられることはなく、寧ろ優勢なのだ。ミサはそんなタブリスの戦い方を見て既視感を感じる。ビームソードから放たれる剣技に無駄はなく、ヒートロッドが一度唸れば周囲の有象無象を蹴散らされ蹴りを放てば粉砕される。まさにどこまでも自由でどこまでも暴力的なまでの実力を感じる戦い方だ。こんな戦い方をする人物をミサは一人しか知らなかった。

 

「やあ、君達も同じフィールドだったんだね」

 

 ミサがセレナの名前を口にした時にこの蹂躙劇は終わりの時を迎えていた。先程までのバトルが嘘のような静寂が包むなか、宙に佇むタブリスから通信でセレナの声が聞こえる。

 

「……それがお前が言ってた新しいガンプラか」

「そうだよー。いやぁ、自分だけのガンプラだとやっぱり違うね。日本で言うところの痒い所に手が届く……って奴かな?」

 

 予選前に会った際にセレナは新たなにガンプラを作成したと口にしていた。それがあのタブリスなのだろう。一矢の言葉に同意しながら、自分専用に組み上げたこのタブリスの性能に満足している様子だ。

 

≪ここで会ったのならば……≫

「やーだよ」

 

 とはいえフィールド上でいつまでもお喋りをするつもりはない。スペリオルドラゴンがいつでも戦えるようにと身構える。しかしセレナから返って来たのは、まったく戦意を感じない軽いものであった。

 

「君達とはもっと相応しい場所でバトルがしたいからね。だから楽しみは取っとくよ」

 

 今は予選の場。どうしてもセレナはここで戦う気にはなれなかったようだ。

 

「じゃあ、本選で会おうね」

 

 そうしてタブリスはリミットブレイカー達に背を向けると飛び去ってしまう。リミットブレイカー達を追撃することはなく見送る。世界大会でも三人で何とか勝てたセレナだ。どうせなら彼女の言う通り、本選でバトルがしたかったからだ。その為には更なる得点が必要だ。一矢達も移動を開始するのであった。

 

 ・・・

 

「おつかれさん。俺達は無事予選突破できたそうだ」

「ま、こんなところで躓いたりしないよっ」

 

 それから予選を終えると、しばらくして一矢達はカドマツから労いと共に予選突破の知らせを受けた。自信があったとはいえ、ひとまずの予選突破に喜びながらミサは余裕そうに答える。

 

「ここから始まる本選はAとBのブロックに別れて、ファーストステージ、セカンドステージ、セミファイナル、そしてファイナルって進んで行くんだ。AブロックとBブロックのファイナリストで優勝を争うって事だな」

 

 するとカドマツの口から本選の流れを説明される。因みに一矢達彩渡商店街ガンプラチームはAブロックに登録されている。

 

「セミファイナルまではメガフロートだが、ファイナルは静止軌道ステーションでやるらしい。是非ともまた行ってみたいもんだな」

「私もまた行きたい! またガンダムに乗りたい!」

 

 そして決勝ともいえるファイナルは世界大会と同じく静止軌道ステーションで行われる予定だ。かつての事を思い出し、懐かしそうに笑うカドマツにミサも実物大ガンダムにの搭乗した時の興奮を思い出しながら話す。

 

「そういやアレ、まだあそこにあるんだよな。下ろすのにも金かかるんだよなぁ」

「大気圏突入出来たら良いのにね!」

 

 ミサの口から実物大ガンダムの事が出された為、あぁ……とカドマツはあの時のガンダムについて触れる。一矢達はあの後、地上に戻れたとはいえ、あのガンダムはまだあそこにあったのだ。下ろすにもそれ相応の費用が必要らしく、ならばとミサはわくわくした様子で楽しそうに口にする。

 

「仮に出来ても自分じゃやりたくねえがな……」

「……下手したらクラウンコース……。ザクには大気圏を突破する性能はない……気の毒だが……」

 

 実際にあのガンダムで大気圏突入出来るのならば面白そうだが、流石にカドマツも自分では気が引けてしまう。それは一矢も同じなのか何とも言えない様子で呟く。もっともその呟きにはあれも一応、ガンダムでしょとミサが軽くツッコむのであった。




ガンプラ名 ガンダムタブリス
元にしたガンプラ ガンダムエピオン

WEAPON ビームソード
WEAPON ツインバスターライフル
HEAD ウイングガンダムゼロ
BODY ガンダムエピオン
ARMS ウイングガンダムゼロ
LEGS ガンダムエピオン
BACKPACK ガンダムエピオン
SHIELD シールド(エピオン)
拡張装備 内部フレーム強化
     スラスターユニット×2(両脚部)
     レーザー対艦刀×2(背部)

例によって活動報告の俺ガンダムにリンクを載せてあります。



<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

幻想目録さんからいただきました。

ガンプラ名:ストライクSeedFreedam(ストライクシードフリーダム)
型式番号:SEED-02
パイロット名:村雨莫耶

WEAPON:シュペールラケルタビームサーベル
WEAPON:ツインバスターライフル(EW版)
ARMS:ストライクフリーダム
BACKPACK:ストライクフリーダム
SHIELD:ビームシールド(ストライクフリーダム)
それ以外:ストライクSEEDと同じ

拡張装備:カリドゥス スーパードラグーン フラッシュエッジ2
レールキャノン ファンネル アーマーシュナイダー Iフィールド

オプション装備:フラッシュエッジ2(両肩) ファンネル(両足)
レールキャノン(両腰) Iフィールド発生装置(腰裏)

カラーリング
BODY:デフォルト ARMS:デフォルト BACKPACK:デフォルト
それ以外:ストライクSEEDと同じ

ガンプラ名:ストライクSeedDestiny(ストライクシードデスティニー
型式番号:SEED-01
パイロット名:アメリア・マーガトロイド

WEAPON:アロンダイト
WEAPON:ルブスビームライフル(フリーダム)
ARMS:デスティニー
BACKPACK:デスティニー
SHIELD:ビームシールド(デスティニー)
それ以外:ストライクSEEDと同じ

拡張装備:頭部バルカン カリドゥス フラッシュエッジ2 ファンネル
パルマフィオキーナ アーマーシュナイダー レールキャノン
高エネルギー長射程ビーム砲 大型ビームキャノン アロンダイト
腕部グレネードランチャー
ビルダーズパーツ:レールキャノン(両腰) ファンネル(両足)
大型ビームキャノン(バックパック) 腕部グレネードランチャー(右腕

カラーリング:腕とバックパック以外はストライクSEEDと同じ。
腕とバックパックは元々のカラーリング。

素敵な俺ガンダムありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Super Drive

≪さあ始まりましたガンプラバトルSSPG記念大会本戦! ファーストステージAブロックの様子をお送りします!≫

 

 遂にAブロックの本戦の始まりとも言えるファーストステージが開始された。ファーストステージはそれだけでも何回かに分かれて行われて、セカンドステージへの進出チームを決めていく。バトルの様子を中継し、高らかに実況を行うのはハルであった。

 

≪出撃チームは【お金で買えないものは無い“ミスターカード”】【いつもあなたの一歩手前“マキビシ・ヘビー・インダストリー”】【こだわり修理は修理や泣かせ“トヨサキ・ヨーロッパ”】【先日八百屋が再開したよ“彩渡商店街”】……以上、四チームの戦いとなります!!≫

≪八百屋の再会、おめでっとーう!≫

 

 ハルによってこのフィールドに出撃したキャッチフレーズのようなものと共にチームの名が読み上げられていき、ミスターも先日、八百屋が再開したばかりの彩渡商店街について触れ、賛美の言葉を送る。

 

≪おっとここで彩渡商店街チームがミスターカードとエンカウント!≫

 

 すると早速、フィールド上では彩渡商店街ガンプラチームとミスターカードチームがエンカウントしたことがハルによって告げられる。ミスターカードチームの機体はそれぞれがブラック、ゴールド、シルバーを基調にした機体色で塗装されており、どことなく金をかけた高級感を出している。

 

「我々はミスターカード! ガンプラバトルの勝利ですらお金で買ってみせる!」

 

 エンカウントした事によってバトルを行おうとする一矢達にミスターカード側の纏めていると思われるターンタイプをカスタムしたブラックの機体を操るリーダー機から突然の通信が入ってくる。

 

「さあ、いくら欲しいんだ!?」

「いきなり八百長を持ち掛けるなっ!!」

 

 何故、いきなり通信を入れて来たのかと思えば、持ち掛けられたのは八百長の話だった。当然、そんな話を受け入れるわけもなく、ミサがすぐに突っぱねる。

 

≪ファイターの魂と言うものを教えてやる!≫

「……余計な話を持ちかけたこと、すぐに後悔させる」

 

 寧ろその言葉は彼らの闘争心に火をつけてしまったようでリミットブレイカー達はすぐさま連携を取り、圧倒的な実力を持って、スターカードチームを追い詰めていく。

 

≪世界にはこのようなダーディファイターもいる。嘆かわしい事だね≫

 

 これまですべて八百長によって勝ち進んできたのか、彩渡商店街ガンプラチームとミスターカードチームとではその実力差は天と地ほどある。連携もまともに取れていないミスターカードチームが息の合った彩渡商店街ガンプラチームに追い詰められていく様を見ながら、ミスターも過去に八百長を持ち掛けられた経験があるのかなんとも悲しそうに呟く。

 

「お金をかけて作らせたのにぃッ!?」

「金かけても自分が使いこなせるガンプラとは限らない」

 

 瞬く間にミスターカードチームはリーダー機のみとなってしまった。そのリーダー機も眼前に迫ったリミットブレイカーのカレトヴルッフの一撃を持って撃破されてしまう。

 

「この勝負……お金で買えない価値があったよ……」

≪彩渡商店街チーム、ミスターカードを撃破ッ!!≫

 

 一矢達とバトルして学べるものがあったのか、項垂れながら呟くミスターカードのリーダー。同時にハルも高らかに彩渡商店街の勝利を告げる。

 

 ・・・

 

「さっすが、イッチ達だね」

 

 ミスターカードを撃破した一矢達の活躍を見て、観客席にいた夕香は自慢げに笑う。ここから見えるモニターには進攻する彩渡商店街チームの姿が映し出されている。

 

「早速、活躍しているようだな」

「アムロさん?」

 

 そんな夕香達に声をかける者がいた。近くの席を見やれば、アムロの姿があり、ここで会った事に夕香達は驚いている。

 

「あれ、あのオジサンは?」

「シャアの奴ならミンキーモモに捕まって、どこかで一緒に見ているだろう」

 

 とはいえアムロ一人のようだ。普段ならシャアもいそうなものだが、今日は見当たらない。そのことについて尋ねる夕香にアムロは苦笑しながら答えるのあった。

 

 ・・・

 

「……ここら辺に反応が会った筈」

 

 レーダーが反応するまま移動した彩渡商店街チーム。だが周囲に敵影はなく、ひとまず地上に降り立とうとする。

 

「っ!?」

 

 すると何か反応するような電子音声が鳴り響く。なにかは分からぬものの嫌な予感を感じ取った一矢達はすぐさま飛び上がると先程、リミットブレイカーたちが降り立った場所が爆発する。

 

 同時にセンサーに反応があり、確認してみればどことなく武将などの趣向を感じられるカスタマイズ機体達がどこからともなく現れた。

 

≪彩渡商店街とマキビシヘビーインダストリーのバトルが始まりました!!≫

 

 その機体達が現れたと同時にハルがその正体を告げる。どうやら彼らがマキビシヘビーインダストリーチームのようだ。しかも先程の爆発も彼らが仕掛けた地雷だったようですぐにマキビシヘビーインダストリーのリーダー機から通信が入る。

 

「我々に近づく時は足元に気を付けることだ!」

「そっちが近づく時は?」

「踏み出す勇気!」

 

 しかも地雷は一つだけではないらしい。その口ぶりから察するにこの場にはかなり地雷が設置されていると考えていいだろう。とはいえ、条件的に言えば、向こう側も地雷には気をつけねばなるまい。そのことを尋ねるミサに堂々と答えられた。

 

≪あらかじめフィールドにトラップ……。これは中々の頭脳プレイだね!!≫

≪あのトラップは敵味方の区別は出来ないんですけど……≫

 

 彩渡商店街チームを誘き出したトラップを張り巡らせたフィールドに誘き出したマキビシヘビーインダストリーに感心するミスター。もっともそのトラップの内容にハルは冷や汗を流していた。

 

「……さっきの奴らに比べると……」

 

 とはいえマキビシヘビーインダストリーもそれなりの実力の持ち主。リーダー機と鍔迫り合いとなっている一矢はその実力を認めながらも各部のCファンネルを解き放つとCファンネルはリーダー機の後ろに回り込んで各部スラスターに損傷を与える。その戦い方はミサやロボ太も同じで、戦う合間に相手のスラスターを確実に破壊していく。

 

「ぬぁっ!?」

 

 そして異変が起きる。スラスターに損傷を負ったマキビシヘビーインダストリーの機体達はスラスターに不備が起きて、地上に落下していってしまう。

 

「飛べなくとも我々には足がある!」

 

 地上に落ちたマキビシヘビーインダストリーだがスラスターが使えずとも、その闘志が衰える事はなく、リーダー機が先陣を切るように上空のリミットブレイカー達へ向かって一歩踏み出す。

 

「……あれ、何か踏んだ?」

 

 一歩を踏み出すその姿に反応するようにいカチッという音が響く。なにかあったのかと足元を見るとそこには自分達が仕掛けた地雷の姿が。

 

「まいた種に足元をすくわれるとは……」

「……どんだけ仕掛けたの」

 

 瞬時に大爆発。

 連鎖するように周囲の地雷を起爆していき、爆発が収まる頃にはもはや原型すらなかった。先程の爆発の規模と言い、マキビシヘビーインダストリーのリーダーの発言に流石のミサもこれには苦笑い。直後にハルによって彩渡商店街チームがマキビシヘビーインダストリーに勝利したことが告げられる。

 

≪さあ、残り二チームのみとなりました! 彩渡商店街チームとトヨサキヨーロッパ、このステージを突破するのはどちらか!?≫

 

 ミスターカード、マキビシヘビーインダストリーを撃破し終えた彩渡商店街チーム。残すはトヨサキヨーロッパのみだ。ハルの実況を耳にしながら一矢達は早速、レーダーの反応が示す場所へと向かう。

 

 ・・・

 

「待っていたぞ、彩渡商店街!」

 

 リミットブレイカー達が移動したのはマキビシヘビーインダストリーとのバトルが行われた場所からほど近いフィールドであった。広大な荒野を舞台に、この場に訪れたリミットブレイカー達を三機構成のトヨサキヨーロッパが待ち構えていた。

 

「ツインラッド持ってくるなんて!?」

「グループ会社トヨサキモータースが果たせなかったジャパンカップの優勝チームであるお前達を倒し、ガンプラ最速は俺達だと証明する!!」

 

 しかもトヨサキヨーロッパの機体達は全てツインラッドを使用していたのだ。彩渡商店街チームを翻弄するように駆け回るツインラッドを操りながら、トヨサキヨーロッパのファイターはかつてのジャパンカップに出蔵していたグループ会社の名まえを出しながら襲い掛かる。

 

≪最速か……。だがこの程度では主殿には追い付けんな≫

「見せちゃってよ、一矢っ!」

 

 ツインラッドによる波状攻撃を回避しているリミットブレイカー達だが彼らにはまだ余裕があった。ツインラッドの動きを見ながら、ロボ太とミサは一矢に声をかける。彼女達は知っているのだ。これよりも速い音速の騎士の姿を。

 

「ひとっ走り……付き合ってもらおうか」

 

 一矢とて自身の機体の特性を何よりも理解している。最速と聞いて黙っているつもりはなかった。するとリミットブレイカーは覚醒を発現させ、スーパードラグーンとCファンネルを解き放ちながら一気に加速する。

 

 リミットブレイカーの姿は消え、紅き閃光がフィールドを駆ける。するとフィールドで真っ先に異変が起きた。何と早速、ツインラッドを使用していた一機目が側面から突撃した紅き閃光に貫かれて爆散したのだ。

 

 驚くのも束の間、二機目が荒れ狂う嵐のように襲い掛かるスーパードラグーンとCファンネルによって瞬きする余裕もなく蜂の巣に変えられてしまう。

 

「成る程。噂以上のスピードだ。ならもうブレーキは踏まないぜッ!!」

「……上等。だったらフィーリングで勝負だ」

 

 リーダー機のツインラッドも中々の作り込みで残り一機だと言うのに以前と態度は崩れず、更に加速している。その様子に火が付いた一矢はスーパードラグーンとCファンネルを戻しながら、リーダー機を追う。

 

 まるで一種のレースを見ているかのようであった。彩渡商店街チームとトヨサキヨーロッパのリーダー同士による高速での攻防は今この瞬間もどんどんと加速しながら行われいく。

 

「なにぃっ!?」

 

 だがそのレースもゴールを迎える時は近かった。覚醒状態のリミットブレイカーはリーダー機を追い抜くと、バーニングフィンガーを発動させ、強く地面に叩き込むと大地を隆起させて、ツインラッドの操縦を乱れさせる。

 

「おぉっ、ガイアクラッシャーだ!」

 

 その様を見たミサが興奮気味に叫ぶ。MF系ならば兎も角、まさかリミットブレイカーがあの技を繰り出すとは思っていなかったからだ。

 

「ウイニングランを決めるのは俺達だ……ッ!!」

 

 そんな一矢は操作が乱れたトヨサキヨーロッパのリーダー機を見据えると、カレトヴルッフを構え直し、覚醒の力を集中させた一撃を叩きこみ、トヨサキヨーロッパを撃破する。

 

「……悔しいが認めてやる。ガンプラバトル最速はお前達だ」

 

 覚醒の全てを込めた一撃はツインラッドごとリーダー機を破壊して爆散させる。爆炎を抜け出ながら大空を舞うリミットブレイカーを見やりながら、トヨサキヨーロッパのリーダーは負けを認めるのであった。

 

≪どうやらガンプラバトル最速伝説に新たな1ページが加わったようだな……≫

≪なんだか良く分かりませんが、彩渡商店街チーム、ファーストステージを突破です!!≫

 

 アザレアリバイブ達と合流するリミットブレイカーの姿を見ながら、ミスターは神妙な表情でコクコクと頷く。そのテンションに付いて行けないハルによって彩渡商店街チームのファーストステージ突破が知らされるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

侵食はただ静かに

「やあ、ファーストステージクリアおめでとう」

 

 ファーストステージを突破した彩渡商店街チーム。関係者通路ではそんな彼らを待っていたウィルが祝いの言葉をかけた。

 

「あれ、ウィルも出てたの?」

「君達とは違って、Bブロックでね。だから戦えるのはファイナルステージだ」

 

 この場にウィルがいると言う事は彼もまたこの大会に招待されたと言う事だろう。予想していなかった再開に驚いているミサに微笑を浮かべながらウィルは己がBブロックに振り分けられている事と共にこの大会に参加している事を明かす。

 

「お互いファイナルまで進めば、あの世界大会の再現ってわけだ」

「正式な大会でのリベンジのチャンスだ。だから途中で負けたりしないでくれ」

 

 また大会が行われているこの場でウィルと出会うことは何か因縁めいたものを感じる。非公式ながらリベンジマッチが執り行われたとはいえ、それでも公式大会ではまだだ。カドマツの言葉に公式大会での決着を心待ちにしているのか、ウィルは一矢達に期待からくる注意の言葉をかける。

 

「そっちこそ途中で負けないでよ?」

「努力するよ」

 

 それは一矢達も同じことなのか、ミサがウィルとのバトルを楽しみどに感じながら声をかけると、口ではそう言いつつも、そもそも負けるつもりはないのか、余裕のある笑みを浮かべる。

 

「……俺達はまだ一勝一敗だ」

「ああ。次でハッキリさせようじゃないか」

 

 なにより一矢とウィルだろう。この二人は互いに口に出さなくともライバルと言える間柄だ。この二人のバトルもまだ一勝一敗。それも今回で変えたいものだ。

 

「ところでドロシーさんは来てないの?」

「多分あちこち見て回ってるんだろう。一緒の飛行機で来たんだが、すぐ消えてしまった」

 

 そう言えばいつもはウィルの傍らに控えているドロシーの姿がどこにも見当たらない。そのことに触れるミサにいつの間にかいなくなってしまったドロシーに苦笑気味に答える。

 

「自由だなあ」

「本来なら今日はオフだったんだ。別に構わないさ」

 

 主をほったらかしに好きに行動しているのはドロシーらしいと言えばらしい為、疑問に思う事もなく納得するミサ。とはいえ、ドロシーは今日は休日の為、ウィルはその行動を咎めるつもりはないようだ。

 

「セレナちゃんも一人だったよね」

「あっちもあっちで休みかなんかなんだろうな」

 

 ウィルが一人で言えば、この場で会ったセレナも一人であった。そのことを口にするミサにメイドも色々あるのだろうと一矢は話す。

 

「そう言えば、そろそろ最後のBブロックファーストステージの時間だ。彼女はそちらに参加する予定だよ」

「ホント!? じゃあちょっと見て行こうよ!」

 

 セレナの名前が出て来たので、ふと思い出したようにこの後、執り行われる最後のBブロックファーストステージについて教えると、折角のセレナのバトルならば、ちゃんと見たいとミサは一矢の手を取る。

 

「僕はVIPルームで観戦させてもらうよ。知らない仲じゃないからね」

「……おい待て」

 

 ウィルは世界大会の時同様にVIPルームでの観戦をするつもりなのだろう。しかしそんな彼を一矢が呼び止めた。

 

「俺の妹をその部屋に連れ込むなよ」

「……努力するよ」

「目を見て話せ、目を」

 

 ふと前回の世界大会決勝前のやり取りを思い出した一矢はウィルに釘を刺す。しかし目を泳がせ、視線を逸らしながら答える彼にジトっと据わった目で見つめる。

 

「因みにだが、夕香と関係が進めば君は僕の義兄になるのかな?」

「絶対になってたまるか」

 

 ふと疑問に思った事を口にするウィルに調子に乗るなとばかりに一矢が食って掛かろうとするが、その前にどうどうと後ろから羽交い締めにする形でミサが一矢を止めながら、そのまま連れて行くのであった。

 

 ・・・

 

「次は漸くセレナの出番か」

 

 ここは数少ないVIPルームの一室。シャンパン片手にソファーに悠然と腰かけているガルトはモニターに映るBブロックのトーナメント表を見ながら退屈そうに呟く。これから行われるBブロック最後のファーストステージに出場するのはセレナや莫耶達を含めた4チームであった。

 

「……お姉さまは精魂込めたバトルを行いますわ」

「そんなものは当然のことだ。全ては結果なのだよ。誰もが認める美しい勝利こそアルトニクスの家に相応しい」

 

 その隣にはシオンもおり、これからバトルを行うであろう姉の勝利を心から願いながら答えると、特に過程は求めてはいないのか、どうでも良さそうにシャンパンを揺らしている。

 

「……お姉さまは……きっと……ずっとこんなことを強いられてきたのでしょうね」

「なにか言ったか?」

 

 ガルトの言葉に顔を背けながら、セレナを想って沈痛な面持ちを浮かべながら呟くシオン。セレナはずっと美しい結果のみを求められてきた。それだけでも苦痛だと言うのに、決して妹であるシオンの前だけでは常に強いセレナ・アルトニクスという存在でいた。あの時はただ純粋に姉を憧れていたが、今ではきっとそれも彼女がつけ続けた“仮面”である事は想像に難くない。

 

 ボソッと呟いた泡のような言葉はガルトの見位には聞き取りづらかったのか、何を言ったのか、確認しようとするのだが……。

 

「……いえ、お父様達の存在は大きいのだな、と……」

 

 それは良くも悪くもである。シオンはシオンで両親に対しては敬意を払っているが、姉であるセレナはそうではないだろう。

 

「ふぅむ、私は太陽のような存在だからなぁ。それは心苦しいが仕方がない事なのだよ、シィオーン。そしてそんなお前達は太陽の娘なのだ。存分に光り輝くが良い! そんな遠慮するな、シャインスパークだ! そして世界にエレガントとは何なのか、太陽とは何なのか、セレブとは何なのか、アルトニクスとは何なのか教えてやるのだ、ヌゥァーハッハッハッハハハァァァッッッッッゲホゲホッ!!!」

「お父さま、うるさいですわ」

「ぬぁにを言う! もっと私を喋らせろ! もっと私を目立たせろ! もっと私を輝かせろぉぉぉぉぉおっっ!! いいやぁ違うぅっ!! 私は私自身でこれからも輝き目立ち続けるのだァーハッハッハッハッハッァアアッッ!!!!!!」

 

 うるさい。どこからそんなテンションになれるのだと言うくらい腹を揺すって哄笑するガルトを耳栓代わりに両耳に指を突っ込みながら注意するシオンだが寧ろ何か話しかければ更に助長してしまうようで高笑いするガルトを横目にシオンは疲れたような疲労感を滲ませる表情を浮かべるのであった。

 

 ・・・

 

「順調に大会は進行しているようだね」

 

 薄暗い部屋の中、SSPG記念大会の模様をテレビで眺めながら、ポツリと木霊するように呟いたのはクロノであった。これから始まるBブロックの最後のファーストステージを見て笑みを浮かべる。

 

「彼はもう向こうに着いている頃かな? 果たして、どんなプレイ内容になるのやら」

 

 クロノの近くにはナジールの姿はなく、彼は別行動を取っているのだろう。これからナジールは何か行おうと言うのか、くつくつと笑い、その時を心待ちにした様子だ。

 

「それに満更、退屈と言うわけでもない」

 

 ナジールが行動を起こすまでの間、クロノは何をするのか。彼の為にすべきことは既に手は打ってある。後はここでずっと事の成り行きを見ているだけなのか、いやそうではない。

 

「そろそろずっと私達のことを嗅ぎまわっていた者達が接触してくる頃合いかな」

 

 そのままクロノの視線は自身が使用しているパソコンの方に移される。嗅ぎまわっていたと言う言葉を使う割にはその表情に余裕さがある。クロノは一度、近くにおいてあるコーヒーを手に取ると、その香りを楽しみながら今か今かと待ち続けるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Unperfected world

信じていた。

強さだけがあの空へ近づく羽だって


≪おぉっと!フォーマルハウトが早速、カプセルカンパニーを破ったぁっ!!≫

 

 Bブロック最後のファーストステージが遂に行われた。モニターには早速、セレナの操るタブリスが瞬く間に出場チームの一つを撃破し、あの圧倒的な強さからハルが興奮気味に実況する。

 

「流石だね、彼女は」

 

 それをガルト達とはまた違うVIPルームのソファーに腰掛けて、眺めていたのはウィルであった。早速、戦果を挙げたセレナを称賛していた。

 

「彼女の単純な実力だけで言えば、僕も一矢も敵うかは分からないんだ、悔しいけどね」

 

 そのままセレナの実力について話し続けるウィル。セレナは元々の才能以上の努力を続けて来た。磨き抜かれたセンスと積み重ねられた操作技術は並みのファイターではまず太刀打ちできない。世界大会でのミサ達の勝利も彼女達が実力を上げたと言うのもあるが、当時のセレナの精神が不安定だったのもある。素直に認めることは悔しいがファイターとして認めざる得なかった。

 

「……んで、アタシはまたここに連れて来られたわけだけど」

 

 そう語るウィルにジトッとした目を向けたのは隣に座っていた夕香だった。

 

「試合が始まる前にいきなり来て、ひとのこと連れて行くんだもん。下手したら誘拐だよね」

「拒否しなかったんだ。君だって満更でもないのだろう」

 

 試合前にウィルが接触してきたかと思えば、VIPルームに案内された夕香。もうウィルがわざわざ自分の前に現れた時点でこうなる事を予想していたので流れるままに連れて来られた。そんな夕香にウィルは笑いかける。

 

「やはり君の傍は落ち着くよ。特にこういった場だとね」

「まったく仕方ないやつだなー。その代わり、ちゃーんと勝つんだよ?」

 

 やはり普段通り過ごしていても多かれ少なかれプレッシャーは感じているのだろう。ウィルはもう既にこの前に行われたファーストステージを突破し、Bブロックのセカンドステージへ進出している。ふと零したウィルの呟きに手のかかる子供と接するように溜息交じりに微笑を見せる。

 

「あっでもお触り禁止ね。触ったら罰金」

「いくらでも払おう」

「やーめーてーよー!」

 

 とはいえ男女二人きりの空間で夕香とウィルの距離は近い。いくら何でもウィルはそんな事はしないだろうとは思うが、一応の注意をすると寧ろ望むところだと言わんばかりに身を寄せるウィルの頬を押し退ける。一見してじゃれ合っている二人の口元には笑みが浮かぶのであった。

 

 ・・・

 

「さて、と……これで残るは後一つだけかな?」

 

 一方、雨が降りしきる広大な野原を舞台にしたバトルフィールドでは既に二チーム目を撃破したタブリスが足元に転がる残骸を見つめながら最後に残ったチームを確認すれば、それは莫耶とアメリアのコンビであった。

 

 同時にセレナのガンプラバトルシミュレーターに警戒を知らせるアラートが鳴り響くと、モニターに映る空の彼方がキラリと光り、次の瞬間、大火力を誇るビームの数々が降り注ぐ。

 

「──そうそう、君達だったか」

 

 タブリスがいた地点に着弾し、爆炎が巻き起こるなか、立ち込める煙を抜け出て空に舞い上がりながら、セレナは攻撃を仕掛けて来た相手を見やる。そこにはツインバスターライフルを構えるストライクシードフリーダムと高エネルギー長射程ビーム砲を向けたストライクシードデスティニーの姿があった。

 

「折角のめぐりあいだ。中々面白い縁だね」

「スーパードラグーン……要するにファンネルと一緒だ! 使いこなしてみる!」

 

 お互いに同じ世界大会を出場した者同士だ。余裕のある笑みを浮かべるセレナに莫耶はストライクシードフリーダムのスーパードラグーンとストライクシードデスティニーと共に両足のファンネルを展開する。それを確認したタブリスはストライクシードフリーダム達へ向かっていく。

 

「ちょこまかと……ッ!」

 

 相手を惑わす為、まるでUFOのような直角的な飛行を行いながらあっという間にストライクシードフリーダム達との距離を詰めていくタブリス。そのかく乱目的の動きに莫耶は苦い表情を浮かべ、ピット兵器をタブリスに集中させるなか、その身の射撃兵装を放っていく。

 

「だったら!」

 

 それでもタブリスは決して怯むこともなく突撃してくる。その進行を食い止めようとストライクシードデスティニーがアロンダイトを構えて前に出る。進攻上に現れたストライクシードデスティニーに対してタブリスも反応してビームソードとアロンダイトがぶつかり合う。

 

「助かったよ。これで君のパートナーも下手なピットの使い方は出来ないだろうしね」

「っ……。だったらここで倒す! アロンダイト(こいつ)ならどんな敵だって!」

 

 鍔迫り合いとなり、そのまま剣戟を繰り広げるタブリスとストライクシードデスティニー。しかしいかんせんほぼ密着している状態で行われている為、アメリアの邪魔になることを考えたストライクシードフリーダムのピット兵器の攻撃は弱まっている。その事を指摘するセレナにアメリアは更にその勢いを強くしていく。

 

 とはいえスーパードラグーンの勢いを弱めたとはいえ、まだストライクシードフリーダムには豊富な武装がある。レールキャノンやカリドゥスを発射し、タブリスの牽制をかける。

 

「もう足手まといは嫌。私の所為で負ける莫耶はもう見たくない! だから私は負けられない! 負けられないのよ!!」

 

 ストライクシードデスティニーから咄嗟に離れて、シールドで防ぎつつ回避するタブリス。そんなタブリスを見つめながらストライクシードデスティニーはストライクシードフリーダムと並ぶ。世界大会でも自身が最初に撃破され、その後に莫耶は三対一の状況を強いられてしまった。だからこそ足手まといになりたくないと願った。

 

「アメリア! VLを展開して連携で行くぞ!」

「莫耶! 光の翼を展開して連携で行くわよ!」

 

 莫耶とアメリアの声がほぼ同時に重なり、お互いに頷き合うとストライクシードフリーダムとストライクシードデスティニーはそれぞれトランス系のEXアクションを選択して、タブリスへ向かっていく。

 

「負けられない、か……。でもそれは君達に限った話じゃないだろう」

 

 タブリスを包囲して最高機動で攪乱しつつ出し惜しみする事無く、その身に装備された武装を放っていく二機。流石にこうなるとタブリスも無傷で済むわけではなく、被弾が目立っていく。しかしそんな状況でセレナは焦ることなく、ただ二機の動きを分析していた。

 

「タブリス……。この名を与えた君はボクに何を齎してくれる?」

 

 どんどんとタブリスの被弾する箇所は増えていき、畳みかけようとストライクシードフリーダムとストライクシードデスティニーはビームサーベルとアロンダイトをそれぞれ持って迫ってくる。その姿を見ながら戦場を舞う己の新たな分身に問いかける。

 

 雨を払って残光が走った。

 

 同時に莫耶とアメリアは目を見開き、驚愕する。何故なら自分達の攻撃が虚空を切ったのだから。だが次の瞬間、二機のバックパックを破壊するように強い攻撃を受ける。

 

 背後に反応があり、二機が振り返った瞬間、ストライクシードデスティニーが持っていたアロンダイトはヒートロッドによって弾かれ、同時にその機体はビームソードによって貫かれていた。

 

「君の翼はボクになにを見せてくれる?」

 

 そこにはツインアイを輝かせ、ゼロシステムを発現させたタブリスの姿が。

 

「アメリアッ!!」

 

 貫かれたストライクシードデスティニーを見て、莫耶はビームサーベルを使用して助けようとするのだが、タブリスはストライクシードデスティニーの首根っこを掴んで盾代わりするかのようにストライクシードフリーダムに差し向けた為、踏み止まってしまう。

 

「悪魔でも天使でもなんだって良い」

 

 抵抗しようとアーマーシュナイダーを取り出そうとする前に出力を上げたビームソードを強引に振り上げた事によってストライクシードフリーダムの前でストライクシードデスティニーは真っ二つに切り裂かる。

 

 ストライクシードデスティニーが目の前で撃破されたことによって莫耶はアメリアの仇を討とうとピット兵器とビームサーベル、レールガンを駆使してタブリスに襲いかかる。

 

「ボクはボクの為に戦う」

 

 

 自分の空を覆う雲を晴らすために

 

 

 自分に絡まった鎖を壊すために

 

 

 自分と言う存在を認めてもらうために

 

 

 ……自由になるために

 

 

「どうかボクに自由を」

 

 

 その為に──。

 

 

「その為ならなんだってくれてやる」

 

 まるで禁忌を侵す契約のようだ。だがそれくらいで丁度良いと思える。生半可な覚悟では自分が望むモノは手に入らないのだから。

 

 ストライクシードフリーダムからの被弾をものともしない捨て身の戦いをするタブリス。それはまるで鬼神のような気迫を発揮し、ビームソードをしまってバックパックの二つの黒と金のバエルソードを彷彿とさせるようなレーザー対艦刀を抜き放つことで圧していく。

 

 距離を取りながらレールキャノンを発射するストライクシードフリーダムにタブリスはレーザー対艦刀を連結させて、水車のように回転させながら防ぐと、そのままヒートロッドを叩きつけ、ストライクシードフリーダムの機体が揺らめいた瞬間、ビームソードを解き放ってレーザー対艦刀と共に振るってストライクシードフリーダムを撃破する。

 

≪フォ、フォーマルハウト、ファーストステージ突破です!!≫

 

 タブリスだけがフィールドに残り、ハルは唖然とした様子ながらBブロック最後のファーストステージを突破したセレナへ声を上げる。しかし唖然とするのも無理はないのだろう。

 

 雨は以前、フィールド内に降り注いでる。そんな雨雲が暗がりが広げる空の下、激しく冷たい雨に打たれるボロボロのタブリスはあまりにも痛々しかったからだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

束の間の休息

 既に波乱の大激戦を繰り広げたファーストステージもセレナの勝利で幕を閉じ、次のステージであるセカンドステージが執り行われようとしていた。ファーストステージその物は午前中に行われ、今は丁度、昼時。セカンドステージは午後から執り行われるため、参加チームや来場客には束の間の休息の時間が訪れていた。

 

「お姉さま、昼食をご一緒出来ませんか?」

「シオンの頼みは断らないよ」

 

 関係者通路ではファーストステージを終えたばかりのセレナにシオンが昼食を一緒にとろうと声をかけていた。元よりシオンの頼みならば受け入れないと言う選択肢はないのか、セレナは快く承諾する。

 

「ならば私もご一緒に」

 

 すると物陰からスラッと軽やかに回転しながらガルトがポージングを決めながら現れる。先程までシオンには微笑んでいたセレナもガルトを視界に入れた瞬間、チベットスナギツネばりの何とも言えない表情を浮かべる。

 

「……と、言いたいところだが、私はこれから同じ出資者達と食事があるので一緒に食事は出来ないのだよ」

「それはそれは」

「私がいなくては食卓に光が灯らないことは重々承知しているが、これも仕方がない事だ。許せ、娘達よ」

 

 そんなセレナを他所にガルトは昼食に同席できない旨を伝えると、少しはセレナの表情にも明かりが宿るが、それでも悲劇の主人公と言わんばかりに眉間を抑え、嘆き悲しむガルトの姿にまた表情に明かりが消えていく。

 

「だが悲しむことはない。今日の夜はこの父が添い寝をしてやろう!」

「悪い冗談だ」

「ありえませんわ」

 

 だが途端に輝かしい笑みを浮かべて両腕を広げる。しかしこれには間髪入れず、真剣な様子でセレナとシオンに即答される。この男と添い寝でもしようとするのなら絶対に眠れない。もっとも娘達の反応にも遠慮することはない、とあくまでポジティブだ。

 

「下らない冗談は後退し始めた頭だけにしてくれないかな」

「なに……っ!? なんて言う事だ……っ」

 

 しかも更にセレナはガルトに毒を吐く。その視線はガルトの少し照りの見える頭部に集中されており、今、初めて自覚したのか、ガルトは咄嗟に両手で頭を抑えている。その様子は愕然としており、これで静かになると思ったセレナ達だが……。

 

「私は身体的特徴でも輝きを放っているわけか! やはり私こそ太陽ということなのだなぁっ! ヌァーハァッハッハっハッハッハッハゲッ!!!!!」

(……どれだけポジティブなんだ、この人)

 

 するとガルトは抑えていた手を離し、頭部を露わにしながらクルクルとその場で回転している。その姿を見ながら、何故、この親から自分のような人間が生まれて来たのだろうかと頭痛を感じながらセレナは首を傾げている。

 

「とぉころでぇ……セェッレェーナァっ……」

「……なにかな」

 

 回転をピタリと止め、セレナ達に背を向けたまま体を反らしてセレナに声をかける。そんな父の姿にまともに話すことは出来ないのかと溜息交じりに答える。

 

「あのような戦い方はエレガントではないな」

「……」

「ただ勝てば良いと言うものではないのだよ。それだけは肝に銘じておくのだな。では、アデュー」

 

 すると先程のファーストステージの試合内容について触れてくる。その言葉にまた勝手に何を言ってくるんだとばかりにセレナはその瞳を剣のように鋭くさせるがガルトは全く意に介した様子もなく、キラリと歯を輝かせ、指を振りながらこの場を後にするのであった。

 

 ・・・

 

「この後はセカンドステージかぁっ……」

 

 彩渡商店街チームもまた近くで設けられているフードコートで軽い食事を済ませようとしていた。注文した料理をテーブルに置きながら、ミサはこの後のセカンドステージが待ちきれないとばかりに呟く。

 

「ネオ・アルゴナウタイも同じAブロックらしいぞ」

「セレナちゃん達とバトルをしたチームだよね」

 

 横に座るカドマツがセカンドステージについて考えているミサに話を振ると、そのチーム名は世界大会でのフォーマルハウトとのバトルが記憶に新しい為、ミサもすぐに思い出す。

 

「セレナちゃん、一人でファーストステージの全部のチームを倒してたよね」

「……やっぱりアイツは強いな」

 

 そんなセレナも先程のファーストステージでは同じステージの出場チーム全てと交戦し、一人でこれを撃破した。最後の方は消耗もしていたようだが、やはり彼女の実力は全く油断できないだろう。

 

「そう言えばBブロックには、ロクトさんもいるよ」

「……ファーストステージじゃ特に問題もなさそうだったな」

 

 注目すべきはAブロックだけではなくBブロックもだ。ウィルやセレナだけではなく、あちらにはロクトがいるとのこと。しかもそのバトルは例え世界の強豪が集まる本大会でも難なく突破している点を考えても、その実力は世界に申し分ないほどに高まっているのだろう。

 

「だが意外にダークホースもいるかもしれんぞ」

「ダークホース?」

 

 セカンドステージもまだまだ油断ならない。果たしてセカンドステージでは一体、どんなバトルが待っているのか、そしてファイナルでも一体、どんなチームが勝ちあがるのか。想像するだけでもネタはどんどん溢れてくる。するとカドマツは笑みを浮かべながら口を開くと、一体それはどんな存在なのだろうかとミサは首を傾げていた。

 

「ああ。この大会にはな、一般から勝ち進んだ強豪ファイター達がチームを組んで出場しているプライべーター選抜チームがあるんだ。プライベーターだからって油断してると、足元すくわれるかもな」

「誰だろうと絶対に油断なんてしないよ」

 

 ダークホースとなりえる存在は一体、誰なのかを説明する。どうやら本大会は一般からの選抜ファイターも戦っているらしい。とはいえ相手が何であろうとあくまで自分達のバトルをするつもりなのだろう。ミサは自信満々な笑みを見せながら話すと、その意気だとカドマツやロボ太も強く頷く。

 

「あっ、イッチ!」

 

 そんな会話をしながら食事を進めていると、一矢を呼ぶ声が聞こえ、視線を向ければ裕喜達の姿があり、軽く手を振って一矢達に歩み寄る。

 

「ハローロー。ファーストステージ突破、おめでとー」

 

 早速、風香からファーストステージの突破を労われる。とはいえこれはまだ始まりに過ぎない。これから寧ろ始まっていくのだ。

 

「……ところで翔さんは?」

「到着した時、翔さんに気づいた押し寄せる人波に……」

 

 風香の顔を見て、まだこの場で会っていない翔についても触れるが、同やら翔は翔でトラブルに見舞われているらしい。まるで翔が亡くなったかのように風香はよよよ……と泣き真似をしながら答える。

 

「そう言えばさっき、咲ちゃん達に会ったよ」

「咲ちゃん達も来てるんだね」

 

 ふと裕喜はメガフロートで出会った知り合いの話をする。やはり世界大会並の規模で行われている為に、多くの注目を集め、この場に訪れるのだろう。

 

「……ところで夕香は?」

 

 だがそんな中、一矢は裕喜達の中に夕香の姿がない事に気づく。その言葉を聞いた裕喜は引き攣った笑みを見せながら、一矢と視線を合わさぬように視線を逸らす。

 

 ピロピロリーン

 

 一矢にNTばりの閃きが走り、無言で立ち上がるとVIPルームに乗り込んで行こうとするが、ミサと裕喜達によって必死に引き留められる。

 

「離せッ! アイツと一緒にいたら何をされるか分かるか!!」

「な、なにもしないと思うよ、多分……」

「多分ってなんだ!? アイツとの決着はリアルファイトでつけてやる!!」

 

 羽交い締めにされながらでも必死に振り解こうとする一矢を何とか宥めようとするも、自信のない発言をする裕喜に一矢はしばらく騒いでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今までよりも

≪さて、始まりましたセカンドステージAブロックの戦いです!≫

 

 昼休憩も終わり、遂に午後から始まったセカンドステージAブロック。参戦チームとNPC機達が同時に出現する中、ハルによる実況が開始される。

 

≪出撃チームは【ワークスチームには負けないぞ“プライベーター選抜チーム”】【なんでも調べられる検索サービス“Doodle”】【英雄達の再来“ネオ・アルゴナウタイ”】【火曜日はお肉がお買い得“彩渡商店街”】……以上、四チームの戦いとなります!≫

≪おや、このAブロックにプライベーター達のチームがいるんだね≫

 

 出場チームを紹介を交えて読み上げていくハルの言葉を聞き終えたミスターはプライベーター選抜チームについて触れる。

 

≪はい、今大会特別参加枠での出場となる“プライベーター選抜チーム”。以前、スポンサードを受けていないファイター達によって選抜大会が行われ、勝ち進んだファイター達の中から輝かしい注目のファイターを選抜して作られたチームです!≫

≪どれも工夫に満ちた良いガンプラばかりだね!≫

 

 ミスターがプライベーター選抜チームについて触れたため、ハルによってプライベーター選抜チームの説明が行われる。ミスターも実況席でプライベーター選抜チームのガンプラを確認しているのか、そのガンプラを褒め称える。

 

「一体、どんなチームなんだろうね」

「会ってみないと分からないな」

 

 ハルとミスターの実況を聞き終えたミサと一矢は一体、どんなファイター達が選抜チームとして選ばれたのか、期待を胸に膨らませながら会話をしながら、ポイントが表示される場所へ向かう。

 

≪いたぞ!≫

 

 ポイントまで近づくと、やはりポイントが指し示す通り、ガンプラチームがそこにおり、ロボ太が声をあげ、指差す。そこには白を基調にクリアパーツなどが目を引くガンプラを使用するチームがいた。

 

≪さあ早速、セカンドステージ初となるバトル! Doodleチームと彩渡商店街がエンカウントしました!≫

 

 互いに武器を構えて、戦闘に発展していく。そんな中、観戦客にはハルの実況から両チームのエンカウントが知らされていく。

 

「彩渡商店街……よく知っているぞ。君達のことは検索済みだ!」

≪Doodleと言えば、世界最大の検索サイト。調べられないことは何もないという……≫

 

 すると早速、Doodleチームのリーダー機が通信によって接触してくる。自分達の事を検索済みとまで言い放ったDoodleチームにロボ太はDoodleについて口にする。

 

「その通りだロボ太君! 君が最近、ブログを始めた事も知っているよ」

≪なんだと……ッ!?≫

「ブログ名は【トイボット日和】か。中々、ポエティックなようだね」

 

 そんなロボ太に一矢もミサも知らない新事実が話される。明らかに動揺するロボ太にDoodleチームリーダーはブログ名とその内容について口にすると、ロボ太は狼狽して「よ、よせ!」と必死に声を発している。

 

「ははははは! 情報が戦いを制す! この試合、貰った!」

 

 狼狽えているロボ太の様子に高笑いしながら、チームで連携して攻撃をさらに強めていくと、ミットブレイカーとチームリーダー機が鍔迫り合いとなる。

 

「雨宮一矢君! 君の妹が先程、タイムズユニバースのCEOと一緒にお昼をとっているところを見かけたよ」

「……」

「随分と仲睦まじい様子だったねぇ。あのCEOが食べさせてくれないかい、とねだっていたよ」

 

 すると次の矛先は一矢に向けられる。世界大会やウイルス事件を解決した一矢。地方の大会がメインとはいえ、出場すれば活躍する夕香のことは調べれば分かるのか、このメガフロートでDoodle側が情報収集の一環で知った夕香とウィルについて高らかに話す。

 

「まるでカップルのようだったね! あの後、あーんでもしていたんじゃ───」

 

 ロボ太のように一矢の動揺を誘おうと愉快そうに話しているDoodleリーダー。だがその途中でリーダー機に強い衝撃が走り、なにか確認してみれば、リーダー機の腕部は宙に舞っていた。

 

「……その話は本当か?」

「は、はい?」

 

 目の前にはカレトヴルッフを振るったリミットブレイカーの姿が。リミットブレイカーから聞こえる地を這うような恐ろしい声にDoodleは明らかに動揺している。

 

「その話は本当かって聞いてるんだよォッ!」

 

 するとリミットブレイカーは覚醒を発現させ、ツインアイを輝かせる。纏った真紅の光は地獄の業火にも負けぬ怒気のように此方を見据えるツインアイを輝かせる頭部は鬼の形相のようにも見える。今の一矢を表したようなリミットブレイカーの怒涛の攻撃が始まる。

 

「……あっちゃー。今の一矢には絶対、話しちゃいけないことを……」

 

 振りかざすカレトヴルッフは鬼の棍棒のように力強さを見せながらリーダー機を追い詰めていく。その姿を横目にDoodleのチーム機をロボ太と連携して倒し終えたミサは情報が裏目に出てしまった事に苦笑する。

 

「次はお前の番だぞ、ウイイィィィィィィィィィィィィルゥゥゥゥッッッ!!!!!!!」

「ひ、ひぃぃ!? 情報通りの動きじゃない!? こいつらの情報は全て集めたのに!?」

 

 両前腕部に内蔵されたビーム刃を駆使して、リーダー機を滅多切りにしていくリミットブレイカー。一矢の戦い方も情報で仕入れていたようだが、今の一矢には通用しないらしく、あっと言う間に撃破されてしまう。

 

≪日々精進を続ける我々に過去の情報で太刀打ちできるものか!≫

「……まあ今回はその情報が悪かったと思うんだけど」

 

 敗因が分からない様子のDoodleのリーダーにその理由を力強く話すロボ太。今回は特に被害はなかったミサは冷静に呟いていた。

 

「ねえロボ太、ブログのURL教えてよ!」

≪絶っっっっっっ対に断るぅっ!!!!!!≫

「……あんたどんなこと書いてるの?」

 

 それより、とミサは先程から気になっていたロボ太のブログについて好奇心から尋ねる。しかしロボ太はミサ達には知られたくないのか、強く断りを入れたため純粋にどんなことを書いてるんだと疑問に思ってしまうなか、ハルによって彩渡商店街がDoodleを撃破した事が実況される。

 

 ・・・

 

≪さあ、こちらも盛り上がっております! ネオ・アルゴナウタイとプライベーター選抜チームのバトルです!!≫

 

 こちらもこちらでバトルが行われている。ハルの実況通り、ネオ・アルゴナウタイとプライベーター選抜チームのバトルは苛烈さを見せていた。

 

「やはり日本のファイターの質は高いなっ!!」

 

 放たれる射撃を間一髪で避けながら、その実力を素直に認め、アリシアの掩護を受けながらクレスと共に反撃するアキ。ネオ・アルゴナウタイとプライベーター選抜チームのバトルはまさに一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「どうやら彩渡商店街も来たみたいね……!」

 

 狙撃用ビームライフルを構えながら、ダソス・キニゴスのセンサーはこちらに近づく三機の機影を捉える。Doodleチームを撃破した今、ここに残りチーム全てが集まっている。ここにやってくるのは自然だろう。

 

「……成る程。確かに選抜チームに選ばれても不思議じゃないな」

 

 戦闘エリアに到着した一矢はネオ・アルゴナウタイを確認するとともにプライベーター選抜チームの機体を見やると、何やら納得した様子を見せ、それはミサやロボ太も同じだったようだ。

 

「よぉ、待ってたぜ」

 

 そこにはロクトと同じようにイラトゲームパークのバトルロワイヤルに参加したエンファンスドデファンスを改良したエンファンスドバランサーを使用するツキミが一矢達に声をかける。

 

「わしらもこのような大舞台に来れたんじゃ」

「ジャパンカップのようにはいかないぞ」

「ずっとバトルがしてみたかったんだ」

 

 しかもツキミだけではなく、エンファンスドバランサーの近くには同じく選抜チームに選ばれた厳也のクロス・ベイオネット、ジンのユニティーエースガンダム、正泰のアドベントガンダムの姿があり、厳也とジン、正泰がそれぞれ声をかける。

 

「みんな、昨日までの自分とは違う……。そうだろ?」

 

 ちょっとしたサプライズを受けた気分だ。厳也や知り合い達から彼らが本大会に出場しているとは聞いておらず、このように本選でぶつかるまでひた隠しにされていたのだろう。プライベーター選抜チームとしてチームを組んだツキミ達の言葉に一矢は笑みを浮かべながら彩渡商店街、ネオ・アルゴナウタイ、プライベーター選抜チームの三つ巴の戦闘が始まるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

蒼天の空に

 市街地を舞台にした三つ巴の戦いは苛烈を広げていき、整備された市街地もすぐに荒れ果てた廃墟の広がる街並みへと変貌していく。今でも地上で、空中でと銃弾飛び交う激闘が繰り広げられている。

 

「こちらは普段のチームとは違うからな。連携を断ち切らせてもらう!」

 

 なによりも速く動こうとしているのはプライベーター選抜チームだろう。彩渡商店街チームやネオ・アルゴナウタイと違って、彼らはあくまで個人個人が選抜ファイターとして大会側に選ばれたに過ぎない。普段から異なるチームメイトでは当然、いつもチームで行っているような連携は取れず、世界レベルのチームが集う本大会では苦戦は免れないだろう。

 

 だからこそ下手に連携をとって攻められる前にその連携を断ち切らねばなるまい。早速、ユニティーエースがスーパードラグーンを放つ。それと同時に近接に特化したタイプのエンファンスドバランサーとクロス・ベイオネットがスーパードラグーンの掩護を受けながら飛び出し、両チームの間に割って入って行く。

 

 連携を乱すために突入してきた両機体にそれぞれのチームが対応しようとするなか、攻撃を仕掛けるよりも前にアドベントの豊富な射撃武装とユニティーエースのスーパードラグーンがその手を阻み、堪らず両チームはそれぞれが散開して散り散りになる。

 

「いつまでも好きにやらせるわけにはいかないな」

 

 だがやられっ放しでいては世界大会に出た名が廃るというものだ。追撃しようとするクロス・ベイオネットのハイパービームジャベリンの一撃よりも早く放たれたヘラク・ストライクのグランドスラムの一振りはクロス・ベイオネットが放ったハイパービームジャベリンの一振りを逆にはじき返し、その勢いのまま蹴り飛ばすと腕部のグレネードランチャーを放つ。

 

 損傷は受け、吹き飛んだもののクロス・ベイオネットはシールドのヒートロッドですかさず迫るグレネードを破壊し爆炎が広がる中、炎を飛び出すようにインコムを放って、死角からヘラク・ストライクを攻撃して損傷を与える。

 

「下手に近づけさせるかッ!!」

 

 一方でトールギス・アキレウスがクロス・ベイオネットとエンファンスドバランサーの掩護をするアドベントへ迫る。圧倒的な加速を持って近づいてくるトールギス・アキレウスに正泰は無数のマイクロミサイルを放つが、その前にシールドピットを使用して、迫る攻撃を全て凌いだトールギス・アキレウスは止まらず、正泰の言葉も虚しくそのままアドベントと接近戦に発展する。

 

 ユニティーエースもアドベントに加勢しようとするのだが、それを遮るようにスーパードラグーンとCファンネルがその行く手を阻み、次の瞬間、エンファンスドバランサーをスペリオルドラゴンに任したリミットブレイカーが急接近し、カレトヴルッフを放つ。すかさずGNソードⅤで受け止める。

 

「あの時とは比べる事も出来ないな……ッ!」

 

 そのまま近接戦に発展するかと思いきや、ユニティーエースを払い除け、スーパードラグーンとCファンネルによるオールレンジ攻撃を仕掛ける。軽い損傷を負いつつも、回避するジンは苦い表情を浮かべる。だがそれも束の間、アドベントと戦闘をしていたトールギス・アキレウスがシラヌイとウンリュウを使用した攻撃を軽やかに距離を取るように回避すると共に次の標的をユニティーエースに移して、フェイロンフラッグを振るい、ジンの意識はトールギス・アキレウスにも向けられる。

 

 元々、距離を取っていたリミットブレイカーはオールレンジ攻撃の標的をそのままアドベントへと移す。ビームコーティングマントによってスーパードラグーンのビームから身を守ることは出来るもののCファンネルの刃からは守れず、マントに破れが目立っていく。

 

「そんな大きな剣だったら!!」

 

 するとアドベントはトランザムを発動させ、Cファンネルによるマントの損傷も構わず、リミットブレイカーへと飛び出して行き、二刀流による激しい攻撃に打って出る。リミットブレイカーもカレトヴルッフでは小回りが利かず、防ぎ続ける。

 

「……それなら」

 

 一矢はアドベントの猛攻の一つ一つを見極めて、カレトヴルッフの先端のビルドナイフを取り外し、逆手に構えて横薙ぎに振るい、アドベントの攻勢を怯ませる。その隙にカレトヴルッフを手放すと、放っていたCファンネル・ロングを前腕部に装着すると反撃に打って出る。

 

 迫るリミットブレイカーにすかさずアドベントが胴体のメガ粒子砲を放つのだが、残りのCファンネルを全てリミットブレイカーを守るビームバリアに展開させ、メガ粒子砲を防ぎながら、そのままビームバリアによる体当たりをぶつけ、アドベントの機体がのけ反った瞬間に両碗をクロスさせて振り下ろし、アドベントを撃破する。

 

 アドベントを撃破したリミットブレイカーだが、そんな後ろ姿にビルの陰から照準を合わせる機体が。アリシアのダソス・キニゴスだ。そのまま引き金を引こうとするのだが……。

 

「一矢はやらせない!」

 

 直前にダソス・キニゴス自身にビームによる狙撃が迫り、ABCマントで防いだものの攻撃の手は緩まず、アザレアリバイブがハイパードッズライフルを構えながら更に攻撃の手を強める。

 

「ジャパンカップじゃバトルが出来なかったからなッ!!」

 

 その上方ではスペリオルドラゴンとエンファンスドバランサーが幾度となく刃を交えていた。ダブルソードとレーザー対艦刀がぶつかり合う。そんな中でツキミは心底、楽しそうに朗々と話す。

 

≪ならば記憶に強く残るバトルにするッ!!≫

 

 すると至近距離でスペリオルドラゴンは火龍砲を放ち、エンファンスドバランサーはまともに受けてしまう。しかしただそれで終わるのならば選抜ファイターに選ばれる訳がない。すかさずヴェスパーを展開し、お返しだとばかりに放ち、スペリオルドラゴンは大きく吹き飛ぶ。

 

「今だッ!」

≪ただではやらせんッ!≫

 

 直後にエンファンスドバランサーは飛び出し、レーザー対艦刀を突き刺そうとする。体勢を立て直した直後のスペリオルドラゴンには避ける事が間に合わず、身を貫かれてしまうが、組み合わせた金龍の弓をゼロ距離で放ち、エンファンスドバランサーとスペリオルドラゴンは相打ちとなる。

 

「やはり世界は広いのぉ……ッ! まだまだ未熟だと分かるわぃ……ッ!!」

「同じ台詞を言わせてもらうよ。それ故に精進のし甲斐があると言うものだッ!!

 

 クロス・ベイオネットとヘラク・ストライクのバトルにも決着の時が訪れようとしていた。既にお互いの機体は半壊しており、クロス・ベイオネットはハイパービームジャベリンとザンバスターを、ヘラク・ストライクは昇竜丸と左腕を失っていた。厳也とクレスは互いの実力を認め合いながら、決着をつけようとビームソードとグランドスラムを構えて同時に飛び出す。

 

「──わしもあの時とは違うんでのぅッ!」

 

 互いにほぼ同時に刃を走らせるなか、厳也は強く叫び、左腰側面のフラッシュバンを投擲し、炸裂させる。強烈な閃光にクレスが反射的に目を瞑り、苦悶の声を上げるなか、クロス・ベイオネットは半ば感覚でビームソードの刃を走らせながらも確実にその刃はヘラク・ストライクに斬り込み、確かな感触と共にブランドマーカーによってヘラク・ストライクを貫き撃破する。

 

「クレスがやられた……ッ!!」

 

 上空で爆散したヘラク・ストライクを確認してアリシアは歯を食いしばる。とはいえ、自身もまだアザレアリバイブとの戦闘を続行している。自身の狙撃能力によって放った弾丸はアザレアリバイブに損傷は与えるものの、それでもこちらも無傷とは言えず、既にABCマントを放棄して手負いの状態で戦闘を続行している。

 

「アキ、そちらの状況は!?」

「難しいな。どうにも逃がしてくれそうにない!」

 

 戦況はあまり芳しくない。体勢を立て直そうにもトールギス・アキレウスもユニティーエースとリミットブレイカー。そして今、合流したクロス・ベイオネットとの戦闘を続けている。

 

 するとアザレアリバイブはハイパードッズライフルの銃口を向け、気づいたダソス・キニゴスもまた狙撃用ビームライフルを構える。引き金が同時に引かれ、一筋の光が重なるなか、アザレアリバイブは右腕を損傷し、ダソス・キニゴスは避ける。

 

 しかしダソス・キニゴスが避けた後ろにあったビルに直撃し、激しい戦闘によって傷ついたビルは倒壊を始める。ダソス・キニゴスが咄嗟に横っ飛びに避けるなか……。

 

「そこだぁああっ!」

 

 声の限り、ミサが叫ぶ。飛び上がったアザレアリバイブはヒートロッドを反応してこちらに狙撃用ビームライフルを向け、引き金を引いたダソス・キニゴスに上から叩きつけ、地面に落下させると、そのまま大型対艦刀を抜き放って振り下ろす。その刃は確かにダソス・キニゴスを貫いて撃破する。しかし、それでもアザレアリバイブの損傷は激しく、そのまま力なく近くのビルにもたれるように倒れ込む。

 

「クッ……状況は不利か……ッ!!」

 

 ネオ・アルゴナウタイもトールギス・アキレウスのみとなってしまった。しかし不利な状況であっても、アキの瞳には不屈の闘志が宿っており、まだその闘志は衰えていないと言う事を理解させるには十分だ。

 

「だが諦められるか……ッ!!」

 

 シールドブースターを利用し、機体を横回転させ、威力を強めたビームソードの一撃を放つクロス・ベイオネット。迫る刃にアキは目を鋭く細める。

 

「俺はァッ!!」

 

 ABCマントを左腕に巻きつけ、左腕を犠牲にしてクロス・ベイオネットのビームソードを受け止める。息を呑む厳也だが、すぐに両足側面のビームキャノンを放つが、その攻撃をものともせず、寧ろ自機も大型ビームランチャーを至近距離で放って互いに損傷を与えていく。

 

「英雄だからなッ!!」

 

 トールギス・アキレウスもクロス・ベイオネットもお互いに火花とスパークを散らせるなか、トールギス・アキレウスはクルクルとフェイロンフラッグを回転させ、上方からアキの気合を乗せたかのようにクロス・ベイオネットに深々と刺突する。

 

「わしにも意地があるんじゃ……ッ!!」

 

 しかし厳也もただでは負けない。機体が爆散する直前に食い込んだビームソードをそのまま振り払って、トールギス・アキレウスを両断すると、厳也もアキも互いの機体をその目に焼き付けながら爆散する。

 

「静かになったものだな……ッ」

「……ああ。だがこのまま終わりにする」

 

 先程まで各地で轟音が鳴り響く大激闘があったにも関わらず今では嘘のようだ。先程までトールギス・アキレウスやクロス・ベイオネットを交えての混戦があった為、リミットブレイカーもユニティーエースもかなり損壊してしまっており、下手に一撃をもらえば、その時点でお終いだろう。それを感じながらジンと一矢は言葉を交わし、ユニティーエースはGNソードⅤをリミットブレイカーは両腕部に装着したCファンネルを構えると同時に飛び出す。

 

「……ッ!?」

 

 剣戟を繰り広げるリミットブレイカーとユニティーエース。しかし幾度となく繰り返した後、Doodleチームから続く長時間の戦闘の影響からか、Cファンネルの刃に皹が入り、GNソードⅤの一撃を受けて砕けてしまう。バランスが崩れたリミットブレイカーにユニティーエースはソマーソルトキックの要領で脚部のビームブレイドによって右腕を切断する。

 

「これで──ッ!」

 

 そのままGNソードⅤを振るってリミットブレイカーを撃破しようとするユニティーエース。GNソードⅤの刃が迫るなか、一矢は何とかその刃から逃れようとするが、間に合わない。

 

 その時であった。

 

 下方から放たれたビームがユニティーエースの持つGNソードⅤごと前腕部を貫き、一矢もジンも驚愕する。見やれば、そこには下方からハイパードッズライフルを構えているアザレアリバイブの姿が。

 

 それは十分な効果があった。今のミサの支えのお陰で体勢を立て直したリミットブレイカーは左腕にバーニングフィンガーを発現させ放つと、ユニティーエースも負けじとパルマフィオキーナを発動させる、

 

 互いのマニビュレーターがガッチリと繋ぎ合うなか、膨大なエネルギーのぶつかり合いで周囲に衝撃が走る。だがやがてバーニングフィンガーによって表れる紅蓮の炎の如し輝きはユニティーエースの左腕を粉砕して、そのままジンを撃破する。

 

≪ネオ・アルゴナウタイ、プライベーター選抜チームを破り、最後に残ったのは彩渡商店街! セミファイナルステージ出場決定です!!≫

≪ネオ・アルゴナウタイは勿論、これほどまでのガンプラをプライベーターが持ってくる。ガンプラバトルの未来は明るいね!≫

 

 彩渡商店街チームの勝利を持って終えたAブロックのセカンドステージ。ハルが高らかに彩渡商店街チームのセミファイナルステージの進出を告げるなか、良いバトルが見れたとばかりにミスターは非常に満足そうに朗々としている。

 

 そんな中、地上に降り立った半壊のリミットブレイカーは窮地を救ってくれたアザレアリバイブに手を差し伸ばす。アザレアリバイブは支えられながら立ち上がるとリミットブレイカーとアザレアリバイブは並び立って、青く澄んだ空を見上げるのであった。




<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

不安将軍さんからいただきました。

キャラクター名:砂谷厳也
ガンプラ名:クロス・ベイオネット

WEAPON ザンバスター
WEAPON ハイパー・ビーム・ジャベリン(以下ジャベリン)
HEAD ギャプランTR-5(フライルー)
BODY ダブルオークアンタ
ARMS クロスボーン・ガンダムX1
LEGS ガンダムエピオン
BACKPACK ドーベン・ウルフ
SHIELD シールド(エピオン)
拡張装備 シールドブースター×2(両肩側面)
     ビームキャノン×2(両足側面)(銃口は真上)
     フラッシュバン(左腰側面)
     GNフィールド発生装置(腰後部)
     新型MSジョイント
カラー ライトニングブルー

機体説明
クロス・フライルーを改良してより近接戦闘を高めた機体。以前同様、立体的な高速移動を行う為に両肩にシールドブースターを装着、可動させる事で急速な加速や動き、変則的な移動や上昇や降下などを可能とさせている。
戦法は多少変化し、マイクロミサイルやライフルの連射を放ちつつ一気に加速してジャベリンの攻撃を繰り出し、連続攻撃に移行する。シールドブースターを用いての突きや機体を横回転させる事で威力を高めた一撃を放ったりできる。
チャージ核弾頭は滅多に使わないがMA戦時などのここぞという時に使用し、ジャベリンを失ってもビーム・ザンバーや腰に付いてあるビームソードを用いての二刀流や左手にザンバスター、右手はブランド・マーカーなど多彩な攻撃手段とやり方を有している。インコムも積極的に使用し、対艦ミサイルは状況に応じて撃ったりする。
脚部のビームキャノンは普通に使用できるが、主に近接戦闘の際の不意打ちとして使われるのが多い。
ジャベリンは桜波咲が使用していた物(ルーツガンダムの)で、恋人同士になってからパーツを交換しあった。

素敵な俺ガンダムありがとうごさいました!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

傷ついた翼を受け止め

「良いバトルだった。もっと強くなりたいと思えるような……そんなバトルだった」

 

 セカンドステージも終了し、バトルを終えた一矢達はプライベーター選抜チームである厳也達と会って話をしていた。惜しくも敗れてしまったプライベーター選抜チームではあるがそう話すジンの表情はとても清々しそうだ。

 

「……会った時には納得はしたけど、正直、驚いた」

「どうせなら、そう思わせたかったからな」

「ふふんっ、秘密にしていたのでな。中々の一興であったじゃろう?」

 

 一矢達も満足のいく良いバトルが出来てとても晴々とした表情だ。とはいえ、バトルの最中で厳也達に出会った驚いたのは事実。その事を口にすれば、してやったりと言わんばかりにツキミと厳也が笑みを浮かべていた。

 

「とはいえ、負けてしまったからな。これからは一観戦者として応援しているよ」

「うぬ、わしらも咲達を待たせておる。ここらでお暇させてもらおうか」

 

 一矢達も後はセミファイナルステージを勝利して、ファイナルステージへ向かうだけ。ジン達も応援に徹しようと言うのか、一矢達に軽く手を振ってこの場を去っていく。

 

「次のセミファイナルが待ち遠しいねっ」

「ああ」

 

 ジン達を見送りながら、この次のセミファイナルステージについて待ちきれないとばかりに笑い合いながら話すミサと一矢。きっとセミファイナルステージも今のような素晴らしいバトルが出来るだろうと考えているのは想像に難くない。

 

(……なにか忘れてる気がする)

 

 胸には今大会でこれ以上にない程、ガンプラバトルへの高揚感と充実感が満たしている。とはいえ、一矢は何か忘れている様な気がしてならないのか、胸の引っ掛かりを感じて首を傾げていた。

 

 ・・・

 

「彼らは順調に勝ち進んでいるようだね」

 

 一方、VIPルームではAブロックのセカンドステージの様子を見届けたウィルがセミファイナルステージまで勝ち進んだ一矢達へ期待を含めた笑みを浮かべている。

 

「アンタも負けてらんないんじゃない?」

 

 ソファーに腰掛けるウィルの隣に夕香が発破をかけるように悪戯な笑みを見せる。とはいえウィル自身、負けるつもりはないのだろう。その表情は自信に満ちている。

 

「僕が優勝したら、今度こそ君のキスをいただけるかな?」

「キスだけで満足なの?」

 

 以前、世界大会のリマッチの際、頬とはいえ夕香のキスを逃してしまったウィル。今大会で優勝した暁には夕香のキスを望もうと言うのか、王子さながらに彼女の手を取る。しかし夕香は恥じらうどころか小悪魔のような表情で答える。

 

「……もっと踏み込んじゃっても良いんじゃない?」

 

 ウィルの耳元に顔を近づけ、さながら悪魔の誘惑のように甘く囁く。その言葉にドキリと強く胸打つモノを感じながら、思わず昂りつつある感情のまま身を寄せて来た夕香に触れようとするのだが……。

 

「「っ!?」」

 

 途端に壁から強い物音と衝撃が走る。突然のことに驚いた二人は近くにいる互いの顔をみて冷や水を浴びせられたように僅かに距離を置いて気恥ずかしそうに互いにそっぽを向くのだった。

 

 ・・・

 

「どうしたのだ、シオン。いきなり壁を殴って……。とてもアグレッシブではないか」

 

 その隣のVIPルームでは壁際で赤く滲んだ握り拳を立て構えるシオンの後ろ姿にガルトが声をかけていた。

 

「何故でしょうね。この壁の奥に如何わしいものを感じますわ」

「ふぅむ、隣は一体、誰が使っていたか……。そう言われると気になるような……

「名案を思い付きましたわ。隣の部屋にお父様を放り込みましょう」

 

 突然、何か受信したかと思えば衝動的に突如、壁を殴ったのだ。しらーとした表情を浮かべながら乾いた口調で話すシオン。一矢も一矢で厄介だがこっちもこっちで厄介である。

 シオンの言葉にガルトは顎に手を添えながら思い出そうとするなかシオンは引き攣った表情で壁を見やるがその途中でBブロックのセカンドステージの準備が終わり、試合が開始される。

 

 ・・・

 

≪さあ続きまして、セカンドステージBブロックの戦いとなりました!≫

 

 セカンドステージBブロック、そのバトルステージに選ばれたのは月面の地であった。早速、ハルとミスターによる実況が始まる。

 

≪出撃チームは【ひとりでできるもん! “フォーマルハウト”】【ガンダムでも何でも飛ばすよ“鹿児島ロケット株式会社”】【楽しい時を送ります“ビャンダイ”】の3チームとなります!≫

≪おや、Bブロックも4チームでは?≫

 

 これまで通り、参戦チームの名を紹介していくハルだが、今回は三チームのみだ。不思議に思ったミスターはその事を尋ねる。

 

≪はい、本来出撃するはずだった【グリズリーとお話ししよう”カリフォルニア クマ牧場”】ですが、飼育しているグリズリーが寂しがっているとの事なのでファイター兼飼育員が急遽、帰国することとなりました≫

≪彼らの必殺コンビネーション……グアドラブル・ハニー・ハントが見られないのは残念だね≫

 

 Bブロックのセカンドステージが三チームなのは理由があった。どうやら予定された一チームが棄権することとなってしまったのだ。しかし、この場に招待されるだけあった名だたるファイター達なのだろう。ミスターは純粋に惜しんでいた。

 

≪おぉっと、そうこうしている間にフォーマルハウトがビャンダイと激突!!≫

≪今大会は一人で参加しているファイターも多いが、フォーマルハウトはその存在感を一際放っているね≫

 

 棄権したチームについて話していると、早速バトルステージではチーム同士による戦闘が開始されているようだ。フォーマルハウトの……セレナの暴力的な戦闘を見ながらミスターはその実力を認める。

 

 ・・・

 

「たった一機を相手に……!?」

 

 月面をステージに戦闘をしていたフォーマルハウト達。すでにセレナのタブリスは相手を追い詰めていたのか、チームメイトを全て撃破されたリーダー機は慌てて右往左往している。

 

「されど一機さ」

 

 そんなリーダー機の前にいるタブリスはビームソードを軽く振るい、リーダー機を見据えている。その美しい姿からは想像が出来ないよな恐ろしさがあったのだ。そんなタブリスを目の前にリーダーは恐怖する。

 

 セレナはいつまでも無駄な時間を過ごすつもりはない。タブリスはビームソードの切っ先を向け、最後のリーダー機を撃破しようと向かおうとするが、その前に上方からリーダー機は撃ち抜かれ、爆散する。

 

 爆炎が広がるなか、セレナが上方を確認すれば、そこにはビームライフルを構えているロクトのコズミックアクロスの姿があった。

 

「随分と美味しいところを持っていくんだね」

「大人はそう言うものさ。ズルいだろ?」

 

 リーダー機のトドメを刺したコズミックアクロスを見ながら、嫌味を口にするセレナだがロクトはそれをさらりと躱す。互いに人を食ったような笑みを浮かべ、末恐ろしいものを感じさせる。

 

「ズルい大人、嫌な大人はよく知ってる」

 

 ロクトの言葉に口ではあぁ言ったものの別にトドメを横取りされた事は気にしていたのか、次の標的をコズミックアクロスに変え、スラスターを噴射させて、一気にコズミックアクロスへと向かって行く。

 

(速っ──!!)

 

 飛び立ったと思えばもう既に眼前にいるタブリスのそのあまりの機動力にロクトは目を見張る。とはいえ、タブリスはビームソードを振りかざしており、機動力を自慢とするコズミックアクロスは咄嗟に避ける。そのままコズミックアクロスは距離を取ろうとするが、タブリスが放った横殴りのヒートロッドが直撃し、コズミックアクロスは月面の地に落下する。

 

「そんな悪い大人はやっつけないとね」

 

 月面に落下したコズミックアクロスを追撃しようと、タブリスはゆっくりと月面へ降下していく。すると月面の漂った土煙の中から赤い閃光が飛び出し、タブリスへ向かっていく。

 

 それはトランザムを発動させたコズミックアクロスであった。放たれたビームサーベルの一撃をすぐさまビームソードで受け止める。

 

「大人が嫌いなのかい?」

「嫌いだよ。何も知らないくせに、いつも知ったような口を利く」 

 

 ビームの刃同士の接触により、周囲にスパークが巻き起こるなか、ロクトはセレナの大人に対する嫌悪感を感じさせる発言に尋ねると、笑みを浮かべてセレナはさらっと答えるものの、その目だけは笑ってはいない。

 

 セレナの周囲の大人……それは両親だけではなく、かつての教育係、そして家柄から会わざるえなかった大人達。その全てがセレナにとって嫌悪の対象でしかなかった。

 

「……君にそう思わせてしまったのは、大人の責任だね」

「別に構いやしないさ。ボクはボクなりの生き方をする。これ以上の邪魔をされなければなんだって良い」

 

 激しい剣戟を繰り返しながら、ロクトはセレナの言葉に目を細めながら話すも、セレナは今更だと言わんばかりにビームソードを振るう。そんなタブリスを相手にするコズミックアクロスの戦い方はまるで受け止めるような戦い方に変わっていく。

 

「君は余裕があるように見えて、まったくないんだね」

「……また目障りなことを口にする」

 

 短い間とはいえ、セレナに接して彼女の状態を見抜くロクト。しかしセレナからしてみれば、その言葉はただ彼女の癪に障るだけなのだろう。その攻撃をさらに強めていく。

 

「大人ってのは哲学みたいなものだよ。身体だけが大きくなっても中身が伴ってなければ、それは大人と言えない……。僕はそう思っている」

「……」

「君の周囲にいる大人達はどんな人物なのかは知らない。だが君に不信感を与えるには十分なんだろう」

 

 タブリスの攻撃を受け止めながら、話し続けるロクト。しかしコズミックアクロスの機体は現在進行形で傷を負っていく。しかしそれでもロクトはタブリスの攻撃を受けながら話すのを止めない。

 

「そんな人間達の為に君が窮屈で辛い思いをする必要なんてない」

「……ッ」

 

 コズミックアクロスを追い詰めていると言うのに、通信越しで聞こえるロクトの声に動揺はなく、寧ろその声色はとても優しい。それがセレナを惑わせる。だからこそすぐにこのバトルを終わらせようと今なお、攻撃を続け、たった今、コズミックアクロスの片側のGNドライブごと右腕を切断する。

 

「少し物の見方を変えてみるのも良いかもしれないよ。そうすると意外なことが思い浮かぶ時もある」

「……ボクに人生を説いてるつもりなの?」

 

 トランザム状態を解除されたにも関わらず、ロクトはタブリスの攻撃を受けながら話すと、その言葉を聞きながらセレナは僅かに顔を顰める。遂にタブリスのビームソードの刃はコズミックアクロスを貫く。

 

「そんな高尚なものじゃないさ。あくまで僕なりの助言。答えを決めるのは君自身だ」

 

 受け止めたビームソードに身を貫かれ、コズミックアクロスの機体が炎に包まれて消えるのは時間の問題であろう。しかしロクトはそれでも動じる事はなく、コズミックアクロスの左手は刃を突き出したタブリスの右腕にそっと添えられる。

 

 セレナはモニター越しに見えるコズミックアクロスの姿を見つめる。モニター越しにでもコズミックアクロスはちゃんとこちらを見据えていた。しかあしその時は訪れようとしたのか、巻き込まぬようにコズミックアクロスはタブリスから身を離すと、直後に爆散する。

 

「……だから大人は嫌いなんだ」

 

 フィールドに残ったのはタブリスただ一機。それはフォーマルハウトの勝利を意味する。しかし、セレナの心中には勝利への喜びなどはなく、ずっと頭の中にロクトの言葉が過っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

wish in the dark

「あぁ……ここから静止軌道ステーションに行けマスか?」

 

 ナジールは今、数十mに及ぶような巨大な電子ロックがかかった扉の前にいた。周囲に人がいないにも関わらず問いかける。

 

≪可能・不可能ということであれば可能です。許可・不許可ということであれば不許可です≫

 

 ナジールの問いかけに答えたのは宇宙エレベーターの制御AIであった。ナジールが立っている巨大な扉の先には宇宙エレベーターに繋がるカーゴがあるのだろう。

 

「そこを何とか……。ステーションへ行きたいのデス」

≪大会ファイナルステージまで誰もお通しできません≫

「誰もいない今だから行きたいのデス」

 

 ごますりでもするかのようにこの扉を開けてくれるように頼みこむ。しかし返ってくるのは当然、ナジールの頼みを突っぱねる内容だ。だがそれでもとナジールは頼み込むわけなのだが……。

 

≪申し訳ありませんがお引き取りください≫

 

 融通が利くと言うわけでもなく、それ以上に誰かもその身元の詳細が分からないナジールを制御AIが受け入れる事はなかった。

 

「仕方ない……。では、魔法に頼るしかアリマセン」

 

 とはいえ全て想定の範囲内だったのだろう。やれやれと言わんばかりにため息をつくと、おもむろに両腕を広げる。

 

「イフタフ・ヤー・シムシム!」

 

 すると今、ナジールがいる場所に響くような声量である言葉が唱えられる。

 

≪……開けゴマですか。アリババ気分のところ申し訳ありませんが、そんな言葉では……≫

 

 しかし言葉を放った直後でも、何も起こらず制御Aiはいい加減、帰らせようとするのだが、次の瞬間、重厚なロックの解除音と共に扉は重々しく開き、その先の施設への道を開いたのだ。

 

≪何をしたのですか?≫

「さすが古の呪文デース」

≪何をしたのですか? 私の命令以外でこのドアが開く事はありえません≫

 

 不可思議なことに開いた静止軌道ステーションへ続く扉。ナジールに問いかける制御AIはどこか信じられないと言わんばかりに鼻歌交じりで上機嫌なナジールに尋ねていた。

 

「あなたにバックドアを仕込んだんですよ、ドアだけに」

 

 してやったりとばかりにナジールは流暢に答えながら彼は制御AIの静止の声も聞かず扉の先へ向かって行くのであった。

 

 ・・・

 

「早速、ハッキングを仕掛けてくるとは」

 

 一方、同時刻、薄暗い部屋の中、クロノは自身のパソコンに起きた異変を横目にまるでテレビを眺めるかのように優雅にコーヒーを啜っていた。

 カドマツ達と同じようにガンプラバトルシミュレーターを通じてのアクセスを試みているのだろう。画面に電脳空間を映したモニターにはライトニングFAとシャインストライクの姿が映っていた。

 

「まずはお手並み拝見と行こうか」

 

 既にこうなる事を予測して、手は打っていたのだろう。すぐにライトニングFAとシャインストライクを駆逐しようと防衛プログラムが迫る。しかし相手はライトニングFAとシャインストライク。つまりはカガミとヴェルだ。出て来てもすぐに二機によって瞬く間に破壊されていく。

 

 しかしいくら防衛プログラムが破壊されたとしてクロノの表情に余裕が消えるわけでもなく、寧ろそう来なくてはとばかりに笑みを浮かべていた。

 

「素晴らしい……。あっという間に壊滅とは……。これは中々のスコアだ」

 

 防衛プログラムとの間に起こった戦闘は瞬く間に終了し、一矢達同様に用意していたPGスクランブルガンダムも撃破されてしまった。今現在、用意していた防衛プログラムを全て容易く打ち破った二機のガンダムに称賛を送る。

 

≪聞こえているかしら?≫

 

 するとモニター上のライトニングFAが周囲を見渡しながら、柱のように構築されたデータに触れると、かつてクロノ自身が一矢にやったようにスピーカーからノイズ交じりにカガミの声が聞こえる。

 

≪アナタを知っているわ、黒野リアム≫

「……ほぅ」

 

 とはいえスピーカーから聞こえてくる声にわざわざ答える気はないようだ。しかしカガミから放たれた名前にクロノはピクリと反応すると、興味深そうにスピーカーを操作する。

 

≪黒野リアム……。日本人とアメリカ人のハーフであり、かつてはゲーム会社として名を馳せたイドラコーポレーションの代表取締役社長兼CEO≫

「良くご存知だ」

 

 調べがついていたのか、その名と共にどんな人物なのか話すカガミにクロノは面白そうにスピーカー越しで答える。

 

≪ゲームメーカーとして人気が高い一方で裏でCEOが個人的にスリーエスのバイラスと繋がっていたことが明るみとなり、現在はタイムズユニバースに買収されている最中でスリーエス同様に解体予定との事らしいわね≫

「それが何故、私だと?」

≪アナタが作成したウイルス……。そうね、静止軌道ステーションに現れ、ゲネシスガンダムブレイカーと交戦した戦闘プログラム。攻撃モーションや使用した技はアナタの会社が作ったゲームに酷似しているわ≫

 

 そのままイドラコーポレーションの現在を話すカガミに尋ねる。まずクロノに辿り着くヒントとなったのは、静止軌道ステーションが乗っ取られた際に現れたアンチブレイカーについてだ。あの戦い方をきっかけにウィルが買収している会社を調べていたらイドラコーポレーションの名が浮上したのだ。

 

≪それにバイラスの他の協力者が次々と逮捕されているなか、アナタだけはまだ逃げ果せている。それも理由の一つよ≫

「バイラスが事情聴取で話しているらしいからね」

 

 また消去法でもあった。バイラスの逮捕後、次々にかつて世界大会でバイラスに協力していた者達が逮捕されているニュースが現在、流れている。それはクロノの耳にも届いていたのか、あの男ならそんなモノだろうと言わんばかりだ。

 

≪……一つ、個人的に気になる事があったわ≫

「どうぞ」

 

 するとカガミは疑問点があると口にする。別に構わないのか、クロノは少し冷めたコーヒーを啜りながら促す。

 

≪黒野リアム……。アナタはかつてガンプラバトルの大会にも出場している。しかも前年度のジャパンカップの優勝者……。聖皇学園ガンプラチームに所属していた雨宮一矢を破って≫

「また懐かしい話だ」

 

 カガミの口からクロノがかつてのジャパンカップに出場していた事が明かされる。それは聖皇学園のガンプラチームに所属していた時の一矢が出場していたジャパンカップについてだ。その話をされてクロノは笑みを浮かべる。

 

「面白いゲームだったよ。もっとも当時の彼は余裕がなくて私のことを覚えていなかったようだが」

 

 かつてのジャパンカップで一矢を倒した時のことを思い出しているのか、くつくつと笑い声をあげていた。

 

「それで? 私にわざわざ接触してきて、どういうつもりかな?」

≪……時間稼ぎ、かしら≫

 

 とはいえ、わざわざ黒野リアムの素性を話してきたカガミにその真意を尋ねるクロノ。すると、そろそろ構わないかとばかりにカガミが答えた瞬間、クロノがいる部屋の扉が蹴り破られる。

 

「よぉ、そろそろゲームセットにしようぜ」

 

 蹴り破られた扉の先にいたのはシュウジであった。流石にこのことに関しては想像していなかったのか、クロノは目を見開いている。

 

≪そこはイドラコーポレーションの地下ね。ずっと逆探知をさせてもらっていたわ。アナタを調べる過程であまり褒められたことではないこともしたけど≫

「ちょっとした裏技も使ってな」

 

 何故、ここにシュウジがいるのか、その理由をスピーカー越しに明かすカガミ。その言葉にすぐにこの場所に移動出来た理由を首元に垂れ下がるアリスタのペンダントを握りながらシュウジは答えた。

 

「さて、大人しくしてもらおうか」

「断ろう。ゲームが終盤に差し掛かっているのに止められるなど興が醒める」

 

 ここで捕まえようと拳を鳴らすシュウジにクロノは椅子から立ち上がる。それははっきりとした抵抗の意志を感じさせるには十分過ぎる。

 

「……仕方ねぇ……。じゃあ、少し痛い目をみてもらおうかッ」

 

 あまり必要以上に手荒な真似をしたくはなかったのか、ため息をつくシュウジだが、クロノをここで逃がすつもりは毛頭なく、構えを取ると地を蹴ってクロノへ向かっていく。

 

「ふむ……隙がないな」

 

 向かってくるシュウジの動作を見ながら余裕そうに彼の動きを分析する。クロノは目を細めて向き直る。

 

「……っ!?」

 

 そのまま腹部を殴って一撃で気絶させようとするシュウジだが、クロノはさっと横に体を動かして避けるとその拳を掴んでいたのだ。すぐに対応して見せたクロノにシュウジは目を見開く。

 

 しかしそれも束の間、クロノを見やったシュウジは彼がニヤついた笑みを浮かべたのを見た瞬間、彼の腕は捻られ、そのまま身体は宙に舞って投げられる。

 

「チッ……!」

 

 地面に叩きつけられたシュウジは忌々しそうに舌打ちすると、唇を親指で軽く撫で再びクロノへ向かっていく。油断もなくすかさず拳を放つシュウジだがクロノは悉く軽やかに避ける。シュウジはクロノの顔めがけて鋭い蹴りを放つのだが、クロノは身を反らして避けるとそのまま回し蹴りを深くシュウジの脇腹に浴びせる。

 

「ぐぁっ!?」

≪シュウジ君!?≫

 

 シュウジの身体がくの字に曲がった瞬間、再びクロノによって頭部を蹴られてそのまま近くの机に叩きつけられる。シュウジの悲鳴と物音が聞こえたのか、スピーカー越しにヴェルがシュウジの名を叫ぶ。

 

「素晴らしい。よくそこまで調べたものだ」

 

 起き上がろうとするシュウジを先程まで飲んでいたコーヒーのマグカップで再び頭部を殴りつける。シュウジは地面に転がり、頭から生々しい鮮血が流れるなか、クロノはシュウジを踏みつけて称賛する。

 

「だが君達は表向きのことしか分かっちゃいない。CEOだのジャパンカップだの君達が調べ上げたのは所詮は虚像でしかないんだよ。それではトゥルーエンディングには程遠いな」

 

 じりじりと踏みつけ、シュウジが苦悶の表情を浮かべるのを愉快そうに見下ろしながら、心底、出来損ないを見るような見下した目で歪な笑みを浮かべた。

 

「人には裏がある。君達と同じようにね」

「……ッ……。どういう意味だ……ッ!?」

 

 そのまま無理にシュウジを起き上がらせ、その首を締めあげながら話す。その言葉にまるで自分の心を見透かされたようで目を見開いたシュウジはクロノに尋ねるが……。

 

「君達自身が良く分かっているだろう。君達が好きにしているように、私もゲームをしている……。邪魔をしないでもらおうか」

 

 しかしクロノは直接的に答える事はなく、そのまま突き放すように投げるとシュウジは地面に転がる。酸素を取り込みながら血に濡れた視界でクロノを探せば、クロノはまるで散歩でもするかのように悠々とこの場を去っていく姿を最後に捉えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛があれば多分大丈夫

「やあ、予想通り、君もセミファイナルに進んだね」

 

 VIPルームに繋がる豪華な装飾の廊下にて歩いてくるのはセカンドステージをクリアしたセレナであった。そんな彼女に声をかけたのは彼女を待っていたウィルであり、傍らには夕香もいる。

 

「君も同じみたいだね。昔馴染み同士、バトルが楽しみだ」

 

 ウィルも既にセミファイナルへの道を掴んでいる。セレナはそんなウィルに笑みを見せる。一件、言葉では柔らかいものの、もう二人の間には見えない火花が散っていた。

 

「お姉さま、いますの?」

 

 そんな二人のやり取りのさ中、セレナの声が聞こえたシオンは待ち焦がれた飼い主が現れたペットのような輝かしい表情を浮かべながら、VIPルームの一室から現れると夕香とその隣のウィルに目が合う。

 

「なななななぁっ!!? やはり隣の部屋から感じていた邪気はアナタのせいでしたのね!!」

「なんでアタシの周りにいる人達ってベタベタ触りたがるのかなー」

「夕香、アナタは次からわたくし達の部屋に招待しますわ!」

 

 ウィルを視界に入れた途端、隣の夕香を引っ手繰るように引き寄せ番犬のようにガルルと唸らんばかりにウィルを見やる。そんなシオンに抱き寄せられている夕香はやれやれと言った様子だ。

 

「少し待ちたまえ。僕から夕香を遠ざける気かい? 良い度胸だね」

「大手であるタイムズユニバースCEOがJKを密室に連れ込んでいると週刊誌にリークしても良いんですわよ」

 

 自分達のVIPルームに夕香を連れて行こうとするシオンにすかさずウィルが待ったをかける。するとウィルとシオンは夕香を挟んでバチバチと激しい火花を散らす。

 

「ふむ、まさかタイムズユニバースのCEOが隣だったとは……。立ち話もなんだ。これからの試合を共に観戦するのはどうかな?」

 

 そんな場の空気を知ってか知らずか、ガルトがウィルを見やりながら声をかける。もう間もなくAブロックのセミファイナルステージも始まる。ガルトの提案にウィルとシオンはどちらか片方に行くぐらいならばと渋々頷くのであった。

 

「そういえば君のメイド達もいないようだが……」

「二人揃って有給を使ってるよ。存外、二人がいないのは寂しいものだね」

 

 部屋を移動しながらふとセレナの侍女であるアルマとモニカの二人がいないことに気付く。そんなウィルの疑問にセレナはその理由を明かしつつもどこか寂しげな笑みを見せる。

 

「そう言えばさ、ウィル達のメイドさん達ってワールドメイド派遣サービスってところから来てるの?」

「その通りだが」

 

 すると今度は夕香が声をかけてくる。まさか夕香がそのサービスを知っているとは思わず、ウィルは意外そうに答えるのだが……。

 

「いや、これ見てよ」

 

 夕香が指したのは次のセミファイナルのカードだった。そこには確かにワールドメイド派遣サービスの名がある。

 

「「なっ」」

 

 そのまま興味本位でワールドメイド派遣サービスチームの詳細に目を通すウィルとセレナの二人だが、その内容に瞬く間に目を見開くのであった……。

 

 ・・・

 

≪さて、大会も折り返し。セミファイナルAブロック開始です!≫

 

 遂にAブロックのセミファイナルステージも始まり、出撃チームのガンプラとNPC機がフィールドに出現する。それと共にハルとミスターによる実況も開始される。

 

≪出撃チームは【夜は美人女将の小料理屋で“彩渡商店街”】と【あなたにお仕えしたーい♡“ワールドメイド派遣サービス”】……以上、2チームによる対戦となります!≫

 

 ハルによる個性的な紹介と共に既に彩渡商店街チームは対戦チームとなるワールドメイド派遣サービス目指しつつ障害となるNPC機達を撃破しつつフィールドを突き進む。

 

≪その小料理屋は私もたまに利用している。今度、キミも一緒にどう?≫

≪そうですねー。機会があれば是非ー≫

 

 2チームによるバトルの様子を見ながら、個人的に彩渡商店街と繋がりのあるミスターはそれとなくハルを誘おうとするのだがハルは気に留める事もなく聞き流したような返答だ。

 

「メイドさんかー。一矢は好きだったりするの?」

「……好きでも嫌いでもないけど」

 

 対戦チームとなるワールドメイド派遣サービスに因んで一矢にメイドが好みか否か尋ねるミサ。とはいえ好き嫌い以前にそれほど興味がないために一矢の反応はとても微妙だ。

 

「……俺がもし好きだったら、メイド服でも着てくれんの?」

「えっ!? あっ……いゃっ……そのっ……一矢がどーしても言うなら考えなくもないケド……」

 

 ふとミサの問いかけから閃いたように問い返す。もっともミサ自身、何気なく聞いてみただけで深い意味はなかったのか、途端に顔を真っ赤にさせてしおらしくなってしまっている。

 

≪主殿、私の見た目も変えられたりするのだろうか?≫

「見た目その物をってこと……? それはカドマツに聞いてもらわないとな……」

 

 すると今度はロボ太から問い掛けられる。とはいえその辺りに関しては専門的なことは分からない為に一矢は頭を悩ませてしまっている。

 

≪うむ……。ミサがコスプレなるものをするのならそれに合わせた方が良いのかと思ったのだが……≫

「……あぁ、ロボ太の見た目のままってこと……」

「って言うか、着るなんて一言も言ってないよっ!!」

 

 先程の一矢とミサのやり取りを聞いて、ミサがそのような恰好をするのなら自分も合わせるべきなのかと律儀に考えているロボ太に納得したように頷く一矢だが、堪らずミサは恥ずかしそうに叫ぶ。

 

≪──聞こえるか?≫

≪お楽しみのところゴメンね≫

 

 フィールドを進みながら、そんなやり取りをしていると、不意に外部からウィルとセレナからの通信が入ってくる。

 

「ウィル? セレナちゃん? なんで?」

≪その……なんと言ったら良いのか……?≫

≪あはは……全く持ってその通りで……≫

 

 二人はこの後に予定されているBブロックのセミファイナルステージで激突するはずだ。そんな二人が一体、どうして揃って通信を入れて来たのだろうか。そんなミサにウィルもセレナも何とも言えない表情を浮かべている。

 

≪それよりドロシーと彼女のメイド達のことなんだが……≫

「ドロシーさん達がどうしたの?」

 

 なんとも歯切れの悪いウィルは自身とセレナのメイドについて口にする。一体、ドロシー達がどうしたのだろうか、と気になったミサは続きを促す。

 

≪実は……≫

≪──そこまでですウィル坊ちゃま≫

 

 ドロシー達について話そうとするが通信の割り込みが入る。それは話題の渦中にいるドロシー自らからの通信であった。

 

≪そーそー。空気読んでよねー≫

≪そうです。我々は何ら責められる行いはしていないのですから≫

 

 続けざまにモニカとアルマも通信に割り込んでくる。一矢達からすれば、全く持って状況が呑み込めない。それでも何か話そうとするウィル達だがその前に一矢達のガンプラバトルシミュレーターに対戦チームの接近を知らせるアラートが鳴り響く。相手チームの接近に警戒する一矢達の前に相手チームが使用するガンプラが降り立つ。

 

 それは……メイドだった。

 

 10人に聞けば、その大半がメイドと答えそうなほどに彷彿とさせるガンプラがそこにいたのだ。ノーベルガンダムをベースにリボンストライカーを装着し、スカートのように垂れ下がったCファンネルの数々、暗色のカーラリングはまさにメイドと形容するほかなかった。

 

「まさか……それ操縦してるの……」

「はい、わたくしです」

 

 言葉を失い、唖然としている一矢達。いや外部から見ているウィル達もだ。箒を思わせるカラーリングのメイスを装備するメイドガンダムことサーヴィターガンダムにミサが戸惑いながら尋ねれば、やはり操るのはドロシーであった。

 

 ・・・

 

「姿を消していると思ったら……」

≪わたくし、以前より常々ガンプラバトルに興味津々でございました。坊ちゃまに内緒でこっそり秘密裏に隠れて練習を重ねていたのです≫

 

 外部からはウィルや夕香、セレナとシオン、ガルトが見ており、サーヴィターの姿を見てウィルは頭痛に悩まされる。そんなウィルに知ってか知らずかガンプラバトルを始めた理由をドロシーは口にしていた。

 

「ちょっと待って。有休を使ってるあの二人は……」

 

 とはいえ、フィールド上にはワールドメイド派遣サービスのガンプラはサーヴィターの姿しかない。少なくともまだいる筈なのだ。セレナはモニターに映るフィールドに他にガンプラの姿がないか探していると……。

 

≪どこにいるのかと聞かれれば≫

≪答えてあげるが世の情け!≫

 

 しかしセレナが探している人物達は自分達から名乗り出て来た。すると上空から二つの何かが飛来してくる。

 

≪世界に愛を振りまくため!≫

≪世界に愛をもたらすためッ≫

 

 どこかで聞いた事のある口上が続くなか、リミットブレイカー達は後方に飛び退いて警戒すると、サーヴィターを挟むように二機の飛来体が降り立つ。

 

≪愛と愉快の正義を貫く!≫

≪ラブリー・チャーミーなメイド達!≫

 

 もはやこの時点でセレナもシオンも頭を抱えているわけだがメイド達は止まることなく、土煙が上がるなか遂にそのガンプラの姿を見せた。

 

 

「……えっ」

 

 

 それは……二人のセレナだった。

 

 思わず間の抜けた声を漏らし目を丸くさせているセレナの視線の先のフィールド上には間違いなく二人のセレナがいたのだ。

 

≪あるとにくすばえる!≫

 

 ういにんぐふみなをベースにガンダムバエルを思わせるMS少女的な外見を持つ白いアーマーを装備したセレナと共に自信満々にモニカの声が響き……。

 

≪セレナッガイ!≫

 

 そしてチナッガイをベースに黒猫をイメージしたカラーリングの猫耳メイドを思わせるセレナッガイがスカートの両裾を掴んで挨拶しながら操るアルマも声を上げる。

 

≪我が道駆けるメイドの二人にはっ!≫

≪Pleasure……愉悦の日々が待ってるぜッ≫

 

 言葉を失っているセレナにどう接して良いか悩んでいるシオンとウィル達。しかしアルマもモニカも一切悪びれることなくむしろ堂々と二人のセレナは背中を合わせる。

 

≪≪なーんてねっ♡≫≫

 

 そのまま二人のセレナは抱き合いながらモニターへ向かってウインクする。二人? それとも二機? 兎に角、その出来栄えは質感にも拘っており、髪もサラサラに揺れている。白と黒のセレナは憎たらしい程可愛らしかった。

 

「……」

「お、お姉さま……」

 

 指を絡めて抱き合っている白黒セレナに放心状態の本物のセレナ。シオンは何とか声をかけようとするのだが……。

 

≪ふははははっ! どうよ、これぞ私達のお嬢様への愛の形!!≫

≪因みにアーマーの下のパンt……ボディスーツは実際にお嬢様がお召しになられているものを参考にしています≫

 

 一部の観客は喜んでいるが、ミスター達も含めて言葉を失っている。呆気に取られている状況にモニカは心底愉快そうに高笑いし、セレナッガイのスカートをふりふり揺らしながらアルマはさらりととんでもない事を口にする。

 

「お姉さま……?」

「──」

「お姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」

 

 アルマの発言にピクッと反応するセレナをシオンは心配するのだが、トドメを刺されたのかクラっと意識を失い、シオンの腕にもたれながら気絶して悪い夢を見ているかのようにうーん……うーん……と青ざめた表情で唸っている。

 

「アナタ達、こんな事をして良いと思ってますの!?」

≪何を言いますか! 見てください、この造形、このプロポーション! お嬢様への愛がなければ出来ないことですよ!≫

「お姉さまの見目でプリップリなポーズを取るのは止めなさい! そんなものは歪んだ愛ですわ!!」

 

 気絶してしまったセレナに代わって怒るシオンだが、寧ろ心外だとばかりに、あるとにくすばえるは可愛らしい表情とスタイルを強調するようなポージングを取る。モニカの言葉通り、セレナを写した様な再現度で、しかも関節部などもオリジナルのモデラー同様になるべく目立たないようにしている。兎に角、可愛らしいに尽きるのだが、シオンは真っ赤な顔で叫ぶ。

 

「お父様も何か言ってください!」

「うむ……」

 

 話にならないとシオンはガルトにも発言を求めると顎に手を添え、白と黒のセレナ達を見ていたガルトはシオンの要望で前に出る。

 

「良くやったぞ我がメイド達よォッ!! よくぞ一級の芸術品を作り上げてくれた!!! セレナに代わって礼を言おう!! さあそのまま我が愛しの愛娘の麗しさを全世界にアピールするのだ!! そしてまきしまむがるとやうるとらしおんの制作に着手するのだ!! 世界よこれがアルトニクスだああああぁぁぁぁぁーっハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!」

「お父さまああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」

 

 そのままどこから用意したのか薔薇の花びらを振りまきながら親指を立てサムズアップするとフィールド上のセレナ達もサムズアップを返してくれる。満足そうに哄笑するガルトに怒号に似たシオンの叫びが響き渡るのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

MS少女が舞い踊る

「あれって良いの……?」

「ガンプラは自由だと言うけど……」

 

 ワールドメイド派遣サービスチームの個性的なガンプラ……特にあるとにくすばえるとセレナッガイにバトルを会場は騒然となっていた。裕喜は誰に問いかけるわけでもなく声を上げると、隣で秀哉は反応に困っている。

 

「……だからと言って好き勝手やるのは良くはない筈だ」

「もっともな意見だ」

 

 ガンプラは自由だ、と言っても何をして良い訳でもないと僅かに頬を引き攣らせるアムロに同じく観客席にてバトルを観戦しているジンは頷く。

 

「きゅべれいはまーん……私はすぐにでもお作りします!」

「ローラ、私は閃いた」

「MS少年でも良いとは思わないか、少年ッッ!!!」

 

 とはいえ一部の観客は何か閃きを得ているようで、単純に可憐なMS少女に喜んでいる層とも合わせても、あるとにくすばえる達は一部には受けているようだ。

 

「これを機にえくりぷすふうかが作られちゃうんだね……」

「……お前の場合、自分で作りそうな気がする」

 

 そんな一部の観客に合わせて風香も恥じらった様子で両頬に手を当てて首を振っているが、そもそもだと碧は深い溜息をつきながら再びモニターを見やる。

 

 ・・・

 

「って言うか、なんで!? 私達に勝って、ウィル達を優勝させたいとか?」

 

 気を取り直して、ミサがメイド達の出場理由について疑問に思う。アルマやモニカはまだ分からなくもないが、ドロシーに至ってはいくら興味津々だったからと言ったとしても、わざわざ世界の強豪チームが集まるこの場にまで出てこないと思ったのだろう。

 

 ・・・

 

「ドロシー、そんなこと頼んでないだろ!? 僕は彼らと戦いたいだけだ。優勝が目的じゃない!」

 

 ミサの言葉が仮に本当だったとしたら一度たりともウィルはそんな事を望んではいない。外部からウィルはバトル中のドロシーに対して訴えかけるのだが……。

 

≪は? そんなことの為ではありません≫

 

 しかし返って来たのは寧ろ何を言っているんだと勘違い甚だしいとばかりの返答であった。

 

≪ガンプラバトルでなら合法的に坊ちゃまを殴れますよね≫

「……なんだって?」

 

 そればかりかまるで名案を口にするかのように晴々した様子で口にするドロシーにウィルは耳を疑い、もう一度、尋ねようとする。

 

≪……ドロシーさんってウィルのこと嫌いなの?≫

≪いいえ、我が主として親愛の情を感じておりますが?≫

 

 今までのウィルとドロシーのやり取りを聞いてミサは思わずそう聞かずにはいられなかったのだが、何故そう思ったのだとばかりにメイドとして当然だとばかりにドロシーは答えた。

 

≪ただ、なんと申しましょうか。坊ちゃまには嗜虐心をそそられると言いますか……。時々殴りたくなりますよね≫

「「あー……」」

 

 とはいえ、いくら敬意を抱いていても先程の言葉もあり、ドロシーは言葉を選ぼうとするのだが、やがて諦めたように素直に話すと、ミサも夕香も理解できるのだろう。何とも言えない声をあげ、一矢とシオンに限っては思いっきりしかも何度も頷いている。

 

「ドロシー、一度ゆっくり話をしよう」

≪は。それは構いませんが大会が終わってからお願いしますね≫

 

 夕香も含めて大体がドロシーの言葉に異を唱えていない為、表情を引き攣らせながらドロシーに話し合いを提案するウィルだが、今はバトルで忙しいのだとドロシーからの通信を切る。

 

 ・・・

 

「こっちも忘れちゃだめだよ!」

「……忘れたくても忘れられるか」

 

 するとリミットブレイカーへあるとにくすばえるがバエルソードを突き出しながら襲い掛かってくる。カレトヴルッフで受け止めながら一矢はモニカの発言にすかさずツッコミを入れる。

 

 そのまま押し返して、損傷を与えようとするのだがその前に下方からビームがリミットブレイカー達の間に放たれ、距離を開ければ、そこにセレナッガイも入ってくる。

 

 そのまま二機?は同時に飛び出し、リミットブレイカーへ鮮やかな連携をもって攻撃をどんどんと強めていくと、やはりリミットブレイカーは圧されてバエルソードとビームサーベルの一撃を同時に受けて吹き飛んでしまう。

 

「可愛いだけじゃないんだなぁ」

「そんなところもお嬢様を再現してしまうとは……」

 

 バエルソードを肩に担ぎながら本物のセレナはしないようなニシシとした笑みを浮かべるあるとにくすばえるとやれやれと眉間を抑えるセレナッガイ。見た目こそセレナだが、ファイターの影響は強く反映されている。

 

≪アナタ達、むやみやたらに飛び回るのは止めなさいなっ!!≫

「えーっ、シオンお嬢様も随分無茶を言うね」

 

 すると外部でシオンからの抗議の通信が入り、その内容を耳にしてモニカは彩渡商店街チームを相手に無茶な注文を言ってくるとばかりに呆れているのだが……。

 

≪アナタ達が飛び回れば、そのガンプラのパンt──「ボディスーツだっての」──が見えてしまいます!≫

「大丈夫大丈夫。いくら模造品でもお嬢様のを見せびらかすような真似はしないよ」

「そうです、お嬢様の下着を知っているのは私達だけで十分です」

 

 抗議の理由を明かすシオンだがその途中でモニカの訂正が入る。確かにこれは中継されている為、下手をすると全世界にセレナの下着がどういった物なのか衆目に晒されてしまう。もっともそれは二人も分かっているのか、安心させようとするのだが……。

 

「……ですが事故は仕方ないですよね」

 

 するとリミットブレイカーからスーパードラグーンとCファンネルが放たれる。スーパードラグーンのビームを避けるあるとにくすばえるとセレナッガイだが、迫るCファンネルによって衣服状のアーマーが破れ、セレナッガイの右腰の破れた個所から僅かに赤のレース生地の何かが見える。……何かが。

 

≪一矢ぁっ!! ガンプラとはいえ、少しでもお姉さまの柔肌を晒させるのは許しませんわっ!!≫

「……お前なぁ」

≪お姉さまのパンt「ボディスーツです」……とにかく!! 下手な戦い方をしたら八つ裂きにしますわよ!!≫

 

 シオンの抗議の矛先は今度は一矢に向けられる。その内容に先程のモニカ達同様に呆れているのだが、シオンにとっては下手すればセレナの人生に関わる問題の為、アルマの訂正が入ってもなお強く叫ぶ。

 

「って言っても……」

 

 余裕があるのならば兎も角、相手はアルマとモニカであり、彼女たちが作成したMS少女はやはり世界レベルの出来栄えだ。手心を加えようにも中々思うようにはいかない。

 

「痛いです」

 

 一方でアザレアリバイブとスペリオルドラゴンによってサーヴィターを追い込んでいく。ダンスのように回転しながら腰部に垂れたCファンネルを振り回すサーヴィターをスペリオルドラゴンは閃光斬を放つことで真正面から受け止め、サーヴィターの機体がよろけたところにアザレアリバイブの射撃を受ける。

 

「やはり……一日の長がありますね」

≪無論だ。我々とて伊達や酔狂でやっている訳ではない!≫

 

 箒をイメージして作成したメイスを掃除するかのように振るうサーヴィターだが、スペリオルドラゴンの剣技の前では無力であり、メイスを宙に打ち上げられたと同時にすれ違いざまに切り裂く。いくら陰で練習してここまで来たとはいえ、それでも差はあったのか、ドロシーの言葉とサーヴィターが機能停止するのを背にロボ太は力強く答える。

 

「さて、問題はあっちだよね……」

 

 サーヴィターを撃破できたとしても、まだ問題はある。と言うよりこのセミファイナルステージで一番の問題と言ってもいいだろう。ミサはリミットブレイカーを息の合う連携によって圧倒するあるとにくすばえるとセレナッガイを見やる。

 

「大丈夫、一矢?」

「……大丈夫と言えば大丈夫なんだが……」

 

 リミットブレイカーと合流するアザレアリバイブ達。あるとにくすばえる達と対峙しながら一矢に状況を尋ねるも、一矢はもどかしそうな表情で答える。なにせこちらに関しては双方ともに下手な動きをすれば、シオンからの怒涛の抗議が入るのだ。まともなバトルは出来ないだろう。

 

≪二人とも、私に考えがある≫

 

 どう対処すべきか頭を悩ませていると、不意にロボ太が一矢トミサに通信を入れる。一か八か、一矢達はロボ太から話を聞き、その案に乗るように頷くとあるとにくすばえる達が再度襲い掛かったのを皮切りに散開する。

 

≪これ以上の勝手はさせん!≫

 

 あるとにくすばえるのバエルソードを受け止めたスペリオルドラゴンは反発するようにあるとにくすばえるを跳ね除け、スペリオルドラゴンの性能とロボ太の技を併せた力で渡り合う。

 

「……やはり武装の少なさがネックですね」

 

 一方であるとにくすばえると連携を取ろうにもアザレアリバイブの射撃とリミットブレイカーのオールレンジ攻撃によって追い詰められるセレナッガイ。この状況下にアルマの表情は渋く、あるとにくすばえると共に必要最低限の武装しかない為に勢いで押されれば苦戦は免れなかった。

 

 しかしリミットブレイカー達はそれで勝ちを譲るわけにはいかない。リミットブレイカーとアザレアリバイブが覚醒を発現させると、攻撃の勢いを更に強めていく。やがてその勢いはアザレアリバイブの掩護と共にリミットブレイカーとスペリオルドラゴンの猛攻に少ない武装では流石の二人も追いつく事が出来ず、あっという間に形成委は不利となり、後方に吹き飛んであるとにくすばえるとセレナッガイはその身をぶつけ合う。

 

≪今だ、二人とも!!≫

 

 身と身をぶつけ合ったあるとにくすばえる達を見て、スペリオルドラゴンはリミットブレイカーとアザレアリバイブに声をかけると二機は同時に頷き、覚醒の一太刀と砲撃を同時に放って、あるとにくすばえる達を飲み込んでいき、撃破する。

 

≪彩渡商店街、見事にファイナルステージに進出です!!≫

 

 前代未聞の波乱が巻き起こったセミファイナルステージだが、何とか彩渡商店街チームの勝利を持って終了し、ハルの言葉で締めくくられるのであった。

 

 ・・・

 

「あぁ……わたくしの夢が……」

「……安心しろ。アンタの夢は俺が受け継ぐ」

 

 勝利を収めた彩渡商店街チーム。敗れてしまったドロシーはここまで来て潰えてしまった自分の夢に跪いて嘆き悲しんでいるとそっと彼女の肩に手をかけて一矢なりに励ます。この部分だけ切り取れば良いシーンなのかもしれないが内容はウィルを殴るというものではあるが。

 

「さて……このタイムズユニバースEROをどうしてくれようか」

 

 一矢はそのまま様子を見に来たウィルをジトッとした目で睨むように見やる。近くには夕香に近づけさせまいとシオンがおり、ウィルに噛みつかんばかりに警戒している。

 

「なにか忘れてると思ったら、やっぱり俺の妹を攫いやがったな」

「人聞きの悪い事を言う。彼女も嫌がってなかったよ」

「そもそも夕香は裕喜達と一緒にいた筈ですわ。それをわざわざ……」

 

 すると一矢はウィルに向き直り、募る苛々の中でなるべく平静を保ちながらウィルに声をかけると、ウィルも先程、夕香を迎えに行った際のことを口にする。一矢とウィルの言い合いが始まるかと思いきや、そこにシオンも入って来た。

 

「……無理を言ってでも夕香は選手控室に連れてく」

 

 そのまま夕香に歩み寄って一矢は彼女の手を掴み、夕香を連れて行こうとするのだが……。

 

「あそこよりもVIPルームの方が居心地は良いだろう? だからこのまま僕の……」

 

 それに待ったをかけたのはウィルだった。空いている右腕を掴む。

 

「あらVIPルームでしたら、わたくし達の部屋に招待しますわ。それならば一矢も安心でしょう? 第一、男女が同じ部屋にいると言う事自体……」

 

 更に夕香を背後からその下腹部に手を回し、抱き寄せながら一矢とウィルに言い放つのはシオンだった。

 

「……鬱陶しい」

 

 半ば体を拘束され、身動きが取れない状況に夕香は顔を顰める。とはいえ自分が下手なことを口にすればそれはそれで面倒事になるだろうし、そもそもこの状況で何か話すのも面倒臭い。夕香は観念したように流れに身を任すのであった。

 

「あーあ、世界にお嬢様旋風を巻き起こす絶好の機会だと思ったんだけどなー」

「趣味に走って必要最低限の武装しか用意しなかったのがいけなかったのかもしれないわね。とはいえセミファイナルまで来たのだから世界にお嬢様の可憐さはアピールできたかと」

 

 そんな夕香達を他所に勝利を逃してしまったモニカとアルマは残念そうに肩を落としていた。しかし彼女達もセミファイナルステージまで来たのだ。ここまで来れば十分であろう。

 

「満足そうで何よりだ」

 

 そんな彼女達の背後から彼女たちにとって聞き覚えのある可愛らしい声が届き、同時に肩をがっしりと掴まれる。

 

「さて、少しお話ししようか?」

 

 振り返ってみれば、そこには天使のような愛らしくも貼り付けたような笑みを浮かべるセレナが、しかしその背後には悪魔のような禍々しいオーラを放っている。目を覚ましたのだろうか? いやそんなことよりを考えるまでもなく二人は連れて行かれる。

 

 ・・・

 

「まっ……こんなところかな」

 

 選手控室に場所を変えてから暫く。コホンと咳払いをするセレナ。目の前には正座するような形で座るアルマとモニカが。二人とも完全に表情は青ざめており、目尻にはうっすら涙も浮かべて震えている。

 

「じゃあ……これは没収ね」

 

 そんな二人をさておいて、セレナはあるとにくすばえるとセレナッガイを回収する。アルマとモニカはそれは止めて欲しいと口に出そうとした瞬間、セレナの有無を言わさぬ笑顔を見せられて黙っている。

 

「それをどうするつもり、かな……?」

「まさか破壊したりとか……」

 

 ならばせめてそのガンプラをどうするか知っておきたい。二人はおずおずとそのガンプラ達がどうなってしまうのか尋ねる。

 

「別に。特に何かをするって気はないよ」

 

 しかしセレナはあっけらかんとした様子で答える。その様子から別にこのセレナを模したガンプラ達を壊したり捨てる気はないと言う事が嘘ではないと分かる。

 

「モノはアレだけど君達が丹精込めて作った物をボクが無下にするとでも? ここまでの作り込みだ。よほどの情熱がなくちゃ出来ないことだよ。モノはアレだけど」

 

 セレナは両手のあるとにくすばえるとセレナッガイをそれぞれ見やる。セレナがセレナを見ると言う奇妙な構図だが、彼女の言う通り、どちらもとても可愛らしくここまで仕上げるには簡単な作業ではないだろう。

 

 最後にふわりと柔らかい笑みを見せて、この場を後にしようとするセレナ。しかしセレナの笑顔と言葉に感銘を受けたように肩を震わしたアルマとモニカはそのままセレナに抱き着く。

 

「はいはい、二人の気持ちは十分分かったから」

 

 アルマとモニカから抱き着かれ、どちらに対しても大小と身長差があるのだが、しかと受け止めてその背中をやさしく子供をあやすように撫でる。

 

(没収されたのは残念だけど)

(これはこれで良いわね)

 

 セレナに抱き着きながら、モニカとアルマは直に感じるセレナの体温と甘い香りに笑みを浮かべる。

 

(けど、ソレはあくまでガンプラバトル用に作り上げたガンプラ……)

(そう、お嬢様は一つ見落としている)

 

 ……のだが、二人ともセレナに見えないところで非常に悪い笑みを浮かべ始める。

 

((私達がモデラーとして作り上げたぱーふぇくとせれなが存在すると言う事を!))

 

 あるとにくすばえるとセレナッガイを没収された事は惜しいが、それ以上のガンプラが実はまだ存在しているらしい。しかもファイターとして作り上げたガンプラとしてではなく、モデラーとして完成させた作品があるとのことだ。

 

(だけど、私達はぱーふぇくとせれなの完成でまだ満足しちゃいないよ)

(何れはMG、PGサイズとMSせれなプロジェクトを発展させていくのです……)

 

 しかもまだまだ野望があるようだ。二人がそんな事を考えているとは夢にも思わず、セレナは背筋にゾクリとした悪寒を感じるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

禍の刻

「大丈夫、シュウジ君……」

「見た目ほどの傷じゃないっすよ」

 

 Aブロックのセミファイナルステージが終了したのと同時刻、クロノがいたイドラコーポレーションの地下室でシュウジはカガミとヴェルと合流していた。シュウジに応急処置を行いながら彼を心配するヴェルを少しでも安心させるようにシュウジは笑みを見せる。

 

「……有益な情報はないみたいね。持って行けるデータは持っていきましょうか」

 

 そんな二人とシュウジの容態を横目に見たカガミはシュウジからクロノが座っていたと聞かされたテーブルの上のパソコンを覗いていた。とはいえ、このまま退くのも惜しく端末にコピーを始める。

 

「……あの人のあの言葉……なんだったんでしょうか」

「含みのある言葉達が気になります……。しかしそれを紐解くにはあまりに情報がない」

 

 ヴェルはシュウジに寄り添いながらもスピーカー越しに聞こえたクロノの発言について触れる。虚像、ゲーム、裏、それにまるで自分達の出自を知っているかのような発言。どれを取っても気になることだらけなのだが、その本当の意味を知ることは難しい。

 

「……少なくとも俺は一矢達が心配だぜ」

 

 クロノはこれから何をしでかすつもりなのか、どこへ向かったのかが分からない。しかし関わりがありそうな人物は分かるのか、シュウジはずっと点けっぱなしのテレビを見る。そこにはSSPG記念大会の様子が映し出されていた……。

 

 ・・・

 

 Aブロックのセミファイナルステージが終了し、後はBブロックのセミファイナルを行い、勝ち進んだチームによってファイナルステージを執り行うのみ。会場では早速、その準備が行われていた。

 

「さ……そろそろボクの出番かな」

 

 それもようやく終わり、セレナは立ち上がる。近くのテーブルには中身が飲み干されたコップが置かれており、先程、アルマとモニカが用意してくれたグレープフルーツジュースが入っていた。有休を使っていると言うのに、わざわざ自分の世話を焼こうと言うのだから物好きなものだ。

 

「「いってらっしゃいませ、お嬢様」」

 

 とはいえ尽くしてくれる従者達には応えたい気持ちはある。今、この場でそれが出来るのはガンプラバトルによって、勝利を重ね、今大会で優勝を果たす事だろう。頭を垂れて見送るアルマとモニカの見送りを背にセレナは向かっていく。

 

「お姉さま」

 

 歩を進めていると、前方にはセレナを待つシオンと……ガルトの姿が。ガルトを認識した瞬間、一瞬顔を顰める。そんなセレナに気づいてかシオンは前に躍り出て、自身に意識を向けさせる。

 

「御武運を……お祈りしていますわ」

「ありがとう。ボクには可愛い女神の加護があるみたいだね」

 

 セレナの手をぎゅっと握って、彼女に激励の言葉を送るシオンの我が事のようなどこか緊張した表情を浮かべている様を見て、セレナはクスリと笑うとシオンを引き寄せて彼女の頭を軽く撫でる。

 

「セッレェーナぁッ……私が言った言葉を忘れるなよ」

「……なんだったかな。あんまり思い出したくないんでね」

 

 姉妹の仲睦まじい姿にうんうんと満足気に頷いているガルトも自分なりのことばを送るのだが、シオンから一転、ガルトに冷ややかな視線を送り返しながら、セレナはシオンに別れを告げ、会場へと向かって行くのであった。

 

 ・・・

 

「やあ。来たね」

 

 選手入場口から現れたセレナに既にガンプラバトルシミュレーターの前で彼女を待っていたウィルが声をかけた。

 

「君とは昔馴染みだけど、まさかこんな日が来るとは思いもしなかったよ」

「同感だね。特に昔の君を知っているから余計に」

 

 セレナは己が使用するガンプラバトルシミュレーターの前に歩み寄りながら、このメガフロートの世界の競合ファイター達が集う大会でまさか昔から知るウィルとガンプラバトルを行う日が来るとは思っておらず、軽く苦笑交じりの笑みを浮かべるとウィルもウィルで人形のような幼少期を知る分、彼もこの状況に感慨深いものがあるようだ。

 

「君はあの頃とは違う、そして僕が仮面をつけていたように見えたあの頃とも……。今の君とのバトルが楽しみだ」

 

 一体、これから行われるバトルでセレナとどんなバトルを行えるのか心待ちにしているウィルは期待感を胸にそのままガンプラバトルシミュレーターへと乗り込んでいく。

 

「仮面……か」

 

 一足先にガンプラバトルシミュレーターに乗り込んで行ったウィル。自分もガンプラバトルシミュレーターに乗り込もうと手をかけた瞬間、先程の彼の言葉が過る。

 

『仮面を外した君に何の価値があるの?』

 

 そしてそれと同時に頭の中を過ったのは過去に幾度と数え切れぬほど見て来た悪夢の中に出て来た自分から言われた言葉。

 

『本当の君は空っぽじゃない』

 

 悪夢の中に現れた自分はいつだって人の心を見透かしたような心を抉ってくるような言葉の数々を吐いてきた。今思い出してもどれも忌々しいと言う他ない。

 

「……それでもボクはボクだ。ここにいる存在も、これからバトルを行うファイターも」

 

 もう自分を否定させるような真似はさせない。例えそれが自分自身だったとしてもだ。

 誰にも気づかれぬなか、表情にその強さを宿したセレナはガンプラバトルシミュレーターに乗り込んでいく。

 

「……行こう、タブリス」

 

 ガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだセレナは新たな翼とも言えるタブリスをセットする。天使のような美しさを持つ一方で見ようによってはどこか悪魔のような刺々しさのあるこの機体を駆って、セレナはセミファイナルステージの舞台へ飛び出して行く。

 

 ・・・

 

≪さあ始まりましたBブロックのセミファイナルステージです!≫

≪個人的に非常に気になるカードだね≫

 

 セミファイナルステージに選ばれたのは、雨の降りしきる夜の市街地ステージであった。早速、ハルとミスターによる実況が行われるなか、雨に打たれながらタブリスはセレネスを探す。

 

「……!」

 

 程なくしてセンサーが強く反応する。半ば同時に僅かに乱れた雨の動きを察知したセレナが背後に振り返ると同時にビームソードを抜き放てば、刀を振り下ろしたセレネスと鍔迫り合いとなる。

 

「お互いに近接機同士だ。下手な小細工なしで行こうじゃないか」

「凄くシンプルで分かりやすいね」

 

 鍔迫り合いとなるなか、ウィルはセレナに接触回線で話しかける。要は単純な実力によるバトルをしようと言うのだろう。機体の特徴が似通うセレネスとタブリスはそのまま幾度となく空中で刃を交わす。

 

 接近しようとするセレネスへすかさずヒートロッドを放つ。ギリギリの位置で回避したセレネスであったが既にウィルならばそうするだろうと読んでいたタブリスの突進を受けて、市街地へ落ちていく。

 

 地面に落ちる寸前に体勢を立て直し、着地したセレネスに既に同じく市街地に降下したタブリスが迫る。しかしセレネスは動じる気配もなく抜刀術のような構えを取ると、一気に刃を放ち、タブリスとすれ違う。

 

「やるね」

「君も」

 

 そのままほぼ同時に振り返ってお互いの首元に刃を突き出すセレネスとタブリス。先程、すれ違った際にお互いに一撃を入れていたのか綺麗な太刀筋によってバッサリと装甲の一部が切断されている。激しい雨が両機を打ち付け、あまりの緊張感に見る者が息を呑むなか、ウィルもセレナも余裕のある笑みを浮かべながら互いを称賛する。

 

 だが気さくな言葉とは裏腹にすぐさま刃の交わし合いが行われる。その世界最高峰のファイター同士による近接戦の、技と技がぶつかり合う、一級の殺陣や演武を見ているかのような錯覚さえ味わう。

 

「ッ」

 

 激しい剣戟の最中、タブリスから放たれたヒートロッドに刀を持つ腕部を絡めとられる。ウィルが息を呑んだ瞬間、そのまま強引に引き寄せられ、その勢いのまま蹴りを受けて近くのビルに激突する。

 

 だがタブリスがそれで攻撃の手を緩めるわけもなく、蹴りを打ち込んだ瞬間にそのまま背部のレーザー対艦刀を手にするとビームソードとの二刀流にして更なる追い打ちをかけようとビルに突っ込む。

 

 ビルに打ち付けられた直後のセレネスに一機にタブリスが迫る。これで勝負が決まるのか? 一部の観客がそう思った瞬間、タブリスの刃が振り下ろされる。

 

 ──雨を打ち払うような紅い閃光が駆ける。

 

 タブリスの刃が虚空を切り、セレナが僅かに眉を顰めた瞬間、背部のウイングに損傷を受ける。どんな手品を使って、逃れたのかは知らないが何であれ目の前から消えたセレネスが背後から攻撃を仕掛けたのは事実だろう。すぐさま振り向きざまにレーザー対艦刀を振るうが既にそこにもセレネスの姿はなかった。

 

「……っ」

 

 今度は上方にセンサーが反応する。半ば反射的にシールドを構えるタブリスに紅い閃光が放った衝撃を襲い、市街地の道路に叩きつけられる。

 

「……成る程。そういうことか」

 

 レーザー対艦刀を杖代わりに立ち上がったタブリスは上空を見やる。そこには雨が降り注ぐ暗雲の空の中、確かな紅き輝きを放つセレネスの姿があったのだ。

 

「まさかこの力を一矢達以外に使う事になるとは思わなかったよ」

 

 セレナだって知っている。あれは覚醒が放つ光だ。その力の恩恵を受ければ、どれだけの力が手に入るかと言う事も。しかし切り札とも言える覚醒を使用したと言うのはウィル自身、セレナを相手に余裕がなくなっている証拠だろう。

 

「とはいえ、君が相手ではそうもいかないらしい」

「光栄だね。でもボクはその力さえも越えるよ」

 

 セレナの実力はそれなりには知っている。世界大会においても彼女は彩渡商店街チームが相手の三対一の状況下においても引けを取らないほどの実力の持ち主だ。一対一のこの状況では彼女にすんなり勝とうと言うのが、そもそもの間違いだろう。勝ちに行くのならば死に物狂いでいかなければ。

 

 対してセレナも彩渡商店街チームとぶつかった時の不安定さはなく、覚醒を発現させたセレネスを前にしても余裕のある態度を崩さない。

 

 言葉もそこそこに互いに獲物を構えて正面からぶつかり合う。もっとも鍔迫り合いになった際、力負けする可能性を考えてか、刃と刃を何度も打ち付けるような戦いと言った方が適切なのだろうか。

 

「……遅い」

 

 雨を払うような攻防が幾度となく繰り返されるなか、セレナが不意にポツリと零す。その瞳はセレネスの動きをしっかりと捉えているものの、どこか苛立ちを含めた言葉だった。

 

「望むモノを手に入れる為ならなんだってあげる……。ボクにはその覚悟があるんだ」

 

 やはり覚醒を発現させたセレネスを相手にするには防戦が目立ち始める。そんな状況だからこそセレナは操縦桿を強く握り締め、目を鋭く細める。

 

「だから君にも応えてもらうよ、タブリス」

 

 ここで負けるつもりは毛頭ない。世界大会の時には気付かなかったが、自分を見て、応援してくれる存在がいるのだ。そんな彼らに応えるためにも、そして何より今、ここにいる自分が確かに存在するんだと証明する為にも。

 

 そんな儚くも狂気染みた一面を持つ少女の願いを、捧げられた覚悟を契約に人外の力を行使させることを承諾したようにタブリスの瞳ともいえるツインアイが鮮やかに輝き、その動きも少しずつ変化していく。

 

 ゼロシステム。ウィルが覚醒を切り札にするのであれば、セレナにとっての切り札がこれだろう。覚醒に比べて、心許無い部分があるのは確かではあるが……。

 

「君にはつくづく驚かされるよ!」

 

 ウィルは驚きつつも嬉しそうに声を上げる。ゼロシステムを発動させたタブリスは勢いを巻き返し、覚醒を発動させているセレネスを相手に対等以上に渡り合っているではないか。

 

 ここまで楽しませてくれる相手をウィルは真っ先に挙げるなら一矢やミスターくらいだろう。ガンプラファイターとして、血湧き肉躍るようなバトルが出来ることに純粋な楽しさを見出しながら、互いに損傷を与えながらバトルは続けられていく。

 

 一体、どちらが勝つのかは分からない。それ程までにこのバトルはこれまで以上の熱を呼び、見る者全てを熱くさせる。手に汗握り、一挙手一投足を見逃さないとばかりに誰しもが食い入るように見つめている。

 

 しかしその熱に冷や水を浴びせられるような出来事が起きた。

 

「「ッ!?」」

 

 なんと雨雲から飛来した何かが無数のビームを放ってきたのだ。セレネスとタブリスは咄嗟に避けるも、予期せぬ乱入にウィルもセレナも驚きを隠せないでいた。

 

「一体、何が……」

「……外部からの侵入か……?」

 

 何がこのバトルに水を差したのか、セレナは攻撃の発生元ともいえる暗雲が覆う上空を見やる。すると雲の中からハッキリとは分からないものの何かの機影が降りてくるのが視認できた。その姿を見て、ウィルはかつての自分が行ったように何者かが外部から侵入してきたのかと考えたのだが……。

 

「あの機体は……ッ!!」

 

 やがてハッキリとその姿を視認した瞬間、ウィルは目を見開く。いや、ウィルだけではない。観戦している一矢達も驚いていた。

 

 毒気のあるようなカラーリングと禍々しさを感じるような外観を持ち、毒々しくモノアイを輝かせる機体……。それはかつて静止軌道ステーションの暴走の際、突如として現れたアンチブレイカーに他ならなかった。

 

 何故、ここにあの機体がいるのか、何故、乱入してきたのか、その目的が分からぬまま、雨が降り注ぐ暗雲を背にアンチブレイカーは不気味にセレネスとタブリスを見下ろすのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暗雲は広がり

≪アナタは何をするつもりなのですか?≫

 

 静止軌道ステーション……かつては未曽有の危機に陥ったこの場所にナジールの姿があった。不敵な笑みを浮かべながらコンソールを操作する正体不明の彼に制御AIがその目的を尋ねていた。

 

「このステーション、地上に落としマス」

≪おすすめしません。あなたの安全も保障できかねます≫

 

 とんでもないことを口にするナジールだが彼の様子からそれが嘘でも冗談でもないことが伺え、地球へのポイントを示したモニターを見ながら操作を進めている。しかし仮に本気でそんな事をすれば、今この静止軌道ステーションにいるナジールも無事では済まないだろう。

 

「そんなものは必要アリマセン。宇宙太陽光発電を止められればいい……。ワタシはその為に来たのデス」

 

 しかし彼は制御AIのナジールの安否を考えた言葉にさえ鼻で笑って切り捨てる。ナジールは己の命さえも投げ捨てようとするほどの覚悟を持ってここにいるのだろう。

 

 ・・・

 

≪えーっと……これは……。それに……あの機体は……≫

「アイツは……ッ!」

 

 一方、地上のメガフロートではBブロックのセミファイナルステージに突如として現れたアンチブレイカーに騒然としていた。突然の出来事に実況中であったハルがアンチブレイカーを見て戸惑う声がモニターの方から聞こえるなか、アンチブレイカーの出現に強く反応しているのは一矢であり、ミサが一矢を見やれば、かつての記憶から彼は表情を険しくさせていた。

 

「どうなってんだ……。大会の進行管理は制御AIが行っている筈……。外部からの侵入なんて……」

 

 誰しもが困惑するなか、カドマツは思考を張り巡らせる。確かに前例で言えば、ジャパンカップのエキシビションマッチの際、ウィルが外部から侵入してきた事があった。

 しかしこのメガフロートは静止軌道ステーションをコントロールする制御AIが管理している。普通に考えても制御AIの管理下を侵入するなど不可能に近い事だ。

 

 とはいえ、ここでいくら考えたところで仕方がない。カドマツは制御AIに接することが出来る静止軌道ステーションに繋がる扉へと向かい、一矢達は慌ててその後を追う。

 

 ・・・

 

≪これは一度、ログアウトした方が良いのでは……≫

 

 一方でBブロックのセミファイナルステージのフィールドでは突如として現れたアンチブレイカーをタブリスとセレネスが見上げる形となっていた。

 そんな中、実況席のハルが提案する。このような乱入があってはセミファイナルステージどころではなく、一度、セレナ達はログアウトして運営側が対応を考えた方が良いのではないかと思ったのだろう。

 

「……そうしたいところなんだけどね。どうにもそうもいかないようだ」

 

 下手に相手をするのもどうすべきかと判断し、一度運営側への対応を仰ごうと思ったのはハルだけではない。セレナも一度、ログアウトすべきか考えたのだがいくらそうしようにも筐体は一切反応しなかったのだ。筐体その物から出ようにもネバーランドのあやこの時同様にロックがかかっているようだ。

 

「……心当たりがあるようだけど?」

 

 観念して、アンチブレイカーを確認した瞬間、反応したウィルにセレナが伺う。

 

「……奴はかつての静止軌道ステーションの事件の際にウイルスと共に僕達を襲って来た機体だ……。あの時は一矢と撃破したのだが……」

 

 ウィルはアンチブレイカーに不可解そうな表情を浮かべる。実際、そうであろう。まさかこの場でアンチブレイカーに出くわすなど夢にも思うまい。

 

「……ともあれ敵である事には違いないみたいだね」

 

 あの時に……とかつてのウイルス事件を思い返すセレナ。アンチブレイカーのその目的は分からぬものの、モニターで越しにこちらを見下ろしてくるあの機体は自身に装備されたピット兵器を解放すると此方に対して差し向けてくる。獲物を求める獰猛なピラニアのようにこちらに向かってくるピット群を見て、セレナとウィルは素早く機体を動かす。

 

 あの機体が何であるのか、何を目的にこの場に侵入してきたのかは分からない。だがウィルの言うようにかつてのウイルス事件に関与していたのであれば、下手に野放しにする方が余程危険であろう。タブリスとセレネスはアンチブレイカーへと共に向かって行く。

 

「あの頃とは違うかッ!!」

 

 しかしアンチブレイカーが放つピット群はウィルの記憶に存在していた時のアンチブレイカーよりも、その軌道の精度は高くなっていた。これではアンチブレイカーに近づくことさえもままならず、ウィルは溜らず叫ぶ。単純にこのピットの精度は一矢よりも上回っているだろう。

 

 だがセレナとウィルは世界最高峰のファイター達だ。装備をビームソードから一対のレーザー対艦刀に切り替え、迫るピットのビームをセレネスと共に切り払いながら突き進んでいく。

 

 覚醒とゼロシステム。機体性能を飛躍的に向上させた二機はあっという間に挟み込むようにアンチブレイカーを囲むと同時に己が持つ獲物で斬りかかるが、受け止められてしまう。しかしそれは予想済みだあったのだろう。すぐさまタブリスはヒートロッドを叩きつけた。

 

「っ!?」

 

 しかし渾身のヒートロッドの一撃を受けてもアンチブレイカーは身じろぎ一つせずまるで鋼鉄か何かを殴った気分だ。だが直後にアンチブレイカーから一瞬のような連撃を受けてタブリス達は距離を離されてしまう。

 

「ゲームで言うところのスーパーアーマーって奴かな……? 厄介この上ないね」

「とはいえ、今の僕達には奴を相手にする以外に道はない」

 

 セレナやウィルでさえ手を焼く相手なのはこの短い時間でも理解できた。

 それに加えて攻撃を受けても影響しないのであれば苦戦するのは必至であろう。しかしただ黙ってやられるわけにもいかなければ戦う以外の選択肢はないのだ。とっくにゼロシステムも覚醒も効果を失ってしまったが、タブリスとセレネスはアンチブレイカーへ向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「えー!? 制御AIが沈黙してるっ!?」

 

 静止軌道ステーションに繋がる扉に訪れた一矢達はアンチブレイカーについて制御AIに尋ねようといくら言葉を投げかけたのだが、制御AIは何も言わず沈黙している。この状況にミサは驚愕していた。

 

「ああ。原因は分からないが、ちょっと前から制御AIが沈黙してるらしい。そのせいであの侵入してきた機体への対処が出来ないみたいだな」

 

 カドマツも何故、こうなったのかその理由を職員に聞いてきたのだろう。まさか静止軌道ステーションでナジールがいるとは思わず、この予想外の状況に一矢達は焦っている。

 

「ちょっと職員の端末から調べてみたんだが、制御AIと外部端末との間に信号をブロックするものがある。そいつをどうにかすれば何があったのか制御AIに詳しく聞けるはずだ」

 

 このままではいけない。カドマツが職員の端末を借りて調べた情報を元に原因究明にあたろうとする。一矢達は頷き、早速ガンプラバトルシミュレーターに乗り込んでいこうとする。

 

(……あの時、奴はラストステージは近いと言っていた。これが一歩手前のステージってことなのか……?)

 

 かつてGGF博物館にてウイルス騒動の解決を目指していた際に自分に接触してきた人物が言っていた言葉。突然、現れたアンチブレイカーと言い、やはりあの時の言葉が関係していると考えて良いだろう。

 

「……なんであれ受けて立ってやる。あの日以来、こんな日の為の準備はあるんだから」

 

 考えるのもそこそこに今、このメガフロートに起きている異変の解決にあたらなくてはいけない。その為にはまずカドマツが言っていたように制御AIと外部端末の間を渡る信号を妨げるブロックを何とかしなくてはいけないだろう。一矢は外部でカドマツのウイルス駆除プログラムの適用を行う為に準備をしているのを確認しながらリミットブレイカーを持つ。

 

「今はやるべきことをやらなくちゃ……。リミットブレイカー、出るッ!!」

 

 ウイルス駆除プログラムの適応も終わり、ガンプラバトルシミュレーター内のモニターが出撃を促すなか、一矢はリミットブレイカーと共に出撃していくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

身勝手な公平

 アンチブレイカーとの交戦を続けるタブリス達とは別にリミットブレイカー達は制御AIの通信をブロックするウイルスの駆除の為、電脳空間に飛び込んでいた。

 

(……またこんな戦いをしている)

 

 湧き出るウイルスを撃破しながら一矢は思いを巡らせる。リミットブレイカーもアザレアリバイブもスペリオルドラゴンも、倒しては現れるウイルスに作業とは言わないまでも対応して打ち倒していく。

 

(……俺がしたいのは、こんなウイルス駆除なんかじゃなくてガンプラバトルなのに)

 

 近づいてきたウイルスを振り向きざまにカレトヴルッフで薙ぎ払うように破壊しながら、一矢はどこかもの悲しそうな瞳でモニターに広がる電脳空間を見つめる。ここ最近、自分達がしているのはこういったウイルス駆除が多かった記憶がある。

 

 だからこそなのだろう。このSSPGの大会でのバトルは心が躍った。どれもこれも白熱しており、アキ達ネオ・アルゴナウタイやツキミ達のプライベーター選抜チームとのバトルは純粋に熱く、心の底から楽しむことが出来た。そんな心地良い時間に水を差すように今回の出来事が起きたのだ。お陰で気分は興醒めもいいところだ。

 

≪ウイルスコアを発見したぞ!≫

 

 もはやウイルスの駆除も手慣れたものだ。彼らにかかればウイルスも有象無象でしかない。次々に撃破しながら突き進んでいくと前方にコアウイルスを発見し、スペリオルドラゴンが指し示す。

 

(……今更、言っても仕方ないか)

 

 ウイルスを早急に駆除しなければ、それだけ被害が出る。今、制御AIをブロックしているこのウイルスも誰も気づかなかったからこそ、アンチブレイカーの侵入を許した。だからこそウイルス駆除も出来る人間がいるならば対応すべきなのだろう。

 

「ただ……こんなことをする奴を許すもんか……ッ!!」

 

 GGF博物館の際、自身に接触してきた相手はゲームだと言った。ならばそれをクリアして、こんなふざけたゲームは終わらせてやる。今感じているこの純粋な怒りも全部、ぶつけるかのようにリミットブレイカーはスーパードラグーンとCファンネルを解き放つ。荒れ狂う嵐の如くコアウイルスに損傷を与えていき、最後にカレトヴルッフを突き出し、一直線にコアウイルスに突撃するとコアを貫いて確実に破壊する。

 

 ・・・

 

 一方でアンチブレイカーとの戦闘にも異変が起きていた。アンチブレイカーが放った聖拳突きを掻い潜り、カウンターの要領で、遠心力を利用したヒートロッドの一撃を叩きつける。あくまでも反射的に与えた一撃であり、効果など機体もしていなかったのだが、何とアンチブレイカーの機体は大きくよろけたではないか。

 

「攻撃が……ッ!」

 

 タブリスの一撃がアンチブレイカーに初めて影響を与えたのを見たセレネスは自身もと素早く飛翔して、周囲に展開するピットへ向かって刃を走らせれば、今までの身じろぎ一つなかったアンチブレイカーが嘘のように容易く切断出来たのだ。

 

 ならばもう下手(したて)に出る必要はない。セレネスとタブリスは互いに意思疎通することはなく、だがそれでいて、それが最も最善となる行動をとる。

 

 セレネスがピット兵器を破壊しながらタブリスに向かって行くのと同時に再びゼロシステムを発動させたタブリスはレーザー対艦刀を駆使して、アンチブレイカーの動きを抑える。

 

 タブリスが放つ剣技によってアンチブレイカーが行動を抑制されるなか、それでも溶断破砕マニピュレーターがタブリスに迫ろうとする。しかしタブリスの上段回し蹴りがその矛先を逸らすと、再び覚醒してピット兵器を破壊したセレネスのその身を攻撃にするかのようなスラスターをフル稼働させた蹴りを受けてアンチブレイカーは近くのビルに叩きつけられてしまう。

 

 ビルに身を埋めたアンチブレイカーが抜け出そうとした瞬間、そうはさせまいとレーザー対艦刀を一本に連結させたタブリスが勢いつけて投擲し、ビルごとアンチブレイカーの機体を貫き、串刺しにすることによって動きを封じる。

 

「観念するんだね」

「好き放題やってくれたんだ。最後くらい潔く散りなよ」

 

 アンチブレイカーは自身を貫くレーザー対艦刀から何とか脱出しようとしている。しかしそんなことはウィルもセレナも許すわけがない。既に眼下にアンチブレイカーを見据える二機は愚者を裁くかのようにビームソードと覚醒の力を纏った刀を空に突き出すと、最大出力の膨大なエネルギーをアンチブレイカーへ振り下ろし、直後に周囲は閃光が覆い、轟音を轟かす大爆発を引き起こした。

 

「……これで終わりか」

 

 モニターを覆う閃光も漸く収まり始めた頃、アンチブレイカーは一体、どうなったのかとウィルは周囲を伺う。あれだけの膨大なエネルギーを受けたのだ。まず塵一つ残る事もなく消滅した筈だ。

 

 しかしそんな彼の予想に反することが、閃光に慣れ始めた視界に飛び込んできた。

 

 なんとアンチブレイカーはまだそこにいるのだ。とはいえ、流石にあれだけのエネルギーをまともに受けては無事で済むというわけではなかったのか、今にも崩れ落ちそうなほど朽ちており、機能停止も時間の問題であろう。

 

≪──流石、と言ったところかな≫

 

 これでふざけた茶番も終わりだろうと地上に降りた矢先に目の前の機能停止寸前のアンチブレイカーからタブリスとセレネスに通信が入り、二人は驚く。

 

≪雨宮一矢達もよく行動している。彼らがブロックウイルスを駆除したからこそスーパーアーマーは解除されたんだ。やはりゲームは段階を踏んでこそだね≫

「……覚えがある。君は……黒野リアムか」

 

 アンチブレイカーから聞こえてくる声にウィルは記憶の中から自身が買収したイドラコーポレーションの社長である黒野リアムを導き出すと肯定するかのようにクツクツとした笑い声が聞こえてくる。

 

≪君と接するのは久方ぶりかな≫

「スリーエスを洗っていたら偶然、君が出て来た。それがなければ君のことを見逃していたよ」

 

 もはや否定することもなく、クロノからの挨拶のような言葉にかつての汚れた大人達に鉄槌を下そうと躍起になっていた頃を振り返りながら口にする。

 

「……それでここに現れた目的は世界大会のバイラス達と同じなのか?」

≪君への復讐心なんてものはないよ。会社の買収は予想外だったが、それはそれで一つのゲームとして面白かったからね≫

 

 アンチブレイカーの乱入はかつての世界大会の際、バイラス達がウィルへ復讐した時と同じようなものなのかと尋ねるがそもそもクロノにとってウィルへの復讐心など元からなく自身の会社が買収された事もゲームの一つだと言ってのけるではないか。

 

≪ちょっとした協力プレイさ。建前上、私には協力している者がいてね。とはいえ、このままでは多過ぎる相手に彼は目的を叶える事もないだろう。だから私も出て来たんだ。ゲームを公平に進めるためにね≫

「協力している者だって……?」

 

 クロノの言葉から、彼が協力している存在がいる事を知るセレナ達。しかしそれがどんな人物かは知らなくとも、その目的とやらは碌なものではないだろう。

 

「随分と饒舌じゃないか」

≪言っただろう? ゲームを公平に進めると。私はどちらに対してもクリアできないようなゲームはさせないよ。公平ついでに早く雨宮一矢達と合流するなり、行動を起こした方が良い。これはタイムリミットのあるゲームだからね≫

 

 とはいえ、クロノからしてみればわざわざ協力者の存在など明かさなくても良かった筈だ。その事に触れるウィルにそれさえも神経を逆なでするように軽く笑いながら促される。

 クロノに従うのは癪だが、彼の言う通りならばこれで終わりではない。もう話す事はないとばかりに目の前で爆発したアンチブレイカーを見ながらウィル達はログアウトを行うのであった。

 

 ・・・

 

「どうだ、もう喋れるだろう?」

≪お久しぶりです、皆さん。ようこそ宇宙エレベーターへ≫

 

 一方、コアウイルスを破壊し終えた一矢達は制御AIとの接触を試みていた。カドマツの呼びかけに今まで沈黙していた制御AIから声が発せられる。

 

「そんな挨拶いらないから、何があったの?」

≪セキュリティシステムにバックドアが仕込まれていたらしく、そこから全てのコントロールが掌握されてしまいました。それを行った男性は静止軌道ステーションを落とすと言い、既にカーゴでステーションに上がっています≫

 

 何事もなかったかのように挨拶する制御AIにそんな挨拶している場合ではないだろう、とミサが制御AIに何があったのか聞いてみる。すると制御AIから一矢達にナジールが行った行動、これから行おうとする行動が知らされる。

 

≪皆さん、これは非常に危険な状態です。施設のコントロールは私の手を離れ、ステーションは落とされようとしています≫

「……じゃあ、そいつを捕まえようにもこの扉は……」

≪はい。許可か不許可かということならば許可なのですが、可能か不可能かということならば不可能です≫

 

 制御AIから知らされた情報に戦慄する一矢達。今まさに頭上の遥か彼方に位置する静止軌道ステーションが落とされようとしていると言うのだ。アニメか何かで出てきそうなあまりにも突飛なことに動揺は隠せずにいた。

 しかし事実ならば野放しには出来ない。だが施設のコントロールは制御AIから離れているのではどうにも出来ないだろう。

 

「とにかく、今すぐステーションに上がってそいつを取り押さえるしかないな。まずは地上施設のコントロールを回復だ」

 

 だがこのまま指を銜えて静止軌道ステーションが落とされようとしているのを見ている訳にはいかない。カドマツの言葉に頷いた一矢達は地上施設の回復作業を行う為、行動を始めるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天駆ける

「お姉さまっ!!」

 

 ログアウトをしてガンプラバトルシミュレーターから出ていたセレナとウィルは一矢達と合流しようと関係者通路を走っていると、ばったりとシオン達と出くわした。

 

「災難だったね」

「もう言ったところでどうしようもないさ。今はそれよりこの状況を何とかしなくては」

 

 アンチブレイカーの親友と共に台無しにされてしまったセミファイナルステージ。制御AIが沈黙していたということもあって、もはやガンプラバトルの大海どころかセレモニーの中止は免れないだろう。その事を口にする夕香にウィルは肩を竦めながらも事件解決にあたろうとする。

 

「兎に角、僕らは行くよ。何が起こるか分からない。君達は係員か何かに指示を仰いで安全な場所へ」

 

 とはいえいつまでもここで時間を浪費するわけにはいかない。ウィルは混乱を招く状況下の中で夕香達に指示を出すと、セレナと共に駆けだそうとした時であった。

 

「待ぁて、セッレェーナ」

 

 走り出したウィルの後を追おうとセレナも駆けだそうとした時、その華奢な腕を後ろから掴まれてしまった。足を止めてしまったセレナが振り返れば、ガルトがセレナの腕を掴んでいた。

 

「……何が起こるか分からない、であればお前達も我々といた方が良いのではないか?」

「……この手を離してくれないか。ボク達はこの状況を解決しなきゃいけないんだ」

 

 ウィルやセレナはこの事態を収拾するつもりなのだろうが、そもそもガルトからしてみれば何故、彼らのような子供達が解決しなくてはいけないのだろうか、このメガフロートの関係者達が解決するべき問題ではないのか、何よりウィルの言うように何が起こるか分からないのならそんな場所へは行かせられないと思ったのだろう。だがセレナからしてみれば一分一秒が惜しいのだ。

 

「悪いが僕は先に──」

 

 それはウィルも同じことなのだろう。先に駆け出して制御AIとコンタクトの取れるカーゴの発着点に続く階段に上っていたウィルは声をかけて、止めた足を動かそうとした時であった。距離があったウィルとセレナ達の間に突然、防火用などで備えられていた防火シャッターが降りて来たのだ。

 

「……ッ……。やはり何もしない訳がないか」

 

 階段を防火シャッターを挟んでセレナ達と分断されてしまった。火事も起きていたいのにシャッターが発動するなどこれもクロノが行った事と考えていいだろう。これ以上、下手な出来事に直面する前にウィルは一矢達の元へ向かう。

 

 ・・・

 

「状況はどうだい?」

 

 セレナ達と別れ、一矢達と合流したウィルは早速、状況を伺う。するとカドマツから大凡の経緯を話され、これから地上施設のコントロールを回復するためのウイルス駆除を行うことが明かされる。

 

「僕も手伝おう」

「……なら行くぞ」

 

 それならばとウィルも事件解決の為に名乗り出る。ウィルの参戦は心強く、ファイターとして素直に認めている一矢は顎でガンプラバトルシミュレーターを挿すと早速、一矢達はガンプラバトルシミュレーターに乗り込んでいき、準備が完了したものから順次出撃していく。

 

 ・・・

 

「皆さん、落ち着いて外に避難してください!」

 

 メガフロートの利用者達の避難が行われていた。防火シャッターの誤作動等は既に関係者には知られており、こちらでは一般利用者を施設の外へ誘導していた。

 

「冷たっ!?」

 

 だがこちらでも異変が起き始めていた。何とスプリンクラーも誤作動を起こし始めたのだ。激しくまき散らされる雨を受けて、避難指示を受けていた風香達にまともに浴びてしまう。

 

 何とかこの場から逃れて外に出た風香達は濡れてしまった身体を抱きながら安堵の溜息をつく。外からでもスプリンクラーの放水の様子は見え、アレ以外でもまだ施設内では多くの誤作動が起きているのだろう。

 

「……さむっ」

 

 外に出たことで少しは落ち着けるとその場で座り込んで震える風香。思わぬ誤作動でほぼ全身が濡れてしまったと考えていいだろう。呟く唇も震えており、このままでは風邪をひいてしまう可能性もある。

 

「あっ……」

 

 そんな風香の身体にふわりと上着をかけられる。その優しい感触に風香が見上げれば、そこには風香達とはぐれていた翔の姿があった。

 

「大丈夫か?」

「翔さぁん……」

 

 そのまま風香の身長に合わせて屈みながら彼女を気遣う。翔に会えたことで彼女の中で安心感が広がっていったのだろう。溜らず風香は抱き着く。

 

「何が起きているんだ?」

「……恐らくはウイルスだろうな。スプリンクラーや防火シャッターに留まらず、関係者通路などに続く一部のドアがロックされて思うように避難が進まないそうだ」

 

 風香をあやしている翔にアムロが意見を求める。ネバーランドなどのウイルス事件を経て、今回の騒動もウイルスと結びつけたのだろう。翔なりに得た情報を口にする。

 

(このままだとネバーランドのようにワークボットも誤作動する可能性があるか)

 

 混乱を招くように続けざまに起きている施設内の誤作動。このままいくとネバーランドのような事態も招いてしまう可能性がある。しかし事態を解決しようにもこの混乱の中では思うような行動がとれず、翔は歯がゆい思いをする。

 

 ・・・

 

≪ちょっと調べてみたんだが侵入してるウイルス自体は以前、バイラスが作ったものによく似ている。問題はどうやってウイルスを制御コンピューターに侵入させたのか、ということだ≫

 

 地上施設のコントロールを回復させる為、ウイルスに侵された地上施設の電脳空間へ突入した一矢達。既にウイルスが現れたリミットブレイカー達を迎撃しようと抗戦を続けながら進むなか、カドマツからの通信によって、彼の中の疑問が投げかけられる。

 

≪以前、皆さんがいらした時は静止軌道ステーション内部から直接、ウイルスプログラムをインストールされました≫

「……申し開きのしようもないよ」

≪過ぎた事です。お互い水に流しましょう≫

 

 カドマツの疑問を共に考えるように制御AIから以前起きた静止軌道ステーション暴走事件の際の事例を出される。とはいえそれはウィルにとって自分が原因となり利用されてしまったあの事件は忌むべき不甲斐ない出来事のようで謝罪を口にする言葉に自己嫌悪を感じさせる。しかしそれは制御AIが言うように既に過去のことだ。それを今更責める為に挙げたわけではない。

 

≪それはさておき。あの事件を受けて監視システムは強化されています≫

≪外からのハッキングの可能性は?≫

≪外部から私へアクセスするためのネットワークルートは隠蔽されています。ごく限られた技術者には伝えられますが、それも定期的に変更されます。可能性は限りなくゼロに近いでしょう≫

 

 話を切り替え、あの暴走事件があってから当然ながらセキュリティは強化されていると言う。それ故、なぜこんな事になったのか疑問点になってしまう。原因を一つ一つ洗い出そうとカドマツは外部からのハッキングを挙げるも不可能に近いと言われてしまう。

 

≪……ゼロじゃないのか?≫

≪正確に申し上げればゼロではありません≫

 

 だが決して不可能である、とは言っていなかったのだ。その事に気づいたカドマツが尋ねると、確かにその通りだったようだ。

 

≪先日、世界中のネットワーク通信機器がウイルスによってシャットダウンしました。この施設は地球上でもっとも重要な宇宙エレベーターです。間違いなくもっとも早く復旧したと考えられます。その時、もしもネットワークルートを監視する者がいれば、僅か数ミリ秒の間、私へ通じるルートが見つけられた筈です≫

 

 宇宙エレベーターへのネットワークルートを見つける方法。それに心当たりがあるようで、かつて一矢達も関わったウイルス騒動が挙げられた。

 

≪しかし釈明をさせていただきたいのです。そもそも完璧なセキュリティというものは……≫

≪いや分かるよ、俺も技術者の端くれだからな。その事件は心当たりがある。まさかこの為の仕掛けだったとはな……≫

 

 人によってはただ何も考えず糾弾してくると考えたのか、釈明をしようとする制御AIを制すカドマツ。そんな事はエンジニアであるかれがよく分かっている事だ。この場で制御AIを責め立てる者などいない。

 

「お喋りはそこまでだ」

 

 そんな中、フィールドを突き進むセレネスは前方を指す。そこにはコアウイルスの姿が確認できた。だがその周囲には既に多くのウイルス達が待ち構えている。

 

 しかしそれで臆するわけにはいかない。リミットブレイカーとセレネスが先陣を切るように突撃して一瞬にして前方のウイルスを蹴散らしていき、続けざまにスペリオルドラゴンとアザレアリバイブも続いていく。

 

 時間にして五分が経つか否かくらいであろう。既にコアウイルスの周囲に展開していたウイルスは撃破され、後はコアウイルスを破壊するのみだろう。

 

 コアウイルスに向かってそれぞれの獲物を構えて、突撃するリミットブレイカーとセレネス。突き刺した刃によってコアウイルスに皹が入っていき、二機が離れたと同時にスペリオルドラゴンとアザレアリバイブの攻撃を受けてコアウイルスは破壊される。

 

 ・・・

 

≪カーゴ出港準備が完了しました。押し合わず順番に乗り込んでください≫

 

 コアウイルスの破壊から数分後、漸く地上施設のコントロールが制御AIに戻った。施設内の誤作動も順に収まっていくだろう。いの一番に進めていたカーゴの出港の準備が終わり、制御AIからその事が告げられる。

 

「あの、警察に任せるべきでは……」

「……あんたの言いたい事は分かる。俺だって……こいつらを危ない目に遭わせたくない。だが、俺の作ったウイルス駆除プログラムには強いガンプラファイターが必要なんだ」

 

 準備を整え、荷物を持った一矢達はカーゴに乗り込もうとするが、その前に心配そうな面持ちのハルが声をかける。

 一矢達はまだ子供だ。セレナを止めたガルトのようにそんな彼らを危険な目に遭わせるべきではないと考えたのだろう。それは何よりカドマツも同じことなのだが、事件の早期解決の為にはガンプラバトルによるウイルス駆除が最も早く、その為のファイターが必要なのだ。板挟みのような思いにカドマツは苦い表情を浮かべていた。

 

≪既に各国の警察機構には報告済みです。しかし彼らを待っていると時間的な問題をクリアできません。あなた方に行っていただくのが現時点で最も可能性の高い手段であると考えます≫

「でも……」

 

 カドマツの解決法が最善手であると制御AIからも進言される。しかしそれでもやはり自分よりも年下の子供達を危険に晒したくはないハルは納得できないようだ。

 

 ハルは何より自分達を心配して引き下がらないのだろう。そこで自分達が大丈夫だ、何て言っても彼女は安心するのだろうか? しかしこの時間が惜しい。

 

 

 

 

 

 

 

「──マイクチェック……OK。カメラスタートだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 どうすべきか悩んでいると、エコーがかった声がこの場に響き渡る。

 

「突然ですが、こんにちは! ミスタアアアァァァァッッガンプラです! 今、再び宇宙エレベーターに危機が迫っている。それに立ち向かうのはご存知あの4人! そう、宇宙エレベーターが切断され、静止軌道ステーションが漂流することになったあの事件! それを解決したあのガンプラファイターだ!!!」

 

 何とそこにはマイクを持ったミスターがハルのマイクロドローンを使用して、勝手に中継を始めているではないか。思わぬ事態に一矢達は唖然としてしまう。

 

「ミスター、こんな時に何してるんですか!」

「そう、こんな時だ。こんな時、私に何が出来る……。現役を退いた私には彼らの代わりは務まらない……。ならばせめてベストな戦いが出来るように応援するだけだ!」

 

 このような緊迫した状況で呑気に中継なんてしている場合ではないだろうとハルはミスターに詰め寄ると先程とは打って変わって、ミスターはサングラス越しに真剣な眼差しを向けながら真面目に話す。彼もまた自分の無力さに歯がゆい思いをしているのだろう。そんな彼の想いにハルはミスターの名を口にする。

 

「これを見ているガンプラバトルファンの諸君! モニターの前に友達を連れてくるんだ! これから始まるのは……」

「──そう、人類の未来をかけた戦いです!!」

 

 再びマイクロドローンのカメラの前にミスターガンプラとして呼びかける。そんな彼に何とハルも便乗してマイクを持ったではないか。

 

「果たして世界最強の四人は正体不明の敵を倒し、宇宙エレベーターを守る事が出来るのか!」

 

 ハルもまた一矢達のように戦えないならせめて出来る事をしようと思ったのだろう。そんなハルの行動にミスターは微笑む。

 

「この一戦を!」

「見逃すな!!」

 

 無力さも全て吐き出すようにカメラ越しに熱を持ってミスターとハルは叫ぶ。

 

「ありがとう、行って来ます!」

 

 そんな彼らの行動に一矢達は胸が熱くなるのを感じる。温かく送り出そうと笑いかける二人に見送られ、ミサが代表して感謝の言葉を口にすると、一矢達はカーゴに乗り込んでいくのであった。

 

 ・・・

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

【制御AI殿】

 

 

 何故、デジタル信号なのですか?

 

 

【私のボディにはスピーカーがない。それにこっちのほうが高速だ】

 

 

 成る程、要件は?

 

 

【カドマツからどうしてもと頼まれてな。提供して欲しいものがある】

 

 

 ……?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

引き下がれない想いと共に

「静止軌道ステーション、また来れたんだね!」

「こんなことでもなけりゃ最高だったんだが……」

 

 カーゴによって静止軌道ステーションに訪れた一矢達。ステーション内には既に人工重力装置が働いており、ステーションを歩きながらミサは懐かしい光景を見渡しながら口を開く。とはいえ今は状況が状況。カドマツは重い溜息をつく。

 

「先に上がったっていう男はどこだ?」

≪ステーションがコントロール出来ないので、各種センサーやカメラでトレースできません≫

 

 気を取り直してカドマツは制御AIに尋ねる。人工重力があるのは既に人がいる証だろう。しかし地上施設同様にこのステーション内はまだ制御AIにコントロールが戻っていないようだ。

 

≪──ようこそ、と言いたいところですが急いで地上に降りてクダサイ≫

 

 するとステーション内のスピーカーから先にこの場に上がったナジールからの声が響き渡る。一体、どこから話しているのかは分からないが此方の状況は向こうには筒抜けなのだろう。

 

≪アナタタチは無関係な人。危険が及ぶのは心苦しいデス≫

「誰なんだお前は! どうしてこんなことをする!?」

≪アナタタチには関係アリマセン。さあ下りてください≫

 

 ステーションを落とすと言いながら随分と勝手なことを口にする。カドマツがステーションを落とす理由を尋ねるが、ナジールは一蹴して地上に降りるように促す。

 

「そうはいかない。お前がステーションを落とすってんなら、俺達はそれを止めてやる!」

 

 ここまで来ておいて引き下がる者などいるわけがない。カドマツの強い言葉に頷く一矢達。彼らは早速、ファイナルステージ用にあらかじめ用意されていたガンプラバトルシミュレーターに乗り込みに行く。

 

「一矢」

「……なに?」

 

 大きなケースを持ってガンプラバトルシミュレーターへ向かって行く一矢にミサが声をかけた。

 

「どんな戦いが待ってても私はずっと一矢の傍で、辛いのも全部、一矢と一緒に分かち合っていくから」

 

 ミサは一矢の些細な変化も見逃さないのだろう。それはきっとこの立て続けに起きているウイルス騒動に辟易していることも。

 だからこそ自分もいると言ってくれる。彼女に一矢はああ、と短いながら微笑みを浮かべて確かに頷くとガンプラバトルシミュレーターに乗り込み、出撃する。

 

 ・・・

 

(ああ、そうだ。ミサもロボ太もカドマツも皆、ずっと近くで支えてくれている)

 

 ステーション内の電脳空間に出撃したリミットブレイカー。そしてすぐ後にはアザレアリバイブ達が続いて出撃している。それを確認しながら一矢は先程のミサの言葉を思い出す。自分は少しこの続けざまに起きるウイルス騒動に気が滅入っていたようだ。

 

(だから俺は戦える)

 

 するとリミットブレイカーを巨大な影が覆う。それに気づいた一矢はリミットブレイカーを上空に舞い上がらせれば、そこには巨大補助兵装・ミーティアの姿が。ミサ達が驚くなか、リミットブレイカーはミーティアとのドッキングを果たす。

 

「だからこそ俺は……飛べる!」

 

 既にウイルスは姿を見せており、一矢はその真紅の瞳で鋭く見据える。

 クロノとの接触もあり、いつかは分からなくともウイルスの警戒はしていた。こんな日の為の準備、と言うのも大会に使う目的がなくともミーティアが入ったケースを持ってきたのだ。向かってくるウイルスにウェポンアームに備わるビーム砲を放ち、遂に火蓋が切って落とされる。

 

≪ミスターじゃないが、俺もお前達にこんなことをさせるのは大人として不甲斐ないと思ってる。だが、俺にガンプラはうまく扱えない……。頼ってばかりですまんな≫

 

 ミーティアの投入もあって、モニターを覆うほど出現を始めたウイルス達の数に負けぬほどの戦いを繰り広げる。そんな中、カドマツの通信が入り、彼から己の弱さと共に謝られる。一矢達を危険な目に合わせていると言うのは、何より彼が一番分かっている事なのだろう。

 

「なに言ってんの! 宇宙エレベーターは私達にも大事なものでしょ!」

≪その通りだ、我らの未来を守る為。何を厭うものか≫

「うちの会社も出資してるしね。黙って見てられないよ」

 

 だが、ミサ達はそもそもそんな事は気にしていないとばかりに明るく答えてくれる。

 

「……それに感謝してる。俺達が好き勝手しているウイルスと戦えるのはカドマツのお陰だから」

≪お前ら……。そうだな……。ありがとな≫

 

 一矢もまたカドマツに感謝の言葉を口にする。この場にいる者で危険な目に合わせたとカドマツを恨む者など一人もいないのだ。そんな彼らの言葉にカドマツは涙ぐみながら彼も感謝する。

 

≪──ミスターカドマツ。あなたの言葉は知ってイマス≫

 

 ウイルスとの激しい戦いとは裏腹に温かなやり取りが行われていると不意にナジールからの通信が割り込んできた。

 

≪【宇宙時代への命綱】【みなに未来を見せてやりたい】……。なるほど素晴らしい、そしてとても美しい。ある面では、デスガ≫

≪なにが言いたいんだ?≫

≪一方的な言い分だ、ということデス≫

 

 かつて地上への中継にカドマツが必死に語ったの演説。その時の言葉に触れるナジールに眉を顰めながらカドマツは尋ねると、彼から指摘を受ける。

 

≪宇宙太陽光発電が発表されて、何が起きたかは知っていマスカ? 従来の化石燃料は役目を終えたと既に価格の急落は始まっています。今まで隆盛を誇って来た世界各国の石油メジャーも身売り先を探して必死の形相デス≫

 

 宇宙太陽光発電の発表と共にその価値を問われ始めた化石燃料。一矢達もニュースなどで何気なく聞いた事はある。

 

「ビジネスは時代に乗った者が勝つ。それが必然だ」

≪それは時代に乗れた者の言い分デス。あなたも経営者なら分かる筈だ。自分に従って来た者達に対する責任というものが≫

「君もそうだと?」

 

 だがそれはいつの時代でも同じことだ。ウィルの言葉にナジールもウィルの立場ならそう言うだろうとすぐさま切り返して顔を顰めさせる。

 

≪ワタシの国は石油を採ることで生きている。それもサウジやロシアなどとは違い、とても僅かな……。人口数万の小さな国……それでもヨカッタ。しかし砂漠に囲まれたその国で石油の価値が失われタラ、それは死刑宣告と同じデス。アナタタチが夢見た未来……それはわたしたちにとっては悪夢ダ≫

 

 今でも思い返す事が出来る。楽しかった日々、豊かとは言えなくともどれも色鮮やかな思い出だ。だがそれも太陽光発電によって過去のモノになろうとしているのだ。

 

≪ミスターカドマツ。あなたのような技術者や科学者たちはいつも言うのデス。明るい未来、輝かしい未来、と……。未来と言う光は確かにアルのでしょう。それは否定しません。しかしその強い光に向かうアナタ達の背後には深く暗い影が落ちているのに気づいてイナイ……。私達はその影の中で未来の姿を見る事は出来ナイのです!≫

 

 光に向かうものがあれば、影と言うものは出来る。その影が大きくなればなるほどそこから抜け出すことは難しい。未来と言う光を受けることは出来ないのだ。

 

≪……確かにこれまでの歴史上、生み出された技術で多くの不幸が生まれた事は否定しない。俺達みたいな技術屋はバカばっかりだ。目の前にある可能性に飛びつかずにはいられない……。

 

 でも俺は科学や技術が必ず人を幸せにするって信じてるんだ。時に大きな過ちを繰り返し、人から恨まれるかもしれない。それでも俺は科学の力を信じて前に進む……。

 

 そこで立ち止まってしまえば、俺が落とした影に一生光は当たらない……。諦めずに進み続けるからこそ、いつか影だった場所にも光が当たるんだ!≫

 

 ナジールの言葉はエンジニアであるカドマツにとって思うところがあるのだろう。だがだからこそ今までの歩みをここで止めるわけにはいかない。ここで止まってしまえば払った犠牲が報われない、落としてしまった陰に光を与える事が出来ないのだ。

 

「カドマツ、私も信じるよ!」

 

 アザレアリバイブがメガキャノンによって迫るウイルスを焼き払うなか、カドマツの真摯な言葉にミサは同意する。

 

≪私もだ!≫

 

 それはロボ太も同じだったようだ。閃光斬によって黄金の竜の如し、突進が敵を貫いていく。

 

「相変わらず人をその気にさせるのが上手い」

 

 そしてウィルも。軽口交じりにセレネスはすれ違いざまにどんどんウイルスを切り裂く。

 

「きっと……そんなカドマツ達が作る技術ならいつか影を払う事も出来るよ」

 

 リミットブレイカーからスーパードラグーンとCファンネルが展開され、Cファンネルがウイルスを切り裂きだしたと同時にミーティアの全武装を解放して上方を覆うウイルスを全て撃破した一矢はカドマツに穏やかな表情で微笑む。

 

「ッ!」

 

 まさに自分達を覆う影を払うようにウイルスに侵されたセキュリティシステムを破壊していく。電脳空間の奥地に進んで行くと不意にミーティアを狙った高収束ビームが放たれ咄嗟に回避するが、ミーティアの右側のウェポンアームが貫かれる。

 このままでは誘爆の可能性もある為、すぐさまミーティアから切り離しながらはビームの発生源を見やる。

 

「──やはりセキュリティシステムだけではあなた達を排除できない」

 

 すると同時にセンサーが鳴り響き、前方にデータが構築し終えた機体がいるのだ。それはミーティアを装備したリミットブレイカーに劣らないほどの巨大で堅牢な装甲を持つ機体で一矢達は息を呑む。

 

「ワタシの手で何とかします!」

 

 それはガンダムTR-6[ウーンドウォート]・ダンディライアンⅡであったのだ。

 同時に響き渡るナジールの声。あの機体を操っているのはナジールと考えていいだろう。同時にTR‐6・DⅡからの攻撃と共に戦闘が開始されるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未来という光

「凄いの出て来た!」

≪これはTR-6か!≫

 

 TR-6・DⅡが現れたと共に襲いかかる。予想もしていなかった機体の登場に誰しもが驚く。アザレアリバイブの攻撃が弾かれる様を見ながらカドマツも驚愕していた。

 

「ワタシは負けられないのです。愛する国民の為にも!!」

「キミは……もしかして王族か何かなのか!?」

「その身分は既にありません。国籍も名前も全て……。ミスターバイラスにお願いしてネ。今ワタシがしていることは彼らにとって何も関係ナイ事になるのです!!」

 

 TR-6・DⅡの激しい攻撃は今のナジールの想いを表したかのようだ。何とかTR-6・DⅡの射撃攻撃を回避し、反撃を試みながらもウィルは今のナジールの言葉に彼の出自を推測する。どうやらそれは当たっていたようで、しかも王族の身分を捨ててまでこんな事をしていると言うのだ。

 

「そこまでして……。国の人はキミがこんな事をするのを喜ぶのか!?」

「……痛いところを突きますね。彼らはきっとやめろと言うでショウ」

 

 そこまでの覚悟を持って宇宙エレベーターを落とそうとするナジールだが国の残された者達はどう思うと言うのだろう。ナジールがそこまでしようとするのだ。決して悪い人々ではないのだろう。ウィルの指摘にナジールは苦々しそうな表情を浮かべる。

 

「でも、そんな彼らだからこそ何とかしてあげたい……。毎日共に汗を流し生きて来た彼らは皆、大切なファミリー。必ず守ってみせます!!」

 

 ウィルの指摘に寧ろそんな人々だからこそ王族として、何より一人の人間として何とかしたいのだろう。たとえそれが人類の英知を、未来の光を奪ったとしても。

 

「譲れないのはこっちだって同じことだ……ッ」

 

 TR-6・DⅡから距離を置くセレネス。間髪入れずにミーティアからの攻撃がTR-6・DⅡを襲う。並みのガンプラならば兎も角、ミーティアの存在は脅威となるのだろう。

 すかさず対象をミーティアに切り替え、TR-6・DⅡとミーティアの巨大兵器の戦闘が繰り広げられる。

 

「何故デス! 例え宇宙エレベーターがなくともアナタ達の生活は変わらない、これまで通りデショウ!」

「こんなものを落とせば被害が出る。例え生活圏でなくともな……! あの星に住む以上、何も変わらないなんてないんだ!」

 

 ウインチ・キャノンをワイヤーによって遠隔制御しながらミーティアに差し向ける。全て回避することは叶わず、ミーティアにも損傷を受けるなか、それでも一矢はナジールの言葉に負けじと叫び、ミーティアの至近距離で大火力を叩きこむ。

 

「俺は漫画の主人公じゃない……。全てを救う事も出来ない! ならせめて……俺が信じるモノの為に……俺が抱いている希望の為に戦う!!」

 

 TR-6・DⅡの巨体が揺らめいた瞬間に薙ぎ払うように振るった最大出力のビームソードによって大きな損傷を与える。すぐにバランスを崩しながらもTR-6・DⅡからの攻撃を密着した距離で受け、ミーティアは大破に追い込まれる。

 

≪行くぞ、遅れるな!!≫

「僕に言ってるのかい!」

 

 だがミーティアのお陰でTR-6・DⅡに隙が出来た。すぐさまロボ太が近くのウィルに声をかけると、スペリオルドラゴンとセレネスは同時にTR-6・DⅡに向かっていく。

 

 ミーティアから離れ、距離を置くように飛びあがりながらセレネスとスペリオルドラゴンを迎撃するTR-6・DⅡだが二機は軽やかに避けて、共に刃を突き出して流星の如き突進でその堅牢な装甲を貫く。

 

「くそっ、まとわりつくナ!!」

 

 深々と刃を突き刺し、TR-6・DⅡにとりついたセレネスとスペリオルドラゴンをその巨体を大きく旋回させて、舞い上がることで振り払う。

 

「私達も!!」

 

 今なら隙となる筈だ。ミーティアの近くに飛んできたアザレアリバイブはリミットブレイカーに手を伸ばすと二機は同時に覚醒して、残った左側のウェポンアームから天を貫くほどの巨大なエネルギーの刃を形成する。

 

「回避……いいや! 押し通る!!」

 

 その膨大なエネルギーはすぐにナジールも気づいたのだろう。回避しようにも逃れる事は難しくならば正面からその発生源であるリミットブレイカー達へ向かって行くと切り返して突進する。一矢達とナジールは重なるように咆哮をあげ、二つの巨体は真正面からぶつかり合い、轟音と共に周囲を閃光が覆う。

 

「──……ッ……。あいつは!?」

 

 覚醒の力を全て攻撃手段に変えたことでミーティアは耐え切れず、爆発しようとする。すぐにリミットブレイカーとアザレアリバイブがミーティアから離脱して地に降り立つと、すぐにミサはTR-6・DⅡを探す。

 

「──……この程度でやられるくらいなら、こんなところまでやっては来ません!!」

 

 爆炎が立ち上るなか、その中には一機のガンダムがいた。ガンダムTR-6[ウーンドウォート]だ。

 ダンディライアンⅡの部分は失われたようだが、いまだMS形態は無事なようでコンポジット・シールドブースターを構えながらリミットブレイカー達へ向かっていく。

 

「……俺達もここでアンタを止められないなら……ここまで来た意味はない」

 

 執念を見せるナジールに一矢は真正面から向き合う。そんなリミットブレイカーの堂々たる姿に気圧されながらもTR-6はビームキャノンを放つが、リミットブレイカーはカレトヴルッフを振るってビームを弾く。同時にスーパードラグーンとCファンネルを展開してTR-6に差し向ける。

 

 何とかして回避しようと動き回るTR-6。しかし大前提としてナジールは一矢達に比べてガンプラバトルの経験などないに等しい。ビームもコンポジット・シールドブースターのIフィールドで防ぎ続けるのも最初だけで、やがて無数のCファンネルがTR-6の白く華奢な機体を傷つけていく。

 

「祖国の為にワタシは……っ!!」

 

 一機だけでも圧倒的な力を見せる一矢とリミットブレイカー。実力は天と地ほどの差がある。だがそれでも祖国の為に、家族と言える愛する国民達の為に自分はここで負けるわけにはいかない。

 

 だが負けられないのは一矢達とて同じことだ。ピットに気を取られている間に接近したリミットブレイカーのバーニングフィンガーを頭部に受けて、TR-6は大きく吹き飛び、電脳空間の地にゴム毬のように叩きつけられる。

 

「なんと……手強い……ッ!」

 

 コンポジット・シールドブースターを支えに何とか立ち上がるTR-6。しかしミサ達からしてみれば、まだ立ち上がるその執念に驚くばかりだ。

 

 だがこんな戦いは終わらせなくてはいけない。TR-6に相対するリミットブレイカーは静かに歩を進める。もう言葉は必要ない。言葉で言いあったところでこの戦いは終わらない。ならば後は想いを、誇りをガンプラに乗せてぶつけるだけだ。

 

「しかしっ!」

 

 リミットブレイカーがカレトヴルッフを構えて向かってくる。目にも止まらぬ速さだ。だがだからといってここで引き下がるわけにも負けるわけにもいかないのだ。リミットブレイカーに対抗するようにTR-6も向かっていく。

 

 リミットブレイカーとTR-6が間近に迫り、カレトヴルッフとヒートブレードが振るわれる。ガンッと甲高い音が鳴り響くと同時に互いの機体は弾かれ合う。

 

「ぬああああああぁぁぁっ!!!!」

 

 だがそれでも何とか踏ん張ってヒートブレードを振るう。ただ我武者羅に負けるわけにはいかないと。

 

「──ッ!」

 

 振るわれたヒートブレードを僅かギリギリで避けるリミットブレイカー。ただ前だけを見つける一矢は眼光鋭く細め、すれ違いざまにカレトヴルッフの一太刀を入れる。

 

「……やはり……ガンプラバトルでは勝てませんか……」

 

 静寂が電脳空間が包む中、ナジールの呟きがただ静かに響き、リミットブレイカーの背後でTR-6は爆散するのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終わりの始まり

≪全ての機能はワタシのコントロール下に復帰しました。皆さん、ありがとうございます≫

「あの男がどこにいるのか探してくれ」

≪静止軌道ステーション全区画をサーチします≫

 

 ウイルスに侵されたセキュリティプログラムとTR-6を操るナジールを撃破した一矢達。ガンプラバトルシミュレーターを出る頃には静止軌道ステーションのコントロールは制御AIに戻っており、カドマツの指示で制御AIは静止軌道ステーション内をサーチする。

 

≪……該当の人物なし。このステーション内に該当の人物は存在しません≫

「……なんだと!?」

 

 だが返って来たのはあまりに無機質な返答。しかしここは静止軌道ステーションだ。カーゴが地上に降りたと言う報告はないし、そんな事はあり得ない筈だ。

 

≪──残念ですが、ゲームに負けただけで諦めるわけにはいかないのデス≫

 

 静止軌道ステーションのスピーカーから聞こえる制御AIとは違う声。それは紛れもなくナジールのものであった。一体、彼は何処から放しているのか、再び制御AIに指示を出そうとした瞬間……。

 

 ・・・

 

「施設コントロールに失敗した場合、その対策も考えてアリます。アナタタチが漂流するステーションから生還したニュース……。勿論見ていました」

 

 静止軌道ステーションの一角から抜け出る存在がいた。それはかつて一矢達も乗り込んだあの実物大ガンダムだったのだ。あの時とは違い、ツインアイを輝かせる姿は不気味に映る。

 

「この機体でテザーを切断した事も知っています。テザーが切断され、カウンターウェイトを失ったステーションは地球の引力で勝手に落ちていく……。ワタシはこれを落として未来と言う悪夢を振り払わなくてはナラナイ」

 

 宇宙服を着用したナジールはモニター越しに映る静止軌道ステーションを忌々しそうに見据える。このあまりに大きな影を払わなくては自分は光を見ることは出来ない。

 

 ・・・

 

≪さあ地上に下りてください。アナタタチに出来る事はもう何もアリマセン≫

「どうにかならないの!?」

「生身であれをどうにか出来るのか? 悔しいが……言う通りにするしか……」

 

 スピーカーから聞こえるナジールの声。それは絶対的優位を誇るが故の言葉だった。ここまで来てのこの結果は到底受け入れられるものではない。ミサがカドマツに何か手段はないか詰め寄るが、ここでどうこう出来る手段など持ち合わせている訳がない。カドマツはやりきれなさそうに子供達をカーゴに連れて行こうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

≪──諦めるのは……まだ早いッ!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 もう手段は残されていない。誰もが諦めかけたその時だった。スピードからロボ太の声がステーションに響き渡る。その声に一矢達は周囲を探しても、ロボ太の姿は何処にもなかった。

 

 ・・・

 

≪すまんが我々の未来……貴様の悪夢はまだ終わらん!!≫

 

 なんとロボ太は静止軌道ステーションから宇宙空間に飛び出していったではないか。誰もが驚くなか、ロボ太はガンダムと向き合い、電磁スピアを突き出す

 

「どういうつもりデスカ!? その小さな体でこの機体をどうにか出来るとでも!?」

 

 ロボ太が宇宙空間にまで現れ、立ち塞がるとは思いもしていなかった。しかし例えロボ太が立ち塞がろうとも、このガンダムを止められるとは思えなかった。

 

 ・・・

 

「なにしてるの、ロボ太!? 危ないから帰って来なさい!!」

「どうなってんだ、宇宙空間で飛行できるようになんて作ってないぞ……」

 

 ロボ太の行動は予想外も良いところだ。だが危険である事に違いはない。ミサがロボ太を呼び戻そうとするなか、そもそもトイボットとして作成したロボ太がなぜ、宇宙空間を飛行で来たのか疑問に感じてしまう。

 

≪備え付けの簡易スラスターと無重力下での姿勢制御プログラムを渡しました。あなたからのオーダーだと……。あなたがそうしろと言ったのではないのですか?≫

「あいつがそう言ったのか……!?」

 

 その答えは何より制御AIから知らされた。ステーションに上がる前にロボ太と制御AIとの間でデジタル信号で行われたやり取りだ。だがカドマツはそんな事をロボ太に言った覚えなどなかった。

 

≪……ロボ太さんはヒトの為に噓までつけるのですか≫

 

 静止軌道ステーションのモニターにはロボ太の姿が映し出されている。そう話す制御AIは心なしか驚いているようにも感じられた。

 

 ・・・

 

≪こうなることは予測できた。我々は現実の脅威に対して無力だからな≫

 

 眼下の軌道ステーションを見下ろしながら話すロボ太。以前も宇宙エレベーターが漂流した時、ガンダムが打ち上げて来られなければどうにもならなかった。だからこそ保険をかけたのだろう。

 

「ヒトの為に作られたロボットがヒトの邪魔をすることがデキるのデスカ!?」

≪出来る! ヒトの過ちを止める事もヒトの為なのだから!!≫

 

 あくまで自分の邪魔をしようとするロボ太にナジールはかつてテザーを切断した電動鋸を装備しながら切っ先を向ける。しかしロボ太は決して臆することなく電磁スピアを構え堂々と話す。

 

「過ち……? 過ちだとぉッ!?」

 

 ロボ太の言葉に自分がこれまでやってきた事を否定されたナジールは激昂しながら電動鋸を振るう。だがロボ太は間一髪避けながら、簡易スラスターを稼働させてガンダムの脇をすり抜ける。

 

「ドコですか!? 急造のコクピットモニタじゃ……!!」

 

 あくまで動かせるように作っただけで飛び回る小さな機体を捉える事は難しい。ガンダムはカメラアイを動かしてロボ太の姿を追おうとしているのだが……。

 

≪全エネルギーをくれてやるッ!!≫

 

 ロボ太は既にガンダムの死角となる場所に移動していた。電磁スピアの柄にエネルギープラグを装着し、ロボ太はガンダムのランドセル部分へ電磁スピアを構えて突進していく。

 

≪ウオオオオォォォォオッ!!!≫

 

 ありったけのエネルギーを秘めた電磁スピアがガンダムに突き刺さる。その一撃によって大きく身を反らしたガンダムは回線が壊れたようでエネルギーダウンを起こす。

 

「こんな……バカナ……。ワタシの国は……これからどうすれば……ッ」

 

 もうガンダムは今の一撃によって損傷して動けなくなってしまった。手段を失ってしまったナジールは沈痛した面持ちで嘆く。自分は全てを捨てでもステーションを落とそうとした。その結果がこれとは……。

 

≪──……例えば石油はプラモデルの原料になるそうだ。他にも使い道はあるだろう≫

 

 そんなガンダムのコクピットにロボ太の穏やかな声が響き渡った。

 

≪諦めずに考えよう。みんなに光が当たる未来というものを≫

「……アナタは信じてるのですか。そんな夢のような未来を」

≪無論だ。人が未来を夢見たからこそ私は生まれた≫

 

 ガンダムにとりついたロボ太は宇宙空間を見上げる。きっと誰もが光を当たる未来は極めて困難なことだろう。だがそれでも諦めたくないのだ。何故なら自分もこのガンダムも未来を夢見て歩み続けた人類が作り出した歩みの結晶なのだから。

 

「……なんとも説得力のある言葉デスネ」

 

 ならばもう少し、後少しでも極端な行動に走らず、自国を救える手段を考えようとナジールは穏やかな笑みを浮かべる。これで漸くこの騒動も終わりが見えて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そう思っていたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 ──爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 場所はロボ太が電磁スピアを突き刺した個所。

 

 

 

 

 

 ロボ太が与えた彼の渾身の一撃が大きな損傷を与え、エネルギーダウンどころか爆発を招いたのだろう。

 

 

 

 

 

 だが何より問題は……。

 

 

 

 

「嘘……でしょ……?」

 

 

 

 

 静止軌道ステーションでモニターを見つめていたミサの唇が震える。

 

 

 

 

 

「ロボ太あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーぁああッッッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 モニターには爆発の拍子で宇宙空間に流されるロボ太の姿が。

 

 

 

 

 

 

 誰しもが呆然とする中、ミサの絶叫が響き、モニターもロボ太を失って、ただ無情にLOSTの画面に切り替わるのであった。

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 ──…………何とも……しくじったものだ。

 

 

 

 宇宙空間を流されるロボ太。もう自分がどこにいるかも分からなかった。エネルギーの全ては先程の一撃に使ってしまい、スラスターは一基以外反応はない。もう……地球に帰ることは出来なかった。

 

 

 

 ──地球は……?

 

 

 

 周囲を見渡す。もう自分に残されたエネルギーは少ない。

 だからせめて最後に地球を……かけがえのないトモダチがいるあの星をこの(カメラ)に、記憶(メモリー)に残しておきたかった。

 

 

 

 ──主殿

 

 

 

 地球に手を伸ばす。それがロボ太の最後に浮かんだワードだった……。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

「さて……クリアしたのは雨宮一矢達だったようだね」

 

 闇夜の中、一人、ホテルの薄暗い部屋の窓からクロノは眼下に広がる街並みを見つめて呟く。

 

「では、このゲームもエンディングを迎えようじゃないか」

 

 ラストステージを前に彼はただ嗤う……。

 

 ・・・

 

 

 

 

「……よぉ、艦長。どうした」

 

 携帯を取り出しながら、シュウジは鳴り響いた電話に応答する。

 相手はルルだった。もう既にクロノから与えられた怪我は癒え始めていた。

 

≪シュウジ君……もう……タイムリミットです≫

 

 電話越しに重い口調で放たれたその言葉でシュウジは全てを悟る。

 

「……そうか」

 

 それだけ言ってシュウジは通話を切る。一人、夜空を見上げる彼の表情は誰にも分からなかった。

 




<次章予告>



…傍にいたのが当たり前だった。



別れが来る日が来るなんて思いもしなかった。



大人になっても、年を重ねても、同じ未来を見れるものだと思ってた。



でも……同じ未来を見ることは出来なかった。



俺達が見ている未来は別々のモノだったんだ。



俺は自分が思ってたよりも子供で……。



その事が受け入れられなかったんだ。



機動戦士ガンダム Mirrors 

最終章 未来を現実に変えて


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終章 未来を現実に変えて
運命のしずくは落ちて


 美しい山々に囲まれた国・ルルトゥルフ。異世界にあるこの国では、かつて大きな戦いの渦にも巻き込まれたが、それが嘘であるかのように復興が進んでおり、ルルトゥルフの象徴ともいえる王宮は確かな存在感を放つことによって、この国が健在であることを示していた。

 

「ふあぁーあ……」

 

 その王宮の一室に数人の人間が集まっており、その中で椅子に腰かけていたへそ出しのトップスの上にロング丈のジャケットを羽織った一人の女性が目の前の円卓に両足を載せて大きな欠伸をしていた。その揺らめく炎のようなオレンジ色の髪は一本一本がさらさらとした輝きを放ち目を引く。

 

「……はしたないですよ、クレア」

 

 そんな欠伸をしてうっすらと細めた目尻に涙を浮かばせた女性にこの室内にいたアレクが心底困ったようにため息をつきながら注意する。近くにはサクヤが壁に寄りかかっていた。

 

「うっせーな、遥々来てやったんだから少しは寛がせろよ」

 

 しかしクレアと呼ばれた女性は聞く耳を持つどころか、目を開き露わになった緋色の瞳を睨むようにして文句を口にする。そのままホットパンツによって大部分が露わになっている肉付きの良い足を組んでおり、その態度にはアレクが頭痛を感じているかのように頭を抑えている。

 

「アナタはシャッフルの一員なのですよ?少しは……」

「ったく、アレちゃんよぉ」

 

 この場にいる以上、慎ましさを求めているのだろう。眉を顰めたままアレクはクレアの手の甲に光るJack in diamondの紋章を見やる。そう、彼女もまたこの世界のシャッフル同盟の一員なのだ。しかし当のクレアはアレクの言葉を非常に煩わしそうに小指で耳を掻いていた。

 

「シャッフル以前に俺ァ宇宙海賊なんだよ。今更おぎょーぎ良くってのも無理な話だぜ」

「……アナタと言う人は……」

 

 自分を曲げる気はないのか、一切悪びれる事もなく円卓に用意されていたフルーツの盛り合わせの中から葡萄の一粒を千切り取り、ひょいと口に投げ入れる。その姿を見たアレクは頭痛を感じながらため息をつく。

 

「アレク、クレアに何を言っても無駄だろう」

「ドリィ……」

 

 するとクレアの横で若々しい見た目に反して武人のようにどっしりと座っていた男性が声を上げる。彼の手の甲にもクレアのようにBlack Jokerの名の紋章が浮かんでおり、彼もまたシャッフルの一員なのだろう。そんな男性の名をアレクが口にする。

 

「これがここの姫様との教養の差だ。こればかりは仕方ない」

「確かにクレアと姫様を同列には決して出来ませんね……。いえ、比較すること自体、烏滸(おこ)がましい」

 

 フルフルと分かり切った事だと首を横に振るドリィにアレクは漸く頭痛の種が取れると、考え方を切り替えるようにクレアに視線を向ける。

 

「あん? なあ、どういう意味だ?」

「クレアがバカってこと」

「はあぁっ!? てんめぇ、もういっぺん言ってみろっ!!」

 

 ドリィとアレクの態度が今一解せず、近くにいたサクヤに意味を尋ねる。もっとも聞いた相手が悪かったため、サクヤは一切オブラートに包むことはなく、寧ろ愉快そうに薄ら笑いを浮かべながら頭の近くで指先をクルクルと回すと、案の定、クレアは憤慨してドリィに食って掛かる。

 

「──ふふっ、とても賑やかですね」

 

 するとノックの後、扉が開く。室内にいた一同が視線を向ければ、そこにいたのはこのルルトゥルフで第一王女を務めるエレアナ・ラトシアーナと侍女であった。アレク達にも姫様と言われるだけあって気品と物腰の柔らかさをを感じさせる。

 

「おぅ姫さん、久しぶりだなー!」

 

 エレアナが訪れたことでアレクとドリィがすぐに畏まるなか、サクヤとクレアは一切気にした様子もなく、特にクレアに至っては久方ぶりに再会した気の知れた友人にでも接するかのようにぶんぶん手を振っていた。

 

「身の程を弁えろ。あの方はこの国の第一王女だぞ! だから貴様は馬鹿なのだ!」

「あぁ? バカっつたなこの焼き鳥野郎。バカって言った方がバカなんだよバーカバーカ」

 

 そのクレアの態度に眉を潜めたドリィはクレアに対して非礼だと怒りの言葉を吐くと、先程まで収まっていたクレアの怒りは轟々と燃え上がる炎のように膨れ上がり、ドリィを罵倒している。

 

「申し訳ありません、姫様……」

「いえ、仲が良い事は良い事です」

 

 お互いに青筋を浮かべながら罵倒し合っているドリィとクレアを見て、よりにもよってエレアナの前で醜態を晒してしまったと詫びるアレクだが、当のエレアナは一切気にした様子はなく、クスクスと笑っている。

 

「それで俺達をわざわざ集めた理由は何かな、お姫様」

 

 すると今まで成り行きを傍から見て楽しんでいたサクヤが寄りかかっていた壁から離れながらエレアナに声をかける。異世界にいるシュウジを除くシャッフル同盟がこの場に集められたのはエレアナの招集があったからだ。

 

「……皆さんはこの世界に訪れつつある未曾有の危機について知っていますか?」

 

 サクヤに本題を求められると先程まで浮かべていた柔らかな表情が消え、真剣な面持ちで口を開くと侍女の手によって室内のスクリーンが展開される。そこにはかつてルルがカガミ達に見せたターンタイプに酷似したMSらしき機影の姿が映し出されていた。

 

「これは統合政府から世界各国に極秘に伝えられた情報です。様々な憶測が飛び交っていますが、ここ最近になって地球圏に急接近しようとする動きがみられる事以外、その実態は未だ不明だそうです。調査に向かった部隊も……」

 

 サクヤ達の視線がスクリーンに注がれるなか、エレアナ自らの口から説明される。

 

「統合軍は最後まで交渉する姿勢を取りつつも、軍備を整えています。この正体不明の勢力は接触しようとする部隊を悉く壊滅に追いやっている事から恐らく……戦いは免れないでしょう」

 

 エレアナとしても出来る事なら穏便に済ませたいところだ。だが少なくとも統合軍も各国もこの勢力は危険なものだと判断しているし、エレアナ自身もこの勢力が地球に降り立った時のことを考えると恐ろしくゾッとしてしまう。

 

「心配すんな姫さん。戦いになるならぶっ倒してやらぁ」

「言葉に美しさはありませんが、私もクレアと同意見です」

 

 憂い帯びた表情を浮かべるエレアナとは対照的にリンゴをむしゃむしゃと丸かじりしていたクレアはあっけらかんとした様子で笑みを浮かべて力強く話す。クレアの態度に呆気に取られているエレアナに今度はアレクが声をかける。

 

「我々はシャッフル同盟……。世界の秩序を守ることが使命です。ならば、それに準ずるまでです」

「俺はシャッフル云々はどうだって良いけど、降りかかる火の粉は払わないとね」

 

 するとドリィもサクヤもエレアナを安心させるように口を開く。なにが待っているかは分からない。しかしこの手の紋章が輝く限りは諦めるつもりはない。

 

「私も協力できることは国を挙げて支援するつもりです」

 

 この場に集まったシャッフルの面々の言葉に勇気付けられたエレアナは微笑みを浮かべ、支援を申し出る。

 

「かつてこの国が危機に陥った時、何も関係ないのにシュウジは命懸けで戦ってくれました。私も……そんな彼のようになりたい」

 

 かつてこのルルトゥルフも戦火に巻き込まれた。だがその時、たまたま立ち寄っただけの筈のシュウジは命懸けで戦い、この国を救ってくれたのだ。あの時の彼への想いは今もまだ確かに残っている。

 

「そういや、そのシュウジの奴はどうしたんだよ」

 

 シュウジの名前が出た事によって、クレアは周囲を見渡す。そもそもこのシャッフル同盟はKing of Heartの紋章を持つシュウジがリーダーとなり纏めているのだ。だがそのシュウジはこの場にはいない。

 

「アイツもこの状況は知ってると思うよ」

 

 何やってんだよアイツはよー、と文句を垂れているクレアにサクヤは窓辺に近づきながら答える。恐らくシュウジも地球圏に迫る勢力についてはルル辺りから聞いているだろう。

 

「……だからこそ、そろそろお別れをしなきゃって事くらい」

 

 シュウジが異世界にいることをサクヤは知っている。そこでかけがえのない時間を過ごしているという事も……。だからこそ兄は弟を想う。せめて悔いが残らぬようにと……。

 

 ・・・

 

 一矢達が暮らす世界。荒廃したシュウジ達の世界と違って全てが潤ったこの世界にて翔が暮らすマンションのベランダではシュウジが一人、夜空を眺めていた。

 

「シュウジ君」

 

 そうしているとふと声をかけられる。振り返ってみれば、そこにはヴェルの姿があり振り返ったシュウジににっこりと微笑んで彼の隣に寄り添う。

 

「いつかこんな日が来るって思ってたけど……。でも案外、早いものなんだね。楽しい時間は……ってことなのかな」

 

 身を寄せるヴェルの甘い香りと温もりを直に感じるなか彼女は寂し気に呟いた。

 

「……私は……なにがあってもシュウジ君の隣にいるよ。だからこそ後悔はして欲しくない」

 

 自分達の世界に戻れば、そこでまたどんな戦いが待っているかは分からない。誰も欠けることはなく生き残るなんてことは夢のような話だ。明日は我が身な状況だからこそおの世界に後悔を残したくはない。それはシュウジに対してもだ。

 

「さようならだけはちゃんと言おうね?」

 

 全てを説明しなくたっていい。一矢達に話すべき事ではないのだから。だがせめて何も言わずにいなくなるよりも別れを告げるべきだろう。

 

「……さようならも言えない辛さと苦しさは……私達は嫌ってほど分かってるもの」

 

 ヴェルは夜空を見上げて、思いを馳せる。別れの挨拶も出来なかった者達は数え切れないほどいる。その度にどれだけの後悔と涙を流しただろうか。

 

「だから……笑顔であの世界に帰ろうよ」

 

 別れが避けられないのなら、せめてその別れの時は笑っていたい。そうすれば少なくともその別れがいつまでも心に残る苦しみになる事はないのだから

 

「……そうっすね」

 

 今まで黙っていたシュウジも漸く口を開く。ヴェルの言う通りだ。シュウジにとっても一矢達との別れはお互いにとって最高の形でしたいのだから……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心を支配するモノ

 ナジールによる宇宙エレベーターの落下を巡る騒動から暫くが経った。この騒動を起こしたナジールは逮捕され、その立役者となった一矢達だがそれを見送ったミスター達はネット上など一部の人間達によって子供を危険な目に遭わせるのを許容したとバッシングを受けていた。しかしこれに対してミスターやハル達は【人によって思う事は違うしする事は違う。これは仕方がない】と口にしていた。

 

「……はあ」

 

 確かにそうなのかもしれない。携帯端末で見たネット掲示板のミスター達に対する賛否両論の意見に思わずため息が漏れてしまう。ミスター達は気にしていないようだが、これを自室へ続く階段を昇りながら、見ていたミサは我が事のように陰鬱そうな表情を浮かべている。

 

 あれから夏休みも明け、学校も始まり、制服姿のミサは自室に入ると鞄を適当な場所において、回転チェアの上にぼすっと身を預けるように座る。

 

「ねぇ、ロボ──」

 

 ふといつもの癖か、無意識に放とうとした言葉を飲み込む。何故ならそれを口にしてももう答える者はいないのだから。ふと座っている回転チェアをくるりと動かし、自室を見渡す。

 

 ロボ太にはスピーカーがない。だから自室にいたとしても言葉を発することはなかった。だがそれでも確かにそこにいるという存在感はあったのだ。いつもいて当たり前だった……そんな存在がいなくなった風景を瞳に映せば、普段はそんなことを思いもしなかった自室も酷く色あせたものに見えてしまう。

 

 静止軌道ステーションから地上に帰って来た後も警察の聴取や病院での検査等、かつての静止軌道ステーションでの騒動を解決した後を思い出すような日々の連続から漸く落ち着いた頃だ。

 

 あれから明確に違うのは心の中に濃霧がかかったような気分というところだろうか。何もしていなくても知らずに溜息をついてしまう……そんな日々であった。

 

(……一矢は……どうしてるんだろ)

 

 しかし漸く落ち着きを取り戻したかと思えば、学校も始まってしまった。夏休み明けとはいえ、再び始まった学生生活に一矢と連絡を取ろうにも中々思うように出来なかった。そもそも一矢と自分とでは通っている学校そのものが違うのだ。接することが出来る時間そのものも限られたモノになってしまった。

 

 だが一矢も一矢で自分と同じ虚無感に襲われているのではないだろう。お陰でそれこそ毎日のように行っていたガンプラバトルをしようという気持にもなれなかったのだ。

 

 ・・・

 

「……」

 

 そんな一矢もまた聖皇学園の制服を着崩した格好で彩渡街を一人でとぼとぼと歩いていた。

 

(……ありがたいけど)

 

 一人でいるのにも理由はあった。ロボ太の一件はそれこそもう周囲には知れ渡っている。お陰で涙を流す者も多くいた。それはきっとロボ太の誠実さが齎した当然の結果なのかもしれない。ロボ太の為に涙を流し、悲しんでくれる者達がいる事は自慢でもある。

 

 だが同時にロボ太を失ったことで多くの者達がいつもよりも一矢とミサに気を遣おうとしているのだ。現に久方ぶりに聖皇学園に登校したことは良かったものの、真実達をはじめとした知り合い達にはちょっとしたことで気遣いをされている状況だ。

 

 今日も真実達にどこか遊びに行かないかと誘われたのだが、正直に言ってしまえば、その心遣いが申し訳なく断ってしまった。

 

 携帯にもツキミ達や厳也達から一矢を気遣った連絡が来るのだが、その多さから申し訳ないのだが今は個別に変身する余裕もなく落ち着くまで放っておいてしまっている。

 

 そうしているとふと一矢は足を止める。見上げた視線の先にあったのは、イラトゲームパークの看板だ。どうやら宛てもなく彩渡街を歩いていたらこの場所に流れてきてしまったらしい。夏休みの期間中はずっとこの場に来ていたからなのかもしれない。

 

(……入ってみるか)

 

 まだ家に帰ろうという気分にもなれず、かといっていつまでも宛てもなく彷徨うくらいであれば、と思ってのことであった。

 

≪いらっしゃいませ、一矢さん≫

「……ああ」

 

 イラトゲームパークは平日という事もあって、夏休みの時ほどの人混みはなかった。インフォに出迎えられた一矢はそのまま会話を続けることなく、ガンプラバトルシミュレーターに向かっていく。

 

「……あっ」

 

 どうやら先客がいたらしい。小柄で帽子を目深く被ってはいるものの、愛くるしいようなくりっとした目と視線が重なる。どうやら向こうは一矢を知っているようだが、当の一矢には覚え何てない。故にわざわざ声をかける気はない。そのまま気にした様子はなく、ドスッとベンチに腰掛ける。

 

「……バトルしないの?」

 

 ただモニターに映るガンプラバトルを眺めていた時であった。ふと先程目が合った人物の可憐な声が耳に届く。目だけ動かして見てみれば、こちらをジッと見ていた。

 

「……気分が乗らない」

 

 その通りなのだ。今はガンプラバトルどころか何をするにもやる気にはなれず、ただいつも以上に無気力な惰性の日々を送っていた。イラトゲームパークに立ち寄ったのも気まぐれとしか言いようがなかった。

 

「……あのさ、バトルしてくれない?」

 

 気分が乗らない、という言葉に少し考えたものの、程なくして自身のGPを取り出しながら、バトルの提案をされる。一矢が視線を向ければ、相変わらずあの瞳は一矢だけをジッと見ていた。

 

「折角、こうして話す事が出来たんだもん。是非、バトルがしてみたいんだ」

 

 どうやら一矢に大きな興味を持っているようだ。一矢の隣に腰掛け、ズイッとその柔らかな可愛らしい表情を向ける。一矢とバトルがしたいという想いは強いらしい。

 

「……まあ、その……無理にとは……」

「……良いよ」

 

 しかし先程言った通り、今の一矢はバトルどころか何に対しても無気力になってしまっている。流石に無理強いは出来ないとは思って身を引いて俯くのだが、何と一矢はバトルの提案を受け入れる。

 

「……何もしたくないけど、何かしなくちゃ気分が変わらない気がするし」

 

 今を自分を支配する虚無感を払う術を知らない。だが何もしないよりかは何かした方が気も紛れるのだろうか。バトルの提案を受け入れてくれた一矢にパァッと輝かしい笑顔を見せ、「ありがとう!」と一矢の両手を握って再び身を寄せる。甘い香りが耳に届くなか、一矢はそのまま手を引かれてガンプラバトルシミュレーターに向かっていくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雨と雲

「雨宮君、大丈夫かな……」

 

 憂い帯びた表情で真実が呟く。傍らには拓也と勇がおり、現行聖皇学園ガンプラチームが揃っていた。三人とも聖皇学園の制服に身を包んでおり、学校帰りなのが伺える。

 

「こればっかりはとしか……」

「まあ結局は雨宮達の気持ちに区切りがつくかどうかだしな」

 

 真実の言葉に勇も拓也も難しい表情を見せる。学園で再会した一矢は端から見ても、かなり消沈していた。だからこそなるべく気を遣おうとしたのだが、裏面に近くなっているのは拓也たちも分かっていた。

 

「……まあだからって俺達までいつまでも暗い顔してるわけにはいかねえだろ」

 

 一矢を想って我が事のように暗い表情を浮かべる真実。一矢を諦めたからといって彼に何の心配も配慮もしない訳ではないのだ。そんな彼女の横顔を見て、浅い溜息をつきながら拓也が真実を気遣って声をかける。

 

「そう、だよね。だから気晴らしをしようって話になったんだし……」

 

 拓也の言葉はもっともだ。一番辛いのは一矢達だろうし、それを自分達までが暗い雰囲気をしていたって仕方のないことだ。真実は顔を見上げた先にあるイラトゲームパークの看板を見やる。この三人でする事と言えば、ガンプラバトルと思っているからだ。

 

 ・・・

 

 一方でバトルを持ち掛けられた一矢のリミットブレイカーは今、バトルフィールドに選ばれたコンペイトウ宙域を飛行していた。

 

 宇宙空間を飛行するだけで陰鬱な気分になってくる。何故ならばあの時、ロボ太を失ってしまった日のことを嫌でも思い出してしまうのだから。このモニター上に広がる宇宙のようにロボ太は今も宇宙のどこかに流されているのだろう。どんなに手を伸ばそうとももうロボ太に手は届かない。

 

(傍にいる事が当たり前って……そう思ってたから)

 

 唐突な別れであった。しかもよりにもよってロボ太との別れを経験する日が来るなどとは思いもしなかったのだ。傍にいて当然だった存在がいなくなったその喪失感は一矢が想像していたよりも遥かに大きかった。

 

 その喪失感は虚無感に繋がり、何もしたくはないと思うほどになって無気力で時間を浪費するだけの日々を生み出してしまった。それを何よりも良くはないと思っているのは一矢自身なのだ。だからこそ持ち掛けられたバトルも受けたのだ。

 

「……来たか」

 

 バトルシミュレーターのアラートが敵機の存在を知らせる。素早くロックをすれば、此方に向かってくる機体をその目に捉える。

 

「試作2号機か……」

 

 接近する機体を見て、ベースとなったガンプラの名前を口にする。ガンダム試作2号機をベースとしたその機体は胸部に四基のメガ粒子砲を備え、背部にはGP01フルバーニアンのユニバーサル・ブースター・ポットやスラスターを装着しており巨駆でありながらも元々、かなりの機動力を持つGP02を更に上回る機動力を獲得した機体となっていた。

 

 機体名はGP0X ガンダムゼラニウム。あの小柄で可愛らしい外見を持つファイターとは真逆の巨躯の機体はギャップを感じてしまう。

 

「少しでも追いつけると良いけど!」

 

 リミットブレイカーはこれまでのゲネシスシリーズのように機動力に特出したガンプラ。並の機体では近づく事も出来ないし、捉える事も出来ないだろう。それはバトルを持ち掛けた時点で重々承知の上なのだろう。ゼラニウムはぐんぐんと加速しながらリミットブレイカーへ向かっていき、両脚部に備えられた五連装ミサイルポッドを解き放ちながら、ジャイアント・バズの引き金を引く。

 

 無数に迫るミサイルの数々がリミットブレイカーに迫るが、一矢に動揺の気配はなく、ただモニターだけを見つめていると、その静かな眼差しとは裏腹に操縦桿を動かすその腕は激しく動く。

 

「ッ……!?」

 

 ゼラニウムのモニターから一瞬の残像を残して、リミットブレイカーの姿は消え去った。リミットブレイカーはその圧倒的な高機動力を持ち味とするガンプラ。その事は分かっていた筈なのに、いざ目の前で姿を消したリミットブレイカーに動揺してしまう。

 

 しかし次の瞬間、ゼラニウムは四方八方からのビームを受けてしまう。スーパードラグーンによるものではない。リミットブレイカー自身が高速で移動しながらカレトヴルッフの引き金を引くことによって起きている事であった。

 

「でもッ!!」

 

 瞬く間にゼラニウムの耐久値が減少していく。しかしそれで諦めている訳ではなかった。ミサイルポッドを周囲にまき散らしデブリに着弾させると爆発させ、可能な限りの硝煙を発生させる。

 

「見つけた!」

 

 高速ではあるものの煙の中を突き破るように動き回る存在を確認する事が出来た。すぐにジャイアント・バズを発射しながら、リミットブレイカーの動きに牽制をかける。

 

 しかしそれでも一矢が動揺することはなかったのだが、牽制によって動きを予測して先回りしていたゼラニウムの姿を見て、初めて眉を寄せる。

 

「っ!」

 

 すぐにカレトヴルッフをソードモードに組み替えて斬りかかろうとするリミットブレイカーであったのだが、ゼラニウムは近くのデブリに体当たりをしてリミットブレイカーへ向ける。一瞬、こちらに向かってくるデブリに気を取られた一矢ではあるのだが、次の瞬間、デブリごと四基のメガ粒子砲が放たれる。

 

「ならっ!」

 

 咄嗟にアンチビームシールドを展開して真正面からメガ粒子砲を受けながら突き進むリミットブレイカー。このまま近接戦闘に待って行こうとする魂胆なのだろう。すぐに気付き、メガ粒子砲を止めたゼラニウムはシールドからビーム・トマホークを抜き出すとリミットブレイカーへ向かっていく。

 

 次の瞬間、カレトヴルッフとビーム・トマホークが真正面からぶつかり合う。互いにスラスターを全開にして、引くこともなく押し切ろうとする。

 

「……チッ!」

 

 ゼラニウムはただ真っ直ぐリミットブレイカーのみを見つめている。しかし一矢は先程からずっと宇宙空間での戦闘からか頭の中から離れないロボ太の事に歯を食いしばると薙ぎ払うようにビーム・トマホークを払い除け、そのまま上方から叩きつけるようにゼラニウムを両断して撃破する。

 

 ・・・

 

「あれ、雨宮君……?」

 

 ガンプラバトルシミュレーターをさっさと出て来た一矢だが、そこで真実達と鉢合わせする。一矢がここにいるとは思っていなかった為、驚いている真実達に一矢も何か答えようとすると……。

 

「いやー負けちゃったなー」

 

 すると一矢が出て来たバトルシミュレーターの隣の筐体からゼラニウムのファイターが軽い苦笑交じりの笑みを見せながら出てくる。

 

「って言うか、想像よりもずっと速いね。お陰で軽く目が回って……」

 

 ゼラニウムをケースにしまいながら先程のバトルを振り返る。正直に言えば動き回るリミットブレイカーを必死に追いかけようとしていた為、今も軽い目眩を感じてしまっていた。

 

「あっ──」

「危ないっ」

 

 そのせいで足もどこかおぼつかない足取りとなっており、一矢に歩み寄ろうとした瞬間、僅かな段差に足を踏み外してバランスを崩してしまう。一矢が咄嗟に動くのだが……。

 

「いたたっ……!」

 

 段差に足を踏み外した拍子に前のめりで倒れてしまった。先程まで被っていた帽子が取れ、桃色の髪の毛とおさげが露わになる。

 

「だ、大丈夫……っ!?」

「あ、ああ……」

 

 だが思っていたよりも痛みがないのは受け止めようとした一矢ごと倒れてしまったからだろう。倒れる一矢に覆い被さるような体勢の中、受け止めようとしてくれた一矢を心配すると、一矢も特に怪我はないみたいだ。

 

「……お前、またそんな可愛い女の子と……」

 

 もっとそれを傍から見ていた拓也は白い目を一矢に向けていた。小柄で桃色の髪をおさげに纏め、柔らかく愛らしい顔立ちはとても愛くるしく、拓也の一矢へ送る眼差しの中には羨みもあった。真実も落ち込んでいたと思っていた一矢とそんな一矢と遊んでいたその可愛らしい外見を見て、何とも言えない表情を浮かべている。

 

「あはは……でも、これで僕が女の子だったらラッキースケベになるのかな?」

「えっ」

 

 一矢から退きながら苦笑交じりの笑みを見せる。しかしその言葉に今、誰もが固まった。

 

「……ちょっと待て。お前……女じゃないのか?」

 

 起き上がった一矢は目の前の可憐な容姿の人物を見て、顔を顰め、動揺でわなわなと震える。何故なら、拓也のように今まで女子と思って接していたからだ。

 

「女の子なんて言った覚えはないよ。僕は正真正銘のオトコノコさ」

 

 しかし少女と思っていた人物は寧ろ何を言ってるんだとばかりに堂々と両腕を広げながら答える。中性的な外見で言えば、翔が真っ先に出てくるのだが、目の前の彼はその外見からやはり少女としか思えない。

 

「僕は南雲優陽(なぐもゆうひ)。よろしくね」

 

 そのまま己の名前を明かす優陽。軽くウインク交じりに挨拶してきたため、その外見も相まって、男と言われてもやはり目の前の人物が男だと信じられないくらいだった。

 

「大体さぁ」

「えっ」

 

 そんな一矢達を察してか、優陽はトコトコと一矢の前に歩み寄るとその手を掴むと唐突に胸部に押し付ける。半信半疑の状況で突然の行動を起こしたため、一矢は狼狽えてしまっている。

 

「こんな絶壁みたいな女の子なんてまずいないでしょ」

「おい、近くにミサはいないだろうな」

 

 一矢の手を自身の胸に押し付けながら笑顔を見せる優陽。しかし一矢はその言葉にダラダラと汗を垂れ流しながら傍らの真実達に尋ねると、彼女達はコクコクと頷いている。

 

「それよりバトルをしてくれてありがとね」

「それは別に……」

 

 自身の胸に押し付けた一矢の手を離しながらバトルを受けてくれたことを感謝して、にっこりと笑う。バトルをする分には問題はなかったため、一矢はその事を口にするのだが……。

 

「まあでも……正直に言えば、あんまり面白くなかったかな」

 

 しかし先程まで愛らしいにっこりとした笑みを見せていた優陽だが、その表情を釈然としないものに変える。

 

「バトルをしてても君は僕に集中してくれなかった。結構寂しいもんだよ?」

「それは……」

 

 優陽の言葉に返答に詰まってしまう。彼の言葉通り、ずっとロボ太の事が頭を過っていた。バトルをしているというのに相手に集中しないことがどれだけの非礼かは何よりファイターである一矢が分かっていた。

 

「でも気乗りしないのにバトルを頼んだのは僕だから仕方ないかな」

 

 とはいえ元々、一矢は気乗りしないと言っていたのだ。別に今回、一矢のバトルへの態度をこれ以上、とやかく言うつもりはない。

 

「……君の心境は何となく分かるよ。もう自分がなにをして良いかも分からないんだと思う」

 

 ふと先程まで見せていた明るい表情を潜ませ、一矢の内心を察するように言葉を投げかけると一矢は目を見開く。実際、ロボ太を失い、虚無感に駆られているのは事実だからだ。

 

「君の強さを僕は知ってる……。それは僕が持てなかった強さなんだ。だからまた見せて欲しい、君の輝きを」

 

 優陽とはこれが初対面の筈なのに、彼はずっと自分を知っているかのような発言をする。その事を不思議に思うが、優陽はこの場を後にしようと一矢の脇を通り抜けようとする。

 

「これ、僕の連絡先。何かあったら連絡して。君の為なら僕はいくらでも力になるよ」

 

 ふと懐からメモ帳を取り出し、トークアプリのIDなどの連絡先を手早く書き記すと一矢に手渡す。最後にどこか影のある笑みを見せた優陽はイラトゲームパークを後にするのであった。




南雲優陽

【挿絵表示】

性別 優陽 そんなキャラ

・・・

ガンプラ名 GP0X ガンダムゼラニウム
元にしたガンプラ ガンダム試作2号機

WEAPON ビーム・トマホーク(サザビー)
WEAPON ジャイアント・バズ(サイコザク)
HEAD ガンダム試作2号機
BODY クシャトリヤ
ARMS ガンダム試作2号機
LEGS ガンダムAGE-3 フォートレス
BACKPACK ガンダム試作1号機
SHIELD シールド(サザビー)
拡張装備 内部フレーム補強
     ニースラスター×2(両脚部)
     地上用スラスター×2(背部)
     5連装ミサイルポッド×2(両腿部)

例によって活動報告にURLがあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アップルティーの味

「ただいまー……」

 

 一矢が優陽と出会ったのと時を同じくして制服姿の夕香は自宅に帰って来ていた。学校帰りの疲れもあって、僅かに気怠そうな雰囲気を醸し出している。

 

(……イッチは帰ってきてないんだ)

 

 ローファーを脱ぎながら、ふと足元の靴を見やる。登校する際に一緒にいた一矢のローファーはない。学校終わりに一矢は足早に教室からいなくなってしまったのだ。

 

 一矢はロボ太の一件で、かつての聖皇学園のガンプラチームを脱けた時のような本当の無気力な人間に戻ってしまった。あの時はミサとの出会いが一矢を変えたが、今はその切欠となるものがない。

 

 どうにかしたいと思っていても、大切な存在を失った一矢にどう声をかけて良いかは分からず、もどかしさだけが支配する悶々とした日々が続いていた。

 

「あら、帰ってきましたのね」

 

 自室へ続く階段を昇った夕香に声をかけたのはシオンであった。彼女に宛がわれた部屋の扉は開いており、そこから声をかけて来た。

 

「ただい、ま……」

 

 部屋の入り口に手をかけ、シオンの言葉に応える。しかし先程まで気怠そうであった夕香もシオンの部屋を見てその言葉が途切れてしまった。

 

「あら、どうしましたの?」

 

 夕香のその反応が可笑しそうにシオンはクスリと笑った。夕香は複雑そうな表情を見せながら、視線を彷徨わせる。それはまるで目の前の光景を直視したくはないとばかりに……。

 

(どうしたのって……)

 

 何故なら目の前に広がる室内の光景はあまりにも質素だったからだ。それは部屋の真ん中にいるシオンが部屋の片付けと共に自身の荷物を纏めていたからに他ならなかった。

 

「……アンタは……その……もう帰る……んだよね……?」

「ええ。後、大体一週間前後で日本を発つ予定ですわ」

 

 シオンのホームステイももう終わりの時が近づいているのは分かっていた。分かっていたはずなのに、いざその時を連想させる光景を目にすると言葉を失ってしまうというのが正直なところであった。

 

「……平気そうだね」

 

 寂しくないと言えば噓になる。しかし目の前のシオンは全くそう言った様子を見せないのだ。いつもと変わらないシオンに安心はするが、それでも自分だけが寂しい想いをしているのだろうかと思ってしまう。

 

「夕香、こっちにいらっしゃいな」

 

 そんな夕香を見たシオンは僅かに考えるとベッドに腰掛け、ポンポンと叩きながら呼び寄せる。まるで妹か何かに接するかのような優しい声色に夕香は言われるがまま隣に座る。

 

「アナタと出会ってから、もうあっと言う間ですわね」

「なにさいきなり」

 

 夕香が隣に座ったのと同時にかつてのジャパンカップでの出来事を振り返り出すシオンにいきなり出会った時のことを話題に出されて夕香は苦笑してしまう。

 

「GPが滅茶苦茶とはいえ、勝つだけではなく、わたくしのキマリスを壺みたいと言ったアナタへの印象は最悪でしたわ」

「お互いさまって奴でしょ。アタシだって面倒臭い印象しかなかったし」

 

 かつてジャパンカップでの出会いを振り返り、第一印象を口にするシオンだが夕香も夕香でシオンへの第一印象など面倒くさい以外の何物でもなく、お互いの印象は散々であった。

 

「しかし、この雨宮家にホームステイすることになり、わたくしはアナタと……アナタ達と色んな時間を……様々なものを見てきましたわ」

 

 出会ったのは夕香だけではなかった。そこから裕喜や一矢達、この日本に来て、様々な人間達と出会い、色んな事を学んできたつもりだ。

 

「わたくしはアナタの様々な面を知っています。だからこそアナタをいくらでも罵倒することができますわ」

「ちょっ」

 

 シオンと過ごした日々は長いようで短い数か月間の間であった。その月日でお互いを知る事が出来た。勿論、それは悪い面も含めてだ。

 

「ですがアナタの良さも知っていますわ。だからこそライバルであるアナタがわたくし以外に好き放題言われるのであれば、わたくしは矢面に立ってでも否定して差し上げますわ」

 

 自分よりも夕香を知らないような人間に彼女を否定するような言葉があれば真っ向からそれを否定する。優しい微笑みと共に口にされたその言葉に夕香は思わず気恥ずかしさから顔を反らしてしまう。

 

「今だから言えますが」

 

 そんな夕香をクスクスと笑いながらシオンはベッドから起ち、纏めた荷物の中から何かを探し出すと夕香は何か首を傾げる。すると程なくしてシオンは探し物を見つけたようだ。

 

「何を隠そう、ゔぃだーるはこのわたくしですわ」

「知ってた」

 

 パッと振り返りながら自身の顔の前に出したのは、ンプラ大合戦の際に現れた鉄血の仮面美少女ゔぃだーるが使用していたあの鉄仮面であった。しかしあの時から分かり切っていたので、夕香は今更かと言わんばかりだ。

 

「……オホン。あの時はこれを身に着けましたが……」

 

 調子が崩されてしまったシオンは軽い咳払いをしつつ、再び夕香の隣に座ると話を続ける。

 

「今ならばこんな仮面を着けなくとも、アナタに何かあればわたくしがいの一番に助けになりますわ」

 

 あの時のシオンが仮面を着けたのは何よりシオンが夕香に手を貸すという状況をシオン自身が素直に受け入れられなかった為だ。だが今は例え何であろうとシオンはシオンとして夕香に手を貸すつもりだ。

 

「寂しくないと言えば噓になります」

 

 夕香の頬に手を当てながらシオンもどこか寂しそうに笑う。シオンだって何れ訪れる別れの日に寂しい想いを募らせているのは夕香と同じだ。

 

「ですがアナタの中にわたくしがいるのであれば、わたくし達は離れ離れにはなることはありませんわ」

 

 今でこそこうやって間近で話すことは出来ても、シオンがイギリスに帰ればそうは出来ない。しかしだからといって、お互いの存在がなくなってしまうわけではない。

 

 こうしてシオンと話せる時が来るとは思いもしなかった。だからこそ体は震え、胸は熱くなり、視界が滲み始めてしまう。そんな夕香を見て、シオンは柔らかに微笑むとそっと彼女を抱き寄せる。

 

「なに……すんのさ……」

「友が泣きそうになっているのであれば、胸を貸すくらいの度量は持ち合わせているつもりですわ」

 

 抱きしめられた体に広がるシオンの柔らかな体温と甘い香りはまさにシオンに包まれているような感覚を味わう。震える唇で尋ねれば、シオンは夕香の頭を撫でながら優しく答えてくれた。

 

「……アンタみたいな人、そう簡単に忘れられる訳ないじゃん……」

 

 夕香の中にシオンの存在は確かに根付いている。今更シオンを忘れられる訳がなかった。

 

「……アタシ……も……シオンがいなくなるのは……っ……寂しいよ……」

 

 今、夕香の頭をシオンの胸に抱いている為、彼女からは夕香の表情は見えない。だからこそなのか震える唇で放たれた言葉と共に頬に熱い涙が零れ、己の心中を明かした夕香はシオンの身体に手を回す。

 

「言いあったり騒いだりしてたけど……でもいつだって一緒にいるときは笑ってられた……。シオンの事は……本当はすっごい好きだよ……。親友だって……心から言える……」

 

 今、この瞬間のシオンの声は全て胸の中に響いている。素直に明かしてくれた彼女に応えるように己の心中を明かす。

 

「シオンになら……アタシの弱さも……隠さず曝け出せる……。アタシが辛い時はシオンが支えてくれた……。だから本当にッ……ありがとう……っ……。シオンと会えた事は……何にも代えられないよ」

 

 弱さは弱さだ。だからこそそう易々と明かせない。弱いと思われてしまうから。だからこそ夕香の弱さは一矢もウィルもあまり多くは知らない。しかしシオンは夕香の弱さを知っている。そして何より、夕香自身もシオンにならばどんな弱さも曝け出せるのだ。

 

「……この別れは一生のものではありませんわ」

 

 始めて明かれた夕香の包み隠さない自分への想いを聞いたシオンも胸が熱くなるのを感じながら、涙声を交えて夕香を強く抱きしめる。

 

「……わたくし達はまた会えますわ。こうして触れ合う事もきっと……」

 

 すぐにまた会うことは出来ないかもしれない。だがもう二度と会えないわけではないのだ。だからこそその繋がりを示すように強く抱きしめる。

 

「だからこそ、わたくしが日本を発つ時は“さようなら”ではなく、“またね”と別れましょう」

「……うん」

 

 こういう時のシオンは自分に持ち合わせていない高貴を見せるからズルいと感じてしまう。だからこそシオンに憧れてしまう部分もある。そんな事を想いながら抱きしめられた夕香はコクリと頷く。

 

「……シオンの紅茶が飲みたい」

「何を所望で?」

 

 夕香とシオンが抱き合って暫くすると、ふと夕香が口を開く。それはシオンがよく淹れてくれた紅茶が飲みたいというものであった。

 

「アップルティーが良いな」

 

 シオンのアップルティーには思い入れがある。彼女との距離が近づいた時の印象があるからだ。シオンから離れ、僅かに赤く腫れあがった目を擦りながら、柔らかに笑う。

 

「では、用意しますわ。一緒に参りましょう」

 

 アップルティーを用意する為にはリビングに行かねばなるまい。立ち上がったシオンはまるでダンスを誘うかのように窓から差し込む陽を背にして夕香に手を伸ばすと、一瞬、その姿にも見惚れたものの夕香はその手を取って立ち上がる。

 

「あっそうだ」

 

 一緒にリビングへ向かおうとした矢先、何か思い立ったようにシオンは足を止める。どうかしたのかと首を傾げる夕香であったが、シオンが手に取ったのはゔぃだーるの鉄仮面であった。

 

「これはアナタに差し上げますわ。何でしたら二代目仮面美少女を継承しても……」

「いや、それは遠慮しとくわ」

「なんでですのっ!?」

 

 ゔぃだーるの仮面を向けられるまま受け取る夕香ではあったが、二代目の話題が出た瞬間、仮面自体は受け取っても速攻で断りを入れる。しかしシオンは納得できないのか、先程までの空気とは一転して言い合いをしながら二人はリビングへ向かっていく。その口元にはお互いに楽しそうな笑みが浮かんでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

確かな繋がりを

「うーん……やっぱりさいっこーっ……」

 

 喫茶店のテーブル席の一つにリーナと風香の姿があった。真っ黒なブレンドコーヒーを静かに啜っているリーナに対面する形で風香がベイクドレアチーズケーキを食べながら蕩けるような表情を浮かべて舌鼓をうつ。

 

「リーナもコーヒーばっか飲んでないで何か頼めばいいのに」

「……今は良いかな」

 

 ドリンクやデザートを注文している風香に対して、リーナはコーヒーのみを飲んでいて、それ以外を注文する気配はない。中々美味しいと思えるので頼まなくては損だと勧めるが、リーナはやんわりと首を振って断る。

 

「あぁ、ここに翔さんがいればなー。あーんとかやって欲しいんだけどなー」

 

 この場にはいない翔を想ってか、窓の外を見やりながら風香は一人、ボヤく。しかし直後に翔に食べさせてもらっている状況を妄想しているのか、やーんやーんと頬を上気させながら身をくねらせている。

 

「そう言えばさ、例の新型シミュレーターが完成したらしいから色んなファイターを集めて今週末にイベントをやるらしいんだよね。ずっと前に翔さんに招待来てたし、多分、彩渡商店街チームにも来てるんじゃないかな」

 

 ケーキを頬張りながら何気なく話題を出す風香。その後も彼女は雑談を繰り返し、そして時に翔との出来事とそのまま妄想トークまで始める始末だ。

 

「……呼び出した要件は聞かないの?」

 

 そんな風香を呆れ交じりに見やりながら溜息をつくと気を取り直して慎重な面持ちで話を振る。今日、この場に二人がいるのはリーナが風香を呼び出した事に他ならなかった。

 

「んー……まあ大体分かるしねー。風香ちゃんは人の心が分かっちゃうから」

 

 ストローを銜え、喉を潤しながらリーナの問いかけに答える。良くも悪くも彼女の読心能力を前に下手な隠し事の類は出来ない。

 

「……ま、リーナはさ、戦うつもりなんでしょ?」

「……うん」

「私にはそれを止める事なんて出来ない。だってきっとリーナは私には想像できないような覚悟があるんだろうし」

 

 リーナは自身の世界に帰り、そこで戦いに備えなくてはいけない。だからこそ風香にも挨拶をしておこうと思って彼女を呼び出したのだろう。それは既に今日、リーナに会った時点で読み取った風香は先程までのおどけた態度を変える。

 

「だから風香ちゃんは最後まで風香ちゃんらしくリーナと接しようかなって」

「……ありがとう」

 

 別れが訪れるのは寂しくはあるが、それを引き留めることは出来ない。それ故、別れが訪れる最後まで自分は自分らしく接するとリーナの心を読み取った時から決めていたのだ。そんな風香にリーナは嬉しそうな笑みを零す。

 

「でもさ、なんでわざわざ風香ちゃんを呼び出したの?」

 

 とはいえ、何故わざわざ自身を呼び出してまで別れの挨拶をしようと思ったのか。気にならないと言えば噓になる。リーナに会った時には自身を呼び出した理由しか分からなかったからだ。

 

「……私にとって……アークエンジェルにいた人達は家族。翔もシュウジもみんな……。私にとっては何よりも代え難い守りたい存在……」

 

 カチャリとソーサーの上にカップを置きながら軽く目を瞑って、これまで翔やシュウジ達と過ごしてきたアークエンジェルでの日々を思い出す。どれだけ翼を傷つけられたとしても飛び立つことが出来たのは彼らがいたからだろう。

 

「でも風香は違う。風香は私にとって家族じゃないけど……でも……私にとって初めて出来た友達だって思ってるから」

 

 だからこそ風香にもちゃんと挨拶をしたかった。この世界で自身の出自にコンプレックスを抱いていた時に彼女は親身になってくれた。この世界で出会えて良かったと思っているのだ。

 

「……ちゃんと生きてまた会えるよね?」

 

 友達とまで言ってくれた事は純粋に嬉しかった。だから心配してしまう。目の前の少女はあまりにも見ていて儚く触れれば泡粒のように消えてしまいそうな思える存在だ。故にその身を案じてしまう。

 

『……なラ……途中デ……死ヌナんて……絶対二……許サナい……カら……』

 

 風香の言葉に目を瞑って過去の戦いでの出来事を思い出す。出自は同じながら道を違えた姉妹だったモノに言われた言葉。リーナの中にあの一連の戦いは深く心に根付いている。

 

「……少し前までは作られた私の命なんて価値のない軽いモノだと考えていた。こんな命でも大切な人達の為ならっていつ死んだって構わない…………。そう思ってずっと戦って来た」

 

 目を開いて自身の小さく華奢な手を見つめながら呟くように喋り出す。シーナのクローンだからこそ、作り物の自身の命に価値を見いだせなかった。

 

「でも今は違う。今の私は私一人だけで生きてる訳じゃない。生き方を教えてくれたレーアお姉ちゃん達の為にも、私と同じ道を辿れなかったワタシの為にも、私の命に自信を持たせてくれた風香の為にも……」

 

 戦う事しか知らなかった人形は今、自分の生を考えられる人間になった。それは今まで多くの出会いがあったからに他ならない。

 

「死にたくないって心から思える。大切な人達の未来の為なら死んでも良いと思うのではなく大切な人達と未来を歩んで行きたいから」

 

 何処か不安な面持ちの風香の目をしかと見据えながら答える。今の自分はそう易々と死ぬことは出来ない命なのだから。

 

「だから……また会えるよ」

 

 優しく儚げな微笑みを見せるリーナ。彼女は本心から死ぬつもりはないのだろう。だとしても、いやだからこそ自身を友達と呼び、戦いに向かおうとする彼女をただ黙って見送らねばならないのが辛かった。

 

「……じゃあ、指切りしよ」

「……うん」

 

 ならばせめて、と少しでも安心がしたい為にリーナに小指を突き出す。リーナも静かに頷くと、自身の指を風香の指に絡ませる。

 

「再会した時はもっともーっと可愛い風香ちゃんになってるから期待しててよね」

「その時は私に色んなお洒落を教えて欲しいな」

 

 小指を絡ませ合いながら風香とリーナは笑みを交わし合う。二人ともこんな口約束同然の約束にリーナ達の命を保証する意味なんてない事は分かっている。だがそれでも二人は約束を交わした。この絡め合った小指にお互いの繋がりを感じて。

 

「よーし、じゃあ今日はスーパーフウカデー第二弾!ってことでとことん付き合ってもらうよっ!」

「うん、今日は元々そのつもりだったから」

 

 僅かに湿ったような空気を払うように風香は立ち上がると、伝票と共にリーナの手を取ってとても晴れやかな笑みを浮かべる。先程も言ったのだ。最後まで風香は風香らしくリーナと接すると。今日という一日をお互いに忘れない為、リーナの手を取った風香は早速、動き出す。

 

(……私はちゃんとするべきことはしてるよ、シュウジ)

 

 会計を済ませ、此方に笑顔を見せながら自身の手を引く風香の姿を見ながら、リーナはふと空を見上げ、想いを馳せる。別れの挨拶をしなくてはいけないのは自分だけではないのだから。

 

 ・・・

 

「よう、一矢」

 

 翔のマンションの一室。その固定電話からシュウジは電話をかけていた。その内容から相手は一矢のようだ。

 

「……少し話がある。大事な話だ。少し付き合ってくれ」

 

 俯いて話す彼の口調は普段と変わらぬよう努めている。だが俯いた表情までは分からない。電話越しの一矢もどこか様子の違うシュウジに気づいたのか了承すると、場所を伝えて通話を終える。

 

「……大丈夫だよ」

 

 傍らにはヴェルの姿があった。彼女の手にも携帯端末が握られている。心配そうな表情を浮かべるヴェルにシュウジは力のない笑みを見せながら出掛ける準備を始めるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歩むべき道は異なって

 シュウジに呼び出された一矢が訪れたのは近くの公園であった。

 時刻はもう19時を過ぎ、空には少しずつ影が広がっていくように暗がりが現れ始めていた。こんな時間だと言うのにまだ一矢の服装が聖皇学園の制服なのは優陽と出会ってからもまだ帰宅する事はなく、ずっと街を宛てもなく散策していたからに他ならなかった。

 

「あっ、一矢!」

 

 公園に足を踏み入れた一矢に気づき、声をかけたのはミサであった。一矢とは反対に私服姿のミサは久方ぶりに会うことが出来た一矢を見て、途端に表情を綻ばせる。

 

「ミサ、どうして…………?」

 

 とはいえ、シュウジに呼び出されたのであって、ここでミサに出会うとは思いもしなかった。ミサがどうしてこの場にいるのか、不思議そうに尋ねる一矢。

 

「──俺達が呼んだんだよ」

 

 ミサが答えるよりも早くその理由を話したのは公園の奥にいたシュウジであった。傍らにはヴェルの姿があり、二人はそのまま此方に歩み寄る。

 

「二人ともゴメンね。こんな時間に急に呼び出しちゃって」

 

 お互いにここで出くわすとは思っておらず、困惑した様子で顔を見合わせる一矢とミサにヴェルがどこか申し訳なさそう笑みを見せながら声をかける。シュウジが一矢に連絡したように、ヴェルもミサに連絡していたのだろう。

 

「お前ら二人にどうしても話さなきゃいけないことがあってな」

 

 一矢もミサもお互いにシュウジ達に呼び出されたのは分かった。だが一体、どのような要件だと言うのだろうかと伺うようにシュウジ達を見やる一矢達。するとシュウジは口火を切るように前に出る。

 

「俺達は……ここを離れる事になった」

 

 前置きも何もなしに単刀直入に放たれた言葉。木々のざわめきと共にその言葉を聞いた瞬間、まるで時間が止まったかのような感覚に陥ってしまった。

 

「カガミさんやレーアさん達を含めて私達が本来、いるべき場所に帰らなくちゃいけなくなったの」

「だからその前にお前達には挨拶をしておこうと思ってな」

 

 衝撃を受け、目を丸くして固まっている一矢達を見ながらヴェルとシュウジは真剣な面持ちで話す。決して冗談か何かで言っている訳ではないのは、この場の雰囲気で嫌でも分かる。

 

「……帰らなくちゃいけないところって……?」

「こことは違うずっとずっと遠い場所……かな。連絡も取ることは出来なくなると思う」

 

 今でも信じられない、いや信じたくない。ミサは震える唇で尋ねるとヴェルは夜空の果てを見据えるように見上げながら答える。異世界に帰る……とは言えない。必要以上のことは話す必要はないからだ。しかも命を賭した戦いになるかもしれないなんて言えば、余計に負担をかけるだけになってしまう。

 

「そんなことって……。寂しいですよ、ヴェルさん……っ」

「……ゴメンね。私達もいつまでもここにいて良いならいたいくらいなんだけどね」

 

 ロボ太に続き、突然の別れだ。視界が滲み、震えた声のまま今にも泣き出しそうなミサをヴェルはそっと抱きしめながら彼女もその目尻に涙を溜めている。

 ヴェルにとってミサは妹のような存在で、ミサにとってはその逆だった。だからこそこの別れは辛かった。

 

「……俺達は寄り道をしてただけなんだ。俺達は本来あるべき道に戻る。だからお前達には──」

 

 別れを惜しんで体を震わせながら抱き合っているヴェルとミサの姿を横目にシュウジは話を続けようと一矢を見た瞬間、目を見開いて息を呑む。

 

 一矢の頬に一筋の涙が流れていたからだ。

 

「一矢…………」

 

 彼自身、自身が泣いているという自覚がないのか、涙は流れるままに流れ、顎先を伝って地面にぽたぽたと落ちている。正直に言えばまさか一矢が涙を流すとは予想外であった。

 

「何で……だよ……。なん…っ…で……こんな……時に……っ!!」

 

 ショックのあまり震えて言葉さえ上手く喋れない状態で一矢は何とか言葉を紡ぎ出す。その姿は今にも決壊してしまいそうなほど酷く脆い姿であった。

 

「これからもずっと一緒に居られるって……色んなモノを見せてもらえるって……っ……ずっと……ずっと一緒に笑ってられるって思ってたのに……っ!」

 

 溢れでる涙を流したまま顔を歪ませ、睨むようにしてシュウジを見やりながら己の心中を吐露する。ずっと同じ未来を見て、笑い合っていられると思っていた。だがお互いに目指すべき未来は違かったのだ。

 

「……後、どれくらいいれるんですか?」

「……あんまり長くはいられないけど……でも許されるまではいるつもりだよ」

 

 ミサも一矢の反応は予想外であった。抱きしめてくれるヴェルから離れながら、後どれくらいこの場に滞在できるのか尋ねるとヴェルは首を横に振りつつ答える。こればかりはどうなるか分からない。下手をすれば、明日には急遽召集されるなんてことだってあるかもしれないのだ。

 

「……本当はお前等が世界大会に優勝して一人前になった時点で帰るべきだったんだけどな。どうも居心地が良すぎるんだよ、お前等の傍ってのは」

 

 シュウジがこの世界に訪れた最初の目的は翔に挑戦する事であった。だが今はそれ以上に一矢の成長を見届けたいと願ってしまった。本来であれば、一矢がウィルを破ったあの時点でこの世界から去れば良かった。そうしなかったのは一矢達の傍に居たいと思ってしまったからだろう。

 

「だったらまだここに居れば良いだろッ!? 一人前だなんて決めつけるなよ……っ! まだまだ俺は弱いし……教えてもらいたい事は一杯あるんだよッ!」

 

 すると一矢が声を張り上げる。これには皆が驚いていた。まさか一矢が涙を流し、ここまで取り乱すとは思ってもいなかったからだ。思わずシュウジ達もかける言葉が見つからなかった。

 

「なんでロボ太もあんた達も……そうやっていなくなっちゃうんだよ……!?」

 

 崩れ落ちるように膝をつき、ボロボロととめどなく涙を流し、嗚咽を零しながらまるで子供のように受け入れられない事実に癇癪を起こす。

 

 否、一矢はまだ子供なのだ。

 

 大人への道を進んでいる中でも、心はまだ未成熟な子供の部分があるのだ。ロボ太の一件で酷く不安定になっているその心は今、まさに砕けそうなほどの負担がかかろうとしていた。

 

 ロボ太は傍にいて当たり前の存在であった。そしてその次にシュウジ達も……。傍にいて当たり前だった存在が次々に自分の周りから離れようとしている。それは心に大きな穴をあける事と同じであった。

 

「なんで……っ……なんでこんなに辛いんだよ……っ!」

 

 それに一矢自身、シュウジ達とは違い、祖父母も両親も友達も全てが欠けることなく今まで平凡に平穏を過ごしてきた。それ故に出会いがやがて齎す喜びは知っていても別れがどれほど辛い物なのかを知らなかった。

 

「こんなに辛いなら出会わなかった方がよっぽど楽だよッ!!」

 

 吐き出すように言い放った一矢は近くの鞄を荒っぽく掴み取るとこの場から走り去っていく。ミサ達が一矢の名を呼ぶが、それすら反応する事無く一矢は公園を後にする。

 

「……一人にして落ち着かせてやろうぜ。俺達の都合で突然、言っちまったんだ。少し心の整理をさせてやりたい」

 

 ミサは溜らず一矢を追いかけようとするが、シュウジは手で制する。シュウジもヴェルもロボ太の一件で間を置かずに別れを告げた事には、あまりに突然だと申し訳なく思っている。

 

(俺達は本来、出会う事はなかった。同じ未来は見れないなんて……分かってた筈だったんだが……。アイツに辛い思いをさせちまうなんてな……)

 

 シュウジと一矢とでは過ごしている世界そのものが違う。だからこそ本来なら出会う事も互いの存在を知ることすらなかった筈なのに、どういう運命の悪戯か、出会ってしまったのだ。

 

 出会わなかった方がよっぽど楽だ……。一矢が最後に叫んだあの言葉がシュウジの胸の中に幾度も響くのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

脆い心を包む温もり

 

 あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。シュウジとヴェルに別れを告げられた一矢はその事を受け入れる事は出来ず、拒絶するようにあの場を飛び出した。

 

 長い時間が経った気がする。しかしその間の記憶が全くないのはそれだけ我武者羅に走り続けたと言うことだろう。

 

「──っあ! はあっ! はぁっ……! はぁっ……!」

 

 長いこと走り続けたせいで息切れを起こした肩を激しく上下させて呼吸をしながら一矢はそのまま路地裏に入り込み、壁に背を預けてそのままズルズルと座り込む。

 

「あぁもう何なんだよッ……!」

 

 もう一矢の頭の中はパニック同然になっていた。ただでさえロボ太の一件が尾を引いていると言うのに、拍車をかけるように別れを告げて来たシュウジ達。まるで悪い夢でも見ているかのようだ。

 

「クソッ……!」

 

 真っ先に出て来た感情は激しい苛立ちであった。子供の我儘のようにここに居れば良いなんて言ったがシュウジ達がそうは出来ないのは頭では理解している。

 だからこそするべきことがある筈なのに、それが何なのか、どうすれば良いのか、そして何よりあんな態度を取ってしまった自分自身に激しい嫌悪感を感じてしまう。

 

「……っ」

 

 ふと携帯端末がバイブレーションによって震える。もしかしたらミサなのだろうか、そう思って携帯端末を取り出す。

 

 相手は優陽であった。渡された連絡先の中にあったトークアプリのIDで一応、優陽のIDは友達追加をしていたのだが、まさか早速トークアプリを通じて電話をかけてくるとは思わなかった。

 

「……もしもし?」

 

 暫く液晶画面を見つめていた一矢だがやがて電話に応じる。それは少しでも今の気分を変えたくて行ったからに他ならなかった。

 

≪あっ、もしもし? 早速、友達追加してくれたみたいだから電話掛けちゃったっ≫

 

 電話口から聞こえてくる優陽の声は相変わらずキャラメルのように甘い声だ。それに此方に何があったかは全く知らない為にとても明るかった。

 

「……何の用だよ」

≪んー……特にないんだけどね。でも今日折角出会えたわけだし、挨拶がてらの電話かな≫

 

 先程の一件もあって僅かに刺々しい物言いで話す。しかし優陽は特に気にした様子もなく電話をかけてきた理由を明かす。

 

「随分としょうもない電話をかけてくるんだな。くだらない事に時間を使わせるなよ」

 

 優陽に非はないのだが明るく話してくる為にそれが今の一矢の癪に触っているのだろう。顔を顰めて棘のある言葉を吐く。

 

 だがそれがまた一矢の自己嫌悪を引き起こされる。これはただの優陽へ八つ当たりをしているに過ぎない。優陽は何も知らないし、優陽からの電話に応答したのは自分なのだから。

 

≪……大丈夫? 何かあったの?≫

 

 だが優陽は先程の辛辣な物言いに対しては何も言わず、それどころか一矢を心配してきたではないか。下手をすれば反感を買い、怒らせてしまうかもしれないのに。

 

「……なんでそんなことを……」

≪なんか声に自棄になってる感じがするんだよね。何かあったら聞くよ?≫

 

 優陽の反応に戸惑う一矢だが優陽はあくまで下手な言葉に反応するのではなく冷静に対応する。

 

≪それとも何だったらウチに来る?≫

 

 ・・・

 

(……来てしまった)

 

 結局、優陽に流されるまま一矢はトークアプリに送られた優陽の自宅の近くまで来てしまった。優陽の誘いに何故乗ったのかは分からない。もしかしたら優陽の電話に応じたように少しでも環境を変えて先程の事を忘れて気分を変えたかったのかもしれない。

 

「──あっ、こっちこっち!」

 

 優陽の自宅は知らない為に周囲をキョロキョロと見渡していると向こうから声をかけて来た。声がする方向をそのまま見やれば、イラトゲームパークで出会った優陽が手を振っていた。

 

「えへへー、まさかこんなに早く会うとは思わなかったよ」

 

 呼ばれるまま優陽に歩み寄る一矢に両手を背中の後ろで組み、少し前屈みになりながら優陽は可憐な笑みを見せる。その様子から心底、嬉しそうにしており、先程の一矢の態度も一切気にしていないようだ。

 

「さっ、立ち話もなんだし、ホラ入って入って」

 

 とはいえ、一矢は一矢で先程の自身の態度に思うところがあるのか、ここまで来たのは良いもののバツの悪そうな顔をしている。そんな一矢の手を掴むと優陽は早速門扉を通って玄関の扉を開き、一矢を案内する。

 

 ・・・

 

 優陽の自宅に足を踏み入れた一矢。品のある内装が視界に広がるなか、玄関の開かれた音に反応して奥のリビングの扉が開かれる。

 

「あらぁ、こんばんはー」

「こ、こんばんは……。こんな時間にお邪魔します……」

 

 そこにいたのは桃色の髪を靡かせた女性と少女であった。一矢に笑みを見せながらマイペースでゆったりとした口調で話しかけると、一矢はおずおずと挨拶をする。

 

「何があったかは知らないけど、ゆっくりしていってくださいね」

 

 若々しい外見ながら落ち着いた物腰とその柔らかな顔立ちと髪色からこの人物が優陽の母親なのだろう。優陽の母親に言われるまま一矢はコクコクと頷く。

 

「あれ、雨宮一矢さん……?」

「えっ、ああ……」

「本物なんだ……」

 

 すると優陽よりも幼さが残る少女が一矢の顔をまじまじと見ている。恐らくは優陽の妹なのだろう。まさか名前を言われると思っていなかった一矢はおずおずと頷くと心底、驚いたような反応を見せていた。

 

「部屋は優ちゃんの部屋で良いとして、布団とかは……」

「あぁ、そこら辺は気にしないで良いよ」

 

 そんな妹の隣で人差し指を右頬に添えながら何やら考え込んでいる優陽の母親を見ながら、先程彼女が口にした布団と言う言葉に一矢が首を傾げていると、優陽は手をひらひらと動かしながら答える。

 

「そう? じゃあ後はお願いね。パパとママ達はもう寝るからー」

「うん、おやすみー」

 

 優陽の言葉に安心したように微笑みを見せながら優陽と手を振り合って最後に一矢に軽く会釈しながら二人は二階のそれぞれの寝室へ向かって行った。

 

「……なあ、布団って?」

「ん? あぁ、お母さん達には“家出した友達を泊めてあげたい”って言ってあるんだ」

 

 母親と妹の姿が見えなくなるまで手を振っている優陽に先程、優陽の母親が口にしていた布団と言う言葉について尋ねるとあっけらかんとした態度で答えられる。

 

「……はっ!?」

「もう夜の10時半を過ぎたところだよ? 今から帰れば補導されるかもしれないし」

 

 家まで来たが泊まるつもりはなかったので一矢は驚いて目を丸くするが、優陽は玄関に置いてある小さな時計が指し示す時刻指差す。シュウジ達に呼び出されたのが、19時過ぎだとしてあれからずっと街を彷徨っていた。気付かなかったが、もうそれくらいの時間が経ってしまったようだ。

 

「色々考えたんだよ。もしかしたら家族と喧嘩したのかとかさ」

 

 夜に電話をした時点で一矢の荒みようから何かあったことは間違いないと踏んだ優陽。色々と想像を働かせて、家族にもそのように話したのだろう。

 

「それに君、ずっと制服じゃん。泊まれとは無理強いはしないけど少しは休んで行きなよ」

 

 イラトゲームパークで初めて出会った時からずっと宛てもなく街を彷徨っていた一矢の服装はいまだ聖皇学園の制服のままであり、何があったかは優陽は知らないがそれでも家に帰らずずっと行動していたのは分かる。玄関で靴を脱ぎながら一矢を家にあげようとする。

 

「……ありがとう」

 

 まだ知り合ったばかりだと言うのに、こうまでして気遣ってくれる優陽の好意が嬉しかった。なぜ、ここまでしてくれるのか気にはなるが、それでも先ほどの自分の優陽への態度が申し訳なく感じてしまう。礼の言葉を口にして一矢はローファーを脱いで家に上がる。

 

 その時であった。

 

 ──ぐうううぅぅぅぅぅぅ……。

 

 何とも情けない音が玄関に響く。キョトンとしている優陽に対して、一矢は顔を真っ赤にさせていた。

 

「っ! あっはは、お腹空いてたんだっ?」

 

 すると途端に優陽はくしゃっと顔を変え、腹を抱えて噴き出す。一矢は一日中、町をほっつき歩いていた。さらに言えば、シュウジの一件以降はまともに食事もとっていない為、気を緩めた今、空腹が前面に出たのだろう。

 

「何か用意するから、僕の部屋で待っててよ」

 

 良いものが見れたとばかりに憎たらしい笑みを浮かべる優陽は自室に案内しながら自身は一矢に何か振る舞おうとリビングへ向かっていく。

 

 ・・・

 

(……なんと言うかイメージ通りだな)

 

 優陽の部屋に案内された一矢は優陽を待ちながら周囲を見渡す。可愛らしい小物などが置かれ、どことなくガーリーな雰囲気がある部屋だ。

 

「ガンプラ……」

 

 しかしそんな室内でもガンプラや器具の類はあった。ファイターとしてではなくモデラーとして作成したキットも多いようで、中々の出来栄えのガンプラ達がケースに飾られていた。

 

「……これは……ZZガンダムか」

 

 作業スペースと思われる机には作りかけのガンプラがあった。此方に関してはZZガンダムをベースにカスタマイズされており、出来栄えはさることながら完成間近のようだ。

 

「……ん?」

 

 しかしその最中でふと目に入ったガンプラがあった。それもカスタマイズされたガンプラなのだが、今までのガンプラとは正反対にどこか歪な印象さえ受けるガンプラがあったのだ。

 

(……まあ、何を作ろうが勝手だよな)

 

 あのガンプラだけ異質な印章を受けるのだが、今更ながらあまり人の部屋をじろじろ見渡すべきではないと思ったのか、優陽を待つことにする。一応、既に夕香に連絡はしていた。直後に彼女からそれとなく心配した連絡が来たが適当に誤魔化した。もしこのまま泊まる事になっても朝早くに家に帰れば、学校の準備などは問題ないだろう。

 

「……はあ」

 

 だが問題はまた別の所にあった。それはやはりシュウジ達のことであり、何より自分のことだろう。今の自分の状態を良しとはしないのは自分が一番分かっているのだが、今この状況でどうして良いのかが分からなかった。

 

「おっまたせー」

 

 すると部屋の扉が開かれ、そこから優陽が姿を見せる。

 

「おむすび作って来たよ。この時間だからこれしか作れなかったけど……」

 

 その手に平皿に三個ほど作られた三角形の海苔で巻かれたおにぎりがあり、優陽はそのまま一矢の近くのテーブルの上に置く。

 

「い、いただきます……」

「はい、どうぞ」

 

 ありがとうと感謝の言葉を口にしながら優陽が作ったおにぎりを頬張る。優陽が見守るなか、絶妙な塩加減で作られたおにぎりは空腹の一矢にはこれ以上ないほど贅沢に感じられた。

 

(……あったかい)

 

 出来立てというのもあるのか、口に含んだおにぎりはとても温かく美味しく感じられた。それは何より人の手で丁寧に、まさに真心が籠ったからに他ならず、この温かさは心まで満たしていくかのようだ。

 

 あっという間に一つ目をペロリと食べ終えた一矢は二つ目のおにぎりを手に取って食べ始める。これもやはり温かく、胃どころか心を満たそうとしてくれる。

 

「……あ……れ……?」

 

 不意に視界が滲んだ。途端にボロボロと涙が零れたのだ。とめどなく溢れる涙に一矢は戸惑う。それは優陽の温かな持て成しによって、先程まで心が塞ぎ込んでいた感情が露わになったのかもしれない。

 

(泣き止めって……)

 

 だが流石にいつまでも人前で涙を流す姿など見せたくない。空いている腕で必死に拭おうとするが、涙は以前、流れ続けたままであった。

 

「良いんだよ」

 

 何度も何度も目を擦る。だがふと一矢の頭を優陽が撫でられる。腫れた目で見れば、優陽が優しく柔らかな微笑みを見せてくれていた。

 

「やめろよ……っ」

「ゴメンね。でも今の君は放っておけないんだ」

 

 手を払おうとするが優陽はそれでも一矢の頭を撫で続ける。何かあったのは分かっていたが、突然、泣き始めた一矢を見て、黙っている事は出来なかった。

 

「だからね? もう変に気を張ったり、斜に構える必要はないんだよ?」

 

 まるで幼子に接するかのように慈しみのある温かで優しい言葉が一矢にかけられる。

 

「涙は流すものだから辛い時は思いっきり泣いていいんだ。だから今だけは素直になろ?」

 

 今の優陽に言葉をかけられる度に、必死に頭を撫でていた手を振り払おうとしていた腕の力も弱々しくなっていく。

 

「辛かったんだね……。もう耐えきれなかったんだね……。良いよ、我慢しないで溜め込んだ物を吐き出しちゃおうよ」

 

 やがて体を震わせてボロボロと嗚咽交じりに涙を流し続ける。優陽は一矢に何があったのかは知らない。それでも一人の少年がこうなってしまうほどの出来事があった事は理解しているのだろう。ただ今は一矢の心のケアに専念するように頭を撫でつつ、その背中をポンポンと叩くのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一歩踏み出す為には

「ふぅ……」

 

 優陽が作ってくれたおにぎりを食べ終えた一矢はひとしきり涙を流すと、風呂を用意してくれたと言う事もあり、厚意に甘えて丁度、湯上りを迎えていた。上気してほんのりと赤くなった顔で一矢は目の前で綺麗に畳まれた寝間着を手に取る。

 

「お父さんの寝間着だけど、大丈夫そうかな」

 

 寝間着姿の一矢は優陽の部屋に入る。そこには既に髪を下ろし、涼しそうな着心地の姿の優陽が一矢の寝間着を見ながら笑顔を向ける。相変わらず何の情報もなければ、一人の少女にしか見えない。

 

「……なにからなにまで悪いな」

「ううん、僕が好きでやってる事だから」

 

 優陽は今、先程、一矢が見つけたZZガンダムをカスタマイズしたガンプラの完成を目指して作業をしていた。今日初めて会ったと言うのに、優陽は手厚い持て成しをしてくれた。もう優陽には頭が上がらないと言ってもいいだろう。しかし優陽は当然のことをしたまでだとばかりに作業をしながら答える。

 

「……凄い作り込みだな」

「そう? ありがとっ」

 

 近くのベッドに腰掛けながら優陽が熱心に打ち込んでいるガンプラの作り込みを見て、驚嘆する。一矢の目から見ても、そのガンプラはディテールに至るまで精巧に作られており、下手をすれば一矢のリミットブレイカーにも引けは取らないだろう。自分の打ち込んでいるガンプラの出来を褒められ、優陽は上機嫌のニコニコ顔だ。

 

「……なあ、ちょっと気になってたんだけど、あのガンプラって?」

 

 とはいえ、優陽も今は目の前のガンプラに集中していたいのだろう。すぐに表情を切り替え、真剣な眼差しをガンプラに送っている。秒針の刻む音が鳴り響くなか、一矢は何気なく先ほど気になった歪なガンプラについて尋ねる。

 

「……ッ」

 

 ここに来て、初めて優陽の表情が歪む。それは触れられたくないモノを触れられた苦みのあるモノであった。

 

「……ねぇ、君はバトルで使うガンプラを作る時、どんな想いをそのガンプラに籠めてる?」

「想い……?」

 

 下手なことを聞いてしまったか、と苦々しい表情のまま押し黙った優陽に一矢が何と言って、この場の空気を変えた方が良いのか考えていると、優陽はふと一矢にこれまで手掛けたガンプラ達にどんな想いを託したのか尋ねる。

 

「もっと前に……もっと高く……。仲間達と飛ぶため……かな」

 

 それはミサと出会い、ゲネシスガンダムから現在のリミットガンダムブレイカーに至るまで何を思ってガンプラを作ってきたのか。それを改めて答える。

 

「そっか……。流石、僕の憧れの人」

 

 一矢の言葉に何か考えたように顔を俯かせる優陽。その表情は一矢はガンプラに込めた想いに感心する一方で、自分に対しての自嘲的なモノも含まれていた。

 

「憧れ……? 俺がお前の……?」

 

 しかし一矢からしてみれば、優陽が自分に憧れていたなんて驚くしかなく、寧ろ何故だとしか思えなかった。

 

「……自分がどれだけ有名人か知らないの? 君は世界大会のファイナリストであり、二度も宇宙エレベーターの危機を救った。ガンプラ界(この世界)じゃかなりの有名人だよ。僕みたいな固定のファンもいるし」

 

 一矢の反応に優陽はどこか呆れ気味だ。その言葉に一矢は翔とぶつかり合った台場での出来事を思い出す。確かにあの時も自分を目指すと言った子供達がおり、翔も一矢を目指そうとする存在が出てもおかしくはないと言っていた事を思い出す。

 

「……あれは……僕がちょっと前までチームを組んでた時に使ってたものだよ」

 

 気を取り直して、立ち上がった優陽は歪なガンプラを手に取る。どうやら優陽もまたチームを組んでいたようだ。

 

「最初は楽しかったよ。小さなチームだったけど、勝っても負けても、チームで過ごす時間はどんな時間だって楽しかった」

 

 どこか寂し気な笑みを見せる優陽。確かに優陽が言うように、楽しかったのは嘘偽りはないのだろう。しかし何かあったのは明白だった。

 

「……でもね、やっぱり負けると悔しくて……勝ちたいって思っちゃうんだ」

 

 歪なガンプラを持つ手に力が籠る。一矢の辛辣な態度にも機嫌を損ねなかった優陽の険しい表情を見て、一矢は僅かに戸惑い交じりに驚く。

 

「……いつしか僕は勝つためだけのガンプラを作るようになった。それがこれだよ」

 

 改めて優陽は一矢に歪なガンプラを見せる。

 

「ZZガンダムの頭部を使えばハイメガキャノンが、ダブルオークアンタのボディを使えばトランザムとクアンタムバーストが、ゴッドガンダムのアームを使えばゴッドフィンガーが、アサルトバスターの脚部を使えばヴェスパーとマイクロミサイルが、ストライクフリーダムのバックパックを使えばスーパードラグーンが……」

 

 パーツ構成とそのパーツを取り付ける事によって得られる効果を話すたびにやはり辛そうに見える。

 

「……この機体が好きだから……とかガンプラへの愛も何もない。ただ強い武装を、楽しむことも忘れて一人でも勝つことだけを求めた結果がこのガンプラさ」

 

 優陽の手にあるガンプラは確かに精巧に作られているし、カラーリングも統一感のあるイメージにしている。しかしそれでもどこか歪に感じてしまうのは優陽が言うように、ガンプラへの愛がこのガンプラにはないからだろう。

 

「それだけじゃない。僕はチームにも効率や強い武装のパーツだけで組んだガンプラを求めて強要しようとした。仲間の存在も信じず、ただ勝つためにね」

 

 寧ろ優陽からしてみれば、このこと自体が自分自身に対して許せないことなのだろう。心底、忌々しそうに歯軋りをする。

 

「……もうその頃にはチームの空気も冷たくなってた……。全部、僕のせいで……。気づいた頃には何もかもが遅かったんだ。だから僕はチームを抜けた。もう僕にチームにいる資格はなかったから」

 

 最初はチームで過ごすどんな出来事だって楽しめた。だがいつしか勝つことだけに拘って、マシンのようにチームにも求めようとした。

 

「そんな時だ。世界大会で活躍する君達……いや、君に注目したのは」

 

 手の中にあるガンプラを再度、棚に戻すと振り返って改めて一矢への憧れについて話す。

 

「君達のバトルを見ていると、お互いの為に動き合い、何よりお互いの為に強くあろうとする気持ちがひしひしと伝わってくる。バトルを終えた後の映像とか凄い楽しそうだしね」

 

 互いを尊重し合うように戦う一矢達。そんなかつての自分とは真逆な一矢達にそこで初めて関心を示した。

 

「そして特に君は仲間達の未来を開くために先陣を切り、強い輝きを放っていた。とっても眩しかったけど……。でも……憧れた。そんなチームのリーダーであり、エースである君に」

 

 一番、目を引いたのは一矢の存在だった。彩渡商店街チームの中でも高い実力を持つ一矢。だが一矢は周囲を無下にする戦いはせず、仲間達との未来を開くために肩を並べて戦っているように見えたのだ。

 

「君の強さは大切な仲間の存在によって発揮される。自分から仲間の存在を失った僕にはない……。でも君は僕に手を取りあって戦うことは弱さじゃないって教えてくれたんだ」

 一矢も仲間の存在がなければ危うい場面は幾度となくあった。だがその度にミサもロボ太も助けてくれたのだ。それになにより一矢自身も優陽の言うように仲間の為に戦えるという意識はあった。

 

「ネットニュースで君のチームメイトのロボットが宇宙空間に漂流されたニュースは見たよ。だから君は虚無感によって抜け殻になっているのかもしれない」

 

 今の一矢の状態について触れる。確かに優陽の言うようにロボ太を失くしたことによって出来た心の穴は大きかった。

 

「だから僕は君の力になりたい。もう一度、君が前を向けるように、その心の穴を少しでも埋めたい。僕が憧れた君を目指していたいから」

 

 一矢の前に座りながら優陽はその目を確かに見つめながら話す。

 

「……俺を憧れるなんて酔狂だよな」

 

 優陽の言葉を聞いた一矢は暫く黙っていると漸く口を開く。自分が誰かに憧れられるようなファイターだと思っていないからだ。

 

「……でも……そうだな……。いつまでもこの場で足踏みしてたらお前に追い付かれるな」

「……僕は目指すことは出来ても君には追い付けないよ」

 

 だが優陽が、こんなに近くで自分を憧れ、目指すというのであれば、今まで以上にこのままにしてはいけないのは分かった。しかし優陽は過去のチームでの出来事から苦しそうに首を横に振る。

 

「出来るさ。俺だって前に進んでこれたんだ。お前だって」

 

 躓くことは何度だってある。それでもそこで立ち上がって進むことが出来るのなら、それは強さになる筈だ。

 

「今すぐは無理でもゆっくりで良いからお互いに一歩踏み出そう。今この瞬間、苦しいと思った事も糧にして強さに出来るように」

 

 すぐに何でも切り替えて出来るほど、互いに器用な人間ではない。だからこそお互いにゆっくりと少しずつでも前に進もう。そんな一矢の言葉に優陽は目尻に涙を浮かべながら頷く。

 

 ・・・

 

(……誰かを励ます言葉なら、何とか言えるんだけどな)

 

 就寝時間となり、一矢は優陽と共に同じベッドで眠っていた。僅かに狭さを感じ、優陽が使用していると思われるトリートメントの甘い香りが鼻をくすぐるなか、一矢はもう眠ってしまった優陽の寝顔を見つめる。

 

(……前に進む……か。何をすれば前に進めるんだろうな……)

 

 共に眠る優陽から温もりを感じる。とても心地が良い人の温もりだ。しかしだからこそ温もりを失う事が恐ろしい。それがロボ太やシュウジ達だ。ロボ太の次にシュウジ達の温もりを失うのは辛い。だが受け入れなくてはいけないのは分かっているのだ。

 ただ黙ってシュウジ達を見送ればいいのだろうか? それこそロボ太を失った傷は癒えていないと言うのに。ただ悶々としたまま一矢は眠りにつくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海と空の先に

「ほーら、起きて」

 

 窓から朝日の温かな日差しが差し込む中、布団に包まれていた一矢の身体が揺すられる。煩わしそうに呻き声をあげながら、ゆっくりと瞼を開ければ、そこには自身の肩に手をかける優陽がいた。

 

「アラーム、ずっと鳴ってるよ?」

 

 朝に弱いせいか、ずっと顰めっ面を浮かべている一矢に苦笑しながら優陽は今も鳴り響いている一矢の携帯端末を小さく指さす。

 今日は一度、家に帰る都合もあった為、いつも設定しているアラームよりも早くの時間に設定したのだ。優陽の言葉にアラームの存在に気づいた一矢はいつまでも好きに慣らし続けさせるわけにもいかず停止させる。

 

 ・・・

 

「……世話になったな」

 

 それから数十分後、制服に着替え終えた一矢は門扉の前で優陽に礼の言葉を口にしていた。まさか朝食まで用意してくれたとは思わず、そのせいかより一層、申し訳なく感じてしまう。

 

「ううん、寧ろ結構、有意義な時間だったから気にしないで」

 

 一矢に優陽は柔らかな笑みを見せる。自分の心にどこか靄がかかった気分ではあったのだが、それも今回、一矢と過ごして少しは心境にも変化があった。お互いに笑みを交わし合いながら一矢は南雲宅を後にするのであった。

 

 ・・・

 

「それで友達んトコに泊まってたんだ」

 

 それから大凡、一時間が経過した頃、一矢は夕香と通学路を歩いていた。話題は昨晩の一矢の宿泊先の事であり、ここ最近の一矢の様子から彼を心配していた夕香は少しは安心したような表情だ。

 

「しっかし、ヴェルさん達がねぇ」

 

 すると徐に夕香はヴェル達について触れる。しかし一矢は夕香にシュウジ達の件については話しておらず、何故知っているのかと表情に驚きを滲ませながら夕香を見やる。

 

「実は昨晩、ミサ姉さんから電話が来てたんだ。イッチの事も話してたよ」

 

 驚いている一矢の表情で察したのか、シュウジ達の件について何故、知っているのかを明かす。どうやら昨晩は一矢だけではなく、ミサからも連絡が来ていたようだ。

 

「ミサ姉さんも堪えてたみたいだよ。別れが辛いって」

 

 一矢はあの場で取り乱して去っていたが、ショックを受けていたのは勿論、一矢だけではない。あの場にいたミサもまた一矢と同じようにショックを受けていたのだろう。

 

「でもそれ以上にイッチを心配してたよ。イッチにどうしてあげれば良いか分かんないって。そりゃそうだよね。ミサ姉さんだって自分の気持ちに整理もついてないんだから」

 

 夕香の言葉に目を見開く。確かにミサがショックを受けているのは想像に難くない。だがミサが自分を心配してくれていたなんて思いもしていなかったからだ。

 

「……後でミサに連絡しとく」

「うん、それが良いと思うよ」

 

 自分は今の今までシュウジ達の件でどうするべきか考えるだけでミサの事を考えてすらいなかった。思わず今までの自分を恥じてしまう。顔を俯かせながらそれでもミサに連絡を取ろうと決めた一矢に夕香は微笑む。

 

「そう言えば、翔さんの方はどうなんだろうね」

 

 すると次の話題に夕香は翔について触れる。

 

「翔さんの方がイッチよりもシュウジさん達との付き合いが長いんじゃないの? 多分、翔さんにだって話は行ってんじゃないかな」

 

 確かに翔とシュウジ達の関係は一矢やミサ達よりもずっと深いところにある気する。恐らくシュウジ達も自分達だけではなく、翔にも話をしているのではないだろうか。

 

「もしなんだったら翔さんにも話してみれば?」

「……そうだな」

 

 翔も同じようにシュウジ達から別れを告げられているのであれば、もしかしたら何か今の自分を変えてくれるような何かを言ってくれるのかもしれない。夕香の言葉に頷くと、早速、今日の放課後にでもブレイカーズに行く事を決めるのであった。

 

 ・・・

 

 放課後、一矢は登校する際に夕香に言われた通り、ブレイカーズに続く道のりを一人、歩いていた。行き交う人々のなか、もう間もなくブレイカーズに辿り着くことができるだろう。

 

「……あっ」

 

 角を曲がってブレイカーズに到着すると言うところで一矢は足を止めた。何故なら、ブレイカーズの前に見知った顔がいたからだ。

 

「……あら、いらっしゃい」

 

 店の外にいたのはカガミであった。ブレイカーズのロゴが入ったエプロンを着ており、店の前で掃除をしている姿を見る限り、大方、店の手伝いをしているのだろう。

 

 しかし一矢はカガミを見て、その場に留まり、苦い顔をしている。というのもシュウジ達同様に彼女もまた自分の目の前からいなくなってしまう存在だったからだ。

 

「……少し場所を変えましょうか」

 

 一矢の様子を見たカガミは僅かに考えるように目を伏せると、エプロンを脱いで一矢に声をかけるのであった。

 

 ・・・

 

「……あの、良かったんですか?」

「ずっと休憩しろと言われていたの。だから構わないわ」

 

 カガミ達が移動したのはブレイカーズからほど近い喫茶店であった。それぞれ好きな飲み物が提供された後、一矢はカガミに店を抜けた事について尋ねると、カガミは首を横に振りながら一矢を安心させる。

 

「それにアナタに対してもちゃんと挨拶をしておかないといけないって思っていたから」

 

 その言葉に一矢は震える。やはり別れは避けられない。カガミもまたシュウジ達と同じように自分の前からいなくなる。

 

「シュウジ達から話は聞いているわ。ごめんなさいね、混乱を招く真似をさせてしまって」

 

 カガミもシュウジ達と一矢の間にあった出来事については把握しているようだ。故にカガミも一矢に辛い思いをさせてしまったと謝罪の言葉を口にする。

 

「……あの、翔さんとも別れる事になるんですよね? ……そのことを……どう思ってるんですか?」

 

 すると一矢はカガミに翔の事について尋ねる。正直に言えば、自分もシュウジ達との別れは辛い。だがシュウジ達も、特にカガミは翔に想いを寄せているのだから、ここからいなくなるのであれば思うことはある筈だ。

 

「……俺……どうすれば良いか……分からなくて……。別れなんてロボ太の事があるまで経験した事もなかったし……。……だからいっそ、出会わなかった方が良かったって……」

 

 膝の上に乗せた拳が強く握られ、一矢の身体が微かに震える。別れは辛い。だからこそいっそのこと出会わなかった方が楽だと思ってしまった。カガミはどうなのだろうか。

 

「……私は翔さんやアナタ達に出会う事が出来たのは、私の人生で代えられない宝だと思っているわ」

 

 視線を彷徨わせて俯く一矢の迷いに答えるようにカガミは静かに口を開く。出会えたことが宝、その言葉に一矢は顔を上げる。

 

「アナタはどうかしら?」

「……俺も同じです……。俺の人生に影響を与えてくれたって……思ってます」

 

 顔を上げた一矢にカガミは自分達のことを問いかける。一矢にとってもカガミやシュウジ達に出会えたことは自分に大きな影響を与えてくれたことは一矢自身も分かっていた。

 

「……宝と言うのは本当に大切なモノ。でも時にその宝その物が大きな壁となって立ち塞がる事があるわ」

 

 一矢にそうまで言ってもらえて、カガミはどこか嬉しそうに微笑みを見せるなか自分なりの言葉を送り始める。

 

「宝を失うのは悲しいことよ。そのせいで立ち止まってしまうのかもしれない。でも宝が確かにそこにあったことは変わらないわ」

 

 今まさに一矢は立ち止まっている。だからこそ自分達がこの世界を去る前に彼にはまた歩き始めて欲しい。

 

「私も一度は翔さんと離れ離れになった事があるわ」

 

 かつてデビルガンダムコロニーとの戦闘の後、翔は異世界から姿を消した。カガミにとって”さようなら”も言えなかった出来事だ。

 

「とても辛かったわ……。でも私はそこで止まるわけにはいかなかった」

 

 かつて翔が異世界を去った後、ずっと翔の戦闘データを元に戦闘プログラムと訓練する日々に明け暮れていた日々を思い出しながら話すと、翔との別れを経験した事があると言ったカガミに一矢は驚く。

 

「傍で私のことを見ていてくれる存在がいるんだもの。そんな人達にいつまでも情けない姿は見せられないし、それに何より胸の中にあった宝の断片が私の背中を押してくれたから」

 

 翔が居なくなった後もずっとヴェルと共に統合軍で戦い続けた。いつだってヴェルは近くで支えてくれた存在なのだ。そんな彼女にいつまでも気遣わせるわけにもいなかた。

 

「そうしているうちに私はまた翔さんに再会する事が出来た。辛かった分、とても嬉しかったわ。アナタ達ともそうありたいと思っている」

 

 最初は再会も叶わないことなのかもしれないと考えていた。しかし現にカガミは再び翔と出会う事が出来た。

 

「私達は空と海よ。一見して届くことはないけど地平線の先に繋がっている。だから悲観しないで。また再会することを考えて、お互いの未来の先で笑いましょう」

 

 もう二度と会えないというわけではない。そうまで言うのは、カガミ自身がなにが起きようとも死ぬつもりがないと言う事だからだろう。だからこそ想いの籠った言葉に一矢は知らず知らずにカガミの瞳をじっと見ている。

 

「……俺もアナタみたいに進めますかね」

「出来るわ。私達がいなくなってもアナタは一人になる事はない。きっとアナタには立ち止まれば一緒に悩んでくれる存在や背中を押してくれる存在はいる筈よ。歩きだせないなんてことはない筈よ」

 

 やはり一矢にとって翔やシュウジのようにカガミもまたとてつもなく大きな存在に映る。遠い存在であるカガミのように前に進める存在であれるか分からないが、それでもカガミは力強く答える。

 

「でも、そうね。もしあんまりにも酷いようなら私直々に修正してあげるわ」

 

 ふと冗談交じりに軽い笑みを見せながら指をコキリと鳴らすカガミのどこかサディストのような笑みを浮かべる姿に一矢は引き攣った表情を浮かべる。

 

「けど、これだけは断言するわ」

 

 冗談も程ほどにカガミは最後に一矢にもう一度、話す。

 

「雨宮一矢、アナタは必ず前に進める。それはアナタ自身の為に、何よりアナタの事を見ている存在の為に」

 

 確信を持って放たれるカガミの言葉。それだけカガミも一矢を信頼しているからこその言葉なのだろう。

 

「どうすれば良いか……だったかしら。なら答えを見つけなさい」

 

 最初に一矢が口にした言葉にカガミなりに答える。

 

「なにがあっても後悔しない答え。その為には様々ことに耳を傾け、導き出しなさい」

 

 そう言ってカガミは懐からメモ書きを取り出し、一矢に渡す。

 

「これは……?」

「アナタに渡しておこうと思って。アナタの道しるべになってくれる筈よ」

 

 カガミから渡されたメモ書きの内容を見て、一矢は戸惑いながらカガミを見やると微笑みを見せながら彼女は立ち上がる。

 

「答えが見つかったら教えて頂戴」

 

 そう言ってカガミは伝票を持って席を離れると、会計を済ませて店を出る。残された一矢はカガミに渡されたメモ書きの内容を再び見つめるのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

太陽に焦がれて

(URLか……)

 

 喫茶店に一人残された一矢はカガミから手渡されたメモ書きを見やる。その内容は何やら何処かのサイトへ繋がると思われるURLであった。

 

(道しるべ……か)

 

 迷いのある自分にカガミはそう言った。これがどこのサイトに繋がるかは分からないが、カガミを信じて携帯端末で開いたプラウザにURLを打ち込んでいく。

 

「──っ!」

 

 全て打ち込んでページを開く。だが次の瞬間、目に飛び込んできた立体画面に表示されている内容を見て一矢は愕然としたあまり、手に持っていた携帯端末を音を立ててテーブル上に落としてしまう。

 

 

 

 ────トイボット日和。

 

 

 

 それがそのブログの名前であった。

 

「……これって……ロボ太……の……?」

 

 この名前を一矢は知っている。それはSSPG記念大会でバトルをしたDoodleチームが口にしていたロボ太が始めたと言っていたブログの名前であった。

 

 身体全体が震える。そんな中、一矢は恐る恐る携帯端末を拾い上げるとその内容に目を通し始める。まだ開設されたばかりということもあって投稿数は少なく、その一つ一つに見ていた。

 

「……なんか、ロボ太らしいな」

 

 内容は確かにDoodleチームが言っていたように中々、詩的情緒豊かな内容であった。だがそれもロボ太の個性のように感じられてついつい微笑んでしまう。

 

「……ん?」

 

 そうしていると、ふと目に留まったページがあった。何故ならそれは今までの投稿とは違い、写真付きのものであったからだ。写真の内容は実物大ユニコーンガンダムだ。かなり見上げる形となっている為、ロボ太自身が記録したものなのだろう。

 

(……懐かしいな)

 

 あの時、ウイルス騒動解決の為に出向いたとはいえ、ロボ太をミサと抱えて実物大ユニコーンガンダムをバックに写真を撮ったあの日の事は未だに鮮明に覚えていた。

 この投稿もどうやら内容はポエムのようだ。一矢はそのまま画面をスクロールさせて目を通す。

 

 

 

 ───かけがえのないトモダチに送る

 

 

 世界が彩られる

 それはきっと君達に出会えたから

 

 どれだけ考えても君達への感謝の想いを上手く返せない

 だからせめて、この言葉を送りたい

 

 新星の如く輝ける人よ

 花のように可憐な人よ

 

 君達が進む先は誰にも分からない

 心挫けそうになる時があるかもしれない

 

 しかし忘れないで欲しい

 

 太陽は必ず昇る

 必ず君達を照らしてくれる

 

 だから恐れず未来という扉を開いて欲しい

 

 君達だけが持てる誇り(プライド)をぶつけ続けて欲しい

 君達が諦めない限り、未来は望むがまま君達だけの輝かしい今に繋がっていくのだから───。

 

 

 

 

 

「……なんだよ……」

 

 それは紛れもなくロボ太が一矢とミサに向けて送られたモノであった。それを見た一矢は静かに口を開く。

 

「隠さずに教えてくれよ……」

 

 ロボ太はミサに興味本位でブログのURLを尋ねられた時に全力で断っていた。だが、今にして思えば、ちゃんと彼自身に言ってもらいたかった。

 

「どんなに嬉しくたって……お前に伝えられないだろ……っ!」

 

 不意に一矢の視界が滲み、ポタポタとテーブルの上を涙の雫が零れていく。ロボ太が自分達の事だけを考えてこの詩を作ってくれたことが純粋に嬉しかった。だがその言葉をいくら伝えたくたって、ロボ太はもういない。

 

「──使うか?」

 

 肩を震わせて涙を流す一矢に声がかけられる。聞こえた声のまま腫れた目を向ければ、そこにはハンカチを差し出す翔がいたのだ。

 

「翔……さん……?」

「カガミから君がここにいるって聞いてな。少し抜け出してきた」

 

 差し出されたハンカチを受け取りながらも何故、翔がここにいるのかという疑問を目で訴える。大方、ブレイカーズに戻ったカガミに今の一矢の事を知らされたのだろう。翔はやんわりと微笑みながら向かい側に座る。

 

「……今の俺って……情けないですよね」

「否定はしないよ」

 

 翔に手渡されたハンカチをぎゅっと握りながら涙声を交えて話すと何かフォローでもいれられるのかと思いきや、翔は近くのウェイターに注文を済ませながらどこか鋭く答える。

 

「別に今の君その物を否定する気はない。シュウジ達の件は聞いている。それにロボ太の件やずっと続いてきたウイルス騒動……。君の負担が大きくなり、心が受け止めきれなくなったのだろう。それは分かるからな」

 

 翔の言葉に身を震わせる一矢を見て、一応、誤解がないようにと翔は話を続ける。

 

「……俺も君と似た経験をした事がある」

 

 ふと翔が口にした言葉に一矢は翔を見やる。自分と似た経験……それは一体、どういう事なのだろうか。

 

「その人は俺達の未来を手に入れるためにいなくなってしまった。俺は耐えられなかったよ。何でこんなことになるんだって、理不尽だと怒り、憎んだりもした」

 

 一矢に話せる範疇で己が経験した出来事について話す翔。その目は懐かしんでいるものの、どこか哀しみがあった。

 

「それでもその人が教えてくれたものはずっと胸に残ってる。そしてそれが俺の強さになった」

 

 己の掌を眺めながら翔は強く拳を握る。事実、その人物から与えられた影響は今も翔に根強く残っている。

 

「君は多くの出会いを経験してきた。その全てが君に強さを与えてくれたはずだ。例えもう会えないとしても心に残った強さは決して消えやしない」

 

 一矢はミサをはじめ、そこから今に至るまで数多くの出会いを経験してきた。その出会いの一つ一つが齎す刺激は一矢の心に糧として残り続ける筈だ。

 

「想いや魂はまた違う誰かに受け継がれていく。迷った時は思い出せ、自分に強さを与えてくれた人達のことを」

 

 例えば、翔から始まったガンダムブレイカーはシュウジを経て、一矢に繋がっている。

 人から人へ受け継がれた輝きのような強さは決して消えやしない。翔の言葉に一矢は何か考え込むように目を伏せる。

 

「……だったら俺……伝えたいです。俺を強くしてくれた人達に俺の想いを全て。ミサやシュウジ……翔さんにみんな……そして何よりロボ太に……!」

 

 顔を上げた一矢の顔つきが変わった。真っ直ぐと翔の瞳だけを見て、確かに話す。

 

「最後まで諦めるな、ですよね」

 

 強く一矢から放たれた言葉に翔は面食らったように驚くものの、やがて微笑みながら、ああと強く頷く。

 

「俺、もう絶対に諦めません。シュウジ達にもロボ太にもまた会える日を。会って伝えるんです、感謝の想いを」

 

 どんどんと一矢の表情に活気が戻っていく。それは心の中に覆っていた暗雲が消え去り、蒼天の空が広がっていくかのようだ。

 

「この誇り(プライド)を未来にぶつけ続けて、現実に変えます。その為の一歩を踏み出す決心がつきました」

 

 ロボ太のブログに綴られたあの詩。ロボ太の願いと共に今まで心の中を支配する暗がりの中で俯いていた一矢は自分自身の為に一歩踏み出すため、顔を上げたのだ。

 

「翔さん、見ててください。俺が一歩踏み出すところを」

 

 立ち上がった一矢は翔に話すと断る筈もなく、ああ、と強く頷く。その姿を見て嬉しそうに微笑んだ一矢は善は急げとばかりに喫茶店を慌ただしく飛び出して行く。

 

(……最後まで諦めるな……か)

 

 一矢は店を後にし、テーブルには翔だけが残った。提供された飲み物を口に運びながら翔は先程、一矢が口にした言葉を思い出す。

 

(カレヴィ……アンタが掴み取った未来……アンタの想いと共に俺は生き続けてるよ)

 

 閃光の果てに散っていった友へ想いを馳せる。自分に大きな影響を与えてくれた兄貴分ともいえる人物だった。彼から受け継いだ強さを胸に翔は窓から見える空を見上げるのであった。

 

 ・・・

 

「はぁ……」

 

 これで何度目の溜息だろうか。学校を終えたミサは自室に籠って、ベッドの上でため息を零していた。それもこれもロボ太やヴェル達の件のせいだろう。

 

(一矢……)

 

 それでもいつも考えてしまうのは一矢のこと。あの時、一矢が見せた涙が頭から離れないのだ。彼が涙を流すのであれば、それを拭うのが自分の役目の筈なのに。

 

「───ミサ、ちょっといいかな?」

「……なに、父さん?」

 

 すると数回のノックと共にドア越しにユウイチの声が聞こえる。いつものように元気よく答える気力もなく、力ない様子で対応する。

 

「一矢君が来てるんだ。開けるよ」

「えっ!?」

 

 店番でも頼まれるのだろうか、そんなことを漠然と考えていたミサだが、思わぬユウイチの一言で身を起こす。同時にユウイチによってドアが開かれる。

 

「さっ、ゆっくりしていって」

 

 ユウイチに案内されるまま部屋に足を踏み入れた存在。それは紛れもなく一矢であった。ユウイチの言葉に会釈を返すと、ドアはユウイチによって静かに閉められる。

 

「一……矢……?」

 

 目の前に一矢がいる。何故だかそれが信じられなくてミサは一矢に手を伸ばす。

 一矢はゆっくりと歩みを進めると、ミサから伸ばされた手を握ったかと思えば、そのままミサを強く抱きしめる。

 

「ごめん、ミサ……。待たせちゃった……」

 

 抱きしめられ、一矢から伝わる温もりと確かな鼓動がそこに一矢がいるのだと実感させてくれるなか一矢はその耳元で囁くように話し始める。

 

「ミサも辛い筈なのに、俺……自分の事ばっかりでミサのところに来るの……遅くなっちゃった。本当に……ごめん……」

 

 ミサを抱きしめる一矢の腕に力が籠る。ミサのことも考えずに余裕もなく自分の事ばかり迷い嘆いていた。

 

「……良いんだよ」

 

 すると漸く抱きしめられていたミサが口を開く。

 

「……一矢がここまで会いに来てくれた……。それだけで……十分だよ」

 

 一矢の背中に手を回して、抱きしめ返す。

 互いの鼓動や息遣いが聞こえるなか、ミサは泣き出しそうなくらいうれしそうに話す。

 

「……私ね。ヴェルさん達が後腐れなく出発できるように……笑顔で見送るつもりだよ」

 

 ミサの口からヴェル達について話される。そう思い至ったのはさよならも言えなかったロボ太の件もあったからだろう。

 

「でもね、やっぱり辛いよ……。今も凄い苦しい……!!」

 

 それでもその別れその物に何も感じないわけではない。ミサの声色がどんどん震えていき、涙声すら混ざり始め、一矢を抱きしめ返す腕に力が籠る。

 

「……ねえ……一矢……。このまま……泣いちゃっていい……?」

「……ああ」

「……泣き言も言って良いかな……?」

「……好きなだけ。ミサの全部を受け止めるから」

 

 一矢の胸に顔を埋めながら、ふと消え入りそうな声で尋ねるミサに一矢は頷く。一矢の頷きに嬉しそうに微笑んだミサだが、すぐに顔を歪ませてワンワンと一矢の胸で涙を流し続けるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Sky's The Limit

「……落ち着いた?」

 

 あれから時間も経ち、泣きじゃくっていたミサも漸く落ち着き始めると、それを見計らった一矢に声をかけられコクリと頷く。

 

「……ゴメン、変なとこ見せちゃって……」

「良いんだ。ミサがそんな姿を見せてくれて嬉しかったし」

 

 一矢に抱きしめられながら腫れあがった目を擦りながら先程までの自分を思い出してどこか恥ずかしそうに頬を染めるミサに一矢は優し気な笑みを見せながらその背中を撫でる。

 

「……そうだ、ミサに見せたいものがあるんだけど」

 

 するとここで一矢はミサを抱きしめたまま自身の携帯端末の立体画面を現す。そこに表示されていたのは、ロボ太が自分達にあてた詩であった。

 

 ・・・

 

「……そっか……。ロボ太、私達に……」

 

 一矢がミサに見せたのはトイボット日和の投稿であった。ベッドの上で一矢の隣に座るミサはロボ太の自分達へ向けた詩に再び目尻に涙を浮かべる。

 

「……俺、シュウジ達やロボ太と再会する未来を諦めない。その未来を現実にして見せる」

 

 今、改めてミサへ決意を口にする。もう迷うことなく強く言い放つ。

 

「……うん。私も目指すよ。一矢と……望んだ未来を現実に変えるために」

 

 シュウジ達との別れも悲観し過ぎていたのかもしれない。確かに別れは辛いがそれでもう二度と会えないと決めつけるには早計だと思う。人類が夢見て来た宇宙への進出が今、進められているように諦めなければ叶える事はある筈だ。

 

「……ミサ、少し付いてきてくれるか?」

 

 立ち上がった一矢はミサに手を伸ばす。今日、この場に訪れたのはミサの為もあるが、何より彼女を迎えに来たのが大きな目的だからだ。

 

「少しどころかずっと付いて行くよ!」

 

 伸ばされた一矢の手を嬉しそう微笑むと、ミサらしい活気に溢れた笑みと共に一矢の手を掴んで立ち上がる。お互いに笑みを交わし合いながら一矢はミサの手を引いて、移動を始めるのであった。

 

 ・・・

 

「おっ、来たな」

 

 一矢達が移動したのは、イラトゲームパークであった。もうそこにはかつてのウィルとのリマッチの時のように多くの人で賑わっており入店した一矢達にカドマツが出迎える。

 

「もう大丈夫なのか?」

「……ああ、もう大丈夫。ごめん」

 

 一矢とミサのここ最近の様子を知っていたカドマツはかつてのように活気を取り戻した一矢達の表情を見て、尋ねると心配させてしまったことを詫びる。

 

「いや良いんだ。ロボ太の件も俺はお前さん達に責められたって文句は言えないからな」

「カドマツもロボ太も最善のことをしたんだ、責めるなんて出来ないよ。だから……俺……いや俺達も自分が出来る最善の事をしようと思う」

 

 一矢達を危険に晒すだけではなく、結果としてロボ太を失うこととなってしまった。一矢達の怒りの矛先を向けられる事も覚悟していたカドマツだが、一矢はそんなことはしないと首を横に振る。

 

「やっほー、来たよ」

 

 すると再びイラトゲームパークに入店する者がいた。一矢達が振り返れば、そこには優陽がおり、軽く手を挙げている。

 

「悪いな、急に呼び出して」

「構わないよ。それにここにいる人達は……」

「俺が呼んだ」

 

 優陽がイラトゲームパークに訪れたのは、どうやら一矢が呼び出したからのようだ。

 一際、賑わっているイラトゲームパークの様子を見渡しながら尋ねると一矢は頷く。どうやらカドマツも優陽も、そしてこの場に集まった多くの人々も一矢が一人で集めたようだ。

 

「えっと、一矢……。この娘は……?」

 

 とはいえミサは優陽を知らない。親し気に話している一矢と優陽をどこか複雑そうに見ながら紹介を求めるようにミサは一矢を見やる。

 

「南雲優陽。こう見えても、男……らしい」

「らしいじゃなくて、れっきとしたオトコだよ」

 

 そう言えば、ミサやカドマツは優陽を知らない為、一矢は簡単に優陽を紹介する。しかし二人とも優陽の愛らしい外見から少女と思っていたようで、一矢と優陽の言葉に目を丸くして信じがたいと言わんばかりに驚いている。

 

「まあ兎に角、よろしくね」

「う、うん……」

 

 軽くウインクしながらミサ達に声をかける優陽。しかしいまだに信じられないのか、微妙そうな表情で返事をしていた。

 

「……えっと……なに、かな?」

 

 挨拶も程ほどに優陽はミサを見て、不思議そうに首を傾げている。

 一見、可愛らしいが何故、自分がそんな目で見られているのかが分からずミサは思わず問いかける。

 

 だが優陽はミサの胸部を一瞥すると……。

 

「あぁ、君もオトコノ───」

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 合点がいったかのように手をポンと叩き、何やら口にしようとする優陽。しかしその途中に飛び出した一矢によって口を塞がれる。

 

「お前……っ……お前ぇっ!」

「ジョークジョーク。ナグモジョークだよ。ちゃーんと彼女の事も知ってるってー」

「笑えるか!」

 

 冷や汗をダラダラと掻きながら必死の形相で胸倉を掴む一矢だが、優陽は特に反省した様子もなく軽く舌を出しながらウインクしている。

 

「な、仲が良いんだね……」

 

 優陽の言葉も一矢が止めたせいか、ミサに完全に届いてはいなかったようで事なきは得ているが、優陽に振り回されている一矢を見て、ミサは何とも言えない様子で話す。

 

「そりゃそうだよ。僕らもう一夜を過ごした仲だし」

 

 ミサの言葉に優陽はにっこりと一矢に身を寄せながら答えると、その言葉に空気が凍り付く。

 

「彼、結構可愛いんだよ(寝顔が)」

「一矢受け!?」

「でもあの夜は激しかったなぁ……(寝相が)」

「ねぇ一矢? ねぇ一矢っ!?」

 

 一矢の冷や汗が止まらぬ中、どこか恍惚とした様子で頬に手を当てながら話し続ける優陽にミサはどんどん顔を真っ赤にさせて、一矢に何か言えと詰め寄る。

 

「お、落ち着け。俺がお前以外にそんなことするわけないだろ!?」

「一矢ぁっ!!」

 

 ミサの両肩を掴みながら、取り繕うことなくとにかく必死に言い放つ一矢。しかし、その言葉のせいで、ボンと湯気が出るかのようにミサは顔を真っ赤にさせる。

 

「───随分と騒がしいじゃねえか」

 

 お熱いんだからぁと白々しく口にする優陽に一矢とミサが赤面するなか再びイラトゲームパークの扉が開かれる。そこにいたのは一矢によって呼び出されたシュウジをはじめとしたトライブレイカーズと翔がいたのだ。

 

「良い顔になったな」

「ああ。決めたんだ。シュウジ達をちゃんと見送るって」

 

 一矢を最後に見たのは、彼が公園で泣いて取り乱していた時だ。あの時とは打って変わって迷うことなく彼らの旅立ちを見送ろうとする力強い表情を見せる一矢にシュウジ笑みを見せる。

 

「だけど、その前に俺の全てを伝えたい。俺、説明とか下手だから……上手く言葉に出来るか分からないけど……」

 

 見送った後も後悔がないように、だからこそ自分の全てを伝えたいとこの場に多くの人を集めた。

 

「だから、俺は俺なりのやり方で伝えたい」

 

 すると一矢はケースの中からリミットブレイカーを取り出してシュウジに突きつけたのだ。

 

「……成る程な。良いぜ、そっちの方が俺好みだ」

 

 一矢によって突き付けられたリミットブレイカーはバトルへの招待状のようなものだ。格闘家として拳で伝えることが多かったシュウジは面白そうに笑みを浮かべながら、バーニングゴッドブレイカーを取り出す。

 

「俺もお前に全部を伝えるからよ」

 

 もうお互いに後悔がないように。集まった多くの者が見守るなか、一矢とシュウジはガンプラバトルシミュレーターへ乗り込んでいくとマッチング終了と共に己の全てをぶつけるために出撃するのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Supernova

 リミットブレイカーとバーニングゴッドブレイカーのバトルのステージに選ばれたのは、雲が覆って暗がりを生むギアナ高地のステージだ。既にリミットブレイカー達による戦闘が開始されており、幾度となくぶつかり合っている。

 

 叩きつけるように振るわれるカレトヴルッフを白刃取りの要領で受け止めるバーニングゴッドブレイカーはそのまま、カレトヴルッフを奪って反撃につなげようとしていたのだが、バーニングゴッドブレイカーがカレトヴルッフを受け止めた瞬間、スーパードラグーンが展開され、バーニングゴッドブレイカーを狙おうとする。

 

(見違えたぜ、一矢)

 

 咄嗟にカレトヴルッフを手放して距離を取ろうとするのだが、食らいつくようにリミットブレイカーはバーニングゴッドブレイカーを追い、Cファンネルを解き放ってスーパードラグーンと併せたオールレンジ攻撃を仕掛ける。

 一矢のバトルをそれこそリージョンカップ前から知っていたシュウジはメキメキと実力を上げたことを感じ取って知らず知らずに笑みを零してしまう

 

「旋風竜巻蹴りッ!!」

 

 だが勝負の世界でいつまでもそんな事を考えているつもりはない。バーニングゴッドブレイカーはその身を高速回転させることによって竜巻と生み出し周囲に突風を引き起こす。それによって迫るオールレンジ攻撃を無効化させ、破壊する。

 

「流星螺旋拳!!」

 

 そしてそのままの勢いを利用して、リミットブレイカーを一直線に目指して射貫く様な拳が放たれる。避けるにはもう間に合わない。だからこそリミットブレイカーがとったのは、カレトヴルッフを盾代わりにして防ぐことであった。

 

「くぅっ!」

 

 抉るような拳が放たれ、カレトヴルッフに大きな負担を与えるが、全てのスラスターを稼働させることによって何とかその場に留まることが出来た。そしてそれを無駄にはしない。強い頭突きを浴びせる事によって、バーニングゴッドブレイカーとの距離を僅かに開けると、何よりシュウジから教わった聖拳突きをまっすぐと突き放ち、バーニングゴッドブレイカーは咄嗟に両腕をクロスさせて防ぐものの、後方に吹き飛んでしまう。

 

 その隙を逃すつもりはない。真っ直ぐと突き進んだリミットブレイカーはカレトヴルッフの一撃を振るう。だがその刃はバーニングゴッドブレイカーに届くことはない。何故ならその直前にバーニングゴッドブレイカーは自身のバックパックに装備されている二本の刀を引き抜くことによって受け止めたからだ。そのまま両肩のビームキャノンを放って、リミットブレイカーを遠ざける。

 

 ・・・

 

「凄い……」

 

 一矢とシュウジの場徹が始まって数分、もう既にトップクラスのバトルを見せる両者の様子を観戦しながらミサは思わず零すように呟く。

 

「雨宮君、必死に前に進もうとしてるね」

 

 やはり実力差はあるのか、リミットブレイカーは苦戦を強いられているしかしそれでも諦めずに我武者羅なまでにバーニングゴッドブレイカーに食い付こうとしているのだ。その姿を見ながら、一矢に呼び出された真実はミサの隣に立って、声をかける。

 

「ミサちゃん、ボヤボヤしてると置いてかれて、雨宮君の隣が空いちゃうかもしれないよ」

「大丈夫。私は絶対に一矢と一緒に進むから!」

 

 発破をかけるように言われた真実の言葉にミサは自信に溢れた言葉を返す。確かにこのバトルは圧巻される。しかしだからと言って、また一矢の後ろを追うような事をするつもりはない。その真っ直ぐな言葉に真実は満足そうに頷く。

 

(イッチ、皆に届いてるよ。イッチが必死に前に進もうとしている姿は)

 

 夕香もまた一矢のバトルを見て笑みを零す。今、この場に集められた全ての者がバトルに釘付けになっていた。それは全てバーニングゴッドブレイカーに必死に立ち向かっていくリミットブレイカーの姿に惹かれての事だろう。

 

 ・・・

 

「っ!」

 

 

 空中での戦闘中、リミットブレイカーに放たれた鋭い蹴りによって左腕に握られていた刀が弾かれてしまう。驚くのも束の間、カレトヴルッフの渾身の一撃が振るわれ、残った刀で受け止めるも大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「まだだ……。俺はまだ伝えきれてない!!」

 

 しかし、リミットブレイカーは決して距離を離そうとしない。覚醒を発現させたリミットブレイカーは風を切って、バーニングゴッドブレイカーへ向かっていく。

 

 流石のシュウジと言えど覚醒したリミットブレイカーを相手に損傷が目立ち始める。もう今の一矢はシュウジが過去に軽く捻っていたあの頃とは違うのだ。

 

「届かせるんだ、絶対にッ!!」

 

 だが対応して勢いを巻き返す点はやはり流石と言うべきだろう。振るわれたカレトヴルッフの刃を横から蹴ることで軌道をズラして、がら空きとなった胸部に掌底打ちを浴びせて吹き飛ばす。勢いのまま吹き飛ぶリミットブレイカーだが、何とか体勢を立て直すとモニター越しにバーニングゴッドブレイカーを見上げる。

 

「後悔することに慣れたくなんてないからッ!」

 

 柄を強く握り、覚醒の輝きを強めるとカレトヴルッフを媒体に巨大な光の刃を形成するとバーニングゴッドブレイカー目掛けて一気に振り下ろす。

 

「……ッ!」

 

 自身目掛けて向けられた膨大なエネルギーの塊が迫り、シュウジは息を呑むがあえてそれを真正面から受け止めようとバーニングゴッドブレイカーは黄金の輝きを放つ。

 

 アルティメットモードを発現させたバーニングゴッドブレイカーは構えを取る。それは自分の全霊を込めて放たれる一撃──。

 

「石破ァッ天ッ驚ォッ拳ンッッ!!!!」

 

 膨大なエネルギーの刃に対抗して放たれたのは、天然自然のエネルギーを受けて放たれる気功弾。エネルギーとエネルギーのぶつかり合いは周囲に大きな衝撃を与えつつ、やがて臨界に達したかのように大爆発を起こす。

 

「……ッ……」

 

 リミットブレイカーは無事ではあるが、元々負担がかかっていたカレトヴルッフは自壊してしまっている。モニターが硝煙によって遮られている中、一矢はバーニングゴッドブレイカーの姿を探す。

 

「……!」

 

 硝煙が消え、見上げた空にバーニングゴッドブレイカーはいた。膨大なエネルギー同士のぶつかり合いによって暗がりを広げていた雲は消し飛ばされ、蒼天の空が広がるなか、黄金の輝きを放って空に佇むその姿はさながら太陽が人の形を成したかのようだ。

 

 バーニングゴッドブレイカーはゆっくりと地上に降下して、リミットブレイカーと相対する。損傷が目立つものの互いに輝きを放ち続ける二機はどちらからとも言えず、地を蹴って、拳と拳をぶつけ合う。

 

「こっのォッ!!!」

 

 バーニングゴッドブレイカーの拳がリミットブレイカーの頭部を鋭くそして重々しく殴り抜け、ブレードアンテナを折られてしまう。よろめいたリミットブレイカーだが、ダンッと強く足を踏ん張り、そのままありったけを込めるように突き出した拳によってバーニングゴッドブレイカーの頭部を粉砕する。

 

「まだッだァッ!!」

 

 頭部を粉砕されたバーニングゴッドブレイカーだが、その場に踏み止まって何度も何度も拳と拳を交える。ここでお互いに引き下がるわけにはいかない。真正面からお互いの全てを受け、そしてぶつける為に。

 

 ・・・

 

「……二人とも……」

「ああ、凄い楽しそうだな」

 

 もはやどちらが勝つかも分からぬ状況で優陽は両者を見て、何か気づいたように呟くと、その声が聞こえていたのか、翔は傍らに歩み寄りながら答える。

 

「これは命を賭けたやり取りじゃない。だからこそ思う存分、誇り(プライド)を……己の全てをガンプラを通して分かち合う事が出来る」

 

 バーニングゴッドブレイカーに殴られた拍子で地を削って吹き飛んだリミットブレイカーは片翼を壊してしまう。しかしそんな事も気にせずにまた立ち上がって、向かっていく。そのどこまでも真っ直ぐな姿を見つめながら、翔は優陽に語り掛ける。

 

「それこそがガンプラバトル。バトルで得た楽しさも悔しさも全て新たな自分に繋がっていく。それがガンプラファイターだ。今、この瞬間もあの二人は新たな自分に変化していってるんだ」

 

 フィールドを照らす輝きとは対照的にお互いの機体はボロボロになっていく。しかしそれでもぶつかって、転がり、また立ち上がって向かっていくその姿は翔にはとても美しく見えた。

 

「そしてその姿は周囲の人間は見逃したりしない。最後まで諦めず、倒れても立ち上がり、前へ突き進むその姿は勇気を与えてくれるのだから」

 

 翔は自身の胸の前で強く拳を握る。翔のその言葉に優陽は周囲を見渡す。今、誰しもがこのバトルに目を逸らす事が出来ず、決着がつくその時まで固唾を呑んで見守っていた。

 

「……僕も……なりたい……、諦めず誇り(プライド)と共に誰かに勇気を与えられるあの二人みたいなガンプラファイターに……。苦難も破壊して、輝かしい未来を創造するガンダムブレイカーに」

 

 ただ勝ちたいが為だけに作る楽しさや誇り(プライド)も何もないガンプラで戦い続け、居場所を失った優陽。ただ願わくば、また楽しむ心を知っていたあの頃のように輝かしいバトルをしたい。

 

「なれるさ。君がどんな苦難の中でも、再び立ち上がり君が君らしくいられるのであれば」

 

 優陽の肩にそっと手を置きながら、翔は優しく微笑む。そんな翔の言葉を受けた優陽は彼に頷き、再びバトルに集中する。

 

 ・・・

 

(伝わってくる……。シュウジがこのバトルを心から楽しんで、真正面から全力で向かってきてくれるって言う事が……ッ!!)

 

 もう何度、拳を交えただろうか、どれだけ泥に塗れようとも突き進む両者。そんな中、一矢は目の前のバーニングゴッドブレイカーを見つめながら人知れず笑みを見せる。自分と同じようにシュウジもまたただ我武者羅に向かってきてくれるのが本当に嬉しかった。

 

(アンタのその強さに……真っ直ぐに進み続ける強さに俺は憧れた……ッ! 絶対に忘れやしないッ! アンタのその姿を最後までッ! アンタから教わった強さと共に進み続けるッ!!)

 

 拳を交える度に、何か教えられている、そんな気分になる。いや、これは恐らくシュウジによる最後の稽古でもあるだろう。だからこそここで中途半端には終われない。

 

「だからこそアンタに刻み付けるッ! アンタから受け継いだこの力でェッ!」

 

 リミットブレイカーはバーニングゴッドブレイカーから距離を置くと右腕に紅蓮の炎を纏う。それは未来を掴む輝きの炎。覇王から受け継いだ確かな輝きを放って、突き進んでいく。

 

「来い、一矢ァッ!!」

 

 一方、バーニングゴッドブレイカーも未来を示す輝きを右腕に纏い、リミットブレイカーを待ち構える。

 二つの未来への輝きを纏った右腕は同時に放たれ、轟々とした衝撃波が周囲に巻き起こる。しかしその中心で二機のガンダムブレイカーは踏み止まり、それどころか前へ進もうとする。それは互いの誇り(プライド)の全てをぶつけるために。

 

 

 

 

 

 前へ進み続けるその背中に少しでも届かせるために。

 

 

 

 

 

 受け継いだ力を得て、強くなった今の自分の全てを知ってもらうために。

 

 

 

 

 

 自分に憧れて、この背中をまっすぐ追いかけ続けてくれる者の為に。

 

 

 

 

 

 自分が目指す未来を共に進み続けてくれると言ってくれた愛する存在の為に。

 

 

 

 

 

 自分達にまだ見ぬ未来を進み続けて欲しいと道を切り開てくれたトモダチの為に。

 

 

 

 

 

 未来(明日)へ何度も誇り(プライド)をぶつけ続ける。

 

 

 

 

 

 

 その為に───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「届けえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、大爆発が起こる。観戦モニターさえ遮る程の大爆発によって勝敗が分からなくなってしまった。誰しもが硝煙の中から残った者を探そうとするなか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり……遠いなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 爆発が晴れた先にいたのは、バーニングゴッドブレイカーによって貫かれているリミットブレイカーの姿だ。もう動かす事が出来ないシミュレーターの中で一矢はどこか悔しそうにそれでも嬉しそうに答える。

 

「……そうでもねぇさ」

 

 機能を停止したリミットブレイカーはバーニングゴッドブレイカーにもたれ掛かる。そんななか、シュウジはポツリと呟いた。

 

「……ちゃんと届いたぜ、一矢」

 

 リミットブレイカーの拳もまたバーニングゴッドブレイカーの胸部を食い込んでいたのだ。それによってバーニングゴッドブレイカーも機能を停止してしまっている。シュウジは心からよくここまでやったと言わんばかりに静かに満足気に答える。

 

 観戦モニターの前に立っていた者達の中から、人知れず拍手が沸き起こる。己の全てをぶつけるために戦った二機のガンダムブレイカーは互いに支え合うようにもたれ合って機能を停止していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

繋いでいく想い

 シュウジとのバトルを終えた一矢はゆっくりとガンプラバトルシミュレーターから姿を現す。全身全霊をぶつけたバトルだった為、額にはじんわりと汗が滲み、目に見えて倦怠感が表れていた。

 

 暗がりの多いガンプラバトルシミュレーターから明かりが広がるイラトゲームパークの室内に出てきたことによって、目を眩ませた一矢だが確かに支えるようにその肩をしかと掴まれる。明かりに慣れ始めた瞳が見やれば、そこには穏やかな笑みを浮かべているシュウジがいた。

 

「良くやったな、一矢」

「出来る事なら勝ちたかったけど」

 

 そのまま一矢の肩に腕を回したシュウジは先程の一矢のバトルについて、その健闘を称えると、全部をぶつけたバトルだからこそ勝ちたかったという気持はあるのか、苦笑交じりに答える。

 

「けどこれで俺達は同じラインに立ったんだ。俺達の未来は別々だが、だからこそ俺達の未来がまた交わった時にもう一度バトルしようぜ」

 

 シュウジも正直なところで言ってしまえば、一矢がここまで戦える程、成長しているとは思わなかった。世界でも輝けるファイターとして一人前に成長したとはいえ、まだ自分には及ばない弟分だと思っていたからだ。だがその認識もすぐに変わった。

 

 一矢はもう十分、自分と肩を並べるまでに成長したのだ。ならばここからはどちらが再び再開した際に強くなれるかの競争だ。互いに負けるつもりはないのか、シュウジと一矢は笑みを浮かべ合う。

 

「良いバトルだったよ。シュウジ、それに一矢君」

 

 そんな二人に声をかけたのは翔であった。その傍らには優陽の姿がある。一矢達に向けられる周囲の温かな眼差しと共にそんな周囲の総意を口にするような翔の言葉に一矢とシュウジは互いに顔を見合わせてはまたクスリと笑う。

 

「……どうした?」

 

 そんな中、ふと一矢は翔の傍らに立っている優陽に声をかける。と言うのも優陽は何か我慢しているかのように、俯いてもじもじと体を揺らしているからだ。

 

「……いや……その……二人のバトルを見て、身体が熱くなっちゃったって言うか……」

 

 頬を染めながら気恥ずかしそうに話す優陽。一矢とシュウジのバトルを間近で見たと言うのもあって、自身もバトルがしたくて堪らなくなってしまったのだろう。

 

「僕もなりたいって思ったんだ、アナタ達みたいに……」

 

 最初は仲間と共に進み、輝きを放つ一矢だけに憧れていた。しかし今は一矢とあそこまでのバトルをしたシュウジにも、そして言葉を送ってくれた翔にも感化され始めていたのだ。

 

「先ほども言ったが、君が君らしく前に進めば、きっとその先に君がなりたい自分が待っているよ」

「そしてその先にもな。歩みを止めない限りは限界なんてない。どうせならずっと手を伸ばしな」

 

 優陽に対して、改めて言葉を送る翔に続くようにシュウジもまたこれが初めての会話ではあるが、優陽に語り掛ける。

 

「……お前は昔の失敗を引き摺ってるけど、過去があるから今のお前がいる。そして今のお前は未来に……。だから進み続けよう。お互いに目指す未来へ」

 

 そして一矢もまた優陽に話しかける。一矢もまた苦い過去があった。それ故、最初はミサのチームへの勧誘を断った。しかし過去を乗り越え、経験をして、また新たな自分に繋がっていく。どんな過去でも無駄になる事はない筈だ。

 

「……そうだね。じゃあ僕も一歩一歩進むよ」

 

 翔、シュウジ、一矢の三人からそれぞれ言葉を送られた優陽は考えるように目を伏せると顔を上げてにっこりと笑う。それは彼の心にもまた支配していた靄が晴れていったかのようだ。

 

「でも憧れだけじゃ終わらせないよ。どうせなら全員、僕が超えるんだからっ」

「大きく出たな」

 

 すると優陽は前屈みになって自信に満ちた笑みを三人に見せながら吹っ切れたように晴れやかに口にすると、翔も苦笑気味に答え、一矢とシュウジは肩を竦めている。

 

「名前を聞かせてもらっていいか?」

「優陽。南雲優陽だよ。えぇーっと……シュウジさん……だったよね」

 

 和やかに話しているものの、ふと今まで優陽の名前を知らなかったシュウジは名前を尋ねると優陽は翔が口にしていたシュウジの名前を恐る恐る口にしながら自己紹介する。

 

「じゃあ、一矢。それに優陽。少し手を出して貰って良いか?」

 

 一矢と優陽に手を出すように促す。しかし二人とも何故なのか分からず、首を傾げながらもゆっくりと手を差し出すと二人の手を小気味の良い音が響く。シュウジが一矢と優陽の手をそれぞれ叩いたからだ。

 

「バトンタッチさ。俺達が残したものをお前達の未来に繋げてくれ」

 

 シュウジから一矢と優陽に行われたバトンタッチ。その姿をシュウジの傍らで見ていた翔はかつての出来事を思い出して懐かしむ。翔もまたかつてシュウジ達にバトンタッチをして異世界を去ったからだ。

 

 翔からシュウジ達に託されたバトンは今、一矢と優陽に。繋がっていく確かな流れを見た翔は改めて一矢が口にしていた過去は無駄にならないと言う言葉を実感する。

 

「絶対に落とすわけにはいかないな。このバトンだけは」

「僕には荷が重い気もするけど……。でも……何より託されたのなら繋げていかないとね」

 

 シュウジと手を合わせた掌をじっと見つめる一矢と優陽。まだ手の中にはじんわりとした感触と温もりが残っている。不思議と重みを感じるなか、ぎゅっと手を握りながら一矢と優陽は顔を見合わせて頷く。

 

「……ちゃんと答えは見つかったようね」

「ええ、本当に良かったです」

 

 その光景を傍から見ながら、カガミは満足そうに柔らかな微笑みを見せながら口を開くと傍で聞いていたヴェルも先程のバトルの影響からか、どこか感激したように瞳を潤ましている。

 

「ヴェルさん、まだまだ終わりじゃないでしょ」

 

 そんなヴェルに声をかけたのはミサであった。

 

「今度は私がヴェルさんに知ってもらう番だよ!」

「……成る程ね。うん、良いよ。全部受け止めてあげる」

 

 一矢がシュウジに己の全てをぶつけたように今度はミサもヴェルに全てをぶつけようとしていた。ミサの申し出を聞いて、シュウジの付き添いでバトルをするつもりがなかったヴェルであったがにっこりと微笑んで快諾する。

 

「……なら今度はカガミさんに」

「アナタ、バトルしたばかりでしょう?」

「寧ろ、もっとバトルがしたいんです」

 

 ミサとヴェルのやり取りを見ていた一矢は今度はカガミに視線を向ける。しかし先程あれだけのバトルをしておいて、まだバトルをする体力があるのか、疑問に思っているカガミに一矢は楽しそうに答えると、仕方のない子ね、と微笑みながら頷く。

 

「今の僕がどんなのか、二人に知ってもらいたいな」

「奇遇だな。俺もそう思っていた」

「ああ。俺達にとっちゃお互いを知るには一番分かりやすいからな」

 

 優陽もまた翔やシュウジにバトルを挑むように交戦的な笑みを見せると二人ともバトルを受けるつもりだ。

 

「やれやれ、また乱戦かい?」

「良いじゃねえか、婆さん。賑やかなのは良い事だろ?」

「好きにしな」

 

 すると次々に自分も参加したいと言う声が溢れてくる。そんな声の数々を聞いてイラトは嘆息すると、カドマツは笑みを見せながら話しかける。するとイラトは背を向けて歩き出しながら満更でもない様子で答えると、近くのベンチに向かっていく。

 

「じゃあ、用意が出来た奴から出撃だな」

 

 リミットブレイカーを手にしながらガンプラバトルシミュレーターに向かっていく一矢に続くようにファイター達はシミュレーターに向かっていき、賑やかさはさらに広がっていくのであった。

 

 ・・・

 

「随分と時間がかかってしまったな」

 

 その夜、まるで深淵のような闇夜の中で静寂に響くように口を開いたのはクロノであった。窓から月の光が差し込むなか、目の前のパソコンの画面を見て笑みを零す。

 

「だがこれで最高のクオリティを誇るゲームに仕上がった」

 

 彼の前にあるパソコンには何かの施設の見取り図や設計図、何かのデータなど数々のプログラムが開かれている。恐らく、これ等のせいでクロノはナジールの件から今日までの時間を費やしていたのだろう。

 

「さあ始めようじゃないか雨宮一矢。我々に相応しい最後のステージで」

 

 パソコンの電源を落としながらクロノはまるでこの世界の管理者のように悠然たる態度で、ただその時を待つのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終局へのカンパネラ

「後少しってところか」

 

 一矢とシュウジのバトルから数日後、ブレイカーズの作業ブースにて翔はとあるガンプラを見やりながら、その傍らにいる優陽に声をかける。

 

「はい、もうすぐ完成です」

 

 優陽の目の前にあるのは一矢が泊まった際に見つけたZZガンダムをベースにカスタマイズを施したガンプラだ。あれから優陽も一矢とシュウジのバトルを間近で見て熱を当てられたように作成を進め、ついにここまでこぎつけたのだ。

 

「ZZをベースにしただけあって、巨躯だな」

「どっしりした機体って好きなんです。おっきいのって素敵だなぁって」

 

 優陽の手がけたZZのカスタマイズ機は元々のZZに更に火力を追加させたものとなっていた。元々GP02をベースにしたゼラニウムを作成したりと優陽の元々の好みなのか、両頬に手を当て恍惚とした表情で身をくねらせている。

 

「名前は決まっているのか?」

「一応……。ま、願掛けみたいなものですけど」

 

 翔から見てもこのガンプラは中々の出来栄えだ。一矢とさほど変わらない年齢だが一矢共々先が楽しみになる。

 完成も間近であれば、このガンプラの名前も決まっているのだろうか。そう思った翔は優陽に尋ねると人さし指を頬にあて首を軽く傾げながら答える。

 

「最近毎日来てるよねー」

 

 翔と優陽が和やかに話しているとバイト中だった風香が翔の背中にのしかかる様に抱き着いて翔の肩越しに顔を出しながら優陽を見やる。彼女が言うように優陽は一矢とシュウジのバトル後、このブレイカーズに足しげく通っていたのだ。

 

「翔さんが新型シミュレーターのイベントに連れて行ってくれるって言ってたからね。それまでには絶対完成させないと」

 

 ひょっこりと顔を出して風香に笑い掛けながら優陽は自身が手掛けたガンプラを見やる。かつてガンプラを作る際はただ強さだけを求めて作り上げた。だが今は違う。ゼラニウム同様に確かな愛と何より自分が楽しみながら作成したガンプラだと自負しているのだ。

 

「えぇっ、ちょっと待ってよ! 風香ちゃんは頼まなきゃ連れて行ってくれないのにぃ!!」

「……だからお前も連れて行く予定だろ。それに今度のイベントは彼にとっても良い刺激になるだろうしな」

 

 優陽の口振りでは翔から誘われたように聞こえる。毎回、駄々こねて翔に連れて行ってもらっている風香は納得がいかないのか背後から抱き着いた翔の首を絞めながら文句を口にすると翔は煩わしそうに風香の腕を退かそうとしながら声を上げる。

 

「そう言えば、一矢達も参加するんですよね?」

「彼らももう立ち直っているからな。参加するつもりだろう」

 

 まだ納得していないのか、翔に抱き着いたまま膨れっ面を作ってむーむーと唸っている風香を他所に優陽は一矢達について触れるとシュウジ達との一件から立ち直った一矢達も参加するだろうと答える。

 

「えへへー……だったらその時が楽しみだなぁ」

 

 バトル用に新たに作り上げたこのガンプラは過去に作り上げたものとは違い自身の何かに囚われない純粋な想いを込めて作り上げたのだ。だからこそ一刻も早く一矢にも見せてあげたい。それも大きな舞台でだ。そんな風に思いながらその時の事に期待に胸を膨らませながら優陽は己のガンプラを見やるのであった。

 

 ・・・

 

「新型のガンプラシミュレーターってどんなのなんだ?」

 

 一方、放課後の聖皇学園では一矢の机の周りに集まりながら何気ない雑談をしている。

 そんな中、拓也が聞いてきたのは新型のガンプラバトルシミュレーターの事であった。やはり新型というだけあって気になるのだろう。真実も口には出さないもののそわそわと一矢を見ている。

 

「さあ……? ただ前に行った時は宇宙空間から重力下でのバトルが出来るほどの広大なステージ……って話しだったけど……」

「そこから何か変わってたりしてるのかな」

 

 以前、テストプレイに参加した時は広大なステージが目玉であった。あれから期間も開き、一体どういった物になっているのかは分からない。参加は叶わない為、どんなものなのか実際、一矢達が知るまで分からない真実は想像を働かせる。

 

「……じゃあ俺、帰るから」

「うん、また今度ね」

 

 帰り支度を済ませた一矢は席を立つ。夕香は既にクラスメイト達と教室を去っており、真実達もこのまま部活に向かうだろうから今日は一人で帰る事になりそうだ。真実達に見送られながら一矢は教室を後にする。

 

 ・・・

 

(……そうだ、連絡返しておかないと)

 

 校門へと続く道を歩きながら一矢はふと思い出す。それはロボ太を失い、一矢達を気遣って連絡をしてきてくれた厳也達への返信なのだ。

 結局、なんだかんだで何の連絡も出来ていないので心配させてしまっているのかもしれない。わざわざ連絡までしてくれる友人達を嬉しく思い、ついつい笑みを浮かべてしまいながら自身の携帯端末を取り出そうとした時であった。

 

「──ふむ、その様子だと、心配はいらないようだ」

 

 校門を出た直後であった。

 そう一矢は声をかけられ、視線を向けた先には……。

 

「これならゲームを問題なく進められそうだ」

 

 そこにいたのはクロノであった。

 傍らにはクロノが乗って来たと思われる外車が停まっている。こうして出会うのはイラトゲームパークでチップを忍ばされた以来だ。クロノの顔を見て、その時の事を思い出しているのか驚いていた。

 

「アンタは……」

「ピースは君の中にあるだろう? 私を知りたければ、ピースをはめ込みたまえ」

 

 しかし目の前にいるクロノに何か引っかかりを感じるもののその後のウイルス騒動で声だけで接触してきた人物だとは思わず怪訝そうにしている一矢にやれやれと言わんばかりに肩を竦める。

 

「今日は君にラストステージが訪れた事を告げに来たんだよ、雨宮一矢」

 

 だがその言葉と言い回しで引っかかりを感じていたものははっきりとした確信に変わった。

 

「アンタ……あの時の……ッ!」

「ああ。これまでのウイルス騒動で君達に大きく関わって来た」

 

 見る見るうちに険しい表情で鋭い眼光をぶつける一矢にクロノは愉快そうにクツクツと笑いながら答える。

 

「アンタ達のせいでロボ太は……ッ!」

「あぁ、そんな事もあったか……。しかし、あれは我々にとってもイレギュラーなことだ」

 

 今すぐ掴みかかりそうな程の怒りを見せる一矢だが一方でクロノはまるで微風でも浴びているかのような涼しげな様子を見せるだけで余裕のある態度を崩さない。

 

「おもちゃはおもちゃらしく持主の手中に収まる行動をすれば良い。なのに愚かしくも自身に見合う以上の行動をしたのだ。その結果を我々が責められる謂れはないさ」

「……ッ!!」

 

 ロボ太を嘲笑するかのような物言いに怒りのあまり、頭の中に火が付いたように一気に熱くなるのを感じながら半ば無意識でクロノに掴みかかる。

 

 ……が次の瞬間、一矢の身体は宙に舞い地面に叩きつけられた。

 

「やれやれ、安い挑発に乗るものだな」

 

 身体に痛みが響くなか、なにが起きたか理解が追い付かない一矢を見下ろしながらクロノは僅かに乱れた服装を正す。

 

「だがそれでこそだ。君は未熟ながら少しずつ前へ進み、強くなっている。まさに主人公のような存在だ」

 

 一矢を見下ろすクロノ。クロノを見上げる一矢。そんな構図となるなかクロノは心底、楽しそうに一矢の人物像について話しながらその胸ポケットにチップを忍ばせる。

 

「君達の行動を考えるに私の渡したゲームをクリアできなかったらしい。それにはあのゲームの攻略情報が載っている。今更ではあるが、クリアしてみる事だ」

 

 何とか体を起こす一矢は胸ポケットのチップを取り出すとそのチップが何であるのかをクロノは口にする。

 

「次で最後だ。このゲームのエンディングをどうするかは君次第だ。楽しみにしているよ、雨宮一矢」

 

 クロノはそのまま自身の車に乗り込み、ウィンドウを開きながら最後にそう告げるとそのまま車を走らせて去って行ってしまう。まだ体に痛みが残るなか、起き上がった一矢はクロノに渡されたチップを見つめるのであった。

 

 ・・・

 

 帰宅した一矢はすぐさまパソコンを起動させ、あのパズルゲームを立ち上げる。クロノに言われたまま行うのは癪ではあるが彼に渡されたチップ内のデータは確かに攻略情報が記されたものであり、そのデータを元にパズルゲームを進めれば、あの時、なす術もなくゲームオーバーを迎えたゲームも難なく進める事が出来た。

 

【エンディングへの道は開かれた】

 

 ゲームクリアと共に表示された文面。するとしばらくして画面が切り替わり、多くのデータが開示され表示される。

 

「これは……ッ!!」

 

 その内容を見て一矢は目を見開く。何とゲームクリアの先にあったのは世界大会とその後のウイルス騒動の一連の犯行計画と実物大ガンダムを使用した予備策。そしてナジールやバイラス、世界大会にバイラスの協力者として現れた者達の個人情報及びその潜伏先など事細かに記されていた。

 

「……黒野リアム……。ジャパンカップ優勝者……ッ!?」

 

 そしてその中にはクロノ自身の情報も記されていた。それはイドラコーポレーションだけではなく自身が聖皇学園ガンプラチームの一員として参加した年のジャパンカップの優勝についても載っていたのだ。

 

「なんだよこれ……ッ……。なんなんだよ……ッ!?」

 

 クロノが口にしていた裏技とはこのことなのだろう。下手をすればこのチップを手に入れたあの日、ゲームをクリアしてこの情報を得ていれば、これまでのウイルス騒動も阻止できた可能性もあり、ロボ太を失う事もなかった。

 

「くそ……ッ!!」

 

 しかし何故、あの時点でクロノはこれを渡したのか。自分達の計画や個人情報を事細かに記したこのチップのゲームがもしあの時点でクリア出来ていたらその時点で彼らの計画は水泡となっていたかもしれないのに。

 

 だがどちらにしろ、結局、自分達はクロノの掌の上で踊らされていただけなのだ。その事を実感して、思わず苛立ちから頭を掻き毟ってしまう。

 

「……もうこれ以上、好きにはさせない。俺達はあいつの箱庭で踊る人形なんかじゃないッ」

 

 もしもこれが少し前の自分であれば心を折られていたのかもしれない。

 何故ならばその時、自分達が必死に我武者羅にぶつかっていた事も所詮、掌の上で踊らされていただけに過ぎないからだ。

 だが今は違う。例え今まではクロノの掌の上の出来事だったとしても、これからを変えてみせる。

 

「もう俺は……あの時の俺じゃないんだ……!」

 

 かつてのジャパンカップではなす術もなくクロノに敗れ、そこから弱い自分は迷い、彷徨っていた。だが彷徨いながらでも一歩一歩確実に進んできたのだ。これまで培ってきたものは確実に無駄にはならない筈だ。

 

≪おう、どした?≫

 

 一矢は自身の携帯端末を取り出して電話をかける。その相手はカドマツだった。

 

「……カドマツに頼みたい事があるんだ。どうしてもやらなくちゃいけないことがある」

 

 用件を尋ねてくるカドマツに一矢は真剣な口調で話す。その様子を電話口でも感じ取ったカドマツは一矢から話される内容に耳を傾けるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

集結の地

 西洋城のような空間が広がるフィールドの中心にリミットブレイカーの姿があった。その周囲には破壊痕の目立つNPC機達が骸のように転がっていた。

 

≪問題はないな……。そっちはどうだ?≫

「……こっちも大丈夫」

 

 するとリミットブレイカーへ向けて、カドマツからの通信が入る。何かのテストをしていたのだろうか、カドマツの問いかけに一矢は機体状況を確認しながら答えると、ログアウトをして終了させる。

 

 ・・・

 

「最初は本当に出来るか不安だったけど、これなら何とかなりそう」

 

 ガンプラバトルシミュレーターから出て来た一矢は出迎えるように待っていたカドマツにそう告げる。手にはGPが握られており、アセンの内容をチェックする。

 

「まあ、俺も話を聞いた時は少し不安だったけどな。だが見た限り、お前さんなら大丈夫だろ」

「いや正直、これはカドマツの協力がなければ、絶対出来なかった事だよ」

 

 一矢の言葉にポリポリと頭を掻きながら言葉通り、不安もあったのか、吐き出すようにため息をつくカドマツだが一矢への信頼を感じさせるような笑みを見せる。

 だが一矢は首を横に振りながらカドマツへ感謝する。クロノの一件からカドマツに連絡をとった一矢は今、こうしてカドマツの協力を元にある準備をしていたのだ。

 

「俺としても嬉しくない訳じゃないが、でもまたどうして急にあんなものを?」

 

 一矢からカドマツへの頼み事。その内容を知るカドマツは嬉しい反面、どうして一矢がわざわざ、そんな事を頼んできたのか分からなかった為、この際、一矢に直接尋ねる。

 

「ある意味、証明であり繋がり……かな。無駄じゃなかったっていう……」

 

 GP内のアセンブルシステムを見つめる一矢の表情はどこか悔しさを滲ませている反面、何かを想って嬉しさを噛み締めるかのようだ。

 

「───けど、今のままじゃただの付け焼き刃だな」

 

 するとそんな二人に声をかける者がいた。視線のまま一矢とカドマツの二人が視線を向ければ、そこにはシュウジの姿があった。

 

「カドマツから話は聞いてるぜ。面白いこと考えたもんだ」

 

 そのまま一矢達まで歩み寄りながら話しかける。どうやら一矢から要件を聞いたカドマツによって呼び出されたようだ。

 

「俺も手を貸す。力になれねぇわけじゃねえからな。熱いうちにお前の刃を叩いてやるぜ」

 

 シュウジは懐のケースからバーニングゴッドブレイカーを取り出す。どうやら今まで行って来た一矢の試みに付き合ってくれるようだ。

 シュウジの好意に微笑みを浮かべながら頷いた一矢はシュウジと共にそれぞれガンプラバトルシミュレーターへと乗り込んでいくのであった。

 

 ・・・

 

 翌日、週末となり一矢達は翔達と予定通り、新型ガンプラバトルシミュレーターのイベントの為、車を利用しての移動を行っていた。カドマツが運転する車内では、彩渡商店街チームの他、優陽がおり、助手席にはミサが、後部座席には一矢と優陽がいた。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 後部座席では一矢が規則正しい寝息をたてて眠っていた。というのも一矢は車に乗り込んだ時点で寝る体勢に入っており、出発してから程なくしてすぐに眠ってしまったのだ。

 

「一矢、ぐっすりだね」

「まあ昨日は結構、遅くまでやってたからなぁ」

 

 助手席から熟睡している一矢の様子を微笑ましそうに見つめながら運転席にいるカドマツは仕方ないとなかりに彼自身も眠気があるのだろう、欠伸をしながら答える。

 

「昨日? なにやって───」

 

 カドマツから放たれた言葉から、昨日、一矢とカドマツとの間で何かを行っていたのだろう。だが少なくともミサはその事を知らない為、尋ねようとするのだがふと後部座席の方から物音が聞こえる。

 

「んしょっ……と……」

 

 気になって振り返って見れば、優陽が一矢の座席に移動しているではないか。そのまま膝の上に腰掛けて身を寄せながら携帯端末のインカメラを使用して、寝ている一矢と共に自撮りしていた。

 

「ちょっ、何やって……!?」

「んー? 寝顔が可愛かったから一緒に写真撮ってるだけだけど?」

 

 そのままパシャパシャと眠っている一矢と共に写真を撮っている優陽にミサは溜らず声をかけるが優陽は特に気にした様子もなく撮り終えた写真の確認をしていた。

 

「わ、私も後ろに行くっ!」

「無理でしょ。危ないから大人しく座ってなって」

 

 一矢との寝顔のツーショットなど自分はやったことがない為、ミサはすぐに後部座席に移動しようとするのだが、携帯端末を弄っている優陽によって適当に宥められる。

 

「んんっ……?」

 

 しかしそれでも優陽に好き勝手されるのは嫌なのか諦めようとしないミサと宥める優陽のやり取りが五月蠅かったのかのか、顔をギュッと顰めた一矢は煩わしそうに眉間に皺を寄せながら目を覚ます。

 

「おっはよー」

「ぁ……?」

 

 一矢が目を覚ましたことに気づいた優陽は軽く声をかけるも一矢はまだ寝起きで頭が回っていないのか、寝ぼけたような覇気のない声を漏らし、状況を知ろうと周囲を見ている。ミサが一矢を起こしてしまったと苦い顔を浮かべていると優陽はまた勝手に動き出す。

 

「はい、チーズっ」

「……?」

 

 そのまま一矢に頬を寄せながら、再びインカメラによる撮影を行う。最もまだ頭の回らない一矢は優陽に流されるまま眠たそうな顔でカメラに視線を向け、写真を撮っていた。

 

「寝起きの顔、ゲットー♪ ねぇ、これSNSに載せて良い? 君有名人だし」

「……俺のそんな顔をネット上に流すな」

「じゃあ、僕らだけの物だね。後で君の方にも送っておくよ」

 

 先程の写真を確認しながら優陽は一矢に尋ねる。一矢も今ではガンプラバトル界において名が知れた人物。それを自身のSNSに掲載すれば反響はあるだろう。

 だが一矢はそんな罰ゲームはお断りだとばかりに煩わしそうに首を横に振ると、それじゃそれで優陽は嬉しそうにしている。

 

「っっっ!!!! やっぱり私も後ろに行くぅっ!!」

「……止めろって」

「そうだよー。運転の邪魔になっちゃうよー」

「私、一矢とそんなことしたことないもんっ!!」

 

 一矢と優陽のやり取りを見て、ミサは我慢ならずもう一度、後部座席に移動しようとシートベルトに手をかけようとするのだがその前に一矢とどこか白々しそうにそれでいてミサの反応が面白そうにしながら止めようとするもミサは我儘を口にする子供のようだった。

 

 ・・・

 

「まだイベント前なのに、人が集まってるな……」

「メディアの人達もいるねー」

 

 イベント会場に到着した一矢達は長時間の移動もあって凝った身体をほぐしながら周囲を見渡せば規模の大きなこの会場は多くの人達で溢れ返っており、中には取材の為に訪れるメディア関係の人々の姿もある。それだけ今回のイベントは注目されているのだと一矢と優陽は改めて感じる。

 

「んんっ! んんぅっ!」

 

 一矢と優陽の間に割り込むようにミサは咳払いをしながら割って入って一矢に身を寄せる。大体、先程の車内のやり取りのせいだろう。

 

「やだー。ミサちゃんこわーい」

「誰のせいだと……っ!」

 

 そんなミサの態度さえ面白そうに口元に手を添えながら大袈裟な態度をとる優陽にぐつぐつと煮え滾るものを感じながらミサは顰めっ面を見せる。

 

「誰のせいって、僕らオトコ同士だよ? ちょっとしたスキンシップじゃなーい」

「ぬぬぬぅ……」

 

 ミサの言葉に心底可笑しそうに笑った優陽はトコトコと空いている一矢の隣に回り込むとそのまま身を寄せながらミサに悪戯っ子のような笑みを見せる。そう言われてしまうと反論の言葉がすぐに出てこないミサは悔しそうな表情を浮かべて唸っている。

 

「一矢君達、こっちだ」

 

 ミサと彼女をからかっては楽しんでいる優陽に挟まれて一矢は何とも言えない表情を浮かべていると違う車両で一緒に移動していた翔から声をかけられ、助け舟が出されたとばかりに一矢は翔やシュウジ達の元へ向かい、優陽達もその後を追う。

 

 ・・・

 

「一矢っ!」

 

 関係者入り口からイベント会場に入った一矢達はしばらく歩を進めていると声をかけられる。視線をそのまま向けて見れば、そこには多くの見知った顔が。

 

「久しぶりだな」

「その面構えを見る限り、安心して良さそうじゃな」

 

 そこには影二や厳也を始めとした多くのファイター達の姿があった、彼らもまたこのイベントに参加する為、この場所に集まったのだろう。陰のない一矢の顔つきを見て、安堵した様子だ。

 

「みんな、心配かけた」

 

 そんな厳也達の様子を見て、それだけ自分達を心配してくれたのだと心の底から温かさが溢れてくるのを感じながらミサと顔を見合わせた一矢は厳也達に声をかけるとそれぞれが気にするなとばかりに首を横に振っていた。

 

「おや、君達も来てたのかい」

 

 久方ぶりの再会と立ち直った一矢達に喜んでいるのも束の間、再び声がかけられ、そのまま見やれば、そこにはドロシーを傍らにウィルが此方に歩み寄ってくる姿があった。どうやら招待されていたのはウィルも同じだったようだ。

 

「ウィル坊ちゃま、わざわざご自身から一矢さん達に会いに来ておいて、その物言いはツンデレか何かでしょうか」

「ドロシー……僕はそんなつもりで会いに来たんじゃない……」

 

 偶然、見つけたような物言いのウィルにすかさずドロシーが割り込んできたため、ウィルは調子を崩されたように頭痛を感じている様子だ。

 

「事実、僕は別に気にしてはいなかったよ。君達が立ち直れなかったのなら、所詮、君達はそれまでだったと言う事だ」

 

 仕切り直すようにウィルは一矢に視線を向け、口角を上げながら話す。実際、厳也達は一矢やミサを気遣って連絡をしていたがウィルは特に何のアクションも取っておらず、普段通りタイムズユニバースの業務を行っていた。

 

「だが同時に僕と渡り合った男達が必ず立ち上がれると思っていたのもまた事実だ」

 

 ウィルは一矢をまっすぐと見やりながら微笑を浮かべる。ウィルがわざわざ連絡を取ろうとしなかったのは一矢達ならば必ずもう一度立ち上がれると思っていたからだ。

 

「立ち止まることがあっても、一歩踏み出せる人間は強くなれる。今の君達のバトルを楽しみにしてるよ」

 

 かつての自身を思い出しながらウィルは一矢達に彼らへの期待を感じさせる言葉をかけるとドロシーに声をかけてその場を去る。

 一矢とウィルは別に仲が良い訳ではない。顔を合わせれば憎まれ口を叩き合う。だがだからこそ不思議なもので、その距離感は寧ろ二人には心地が良かった。去っていくウィルが人知れず笑みを零すなか、去っていくその背中を見ながら一矢も微笑を見せるのであった。




<おまけ>

50000UA感謝イラスト

【挿絵表示】

(右から希空、夕香、リーナ、ヴェル)

ミサ「……ねぇ、ヒロイン集合って感じなら私も行くべきなのに何で…」
一矢「大人の事情だよ」
優陽「それにあのメンツの中にミサちゃんが入るなんて、そんな自爆ショーを見せられたってさー」
ミサ「どういう意味!?」


※改めて50000UAありがとうございます。ついでに活動報告で雑談枠とアンケート的なモノを更新しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなステージ

「やあ、待っていたよ」

「お久しぶりです」

 

 関係者入り口から会場入りすると翔はGGF時代からの付き合いであり、新型シミュレーターの開発主任を務めている開発者の男性と握手を交わしていた。

 

「招待プレイヤーのリストアップ……。協力してくれて感謝するよ」

「今日はガンプラバトルの歴史で大きな意味を持つ日になるでしょうからね。相応しいファイターを連れて来たつもりです」

「君が可能性を見出したファイター達は私自身、興味があるよ」

 

 開発側とは別に優陽が選ばれたようにあくまでファイターの目線として一任された翔が選出した可能性を感じさせるファイター達が多くこの場に集まっていた。

 

 和やかに言葉を交えながら翔と開発者は若きファイター達を見やる。そこでは楽し気な談笑が行われているのだが、その中で最も注目を集めていたのは優陽であった。

 

「お、男じゃったのか……」

「その反応、飽きたよー」

 

 度し難いような様子で厳也は一矢の傍らにいる優陽を見ている。いや厳也だけではなく、その周囲にいる影二達もだ。もっとも一矢達と知り合ってから、いや、それ以前からずっと見飽きたリアクションなのだろう。軽い指鉄砲を作りながら答えている。

 

「まあ、可愛いのは認めるけど……」

「えへへっ、ありがとね、ミーサちゃんっ」

 

 知り合って束の間とはいえ、振り回されている自覚のあるミサは微妙そうな表情を浮かべながらも優陽の容姿を褒めると、心底嬉しそうに優陽はミサに人懐っこい愛らしい笑顔を見せるも、それはそれでミサも何とも言えない様子だ。

 

「……可愛いって言われてるのに満更でもなさそうだな」

「可愛いのは好きだからね。そう言われて悪い気はしないよ」

 

 外見から立ち振る舞い、何に至るまで少女と言われても疑えないのが優陽だ。一矢も傍らにいる優陽に話しかけると、元々の性格からかあっけらかんと答えている。

 

「──相変わらず君達がいる所は楽しそうだね」

 

 久方ぶりの再会に知らず知らずのうちに大きな輪となって談笑している一矢達に声をかけられる。聞き覚えのある声のまま、その方向を見やれば、そこには侍女であるアルマとモニカを引き連れたセレナであった。

 

「セレナちゃん、久しぶりっ!」

「うん、その顔を見て、安心したよ」

 

 歩み寄るセレナに気づいたミサは嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら、彼女に駆け寄るとその手を掴む。セレナもロボ太の一件を知っているせいか、笑顔の中にどこか安心したような感情を感じさせる。

 

「セレナちゃんも招待されたんだねっ」

「まあ、その認識で間違ってないよ」

 

 セレナの手を取って、再会を喜びつつも彼女がこの場にいる事についてウィルや厳也達同様に自分達と同じように招待されたのだと思っているとセレナもそれで良いと頷く。

 

<ふーっはっはっ! 太陽たる私が出資しているのだぁっ! 期待をしているぞぉ開発者しょっくぅうんっ!!

「……なにか聞こえなかった?」

「気のせいじゃないかな」

 

 もう一杯やっているのかと思ってしまうような遠巻きに聞こえてくるえらいテンションの高い声に接点がないとはいえ、ミサは反応するもセレナの有無を言わさぬ笑みを作った為にそれ以上、あの声に関して話題を出すのを止める。

 

「今回のイベント、新型シミュレーターって言うだけあって世界中の名だたるファイターを招待したらしいよ」

「だからウィルもセレナちゃん達もいるんだね」

「まっ、世界大会やSSPGには流石に劣るけどね」

 

 気を取り直してセレナは今回の新型シミュレーターに参加するファイター達について触れる。そう言われてみると、このイベント会場に到着した時に見つけたマスコミの中には外国のメディアもいたような覚えがある。それにこの場でも見渡せば、世界大会などで見た覚えのある人達の姿もあった。

 

「とはいえ、だ。ボクらファイターがやる事は変わらない」

「そうだね。SSPGじゃ結局、バトル出来なかったから……」

「ここで、ってことになれば良いけど。ボクとしてもSSPGでウィル()と決着をつけられなかったのは、不完全燃焼と言わざる得ないからね」

 

 イベントの規模の大きさ、人数などはさしたる問題ではない。

 ファイターとして問題なのは、そこで全力を尽くせるだけのバトルが出来るかだ。

 セレナの言葉にミサもSSPGは結局、ナジールやアンチブレイカーの出現のせいで台無しにされてしまった事を思い出す。丁度、そのタイミングと言うのもセレナとウィルの準決勝が行われていた時だ。あの直前まで自分達は確かにバトルを心から楽しみ、全力を尽くすバトルを行っていた。しかしその直後の横やりのせいでその勝敗は有耶無耶となってしまったのだ。どうせ、今この場に集ったのであれば、このイベントで決着をつけるのも悪くはないだろう。

 

「──世界中のファイターを招待しているのは、それだけ我々としても手ごたえを感じているからだよ」

 

 すると再び横から声をかけられる。相手は開発者であった。隣には先程まで彼と話をしていた翔も一緒だ。

 

「だからこそ是非とも君達には派手に、そして楽しんでバトルをしてもらいたい」

「……任せてください……って言うのも変だけど……皆、自分らしいバトルをするつもりです」

「それで良い。個性のぶつかり合いがあるからこそ、名勝負と言うものが生まれるのだと私は思っているからね」

 

 開発主任として開発を進めて来ただけあって新型シミュレーターに自信があるのだろう。まるで夢を追い求める夢を追い求める少年のような輝かしい表情を見せる開発者につられるように微笑を浮かべた一矢が頷くと、開発者は一矢やその周囲にいるファイター達を見渡しながら期待の言葉を投げかける。

 

「あのー質問良いですか?」

「なにかな?」

 

 新型シミュレーターにファイター達が高揚していくなか、優陽がちょこんと手を上げながら声を上げると、開発者は優陽び視線を向ける。

 

「そろそろ新型シミュレーターがどんなものなのか知りたいなーって思って」

 

 それは新型シミュレーターについての詳しい内容であった。それは一矢達とて気になるところであろう。答えを求めるように一同の視線は開発者に注がれる。

 開発者はこの場で答えるべきか、少し迷った素振りを見せるが、やがて、「まあそろそろ良いかな」と笑みを見せる。

 

「フィールドに関しては、ここに集まった一部の人達は知っているね。あれから改良はしたが、基本はあの大気圏の突入、離脱が可能な広大なフィールドを想像してもらって構わない」

 

 この場にいる一部の者達は以前、行われたテストプレイに参加していた。その事は開発者である男性も良く覚えている。基本的なフィールドはあの時とさして変わらないようだ。

 

「だが、同時に進行していたものもあってね。あの時は間に合わなかったが、今回、漸く完成したんだ」

 

 フィールドに関してはあまり変わっていないと考えて良いのだろうが、それ以外ともなると一体、どんなものなのだろうか。想像がつかない内容に一矢達は顔を見合わせる。

 

「VR。それが新型シミュレーターの最大の目玉さ。君達にはこれからVR空間にダイブしてのガンプラバトルをしてもらう」

「それってつまり……」

「ああ。君達はガンプラバトルシミュレーターではなく、君達の愛機のコックピットに乗り込むことになるんだ」

 

 VRと口にした開発者の言葉に一同はざわめく。一矢がVRを使用した新型シミュレーターのガンプラバトルについて尋ねると、その反応を楽しそうに見ていた開発者は大きく頷きながら答えた瞬間、ワッと湧き出るような歓声が起こる。それもそうだろう。VRとはいえ、自分が丹精込めて作ったガンプラに乗り込むことができるのだから。

 

「詳しい概要はこの後話すとして私はそろそろ良くよ」

 

 盛り上がっているファイター達を見て、満足そうに頷いた開発者はイベントの準備がある為、この場を去っていく。一矢はその背中を見送りながらケースからリミットブレイカーを取り出す。

 

「……こんな日が来るなんてな」

 

 ガンプラバトルシミュレーターは翔がまだ自分と変わらないくらいの年にテストプレイを行ったのが始まりだ。それからよもや子こんな日が来るなんて思いもしなかった一矢はその時が待ちきれないとばかりにリミットブレイカーに笑みを零すのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

virtual reality

「みなさーん、こんにちは!!」

 

 いよいよ新型シミュレーターのイベントが始まり、イベント会場にも多くの人々が賑わうなか飛ばしたマイクロドローンを前にして、マイク片手にハルがリポートを開始していた。

 

「本日開催されます新型ガンプラバトルシミュレーター完成イベント! その為に今回もあの方をお呼びしております!お願いします、ミスター!」

「皆さん、御機嫌よう! 素敵なガンプラライフを過ごしているかな? ミスターガンプラです!」

 

 しかも今回もハル一人ではないようだ。お待ちかねと言わんばかりにハルはミスターを呼びかけるとカメラの下からモコッとしたアフロが出現し、そのまま振り返りながらミスターが挨拶する。

 

「さて今回、もっとも注目されている新型ガンプラバトルシミュレーターですが、最大の目玉はVR空間を使用してのガンプラバトルということですが、これはまさに新次元のガンプラバトルの幕開けと言う事でしょうか」

「うむ、私も先程、新型シミュレーターの概要を聞かさせてもらったが、VR空間を使用することによって、自分が作成したガンプラに乗り込み、バトルが出来るとの事だ! これはまさにファイター誰しもが夢見た事が現実となったと考えて良いんじゃないかね」

 

 先程、イベントの開会式と共に聞かされた新型シミュレーターの概要について触れる。話していくうちにミスター自身も夢だったのか、話すたびにその言葉に熱が籠っていく。

 

「しかもミスター。今回、用意されている新型ガンプラバトルシミュレーターは通常の物と【機動武闘伝Gガンダム】に登場するモビルトレースシステムをイメージした二種類があるそうですよ!」

「おぉっ、これはスポーツを嗜むファイターには朗報だね! 以前よりGガンダム系などの機体はレバーよりも身体で操縦したいという声はなかったわけではないからね」

 

 どうやら新型シミュレーターには二種類あるようだ。その内容にミスターはこれで更なるバトルの幅が広がると言わんばかりに声を弾ませる。

 

「因みにミスターはスポーツなどはやったりするんですか?」

「ふっ、ならば私の肉体美を見せることで答えようでは──」

「それでは早速、インタビューを開始しようと思います!」

 

 何気なくハルはミスター自身も何かスポーツを行ったりしているのか尋ねると、何かしら体を動かしてはいるのか、自信満々にアロハシャツのボタンに手をかけようとするのだが、被せ気味にハルによって次の行動に移されてしまう。

 

 ・・・

 

「VRかー。確か10年以上前だよね、最初に話題になったのって」

 

 イベント会場は新型シミュレーターのお披露目もあって大混雑だ。イベントの熱もあってか従来のガンプラバトルシミュレーターも多くこの場で稼働しているもののそれでも長蛇の列が出来るほどだ。そんな人混みの中を歩きながら夕香は一緒に来たシオンや裕喜達に話題を振る。

 

「ええ。とはいえ今の時代、最新技術と膨大なデータ量で構築されたVR空間として発展し、過去のものとは比べ物になりませんわ。まさにもう一つの世界と言っても良いでしょう」

「どんなのなんだろうねー。そう言えば、10年前くらいのアニメとかは、そういう仮想世界のモノが流行ってたらしいよ」

 

 夕香の言葉に頷きながら、この時代、この世界のVRについて言及する。シオンの話を聞きながら、裕喜は顎先に人差し指を添えながら過去に放送されたアニメなどに触れている。

 

「しかし、これが一般に広く普及される良いなれば何れは日本を離れても、コミュニケーションを取ることができますわね」

 

 ふとシオンがポツリと零す。シオンは言ってしまえば、このイベントも終了と共にセレナ達と帰国する手筈となっている。今回の新型シミュレーターが世界中に普及される事が出来れば、もしかすれば国を越え、いつでもVR空間で会えることが出来るかもしれない。その時を想像してか、期待に胸を膨らませ、どこか寂し気ながらも優しい笑みを見せる。

 

「なーに? そんなにアタシに会いたいわけ?」

「そ、そういうわけではありませ……っ! ……んこともないわけでも……っっっ~~……。そ、そのっ……! に、日本には質の高いファイターがいて、それでその……」

「もっと素直になっちゃえってー。このこのーっ」

 

 そんなシオンの腕に自身の腕を絡ませて身を寄せた夕香は彼女を悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、シオンを弄り始めると先程とは一転して、頬を真っ赤にさせながら否定しようとするものの完全には否定しきれず、カーッと更に顔を真っ赤に染めながら自身が着ているワンピースの裾をギュッと掴んでゴニョゴニョと何か呟いている。

 しかし夕香からしてみれば、その反応がとても面白いのか、シオンの染まった頬を突っ突きながら更にからかう。

 

「そぉ言ってる夕香だって、今日はずっーとシオンの傍にいるよねー。そんなに傍にいたいのかなー?」

「ゆ、裕喜!?」

「夕香がそんなにベタベタするのってあんまりないよねー。少し妬いちゃうかなー」

 

 流石に見兼ねたのか、裕喜が夕香をからかい始める。まさかの裕喜の一言に珍しく頬を染めながら動揺する夕香だが友人として長年一緒にいてこうやって絡んでいる夕香は非常に珍しく、それこそ過去に何度か一緒に自宅の風呂に入った事があるとはいえ裕喜自身そこまでないのか、シラーっとした様子で話している。

 

「あっ、夕香ちゃん!!」

 

 そうやって賑やかにしていると、前方から声をかけられる。そこにはコトなど見知った顔ぶれがこちらに手を振っており、更に賑やかさは増していくのであった。

 

 ・・・

 

「さて開会式をやっている間に全員のスキャンが終わったし……そろそろ始めようか」

 

 開会式も終わり、イベントに参加するファイターが集まるなか、開発者が代表しての説明が行われ始める。

 

「今回の新型シミュレーターはVR空間を使用してのものだ。それ故にこれからここに集まった皆にはVR空間に飛んでもらい、バトルをしてもらう事になる。大まかなバトルの操作などは変わらないが、強いて言うのであればよりリアルになっている」

 

 改めて開発者による新型シミュレーターの説明が行われ、集まったファイター達は決して聞き逃すまいと聞きいっている。

 

「まあ流石に撃墜と共にシミュレーターが爆発はしないよ。ただ攻撃を受けたりすると多少シートが揺れたりエフェクトが発生したりする。一応、ガンプラバトルは全年齢対象のゲームだからプレイヤーの心身への安全面を考えて設定しているので安心して欲しい。流石にリアルに寄せ過ぎてパニックなられたり、問題が起きたら我々としても対処はしきれないからね」

 

 軽くユーモアを交えながら話す開発者。その内容に実際の戦闘を知っている翔やシュウジ達は顔を見合わせて軽く笑っている。

 

「とはいえ、中には初めてのVRなどで具合を悪くする者も出てくるかもしれないから、その時はゲームを中断して申告するように。あくまで楽しくバトルをして欲しい」

 

 VRとはいえ慣れない状況や、そもそもVRとのマッチングが上手く合わない場合なども想定して注意する。あくまで楽しんでもらう為の物であって苦しみながらやって欲しくはない。

 

「さて後は実際、プレイしてもらおうか。みんな、待ちきれないようだしね!」

 

 最後に開発者が周囲を見渡せば、今か今かとその時を待っている。その様子を笑みを浮かべた開発者は話を締め括る。

 

「先ほどのスキャンによって君達のアバターは既に作成してある。これが一般に普及されれば何れは君たち自身で好きなだけカスタマイズ可能だよ」

 

 ファイター達が自身に合った新型シミュレーターに乗り込んでいくなか、開発者はVR空間でのもう一人の自分であるアバターについても触れる。

 

「良かったね、ミサちゃん。これでVRだったら幾らでも盛れるよ」

「な に が ! ?」

 

 ミサが新型シミュレーターの扉に手をかけた瞬間、優陽が先程のアバターについてミサに朗報だと言わんばかりに無邪気な笑顔で話しかけると、その言葉に青筋を浮かべたミサは怒気を含めながらわなわなと震え、その勢いで扉を開く。もっとも勢いあまり過ぎたせいでミサの傍らにいた一矢に扉が思いっきり直撃して倒れる。

 

「……おー……こりゃま……お前、再会する時にはちゃんと五体満足でいるんだぞー?」

 

 倒れた一矢に近くを通りかかったシュウジがしゃがみながら声をかけると騒ぐミサとそれを軽く流している優陽の声を聞きながら、俺もそうしたいと涙目で呟くのであった。




50000UAの企画の一環で活動報告で質問などを受け付けております。是非是非、皆様の投稿をお待ちしております


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

賽は投げられた

 思わぬトラブルに見舞われた一矢はいまだヒリヒリと痛む箇所を軽く撫でながら自身が使用する新型シミュレーターに乗り込もうとする。軽く外観を見た限りでは今までのガンプラバトルシミュレーターよりも小型化されていることだろうか。

 

「……成る程ね」

 

 早速、新型ガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ一矢はその内装を見て納得し、感嘆の声を漏らす。シミュレーター内はモニターとシート、そしてその上部にはVR空間にダイブするためのヘルメットのような機器とその周辺機器が設置されているだけであった。VR空間に飛び込んで、機体に乗って操縦するのであれば、シミュレーター内にコンソールの類は必要ないと言う事だろう。

 

 早速、シートに座った一矢はリミットブレイカーをセットして、VR空間へダイブするためにヘルメットを被る。するとヘルメット内のバイザー型モニターにVR空間への接続が開始されてドーム内も光が溢れだすと、やがて一矢の意識はその光に吸い込まれるようにしてVR空間に飛び込んで行った。

 

 ・・・

 

 眩い光によって眩んでいた視界もようやく慣れ始めて、一矢はゆっくりと目を開く。

 眼前には真っ白なドーム状の空間が広がり、ドームを囲むようなモニターにはガンプラ関連のCMが流れていた。ここはガンプラのセッティングなどを行うVR空間。その名はVRハンガーだ。

 

「っ……」

 

 まさに近未来的な光景が広がるなか、辺りを見回していた一矢は振り返ってみるとそこには巨大なリミットガンダムブレイカーの姿が確かに存在していた。

 

 手に収まり、見下ろしていた小さなリミットブレイカーがまさに巨大ロボットとばかりの堂々たる巨躯を見せつけるその姿に一矢は息を呑んだのも束の間、何か具体的な言葉こそないものの途端に表情を少年のように輝かせる。

 

「一矢っ!」

 

 いつまでもリミットブレイカーを夢中で見上げていると背後から声をかけられ、振り返って見ればそこにはミサの姿が。もっとも今の彼女は【機動戦士ガンダムSEED】に登場する地球連合軍のパイロットスーツに身を包んでおり、その恰好を見て一矢も自身の身体を見やれば彼自身も同様のものであった。

 

「まさか、こんな日が来るなんてねぇ……」

 

 ミサは一矢の隣に移動しながら、リミットブレイカーを見上げる。すると程なくしてリミットブレイカーの隣のスペースにアザレアリバイブが出現してその姿を瞳に映したミサは心から喜んでいる。

 

「これを操作すると、近くに寄れるみたい」

 

 必要な情報などはヘルメットのバイザー型モニターに表示されている。

 ミサは近くに浮遊しているコンソールを操作すると駆動音と共に自分達が立っているパネルが浮き上がり、自分達の機体の近くまで押し上げてくれた。

 

「宇宙でガンダムに乗った時も思ったけど、凄い未来に来ちゃったよね」

「そうだな。まだ短い人生だけど驚きの連続だ」

 

 かつて宇宙エレベーターが漂流しかけた際に実物大ガンダムに搭乗し、感動したが今もそれとはまた別の感動を感じている。お互いに知り合った時にはこんな日々が訪れるなど想像すらしていなかっただろう。

 

「きっとこれからもそんな未来が待ってるんだよねっ! 楽しみだなあ」

「想像も出来ないな」

 

 実物大ガンダムに乗って、VR空間でこれから自分達が作ったガンプラに乗り込もうとしている。果たしてこれから先の未来、一体、何が待ち続けているのか一矢の言葉通り、想像もつかないくらいだ。

 

 身を寄せ合ってリミットブレイカーとアザレアリバイブを見上げて、これから先の未来に期待に胸を膨らませているとリミットブレイカーの隣に再びデータが構築されていき、ZZガンダムをベースにした機体が姿を現す。

 

 ミサは知らない機体に驚くものの一矢はこの機体を知っている。かつてどうして良いかも分からずに彷徨っていた時に泊めてもらった家で見つけたものだ。

 

「まったく……。放っておけばすぐにイチャつくんだから」

 

 それと同時に後ろから声をかけられる。愛らしいその声に振り返ってみれば、そこには優陽がおり、寄り添っている一矢とミサを見て軽く茶々を入れると気恥ずかしくなったのか一矢とミサは少し距離を開ける。

 

「いやーVRって馴れないね。何だか変な感じだよ」

 

 優陽も今、このVRハンガーにダイブしてきたのだろう。周囲を見渡しつつ、己の手を開閉しながら何とも言えない不思議そうな表情を浮かべている。

 

「その恰好だと本当に男か女か分からないね」

 

 ミサは優陽の姿を見ながら苦笑する。と言うのも今の優陽は一矢やミサのようにパイロットスーツに身を包んでいるわけだが【機動戦士ガンダム00】に登場するソレスタルビーイングの紫色を基調にしたパイロットスーツなのだ。

 

「まぁどんな格好でも僕はオトコノ……」

 

 女性に間違えられるのは慣れっこなのか、特に気にした様子のない優陽は慣れないVR空間での自分の身体を触れつつ答えていたのだが、ふと胸部に触れて何か違和感を感じたのか眉間に皺を寄せる。

 

「えっ……ちょ……」

「どうした?」

「ちょ、ちょーとゴメンね!」

 

 なにやら慌てた様子でしきりに自分の身体を触っている優陽の様子に一矢が尋ねるが、優陽は精一杯の作り笑顔を浮かべて足早に機体の状態を見やる大型コンソールの後ろに隠れる。

 

「どうしたのかな?」

「……少し見てくる」

 

 優陽にしては明らかに狼狽えていた。不思議に思って首を傾げるミサに一矢も優陽の様子が気になったのか、コンソールに向かっていく。

 

「いや確かにこれはVRだしそこまで再現する必要はないんだけど無いモノは無いしこれって何かの手違い? いやいやだとしてもこれじゃあ僕のアイデンティティーが……」

「どうした?」

「ひゃうぅっ!?」

 

 コンソールの後ろで身を縮こまらせてブツブツ呟いている優陽はあまりにも動揺している様子で近くに来ている一矢にも気づかず、声をかけられた瞬間、大きく身体を震わせる。

 

「何かあったのか?」

「な、なんでもないよ、うん!」

 

 ここまで狼狽えている優陽は初めて見る。気になった一矢が尋ねると目尻にうっすらと涙を溜め、赤面しながら答える。何かあったのは明白だが、あまりにも隠そうとするので仕方なしにそれ以上の追及を止める。

 

≪全員がそれぞれのVRハンガーに到着した事を確認した。それでは準備が済み次第、出撃してくれ≫

 

 するとVRハンガーの上部から開発者の声が響き渡る。どうやら個別にVRハンガーがあり、それぞれにファイター達が割り振られているようだ。

 とはいえ早速、出撃する時が来たのだ。漸く落ち着きを取り戻した優陽と共に一矢とミサは待ちきれないとばかりに自分達のガンプラへ向かっていく。

 

「これが……リミットブレイカーのコックピットか……」

 

 リミットブレイカーのコックピットを開き、スッと乗り込んだ一矢は内部を見渡す。

 コックピット内はkガンダムシリーズに多く見られるようなオーソドックスなコックピットだが、やはりガンプラバトルと言うだけあって基本的なものは従来のガンプラバトルシミュレーターと左程変わりはなかった。だがどちらにしろ、こうして己が手掛けたガンプラに乗り込むことが出来たのはそれだけで感動する。

 

 するとコックピットが閉まり、モニターが表示されると先程までVRハンガーだった光景がカタパルトに変更され、リミットブレイカーはカタパルトデッキに接続される。

 

「リミットガンダムブレイカー……雨宮一矢、出る!」

 

 基本的な操作などは今までとは変わらない。しかし今まで以上の高揚感があるのだ。

 これから一体、どんなバトルが待っているのか、期待に胸を膨らませながら一矢はリミットブレイカーと共に出撃するのであった。

 

 ・・・

 

「VR空間……現実では叶えられないことも叶えられる。まさに理想郷のような世界だ」

 

 次々とファイター達が出撃していく最中、コックピットの中で一人の男性が呟いている。それはクロノであった。しかしバイザー型モニターに表示されている名前はクロノの物とは異なり、世界大会におけるバイラス同様に偽造したものだろう。

 

「VR空間のチュートリアルついでに私もそろそろ本格的にウォーミングアップをしなくてはね。訛った腕では彼とぶつかり合う時に申し訳がないと言うものだ」

 

 クロノが見据えるモニターにもカタパルトが表示される。ゲームを始める子供のように、それと同時に愚者達を見下ろして嘲笑う悪魔のような笑みを浮かべながらクロノは操縦桿を握る。すると彼の乗る機体の頭部で不気味にも感じるモノアイがギラリと輝くのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影は音なく差し込んで

「うーん、外から見る分にはVRどうこうってのは分からないね」

「ガンプラバトルシミュレーターVRでしたわね。こればかりは仕方のないことですわ」

 

 遂に新型シミュレーターことガンプラバトルシミュレーターVRによるファイター達のバトルが開始された。立体モニターに映るバトルの様子を観客席で眺める夕香だが、ただバトルを傍から見る分にはVRらしさは伝わっては来ない。しかしVRはプレイヤーに与えられるものなので、シオンは夕香の言葉を宥める。

 

「しかし広大なバトルフィールドは魅力だな」

「大気圏では何が起こるか分からない。それが勝敗を別つこともあるだろう」

 

 既に一般客にもガンプラバトルシミュレーターVRの詳細は知られており、モニターに映る地上と宇宙のバトルの様子を見つめながらアムロやシャアも許されるなら自分もプレイしてみたいと言わんばかりだ。

 

「これっていつ頃、普及されていくのかなっ」

「さあなぁ。でもなるべく近いうちにお願いしたいもんだ」

 

 それはなにもアムロ達だけに限った話ではない。待ちきれないとばかりに裕喜が隣に座っている秀哉に声をかけると、流石に具体的な日程を秀哉が分かるわけもなく、苦笑気味に答えるがそれでも秀哉自身、自分自身も早くVRを体験してみたいと言う気持ちが強いのだろう。子供のような輝かしい表情でモニターを見つめると近くにいた一輝もそうだね、と頷く。

 

 ・・・

 

 星々が煌めく宇宙にて、自機に迫ろうとする機体を正確無比な一撃によって塵へ還すのは翔が操るガンダムブレイカーネクストであった。GNスナイパーライフルⅡの3連バルカンモードを構えた腕を下ろす。

 

「全天周囲モニターか……。なんだか懐かしいな」

 

 ブレイカーネクストのコックピットでは翔が周囲を軽く見渡しながら呟く。

 今、翔が乗っているのはこれまでの前方モニターだけのシミュレーターとは違い、全ての方向の映像を映し出す球体状のコックピットであったのだ。それはブレイカーネクストのベースがνガンダムだからなのか、しかしこれまでのガンプラバトルとは違った新鮮味を感じるだけではなく、かつて異世界で乗っていた兵器としてのガンダムブレイカー0などを思い出させる。

 

「カガミ達はどうだ?」

「私見を述べるのであれば、操作方法は変わりませんのでそれがVRか否かの違いだけですね。しかし翔さんの仰るように全天周囲モニターなど今までに比べ、幾分かは違和感が軽減されています」

 

 ブレイカーネクストは近くで狙撃を行っているライトニングFAのカガミをはじめとしたトライブレイカーズにVRによるガンプラバトルの感想を尋ねると、カガミはコックピット周りを見やりながら淡々と答える。

 

「まあ前のシュミレーターから思ってましたけど、どれだけ加速や無茶な軌道をしても身体にかかる負担がないのは良いですよね。お陰でカガミさんが速くて速くて……。実際のMSを動かす以上に曲芸染みた飛行をするから追いつくのがやっとですよ」

「……これは遊びです。私に気を使って追いかけようとしないで好きに行動していいんですよ」

(なんだかんだ言って楽しんでるんですね、カガミさん)

 

 どうしてもMSを動かす場合、身体にかかるGなどの負担があるが別に遊びであるガンプラバトルはそのようなことを気にする必要はない。故に制限なしに機体を想うがまま動かせるのだ。

 実際、カガミはそうしているようでヴェルの言葉に自分が夢中になって機体を動かしていること自覚したのだろう。どこか照れながらもそれを隠そうと言葉を返すカガミだが、ヴェルからしてみればすぐに分かる事なのだろう。幼い子供を見るかのような微笑ましい表情を見せる。

 

「シュウジの方はどうだ?」

「……違和感は正直あるって感じっすかね」

 

 翔はそのまま近くのシュウジに尋ねると、一つの舞のように機体を動かしていたバーニングゴッドブレイカーは動きを止める。

 

「まあ、いくら寄せたっつたってモビルトレースシステムとは根っこの部分から違うからこればっかしは仕方ないことなんすけどね。でもまあ、今まで以上にガンプラは動かしやすくなってます」

 

 シュウジが使用しているのはトレースタイプのシミュレーターだ。

 内装自体はGガンダムタイプのものなのだが、本物のモビルトレースシステムにはどうしても劣るようだが技術的な事を考えても元々の構造が違うため納得している。それに悪い事ばかりではないらしく、あくまで劣ると言うだけで操作自体には何の問題もなく、寧ろこれまでのガンプラバトル以上に覇王不敗流の動きが出来ると喜んでいる。

 

「問題ないならなによr──「風香ちゃんが勝ぁつ!!」……え?」

 

 シュウジ達も何だかんだで楽しんでいる。嬉しそうに頷いていた翔だが、ふと通信越しで風香の声が聞こえ、レーダーと照らし合わせて、その方向を見る。何とそこでは風香のエクリプスとレーアのダブルオークアンタFがバトルを繰り広げているではないか。

 

「翔さんへの愛=戦闘力の風香ちゃんには勝てないことを教えてあげるよ!!」

「あら、それなら私が負ける理由はないわね」

 

 ツインバスターライフルを構えて、高らかに叫びながら翔への想いを表すように極太のビームを放つと、軽く回避しながらレーアのダブルオークアンタFはGNソードIVフルセイバーを構えて向かっていく。

 

「……何てこと言い合って───」

 

 端から聞いていても恥ずかしいのか、頭を抑える翔だが不意に傍らから鋭い狙撃が放たれ、エクリプスとダブルオークアンタFの間を割って入る。

 

「あの戦闘に介入します」

「えっ」

「負けられません」

 

 翔がそのまま見やれば、ライトニングFAがハイビームライフルを二機へ向けていたのだ。翔が唖然とするなか、カガミは言葉を待つことなくエクリプスとダブルオークアンタFへ戦闘を仕掛けていく。

 

「……あー……ガンダムブレイカー隊と一緒に地上でバトルしてるあやこさんを呼んできましょうか」

「……余計なことはしなくて良い」

 

 どんどん苛烈さを見せていく三つ巴のバトルにシュウジはこの際だからと地球の方向を見ながら翔に尋ねると、VR空間においても翔は頭を抱えていた。

 

 ・・・

 

「最初は驚いたけど、慣れちまえば!」

「条件は同じだ。後は自分の腕が物を言う!」

 

 また地上でもバトルが行われており、丁度、莫耶のストライクシードフリーダムとジンのユニティーエースが切り結んでいた。

 

 一方でまた別の場所でもバトルが繰り広げられていた。一方は影二の操るダウンフォールなのだが、かなり苦戦を強いられているようでその表情はかなり険しい。

 

「……クッ!」

 

 損傷が目立つダウンフォールとは違い、相対するシナンジュをベースにした白騎士のような機体はほぼ無傷と言って良い程だ。このままされるがままなのは影二とて受け入れられないのだろう。既にHADESを使用しているダウンフォールは更にゼロシステムを使用する。そのままビームソードを構え、圧倒的な加速を持って白騎士へ向かっていく。

 

(特別ななにかをしているわけじゃない……ッ!)

 

 しかし白騎士は特に動揺する素振りを見せることなく、手に装備されたビームナギナタで軽やかに受け流す。すぐに食い付こうとするダウンフォールだが、白騎士は既に眼前に迫っており、そのまま横腹を蹴って、ダウンフォールの機体をくの字に曲げる。

 

(単純なまでに圧倒的な実力差を見せつけられているだけだ……ッ!)

 

 それでも何とか反撃に打って出ようとするのだが、直後に関節を狙った攻撃を受けたせいで思うような動きも出来ず、それが隙となって更なるダメージを受けてしまう。ずっとこのような出来事の繰り返しで、まさに手玉に取られているような状況だ。

 

「ッ……!?」

 

 不意にダウンフォールを首関節部を掴まれ、身動きが取れなくなってしまう。影二が見たのはこちらを見つめるようにモノアイを輝かせる姿であり、拘束するわりには何もしてこなかった。

 

 すると白騎士とダウンフォールを別つようにビームが放たれ、白騎士はダウンフォールを手放し、距離を開ける。相手は厳也のクロス・ベイオネットであった。

 

「随分と派手にやられておるのぉ」

 

 そのままダウンフォールの前に移動して、白騎士に立ち塞がるクロス・ベイオネット。厳也はそのまま背後の影二に通信を入れながらも戦闘を引き継ぐようにザンバスターを白騎士へ向ける。しかし白騎士は一向に何か行動素振りを見せない。疑問に感じる厳也であるが、すぐに理由が分かる。

 

≪タイムアップだ。一度、ハーフタイムをとろう≫

 

 コックピット内に開発者の声が響き渡る。初めてのVRや体調の類を考慮して一度、休憩時間を取ろうと言う事なのだろう。その声を聞き、クロス・ベイオネットはザンバスターの銃口を下ろすのであった。

 

 ・・・

 

「やはりブランクはあるか……。しかし勘は取り戻せたことは感謝しよう」

 

 戦闘を終了させ、ファイター達がVR空間から現実世界に戻ってくるなか、クロノはヘルメットを脱ぎながら一人、呟く。その傍らにはセットされているあの白騎士を思わせるガンプラの姿が。

 

「君とのゲームはこれが最後だ。ならば直接、私自身が相手にならなくては私としても締まらない」

 

 一矢への言葉を呟くクロノ。今までは全てNPCに任せて一矢達に干渉していた。だが彼自身、最後は自分自身の手でという気持ちがあるのだろう。

 

「ラストステージだ。お互いに最高難易度をプレイしようじゃないか」

 

 シートから立ち上がったクロノはシミュレーターから出ていく。その口元にはこの休憩時間すら惜しいとばかりの笑みが浮かんでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

侵食する影

 束の間の休憩時間が与えられたファイター達はVR空間でのバトルについて盛り上がっており、かなり楽しんでいたようで会話が途切れる気配がない。

 

「……大丈夫か?」

「うー……うぅん……」

 

 しかし一方で中にはそうではない者もいるようで優陽は青褪めた表情で近くの椅子に座って身を縮こまらせており、見兼ねた一矢が介抱している。

 

「ちょっと酔っちゃったな……」

「……無理して喋ろうとするな。今は休んでろ」

 

 介抱の為、隣に座っている一矢にもたれ掛かる。実際、気分を悪くしているようで一矢に笑いかけるもその笑顔は非常に弱々しい。一矢もそれは分かっているようで優陽の華奢な肩を抱いて優しく撫でる。

 

「はい、水持って来たよ」

「ありがとう、ミサちゃぁん……」

 

 そうしているとミサが手にミネラルウォーターを持って駆け寄ってくる。どうやら優陽の為に買って来てくれたようだ。ミサからミネラルウォーターを受け取りながら彼女に力ない声ではあるが、感謝の言葉を口にする。

 

「バトル中にどんどん動きが鈍くなるんだもん。どうしたのかと思っちゃった」

(……まあ、ちょっと自分の身体に意識を散らしてたりしたから、ちゃんと集中しきれなかったってのもあるんだけど……)

 

 優陽を心配しつつ先程のバトルを思い出す。優陽はどうやらバトルが進むに連れ、動きが鈍って良き、満足なバトルが出来なかったようだ。

 しかしその理由は単に酔ってしまったというだけではないようだがその事を口には出せない優陽は乾いた笑みを浮かべることで誤魔化す。

 

「酔ったんだって? 大丈夫かい?」

「はい……でも、そんなに酷いって訳ではないので……少し休めば大丈夫だと思います」

 

 優陽がVRに酔ったと言う話を聞きつけ開発者が駆け寄ってくると、椅子に座っている優陽の身長に合わせてしゃがみながら体調を気遣うと頭痛等はするもののそこまで極端に酷い訳ではないのか、やんわりと答える。

 

「体調が回復して、またバトルが出来そうならばすると良い。このイベントに参加してくれているんだ。途中参加も可能だからね」

 

 少なくてもその優陽の対応に安心したのか、微笑みを見せた開発者は優陽の体調を心配しつつも休憩後のシミュレーターへの途中参加が可能なことを伝えると、そのまま去っていこうとするのだが……。

 

「あ、あのー……」

 

 その前に優陽が開発者を呼び止めた。呼び止められた開発者が振り返ってみれば、視線をチラチラと彷徨わせている優陽の姿が。

 

「僕のアバターのことでお聞きしたい事が……。思った通りなら僕のアバターで直して欲しいところがあるので……」

 

 どうやらVRハンガーでしきりに気にしていた自身のアバターについての事だったようだ。しかし一矢達に聞かせたくないのか、立ち上がった優陽はトコトコと開発者の元に歩み寄り、耳打ちすると開発者は心底驚いた様子で優陽の顔を見つめていた。

 

 ・・・

 

「ルルもそろそろこちらに向かってくる時間ね」

 

 一方、休憩の合間に飲み終えた飲み物の容器をゴミ箱に捨てていた翔はふと一緒に来ていたレーアの呟きを耳に入れる。実際、この場にはルルはおらず、異世界の人間でこのイベント会場にいるのはレーアとリーナ、そしてトライブレイカーズの面々であった。

 

「……今は忙しいんだろう? 無理をしてまでこちらに来ようとしなくとも……」

「本当に分かってないわね、翔は」

 

 ルルは異世界の人間達の中では一番、立場のある人間だ。それに今、異世界における問題のせいで彼女自身、あまり時間が取れないのだろう。しかしそれでもルルは無理をしてでもこちらに来ようとしているのだ。あまりルルに無理をして欲しくはない翔は彼女の気遣っての言葉を言ったつもりなのだが、レーアは軽い溜息をつきながら首を横に振る。

 

「……無理をしてでも、アナタに会いたいのよ。これから先、いつ会えるか分からなくなるんだから……」

 

 レーアのどこか寂しさを交えながら話すその姿はどこか自分のことを含めてのことのようにも感じる。

 

「……話は大体、聞いた。外宇宙からの存在……。戦いになる可能性は高いらしいが」

「そうね。恐らくはそうなるでしょうね」

 

 翔も話には聞いている。彼女達が戦いに向かわなくてはいけないということも……。深刻な様子もなく放たれたレーアの言葉に翔は視線を伏せる。

 

「……自分も戦うべきか、なんて考えているのかしら?」

 

 なにか悩んだように考えている翔の心を見透かしたようにレーアが声をかけると、的中していたのか驚いたように顔を上げ、レーアを見やる。

 

「別にアナタが戦う必要はないわ。アナタ自身も顔に言っていたでしょう? これは私達の世界の問題。私達で解決するわ」

 

 エヴェイユをも越えるほどの覚醒を果たした翔が今、MSを操縦したらどうなるのかは分からない。ブランクがあるとはいえ、勘を取り戻せたらかつてのように多大な戦力となるだろう。だがレーアはそんな事は望みやしない。

 

「アナタ一人の存在で救える程、私達の世界は安くないわ」

 

 翔がかつて異世界での戦いに身を投じた時も彼の周囲には仲間がいた。その心にもシーナ・ハイゼンベルグと言う存在もいた。いつだって翔は一人で戦い、世界を救って来たわけではない。

 

「だからアナタはもう自分の事だけを考えなさい。その手はもう他人を……何より自分を傷つけるためには使わなくて良いわ」

 

 エヴェイユで苦しむことはなくなったとはいえ、翔はいまだにPTSDまで完治したわけではない。治療を続けているが、それでもいまだ翔を悩ませている。レーアもそれが分かっているからこそ翔を再び戦いに向かわせようなんて考えはしない。

 

≪それでは後半戦を始めるとしよう。ファイター諸君はシミュレーターへ向かってほしい≫

 

 そうしていると開発者のアナウンスによって休憩時間の終了を知らされる。知らせを聞いた翔とレーアはガンプラバトルシミュレーターへ向かって行こうとするのだが……。

 

「──っ!?」

 

 シュミレーターに向かおうとレーアと共に歩き出した翔だが、不意に頭の中に電流が走るかのような感覚が走り、足を止めた。

 

「どうしたの、翔?」

 

 いきなり足を止めた翔に気がつき、彼に振り返りながら怪訝そうに尋ねるレーアだが翔は何も答えることはなく、何かこの違和感を探るかのように視線を彷徨わせていた。

 

「……いや……何でもない」

 

 やがて気のせいと判断したのか、首を横に振る。しかし以前として翔はその表情に何か引っかかりを感じたままのようだ。

 

 ・・・

 

「……バランスブレイカーの存在は純粋な脅威でしかない……か」

 

 ファイター達がシミュレーターVRに乗り込んでいくなか、シートに深く腰掛けていたクロノは瞑想のように閉じていた目を開きながら静かに呟く。

 

「ならば調整が必要だろう。ゲームを円滑に進めるためにはね」

 

 手に持った携帯端末を操作すると、ヘルメットを被りながらクロノは意味深な笑みを浮かべる。その笑みの意味は彼しか分からず、彼はそのままVR空間にダイブしていくのであった。

 

 ・・・

 

「……っ」

 

 VRハンガーにダイブした翔はゆっくりと目を開き、周囲を見渡す。どうやら特に問題もなく、VR空間にダイブできたようだ。

 

「おっ、翔さん」

 

 すると声をかけられ、振り返ればそこにはシュウジの姿があった。どうやら彼も同じVRハンガーにダイブしてきたようだ。

 

「先程までは一緒に行動していたが……。どうだ? 今回はバトルしてみるか?」

「そりゃあ良い。あの頃の俺とは違うっつーとこを見せてやるぜ」

 

 此方に歩み寄るシュウジに微笑を浮かべながらバトルを誘うと、シュウジも元々この世界に訪れる理由は翔と言う事もあり、その誘いに乗り、その時を待ちきれないとばかりに楽しみを待つ少年のような活き活きとした笑みを浮かべる。

 

「──楽しんでいるようで何よりだ」

 

 楽し気に話している二人に更に声をかける者がいた。二人がそのまま視線を向けると……。

 

「私も話に加えて頂けないかな?」

 

 そこには何とクロノの姿があったではないか。翔は兎も角として、シュウジはすぐにクロノに気づいたのか驚いている。

 

「君達二人と話がしたかったんだ」

 

 もしや今、この場で翔と同じVRハンガーにダイブしたのもクロノが仕組んだことなのか、しかし何であれ目の前のクロノは余裕綽々と人を食ったような笑みを浮かべているのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

希望は絶望に

「ハッ……わざわざお前の方から出向いてくるとはな」

 

 翔とシュウジの前に現れたクロノが依然として薄ら寒ささえ感じるような笑みを浮かべるなか、驚いていたのも束の間、シュウジは射殺さんばかりの鋭い視線を向ける。

 

「……誰だ?」

「……あの野郎はこれまでのウイルス事件の裏で糸を引いていた奴らの一人です」

 

 しかしそんなシュウジの視線を受けていても、まるで微風を受けているかのような余裕のある笑みを浮かべているクロノの姿に神経を逆撫でされるかのような苛立ちを感じたシュウジは舌打ちをする。

 穏やかでないシュウジの反応に翔も初めて対面したクロノを警戒したように見やりながら尋ねるとシュウジの口から放たれた言葉に驚いている。

 

「安心したまえ、今日はラストステージ……これが最後だ」

「何故、俺達の前に現れた?」

「君達の存在はゲームのバランスを脅かしかねないのでね。特に如月翔……。君の存在が最もだ」

 

 警戒している二人を見ながら、緊張を解させるような和らな口調で話すクロノに翔は自分達の前に現れた理由を尋ねる。これまでのウイルス事件は毎回突発的に発生し、こうして黒幕となる人物から接触することはなかったはずだ。その理由をクロノはシュウジ……そして特に翔であることを口にする。

 

「エヴェイユ……だったかな?」

「……ッ!?」

 

 自分達が脅威なのは単純な実力によるものなのだろうと考えていた二人だが、クロノから放たれたエヴェイユという単語を聞いて驚愕する。

 

「なんでお前がそれを……ッ!?」

「最もな疑問だろうな、キングオブハート」

 

 クロノからエヴェイユの言葉を出されて目に見えて動揺しているシュウジは何故、クロノがその言葉を知っているのか問いただすように詰め寄ろうとするが、その前にクロノが手を突き出してシュウジの動きを止め、またも驚きの発言をする。

 エヴェイユだけではなくシュウジがキングオブハートの紋章を持つ者だと言う事も知っているのだ。もはやクロノが異世界の知識を持っていると見て間違いはないだろう。

 

「後腐れのないように君達には教えておいてあげよう。エンディングを迎えてもプレイヤーが釈然としないのではゲームとしては致命的だからね」

 

 翔とシュウジのクロノへ向ける視線の中には警戒だけではなく、少なからず動揺も滲んでいる。そんな二人の反応を見て、まるで無知なる子供に教鞭をとるかのように物腰柔らかに話始める。

 

「新人類……君達地球の人類は我々をそう呼んでいるのだったかな?」

「なっ……!?」

 

 クロノの口から明かされた己の素性。流石に思いもよらない言葉にシュウジは言葉を失ってしまっている。

 

「新人類だと……?」

「そうだ、如月翔。特に今の君は我々に近い。最も似て非なると言った方が適切だがね」

 

 レーア達と別れと共に地球に迫る脅威について聞いてはいた翔ではあるが、VRとはいえ、目の前のクロノがその新人類だとはにわかには信じられない様子だ。しかしクロノは新人類とエヴェイユから更に進化して覚醒した翔の関係を口にする。

 

「先ほど君自身もプレッシャーを感じただろう? あれは気のせいなどではない。私が君に感応を図ったのだ」

 

 つい先ほどレーアとシミュレーターVRに向かう際に感じた強烈な頭に電流が駆け巡るような感覚。それは気のせいなどではなく、他でもないクロノによって行われたことだったのだ。

 

「その時、私は君の中の力を感じ取った。純粋に驚いたよ。君は時間さえ支配できうるセンスを持った存在であることにね。だからこそ君は特に脅威なのだ。君という存在は人類が持つ可能性を更に飛躍させた可能性を持つのだから」

 

 時間さえ支配できる……。その言葉に真意は翔にもシュウジにも分からないが、少なくとも翔自身、それに近しい現象を幾度となく起こしたことがある。

 

「お前と……そしてお前らの目的はなんだ? この世界で、何より今現在、俺達の地球に一体、何をしようってんだ?!」

「一つ勘違いしているようだ。君達は今更になって我々の存在が地球に迫っている事に気がついたようだが、実際、今よりもずっと前に君達の目を盗んで地球に降り立った者達はいるよ。それこそ地球とコロニーがまだ争っている間にね」

 

 いまだ信じられない思いだが、シュウジは新人類だと口にするクロノに彼自身の目的と共に何故、遥か過去に地球を旅立ったはずの新人類が今になって地球に戻ってきたのかを問いただそうとする。するとクロノは人差し指を立てながら訂正をする。

 

「確かに我々の祖となる者達は進化もせずに争い続ける人類に見切りをつけて外宇宙に旅立った。だがね、適応できる環境がそう易々と見つかる筈がない。いかに進化した人類と言えど閉鎖的な空間で尽きることのない不安は容易く狂わせるものさ」

 

 かつてシュウジ達の世界、その地球でオールドタイプと呼ばれる人類を見限って外宇宙に旅立った新人類達。その気の遠くなる星々の海を渡る航海の話が語られている。

 

「そして我々も根本的には地球に残った者達と何ら変わらない。いくら地球にいた頃は抜きん出た能力を持っていても、それが当たり前の世界ではただの基準でしかなく、優劣が生まれ劣等感と嫉妬が発生する。そして抜き出たセンスは例え口に出さなくてもそれすらも見透かしてしまう」

(……風香のようにか)

「旅立った時に抱いた希望はおどろおどろしい負の感情に変わっていき、それはやがて燻る火種となり、自分達こそが新たな人類だと驕り高ぶった者達は破滅への一歩を踏み出した。例え移住可能の星を見つけたとしても、地球に代わる故郷というものは中々見付からないものでね。結局、地球を抜け出した人々は母なる地球を忘れることが出来なかったのだよ」

 

 新人類が地球を旅立つ際に夢見た栄光と破滅への道のり。それは皮肉なことに抜きん出た能力によるものとオールドタイプを見限った者達と何ら変わりないものであったのだ。

 

「火種は轟々と燃え盛る炎となり、血を血で洗う争いになっていくのにそう時間がかからなかった。地球圏に辿り着いた君たちが言うところのターンXだったかな? あれはまさに新人類が生み出した負の遺産さ。やがて外宇宙に旅立った人類は散り散りとなった。地球への未練を断ち切れぬまま妥協した星での永住を決めた者達、見切りをつけた者達のいる地球に今更戻れないと新天地を求めて更なる旅路に出た者達、そして地球へ戻ることを決めた者達にね」

 

 それが新人類として、外宇宙に旅立った者達の末路であった。人はいくら力を得て、進化した存在となったとしても根の部分はやはり人から脱却出来ないということなのだろうか。

 

「幸か否か、旅路を続けていくうちに培った技術は当時の地球のものよりも遥かに上回り、ぎりぎりのエネルギーと少ない人員ながら悟られることなく地球に帰還を果たした。その頃には私もその中の一人にいたよ。美しかった、生で見る地球と言うのは。例えそれが荒れ果てた世界であろうとね」

 

 そして地球に帰還を果たした者達の中にはクロノもいたというのだ。当時のことを思い出しているのか、その表情はとても穏やかなものであった。

 

「だがやはりいくら年月が経とうと人は争いから逃れることはできない。歴史が物語るようにね。だが地球に帰還した者達はそれさえも受け入れた。ただ地球で静かに暮らせればそれで良い、と。だが私はそうではなかった」

 

 やっとの思いで地球に戻ってきた者達はそれが争いが途絶えない世界でも良しとした。しかしただ一人はそうではなかった。

 

「私はそこまで付き合いきれなかった。だからこそ研究を重ね、世界を渡ったのだよ。如月翔……君は我々の世界に来たように私は君の世界にね」

 

 血で血を洗う争いから逃れるために地球で研究を重ねて、異世界へ渡る技術を確立させたクロノはそのままこの世界に訪れたのだ。

 

「この世界ではまさに0からのスタートだった。だがその一つ一つを得るたびにまるでゲームを攻略してレベルアップしていくかのような面白さがあった。最も到底褒められるような行いではなかったがね。その辺りだよ、私が裏でバイラスと知り合ったのは」

 

 異世界からこの世界での話になり、クロノはこの世界で行ってきたこととあのバイラスとの出会いについても話す。

 

「バイラスとの出会いは偶然ではあるが、彼は私を高く評価してくれてね。彼の協力もあり、黒野リアムという身分の偽造から何まで全てがとんとん拍子に進み、少ない資金ではあるが会社も立ち上げた。小さな会社で十分だったのだが、まさかあぁなるとは思いもしなかったよ」

 

 そして黒野リアムとしての人生を話す。イドラコーポレーションの設立と発展などバイラスなども関与していたとはいえ、そこまでのことが出来たのはクロノの手腕もあるだろう。

 

「この世界は私の世界ではない。だからこそ私にとってこの世界で起こること全てがゲームなのだよ。まさにオープンワールドのように、いくらでも自由に行動できる」

「……これまでの騒動もお前はただの愉快犯だったわけか」

 

 自分の世界ではないから、この世界にいる自分は偽りであり本当の自分ではないから、だから好きなだけ行動ができる。元々、これまでのウイルス事件に高尚な理由など求めていなかったが、クロノの話を聞き、翔は険しい表情で怒りを露にする。

 

「否定はしないさ。さて、そろそろ良いだろう」

「ああ。お前をこの場で叩き潰してやる」

 

 しかし翔の眼光にも余裕の態度を崩さず、表示させた立体モニターを確認したクロノは意味深な発言をすると、シュウジは指を鳴らしながらクロノに向かって行こうとするのだが……。

 

「怖い怖い。私としても君たち全員を相手にするには些か骨が折れる。だから先手を打つことにした」

 

 口角をあげ、歪な笑みを浮かべるクロノはそのまま指を鳴らすと異変は起こった。なんとVRハンガーの天井部分が割れ、かつてのGGF博物館のような歪な空が広がっているではないか。

 

 ・・・

 

「主任、制御が奪われていきます! これは……ウイルスです!!」

「バカな!? 対策は高じていた筈だ!」

「感染なおも拡大! このままでは全ての制御が……ッ!?」

 

 異変はすぐに開発側にも行き届いていた。運営チェックを行っていた部下から切羽詰まった報告を受けて、以前の出来事もあって対策していたこともあって信じられないとばかりに驚愕する開発者だが、事態はどんどん進んでいく。

 

 ・・・

 

「っ……?!」

「なんだこれ……っ!?」

「今日の為にずっと準備は進めてきた。あの世界における君達を含んだ全て調べ上げたりね。だから今回は私としても手応えを感じている」

 

 地面も影が広がり、そこから現れた触手のようなプログラムが翔とシュウジの全身を拘束する。身動き一つとれない状況に翔とシュウジは抵抗を試みるが、全てが無駄になってしまい、その様子を見てクロノはせせら笑う。

 

「最後に一つ教えておこう。今あの世界の地球に迫る者達は恐らくは更なる新天地を求めた過激派の者だろう。新天地は見つからず地球への未練から地球に残り穢し続ける古い人間を絶ち、地球を手に入れようと言うのだろうね」

 

 触手に囚われた翔とシュウジの体は地面に広がる影の中に引きずり込まれる様に沈んでいく。何とか抵抗して抜け出そうとしている二人の姿を見て愉快そうにしながらも今、異世界の地球に迫る者達について話す。

 

「さあ眠れ。幻しかない夢の中に」

 

 やがて翔とシュウジは完全に影に飲み込まれてしまった。

 その姿を見届けたクロノは愉悦に満ちた笑みを浮かべながら、己の搭乗機となる白騎士のようなあの機体へ向かっていくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

木霊する絶叫

「あれ、センサーが……?」

 

 

 既にVRハンガーから宇宙空間のバトルフィールドに出撃していた一矢達だが、ふとコックピット内の機器を確認していたミサだが顔を顰める。何とレーダーにノイズが発生し、激しく乱れているではないか。

 しかしそれは単なる前触れでしかなかった。同じ時刻に翔とシュウジがクロノの罠にかかったのと同時にバトルフィールドにも異変が起きた。

 

「ッ……!?」

 

 センサーが激しく反応すると同時に四方から迫る攻撃を回避するリミットブレイカー。一矢はそのまま攻撃を仕掛けた相手を見やる。

 

「またお前か……ッ!」

 

 そこにはアンチブレイカーの姿があったではないか。正直に言ってしまえば、見たくもないくらいなので一矢は不快感をあらわにしながらアンチブレイカーを睨みつける。少なくともアンチブレイカーの出現はクロノが関与している事を証明するからだ。

 

「例えなんであろうとここで叩き潰す……ッ!」

 

 いよいよクロノが口にしていたラストステージが始まったということだろう。だが何であれ自分の目の前に現れたということであれば打倒してクロノと決着をつけるまでだ。

 

「一矢ッ!!」

 

 アンチブレイカーへ向かって行こうとするリミットブレイカーであったのだが、ミサの呼び声と共に反応したセンサーが自身に迫ろうとする攻撃に知らせると、紙一重で何とか回避することには成功した。

 

「な……に……ッ!?」

 

 そのまま姿勢を立て直して相手を確認する一矢だが、そこでまた驚愕で目を見開く。

 

 何とそこにもアンチブレイカーがいるではないか。しかも一機や二機の話ではない。二機目のアンチブレイカーの確認を皮切りに周囲にアンチブレイカーが次々に出現しており、あまりの光景に一矢とミサは戦慄してしまう。

 

 ・・・

 

「脈略がなさ過ぎる! いきなり来るとはねッ!!」

 

 それは地上おいても同様であった。近接戦を繰り広げながらウィルはアンチブレイカーを見て、一矢同様にクロノが仕掛けて来たのだろうとすぐに感じ取る。

 

「数が多い分、性能がダウン……なんてことはないみたいだね」

 

 またセレナも二機のアンチブレイカーと戦闘を繰り広げながら、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。迫るアンチブレイカーは鋭い覇王不敗流の技と正確なオールレンジ攻撃を持って襲い掛かってくる。一機でさえ手古摺るような相手にも拘らず、それが波のように襲い掛かってくるのだ。セレナの表情からも余裕は消えてしまっている。

 

「ちぃ! ただでさえ厄介なのに雑魚の類が煩わしいのう!!」

「このままでは物量差に押し切られる事になるぞ……ッ!」

 

 また元々、バトルフィールドに存在したNPC機もアンチブレイカーと交戦を続けるファイター達の機体に向かって攻撃を仕掛けてくるのだ。

 NPC機自体、さほど脅威ではないのだが攻撃によっては動きを制限されてしまう。苛立ちを感じさせる厳也の言葉に影二も苦々しく答える。

 

 ・・・

 

「外部との連絡が取れない……。ログアウトも……ッ! 一矢、やっぱりこれって……!」

「ああ、どう考えても逃す気はないだろうな……。だが今更、逃げる気もない……ッ!」

 

 ウイルスによって開発側の制御が奪われていくなか、外部との連絡もログアウトも出来ない状況にミサは一矢に通信を入れるとまず最初にそこを抑えたクロノの思惑を口にするが、元々逃げるつもりはない。リミットブレイカーは迫るアンチブレイカーをすれ違いざまに両断して漸く一機目を撃破する。

 

「───素晴らしい言葉だ」

 

 するとリミットブレイカーに通信が入り、その声を聞いた一矢は素早く反応する。もう聞き逃すはずがない。この声はクロノのものだ。

 

「……っ!?」

「ほぅ、その反応は私も喜ばしいものだな」

 

 同時に機体の出現を知らせるセンサーにその方向を見た一矢は、そこに現れた機体を見て目に見えて動揺してしまっている。

 そこにいたのはクロノが操るあの白騎士のような機体だった。機体越しにでも分かる一矢の反応を感じ取り、クロノは愉快そうに笑う。

 

「この機体までは忘れることは出来なかったようだね」

 

 その機体はかつてのジャパンカップで当時、聖皇学園ガンプラチームに所属していた一矢を破った機体と同一のものだったのだ。

 機体の名はデクスマキナ。シナンジュをベースとしており、それがかつてジャパンカップを優勝した黒野リアムの使用したガンプラだったのだ。

 

「さあ私はここにいる。いつでも来たまえ」

「……ッ! 言われなくとも!!」

 

 まさか再びデクスマキナの姿を見る事になるとは思わなかった一矢だが、クロノは余裕の態度を崩す事はなく、デクスマキナの両腕を広げて挑発する、リミットブレイカーはカレトヴルッフを構えて飛び出して行く。

 

 向かってくるリミットブレイカーにデクスマキナはビーム・ナギナタを展開すると真正面からリミットブレイカーの攻撃を迎え撃とうとする。

 

 まるで流星の如く凄まじい勢いをもってデクスマキナにカレトヴルッフを振り下ろす。

 しかし一方でデクスマキナは必要最低限の動きを持ってカレトヴルッフを受け止めたと同時にその場からピタリとも揺れることなく、まるで分厚い壁のように静止しているではないか。

 

「ッ!?」

 

 それが一矢に動揺を与えるが、すぐに切り替えてCファンネルを展開して、デクスマキナに差し向ける。迫るオールレンジ攻撃にここで漸くデクスマキナは動き出し、まるで蝶のような軽やかさを持ってオールレンジ攻撃を易々と避け続ける。

 

 だがその動きを見極め、次にどう動くのか予想を立てたリミットブレイカーはその圧倒的な高機動力を利用して、瞬時に回り込むとカレトヴルッフを振るう。

 

 再びカレトヴルッフとビームナギナタが刃を重ねる。受け止められる事は織り込み済みだったのか、そこからデクスマキナに向かって蒼天紅蓮拳を放つ。

 

 ……が、それはクロノにとって対応するには容易い事だったのだろう。突き放った拳は易々と受け止められてしまった。

 

「……ふむ、やはりあの頃に比べて強くなっている。これから徐々に君の実力をこの身で体験できるのだと思うと純粋に楽しみではあるのだがね」

 

 合わせた手と手がぎこちなく軋むように震えるなか、クロノはかつてのジャパンカップの頃の一矢を思い出しながら話すと、クロノの出方を伺う為に一矢がまだ本気を出してはいないことを見抜く。

 

「だがゲームはまだ始まったばかりだ。君とのバトルはまだ早い」

 

 リミットブレイカーの拳を受け取めるデクスマキナはそのままリミットブレイカーを解放すると蹴り飛ばす。

 

「なっ……!?」

 

 すぐに体勢を立て直す一矢だが、次の瞬間、触手型のプログラムによってリミットブレイカーは身動き一つとれないほどに拘束されてしまう。これは翔とシュウジに使用された触手型プログラムと同じものであった。

 

「一矢ッ!!」

 

 そして翔達と同様にリミットブレイカーは触手型プログラムの発生元となる巨大な影に引き寄せられていく。アンチブレイカー達との交戦のさ中、それに気づいたミサはすぐに一矢を助けようとするのだがアンチブレイカー達の妨害によって触手型プログラムへの攻撃を防がれ、せめてとリミットブレイカーだけでも強引に連れ出そうと手を伸ばす。

 

「ミサ……!」

 

 リミットブレイカーがいくら動きだそうとしても触手型プログラムからは一向に抜け出せず、既に機体は影に呑まれ始めていた。一矢もこちらに手を伸ばすアザレアリバイブに向かって手を伸ばすのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……そ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 手が触れあいかけた瞬間、更に力を強めた触手型プログラムによってリミットブレイカーは完全に影に呑み込まれて、後にはまるでなにもなかったかのように消えてしまったではないか。

 

「届かなかった……? 私の手が一矢に……?」

 

 センサーにもリミットブレイカーの反応はなく、まるで最初からいなかったかのようだ。だが目の前で消えてしまったリミットブレイカーの姿がいまだにミサに焼き付いており、最後の苦しそうにミサの名を呼ぶ一矢の声も耳に残っている。

 

「やだ………やだっ……!! ……一矢あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!!?」

 

 これまで幾度となく繋ぎ続けた手に初めて届かなかったことに信じたくないと言わんばかりに体を震わしたミサの絶叫が響くのであった。




ガンプラ名 デクスマキナ
元にしたガンプラ シナンジュ

WEAPON ビームナギナタ(シナンジュ)
WEAPON ビームライフル+バズーカ
HEAD シナンジュ
BODY シナンジュ
ARMS Hi‐νガンダム
LEGS バウ
BACKPACK スクランブルガンダム
SHIELD シールド(バウ)
拡張装備 シールドピット×2(両肩部)

例によって活動報告にリンクが置いてあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おぞましき理想郷

「一矢をッ! どうしたのッ!?」

 

 クロノの手によって目の前で影に呑まれて消えてしまったリミットブレイカー。その行方を知ろうと半ば錯乱気味にアザレアリバイブは真っ直ぐとデクスマキナに向かって行きながら問いかける。

 

 しかしだ。デクスマキナは、クロノはミサのことは眼中にないとばかりに答えるどころか、アザレアリバイブを気にする素振りを見せない。

 

「答えてッ!!」

 

 堪らずミサは険しい表情で怒号のような叫びをあげながら無我夢中でアンチブレイカー達の攻撃を掻い潜り、デクスマキナに大型対艦刀を振り下ろす。

 

「血気盛んなものだ。ふむ……。だが、君と彼との関係を考えれば、さして不思議なことではないか」

 

 だがその刃がデクスマキナに届くことはなく、その前にビームナギナタによって受け止められてしまう。鍔迫り合いの形にはなっているもののここで叩き潰してでも聞き出そうとするかのようにバーニアを全開に稼働させて、デクスマキナを押し払おうとする。

 

「っ!?」

 

 その様を見て、尊く美しいものを見るように柔らかな口ぶりであったクロノだが、一方で振り払われたのはアザレアリバイブであり、その瞬間にミサさえも見えぬ一撃がアザレアリバイブのメガキャノンを切断した瞬間に爆発してアザレアリバイブはその爆風のあおりを受けてしまう。

 

「なに、気にする事はない。彼を別に危険な目に遭わせてはいないさ。ただ夢を見てもらっているだけのことだ」

「夢……?」

 

 明らかに手を抜かれている。機体には手を出さず、メガキャノンのみを切断したのはそれだけの余裕があるからなのか。すぐにデクスマキナを見据えるミサだが、クロノの言葉に眉を寄せる。

 

「そこはうたかたの理想郷。苦しみも悲しみもない万物万象に満たされた世界さ」

 

 意味深な発言をするクロノだが、ミサにはその一切の意味が分からない。ただ一つ分かっているのはクロノをこのままにして良い訳ではないと言う事だ。

 アザレアリバイブは迫るアンチブレイカーの攻撃を何とか掻い潜りながらデクスマキナへ挑んでいくのであった。

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました一矢がまず耳に入れたのは、けたましい喧騒であった。思わず身体を大きく震わせて飛び起きて周囲を見渡す。そこはどうやらゲームセンターのようだ。

 

「ここは……?」

 

 しかもこの内装に一矢は覚えがある。それは自分やミサがよく通うイラトゲームパークに非常に酷似しているではないか。否、イラトゲームパークなのか?少なくともイラトやインフォの姿がある。しかしそれはおかしい。自分は───。

 

「ぐっ!?」

 

 頭を鈍器で殴られたかのような鈍い衝撃が走り堪らず頭を抑える。自分のこと、自分に置かれた状況を思い出そうとすると、まるで【外に出ようとするのを強く押し留める】かのように決まって激しい頭痛に襲われるのだ。

 

「大丈夫?」

≪どうかされたか?≫

 

 何故、そのような出来事が起きるのか、苦しみながらも一矢は原因を探ろうとするのだが耳に届いた声にピタリと動きを止める。

 

「具合でも悪いの?」

 

 一人はミサだ。だがそれ以上に捨て置けないことがある。一矢はそのまま視線をミサの隣に移す。

 

≪ミサの言葉は本当か、主殿?≫

 

 そこには騎士ガンダムが、否、ロボ太がいたのだ。

 

 ・・・

 

「俺の世界、なのか……?」

 

 一方、翔と共にクロノの罠によって影に呑まれたシュウジもまた奇異な世界に迷い込んでいた。それは見覚えのある自分の世界の日本と思われる場所であった。しかしやはりおかしい。

 

「荒廃していない……?」

 

 そう、シュウジの世界は幾度とない戦争のせいで一矢の世界では考えらないほどに荒れ果てた終末の世界。しかし自分が目にしているのはそれとは無縁なほど活気と豊かさに溢れた町であった。

 

「……これは俺の……!?」

 

 見覚えのある道を歩いていると不意に足を止める。そこは森林に挟まれて続く石畳の階段であった。その階段を見て、思わずシュウジは駆けあがる。

 

「ッ!?」

 

 階段を昇り終えたシュウジはその先にあった門を見て、更に驚くもののすぐに門を潜ると奥の美しい日本家屋を一瞥しながらも庭へ向かい、縁側に座って和やかに話している着物姿の夫婦と思われる二人組を見つけて息を呑む。

 

「あら、シュウジ帰って来たのね」

「そんなに慌ててどうした?」

 

 夫婦はシュウジに気づき、女性は全てを包むような柔らかな笑みを男性は厳格な雰囲気の中で優しさを感じさせる微笑みをそれぞれシュウジに向けて声をかける。

 

「父……さん……? 母……さ……ん……?」

 

 知らず知らずに声が震えてしまう。そこにいたのは紛れもなく戦火の中で幼い自分と兄を残して死んでしまった両親であったのだ。

 

 ・・・

 

(この状況を疑問に思おうとすると起きる激しい頭痛……。なにがどうなっている……)

 

 翔もまた一矢とシュウジと同じ状況であった。しかし違うのは彼の前にはいない筈の人間は現れてはいないと言う事だ。

 

「どうしたんですか、翔さん? ずっと難しい顔してますよ」

「……あやこ」

 

 自分がいるのはどこかの店の作業ブースのようだ。眉間に皺を寄せている翔に声をかけたのはあやこであった。周囲にはガンダムブレイカー隊の面々などもいて何気ない雑談をしている。

 

「ここは……? それにレーアやシュウジ達は……?」

「誰ですか?」

 

 周囲を見渡しながらここにはガンダムブレイカー隊の他にも一矢ヤミサ達など見知った顔がいる。しかし決定的にシュウジ達のような異世界の人間がいないのだ。そのことを目の前のあやこに尋ねるのだが、思わぬ返答に目を見開く。

 

「なにを言ってるんだ……? お前だって会った事が……!?」

「……ごめんなさい、何かの記憶違いじゃないですか? 私は会った事は……」

 

 ゾクリとした感覚が走る。翔は堪らず睨むようにあやこを見るが、あやこは申し訳なさそうに首を横に振りながら否定する。その反応は到底、嘘をついているようには見えなかった。

 

「それに翔さん、どこでそんな人達に会ったんですか?」

「……なに?」

「だって翔さんは“ずっとここにいた”じゃないですか」

 

 背筋が凍るような寒気がする。目の前のあやこは見た目こそ自分が知っているあやこなのだが不気味さを感じるのだ。

 

「あっ、いけない」

 

 そんなあやこだが、ふと肘を動かした瞬間、蓋が閉まっていなかった赤の塗料を机に転がしてしまい中身が溢れて手にベッタリとかかってしまう。

 

「いたっ!?」

 

 しかもそれだけではなく、塗料で慌てた拍子に机の上のデザインナイフでその柔肌を僅かに切ってしまう。これには翔もあやこに寄ろうとするのだが……。

 

「あぁ、良かった。翔さんは大丈夫ですね」

「あやこ……?」

「翔さんはこんな風に汚れてませんし、傷ついてない」

 

 あやこは慌てる様子もなく、席を立った翔を見て微笑む。その様子に翔はますます理解が出来ず顔を歪めるが、ふとあやこは塗料で赤く染まった手を翔へ向ける。

 

「だって───」

 

 ・・・

 

「どう……して……? 二人は……。それに……この辺りだって……!」

「どうしたんだ、シュウジ?」

 

 健在な周囲と、そして何より両親を見て、シュウジは目に見えて狼狽えてしまっている。そんなシュウジを見かねて、両親は立ち上がり、歩み寄ると父親はシュウジの肩に触れる。

 

「だって……だって……みんな、戦争で……! 俺やサクヤの目の前で……ッ!?」

「死んだって言うの? おかしなことを言うのね」

 

 例え今、この状況を探ろうとしなくたって鮮明に覚えている。

 炎の中の両親の姿を、死に絶えたペットや友人達の姿を、忘れる筈がない。過呼吸を起こしかねないほど取り乱しているシュウジに母はクスリと笑う。

 

「そんなものなかったじゃない」

「えっ……?」

 

 母の言葉にシュウジは動きを止める。そんなものなかった、と今、確かに母はそう言ったのだ。

 

「だって───」

 

 ・・・

 

「ロボ太……? 本当に……ロボ太……なのか?」

≪これはまたおかしなことを言うものだな、主殿は≫

 

 目の前にいるロボ太が信じられず、すぐに駆け寄りながらロボ太に触れる。本来、発声機能がない筈のロボ太だが、今はそんな事を気にする余裕もなかった。当のロボ太はそんな一矢の様を可笑しそうに笑う。

 

≪それではまるで私がいなくなったかのような口ぶりではないか≫

「実際、そうだろ……!? だってあの時……!!」

 

 苦笑交じりのロボ太の言葉に強く反応する。ロボ太は自分達の未来を開き、そして宇宙を放流してしまった。そんなロボ太を目の前にして、このような反応をとるなと言う方が無理である。

 

「なんだ? さっき寝てたからってまだ寝ぼけてんのか?」

「シュウジ……!? それにカガミさん達も……!」

 

 すると背後から一矢の肩に手を回され、体を寄せられる。相手はシュウジであった。その傍らにはカガミやヴェル達もいて、一矢に微笑みを見せている。

 

≪主殿、我々はずっとここにいるぞ≫

 

 いまだ混乱状態の一矢にロボ太は改めて一矢に声をかけ、一矢は身体を大きく震わせる。

 

≪何故なら───≫

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「翔さんはそこにいたから。ずっとここにいたから」

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの手は汚れていない。傷ついてもいない」

 

 

 

 

 

 

 

「だって、なにもなかったんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦争なんてものなかったじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

「なにも失わず、燃えることもなく」

 

 

 

 

 

 

「シュウジ……。アナタも私達もずっとここにいた」

 

 

 

 

 

 

 

≪我々はどこにもいかない≫

 

 

 

 

 

 

≪ずっと主殿の傍にいる≫

 

 

 

 

 

 

≪今までも、これからも≫

 

 

 

 

 

 

 

 ───違う。

 

 

 

 翔も、シュウジも、一矢も同じことを思った。しかしちっぽけな個人の存在は世界からすれば、虫けらにも満たぬ有象無象。

 

 

 

 

 

 

「──ッ!?」

 

 

 

 

 

 

「──ぐッ!?」

 

 

 

 

 

 

「──うぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 目の前にいる者の言葉を聞いた三人は同時に今まで以上に激しい頭痛に襲われる。それはまるでこれ以上、なにも考えさせないとでも言うかのように。

 

 ・・・

 

「───この世界において、どこまでが心や記憶で、どこまでがデータなのだろうかね」

 

 サブモニターを三つ表示させて、一矢達の様子をミサとの戦闘の片手間に眺めているのはクロノだ。今、一矢達は同じVR空間にいるものの、実際はウイルスによってその部分だけが切り取られて新たに構築された別の世界だった。

 

「君達を調べ上げた上での世界観をそれぞれに当て嵌めたのだ。後は我々新人類の技術で作り上げたウイルスがVR空間における君達のデジタル情報を……心の奥底にあるもの全てを読み取って君達に最適な理想世界を構築してくれる」

 

 アザレアリバイブは今、アンチブレイカーに手を焼いており、デクスマキナへ攻撃をしようとも出来ない状況だ。クロノはそんな状況のなか、サブモニターの様子をさながらプレイ動画を見るかのように眺める。

 

「元は移住先が見つからないストレスを少しでも軽減する為に作り上げたVRに似たものらしいがね。だがそれで新人類は束の間とはいえ精神の安定を図っていた。もっとも君達に使用しているのは、それを改良させたものだがね」

 

 自分の心の奥底の……それこそ深層心理に隠れて、本人でさえ自覚していないごく僅かな弱みでさえ読み取り、それを解消させるために当人に理想郷を見せる新人類の技術。それをクロノはこのVR空間でも使えるようにウイルスろして改良したのだろう。

 

「全ては儚い一時の夢。だからこその理想郷だ。その世界ならば誰に咎められる事もないさ」

 

 やがてサブモニター内で苦しみにもがいていた一矢達が順に糸が切れた人形のようにガクリと頭を垂れる。ここからが本番だとばかりにクロノは期待するかのように眼差しを送りながら、このVR空間のファイター達を撃破するために動き出すのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

虚無の楽園

「ねえ、これって……」

 

 クロノとウイルスによって広がる波紋は外の現実世界にも伝わっていた。立体モニターに見えるアンチブレイカーをはじめとした機体群とのバトルの様子を見て、夕香もすぐに事態に気づいたのだろう。表情に不安を滲ませている。

 

「ええ、恐らく……。いえ、間違いないでしょうね」

 

 一矢達ほどではないにせよ、夕香やシオンもウイルス騒動に関わりがある。モニターを覆わんばかりのアンチブレイカーの姿を見れば、嫌でも事態を把握してしまうというものだ。

 

「──ちょっとなんなの!?」

 

 そんな中、耳に届いたのはヒステリーに似た叫び声であった。声のままに視線を向ければ、外に出ようと一部の人間が観客席への出入り口に集まるなか、このイベントの為に設置されていた数多くのワークボットが入り口を塞いでいるではないか。

 

「いってぇっ!?」

「あれ、今の声……?」

 

 しかも無理に出ようとすれば、叩き潰すかの如く強引に観客席の方に叩き返されてしまうではないか。地面に叩きつけられて悲鳴をあげた少年の声を聞き、夕香は聞き覚えがあると顔を顰める。

 

「そこをどいて! 私達は行かなくちゃいけないの!」

「まなみん達……!?」

 

 この観客席を出ようと道を塞ぐワークボットに抗議の声を上げる人々の中には聖皇学園ガンプラチームの姿があった。どうやら先程の悲鳴は拓也のものだったようだ。他にも厳也や影二達を心配して、運営側に向かおうとする咲達などの関係者達の姿がある。

 

 《この場から離れる事は許可されておりません》

「どうして!?」

 《観客はいるからこそ意味がある……とのことです。さあ席へ御戻りを》

 

 だが真実の言葉すら無慈悲に無機質な言葉で返されてしまう。なお食い下がろうとしない言葉にすら前に威圧を持って進み出たワークボットによってそれ以上の問答は不要とばかりに答えられる。それはこれ以上、抵抗しようものならば手荒な手段をとるということだろう。

 

「……夕香、SNSでこの事、拡散されてるよ」

「この騒ぎじゃそうだろうね。でもワークボットの言葉を聞く限りじゃ、そっちのが都合が良いんじゃない」

 

 裕喜が携帯端末でSNSを表示させる。どうやらこの会場内で既にSNSにこの事態を拡散した者が何人かいるようだ。だがバトルフィールドの様子は既にハルの中継によって衆目に晒されているだろう。

 

(イッチ……大丈夫なんだよね……?)

 

 夕香は再び立体モニターを見やる。アンチブレイカーの存在は既に宇宙エレベーターの漂流、SSPGなどで名称は分からなくとも、それがウイルスを、危険を齎す災い存在である事は分かっている。

 

 だがそれ故に、今、フィールド発生上に無数に現れ、選ばれたファイター達のガンプラ達へ暴虐の限りを尽くさんとするその姿は恐怖を与えるのだろう。モニターを見る者全ての表情に恐怖の感情が色濃く宿る。

 

 夕香もその一人であり、モニターに映ることのないリミットブレイカーを、一矢の身を案じてギュッと胸の前でか細い手を握る。

 

 ・・・

 

「主任、コントロールを掌握されないようにするので精一杯です……! ですがこのままでは……ッ!」

「ワクチンプログラムは今、全てのシミュレーターに適応させた! 今のうちに出来ることは全て行うッ!」

 

 また運営側となる開発陣はシステムのコントロールを奪おうとするウイルス達を何とか食い止めるのに必死だった。既にカドマツの作成したワクチンプログラムは全てのシミュレーターに適応させたとはいえ、それでもいまだ事態は好転しない。

 

「如月君達はどうしたのだ!? 彼らの姿が見えないぞ!」

「それが……VR空間その物には反応があるのですが、彼らだけ別に切り離されているようです……」

 

 開発者はバトルフィールド内のが機体の中で翔達がいないことを尋ねると翔達のシミュレーターを確認しながら苦い声で答えられ、表情を歪ませる。

 

「先に彼らを……。先手を打ったと言うのか……! これでは……ッ!!」

 

 翔達への影響は何も当人だけではない。圧倒的な実力、絶望への反抗、希望の象徴……人によってその存在が異なるガンダムブレイカーが一機もいないことは見る者に絶望を与える。それもそうだろう、これまでのウイルスに関わる多くの事件をガンダムブレイカー達が解決に導いてきたのだ。

 

 そんな象徴がいないと言う事は、このような事態で無自覚に彼らの存在を求めていた多くの者達に絶望を与えているのだ。それは苦戦を強いられて見る見るうちに損傷を与えられている名だたるファイター達の機体を見て、尚更であろう。

 

「だったらあいつ等を取り戻せば良いだけだろ!」

 

 このままでは最悪の事態になる。頭を悩ませている開発陣だったが、そこに光明を当てるように声を上げたのはカドマツであった。

 

「俺達がやる事は変わらない……!」

 

 カドマツもまたこの事態にワクチンプログラムの提供のみならず、少しでも状況を好転させようと手を打っているのだ。今もなお、クロノに囚われた一矢達を救い出そうと必死に考えを張り巡らせている。

 

「ずっとあいつ等に頼って来たんだ! だったら少しでもあいつ等の助けになる事をするのが筋ってもんだろ!」

 

 カドマツのワクチンプログラムは彼が過去に口にしていたように強いファイターが必要となる。だからこそ彩渡商店街チームのみならず、これまでのガンダムブレイカー達が事件を解決に導いてきた。だがそれは特に子供である一矢達を危険な状況に巻き込んでの事だ。

 

 SSPGの一件で自分やミスター達は一部のネット上に糾弾されるかのように叩かれているのは分かっている。自分達の行いがどれだけ危険な事に子供を巻き込んだのかも……。

 

 だからこそなのだ。今まで頼って来たからこそ、何より自分の手で助け出したい。その想いでカドマツは思考と手を動かし続けるのだ。

 

「そうだな……ッ! 我々も自分達が出来る最善の事をしよう!!」

 

 カドマツの言葉に触発されたように開発陣も表情を引き締め、現状に真正面から向き合い、最善策を導き出そうとする。

 

 ・・・

 

「ねえ、ロボ太……。俺、何か忘れてるような気がするんだ……。なんでなんだろうな」

 

 一方、クロノの仕掛けた世界に閉じ込められた一矢は近くのロボ太に引っかかりを感じたように尋ねる。

 

≪それはきっと夢を見ていたからだろう。先程の主殿の寝顔を拝見したが、非常に険しい顔をしていた≫

「……険しい? ……悪い夢、だったのかな……? 起きる前の事を……思い出せないんだ」

 

 ロボ太の言葉に一矢は首を傾げる。あの激しい頭痛以降、一矢達は現実とVRの区別がつかず、まさに夢の中に落ちてしまっているのだ。

 

「あんまり気にすんなよ。夢は夢だろ」

「それよりもそろそろ受験を視野に入れなくて大丈夫なのかしら?」

「学生は大変だもんね。何だったら私やシュウジ君達が教えるよ」

 

 そんな一矢にシュウジが背中を叩きながら軽く声をかける。それに続くように放たれたカガミの言葉に一矢の表情が強張るなか、一矢の表情に苦笑を交えながら、ヴェルがシュウジ達を見やりながら申し出る。

 

「……シュウジに教えられるの?」

「お前、俺のこと脳筋か何かと思ってるだろ」

 

 からかうように冗談を口にする一矢にシュウジは青筋を浮かべる。そんなやり取りに周囲が笑うなか、今まで難しい表情を浮かべていた一矢も微笑を浮かべる。

 

「なあ、一矢。そろそろガンプラバトルをしないか?」

「ガンプラバトル?」

「ああ。何の邪魔も入らず、何かの手段であることもない。純粋なバトルだ。ここなら幾らでも出来るぜ」

 

 シュウジも何だかんだで笑いつつも一矢にガンプラバトルを申し出る。咄嗟に誘われたので一矢が首を傾げるなか、シュウジは含みのある物言いでガンプラバトルシミュレーターを指さす。

 

「……うん」

 

 その言葉に一矢は頷くと、シュウジと共にガンプラバトルシミュレーターに向かっていく。

 

(……何だか心地良いな……。心地よ過ぎるくらいだけど)

 

 ……違和感その物は一矢とて感じている。しかしクロノの手中に、夢の中に囚われた一矢にはそれが何であるか分からなかった。

 

 ・・・

 

「シュウジ」

 

 シュウジもまたまた一矢と同じ状態であり実家の庭園で母が用意してくれた着物に着替えていた。そんなシュウジに母の呼び声がかかる。

 

「ご飯、出来たわよ」

 

 顔を向けるシュウジに母の優しい声が用件を伝える。先程まで庭園を眺めていたシュウジはそのまま母に導かれるまま、家の中に入る。

 

「あれ、親父……じゃなくて、父さんは?」

「サクヤと裏の道場で稽古に行ったわ。食べ終わったら、アナタも顔を見せれば?」

 

 テーブルには自分の為に作られたと思われる食事が。だが周囲に父の姿はなく、シュウジは味噌汁を注いでいる母に尋ねると、どうやらこの場にはいないようだ。

 味噌汁と母がよそってくれた炊き立ての白米の入った茶碗を受け取りながら、シュウジはいただきます、と口にしながら食事をとる。

 

「美味い……。美味いよ、これ」

 

 母の手料理を噛み締めるように食べるシュウジに母はただ慈しむように笑うのみだ。

 

「シュウジ、アナタ……泣いてるわよ」

 

 だが遂に母はシュウジに今の彼について触れる。何とシュウジは知らず知らずに涙を流しながら、母の手料理を口にしていたのだ。

 

「な、なんでだろうな……。俺、ずっとここに居た筈なのに……。母さんの手料理……すっげぇ久しぶりに感じるんだ……っ」

「久しぶりねぇ……。でも泣いちゃうほど母さんの手料理が恋しかったんだ?」

 

 涙を拭いながら泣き笑いを浮かべる。実際、それもそうだろう。現実の彼は幼い頃に両親と死別した。この手料理だって彼の幼き記憶の断片が再現しているに過ぎない。だがこの【理想郷】にいる彼はその事を封じ込められている。そんな彼に母は可笑しそうに笑いながら、頬杖をついてからかう。

 

「ホント、幾つになっても子供ね。そろそろ浮いた話でもないのかしら?」

「浮いた、話……?」

 

 孫の顔が見たいわ、などと口にする母にシュウジはここで顔を顰める。

 

『シュウジ君っ』

 

 そして脳裏に過る優しく柔らかな声。だがいくら思い出そうと今の彼に姿形がはっきりと思い出す事は出来なかった。何故なら今の彼は【理想郷】にいるから。戦争がない世界、それはつまり愛する人とも出会う事がなかった未来なのだ。だがその事をこの環境下で現実に関わる一切を封じられている彼には分からなかった。

 

 ・・・

 

(……ここから何とか……抜け出さなくては……ッ!!)

 

 だが一人だけこの理想郷と現実を何とか繋ぎ止めようとした者がいた。

 如月翔だ。彼は今なお、記憶を封じ込め、理想郷に適応させようとする強制力に何とか抗っていた。

 

「翔さん、なんだか苦しそうですよ?」

「気に……するな……」

 

 それが彼が人類というカテゴリから外れたどこにも属さない他種だからなのかは分からない。だが瞳を虹色に輝かせ、己の能力を最大限に発揮して踏み止まっているのだ。そんな翔にあやこが声をかけようとするが、なるべく平静を保って答える。

 

(絶対に……っ……忘れちゃいけないんだ……! 例え苦しくても……辛くても……! 全てを忘れたら……なかったことになったら……! それは……ッ……【俺】じゃないんだから)

 

 理想郷に適応させるために、少しずつ封じられる異世界の記憶を手放すまいとするのが必死だった。もう既に今の翔でさえレーア達の名前を思い出す事が出来なくなってしまっている。だがそれでも繋ぎ止めようとするのは自分が自分であるためだろう。

 

 確かに苦しんだ。だがそれが糧となって今の如月翔を作ったのだ。それがなかった世界などそれは今の如月翔には決して繋がらないのだから。

 

 ・・・

 

「──翔さん?」

 

 そしてそれはエヴェイユの力を通じて、現実のバトルフィールドで戦っているリーナや風香、そして覚醒しきれてはいないとはいえレーアにも伝わっていた。

 

「レーアお姉ちゃん……。聞こえた? 翔の声」

「……ええ。例えいなくたって翔が抗っているのは分かるわ」

 

 アンチブレイカーを撃破しながらリーナは近くのレーアに通信を入れる。どうやら先程、感じ取ったのは間違いではないらしい。

 

「……そうね。アナタはそう言う人よね、翔」

 

 最後まで諦めるな。抗う手段があるとはいえ苦しんでも翔は諦めずに抗っているのだ。

 そんな翔の存在を感じ取ったレーアもアンチブレイカーをすれ違いざまに撃破し、そのまま瞬く間に撃破数を増やしていく。

 

 確かにバトルフィールドにガンダムブレイカーはいない。

 だが諦めずに戦い続けるレーア達のように、彼らを助け出そうと何とか模索し続けるカドマツ達のように、例え希望が潰えてしまっても希望が残したものはなくならないのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

砕かれた理想郷の先

「あいつ等を囚われているウイルスは一種のプロテクトみたいなもんだな」

 

 クロノが一矢達に仕掛けたウイルスを駆除しようと奔走するカドマツ達。コンソールを忙しなく動かしながらカドマツはウイルスを解明し始める。

 

「だが、俺達だって伊達にウイルスと付き合って来たわけじゃないからよ」

 

 これまで多くのウイルスを相手にしてきたのだ。解明に至る流れが速いのは不思議なことではない。瞬く間にカドマツは一気にウイルスの駆除を進めていく。

 

「たまには俺も格好いいとこ見せないとな……ッ!」

 

 単純なウイルスではない分、カドマツも手を焼く。しかもそれがファイターの手を借りないやり方ならば尚の事。しかしそれでも一矢達にかけられたプロテクトを滞りなく解除していけるのは偏にこれまでの経験と彼自身の手腕によるものだろう。

 

「これで……どうだッ!!」

 

 そしていよいよ一矢達を救い出せる時が来たのか、強くコンソールを叩いて画面を見やる。すると先程まで一矢達御状況を知ろうとも暗転していた画面が少しずつ露わになっていく。

 

 ・・・

 

「───ッ!」

 

 それは翔自身も感じ取ったのだろう。この世界に起きた異変にいち早く反応した翔は顔を上げる。見れば目の前のあやこ達は何やら苦しんでいる。

 

「一か八か……。届くか……ッ!」

 

 この状況を利用しない手はない。翔は更に己の力を引き出し、かつてのネバーランドで放ったような虹色の光が翔から溢れ出るとその輝きの本流は空を渡っていく。

 

 ・・・

 

「どうした、一矢?」

 

 同時刻、シュウジ達とガンプラバトルシミュレーターに向かおうとしていた一矢だが、ふとその足を止める。そんな彼にシュウジが怪訝そうに声をかける。

 

「……駄目だ、俺、行かないと」

 

 当の一矢は顔を俯かせていた。一体、どうしたのだろうかと周囲がざわめくなか、一矢は真っ直ぐ顔を上げて迷いなく答える。どうやらカドマツと翔の与えたショックで封じられた記憶が戻ったようだ。

 

≪……気が付いてしまったか、主殿≫

「……ああ。こっちが夢なんだ。悪い夢じゃなかったけど、でも俺は行かなくちゃいけない」

≪何故だ? ここに居れば我らは離れる事はない≫

 

 一矢の様子にロボ太もこれが現実のものではないと悟った事に気づいたのだろう。

 ロボ太の言葉にコクリと頷きながら踵を返す一矢の背中に投げかける。それはまやかしだと思っていても、それを良しとしようとする考えだった。

 

「そうだ、別にここにいたって───」

 

 シュウジも一矢を止めようと駆け寄って、その肩に手をかけようとした時であった。

 

「ッ!?」

 

 引っ張られる衝撃と共に視界が揺らいだと思ったら、シュウジの身体は地面に叩きつけられているではないか。周囲にいる者達が息を呑むなか、仰向けで倒れたシュウジの顔面の直前の位置に一矢の拳が迫っていた。

 

「……ここにいるアンタじゃ目指し甲斐ってのがない」 

 

 どうやらシュウジが手をかけようとした瞬間に一矢がシュウジの手を掴んで、投げ技で地面に叩きつけたようだ。シュウジの顔面スレスレで止めた拳を引きながら一矢は服装の乱れを整える。

 

「約束したんだよ。お互いの道がもう一度交わった時、またバトルをしようってな。それはここにいる限り出来ない。ここにいたんじゃ俺は自分の道を進むことは出来ない。進歩できないんだ」

 

 ここはあくまでVR空間が生み出した理想郷。確かに心地が良い世界である事に違いないが、それでは自分は強くなることは出来ない。シュウジとの差が増えるばかりだ。

 

「それに俺はロボ太と再会する未来を諦めちゃいない。どんなに時間が経ったって俺は今、目の前にある光景を現実にしてみせる」

 

 一矢の視線はそのままロボ太に鋭く刺さる。ここにいるロボ太はずっと一緒にいると言った。だが、自分は現実でロボ太と再会する夢を諦めるわけにはいかないのだ。

 

 ・・・

 

「シュウジ、ちょっとシュウジ!?」

 

 一方、シュウジもまた行動を起こしていた。着物から自身の私服に着替えた彼は家を後にしようとしており母親が慌ててその後を追っている。

 

「悪いな、母さん。俺達がこうして会うにはまだ早すぎるみてぇだ」

 

 騒ぎを聞きつけて、父が駆けつけるなか靴を履いたシュウジは門の前で母たちに静かに振り返りながら答える。

 

「ここにいればずっと触れ合えるのよ……? 母さんの料理だって……!」

「……ああ。胸糞悪いが最高の夢だ。また二人の顔を見れるとは思わなかったし、母さんの手料理も最高だった」

 

 同じだ。母達もここにいれば幸せなのだと引き留めようとする。しかしこれが現実ではないと知って、留まろうとするシュウジではない。その眼差しに迷いはなかった。

 

「じゃあな。戻ったら墓参りには行くからよ、そん時は浮いた話どころか最高の人を紹介するぜ」

 

 ここは過去でしかない。自分は未来を、愛する存在と共に目指さなくてはいけないのだ。シュウジは笑みを見せながら、踵を返して門へ走り出そうとする。

 

 ・・・

 

「よし、このままだったら行けるぞ……!」

 

 現実にてカドマツは一矢達のアバターの反応を見ながら手応えを感じて笑みを零す。これで一矢達を助け出せると思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに……?」

 

 

 

 

 

 

 

 だがそうはならなかった。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

「───あれは確かに外部の力とアバターの夢から抜け出そうとする強い意思が働けば、あの世界は崩壊する。だが……」

 

 バトルフィールドにてプレイヤー機を鮮やかに撃破するデクスマキナのコックピットでクロノは一矢達に仕掛けたウイルスについて触れる。

 

「君達がいる以上、単なるウイルスで済ませるわけがないだろう?」

 

 カドマツ達が長くウイルスと付き合って来たことは何よりクロノ自身が知っている。

 彩渡商店街チームが参加している以上、カドマツが此処の開発者達と協力して事態の収拾に当たろうとするなど想定内だ。

 

「しかし残酷なことをする。夢は夢だ。私としても非常に心苦しいが、そんな理想郷のような夢から覚めてしまっては──」

 

 まるで自身は心地の良い夢を見せるつもりだったと言わんばかりに、カドマツ達の行動を皮肉染みた笑みを浮かべながら肩を竦める。

 

「現実しか残らないじゃないか」

 

 口角をつり上げ、さながら人を狂わす邪悪な悪魔のような笑みを浮かべながら、その言葉に一矢達やカドマツ達の行いを嘲笑するかのような言葉を口にする。すると一矢達のVR空間で異変が起き始める。

 

 ・・・

 

「!?」

 

 一矢の周囲に異変が起きた。それは彼の周囲にいる者達が忽然とその姿を消して周囲もイラトゲームパークから、どこまでも続く様な暗闇の世界へと変わる。

 

「なんだよ……これ……!? なにが……ッ!!?」

 

 どこを見渡しても暗黒のような世界しかない。自分が浮いているのか、立っているのかも分からず、感覚その物さえなくなってしまっているのだ。

 

「みんな、どこにいるんだ……!? 俺はどこにいるんだッ!!?」

 

 そう、この世界では自分と言う存在さえも分からない。まさに孤独。光り一つも届かない。何も感じない無の世界だ。

 

「あああぁぁ……っ!!! うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっっっ!!!!?」

 

 それは到底、幼い十代の青年が耐えきれるようなものではなかった。彼の目の前からロボ太もシュウジ達もいなくなってしまった。そして何より自分と言う存在さえも分からなくなってしまい、狂乱さえ起こしたような叫びを上げる。

 

 ・・・

 

「っ!?」

 

 シュウジにも異変が起きていた。彼が通り抜けようとしていた門が突然、轟々と燃え始めたではないか。否、門だけではない。炎は屋敷やその周辺に移り、燃え盛っていた。

 

「ああぁぁっ……!!!」

 

 幼い記憶が、忌々しい悪夢のような記憶が瞬く間にフラッシュバックする。

 シュウジの表情が青褪めて歪んで行き、彼は咄嗟に両親がいる背後を振り返れば、両親は既に火に囲まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めろ……」

 

 

 

 

 

 燃える

 

 

 

 

 

 

「止めてくれ……!」

 

 

 

 

 

 

 轟々と

 

 

 

 

 

 

「俺に……俺に……っ!!」

 

 

 

 

 

 全てが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺にまたこんなものを見せるって言うのかアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーァアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

「はぁ……っ……! はぁっ……!!」

 

 エヴェイユの力を極限にまで発揮した翔はその消耗からか両膝をついて手を地面についていた。

 

「──ッ」

 

 しかしふと手に違和感を感じて己の手を見た瞬間、彼は絶句する。

 自身の両手はおどろおどろしいほど真っ赤に染まっていたではないか。

 

「……えっ?」

 

 手だけではない。顔を上げれば、作業ブースはペンキをぶちまけたかのような鮮血の如く染まっていた。

 

『アイツにみんな……隊長……逃げ──』

 

 そして周囲は自身の辺り一帯を鮮血に染めたまま真っ黒な世界に変わり、翔の目の前にはかつての命を対価にする闘いの記憶が姿を現す。

 

 

 

 

 目の前で見せしめに引き潰された命

 

 

 

 自分達の命を助けようと宇宙の塵となってしまった命

 

 

 

 周囲が恐怖するなか、自分を受け入れたてくれたにも関わらず自分の力のせいで落とした命達

 

 

 

 数々の命達が絶望と炎が支配する世界で塵芥となって消えていった。

 

 

 

 なにより……。

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

 

 

 

 翔は次に現れた光景に息を呑み、目を見開く。

 

 

 

 

 今でも鮮明に覚えている。

 

 

 

 

 コックピットの半分が焼け、そこからは中のパイロットの焼死体が覗かせる

 

 

 

 

 

 忘れるわけがない。

 

 

 

 

 

 何故ならそれは

 

 

 

 

 

 自分が初めて人を殺した時の記憶なのだから。

 

 

 

 

「はぁっ……!! はぁっ……!! はぁっ……!!」

 

 

 

 翔の息遣いがどんどん荒くなっていき、遂にはこの空間が見せてはいない記憶さえも彼の中でフラッシュバックする。

 

 

 彼はいまだにかつての戦争の記憶が起こすPTSDが残ったままだ。

 

 

 如月翔を行動不能にするには、この現実に起きた鮮血の事実が最も有効的な手段であった。

 

 

 

 ・・・

 

 

「二重のウイルスだと……ッ! 上げて落とすとは趣味が悪い……ッ!!」

 

 コンソールに拳を打ち付けながらカドマツが苦い表情を浮かべる。後少しで一矢達が救い出せると思った瞬間、再びウイルスの反応が出たのだ。

 

「なんだ……!?」

 

 だが一つ、何か反応が見える。どうやら一矢達のVR空間の音声だけは拾えるようだ。カドマツはすぐに音声を拾おうとコンソールを操作した瞬間、スピーカーから耳を劈くような三人の悲鳴が聞こえる。

 

「なんだよ、これ……。まるでこれは……」

 

 その悲鳴はあまりにも尋常なものではなかった。まさに今にも発狂するかのような声だ。そんな異常な声を聞き、カドマツの唇は震える……。

 

「心を……壊そうとしている……!?」

 

 戦争がなく両親が健在な世界、傷つかずに手を汚さなかった世界。そんなものはない。夢から覚めた先にはかつて起きたナイフのような現実が彼らに深々と突き刺さり、一矢もまた誰もいない孤独の世界に襲われるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歪んだ世界

「主任、参加ファイター数、四割まで激減! 一方でウイルスは全体の二割減です! このままでは……ッ!」

「悲観はするな! 考えることを止めるな! バトルフィールドで戦い続けるファイター達に応える為にも我々が諦めるわけにはいかないのだ!!」

 

 時間の経過と共にバトルフィールドで戦闘をするファイター達は無慈悲に撃破されてしまう。その度に運営側は希望が失われ、絶望の重く苦しい雰囲気が満たしていく。それでも少しでもこの息苦しさを感じる空気を払拭しようと開発者は檄を飛ばし、エンジニア達は頷くのだが、この空気までは変えることは出来なかった。

 

「絶対に……絶対に助け出してやるから!」

 

 カドマツもまた表情に苦悶を滲ませながら一矢達のプロテクト解除に挑む。集中する為にスピーカーを切ったが、一矢達のあの悲鳴が頭から消える事はない。彼らがあんな悲鳴を出させて良い道理などない。代われるなら代わりたいくらいだ。だがそんな事は出来ない。ならば少しでも一矢達を救い出すために動くしかない。

 

(くそっ……どうすりゃあ……ッ!!)

 

 しかし幾ら思いが強かろうとそれで彼らを救い出せたら苦労はしない。今、解除しようとしているプロテクトは先程のものよりも複雑な作りとなっており、これまでウイルスと戦ってきたカドマツでさえ難航させるほどだ。

 

 思わず頭を掻き毟ってしまう。こうしている間にも一矢達は狂気と絶望の中で苦しみ続けていると言うのに。そう考えてしまうと焦りが出てきてしまう。焦りは禁物、という言葉はあるが、いくら意識するなと言っても、それは中々難しいものだ。どうしてもそれこそ無意識にでも一矢達の狂気染みた悲鳴が脳裏に過るのだから。それほどカドマツの中に強く刻み込まれてしまっていた。

 

 ・・・

 

「ふむ……もう少しと言ったところか」

 

 一機、また一機とクロノの手によってファイター達の自慢の機体が塵と消え、アンチブレイカー達の軍団によって他のファイター達も蹂躙されてしまう。

 

 戦力において、ファイター達は共に戦う仲間が次々に撃破されれば少なからず動揺してしまう。が、アンチブレイカー達NPCは違った。彼らはいくら撃墜されようが動揺する事はなく、攻撃の手を緩める事はそれこそクロノの指示がなければありえない。それが群を成して襲い掛かってくるのだ。この結果はある意味で自明の理なのかもしれない。

 

「作業プレイと言うのは、どうにも思考を停止させてしまうな」

 

 そしてクロノが今、そのような指示を出す事もあり得ない。

 彼にとっては今、このバトルフィールドにいるのはただの有象無象でしかない。そんなものにかける感情などはない。ただ言葉通り、彼にとって作業をこなしているだけなのだ。

 

「おっと」

 

 そんなクロノのデクスマキナへ攻撃が仕掛けられる。避ける事すら面倒なのか、軽くシールドで受けながらその方向を見れば、そこにはアザレアリバイブの姿があった。

 

「おやおや、そんな状態になってまで私を追って来たのかい?」

 

 しかしその機体状況はあまりにも酷く、悲痛ささえ感じる。

 いくらミサと言えど、クロノを追う為に襲い掛かってくるアンチブレイカー達を撃破するのに無傷と言うわけにはいかず、もはや大破寸前にまで追い込まれていたのだ。

 それでもこうしてクロノを追いかけたのは最早、意地と言ってもいいだろう。最もそんなミサの意地もクロノからしてみれば、嘲笑で終わってしまうのだが。

 

「逃がすわけ……ない……ッ! 絶対に一矢を……ッ!」

「助け出すってところかな? その姿勢にだけは関心させられるよ」

「大切な人を自分の手で助け出したいって思うのは当然の事でしょ!?」

 

 ここまで来たミサ自身の消耗もかなりのものだ。身も心も困憊するなか、それでもモニター越しにデクスマキナを見据えるミサの姿にクロノは辟易した様子で肩を竦める。どこまでも人を嘲るようなその態度にミサは溜らず叫ぶ。

 

「生憎、私はそう言った感情に疎くてね。当然、と言われても分からないさ」

 

 だがミサの叫びはクロノには届かない。目の横を軽くトントンと叩きながら溜息交じりで答えられてしまう。

 

 これは挑発でも何でもなく純粋に彼はミサの言葉が理解できなかったのだ。それは偏に彼の育った環境によるものだろう。彼が生を受けたのは外宇宙に旅立った新人類の中でだ。

 

 その頃の新人類は地球に代わる故郷を探すのに躍起になっており、閉鎖的な空間は彼らに多大なストレスを与える。不安、後悔、悲しみ、劣等感、怒り、憎しみ……誕生したばかりのクロノが感じ取った感情はそんな負の感情ばかりなのだ。新人類が互いに争いを始めれば、尚更であった。

 

 

 だから彼は理解できない。

 

 

 誰かを心から愛する愛情を。

 

 

 友と共に分かち合う歓楽を。

 

 

 仲間と目指して掴む栄光を

 

 

 悍ましき負の感情こそ身近で当然であっても、この世で抱くべき尊い感情を彼は知らないのだ。

 

「なんでこんなことをするの!?」

「その質問は無意味だな」

 

 だが別に彼はその事で同情されるつもりはない。そもそも知らない事柄でも気にならなければ関心を示すことはない。それこそ知らないなんて勿体ないと言われても、そう、で終わってしまう。それだけ彼は尊い感情から無縁であり、負の感情が渦巻く環境にい過ぎたのだ。

 

「どうして? 何故? ……君のような人間はよくその言葉を口にする……が、答えてどうなる? 答えたところで君は納得しないだろうし、私達は分かり合う事など出来ない、その必要はない。ゲームはただシンプルに敵か味方かで十分だ」

 

 だからこそ常人であるミサ達は彼の良心を期待してはいけない。

 価値観の相違だけではない。全ての環境が違うのだ。故に彼の善悪にも期待してはいけない。人とは大きくは異なっているのだから。

 

「だから君はこう言うべきだろう」

 

 するとクロノは機器を操作して、ミサのコックピットにある音声を流す。それは今の一矢があげる絶望の悲鳴であった。

 

「“お前だけは絶対に許さない”と」

 

 尋常ではないこの悲鳴にミサは震えてしまう。一体、一矢の身に何が置いているのかと。だが一つ分かっている事がある。これは全て目の前のクロノが起こしている事なのだと。彼が一矢をあそこまで苦しめているのだと。

 

 アザレアリバイブからその身では考えられないほどの激しい攻撃がデクスマキナに放たれる。それは全てこれまでに至るクロノへの憎しみとさえ形容してもいい怒りをその一つ一つに感じさせるほどだ。事実、アザレアリバイブのコックピットでは、ミサはデクスマキナへ憎悪帯びた視線と鬼のような形相を浮かべているのだから。

 

「そうだ、それで良い! 目の前の(エネミー)を倒す事だけに集中したまえ! それが下手な問答よりも君に出来る事だ!!」

 

 そんなミサにクロノはただひたすらに嗤う。彼にとってそんな負の感情こそが最も身近で親しみのある感情なのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たな希望

「ミサ姉さん……」

 

 宇宙を舞台にアザレアリバイブは脇目も振らずにデクスマキナに攻撃を仕掛ける。それはあまりにも乱暴でただ内より湧き出る怒りに身を任せての事であるのはモニターを見ている誰しもが分かり、かつて似たような戦い方をしたことのある夕香はミサを想って表情に苦みを滲ませる。

 

「……先程から、外の方が騒ぎしくありませんこと?」

「……流石に分かんないよ。モニターからの戦闘音だって激しいんだし」

 

 ふと何かを感じ取ったシオンが出入り口の方向を見やりながら呟く。が、バトルフィールドの戦闘音はスピーカーを通じて騒音の如く激しく。

 シオンの言葉に夕香も出入り口を一瞥するも、すぐにモニターに視線を戻す。自分達が出来る事はあまりにも少ない。外を出ようと思っても、さながら門番のように各出入り口を塞いでいるワークボットにはどうしようもなかった。

 

 ・・・

 

「ッ……! まだ……! まだやられてないッ!!」

 

 既に満身創痍のアザレアリバイブは戦えるのが不思議なくらいだ。しかしそうまでしてまでデクスマキナへ食らいつこうとするのは、全てクロノへの怒りだろう。今はそれだけがミサを突き動かしていた。

 

「ふあぁ……おや失礼……」

 

 だがいくらミサの怒りが激しかろうとその攻撃全てを捌くクロノは至って冷静であり、寧ろ退屈そうに欠伸までしている始末だ。軽く握った手を口元に添えながら非礼を詫びるが、それがミサの怒りを更に助長させる。この男はどこまで人をおちょくるつもりなのだろうか、そもそもこの男は自分の事を見てはいない。

 

「だが私としても飽きてしまった」

 

 全てただ時間稼ぎに体よく利用されていたようなものだ。今のミサの攻撃は最初こそただ激しかったで済んでいたのだが、その内、クロノもその動き全てを読み取ってしまい、最早、お遊戯のレベルであった。それも彼の言葉通り、飽きが回ってしまったのだろう。

 

「なっ……!?」

 

 デクスマキナのモノアイがギラリと光る。

 次の瞬間、デクスマキナへ振り下ろした大型対艦刀が稲妻のように走った一閃によって折られてしまったではないか。

 

 目を見開いて唖然とするミサだが、モニター越しにビームナギナタを振り上げたデクスマキナはただ一点にアザレアリバイブを見つめていた。

 

 今ので冷や水を浴びせられたかのように冷静になっていくミサはすぐに覚醒と共にバックパックのビームキャノンを展開しようとするのだが、それも一瞬にして切断されてしまう。

 

 ならばと最後に残った武装であるシールドのビームサーベルを引き抜いて反撃を試みるのだが、それも実力差によって悉く弄ばれてしまう。いかに覚醒しようとも技量差によって覆されてしまうのはこれまでも一矢に多くあったが、ミサにとっては初めてであり動揺してしまう。これまでアンチブレイカーの大群を突破して来れたのも偏に覚醒の恩恵があったに他ならないからだ。

 

「さて、もう手を尽くしたかな? ならば恥じる事はない。それが君の限界であり、私との差なのだから」

 

 遂にはサーベルを持つ腕部ごと斬り落とされてしまったではないか。なにをしても通用しない状況にミサの表情に絶望が色濃く表れ、クロノは悠然とした様子で口にする。

 

「まだ……! まだ……っ!」

「おやおや……勇気と蛮勇を履き違えた者には哀れみさえ抱いてしまう」

 

 しかしミサがクロノの言葉を受け入れる事などは出来なかった。武装を失っても、それでも残った腕で殴りかかろうとしてくるアザレアリバイブの姿に重い溜息と悲哀の念を抱きながらデクスマキナは力なく振るわれたアザレアリバイブの拳を受け止める。

 

「いい加減、理解したまえ。君一人の実力ではその程度なのだよ。なにせ雨宮一矢はここにはいないのだから」

 

 更にはアザレアリバイブの腕部をそのまま捻りあげると機体を寄せ、接触回線によってミサに淡々と思ったことを口にする。

 

「君は彼に肩を並べるだけの実力を身に着けたと思っているようだが、その実勘違いである事に気づいていない。君は彼と対等になっているのではない。彼に置いて行かれないように何とかしがみ付いているに過ぎないのだよ」

「……っ」

 

 かつてミサが思い悩んでいたことを再び口に出されてしまう。実際にはミサは強くなっている。しかしそれは一矢も同じことだ。きちっと実力が揃うなんてことはありえない。優劣は多かれ少なかれあるのだ。ミサもその事はやはり自覚しているようでクロノの言葉に息を呑む。

 

「諦めが肝心だ。諦めが判断できるのはまだ理性的な証拠だ。君はもう十分に戦ったさ。ここで倒れても誰も君を責めやしない」

 

 気遣うような言葉とは裏腹に彼が浮かべる笑みは嘲笑的なモノだ。

 事実、彼はミサを嗤っているのだ。怒りを見せたミサに飽きたクロノは最後には彼女の心を折って、その姿を楽しもうとしているのだ。

 

「ご苦労様、少し休みたまえ」

 

 だがミサにも限界はあるのだろう。どんどん抵抗しようとするアザレアリバイブの機体から力が抜けていく。その様子を心底、愉快そうに見つめながらもデクスマキナはビームナギナタを振り上げる。

 

 

 

 

 

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 

 一閃が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

「やはり何か騒々しいですわ……」

 

 一方、観客席では先程からシオンが忙しない様子で出入り口を見ている。何回か立って様子を伺っている。、

 

「もういい加減にしてよ。この状況で何があるってのさ」

「わたくしとて分かりませんわ! ですが、音がどんどん近づいて───」

 

 あまりの忙しなさに夕香が眉間に皺を寄せながら窘めるように文句を口にすると、反論しようにも具体的なものが分からぬため、何とも言えないのだがそれでも彼女の言葉が確かなら音は近づいているようだ。

 

「───は?」

 

 夕香もそうまで言うのであればとシオンが見やる出入り口に視線を映した瞬間、立ち塞がっていたワークボットの一機が宙を舞い、モニター近くに吹き飛ぶ。

 

「───よーやく着いたぜー。ったく、邪魔すっから鉄屑になっちまうんだよ」

 

 今の騒ぎで観客の視線がワークボットが吹き飛んだ出入り口に注がれる。そこにはオレンジ色の頭髪を靡かせ、紅蓮の炎のような色合いの長棒を肩に担いだ少女がいた。

 すると程なくしてその後を紫色の髪の少女が追い付く。彼女に関しては夕香達も知っている。確か翔の知り合いのルル・ルティエンスだったか。どうやらレーアの言葉通り、ようやく到着したようだ。

 

「クレアさん、いくらなんでもやり過ぎですよ!」

「そぉカテーこと言うなよ。しょうがねえだろ、入ろうとしたら力ずくで人のことを退かすっつーんだからよ。セートーボーエーって奴だよ」

 

 急いで追いかけて来たのだろう。ルルは長棒を担ぐクレアを注意すると、クレアは全く気にした様子もなく、寧ろ五月蠅そうに小指で自身の耳をほじっている始末だ。

 肩をガックリ落とすルルの後からやって来たのはドリィ、アレク、サクヤの三人であり、ルルと共にシュウジ以外のシャッフル同盟が集結している。

 

「ルティエンス艦長、この馬鹿者にいくら言ってもアナタのストレスになるだけだ」

「おぅ焼き鳥野郎、来るのが遅ぇーんだよ」

 

 僅かなやり取りとはいえ、クレアの相手に疲れた様子のルルにドリィが気遣うが、そんな彼にクレアが文句を言う。どうやら先程からシオンが聞き取っていた外部の騒音はクレアの暴れ回る音だったようだ。

 

「ルルが行くって言うからついでにシュウジの様子を見に来たけど、こうなっているとはね」

「ええ、街頭ニュースにもなっていましたが、これは流石に見過ごせません」

 

 そのまま言い合いになっているクレアとドリィを他所にサクヤとアレクは冷静に周囲を見渡す。どうやら彼らも大まかな状況は把握しているようだ。素早くワークボットの数を確認している。

 

「ルル、俺達が時間を稼ぐから、ここの人達任せて良い?」

「あ、はいっ」

 

 観客席の状況を把握したサクヤはワークボットを無力化しようと言うのだろう。ルルに指示を出すと、彼女が頷いたのに確認して笑みを浮かべると跳躍と共にそのまま此方に向かってくるワークボットを粉砕する。

 

「焼き鳥の相手はしてらんねぇ! 俺も相手になってやるぜ!!」

 

 観客達もサクヤ達が何者か分からなくてもチャンスである事は分かったのだろう。ルルの案内の元、急いで出入り口へ向かって行こうとするがワークボットは観客席に戻そうとその後を追いかけようとしている。その様子を見ながら、クレアは手すりに足をかけて、そのまま大きく跳躍してワークボットの前に降り立つ。

 

「さあ来な!」

 

 そのまま長棒を肩に担いだクレアは獰猛な笑みを浮かべながら指をクイクイと引いてワークボット相手に挑発する。

 

「ハッハァ……そう来るかぁ……」

 

 ……のだが、クレアの様子を見たワークボットはそのままマニビュレーターをクイクイと動かして、クレアの挑発をそのまま返してきた。

 

 その姿に呆気に取られるクレアは参ったと言わんばかりに顔を抑えながら笑っているも、やがて身体を震わせていき……。

 

「俺ぁな! 真似されんのが一番嫌いなんだよオオォォォォォーーーーーォォオオッッ!!!!!!!」

 

 やがてその額に青筋を浮かべると、そのままワークボットにドロップキックを浴びせる。

 

「やれやれ……クレアに女性らしさを求めるのは諦めましたが、せめて戦いの場くらい静かにしていただきたいものです」

 

 観客達を避難させる中、アレクはクレアの姿に嘆息すると彼の方にもワークボットが迫っていた。

 

「機械相手では私も気分が乗りませんが、静か、という点だけは評価しましょう」

 

 避難はまだ済んではいない。後はドリィとルルに任せてアレクも構えを取ると、手の甲にClub Aceの紋章を輝かせながら立ち向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「……ほぅ、横槍とは」

 

 一方でバトルフィールドにも異変があった。ビームナギナタを振り上げていたデクスマキナだが、振り下ろす直前、自身に高収束ビームが迫っているのを感知してすぐにアザレアリバイブを突き放して避けるとそのまま相手を見やる。

 

「まったく……ちょっと休んでる間に凄いことになってるんだもん。ゆっくりさせてほしいよ」

「優陽……君……?」

 

 同時に聞こえてくる甘く可愛いらしい声。その声に聞き覚えがあったミサが弱々しいながら反応を示す。

 

「ハァイ、ミサちゃんお待たせ。ちゃんと色んな意味で治って戻ってきたよ」

 

 やはり紛れもなく優陽だったようだ。アザレアリバイブのコックピット内のサブモニターで通信相手である優陽が軽くウインクしているのを見て、ミサも苦笑交じりの微笑を浮かべる

 

「さてと、この人を何とかすれば良いんだよね。ここは僕に任せてよ」

 

 そのまま優陽の機体から放たれる数々のビームにアザレアリバイブの近くにいたデクスマキナも距離を取るなか、その間に入り込んだ優陽はデクスマキナを見据える。

 

「ふむ……有象無象と切り捨てる所だが……その機体名は気になるな」

「あぁこれ? 願掛けみたいなもんだよ。僕もこうありたいって言うのにあやかってね」

 

 すぐに攻撃を仕掛けようとしたクロノだが、優陽のZZガンダムをベースにしたその機体の名前を見て興味を示す。その様子に優陽は肩を竦めながら軽い口調で答える。

 

「EXceed Gundam Breaker……。EXガンダムブレイカーで覚えてくれたら嬉しいな」

 

 その機体はガンダムブレイカーの名を冠していたのだ。

 憧れた一矢とかつて間近で見た一矢とシュウジのバトルを受けて、自分も彼らのようになりたい、過去の自分を超過したいという意味で名付けられたガンプラであった。

 

「僕はまだ一矢達には追い付けないけど、でもこの状況を指を銜えて見てるようじゃ絶対に追いつかない。だから僕はここに来たんだ」

「健気なものだな。だがその雨宮一矢達はいない。君達にとっての希望はいないわけだが?」

 

 EXブレイカーの腕部にはシグマシスライフルがあり、優陽の決意を表すようにその砲口をデクスマキナへ構える。その姿に確固たる意志を感じるが、クロノはそんな優陽に揺さぶりをかける。

 

「希望って言うのを甘く見ないで欲しいな」

「なに……?」

「例え彼らがいなくても僕の中には彼らの姿が希望として刻まれている。ここにいる人達だってそうさ。希望がないのなら、皆もう諦めてる。希望は紡がれるモノなんだ。一つ一つは小さくともそれが繋がれば大きな希望になる。だから僕も戦える。その人達だって僕の希望だから。さっきミサちゃんに諦めろだ何だって言ってたけどアナタこそ諦めなよ。アナタに希望までは消せない」

 

 しかしそれは優陽には通用しなかった。優陽の鋭い物言いにクロノが眉間に皺を寄せるなか、優陽はこのバトルフィールドで戦っているファイター達、ウイルスを駆除しようと奮闘しているカドマツ達を思い出す。

 

「僕は希望を守るために……希望を紡ぐために……希望と共に戦う……。いや……言い方を変えよう」

 

 絶望的な状況でさえ優陽は諦めずにバトルフィールドに出撃した。それは何より優陽が希望を見出しているからに他ならなかった。

 

「絶望を破壊し、新たな希望を創造する……。それが僕のガンダムブレイカーだッ!」

 

 愚かでも、無謀でも構わない。自分はその為に戦う。過去の自分を超過して、どんな葛藤も迷いも絶望もその全てを希望にする。それがこの機体、ガンダムブレイカーを使う理由だ。

 

「南雲優陽、EXガンダムブレイカー……推して行くよッ!!」

 

 英雄、覇王、新星に続く希望が誕生した。その実力こそ彼らにまだ及ばずともその心は既に十分。暗がりの中に今、小さく輝く光は、確かな存在を放つのであった。

 




ガンプラ名 Exceedガンダムブレイカー(通称 EXガンダムブレイカー)
元にしたガンプラ ZZガンダム

WEAPON ハイパービームサーベル(ZZ)
WEAPON シグマシスライフル
HEAD ZZガンダム
BODY Sガンダム
ARMS ガンダムAGE-3
LEGS ZZガンダム
BACKPACK Ex-Sガンダム
SHIELD シールド(AGE-3)
拡張装備 大型ビームランチャー×2(両肩部)
     ミサイルポッド×2(両膝部)
     ウィングバインダー×2(バックパック)

例によって活動報告にリンクが置いてあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紡がれたカタチ

「やっと外に出れたね……」

 

 サクヤ達のお陰で観客席から外へ脱出する事が出来た夕香達。多くの者達が一目散に会場を後にするなか外に出た裕喜も安堵の溜息をつく。

 

「……でも、まだ終わってないよ」

 

 ワークボットによって観客席に押し留められていたせいで先程まで感じていた息苦しさから解放された夕香も深呼吸をして気持ちを整えるものの、そのまま会場を振り返り、近くの小型モニターに映っているバトルの様子を見つめる。

 

「凄いね。実力の差はあっても、あのガンダムは諦めてない」

 

 そこにはEXブレイカーの戦闘の様子が映っていた。

 デクスマキナが多くのファイター達の機体を葬り、アザレアリバイブをも追い詰めたのは夕香も知っている。お陰で今、バトルフィールドで戦っているファイター達の数が目に見えて減っているのだ。

 

「どんなに傷ついても、それでも前に進もうとしてる」

 

 無論、優陽とてクロノに敵うというわけではない。

 現に傍から見ても実力差は分かり、何とか撃墜されないように凌いでいるに過ぎない、がそれでもEXブレイカーは諦めているわけではないのは見ていても分かる。きっとどれだけ傷ついても、それでも立ち上がるほど強い何かがその胸になければできない筈だ。

 

 その姿は見る者を強く引き寄せる。現にEXブレイカーのバトルをも見て、夕香達だけではなく、ちらほらと足を止める者達がいるほどだ。この状況にシオンは何か考えたように視線を俯かせていると、携帯端末に着信が入り、取り出して見れば相手はガルトであった。

 

 ・・・

 

「なまじ下手な実力を持っているから性質が悪い」

 

 戦闘開始から暫く。EXブレイカーとデクスマキナの戦闘は熾烈を極めていた。

 高火力高機動を両立させたZZガンダムをベースにしただけあり、EXブレイカーの火力は絶大で掠りでもすれば、その時点でいくらカスタマイズ機と言えどただでは済まない。

 それだけでも脅威だと言うのにその機動力を存分に発揮しながら戦闘をする優陽の実力も、例えクロノに匹敵する事はなくとも、それでもこうして渡り合えるほどのものなのだ。

 デクスマキナもEXブレイカーに攻撃を仕掛けてはいるものの、EXブレイカーの堅牢な装甲までは完全に突破することは出来ず、まだ小破に留まっている。

 

「しかし君自身、私に勝てはしないことは理解しているのだろう? 何故そうしてまで立ち向かう? 君の抱く希望とやらはそれほどまでの価値があるのかい? 私からしてみれば、無駄としか言いようがないのだが」

 

 優陽の戦い方も分かって来た。EXブレイカーの性能は厄介ではあるものの撃破は問題ないだろう。現にこちらの攻撃ばかりが届いているのだから。しかしだからこそ解せない。優陽も実力差があるのは理解している。いくら希望だなんだと言ってもここまでできるものなのだろうか。

 

「分かってないなぁ……。僕は今、勝つ為だけにために戦ってるわけじゃないんだよ」

 

 今もまた銃身下部にグレネード・ランチャーが放たれて、EXブレイカーの左腕肩部に直撃すると、その巨体が揺らめいてしまっている。だが発生した爆炎からシグマシスライフルの一撃が放たれ、デクスマキナは回避に専念する。そこには傷を負っても、ツインアイに確かな輝きを放ちながら構えるEXブレイカーの堂々たる姿がそこにあった。

 

 そんなEXブレイカーの厳然なその姿を見て、クロノが目障りなものを見るように不快感を露わにさせて眉間に皺を寄せるなか、やれやれと言った様子の優陽の声が聞こえてくる。

 

 

「これは希望を紡ぐ戦い。だから僕はただ僕らしく……───」

 

 

 

 

 

『君が君らしく前に進めば、きっとその先に君がなりたい自分が待っているよ』

 

 

 

 

 

『そしてその先にもな。歩みを止めない限りは限界なんてない。どうせならずっと手を伸ばしな』

 

 

 

 

『……お前は昔の失敗を引き摺ってるけど、過去があるから今のお前がいる。そして今のお前は未来に……。だから進み続けよう。お互いに目指す未来へ』

 

 

 

 

 

「───そう、前に進むだけだよ」

 

 

 もうただ目先の事に囚われていたあの頃の自分とは違う。ここで足を止めては自分が目指す存在には決してなれない。だから自分はここで決して諦めるわけにはいかないのだ。

 

「……希望……。前に……」

 

 そしてEXブレイカーはデクスマキナへ向かっていく。デクスマキナに立ち向かうEXブレイカーの戦いを見つめていたミサはポツリと呟く。もうアザレアリバイブは満足に動くことは出来ない。そして自分の心も消耗しきっていた。

 

≪───おい、嬢ちゃん! 聞こえるか!≫

「……カドマツ……?」

 

 するとアザレアリバイブのコックピットにカドマツからの通信が入り、ミサは力のない声でカドマツの名を口にする。

 

≪一矢の奴を助け出せるかもしれないぞ!≫

「えっ!?」

≪もっともお前さんの協力が必要だがな≫

 

 カドマツからの言葉に先程まで朦朧としていたミサもその意識がハッキリと覚醒する。

 サブモニターに映るカドマツへ身を乗り出すと、その反応に頷きながらカドマツはミサの協力を仰ぐ。

 

≪完全にプロテクトを突破出来たわけじゃないが、それでもアイツが囚われている空間に少しならアクセス出来るようになった! そこでお前にその空間に飛び込んでもらいたい≫

「私が……?」

≪ああ。音声を何回か拾ったが、アイツは誰もいない空間で自分さえ見失ってると推測される。だからお前に行ってもらいたいんだ! 一人じゃないって、アイツの手を取ってもらうために!≫

 

 あれからずっと解析を行っていたカドマツだが、一矢達のプロテクトが完全に解除されなくとも、そのきっかけとなる方法は導き出したようだ。しかし無知な自分がそんな場所に飛び込んでいいのかと考えたミサだが、寧ろカドマツはミサだからこそと伝える。

 

「……私、行く。一矢に会えるならどこにだって行くよ! もう一回、ううん、何度だって手を伸ばす!!」

≪よし来た! 全力でサポートする! 早速だが頼んだぞ!≫

 

 絶望で空虚になっていたミサの中にも小さな希望が芽生えだした。

 だったら自分もまだ前に進める。手が届かなかったからってそれで諦めたくはないのだから。ミサのまっすぐで強い言葉にカドマツは満足げに頷くと、アザレアリバイブの近くで渦を巻くワームホールのようなゲートが形成される。

 

「させるかッ!」

 

 だがそのワームホールを見て、クロノも感付いたのだろう。ワームホールへ向かって行こうとするアザレアリバイブへ襲いかかろうと迫ろうとする。

 

「こっちのぉ……台詞っ!」

 

 だがその前にデクスマキナに体当たりを仕掛けたEXブレイカーによって阻まれ、クロノが舌打ちをするなか、デクスマキナのビームナギナタとハイパービームサーベルが激しいスパークと共に交わる。

 

「ならば……ッ!」

 

 剣戟を繰り広げるなか、このままではEXブレイカーに邪魔されて間に合わなくなると判断したクロノは呼び寄せたアンチブレイカーをアザレアリバイブへ差し向ける。

 

 しかしそのアザレアリバイブに迫ろうとするアンチブレイカーも思わぬ攻撃によって行く手を阻まれてしまう。一体、なにがあったのかクロノが確認を急がせると……。

 

「間に……合った!」

「真実ちゃんっ!?」

 

 そこにはG-リレーション パーフェクトパックがいたのだ。その傍らにはBD the.BLADE ASSAULTとバアルの姿もあり聖皇学園ガンプラチームの登場にミサが驚く。

 

 ・・・

 

「一般のガンプラバトルシミュレーターでも調整さえすれば、アクセス出来るからな!」

「ああ。最初のテストプレイは既存のシミュレーターで行った。VRに対応していなくとも、バトルフィールドへの接続ならば可能だ! 我々が出来る事なら幾らでもやるさ!」

 

 ミサの驚きに答えるようにカドマツと開発者が答える。どうやらシオンへの連絡も、このことをガルトから伝えられたらしい。そこから連鎖的にバトルフィールドにはイベント会場に置かれた一般のガンプラバトルシミュレーターを起点に新たな反応がどんどん表れ始め、それは全て一般のファイター達によるものだった。

 

 ・・・

 

「そういうこった。雨宮じゃなくともアイツは俺達にも縁があるからな」

「だからここは任せて。私達もあの頃とは違う! 今度は手を取り合って立ち向かう!」

 

 カドマツの言葉に拓也と真実が頷きながら、鋭くデクスマキナを見据える。一矢がジャパンカップでクロノに敗れたように、それは彼らも同じことなのだ。

 

「その代わりに雨宮君をお願いね。絶対に一緒に戻ってきて!」

「任せて! 本当にありがとうっ!」

 

 アンチブレイカーからアザレアリバイブを庇いながら真実はミサへ一矢のことを託すと、ミサは真実達の行動に感謝しながら、ワームホールに飛び込んでいく。

 

「お前、変わったな。ちょっと前のお前からは想像つかないぜ」

「良い女になるって決めたからね。私なりに前に進んでるってことだよ」

 

 アザレアリバイブが突入したことでワームホールは消える。その様子を見届けながら、拓也は真実に声をかけると彼女は柔らかく微笑みながら答える。あまりにも可憐で魅力的な笑みだ。その笑みを通信越しに見て、そうみてぇだなと満足気に頷いた拓也はアンチブレイカーへ向かっていく。

 

「まさかこうなるとは……」

「そう? そんなに不思議な事じゃないよ」

 

 センサーを広げて、フィールドに出現したファイター達の数を確認して静かに驚くクロノ。まさに次から次にこの広大なフィールドに一般のファイター達が表れ始めているのだ。だが驚くクロノとは対照的に優陽は笑みを浮かべながら答える。

 

『そしてその姿は周囲の人間は見逃したりしない。最後まで諦めず、倒れても立ち上がり、前へ突き進むその姿は勇気を与えてくれるのだから』

「ここで戦っているファイター達は決して諦めなかった。その姿がこのバトルを見ていたファイター達を突き動かしたんだ」

 

 かつて翔に言われた言葉を思い出す。四割まで激減したとはいえ、この空間で戦うファイター達は抗うことを放棄しなかった。その姿を見ていた者達は思ったのだ。彼らの為に、彼らと共に戦いたいと。

 

「言ったよね、これは希望を紡ぐ戦いだって。アナタは無駄って言ったけど、確かな意味があるものだったんだ」

 

 大きく切り払いながらデクスマキナとの距離を置くEXブレイカーはハイパービームサーベルの切っ先を突き出しながら、先程のクロノの言葉を否定する。何故なら今の結果を見れば明白だからだ。

 

「アナタに紡ぐものは無い。そんな人に僕達は負けないッ!」

 

 強く叫ぶと共にEXブレイカーはデクスマキナへ向かっていく。ガンダムブレイカーがいない状況で新たなガンダムブレイカーが姿を現したのは、このフィールドで諦めなかった者達とその姿を見て、希望を宿していた者達の想いが形になったかのようだ。希望を紡ぐため、EXブレイカーは絶望をまき散らす者へ真っ向から立ち向かうのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キボウノカケラ

「皆さん、ご覧になられていますか!?」

 

 一般のファイター達が次々とバトルフィールドに参戦するなか、その模様をハルが中継をしていた。

 

「一つ一つが小さな欠片なのかもしれません……。ですが、それが集まると大きな希望となるのです! 見届けましょう、このバトルを!」

 

 絶望が支配する空間で新たなガンダムブレイカーの出現と共に希望の日差しが差し込んだ。流れは少しずつ変わっている。ハルは想いのままマイクを握って熱く叫ぶ。

 

 ・・・

 

「あぁんもぅ! 全然、攻撃が通んないよーっ!!」

「ならば攻撃を集中させるまででのこと。いくらでも手を貸しますわ」

 

 裕喜のフルアーマーガンダムの砲撃がやっとの思いでアンチブレイカーに直撃するのだが、それでもアンチブレイカーの装甲は破れなかった。泣き言を口にする裕喜にアンチブレイカーの攻撃が襲いかかるなかシオンのキマリスヴィダールがシールドで防ぎ、その間にストライク・リバイブ達が攻撃を仕掛けていく。

 

「助けに来たんだから、格好良いところみせてよね?」

「そう言われたら、なにもしないわけにはいかないな」

 

 夕香のバトバトスルプスレクスがセレネスと並び立ちながら通信越しにウィルにウインクと共に笑みを投げかけるとウィルは一息つきつつも、やる気を見せ始める。

 

「しかしチャンプまで来るとはね」

「現役を退いた私の腕では君達の代わりは務まらない……が、戦えないわけではない!もう君達だけには戦わせない、私もこの腕を振るおう!!」

 

 ウィルはそのまま近くで鍔迫り合いとなっている機体の一つを見る。ミスターのブレイクノヴァだ。ウィルの言葉にかつてのウイルス事件を振り返りながら、強く叫んだミスターはアンチブレイカーを振り払う。

 

 ・・・

 

「……」

 

 一方、セレナも多くのアンチブレイカーを葬ったものの死んだような力のない目で前方を見つめていた。

 

「ぬぁーはっはっはっ!! 太陽()が来た以上、ここに、否、世界に希望が満ちたぁっ!!!」

 

 

 タブリスとアンチブレイカーの間に立っているのは……

 

 ま き し ま む が る と

 

 ……と表示されたガンプラ?であった。

 

「……ねえ、あれ作ったの君達でしょ」

 

 どうやら一般のシミュレーターで参加してきたらしい。セレナは力のない声で同じく参戦したモニカとアルマに問いかける。最も二人とも今回はトランジェントとレギルスを使用しているが。

 

「……旦那様のご命令とあらば作らざる得ません」

「……でなきゃオッサンなんて好き好んで作らないっつーの……」

 

 アルマとモニカも目の前の珍機体を視線を外しながら力なく答える。モニカに至っては制作している時の事を思い出しているのか、身震いしていた。

 

「……どういうつもり? わざわざこんな風に出てきて……。ボクの為に動いたつもりなの?」

「なにを言うセッレェーナァ。私はいつだってお前の為になるように行動していたつもりだぞ」

 

 まきしまむがるとだけでも頭が痛いと言うのに、ガルトが現れるのは文字通り目障りでしかない。言葉に嫌悪感をにじませながら吐き捨てるように言い放つセレナにガルトはしれっと答える。もっともその言葉にセレナは眉間に皺を寄せるのだが。

 

「……もっともその方向性が間違っていたことは否定せんがな。許せと言うつもりもない……が、私のスタンスは変わらん」

 

 彼女に教育係を当てつけた事も別に憎んでいたからではない。なにをするのでも最高の環境を用意したつもりだ。最もそれが彼女を苦しめていたことなど気付くのは後からになってだ。

 初めての子育て、その接し方も分からず、途中からセレナへの距離感も見失い、彼女の仮面が外れなくなった頃には何もかもが遅すぎた。子を育てるには自分はあまりにも未熟で子供過ぎたのだ。

 

「……ぬぉっ!?」

「……今はそれで済ませるよ。今は、ね」

 

 静寂が包み込むなか、まきしまむがるとのモニターが衝撃と共に大きく揺れる。どうやら背後のタブリスが思いっきり蹴り飛ばしたようだ。

 

「──ッ! お嬢様、攻撃反応が!」

 

 しかしやり取りをしている間にアンチブレイカーがタブリスに銃口を向けていた。いち早く気づいたアルマは急ぎセレナに伝えるとタブリスはアンチブレイカーを一瞥し……

 

 まきしまむがるとの首根っこを捕まえて、盾にした。

 

「ちょ、ちょおおぉぉぉぉっ!!? セッレェーナァ!? セッレェーナァァアッ!!!? 先程ので今はそれで済ませると言っていなかったかぁっっ!!? それとも私の空耳だったとでも言うのかぁあああ!!?」

「今はもう過去になりましたー。って言うか、父親って娘を守ってくれるものでしょー」

 

 アンチブレイカーの雨のような射撃が全てタブリスの盾代わりになっているまきしまむがるとに降り注ぎ、ガルトは慌てるが、セレナは意に介さず、しらーっとした様子で淡々と口にする。

 

「お嬢様、それは曲がりなりにも私達が制作したもの……。耐久性は折り紙付きです」

「どの道、旦那様はガンプラバトルをやったことがないからねー。壁になるのも仕方ないよねー」

 

 さり気なくレギルスとトランジェントがまきしまむがるとの影に隠れるなかセレナに伝える。未経験にも関わらず出て来たのは、それだけ想っての事だろうが、三人は最早、必要な犠牲と切り捨てながら、ポイっとまきしまむがるとを放り投げて、アンチブレイカー達へ向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「ここに……一矢がいるの?」

≪ああ。そこに間違いなく一矢の奴はいる≫

 

 ワームホールを越えた先に到着したミサは周囲を見渡す。その空間はまさに暗闇の世界。どこを見ても光り一つとしてないのだ。あまり長居したいと思える空間ではない。

 ミサは早速、一矢を探す為、彼の名を叫んで呼びかけるが、いくら彼の名を口にしたところで一矢からの返答はない。

 

≪恐らく自分を保っていられなくなったんだろうな≫

「……どういうこと?」

≪防衛本能みたいなもんさ。簡単に言うとだな、恐らくこれ以上、この空間の危険さから精神的ショックで気絶しているような状態なんだろう≫

 

 一矢の名を叫びながら宛てもなく歩き続けるミサはカドマツの言葉に眉間に皺を寄せる。その言葉は不吉でしかなかったからだ。だがカドマツの言葉は理解できる。自分もこの空間の異質さは身をもって分かるからだ。

 

≪お前さんも無理はするな。限界を感じたらすぐに言えよ? その空間からすぐに離脱させるから≫

「うん……。でも大丈夫だよ。ここに一矢がいるなら私は大丈夫」

 

 カドマツもミサの身を案じる。音声越しだったとはいえ、一矢があれほどの反応を示したのだ。ミサにだって精神的負担は大きい筈だ。

 ミサもその自覚はある。この空間にいるだけでも薄ら寒くて凍えてしまいそうだ。だが、それでも、一矢がこの空間にいると言うのであれば自分は耐えられる、そうミサは歩みを止めることはない。

 

「一矢……」

 

 会いたい。

 

 一矢はどれだけ孤独だったのだろうか。

 

 だから会って、今すぐにでも抱きしめたい。

 

 こんな薄ら寒い世界で凍り付いた彼の心に自分と言う温もりを与えたいのだ。

 

 

「一矢あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーぁあああっっっ!!!!!!」

 

 

 叫ぶ、ありったけを。

 

 自分がここに居るんだと言う事を。

 

 決して一矢が一人ではないんだと言う事を伝えるために。

 

 

「っ……?」

 

 するとほたる火のような小さな光が自分の胸から出現し、宙に舞い上がる。アレは一体、何なのだろうか? ふと疑問に思いながらもミサは絶えず一矢の名前を叫び続ける。

 

「これって……?」

 

 その度に小さな光が現れるのだ。最初は分からなかったが、やがてその光が何であるのか分かったのか、ミサは目を見開く。

 

「ねぇカドマツ! バトルフィールドにいるみんなにこの空間と通信できるように出来る?!」

≪ん? そりゃまあ……こうして通信してるわけだし、出来ないことは……≫

「だったら繋げて! あと、カドマツも一矢のことを呼んで!」

 

 何かを閃いたミサは慌ててカドマツに問いかけると、コンソールを操作しながら確認する。どうやら出来ないことはないらしい。ならば善は急げとばかりにミサは指示を出し、カドマツ自身にも一矢へ呼びかけるように伝える。

 

「私だけじゃない……。みんなで一矢に呼びかけるんだよ!」

 

 一矢には自分だけがいるわけではない。彼には多くの人達がいるのだ。それはきっと彼にとって大きな財産であり、これまでの雨宮一矢を形成する光であろう。

 

 ・・・

 

 

「成る程ね。そういうことならお任せっ!」

 

 バトルフィールドでデクスマキナと戦闘を続ける優陽は神経をすり減らすバトルをしているにも関わらず、カドマツからミサから伝えられた旨に快く引き受ける。

 

 

 

「一矢、早く戻ってきて! 僕たちはまだ知り合ったばかりだ。もっともっと僕達の関係を深めていこうよ!」

 

 

 

 優陽が

 

 

 

「私が好きになった雨宮君なら、いつまでもミサちゃんを悲しませないよね?」

 

 

 

 真実が

 

 

 

「さっさと戻って来いよ。お前は俺にとっても、みんなにとってもエースだろ」

 

 

 拓也が

 

 

 

「舞台はとっくに温まっておるぞ。早くしないと美味しいところは全てもらうきに、はよぅ戻ってくるんじゃぞ」

 

 

 

 厳也が

 

 

 

「……お前はいつまでも立ち止まる奴じゃないだろ。でなきゃ張り合いがない」

 

 

 

 影二が

 

 

 

「お前達が歩く未来ってのを見たいからな。早くこんなの終わらせようや」

 

 

 

 カドマツが

 

 

 

「現役を退いた私の心を君は熱くしてくれた! ならば君の心に届くよう私も全力で呼びかけようじゃないか!」

 

 

 

 ミスターが

 

 

 

「……あんまり酷いようであれば私が修正すると言った筈よ。早く顔を見せなければ、私がそちらに出向くわ」

 

 

 

 カガミが

 

 

 

「……仕方がない。一矢、僕と君はまだ一勝一敗だ。早くしなよ、そのままでい続けるのは許さないよ」

 

 

 

 ウィルが

 

 

 

「イッチ……待ってるからね」

 

 

 

 夕香が

 

 

 

「凄い……っ! 光が……光が溢れてく!!」

 

 

 それだけではない、本当に多くの人々が一矢に呼びかける。一つ一つがこの闇の世界では小さな欠片のようなものだが、それが合されば大きな光となって世界を照らす。それはまさに彼が今まで紡いできた絆が希望となって体現したかのようだ。

 

 

「一矢は一人じゃない! 最高の未来を掴もう!」

 

 

 そしてミサが

 

 

 

「行こう、一緒に!!」

 

 

 太陽のような輝かしい笑みと共にどこまで真っ直ぐ手を伸ばす。すると大きな光はミサの目の前に降りるとミサの手に触れ、やがてそこから人の形を形成する。その光が何であるのか、半ば直感で感じ取ったミサは強く引きよせる。

 

 やがて目が眩むほどの大きな輝きを見せ、ミサの視界が慣れた頃には、そこにはミサの手を掴んでいる一矢の姿があったのだ。

 

「……おかえり……っ」

「ああ……。ただいま……」

 

 どちらか先か分からぬくらい、一矢とミサは抱き合ってお互いの存在を感じ合うようにギュッと力いっぱい抱きしめる。一矢もミサもお互いの目尻に涙を浮かべながら噛み締めるように笑顔を浮かべていた。

 

「会いたかった……っ……。一矢に……会いたかったぁっ……!!」

「ああ……。ああっ……!」

 

 一矢の胸で我慢しきれず、嬉しさのあまり涙を流すミサに一矢もつられるように涙を流し、再会を心の底から喜び合い、涙の中に泣き笑いを見せる。

 

「本当に温かかった……。ミサがいたから、この温もりを知る事が出来た」

「私だけじゃないよ、一矢がいたからこそだよ」

 

 優陽達の呼びかけの一つ一つが温もりとなって一矢に届いていた。だから一矢はこうして再び姿を形作る事が出来た。

 

 だがその温もりは一人では決して得られなかった。目の前の人がいるから自分は知る事が出来た。一矢の感謝の言葉にミサは首を横に振る。そう、この温もりはミサだけでも得られなかったのだ。

 

 一矢とミサが出会い、そこからカドマツやロボ太に出会い、どんな運命も越えていけるような最高と言える程の絆を紡いで来れたのだ。

 

「行こう、皆が待ってる!!」

 

 どれだけ経ったのかは分からない。だが世界の崩壊を表すように少しずつ暗闇の世界に光が差し込んでくる。抱きしめ合ったまま、一矢の腕の中で頬を染めながらミサは決して一人ではないと、彼の手を取るのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

BURNING BEYOND

「おーここか、シュウジの奴がいんのは」

 

 時間はミサが一矢を救い出そうとワームホールを潜ってから彼を探し始めるまでに遡る。観客席に押し込められていた人々を避難させたサクヤ達は運営関係者達が集まる場に訪れていた。突然の来訪者たちに開発者達が唖然とするなか、クレアは暢気な様子で額の辺りに手を翳して周囲を見渡している。

 

「き、君達は……いや、確か観客席で……先程、ありがとう」

「いや別に。でも悪いけどこちらの素性は明かせない。ところでシュウジの奴はどこかな?」

 

 サクヤ達の顔を見て、観客席の様子を映すカメラから彼らが避難の手引きをしてくれた者達であることは分かったのだろう。そのことについて感謝の言葉を口にする開発者にサクヤは静止するように軽く手を上げながら、それ以上の追及などをさせないようにすると、シュウジについて尋ねる。

 

「……アンタら、シュウジの知り合いか? 実は───」

 

 今まで黙っていたカドマツだが、シュウジの名前が出された事によってサクヤ達が彼の関係者であることを確認すると、そのまま今、この会場で起きていることを含めて、彼になにがあったのか説明をする。

 

 ・・・

 

「成る程……。しかし厄介なことに……」

「ええ、音声を聞く限りでは……」

 

 カドマツからこれまでの顛末を聞き終えたドリィやアレクは苦い顔を浮かべる。カドマツから聞かされたシュウジの叫び。それは恐らく何らかによる戦争に関する記憶を見せられていると思っていいだろう。

 

 今の話を聞いて、恐らくは今一番、その心中が穏やかではないのはサクヤだろう。音声から特に家族の記憶を見せられていると察しではいるだろう。話を聞き終えたルルはサクヤの反応を伺えば、そこには能面のような笑みを浮かべるサクヤがいた。

 

「……あれ、クレアさんは?」

 

 サクヤのその表情を見て、思わず身震いしてしまうルルだが、ふとこの場にクレアがいないことに気づく。その言葉に他のシャッフルの面々もクレアを探すのだが、どこにも見当たらない。

 

「ああ、彼女なら先程、シミュレーターの場所とシュウジ君がどのシミュレーターを使用しているか聞いた後──」

「しゅ、主任! シミュレーターVRの方で───!!」

 

 忽然と姿を消したクレアについて開発者が答える。わざわざシミュレーターの場所を聞いて、どうしたのだろうかとアレク達が顔を見わせるなか、部下の一人が慌てた様子で声高く叫ぶ。同時にシミュレーターVRの外観を映すカメラの画像が主モニターに表示され、その映像に一同、驚きで目を丸くした。

 

 ・・・

 

「オラァッ! いつまで寝てんだぁあっ!」

 

 なんとクレアがシュウジの使用しているガンプラバトルシミュレーターVRをひたすら蹴っているではないか。だが流石にVR空間にいるため、いくらシミュレーターを蹴ったところで何の効果もない。だがクレアはそれでも諦めず、遂には長棒を振りかぶる。

 

「うおっ!?」

「全くなにをやってるいるのだ、お前は……」

 

 だがその寸前に駆け付けたドリィがクレアの首根っこを掴んで持ち上げると、彼女の行動に心底、呆れ返ったようにため息をついてしまう。

 

「うるせーな! くだらねぇーことで囚われやがって! 俺が熱く気合入れてやるってんだよ!」

「……野蛮としか言いようがありません。何故、アナタがシャッフルの紋章を授かったのか理解に苦しみます」

 

 子供のように今すぐ離せとばかりに暴れ回るクレアにアレクは頭痛を抑えるように自身のこめかみに触れ、彼もまた重い溜息をつく。

 

「……まあでも考え方としては悪くはないかな」

「サクヤさん……?」

 

 言い合いをしているクレア達を見ながら、一人なにか考えるように顎に手を添え、視線を伏せていたサクヤだが、ふと何か思い立ったのか、シュウジが使用するシミュレーターに近づいていき、その外面に触れる。一体、なにを考え付いたのか、一同がサクヤの行動に注目する。

 

「さあ今こそ我らが王に光を届けようじゃないか」

 

 するとサクヤの手の甲にQueen The Spadeの紋章が浮かび上がる。その行動で他のシャッフルの面々もサクヤの意図を理解したのだろう。シュウジのシミュレーターを囲むように移動すると、サクヤと同様にシミュレーターの外面に触れて、自身の紋章を浮かばせる。

 

 ・・・

 

 どれだけの時間が経ったのだろうか。全てが燃えていく地獄絵図のなかでただ一人、シュウジ自身に火の手が訪れる事はなく、この残酷な光景を突き付けられている。

 もう既に彼の心は限界に近いのだろう。顔を下げ、虚ろな瞳で手をついて跪いてしまっていた。

 

 もう何も考えることは出来なかった。全てが灰になって塵と化していくよう自分自身の心もそうなってしまったかのようだ。もう何かをする気にもなれない。シュウジの身体がそのまま倒れてしまいそうになった時であった。

 

「……!」

 

 何と自身の手の甲が光り輝いているではないか。それは自身が持つKing of Heartの紋章の輝きに他ならなかった。すると自身を囲むように四方から他のシャッフルの面々の紋章が姿を見せる。

 

≪よぉ、シュウジ、俺達の声が聞こえてるか?≫

「……その声……クレア……か?」

 

 すると目の前のJack in diamondの紋章から響く女性の声にシュウジは目を見開く。

 それは紛れもなく彼女の声であり、まさかこの世界で聞くことがないと思っていた為、その驚きは大きい。

 

「まさか……これもこの空間が俺に見せてるのか……?」

≪我々は確かにいるぞ。今もお前の使用しているシミュレーターの傍にいる≫

「ドリィ……!」

 

 何故、今、クレアの声が聞こえるか。それは完全に自身の心を潰すためにこの空間が生み出したのではないかと勘繰るシュウジだが、それを否定するようにBlack Jokerの紋章からドリィの声が響き、シュウジの頬を少しはほころびを見せ始める。

 

≪本来であればこうしたやり取りではなく直接、話したいのですが、そこはお許しを≫

「アレク……。でもどうして?」

≪それは今のアナタを想って以外他なりませんよ≫

 

 すると今度はClub Aceの紋章からアレクの声が聞こえてくる。しかし何故、彼が自分に、しかもわざわざこの世界に訪れたのか尋ねると、寧ろアレクからは何を言っているんだとばかりの返答が返ってくる。

 

≪お前が悪夢に囚われているのなら、俺達が光を授けて現実に連れ戻すってだけの話さ≫

「兄……貴……」

≪お前がかつては俺達にそうしてくれた。だから今度は俺達がそうしたいんだ≫

 

 Queen The Spadeの紋章からサクヤの声が響く。それは仲間を、戦友を、そして何より愛する弟を想っての優しい言葉であった。

 

 ・・・

 

「シュウジ、私達は確かにこれまでに数え切れぬ傷を負ってきました」

 

「きっとそれはこれからも……。我々は時に過去に囚われるような傷を背負いながら進んで行くことになるだろう」

 

「でもよ、それだけじゃなかっただろ。どんだけひでーことがあっても、また笑える事だって一杯あった」

 

「そしてそれもこれからもさ。時に大きな絶望の中で涙を流す事があるだろう。でも俺達はその中で見出した小さな希望を抱いて進んで行くんだ」

 

 

 シュウジが使用するシミュレーターを取り囲みながらシャッフルの面々はその想いを吐露する。彼等は共通してシュウジと共に苦楽を分かち合い、未来を掴もうとしているのだ。

 

「安心してください。我々は常にアナタと共に歩んで行きます」

 

「どんな悲しみも幸せも私達は共に分かち合っていこう」

 

「まっ、おめーが絶望の中にいた俺達に光を灯してくれたからな。その分、一緒にいるさ」

 

「シュウジ、過去を捨てろとは言わない。だが過去を見つめたままじゃ明日は見えてこない。だからお前は前を見ろ、そして躊躇うことなく───」

 

 

 今まで数多くの絶望が自分達の世界を襲った。しかしただ絶望を嘆く日々だけがあったわけではない。自分達はお互いに知り合い、時には衝突し、そして笑い合った誰一人として欠ける訳にはいかないかけがえのない仲間なのだ。だから何があってもその背中を支え続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「「「「進め、シュウジッ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 例え迷う事があったとしても、前を見て突き進め。

 立ち止まって振り返っていては何も始まらない。挑戦して進み続けることから全てが始まるのだ。

 

 ・・・

 

「ハハッ……ざまあねえな……。俺としたことが目先の事に囚われて、大事なもんまで見失っちまってたみたいだ」

 

 地面に手をついていたシュウジの手が強く握られ、彼の口から自嘲する小さな笑いが響くとゆっくりとその顔を上げる。そこには何ら迷いも絶望もない強い意志を秘めた覇王の瞳があった。

 

「確かにこれまで過去に色んなものを失った……。でも全てを……未来への希望まで失った訳じゃねえ……。俺には大事なもんがある……。それを全部失うまでは止まるわけにはいかねぇ……」

 

 両親や家、友人達を失い、戦争に参加するようになっても多くのモノを失った。

 だが、その過程で自分は愛する存在を、苦楽を共にする仲間を、そして自分をまっすぐ見つめる弟分に出会い、様々なモノを得る事が出来たのだ。

 

「もう迷わねえ。俺のビックバンはもう止められねえ! どこまでも突き進んでやる! 何故なら──!」

 

 どんどんシュウジの表情に活力が戻っていく。シミュレーターを囲むシャッフルの面々が覇王の復活に笑みを浮かべるなか、シュウジの熱の籠った叫びに比例して、彼の手の甲の紋章は輝きを強くする。

 

 

 

 

 

 

 

 覇王の手が煌めき照らす

 

 

 

 

 

 未来を示せと響いて叫ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に限界はねえッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳を強く握り、ありったけの一撃を地面に叩きつける。

 衝撃波で周囲の炎が鎮火するなか、彼の強い意志とカドマツの手腕によって、世界の崩壊が始まる。

 

「さあ未来を掴みに行こうぜ」

 

 世界の崩壊が始まるなか、シュウジは燃え尽きた自身のかつての実家に背を向けて歩き出す。ただ崩壊していく世界で吹いた一つの風が彼の濡れた頬を優しく撫でるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その果てまで

 鮮血に染まった空間は何処に触れても、その身は汚れてしまう。

 しかし翔はその空間で蹲って悶えていた。もうどうする事も出来ない。いくら思考を遮断しようとしても次から次にかつての凄惨な戦争の記憶が蘇ってしまうのだ。

 

「──いつまでそうしているつもりだ」

 

 何をする気にもなれない。ただこの突きつけられる現実から脱げ出したい。そう苦しみに悶えている翔に突然、声がかけられた。

 顔を上げてみれば、先程まで鮮血に染まっていた世界から一転、真っ白な空間の中にいた。そこには鮮やかな翡翠色の髪を中央に逆立てた青年が翔を静かに見下ろしているではないか。

 

「……む、そう言えば、こう顔を合わせるのは初めてか」

 

 だが翔はこの青年の顔に覚えがない。一体、彼は何者なのだろうかと怪訝そうな顔をしている翔に気づいた青年は不思議なものだな、と口にしながら軽く笑う。

 

「だが、今の貴様なら私の顔を分からずとも何者かは分かるだろう」

 

 表情を厳格なものに戻しながら、青年は自身の素性は明かさず翔に委ねる。青年の言葉は一見すれば、顔も知らないのに無理な話だが、翔は目の前の青年から何か感じ取ったのか少しずつその表情に驚きを見せる。

 

「ルスラン・シュレーカー……!?」

 

 青年から感じるのは、これまで自分の中に存在していた力の一つだ。そして異世界で幾度となく命を賭したやり取りを行った相手のモノでもある。

 

「その通りだ。もっとも今の私は貴様の中に残った残滓と言った方が適切だがな」

 

 だがルスランは最後、未来を切り開くために散ったのだ。

 そんな人間が何故、今現れたのと言うのか、その答えはルスラン自身の口から語られた。今の翔のエヴェイユの力は元々、自身の物とシーナ・ハイゼンベルク、そして目の前のルスランのものが一つに合さったものだ。故に合さったルスランの力の中の残滓と言える存在がこうして姿を現したのだろう。

 

「何故……お前が……」

「今の貴様が見ていられなくなった」

 

 だがどうしてルスランが現れたのだろうか。その理由が分からない翔にルスランは片手を軽く上げると自分達がいた真っ白な空間は宇宙空間へと変化したではないか。

 

「それだけだ」

 

 同時に自身もガンプラバトルシミュレーターVRのコックピットとはまた違う見覚えのあるコックピットの中にいるではないか。これは確か異世界で使用したガンダムブレイカーのものだ。

 

 同時にセンサーが鳴り響く。センサーが反応した前方を見れば、そこには巨大機動兵器・GP03デンドロビウムの姿があるではないか。

 

 あまりの出来事に言葉を失う翔だがデンドロビウムはメガ・ビーム砲を発射する。

 半ば、直感で避けた翔ではあるがデンドロビウムは一気に加速するとオーキスから飛び出したステイメンはその姿をストライクノワールに変え、ビームブレイドを引き抜いて突撃してくる。

 

「なんだいきなり!?」

「全霊を持って、ぶつかってこい」

 

 すぐさまブレイカーはビームサーベルを引き抜いて、ストライクノワールのビームブレイドを受け止めると、は突然のルスランの行動にその真意を問うが、ルスランはただ淡々と答えるだけでそのままブレイカーのビームサーベルを振り払って蹴り飛ばす。

 

「ッ……! 俺はもう十分戦った……!! もう良いだろッ!!!」

 

 かつてのコックピットが異世界の記憶を呼び覚ます。

 翔は耐え切れなくなったように叫ぶと、接近するストライクノワールの背後に高速で周り込む。

 その瞬間、先程のストライクノワール同様にガンダムブレイカーの姿も腕部ガトリングとユニバーサル・ブースター・ポットを装備したガンダムブレイカー・フルバーニアンに姿を変えていた。

 

「何故、また俺の前に現れたッ!? どうして!?」

「何度も言わせるな。今の貴様は見ていられないと言った筈だ」

 

 ユニバーサル・ブースター・ポットを目まぐるしく稼働させて飛蝗のような俊敏な動きでストライクノワールに襲いかかる。

 これまでの不満を露わにするかのように叫ぶ翔の勢いを受けたようについにはストライクノワールのビームブレイドが破壊されるもルスランはさして動揺した気配はない。

 

「─ッ!?」

 

 それどころかブレイカーFBの周囲をセンサーがけたましく反応する。翔が反応をすれば、そこにはファンネルが自身を囲んでいたではないか。ファンネルが自身にビームを放つ寸前にブレイカーFBは瞬時に包囲網から抜け出せば、先程までストライクノワールがいた場所にはヤクト・ドーガがいた。

 

「残滓とはいえ、あれから私は貴様の中にいた。貴様をずっと見ていた」

 

 同時にブレイカーFBの姿も機動力よりも火力に特化したガンダムブレイカー・ブラストに変化していた。翔がすぐさまブラストの武装を駆使して迫るファンネルを破壊するなか、その姿をルスランは静かに見つめる。

 

「なら、この行いがどれだけ苦しめるか分かるだろうッ!?」

 

 ファンネルを破壊し終えたブレイカーBはそのままヤクト・ドーガに向けて、一斉に武装を解き放つ。ミサイルやビームがヤクト・ドーガに降り注ぎ、周囲に爆炎が巻き起こる。

 

「──そうだな。確かに貴様は過去に苦しんでいる」

 

 荒くなった息遣いを整えながら、翔は爆炎を見つめていると、その先にいる存在を見て息を呑む。その存在は爆炎の中、そのモノアイを確かに輝かせ、こちらを見つめていた。

 

「だが同時に今の貴様はかつての私と同じだ。過去に囚われ、未来に何の希望を持ち合わせていない」

 

 爆炎が消えたその先にいたのは鮮血に染め上げられたかの如き真紅の機体。憎悪に囚われていたルスランを象徴する復讐機・ネメシスがそこにいたのだ。

 

「俺が……何の希望も……!?」

「否定できるか? 私は貴様の中にいたんだぞ。貴様はかつての戦争の記憶に悩まされている」

 

 そしてブレイカーBも原初のブレイカーであるガンダムブレイカー0に変化していた。

 だがそれよりも翔はルスランの言葉が聞き捨てならなかった。しかし同時にその言葉を完全に否定する事も出来なかった。

 

「如月翔……。私が貴様に成り代わろうか?」

「……なんだと?」

「残滓とはいえ、貴様の不安定な精神状態ならば、それも可能だろう」

 

 ルスランから発せられた言葉に翔は眉間に皺を寄せる。彼は一体、何を言っているのか分からなかったからだ。だが少なくともルスランの様子から冗談で言っているようには聞こえない。

 

「ふざけるな……ッ! そんなこと……受け入れられるわけがないッ!!」

「何故だ? 貴様は苦しんでいる。ならばいっそ深い眠りに落ちてしまった方が楽ではないのか?」

 

 だが到底、そんな事が受け入れられる訳がなかった。ブレイカー0はフィンファンネルを解き放ちながら向かっていくとネメシスもまたファンネルを放つと共にビームナギナタを構えて迎え打つ。

 

「何故、そうやって抗おうとする? 苦しんでまで生きていたいのか?」

「当たり前だ……! 俺があの世界で戦っていたのは死にたくないからだッ!!」

 

 フィンファンネルとファンネルが交錯しながら攻防を続けるなか、その中心でビームサーベルとビームナギナタを交えるブレイカー0とネメシス。ルスランは翔に問い掛けを続けるなか、翔はかつての自分を思い起こしながら強く叫ぶ。

 

「だが貴様は戦争の記憶に悩まされ続けている。これまでもそして、これからも。なのに、か?」

「確かに……あの世界の記憶に俺は苦しみ続けて来た……! こうやって戦うのだって苦しいッ!!」

 

 激しい攻防とは裏腹に淡々としたルスランからの問いかけは続く。だがその問いかけの度に翔の言葉にどんどん熱が籠っていく。

 

 

『そうだとしてもお前等二人で戦ったことに変わりはねぇ。エースが乗る機体からアークエンジェルを救った……誇りを持て。誇りは自信につながる。弱気じゃ勝てるもんも勝てねぇぞ』

 

 

「でも……ッ」

 

 

『でもこれだけは言えるぜ、お前と会えて本当に良かった。お前はかけがえのない仲間であり、俺の友達(ダチ)だ』

 

 

「でも……!」

 

 

『……私も……決まったわ。未来への願い……。だからそれまでは……さようなら』

 

 

「でも、それだけじゃなかったッ!」

 

 

 脳裏に過る異世界での温かな記憶達。それは鮮血に染まった記憶さえ塗り替えてしまうような温もりに満ちた記憶であった。

 

「全てが悪い訳じゃなかった! どんなに苦しくても、その記憶があったから、俺の心は折れなかった!」

 

 ブレイカー0の装甲の一部が変形し、内側からサイコフレームの輝きを放つと共に機体全体が赤色の輝きを纏い、ビームトンファーによる乱舞の如き攻勢でネメシスにぶつかっていく。

 

「どんなに苦しんでも、あの世界での出来事はなかったことには出来ない! でも……でも、それで良いッ!!」

 

 翔の思いのたけを聞きながら、ルスランは笑みを零す。するとネメシスもまた同様の赤色の輝きを纏って、ブレイカー0と対等に渡り合う。

 

「かけがえのない人々に出会った。その人達がいるから今の俺がいるッ! それは勿論、お前だってそうだッ!!」

 

 理不尽な世界で出会った素晴らしき人々。それが今の翔を形成している。彼らに誰一人と出会わなかった自分などきっと今の自分には決して繋がらない。それは勿論、ルスランも含めてだ。

 

「お前は命を賭して、俺の未来を切り開いてくれた! なら俺はその未来を掴み取りたい! 俺が背負った命達の分までェッ!」

 

 ついに拮抗する二つの機体はブレイカー0がネメシスを振り払い、その胴体にビームトンファーの刃を貫かせたことによって決着がつく。

 

「ありがとう、ルスラン……。お前が現れたお陰で答えが見いだせた」

「……勘違いするな。私が切り開いた未来がつまらないものにしたくはなかっただけだ」

 

 ブレイカー0とネメシスが密着した状態で翔はルスランに感謝の言葉を口にする。

 この言葉は本心だ。最初こそ意味が分からなかったが、異世界で幾度となく命のやり取りをし、最後には自分の未来を切り開いて散った彼が現れたからこそ、全てを背負う答えを導き出せた。

 

「それに……貴様と決着がつけたかったからな。もっとも最後まで敗れてしまったのは口惜しいが……」

「……お前とは違う形で出会いたかったな」

 

 翔とルスランは同じエヴェイユとして戦場で刃を交え続けた。かつて敵同士ではあったがこうして穏やかに話をしていると彼とも出会い方さえ違えば違った未来もあったのかもしれない。

 

「───そ、そこまでーッ!」

 

 すると突然、あまりにも場違いな女性の声が聞こえる。同時にブレイカー0とネメシスの間に小さな光が現れて形作った。

 

「あ、あれ……もう終わってた……?」

「シーナ……!?」

 

 くせのあるナチュラルブロンドの髪を垂らしながらブレイカー0とネメシスを交互に見やる女性は紛れもなく自身と共に異世界を駆け抜けたシーナ・ハイゼンベルクその人であった。

 

「ひ、久しぶり翔……。えっといきなりごめんね」

「あ、ああ……。まさかお前も……」

 

 ブレイカー0とネメシスのカメラアイがシーナに集中するなか乾いた笑みを浮かべながらブレイカー0を通じて挨拶をするシーナに翔は答えつつもネメシスを見やる。

 

「ああ、彼女も私と同じ残滓に過ぎない。本来のシーナお嬢さんも貴様がエヴェイユの全てを受け入れた時点で天に昇った」

「そう、か……。でも、どうしたんだ?」

 

 ルスランは今、現れたシーナの存在について答えると翔は再びシーナに視線を戻しつつ、彼女が現れた理由を尋ねる。

 

「それはルスランを止める為だよ! いきなり翔の中からいなくなるから!!」

「……言えば止められるのは目に見えていましたから」

 

 するとシーナは非難するようにルスランを見やる。どうやらルスランを制止する為に現れたようだが同時に先程のエヴェイユの力を解き放った際のことを思い出す。

 あれは過去の自分、そしてリーナや風香のレベルの力であった。恐らくルスランが抜け出したからエヴェイユの力も同時に一部を失くしたのだろう。その証拠にルスランもエヴェイユの力を使っていた。

 

「……でも、うん。結果オーライってことなのかな」

「ああ。全部背負っていくよ。お前達の分までな」

 

 改めてブレイカー0を通じて、翔の迷いのない顔を見て安心したように微笑む。安らぎを感じる彼女の笑みに翔も知らず知らずのうちに微笑みを浮かべながら答える。

 

「ねえ翔、これを見て」

 

 するとシーナは掌の上に光球を出現させると、ブレイカー0の中に送る。その光球に目を凝らしながら見てみれば、そこにはデクスマキナへ必死に食らいつくEXガンダムブレイカーの姿が映っていた。

 

「それが新しいガンダムブレイカーだよ。翔がいたから想いは受け継がれている。アナタが苦しんできた歩みは絶対に無駄にはならない」

「そうだな……。この繋がりはきっと俺にとっての未来への希望になる」

 

 EXブレイカーの諦めないその姿に覇王と新星の姿を重ねながら希望を宿す。苦しんで歩んできた道のりだが、そこから繋がった破壊と創造の連鎖は彼にとって無駄ではなかったという大きな光になるのだ。

 

「それにね、大丈夫だよ翔。私達だって翔と一緒に背負っていく。例え形がなくなってもいつだって私達はアナタの中にいる。アナタは絶対に一人じゃない」

 

 だがシーナは翔だけに重荷を背負わせるつもりはないのか、真剣な面持ちに表情をお切り替える。残滓とはいえ、そもそもの発端はシーナだ。翔に関しては誰よりも責任を感じているのは彼女だろう。故に翔だけを苦しませるつもりはない。

 

「だから行こう、次のステージへ」

 

 するとシーナの言葉をきっかけにブレイカー0とネメシス、そしてシーナが輝き始める。やがて、三つの光は混ざり合い、全てを照らすだけの大いなる輝きを放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……そうだな。いつまでも足踏みをしていられない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残ったのは次なるガンダムブレイカー。その名はガンダムブレイカーネクスト。そのコックピットで翔はゆっくりと目を開くと、その瞳は紫色と翡翠色のオッドアイになっており、その瞳はやがて虹色に変化する。

 

「どれだけ揺らめこうが、俺が残せる道は一つだけだ。ならば、俺は背負った命達の分まで生きて生きて、その果てに辿り着くまでだ」

 

 そしてもう一度、目を瞑り、開けば自分は元の鮮血に染まった空間に一人、残っていた。だが今の翔はもう迷いがない。改めて一つとなった力を解放すると世界に影響が出て崩壊が始まる。翔は鮮血に染まった空間を一人、確かな足取りで歩き始めるのであった。

 

 ・・・

 

 

 

 

 

「行っちゃったね、翔」

「……ええ」

 

 先程、翔がいたのは彼自身の精神世界。その世界でシーナとルスランは残っていた。

 

「シーナお嬢さん、何故、同じ残滓でしかない私があなたよりも早く奴の前に現れたのか分かりますか?」

 

 ふとルスランはシーナに問いかける。確かに条件で言えば、シーナもルスランも同じ存在だ。だが遅れたシーナに対して、ルスランは早かった。それはそう易々と出てこれなかったのもあるのだが、シーナは結局、分からず首を傾げる。

 

「今の私は残滓。だがすぐに奴の前に現れられたのは奴の負の側面と同化したからです。だから存在が大きなった私はすぐに奴の前に現れた」

「翔の負……か。確かに翔の中の負の心はあるだろうからね。どの道、あの空間から脱するにはその負の心を乗り越えなくちゃいけなかったけど」

 

 己の手を見やりながら、ルスランは静かに答える。それは先程、不安定になっていた彼の精神状態だからこそ出来た事であった。だがあの空間を脱するには現実から目を逸らしたいという負の側面を乗り越える必要があった。

 

「だが、奴はそんな私を倒した。今の奴ならば大丈夫でしょう」

 

 だからこそ全力でぶつかり合った。でなければ翔はあの空間に囚われたままだったからだ。そして翔は自分自身の負との問答の末、答えを見出したのだ。その結果にルスランは穏やかな笑みを浮かべる。

 

「私達は所詮は残滓、何れ奴の中で完全に熔けてしまう」

「でもね、それでも翔は一人じゃない。私達はいつだってアナタと共にあるから」

 

 そんなルスランの手も薄らと半透明になってしまっている。だがそれは仕方がないとばかりに軽く手を握ったルスランの言葉にシーナも改めて、翔への言葉を口にすると、ルスランとシーナは静かに消えていくのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

破壊者達の再臨

 ルスランとシーナとの接触から悪夢と言える世界から抜け出した翔は最後に強烈な閃光が自身の視界を覆い、やがて視界が回復した先にあったのは自身がシュウジと共に居たVRハンガーだった。

 

「……どうやら待たせていたようだな」

「そうでもないです。俺達と翔さんが戻って来たのに、そこまでのラグはありません」

 

 既にここには一矢とミサ、そしてシュウジの姿があり、彼らの顔を見て、翔は軽く微笑みながら声をかけると、一矢はやんわりと首を振りながら歩み寄る翔を出迎える。

 

≪皆、戻ってきてくれて何よりだ≫

 

 するとVRハンガーにカドマツからの通信が入る。通信越しではあるものの、聞こえてくる彼の声は無事な様子を見せる一矢達を見て、安堵している柔らかなものであった。

 

≪早速で悪いが……頼めるか? 正直、状況は良いとは言えなくてな≫

 

 するとカドマツはVRハンガーの上部に複数の立体モニターを表示させて、バトルフィールドの様子を映し出す。そこにはファイター達とウイルス達のバトルの模様が映っていた。しかしいくら一般のファイター達が参加したからと言ってそう易々と事態が好転するわけではないのか、多くのモニターでアンチブレイカーによって撃破されてしまっている。

 

「……でも」

 

 しかしそこでミサは渋ってしまう。何故ならば、先程まで一矢はあの悪夢の世界で苦しんでいたからだ。それは恐らく翔やシュウジとて同じなのだろう。彼らにかかっている精神的負担は決して軽いものではない筈だ。

 

「……大丈夫だよ、ミサ」

 

 すると一矢によってミサの手が優しく握られる。そこには穏やかな笑みを向けてくれる一矢がいた。

 

「ああ。俺達はここで立ち止まっている訳にはいかない」

「さあ、勝ちに行こうぜ」

 

 自分達はただあの悪夢の世界から逃れたわけではない。それは口に出さずとも、お互いの凛と引き締まった顔つきを見れば、一皮むけたと言うことが分かる。

 一矢の言葉に続くように翔とシュウジが声を上げると、二人は背後を見上げ、一矢とミサも視線を追う。

 

 そこには三機のガンダムブレイカーの姿がある。

 三機ともハンガーに収められているもののツインアイを輝かせ、主が乗り込むのを今か今かと待っているかのようだ。

 

「それにこのまま黙って見ている訳にもいかないしな」

 

 三機のガンダムブレイカーの姿はミサにこれ程、心強さを与えてくれる存在はいなかった。綻ぶミサの横顔を見た一矢は振り返って、立体モニターを見上げる。

 

 そこに映っているのはデクスマキナと戦闘を続けるEXブレイカーの姿がある。

 どんな絶望にも立ち向かおうとするその勇姿は一矢や翔達にも希望を宿し、共に立ち向かおうとする戦意をかき立ててくれる。

 

「分かったよ、一矢……。でも私も連れて行って」

「ミサ……」

「アザレアはもう使えない……。でも、それでも一矢の傍に居たい」

 

 もうこうなっては誰にも彼らを止められないだろう。それを理解したミサは一矢に頼み込む。ミサのアザレアリバイブはただでさえ損傷が激しかったのに、ワームホールを潜る為にそのエネルギーを全て使い果たしてしまった。撃墜扱いになってもうバトルフィールドに戻ることは出来ないだろう。だがミサにはこの状況でただ遠巻きに見ていることは出来なかったのだ。

 

「……ミサがいるなら何にだって届く……」

「……っ」

「行こう、ミサ」

「うんっ!」

 

 一矢は一度、リミットブレイカーを一瞥しながら呟く。思えばここまで来れたのは何より彼女の存在があったからだろう。ミサはそんな一矢の姿を見つめていると、まっすぐな表情で向けられた彼の手を力いっぱい応えるようにしっかりと掴む。

 

「ここからはチームで行こう」

「俺達ガンダムブレイカーの力……見せてやろうぜ」

「ああ、反撃開始だ」

 

 二人のその様子を傍から眺めていた翔とシュウジが笑みを浮かべているが、流石にいつまでもそうしてはいられない。一矢と視線を交わらせ、頷き合った三人はそれぞれの愛機へ向かい、ミサも一矢の後を追って、リミットブレイカーへ向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガンダムブレイカーネクスト……如月翔、出撃する!」

 

 

 

 

 生温い優しい言葉も世界も要らない

 

 

 

 

「バーニングガンダムゴッドブレイカー……シュウジ、行くぜッ!!」

 

 

 

 

 時に鋭く胸を貫くような痛みを伴っても、そんな出来事が強くしてくれる

 

 

 

 

「リミットガンダムブレイカー……雨宮一矢、出るッ!」

 

 

 

 

 だからこそ諦めず、明日へ何度も誇り(プライド)をぶつけて進んでいくんだ

 

 

 

 

 ・・・

 

 

「クゥ……ッ!?」

 

 デクスマキナと戦闘を続けているEXブレイカーだが、遂に大きくよろめいてしまう。

 既に堅牢なEXブレイカーも中破以上に追い込まれており、デクスマキナと長時間戦っていた優陽の表情にも疲労が滲んでいた。

 

「これでチェックかな、四人目(フォース)

 

 一方、デクスマキナは軽微であり、クロノ自身もまだ薄ら笑いを浮かべているほどの余裕を見せていた。

 

「諦めないよ……。絶対に……ッ!!」

「ほぅ、流石はガンダムブレイカーといったところか」

 

 だが優陽は歯を食いしばって疲労に滲んだ表情を引き締める。自分はもう過去の自分とは違うのだ。だからこそこの身が尽きるまで絶望へ抗い続ける。そんな気丈に立ち向かおうとする優陽にクロノは皮肉気に感心する。

 

「ならばこれはどうかな?」

 

 するとクロノは立体コンソールを表示させ、手早く入力を済ませると、デクスマキナは両手を上げ、左右に巨大なデータ量が形を構築していく。

 

 そこに現れたのはピラミッドを彷彿とさせる四角錐状のシルエットを持つ【ユグドラシル】と仰々しくさながらエイリアンを思わせるような【レグナント】が出現したではないか。

 

≪あれはイベントのレイドボスとして用意したMAではないか!≫

「……ッ!」

 

 優陽のコックピットに現れたMAを見て驚愕した開発者からの言葉を聞きながら思わず優陽は表情を険しくさせる。システムの大半を掌握したからこそ、ここで出現させたのだろう。運営側が用意した機体も全てクロノの手中にあり、それを意のまま出現させることができるのだろう。ただでさえクロノを相手に何とか凌いでいる状況でのMAを登場させることによって優陽の戦意を削ごうと言う魂胆だろう。

 

「クッ……!?」

 

 実際、優陽に影響はあった。目の前にそびえ立つように出現したMAに優陽は無意識のうちに萎縮してしまい、レグナントから放たれた大型ビームに疲労も相まって反応が遅れてしまい、迫りくる閃光に息を呑む。

 

 

 

 

 しかしその前にEXブレイカーを包んだ光の障壁が絶望の閃光から防いだのだ。

 

 

 

 

「───よくやったな」

 

 

 

 突然のことに誰もが驚いているなか、優陽が周囲を見渡せば自身をフィンファンネルがピラミッド状に取り囲んでバリアを張っていたではないか。唖然としている優陽に通信が入ると共に後方から三つの反応が起きる。

 

「ガンダムブレイカーッ!」

 

 確認した優陽は思わず高らかにその名を叫ぶ。後方から一直線にやって来たのは三機のガンダムブレイカーだったからだ。

 

「ここからは任せてくれ」

「ああ、遅れた分を取り返す」

 

 真っ先にブレイカーネクストとリミットブレイカーが先行し、EXブレイカーを囲んだフィンファンネルと共にオールレンジ攻撃がデクスマキナとMAに向けられる。

 

「ブラァックホールが吹き荒れるぜェッ!!」

 

 レグナントからブレイカーネクストとリミットブレイカーを捉えようとエグナーウィップが放たれるなか、飛び出したバーニングゴッドブレイカーによる目にも止まらぬ太刀筋によって一瞬のうちに切断される。

 

 そこからはまさに一瞬の出来事であった。

 レグナントのGNファングをリミットブレイカーのCファンネルが迎撃するなか、MA達が仕掛けるよりも早く、三機のガンダムブレイカーは仕掛ける。

 

 レグナントの大型ビームが発射する寸前にブレイカーネクストによる狙撃が発射口を貫き、大爆発を起こす。レグナントの巨体が揺らめくなか、爆炎の中から突破したリミットブレイカーがカレトヴルッフによってクローアームを切断し、片方のクローアームもバーニングゴッドブレイカーによって破壊される。

 

「俺のこの手が煌めき照らすッ! 未来を示せと響いて叫ぶッ!!」

 

 ブレイカーネクストからの掩護を受けるなか、二機のガンダムブレイカーは離脱すると、バーニングゴッドブレイカーは両腕を広げる。

 

「極ゥ限ンンッッッ!」

 

 すると腕の甲を前腕のカバーが覆い、エネルギーがマニュビレーターに集中し宇宙を照らす輝きを見せ、両腕にそれぞれ太陽の鮮烈な輝きと月の柔和な光を纏ったかのような光を放つ。

 

「ブロオオオォォォォォォォッックゥンッッッッフィンガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーァアアッッ!!!!!!!!」

 

 神々しい輝きを纏った両腕を突き出し、ブレイカーネクストもビームサーベルを、リミットブレイカーはカレトヴルッフを構えて、レグナントへ突撃していく。

 

 ───衝撃。

 

 三機のガンダムブレイカーは巨躯を誇るレグナントを貫く、巨大な絶望が希望に変わるかのように閃光の中に消える。

 

「凄い……」

 

 眩しい閃光を背にする三機のガンダムブレイカーの姿に優陽は思わず見惚れてしまう。

 先程まで圧倒的な絶望があった。しかし今、希望は完全に蘇ったのだ。三機のガンダムブレイカーの活躍に彼らの姿を見ている者達は高らかな歓声をあげる。

 

 

 

 

「───クククッ……アーハッハッハッハッ!!!!」

 

 

 

 これならば巻き返すのも不可能ではない。そう思った矢先に心底、愉快そうな哄笑があがる。誰もが眉間に皺を寄せるなか、嗤っていたのはクロノであった。

 

「いやはや素晴らしい。これは思わず熱くなって震えてしまうよ」

 

 まるで劇を見ているかのようにクロノは三機のガンダムブレイカーを前にしても動じることなく、寧ろ彼らの早々たる活躍に拍手を送っているではないか。

 

「全く動じねえとは……やっぱり気に食わねえな」

「遅かれ早かれこうなることは予想が着くからね。勿論、壊れればそれはそれでその程度ではあるが」

 

 三機のガンダムブレイカーがデクスマキナと対峙するなか、シュウジは敵意を露わにしながらクロノの反応に不快感を示すとクロノは首を横に振りながら、その余裕に満ちた態度を崩さない。

 

「さて、いよいよゲームの盛り上げどころと言うわけだ。ならばそれに応じた行動をとるとしよう」

 

 クロノは三機のガンダムブレイカーをそれぞれ一瞥すると口角をつり上げる。

 するとデクスマキナは彼らに背を向けて地球へ向かったではないか。恐らく大気圏を突入しようという魂胆であろう。一矢達も後を追おうと地球へ向かおうとするが、その行く手を遮るようにユグドラシルのテンダービームが阻む。

 

「一矢、アイツが行っちゃう!」

「分かってる! だが、こいつから何とかしないと……ッ!」

 

 同乗するミサは既に大気圏を突入しようと赤熱化しているデクスマキナの姿を見ながら一矢に叫ぶが、ユグドラシルから放たれる植物の枝葉のような複雑な軌道と広範囲を誇るビーム砲撃は彼らに思うような行動をとらせない。

 

 だが三機のガンダムブレイカーとユグドラシルの間に高収束ビームが放たれ、テンダービームを阻む。それを行ったのはEXブレイカーであった。

 

「行って! ここは僕が引き受けるッ!!」

「しかし、君は……」

 

 矢継ぎ早にユグドラシルの注意を引くようにEXブレイカーから高火力の攻撃が仕掛けられていく。そんな中で優陽は翔達にクロノを追うように伝えるが優陽はずっとクロノを相手に戦って来た。その消耗は激しいだろう。翔は優陽の身を気遣うのだが……。

 

「僕だってガンダムブレイカーだよ。ここは僕を信じて、任せてほしいな」

 

 優陽は通信越しに安心させるように柔らかな笑みを浮かべると、その笑みに僅かに考えた翔達だが、やがてそれぞれ頷いて、三機のガンダムブレイカーは地球へ向かっていく。

 

「やっぱりまだまだ追いつけないなぁ……」

 

 既にリミットブレイカー達は大気圏を突入しようとしている。どんどん離れていくその後ろ姿を横目にどこか寂しそうに呟く。

 

「でもね……。追いつけなくとも彼らの道を開くことは僕にだって出来るッ!!」

 

 ユグドラシルは危険と判断したリミットブレイカー達を追撃しようとするが、その行く手をEXブレイカーのシグマシスライフルが阻む。

 ユグドラシルもEXブレイカーを撃破しなくては追撃できないと判断したのだろう。注意を向けるなか、EXブレイカーと優陽はただがむしゃらに向かっていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

深紅の空 燃え立つように

「主任、フィールドに続々とプレイヤーの反応がッ!!」

 

 ガンダムブレイカーが戦場に駆け始めてから数分、フィールドをチェックしていた部下が開発者に報告する。それはこのシミュレーターVRや会場のガンプラバトルシミュレーターの数よりもはるかに上回る反応であった。

 

「良いぞ……。もっと早く世界中のガンプラバトルシミュレーターにこのバトルフィールドに対応させるアップデートを済ませるんだ」

「しかし何故、こうも次々とファイター達がバトルフィールドに集ってくれるのでしょうか……」

 

 この事態を知った多くのファイター達がこのバトルフィールドで戦っている。それはまるでかつての宇宙エレベーター漂流の際に世界中のファイター達が参戦した時を彷彿とさせるではないか。思わず興奮のあまり身体を震わせる開発者に部下の一人が疑問を口にする。

 

「決まっている。彼らは皆、自分の誇り(プライド)をぶつけに来たのだ。無法者にこれ以上、ガンプラバトルを汚させないために」

 

 今、この瞬間も次々に世界中からファイター達が己の自慢のガンプラと共にウイルス達に立ち向かおうとバトルフィールドに参戦している。これから始まるであろう新たなガンプラバトルの歴史をこれ以上、汚させないためにだ。

 

 ・・・

 

「裕喜、何も考えないで好きに撃て!」

「りょーかいっ!」

 

 荒野では秀哉が裕喜に指示を出すと、フルアーマーガンダムは自慢の武装をアンチブレイカーへ放つ。猛々しい攻撃はアンチブレイカーへ向かっていくものの容易く回避されようとしてしまう。だが実際のところ、裕喜の放った射撃は何発かは直撃した。何故なら──。

 

「今だ、秀哉!」

「おうッ!!」

 

 一輝のフルアーマー・ガンキャノンによる掩護射撃があったからだ。僅かに動きが鈍ったアンチブレイカーを見て、一輝が指示を出すと光の翼とゼロシステムを併発させたストライク・リバイブはアロンダイトとハイパービームソードを構えて、接近戦を仕掛けると反撃しようとするアンチブレイカーにファンネルを駆使しながら抑えようとする。

 

 しかしそれでもアンチブレイカーの抵抗は収まらず、旋風竜巻蹴りによってファンネル諸共ストライク・リバイブを弾くが、そこに更に攻撃を仕掛けられる。

 

「気づけばイッチには差をつけられたが、いつまでもそうしてらんないな!」

「ええ、見せてやりましょう」

 

 何とレンのストレイドが損傷を構わずに竜巻に突進してアンチブレイカーに激突したからだ。レンの言葉に頷きながら、ストレイドを破壊しようとするアンチブレイカーにジーナのジェスタ・キラウエアがソードピットによるGNフィールドで防ぐ。

 

「うあぁっ!?」

「クソッ、ワラワラ湧いてるからって雑魚って訳じゃないか……ッ!?」

 

 また近くで純のGNーΩと宏佑のクロスボーンクアンタが別のアンチブレイカーによって薙ぎ払われ、地面に叩きつけられてしまう。そこに更にアンチブレイカーによって追撃がされようとしてしまうなか、誠のフルアーマーユニコーンガンダム plan BWによって阻止される。

 

「俺達は強い訳じゃないけど、それでも皆で行けば……!」

「こうなったらごり押しだぁっ!!」

「おらぁっ、ブルってんじゃねえぞ!」

 

 表情を険しくさせる誠だが、彼の言葉に同意するようにカマセとタイガーのガンプラがアンチブレイカーに突っ込んでいく。

 

「ブレイブゥウウッセイッバアアアアアアァァァァァァァーーーーーアアッッッ!!!!」

「これで……どうだッ!!」

 

 いかに非力であっても、それでも力を合わせれば何とやら。誠やカマセ達が何とか作った隙を炎のハイパーカイザーと龍騎のクレナイがここに来て、漸く目立った損傷を与える。

 

「見知ったガンプラがチラホラいるな」

「みんな、彩渡街のファイターだよ」

 

 その近くでアンチブレイカーを両断したウィルはストライク・リバイブ達の姿を見ながら、記憶を頼りに呟くとNPC機達を文字通り粉砕しながら、夕香が説明する。

 

「大会に出なくとも地方には個性豊かなファイターがいるものだぞ」

「これは坊ちゃまも日本各地に行くべきですね。私も観光……いえ、お供します」

 

 ミスターのブレイクノヴァがこれまで見て来たファイター達を振り返りながら、彼に地方でのファイター達の触れ合いを勧めるように声をかけると、名案だとばかりにドロシーが同調しながらメイドガンダムことサーヴィターは帚のようなメイスで敵機を払う。

 

「まあ、それも悪くはないかな」

 

 以前のウィルであれば、下らないと切って捨てるところだが今はそうではない。

 何よりここで精一杯、アンチブレイカー達に抗おうとする名も知れぬファイター達は実力で劣るとはいえ、胸を打つバトルをしているのだ。彼らと触れ合うためにはまずこれを乗り越えなくてはいけない。セレネスは次の敵機へ向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「MAまで来るか……ッ!」

「でも、ここまで来て下がる気はないよッ!!」

 

 また雪山を舞台にしたこの場所ではレイドボスとして用意されていたアプサラスⅢがNPC機達を率いてアンチブレイカー達と猛威を振るっていた。

 アンチブレイカーだけでも厄介な状況なのにアプサラスⅢを見て、苦虫を噛み潰したように唸るユーリを、そんな彼のレナトを庇うようにNPC機を撃破しながら未来のイスカーチェリは次の敵機に攻撃を仕掛ける。

 

「うん……。絶対、引き下がらないッ!!」

「心強いッスね!」

 

 未来の言葉に頷きながら、アンチブレイカーと戦闘を繰り広げるヴェールのルイーツァリ。そんな彼女の想いに触発されたように普段の無気力な様子からは考えられないような好戦的な笑みを浮かべたウルチはモチヅキの作成たガンプラを駆る。

 

「俺達ガンダムブレイカー隊の力、ここで見せてやろうぜ!」

「ええ、翔さん達だけじゃないってこと、示してみせますっ!」

 

 ここ等一帯のアンチブレイカーはガンダムブレイカー隊の活躍によって撃破され、他に比べて数は少ない。その勢いを持って、ナオキが仲間達に叫ぶと、あやこのアイオライトが先行してガンダムブレイカー隊はアプサラスⅢに向かっていく。

 

 ・・・

 

「ここが踏ん張りどころじゃきに、気張って行くぞッ!」

「はい、厳也さんッ!」

「こんな奴らに我が物顔されるのは癪なのよッ!」

 

 また市街地での戦闘は凄惨さを物語るように街は軒並み荒れ果てている。そんな中、土佐農高ガンプラ隊が戦場を駆け、レイドボスのサイコガンダムを咲のロードと文華のフォボス・改の支援射撃を受けた厳也のクロス・ベイオネットがシールドブースターを用いたハイパー・ビーム・ジャベリンによって貫く。

 

「ここでの戦いは絶対に無駄にはならないッ!」

「うん、NPC機達は私達が引き受けないと……!」

「それが一矢達の助けるになるのなら幾らでもやってやる……ッ!!」

 

 サイコガンダムの周囲にはサイコガンダムMk-IIの姿もあり、そこでも激しい戦闘が行われている。影二達の熊本海洋訓練学校ガンプラ部だ。

 磁気フィールドによってメガ・ビーム砲のビームをリフレクター・ピットが反射した豪雨のような攻撃を陽太のGM-セルフと皐月のジム・キャノンⅡSBCが掻い潜りながら、この戦いでの自分達の想いと役割を強く叫ぶと、影二も復帰した一矢達を想って、ダウンフォールのHADESZEROプログラムを発動させながら攻撃を仕掛ける。

 

「クゥッ……!」

「大丈夫!?」

 

 しかしウイルス側も決して一筋縄でいくわけではない。現にジャパンカップで活躍した裕喜(男)のレーゼンを容易く薙ぎ払ったのだ。吹き飛ぶレーゼンを春花のストライクレイスが援護しながら彼を心配する。

 

「無理はするな! 力量を考えて挑むんだ!」

「コトちゃんも無理はしないようにね?」

「勿論。でも色んな人の凄いバトルをこれまで見てきたせいか、少しでもその人達の力になりたいんです!」

 

 素早くアンチブレイカーがオールレンジ攻撃をレーゼン達へ向けるなか、彼らを庇う為にジンのユニティーエースがアンチブレイカーを引き付けるように攻撃をするなか、サヤのジョイントエースがジンを援護しつつ、近くのコトに気を回しながら声をかけると、コトもコトなりに戦おうとストライクノワールを動かす。

 

「これも縁だからな!」

「ええ、精一杯のことをしましょう」

 

 ユニティーエースが引きつけたところを正泰のアドベントとシアルのジェガン・ハウンドが波状攻撃を仕掛ける。

 

「驚いたか!」

「喰らえッ!!」

「よし、行ける!」

「小夜の本気を見るのです!!」

 

 そこにジャパンカップで秋田代表を務めたチームが動く。国永の雷と清光の暁がアンチブレイカーをかく乱するなか、国広の響きが援護射撃を繰り出しながら、小夜に合図を出すと電が突貫する。

 

「ヘヘッ、強ぇのは分かるけどなッ!」

「それで大人しくするような私達じゃないわ!」

 

 更にそこにツキミのエンファンスドバランサーがミソラの援護を受けながら、レーザー対艦刀でまさに滅多切りとばかりに数多の斬撃を浴びせ、アンチブレイカーを撃破する。

 

「やれやれ、これなら若者の未来は明るいね」

「なら、大人としてもう少し道を開いてやらなぁね」

 

 活躍を見せるジャパンカップ出場のファイター達。彼らを見ながらロクトは期待を募らせると、彼の言葉に返したた珠湖に笑みを浮かべながら彼女のアサーシンと共に厳也達がバトルをし易いようにと彼らを阻もうとするNPC機達を一掃する。

 

 ・・・

 

「ここで倒す!」

「ああ、だが無理はするなよ、涼!」

 

 市街地に近い沿岸付近では涼のカイウスが恭のG-KYO POと共にザムザザーに攻撃を仕掛け、奮闘の末、撃破していた。

 

「打て! 撃て! ここで後先考えるな!」

「下手な小細工を考えている時よりも活き活きしてるよ、淄雄」

 

 沿岸で指示を飛ばすように叫んでいるのは淄雄であった。彼のリグ・コンティオを横目に笑みを浮かべた佳那のゴトラタンが彼の障害となる敵機を葬っていく。

 

「負けるのは慣れてる。……でも、平気なわけじゃねぇ!」

「ヘヘッ、兄さんがいれば百人力だよ!!」

「うん、絶対勝つ!」

 

 淄雄の指示を受けながら、風留のアストレイブラッドXがアンチブレイカーを何とか食い止めるなか、彼に続くように勇太と千佳のユニコーン・ネクストとバンシィ・ノルンも追撃して、沿岸の攻勢を強める。

 

「ゴミ掃除は得意です」

「そうそう、メイドとしてきっちりこなさないとね」

 

 また陸に上がろうとするNPC機達を瞬く間に一掃したのはレギルスとトランジェントであった。攻撃の手を緩めることなく次から次に攻撃をしながらアルマとモニカは後方を見やる。

 

「さてシオン。ボクらも行こうか」

「ええ、お姉さまとならば、何も怖くありませんわ!」

 

 そこにはタブリスとキマリスヴィダールの姿があったのだ。言葉を交わして、笑みを浮かべ合ったセレナとシオンの麗しき姫騎士達は沿岸部の敵機殲滅の為、飛び立つ。

 

「ふっ……娘達……。立派な太陽になって……ガクッ」

 

 そんな姉妹の活躍を見つめながら、散々盾にされたまきしまむがるとは満足気に力尽きていた。

 

 ・・・

 

「流石にキツくなってきたな……」

「でも、諦めた訳じゃないんでしょ?」

 

 海上では敵機を撃破した莫耶が愚痴のように呟いていた。もうかれこれ長時間の戦闘だ。疲労がない訳ではない。しかしアメリアの言うように彼の戦意その物は衰えておらず、答える代わりにストライクシードフリーダムは次なる敵へ向かう。

 

「まだまだ行けるわね、二人とも」

「さあ、この名に恥じぬ働きをしようか」

「俺達は英雄だからな!」

 

 ネオ・アルゴナウタイもまた莫耶達に触発されたようにその名に恥じぬ働きを見せ、まだまだ戦おうとしているのだ。アリシアの呼びかけにクレスとアキはそれぞれ誇りを感じさせる強い笑みを浮かべると、三機は進軍する。

 

「このフィールドでの出来事、お金で買えない価値がある!」

「どこであろうと足元には気を付けることだな!」

「ガンプラバトル最速伝説はここで塗り替える!!」

「これも縁だ。我らトヨサキモータース、とことん手を貸すぞ」

 

 またフィールド各地には企業のチームもその実力を発揮している。今まさに世界中のファイター達が一丸となって立ち向かっていた。

 

 ・・・

 

「諦めた訳じゃないけど、流石の風香ちゃんも疲れて来たよー。甘いもの食べたーい」

「シャキッとしろ、馬鹿者!」

 

 上空ではアンチブレイカーを撃破しながら風香が不満を爆発させていると、風香のエクリプスを背後から襲いかかってくるNPC機をすれ違いざまに碧のロックダウンが切り伏せる。

 

「じゃあ、碧が“風香ちゃんマジ天使”って言ったら頑張っちゃおっかなー」

「……貴様……」

「えー言ってくんないのー?」

 

 そのロックダウンに銃口を向けるNPC機達をエクリプスのシールドピットが全て撃破しながら、冗談めいた事を碧に投げかけると、青筋を浮かべる碧に残念ぶっている。

 

「ふ、風香ちゃんマジ天使……」

「だぁーはっはっはっ!! 本当に言ったよ、碧がぁっ!」

「貴様アアアアァァァァァアッッッ!!!!!」

 

 わなわなと震えながら、風香のやる気を出すために真に受けて風香の言葉を口にする碧だが、風香もまさか本当に碧が言うとは思わなかった為、腹を抱えて大笑いすると顔を真っ赤にさせた碧はエクリプスにショットガンの銃口を向けて乱射している。

 

「あははっ楽しかったぁ。ふぅ……リーナ、大丈夫?」

「うん、風香こそまだまだやれそうだね」

 

 ひとしきり碧をからかった風香は近くで戦闘を続けているリーナに声をかける。風香がここまで余裕なのは様々な意味でリーナの存在が大きいだろう。既に一人でアンチブレイカーを葬り、二桁目に突入したリーナは近くに来た風香に答える。

 

「……私ね、今、能力がなくったってここにいる人達の心、読めるよ」

「うん、私も。そして風香のもね」

 

 ふと風香はどこを見ても戦闘が起きているフィールドを見渡しながら呟くと、その言葉にリーナも柔らかな笑みを浮かべる。ここに集ったファイター達はまさに誇りを持って絶望にとことんまで抗おうとしているのだろう。

 

「じゃあスペシャルな奴、いっちゃおうか!」

「とことん印象を残る奴をね」

 

 リーナの言葉に満足した風香はリーナに呼びかけると、エクリプスはウイングゼロに背を預ける。すると二機はエヴェイユの力を解放し、ツインバスターライフルを連結させて引き金を引くと旋回を始める。ツイン状態のローリングバスターライフルは周囲の敵機を飲み込んでいく。

 

「凄ぇもんだなぁ!」

「本当ねー。私達もあぁありたいものねー」

 

 そんなリーナ達の活躍を横目にマチオの猛烈號とミヤコのジェスタ・コマンドカスタムがMAを相手にしながら、素直にリーナ達を称賛していた。

 

「おっ、来たな」

 

 ユウイチも頷いているなか、セピュロスのセンサーが反応を示す。確認してみれば、三機のガンダムブレイカーが大気圏突入を果たして、降下してきたではないか。

 

「翔……良かった……」

「ミサもそこにいるのか……。何だか幸せそうで何よりだ」

 

 降下したガンダムブレイカー達にリーナとユウイチが通信を入れながら、彼らの到着と共に彼らの顔色とリミットブレイカーに同乗するミサの表情を見て、安堵した様子を見せる。

 

「デクスマキナという機体は降下後、この空域から離脱しちゃった。追いかけようとしたけどここで邪魔が入って……。でもレーアお姉ちゃんやカガミ達がその後を追いかけてるよ」

 

 リーナから一足先に大気圏突入を果たしたクロノの情報を伝えられる。どうやら現在、レーア、カガミ、ヴェルの三名がクロノを追撃しているようだ。

 

「……分かった。奴は俺達に任せてくれ。リーナ達には宇宙での戦闘に参加してもらいたいのだが……」

「任せて。向こうで戦ってる人達の事も知ってるから、すぐに向かう」

 

 状況を把握した翔はリーナ達に宇宙での戦闘の加勢を頼む。あそこにはまだ優陽や真実達といったファイター達が戦っている。リーナもすぐに答え、ユウイチ達も同様に頷いている。

 

「後もうひと踏ん張りだ。すぐに終わらせて、みんなで喜びを分かち合おう」

 

 やる事は決まった。翔の言葉に全員が頷くと、ガンダムブレイカー達はデクスマキナを追い、ウイングゼロ達は現空域での戦闘後、宇宙へ向かうのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誇り

 デクスマキナの追撃を行うレーア達は空を縦横無尽に駆け回り、猛る嵐のような戦闘を繰り広げるその様はまさに常人には決して立ち入ることは叶わぬほどの様相を見せていた。

 

「逃しはしない……ッ!!」

 

 レーアはその瞳を刃の如く鋭く厄災を齎す白騎士を見据える。単にクロノがこの事件の首謀者だからと言うわけではない。例えこのVRが作り上げた仮想世界と言えども現実世界に居る自身の身体はリーナ達のように覚醒しきれていないとはいえ、クロノが持つ新人類としての能力を感じ取っているのだ。

 

 そんな人物がこのような出来事を起こしているのだ。ここで逃せば一体、今後、どのような出来事をこの世界に齎すかも分からない。だからこそ確実にここで決着をつける必要があると考えているのだ。

 

 それはカガミやヴェルとて同じことなのだろう。彼女達は既にこれまで行って来た遊びとしてのガンプラバトルは行っていない。ただ一点に障害を、確実なまでに相手を殺める戦いをしているのだ。

 

 かける慈悲も容赦もない。奪われる前に奪う。掴みとられる前に掴む。これまで一矢やミサ達に見せていた大人の女性としての奥ゆかしさなどない。その表情はまさに冷徹無慈悲。統合軍所属MSパイロットとしての一面を前面に押し出して戦っているのだ。それはまさに見る者を竦ませる戦いだ。

 

「やれやれ……これでは殺し合いだ。あまりに殺伐としていてゲームとは到底言えないだろう」

 

 さしものクロノも異世界の第一線を駆けるエース達を相手にしては、ミサ達のように手を抜いてはいられないだろう。飄々と軽口は相も変わらず吐くものの、軽微であったデクスマキナに損傷は見え始め、その動きも段違いと言っても良い。

 

「まあ君達も私程度をどうにかせねば自分達の世界に帰ったとしても、その未来は危ういだろうがね」

 

 デクスマキナ達はそのまま降下して都市部に戦場を移す。彼女達の世界に訪れている未曾有の危機を理解しているクロノはせせら笑う。事実、ここで彼を止められなければその後に待ち構える戦いに希望はないだろう。

 

 するとクロノが見やるモニターに映るダブルオークアンタFの背後がキラリと光る。その光を認識した瞬間、咄嗟に構えたシールドは容易く貫かれて、破棄する。

 

 超長距離狙撃によるものだ。気流に左右されず、このような芸当に等しき技は並みのファイターには行えない。直後にデクスマキナのセンサーが反応を示す先にいたのは三機のガンダムブレイカーであった。

 

「──待たせたな」

 

 超長距離狙撃を敢行したGNスナイパーライフルⅡを構えながら、ダブルオークアンタF達へと合流を果たすブレイカーネクスト達。通信越しに健在な彼らの様子を見て、先程まで冷淡であった彼女達の表情も和らぎを見せる。

 

「……翔……無事で良かった」

「心配をかけた、か?」

「当たり前じゃない。アナタは昔から私達に心配をかけさせるのが得意だったもの」

 

 翔の力を感じ取ったとはいえ、それは彼が絶望に抗おうと抵抗していたものだ。翔の様子に安堵した溜息をもらすレーアに翔は軽く笑いながら問いかけると何を言っているんだと言わんばかりにどこか恨めし気な態度を取られてしまう。

 

「遅刻よ、シュウジ」

「開口一番でそれかよ! レーアさんみてぇに心配してくれるとか……」

「まあまあ。これでもカガミさんなりにシュウジ君のことは心配してたよ?」

 

 どこか温かな翔とレーアのやり取りとは違い、トライブレイカーズの方では言葉短めながら、どこか賑やかに行われていた。毒を吐くカガミ、それにツッコむシュウジ、そして二人を宥めるヴェル。短いやり取りではあるが、普段の自分達らしさに三人には笑みが零れていた。

 

「戻って来ただけでも良しとしましょう。一矢も」

「……修正される前に帰ってきました」

「良い心意気ね。それに……良い目もするようになったわ」

 

 カガミはそのまま視線をリミットブレイカーに移す。ミサ達が一矢に呼びかけた際、カガミの言葉も届いていたのだろう。一矢には珍しく軽口を言うと、カガミも通信越しとはいえ、一矢の瞳に宿る強さを見て、満足そうに鼻を鳴らす。

 

「──感動の対面を果たせたようで、何よりだ」

 

 頃合いを見てか、クロノからオープン回線による通信が聞こえる。そこには都市部の高層ビルの上に降り立つデクスマキナの姿が、

 

「話をする余裕は与えるんだな」

「当たり前だろう。私とてそこまで無粋ではないさ」

 

 先程のやり取りの中、クロノは攻撃をしようと思えば出来ただろう。だがそうはしなかったのだ。翔の指摘に何を可笑しなことをとばかりに鼻で笑う。

 

「──諸君、これが君達が望む最後の戦いだ」

 

 絶望を表すような暗雲が立込めるなか、デクスマキナは仰々しく両腕を広げて高らかに話し始める。それはまるで最終決戦を前にした勇者に言葉を投げかける魔王のように。

 

「私は今、非常に充実している。これ以上にない程……。嗚呼……胸の中で少年のように躍る高揚が抑えきれないよ」

 

 言葉通り、まさに少年のような無邪気な表情を浮かべながら話す。それはこれまでの行いからは考えられないほどのギャップを感じさせる。

 

「私は会社を立ち上げ、ヒットするゲームを作り上げて来た。しかしそれは全て万人に対してのみ……。私は満たされない。そう、何処に行こうと私は満たされなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 これまでの人生を振り返り、そしてその度に空虚な感情に襲われていた。それは何を行おうとこの器が満たされる事はなかったから。

 

「しかしネバーランドをきっかけに私が作ったウイルスの類は悉く倒されてしまった。君達がウイルスに挑むほど私にも張り合いと言うものが出て来たんだよ」

 

 その性分が負けず嫌いな部分でもあるのか、クロノはこれまでのウイルス騒動を楽しそうに語っている。

 

「故に私は持てる全てを……私自身の誇り(プライド)を今日と言う日に注ぎ込んだ。だから一つだけ言っておこう。今日と言う日がどのような結末を迎えても、私は満足するだろう。君達と同じく私は誇り(プライド)の全てをぶつけるのだからね」

 

 今まで何か他の事を考える余裕などなかった。高め合うような競争と言うものも知らない。だが皮肉にもネバーランドでのウイルス騒動から今日までの出来事は彼に火をつけてしまった。それは行いがどうであれ、人間としての生き方を知らなかった彼の人間らしい競争心を作り出すきっかけとなったのだ。

 

「……それはアンタの自己満足だろ。こっちは傍迷惑も良いところだ」

 

 そんなクロノの言葉を真正面から一矢が否定したのだ。

 

「確かに俺達は誇り(プライド)をぶつけ合う。だけどアンタはやり方を間違えた。それ以外の道を見出せなかった……。だからアンタは俺達とは違う。いくら誇り(プライド)をぶつけようが、アンタはどこまでも一人だよ」

 

 今日まで一矢は己の誇り(プライド)をぶつけてきた。それが今の彼の輪を形成した。しかしクロノは違う。彼の行いでは、いくら誇り(プライド)をぶつけようが最後まで彼は一人だろう。

 

「だから俺は俺の誇り(プライド)でアンタを否定する。アンタを肯定するわけにはいかない」

 

 クロノが魔王のように仰々しく語りかけてくるのであれば、それを正面切って反論する一矢は勇者だろうか。だがそれが頷けるほど、彼はとても勇ましく厳然としていた。

 

「クッ……フフッ……ハッハッ……! それで良い。ならば互いの誇り(プライド)をぶつけ合うことにしよう。ここで我々の明日は決まるのだからね」

 

 一矢の言葉に我慢しきれずに笑い始めたクロノは口角をつり上げると、立体コンソールを叩く。するとデクスマキナの両隣にデータがそれぞれ構築される。

 

「ここで出してくるか……」

 

 ──血濡れの如き深紅の復讐機……ネメシス。

 

 その機体を見て、自身の中で一つになった存在の機体と言う事もあり、翔は不快感から顔を顰める。

 

「チッ……随分と懐かしい顔だな」

 

 ──一人の少女を犠牲にして誕生した対エヴェイユ用の狂気の機体……ユーディキウム。

 

 その姿を見て、シュウジ達トライブレイカーズは表情を険しくさせ、ことさらレーアは憎しみさえ感じさせるほどの怒りを見せる。

 

「最後だ。相応しい相手が必要だろう」

 

 ネメシスもユーディキウムも三機のガンダムブレイカー達との戦いを想定して用意したもの。だが翔もシュウジ達も禁忌に等しい触れてはならぬ存在を出されて憤りを感じるなと言う方が無理な話であった。しかしクロノはそんな彼らの態度もただせせら笑い、更に背後にデータを構築させる。

 

「アドラステア……!?」

「いや違う……!」

 

 そこに現れたのはアドラステアであった。ミサが驚くのも束の間、アドラステアに起きた変化に一矢が気づく。アドラステア周辺に蛇腹状のどこか生物を思わせるようなガンダムヘッドが無数に出現し、アドラステアもその姿を見る見るうちに変えていく。

 

 ───英雄への復讐心から生まれた怨念の破壊者……デビルガンダムブレイカー。

 

「……どうやら俺はつくづくデビルガンダムに縁があるらしい」

「まさかこの世界で見る事になるとはな。悪趣味にも程があるぜ」

 

 現れた破壊者を見て、翔やシュウジは忌々しそうに視線を鋭くさせると、そのまま出現させたクロノを見やる。

 

「安心したまえ。君達に合わせただけだ。君達に応じたアップデートも済ませてある。ただの敵よりも気持ちが入ると言うものだろう」

 

 僚機であれば、それこそアップデートした強化ウイルスやアンチブレイカーでも良かった。しかしそうはせず、わざわざこのチョイスにしたのはクロノの言うように単に三機のガンダムブレイカーに因縁があるものを用意しただけだろう。

 

「翔、デビルガンダムは私達が引き受けるわ」

「ええ、言う通りにするのは癪ですが、特にアレは目障りです」

「だから御三方は目の前の敵に集中してください」

 

 するとレーアは翔にカガミとヴェルの三人でデビルガンダムブレイカーを引き受けることを提案する。カガミにとってもデビルガンダムブレイカーは因縁のある敵であるため、射貫くような鋭い視線を送るなか、ヴェルもデクスマキナ、ネメシス、ユーディキウムの三機への集中を促す。

 

「奴が言うようにこれで最後だ。行こう、誇り(プライド)をぶつけて、最高の明日を掴むために」

 

 デクスマキナに合わせるように中央に陣取った一矢は翔とシュウジに声をかけると、己の誇り(プライド)をぶつけるべくクロノとの最後の決戦に挑むのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Blow out

迷いも絶望も全てを希望に変える


 遂に切って落とされた最後の戦い。片や仲間達との素晴らしき明日を掴むため、片や満たされぬ自身の器を満たさんがため。互いに相容れる事のない想いを胸にただ己の中に宿る誇り(プライド)をぶつけて戦うのみ。誇りある者達の戦いは風を割き、地面を響かせ、地球を叫ばせるかのようだ。

 

 デビルガンダムブレイカーをレーア達が引きつけるなか、轟音が響き渡る苛烈極まる激闘が繰り広げられる。一刻たりとも張り詰めた緊張の糸を切る事はならぬ。その時はかの蜘蛛の糸のようにただ墜ちるのみ。栄光など掴めやしまい。

 

「どうした、その程度ではあるまいッ!」

 

 デクスマキナに食らいつくようにカレトヴルッフを振るうリミットブレイカー。しかしその大剣は鎌鼬の如し、天武の才に等しき技によって防がれ、それどころかリミットブレイカーに鋭い傷を与えんばかりだ。やがて幾度となく打ち付け合った刃は一瞬の隙をついたクロノによって勝敗が上がり、打払いと共にリミットブレイカーを容赦なく蹴り飛ばす。

 

「させるかッ!」

 

 そこにユーディキウムが二門のビームキャノンの砲口をリミットブレイカーに定める。いち早く気付いた翔はフィンファンネルでリミットブレイカーを囲むと、バリアを展開して追撃の手を防ぐ。

 

「バランスブレイカーには退場してもらいたいものだ!」

「ッ!?」

 

 そのままユーディキウムのビームキャノンを破壊しようとGNスナイパーライフルⅡを構えるブレイカーネクストだが、周囲に展開されたシールドピットがその行動を阻む。シールドピットから放たれたビームを最小限の動きで回避するが、その刹那、デクスマキナが突撃してくる。

 

 人間の種を超越した存在同士による戦いは更に発展していく。翔とて異世界から帰還を果たして、この瞬間程、全力を引き出しての戦いはなかっただろう。

 

「チィッ……干渉してくるか……ッ!」

 

 翔の瞳が虹色に変化しようとした瞬間、強烈なプレッシャーが脳に届く。それは紛れもなく新人類たるクロノによるものだろう。お陰で能力を発現が厳しいものになってしまっている。

 

「ウオォラァッ!!」

 

 戦闘が拮抗したと思われた時、周囲に突風が巻き起こる。見れば竜巻が発生しているではないか。その中心にいるのは他でもないバーニングゴッドブレイカーであった。シュウジの働きもあってデクスマキナもブレイカーネクストから距離を置く。

 

「なっ……!?」

 

 しかしシュウジは目を見開いて息を呑む。何とネメシスが輝きを纏って急接近してきたではないか。それだけならまだ良い。しかしネメシスが行ったのはビームナギナタに覚醒の輝きを込めた強烈な一撃であった。

 いかに轟々と唸りを上げる竜巻と言えど、耐えきれるものではなく容易く打ち消され、そのままバーニングゴッドブレイカーは覚醒の一撃を受け、近くの高層ビルに吹き飛んで、機体を沈めてしまう。

 

「覚醒……いや、エヴェイユの力まで再現したと言うのか……!」

「あくまで戦闘能力だけの話さ」

 

 一連の出来事を目の当たりにした翔は驚愕してしまう。あの輝きはガンプラバトルによる覚醒とは違う。それはあの機体がネメシスだからと言うのもあるだろう。だがどうやら翔の考えは当たっていたようで、それを答えながらデクスマキナは接近してくる。

 

 デクスマキナに対して迎え撃とうとするブレイカーネクスト。しかしその寸前にデクスマキナが装備するビームナギナタの先端部から禍々しい紫色の発光体が飛ばされる。

 

 一体、あれは何なのか。考えるよりも早く効果が発揮された。飛ばされた発光体はその規模を広げた瞬間、ブレイカーネクストは発光体が発する強烈な引力によって引き寄せられ始めたではないか。

 

「あれは……ッ!?」

 

 一矢にはその発光体に覚えがあった。それはかつての宇宙エレベーター漂流事件の際、初めてアンチブレイカーとの戦闘で自身も体験した事のあるものだ。しかし何ら不思議なことではない。そもそもアンチブレイカーの製作者はクロノだ。プロトタイプとも言えるアンチブレイカーの使用した攻撃プログラムをデクスマキナが行えたとして何ら不思議なことではあるまい。

 

 さしもの翔と言えど、僅かな隙が出来てしまったのだろう。デクスマキナから放たれたグレネードの直撃を受け、よろめいたところを全てのスラスターを稼働させた隕石に等しい急降下の脚部を受けて、地面に落下してしまう。

 

「……ッ!」

 

 シュウジのみならず、翔までが苦戦を強いられている。無論、この戦いは簡単に勝てるとは思ってはいない。しかしそれでも一矢にとって大きな存在である翔達のその姿は少なからず動揺を与える。

 

 だがしそれで気を取られるような真似はしない。だが今、ゲネシスブレイカーが戦闘を行っていたのは、ユーディキウム。対エヴェイユ用に一人の少女を犠牲にして生み出された悪魔の機体だ。

 

 その戦闘能力は例え再現されたデータと言えど、その力を遺憾なく発揮される。現にリミットブレイカーの攻撃は掠り傷程度に留めているのだ。加えてリミットブレイカーに匹敵するほどの機動力だ。光が尾を引く様な高速の戦闘を繰り広げても、生物である一矢にも限界はある。

 

 ほんの少し隙を見逃す事はなく、背部からガトリングを受けてよろめいたところを前方に回り込まれてしまう。仕掛けられるのは明白だ。すぐさまアンチビームシールドを展開するが、間近で胸部ビーム砲を受けてしまい、防ぎきる事は叶わず、そのまま押し切られる形で吹き飛ばされてしまう。

 

「さあどうだ」

 

 体勢を立て直してすぐさま反撃に出ようとするガンダムブレイカー達だが、その前に上昇したデクスマキナ達はありったけの射撃武装を地上のガンダムブレイカー達に放つ。

 爆炎が巻き起こり、建造物が倒壊するなか、ガンダムブレイカー達はその中に呑み込まれてしまう。その蹂躙の光景は見る者に絶望を与えるには十分すぎるほどだ。

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──まだだッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう強く叫んだのは優陽であった。

 

 激化する宇宙空間での戦闘で一人、ユグドラシルを相手に奮闘する優陽はけたましく鳴り響くアラートに叫ぶ。EXブレイカーはデクスマキナとの長時間の戦闘で既に大破寸前にまで追い込まれており、優陽の疲労もかなりのものだ。にも関わらずユグドラシルを相手に無茶な戦いをしている。自棄ではない。何故なら優陽の瞳は衰えがないからだ。

 

 その甲斐もあってユグドラシルの損傷もかなりのものとなっている。あと一押しと言ったところだろう。しかしユグドラシルがそれで戦闘を終わらすわけがない。まさに世界樹の名の如く放たれたビームは枝分かれして周辺の敵機体を追い詰めようとするのだ。

 

「今の僕は昔とは違うッ! 僕の希望が無くならない限り、倒されやしないッ!!」

 

 回避はする。しかしEXブレイカーは恐れ知らずかユグドラシルへ向かっていきながら回避しているのだ。今のEXブレイカーでは下手な一撃が命取りになりかねないと言うのに。それはまるで派手に動くことによって注意を自分に引くかのように。

 

「例え迷いや絶望が道を塞いだとしても──!!」

 

 ユグドラシルの圧倒的な火力とその性能はレイドボスの中でも群を抜いての絶望を見る者に与えている。それこそ絶望が形となったかのように。

 

「全てを希望に塗り替えて見せるッ!!」

 

 だが同時にそれに立ち向かうEXブレイカーも見る者に希望を与えているのだ。決して諦めない不屈の意志。それこそ今の優陽の武器だ。

 

「ハイメガキャノンッッ! いっけええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーえええええッッッッ!!」

 

 優陽の想いを表すようにEXブレイカーの莫大なエネルギーを額のメガコンデンサーによって凝縮させ、高密度のメガ粒子を解き放つ。どこまでも真っ直ぐにそして力強く伸びたハイメガキャノンはリフレクターバリアを張ったユグドラシルに直撃し拮抗する。

 

「守る……ッ! 絶対に守るんだッ! この希望をッ!!」

 

 クロノに言ったように立ち上がったファイター達やこの事件を解決しようとしている者達は優陽の希望なのだ。だからこそ誰一人として……そう、希望を失うつもりはない。

 

「ヘッ、アイツよくやってくれるじゃねえか!」

「流石、ガンダムブレイカーってことか」

「でもあの子ばかりに任せないよ!」

 

 膨大なエネルギーがこの宇宙空間に溢れている。押し寄せる絶望を押し留めるように拮抗しているEXブレイカーの姿に聖皇学園ガンプラチームが動く。バアルがツインバスターライフルを構え、G-リレーションPの豊富な武装と共に放ち、BD the.BLADE ASSAULTはアトミックバズーカが放たれる。

 

「人の意志があの場に集中して……。あの暖かさが持つ者達が……未来を創るのか」

「世界に人の心の光を……か。シャア、あの光を消させるわけにはいかないな」

「新しい時代を作るのは老人ではない……が、道を広げる事くらいは出来よう」

 

 アンチブレイカーを撃破しながらネオサザビーはユグドラシルと拮抗するEXブレイカーと優陽に手を貸すファイター達の姿を見つめる。

 ポツリとシャアの口から放たれた言葉に傍らによったHi‐νのアムロからの通信に微笑を浮かべると、Hi-νとネオサザビーもまたEXブレイカーのアシストをする為、ユグドラシルに攻撃を仕掛ける。

 

「絶対に引き下がらないッ! 僕にも意地や誇り(プライド)があるッ!」

 

 ファイター達がユグドラシルに攻撃を仕掛けるなか、EXブレイカーの機体はどんどんスパークを起こして各部が悲鳴を上げている。

 大破寸前のところにオーバーチャージおハイメガキャノンを使用したのだ。その負担は計りかねない。それでも優陽はただ前だけを見つめていた。

 

「僕だって……男なんだッ!」

 

 ハイメガキャノンに併せて両肩のビームランチャーを最大出力で放つ。遂にEXブレイカーの各部で小さな爆発が起こるなか、ふわりと優陽の想いを表すようにEXブレイカーが微かに光を纏う。やがて受けきれなくなったユグドラシルは貫かれて大爆発を起こす。

 

「……疲れたよね……? お疲れさま、そしてありがとう……EXブレイカー……」

 

 ユグドラシルの撃破で周囲が歓声を上げるなか、表情に疲労を滲ませながらも頬を紅潮させてEXブレイカーを労う。ここまで耐えてくれたEXブレイカーが何より愛おしかったのだ。

 

「……でも、もう少し付き合ってね」

 

 ユグドラシルがいなくなったからといってそれで終わるわけではない。周囲にはまだアンチブレイカーがいるのだ。既にリーナ達が合流して、戦闘を行っているのだ。

 

「諦めない限り戦う……。そうだよね、一矢?」

 

 シグマシスライフルを構えながら優陽はこの場にはいない一矢に尋ねると、主の想いに応えるようにEXブレイカーのツインアイが輝きを見せるのであった。

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 ───その瞬間、地上で三つの光の柱が出現した。

 

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 

 

 都市部で地上のガンダムブレイカー達に射撃の雨を見舞ったクロノは硝煙の中から出現した三つの光の柱に思わず眉を寄せて、反応する。

 

 

 

 

 

 ───人を越え、未知の可能性を示すような英雄の虹色の輝き

 

 

 

 ───遥かな覇道の先にある未来を掴むような覇王の黄金の輝き

 

 

 

 ───受け継ぎ強くなった想いを表すような新星の如し紅き輝き

 

 

 

 光の中心で輝きを纏う三機のガンダムブレイカーは最後まで諦めない想いを表すかのように彼らの放つ光の柱は空に広がる絶望の暗雲を貫くのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

刹那に全てを

 三機でデビルガンダムブレイカーと交戦するレーア達。かつては苦戦を強いられた相手とはいえ、あの頃とはレーア達も違う。いかにその中身がアップデートされて強化されようとも、それはレーア達とて同じこと。何より彼女達にはデビルガンダムブレイカーとの戦闘のみならず、これまで多くの戦場を経験していた。その彼女達が今更、ここで躓くことはしない。それがこのデータとして生み出されたデビルガンダムブレイカーとの圧倒的な差であった。

 

「あれは……っ」

 

 デビルガンダムブレイカーの弾幕を回避しながら、二つのハイビームライフルの後端部をバックパックのビームキャノンと連結させ、出力を向上させると、高出力ビームを発射してアドラステア部分の装甲を直撃して打ち破る。そのまま変形して、デビルガンダムブレイカーの反撃が来る前に離脱する最中、カガミは天を貫く光の柱を目撃する。

 

「全てを照らす輝き……」

 

 シャインストライクのオールレンジ攻撃によってデビルガンダムブレイカーの砲台を無力化していくなか、ヴェルもまたガンダムブレイカー達を知り、呟く。その光はまさに自身の心に光を灯すかのようだ。

 

「……ガンダムブレイカー」

 

 かつてアイランド・イフィッシュでデビルガンダムに囚われた時のことを思い出し、レーアは静かに呟く。何の光も届かぬ世界で自分を救い出してくれた機体の名を。忌まわしき過去を破壊し、輝かしい未来を創造してくれた存在の名を。

 

 ・・・

 

 光の柱の出現に気を取られていたクロノは一つの光の柱から尾を引いて一瞬にさえ錯覚してしまいそうな勢いで突撃してきた紅き閃光に反応が遅れ、体当たりを受けてしまう。それだけに留まらずそのままデクスマキナごと上昇していったのだ。

 

 すぐさまその後ろ姿をネメシスとユーディキウムが追撃しようと射撃兵装を向けた瞬間、ネメシスのビームライフルとユーディキウムのガトリングは背後からの早撃ちによって破壊されてしまう。

 

 ネメシスもユーディキウムも相手が誰だか分かっている。

 同時にそれを何とかせねば創造主を援護することも出来ないことも。しかしそれは決して容易なことではあるまい。故に全ての機能を使って、これを駆逐しなくてはいけない。まるで光の柱に対抗するかの如く二機は破壊を齎さんばかりの毒々しい赤き輝きを纏う。

 

「ハッ……上等だ。生温いやり方すんなら、速攻で片ァつけてやるところだぜ」

「いつまでも過去の産物であるお前達をこの世界に残すわけにはいかない」

 

 それぞれが戦闘能力として再現されたエヴェイユの光を纏ったその姿を見て、シュウジは臆することなく不敵に笑うなか、翔はその決意を表すかのような鋭い視線を向けると戦闘を再開する。

 

 ブレイカーネクストのフィンファンネルが周囲の高層ビルを巻き込んでの激しい弾幕が張られる。周囲に爆炎が立ち上るなか、硝煙を突破して現れたのは黄金に輝くアルティメットモードを発現させているバーニングゴッドブレイカーだった。

 

「流ゥゥウ星ィイイッッ螺旋ッ拳ンンッッ!!」

 

 その名の如く猛烈な勢いで放たれた唸る拳はネメシスに放たれ、咄嗟にネメシスはシールドで防ぐものの防ぐ事は叶わず、そのまま地面へと轟音を上げながら地を削って吹き飛んでいく。

 

「貴様は俺が引き受けよう。後輩が世話になった事があるようだからな」

 

 ユーディキウムに対しても鋭い射撃が放たれる。何とか回避に成功したユーディキウムは静かにそのカメラアイをブレイカーネクストに向けるとそこには虹色に輝く瞳でこちらを見据える英雄がいた。

 

 ・・・

 

「──ッ」

 

 地面を削りながら、そのまま更なる一撃を加え入れようとした時であった。不意にネメシスのモノアイが此方を見据えて輝く。その姿に胸騒ぎを感じ取ったシュウジだが、次の瞬間、背後から損傷を受ける。

 

 ファンネルによるものであった。その一瞬の隙にネメシスは腰部のヴェスバーを至近距離で発射してバーニングゴッドブレイカーを怯ませると、そのままビームトンファーを放ち、辛うじて回避したその脇腹を掠める。

 

「ハッ……データでしか知らねえが、アップデートっつーのもまんざら嘘じゃねえみたいだな」

 

 戦闘能力の向上だけでも厄介だと言うのに、かつての使用者の頃から性能まで強化されている。自分達に合わせてとクロノは言っていたが、これは確かに過去のモノだと無下には出来ない脅威だ。

 

「けどな……。それでも過去に負けるわけにはいかねぇな」

 

 かつての翔の言葉を思い出す。所詮、目の前の存在は過去のデータより生まれた影法師。であれば未来へ進み続ける自分が負ける理由がないのだ。

 

 しかし物言わぬネメシスは代わりにファンネルのオールレンジ攻撃を返す。目にも止まらぬ変則的な動きでバーニングゴッドブレイカーを囲んでビームを放つ。

 対してバーニングゴッドブレイカーはその場から動く気配を見せない。それは何故か? よもや諦めたとでも言うのか。

 

 否。断じて否。覇王たる者に諦めなどと言う言葉はない。

 ファイタータイプのコックピットで目を瞑っていたシュウジは開眼し、瞬時に二刀の刃を引き抜くとその刃を走らせて迫るビーム全てを弾くことで封殺し、それどころか弾いたビームでそのままファンネルを全て破壊したではないか。そのまま二つの刀を投擲すると、ネメシスは両腕のビームトンファーで弾きながら接近してくる。

 

 が、覇王を相手に接近戦を挑むなど間違いだ。

 

「ウオォラッ!」

 

 横薙ぎに振るわれたビームトンファーを跳び膝蹴りでいなすとそのままもう一方の突き出されたビームトンファーを手で払い、すぐさま鮮やかなボレーキックを見舞う。

 それをまともに頭部に受けたネメシスは大きくその機体を揺らめかしてしまい、そのまま腹部に浴びせた掌底打ちによってネメシスの機体は宙に打ち上げられる。

 

「聖拳突きィイッッ!」

 

 吹き飛ぶネメシスがヴェスバーを放つなか、損傷を厭わず、正面からただ真っ直ぐにネメシスを突き抜く。その一撃のみならず衝撃によってネメシスは遥か彼方に吹き飛んでいく。

 

 ・・・

 

「撃ち合いで勝てると思わないことだな」

 

 ブレイカーネクストとユーディキウムの戦闘は激しい射撃の応酬が繰り広げられていた。しかし損傷の少ないブレイカーネクストに対してユーディキウムは半数の射撃兵装を失っており、ブレイカーネクストが優勢であることはすぐに見て取れた。

 

「射撃が駄目なら接近戦で……悪くはないが……」

 

 だがユーディキウムはまるで対エヴェイユの兵器としての役割を果たさんばかりに大型ビームサーベルを引き抜いてその巨体からは想像できない速度で一瞬にして間合いを詰めて襲いかかってくる。それに対して翔は動じることなく静かに目を閉じている。

 

「見誤ったな」

 

 翔が再び目を開いた時にはその瞳の色は紫色に変化しているのだ。同時にブレイカーネクストはビームサーベルを引き抜き、大型ビームサーベルを持つ関節を瞬きよりも早く切断し、そのままレールガンを交えて嵐のような剣撃を与える。

 

「今の俺の強さは俺だけのモノではない」

 

 すると今度は翡翠色に瞳の色が変化したではないか。すると損傷を与えた胸部にビームサーベルを突き刺すと、そのまま蹴り飛ばし、更にそこにシールドに備わっているビームブーメランを投擲して、ライフルでそのビーム刃を撃つことによってエネルギー波を拡散させ動きを封じるとツインドッズキャノンを浴びせる。

 

「戦闘で俺達に勝てると思うな」

 

 紫色と翡翠色のオッドアイに変化すると、そのまま全てが混ざり合うように虹色に輝く。ツインアイを輝かせたブレイカーネクストはフィンファンネルを射出させ、まるで一つ一つが意思を持っているかのように全てが効果的な位置にビームを浴びせていき、その隙間から狙撃による一筋の光がユーディキウムを貫く。

 

「翔さん、あいつらは俺達の手で葬ってやろうぜ」

「……そうだな。再び眠らせよう」

 

 すると後方から体勢を崩したネメシスが通り過ぎていく。同時にシュウジからの通信が入り、ブレイカーネクストの隣にバーニングゴッドブレイカーが並ぶ。

 シュウジの言葉に翔はモニターに映る二機をどこか哀れみながらもう一つのビームサーベルを引き抜く。

 

「……行くぜ、みんな」

 

 シュウジは己の腕を立て構え、その甲にking of heartの紋章を輝かせる。

 同時に悪夢の世界に囚われていた時と同じように自身の周囲をシャッフル同盟の紋章が浮かび上がり自身を囲む。今なお、シャッフル同盟は自身の傍にいてくれているのだ。

 

「極ッ限ッ!! シャッフル同盟ィィィィィィィッッッ!!!!!」

 

 黄金に輝くバーニングゴッドブレイカーの廃部から炎のような粒子が溢れて頂点で日輪を結ぶ。意識を集中させるシュウジの手の甲にシャッフルの紋章が重なっていく。

 

「石破ッ天驚ォォォオオッ!!! ブロオオォォォォォォォオオクゥウンッッッフィンガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーァアアッッ!!!!!!」

 

 唸りを上げて、バーニングゴッドブレイカーからまさに極限の一撃が放たれ、ネメシスとユーディキウムを拘束すると、そのままデビルガンダムブレイカーの方まで吹き飛んでいく。

 

「手向けに受け取れ」

 

 ブレイカーネクストが天に突き出したビームサーベルが空をも貫かんばかりの巨大な光の刃へと変貌する。それはかつて過去の怨恨を断ち切った浄化の刃。

 ブレイカーネクストから振り下ろされた刃はそのままネメシス達のみならず背後のデビルガンダムブレイカーをも断ち切る。

 

 デビルガンダムブレイカーからしてみれば、あのような規則外の一撃は予想外も良いところだろう。まるで錯乱したかのように周囲に自身の全ての武装をまき散らし、周囲のシャインストライク達へ被害を齎そうとする。

 

「させるかよ……ッ!! ヒイイイィィィィィーーーーートォオオッッッエンドォオッ!!!」

 

 だがそれを見過ごすシュウジではない。ネメシス達を拘束した極限の技はそのままデビルガンダムブレイカーをも掴み、そのまま大爆発を起こす。

 

「俺の嫁に手を出そうなんざ御仏が許しても俺が許さん」

「……お暑いことで」

 

 崩壊していくデビルガンダムブレイカーを見ながら静かに呟くシュウジに翔は惚れっ気を聞かされたように苦笑してしまう。

 

「とはいえ……本当に強くなったな、シュウジ」

 

 彼の半人前だった頃を知っている分、覇王としての力量を身に着けた彼を称賛する。するとシュウジは面食らったように驚くものの、やがて照れ臭そうな笑みを見せる。

 

「知っていたけど、本当に規格外ね……」

「そんな嫁だなんてそんなぁっ」

「……ヴェルさんが幸せそうで何よりです」

 

 そんな二人のやり取りを傍から見ながら先程の光景に何か言うどころか言葉を失ったレーアは表情を引き攣らせると、ヴェルはとろけそうに頬を抑えるように両頬に手を添えながら身をくねらせている。士官学校からの長年の付き合いである彼女のそんな姿にカガミは頭痛を感じながらため息交じりに呟くのであった。

 

「さて、後は一矢君と奴だけだが……」

「きっとアイツはアイツでケリをつけますよ」

 

 翔は飛んで行った一矢の事を想う。今なおきっとクロノと戦っていることだろう。だがシュウジは一矢への信頼を感じさせるような笑みを浮かべながら暗雲の中に晴れ間が見え始めた空を見上げるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もうひとつの未来

 覚醒の輝きを纏い、デクスマキナに体当たりをぶつけたリミットブレイカーはそのまま都市部から離れて、空へ上昇していく。しかしいくら光の柱に気を取られていたとはいえ、いつまでもリミットブレイカーの好きにさせるつもりはないのだろう。覚醒に対抗するように己の能力を使用し、デクスマキナを通して、その力は揺らめく白い光のオーラとしてデクスマキナに纏われる。

 

 同時にリミットブレイカーはすぐに払われてしまうが一矢はすぐさま切り返す。此方に対して横振りに振るわれたビームナギナタを上段から振り下ろしたカレトヴルッフで対抗する。

 

 甲高い音と共に鍔迫り合いが発生する。互いに一歩も引かぬ状況だ。ただ後ずさりする事なく前に出ようと二機はスラスターを全稼働させ、目の前の障害を押し退けようとする。

 

 まさに力と意地が拮抗しているのだ。だがただ力押しだけが全てではない。リミットブレイカーはスーパードラグーンを解き放ち、四方からの攻撃を仕掛ける。するとデクスマキナはすぐさま回避に切り替えて、後方へ引くとシールドピットを展開して、スーパードラグーンによるオールレンジ攻撃を少ない動きで最大限の防御を発揮して防ぐ。

 

「一矢、来るよッ!」

 

 それだけではなかった。デクスマキナは自身の周囲に二つのスフィアを出現させると、まるでピット兵器のように連射性のビームを放ってきたのだ。ミサによる注意が促されるなか、リミットブレイカーはCファンネルを展開して横並びに展開してシールドをすると攻撃を防ぎながらデクスマキナへ向かっていく。

 

「かつての君からは想像が出来ないな」

「……そうだな。昔の俺ならきっとこんな風に戦っちゃいない」

 

 再びカレトヴルッフとビームナギナタがぶつかり合い、クロノはかつて自分が破ったことのある一矢を振り返る。聖皇学園ガンプラチームに所属していた一矢はその重圧から自分も周囲も見えず、ただ楽になりたいと考えていた。

 

「だからこそ俺はアンタを乗り越える……! もう昔の俺じゃない、あの時、アンタに負けた俺じゃないッ!」

 

 しかし今の一矢は違う。今の一矢は例えどれだけ傷つこうとそれでも前へ、未来へ進もうとしているのだ。傷を負ったとしてもその傷もきっと無駄にはならない、自分を強くしてくれると信じているから。

 

「良く言った! それでこそ君を選んだ甲斐があるッ!!」

 

 胸の中に溢れんばかりの激情を吐き出すように叫ぶ一矢にクロノも口角をつり上げ、彼の言葉を称賛するとリミットブレイカーとデクスマキナの剣戟はより激しいモノへと発展していく。

 

「君は私に敗れてから、もう一度立ち上がった! そこから君は多くの出会いと経験を積み、それらを無駄にする事なく全てを吸収していった! まさに君はゲームの主人公のように成長していったのだ!!」

 

 一矢はジャパンカップでのクロノに敗北したことをきっかけに挫折と共にチームを抜けた。だが彼はそこで終わらなかった。ミサに出会い、カドマツと知り合い、ロボ太と触れ合い、そこから多くの出会いを経験して、それら全てが彼の中で糧として彼を強くしていった。

 

「私はそういう人間が好きだ! 完成されている者ではつまらない! 未熟ながらも、より多くの可能性を感じさせる主人公(キミ)を選んだァアッ!」

 

 完璧、もしくは完成されている存在。そう信じて、破滅へと進んだ新人類を知るクロノはそんな存在に魅力を感じなかった。故に彼は今の翔やシュウジには一矢ほどの関心を見せなかった。

 

 クロノが一矢を改めて知ったのは、ネバーランドがきっかけであろう。

 その時は自分がかつて破った相手がウイルスと戦っている事に何気なく知ったのだが、そこからの彼の活躍は目覚ましく、ジャパンカップ、ワールドカップ、そしてウイルス騒動と破竹の勢いで彼はかつての自分よりも高みに昇っていったのだ。

 

 純粋に興味が湧いた。彼は一体、どこまで行けるのかと。それが一矢への関心の始まりだ。そして一矢はクロノの予想を上回るほどの成長を果たしたのだ。多くの者達に出会い、ぶつかり合い、成長する……。クロノにとって一矢ほど主人公という言葉が当てはまる存在はいなかったのだ。

 

「だから見せてくれッ! 今の君をッ! 今の君が抱く誇り(プライド)を私にぶつけてくれッ!」

 

 いつしか一矢の成長にも楽しみを見出してしまった。一矢がどれだけ強くなるのかと。張り合うにもただ強いだけの存在では自分は満たされない。今もこうしてぶつかり合うなかで成長する存在だからこそ自分は満たされる。

 

 そう、皮肉にも一矢が戦えば戦うほど、クロノは満たされる。今もなお、彼は少年のように高揚する鼓動を抑えきれず、その声色を弾ませているのだ。

 

 彼は今、心から楽しんでいる。心から充実している。負の感情の中で育ち、尊い感情など知らなかった彼はこの瞬間、誰よりも満たされようとしているのだ。

 

「クッ……奴の方が上手か……ッ!」

 

 ビームナギナタの連結を解除して、二基のビームアックスによる猛攻を繰り出してくるデクスマキナの勢いは今のクロノを表すかのように激しく強く、カレトヴルッフで何とか防いでいるもののオールレンジ攻撃さえも圧し負けてしまっている状況だ。

 

 加えて今のデクスマキナは新人類たるクロノの能力を得て、その性能を底上げしているのだ。覚醒のみで対抗している一矢は劣勢を強いられ、やがては乱舞の如き剣技に圧倒されて、損傷を増やしてしまっている。

 

「まだだ! 私はまだ満足してはいない! まだ満たされてはいないッ!!」

 

 コックピットの中で危険を知らせるアラートが耳に痛い程に鳴り響く。しかしそれで終わるわけがなく、デクスマキナの輝きを力に変えたように肥大化したビームアックスの二つの刃が振り下ろされる。

 咄嗟にアンチビームシールドで防ごうとするリミットブレイカーだが、防ぎきるには負担が大きすぎる。忽ち耐え切れず左腕が破壊されてしまう。

 

(まだ……奴には届かないのか……ッ!? 俺は……まだ……ッ!)

 

 落下していくリミットブレイカーにビームライフルの銃口が向けられ、その銃口が三つに分身すると膨大な熱量を持つビームが勢いよく放たれる。

 咄嗟にCファンネルを呼び戻して自身の周囲にビームバリアとして展開するも、加えて放たれたスフィアとシールドピットの連射によってバリアも耐えきれず、リミットブレイカーは突き刺すような銃撃を受けて各部が損傷するなか、ツインアイの片側も破壊され、内部のカメラアイが露出してしまっている。

 

 機体の耐久値が瞬く間に減少していく中、一矢は表情を悔しさと苦みで歪ませる。まさに手も足も出ない状況だ。そしてそれはかつてジャパンカップでクロノに敗れた時もそうであった。

 

 あの頃との自分とは違う。そう思っているし、その認識は今でも間違っているとは思ってはいない。だが現実では本気になったクロノに太刀打ち出来てはいないのだ。

 

「クソッ……!!」

 

 悔しさで操縦桿を握る腕が震え、視界も滲む。どんどんデクスマキナとの距離は離され、それが自分とクロノの差を見せつけられているようで悔しかったのだ。だがいかに距離を縮めようとも攻撃を防ぐことだけで一矢にはどうにも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───大丈夫だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと握っている操縦桿が震える一矢の腕にそっと横から手を添えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一矢が言ってた通り、あの人はどこまでも一人だよ。でも一矢は違うよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俯いた顔をあげれば、そこには陽だまりのような優しい笑みを向けてくれるミサの笑顔が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一矢は一人じゃない。私だけじゃない。ここにいなくたって一矢の中には皆がいる筈だよ。だから──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロノが言うように一矢は多くの出会いをして、多くの経験を積んだ。例え今は傍にいなくとも、それは全て自分の中に活き続けているのだ。その言葉に一矢は自然と目を瞑り、これまでの多くの出会いを振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雨宮一矢、アナタは必ず前に進める。それはアナタ自身の為に、何よりアナタの事を見ている存在の為に』

 

 

 

 

 

 

 

 出会えた人が───

 

 

 

 

 

 

『君の強さは大切な仲間の存在によって発揮される。自分から仲間の存在を失った僕にはない……。でも君は僕に手を取りあって戦うことは弱さじゃないって教えてくれたんだ』

 

 

 

 

 

 

 与えてくれた───

 

 

 

 

 

 

『バトンタッチさ。俺達が残したものをお前達の未来に繋げてくれ』

 

 

 

 

 

 

 全てを───

 

 

 

 

 

 

『想いや魂はまた違う誰かに受け継がれていく。迷った時は思い出せ、自分に強さを与えてくれた人達のことを』

 

 

 

 

 

 

 勇気(チカラ)に───

 

 

 

 

 

 

 

【君達が諦めない限り、未来は望むがまま君達だけの輝かしい今に繋がっていくのだから】

 

 

 

 

 

 

 ───変えて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行こう、一矢ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リミットブレイカーのツインアイに光が灯り、次の瞬間、リミットブレイカーの輝きは更に強いものになって、クロノの視界を覆うほどへとなっていく。

 

 視界が回復した瞬間、シールドピットを破壊され、そのままデクスマキナ自身にも損傷を受ける。一瞬の出来事であった。クロノは急いでリミットブレイカーの姿を探してようやく見つける。

 

 あまりに速く、それこそ肉眼で追い続けられるのかといったレベルにまで加速するリミットブレイカーに狙いを定めて、引き金を引く。次の瞬間、リミットブレイカーに直撃した。

 

「バカな……ッ!?」

 

 ──筈だった。リミットブレイカーは以前として健在だったのだ。流石のクロノもあまりの出来事に面食らう。一体、リミットブレイカーがなにが起きているのか、目を凝らしてその姿を見つめる。

 

 そこには二重の輝きを纏ったリミットブレイカーがおり、その周囲にはアザレアの花びらのような覚醒の粉塵が常に周囲を巡って干渉を防いでいるのだ。

 

「「常識を壊し、非常識に戦うッ!!」」

 

 一矢とミサの声が重なる。今まさにリミットブレイカーは一矢とミサの覚醒の全てが重なり、更なる力を、この二人だけにしか出来ない覚醒を発現させたのだ。片方が露出したカメラアイが光るツインアイはさながらオッドアイのようだ。

 

誇り(プライド)をぶつけて───!」

「───いざ夢の舞台(未来)へ!!」

 

 重なった一矢とミサの手によってジョイスティックを前に倒される。するとリミットブレイカーは主とその想い人の想いに全力で応えるように駆動音を響かせて、デクスマキナへ向かっていく。

 

「なんだ、あの力は……ッ! ?えぇいッ!!」

 

 型破りにもほどがある。ただの覚醒では成し得ないその力に動揺するものの、デクスマキナはすぐにスフィアと銃口を分身させた一斉発射でこれを駆逐しようとする。しかしリミットブレイカーを覆う力の前では容易く防がれてしまう。

 

「ならばッ!!」

 

 せめてその動きを止めようとブレイカーネクストにも放った発光体を出現させて、リミットブレイカーに差し向ける。だがリミットブレイカーは決して臆することなく真っ直ぐデクスマキナへ向かっていく。

 

「───っ!?」

 

 次の瞬間、発光体はカレトヴルッフの一振りよって放たれた光の刃によって切断され、消滅したのだ。それだけではない。その光の刃はまるで彗星の如くデクスマキナへ突き進んでいき、損傷を与える。

 

 

 ───騎士ガンダム彗星剣

 

 

 それが今、リミットブレイカーが放った剣技だ。

 

 

 ・・・

 

「そうだ! お前さんは一人じゃない! 近くに居なくたってお前さんの中にも“アイツ”はいるッ!!」

 

 運営側で騎士ガンダム彗星剣を放ったリミットブレイカーにカドマツは強く叫ぶ。

 

「ずっと一緒にいた! ずっと一緒に戦って来た! だからこそその力をお前さんは今、使いこなせるはずだ!」

 

 このイベントの前に一矢はカドマツに頼んだ事柄。それは未来を切り開いてくれたかけがえのない“トモダチ”の力と共に戦う為に、彼に協力を仰いだのだ。

 

 ・・・

 

 騎士ガンダム彗星剣を受けて、デクスマキナがよろめいたところに一気にリミットブレイカーが間合いを詰める。デクスマキナは瞬時にビームアックスを連結させてビームナギナタで対抗しようとすると、カレトヴルッフの刀身に紅蓮の炎は宿る。

 

「お前はロボ太を愚かだって言ってたな……ッ!」

 

 ───炎の剣

 

 悪を滅ぼさんばかりに轟々と燃え上がる刃は振り下ろされたビームナギナタを容易く破壊する。クロノが驚愕と動揺で目を見開くなか、一矢は鋭い視線を向ける。

 

「アイツは愚かなんかじゃないッ! アイツは誰よりも温かくて強くて……何よりも未来を大切にする奴だッ!」

 

 ───トルネードスパーク

 

 天に突き立てられたカレトヴルッフから雷の嵐を巻き起こして、デクスマキナの装甲を削りながら上空へ舞上げる。

 

「この力は……証明であり繋がりであり……アイツとの日々が無駄じゃなかったっていう証だッ!!」

 

 ───閃光斬

 

 その身を黄金の竜に変えたような一撃は咆哮を上げるかのように唸りを上げて風を切り、デクスマキナに直撃して遥か上空、暗雲の先へまで押し上げる。

 

「グッ……なにか……なにかウイルスコマンドを……ッ!」

 

 成層圏にまで押し上げると次の攻撃の為か、リミットブレイカーはデクスマキナの前から忽然と姿を消す。なにを企んでいるかは分からないが、今のうちに手を打たなくてはいけない。クロノは立体コンソールを操作しようとするが……。

 

「なに……ッ!?」

 

 いくらコンソールを操作しようと反応しないのだ。唖然としているクロノに通信が入る。

 

≪残念だったな。戦ってたのは俺達も同じなんだよッ!≫

 

 相手はカドマツであった。唖然としているクロノにカドマツはしてやったりとばかりに笑みを浮かべる。カドマツ達エンジニアは一矢達を救い出した後もずっと変わらず、奮闘を続けていた。それが漸く成果になったのだろう。

 

「──これで終わりだよ」

 

 それは少なからずクロノに大きな動揺を与えている事だろう。そんなクロノに外部スピーカーを通じて、ミサから声をかけられる。そのまま顔を上げれば、太陽を背に此方を見下ろしているリミットブレイカーが。

 

「誰一人も諦めなかった。例え一人一人の力が弱くても、それが集まればどんな大きな壁にだって乗り越えられる。その先にはきっとこんな空が広がっているんだ」

 

 どれほどの絶望がこのフィールドを満たしていたのだろう。しかし、それは決して抗えないものではない。現に今、一矢達は絶望を越えたその先にいるのだ。

 

「俺達が(のぞ)む空にアンタはいない。これがアンタが持てなかった力だッ!!」

 

 再びリミットブレイカーのコックピットで一矢とミサの手が操縦桿に重なり、天に突き出したカレトヴルッフは覚醒の力を形にしたように巨大な光の刃に変え、その周囲を覚醒の花びらが渦巻いている。

 

「「いっけえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーええっっっ!!!!!!!!!!!」」

 

 二人の声が重なり、刃が振り下ろされた。

 デクスマキナは何とか逃れようと背を向けて、逃げ出そうとするのだが───。

 

「なっ──!?」

 

 バーニアに異変が起こり、爆発を起こす。それはリミットブレイカーが与えたものではない。

 

 優陽達だ。一矢達が救い出される前にはミサや優陽達がずっとクロノと戦っていた。それら全てが蓄積されて、ガタが来たのだろう。彼が有象無象と眼中に入れなかった者達の力は決して無駄なものではなかったのだ。

 

 そして次の瞬間、光の刃は遂に絶望をまき散らすウイルスを飲み込み、この連鎖を断ち切るのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

温もりが全てを満たして

 リミットブレイカーがデクスマキナを破ったのと同時刻、バトルフィールドで変化は起きていた。何と先程まで猛威を振るっていたアンチブレイカー達が自壊を始め、胞子のように消え始めたではないか。

 

「やったんだね、一矢……」

 

 その光景を目にして、戦いの終わりを感じ取った優陽はもう僅かにも動かぬEXブレイカーのコックピットの中で微笑むのであった。

 

 ・・・

 

「シミュレーターは包囲してあります! 抵抗はしないように!」

 

 一台のガンプラバトルシミュレーターVRの前には通報によって駆け付けた多くの警察官が包囲しており、スピーカーを通じて、中にいるクロノに呼びかけながら、ロックが解除されたシミュレーターの扉を開ける。

 

「黒野リアムだな。電子計算機損壊等業務妨害罪で逮捕する」

 

 薄暗いシミュレーターの中でクロノは静かに座り込んでおり、少なくともその姿からは抵抗を示すとは考えられないが、警察官達は警戒を強めながら彼に手錠を向ける。

 

「これが……私のエンディングという訳か……。クッ……ハハッ……まあ……それもアリか……」

 

 ガシャリと嵌められた手錠の鈍い輝きを見ながら、クロノはただ愉快愉快とばかりに笑みを浮かべていると、そのまま警察官によって引き立てられ、そのまま連行されようとしていた。

 

「おっと」

 

 クロノに抵抗する素振りは全くない。彼は一矢達に戦う前に言っていた。“今日と言う日がどのような結末を迎えても、満足するだろう”、と……。事実、彼はこのような結果に終わったとしても、見苦しく抵抗しなかったのだ。

 会場の外に置いてあるであろうパトカーに向かって、警察官達によって引き連れられているなか、ここで初めてクロノが逆らうように足を止める。足を止めた先、そこにいたのは一矢達であった。

 

「素晴らしかったよ。よもやあれほどの力を手に入れていたとは」

 

 決して友好的ではない視線が向けられるなか、そんなもの全く気にしない様子でクロノは一矢に声をかける。実際、彼がここまで、それこそあれほど圧倒的な力を見せるとは思ってもいなかったからだ。

 

「勝算は私にもあった筈だがね。満更、君が言っていた言葉も嘘ではないらしい」

「……アンタのウイルスには身を竦む絶望にも最後まで抗おうとする意志がない。それが俺達とアンタの戦力の差であり、大きな違いだ」

 

 アンチブレイカーの大群など例えどれだけ世界中のファイター達が集まったとしても勝てるであろうという勝算があった。だが現実ではクロノは敗れたのだ。

 

 一矢は言っていた。一人一人の力が弱くても、それが集まればどんな大きな壁にだって乗り越えられる、と。それが結果として現れたのだ。これは一矢達ガンダムブレイカーが齎した勝利ではない。どれだけの不条理、絶望に抗おうと諦めなかった者達の勝利なのだ。

 

「敗れたが、何れコンテニューさせてもらいたいものだな」

「こんなクソゲー、二度と御免だ」

 

 一矢の言葉に納得したようにクロノは今なお軽口を叩くが一矢から間髪入れずに即答で返されてしまい、そうだろうな、と一矢の反応に面白そうにくつくつと笑っているとそのまま視線をシュウジに移す。

 

「勝った褒美に少し攻略情報を教えてあげよう」

「あ?」

「近いうちに君達に訪れる危機についての、だ」

 

 攻略情報と言っても、一体何なのかと眉を潜めるシュウジにぼかした物言いであるもの彼にとってすぐに分かる言葉に予想通り、シュウジは強く反応する。

 

「君達の世界に居る私のかつての同胞を探す事だ。それが君達への希望となるだろう。なにせ彼らもこの問題は無視できないだろうからね」

 

 新人類として生まれたクロノは地球へ帰還する一部の新人類たちの中にいた。彼らはどれだけ世界が荒れ果てようと、それでも地球にいれればと戦争のある世界を受け入れた。だが、かつては自分達と同じ道を歩んでいた者達が再び地球を、武力を持って迫ろうとしているのであれば決して無視できない問題であろう。

 

「“ホワイトドール”のご加護のもとに」

 

 後はどうするかは君達だとばかりに意味深な笑みを向けたクロノは最後にそう言い残して、警察官達に連行されていく。クロノの先程の言葉がシュウジの頭の中に残るなか……。

 

「──やったね、一矢!!」

 

 すると横から弾んだ声と共に一矢の短い悲鳴が聞こえる。視線を向けて見れば、そこには一矢の首元に勢いよく抱き着いたのであろう優陽と予期せぬその行動に受け身をとれずに倒れてしまっている一矢だった。

 

「ったくお前も手間かけさせやがってよー」

「ご無事で何よりです」

「ああ。それに良いものが見れた」

 

 するとシュウジにもシャッフル同盟の面々が歩み寄って来ていた。からかうように笑いながら手で軽く払うようにシュウジの胸板を叩くクレア、そしてただ純粋に無事であるシュウジを見て喜ぶアレクと先程のバトルにドリィも感銘を受けていた。

 

「行く先々で波乱な目に遭ってるねぇ、シュウジは」

「まあな。でも悪い事ばっかじゃねえよ」

 

 サクヤもまた弟の勝利を喜びながらも、それを素直に言う事はなく彼らしく声をかける。シュウジもシュウジでそのことは分かっているのか、遠回しな兄の想いと自身の傍らにいる仲間達を感じて笑みを浮かべている。

 

「まっ、そうだろうね」

 

 するとサクヤはそのままシュウジの傍らに寄り添っているヴェルに視線を移す。もはや当たり前のように体を寄せ合っている二人の姿を見て、ニヤニヤした笑みを見せていた。

 

「うちの弟にこんなに綺麗な女性が連れ添ってくれるなら、兄としても鼻が高いね」

「えっ!? あ、あ、あぁの! ふ、不束者ではありますが、よろしくお願いします、お義兄さん……っ!?」

 

 以前、元の世界のショウマの自宅で再会した時のシュウジは浮いた話などなく、その事を指摘すれば口を尖らせていたのだが、よもやちゃんと相手を見つける事が出来たとは喜ばしいことだ。

 ヴェルを見て、うんうんと満足そうに頷いているサクヤは顔を真っ赤に染めて勢い良く頭を下げるヴェルの姿に結構結構と心底愉快そうに笑いながらシュウジを見る。

 

「今度、馴れ初めを聞かせてよ。なんだったらアドバイスするよ、ほら夜とか」

「よしクソ兄貴、ルルトゥルフでの借りを返してやるよ」

 

 そのままシュウジをからかうようにそっと耳打ちする。もっともその言葉に青筋を浮かべたシュウジは拳を鳴らすわけだが、その反応すらサクヤにとっては面白いのか、ずっと笑いっぱなしだ。

 

「成る程……。挨拶か……。翔さん、風香ちゃんに御両親を紹介して!!」

「あっ、これはダメな流れだ」

 

 そんなシュウジ達のやり取りを見ていた風香は合点がいったように翔に迫ると、その言葉に何か感じ取った翔は遠い目をする。

 

「お義父様達には私から言っておきます。ので、紹介するのは私だけで十分です。カガミ・ヒイラギ、これより外堀を埋めます」

「カガミさん、気が早すぎます! で、でも私も翔君の御両親は気になったり……」

「ふふんっ、実は私、もう翔さんの御両親を知っているんですっ!」

 

 そして翔の予想通り、スッと翔の傍らに立ったカガミが風香を制する。よもや普段、クールな彼女からそのような言葉が出てくるとは思っていなかったルルはすかさずツッコむが、それはそれで気になるのか、翔をチラチラ見ており、あやこに至ってはガンダムブレイカー隊の付き合いもあってか、アドバンテージがあると胸を張っている。

 

「あー……その……まずはご両親に連絡をするべきではないかしら? アナタがイベントに参加しているのであれば、心配はしてるでしょうし……。ほら、休憩所の方であれば静かな筈よ」

「そうだな……。取りあえず、そうする……」

 

 あれだけのバトルをして、これだけの事が出来る風香達に引き攣った笑みを浮かべながらひとまず翔にも休息を与えようと両親への電話を促すとこの一瞬の間にバトルよりも疲れた翔はトボトボとこの場を後にするのであった。

 

「……やっろ帰って来れたんだな」

 

 そんないつもと変わらないやり取りを目にしながら、一矢は一人、呟く。結果が違えば、この賑やかさもなかっただろうし自分も尾を引いたままだろう。これは考えうる最高の結果だ。あの理想郷が見せた世界もこの空間の温かさには決して足元にも及ばない。

 

「ちょっ、一矢!?」

「VRも良いけど、やっぱりミサは本物が良い……」

 

 すると一矢は突然、傍らにいたミサに倒れ込むように抱きしめる。咄嗟のことで驚いたが、何とか一矢を受け止めながらミサは一矢の行動に驚く。だが当の一矢はミサから感じる温もりに心底、幸せそうに噛み締めている様子だ。

 

「ただいま」

「……うん、おかえり」

 

 そんな一矢の言葉に驚いていたミサも愛おしそうな表情で一矢の背中に手を回す。

 あのバトルは非常に苦しかった。だがその分、この温もりが愛おしい。やっと全てが終わったのを感じ取りながら二人は温かな言葉を交わす。そんな人目も憚らない二人は次の瞬間、波のように押し寄せた彼らの友人達に揉みくちゃにされるのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰よりも大切なヒト

「……あんなことがあったのに、もう帰っちゃうんだね」

 

 クロノが引き起こした新型ガンプラバトルシミュレーターVRの一件から翌日。夕香や裕喜達は人の行き交いが激しい空港にいた。

 

「仕方ありませんわ。元々、その予定なのですから」

 

 夕香達と向かい側に対峙しているのはシオンだった。彼女の傍らにはキャリーケースが置かれており、その中身は全て彼女の私物だ。ホームステイを終えたシオンは帰国の日を迎えたのだ。

 

「向こうに戻っても、連絡は忘れないでね!」

「ええ、それは勿論。裕喜こそ忘れないでくださいましね」

「うん! それこそ毎日連絡するよ!!」

 

 別れを迎え、精一杯シオンを送り出そうと活発で晴やかな笑顔を見せる裕喜にシオンも釣られるようにして微笑みながら裕喜へ言葉を投げかける。その言葉に元々言われずともするつもりだったのか、裕喜は任せてとばかりに強く頷く。

 

「……」

 

 和やかに話している裕喜に対して、夕香は彼女自身、無意識なのだろう。どことなく暗い表情を浮かべている。それはやはりシオンの帰国があるからだろう。

 

「──シオン、そろそろ行くよ」

 

 たが時間は無情に過ぎていく。別れの挨拶をしているシオンに同じく帰国しようとしていたセレナが遠巻きで声をかける。彼女の近くにはアルマやモニカがおり、ガルトもいるのだがセレナの荷物持ちをさせられてしまっている。

 

「それではわたくしはもう行きますわ」

 

 セレナに振り返って返事をしながらシオンは改めて夕香達に向き合いながらキャリーケースのハンドルを掴む。その姿にハッとした夕香は何か言葉をかけようとするのだが、その言葉が中々出て来ない。

 

「シオンっ」

 

 ならばせめてと彼女の名前を口にする。どこか必死にシオンの名を口にした彼女の姿を裕喜が微笑んで見守るなか、名を呼ばれたシオンは夕香に顔を向ける。

 

「ごめん、いっぱい言いたい事があったのに……言葉が出てこない……」

 

 今日と言う日に後悔しない為に多くの言葉を用意して、彼女を送り出そうと思っていた。しかしいざその時を迎えると、言葉が出てこなかったのだ。

 

「でもね、シオンに会えて本当に良かった。シオンだけじゃない。セレナさんやウィル、ヴェルさん達……。短い間だったけど、アタシは色んな国の人達に出会った。色んな事を知って、世界に少しずつ興味が出て来たんだ。アタシの知らないものが世界にはまだいっぱいあるんだろうって」

 

 この数か月の自分の人生は劇的な変化を果たした。それはガンプラを始めた事がきっかけだろうが、多くの出会いを果たしたのだ。

 

「アタシ、決めたよ。アタシもいつか留学する。今すぐは無理でも、大学に入ってそれでイギリスに語学留学をしようと思ってる」

 

 夕香の口から出て来た留学という言葉。ガンプラを始める前までの彼女はその実、無関心無趣味であった。そんな彼女が世界に興味を示したのだ。

 

「その時は──」

「ええ、わたくしがアナタをエスコートしますわ」

 

 イギリスへの語学留学。であればそれ以上言わなくとも、シオンは寧ろ自分から申し出たのだ。

 

「夕香、少々よろしいかしら」

 

 するとシオンは夕香を軽く呼び寄せる。言われた通り、シオンに歩み寄れば、その瞬間、ふわりと抱きしめられる。

 

「きっとこの別れも束の間……。またすぐに会えるでしょう。ですがごめんなさい……。わたくしにはアナタとの束の間も永劫にさえ感じられてしまいます。だから少しだけこうさせてください」

 

 シオンの甘い香りと温かな体温が体いっぱいに広がる。だがそれ以上にシオンの身体が僅かに震えていることがすぐに分かったのだ。それだけではない耳元で聞こえる彼女の声も震えていたのだ。

 

 シオンとてこの別れに何も感じていないわけではない。今まで口には出さなくとも、やはり別れを惜しむ気持ちは強くなっているのだ。最後まで気丈に振る舞おうと思っていた。だが自分はそこまで大人にはなり切れず、別れの最後のひと時まで夕香を感じようと抱きしめたいと思う気持ちを抑制することは出来なくなってしまった。

 

「……うん、良いよ」

 

 そんなシオンの身体を優しく包み込むように夕香はシオンの背中に手を回す……。

 

「お互いの気持ちまで離れないように……」

 

 密着する身体を通じてお互いの鼓動さえも手に取るように分かる。この香りも、この温もりも、この鼓動もしばらく感じる事が出来ない。だからこそ──。

 

「アタシの全部を感じて……」

 

 彼女の耳元で囁くように口にすると、夕香もこの瞬間のすべてを感じ取るように目を瞑るのであった。

 

「……では、また会いましょう。再び笑顔で」

「……うん、またね」

 

 どれだけの時間が経ったのだろうか。時間にしてみれば、一、二分ではあるのだが、夕香とシオンからしてみれば、それ以上の大きな時間に感じられた。

 ゆっくりと身体を離しながら二人はお互いに自然と出た笑みを浮かべ合うとシオンはセレナ達のもとへ歩き始め、夕香達は彼女を見送るのであった。

 

 ・・・

 

「夕香が留学したいだなんて意外だったなぁ」

「うん、アタシもそう思うよ」

 

 飛び立っていく飛行機を見送りながら、裕喜は先程のシオンとのやり取りに会った夕香の留学について触れる。裕喜もまさか夕香が留学をするなどと言いだすとは思っていなかったのだ。自分自身でも自覚があるのか、夕香も苦笑気味に笑いながら答えている。

 

「でもね、アタシにはそう思えるだけの出会いが会ったんだよ。それに……」

「それに?」

「シオンはきっとこの国に来て、多くのことを学んだと思うんだ。自分が良く知る世界から離れて、自分の常識とは違う世界で……。きっとシオンなりに苦労はあったと思う。でもシオンはいつだってシオンのままだった。アタシもね、そんなシオンみたいに自分の知らない世界を自分なりに生きて成長したいって思ったんだ」

 

 留学を決めた理由を話し始め、裕喜はその話に耳を傾ける。すると夕香はシオンがホームステイをしてからの彼女の姿を振り返りながら話す。日本にいるときの彼女はいつだって、うるさくて面倒くさくて負けず嫌いで……何より強く高貴な人物だった。

 

「それにね、シオンに差をつけられたくないんだ」

 

 夕香は改めて飛行機が飛び立った青天の空を見上げる。

 

「アタシ達は友達(ライバル)だからね」

 

 もう遠く、空の中に消えてしまったが、それでもシオンに想いを馳せるように。これからのお互いの未来を祝福するように空には雲一つない青天の空がどこまでも続いているのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

旅立ちの日に

「これが風香ちゃんからのプレゼントっ!!」

 

 別れは瞬く間にやってくる。シオンとの別れだけではなく、遂にこの日がやって来てしまった。喫茶店のテーブル席で向かい合う形で座っているリーナに風香が小冊子みたいな代物を渡す。

 

「風香ちゃん特製のフォトブックだよ。これでどこに行っても風香ちゃんに会えるね!」

 

 渡されたまま受け取るリーナに風香はえっへんとばかりに胸を張ってペラペラと自慢げに話している。その口ぶりから大方、風香の写真集と言ったところだろうか。そんな内容を想像してリーナは苦笑交じりにペラペラと中身を開き始める。

 

「……っ」

 

 しかし次の瞬間、その内容を目にしたリーナは驚きで目を見開いた。それは別に中身が風香一色であったからではない。寧ろそれならば予想の範囲内で収まっていた。しかし実際は違ったのだ。

 

 フォトブックに収められていた写真は確かに風香も写っているが、それだけではない。リーナは勿論、翔やレーア達。そこにはまさにリーナを取り巻く多くの人々が写っており、中にはこの時代のフォトブックの機能として写真をタッチすれば、動画のような機能を持つ物もあった。

 

「そのフォトブックはまだまだ拡張出来るから、ちゃんと戻ってきて、どんどん増やして行こうよ」

「うん……。うん……っ!」

 

 ペラペラと中身を見るうちにリーナの身体は震えていく。このフォトブックは紛れもなく、自分達がこの世界に居たと言う証であり、何より繋がりを示す物だったからだ。

 それに風香の言う通り、フォトブックにはまだまだ追加できる余白がある。風香はどこまでも彼女が戻ってくることを願っているのだ。それを改めて感じたリーナは目尻に涙を溜めながらフォトブックを胸に抱いて何度も頷いていた。

 

「ほーら、こういう時は笑うもんだよ。じゃないと可愛い顔が台無しだってー」

 

 瞳を潤ませるリーナの姿に胸が熱くなるのを感じながら風香は彼女の両頬に触れて、笑顔を作るように引っ張る。そんな彼女の行動にリーナも自然と笑みを浮かべ、笑顔を交わし合うのであった。

 

 ・・・

 

「この世界に訪れてから、今日までのことがあっと言う間だったわね」

 

 自分達の世界に帰る準備が進められていくなか、翔とレーアの二人は近くの公園に訪れていた。二人はベンチに腰掛けて今日までの日々を振り返っていた。

 

「翔、私の未来への願いはアナタと再会することだった……。でももうそれも叶ってしまったわ」

 

 かつて未来へ何の願いも抱けなかった彼女は別れを経験して、想い人との再会を願った。それ叶えられた今、彼女の心中にはなにがあるのか。

 

「レーア……。今の俺は……私は……きっと……君の知る如月翔ではない」

 

 すると翔が静かに口を開き、レーアはその横顔を見やる。その瞳に映る表情はまるで真理を得たかのようなどこか空虚にさえ見えるものだったのだ。それはやはり彼の中でルスランとシーナの存在が大きくなり、再び一つになろうとしているからだろう。

 

 そこに残っているのは如月翔ではなく、如月翔だったモノだ。三人の価値観の違う存在が一つになろうとしている。それがいかに残滓と言えど、その影響力は小さいものではない。既にかつて異世界に渡る前に存在した如月翔は死に、今、ここに居るのは如月翔と言う名の新たに形作られた存在に過ぎない。そしてこれは一つになろうとしている今だけの話ではない。それが完全に溶け合って一つの存在になった時、そこに残っている如月翔がどういった存在になるかも分からないのだ。

 

「……だから何なのかしら?」

 

 しかしレーアはそれをキッパリと一蹴して見せたのだ。

 

「アナタの中にはきっと私の知る翔がいる。なら私はそれで良い。私は最後まで翔を求め続けるだけよ。きっとそれはルルやカガミ達も同じだと思うわ」

 

 確かに今、隣にいるのは純然たる翔という存在ではないのかもしれない。しかしそれはレーア達からしてみれば、些細な問題であった。

 

「……それだけ想える存在だったのだな、如月翔は」

「ええ。アナタがどんな存在になり果てようと、世界から外れた存在になってしまっても、私はいつだって翔に寄り添うわ」

 

 改めてそこまで想いを寄せられている事に嬉しさを感じないと言えば嘘になる。微笑みをこぼす翔にレーアも釣られるように笑みを見せる。

 

「……待っているよ。君達がここに戻ってくることを。そしてもう一度、話をしよう」

「ええ、その時は翔としての話も期待しているわ」

 

 こうして話している間も翔と話しているつもりが、そうではない存在と話している気分になる。まるで翔が持っていた人間味が薄れてしまって、全てに達観してしまっているかのようだ。

 新人類であるクロノが負の感情しか理解できなかったように、今、その心に何が渦巻いているのかも分からない彼がどんな存在に変化するのかは分からないが、それでも自分は最後まで如月翔を求めるだけだ。

 

 ・・・

 

「ヴェルさん、絶対に……ぜっったいにまた会いましょうね!」

「うん、それは勿論!」

 

 そして彼らにもまた別れの時が訪れていた。別れを惜しむようにヴェルに抱き着いていたミサは顔を上げて、ヴェルに再会を約束すると、ヴェルもにっこりと微笑んで頷く。

 

「私達が教えた事を今後、どうしていくかはアナタ次第よ」

「とことん昇華させていきますよ。そして再会した時に俺が勝てるように」

「期待しているわ」

 

 影の師でもあるカガミもまた一矢に言葉を送る。その言葉に一矢は期待してくれと言わんばかりに力強い笑みを持って答える。一矢はまだカガミ達に勝ててはいない。それはまだまだ彼女達に比べて未熟だからだ。だからこそこれからどんどん成長していくのみだ。そんな一矢の笑みを見て、カガミも自然と微笑む。

 

「今日と言う日は始まりだ。別々の道を行くためのな」

 

 そしてシュウジも別れの言葉を一矢に贈る。

 

「けど忘れんなよ。俺の中にお前達がいるように、お前の中に俺達がいれば、同じ道を歩いている。立ち止まることがあっても、背中を押してくれる筈だ」

 

 兄のような存在、友のような存在、何より師である彼の言葉に一矢が耳を傾け、噛み締めるように頷く。

 

「なあに心配すんな。お前の手には未来を掴む手があるんだ。ただ真っ直ぐ前だけ見てくれれば、そのうちに俺達の道は重なるさ」

 

 シュウジは軽く一矢の胸を叩く。それが身体に、心に響くなか、彼が突き出した拳に自身の拳を突き合わせることで言葉の代わりに返事をする。

 

「また会おうぜ、一矢」

「……ああ、シュウジ。また会える日まで」

 

 ふと目の前のシュウジの瞳が潤んでいる事に気づく。だが次の瞬間、シュウジの肩に回された手によって引き寄せられてしまった。彼の胸板に密着するなか、近くで囁かれた彼の言葉に一矢も瞳に涙を浮かべながら、別れの言葉を口にするのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誇りを明日に

≪───間もなく、タウンカップ本選が開始されます≫

 

 多くの別れから時間が経った。最初はすっぽりと空いた穴が大きかったが、それでも彼らは前に進み続ける。

 

「夕香ちゃん、来年には留学するんだっけ?」

 

 あれから一年。この時期がやって来た。多くの観客達が集まるなか、その中に紛れて観戦しに来た者達の一人である夕香に優陽が尋ねる。

 

「そうだよ。そういう優陽は最近、元のチームメイト達と連絡とってるって話じゃん」

「えへへ……。例のウイルス事件のこと知ってくれたみたいでさ。連絡してきてくれたんだ。これも皆、一矢達のお陰だよ」

 

 幼い少女も少しずつ落ち着いた雰囲気を身に纏っていく。セミロングにしていた髪も艶やかなロングヘアーに変えた夕香は話を振って来た優陽の近況に触れる。

 疎遠だった分、優陽にとってここ最近で一番喜ばしい話題なのか、ついつい優陽の頬は緩んでしまう。だが自分が変化することが出来たのは決して自分一人の力ではない。優陽は改めてこの会場に設置されたガンプラバトルシミュレーターVRを見やる。

 

「どこまでも行こう、一矢!」

「ああ、進んで行こう。もう一度、道が交わる為に」

 

 ミサが一矢に手を伸ばし、その手を掴んだ一矢はミサと共にガンプラバトルシミュレーターVRに向かっていく。ここで立ち止まる気はない。今よりも明日へ、明日よりも未来へ。望む未来を掴み取るために一矢達は誇り(プライド)をぶつけていくのだ……。

 

 ・・・

 

≪間もなく第一防衛ラインに接触します。各隊は防衛をお願いします≫

「了解。聞いたわね、みんな?」

 

 そしてこの世界でも……。煌めく宇宙の海の中、青い地球へ向かう災いの種を摘み取らんばかりに立ち塞がるのは覇王達だ。

 彼らが身を預けるのは模型ではなく機械仕掛けの巨兵。遥か彼方に見える接近する機影を見ながら、ルルからの指示にレーアは注意を促す。

 

「やれることはやった。後は乗り越えるだけだ」

「みんなで乗り越えていこう、シュウジ君っ」

「そうね。ここで躓くわけにはいかないもの」

 

 地球を背に大艦隊が陣を作り、全人類が立ち上がる状況でシュウジは近くの髭のようなアンテナを思わせる白いMSを見ながら迫る敵を見据える。そんな彼に一人ではないと、ヴェルやカガミもシュウジのMF・バーニングゴッドブレイカーの傍らにいる。

 

「ああ、行こうぜ! 未来を掴みにッ!!」

 

 コックピットで接近を知らせる警報が響く。それはまるで困難を表すかのようだ。だが、それで恐れおののく気は毛頭ない。拳を強く握ったシュウジは未来を切り開くように先陣を切るのであった……。

 

 

 

 

 

 

 一矢達も

 

 

 

 

 

 シュウジ達も

 

 

 

 

 

 彼らは信じている。

 

 

 

 

 

 未来はきっと明るくて、素敵な現実を見せてくれるのだと。

 

 

 

 

 そして時間は過ぎていく。

 

 

 

 

 今を思い出に、明日へ誇り(プライド)をぶつけ、未来を現実に変えながら──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────CHARGING

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 ・・

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪───ロボ太さん、大丈夫ですか?≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪む……?≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──二度と映す事がないと思っていたカメラアイが映したのは、私を見下ろすインフォ殿の姿だった。

 

 

 

 

 

≪インフォ殿……?≫

≪ロボ太さん、本当に懐かしい。ようやく迎えに来れました≫

 

 再び起動したロボ太はゆっくりと身を起こせば、そこにいるのは紛れもなくインフォだ。そして自分達がいるのもまた宇宙空間である。混乱するところだが、そんなロボ太にインフォが安堵した様子で声をかける。

 

≪これは、一体……?≫

≪アナタが宇宙に飛ばされた時、その行方を探すことは不可能でした。でも今なら宇宙に浮かぶ数センチ程度の落とし物でも見つける事が出来るんですよ≫

 

 いまだに状況が整理できないなか、最も気になった事について尋ねる。それは自分達を乗せた存在についてだ。そう、今、ロボ太達は実物大に思えるガンダムのマニピュレーターの上にいるのだ。こんなものはかつての宇宙エレベーターの漂流でしか見た事がない。

 

≪宇宙も気軽に来れるようになれました。このガンダムは何と自家用です≫

≪自家用ッ!? モ、モビルスーツが自家用!?≫

 

 しかもインフォからこのガンダムについての説明がされ、思わぬ言葉についロボ太は信じられないとばかりにインフォとガンダムを交互に見やりながら驚愕した様子だ。

 

≪ほら、見てください≫

 

 するとインフォはある場所を指し示す。そこには幾つかの光が見え、一見して星の類かと思いきやこちらに接近してくるのだ。ロボ太がカメラアイをズームして確認してみれば、そこにいたのは実物大のザクⅡが二機が飛行して、こちらに手を振っている姿だったのだ。

 

≪あれは……まさか……!?≫

≪人類の第二の故郷……宇宙コロニーですよ≫

 

 驚きはそれだけではない。ザクⅡ達がそのまま向かった先、そこにいたのはシリンダー型の巨大な人工物があったのだ。ロボ太はそれを知っている。それはかつての物理学者が提案した宇宙コロニーそのものだったのだ。

 

≪一体、どれほどの時が流れた……。私は……なんという未来に来てしまったのだろう……≫

≪これがロボ太さんが皆と作った未来の姿です≫

≪みんなと守った未来……か……。共に見たかった、この景色を≫

 

 確かにかつてナジールを止めた際は未来を切り開くために動いた。結果として漂流してしまったが、その事に悔いはない……が、まさかあのような建造物が作られてしまうような未来に来てしまったのだ。インフォの言葉に小さなマニュビレーターを握りながら、ロボ太は悲し気にトモダチを想う。

 

≪ヒトの進歩には驚かされます。あれから30年でこれ程のモノを作り上げるのですから≫

≪そうか、30年……≫

 

 未来へ進めば、技術の進歩はそれに伴う。しかしよもやここまでの未来を築き上げるとは。インフォから知らされた年数にロボ太が感慨深そうに呟く。そう、あれから30年が経過したのだ。

 

 

≪──30年!? 30年しか経っていないのか!?≫

 

 

 んだべ

 

 

≪はい、30年です≫

≪なんと! それでは……≫

≪さあ帰りましょう。皆さん、お待ちかねですよ≫

 

 インフォの後押しもあり、心なしかロボ太の発する声も喜びのものが感じ取れる。そんなロボ太の様子に頷きながら、インフォはガンダムのコックピットに向かっていき、ロボ太もその後に続く。

 

≪インフォ殿、私が操縦しても良いか!?≫

≪ダメです、免許持ってませんよね≫

 

 ガンダムのコックピットに乗り込み、スラスターを稼働させ始める。まるで少年のように操縦を申し出るロボ太だが、無免許運転が許されるはずがない。インフォに一蹴されると、ガンダムは一目散に飛んでいくのであった。

 

≪モビルスーツは免許制なのか……≫

≪これはウィルさんから借りたものですから、事故を起こすわけにはいきません≫

 

 基準速度で地球へ向かっていくガンダムのコックピットに、よくよく考えてみれば不思議ではないのだが、運転の出来ないロボ太は残念そうな口ぶりだ。

 だがこのガンダムはインフォの所有物ではなく、ウィルから借りたもの。それを事故を起こすなど以ての外だ。

 

≪……しばらく色々なことでショックを受けそうだ≫

≪そうですか。それは楽しみですね≫

 

 30年の年月ではやはり多くのモノが変わっているだろう。地球が確認できるなか、一体、どんなものは自分を待ち受けているのか想像がつかない……が、ロボ太の言葉にインフォはふと柔らかな口調で話す。

 

 

 

≪楽しみ……≫

 

 

 

 

 ──期待が膨らむ。

 

 

 

 

≪うむ……≫

 

 

 

 ──一刻も早く再会したいものだ。

 

 

 

 

≪本当に楽しみだな!!≫

 

 

 

 

 ──私のトモダチに!

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

「──インフォちゃん、そろそろロボ太に会えたかな?」

 

 地上では、発展した街並みの中でロングヘアーを風に靡かせ、ヘアピンが太陽の反射で輝かせた一人の女性が夫と思われる男性に寄り添いながら尋ねる。

 

「……そろそろ戻ってくる頃だろう」

「カドマツも間に合うと良いけどね」

「今じゃトイボットの開発者で有名だからな。でもあの人も一人じゃないしな。奥さんとだったらさっさと仕事を終わらせて来れるだろ」

 

 夫と思われる落ち着いた物腰の男性が静かに答えるなか、女性は知人の名を上げながら時計を見やる。知人の男性はかつてロボ太を生み出し、今ではその功績から大きな成功を果たし、ロボ太に続く新たなトイボット制作の仕事で日夜忙しい生活を送っているが、彼にもつれそう人物がいるようで男性はさして心配した様子はない。

 

「でも残念だなぁ。ロボ太には何より一番に【あの娘】に会わせてあげたかったんだけどなぁ……」

「学校の場所が場所だからな……。仕方ないさ」

 

 男性が祝福するかのような青天の空を見上げていると、寄り添う女性はどうしても会わせたい存在がいるのか、非常に残念がっている。しかし事情があるのか、男性の言葉に無念そうに唸っていた。

 

「それに……慌てなくても何れ会えるよ」

 

 そんな妻の様子に苦笑しながらも男性は再び空を見上げる。その空を通して、男性の大切な存在を想うかのように……。

 

 ・・・

 

「……」

 

 宇宙コロニー……その居住地で一角の騎士を携えた少女が空を見上げていた。

 その真紅の瞳がただ一点に空を見上げるなか、重なり始めた道と共にこの少女が歩むべき物語もまた静かに動き始めるのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

50000UA記念小説
コロニーへの帰還


 宇宙エレベーターの完成と共に進行していた宇宙開発。それは全て夢物語と鼻で笑われていた時代から少しずつ積み上げてきた人類の英知と発展による歴史であり、遅かれ早かれ人類が第二の故郷を手に入れたのは自明の理とも言えるだろう。

 

 かつてアメリカの大学教授が提唱した宇宙コロニーは現実のものとなり、ラグランジュポイントに設置された宇宙コロニーは総人口15万人の人々が生活しており現在は二基が稼働しているが今後もコロニー開発が進めば人々の生活圏は更に拡大して宇宙での生活もさほど珍しいものではなくなっていくだろう。

 

 これはかつて完成された宇宙エレベーターとその先の未来に想いを馳せていたあの時代から30年後の物語である───。

 

 ・・・・

 

 けたましいほどに緊迫した声が飛び交う。ここは多くの立体モニターを使用するパソコンが置かれており、これを扱う人々は切迫した様子で立体コンソールを叩いている。

 

「ウイルスの侵攻、抑えきれません!!」

「まだだ! すぐにワクチンプログラムの使用とした担当官を宛てさせろ!!」

 

 部下の一人が上司と思われる男性に報告する。彼らは皆、警察のサイバー犯罪対策課の人間であり、彼らが現在、あたっているのはあるウイルス事件だ。だが事は上手くいかず、逆にこちら側にウイルスを送り込まれてしまった始末だ。何とかウイルスを抑え込もうとするのだが、それも難しいようだ。だが諦めるわけにはいかないと上司が檄を飛ばす。

 

 この時代の人間達がウイルス駆除に使用しいている手段の一つが、ガンプラを用いたガンプラバトルによる駆除方法だ。これはかつての事例から有効性が認められたものであり、ことさら彼らが現在、対応している事件には有効な手段の一つだ。故にガンプラファイターによるウイルス駆除を指示するのだが……。

 

「ダメです! 担当官達のガンプラ、次々と撃破され、残り半数……」

「手段はないのか……っ!!!」

 

 ……有効的な手段も通時なければ意味がない。フィールド上のファイター達が使用するガンプラ達は次々と撃破されていってしまい、モニター内にはなおもこちらに向かって、歩を進めてくるウイルスたちの姿があり、そのおぞましい光景を見て捜査官達の間に絶望の暗雲が漂い始める。

 

 

 一閃

 

 

 その瞬間、ウイルス達は真っ二つに切断されて、消滅する。一体、何が起きたのかわからず、捜査官達がバトルフィールドを注視すると、そこには一機のガンダムが存在した。

 

 ガンダム試作三号機をベースにしたガンプラだろう。耐ビームコーティングマントとGNフルシールドを纏ったその機体はウイルスを両断したであろうGNバスターソードをドシリと重音を響かせて突き立てる。その姿はまさに気高き騎士と形容するのが適切だろうか。

 

「あの機体は……ッ!」

「良かった……。まだ我々には光がある!!」

 

 そして何より電脳空間に出現したその機体を見た捜査官達は一様にその表情に安堵と希望を宿し、輝きを取り戻す。

 

「あれこそ……ガンダムブレイカーッ!」

 

 上司が高らかにその存在の名を口にする。電脳空間の中でマントを自由に靡かせたその機体は一斉に自身に襲い掛かってくるウイルス達を確かに捉えるようにそのツインアイを輝かせると、勇猛な獅子の如く立ち向かっていくのであった……。

 

 ・・・

 

「なにも戻って来て、早々にお土産を渡しに行かなくてもいい気がしますが……」

 

 稼働する宇宙コロニーはその中はかつてのSF作品のように人工的ではあるが、母なる地球の自然を可能な限り、再現したものとなっている。一見してみれば、地球の都市とさして変わらない街並みの中を歩いているのは希空、奏、ロボ助であった。

 

 先頭を歩くのは奏であり、苦言を口にする希空の様子を見る限り、どうやら奏がある場所に行きたいと言って、今に至ってるのだろう。

 

「良いや、こういうのはすぐに渡すべきだ。奴だって行きたがっていたしな」

 

 しかし奏は希空の苦言を意に介した様子はなく、むしろ振り返って晴れ晴れとした笑みを彼女に向けながら答える。その手にはGB博物館のロゴが入ったショッピングバッグが握られており、どうやら地球で経営しているGB博物館を巡り、コロニーに帰ってきた直後のようだ。

 

 そうしていると一軒のマンションが見えてくる。周囲には塵もなく管理が行き届いているのが伺える。そんなマンションに入り、奏達は目的の部屋へと向かう。

 

「たーのもー!」

「……道場破りじゃないんですから……」

 

 目的の部屋の前にたどり着くとインターフォンを押して、張り気味に声をあげる奏に希空は呆れ混じりに嘆息する。そうしていると扉越しに物音が聞こえ、やがて開錠音と共に扉が開く。

 

「やあ、奏に希空、それにロボ助。こんにちは」

 

 そこには何も知らなければ思わず委縮してしまう程の大男がいた。

 180cmは優に超えるであろう身長と部屋着越しにも分かるほど筋肉質な巨躯の人物であり、外国人であるが故か、ふわりとくせのある金髪に彫りの深い精悍な顔立ちと翠瞳が奏達に向けられ、流暢な日本語と共に穏やかな口調で出迎えられた。

 

「うむ、久しぶりだな、ラグナ!」

「……突然、申し訳ありません。ウェイン先生」

 

 大体、奏達と一回り年上くらいだろうか。そんな外国人の男性に奏と希空は対称的な挨拶をする。奏が男性を見た途端、その胸に飛び込んだのに対し、希空は突然の訪問を詫びている。

 

 しかしここで取り上げるのは希空が男性に口にした先生という言葉だろう。そう、この男性は何を隠そう、この春から希空達が普段、勉学に励む学校で教鞭をとっている新任の教師であり、その名をラグナ・ウェインという。

 

「うぅむ、相変わらず良い雄っぱいだな、ラグナ!」

「……会って早々にそれですか」

「ラグナに会って、この雄っぱいに触れなければ損だからな!私も胸には自信があるが、これには勝てぬ!」

 

 ラグナの逞しい大胸筋を恍惚とした表情で顔を摺り寄せる奏に当のラグナは心底、頭が痛そうに話す。しかし奏は一向にラグナの胸から離れようとしない。

 

「はぁ……。あぁそれと、ここは学校ではありませんから、普段通りで結構ですよ、希空」

「……では、そうします。ラグナさん」

 

 離れる様子のない奏にため息をつくと律儀に教職員として接してくる希空に苦笑しながら、今はプライベートの時間を過ごしているため、教師として希空達に接していないラグナはやんわりと彼女に気遣う必要なく楽にしていいと伝えると希空は静かに答え、呼称を変えるのみだ。

 

 ・・・

 

「コーヒーで構いませんか?」

 《手伝います。希空のコーヒーは私が用意しましょう》

 

 いつまでも立ち話もするわけにはいかず、希空達を室内に招き入れると彼女たちをソファーに案内しながら、ラグナは彼女達に提供するコーヒーを淹れに行き、その後をBluetoothによって室内のスピーカーから声を発しながらロボ助が手伝いを申し出る。

 

「久方ぶりの地上は楽しめましたか?」

「……ええ、それなりに。彩渡街にも立ち寄ったので、懐かしい人達に会えました」

「それは何よりです。あそこには善き人々が多くいる。僅かな交流であったとしても御身に多大な温もりを与えてくれるでしょう」

 

 ラグナが自身と奏のコーヒーを運んでくるなか、ロボ助は砂糖やミルクを希空の好みの量で入れたコーヒーを彼女の前のテーブルに置く。ゆっくりと自身も近くに腰掛けながら希空達にGB博物館を目当てに降りた地上での出来事を尋ねると、特に声を弾ませることはないが、希空は穏やかに微笑みながら答える。その表情を見て、言葉以上に彼女が満足しているのだろうと感じ取ったラグナもつられるようにして頷く。

 

「ラグナも来れば良かったのに。行きたがっていただろう?」

「そうしたかったんですが……。私は別件の用がありましたから」

 

 啜ったコーヒーが思ったほど苦く、プルプルと震えながらそれでも希空達にそれを悟られまいと必死に平静を保とうとしながら奏がラグナに話しかける。まあ既に全員にバレているのだが。奏の近くにミルクと砂糖を置きながら、困ったような様子で答えている。

 

「それは……ウイルス……ですか?」

「ええ。ここ最近、ガンプラやVR空間でのアバター並びにGPを盗難する事件が相次いでいるのはご存知でしょう。盗難されたアバターはウイルスをまき散らす存在として、今、警察も手を焼いている状況です。今回、ウイルスの発信元を特定したので、ウイルス対策の一つとして私に警察に協力の依頼があったのです」

 

 ラグナの用に心当たりがあるのか、慎重な姿勢で尋ねると、どうやら当たっていたらしくラグナの雰囲気が変わり、厄介な問題に対して頭を悩ませている様子だ。

 

「既に学園の生徒の中にも被害が出ている状況です。一人の教師として、何よりガンダムブレイカーの使い手として、これ以上の被害は食い止めてみせます」

 

 だが彼は決してこの問題に目を背けることなく厳然と立ち向かうつもりなのだろう。そのまま近くの棚の中に置かれているガンプラに目をやる。

 

 そこに置かれているのは数々のトロフィーや賞状であり、その中でひと際目を引くのが、中央に置かれている二つのトロフィーと、その間に置かれている一つのガンプラだろう。

 

 グランドカップと呼ばれる大会の優勝を称える文面が記されたトロフィーには去年、一昨年の年号が刻まれてあり、ラグナがその大会を二連覇した証明だろう。そして何よりその二連覇を共に制覇したのが間に置かれているガンプラだ。

 

 ガンダム試作三号機っをベースにしたそのガンプラはバックパックのユニバーサル・ブースター・ポットも併せてかなりの機動力を発揮するだろう。だがなによりはその身に纏う耐ビームコーティングマントと巨躯を誇るGNバスターソードによって、騎士を彷彿とさせる。

 

 その名はガンダムブレイカーブローディア。

 彼のガンプラをバトルフィールドで目にした者の多くはこう語る。憧れを抱くほどに美しく気高い獅子のような騎士と。

 

「私も手伝えないか? 私もガンダムブレイカーだ。力になれると思うのだが……」

「いえ、これはガンプラバトルと呼べるものではありません。君達には笑顔でガンプラを扱ってほしい。であれば汚れ仕事は私が引き受けましょう。それにガンプラを使ってのこととはいえ、私を正しく必要としてくれる人々がいるのであれば私はこの剣を振るいたい」

 

 かつての新星がそうであったように、ウイルス駆除はあまり良い気はせず、それこそ精神を消耗してしまう。奏もラグナに協力を申し出るのだが、ラグナはこれを受け付けはしなかった。

 

「それにアナタは希空達と共にコロニーカップを経て、地上とのグランドカップに臨む身。こちらにかまかけて、修練を疎かにするのは模型部の顧問としても、いえ、それこそガンダムブレイカーの使い手として許しません」

「むぅ……」

「気持ちだけだけで十分ですよ。ありがとう、奏」

 

 するとラグナはウイルスの件から話題をそらすように今、奏達に迫っている出来事について注意する。

 かつてガンプラバトルにはジャパンカップやワールドカップの大会があった。が、今は生活圏の拡大も伴い、その大会規模もそれに伴って拡大したのだ。しかしラグナを想っての申し出であったため、複雑そうに唸る奏に穏やかな笑顔で彼女の想いを無駄にしないように礼を言う。

 

「……」

 

 ……いかしそのやり取りを一人。希空だけが鋭い視線を向けながら見つめていた。その表情はどこか妬ましさや羨望が入り混じった複雑なものであった。

 

 ・・・

 

「ぶはーっ……良いお湯だったぁ」

 

 それから時間も経ち、夜の10時過ぎとなった。ゆったりとした時間が流れるなか、ラグナ達のもとに湯気と共に上気した頬を露わにした奏がやってくる。その口ぶりから風呂を借りたと見える。

 

「……ごめんなさい、ラグナさん。夕飯だけではなく、泊って良いだなんて。長居するつもりはなかったのですが……」

「こんな時間ですから。それに土産話は聞いていて楽しいものですから、全然構いませんよ」

 

 呑気な奏とは違い、希空はラグナに謝っていた。あれから地上での出来事に花を咲かせていたら、気が付けば夜遅くになり、ラグナが泊るように勧めたのだ。

 

「奏、こちらにいらっしゃい」

「んぅ?」

 

 するとラグナは冷蔵庫を漁っている奏に声をかける。呼ばれたことによって奏はトコトコとラグナのもとに歩み寄る。

 

「ここに座りなさい」

「うむ」

 

 するとラグナは自身の前を指すと言われた通り、奏はラグナの前に座る。するとラグナが取り出したのはトリートメントであった。適量を手にかけ、なじませると早速、奏の髪につけ始める。そこからドライヤーによって優しく、それでいて広範囲にあたるように温風を当てる。

 

「希空に迷惑をかけませんでしたか?」

「ん」

「ちゃんと好き嫌いなく食事はしましたか?」

「ん」

「夜更かしはしませんでしたか?」

「ん!」

「よろしい」

 

 奏の髪を乾かしている間に地上での出来事を簡単に尋ねる。まるで母親が今日の出来事を子供に聞いているかのようだ。最後にドライヤーを冷風に切り替えて、これで仕上にする。非常に手際が良く、慣れたものである。

 

 《奏、嬉しそうですね》

「普段、姉ぶってる奏からすれば、お兄ちゃんのような存在だからね。奏にはそういう存在はラグナさんくらいしかいないから」

 

 言葉は少ないものの、どういう原理か、それでも外はねになっている奏の髪がぴょこぴょこ動いている。その姿を見ながら、ロボ助が微笑ましそうに話すと、頷きながらその理由を話す。そんな希空達の視線の先には和やかに話す奏とラグナの姿があった。

 

 ・・・

 

「奏、寝てしまいましたね。本当にいきなり来て、申し訳ないです」

「構いませんよ。奏とはアナタ以上の付き合いですからね。これくらいは別に」

 

 それから時間がさらに立ち、眠たそうに首を揺らしていた奏はラグナの手引きで彼のベッドで眠ってしまっている。開かれた扉から遠巻きに見える奏の寝顔を見ながら、非礼を詫びるとラグナは首を横に振る。

 

「両親を早くに亡くした私を翔さんが面倒をみてくれた。時に偉大なる父のように、時に慈愛に満ちた母のように接してくれたあの方のように、私も奏に出来ていれば良いのですが」

「十分だと思いますよ」

「いえ……。それに奏は希空にも迷惑をかけたでしょう。申し訳ない」

 

 ラグナも奏の寝顔を見つめながら、遠い過去に想いを馳せる。かの英雄の下で世話になった彼からしてみれば、奏はまさに妹のような存在なのだ。自分がしてもらったことを奏に出来ているのか、不安げなラグナに希空は安心させるように頷くも、逆にラグナに奏のことで謝られてしまった。

 

「……あの、ラグナさんは奏にガンダムブレイカーとしてのバトンを渡したんですよね」

「ええ。正しくバトンは彼女に流れています」

 

 ロボ助が希空の後ろに控えるなか、希空とラグナだけの会話となり、静かに希空はラグナに尋ねる。それはガンダムブレイカーについてのことであった。ラグナはガンダムブレイカーの使い手。それも奏の前に現れた存在であり、言ってしまえば、奏にとっては一つ上の先輩だ。

 

「……何故でしょうか? 私も奏ほどではなくても、実力はあるつもりです。何故……奏を選んだのですか? やはり……私を認めない父の口添えがあったのでは──」

「奏を選んだのは私の意志です。御身の父君は関係ない」

 

 話すたびに希空の表情は険しくなっていく。それをすぐに感じ取ったラグナは希空の口から父の話題が出た瞬間、それをすぐに否定した。

 

「ガンダムブレイカーとしてのバトンを受け継ぐ者を選ぶ際、なにも実力だけで判断しているわけではありません。それこそ大病を患っていようと、実力が劣っていようと相応しいと判断された者には誰にだってバトンは渡される。もちろん、私もあなたのことも考えましたよ。これでも私は多くのファイター達を見てきましたから」

「……では、何故、私は……」

「少なくとも今の貴女を見ている限り、私の判断は間違いではなかったと確信できる」

 

 真剣な面持ちでこれまで出会った多くのファイター達を思い出しながら、ガンダムブレイカーのバトンを渡す基準を話始める。希空も候補にはあったという話にことさら何故自分は選ばれなかったのかを問うと、そんな焦りや劣等感が渦巻く負の雰囲気を見せる希空を一瞥しながら一息つく。

 

「少し肩の力を抜くことです。もし相応しいと判断された時は奏も貴女にバトンを渡すでしょう」

 

 そう、いくら希空に甘い奏でも彼女をガンダムブレイカーに認めることはしていないのだ。それはやはり今の彼女に理由があるからだ。少しでも彼女の身にまとう雰囲気を和らげるように優しくその両肩を触れる。

 

「さあ、貴女もおやすみなさい。ベッドは一つで奏と一緒に使っておらうことになりますが、お許しを」

 

 これはあくまで希空自身が気付き、答えを得るべき問題だ。ラグナはそのまま近くの毛布を手に取ると、ソファーに向かっていく。残された希空はラグナに言われた通り、奏が眠るベッドに向かうものの、その表情は暗いままだった。




ラグナ・ウェイン

【挿絵表示】


奏「諸先輩方の話が聞きたいだと!? 良いだろう、懇切丁寧に説明してやる!」
ラグナ「英雄、覇王、新星、希望…多くのガンダムブレイカーがいますね。ここはやはり英雄から──」
奏「まずは獅子ことガンダムブレイカーブローディアのラグナ・ウェインから説明しよう!!」
ラグナ「な、なにを話すつもりですか」そわそわ
奏「まず雄っぱいが凄い!!」
ラグナ「!?」

・・・

ガンプラ名 ガンダムブレイカーブローディア
元にしたガンプラ ガンダム試作3号機

WEAPON GNバスターソード(射撃と併用)
HEAD ガンダム試作一号機
BODY ガンダム試作三号機
ARMS ガンダムデュナメス
LEGS ガンダム試作三号機
BACKPACK ガンダム試作一号機フルバーニアン
SHIELD 耐ビームコーティングマント
拡張装備 スラスターユニット×2(両脚部)
     U字型ブレードアンテナ(額)

例によって活動報告にURLがあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心を満たす歌

 電脳空間……希空達が暮らすこの時代では今、新たなに自由に過ごせる第二の現実のような世界へと発展し、人類の多くは仮想世界ことVR空間に飛び込んで日々を謳歌している。

 

 その楽しみ方はまさに自由自在。希空達のようにガンプラバトルを絡めての楽しみ方も良し、遠距離恋愛をしているカップルの触れ合いの場として甘い一時を過ごすも良し、その楽しみ方は人それぞれだ。

 

「──Are you ready?」

 

 眩い光が行き交うこの空間もそうだ。ペンライトとスポットライトによって彩られたこの空間はまさにステージに相応しい。花の香りのような甘い声がスピーカーを通じて、全体に響き渡ると湧き出るように歓声が満ちる、まさに声に対して待ち切れないと答えるかのように。

 

 ただでさえ大きな歓声はこのドーム型の空間に響いていると言うのに、その中心で浮遊している近未来的な巨大ステージに噴き出ているスチームの中にいる人影を見て、更に全体のボルテージが上がっていく。

 

「OK! お待ったせー! それじゃあ、行きマスヨー!!」

 

 スチームを払い、そこから現れたのはツーサイドアップに纏めた絹の如く美しい白髪を揺らしたその声に負けぬほどの可憐さを持つ少女だ。その紫色の瞳で会場全体を見渡し、頭頂部のぴょんと立った猫耳で歓喜の声を聞き届けると、クルリと回転して指を鳴らす。

 

 その瞬間、ステージのギミックが作動して、空を七色のスチームが彩るなか、アップテンポの音楽が鳴り始め、会場をさらに盛り上げるなか、少女はその愛らしい声をメロディに乗せ始める。

 

 甘く美しい可憐な声が、リズムに合わせて躍動する身体が観客で満たされたステージを余すことなくその魅力によって満たし始める。

 

 まさにそこにいるのは歌で全てを癒す可憐な姫君。永遠なる電子世界で歌姫は笑顔と歌の祝福を空から届けるのであった。

 

 ・・・

 

 その様子はVR空間にいなくとも、聞くことが出来る。動画サイトの生中継の様子を無線のイヤホンで聞いていたのは希空であった。軽く身を揺らしてリズムを取っているところを見ると、少なくともこのの曲を楽しんでいる証拠だろう。

 

「なーにを聞いているんだ?」

 

 そんな希空の片方のイヤホンを後ろからとって、自分の耳につけたのは奏であった。希空の肩に顔を乗せてイヤホンから流れる曲を聞き入る。

 

「あぁ、うむ……。知ってるぞ、これ。聞いたことがある」

「──確か最近、流行っているシャルル・ティアーナでしたか」

 

 聞き覚えがある曲なのか、何とか思い出そうと頭を悩ませている奏だが、ふと背後から画面の中の少女を見て声をかけてきたのはラグナであった。

 

「覗き見をしてしまいましたね。失礼」

「いや……っていうか、ラグナは知っていたのか?」

「ええ。生徒の流行りを把握しておくのも親睦を深める秘訣の一つですからね」

 

 驚いた様子でラグナを見ている希空と奏についつい希空の持つ携帯端末の立体画面を覗き見て、口を挟んでしまった非礼を詫びるも、そんなことよりも希空達はラグナがまさか知っているとは思わなかったため、驚いてしまっていたのだ。奏の言葉にクスリと笑みをこぼしながら、その疑問に答える。

 

「それでそのシャルルマーニュと言うのは……」

「……シャルル・ティアーナです。主に動画サイトで活動しているバーチャルアイドルですね。今ではスポンサーも付き、チャンネル登録者数が45万人以上で動画の再生数は100万再生以上を優に超えています。メインのアイドル歌手活動以外にガンプラ制作やゲーム実況、SNSなど幅広い活動を行っていますね」

 

 そう言えば、ラグナは女子生徒ウケが凄かったな、と思い出しながら改めて、このVR空間でライブをしている少女について尋ねると、奏の名称を訂正しつつ、シャルルの活動について説明する。

 

「しかし、その活動内容とは裏腹に所謂、中の人などの情報は秘匿にされていましたね」

「……最もシャルル自身の趣味などは可愛いものが好きだとか本人が生放送などでベラベラ話してますが」

 

 希空の説明を引き継ぐようにシャルルの説明をするラグナ。確かにVR空間で活動する以上、あれはアバターであろう。だが実際、声優などはシャルル個人が特定される情報は一切、明かされていないのだ。とはいえ、趣味の類などは希空の言うように明かされてはいるようなのだが。

 

 ・・・

 

 数時間後、ここは閑静な街並みが広がる彩渡街。つまりは希空達とは違い、地上である。コロニーの喧騒とは違い、穏やかな空気が流れている。

 

「あー……やっばいなー。流石にお腹が空いたなー」

 

 そんな彩渡街をふらふらと放浪していたのはルティナであった。宛てもなく彷徨うその足取りに力はなく、突けば容易く倒れてしまいそうなほどだ。

 

「一回、元の世界に帰った方が良いかなぁ……。ん……?」

 

 駅近くにまで辿り着いたルティナは腹部をさすりながら非常に悩んだ様子だ。元の世界、と言う言葉が出た瞬間、僅かに表情を曇らせていると、ふと何かに気づく。

 

「デザート……か。数えるくらいしか食べたことないや」

 

 そこは洋菓子店であった。ショーケースに飾られた様々な洋菓子の類を見て、ルティナはどこか悲しげな表情を浮かべる。彼女の脳裏に過った自身の過去を思い出してのことだろう。

 

「……?」

「あっ」

 

 すると洋菓子店の扉がガチャリと開き、そこから立て看板を持った青年が現れる。ルティナは知る由もないが、彼は希空達の知人であり、GB博物館でも会ったことのある涼一という名の青年であった。

 

 最も彼はこの店でバイトでもしていうのか、制服姿であり、その手には店頭に置く立て看板が握られていた。店から涼一が出てきたことにより咄嗟にルティナはこの場を後にしようとするのだが……。

 

 気の抜けたような何とも言えない音が響く。

 

「あぅ……」

 

 それはルティナから放たれたものであり、途端にルティナは耳まで真っ赤にして今の音が聞かれていないか、恐る恐る涼一に振り返る。流石にここにきて、空腹が堪えたのだろう。生理現象と言えば、それまでではあるのだがルティナもこれでも年頃の少女だ。空腹の音が聞かれて、羞恥を感じてしまうのは不思議なことではないだろう。

 

「腹、減ってるのか?」

「別にそういうわけじゃ……」

 

 見かねた涼一が問いかけるが、そう聞かれて素直に答えるルティナではなく、つんとした態度で歩き出そうとするのだが、彼女の態度とは裏腹に腹は素直であり、また空腹に襲われ、腹の音がなんとも情けなく響いて、涼一に背を向けるルティナの背中がプルプル震えている。

 

「少し入っていけ」

 

 流石にいたたまれなくなったのだろう。背後からルティナの手を取ると、彼女の返事を待たずして店に彼女を連れていく。最初こそ驚いたルティナではあるのだが、涼一から敵意の類を感じなかったため、涼一を投げ倒すような真似はせず、そのまま涼一につられるがまま、洋菓子店に入っていく。

 

 ・・・

 

「少し待っててくれ」

 

 甘い香りの漂う洋菓子店に入店したルティナは普段、見慣れぬ光景からか店内の様子を興味津々といった様子で眺めていると、そのまま涼一に連れられ、店内の飲食スペースに連れてこられる。

 

「ほら」

 

 とはいえ慣れていない場所だからか、落ち着きがなくそわそわした様子だ。程なくして涼一が戻ってくる。その手にはバスケットの包み紙に所狭しと並んでクッキーが。

 

「食べたいけど……ルティナ、お金持ってない……」

「……気にするな、俺の驕りだ」

 

 クッキーを見て、まさに子供のように表情を輝かせていたルティナではあったが、ふとこの世界で流通している通貨の類を持っていないことを思い出してしゅんとした沈痛な姿を見せる。だが最初から別に金の類を取ろうとは思っていなかったのだろう。なんと涼一はこのクッキーを無料で振舞おうと言うのだ。

 

「……」

 

 只より高い物はない、という言葉もある。クッキーと涼一を交互に見やったルティナは恐る恐る手に取ったクッキーを口に運ぶ。

 

 その瞬間、先程までの表情とは打って変わり、花が咲いたかのようにルティナの表情が明るくなったではないか。

 

「すっごく美味しいね、これっ!」

 

 先程までの警戒していた反応から打って変わって、満面の笑みで涼一にクッキーの感想を口にする。その嘘偽りのない姿に涼一も知らず知らずのうちに笑みをこぼす。

 

 ・・・

 

「ごっ馳走様ー。こんなに美味しいもの、久しぶりに食べたから心が跳ねたよ!」

 

 最初の警戒とは打って変わって、クッキーを食べ終えたルティナは非常に満足した様子で涼一に礼の言葉を口にする。

 

「気に入ってくれたなら何よりだ。また来ると良い」

「うんっ! 今度来るときは何かお礼もきるようにしとくね」

 

 ルティナの姿に満足している涼一に大きく頷きながら立ち上がったルティナはそのまま店外に出ていく。

 

 ・・・

 

「こんなに心がポカポカするのは久しぶりだなぁ」

 

 涼一がバイトをしている洋菓子店から出たルティナは心底、嬉しそうに鼻歌交じりに歩いている。その頭には涼一へのお返しをどうするかを考えていたところだ。

 

 再度、駅前にたどり着いたルティナの耳にふと柔らかな声が聞こえてくる。

 

 それはまさに流れる緩やかな風に乗るような歌声だ。思わず足を止めたルティナは周囲を見渡す。その声の主はすぐに見つけることが出来た。

 

 パッと見た限り、その年齢を判断するならば、ルティナより少し年上と行ったところだろうか。サイドテールにしている髪をリズムによって僅かに揺らしながら歌っている女性がそこにいたのだ。

 

 駅を利用する人々が女性の歌声に注目しながら流れていくなか、吸い込まれるようにしてルティナは女性の近くまで寄っていく。

 

 単純に彼女の歌に魅了されたのだ。ルティナの耳が彼女の歌声を聞き逃すまいと、その目が彼女のその姿を見逃すまいと注目するなか、あっという間に時間が過ぎていく。

 

「──ふぅ……お粗末様でした」

 

 それから一時間程度が経過した頃であろうか。ひとしきり歌い終えた女性は頭を下げ、彼女を囲んでいた人々は惜しみない拍手を送り、ルティナもその一人だった。

 

「ふふっ、アナタは最初から最後までいてくれたね」

 

 感激を表すかのように拍手をしているルティナに気づいた女性は片付けをしながら人が散り散りになっていくなかでルティナに声をかける。

 

「聞いててね、すっごく心が弾んだよ!」

「おっ、そう言ってもらえるとお姉さんも歌った甲斐があるというものです」

 

 偽りのない彼女らしい感想を口にするルティナの言葉に気をよくしたのか、女性は非常に上機嫌で胸を張る。

 

「あなたはどこから来たの? ここ等辺じゃ見ないし、パッと見た限り、ハーフの子かな?」

 

 女性はそのままルティナに興味を示したようで、その顔立ちを見ながら、彼女について尋ねる。少なくともその口ぶりからこの女性は彩渡街で生活しているらしい。

 

「違う世界から、って言ったらどうするかな?」

 

 そんな女性にルティナはどこか悪戯を考え付いた子供のような笑みを浮かべながら答える。こんな話、荒唐無稽だ。どうせ冗談と切り捨てられるだろう。

 

「うん、信じましょう」

 

 しかし女性はすんなりとルティナの言葉に頷いたではないか。

 

「えっ……。ルティナの話、信じるの?」

「ルティナちゃんって言うんだ。うん、じゃあルッティね。っていうか、そう考えた方が何か面白いじゃない」

 

 自分でも信じてもらえないと思っていたのだろう。女性のこの反応は予想外だった。思わず聞き返してしまうルティナに口にした名前から、彼女の名を覚えた女性はにっこりと笑みを浮かべながら答える。

 

「私は姫川歌音(かのん)。歌と可愛いものが大好きな何の変哲もない気分屋なのです」

 

 すると女性は己の名を明かす。段々とルティナも女性こと歌音の人柄が気に入ってきたのだろう。笑みを見せ始める。そんなルティナの姿に歌音はふと彼女の腰のベルトのケースに収められているバーニングブレイカーをわずかな隙間から見つける。

 

「それガンプラ?」

「あっ、うん。ルティナの宝物なんだ」

 

 ケースを指差しながら尋ねると、ルティナはケースから取り出して、バーニングブレイカーを取り出して女性に見せる。

 

「ふーん、中々……いや、かなりの出来栄えね。これはルッティが?」

「ううん。これはルティナの大事な人からもらったんだ。でも、これ使ってバトルとかしてると、あんまりルティナに合ってなくてさ。ルティナ好みの奴を作ろうと思ってるんだけど、そもそも作り方とか知らないんだよね。だから作り方とか知ってる人を探してるんだけど……」

 

 バーニングブレイカーのデティールなどを見て、一目でその出来栄えに唸る歌音はルティナが製作者なのか尋ねると、首を横に振りつつ、今、自分に合ったガンプラを作ろうとしているものの作り方などが一切分からないことの旨を伝える。

 

「ではお姉さんが手伝いましょう!」

「ホント!?」

「元々、この町に住んでいる叔父さんのお世話になってるんだけど、その叔父さん、結構、プラモ作りが上手くてね。その影響で私もそれなりに良いガンプラを作れるのです」

 

 するとドンと胸を張りながらルティナの助けになることを申し出ると、思わぬ言葉に食いつく。ルティナからしてみれば、興味を示した人間に教わるのは願ってもないことであろう。そんなルティナに歌音は自身のガンプラについて軽くではあるが説明する。

 

「でも、なんでそうまでしてくれるの?」

「うーん。特に理由がない気分的なものなんだけど……まあ、私は老若男女問わず可愛い存在が大好きだから、気に入ったら手を出しちゃう性分なのです」

 

 とはいえ歌音とはここで会ったに過ぎない赤の他人だ。何故、そうまでしてくれるのか尋ねると、本当に特に理由はないのかあご先に軽く指を添えながら答える。

 

「じゃあ、行こうかっ」

 

 荷物を纏めた歌音はルティナの手を取ると、歩き始める。最初こそ驚いたルティナではあるが、振り返って微笑むその姿に涼一の時同様、心が温まるのを感じながら、ふと知らず知らずに笑みをこぼすのであった。




シャルル・ティアーナ

【挿絵表示】


姫川歌音

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

作ろうガンプラ

 歌音によって彼女が叔父に世話になっている家まで到着したルティナは案内されるがまま普段、彼女が使用している部屋にまで到着する。

 

「うわ、汚い」

「はい、素直な感想ありがとう」

 

 部屋に足を踏み入れたルティナの第一声がそれであった。というのも歌音の私室はそこらに漫画本や歌詞が記されたメモなどが散乱しており、お世辞にも整理整頓が行き届いているとは言えないだろう。そんなルティナの反応に言われても仕方がないという自覚はあるのか、引き攣った笑みを浮かべる。

 

「って言うか、すっごいゲームの数だね。ゲーム好きなの?」

「え? あー……うん、まあ、その……やらなくちゃいけないというか、なんというか……」

 

 他にも所狭しと棚に並べられている様々なハードのゲームソフトを眺めながら、ルティナはゲームも趣味なのか尋ねる、歌音はどこか乾いた笑みを浮かべながら、はぐらかすように答えていた。

 

「ま、まあ私のことはさておいて、ガンプラよね!」

「あぁうん……。でも、買いに行くもんじゃないの?」

 

 これ以上、下手な話はさせまいとリードを取るように話をガンプラに戻す。その不自然さに首をかしげてしまうが、実際、彼女が言うようにガンプラを作りたいため、話に乗りながらもガンプラを取り扱う店に行かないのか尋ねる。

 

「ふふん、お姉さんにかかれば買いに行く必要なんてないのです」

 

 するとなにやら自慢げに鼻を鳴らした歌音はそのまま近くのクローゼットまで歩いていき、ルティナも彼女の言葉が解せずに首をかしげながらもその後を追うなか、歌音はクローゼットを開く。

 

 そこにはゲームソフトとは比べ物にならないくらい突き詰められたプラモデルの数々が圧倒的な存在感を放っていたではないか。

 

「うっわ……」

「ふっ……作ろう作ろうと思って買ったけど、作らなかった我が(積み)の数々……」

 

 もはやクローゼットの大部分がプラモデルによって占拠されている状況に流石のルティナも言葉を失い、絶句してしまっている。そんなルティナの反応にどこか遠い目をしながら自嘲気味に歌音は虚しく呟いていた。

 

「ま、まあいつ再販するかも分からないものもあるし、積んでおくのは悪ではないのです、ええ」

「物は言いようって奴だね。さて、どれどれ」

「あっ、待って! 適当に引き抜いたら──!」

 

 まるで自分に言い聞かせるように呟いてはうんうんと頷いている歌音を横目にルティナは早速、クローゼット内に適当に手を伸ばしてプラモデルを引き抜こうとする。だがその行動は何かまずいことがあるのか、気づいた歌音が制止しようとするのだが、時すでに遅く、ルティナはプラモデルを引き抜いてしまった。

 

 次の瞬間、ギリギリのバランスで保たれていたプラモデルは轟音と共に雪崩のようにルティナ達に降り注いだ。

 

「……気が付けば 溜まっちゃうよね プラモデル」

「……字余り」

「……是非もないよね」

 

 奇跡的に無事であった歌音とルティナはプラモデルの海の中でただ虚しく呟くのであった。

 

 ・・・

 

「さて、気を取り直してプラモ作りをしましょうか」

 

 何とか部屋の片付けを済ませた二人は漸くガンプラ作りを始める。テーブルを挟み、歌音は仕切り直すように手をポンと合わせる。最も既にルティナは一連の出来事のせいでかなりやる気が削がれているようだが。

 

「まあ、作ってる最中にごちゃごちゃ言われるのも嫌でしょうし、お姉さんは要所要所で口を挟むから、ルッティは好きなように作って良いよ」

「パーツって手でもげばいいの?」

「Oh……ニッパーを使いましょうか、うん」

 

 プラモの箱を開けなたルティナはインストを眺めているなか、歌音はまずはルティナの好きにやらせようとするのだがランナーを取り出したルティナの発言に額を軽く抑えながらまずは簡単なプラモ作りに使用する道具の類の説明をして後はスミ入れなどの説明を要所でしつつルティナの好きにやらせる。

 

 ・・・

 

 穏やかな時間が過ぎていくなか、ルティナの初めてのガンプラ制作は順調に進んでいる。元々、さして難しくもないキットを歌音が選んだということもあるが、元々のルティナの手際の良さもあって、滞りなくサクサクと組み立てていく。

 

 歌音もその様子を見て、大丈夫だと判断したのだろう。ルティナに助言をしつつテレビを眺めている。今は丁度、歌番組の番宣が放送されていた。

 

「……この子、好きなの?」

 

 そこに映っているのはMITSUBAという名のアイドルであり、その可憐な魅力は画面を通してでも十分に伝わってくる。他のアーティストとは違い、どこかMITSUBAのパフォーマンスに集中している様子の歌音に気付いたルティナは問いかける。

 

「うぇっ? あ、あぁ……私は可愛い子が好きだからね、アイドルも例外ではないのです」

「ホントにそれだけ?」

 

 半ば惚けていた歌音はルティナに声を掛けられ、気を取り直しながら答える。確かにその言葉はルティナにも言っていたが、先程、テレビに向けていた視線はどこか羨望のものも含まれているようにルティナには感じられたのだ。

 

「わ、私のことは兎も角、プラモも完成したみたいね。早速だけどバトルしちゃう?」

「歌音がルティナとバトってくれるの?」

「いやいや、お姉さんはあくまで見てるだけ。今ならゲーセンでCPU相手に戦えるでしょうし、早速、行きましょうか」

 

 先ほどのゲームソフトと良い、不自然に話を変えようとする。疑問に思わないわけではないが別にわざわざ踏み込むほどの興味はない。完成させたガンプラを机に置きつつ、歌音にそれ以上の追求はせずに彼女がバトルの相手となってくれるのか尋ねると、どうやら違うらしい。善は急げとばかりに動き出す歌音の後をルティナは追う。

 

 ・・・

 

「ところでルッティはVRGPは持ってるの?」

「ん? 特に何も」

「VRGPを持っているとガンプラのアセンやアバターのカスタマイズが出来たりするんだけど……。うーん……私のお古、まだあったけな……」

 

 早速、ゲームセンターに到着したルティナ達。早速、シミュレーターに乗り込もうとするルティナに歌音が問いかけるも、そんな名称は初めて聞いたのか、ルティナは首を傾げてしまっている。VRGPとは希空達がVR空間に突入する際に使用しているあのヘッドホン型のアイテムのことだ。

 

「んじゃ、行ってくるよ」

 

 とはいえ、VRGPがなくともガンプラバトルそのものは出来る為、今は特に問題はないだろう。ブツブツ呟いている歌音を尻目にルティナはシミュレーターに乗り込んで、早速、バトルフィールドに飛び込むのであった。

 

 ・・・

 

 鬱葱とする森林が広がるこのジャブローをイメージしたフィールドでストライクダガーを操るNPC機がプレイヤー機を探している。この近くにプレイヤー機がいるのだろう。この場から離れる気配はない。

 

 すると次の瞬間、近くの川が巨大な水飛沫が上がる。NPC機がカメラを向けた先にはギラリと光った一筋の光が。同時に突き出された爪がNPC機を貫いたのだ。

 

 そこからの行動は早かった。貫いたNPC機を盾代わりにしつつ、近くの敵機へ投げ飛ばすと、そのまま俊敏な動きで一気に間合いを詰めて、撃破していく。

 

「ヘヘッ……ルティナにかかれば、こんなもんだよね」

 

 沈黙するNPC機の中でただ一機残っているのは独特な外観を持つ機体……ズゴックだ。しかもただのズゴックではなく、あずき色のカラーリングのシャア専用ズゴックである。

 

 それを操るのはルティナであり、撃破したNPC機達を一瞥しながら自慢げに笑うと、制限時間いっぱいまで次の標的を探すのであった。

 

 ・・・

 

「うんうん、シャア専用ズゴックは昔のキットながら、値段と可動域、プロポーションにランナー数など初心者にはピッタシだとお姉さんは思うのです」

 

 ルティナの操るシャア専用ズゴックの活躍を見ながら自分の判断は間違っていなかったと大きく頷いでいると、ガンプラバトルシミュレーターVRからルティナが出てくる。

 

「どうだった?」

「うーん……悪くはないんだけど、これに比べると……」

 

 早速、ルティナに感想を聞いてみるも、やはりバーニングブレイカーに比べると雲泥の差なのか、微妙そうだ。

 

「まあ、それに比べたら出来はダンチでしょうしね。まあスキルアップしつつ自分に合ったプラモを作ればいいわ。お姉さんもいくらでも協力するし」

「ありがと。あぁは言ったけど、やっぱり自分で作ったものだと全然違うよ!」

「でしょう。じゃあ、早速、VRGPを使ったりしましょうかねー。お姉さんのお古を貸してあげるから、一旦帰りましょうか。夕方になると、ちょっと用事があるけど、それまでならいくらでも付き合えるし」

 

 今日は簡単な仕上げで終わったが、ルティナにその気があるのならもっと良いガンプラが作れるだろう。その為なら協力を惜しむつもりはない。

 ルティナも今回の件で本格的にプラモ作りをしようと言うのだろう。満面の笑みで頷くと、一旦、先程の家に戻っていくのであった……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

残念美人と猫耳歌姫

「さーて、初期化も済んだし、早速だけどVRGPを使っていきましょうか」

 

 ルティナが自作したガンプラで勝利を収めてから数十分が経った。二人は歌音の私室に戻ってきており、そこで歌音によってルティナは彼女が以前、使用していたというヘッドホン型のVRGPを渡され、そのまま歌音の指示のもと、ルティナはVRGPを装着して操作を行うとルティナの視界を覆うようにフォロスクリーンが展開し、ルティナの意識はフォロスクリーンが放った光に吸い込まれていく。

 

 ・・・

 

 ルティナが瞼を上げたとき、可視化したデータが交錯するそこはまさに電脳の世界であった。浮遊感を感じる自分の体を見てみれば、人の形は成しているものの実体のない光のようなものであった。

 

 《ルッティ、聞こえてる?》

「うん、それでルティナはどうすればいいの?」

 

 すると外部でパソコンからルティナをサポートしている歌音からの声が聞こえ、答えつつ歌音へ指示を仰ぐ。

 

 《今からやるのはVR空間でのアバターのキャラメイクよ。機種によっては獣人型とかあるけど、ルッティのはスキャンタイプのものだから、すぐにそっちの空間にルッティの容姿がそのまま反映されるはずよ》

 

 するとこれから行われる事について歌音からの説明がされる。そう言われているうちにルティナのデータ体にスキャンした現実のルティナの容姿とリンクさせるようにデータのリングが幾度も巡っていく。

 

「おっ」

 

 そうしていると先ほどまでハッキリと実体のなかったデータ体だったアバターがルティナへ変わったではないか。そしてそのままルティナはゆっくりと落下していき、光に吸い込まれる。

 

 ・・・

 

 《ようこそ。そこはVRハンガーよ》

 

 ルティナの視界が慣れた時、そこは白いドーム状の空間が広がっていた。それはVR空間にダイブした多くのプレイヤーがまず初めに訪れるVRハンガーであった。

 

「VRってホント不思議な感覚だよね」

 《慣れると現実とさほど変わらないものよ? さて、ルッティの初めてのVRGPの使用を記念して、お姉さんがプレゼントをあげちゃいます》

 

 容姿こそ自分なのだが、やはり電脳世界は現実とはまた違ったものなのだろう。

 アバターである自分の体を見ているルティナに外部から歌音が操作すると、ルティナの体に光が集まりだす。

 

 光が収束すると、ルティナのアバターの服装はネクタイつきの白いYシャツの上にブレザーを羽織り、ひらりと舞う短いミニスカートとニーソックスによって露になる健康的な白い太ももを露出させた所謂JKスタイルに変化しているではないか。

 

 《素ッッ晴らしいわっ! やっぱり制服は神よね!! 清楚で貞淑な優等生スタイルもありだし、露出的で挑発な小悪魔スタイルもそれこそ無気力系も芋っぽさも制服一着でいくらでも様々なスタイルが出来るんだから、二度、いや何度でも美味しい!! スカートの下にジャージを履くのもスパッツを履くのもありだし、メガネをかけるのもありと制服に対するオプションの数の豊富さもヤバイ!! なにより学校という特性上、上下関係が生まれて、先輩さんから指導されちゃうのも最高だし、後輩ちゃんから懐かれちゃうのも最強だし、制服には可能性が満ち過ぎじゃない!? 制服ってもはや宇宙と言っても過言ではないんじゃないかしらッッッ!!?》

「めっちゃ早口でめっちゃうっさい」

 

 どうやら今のルティナのアバターの服装は完全に歌音の趣味丸出しなプレゼントのようだ。外部からの通信越しに制服への燃え滾る熱意を語る歌音の言葉を聞き流しながら、ルティナは早速、自分に着心地の良いように制服を着崩している。

 

 《失礼失礼……。ルッティの制服姿を見て、可愛い×可憐は尊いってことをお姉さんは再確認しただけなのです》

「それでルティナはここで何をすればいいの?」

 

 現実世界から見てみれば、VR空間に飛び込んでいるルティナの近くで一人、制服に対する熱意を語っている自分に思うところがあったのか、咳払いをしている歌音にルティナはVRハンガーでなにをすれば良いのか尋ねる。

 

 《うーん……本当なら私もそっちに言って、VRの世界を一緒に案内したいんだけど……ちょっちお姉さんも時間がないのよね》

「夕方から用事があるとか言ってたもんね」

 

 本来であれば歌音もルティナとVR空間を巡りたいところだが時間を確認して残念そうな声が通信越しに聞こえてくる。しかしゲームセンターに飛び込む前から聞いていたので、それは致し方ないことであろう。

 

 《その代わり、ルッティには最先端のVRを体験できるようにお姉さんがまたプレゼントをあげちゃいます》

 

 するとルティナのアバターが反応し、意識を向けるとルティナの傍らに立体画面が表示される。それはメッセージ画面であり、たった今、歌音のアバターと思われるIDからメッセージが送られたところだ。

 

「シャルル・ティアーナ……ワンマンライブ……? これ歌音のじゃないの?」

 《お姉さんはまあ……用事があってその場では見れないので? だから……まあうん、ルッティが楽しんでくれれば良いかなーって》

 

 メッセージを表示させれば、それはシャルル・ティアーナのライブのチケットの旨が記されたものであり、メッセージ内のリンクからライブ会場へ行けるというものだろう。

 

 しかし歌音から送られてきたということは、これは歌音が楽しみにしていたものではないのだろうか。当然の疑問を口にするルティナにどこかぎこちない不自然な返答をしている。

 

 《っと……時間ないや。兎に角、それはルッティにあげるから、後は好きにして良いよ》

 

 時間を確認した歌音はそう言って、早々に通信を切ってしまう。一人残されたルティナはどうするかしばらくメッセージを見つめるが、やることもなし、せっかくなのでとリンク先に飛ぶのであった。

 

 ・・・

 

「わあ……っ」

 

 リンク先にとんだルティナが目にしたのはまさに色鮮やかな光の海であった。光の一つ一つがアバター達が持つペンライトであり、電脳空間であるというのに、今か今かとライブの時を待つ熱気が伝わってくる。

 

 《ようこそいらっしゃいました》

 

 すると背後から突然、声をかけられる。振り返ってみれば、そこにはゆるきゃらのような二頭身の執事服を着たネコの獣人がそこにいたのだ。

 

 《私はライブのコントロールを勤めるAIです。ここは個人用のVIPルームとなっております。何かご用命があればこのアバターまでお願い致します。まもなくライブが開催されますので、どうぞ心ゆくまでお楽しみください》

「VIPルーム……? なんで歌音がそんなのを……」

 

 制御AIからの挨拶を受けながら、ルティナの疑問はこのVIPルームのチケットを歌音が持っていたことであった。

 しかしルティナの疑問を払拭するように会場に動きがあった。スポットライトが光を泳がせて、観客達がざわめきだす。ついにライブが始まろうとしているのだ。

 

「Are you ready?」

 

 その問いかけに会場全体が答えるように歓声が上がる。すると宙に浮かぶステージに光が集中し、そこからネコ耳と衣装を揺らしながらシャルル・ルティーナが舞い降りたではないか。

 

 歓声のなか同時にシャルルの楽曲の前奏が流れ始め、姿を現した歌姫は舞い踊り流れるメロディに美しい歌声を乗せる。会場のすべてを満たすようなパフォーマンスが行われるなか、既にシャルルをまったく知らなかったルティナも魅了されている。

 

「──……」

「えっ?」

 

 曲も進んで行き、いよいよラストのサビを迎えようとしていた。ルティナがリズムに乗って、体を揺らしているなか、ふとパフォーマンスをしているシャルルがこちらに振り向き、さらにはVIPルームにいるルティナと目が合うと微笑んだではないか。

 ルティナが驚くのもつかの間、いよいよサビに突入して、スタートしたばかりのライブは更なる盛り上がりを見せて、一曲目を終えるのであった。

 

「みなさーん、今日は来てくれて、本当に感謝デース! いやーちょっと前にコロニー側のVRでライブしてたんですケド、こうして地球のライブで皆さんの顔を見ると、マジアガりマス! 今日はラストイヤーではありますケド、シャルルのライブ、楽しんでくださいネー!」

 

 歌い終えたシャルルは早速、MCを行いながら観客に呼びかける。観客がルティナの言葉に歓声を送るなか二曲目に入る。

 

 そこからの時間はあっという間であった。シャルルの時に可憐に、時に妖艶に、時に美麗に、その時々で変わるパフォーマンスと最新のVR技術によって彩られるライブは掛算式にその完成度を飛躍させ、まさに次世代のライブパフォーマンスという言葉が相応しかった。

 

 ・・・

 

「この世界ってすっごくキラキラしてる・・・」

 

 そうしてアンコールも含めて、ライブも終わりの時を迎えた。VIPルームでライブを鑑賞していたルティナもシャルルのパフォーマンスの虜となっていた。まさに彼女の言葉通り、目にしたライブは煌く華やかなものであったのだ。

 

「──楽しんでいただけマシタか?」

 

 ルティナがまだ熱のあるライブの余韻に浸っていると、ふと背後から声をかけられる。そこにはライブを終えたばかりのシャルルがいたのだ。

 

「楽しんでいただけたのなら、ワタシも頑張った甲斐があると言うものデース」

「う、うん……。心が弾む……。今まで見たことがなかったくらい凄くキラキラしてた!」

 

 近くで見るシャルルに驚きながら、彼女の問いかけにおずおずと頷きながらも、ありのままの感想をまっすぐ伝える。

 

「あの、さ……。もしかしてなんだけど……シャルルって歌音なんじゃ──」

「Shh」

 

 ふとルティナはずっと感じていた疑問をシャルルに問いかける。歌音がVIPルームのチケットを持っていたこと、もしシャルルが歌音なのであれば説明もつくし、何より歌音の歌を聞いたときと同じ感覚をシャルルにも感じたのだ。するとシャルルはルティナの言葉の途中で彼女の鼻筋に人差し指を立てながらウインクする。

 

「アナタの目の前にいるのは紛れもなくシャルル・ティアーナで他の誰でもありまセン。シャアとクワトロみたいなものデース。なのでシャルルはシャルル、そして歌音は歌音として接してくれると嬉しいデス。少なくともワタシはそうしてマス」

「分かった……。因みに制服は?」

宇宙(スペース)デース」

 

 例えシャルルの正体が何であれ、そこにいる人物はシャルルだ。故に彼女はそう接してくれるのを望んでいる。であれば、そうしようと頷きながら彼女に問いかけると思ったとおりの返答が来て、二人揃って笑い合う。

 

「また今度、ライブをするのでまた来てくださいネ。ついでにシャルルのチャンネル登録もよろしくお願いしマース」

「えへへ……何だか友達が一気に二人、増えたみたいだよ」

「事実、二人増えてマス」

 

 両手で重ねあうように握手をしながらシャルルが話していると、ルティナが心底、嬉しそうに笑みを浮かべている。その言葉にシャルルも笑いながら頷く。

 

(おねーちゃんみたいに強いだけが、ルティナの心を躍らせてくれるんじゃないんだね)

 

 かつてGB博物館で見た強さを見せた奏に惹かれた。だがそれだけがルティナの心を惹かせるのではないことを彼女自身、歌音とシャルルとの出会いで学んだのだ。

 

 ・・・

 

「あぁ、シャルルのライブ、楽しかったなー」

 

 一方、シャルルのライブを見終えた観客の一人が現実世界へと帰って来ていた。シャルルのライブを思い出しながら余韻に浸り、VRGPを外そうとした時であった。

 

「あれ……?」

 

 ふとVRGPのフォロスクリーンに映るアバターが歪んだように見えた。何かと思い、もう一度、アバターを凝視するも以上があるようには見えない。一時的なバグか目の錯覚だと判断し、そのままVRGPの電源を切る。

 

 しかし先ほどのVRGP内のアバターの歪みは再び起きていた。人知れず、電脳空間の中でそのアバターは口角を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべるのであった……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

解き放たれた鎖

 ──夢を見ていた。

 

 それはあまりにも凄惨で、残酷で、無慈悲な世界。

 だが、それはその少女にとって最も身近で当たり前の世界だったのだ。

 

 存在理由を問われれば、少女は生まれた時から戦うことを決定付けられていた。

 だが、いかに残酷な世界といえどその運命から解放したいと思ってくれる人達がいた。

 その人達は少女を戦いのない場所へと連れて行こうとした。戦うことを運命付けられていたのなら、せめて戦いのない世界へ、と。

 

 しかし少女はこの世界に留まることを選んだのだ。

 まだ物心つくかどうかだ。しかしそんな幼い状態だったにも関わらず、少女は無慈悲な世界にい続けることを選んだ。

 

 だが今、思い返してみれば無意識にでも闘争を求めていたのかもしれない。

 戦いこそが甘美であるかのように、少女は覇王の技を己の物にしながら強さだけを求めていた。

 

 だが、それは少女を孤独にするだけだった。

 その力を無作為に振るえば、残るのは破壊だけ。少女が齎すのは破壊だけだったのだ。当然、そんな少女を周囲は少しずつ怖れていった。

 

『……必要以上にやり過ぎるのはよくないよ。覇王の技は相手も見極めないで加減もなしに振るうものじゃないし、それでは未熟って言われるよ』

 

 そんな少女と周囲を見かねた天使と見間違うかのような物静かな金髪の女性はそう諭そうとしてくれた。少女もその言葉は理解できる。無闇に振るう力は暴力でしかないということも分かっているつもりだ。なにしろ自身に向けられる畏怖の視線はいつだって少女の心にも突き刺さり、彼女自身が何より堪えることだ。

 

 しかしだ。同時に身に着けた技をいつだって惜しみなく発揮したいという欲求も少女の中にあったのだ。どうしようもないというのは自覚しているつもりだ。だが技を、力を身につければ身に着けるほど存分に振るいたいと思うのは、どこまでも幼く無邪気な性と言って良いだろう。

 

 畏怖の中で彼女は一人でいることが多かった。故に少女は対等な存在を、この力を思う存分、ぶつけられるような存在を求めた。

 

 この空虚な心を満たしたかった。

 

 最初は周囲に。だがとめどない要求は留まる事を知らず、少女は世界を超えるに至る理由のうちのひとつとなっていた。

 

 だが一つ、世界を渡って気づいたことがある。

 

『おっ、そう言ってもらえるとお姉さんも歌った甲斐があるというものです』

『楽しんでいただけたのなら、ワタシも頑張った甲斐があると言うものデース』

 

 満たされない欲望の器とも言えるこの心が力以外で満たされようとしていたのだから。

 

 だけどまだ足りない。この深い業のような欲望は完全に満たされない。

 

 満たしたい発散したい大切にしたい蹂躙したい理解してほしい分かったような顔をしないでほしい受け止めてほしい返してほしい共に歩きたい対峙したい対等になりたい頂点になりたい一人になりたくない下手な存在はいらない受け入れてほしい空っぽでいたくない

 

 

 

 もっと

 

 

 

 もっと!

 

 

 

 もっとッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 ──嗚呼

 

 

 

 

 

 

 なんて醜いのだろう。

 

 

 

 ・・・

 

「んっ……」

 

 窓から差し込む日差しを受けて、体を震わせたルティナがゆっくりと目を覚ます。動悸が激しく、うっすらと汗も滲んでいた。

 

「おっ、ルッティ起きた?」

 

 そんなルティナに声をかけたのは歌音であった。見てみれば、眼鏡をかけた歌音はだるっだるのジャージ姿で大きめのクッションに身を預けて漫画を読んでいる。

 

 ルティナがシャルルのライブを鑑賞してから、もう少しで一ヶ月だ。

 歌音から聞いた話だと、そろそろ学生達が休み明けで絶望する時期だという。これまでの間、定期的に自身の世界に帰っているもののガンプラの製作技術を教わったりなどでこの世界にいる間はずっと歌音の家で世話になっている状況であった。その間に歌音の伯父などにも出会ったりしたが、歌音よりは家事など手伝ったりしてくれるルティナの居候は認められてはいる。

 

「シャルルの次のライブ、後少しだね」

「規模が前よりも大きいらしいから本当に大変よね。あぁでもルッティが望むなら、ちゃーんとルッティの特等席はお姉さんが用意しますよー」

「……うん、見れるなら、また見たい」

 

 近くの壁に立てかけられた電波時計に表示されている日付を見ながら、ルティナはシャルルのライブについて触れる。以前、見た時のあの煌くステージはいまだ脳裏に強く残っている。

 

 しかし歌音はまるで他人事のように漫画のページをぺらぺら捲りながら答えている。歌音のその姿は見ていた違和感があった。

 確かに以前、シャルルは自分は自分、歌音は歌音として接してくれと、自分はそうしていると言っていた。実際、歌音は恐らくそうしているのだろうが、毎回、シャルルの話をする時の歌音と言うのは、このようにまるで赤の他人の話をするかのように、どこか他人事のように話をするのだ。

 

 とはいえシャルルのライブだ。ルティナにとって歌音と同じように友達の一人であることに違いない。であれば、是非ともシャルルのライブを見てみたいと思う。

 

「しっかし、ルッティはホント飲み込みが早いわねー。まさかこの短期間でこれだけの出来栄えを誇るガンプラを作るなんてねー。いやはやこのカオンの目を持ってしても見抜けぬとは」

「ふふん、もっと言って。ルティナは褒められて伸びる子だから」

「そこはお姉さんの教えが良かったって言うところでしょー」

 

 どうやらルティナはテーブルの上で転寝をしていたようだ。そんな彼女の目の前にはデスティニーガンダムをベースにカスタマイズされたガンプラが置かれていた。

 その隣にはルティナが初めて作成したシャア専用ズゴックも置いてあり、見比べても、その出来栄えはまさに段違いと言っても良いだろう。

 丁寧に重ねられた塗装や立体感をより引き出すディテールの追加、鋭角的なデザインを引き立てるためのエッジの鋭さなど歌音の指導や補助があったとはいえ、よくここまで仕上げたものだ。

 

「それで試運転はするの?」

「そりゃあ勿論。ルティナはこの為だけにガンプラを作ってたからね」

(ガンプラ作りながら見てたGガンにはまってたのをお姉さんは知っているのです)

 

 既にこのガンプラのアセンブルシステムも歌音が組んでくれている。早速、完成したのであればガンプラバトルをするのか尋ねると、半ばその目的でガンプラ作りを始めたルティナは大きく頷いている。もっともそんな風に言っているルティナに作業途中でガンダム作品に興味を示していた彼女の姿を思い出しながら微笑ましそうに笑っている。

 

「それじゃあ、お姉さんも行きますよ。作成に関わっている以上、気にならないわけじゃないからねー」

「ちゃんと着替えてね。その格好でルティナと一緒に歩くとかマジないから」

「……流石にお姉さんもだるだるの芋ジャージで駅前のゲームセンターに行けるほどの鋼メンタルはないのです」

 

 すると今まで読んでいた漫画本をその辺に置きながら、眼鏡を外して歌音は身を起こす。とはいえ完全にオフモードでいる歌音と一緒に歩きたくはないのか、釘を刺すルティナに一応、人並みの羞恥心は持っていると言わんばかりに頬を引きつらせた歌音は支度を始めるのであった。

 

 ・・・

 

「今日はファイター達もいるようね。どうするルッティ、初めてってのもあるし、今回もNPC相手にする?」

 

 ゲームセンターに到着したルティナ達は早速、ガンプラバトルの様子を映すモニターを見ながら会話をしていた。どうやら今日は何人かのファイター達がその腕を振るっているようだ。

 

「んにゃ、それじゃルティナの心は揺れないなぁ。せっかくだしお相手願うよ」

「さっすがルッティ! その自信に満ちたどや顔もお姉さん大好き!」

 

 そのような状況であれば寧ろ望むところだとばかりに好戦的にルティナは笑う。その様子に歌音は満足していると、ルティナはガンプラバトルシミュレーターVRに乗り込んで、VR空間にダイブする。

 

 ・・・

 

「ゲームは好きだよ。リアルと違って、いくらでもガチになって良いんだから」

 

 VR空間にダイブしたルティナは表示された己のガンプラのコックピットに乗り込んでいた。起動画面をぼんやりと見つめながら、ルティナは一人呟く。

 

「自分を抑える必要も、あれこれ難しいことを考える必要もない。だから……ルティナにとって最高の場所なんだ」

 

 狂戦士は地が鳴るような戦いを前に口角を吊り上げ、歓喜の笑みを浮かべる。

 

「じゃあ行こっか、パラドックスゥッ!」

 

 その悪魔のような真紅の翼を広げながら鎖から解き放たれた猛獣が如く、フィールドに飛び出していくのであった。




ガンプラ名 ガンダムパラドックス
元にしたガンプラ デスティニーガンダム

WEAPON GNソードⅡブラスター(射撃と併用)
HEAD ガンダムデスサイズヘル
BODY デスティニーガンダム
ARMS デスティニーガンダム
LEGS Hi-νガンダム
BACKPACK スクランブルガンダム
SHIELD アンチビームシール
拡張装備 レールキャノン×2(両腰部)
     レーザー対艦刀×2(背部)
内部フレーム補強

例によって活動報告にURLがあります。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

My heart is exciting

 ドシリと地面に重厚に響き渡るのは機械人形が倒れ伏した証。すぐさま撃破された機体がデータとなってフィールドから消え去る中、残された勝者はただ一人、戦場に孤独に残る。

 

「つまんない」

 

 コンソールの上に足を乗せながら、退屈そうに呟くのはルティナであった。ルティナがバトルフィールドに現れてから暫くが立つが、パラドックスの損傷は軽微である。彼女が積極的にバトルフィールドのプレイヤー機を狙っては交戦している訳だが、彼女の関心を惹くようなバトルには巡り合えなかったようだ。

 

「まあでも、パラドックスの性能は分かったから、おねーちゃんか如月翔のところにでも──」

 

 とはいえ戦闘を重ねていくうちにパラドックスの性能などは把握できた。彼女の心を躍らせるようなバトルはなかったものの、ウォーミングアップ程度で考えれば、今回のバトルは無駄ではなかっただろう。とはいえ、これ以上は冗長だ。時間はまだあるが、この辺りで切り上げようとした時であった。

 

 ふとパラドックスのセンサーが反応する。こちらを目指してやって来る機影を確認することが出来た。どうやら一機だけのようだ。高速でこちらに向かってくるため、そのまま待てば、そこにはかつてGB博物館でも戦闘をしていたエクシアサバイヴが姿を現した。

 

「プレイヤー機がこの辺りで次々にロストしていると思ったら……あの機体がやったのか?」

 

 エクシアサバイヴを操るのは、GB博物館同様に涼一であり彼はレーダーを一瞥しながらバトルフィールドに一機だけ佇むパラドックスの姿を見やる。涼一もバトルを行っていた一人だが、ルティナの参戦後、彼がこのバトルフィールドに残る最後のファイターとなってしまったようだ。

 

「……ハッ、だったら挑まなきゃファイター失格だよなッ!!」

 

 パラドックスがそれだけの戦果を挙げたのであれば、それだけファイターの実力も分かるというものだ。であればガンプラファイターを名乗る者として挑んでみたいという想いが生まれるのは何らおかしなものではないだろう。

 

 エクシアサバイヴは戦闘の意思を示すようにバックパックの高エネルギー長射程ビーム砲を構えると、一瞬の間を置いて発射する。

 

「じゃ、今日はこれが最後だね」

 

 上空から迫る高出力ビームを見つめながら、ルティナはポツリと呟くと獣のように口角を吊り上げる。ギンとギラついたようにツインアイを輝かせたパラドックスは真紅のスラスターウイングを展開する。

 

「ッ!? 速いッ!!?」

 

 パラドックスの機動力は涼一の想像を上回っていた。一瞬にして迫るパラドックスに対して専用ショットガンによる散弾を撒き散らすことによって対応しようとするのだが、縦横無尽に飛び回るパラドックスには届くことはなかった。

 

 それはパラドックスの動きにある。パラドックス自体には戦闘に応じる意思はあるのだが解放されたかのようにあまりにも自由に動き回っているのだ。しかしその動きに一切の無駄はなく、それでいて変則的なので中々、その動きを捉えられない。しかも彼女の戦闘スタイルも獣のように本能的に動くかと思いきや、その動作には洗練された技があり、隙がないのだ。涼一もセンサーではなく、半ば目で追っている状況だ。しかしそれも一瞬の気の緩みがあれば見失ってしまうだろう。

 

「──そこかッ!!」

 

 不意にこちらに対して迫る影があった。反射的にショットガンを向けて引き金を引くのだが──。

 

「なっ!?」

 

 その手応えはあまりにも軽かった。カンッと甲高い音が響き、確認してみればそれはパラドックスが投擲したフラッシュエッジ2だったのだ。囮に気づいたのも束の間、背後から勢いよく蹴り飛ばされたエクシアサバイヴは地面に落下して轟音を立て、周囲には土煙が上がる。

 

「こんなもんかな」

 

 巻き上がる土煙を見つめながらルティナは一作業終えたかのように呟く。バトルもこれで終わりだろうとログアウトしようとした時であった。

 

 土煙の中から無数の何かが飛び出す。僅かに目を細めたルティナが確認すれば、それはファンネルであった。四方八方から自身に襲い掛かってくるファンネルにルティナは最小限で回避する。

 

 とはいえいつまでもファンネルの相手をする気はない。レールキャノンとバルカンを巧みに使用してファンネルを破壊しながら、地面にエクシアサバイヴへGNソードⅡブラスターを向けるが、ルティナが目にしたのはこちらに迫るアロンダイトであった。すぐさま機体をずらして避けるのだが、後続で飛び出したアンカーがアロンダイトの柄を捉え、そのまま横振りにパラドックスへ叩きつけようとする。

 

 回避するには間に合わず、咄嗟にアンチビームシールドを展開して横殴りにするようにアロンダイトを弾いて体勢を立て直すパラドックスだがセンサーが背後を示す。

 すぐさま反応すればそこにはエクシアサバイヴが二つのビームサーベルを構えて、振りかぶっていたではないか。対してパラドックスは動揺することはなく、エクシアサバイヴの頭部にカウンターの要領で左腕による左ストレートをたたき付け、そのまま仰け反らせるのだが……。

 

「まだ、だっ!!」

 

 エクシアサバイヴのツインアイが輝く。同時に体勢を直し、アンカーを射出すると、パラドックスの機体を拘束する。ここから少しでも反撃しようと考えたが、異変が起こる。

 

 それは拘束されたパラドックスがその身を回転させ始めたからだ。回転は勢いを増し、高速にまで達すると竜巻を発生させる。旋風竜巻蹴りだ。当然、エクシアサバイヴも荒れ狂う竜巻に飲まれ、そのまま上方へ巻き上げられてしまう。

 

 ようやく竜巻から解放されたエクシアサバイヴだが、既に下方にはパラドックスはおらず、代わりに上方でセンサーが反応する。パラドックスが左腕のマニビュレーターを高速回転させて迫っているのだ。そのまま流星螺旋拳を受けたエクシアサバイヴは地面に叩きつけられる。

 

「しぶっといなぁ」

「そう簡単に……落とされてたまるかよ!」

 

 距離を開けたルティナは様子を見る。すると彼女の予想通り、エクシアサバイヴは大破寸前だと言うのに、まだ立ち上がろうとしているのだ。そのコックピットで涼一は戦意を衰えさせることなくパラドックスを見据えている。

 

「でも諦めないで最後まで立ち向かおうとするのはルティナ、大好きだよ。心が惹かれるからね」

 

 エクシアサバイヴの姿にルティナはついつい笑みを零す。今までの彼女の人生で彼女が慕う先人達以外で暴力的なまでの力を振るう彼女には皆、恐れるばかりですぐに平伏する。

 

 実際、彼女に対してそれでも抗おうと立ち上がっていたのはほんの一握りだ。それ故、ルティナはそのほんの一握りの人間が好きだった。それは目の前のエクシアサバイヴもそうだ。

 

「なら、ルティナもちゃんと応えないとね」

 

 であれば彼女は彼女なりに誠意を示す。GNソードⅡブラスターとアンチビームシールドを放棄すると、両足を開き、右手を突き出し、左拳を引き構えをとる。覇王不敗流の構えだ。

 

「──聖拳突き」

 

 涼一がその構えを見た時、一瞬の間を置いてパラドックスは眼前に迫っていた。

 それを認識した瞬間、先程までの狂戦士の獰猛な笑みとは一変、武人の如く鋭い眼光を走らせたルティナはエクシアサバイヴを貫き、確実に撃破するのであった。

 

 ・・・

 

「あー面白かった」

「お疲れルッティ」

 

 ガンプラバトルシミュレーターVRから出てきたルティナを歌音が出迎えるなか、体を解すように背伸びをする。

 

「負けちまったな……」

 

 そんなルティナの後にシミュレーターから出てきたのは涼一であった。その手に持っているのはエクシアサバイヴである。

 

「あれ、あの時のクッキー君じゃん」

「お前……。って、クッキー君ってオイ」

 

 お互いにすぐに思い出したのだろう。もっともルティナの涼一への呼称に彼は頬を引きつらせる。

 

「ガンプラバトルもしてたんだね」

「ああ、最もお前に負けちまったがな」

 

 涼一の手のエクシアサバイヴを一瞥しながら、まさかあの時、クッキーを振舞った青年がパティシエだとは思わず、関心するかのように言うと、涼一も同じようにルティナのパラドックスを見ている。

 

「っていうか、歌音さんもいたのな」

「えっ、あぁうん、久しぶりね、りょーくん」

「なんでさっきから黙ってたんですか?」

 

 すると涼一はそのまま視線をずらして、二人をじっと見守っていた歌音へ声をかける。どうやら二人とも面識があるのか、我に返った歌音が挨拶をするなか、なぜ、ずっと黙っていたのか尋ねる。

 

「いや、お姉さん、可愛い存在が好きだけど同じくらい格好良い子も好きだから、二人のやり取りを見て、眼福だなぁってしみじみ思っていただけなのです」

「あぁ相変わらずですね」

「いやぁそれほどでも。けどルッティはこの分だとマイマイちゃんやタカミーなんかとも気が合うんじゃないかしら」

「舞歌や貴文さんをそう呼ぶのは歌音さんだけですよ」

 

 しみじみ今日は来て良かったと頷いている歌音はそのまま知り合いの名前を出す。どうやら舞歌達とも面識はあるようだ。基本的にあだ名呼びをする歌音に涼一も苦笑する。

 

(……なんだか眩しいな)

 

 歌音の言葉から少なくとも彼女の知り合いには涼一のように興味を示せるような存在がいるのだろう。とはいえルティナは無意識にそんな風に考えてしまう。どうしてそう思ったのかは分からないが、ルティナは歌音達から目を逸らすのであった。

 

 ・・・

 

「さて、そろそろシャルルのライブか」

 

 それから数日後、コロニーでは奏が学園寮の希空の部屋でVRGP片手に希空に声をかける。そう、今日はシャルルのライブの日である。

 

「……もうすぐ学校も始まります。なので楽しむべきです」

「うむ、この日まで予約待ちでようやく手に入ったのだ。今日はフィーバーだな!」

 

 既に希空はVRGPをセットしており、いつでもVR空間にダイブすることが出来る。奏でも希空の言葉に大いに頷きながら、これから始まるライブに胸を膨らませる。しかしだ。このライブに音もなく忍び込む陰の存在を彼女達は知らなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歌姫の加護

 

 シャルルのライブまで刻一刻と迫っていた。VR空間におけるドーム型の控え室でシャルルは意識を統一させるように硬く目を瞑り、流れるまま空間を浮遊していた。

 

『シャルル様、少々お時間よろしいでしょうか?』

 

 すると突然、コントロールAIからの通信が彼女が装着しているインカムに届く。ゆっくりと瞼を上げたシャルルは姿勢を直しながら、コントロールAIの通信に耳を傾ける。

 

『ライブ前にシャルル様にお会いしたいと仰られている方々がおります。その方達は……──』

 

 これからライブだと言うのに、一体、何なのかと思う気持ちはあるが、それを承知している上でコントロールAIが通信してきたのだろう。シャルルはコントロールAIの言葉を待つのであった。

 

 ・・・

 

「これがシャルルのライブ……まだ始まってもいないのにVR越しでも分かる凄まじい熱気です」

 

 VR空間のシャルルのライブ会場には希空と奏の姿があった。流石にこのライブ会場にロボ助を連れてくることは出来ず、ロボ助は渋々、学生寮で待つ羽目になってしまっている。そんな中、希空は人で埋め尽くされた観客席のライブを待つアバター達の熱気を感じながら口を開く。

 

「ライブ自体はツバコのライブに何度か足を運んだことはあるが……。うむぅ、これは気圧されてしまうな」

「ええ、これでライブが始まったらどうなるのでしょうか」

 

 奏も周囲の熱気にあてられて、彼女自身も落ち着きがなくソワソワとして浮き足立っている。いつもなら奏に対しては、毒舌交じりで言うところだが、そうなってしまうのも仕方がないと分かるため、その言葉に頷きながらその時を待つ。

 

 ・・・

 

「相変わらず、ここはキラキラしてるなぁ」

 

 一方、歌音が用意したVIPルームにはルティナの姿があった。窓に手をつき、サイリウムで彩られた会場を見ながら、惚れ惚れした様子で呟く。

 

「……ルティナじゃあ、こんな空間……絶対、作れないんだろうなぁ」

 

 ふと自嘲気味な笑みを見せる。彼女は自身の心の赴くままに行動している。それは闘争心によるものとも言っていいだろう。故に彼女の行動は破壊を生み出すことが殆どだ。

 そんな自分を理解しているからこそ、多くの人々が表情に期待や希望のような感情を宿すこの輝かしい空間は作れないだろうと思ったのだ。

 

 どこか表情に自嘲を滲ませながら観客席を眺めていた時であった。ふとルティナのVIPルームにノックのような音が響くと、VIPルームにアバターが転移する。

 

「Hey! ルティナ、いきなりゴメンネー」

「どーしたの? もうすぐライブだよね?」

 

 転移してきたアバターはシャルルであった。両手を合わせて、軽く小首を傾げながら可愛らしくウインクをしている彼女にライブ直前に一体、何用なのか尋ねる。

 

「実はルティナにお願いがあって来マシタ」

「ルティナに……?」

 

「イエース。ルティナにしか頼めないことデース」

 

 するとシャルルは片言混じりは変わらぬものの、いつにも増して真剣な様子で話している。シャルルのそんな姿を初めて見たルティナは自分に頼みごと、と言うのもあり、戸惑いながらも彼女を見据える。そんなルティナにシャルルはある頼みごとを彼女にするのであった。

 

 ・・・

 

「あっれー!? VRにダイブ出来ない!?」

 

 一方でシャルルのライブに参加できない者もいた。以前、シャルルのライブにいた観客の一人だ。今回もシャルルのライブに向かおうとVRGPでダイブしようとするのだが、フォロスクリーンに出てくるのは無機質なERRORの文字であった。

 

 ・・・

 

 だが、実際のシャルルのライブ会場にはその観客のアバターが確かにそこにいるではないか。しかしそのアバターは周囲の今か今かとシャルルのライブの時を待っている観客達とは違い、一切、ステージなどに目もくれず、視線を絶えず動かしていた。それはまるでこの会場にどれだけのアバターがいるのかを見定めるように。

 

 すると、会場ではシャルルの楽曲のイントロが流れ始める。会場がドッと歓声で湧くなか、アバターは一度、俯き、手のひらサイズの小型ウインドウを表示させる。

 

 そこにあったファイルはウイルス拡散の実行プログラムであった。

 

 ここまで来れば、もう分かるだろう。このアバターはこのライブ会場でウイルスを拡散することによって観客のアバター達を相手にパンデミックを引き起こそうとしているのだ。

 

 パンデミックが引き起きた時のことを想像しているのだろうか、俯いているアバターはその口元に邪悪にしか感じ取れないような歪な笑みを浮かべていたのだ。

 

 アバターはすぐさま実行に移す。小型ウインドウの確認画面をタップすると、ウインドウを消して愉快そうにくつくつと笑いながら顔を上げる。もう間もなくこのライブ会場にいる全ての観客達にウイルスが撒かれることであろう。しかもウイルスに感染しても、何がきっかけか、そもそも観客達は感染したことも気づかない。

 

 電子世界の歌姫のライブは汚れに満ちた惨劇の会場となるのだ。それら全てを知っているのは自分だけ。これを愉快と思わずして、どうしろと言うのだろうか。

 

「♪~♪~♪」

 

 程なくしてステージにシャルルが現れたと同時に美声を持って歌い始める。ここまでは予定通りだ。今頃、ウイルスも拡散し終えている頃だろうか。そう思って、再び小型ウインドウを表示させる。

 

「──ッ!?」

 

 画面に表示される進行状況を見た時、アバターは驚愕で目を見開いた。そこには確かにウイルスが拡散されているものの、同時にそのウイルスは駆除され、抑えられているのだ。一体、どういうことなのだろうか。

 

「まさか……!?」

 

 首謀者はアバターを通して初めて口を開く。その視線の先には今も、ステージを満たそうと輝かしいパフォーマンスを魅せるシャルルの姿が。

 

 《ええ、そのまさかです》

「──!」

 

 するとアバターのプライベート回線が強制的に接続され、首謀者に対して声が届いた。

 

 《アナタの動向をずっと警察は追っていました。ウイルスの拡散と共にアバターを突き止めることが出来ました、がそのアバターも乗っ取ったものでしょう。ですが、アナタのやろうとした事は阻止できた》

 

 ここ最近、巷を騒がすウイルス騒動は全てこのアバターを乗っ取った首謀者によるものだろう。だが、だからこそ対策を講じることが出来た。

 

 《Ms.シャルルに感謝しなくてはいけませんね。ワクチンプログラムを彼女の歌に乗せて、絶えず拡散しているのですから》

 

 そう、ウイルスの拡散を抑え込んでいるのは他ならぬシャルルだ。首謀者に対してとった対策、それはシャルルの歌声にワクチンプログラムを付加させることであった。それがライブ開始前にシャルルに持ち出された話の内容であった。

 

「──クッ!」

 

 しかし首謀者からしてみれば、面子を潰されたのかと思ったのだろう。小型ウインドウを素早く操作する。

 

 ・・・

 

 すると電子空間のライブ会場へと続くネットワークにウイルスプログラムが出現し、会場へ向かおうとする。最早、実力行使をしようと言うのだろう。

 

 しかし出現と同時にウイルスプログラムは全て撃ち抜かれ、消滅する。

 

「勿論、させませんとも」

 

 ライブ会場へと続くネットワークを守護するように行く手を塞いでいるのはガンダムブレイカーブローディアであった。騎士のようなビームコーティングが施されたマントを靡かせながら、GNバスターソードをライフルモードに銃口を向けながら、そのコックピットではラグナのアバターが静かに答える。

 

「汚れ仕事は引き受けると奏達に言ったばかりですからね。彼女達にはただ純粋に目の前の出来事だけを楽しんでもらいたい」

 

 会場の様子を映し出したサブモニターを見やり、観客席に映る奏と希空の姿を横目に見ながら呟く。確かに彼女達もウイルスを襲い掛かっていると知れば、手伝おうとするだろう。

 

 だが、そもそも希空達はシャルルのライブの為にあの会場に来ているのだ。であれば余計なことを考えず、ただ純粋にライブを楽しんでもらいたい。その為ならば影で戦うことも厭わない。

 

「それに今回は私だけではありませんから」

 

 ラグナはふと柔らかな笑みを浮かべながら自身のブレイカーブローディアの隣にいる機体を見やる。そこには超過の意味を持つ希望の守り手が操るその圧倒的な巨躯を誇ったガンダムブレイカーが存在していたのだ。

 

「私達には歌姫の加護がある。あそこにある輝きの為にも、そう簡単には通しはしません」

 

 サブモニターからシャルルの歌が聞こえてくるなか、ブレイカーブローディアはGNバスターソードを重々しく振りかぶり、その切っ先をウイルスに向けて、厳然と構える。その姿はまさに勇ましい獅子のようだ。

 

「では、真っ向勝負と参りましょう!」

 

 気高き獅子と希望の守り手は歌声が舞い踊る戦場で人知れず戦闘を開始するのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この世界を何処までも

 人知れず行われている二機のガンダムブレイカーによる防衛戦。大挙として押し寄せてくるなか、それを物ともせずにEXブレイカーの砲撃が全てを飲み込む。

 

「ハァアッ!」

 

 しかし中にはその砲撃を逃れるウイルス達もいる。だが相対した時点で決してガンダムブレイカーが逃すわけがない。清廉な騎士のように勇ましく、荒ぶる獅子のように激しくブレイカーブローディアが振るったGNバスターソードは次々にウイルス達をなぎ払っていく。

 

 物量差で言えば、ウイルスが圧倒的であろう。しかしそれを物ともしない質で対抗しているのがラグナ達だ。シャルルの歌声と共に刃を走らせ、瞬く間に殲滅していく。

 

 ・・・

 

「……っ」

 

 その戦いを見ている者であれば、そのどちらに軍配が上がるか、考えるまでもなく分かるだろう。それはこれを見ている首謀者も同じことだ。

 

 ふと顔を上げ、ステージ上で歌っているシャルルを見やる。MC中でもワクチンプログラムが散布されていることから彼女の声その物にワクチンプログラムが付与されていると考えて良いだろう。

 

 ──せめて、あの女さえ何とかできれば。

 

 首謀者は思考を張り巡らせる。例えガンダムブレイカーの介入があったとしても、彼女ほどワクチンプログラムを広範囲に拡散させることは出来ないだろう。だからこそこの状況で優先するのであれば、ガンダムブレイカーの対処よりも、シャルルを優先すべきだ。

 

「……」

 

 アバターは観念したように肩を落とす。この時点で諦めて、完全に撤退するのも手だろう。そもそも今回、このアバターを乗っ取ったのも単純にパンデミックを引き起こすための引き金にする為だけだ。

 

 本腰を入れるには、今用意したものではあまりにも心許ないし、どの道、これ以上どうすることも出来ない。どうせこのアバターは使い捨てだ。このアバターその物を特定されたところで乗っ取った自分まで特定されるわけではない。

 

「けどまぁ……無駄ではなかったな」

 

 アバターを手放し、これ以上の追跡をさせない為の策を張りながら強制的にログアウトをする。その直前、アバターは最後まで輝かしいステージでそれに負けないくらい美しいパフォーマンスを行うシャルルを見据える。それはまるで良い獲物を見つけたとばかりに、その口元に妖しい笑みを浮かべながら、ライブ会場から姿を消すのであった。

 

 ・・・

 

「やれやれ……やっと落ち着きましたか。後の追跡は警察に任せましょう」

 

 ウイルスを全て駆逐したラグナは一息つく。ガンダムブレイカーとはいえ、たった二機で迫るウイルスを全て相手取ったのだ。VR世界とはいえ、多少なりでも精神的な疲労を感じてしまうのは仕方のないことだろう。

 

「しかしこれまでの戦いに比べ、善き戦いではありました。Ms.シャルルのお陰ですね」

 

 サブモニターで会場の様子を見やる。ライブ会場は大いに盛り上がっており、こちらのことは幸いと言うべきか気づかれてはいないようだ。その様子を見ながら、ラグナは安堵したようにやんわりと微笑む。

 

 これまで何度かウイルスの相手をしてきたが奏達にも言ったことがあるようにどれも到底、ガンプラバトルと言えるものではなく殺伐としていた。それは最もウイルスに関わり、戦い続けてきた彼の新星も辟易していたと聞く。

 

 だが此度の戦いはこれまでと違った。

 それはやはりシャルルの存在が大きいだろう。彼女の歌と共に駆け抜ければ不思議と背中を押されるような活気が宿った気がする。ウイルスとの戦いで、今日ほど調子が良かった日はないだろう。そう考えると、シャルルのアレほどの人気も頷けるというものだ。

 

「今度、バトルをする時はジャズのようにMs.シャルルの歌を……。……いえ、止めておきましょう。歌は静かに聞き入ることで嗜みたいですから」

 

 ふと頭の中に思いついた案があるのだが、軽く咳払いをしながらすぐに取りやめる。

 “アイドルソングが聞こえたら、俺が来た合図だ”……そんなこと到底、やれる気がしない。一瞬とはいえ、何を思いついているのだとばかりにラグナはこめかみを抑えていた。

 

「電子世界の歌姫か……。うんうん、応援してるよ」

 

 そんなブレイカーブローディアの傍らで希望の守り手はサブモニターに映るシャルルの姿を眺めながら慈しむように微笑んでいた。

 

 ・・・

 

 既にライブも終盤の時を迎えている。サイリウムだけが輝く暗がりの会場では丁度、アンコールで湧き上がっていた。するとイントロが鳴り始め、歓声が起こる。すると当然、会場の上部で大きく鮮やかな光が広がったかと思えば、粒子が会場に広がり始めたではないか。

 

「これは……」

 

 手のひらに落ちた粒子を見ながら、希空は首を傾げる。何かの演出なのだろうか。そうんなことを考えていると・・・。

 

「お待ったせしましたー!」

 

 会場にシャルルの声が響き渡る。するとスポットライトが上部に集中し、そこにいた存在に観客は度肝を抜かれる。

 

「シャルルのベストフレンドと共に今日はスペシャルバージョンで行きマスネーっ!」

 

 そこにいたのはルティナのパラドックスであった。武装解除しているパラドックスは二つのマニビュレーターを合わせてその上にシャルルを乗せているのだ。

 スラスターウィングから絶えず粒子を放出させながら、ステージ代わりとなったパラドックスはゆっくりと降下していくなか、衣装を変えたシャルルは歌い始める。

 

(ルティナにしか頼めないって言うから協力したけど……)

 

 パラドックスのコックピットでルティナはモニターに映るシャルルの様子を見つめていた。ライブが始まる直前、シャルルはルティナの前に現れた。それはこの演出をする為に彼女に頼みにいったのだ。最ももしガンダムブレイカー達とは別に会場にウイルスが現れた時の保険、という意味もあるのだが。

 

(本っ当に眩しいなぁ……)

 

 アンコールの時間も瞬く間に過ぎていく。そんな中、最後の時を迎え、モニター越しにサイリウムの色鮮やかな光を背に、こちらににっこりと笑うシャルルの姿を見ながら、ルティナも微笑むのであった。

 

 ・・・

 

「はぁー……やっぱりこの部屋が一番、落ち着くー……」

 

 ライブ終了後、歌音はベッドに倒れこみ、枕を抱えてゴロゴロと寝転がっていた。

 大盛況のうちに終えたライブ、帰ってきたのは日付が変わる間近だ。

 

「あんなキラキラした世界を作れるなんて、やっぱ凄いね、歌音は」

「あれはシャルルの力よー。お姉さんじゃないの」

「でもシャルルはシャルルでも、歌音がいないとシャルルじゃないでしょ?」

「……どうかな?」

 

 普段は残念な美人だが、ライブになればあれだけのパフォーマンスが出来るのだ。歌音を労おうとするルティナだが、歌音はあくまでシャルルであって、自分は凄くはないと答える。

 

 かつてシャルルはシャルルはシャルル、歌音は歌音として接してくれと言っていた。だが歌音がシャルルとして活動したからこそのあれだけのライブがあるのだろう。

 毎回、自分とシャルルを別物に考えている歌音に謙遜する必要はないと言おうとするのだが、どこか先程までの雰囲気を潜めた歌音は起き上がる。

 

「私はね、シャルルじゃなくて、シャルルのパーツでしかないんだよ」

 

 どこか悲しげに、それでいて自嘲するように放った言葉。それは今までの歌音からは考えられないほどもの悲しげでそう口にする彼女はとても儚く見えた。

 

「──歌音ちゃん、いる?」

 

 そんな彼女に何と声をかけて良いか言葉をつまらせるルティナだが、ふとノックがされ、そのまま扉が開けられると、そこには桃色の髪の美しい人物がいた。

 

「今日はお疲れ様。シャルルちゃんと歌音ちゃんを労いたいけど、時間が時間だし、簡単なうどんを作ったんだけどどうかな?」

「食べる食べるっ! 優陽叔父さん、大好き!!」

 

 その美しい顔立ちを引き立たせるような優しい笑みを浮かべながら問いかける桃髪の人物。すると歌音は先程の態度とは一変、飛び跳ねるようにベッドから起き上がり、歌音のガンプラ作りが上手い叔父さんことその人物の名を口にしながら、向かっていく。

 

「ルティナちゃんの分も作ったけど、どうかな?」

「……うん、食べる」

 

 優陽はそのままルティナにも声をかける。ルティナも頷きながらも歌音の後を追うが、その頭には先程の歌音の言葉が残っているのであった。

 

「そう言えば、タウンカップが開かれるけど、ルティナちゃんはどうする?」

「えっ?」

「ルティナちゃんの心を弾ませてくれるバトルがあると思うけど」

 

 そんなルティナを見かねてか、彼女にタウンカップの話題を振る。何か分からず顔を上げるルティナに彼女に合わせた簡単な説明をする。

 

「心が弾む……か。うん、どんな時もそれが一番だよね! その話、もっと聞かせて!」

 

 優陽の言葉に先程の歌音の言葉にいつまでも引きずられない様に思考を切り替えながら、優陽の元へ駆け寄る。

 

 そうして時間は過ぎていき……。

 

 ・・・

 

 《希空、忘れ物はないですね》

 

 朝日の光が窓から差し込むなか、学生寮の一室でロボ助は玄関先にいる希空に室内のスピーカーを通して、声をかけていた。

 

「大丈夫。新学期だもん。ちゃんと準備したよ」

 

 そんなロボ助に制服姿の希空はクルリとプリーツスカートを揺らしながら振り返ると、心配性のロボ助を安心させるように微笑み、そのままローファーを履く。

 

「それじゃあ行って来ます」

 《いってらっしゃい、君の人生にこれからも幸運がありますように》

 

 部屋を出る前にもう一度、ロボ助に振り返りながら声をかけると、液晶カメラで笑顔を作りながらロボ助は彼女を見送る。そんなロボ助に頷きながら、明るい光のなか、希空は駆け出していくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第EX章 絆の力で己を掴め
ニュージェネレーション


 ──開きかけていた扉はついに完全に開かれた。

 

 

 

『俺達が(のぞ)む空にアンタはいない。これがアンタが持てなかった力だッ!!』

 

 

 かつて希望と誇りを賭した激闘が行われた。

 

 

 それはまさに世界が一つとなった戦いとも言って良いだろう。

 

 

 ──自分もあぁなりたい。

 

 

 その戦いを見ていた者はそう感じるほどのものだ。

 

 

 熾烈を極めた戦いは新星達が勝利を掴んだことで収束し、新星達と覇王達は別れの時を時を迎えた。

 

 

 ここから始まる物語は新星達が紡いで来た物語の先の未来。

 

 

 ベールを脱ぎさり、全てを白日の下に明かす時がきたのだ。

 

 

 さあ、準備は良いだろうか?

 

 

 ならば開かれた扉の先を通ろう。

 

 

 その先に待つ箱庭から物語は動き出すのだ。

 

 

 ・・・

 

 

 かつての宇宙エレベーターが切断され、静止軌道ステーションの漂流事件から三十年の年月が経った。今では宇宙エレベーターも無事に稼動しており、かつての鈍さからは考えられないほど宇宙開発計画は飛躍的に進行し、今では人類の第二の故郷とも言える宇宙コロニーが二基まで稼動するに至った。

 

 しかも驚くべきことに三十年の間に宇宙でのコロニーの修繕や資源回収等の目的に宇宙用汎用作業機としてモビルスーツが開発されたのだ。最もAMBAC機動等、複雑な操作が必要となる為、免許制となっており、主に宇宙開発に従事する技術者達が取得している為、空想の産物の一つであったモビルスーツも今となっては身近な乗り物の一つである。

 

 ラグランジュポイントに設置された二基の宇宙コロニーはそれぞれアスガルド、パライソと名付けられ、総人口15万人の人々が日々の営みに追われている。

 

 また今では三基目の宇宙コロニーももう少しで建造が終了し、宇宙へ上がるということで現在、大きな注目を浴びており、他にも予てより計画されていたとされる外宇宙への進出も実しやかに噂されているなど、宇宙への関心は日に日に高まっている状況だ。

 

「──では、この辺りで今日の授業を終わりにしましょうか。お疲れ様でした」

 

 鐘の音が響くと同時に声をかけられ、宇宙エレベーターからのこれまでの歴史を表していたVRから現実世界に引き戻される。ここは宇宙コロニー・アスガルドにあるボイジャーズ学園の教室の一つだ。

 

「新学期を迎えたばかりですが、皆さん、健やかで何よりです」

 

 世界史の授業を行っていた教師である大柄の外国人男性のラグナ・ウェインはクセのある煌くようなブロンドの髪を揺らしながら、教室内の生徒の様子を見渡して穏やかで人当たりの良い笑みを浮かべる。

 

 宇宙コロニーには様々な人種の人間達が生活しており、ことこのボイジャーズ学園も例によって多くの人種の生徒と教師が日々を謳歌している。

 

「……ふぅ」

 

 今の授業が本日最後の授業という事もあり、ラグナを慕う生徒達が彼を囲んでいるなか、VR空間にダイブするためのヘッドホン型媒体のVRGPを外したヘアピンを付けた茶髪の少女が一息つきながら、その瞼をゆっくりと上げて、その特徴的な真紅の瞳を露にする。

 

「──あれ、あそこにいるのは生徒会長じゃない?」

 

 授業を終えた少女が凝った身体を解していると、ふとクラスメイト達の話し声が聞こえて扉の方向を見やる。そこにはダークブロンドの長髪をハーフアップに纏めた凛々しい顔立ちの少女がいたのだ。

 

「あぁ、奏先輩だっ!」

「いつ見ても、綺麗だよねー」

 

 出入り口にいる少女を見て、ラグナを囲む女子生徒のように一部で黄色い声が上がる。

 奏と呼ばれた女子生徒はこのボイジャーズ学園で生徒会長を務めており、その美貌のみならず文武両道の秀才であり、生徒達の憧れの的だ。

 そんな彼女に向けられる黄色い声に微笑みと共に軽く手を振って応えつつ、奏は教室に足を踏み入れて真紅の瞳の少女のもとへ向かう。

 

「希空、部活に行くのだろう? 一緒にどうだ?」

「……構いません……。けど、奏が来るとうるさいから迎えに来るのは控えてくれと言った筈です」

「希空にすぐ会いたかったのだ。許してくれ」

 

 奏はまっすぐ真紅の瞳の少女のもとに向かい、彼女の名前を口にしながら声をかける。

 

 真紅の瞳の少女……希空は静かに奏を見やりながらもその視線は非難めいていた。奏へ向けられる黄色い声は何より希空がよく知っている。なにせ学園において彼女やラグナの周りはそのような声が絶えないからだ。どちらかと言えば、図書館のような静かで穏やかな空間を好む希空にとっては中々、悩ましい問題である。そんな希空の文句に奏は苦笑しつつ肩を竦める。

 

「……奏に言っても仕方がありませんね。早く行きましょう」

「うむ、昔みたいに奏お姉ちゃんが手を引いても──」

「お断りします」

 

 これまで奏やラグナに近づこうと何人の生徒が自分を利用としたことか、思い出すだけでため息が出る。希空は机から立ち上がると、奏の誘いに乗り、部室へ向かおうとする。その際、幼馴染みである奏は希空に手を差し伸べようとするが、即答されてしまい、地味にガーンという効果音が鳴り響くのが聞こえてくるようだ。

 

「おっと、奏、お待ちなさい」

「む? なんだラグナ……先生」

 

 すると生徒達に囲まれていたラグナが奏に声をかける。奏と希空のように、この二人も奏が物心つく頃からの付き合いであり、それ故、普段、奏はラグナを呼び捨てで呼んでいるのだが、ここは学校。そのことを思い出してか、少しの間を置いて先生と付け足す。

 

「少し話があります。希空、申し訳ありませんが、一足先に部室に向かってもらって良いですが」

「分かりました、ウェイン先生」

 

 どうやらラグナは奏に何か用件があるようだ。奏を呼びつけつつ希空にも声をかけると希空はコクリと頷き、呼び寄せられた奏が苦い顔をするなかスタスタと教室を後にする。希空もラグナを幼い頃を知っているのだが、奏とは違い、学校と私生活での切り替えはちゃんとしているようだ。

 

 ・・・

 

 《お疲れ様です、希空》

 

 一人、部室にやって来た希空を真っ先に出迎えた存在がいた。とはいえ、人間ではなく、希空は目線を下げると、そこには二頭身の一角の騎士のような外観を持つ騎士ユニコーンをベースに作られたトイボットがいたのだ。

 

「ロボ助、部室に来てたんだね」

 《ええ、私も一応は模型部に所属する者ですから》

 

 トイボットの名を呼びながら、希空はしゃがむ。ロボ助と接している時の希空は先程までの奏達との態度とは違い、その雰囲気はとても穏やかで柔和だ。

 それもそうだろう。ロボ助は希空が生まれた時に起動したトイボットであり、以降、彼女に誰よりも近くで接してきたのだから。

 

「やっと来たね!」

 

 するとそんな希空に荒々しく声をかける者がいた。その声に希空が眉間に皺を寄せるものの、その方向を見れば、そこにはいかにもチャラいという表現が似合いそうな女子生徒がいたのだ。

 

「今日こそ決着をつけてやっから! アタシはアンタとロボ助がこの学園の代表チームのメンバーであることを認めちゃいないんだからね!」

「……ヨワイさんが認めるも何も私やロボ助は実力を示した上でチームに名を連ねているのですが。そもそも何の決着ですか」

 

 何やら希空に闘志を燃やしつつ、ビシッと指差してくる少女に希空は少女の苗字を口にしながら、あからさまに鬱陶しそうに答える。

 

「うっさい! アンタの父親とアタシの叔父さんのライバルなんだから、アタシ達だってそう! アンタとロボ助を倒して、アタシがチームに入るんだから!」

「……ライバルって……ヨワイさんの叔父であるカマセさんが勝手にそう嘯いてるだけですよね。私のパパは全く眼中にないと思いますよ」

「そんなことないしーっ! 良いから勝負! 勝負ったらしょーうーぶーっっ!!」

 

 希空の言葉に全く聞き耳を持たず、自身のガンプラを取り出して、ガンプラバトルを仕掛けてくる。最もヨワイの言葉に希空は訂正するのだが、最早、彼女は駄々っ子のようになっていた。

 

 《希空、ここは私だけで……》

「ううん、私も行くよ。でないとヨワイさん、納得しないと思うし」

 

 どうやらバトルは避けられないようだ。ロボ助は希空の手を煩わせないようにと自分だけでバトルしようと申し出るが、希空は首を横に振り、ヨワイからのバトルを受けるのであった。

 

 ・・・

 

「んじゃ、負ける準備は出来た?」

「いつでも構いませんが……何でヨワイさん側は四人なんですか?」

 

 バトルのために近くのゲームセンターに移動した希空達。ヨワイが不敵な笑みを浮かべるなか、明らかに気だるそうな希空はヨワイの傍らにいる三人の同じ模型部員を見やる。

 

「べ、別になんかあんた等に勝てるかちょっと不安になったから助っ人を頼んだとかじゃないし! チーム戦を学ぶ良い練習だから誘っただけだしー!」

「あぁ……皆さん、ご愁傷様です」

 

 そのことを指摘されたヨワイがダラダラと冷や汗を垂らしながら、必死に言い訳をするなか、彼女の傍らで微妙そうな顔をしている模型部員達を見て、希空はついつい同情してしまう。

 

「皆さんに申し訳ないですから、手早く終わらせましょう」

「きーっ! けちょんけちょんにしてやるーっ!!」

 

 自分達とヨワイだけならまだしも巻き込まれている人間に無駄な時間を使わせるべきではないと希空とロボ助が新星の時代からバージョンアップを重ねたガンプラバトルシミュレーターVRへ向かうなか、地団太を踏むヨワイもその後を追い、VRGPを使用して、VR空間へとダイブする。

 

「パパ……か……」

 

 VR空間を通して、VRハンガーへ移動した希空はすぐにVR空間に表示されているガンダムAGE-2をベースにカスタマイズを施したガンダムNEXのコックピットに乗り込むと、ふと先程、ヨワイとの会話に出てきた自身の父親について想いを馳せる。

 

「私は……パパの娘なのに……。パパの娘であることを堂々と誇りたいのに……。ただ、パパのように……っ!」

 

 NEXのコックピット内で操縦桿を握る希空の手が震え始める。

 俯く希空は心底、やり切れないとばかりにやるせないものであった。だが今はバトルをしなくてはいけない。自身の中の迷いを振り払うように顔を上げる。

 

「ガンダムNEX……雨宮希空、行きますッ」

 

 そう、彼女こそ彼の新星の血を受け継ぐ者。

 新星が駆け抜けた物語から30年後、新世代の幕を開けるようにペダルを踏み込んで、NEXは表示されたカタパルトから飛び出していくのであった。




ふっ、誰も希空があのボッチの娘だとは思うまいて…(棒


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

囚われの空

「ラグナ……先生。その、私を呼び出した用件を聞きたいのだが……。なにかあったのか?」

 

 希空とヨワイ達がゲームセンターでバトルを行っている頃、ラグナに話を持ちかけられて場所を職員室に移した奏はラグナの呼称にもどかしそうにしつつも目の前で自身のデスクに座ったラグナに尋ねる。

 

「そうですね。とてもではありませんが、知った以上は見過ごすわけには行きません。だからアナタを呼び出しました」

「一体何が……?」

 

 奏の問いかけに少しでも平静を保とうと軽く息を吐きながら、気分を落ち着かせるようとしているラグナの重々しい雰囲気を肌で感じて何か一大事でも起きたのかと思わず生唾を飲み込みながら彼の言葉を待つ。

 

 と言うのもここ最近、VR空間において自身の分身とも言えるアバターを乗っ取るウイルス騒動が巷を騒がしているのだ。何でも乗っ取られたアバターはウイルスを無差別に撒き散らす病原菌にその性質を変えられてしまうらしく、このボイジャーズ学園の生徒達の中にも被害者が出ているという話だ。

 

 ラグナも教師という立場ながら警察と連携して、これ以上の被害を食い止め、事件を早期に収束しようと二束の草鞋の状態で奔走している話は良く知っている。もしかしたら、そのウイルス騒動に纏わる事なのかもしれないと、ラグナを見る奏の表情は中々に緊張した面持ちだ。

 

「……まず、口で説明するよりも見てもらったほうが早いですね」

 

 ラグナも横目でそんな奏の様子を一瞥するとデスクの立体コンソールを操作して、ある立体モニターを表示させて奏が見やすいように僅かにずれながら彼女に立体モニターを見るように促す。

 

「こ、これは……っ!?」

 

 一体、何なのだろうかとラグナが表示させた立体モニターを見やる。しかしその立体モニターに載っている内容を見ると、生徒達が慕う生徒会長の毅然さが崩れ、たちまち驚愕で目を見開いて絶句し、言葉を失ってしまうのであった……。

 

 ・・・

 

 《希空、君はヨワイ嬢を。後は私が引き受けます》

「分かった。任せたよ、ロボ助」

 

 一方、戦闘を行っている希空達のバトルステージは森林地帯であった。希空とロボ助のチームに対して、ヨワイは四人編成のチームで挑んで来たのだ。だがそこに希空達は不利だとは感じてはいなかった。

 

 希空にヨワイの相手を任せ、彼女が助っ人で呼んだ三人組を引き受けようとするロボ助に希空は素直に頷き、ヨワイに標的を絞って素早く向かって行く。ここまで希空が素直に従い、スムーズに物事が運ぶのはやはり、それだけの信頼関係があるからだろう。

 

「ヨワイに巻き込まれちまったけど、バトルはバトルだ!」

「ああ、全力で行くぜ!」

「数では勝ってんだ! 簡単には負けねぇぞ!」

 

 ロボ助が操作するガンプラは彼の外観通り、騎士ユニコーンガンダムであった。そんなロボ助に挑んでいくのは、ヨワイが巻き込んだ模型部員達であり、それぞれザクⅠ、ザクⅡ、ザクⅢを駆って、襲い掛かって来る。

 

 《全力で行きましょう。希空がヨワイ嬢を撃破してもバトルが長引いているのは良くありませんからね》

 

 対してロボ助は動揺することなく、冷静に襲い掛かってくるザク達の動きを分析すると一角獣を模した白き仮面のマスクドモードから、リミッターを解除し、ユニコーンガンダムのデストロイモードにあたるビーストモードへ変身し、サイコフレームの緑の燐光が輝く。

 

 《時空を超え、その力を示せ……ッ!》

 

 ビーストモードに姿を変えた騎士ユニコーンはそのままアカシックバインダーと二枚のカードデバイスを使用すると、彼の両隣に変化が起きる。

 

 《コールッ!》

 

 何と騎士ユニコーンの両隣に別々のSDガンダムが姿を現したではないか。一機は甲冑を纏った武者頑駄無であり、もう一機は重厚な武装を装備したコマンドガンダムであった。

 

 《相手が誰であろうと駆け抜けるのみッ!》

 

 これで三対三で全く引けを取らない状況だ。突然の召還で相手が動揺した隙をつき、マグナムソードを払い、召還したSDガンダム達と共に戦闘を仕掛けるのであった。

 

 ・・・

 

 一方、既に希空とヨワイによるバトルが繰り広げられていた。

 希空が操るのはガンダムAGE-2をベースにしたガンダムNEXであり、ヨワイが駆るのはかつて彼女の叔父が使用していたティンセルガンダムを更に強化させようと組み上げたティンセルガンダムMarkⅡだ。

 

「パーツがぁっ!」

 

 しかし、希空とヨワイの間には元々の実力差が大きくあるのだろう。

 ティンセルMarkⅡが振り下ろしたGNソードⅤをビームサーベルで受け止めたNEXはすぐさまもう一本のビームサーベルを引き抜いて、ティンセルMarkⅡの片腕を切断すると、ヨワイが動揺している間にそのまま蹴り飛ばす。

 

 何とか体勢を立て直したティンセルMarkⅡはGNソードⅤをライフルモードに切り替え、すぐさま発砲するが、瞬時に高速移動に特化したストライダー形態に変形しており、その機動力はヨワイには捉えきれず、無闇やたらに放たれたビームは虚しく空を切っていた。

 

「……いい加減、諦めたらどうですか?」

「はぁあっ!? わっけわかんないしーっ!? アタシはアンタの父親のライバルであった叔父さんの姪なのよ! まだまだこんなもんじゃないしぃっ!」

「いやだからライバルじゃないですって絶対」

 

 ストライダー形態でヨワイを翻弄しつつ、彼女に降参を促そうとするがその言葉が油となったのか、彼女の戦意を燃え上がらせてしまっている。最も彼女の叔父が希空の父親とライバルであったという事実はなく、希空はすぐさま訂正する。

 

「アンタの父親がアタシの叔父さんがライバルじゃないって言うのなら間違いだし!」

「何を根拠に……」

「叔父さんとのバトルがなければ、アンタの父親の覚醒への目覚めはなかった!」

「ララァのニュータイプの目覚めみたいに言うの止めてもらっても良いですか?」

「だが正しいものの見方でもあr「ないですからね」──ってぇ! 最後まで言わせろぉー

 っ!」

 

 ティンセルMarkⅡの攻撃を悉く回避しながら、行われる希空とヨワイのやり取り。最もその内容はスパッと口にする希空のツッコミにその度にヨワイがヒートアップしているのだが……。

 

(ロボ助の方は……終わったみたいだね)

 

 ふとレーダーを確認すれば既に味方機の信号しか残っていなかった。であればあまりここで時間を費やすわけにはいかない。希空はこれ以上のやり取りを切り上げ、勝負に出る。

 

 それまでティンセルMarkⅡの周囲を飛行していたが、一気にティンセルMarkⅡ目掛けて突っ込み、迎撃しようとするのをバックパックに装備された二門の大型ビームキャノンを発射することで阻み、一気に距離を詰めるとMS形態に変形してそのままの勢いでティンセルを蹴り飛ばす。

 

「動けつっーの、このポンコツぅっ!」

 

 勢いを最大限に行かした蹴りを受けたティンセルMarkⅡは地面を削りながら吹き飛び、すぐに体勢を立て直そうとするもの、衝撃で思うように機体を動かせず、焦ったヨワイは涙目で叫ぶ。

 

 しかし隙は隙だ。既に眼前に迫っていたNEXは起き上がろうとしたティンセルMarkⅡのコックピットにビームサーベルを静かに突き刺すと勝利を収めるのであった。

 

 ・・・

 

「私達の勝ちです、納得していただけましたか?」

 

 バトル終了後、現実世界に戻ってきた希空は負けた悔しさからか、プルプルと震えているヨワイに声をかけると彼女はこちらをキッと睨み……。

 

「あー今、新作ガンプラ作ってんだよなー! アレあれば大勝利だったんだけどなー! まいったなこりゃぁー!」

「往生際の悪い……」

 

 どこか白々しく大っぴらに大声で言い訳をしているヨワイに希空は頭痛を感じて重いため息をつく。

 

「うっさいっ! アタシが屈しなきゃアンタの勝ちじゃないんだから!!」

「どこのバナナ理論ですか」

 

 完全に負けを認めるようなことはせず、それでいて何とも言えない言い訳をするヨワイに最早希空もかける言葉も見つからなかった。

 

「アタシは本気でそう思ってる! 今のアンタに……いまの……っ……今のアンタなんかにガンプラファイターとして、負けなんて認めるわけないもん!!」

 

 だがヨワイの雰囲気は一転して、どこか今の希空を非難するように物言いたげに鋭い視線をぶつけると、そのまま背を向けてドンドンと強い足取りで去っていき、おずおずと巻き込まれた模型部員達もその後を追う。

 

「……私達も行こう」

 

 今の希空にガンプラファイターとして負けを認めるわけにはいかない。その言葉に何か思うことがあったのか視線を伏せると自分を案じるロボ助に気づいた希空は気遣わせまいと作り笑いを浮かべながらボイジャーズ学園に戻ろうと重い足取りで歩き始めるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは……っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、職員室で奏がラグナが表示させた立体モニターの内容を見て、絶句していた時に時間は遡る。

 

「ええ、そうです。私が言いたいこと、分かりますね……?」

「くっ……!」

 

 言葉を失っている奏を見て、厳しい表情を浮かべて声をかけるラグナにやりきれないとばかりに彼女は歯を食いしばって立体モニターから目を逸らす。するとラグナは大きく息を吸い、その額に青筋を浮かべると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部費でPGディープストライカーを注文するとは、どういうつもりですかあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーぁぁぁぁああああっっっ!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーいいっっっっ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 立体モニターに表示されている発注書を指差しながら、怒号を上げるラグナに奏の悲鳴に似た謝罪が響き、模型部顧問であるラグナによる説教が部長の奏に行われる。

 最も奏が説教の最中にPGじゃなくて、MGなんだからまだ良いじゃないかと呟いたため、説教の時間が増えたという。え? PGディープストライカーなんてない? PGアルビオンやPGア・バオア・クーがある世界だぞ、ここは。因みにPGディープストライカーは注文取消しにしたそうな。

 




ティンセルMark2はGNソードⅢからⅤになったりと変化はありますが、実際、パーツ構成もそこまで大きな変化はないので、イメージ的にカマセの機体のままでも大丈夫です。


ヨワイ(ボイジャーズ学園制服)

【挿絵表示】

叔父に寄せようとして結果、お前誰だってなった姪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

My World

「のぉぉぉぉあぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 ヨワイ達とのバトルを終えた後、ボイジャーズ学園の模型部の部室に戻ってきた希空は部室で涙目でプルプルと震えている奏に突然、抱きつかれてしまった。

 

「あぁ、希空達でしたか。どちらに?」

「少しバトルに……。奏はどうしたんですか?」

「実は──」

 

 奏の後ろから顔を出したラグナが希空やヨワイ達に気づくと柔らかに彼女達を出迎える。希空は今までこれまで何をやっていたのかを軽く答えつつ、それよりも気になる自身の胸に顔を埋めている奏について尋ねるとラグナは奏を一瞥して、ため息混じりに先程の職員室での出来事を話し始める。

 

「奏が悪いですね」

「バッサリ!?」

「いや、誰がどう考えてもそうでしょう」

 

 ラグナから事情を聞き終えた希空は成る程、と一区切り置くと切れ味鋭く奏の非を口にする。

 先程まで希空に抱きついていた奏はバッと希空から離れて、心臓の辺りを抑えて苦しんでいるものの誰がどう考えても奏が悪いため、希空は意見を伺うようにヨワイ達にも視線を向けると壁に寄りかかって腕を組んでいたヨワイも今の希空に同意するのは癪ではあるようだが、希空と同意見な為、「ま、まあ……」と濁しながら答えており、他の部員達も似たような反応のため、奏は途端によよよ……とすすり泣いている。

 

「奏は放っておくとして、もう間もなくコロニーカップです」

「アスガルドとパライソでそれぞれガンプラバトルによる大会を行い、勝ち進んだチームがコロニーの代表として、雌雄を決するというものですね」

 

 とはいえいつもの事なのか、そんな奏は放置されたまま話は進められていき、それはそれで奏がショックを受けているなか、ラグナが話を切り替える。それは希空が言うように二つのコロニーによる大規模なガンプラバトルによる大会だ。

 

「ええ、コロニーカップを制すれば、その後には地球側のワールドカップの優勝チーム等とのグランドカップが行われます」

「ウェイン先生はグランドカップの二連覇をしてるから先生が出れば、勝てるんじゃないんですか?」

「此度の私はあくまで顧問の身。バトルはチームである奏達に任せます」

 

 しかもコロニーカップの後に待つのは、地上で勝ち上がったチームとのバトルであり、まさに天と地を結ぶ大会だ。すると模型部に所属している生徒の一人がラグナに声をかける。そう、何を隠そうラグナも大会出場者であり、しかも二連覇を収めているかなりの実力者なのだ。

 

 しかし特にラグナには三連覇の拘りはないらしく、この模型部の代表チームのメンバーである希空、奏、ロボ助を見やる。

 

「勿論、コロニーカップまでの間、私が専任で奏達を鍛え上げますので、そのつもりで」

「よろしくお願いします」

 

 関心があるのは指導者としてちゃんと希空達を導けるかどうからしい。任せろとばかりに心強い余裕ある笑みを浮かべるラグナに希空とロボ助は軽く頭を下げ、ヨワイがつまらなさそうに鼻を鳴らすと希空達から視線を逸らすのであった。

 

 ・・・

 

「ふぅ……」

 

 新学期早々の登校も終わり、学生寮に戻ってきた希空は済ませるものは全て済ませ、ラフな格好でそのまま、ぼすっと音を立ててベッドに寝転がると軽く一息つく。

 

「……ママ」

 

 ふと携帯端末を表示させれば、メールが届いており相手は自身の母であった。

 新学期を迎えたことは向こうも知っているのだろう。新学期への励ましの言葉と体調を気遣った文面と音声メールが届いていたのだ。

 

 何か返信すべきだろうとすぐに画面を切り替えるが、ふと指が止まってしまう。何と書いて良いか分からず、言葉につまってしまったのだ。

 

『アタシは本気でそう思ってる! 今のアンタに……いまの……っ……今のアンタなんかにガンプラファイターとして、負けなんて認めるわけないもん!!』

 

 ふと脳裏にヨワイの言葉が過る。彼女のあの言葉を思い出すたびに胸がチクリと痛んだ。

 ヨワイとの付き合いはロボ助や奏程ではないにせよ、それなりには長い。その過程で趣味であるガンプラやバトルで楽しんでいたものだ。 

 

 しかし……。

 

 いつからだろうか。

 ヨワイの自分への態度に棘が出るようになったのは。

 いや、考えるまでもない。何となくだが分かることだ。

 

 雨宮希空の両親はかつてガンプラバトルで名を馳せた雨宮一矢と雨宮ミサだ。

 二人はチームを組み、世界大会を優勝した後も多くの大会で活躍している。しかも二人ともかつてウイルスによって危機に陥った静止軌道ステーションを救った功績を持つ者達だ。

 

 特に雨宮一矢には関しては、ガンプラバトルにおいて多大な影響力を持つ言われているガンダムブレイカーの使い手の一人であり、両親とも覚醒と呼ばれる力を使うことが出来る。

 

 希空もそんな両親が誇りであった。ガンプラを趣味とする者達には、いつだって自慢の両親で鼻が高かった思い出がある。

 

 ガンプラ、ひいてはガンプラバトルをする以上、偉大なる両親を持つ娘にかかる期待は大きかった。あの二人の娘だから、なんて言葉はどれほど聞いたことだろうか。最も両親は親身になって応援してくれて、周囲からの期待の言葉も気にする必要はないと言ってくれていた。

 

 だが両親がどれだけ言ったところで希空が重圧を感じてしまうのに、さほど時間はかからなかった。

 

【正直、あの両親の子供なら、もっと上手く立ち回れると思ったんだがな……】

 

 そも幾ら両親が気にするなと言おうとも、親が大きすぎるが故に周囲は期待は大きくかけられていたのだ。それは希空が年齢を重ねれば重ねるほど、肥大化していった。

 

【調子に乗っちゃってさ。親のお陰でチームに選ばれたようなもんでしょ】

【ぶっちゃけ親の存在なかったら、ただの雑魚でしょ。両親の足元にも及ばない】

 

 寄せられるのは期待だけではない。これまでの人生、ガンプラバトルをする以上、いくら自分の実力で代表チームに加わろうとも、親ありきだと陰で言われ続けた。それが例え嫉妬の負け惜しみだとしても希空の心には突き刺さった。

 

【希空っ!】

 

 そんな希空に幼い頃から、いつだって変わらず接してくれたのは奏であった。

 彼女は雨宮希空ではなく、希空として見てくれていた。彼女も偉大な父を持つが、それでも持ち前の性格で寧ろそのキャラクターが周囲に受けており、ガンプラバトルにおいても幼い時から鮮やかなバトルをする大きな存在だった。

 

【奏お姉ちゃんっ】

 

 そんな奏に幼い頃はよく姉と慕って懐いていた。少なくとも陰で何と言われようが、彼女と接している時は自然と笑顔になれたのだ。だがいくら太陽のような輝かしい存在の傍にいたところで、その陰で言われる最後に残った言葉は……。

 

【出来損ない】

 

 なんて胸が抉られる言葉だろうか。その言葉を聞くだけで動悸が激しくなる。すぐにこの言葉を否定したかった。それは周囲を見返すために、なにより自分自身のために。あの両親から生まれてきた自分が出来損ないの烙印など押されるわけにはいかない。それは自分自身が一番、許せないことだ。

 

 だから希空は求めた。

 

 力を、覚醒を、ガンダムブレイカーという存在を。ガンダムブレイカーも覚醒も言ってしまえば、分かり易い記号だ。象徴的だからこそ、希空は求め続けた。

 

 しかしいくらバトルをしたところで、覚醒の力を得ることもガンダムブレイカーとして認められることもなかった。それは焦燥に繋がり、いくら両親や奏達が止めようとしても、打ち込むようになってしまった。

 

 そんなある日、決定的な出来事が起きてしまった。

 

 姉と慕っていた奏が新たなガンダムブレイカーに選ばれたのだ。

 

 周囲が奏を祝福するなか、希空は喜ぶことは出来なかった。自分は努力という努力をしたつもりだ。実力でも並みのファイターなら負けない自信がある。しかし、選ばれたのは奏であった。

 

 残ったのは奏への嫉妬と惨めさ。奏が太陽のように大きな存在だからこそ、あまりにも眩しく余計に妬ましかった。なにが足りないのかも分からないまま、それでも少しでも足りない何かを埋めようとひたすら、力を求め続けた結果、いつしか希空のバトルは力を求めるだけの殺伐なものとなってしまったのだ。

 

【あの力は求めて手に入るものじゃない】

 

 そんな希空を見かねて、ついに父はそう言った。

 

【それが分からないなら今のお前にガンダムブレイカーの名前は使わせられない】

 

 寡黙な父親がハッキリと言った言葉は希空の胸に深く突き刺さったのだ。

 

【確かにパパとママはあの力は使えるよ。でもパパの言う通り、あの力は求めたから手に入ったんじゃないんだ】

 

 口下手な父と焦燥する自分をフォローするように母は優しく自分を諭そうとしてくれた。

 

【これって言う答えはないと思うけど、でも希空が希空でいる限り、いつかは手に入る時は来るよ】

 

 母がはそう言ってくれた。その言葉が自分自身を苦しめているのだ。

 

「……っ」

 

 ベッドから起き上がった希空は壁にもたれ、自分の殻に閉じこもるように膝を抱えて俯いてしまっている。出来損ないという言葉は彼女が最も嫌う言葉だ。今では一人でいると唐突にフラッシュバックしてしまうほどのトラウマと言っても良い。

 

 《希空》

 

 そんな彼女に声をかける者がいた。スピーカーを通しての声に顔をあげれば、そこには窓から差し込む光を受けながら、こちらにやってくるロボ助が。

 

「ロボ……助……」

 《ヨワイ嬢とのやり取りがあったから、もしやとは思っていましたが……》

 

 ロボ助はベッドに乗ると、うっすらと浮かんでいる希空の目尻に溜まっている涙を優しく拭う。

 

「ねぇ、ロボ助……。私が私でいるためにはどうすれば良いのかな……? なにがあれば私なのかな……? なにがなくなったら私じゃないのかな……? 私って……何なんだろ……。分かんないよ……」

 

 ふと希空は自分の中の答えの出ない問いかけをロボ助に投げかける。ロボ助は生まれてからの付き合いだ。

 いつだって最も近くに寄り添ってくれた存在はロボ助だ。彼にならば、誰にも話せないような悩みも包み隠さず話すことが出来る希空にとってはかけがえのない存在だ。

 

 《少なくとも今の自分を胸を張って愛することが出来るのであれば、その愛した自分こそが紛れもなく自分といえるのではないだろうか》

「……自分を?」

 《希空、君は今、道に迷っているんだ。だが、それは悪いことではない。迷ったのならば歩き出せるまで立ち止まったって良い。どんなに迷ったり揺らめいたとしても君が残せる歩みは一筋だ。きっと最後に振り返って見れば、その曲りくねった足跡を愛せる日が来る》

 

 希空の言葉にどう答えるか、僅かに間を置いたロボ助は、まるで幼い妹を諭すように話し始める。それは機械の身であると言うのに、とても柔らかで温かさを感じる言葉であった。

 

 希空は今の自分が好きではなかった。

 ガンダムブレイカーに選ばれなかった自分、出来損ないとまで言われた自分、劣等感に苛まれる自分、自分に変わらず接してくれる姉のような存在へ嫉妬を抱いてしまう自分。少なくとも今の希空を希空自身が愛せる要素など一つもなく、寧ろただただ醜く、存在する価値があるのかも分からなくなってしまう。

 

 《大丈夫だ。希空が迷うのなら、私も共に迷おう。そして君と共に道を見つけるよ》

「ロボ助……」

 《きっとヨワイ嬢も奏達も希空を想っている。それは君の御両親もだ。君が道に迷うのなら、地図を記してくれる者達はいくらでもいることだけは忘れないで欲しい》

 

 するとロボ助は膝を抱えている希空の手を取ると、包み込むように握り、ただまっすぐ希空の瞳を見据えながら、語りかける。

 

「……っ」

 《拭う必要はない。私の前では好きなだけ泣くと良い》

 

 そんなロボ助の姿に希空の視界が滲み始め、涙がとめどなく流れ始める。

 自分が泣いていることに気づいた希空は涙を拭おうとするが、ロボ助はそれを制し、希空の隣に座ると、その背中を撫でる。

 

 《大丈夫さ。私が愛する君を、きっといつかは君も愛することが出来る》

 

 いつだってそうだ。ロボ助は見た目こそ小さいが、いつだって自分の全てを受け止めてくれる大きな存在でいてくれる。希空はロボ助に寄りかかり、静かに嗚咽を漏らすのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始まりのとき

 コロニーカップの開催まで刻一刻と迫るなか、ボイジャーズ学園の代表チーム・ニュージェネレーションブレイカーズに所属する希空、奏、ロボ助の三名は模型部顧問であるラグナによる激しい特訓の日々を過ごしていた。

 

「希空はラグナのかく乱を、ロボ助はサポートを頼む!」

≪≪了解≫≫

 

 鮮やかなGN粒子を放ちながら、バトルフィールドを駆けるのはダブルオーライザーをベースにカスタマイズを施した新世代のガンダムブレイカーであるクロスオーブレイカーだ。

 ファイターであり、ニュージェネレーションブレイカーズのリーダーである奏は素早く希空とロボ助に指示を出す。

 

「分かっていると思うが下手な小細工が通じる相手じゃない。全力で向かうぞ!」

 

 奏は前方に待ち構える機体を見据えながら視線を鋭くする。

 そこにドシリと立ち塞がるのは、さながら重厚な鎧を身に纏った騎士を思わせるような機体であった。

 ガンダム試作3号機をベースにしたその機体の名はガンダムブレイカーブローディアだ。

 ラグナもまたガンダムブレイカーの使い手として名を連ねる者の一人であり、覇王から新星と希望に受け継がれたように奏は彼からガンダムブレイカーとしてのバトンを受け継いでいる。

 

 ガンダムブレイカーの名を持つだけあり、GNバスターソードを地面に突き刺し、GNフルシールドを機体前面を覆うその姿だけでも、かなりの威圧感を発揮しており、相対するだけで戦慄してしまうくらいだ。

 

 ストライダー形態に変形したNEXは奏の指示通り、持ち前の機動力と、そこから放つ射撃でブレイカーブローディアをかく乱しようとするが、ブレイカーブローディアは動揺する素振りすらなく、寧ろ射撃を全て受けきっているではないか。

 

「鍛え上げると言いましたが、生憎、手心を加えるほどの器用さはありません」

 

 NEXの動きを見計らって、ブレイカーブローディアはGNフルシールドの展開を解除すると地面に突き刺したGNバスターソードを抜き放つ。ファイターであるラグナはモニターに映るNEXを見定めると一気に動き出す。

 

「ッ!?」

「──そのつもりで」

 

 何とブレイカーブローディアはストライダー形態であるNEXとの距離を一気に詰めたではないか。確かにブレイカーブローディアはそのパーツ構成から高機動機と言っても良いだろうが、同じく高機動機であり、また可変機であるNEXに追いつけるとは流石に希空も思わず息を呑む中、普段の柔和さからは想像も出来ないほど鋭く眼光を走らせたラグナはGNバスターソードの一閃を素早く放とうとする。

 

 しかしその前にNEXとブレイカーブローディアの間に割って入ったのは、トランザムを発現させたクロスオーブレイカーであった。

 

「そうだな。私もそのつもりだッ!」

 

 GNソードⅢの刀身を展開して、GNバスターソードの重々しい一撃を受け止めたクロスオーブレイカーはそのままブレイカーブローディアとの剣戟を繰り広げる。同じブレイカーの名を持つ者同士による戦いは瞬きすら許さぬほどの激しさを見せる。

 

「……っ」

 

 そんな二機の剣戟を後ろから見ている希空は複雑な表情で歯を食いしばる。劣等感を抱える彼女の中で奏に救われたのは思うところがあるのだろう。そんな彼女を他所にバトルは更に激化する。

 

「いつまでもただの妹分だと思うなよッ!」

「威勢は結構。ならば示しなさい」

 

 ラグナと奏の付き合いは長い。奏にとってラグナは兄貴分であり、生活においてもラグナは奏を実の妹のように接してくれている、がバトルにおいては関係のないこと。

 目の前にいるのは可愛い妹分ではないと示すため、クロスオーブレイカーは攻勢を強めるなか、ラグナの余裕の態度までは崩れなかった。

 

 《──コール!》

 

 そんなブレイカーブローディアに無数の光の刃が降り注ぐ。騎士ユニコーンによるものだ。クロスオーブレイカーがロボ助のサポートを見計らって離脱した直後に降り注いだため、ブレイカーブローディアに直撃して爆炎が巻き起こる。

 

「──悪くはありません」

 

 奏達が爆炎の中の様子を伺っていると、燃え上がる爆炎を一振りで鎮火させたブレイカーブローディアは悠然とその姿を現したのだ。

 

「ですが、まだです。アナタ方にはまだ改善の余地が山ほどあります」

 

 ラグナはグランドカップを二連覇した身。あの程度では、豊富な経験と相応の実力を持つ彼を撃破するには至らなかったのだろう。現に彼はバトルの中でニュージェネレーションブレイカーズを事細かに分析しているのだ。希空達が苦々しい表情を浮かべるなか、気高き獅子を思わせるようにその瞳を鋭くさせながらブレイカーブローディアは仕掛けるのであった……。

 

 ・・・

 

「負けたーっ! これで何回目だ!?」

「……二桁に突入してから、数えるのは止めました」

 

 バトル終了後、シミュレーターから出てきた奏が頭を抱えるなか、彼女の言葉に希空も流石に参っているのか、重いため息をつく。

 

「ですが、回数を重ねる度に向上しているのは事実です。私とのこれまでのバトルは決して無駄にはならないでしょう」

「うむぅ、清々しいほどに自信に満ち溢れてるなぁ……」

「事実ですから」

 

 そんな彼女たちに同じくシミュレーターから出てきたラグナが声をかける。彼の言葉に何とも言えないような表情を浮かべる奏にラグナは寧ろ堂々と答えていた。

 

「グランドカップにまで上り詰めるのには、個々の実力のみならず意思疎通すら必要のないほどのコンビネーションが必要です。ですがアナタ方は一定以上の連携は取れていますがそれまでです。コロニーカップで通用しても、上位まで行けば厳しいものになるでしょう」

「コンビネーションか……」

 

 希空達にグランドカップにおいてチームに必要なモノを説くと、どうすべきか腕を組み、あご先に指先を添えつつ奏は頭を悩ませる。

 

「内に抱えるものに囚われないことです。曇天では太陽を見れませんからね」

 

 そんな奏達に助言をしつつ、その言葉を口にしながらラグナは希空に視線を移す。その言葉を少なからず胸に刺さっているのだろう、希空は僅かに表情を歪めながら視線を逸らしていた。

 

「囚われない……だと……。し、しかし……っ! 希空の可愛さは囚われてしまうのは仕方ないことだろう!?」

「……何を言っているんですか、貴女は」

 

 すると考え込んでいた奏はラグナの言葉にハッと顔をあげ、由々しき事態だとばかりに再び頭を抱えてしまいラグナは苦笑交じりにため息をつく。そんな二人のやり取りを横目に希空は俯き、一人、その小さな拳を強く握っていた。

 

 ・・・

 

(……緊張してきた)

 

 そんな日々を過ごす中、ついにコロニーカップ、その予選の日が訪れた。ニュージェネレーションブレイカーズが会場に到着すると、多くの人で賑っていた。流れる人波を見ながら希空も緊張しているのか息を呑む。

 

 《コロニーカップ会場のみなさん! 聞こえてますか!》

 

 コロニーカップ開催会場に複数設置されている巨大立体モニターでは二人の可憐な少女が会場に集まった人々に呼びかけていた。一人は幼い外見を持つMITSUBAの芸名で活動している御剣ツバコであり……。

 

 《HEY! 参加チームの皆さん、ファイトデース! もう皆さんの手はヴィクトリーを掴めとシャウトしてることデショウ! バーニングファイトを期待してますヨ!》

 

 もう一人はツバコと区切るようにウィンドウに見立てた枠の中にいる少女だ。

 頭頂部のぴょんと立った猫耳とツーサイドアップの美しい白髪を揺らしながらカタコトで呼びかけるのはシャルル・ティアーナ。その甘い蜜のような声で会場にいる人々を魅了している。

 

「おっ、今シーズンのMCはツバコか。しかしヴァーチャルアイドルであるシャルルは予想外だったな」

「現実世界と仮想世界……それぞれのアイドルを、という理由だったと記憶してます。それにシャルルは活動の中でガンダムシリーズの話やガンプラを作ったりと、こちらの方面にも造詣が深いことで有名です。仮想世界とはいえ、地上のみならず、コロニーでもライブをするくらいに人気ですから、不思議なことではないでしょう」

 

 ツバコと面識のある奏はそのままシャルルに視線を移す。彼女の言うようにシャルルは主に動画サイトで活動しているヴァーチャルアイドルであり、その歌声で人々を魅了することから電子世界の歌姫とまで言われている。奏の驚きに希空はツバコとシャルルの起用理由を教える。

 

「さて、いつまでもMCに集中してないで、目先のことに集中しましょう。間もなく予選が始まります。ここで足元を掬われぬよう身に付けたものを思い出し、気合を入れてください」

 

 立体モニターを眺めている希空達の意識を切り替えるようにポンと手を叩いたラグナは予選への集中を促す。

 

「その手に栄光を。君達の進む道に光があらんことを」

 

 最後に柔和な笑みを見せ、激励を送るラグナに頷いた希空達はコロニーカップ予選に挑むのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絶叫を響かせ

 遂に始まったコロニ-カップの予選。アスガルドで我こそはと出場したチーム達によるモノリスデモリッション形式によるバトルが行われていた。

 フィールド上に出現するモノリスを破壊することで得点を得ることができ、またモノリスを破壊して得点を貯めたチームを撃破することでもポイントを得られるなど予選を突破するためには単純な撃破だけではなく、漁夫の利を狙うなどの効率の良いポイント獲得の為の戦法が必要となってくる。

 希空達ニュージェネレーションブレイカーズもバトルフィールドである山岳地帯で敵チームを相手取りつつ、モノリスを着実に破壊したりと巧みに立ち回っていた。

 

 《算出したところ、我々のポイントならば余裕で予選を通過出来ることでしょう》

 

 たった今、モノリスを破壊したことでポイントが加算されるなか、周囲の警戒を行いつつロボ助は希空と奏に報告する。一定のポイントに到達したことは喜ぶべきだが……。

 

「……でもその分、狙われる」

「ああ。寧ろここから更に警戒を強めねばなるまい」

 

 ポイントを得るということは、それだけ逆転を狙うチーム達から標的にされるということだ。であれば寧ろここからが本番と考えるべきであろう。話もそこそこにニュージェネレーションブレイカーズは予断の許さぬバトルフィールドを駆けるのであった。

 

 ・・・

 

「お疲れ様です。無事に予選を通過することが出来ましたよ。お見事です」

 

 その後、予選は終了し、希空達が一息 ついていると結果を確認して戻ってきたラグナが彼女達にニュージェネレーションブレイカーズの予選突破の報告と労いの言葉をかける。無事に予選を通過したこともあり、奏は飛び跳ねて喜び、その勢いで希空に抱きつこうとするが無言で避けられる。

 

「本選までインターバルが設けられていますので食事を取ったりと十分に休憩をしてくださいね」

 

 腕時計で時刻を確認しながら、ラグナは予選での疲労を少しでも回復させるように促すと、希空達はコクリと頷く。

 

「あぁ、そうだ。模型部の皆が応援に来てくれていますので、食事をとるなら、そちらにも顔を出してあげてください。彼らもこれからランチタイムでしょうしね」

 

 では早速、休憩にしようかと動き出そうとしたところ、何か思い出したラグナは希空達を引きとめ、彼女達にコロニーカップの応援のために模型部も駆けつけていることを教えると、希空と奏は顔を見合わせるのであった。

 

 ・・・

 

「悪いな、皆。わざわざ応援しに来てくれて」

 

 模型部と合流した希空達はコロニーカップの開催と共に開かれた出店で買い物を済ませ、近くの人工芝に模型部員達が用意したランチマットの上で食事をとっていた。その中で奏は自分達の応援の為に会場まで足を運んでくれた模型部員達に感謝の言葉を口にしていた。

 

「いやいや、それよりも奏先輩、凄かったですねっ!!」

「さっすがガンダムブレイカー! 部長がいれば、グランドカップも夢じゃないすよ!」

 

 すると模型部員達は予選を見ていた為、興奮気味に奏に押しかけてきており、予選を振り返って彼女を褒め称えている。

 

「おいおい、予選を通過出来たのは私だけの力ではないぞ。ウッディ大尉も言っているだろう、ガンダム一機の働きで、と。私一人でどうこう出来るほどコロニーカップは甘いものではないさ」

 

 最初こそあまりの勢いに面食らった奏ではあるが、訂正すべきことは訂正しようと模型部員達を嗜めようとする。ガンダムブレイカーの名を継いだ奏ではあるが、それで自分の実力を過信したりはしていないのだ。

 

「希空やロボ助がいてこその予選通過だ。私だけが褒められる謂れはない。だから皆も希空達に──」

 

 そのまま希空達にも彼らの目を向けさせようと希空が食事をとっていた場所に視線を移す。だが希空もロボ助もその場にはおらず、忽然と姿を消していた。

 

 ・・・

 

(あぁなることなんて分かりきってる)

 

 そんな希空は先程まで奏達といた人工芝から離れたベンチに座って俯いていた。ロボ助も希空の傍に控えており、彼女を見やれば俯いた表情の下は暗かった。

 

 奏はガンダムブレイカーの使い手であり太陽のような存在だ。

 奏に注目がいき、自分はその影に追いやられることは分かっていた。分かっていたが、それでも奏に劣等感を抱えている以上、何も思わないわけではないし、彼女のことだ。下手に持て囃されれば自分にも意識を向けさせようとするだろう。

 

「……っ」

 

 そんな希空の隣にドシリとわざと音を立てるように座り込んだ人物がいた。驚いた希空が顔をあげて隣を見やれば、そこにはベンチに深々と座り込んでツンとした表情でコロニーの人工の空を見上げるヨワイがいた。彼女もまた模型部員の一人として応援に来ていたのだ。

 

「……予選は通過、か」

 

 無言の時間が流れるなか、沈黙を静かに破ったのはヨワイであった。希空が再びヨワイを見やれば相変わらず空を見上げていた彼女ははぁっ、ため息をつく。

 

「けど、そんな辛気臭い顔してたらこっちまで気が滅入るっつーの。まるで予選落ちのチームみたい」

 

 希空の表情を見て、鬱陶しそうにげんなりとした様子でまたため息交じりに話すヨワイに希空も言い返す言葉もなく俯いてしまう。するとそんな希空の頭にポンと手が乗せられたのはヨワイの手だ。

 

「な、なんですか……!?」

「……良いから撫でられろっつーの」

 

 そのまま目を逸らし、再び空を見上げながら優しく希空の頭を撫でる。

 しかし突然の行動に希空は戸惑い、ヨワイの手を振り払おうとするが、頭を撫でるヨワイは照れ臭そうに叫びながら力を強める。

 

 最初こそ抵抗しようとしていた希空だが、どんどんしおらしくなっていく。ヨワイのその行動は奏を賞賛していた模型部員達のように、彼女なりに希空を褒めているのだ。

 

「良ーい? アタシはまだアンタを認めてないわ。身内なら兎も角、大会に出る以上、相手に集中すること。自分を蹴落として勝ち進んでいる相手が暗い顔してるなんて、失礼もいい所だわ」

「……分かりました」

「ホントに分かってんだか」

 

 ヨワイは希空に大会に臨む上での姿勢を説く。

 そんなヨワイの言葉に少し考えるように間を置いて頷くも、ヨワイは少なからず希空の内面に抱えているものを察しているのか、どこか面倒くさそうに答えていた。

 

「……そろそろ本選が始まるので行きますね」

「……アンタ、大きな大会は初めてなんだから緊張と集中のし過ぎで気分が悪くなったら、VRから離脱してちゃんと係りの人に言いなよ」

「分かってますよ、それくらい」

 

 ヨワイとのやり取りをしながら時間を確認する。

 そろそろ本選が始まる時間だ。

 ベンチを立ち上がる希空になんだかんだで彼女を気遣うヨワイに言われるまでもないと煩わしそうに答えながら、ロボ助と共に本選に臨む。

 

 ・・・

 

「ふむ、ここまでは一応、順調ではありますね」

 

 コロニーカップ本選も始まり、ニュージェネレーションブレイカーズは順調に勝ち進んでいた。バトルの様子を見ながらラグナは表情こそ緩めないものの、口角を僅かに上げていた。

 

「さて、次はいよいよアスガルドの代表を決める決勝ですが、相手チームは……チーム・ダイナミック……ですか」

 

 いよいよ次はアスガルドの代表を決める試合だ。

 これを勝利したチームはパライソの代表チームとの試合に臨み、コロニーカップを制することが出来る。ラグナは相手チームの情報を確認する。しかし彼も覚えはないのか、僅かに首を傾げていたが、バトルの時は訪れた。

 

 ・・・

 

「チーム・ダイナミック……。自分達の試合に集中していたせいで、このチームの情報は少ないです」

「なに、ラグナとの特訓の成果を発揮すれば大丈夫さ」

 

 バトルフィールドは市街地が選ばれた。その上空を飛行しながら希空は相手チームであるチーム・ダイナミックについて調べるも情報不足のため眉間に皺を寄せてしまっている。そんな希空に奏は情報がないのは惜しいがそれでも気にする必要はないと励ます。

 

 《熱源反応を確認! 来ます!》

 

 するとストライダー形態のNEXに乗っていた騎士ユニコーンは相手チームを発見し、希空達に注意を促す。希空はそのままセンサーが反応した方向を見ると……。

 

「「なっ……!?」」

 

 こちらに向かう機体達を見て、希空と奏は驚愕のあまり絶句するのであった。

 

「あ、あれは……っ!?」

 

 否、希空達だけではない。

 ラグナもだ。

 先程までの厳然とした態度が崩れ、口を開いてしまっている。

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──パイルダアアアァァァァァーーーーーーーァァァアッッッオオオォォォォーーーーーーーンンッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 熱く、そして勇ましく選ばれし者は叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは(くろがね)の城

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……っぽい何かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待てえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、会場に響き渡らんばかりの奏の叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

「何を待つって言うんだ! 俺はぐずぐずしているのは苦手なんだ!」

 

 

 

「貴様らにも味あわせてやる、ゲ○ターの恐ろしさをな!!」

 

 

 

 更にもっと言うと、偉大なる勇者……っぽい機体と三心の進化……っぽい機体もいた。

 

 

 

 

 

「……あぁ、ダイナミックってそういう……」

「ふざけるなぁあっ! サン○イズじゃないじゃないか! トミノじゃなくて、ナガイやイシカワじゃないかァッ!」

 

 チームの・ダイナミックの機体を見て、何やら遠い目で納得している希空を他所にわなわなと震え、指を指しながら奏は叫ぶ。

 

「何を言ってるんだ、これはガンプラだ。怒られる真似なんてしてないぜ!」

「なら、カスタマイズしたガンプラ名を言ってみろォッ!!」

 

 奏の叫びを理不尽だとばかりに鉄の城っぽい機体を操る青年が反論するが奏はすぐさま言い返すとチーム・ダイナミックは仕方ないとばかりにガンプラ名を明かし始める。

 

「魔神我・絶斗!」

「昏徒・魔神我!!」

「下駄一!!」

「アウトオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーーーォォォッッッッ!!!!!!!?」

 

 それぞれ誇らしげに己のガンプラ?名を口にする。

 確かに当人達がガンプラと主張するだけあって、ガンプラのパーツは使われているが見た目と名前でアウトである。

 

「行くぞ、マジイイィィィィィィィィーーーーーーンンッッゴオォォォオオッッッ!!!!!!!!!!」

「だぁからっ!! いい加減にしろおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!」

 

 もはやツッコミを放棄している希空の代わりに奏が叫ぶ中、最早、バトルも始まっていることもあり、チーム・ダイナミックが仕掛ける。やむなくニュージェネレーションブレイカーズも戦闘を開始するのであった。




魔神我・絶斗

WEAPON 格闘用MSハンド
HEAD 百式J
BODY ジンクスⅢ
ARMS ガンキャノン
LEGS ユニコーンガンダム
BACKPACK ビルドバーニングガンダム
拡張装備 センサーカバー
     大型マニピュレーター×2
     チークガード
     アメイジングレヴA
     Gファンネルロング×2


昏徒・魔神我


WEAPON ヒート・サーベル(グフカスタム)
HEAD 百式J
BODY ガンダムAGE-2 ノーマル
ARMS ガンキャノン
LEGS ユニコーンガンダム
BACKPACK ビルドバーニングガンダム
拡張装備 センサーカバー
     ニーアーマー×2
     ifsユニット
     ブーメラン型ブレードアンテナ
     Gファンネルロング×2
下駄一

WEAPON GNビームライフル(GNアーチャー)
WEAPON 大型ヒート・ホーク
HEAD マスターガンダム
BODY ガンダムヴァサーゴ チェストブレイク
ARMS ガンキャノン
LEGS ガンダムキマリス
BACKPACK ガンダムバルバトス
SHIELD ABCマント

一応、はい…例によって活動報告にURLがあります…。

えーっと、はい、色々とごめんなさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スーパーロボット大戦OUT

 ニュージェネレーションブレイカーズとチーム・ダイナミックによるアスガルド代表を決める決勝の火蓋が遂に切って落とされた。先程までツッコミに声を張り上げていた奏も操縦に専念してバトルに集中する。

 

 と言うのもチーム・ダイナミックは初見のインパクトは凄まじく出オチだけかと思いきや、その実力は凄まじかった。元々、チーム・ダイナミックの機体は清々しいほどにパーツの構成を再現に全振りしている為、武装の類などは少ないのだが、それを補いきるほどの個々の実力と仲間を最大限に尊重しての連携によってどんな相手であろうと一切、引けを取らないのだ。

 

「トマホオオォォォォォクッッッブウゥゥゥゥゥメッラァアンッッッ!!!!!!」

 

 下駄一から空を切って大型ヒート・ホークが投擲される。ただ闇雲に投げつけただけではなく、計算されて放たれたため騎士ユニコーンが召還したSD機体が撃破され、そのまま下駄一の手元に戻る。

 

「俺は少々、荒っぽいぜッ!」

「くっ、本当に出鱈目だなッ!」

 

 一方、昏徒・魔神我とクロスオーブレイカーが実体剣同士で切り結んでいた。決勝という舞台だけあって、一筋縄ではいかず、奏の表情にも薄らと苦みが滲んでいる。

 

「ちょこまかすんじゃねぇッ!」

「……本物と違い、パチモノだから対抗は出来ますね」

 

 空中ではストライダー形態のNEXをアメイジングレヴAを稼動させ、追いかける魔神我・絶斗。せめてもの救いか、外見の再現の為に射撃兵装はないに等しい。しかしアメイジングレヴAの作りこみは凄まじく、ストライダー形態のNEXに引けを取らないほどだ。

 

 そんなNEXの下方から反応があり、希空が咄嗟にNEXの舵を切って機体を動かせば先程、NEXがいた場所に巨大な光芒が走ったではないか。

 

「逃さん!」

「……ッ!!」

 

 どうやら下駄一が騎士ユニコーンを相手取りつつ、NEXへ砲撃を放ったようだ。間を置いて、拡散ビームを放つ下駄一に希空は表情を険しくさせ、これを避けるのだが……。

 

「ロケット(みたいにはならないけど、それぐらい結構強い)パアァーンチッ!!!」

 

 避けた直後に追いついた魔神我・絶斗による勢いをそのまま利用しての重々しい拳が振るわれ、NEXはシールドで防ぐも、衝撃を吸収しきれず、そのまま弾かれるように体勢を崩して吹き飛んでしまう。

 

 そんなNEXを逃しはしないとばかりに魔神我・絶斗が追おうとするのだがその前に魔神我・絶斗を赤い残光が襲う。トランザムを発現させたクロスオーブレイカーだ。

 

 確かにチーム・ダイナミックのメンバーの実力は軒並み高いが、奏もガンダムブレイカーの使い手。その実力は頭一つ抜けていると言っても良いだろう。

 大型レールキャノンとツインドッズキャノンを放ち、魔神我・絶斗の動きを牽制すると、その動きを読んで、奏は次の攻勢に出る。

 

「好きにさせるかッ!!」

 

 魔神我・絶斗に手数を駆使した奇襲を仕掛けるクロスオーブレイカーに損傷を受けている昏徒・魔神我は装飾のための胸部のブーメラン型ブレードアンテナを取り外し、クロスオーブレイカーに投擲する。

 

「なにっ!」

 

 迫るブレードアンテナは魔神我・絶斗に意識を集中させていたクロスオーブレイカーに直撃すると思われた。しかし直前にクロスオーブレイカーは量子化したではないか。

 

「ここは私のォ……距離だァアッッッ!!」

 

 次の瞬間、クロスオーブレイカーは昏徒・魔神我の真横に現れる。レーザー対艦刀を抜き放ち、そのまま昏徒・魔神我を左腕を切断すると、すかさず大型レールキャノンを放つことで昏徒・魔神我の動きを封じる。だがクロスオーブレイカーはそれで攻撃の手を緩めることはなく、そのまま魔神我・絶斗に標的を切り替える。

 

「それ以上、させるかッ!」

 

 半ばクロスオーブレイカーの独壇場と言って良いだろう。そんなクロスオーブレイカーに対して、騎士ユニコーンを相手に有利に進めていた下駄一が仲間の救援の為に駆けつける。

 

 流石に三対一の状況を相手にすれば、クロスオーブレイカーも苦戦は強いられない。特にチーム・ダイナミックはそれぞれえがどう動けば、仲間が戦いやすいかを熟知しているからだ。

 

 そんな状況にNEXと騎士ユニコーンが加わるも希空の表情は険しい。それはやはり奏の活躍だろう。奏に助けられただけではなく、チーム・ダイナミックが一つになって仕掛けてくるほどの強さを見せている。それは最早、このバトルフィールドで最も注目されていると言っても良いだろう。

 

「クッ……このままじゃあ……ッ!」

 

 乱戦の末、機体の損傷はチーム・ダイナミックのほうが激しい。一方、ニュージェネレーションブレイカーズはNEXと騎士ユニコーンが中破しているが、クロスオーブレイカーは比較的に損傷は少ないほうだ。この状況に魔神我・絶斗もファイターは表情を苦ませる。

 

「諦めるなッ! 俺達は諦めるわけには行かないッ!!」

「これで終わりだッ!」

 

 そんな魔神我・絶斗を下駄一のファイターからの檄が飛ぶ。どうやら彼は奥の手を使おうと、胸部装甲を展開する。それを感じ取ったのだろう。トランザムの活動時間を確認しながら、クロスオーブレイカーも下駄一から距離をとる。

 

「ゲ○タアアアァァァァァァァッッッーーーーーーーーーービイイィィイッッムゥウウッ!!!!!!」

「トランザムゥウッッッライッッッザアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーァアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 下駄一から放たれた巨大な光芒と天高く突き上げたGNソードⅢを媒体に肥大化させたエネルギーの塊ともいえる光の刃が互いの負けられないという信念を表すかのようにぶつかり合う。

 

「グゥゥゥッッッ!!!」

 

 トリプルメガソニック砲とトランザムライザーソードが真正面からぶつかり合い、拮抗するが、やがて下駄一が押され始める。そんな状況に下駄一のファイターは歯を食いしばるが……。

 

「大丈夫だ、俺達もついてる!!」

「死なば諸共だ!!」

 

 そんな下駄一を魔神我・絶斗と昏徒・魔神我が支える。そんな仲間達の想いに後押しされたように下駄一は更なる出力を上げる。しかしだ、それは機体への負担をかける行為であり、トランザムライザーソードによる圧を受けた結果、やがて自壊していき、そのまま光の刃がチーム・ダイナミックを飲み込むのであった。

 

 ・・・

 

「……何とか勝てたな」

「どこもかしも大声で叫んでうるさかったです……」

「大体、最後のはゲッ○ービームじゃなくてトリプルメガソニック砲だろうアレ……。なんであぁも堂々と……」

 

 勝利を収めたニュージェネレーションブレイカーズはアスガルド代表の栄光を掴み取ることが出来た。控え室に続く道を歩きながら奏と希空は表情に疲労を滲ませている。

 

「ひとまずはお疲れ様です」

 

 そんな彼女達を控え室でラグナが出迎えた。しかし彼の表情は優勝という結果にしては非常に厳しかった。

 

「……ですが今回のバトル、決して褒められたものではありません。チーム・ダイナミックの連携は脅威でしたが、今回、勝利を収められたのも単純な力押しによるものです」

 

 先程のバトルは確かに奏の活躍があってこそだ。

 だがそれがラグナには思うところがあったようだ。

 

「特に希空、私は言いました。内に抱えるものに囚われるな、と。今回の勝利はまぐれであり、チームとしての実力ではない。この事を深く胸に刻むように」

 

 ラグナは鋭い視線を希空に向ける。そのあまりの眼光に希空も僅かに体を震わしていた。そんな彼女にラグナは厳しい言葉を送りつけ、彼はこの場を後にする。残った希空は表情を曇らせ、奏とロボ助はかける言葉が分からず、重苦しい沈黙が包むのであった。

 

 ・・・

 

「アスガルド代表は奏ちゃん達かぁ。お姉さんは誇らしいのです」

 

 全てのバトルを終え、観客席がまばらになっていくなか、サイドテールを揺らした女性はクスリと微笑む。どうやら奏達の知り合いのようだ。

 

「生で見たいって言うから、こっちに来るついでに連れてきたけど、満足した? だったらお姉さんは嬉しいけど」

 

 女性はそのまま隣に座るくせのある髪の金色の瞳の少女に声をかける。

 その顔立ちを見るに恐らくはハーフだろうか。どうやらこの女性がこの会場に訪れたのは、この少女からの頼みがあったからのようだ。少女は女性の問いかけに、まるで内なる衝動を抑えきれない狂戦士のような獰猛かつ好戦的な笑みを浮かべるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

来たるべき邂逅

「はぁ……」

 

 チーム・ダイナミックとのバトルを勝利し、アスガルド代表の座を手に入れたニュージェネレーションブレイカーズ。その後は模型部員達が主催した打ち上げに希空とロボ助が不参加を決め込むなか、立場上、参加した奏は漸く自由の時間を手に入れていた。

 

 夜、ボイジャーズ学園の学生寮から程近い公園の近くを散歩をしている奏の表情は今日、優勝してアスガルド代表を勝ち取った者とは思えないほど、とても暗かった。

 

 と言うのもやはり希空が大きな原因だろう。

 

 確かにラグナからは大会前からも連携の大切さを説かれ、その為の特訓をしてきた。事実、ラグナの教えもあり、チーム・ダイナミックとのバトルを迎えるまでは順調であったのだ。

 

 しかしチーム・ダイナミックとのバトルで綻びが生まれた。

 確かにかのチームの連携は凄まじかったと言わざる得ない。それは単純な実力ではない。チームメイトが最後には背中を押してくれるようなまさに仲間同士の絆がバトルの中からも感じ取れた。それがあのチームの強みであり、あれほどまでの連携を繰り出せるのだろう。

 

 一方、自分達はどうなのだろうか。結局、連携も表面上のものでしかなかったのではないだろうか。自分達よりも格上のコンビネーションを前に自分は連携を意識することなく動いてしまった。

 

 確かにあの時、自分が動いたきっかけと言うのは、希空の窮地を救うためだ。

 その為だけに自分は動いたのだが結局、その後は自分だけでチーム・ダイナミックを相手取ろうとして、最終的には自分ひとりで倒してしまった。

 

「希空……」

 

 一人で動いたのは、先程の通り、純粋に希空を想ったからこそだ。しかしそれが裏目に出てしまった。自分だって気づいていないわけではない。希空が自分に助けられた時の反応が悪いということを。

 

 それは端的に言ってしまえば、自分への劣等感が問題だろう。

 

 希空が自分に劣等感を抱えているなど自分で言えば驕りに聞こえてしまうが、実際、突き詰めればそれが事実だ。

 彼女はガンダムブレイカーの名を受け継いだ自分を妬み、そしてガンダムブレイカーになれなかったことに劣等感を抱えているのだ。

 

(どうすれば良いのだ……)

 

 公園内のベンチに腰掛け、手を組んで額を乗せて頭を悩ませる。

 そんな彼女に自分がしてあげられることは何なのだろうか。思うところがある相手から下手に何かされたら、それは余計に悪循環になってしまうのではないだろうか。

 

『奏お姉ちゃんっ』

 

 幼い頃の希空は何にも囚われず、ただ無垢で無邪気な存在だった。

 だがいつからだろうが、その瞳に濁りが生まれたのは。結局、彼女は周囲に壁を作り、その本心を打ち明けられるのはロボ助くらいなものだろう。

 

 だが少なくともそんな今の希空とチームを組んでいても、結局、長くは持たないだろう。それにいつまでも、希空に気を使うばかりでは、チーム内の空気はどんどん悪くなり、いずれはそれもバトルに支障を齎す時も来るはずだ。そんなチームなど、このコロニーの代表に相応しくはない。

 

 ならば、いっそのこと──。

 

「っ……!」

 

 ズキリと頭が痛む。不安定な気持ちを表すように奏の瞳の色彩は次々に変化していた。

 恐らく奏自身もその事に気づいているのだろう。眉間に皺を寄せ、苛立ちを表すように膝を揺らしていた。

 

「──折角、優勝したのに、難しい顔してんね」

 

 そんな奏にふと風に乗って、声をかけられる。人の気配など感じ取れなかったこともあり、奏は周囲を見渡す。しかし周囲に人はいなかった。

 

「はぁい、こっちこっちー」

「んなっ……!?」

 

 周辺を見渡している奏にふと上方から声がかけられる。

 奏が声のまま顔を上げれば、そこには特徴的な金色の瞳で自分を見据え、外灯の上で腰を下ろしている少女が手を振っているではないか。アニメならいざ知らず、流石に現実でそのような光景を目にするとは思わなかった奏は口をあんぐり開けており、その様子を見て、クスクス笑っている少女は外灯から飛び降りて、奏の近くに降り立つ。

 

「な、なんだ君は……! 随分、カッコいい登場ではないか……。後でコツを教えてくれたって良いんだぞ……?」

「あっれ、分かんない? そういや、"あの時”、ちゃんと顔までは合わせてなかったっけ」

 

 華麗な着地を見せた少女に対して驚きつつも何やら感激している奏に後でねーと適当に答えつつ、どうやら奏を知っているらしい少女は奏の反応に首を傾げつつ、やがて自己完結してなら仕方ないかと呟いていた。

 

「これなら覚えてるかな?」

 

 そんな少女に覚えがないか、奏が脳内の記憶を辿っていると、ふと少女はその手がかりとなる品を腰部のケースから取り出す。

 

「それは……っ!?」

 

 それを見た奏は目を見開いて、絶句する。

 少女の手にあったのは、燃えるような真紅の装甲を纏い、未来を掴む覇王……バーニングガンダムブレイカーだったのだ。

 

「では君は……あの時のGB博物館で襲ってきた……!?」

「そっ。やぁーっと思い出してくれたんだねー。ルティナのこーとっ」

 

 バーニングブレイカーと少女を見て、奏はかつての記憶を思い出す。それはGGF博物館がリニューアルした施設であるGB博物館にて、突如、自分に対して襲い掛かってきたバーニングブレイカーとのバトルだ。

 

 あの時、バーニングブレイカーを使い、襲い掛かってきた相手はルルティーナことルティナと名乗っていた。その雰囲気からも目の前でバーニングブレイカーを持つ少女はそのルティナで間違いはないだろう。奏が思い出したこともあって、ルティナは小悪魔のように軽くウインクする。

 

「あれからこっちにいる間、色々調べながら、おねーちゃんのこと、探したんだよー? まあでもおねーちゃんは有名人だったら、そんなに苦労はしなかったけどね」

「……わざわざ、コロニーにまで来たのは私が目的か?」

「うん、知り合いに頼んでさ。今日のおねーちゃん達のバトルも見てたよ」

 

 GB博物館の後もルティナは今日まで色々と動いていたのだろう。

 その間に奏のことも調べたようで、この世界で最新のガンダムブレイカーの使い手として注目されている奏の情報をある程度は知っているようだ。

 

 GB博物館での出来事を思い出しながら、地上で戦ったルティナがこのアスガルドにいることについて尋ねると、にっこりと無邪気な笑みを浮かべてルティナは今日のコロニーカップについても話す。

 

「ねえ、おねーちゃん」

 

 するとルティナはスッと目を細めた。

 

「こっちの世界で、心を弾ませてるかな?」

 

 それはまるで奏の心を見透かすかのような瞳だった。

 

「ど、どういう意味だ……ッ!?」

「んー……? あぁ、そーいう感じかー。そう言えば、確かおねーちゃんって……」

 

 そんなルティナの瞳を前に狼狽しながら、その意味を尋ねる奏だが、そんな彼女の反応を見て、一瞬、怪訝そうな顔をしたルティナだが、やがてまたも一人で自己完結をしている。

 

「それよりさ、そろそろルティナとガチでバトろうよ。ずーっとこの日を楽しみにしてたんだから」

 

 すると話を変えたルティナは別のケースから、彼女自身のガンプラを取り出す。

 それはデスティニーガンダムをベースにカスタマイズしたであろう機体であった。そのガンプラを奏に見せながらバトルを申し出る。

 

「……悪いが、今は……」

「少なくとも今、ルティナとバトルすれば気晴らしにはなるし、見えるモノはあると思うよ? ルティナはおねーちゃんにとって、そんなに悪い子じゃないと思うんだけどなー?」

 

 しかし今は希空や自身に起きた変化もあれい、バトルに対して気乗りはしない。

 ルティナから顔を逸らす奏に、そんな奏すら見透かすようにルティナはまるで悪魔の誘惑のように魅惑の笑みを浮かべる。

 

「……分かった。どちらにせよ、ファイターとしてバトルを挑まれた以上は応えねばなるまいしな」

 

 そんなルティナを横目に見た奏は僅かに考えた後、再びルティナに向き直り、ケースからクロスオーブレイカーを取り出す。

 外灯が照らすなか、向かい合う奏とルティナ。得体の知れないルティナに警戒をする奏にルティナは、奏がバトルを受けたことにより、先程の小悪魔のような笑みからまるで狂戦士のような好戦的な笑みを浮かべるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚めの刻

 奏とルティナは最寄のゲームセンターに場所を移動し、ガンプラバトルシミュレーターVRに乗り込んで、バトルフィールドに移動する。二人の戦いの舞台に選ばれたのは、暗雲が立ち込める都市部であった。

 

『こっちの世界で、心を弾ませてるかな?』

(……あの言葉は一体……)

 

 都市部の上空を飛行しながら、奏は先程のルティナの言葉を考える。この世界……そう言われても奏にはピンと来なかった。何故なら、彼女は異世界の存在を知らない。その事実を知っているのは彼の英雄と一握りの人間だけだ。

 

 だが意識を切り替えろとばかりに接敵を知らせるアラートが鳴り響く。奏が注意を向ければ、そこには光の翼を展開し、色鮮やかな紫色の粒子を放ちながら接近してくるルティナの機体であるデスティニーガンダムをベースに作り上げたガンダムパラドックスの姿があったのだ。

 

 ルティナの実力は疲弊していたとはいえ、GB博物館で理解しているつもりだ。

 しかもあの時の実力が全力だったとは思えない。クロスオーブレイカーはパラドックスを警戒し、GNマイクロミサイルや大型レールキャノン等の射撃兵装を解き放つ。

 

 だがパラドックスは向かってくる射撃の雨に対して、一向に臆することなく突き進んできたではないか。パラドックスはGNソードⅡブラスターを薙ぐように振るいながら、引き金を引くと自分の進行ルートのみを確保して、そこに突入する。

 

「──ッ!」

 

 射撃の雨を難なく突破したパラドックスはそのままGNソードⅡブラスターの刀身を振るい、クロスオーブレイカーはすぐさまGNソードⅢを展開して受け止める。

 

 しかしそれも一瞬だ。

 すぐさまパラドックスは瞬時に攻勢に打って出る。GNソードⅡブラスターによる剣技とその身を武器にする覇王不敗流の技。それが一つに合わさって、まさに狂暴と表現できるほどの戦いぶりを見せているのだ。

 

 これにはいくらガンダムブレイカーの使い手とはいえ、奏の表情も一気に引き締まる。

 GB博物館でその実力の一端を知ったとはいえ、今のルティナはあの時が可愛く見えるほどなのだ。すぐさま奏はトランザムを発現させる。そうでもしなければ、今のルティナを相手に渡り合えないと判断したからだ。

 

「──心が乗らないなぁ」

 

 しかしトランザムを発現させていると言うのに、クロスオーブレイカーが優位に立つことはなく、状況はいまだパラドックスの勢いのままだ。しかもまだまだルティナには余裕があるのか、退屈そうな様子だ。

 

「おねーちゃん、ルティナのこと、馬鹿にしてんの?」

「なに……っ!?」

「そんなもんじゃないでしょ、おねーちゃんは」

 

 どこか不機嫌そうなルティナの問いかけに、その意味が理解できず奏は怪訝そうな表情を浮かべる。するとルティナは奏の実力を引き出そうと、更に攻勢を強めた。

 

「っ……!?」

 

 やがてパラドックスはクロスオーブレイカーを押し切り、そのまま背後の高層ビルにまで叩きつけ、轟音を上げる。

 

「かっこ悪いなぁ……。早くあの時、ブレイカー0とバトッた時のおねーちゃんの力、出してくれないかな?」

「……私のことを……知っているのか……」

「少なくともおねーちゃん以上にはね」

 

 ビルに押し込んだクロスオーブレイカ-を見据えながら心底落胆したようなため息をつくルティナの言葉に奏は驚きながら尋ねると、パラドックスは左腕のマニピュレーターでクロスオーブレイカーの首関節を掴む。

 

「ここにはルティナとおねーちゃんしかいないんだよ? なに躊躇ってんの? そんなにしてまで本当の自分から目を逸らしたいわけ?」

「本当の自分……だと……ッ!?」

「そーだよ。おねーちゃんはホントは何の柵もなく戦いたくて戦いたくて仕方ない筈だよ。でもおねーちゃんはただの人間であろうとするあまり、自分自身に枷をつけている。でもさ、本当の自分を殺し続けたら、いつまで経ったってなにに対しても楽しめないよ?だってさ、それって抑え付けるあまり、おねーちゃんが一番、苦しんでるんじゃないかな?」

 

 淡々と今の奏を非難するルティナの言葉に、奏は眉間に皺を、表情を険しくさせるが、続く指摘に息を呑む。これまで気分が高揚する時に発現していたあの症状。特にバトルをしている時に多かったが、まさかルティナの言うように、無意識に人であろうとするが為に押さえ込んでいると言うのか。

 

「いい加減、白黒ハッキリ決めようよ」

 

 ギリギリとパラドックスはクロスオーブレイカーの首間接を締め上げる。それはまるで今この瞬間にいる奏という存在の息の根を止めるかのように。

 

 

 

 

【なんで貴方はそこまで戦いたいのっ!? なぜ戦うのっ!?】

 

 

 

【戦うのに理由がいるのか……?! 戦うから充実出来てんだよ……お前のその力も戦うから価値があんだろ……!】

 

 

 

 

 ──その瞬間、奏の脳裏に彼女自身にはない記憶が過ぎった。

 

 

 

 それは彼女が何度も見てきた鮮血の記憶

 

 

 

 決して逃れられぬ死の記憶

 

 

 

 死ぬ……死ぬ、死ぬ!

 

 

 

 ただ無情に、ただ残酷にその命の火は死の旋風を前に掻き消される。

 

 

 

 嫌だ、嫌だ! 嫌だ!!

 

 

 

 死にたくなどない! まだ生きていたい!

 

 

 

 ──ならばどうすれば良い?

 

 

 

【醜く争ってこそ人間だろうがッ……!】

 

 

 

 ──全てを壊せば良い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、パラドックスの目の前にいたクロスオーブレイカーは忽然と姿を消し、ルティナは目を見開く。だが間髪いれずにパラドックスは背後からの攻撃を受けて、高層ビルを突き破りながら吹き飛ぶ。

 

 姿勢を立て直したパラドックスは衝撃を受けて崩落する高層ビルの方向を見やる。

 崩落によって土煙があがるなか、そこには己の能力を発現させ、蒼色からやがて虹色の輝きを纏ったクロスオーブレイカーの姿があった。クロスオーブレイカーはトランザムによって、量子化した直後、奏自身の能力を発現させたのだろう。

 

「ハハッ……やっと会えたって感じかな?」

 

 パラドックスを見据える奏の瞳はその機体の光同様に虹色に変化していた。

 だがその表情は普段の彼女からは想像もつかないほど、無機質かつ、その目で見られれば凍えそうなほど冷徹であった。

 奏の雰囲気が変わったことはクロスオーブレイカーを通じて察知したのだろう、ルティナは薄ら笑いを浮かべながらも、その瞳は鋭くクロスオーブレイカーを見据えていた。

 

 パラドックスはすぐさまGNソードⅡブラスターを向けようとする。だがその直前にクロスオーブレイカーがGNソードⅢの引き金を引き、その銃口を逸らすと瞬きをする間もなく間合いを詰め、そのまま体当たりをしてパラドックスごと地面に叩きつける

 

 激しい土煙が上がるなか、先に抜け出たのはパラドックス、そしてその後を追うのはクロスオーブレイカーだ。パラドックスが腰部のレールガンを放つが、クロスオーブレイカーは防ぐことすらせず、そのまま直撃を受けながら突き進む。

 

 流石にこれはルティナも予想外だったのだろう。その一瞬の隙にクロスオーブレイカーはGNソードⅢを展開して、GNソードⅡブラスターを文字通り、力ずくで叩き折る。

 

 メインとなる武装を失ったパラドックスにクロスオーブレイカーは流れるように背後に回りこむと、パラドックスの片方のスラスターウイングを無理やり引きちぎると、その無防備な背面に大型レールキャノンを叩き込む。

 

「ハッ……流石

 

 けたましくアラートが鳴り響くなか、パラドックスは姿勢を立て直すも、先程までクロスオーブレイカーがいた場所には誰もいなかった。同時にパラドックスの真横には既にクロスオーブレイカーがGNソードⅢを振りかぶっていた。

 

「やっぱおねーちゃんは強いなぁあっ!!」

 

 はちきれんばかりに好戦的な笑みを浮かべると何とルティナは瞬時に真横に現れたクロスオーブレイカーに対応してみせたのだ。パラドックスの機体を大きく捻り、突き放とうとしたGNソードの切っ先を蹴って、近くの建造物に突き刺すと、そのまま踵落としの要領でGNソードⅢの刃を破壊し、そのまま掌底打ちでクロスオーブレイカーをその背後に待つ建物まで吹き飛ばす。すぐさまクロスオーブレイカーは体勢を立て直し、パラドックスに向かい合うと、そのまま一目散にパラドックスに向かっていった。

 

 大型レールキャノンとGNマイクロミサイルを周囲に無差別に放ち、近くの建造物は瞬く間に崩壊を始める。瓦礫や土煙が発生するなか、それを目くらましに利用したクロスオーブレイカーは障害を突破して、パラドックスの眼前にまで迫る。

 

 しかしクロスオーブレイカーの狙いは既にルティナも分かっていたのだろう。既に覇王不敗流の構えを取り、貯めの体勢に入っていたパラドックスはそのまま錐揉み回転を加えて、蒼天紅蓮拳を放つ。

 

「……っ!?」

 

 蒼天紅蓮拳は確かにクロスオーブレイカーのあご先に直撃した。しかしルティナには違和感があった。まるでクロスオーブレイカーがわざと受けたように感じたからだ。

 現に技を受けたと言うのに、クロスオーブレイカーのメインカメラは確かにパラドックスを見据えているのだ。

 

 その姿に戦慄したルティナはそのままパルマフィオキーナでクロスオーブレイカーの頭部を掴んで、破壊しようと掌の閃光と共に爆発が起きる。

 

 ルティナ自身が望んだとはいえ、今のクロスオブレイカーは危険だ。追撃はせず、そのまま距離をとって、クロスオーブレイカーの様子を見つめる。

 

 パルマフィオキーナの影響で爆炎が上がるなか、その中から人影が見える。ゆっくりと爆炎の中からクロスオーブレイカーが姿を現したのだ。しかしその姿はあまりに異質だ。損傷をお構いなしに突き進んだ結果、頭部などフレームは剥き出しになっており、勇壮なガンダムブレイカーとは違い、その姿はおぞましい死神のようだ。

 

「……その気になってくれたのは嬉しいけど、時間がないよ。こりゃ引き分けかな」

 

 その姿さえルティナにとっては美しく感じているのか、どこか恍惚とした笑みを浮かべていた。しかしそれを遮るように残り時間を知らせるアラートが鳴り響く。時間を確認してみれば、残り時間はもうそろそろ十秒を切るか否かであった。

 

「──冗談を言うな」

 

 するとここで初めて、己の力を発現させた奏が口を開く。その声は普段の快活さとは違い、芯から凍えてしまうほど冷徹な声だった。

 

「白黒ハッキリ決めて欲しいのだろう?」

 

 パラドックスと対峙していたクロスオーブレイカーは瞬きをする間もなく、パラドックスの目の前に現れたのだ。果たして量子化でもしたのか? それすら考える間もなく一振りのレーザー対艦刀を突き立てると巨大な光の刃を形成する。

 

「なら、どこまでも真っ黒な世界へ墜ちて行け」

 

 何か動きをとろうとするパラドックス。しかし今、柵もなく能力を発現させている奏の瞳にはその動きは鈍重にしか見えなかった。そう、奏は己の能力を使って以降、ずっと遊んでいたのだ。彼の英雄のような力を遺憾なく振るう奏は口元を大きく吊り上げると、全てを無に還す光の刃はパラドックスのみならずこの世界(フィールド)の全てを飲み込むのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変わらぬ願い

 星の煌きによって輝く大海原のような夜空の下、彼の英雄は一人、空を見上げていた。

 彼が身に纏う雰囲気はかつてのものではなく夜空を見上げるその瞳は全てを見透かすかのようだ。

 

「──目覚めたか」

 

 夜空の先に待つ世界に何かを感じ取っているのだろう。ゆっくりと瞼を閉じながら僅かに思案すると感情すら感じさせない無気質の瞳を開き、人知れず行動を起こすのであった。

 

 ・・・

 

「満足したか?」

 

 一方、バトルを終えた奏とルティナは人気の少ない先程の公園で向かい合っていた。ルティナの望み通りにバトルをした奏は彼女に問いかける。しかしその声色はかつての奏とは想像がつかないほど落ち着いたものであった。

 

「ガチになったおねーちゃんは強いなぁ。まさか手も足も出ないとは思わなかったよ」

「……貴様は私のなにを知っている? 貴様の望みに応えたのだ。話してもらおうか」

 

 やれやれと言わんばかりに肩を竦めておどけているルティナに奏は彼女が口にしていた奏以上に奏を知っているという言葉について追求する。

 

「……前にルティナは下手に知り過ぎると心が囚われるだけって言ったと思うんだけど」

「今更だな。思わせ振りな言葉を言われるほうが余程、気持ち悪い」

 

 奏の言葉にポケットに手を突っ込んで気まずそうに視線を逸らすルティナを奏は淡々と一蹴する。ルティナがチラリと一瞥すれば、対峙する奏は有無を言わさぬ鋭い眼光を自身に突き刺していた。

 

「……分かったよー。でも正直、突拍子のない話だし、信じるか信じないかはおねーちゃん次第だよ」

 

 やがて観念したようにため息をついたルティナは改めて、奏に向き合いながら表情を引き締める。雰囲気から判断しても話す気になったと言うことだろう。

 

「ルティナが元々、この世界の人間じゃないんだ。こことは異なる世界から来たんだよ。この世界に来た目的は色々。その一つがおねーちゃんの存在」

 

 まずは己の素性から明かすルティナ、確かに彼女が前置きした通り、その内容はあまりに現実味がない。しかし奏は眉一つ動かさず黙って話を聞いていた。

 

「おねーちゃんは元々、この世界の人間じゃないんだよ」

 

 そして話され始めた奏の素性。

 

「おねーちゃんの正体はね、アタシ達の世界で作られた生体兵器だよ。確かEVシリーズとか言ったかな」

 

 その瞬間、能面のように動かなかった奏の表情もピクリと眉が動いた。

 

「アタシ達の世界はさ、戦争ばかりだったんだ。それこそ国どころか外宇宙からってのもね。今は一部と和平して落ち着いてるけどお陰で世界はより滅茶苦茶。いっぱい人が死んだ。にも関わらず世界は外宇宙から来た存在を受け入れられず、反発だってあった」

 

 ルティナの世界についても語れる。彼女の世界は彼の覇王達と同じ世界だ。彼らが立ち向かった戦いはやはり多くの犠牲と火種を生み出したという。

 

「いつだって死ぬのは戦える人間から。でも兵士なんて一人前に育て上げるのに時間もお金もかかる。だから裏でおねーちゃんのように強大な力を持つ兵器が作られたんだよ。確か如月翔とシーナ・ハイゼンベルグだったかな。軍に残っていたエヴェイユとかいう能力者達の塩基配列をベースに試作として生み出された」

 

 失った兵力を補うために、ただの人ではなく、より強力な力を持つエヴェイユの力を持つ生物兵器として作られたと話すルティナ。彼女の世界には様々な人種がいて、同時に多くの技術が存在する。

 そして何より奏を生み出される以前にリーナ・ハイゼンベルグの存在がある。彼女がシーナ・ハイゼンベルグをベースに生み出されたクローンのように奏もその技術を発展させて作られたのだ。

 

「勿論、それが内部で明るみになれば反対する勢力もある。勿論、揉め事はあったらしいけど、結果的に生まれたばかりで物心つく前におねーちゃんはリーナ・ハイゼンベルグ(おねーちゃんにとって姉に近い人)にこの世界に暮らす如月翔の元に届けられたんだよ。理由は──」

「戦いのない世界に、か?」

「そーいうこと。戦う為だけに生み出されたのなら、せめてってことらしいよ」

 

 そしてこの世界に届けられた理由。それは出自を類似する女性の願いだった。その女性は自らが望んだとはいえ戦う道を選んだ。だがその存在理由をただ戦うためと定められて作られた子に対して思うところがあったのだろう。だからこそその女性は戦いに無縁な世界で暮らさせることを望み、周囲もその願いを尊重した。

 

「でもね。ずーっと気になってたんだよ。アタシ達の世界からこっちに届けられた人がどんな風に生きてるのかってね。まさかそれがあのGB博物館で戦ってた人とは思わなかったけど、あそこでおねーちゃんの力の一端をに触れたことで確信が生まれたよ」

「……そうか。成る程……」

 

 ルティナがこの世界に訪れた理由の一つ。それは純粋な興味であった。話に聞く人物がどのような存在になったのか。それを知りたいがためだったのだ。ルティナの話を聞き終えた奏は己の存在を確かめるように両手を見つめる。

 

「やっぱショック? それとも信じられないかな?」

「……いや、お前の話は信じよう」

 

 己の掌を見つめて静止している奏の姿からはなにを考えているのかは読み取れない。

 そんな彼女にルティナは尋ねると、一度、目を瞑って軽く息を吐いた奏はゆっくりと目を開いて答える。

 

「だが生憎、人違いだ」

 

 奏はルティナに向き直りながら堂々と答える。その瞳は揺れ動かぬ静かな感情を宿しながらそれでいて確固たる意志を示すかのようだ。

 

「私は如月奏……。ここにいる私はそれ以外の何者でもない」

 

 そう言って奏は踵を返すとルティナに背を向け歩き出す。

 

『私は……人間じゃないの?』

 

 その脳裏にかつて父に尋ねた言葉が蘇る、今にして思えばこの言葉を聞いて悲しげな表情を浮かべたあの人はあの言葉に違う意味を考えたのかもしれない。

 

『奏は人間だよ。人間は一人だけでは生きて行けない弱い生き物だ。それは奏も同じこと。確かに奏の中にも俺の中にも他の人とは違うセンスがある。でもみんなそうなんだ。コピーしたように同じ人間なんて誰一人としていない。奏のセンスは奏だけの個性だ。人間か否かではなく自分は人間だって胸を張って良いんだ』

 

 だが、あの人は……いや、父は自分の目を見て、確かにそう言ってくれた。いつだって自分を実の娘のように可愛がってくれたのだ。

 

(だからこそ……)

 

 であれば自分は迷う必要はない。生体兵器などではない、自分は"如月奏”。彼の英雄を父に持ち、今日まで至るガンダムブレイカーの継承者。そして何よりその胸に宿るモノは……。

 

 ・・・

 

「……」

 

 翌日、通常通りの朝を迎え、ボイジャーズ学園には多くの生徒が登校していた。

 その中には希空の姿もあるが昨日のラグナの件もあってかその表情はとても暗かった。

 

「……?」

 

 そんな希空の肩がトントンと叩かれる。何かと思った希空が振り返った瞬間、その柔らかな頬に指が突かれた。何かと思い、眉を潜めながら見てみればそこには満面の笑みを浮かべる奏がいた。

 

「い”い”ぃぃだ”あ”ぁ”ぁぁい”ぃぃぃぃっっっ!!!?」

 

 間髪いれず青筋を浮かべた希空は奏の頬を力いっぱい引っ張り、先程まで満面の笑みを浮かべていた奏はたちまち涙目を浮かべて悲鳴をあげる。

 

「……朝っぱらからなにくだらないことをしているんでしょうか」

「むぅぅっ、く、下らなくはないぞ。朝だからこそ、貴重なノアニウムを取らないとだな……」

「安定してますね。軽く引きます」

「そ、そんな……ノアニウムの命名者はロボ助なのに……」

「ロボ助を変態()と一緒にしないでください。言うわけないでしょう、そんなこと」

 

 抓られたとはいえ、希空に構ってもらえて嬉しそうな奏は悶えつつ弁明しようとするのだが、その内容に希空は刺すような冷たい視線を送っていた。その視線に奏は説明しようとするのだが一蹴される。

 

「本当に奏は変わりませんね」

 

 そんなやり取りをしていくなかで、希空は先程まで浮かべていた暗い顔も少しは晴れやかなものになっていく。そんな希空の表情を見た奏は彼女が知らぬところでどこか落ち着いた雰囲気を纏うと穏やかな笑みを浮かべる。

 

(ああ、そうだ。私は如月奏……。だからこそ)

 

 そんな希空の横顔を眺めながら、奏は昨日、ルティナと別れた時に思った言葉を再び思い出す。

 

(だからこそ、私の願いも変わりはしない)

 

 雑談を交えながら希空の横顔を見て思いを馳せる。彼女に隠された事実が何であれ、如何なる力を持っていても、その根底にある想いや願いが変わることはないのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ピースを埋めるには

 ボイジャーズ学園の放課後、最寄のゲームセンターでガンプラバトルが行われていた。バトルを行っているのは、奏とヨワイ率いる模型部員達であり、希空とロボ助は近くのベンチに座っていた。

 

 《アスガルド代表、おめでとうございますー》

 

 そんな希空は今、携帯端末で立体映像を表示させてテレビ電話を行っていた。相手は腰まで届く艶やかで美しい黒髪の一部分だけ髪を纏めて簪を挿している少女だ。画面越しにも分かるほど穏やかな雰囲気を持つ彼女の名前は砂谷舞歌。希空の父親の友人である砂谷厳也、そしてその妻である咲の実子であり、四兄妹の次女だ。

 

「……ありがとうございます。ですが、勝てたのは奏のお陰です」

 《でも勝ちは勝ちですよー。寧ろ思うところがあるのなら、飛躍のチャンスですよ》

「……そう出来たら良いんですがね」

 

 親同士の付き合いからか、幼い頃から知り合っている希空と舞歌。今はコロニーと地上で別れているため、中々会えないが定期的に連絡は取っている。チーム・ダイナミックとのバトルもあり、希空は純粋に舞歌の称賛を喜べないでいた。

 

「……?」

 

 そうこうしているとバトルを終えたのだろう。シミュレーターからヨワイ達模型部員が出てくる。悔しさや諦めの表情を見る限り、奏が勝ったのだろう。それにしても予想よりも早く終わったものだ。

 

 その後、続くようにシミュレーターから出てきた奏を見やる。シミュレーターから出てきた直後の奏の表情はどこか空虚だった。しかしそれも一瞬で、模型部員達と接する奏はいつもの彼女だ。しかし先ほどの奏の表情を見てしまった希空は何だったのだろうかと怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 《今度のコロニーカップ、直接に見に行くことは出来ませんけど、VR空間なら行けますから涼一さん達と応援に行きますねー》

「え、ええ。それでは」

 《はい、お体に気をつけてー》

 

 奏に気を取られていると舞歌からの言葉に我に返った希空は話を切り上げて電話を終えて奏達と合流する。

 

「ヨワイと組むといつも負けんだよな。名前のせいだろ」

「泣くよ」

 

 奏達に合流すれば、模型部員達は自分達の敗因を話し合っており、その中の言葉でヨワイは薄らと涙目を浮かべていた。

 

「まぁそう言うな。ヨワイは新しいガンプラに乗り換えて以降、かなり動きが良くなっているぞ。恐らく先程のメンバーの中ではその実力は一番だろう」

「ホ、ホントっすか?」

 

 そんなヨワイを後ろから頭を撫でながら奏がフォローする。そう、ヨワイは以前のティンセルMk-Ⅱから新たなガンプラに乗り換えているのだ。奏の言葉に自分でも驚いているのだろう。おどおどとした様子でヨワイは不安げに奏に尋ねていた。

 

「うむ。ところでその新ガンプラのベースはZプラスのようだが、差し支えなければ理由を聞いて良いか?」

「えっ、あいや、そのっ……」

 

 ヨワイの手にあるガンプラはZプラスをベースにカスタマイズしたガンプラだ。

 何気なく奏はベースに選んだ理由を尋ねるとヨワイは動揺した素振りを見せながら、希空をチラチラと見ている。

 

「あぁ多分、雨宮を意識してんじゃないんですか? 一方的にライバル視してる雨宮のガンプラは可変機ですし」

「違うし偶然だし勘違いすんなしっっ!!」

 

 視線の意味が分からず首を傾げていると模型部員の一人が理由を考え付いたのか、手を上げながらニヤついた笑みを浮かべて答える。だが希空を意識していると言われた瞬間、ヨワイは顔を真っ赤にして早口で息巻いていた。

 

 ・・・

 

「──昏睡、ですか」

 

 一方、ボイジャーズ学園の屋上では吹き行く風に黄金の髪を揺らしながらラグナが携帯端末で電話をしていた。

 

 《……ああ、巷のウィルス事件での新たな被害だ。VRにダイブした人間を対象に、ウイルスに感染後、アバターは現実に戻ることは叶わず、そのままVR空間を彷徨っているとのことだ》

「そして肉体は昏睡状態に陥ると言うことですか……ッ」

 

 電話口から聞かされるウィルス事件の被害内容に、元々、清廉な人柄であるラグナは特に許せぬのだろう。表情を険しくさせ、歯を食いしばる。

 

 《……一つ、これに関して、問題があってな》

「と言うと……?」

 

 電話口の人物もこの事件に思うところがあるのだろう。少しでも平静を保つために、電話越しに深呼吸をする呼吸音が聞こえ、話を続けた。

 

 《VR空間に彷徨う感染者を駒にしていることだ。現実世界に戻れない感染者に対して、協力すれば現実世界に戻れるワクチンを投与すると嘯き、協力させていると言うことが警察の調べで分かった》

「ッ」

 《感染したアバターが今、電脳空間のどこにいるのかは分からない。だが、いくら理想の世界でも現実じゃない。幾ら相手が自分を陥れた相手であろうと、そう言われれば死に物狂いでやっても仕方がないとも言える。だが結果的にウイルス側の勢力が拡大しているのも事実だ》

「なんて外道な行いを……ッ!」

 

 話の内容にラグナの手が震えていく。彼は清廉な人柄を持つラグナには決して容認できない話だろう。

 

 《コロニー側での被害も出始めていると聞く。気をつけろ、と言っても仕方がないことだが、用心はしろ》

「ええ、私達ガンダムブレイカーは向こうからすれば、当然、マークはされているでしょうね」

 

 電話越しの忠告にラグナは冷静であることを心がけ、息を吸い込みながらその言葉に頷く。

 

 《嫌な予感がする……。この事件、昔を思い出す》

「……御身の過去を考えれば、仕方がないことでしょう」

 《……そうだな。だからこそ見過ごせない》

 

 電話口の口調は自身の過去を思い出しているのか、どこか忌々しそうだ。だが電話相手を良く知るラグナは半ば同情の念を示すと電話越しの相手は確固たる意思を示すかのように強く言い放つ。

 

 《……コロニーカップも近いのに、こんな話をして悪かったな》

「いえ、そんなことは」

 《……》

 

 とはいえ、今、模型部は大事な時期だ。電話相手は非礼を詫びるも、これは耳に入れなくてはいけないことだ。そんなラグナに電話越しの相手は押し黙り、暫し無言の時間が続く。それはまるで言うかどうか躊躇するかのようにだ。

 

 《……その、希空はどうだ?》

 

 すると電話越しの相手はおずおずと希空について尋ねたのだ。その内容に一瞬、目を丸くしたラグナだが、やがて我慢しきれず肩を震わせる。

 

「やはり愛娘は気になりますか、一矢さん」

 

 そんなラグナの様子は電話越しでも気づいたのだろう。どこか不機嫌そうな息遣いが聞こえるなか笑いを堪え、失敬と口にしながら電話相手の名を口にする。そう、相手は希空の父である一矢なのだ。

 

「……正直、あまり良いとは言えません。やはり劣等感は大きいようです」

 《……口で言っても、か》

「ええ、長年、胸に抱えているモノをそう簡単に割り切れるほど、人間は良く出来た生き物ではありませんからね。特にあの年頃なら尚更。私も分かってはいるのですが……」

 

 だが和やかな口調も程ほどにラグナは神妙な様子で希空について答える。

 ラグナは希空に囚われるなと言ったが、実際、それでそう易々と実行できるとは思っておらず、決勝直後も希空にあぁは言ったものの、彼自身、どうするべきか悩みの種となっていた。

 

 《……こればかりはきっかけだろうな。道に迷った時に手を差し伸べられるような、な》

「……きっかけですか」

 《幸いなことにアイツの近くにはお前を含めて、寄り添ってくれる者達がいる。きっかけ自体はそう難しいものではないだろう》

 

 かつての自分を思い出しながら話す一矢にラグナは考えを巡らせる。そう考えるのも希空の為だ。それを理解している一矢は感謝を込めながら話す。

 

 《……意図的かは分からんが俺からの連絡は中々取れなくてな。悪いが、アイツにこれからも寄り添ってもらって良いか?》

「勿論ですとも。あの娘は私の生徒ですから」

 

 元々、一矢自身が器用な人物ではないが希空と話そうにもきっかけが少ないため複雑な様子だ。そんな一矢を少しでも安心させるように力強く答えながら、程なくして電話を終えるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

優しさの種類

 宇宙コロニー・アスガルドとパライソによる代表戦が日に日に迫るなか、希空達は特訓の日々を続けていた。そんな中、以前、奏にバトルを持ちかけたルティナは公園のベンチに腰掛けていた。丁度、時刻は昼時、ルティナは何気なく菓子パンを摘んでいると、その近くには一匹の野良猫が寄ってきていた。

 

 野良猫に気づいたのだろう。軽く微笑むと菓子パンの端を軽く千切って野良猫の近くに置く。とはいえ、野良猫も簡単に警戒したように千切ったパンとルティナを交互に見ていた。

 

 ・・・

 

「うーん……ちょっち遅くなっちゃったなぁ」

 

 それから数十分後、ルティナがいる公園を目指して、一人の女性が歩く。サイドテールに纏めた髪を歩く度に揺らしながら腕時計が刻む時間を見て、どこかバツの悪そうな顔を浮かべると歩速を強める。あと少しで目的地である公園だ。

 

「──お待たs」

 

 公園の入り口に踏み入れ、園内を軽く見渡して遠巻きに見えるルティナを見つけると、手を振りながら足早に駆け寄ろうとした時であった。

 

「にゃーにゃーっ」

 

 近づいて、よりルティナの姿を鮮明に視界に映した瞬間、ルティナは野良猫を抱き上げると無邪気な笑みを浮かべて話かけていたのだ。

 

「みゃぁ? んにゃぁー。にゃぁぉっ」

 

 完全に野良猫に意識を向けているため、自分に駆け寄ってくる人物に気づいていないようだ。野良猫に接しているその姿は幼い子供のようで、とてもGB博物館で突然、襲い掛かってきたような人物には見えない。

 

「あっ、やっと来たんだ、歌音」

 

 そんなルティナだが、視界の端にいる人物に気づいたのだろう。野良猫を抱きつつルティナに駆け寄ろうとした人物の名前を口にしながら声をかける。

 

「……歌音?」

 

 サイドテールが特長的な彼女の名前は姫川歌音。ルティナをコロニーに連れて来たのは彼女だ。しかしその歌音はルティナの呼びかけに対して、反応はなく、その手に持つ携帯端末をルティナに向けたまま固まっていた。

 

「ふにゃあぁああっっルティニャンんぅぅっ尊いぃぃぃんっっ」

 

 そんな歌音の表情を見てみれば、非常にだらしなく緩んでいる蕩けきった顔をしていた。どうやら手に持っている携帯端末も先ほどのルティナの様子を撮影していたらしい。

 

「ねぇ聞いてるー?」

 

「はっ!? あぁ、ごめんごめん……。ついでに待たせてって意味でもゴメンねー」

 

 野良猫を膝の上に乗せて、完全に自分の世界に入り切って帰って来ない歌音に呼びかけると、程なくして我に返った歌音はハンカチで口元の涎を拭いながら待たせてしまったことを両手を合わせて詫びていた。

 

「まあ歌音の場合、仕方ないっちゃ仕方ないよね」

 

 ルティナは公園の近くの高層ビルに設置してある街頭モニターを見やる。そこにはツバコとシャルルが宣伝するグランドカップのCMが流れており、ルティナの視線はシャルルに突き刺さるなか、ルティナは野良猫にバイバイと別れを告げ、歌音と公園を出て行く。

 

「希空ちゃん達に会いたいけど、予定がなぁ」

「今日の夜に生放送だっけ? 大変だねー」

「とりあえずメールくらいは送っておきましょうかーねー」

 

 アスガルド代表を決めるあのバトルをルティナと観戦していたのも、歌音であり、希空達と知人関係にある歌音は折角、アスガルドに来たのであればと希空達に会おうとしているようだが中々予定が合わないでもどかしそうだ。

 

「ところでルッティは満喫してるの? コロニーに行くことが決まった時、かなり行きたいってねだってたけど」

「んー…………まあそれなりに? 会いたい人に会ったしね。まあ手も足も出なかったけど」

「それって奏ちゃん? えらくご執心だけど、やっぱガンダムブレイカーだから血が疼いちゃう感じ?」

「そんな感じ。でもルティナだって次は負けないよ」

 

 アスガルドの街を歩きながら、歌音はルティナにコロニーでの日々について尋ねる。ルティナが同行したのは、彼女たっての頼みだったのだ。歌音の問いかけにルティナは小首を傾げながらも自信満々に答える。

 

 ・・・

 

「んじゃっお姉さん、ちょっくら行ってくるから」

「行ってらー」

 

 その夜、歌音達が利用するホテルの一室でVRGPを装着した歌音がベッドに寝転がっているルティナに声をかけると、ルティナに見送られながらVR空間にダイブする。

 

「──」

 

 VR空間にダイブし、データ体の歌音の体は再構築されていく。サイドテールが解けたロングヘアーはツーサイドアップとなって雪のように美しい白髪に変わり、その頭頂部にピョンとネコ耳が生える。それと同時に歌音の身に纏う服装も胸元を大きく露にした華やかな踊り子のような衣装に変化し、目を開けばくりっとした紫色の瞳に変化していたのだ。

 

 姿を変えた歌音は電子空間にタンッと足を触れると、そこを起点に彼女の周囲がガーリーな雰囲気に満ちた煌く空間が構築されていくと、そのまま正面に向かって、笑顔を作る。

 

「ハーイ! シャルルの部屋、始まりマース! ドゥールルッルルルッルールルールルルッルールールールールー♪」

 

 同時にカタコト交じりで話し始める。そう、歌音のVR空間におけるもう一人の顔、それこそがシャルル・ルティーナ。主に動画サイトで活動し、地球どころかコロニーでもライブをするほどの人気絶頂のヴァーチャルアイドルなのだ。

 

「ガンプラバトルの大会であるコロニーカップ! 担当のシャルルがぁっホットな最新情報をお届けするヨー」

 

 前話をしつつ、今回の生放送の趣旨を口にする。

 実を言うと、歌音がコロニーに訪れた理由はここにある。今シーズンのMCを勤めるミツバとシャルルにはそれぞれ担当がある。まずミツバはかつてのMCを勤めたハルのように地上での大会を担当し、シャルルは宇宙コロニーにおける大会を担当して、民衆に最新情報等を発信していく。

 その為、歌音は身近で見る必要もあるため、こうしてコロニーにまで足を運んだのだ。日中にシャルルを待たせていたのも、この放送の為の運営側との打ち合わせと言える。

 

 ・・・

 

「ホントにこうして見てると、歌音とシャルルが同一人物だなんて結び付かないよねぇ……」

 

 ホテルの一室でVRにはダイブせず、この時代から半世紀前のVRのような感覚を味わう鑑賞モードにして、間近のように感じるシャルルの生配信をルティナが見ながら、歌音とシャルルの関係について苦笑交じりに感想を口にする。

 

「………?」

 

 ユーモアを交えたトークで笑いを誘うシャルルの生放送を楽しんでいると、シャルルの周囲に流れる同じく生放送を見ているユーザー達からコメントの中で気になるモノを見つける。

 

【今のシャルルも好きだけど、少し前のシャルルの方が好きなんだよなぁ】

 

 そのコメントはすぐに流れて行ってしまったが、ルティナにとってその何気ないコメントが気になった。ルティナと歌音、そしてシャルルと知り合ったのは、つい最近であり、このコメントで言うところの以前のシャルルを知らないのだ。少し前とはどれくらいだろうか?それこそ今より世間に認知される前のゲーム実況等の動画配信を主に活動していた頃であろうか?

 

『私はね、シャルルじゃなくて、シャルルのパーツでしかないんだよ』

 

 以前、歌音はこんな言葉を口にしていた。

 もしかしたら、何か関係でもあるのだろうか?

 

 《まだまだバーニングなコロニーカップっ! 見逃しちゃぁっNO! だからネっ!》

 

 そんなシャルルはいまだ快活にトークを続けている。ルティナはどこか釈然としないまま生配信を見つめ続けるのであった。

 

 ・・・

 

「昨日のシャルルの配信、見た?」

「見た見た! テレビにはないあの自由さが良いよね」

 

 翌日、模型部では部員達が思い思いに部活動に勤しんでいた。その中には昨日のシャルルの生放送に関する話題もあった。

 

「そう言えば、部長達は?」

「今日も特訓じゃない? ってかさぁ、雨宮はもう少し何とかならないの? 確かに強いけどさ」

「協調性がないよね。この間も連携が取れてないってラグナ先生に怒られてたけど殆どアイツのせいじゃん。部長も付き合わされて可哀想だよねぇ」

「ホント、あれでコミュ障じゃなきゃ良いんだけどね、可愛いし。アイツが自分から長話をするのロボ助ぐらいじゃん」

 

 他には今日も今日とてパライソとの代表戦に備えて特訓漬けの日々を送るニュージェネレーションブレイカーズの話題にもなっており、部員達は希空に対して少々、棘のある言葉を口にしていた。

 

 ・・・

 

「……完全に袋小路になっていますね」

 

 一方、その希空達だがバトルを終えた希空達にラグナは厳しい表情で最近のニュージェネレーションブレイカーズを評価をしていた。

 

「……以前より、連携が噛み合わなくなってきています。このままではパライソとの代表戦、手も足も出ないでしょう」

「す、すまない、私がもう少し上手く立ち回らねばならないのだが……」

 

 しかもチームは以前より悪化していると言うのだ。その言葉に奏は苦々しい表情を浮かべながら答えるが……。

 

「……止めてください」

「希空……」

「私のせいだと言うのは……理解しています」

 

 すると希空は言葉を続けようとする奏を遮るように口を開く。視線が希空に集中するなか、彼女は悔しそうに下唇を噛みながら震えていたのだ。

 希空も何とかしなくてはいけないと言うのは理解しているし、勤めを果たそうとするのだが、それが空回りしてしまっている。

 

「──理解してるとか口だけでしょ」

 

 そんな希空に対して、慰めではなく厳しい言葉を投げかけたのはヨワイであった。

 これまで通り、他の部員達と同様にこの場に訪れていたが、今の彼女の表情は明らかに不機嫌で睨むように希空を見ていた。

 

「前も似たようなこと言って、あのザマだったじゃん。アタシ、言ったよね? チームの代表メンバーに認めちゃいないって。良い機会よ。新作ガンプラも出来たことだし、ここでアンタを倒して、アタシが代表に成り代わってやろうじゃん」

「……アナタが私に勝てると?」

「はんっ、ガンプラファイターでも何でもないアンタに負ける気はないし」

 

 強い語気で希空に言いつけるヨワイ。しかし今、思い悩んでいる希空はお世辞にも機嫌が良いとは言えず、射殺さんばかりに鋭い眼光を走らせるも、ヨワイは鼻で笑って一蹴した。

 

「希空、ヨワイ、いい加減に──」

「待ちなさい」

 

 ピリピリと肌に刺さるような緊迫した空気が流れるなか、見かねた奏が止めようとするがラグナによって静止される。どうやら様子を見ようと言うのだ。そんな中、希空とヨワイはシミュレーターに乗り込む。

 

「Zマックス、出ちゃうよ」

 

 VR空間にダイブし、ヨワイは新たなガンプラであるZプラスをベースにしたガンプラであるZマックスに乗り込むと、構築されたカタパルト空間を新たな愛機と共に飛び立っていくのであった。




ガンプラ名 Zマックス
元にしたガンプラ Zプラス

WEAPON ビームライフル(Zプラス)
WEAPON ビームサーベル(Zプラス)
HEAD ZプラスC1
BODY Zガンダム
ARMS GNアーチャー
LEGS ZプラスC1
BACKPACK ZプラスC1
SHIELD ZプラスC1
拡張装備 強化センサーユニット(頭部)
     ニーアーマー×2(両足部)
     マイクロミサイルポット×2(背部)
     内部フレーム補強

例によって活動報告にリンクが貼ってあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真なる心

 バトルステージに選ばれたのは、どこまでも広がる大海原だ。

 揺れる潮を眼下に漆黒の夜空を飛行するのはストライダー形態のNEX。普段の希空ならいざしらず、ヨワイの挑発にまんまと乗せられてしまった。胸の中で蠢く黒い感情は大きくなっていくばかりでそれを表すように希空の表情は険のあるものだった。

 

(……無駄な時間でしかない)

 

 センサーが反応し、モニターに表示されるZマックスを確認しながら希空は目を鋭く細める。ヨワイに吹っかけられたバトルとはいえ、彼女と自分の実力さは分かりきっている。負けるどころか苦戦すらしないだろう。モニターに映るWR形態のZマックスに狙いを定めて、希空は引き金を引き、ハイパードッズライフルの銃口から光芒が発せられる。

 

 だが伸びたビームをZマックスは回避したのだ。すぐに終わる。そう思っていたバトルだが、避けられたこともあり、希空は眉間に皺を寄せる。

 

 とはいえ以前、あのZマックスとバトルをした奏はかなりその動きは改善されていると評価していた。元よりヨワイは希空達の足元には及ばないまでも、その実力は同じ模型部員達の中では最上位に食い込める程の実力の持ち主だ。であればひとえに実力不足とは言えず、回避できたとしても何ら不思議ではないはずだ。

 

 すると今度はお返しとばかりにZマックスから無数のマイクロミサイルが放たれ、すぐさま希空は操縦桿を動かし、大型ビームキャノンを駆使して、必要な分だけ破壊すると、そこを抜け道に突破する。

 

「──っ!」

 

 しかし突破した先には既に希空の行動から動きを読んでいたMS形態のZマックスがビームサーベルを構えて突進してきていたのだ。すぐさま反応した希空はNEXを変形して、ビームサーベルを引き抜くとギリギリで受け止める。

 

「腕、鈍ったんじゃないの? 前より動きが読みやすいけどッ!」

「……調子に乗ってッ」

 

 鍔迫り合いが起き、周囲に激しいスパークを散らす。

 元々、ファイターとしての実力は及ばなくともモデラーとしては十分なのだろう。NEXとの鍔迫り合いでも力負けしない状況でヨワイが通信越しに挑発すると、希空は思わず歯軋りをするも、直後にNEXに衝撃が襲う。Zマックスが大腿部のビーム・カノンを使用したのだ。

 

 ・・・

 

「希空、怒りに駆られて動いては……」

「それこそヨワイの狙いでしょう。実力で劣る分、希空の怒りを誘って、その動きを粗雑にさせればヨワイでもその動きを読むことは出来るでしょうから」

 

 モニターに映るバトルの様子を見ながら希空を心配する奏に神妙な顔つきでラグナは答える。普段の希空であればそろそろヨワイを撃破している頃だろう。しかしそうはならないのは彼女が感情に左右されて、機体の動きに精密さが欠けているからだ。

 

 ・・・

 

 ビームサーベルを二つ使用しての二刀流でZマックスに襲い掛かるNEX。いくら動きを乱そうとしても、そもそもの実力差がある為、損傷の具合は中破しているZマックスの方が大きく、NEXは中破までいかなくても、ある程度の損傷を受けていた。

 

「しぶとい……ッ!」

「違うし、今のアンタが粗末なだけだしッ!」

「粗末……? 私が……!?」

 

 普段は意識していないヨワイとここまでのバトルになるとは思っておらず、希空は仕留めきれない現状に苛立つが、ヨワイはそれさえ挑発する。

 

「──ッゥウ! 私のなにが粗末だって言うんですかッ?!」

「今のアンタのあり方そのものに決まってんでしょうがぁあっ!!!」

 

 怒りで目を見開きながら、怒号の如く叫びながらNEXはビームサーベルを大きく振るう。粗末と言う言葉はそのまま彼女の中の劣等感を大きく刺激したのだ。

 普段の彼女からは考えられないほどに声を荒げる希空に対して、ヨワイは臆することなく真正面からNEXの一撃を受け止めながら負けじと言い返す。

 

「ガンダムブレイカーだか覚醒だか知らないけど、そんなものに囚われてバッカじゃないの!?」

「アナタになにが分かるんですかッ!?」

「拗らせた奴の考えなんか分かるかっつーのッッ!!」

 

 まるで子供の喧嘩のように声を張り上げるヨワイと希空。ビームサーベルを振るうお互いの攻撃の中にも、そのうち手足を交えて攻撃が出される。

 

「アンタにとってガンプラってなんなの!? バトルってなんなの!? アンタにとってただ認められるための手段なの!? 楽しかったから始めたことじゃないの!? いつからアンタは苦しそうな顔するようになったのよッ!!」

 

 互いの損傷が激しくなっていくなか、ヨワイは懸命に叫ぶ。その声は熱が籠もれば籠もるほど震えていた。

 

「一々、覚醒とかがなければアンタは楽しむことすら出来ないの!? そんなの悲しいと思わない!?」

「私はただ……パパ達の娘であることを誇りに思いたいだけで……ッ……あの二人の娘が出来損ないなんかじゃないって認めさせたいだけで……ッ!」

「アンタが出来損ないなら、アンタに勝てないアタシはミジンコだって言いたいわけッ!!?」

 

 やがて激しいぶつかりあいもZマックスが僅かに押していく。それはひとえにNEXを操る希空の心が激しく揺れ動いているからに他ならなかった。そんな彼女からの言葉にヨワイは青筋を浮かべる。

 

「そ、そんなことはありませんが……」

「アンタ、バトルの前にアタシに勝てると思ってんのかと言ってたじゃないのよぉーッ! アンタに勝負事の度に名前弄りされてきたアタシの気持ちが分かるかぁッ!! ヨワイが人の名前で何で悪いんだ! アタシは弱くないよッ!!」

 

 ヨワイのあまりの剣幕に先程の険のある表情から徐々にたじたじになる希空だが何やら怒りが変な方向に飛んでいったヨワイは更に攻勢を強める。

 

「兎に角! アンタはいい加減、何でガンプラを始めたのかを! バトルをした時に感じた純粋な気持ちをッ! 思い出しなさいよッ!」

「それは……」

「楽しかった、じゃないのッ!!?」

 

 ヨワイの言葉に考えるように視線を伏せる希空。そんな彼女はヨワイの言葉に何かに気づいたようにハッとする。

 

 かつてチーム・ダイナミックとのバトルの前にヨワイは相手に集中しろと口にしていた。それは相手への礼節だけではなく、そうする事で何かに囚われることなく純粋にバトルを楽しめという意味が込められていたのだろう。

 

「アンタはね、熱心になるくらい楽しんでる時が一番、輝いて見えるくらい強いのよッ! そんなアンタを知ってるからこそ、こちとら追いつこうとしてんのよッ!!」

「……」

「でも、今のアンタの強さなんて突けば、崩れるくらい脆いッ! アンタが両親の娘だって誇りたいなら、強くなろうとする前にガンプラバトルを楽しむことから始めなさいよッ!!」

 

 ヨワイの無我夢中に出てくる言葉をそのまま吐き出す。それは紛れもなく彼女の本心なのだろう。だからこそ希空は黙って聞いていた。

 

「ぜぇっ……ぜぇっ……」

「……何だか照れますね」

「ぬああああぁぁぅぅうっっ!! こんなことまで言わせてぇっ!!」

 

 激しく捲し立てたため、呼吸を乱すなか、ヨワイの偽りのない本心を聞いた希空の呟きに沸騰したように顔を真っ赤にしたヨワイは照れを隠すように両手で頭を揉みくちゃにしていた。

 

「良い!? 楽しむことも忘れたアンタのままなら、アタシはいつまで経っても負けは認めないからッ!!」

「でも、さっき私に勝てないって認めていませんでしたか……?」

「勝ててないけど、負けてもいませぇぇーんっっ!!」

 

 普段から憎まれ口を叩く分、偽りなく素直に話した分、気恥ずかしさから薄らと涙さえ浮かべるなか、ヨワイは改めて以前のバトルの後に口にした言葉をこの場で口にする。

 

「そうですか……。でも、はい」

 

 そんなヨワイに希空は薄らと穏やかな笑みを浮かべると……。

 

「少しは軽くなった気、します」

 

 その瞬間、先程までの動きと打って変わり洗練された動きを持って、一瞬のうちに二本のビームサーベルを駆使してZマックスを達磨に変え、勝利をするのであった。

 

 ・・・

 

「……まぁクールダウンしたのならこうなるな」

「ええ、特にヨワイは挑発する側なのに最後には心を乱していましたからね。いやはや、若さですねぇ」

 

 希空が険のある表情から微笑を浮かべた瞬間、一瞬で片がついたバトルに奏は頬を引き攣らせていると、ラグナも和やかな表情を浮かべながらヨワイの敗因を口にしていた。

 

(見守るだけではない。突き放すくらいの態度も相手を想ってが故の優しさですね)

 

 シミュレーターから出てきて、先程のやり取りもあってか、頭を抱えて蹲っているヨワイ。そんな彼女に希空が声をかけるが、ヨワイは照れ隠しに叫んでいる。そんな姿を見て、ラグナも笑みを浮かべるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この思いは強く

 ヨワイとのバトルも終わり、学生寮に戻ってきた希空は椅子に深々と腰掛けており、そんな彼女のためにロボ助が彼女の好みに合わせたカフェオレを作って、近くのテーブルに置く。

 

 《少し憑き物が落ちたように感じますね》

「……うん、確かにヨワイさんの言葉は分かるからね」

 

 ここ最近、負の感情ばかりでいつも辛そうな顔ばかりをしていた希空だが、バトルの中でのヨワイとのやり取りは彼女にとって良い教えとなったのだろう。穏やかな笑みを浮かべる彼女にロボ助も安堵した様子を見せると希空も頷く。

 

【これって言う答えはないと思うけど、でも希空が希空でいる限り、いつかは手に入る時は来るよ】

「……ママの言葉も何となくだけど、今なら分かる気がする」

 

 かつて言われた母からの言葉。しかし当時はその言葉の意味が分からなかったがヨワイの言葉を受けた今では何となくだが分かるつもりだ。

 

「……私、ガンプラを始めたのは、単純にパパとママが楽しそうだったからなんだ」

 《あの二人はガンプラに対しての想いは真っ直ぐですからね》

「うん、それで私もガンプラを始めた。懐かしいな……。最初はSDから作ったんだっけ。その後、パパ達とバトルも始めて、奏や舞歌達とも知り合って、上手くなろうとして……」

 

 ガンプラを初めて作ろうと思ったきっかけ。やはりその大きな要因となったのは彼女の両親の存在が強かったからだ。その時の思い出を振り返って、希空は微笑を浮かべて懐かしむ。

 

「あははっ……。いつから、こんな風になっちゃったのかな……」

 

 自嘲するような悲しく笑いながら目頭を抑える希空の肩は震えていた。最初は純粋にガンプラに関わる全てが楽しかった。だが今はどうだろう。いつからか劣等感が生まれ、純粋に楽しむことが出来なくなってしまった。

 

 《だが、何も全てが悪いことではないはずだ》

「ロボ助……」

 《君は躓いた状態から、立ち上がろうとしているんだ。きっと今なら君が見る景色は違ってくるだろう。完全に起き上がった時には躓いた痛みも平気だと笑える時が来る》

 

 そんな希空にハンカチが差し出される。ロボ助からのハンカチを受け取りながら希空は彼を見ると希空が受け取った手を包むように手を取りながらロボ助は希空の瞳をまっすぐ見つめながら答える。

 

 《そうだ、希空。今日は私と共にガンプラを作らないか?》

「ガンプラ……?」

 

 希空がいまだ震えるなか、ふとロボ助は妙案だとばかりに彼女に提案する。とはいえ突然の提案に希空は首を傾げていた。

 

 《ああ。ただ純粋にガンプラを組むんだ》

 

 するとロボ助は以前、GB博物館で購入した限定品のガンプラを指差す。GB博物館からコロニーに帰って来て以降、新学期が始まったりと中々、組む時間がなかったのだ。

 

「……うんっ」

 

 ロボ助の提案に驚いている希空だがやがて微笑を浮かべながら頷くと、ロボ助と近くの工作に使用しているテーブルを挟んで座り、ガンプラを作り始める。

 

「ロボ助は組むの本当に上手いね」

 《ええ、これでも私はご両親の手が空いていない時は、君にせがまれて教えていたからね。人並みには出来るさ》

「ふふっ、ちゃんと覚えてるよ」

 

 黙々とガンプラ作りに時間が流れていくなか、ふと希空は目の前でBB戦士の限定版プラモを作っているロボ助の手際の良さを褒めるとロボ助はかつての幼い頃の希空を振り返りながら答える。だがそれは希空も同じなのだろう。懐かしむように笑いながら答えていた。

 

「こうして振り返ってみると、ロボ助は何だか私のお兄ちゃんみたいだね」

 

 希空はそれこそ生まれた時からロボ助と共にいた。この世界で誰かと一緒にいる時間はそれこそ親よりも多いかもしれない。その間にもロボ助はいつだって親身に寄り添ってくれた。

 

「どうしたの?」

 

 するとロボ助は希空の言葉を聞いて動きを止めたのだ。それに気づいた希空はロボ助に尋ねる。

 

 《あぁいや、そうだな……。言い得て妙ではあるが、その表現はしっくり来る。そうか……。そうだな、君は手がかかる。妹として考えれば頷けるな》

「もう……。そういう事を言うお兄ちゃんは嫌いだよ」

 《ははっ、許してくれ》

 

 すると我に返ったロボ助はゆっくりと頷くと冗談交じりに話せばどこか希空は拗ねたような口調でロボ助から目を逸らす。そんな可愛らしい彼女の姿にまさしく幼い妹のようだな、と思いながら機嫌を取る。

 

(家族か……)

 

 だが、やがて二人で笑い合う。再び雑談を交えつつ、ガンプラ作りに戻りながらロボ助は改めて希空を見やる。

 

『生憎、私と希空はともだちなどではありません』

『おっと……そいつはどういう意味だ?』

『希空は私の存在理由……。私の全てです。トイボットはそれこそ世代を超えて遊ぶことは可能ですが、もしも希空がその生を終えた時は私も機能を停止したい……そう思える存在です』

 

 かつて自らの創造主とも言える存在との会話を思い出す。あの時、彼からのともだち、と言う言葉を否定したが、希空との関係が分からなかった。だが今なら希空との関係をハッキリと言える気がする。

 

(私には身に余るくらいだな)

 

 これまでの日々を振り返れば、いつだって希空と共にいた時間が思い起こさせる。それがどんな時間であれどれも幸福に満ち溢れた時間であった、と胸を張って言える。

 

(だからこそ……)

 

 改めて希空を見やる。希空こそ自分の存在理由であり、彼女こそ自分の幸福であり、世界だ。彼女のいない世界には何の価値もない。

 

「出来た……っ」

 

 程なくして希空はガンプラを完成させる。簡単な処理のみではあるが気分転換どころか大いに楽しむことが出来たのだろう。今までガンプラと向き合ってきた時の厳しい表情ではなく年頃の少女のようなあどけない笑みだ。

 

「ありがとう、ロボ助……。やっぱり……ガンプラ作りって楽しいね」

 《そうだな。そんな君を見れて、私も嬉しい》

「……ロボ助が人間じゃなくて良かったよ」

 

 完成したプラモを見つめながら、希空は改めて提案してくれたロボ助に感謝の言葉と共に嬉しそうに微笑むと、そんな希空を見てロボ助は偽りのない言葉を発するも希空の笑みは少々困ったような笑みに変わってしまった。

 

「でも、うん……。こんな気持ちでプラモを作ったの、本当に久しぶりだな」

 

 今回、ガンプラを作って、改めて幼い頃に感じていた純粋なプラモを作る時の楽しかった気持ちを思い出したのだろう。完成したばかりのプラモを手に取りながら、希空はしみじみ呟いていた。

 

「……私、明日からもう一度、チームとして頑張ってみようと思う。……だから、ロボ助。改めてよろしくね」

 《ああ。共に栄光を掴み笑い合おう》

 

 これまでの大きな出来事の数々に考えを少しずつ変えるきっかけがあったのだろう。

 改めて自分自身を見つめながら、ロボ助に手を伸ばす希空にロボ助もその手を掴んで答える。

 

(だからこそ私も君の為なら例え世界を敵に回そうとも、どんなことだって出来るさ)

 

 穏やかで柔らかい笑みを浮かべる希空を見つめながら、ロボ助は彼女への強い思いを募らせる。今日を皮切りに、再出発を誓った希空。やがて宇宙コロニー・パライソとの代表戦が……いや、ここから全てが始まるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始動

 ついに宇宙エレベーター・パライソとの代表戦の日が訪れた。

 バトルが行われるのはアスガルドの特設施設であり、コロニー同士の代表戦と言うこともあってか多くのガンプラファンが押しかけ、メディアからの注目も高かった。

 

 《ハイハーイ、会場のミサナーン! バーニングってマスカー!?》

 

 その会場の至るところに設置されている液晶モニターにはシャルルが映し出されていた。コロニーカップを担当するだけあって、会場にいる観客達に溌剌と呼びかけていた。

 

 ・・・

 

 《現地に来れなくてもだいじょーぶデース! バトルを行われているVR空間で直接、見れますからネー》

「楽しみですねー」

 

 会場に繋がるVR空間では、希空と連絡を取っていた舞歌が友人達と共にこれから行われる代表戦を間近で見ようと期待に胸を躍らせていた。VR空間と言うこともあり、その服装は【機動戦士ガンダム00】に登場するアニュー・リターナーの服装を身に纏ったアバターだった。

 

 《現地に来なくともVRで臨場感を味わえる……。やー、便利な時代になったものデス。今はガンプラ作りにも接着剤はいりませんからネー》

「それはかなり前からだろ」

「まあまあ」

 

 VR空間の観客席に表示される立体映像に映るシャルルのボケに舞歌と共に来た秋城涼一のツッコミを入れると、その近くにいた村雨愛梨が宥める。彼らも苗字で分かるとおり、それぞれ秋城涼一・コト夫妻、村雨莫耶・アメリア夫妻の実子である。

 

「彼女達とはGB博物館以来だけど、ちゃんとバトルを見るのは初めてだなー」

「そうか。だが期待に背くようなバトルにはならないだろうさ」

「ええ、だからこそ楽しみね」

 

 またかつてGB博物館で希空と面識のあり、亜麻色の髪色が特徴的で前髪に子犬のヘアピンをつけたショートボブの少女の蒼月明里は今か今かと代表戦を待ちわびていると、落ち着いた雰囲気を持ち、希空達とは幼い頃からの付き合いがある神山貴文と御剣サヤナもこれから始まるバトルに期待感を募らせている。因みに貴文の母は荒峰文華、御剣サヤナの両親は御剣ジン・サヤ夫妻だ。

 

 ・・・

 

「さぁーてっと……。楽しませてね、おねーちゃんっ?」

 

 また会場にはルティナの姿もあった。現在、コロニーカップでシャルルは生でパフォーマンスを行っているため、彼女もこの場についてきたのだ。その目的はやはり奏にあった。

 

 ・・・

 

 《では、参りまショウ! コロニーカップ代表戦! アスガルドVSパライソ!!》

「いよいよだな……。緊張する……」

 

 遂に代表戦の時を迎えていた。シャルルの声が響くなか、これまで経験したことのない規模の大会と言うこともあり、奏は緊張した面持ちを見せる。

 

「きっとそれもバトルが始まれば、なくなります。あそこにいるのはパライソで最も強いチームですから」

 

 そんな奏の隣に立ちながら、希空は奏を激励するように声をかけた。彼女自身も緊張 はしている。だがそれ以上のバトルへの高揚感で満ち溢れているのだ。

 

「希空、良い顔をするようになりましたね」

「そう、ですか……? 自分では何とも……」

「ええ。これまであった負を感じられない。今、ここにいる貴女は紛れもなく一人のガンプラファイターだ。ヨワイとのバトルの後から、一皮剥けたように感じます」

 

 希空のそんな姿を見て、ふとラグナが穏やかな笑みを浮かべる。ここ最近、ラグナには厳しい言葉ばかりかけられていたと言うこともあり、どこか驚き、戸惑った様子の希空にラグナは純粋に彼女を認めた発言をした。

 

「……そうですね。今の私は違いますから」

 

 奏も同意するように笑いかけると、照れ臭そうに視線を彷徨わせた希空はやがて顔を上げると、先陣を切って、パライソとのバトルに臨むのであった。

 

 ・・・

 

「あっ……」

 

 会場には既にパライソの代表メンバーが待ち構えていた。三人構成のチームであり、その中心にいる銀髪の少女が希空達を見つけて反応する。

 

「久しいな、クレア。パライソの代表であることは知っていたが、手加減は期待するな」

「……そんなものは必要ありませんっ」

 

 そんな銀髪の少女に奏が懐かしむように笑みを浮かべながら声をかける。銀髪の少女の名は神無月クレア。神無月正泰・シアル夫妻の娘だ。奏の言葉に気弱な性格のクレアだが真っ向から突っぱねたのだ。そんな彼女に満足げに頷いた奏と希空達はガンプラバトルシミュレーターVRに乗り込むとVR空間を介して出撃するのであった。

 

 ・・・

 

 バトルのステージに選ばれたのは、コロニーカップと言うこともあり、宇宙コロニーを舞台にしたものだ。コロニーの町並みを早速、ニュージェネレーションブレイカーズを駆ける。

 

「パライソは他のチームよりも個々の実力が抜きん出ているようですね」

「なに、その手の相手はいくらでもやりあってきた」

 

 騎士ユニコーンを乗せたストライダー形態のNEXを操縦しながら希空はクレア達のチームについての上方を口にすると、奏は望むところだとばかりの笑みを浮かべていた。

 

「……先行します」

 

 程なくしてパライソの反応をセンサーが感知する。パライソはクレアのAGE-3をベースにしたようなNEXTAGEをリーダー機に、アンクシャとセイバーガンダムで構成されたチームであった。機動力のあるチームを前に希空はNEXを加速させる。

 

 《時空を超え、その力を示せッ!》

 

 だがそれは決して独断行動ではない。NEXの上でビーストモードに姿を変えた騎士ユニコーンはアカシックバインダーと二枚のカードデバイスを使用する。

 

 《コールッ!!》

 

 すると愛馬である緒羅四恩と合体した武者精太と空戦型モビルディフェンダーであるガンイーグルを召還して奇を衒う。

 召還したSDは実際に使用するプラモに比べれば、総合的に劣るが、それでも数による有利さはある。とはいえ相手も宇宙コロニーの代表。最初こそ召還されたSD達に反応したが、瞬時に切り替えて戦闘を開始する。

 

「だったらッ!!」

 

 NEXTAGEも召還したSDを率いる騎士ユニコーンを二人のチームメイトに任せて、NEXにバックパックに装備されているファンネルを放つ。NEXを狙って、複雑な動きを持って襲い掛かるNEXTAGEとファンネルの数々。しかしNEXはあえて相手にすることはせず、その機動力を大いに活用しながら逆にNEXTAGEを翻弄するように動き回る。

 

 だがファンネルの数々も突然、降り注いだGNマイクロミサイルによって半数が破壊され、同時にMS形態へ変形したNEXによって破壊される。

 

「やっぱり厄介ッ!」

 

 マイクロミサイルはクロスオーブレイカーによるものだ。ゲームだと人が変わるタイプなのか、クレアは上空のクロスオーブレイカーを鋭く見やると、標的をクロスオーブレイカーに変えようとするが、クロスオーブレイカーはトランザムを発現させた。

 

「なっ……!?」

 

 NEXTAGEも負けじとトランザムを発現させ、迫るクロスオーブレイカーにソードメイスを構えて突進する。しかしここから近接戦が始まるのかと思いきや、クロスオーブレイカーは眼前で量子化したではないか。振るったソードメイスが虚しく空を切る中、背後から隙を見たNEXによってハイパードッズライフルを受けてしまう。

 

 量子化したクロスオーブレイカーはそのまま既に召還した武者精太達を失っていた騎士ユニコーンと戦闘を続けるアンクシャの背後に現れると、そのままGNソードⅢを展開して、すれ違いざまに両断して見せたのだ。

 

 突然のクロスオーブレイカーの襲撃もあって驚くセイバーに対して、奏は瞬時に一本のレーザー対艦刀を投擲すると、そのビーム刃の部分にライフルモードのGNソードⅢの引き金を引いて、ビームを目眩ましのように使用する。その一瞬の隙が鈍った瞬間、騎士ユニコーンがマグナムソードによる痛烈な一撃を浴びせ、そのまま流れるように致命打を浴びせて、撃破する。

 

「奏は相変わらず頼もしいです」

 

 奏は切り札と言える存在。故に希空達は相手を翻弄させ、彼女に隙を突いて奇襲させる作戦に出たのだ。

 奏の奇襲とロボ助の連携によって、瞬く間に二機を撃破したのを確認しながら希空は呟く。だがそれはかつての劣等感に苛まれていたものではない、純粋に彼女の実力を認めての発言であった。

 

「ですが、私も負けません」

「こっちの台詞ッ!」

 

 すぐさま切り替えるようにNEXTAGEに注意を向ける希空。現在、NEXTAGEとの近接戦において、ビームサーベルの二刀流で対抗している状況だ。気を抜ける相手ではなく、だからこその楽しみもある。

 

 NEXとNEXTAGEによるぶつかり合いが行われる。刃を交えつつ、決してNEXを逃さないとばかりに腕部ガトリングガンが放たれるが、NEXはシールドでガードすると、そのままシールドを投擲する。

 

 間髪いれずにNEXTAGEはコンパットナイフを投擲して、シールドを弾くなか、空いた左腕にGNビームマシンガンを乱射していく。シールドを失ったNEXが二本のビームサーベルで何とか対処するなか、ビームがNEXTAGEを襲う。クロスオーブレイカー達の援護によるものだ。

 

 そのままクロスオーブレイカーはNEXTAGEに向かって突進していく。再び量子化するのか?そう思ったが、今度はちゃんと刃を交えることが出来た。クレアもオールラウンダーのタイプではあるが、近接よりなのかクロスオーブレイカーの勢いに押されることなく、対抗しようとしている。

 

「……おっと」

「もらった!」

 

 刃を重ねていくうちにクロスオーブレイカーのGNソードⅢの刃を切り払ったNEXTAGE。クロスオーブレイカーの機体がよろめくなか、NEXTAGEがソードメイスをコックピット狙って突き放とうとするが、その瞬間、目の前でクロスオーブレイカーが量子となって消え去る。

 

「──ええ、もらいました」

 

 量子化したクロスオーブレイカーの背後にはハイパードッズライフルの銃口を向けるNEXがいたのだ。クレアが目を見開くなか、引き金を引き、NEXTAGEを貫き、撃破するのであった。

 

 ・・・

 

 《Congratulations! コロニーカップ優勝はニュージェネレーションブレイカーズ!!》

 

 NEXがNEXTAGEを撃破した瞬間、シャルルによって改めて勝者が告げられ、観客達は大歓声が巻き起こる。

 

 《これでニュージェネレーションブレイカーズはグランドカップに進出デスネ! 早速、意気込みと共に勝利者インタビューを──》

 

 そしてこの勝利はグランドカップへの進出を意味する。歓声が鳴り止まぬなか、シャルルは早速、ニュージェネレーションブレイカーズの元へ向かおうとするのだが…………。

 

 《──えっ……?》

 

 その瞬間、シャルルのいるVR空間の上方が格子状のラインが引かれた瞬間、崩壊したのだ。

 

 ・・・

 

「──あれは!!」

 

 誰もが驚くなか、一番に強い反応を示したのはラグナであった。彼には覚えがある。あれはこじ開けた経路からウイルスを侵入させたりするかつてのウイルス事件で見られたやり方だ。

 

「……ッ!!」

 

 そして次の瞬間、悲鳴を上げることさえ叶わず、シャルルがウイルスが発生させた触手に身を絡められて陰に呑まれてしまったのだ。

 

 ・・・

 

「早くログアウトを……ッ!」

 

 VR空間で異変に気づいた奏はすぐに指示を出そうとする。今の奏達にはワクチンプログラム等の対抗手段がなかったのだ。

 

「《希空ッ!》」

 

 だがウイルスの行動はあまりにも迅速であった。

 ウイルスは瞬時に希空に目標を定める。それに気付いた奏とロボ助が希空に向かいながら彼女を呼びかけるが、無情にも奏達の目の前で希空はシャルル同様に触手に捕らえられ、影に飲まれてしまうのであった。




<いただいたキャラ&ガンプラ>

クラストロさんよりいただきました。


キャラ 神無月 クレア
年齢 15歳
性別 女
アバター スメラギさんの服装
設定
正泰とシアルの娘で長女、外見はFAGのアニメに登場した、アーキテクト人間ver です。
母と変わらず巨乳、そして父の心配性な性格が昇華され気弱な性格になった。
しかしシュミレーターの中では、活発な性格になる、ハンドルを握ると性格が変わるタイプです。バトルはかなり巧く、遠近両方行ける近接よりのオールランウダーです。

ちなみに、20歳となる兄がいるが海外にいるので出番は無い。

一人称 基本は私、性格が変わるとあたし
二人称 男性や年上の女性には~さん それ以外は~ちゃん、性格が変わると呼び捨てか、あんたになります。

口調 基本は丁寧語、性格が変わるとタメ口

ガンプラ名 NEXTAGE(ネクストエイジ)

WEAPON GNビームサブマシンガン
WEAPON ソードメイス
HEAD ガンダムAGE-3ノーマル
BODY ガンダムキュリオス
ARMS パワードジムカーディガン
LEGS ガンダムAGE-3ノーマル
BACKPACK サザビー
SHIELD ブルーディスティニー1号機
拡張装備 背面 太陽炉
        GNフィールド発生装置
     頭部 V字型ブレードアンテナ
        バルカンポッド
      腰 コンバットナイフ
 

コンセプトは使いやすいガンプラです。
武装なども少なめになっている代わりに基本性能が高く作られている、オールランウダーな機体。
特に特別な機能は無くファイターの純粋な能力が問われる機体です。作成のイメージは主役ガンダムっぽい機体です。
機体色は白と紫、そしてアンテナ類が黄色です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歯車は少しずつ…

「おい、希空は!? 希空はどうなってるっ!!?」

 

 突然のウイルスの襲撃によって大混乱に陥る特設会場。どこもかしこも不安に駆られたざわめきが起きるなか、現実世界に戻り、焦燥感に支配された奏は運営スタッフに詰め寄る。

 

「落ち着きなさい、奏ッ!」

「落ち着けると思っているのか!? 希空が目の前でいなくなったんだぞッ!」

 

 あまりの奏の剣幕にたじろぐスタッフ。それを見かねたラグナが奏を宥めようとするのだが目の前で希空がウイルスに飲まれるのを見た奏が冷静でいられる筈もなく、ラグナに怒鳴り返していた。

 

「それは分かっていますとも……ッ!!」

 

 ラグナとて平静を何とか装っているだけで決して冷静でいられるわけではなかった。現に下唇を強く噛んでおり、今にも切れて血が出そうなくらいだ。その姿を見て、奏も我に返ったように少しは落ち着きを取り戻していた。

 

『用心はしろ』

 

 かつて一矢からの忠告を思い出す。とはいえまさか公の場であるコロニーカップで仕掛けてくるとは思いもしなかった。侮っていた自分を恥じながら、ラグナはワクチンプログラムがインストールされたVRGPを持って、ガンプラバトルシミュレーターVRに向かう。

 

「──ちょっと退いてよっ!!」

 

 そんな矢先にふと後方で何やら騒ぎが聞こえてくる。何やら揉めているようで、そこには運営側に向かおうとしてスタッフも止められているルティナの姿があった。

 傍から見ても、余裕がないようで今すぐにでもスタッフを実力行使でなぎ倒してでも、進もうとする勢いだ。

 

「お前は……?」

「……おねーちゃん」

 

 このままでは本当にこれ以上の惨事になってしまう。一触即発のピリピリとした空気が流れるなか、その前にルティナに気付いた奏は彼女に声をかけると、ルティナも気付いたようだ。

 

「どうしてお前がここに……」

 

 とはいえ、まさかルティナとこの場で出会うとは思っていなかったのだろう。少なからず驚いていると……。

 

「──はぁっ……はぁっ……」

「歌音っ!」

 

 何やら激しい息遣いが聞こえてくる。その場にいる者達が視線を向ければ、そこには苦しそうに蹲っている歌音の姿があった。堪らずルティナが歌音に駆け寄る。

 

「大丈夫!? なにがあったの!?」

「分からない……。でも……これ……」

 

 そもそも何故、この場に歌音がいるのかを知らない奏やラグナ達が驚くなか、シャルルが影に飲まれたこともあり、心配しつつなにがあったのか問いかけるも歌音は首を横に振りつつ、自身のVRGPをルティナに見せる。

 

「シャルルが……ッ!?」

「……あのウイルス、真っ先にシャルルを狙ってた。気付いたら私は現実世界に戻ってたけど、ここ最近のアバター乗っ取りもあるし、狙いはシャルル……?」

 

 歌音に見せられるまま、VRGPが表示したフォロスクリーンを覗き込めば、本来、アバター情報が記された項目からシャルルのアバターがいなくなっているのだ。その事に驚いているルティナに歌音は推測をする。

 

「それよりも希空を……ッ!!」

「駄目です、ウイルスのせいでシミュレーターにロックがッ!!」

 

 遠巻きから歌音とルティナの会話は聞こえないが、ひとまず歌音自身は大事には至っていないようだ。奏はすぐにシャルルと同じく影に飲み込まれた希空を助け出そうとするのだが、既に感染した希空のシミュレーターを開けようとしたスタッフから悲痛な答えが返ってくる。

 

 幸か不幸か、ウイルスは無理やり経路をこじ開けて 侵入してきたが、それ以上の増援などはないようだ。既にウイルス駆除を行っているラグナのブレイカーブローディアの活躍もあり、程なくしてウイルスの駆除が完了する。

 

 ・・・

 

「希空!!」

 

 ウイルスの駆除が確認された後、奏とロボ助は希空の使用していたシミュレーターを開くと、暗がりの中、シートに沈み込んでいる希空を見つける。

 

「どうした、希空! 希空ぁっ!!」

 

 すぐに奏が希空の身体を激しく揺さぶって彼女を起こそうとするのだが、一向に彼女からの反応はない。まるで魂が抜けた抜け殻のように希空は目を覚ますことはなく、奏の悲痛な叫びが響くのであった。

 

 ・・・

 

 その後、病院に搬送された希空と歌音。歌音は特にさしたる症状はなかったが、問題は希空だ。結局、病院に搬送された後も希空が目を覚ますことはなかった。

 

「……医師の話では、当時の状況も顧みて、ここ最近のウイルス事件に見られる昏睡等の症状と見て間違いはないそうです」

「では、希空は……っ!」

「……ええ、恐らくはVR空間に囚われたままでしょうね」

 

 VRGPを装着したままベッドの上で目を覚ますことのない希空を見やりながら、医師とのやり取りを終えたラグナが希空の病室で待っていた奏に聞かされた話をそのまま伝えると、彼女は今にも崩れ落ちそうなほど動揺していた。

 

「……しかし、まさかアナタがあのシャルル嬢だったとは」

「……久しぶり。けど……これじゃあ再会を喜べないわね」

 

 潰れてしまいそうなほど重苦しい空気が流れるなか、ラグナは同じく病院に搬送された歌音を見やる。診察を終えた歌音はルティナに寄り添われる形でロビーソファーに腰掛けており、久方ぶりの再会ではあるが、状況も状況な為、弱弱しい笑みを浮かべていた。

 ラグナはシャルルとの面識はある、が、そのシャルルの正体が歌音であることまで知らなかった。歌音がシャルルであることを知るのは、ルティナを含めたほんの一握りであり、奏もラグナも今日まで欠片も思わなかったのだ。

 

「……不覚です。私がいながら、このような……ッ」

 

 希空の姿を見つめながら、ラグナは今にも壁を殴りそうなほど拳を強く握っている。

 一矢に任せてくれとまで言ったのに、巻き込まないと強く誓っていたのに、こうなってしまったのだ。その心中は自身の不甲斐なさへの怒りや悔いで渦巻いていた。

 

「……警察の方へ行ってみます。今は情報が欲しい……。希空を救うためにも」

「ラグナ……」

「それに……一矢さん達へ連絡をしなくてはいけませんから」

 

 とはいえ、いつまでもこの場で自己嫌悪をしているわけにはいかない。ラグナはこの場を奏に任せながら席を外そうとする。情報が兎に角、欲しかった。これ以上、このようなことをする者に好き勝手やらせない為にも。有無を言わさずこの場を去っていくラグナの後姿を奏は見送ることしか出来なかった。

 

 ・・・

 

 時間が流れ、夜が更けた頃、希空の病室では、ロボ助が希空の傍にずっと寄り添っていた。奏達もいるのだが、やはり生き物である為、体力的な問題でロビーソファーで眠っている。

 

 どれだけ時間が経っても、希空が目を覚ますことはない。そんな彼女の手の上から小さなロボ助のマニピュレーターが重ねていた。

 

 この場には喋る為に接続出来るスピーカーがない。いくら希空に呼びかけたくとも、声すらかけられないもどかしさが機械の身だと言うのに見て取れた。そんなロボ助に内臓されるVRGPの役割を持つ機器にメールが届く。

 

 ──雨宮希空

 

 相手は紛れもなく希空のアバターによるものだったのだ。ロボ助はその送り主の名を見て、バッと立ち上がる。メールの内容を確認すれば、VR空間へのリンク先が記されただけで、他には一切の情報がなかった。

 

 一体、どういうことなのか。それを知るには、あまりに情報が少なすぎる。希空の症状は昏睡状態に陥り、VR空間に囚われているという。もしかしたら、これは希空からのSOSなのか。彼女はこれだけしか遅れないほどの状況に追い込まれているのか?

 

 ──いや、迷う必要なんてあるのだろうか。

 

 こうして希空のアバターから連絡が来たのだ。少なくとも希空に関わるのだ。であればなにがあろうとも、自分は向かうべきである。ロボ助は人知れずVR空間にダイブするのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

究極のゲーム

「んっ……くぅっ……」

 

 窓から差し込む朝日に煩わしそうな声を上げながら奏は目を覚ます。周囲を見れば、もたれ合うように眠っているルティナと歌音の姿が見えた。

 

「……やはり……夢ではないか」

 

 病室に向かえば、希空はいまだ目を覚ます気配もなく眠り続けていた。そんな希空の姿を見ているだけで胸が締め付けられるような想いだ。

 

「希空……」

 

 情報収集に向かったラグナに何か進展はあったのだろうか。希空がこのような状況になっていると言うのに、自分は何も出来ない。それがとても歯痒かったのだ。

 

「ロボ助……。その、私も何と言って良いかは……。だが、希空は絶対に助け出そう」

 

 奏は視線を動かして、希空の手の上に己のマニピュレーターを重ねているロボ助に声をかける。ロボ助は恐らく一晩中、ずっとこうして希空に寄り添っていたのだろう。

 

「ロボ助……?」

 

 だがロボ助は奏の言葉に何か躊躇いや迷いがあるかのようにそのカメラアイを彷徨わせていたのだ。普段のロボ助からはまず考えられない出来事だ。ロボ助は例え喋られる状況でなくても、話しかけられれば必ず相手の目を見ているのだ。

 

 だからこそロボ助のこのような姿を初めて見たのだ。疑問に感じてしまうのも仕方あるまい。昨日までのロボ助の態度が普段と変わらなかったのだから尚更。

 

 しかしいくら声をかけようとも、ロボ助は何か答えるような真似はしない。ただその様子を見る限り、何か迷っているのだけは見て取れた。これ以上は時間をただ浪費するだけだろう。奏は病室から出ると、気分転換のため、病院の外にまで出る。

 

 ・・・

 

 カップ式自販機で購入した飲み物を手にベンチに腰掛けている奏。気分転換に出たは良いが、その表情はとても暗かった。携帯端末を取り出しても、ラグナからの連絡はまだない。何の光明も見えない状況では気分転換も何もなかった。

 

「……?」

 

 そんな奏のVRGPに反応があった。VRGPを装着して、フォロスクリーンを表示させる。何やらメッセージが届いているようだ。VRGPを鑑賞モードに切り替えて、中身を確認する。

 

 《HEY! おはこんばんちは、シャルルデース!!》

「なっ……!?」

 《突然ですが、シャルルの部屋出張版の始まりデスヨー!!》

 

 するとメッセージを開き、鑑賞モードにした自分の目の前に希空同様に囚われたシャルルが現れたのだ。しかしそれはおかしなことだ。何故なら歌音は今現在もこの病院のロビーで眠っている筈なのだから。

 

 ・・・

 

 《いやぁ、皆さんご心配をおかけシマシター。でもでも、この通り、シャルルは元気100%デース!》

「どういうことなの……!?」

 《そのお詫びに今日はシャルルから大事なお知らせデース!》

 

 それを表す様に目を覚ました直後にロビーでもシャルルからのメッセージを確認した歌音とルティナは戸惑っていた。しかしただ一名、ロボ助だけは動揺する素振りは見せず、寧ろ始まったか……とばかりの俯いていた。

 

 ・・・

 

 《シャルルがゲームキャラの一人を務める新感覚のゲーム! ガンダムブレイカーズの開催を発表しマース!》

「な……に……!?」

 

 突如としてシャルルの口から発せられたゲーム。そのタイトルは勿論、奏は突然のことに驚いてしまっている。

 

 ・・・

 

 《ガンダムブレイカーズは創壊共闘ゲームっ! バトルフィールドとなるVR空間に登場するエネミーを倒し、その最奥に待つラスボスを攻略してクダサイっ!!》

「これは……」

 《このガンダムブレイカーズの招待メールが送られたファイターの皆さんは参加する資格がありマース。勿論、参加するのもしないのも君次第!》

 

 シャルルからのメッセージが入ったメールが届いたのは、奏達だけではなかった。地上にいる舞歌達ガンプラファイターにも送られていたのだ。

 

 《ですがですがー! なんとフィールド上に登場するボスキャラを一体、倒すと現在、昏睡状態に陥っている患者を一人目覚めさせることが出来マスヨ! 最終的にラスボスを倒せば、全員が目を覚ませマース!!》

「なにっ……!?」

 

 シャルルから齎された情報。それは彼女が口にするゲームを攻略すれば、現在、希空を含めた昏睡状態の人間達を目覚めさせると言うものだったのだ。その内容に奏達は驚くしかない。

 

 《モチのロンロン、信じられないのは分かりマスヨ。でもそーんな疑り深い人の為にこの場で何人か目覚めさしちゃいマース! えーっと、まずは──》

 

 だが、こんな突然の、それこそ信用性もないメールを信用できる者などいるわけがない。そんな反応を見越してか、シャルルは掌の上にサブウィンドウを表示させる。そこには恐らくウイルスに感染した人間達のリストが載っているのだろう。リストをフリックしてシャルルは適当に幾つかタップし、名前を読み上げる。

 

 ・・・

 

 《これで今、選んだ人達はVR空間から現実に戻ることが出来たはずデース》

「今すぐ病院に確認しろッ!!」

 

 警察内部の大型モニターにはシャルルの映像が映し出されており、今の彼女の行動に刑事達はすぐに指示を出して、行動する。

 

 《勿論、フィールドのボスキャラはどれもこれもベリーベリーストロングデース! ですがそうでなければ張り合いもないでショウ!》

「……なにが目的なんだ」

 

 捜査本部が慌ただしくなるなか、ラグナは眉間に皺を寄せ、懐疑心を露にする。ファイター、特に昏睡した者が近くにいる者からすれば好条件ではあるのだろうが、その真意が全くと言って良いほど読み取れないのだ。

 

「──病院に確認したところ、確かに目を覚まし、体にも異常はないそうです!」

「……なにがしたいんだ?」

 

 そんな中、病院に確認をした警官からの報告が飛び込む。話によれば、確かにシャルルが選んだ人間は目を覚まし、更に何か症状の類はないようだ。

 だからこそ何か他にも裏があるのではないのかと勘ぐってしまうのは当然だ。特にそれが今までウイルス事件に関わってきた者からすれば。

 

 《最奥に待つラスボスを倒して、誰もが憧れるヒーローになってネ! ガンダムブレイカーズへの挑戦者を待っていマース!》

 

 誰もがこのメッセージに様々な想いを抱いているなか、画面に指を指し、満面の笑みを浮かべたシャルルの言葉を締めにメッセージは終了した。

 

 ・・・

 

「───……一矢」

 

 シャルルのメッセージを見ていたのは、一矢も同じであった。窓から夜の闇が差し込むなか、その傍らには彼に寄り添うよう立って、彼に心配そうに声をかける雨宮ミサの姿もあった。

 

「……きっと何も待っていないわけがない。これは昔と同じだ。ゲームと言いつつ、これには絶対に裏があり罠がある」

 

 メッセージを見てから、ずっと考えるように目を瞑っていた一矢もゆっくりと目を開きながら答える。彼はウイルスによる事件に多く関わってきた。やはりこのメッセージを見て、何も感じないわけはなかった。

 

「だが、見過ごすわけにも行かない。これが昏睡を引き起こしているウイルスに……いや、特に希空が関わっているなら尚更」

 

 だがそれで手を拱いているつもりはない。ラグナからは連絡を受けてはいる。今もなお、希空はVR空間に囚われて眠り続けているのだ。彼女を救うためならばどんな事でもしてみせる。

 

 そんな雨宮宅の自宅でインターフォンの音が鳴り響く。時間も時間と言うこともあり、こんな時間に一体、誰なのかと外に見えるパトカーを横目に一矢は来客を出迎えに行く。

 

「──久しぶり、と言うべきかな」

 

 玄関を開けた先にいたのは、一人の男性だ。年齢で言えば、自分よりも年は上であろう。小奇麗として老紳士という言葉が似合いそうな容姿だ。

 

「……お前は……ッ」

 

 一見して誰かが判断つかない一矢だったが、男性の深淵のような群青色の瞳を見て、やがてその人物が何者なのか分かったのだろう。やがて険しい表情を浮かべる。

 

「折角の再会だ。もう少し喜んだらどうかな、雨宮一矢」

 

 そこにいるのはかつて大規模なウイルス事件を引き起こした黒野リアム……いや、クロノだ。

 一矢の様子を見に来たミサが怯えるなか、警戒する一矢はクロノへ鋭い視線をぶつける。しかし、クロノはそんな視線もそよ風を受けるかのように涼しげな表情を浮かべるのであった。

 




以前、ガンブレディオで書いた人気投票企画の第一次締め切りを今月の20日にしようと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

叛逆の騎士

 シャルルによって突如、発表されたガンダムブレイカーズなるゲーム。非公式のゲームにも関わらず、発表後、VRGPに添付されたVR空間へのリンクにアクセスする者は後を絶たなかった。それは好奇心であったりと理由は様々だが、その一番大きな理由は昏睡した人間を身近に持つ者達によるアクセスが大きかった。

 

 現在、昏睡状態にある患者達は目覚める目処は立っていない。それはウイルスに感染し、VR空間に囚われた者達を治療する術がまだハッキリと分かっていなかったからである。それ故、まさに藁をも掴む思いでこのガンダムブレイカーズに挑戦する者は後を絶たなかったのである。

 

「……と言うことです。まだ始まったばかりでガンダムブレイカーズの正確な内容は分かりませんが、基本的なフォーマットはガンプラバトルによる遭遇戦と同じようです」

 

 今現在のガンダムブレイカーズに纏わる情報を病院にいる奏達は戻ってきたラグナから聞かされていた。

 

「ラグナは行くのか?」

「……そうですね。このような形である以上、私も行かざるえないでしょう」

 

 ガンプラバトルを利用したゲームであるガンダムブレイカーズ。ラグナのゲームへの参加について尋ねると、僅かに悩んだ素振りを見せたラグナはゆっくりと頷きながら答える。例えこれが罠でも、少しでも事件解決の糸口に繋がるのであれば、彼も迷わず飛び込んでいくつもりなのだ。

 

「私も……っ!!」

「駄目です、これにはなにが待っているかは分からない。希空があのようなことになった以上、君まで危険な目に遭わせることは出来ない」

 

 ガンダムブレイカーズへの参加を名乗り出ようとする奏だが、ラグナにキッパリと一蹴される。それは危険な目に遭わせられないという想いの中に教師であると同時に幼い頃から如月翔に引き取られて以降、妹としてずっと接してきた兄としての想いもあった。

 

「ラグナの気持ちは分かるつもりだ……。だが私はそれでも行きたいんだ。希空を救う為にも……ッ……一人の人間としてこのような事は見逃せないッ!」

「……」

「私だってガンダムブレイカーだッ! このまま放っておいたら、私達のような想いをする人間が増える! ならばこんな争いはもういい加減に破壊しなくちゃいけないッ! もう目の前で見ているのは……目の前で手が届かないのは嫌なんだ!」

 

 だが、それでも今回ばかりは奏も引けないようだ。自分には戦う力がある。にも関わらず、傍観しているだけで最終的には目の前で助けたくとも手が届かないなど御免蒙る。

 

「ねぇ、そんなに心配なら奏ちゃんの傍でアナタが守ってあげたらどうかな?」

「……歌音」

「だってアナタはブローディアでしょ? その名前に嘘があるの?」

 

 見かねた歌音がラグナに口添えする。ラグナ自身も奏がここまで強い意志を見せていることで、これを一蹴すれば彼女の意思を殺すことになるのではと揺らいでいるのだろう。だからこそ歌音は奏の肩を抱きながらラグナに話す。奏は変わらず、ラグナの瞳を真っ直ぐ見ていた。

 

「……分かりました。ですが挑む以上はワクチンプログラム等の必要な準備をします。それと私の傍から離れないように……。良いですね?」

「子供扱いして……。まあ良いだろう」

 

 しばらくして漸く折れたラグナはガンダムブレイカーズへ向かう前に条件を提示する。ラグナは兄のような人物である為、奏からすればその気持ちは分かるつもりだが、複雑な様子で頷いていた。その後、準備が完了したラグナ、奏、ルティナ、ロボ助はガンダムブレイカーズ攻略のためにVR空間に向かうのであった。

 

 ・・・

 

「ここが……ガンダムブレイカーズか……」

 

 ガンダムブレイカーズのVR空間にシミュレーターからアクセスした奏達。バトルフィールドは地球だけではなく、宇宙をも舞台にした広大なフィールドであった。

 

 《ガンダムブレイカーズへようこそっ!》

「シャルル……っ!?」

 《始めたばかりのビギナープレイヤーの為にシャルルがナビゲートするのでよろしくお願いしマース!》

 

 するとコックピット内に妖精のような小さなサイズのシャルルが現れる。どうやら奏だけではなく、ラグナ達にも同様にシャルルが現れているようだ。早速、シャルルからガンダムブレイカーズのゲームの概要が説明される。

 

 《──と言うことで神プレイを期待してマース!!》

 

 大凡はラグナから聞かされた情報通りだ。しかも必要最低限の情報しか話していないようにも見えるし、話をし終えるや否やすぐに消え去ってしまった。

 

「雑魚は良い。ボス狙いにしよう。ボスを狩れば、そのうちにラスボスに到着するはずだ」

「そうですね。索敵して見ましょう。もしかしたら反応があるかも」

 

 奏達がいるのは森林地帯だ。クロスオーブレイカー達に気づいたNPC機を迎撃しつつ、ラグナはセンサーを最大限に使用して、周囲の状況を探る。

 

「……近くに熱源が集中している場所がありますね。恐らくはボスを狙ってのことでしょう」

「そこにボスがいるなら迷う必要はないな」

 

 索敵した結果を口にするラグナによって次なる行動を決めた奏達はNPC機を撃破しつつ、ラグナが示した座標へ向かうのであった。

 

 ・・・

 

 湾岸地帯に到着したクロスオーブレイカー達。ラグナの索敵通り、そこには多くのファイター達のガンプラがNPC機達と戦闘を繰り広げており、その中心にいるのはボスキャラの一機として用意された赤いモンスターのような印象を抱かせるMA・シャンブロがいたのだ。

 

「シャンブロか……。確かに脅威ではあるようだな……ッ」

 

 到着後、早速、NPC機達を撃破しながら、シャンブロに向かっていく奏達。シャンブロの周囲には撃破されたと思われるカスタマイズ機達の残骸が散らばっており、今もなお驚異的な攻撃を放ってくるシャンブロに対して奏は眉を顰める。

 

 だが元々、すんなり勝てると思って参加したわけではない。奏は機体越しにブレイカーブローディア達に目配せすると、すぐにシャンブロに攻撃を仕掛ける。特にクロスオーブレイカーとブレイカーブローディアによる連携は驚異的なシャンブロを相手に引けを取らず、渡り合うのだが……。

 

「ッ!?」

 

 拡散メガ粒子砲がリフレクターピットに反射されて、襲い掛かってくる。避けきれないと判断したクロスオーブレイカーはGNフィールドを張りつつ、バインダーでガードするのだが機体に襲った衝撃に目を見開く。

 

 それは拡散メガ粒子砲を防いだ際、大きな熱と衝撃を感じたからだ。VRを使用するガンプラバトルは確かにリアルであるが、こんなことは始めてであった。

 

 《ハーイ、ナビゲーターのシャルルデース!》

 

 攻撃を受ければ、その分の強い衝撃を受ける。その状況に戸惑う奏に先程のシャルルが再び現れたのだ。

 

 《攻撃を受けてビックリしてマス? デスヨネー》

「どういうことだッ!?」

 《単純デス。このフィールドにおける衝撃や痛覚の類は現実のものに近づけてマース。だから撃墜されたら大変デスヨ》

 

 呑気な様子で話しかけてくるシャルルに苛立ちながら尋ねる。そんな彼女にシャルルはさらりと恐ろしい事実を口にする。そんな矢先、一機のカスタマイズ機がクロスオーブレイカーに襲い掛かってきたのだ。

 

「なにをするッ!? やめろッ!!」

「俺がアイツを倒して、早く恋人を目覚めさせるんだ! だから他の連中に邪魔させるか!!」

 

 襲い掛かってくるカスタマイズ機の攻撃を捌きながら、突飛な行動を諌めようとするが、一部のカスタマイズ機はガンダムブレイカーであるクロスオーブレイカーやブレイカーブローディアの動きを妨害する。ボスを倒せば、一人の昏睡患者が目覚める。妨害は一刻も早く昏睡した身近な人を助けたいという想いから来るものであった。

 

「……ッ」

 

 埒があかないと咄嗟にレーザー対艦刀を引き抜いて、切り伏せようとする奏だが、先程のシャルルの言葉もあり躊躇ってしまう。だが、そんな矢先、カスタマイズ機の一機がシャンブロの大型アイアン・ネイルによって拘束されてしまう。

 

「あっ!? ああぁ、たすけ──!!」

 

 この空間における痛覚は現実に近い。アイアン・ネイルによってギチギチと圧縮されるようにやがて、そのカスタマイズ機は無残に破壊される。

 

 《特に圧死なんて悲惨デスヨネ。だからプレイヤーさんは気をつけてクダサイ》

「おい、撃墜されたらどうなる!?」

 《そりゃ昏睡してもらいマスヨー。コンテニューは甘えデース》

 

 わざとらしく悲しんだ素振りを見せながら話すシャルルに奏は撃墜されたファイターについて尋ねると、シャルルはメッセージ内で見せたリストを再び表示させて新たに更新されたリストを見せる。その中には先程、撃墜されたと思われるファイターのアバター名が記されていた。

 

 《ガンダムブレイカーズをプレイした時点でウイルスに感染しているんデス。だから自分を大切にしてクダサイネ!》

「よくも、いけしゃあしゃあとッ!!」

 《いけしゃあしゃあ、シャアがくるー》

 

 神経を逆撫でするようなシャルルの言葉に苛立ちを隠さず、怒気を強めて叩きつけるように話す奏だが、シャルルは両耳を抑えながら、更に煽るように口にして再び消え去ってしまう。

 

「ッ……! やはり、さっさと終わらせるしかないようだなッ!」

 

 シャルルがいなくなったことで怒りをぶつける相手もいなくなってしまった。怒りで歯を食い縛りながら、奏は猛威を振るうシャンブロに狙いを定めると、ブレイカーブローディア達と一気に突進していく。

 

 その間にも撃破させまいと妨害がされるが、物ともせず全て防ぎながら、クロスオーブレイカー、ブレイカーブローディア、パラドックスはシャンブロに苦戦しつつも着実にその堅牢な装甲を削っていく。

 

「これで──ッ!!」

 

 ブレイカーブローディアとパラドックスの攻撃によって、その巨体を僅かに揺らめかせるシャンブロを見計らい、クロスオーブレイカーが仕留めようとGNソードⅢを展開して向かっていこうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《──コール》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがその瞬間、無数の光の剣がクロスオーブレイカーに襲い掛かったのだ。

 

 

「ッ!?」

 

 その攻撃に奏達は驚愕する。相手はあのロボ助だったからだ。奏達が動揺する間に騎士ユニコーンはシャンブロの前に降り立ち、クロスオーブレイカー達と対峙する。

 

「どういうつもりだ、ロボ助ッ!?」

 《……私は私の役目を果たすだけです》

 

 突然のロボ助の妨害に信じられず、その真意を問いかける奏だが、ロボ助から聞こえるのは押し殺したかのような無機質な声であった。

 

 すると騎士ユニコーンはビーストモードへの変身を果たす。それは見慣れた緑色のサイコストリームの燐光ではなく、まるで鮮血に染まったかのように毒々しい赤色の輝きを放っていた。

 

 同時にシャンブロから放たれた光を受けた騎士ユニコーンはその身に悪魔のような邪な赤い鎧を身に纏い、清廉な騎士のような外観から凶悪な獣のような姿に変わってしまう。

 

 《……私はガンダムブレイカーズのボスキャラクターの一機。騎士ユニコーン……我が役目を果たすために参る》

 

 その異様な姿に奏達が息を呑むなか、ロボ助……否、フルアーマー騎士ユニコーンは敵対の意志を示すように己の切っ先をクロスオーブレイカー達に向け、シャンブロと共に襲い掛かるのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

眠り姫

 ロボ助の突然の裏切りにより、完全に虚を突かれた奏達。戸惑うなか、ロボ助はアカッシクバインダーとカードデバイスによって召還したSD機体達を差し向ける。

 

「なにをするロボ助ッ!」

 《……集中しなさい。撃破されたらどうなるかは分かっているはずだ》

 

 ロボ助の真意を問おうとする奏だが、ロボ助は答えるような真似は決してせず、攻勢を強めていく。苛烈なロボ助の攻撃に押され気味の奏。やはりロボ助の裏切りによる動揺は大きかったようだ。朝に病院でロボ助に声をかけた時から、ロボ助は様子がおかしかった。今にして思えば、このような事になるのを分かっていたのだろう。

 

「ロボ助、本当にそれがお前のやりたい事なのかッ!? お前だって迷っているのではないのかッ!?」

 

 だからこそ引っかかりを覚える。あの時、ロボ助は傍から見ても迷っているように見えたからだ。それはこのような行動を起こしても、それは彼の本意ではないのではないかとそう思えてならないのだ。しかしロボ助は答えることはなく、代わりに刃を振るうだけだ。

 

 奏もそれ故に躊躇ってしまう。ロボ助の刃に迷いを感じるからだ。これならば罵詈雑言を浴びせながら容赦なく襲い掛かってきてもらったほうが、躊躇なくボスキャラクターとして倒すことが出来ると言うのに。

 

 そんな中、フルアーマー騎士ユニコーンを狙った収束ビームが放たれ、フルアーマー騎士ユニコーンはアカシックバインダーで防ぎつつ距離を置く。攻撃を放ったのはルティナのパラドックスだ。

 

「おねーちゃん、なに迷ってんの?」

「ルティナ……ッ!?」

「ボスキャラだって言うなら、倒すしかないでしょ」

 

 GNソードⅡブラスターをフルアーマー騎士ユニコーンに向けつつ、奏を淡々と責めるように話すルティナ。戸惑う奏だがルティナの瞳は冷たかった。

 

「今、こうしている間にも昏睡する被害者は増えてく。それにさ、ルティナ達はガンダムブレイカーズを始めた時点でウイルスに感染して詰んでるんだよ。そんなルティナ達に出来ることは、なにが待ってようがこれをさっさと終わらせるべきなんだよ」

「それは……そうだが……」

 

 シャルルの言葉通りであれば、どの道、ガンダムブレイカーズを始めた時点で詰んでいるのだ。そんな自分達に出来るのは、このふざけたゲームを終わらせるべきだ。そんなルティナの主張を理解できるのだろう。奏も複雑そうな表情を浮かべる。そんな矢先、大量のビームがシャンブロに向かって、降り注ぐ。轟音を立てて、やがて撃沈していく。

 

「なんだ……ッ!?」

 《おぉっーやりましたネー! シャンブロ撃破デース!!》

 

 耐久値がなくなったこともあり、データとなって消滅していくシャンブロ。突然のシャンブロの撃破に驚いているとシャルルがコックピット内に現れてシャンブロの撃破を伝える。

 

 ・・・

 

 《はい、アナタの攻撃がフィニッシュになったようデス! おっめでとぅございマース!》

「ほ、ほんと!?」

 《シャルル、嘘つきまセーン。それじゅあ、アナタが助けたい人は誰デスカー?》

 

 シャンブロを撃破する決め手となったファイターのコックピットに現れたシャルルはその事を伝えるとタイミングの問題ではあるが、まさか自分の攻撃が決め手となったとは思っていなかったようで信じられない様子だがシャルルは昏睡者のリストを表示させながら問う。

 

「じゃ、じゃあ……私の……弟を……」

 《Oh……泣かせるじゃねーかバカヤローコノヤロー! それじゃあ早速、シャルルシェンロンが願いを叶えますネっ》

 

 このファイターの助けたい人物はどうやら自身の弟のようだ。弟を助けたいが為にガンダムブレイカーズをプレイした彼女にシャルルはあからさまな泣き真似をしながらも、彼女がその後に口にしたアバター情報を元に照らし合わせて、昏睡から目覚めさせる。

 

 《ハイハイー。これで万事オーケーデース! 後はアナタが撃破されないように気をつけてネ!》

「は、はい! ありがとう、ございます……」

 

 シャルルの行動によって恐らくは現実世界でこのファイターが口にした人物は目覚めていることだろう。目的を達成したこのファイターを気遣うような言葉をかけながら、シャルルは消え去る。

 

 ・・・

 

 《まぁ、あんな感じで横取りされちゃうかもしれないんで気をつけてくださいネ》

「……くっ」

 

 奏のコックピットにいるシャルルは先程、シャンブロを撃破したファイターを指しながら奏を煽るように話すとシャルルの態度も相まって奏は苦虫を潰したような表情を浮かべる。

 

「──大丈夫です。ラスボスを倒せば、まだ望みはありますから」

 

 するとクロスオーブレイカーに通信が入る。相手はあの舞歌であった。彼女が愛用するカスタマイズガンプラであるケルヌンノスと共に涼一や愛梨達など奏達にとって近しい人物達のガンプラがクロスオーブレイカーの近くに降り立つ。

 

「お前達……」

「危険なのは分かっているつもりだけど、でもあなた達が戦ってて見て見ぬ振りは出来ないのよ」

「今、このガンダムブレイカーズの為に色んな奴らが動いている。俺達も俺達なりに考えて、ここに来たんだよ」

 

 先程のシャンブロへ放たれた攻撃は舞歌達も含めていたのだろう。まさかここで舞歌達に出会うとは思っていなかった奏は驚いていると、サヤナや涼一が柔らかな口調で答える。

 

「まあ、子供達だけじゃあ心配だから俺達もいるけどな」

「まさか、アナタ方まで……」

 

 しかも訪れたのは舞歌達だけではない。愛梨の父である莫耶が苦笑交じりに話しかける。そう、この場には厳也や影二など親達も共に来ているのだ。ラグナも面識があるため、驚きを隠せないでいた。

 

 《……この状況はどう考えても不利でしょうね》

「ロボ助……」

 

 この状況にロボ助は静かに呟くと、奏は改めてフルアーマー騎士ユニコーンに複雑な表情を向ける。だがこれ以上の問答はなく、フルアーマー騎士ユニコーンはSD達を召還してクロスオーブレイカー達に差し向けると、その間に撤退してしまう。

 

「……お前がそこまでするのは……希空に関わるからなのか……?」

 

 ロボ助がわざわざこのような行動を起こすのは希空が関係しているとしか考えられない。そうでなければ彼が裏切る理由が何処にあるのだろうか。奏のもの悲しげな呟きがただ静かに響くのであった。

 

 ・・・

 

 フルアーマー状態を解除した騎士ユニコーンことロボ助が訪れたのは絢爛とした玉座のある空間であった。フルアーマー状態だった負荷もあるのか、ロボ助はおぼつかない足取りで玉座の中心を見る。

 

 《希空……》

 

 そこには純白のドレスに身を包んだ希空が物々しい無骨な鎖によって両手を吊り上げた状態で拘束されていた。意識はないのだろう。希空はロボ助の呼びかけに答えることなく、さながらその姿は眠り姫のようだ。

 

「──迷いが見て取れましたね。あの状態で奇襲すれば、ガンダムブレイカーの一機くらいは葬れたものを」

 《──ッ!!》

 

 すると玉座に何者かの声が響き渡り、ロボ助は強く反応する。

 

「それとも彼女がどうなっても良いと言うことでしょうか?」

 《そんなわけはないッ!》

 

 威圧するような物言いでロボ助に脅迫めいた言葉を送りつけるその人物にロボ助は自身を見ているであろうと周囲を見渡しながら答える。

 

「そうでしょうね。ここで彼女のアバターをデータごと消滅させれば、器となる身体には何も戻らず、事実上の死を意味するのだから」

 《……ッ》

「だからアナタは仲間を裏切った。あの時、アナタをこのVR空間に呼び出した時点で」

 

 そんなロボ助をせせら笑うように告げられる事実。無力さを嘆くように拳を強く握るロボ助はかつての出来事を思い出す。

 希空がVR空間に囚われたあの日の夜。希空のアバターから送られたVR空間に待っていたのは、意識のない希空とそんな希空のデータを突きつけて裏切るように仕向けた脅迫だったのだ。

 

「アナタにはやってもらうことがまだ山ほどある。そんな迷いはここで捨ててもらおうか」

 

 すると玉座の天から何か鎧のような物が降って来る。それが何なのか警戒しているロボ助ではあるが、その鎧は突如として、ロボ助に降り注いで、強引にその身に纏って来たではないか。

 

 《ぐあっがぁッ……!? ウアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーアアアアッッッ!!!!?》

 

 鎧を何とか捨て去ろうとするロボ助だが、決してロボ助から離れるような真似はしなかった。するとロボ助は耳を劈くような悲鳴を上げる。彼のサイコストリームが強引に展開され、その輝きは緑と赤、交互に点滅している。それはまるでその鎧がロボ助その物を書き換えるかのように。

 

「今の貴様に必要なのは清廉な騎士ではなく、何者も蹂躙する魔王としての姿だ。その鎧であれば、ガンダムブレイカーにも引けは取るまいよ」

 

 玉座にのた打ち回って苦しんでいるロボ助をあざ笑いながら、声はどんどん遠くなっていく。その間にもロボ助にその禁断とも言える鎧は確かにインストールされ、ロボ助の内に消え去る。

 

 《の……あ…………っ…………!》

 

 自分と希空しかいない空間で倒れたロボ助は依然とサイコストリームが不規則に輝くなか、鎖に繋がれた希空に這うように移動しながら彼女に呼びかける。

 

 《目を……一度だけ……でも……っ………………君の……ため……な……ら……わた……し……は……っ!!》

 

 今の希空は誰の呼びかけにも答えることは出来ない。そんな眠り姫に一角の騎士は手を伸ばすが、その瞬間、彼の輝きは完全におどろおどろしい鮮血のような深紅に染まり、その頬に触れる直前でその手は落ちて、ロボ助自身意識を失うかのように一時的に機能を停止してしまった。

 

「……」

 

 そんなロボ助を見ている人物がいた。シャルルだ。玉座の端から現れたシャルルはロボ助を優しく撫でると、その手は淡い輝きを放つ。儚げな笑みを浮かべたシャルルはそのまま希空を繋ぐ鎖に触れると、この場を後にするのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悲しき魔王

「いやぁ、皆さん頑張ってマスネー」

「──そろそろアナタにも働いてもらいましょうか」

 

 ガンダムブレイカーズでは依然として、終わりの見えない戦いが繰り広げられていた。

 希空が拘束されている玉座で立体モニターを表示させて、その様子を眺めながら他人事のように呟くのはシャルルであったが、そんな彼女しかいないこの空間で再び声が響き渡る。

 

「ハアアァァァァァァァァァアン!!!!? いやいやいやいや、シャルルもうめちゃんこ働いてると思うのデスガ! 労基に通報するレベルのハードワークデース!! って言うかこれ、お給料とか出ませんヨネ!? ノー! ノー! ノー! あっりえねぇーデース!! 芸能人に人権はないってワードがありますが、これはどうかと思いマスヨ! あからさまに悪ぶってるからって、こんなんじゃ辞表を叩きつけるレベルで人は付いてキマセン! シャルルの待遇改善を求めます! さあまずはシャルルの為に上質なミルクを用意することから始めまショウ!!!! ハリーハリーハリィィィィィィィイイイイイイ!!!!」

「やかましい。本当はアバターの所持者ごと連れてこようと思っていたのに……」

 

 するとシャルルは額に青筋を浮かべて、捲し立てるように言葉を吐く。ガンダムブレイカーズがここまで広がり、ナビゲーターまで努めているのにも関わらず、そろそろ働けと言われたらこうもなろう。そんな憤慨するシャルルを一蹴しながら、どこか頭を悩ませたような声が響く。

 

「……ツーンデス。今のシャルルは自由の身デス。パーツがなくったってこの通りなのデス」

「では証明して見せろ。最も貴様らしい方法でな」

「……流れで働かせようとしてマース。世間は世知辛いのデス……。フリーダムガンダムに乗っているのに自由じゃなかったキラのようデース……。アナタに分かりマスカ、イラスト投稿サイトでシャルルのR-18な×××なイラストを見た時の気持ちが……。見た目が二次元なヴァーチャルアイドルでも、あれは堪えるのデース……。」

 

 歌音ごと連れてこようとしたという発言にシャルルはそっぽを向きながら答えるが声はシャルルに発破をかけようとする。しかしその言葉でシャルルは何やら落ち込み始め、猫耳もペタンと落ちて床にのの字を書いていた。

 

 ・・・

 

「情報通りなら、撃破されたら昏睡になるらしいね」

「これ以上の被害を食い止める為にも、他のファイター達をカバーしながら、戦わないとな」

 

 ガンダムブレイカーズのフィールドで戦闘を行っているファイター達の中には、姫矢一輝や根城秀哉の姿もあり、彼らのガンプラは劣勢に立たされているファイター達を援護しながら上手く立ち回っていた。

 

「……大悟さん。俺達の絆……見せてやろうぜ」

「僕は一人じゃない……頼むよ! 進!」

 

 そしてその傍らには彼らの実子である根城進と姫矢大悟もいた。

 RX-78-2 ガンダムをカスタマイズしたガンダムリバイブとZガンダムをカスタマイズしたZガンダムリバイブをそれぞれ駆り、勇猛果敢に戦うその姿はさながらヒーローのようでもあった。

 

 ・・・

 

「……ボスを倒しても、キリがない……。これでは……」

 

 ガンダムブレイカーズで戦闘を始めてからどれくらいが経過しただろうか。舞歌達とは別行動で既に多くのボスキャラクターを撃破したがVR空間で集中力のみが減っていくだけで優勢に立てている実感がない。

 

「いくらボスを倒しても希空だけがロックがかけられている……」

「あの時、シャルルと希空がウイルスに狙われたようにも感じられました。恐らく希空には他とは違い、何か細工を施されていると考えて良いでしょうね」

 

 ボスキャラクターを倒した後、希空を目覚めさせようとするのだがリストの中に記されているにも関わらず希空だけはいくら選んでも反応しないのだ。この状況にラグナは代表戦後のウイルスが襲撃した時を思い出す。

 

「でもさ、少しずつでもボスは倒してんだから虱潰しに当たって行くしかないんじゃない?」

「……そうですね。しかし連戦を重ねるのも禁物です。ウイルスに感染しているので、ログアウトは出来ないようですが、それでも反応が少ないところで一先ず休息を取るべきでしょう」

 

 周囲を警戒するルティナの言葉に頷きながらラグナは休息を伝える。

 もうかれこれ多くの時間をこのガンダムブレイカーズに費やしているのだ。いくらガンダムブレイカーを使用する実力者達と言えど、集中力が切れた状態ではどうなるかも分からない。いても立ってもいられない状態の奏ではあるが、ラグナの言葉も分かる為、渋々頷いて、移動を開始しようとしたのだが……。

 

 《──ca…………ル……》

 

 次の瞬間、無数の光の刃がクロスオーブレイカー達に降り注いだのだ。

 

「これは……ロボ助かッ!!」

 

 瞬時に回避しながら、覚えのある光の刃に咄嗟にそれが誰の仕業であるのか悟る奏。センサーが反応する方向を見やれば、確かにそこに騎士ユニコーンの姿があった。

 

 だが、その姿はあまりにも異様であった。

 脚部や背面に備わった数本の生体的な突起物。特に背面に備わったものに関したは騎士ユニコーンのサイコストーリムのような毒々しい赤い輝きを放っていた。

 

 これこそは神の力を持つとさえ言われる幻獣の鎧を纏った姿だ。

 これが玉座でロボ助に降り注いだ鎧。しかしロボ助自身、完全に呑まれてしまっているのか、幽鬼のような不気味さを発し、ただ佇むだけで放たれる威圧感など、さながら魔王のようだ。

 

「ロボ助、何かあったのか教えてくれッ! 力に──ッ!!

 

 しかし騎士ユニコーン(幻獣)は何も答えることはなく、クロスオーブレイカー達に襲い掛かる。咄嗟に騎士ユニコーン(幻獣)の攻撃を受け止めながら、ロボ助に接触を試みようとするが、ロボ助は刃だけを返すのみだ。しかもその勢いは中々に苛烈で奏をして、押され気味になっている。

 

「おねーちゃん、まだ分かんないの!?」

「しかし……ッ!!」

「そいつはもうおねーちゃんの知る奴とはもう違うんだよッ!? そいつの力は素のおねーちゃんにだって迫るくらいの力を持ってるってことくらい分かってるでしょ! このままじゃやられちゃうよッ!?」

 

 騎士ユニコーン(幻獣)の注意を引くように射撃兵装を放ちながら奏に怒気を含めて叫ぶルティナ。迷う奏にルティナは騎士ユニコーン(幻獣)の実力を判断して、説得が出来るほどの余裕を持てる相手ではないと見抜いているのだ。

 

「だが希空は……ッ! 希空ならばロボ助を見捨てるような真似はしない……ッ! 希空には誰よりもロボ助が必要なんだッ! だからこそこれは希空の為でもあるッ!」

 

 しかしどうしても奏にはロボ助をボスキャラとして葬ることが出来なかった。

 それは何より希空の為に。希空にとってロボ助は大切な存在だ。だからこそ彼女からそんな存在を奪うような選択肢は極力取りたくはなかった。

 

 《──の……a……?》

 

 そんな奏から何度も放たれた希空の名前に騎士ユニコーン(幻獣)は反応を示す。歪ながらも確かに希空の名前を口にしていたのだ。

 

「そうだ、希空だッ!」

 《グッ……がぁッ……!? ウゥゥッ!!》

「希空を悲しませるような真似はもう止めよう!? 分かるだろう!? 希空だってお前がこんなことをするのは望みやしないことくらいッ!」

 

 希空に反応したロボ助に気付いた奏はすぐさま説得を試みる。騎士ユニコーン(幻獣)は苦悶に満ちた様子でふらつきながらも、踏みとどまってクロスオーブレイカー達を見やる。説得が成功したか?そう思った瞬間……。

 

 《グオオオオオオオォォォォォォッッッァァァァァァアアアッッッ!!!!!!》

 

 騎士ユニコーン(幻獣)は天を仰いで、まるで獣のような咆哮をあげたのだ。そのあまりの姿に奏達は戦慄に似た感覚を感じる。

 

 《確か……ニ……希……a……は……喜びやし……ナ……イ……だろウ……》

「ロボ助……ッ」

 

 幻獣の鎧に苛まれながらも多少の意識は取り戻せたのか、歪な発声をする。魔王のような威圧感さえ発するのに、その姿には痛々しささえ感じてしまう。

 

 《だガッ!! 希空を失えバ……彼女は悲しんデさえクレナイィィイッッ!!!》

 

 己の無力さを感じさせるような悲痛な叫びを上げた騎士ユニコーン(幻獣)は手に持つ黄金の槍を構えてクロスオーブレイカー達に一気に突進した。その姿にやりきれなさを感じた奏は仕方なしにエヴェイユの力を使用しようとした時であった。

 

 自分達と騎士ユニコーン(幻獣)の間に黄金の閃光が割って入り、騎士ユニコーン(幻獣)を吹き飛ばしたのだ。

 

「な……んだ……ッ!?」

 

 割って入った黄金の光に奏達は戸惑う。目を凝らして何者か探るなか煌く光が収まれば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《間に合ったようだな》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは黄金に煌く竜……。黄金神の名を持つスダ・ドアカワールドに存在する神の一柱……スペリオルドラゴンだ。

 

 《救援が遅れて申し訳ない。だがその分、光明はある。今こそトモの為に立ち上がろうッ!!》

 

 そのガンプラを操るのは、かつて友の未来を切り開いた親愛なる騎士・ロボ太だ。スペリオルドラゴンは騎士ユニコーン(幻獣)を自分に任せろとばかりに対峙するのであった。

 

 ・・・

 

「ロボ太……。少し前に戻ってきたばかりなのに……」

「調整はしてあるとはいえなぁ……。お前さんが助けを必要としてるのであればって聞かなくてよ」

 

 地上にあるガンプラバトルシミュレーターVRの前でガンダムブレイカーズでのスペリオルドラゴンの様子を立体モニターで眺めながら一矢は心配そうに口にすると彼によって連絡を受けたカドマツが頭をぽりぽりと掻いていた。

 

「だが、あの状況にいの一番に向かったのだ。その意思は尊重すべきだとは思うがね」

 

 だが、そんな一矢とカドマツの隣でクロノはくつくつと笑っていた。

 

「……司法取引をしているとはいえ、俺はまだお前を許したつもりはないぞ」

「元々許しを請う気などないがね。だが大凡、犯人と犯行内容を把握している私がいなければ、この事件に収拾をつけられないのは事実だろう? 君達は屈辱に耐えながら、私の教えを享受したまえ。それに……」

 

 不愉快そうに隣のクロノを睨む一矢だが、クロノは鼻で笑って一蹴するのみだ。

 彼がここにいられるのは司法取引の結果であり、背後には警官達が睨みを利かしている。クロノが一矢の家に訪れたのも彼に協力を取り付ける為でもあった。それ故に今、一矢とロボ太はクロノと共にこの場に来たのだ。

 

「ガンダムブレイカーズとやらはゲームなのだろう? であれば、私も一枚噛ませてもらうまでさ」

 

 クロノが司法取引を選んだ理由の一つを愉快そうに笑いながら話す。結局、この男はゲームに拘りがあるだけなのだ。その様子に人知れずため息をついた一矢はクロノとそれぞれガンプラバトルシミュレーターVRに乗り込んで、ガンプラをセットする。

 

「リミットガンダムブレイカー……雨宮一矢、出るッ!」

「ルキフェル、では行こうか」

 

 一矢とクロノ。かつての因縁を持ち、相容れぬ二人は共にガンダムブレイカーズへ出撃するのであった。




一応、大丈夫だとは思いますが、補足として最終章ラストから、そのままの流れで外伝となっています。

ガンプラ名 ルキフェル
元にしたガンプラ シナンジュ

WEAPON ビームライフルシューティー
WEAPON ビームナギナタ(シナンジュ)
HEAD シナンジュ
BODY シナンジュ
ARMS ガンダムバルバトス第六形態
LEGS シナンジュ
BACKPACK バウ
SHIELD ABCマント
拡張装備 ブーメラン型ブレードアンテナ(頭部)
     ミノフスキー・フライト内蔵装甲×2(両足部)
     ifsユニット×2(背部)
ファンネル×2(背部)
     内部フレーム補強

例によって活動報告にリンクが貼ってあります。

<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

トライデントさんよりいただきました。


キャラ 根城進(ねじろ・しん)
年齢 19歳
性別 男
容姿 父親とそっくりどころかそのまんま
アバター アムロ・レイ(一年戦争時)
設定
若手のスーツアクターとして業界ではかなり有名で、文字通り体当たりの仕事でバリバリ稼いでらっしゃるお方。たまにアクターとしてだけじゃなく俳優として作品に関わることもある(そのため特撮ファンじゃない人にも顔が知られていて実は結構な有名人)現在放映されているでっかいヒーローのアクターと主役の相棒という重要な役を演じている(もう撮影は終わった)
祖父は父親が若い頃に他界しているためいないが、祖母と父親は今でも元気で現在両親祖母妹弟と六人暮らし。姫矢家とは家族ぐるみの付き合いで小さい頃から大悟のことを尊敬していた
夢見る妹と弟には完全にヒーローと思われ憧れの的で両親からは同情されてテンションの高い叔母とその娘が進の大ファンで毎回遊ばれて常識人の伯父とその息子には同情される日々
でもそんな家族と親戚が大好きなヒーロー。今日も頑張れ
一人称:身内や友人等には俺で目上の人には私(大悟には俺)
二人称:両親には親父お袋。妹と弟には名前で呼び捨て。祖母はお婆ちゃん。友人には名字で呼び捨て。大悟だけ名前にさん付けで大悟さんと呼ぶ

希空と奏とは何回か会ったがあるぐらい

キャラ 姫矢大悟(ひめや・だいご)
年齢 21歳
性別 男
アバター カミーユ・ビダン
設定
現在放映されているでっかいヒーローの主役を演じ特撮ファンとそれ以外からも大人気の若手俳優。根城家とは家族ぐるみの付き合いでとくに進からは小さい頃から尊敬されてた。でっかいヒーローに関わるのは二人の小さい頃からの夢で、それが二人同時に叶ったとき根城家姫矢家で盛大に祝われた。そのとき二人は盛大に涙を流した
レスキュー隊の両親と妹の四人暮らし。ちなみに進の時に言った進の身内苦労は家族ぐるみの付き合いである大悟にも向けられている
つまり夢見る弟と妹達には完全にヒーローと思われ尊敬の的でそれぞれの両親には同情されてテンションの高い進の叔母とその娘が進と大悟の大ファンでいつも遊ばれて常人の進の伯父と息子には同情されるのである。頑張れよヒーロー
あと二人ともガンダムも好きでガンプラバトルもする。その際は二人の鉄壁のコンビネーションが光る
一人称:僕
二人称:両親には父さん母さん。目上の人には名字にさん付けで進の伯父と叔母は名前にさん付け。それ以外はほとんど名前で呼び捨て

希空と奏とはほとんど会ったことがない

ガンプラ名 ガンダムリバイブ
元にしたガンプラ ガンダム
WEAPON ビーム・ライフル 
WEAPON ビーム・サーベル
HEAD ガンダム
BODY ガンダムMk-Ⅱ
ARMS ガンダム試作一号機フルバーニアン
LEGS ガンダム
BACKPACK ガンダム試作一号機フルバーニアン
SHIELD ガンダム
拡張装備
ハンドグレネード(腰右)
ファンネルラック×2(バックパック)
腕部グレネードランチャー(両腕)
刀(左腰)

カラーリングはガンダムで統一

事の発端は父親が誘ったバトル。父親がストライクを使うならば自分は1stガンダムを使おうと軽い気持ちで選んだのだが、経験の差もあり大敗。意地になって使い込んだ結果がこれ
比較的シンプルな機体のため近距離戦がメインで、とくに捻った戦い方はしない(刀を投げて刀身でビームを反射させる程度)

ガンプラ名 Zガンダムリバイブ
元にしたガンプラ Zガンダム
WEAPON ビーム・ライフル(Z)
WEAPON ロング・ビーム・サーベル
HEAD Zガンダム
BODY Zガンダム
ARMS Zガンダム
LEGS Zガンダム
BACKPACK Zガンダム
SHIELD Zガンダム
拡張装備
碗部グレネードランチャー(右腕)
ビーム・サーベル
メガ粒子砲(頭に埋める感じ)
Cファンネルショート(両足)
マイクロミサイルランチャー(バックパック)
変形可能

カラーリングはZガンダムそのまんま

ほとんどZガンダムそのまんま。というのも、一回Zガンダムをどうにか改造できないものかと思いいじってみたら変形が出来なくなってしまい、いっそのことほとんどいじらないでオプション足した方がいいんじゃないかという結論に至りこうなった
変形しながらミサイルを打ちまくったりビームコンヒューズを実践したりすること以外とくに捻った戦い方はしない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絶望の歌

 《ここは私に任せてほしい!》

 

 クロスオーブレイカー達と騎士ユニコーン(幻獣)の戦闘に割って入ったスペリオルドラゴン。騎士ユニコーン(幻獣)を相手取りながらロボ太は奏達に声をかけた。

 

「ラグナ、あのスペリオルドラゴンは……」

「ええ、私もこうして接するのは初めてですが30年前に一矢さん達と共に戦ったロボ太さんでしょう。ここ最近まで宇宙に漂流していたそうですが、まさか救援に来ていただけるとは……」

 

 奏も会ったことこそはないが、ロボ太について知ってはいるのだろう。

 同じくロボ太については知識で知っているラグナに声をかけると、騎士ユニコーン(幻獣)と激しい攻防を繰り広げるスペリオルドラゴンの勇姿を見つめながらどこか感激した様子で答える。

 

 《話はそこまでだ! 君達には向かってもらいたい場所があるッ!!》

 

 久方ぶりのバトルだと言うのに、騎士ユニコーン(幻獣)を相手にして全く引けをとらないスペリオルドラゴンは再び奏達に声をかけると、そのままクロスオーブレイカー達にフィールド情報を記されたデータを送る。

 

 《そこには主殿達がいる。主殿と共にいる者はこの事件についての情報を知っている! だからこそ急ぐのだ! このような悪事はもう終わらせなければならない!》

「……分かりました。ここはアナタにお任せします」

 

 ロボ太はそのデータについての情報を教えてくれた。どうやらこのレーダーに新たに記された地点に一矢達がいるとのことだ。ロボ太の指示を受けたラグナ達は、この場をロボ太に任せると一目散に飛んでいく。

 

 《逃がスか……ァッ!》

 《させんッ!》

 

 そんなクロスオーブレイカー達を追おうとする騎士ユニコーン(幻獣)だが、その行く手をすぐさまスペリオルドラゴンが阻む。

 

 《邪……マ…………を……スル……なッ!》

 《駄目だ、私はここで君を止めなければならない》

 

 騎士ユニコーン(幻獣)がその禍々しい瞳をスペリオルドラゴンに向けるが、ロボ太は一切、臆することなく首を横に振ると騎士ユニコーン(幻獣)へ一歩前に踏み出し、己の意思を主張する。

 

 《君のことは知っている。主殿の娘子の為に作られたトイボットだと……。君は恐らくは大切な者の為にこのようなことをしているのだろう。だが……だからこそなのだッ!》

 

 地球に帰還を果たした時、一矢やミサなど彼の帰還を待つ者達から、多くのことを聞かされたのだろう。その話の中には希空やロボ助についてもあったことは想像に難くない。だからこそ希空のトイボットであるロボ助のこのような行いを止めなければならないのだとロボ太は感じているのだ。

 

 《もしも君がこの場で一人でも被害者を生み出してしまえば、その時君は大切な者の元へ戻ることが出来なくなってしまうッ!!》

 

 ロボ助はいまだガンダムブレイカーである奏達を狙って、他のファイター達には襲い掛かってはいない。それはまだ僥倖と言って良いのかもしれない。

 

 《君が後戻りできなくなる前に……ここで私が君を止めるッ!》

 

 スペリオルドラゴンはダブルソードを構えて勇ましく叫ぶ。

 だがスペリオルドラゴンの……いや、ロボ太の姿は今のロボ助には眩しいものがあるのだろう。騎士ユニコーン(幻獣)は迷いを振り払うように頭を激しく振ると、悲痛にさえ聞こえる痛々しい咆哮をあげながら、スペリオルドラゴンへ襲い掛かるのであった。

 

 ・・・

 

「ロボ太さんの情報通りならば、この辺りなのですが……」

 

 ロボ太から渡されたデータを下に移動するクロスオーブレイカー達。ラグナがレーダーを確認しながら、一矢のモノと思われる反応を探していると……。

 

「あっ! あそこだ!」

 

 すると、奏が気付いたようだ。先行して向かうクロスオーブレイカーの先を見てみれば確かにそこに雨宮一矢が使用するリミッドブレイカーの姿があったのだ。

 

「……来たか」

「一矢さん、お疲れ様ですっ!」

 

 一矢も一矢で奏達に気づいたのだろう。リミットブレイカーが飛来するクロスオーブレイカー達に向き直る。着地したクロスオーブレイカーもリミットブレイカーに向き合うと奏は異様なテンションで挨拶をする。

 と言うのも奏はガンダムブレイカーの使い手。先人である他のガンダムブレイカーの使い手を尊敬している為、一矢も例に漏れず、まさに憧れの人物に会えたような輝かしい視線を送り、一矢は奏の反応にどこか苦笑を浮かべてしまっている。

 

「一矢さん……」

「……ラグナか」

 

 すると続くようにブレイカーブローディアとパラドックスが降り立つ。するとラグナは神妙な面持ちを浮かべると、一矢もその声を聞いて、表情を変える。

 

「希空のこと、申し訳ありませんでした……。注意を受けていたと言うのに、希空をあのような……」

「……そうだな。実の娘を想えば、お前を非難することも出来るかもしれない」

 

 コロニーカップの代表戦後、希空とシャルルはウイルスに呑まれてしまった。

 その前に一矢に注意を受け、未然に防ぐことが出来なかったことに責任を感じているラグナに一矢も静かな口調で話す。

 

「……だが俺達はガンダムブレイカーであっても神ではない。手が届かないことだってある。ましてやあの時はコロニーカップで集中していたはずだ。それにいつだってお前は出来ることをしているのだろう?今、お前がこの場にいるのは希空を救う為でもあるはずだ」

「ですが……」

「糾弾して欲しい気持ちは分からなくはない。だが今はふざけた騒動を終わらせて希空達を救うことを考えろ。それが今、お前が俺に謝る以上に出来ることのはずだ」

 

 だが一矢は決してラグナを責めるような真似はしなかった。そもそもラグナはガンダムブレイカーとしてウイルス事件に関わっていても、別にエンジニアのように専門的な分野に精通しているわけではない。

 ましてやあのような事態を引き起こさずどうにかしろと言うのは酷な話で、この場でただラグナを責めるのも八つ当たりでしかない。それに今はこのような話をする以上にしなければならないことがある。そんな一矢の言葉にラグナは渋々頷く。

 

「話は終わったかね?」

 

 そんな一矢達のやり取りを退屈そうに聞いていたクロノは頃合を見計らって声をかける。

 

「アナタは確か……」

「そういった反応は後にしたまえ。警戒しようが勝手だが、そんなことで発生する問答に私は付き合う気はない」

 

 ラグナは通信越しにクロノを見て、かつて未曾有のウイルス事件を引き起こした人物であることを思い出して奏も警戒したような面持ちを浮かべるが、そんな二人の反応にクロノは煩わしそうに一蹴する。

 

「それよりもいい加減に君達も飽きが回って来ただろう。そろそろラスボスに挑みたくはないかね」

 

 ルティナを除き、クロノに関して複雑そうな面持ちを浮かべる奏とラグナにクロノはある提案をする。

 

「実を言うと、この一連の騒動……。かつて私がラストステージの為に考えたプランの一つに非常に類似しているのだよ」

「……お前、30年前にこんなことしようとしてたのか」

「まあ、当時の技術では理想には程遠く、ガンダムブレイカーの使い手を封じるのが精々でプランは君が知っての通りになったがね」

 

 クロノから何気なく放たれた言葉に当時のことを身をもって知っている一矢は顔を顰めるが、そんな一矢の反応も愉快そうに笑いながらも、当時叶わなかったステージを前になんとも複雑そうだ。

 

「だが私が知る限りであれば、ボスの数が一定数減った今であれば……顔を出しても良い頃だろう」

 

 クロノのルキフェルはビームライフルショーティーを一丁引き抜いて構える。素早くコンソールを操作すると、その銃口に淡い光が纏い、引き金を引き、放たれた銃弾はまっすぐ飛んでいく。

 

 するとある地点になって銃弾は弾かれる。だがただの銃弾ではなかったのだろう。やがてその地点からバグのようなものが発生し、今まで何もなかった地点に巨大な浮遊城が姿を現す。

 

「ふむ……やはり光学迷彩か。我ながらラスボスの居城は姿を隠すよりも、堂々とその姿を見せ付けた方が良いと思うのだがね」

「何故ここにあんなものがあると……」

「ここはフィールドの最果てとも言える地点だ。そこに拠点を置くのは私の頓挫したプランの一つに含まれていたからね」

 

 どうやら先程の銃弾は光学迷彩を崩すプログラムが仕込まれていたようだ。ため息をついているクロノにそもそも何故、この場であのような浮遊城があるのかを知っているのか奏が尋ねると、光学迷彩を失ったことで何か動きがないか見ながら答えていた。

 

「しかし疑問があります。何故、犯人はアナタの頓挫した計画のひとつを知っているのでしょうか」

「ふむ……。最もな疑問だな。そのようなことを知っているのは──」

 

 クロノの言葉で考えれば、恐らくあの浮遊城にラスボスといえる存在がいるのだろう。しかし疑問は何故、クロノの計画に類似しているのかだ。

 もしもクロノの計画を引用しているのであれば、そもそも何故知っているのか。その疑問を口にするラグナにクロノは答えようとするが……。

 

「どうやら、ついにこの時が来てしまったようデスネー!」

 

 すると浮遊城の方からシャルルの声が聞こえる。奏達が機体のカメラアイをズームしてシャルルを探してみれば、浮遊城で最も目立つ開かれた場所にシャルルがいたのだ。

 

「ではそろそろシャルルもボスキャラにジョブチェンジしマス! 本当はもう働きたくないのデスガネー!」

 

 一体、シャルルは何をしようと言うのか、様子を伺っているとシャルルはその場で一回転ターンをして、その身に黒を基調にした艶かしい衣装を身に纏う。

 

「───Are you ready?」

 

 するとシャルルはスイッチが入ったように雰囲気を変え、目をスッと細める。

 同時に浮遊城にはシャルルの曲が流れ始め、シャルルはそのしなやかな肢体を駆使して曲に乗って舞う。

 

 まさかここでライブでも始めるつもりか? そもそも何の為に? そんな疑問が生まれていくなか、ついにシャルルはその歌声を乗せ始める。

 

「なっ……!?」

 

 するとどういうことだろうか。歌声が全てのフィールドに響き渡った瞬間、機体の耐久値は減り始め、アバターである自分達も締め上げられるような頭痛と共に目眩に似た感覚に襲われたではないか。

 

「……成る程。歌にウイルスを乗せているわけか。これは厄介だ。彼女が歌い続ける限り、絶えず我々を妨害するウイルスが散布されると言うことわけか」

「歌で絶えずデバフを撒き散らし、耐久値がなくなればその時点で我々は昏睡になってしまう……。彼女は切り札なのだ……。このままでは……」

「歌音でもないのに……ッ」

 

 いくらNPCとの戦いで損傷を防いでいても、シャルルの歌その物を防ぐ術はなくどの機体も例外なく耐久値が減ってしまう。アバター自身に襲い掛かる負担に苦しめられながら、クロノやラグナ、ルティナは厄介そうに呟く。かつてウイルスに対してシャルルの歌にワクチンプログラムを乗せたことがある。黒幕はその時からシャルルに目をつけたのだろう。

 

「なに制限時間が設けられていると考えれば良いさ。そのほうが私も燃えると言うものだ」

「……お前に……遅れを取る気はない」

 

 だがクロノはこの状況でさえ薄ら笑いを浮かべると、苦しんでいる奏達を他所にルキフェルは浮遊城へ向かって飛び立ち、続いてリミットブレイカーもその後を追うのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勇者の帰還

 浮遊城の出現と共に行われたシャルルのライブ。一番の問題はやはりファイター達にかけられたデバフであろう。ファイター自身に襲い掛かる負荷だけではなく、機体の耐久値が減少していくのだ。耐久値がなくなればその時点で撃破扱いとなり、ファイター達はそのまま昏睡してしまうというものだ。

 

「……ふむ」

 

 クロスオーブレイカー達がまず始めにシャルルをどうにかしようとするのだが、それも捗ることはなかった。試しにクロノのルキフェルがビームライフルショーティーの引き金を引くが、放たれたビームはシャルルに届くことはなく、ステージに届く前にビームは粒子となって散ってしまったのだ。射程内にも関わらず、このような現象を目の辺りにしたクロノは目を細めて、思案する。

 

「シャルルの顔で好き勝手やってっ!!」

 

 すかさずパラドックスはGNソードⅡブラスターを構えると一気に接近して、そのまま大きく振りかぶって勢いよく振り下ろすのだが、その寸前にパラドックスが押し退けられるような形で強引にシャルルとの距離が開き、空振りになってしまう。

 

「クッ……干渉が出来ないのでは、どうしようもないではないか……ッ!」

 

 ルキフェルとパラドックスの攻撃その物が届かないのを見て、まさにシャルルに対して手も足も出ない状況に奏は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。今なおシャルルの歌はこちらに対して激しい負荷をかけていると言うのに、逆にこちらからはどうにも出来ないのだ。

 

「……浮遊城そのものにバフがかけられているようだな」

 

 しかも厄介なのはシャルルだけではない。浮遊城に備わる迎撃設備が火を吹いて、近づこうとするファイター達へ無数の弾丸を放ってくるのだ。何とか掻い潜りながら、カレトヴルッフからビームを放つリミットブレイカーだが、そのビームは浮遊城を前に弾かれてしまうのだ。

 

「まさか……」

「……なんだ?」

 

 ビームを弾いた浮遊城を見て、クロノは何かに気付いたような素振りを見せると、一矢はそれが何なのか尋ねる。

 

「いや、あの歌姫に対する攻略法さ。浮遊城はビームを弾くのに対して、彼女へは攻撃その物が無効にされているような気がしてね」

 

 浮遊城とシャルルの攻撃の違いを口にする。確かにクロノの言うように、攻撃が届かないシャルルに対して浮遊城は攻撃を弾いているのだ。この違いは確かに疑問を感じてしまう。

 

「これは憶測だが、彼女は攻撃をして倒せるような相手ではないのではないかな」

「そんな相手、どう戦えと言うんだ!?」

「単純な話さ。彼女はあくまで歌を歌っているだけだ。リズムゲームをクリアするのに銃火器を用いたりしないだろう?攻略をするなら、そのゲームに適した行動をしなければ」

 

 確証こそないが、攻撃への違いから感じ取った考えを口にするクロノ。浮遊城は単純にバフが利いているから攻撃を弾ける。シャルルはそもそもゲームの土台が違うから、危害を加えるような攻撃は無効になってしまう。それがクロノが考え付いた違いであった。

 

「だが、それでは尚更、俺達に打つ手はないじゃないか……ッ!」

 

 仮にクロノの憶測が本当だったとして、それでは一体、どうやってシャルルを止めればいいと言うのだ。今、この瞬間にも彼女の歌で耐久値がなくなったファイター達は次々に昏睡に陥っている。このままでは何れ自分達の番になってしまうのだ。

 

(しかし……)

 

 クロノも何か攻略法を導き出そうとするのだが、中々浮かばない。浮遊城からの攻撃を避けながら、ふとクロノはシャルルを横目で見る。ふと気になったことがあるのだ。シャルルは時折、ルキフェルを目で追っている。最初は偶然かと思ったが、今も歌いつつルキフェルを見ているのだ。これは一体、どういうことか。この事に関してもクロノは思考を張り巡らせるのであった。

 

 ・・・

 

 一方、こちらはスペリオルドラゴンと騎士ユニコーン(幻獣)との戦いだ。いまだ激しい接戦が続いており、お互いの力は拮抗していた。それは互いに負けられないという想いによるものであった。

 

 《引き下がるわけにいかんのだ……ッ!》

 

 シャルルの歌はロボ太も例外なく苦しめていた。しかしそれでも騎士ユニコーン(幻獣)を相手に互角以上の戦いを繰り広げているのは、ロボ助以上の戦闘経験とどうしても引き下がれないという想いからだろう。

 

 《大切な存在と離れ離れになってしまう気持ちを君達にまで味合わせるわけにはいかないッ!!》

 

 ここでロボ助を止められなければ、きっとロボ助は被害者を生み出してしまう。そうなったらきっと元には戻れない。

 かつてロボ太はナジールを止めた際、30年もの年月を宇宙で漂流していた。一矢達も突然の別れに悲しんだが、ロボ太自身、何も感じなかったわけではない。だからこそロボ助の手が汚れてしまう前に彼を止めなくてはならない。

 

 《ぐぅっ……ッ!?》

 《流石はカドマツのワクチン。効果は絶大だッ!》

 

 ダブルソードの斬撃を受けた騎士ユニコーン(幻獣)は苦悶の声をあげる。ロボ助にインストールされた幻獣の鎧はウイルスのようなものだ。ガンダムブレイカーズに突入する前にカドマツから受けたワクチンプログラムを乗せた一撃は今の騎士ユニコーン(幻獣)には大きな効果を齎し、まともに受けてしまえば身を焦がれるような激痛を味わうこととなる。

 

 《ウウゥゥウゥッッッ!!!! アアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーァアアアアアッッッ!!!!》

 《やはり力の源……。そして今の君を蝕むのは、その鎧かッ!》

 

 だがいくら身を焼くような激痛を受けても騎士ユニコーン(幻獣)は止まることはなかった。それはロボ助の根底に希空があるからだ。自分が敗北すれば、希空はどうなるか分からない。その想いが彼を動かすのだ。そんな悲しきロボ助の姿にロボ太は幻獣の鎧に目をつける。

 

 《私の全霊を……ッ! この一撃にッ!!》

 

 ワクチンプログラムをよろめいた騎士ユニコーン(幻獣)に更にすれ違いざまに斬りつけたスペリオルドラゴンは翼を広げて、飛び上がると燦々と煌く太陽を背にする。

 

 《私が倒すのは、君を蝕む悪意だッ!》

 

 太陽を背にする姿はまさに太陽が人の形を成したかのようだ。あまりにも神々しく美しいその姿はここが戦場だと言うことを忘れてしまうくらいだ。

 

 《──悪よ、滅びろオオオォォォォォォォォーーーーーーーォオオオオオッッッ!!!!!!!!!!》

 

 黄金神の名を持つスペリオルドラゴンはその身を黄金の竜に変えたような一撃をもって騎士ユニコーン(幻獣)へ向かっていく。先ほどのスペリオルドラゴンの姿に気を取られていた騎士ユニコーン(幻獣)も真っ向から立ち向かい、接触した瞬間、周囲を激しい閃光が照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《──ぐぁッ……!?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 打ち勝ったのはスペリオルドラゴンであった。騎士ユニコーンが地面に叩きつけられると同時にワクチンプログラムの全てを込めて放たれた一撃はロボ助の中のウイルスを駆除することに成功したのか、幻獣の鎧に亀裂が入り、崩壊してしまう。

 

 ・・・

 

「──なにっ!?」

 

 それと同時に浮遊城内の玉座で囚われていた希空の身を拘束する鎖は弾かれるように砕け散る。このことはロボ助に幻獣の鎧を与えたこの事件の犯人も予想外だったのだろう。驚いたような声をあげるなか、ただ一人、浮遊城の庭園でライブを続けるシャルルだけは人知れず笑みを浮かべていた。

 

 ・・・

 

 《私、は……?》

 

 幻獣の鎧から解き放たれたことで完全に自我を取り戻したのだろう。先程まで毒々しく赤く輝いていたサイコストリームの光は緑色の美しい燐光を取り戻し、ロボ助は周囲を見渡す。

 

 《アナタは……》

 《初めまして、と言うべきかな? 妙な感覚だが、君は私の後継機……いや、弟というべきか。不思議なものだ。私にも主殿やセレナの立場になれるとは》

 

 こちらに歩み寄るスペリオルドラゴンことロボ太の存在に気付いたロボ助に、スペリオルドラゴンの瞳ともいえるカメラアイで笑顔を作りながら、声をかける。

 

 《私は……負けてしまったのか……》

 《いや、君は悪意に打ち勝ったのだ。さあ共に行こう。もうこんなことを終わらせるためにも。そして主殿の娘子を救い出すためにも》

 

 立ち上がったロボ助は無念さを感じさせるように話すが、寧ろロボ太はウイルスから逃れることが出来た彼を称え昏睡する被害者のリストを表示させながら、手を差し伸べる。

 

 《……光栄ですが私にはその手を取ることは出来ません》

 

 しかしロボ助はそのリストの中で希空の名前を見た瞬間、首を横に振って、その申し出を断ったのだ。

 

 《私はウイルスから逃れられたとはいえ、いまだボスキャラの一体……。どの道、ボスは倒されなければならない。であれば……》

 

 ロボ助はマグナムソードを手に取る。一体、どうしようと言うのか。その口ぶりではまだ戦おうとでも言うのか。そんな疑問が浮かぶなか、ロボ助はゆっくりとマグナムソードを振り上げると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自身に深々と突き刺したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《なっ……!?》

 

 血飛沫のようにサイコストリームの断片が撒き散るなか、ロボ助の行動にロボ太は愕然と言葉を失ってしまう。

 

 《……のあが……解放され……て……い……る……》

 

 ロボ助は先程のロボ太が表示させたリストの中でロックのかかっていない希空の欄を見つめる。奏達が助け出そうとも、ロックがかかっていたのにだ。それは幻獣の鎧が砕けた時、玉座で解放された希空に動揺した犯人と同時に見せたシャルルの笑みに関係があるのだろうか。

 

 《わ、たし……は……ッ……プレイ、ヤーでは……ない……ッ……。だから……こそ……ボスとして……あな……たに……倒され……た……いま……希空を……ッ! なによ……り……私の……存……在を……もって……ッ!!》

 

 マグナムソードは致命傷となっているのだろう。苦しみに耐えながら途切れ途切れにプレイヤーとしてガンダムブレイカーズに参戦したロボ太に伝える。

 

 《……分かった》

 

 希空のためなら世界を敵に回そうともどんなことだって出来る。それがロボ助だ。そんなロボ助の想いに触れ、ロボ太は静かに頷くと、リストの中から希空を選択する。

 

 《……大丈夫だ。全てが終わった後、また君の大切な人に会える》

 

 消滅の時を迎えるかのように少しずつデータ体になっていく。そんなロボ助に歩み寄ると、優しくその肩に触れる。

 

 《あぁ……アナタに……会え……て……良かっ……た……っ》

 

 そんなロボ太の行動にロボ助は不安定なデータ体から震わした声を発しながら、最後のときを迎えようとしていた。

 

 《あに……うえ……》

 

 その言葉を最後にロボ助は消滅する。データ体が粒子となって空に昇るなか、ロボ太は最後までその粒子に触れるように手を伸ばす。

 

 《……弟よ。その想い、決して無駄にはせん》

 

 掌に粒子が輝いて消えるなか、ギュッと手を握ったロボ太はただ静かにボスキャラクターとして散った弟が少しでも安らげるように言葉を送ると、この場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……ロボ……助……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時に現実世界で一角の騎士が救いたいと願った少女は遂に目を覚ますのであった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

理想と現実

「わた、し……は……?」

 

 昏睡から目を覚ました希空は身体を起こすと、自身に取り付けられた行動に制限が出る機器を外しながらまだ覚醒しないでぼーっとする頭で周囲を見渡す。ここは病院の一室のようだ。

 

 自分が最後に覚えているのは、クレア率いるパライソとのコロニーカップ代表戦の直後の記憶だけだ。あの時、空を割り自身に降り注いできたウイルスを最後に記憶が途切れ、今こうして病室にいる。

 

「あーちゃんっ!」

 

 一体、代表戦の後、なにがあったのだろうか。そんな風に考えていると、不意に聞き覚えのある声が聞こえてくる。それは飲み物を買いに行っていたのか、丁度病室の入り口に入ってきた歌音であった。

 

 あーちゃんとは歌音が希空につけた愛称だ。

 希空が目覚めたことで眼を丸くしている歌音の姿を見て、そう言えば代表戦の前に彼女からコロニーに訪れているというメールが来ていたことを思い出す。だがそんな矢先、歌音は足早に駆け寄ると、希空を抱きしめたのだ。

 

「良かったぁっ……」

 

 希空を深く抱きしめながら彼女が眼を覚ましたことを純粋に喜んでいる歌音。最初こそ抱きしめられたことに驚いていた希空だが、ずっとVR空間にいたこともあり、久方ぶりに感じた人の温もりに身体を震わせながら歌音の背中に手を回す。

 

 ・・・

 

「……そんなことが」

 

 二人は落ち着くと、希空は歌音からパライソとの代表戦後のこれまでの経緯を聞かされていた。

 

「あの……ロボ助達は……」

「みんなまだ戦い続けてる。でも正直、状況は良くないみたい」

 

 すると希空はロボ助達について尋ねる。目を覚ました時、真っ先に名前を口にしたのはロボ助であった。何だか妙な胸騒ぎもするため、彼らについて聞くと、生憎、歌音はファイターではないため、ガンダムブレイカーズには参戦してはいない。詳しい情報は分からないが、今も戦いは続いていており、昏睡するファイター達が続出していることを明かす。

 

「──だからこそもう終わらせないといけないよね」

 

 そんな二人に声がかけられる。驚いて振り返ってみれば、そこには……。

 

「優陽叔父さん! それに……翔さんも!?」

「歌音ちゃん、ここにいたんだね。連絡する手間が省けたよ」

 

 歌音の叔父であり、実年齢にしては若々しい外見を持つ南雲優陽とまるで世界から切り離されたかのようにかつての外見に近しい状態でいる如月翔がいたのだ。

 

「……話は聞いている。目覚めて何よりだ」

「あ、ありがとう……ございます……」

 

 翔はベッドの上の希空に静かに声をかけると、希空はどこか萎縮したような様子で答える。

 

 と言うのも如月翔が纏う雰囲気によるものだろう。

 その雰囲気は30年前とは違い、人間味は感じられず超然としている。ただそこにいるだけで異質な存在であり、話すだけで人間と話しているような感覚ではなく、それ以上の存在と話している気分になるのだ。

 長年の劣等感からか人の動きや感情などに敏感な希空はどうにもそんな翔が苦手であり、容姿も相まって自分達の世界とは違う世界から切り離された存在にさえ感じてしまうのだ。

 

「けど、優陽叔父さん達はどうしてここに?」

「少し前に翔さんがコロニーに行こうとしててね。ウイルスの件もあるから、一緒に来たんだよ。まあ翔さんは奏ちゃんが目的だったみたいだけど」

 

 とはいえ、まさかこの場で翔や優陽に会うとは思っていなかった歌音は何故、この場に彼らがいるのかを尋ねると、優陽は隣で静かに佇んでいる翔を一瞥しながら答える。と言うのも翔は奏の覚醒を感じ取ったあの日から、奏のいるアスガルドに向かおうとしていたのだ。

 

「それより歌音ちゃん、少し良いかな」

 

 自分達の話は程々に優陽は歌音を呼び出して場所を変えようとする。どうやらこの場に訪れたのは希空の様子を見るだけではなく歌音に理由があるようだ。一体、何なのか分からず首を傾げる歌音と共に優陽達は場所を変えるのであった。

 

 ・・・

 

「シャルルちゃんのアバターが乗っ取られたことは何より歌音ちゃんが知ってるよね?」

 

 病院の屋上に場所を変えた優陽達。早速、優陽が話を切り出すと、その内容に歌音は複雑そうな様子で頷く。

 

「実は今、相当まずい状況になっているんだ」

 

 すると優陽は携帯端末で立体モニターを表示させる。その内容はガンダムブレイカーズであり、モニターでは浮遊城を相手に苦戦するリミットガンダムブレイカー達の姿が映し出されており、その中にはライブを行っているシャルルの姿も映し出されていた。

 

「ウイルスを乗せたシャルルちゃんの歌はただ流れるだけでフィールドのファイター達に強烈なデバフが発生して被害が出てる。今、ガンダムブレイカーズに残ったファイターの半数以上は脱落してしまった。きっとこのままだと全滅は時間の問題だ」

 

 いよいよラスボスとも言える黒幕の居城である浮遊城を発見できたと言うのに、このような事態になってしまった。例え損傷していなくても、被害を生み出すシャルルの歌を前に何れ一矢達も敗れてしまう時が来るのは優陽の言うように時間の問題だ。

 

「だから歌音ちゃんにお願いがあるんだ。これから僕達と共にVR空間に向かって欲しい」

「えっ……?」

「そこで歌音ちゃんに歌ってもらいたいんだ」

 

 翔と優陽はアスガルドへ向かうシャトルに乗っていた為、一矢達とは違い、ガンダムブレイカーズに参戦することは叶わなかった。だがスガルドに到着した今ならそれも出来る。しかしシャルルの存在がこのような脅威になった今、無策で挑むわけにはいかない。だからこそ歌音のもとに訪れたのだ。

 

「VR空間でシャルルちゃんがやったように歌音ちゃんの歌にワクチンプログラムを乗せて中和するんだ。これは何より、VRを熟知して、そこで歌うことに慣れている歌音ちゃんにしかお願いできない」

 

 せめてシャルルの歌を何とか出来るか否かで状況は大きく変わる。だからこそシャルルとして歌い、かつて歌を持ってワクチンプログラムを散布していた歌音であればと白羽の矢が当たったのだ。

 

「私に……そんなこと……」

 

 しかし歌音から返ってきたのは、彼女らしからぬ暗い返事であった。

 

「私は……シャルルのパーツでしかない……。影と言っても良い……。シャルルがあそこまで人気だったのは、シャルル・ティアーナっていうキャラクターが受けたからであって、それは本当の私じゃない……。あれは……私じゃない……。私には……シャルルほどの価値はない……」

 

 シャルル・ティアーナとしてではなく、姫川歌音として歌うことに彼女には自信もなく、迷いがあったのだ。

 

「私が歌っても注目なんてされない……。でもシャルルは違う……。シャルルとしていれば皆が注目してくれて誰もが求める歌姫が生まれた……。あそこにいるのは見た目も何もかも全てが完璧で華やかな……理想のアイドルなんだよ……。私はシャルルの一部になれても……シャルルになれない……。私は決して届かない……」

 

 ヴァーチャルアイドルであるシャルルはまさにアニメなどに登場する輝かしい存在だ。

 対して自分はその影でしかない。ステージに立つ者の影など注目する者などいないし、影は決して影以上のものにはなれない。

 

 シャルルの存在が大きくなればなるほど求められる人物像は上がっていき、理想であっても自分から離れていく。例えシャルルの正体が歌音と言ったところで多少の注目はされてもシャルルのような栄光は掴めないだろう。言ってしまえば、歌音はシャルルに一種の羨望と劣等感を抱いているのだ。だからこそ彼女は輝かしく手の届かない存在であるシャルルを理想とは程遠い自分とは言わずパーツを言うことで歌音は歌音、シャルルはシャルルで分けているのだ。

 

「自信ないよ……。私に……シャルル以上のパフォーマンスが出来るのかなんて」

 

 故にシャルルでパフォーマンスするのではなく、自信の持てない自分がそんな理想のシャルルと真っ向から歌で競っても勝てるとは思えないのだ。そんな歌音に優陽は表情を悩ませる。当人がこれなのでは、無理に歌わせてもシャルルに負けるのが目に見えていたからだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

栄光よりも

 優陽達と歌音が話をしている頃、希空は医師による診察を終えてガンダムブレイカーズについて調べていた。確かに歌音が教えてくれたようにフィールド内で撃墜されてしまえば、強制的に昏睡状態に陥ってしまうようだ。

 

「パパ達が……戦ってる……」

 

 希空は今、ガンダムブレイカーズのフィールド内に映るリミットブレイカー達の戦闘の様子を見ていた。彼らはいまだ攻略法を見出せないまま奮闘しているのだ。しかしその中でロボ助だけがいないことに気付く。

 

「……ロボ助……?」

 

 嫌な予感がした。すぐさま自身のVRGPを起動して、フレンド登録されているロボ助に連絡を取ろうとするも一向に繋がらない。それどころかエラーを知らせる画面さえ出てくる。普段のロボ助ならまず考えられない出来事に希空の表情に焦りが見え始める。

 

 希空はそもそもロボ助がボスキャラであったことを知らない。

 希空の中ではロボ助がガンダムブレイカーズで撃墜され、機能停止に陥っているのではないかと考えてしまったのだ。

 

 こうしてなどいられない。

 希空が病院を抜け出そうとした時であった。

 

「──どこに、行くつもりだ?」

 

 まるで全てを見透かすかのような透明感のある声が聞こえてくる。

 その静かで一切、揺らぐことのないような声に希空はゾクリとした感覚を覚えて振り返ればそこには歌音を優陽に任せた翔がいたのだ。

 

「ガンダムブレイカーズ……に……」

「目が覚めたばかりだ。安静にしておくべきではないか?」

「か、身体に問題、は……ありません……」

 

 翔に向き合いながら彼の問いかけに答える。しかしそれだけで彼女の額に薄らと冷や汗が浮かんでいる。

 ただこうやって向かい合っているだけでも人間とは違う得体の知れない何か巨大で高次元な存在と接している気分になり、今にも呑みこまれてしまいそうな錯覚さえ覚えるのだ。

 

 だが逆に希空には納得できる。

 目の前にいる如月翔。その全てを俯瞰して見るような佇まいと超然的な雰囲気は自分のように畏怖する者もいれば畏敬する者もいる。寧ろ後者の方が多いとも言えるかもしれない。

 だからこそガンダムブレイカーという存在は誕生から三十年以上が経つ現代においても、ある意味で絶対的な存在で憧れや羨望が集まる存在でいられるのだろう。

 

 どちらにせよ希空からしてみればどうしても苦手な存在でしかない。これならばまだ奏の方が良いと思える。だが、そんな彼女を知ってか知らずか、翔は変わらぬ様子で淡々と安静にするように促すも、希空は唇を震わせながら答える。

 

「……では質問を変えよう。何故、ガンダムブレイカーズに行こうとする」

「……それ、は……。私にとって……大切な存在を助けたいから……」

「それは君があの場に行って変わることなのか?」

 

 淡々と行われる問答に希空は何とか答えるが、ここで放たれた翔の言葉に大きく身体を震わせる。そう、言い方が悪いかもしれないが、ただ感情のままに動いてガンダムブレイカーズに挑んでも再び昏睡状態に陥る可能性が高いからだ。

 

「それでも……少しでも力になりたい……」

 

 しかし、希空は翔の言葉に震えながらも押し黙るようなことはせず、そう答えたのだ。

 

「……私にとって……ロボ助は大切な存在なんです。ロボ助だけじゃない……。奏もラグナさんも皆……。私にとってはなくてはならない大切な存在……。皆がいるから、私は私として生きれる」

 

 ガンダムブレイカーズで戦い続ける奏達。機能停止して連絡を取ることが出来ないロボ助。その全ての存在が希空にとって何にも代えられない大切な存在であるのだ。

 

「何で気付けなかったんだろう……。ガンダムブレイカーよりも、大切なモノはずっと傍にあったのに……」

 

 ロボ助達は大切な存在だ。だからこそ傍にいることが当たり前になって見落としていた。自分がガンダムブレイカーになるよりも、きっと大切な存在はすぐ近くにあったと言うのに。

 

「……でも……でも、だからこそ……私はあの場に行きたい……っ! これ以上、失いたくない……! 例えガンダムブレイカーになれたとしても、ひとりぼっちになるのは嫌なんです!! そんな風になるくらいなら、ガンダムブレイカーの名前はいらない……。それよりもみんなと……笑っていたい……。そこにいる私が……本当の私だから……っ!!」

 

 ガンダムブレイカーよりも大切な存在に気付けた以上、ここで足を止める気はないし、止められないのだ。

 

「私は最後まで諦めません。あの場になにがあろうと……。ここでアナタに止められようとも……私は皆のところに行きます」

 

 最初こそ翔を畏怖して萎縮していた希空だが、段々とその言葉に熱を含んできて、最後には震えることなく、まっすぐ翔の瞳を見据えて力強く叫んだ。

 

「ガンダムブレイカー、か……」

「えっ……?」

「いや、なんでもない。君が自分という存在を理解している今、不要な名前であり、今の君ならば受け取らないだろう。だからこそ、それも君と言う存在であれる」

 

 そんな希空の主張を聞いて、風に流れるようなか細い声で翔が呟く。

 あまりに小さな呟きであった為、希空には聞き取れずに眉を顰めるが、翔は小さく首を横に振りながら先程まで淡々としていた物言いの中にどこか穏やかさを含めながら答える。

 今の希空であればガンダムブレイカーの名を与えられるほどの資質はあるのだろう。だが、今の彼女には必要がないものだ。であれば無理に送る必要もない。なぜなら彼女は栄光よりも大切なものを理解しているから。

 

「だが何であれ、今、君一人を行かせるような真似をさせるわけにはいかない」

 

 とはいえ、いくら希空の想いが強かろうと今、闇雲に向かえば、どの道、待っているのは詰みだ。事態を好転させるどころか悪化させるだろう。そんな翔の言葉に、それでも希空は諦めることはせず、そんな意志を表すように強く翔の瞳を見ていた。

 

「誤解をするな。絶対に行かせないとは言ってはいない。今すぐには、と言うだけの話だ」

「それは……」

「我々に君の協力をさせて欲しい。だから少し時間をいただきたい」

 

 そんな希空を宥めるように言葉をかける。その内容に希空は翔の言いたいことが分かったのだろう。だが直後の翔の申し出に驚く。始祖ともいえるガンダムブレイカーから協力を申し出られたのだ。普通ならばありえないことに希空は唖然とするが、翔から差し伸べられた手に了承を伝える代わりに掴んだのだ。

 

「感謝する。では、少し待っていてくれ。準備を進めてくる」

「……だったら、私にも時間をください」

 

 希空が握手を返してくれたことにゆっくりと頷き、今後の予定について伝える。どうやらシャルルへの対策など時間が必要なようだ。確かに先程は感情のままに叫んでしまったが、今であればそれも理解できる為、頷きながら希空はNEXを見つめる。

 

「グランドカップに向けて、準備をしていたものを仕上げて来たいんです」

 

 どうせであれば希空も万全の準備をしたい。NEXを持った希空の言葉に翔が頷くと、頷き返した希空は早速、踵を返し、地を蹴って、この場を離れていくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ありのままに

 希空が病院を飛び出してから数分後。優陽から求められた協力に対して難色を示した歌音は一人、病院内の庭園に訪れていた。

 庭園には患者やその家族等の見舞いに来た者達が談笑しているが、中には小児科患者の子供達もおり、笑い合う子もいれば、入院生活に辟易しているのか暗い表情をしている子もいた。

 

(……私に理想(シャルル)を超えることなんて)

 

 シャルル・ティアーナは歌音にとって理想のアイドルとして生み出された存在だ。可憐で溌剌としていてその場に起きること全てを楽しみ、メロディに乗る美しい歌声で周囲を笑顔にする。それがシャルルだ。

 

 幼い頃から歌うのは好きだった。

 単純に歌うのが好きだったのもあるが、歌を歌えば皆が笑顔になってくれた。それが見るのが好きだったのも理由の一つである。

 

 そんな中、知ったのがアイドルという存在。テレビを見れば、KODACHIをはじめとした様々なアイドルが天真爛漫に輝いていたのを今でも鮮明に覚えている。

 

 純粋に憧れた。ただ歌うだけではなく、バラエティなど多方面で活躍して笑顔を振りまくアイドルという存在に。

 

 自分もアイドルになってみたいと思った。しかしだ。果たして、自分にアイドルという存在になれるものだろうかと考えてしまったのだ。

 

 自信がなかった。自分に抜き出た才能などはないと考えていたから。そんな自信のなさからアイドルという存在に未練を残したまま、ズルズルと年を重ねてしまった。

 

 夢は夢を抱いていた時間の分だけ自身に大きな傷を残す。

 結局、一歩踏み出すことが出来ないまま悶々とした日々を過ごし、逆に一歩踏み出して、現在もアイドルとして活躍しているMITSUBAなどを常に羨ましがっていた。

 

 いい加減、そんな日々を変えたかった。しかし自分に自信が持てないのは変わらなかった。だから現実でアイドルとして活動するのではなく、まず動画サイトなどでアバターを使えば匿名として自分を隠して活動できるヴァーチャルアイドルの道を選んだ。それがシャルル誕生のきっかけである。

 

 そこからはVRを利用して、歌うだけではなく、流行りのゲームを実況したり、叔父である優陽の影響もあって、モデラーとして解説などもしていた。

 

 常に四苦八苦する日々が続いた。どうすれば不特定多数の人々を楽しませることが出来るのか、常に模索し、活動の幅を広げるためにVRなどを広く勉強した。大変であった。だが少しずつ伸びていくチャンネル登録数や視聴数、何よりすぐに分かる反応が充実に繋がった。自信が持てない姫川歌音ではなく、ハチャメチャで自由なシャルル・ティアーナとして動いていると、自分は確かにそんな存在になれて、そしてその存在が愛されているようで嬉しかったのだ。

 

 だが、ヴァーチャルアイドルとして成功し、ライブが出来るようになれば、いつしか多くのスポンサーがつくようになってしまった。

 

 そうなっていけば活動の内容だって少しずつ変わってくる。スポンサーがつけば活動の中でスポンサーの商品の宣伝なども嫌でも盛り込まなければいけなくなってくる。そんな宣伝色を感じさせるような活動をすれば、どうしても無名な頃、まだ柵もなく自由に活動していた頃に比べられ、昔のほうが良かったなど言われてしまう時だってあった。

 

 人気を博せば博すほど、求められるシャルルは変わってくる。不特定多数の人間を満たすことは出来ないが、それでも過去に夢見たアイドル達のように笑顔を振りまこうとしていた。

 

 だが、いつしか気付いてしまったのだ。

 

 人々が求めるのはシャルル・ティアーナであることを。

 

 確かにシャルルでいられる時は最早、別人のように感じられ、そこには姫川歌音は存在しない。だから世間は歌音の存在を知らない。だからこそ、もし自分に何かあったとしても代役を立てればシャルル・ティアーナは問題なく生きられる。

 

 それを悟った時、自分はシャルルのパーツでしかないと考えてしまい、いつしか歌音は歌音、シャルルはシャルルとして分けて考えるようになってしまったのだ。

 

 シャルルを自分とは違う存在と考えてしまえば、シャルルもまた歌音にとって、憧れるアイドルの一人でしかない。だが逆に言えば、客観的にどうすればシャルルはもっと活躍できるのか、どうすれば自分の理想と言えるのかを考えられ、世間のニーズに応えつつ客観的に突き詰めた結果、自身の理想に最も近いアイドル……シャルル・ティアーナは今では地上どころか宇宙コロニーにまでライブを行えるほどの現代で最も人気なアイドルとして君臨することが出来た。

 

 それ故に自分が理想(シャルル)を超えるなどと思えなかったのだ

 

(ホントに駄目だな……私……)

 

 不甲斐ない自分にため息をついてしまう。何で自分はこんなに自信がもてないのだろうか。

 

(歌うこと、楽しかったんだけどな……)

 

 昔であれば歌えと言われれば喜んで歌っただろう。しかし今ではこの様だ。ただ歌うことにアイドルに瞳を輝かせていたあの頃の自分が見たらどう思うだろうか。

 

「LaLaLa──♪」

 

 そんなことを思って小さく歌い始める。あの頃、全てを楽しんでいた自分に向けて。

 口ずさむような歌は静かだが風に舞うように優しく柔らかに響く。

 

 目を瞑って、純粋に歌へ集中する。

 きっと過去の自分が見れば嘆くだろう。ならばせめて歌う時だけは真摯に向き合いたい。それがあの頃の自分に報いる方法だと思ったから。

 

「……ふぅ」

 

 やがて最後まで歌い終えると、静かに息をつく。元々、歌を歌うのが好きだったのもあり、少しは気分転換になったかもしれない。そんな風に考えていると、不意に拍手が沸いたのだ。

 

「えっ……!?」

「お姉ちゃん、すごーいっ!!」

 

 拍手に驚いた歌音が周囲を見渡せば、庭園だけではなく、窓からなど多くの人々が歌音に惜しみのない拍手を送っていた。中には先程まで入院生活で暗い顔をしていた子供も花が咲いたように明るい笑顔を浮かべていたのだ。

 

「もっと歌ってー!」

「う、うん……。お姉さんので良ければ」

 

 無邪気な様子でもっと歌って欲しいとねだる子供達。惜しみない賞賛が送られる状況に圧されていた歌音はおずおずと頷きながらも、すぅっと深呼吸をして、再び歌い始める。

 

 今度の歌は先程の過去の自分に向けた歌とは違った。確かに先程の歌も美しくはあったが、どこか窮屈さも感じられた。しかし今は違う。まさに歌声が弾むかのように聞く者の心を豊かにしてくれるのだ。

 

 それはやはり今、自分の歌を求めて楽しんでいる人達がいてくれるから。だからこそ歌音もより、歌に集中して楽しむことが出来る。その証拠にその頬には穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

「お粗末さまでした。楽しんでくれたかな」

「うんっ! もっともっと聞きたいっ!」

「そう言ってもらえるならお姉さんも歌った甲斐があると言うものです」

 

 二曲目を歌い終えた歌音にまたも惜しみない拍手が送られるなか、子供達に声をかける。すると子供達は口々に賞賛してくれて、その純粋な反応に歌音の口元も綻ぶが……。

 

『聞いててね、すっごく心が弾んだよ!』

 

 ふと過去に初めて出会ったルティナから言われた言葉が脳裏をよぎる。あの時もルティナは道行く人の中、最後まで瞳を輝かせて自分の歌を聞いてくれた。あの時のルティナと今の子供達の姿が重なるのだ。

 

「あっ……」

 

 そして何より幼い頃、アイドルに瞳を輝かせていた自分にも。

 

「歌音ちゃん」

 

 すると院内で話を聞きつけた優陽が庭園までやってきて、歌音に声をかける。

 

「……優陽叔父さん、勝手なんだけどさ。やっぱり歌わせて貰って良いかな?」

「歌音ちゃんが望むなら引き止める気はないよ。寧ろお願いした立場だしね」

 

 子供達の姿を見ながら、歌音は静かに優陽に頼む。その申し出に驚いた優陽だが、すぐに穏やかな笑みを浮かべながら答える。

 

「……思い出したんだ。歌って……音楽って楽しむものなんだって」

 

 幼い頃、歌が好きだった理由を思い出す。いつからか理想だけを追い求めて自信を失くしてしまった。だが、自分がそもそも歌を愛していたのは楽しかったからだ。ただ夢中になるくらい楽しみながら歌って、それで笑顔になってくれる人達を見るのが嬉しくて、シャルルが生まれたのも、そんな想いが始まりだったからのはずだ。

 

「私がこれからVRで歌う理由はシャルルに勝つとかじゃない。私が大好きな歌で皆を満たす為……。私のこの楽しい想いをみんなに届ける為だよっ」

 

 シャルルを超えるパフォーマンスをする為に歌うのではない。ただ純粋に歌に向き合って、その想いを広げる。その為に歌うのだ。歌音の晴れやかな笑みを見た優陽は協力を受けられたことよりも、そんな歌音を見ることが出来て、心底嬉しそうに頷くのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

0から∞へ

 学生寮に戻っていた希空は手早く準備を進める。コロニーカップには間に合わなかったものの元々、グランドカップを見越して作成した為、手間はかからず手早く作業を行うことが出来た。

 

 希空が作成したのは何も新規で作成したガンプラではない。ケースの中にNEXをしまった希空はすぐにでも動き出し、部屋を出る。

 

「──あっ」

 

 扉を開けた先にはヨワイがいた。インターフォンに手を伸ばしているところを見るに、彼女のことだ。押すか押すまいかで悩んでいたのだろう。

 

「……アンタが帰ってきたって聞いたから」

「ご心配をおかけしました」

「べっつに心配なんて…………………………………したけど」

 

 気まずそうに希空の部屋の前にいた理由をそっぽを向きながら話すヨワイ。わざわざ部屋にまで来てくれた彼女に微笑みを見せる希空に、気恥ずかしそうに照れ隠しで否定するのかと思いきやもごもごと口ごもった様子で答えていた。

 

「それで……ガンダムブレイカーズに行くの?」

「そのつもりです」

「そ、そう……。しょ、しょうがないし、アタシも一緒に……」

 

 希空とその腰にあるガンプラが収められたケースを見やりながら彼女に問う。今、あそこでは奏やラグナが戦っている。故に彼女もガンダムブレイカーズに向かうと思ったのだろう。彼女が頷いたのを見て、仕方なさそうにヨワイも希空と共にガンダムブレイカーズに向かおうとするが……。

 

「いえ、ヨワイさんはここで待っていてください」

「なっ!? アンタ、アタシが雑魚だと思って……っ!」

「そういうつもりではないのですが……」

 

 だが希空はヨワイの申し出を断ったのだ。その理由を自身の実力だと思ったヨワイはすぐに食って掛かるが、希空は首を横に振る。

 

「ヨワイさんには戻って来た時に出迎えてもらいたいんです。ヨワイさんは私にとって大切な人だから」

「んなぁっ……!?」

「だから待っててください。そしてまた……私とバトルしてください」

 

 ヨワイを落ち着かせるようにその手を握った希空は彼女の瞳を真っ直ぐ見つめながら話す。最もその言葉にヨワイは目に見えて狼狽え、湯気が出そうなほど顔を真っ赤に染めていた。

 そんなヨワイに微笑みかけた希空はこの場を後にする。後にはぼぅっと惚けた様子でヨワイが立ち尽くしていた。

 

 ・・・

 

「お待たせしました」

 

 再び病院に訪れた希空はそこで待っていた翔と合流する。

 

「あの……優陽さんは……?」

「既に移動している。我々以上に準備の時間が必要だからな」

 

 早速、行動を開始しようとする翔に希空はその後を追いながら尋ねると、近くのタクシーを停めた翔は答えると、運転手に目的地を伝えて、希空と共に移動を開始するのであった。

 

 ・・・

 

「……待たせた」

 

 翔達が移動したのはラグナが協力しているサイバー課であった。そこには既に優陽などがおり、モニターにはガンダムブレイカーズの様子が映し出されていた。

 

 それだけではない。それとは別にモニターには煌くステージのような作りの空間が映し出されており、そこに歌音の姿があった。

 

 モニターに映る歌音はいつものタートルネックやシャルルのような露出度の高い衣装ではなく、麗しい衣装に身を包んでいた。

 確かにシャルルの衣装をそのまま歌音が着るよりも、こちらのほうが歌音に似合っている。希空も一瞬、見惚れてしまっていた。

 

 そんな歌音だが、データ体となってその場から消える。どうやらあの空間はVR空間だったようだ。程なくして歌音がやってくる。

 

「歌音さん、どうしてここに?」

「ちょっとあーちゃん達のお手伝いをね」

 

 そんな歌音に希空が声をかける。希空は病院での歌音と患者達のやり取りを知らない。と言うより、ウイルスによって昏睡させられてしまった希空はそもそも歌音がシャルルであることを知らないのだ。

 

「お姉さんはバトルは出来ないけど、それでも何かを届けることは出来るのです。だからあーちゃんもアナタの空を飛んで」

「……分かりました」

 

 胸に手を置いて先程の患者達の笑顔を思い出しながら、話す歌音。歌音は歌音なりに自分に出来ることをしようとしてくれている。ならばと希空は歌音の言葉に頷きながら、翔を見やる。

 

「細かいことは警察(彼ら)がやる。我々に出来るのは所詮はバトル……。だが、だからこそ集中できる」

 

 希空に気付いた翔は周囲の警官達を見やりながら話す。彼の言うとおり、所詮はガンプラファイター。誰かを捕まえるような真似はできない。しかしそれでもガンプラを用いたバトルならばお手の物だ。

 

「破壊しよう。輝かしい未来を創造する為に」

 

 もうこんなゲームは終わらせなければならない。静穏ではあるが、意志の強さを感じさせるような強い言葉に頷いた希空は翔達と共にガンプラバトルシミュレーターVRへと向かう。

 

「頑張って、誇り高き人達。私も……一緒に頑張る」

 

 シュミレーターに向かった翔達を見送りながら、歌音もVR空間へダイブすると、自分が設定した衣装に姿を変える。

 

「始めよう、姫川歌音のファーストライブッ!!」

 

 VRを駆使して鮮やかで目を奪われるような演出が起こると同時に歌音の手に粒子が集まり、特製のマイクが具現化して握られる。

 勇壮なイントロが流れるなか、歌音は決意を宿したその瞳でただ前を見据える。これよりはシャルル・ティアーナではなく、姫川歌音のステージだ。

 

 ・・・

 

「私にとっての大切なもの……」

 

 その歌はこれから発進する希空達のシュミレーターにも響いていた。勇気付けられるような歌を聴きながら、希空はNEXのコックピットで集中力を高める。

 

「パパ達には沢山の仲間がいる……。でもそれは私も同じ……。負けないくらい大切な人たちがいる……。それは私もパパの娘だって誇れるほどに」

 

 父は多くの仲間達がいる。お互いに切磋琢磨することによって高めあってきた間柄だ。例えガンダムブレイカーでなくとも自分には父のように大切な人達がいる。それこそ父にも負けぬくらいの、いや父の娘であることを誇れるくらいに。

 

「ガンダムNEXフルアームド……雨宮希空、行きますッ」

 

 ストライダー形態でセットされたNEXはこれまでのものとは異なっていた。大きな特徴は通常の四枚羽を装備している肩部に新たにAGE-2のダブルバレットウェアにある二つのAMBACバインダーを装備していることだろう。

 細く鋭利な四枚羽も巨大化しており、全体的に大柄となったこの装備はフルアームドウェアと呼ぶ。NEXフルアームドはカタパルトを飛び出していくのであった。

 

 ・・・

 

「この歌は……っ!?」

 

 一方、バトルフィールドでは依然としてシャルルに何の手立てもなかったクロスオーブレイカー達の下に、いや全てのフィールドに歌音の透明な歌声が響き渡る。

 

「歌音っ!!」

 

 それが歌音の歌であるといち早く気付いたのはルティナであった。たちまち明るい笑顔を浮かべながら、歌声を調べれば、特製のステージで歌う歌音の姿が映し出されていた。

 

 歌声を届ける歌音の表情には緊張やプレッシャーのようなものはない。ただ純粋に歌に集中し、楽しんでいることが画面からも伺えた。

 

 そして効果はすぐに出た。シャルルの歌にも負けぬ歌声はやがてリミットブレイカー達を苦しめていたデバフを打ち消したのだ。

 

「攻撃が通るッ!」

 

 すぐさま奏が浮遊城目掛けて攻撃を放てば、今まで鉄壁の如く損傷を与えられなかった浮遊城がここで漸く損傷を与えることが出来たのだ。

 

「──よくやった」

 

 すると静かに、そして確かに響き渡るような声が届き、奏やラグナ達が強く反応する。この声を良く知っている。彼の英雄・如月翔のものだ。

 

「あれは……っ」

 

 そしてすぐにセンサーに反応があり、目を向ければ、そこには浮遊城で戦っていた三機と覇王を除くラグナより前の歴代のガンダムブレイカーがそこにいたのだ。

 

 そしてその中心に王の如く存在しているのは如月翔のガンダムブレイカー。だがかつてのブレイカーネクストではない。その名はガンダムブレイカーインフィニティ。ユニコーンガンダムをベースにカスタマイズが施された新たなガンダムブレイカーであったのだ。

 

「っ!? 離れろ!!」

 

 ブレイカーインフィニティはビームサーベルを抜刀すると、天高く掲げる。その姿に何か感じ取った一矢はすぐに指示を出すと浮遊城周辺にいた機体達は一目散に浮遊城から離れていく。

 

「──0から始まり、今を超え、次に進み、無限へ至る」

 

 ブレイカーインフィニティはかつてとは違い煌く虹色の輝きを纏えば天に突き上げたビームサーベルは空を裂くほど巨大なビームサーベルを生み出すと轟々と大気を震わせながら、一気に浮遊城めがけて振り下ろしたのだ。

 

 轟音が鳴り響いた。

 何とブレイカーインフィニティの一撃によって浮遊城は地に墜ちるほどの大きな損傷を受けたのだ。

 

「あれが……原初のガンダムブレイカー」

 

 それを共に出撃していた希空は唖然とする。かつて異世界において英雄に対して神と例えようとした者もいたが、このような光景を目の当たりにすればそれも頷ける。

 

「全く……だから彼はバランスブレイカーだと言うのだ。ラスボスの居城に入らずに真正面から叩き潰す者がどこにいる……」

 

 そんなブレイカーインフィニティの攻撃にクロノは頭が痛そうに重いため息をついていた。

 

「だが、まだ終わりではないようだな」

 

 一矢も癪ではあるがクロノの言葉には頷くしかない。

 しかし浮遊城は沈黙したわけではない。地が鳴るような轟音が響くと、浮遊城を突き破り、そこに潜んでいた悪意ともいえる存在が姿を現す。

 

「ガンダムブレイカー……やはり貴様らは忌々しい……ッ!!」

 

 それはスダ・ドアカワールドの征服を成し遂げようとする闇の皇帝ジークジオンであった。勿論、データによって生み出された存在であるが、それ故、そのサイズはこの場にいる機体達を悠々と見下ろすほどの巨躯を誇る。そして何よりジークジオンから言葉が発せられたのだ。それはロボ助に幻獣の鎧を与えたものと同じであった。

 

「……闇の皇帝……。終わりと言うのなら相応しいのかも知れません。だからこそもう終わらせます」

 

 ジークジオンを見やりながら、希空は臆することなく決意を口にする。浮遊城の砲台が固定砲として機能するなか、ジークジオンとの戦闘が始まるのであった。




ガンプラ名 ガンダムNEX フルアームド
元にしたガンプラ ガンダムAGE-2

WEAPON ビームサーベル(ダブルサーベル)
WEAPON ハイパードッズライフル
HEAD ライトニングガンダム
BODY ガンダムAGE-2
ARMS ガンダムAGE-2 ダブルバレット
LEGS ガンダムキュリオス
BACKPACK ガンダムAGE-2
SHIELD ガンダムAGE-2

拡張装備 大型ビームランチャー×2(バックパック)
     ウイングバインダー×4(両肩)
     内部フレーム補強

ガンプラ名 ガンダムブレイカーインフィニティ
元にしたガンプラ ユニコーンガンダム

WEAPON ビームサーベル(Hi-ν)
WEAPON ビームライフル(ν)
HEAD ユニコーンガンダム
BODY フルアーマーユニコーンガンダム
ARMS ユニコーンガンダム
LEGS ユニコーンガンダム
BACKPACK Hi-νガンダム
SHIELD ユニコーンガンダム

拡張装備 レールキャノン×2(両腰)
     ニーアーマー×2(バックパック)
U字型ブレードアンテナ(頭部)
追加装甲板×2(両肩)
     内部フレーム補強

例によって活動報告にリンクが貼ってあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

答え合わせ

「希空っ!」

「ご迷惑をおかけしました」

 

 浮遊城から現れたジークジオンとの戦闘が始まった。ジークジオンに攻撃が集中するなか、ブレイカーインフィニティ達と共に参戦したNEXFAに気付いた奏はすぐに通信を入れる。

 

「何故ここに……。大丈夫なのですか?」

「はい。私も皆と戦いたいので」

 

 浮遊城との長い戦闘からかそもそも希空が復活したことを知らないラグナは驚きつつも彼女に問いかけると、改めて奏やラグナを前にして微笑みを浮かべながら答える。しかしその中には決してロボ助はいない。そのことに希空が暗い表情を浮かべていると……。

 

「……今はそんな顔をする時じゃない」

「パパ……」

「お前は何の為にここに来た」

 

 そんな希空に一矢が通信を入れる。久方ぶりに聞く父の声にピクリと震えた希空はサブモニターに映る一矢を見つめる。

 

「それは私にとって大切な人達守りたいから……。ずっと一緒にいたいから……」

「なら進め。この場にいなくてもお前の中にいる者は似たようなことを言うんじゃないか?」

「……うんっ」

 

 わざわざこのガンダムブレイカーズに来たのは好奇心などではない。

 ただ純粋に自分の願いを叶えるためだ。そんな彼女に一矢は彼の中に残る覇王達を振り返りながら話すと、その言葉にロボ助を想った希空は強く頷く。

 

「道は俺達が切り開く。お前はただ自分が(のぞ)むまま飛べ」

「分かった……。ねぇパパ……。これが終わったらママを交えて、いっぱいいっぱい話がしたいんだ」

「ああ。俺達の帰りを待ってるママもきっと喜ぶ」

 

 浮遊城の砲撃からNEXFAをアンチビームシールドを展開して庇いつつ、ジークジオンを見据える一矢の言葉に頷いた希空は最後に一矢に声をかけると、その言葉に穏やかな笑みを浮かべて頷く一矢を見て、NEXFAはストライダー形態へと変形してジークジオンへと向かっていく。

 

「おい、さっさと手を貸せ」

「やれやれ、愛娘とはえらく態度が違うものだな」

「当たり前だ。俺はまだお前を許しちゃいない」

 

 NEXFAが少しでも進みやすいようにと援護をする為、クロノに声をかける。最も希空と違い、どこか棘のある言葉に肩を竦めるクロノだが、そんな軽口も吐き捨てるように答える。

 

「だがお前の腕は認めている。お前と力を合わせれば、効率も良いと言う事もな」

「全く都合が良いものだ。だがゲームであれば、それもアリだろう。準備は良いかね」

「ああ。希空の道を切り開く」

 

 人間性はどうであれ、その実力は一矢は高く買っているのだ。リミットブレイカーとルキフェルは同時に飛び出すと、砲台を破壊する為に浮遊城へと向かっていく。

 

「我々はNEXの援護に徹する」

「翔さんも、ですか?」

「終わらせるのは躓いても前へ進もうとする彼女のような若者の方が良い」

 

 ブレイカーインフィニティをはじめとした歴代のガンダムブレイカー達も動き出す。

 翔の指示に優陽は尋ねると、果敢にジークジオンへ向かっていくNEXFAを見ながら、砲口を向けようとする浮遊城の砲台を狙撃して破壊する。

 

「歌音が頑張ってるんなら、ルティナも応えないとねッ!」

 

 フィールドには歌音の歌声が響き渡っている。ブレイカーインフィニティがシャルルのステージである浮遊城を落としたことで勢いが削がれ、優勢に立てたのだ。今もなお一心不乱に情熱に満ちた歌を披露する歌音に笑みを浮かべたシャルルはパラドックスを動かして、ジークジオンに向かっていく。

 

 ・・・

 

「残りの耐久値も少ない……。であれば……ッ!」

 

 ジークジオンの周辺で戦闘を続ける希空達。ジークジオンに幾度も攻撃を仕掛けるが、やはりその堅牢なまでの防御力を前に中々、有効打を出せずにいた。

 しかしプレイヤー側はそうではない。特にずっと戦っていたラグナ達はいくら彼らの実力が高かろうが、シャルルのデバフによる障害で耐久値は残り僅かと迫っていた。この状況にどうすべきか頭を悩ませたラグナはブレイカーブロディアはその機動力を駆使して、ジークジオンの背面に取り付くと、そのまま幾度となくGNバスターソードで斬りつける。

 

「っ!?」

 

 そんなブレイカーブローディアに対して、忌々しそうに目を輝かせるジークジオン。するとブレイカーブローディアに異変が起きた。何と自身を包むように赤い光が発生すると、ジークジオンの前に転移させられたではないか。

 

 次の瞬間、ジークジオンの背にある無数の棘が光り輝き、口から青い炎を吐く。回避するには間に合わず、ブレイカーブローディアは咄嗟にGNフルシールドを展開するが、全てを焼き尽くさんばかりの炎は少しずつフルシールドを溶かしていく。

 

「ガンダムブレイカー……貴様らさえいなければァッ!!」

 

 ジークジオンを操る者はブレイカーブローディアを憎々しげに見つめながら、炎の威力を強める。このままではフルシールドのみならず、ブレイカーブローディアその物が溶けてなくなってしまう。

 

 しかしその直前に頭部に無数の高火力を誇るビームが降り注ぎ、ジークジオンは攻撃を中断せざるえなくなる。ストライダー形態のNEXFAだ。ジークジオンが気付いたのも束の間、その隙にNEXFAはブレイカーブローディアを背に乗せる。

 

「希空、助かりました……。ありがとう」

「いえ、寧ろ間に合って良かったです」

 

 ブレイカーブローディアを背に乗せながら、ジークジオンの周囲を旋回するNEXFA。その間にラグナが希空に礼を口にすると、希空も安心したように微笑む。以前の希空ならばガンダムブレイカーを相手に助ける行為を一瞬でも渋ったかもしれない。でも今は真っ先に助け出したのだ。

 

「ハエのようにぃっ!」

 

 NEXFAに対して、ジークジオンが標的を定める。すぐに先程のブレイカーブローディアのように自身の目の前に転移させようと言うのだろう。しかしその前に上空から飛来した黄金の龍がジークジオンの腹部に突進し、その巨体を吹き飛ばす。

 

 《待たせた!》

「アナタは……」

 

 それはロボ太のスペリオルドラゴンであった。

 NEXFAに通信を入れるロボ太に、その姿を見て、希空は過去の記憶を思い出す。それは写真だ。幼い頃、両親のアルバムを見た時に今、映っている者はいた。

 

 《初めまして、かな。君に会えるなんて夢のようだ》

「ロボ、太……?」

 《うむ、だが話は後だ。これを終わらせて語り合おう。君が最も大切にしている存在も待っている》

 

 自身を見て、穏やかな声を発するこの存在の名を口にする希空。希空の問いかけるような呟きに頷きながら、起き上がろうとするジークジオンを見やる。

 ロボ太の言葉に頷いた希空はブレイカーブローディアと離れ、ジークジオンへと向かっていく。出し惜しみをせず、ありったけの火力を注ぎ込む。

 

「ちぃっ! 塵芥の分際でぇっ!」

 

 攻撃を繰り出すのは、NEXFAだけではない。多くの機体がジークジオンに攻撃を注ぎ込むなか、ジークジオンは真正面から迫るNEXFAに狙いを定めると、青き炎を解き放つ。

 

「白黒つける時だ」

 

 NEXFAに迫る全てを焼き尽くさんばかりの炎。しかしその直前にNEXFAの前に量子化して現れたトランザム状態のクロスオブレイカーがGNソードⅢを構える。

 

「私達はまだ何も分からぬ真っ白な明日を掴む」

 

 ジークジオンを見据える奏の瞳は虹色に光り輝いていた。GNソードⅢを媒体に解き放った虹色の光の刃は炎を容易く切り裂き、そのまま後ろに控えるジークジオンにも届いたのだ。

 

「今度は間に合ったな……」

 

 クロスオーブレイカーの一撃でジークジオンが大きく仰け反るなか、奏は安堵したように背後で健在なNEXFAを見やる。コロニーカップの時は間に合わなかったが、漸く自分の手で希空を助けられたことに安堵していた。

 

「ありがとう、奏お姉ちゃん」

「んんんっっっ!!!!? 希空!? 希空ーっ!!? 今、なんて!? もう一回!! ワンモア!! ワンモアァアアアアアアッッ!!!!!!!!」

「何も言ってませんよ」

 

 すれ違いざまに希空は奏にか細い声で礼を言うと、その言葉を決して聞き逃さなかった奏は噴出してしまいそうな衝撃を受けながら、希空に強請ろうとするが、微笑みを浮かべながら希空にあしらわれ、体勢を立て直そうとするジークジオンの頭上にたどり着く。

 

「確かに私は塵のような存在です……」

 

 ジークジオンが目を見開くなか、NEXFAはその全ての銃口をジークジオンへ向け、希空は静かに呟く。

 

「ですが私の周りには多くの人がいます。大切なものを教えてくれる人たちが……。例え塵に過ぎなくても、少しずつ集まれば塵でも大きくなれる……!」

 

 エネルギーが集まり、ジークジオンへ解き放つ。全てがジークジオンを貫き、やがてデータ体となって消滅するのであった。

 

 ・・・

 

「いよいよだね」

 

 ジークジオンの撃破後、半壊した浮遊城の中にクロノ、そして一矢がいた。ラスボスとも言えるジークジオンを撃破後、ガンダムブレイカーズは機能を停止してサイバー課によって制圧が行われていた。そんな中、彼らの前には玉座へ続く扉があり、クロノは愉快そうに手をつく。

 

「……犯人は誰だ? お前は知っているのだろう」

「焦る必要はない。この扉を開ければ分かることだ。さあ、答え合わせといこう」

 

 犯人はクロノの頓挫した計画を知っていた。一体、何者なのかを尋ねる一矢にクロノはわざと焦らすような様子で扉を開け、二人は玉座に足を踏み入れるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再び

「ふむ、ラスボスの玉座と考えれば、悪くはない内装だ」

 

 玉座にたどり着いたクロノは広い玉座を見渡しながら呟く。ブレイカーインフィニティの一撃によって、全壊に近い損傷を被った浮遊城はその中も例外ではなく、華やかな玉座も至る所で亀裂が走り、生々しい損傷が残っていた。

 

「さて、ゲームと言ったんだ。負けたのなら姿ぐらい現したらどうかね?」

 

 内装のデザインに感心するのも程々にクロノは広い玉座に響くように声を上げる。

 すると彼らの前にデータが構築され、やがて一人の人物を形成する。それはクロノと年齢の近い男性であった。

 

「……君、か」

 

 その人物を見て、僅かに間を置いてため息をつくクロノ。一矢はこの人物が何者なのか、クロノに視線を向けて問いかけると……。

 

「彼は我がイドラコーポレーションでCOOを勤めていた者さ。私が会社を設立した時から従事していてね」

「……お久しぶりですね、社長」

「今の私はその身分ではないさ」

 

 一矢の視線に気付いたクロノは目の前の人物についての説明を行うと、事実なのだろう。苦々しい表情を浮かべていた目の前の人物は何とも言えないような笑みを浮かべながらクロノに声をかけると、クロノはやんわりと首を横に振りながら否定する。

 

「何故、こんなことを……。30年前から関わっていたのか?」

「いや、あれは私が単独でやっていたことだ。彼には計画すら話しちゃいなかったよ」

 

 イドラコーポレーションのCOOが何故、今になってこのようなことをしたのか、その理由や30年前の事件と関わっているのかを問いかけると、かつての事件はクロノの単独犯だった為、首を横に振る。

 

「……そう、アナタは何も話してくれなかった。ニュースを見て、驚きましたよ。だが同時に何故、言ってくれなかったのですか……」

「……協力したかったとでも?」

「勿論です……。私がアナタと会社を立ち上げたのは、アナタという存在に強く惹かれたから……。常に物事を俯瞰的に見るアナタに私は……いや、社の者達は自分達とは違うのだと本能的に感じていました。故にアナタ共に行けば、私達が想像もつかない場所に連れて行ってくれると」

 

 元CCOの発言にどこか物悲しそうにクロノが問いかけると、元CCOはかつてのイドラコーポレーションでの日々を振り返り、あの日見たクロノの背中に思いを馳せながら答える。

 

「30年前、世界が一つになった。だが逆にそうでもしなければ世界はアナタに勝てなかったと言うことだ……。私もアナタのようになりたかった……。アナタの見ている光景をこの目に……」

「それが理由か……」

「ああ、そうだ。貴様には分からないだろう。例え非道な行いであろうとも、この方とならば進みたくなる気持ちが」

 

 確かに30年前、クロノが引き起こした事件は世界中から多くのファイター達が参戦した。それこそ異世界の者達も手を貸すレベルの話だ。それほどまでの規模の事件を引き起こしたクロノのようになりたいと語る元CCOの発言に一矢が理解し難そうに表情を顰めると、そんな一矢に気付いた元CCOは皮肉めいた笑みを浮かべる。

 

「……成る程。しかし私の計画の焼き回しと言うのはいただけない。どうせやるならば君のオリジナリティに富んだものでなければ意味がなかろうに」

「そういう問題じゃ……」

「私にとってはそういう問題だ」

 

 話を聞き終えたクロノは元CCOに自身の考えを口にする。

 しかしここまでの事件を引き起こしている為、そんなクロノに苦言を呈そうとする一矢だが、クロノは全く意に介さず一蹴する。すると元CCOの周囲にデータで出来た電子的な牢が形成され、拘束される。

 

「ふむ、もう特定したか。残念だが、ここまでのようだね」

「……社長、またお会いできて良かったです。願わくばその男ではなく、私の隣に立っていただきたかった……」

「ガンダムブレイカーズの内容に私の計画が使われてなければ、まだ一考したかもしれないな」

 

 これはサイバー課によるものだろう。名残惜しそうな元CCOにクロノは口ではそう言いつつも、特に興味はなさそうに答え、元CCOはサイバー課によって強制転移させられる。

 

「さっきの言葉……」

「はてさて。だが私はこの世で尊いとされる感情に疎くてね。そんな私が人と組んで真価を発揮できるものかな」

 

 元CCOがいなくなった空間で先程のクロノの発言について触れる一矢に、クロノは肩を竦めておどけながら話す。先程の言葉は本心か、それとも彼なりに元CCOを気遣った言葉なのかは彼にしか分からなかった。

 

「さてそれよりも、だ」

 

 何とも言えない空気が流れるなか、クロノは玉座の端を見やる。そこにはシャルルの姿があった。

 

「ずっと引っかかりを感じていた。仮に元CCO()の犯行だとしても、私の計画を知っているわけがないからね」

「どういうことだ?」

 

 シャルルを見やりながら、長らくの疑問を解消したようにどこか納得したように話すクロノ。しかしその言葉だけで理解できるわけもなく、一矢はクロノとシャルルを交互に見やりながら答える。

 

「私の計画を唯一知る者……。それは私が30年前に計画を実行する為、その補助として連れていたワークボットくらいだ。この事件を聞いた時から、何かしらで関わっていると思っていたが……」

「じゃあ、まさかこのシャルルは……」

「ああ。私のワークボットのAIだろう」

 

 シャルルを見やりながら、クロノはどこか懐かしみながら呟く。このワークボットはトライブレイカーズが活躍した新型シミュレーターのテストプレイのウイルス事件などよくクロノと行動を共にしていた。

 

「お久しぶりです、マスター」

「やはり、か。警察に押収されたとばかり思っていたが」

「私のAIはマスターが捕まった時点でネットワーク空間に移っていましたから」

 

 クロノの言葉に一度、シャルルは目を瞑ると微笑みを浮かべながら話し始める。いつものカタコトではないため、ワークボットのAIとして話しているのだろう。

 

「君から元CCO()のもとへ向かったのかね?」

「はい。マスターを狂信しているあの方ならば、私の提案に乗っていただけると判断しましたので」

「一連の事件はお前が首謀者だったのか……!?」

 

 ネットワーク空間に逃げていたのであれば、元CCOから接触することは難しいだろうならば考えられるのは、Aiから接触したことだろう。頷いたシャルルにてっきり元CCOによるものだと考えていた一夜は驚きながら問いかける。

 

「30年前、マスターが失敗した場合、何故失敗したのか、その失敗点を省みて更に向上させたゲームを作るのが、ワークボットたる私の務めだと考えていましたから」

「君としてはガンダムブレイカーズは私のゲームの続編だということか」

 

 シャルルを通じて放たれるAIの言葉。あくまでAIは自身に宛てられた仕事としてガンダムブレイカーズを作成していたという。そんなAIの言葉にクロノは思案しながら呟く。

 

「しかし解せないな。君はあえて攻略の糸口を作っていたように感じる。私のワークボットがそのような些細な点を見落とすとは思えんのだがな」

「簡単です。元CCOは攻略の出来ない代物にしようとしていましが、いくら向上させようが攻略できないゲームなどゲームではない。難易度は底上げしつつ、ちゃんと攻略ポイントは用意しました。私はあくまでゲームとしてガンダムブレイカーズを作成したのですから」

 

 とはいえ、歌音ごとシャルルのアバターを乗っ取らなかったり、希空の拘束を緩めたりとどうにも抜けがあるのだ。そんなアクロノの指摘にAIが微笑みながら答えると、一瞬、間の抜けた表情を浮かべたクロノも愉快そうに、そうかと笑っていた。

 

「ネット上のシャルル・ティアーナのデータを元に演じていましたが、やはり歌ではオリジナルに勝てませんね。それに……ガンダムブレイカーズも攻略されてしまいましたし」

「ああ、君は十分にやってくれた」

 

 この結果にどこか悔しそうに、それでいて満足そうに話すAIにゆっくりと近づいたクロノはシャルルの頭を撫でながら、シャルルを通じてAIを労う。

 

「……まさかマスターにこのようなことをしていただけるとは」

「私とて愛着を抱くくらいの感情はあるさ」

 

 クロノに頭を撫でられ、気恥ずかしさを表すように頬を染めるシャルルことAI。そんなAIにクロノはまるで娘に接するかのようなどこか穏やかな笑みを浮かべていた。だが、そんな時間も長く続くことはなく、AIが使用するシャルルのアバターはサイバー課の電子牢に囚われる。

 

「ではマスター。またいつか」

 

 元CCO同様、強制転移が始まる。最後にAIはクロノにそう言い残して、消え去るのであった。

 

「……愛着か」

「意外かね」

「正直な。だが……悪いことじゃない」

 

 一矢とクロノしかいなくなった空間で一矢が先程のクロノの発言について振り返ると、その言葉をわざわざ触れられたくなかったクロノはどこか不機嫌そうに聞く。その様子に軽く笑みを浮かべた一矢はクロノと共に玉座を去るのであった。

 

 ・・・

 

「希空ぁーっ!!」

 

 同時刻、現実世界で希空は奏達と合流しており、会って早々に奏に抱きつかれてしまい、挙句の果てにはその柔らかな頬に幾度となく頬ずりをされる。

 

「あの、ロボ助は……?」

 

 最初は久方ぶりに再会したと言うこともあり、されるがままにしていた希空だが、その内、鬱陶しくなってきたのか奏を押し退けながらロボ助について尋ねる。

 するとこの場にいる者達はどこか複雑そうに目を伏せる。ロボ助はボスキャラとして戦った。その理由が理由であれ、最後にはボスキャラとして消滅したのだ。現にロボ助のシミュレーターからロボ助は出てこない。

 奏達の視線から、そのシミュレーターにロボ助がいることを悟った希空はすぐに駆け込むと、扉を開けて、そこで眠るように機能を停止しているロボ助を発見する。

 

「ロボ助……? ねぇロボ助……? 全部終わったよ……。私……頑張ったよ……?」

 

 反応のないロボ助を揺さぶりながら、声をかける。しかし一向に反応のないロボ助に希空の声色はどんどん震えていく。

 

「やだ……やだぁっ……! ロボ助っ……!」

 

 やがて希空の目尻に薄らと涙が浮かぶ。何より代えられないロボ助の存在を失うのが一番耐えられなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《──泣かないでくれ、希空》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと耳に馴染み深い声が届いた。顔を上げれば、先程まで光の灯っていなかったカメラアイが静かに光り、その瞳は希空を見つめているではないか。

 

「ロボ助……?」

 《兄上が……私が消滅する間際にバックアップを取っていてくれてね……。お陰で復元することが出来た》

 

 頬に涙が伝うなか、本当に現実なのかと希空は目を疑っていた。そんな希空の頬に伝う涙を指先で優しく拭いながら答える。

 

 ・・・

 

「ふぅ……これで終わりだな」

 《すまないな、カドマツ》

 

 地上では、白髪交じりの髪を撫でながらカドマツが一息ついていた。今、カドマツが行っていたのはロボ太が取ったロボ助のバックアップデータであり、それを調整して、コロニーのロボ助へリカバリしていたのだ。一息つくカドマツにロボ助が労う。

 

「そりゃあ良いけど、なんで私まで手伝わされなきゃいけないんだ!」

「良いだろ別に。お前だって気が気じゃなかったくせに」

 

 するとカドマツの後ろで幼さのある女性が声をかける。モチヅキだ。ずっとカドマツを手伝っていたのだろう。全てが終わり、途端に文句を言い出す彼女をカドマツが宥めていた。

 

 《まさか二人が結婚していたとはな……》

 

 そんな二人のやり取りを見ながら、ロボ太はどこか苦笑気味に呟く。そう、カドマツとモチヅキの左手の薬指には指輪がキラリと輝いているのだ。

 

 《さて、柵はなくなった。後は好きにするといい》

 

 そんな二人を他所にロボ太はコロニーへと続く空を見上げ、弟と友人の愛娘に思いを馳せるのであった。

 

 ・・・

 

「そんなことが……」

 

 ロボ助が目覚めた後、丁度、希空はロボ助がボスキャラとなり、最後には己を犠牲にして希空を救った顛末を聞き終えていた。

 

 《すまない希空、それに皆……。私の独断で行った行動で皆に迷惑をかけてしまった》

「……許さないよ」

 

 リカバリしたとはいえ、合わせる顔がないロボ助はそれでも深々と謝罪をする。しかしそれを一蹴したのは希空であった。

 

「私の為でもロボ助に傷ついて欲しくない。それなのに……ロボ太がいなかったら、どうなってたか……。だから許さない」

 《希空……》

 

 珍しくロボ助に怒気を含んで言葉をぶつける希空。ここまで怒りを見せる希空にロボ助も何と言っていいか言葉を失ってしまう。

 

「……だから」

 

 よりにもよって希空に許されないことに罪深さを感じて頭を垂れるロボ助。そんな彼の頭部に希空が腕を回す。

 

「これからもずーっと傍にいてくれないと許さないんだから」

 

 ロボ助を深く抱きしめながら話す希空。今回のことで大切な存在を失うことの恐ろしさを理解した。そして自分の為に誰かが傷つくのも……。そう考えると再び涙が溢れそうになる。

 

 《……ああ。繋ぎ留めることが出来たのだ。もう君を傷つける真似はしないよ》

 

 身体を震わせる希空を感じて、ロボ助は落ち着かせるように彼女の背中を撫でる。もう二度と彼女にこのような想いをさせてはならないと深くデータに刻みながら。

 

「希空がそういうのであれば我々も何も言うべきではないですね」

「うむうむっ。だが今度、希空を泣かせるような真似をしたら………………分かっているな、ロボ助?」

 

 そんな希空とロボ助の姿を見て、穏やかな笑みを浮かべるラグナに頷く奏。しかし最後にはあまりにも冷淡な声でロボ助に声をかけており、よく見ればその瞳も虹色に輝いていた。そのあまりの迫力に機械の身であるロボ助も震えるのであった。

 

 ・・・

 

「ふぅ、グランドカップに向けてのガンプラ……漸く仕上げられたぞ」

 

 ガンダムブレイカーズの事件から数日後、病院の検査やマスコミの取材など忙しい日々が漸く落ち着き、学生寮で奏は身体を伸ばしながら、目の前の作成し終えたガンプラを見やる。それはクロスオーブレイカーを改修したガンプラであった。

 

「シーナ・ハイゼンベルク、か」

 

 ふと奏の口からシーナの名が出てくる。父と共に自身のベースとなった人物。奏がGB博物館でガンダムブレイカー0にシンパシーを感じたのも必然なのかもしれない。すると奏の携帯端末にメールが届く。相手は父である翔であった。どうやら自分を呼び出しているらしい。

 

「……行くか」

 

 呼び出しがあるのなら行かねばなるまい。奏はクロスオーブレイカーを改修したガンプラ……ガンダムブレイカークロスゼロをケースにしまうと、父が指定した場所へ向かうのであった。




苗字しかないキャラをくっ付けた場合、どう表現したらいいか分からんぜよ

それと後、2、3話でEX編が終わります。

ガンプラ名 ガンダムブレイカークロスゼロ
元にしたガンプラ ダブルオーライザー

WEAPON GNソードⅢ(射撃と併用)
HEAD ダブルオーガンダム
BODY ダブルオーガンダム
ARMS ガンダムAGE-FX
LEGS ガンダムAGE-FX
BACKPACK ダブルオーライザー
SHIELD GNシールド(ダブルオー)
拡張装備 サイドバインダー×2(オーライザーの機体部分をすっぽり挟むように)
     大型レールキャノン×2(背部)
     ニーアーマー×2(両脚部)
     内部フレーム補強
カラーリング どちらかと言うとダブルオークアンタより

例によって活動報告にリンクが貼ってあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

偉大なる父のように、柔らかな母のように

 アスガルドのコロニーの町並みで一際賑う場所がある。多くの施設が立ち並ぶなか、ガンプラバトルの大会が行われていると言うこともあり、盛り上がりを見せているのは、トイショップであるブレイカーズだ。今では複数の店舗があり、コロニーにまで進出した店舗に奏はやって来ていた。

 

「久しいな」

 

 なぜならば、ここに父によって呼び出されたからだ。世界から隔離されたかのように昔からその容姿が変わらない父を見て、奏はどこか複雑そうな笑みを浮かべる。

 

 父がガンダムブレイカーズの一件で手を貸してくれたのは知っているし、父の一撃が突破口となった。父はあまりにも大きくそして誇らしい存在なのだ。

 

 だが同時に奏は自分の出生に関する情報を知ってしまっている。父は今まで他と変わらぬ人間として育ててくれた。そんな父が隠していた事実を知ってしまったことはどこか申し訳なく感じてしまうのだ。そんな仲、翔と合流し、他愛のない会話も程々に翔達は近くの喫茶店に移動してお茶にする。

 

 ・・・

 

「ラグナから話は聞いた。部費でMGディープストライカーを購入しようとしたらしいな」

「ぶはぁっ!?」

 

 翔の容姿だけで見れば、奏とは兄妹のように見えるかもしれない。

 しかし彼の纏う神秘的な雰囲気はやはり常人とは違う異質さをある。喫茶店で和やかな時間を過ごすなか、何気ない翔の言葉にコーヒーを啜っていた奏は噴出す。

 

「前はPGソレスタルビーング号を購入しようとしたと言うのも聞いている」

「な、ななななんのことか……」

「MS少女みらくるのあ……なるものを作成しようとしたと言うのも……」

「み、未遂だ未遂! ただ構想を挙げただけで……。でも、あの時の生理的に嫌悪した目で見てくる希空を思い出すだけで……」

 

 淡々とラグナから聞いた話を羅列していく翔に奏は誤魔化そうとするが、最後の言葉に至っては当時のことを思い出して、青白い顔でぶるぶると震えていた。

 

「……変わらないようで何よりだ」

 

 表情こそ変わらぬが、どこか柔らかな口調で話す翔。その言葉に奏は何か思ったようで……。

 

「そう、かな?」

「ああ。お前の本質は変わらない。人は出会い一つで変わる。良いようにも悪いようにも……。お前には良い出会いに恵まれていたのだろうな」

 

 改めて父にそう言ってもらえるのは嬉しかった。思わずおずおずと問いかける奏に翔は安心させるように穏やかな口調で話す。

 

「そうだな。私は恵まれている……。善き兄に善き妹分、善き友人達……そして善き父を持った」

「……」

「ありがとう、父さん。私を一人の人間として育ててくれて」

 

 ラグナ、希空、多くの友人達、そして何よりは目の前の翔がいたからこそ今の自分が形成されている。自分を挙げられたことで動きを止めている翔に奏は改めて感謝の言葉を口にする。

 

「私にはきっと…………秘められた多くの事実があるのだろう。だが、この世界に生きる【如月奏】以外の事実は不要だ」

「……そうか」

 

 シーナ・ハイゼンベルクも異世界のこともこの世界で生きる分には全く必要のない情報だ。故にこの世界の住人たり如月奏には如何なる事実も無用なもの。その言葉を聞き、翔も奏を呼び出して、言おうとした言葉を飲み込んだ様子であった。

 

「起きてしまったことは変えられない。俺から言うことがあるのであれば……お前の中に秘めたセンスはお前にとって呪いのように感じられる時があるかもしれない。しかし……」

「無用だ。父さんは昔、人間か否かではなく自分は人間だって胸を張って良いと言ってくれた。今の私にはあの言葉だけで十分だ」

 

 奏の覚醒を感じ取ったから、翔はアスガルドまでやって来た。ならばせめてエヴェイユについてどう向き合うべきかその助言をしようとするが、それさえも奏は突っぱねる。

 

「そうか……。杞憂だったようだな」

「そうでもない。久方ぶりに父さんに会えて良かった」

 

 奏が覚醒したことにより、もしかしたら彼女は暴走する可能性があると考えていた。

 しかし実際に彼女と接してみれば、一皮剥けたような物腰の柔らかさに安堵した。だが実際、奏が奏のままでいるのは、やはり彼女を取り巻く周囲の人々の影響が大きいと言える。

 

「父さん、一つ頼みがあるのだが」

 

 すると奏は翔にある頼みごとをするのであった。

 

 ・・・

 

「すまないな、父さん」

 

 喫茶店を後にした奏と翔が移動したのは近くのゲームセンターだ。

 人で賑う雑多としたゲームセンターのガンプラバトルシミュレーターの前で奏は翔に声をかける。

 

「ガンプラバトルがしたいと言うのなら、断る理由はない」

「ありがとう。知りたいんだ。私の全力を……。それを唯一、ぶつけられる父さんとバトルすることで」

 

 奏が翔に持ちかけたのはバトルの誘いであった。翔もバトルその物に異論はないのか、穏やかな笑みを浮かべていると奏はガンダムブレイカークロスゼロを取り出しながら話す。

 これまで覚醒後、模型部員達とバトルしたところで自分の中のエヴェイユの力を発揮できず、どことなく不完全燃焼のようで虚しさを感じていた。だが、翔が相手であればそれも解消されるだろう。早速、翔と奏はシミュレーターでVR空間にダイブし、出撃するのであった。

 

 ・・・

 

 バトルフィールドに選ばれたのは地球を眼下に見下ろせる宇宙空間であった。一対一のバトルと言うこともあり、翔のブレイカーインフィニティと奏のブレイカークロスゼロは早速、お互いを捉える。

 

 すぐに動いたのは翔であった。ビームライフルをブレイカークロスゼロに向け、引き金を引く。その精確無比な狙撃はブレイカークロスゼロに鋭く向かっていくが……。

 

 何とブレイカークロスゼロはトランザムを発現させて、量子化したではないか。

 

「やはり……受け止めるか」

 

 するとブレイカークロスゼロはブレイカーインフィニティの真横に現れて、GNソードⅢの刃を振り下ろす。しかしブレイカーインフィニティは動揺することなく、ビームサーベルを引き抜いて受け止めたではないか。だがこれは奏も予想していたようだ。

 

「出し惜しみはしないッ!」

 

 下手な戦いでは翔には通用しない。であればと早速、奏はその瞳を虹色に輝かせる。鍔迫り合いになっていたブレイカーインフィニティの目の前でブレイカークロスゼロが消え去った。直感で感じ取った翔が振り返れば、そこには既に刃を走らせるブレイカークロスゼロの姿が。

 

 すぐにシールドで防ぐブレイカーインフィニティだが、ブレイカークロスゼロの薙ぐような一撃に吹き飛ばされる。しかしブレイカークロスゼロは瞬時にブレイカーインフィニティに回り込んだのだ。

 

「そうか……。ならば」

 

 ブレイカークロスゼロはカスタマイズしたオーライザーに備わる武装を放とうとしている。それを横目に見た翔はゆっくりと目を閉じると、ブレイカーインフィニティに異変が起きる。それはブレイカーインフィニティがNT-Dを発現させ、変形を始めたのだ。

 

 ブレイカークロスゼロの射撃が着弾し、爆炎が上がるなか、ブレイカーインフィニティは姿を現す。一角の角が割れ、内に秘める真の姿を現したガンダムがそこにおり、ファイターの翔の瞳も虹色に輝いていた。

 

 サイコフレームの燐光を輝かせるその神々しい姿に無意識に息を呑む奏。ブレイカーインフィニティはガンダムブレイカーズに参戦した時も終始ユニコーンモードで戦っていた。だが浮遊城を一撃で沈めたりと規格外の力を見せつけていた。それがデストロイモードを発現させたこともあり、その実力は未知数なのだ。

 

 だが例えなんであれ、自分は自身の全てを解き放って挑むのだ。ブレイカークロスゼロはCファンネルを全て放つと、鎖を外された獰猛な獣のようにブレイカーインフィニティに襲いかかろうとする。

 

 対してブレイカーインフィニティは常に落ち着いた素振りを見せている。迫るCファンネルにフィンファンネルを放ちつつ、ブレイカーインフィニティに向かっていく。

 

「望むところだッ!」

 

 迫るブレイカーインフィニティはビームトンファーを露にすると、奏は笑みを浮かべながら真正面からブレイカーインフィニティに向かっていく。次の瞬間、ブレイカーインフィニティとブレイカークロスゼロの剣戟が始まる。それは見る者を釘付けにさせるような超越的なものであった。

 

 人より進化したエヴェイユという種。惜しみなくその力を発揮する二機の動きは常人には目で追うのもやっとだろう。

 

「くっ!?」

 

 ビームトンファーとレールキャノンを駆使して放たれる嵐のような猛攻を前に激しい損傷を受けるブレイカークロスゼロ。思わず表情を顰めた奏だがすぐに笑みを浮かべる。純粋に楽しかったのだ。ここまで自分が全力でバトルをしたのは本当に久方ぶりだ。しかもそれがウイルスなどの心をすり減らすようなものではない。

 

 両腕をクロスさせて放たれた一撃を受けて、ブレイカークロスゼロは大きく吹き飛ぶ。すぐさま体勢を立て直したブレイカークロスゼロは既にビームライフルの銃口をこちらに向けるブレイカーインフィニティの姿を捉えた。

 

 同時に引き金が引かれる。真っ直ぐ伸びたビームが突き刺さるようにブレイカークロスゼロに届く……が、その瞬間、ブレイカークロスゼロは量子化する。

 

「これが今の……私だッ!!」

 

 ブレイカークロスゼロはブレイカーインフィニティの目の前に姿を現すと、突き上げたGNソードⅢの刀身を媒体に強大な光に刃を発生させると、そのまま勢いよく振り下ろす。

 

「……成る程。曇りはない」

 

 ブレイカークロスゼロの一撃をシールドを構えて、受けるブレイカーインフィニティ。さしもの翔とは言え、無傷で済むわけなく、美しい純白の装甲に痛々しい損傷が目立つが、反して翔の声色は落ち着いていた。

 

「だが、お前はまだまだ強くなれる」

 

 するとビームトンファーの刃を広げ、二つの光の刃を形成する。まるで光の翼のように広がるその刃が交差するように放たれ、全霊を懸けた一撃を受けたブレイカークロスゼロは撃破されるのであった。

 

 ・・・

 

「もう少しここにいらしたら良いのに」

「優陽はそうするつもりのようだが、俺はそうはいかない」

 

 バトルを終えた数時間後、コロニーの宇宙港では翔と奏にラグナが合流していた。翔が地上に帰る時が来たのだ。名残惜しそうにするラグナに翔は微笑む。翔も今ではブレイカーズを複数店舗持つような人物だ。いつまでもコロニーにいるわけにはいかない。

 

「奏のことを頼む。お前になら俺も安心して任せられる」

「光栄です」

 

 露骨に寂しがっている奏を一瞥しながら、ラグナに奏を任せる翔。翔からの信頼を感じ取ったラグナが微笑んでいると、そんな彼の頭にそっと翔の手が乗せられる。

 

「なっ……あっ……」

「本当に大きくなったな……。お前に多くを任せてすまない……。奏も……そしてお前も……俺の自慢だ……。少しでも辛く感じたら言うんだぞ。その時はいくらでも寄り添い、お前の為だけの力になろう」

 

 優しく柔らかに頭を撫でる翔にラグナは途端に赤面する。

 翔の目には彼を引き取った時の幼い頃のラグナが重なって見えていたのだ。今では自身の身長をも超えるほど成長したが、翔にとってはいくら図体が大きくなろうと愛する存在の一人に過ぎない。

 

「……僕は負担に思ってません。ただアナタが僕にしてくれたことを他の誰かにしたい……。ただそれだけなんです」

「……」

「ありがとう、父さん。アナタの背中を僕はこれからも追い続けます」

 

 するとラグナは今まで希空達に見せていた厳格な態度ではなく、まだ若い青年のようなどこかあどけない様子を見せながら、翔に感謝の言葉を口にする。

 

「……チラッチラッ」

 

 そんな翔とラグナのやり取りを見て、羨ましくなったのかそっぽを向いて露骨な咳払いをしつつ、奏が口に出しているようにチラチラと翔を見ていた。そんな奏の様子に苦笑した翔は奏の頭にも手を置く。

 

「……奏、今のままであればお前の力はラグナ達には及ばないだろう」

「……えっ」

「……確かに力が強かろうと、ラグナ達にはそれを上回る経験がある。いくらでも対処することだろう」

 

 鼻歌を歌いそうなレベルで頬を緩ませる奏だが、翔の言葉に固まる。覚醒した自分の力に自信はあったのだろう。それが及ばないと言われたのは地味にショックだったようだ。だがそれには理由がある。

 

「だが逆に言えば、まだまだ伸びしろがお前にはある。諦めなければ何れは届く。もしまた自分の力を確かめたくなったら来い。それに……道に迷ったときもな」

「……ああ。だが迷うようなことはないさ」

 

 奏もまだまだ成長途中だ。これからいくらでも目覚しい活躍をしていくだろう。

 その時、培った経験を元に強くなり、そんな自分を試したくなったらいくらでも相手になる。それ以外にも、エヴェイユに悩まされるのなら、その時も寄り添うつもりだ。しかし後者は奏にとって不必要なのだろう。安心させるような笑みを浮かべた奏に翔は頷く。

 

「それではな、俺の愛しい子供達」

 

 地球行きの便がもうそろそろ出発する。翔は最後にラグナと奏に微笑む。それはまるで慈しむかのような優しく暖かな女性のような笑みだ。その姿に奏は何か重なるものを感じながらも、翔と別れるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絆∞Infinity

 澄み渡るような青空が広がるバトルフィールドで幾度となく交差しながら激しいバトルが行われている。一機はNEX、そしてもう一機はZマックスだ。希空がガンダムブレイカーズに参戦する前にヨワイに口にしたバトルの約束。それを果たすために行われていた。

 

「後ろ、いっただきっ!」

 

 ストライダー形態のNEXとウェイブライダーのZマックスによるドッグファイトが始まった。NEXの後ろをとったZマックスがビームカノンを放ちながら、NEXを追い詰めようとする。しかし希空はモニターを一瞥すると、軽やかに旋回して回避して、そこから更に目まぐるしい空中戦闘に発展していく。

 

 

「まだまだぁっ!」

 

 活発に声を上げるヨワイと共に無数のマイクロミサイルが放たれる。NEXのみに集中したマイクロミサイルが迫るなか、機体を変形させたNEXは薙ぐようにハイパードッズライフルの引き金を引き、たちまちミサイルを破壊する。

 

「見えない……!?」

 

 誘爆したミサイルの影響でZマックスの前方を遮るように爆炎が上がる。

 NEXどころか視界さえ悪いこの状況にヨワイが顔を顰めていると、目の前の爆炎からNEXが飛び出してきて、ビームサーベルを振り下ろしてきたではないか。

 

 咄嗟にビームサーベルで受け止めるが、シールドによる打突を受けてZマックスはよろけてしまうが、その瞬間、すれ違いざまにNEXに切り裂かれ、爆発四散するのであった。

 

 ・・・

 

「ぬあぁ!?」

 

 希空の勝利で終わったこのバトル。シミュレーターから出てきたヨワイが頭を抱えて天を仰いでいると……。

 

「知ってた」

「分ってた」

「弱かった」

「うっさい!!」

 

 バトルを見ていた模型部員達から次々にヨワイへ放たれた言葉に涙目を浮かべながら反論していると、シミュレーターから同じく希空も出てきていた。

 

「ありがとうございます、ヨワイさん」

 

 微笑みを浮かべながら、バトルに応じてくれたヨワイに感謝の言葉を口にする希空。最もそんな希空にヨワイはそっぽを向いていた。

 

「……負けた、けど今度は勝つし」

「今……負けたって……」

「フンッ、アタシだって、ちゃんとガンプラファイターが相手なら認めるもんは認めるわよ」

 

 するとヨワイは負けを認めたのだ。初めて彼女の口から聞いた負けを認めた発言に希空が驚いていると、ヨワイは相変わらずそっぽを向きながらも、頬を染めながら答える。

 

「勘違いしないでよ。アンタの道がまた逸れるようなら、その時は認めないんだから油断すんじゃないわよ」

「肝に銘じます。でもその時は……ヨワイさんなりに手を伸ばしてくれるんですよね?」

「……腐れ縁だし、アンタは手がかかるから仕方なくって奴だし」

 

 とはいえ、以前の希空を知っている為、釘を刺す。希空自身もそのことは理解している為、重々しく頷きながらも、どこか甘えたような素振りでヨワイに問いかけると、彼女はどこか照れた様子で話していた。

 

「ヨワイさんは私よりもファイターとして格上だと思っています。だからこれからも傍で勉強させてください」

「そ、傍って……っっっ~~~……じゃ、じゃあ……離れないようにしときなさいよ」

 

 そんなヨワイに希空は両手を握りながらまっすぐ彼女を見つめて話すと、その言葉に湯気が出そうなほど赤面したヨワイは唸りながらもボソボソと答えるのであった。

 

 ・・・

 

 《さあいよいよ、グランドカップ当日を迎えましたー!!》

 《お待ったせシマシター!!》

 

 時が過ぎ、いよいよグランドカップ当日を迎えた。場所は静止軌道ステーションであり、VR空間ではミツバとシャルルによるアナウンスが行われていた。

 

「遂にこの日が来ましたね」

「うっむ……。緊張しないと言えば嘘になるな」

 

 かつて両親が訪れたことのある場所で希空は緊張した様子を見せながら呟くと、その隣では奏も生唾を飲み込んでいた。

 

「紆余曲折あったとはいえ、ここまで来たのは君達の実力だ。後は君達の絆が試される時です」

 

 そんな彼女達にラグナが声をかける。今日のグランドカップの為に出来る全てのことはした。後は栄光を掴み取れるか否かだ。

 

「であれば……はい。色々あった分、育まれています」

 

 ラグナの言葉を受け、希空はロボ助と奏、ラグナを見やる。ここまで確かに色々なことがあり、様々な感情を抱いてきた。だがそれら全てを乗り越えた今、強さとなっているはずだ。

 

「よし、ここはお互いの絆を感じあう為に抱擁を交わそう! YES希空YESタッチ!」

「GO刑務所」

「そんなっ!?」

 

 すると奏はどさくさに紛れて希空に抱きつこうとするが、流れるように避けた希空の一言にショックを受けていた。

 

「騒がしいな」

 

 そんな希空達に声がかけられる。ふと見れば、そこには一矢、ミサ、ロボ太の姿があったではないか。

 

「パパ、ママっ……!」

「久しぶり、希空。大きくなったね」

 

 両親を見て、希空の表情がどことなく明るくなる。

 この場にいると言うことは一矢達もまたグランドカップの参加者であろう。そんな希空にミサもついつい微笑みながら、心身ともに成長した希空を感じ取り、嬉しそうに話す。

 

「……」

「ねぇ一矢、今大きくなったでなに考えた?」

「……いや別に……。…………………………もう怪我したくない」

 

 ミサの一言に一矢はスッと目を逸らす。そんな一矢にしらーっと白けたような目で希空の胸部を見ながら話しかけるミサに一矢は何も答えず誤魔化していた。いや、これでも昔に比べたら絶壁ではないんですよ、多分。

 

「初めまして、ロボ太」

 

 そんな両親を他所に希空はロボ太に声をかける。こうして出会うのは初めてであり、アルバムの中の存在であったロボ太に会えたことは何より嬉しかった。そんなロボ太も希空に瞳の液晶パーツを使って、笑みを浮かべており、そのままロボ助を見やると、笑みを交わしていた。

 

「パパとママにいっぱい話したいことがある。でもその前に……今の私を伝えたい。私なりのやり方で」

「ああ。俺達もその方が分かりやすい」

 

 改めて両親に向き合いながら、どこか清々しい様子で話す希空。そんな希空に一矢は頷きながら、ミサと共に微笑む。

 

 《さあいよいよバトルを始めちゃってクダサーイっ!!》

 

 そうしているとシャルルの出撃を促す声が響き渡り、笑みを浮かべて頷きあった希空達はシミュレーターに向かっていく。

 

「……色んなことがあった……。でも……大切な人達がいたから、その全てが今の私になった。だから今を楽しむよ。それが私だと思うから。だから……」

 

 NEXFAのコックピットでVR空間に築かれていくカタパルト画面を見つめながら、これまでを振り返って希空は呟く。

 

「雨宮希空、行きます!!」

 

 自分を見出した彼女は何かに囚われることなく、一人の少女は明るい未来を目指すようにただ純粋な笑みを浮かべて、飛び立つ。この光の先の未来はなにが待つか分らない。だからこそ飛び立つ価値があるのだと。

 

 ・・・

 

「始まったね」

「タウンカップであの人達相手じゃなかったら、ルティナがあそこにいたのになぁ」

「仕方ないよ。あのチームを相手に一人で勝てるわけないって」

 

 そんなグランドカップの様子を中継で見ていたのは優陽であった。その隣には優陽に奢ってもらったアイスを無邪気に頬張るルティナが。

 

「それより歌音も大変だね。折角、姫川歌音として少しずつ活動を始めたのに、シャルルも平行するなんて」

「事件があってもシャルルちゃんの人気はスゴイからね。流石にそう簡単には辞められないよ。でも今の歌音ちゃんは前より楽しそうだよ」

 

 口元にクリームをつけながらルティナは優陽の携帯端末に映るシャルルを見ながら呟く。そんなルティナの口元をハンカチで拭いながら、優陽はここ最近の歌音について話す。そう、あのウイルス事件の後、歌音も少しずつではあるが姫川歌音として活動を始めているのだ。

 

「──しっかし30年ぶりに来たけど、すっげぇ進歩してんな」

「復興が忙しくて、来れなかったからね」

 

 するとそんなルティナたちの後ろでコロニーの町並みを見ながら呟いているの男女の姿があった。どちらも特に男性は鍛えているのか若々しい見た目だが、その年齢は一矢達を僅かに上回るほどだ。とはいえ、男性の方は傍から見て分るほど身体に古傷を残していたが。

 

「おとーさん、おかーさん、バトル始まっちゃうよ」

 

 そんな二人にルティナが声をかける。すると女性はごめんねと詫びながら、男性の手を取るとルティナ達のもとへ向かう。

 

「それにしてもお前は目が離したら、こっちに来てるんだもんな」

「如月翔を倒そうと思って。おとーさんが一番強いんだから、ルティナがそれを証明しようと思ったんだよー」

 

 ルティナたちの下に駆け寄りながら、男性は困ったような様子で後ろからルティナの頭をワシャワシャと撫でると嬉しそうに無邪気に笑っていた。

 

「さあてと約束を果たしにきたぜ、一矢。互いに別々の未来を歩んだけどお前はどれくらい強くなった?」

 

 男性は中継に映る一矢を見ながら、穏やかな笑みを零す。

 この男性こそシュウジであり、その隣にいるのは彼の妻であるヴェルだ。

 気付けば30年も経ってしまったが、だからこそお互いどれほど成長しているか楽しみでもある。誰もが見守るなか、グランドカップが始まるのであった。

 




これにてEX編は終わりです。長らくお付き合いありがとうございました。


さて、実はここでお知らせです。


ここまでお付き合いいただいたお礼も兼ねて、近日公開予定のガンブレディオである意味で読者様達に関わるある発表をしたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

60000UA記念小説
世界を翔ける


今回はお祭りのような内容です。

なので深く考えないでください。

もう一度言います。

今回はお祭りです。ついでに後書きの一番最後におまけもあります。


「私に一体、何の用でしょうか?」

 

 ガンダムブレイカーズ事件から一年後、アスガルドのとある喫茶店に呼び出された希空と付き添いのロボ助は向かい側に座る自身を呼び出してきた人物を見やる。

 

「溜めることなく早速、本題かね? 君は父親のように性急だ」

 

 そこにいたのは、あのクロノであった。刑期を終えたクロノはつい最近、釈放されたという話は耳にしていたが、よもや自分をわざわざ呼び出してくるなんて思いもしなかった。そんなクロノはわざとらしくため息をつき、希空は苛立ちを覚える。

 

「……帰らせていただいても? アナタが信用するに足る人物ではないことは良く聞いています」

 

「まあ待ちたまえレディ。今の私は真っ黒だった30年前に比べて、多少はグレーになっているよ」

「……白くはなってないんですね」

 

 スッと立ち上がって、この場を後にしようとする希空とロボ助を軽笑しながら引き止めるクロノの言葉に、頭痛を感じながら希空は再び椅子に座る。

 

「って言うか、何故、私の連絡先を知っているのでしょうか」

「それはプライバシーに関わる問題だ」

「私のプライバシーは明後日の方向に流されているのですが。また刑務所に戻りたいんですか?」

 

 そもそもの問題は何故、クロノが希空の連絡先を知っているかだ。

 希空がまずクロノに連絡先を教えるなんて、あり得ないことだろう。そのことを指摘するのだが、クロノは答える様子もなく頭痛を感じてしまう。

 

「今回は君に私が開発したゲームへの招待状を持ってきた」

「…………………………………………」

「無言で席を立つのは止めたまえ。君はゲームのイベントの類はスキップする性質かね? 最後まで聞くのだ。さあ早く席へ」

 

 話を戻し、顎先に手を組みながら、ニヤリとした笑みを浮かべるクロノ。その笑みを見た希空とロボ助は問答無用で立ち上がり、この場を後にしようとするのだが、クロノによって再び引き止められる。

 

「ゲームのタイトルはNewガンダムブレイカーズだ」

「……」

「おっと席を立たないように。ステイ」

 

 話を戻し、遂に彼が開発したというゲームの名を堂々と口にする、が、希空は嫌な予感しかしない。今度こそ帰ろうとするのだが、その行動を見越したクロノにその寸前で止められた。

 

「なに安心したまえ。今の私は果てしなくグレー。Newガンダムブレイカーズは審査に出しても全年齢対象のAを獲得できるほど、安全かつ楽しめるゲームだと自負している。レビューは星5間違いなしの快作だ」

「怪作の間違いですよね? 安心できる要素がどこにもないのですが? くすんでて実体が見えません」

 

 よほどこのゲームに絶対の自信があるのだろう。殴りたくなるほどのしたり顔を浮かべるクロノにすかさずツッコむ希空だが、それすら愉快そうにこの男は笑っているのだ。

 

「私が信用できないのであれば、そうだね……。このNewガンダムブレイカーズには如月翔やカドマツ技師も携わっている。不安であれば確認してみると良い」

「翔さん達が……?」

 

 希空がクロノを信用していないことは彼自身も良く分かっているのだろう。彼女を安心させる為か、クロノは翔やカドマツの名前を出す。とはいえ、まさかあの二人がクロノに協力しているとは信じ難いのか難解そうな表情を浮かべる希空は一先ず後で確認してみることにする。

 

「……しかし何故、私にこんなゲームを持ちかけたんですか?」

 

 そもそもの疑問としてあるのが、何故、クロノが自分を呼び出してまで、このゲームを勧めたのかだ。言ってしまえば、いくら父親と因縁があっても希空とクロノの接点など皆無に等しい。それが何故、今回、わざわざ……。そのような疑問があったのだ。

 

「私はかつて雨宮一矢に敗れた。そして君はその娘。ゲームを持ちかける理由は十分にある」

「いや、ないと思いますけど」

「私はあると言った。私は君という存在を知ってから、君とゲームをしたくて仕方がなかったのさ。実に惜しいのは私が服役していたことだがね。もしもそうでなければ、私自らが内密かつ丁重にゲームの教育をしたと言うのに。いやはや実に残念だ。まさかこの年になって生き甲斐を感じるとは」

(また変な人に目を付けられた……)

 

 希空にNewガンダムブレイカーズを持ちかけた理由を明かすクロノ。しかしはい、そうですかと納得が出来るわけもないが、それでも無理に押し通してくるクロノに希空は重いため息をついてしまう。

 

「私としては一番の期待株は君だが、君以外の者達にも伝手を通して、連絡をした。30年前、私に関わった人間やその近しい者にね」

「……具体的には?」

「如月奏やルティナ・メリオなど、君のような実力のあるファイターの子供などさ」

 

 しかも話を聞く限り、どうやら自分以外の人間にも声をかけたらしい。一体、誰に声をかけたの問えば、奏やルティナの名前が出ており、この分だと他の子供達も対象だろう。

 

「特にルティナ・メリオは良くやってくれている。安全が確認できた後など、このゲームで積極的に戦っているよ」

(……生粋のバトルジャンキーだからね。ガンダムブレイカーズ事件の後も手当たり次第にバトルを持ちかけてたし)

 

 クロノは携帯端末を取り出し、立体映像を表示させる。そこには確かにルティナのパラドックスが映っており、ちぎっては投げの大立ち回りを繰り広げている。その姿を見ながら、希空は戦闘狂と言っても過言ではないルティナにため息をつく。

 

「それで? Newガンダムブレイカーズの概要を教えてください」

「やっと話が前に進めそうだね。なに簡単な話さ。ガンダムブレイカーズのフォーマットである創壊共闘ゲームはそのままに、ステージ最奥のラスボスを撃破すれば良い。なに敗れたとしても昏睡などはないから安心したまえ」

 

 少しは乗り気になったのか、今日何回目かのため息をつきながら尋ねれば、基本はガンダムブレイカーズと同じようだ。

 

「それでは君のタイミングでゲームを始めると良い。期待をしているよ」

 

 クロノはNewガンダムブレイカーズへのリンクを希空のVRGPに送信すると、スクッと伝票を持って、立ち上がり喫茶店を後にするのであった。

 

 ・・・

 

「確かに翔さんとカドマツさんは関わってたし、二人とも安全は保証してくれた」

 

 それから寮に帰るまでに翔とカドマツ両名に確認をとった希空は何とも言えなさそう表情を見せる。と言うのも、カドマツはクロノではなく、翔に頼み込まれたから当の翔は携わった事と安全性は答えてくれたが、何故、今回のことに関与したのか、その真意までは語らなかったのだ。

 

 《どうしますか、希空》

「……行くよ。奏やラグナさんだって、遊んでるみたいだし」

 

 ロボ助は希空に意見を伺う。これは強制的なものでもない。参加するのも辞退するのも個人の自由だ。しかし希空はNewガンダムブレイカーズに挑む意向を固めると、希空がそう決めたのであれば、と同行するロボ助と共に近くのシミュレーターのある場所まで向かっていく。

 

 ・・・

 

 《希空、準備はよろしいか?》

「うん、ロボ助とならいつでも」

 

 Newガンダムブレイカーズへのリンクを元にVR空間に移動した希空はNEXに乗り込む。すると、同じように出撃準備を整えたロボ助からの通信に頷く。今のロボ助が扱うガンプラは幻獣の鎧を装備したフルアーマー騎士ユニコーンだ。

 

「雨宮希空、ガンダNEXダークハウンド行きます!」

 

 そして希空のNEXにも変化はあった。その名の通り、両肩にワイヤー付きフックを内蔵したバインダーを装備し、額にはドクロレリーフが施されているなど、AGE-2 ダークハウンドを意識した機体となっていた。ハイパードッズライフルの代わりにドッズランサーを装備した希空はロボ助と共に出撃するのであった。

 

 ・・・

 

「ここがNewガンダムブレイカーズ……」

 《確かにウイルスの類は一切ない。任意でログアウトも出来るようだ》

 

 FA騎士ユニコーンを乗せたストライダー形態のNEXdhは広大なフィールドを巡航しながら様子を探る。ロボ助もこのフィールドをすでに調べていたのか クロノが言ったように安全であることを伝える。

 

 《おっ、あーちゃんがやって来たね!》

「歌音さん……?」

 

 すると突然、NEXdhのコックピット内に小さな歌音のアバターが現れる。希空を見て、嬉しそうに笑顔を作る歌音に希空はただただ驚く。

 

 《実はお姉さん、このNewガンダムブレイカーズのナビゲーター(時給1200円)を務めているのです!》

「……成る程。それで、一体、なにを教えてくれるんですか?」

 

 どうやらかつてのシャルルとは違い、こちらの歌音は本物であるようだ。

 とはいえ、ナビゲーターを務めるからにはそれに応じた仕事をするのが常だろう。

 

 《このNewガンダムブレイカーズはかつてのガンダムブレイカーズを安全にプレイ出来るようにしたゲームなの。だから基本的なことはガンダムブレイカーズと同じよ。最深部に待つボスを倒すのが目的。これがそのラスボスがいる場所を記したマップよ》

「……もうラスボスの場所を教えてくれるんですか」

 

 まるで妖精のような大きさの歌音から送信されたデータを展開すれば、確かにポイントが反応しており、そこに何かが待っているようだ。とはいえ、ゲームを始めて早々にラスボスの居場所を教えられたことに希空は不可解そうだ。

 

 《……実はね、もう既にルッティが何度かラスボスと戦ってるの。でも倒しきれずに何度も撤退しているのよ》

「それほどまでに強いんですか?」

 《……ううん。実力的にはルッティが強いはず。でも本当に妙な話で、あのルッティでも倒しきれないんだよ》

 

 すると歌音はそっと小さく希空にラスボスに関する情報を教える。

 ルティナは下手したら、特殊能力を無視すれば、希空を凌駕するほどの実力の持ち主だ。しかしそんな彼女が倒しきれないと言う。疑問を投げかける希空に歌音は心底、解せない様子で答える。

 

 《私もこのゲームの全容までは聞かされてないし、それを本当の意味で知るのは、翔さんとかだろうから……。兎に角、いきなりラスボスに挑むにせよ、気をつけて》

 

 ナビゲーター(バイト)である歌音もこのNewガンダムブレイカーズの全容は聞かされていないらしい。彼女からの忠告に頷いた希空は通信を終える。

 

 《どうする?》

「……自分の目で確かめてみないと。兎に角、まずは行ってみよう」

 

 考えこむ希空にロボ助が意見を伺うと、希空は意を決して、様子見にラスボスを挑む為、NEXdhを加速させ、一気にラスボスが待つポイントに向かう。

 

 ・・・

 

 ラスボスとなる機体が待つのは、かつてのガンダムブレイカーズ同様の浮遊城だった。砲台の迎撃を何とか掻い潜ったNEXdh達は浮遊城に侵入し、ポイントの示す場所へ急ぐ。

 

「……フェネクス」

 

 MSサイズに適した広さの玉座にたどり着き、MS形態に変形するNEXdh。希空は煌びやかな玉座の中央で悠然と佇んでいる黄金色の装甲を持つユニコーンガンダム三号機・フェネクスを見やる。どうやらポイントを見る限り、フェネクスがラスボスのようだ。

 

 NEXdhを確認したフェネクスは有無を言わずして、ビームマグナムを発砲する。NEXdhとFA騎士ユニコーンは咄嗟に散開する。

 

 先に行動を起こしたのは、希空であった。アンカーショットを素早く放ち、高圧電流を流して、フェネクスの機能を麻痺させると、デストロイモードに変形される前に一気に近づいて、ドッズランサーを突き放す。

 

(──もらった)

 

 撃破できると確信した。そのまま真っ直ぐドッズランサーの矛先で穿とうとする。

 

「──ッ!?」

 

 だが、フェネクスのコックピットを狙った一撃は確かに直撃したものの、穿つどころが傷一つつかず、装甲によってただ受け止められただけに終わったのだ。

 

 《希空ッ!!》

 

 すぐさまロボ助からの注意が飛んでくる。見れば、機能不全から回復したフェネクスは無理やりアンカーショットを解こうと言うのだ。すぐにNEXdhはフェネクスから距離をとる。

 

 ・・・

 

(……傷一つ通らないなんて)

 

 あれから10分は経過したであろう。しかし軽微な損傷を負うNEXdhやFA騎士ユニコーンとは違い、フェネクスはいまだ全くの無傷なのだ。バフか何かか兎に角、どうにもならない状況は希空は表情を険しくさせる。

 

 だが、そんな希空もお構いなしにフェネクスはビームマグナムの引き金を引く。すぐさまNEXdhとFA騎士ユニコーンは目配せを交わすと、ビームマグナムの一撃を避けて、踏み込むと同時に攻撃する。

 

「……!」

 

 ここで漸くフェネクスが損傷が入り、仰け反ったのだ。

 それに安堵するのも束の間、フェネクスに変化が起こる。何と装甲を展開し、青白く輝くサイコフレームを露にし、毒々しいツインアイを輝かせてデストロイモードへの変形を果たしたのだ。

 

「──動きがッ!?」

 

 デストロイモードへ変形したフェネクスの動きは段違いに跳ね上がったのだ。目前に迫るフェネクスに希空とロボ助は防戦一方に追いやられる。

 

「このままでは……ッ」

 

 やられる。そう思った時だった。

 

 四方八方から放たれたビームがフェネクスDを襲い、突然の乱入にフェネクスDはNEXdhから距離を置き、相手を探す。

 

「──こっちだ。一先ず退くぞ」

 

 希空とロボ助にすぐさま通信が入る。どうやらこの場にいないようだが、フェネクスを襲った正体であるフィンファンネルは主の下へ戻っていき、それを頼りにしろと言うのだろう。NEXdhとFA騎士ユニコーンはその後を追う。幸いなことにフェネクスは玉座から動く気はないらしく、追撃はなかった。

 

 ・・・

 

「あれは……」

 

 浮遊城から逃れ、フィンファンネルが向かった場所にたどり着いたNEXdh達。そこに待っていた機体を見て、希空は驚く。

 

「ガンダムブレイカー0……? ……じゃあ、もしかして翔さん……?」

 

 そこにいたのは、かつて如月翔が作成した原初のガンダムブレイカー0だったのだ。ならば、それを操るのは如月翔なのか。

 

 《……俺を知っているのか?》

 

 希空の声が届いていたのか、ブレイカー0からの通信が届く。それは確かに翔のものではあるが、どこか幼さを感じる。そう、まるで自分と同じ年のような。

 

「えっ?」

 

 するとブレイカー0はコックピットを展開して、中のパイロットが姿を現す。

 そこにいた翔に希空は眼を丸くした。なんとそこにいた翔は自分と同い年くらいの青年だったのだ。

 

「……気付いたら、ここにいてな。何か情報を知らないか?」

(NPC? ……いや、でも、ブレイカー0もアバターもUnknownって……)

 

 しかもこの翔はおかしなことを聞いてきたのだ。このNewガンダムブレイカーズは如月翔が携わったもの。にも関わらず、情報を知らないような素振りを見せているのだ。

 それで考えられるのはゲームキャラなのかぐらいだが、NPCの反応もなく、とはいえ、この翔が演技をしているようにも見えず、ただ謎に包まれた存在なのだ。

 

「……何の反応もないな」

 

 一方、翔は希空が混乱しているせいで、反応のないNEXdhに顔を顰める。

 

【なにがどうなってるんだろう……】

(……シーナ)

 

 すると、翔の内側から優しげな女性の声が聞こえる。その声の人物の名前を内心、口にする。

 シーナ。それは翔にとって、シーナ・ハイゼンベルクその人以外に他ならなかった。

 

(俺達はアフリカタワーでデビルガンダムと戦っているレーア達を助けるために、あの世界に戻ろうとしていた筈だ)

【うん、それは間違いないよ。でも、世界を渡る最中、干渉するような強烈な違和感に引き寄せられたのは覚えてるよ】

(そして気がつけば、この世界……。身体も実体じゃないような違和感があるし……一体、なにがどうなっている)

 

 如月翔とシーナ・ハイゼンベルクが共にアフリカタワーに現れた悪魔との戦いに身を投じたのは今から35年前のことだ。しかし、彼らはその35年前の出来事を今現在の話のようにしているのだ。

 

「……ん?」

 

 するとここで漸くNEXdhに動きがあった。コックピットを開いたNEXdhに翔が視線を向ければ、希空が姿を見せていた。

 

「……少し話をしませんか?」

 

 翔に話を持ちかける希空。お互いが情報などに不明瞭である今、それが一番だと考えたからだ。それは翔も同じだったのか、コクリと頷くのであった。

 

 ・・・

 

「まさか、君が協力してくれるとは思わなかったよ」

 

 場所が変わり、現実世界。コンピューターなどの機材が置かれたこの部屋でクロノはそこでNewガンダムブレイカーズの様子を見つめていた希空も知り、そして何よりこの30年で人ならざる雰囲気を纏った如月翔に声をかける。

 

「……俺も知りたいことがあった。それにはお前の協力が必要だった」

「ああ。”かつての君達”のことか」

 

 如月翔が見つめている映像には丁度、ブレイカー0とNEXdhが接触している場面が映し出されており、そこに映る翔を見て、クロノはくつくつと笑う。

 

「平行世界は常に均一に同じ時間が流れているわけではない。時間の流れが異なるマルチバースから特定の人物を探し、波長が合った時間から一時的に思念体だけをVR世界に引き寄せ、アバターの仮初の身体を与え活動させる……。それがまず始めの目的だったね」

「かつてシーナ・ハイゼンベルクが如月翔に接触して異世界に誘った方法の応用だ。そしてより確実性を高めるために新人類の技術力を頼った」

 

 クロノが翔から言われた彼の最初の目的を口にすると、如月翔は自分のことをまるで他人事のように話しながら、画面を見つめる。

 

「しかし平行世界とはいえ、かつての自分に似た存在だけではなく、他にもあの3人の思念体まで引き寄せるとはね」

 

 するとクロノは画面を切り替え、画面を三分割すると、そこにそれぞれ映った機体達を見て愉快そうに笑う。

 

 ・・・

 

 

 

「ったぁく! 旅をしてた筈なのに、気付いたらMFでもないバーニングブレイカーの中とはなぁッ!」

 

 

 

 真紅の覇王・バーニングガンダムブレイカーを操るのはまだ異世界やルルトゥルフに訪れる前の旅を続けているまだ血気盛んな若者であったシュウジだ。

 

 

 

「俺は……確かにテザーを切った静止軌道ステーションの中で地上に帰るのを待ってた筈なのに……」

 

 

 英雄と覇王の力を受け継ぎし新星の機体・ゲネシスガンダムブレイカー。そのコックピット内では実物大ガンダムによるテザー切断後、地上に帰るまで静止軌道ステーションで数週間の日々を過ごしていた雨宮一矢だった。

 

 

「んー……? これVRだよね? でも、僕は気分悪くて医務室で眠ってた筈だけど……」

 

 

 絶望を物ともしない希望の守り手であるEXガンダムブレイカーの姿もあった。そして当然、その中にいるのは優陽であり、彼自身はこの世界がVRであることは分かっていても体調不良から離脱していた筈だと愛らしく小首を傾げていた。

 

 

 ・・・

 

「あそこにいるのは本人であって本人ではない。一時的にこの世界に具現化した影法師。何れは露のように消え去る」

「しかし、シーナ・ハイゼンベルクだったかね? 彼女が君を異世界に誘った方法の応用だとしても、一時的でも四人分の思念体を引き寄せるのは、君と言えどかなり消耗しているようだね」

 

 それぞれ異なる場所にいる三機のガンダムブレイカーを見つめる如月翔はなにを考えているのか。少なくとも淡々と話すその言葉から、感情の類は一切感じない。

 とはいえ、新人類として人と異なるクロノは多少、今の翔が消耗しているか否かは分かるのか、何故そこまでするのかと疑問を投げかける。

 

「……確かに消耗は激しい。それにあそこにいる四人も一日すら保てず消えるだろう。少しバグのようなモノもあったからな。だが、俺にはそれでも知りたいことがある……」

 

 クロノの言うように、消耗しているのは事実なのか、目を瞑り、スッと小さく息を吐く如月翔は再び画面を見つめる。その揺れ動かぬ瞳は一体、なにを考えているのか。それは当人以外、分からなかった。




今 回 は お 祭 り で す!
…いや、EX編でシリアスやったし、集大成的な感じで明るく騒ごうとかそんな感じです。だって、こんな集合モノがやりたかったんですもの。

あぁちゃんとこれが終われば、また短編に戻りますので。この話も大体、全七話で終わるように構想してあります。

ガンプラ名 ガンダムNEX ダークハウンド

WEAPON ドッズランサー
WEAPON ドッズガン
HEAD ライトニングガンダム
BODY ガンダムAGE-2 ダークハウンド
ARMS ガンダムAGE-2 ダークハウンド
LEGS ガンダムキュリオス
BACKPACK ガンダムAGE-2 ダークハウンド
SHIELD ガンダムキュリオス

拡張装備 ドクロレリーフ(額)
ブーメラン型ブレードアンテナ(額)
ニーアーマー×2(両肩)
大型ガトリング×2(バックパック)
内部フレーム補強

例によって活動報告にリンクがあります。

<おまけ>

60000UA記念絵
(左から奏、シュウジ、一矢、優陽、ラグナ、翔)

【挿絵表示】


希空「……ホストクラブ・ブレイカーズ…?」
歌音「ごはぁっ!?」
ルティナ「歌音が死んだ!」
夕香「最終章の【集結の地】で載せた50000UA感謝のヒロイン集合の対になるまさにガンダムブレイカーズだね。パーティーを意識した奴であり、集大成のようなものでもある」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新星へのシュウ撃

「VR……。Virtual Realityか……。まさかそんな……」

 

 希空から話を持ちかけられた翔はまず初めにこの世界についてを問いかける。

 質問された当初、VRが身近なものである希空はおかしな質問だと感じながらも答えると、この世界において35年前の如月翔に近しい彼からしてみれば、時代水準もそれに見合ったものであり、VRその物は知ってても現実に等しい世界に構築できているのは驚きなのである。

 

【……VR技術であれば確かに私達の世界にもあるよ。でも、この世界のVRは私達の世界のソレとは違う】

(……つまり異世界は異世界でも、目的とは違う別の世界に来たってことか)

【そうなるね。でもおかしいのは、私達はVRの中でアバターとしての身体を持っているってことだよ。これは誰かの意志が働いてるんじゃないかな】

 

 希空の話を聞き、内なるシーナと言葉を交わす翔。少なくても自分達に起きた異変と、それが何者かの意志であることは気付いたようだ。

 

【それに彼女は翔やガンダムブレイカー0を知ってるみたいだし……。もしかしたら、平行世界……なのかな。翔とはまた違う翔がいる世界、みたいな?】

(非現実的……と言いたいが、今更だな。少なくとも彼女は俺を苗字ではなく名前で呼んでるが俺は彼女を知らない)

 

 接触した時、希空は翔の名を呼んだ。対して翔からしてみれば、希空の姿を見たところで誰なのか、全く分からないのだ。

 

「……確認したいが、この世界で戦争はないな?」

「戦争……? 少なくとも今は……。あぁでもガンプラバトルを戦争と捉えているレナート兄弟みたいな人はたまにいますが」

 

 翔は一応、この世界に戦争はないか尋ねる。しかし戦争と言う言葉に縁のない希空は突然、何を言っているんだとばかりに首を傾げながらも答える。

 

(ガンプラバトルをVRで……。まるでビルドダイバーズの世界みたいだ)

【一先ずフェネクスを倒すのが第一目標になりそうだね】

 

 とはいえ、翔は翔でガンプラバトルシミュレーターVRについて興味を抱いているようだ。そんな彼の感想に、今後の方針をシーナが決め、翔もそれに頷く。

 

「……俺はフェネクスを倒そうと思う。良ければ協力しないか?」

「それは構いませんが……。結局、アナタは……?」

「……如月翔。でもアンタが知っている如月翔とは違うと思う。まあその……似たような何かだと思ってくれ」

 

 希空の話では、フェネクスの撃破がこのVRゲームの目的らしい。

 自分は一体、どういう理由でこの世界に訪れたのかは分からないが、それでもフェネクスを撃破すれば何か変わるかもしれない。翔から持ちかけられた協力関係を受け入れる希空だが、結局NPCか何なのか素性が分からぬ目の前の翔について尋ねると翔からは何とも妙な返答が返ってきて、希空は結局、何者なのか分からず微妙そうだ。

 

「とりあえず今後の方針なのだが……場所を変えるか?」

「そうですね。補給と休憩を兼ねた場所があるようなので、そこに向かいましょう」

 

 お互いの目的は一先ずフェネクスを倒すこと。しかし現状では、それもままならない状況だ。移動の提案をする翔に、希空も頷くと周囲を警戒していたFA騎士ユニコーンに目配せをして翔と共にそれぞれの乗機に乗り込むと、マップの検索をかけて移動を開始する。

 

 ・・・

 

「ネオ・ホンコンがモチーフでしょうか」

「恐らくはな。アニメで見たそれらしい風景がそこ等にある」

 

 希空達が移動した先は補給や休憩等を目的としたVRハンガーの役割として設けられた都市だった。希空と翔が言うように機動武闘伝Gガンダムに登場するネオ・ホンコンをモチーフにしており、海に面した港には寝泊りすることも可能な船が無数に停泊しており、栄華を極めた都市部の方は賑やかさを見せている。

 

「ナビゲーター(時間外手当有り)の歌音さんもここにいると言う話ですが……」

 《一先ずはアバターの反応が多くある酒場に行きましょう。恐らくは集会所として機能している筈です》

 

 立体モニターを表示させながら、Newガンダムブレイカーズの説明書をスクロールして眺めている希空に傍らにいるロボ助は移動先を定めて、移動を開始するのであった。

 

 ・・・

 

「ここですね」

 

 アバターの反応が多くある酒場に到着した希空達は扉を潜って、店内に足を踏み入れる。そこにはクロノの伝手を通してこのNewガンダムブレイカーズに参加したと思われるアバター達の姿が多くあった。

 

「あっ、希空っ!」

 

 人の多い酒場でどう身動きをとって良いか、悩んでいる希空に声をかける者がいた。

 視線を向ければ、そこには愛梨や舞歌達をはじめとした知り合い達がいたのだ。確かにクロノは自分以外の者にも連絡をしたと言っていた。ここに彼女達がいても何ら不思議なことではないだろう。

 

「希空、フェネクスとはバトルをしたかしら?」

「……はい。ですが……」

「そこで倒していれば、このゲームはもう終わっている。気にするな。俺達も同じような結果だ」

 

 するとサヤナがラスボスのフェネクスと交戦したか問いかける。

 とはいえ結果的には逃げ帰る結果となってしまった為、複雑そうに答える希空だが、そんな彼女に貴文がすかさずフォローを入れつつ、彼らもフェネクスに挑んだ旨を明かす。

 

「皆で挑んで、時折、攻撃が通ったんだけどね。単純に強いのもあって、何度も挑んではって奴だよ」

「今も丁度、補給を受けている状況だ」

 

 フェネクスとのバトルについて話す明里と進。どうやら彼女達も自分と似たような状況だったらしい。とはいえ有益な情報を得られなかったことに希空は頭を悩ませる。

 

「そう言えば、その人は……? どことなく翔さんの面影が……」

「……すまないが、ナビゲーター(深夜手当有り)を探している。知らないか?」

 

 すると愛梨は希空の隣に翔を見やり、希空に問いかけようとするが、今の自分の状況からか下手に詮索されないように口を挟み、歌音がどこにいるか尋ねる。

 

「歌音さんなら……」

 

 話を折られた愛梨はおずおずと歌音がいるであろう方向を指差して答える。ありがとうと簡潔に礼を口にした翔と希空は足早にその方向を歩き始める。

 

「んっまぁい! サイ・サイシーの炒飯って食べてみたかったのよねーっ!」

 

 歩いた先には確かに歌音の姿があった。

 どうやら今回は完全にシャルルとは別に歌音としてのアバターを使用しているらしい。

 そんな彼女だが目の前で土鍋でパラパラの炒飯を炒めている長髪を一本に括った小麦色の肌の少年が作った炒飯に蕩けるような至福の表情を浮かべて、舌鼓を打っていた。

 

「ご馳走様でしたっ! てっ、あーちゃんじゃない!」

 

 炒飯を食べきった歌音はパンッと小気味よく両手を合わせると感謝の言葉を口にしていると、ふと希空と翔に気付く。

 

「フェネクスに挑んでみたのですが、やはりダメでした」

「やっぱり難しいわねぇ。ところで、そこの翔さん似の美男子は?」

「……フェネクスの話を軽く流して、そっちに食い付くの止めて貰えませんか?」

 

 フェネクスとの戦闘の結果を話す希空。歌音が言っていた通り、やはり妙な相手だった。最もその歌音は分かりきっていたような様子で軽く流すとそのまま希空の隣にいる翔に瞳を輝かせた為、希空は呆れ気味にため息をつく。

 

「あれ、でもアナタ、Unknownって……」

「歌音さん、何か知っているんですか?」

「何かって程じゃないけど、でもこのNewガンダムブレイカーズの世界で四つの反応と変なバグみたいなのがあったのは知ってるわ。そのうちの一つは彼みたいだけど」

 

 すると歌音は何かに気付き、立体モニターを表示させると翔のアバターが自分達とは違うUnknownと表示されていることを知る。

 ナビゲーター(休憩時間60分)である彼女に、それが何の意味を持つか尋ねると歌音も詳しくは知らないものの他にも反応があったことを教える。

 

「他のUnknownはどこにいるのでしょうか?」

「……そうね。でも近いところで一人いるわ。あそこにね」

 

 翔以外にもUnknownがいると言うのであればそれはどこにいるのか。その問いかけに僅かに自身の顎先を撫でた歌音は振り向いて、あるテーブルを指差す。

 

「いくら酒を飲んでも酔わないってぇのは変な感覚だぜ。それもこれもこの変な世界のせいか?」

 

 そこにいたのは思念体として、この世界に呼び寄せられた若かりし頃のシュウジであった。彼の座るテーブルには酒と思われる瓶が幾つか無造作に散らばっているところを見るに全部、彼によるものだろう。

 

「うぅっ……もぉ良いでしょ……?」

「っんだよ、ノリが悪ぃな。やらそうになってたのを助けてやったのに」

 

 しかもその隣にはヨワイの姿もあった。どうやら彼女もNewガンダムブレイカーズに参加していたらしく、シュウジの酒飲みにソフトドリンクで付き合わされているらしい。いい加減にしてくれといわんばかりのうんざりした様子のヨワイにシュウジは子供のように不満を口にする。

 

「あっ、雨宮!」

 

 うんざりしながら何気なく周囲を見たヨワイはこちらを見ていた希空に気付き、助けを求めるように声を上げた。

 

「彼氏ですか?」

「ち、違っ! 誤解よっ! 違うのよ! コイツが無理やり──!!」

「浮気の言い訳みたいなことを言うの止めてください」

 

 ヨワイの元に歩み寄りながら、隣のシュウジを見て、彼女をからかうように声をかけるとシュウジを押し退けながら弁明をはじめたため、その様子に希空はおかしそうに笑う。

 

「ん……? って、アンタ、翔さんじゃねえかっ!」

【知り合い?】

(さあな……)

 

 何気なく希空とヨワイのやり取りを眺めていたシュウジだが、ふと希空の近くにいる翔に気付き、慌てて立ち上がって彼の元に駆け寄るが、そもそもシュウジとの面識がない翔はシーナに問われても首を傾げてしまう。

 

「って……アンタ、本当に翔さんか? 俺が知ってる如月翔より若いような……」

「……確かに俺は如月翔だが、アンタの知る翔ではないと思う。似た何かだと思ってくれ。生憎、俺はアンタのことを知らないからな」

 

 だが、翔の顔立ちを見て、シュウジは怪訝そうな表情を浮かべる。

 それはかつて出会った翔に比べ、自分よりも年下かと思うほど若いのだ。だがそれもそうだろう。この頃の翔はまだシュウジに出会うどころか、まだ戦いの渦中にいた頃なのだから。そんな翔の返答にシュウジは不可解そうに顔を顰める。

 

「何だか良く分かんねぇけど、それよりこの世界のことは知ってるか? 実は俺、信じられないとは思うが、いつの間にかこの世界にいてな」

「……俺も同じだ。気付いたらこの世界にいた。一先ずポイントが表示されていたフェネクスの元へ向かったのだが……」

「あの金色の奴か。俺も情報が知りたくて向かったぜ。問答無用で攻撃されたがな」

 

 シュウジも翔と同じ状況なのだろう。少しでも情報を知りたくて、翔に尋ねるも彼自身、自分に置かれている状況が分かるわけでもなく、ゆっくりと首を横に振りながら答えると、シュウジもフェネクスと会敵したのだろう。その時のことを思い出して、不機嫌そうに呟く。

 

「ずっとフェネクスの様子を見ていたが、奴はまず単一で挑んだのなら、攻撃は通らない」

「そうなんだよな。お陰で逃げる羽目になっちまって……。そういや、そこであの嬢ちゃんに会ったんだ。俺より先に玉座にいたは良いがやられかけてたから、ついでに助けて今に至るってな」

 

 フェネクスについて知っている限りの情報を明かす翔にシュウジもまた難解そうな問題に直面したかのように頭を悩ませながらも、ヨワイとの出会いについても話す。

 

「けど、何なんだあの金ぴか。嬢ちゃんの援護を受けながら戦ったけど、結局、無傷のままだったぜ」

(……希空とロボ助が攻撃した時は攻撃が通っていたようだが……)

 

 どうやらヨワイと共に戦ったようだが、芳しくはなかったようだ。

 頭をぽりぽりと掻いているシュウジの話を聞き、翔は様子を伺っていた際の希空とロボ助の戦闘を思い出す。

 

「あーちゃん、Unknownについてなんだけど……」

「なにか分かったんですか?」

 

 すると、今まで立体モニターで何かを調べていた歌音が声をかけてきた。どうやらUnknownについて何か分かったようで、希空は何なのか伺う。

 

「実は近くのバトルフィールドで一つ反応があって……。どうやら交戦しているみたいなの」

「交戦……? 何とですか?」

 

 立体モニターで反応があったUnknownについてサーチしているのか、そこに映った映像を見て、表情を曇らせる歌音。一体、そのUnknownは誰と交戦しているのであろうか。

 

 ・・・

 

 栄華を極めるネオ・ホンコンの裏側とも言える無法地帯のような廃都市で二機のガンダムによる常人には立ち入れないほどの激しい戦いが行われていた。

 

「チッ、変な奴に目を付けられた……ッ!」

 

 そのうちの一機は英雄と覇王の力を継ぎし、ゲネシスガンダムブレイカーであり、ファイターである青年期の一矢は表情を険しくさせながら自身に襲い掛かってくる機体を見やる。

 

 光の翼を展開したその機体は本体ごと自身に拳を突き出して突進してくる機体にすかさず一矢も錐揉み回転によって威力を向上させたアッパーカットである蒼天紅蓮拳を突き放ち、拳と拳がぶつかり合い、周囲に激しい突風を巻き起こす。

 

「あっははっ! やっぱり覇王不敗流だよね、その技っ! 心が弾むなぁっ!」

 

 ゲネシスブレイカーと拳をぶつけ合っているのはガンダムパラドックスだ。

 ファイターであるルティナは無邪気にそして何より狂戦士の如く戦いに喜びを見出し、口角を吊り上げる。

 

 彼女がここまでの反応をするのは、一矢が曲がりなりにも覇王不敗流の使い手であることに他ならなかった。まさかシュウジや自分以外にも覇王不敗流の使い手と相見えるとは思っていなかったルティナの喜びようは凄まじかった。

 

 ・・・

 

「ルティナが……。それにゲネシスブレイカーですか」

「うん……。どうする、あーちゃん」

 

 歌音にその映像を見せてもらいながら、映像のゲネシスブレイカーを見て、考え込む。

 ゲネシスブレイカーもUnknownの反応があり、もしかしたら翔と同じような存在なのかもしれない。

 

「行きます。今すぐに」

「……俺も同行しよう」

 

 であれば、ゲネシスブレイカーを操るファイターも……。

 そう考えた希空はすぐさま行動を起こす。すると協力関係にある翔も名乗り出てくれた。

 

「俺も行くぜ。あれは覇王不敗流の動きだ。気にならないって言ったら嘘になる」

 

 それだけではない。シュウジも名乗り出てくれたのだ。どうやら覇王不敗流の使い手である一矢とルティナに興味を持ったようだ。

 

「分かった。データを送っておくね。でも気をつけて。この場所、他のフィールドと違って、ここは妙に不安定なの。さっきも言ったバグの反応が近くにあるし、何が起きるか分からないから気をつけて」

 

 機体の修繕状況から廃都市に向かうのは希空、ロボ助、翔、シュウジとなった。

 彼らのアバターに歌音がデータを送信すると、早速、希空達は廃都市に向かって出撃するのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

苛烈な一本の矢

 廃都市を舞台に戦闘を行うゲネシスブレイカーとパラドックス。荒廃した建造物の数々は戦闘の激しさを物語っていた。今もなお、互いに光の翼を放ちながら実体剣の刃が交じり、時には覇王不敗流の技の応酬を繰り広げられる。

 

「チィッ……!」

「ほらっ! まだそんなもんじゃないでしょっ!? もっとガチでやろうよぉっ!」

 

 しかし覇王不敗流の技であれば、本格的に習得したわけではない一矢よりもルティナに分があった。技で打ち負けたゲネシスブレイカーが仰け反るなか、すかさずGNソードⅡブラスターの銃身の部分で殴られて吹き飛ばされる。

 

 すぐさま追撃しようとするパラドックスだが、その前にゲネシスブレイカーが放っていたスーパードラグーンが四方八方からのオールレンジ攻撃を仕掛けてくる。

 

 ゲネシスブレイカーの持ち味は英雄と覇王から受け継いだ操作技術だけではない。

 元々の一矢が培っていた技術もある。それを活かすようにゲネシスブレイカーはその機動力を存分に発揮しながら、パラドックスの背後に回り込む。

 

「やればできんじゃん!」

 

 だがパラドックスはそんなゲネシスブレイカーにさえ対応して見せたのだ。

 振り下ろされたGNソードⅤをGNソードⅡブラスターで背面受けで防ぎながら、そのまま機体を捻るように動かして、遠心力を活かした一撃を放つ。

 

 しかしパラドックスのGNソードⅡブラスターは虚しく空を切った。一体、ゲネシスブレイカーはどこに行ったのか。探すよりも早く上方から反応がある。

 

 そこには掌から閃光を放つゲネシスブレイカーの姿が。今まさにパルマフィオキーナを放とうとするゲネシスブレイカーにすかさずパラドックスもパルマフィオキーナを発動させ、エネルギー同士の真正面からのぶつかりあいが発生する。

 

「ッ!」

 

 まさに互いの力が拮抗するなか、ふとルティナは違和感を感じる。なぜならば、対峙するゲネシスブレイカーのパルマフィオキーナを放つ掌が段々と紅蓮の炎を吹き上げているからだ。

 

 ルティナには覚えがある。

 これは覇王の未来を掴む一撃(バーニングフィンガー)。今まで拮抗していた力はまさに勝利の未来を掴むかのように少しずつ圧して行き、やがてぶつかり合うエネルギーは頂点に達して大爆発を起こす。

 

「……どうなった……?」

 

 弾かれるように爆炎から逃れた一矢はパラドックスを探す。今のでゲネシスブレイカーは手痛い損傷を受けたが、それは寧ろパラドックスの方が大きい筈だ。

 

「あはっ! あははははっ!! もぉ最っ高!! 次はどんなことしてくれるの!?」

「……クソッ、なにしても喜ぶとはな」

 

 爆炎の先にパラドックスはいた。いまだ健在なのだろう。ツインアイを輝かせながら、ファイターであるルティナは興奮が頂点に達して狂ったように哄笑をあげる。

 戦いその物に彼女は喜びを見出している。そんな彼女を相手に一泡吹かせようとなにかしてもただ喜ばせる結果になってしまうのだ。

 

 その時だ。ゲネシスブレイカーとパラドックスの周囲に無数の反応が発生する。センサーを確認してみれば、無数のNPC機が出現し始めているのだ。

 

「……ここはバトルフィールドだ。こんなことは分かりきっていたが……」

「あーあ……白けるなぁ」

 

 バトルフィールドである以上、無差別にNPC機が出現する。NPC機の攻撃を避けながら一矢とルティナは反撃に打って出ようとするが、地面を裂くような膨大な熱量を持つビームが放たれ、すかさずNPC機達から距離を置く。

 

「サイコガンダム……」

 

 そこには全高40mはあるであろう巨大な黒いガンダムであるサイコガンダムがデータによって構築されたのだ。恐らくはこの場のNPC機を達を纏め上げるボスとしての役割を担っているのだろう。その圧倒的な存在感を放つかのように胸部の三連装拡散メガ粒子砲を周囲に撒き散らす。

 

 ・・・

 

「……見つけました」

 

 それはこの廃都市に向かっていた希空達も確認していた。それと同時にゲネシスブレイカーとパラドックスの姿もだ。すぐさま援護に駆けつけようとするのだが……。

 

「ちょっと待て。妙な反応がある……」

「これは……ナビの嬢ちゃんが言っていたバグじゃねえか?」

 

 だがそんな希空に待ったをかけたのは翔だ。センサーを確認しながら話す翔にシュウジは歌音から送られてきたデータを参照しながら答えると、センサーに反応するバグはゲネシスブレイカーの周囲にまで迫っていたのだ。

 

 ・・・

 

 NPC機達を撃破しながら、サイコガンダムに向かおうとするゲネシスブレイカー達。しかしこの場のNPC機達は妙に堅牢で、中々撃破するのは難しかった。それに加えて、台風のようなサイコガンダムの波状攻撃がある。少しずつ防戦になっていくが……。

 

 ふとゲネシスブレイカーとパラドックスの背後からビームが横切って、近くのNPC機を撃破したのだ。

 

「RX-78-2……ガンダム……?」

 

 一体、何者によるものなのか。一矢達が確認して見れば、そこにはまさに長きに渡る機動戦士ガンダムシリーズ、その始祖とも言える白い悪魔・ガンダムがそこにいたのだ。

 

「あれ、でも反応がおかしいよ。アバターでもNPCでもないような……。これって……バグ……?」

 

 突然のガンダムの登場に注意を向けているとふとルティナはガンダムからの反応に顔を顰める。それはまさに歌音が言っていたバグに他ならなかった。

 

「──助けた相手をバグ呼ばわりってのはどうなのよ?」

 

 しかしあのガンダムは誰かが操っているのだろう。ファイターである青年と思わしき人物の声が聞こえてきて一矢達は驚く。

 

「気がついたら妙な空間にいるし、これって夢? 寝てるんなら、そのうち先輩が起こしてくれますかね」

(アイツも俺と同じなのか……?)

 

 ガンダムを操る青年は自身に置かれている状況を完全には把握していないのだろう。

 周囲のフィールドを見渡しながら苦笑混じりに話していると、その言葉から一矢は自身と同じくこの世界に迷い込んだ存在なのかと考える。

 

「それより、だ」

 

 とはいえ、青年は然程、自分の状況については気にした様子はなく、そのままゲネシスブレイカーとパラドックスに向かっていく。

 

「アンタ達のガンプラ、良いねぇ。ドラグーン付きのアンタは両脚部にスラスターユニットを装備した見る限りの高機動機!遠距離は少し心許ないが、その実、機動力を駆使した近接機体と見た! そして隣のデスティニーベースの彼女の機体はデスティニーの特徴であるアロンダイトと高エネルギー長射程ビーム砲を捨て、背部にはレーザー対艦刀、両腰にはレールガンか! 確かに火力面では劣るかもしれないが、小回りの良さと手数では十分なカスタムだ! 良いねぇ良いねぇ! ゾクゾクする!! フウウゥゥゥッッッフウウゥゥゥゥッ!!!!!!」

 

 舐め回すようにゲネシスブレイカーとパラドックスの双方を見やるガンダム。そのカスタマイズに青年が興奮気味に捲し立てる。

 

「アンタ達のパーツ、俺に使わせてみる気はない? 大丈夫、みなまで言うな! この天っっっっ才ガンプラファイターである俺なら、その真価をより発揮できると思うよ?」

(なんだコイツ……)

(天才って凄い強調した……)

 

 挙句の果てにはパーツをよこせと言わんばかりの物言いだ。

 青年のあまりのテンションについていけず、一矢もルティナも表情を引き攣らせる。しかし、そんなことはお構いなしにNPC機達からの攻撃が迫り、ゲネシスブレイカー達は咄嗟に回避する。

 

「全くいきなり攻撃したら危ないでしょうが……って、ん?」

 

 お構いなしに放たれた攻撃に機嫌を損ねた青年はぶうぶうと文句を言うが、そもそもNPC機達はそんなこと聞く気もなく、更に攻撃を仕掛けようとしてくる。止むを得ず、迎撃をしようとした時であった。迫るNPC機達を上空からの攻撃が降り注いで、次々と撃破していく。次の瞬間、NEXdh達が降り立つ。

 

「あっ、希空とロボ助だ」

「翔さんにシュウジ……?」

 

 NEXdhとFA騎士ユニコーンが降り立ったことで、そのファイターに気付くルティナ。それは一矢も同じようで、ブレイカー0とバーニングブレイカーの登場にどこか驚いていた。

 

「あ? 俺は見ず知らずの奴に呼び捨てにされる覚えはないんだがなぁ」

「なに言って……」

 

 希空達とルティナはスムーズにやり取りをしても、ガンダムブレイカー達はそうはいかなかった。そもそも一矢を知らないシュウジは露骨に顔を顰めて、不快感を露にしていると棘のあるシュウジの態度に戸惑ってしまう。

 

「あー……兎に角、今はこの場を切り抜けようじゃないの」

 

 他にもルティナがバーニングブレイカーに反応したりしているのだが、今は戦いの真っ只中。ガンダムを操る青年はそちらに意識を向けるように促すと、先陣を切るように飛び出す。

 

「中々、やるな……」

 

 すぐさまビームサーベルを引き抜いて、NPC機達を次々に切り裂いていくガンダム。その操縦技術を翔は純粋に認めていた。

 

「おぉっ、このパーツ、中々良さげだな」

 

 そんな青年が操るガンダムはNPC機達のハイゴックを相手にしていた。

 ハイゴックから突き放たれたバイス・クローを見て、避けながら感心していると、そのまま懐に飛び込んで両腕を切り裂く。するとハイゴックの切り落とされた両腕のパーツは吸い込まれるようにガンダムの中に消えたのだ。

 

「なっ……!?」

 

 次の瞬間、目を疑うような光景が起きた。

 何とガンダムの両腕はハイゴックのバイス・クローに変わったのだ。戦闘中に組み換えを起こしたガンダムに希空達は驚く。こんなこと自分達のガンプラバトルのシステムじゃ決して出来ないからだ。

 

 そこから怒涛の展開が起きたのだ。次々に青年のガンダムは敵NPC機達のパーツを破壊しては、自分のものとして、そのまま組み替えて戦闘を続行しているのだ。

 

「さて、後はアンタだけだな」

 

 両腕はハイゴック、胴体はサザビー、脚部はガンダムヘビーアームズ、バックパックはガンダムヴァーチェと最初のRX-78-2から最早、想像がつかないほど、継ぎ接ぎのようにパーツを組み替える青年の機体に一矢達は唖然とするしかなかった。しかしそんなことは露知らず、NPC機達を一掃すると青年はサイコガンダムに狙いを定める。

 

「ほら、かかっこい。最高が何か証明してやる」

 

 そう宣言すると同時に青年の最早、RX-78-2 ガンダムとは言えないカスタマイズ機体はサイコガンダムに向かっていく。当然、サイコガンダムは迎撃しようとするのだが、GNフィールドを張りながら突き進むカスタマイズ機は止められなかった。

 

 GNキャノン、メガ粒子砲、ミサイルを同時に放って、サイコガンダムの動きを牽制すると、瞬く間にカスタマイズ機はサイコガンダムの飛び込み、間接部をバイス・クローで集中的に狙って動きを鈍らせると、そのまま頭部目指して舞い上がる。

 

「さあ、勝利を組み立てようか」

 

 青年の自信に満ちた言葉と共に継ぎ接ぎの印象を受けるカスタマイズ機は覚醒に酷似した赤い光を纏い、元々のRX-78-2 ガンダムに姿を戻したのだ。そのまま覚醒の影響で肥大化したビームサーベルでサイコガンダムの頭部から股下まで切り裂いて撃破する。

 

「悪いね。俺は天才だけど、ただ強いだけじゃないんだ。天っっっっ才だけど」

 

 撃破されたサイコガンダムはデータ体となって朽ちて消えていく。その姿を見つめながら、青年は飄々と口にしていた。

 

「アナタは……。それに今の戦い方は……?」

「リアルタイムカスタマイズバトルでしょ。知らないの?」

 

 青年の戦いぶりを見て、彼について尋ねる希空だが寧ろ戦い方に関しては何を言っているんだとばかりにさも当然に答えられる。

 

「……兎に角、場所を変えましょう。アナタも……」

「あぁ……悪いね。そうしたいが、俺は別行動を取らせてもらいますよ」

 

 一度、ネオ・ホンコンに戻ろうと青年を誘う希空だが気まずそうにしながら青年は希空の誘いを断る。

 

「どうにもアンタ達とはパーツの組み合わせが悪い気がする。プラモはプラモでもバ○ダイとコトブ○ヤは違うし、ガンダムでも宇宙世紀とコズミックイラは違うだろ? 本来なら会うこともお互いを知ることもなかった……。そんな気がするんだ。だから俺は俺で行動するから、ここらでおさらばさせてもらうよ」

「なにを言って……」

「なぁに別に敵対するわけじゃないんだ。縁があったら、また会うこともあるでしょ。んじゃアデュー」

 

 要領を得ないことを口走る青年に希空達が戸惑っていると、一方的に話を切り上げた青年は再びガンダムのバックパックをガンダムヴァーチェのものに組み替えると、トランザムを発現させて、この場を一気に離脱してしまった。

 

 《あーちゃん、聞こえる?》

 

 わざわざ別行動を取りたいと言うのであれば、わざわざ追う真似はしまい。兎に角、ネオ・ホンコンに戻ろうとした矢先、歌音から通信が入る。

 

 《ちょっと前にラッくんが帰ってきてね。一緒に最後のUnknown反応のあるアバターを連れて来たのよ。そのアバターなんだけど……》

「どうしたんですか……?」

 《……ううん、兎に角、これで全てのUnknownが揃ったから、戻ってきてくれるかな》

 

 どうやらネオ・ホンコンのほうにはラグナと奏がやって来たようだ。

 しかし驚くべきはそこにUnknownも連れていたことだろう。どこか言いよどんだ様子の歌音に尋ねる希空だが、すぐに歌音は首を横に振り、戻って来るように促し、一先ず希空達はネオ・ホンコンへ向かうのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

優しき陽だまりのように

「そう言うわけで僕は南雲優陽。よろしくね」

 

 サイコガンダムとの戦闘後、ネオ・ホンコンに戻ってきた希空達を待っていたのは愛らしい少女のように微笑みながらウインクをする優陽だった。

 

「フェネクスに関する情報を集めてたら彼女達に出会ってね。ちょっとお世話になってるんだ」

 

 優陽は近くにいる奏とラグナを見やりながら答える。歌音が通信で口にしていた奏達が連れてきたというUnknown反応はどうやら優陽だったようだ。

 

「話には聞いていたが……驚いたぞ」

「ええ、まさか……このような……」

 

 一方で奏とラグナは希空達と行動を共にしていた翔達を見て唖然としていた。

 優陽と接触した時もそうだったのだが、やはりと言うか何と言うか。同じボイジャーズ学園に通っていてもおかしくはないほどの外見である翔達を目の前にしてタイムスリップしたような気分を味わう。

 

「さて、僕は貴方達のことを知っているつもりだけど、貴方達はどうかな?」

 

 すると優陽は翔、シュウジ、一矢を見ながら彼らに問いかける。

 優陽からすれば年がいくらか若かろうと面影があり、何より優陽が尊敬する人物達である為、すぐに彼らについては分かったが肝心の彼らはどうなのだろうか? その旨の質問に翔達三人は挙って首を横に振る。

 

「成る程ね……。いや、実は僕もそこにいる奏ちゃんや歌音ちゃんに会った時、僕を知ってるって詰め寄られたんだけど実際のところ、僕は彼女達を知らない。貴方達もそういうことはあったんじゃないかな?」

 

 何故、そのような質問をしたのかを説明し始める優陽。どうやら奏やラグナに会った時、この場に到着した時などあたかも知り合いにように自分のことを問い詰められたようだ。しかしこの優陽は奏達のことを知らない。自分と同じ体験をしていないかと尋ねれば翔達三人は顔を見合わせて、それぞれ頷いた。

 

「そこでね。僕はここで待っている間、色々話を聞いたんだ。この世界のこと、彼女達のこと。そこで考え付いたことがあってね。荒唐無稽だとは思うけど、ひとまずは聞いて欲しい」

 

 このVR空間に現れたUnknownの中で一番、この世界のことを調べていたのは、どうやら優陽だったようだ。彼の言葉に一先ずは聞いてみようと翔達三人は耳を傾ける。

 

 ・・・

 

「……成る程。ここは未来で、俺達四人は過去のデータを元に作られたNPCのような存在。だからUnknownなんて反応になる……。そう言いたいのか?」

「うん、あくまで僕が考えたことですけどね。荒唐無稽でしょ?」

 

 席に場所を移し、優陽から語られた話。それは翔から優陽を含めた四人はデータを元に再現されたNPCではないかという話だ。翔の問いかけに自分でもおかしな話をしているという自覚はあったのか、優陽は困ったような笑みを浮かべて首を傾げる。

 

「……確かにな。普通なら正気か疑うが……。実際、俺は気付いたらゲームみてぇなコックピットの中にいた。そんな話がどこにある」

「ああ。俺も静止軌道ステーションにいた。しかも俺の知っているガンプラバトルのシステムとは違うし。でも驚いたな。まさかVRがガンプラバトルに取り込まれるなんて」

 

 黙って話を聞いていたシュウジは重いため息をつきながら肩を竦めると、一矢も同じように頷きながらも自分達の未来でこれから起きるであろうガンプラバトルの発展に驚いていた。

 

「まあでも、何かの夢。そう考えるのが一番だと思うよ。実際、これまでの記憶や感情はちゃんとあるのに、今の僕達はデータなんて言われても信じられる筈がない」

 

 実際のところは現実世界でこの時代の翔がクロノの協力で思念体を呼び寄せたのだが、それこそ荒唐無稽であり、思い浮かぶはずもない。仮説を立てた優陽の言葉に翔達はそれぞれ考えるような素振りを見せる。

 

「……なんであれ、フェネクスが目的だって言うのは変わらないようだな」

「けど、アイツには攻撃が通らねぇのが問題だな」

 

 何とも言えない空気が流れるなか、それを打ち壊すように翔が口を開く。気付いたらこの世界にいたが、その時から絶えずフェネクスの居場所を示すポイントがレーダーにあった。それはあれをどうにかしろ、という事なのだろう。しかしシュウジの言うように正攻法ではどうにもならなかった。

 

「あっ……」

「どうしました?」

「……あぁ、ごめん。なんでもないの。確信があるわけじゃないし」

 

 そこに歌音が何か閃いたように声を上げ、一同が反応するなか、代表して希空が問いかけると誤魔化すように笑って、そのまま流そうとする。

 

「うーん……でも……」

「煮え切らないなぁ。言っちゃえば良いのに」

「いやでもねぇ……」

 

 だが歌音の中ではまだ残っているらしく、頭を悩ませていると、そうするくらいならばここで明かせとルティナが勧めるのだが歌音は妙に渋った様子で首を傾げる。

 

「ったく……」

「えっ」

 

 そんな歌音を見ていて、シュウジは軽くため息をつくと、その場を立ってそのまま歌音の右隣に座る。突然、どうしたのかと歌音が驚いていると……。

 

「隠し事するのは止めろって。俺なら受け止めてやれるぜ?」

「ひゃうぅっ!?」

 

 歌音の耳元に顔を近づけながら、甘い声で囁かれる。

 そのままポンポンと歌音の頭を撫でていると、その姿を見て、何か閃いた様子の優陽はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら歌音に近づく。

 

「全部出して……スッキリしようよ、お姉ちゃんっ」

「だ、ダメよ、歌音……っ! データとはいえ、年下の伯父さんにトキメクなんて業が深すぎる……ッ!!」

 

 背後から歌音に抱きつきながら、甘えたような声で話を引き出そうとする優陽。見る見るうちに歌音の顔が紅潮していき、後もう一押しだとシュウジと優陽は翔、一矢、ラグナを見やる。三人とも嫌そうな顔を浮かべるのだが、悪戯心に火がついた奏やルティナ達の入れ知恵で歌音に向かわされる。

 

「……気が利いたことは言えないケド、それでも……ちゃんと隠さないで言って欲しイ……」

「待って一矢さんんんっっっ!!!!? あーちゃんの視線が痛いからぁっ!!」

 

 どこかしゅんとした一矢はところどころ棒読みながら、それでも彼の中で精一杯の甘い演技を敢行すると、効果はあったようだが、その代わり、歌音は突き刺さる希空の氷のような視線に心臓の辺りを抑えていた。

 

「……アナタの隣は落ち着きます。私もアナタにとってそうでありたい……。歌音、私にも話せないことですか?」

「ラッくん、肩に手を回さないで! 雄っぱいの圧が凄いのぉおおっっっ!!!」

 

 すると今度はラグナが空いている歌音の左隣に座ると、腕を回して自身の胸に抱き寄せながらまさに教師のように優しく諭すように話すが、それどころではない歌音はもう蕩けそうだ。

 

【例えこの身がなんであろうと、俺達が君の力になるよ】

「あぁっっ!!! あああぁぁっっ!!! ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!?」

 

 最後に翔が……と言うより、翔が丸投げしたことで翔の身体を通して、シーナが歌音の前で傅いて、その手を取りながら白馬の王子のような麗しさを見せながら誠心誠意話すと、最早、オーバーヒートに達した歌音は頭から湯気を放ちながら悲鳴を上げる。数人の男性に囲まれて甘い言葉を囁かれることは歌音にとって刺激が強過ぎたようだ。

 

「ごめんなさいっっ!!! 私、妄想するのは得意だけど、実際に迫られるのは苦手なんですううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっ!!!!!!」

(恋愛クソ雑魚歌姫……)

 

 遂にはわんわんと両手で顔を覆って謝り始める歌音。その姿を見ながら、希空は何とも言えない様子で肩を落とす。そう言えば、歌音に浮いた話を聞いたことがなく、普段、眺めてたり、妄想したりで奥手になっている可能性はあるため、刺激は強すぎたようだ。

 

「それで、なにが浮かんだの?」

「はいぃっ……えぇっと……そのぉっ……このゲームぅ……創壊共闘ゲームだからぁんっ、そこにヒントがあるんじゃないかなぁってぇっ……。あふふっ……えへへへへっ……」

 

 涎を垂らしながら恍惚とした表情でぐったりとしている歌音にルティナは改めて尋ねる。すると完全に蕩けきった様子の歌音は気の抜けたような声で答える。

 

「共闘か。でも俺がヨワイとやっても効果はなかったぜ」

「……でも、私とロボ助の場合、効果はありました」

 

 歌音に話を聞き、少し考えたシュウジだが、ふとヨワイと共に戦ったときのことを思い出し、効果はないのではと疑問を投げかけるがそこに希空が待ったをかける。

 希空とロボ助が同時に攻撃した時、それまで無傷だったフェネクスに損傷を与えられた。他にも明里達の話では皆で攻撃をして、時折攻撃が通ったと言っていたのだ。

 

「もしかしたら、強い絆で結べる程の間柄を持つ者達によって発揮される連携でもなければ、通用しないとか」

「確かにヨワイとはそんな風に言えるほどのもんはなかったけどよ。でもそれって難しくねえか」

 

 ふと翔は考え付いたことを口にする。これまでフェネクスに攻撃が通ったという者達の話を聞いていると、大概は共に攻撃して、などが多かったのだ。その言葉に理解を示すシュウジだが、ふと問題点を口にする。

 

「希空達は良いが、特に俺達は互いに一方通行で知っているってだけであって、相互理解をしているわけじゃねえ」

「……俺達四人は真の意味で分かり合ってない。この世界では絆を結べるほどの相手もいないし、俺達にはどうすることも……」

 

 希空達この時代の人間は多くの仲間がいるだろうが、この世界に呼び出された彼らはそうはいかない。条件が翔の言うとおりであれば、自分達はまだ絆をしかと結べているとは言い辛い。その言葉に一矢も絆を結んだ相手であるミサを思い浮かべながら、自分たち四人には打つ手なしかと頭を悩ませる。

 

「んー……。まあ確かに僕達は4人は希空ちゃん達ほどの絆はないよ。でもまだ育めないわけじゃないでしょ」

 

 だが何も出来ないわけではないと優陽が声をあげる。その言葉に翔達三人が視線を集中させる。

 

「本当の意味でお互いを知ることから始めようよ。ここにいるみんなを巻き込んで、僕たちらしいやり方でね?」

 

 絆がなければ、そこで諦めるのではなく育めばいい。それが希望となるのだから。

 人懐っこい笑みを浮かべた優陽は立体モニターを表示させながら答える。そこにはEXブレイカーが映っており、翔達三人は顔を見合わせるのであった。

 

 ・・・

 

「ウォオラァッ!!!」

 

 ネオ・ホンコンの海に存在するリングの上で二機のガンダムによるぶつかり合いが行われていた。一機はバーニングブレイカー、そしてもう一機はゲネシスブレイカーだった。今もなお、マニビュレーター同士がぶつかり合い、周囲に衝撃が走る。

 

「ハッ、確かにこの方が俺にとっては、分かりやすいぜッ! お前がどんな奴かってのも今、お前が楽しんでるってこともなぁッ!!」

「例え、これが夢でも……今のアンタと戦える……。そんな機会、まずないからな」

 

 距離をとり軽やかにステップを踏んで、再び覇王不敗流の構えを取るバーニングブレイカー。優陽の提案は結局のところバトルだったのだ。しかしその方が彼らにとって相手を知るには、これ程のことはないのだろう。感じ取ったことを口にするシュウジに一矢も笑みを零す。

 

 ・・・

 

「いやぁー……やられちゃったなぁ。昔の翔さんなら勝てると思ったんだけど」

「……お前の機体も良い出来だ。単純な好みだけではなく、自分の戦い方を最大限に考えて生まれた機体なのはすぐに分かった」

 

 一方、天使湯と呼ばれる温泉では、優陽と翔が湯に浸かって和やかに会話をしていた。

 どうやらこの直前に二人もバトルをしていたようだ。VRだと言うのに、温泉としての気持ち良さは確かに有り、二人とも頬を紅潮させている。

 

「ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「ああ」

 

 そこにラグナも声をかけ、優陽と翔に並んで彼も入浴する。とはいえ、華奢な優陽と翔に並べると体格差は凄まじかった。特に胸部。

 

「不思議なものですね。いつも雲の上のように感じていたアナタが等身大のように感じる」

「……さっきも希空にこちらの方が人間味があると言われた。この時代の俺はどんな人間なんだ」

「偉大な方ですよ。ですが詳しくは言えません。ここは未来、そして名前を明かしてしまいましたが、一応、線引きとして血縁関係は話せても、誰と結ばれたのかなど未来に深く関わる話はしないように決めていますので」

 

 翔をチラリと見やりながら、まだ成人してもいない彼に声をかける。

 今この瞬間で言えば、ラグナの方が年が上なのだ。この場に来て、何気なく聞く未来の自分の話に翔は何とも言えない表情を浮かべていると、その言葉に苦笑しながらもフォローする。

 

「血縁関係ねぇ……。確かラッくんは翔さんに引き取られたんだっけ」

「ええ。父であると同時に返しても返しきれないほどの恩をいただきました」

 

 そこで優陽が口を挟む。ラグナはその堀の深い顔立ちなど外国人であるだろうが、まさか未来の翔が引き取ったとは思いもしなかった。その言葉に過去の出来事を思い出しているのか、ラグナは懐かしそうに目を細める。

 

「……返しきれない、か。そう思われるのは嬉しいが、どうせならそれは俺に返すのではなく、お前が施されたことを他の人間に与えてやってくれ」

「……ええ、それは勿論。父さんはやはり根本的なところは変わりませんね」

 

 今一実感が湧かないが、どうせ恩返しされるのであれば、その気持ちで他者を施して欲しい。何気なくそう話す翔に驚いたラグナだが、やがて目を細め、しっかりと頷く。

 

「ところで、翔さんの女性問題で最終的にどうなったの?」

「えっ!? あっいや……それ、は……」

「おい、ちょっと待て。なんだ女性問題って。そしてなんだその歯切れの悪さは!?」

 

 しんみりとした空気が流れるなか、そこに再び優陽が口を挟む。

 今の自分達は所詮、影法師とはいえ、折角、未来にいるのだ。やはり気になることは聞いておきたい。そんな優陽の質問に露骨に視線を彷徨わせるラグナを見て、未来の自分に何があったのかと翔は慌てて問い詰めるのであった。

 

 ・・・

 

「やったぁっ! おとーさんの勝ちぃっ! 流石ぁっ!」

「お、おう……。なんだか慣れねぇな。お父さんってのは」

 

 こちらでも決着がついたようだ。勝利を収めたシュウジにルティナが輝かんばかりの笑みを浮かべながら、シュウジに飛びついて抱きつくと、ルティナを受け止めながらでもまだ恋愛に縁のない彼は何とも言えない表情を浮かべる。

 

「……お疲れ様。負けちゃったね」

「……やっぱりいつの時代でもアイツは強いよ」

 

 一方で負けてしまった一矢を希空が労う。負けた悔しさはあるが、それでも自身が目指す背中の一人。戦えた喜びの方が大きいようだ。

 

「大丈夫。パパの強さは私が知っているよ。それは単純な力じゃない。もっと胸の中にある培ったものだって」

「……そうだな。俺が強くなれたのは多くの出会いがあったからだ」

 

 パパ呼ばわりされるのはむず痒そうだが、希空の言葉は理解できるものなのか。これまでの出会いを振り返りながら、一矢は頷く。英雄と覇王だけじゃない。短い間にかけがえのない出会いを数多く経験した。

 

「うん。だからパパはまだ強くなれる。だから一緒に行こう」

 

 柔らかな笑みを浮かべながら、一矢に手を差し伸べる希空。その姿を見た一矢は希空にある少女を重ねる。それは常に自分に手を差し伸べ続けてくれた少女の姿だ。

 

「……ああ、そうだな」

 

 希空にかけがえのない少女の姿を重ねた一矢はふと笑みを見せながら希空の手をとる。伸ばされた手を掴んだからこそ、彼は強くなった。それは例えいつの時代も同じだった。

 

「あのー」

 

 そんな一矢に声をかける者達がいた。そこには舞歌、貴文、涼一がいたのだ。

 

「よろしければ、私達ともバトルをしていただいてもよろしいでしょうかー? 実は今の一矢さんとずっとバトルをしてみたかったんですー」

「お前達は……。そうか、分かった。だが流石に三対一は分が悪い。希空は俺と共に戦ってもらうぞ」

 

 父の友人である一矢が影法師とはいえ、自分達と同じ年齢でいるのだ。

 ならばその実力を知りたい。そう思っての頼みに一矢も舞歌達の顔を見て、彼の友人達の面影を感じたのだろう。承諾しつつも希空をチヤリと見やり、希空も望むところだとばかりに頷き、バトルが開始されるのであった。

 

 ・・・

 

「……?」

 

 翔達との交流を深めている最中、ふと翔は物陰から自分に向けられる視線に気付く。それは声をかけようかして、悩んでいるような引っ込んだものだった。

 

「……どうしたんだ?」

「うぇっ!? あっ、いや……」

 

 そのままスタスタと視線の方向に向かえば、そこには物陰に隠れた奏がいたのだ。

 だが声をかけられてもすぐには言葉は出てこなかったのだろう。言葉を詰まらせた様子だった。

 

【翔、少し私に話させて】

(ん? ……まあ構わないが)

 

 すると内側からシーナが表面に出ようとする。彼女がわざわざそうまでするのは珍しい。翔は了承すると翔とシーナの意識は切り替わり、シーナがメインのものとなってその瞳も紫色に変化する。

 

【はじめまして、かな。翔よりも私のことが気になってたんだよね?】

「っ……! や、やっぱりアナタは……!?」

【うん、シーナ・ハイゼンベルクだよ】

 

 翔の雰囲気が柔らかなものに変わる。それは奏も感じたのだろう。翔に視線を向ければ、翔の身体を通して、奏に声をかけるシーナがそこにいた。

 

「あっいや、その……父さんの中に別の誰かを感じて……。まさかと思ったけど……」

【今は翔と一体化してるからね。やっぱり変な感じかな?】

 

 目の前にいるのは、翔だと言うのに別の誰かに感じる。

 いや、目の前にいるのは、かつてルティナから聞いたシーナ・ハイゼンベルク本人なのだろう。戸惑っている様子の奏にシーナも苦笑する。

 

「……いや、でもそれよりもずっと…………アナタがどんな人なのか知りたかった」

【アナタはリーナと似た存在なのかな? 私に近いモノを感じる】

 

 目の前にいるのは翔だと言うのに、その実別人が話している。

 何だか妙な気分だがそれよりもシーナ・ハイゼンベルクという存在を知りたかった。

 シーナもかつてのリーナのように奏の中で感じるものがあったのだろう。何か気付いた様子だ。

 

【でも、うん……。リーナと違って、アナタは道案内してあげる必要はないみたいだね】

「ああ。私は私だ。例え出自が何であろうと、如月奏は覆らない」

 

 かつてのリーナはオリジナルであるシーナを感じた不快感から自分の存在に不安定になって暴走したが、奏はそういうことはないらしい。そんな彼女にシーナも安心したように微笑む。

 

「でも、アナタがどんな人なのか……。知りたくないと言えば嘘になる。ずっと……こうやって話してみたかったんだ」

【ならいっぱい話そうよ。滅多にない機会だしね。私も奏のことをもっともっと知りたい】

 

 ルティナからシーナの話を聞いた時、ずっとどんな人物なのか知りたかった。

 こうして話すことが叶って、どこか嬉しそうな奏の手を取ると、存分に語り合う為に共に場所を変えていく。こうやって交流と共に互いを知り、そうして絆が少しずつ育まれていくのであった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラグナロク

 浮遊城の玉座。そこで幾度となく火花を散らす激闘が繰り広げていた。それは玉座の主であるフェネクスとEXブレイカーの援護を受けながら戦うゲネシスブレイカーのものであった。

 

 フェネクスに対して、一斉射撃を放つEXブレイカー。とはいえ、それをまともに受けたところで、このフェネクスは損傷の一つもない。そのため、避ける必要もなく真正面から浴びる。

 

 だがそこにゲネシスブレイカーが覚醒を解き放って接近するとGNソードⅤの刃を残光を走らせながら荒波のように叩きつける。流石に身動き一つ取れぬ状況からか、フェネクスが無理にでも動こうとした瞬間、ゲネシスブレイカーはその機動力を活用して、一気にフェネクスの目の前から離脱する。

 

「いっけぇっ! ハイメガキャノン砲ッ!」

 

 そこにはエネルギーをフルチャージしていたEXブレイカーが待ち構えていたのだ。

 EXブレイカーによって膨大なエネルギーを解き放たれ、全てを飲まんとするハイメガキャノンの光はフェネクスに迫り、すかさずフェネクスは防ごうとするのだが……。

 

「こいつも食らえ……ッ!」

 

 更に上方へ離脱したゲネシスブレイカーからはGNソードⅤを媒体に肥大化させた光の刃を真っ直ぐにフェネクス目掛けて振り下ろしたのだ。ハイメガキャノンと覚醒による一撃を放たれた玉座は直視できないほどの閃光に覆われる。

 

 

 

 

 

 

 

「……今ので中破が精々か」

 

 

 

 

 閃光が消え去った先には煌びやかな黄金の装甲が痛ましいほど傷つけられながらも悠然と佇むフェネクスがいたのだ。正直、今ので決着がついたと考えていた一矢は下唇を噛む。

 

 《一矢さん、優陽さん、そろそろ限界だ! 防衛用のNPCが増えてきた!!》

 

 そんなゲネシスブレイカーとEXブレイカーに大悟からの通信が入る。彼もまた激しい戦闘を行っているのだろう。その声は切羽詰った様子だった。

 

「……限界だね」

「……ああ、撤退だ」

 

 大悟の通信やフェネクスの様子から潮時を悟った優陽に一矢は頷く。

 見ればフェネクスはデストロイモードに今まさに変形しようとしているのだ。すぐさま一矢と優陽は弾幕を張りながら、一気に玉座からの戦線離脱を行う。

 

 ・・・

 

「ったく、城の中なのに沿岸ステージがあるってどういうことだよ!?」

「恐らく城の区画の一つずつを全く違うステージとして設定しているんだろう。ゲームでもなければ、こんなことは出来ない……!」

 

 先ほど通信を入れた大悟、そして進は小波の音が聞こえてきそうな沿岸ステージにいた。彼らは今、大量のNPCやMAシャンブロとの戦闘を行っているのだ。しかしこれは進が言うように、ここは浮遊城内なのだ。城を突き進み、一つの区画に入ったと思えば、この沿岸ステージが構築された。それはゲームとして組み込まれているのだろうと大悟は語る。それこそ他には噴火する火山があるステージがあるのかもしれない。

 

「──ごめん、待たせた」

 

 しかしそのNPC機達の大半を後方から伸びた光の奔流が飲み込んだ。見て見れば、こちらに合流するEXブレイカーとゲネシスブレイカーの姿があった。

 

「他は皆、離脱しました」

「ああ、俺達もすぐに離れよう」

 

 一矢や大悟達以外にも、この浮遊城と戦闘をしていた者達は多くいたのだろう。大悟の言葉に頷いた一矢達は一目散に浮遊城を離脱し始める。

 

「しかし少しはお前のことは分かってきたとは言え、お前のお陰なのか、戦いやすかったな」

「翔さんとシュウジさんよりも、今の君と僕が出会った君は時期が近いせいか、一番分かりやすかったよ」

 

 浮遊城を離脱する最中、ふと一矢は優陽に通信を入れる。それは連携の話だ。先ほど、フェネクスとは彼ら二人しか戦闘をしていなかったが、それでも損傷その物は与えることは出来た。それはお互いに対しての理解が深まっている証拠だろう。

 

「だから安心して。ミサちゃんがいない分、僕が君を守るよ」

「……何だかムズ痒いな」

 

 通信越しに一矢ににっこりと可憐な少女のような笑みを見せる優陽の姿とその言葉に何だか気恥ずかしさを覚えた一矢は優陽達と共に浮遊城を脱するのであった。

 

 ・・・

 

「うーん……確かに全体的に皆が互いを理解したから連携も底上げされたけど、同時に浮遊城に攻め込む度にNPC達の戦力も強化されているわ」

「以前はMAはいなかったものね」

 

 ネオ・ホンコンの格納庫では、戦闘のデータを解析していた歌音が渋った表情を浮かべていた。全体的にプレイヤー側の練度は高まっているものの、比例してNPC側も強化しているのだ。どうやら浮遊城のNPCはシャンブロだけではないらしく、サヤナも苦い表情を見せる。

 

「お陰でみんなの損傷が激しく、撃破されてる子も出始めてる。幸いなことに昏睡もしなければリトライも可能だけどこのままじゃジリ貧ね」

「──だったら次で終わらせます」

 

 正直な話、戦況はどんどん悪化していく始末だ。このままではNewガンダムブレイカーズも攻略できないまま終わる可能性が大きくなってきた。そんな頭を悩ませる歌音に声をかけたのは希空であった。

 

「確かにこれ以上、向こうの戦力が強化されるのはまずいです。だからこそここで決着をつけます」

「そうだな。少なくとも俺達はここでお互いを理解しようとしてから、何度も浮遊城に挑んでいる。フェネクスに有効な連携が取れるほどになっているはずだ」

 

 フェネクスに挑んだのは、何も一矢と優陽だけではない。これまでも翔から優陽までの四人が揃った後も幾度となく浮遊城に挑戦しているのだ。その度に歌音が言うように強化されてしまっている。これ以上、戦いを長引かせない為にも希空と翔は進言する。

 

「……成る程。どうやらみんな、同じ考えみたいね」

 

 それは希空と翔だけではない。この場に集まったNewガンダムブレイカーズに挑戦するファイター全員が同じ意志のようで力強く頷いていた。

 

「オーケー。このゲームは特に戦略は必要としないゲームなんだし、どうせなら派手に殴り込んじゃいましょうか!」

 

 その意志を確認した歌音は快活に笑うと、盛り上げるように声を張る。その歌音の言葉に呼応するように歓声が広がるのであった。

 

 ・・・

 

【これで終わりなのかな】

 

 全ての機体の修復が完了した後、順に出撃するなかでふと、翔の中でシーナがポツリと零す。

 

(……どうした?)

【いや……フェネクスを倒した後、どうなるのかなって】

 

 突然の彼女の言葉に翔が尋ねると、シーナはフェネクスを倒した後に待つのは何かを話す。

 

(……なるようになるさ。ずっと俺達はそうしてきた筈だ)

【そう、だね。うん……ごめんね、翔。……アナタを戦いに巻き込んで】

 

 この戦いの後に何が待つのか。その言葉に少し考えた後、翔は静かに答えるだけだ。その言葉にシーナは彼を戦いに巻き込んだことを改めて謝罪する。

 

(気にするな。それにこんな争いを破壊出来ないようでは、あの世界の争いを破壊出来やしないさ)

【……うん。その為にも私は力を貸すよ。破壊の後に待つ創造の為にも】

 

 ふと彼には珍しくおどけたように口にする。確かにこれはゲーム。その争いを破壊できないようならば、誰が世界を蝕む戦争を破壊することが出来るというのだ。

 

 《──翔さん、聞こえますか》

「希空か」

 

 そんなやり取りが行われていたブレイカー0のコックピットで、不意に希空からの通信が入る。

 

 《……私はこの世界で出会ったアナタからどことなく……憎しみと優しさを感じました》

「……」

 《それだけではない。アナタは常に目の前のことを乗り越える為に手段を模索していた。それはどんな理不尽にも抗おうとするかのように》

 

 言葉で言い表せないように、難解そうな表情を浮かべながら話す希空の言葉を翔は黙って聞いている。そんな彼を通信越しに見ながら希空は言葉を続ける。

 

 《……でも、アナタはその目にずっと悲しさを宿してる。アナタはずっと戦い続けて、傷ついているようなそんな悲しさです……。アナタはきっと……戦いに向いてるような人ではないんだと思います》

「……」

 《……ごめんなさい。急に変な話をして》

 

 昔から希空は人の心情等には敏感な人間だ。そんな彼女だからこそ、この翔に対して感じるものがあったのだろう。

 

「……いや、気にするな。お前の言うとおりなんだと思う。だからこそもう終わりにしよう」

 《はい。ここにいる皆がアナタに力を貸します。だからアナタと共に戦わせてください》

 

 希空の言葉に思うところがあったのか、しかし表情を切り替えて首を横に振って儚い笑顔を見せる翔の言葉に頷き、この言葉を言いたかったとばかりに希空は強く口にすると、ブレイカー0の発進準備が整う。

 

「そうだな。ここでもあの世界でも……俺は一人ではない」

 

 カタパルト画面に移行しながら、翔は強く操縦桿を握り締める。

 

「如月翔」

【シーナ・ハイゼンベルク!】

「【ガンダムブレイカー0、行きます!】」

 

 胸に灯った強く温かい希望の火を感じながら、翔とシーナはガンダムブレイカー0と共に出撃するのであった。

 

 ・・・

 

「チッ、一機一機のNPCもしんどくなって来やがったな」

 

 浮遊城の玉座に待つフェネクスに向かおうとするファイター達だが、そうはさせまいと浮遊城からの迎撃システムや出撃したNPC機達によって梃子摺ってしまう。涼一も何とか撃破しながらでもそれでも損傷を負ってしまい、舌打ちをしてしまう。

 

「ッ……! 巨大な熱源がッ!!」

 

 それでも何とか浮遊城に侵入しようとするのだが、ふとそんなファイター達に待ったをかけたのは貴文だった。センサーを見た貴文は鋭く浮遊城の方向を見つめる。

 

 何と次の瞬間、そこには地を割って、デビルガンダムが現れたではないか。

 

「ッ……。このままでは侵入すらッ!」

 

 下半身をガンダムフェイスにするデビルガンダムの中間形態が現れたと同時にその猛威を振るい戦場は大混乱に陥る。これも前回の襲撃では現れなかった。であれば浮遊城側の戦力がまた強化された証であろう。だがなんであれ、希空の言うように浮遊城に侵入すら出来ない状況なのだ。

 

「──だったら、俺達が引き受けよう」

 

 猛威を振るうデビルガンダムだが、その注意を逸らすかのようにフィンファンネルとスーパードラグーンによる四方八方からの攻撃が行われる。見て見れば、そこにはガンダムブレイカー0、バーニングブレイカー、ゲネシスブレイカーが並び立ってデビルガンダムを見据えていたのだ。

 

「ハッ! デビルガンダムか……。何度だってぶっ倒してやるぜ」

「……ああ。タイガーのデビルガンダムよりは強そうだが、倒すのには変わりない」

 

 拳を鳴らし、軽やかなステップを踏みながらデビルガンダムを見据えるシュウジに、一矢もシュウジと同じように自信を思わせる笑みを浮かべる。

 

「……翔さん」

「皆が力を貸してくれるように俺も手を貸す……。例え傍にいなくても、共に戦うのは一緒だ。だから行け」

 

 デビルガンダムを三機で引き受けようとする。先ほどのやり取りもあってか、希空が翔に通信を入れると、翔は穏やかな笑みを浮かべながら諭す。

 

「……分かりました。任せます」

「NPC達はまっかせてーっ! ルティナがなぎ払ってあげるっ!!」

 

 それは翔だけではなく、シュウジと一矢も同じ思いなのだろう。

 それを感じ取った希空は頷くとロボ助と残ったガンダムブレイカー達と共に浮遊城を目指し、それを阻もうとするNPCをパラドックスを含めたファイター達が食い止める。

 

「さて俺達も行くぞ、シュウジ、一矢」

「ああ。俺達のスーパーノヴァ……見せてやろうぜッ!」

「呼び捨てか。本当に今のアナタ達と肩を並べられている気がする」

 

 希空達が浮遊城に突入したのを見届けた翔はシュウジと一矢に声をかけるとそれぞれの想いを胸に三機のガンダムブレイカーはデビルガンダムに挑むのであった。

 

 ・・・

 

「ッ! 宇宙ステージか!」

 

 一方、一つの区画に突入すると、ステージが構築されて、宇宙空間に様変わりする。それは同時に敵を知らせるものであり、奏は警戒する。

 

 その読みは正解だった。ステージの構築と共に樹木の枝葉のような複雑かつ広範囲な軌道を描くビームが放たれ、咄嗟に希空達が回避してみれば、相手はユグドラシルだったのだ。更なる攻撃が仕掛けられようとした瞬間、EXブレイカーから高収束ビームが放たれる。

 

「さて、ここは僕の出番かな」

 

 優陽はユグドラシルを見つめながら、和やかに話す。それは大抵、これから戦おうとする者の態度には思えないほどだ。優陽の言葉を読み取れば、ここは引き受けるから先に行けとのことだろう。実際、ここはステージが構築されようが、浮遊城の中。この宇宙空間を抜けて先に進む道は進行方向にあるのだから。

 

「今の僕は本来、ここにいない人間だからね。美味しいところはこの時代を生きる君たちに任せるよ」

 

 とはいえ、優陽の口調とは裏腹にEXブレイカーからは怒涛の射撃が放たれる。そんな優陽の言葉に頷いた希空達は先を急ぐ為に宇宙空間のステージを抜け浮遊城を突き進む。

 

「僕は希望を守る。これはそのための戦いだよ」

 

 如月翔が英雄、シュウジが覇王、雨宮一矢が新星であれば、南雲優陽は希望であり、その守り手だ。そんな優陽が希空達に希望を見出している。であれば希望の守り手はその力を惜しみなく振るうだろう。

 

 ・・・

 

「ふむ……。玉座には順調に近づいているのですがね」

 

 また浮遊城を突き進んでいた希空達だが、データが構築され、新たなステージである沿岸地帯が構築される。そこに現れたシャンブロにラグナのブレイカーブローディアが前に進み出る。

 

「ラグナ……」

「阻まれた道を開くのは兄であり、教師の務めですよ」

 

 その背中にラグナの意図を感じ取ったのだろう。奏の彼を案じる言葉にラグナは心強さを感じる笑みを見せる。

 

「なに覚醒をわざわざ使わずとも、実体剣を叩きつけてやればすぐに済む話です」

「……ふふっ、ラグナはやっぱり凄いな」

「ええ、アナタの兄は凄いのです」

 

 GNバスターソードをふるって、風圧を巻き起こすその姿に頼もしさを感じて安心したように微笑む奏に対して、ラグナも笑みを交わしながら強く頷く。

 

「さあ行きなさい。振り向かず、真っ直ぐに」

 

 しかしシャンブロは拡散メガ粒子砲を放って、兄妹の会話の邪魔をする。GNバスターソードで奏達に迫るビームを全て防いだラグナに促され、奏達は先へ突き進む。

 

「では、真っ向勝負と参りましょうッ!」

 

 沿岸地帯に降り立ったブレイカーブローディアはGNバスターソードを大きく振るい、力強く構えるとシャンブロに向かっていく。それはまるで気高き騎士が魔獣に挑むかのように。

 

 ・・・

 

「やはり邪魔が入るか」

 

 玉座まで後一歩と言うところであった。青白い炎が希空達に襲い掛かる。見て見れば、そこにはジークジオンの姿があった。

 

「……希空、ロボ助。私が言いたいことは分かるな」

 

 すると奏のブレイカークロスゼロは注意を引くように己のCファンネルを解き放って、周囲に展開しながら希空とロボ助に声をかける。

 

「一人で戦うつもりですか……?」

「ああ。なに私もガンダムブレイカーの端くれ。諸先輩方と一緒にすぐにでも追いつくさ」

 

 優陽やラグナもそうだが、巨大な相手を自分ひとりで引き受けようとしているのだ。

 何より奏はチームの一人。そんな彼女を一人置いて、ロボ助と共に進むことは流石に気が引けるのか、どこか渋った様子を見せる希空に奏は力強く話す。

 

「ここには希空がいる。そしてこれはお前の為に戦う。何より今日も希空は可愛い。この三つの要素があって私が負けるはずがないだろ」

「……相変わらずですね」

「ああ、私は変わらない。お前だけの無敵の奏お姉ちゃんだ」

 

 フフンッと鼻を鳴らしながら、さも当然のようにどや顔で口にする奏に呆れ混じりながらも希空は微笑む。これこそが希空の知っている奏だからだ。

 

「……待ってますから、すぐに来てくださいね」

 

 どこか彼女を気遣いながら希空はNEXdhをストライダー形態に変形させ、FA騎士ユニコーンと共に玉座へ突き進む。その前にジークジオンが追撃しようとするのだが、ブレイカークロスゼロがそれを遮る。

 

「希空に待ってると言われたんだ。すぐに終わらせよう」

 

 ジークジオンがブレイカークロスゼロに視線を向けるなか、周囲にCファンネルを展開しながらふと奏の雰囲気は変わり始める。

 

「白黒つけてやる。どこまでも真っ黒な世界に墜ちて行け」

 

 ジークジオンを見据える冷淡な奏の瞳は虹色に輝く。

 今まさに彼女の瞳が映す世界は全てが鈍重になっていたのだ。その中でブレイカークロスゼロはジークジオンに向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「……やっと辿りついた」

 

 そして漸く希空も再び浮遊城の玉座にたどり着くことが出来た。そこに待っていたフェネクスを見据えながら静かに呟く。

 

「皆が背中を押してくれたから、私はここにいる。あの人達ならきっと最後には私の共に立ってくれる。私にはその確信がある。どんな時だってもう一人じゃない。何よりここには私が一番絆を育んだロボ助がいる!」

 

 フェネクスはどうやらNEXdh達から仕掛けてくるのを待っているようだ。

 そんなフェネクスを見つめながら、これまで道を切り開こうとしたガンダムブレイカー達の姿を振り返り、何よりずっと傍らにいたFA騎士ユニコーンを見やる。

 

「だから始めるよ。この戦いはこれまで育んだ私の全てをぶつける戦いだから!」

 

 そう強く宣言して、NEXdhはFA騎士ユニコーンと共にラスボスであるフェネクスに挑んでいくのであった。

 

 ・・・

 

「おーおー、派手に始めちゃってまあ」

 

 そんな激闘が各箇所で行われている浮遊城の様子を遠巻きに見ているのは、RX-78-2 ガンダムを操るあの青年だった。

 

「さて、勝因となるパーツは全て揃ったな」

 

 青年も浮遊城での戦いに参戦しようと言うのか。彼もまた人知れず行動し、浮遊城へ向かっていくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝利への協奏曲

 浮遊城での決戦が始まった。決して撤退は考えず、ここで全てを終わらせる、決着をつけるんだという気迫がどの機体からも感じられた。

 

「やっぱり凄いな……」

 

 それはこの戦場において心を奮い立たせてくれるような存在達がいるからだろう。手痛い損傷を受けながらでも、着実に一機一機を撃破していた愛梨はデビルガンダムと苛烈な戦闘を繰り広げる三機のガンダムブレイカーを見やる。

 

「今の俺達は……コイツにだけは負けるわけには行かないッ」

 

 フィンファンネルを解き放ちながらデビルガンダムから派生するガンダムヘッドを破壊した翔は眼光鋭くデビルガンダムを見据えるとそのまま彼の瞳は紫色に変化する。

 

【例えこれが紛い物でも、私たちにとっては絶対に乗り越えなくちゃいけない存在だからッ!!】

 

 スイッチの切り替えのように意識をシーナが主にするとレールガンとビームライフルでデビルガンダムの動きを牽制しながら懐に飛び込み、ビームサーベルを引き抜いてすれ違いざまに一太刀を食らわせる。

 

【翔が私の全てを受け入れてくれた! だったら怖いものなんてなにも……ないッ!】

 

 自分の世界を巣食う病原とも言える戦争を終わらせたい。

 その為にシーナは翔を異世界に呼び寄せた。最初は血で血を洗うような戦争の渦中で心をすり減らす彼に心を痛めていた。

 だが彼は自分の世界に一度は戻って迷いながらでももう一度、異世界で戦うと自分自身を受け入れてくれたのだ。であれば自分が恐れることなどなにもない。ただ我武者羅なまでに目の前の出来事にぶつかっていくだけだ。

 

「ああ、そうだ……。本当の戦いはここからだ」

 

 デビルガンダムから放たれた拡散粒子弾に対して、素早く意識を翔に切り替えると、放ったフィンファンネルを呼び寄せ、ピラミット型に展開してビームバリアを張ることで防ぐ。

 

 すると翔の瞳がシーナと重なるようにオッドアイになると、呼応するようにブレイカー0の腕部装甲が展開され、そのままビームトンファーによるビームのエネルギーが迸る乱舞のような攻撃を浴びせつけ、デビルガンダムから離脱する。

 

「──俺のこの手が輝き吼えるッ! 未来を掴めと羽ばたき叫ぶッ!!」

 

 離脱したブレイカー0を追撃しようとデビルガンダムが行動を起こそうとした瞬間、荒ぶる龍の如き一筋の機影がデビルガンダムに突撃すると、その機体を大きく仰け反らせる。

 

「バアアァァァァァァァァニングゥウッ!!!! フィンッッガアアアァァァァァァーーーーァアアッッッ!!!!」

 

 何事かと思い、デビルガンダムを見やれば、そこには背後に日輪を輝かせるバーニングブレイカーの姿があったではないか。

 何か反応するよりも早くエネルギーが右マニュビレーターに集中させていたバーニングブレイカーは覇王の魂を震わせるような咆哮に乗せた一撃をデビルガンダムの下半身であるガンダムフェイスに叩きつけた。

 

 大爆発を起こすガンダムフェイスの目の前にいるバーニングブレイカーに対して、ガンダムヘッドが食らいつこうとするが、それを阻むようにフラッシュエッジⅡが突き刺さり、次の瞬間、一瞬のうちに迫った機体によって破壊される。 

 

誇り(プライド)なんていらない……なんて言葉もある」

 

 そのままデビルガンダムの上半身まで舞い上がったのは、ゲネシスブレイカーであった。デビルガンダムが何かするよりも早く英雄から受け継いだスーパードラグーンによる効果的なオールレンジ攻撃を仕掛けると……。

 

「だが俺が今、俺でいるのは多くの出会いから受け継いだモノがあるからだッ! 俺が培った強さこそが誇り(プライド)であり、それをこれからの未来にぶつけていくだけだッ!」

 

 パルマフィオキーナをデビルガンダムの頭部に浴びせつける。しかしそれだけでは終わらない。掌から紅蓮の炎が巻き起こり、バーニングフィンガーに繋げるとエネルギーが頂点に達して爆発させる。

 

 

 

「常識を壊し──!」

 

 

 

 デビルガンダムが追撃しようと、爆炎から抜け出してみれば、そこには上空に並ぶ三機のガンダムブレイカーの姿が。

 その中で既に二人のエヴェイユの力を解放したブレイカー0は天を貫くような光の刃を形成していた。

 

 

 

 

「非常識に戦うッ!」

 

 

 

 そしてバーニングブレイカーもまた覇王不敗流の最終扇である天然自然のエネルギーをその身に宿して気弾として打ち出そうと両手を組むようにしてエネルギーを集束させる。

 

 

 

「それが……ガンダムブレイカーだッ!」

 

 

 

 そしてゲネシスブレイカーもまたGNソードⅤを媒体に覚醒の刃を解き放つ。一矢の咆哮と共に三機のガンダムブレイカーから放たれた一撃はデビルガンダムを飲み込んで、消滅させるのであった。

 

 それはこの場で戦っていたファイター達の活力を与え、歓声を巻き上げる。その中で翔達は機体越しに頷きあうと浮遊城へと突入していくのであった。

 

 ・・・

 

「ふぃー……さっすがにキツイかなぁ……」

 

 一方、浮遊城内の宇宙空間でユグドラシルを相手に単機で挑んでいる優陽は冷や汗を浮かべる。と言うのも脅威はユグドラシルのテンダービームと高出力のビームバリアによる攻防の隙のなさであろう。お陰でユグドラシルに少しずつ損傷を与えていても、EXブレイカーも比例して、それ以上に損傷を負っているのだ。

 

「でも、カッコつけた手前、やられるわけにはいかないよねッ!」

 

 伸びるテンダービームをシグマシスライフルで逸らしながらユグドラシルへ向かって突撃するEXブレイカー。この機体は見る限り、砲撃に特化した機体だ。にも関わらず優陽は突撃することを選んだ。

 

 ありったけを放つように全てを武装を放ちながら、ユグドラシルに近づいていくEXブレイカー。そのお陰か、テンダービームを寄せ付けず、ユグドラシルに接近するが、放たれた砲撃は局所で張られたビームバリアで防がれてしまう。

 

「僕はこの機体に誓ったんだッ! どうしようもなかった昔の自分を超越するってッ!」

 

 しかしそれでも優陽の瞳から戦意が衰えることがない。

 テンダービームがEXブレイカーに迫るなか、ありったけのエネルギーを溜め込んだハイメガキャノンが放たれ、ユグドラシルのビームバリアと拮抗し、やがては相殺される。

 

「一矢や翔さん達みたいに、誰かの希望になりたいからッ!」

 

 損傷を受けながらでも、ハイパービームサーベルでテンダービームを薙ぎながら、やっとの思いでユグドラシルに取り付くと前腕部のビームサーベルを出現させて、原作で打ち倒したG-セルフのように鋭く一撃を加える。爆発を起こす中、EXブレイカーは巻き込まれぬように一気に離脱した。

 

「さてまだやることは残ってるからね。行こうか、この世界の希望を守りに」

 

 後方から三機の反応を知った優陽は笑みを零すなか、そのままユグドラシルを撃破したことで崩壊していく宇宙空間から先へ進むのであった。

 

 ・・・

 

「やはり手こずりはしますか」

 

 一方、沿岸ステージから移動し、海上で展開していた巨大空母の上に乗ったブレイカーブローディアはシャンブロからのアイアンネイルを紙一重で避けながら、戦況を分析する。やはりMAは巨大であり、攻撃を放てばまず外れることはないのだが、その分、堅牢なのおだ。対してこちらはいくら作りこんでもMSでしかない。まともにシャンブロの最大火力の一撃を受ければ、一溜まりもないだろう。

 

「……いよいよ、本気を出すときのようですね」

 

 とはいえ、両肩のフルシールドを犠牲にしてでももう一方のアイアンネイロはこれまでの戦闘でその機能を殺すことには成功しており、リフレクターピットの数も減らしている。後は、着実に追い詰めるだけだ。

 

「この剣で得た勝利は我が父へ」

 

 GNバスターソードを両手で突き立て、ラグナは意識を集中させる。

 Newガンダムブレイカーズは翔が開発に携わっている。彼がゲームを始めたのも翔の勧めがあったからだ。そしてどうやらこれ以上、戦いを長引かせる気はないようだ。

 

「父よ、我が勝利をご覧あれッ!」

 

 ならばとシャンブロはさながらドラゴンが火炎を吐くように大口径メガ粒子砲のチャージを始める。今まさにブレイカーブローディアとシャンブロの姿はさながらドラゴン退治の騎士のようだ。

 

 甲板を蹴り、バーニアを稼動させ、シャンブロへ向かっていくブレイカーブローディア。同時に大口径メガ粒子砲が放たれるが、それを上方へギリギリで回避すると、そのまま砲口の頭上でありったけの勢いを利用したGNバスターソードの一撃で貫き、歪を生んだ大口径メガ粒子砲は耐え切れず、大爆発を起こす。

 

「私は如月翔の息子であり、ブレイカーの継承者。この勝利を更なる栄光へ繋げましょう」

 

 何とかシャンブロを撃破したブレイカーブローディアはビームコーティングマントを自由に靡かせながら、戦いの残滓を振り払うかのようにGNバスターソードを一振りして、先を急ぐのであった。

 

 ・・・

 

 それは圧倒的と言って良いかもしれない。

 ブレイカークロスゼロとジークジオンの戦いは一年前の戦いよりも段違いであった。それはやはり如月奏がこの一年で更なる力を得て、成長したからに他ならないだろう。

 

「……私の全ては満たされている」

 

 Cファンネルが一度、ジークジオンへ向かえば、それはまるで嵐のように激しく切りつけ、ジークジオンがブレイカークロスゼロを捉えようとすれば、量子化して姿を消す。ジークジオンはブレイカークロスゼロを完全に捉えられぬまま損傷を受け続けているのだ。

 

「それら全てがこの如月奏を作っている。その一つでも欠けない限り、私は真っ白な世界にい続ける」

 

 トランザムによってジークジオンをかく乱しながら向かっていくブレイカークロスゼロに青白い火炎を放つが、量子化して避ける。

 するとやがて火炎を出し切れなくなったその射線上に再び姿を現したブレイカークロスゼロはそのままGNソードⅢを展開して、腹部を貫き、貫通した背後に静かに佇むと、ジークジオンは大爆発を起こすのであった。

 

 ・・・

 

「これ、でッ!」

 

 玉座ではNEXdhとFA騎士ユニコーンが同時にフェネクスに一撃を放っていた。シールドで受けたフェネクスは僅かに後方に押しやられ、そのシールドに少し傷がついた程度であった。

 

 それどころかフェネクスはここからが本番だとばかりにデストロイモードに変形する。その煌びやかな姿に希空が顔を顰め、更なる戦闘に身構える。

 

 フェネクスの動きは早かった。一瞬のうちにNEXdhとの間合いを詰めると、ビームトンファーを放ち、NEXdhは咄嗟にシールドで受けるが、勢いまでは受け止めきれず、後方へ吹き飛ばされてしまう。

 

 《希空ッ!!》

 

 希空の身を案じるロボ助に対して、何か行動を起こす前にアームド・アーマーDEのメガキャノンを放って、牽制すると、そのまま近づいてFA騎士ユニコーンを蹴り飛ばす。

 

「……ロボ助ッ」

 

 ロボ助が危ない。そう感じて、起き上がろうとしたNEXdhではあるが、ビームマグナムの銃口が既にこちらに向けられており、シールドを構えるが、防ぎきれず破壊されてしまう。

 

「……!」

 

 中央の座まで吹き飛んだNEXdhにフェネクスが迫る。希空が無我夢中にドッズガンを向けるが既にフェネクスはビームマグナムの銃口をNEXdhに向けていた。

 

「確かに……この結果は見えていたのかもしれません」

 

 フェネクスはその気のなれば、もうNEXdhを撃破していたことだろう。

 そのことを悟って悔しさから下唇を噛む。結局、一番初めにフェネクスと戦闘をした時もデストロイモードを発言させてからは手も足も出なかったのだ。

 

「……ですが、今の私はあの時とは違う」

 

 しかし明確に初めてフェネクスと戦った時とは違うと言えることがあった。

 

「昨日より今へ、今より明日へ。短時間でも私には紡いだものがありますから」

 

 フェネクスと戦ってから多くの出会いがあった。それは希空にとって、似ていても別人と言えるような人々との出会いだ。そこから交流を深め、紡いだものがある。

 

 その瞬間、フェネクスは咄嗟に振り返ると、五つのビームが自分に迫っており、シールドを構えるのも間に合わず、その身に受けてしまう。損傷を負ったフェネクスが玉座の入り口を見やれば……。

 

 

 

「ああ。俺達はそこで自分の可能性を見付けた」

 

 

 

 ──争いの連鎖を断ち切る英雄・ガンダムブレイカー0

 

 

 

「限界なんてない。お互いを知れば、知るほどそう思えた」

 

 

 

 ──輝ける未来をその手に掴む覇王・バーニングガンダムブレイカー。

 

 

 

「一人じゃきっと出会えなかった温かさを得た。その温もりが何度もぶつかろうとする力になったんだ」

 

 

 

 ──英雄と覇王から受け継ぎし輝ける新星・ゲネシスガンダムブレイカー。

 

 

 

「その温もりを、希望を……消させるわけにはいかない。それを消そうとする絶望もここで希望に変える」

 

 

 

 ──希望の守り手・EXガンダムブレイカー。

 

 

 

「それを今からアナタは身を持って知ることになるでしょう。我々が紡いだ力を」

 

 

 

 ──栄光を守護する気高き獅子・ガンダムブレイカーブローディア。

 

 

 

「真っ白なほど輝かしい未来を掴めるだけの可能性をな」

 

 

 

 ──目醒めし最強の遺伝子・ガンダムブレイカークロスゼロ。

 

 

 そこには六機のガンダムブレイカーがいたのだ。

 

 

 

 

 その瞬間、背後から放たれたアンカーにフェネクスはその身を拘束され、すかさず高圧電流を流されると一時的な機能不全に陥る。その隙にNEXdhはFA騎士ユニコーンと共にガンダムブレイカー達と合流する。

 

「行きましょう。皆さんのお力、お借りします」

 

 ガンダムブレイカー達と合流したNEXdhはそれぞれを見て、声をかける。彼らは今、たった一つの目的のために動いている。ここで異を唱える者はいなかった。

 

「行きますよ、翔さん!」

「ああ、任せろ」

 

 すると機能を回復したフェネクスが動き出そうとする。すかさず優陽が翔に声をかけると、EXブレイカーとブレイカー0は前に出る。ブレイカー0のオールレンジ攻撃と共に放たれた狙撃が着実にフェネクスの装甲を削るなか、EXブレイカーのシグマネスライフルが放たれ、フェネクスは何とか回避するが……。

 

「バーニングゥッ……!!」

「フィンガアアアアァァァァァーーーーーーーーァアアアッッ!!!!」

 

 既にそこにはゲネシスブレイカーとバーニングブレイカーが回り込んでいたのだ。二機同時に放たれるバーニングフィンガーにシールドを構えるが、未来を掴むその一撃を前に容易く打ち砕かれ、そのままフェネクスに直撃する。

 

「奏、遅れたら補習ですよ」

「私はお兄ちゃんっ子なんだ! 離れる筈がないさッ!」

 

 更に追い打ちをかけるようにゲネシスブレイカー達を飛び越えたブレイカーブローディアとブレイカークロスゼロの自慢の実体剣が穿つように放たれ、腹部に大きな損傷を受けたフェネクスは大きく仰け反って膝をついてしまう。

 

 《行こう、希空。終わらせるんだッ!!》

「うん!」

 

 そんなフェネクスを見て、瞬時にロボ助が希空に声をかけると、頷いた希空は機体を変形させ、FA騎士ユニコーンを乗せると、フェネクス目掛けて突進する。

 

「希空、行っけぇっ!」

「道は我々が開きましょう」

 

 NEXdhへの攻撃を阻む為、NEXdhの背後からブレイカークロスゼロとブレイカーブローディアがそれぞれライフルモードに切り替えて、引き金を引く。

 

「どうせならハッピーエンドが良いよねっ」

「悪いが、希空に手出しする奴は許す気にはなれなくてな」

 

 すかさずその後を追うようにEXブレイカーがシグマシスライフルを、ゲネシスブレイカーがGNソードⅤをライフルモードにしてNEXdhの援護に徹する。

 

「これでフィニッシュだ! ここまで来たんだし、とことん手伝ってやるぜッ!」

「ああ。この戦いをここで破壊する」

【だから進んで、希空ちゃんっ!!】

 

 そしてバーニングブレイカーはバーニングフィンガーを照射し、ブレイカー0も狙撃を始める。六機のガンダムブレイカーがそれぞれの想いを乗せた攻撃はフェネクスの装甲を少しずつ破っていた。

 

 それでもフェネクスは抗おうとビームマグナムを何とかNEXdhに向けようとする。照準をNEXdhに合わせ、引き金に指をかけたその時であった。

 

「さあ、勝利を組み立てようか」

 

 横から放たれたビームがフェネクスのビームマグナムの銃口を逸らしたのだ。ビームマグナムその物は無傷であっても、銃口を逸らすのには十分な役割を担ったのだろう。射線上の先にはRX-78-2 ガンダムの姿があった。

 

「《いっけぇえっ!!!》」

 

 希空とロボ助の声が重なる。その瞬間、がら空きとなったフェネクスの胴体をNEXdhとFA騎士ユニコーンが突き破り、大爆発を起こす。爆発に巻き込まれていないか、誰もが希空とロボ助の身を案じるなか……。

 

「──終わり、ました」

 

 爆発から一筋の隆盛が抜け出し、NEXdhとFA騎士ユニコーンがその姿を現す。健在であるその姿を見て、翔達は安堵して、笑みを浮かべるのであった。

 

「……無事か」

「そこは流石、俺の娘って言ってあげれば?」

 

 希空達の無事を確認して、安堵のため息をつく一矢を見て、途端に優陽はからかい始める。一矢がそれにムキになっていると玉座にGAME CLEARと大々的に表示され、ファンファーレのような音楽が聞こえてくる。

 

「どうやら終わったようだな」

「さぁて、この後どうなるんだか」

 

 フェネクスを倒したことで表示されたGAME CLEARの文字を見ながら翔とシュウジはこの後に起きることを考える。希空達は現実に帰るだろうが、自分達はどうなるのだろうか。

 

「あっ……」

 

 するとポツリと希空が声を零す。視線の先にいるブレイカー0からEXブレイカーまでの四機が淡い光に包まれているのだ。

 

「……成る程。データっつーのもやっぱ間違ってなかったってことか」

「あははっ……。なんか変な感じだね」

 

 翔達も自分の状態に気付いたのだろう。己の状態を確認して、シュウジも優陽も何ともいえない様子で苦笑すると、四機はコックピットを明け、ファイター達が姿を現す。

 

「一時的とは言え、お前と出会えて良かった。娘と言われてもピンと来ないけど……。でも、うん……。純粋にそう思える」

「パパ……」

 

 希空達もコックピットを開くなか、希空に対して柔らかな表情を浮かべる一矢に希空も切なそうに目を細める。

 

「ここで消え去った後、俺達には何も残らないかもしれない。だが、俺達はそれぞれが未来を切り開いていくのは変わらないだろう。だからお前達も……」

「ええ、きっと明るい未来へ進んで行きます」

 

 データであろうが、その実、影法師であろうが、これが元に影響するかは分からない。

 だがどの時間軸から移動して来ても、そこにいる翔達はそれぞれの未来を切り開き、栄光を手に入れた。だからこそ希空達もそうであって欲しいと話す翔に希空達は頷く。

 

「こんな時、どんな別れの言葉を使えば良いのか分からないな……」

 

 何となくだが、もう間もなく自分達が消え去るのが分かる。翔はその前にキチッと別れを告げたいと最後の言葉を探す。だがやがて、導き出したのだろう。希空達に微笑むと……。

 

「また、未来で」

 

 その言葉を最後に翔達は消え去る。束の間ではあるが、何とも不思議で温かい時間を過ごしていたことには変わりない。その時間を希空達が噛み締めていると……。

 

「ふぃー……。あぁ一応、俺も良いかな?」

 

 ふと横から声をかけられる。そこにはガンダムの姿が。忘れていた。彼もまた最後、手を貸してくれていたのだ。だが、彼のガンダムもまた淡い光に包まれていた。

 

「……先ほどは援護、感謝します」

「物珍しいもんだから、この世界を廻ってたら決戦中で驚いたもんさ。まっ、縁があったし、お節介を焼いちゃったんだよ。でも、これで俺も帰れそうだ」

 

 最後の最後に手を貸してくれた彼に礼を口にする希空。そんな彼女に軽くおどけながらでも、自身を包む淡い光を見ながらどこかホッとした様子を見せる。

 

「これで終わりなんでしょ? お疲れさま。疲れたんなら甘いものを食べときな、シュガードーナツやクルーラーがオススメだよ」

「ドーナツが好きなんですか?」

「ああ。特にユイ姉ちゃ……あぁ、俺の知り合いが知ってる店のドーナツは最高でね」

 

 元々の性格なのか、どこか軽薄に話す青年のオススメに希空が苦笑していると、確かに美味しいのか、青年は声を弾ませていた。だが、青年を包む淡い輝きは少しずつ強くなっていく。そえはまるでもうすぐ消え去ってしまうかのように。

 

「アナタはどうするんですか……?」

「どうせならお嬢さんとも一緒にいたいけど、この天才を必要としている幼馴染みがいてね。俺が力になってあげないと」

 

 このままでは翔達と同じように消えてしまうだろう。

 翔達のその後は知っていても、彼に関しては何も知らない。果たして、彼は此の先、どんな道を進むのだろうか。だが少なくともかつてのミサが一矢にそうしたように彼を必要とする存在がいて、彼はそれに全力で応えようとしているようだ。

 

「まっ、あんた等ももう休みな。こっちのことは任せろよ」

 

 青年のその言葉を最後に、彼とガンダムは翔達のように消え去る。残された希空達はゲームクリアと共に彼女達もNewガンダムブレイカーズの世界から消えるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

希望の空

「結局、クリアしても何にもないとか時間の無駄じゃん」

 

 Newガンダムブレイカーズから数日が経ち、結局、ゲームクリア後も何か特典の類が得られるわけでもなく、それぞれがそれぞれの日常にまた戻っていた。

 そんな中、学生寮の希空の部屋では、Newガンダムブレイカーズのプレイヤーの一人であったヨワイが愚痴を零していた。

 

「結局、アタシなんて変な酔っ払いに絡まれただけだし……。どうせ絆が試されるって言うなら、アタシがアンタと……」

「何か言いましたか?」

「なんでもないし!」

 

 ベッドの上で足をパタパタと動かしながら不満を口にするヨワイ。しかし最後のほうでは、か細く聞き辛くなったため、希空が尋ねるもすぐに顔を真っ赤にして誤魔化す。

 

「……でも、時間の無駄とか何もなかったわけではないと思いますよ」

 

 ヨワイはそのまま不貞腐れたかのように希空のベッドでゴロゴロと転がっている。そんな子供のような彼女にため息混じりに苦笑しながら、ふと希空は話す。

 

「不思議な時間でしたけど……ええ、とても充実した時間でした」

 

 あの世界で出会った四人のガンダムブレイカーと自称天才を思い出す。

 当初こそ彼らに出会って、困惑していた部分は大きいが彼らを知れば知るほど多くのことを学べた気がする。

 

 その時の思い出を振り返っているのだろう。

 柔らかく温かな笑みを浮かべる希空を横目で見て、ふーん、とどこかヨワイは感心していた。

 

 純粋に彼らとの出会いは希空に成長させるには十分な内容だったのだろう。彼女のそんな表情を見て、心の中で最初、口走った言葉を撤回するのであった。

 

 ・・・

 

「さて、私は丹精込めたゲームをクリアしてもらって満足だが、君はどうかね」

 

 希空がNewガンダムブレイカーズの話を持ちかけられた喫茶店では、クロノが目の前に座る翔に声をかける。服役している間に随分と雰囲気が変わったものだ。いや、雰囲気ではない。これは中身だろう。

 

 そんなことを考えながらクロノは目を細める。30年前に出会った翔はまだ如月翔という人間味を残していた。しかし今、目の前にいる翔はあの時、感じられた人間味を感じられず、新人類をも超越した存在のようにも感じられ、クロノを持ってしても、翔がなにを考えているか分からないのだ。

 

「ああ、十分だ」

 

 だが彼はそのなにを考えているかも分からないその揺れ動かぬ瞳でたったそれだけを答えたのだ。

 

「良ければ、詳しく教えてもらいたいものだが。フェネクスを撃破するためには絆を感じさせる連携を条件にしたりね」

「簡単な話だ。可能性を知りたかった」

 

 どこか慎重に手探りな口調で翔の本意を伺おうとする。30年前と然程、変わらないその異常な外見や物事に対して一歩引いた俯瞰した態度だけではない。本能が目の前の如月翔を同じ人間とは受け入れられないと訴えているのだ。それはまるでこの如月翔は世界から切り離された存在にも思える。かつてのドクターが口にしたどの人種から見ても他種という言葉が強く今の翔にあてはまっているのだ。

 

「人は手を取り合うことが出来るのか。少しでも分かり合うことは出来るのか。その瞬間を見たかった」

「それが希空君達だと?」

「ああ。人類が完全に分かり合うことなど不可能だ。しかし隣人を分かろうと歩み寄ろうとすることは可能だろう。そして彼女達はそうした」

 

 そんなクロノを対して気にした様子もなく、翔は粛然と話す。

 しかしクロノはこれが意外だった。いやクロノも実際、翔が言うように人類は分かり合えないと思っているが、翔もそういうとは思っていなかったのだ。彼はどちらかと言えば、人類は分かり合うことが出来るなどと口走る所謂、主役側の人間だと思っていたからだ。

 

「だが、わざわざあの四人を選んだのはどうしてかね?」

「……ゲームクリエイターのわりには鈍いな」

 

 しかしだ。何故、わざわざ平行世界とはいえ、過去の自分達と言っても良い存在の思念体を呼び出したのだろうか。別にわざわざ消耗してまで、そんなことをする必要はなかったようだ。だが、そんなクロノの言葉を翔は鼻で笑う。

 

「ただの遊び心だ」

 

 ここで漸く翔が笑ったのだ。どこかまでも優しく、柔らかな笑みだ。窓から差し込むそんな彼の表情を見て、そうか、ならば仕方ないなとクロノも肩を竦めるのであった。

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 

「──ッ……」

 

 異世界にて、如月翔はその意識を覚醒させた。周囲を見れば、自身は精密機器によって囲まれたモビルスーツのコックピットにいたのだ。

 

【ちゃんとまたこの世界に来れたみたいだね】

「……ああ。デビルガンダムとレーア達の反応を感知した」

 

 しかしこれは別に現代の如月翔ではない。彼が思念体を呼び寄せた平行世界の時間軸にいる如月翔だ。その中でシーナが声を発すると翔はセンサーを確認しながら答える。

 

【ねえ、翔……。何だか変な感覚が残ってるんだ。何か……夢を見ていたような……】

「……ああ……俺もだ。しかし思い出せないんだ。どうしても」

 

 ふとシーナは違和感を感じていたようで、何気なく話すと、それは翔も同じだったのか、どこか不可解そうに答えていた。

 

「だが、今はそれどころじゃないな」

【うん! 一緒に争いの連鎖を断ち切ろう】

 

 しかしこの違和感を長々と話している余裕はない。

 実際、地上では悪魔を相手にかけがえのない仲間達が戦闘を繰り広げているのだから。意志を通わせた翔とシーナはガンダムブレイカー0と共に上空から地上へ向かう。それはまさにおぞましい争いの渦に再び飛び込むかのように。

 

 ・・・

 

「なんだったんだろうなぁ……」

 

 一方、ボロ雑巾のような外套を纏ったシュウジは鉱山地帯を練り歩いていた。まだ旅の途中である彼は顎に手を添えて、不可解そうに首を傾げていた。

 

「気持ちの良い夢から目が覚めてすっきりしたのは覚えてんだが……。どんな夢だったか……」

 

 アークエンジェルから離れて、修行としてこの荒廃した世界を放浪していたシュウジは何か抜けてしまったような釈然としない様子だ。

 

「あ……?」

 

 だが、そんな彼もふと目に飛び込んできた光景を前に思考と共に足を止める。

 

「あれは……国か」

 

 そこには鉱山地帯の山々に囲まれる小さな国があったのだ。行く宛てもなくほう領していたシュウジはあの国へ向かおうと決め、歩を進める。

 

 彼の国の名はルルトゥルフ。覇王が兄弟の絆を試され、神の如し力を手に入れる切欠となった国の名だ。

 

 ・・・

 

「……」

 

 一方、静止軌道ステーションにいる一矢も己の存在を確かめるようにじっと見つめながら手を開閉していた。

 

「一矢っ!!」

 

 そんな彼に声をかけたのはミサだった。慌しい様子で彼女は一矢の元へ向かうが、今、一矢がいる場所は無重力に設定しており、無重量空間では上手くいかず、一矢が彼女の手を引いて引き寄せる。

 

「もうすぐ宇宙エレベーターに繋がって地上に帰れるって」

「……そっか」

 

 どうやら地上に戻れる目処が立ったらしい。やはり宇宙空間も楽しんでいたが、故郷である地球に戻れるのは嬉しいらしく興奮した様子のミサに一矢は苦笑する。

 

「ねぇ、一矢……。あのさ、地上に戻ったら何だけど……」

「──おーいお前ら、メイドさんがお茶を入れてくれたぞ」

「あぁーっ!? また邪魔したなーっ!」

 

 一矢がミサの手を取った為、無重力空間で身体を密着させているような状態だ。

 一矢の顔を間近で見たミサはどこか恥らった様子で何か話そうとするが、何気なくやって来たカドマツと彼に同行していたロボ太によってその言葉は阻まれ、途端に文句を口にする。

 

(まあ……今が一番だな)

 

 先ほど夢を見ていた気がするが、それよりも今目の前でわざとじゃないと弁明するカドマツを知るかとばかりに文句を言っているミサとその様子を見ているロボ太を見て、一矢もその輪に入っていくのであった。そして彼もまた己の限界を越え、ラストゲームに向かって身を投じていく……。

 

 ・・・

 

「ふあぁーっ……よく寝たー」

 

 一方、VRを組み込んだ新型ガンプラシュミレーターのイベント会場の医務室のベッドで優陽が目を覚ましていた。

 

「うーん……楽しい夢だったなぁ……。覚えてないけど」

 

 背筋を伸ばし、あくびをしながらポリポリと頬を掻いた優陽は覚えてないなら思い出さないとすぐに意識を切り替えてベッドを降りる。

 

「なんか大変なことになってるみたいだし、そっちに行かないと。あぁそうそう、僕のアバターもちゃんとオトコノコになってるといいけど」

 

 ふと携帯端末のSNSを見て、この会場で起きているを知る。詳しく調べれば、今、アザレアリバイヴとデクスマキナが戦闘を繰り広げていると言うのだ。自身のアバターを確認しながら優陽は医者に適当に話して医務室から出て行く。

 

「ミサちゃんは一矢の希望だからね。絶対に守るよ」

 

 希望の守り手は超越の意味を込められたガンダムブレイカーを持ってガンプラバトルシミュレーターに向かって走り出す。彼は今まさに、希望を紡ぐ戦いに身を投じるのであった。

 

 ・・・

 

(そう、あれはうたかたの夢。一度、消えれば何も残りはしない)

 

 そして現代において喫茶店では翔がふと窓の外の光景を見やる。

 今回の彼の行動は世界から切り離された存在とも言える彼が、僅かに見たかった小さな楽しい夢なのかもしれない。

 

「あぁ、そうだ。もう一つ、良いかな」

 

 すると目の前に座っていたクロノは何か浮かんだのか声をかけると、翔は視線だけを向けて続きを促す。

 

「あのバグは何かね? 私は仕込んだ記憶はないのだが……」

「さあな。思念体を呼び寄せた時に偶然、あの青年の思念体も呼び寄せてしまったのか……。今となっては原因は分からない」

 

 フィールドに現れたRX-78-2 ガンダムを操る青年。リアルタイムでカスタマイズを行ったりとその存在はあまりにも異質であり、しかもこればかりは翔も関知してはいないようだ。あの青年は一体、何者なのか、翔は再び窓の外を見やるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 如月翔やシュウジが戦った世界でも、雨宮一矢や南雲優陽が誇りと希望を賭した世界でも、雨宮希空や如月奏が己を掴んだ未来の世界でも、そのどれにも当てはまらない世界にある学園の屋上にこの学園の生徒と思われる一人の青年がドーナツをもぐもぐと頬張っていた。

 

「寝起きのドーナツも……まあ悪くないか……。いやでも良くもないな」

 

 まだ寝ぼけた面持ちでドーナツを頬張っている青年は好物とはいえ、なんでドーナツを寝起きであっても食べているのだろうと自問自答して首をかしげていると……。

 

「あっ、ここにいた」

 

 するとそんな青年を探していたのか、一人の少女が声をかける。声に気づいた青年がその方向を見やれば、そこには赤みががかった茶髪に学園の白い制服を纏った少女がそこにいた。

 

「やれやれ人気者は辛いね。モテる。バトル中に創る。さらにモテるってヤツ? いや、確かに新しいとは思うよ」

 

 よく見れば、その少女だけではなく、その後ろにはそれぞれ個性が違うと明確に分かる5人の少女が青年に声をかけていたのだ。6人の少女の顔をそれぞれ見た青年はドーナツを食べ終え、ポケットティシュで手を拭うと立ち上がる。

 

「さあて……今日も火花がバッチバチしてる学園の愛と平和の為に頑張りますかっ!」

 

 まあまだ何も始まっちゃいないがね、と口にしながら6人の少女に迎えられ、青年は学園に足を踏み入れる。途端に彼という存在は広く広まっているのか、青年に視線が集中する。それはまるで青年の実力を見定めるかのような視線だ。

 

「さあ、勝利を組み立てようか」

 

 中には彼にガンプラバトルを持ちかける者もいた。そんな相手に青年は自身がカスタマイズしたガンプラを取り出して不敵に笑う。

 

 この学園の名は私立ガンブレ学園。彼が言うように、この学園と彼を巡る物語は何も始まってはいない。いや、ここから始まっていくことだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

特別編 彼らの何気ないひと時
闇堕ちサンタの祝福


メリークリスマス!


 12月24日 クリスマスイブ

 

 12月25日 クリスマス

 

 このどちらかに大きな袋を肩にかけ、白のトリミングのある黒い衣装と黒いナイトキャップを纏い人知れず現れる存在がいる。

 

「ジングルベェル……ジングルベェル……」

 

 彼の名前はサンタクロースイッチ。必ず雨宮一矢の自室から現れる世の中の不条理に闇堕ちした負のオーラ全開のサンタである。今回は人知れない彼の活動を見て行こう。

 

 ・・・

 

「ジングルベルっ♪ ジングルベルっ♪ 凄くっ欲しい♪」

 

 今日は12月24日。町に吹く風が身を震わす中、ブレイカーズの事務所ではサンタ帽を被った風香がパソコンと睨めっこをしている翔の前で満面の笑みを浮かべ飛び跳ねながら歌っていた。

 

「てんちょーがくれるプレゼントっ♪ プリーズっ♪」

 

 フレーズを歌い終えると同時に着地して両手を差し出す風香。パソコンを見ていた翔は呆れた様子でため息をつきながら風香に向き直る。

 

「……そうか、ウチの在庫処理に協力してくれるのか」

「そんなのプレゼントじゃないよぉっ! 風香ちゃんが変身ヒーローのアイテムもらってなにが嬉しいのさ!」

「……この時期、この手の玩具がクリスマス商戦で増えるんだよ」

 

 チラリと在庫の玩具を一瞥しながら意地悪そうに口角を僅かに上げながら親指で指差す翔に風香はぶんぶんと首を横に振りながら否定する。そんな風香を横目に再びパソコンに向き直ると作業を終え、パソコンをシャットダウンさせる。

 

「でも、それなりに売れてるでしょ?」

「まだだ」

 

 在庫はまだあるとはいえ、自分も一応はこのブレイカーズの店員である為、どれが売れているのか、なにを売ったのかは何となくであるが分かってる。頭が痛そうに在庫を見ている翔に風香は首を傾げていると、翔はすくっと立ち上がる。

 

「クリスマスの二日間はサンタセットとしてRGガンダムとRGシャア専用ザク、ツリーセットでHGBFウィングガンダムゼロ炎とHGBFガンダムフェニーチェリナーシタを纏め売りだ」

 

 事務所に用意されているガンプラセットの前に移動して、さながらセールスマンか何かのように説明を始め、風香は翔の行動に目が点の如く呆けた様子で聞いている。

 

「因みに年末になれば、紅白セットでPGユニコーンとHGUCネオ・ジオングも纏め売りだ。ガンプラ福袋もある。お得だぞ」

「へ、へぇー……」

 

 在庫の中でも一層の存在感を発揮する巨大なガンプラの箱。その箱の上に手を置きながら翔はキリッとした表情を向けながら説明するも風香はついて行けず乾いた笑みを浮かべている。

 

「そのさ、セット売りも良いけどさ……。てんちょーはクリスマスに何も予定ないの? なかったら私とイルミネーションとか……」

 

 今迄の話は全て前振りだ。本題を切り出す風香。しかしやはり恥ずかしいのか、風香は恥じらった様子ではにかみ、もぞもぞと人差し指同士を合わせ僅かに俯きながら翔を誘おうとする。

 

「……イルミネーション? ……ガンプラに仕込むLEDか。やっぱりクリスマスになればいるよな。ちゃんとどの種類も用意してあるぞ」

(……このガンプラ脳は)

 

 あぁっ……、と思い出したように顔を上げると、そのまま納得したようにコクコク頷きながら話す翔。しかしイルミネーションでまさかガンプラの話が出て来るとは予想もしてなかった風香は思わず嘆息し、ズーンと肩を落として落胆するのであった。

 

 ・・・

 

(うぅっ……風香ちゃんが休憩中なのは良いけど、翔さんと二人っきりって言うのが気になる……)

 

 一方、店内のレジではあやこがせわしない様子で事務所方向をしきりに気にしている。理由は勿論、翔と風香だ。風香は翔に好意を寄せているのは明白。それに今日はクリスマス。翔の予定は空いている事は事前に確認してはいるのだが誘いきれなかった為、風香に先を越されないか心配していた。

 

「──あの……」

「あれ?」

「これ買うんですけど一緒に包んで欲しいのが……」

 

 そんなあやこに声をかけた人物がいた。流石に事務所にいる風香達を気にして接客を疎かにするわけにはいかない。慌てて意識を声をかけてきた人物に向けるあやこだが、その人物を見てきょとんとした表情を見せるのだった。

 

 ・・・

 

「すぅ……すぅ……」

 

 その夜、サンタクロースイッチは雨宮一矢の自室から現れた。のそのそとそのまま隣の夕香の部屋にすり足忍び足で向かいながら静かに扉を開ける。隙間から中の様子を伺えば夕香がベッドの上で眠っていた

 

「……」

 

 どうやら完全に眠っているようだ。それもそうだろう。今日は夕香は裕喜のような親友達と遅くまで遊んでいた。疲れもあるのだろう。帰って来て、風呂に入ったと思ったらすぐに眠ってしまった。眠っている事を確認したサンタクロースイッチは静かに夕香の私室に足を踏み入れる。

 

 そしてそのまま夕香のベットの傍に寄る。

 真夜中に気づかれぬよう眠っている少女のベットの傍まで寄ると言う文面にしてみれば中々危ないが彼はサンタだ。許される。……許されるはず。

 

「んんっ……」

「ホァ……!?」

 

 そのままゴソゴソと袋の中の物を取り出そうとするサンタクロースイッチ。しかしここで夕香が寝返りをうち、ベッドの真横にいる自分の方向を向いてしまう。起きたのか?そう思って夕香の様子を観察するが、どうやらまだ眠っているようだ。

 

 そのまま慎重に彼女のベットの脇に可愛らしくラッピングされたプレゼントを置くサンタクロースイッチ。そのまま袋を持って夕香の部屋を退出する。

 

「ふぅ……」

 

 一仕事終えたサンタクロースイッチ。夕香の部屋のドアの前で一息つく彼のポケットに入っている携帯端末に着信が入る。誰かは分かっているがゴソゴソと取り出す。

 

 “こっちの準備はOKだよ”

 

 文面にはそう書いてあった。それを見たサンタクロースイッチは窓に映る月を見ると、そのままのそのそと移動を開始するのだった。

 

 ・・・

 

「やぁ待ってたよ」

「……どうも」

 

 サンタクロースイッチが来たのは彩渡商店街にあるミサの父が経営するトイショップであった。裏口に着いたサンタクロースイッチを出迎えた人物にサンタクロースイッチは軽く会釈する。

 

 彼の名前はサンタクロースユーイッチ。サンタクロースイッチが活動するよりも前からこの家に現れるサンタクロースである。サンタクロースイッチとは違い、ちゃんと赤い衣装とナイトキャップを被り、白いひげ(付け物)をしているところだろう。

 

「……なんで俺までやんなきゃなんねぇんだ」

 

 サンタクロースイッチの隣ではトナカイカチューシャを被ったエプロン姿のトナカイマチオが不満そうに眠い目を擦って大きく欠伸をしている。

 

「まぁまぁこの商店街に活気づけてくれている女の子にプレゼントを配るんだ。悪い事じゃないだろう?」

「そりゃ俺だって感謝はしてるけどよ……。なんで俺がトナカイなんだよ……」

 

 トナカイマチオを苦笑しながら宥めるサンタクロースユーイッチ。そのまま二階で眠っているであろう少女の部屋を見ると、トナカイマチオもトナカイカチューシャを撫でながら渋々頷くがやはり自分の配役に不満はあるようだ。

 

「でもまさか君がミサにプレゼントを渡したいって言うとは思わなかったよ」

「……面と向かってだと……渡しづらいし……」

 

 説得には成功し、そのままサンタクロースイッチを見やるサンタクロースユーイッチ。元々今回の行動は彼の申し出が切っ掛けなのだ。サンタクロースユーイッチの言葉にサンタクロースイッチはそっぽを向いて照れ隠しに頬を掻きながら答える。

 

「ったく、可愛いこと言うじゃねぇか! 仕方ねぇ、早速行こうぜ」

 

 そんなサンタクロースイッチの肩に手をまわし豪快に笑うトナカイマチオ。やっと乗り気になったのか、そのままサンタクロースイッチを軽々と脇に抱えてサンタクロースユーイッチの先導で目的の部屋に向かう。

 

 ・・・

 

「よし、寝てる。行こう」

 

 目的地であるミサの部屋にやって来た一行はそのまま中の様子を伺うとミサは眠っていた。それを確認したサンタクロースユーイッチは扉を静かに開け、三人は中に入る。

 

(おぉっ……神よ……)

(サンタクロースイッチが浄化されている……)

 

 ミサはぐっすりと眠っていた。そのミサの寝顔を見て胸の前で十字を切って天を仰いで涙を流すサンタクロースイッチ。彼の頭上には光と小さな天使まで見えるようなその光景にサンタクロースユーイッチ達は引き攣った笑みを浮かべる。

 

「よし、それじゃあ早速プレゼントを置こうか」

「その前によ、お前らなにを持ってきたんだ?」

 

 とはいえいつまでも長居は出来ない。サンタクロースユーイッチの言葉に頷き、それぞれプレゼントを取り出し始める。置こうとしたその時、トナカイマチオが用意したプレゼントの中身が気になるのか、そのままの流れで発表会になる。

 

「僕はすーぱーみさだよ」

「……元キットからここまでやるのは凄いんだけど……なにこの微妙な気持ち」

 

 サンタクロースユーイッチが取り出したのはガンプラとして発売されたすーぱーふみなを改造したミサとアザレアを組み合わせたすーぱーみさであった。中身を確認してサンタクロースイッチは度し難いような表情で首を傾げる。

 

「なんだ、被っちまったな」

「「えっ?」」

 

 そんなすーぱーみさを見て、トナカイマチオは困ったように笑うとその言葉に他二人はトナカイマチオを見る。そのままトナカイマチオは苦笑しながら「俺が用意したのは……」とプレゼントの中身を二人に見せる。

 

「ぐれいとまちお、だ」

 

 ゴロゴロピッシャーン、雷鳴が二人のサンタの背後に落ちる。

 

 旧1/100HGのガンダムマックスターを改造したであろう彩渡商店街精肉店店主に非常に酷似したガンプラを見せつけられ、絶句しているのだ。

 

(マチオ……。君って奴は……!?)

(一番、乗り気じゃなかった奴が一番とんでもないモノ出しやがった……!)

 

 これはやばい。なにがやばいって兎に角やばい。って言うかなんで自分モチーフなんだ。肌色が多い為に見ようによっては裸エプロンのようにも見える。

 

「で、お前はなに用意したんだ?」

(この流れで俺が出すのか……!?)

 

 プレゼントの中身をしまいながら、サンタクロースイッチにプレゼントの中身を問いかけるトナカイマチオ。いかんせん大人二人のプレゼントが色々濃すぎて出すのを躊躇う。冷汗止まんない。

 

「お、俺は普通にガンプラセット……」

 

 この流れに躊躇いながら渋々プレゼントを取り出す。袋の中からはブレイカーズの袋が取り出され、その中から言葉通りの品物が入ったであろうラッピングが施されたプレゼントがあった。

 

「あれそれブレイカーズの……」

「サンタに仕入先なんてありません」

 

 袋の中から見えるブレイカーズの紙袋を見て、サンタクロースユーイッチが反応するも今の自分はサンタクロース。サンタクロースイッチは否定をする。

 

「まぁ兎に角、全員出揃ったね。それじゃあ今度こそ置いてお暇しようか」

 

 全員のプレゼントの中身は出揃った。サンタクロースユーイッチの言葉に頷いて三人は眠るミサの脇にプレゼントをそれぞれ置く。

 

「……メリークリスマス」

 

 部屋を出る最後に眠っているミサに声をかけて退出するサンタクロースイッチ。そのまま戸を閉めて今年のサンタクロースの仕事を終える。

 

「……うん、メリークリスマス」

 

 それなりに騒がしかった三人がいなくなり静寂が支配する部屋。その中でミサがパチリと目を開け、静かに呟くのだった……。

 

 ・・・

 

「ふあぁっ……!」

 

 朝、まだまだ肌寒い中、雨宮宅で夕香が目を覚ます。

 もぞもぞと怠そうに起きた夕香は欠伸をしながら背伸びをする。まだ起きたばかりで頭が回らないがベットの脇に置いてあるプレゼントを見つける。

 

「今年も来たか……ガンダムグッズだけを置いていくサンタ……」

 

 そのままプレゼントの中身を確認すればHGBFウィングガンダムゼロ炎とHGBFガンダムフェニーチェリナーシタがあった。

 誰がやったのかは分かるが、思わず嘆息してしまう。何時からだろうかこの時期になると必ず自分の傍にはガンダムグッズが置いてある。

 

「まっ、なにか分かんないけど、それはそれで聞けばいっか」

 

 今でこそバルバトスのガンプラを作ったりとしているわけだが、昔は兄がハマっている程度の認識がなかった為、毎回微妙な気持ちになっていた。

 今回も貰えるのは嬉しいが正直、自分はガンダムに詳しいわけではない。自分がまだ知らないガンダムのプラモデルをもらい、夕香は首を傾げながら苦笑する。

 とはいえ逆に言えば、このガンダム達が登場する作品について聞ける話の種にもなる。それはそれで良いかと夕香は大切に机の上に置くのであった。

 

 ・・・

 

「父さんもマチオおじさんも色々と濃いなぁ」

 

 一方、その頃ミサも二度寝から起きていた。夕香と同じくプレゼントの中身を確認して苦笑している。

 

「おっ、RGのガンダムとシャアザクだ」

 

 そのままサンタクロースイッチが用意したプレゼントの中身を見て、嬉しそうな声を上げる。まぁ恐らく前者が色々と濃かったせいだろう。

 

「ん……?」

 

 しかしプレゼントはそれだけではなかった。ガンプラセットが入ったプレゼントの箱にはまた別の小さな箱があった。それに気づいたミサは小箱を取り出す。

 

「わぁっ……!」

 

 その中には小さな赤色の宝石がついたペンダントが入っていた。

 その輝きは初めて今のチームのパートナーと出場したタウンカップで彼が自分を守った際に放った輝きに非常に酷似していた。

 

 思わずそのペンダントを手に取り、頬を紅潮させ愛おしそうに胸の前に抱く。目を閉じてこのプレゼントを用意して届けに来てくれたであろう“彼”に想いを馳せるのだった……。




特に本編を考えずに書いたクリスマス話。私はまだDLCをプレイできていませんが一応、原作本編の終了後の年内のイメージで書きました。

本当は活動報告にでも投稿キャラを交えてのクリスマス話の案を募集したりしたかったんですけど、いかんせんこの話自体を思いついたのは二、三日前なので今回は出来ませんでした…。

大晦日や初詣などの行事系の話を今後書くかは微妙ですが、今回のように突発的に私の気が向いたり、この行事の話を!などそれとなくありましたら、その際は活動報告に案の募集記事を作成するかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新年!初詣!!初ガンプラバトル!!!

謹賀新年

新年あけましておめでとうございます。
前年度はお気に入り登録、感想、評価等のご厚情を賜り、誠に感謝しております。

今年もどうか本小説、並びに前作を含めた小説を私共々よろしくお願い致します。

それでは堅苦しい挨拶もそこそこに、正月特別編をどうぞ。


 1月1日 元旦

 

 

「……新年だからって神社に行くとか馬鹿じゃないの」

 

 新年一発目から初詣を否定するのは我らがボッチ 雨宮一矢であった。

 

 厚着のトレーナーにスウェット、ちゃんちゃんこを着ている一矢は自室でブレイカーズで購入したガンプラ福袋のHGのガンプラを作成していた。今も小さなヒケをペーパーヤスリで処理している。

 

 それを入口から扉に寄りかかって見ているのは夕香だ。

 初詣に行くつもりなのだろう、赤のベレー帽を被っている夕香の服装はキャメルのチェスターコートを羽織り、その下には白のブラウスとネイビーのスカートを着用している。

 

「人がいっぱいいるところに行くとかさ……。ありえないし」

 

 先程の一矢の言葉もそんな夕香に向けてのモノであった。

 今だぶつぶつ文句を呟いている一矢に夕香は静かに部屋に足を踏み入れる。

 

「初詣を行く奴なんてリア充だろ……。呪っちゃうよ?」

 

 挙句の果てには怨念さえ感じる程、負のオーラをまき散らすほどだ。しかしそんな一矢の話は全く聞かず、しゃがんだ夕香はランナーが入ったガンプラの箱を漁り目当てのモノを見つける。

 

「大体からして、俺がくじ引きすると吉以上出ないし……「じゃっ、これ貰うね」……あっ?」

「ポリキャップ。返してほしかったら近くの神社に来なよー?」

 

 完全に愚痴を零す事に集中していた一矢は夕香の行動には気づかなかった。ポリキャップをヒラヒラ揺らしながら軽く手を振って夕香は一矢の部屋を後にする。

 

「……えっ……? ……ねぇ? ……おーい……? ……マジでもってったの……? そこは嘘です♪ってオチじゃないの……?」

 

 そのまま四つん這いで自室の入り口まで移動して廊下を覗き込む一矢。夕香の姿はとっくになく、一階からは玄関の扉の開閉音が虚しく響き、茫然とするのだった……。

 

 ・・・

 

「やっほー。明けましておめでとうー」

「うん、明けましておめでとう! 夕香ちゃん!」

 

 夕香が一矢に指定した神社はこの彩渡街でも一番の敷地の大きさを持つ神社であった。

 既にそこにはミサ達が集まっていた。軽く手を挙げて、挨拶をしながら夕香はミサ達に合流するとミサを皮切りに次々挨拶をする。

 

「そう言えば、一矢は……?」

「大丈夫大丈夫。ちゃんと来るから」

「ホントに? いやー……私が連絡した時、そんなに乗り気じゃなかったから……。やっぱりちゃんと一矢も含めて、ちゃんとお参りしたいし」

 

 夕香は来たが彼女の兄の姿は見えない。

 一矢を探すように周囲を見渡すミサに夕香は安心させるように微笑むと、夕香に一矢を連れ出すように頼んだのであろうミサは苦笑する。

 

「おっ、早速来たみたい!」

 

 そんな二人のやり取りも束の間、裕喜が鳥居の方角を指差せばそこには一矢の姿があった。黒いダッフルコートの下にはVネックのニット、更にその下には白シャツ、手袋、マフラー、マスク、ニット帽と出来うる限りの寒さ対策をした服装の一矢がこちらにのそのそと向かってきていた。

 

「……コロス」

「来た来た。はい、リバース」

 

 しかしその心中は決して穏やかとは言えないようだ。

 そんな一矢もどこ吹く風か、夕香はポリキャップを投げ渡す。

 

「い、一矢、明けましておめでとう!」

「はいはい、あけおめ……っ!?」

 

 ひとまずポリキャップを取り換えした事に安堵している一矢にミサが新年の挨拶をする。まだ不機嫌の一矢はチラリとミサを見て息を呑む。なんとミサの首にはサンタクロースイッチがプレゼントしたペンダントがかけられているではないか。

 

「一矢は随分と嬉しそうですわね」

「あの二人の様子を見る限り、あれは雨宮がプレゼントしたペンダント……とか?」

 

 照れた様子ながら、どこか嬉しそうな一矢に不思議がって首を傾げているシオンに拓也が二人と赤くキラリと輝くペンダントを見て、明らかに様子が変わった一矢を見て予想しながらもそのままお参りへ向かう。

 

 ・・・

 

「ねぇ、このまま新年最初のガンプラバトルしない?」

 

 お参りを終え、粗方やる事も済ました一矢達。もう帰るかとそんな話をする中、真実がガンプラバトルの提案であった。

 

「でも、普通にいつものガンプラでやるのでは、いささか芸がありませんわ」

 

 ファイター達が頷く中、シオンは肩を竦めながら首を振る。確かに彼女の言う通り新年だ。どうせならいつもと違った遊び心を働かせたバトルも良いだろう。

 

「だったら、カスタマイズした物じゃなくて純正で。どうせなら今年の干支は酉年なんだし、鳥に関連したガンプラでバトルって言うのはどうかな?」

「いいね、やろうっ!」

 

 少し考えた真実はすぐに思いつき、微笑を浮かべ人差し指を立てて提案する。こういう特殊ルールのバトルも面白そうだ。ミサはすぐに乗り、一同、鳥に関連したガンプラを取りに一度、帰宅する。

 

 ・・・

 

 再度集合したのはイラトゲームパーク。元旦からでもイラトは子供のお年玉を巻き上げる為、営業している。

 フィールド内ではミサが操作するアカツキ オオワシパックの姿がある。そんなミサのシュミレーターにアラームが鳴り響く。どうやら早速、エンカウントしたようだ。

 

「あはっ、お兄ちゃんに貸してもらっちゃった!」

 

 そこに現れたのはユニコーンガンダム3号機ことフェネクスだ。それを駆るのは裕喜だった。裕喜はアカツキOを見つけ、早速、デストロイモードに変形してアカツキOへ突撃すると、アカツキOはヒャクライで応戦するが、全て悉く避けられる。

 

「やるね、裕喜ちゃん!」

「でっしょー? 伊達に夕香やお兄ちゃんの傍にいないしね!」

 

 ビームトンファーを展開して斬りかかるフェネクスを寸でのところで避けたアカツキOはビームサーベルを展開して斬りかかると何とフェネクスはビームトンファーで受け止めたではないか。敵ながら裕喜を褒めるミサに裕喜もまた好戦的な笑みを浮かべる。

 

「へへっ、リージョンカップの時から思ってたがやっぱ強ぇなッ!」

 

 そんな二人のバトルに割って入ったのは拓也のトライバーニングガンダムであった。

 

「行くぜェッ……鳳凰覇王拳ッ!!」

 

 弾かれるように別れたアカツキOとフェネクス。するとトライバーニングは装甲をパージし全身からまさに炎と化した粒子が放出するバーニングバーストシステムを発動させると、右腕を突き出し巨大な鳥を思わせる炎の一撃を放つ。戦いは終わらない。まだまだぶつかり合いが行われるのだった。

 

 ・・・

 

「夕香とバトルするなんて珍しいから嬉しいな……。でも負けないよ!」

「って言うか、まなみんのガンプラ、どこが鳥と関係あんの?」

 

 空では真実のHi-νガンダムヴレイブと夕香がサンタクロースイッチからプレゼントされたウィングガンダムゼロ炎がブレードとハイパーカレトヴルッフによる激しい剣劇を繰り広げていた。夕香とのバトルに嬉しがる真実のガンプラに詳しくない夕香は疑問を呟く。

 

「Hi-νヴレイブのブースターは鳥型サポートメカなんだよ!」

 

 夕香の疑問に答えるとともにフィンファンネルを放って、ウィングゼロ炎に差し向けるHi‐νヴレイブだが、「へぇ」と相槌を売った夕香は難なくウィングゼロ炎をさながら火の鳥を思わせるネオバード炎モードに変形させて避けると距離を取る。

 

「夕香、見つけましたわ!」

「うわっ、メンドーなのが来た……」

 

 Hi‐νヴレイブと距離を置こうとするウィングゼロ炎に背後から紫苑の声と共に砲撃が放たれる。間一髪、旋回して避ける夕香はこちらに向かってくるバード形態のガンダムフェニーチェリナーシタの姿を見てため息をつく。

 

「ガンプラ貸してあげてんだからアタシのとこに来んなよー!」

「そうは行きませんわ、貴女はわたくしのライバルですもの! 寧ろ、わたくしは貴女しか狙いませんわ!」

 

 互いに言い合いながらそのままドッグファイトを繰り広げるウィングゼロ炎とフェニーチェリナーシタ。夕香の言葉から考えられるように実はこのフェニーチェリナーシタ。実はあのクリスマスプレゼントの一つなのだ。とある事情があって鳥に関係したガンプラを持ち合わせていないシオンに貸している。

 

「──意外に悪くないね、こーいうのも」

「雨宮君!」

 

 シオンに相手を奪われたしまい、相手がいなくなってしまった真実。そんな彼女に通信を入れたのは一矢だった。確認すれば、Hi‐νヴレイブの近くにはウィングガンダムは静かに浮いていた。

 

「だから、呼べるだけ呼んだ。もう来るよ」

 

 今迄誰ともバトルをしていなかった一矢。それには理由がある。せっかくの特殊ルールだ。もっと人が多い方が良いだろう。彼の言葉通り、すぐさまアラートが鳴る。

 

「へっへ! 面白そうだから来てやったよ!」

 

 一矢に別のシュミレーターから通信が入る。なんと相手はカマセであった。同時に彼が操るガンプラが姿を現す。彼が持ち込んだのはガンダムヘブンズソードであった。鳥型のアタックモードに変形して大きく翼を広げる。

 

「あやこさんっ!?」

「一矢君から連絡があった時は驚いたけど、ブレイカーズも元旦はお休みだからね。楽しそうだから来ちゃった」

 

 他にも中破するフェネクスと軽微なアカツキOの間に現れたのは鳥を彷彿とさせるような頭部が特徴的なヤクトドーガであった。センサーに表示されるヤクトドーガのファイター名にはあやこのものがあり、驚くミサにあやこが微笑む。

 

「──テメェら、皆、俺がぶっ倒してやるよ!!」

 

 そしてオープン回線でフィールド全体に通信が入る。なんだと全てのファイターが意識を向けると地鳴りと轟音がフィールド全体を襲う。

 

「このハシュマルでなぁっ!」

 

 行ったのはタイガーであった。同時に彼のガンプラが姿を現す。それは白い巨大な鳥を彷彿とさせるMA・ハシュマルであった。ハシュマルの出現もあり、全てのファイターのガンプラがハシュマルを中心にその周囲に集まる。

 

「なっ、なんだ!?」

 

 ハシュマルは展開した小型サブユニットである無数のプルーマを差し向けようとするが、その前に天から放たれた一筋の獄炎が全て焼き尽くし、タイガーは慌てふためく。

 

「……酉年ならではのガンプラバトル……。中々、面白い事を考えるじゃないか」

「げぇぇっ!? 如月翔!?」

 

 天から舞い降りたのは紅蓮装 曹操ガンダムであった。そのシュミレーター内では翔が今回のバトルに笑みをこぼす。かつてGWF2024において彼にトラウマを植えつけられたタイガーは驚愕する。

 

「……さて、俺の相手は誰かな? 君達のバトルを見て、俺もうずいているんだ……。なんなら全員でかかってきても良いぞ。誰が勝つか……」

 

 眼前に見下ろす少しでも鳥に関係したガンプラ達を見ながら楽しそうに好戦的な笑みを浮かべる翔はトランス系のEXアクションを選択する。すると彼の曹操ガンダムは天に手を向ける。

 

「天は全てを知っている」

 

 曹操ガンダムの周囲に玉璽が現れると天から稲妻の如く落ちた光が包み込む。

 すると光の先から翼を閉じた鳥を思わせる巨大な天玉鎧・炎鳳が舞い降り、舞い上がった曹操ガンダムとドッキングを果たし、見せつけるかのようにその機械的な翼を広げる。

 

「……事記曰く玉璽光り輝く時、天より神器は降臨する……。即ち三候かいたる天玉の鎧……ね。自分で呼んでおいてなんだけど勝てる気しないわ、アレ」

「アハハッ…………。まぁでもさ……意外と全員でかかったら行けるかも?」

 

 天玉鎧・炎鳳を纏い、神々しいまでの風格を見せつける曹操ガンダムに一矢は翔を呼んだ事を後悔すると、ミサもミサで引き攣った笑みを見せる。

 

「さぁ改めて始めようか。新年最初の記念すべき初ガンプラバトルをッ」

 

 星鳳剣を眼下のガンプラ達に向けた曹操ガンダムは翔の宣言と共に飛び出していく。

 彼の言うように新年初めてのこのガンプラバトル。居合わせるファイター達の口元には笑みが零れていた。




少しでも鳥に関係したガンプラを思い浮かぶ限り出してみました。でも、まだあるとは思うんですよねぇ、浮かばなかっただけで…。

さていつも予約投稿なもので、これを投稿している時、私は何しているか分かりませんが、まぁ言える事は今日からDLCを始めることですね。(積みプラの作成も)

感想でも面白いと言う書き込みをいただいておりますので、プレイが楽しみです!もしかしたら本当に更新が遅れるかも…?まぁそれだけガンダムブレイカーが面白いという事で…。


さて、改めまして本年度もどうぞよろしくお願い申し上げます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Sweet Heart

ハッピーバレンタイン!
今日配信のDLCの内容でバレンタインネタがあって矛盾してても大目に見てください…。


「このパーツのこの部分を削れば、もっと綺麗になるぞ」

 

 ブレイカーズは今日も大盛況。ブレイカーズの作業ブースでは子供相手に宏祐が熱心にガンプラをきれいに仕上げる術を伝授していた。

 

「如月さんっ!」

「どうしたのかな?」

 

 そうしていると人と人との間をすり抜けて、一人の幼い少女がレジ近くで作業をしていた翔に駆け寄ると翔は少女の身長に合わせてしゃがむ。

 

「き、如月さん、も、もらってくだしゃぃっ!!」

 

 内またでもじもじと俯き、頬を染めて恥じらった様子を見せる少女から中々、言葉が出てこない。どうしたのだろう、と不思議がっている翔の目の前に可愛らしいラッピングで包まれた小さな袋が突き出される。中には小さなチョコが入っていた。

 

 しかし余程、緊張していたのだろう。

 少女は最後には噛んでしまっており、そのことを自覚して、より一層頬を朱くする。

 

「ああ、ありがたくいただくよ」

「は、はいぃっ!!」

 

 突き出された時には驚いた表情を浮かべていた翔もやんわりと微笑んで少女の両手を包むようにして受け取ると恥ずかしくなったのか少女はそのまま飛び出すようにブレイカーズを去っていく。

 

「店長様はモテるな」

「貰えるのは嬉しいよ。……ちゃんと食べなければならないが」

 

 そんな翔をからかうように宏祐が声をかける。

 しかし少女が今日、初めて翔にチョコを渡した相手ではないのか、翔は事務所の方を見やる。

 いかんせん、ガンプラ界においてそれなりに名が知れ渡っている翔。その中性的なルックスも相まって声をかけてくる女性は少なくない。もう既に事務所には翔宛のチョコが段ボール箱に入って置かれていた。

 

 そう、今日は2月14日。

 一般的にバレンタインデーと呼ばれ、国によって様々な風習があるが主に日本では人にチョコレートによるお菓子を贈る日となっている。だから例えば……。

 

 ・・・

 

「シアル、これ日頃の感謝を込めて」

「……っ!?」

 

 シアルにチョコレートが入った箱を手渡す正泰。言葉通りの意味で渡したのだろう。

 しかしシアルにとっては正泰に渡されたと言う事もあり、驚いた様子ながら恥じらった様子を見せる。

 

「わ、私も良かったら……」

「おっ、シアルもか! ありがとう!」

 

 渡すのなら今しかない。彼女にとっての本命のチョコを渡すが、今までの流れでシアルもまた自分と同じ感謝の意味での贈り物だと勘違いした正泰にそうじゃないんだけど……、とシアルは複雑そうな表情を浮かべるのであった。

 

 ・・・

 

「ごめんなさい、わざわざ時間取ってもらって……」

「いや、今日は忙しいのは知ってるから……」

 

 また違う場所では変装したコトと影二が一緒にいた。今日はバレンタインデー。アイドルをしているコトからしてみれば、今日という日はイベントで引っ張りだこだ。

 

「これ私の気持ちで……っ! 渡せるうちに渡したくて……」

 

 コトから手作りチョコを渡される影二。この後もすぐに仕事に行かねばならない、

 だが多忙を極める中、それでも影二にチョコを送りたかったのだ。渡された影二は素直に照れた様子を見せ、初々しい反応を見せる。

 

 ・・・

 

「はい、チョコ。日本の風習なんでしょ」

 

 ところ変わりまくってアメリカ。ここではアメリアがそっぽを向きながら莫耶に向かってラッピングされたチョコレートを渡していた。

 

「へぇ、わざわざ……」

「へらへらしないでよ! 来年あげないわよ!?」

 

 渡された莫耶はにやついた笑みでチョコとアメリアを交互に見ていると、恥ずかしくなってきたのだろう。アメリアはビシッと指さしながら声を張り上げるのであった。

 

 ・・・

 

「心を込めて作りました……。お口に合えばいいんですけど……」

「うおぉぉっ!? ありがとうな、咲ぃっ!!」

 

 一方、高知県。ここでもまたチョコレートの送り渡しが行われている。恥じらいながらでも厳也にチョコを渡す咲。しかし恋人である咲に渡されたのが嬉しいのか、感極まった様子で厳也は咲に抱き着く。

 

「……はい、私からも」

「お? ……おぉ……いや……うぬぅ……。嬉しいんじゃけど、文華……お前さんは良い男探さんのか?親父さん達も心配しておったし」

「はああぁぁっっ!!!? 余計なお世話よっっ!!!」

 

 成り行きを見ていた文華もそろそろ良いだろうと厳也に義理チョコを渡す。

 厳也は文華から渡されたチョコを見やり、何とも渋った顔を浮かべながら文華についつい言ってしまうと、途端に眉毛を跳ね上げて怒った文華に怒鳴られてしまう。文華はモチヅキ並みに幼い。そのせいで悲しい事に近付く男が皆無、またはその手の趣味の持ち主ばかり、それ故にあまり良い思い出もなく怒っていた。

 

 ・・・

 

「いやぁ、ミサ姉さんも可愛いねぇ。渡すの恥ずかしいなんて」

「もぉー……あんまり言わないでよ」

「チョコ作り、楽しかったねぇ」

 

 そして彩渡街。夕香とミサは一緒にとある場所へ向かっていた。その最中、悪戯っ子のような笑みを浮かべて、ミサをからかう夕香に恥ずかしそうに答える。そんなミサを見やりながら夕香は先日のことを思い出す。

 

 ・・・

 

「お前がエプロン姿なんて珍しいな」

「なんでも可愛い風香ちゃんって罪だよね……」

 

 バレンタイン前日。ここではミサや夕香だけに留まらずシオンにサヤやコト、咲、文華など女性陣が集まってチョコ作りをしていた。そんな中、碧は隣に立っているエプロン姿の風香を見て珍しそうにしていると、風香は一人酔ったように申し訳なさそうな顔をしている。

 

「ミサちゃん、ちょっと見てて怖いな……」

「そっそうですか……?」

 

 この集まった面々は器用で料理が出来る者が多い。

 だがミサはそうではないのか、チョコを切っているのだがサヤは苦い表情を浮かべながら声をかけるとブリキ人形のようにギギギ……とサヤを見ている。

 

「そう言えば、ガナッシュってマヌケって意味なんだっけ」

「チョコとしての名前の由来は諸説あります。確かにその一つは新人が間違えて沸騰した牛乳をチョコに加えてしまい店主がマヌケと怒鳴ったのがきっかけ……とされていますわね」

 

 その後、漸く下準備を終えてガナッシュを作り始めるわけだが、風香が思い出したように近くの口を開くと、知っているのかシオン答える。ふーん、と関心している風香をよそに碧は鍋に生クリームを入れ始める。

 

「マヌケ」

「……」

「マヌケー! マヌケー!」

 

 鍋に生クリームを入れ始めた碧にニヤニヤと笑いながら風香がからかい始めると、碧の眉毛がヒクつき始め、それが面白いのか調子に乗りながら風香がちょっかいを出す。

 

「うにゃああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!?」

 

 碧の行動は早かった。ゴンと生クリームを置いたかと思えば、青筋を浮かべてそのまま風香の頭をスパンと気持ちのいい音を立てながら叩くとそのまま両頬をつねり、風香は悲鳴を上げる。

 

 ・・・

 

「あぁもう、なんなんだアレは……!!?」

「落ち着いて、お兄ちゃん……」

「でも本当になんなんだよ、あのファイター……」

 

 そんな騒々しい出来事を経て、チョコは完成したわけだ。そんな中、イラトゲームパークから出てくる風留、千佳、勇太を見つける。ガンプラバトルでもしていたのだろう。しかし三人ともどうにも不可解そうに顔を顰めてイラトゲームパークを見ている。

 

「なんかあったのかな……?」

「うーん……。でも、さっき裕喜から連絡来てさ。今日、無差別にガンプラバトルに乱入してくるファイター達がいるんだって。一輝も絡まれたらしいよ」

 

 三人の背中を見ながら、イラトゲームパークを一瞥するミサ。すると一応、心当たりはあるのか夕香は携帯端末を見やりながら答える。

 

「もしかして一矢とか……?」

「バレンタインだからって? それはないんじゃないかなー」

 

 今日に限って無差別にガンプラバトルに乱入してくるファイター。もしかして一矢がバレンタインを邪推して憂さ晴らしにしているのでは?と考えたミサだが夕香の反応を見る限りは違うらしい。

 

 ・・・

 

≪なんなんだよぉ、アンタら!!≫

 

 そのイラトゲームパークのガンプラバトルシュミレーターでは一人のファイターが三機のガンプラによって撃墜され、理不尽だと言わんばかりに叫ぶ。

 

「ガンプラバトルとは非常なものなのだよ」

「へっ、大したことねぇな」

「弱くて泣けるね」

 

 相手はシャア率いるネオサザビーであった。その取り巻きにはヤクトドーガを使用するタイガーとαアジールを駆るカマセがいた。

 

「「うあぁっ!!?」」

「……この射撃、まさか!?」

 

 しかしそんな三機の周辺に無数のビームが襲いかかる。情けない声をあげて被弾するタイガーとカマセとは違い、避けながらその相手を見やるシャア。

 

「シャアッ!! なんでこんなことをする!? これではファイター達が離れてバトルが出来なくなる!」

 

 そこに現れたのはアムロが使用するνガンダムであった。ビームを放ったフィンファンネルが主のもとに戻る中、アムロのνガンダムはシャア達に対峙する。

 

「バレンタインを行う者達は自分達のことしか考えていない! だから憂さ晴らしすると決めた!」

「人が人に八つ当たりをするなどと!」

「私達の心がもたんときが来ているのだ!」

 

 バレンタインデーを邪推しているのは夕香の言うように一矢ではないようだ。

 シャアの発言に呆れた様子で叫ぶアムロにもはや取りつかれたように叫び返して、ライフルを向ける。

 

「なにっ!?」

「「今度はなんだ!?」」

 

 しかしそのライフルも横から放たれたビームによって弾かれ、直後に大火力の極太のビームが放たれたまらず避けながらタイガーとカマセはこの状況に狼狽えてばかりだ。

 

「情けない……ッ! そんな大人、修正してやるッ!!」

「あんた達の存在その物が見っともないんだよッ!!」

 

 そこにいたのはνガンダム同様、精巧に作られたZガンダムとZZガンダムであった。

 それぞれのファイターはアムロの知り合いなのだろう。そのままνガンダムに並びながらシャア達に向き直り、戦闘を仕掛ける。

 

「私はバレンタインデーにはちゃんとした正装をしている! なのに何故、あの口やかましいミンキーモモ辺りにしかもらえん!? なぜ、ララァはチョコを私よりも貴様に早く渡すのだ!?」

「ノースリーブにサングラスをしている姿が正装だとでも言うのか!? そんな姿でウロウロしている男を誰が渡すかよ!」

 

 瞬く間にZガンダムとZZガンダムのファイターによってタイガーとカマセは追い詰められている。そんな中、シャアとアムロによる激闘は人知れず行われるのであった……。

 

 ・・・

 

「あれ、イッチだ」

「真実ちゃんもいる……」

 

 そうこうしているうちに雨宮宅が見える。遠巻きに雨宮宅を見れば、玄関先で会話をする一矢と真実の姿が見える。そのまま行こうとする夕香の手を掴んだミサはなんだろうと思い、二人の会話が聞こえる場所まで移動して身を潜める。

 

「これ絶対に雨宮君の好みだと思う。ずっと雨宮君の好みを研究して作ったから」

「へ、へぇ……」

「色々あったけどそれでも雨宮君に渡さない理由にはならないしね」

 

 頬を朱く染めながら一矢にチョコを渡す真実。その姿だけ見れば可愛らしいが、その言葉は一矢をドン引きさせるには十分で完全に引き攣っている。そんな一矢を他所に真実ははにかんだ笑みを見せながら去っていく。

 

「なっ……!?」

「……まぁほら……イッチってなんだかんだで結構チョコもらえるタイプだし……」

 

 良く聞こえなかったが、それでも真実がチョコを渡したのは分かった。普段の行いから一矢はチョコを貰えないかもと考えていたミサは衝撃を受けている中、夕香はその様子に苦笑しながら説明する。

 

「イッチー!」

「あっ、今度は裕喜達だ」

 

 家に戻ろうとする一矢を裕喜が声をかける。聞き覚えのある声に見やれば今度、家に訪ねてきた裕喜、貴弘、秀哉の三人だった。

 

「はい、イッチにもチョコ! お兄ちゃんも貴弘にももうあげたしねー。夕香はいるの?」

「……アイツなら出かけてるけど」

 

 一矢にチョコを渡す裕喜。秀哉や貴弘のような兄弟にチョコを渡し、今度は知り合いに配っている最中だったのだろう。夕香への所謂、友チョコを用意している裕喜は夕香について聞くが、一矢は家にはいない夕香について答える。実際はすぐ近くにいるわけだが。

 

「一矢、このままガンプラバトルでもしないか?」

「徹夜でガンプラ作ってたからすぐ寝たい……」

 

 そのまま秀哉が一矢をガンプラバトルに誘うが、どうにも乗り気ではない一矢は目を擦りながら答える。どうやら本当に眠いようだ。今もボーッとした様子でおぼつけない。

 

「そうか、なら仕方ないな。じゃあ、俺達はいくよ」

「じゃあ、家の人によろしくね」

「夕香、どこにいんだろー」

 

 流石に眠気に襲われている人間を連れ出す気にはなれないのか、秀哉、貴弘はそれぞれ一矢に声をかけて去っていくと、不在の夕香がどこにいるのかを考え、顎先に人差し指を添えながら裕喜もその後を追う。

 

 ・・・

 

「さっ行こ、ミサ姉さん」

「えっ……? うぅ……」

 

 今のところ、もう一矢にチョコを渡す人間はいないようだ。

 ポストの中身の郵便物を取っている一矢を見ながら、チャンスが訪れたと夕香はミサを促すが、ミサは困った様子で渋っている。

 

「私のなんて……」

 

 一矢が色んな女子からチョコをもらう姿を見て、自分の作ったチョコを見やる。

 手作りが良いと意気込んで作ってみたが、普段しない事をしたせいか自分のチョコは正直に言えば、歪な形になってしまった。到底、一矢が他の女子からもらったチョコに敵わないのではないかと自信を失くしてしまったようだ。

 

「やれやれ……」

 

 動く様子を見せないミサを嘆息する夕香。一矢はのそのそと家の中に入ろうとしている。その様子をみて夕香は一人、ミサを置いて歩き出すとミサはその姿をただ呆然と見ている。

 

「やっほーイッチー」

「……おかえり。さっき裕喜達、来てたけど」

 

 夕香はそのままトテトテと一矢に声をかけながら駆け寄り、夕香に気づいた一矢は夕香を出迎えながら先程、訪問してきた裕喜達について教える。

 

「はい、アタシからもチョコだよー」

 

 適当に相槌を打ちながら、夕香は一矢に用意をしたチョコを渡す。この短時間で計三個のチョコを手に入れた一矢はあまりの出来事にどこか苦笑気味だ。

 

「一応毎年あげてるから面白みがないよねー」

「面白みもクソも……。お返しめんどくさいし正直って感じなんだけど」

 

 そのまま立ち止まって会話をし始める夕香。家に入ろうと思っていたのだが、立ち止まられ話が続いているのではと一矢もその場に留まりながら話をする。

 

「今年はアタシが一個一個食べさせてあげよっか?」

 

「まぁまぁ」と上半身を屈めて上目遣いで一矢を見る夕香。艶っぽく唇を指先で撫でる夕香を見て、妙に様子がおかしい妹に一矢が顔を顰めている。

 

「ほーらぁ……え・ん・り・ょ……しないでさ♡」

 

 そのままトントンと人差し指を一矢の胸に押し当てながら、目を細め妖艶に微笑みながら顔を近づける夕香。一矢と夕香の距離はまさに鼻頭がくっつくか否か程度の距離であった。

 

「ちょっと待ったー!!!」

 

 そんな一矢と夕香に割って入るように声を張り上げた人物がいる。ミサだ。なんでいるんだと驚いている一矢にやっと動いたかと一息つく夕香。

 

「……で、なに?」

「えっ……あっ……」

 

 ちょっと待ったと割り込んでから無言の時間が続く。沈黙を破るように一矢が声をかけると、双子の妖しい空気に突発的に出てきてしまったミサはしどろもどろになってしまっている。

 

「そのっ……チョコ……! 私から……も……っ!! そのっ……上手くできなかったけど……っ……それでも……一矢に……!」

 

 意を決したように一矢に両手に持ったチョコを渡すミサ。恥じらっているのだろう、耳まで朱く染めたミサはぎゅっと目を瞑っている。

 

「……そう、ありがと」

 

 自分が持つチョコの箱に他者の力が入る。恐る恐る見上げれば他のチョコを近くに置いた一矢が微笑みながらしっかりとミサのチョコを受け取っていた。

 

「……ねぇ食べて良い?」

「う、うん……」

 

 この場で食べて良いかを問う一矢。もうなるようになれとミサが頷くと、一矢は包装を取って中のチョコを摘まむと、そのまま口に放り込む。

 

「ど、どう……?」

「……美味いよ。見た目はアレだけど、俺の好きな甘さ」

 

 口をもごもごと動かしている一矢に不安そうに伏し目がちに尋ねるミサ。いかんせん慣れないチョコ作りだ。不安もある。しかし返って来たのはあまり見せない微笑を浮かべる一矢。それが彼が本心だと理解するには十分だ。

 

「ちゃんと噛み締めなよー。それはミサ姉さんのだいっじな隠し味が込められてんだからさ」

 

 ひょっこりと一矢の後ろから出てきた夕香はミサに微笑みながら一矢に注意する。その言葉により一層恥ずかしがるミサ。とはいえ言われずとも一矢は味わっている訳だが。

 

「じゃっ、今度はアタシのチョコだね。ずーっとイッチといるんだから好みは知ってるよ」

「ま、待って! 私のチョコはまだあるから! ほら、もっと食べてみてっ!」

 

 ミサの隣に立って、一矢に向き直ると自身のチョコを指先で摘まんで一矢に向ける夕香を見て慌ててミサも自身のチョコを掴んで一矢に向ける。

 

(……あれ、もしかして俺リア充じゃね?)

 

 もしかしなくともリア充だ。二人の可憐な少女にチョコを差し向けられながら一矢はいつもの表情でそのまま首を傾げる。

 

 ・・・

 

「これ私の……。その……ホント特別だかんね……?」

 

 チョコレートを渡していたのはミサ達だけではなく、ブレイカーズの事務所では風香が翔に恥じらいながらチョコを渡していた。

 

「……ああ、ありがとう」

「そのっ……私の前で食べてほしいなっ……」

 

 しっかりと風香のチョコを受け取る翔。しかしそれだけでは終わらず、風香は羞恥しながら内股でもじもじと身をくねらせ、人差し指同士を合わせながら伏し目がちに頼む。

 

「ど、どぉ……?」

 

 そのまま促されるままチョコの箱を開け、手を伸ばす翔。しかし、いかんせん過去にGNチョコレートを渡されているせいでその動きは遅い。だがちゃんと風香の目の前でチョコを食べる翔。舌で転がして味わっている翔に風香は不安そうに尋ねる。

 

「……ふふっ」

「なんで笑うの!?」

 

 風香が可笑しくてたまらず笑いをこぼす。それもそうだ。一々、聞かなくても風香はエヴェイユ。彼女の発展した能力ならば、翔が感じたチョコの味などすぐに分かるはず。しかしそうせずに感想を求めてきたのには理由があるのだ。それが可笑しくてついつい笑ってしまった。

 

「いや……すまない……。だが本当に美味しいよ、風香」

「うぁっ……!」

 

 抗議する風香に謝りながら風香の目を見てちゃんと感想を答える翔。風香は心を読むよりも、ちゃなんと翔の口で態度で教えて欲しかったのだろう。しかしいざちゃんと翔に答えられると狼狽える風香。ブシューと湯気が出そう程だ。

 

「おっ……と」

「えへへー……てんちょーの為だけに風香ちゃんが作ったんだもんっ! 美味しいに決まってるよー♡」

 

 何と風香はそのまま翔の胸に飛びついてくる。チョコを落とさないよう気を配りながら風香を受け止めた翔は胸の中の風香を見やる。締まりがないながらも嬉しそうな笑顔を見せる風香に翔はクスリと笑いながら、その背中を撫でるのだった……。




おまけ

神代風香(バレンタイン絵)


【挿絵表示】


風香「はっはーん…その顔は可愛い風香ちゃんのチョコが欲しいって顔だなー? どぉしよっかなぁー? この小説で一番可愛いのは誰か教えてくれたら考えてあげるんだけどなー?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真っ白な想いを感じたくて

ハッピーホワイトデー!!
そう言えばマシュマロなんてここ数年以上は食べてない…。


3月14日と言えばホワイトデー。日本発祥であり現在では中国、韓国、台湾などの東アジアの一部地域で定着している文化だ。バレンタインデーのお返しとして主に菓子の類を送るという贈る日だ。お返しを贈ると言う文化はなんとも日本人らしい。

 

 

「ほれ、これ友チョコのお返し」

 

「バレンタインデーで贈り合ってホワイトデーでもって何か変だよねー」

 

 

タイムズ百貨店内のカフェで思い思いの時間を過ごしている夕香と裕喜、シオン。そこで夕香と裕喜は互いにプレゼントを贈り合う。昨今において友チョコなどバレンタインデーの文化というものも多様化しておりホワイトデーもまた様々な形がある。

 

 

「ホワイトデー…。話には聞いておりましたけど本当にお返しをするのですね」

 

「そういや、シオンには馴染みはないんだっけ」

 

 

ストレートティーを飲んでいたシオンは今の夕香と裕喜のやり取りを見て、珍しいものが見たような反応を示すシオンに思い出したように夕香は話す。日本にいれば当たり前のように行われているホワイトデーだが、欧米諸国ではあまり馴染みがないのだ。

 

 

「そー言えば、今日ここでガンプラバトルのイベントがあるって」

 

「うん。イッチもいるって」

 

 

夕香からもらったプレゼントに喜びながらバックの隣に置くと、ふと思い出したように裕喜が今日、このタイムズ百貨店で執り行われるイベントについて話題に出す。近くに張り紙もしていて夕香自身も知っているのか頬杖をつきながら一矢も参加している事を話す。

 

 

「うっそー!?あのイッチが?」

 

「まぁ元々参加するつもりはなかったみたいだけどね」

 

「なんでしたら見に行きません?面白そうじゃありませんの」

 

 

引きこもり体質な一矢がわざわざイベントに参加している事がにわかに信じがたい様子の裕喜。その反応に苦笑しながら夕香が答えるとシオンが微笑を浮かべながら提案する。この後の予定もない為に三人はポスターを見て移動する。

 

・・・

 

 

「おっ、もう始まってんじゃん」

 

「夕香ちゃんっ」

 

 

かつてこの場ではガンプラバトルロワイヤルやガンプラ大合戦が行われた。今回も大々的なイベントなのだろう。見ればミスターガンプラや如月翔の姿もある。そんな中で夕香に声をかけたのはコトであった。近くにはミサがいいる。

 

 

「随分と賑やかじゃん」

 

「まぁタイムズ百貨店と彩渡商店街、ブレイカーズの合同のイベントだからね。コトちゃんもさっきまでトークしてたんだよ」

 

「今回は色んな県から集まっているから、それこそジャパンカップ並みに豪華だよ」

 

 

観客はモニターに映る映像に釘付けだ。中々の盛り上がりを見せるイベント会場の様子を見て、夕香がその事を口にするとミサもコトも楽しそうに話す。

 

 

「やぁ君達も来たんだね」

 

 

「へぇ」と相槌を打ちながら映像を見やる夕香に声をかけたのはウィルであった。チラリと見ればウィルと傍らにはドロシーがいる。

 

 

「アンタは参加しないの?」

 

「パワーバランスを考えたんだよ。折角のイベントだ。もう壊したくはない」

 

 

バトルには参加していないウィルを見て夕香が意外そうに声をかけると、ウィルは軽口を叩きながら肩を竦めてお道化る。その様子を見て夕香は呆れたように笑い裕喜達も苦笑している。

 

 

「ふーん…出てたなら出てたで応援してあげないわけでもなかったんだけどねー」

 

「それは光栄だ。なんだったら違うイベントでタッグで出るかい?間近で見れるよ」

 

 

近くの壁に寄りかかりながら軽い笑みを浮かべる夕香にウィルもまた夕香の隣に立ち、口角を上げながらタッグを組む誘いをすると、夕香は「気が向いたらねー」と答えながらモニターを見やる。

 

・・・

 

 

「面倒臭い…」

 

 

バトルフィールドを駆けるMS-06R-1Aシン・マツナガ専用高機動型ザクII改良型。操るのは重い溜息をついているのは我らがボッチ雨宮一矢。シュミレーター内の様子とは裏腹に高速で動くザクⅡ06Rはまさに白狼のような勇ましさを持って大量のガンプラを次々に撃破していく。

 

 

「まぁそんな事言わずにさ。これに勝てばネバーランド年間パスポートが、上位になれば景品が貰えるし」

 

「…別に。商店街代表ってだけで出されただけだし」

 

 

愚痴を吐いている一矢を窘めるように後から追い付いてきたのはクロスボーンガンダムX1改・改を操る正泰だ。しかし一矢はまだ気乗りしていないのか文句を言っている。

 

何故、一矢と正泰が行動を共にしているのか?それはこのイベントのルールにある。

 

今イベントはランダムに決められた男性限定のタッグ性であり、制限時間最後にフィールド内に動き回る黄金のハロを所持していた者の勝利となり、ネバーランドのペアでの年間パスポートが配布される。また参加者のガンプラを撃破した際、ポイントは加算され上位者三組にはHGUC百式(GPBカラー)やジムスナイパーⅡ(ホワイト・ディンゴ隊仕様)やガンプラに留まらずケーキバイキングなどの景品が贈られる。

 

 

(…まぁでも…アイツ…見てるんだよな)

 

 

ふと一矢はこのバトルを見ているであろうチームメイトの少女のことを考える。商店街代表として自分を送り出した彼女はこのバトルを見ている。ならば無様な結果などは見せられないだろう。

 

 

「…ほら行くよ。なんだったら勝とうよ」

 

「やっと乗り気になったか」

 

 

時間にすればもう残り7、8分だ。いまだ黄金のハロは見つけられていない。漸くやる気を見せてきた一矢のザクⅡはザク・マシンガンとザク・バズーカをそれぞれ装備して正泰に軽く声をかけてその場を移動する。その様子に苦笑しながらも正泰はその後を追う。

 

 

「凄かったな今の…。俺じゃあっと言う間にやられるよな…」

 

 

その様子を影で見ていたのはザクⅡ改であった。そのファイターの金髪の青年はそれでも何とか黄金のハロを手に入れるために自身も動き出す。

 

・・・

 

 

「…見つけた。黄金のハロっ!!」

 

「流石だな、このまま俺達がいただくぞ!」

 

 

一方、遂に黄金のハロを見つけたのはガンダムXディバイダーの影二とアストレイレッドフレーム改のジンのタッグであった。そのまま空中を浮遊している黄金のハロを手に入れようと動くわけだが銃の弾丸を模したようなGNファングの猛攻が襲い、その対処をする事になる。

 

 

「そいつは困るんでのぉ…。邪魔をさせてもうきに」

 

「受け取れぇ!俺からのプレゼントだぁ!!」

 

 

上方には厳也が操るガンダムジエンドと莫耶のフリーダムガンダムの姿が。GNファングことDEファングを再び放ちながらショットジェンドの銃口を向けるジエンドの隣でウィングを放射状にクスィフィアスエール砲とバラエーナ収束ビーム砲を同時展開するとハイマットフルバーストとして放ち、影二達はそちらに気を向けるしか出来なくなる。

 

 

「悪いのぉ、今回天辺を取るのはワシ等じゃ!!」

 

「…そう言われて、はい、そうですかって言うと思うか?」

 

 

素早くハモニカ砲を発射するXDVの攻撃を掻い潜りながらフィストジエンドを展開して差し向けるジエンドに対して、XDVも対抗して大型ビームソードを引き抜いて激しい攻防を繰り広げる。

 

 

「っ…?」

 

「なんだ!?」

 

 

またフリーダムやアストレイR改もまた戦闘を繰り広げる中、突然、無数の射撃攻撃による横やりが入る。莫耶やジンがそちらに意識を向ければ、そこには一矢と正泰のザクⅡとX1改・改が。いやそれだけではない。タイムリミットが迫る中、他の参戦舎達のガンプラも続々に迫っていた。

 

 

「次から次にッ!!」

 

「ここでくたばれば、そんな事考えずに済むよ」

 

「冗談言うな!」

 

 

もはや大乱戦だ。銃撃が飛び交い激しさを見せるなか鬱陶しそうにしている莫耶に一矢は歪に笑いながら軽口を吐き、ザクⅡがモノアイを光らせながらフリーダムに急接近をして迎撃するビームを避けながらヒートホークで斬りかかるとすぐさまフリーダムはシールドで防ぎ繁劇に転じようとするが、シールドを蹴り飛ばしたザクⅡは距離を取る。

 

 

「一矢、お前さんにも黄金のハロは渡さぬからのぉっ!!」

 

「ああ、あれは俺やジンさんがもらう!!」

 

「チッ…邪魔するなよ…!!」

 

 

デッドエンドフィンガーによる高出力ビームとハモニカ砲のエネルギーを溜めたビーム刃がザクⅡに迫る。その二つをギリギリで避ける中、こちらに迫るジエンドとXDVを見やり面倒そうに舌打ちをしながら渡り合う一矢。

 

これはガンプラバトル。例えザクであろうがその出来栄えで主役級のガンダムにだって対抗できる。それこそ極端な話、ボールが∀ガンダムを撃破できるような世界なのだ。

 

 

「残り時間も後少し…!!そろそろいい加減にッ!!」

 

「させるかッ!!」

 

 

X1改・改とアストレイR改がビームザンバーとガーベラストレートで剣戟を結ぶ中、残り時間も既に一分を切ってしまった。っこのままではジリ貧だと判断した正泰がアストレイR改をあしらい、黄金のハロを目指そうとするがそうさせるジンではない。黄金のハロを手に入れるためにジンも動くが、もう30秒を切った。他の一夜や影二達参加者達も動き出す。

 

 

「レイイイイィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーンンンッッッッ!!!!!!」

 

「ティファアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーァアアアアッッッ!!!!!」

 

「アイナァアアアアアァァァァァァーーーーーーーーーーーーァアアアアアッッッ!!!!」

 

「ガンダァァァァァァァァァーーーーーーーーーーァアアアアアッッッッムゥッッ!!!!」

 

 

一矢達とはまた違うそれぞれの参加者が大切なモノの為に思いのたけを吐き出すように叫びながら黄金のハロに手を伸ばす。半ば雪崩のような状況になる中で我こそがと黄金のハロへ目指す。

 

 

「やった…やったぞ、アル…。二人で作ったザクで勝ったんだ!クリス、喜んでくれるよな…?」

 

 

タイムアップ。黄金のハロをその手にしかと掴んだのはボロボロのザクⅡ改であった。ファイターである金髪の青年は自身のザクが掴む黄金のハロを見て信じられないような表情を浮かべるが、やがて歓喜の笑みを浮かべイベントは終了するのであった。

 

・・・

 

 

「はぁーっ…」

 

 

イベント終了後、優勝は出来なかったもののポイント上位者としてガンプラは手に入れた一矢。他にも厳也や影二達はそれぞれ好きな景品を手に入れ、それぞれの想い人との時間を過ごしている。そんな中、一人、人気のない場所で一矢は座り込んで重いため息をつく。結局、優勝する事は叶わなかったのだ。

 

 

「お疲れ、一矢」

 

「…ん…ありがと…」

 

 

そんな一矢に一人、ミサが缶ジュースを持って声をかける。労ってジュースを差し出してくれるミサに一矢は礼を言いながらジュースを受け取る。

 

 

「それじゃあ私行くから、ゆっくり休んでてよ」

 

「…」

 

 

何だかんだで実力者が集まった今イベント。一矢の表情にもうっすらと疲労感もある。一矢を気遣ってミサはその場を去ろうとするが、一矢はミサのジャケットの裾を掴んでその動きを止める。

 

 

「…これ」

 

 

振り返ったミサに一矢はラッピングされた小箱を向けている。言葉こそないが、ホワイトデーのプレゼントなのだろう。驚いているミサに一矢は早く受け取れと言わんばかりにじっと見ている。

 

 

「ブレスレット…?」

 

 

一矢から小箱を受け取ったミサは一矢からの了承を得て開封すると、そこには二連のホワイトとピンクを基調としたブレスレットであった。自身のガンプラや名前の元となった花の色に似ている。

 

 

「ありがとう…」

 

「…どうしたの?」

 

「…いや、一矢ってさ。こういうのはくれるんだけど…あんまりちゃんとした言葉はくれないなーって…」

 

 

嬉しそうにしているミサだが、どこか寂しそうな様子でもある。なにかあったのかと問いかける一矢にミサはその理由を教える。一矢は確かにプレゼントをくれる。だがいつも言葉は少ないのだ。

 

それは彼の性格もあるし仕方のないことかもしれないが、やはり一矢の気持ちが知りたい。それこそ人が眠っている時にプレゼントを渡しに来るのではなく

 

言葉で

 

行動で

 

一矢の自分への気持ちがちゃんと見えないからこそ示してほしかった。

 

 

「わっ!!?」

 

 

視線を彷徨わせている一矢を見て、やっぱり駄目だったかと諦めるミサ。疲れているだろうからとその場を今度こそその場を立ち去ろうとするミサだが、強引に引っ張られ体勢を崩し、座る一矢の股の間に座らされてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなりなにするの、と抗議しようと眉尻を吊り上げるミサだが振り返る寸前に肩に顔を乗せて、小さくか細い声で囁かれた一矢の言葉で動きを止めてしまう。

 

同時に彼の腕が一矢の股の間に座る形となっているミサの下腹部の辺りに回され抱きしめられる。

 

 

「えっ、えぇっ!!?」

 

「…嫌なら言って。ミサに嫌われたくないから…」

 

「い、嫌じゃないけど…」

 

 

今の自分達の態勢を見て、途端にカァーッと顔を真っ赤にさせしどろもどろになっているミサ。そんなミサに一矢は相変わらずミサの耳元で囁くと湯気が出る勢いのミサは恥じらった様子を見せる。

 

 

「…俺…良い言葉が思いつかないけどさ…。ミサがいるのが俺の中じゃ当たり前になってる…。でも…ミサがいなくなったら…俺…耐えられない…。誰かが傍にいるなら…ミサ以外に考えられない…」

 

 

ただ静かな空気が流れる。こんなに体を密着させていては一矢に高鳴る心臓の鼓動を感じられてしまうかもしれない。だがそんな中、一矢の言葉が響き、それはそれで聞き逃したくはないので黙って大人しくしている。

 

 

「…俺…人付き合いとか上手くないし…暗いし…どうしようもないけど…。でも…ミサの傍に居たい…。ミサといるだけで…俺…満たされるんだ…」

 

 

言葉に出さなくてはいけないのは分かっている。でもそれは難しい事だ。一矢自身もミサの想いが分からないのだから。だから言葉の大事さが分かる。

 

 

「ミサとの思い出は大事だよ…。でも…ミサと過ごす”今”には勝てない…。ミサとずっといたい…。楽しい時も…悲しい時も…一緒に居たいんだ…」

 

 

かつて翔に言われた言葉がある。この先の未来はまた今とは違う自分だと。だとしたら、ミサへの想いだってきっと、今よりも好きになっているだろう。それこそミサの喜怒哀楽の全てを見逃したくなくなる程。

 

 

「…ごめん。今、こっち見ないで…。酷い顔してると思う…っ」

 

 

不器用ながらでも何とか言葉を吐き出した一矢はそのままミサの肩に額を置いて顔を隠す。今まで慌てていたミサだが、その顔もほころぶ。横目で見れば一矢は耳まで真っ赤にしていたからだ。あの一矢がここまでして自分の気持ちを露わにしてくれた。それが何より嬉しかった。

 

 

「…ねぇ、暫くこのままで良い…?疲れてるんだ…」

 

「疲れてるのに?」

 

「疲れてるからだよ」

 

 

とても暖かく優しい空気が流れ一矢がミサを抱きしめる腕に力が籠る。その言葉は嬉しいが、少し意地悪をしてしまう。もっと気持ちを引き出せると思ったのだろう。だが顔を隠す一矢の口元には笑みが浮かぶ。

 

 

「…疲れてるからこそ…ミサとこうしていたい」

 

「そっか。うん…このまま傍にいるよ」

 

 

ミサだからこそ近くにいて欲しい。そんな一矢にミサは愛おしそうに微笑みながら一矢に身を預ける。お互いに目を瞑り、その姿はまるで今の時間も互いの気持ちも共有するかのようだ。ただ人知れず二人の時間は過ぎていくのであった…。




作者がモノアイ病にかかったせいで一矢にしわ寄せが…。因みに手元にはHGのシン・マツナガ専用高機動ザクとマラサイ(ユニコーン)があります。組み立てなきゃ…

さて本編終了後のイメージですが、この時点で一矢とミサはどんな関係でしょうね?まぁそれは本編でいずれ分かる事ですけどね。

そうそう、またアンケートと言うか募集と言うか、また企画がありますので良ければご協力をお願いします。

<おまけ>

雨宮一矢&シュウジ(ホワイトデー絵)


【挿絵表示】


一矢&シュウジ「「どっちにする?」」


真実「雨宮君っ!!雨宮くうぅぅーーんっっ!!!今夜はいくらでも貢ぎますぅぅぅっっ!!!」

拓也「ホストかよ!?テメェ雨宮!こうなるの分かっててやってんのか!?」

ヴェル「シュウジ君のスーツ姿って珍しいですね…。結構…格好いいかも…」

カガミ「馬子にも衣装ですね」

ヴェル(後で写真、一緒に撮ってくれたりなんて…。あははっ…)

※トライブレイカーズ三人の絵は前作のEX Plus─戦士起つ─にありますが、何れこっちにも貼る予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誇りを胸に未来へ

この小説を書き始めて一年が経ちました。ここまで読んでくださる皆様に本当に感謝しております。これからも何卒よろしくお願い申し上げます。


 

3月31日 23時58分

 

 

3月31日 23時59分

 

 

 

 

 

4月1日 0時0分

 

 

 

「夕香っ!!」

 

 

日付が変わった時であった。自身の部屋で足をパタパタと動かしベッドの上で携帯端末を操作していた夕香は思い思いの時間を過ごしていた。そんな中、夕香の平穏を打ち崩すように勢いよく入室してきたのはシオンであった。

 

 

「…な、なに…?」

 

「…午後4時過ぎに迎えが来ますわ。それまでにここで待っていてくださいましね」

 

 

部屋に入って来たものの何も言ってこないシオン。顔を見れば、なにか言いたそうなもどかしそうな表情を浮かべている。夕香は戸惑いながらもシオンに用件を尋ねると、そのままもどかしそうにしながらも用件だけ伝えて部屋から去っていく。

 

・・・

 

 

「こりゃすごいね」

 

 

そして午後4時過ぎ。雨宮宅に夕香が帰ってきた。夕香は一矢とは違い、その交友関係はガンプラ関係に留まらず幅広い。朝から夕香は今日と言う日を祝福してくれる友人達と遊び歩いていたのだが、シオンに指定された事もありこうして帰って来た。そこで夕香は自分の家の前の光景を見て驚いている。

 

 

「やぁ待ってたよ」

 

「時間がおしてますわ。早速行きますわよ」

 

 

雨宮宅の前にはリムジンが停めていた。その前にはセレナとシオンがおり、夕香を迎える。二人はそれぞれ夕香に声をかけると、モニカがドアを開け、夕香を連れてリムジンに乗り込む。車内には既に一矢がシートに身を預けて座っていた。

 

 

「ねぇイッチ。どこ行くの?」

 

「…知るか。二人分のガンプラ持って来いって言われたから持って来ただけだし」

 

 

シートベルトを着用し、アルマの運転によってリムジンが進む中、一矢の隣に座った夕香は一矢に一体、どこに連れて行かれるのか尋ねると、詳しい用件は一矢も知らないようだ。

 

 

「別に変なことはするつもりはないよ。僕も久しぶりに日本に来たわけだし、少しガンプラバトルに付き合って欲しいんだー」

 

「ホントにそれだけ?まぁ良いけどさ」

 

 

向かい側に座るシオンが何と答えるべきか視線を彷徨わせていると、助け舟を出すようにセレナが代わりに答えると、訝しんだ様子を見せる夕香だが、そのままシートに身を預ける。

 

・・・

 

 

「おっ来たの。こっちじゃこっち」

 

 

タイムズ百貨店に到着した一矢と夕香はセレナとシオンの2人に連れられて移動するのはガンプラバトルシュミレーターが置いてある地下だ。一矢達に気づいた厳也が手を振る。厳也だけではない、ここには既に影二や正泰達が待っていた。

 

 

「じゃあ早速始めちゃおうか。許可は貰ってるしね」

 

 

挨拶もそこそこにセレナはバトルを促す。この場にはウィルはいないようだが、セレナの言うように許可は得ているのであろう。厳也達が頷いてシュミレーターに乗り込む中で一矢と夕香は互いにまだ分からぬままシュミレーターに乗り込む。

 

・・・

 

 

「ねぇイッチ。どう考える?」

 

「…このまま流されてやるのが一番だろ」

 

 

バトルフィールドである峡谷を一矢が操るエールストライクガンダムと夕香が駆るストライクルージュは行動を共にしている。夕香は通信越しに一矢に尋ねると、一矢は溜息交じりに答える。

 

そんな中、センサーが反応すると共に無数の砲撃が一矢と夕香を襲い、二機のストライクは同時に避けながら相手を確認する。そこにいたのはデュエルガンダム・アサルトシュラウドとバスターガンダムであった。

 

 

「まだまだ行くぞ!」

 

「簡単にはやられないでね!」

 

 

デュエルAを使用する秀哉とバスターを使う一輝はそれぞれ一矢達に声をかけると、再び攻撃を開始し、次々に迫る射撃を回避していた二人だが…。

 

 

「俺達もいるからな!」

 

「どんな日でも手加減はしてあげられないわ」

 

 

一矢達と秀哉達を割くように砲撃が放たれ、そこには正泰のフルアーマー ガンダム7号機とシアルのガンダム試作0号機がおり、認識したと同時に再び攻撃を仕掛けてくる。一矢達に攻撃を仕掛けてきたのはこの彼らだけではない、厳也達もまた一矢達を狙って、此方に向かってきていた。

 

 

「気持ちは分からなくはないけど、狙い過ぎは良くないよー?」

 

「分かってはいるけど、な…!」

 

 

そんな中、一矢達に攻撃を仕掛けていたガンプラの中でビームブーメランが投擲され、影二のビギナ・ゼラが弾くと次の瞬間、セレナのジャスティスガンダムが牽制するようにライフルを撃ち、ビギナ・ゼラは回避し続ける。

 

 

「やるな…っ!?」

 

「流石、と言うべきかしら…!?」

 

 

だが狙われているAストライクとストライクルージュだが何もしないわけではない。様子見をするように避け続けていた二機だが、途端に爆発したように動き出し、近くにいたIWSP装備のストライクガンダムとデスティニーガンダムにすれ違いざまに攻撃を与え、空を舞う。

 

 

「普段よりも良い動きやな」

 

 

並ぶAストライク達に珠湖のアルケーがGNファングを放ち、縦横無尽に駆け回るGNファングはAストライク達に迫るが、Aストライクとストライクルージュは互いに迫るGNファングを破壊しながら突き進む。

 

 

「流石、生まれてからの付き合いってわけじゃなッ!!」

 

 

一矢と夕香は互いに意思疎通も合図もすることなく、鮮やかな連携を見せ攻撃が集中する状況でも立ち回る。まるで互いがなにを望み、なにが最善の行動なのか直感で分かっているかのように。単純な連携だけを求めるのであれば、一矢は夕香と組んだ方が意思疎通も必要なく望み通りの行動が出来るのだ。

 

そんな二人の動きを見て、厳也のシュツルム・ガルスがスパイクシールドを両手に装備して襲いかかるが、ストライクルージュは攻撃を受け流して、Aストライクに向けると、Aストライクはそのままシールドの先端で殴るように攻撃する。

 

 

「っ…!?なにっ!?」

 

「あれは…MAっ!?」

 

 

双子の連携は更なる激しさを誘う。だがそんな中で今までの攻撃とは比にならぬ極太のビームの数々が放たれ、咲のシナンジュと文華のスターウィニングガンダムが旋回しながら避けるとその発生源を見やれば、そこにはビグザムやサイコガンダムと言った超巨大MAの数々が地面を揺るがしながら此方に無差別に攻撃を仕掛けてきていた。

 

 

「ただのバトルじゃつまらないと思って、ちょっとした余興を考えましたの。さぁ続きといきましょう」

 

 

MAを動かすのはCPUだ。対人のバトルだけではなく、MAの相手もせざる得ない状況にこの状況を作り上げたシオンは己が操るガンダムキマリストルーパーを操作しながらMSとMA相手に立ち回りはじめ、バトルは熾烈を極めるのであった…。

 

・・・

 

 

「さて、もう良い時間かな?じゃあ、みんな付いてきてー」

 

 

長時間になってしまったバトルも終え、シュミレーターから出てきた面々の中でセレナが腕時計を見ながら、時間を確認すると、そのまま全員を集めて移動をする。

 

 

「さっ、何となく察しはついているようだけど入ってみて」

 

 

移動したのはとあるホテルのパーティー会場であった。先頭を歩くセレナは扉の前で背後の一矢と夕香の表情を見て、彼らがこの先に何があるのか察しているのを見ながら、彼らに促すと一矢と夕香は苦笑交じりに扉を開く。

 

 

「お誕生日おめでとうーっ!!」

 

 

その先で一斉にクラッカーが鳴らされる。パーティー会場にはコトや裕喜達の姿があり、会場には豪華な飾りつけや料理やケーキが置かれており、一矢と夕香はやはりこういう事か笑みをこぼす。

 

 

「夕香、待ってたよーっ!!」

 

「二人とも、おめでとうっ!!」

 

 

一斉に駆け寄り、裕喜はそのまま夕香に抱き着き、頬ずりしている。そんな裕喜の隣でコトが一矢と夕香を祝福する。

 

 

「どうだい、ガンプラバトルは楽しめたかい?」

 

「いきなりバトルをしようなんて不自然だったけどね。アンタは来なかったの?」

 

「僕達は僕達でこっちの準備もあったからね」

 

 

ジュースが入ったグラスを夕香に手渡しながらウィルが声をかけると、バトルの場にいなかったウィルに夕香が問いかけると、パーティーでの催し物などの準備もあった為にウィル達は此方で準備をしていたことを明かす。

 

 

「雨宮君、もう結婚が出来る年だよね!?」

 

「そうだね、出来るね」

 

 

真実がそのまま一矢にぐいぐいと迫る中、真実から目どころか顔を背けながら適当に答える一矢。彼女達だけではなく、わざわざ二人の誕生日を聞き集まってくれた面々から祝福の言葉が贈られる。

 

そんな中、一矢はある人物達を探すが、やはりこのパーティー会場には一矢が探す人物達はいない。その人物達がこの場にはいない事は分かってはいるが、もしかしたらと思って探しているようだ。

 

 

「一矢君、今はこの場にいる人達と楽しもう」

 

「…はい」

 

 

一矢の様子に気づいた翔は声をかける。そんな翔もどこか寂しそうな様子だ。だが、今この場にいない者の事を考えても仕方がない。一矢は頷きながら、パーティーに意識を向ける。

 

 

「一矢、改めて誕生日おめでとう」

 

 

コトやカドマツ達がパーティーを盛り上げる促し物を行う中でミサが一矢に祝福の言葉をかけ、その傍らに立つ。

 

 

「一矢が私の手を取ってくれたから、私、色んな事が見れた。色んな人に出会えた…。ありがとう、一矢」

 

「…それ…俺の言葉でもあるし…。ミサの手を取らなったら、俺は多分この場にいない」

 

 

ここまで来るのに、様々な出来事があり、出会いや別れがあった。それを齎すきっかけになってくれたであろう一矢に感謝するミサだが、そんな一矢を立ち上がらせてくれたのはミサなのだ。

 

 

「これからも一緒に歩いていこうね。だから…傍にいてね?」

 

「…ああ。これからも…」

 

「うん、よろしくね!」

 

 

これから先の未来も共に。そして一矢とは別れたくないと言うようにどこか不安そうなミサに安心させるように一矢は微笑み、ミサもつられて笑う。パーティーはここから更に盛り上がるのであった…。

 

・・・

 

 

「あー…眠い…」

 

 

パーティーも賑やかに終わり、家に帰って来た一矢達。それぞれ思い思いの行動をするなかで、風呂上がりの夕香は顔を上気させながら階段を昇り、自身の部屋に向かっている。夕香はその交友関係から朝から先程のパーティー会場にいた者達以外の学園の友人達と誕生日を祝して遊んでいた。そのせいで体の疲れは溜まっているのだ。このまますぐに眠れるだろうと、自身の部屋に入ろうとドアノブに手をかける。

 

 

「あら、来ましたわね。さあさあこちらに」

 

 

部屋に戻って来た夕香が見たのは、自身のベッドの上で寝転がっていたシオンが掛け布団どけて此方を迎えている姿であった。

 

流れるように扉を閉めた夕香はそのまま隣の一矢の部屋に向かい、軽くノックをする。数秒後、一矢が開けた扉の隙間から顔を出して、目で要件を尋ねる。

 

 

「イッチ、今日はこっちで寝て良い?」

 

「なに言ってんの」

 

「だよねー」

 

 

一矢に彼の部屋で寝て良いかと尋ねる夕香に顔を顰める一矢。普段の夕香からは考えられない発言だったからだろう。それは夕香も同じなのか苦笑している。

 

 

「ちょっと!!わたくしが特っっ別に添い寝してさしあげようと言うのになにが不満なんですの!?」

 

「全部だ全部」

 

「この機を逃したら次は一年後ですわよ!?」

 

 

そんなやり取りをしていると自身の部屋からシオンが出てきて、ぷんぷんと怒っている。しかしなにが不満も何もそれさえ分からないのかとばかりに呆れた様子の夕香。まぁ分かってたらやらないわけだが。面倒事になると思ったのだろう一矢は既に扉を閉めて、我関せずだ。仕方なく夕香は騒ぐシオンと共に自身の部屋に戻る。

 

 

「大体、こんな機会でもなければアナタと同じベッドで眠るなんてないですわ」

 

「こんな機会があっても寝ないわ」

 

 

部屋に戻った夕香をベッドに潜り込んだシオンが顔を出し、夕香を誘うわけだが、そもそも何故、添い寝をされなければならないのかと夕香は顔を顰める。

 

 

「わたくしが何で今日一番にアナタの部屋に来たのか分かっておりませんの?」

 

「分かるか」

 

 

シオンがやれやれとばかりに肩を竦めながら呆れたような目で夕香を見ると、なんでシオンにそんな目で見られなければならないんだとばかりの夕香。

 

 

「午前0時を過ぎたら、イチバンに届けに来ようと思いましたのよ」

 

「なにを」

 

「happy birthday」

 

 

話は今日、日付が変わった瞬間に部屋に訪れたシオンのことに変わった。あれはあれで他にも理由があったようだ。もっともサプライズパーティーのせいであの時、大きな祝福までは出来なかったが。

 

 

「つまり誕生日を迎えて初めて会ったのが、このわたくしっ!!!」

 

「最悪だ」

 

 

胸に手を置いて、バーンッと効果音が似合いそうな程自慢げにフフンと鼻を鳴らすシオン。好意その物は嬉しいが、そこは夕香の為に素直には受け取らず、頭が痛そうに眉間を抑えているがシオンに手を取られてベッドに入る。

 

 

「あぁっそうだ。わたくしアナタへ手紙を書いてまいりましたの」

 

「うざいうざいうざい…」

 

 

仕方なくベッドに入る夕香だが隣のシオンはメッセージカードを取り出し始める。もう睡魔が襲ってくるなか、面倒臭いのか照れ臭いのか夕香は苦笑気味に布団を大きくかぶる。

 

 

「じゃあ読みますわ」

 

「読まなくて良いから。おやすみ」

 

「何でですの!?」

 

 

わざわざ直筆で描いてきたメッセージカードの内容を読み上げようとするシオンだが耳栓代わりに耳に指を入れた夕香はシオンに背を向けて寝ようとするが、それを許さないシオンによって妨害され、また騒がしくなり始める。

 

・・・

 

 

(…何やってんの、あいつら)

 

 

そんな夕香とシオンの騒がしさは隣の部屋にいる一矢には聞こえており、主にシオンの声だけが壁を通じて聞こえてくる中、ベッドの上にいた一矢はベッドから降りて机に向かう。

 

 

「なんだかんだで色んなことがあったな…」

 

 

そこにはガンダムブレイカーⅢやゲネシスなどの自身が手掛けたガンプラが並んでいる。横一列に並んだこのガンプラ達は言ってしまえば、これまでの自分の軌跡と言って良いだろう。自分のガンプラ達を見て、一矢は感慨深そうに呟く。

 

 

「お疲れさま」

 

 

そのまま柔らかな微笑みを浮かべて、今まで一緒に戦ってきてくれたガンプラ達を労う一矢。今まで様々なことがあった。大きな別れを経験し、辛い事もあった。しかし幸せに思える出来事達も多くあるのだ。

 

 

「…これからも誇り(プライド)をぶつけて行くだけだ」

 

 

この先の未来も何が待っているか分からない。だがそれでも自分はこの胸に宿る誇り(プライド)を持って進み続けるだけだ。

 

 

「また…会えるさ」

 

 

そのまま窓から見える空に気づき、窓辺に移動してガチャリと窓を開けて空を見上げる一矢。空には満点の星空が広がっている。

 

そんな中で一矢はもう近くにはいない、今はどれだけ探しても出会えない別れをした友人達に想いを馳せる。例え今は離れていても進み続けた先で再び出会えることを信じて。




<おまけ>

一周年記念絵(雨宮一矢&雨宮夕香 一周年記念衣装)


【挿絵表示】


夕香「あっ、来た来た。ねぇアタシ双子と遊んでよ。今日はアタシ達が主役なんだからさ。アタシ達がいなくなるその時まで付き合ってよ」

一矢(…ところなんなのこの格好)


改めまして、これからもよろしくお願いいたします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夜空の先に

10月31日…ハロウィンの日として知られ、主に古代ケルト人が起源と考えられていた祭のことであり、大本で言えば秋の収穫を祝い、悪霊などを払う宗教的な意味合いを持つ行事だ。

 

 

「…ハロウィンなんて名前だけのコスプレ祭りってイメージしかありませんけどね」

 

 

ハロウィンと定められるこの日は、この時代でも変わる事はなかった。普段、生活の拠点にしている学生寮の宛がわれた部屋で希空はロボ助を傍らに立体モニターでハロウィンの特集記事をフリックして眺めながら呟く。ハロウィンが間近に迫り、希空達の周囲もハロウィンの話題ばかりだ。

 

 

「まあでもお祭りなわけでしょ?」

 

 

そんな希空の呟きに彼女がもたれかかっている後ろのベッドの上から声が聞こえ、横目で見やる。

 

 

「だったら細かい事は気にしないで、心を弾ませればいーんじゃないの?」

 

「ルティナらしいですね」

 

 

ルティナであった。タートルネックとホットパンツ姿の彼女は普段は希空が使用しているベッドの上にうつ伏せで寝転がり、健康的で白い太腿をブラブラと動かしながら携帯ゲーム機で遊んでいた。そんな彼女の言葉に希空は苦笑する。

 

するとこの部屋のインターフォンが鳴り、希空は立体モニターをフリックして画面を切り替え、来訪者が誰か見やると、扉の前でウキウキした表情の奏の姿が映し出されていた。

 

相手が奏であると分かれば、そのままモニターを操作してロックを外す。それと同時にロボ助が玄関に出迎えに行くと、玄関越しに奏がロボ助に挨拶をしている声が聞こえる。

 

 

「うーむぅ…この時期は寒いなぁ…希空ぁ…温めてぇ」

 

 

希空達がいる室内に入った奏は挨拶もそこそこに外気に触れたせいで震える身を温めようと希空に抱き着こうとするが、希空はさっと避けることで奏を回避する。

 

 

「…それで今日はどうしたんですか?」

 

 

希空に避けられたことでガーンと音を立てて落ち込んでいる奏は流れるまま起き上がったルティナの下腹部に抱き着き、よよよ…とすすり泣いている。ルティナがよしよーしと奏の頭を撫でてあやしているなか、希空はここに訪れた理由を尋ねる。

 

 

「あー…うむ。近々、ハロウィンだろう?ガンプラバトルのイベントが行われるらしい。それでチケットが取れたから誘いに来たんだ」

 

「おねーちゃん、ルティナのはあるの?」

 

「勿論だとも」

 

 

尋ねられた奏はルティナから離れながら、自身の立体モニターを表示させ、彼女が口にするイベントのチケットの詳細が記された画面を表示させる。ガンプラバトルのイベントを聞いて興味が湧いたルティナは自身も参加できるのか聞いてみると、奏は幼い妹に接するようにニコリと笑う。、

 

 

「…私はパスです。ハロウィンに興味がありませんから」

 

 

ルティナが喜んで奏に抱き着いてるなか、一方で既に奏の要件に興味を失くしてしまった希空はロボ助が用意してくれたコーヒーを啜りながら自身の立体モニターをフリックしていた。元々誰譲りか、あまり積極的にイベント事に行動するタイプではないのだろう。

 

 

「むぅ…そうは言うが、このイベントのMCはツバコで、サヤナさん達も参加するんだぞ?」

 

「…」

 

 

希空が断りを入れてくるのは想定しなかった訳ではないが、実際に言われてしまうと対応に困る部分がある。とはいえ、このイベントには希空を参加させたい理由がある。それは滅多に会えない知人達と接するまたとない機会なのだ。サヤナ達の名前を出されて希空はピクリと反応する。

 

 

「…分かりました。参加しますよ」

 

 

単純に寮生活だけではなく、住む場所の問題から気軽に会えるわけではない。それは希空も分かっているようで、その事で漸く彼女も重い腰を上げたようだ。

 

・・・

 

 

「もう間もなくだな」

 

 

ハロウィン当日の夜。奏が言っていたイベントに参加するため、希空の部屋に集まっていた。時刻を確認しながら奏が希空達に声をかけると、VRヘッドホンを装着し、VR空間へダイブする。

 

・・・

 

 

「皆さん、こんばんはー!」

 

 

イベント会場となるVR空間に移動した希空達。会場は夜の闇が支配するハロウィンをイメージした小さな村であった。時間もギリギリだったようで、多くの参加者で賑わうなか、希空達が到着して程なくMITSUBAとして活動しているツバコがイベントMCとして設けられたステージ上でパフォーマンスをしており、アバターの服装は機動戦士ガンダム00 1stのフェルト・グレイスのものだ。

 

 

「今回行われるのはハロウィンに因み、二チームに分かれての拠点防衛戦です。襲い掛かるNPC機から守り抜け!またフィールド上にはバトルの勝敗を決めるかもしれない宝箱や両チーム互いにいたずらOKとなっております!」

 

 

前置きも程ほどにツバコから本イベントの概要が説明される。

 

 

「また今回、数多くの一般参加者の他に有名なガンプラファイターの方々を招待してNPC機達に交じった第三勢力として参加していただいております!果たしてどんなバトルが見れるのか楽しみです!」

 

 

本イベントは公式によるものの為、運営側も規模の大きなモノにしようとしているらしい。その証拠に現在、イベントMCを務めているツバコの他に有名なガンプラファイターを第三勢力として招待している。話題性は十分だろう。

 

・・・

 

 

(おんな)じチームだね」

 

「ロボ助も同じで良かったです」

 

 

既にチケットでチーム分けがされていたらしく、立体モニターを表示させてチーム分けを確認すれば、希空、ルティナ、ロボ助は同じチームになっていたようだ。ロボ助と同じチームになれたという事で希空とロボ助は笑いあっている。

 

 

「何故だっ!?何故ェッ!!?」

 

「はいはい、あっち行こうねー」

 

 

…だが、一人同じチームにはなれなかった奏は癇癪を起こしていた。希空達に手を伸ばす奏だが、同じチームの愛梨によって首根っこを掴まれて連れて行かれてしまう。

 

 

「久しぶりね、希空」

 

 

いまだにわーわーと騒いでいる奏に手を振っていると、ふと肩に触れられ、振り返ってみれば微笑を浮かべているサヤナがおり、その傍らには同チームとなる舞歌、進、大悟の姿があった。

 

 

「ルティナさんも上手くやってるようで何よりですー」

 

「楽しく遊べてるからねー。最近、ずっと心が躍ってるよ」

 

 

VR空間とはいえ、久方ぶりの再会に心なしか嬉しそうに微笑んでいる希空。すると舞歌は希空の傍らにいるルティナに声をかけると、彼女もピースサインを浮かべてクイクイっと動かす。

 

 

「もうオイタは駄目よ?」

 

「はいはーい、分かってまーす」

 

 

ここまで来るまで色々とあった為、サヤナがこのイベント会場でもやらかさないようにと一応の注意をするも頭の後ろに手を組んで、煩わしそうに返事をしている為、苦笑してしまう。

 

 

「今のルティナなら大丈夫ですよ」

 

 

一見して真面目には聞いていないルティナ。大悟辺りが注意しようとするが、その前に希空が過去のことを振り返りながらもルティナのフォローをする。その表情は本心からルティナを信頼していることが分かり、ルティナもそっぽを向いて気恥ずかしそうにしている。

 

 

「それでは皆さん、発進してください!!」

 

 

そうこうしていると大会側の準備が整い発進を促される。折角、同じチームとなったのだ。どうせならば勝とうと頷き合った希空達は本イベントの為に作成したガンプラで出撃していく。

 

・・・

 

ハロウィンイベントのバトルフィールドは三日月が照らす二つの西洋城が舞台であった。それぞれの城は両陣営の陣地となっており、早速、両陣営は行動を開始している。

 

 

「これぐらいならどうってことはないな!」

 

 

既にお互いの城にはNPC機となる所謂、ゲテモノの機体群を迎撃しており、防衛チームとして進のXアストレイが他の参加者達と共に迫るNPC機達を撃破していた。

 

 

「っ…。早速来たか!」

 

 

そうしていると、また別の方向から攻撃が仕掛けられる。足元に着弾した弾丸にファントムガンダムを操る大悟が其方の方向を見やれば、相手陣営の物と思われる機体達が接近していた。

 

 

「活躍しちゃうよ!」

 

 

そこには愛梨の操るデスティニーガンダムを筆頭に相手陣営の機体が迫っていた。夜の空から迫るデスティニーは展開している相手陣営の機体へ高エネルギー長射程ビーム砲を発射する。

 

 

「迂闊な行動はするなよ」

 

 

一部の機体に損傷を与えるデスティニー。その姿を傍らからIWSP装備のストライクがおり、操縦する男性は愛梨を心配しながら彼女の掩護を行っている。

 

 

「悪いけど。こっちにも心強い味方がいるんだ!」

 

 

デスティニーの攻撃を回避しながらファントムとXアストレイが向かっていく。デスティニーとIWSP率いる相手部隊に向かって行きながら、進が自信ありげに叫ぶ。

 

 

「そう言う事だ。簡単にはいかないぞ」

 

 

進のXアストレイに並ぶようにストライクノワールが飛び立っていく。ストライクノワールはストライクIWSPを引き付けるように交戦を始めるのであった。

 

・・・

 

 

「…そろそろ見える頃ですね」

 

 

一方、愛梨達が攻め入っているように希空達もまた相手陣地に向かっていた。希空達の機体はそれぞれ希空はガンダムAGE-2 ダークハウンド、ロボ助は呂布トールギス、ルティナはガンダムデスサイズヘル、サヤナはガンダムアストレイ グリーンフレーム、舞歌はクロスボーンガンダムX1フルクロス TYPE GBFTを操っていた。

 

Gストライダー形態で移動している希空はマップを確認しながら呟くと前方のモニターがキラリと光り、極太のビームが森林ごと焼き払いながら向かってくる。

 

 

「あれは…どうやら貴文お兄様のようですね」

 

 

被弾は免れたものの前方を見て、モニターを確認した舞歌は攻撃を仕掛けてきた相手を知っているようで軽い笑みを浮かべながら呟く。そこにはガンダムフェニーチェリベルタの姿が。

 

 

「ふっ…そう上手くいかないか。だがこれ以上は!」

 

「ここは私が!」

 

 

舞歌の言う通り、リベルタを操っているのは貴文だったようだ。避けられる事も織り込み済みだったようで微笑を浮かべるものの、すぐに表情を切り替え、バイク形態へ変形して向かって行くと、迎え撃つように舞歌のフルクロスがピーコックスマッシャーを構えて向かっていく。

 

 

「貴文さんだけじゃないぜ」

 

「僕達もいるよ!」

 

 

だが待ち構えていたのは貴文のリベルタだけではない。涼一のZⅡトラヴィス・カークランドカラーと明里のフルアーマー百式改もいるではないか。すぐに攻撃を仕掛けてくる二機にAGE2DH達はすぐに回避する。

 

 

「…若い奴らは血気盛んで良いな」

 

 

涼一たちの姿を見ながら、ジャイオーンを操る男性は涼一達にかつての自分を重ねるように微笑ましそうに笑いつつ、彼らの掩護をするため、攻撃を仕掛けていく。

 

 

「ここはルティナの出番かな」

 

「手伝うわ。希空、任せるわ」

 

 

ZⅡ達の攻撃を回避しながら、ルティナのデスサイズヘルが囮になるように前に出ると、サヤナのグリーンフレームも希空に声をかけ、後に続く。

 

 

「…任せます」

 

 

接触してそれほど時間も経っていないというのにもう既に激しいバトルが行われている。サヤナに言われた希空は頷き、ロボ助と共に先を急ぐ。

 

 

「さーて、じゃあ皆で心を躍らせよっか」

 

 

AGE2DHが素早く先へ向かったのを確認したルティナは追撃しようとするZⅡ達の前にグリーンフレームと共に立ち塞がり、夜空に浮かぶ三日月に劣らない輝きを放つビームシザースを構えながら向かっていくのであった。

 

・・・

 

 

「見えました」

 

≪希空、警戒を≫

 

 

呂布トールギスを乗せて飛行するAGE2DHを敵城をモニターに捉えながら呟くと、ロボ助から注意を促され頷く。

 

 

「…来ましたね」

 

 

すると同時にセンサーが鳴り響き、希空とロボ助は警戒する。

 

 

「ひとーつ…人の世生き血をすすり…」

 

「は?」

 

 

するとセンサーが反応したと同時にAGE2DHに通信が入り、その声に希空は顔を顰める。

 

 

「ふたーつ…不埒な悪行三昧」

 

≪こんなことをするのは…≫

 

 

三日月をバックに浮かび上がる一機の機体。その姿を見ながら既にロボ助は呆れている。

 

 

「みっつ醜い浮世の鬼を…退治てくれよう生徒会長!」

 

「≪あぁ、やっぱり…≫」

 

 

一輝に接近してくる機体…それはガンダムエクシアダークマターであり、操るのは奏であった。予想通りというかなんというか。希空とロボ助の呆れ交じりの呟きがシンクロする。

 

 

「えぇい、こうなったらお姉ちゃんらしく強いところを見せてやるもんね!!」

 

「…はあ」

 

 

接近するダークマターとAGE2DHがぶつかり合う。直後に激しい近接戦を繰り広げる二機だが、奏の言葉に希空はため息をついてしまっている。

 

 

「昔から希空のことはよく知っているからな。戦い方などは…」

 

 

だがやはりそこはガンダムブレイカーの使い手。近接戦において少しずつではあるが、AGE2DHを圧して行っている。しかも相手は希空という事もあり、近くでいたからこそその戦い方の対処法は分かっていた。

 

 

「ッ…。ロボ助か。相手にとって──」

 

≪奏≫

 

「ん?」

 

 

そんな中、ダークマターとAGE2DHの戦闘に割り込む存在がいた。ロボ助の呂布トールギスだ。そのまま破塵戟を振り回してダークマターへ攻撃を仕掛けていく。近接戦闘を得意とするロボ助に笑みを見せる奏だが、ロボ助から通信が入る。

 

 

≪希空のことは私の方がよく知っています≫

 

「えっ」

 

≪知 っ て い ま す≫

 

 

どこか冷たく聞こえるロボ助の声。思わず奏がだらりと冷や汗を流すなか、呂布トールギスはどこか禍々しいオーラを発しながら攻撃を強めていく。

 

 

「…これなら行けそうですね。ロボ助、任せるね」

 

 

実力云々ではなく、呂布トールギスというより、ロボ助の勢いに圧されている奏。その姿を見ながらAGE2DHは再度、Gストライダー形態に変形して向かっていく。

 

 

「ここから先へ行かせない!」

 

 

だが、敵陣に向かえば向かうほど攻撃の手は強くなっていく。AGE2DHの姿を見つけた少女はシスクードを駆り、AGE2DHを迎撃する。

 

 

「クレア、慎重にな」

 

 

シスクードを操る少女の名を口にする男性。どうやら彼女の親のようだ。ガンダムAGE-3グラフトを操りながら共にAGE2DHへ向かっていく。

 

 

「…わざわざ作ったんですか」

 

 

シスクードとガンダムAGE-3グラフトを見ながら呟く希空。とはいえ攻撃を仕掛けられている以上、回避に専念する。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

すると再度、センサーがけたましく鳴り響く。同時にソードピットがAGE2DHとシスクード達に襲いかかり、何とか回避しながら見やる。

 

 

「あれは…例の招待プレイヤーですか」

 

 

こちらに接近する機体。それはダブルオークアンタ、ヴァイスシナンジュ、Hi-νガンダムインフラックスであった。その完成度を見て、希空はツバコが言っていた事を思い出す。

 

 

「好きに暴れて良いというのじゃから、そうさせてもらおうかの」

 

「ああ、遠慮はしないぞ」

 

 

ヴァイスシナンジュとダブルオークアンタを操るファイター達は共に笑みを浮かべながら、AGE2DHとシスクード達に攻撃を仕掛けていく。

 

 

≪私は希空が誕生した時から知っているんです。奏とは過ごした濃度が…≫

 

「い、いやだから別にロボ助より詳しい何て一言も…」

 

 

そしてこちらもロボ助の淡々としつつも迫力のある物言いに気圧されている奏。

 

 

「た、宝箱!よ、よし」

 

 

地上に降りた二機。ダークマターが周囲を見渡すと、ツバコが言っていた宝箱の一つを見つけ、不利な状況ということもあり、咄嗟に回収して中身を見やる。

 

 

「な、なんだこれは!!?」

 

 

すると眩い光がモニターを覆い、咄嗟に目を瞑る。目を開けた時、何があったのかと周囲を見渡していると、ふと自分自身に違和感を感じ見やる。するとなんと奏のアバターの服装は露出の多い狼少女のような格好となっており、思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

しかも手に装着された肉球型ハンドのせいで操縦もままならない。その隙を見た呂布トールギスはインフラックスに向かって行くとビームが迫り、咄嗟に避ける。

 

 

「…まったく何やってるんだ」

 

 

ビームを放った方向を見れば、そこにはインフラックスの姿が。外からでも慌てふためているダークマターを見ながらインフラックスを操る男性は重い溜息をつく。

 

 

「まあ良い…。纏めてかかって来い」

 

 

すると直後にダークマターにも攻撃を仕掛ける。呂布トールギスとダークマターが警戒するなか、インフラックスはブレードを構えて二機を相手に突進するのであった。

 

・・・

 

 

「ッ…流石にこれは…!!」

 

 

敵陣の機体と招待プレイヤー達と交戦するAGE2DH。たった一機と言う事もあって、苦戦を強いられており、どんどん表情は険しくなっている。

 

 

「もらった!」

 

「ッ!?」

 

 

それが隙となったのだろう。ヴァイスシナンジュの大型剣であるモーントシュヴェールトを回避したAGE2DHだが、背後からシスクードが迫っている事に気づかなかった。既にシスクードはビームサーベルを振りかぶっており、回避が間に合わないと希空も歯を食いしばった時だった。

 

 

「…?」

 

 

だがシスクードの一振りはAGE2DHに届かなかった。シスクードとの間に何かが割り込んだのだ。希空はゆっくりと何があったのかモニターを向ける。

 

 

「AGE-1…?」

 

 

そこには此方に背中を向けるガンダムAGE-1レイザーの姿が。レイザーブレイドでシスクードのビームサーベルを受け止めている。

 

 

「!」

 

 

AGE1レイザーの背中は希空にとって非常に大きく見えた。するとAGE1レイザーはゆっくりとAGE2DHを見やる。それはまるで早く行けと言わんばかりに。その意を感じ取った希空はすぐにGストライダー形態に変形して相手の城へ乗り込んでいくのであった。

 

・・・

 

 

「おめでとう、希空ちゃん!大活躍だったね!」

 

 

イベントも終わり、MCを務めていたツバコは希空に駆け寄り、称賛の言葉をかける。勝敗は希空達に軍配が上がり、立役者となった希空をツバコは褒め称える。

 

 

「本当に見事でした。流石希空さん」

 

「…違います」

 

 

同じチームであった舞歌も希空に笑みを見せながら、自軍を勝利に導いた希空を褒める。しかし希空はゆっくりと首を振っていた。

 

 

「…道を開いてくれた人がいましたから」

 

 

あの状況では希空は全くの不利で後退も考えていた。しかしあの時現れたAGE1レイザーは道を切り開いてくれたのだ。あの時のファイターは何も言わなかったが、不思議と誰かは分かる。希空は温かな心を感じながら微笑みを見せるのであった。

 

・・・

 

 

「…」

 

 

月明かりが照らす夜の街の片隅で一人の男性が静かに佇んでいた。その手にはAGE1レイザーが握られている。

 

 

「──最初は乗り気じゃなかったくせに途端に動き出すから驚いたわい」

 

 

そんな男性に後方から声をかける者がいた。男性はその人物を見やる。後方には二人の男性がおり、どうやら知り合いのようだ。

 

 

「聞いたぞ。希空のピンチにすぐに動いたそうじゃないか」

 

 

先程、声をかけたヴァイスシナンジュを持つ男性が愉快そうに笑っていると、ジャイオーンをケースにしまいながら、その隣にいた男性が口を開く。

 

 

「…別に。アイツの道はアイツが勝手に決める事だろ」

 

 

すると声をかけられた男性は再び前を見ると、漸く口を開く。

 

 

「その道が狭まるのなら、この手を伸ばしてこじ開けてやるのが俺の役目なだけだ」

 

 

AGE1レイザーを手に持った男性は夜空を仰ぎ見る。まるで空の先にあるモノを想うように。その口元には温かで優しい笑みが浮かんでいた…。




<おまけ>

奏(バニータキシード)&ちびのあ(魔法使い)&ちびるてぃな(小悪魔)


【挿絵表示】


奏「…何故、こんな格好を…」

希空「負けた罰ゲームでしょうか」

ルティナ「似合ってるよ、おねーちゃん」

奏「全く嬉しくは…──」

ちびのあ&ちびるてぃな「「にあってる!にあってる!」」

奏「…このおチビちゃん達は私が世話をしても」

希空&ルティナ「「ダメです」」

※二頭身というか、ちびきゃらを描いたの初めてなんですけど意外と難しいんですねぇ…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖夜に立てた誓い

クリスマス…その日はどれだけの笑顔を齎してくれる日なのだろうか。イルミネーションで彩られた街を歩けば、ベルの名が聞こえ、鼻歌でも歌ってしまいそうになるくらいだ。

 

 

(…クリスマス…か)

 

 

夜、学生寮の自室で表示させた立体モニターを眺めながら希空はロボ助が用意してくれホットココアを啜りながら、物思いに耽る。

 

 

≪希空…≫

 

「…別に寂しい訳じゃないよ」

 

 

立体モニターでは離れた場所で暮らす舞歌達のクリスマスパーティーの様子が写された映像と共に希空へのクリスマスを祝うメッセージが送られていた。メッセージ自体は希空とて嬉しく感じるものの部屋にあるスピーカーを通して希空を案じたロボ助に声をかけられ、自分とロボ助しかいないこの部屋を見渡すと強がってもその表情には寂しさが滲んでいる。

 

そんな希空にどうしていいか考えを巡らせるように彼女を見ていたロボ助だが、ふと希空の携帯端末に着信が入る。一体誰なのか見てみれば、希空の母親からだ。文面に目を通してみれば、クリスマスや自身のことを気遣った内容のものが記されていた。

 

 

「…ママ」

 

 

母はこうした連絡をまめにしてくれる。…こういった部分は是非とも父は見習ってほしいぐらいだ。そんな事を思っていると部屋にチャイムの音が鳴り響き、来客を知らせる。希空が別のモニターを表示させて確認すれば、そこには奏とルティナの姿が。モニターを操作して扉のロックを外すと、ロボ助と一緒に扉を開ける。

 

 

「メリークリスマース!のーあー!」

 

 

来客を知らせるベルで扉を開けた希空にすぐさま飛びついたのはミニスカートのサンタクロースのコスプレをした奏であった。突然のことに面食らった希空はそのまま抱き着かれてしまう。

 

 

「やっほーメリクリ。遊びに来たよー」

 

 

頬を摺り寄せる奏を無言で押し退ける希空にルティナが手に持ったケーキや飲み物の入った袋を見せる。希空に無言で押し退けられて悲しみの声をあげている奏の手にも食べ物の類が入った袋が握られていた。

 

・・・

 

 

「かんぱぁーいっ!!」

 

 

奏とルティナを自室を招き、ささやかであるがクリスマスパーティーが行われていた。溌剌とした奏の音頭と共に希空達はシャンメリーの入ったグラスを軽く打ち付ける。

 

 

「…奏、さっきからその妙な格好は何なんですか?」

 

「なにを言う。今の私はサンタクロースカナデだぞ!これはリミッドな感じで毎年サンタをしてたとある先輩からサンタの称号と共にプレゼントされた由緒正しいサンタの衣装なのだ!」

 

(…クリスマスにサンタが飲み食いしながらダラダラして良いんでしょうか)

 

 

ちらりと奏のサンタ衣装を見やりながら彼女に尋ねる。すると奏は寧ろ良く聞いたとばかりに衣装の胸元のリボンに手を添えながら、むふーっとご満悦な様子で堂々と話しているのだが、少なくとも彼女の口にするリミッドな感じの先輩は誰にも気づかれないように夜な夜な行動していた為、首を傾げてしまう。

 

 

「それより希空はもっと食べなよー」

 

「っ!」

 

 

すると奏はサンタを継承した際の話をし始め、希空が呆れるなか、突然、背後から希空の肩に顎先を乗せて、耳元に話しかけて来たルティナに驚いてピクリと震えてしまう。

 

 

「希空はもうちょっとお肉をつけた方がルティナ好みなんだけどなぁー?」

 

「や、やめてください…」

 

「そー言う反応されちゃうと心が引き立てられちゃうなぁ」

 

 

希空の下腹部に触れながら、彼女の耳たぶを甘噛みして息を吹きかけてくるルティナにピクリピクリと体を震わせてしまう。そんな希空の反応が面白いのか、ルティナは暫く希空を弄るとやがて満足して自分がいた場所に戻っていく。

 

 

「ルティナ…」

 

「んぅー?」

 

 

希空を弄って満足したルティナは適当に選んだ食べ物を食べていると希空に名前を呼ばれ、そのまま視線を向ける。

 

 

「…ルティナはよくゲームで遊んでますよね」

 

「うん、遊ぶのは大好きだからね」

 

 

俯きながらルティナに尋ねる希空。実際、彼女はゲームの類をプレイしており、ハロウィンの際もこの部屋で携帯ゲームを遊んでいた。ルティナの返答に希空はそうですか…と静かにこぼすと、立ち上がるとルティナの後ろに移動して彼女を抱きしめる。

 

 

「ちょ、希空…?」

 

 

希空にしては珍しい行動に奏やロボ助どころかルティナも驚いていると、希空は動画サイトを開いた携帯端末をルティナの耳元に近づけ…。

 

 

「おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました。」

 

「みゃあああぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

すると携帯端末からおどろおどろおしい心臓に悪い音楽と共に希空が耳元で据わった目で呟き、その内容と音楽にルティナは悲鳴を上げる。

 

 

「ちょっとからかったぐらいで───」

 

「0% 0% 0%」

 

「分かった!ごめん!ルティナが悪かったってばぁっ!!心が壊れるぅぅぅっ!!」

 

 

心臓の辺りをおさえながら恨めしそうに希空を見やるルティナは文句を口にしようとするのだが、その前に希空の反撃を受けて、涙目になりながら謝っている。

 

 

≪ルティナ、随分と取り乱しているようですが…≫

 

「あぁうむ…。飾っていたガンダムのプラモが思わぬアクシデントでブレードアンテナが折れてしまったくらいの絶望はしてるのではないかな」

 

 

いまだ騒いでいるルティナと彼女を拘束している希空を見やりながらロボ助はスピーカーを通じて、誰も話を着てくれないといじけていた奏に尋ねると、気を取り直した奏はどこか遠い目をしながら答える。

 

 

「って言うか、ズルい!私もまーぜーろー!」

 

「「ちょっ」」

 

 

傍から見て、じゃれ合っている希空とルティナを羨ましく思ったのか、立ち上がった奏はそのまま勢いよく二人に飛びつくと、奏に驚いた二人は対応が間に合わず雪崩れ込んでしまう。

 

 

「かーなーでー…!」

 

「良くもやってくれたね…」

 

「ちょ、いきなり手を組むなんてズル…!?いやでもこれはこれで嬉しいような───」

 

 

えへへ、と無邪気に笑って希空とルティナに抱き着いている奏だが、わなわなと震えた希空とルティナの行動は早く、奏がなにやら喜んでいるのも束の間、背後から希空が拘束し、ルティナが奏のサンタ衣装を弄ってくすぐり始める。

 

・・・

 

 

「む、希空…いつの間に…」

 

 

賑やかなクリスマスパーティーは続き、やがて気づいた頃には希空は机に突っ伏して眠ってしまっていた。

 

 

「まあ、あれだけ騒いでたらねー」

 

≪あのような希空は珍しいです≫

 

「それだけ心が弾んでたんでしょ」

 

 

このまま寝かせるわけにはいかないと感じたのか、ひょいっと希空を抱えたルティナはそのまま彼女をベットまで運ぶとロボ助の声を背後で聞きながら、ベッドに寝かせた希空に掛け布団をかける。

 

 

「ほらおねーちゃん。出番でしょ」

 

「うむうむ、今こそサンタとしての務めを果たす時!」

 

 

希空をベッドに寝かせたルティナは奏に声をかけると、サンタ帽をかぶり直しながら立ち上がった奏は隠しておいた荷物を取り出すと、希空の眠る枕元に歩み寄る。

 

 

「私のプレゼーンツ!1/144 メリクリウス!ヴァイエイトもつけてなお嬉しい!」

 

 

サンタとしてプレゼントを渡すこの瞬間を待ち望んでいたのか、やけにテンションの高い奏はそのまま枕元にラッピングが施されたプレゼントを置く。

 

 

「ルティナからはゲームだよー。これルティナがドハマりした奴だから、今度一緒にやって心を躍らせようね」

 

 

ルティナもルティナで用意したようで希空の枕元に彼女が厳選したゲームソフトを置く。

 

 

「そうだ、ロボ助にもな。これ、頼まれていたモノだ」

 

 

希空にプレゼントを配り終え、満足した奏は思い出したように懐から小さくラッピングされた箱を取り出すとロボ助に渡す。

 

 

≪申し訳ありません、奏…。私では買いに行くのが難しくて…。なにかお礼を…≫

 

「ノンノンノン。ナンセンスだぞ、ロボ助。今日の私はサンタだ。感謝の想いは受け取っても、何か品の類を受け取る気はない」

 

 

奏から受け取りながら、トイボットという身の上、中々希空に隠れて外出して買い物をするのは難しいのか、申し訳なさそうに首を垂れながら、礼の品か何かを用意しようとするのだが、人さし指を軽く振った奏は軽いウインクをしながら答える。

 

 

「それでは私達はここ等でお暇するぞ」

 

「今日はおねーちゃんのところにいるから、なにかあったら呼んでね」

 

 

パーティーをお開きにするには良い時間になったのを見た奏はルティナと共に手早く片付けを済ませると、彼女と一緒にロボ助に手を振りながらこの部屋を去っていく。

 

 

「うっ…んぅっ…」

 

 

部屋にはロボ助と希空しかおらず静寂が支配し始めるなか、ふと希空が身じろぎする。元々浅い眠りだったのか、それで目を覚ました希空は体を起こす。

 

 

「私…寝てたんだ…」

 

≪ええ、ルティナがここまで。二人はもうお帰りになられましたよ≫

 

 

周囲の状況を確認しながらポツリと呟く希空に先程までの状況を軽く説明する。すると希空は枕元に置かれていたプレゼントと片付けられた部屋を見て、申し訳なさそうに笑う。来客であるはずの彼女達を置いて、自分はもう寝てしまったのを恥ずかしく思っているようだ。

 

 

「…静かだね」

 

 

先程まで笑い声が響いていた室内も今では噓のように静けさが広がっている。どこか寂しそうにこぼす希空にロボ助は一歩歩み寄る。

 

 

≪希空、これを…≫

 

 

するとロボ助は先程、奏に渡された小箱を希空に差し出す。

 

 

≪私が選んだものを奏に用意してもらいました。私からのプレゼント…と言うには烏滸がましいですが≫

 

 

ロボ助から受け取った小箱の中身を見てみれば、そこにはヘアピンが。希空は普段から母が使用しているものと同色のヘアピンを着用している。それを考えての贈り物だろう。

 

 

「ロボ助が選んでくれたんだよね?」

 

≪ええ≫

 

「私のことを考えて?」

 

≪勿論≫

 

 

ヘアピンには派手な飾り気こそないもののシックなデザインのそれは希空の髪にとても映えるだろう。そのヘアピンを手にロボ助を見つめながら尋ねると、ロボ助は一つ一つに確かに頷く。

 

 

「嬉しい…っ」

 

 

愛おしそうにヘアピンが入った小箱を胸に抱きながら頬を紅潮させる希空。その反応にロボ助はどこか照れたように思わず視線を彷徨わせてしまっている。

 

 

「…私ね。ホントは寂しかった。ここだと会いたくても会えない人達はいっぱいいるから…。でもね…一人じゃないって改めて思った。だってここには奏やルティナ…何よりロボ助がいてくれるから…」

 

 

静かに胸の内を明かす。希空が心に秘めたことを話せる相手などそれこそ限られており、全幅の信頼を寄せられるロボ助がその中に含まれているのは想像に難くない。

 

 

「ロボ助とは離れたくない…。サンタに頼めば、ずっと一緒にいれるかな…?」

 

 

生まれてからずっと希空はロボ助と共に居た。彼女にとってロボ助が傍にいるのが当たり前だったのだ。今は親元を離れ、知り合い達とも離れてしまい寂しくとも我慢は出来るが、それでもロボ助とは離れたくない。冗談を口にする希空だが、その中に寂しさが紛れる。

 

 

≪…希空≫

 

 

するとロボ助は希空に静かに歩み寄ると、彼女の手を取って跪く。

 

 

≪サンタクロースに願わずとも私は君の傍にいる。今も、そしてこれからも君と共にある事を誓おう≫

 

 

まるで騎士の誓いのように。否、まさに一角の騎士は乙女に誓いを立てたのだ。

 

希空はロボ助のその姿を心底嬉しそうに微笑んでいると、ふとロボ助の姿に父の姿を重ねる。それが何故だか分からない。父はロボ助と違って跪いて堂々とこんなことを口にする人間ではないだろう。それとも知らないだけか?

 

 

「ねぇロボ助、お願いがあるんだけど…」

 

≪なにかな≫

 

 

ベッドに倒れた希空は手を繋いでくれるロボ助に話しかけると、ロボ助はその発した声色に優しさを滲ませながら言葉を待つ。

 

 

「今日は…一緒に寝てくれないかな…?」

 

≪私が同じ布団に入っては寝苦しくなるのでは…?≫

 

「ロボ助なら気にならないよ」

 

 

幼い頃を思い出しているのか、トイボットであるロボ助に一緒に寝てくれるよう頼むのも妙ではあるが同じベッドに寝てくれないか尋ねる。希空の寝心地の問題を気にするロボ助だが希空は首を横に振りながらロボ助をベッドの中に引き寄せる。

 

 

≪昔はこうやって私を抱きしめながら寝ていましたね≫

 

「その時、ロボ助はずっと私の頭を撫でてくれてたよ」

 

 

ロボ助を抱きしめながら向かい合う希空に幼少期の彼女を振り返りながら話すと、希空も覚えているのか微笑む。するとロボ助は希空の頭を撫で始める。

 

 

「…ありがとう」

 

 

優しく繊細に希空の頭を撫でるロボ助に心地の良さそうな笑みを浮かべながら希空は微睡に落ちていく。希空が眠りに落ちて、しばらくすると枕元に置いてある希空の携帯端末に着信が入り、ロボ助が気づく。

 

 

(…そうだ、希空。君は決して一人ではないよ)

 

 

画面を見てみれば、どうやらビデオメッセージが送られてきたようだ。そして何よりその相手は希空の父親ではないか。

 

 

(例え離れていようと君を想う者達がいなくなるわけではないのだから)

 

 

希空の父親のことだ。このビデオメッセージを送るまでに色々と内容で悩んだりして希空の母親と違ってここまで遅れたのだろう。だが彼女が翌朝、これを見た時にどういった反応を示すのか、楽しみに思いながらロボ助は無邪気な寝顔を見せる希空の頭を撫で続ける。そんな彼女達を照らすように満天の星空が輝き続けるのであった。

 

 




<おまけ>
優陽(おまけ)

【挿絵表示】


優陽「メリークリスマス!君の願い、僕が叶えるよ!」


ミサ「こういう時って女の子がサンタコスをするんじゃないの!?」

一矢「…もうアイツだったら良いんじゃないかな」

奏「ちょっと待て!ハロウィンの時は私なんだからここは希空のサンタコスを見せるのが道理だろう!?って言うか、私にだけでも───」

希空「帰りますよ、奏」


ミサ「…なにあれ」

一矢「…時空の裂け目が出来てたみたいだな」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

造花のチョコにご注意を

覇王達との別れから二年が経った日のバレンタインデーの前日。何処もかしこもチョコだらけで明日は一層、カップル達による甘いひと時が流れることだろう。

 

 

「まずはチョコレートを・・・っと・・・」

 

 

その前日の夜、自身が住んでいるマンションのキッチンでエプロン姿の翔がチョコレートを溶かしていた。

 

 

「翔さん、生クリームが沸騰してきましたよ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

その近くではコンロを使って、小鍋に火にかけてブツブツと沸騰している生クリームを見て、同じくエプロン姿の優陽が声をかける。

 

 

「すまないな、手伝ってもらって」

 

「いえいえ、僕が手伝えるならいくらでも。でも、逆チョコを作りたいなんて、どうしたんですか?」

 

 

シャンパンやバターを生クリーム入れたボウルを冷蔵庫に移して冷やすなか、一段落ついた翔は優陽に一緒にチョコ作りをすることを快く引き受けてくれた彼に例を言うと、優陽はそもそもの理由を尋ねる。

 

 

「毎年もらってばかりだ。ホワイトデーに返しているとはいえ、たまにはこちらから送るのもアリだろう。それに一矢君達にも日頃の感謝を込めて送りたいからな」

 

「良いですね。僕もそういうの、好きですよ」

 

 

生クリームを冷やしている間、優陽の質問に答える。思い立ったのも半ば気まぐれのようなものだが、だからこそたまには良いだろうと行動したのだ。優陽も翔の考えに微笑みを見せながら頷く。

 

 

「さて、後は丸めて、チョコと砂糖でコーティングするだけだ」

 

「ええ、サクッと終わらせましょう」

 

 

その後も雑談を織り交ぜながら、時間を潰していた翔達は頃合を見計らって立ち上がると、優陽もその後をとてとてと追い、二人のチョコ作りは着々と進んでいくのであった。

 

・・・

 

 

「ふああぁっ!!!ふわああぁぁあ!!!翔さんからチョコもらえたーっ!!」

 

 

翌日、ブレイカーズでは早速、翔によってチョコが配られていた。翔へチョコを渡したと思ったら、逆に翔からも手作りのトリュフを渡されてしまった風香達の喜びようは凄まじかった。

 

 

「これだけ喜んでもらえたなら、作ってよかったですね」

 

「ああ」

 

 

手放しで喜んでいる風香達の姿を見て、手作りをした甲斐があったと優陽と翔が笑い合っていると・・・。

 

 

「けど、今日みたいな日に二人からチョコもらえると性別が分からなくなっちゃうよね。見た目的に」

 

「そうか?」

 

「うん、知らない人が見たら、勘違いするんじゃないかな」

 

 

ふと何気なく風香が翔と優陽を見ながら呟く。確かにハッキリとした顔立ちで中性的な外見を持つ翔と一見すると少女と見間違えてしまうような可憐な容姿の優陽は人によっては性別を間違えてしまうかもしれない。

 

 

「まだチョコ余ってるの?」

 

「ああ、店頭で多くの人間に渡そうと、結構な数を作ったからな」

 

 

すると何か思いついたのか、風香はチョコの数について尋ねる。昨日、優陽にも手伝ってもらったのは多くのチョコを作るためだったのだ。

 

 

「じゃあさ、試してみない?」

 

 

悪巧みを思いついたかのように風香は悪戯っ子のような悪い笑みを浮かべながら翔と優陽に話す。一体、なにをさせられるのか?翔と優陽は顔を見合わせるのであった。

 

・・・

 

 

「今年もチョコはなし・・・か・・・。雨宮が羨ましい・・・」

 

 

ところ変わり、聖皇学園ガンプラチームが揃っていた。もっとも今日という日は拓也もとって喜ばしいものではないらしく、ミサだけではなく、周囲の女性陣から何だかんだでもらえる一矢を羨ましがっていた。

 

 

「私がチョコあげたじゃん」

 

「あんな義理丸出しのチョコがあるか!チロルチョコを投げ渡して来たの忘れねえぞ!!」

 

 

そんな拓也に真実は呆れ混じりのため息をつくのだが、寧ろ拓也はその言葉に憤慨して真実に食って掛かる。

 

 

「けど、ブレイカーズでチョコ配ってるって言うからってわざわざ行く?」

 

「行くんですー!チョコが欲しいんですー!!」

 

 

聖皇学園ガンプラチームが目指しているのは、ブレイカーズであった。風香から知らされた情報を元に向かっているのだが、言いだしっぺは拓也であり、勇は理解し難そうに呟くと、拓也は自棄になりながら叫ぶ。そんな三人がブレイカーズに続く曲がり道を通った時であった。

 

 

「えぇい、離せ、アムロ!!」

 

「させるかよッ!」

 

 

ブレイアーズの前で何やら喧騒としているのだ。真実が目を凝らし見ると、そこにはアムロに羽交い絞めされているシャアの姿が。

 

 

「優陽ちゃんは私の母になってくれるかもしれない存在だ!アムロ、なぜ分からん!?」

 

「貴様ほど急ぎ過ぎもしていなければ、男相手に血迷ったりもしちゃいないッ!!」

 

 

アムロを振り払ってブレイカーズに戻ろうとしているシャアだが、アムロは決してそうはさせない。シャアが騒ぎ散らす中、アムロによって連れて行かれるのであった。

 

 

「なにあれ・・・」

 

「さあ・・・?」

 

 

先程のやり取りを見ていた真実や拓也達は首を傾げるが、とはいえいつまでも外で突っ立っているわけにもいかず、ブレイカーズに入店する。

 

 

「いらっしゃいませっ、ブレイカーズにようこそっ!」

 

 

店内に入店した瞬間、ふわりとした柔らかで愛らしい声が耳に届く。

 

そこにはフリルのついたメイド服風の衣装を着用し、桃色の髪を一部の後ろ髪を二つにわけてリボンで括ったツーサイドアップにした可憐な人物がいた。

 

 

「はい、チョコをどうぞっ!」

 

「あ、ありがとう・・・。でも、君・・・優陽君だよn──」

 

 

そのまま語尾にハートマークがつきそうなくらい甘い声と共に小さなラッピングで包まれたトリュフが手渡される。受け取るものの真実と勇が困惑したまま、目の前の人物・・・優陽を見るわけだが・・・。

 

 

「結婚してください」

 

「舟木ィッ!?」

 

 

まっすぐな真剣な表情で優陽の手をとった拓也が求婚したのだ。あまりにも突飛な行動に真実は彼の名を叫ぶ。

 

 

「ちょっと落ち着きなって!この子は男だよ!?女の子じゃないんだよ!?」

 

「そんなこたぁねぇっ!!」

 

 

慌てて拓也と優陽の間に割って入りながら、拓也を落ち着かせようとするのだが、拓也は落ち着くどころか更にヒートアップしていく。

 

 

 

 

「お前は上半身が膨らんでる──!

 

 

 

 

 

 

 

この子は下半身が膨らんでる──!

 

 

 

 

 

 

───そこに何の違いもありゃしねぇだろうが!!」

 

 

 

「違うのだ!!」

 

 

 

真実から優陽を指差した後、グッと自身を親指で指しながら力強く叫ぶ拓也だが、真実からしてみれば、そんな主張、受け入れられるわけがなく突っぱねる。

 

 

「いやー盛り上がってるねー」

 

「えーっと・・・神代さん、これはどういう・・・」

 

 

騒ぎとなっているなか、ブレイカーズのエプロンを着用した風香がやってくる。拓也を勇に半ば押し付けるように任せつつ、真実は風香に優陽の女装について尋ねる。

 

 

「いや、この二人なら女装しても、そんなに気づかれないんじゃない?って感じでやってもらってるんだよ」

 

「二人・・・?」

 

「ほら、そこにいるじゃん」

 

 

さらりと優陽の女装の理由を答える風香。とはいえ、彼女は今、二人と言った。一人は優陽としても、もう一人は一体、誰なのか。そんな真実の疑問に風香はある場所を指差す。

 

 

「・・・すまない。あまり見ないでもらえるか」

 

 

ブレイカーズの隅には、いつもは一本に束ねて垂らしている長髪をリボン付きのポニーテールにしている翔の姿が。彼も優陽と同じ衣装を着ており、羞恥で頬を紅潮させてしまっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「まあ流石に知り合いにはバレたけど、知らない人やバレンタインで血迷ってる人、後は鈍い人にはバレなかったよ」

 

「・・・確かに違和感がないくらいには可愛いけどさ」

 

 

言いだしっぺの風香は今日、ずっと来店客の様子を見ていたが、案外、バレなかったようだ。真実も翔と優陽の姿を見ながら、その可憐さに何とも言えなさそうな複雑な様子で答える。二人とも元々の顔立ちだけではなく、風香によって、メイクも施されているため、何も言われなければ女性と言われても違和感がない。

 

 

「ほら、翔さん。そんなに隅っこにいないでさっ」

 

 

すると優陽は隅にいる翔に駆け寄り、彼の手を取りながら、自分と同じように店の中心で接客をさせようとする。

 

 

「・・・いや、って言うか何故、君はそんなに平然でいられるんだ?」

 

「まあ、いつかはこんな日が来るとは思ってましたしね、ほらキャラ的に?」

 

 

流れでさせられたとはいえ、女装するだけでも大概なのに流石に優陽と同じように接客をするのは無理だと首を振りつつ、何故、そこまで抵抗がなくやれるのか尋ねると、優陽はあご先に人差し指を添えながら、可愛らしく首を傾げている。

 

 

「大丈夫ですって!僕がずっと傍にいますから!」

 

「本当か・・・?本当に本当か・・・?」

 

「もっちろんっ!!」

 

 

すると優陽が翔の手を取りながら、励ますように声をかける。いつにも増して気弱な翔は何度も優陽に確認すると、優陽は愛らしい笑顔で強く頷く。

 

 

「キマシタワー。百合百合ですわー」

 

「造花でしょ」

 

 

そんな二人のやり取りを見ながら拓也は満足げに呟くが、彼を羽交い絞めしている勇は心底、呆れたように嘆息をするのであった。

 

 

「あっ、次の人が来ますよ!僕が行ってくるので、その気になったら、来て下さいっ」

 

 

ブレイカーズの入店しようとする人影が見える。優陽が早速、向かおうと翔に声をかけつつ、入り口に向かっていく。

 

 

「いらっしゃいま──」

 

「・・・なにやってんだ、お前」

 

 

拓也達同様、とびっきりの笑顔で出迎えようとする優陽。しかし入店して来て、向けられたのは気怠い瞳と至極真っ当な正論であった。そこにいた一矢に優陽が固まる。

 

 

「い、一矢・・・!?あっ、いや・・・その・・・っ・・・」

 

「って、翔さんまで・・・!?なにがどうなって・・・」

 

「まあ、その・・・悪乗り以上の何物でもない・・・な・・・」

 

 

一矢のいつもの冷めた態度と当然の言葉を言われて、一気にカァーッと頬を紅潮させて言葉を失っている優陽を他所に一矢は視線を動かして、女装している翔にも気づき、唖然としている。そんな一矢に翔も頬を引き攣らせる。

 

 

「全く・・・。褒め言葉かどうかは分からないけど・・・。まあ・・・可愛いんじゃないか」

 

「そ。そう・・・?あはは・・・一矢にまで言われると照れるな」

 

 

悪乗りと言われればそれまでであろう。ため息もつきつつ、改めて優陽を見た一矢は一応、褒めると優陽も照れ臭そうに頬をかく。すると、優陽は駆け出して近くで一矢に説明していた翔の手を取ると改めて、一矢の前に立つ。

 

 

「じゃあ、一矢にもあげるねっ!僕らのチョコ!」

 

「・・・こんな格好で悪いが、一応、日頃の感謝として受け取ってくれると嬉しい」

 

 

すると優陽は手作りのトリュフが収められた小袋を一矢にも渡す。翔も頬を引き攣らせながらも一矢に言うと、まあ、そういうことならと一矢は受け取る。

 

 

「はい、受け取ったら早速、買い物しよーね。オススメはRE/100のガンキャノン・ディテクターだよー」

 

「まあ、ゆっくりしていってくれ」

 

 

チョコを渡し終えると、優陽は一矢の後ろに移動して、彼の背中を押しながらプラモコーナーに向かっていく。そんな一矢に声をかけつつ、翔はいい加減、もうそろそろ良いだろうと着替えに行くのであった・・・。




私、なに書いてんだろ

おまけ

バレンタインデー絵

優陽&翔

【挿絵表示】


優陽「可愛い女の子だと思った?残念、僕達だよ!」

翔「・・・本当にすまない」

優陽「ところでチョコはもらえたのかな?ほら、お母さん以外に」

翔「・・・煽るな」

優陽「はーい。じゃあ、僕らので良ければ受け取ってね」

翔「男からでは嬉しくはないだろうが、一応、チョコはチョコだ。頭脳への栄養補給として受け取ってくれ」


ミサ「いやだからこういう時は女の子じゃないの!?」

奏「希空は!?のーあーはー!?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

BEAT OF LIFE

今回は幻想目録さんよりいただいた原案を元に書いております。(統合性の問題で変更した部分などありますが)
投稿ありがとうございます!


「私に地上を…ですか?」

 

 

ある日のこと、VR空間に呼び出された希空は目の前のルティナを見やる。ガンダムブレイカーズ事件からしばらくが経ってからのことで突然のルティナからの希空に地上を案内して欲しいという頼みに希空は僅かに戸惑いの感情を見せる。

 

 

「…何故、私に?歌音さんがいるでしょう」

 

「歌音でも良いんだけどね。でもルティナはアンタに頼みたいんだよ」

 

 

希空とルティナの関係は互いの両親が兄弟のように親しくしている、と言うことくらいしか接点がない。歌音やシュウジを通じて、紹介されたとはいえ、接点が皆無に等しいルティナが何故、自分に地上の案内を頼んできたのか、その理由を尋ねるもルティナはちゃんとした理由は答えないまま、それでも譲れない様子で希空を指名する。

 

 

「…分かりました。けど期待はしないでください」

 

「よし来た。んじゃ予定を──」

 

 

釈然としないが、そうまで自分が良いと言うのであればと渋々承諾すると、ルティナはパチリと指を鳴らしてウインクしながら、予定を立てるのであった。

 

・・・

 

 

(…とは言ったものの)

 

 

VR空間から現実世界へと帰還した希空はVRGPを取り外しながら、神妙な面持ちを浮かべる。と言うのもルティナからの頼みを引き受けたとはいえ、希空にはルティナを満足に地上の案内が出来るほどの自信がなかったのだ。

 

それはと言うのも、希空はどちらかと言えば奏のような手を引くタイプよりも、手を引かれるタイプだからだろう。引っ込み思案の自分には荷が重く感じられた。

 

 

《希空、大丈夫ですか?》

 

「うん…」

 

 

そんな希空にいち早く気付いたロボ助はコーヒーを用意しつつ彼女に声をかける。やはり考えれば考えるほど、自分には不適任だと思うのだが、何故、ルティナは自分を指名したのだろうか。しかし自分を指名された以上、出来るだけ満喫させたいという気持ちもある。

 

 

《ふむ…。ならば助力を求めたらどうだろう?袋小路にならず、素直に助けを求めるのも賢い生き方だと思う》

 

「そう、だね」

 

 

希空からルティナから地上の案内を頼まれ、それで悩んでいることを明かすとロボ助は少し考えた後に助言をすると、希空は僅かに間を置いて頷き、携帯端末を取り出すのであった。

 

・・・

 

 

「なにもかもそーだろー。バツわーるいじっじょーにはいっつもー」

 

 

数日後の休日。学生寮の廊下をルンルンに歌いながら歩いているのは奏であった。彼女が目指す先は希空の部屋であり、やがて玄関の前に立つと、希空に会えることが心底楽しみにしているような嬉しそう顔で鍵を開けるとドアノブに手をかける。

 

そのまま勢いのまま開いて、奏は希空の部屋になだれ込むように進入する。希空への驚いた顔が見たくて、ドッキリ紛いのことをしたのだ。さて希空は驚いてくれるのだろうか。

 

 

「ふたし、て……」

 

 

しかし希空の部屋は希空どころかロボ助もいないもぬけの殻の状態だったのだ。これには流石の奏も言葉が途切れる。

 

 

【ロボ助と地上に行ってきますby希空】

 

「く、食わせ物のリアル…っ!!」

 

 

奏を見越してか机には希空の置手紙が。その内容を読んだ奏は自分だけ置いていかれた現実に一人、愕然とし外はねになっている髪がペタンと倒れるのであった。

 

・・・

 

 

「へぇ、おっきいね」

 

「もうすぐ撤去が予定されていますけどね。ですがやはり現実に存在する分、各部の汚れはウェザリングの参考になります」

 

 

そんな希空とロボ助は置手紙に記されているように地上にいた。彼女達が今いるのは東京台場にあるガンプラを主体とした統合施設・ガンダムグレートベースである。変形する実物大ユニコーンガンダムを見上げながら感嘆としているルティナに希空は実物大ユニコーンの説明しつつ、ガンプラの塗装に役立てようというのか何枚か写真をパシャパシャと撮っていた。

 

 

「それよりも歌音さん、今日はお付き合いただきありがとうございます」

 

 

すると希空はふと自分達の後ろにいる歌音に声をかける。ロボ助のアドバイスを受けた希空が助力を求めたのはルティナとの親交が最も深い歌音だった。

 

 

「良いの良いのーお姉さんも暇だったし」

 

「でもお礼もいらないなんて…」

 

「お礼なんて生意気よー?まあお姉さんも年上なら遠慮なしにいただきますが」

 

 

どこか惚けていた歌音は我に返ったように希空に答える。歌音は希空からの頼みを快く引き受けてくれたのだ。しかも希空の言うように礼の類はいらないとまで言って。ありがたくはあるがどこか申し訳なく思ってしまうが、そんな希空にそれ以上、気遣わせまいと歌音は軽く笑みを浮かべながらおどける。

 

 

「ねーねー、このガンプラ焼きってーの美味しいねー。食べる?」

 

「じ、自分のがありますから…」

 

 

歌音とそんな話をしていると、不意にルティナが1/144ガンダムのプラモデルをイメージした大判焼に舌鼓を打ち、希空に勧めようと食べさせようとする。しかし希空自身、味が違うとはいえ別のものを買っている為、やんわりと断っていた。

 

 

(お礼が十分過ぎるぅん…)

 

 

今までの知人にはいないタイプであるルティナに押され気味の希空。そんな花も恥らう二人の少女の姿に歌音は再び蕩けるような表情を浮かべながら、無言で二人の様子を写真に収めるのであった。

 

・・・

 

 

「ガンダムグレートベースは40年前近くにオープンしたガンダムベースが母体なんです。基本はガンプラをメインにしていますが、VRを織り込んで、ガンダム世界の一人として追体験できたりもするんです」

 

「だから、逆シャアのアクシズ落下阻止作戦の締めくくりでブライトさんが言った【みんなの命をくれ】のシーンでのクルーの一人になった気分を味わえるのです」

 

 

ガンダムグレートベースに向かいながら、希空はこの施設の説明を歌音と共にする。今日は休日と言うこともあり、多くの人々で賑っていた。すると三人は漸くガンダムグレートベースのエントランスに到着する。早速入ってみれば、ガンダム作品を担当した声優や著名人達が作成したガンプラが展示されていた。

 

 

「あっれ、シャルルのがあんじゃん」

 

「ちょっと前に依頼があったのよー。まあ活動に入れているとはいえ依頼その物は光栄よね」

 

 

著名人達のガンプラを見ていると、不意にシャルルが制作したガンプラが目に入ってくる。そのガンプラを指差しながらルティナが歌音を見やると、どこか照れ臭そうに答える。そこに展示されていたシャルルのガンプラはデスティニーガンダムと共に活躍したレジェンドガンダムをベースにした機体であった。シャルルとして寄せられたコメントには【なんてこった。この施設は伝説になるゼ】とのこと。

 

 

「これ翔さんのですね」

 

「モデラーとしても凄いからね。なんか30年前から再始動したらしいけど、それまではモデラー中心に活動してたそうだし」

 

 

世界に名を馳せるモデラー達の独創性に満ちた作品が展示されるビルダーズゾーンの中で翔の作品を見つけた希空と歌音は話をしている。その後、限定品のガンプラや原画などの展示コーナーやガンプラの素材などや製作技術に触れられるファクトリーゾーンを満喫する。

 

 

「それじゃあ、後で会いましょうね」

 

 

次に三人が訪れたのはVRゾーンである。ここでは先程の希空達の説明の通り、VRを使用してその世界の一人となって物語を追体験できるのだ。歌音達三人はそれぞれ施設のVRゴーグルをセットすると、指定した作品に飛ぶ。

 

・・・

 

 

【あれ…繭の球が立ってるみたい…】

 

「…綺麗」

 

 

希空がVRを通じて、間近で見たのは∀ガンダムとターンXが月光蝶によって形成された繭の中に封印されたシーンであり、幻想的な光景を前に希空も目を奪われる…。

 

 

【天に竹林、地に少林寺!目にもの見せろォ!最終秘伝ッッ!】

 

【おぉっこれはいまや失われたと言われる少林寺最高奥義!!だが命と引き換えに打たれると言われるその技の名は──!!】

 

【真・流星胡蝶剣!】

 

「間近で見ると迫力がすごいねー。そう言えば、リンおばーちゃんは少林寺だっけ。今度、教えてもらおうかなー」

 

 

ルティナが選んだのは機動武闘伝Gガンダムのガンダムファイト決勝大会編におけるゴッドガンダムとドラゴンガンダムのファイトだ。手に汗握るその戦いにルティナもまさに心を弾ませている。

 

 

【しょ、しょしょしょ…少年…っ】

 

【あっ…そんな事…っ】

 

【収録が終わったら謝ります作家が!土下座もさせて頂きます作家がッ!だからぁッッ!】

 

【でも…事務所になんてっ…あっ……あんっ…言えばっ…!】

 

【ふふ…内緒にしておけばいい…】

 

【でっ…でも…】

 

【わかったぁ!末吉くんすまん!聞いているか!?末吉くんすまんっっ!!!】

 

【あっ…そこっ…ダメっ…!】

 

「はぁんっはあぁんっ!!はああぁぁぁぁんんっっ!!!」

 

 

歌音は…推して知るべし。えっそれドラマCDだろって?聞こえんなぁ。

 

・・・

 

 

「来て良かったです」

 

「アトラクとしては良いよね。ルティナ的には動きまくりたいけど」

 

 

VRから戻ってきた希空達はそれぞれ感想を口にする。自分達が好きなシーンを体験しに行ったこともあって、二人とも非常に満足した様子だ。

 

 

「可愛い子もいいけどイケメンも良いのです…。良いのです…っ!」

 

 

歌音も戻ってきたが、両手で頬を抑えて涎を垂らしながら恍惚とした様子で身をくねらせている。あまりのその姿に希空がドン引きするなか、見慣れているルティナは馴れたように歌音の頬を往復ビンタするのであった。

 

・・・

 

 

「いっぱいプラモがあるんだねー」

 

 

VRゾーンの後にルティナ達が訪れたのはショップゾーンであった。世界最大級の品揃えと謳うだけあって並ぶ商品の数は多く、過去の所謂旧キットと言われるプラモ達やここだけの限定品も豊富に取り揃えられている。

 

 

「旧キットはそれはそれで味がありますが、スタイルが新キットよりも好みであれば改修するも良し、物によっては違うキットとミキシングしてバージョンアップさせたりして改造するも良しと幅が広いのです」

 

「ここはレアなキットも入手しやすいのもポイントですね。その分、地方やコロニーの人間には辛いところですが」

 

 

所狭しと並べられたガンプラにルティナが圧巻されていると、歌音と希空はそれぞれ琴線に触れたガンプラを手に取ると、それぞれ魅力を説明している。そんな話を聞きながら、ルティナはガンプラを手に取る。

 

 

「ユニコーンガンダムですか」

 

「うん、さっき外に立ってたからね」

 

「…MGフルアーマーユニコーンのランナー数を見た時、お姉さんはスンッてなったのです」

 

 

ふと希空がルティナが手に取ったガンプラを見やれば、それはユニコーンガンダムであった。やはり外にいた実物大のユニコーンガンダムが印象に残っているようだ。最も歌音はその傍らでどこか遠い目をしているのだが。その後、各々買い物を済ませる。

 

・・・

 

 

「はぁー…楽しかったね」

 

「満足してもらえたのなら良かったです」

 

 

ガンダムグレートベースを後にしたルティナは満足げに話すと、そんな輝かしいルティナの表情を見て、改めてガンダムグレートベースを選んでよかったと感じる。

 

 

「そー言えばさ、希空の故郷ってどんなの?」

 

「なんですかいきなり」

 

「いや、てっきりその辺を案内してくれると思ってたから」

 

 

エスカレーターで降りながら不意に希空の故郷について尋ねる。脈絡もなく聞かれたその内容に首をかしげていると、この施設も満足ではあるが、元々予想していたことが外れてしまった様子だ。

 

 

「ねぇ明日もいるんなら折角だし案内してよ」

 

「彩渡を…ですか。しかし行こうと思えば、歌音さんの家からも近いんですし、別に今回でなくても──」

 

「そこは野暮ってもんよ、あーちゃん?リクエストは応えてあげましょう」

 

 

するとルティナは希空に彩渡街を案内してくれるとうに頼んでくるのだが、言っては悪いがあの街はバラエティに富んでいるは思えないため、わざわざ案内するほどではないと考えてしまう。だがそんな希空の肩に歌音は手をかけると生まれ故郷の案内を勧める。

 

その言葉に僅かに考えた希空はやがて承諾すると、今日はホテルに泊まりつつ明日、また落ち合って彩渡街に行くことを決めるのであった。

 

・・・

 

 

「へぇ、ここが、ねぇ」

 

 

翌日、彩渡街に訪れたルティナ達は早速、彩渡商店街に辿りつくとアーチを前にあまり馴染みのないルティナは物珍しそうに見上げている。そうして三人は彩渡商店街のアーチを潜って足を踏み入れる。

 

 

「おう、希空ちゃんじゃねえか」

 

「…お久しぶりです」

 

 

すると早速、希空に声をかけられる。そこは精肉店であり、どうやら相手はマチオだ。30年前に比べて加齢の影響はあるが、それでも溌剌と元気な様子だ。

 

 

「コロッケが揚げたてだけど、どうだ?」

 

「えっマジ?食べる食べるー」

 

 

近況に関する話も程々にマチオが揚げたてのコロッケを指しながら勧めると、希空が答えるよりも早く反応したルティナは精肉店に足を踏み入れて、手早く人数分購入する。

 

 

「ほくほくだぁ」

 

「このサクって感じも良いのです」

 

 

コロッケに舌鼓を打つルティナと歌音。希空に比べ、反応が分かりやすい二人にマチオも非常に満足して、だろう?と豪快に笑っている。

 

 

「っにしてにも今日はどうしたんだ?」

 

「ここを案内するよう頼まれまして。ですので目ぼしいところに行こうと思っています」

 

 

とはいえ希空も何の反応もないわけではなく、日当たりに当たっているかのようなほくほく顔を浮かべている。そんな希空にマチオがこの場にいる理由について尋ねると、希空はルティナを一瞥しながら答える。

 

その後、精肉店を後にして、マチオに答えたように様々な場所に寄った後、最後に向かったのは如月翔のブレイカーズであった。

 

・・・

 

 

「すっごい人気だね」

 

「今じゃコロニーにも店がありますからね」

 

 

賑うブレイカーズの店内にルティナが流れ行く人込みを避けながら煩わしそうに呟くと、希空も窮屈そうに顔を顰めながら答える。

 

 

「とはいえ、ブレイカーズに来たって向かうのはプラモコーナーなんですが」

 

 

とはいえ目的ははっきりしており、先導する歌音と共に向かったのはプラモコーナーであった。ガンプラのみならず艦船やそれこそ美少女系など様々なプラモデルが陳列されていた。

 

 

「あれ、希空?」

 

 

多種にわたるプラモにそれはそれでルティナが圧倒されていると、ふと希空に声をかけられる。声に誘われるまま振り向けば、そこにはミサと愛梨の姿が。

 

 

「ママ、それに愛梨も…」

 

「久しぶりっ」

 

 

mサと愛梨をそれぞれ見やりながら、まさかこの場で会うとは思っていなかった希空は驚いているが、驚きよりも嬉しさが勝った愛梨はすぐに希空に駆け寄る。早速、地上にいる理由も聞かれ、ルティナを交えながら説明をしていると…。

 

 

「──見つけたぞぉっ!!」

 

 

ふと入り口の方から聞き覚えのある声が聞こえ、殊更、希空は露骨に頭が痛そうに眉を顰めている。全員が視線を向けたそこには息を切らす奏の姿が。

 

 

「…何故、ここが分かったんですか?」

 

「高性能希空センサーに導かれてな…」

 

「流石に気持ち悪いです」

 

 

頭痛を抑えながら尋ねてみれば、したり顔で答える奏。だと百歩譲ったとしてもわざわざ地上まで追ってくる奏に希空は引き攣った表情を浮かべる。

 

 

「あぁ、ごめん、あーちゃん。教えたのはお姉さんなのです」

 

「何でですか」

 

「いやだってラッくんが…」

 

 

すると奏がこの場所を突き止めた理由を歌音が明かす。文句を言いたそうに希空が歌音を見やれば、彼女もバツの悪そうな顔を浮かべながら、昨日、ラグナからかかってきた電話でのやり取りを思い出す。

 

・・・

 

 

《希空はガンダムグレートベースにいるんですね!?えっ、明日は彩渡街に!?》

 

「いきなり決まってね。…どうしたの?」

 

《のあがっ!!にょわがぁっ!!わだ”し”をおいていっだあ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っ”っ”っ!!!!なあ”ぁ”ぐ”さ”め”で”え”え”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”っっっっ!!!!!》

 

《この調子で奏が一日中絡んできて仕事にならないんです!!申し訳ありませんが、今から奏を向かわせますので!!》

 

 

テレビ電話にて切羽詰ったような様子で尋ねてくるラグナ。あまりにも彼に似つかわしくないその様子に歌音が問いかけると、ラグナは自身の大きな背中に抱きつき、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を押し付けて文句を言っている奏を見せながら、ラグナは捲し立てるように言い終えると同時に通話を切る。

 

・・・

 

 

「…ラグナさんには悪いことをしました。埋め合わせをしなくては」

 

「私には!?」

 

「って言うか、わざわざ地上にまで追っかけて来るなんて凄いね…」

 

 

話を聞き終えた希空はラグナに対して同情の念を示すように合掌していると、奏は自分は一切、考慮されていない現実に嘆いている。しかしそれでも希空目的に地上まで追いかけてきたのだから、愛梨も苦笑してしまう。

 

 

「さあ今からでも私を混ぜろっ!遊ばせろっ!!」

 

「なにで…?」

 

「そりゃあバトルに決まっているだろうっ!!」

 

 

寂しい想いをした分、その鬱憤を発散させようとする奏に愛梨がおずおずと尋ねると、奏は己の愛機であるガンダムブレイカークロスゼロを突きつけ、バトルを持ちかけるのであった。

 

・・・

 

 

「チーム分けなのだが…」

 

 

半ば奏によって強引にゲームセンターまで連れてこられた希空達。特に不満そうな顔をしている希空だが、お構いなしに奏はチーム分けを提案する。やはりこれだけの人数がいるのであれば、チーム戦をしようというのだろう。

 

 

「ルティナは今日、希空と組みたい気分だから、こっち」

 

《希空以外の選択肢など、ありませんね》

 

 

するとルティナとロボ助の行動は早かった。すぐさま希空側に着いたのだ。

 

 

「じゃ、じゃあ私は奏のほうで…」

 

「気を使われた…っ!?」

 

 

マイペースなルティナとロボ助は迷わず希空に着いたため、希空とチームを組みたかったor誰も自分と組むと言わなかった現状に音を立てて、奏がショックを受けていると気を回した愛梨は奏とチームを組むと申し出て、嬉しくはあるものの彼女に気を使わせてしまったことにそれはそれでショックを受けていた。

 

 

「じゃあ、私もこっちで…」

 

「ママ…?」

 

「いやだって、奏ちゃんが不憫だから…」

 

 

見かねたミサも奏側に着くと、ヘアピンを真似てつけるほど敬愛する母が奏側に着いたこともあり、ジトッとした目でミサを見やる。そんな愛娘の視線にたじろぎながらも弁明する。

 

 

「歌音はどうするの?」

 

「えっ?お姉さんがバトルしたところ見たことある?お姉さんはどっちかって言うとモデラーだし、バトルは人並みのペーペーだから観戦してるわ」

 

 

すると愛梨は歌音にも声をかけるが、そもそもバトルをするつもりもなくベンチに座っていた歌音は手をひらひらさせながら観戦を決め込む。

 

 

「まあ良い。じゃあ早速行くぞ」

 

 

歌音が手を振って見送るなか、遂に希空と奏をリーダーに分けたバトルの火蓋が切って落とされ、それはそれは白熱したバトルになったそうな。

 

・・・

 

 

「ごめんね、ミヤコさん。いきなり来て」

 

「良いのよ。それに久しぶりに希空ちゃん達に会えたんだもの」

 

 

バトルも終わり、日も暮れる頃、ミサの案内で訪れたのは居酒屋みやこであった。やはりマチオ同様に結った白髪を揺らすミヤコにミサが声をかける。とはいえ、その老いた部分すら笑みを見せれば、全てを抱擁するまるで母のような慈愛の念を感じさせる。

 

 

「もぉ離さないぞぉ希空ぁっ」

 

「酔ってない筈なのに絡み辛い…」

 

 

ミヤコの料理が振舞われるなか、奏は希空の腰元に抱きついており、希空は死んだような目を浮かべ、ロボ助は無言でマグナムソードを取り出そうとしている。その様子を傍から見ていた愛梨は苦笑する。

 

 

「──おぉっ、いるいる」

 

 

すると入り口の扉が開かれ、一同視線を向ければそこには暖簾を潜ったカドマツやマチオ、ユウイチなどといった見知った顔ぶれが揃っていた。

 

 

「…元気そうだな」

 

 

その中には一矢やロボ太の姿もあった。一矢を見た瞬間、先程まで奏のせいで死人のような目をしていた希空の瞳にも生気が宿る。

 

 

「パパっ…」

 

「ママからお前とここにいるって聞いてな」

 

 

奏を勢いよく押し退けて、一矢の元に駆け寄る希空の頬を撫でながら、一矢はこちらに手を振るミサをチラリと見やる。どうやらミサの連絡でここに訪れたようだ。

 

 

「一矢君、久しぶりね。宇宙技師の仕事はどう?」

 

「MSに乗って、大変な時はありますけどね。それでもやりがいはありますよ」

 

 

希空に引っ張られるまま、座った一矢にミヤコが声をかけると、一矢は今、勤めている職種の話を口にする。言葉通り、充実しているのだろう。非常に穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

「まさか一矢君が宇宙技師になるなんてね」

 

「…やっぱりロボ助との別れの影響が大きかったんでしょうね。早く宇宙へって…まあ再会に30年がかかりましたが」

 

 

するとユウイチは一矢が宇宙技師になるとは思っていなかったため意外そうに話すと、一矢はロボ助となにやら通信しているロボ太を一瞥しながら答える。どうやら30年前の別れが彼の道を決めたようだ。

 

 

「そう言えば夕香ちゃんも今度、日本に帰ってくるって」

 

「夕香ちゃんもスゴイよなぁ。出版社作って、それで成功してるんだもんなぁ。他にも沖縄やハワイなんかでビレッジみたいの作って、それも大成してるっつーもんな」

 

 

ミサは携帯端末で夕香との連絡を交わしたメールを見せる。すると夕香の話題が出たと言うこともあり、噂で聞いた夕香の話をし始める。

 

 

『んじゃ、後よろしくねー』

 

「当人に欲が無いから、店や出版社の類はある程度行くと他人に譲ってますがね。皆で騒ぎたいならバーを作ろうってタイプだし、本当に自由人ですよ」

 

「流れを持ってる人だからね、夕香ちゃんは。本も何冊か出版してるし」

 

 

会社を譲った際の夕香の様子を想像しながら一矢がなんとも言えない様子で話すと、ミサもこの場に集まった人間で一、二を争うほど成功を収めた夕香に対して、その活躍に苦笑してしまう。

 

 

「なんだか本当に賑やかだね」

 

「集まれば、いつもこうなります」

 

 

その後もどんどんモチヅキやウルチが来店して、どんどん盛り上がっていく店内にルティナが楽しそうに笑いながら、希空に声をかけると店内の様子を見つめながら、希空は微笑む。

 

 

「今日はどうでした?」

 

「楽しかったよっ!ありがとね」

 

 

改めて希空は今日の感想をルティナに伺うと、屈託のない笑みを浮かべながら希空に感謝する。その邪気の無い笑みを見て、希空も案内をして良かったと心から思う。

 

 

(…私も少しは人の手を引ける人間になれたでしょうか)

 

 

そもそも奏を置いていったのは、身近で一番に自分の手を引いてくれる人間だったからだ。だからなるべくなら助力を借りるにせよ、彼女以外にしたかった。まさか地上まで追いかけてくるとは思わなかったが、改めて一連の出来事に満足げに笑みを浮かべるのであった。

 

・・・

 

 

「ねぇ、見て見て歌音!出来たよっ!!」

 

 

希空達がコロニーに帰って数日後、優陽の自宅にてルティナはダルダルのジャージ姿でくつろいでる歌音を呼び寄せる。

 

 

「あぁっこれ…この間の…」

 

 

そこにはガンダムグレートベースで購入した限定品のユニコーンガンダムが組まれていたのだ。デカールを貼って完成したユニコーンガンダムを見て、歌音が感心する。

 

 

「そう言えば、この前、地上を案内して欲しいってどうしてあーちゃんに頼んだの?お姉さんも案内するのは吝かじゃなかったんだけど」

 

「うーん…あの娘ってさ。何だかんだで皆の中心にいる気がするんだよね。あの娘の近くにいると面白いことが起きそうな気がしてねー」

 

 

ふと歌音はわざわざ自分ではなく、接点のない希空に地上の案内を頼んだ理由を尋ねる。実際、自分も同行したが何故なのかずっと疑問に思っていたのだ。するとルティナは顎に手を添えながら答える。

 

 

「まっ、実際、面白かったしね。また会ったとき、心を弾ませてくれるといいな」

 

 

ルティナは先日のことを振り返りながら、ユニコーンガンダムを一瞥する。次、希空に会ったらどうしようかと期待に胸を膨らませるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コト!KOTO!スクール!

今回は刃弥さんからの原案を元にした投稿です!ありがとうございます!


覇王達との別れから数週間が経過したここ聖皇学園。そのクラスの一室では落ち着きなく生徒達がざわついていた。彼らの視線の先には教壇があり、そこには一人の少女の姿があった。

 

 

「KODACHIこと御剣コトです。少しの間ですが、よろしくお願いしますっ」

 

 

それは聖皇学園の制服を身に纏ったコトであった。教室の後方にはカメラマンなどのスタッフもおり、カメラが回るなか、転校生のようにコトは挨拶をするのであった。

 

・・・

 

 

「体験入学…ですか?」

 

 

それは一週間ほど前のこと、テレビ局の打ち合わせにてコトは局員であるプロデューサーから持ちかけられた企画の名を口にする。

 

 

「そ。この間、コトちゃん、学生生活を体験してみたいって言ってたでしょ。だから今度やるバラエティ番組の企画の一つとして組んでみようと思っているのよ」

 

 

その番組を担当するプロデューサーの女性はフレンドリーに話しながら、先日のことを話す。実はコトはアイドルとしての活動に専念するために学校に通わずに通信教育で高校生の課程を修了しようとしている。その為、学生生活というものにある種の憧れがあり、それをこのプロデューサーとの食事の際に何気なく話したのだろう。それを番組の企画として面白いと考えたのかこうしてオファーしてきたようだ。

 

 

「因みにコトちゃんはこの学校が良いみたいのある?」

 

「どこか…ですか…」

 

 

企画である以上、当然、面白いものにしたい。これはその為の打ち合わせなのだ。コトの意見を聞こうと、彼女の希望を尋ねるプロデューサーにコトは考える。それこそオファーを出す学校の都合もあるとはいえ、それでも数多くの学校がある。

 

 

「…それなら」

 

 

やがて思い立ったのか、コトは顔をあげてプロデューサーに学校の名を口にするのであった。

 

・・・

 

 

「それで聖皇が選ばれたんだ」

 

「うん、夕香ちゃん達がいるしね」

 

 

昼食を摂りはじめながら経緯を聞いた夕香にコトは知り合いである存在が多く在籍しているこの聖皇学園を選んだことを明かす。

 

 

「でも、コトちゃんがいるなんて変な感じよねー」

 

「あははっ…でも普段通りにしてくれて良いよ」

 

 

するとサンドイッチを頬張っていた祐喜が同じ制服を着て、授業を受けて、そして何よりこうして昼食をとっていることに不思議そうに話すと、その言葉に苦笑を交えながらも気心が知れた者同士、変に気を使う必要はないと話す。

 

 

「コトちゃん、少し良いかい?」

 

 

するとテレビスタッフの一人が夕香達と昼食をとっているコトに声をかけた。

 

 

「あそこにいる雨宮一矢君も知り合いなんだろう?ちょっと誘って、一緒に食事を取ってくれないかな?」

 

 

スタッフは窓側の席で丁度、昼食を取ろうと席を立っている一矢を一瞥しながら昼食を共にして欲しいと持ちかけてきたのだ。

 

 

「あ、一矢君…」

 

「…」

 

 

スタッフの言葉に怪訝そうな様子ながら、コトは一応、一矢に声をかける。丁度、コト達の横を通り過ぎようとしていた一矢は足を止めて、静かにコトを見やる。

 

 

「一緒にご飯でも…」

 

「…今から昼飯食うからいい」

 

 

昼食を共にしようと誘うコトだが、一矢はチラリとテレビスタッフ達を一瞥すると、コトの誘いを淡々と一蹴して、我関せずと早々に教室を去っていく。

 

 

「怒らせちゃったかな…?」

 

「別に怒ってないよ。ただ見世物にされるのが嫌だったんでしょ」

 

 

いつにも増して、素っ気なく感じる一矢の態度に苦い顔を浮かべるコト。そんな彼女に夕香は一応のフォローをする。

 

 

「イッチは静止軌道ステーションを二回も救ったし、ウイルス事件を解決した立役者だしね。体験入学ったってテレビ的にも盛り上げる為に多少なり一矢に注目しようとするでしょ。【KODACHIはあのガンダムブレイカーとも友人!】ってね。でもそれはテレビの都合だし、そんな見世物にされるのはイッチも嫌なんだと思うよ」

 

「見世物って…。私はそんなつもりは…」

 

「そうだね。だからコトは悪くないよ。イッチもカメラが関係ないところなら普通に接してくれると思うし」

 

 

一矢はインタビューの類はミサに丸投げするほど目立つのは好きではない。夕香の言葉に突き刺さるものを感じたコトは否定しようとする。確かに聖皇学園を選んだコト自体に悪気があったわけではないだろう。そんな彼女を気遣い、言葉をかける。

 

 

「まあコトが来てるって時点で皆、浮き足立ってるんだし、そこにカメラもあるからね。コトに声をかけようとする人もいれば、カメラがあるからって遠慮してる人もいるし、普段通りってのは土台無理な話だよ」

 

 

夕香は周囲をチラリと見やる。確かに良い意味でも悪い意味でもクラスがざわついており、他のクラスの生徒達もコト目当てでこの教室に訪れたりしているのだ。

 

 

(普段の、か…)

 

 

確かに先程、普段通りにしてくれていいと言ったが、確かにそれは無理な話なのかもしれない。一矢が教室をさっさと出て行ったのも、この空気感が嫌だったのだろう。悪いなと感じつつもコトはふと普段の一矢達について考え始めるのであった。

 

・・・

 

 

「えっ?普段の雨宮君?」

 

 

休み時間、コトが声をかけたのはたまたま集まっていた聖皇学園ガンプラチームであった。突然、一矢のことを聞かれた真実は僅かに驚いた表情を浮かべる。

 

 

「そうだね。雨宮君はまず朝起きられないし起動するまで兎に角長いから、髪のセットとかネクタイは夕香がやってるらしいよ。で、登校中もまだ完全に目が覚めてないからそこで雨宮君に声をかけると、いつもと違った可愛さがあるんだ。でも、そんな雨宮君も一転して授業を受けてる時とか一人でいる時のミステリアスな感じがさっきの可愛さとのギャップになって凄く格好良いんだよね。あぁこれ昔撮った写真ね。雨宮君は世俗的なことに興味がないんだけど、だからこそガンプラやガンダムの話を持ちかけると静かだけど言葉に熱を入れてくれるんだ。でもそんな雨宮君も授業で分からないことがあれば、面倒臭がりながらでも親身に教えてくれたりと──」

 

「アイツ、雨宮の話になると早口になるよな」

 

「…諦めたって言っても、これまでの好感度がスッパリと0になる訳じゃないってことでしょ。最早、布教だよ」

 

 

聞いた相手が悪かったようで自身の携帯端末のデータから過去の一矢の盗撮(写真)を見せながら捲し立てるように話す真実に押され気味のコト。そんな真実を見ながら白い目で呟く拓也と勇だが、とりあえずそんなことを言った拓也は真実に腿の裏を蹴られる。

 

 

「ところでこの間、雨宮君が後輩と話してた時のことなんだけど」

 

「あ、あぁその話は今度で良いかな…。そ、そうだ!普段の夕香ちゃんとかはどうかな?」

 

 

一人悶絶してる拓也を他所に再び一矢の話に戻ろうとする真実っから慌てて話を変えるコト。このままでは一矢の話だけで学園生活が終わってしまう。変えた話題は彼の妹である夕香だった。

 

 

「夕香の話ならおまっかせー!」

 

 

そこに背後からコトに抱きつきながら話に乱入したのは祐喜とそれを宥める貴広であった。

 

 

「夕香はやっぱクラスの中心よねぇ。しかもわりと先輩後輩関係なく顔も広いんだよ!夕香の携帯って基本、鳴りっ放しだもん!」

 

「成績に関しても、特に勉強した様子もないのに赤点も取らず、難なくスルーするからね。あれは羨ましいよ」

 

 

まさに自慢話をするかのように夕香の話を始める祐喜。そんな彼女に苦笑しながらも貴広もそれに乗って、普段の夕香について話す。

 

・・・

 

 

(…私、特に一矢君とはあまり接してないけど、それでも夕香ちゃんを含めて、やっぱり知らない部分って多いんだなぁ…)

 

 

話を聞き終えたコトは廊下を歩きながら、物思いに耽る。確かに顔馴染みではあるものの、やはり四六時中一緒にいるわけではない。当人以外の友人達からの話を思い出す。一矢も夕香も差はあるものの、誰一人としてマイナスな話をしていないのだ。そしてその話の一つ一つが自分にとって知らないう一矢達を教えてくれた。

 

 

「あっ」

 

 

そんなコトだが、ふと廊下の先にいる人物を見て、足を止める。一矢だ。廊下の開いた窓に寄りかかって外を見ていた一矢もコトに気付いたように視線を交わす。

 

 

「…どう、学校は」

 

「楽しいよ。私の知らないこといっぱいあったから」

 

 

周りにカメラマンなどがいないことに気付いた一矢は自分から彼女に声をかける。そんな一矢に夕香の言葉を思い出しながら、柔らかな笑みを浮かべて満足そうに頷く。

 

 

「…この学園はアンタがいる以上、普段通りになんてことにはならない。でもそれはアンタもだろう。少なくともカメラの前にいるアンタはKODACHIの筈だ。生憎、俺は朝と飯の時くらいしかテレビを見ないからKODACHIについては詳しくない。まったく知らないと言っても良い」

 

「…」

 

「でもKODACHIではなく、御剣コトのことなら少しは知ってる」

 

 

壁に背を向けて、そのまま寄りかかってコトに話しかける一矢。少なくともテレビである以上、イメージ、演出、台本、キャラなど求められる部分はKODACHIとして大きく、コトも可能な限りは答えようとするだろう。だが当人が言うように、テレビなどメディアの類に興味がない一矢からすれば、KODACHIとしての彼女と同じカメラに映っても話の種など持ち合わせてはいない。知っているとすれば知人の恋人である御剣コトのことなら少しは知っている。

 

 

「アンタ、KODACHIとしてのこの後の予定は?」

 

「放課後に今日の纏めをしたら今日のこの企画は終わりだよ。夜に別の仕事があるけど」

 

 

すると一矢はコトにこの後の予定について尋ねると、今日のスケジュールを思い出しながらコトは答える。

 

 

「なら俺の知り合いの御剣コトとして放課後、少し付き合ってくれないか?ミサや優陽が制服姿のアンタが見たいってずっと連絡してきてな。夕香も祐喜達を誘って、学校終わりにそのまま皆で遊びに行こうって言ってたし」

 

 

一矢は詳しくないKODACHIではなく知り合いの御剣コトに放課後に遊びの誘いをする。そんな彼の口元の笑みは確かに友人に接しているように穏やかなものであった。

 

 

「うん、私でよければ喜んで!」

 

 

通信教育ではスクーリングとして学校に行くことはあっても、こうやって学校帰りに友達と遊んだりなんてことは仕事の都合もあって、まずない。言ってしまえばコトにとってもそれはかねてより羨望していた魅力的な誘いであろう。そして何より一矢はありのままの御剣コトとして誘っているのだ。そんな彼に頷きながら、放課後、制服姿のミサや優陽と合流して彼らは町に繰り出す。短時間ではあるが充実したコトの聖皇学園の生活はテレビでも好評のまま終わるのであった。




<おまけ>

一矢(ブレザー)&夕香(カーディガン)

【挿絵表示】


夕香「ねぇイッチ、あれ美味しそうじゃない?」

一矢「は?…どれ?」

夕香「あれだよーあれー」


ミサ「…ナチュラルに腕組んでる…。私もしたいのに…」

優陽「そこは空いてる腕に行くべきだよ。あっコトちゃん、一緒に写真撮ろー?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Air 前編

今回の話はエイゼさんと刃弥さんの原案を一つに纏めたものです!この場で改めて感謝いたします!


太陽が燦々と輝く晴天の空の下、ここ地球の彩渡街では希空、奏、ロボ助のニュージェネレーションブレイカーズと舞歌がいた。彼女達がいるのは彩渡街であり、連休を利用して帰省した希空達が彩渡街に遊びに行くのを知った舞歌も加わって、この街に一緒に来たのだ。

 

 

「粗方、回ったな」

 

「そうですね…」

 

 

帰省を機に彩渡街の知り合い達に挨拶をしに行っていた希空達。それも奏の言うように、大体は終わった為、今後の行動をどうするか考えていると、ふと希空の携帯に着信が鳴る。何気なく取り出してみれば、相手は歌音だった。

 

 

《やっほー、あーちゃん》

 

「歌音さんですか」

 

 

どうやら相手は歌音だったようだ。いつものだらけたような気の抜けた声が電話口に聞こえてくる。

 

 

《優陽叔父さんからあーちゃん達が帰省してるって聞いてねー。アイちゃん達と今、家の近くにあるゲーセンにいるんだけど、来るー?》

 

「そう、ですね。これから特に行く当てもなかったので…」

 

 

歌音は今、どうやら愛梨達と一緒にいるらしい。奏と舞歌に目配せをした希空は今後の予定もなかった為、歌音達がいるというゲームセンターに向かうのであった。

 

・・・

 

 

「わあー、希空だっ」

 

 

ゲームセンターに到着した希空達がそのままガンプラバトルシミュレーターVRが設置されている場所へ向かえば、早速、愛梨が出迎えてくれた。

 

近くのベンチにはこちらに手を振る歌音が座っており、ガンプラバトルを映し出すモニターを見やれば、どうやら明里とサヤナがバトルをしているようだ。

 

程なくしてシミュレーターから出てきたサヤナと明里へ挨拶を交わすのだが、明里はどことなく機嫌が悪いのだ。何事かと思った希空達はそのことについて問いかける。最初こそはぐらかしていた明里だが、やがて観念したのか、渋々、機嫌を損ねている理由を話し始める。

 

 

「涼一が不在、ですか…」

 

 

どうやら明里が不機嫌となった理由はこの場にいない従姉弟の涼一の不在にあるようだ。確かに明里は所謂、ブラコンと言われる類の存在だが、正直、言っては悪いがたかが不在レベルで不機嫌になる理由が理解できないのか、希空は不可解そうに首を傾げる。

 

 

「いや、でも私には理解できる。私も以前、希空に置いていかれた時には胸が張り裂けそうなほど悲しんでだな…。あぁ思い出しただけでも涙が…」

 

「…いない人間のことを考えても仕方ない、です」

 

 

すると突然、理解を示したのは奏であった。以前、ルティナが希空に案内を頼んだ日の事を思い出しているのだろう。ハンカチで目尻を拭って、鼻を啜っている奏に面倒臭さを感じた希空は素早く話を変えようとする。

 

 

「そー言えば、みんなが好きな男性のタイプとかってあるの?」

 

「男性、ですかー」

 

 

話題を変えようとした時、明里から話を振られる。突然にも感じられるが、明里の機嫌が直るのであればと舞歌が話に乗っかり、ゲームセンターを舞台にコイバナが繰り広げられる。

 

 

「歌音さんはイケメンとか大好きそうですよねー」

 

「ごふっ…た、ただの面食いだと思われてる…」

 

 

舞歌はそのまま視線を動かして、歌音を見やる。特に悪意もなく、思ったままを口にしたわけだが、その言葉がナイフとして突き刺さった歌音は一人、蹲っている。

 

 

「わ、私は老若男女、外見内面問わず綺麗なものが好きなのです…。別に顔だけで選んでいるわけでは…」

 

「でも視姦をしては悦に入ってますよね」

 

「シ、シテナイデス。タダシセンガソコニアルダケデス、ハイ」

 

 

何とか弁明しようとする歌音ではあるが、今度は希空から再び何気なく放たれた言葉に心が折れそうになりながら何とか話す。

 

 

「まあこの人はそもそも恋愛クソ雑魚歌姫の年齢=彼氏いない暦だから、このままなら出来ないだろうな」

 

「───」

 

「し、死んでる…」

 

 

最後に容赦なく放たれた奏の言葉に直立で反応がなくなった歌音。そんな彼女を見て、明里は表情を引き攣らせる。

 

 

「全く…例え最初の言葉が事実であれ、見境がないからそう思われるのだ」

 

(流石、掛け持ちなしの希空担…)

 

 

歌音を見ながら、腕を組んでやれやれと言わんばかりのため息をつく奏にサヤナは何とも言えない苦笑した様子だ。

 

 

「ですが、それで言うならば奏も恋愛をするという姿が想像出来ません」

 

「わ、私か?」

 

 

すると今度は奏に槍玉が上がる。希空の発言に先ほどまで厳然とビシッと組んでいた奏の腕も崩れ始める。

 

 

「まあ確かに…」

 

「いつも希空さんにべったりのイメージしかありませんからねー」

 

 

動揺している奏に追い打ちをかけるかのように、希空の言葉に便乗する愛梨と舞歌。流石にこれには、奏もしどろもどろと慌てる。

 

 

「ま、待て!私だって恋愛の一つや二つくらい──!」

 

「私に誓って言えますか?」

 

「…初恋もないです」

 

 

何とかそうではないと話しはじめようとする奏ではあるが、鋭く向けられた希空の視線を受けて、完全に崩れ落ち、周囲も初恋すらないのか…と何とも言えない空気になる。

 

 

「ま、待て!私だって行き遅れルート(歌音さん)のようになるつもりはないっ!何れは素敵なパートナーに私のありとあらゆる初めてを捧げるのだ!!」

 

「では、奏の好みってどんなのですか?」

 

 

流石にここまで来ると、歌音が不憫ではあるが、そんなことも頭にないほど、必死に弁明する奏に希空は最初の話に戻って、彼女に問いかける。

 

 

「あ、甘えさせてくれる人が良いなって…」

 

 

すると彼女のトレードマークの外はねの髪もペタンと垂れ顔を一気に湯気が立つほど紅潮させて気恥ずかしさから視線を逸らすと、人差し指同士を突き合わせボソボソと話している。

 

 

「ま、まあでも奏ほどじゃないにしろ、希空はどうなの?」

 

 

歌音に続き、今度は恥ずかしさから行動不能になった奏を見ながら、今度は愛梨が希空に恋愛について尋ねる。

 

 

「意識その物をしたことがありません。そういった機会に恵まれなかったので」

 

(…まあ、悪い虫を寄せ付けない騎士(ナイト)がすぐ近くにいるからね)

 

 

思えば、希空も恋愛関係に関しては、あまり浮いた話はない。とはいえ彼女に関しては、彼女を取り巻く周囲がが下手な人物を寄せ付けない為でもあり、明里はその最たる存在であるロボ助を見やる。

 

 

「ですが…どうせなら傍にいてくれる人がいいです。どんなに不器用な人でも良いんです。私を理解して絶対に離れないって、この手を取ってくれる人が」

 

 

己の掌を見ながら、自身が思い浮かべる理想の男性像を話す。その声色はとても穏やかなものであった。

 

 

「サヤナさんは?」

 

 

すると今度は、サヤナに話題が移る。歌音、奏、希空に続き、彼女の男性の好みは一体、どのようなのだろうか。だが視線が集まる中、どういうわけかサヤナは難しげな表情を浮かべる。

 

 

「なにかあったのですか?」

 

 

希空のように実体がなく中々答えが出ないと言うよりかは、何か悩みがあるような様子だ。それに気付き、希空はサヤナに問いかける。

 

 

「実は…」

 

 

暫らく黙っていたサヤナだが、どうせならと思ったのか、重い口を開き始める。

 

実はサヤナにお見合いの話が持ちかけられていると言うのだ。なんでも相手は両親の知人の玩具関連の会社に務めるエリートサラリーマンである息子とのこと。実際、トイショップの経営者のサヤナには好条件の相手に違いないだろう。

 

 

「語弊を恐れず言うのであれば、何だかんだでも私達には他人事なので、私はこういう風にしか言えませんが、お見合いその物は悪いわけではないですし、素敵な男性で、それが良縁である可能性だってあるわけですので会うだけ会ってみれば良いのではないでしょうか」

 

 

お見合いと言われても、希空にはまだあまりピンと来ないが、あくまで話を聞いた上での自分の考えを話す。とはいえ、結局はサヤナの問題。決めるのは彼女だ。それを理解しているのだろう。サヤナはそうね…と頭を悩ませる。

 

 

「じゃあ今度はさ、私達の周りの男の人について話そうよっ」

 

 

どこか影を差した雰囲気を変えるように、明里が話題を変える。周囲の男性で言えば、それこそラグナや涼一、貴文などであろう。彼女達のガールズトークはまだまだ続くのであった。

 

・・・

 

 

「ただいま…」

 

 

あれから数時間後、日が沈むなか、希空は奏達と別れて、実家に帰ってきていた。ボイジャーズ学園への進学の為、家を出て、それから彩渡街に帰ってくることはあっても、当時の希空の複雑な心中から家に帰ってくるのは今日が始めてだ。

 

 

「おかえり、希空」

 

 

この家は何でも希空の誕生に合わせて、新築したという話だ。懐かしさを感じながら、リビングの扉を開けば、台所で料理をしている母親であるミサが温かな笑顔で出迎えてくれた。

 

 

《久しぶりだな、希空。会うのはグランドカップ以来か》

 

「そうだね、ロボ太。パパは?」

 

《まだ仕事だ》

 

 

それだけではない。ロボ太もまた家にある特製のスピーカーを通じて、話しかけてきてくれた。そんなロボ太に合わせて、希空は屈みながら穏やかに笑うなか、一矢を探すが、まだ仕事をしているようだ。

 

 

「疲れたでしょ?先にお風呂に入る?」

 

「うん、でも少しだけ休みたい」

 

 

一先ず、料理をする手を止めて、ミサは希空に話しかける。コロニーから帰ってきて、そのまま彩渡街を周ってから帰ると聞いていたため、彼女を気遣ってのことだ。

 

 

「でも、まだそのヘアピン使ってるんだね」

 

「気に入ってるんだ、これ」

 

 

ソファーに座る希空の言葉にそっか、とミサが料理を再開するなか、ふと希空が前髪に留めている二つのヘアピンに気付く。自分と同色のヘアピンについつい笑みを漏らすミサに、希空も気恥ずかしそうにしながら大切そうに自身のヘアピンを撫でる。

 

 

「どうせだったらツインテールにしてみる?」

 

「この年でツインテールはちょっと…」

 

「あれもしかして若い頃のママ、ディスられてる?」

 

 

どうせなら今の希空くらいの年齢の頃にしていた自身の髪形を勧めてみるミサだが、遠回しに引き気味に拒絶する希空の反応を見て、表情を引き攣らせる。因みに、この時代のミサはツインテールではなく、髪は腰の辺りまで垂らしている。

 

 

「なにやってるの?」

 

 

どこかショックを受けているミサを他所にふとなにやら通信をしているロボ助とロボ太に気付き、話しかける。

 

 

《あぁうむ。ロボ助とは会う度に突然、希空の普段の日常を収めたデータが大量に送られてくるのだ》

 

「本当になにやってるの、ロボ助」

 

 

希空に声をかけられたロボ太は隠すことなく答える。しかしその内容に希空はロボ助を見やり、ロボ助はスッと目を逸らす。下手をすれば、会えばインフォなどにもやっているかもしれない。最早、布教活動である。

 

 

《中でも希空の学園生活は興味深い。ここでは見たくても見れないのでな》

 

「あっ、それ良いな。私も見たいっ」

 

 

とはいえ、ロボ太も満更ではないようで、まるで親戚かなにかのように希空の日常を収めたデータを喜んでいる。そんなロボ太の言葉に回復したミサが食いつく。

 

 

《むっ、ゲームセンターで歌音達にも会ったのか》

 

(もう今日ことまで送られてる…)

 

 

データをチェックするなか、今日の出来事について触れられる。そんなロボ太の発言に希空はジト目でロボ助を見るが、最早開き直っているのか、何が悪い、希空の魅力を伝えたいのだと言わんばかりだ。

 

 

「でも今日のこと、か」

 

 

ふと希空は数時間前のことを思い出す。主に所謂、コイバナについて話をしたのだ。

 

 

「ねえ、ママ。パパと結婚するまでの話とか聞いても良い?」

 

「えっ?なんでいきなり…」

 

「今日、コイバナしたんだ。それで聞きたくなっちゃって…」

 

 

すると希空はミサに一矢との結婚に至るまでの話について問いかける。とはいえ、突然のことに驚いているミサにその理由を話す。

 

 

《私も主殿とミサの話は気になるな》

 

「うーん…。まあいっか」

 

 

結婚に関しては自身もいなかった時の話だ。居合わせなかったことに思うところはあるが、それでも聞いてみたい。そんな希空とロボ太の言葉に料理が一段落してやってきたミサがエプロンを外して希空の隣に座る。

 

 

「じゃあ話そうか。どうしようもない不器用さん同士が結ばれるお話を」

 

 

希空、ロボ太、ロボ助の視線が集中するなか、自身の携帯端末から立体モニターに20代後半の時期と思われる一矢とミサが写った写真を表示させる。どうやら結婚式の写真のようで、純白のドレスに身を包んだミサを抱きかかえる一矢と周囲には彼らを祝福する厳也達の姿もあって、全てに祝福された結婚式だとすぐに分かった。その写真に懐かしんだようにミサは話し始める。

 

これは空白の物語。

 

未来への扉を開く為の鍵となる話だ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Air 後編

覇王達との別れから10年の年月が経った。未来を歩む人類はいよいよ第二の故郷・宇宙コロニーの開発に着手。宇宙での生活もいよいよ現実味を帯びてきたところだ。

 

 

『『いっけええええぇぇぇぇぇぇーーーーっっっ!!!!』』

 

 

映画館では一本の映画が上映されていた。今、スクリーンに映っているのは、何とリミッドブレイカーではないか。澄み渡るような青空を舞台に、リミッドブイレイカーは若き男女の声を乗せて、敵を打ち倒していた。

 

・・・

 

 

「いやー色々と面白かったね、劇場版GUNDAM BREAKER」

 

 

それから数十分後、映画館から出てきたのは優陽とミサだった。あれから10年の年月が経った彼らはすっかり大人になっていた。そんな優陽は先ほどの映画について口にする。

 

 

「まさか私達に起きた事が映像化されるなんて…。しかも最初はドラマだけだったのに、まさか映画にまで…」

 

「そりゃミサちゃん達って下手な話より物語してるんだもん。商店街の復興を目指す少女が一人の青年と出会い、やがては世界一になって結ばれる…。一本の話に出来るよ」

 

 

何と二人が見ていたのは彩渡商店街ガンプラチームの軌跡を基にした物語であり、ガンダムブレイカーのみならず、昨今のガンプラブームのお陰か当初、放送されていたドラマはヒットし、こうして続編映画まで作られるほどだ。因みにドラマ版は世界大会、劇場版はアドオンを発端に新型シミュレーターまでの事件を基にしており、更に言うと、劇中に出てくるガンプラは全て着ぐるみの特撮と言うどこぞのガンダム作品で聞いたことのあるこだわりある特撮作品なのだ。

 

 

「でも、ごめんね。付き合わせちゃって」

 

「…一矢が急に来れなくなったんでしょ?」

 

「…うん、お陰でチケットが無駄になっちゃいそうだったから」

 

 

するとミサは突然、優陽に詫びる。どうやら本来ならば、優陽と映画を鑑賞する予定ではなかったらしい。本来ならば、この場には優陽ではなく、一矢がいたはず。しかし彼は優陽の言うように急用が入ってしまったようだ。

 

 

「まあ…仕方ないよね。一矢も今じゃ宇宙コロニーの建造に関わってる宇宙技師の一人なんだし」

 

「うん…すっごい頑張ってたよ。宇宙技師になる前も、その後も」

 

 

この場にはいない一矢の話題になる。ここ最近話題の宇宙コロニー。どうやら一矢の急用とは宇宙コロニーに関わることらしい。一矢は高校卒業後、宇宙工学を専攻に大学へ進学し、その後は宇宙技師としての職についた。しかしそれまでの道のりは決して平坦なものではなかったのか、一矢の苦労を知るミサは複雑な面持ちだ。

 

 

「…やっぱり寂しい?」

 

「…まあ、否定したら嘘になるかな。でも一矢も今が大変な時だし、私のわがままで振り回したくもないから」

 

 

ふと優陽はミサの心中を察してか、静かに尋ねると、仕事が忙しい分、やはり一矢との時間も少ないのか。それでも一矢を思って、ミサは我慢したように話す。

 

 

「でもね、一矢に会えないわけじゃないんだよ。一人暮らしをしてる一矢にたまにご飯作ってあげたりしてるんだ。一矢ってたまーにご飯食べない時があるから」

 

「……あれ、ミサちゃんって料理できたっけ」

 

「れ、練習したから…。それに今日だって一矢に作りに行くんだから」

 

 

だがそれでも一矢との時間はあるのか、その時の出来事を思い返しては嬉しそうに笑うミサだが、それよりも優陽には疑問がある。これは煽りでもなんでもなく、純粋にミサの料理の腕だ。記憶が正しければ、お世辞にも彼女は料理が出来るとは言えなかった筈。だがそれはミサも自覚があるのか、引き攣った笑みを浮かべる。その後、少し優陽と喫茶店で話したりと時間を使い、別れる。

 

・・・

 

優陽と別れたミサは一人、一度帰路につく。優陽は生物学的には男性ではあるが、相変わらず見た目は女性のようだ。そのせいか、優陽には気兼ねなく相談をしたりと今では長らく付き合いのある友人になった。ミサも現在は一矢と半同棲状態だが実家暮らしではある。そんな彼女は今、彩渡商店街に向かっていると…。

 

 

「あっ…」

 

 

ミサはふと足を止める。彼女の視線の先には結婚式場があり、そこには今まさに結婚式が執り行われていた。

 

 

『ヴェルさん、本当に綺麗ですっ』

 

『ありがとう、ミサちゃん。ミサちゃんはちゃんと式で着るんだよ』

 

 

式場の新婦の姿にかつて憧れの女性との会話を思い出す。あの時の彼女は今でも鮮明に思い出せるほど、この世で最も美しかったのだ。

 

彼女ももう20代後半だ。結婚するにはもう十分過ぎる。そう、実を言うと、まだこの時点で一矢とミサは結婚にまで至っていないのだ。今は一矢が多忙だって分かってるからこそ控えているが頭の中に結婚という言葉が消えぬまま、彼女は帰路につくのであった。

 

・・・

 

 

「結婚、か…」

 

 

それから数時間後、彩渡街から少し離れた街にあるマンションにミサの姿があった。ここは一矢が現在、暮らしている場所であり、ミサも合鍵を渡されている。丁度今、彼女は夕食の調理をしていた。

 

 

(一矢はどう考えているのかな…)

 

 

いまだ交際期間を重ねるだけで、一矢からのプロポーズはない。それはやはり彼が忙しいのもあるだろうから、自分からは切り出すことはしない。しかし一矢と共にありたいという想いは当然あり、彼の将来設計が気になっているのだ。そんなことを考えながら、ミサは料理を進めるのであった。

 

・・・

 

 

「…ただいま」

 

 

それから更に数時間。漸く一矢が帰ってきた。急用とは言え、長引いたのだろう。表情には疲労が滲んでいる。玄関にあるミサの靴を見て、リビングへ向かっていく。

 

 

「すぅ…すぅ…」

 

 

だが、そこにはミサが机にうつ伏せになって眠っていたのだ。どうやら料理を終えた後もずっと一矢を待っていたようだが、日中に出かけていたこともあり、疲労で眠ってしまったようだ。そんなミサをなるべく起こさないように抱きかかえると、近くのソファーに寝かし、ブランケットをかける。

 

ミサはこのまま寝かせておこう。そう思い、一先ず乾いた喉を潤そうと台所へ向かおうとするが、その前に何か視界の端に捉え、足を止める。そこにはミサの持ち物があり、本屋で買ったと思われる買い物袋もあった。

 

 

「これって…」

 

 

袋からは僅かに表紙が出ており、手にとって見れば、どうやら結婚情報誌だったようだ。

 

 

「はあ…」

 

 

それを見た瞬間、一矢は重いため息をつき、頭をかく。別にミサが結婚を意識していることを鬱陶しく思っているわけではない。これはあくまで自分に対しての自己嫌悪だ。

 

 

「ずっと待たせてるもんな…」

 

 

一矢とてミサとの結婚は出来ることなら今すぐにしたい。しかし大学卒業後からずっと宇宙開発の為のMS免許の取得など宇宙技師として周囲に置いていかれない様に常に勉強の日々だった。お陰で今は宇宙コロニーの開発に携われているが、お陰で身を削るほど多忙の身となってしまい、今では好きだったガンダム作品をチェックすることも、ガンプラバトルどころかガンプラにさえ費やす時間がなくなってしまっている。

 

ミサとの結婚は仕事が軌道に乗ったらと考えていた。二人の時間を大切にしたいからこそ、結婚の時期を見極めていたが中々、その時が訪れるのはずっと先になっているような状況なのだ。

 

きっとミサにも我慢させている部分は大きいだろう。結婚情報誌を買うということはそれほどまでに結婚を意識しているということなのだから。そして何よりミサは自分を気遣って、溜め込んでいるのだと言うことが痛いほど分かった。

 

 

「んっ…あれ…一矢…?」

 

 

結婚情報誌を見つめていると、不意にミサが目を覚ました。

 

 

「っ!?」

 

 

視界に一矢を捉えた瞬間、嬉しそうな笑みを浮かべるが、彼が持っている結婚情報誌を見て、表情が変わる。

 

 

「ご、ごめんっ!」

 

 

結婚情報誌はあくまで自分が見るためにここに来るまでに何気なく購入したもの。一矢には今は自分のことに集中して欲しい。こんなことで彼の足を引っ張りたくはない。だからこそミサはソファーから飛び出すと、一矢から雑誌を引ったくる。

 

 

「りょ、料理作ったから食べてっ!私、もう帰るからっ!!」

 

 

一矢に気まずい想いを感じたミサは居た堪れなくなって今日のところはもう帰ろうとする。急いで玄関に向かおうと荷物を纏めると…。

 

 

「待って」

 

 

一矢が後ろからミサの腕を取ったのだ。

 

 

「…謝るのは俺のほうだ」

 

 

そしてそのままミサを引き寄せて 背後からミサを抱きしめたのだ。

 

 

「…俺、やっぱりダメだな。ミサに我慢させて…そこに甘えてる」

 

「…そんなことないよ。一矢は今、大変なんだから」

 

 

お互いの鼓動が聞こえて来そうなほど密着する中で、言葉を交わす。お互いの気持ちは分かっているはずなのに、どうしてこうも上手くいかないものなのだろうか。

 

 

「…確かに大変だよ。帰っても寝るだけ。正直、余裕なんてない」

 

「…っ」

 

 

日々の激務を考えれば、一矢の言葉は本当のところなのだろう。しかし改めて口に出されると、やはり今回、彼の足を引っ張ってしまったのではないかと迂闊な自分を嫌悪して下唇を噛んでしまう。

 

 

「でも…。ミサがいてくれるだけで救われる」

 

 

そんなミサを察してか、一矢はミサに回した腕の力を強める。

 

 

「空気みたいにさ。傍にいることに慣れて当たり前のように感じるけど…でもいなくなったら生きていけない」

 

 

これ以上、お互いを思っているのにすれ違いたくはない。だからこそ言葉にしてちゃんと伝えたい。

 

 

「だからさ、ありのままのミサでずっと俺の傍にいてくれないか。世界の誰よりも愛するから」

 

「──っ」

 

 

自分も彼女と同じ想いなのだと言うことを。自分がこの世界で何より愛しているのは目の前にいる彼女なのだと言うことを。そして何より彼女とこれからの未来をともに歩みたいという想いを。

 

 

「それ、って…?」

 

「うん…。一生で最初で最後のプロポーズ。今すぐは無理だけど…コロニーを打ち上げたら…」

 

 

一矢の言葉に心臓がドキリと跳ねる。思わず唇が震える中、問いかければ、一矢は優しく微笑み…。

 

 

「結婚しよう」

 

 

何よりも待ち望んでいた言葉を伝えてくれたのだ。

 

 

「…ホントに一矢っていつもいきなりだよね」

 

「…ごめん」

 

 

ミサの身体が震えるなか、彼女の言葉に一矢は視線を彷徨わせる。思い返せば、いつも自分はきっかけあり気だ。自分からというのは中々少ない。そんなことを考えていると、ミサは一矢の腕を解き、振り返る。

 

 

「でも…嬉しいよっ…」

 

 

そこには大粒の涙を止め処なく流しながら、嬉しそうに笑うミサの姿があったのだ。

 

 

「私に…アナタの名前をください」

 

 

一歩踏み出して、ぽすっと一矢の胸に顔を埋める。嗚咽交じりに口にした言葉に一矢も感極まって、ああと彼女を再び抱きしめる。

 

 

「これからもきっと…迷惑をかけると思うけど…でも…」

 

「ううん…。それもきっと…幸せになるよ。二人だったら」

 

 

それでも幸せにする。そう口にしようとした瞬間、ミサはその迷惑すらも幸せになると言ったのだ。するとどちらからと言うわけでもなく笑い合って、額同士をくっ付ける。

 

 

「ミサ」

 

「なに?」

 

 

すると一矢はミサの名を口にする。一矢の胸に顔を埋めていたミサは顔を上げると、一矢は彼女の顎先に手を添えて、そのまま唇を重ねたのだ。

 

 

「大好き、だよ」

 

 

それはかつて10年前にミサが口にした言葉と行動。唇を離して、笑顔と共に放たれたその言葉にミサは顔を真っ赤にすると、そのまま一矢に倒れこみ、二人とも笑い合うのであった。

 

・・・

 

それから一年後、宇宙コロニー・アスガルドは無事に完成し、安定稼動を迎えることになったある日のこと。彩渡街の結婚式場では一組のカップルが結婚式を執り行っていた。そこには新郎新婦の為にそれから国を越えて、やってきたものもいるほどだ。

 

 

「人がいっぱい…」

 

「ああ、皆良い人たちばかりだ」

 

 

そこにはまだ三歳となるラグナ・ウェインの姿もあった。翔に抱きかかえられたラグナは結婚式場に集まった多くの人々に圧倒されていると、臆することはないと翔はラグナに微笑む。

 

 

「まさか翔さんが子供を引き取るなんてね」

 

「この子の両親は知り合いのビルダーだったからな。どうも見過ごせなかったんだ…」

 

 

ラグナは両親を失って、翔に引き取られた。まだ傷も癒えていないのかびくびくとしている。そんな彼の頬をぷにぷにと突きながら優陽が元気付けようとするなか、彼の言葉に翔はラグナを引き取った理由を口にする。

 

 

「全く…漸くゴールインか」

 

「ほんっと焦らすんだから」

 

 

また近くにウィルと夕香の姿もあった。憎まれ口を叩きながらも、祝儀はきっちりとそれでいてたんまりと用意していることから、彼も祝福していることが分かる。

 

 

「そういう君もいい加減、僕と一緒になる気はないのかい?」

 

「正直、誰かに縛られたくないんだよねー。アンタもいい加減、諦めたら?」

 

「君とのこの関係も僕は気に入っている。例え君が手に入らなくても、諦めることだけは絶対にないよ」

 

 

この二人もこれまでに色々なことがあったのだろう。飄々とした夕香の言葉にウィルは余裕の笑みを浮かべながら答え、夕香も夕香で仕方ないヤツだなーと満更でもない笑みを見せる。

 

・・・

 

 

「綺麗だな…」

 

 

結婚式まで刻一刻と迫るなか、フロックコートに一矢は目の前の光景を見ながら自然と口にする。そこにはウェディングドレスを身に纏ったミサの姿が。純白の花嫁の姿はそれだけで美しいが、幸せと照れ臭さではにかむその姿はこの瞬間で、何よりもこの世界で美しいだろう。

 

 

「どうせならロボ太やヴェルさん達にも見せたかったな」

 

「…そうだな」

 

 

この場には多くの招待客が集まってくれた。しかしその中にはいない存在もいる。ロボ太は兎も角としても、異世界のことを知らないミサ達は何とも言えない寂しげな様子だ。

 

 

「でも…また会えるその日に向かって…一緒に歩いていこう」

 

 

だが二人とも再会を諦めているわけではない。一矢が宇宙技師の道を選んだのもその為なのだから。一矢から差し出された手を掴んだミサは、うん!と微笑む。完全に一つとなった道を今まさに二人は歩いていくのだ。

 

・・・

 

 

「そうだったんだ…」

 

「うん…。あの後も決して平坦じゃなかったけど…でもやっぱり幸せだったよ」

 

 

時は現代。話を聞き終えた希空は聞いてよかったと嬉しそうに自然と笑みを浮かべる。そんな中、携帯端末のデータを眺めながら、ミサは懐かしむ。温かな雰囲気で満ちた雨宮宅だが、ふと玄関の扉が開いたのを遠巻きで感じる。希空とミサが顔を見合わせると…。

 

 

「ただいま」

 

 

一矢が帰ってきたではないか。リビングにやって来た一矢が希空とロボ助に気付き、声をかけようとした瞬間…。

 

 

「「おかえりっ」」

 

 

ミサと希空が一矢に飛びついてきたではないか。突然のことに面食らっている一矢だが、それだけではなく、両足にはロボ太とロボ助も引っ付いている。

 

 

「…ああ、ただいま」

 

 

ミサと希空から伝わる温もりとロボ太とロボ助の存在に改めて一つの家族だと感じた 一矢はミサと希空に手を回し、優しく抱きしめると、この幸せを噛み締める。この場にいるすべての者が幸せを感じる中、家族の団欒の時間が始まっていく。それはそうとサヤナのお見合いは、実は相手に片想いの相手がいたために無しとなったそうな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コロニー・トラベル

今回は幻想目録さんよりいただいた原案を元に書いております。
投稿ありがとうございます!


「愛梨達が…?」

 

 

ある日のこと、学生寮で想い想いの時間を過ごしていた希空はロボ助から話しかけられて、動きを止めていた。どうやら話の内容は地上にいる愛梨達に関することのようだ。

 

 

《ええ、どうやら地上で行われていた福引きでアスガルドへの1泊2日の旅行券を引き当てたようで、近日中にこちらに来るそうです。そこで希空と奏に案内役をお願いしたいそうで…》

 

「…ルティナの次は愛梨か…。……ん?」

 

 

どうやら近日中に愛梨達がこのアスガルドに旅行で訪れるそうだ。そこでアスガルドを生活の拠点している希空や奏に案内役を頼んできたようだ。以前もルティナと似たようなことがあった為、やれやれと言わんばかりの反応だ。

 

 

「……愛梨達が来るのはいつ?」

 

《お待ちを》

 

 

ふと何かを思い出したかのようにロボ助に問いかける希空。するとロボ助は素早く立体モニターを表示させると、予定表を表示させる。その内容に目を通した希空は一瞬、顔を顰めるもやがて顎に手を添えて、なにやら考え始めるのであった。

 

・・・

 

 

「希空ーっ!!」

 

 

そして当日、宇宙港では希空と奏、ロボ助が愛梨達の到着を待っていた。すると聞き覚えのある声に誘われて、視線を向ければ、そこには荷物を持って、こちらに手を振っている愛梨とその母親であるアメリアであった。

 

 

「お久しぶりです。…お二人だけなんですか」

 

「あー…それなんだけど」

 

 

軽く挨拶をしつつ、軽く視線だけ動かして周囲を見ても、ここには愛梨とアメリアの母子だけで、愛梨の父親であり、アメリアの夫である莫耶の姿が見当たらない。そのことについて尋ねてみれば、愛梨は何とも言えなさそうな表情を浮かべ…。

 

 

「実は今回の旅行券、ペアチケットだったんだよね。それでパパとママのどちらかを誘ったんだけど……」

 

「公平にガンプラバトルで勝った方が一緒に行くことにしたのよ。結果はこの通りっ」

 

 

どうやらここに来るまでにひと悶着あったらしい。莫耶を打ち倒し、ガンプラバトルで勝利を収めたアメリアは晴れて娘とコロニー旅行に来れて、舞い上がっているのだろう。声を弾ませながら愛梨の両肩に手をかけて、身を寄せる。

 

 

「まあパパには何かお土産で補填しようと思ってるよ」

 

「なるほど。では行こうか」

 

 

今頃、莫耶はなにを思っているのか。そんなことを頭の片隅で考えつつ愛梨の言葉に頷くと奏を先導に早速、アスガルド観光へ向かっていくのであった。

 

・・・

 

 

「凄い、まさに時代の最先端って感じね!」

 

 

アスガルドの街に繰り出した希空達はコロニー内部を一望できる電波塔兼観光施設のヤワーに訪れていた。その展望台でアメリアはコロニー内の街並みを眺めては年甲斐もなく興奮した様子だった。

 

 

「ママ、あんなに興奮しちゃって…」

 

「それだけ楽しんでいただけているのなら喜ばしい限りです。逆に羨ましくもあります」

 

 

アメリアの様子に愛梨は何だか苦笑してしまう。そんな愛梨の隣で希空はアメリアの様子を眺めながら、どこか複雑そうに話す。

 

 

「コロニーは一見、華やかだが所詮は全てが作り物だからな。最初は楽しんでいても、暮らしているうちに自然溢れる地球が恋しくなるモノさ。どこに行こうと人類は地球から親離れすることは出来まいよ」

 

 

どういうことなのかと愛梨が希空を見やれば、彼女の言葉を引き継ぐようにコロニーの生活について話す。結局、アスガルドなどと大層な名前がついていても、全てが模造品。元となる地球に近づいても、越えることは出来ないのだ。

 

 

「愛梨、上を見てください」

 

 

コロニーに夢を見ていた愛梨は今の話に複雑な面持ちだが、ふと希空に促される。言われたとおりに上方を見上げれば、そこは宇宙空間を一望できる造りとなっており、無数の星星が煌く中、尾を引く彗星のような軌道を描きながら、何かがこちらに近づいてくる。

 

 

「MS!?」

 

 

それは何と等身大のGAT-X105 ストライクガンダムだった。背中にはなにやら工具と思われる装備を積んだパックを装備しているようだ。この時代ではMSが運用されているとはいえ、生で、しかも間近で見るMSの姿に興奮した様子だった。

 

周囲の観光客もどよめくなか、ストライクは一応のパフォーマンスか、チカチカとカメラを点滅させながら手を振る。そんなストライクに圧倒されている愛梨だったがその横で、ストライクを眺めていた希空は柔らかく微笑むのを見つける。何故だかストライクと希空は視線を交わしているように見えたのだ。しかし程なくしてストライクは飛び去っていってしまう。

 

 

「さて、実は近くに簡単なMS操縦が出来る施設があります。次はそこに向かいましょう」

 

 

ストライクを見送ると、希空と奏の案内で一向は次なる観光地へ向かう。その後も愛梨達はコロニー観光を続け、一日目が終了するのであった。

 

・・・

 

 

「じゃあ。二日目もよろしくねっ」

 

 

翌日、再び待ち合わせ場所で落ち合った希空達と愛梨達。地球行きの便が発つ時間までの間、また観光をしていくようだ。

 

 

「しかし、私達の学園で良かったんですか?」

 

「うん、ずっと気になってたからっ!!」

 

 

どうやら今日は希空達の通うボイジャーズ学園が目的だったようだ。事前に話を聞いていた希空の問いかけに愛梨は待ちきれないとばかりに頷く。すると仕方ないと顔を見合わせた希空と奏は早速、ボイジャーズ学園へ向かうのであった。

 

・・・

 

 

「わぁっ…お城みたい…っ!」

 

 

ボイジャーズ学園に到着した希空達。愛梨はその煌びやかな外観を見ながら、感嘆とした様子だった。

 

 

「ようこそ、ボイジャーズ学園へ。お待ちしておりました」

 

「ラグナさんっ!」

 

「希空達から話を聞き、学園側へは話を通してあります。それでは不肖ながら案内をさせていただきます」

 

 

すると校門の前ではラグナが待っていた。さながら白馬の王子のように紳士的に接するラグナに愛梨達は久方ぶりの再会を喜ぶ。挨拶も程ほどにラグナの案内で警備員達がいる校門を抜け、ボイジャーズ学園に足を踏み入れるのであった。

 

・・・

 

 

「何だか学校じゃないみたい…」

 

「ボイジャーズ学園はアスガルドを象徴する要所の一つとして開校しましたからね。VRなど日々進化する最新技術を取り入れた授業が特徴の一つです」

 

「お陰で入学まで苦労したがな。名門中の名門なんてレベルじゃない。受験期間はもう二度と思い出したくないな…」

 

 

初めて訪れたボイジャーズ学園に自分の知る学校とは全く違う最新鋭の環境に圧倒されている愛梨。そんな彼女にラグナが簡単に特徴を話していると、その隣で奏はかつてのことを思い出してか身震いし、希空も遠い目をしている。

 

するとラグナ達は会議室に訪れる。そこにはヨワイなどラグナに声をかけられたと思われる生徒達が制服姿で待っていた。

 

 

「おっそーいっ!いつまで待たせんのー!?」

 

「ラグナさん、これは…?」

 

「折角です。我が学園の制服に袖を通して体験入学のようなことをしてみては」

 

 

ずっとここでラグナ達を待っていたのだろう。不貞腐れて文句をたらたらと漏らしているヨワイ達に、愛梨はラグナにどういうわけか話を求める。するとラグナはヨワイ達の近くにある未使用のボイジャーズ学園の制服を見やりながら話すと、少し考えた愛梨はアメリアに意見を伺うように見ると、母が微笑んだのを見て、はいっ!と頷く。

 

 

「よーし、じゃあラグナは出て行けー」

 

「分かってますよ。外で待機していますから終わったら声をかけてください」

 

 

愛梨がヨワイ達のもとへ駆け寄るなか、奏はラグナを追い出そうと背中を押す。勿論、そんなことは分かっているラグナは苦笑しながら会議室を出て行くのであった。

 

・・・

 

 

「わぁっ…」

 

 

程なくして愛梨はボイジャーズ学園の制服を着終える。フリルがあしらわれたその制服はまるで制服でありながらもちょっとしたドレスのようで、己の姿に感激した様子の愛梨を微笑ましく見ながらもアメリアはしかと写真に収める。

 

 

「では早速…」

 

「ようこそ。生徒会長として歓迎しよう」

 

 

すると予め用意していたのか、同じく制服姿の希空と奏が声をかける。そこからは少しの時間ではあるが、ボイジャーズ学園を満喫するのであった。

 

・・・

 

 

「楽しい時間って本当にあっという間なんだね」

 

 

それから数時間後の宇宙港。そこには地球行きの便へ乗る為にここにいる愛梨達とそれを見送る希空達の姿があった。コロニーでの時間を名残惜しそうに愛梨は話す。

 

 

「でもやっぱり決めた!高校を卒業したら私も必ず希空達のとこに行くから!」

 

「ええ、その時を待っています」

 

 

元々、コロニーへの憧れを持っていた愛梨。今回のことでそれがより強くなったようだ。そんな愛梨の屈託のない笑顔に希空もつられて微笑み、その後、希空達に見送られ、愛梨達はアスガルドを去るのであった。

 

・・・

 

その夜、希空とロボ助はアメリカにあるセントラル・パークのような都市公園に訪れていた。しかもなにやら希空は落ち着かない様子でそわそわとしていた。

 

 

「──希空」

 

 

するとそんな希空に声をかける者がいた。その声に強く反応すれば、そこには父である一矢の姿があった。姿を確認したと同時に地を蹴った希空はそのまま一矢の胸に飛び込む。

 

 

「…仕事終わったばっかりで急いで来たから、少し臭うかもしれないぞ」

 

「……んっ…。でもこれもパパの匂いだから…好き」

 

 

胸に飛び込んで、そのまま頬ずりしている希空に苦笑しながら軽く頭を撫でると、希空は一矢の存在を確かに感じながら、どこか安堵したように呟く。

 

 

「…昨日、愛梨達といたな」

 

「うん…。パパのMSを見て、驚いてたよ」

 

 

すると一矢の口から愛梨の名が出てくる。しかし別に驚いた様子もなく、希空はどこか誇らしげに話す。どうやら昨日、タワーで見たストライクは宇宙技師としてコロニーの外壁工事にやってきていた一矢のものだったらしい。

 

 

「…私…やっぱり人を案内するって…得意じゃない…。でも…頑張った、よ…?」

 

「ああ。流石、パパとママの娘だ」

 

 

希空は一矢の胸に抱きついたまま、上目遣いでどこか甘えたように話す。その様子についつい口元が綻ぶのを感じながら、一矢は彼女が望んでいるであろうと優しくその頭を撫でて褒める。

 

 

「パパは明日、帰る予定だけど一日予定が空いていてな。案内してくれるか?」

 

「うん…っ。元々、パパが来るって聞いた時から、そのつもりだったっ」

 

 

一矢からの誘いに喜んでとばかりに希空はにっこりと笑う。その様子をロボ助が天にも昇る勢いで胸の前で十字を切りながら、しかとそのカメラアイに録画して、希空フォルダにまた一つ、データを収める。そんな一矢と希空はそのまま食事に向かうのであった…。、



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゲリラライブ

今回はトライデントさんよりいただいた原案を元に書いております。
投稿ありがとうございます!


ある日のこと、一輝は自宅で友人であり、ジャパンカップ前にインフォのウイルス事件で手を貸し、カドマツが働くハイムロボティクスにも勤める准と憐を招いていた。そんな一輝は今、かかってきた電話に応えていた。

 

相手は高校時代の友人であり、何でも百貨店に勤める友人が店で行われるイベントに一輝達三人も参加して欲しいと言うのだ。しかし何故、一輝達に呼び声がかかるのか。

 

それは高校時代、文化祭限定で『nexus』というバンドを組んでいたことが発端だった。それが何でも学校を飛び出して世間でも、話題となり今でもファンがいるらしいとのこと。最も本名を明かさずに活動していたので同じ学校だった者しか『nexus』の正体を知らないという。それが、イベントによって今回限り、復活して欲しいというのだ。

 

 

「良いよ、やろうよ」

 

「折角だしな」

 

 

通話を終え、出るかどうかで悩み、一端保留にしていた一輝はその場にいた二人に相談すると、乗り気だった。二人の強い意思によって一輝もイベントのため、活動再開を決意するのであった。

 

・・・

 

 

「見て見て、これ可愛いっ!」

 

 

それから数週間後、イベントが行われる百貨店ではミサ、夕香、祐喜、それに合わせて一矢、秀哉、貴広の姿があった。ショッピングを純粋に楽しんでいる祐喜ははちきれんばかりの笑顔で衣類をミサと夕香と一緒に診て回っている。

 

 

「はぁっ…」

 

「イッチ、大丈夫?」

 

「大丈夫じゃない」

 

 

それを傍目に一矢はため息をつく。元々、引きこもり体質の一矢は特に人が多く行きかう場所を嫌う。それを察して、貴広が尋ねると、どことなく不機嫌そうに答える。

 

 

(出かけるのなら、ミサとだけが良いし、そうじゃなければ、まだ優陽といた方が苦じゃない場所に連れて行ったりしてくれるんだけど…)

 

「ははっ、早く終わるといいな」

 

 

行き交う人々を鬱陶しそうに避けながら、祐喜達と服を見ているミサの横顔を一瞥する。二人だけならデートとして純粋にデートとして楽しめるが、夕香達と一緒ならなにを言われるか分からない。それ以外で特に苦ではない相手ならば、こんな気分も中和してくれそうな優陽辺りが真っ先に浮かぶが、生憎、この場に優陽はいない。眉間に皺を寄せる一矢に秀哉は苦笑する。

 

 

「…あれ?」

 

 

そんな秀哉だが、混み合う人々の中で見知った顔を見かける。一輝達三人だ。しかしこの人混みですぐに見失ってしまったのと遠目だったため、見間違いと判断する。するとそんな矢先に選んだ服の会計を終えた祐喜達が戻ってくる。

 

 

「ねーねー、面白そうなイベントあるらしいし、行ってみようよー!」

 

「…イベント?」

 

「なんでもバンドが来てるらしいよ。詳しくは知らないけど」

 

 

合流した祐喜からなにやらイベントについて話される。一体、何のことかと顔を顰める一矢に夕香はチラシを見せながら答える。とはいえ、一矢は兎に角、引きこもり体質。ただでさえ今も良い気分ではないのに、イベントなどに行けば更なる人混みが待っていることだろう。これは拒否したいところだが、彼の思いも虚しく、面白そうだと半ば強引にイベント会場へと連れていかれるのであった。

 

・・・

 

 

「あれ、カドマツじゃない?」

 

「おぉっ、お前等、こんなところで会うなんて」

 

 

イベント会場に到着した一矢達。もう死んだような目で諦めている一矢の隣でふとミサが指差す。その方向には確かにカドマツが。そして他にも見知った顔があった。ミサの声が聞こえたのだろう、カドマツも声をかけてきた。

 

 

「…来てたんだ」

 

「…お前等もな」

 

 

何とカドマツの近くにはリージョンカップやアジアツアーで激闘を繰り広げたヴェールと未来の姿があったのだ。ヴェールの意外そうな反応に、一矢も久方ぶりの再会に少しは気を良くしたようだ。

 

 

「しーっ、はじまるよ」

 

 

会話も程ほどにどうやらイベントが始まるようだ。祐喜の言葉に一矢達はイベントステージを見やる。するとMCが登場し、イベントが執り行われる。順調に進んで行くイベント。すると漸く一輝達nexusの出番が訪れた。

 

 

「…仮面?」

 

「何でも外部には正体隠してやってたって」

 

 

しかしステージ上の一輝達はガンダムシリーズに登場した個性的な仮面を被っているのだ。眉間に皺を寄せる一矢に夕香がその理由を話すと、ふぅんと正体が誰であろうと興味ないのか、どうでも良さそうだ。すると早速、演奏が始まっていく。

 

 

(…ん?)

 

(…なんだぁ?)

 

 

nexusによるライブが始まった。盛り上がる楽曲を披露するなか、秀哉とカドマツは首を傾げる。どうにもnexusが現れてから違和感があるのだ。それは仮面を被っているとはいえ、nexusの姿に一輝達の姿を感じ取ったからなのかもしれない。

 

 

「──大変です!」

 

 

ライブも盛り上がり始めた矢先、突如、緊迫した声が割ってはいる。どうやら百貨店の関係者のようだ。

 

 

「ウ、ウイルスが!」

 

 

演奏の手も止まり、一体、何事なのかと関係者に視線が集中するなか、放たれた言葉。その言葉に一矢達は表情を険しくさせるのであった。

 

・・・

 

 

「ここのシミュレーターに感染してやがる」

 

「なんで!?クロノのヤツは逮捕したはずでしょ!?」

 

「分かるか。だが恐らくはネット上に潜んでいたんだろうな」

 

 

関係者から詳しい話を聞き、ガンプラバトルシミュレーターを調べたカドマツ。彼の言葉にクロノが逮捕された今、何故このようなことが起きるのか、問い詰めると、推測ではあるが答える。

 

 

「感染した結果、少し前にガンプラ大合戦ってイベントのデータが悪用されてる。フィールド上では頑駄無軍団と闇軍団の合戦が行われている。だが問題はウイルスによって強化されているせいで、戦いが激しければ激しいほど、その余波でシミュレーターを通じて百貨店のコンピューターがズタズタにされちまうってことだ」

 

 

これが何者かの犯行なのかは分からないが、このウイルスを放置されれば大変なことになることだけは間違いないようだ。

 

 

「…やることは分かりきってる。さっさとやろう」

 

「そうだねっ!」

 

「あのイベントかぁ…。若干、黒歴史なんだよなぁ…」

 

 

すると一矢が一歩、踏み出し、リミットブレイカーを取り出すと、ミサも力強く頷きながら彼と共に 戦う意志を示す。そんな二人の隣では、かつてのイベントで怒りに任せて戦ったことを思い出しているのか、夕香がむず痒そうにしていた。

 

 

「私も行くよっ!夕香となら怖くないしっ!」

 

「僕も兄さんのお下がりだけど、一緒に行きたいっ」

 

「まあそういうことだ。行くぞ」

 

 

参戦を表明したのは、一矢達だけではない。夕香に抱きつきながら、彼女と共に戦うことを決めた祐喜。かつて秀哉が使用し、今ではその頭部が塗装し直したストライクルージュの頭部を使用したPストライクCを持ち込んだ貴広。そしてその二人の兄である秀哉も次々と声をあげ、ヴェール達も頷き、カドマツのサポートのもと出撃していくのであった。

 

 

「俺達もカドマツさんのサポートに回るよ」

 

「分かった!」

 

 

出撃した一矢達が既に両軍とバトルを行うなか、ライブどころではなくなったnexusも動いていた。准と憐がカドマツのもとへ向かうなか、一輝もバトルに参加しようとするのだが…。

 

 

「…っ」

 

 

そこで足が竦んでしまう。なぜなら、下手に動いて、今までひた隠しにしたnexusのメンバーの一人であることを知られてしまうのではないのかと思ったからだ。

 

 

「!」

 

 

しかしそれでもウイルスとの戦いは続いている。正体を知られたくないと果敢にウイルスと戦うリミットブレイカー達を見ていた一輝だが、ふと視界の端にあるものを捉える。それはRX-78-2 所謂、初代ガンダムの完成品のプラモが展示されていることに気付く。

 

・・・

 

 

「うくっ!」

 

 

両軍を相手に戦闘を繰り広げるガンプラファイター達。しかし過去のデータとはいえ、強化されたNPCを相手に苦戦しており、殊更、バトルの経験が少ない貴広は苦戦を強いられていた。

 

貴広のPストライクCに迫り来るNPC。その凶刃が振り下ろされそうになった時、NPCが撃破される。見てみれば、祐喜のフルアーマーガンダムによるものだったのだ。

 

 

「だいじょーぶ?私の後ろに隠れてても良いよっ」

 

「まだまだやれるよっ!」

 

 

あえて貴広をからかう祐喜に彼女の真意を理解しながら貴広は奮い立つ。そんな二人に迫るNPCが再び迫るが、それを一瞬にして撃破したのは秀哉のストライク・リバイブだった。

 

 

「二人とも援護は頼んだぞ!」

 

「分かった!サポートならっ!!」

 

「アイアイサー!ぶっぱしちゃうんだからねっ!!」

 

 

秀哉は素早く声かけをすると、貴広と祐喜はすぐさま反応して、根城三兄妹は動き出す。ここの実力差はあろうとも、彼等はその兄妹としての絆によって、彼等だけの連携を作り出しているのだ。

 

 

「──ッ!? MAだと!?」

 

「PGもいる!こんなの大合戦のとき、いなかったよっ!?」

 

 

快進撃を続ける根城三兄妹。状況も少しずつ好転していくなか、戦場に新たに投入されたのはアッザムなどのMAやPGだったのだ。秀哉や祐喜が驚くのも束の間、MAやPGから一度、火を吹けば甚大な被害を齎しそうなほどの攻撃が放たれそうになった瞬間──。

 

 

「させるかッ!」

 

 

気を引くようにビームがMA達に降り注ぐ。何者か見てみれば、そこにはRX-78-2 ガンダムの姿が。

 

 

「大丈夫!?秀哉、みんなっ!」

 

「あれ、バンドの人だよ!

 

「バトルできたの?」

 

 

するとガンダムから通信が入る。モニターに表示されているのはあのnexusのメンバーの一人ではないか。感激している祐喜と狙い澄ました射撃を見て、貴広はその腕に驚く。

 

 

「カドマツさん、指示を貰っていいですか!?」

 

《構わんけど、何でお前さん、俺の名前知ってるんだ?》

 

「…確かに。俺の名前も口にしてたし」

 

 

ガンダムを操りながら、カドマツに指示を仰ぐ。しかしそれが一輝であることを知らず、あくまでnexusのメンバーだと思っているカドマツと秀哉は訝しんだ様子だった。

 

 

「えっ!?あっ、いや、軌道エレベーターの演説とかでカドマツさんは有名な人だし、秀哉君はここらだと名前は聞くし…!?」

 

 

怪しがっているカドマツと秀哉にしどろもどろになりながら何とか誤魔化す一輝。どうやらそこまで正体が知られたくないようだ。そんな矢先、MAやPG達に更なる苛烈な稲妻のような攻撃が降り注ぐ。

 

 

「無駄口は後にしろ。全く…ウイルスだの暴走だの…やっと解放されたと思ったのに」

 

「イッチ、ピリピリしてるねー」

 

 

そこにはリミットブレイカーをはじめ、ミサやヴェール達の機体があった。そんな中、不機嫌さを隠すことなく、憎々しげにウイルスを見やった一矢は狙いを定め、動き出す。そんな兄の姿に肩を竦めながら、夕香もその後を追っていき、バトルは更なる激しさを見せていくのであった。

 

・・・

 

 

《…データ収集》

 

 

その戦いをネットワーク上から監視する黒幕がいた。今回、収拾されたデータが後のガンダムブレイカーズへ組み込まれることをこの時、誰も想像していなかった。

 

・・・

 

 

「なんとかなったな」

 

 

何とかウイルスを駆除したファイター達。仮面を外し、一息つく一輝に准が声をかける。その隣には憐の姿が。

 

 

「ライブは散々になっちゃったけど…」

 

「またやれば良いよ。その気持ちさえ失わなければ、いつだって出来る」

 

 

ウイルスのせいで折角のイベントが台無しになってしまった。残念がる憐に一輝も同じ気持ちではあるが、それでも彼を励まし、三人は笑い合う。

 

 

「──あれ!?」

 

 

そんな矢先、笑い会っていた一輝達をバトルを終えて休憩していた秀哉が気付いた。

 

 

「一輝!お前もいたのか!どこにいたんだよ!」

 

「えっ!?あっ、うん、まぁ…」

 

 

彼はずっとここにいたのか、だとしたら何故手を貸さなかったのか、一輝を問い詰める秀哉。そんな彼の追及に正体を明かせず、一輝はしどろもどろになってしまう。そんな騒がしい時間のなか、今日もまた終わっていくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

気高き獅子の如く

今日は二話連続投稿です。
前話は前書きの通り、トライデントさん。今回は私の原案のものです。


──ラグナ・ウェインに実の両親の記憶はない。

 

それは彼が物心つく前に両親を事故で失っているから。だから彼は両親についてを人伝にしか知らない。たから実の両親についてもガンプラバトル、そしてモデラーとして名を馳せたという程度にしか知らないのだ。

 

だから彼にとって親と呼べる存在は…。

 

 

『ラグナ、おいで』

 

 

時に偉大なる父のように、時に柔らかな母のように…。自分にとって清廉な彼の英雄の存在こそ目指すべき背中だったのだ。

 

それだけではない。英雄の周囲には人が絶えず取り囲んでいた。その誰もが強く確かな芯を持った人物であり、そんな人間達と接することでラグナ自身の成長に繋がっていったのだ。

 

幼い頃の自分にとって、周囲の存在はあまりにも大きな存在だったのだ。自分はそれを常に見上げることしか出来ない。

 

別にそのことは大して気にしたことがなかった。なぜなら彼にとって、それこそが当たり前の環境だったから。自分だけが小さな存在だったから。

 

だが突然、その日は訪れた。

 

 

『ラグナ。今日からお前の妹になる奏だ。今日からお前はお兄ちゃんになるんだ』

 

 

自分よりずっと、ずっと小さな存在…。いざ実際に自分の両腕に何とか納まるような存在を見ると、どうしても良いか分からなくなってしまう。

 

だが、それでも……。

 

突然、出来た妹は大きな存在が当たり前だった彼にとって初めて出来た小さな存在だったのだ。

 

・・・

 

 

「…ラグナ」

 

 

伸び伸びと気持ちの良い日差しが窓から注ぎ込むある日の休日、居間でBB戦士 孫策サイサリスを作成していたラグナ少年九歳は翔に声をかけられる。

 

 

「少しブレイカーズに急用が出来てしまってな。奏と留守番をしていてもらって良いか?」

 

 

反応して、振り向いたラグナに翔は仕事で何かあったのか、留守番を頼んできた。コロニーも数年前に打ちあがり、複数店展開しているブレイカーズも今では地球を出て、宇宙にも店を構えている。翔も多忙な毎日を送っていた。

 

とはいえ、そんなことも微塵も感じさせず、コクリと頷いたラグナを見て、柔和に微笑んだ翔はラグナに合わせて屈むと、自身が抱えている無垢な瞳でラグナを見つめる奏を彼に受け渡す。しかしまだ子供を抱きなれていないラグナはおっかなびっくりでその両腕にまだ一歳になる奏を抱く。

 

両腕に何とか収まる奏はぱぁっと笑顔を向けて喜んでいる。まだ生まれて一年になる奏の反応の全てがラグナにとって新鮮なのだろう。奏の行動全てに驚きながらも目を輝かせ、その一つ一つを見逃さないと興味津々なようだ。

 

 

「じゃあ、行って来る」

 

「い、いってらっしゃい」

 

 

そんなラグナの姿を微笑ましそうに見ていた翔は軽く手を振り、ラグナが見送りを受けながら家を出ていく。

 

 

「えっと、その…」

 

 

翔が出て行って、数分。居間で奏を抱きかかえたままラグナは固まっていた。と言うのも奏とこうして二人きりで世話をするのは初めてだからだ。だからこそ二人だけの空間で、まずどうして良いか分からなかった。

 

 

「ちっちゃいなぁ…」

 

 

なにをしているんだろうと、立ち尽くしているラグナを無垢な瞳が見つめる。視線に気付いたラグナが奏を見やると、キャキャ、と反応している奏についつい笑みを浮かべながら、その手を握る。

 

すると程なくしてインターフォンが鳴り響く。大きく身を震わせて驚いたラグナがリビングのモニターで確認してみれば、そこには優陽がカメラ越しで人当たりの良い笑みを浮かべながら手を振っていた。

 

・・・

 

 

「優陽さん、こんにちは…」

 

「やっほー、ラッくん。翔さんから頼まれて、様子を見に来たよー」

 

 

玄関の扉を開いてみれば、ラグナにとって性別不詳の優陽がウインク交じりで挨拶をしてきた。どうやら外出した翔が心配して、優陽を頼ったらしい。

 

 

「ラッくん!歌音もいるのーっ!」

 

「か、歌音ちゃん…」

 

「僕も歌音ちゃんを預かっててね。みんなで仲良く翔さんを待ってよっか」

 

 

優陽を見上げてばかりだったラグナに等身大の位置から声をかけられる。何とそこには小さなサイドテールをちょこんと纏め、くりっくりな瞳で元気に話す幼き歌音の姿が。歌音の勢いに押され気味のラグナに微笑みながら、優陽は歌音と纏めて、ラグナ達の世話役のため、如月家に足を踏み入れる。

 

・・・

 

 

「とりあえず、なにか見ながら遊ぼうか。SDガンダム辺りかな?」

 

「ぼっぴーんっ!」

 

 

如月家のリビングにて、映像機器の周囲の戸棚に収納されている歴代ガンダムシリーズの映像BOXを前にどれにしようか悩んでいる優陽。一先ずSDガンダムを選んだ優陽に歌音はなにやらずっこける。その後、テレビにガンダム作品を流しながら、優陽はボール遊びなどでラグナ達を賑わせていた。しかしその間も奏は歌音や優陽と接するものの、ラグナにずっと引っ付いていた。

 

・・・

 

 

「寝ちゃったみたいだね」

 

 

それから数時間後、すっかり遊び疲れてしまったのだろう。奏と歌音は眠ってしまっている。スヤスヤと眠る奏を一瞥しながら彼女を抱えているラグナに声をかける。

 

 

「お疲れさま、お兄ちゃん。ラッくんはなにかしたいことある?」

 

「えっ?」

 

「ずっと歌音ちゃんや奏ちゃんが喜びそうなことしてたからね。今ならラッくんがしたいこと、なんでもしてあげるよ?」

 

 

テーブルに両肘を置き頬杖をつきながら保母のような温かな笑みを見ながら小首を傾げて問いかけてくる優陽に驚く。

 

今日は奏や歌音に合わせて遊んでいた。ラグナも兄の立場から合わせてくれたようだが、彼もまだ幼い子供。したいこともあるだろうと彼に気を利かせての問いかけだった。

 

 

「だったら…おとうさんの話が聞きたいですっ」

 

「お父さんって…翔さん?」

 

 

とはいえ、いきなり言われても浮かんでこなかったのだろう。頭を悩ませていたラグナだが、やがて思いついたのだろう。瞳を輝かせて、前のめりで答えたその内容に優陽が一瞬、実父なのか翔なのか判断がつかずに問い返すと、どうやら翔だったようだ。

 

 

「そっかそっか。じゃあ始めるよ?」

 

 

普段の優陽なら翔の女性問題を面白おかしく話すところだが、相手はまだ純粋な子供。であれば変に取り繕わず、ありのままの英雄を話すべきだろう。さながら物語の語り部のように話し始めると、ラグナはワクワクしたような面持ちを浮かべる。

 

それから優陽が知っている翔の話をラグナを退屈させないように、ユーモアを交えながら話す。まるでヒーローのように話される翔の過去の活躍に瞳を輝かせていると、不意にインターフォンが鳴る。

 

優陽が確認してみれば、そこには一矢とミサに雨宮夫妻の姿があった。

 

・・・

 

 

「ブレイカーズに寄ったら、翔さんからラグナ達の話を聞いて、来てみたんだ」

 

「久しぶり、ラグナ君っ」

 

 

リビングに通された一矢達。優陽と会話をしている一矢と自分に挨拶をしてくる。しかしラグナの驚きは雨宮夫妻よりもその傍らに控える一角の騎士とミサが抱える赤ん坊だった。

 

 

「あぁ、そう言えば会うのは初めてかな。娘の希空とそのトモダチのロボ助だよ」

 

 

ラグナの視線に気付いたのだろう。抱かかえるまだ生まれたばかりの希空とロボ助を紹介する。そう実はミサも最近、産婦人科から退院したばかりなのだ。

 

 

「ちっちゃい…」

 

「うん、だからなにかあればラグナ君がお兄ちゃんしてくれると嬉しいな」

 

 

奏よりも更に小さな希空に戸惑いに似た驚きの反応を浮かべるラグナに希空を抱え、慈しむように微笑みながら、ラグナに頼むと、ラグナはコクコクと頷く。

 

 

「これは…孫策サイサリスか」

 

 

すると一矢がテーブルに置かれていた作りかけの孫策サイサリスを見つける。まだ幼いラグナが作成したと言うこともあり、ホイルシールがずれている部分もあるが、よく出来ている。

 

 

「…その、カッコ良くて…」

 

「あぁ確かに格好良いよね、孫策」

 

「【命を懸けて家族を守ることの何がくだらない!】ってね。もしかしたら天玉鎧に選ばれてたかもしれないんだよね。この後の孫権も格好良かったし」

 

 

どこか気恥ずかしそうに話すラグナに孫策サイサリスの活躍を振り返りながら、それはそれで盛り上がっているミサと優陽。

 

 

「うん…。僕も孫策や孫権みたいになりたいなって…」

 

 

ラグナ自身も孫策サイサリスの活躍は知っているのだろう。テーブルに置かれている孫策サイサリスへの視線は、まさにヒーローに憧れる少年そのものだ。

 

 

「奏は僕より小さいから…だから僕が守らないと…。僕は奏にとって強いお兄ちゃんでなりたいから」

 

 

奏が現れるまでラグナの周囲は常に大人が、外面内面問わず大きな存在ばかりだった。だが奏は違う。奏は自分よりも小さいのだ。だからこそ守らなくてはならない。自分がそうしてもらっていたように、大きな存在でありたいのだ。

 

 

「ふふっ、ロボ助と仲良くなれそうだね」

 

「どういうことだ?」

 

「ロボ助のAIには、ロボ太の他に私の知ってる不器用ななお兄ちゃんをベースにってカドマツに頼んだからね。不器用な、ね」

 

 

そんなラグナについついミサが微笑む。だが何故、ロボ助なのかと一矢が投げかけてみれば、どこか含みのある笑みを浮かべながら、ミサは一矢をチラリと見る。

 

 

「でも、うん。きっとラッくんは大きなお兄ちゃんになれるよ」

 

 

するとラグナを見つめていた優陽は自信を持って、そう答える。一矢とミサが優陽の視線を追うようにラグナを見れば、ずっと自分から離れようとしない奏を優しく撫でるラグナがいた。今日、長くラグナと接していた優陽は常に奏がラグナから離れようとしなかったのを知っているのだ。

 

 

「すまない、少し遅くなった」

 

 

しばらくして、漸く翔も帰ってきた。翔の帰宅に嬉しそうな笑顔を浮かべるラグナは駆け寄ろうとするが、自分の服の袖を掴む奏がいるので我慢していると、優陽達に礼を言っていた翔からラグナのもとへ歩み寄る。

 

 

「ありがとう、ラグナ」

 

 

翔はゆっくりと座ると、ラグナの頭を撫でる。その母のような温かな笑みの翔を見て、ラグナも子供らしく嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

 

「ケーキを買ってきたんだ。みんなで食べよう」

 

 

すると翔は帰りしなに買ってきたホールケーキをテーブルに置く。色とりどりのフルーツで作られたケーキを前に子供達は瞳を輝かせ、ミサはカットするために翔から包丁の位置を聞き、程なくして人数分カットされる。

 

 

「美味しいっ」

 

「ホント?ラッくんのもちょうだい」

 

「歌音ちゃんと同じものだよぅ!」

 

 

ケーキを頬張った途端、子供らしい跳ね回るような喜びを見せるラグナ。大人達が微笑ましそうに見ているなか、ラグナのケーキを横取りしようとする歌音から自身のケーキを遠ざける。

 

 

「…ん?」

 

 

その時、なにやら奏が指を咥えてラグナを見ていることに気付いた。どうやらケーキに興味があるようだ。

 

 

「…ケーキって食べさせても良い?」

 

「ケーキはまだ早いけど、生クリームなら本当に少しだけなら良いって話は聞いたよ」

 

 

ケーキを分けようと思ったのだろう。ラグナの問いかけに一同、視線を通わせると、代表して母親であるミサが微笑ましさから頬を緩ませながら答える。

 

 

「奏、あーんして」

 

「あー…」

 

 

奏への安全面を考慮してか、小さなプラスティックスプーンで言われたとおり、スプーン一さじ分を取り、奏に食べさせる。するとたちまち奏は嬉しそうな顔を見せ、ラグナだけではなく、大人達も微笑む。

 

 

「ラッくん、歌音もあーってしてるよ」

 

「だからあげないてっ!」

 

 

しかしそんなことは全くお構いなしの歌音がラグナに口を開けて詰め寄り、ラグナは子供ながら大声でツッコむ。面白くも、温かな時間を今、ラグナ少年九歳は過ごす。

 

 

 

 

 

 

そして時は経ち…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

《──おぉっと、ガンダムブレイカーブローディア、膝をついた!二連覇の夢は叶わないのか》

 

 

それから14年後に執り行われたグランドカップには成長したラグナ・ウェインの姿があった。グランドカップのバトルもいよいよ決着の時が迫っていた。

 

長い激闘のなか、ガンダム試作3号機をベースにしたガンダムブレイカーブローディアが膝をついていた。その騎士のような外見も戦闘による損傷が目立っている。

 

 

「…ッ」

 

 

ラグナの額から汗が流れ落ちる。もう集中力もとっくに切れている。だがそれでも戦えているのは、彼の精神力によるものだろう。

 

相手のガンプラが自分の目の前に降りたち、最後の勝負をかけようとする。それに応えるようにブレイカーブローディアもGNバスターソードを杖代わりに立ち上がり、気合を入れ直すかのように一振り、大きく振るって構える。

 

 

「奏が見ていますからね…」

 

 

想いを馳せるのは奏へだ。このバトルを多くの存在が見ていることだろう。だが何よりも今、ラグナが考えたのは奏だったのだ。

 

その瞬間、相手MSが地を蹴って迫る。

 

ラグナも全てをここに込めるとばかりに目を鋭く細めて、ブレイカーブローディアの全霊の一撃を放つ。

 

 

一閃。

 

 

二機のMSが交差し、静寂が包み込む。

 

誰しもが息を呑むなか、相手MSは崩れ落ち、爆発するのであった。

 

・・・

 

決勝終了後、相手チームとの握手を交わすラグナへ沸き上がるような歓声が響く。どこを見渡しても自分への称賛の声が聞こえてくるなか、観客席の中から歌音や希空達と応援に駆けつけた奏を見つける。

 

 

「私は強いですよ。なにせアナタがいますから」

 

 

ラグナの勝利に感極まって涙を流して、安堵していた奏ラグナの視線に気付き、大きく手を振っていた。これで近くにいるのなら抱きついていることだろう。って言うか、この後された。奏をあやしながら、目尻に涙を浮かべる歌音と視線を交わしながら、ラグナは奏に背を向けて、決勝ステージを後にする。奏はその大きな背中を目に焼き付けるのであった。

 

・・・

 

そして現代、ラグナはボイジャーズ学園の教職員として多忙な毎日を送っていた。

 

 

「ラグナーっ!」

 

「こら、学校では先生と呼びなさいと言っているでしょう」

 

 

学園 では希空の次にラグナに構ってくる奏。希空第一なのは少し寂しいところはあるが、それでも奏との時間はやはり楽しい。学園でも注意したところで、ラグナもつい甘やかしてしまうところがあるのだ。

 

 

「ふうぅっ…ラグナは雄っぱいはいいなぁっ…」

 

(…大きくなると望みましたが、そういう意味では…)

 

 

普段の学園生活では凛とした生徒会長も希空へはボンコツ、ラグナへは甘えたがりの妹になる。厚みのある胸部に飛び込んでは、だらしのない顔を見せる奏にラグナは苦笑する。

 

 

(ですが、アナタが健やかに成長し、この身を望まなくなるまでは兄として大きくあらねばなりませんね)

 

 

胸に顔を埋めて、外はねの髪をぴょんぴょんと動かしている奏に苦笑しながらも、優しくその頭を撫でる。撫でられている奏はまるで犬か何かのようだ。そんな胸部の奏を見下ろしながら、気高き獅子は優しく微笑むのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

70000UA記念小説
It’s my life


人気投票を勝手にやっておきながら上位キャラをメインにしたSSを書くという話をいまだにやっていなかったのでこの機会に……。


 晴々とした太陽の下、空港では一人の女性が歩いていた。彼女が身に纏うオーラというべきか、すれ違う人々が足を止めて振り返るなか、女性は空港を出て、澄み渡る青空を仰ぎ見る。

 

「うーん、ひっさしぶりに帰ったなぁーっ」

 

 飛行機での長時間の移動だったのだろう。思いきり背伸びをしながら心地の良い日差しを気持ち良さそうに全身に受けた女性は近くのタクシーを呼び止めて、目的地に向かうのであった。

 

 ・・・

 

 それから数時間。一方、ここは雨宮宅。妻であり、母であるミサが冷蔵庫の中身を確認して、うーんと何やら考えているなか、リビングのソファーでは一矢と帰省している希空の二人が並んで座っていた。いや一矢が座ってれば、いつの間にその隣にそれとなく座っては自分の時間を過ごしている希空である為、その光景自体は物珍しいというわけではない。

 だが今日に限っては二人とも、妙にソワソワした落ち着かない様子なのだ。一矢は先程からチラチラと腕時計を確認しては「そろそろなんだけどな……」と呟き、希空も所在なさげに視線を彷徨わせている。

 

 その時であった。

 ピンポーンとインターフォンの音が雨宮宅に響き渡り、雨宮父子はビクッと反応するなか、一人、普段通りのミサは「ハーイ」とインターフォン越しに来客を確認すると玄関先に向かう。ガチャと玄関が開き、ミサと来客が早々に盛り上がっているなか、程なくしてミサによって来客がチビングに案内される。

 

「やっほー。イッチも希空も久しぶりだねー」

 

【挿絵表示】

 

 雨宮父子と同じ鮮やかな茶髪に真紅の瞳。希空のような若々しい可愛さとは種類の違う熟成された美しさを持つ女性……そこにいたのは一矢の双子の妹である夕香であった。30年前と変わらぬその飄々さで軽い挨拶を送る。

 

「ゆ、夕香叔母さん、お久しぶりです……っ!」

「ねー。希空も前より可愛くなったじゃん。すっかり背も伸びちゃって大きくなったなー」

 

 待ちきれなくなったとばかりにソファーが立ち上がって、駆け寄ってくる希空に夕香も久しぶりの再会を喜んで希空の頭を撫でると希空ははにかみながらされるがまま受け入れロボ助は無言でカメラに収める。

 

「希空の活躍はいっつもチェックしてたよ。グランドカップ凄かったね」

「わ、私も夕香叔母さんが出てるテレビや雑誌、レギュラーのラジオはいつもチェックしてますっ。本も出版される度買っていて……!」

「あー。そういやトークショーとサイン会に来てくれたっけな。何の連絡もなかったからビックリしたよ」

「この前、新しく出した本も買いました……。ま、またサイン欲しい、です……」

 

 夕香は出版社やヴィレッジを立ち上げて成功したりと今や実業家でありつつもメディアなどマルチで活躍している著名人であり、それこそあくまでガンプラのカテゴリーで有名な一矢よりもその存在は世間に周知されているだろう。

 普段の落ち着いた様子から考えられない程、グイグイと熱のある言葉で話す希空もまた夕香に憧れているのだろう。緊張帯びた様子で夕香が最近出版した本を差し出すと「あいよー」と慣れた様子でサインペンと共に受け取り、サラサラとサインを書く。

 

「けど、夕香ちゃんは相変わらず若々しいねぇ。羨ましいよ」

「まあ好きな事してるしねー。けどミサ義姉さんだって綺麗なままじゃん」

「もぉお世辞はいいよ。夕香ちゃんは翔さんと同じカテゴライズじゃないかな」

「いやいやそれは言い過ぎだよミサ義姉さん。あの人はおかしいから。正直、30年前から見た目が全く変わらないんだよ? あれはスキンケアとかそういうレベルじゃないね」

「この間、ラグナ君が翔さんとたまたま道に迷ってる人を案内してたらラグナ君より年下だと勘違いされてたって言ってたっけ……。……あの人、実はリボンズみたいなイノベイドだったりしない?」

 

「わぁっ……」と瞳を輝かせてサインが記された著書を見て喜んでいる希空を横目にミサは夕香の若々しさを翔を引き合いに出して褒めるもいまだ20代後半の外見である翔に関しては周囲もその異常さは薄々感じているのか夕香も苦笑してしまい、言い出しっぺのミサも何とも言えない様子だ。

 

『このガンプラこそ…人類を導くガンダムブレイカーだ!』

((うーむぅ……))

 

 リボンズの名前が出たせいでミサと希空の脳内でダブルオーライザーをベースにした奏のブレイカークロスゼロに対して傲慢な態度でブレイカーインフィニティを操る翔の姿が浮かび上がるが、あまりに似つかわしくなくすぐに脳内から泡のように消える。

 

「……元気そうで安心した」

「……イッチもね」

 

 一方でロボ助、特にロボ太との30年越しの再会を喜んでいる夕香に静かに一矢が声をかける。

 向かい合って穏やかに微笑み合う二人は長話よりもその短い言葉だけで十分なのだろう。一矢と夕香、この双子の独特の距離感は長年、妻として連れ添ったミサや娘の希空でも作れるものではないのか、ミサと希空は顔を見合わせて苦笑混じりに肩を竦める。

 

 ・・・

 

「んー……。やっぱミサ義姉さんの料理は最高だねぇ」

「夕香叔母さんの手料理も美味しかったです。パパも喜んでました」

「アレは母さん直伝だからね。全く同じには出来ないけど少しは近づけたかな」

 

 夕香が遊びに来たということもあり、雨宮家では細やかながらちょっとしたパーティーが行われていた。

 食事を終え、夕香は片付けを手伝おうとしたものの一矢とミサにゆっくりしててと止められてしまい、縁側で夜空を眺める希空に持ってきた二人分の飲み物の片方を渡しながらその隣に座ると今日のパーティーの感想を口にして笑い合う。

 

「……うん、ホントに希空は前より可愛くなったね」

「……そう、ですか? 自分では分からないです」

 

「お祖母ちゃんか……」と自分も料理を教わろうかと考えていたら、不意に希空の横顔を見つめていた夕香に指摘され、照れくさそうに視線を逸らす。

 

「この前会った時は目に見えて余裕がなさそうだったからね。これでもアタシなりに心配してたんだよ?」

「あー……。あの頃のことはちょっとした黒歴史ですね」

 

 奏への劣等感、ガンダムブレイカー、そして覚醒への渇望。それが希空を惑わせ、彼女自身から余裕を奪い、常にピリピリとどこか苛立っていた。今でこそ彼女なりのアイデンティティを手に入れたお陰でその事で悩むことはなくなったが当時過ごしていた時間は消えず、時折、頭痛の種のようになってしまっている。

 

「……でも、だから夕香叔母さんに憧れたんだと思います。叔母さんはいつだって自由で、何にも囚われない鳥のような人だと思ったから」

「鳥、ねぇ……」

 

 希空が夕香に憧れたのは成功を収めた著名人だからではなく、その生き方なのだろう。だから少しでもそれを糧にしてガンダムブレイカーに囚われる自分を変えたいと彼女の本を買ったりトークショーにも出向いたりもした。しかし当の夕香は自由に飛び回る鳥と形容され微妙そうな面持ちだ。

 

「別に鳥は自由なわけじゃないよ。餌を探したりとか、まっ、渡り鳥なんかがそうだよね。そうしなきゃ死んじゃうから鳥は飛ぶんだよ。鳥が自由だと思うのはまあ、隣の芝生はって奴なのかね」

「……」

「アタシも今じゃ成功してるとか言われてるけど苦労がなかったわけじゃないからね。これまでの道のりで落としてきたものもあるし、拾い集めたものも沢山ある。皆そんなもんだよ。希空だってこれから落としていくものはあると思う。こんな筈じゃなかった、そう考える事もこれからいっぱいあるでしょうよ」

 

 かつてセレナが鳥を自由だと感じていたのが最たる例であろうか。しかしそうではないのだと夕香は否定しながらこれまでの人生を振り返りながら希空に助言を口にする。

 

「まっ、そういう時はふらっと立ち寄った飲み屋で一杯飲んで、こういう日もあるかって流し込んだ後、みっともないくらい愚痴れば良いよ」

「まだお酒飲めないです。でも……飲めるようになったらすぐ叔母さんと飲んでみたいです」

「嬉しいねぇ。でも希空の初めてのお酒を一緒に飲みたい奴はいっぱいいるだろうし、倍率は高そうだねー」

 

 飄々とおどけながら夕香なりにこれから多くの分岐点に立たされるであろう希空にエールを送ると希空はある意味で憧れがあるのか、夕香と一緒に酒を飲む姿を想像している一方で当の夕香は背後から娘が願う初めて共にする酒の相手がが自分ではなかったことに対して双子の兄の恨めしそうな視線を感じながら変わらず飄々と流すのであった……。

 

 ・・・

 

「それじゃあまた遊びに来るよ」

 

 翌日、朝日を受けながらキャリーバッグを持った夕香は雨宮家の人々か見送りを受けていた。

 昨日は全員が楽しい時間を共有していたのだろう。その場にいる全員の表情は誰もが名残惜しそうであった。

 

「夕香叔母さん、様々なグレードのバルバトスを用意して待ってます」

「バルバトスかぁ。やっぱバルバトスが一番好きだなー。今度、一緒にパライソに出来たガンダムグレートベース二号店に行こうか」

 

 いまだ夕香のフェイバリットはバルバトスなのだろう。元々ファイター達ほどガンプラを作らない夕香ではあるが、喜ぶであろうと最近コロニーに出来た大型施設について触れると希空はたちまち嬉しそうな表情を見せる。

 

「んじゃ、皆元気でねー」

 

 話もそこそこに夕香には次のスケジュールが所狭しと残っているのだ。名残惜しさを振り切った夕香は笑みを見せながらウインク交じりに雨宮宅をあとにしていく。

 

 ・・・

 

「……お?」

 

 程なくして適当なところでタクシーを呼ぼうかと考えていた夕香だが自身の近くに見慣れた高級車であるリムジンが停車する。頃合いを見計らっていたのだろうか? しかしすぐに夕香は微笑みながらリムジンの後部座席に乗り込む。

 

「迎えに来るなら言いなよ」

「こっちの百貨店が振るわないんでね。視察ついでだよ」

 

 運転を旧知の間柄であるメイドに任せつつ後部座席には仕立ての良いスーツを着用している金髪の男性が座っていた。当然のようにその隣に座りながら軽口を言うとあくまでついでである事を強調し、それが夕香を微笑ませる。

 

「こうなるんだったらアンタも遊びに行けば良かったのに」

「行けば一矢とドローになった飲み比べの続きになりそうだから止めたんだよ」

「あぁ……終いには散々酔った状態でガンプラバトルしようとしてミサ義姉さんと止めたんだっけ」

 

 ここまで近くに来たのであれば彼も来れば良かったのにと残念がっている夕香に「この後が休みなら良かったんだけどね」と軽口を言いながら男性は肩を竦め、夕香は夕香で当時の惨劇を思い出して頬を引き攣らせる。

 

「「……」」

 

 とはいえ、いつまでも会話が続くわけではないのか。無言の空間が広がる。しかし苦になるような静寂ではない。寧ろお互いを知っているからこそ心地の良い静寂であった。

 

「……なんだい?」

 

 すると夕香は隣に座る男性にもたれかかったではないか。突然のことに驚きながらも男性は夕香の髪を撫でる。

 

「……いやぁ、希空にくっさい助言を自分の過去を交えて話したもんだからね」

「過去?」

「ずっと思うようにいかなくて行きつけのバーでみっともなく愚痴ってたこと」

 

 間近に男性の存在を感じながら昨日の希空とのやり取りを思い出す。随分と自分らしくないことをしたなぁと苦笑しながらまだ二十代半ばで追い込まれた日々を思い出す。

 

「……その時にさ。偶然を装って店に来て、いっつもアタシがスッキリするまで愚痴に付き合ってくれた奴がいるなぁって」

「装っていない、偶然だ。ま、君はシオンくらいにしか滅多に弱さを見せなかったからね。あの頃、何度か飲んでやっと君の愚痴が聞けた時は嬉しかったけどね」

「……全くさ。そんなことされてたら元々悪く思ってなかったのに、引き下がれなくなったじゃん」

 

 夕香が苦しんでいる時、無茶なスケジュールにしてでも駆けつけて話を聞いてくれた。最も男性はそれがあくまで偶然であることを強調しつつもさらりと臆面もなく口にした言葉に夕香はたちまち顔を背けて気恥ずかしそうにする。

 

「昔は迫っても逆に挑発してくるような小悪魔だったのに、今ではすっかり可愛らしくなったものだ」

「……アンタの隣にいる時はこの関係の通りの存在でいたいだけだよ」

 

 昔は散々夕香に誑かされてきたが、今では夕香自身も男性の前では照れが多くなってきた。その事を夕香の髪を撫でながら話していると不意に顔を背けていた夕香は男性に視線を戻すと二人は数秒の間見つめ合い、静かに唇を軽く重ねる。

 

「……あー、年甲斐もなくイチャついてるところ申し訳ありませんが、目的のゲームセンターに到着しました」

 

 するとスピーカー越しにメイドの声が聞こえてきて、二人はスゥーと距離を取りつつ夕香は窓から見えるゲームセンターに首をかしげる。百貨店は兎も角、なぜゲームセンターに来たのだろうか? しかしその疑問はリムジンに乗り込んできた二人組によって明かされる。

 

「パパ、ママ。このゲームセンターで全勝してきた。褒めて褒めろ」

「……いやー、殆ど姉さんが倒したせいで出番がなかったねー」

 

 乗り込んできた二人組はどちらも金髪で特徴的な真紅の瞳を持っていた。二人は姉弟なのだろう。さあ来いとばかりに両腕を広げて褒めろとせがむ姉に弟は苦言を呈す。

 

 そう、この二人は夕香と……彼女の隣に座るウィルの子供達だ。

 

 家族が揃って賑やかさが増していく車内で夕香は微笑む。色んな事があった。嫌な事も全てを投げ出したくなる時も。だが今、それが目の前の光景に繋がるのであればこの人生は悪くない、いや上々だ。これが私の人生だと愛しい存在達の輪に入っていくのであった。

 

 ・・・

 

「──ふむ……」

 

 一方、気持ちの良い日差しが降り注ぐ青天の下、商業施設近くのベンチには翔の姿があった。

 その手には一冊の本があり、それは最近夕香が新しく出版したエッセイだ。読了した翔は余韻に浸るようにパタンと本を閉じるとゆっくりと目を閉じる。それから暫くして目を開けた翔はエッセイのタイトルを見やる。

 

「It’s my life……か。俺の人生は……」

 

 エッセイのタイトルを口にしながら、彼は己の人生を振り返ろうとするが、スッと目を細めた後、思考を遮断するように再び目を閉じると静かに立ち上がる。

 

「俺はまだ……答えのない探し物をずっとしている」

 

 一体、クロノの一件の後、彼はこの30年の間、何を想いどう生きてきたのか。ただ一つ言えることは彼もまた旅の途中にいるということだ。

 

「──二人とも頑張ってーっ!」

 

 そんな矢先、ふと底抜けに明るい少女の声が聞こえる。

 翔が視線を向けた先には赤いリボンのカチューシャをつけた少女が目の前にいる二人組に精一杯の声援を送っていた。

 

「行くぞ、アヤト!」

「オッケー、タツ兄!」

 

 少女の声援を背に受けながら柔らかな顔立ちの二人はお互いに顔を見合わせて頷き合う。

 

「「俺色に組み上げろ、ガンプラッ!」」

 

 すると手を交差するように打ち鳴らした後、グッと拳を打ち付け合う。二人の手にはスマートフォンが握られており、目の前の筐体に接続すると起動と共にフィールドが形成されてガンプラのデータが投影される。

 

「……だからこそ時間も距離も、世界さえ越えて手を伸ばす。この瞬間の奇跡は嘘じゃないのだから」

 

 あの三人に何か感じるものがあるのだろう。無我夢中に目の前の出来事に突き進もうとする彼らを見ながら人知れず微笑んだ翔は“自分の世界ではないこの世界”から一人立ち去るのであった。

 




70000UA記念絵
W夕香

【挿絵表示】

夕香(現代)「……誰?」
夕香(未来)「うーん、我ながら小生意気な顔してるわー。シャアのオジサンには悪いことしたなぁ」
夕香(現代)「母さん……じゃないし、えっ、親戚の誰か?」
夕香(人妻)「誰でしょうねー。でも、ありがとね」
夕香(現代)「は? 何でお礼を言われなきゃ……」
夕香(47)「いやぁ、この頃のアンタの行動が今のアタシに沢山の大切な繋がりをくれたからね」

人気投票の上位が一矢、希空、ミサ、夕香、翔だったこともあり、やはり書くなら雨宮家。特に未来編に登場していなかった夕香をメインに彼女の状況、そして希空との絡みを考えての話でした。本来ならセレナ共々未来編に登場して希空に助言をする役回りだったんですけどね。まあセレナに関しては別の小説で迷えるキャラを導けたのでまだ良いのですが。

……しかし私が書いているキャラって基本、少年少女が多いせいかあまり大人を書けないんですよね。未来夕香が47に見えたら良いですけども

それととある理由で近々ガンブレディオをやる予定です。もしよろしければ活動報告に投稿いただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラジオ ガンブレディオ
ガンブレディオ 第一回


一矢&夕香「「ガンブレディオっ!」」

 

 

 

OP Mirrors(BACK-ON)

 

 

 

一矢「どうもこんにちは…。遂に始まってしまった【機動戦士ガンダム Mirrors】のラジオ・ガンブレディオ。その主人公をお呼びパーソナリティを務める雨宮一矢と…」

 

夕香「雨宮夕香だよー。このラジオは【機動戦士ガンダム Mirrors】の裏設定裏話なんかの普段、あまり出来ないような話をラジオ形式にして発信していこうって趣旨のモノだよ。事の発端は50000UAが突破したから何か大体的にやりたいってなって、これはその一環だね」

 

一矢「…」

 

夕香「どしたの、イッチ」

 

一矢「…やるのは良いけど、俺をパーソナリティにするのはマズくない?俺、喋るタイプじゃないし、下手をすれば放送事故に…」

 

夕香「そこら辺はイッチに期待してないっての。だからアタシもいるんだし…ま、イッチは気が向いたら喋る感じにすれば少しは気も楽になるんじゃない?」

 

一矢「…そうする」

 

夕香「じゃあ改めて…ガンブレディオ、はじまりはじまりー」

 

 

・・・

 

 

 

夕香「でもさあ正直、ここまで話が続くとは思ってなかったよね」

 

一矢「…ほんとそれ。まさか翔さんの【機動戦士ガンダム Silent Trigger】の倍以上、投稿することになるとは思わなかった」

 

夕香「それってやっぱりアレだよね。やっぱり色んな人達からオリキャラを投稿してもらったからってのもあるよね」

 

一矢「まぁ…全員は無理だとしても少なくともそのキャラに話を割く時はあるし」

 

夕香「そもそものキャラ募集したきっかけってのは何なの?」

 

一矢「それはやっぱり元のゲームの存在があるから」

 

夕香「と言うと?」

 

 

一矢「元のゲームは、ことあるごとにカスタマイズ機が乱入してくるだろ?ガンブレ2の時なら純正機体だったから特に気にせずに話が進行出来たらしいけど、ガンブレ3の場合、このカスタマイズ機達の扱いをどうするかって言うのが、そもそもMirrorsの構想を考えた時に一番にぶち当たった壁なんだって」

 

夕香「ふぅん」

 

一矢「まあそれで一人で考えるのも限界があるし、名有りキャラまでのバトルをダイジェスト的に進めても、ちょっと寂しいし、色んなカスタマイズ機を出す事によって話を広げて個性豊かなファイター達によるガンプラバトルを書いていこうってなって募集をかけたのが始まりだよ」

 

夕香「その結果、ありがたいことに予想以上に投稿していただいたんだけど正直、持て余してるよね」

 

一矢「改めて実力不足を痛いほど痛感したらしいな。このキャラの出番が、台詞が少ないとかってのは書いてる本人が一番分かってる事だし」

 

夕香「正直、がっかりさせちゃった人は多いんじゃないかな。本当に申し訳ないよ」

 

一矢「…ここら辺を掘り下げると暗くなっていくから、次のコーナーに行くか」

 

 

<裏話のコーナー>

 

 

夕香「まあさっきの話も裏話なんだけど、まあまたここでちょっとした裏話をしていこうかなってね」

 

一矢「なに話す?」

 

夕香「そだねぇ…。さっきの話が小説を執筆する前の裏話だったから、それに続いても執筆前に考えていた構想の中での没ネタなんかを話すつもりだよ」

 

一矢「没ネタはまあ…正直、多いよな。前作の本編最終回で没ネタの一部を書いたけど、それなりにあったし」

 

夕香「今回話す没ネタは主人公のことだよ」

 

一矢「主人公?俺?」

 

夕香「ちょっと違うかな」

 

 

夕香「元々ね、Mirrorsは女性主人公でやろうと思ってたんだって」

 

一矢「マジ?」

 

 

夕香「うん。で、主人公は…まあ厳密に言うと違うんだけどアタシだね」

 

一矢「えっ」

 

夕香「で、イッチは女の子でアタシの双子の姉になる予定だったんだよ」

 

一矢「えっ」

 

夕香「因みにこれがイッチ(プロト)のイメージ絵ね」

 

一矢「えっ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

一矢「…えぇー…」

 

夕香「ショック受けてるねー。まあ仕方ないよねー。でもね元々一番最初の構想としては【ガンプラどころか何にも興味がなかった女の子がミサに出会って楽しみを知り、やがてガンプラファイターとしての誇り(プライド)を得て世界に挑んでいく】って感じだったんだよ」

 

一矢「…へぇー」

 

夕香「でも、女性主人公って言うのが果たして一発ネタじゃなく続けているのかとか色々考えた結果、没になってね。そこから男性主人公にして、女の子だったイッチを男の子に変えて主人公に抜擢。話も【挫折した男の子がもう一度、新たな仲間と共に立ち上がり、世界に誇り(プライド)をぶつけていく】ってな感じになったの。まあ元々前作の続編ってのは確定してたんだけどね」

 

一矢「じゃあお前は元々予定してた女性主人公のキャラを流用してそのまま主人公の妹として落とし込んだ感じなのか…」

 

夕香「そゆこと。女性主人公ってのも外伝に流れていったね。ついでにイッチのキャラも作者の中のガンブレ主人公は寡黙ってイメージに当てはまっての抜擢ってのもあるけどね」

 

一矢「…俺って元々の構想の時点でもこんなキャラだったの?」

 

 

夕香「イッチ(プロト)はもっと酷いよ。元々イッチのモデルは【おそ松さん】の一松がモデルでさ。イッチ(プロト)も同じで初期のイッチ以上に根暗で卑屈、斜に構えたキャラだったんだ。しかもボッチで他人との交流なんてまずしないし、まともに会話するのは家族だけ、一緒に外に出てもずっとアタシの傍で裾掴んでるようなタイプだったんだよ」

 

一矢「…おぉ」

 

夕香「信用してるのは家族だけ。しかも双子の妹であるアタシにかなり依存してて病んでさえいるんだよ。後はミサ姉さんでも信用しないし、信用しても世界大会ぐらいで漸くって感じ」

 

一矢「…ヤンデレみたいな?」

 

夕香「メンヘラも入ってるかな。立場的には今のアタシに近いんだけど、こんな感じだからジャパンカップの件でウィルに毒は吐いてもフラグは立たないし、精々ミサ姉さんやロボ太にやっと心を開くぐらい。終始ボッチのままで終わるキャラだね」

 

一矢「…俺、男主人公に生まれ変わって良かった」

 

夕香「プロトも日の目を見る日が来ればいいけどね。アタシからしてみれば、いたかもしれない姉が出てくる話だし」

 

 

・・・

 

 

質問コーナー

 

 

一矢「これは作者の活動報告にあるガンブレディオの投稿受付コーナーで募集した質問に俺達が答えていくっていう内容だ」

 

夕香「ありがたいことに思いの外、投稿してもらったから順に答えていきますかねー。まず最初にこちらエイゼさんからいただきましたよー」

 

 

50000UA記念でのガンブレラジオとの事ですので、ネタを。

ズバリ…オリキャラ達が初めて作ったガンプラは何か?ですね。

因みに影二の初ガンプラはガンダムMK‐Ⅱ(黒)です。

 

 

一矢「ふぅん…。Mk-Ⅱか。あのマッシブさは作者的に好みらしいな。もっとも白の方が好きらしいが」

 

夕香「黒いガンダムってやっぱ当時としては衝撃だったのかな?」

 

一矢「詳しくは知らないけどでもサブタイにするくらいだし…。それよりガンプラだよ」

 

夕香「アタシは知っての通り、バルバトスだよ。イッチは?」

 

一矢「覚えてないけど…でも多分、ストライクガンダムだったと思う」

 

 

夕香「それじゃあ次ね。スラッシュサンさんからいただきましたー」

 

 

50000UAおめでとうございます!

ラジオとのことで、2つ質問を。

オリキャラたちが好きなガンダムの作品は?と他のロボットアニメで好きな作品は?です。最後のは個人的な興味ですが、よろしくお願いします!

 

 

夕香「どうもありがとうございます…っと、悪いけどアタシ、アニメの類は見ないからイッチにパスだね」

 

一矢「基本どれも好きだけど…【SDガンダムフォース】かな」

 

夕香「SDなんだ」

 

一矢「頑張れって言葉に意味がある作品だと思ってるし、ジェネラルシャドウ戦は勿論、天宮編とか本当に好きなんだよ」

 

 

夕香「好きな他のロボットアニメは?」

 

一矢「銀河機攻隊マジェスティックプリンス」

 

夕香「ほう」

 

一矢「熱さは勿論、主人公達のザンネンな行動とかが良い息抜きになったりと極端に重すぎず、笑って熱くなれる良い作品だと思ってる。ガンプラ以外で初めて買ったプラモも主役機であるレッドファイブだし」

 

夕香「キャラデザはガンダムSEEDとかと同じ人なんだね」

 

一矢「ああ。二期がありそうな終わり方だったし、スパロボ参戦共々待ってます」

 

 

一矢「…さて次は幻想目録さんからいただきました」

 

 

50000UAおめでとうございます!何でも大丈夫と聞いたので根掘り葉掘り(嘘ですw)

オリキャラ女性陣にお聞きします。

Q.もし自分が何かを代償に1つだけ願いを叶えられるなら何を願いますか?

(?B「僕と契約して魔法少女になってよ!」)

 

 

一矢「どうも…。で、どうなの?」

 

夕香「何かを代償にしてまでってのは特にないかなぁ…。別に今で満ち足りてるし…」

 

一矢「まあ、台詞にある元ネタに縋る程の願いはないか…」

 

夕香「元ネタに限らず代償にもよるけどね。アタシは基本、その時々で楽しんでればそれで良いし。シオンなんかもこーいうのは【願いは私自身の手で叶えますわ!】なんて言って突っぱねそうだしね」

 

一矢「じゃあ、願いそうな奴をリストアップしてみるか…」

 

自由 セレナ・アルトニクス

 

力と容認 希空

 

能力を失う事 奏

 

世界にセレナの魅力に気付かせること モニカ&アルマ

 

一矢「…こんなところか?」

 

夕香「ねえ最後」

 

 

夕香「じゃあ、お次は不安将軍さんからいただきましたのよん」

 

 

質問ネタは「ガンプラバトルで初めて戦った相手は?(覚えていれば)」 「ガンダム作品以外で好きなアニメは?」

「ガンプラ製作中は何か聞きながらしてる?」「遠くにいる友人達とはどんな電話やメールのやりとりをしてるか」

の四つですかね。

厳也達の質問ネタなどがあったら答えますので!

 

 

夕香「初めてのバトル…アタシの場合はシャア(おじさん)かな」

 

一矢「俺は翔さんだな。ガンプラ系は基本、翔さんから習った」

 

 

夕香「ガンダム作品以外で好きなアニメ…。正直、アタシもイッチもそんなにアニメ見ないんだよね」

 

一矢「興味があるモノは見るけど、それでも少ないな」

 

夕香「じゃあ最近ハマったアニメは?」

 

一矢「FAガールことフレームアームズ・ガール」

 

夕香「プラモ系なんだっけ?」

 

一矢「見始めたきっかけはそれだな。あれは普通に面白いし、話の中に工場で行われる作業の話も盛り込まれててプラモアニメとしては良い作品だと思う。っていうか、最近重い話よりも肩の力抜いて見れる作品の方が好きなんだよな」

 

夕香(…そう言えば、イッチの部屋に装甲つけた女の子みたいなフィギュアがあったけど、あれってプラモだったのかな。何か青い装甲で青白い髪の女の子だったけど)

 

一矢(正直、アニメだとFAガールより主人公のあおの方が好き)

 

夕香「プラモ系以外なら?」

 

一矢「トランスフォーマーやドラゴンボール。トランスフォーマーはマイクロン伝説でドラゴンボールはテレビSPが好き」

 

夕香(…なんだかんだで結構見てるんじゃん)

 

 

一矢「ガンプラ製作中は何か聞きながらしてる?…か」

 

夕香「コトの歌」

 

一矢「…とりあえずそれ答えとけば良いだろみたいなさ…」

 

夕香「違うわ。そーいうイッチはどうなのさ?」

 

一矢「その時の気分。でも基本はそのプラモに関連した曲かな」

 

夕香「ゲネシスやリミットブレイカーみたいなオリジナルとかは?」

 

一矢「V6とか」

 

夕香「ジャ○ーズが好きなの?」

 

一矢「…ジ○ニーズじゃなくて単にV6が好きなの」

 

夕香「例えばどんな曲?」

 

一矢「足跡やtimelessみたいな今までの道のりや共に歩んできた仲間との歌も好きだし、少しすれ違いながらも温かなラブソングのAirとか基本的に好きな曲調ばっかりなんだよ。後はリーダーとイノッチの歌い方が好き」

 

夕香「結構意外だね」

 

一矢「メタ的な事を言うと少し前に俺とミサが立ち直った【Sky's The Limit】って話があるだろ?あれもV6の歌が元ネタだよ」

 

夕香「そうなの!?」

 

 

一矢「あの歌の歌詞の、消えない現実も夢なら良いのに、とか目の前の出来事から逃げ出したって自分の弱さから逃げられないとかシュウジやロボ太との別れを受けた俺とミサに重ねて、話を練ってたんだよ」

 

夕香「へえ…」

 

一矢「でもこの歌って言うのは【どんなに絶望や苦難、失敗を味わって挫けそうになっても、それでも乗り越えてここまで歩いてきた。過去の絶望や苦難によって自分は強くなっているから更に未来へ進んでいこう】…って長くなったけどこんな感じで俺もミサも別れを乗り越えて強くなるのをイメージしながら聞いてた」

 

夕香「Sky's The Limit…。まあ【限界なんてない】って意味だね。シュウジさんとリミットブレイカーにもかけたタイトルなんだ」

 

一矢「そういうこと。機会があれば聞いてみてください。作者も励まされた曲の一つだし」

 

 

夕香「…んで最後は遠くにいる友人達とはどんな電話やメールのやりとりをしてるか…か。別に大してそんなに変わることはないかな。精々、なにかあったかぐらいで」

 

一矢「俺、基本的に電話もメールも相手に話題を振られることが多いし」

 

夕香「…それでミサ姉さんキレてたよね?」

 

一矢「…反省してる」

 

 

夕香「どんどん行こう。刃弥さんからいただきました」

 

 

自分もラジオの質問ネタです。

定番かもしれませんが『一番好きなガンダムキャラは?』どういうところが好きなのか理由も一緒に。

それと本サイトには憑依系のSSも多いので、それにちなんで『もしガンダムキャラに憑依転生するとしたら、誰になりたいですか?』

以上、二つの質問でお願いします。

 

 

一矢「…悩むなぁ」

 

夕香「アタシ、知らないしなぁ」

 

一矢「じゃあ知ってるって言う感じなら?」

 

夕香「Gのレコンギスタのベルリ君かな。容姿、家柄、才能どれをとっても恵まれてるけど初恋だけは叶わないって言うのが好き。後、地球育ちってのもあってコロニーが生まれ故郷って知るとこの作り物の世界が自分の故郷なのかって嫌悪感を示して、その後に敵に八つ当たりをするちょっとした人間臭さも好きかな」

 

一矢「成る程ね…。俺は…そうだな。Gガンのドモンかな。最初は自分勝手だなって思ってたけど、ドモンの境遇を知って、そりゃ余裕もないだろうし、序盤でもういない家族や新宿で師匠に見せた無邪気な姿やシュバルツが散る回で見せた弱さとか年相応だと思うし、作中通して不器用な人間だからこそラストのレインへの告白が響くと思う。今までで一番感情移入したキャラかもしれないから、まあ兎に角、幸せになって欲しい。Gガンなら次点でサイサイシー」

 

 

夕香「憑依転生ねぇ…。正直、戦争なんて真っ平だからどこの世界にも行きたくないけど」

 

一矢「そんなアナタにビルドファイターズ。あの世界はどのキャラでも良いから行きたい。…俺は…セカイやドモンみたいな弟キャラが良いかな。兄や姉がどんな存在か知りたい」

 

夕香「イッチ(プロト)を呼んでこようか?」

 

一矢「…話を聞く限り、遠慮しとく」

 

 

一矢「さてこれが最後の投稿だな。トライデントさんからです」

 

 

ラジオ質問ネタでーす

 

『初めてやったガンダムゲームは?』

ガンダムブレイカー以外のゲームはあるんだろうなって勝手に決め付けての質問なんですけど。定番のvsシリーズとか、戦慄のブルーやジオニックフロントとかの外伝のゲーム等たくさんガンダムゲームがある中、オリキャラ達が初めてプレイしたゲームはなんなんだろうなと。ちなみに僕は連邦vsジオンです。ザクレロさん強すぎひん?

 

 

『ガンダムの機体の中で汎用機、高機動機、高火力機

、変形型、MAと言われて真っ先に連想する機体は?』

そのまんまですね。ちなみに自分はそれぞれ1stガンダム、高機動型ザク(ジョニー・ライデン)、カラミティ、メッサーラ、ビグ・ザムですかね

 

以上の2つでお願いします

 

 

一矢「俺も連邦VSジオンかな。その後のガンダムVSZガンダムまでの鹵獲機って言うのも好きだった。作者の場合はそれでガンダムシリーズを知ったらしいけど」

 

夕香「アタシはガンダム系はガンプラバトルが初めてだし」

 

一矢「たまにゲームセンターで1プレイ50円で置いてあるとついやっちゃうんだよ」

 

 

夕香「連想する機体ね…。イッチ、お願い」

 

一矢「うーん…」

 

汎用機 ストライクガンダム

 

高機動機 GP01FB

 

高火力機 ウイングゼロ

 

変形型 Zガンダム

 

MA ネオジオング

 

夕香「主役機ばっかだね」

 

一矢「…すぐ浮かんだのがこれだったんだよ…」

 

 

・・・

 

 

ED Sky's The Limit(V6)

 

 

 

夕香「さーて、そうこうしている間に終わりの時間だよ」

 

一矢「…正直、まだ話してないことはいっぱいあるよな」

 

夕香「出来たらもっとやりたいよね」

 

一矢「…まあ」

 

 

夕香「と言うわけで引き続き、ガンブレディオの投稿受付コーナーでは投稿を待ってるよ」

 

一矢「ついでに投稿もし易いようにこちらからお題を出すよ。お題の内容は…」

 

【アナタのベストバウトは?】

 

一矢「これはアナタがこの小説で読んで一番、印象に残っているバトルを投稿してもらって、それを俺達が振り返るお題だな」 

 

夕香「気が向いたらでも投稿してね」

 

 

夕香「で、イッチ、感想は?」

 

一矢「…なんだかあっと言う間だった」

 

夕香「ねー。まぁでもこれが続くのであれば、アタシとイッチでガンブレディオを盛り上げていかないとね」

 

一矢「…荷が重い」

 

夕香「安心しなって。次回以降、続けばその時はゲストとか呼ぶらしいから」

 

一矢「厳也や影二とかが来るってこと?」

 

夕香「そゆこと。続けばの話だけどね」

 

一矢「お前は?」

 

夕香「アタシはイッチ(プロト)の話が出来て満足かな。アタシが元は女性主人公だった名残ってのは感想返しでも話したことがあると思うけど、こうしてちゃんと小説の執筆前の構想とかをちゃんと話す機会ってのはなかったからね」

 

一矢「…俺的にはもう女の俺の話なんて聞きたくないけど、話せてないことを全部話せていければいいな」

 

夕香「それを知れば、この小説がもっと楽しめるって話が出来ればもっと良いよね」

 

 

一矢「…それじゃあまた会えたら会いましょう。お相手は雨宮一矢と」

 

夕香「雨宮夕香でしたー」

 

一矢&夕香「「ばいばーい」」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンブレディオ 大晦日SP

※ 今回、砂谷厳也と秋城影二をゲストに招くにあたり、生みの親である不安将軍さんとエイゼさんに協力していただきました。改めてありがとうございます!!


一矢「えー…どうも雨宮一矢です。もう気付けば大晦日…。あっと言う間なもので気付けばって奴ですね。皆さんはこの一年をどう過ごしたのでしょうか?まあ色々とあったとは思いますが、今年の締めということで俺達も始めていこうと思います」

 

 

 

一矢&夕香「「ガンブレディオっ!」」

 

 

 

OP Mirrors(BACK-ON)

 

 

 

一矢「…こんにちは、パーソナリティの雨宮一矢です」

 

夕香「雨宮夕香だよー」

 

一矢「そういうことでもう大晦日…」

 

夕香「早いもんだよねぇ。もう【Mirrors】も始まって一年半以上でもう後少しで二周年だよ」

 

一矢「本当に色々あって、撮影(キャラ絵)とか衣装を着たり(時事ネタ絵)もしたけど、まさかラジオまでやるとは…」

 

夕香「お陰様で二回目だよ。しかも二回目で大晦日スペシャルとはねー」

 

一矢「…まあスペシャルということで今日は俺達だけではないので」

 

夕香「そ。今日はゲストを…しかも一人や二人じゃないから早々と進めていこうと思ってるよ。この人達です、どーぞ」

 

 

シオン「ゲストのシオン・アルトニクスですわ」

 

裕喜「根城裕喜だよっ」

 

厳也「砂谷厳也じゃ」

 

影二「秋城影二だ」

 

 

一矢「…はい、以上の四名をゲストに招いてます」

 

夕香「今日はよろしくお願いしまーす」

 

「「「「お願いしまーす」」」」

 

 

一矢「…いらっしゃい」

 

厳也「ラジオを始めたのは知っておったんじゃが、まさかゲストに呼ばれるとは思わんかったのぅ」

 

影二「って言うか、シオンや裕喜はともかく、俺と厳也を一緒に呼んでよかったのか?ってきり、呼ばれるにせよ、一人一人かと…」

 

夕香「いーのいーの。アタシ達は毎回、最終回のつもりでやってるし、今日はスペシャルだからねー」

 

シオン「って言うか、納得いきませんわ!!何故わたくしをパーソナリティに選びませんでしたの!?わたくしにすれば、このラジオも更に華やかになるといいますのに!」

 

裕喜「はいはいはーい。でも呼んでくれてありがとね。夕香とラジオ出来るなんてサイッコーだねっ」

 

夕香「アタシもだよ。今日はイッチ側のメンツは揃ってるからアタシ側に二人を呼んだんだよ。この三人で一グループってイメージがあるからね。今日はアタシも楽しみにしてたんだよ」

 

シオン「…仕方ありませんわね。ゲストとして呼ばれた分、それ相応の仕事はしますわ」

 

 

・・・

 

 

シオン「去年の最後はわたくしが登場したところで終わりましたわね」

 

夕香「…あの時は変な奴に捕まったと思ったよ。しかもまさか家にまで来るとは…」

 

裕喜「シオンにライバル認定された時の夕香の目はいまだに覚えてるよ。あんな夕香、初めて見たよ」

 

夕香「…今となってはって感じだけど。あの時はホントあれ以上関わりたくなかったし」

 

裕喜「でも今じゃねー。良いコンビだと思うよ」

 

シオン「良いコンビじゃなくて、ライバルですわ」

 

 

厳也「今年の最後は暗い終わり方だったのぅ」

 

一矢「本当は今年中に最終章を終わらしたかったんだけど…」

 

影二「年明けに明るい話になればまだ…」

 

一矢「…しばらくちょっと暗いの続くかも…。去年の年明け、本編はなにから始まったって言うと…ジャパンカップ辺りか…」

 

影二「…予選でジンさん達とバトルした時か。予選前のお前とのやり取りは覚えてるぞ」

 

一矢「…アレか。まあ別に…俺もお前も予選で負けるとは思ってないし」

 

厳也「初めて知ったのう。そんな話しておったんか」

 

夕香「その辺は後で振り返る機会があるから、そっちにしようね」

 

 

 

<裏話のコーナー>

 

 

厳也「これ、わしん所の話じゃけどいい?」

 

一矢「なに?」

 

厳也「この場を借りて咲と文華が誰をモチーフにしてるか言っておきたく」

 

夕香「あー…なるほどなるほど。良いよ」

 

 

厳也「咲の方は【アイドルマスターシンデレラガールズ】の【鷺沢文香】、文華の方は【艦これ】の【叢雲】じゃ。どちらも不安将軍が好きなキャラじゃから!」

 

 

夕香「知らない人への注釈として不安将軍さんは厳也達を考えてキャラ投稿してくれた方だよ」

 

一矢「…影二の場合はエイゼさんという方だな」

 

厳也「話を戻すぞ。やっぱりキャラを作るとなれば自分が好きなキャラをイメージして作りたいじゃないか」

 

一矢「まあ…。俺は前回、【おそ松さん】の一松だって明かされたし…他にもウチのキャラにいるよな?」

 

夕香「えーと…ざっとリストアップするとねー…」

 

 

前作

 

リン(朱 鈴花) 【インフィニット・ストラトス】の【凰 鈴音】

 

ティア・ライスター【魔法少女リリカルなのはシリーズ】の【ティアナ・ランスター】

 

トライブレイカーズ

 

シュウジ 【ウルトラシリーズ】の【ウルトラマンゼロ】

 

カガミ・ヒイラギ 【艦これ】の【加賀】

 

異世界のシャッフル同盟

 

アレク・ミナット 【ウルトラシリーズ】の【ミラーナイト】

 

クレア【ウルトラシリーズ】の【グレンファイヤー】

 

ドリィ【ウルトラシリーズ】の【ジャンボット】

 

サクヤ【銀魂】の【神威】

 

外伝

 

ルティナ【仮面ライダーエグゼイド】&【仮面ライダー電王】の【パラド】&【リュウタロス】

 

 

一矢「…大体、こんな感じか」

 

シオン「シュウジさんのウルトラマンゼロのように、特撮系が多い印象ですわね」

 

夕香「一部は作者の雑談枠かなんかのコメント返しって書いたよね」

 

一矢「ヴェルさんも最初は【艦これ】の【赤城】をイメージしてたけど最初だけだったらしいな」

 

夕香「うん、ホントに最初の最初だけ。まあでも食いしん坊なところはそのまま引き継がれたね」

 

裕喜「最初って言うと、イッチも最初は女の子だったんだよね?」

 

影二「前回で話していたな…」

 

一矢「…その話はもう良いだろ」

 

夕香「厳也はもしイッチ(プロト)に会ったら、ナンパしてたの?」

 

厳也「昔であれば恐らくじゃがな。とはいえ実際、ナンパは別としても興味はあるのう」

 

影二「…一矢を更に濃くした人間だったか」

 

一矢「…もう止めろ。そのうち本当に出てきそうだから」

 

 

・・・

 

 

<投稿コーナー>

 

 

夕香「これは作者の活動報告にあるガンブレディオの投稿受付コーナーで募集した質問にアタシ達が答えていくよ」

 

一矢「…今回はお題も募集したな。内容は【アナタのベストバウトは?】だ。今回も投稿を頂いているから順に読んで行こうか。エイゼさんからいただきました」

 

 

ガンブレディオ二回目を楽しみにしてます。ベストバウト編との事ですが…複数可でしょうか?

一応投稿しますね。

チーム結成前編:ブレイカー3&アザレアVS.デビルガンダム(タイガー)

タウンカップ編:VS.カマセ君

リージョンカップ編:Vs.イスカーチェリ&ルィーチャリ

ジャパンカップ編:VS.クロスフライルーorNフォーミュラー

修行編:新生ゲネシス初陣

ワールド編:Vs.ネオジオング

一応一通り書き出して見ました(苦笑)

 

 

夕香「ありがとうございますー。じゃあ早速、チーム結成編の【チーム結成】その前の【ファイターとして】から振り返っていこうか」

 

厳也「まだ一矢とミサとチームを組んどらん時のバトルじゃな。そう考えると、始まりと言っても過言無いような気がするのぅ」

 

影二「ああ、此処から一矢とミサの話が始まると考えると運命だったんだろうな」

 

厳也「この時の一矢はまだ悩んでおった頃じゃからかバトルも消極的に見えるのぅ。逆にミサは生き生きとバトルしとるな。やはりバトルは楽しくするもんじゃって思い出させてくれるやつじゃったよ」

 

夕香「…あの頃のイッチは見てらんなかったよ。アタシも見ててイライラしてたし」

 

裕喜「してたしてたっ。今思うと夕香って自分よりもイッチ絡みで怒る事が多いよね」

 

夕香「そう言うんじゃ…」

 

厳也「で、ここだけの話…腕前よりミサ自身をどう思ってたんじゃ?」

 

一矢「…純粋に眩しかったよ。良いファイターなのもすぐ分かったし」

 

厳也「ほほぅ、成る程のぅ…。んじゃ続けて次のバトル話でもしよか。この回の続きの奴じゃからここで語れなかった事でも喋ってみようじゃないか」

 

 

【チーム結成】

 

影二「んで、乱入って形でのデビルガンダム戦だが」

 

厳也「まさかタイガーがデビルガンダムで乱入とは…。ってか、ミサの介入抜きでも負

けておったと思うのはわしの気のせいか?」

 

夕香「気のせいじゃないと思うよ、あのフランクフルト、実際弱いし」

 

厳也「フランクフルト…。まぁ…タイガーのおかげなのか、乱入したからこそお前さんらがチームを組む切っ掛けが出来たんじゃろうな。きっと乱入が無かったら一矢、お前さんミサの勧誘をまた断ってたかもしれんから縁を繋いだ良いバトルということでw」

 

一矢「…」ゲシゲシッ

 

厳也「恥ずかしがってテーブルの下から人を蹴るのはやめい」

 

影二「しかし此処で初めての共同作業とはな…お暑い事だな」

 

シオン「最後の決め手などシチュエーション的には後のネオ・ジオング戦を彷彿とさせますわね」

 

夕香「違うのはあの頃と違って、この時はイッチがミサ姉さんを見下ろして手を伸ばしているってことだね」

 

裕喜「それが今じゃ肩を並べて手を繋いでるんだもん。ミサも強くなったよね」

 

厳也「夕香もこのバトルを見てからガンプラバトルに興味を持ったんじゃよね?色々な始まりじゃったな、この二つの回は」

 

夕香「そだね。でもまさか本当に始めるとは思わなかったなー。しかもイベントまで参加してさ」

 

シオン「確かにこのバトルがなければ、わたくしと夕香の関係もまた違ったかもしれませんわね」

 

夕香「アタシ達ガンプラがなければ、どうなってたんだろうね」

 

シオン「少なくともわたくしは今の方が良いとハッキリ言えますわね。アナタとのこの関係はもはや運命ですわ」

 

夕香「…アンタってたまに恥じらいもなくハッキリ言うよね」

 

 

【覚醒】

 

厳也「タウンカップ決勝戦の話か。ミサは予選通過できてかなり喜んでおるのぅ」

 

裕喜「そりゃ万年予選敗退だったって話だし」

 

厳也「それでここで初めて覚醒できたんじゃよな。初めて見た時はなんじゃありゃって思うしかなかったわい」

 

影二「一矢のあの力は…今もそうだが…当時のお前もミサの事気になってたんだろうな…」

 

一矢「…まああの頃の気持ちは今も嘘じゃないけど」

 

影二「しかし、タウンカップでPG使う輩が居るとはなぁ」

 

厳也「カマセはPG機体じゃったが、急ごしらえじゃったのが原因で負けてしもうたな。普通に戦えば分からんかったな。というよりカマセにチームメイトが居れば止めておった筈じゃぞ」

 

夕香「って言うと?」

 

厳也「だってのぅ、PGよりHG/MGの方が勝率上がるとわしは思うのよ!昔の人はこう言うた、でかいだけのやつなんて的になるだけと!」

 

裕喜「あー」

 

厳也「ま、結局はカドマツさんの【腕とかスピリッツ的な何かで頑張る感じ】が勝利に繋がったんじゃ」

 

シオン「結局、ガンプラファイターとしての想いの強さですわね」

 

厳也「そうそう。機体性能だけじゃ勝てないのがガンプラバトルなんじゃから」

 

 

【スィチャース】

 

 

一矢「これはヴェール達か」

 

厳也「このバトルではロボ太が活躍しておったな。バトルもそうじゃが、システムや機械関係ではロボ太の言う事はかなり説得力があるからのぅ」

 

影二「ifだが、彼女らがジャパンカップに出場する可能性があったんだろ?一矢が苦戦したバトルのようだしな」

 

厳也「デストロイ・アンチェインド…じゃったかな?一矢、当時のお前さんなら倒せてたと思うか?」

 

一矢「…さあな。俺はヴェールに集中してたし」

 

厳也「正直当時のわしでも倒されておるかもしれんぐらいじゃ。制御不能になるとはいえこれだけのものを作るとは、未来の技術はわしらを超しとるとしか言いようがないな」

 

夕香「確かにね。アセンも気になるね」

 

厳也「あの頃から時も経ったのじゃ。きっと克服して制御できるようになっとるじゃろうて。その時はぜひともバトルしてみたいもんじゃ。今なら良いバトルができて楽しめるからの!」

 

 

【Power Resonance】

 

 

影二「一矢と厳也の試合か…。正直羨ましく思ったな。両者譲れないモノ背負ってバトルしてる訳だし、もし乱入出来たなら…俺もバトルしたかったんだ…。まぁあの後に厳也に彼女が出来たのにはビックリしたがな(苦笑)」

 

厳也「ってか、自分が出て来る回をコメントするのは恥ずかしいぞ…。自画自賛してる気分になってまう…。さ、先に一矢の感想聞かせてくれんか?誰とのバトルでも良いからさ」

 

一矢「…まあでも純粋に戻ってきたって感想が一番だな。正直、もうジャパンカップの舞台に立てないって思ってたし」

 

厳也「わしは後回しで…。まず咲と文華がわしに武器を託してくれた所が印象に残っとるな。こういうのを見るとわしを信じてくれててとても嬉しかったのぅ。ミサの自爆も凄かったぞ。咲の気の弛みがあったとはいえ、ああも自爆が上手い事決まるとは。最後まで気を抜いてはいかんというが、まさにそれじゃった」

 

シオン「確かに最後の最後まで張りつめた糸は切るべきではありませんわね」

 

厳也「うむ。さて、この回のメインはやはりわしと一矢の一騎討ちじゃな。やはりガンプラバトルで一番盛り上がるのはこういった近接戦闘じゃろうなー。という訳でまた斬り合おうじゃないか!」

 

一矢「次も俺が勝つ」

 

厳也「それはどうかのぅ?じゃが最後のゲネシスを見据えた所は格好良いのぅ。アニメやら漫画とかで出てくるワンシーンみたいで!」

 

 

夕香「ちなみにこれは作者的にも印象に残ってる回なんだよ」

 

厳也「なんじゃと?」

 

一矢「…ジャパンカップ本選のオリキャラ同士の一発目ってのもあったしな。しかもここからバトル続きだ。相当の気合を入れて書いた回だった。モチベーションアップの為、タイトル通りビルドファイターズのBGMを聞きながら書いてたし」

 

夕香「まあ最後の方はガス欠になってたけどね。後書きで愚痴ってたよね確か」

 

一矢「…バトルのネタってそうボンボンと出ては来ないからな」

 

厳也「とはいえ、あんまりわしの回の感想言い過ぎると文句言われそうじゃからこれでお終いじゃ」

 

 

【Allied Force】

 

 

厳也「ジャパンカップ決勝戦か。来年こそは行ってみたいものじゃねぇ」

 

影二「この試合か…実はな、一矢と戦うのは最初から決めてたんだ。しかし、皐月がミサと、陽太とロボ太でやり合うと思ってたが上手くいかなかったな(苦笑)」

 

厳也「互いに最後の試合じゃから想いをぶつけ合っとるな。ははは、こういう熱いバトルは見てる方も興奮するというもの。それがチームメンバーの為という想いなら尚更な」

 

一矢「半ば泥仕合のようになってたがな」

 

厳也「泥仕合?何を言うとるんじゃ?とある漫画でも書かれれるじゃろ?【有史以前から男達は不治の病にかかっているのさ、ステゴロ最強という病気にな】と。それと同じじゃ。ファイターがあのバトルを見れば心が滾るもの…恥じる事なぞ無い。少なくともわしはあのバトル見て格闘機体作ろうと頑張っとるぞ」

 

影二「一矢との勝負はあの結果だが…悔しい反面、おめでとうって気持ちが強かったからな」

 

裕喜「まあでも、この後も凄かったよね」

 

厳也「わしも影二もお前さんとのバトルで彼女ができたからなー。後で恋人欲しさにバトルを挑む者がおらんかったか?」

 

一矢「俺とのバトルは恋愛成就か?そんな奴がいたらぶっ飛ばす」

 

厳也「冗談はさておいて、わしらは負けはしたが得る物も多々あったよ。またジャパンカップでバトルし合おうじゃないか。その時は挑戦者として挑みに行くから受けてくれよチャンピオン?」

 

一矢「いつでもかかって来い」

 

 

【疾走する本能】

 

 

夕香「アタシ達がガンプラ大合戦をしている間にイッチの方でもこんなことがあったんだね」

 

影二「新たなゲネシスか…正直今までのゲネシスガンダムとは異なる強さ…正に戦慄したな」

 

厳也「以前に比べてより近接格闘を高めておる様に見えるな。やはり覇王不敗流を使う為にか?」

 

一矢「まあな」

 

厳也「しかし誇りってのは中々厄介なものじゃぞ。下手に拘り続けると見えなくなるものがあるからの。わしの場合は誇りもそうじゃが、私情も交えてバトルしとるぞ?もっとバトルしたい、斬り合いたい、咲達の為に、とな」

 

シオン「人間ですもの。そんなものでしょう。ですが私情とはいえ、わたくしと夕香がガンプラ大合戦でバトルした男のような悪い例もいますが」

 

厳也「ジャパンカップ同様にアジアツアーに出てくるファイター達も凄いわい。ほんとに少し見ない間に強うなるのぅ。いやいや、こういう風に様々なバトルが見れるのもバトルロイヤルの良いところじゃよ。お、そうじゃ!一矢、次のアジアツアーはわしと影二の3人組で出てみんか!偶には違うメンバーも良いぞー」

 

夕香「因みにその三人組のネタは作者の中で温め続けてるんだよ。ぽっと出のネタにするには惜しいからね」

 

 

【Unite ~君とつながるために~ から 繋ぎ続けた手】

 

 

影二「あの事件か…強制離脱させられたが…本当に無事で良かったな」

 

裕喜「一時はどうなるかと思ったよ」

 

影二「ネオジオングにAIの組み合わせは正に驚異だったな」

 

厳也「しっかしサイコシャードの効果はえげつないな。実際のバトルでこれやられたら反則と判断されても仕方ないぞ。ゲームで初めてやられた時なんて何分間逃げ続ければ良いのか考えてたりしてたな。なにせ攻撃できないんじゃから」

 

シオン「ですが、一矢はそんな状況でもミサを守ろうとしていましたわね」

 

裕喜「やっぱりイッチは言葉よりも行動派だよね。中継で見てても必死さが伝わって来たよ」

 

一矢「…分かったからそう言う話は止めろ」

 

裕喜「照れてる照れてるー♪かぁわいいー♪」

 

厳也「世界中のファイターがウィルス駆除の為に立ち上がって協力してくれたのはガンプラバトルが生まれてから初めてじゃないかな?これっていつか本とか映像にされて残されそうじゃね」

 

シオン「これは【劇場版ウルトラマンX きたぞ!われらのウルトラマン】をイメージしておりましたね」

 

一矢「シュウジの台詞も元ネタのウルトラマンゼロのままだしな」

 

厳也「このバトルでウィルとミサの2人は覚醒できるようになったのか。お前さんはほんとに人を成長させてくれるなぁ、一矢よ」

 

一矢「…なに急に」

 

厳也「なぁに、ミサが一矢を勧誘せんかったら皆ここまで強うなれんかったし成長できんかったんじゃなぁって思うてさ。ミサへの恋心を再確認できたのもこの時じゃろ?」

 

一矢「…だからそういうのは…」

 

厳也「はっはっは、地上に戻るまでの間の話を今度聞かせてもらおうじゃないか」

 

影二「ともあれ無事で何よりだ」

 

 

夕香「さーて、次の投稿行こうかね。シオン、読んで」

 

シオン「わたくしがですの?まあ、仕方ありませんわね…。不安将軍さんからいただきましたわ」

 

 

ガンブレディオ二回目の為に投稿しますね!自分も複数ですが。

 

「Power Resonance」の彩渡商店街ガンプラチームvs土佐農高ガンプラ隊

「Next Formula」のトヨサキモータースvs熊本海洋訓練学校ガンプラ部

「Supernova」のリミットブレイカーvsバーニングゴッドブレイカー

ネタ枠として「MS少女が舞い踊る」のワールドメイド派遣サービスチームvs彩渡商店街ガンプラチーム

 

です。今年も残り少ないですが宜しくお願いします。

 

 

シオン「感謝しますわ。さて、【Power Resonance】は割愛しまして、【Next Formula】から行きましょう」

 

 

【Next Formula】

 

影二「って俺達の試合もか?」

 

厳也「これは不安将軍というわしん所の読み手が投稿したものじゃな。わしと一矢の友人である影二が【ネクストフォーミュラ-】という新たなガンプラの初陣が書かれておる回じゃ。チームメンバーと勝ち進む為に愛用のガンプラから乗り換える。なんとも影二の熱い想いが伝わるな」

 

影二「まぁ、正直な所緊張はしていたが、一矢や厳也に一泡ふかせてやる気持ちの方が勝ってたな…無論あの勝利は皐月や陽太が居てくれたおかげだがな(苦笑)」

 

一矢「確かに厳也と見ていたが、勝ちに行こうとする気持ちはすぐに分かった」

 

厳也「皐月と陽太も影二の想いに応える様に気合を入れ直した所も良い場面じゃった。考えた事がなかったが、もし仮に咲か文華が転校する事になってしもうたらわしも同じ様な気持ちでバトルに挑んどったかもしれんの。咲は勿論じゃが、文華のやつとはガキの頃からの付き合いじゃからね。離れる事なんてあまり考えとうないわい。口煩いが、それでもわしにとったら文華は良き相棒じゃ。これからも世話になるし手助けせんとなw」

 

夕香「へぇ、なんだかんだで想ってるんだね」

 

厳也「と、ともかく!この回は影二の想いがよく伝わる回という事で終了じゃ!」

 

裕喜「…そう言えば、この回は夕香とシオンが絡んだ回でもあったね」

 

夕香「機械音痴だけじゃなくて方向音痴だもんね。今日は収録部屋が分からなくて、迎えに行ったらオロオロしてたね」

 

シオン「そ、その話は関係ありませんわ!!」

 

 

【Supernova】

 

 

一矢「…これか」

 

夕香「一番、投稿があった回だね。これも相当な気合を入れて書いた回らしいよ」

 

一矢「感想で不完全燃焼っていう声なども頂いたが、これに関しては作者もギリギリまで勝敗を悩んでたな」

 

夕香「でも作者のイメージ的にはシュウジさんにはまだ勝てないし、でも負けない。つまり同じスタートラインに立てたんだよ。それで離れ離れになってお互いに強くなってから、そこでもう一度ってイメージにしたんだよね」

 

厳也「師弟対決でもあるが、それ以上に大切な事を教えてくれた回じゃった。今回のバトルは強さもそうじゃが、悩みを払拭する為に…成長を確かめ合う為に…そしてガンプラバトルというものを再確認する為のバトルとわしは見ておる」

 

影二「確かに…凄く心揺さぶられた試合だったよ…それぐらいしか言えんからな」

 

厳也「最初の【ファイターとして】でも言うたと思うが、やはりガンプラバトルは楽しんでやるという事が重要じゃ。ウィルス駆除やら陰謀とかでガンプラバトルが遠ざかってしまって何をしておるか疑問に思うてた頃じゃからな、一矢は」

 

裕喜「シオンの言葉じゃないけど、楽しむよりもウイルスを駆除する手段だったからね」

 

シオン「…状況が状況とはいえ、あまり美しいとは言えませんわね」

 

厳也「互いの全てをぶつけあうってのは難しいもんじゃが、ガンプラバトルならそれができるからのぅ」

 

一矢「…あの時のバトルだけはきっと一生忘れないと思う」

 

厳也「シュウジさんとは次にいつ会えるか分からんが今度は勝てよ」

 

 

【MS少女が舞い踊る】

 

 

シオン「…」

 

夕香(シオンの顔がチベスナみたいに…)

 

厳也「投稿されたやつのなかで、これだけネタ回じゃったな。まぁシリアス続きだったから気分転換になるが。これはDLCシリーズの1つに出てくるやつのを話にしておるんじゃが、スタッフさん達の遊び心が満載なバトルじゃったよ。今までの話の中でここまでガンプラを改造してるのってここだけじゃったから推させてもらったw」

 

裕喜「会場にいた人達も言葉を失ってたよ」

 

影二「とはいえ凄い作り込みだが…本人の許可なく創るのは如何なものとは思うがな」

 

シオン「まっっっっっっっったくですわぁっ!!!!」

 

厳也「確かにバトルよりもやはりガンプラの方に目がいってしまってたがね。あの後、咲をモデルとしたMS少女を作って欲しいと頭を下げに行ったよ」

 

一矢「えっ」

 

厳也「え、欲しくないのか恋人のMS少女機を!?ちなみに咲には必死にお願いして許可してもらったから安心せい。わしや文華のも作ってもらうようお願いする事を条件にじゃが…」

 

裕喜「…うーん、でもメイドさん達にも思ったけど現実の人間をってことでしょ?」

 

シオン「人の趣味嗜好は千差万別とはいえ…むむぅ…」

 

夕香「因みにここにキマリスシリーズをベースにした例のうるとらしおんがあるよ」

 

シオン「あの二人はぁっ!!」

 

一矢「…まぁ楽しんでればそれで良いんじゃないかな」

 

影二「…ああ」

 

裕喜「あれ?でも、うるとらしおんがあるってことは…」

 

 

 

光る!鳴る!デラァックスHG!まきしまあぁぁぁぁぁぁぁむがるとおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!!!(玄○哲章ボイス)

 

???「ぬぁーはっはっはっはぁっ!!!!!!」

 

 

シオン「…」

 

夕香「…考えるのは止めとこうか」

 

裕喜「…うん」

 

 

 

裕喜「次は私が読むよ!えっとね、Wハマーさんから質問と一緒にもらったよ!」

 

 

ガンブレディオの2回目楽しみにしています。

個人的ベストバウトとして、

「これからもずっと」の一矢VSウィル

「Supernova」の一矢VSシュウジ

以上を挙げます。

 

質問は、「たまに話のサブタイトルにガンダムシリーズの主題歌や、ウルトラシリーズの主題歌なども使われてるのを見ますが、使おうと思ったきっかけは何でしょうか?」

以上の質問でお願いします。

 

 

夕香「ありがとうございます。じゃあ質問から行こうか。まあ小説タイトルからして曲名を拝借してるよね。特にきっかけはないけど、精々前回の【Sky's The Limit】みたいな感じかな。イメージとかね」

 

一矢「しかし二作品のシリーズに加え、仮面ライダーシリーズからも拝借してるな」

 

裕喜「もはやコンパチヒーローズだね」

 

一矢「ロストヒーローズの新作はよ」

 

 

【これからもずっと】

 

 

厳也「ウィルのやつ、ミスターの技を使えておったとは。きっと隠れて練習していたのかもの」

 

夕香「なんだかんだでミスターを慕ってるのは分かるからね」

 

厳也「覚醒をウィルが使った時は思わず声に出るほど驚いたわい。まさかあんな土壇場で覚醒するとは…」

 

影二「ああ、まさかの覚醒対決になるとは思いもよらなかったぞ…まぁ色々ウズウズさせられたバトルだったな(笑)」

 

厳也「けどこうも思うたぞ。わしも覚醒できるようになるのではないかと、ね」

 

シオン「確かにそうですわね」

 

厳也「しかし借りを返したな。あの時は【止まって見えたよ】じゃったが、今回は【見えなかったよ】と言わせたんじゃから。これからもウィルとバトルする事になるかもしれんから頑張っとくれ」

 

一矢「ああ」

 

厳也「あー…それと」

 

一矢「?」

 

厳也「仮に、仮にじゃぞ?ウィルが勝って夕香とキスする事になったらどうしておった…?」

 

一矢「…」

 

裕喜(負けたんだからって下がろうとする気持ちと八つ裂きにしてやるって気持ちがせめぎ合ってる顔だ)

 

シオン「…因みにウィルのことはどう思っていますの?」

 

夕香「どうもなにも。イッチと同じだよ。手のかかるしょーがない奴。きっとなんだかんだでウィルが勝ってもイッチと同じだったんじゃないかなー」

 

裕喜(でも、そこで唇を奪うのがウィルだよね。そうなったらイッチは…)

 

 

夕香「んじゃ、最後行くよ。幻想目録さんからいただきましたー」

 

裕喜「ありがとっ」

 

 

ガンブレディオ2回目楽しみにしておきます!

自分も複数ですが送ります。

 

一矢&ミサ&ロボ太vs莫耶&アメリア

理由としては一矢やミサの成長を一番感じることができたからです。最後のパルマは非常に良かった…

 

一矢vsシュウジ(最終戦)

まさに男のプライドをかけた戦い!非常に燃えた戦いでした!

 

以上です!ラジオも楽しみにしています!

 

 

【誇りを胸に、未来を掴む】

 

 

影二「世界大会…一矢達の一皮剥けた印象を受けたな。正直相手も国の代表だからかなり苦戦していたがな」

 

厳也「こうやって振り返ると当時の一矢には想像できんかったろうな。まさか自分が世界大会まで進む事になるとは、と」

 

一矢「…まあ」

 

厳也「ガンプラの強化や特訓などがなかったらやられておったじゃろうな。常に己を鍛え続けんと直ぐ追い抜かれてしまうわ」

 

一矢「…今更ながらアジアツアーは本当に意味があったな」

 

厳也「相手も国を代表して来ておるからな。そう簡単に勝たせてくれんのぅ。しかしやはり代表選手となるとガンプラの制作とかも一味違うんじゃろうか?」

 

一矢「だろうな。あるとにくすばえるとか一味も二味も違い過ぎる…」

 

厳也「…そう言う意味じゃなかったんじゃが…。話を戻すぞ。最後に使ったパルマフィオキーナからのバーニングフィンガーのコンボは自分で考えたのか?それとも参考にしたのがあるとか?」

 

一矢「特にない。閃きみたいなもん」

 

夕香「メタ的な事を言うと、ゲームで実際に作者がそんなプレイをした事があったんだよ」

 

 

 

夕香「さて、作者的にも印象に残って話を上げていこうか。さっき話した【Power Resonance】【Supernova】以外だね」

 

 

【ノーザンクロス】

 

 

厳也「この回は一矢がガンダムブレイカーを使うに相応しいかを見定めるバトル回じゃねぇ」

 

夕香「作者的にはカガミさんは前作のEX編のもう一人の主人公だから主人公VS主人公なんだよね」

 

厳也「メタいけどカガミさんは本職の軍人、しかもMS乗りじゃからあれだけの動きが出来るんじゃろうな」

 

一矢「…あんな動き、今の俺でも出来ないぞ」

 

厳也「言うなればわしらは普通の車を改造したやつでレースするのに対し、カガミさんはF1カーを乗りこなしておる上にそれでレースに出ておる様なものじゃ」

 

影二「ライトニングのFBで一矢のゲネシスガンダムブレイカーを圧倒したが…恐ろしいな(苦笑)」

 

厳也「言うだけなら簡単じゃが、ガンプラの性能とパイロットの操作技術の二つが無ければあんな事はできん。経験と努力の賜物じゃよ」

 

夕香「あのお姉さんは乗りこなしてるだけあってZ系を熟知してるし、ライトニングガンダムはそれこそ相棒って言えるレベルだからね」

 

一矢「…まあ作者的にあの話自体、【ノーザンクロス】のタイトルで分かる通り、カガミさんの動きはかなりマクロスシリーズをイメージしてたな」

 

夕香「カガミさんと翔さんを取り巻く関係はトライアングラーどころじゃないけどね」

 

一矢「翔さんに悪気はないんだけどなぁ…」

 

裕喜「悪気はないからこそって奴だね」

 

厳也「しかし、ガンダムブレイカーの力を認めてもらえたが、やはりいつかはカガミさんを倒したいという気持ちもあるのでは?」

 

一矢「…当たり前だろ。あの人も俺が目指すべき背中だ」

 

厳也「うむ。それこそカガミさんが言ってた【最後まで諦めるな】、じゃよ。そうすればいつかは倒せると思おうじゃないか」

 

 

【フォーマルハウト】

 

 

シオン「お姉さまのバトルですわねっ!!」

 

夕香「おぉう、一気に元気になったね」

 

厳也「これは本当の話なんじゃが、不安将軍は【フォーマルハウト】と聞いてクトゥルフ神話のほうを思い浮かべておったわ」

 

裕喜「言われて初めて知ったよ。作者はクトゥルフに疎いからねー」

 

厳也「んじゃ本題に入ろうか。わしも一度バトルし合ったから言えるがネオ・アルゴナウタイは決して弱くはない」

 

シオン「ですわね。お姉さまが世界大会で初めて全力でぶつかるように指示を出したのですから」

 

厳也「まさに王族の如く余裕を持ってバトルを、戦をしとったように見えたよ。最初から全力を出さなかったのは舐めてたからではなく相手チームを見極めておったんじゃろ…自分達の力を見せるに値するかどうかを」

 

影二「…正直悪魔らしいバトルじゃなかったかな…余程のモノを背負わされてたんじゃなかろうか…って考えさせられたバトルでもあるな」

 

厳也「そして最後の串刺しのシーンは見る者を畏れさせるものがあったよ。かの有名な串刺し公を思い出したわい。今のセレナならこんな真似しない、よな?今度ゲストに来た時にでも聞いといてくれんか?」

 

シオン「その際はわたくしも呼びなさいな!絶対ですわよ!!」

 

一矢「お、おぅ…」

 

夕香「因みにね。セレナさんの戦い方って作者が一番、書いてて楽しいらしいんだよね。どう暴れさせようかって」

 

裕喜「夕香がガンプラ大合戦でキレた時も楽しそうだったよね。これは外伝のルティナちゃんにも期待だね」

 

シオン「作者的にはそのガンプラ大合戦も印象に残ってるそうですわ。これはゔぃだーるとしての出番がまた…」

 

夕香「ないと思うよ」

 

 

・・・

 

 

ED Eternal Wind ~ほほえみは光る風の中~ 2015 ver.(森口博子)

 

 

夕香「流石、スペシャル。気づけばもうこんなに…」

 

厳也「いやぁ、初めてやってみたがとても疲れるなぁ!」

 

影二「全くだ…」

 

シオン「なにを仰いますの!まだまだわたくしは喋り足りませんわ!!」

 

裕喜「うんうん!オールナイトでそのまま年が明けても喋れるよ!」

 

 

一矢「因みにこれが今年最後の投稿だ。正月も時事ネタをやってるところだが諸事情によって来年はやらないんだ」

 

夕香「ちょっとしたお休みだね。3日辺りに投稿を予定してるけど、その後もどうなるかだよね」

 

シオン「どうせ、趣味の時間を満喫したりするのでしょうね。わたくし知ってますわよ、FAガールのプラモなどを入手したり、スキーに行ったりするのを」

 

一矢「だからか。まあ、皆さんも正月をゆっくり過ごしてください」

 

裕喜「お正月かー。どうしよっかなー」

 

影二「俺自身の新たなガンプラ何だが…仮面ラ〇ダーカ〇トをモチーフにしてるらしくてな。曰くカ〇トを創ろうとしたが造形的にサ〇ードになったって話だ。いつか楽しみにしていて欲しいとの事だ」

 

一矢「高機動のガンプラなら負ける気はない」

 

 

夕香「…因みにね。お正月の時事ネタはやらない代わりにこれさっき撮影したんだ」

 

夕香(犬着物)

 

【挿絵表示】

 

 

 

厳也「おぉう、これはウィルが喜びそうな…」

 

一矢「…アイツは喜ぶかどうかはどうでも良いが、もう一枚あってな」

 

夕香(犬着物カラーver)

 

【挿絵表示】

 

 

 

一矢「メタ的な事を言うと色鉛筆でざっと塗った奴だな」

 

シオン「随分大雑把な塗り方ですわね」

 

裕喜「でも夕香って、イッチと同じで赤目なんだよね」

 

夕香「双子だしね。でもまさかあんな恰好するなんて思わなかったよ」

 

シオン「ヒロインの宿命ですわね」

 

一矢「まあ今回は塗りの練習も兼ねての絵だな。あとこれはウィルに見せないように」

 

シオン「承知しましたわ」

 

 

 

厳也「で…次回のゲストさんは誰なんじゃ?」

 

夕香「未定だね。まあでも、次回をやる頃には外伝が始まってるだろうし、それに合わせるんじゃないかな」

 

一矢「何なら今のお前等と外伝のキャラを一緒に出ても良いぞ。このラジオは時間軸と言うものを投げ捨ててるからな」

 

夕香「そうそう。それにゲストも別に一回っきりってわけでもないし、また来てよ」

 

 

一矢「お題か…。何かまた募集しとくか」

 

夕香「とりあえず、次回の事を考えて外伝組に関する質問なんかを多く募集したいな」

 

一矢「お題もそうだな…」

 

 

【希空 奏 ルティナ アナタは誰派?】

 

 

一矢「まぁどうせ外伝だからな。今は情報は少ないが理由を合わせてお願いしたい」

 

夕香「キャラ投稿をしている方達とか、特に外伝組を投稿した方達は自キャラとこういう絡みを想像したとか、理由を頂けると嬉しいかな。それを内容によってはあった事にして振り返ると思うし、なければ何かしらでネタになると思うし」

 

 

一矢「さて、改めて今年もお世話になりました。寒い時期ではありますが、体にだけは気を付けてください」

 

夕香「それに来年は今もよりももっと良い年にお互いしようね。一年があっと言う間なのはそれだけ充実したからだってあたしは思ってるし。じゃあまた来年もよろしくね。お相手は」

 

 

一矢「雨宮一矢と」

 

シオン「シオン・アルトニクスと」

 

裕喜「根城裕喜と」

 

厳也「砂谷厳也と」

 

影二「秋城影二と」

 

夕香「雨宮夕香でした」

 

 

「「「「「「ばいばーいっ!!!」」」」」」

 

 




改めまして今年も拙作を読んでいただき、ありがとうございました。
来年度も更に精進してまいりますので、どうぞ来年もよろしくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンブレディオ 第三回

夕香「やっほー。雨宮夕香だよー。最近ね、時間の流れが早いって思うのさ。って言うのも前々からコンビニなんかに行けば恵方巻だのバレンタインだので宣伝してるじゃん。そろそろバレンタインの準備もしなきゃなー…なんて考えると、あっと言う間にバレンタインが来て、ホワイトデーが来て、夏が来て、それで年末に向かって行くんだろうね。まっ、いつだってアタシはアタシなりにやるだけだけどね。それじゃあ今日も初めていこっか──」

 

 

 

 

一矢&夕香「「ガンブレディオっ!」」

 

 

 

OP Mirrors(BACK-ON)

 

 

 

一矢「…どうも、パーソナリティの雨宮一矢です」

 

夕香「改めて夕香だよ」

 

一矢「…まあ確かにあっと言う間に感じることってよくあるよな。一周年がつい先日のように…」

 

夕香「でしょー?こんなんじゃアタシ達もあっという間に二十歳(はたち)だよ」

 

一矢「えー…俺、そこまで生きてる実感ないんだけど」

 

夕香「なくても生きてるんだっつーの。大体、そうやって時間が流れていかなきゃ次に繋がんないでしょ」

 

一矢「本編も終わったしなぁ…」

 

夕香「そうそう。実際のとこどうなの?主役的には何か思うことはやっぱあんの?」

 

一矢「んー…やっぱり…遂にここまで来たかって感じかな…。正直、前も言ったけど、ここまで話が続くとは思ってもいなかったし…。それにここまで色んなこともあったからな…。でも何よりここまで読んでいただいた方々に感謝かな」

 

夕香「まあそれが何よりだよね」

 

一矢「本当にこれまで感想のみならず、励ましのお言葉をいただけたのはここまでに至る支えとなっていましたので改めてお礼申し上げます」

 

夕香「でも、まだまだ物語は終わらないよ」

 

一矢「ああ。ニュージェネレーションズの物語が本格始動するからな」

 

夕香「これまで紐解かれなかった謎…。果たして何が待っているのか、是非、こちらも最後までお付き合い宜しくね」

 

一矢「そういうわけで、今回のゲストはそんなニュージェネレーションズの一人を呼んでる」

 

夕香「じゃあ、早速呼んでみようかね。この人だよ、どーぞ」

 

 

?「えっ?まだ苗字はダメ?むぅ…ではオホン…」

 

 

 

──空を彩る翠の粒子!

 

 

 

───あれは一体、何者だ!?

 

 

 

────そんなあなたの元にただいま推参!!

 

 

 

 

 

奏「 私 だ よ ! ! 」

 

 

 

 

一矢「はい、いらっしゃい。という事でゲストはニュージェネレーションズであり、最新のガンダムブレイカーこと奏だ」

 

夕香「いっやー前回、時間軸を投げ捨ててるとは言ったけど、まさかこうも早く実現するとはねー」

 

一矢「っていうか、いつまで立ってるんだ」

 

奏「えっ?」

↑開始からずっと立ってる

 

夕香「そうだよ。いい加減座りなよー」

 

奏「い、いや…ただでさえゲストに呼んでいただいただけでも光栄なのに、腰を掛ける…しかも一矢さんの近くだなんて…」

 

夕香「成程。イッチの辛気臭さに宛てられたくないもんね」

 

一矢「おい」

 

奏「い、いいいえ、そういうわけでは…。た、ただ…名立たるガンダムブレイカーの諸先輩方を差し置いて私がゲストというのも恐縮で…。私としてもニュージェネから呼ばれるのはてっきり希空かと…」

 

夕香「あー…一応、オファーをしたんだけど…」

 

 

希空【嫌です】

 

 

夕香「…っていう理由も何もないのがロボ助経由で書面で来てね」

 

一矢「ロボ助が謝ってたな…。ったく、俺でさえちゃんと毎回、かかさずやっていると言うのに…」

 

夕香「まあ誰に似たかはすぐ分かるけどね」

 

一矢「…」

 

奏「ま、まあ希空もアレで毎回、ラジオは聞いてますから…」

 

一矢「…むぅ」

 

夕香「っていうか、イッチ相手にここまで恐縮している人、初めて見たよ」

 

奏「そ、それはやはり一矢さんがガンダムブレイカーの先人であり、御三家の一人ですから…」

 

夕香「御三家?っていうと、他は翔さんとシュウジさん?」

 

奏「はい、古今東西三人組と言うのは収まりが良いもの。一号二号V3然りヒトカゲゼニガメフシギダネ然りティガダイナガイア然り」

 

一矢「ガンダムのGWXとかな」

 

夕香「初代セブンゾフィー派か初代セブンジャック派で分かれそうだね」

 

一矢「…まあそのうち慣れていくから、緊張せず肩の力を抜け」

 

奏「は、はい…」

↑用意されたお茶をすでに飲み切っている

 

夕香「まあ、まずはお茶のおかわりだね」

 

 

・・・

 

 

奏「うむ、時間も経ったお陰で多少は落ち着いてきました」

 

一矢「それは良かった。しかし未来のガンダムブレイカーか…」

 

奏「私達のことはどの程度話しても?」

 

夕香「自分達の素性がハッキリ明かさないなら良いんじゃない。本編の最後にコロニーとあの娘も出てきてるし」

 

奏「ふむ…では一矢さんの代から30年後が経ちました。一矢さんの後に優陽さんが現れたように、その後もガンダムブレイカーの使い手達が現れ、バトンと共に今、その繋がりは私にまで受け継がれているのです」

 

夕香「もっとも希空はあまりいい気はしないみたいだけどね」

 

奏「こればかりは希空次第としか…。でも出来ることはするつもりです。あの娘には険しい顔より微笑みがよく似合う」

 

一矢「…その、親子関係の方は…」

 

奏「む、むむむぅ…!!?そ、そそそそうですねぇ…。、え、ええ、良好といえば、良好なのですが、やはり希空は思春期の身の上…っ!!これが難しい問題で…」

 

一矢「…もしかして両親…いや、父親は嫌われてるのか?」

 

奏「そ、そういうわけではありません!が、希空も素直にはなりきれず、かと言って、自分と同い年の娘と親しくしていようものなら拗ね始めたりと…」

 

夕香「あぁうん。すごく親に似てるね。特に父親」

 

一矢「…」

 

 

夕香「ところで奏のガンプラ…。クロスオーブレイカーだけど、ダブルオーライザーがベースなんだね」

 

奏「ええ、これは単純な私の戦闘スタイルもありますが、やはり好みの部分も大きいです」

 

夕香「確か記念小説の方でもエクシアやダブルオーライザーが好きだって言ってたね」

 

奏「特にダブルオーライザーが。うむ…やはりダブルオーライザーとは魂で繋がりあっているというか、見ていると熱いバイブレーションが起きるというか、あぁ実家に飾ってあるPGダブルオーライザーが恋しい…」

 

夕香「筋金入りだね…。でも、奏とイッチって戦い方がなんだか似てるよね」

 

奏「オールラウンダーをこなせると自負してます」

 

一矢「まあ、武器も似てると言えば、似てるか」

 

奏「実体剣…良いですよね」

 

一矢「いい…」

 

夕香「なにそのプロ同士多く語らないみたいなの…」

 

 

奏「健気に頑張る娘…良いですよね」

 

一矢「いい…」

 

奏「素直ではないけど、相手を放ってはおけない娘…良いですよね」

 

一矢「いい…」

 

奏「希空…良いですよね」

 

一矢「いい…。はっ!!?」

 

 

夕香「へぇ」

↑ニマニマ

 

奏「うんうんっ」

↑凄く嬉しそう

 

 

一矢「な、なにか問題でもあるか!?次だ次!!」

 

 

<裏話のコーナー>

 

 

夕香「イッチ、台本読みなよ。えっ?嫌だって?まったく…」

 

奏「希空、ラジオ聞いてるかなー。お姉ちゃんはちゃーんと聞き出したぞー」

 

 

夕香「裏話ねぇ…。今回は設定の没や変更とかにしようか」

 

奏「まあここまで続けばありますでしょうな」

 

夕香「実はね。シオンなんかは最初、ウィルの妹の予定だったんだよ」

 

奏「なんと」

 

夕香「ウィルへの態度なんかはそのままセレナさんへの態度だよね。ブラコンって奴になるか」

 

奏「しかし、何故変更が?」

 

夕香「ワールドカップのチームを多くするためかな。ジャパンカップでの内容が濃かった分、それ以上はなくともワールドカップもそれに準じたものにしないといけないからね」

 

奏「確かにキャラ募集の際に寄せられた設定の多くはジャパンカップの県代表が多かったですね」

 

夕香「うん。下手をしたらまともな相手がアメリカ代表とギリシャ代表しかいないからね。だからもう一チームってことで、あの悪魔であり天使なセレナさんが生まれたわけだよ」

 

奏「成程…。しかし最初の設定のウィルさんの妹ですか…」

 

夕香「うーん…」

 

 

シオン【お兄さまー!!】

 

ウィル【やれやれ、どうしたんだい。シオン】

 

 

夕香「今じゃ想像できないね」

 

奏「顔を合わせれば、火花を散らしますからね」

 

一矢「大体、夕香のせいだけどな」

 

夕香「あっ、復活した」

 

 

奏「他にも夕香さんシオンさん祐喜さんコトさんによる妹チームの結成などが…」

 

夕香「これは彩渡街編で変更になったやつだね。そもそもアタシやシオンはチームってガラじゃないしね。やるにしても限定的かな」

 

奏「そう言えば夕香さんはお兄ちゃんお兄ちゃんしてるようなキャラではないですね」

 

夕香「作者の好みだね。あんまりベッタリし過ぎるってのはそこまで好きじゃないらしいし、アタシぐらいの距離感が好きなんだって」

 

一矢「クロノも変更はあったな」

 

奏「というと?」

 

一矢「最初は新人類ではあるが、こちらの世界に実在する黒野リアムに成り代わるって予定だったんだよ」

 

夕香「まあ流石にアタシ達側の世界で人殺しを発生させるのもなー…ってことで、変更になったけどね」

 

 

一矢「そちら側は何かないのか?」

 

奏「私たちはまだ始まってもいませんから…」

 

夕香「あぁでも裏設定レベルではあるよ」

 

奏「?」

 

 

夕香「奏が○○○さんの生まれ変わりとかね」

 

奏「!?」

 

夕香「まあ荒唐無稽だから裏設定っていうか、半ば没なんだけどね。でも作者の頭の中には残ってるんだよ」

 

一矢「果たして誰だろうか…」

 

夕香「まあただでさえダブルオーライザー好きターンX嫌いの姉キャラなんだから、分かるでしょ」

 

一矢「今の話込みで記念小説を見返すと、まあまた違った意味合いになるか…」

 

夕香「まあ流石に生まれ変わりはナシにしてもあの人に因縁のあるキャラだよ」

 

奏「な、なんか私は自分で思っていた以上の存在だったようで…」

 

夕香「でも確かにニュージェネレーションズの中じゃルティナ以上に一番謎のあるキャラなのは間違いないよ」

 

 

 

<投稿コーナー>

 

 

一矢「作者の活動報告にあるガンブレディオの投稿受付コーナーで募集した質問に俺達が答えていくぞ」

 

夕香「今回のお題は【希空 奏 ルティナ アナタは誰派?】だよ」

 

一矢「投稿キャラのそれぞれの印象も書いていただいたが、それは話のネタとして割愛させていただきます」

 

夕香「それじゃあ行ってみよう。エイゼさんからいただきました。ありがとね」

 

 

レディオ二回目お疲れ様でした。

三回目目指して投稿しますね(爆)

アナタは誰派…ヤバいよこれは修羅場が見れるぞ(泣)

自分は希空ちゃん派ですね。理由は…普段は父親譲りの性格なれども、時折見せる女の子らしさに…君の存在に心奪われましたよ。

 

 

奏「だ よ ね ! !」

 

一矢「うるさい」

 

奏「し、失礼…」

 

夕香「そういうイッチもニヤニヤしてるくせにー」

 

一矢「…うるさい」

 

奏「ちなみに涼一のスイーツは私も時折いただくが非常に美味だ!トリュフやティラミスが好きな私としてはぜひ、今後とも作っていただきたい。あぁそうだ、明里との親交も深めたいので今度共に遊びに行けたらと思っているぞ!」

 

夕香「涼一君のガンプラはエクシアベースなんだね」

 

奏「…人が丹精込めたガンプラにケチをつける気はないのですが…むむぅ…太陽路ぉ…」

 

 

一矢「次は刃弥さんからいただきました。ありがとう」

 

 

ガンブレディオ第三回にむけての投稿です。

【希空 奏 ルティナ アナタは誰派?】

自分的には奏ですね。希空のようなクールな少女ももちろん好きなのですが、

それ以上に色々とギャグシーンもあり、笑いどころも多い奏に可愛さを感じましたね。

雰囲気は大人っぽいけど中身は残念。そんなギャップ萌えと言った感じですね。

 

 

奏「…///」

 

一矢「急にしおらしくなったな」

 

夕香「耳まで真っ赤だよ。外はねになってる髪型がペタンってなってるし」

 

奏「い、いや…その…は、はい…あ、ありがとうございます…///」

 

一矢「ところで御剣姉妹への印象は?」

 

奏「サヤナさんのトイショップは近くに寄れば、必ず立ち寄ります。値段としても、それはホビーショップよりも家電量販店の方がお手頃ですが、それ以上の価値があの店にあるので通っていますね。あの店のコンテストも中々の出来の作品が集いますし」

 

一矢「ふむ」

 

奏「ツバコはよくテレビで拝見しておりますよ。実際、テレビで見る以上に苦労が絶えないともいますが、それでも笑顔を振りまき、人々を沸かせる彼女には尊敬しています」

 

夕香「奏もアイドルやらないの?良いんじゃない?キャラ的にも…」

 

奏「み、みんなのアイドル、奏でちょっりーすっ!みんなでぇっアッゲアゲでいっちゃおうかーっ!!」

 

一矢「おいちょっと待て。アイドルでもいろいろおかしい」

 

夕香「疑似人格…」

 

 

奏「お、お目汚しを…」

 

一矢「まったく…。代わりに次の奴、頼むぞ」

 

奏「はっ。えぇっと、不安将軍さんよりいただいた。感謝するぞっ」

 

 

三回目ガンブレディオのアンケート投稿致します。

かなり遅れてしまい申し訳ありません!

 

【希空 奏 ルティナ アナタは誰派?】

あれ、これ希空を選んだら奏とロボ助にやられるんじゃ・・・?

しかし悩みましたが、自分は奏でしょうかね。自分も希空みたいな性格ですからこんな引っ張ってくれる人が良いですね。

それに良い意味で騒がしいですから飽きない事でしょう。

 

 

奏「待て待てぇーい!!そこは私じゃなくて希空だろー!!希空が一番良いに決まってるだろぉー!!!」

↑机バンバン

 

夕香「って言ってる割には、もはや、身体が真っ赤だよ」

 

一矢「まあ嬉しいんだろうな」

 

奏「いやいや、そんな…」

↑テレテレ

 

夕香「んで、舞歌ちゃん達はどうなの?」

 

奏「貴文はふむ…頼り甲斐はあるのだが…うむぅ…希空までそちらに行ってしまうのは…。まあでも、涼一のスイーツを食べる時などの表情はとても好きだぞ。私としても多くを語るよりも表情で語る方が嘘がなくて好きだからな!」

 

一矢「舞歌は?」

 

奏「良き友です。あれで中々気遣い上手ですから、私もついつい内心を吐露してしまう時があります。父親への態度は…まぁその…私もそう出来たら…あぁいや!!うむ!!年頃にしては珍しいのでは!?まぁ今後とも付き合っていきたい存在だ!」

 

 

・・・

 

 

 

ED  Carry on(BACK-ON)

 

 

 

一矢「今回のラジオはここまでだな。今回はこれから始まるニュージェネレーションズの物語の前夜祭みたいなものだし」

 

夕香「因みに次回は50000UA記念小説だよ。内容は未来編の話なんだけど…」

 

奏「何と新たなガンダムブレイカーの使い手が登場するぞ。その人物は私にガンダムブレイカーのバトンを渡してくれた言わば直近の先輩だ」

 

一矢「果たして、どんな話となるのか…。まあ少し待っててくれ」

 

夕香「50000UA記念小説だと本来は他にも色々やってるんだけどね」

 

一矢「人気投票とかな。まあそれはまた別の機会でも良いだろう」

 

 

夕香「それじゃあガンブレディオの次回へ向けてのお題、行ってみよう」

 

 

【Newガンダムブレイカーへの期待や要望】

 

 

奏「今年始まって一番のビッグニュースだな」

 

夕香「前作のペースで考えると夏頃、発売かね。これも小説書いたりするのかな?」

 

一矢「さあな。ただでさえここ最近の投稿は無理のあるものだったし」

 

夕香「相当だったよね。構想はあっても頭が回らないってのはかなりキツイよね。言葉も間違えるし、誤字脱字もあるし」

 

一矢「まあ、今後の投稿は無理のない範疇でやっていくつもりだ」

 

 

夕香「因みにガンブレディオではゲストの募集もやってるよ。皆さんの投稿キャラでも良いし、うちのオリキャラでも良いしね。その際はガンブレディオの投稿コーナーで一緒にお願いね」

 

一矢「魅力のあるキャラが多すぎて、誰をゲストにしていいか分からない状況だからな」

 

 

夕香「けど改めて、一位おめでとうね」

 

奏「い、いえ、まさかこうなるとは…。本当に光栄で…アレ?」

 

一矢「…どうした?急に汗をだらだらかいて…」

 

奏「…い、いえ…その…私が一位なんですよね?」

 

夕香「うん」

 

奏「…これってラジオなんですよね?」

 

一矢「聞いてる奴は聞いてるだろ」

 

 

奏「…希空を差し置いての一位なんてロボ助にバレたら、まずくないですか…?」

 

一矢&夕香「「あっ」」

 

 

 

<<突然の停電!!>>

 

 

 

一矢「ちょっ!?どうした!?」

 

夕香「停電なんて初めてだよ!ちょっとブレーカーを…。イッチ、早く来て!!」

 

奏「ちょっと私を置いていかn─!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???《───聴くがよい。晩鐘は汝の名を指し示した》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏「えっ」

 

 

 

 

 

 

???《首 を 出 せ》

↑怒りのビーストモード

 

 

 

 

 

 

奏「い、いやいやいやいや!!!!私が悪いわけじゃないから!!私だって票を入れられるなら、希空に入れたさ!!!でも仕方ないじゃないか!!!!そう、だってしょうがないじゃないか!!!!どうだ、いまのえ〇りに似ていた──<ヒュンッ!!>あぁマグナムソードを向けるな!!!!!大体、お前、そんな渋い声じゃなかっただろ!!!!?どっちかって言えば、天草な感じでビッグクランチする方だろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおっっっっっ!!!!!!?」

 

 

 

夕香「…なんか収録室で悲鳴が聞こえない?」

 

一矢「気のせいだろ。奏一人だし…。放送時間も間に合わないから、ここで切っとくか」

 

夕香「そだね。お相手は」

 

 

一矢「雨宮一矢と」

 

夕香「雨宮夕香と」

 

奏「奏でしたあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!あ、あああ、ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぅっっっっ!!!!!!!?」

 

 

「「「ばいばーい(ああああああぁぁぁっ)!!」」」

 

 

夕香「…ねぇ、奏だけこの世からバイバイする勢いだったけど…」

 

一矢「…大袈裟なだけだろ、多分」

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

希空「…放送事故でしょうか…。行かなくてよかった…。ロボ助、コーヒーを…。ってロボ助…?」

 

ルティナ「ロボ助なら放送前にどこか行っちゃったよ。それより本当にオファーを受けなくて良かったの?」

 

希空「まだ良いです。それより私が行けば、あの空間のアマミヤ成分が凄いことに…」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンブレディオ 第四回

一矢「・・・あい、雨宮一矢です。えっとあのー・・・前々からガンプラとか作ると稼動域や構造で驚かされることは多々あるんだけど・・・飾る時なんかはS字立ちにすることが大半で、折角のギミックや可動域を活かしたポーズで飾れないかとは思うけど、そうするとスペース等の問題で諦めてしまうんです。まあ、S字立ちも格好良いんだけどな。じゃあ、今日も初めていきましょう」

 

 

 

 

一矢&夕香「「ガンブレディオっ!」」

 

 

 

OP Mirrors(BACK-ON)

 

 

 

一矢「・・・どうも、改めまして雨宮一矢です」

 

夕香「夕香だよー。しかしまぁ飾りかぁ・・・」

 

一矢「・・・お前、どうしてんの?」

 

夕香「アタシは基本、バルバトスしか持ってないしね。後はクリスマスでどっかのサンタがくれたプレゼントのガンプラを棚に飾るくらいだから、そんなに量もないし、場所とか特に考えたこともなかったよ」

 

一矢「ホント、プラモの数があり過ぎると何を飾るか取捨選択しなくちゃいけないから、飾れないであぶれたプラモは武装やアンテナとか折れやすいパーツを小分けした上で袋に入れて、HGやMGなんかの箱に収めて押入れで眠ってもらってる」

 

夕香「ふぅん・・・。シオンなんかもそういう悩み、あったりすんのかな?」

 

一矢「あいつって言うか・・・あの家の場合、一部屋丸ごと飾るための部屋とかありそうでな」

 

夕香「スケールが違うねぇ。もし一部屋丸ごとって言うならイギリスに留学した時にでも実際、見てみたいね」

 

一矢「そうしてくれ。さて、そろそろゲストを呼ぶか」

 

夕香「あんましここでアタシ達が長話してもしょうがないからね。じゃあ、今回のゲストはこの人だよ。どぞどぞー」

 

 

優陽「はいはーい。ゲストの南雲優陽だよー」

 

 

一矢「あい、ということで今回のゲストは本当に男なの?南雲優陽だ」

 

夕香「前回、ゲストの募集したからね。今回、その中からWハマーさんのリクエストだよ」

 

優陽「ありがとう、Wハマーさんっ」

 

一矢「・・・実を言うと、ゲストのリクエストで未来編のキャラ・・・特に希空が多かったんだけど・・・」

 

 

希空【次行きます、次】

 

 

夕香「安定してるねー。またしても書面でだよ。まあ次回やるとしたら外伝である未来編が終わったらだと思うから、その時に、って事なのかな」

 

一矢「・・・聞いた話だと、まだ良いって言ってるらしいからな。つまりまだ時期じゃないって事だろ。ま、次回になったら否が応にも連れてくるけどな」

 

夕香(共演したいのか)

 

優陽(共演したいんだね)

 

一矢「なにその目・・・。まあ因みに次点で奏だったんだ。でも前回出たってのもあるし、一応、声はかけたんだが・・・」

 

 

奏【下手をすると、またアズラエールされてしまうので・・・】

↑ブルブル

 

 

夕香「こっちは直接、謝って来たね。すっごい畏まってたよ。本当に光栄なのですがーってね。まぁ無理に引っ張り出すのも可哀想だし、未来編のキャラをゲストにするのはは次回に持ち越しだね」

 

優陽「つまり僕は消去法で選ばれたってわけだ」

 

一矢「・・・そう言うな、少なくともお前がいると多少は居心地が良い」

 

優陽「ホントに?」

 

夕香「ナチュラル畜生なところはあるけど、イッチを泊めた時みたいに包容力はある方だから、イッチ的にもやり易いってのは本当だと思うよ」

 

一矢「・・・一々説明しなくて良いんだよ」

 

優陽「やだなぁ。そういう事ならいつでも抱きしめて、よしよししてあげるよ?」

 

一矢「シャアさんが飛んでくるから、止めろ」

 

優陽「一矢限定のつもりなんだけどなー」

 

 

・・・

 

 

夕香「さて優陽をゲストに迎えてのガンブレディオ・・・。そう言えば、優陽ってさ。ここ最近、撮影(キャラ絵)してること多くない?」

 

一矢「ああ、そう言えばこの間、ラジオの収録ですれ違った時あったけど、バレンタインの撮影だとか言ってたな」

 

夕香「男なのにバレンタインとは一体・・・」

 

優陽「バレンタインに関しては最初は抱き合った夕香ちゃんとシオンちゃんにリボンつけてって案もあったらしいけどね」

 

夕香「マジか」

 

一矢「結構なキャラはいるけど、実際、誰がどれだけ撮影したのかを纏めると・・・」

 

 

一矢(プロト含め)×7

 

夕香×(カラー差分含め)×9

 

翔×3

 

シュウジ×3

 

優陽×5

 

カガミ×1

 

ヴェル×2

 

リーナ×1

 

シオン×4

 

祐喜×2

 

セレナ×3

 

風香×1

 

真実(差分含め)×2

 

希空(ちび含め)×4

 

ルティナ(ちび含め)×4

 

奏×4

 

ラグナ×2

 

歌音×2

 

シャルル×1

 

 

一矢「・・・って感じだな」

 

優陽「お蔭様で登場してから早4ヶ月。ご贔屓にさせてもらってるよ」

 

夕香「アタシとイッチは今まで重ねて漸くあそこまでって言うのに、優陽は登場からの短期間だからね・・・。なんでなんだろ?」

 

優陽「さあ?これに関しては作者も分からないらしいよ」

 

一矢「まあ、キャラ上、男も女も、どっちのイベントにも何食わぬ顔で出れるからな」

 

夕香「男の娘、恐るべし・・・」

 

 

優陽「でも二人とも撮影はお手の物でしょ?最初からやってるからねー」

 

一矢「俺の撮影は早くて3,40分で終わるな」

 

夕香「うっそ。アタシ、一時間ちょいくらいかだけど」

 

一矢「しかし、カメラマンの腕もあるけど、よくもまぁ載せられたもんだな」

 

夕香「ねー。正直、今もそんなにだけど、最初の最初は本当に酷かったからね。あれでお褒めの言葉をいただけたのが信じられないよ」

 

優陽「さっき一矢と夕香ちゃんが撮影してたし、比較してみようか」

 

 

一矢「じゃあまずは俺からだな・・・」

 

 

【挿絵表示】

 

 

一矢「これが初期に撮影したもので・・・」

 

 

【挿絵表示】

 

 

一矢「これが今」

 

 

夕香「基本、髪ぼさぼさのやる気のない表情は変わらないけど、やっぱり目かな」

 

優陽「うん、最近、コツを掴んだのかプロト含めて一矢の目は猫みたいな目になってる」

 

一矢「因みに単純な撮影だけなら、俺が一番早く終わるそうだ」

 

 

夕香「じゃあ、次アタシだね」

 

 

【挿絵表示】

 

 

夕香「Before」

 

 

【挿絵表示】

 

 

夕香「After」

 

 

夕香「アタシも地味に髪型が変化してるよ」

 

優陽「横髪だね」

 

夕香「巻き髪が最初はあったけど、水着撮影以降は・・・まぁ切ったんだよ」

 

 

優陽「けどさぁ、こうして色んな人の撮影した写真を見てると、女の子の巨乳率が凄いね」

 

一矢「好みなんだろ。誰のとは言わないけど」

 

優陽「大きさは色々。でも貧乳だけはいないからね」

 

夕香「ミサ姉さん激怒待ったなし」

 

一矢「因みに今回の俺達みたいに初期の奴らでこれはと思った連中は時間があれば撮り直すらしい。今回の俺達の奴も本編に載せたのを併せて差し替えになるそうだ」

 

 

 

<裏話のコーナー>

 

 

夕香「正直、さっきのも裏話っちゃ裏話なんだけどね」

 

一矢「今回、話すのは裏設定・・・。ズバリ金銭面に関することだな」

 

優陽「ガンプラファイターは何かと入用だからね」

 

夕香「正直、アタシや祐喜みたいなライト層は兎も角、イッチ達はそうもいかないもんね」

 

一矢「単純なガンプラやそれを作成するにあたって用意する道具類だけでも、それなりだからな」

 

優陽「模型は大人の趣味って聞く時もあるからね」

 

一矢「加えてガンプラバトルをする費用もある」

 

優陽「そだよー。本編じゃあ何気なくやってるけど、GP含めてアレちゃんとお金入れてやってるからね」

 

一矢「・・・そう考えるとプラモだけで結構かかってるよな」

 

 

夕香「正直言うと、ここにいる全員、バイトしてるよ」

 

 

優陽「まあ、学生のお小遣いだけじゃあ、無理があるもんね」

 

一矢「ただ問題は本編じゃあ全くその辺の匂いをさせてないからな」

 

夕香「ぶっちゃけバイト描写まで入れると基本、夏休みを舞台にした本編なんかイッチのスケジュールが凄いことになる」

 

一矢「基本、大会があったからな。ガンプラバトル関連だけじゃなく、バイト描写もいれてたら。正直、俺のキャラ的に気力が湧かなくなるなんてこともなりかねないからな」

 

優陽「一矢は忍耐あるようなキャラじゃないからね」

 

夕香「それにイッチにしっくり来るバイトがなかったのも大きな理由なんだよね。アタシや優陽なんかは接客みたいなサービス業とか出来るし、そういうバイトをやってるっていう裏設定だけど、イッチはねぇ・・・」

 

一矢「はっ、どうせ俺は卑屈根暗ボッチだからな」

 

優陽「まあまあ、そんな一矢がバイトをしながらバトルを頑張ってるのは知ってるから。辛くなったらいつでもぎゅってしてあげるよ」

 

 

夕香「ブレイカーズなんかも考えたけど、まぁ・・・あそこ人多いから」

 

優陽「だとしたら、やっぱミサちゃんとこでお世話になってるのかな」

 

一矢「ほっとけ」

 

 

・・・

 

<投稿コーナー>

 

 

夕香「これは作者の活動報告にあるガンブレディオの投稿受付コーナーで募集した質問にアタシ達が答えていくよ」

 

一矢「…今回のお題は【Newガンダムブレイカーへの期待や要望】だ。因みに一部、内容を割愛させて貰っているのでご容赦を」

 

夕香「じゃあ、いってみましょーかーねー・・・。幻想目録さんからいただきましたーよ」

 

 

3回目のガンブレディオお疲れ様でした!結局投稿し忘れてしまった…

 

【Newガンダムブレイカーへの期待や要望】

やっぱり変形機能が欲しいですね、戦闘中に無理のない範囲で出来るような感じで。あとは主人公のキャラクリとか出来たらもっとストーリーに入り込めそうだし追加して欲しいかもですね。それ以外は新パーツが多ければ文句なしですね(とりあえずリボーンズガンダムとクワンタフルセイバー実装はよ)

 

 

一矢「ありがとうございます。さて変形か」

 

夕香「ぶっちゃけこれに関しては作者も望んでて、希空のNEXも変形できるようにしてるからね」

 

優陽「ゲームだとEXアクションであるスキャラを一部のイージスのパーツを使えば、変形できるんだっけ」

 

一矢「その方式でいくとZのスイカバーアタックくらいじゃないか。追加でやるとしたら」

 

 

夕香「キャラクリねぇ・・・。拘る人は拘りそうだよね」

 

一矢「人によっては何時間もってあるらしいからな」

 

優陽「あるとしても、主役のパターンが何人かいて、そこから選択式ってのはありそう」

 

 

一矢「はい、次はエイゼさんからいただきました」

 

 

ガンブレディオお疲れ様です。

四回目は…「Newガンダムブレイカーへの期待並びに要望」ですか…

新機体もですが、乗り物系(メガライダー等)の強化やオーキスやGNアームズ等のドッキング機能追加等ですかね。

 

 

夕香「どもども。さてドッキングねぇ。確かに欲しいかも。メガライダーとかの応用で出来ないもんかね」

 

優陽「どうせなら別のフィールドに行っても乗り継ぎできるようにしてほしいかな」

 

 

 

一矢「お次は刃弥さんだ」

 

 

第四回ガンブレディオに向けての投稿です。

【Newガンダムブレイカーへの期待や要望】

やはり、機体の種類を増やして欲しいですね。今までも十分というプレイヤーさんも多いかもしれませんが、

自分はオリガンを作成する上で、劇場版00のサバーニャ、ハルート、他にもSEEDのフォビドゥン、レイダー、カラミティなどのパーツがあればいいのにと何度も思ってましたからね。

あと腕パーツが両腕セットじゃなく、左右で別々の機体の腕を付けられるようにして欲しいですね。

右腕がシェンロンガンダムで火炎放射、左腕がデスティニーガンダムでパルマフィオキーナといったことができれば、戦術の幅が広がりますしね。

 

 

優陽「ありがとー。機体数に関しては新作が出る度に言われそうな尽きない話題だよね」

 

一矢「その分、アセンの幅も広がるからな」

 

夕香「両腕を別々にかぁ」

 

一矢「まあ確かに面白そうだな」

 

夕香「でも正直、作者はいくらオプション付けても基本、ゴリ押しプレイだよね」

 

優陽「ガンブレやってる作者の頭に戦術なんて言葉はないからね」

 

 

 

優陽「次、僕が読むよ。Wハマーさんからもらったよ!」

 

 

ガンブレディオお疲れさんです!

4回目のお題は【Newガンダムブレイカーへの期待や要望】ですか。

自分としては

・3の自由度を受け継いでほしい。

・過去作からステージをいくつか流用してほしい。

・量産機系の機体を増やしてほしい(特にseed系統)

・変わり種のミッションを作ってほしい。

期待としては迫力やキャラに期待ですかね。

 

 

一矢「ありがとうございます。んでまぁ。過去作のステージは3の博物館の例もあるし、ワンチャンあるんじゃないか」

 

夕香「変わり種かぁ。それこそ制限時間内での脱出とか、そういうのかな?確かにミッションの幅が広がれば、その分、遊びも広がるしね」

 

優陽「ビルドファイターズみたいに野球やろうよ」

 

一矢「なんでだよ」

 

 

夕香「トライデントさんからいただいたよ」

 

 

ガンブレディオ見てて(ラジオなのに見ててとはこれ如何に)楽しいのでずっとやりましょう

 

νガンダムブレイカーへの期待や要望

・ビルダーズパーツの容量UP

・特定パーツで変型可能

・武器の持ち手変更機能(vsのゼロやX2みたく両手にライフルとサーベル持たせたり、ライフルを左手に持たせたり)

僕としてはこれですかね。追加機体は書かなくても色々増えそうですし

 

あとこれは個人的な質問なんですが、もし戦争とか悲劇設定とか無しで普通の生徒としてガンダムのキャラが集まった学校があって、自分がそこの生徒だったとして、誰と友達になりたいですか?

僕としてはシンですかね。シスコンって死ぬほどイジったり一緒にバカやりたいです

 

 

一矢「どうも。しかし、これは行けそうだし全部欲しいくらいじゃないか?」

 

優陽「ビルダーズパーツはアセンの時、よく思うことだし、特定パーツもイージスの例がある、武器の持ち手も・・・出来なくはないんじゃないかな」

 

夕香「飛躍的とは言わなくても、地道にコツコツそれでいて大きく進化してるからね」

 

 

一矢「さて、久しぶりの質問だが・・・。俺はまぁ・・・00のフェルトとかかな。ガツガツして来ないと思うし、程よい距離感で付き合えそう」

 

夕香「ガツガツ系苦手だからね、イッチは」

 

優陽「僕は鉄血のオルガかな。別にどうしても友達になりたいわけじゃないけど、もし学生なら団長とかの重荷はないだろうし、気ままに三日月達と馬鹿やってるんじゃないかな」

 

一矢「ミカが見てるって言って、羽目外さなきゃいいけど」

 

優陽「ところで夕香ちゃんは?ほら、ガンダムキャラを知ってるっていう前提で」

 

夕香「じゃあ、ジュドーとかじゃない?ノリも面倒見も良さそうだし。一緒にいて退屈しない人がいいよね」

 

 

夕香「さーて、最後は不安将軍さんだよ」

 

 

四回目のガンブレディオのアンケート書かせてもらいます。

【Newガンダムブレイカーへの期待や要望】

ガンプラの種類が増えて欲しいのはもちろんですが、ロトやゲイツといった量産型のも増えて欲しいですかね。

あとは前にも書いたと思いますが様々なミッション系のやつもあれば嬉しいです。

 

 

優陽「ありがとう!確かにWハマーさんの投稿にもあったけど、欲しいね」

 

一矢「モノアイ系とかさ。作ろうとしても、どうにも幅が広がらないんだよな。クロノのデクスマキナなんかも最初組んだ時、前作のネメシスに似通ってたからな。そこから何度も組みなおして、あぁなったが」

 

夕香「ミッション系もだね。Newガンダムブレイカーの公式サイトだと、バトル中にお題が出るらしいから、そこに期待したいね」

 

 

・・・

 

 

ED Darling(V6)

 

 

一矢「さて、エンディングか・・・。今回のEDは優陽をイメージする時に聞く曲の一つだ」

 

優陽「充電しないといけない時は傍にいるよ」

 

夕香「どうだったラジオは?」

 

優陽「そりゃ楽しかったよ!一矢がいるのもあるけど、また呼んで欲しいな」

 

 

夕香「さてさて、Newガンダムブレイカーの情報も少しずつ出てるね」

 

一矢「現在分かってる新規参戦は鉄血からバルバトスルプスレクス、バエル、キマリスヴィダールだな」

 

優陽「これは夕香ちゃんも嬉しいんじゃない?」

 

夕香「まあね」

 

 

 

一矢「さて、次回のお題なんだが・・・。少し前に活動報告なんかでも話題になった奴にしようか」

 

 

【人気投票】

 

 

夕香「うん、ラジオと同じで50000UA記念でやるって言って、なんだかんだで話題にしなかったからね」

 

一矢「ルールとしてだが、一人三票でそれを本編未来編関わらずアナタが好きな各キャラに投票して欲しい」

 

夕香「これは上位三人になった人の集合絵を描くと同時にその三人がメインの話を書くって奴だね」

 

一矢「それとそれぞれにキャラ絵を描くって奴だな。もし既に描かれているキャラなら、投票というシチュに絡めたキャラ絵を描く」

 

優陽「期日は設けるけどもし投票にばらつきがあって、上位の三人に決められなかったら、そこから投票を受けたキャラを纏めて、また新たに期日と共に投票を設けるよ」

 

優陽「因みに作者は投票したいところだけど、投稿キャラに投票した場合、下手をしたら贔屓と取られかねないし、かといって思い入れはあっても自キャラに自分で投票するのもなぁ・・・ってことで作者は投票しないよ」

 

夕香「とりあえず、未来編のキャラも含めるってことで未来編を終えるまでにしたいからね。三月末までが期限だよ。その間なら投票のし直しもありだし、ちゃんとした期限の発表は外伝終盤に後書きで発表するよ」

 

一矢「多くの投票を待ってます」

 

 

 

夕香「さて、いきなりの人気投票だったね」

 

一矢「どんな結果になるやら・・・」

 

優陽「でも楽しみは楽しみだね!」

 

夕香「さて、そんな人気投票だけど、結果が分かる次回のゲストは希空なのは確定だよ」

 

 

一矢「因みに次回からは本格的に外伝である未来編のスタートだ」

 

夕香「希空の物語には何が待ち、どのような結末が待っているのか。ぜひ、見届けてね」

 

優陽「ついでに僕の姪っ子もよろしくね」

 

 

一矢「ではお相手は雨宮一矢と」

 

夕香「雨宮夕香と」

 

優陽「南雲優陽でしたっ!」

 

 

「「「ばいばーい」」」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンブレディオ 第五回

夕香「はいはーい、雨宮夕香ですよーっと。アタシね、結構映画見るのが好きでね。月1で必ず一本は映画館で見るんだけど、ここ最近で面白いなぁと思ったのが、ミュージカル映画のグレイテスト・ショーマンなんだ。元々、主演の俳優さんが好きなんだけど、どの歌もスッと胸に入ってくる綺麗な歌声で、歌っている時も動きで魅せてくるから、1時間46分の映画もあっという間だったんだ。この映画はここ最近のアタシのオススメかな。それじゃあ行ってみようか」

 

 

 

一矢&夕香「「ガンブレディオっ!」」

 

 

 

OP Mirrors(BACK-ON)

 

 

 

一矢「・・・どうも雨宮一矢です」

 

夕香「その妹だよー」

 

一矢「お前がそこまで絶賛するのは珍しいな」

 

夕香「でしょー?でも本当に良い映画だと思うよ。久しぶりにあんなに綺麗な歌の数々を聞いた気がする。生歌じゃない分、動きで魅せるからエンターテインメントとして十分な作品だと思うしね」

 

一矢「逆に生歌はもっと凄いんだろうな」

 

夕香「何かで見たけど、やっぱ迫力はダンチだよ。まだ上映している映画館もあるみたいだし、イッチもどう?見に行くなら一緒に行くよ」

 

一矢「本当に好きなんだな…。まあその話は後でするとして、ゲストを呼ぶか」

 

夕香「そうだねー。んじゃ、どぞどぞー」

 

 

希空「…雨宮希空…です」

 

ルティナ「ルティナだよー」

 

歌音「姫川歌音さんでーす」

 

 

一矢「あい、今回のゲストは新世代の主人公・雨宮希空、覇王の子・ルティナ、葛藤の歌姫・姫川歌音だ」

 

夕香「今回はEX編の直後って言うこともあって、ゲスト募集の中から不安将軍さんのリクエストだよ」

 

ルティナ「ぶっちゃけ出れると思ってなかったしね。あんがとー」

 

 

一矢「それよりも、だ」

 

希空「…」

 

夕香「やっと来たね」

 

希空「…タイミングを見計らってただけです。でも不思議な気分です。自分と同じくらいの年齢のパパ達が目の前にいるなんて」

 

夕香「まあ見た目はあれだけどね。ここはメタ空間だから気にしないでね」

 

希空「…ゲストで呼ばれたのなら応えるつもりですが、喋りは得意ではないので期待しないでください」

 

一矢「そこは俺も同じだが、自然体でいればどーとでもなる」

 

歌音(けどゲストの席はフリーだったのに真っ先にあーちゃんは一矢さんの隣に行ったからね。お父さん大好きっ娘のあーちゃんもお姉さんは好きなのです)

 

ルティナ(また一人でトリップしてる…)

 

 

・・・

 

 

夕香「そう言えばさ。前回、【Newガンダムブレイカーへの期待や要望】を募集するだけしておいて、アタシ達は何も答えなかったね」

 

一矢「確かに…。でも機体数とかは前回出てたし、実際、戦闘のバランスくらいじゃないか」

 

夕香「作者的に戦闘のバランスって言うか、バトル時間は2が理想だったらしいからね」

 

一矢「2は何気なく作った機体で出撃してもサクッと終わったからな。3だと長さの問題でアセン留まりが多いし」

 

夕香「ぶっちゃけ今、Newの情報を見て、ゲストのみんなはどう思う?」

 

 

希空「ギャルゲー?」

 

歌音「可愛い娘が一気に増えて…これはこれは。出来ればイケメン枠ももっともっと…」

 

ルティナ「バトルにのめりこめればどんな要素でも良いんじゃない?」

 

 

一矢「成る程な…。まあギャルゲー云々は俺達が言える立場ではないが」

 

夕香「主に翔さんのせいだけどね。でも実際、驚きと戸惑いはあるよ。今までと毛色が違うようにも感じられるしね」

 

一矢「なんであれプレイしてみないとな。プレミアムエディションのAGE-2マグナムのクリアVerも欲しいし」

 

歌音「予約特典のすーぱーふみなとバトルをすると、未入手のパーツが手に入るらしいけど…すーぱーふみなのパーツは…?」

 

一矢「諦めろ、多分無理だ」

 

 

 

<裏話のコーナー>

 

 

 

一矢「さて、今回は主にEX編だな」

 

夕香「終わったばっかだしね」

 

 

一矢「ぶっちゃけて言うと、当初の構想からかなり別物になってるぞ」

 

夕香「元々の構想から残ってるのは…奏の生い立ち、希空関連でのロボ助の闇墜ち後自己犠牲で希空を救出、希空がガンダムブレイカーにならない、ラストにシュウジさん達の登場くらいかな」

 

一矢「奏がとあるキャラの生まれ変わりとか没ネタってのはどうしても付き物だが…ざっと纏めるとだな…」

 

 

・ラグナが奏の世話をするのは、それで翔にもっと自分を見てもらいたかったから。別に奏にそこまでの関心はない

 

・ルティナは奏と同じ生体兵器。ただしシュウジに引き取られる。おねーちゃん呼びはその名残

 

・ロボ助の闇墜ちと共にアカシックバインダーでトライブレイカーズを過去のデータから敵として召還するも、終盤で過去のデータを元に再現した存在のため味方化

 

・ウイルスに飲まれたさいにシャルルに自我が発生、ラストでは歌音とシャルルは独立した存在になる

 

・ルティナは最初、全てを混乱でかき回す敵キャラだが、覚醒した奏に叩き伏せられ改心の流れだった

 

・NEXフルアームドは中盤で登場

 

・現実世界で奏が希空を庇って重傷を負って戦線離脱、ロボ助も機能停止した後、改めて必要なのはガンダムブレイカーではなく、仲間の存在だと悟り、奏とロボ助をイメージした新ウェアを装備したガンダムNEX クロスナイトで参戦

 

・ラストで奏のエヴェイユの力を翔が抜き取り、奏は一人の普通の少女になるも翔はより孤独な存在に

 

・ラストでシュウジは登場するが隻眼隻腕、日常生活もヴェルなしではいられない不自由な身体。

 

・上記のこともあり、ルティナは周囲は持ち上げるが当人は一切、助けに来てくれなかった翔に対して、半ば八つ当たりでこの世界の訪れる

 

 

一矢「他にもあるが、ざっと纏めるとこんな感じか」

 

夕香「終盤、マジン○イザーとかに乗ったチーム・ダイナミックの参戦とか予定してたんだけどね」

 

希空「スクショまで撮ってたのに勿体無いです」

 

一矢「翔さんもな。あの時代まで行くと、翔さんの価値観は人間のそれとは違ってるから、そこら辺ももっと掘り下げたかったらしい」

 

 

ルティナ「っていうか、感想でも言われてたけど更新速度がハイペースだったね」

 

一矢「あれはぶっちゃけ身体を壊すだけだ」

 

歌音「加えて頭が回らなくなる分、ミスが目立つからね。誤字脱字、語彙力の低下が凄かったし」

 

希空「頭の中の構想を文章にしてくれる機械とかないかなってぼやいてました」

 

 

夕香「でもそうでもしないと3月中に完結は出来そうになかったからね」

 

一矢「3月に完結できなかったら、多分、完結できないと思ってたからな」

 

希空「私生活等の問題もありますからね。所詮は二次創作ですが、始めたのならなるべくは完結させたいですから」

 

一矢「だから更新できるうちに更新したわけだ。今後、あそこまでの無茶はもう出来ないだろうな」

 

 

<投稿コーナー>

 

 

一矢「これは作者の活動報告にある投稿受付コーナーで募集した質問に答えていく」

 

夕香「それじゃあ行ってみよー。まず最初はファントムベースさんからいただきましたよー」

 

 

個人的な質問ではありますが、4月から始まる新作アニメの『ガンダムビルドダイバーズ』をどう思いますか?

自分はビルドファイターズとは違った世界観で、どういった展開になるのか気になってます(あとAGE-Ⅱマグナムが非常にかっこよかったので、発売日が待ち遠しい)。

 

 

一矢「ありがとう。さて俺達もここ最近はこっちに集中してたし、いい加減、AGE-2マグナムも含めて、プラモを作りたいな」

 

歌音「AGE系のプラモは出来が良かったと記憶してるから、恐らく流用しているであろうマグナムには期待しているのです」

 

一矢「AGE系で言うと、フルグランサは値段、プレイバリューの高さ等、非の打ち所がないんじゃないかってレベルのキットだったな」

 

 

夕香「話は逸れたけど【ガンダムビルドダイバーズ】だよ。この放送が公開されている時が放映日だね」

 

希空「先程のAGE-2マグナムやガンダムダブルオーダイバーなど私と奏のNEXやクロスオーが偶然にも元キットが同じこともあり、勝手なシンパシーを感じています」

 

一矢「ただ前作のビルダファイターズシリーズでも、一部で00系多くね?って言われてたのを覚えているから、今後、どういうチョイスになるか楽しみでもあるな」

 

歌音「X魔王からDXに行くかと思いきや、クロスボーン魔王だったりと意外でも納得できるチョイスだと嬉しいのです」

 

ルティナ「どれも個人的な感想だけどね。でも元キットが分かるカスタマイズ機が多いから、そういった楽しみもあるね」

 

夕香「なんであれ今日の放送を楽しみに待とうか」

 

 

一矢「次はエイゼさんからいただいた」

 

 

質問としては…この機動戦士ガンダムMirrorsがもし、アニメ化するとしたらOP曲をガンダム系とその他で一曲ずつお答え下さい。

因みに…

影二…ガンダムF91「君を見つめて」

仮面ライダーカブト「NextLevel」

涼一…ガンダムOO「Daybreaksbell」

アクセルワールドOP1

明里…ガンダムX「DreamS」

ソードアートオンラインOP1

 

 

希空「ありがとうございます」

 

一矢「…まずアニメ化なんて俺が陽キャになるレベルでありえないのだが、これはあれか?キャラのテーマソングみたいなことで良いのか?」

 

夕香「わざわざ影二達にそれぞれ曲を選んでるから、そういうチョイスで良いと思うよ」

 

一矢「まず、OPだけで単純に選ぶなら、Mirrors(BACK-ON)だろ。でもそれぞれのテーマ別になら…」

 

 

一矢

 

君の中の永遠(井上武英)【機動武闘伝Gガンダムより】

Air(V6)

 

シュウジ

 

セルリアン(BACK-ON)【ガンダムビルドファイターズトライより】

ULTRA-FLY(宮野真守)【ウルトラマン列伝より】

 

 

RED decision(飛蘭)【機動戦士ガンダムAGE ユニバースアクセル / コズミックドライブより】

get the regret over(片霧烈火)【闘神都市Ⅲより】

 

 

優陽

 

REAL(ViViD)【機動戦士ガンダムAGEより】

Blow out(鈴木このみ)【ロクでなし魔術講師と禁忌教典より】

 

 

ラグナ

 

BLAZING(GARNiDELiA)【ガンダム Gのレコンギスタより】

Circle of Life(Crimson-FANG)【劇場版仮面ライダーキバ 魔界城の王より】

 

 

儚くも永久のカナシ(UVERworld)【機動戦士ガンダム00より】

一刀繚乱(六花)【Fate/Grand Order 英霊剣豪七番勝負より】

 

 

夕香

 

ニブンノイチ(BACK-ON)【ガンダムビルドファイターズより】

アップルティーの味(ユリエ=シグトゥーナ(CV:山本希望)×リーリス=ブリストル(CV:山崎はるか)【アブソリュート・デュオより】

 

希空

 

My World(SPYAIR)【機動戦士ガンダムAGEより】

空色デイズ(中川翔子)【天元突破グレンラガンより】

 

ルティナ

 

Fighter(KANA-BOON)【機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズより】

Real Game(Rayfiower)【仮面ライダーエグゼイドより】

 

歌音

 

Resolution(ROMANTIC MODE)【新機動世紀ガンダムXより】

PEOPLE GAME(ポッピーピポパポ(松田るか))【仮面ライダーエグゼイドより】

 

 

夕香「…とまぁ、ガンダムブレイカーの使い手と今日のゲストで纏めるとこんな感じだね」

 

一矢「中には曲だけしか知らないのも多々あるがな。一応、夕香のイメージはシオンを絡めてらしい」

 

希空「アップルティーの味は恐らく好きな男の子への歌なのでしょうが、叔母さんとシオンさんのお互いを想った曲をイメージしたようです」

 

一矢「まあ実際、曲でイメージしながらキャラを作るのは良くあるから、上記の歌だけに留まらないけどな」

 

 

夕香「さて、お次はトライデントさんよりいただきましたよー。あんがとね」

 

 

もしもガンダム作品のシーン(出来事)の1つをジオラマにしてくれると言われたら何にしてもらう?

 

もしもシャアとかみたいに自分の功績が認められて機体を自分の望む色に塗ってもらえるとしたらどんな色?(なお機体はどんな色でもそこまで違和感がないと思われるジンとする)

 

 

ちなみに僕は

逆シャアのアクシズ・ショック

緑に塗ってもらう

ですかね

 

 

一矢「ジオラマか。一回だけ作者が作ったことがあるな」

 

歌音「陸ガンとザクを絡めての奴ね。名も無き戦場って感じの」

 

一矢「まあそんなに大層なもんではないがな。さて質問としては…Gガンのゴッドガンダム起動シーンかな」

 

希空「あの妙に艶かしいシャイニングを抱いたシーンですね」

 

夕香「色は…赤…かな?どっちかって言うとライデン的な」

 

一矢「俺は蒼かな。何だかんだゲネシスもリミットもこの色使ってるし」

 

 

・・・

 

 

夕香「さて今回、募集したお題は【人気投票】。本編未来編をあわせた全キャラ対象で一人三票までのルールだよ」

 

一矢「上位に選ばれると撮影(キャラ絵)をするとのことでやったな。お陰様で票をいただけて何よりだ。じゃあ、早速 行ってみよう」

 

 

3位

 

如月翔&雨宮夕香&ミサ 

 

【挿絵表示】

 

 

 

希空「おめでとうございます、叔母さん」

 

夕香「あんがと。改めて票を入れてくれた皆さんもね」

 

一矢「ただしミサは大人の都合で撮影(キャラ絵)は出来なかった。したくても出来ないのだ…」

 

ルティナ「そこら辺は版権キャラとの差だね」

 

歌音「所詮、私達は吹けば散る塵みたいなものなのです」

 

 

一矢「さて、自虐も程々に投票の際にその理由も投稿されていたから読んでいこうか」

 

 

夕香

 

・一矢に負けず劣らずの主人公っぷりを発揮している

 

 

・主人公だから

 

ミサ

 

・ミサは、やはりヒロインであり本作においても、原作ゲームにおいても一番身近といっても過言でなく。

 失礼かもしれませんが、一矢たちオリキャラ以上に思い入れがあるからです。

 

・ミサはシリアスでもギャグでも様々な場面で活躍している

 

 

一矢「とのことだ」

 

夕香「照れるね。感謝感謝」

 

 

希空「っていうか、翔さん…」

 

歌音「多分、男性ホルモンが職務放棄したんじゃないかな」

 

 

2位

 

雨宮希空

 

【挿絵表示】

 

 

 

一矢「おい誰だ、人の娘にあんな格好でWピースさせたのは!!」

 

希空「…撮影の際の指示です。最近、太ももをアップするのが多い気、します」

 

夕香「って言うか、あれ足で隠してるけど下着が見えてるよね」

 

希空「指示です。上手い具合に足で隠せと…」

 

一矢「ちょっとぶっ飛ばしてくる」

 

歌音「どーどーどー」

 

ルティナ「なんかうっさいし、ルティナが代わりに理由を紹介していくよ」

 

 

・ 希空は単純に好みだからです。クールながらも可愛いところがあるところが好きです。

 

 

ルティナ「大きく挙げるとこんな感じかな」

 

希空「…難のある性格なのは自覚していたので票をいただけたのは嬉しいです」

 

夕香「イッチも嬉しいくせにさぁ」

 

一矢「あんなWピースがなければ…」

 

 

1位

 

雨宮一矢

 

【挿絵表示】

 

 

 

夕香「なにこのポーズ。これをネタに暫らく弄っていいの?」

 

一矢「知るか!衣装着て、楽してろって言われたらいつの間にこうなってたんだよ!!」

 

夕香「ほんとかー?なにあの王子様みたいなさぁー」

 

希空「あぁいうパパは珍しいので、ここれはこれで良いと思います」

 

一矢「…そ、そうか」

 

夕香「こ、これはこれで…良いと思うよ…w」

 

一矢「お前は馬鹿にしてるだろ」

 

 

・やっぱ主人公だから

 

 

歌音「理由はこんなとこだよ。やっぱ主人公効果は大きいね」

 

ルティナ「おとーさんは?」

 

一矢「…兎に角、票をいただけたのは純粋に光栄です。ありがとう」

 

 

 

一矢「さて、人気投票の結果はこんな感じだ」

 

夕香「正直、この人はこの投稿キャラにいれるだろうと思ってたとかあったから意外な結果でもあったよ」

 

希空「投稿キャラを描く機会でもありましたからね」

 

一矢「では改めて上位三組による集合絵。ただしミサは泣く泣く…だ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

夕香「ハーレムものかな?」

 

一矢「翔さん、完全に性別が迷子になってるな。やり過ぎると優陽が泣くぞ」

 

希空「これでも最初は違和感なかったのですが、確認すればするほど違和感しかなくて…」

 

歌音「って言うか、基本、バストアップしたのが多いから、こういう構図はやっぱまだ得意ではないね」

 

ルティナ「他にもランクインできなくても投票いただいたキャラはいるから理由も併せて紹介していくよ」

 

 

垣沼真実

・個人的に好みだから

ロボ太

・3で大活躍だったし、なんか可愛いから

如月奏、シオン・アルトニクス

・二人共、一見すると優等生、

お嬢様と真面目系なのですが、ちょっと視点を変えると笑いを誘うお笑い要因になってしまう。

そういうギャップを感じさせるのが好きですね。

セレナ・アルトニクス

バトルのインパクトが大きくて投票してしまいました。

 

 

一矢「オホン…本当に投票していただけて嬉しいです。また機会があればよろしくお願いいたします」

 

 

・・・

 

 

ED This is Me(Keala Settle)

 

 

一矢「さて今回は夕香の要望でこのEDだ」

 

希空「余程、グレイテスト・ショーマンを気に入ったんでしょうね」

 

歌音「いやでも分かるのです。あの胸にスッと入ってくる透明感のある歌声から感じる力強さ。私も生歌であんな鳥肌を感じる歌を歌ってみたいものです」

 

ルティナ「因みにこの歌は歌音をイメージする曲の一つらしいよ。気になった人は和訳してみてね」

 

 

一矢「さて、ここで作者があとがきで言ったお知らせだ」

 

夕香「機動戦士ガンダム Mirrorsが始まって早二年。一応の完結が出来たのは、これを呼んでいる皆様のお陰。感謝の気持ちを込めて、こんな発表だよ」

 

 

・短編のお題募集

 

 

一矢「これは活動報告に設けたお題箱にこれまで読んでもらった読者様のこのキャラのこういうシチュの話が見てみたいとかを無期限で募集する。だから見たいという気持ちさえあれば、後からでいくらでも投稿してもらって良い」

 

希空「現代編でも未来編でも、どちらでも構わないそうです」

 

夕香「ぶっちゃけ作者としてもアタシのイギリス編とかセレナさんやまなみん達の話とかまだ掘り下げたい話はいくらでもあるしね」

 

一矢「これがここまで読んでいただいた皆さんへの精一杯の恩返しだ。ただし注意事項もある」

 

夕香「投稿キャラを送ってくれた方向けのものもあるから注意してね」

 

 

・投稿してもらった以上、良い内容にしたい為、モチベ最優先で書きたいと思った内容から順不同で書く。

 

・全てを書きたいが、諸事情で書けない可能性もある為、そこは理解していただきたいこと。

 

・投稿キャラをメインにする場合、こちらのキャラの誰かをメインにした話を投稿してもらいたい(自キャラが絡んでいる方がモチベの差は正直ある)

 

・これまでの投稿感覚は難しい為、なるべく一話か、前後編で収まる内容で。

 

 

一矢「こんな感じかな。後から改訂する可能性はあるが、それはお題箱でだ」

 

夕香「未来編も投稿キャラとか目立たせたかったけど、完結第一で進めてたからどうしてもあぁなっちゃったんだよね。本当にごめんね」

 

一矢「投稿を待っています」

 

 

夕香「さて、今日はここまでだね。どうだった?」

 

希空「パパ達とラジオが出来て楽しかったです」

 

歌音「イケメンと可愛い娘がいればそれで良いかなって」

 

ルティナ「これ終わったらバトルしようよー」

↑飽きた

 

 

一矢「次回のラジオのお題も出しとこう」

 

夕香「ガンブレディオも続けていきたいしねー」

 

 

【アナタがこれまでの人生で一番、感動したガンプラは?】

 

 

夕香「一応、プラモを題材にした小説だからね」

 

一矢「最新技術が注ぎ込まれた新キットでも良いし、味のある旧キットでも、アナタが感激したプラモを送って欲しい」

 

夕香「こういう募集をするってことは、今、作者はプラモに飢えてるね」

 

一矢「趣味の一つだからな。前々からプラモの話ができる友人が欲しいって言ってたし」

 

夕香「いないからねぇ…。ビルドファイターズやフレームアームガールズの影響で買ったけど、完成してないってのが大半らしいし」

 

 

一矢「さて、完結はしたが、まだまだ終わらない」

 

夕香「アナタ次第でまだまだ物語は紡がれるよ」

 

一矢「まあいい加減、終われって言われそうでもあるがな。だが所詮は二次創作。モチベがなくなれば、勝手にエタるさ」

 

夕香「最後の最後にそういうこと言うなっての。早く締めて」

 

 

一矢「はいはい…。お相手は雨宮一矢と」

 

夕香「雨宮夕香と」

 

希空「…雨宮希空と」

 

ルティナ「ルティナと」

 

歌音「姫川歌音さんでしたー」

 

 

「「「「「ばいばーい」」」」」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンブレディオ 最終回

一矢「…ども、雨宮一矢です。ガンダムブレイカーシリーズ最新作…【Newガンダムブレイカー】。その発売まで後少しと迫ってるけど、果たしてどんなゲームとなるのか。とりあえず現段階で発表されている無料配信含めての収録ガンプラの中にビルドバーニングとゴッドガンダムの名前がなくて、シュウジがいじけてたよ。じゃあ今日も始めていこう」

 

 

 

 

一矢&夕香「「ガンブレディオっ!」」

 

 

 

 

 

OP Mirrors(BACK-ON)

 

 

 

 

 

一矢「・・・改めて、雨宮一矢です」

 

夕香「雨宮夕香だよー」

 

一矢「まあザッと収録ガンプラのリストに目を通した限りだと、シュウジ涙目の内容だったな」

 

夕香「PVで大人の事情って言ってたけどね。印象的には前半の主役機はいるけど、後半の主役機の多くがリストラされてるって印象かな」

 

一矢「まあ正直、言うと俺もDLC待ちしないと、ゲネシスもリミッドも作れないという状況になってるからな…。最終的にはシリーズ最大数の参戦数になると言う話だが…」

 

夕香「何事も熱が大事だからね。熱のあるうちにお願いしたいかな」

 

一矢「…そう、何事も熱がないとな。それは俺達にも当てはまることだ」

 

夕香「…だね。じゃあ、今日のゲストを呼ぼうか。どうぞ」

 

 

 

翔「如月翔」

 

シュウジ「シュウジだ」

 

優陽「二回目っ!南雲優陽だよー」

 

ラグナ「ラグナ・ウェインと申します」

 

奏「私も二回目だな。如月奏だ」

 

希空「…雨宮希空です」

 

 

 

 

一矢「あい、今回のゲストでこのメンバーだ」

 

夕香「ガンダムブレイカーズと主役である希空をゲストに招いたよ。まあわざわざこの面子なのは理由があるけど、それは後半にしておこうか」

 

一矢「そうだな。それよりも初登場の翔さん、シュウジ、ラグナだな」

 

 

翔「…よろしく頼む。喋るのは不得意ではあるが」

 

シュウジ「いつかお呼びがかかるとは思ってたが、まさか今日とはな」

 

ラグナ「私がここにいるのは分不相応ではありますが、精一杯努めさせていただきます」

 

 

一矢「さて、Newガンダムブレイカーではあるが…」

 

優陽「僕達全滅だね」

 

奏「まさかDLC待ちしなければ、我々ガンダムブレイカーの名がつく機体を満足に作ることが出来ないとは…」

 

翔「辛うじてMk-Ⅱをティターンズカラーのものを代用すれば、俺が異世界で使用したガンダムブレイカーは作れるがな…。ガンダムブレイカーⅢは機体だけ作れても、ダブルオーライザーが不在のお陰でGNソードⅢがない状況だ」

 

シュウジ「皆はまだ良いだろ。俺の機体のパーツは掠りもしてねぇ。何とかバーニングブレイカーの頭部で使ったガンダムXが参戦してるくらいだ。マジで泣くぞ」

 

優陽「Ex-Sさえいれば、DLC関係なしにEXブレイカーが作れたかもなんだけどなー」

 

希空「…下手にネガティブに捉えられかねない話題はここまでにしましょう」

 

ラグナ「…希空、今のアナタは発言に気をつけたほうが良い」

 

夕香「この中で唯一、自分のオリジナル機体をちゃんと作れるからね」

 

希空(…それでもNEXノーマルくらいです)

 

一矢「まあ、何れにせよ最終的には過去最大の参戦数なんだ。焦らなくても良い。それよりもSDってどうなってるんだ」

 

夕香「情報あったっけ?」

 

 

 

・・・

 

 

 

一矢「さて、過去最大人数でお送りしているガンブレディオ。次もNewガンダムブレイカーについて話していこう」

 

夕香「PS4版は今月の21日発売だっけ?あっという間だろうね」

 

ラグナ「自由なガンプラ道を極める為に設立された学園を舞台にした物語…。私としては不純異性交遊さえなければ…」

 

優陽「ギャルゲーみたいに言われてるけど、どうなるかだねー」

 

 

奏「そう言えば散々、ガンダムブレイカーシリーズの二次創作を勝手に書いていた作者は、これも書こうとするのか?」

 

翔「さあな。元々、書き始めたきっかけが自分が読みたいガンブレ小説がなかったから、自分で書こうってなったのが始まりだしな」

 

シュウジ「何度か感想で言ってたけど、書けるなら書くって感じだったな」

 

希空「でも乗り気じゃないんですか?わざわざ記念小説に主人公っぽい人を出したんですから」

 

一矢「あの自称天才か」

 

夕香「まあでも、あれはお祭りってのが大きかったからね。書くにせよ、ストーリーによっては自称天才のあのキャラじゃなくなるかもしれないし」

 

 

一矢「でも書くなら今までの反省を踏まえた上での話を書いてもらいたいもんだな」

 

翔「ああ。前作での評価の一つに【ガンダム成分が薄い】という評価があった」

 

シュウジ「ガンダムとは?って哲学的に考え始めてたからな。少なくとも人によってガンダム観は違うだろうし、自分なりに考えて書いてのその評価だったから、落ち込みはしたらしいな」

 

 

夕香「だから次にガンダムブレイカーの小説を書くのなら、今までよりもガンダムとガンプラに焦点をあてた作品にして欲しいね」

 

希空「今作の反省点の一つはそこですからね。もっと意識をすべきだった筈です。そうでなければ、ガンダムでなくて良い、ガンプラでなくて…それこそガンダムブレイカーでなくて良いとなりますからね」

 

奏「おまけじゃいけないんだ。キャラも大切ではあるが、何故、そのキャラはガンダムが好きなのか、何故、ガンプラが好きなのか…。【ガンダムビルドファイターズ】が成功したのは、セイ達にガンダムやガンプラへの愛を視聴者が感じられたからだと私は思う」

 

ラグナ「だからこそガンダムやガンプラという要素を蔑ろにすれば、それは凡作の域にも届かないし、魅力を感じられませんからね」

 

優陽「作者にとって前作と、何より今作は大きな勉強をさせてもらった作品になったよ。関わった人に見苦しい想いをさせちゃったり、期待に応えられず謝りたいくらいだよ」

 

一矢「だが決して、この作品を悪く思っていないし、二年以上も書いた愛着もある。だからこそ次があるのなら、全ての反省を活かせる作品にしたい、それが作者の考えるところだな」

 

 

 

 

<裏話のコーナー>

 

 

 

優陽「ねえ、折角だし、僕らの強さをランク付けしようよ」

 

一矢「なんでまた…」

 

優陽「最終章とEX編まで終わったしね。みんながどれくらいの強さなのか整理したいんだ」

 

夕香「じゃあ、ごちゃごちゃ言わないで、前作今作含めての強さのランク付けをしようか。原作キャラも含めるけど、それはあくまで【機動戦士ガンダム Silent Trigger】と【機動戦士ガンダム Mirrors】に登場したキャラとして評価するよ」

 

希空「操るのは前作はMS、今作はガンプラですが、その辺は取っ払っての今作を中心としたメイン級キャラの評価です。それではどうぞ」

 

 

 

 

EX 如月翔 雨宮一矢&ミサ(もう一つの未来)

 

SSS シュウジ(MF搭乗時) ルスラン・シュレーカー カガミ・ヒイラギ シーナ・ハイゼンベルグ リーナ・ハイゼンベルグ クロノ

 

SS レーア・ハイゼンベルグ エイナル・ブローマン ショウマ 異世界のシャッフル同盟 ヴェル・メリオ 朱 鈴花 ティア・ライスター セレナ・アルトニクス 

 

S 雨宮一矢 ウィル ラグナ・ウェイン 如月奏 ルティナ

 

A ミサ ロボ太 ロボ助 南雲優陽 雨宮希空 ロクト

 

B シオン・アルトニクス ミスター ナジール アルマ モニカ アムロ シャア

 

C 雨宮夕香 垣沼真実 神代風香 末長碧 ヨワイ 舟木拓也 ウルチ ツキミ ミソラ ユウイチ マチオ ミヤコ ガンダムブレイカー隊

 

D 根城祐喜 カマセ タイガー バイラス 

 

E ガルト・アルトニクス

 

 

 

一矢「…こんな感じか。あくまで現代組は現代での実力でランク入りしている」

 

希空「安定の翔さんは兎も角、前作組で構成されるなか、しれっとSSランクにいるセレナさんは…」

 

夕香「前作組と特殊能力を抜きにして単純な実力だけなら、今作最強はセレナさんって言うのが作者の考えだからね」

 

シュウジ「…主役級で構成されるAランクにいるロクト先輩は…」

 

夕香「…ノーコメント。いや、あの人、本当に作者も良く分からないから。何であそこまでの強キャラになってるの?原作の立ち位置じゃ考えられないよ」

 

奏「ところでEXの一矢さん&ミサさんなんだが」

 

優陽「あれこそデウス・エクス・マキナだからね。あの話限定であれば、あの二人には誰も勝てないよ」

 

ラグナ「さて、このような形となりましたが、投稿キャラを送っていただいた方々は自キャラはどの辺りに入りそうでしょうか?」

 

 

 

 

 

<投稿コーナー>

 

 

 

夕香「これは作者の活動報告にあるガンブレディオの投稿受付コーナーで募集した質問にアタシ達が答えていく趣旨のものだよ」

 

一矢「…今回のお題は【アナタがこれまでの人生で一番、感動したガンプラは?】だ。やはりガンプラを題材にした小説である以上、触れておきたいな」 

 

夕香「いってみよー。幻想目録さんからいただきましたー」

 

 

前回のガンブレディオお疲れ様です!

次回のお題は感動したガンプラですか、ふむ.......

動画でしか見たことないんですが自分的にはRGストライクフリーダムですね!なんといっても背中のドラグーンを展開した時の金フレームが堪らなくカッコいいです。加えて原作ポーズも簡単に出来るところも最高です!

ガンプラではないんですがMetalBuild仕様のフリーダムも重厚な感じとリアルさが出ててオススメです!

 

 

夕香「あんがとね」

 

翔「ストライクフリーダムのバックパックで金色のフレームが導入されたのはMG辺りからか?」

 

ラグナ「その辺りは詳しくは…。しかしお陰でHGCEなど、あのフレームがないのは少々、寂しく感じるようにはなりました」

 

奏「METAL BUILDは…作者にあまり縁がないな。やはり値段と大きさからおいそれと手が出ないとのことだ」

 

優陽「でもストフリのタイトルバックポーズって二次元の嘘と思われてたけど近年、METAL BUILD辺りで再現出来るようになったんだっけ」

 

 

 

一矢「お次はWハマーさんからいただいた」

 

 

ガンブレディオお疲れさんです!

 

次回のお題について投稿します。

 

初めて感動したのは、自分で作ったとなると、小学生のころっていうのもあって、MGの初代ガンダムです。コアブロックシステムの再現に感動しました。

当時はガンプラ甲子園っていうボンボンの漫画の影響で色々作ってました。

 

質問ですけど、ステージ中にはたまにメガライダーなどの乗り物が出てきますけど、どういう使い方しますか?ちなみに僕は専らひき逃げアタックをかまします(笑)

 

 

希空「ありがとうございます。さて、初代ガンダムですか…。作者はガンダムフロント時代に売っていたお台場限定のMG ガンダムVer.3は作りましたね」

 

奏「ガンプラの進化は凄まじいな。WハマーさんのMGから、初代ガンダムもMGの数を更に増やしている」

 

一矢「アニメ寄りのVer.2、リアル寄りのVer.3。アレンジを効かせたオリジン版。好みで変わるところだな」

 

 

シュウジ「ガンプラ甲子園はあんまり詳しくねぇな。精々、パーフェクト∀ガンダムくらいしか…」

 

夕香「質問はそうだね…。ギミックを活かしつつWハマーさんと同じ感じかな」

 

一矢「固い敵はこれに限る」

 

 

夕香「はい、不安将軍さんからいただいたよ」

 

 

 

今回の【アナタがこれまでの人生で一番、感動したガンプラは?】の回答しますね。

 

色々と好きなMSはあるんですがここは作った事は無いですがクロスボーンガンダムにします。

外見もそうですが、一番は至る所に武器を隠し持っているってところですね!

ガンダム系でありながらジオンの機体が好んで使うような隠し武器を取り入れてて「おおっ!」って思ったぐらいで。

クロスボーンは自分から見たら傭兵やアサシンっぽさがあって、それで余計好きになってしまいました。

あとはトールギスやノイエジール、天ミナなんかも好みのMSです!

 

 

 

一矢「ガンプr…。いや、まあ好みの機体にシフトするか。ありがとう」

 

優陽「クロスボーンガンダム良いよね。良い意味でゼロカスタムやデスサイズヘルと並んで、厨二心をくすぐる機体だと思うよ。個人的にガンプラのHGフルクロスはGBFT仕様とはいえ、パールなのはちょっと感じだったけど…。。まあ塗装すれば良いだろって言われそうだけどね」

 

奏「そう言えば、参考で見た時のRGトールギスは美しかったな。トールギスに深い関心がなくとも、あれは欲しくなる」

 

 

 

夕香「さて、ここにいる全員でそれぞれ感動したガンプラを答えると長くなりそうだから、代表して作者のを答えるよ」

 

一矢「ズバリ…HGUC νガンダムだな」

 

 

翔「ああ。かれこれ10年前のキットだが、いまだに飾っているのを見ても古臭さを感じない」

 

優陽「値段とパーツ数は最近のHGキットに比べれば多いけどね。でもその分、本当に素晴らしいキットだと思うよ」

 

奏「頭部はまさかのヘルメット型。後ハメ加工のような組み立て方になるが、あの時は作者にとって、それが初めてだったから驚いたものだ」

 

ラグナ「勿論、改修することで更なる完成度を高めるのも良いですが、これはガンプラを一つだけでも良いから作ってみたいという方にもオススメです」

 

希空「なにせ素組みでも満足できるキットだと思いますからね。ただネックなのは、2000円前後とパーツ数の多さはここ最近のキットの特徴のパーツ数の少なさや作りやすさ、手の出しやすい価格から来る手軽さと比べて、ビギナーにどう映るかですね」

 

夕香「まあその辺はアタシみたいに直感で決めれば良いよ。でもどうせなら最後まで作って欲しいけど」

 

シュウジ「まあ、問題はファンネル辺りか? いや、同じもんを何度もってのはこれ結構、苦痛と言うか…な」

 

 

一矢「…大げさかもしれないが、どんなものでも人の心を揺さぶる出会いがあるものだな」

 

 

・・・

 

 

ED Snatchaway(SKY-HI)

 

 

 

優陽「この歌さ、今はPVぐらいでしか聞けなくない?」

 

夕香「このラジオのOPEDはあってないようなものだし」

 

 

一矢「さて、今回は過去最大の人数でお送りしているガンブレディオだったが、どうだっただろうか」

 

夕香「今回は実質、最終回のようなものだからね。後で詳しい内容を作者が後書きで書くとして、アタシ達から言えることは今までお世話になったってことぐらいだね」

 

一矢「ああ。今まで本当にお世話になったな。この小説での時間がアナタの心を少しでも楽しませることが出来たのなら幸いだ」

 

 

優陽「でも誤解を与えないように言っておくけど、一先ずの完結をさせてもらうってことだよ」

 

ラグナ「ええ。引き続き短編原案の方はそのまま募集しております」

 

奏「機会があるのなら、私達は戻ってくるつもりだ。それまでは…」

 

希空「…はい。休みます」

 

シュウジ「まっ、いただいた原案にしろ、なんにしろ書きてぇってなったら舌の根が乾かねぇうちに戻ってくるかもしれねぇがな」

 

翔「ただ今回は突然だったのは自覚しているつもりだ。そこはお詫びさせていただきたい」

 

 

一矢「次回のガンブレディオ…。お題募集は原案と同じでフリーにしておこうか」

 

夕香「何でも投稿してね。もしかしたら意外なところで復活するかもしれないし」

 

 

 

一矢「さて、唐突だったが、これで最後だ」

 

夕香「うん、線引きとはいえ、完結だからね」

 

 

 

一矢「では、これまでのお相手は雨宮一矢と」

 

夕香「雨宮夕香と」

 

翔「如月翔と」

 

シュウジ「シュウジと」

 

優陽「南雲優陽に」

 

ラグナ「ラグナ・ウェインと」

 

奏「如月奏。そして」

 

希空「雨宮希空でした」

 

 

 

「「「「「「「「今までありがとうございました」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさま」

 

 

一矢「…お前は…あの時の自称天才か」

 

 

「最終回だって言うから、様子を見に来たんだよ」

 

 

一矢「それは良いが、お前の姿がハッキリと見えないんだ。まるでぼやけているような…」

 

 

「凡人に天才は見えないもんさ…ってのは冗談で俺の存在はまだ不確かなものだからね。名前もまだない。だからこのまま消える可能性もある」

 

 

一矢「…そうか」

 

 

「そんな悲しい顔しなさんな。あの時もお祭りとはいえ、その気がなけりゃ出張らないよ。尻尾巻くくらいなら下がってろってね。まぁ、今日はそれよりアンタにお願いをしに来たんだ」

 

 

一矢「…俺に?」

 

 

「ああ。南雲優陽のバトンは今では如月奏へ。だがアンタのバトンはまだ動いていないはずだ」

 

 

一矢「…なるほどな」

 

 

「そういうこと。アンタにその気があるなら、だけど」

 

 

一矢「構わないさ。バトンは受け継がせるものだ」

 

 

「なら…!」

 

 

一矢「ああ、バトンタッチだ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ハハッ、思った以上に高揚する」

 

 

一矢「なら良いさ。頑張れよ、後輩」

 

 

「任せろよ、先輩」

 

 

一矢「…じゃあ、俺はそろそろ寝る。娘も待ってるからな」

 

 

「…ああ。おやすみ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

──さあ、物語を組み立てようか」

 

 

 

 

 




ここまでのお付き合いありがとうございました。

本当に突然のことで申し訳ありません。活動報告でするべき内容なのかなと思いましたが、ただ一旦、終わらせるにせよ、ちゃんと締めるべきかなと思い、今回、このようにさせていただきました。

と言うのも最近、スランプと言うべきなのか、モチベーションもインスピレーションも全く浮かばない状態でした。書いていても、途中で話の内容がぐちゃぐちゃになっていくようにずっと感じていて、読者様は楽しんでいただけているのだろうか、自分は今、なにを書いているのか?そんな風に感じる程でした。

そこで惰性で書いて、下手に話数を増やして読者様と何よりキャラクターをつき合わせるのなら、ここで勝手ながら、一度、この小説の筆を置こうという考えに至ったわけです。こんな風に身勝手に切り上げてしまって誠に申し訳ありません。重ねて謝罪申し上げます。

ですが、もしかしたらガンブレディオで触れていたように、ふとしたきっかけでスランプを脱するかも知れません。ですのでただ前向きに終わらせていただこうと思います。

スランプを抜け出た後に書くのが、新たな小説なのか、それともこの小説なのか、はたまた両方なのかはまだ分かりません。ですがそれでも短編やガンブレディオの募集だけは絶えず続けていこうと思いますので、復帰する際はまた温かく出迎えていただければ幸いです。

改めて本当にお世話になりました。この小説を書いていた二年間は絶えず、自身の未熟さを痛感し、勉強させていただきました。今回の経験を糧にまた筆を取った時はこれまでよりも更により良い作品を書けるように、私自身、離れるこの期間に色々と勉強したいと思っております。

改めまして、今まで本当にありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンブレディオ 直前SP

一矢&夕香「「ガンブレディオ特別編っ!」」

 

 

 

 

OP Mirrors(BACK-ON)

 

 

 

 

一矢「パーソナリティの雨宮一矢です」

 

夕香「同じ雨宮夕香だよー。みんな、元気してたー?」

 

一矢「俺達のほうは順調に休んでいたんだが、いきなり叩き起こされてな」

 

夕香「っんで、開口一番にラジオやれだよ?ひどくなーい?」

 

一矢「まあ、今回は内容が内容だ。俺達がやれることがあるのであれば、やるだけだ」

 

夕香「だからこそちゃんと説明しないとだね。実は今日から、ウルトラゼロはこんな小説を書くよ!」

 

 

 

 

Newガンダムブレイカー原作小説【ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway】

 

 

 

一矢「…なんだかんだでこれで三作目。作者なんて吹けば散る塵だが、まさかここまでガンダムブレイカーと関わるとはな」

 

夕香「それだけ好きなんだよ。さあ、今のを踏まえた上で、特別ゲストを呼んでるから呼ぼうか」

 

一矢「ああ、まさに特別だな。どうぞ」

 

 

 

 

「さあ、勝利を組み立てようか…。【ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway】主人公・天っっ才ガンプラビルダーのソウマ・アラタだ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

一矢「やった実体を得たか」

 

アラタ「お陰さまでね。これも全て読んでみたいと言ってくれた読者の皆さんのお陰さ」

 

夕香「うんうん、一時はどうなるかと思ったもんね。さあ、今日はタイトル通り、直前スペシャル!新主人公を迎えて、これを知れば新たなガンブレ小説を楽しめるかもしれないガンブレディオだよ!」

 

 

 

・・・

 

 

一矢「さて改めて、新主人公のアラタを迎えて、ガンブレディオをお送りしている」

 

夕香「アラタか。言っちゃ悪いけど、少し変わった名前だね」

 

アラタ「天才の名前だからな。それくらいが丁度良い」

 

一矢「ふざけたことを言ってないで、理由があるし、楽しめるかもポイントの一つなんだ。さっさと話せ」

 

アラタ「仕方ないなぁ。じゃあ、説明しますか」

 

 

 

アラタ「Newガンダムブレイカーのヒロインはガンダム作品のキャラクターの名前をもじったものが多いだろう」

 

一矢「コウラ・イオリはコウ・ウラキ。ダイクウジ・シオンはジオン・ダイクン。カミサカ・チナツはコウサカ・チナ辺りか」

 

夕香「先生のアイダ・シエもアイーダ・スルガンかな」

 

アラタ「そっ。俺もその方式にあやかろうと思って、考えたわけだけど、これが中々浮かばない。そこで閃いたんだよ」

 

一矢「へぇ」

 

アラタ「まあ、大それたもんじゃないが、Newガンダムブレイカーから名前を貰ったんだ」

 

夕香「…あー、成る程」

 

アラタ「察しがついた?そう、Newの部分だよ。New→新→新(あらた)ってね。苗字は創造から頂きたくて、創の部分を貰って、漢字だと創間 新ってわけ」

 

一矢「俺ももじりだな」

 

夕香「初耳っ」

 

一矢「俺の元になったのはおそ松さんの一松でしょ? 一の部分を頂いたわけ」

 

夕香「他はもじりではないけど、優陽は傷心のイッチを包む優しい陽だまり。希空はまさにあの子が希む空を目指してって感じだね。因みにNewにもオリジナルヒロインが一人、登場予定だけどその子の名前ももじりだよ」

 

一矢「ヒントはガンダムブレイカー2の姉妹だ」

 

 

アラタ「もじりでもう一つ、【ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway】のサブタイトルにも注目だ」

 

一矢「というと?」

 

アラタ「Newガンダムブレイカーのミッション名は歴代ガンダム作品のサブタイトルのもじりだろ?俺達もソレをいただいたわけ」

 

一矢「つまり小説のサブタイトルももじりか」

 

アラタ「そういうこと。歴代ガンダム作品だけではなく、歴代ガンダムブレイカーシリーズのミッション名をもじったものもあるから、気が向いたら探してみてよ」

 

夕香「あぁでも、ごめん。プロローグ編の最後のサブタイだけ、この例から外れるよ。まあNewガンブレに関わりあるタイトルに違いないけど」

 

 

<裏話のコーナー>

 

 

アラタ「今の裏話でしょ?いらないじゃん」

 

一矢「そう言うな。さて、感想で何回か、言われたことについて触れてみるか」

 

夕香「ズバリこれだね」

 

 

・オリキャラ募集

 

 

一矢「この小説と同じようにするのか、しないか、ってことだろうな」

 

夕香「結論から言うと、保留だよ」

 

一矢「まあ、3は乱入機体に悩んだのがきっかけで募集したからな」

 

夕香「ガンブレ学園は弱肉強食の世界。そこに主人公が現れて、熾烈なバトルをしていくって話だけど、もし募集を掛けて、投稿してもらったとしてその扱いに困るよね」

 

一矢「オリキャラの設定で少なくともどうしようもなく弱い、っていう設定はないだろうからな。自分に実力がない虐げられる弱者側の人間か、それとも強者側だけど現状に思うところがあるキャラか……。前者はまだ良いとしても、もし後者なら主人公いらなくないか?ってなるからな」

 

夕香「ということで今は保留かな。原作終了後の学園なら募集を掛ける可能性は大いにあるけど」

 

アラタ「なんであれ機会があるのならお相手しますよ」

 

 

・・・

 

 

 

ED Diver's High (SKY-HI)

 

 

 

 

一矢「しかし直前スペシャルなんて言っても、もう終わりか。作者は宣伝が苦手だしな」

 

夕香「わざわざ叩き起こされたのにね。でも久しぶりにこうして喋れて嬉しかったよ」

 

一矢「まあな……」

 

夕香「因みに天才とか言ってるけど、アラタのキャラは背伸びがちな子供って感じだから、それを踏まえた上だと違うかもね」

 

アラタ「誰が子供なんですかね」

 

一矢「お前だ。そして俺達に言うな」

 

 

アラタ「それより大事なお知らせだ。投稿に関するな」

 

一矢「実はβ版の時から書き溜めはしててな。もうかれこれ3万字は越えるくらいには書いた」

 

夕香「って言っても、チームが正式に結成された時くらいまでだけどね。今も続けて書き溜めは書いてるけど」

 

一矢「だが、実はそこまではプロローグなんだ。だから今日から投稿されるNewガンダムブレイカー小説は、三話続けて、投稿するぞ」

 

 

夕香「まず最初の一話はお昼の【12時26分】、二話目は【18時25分】、三話目は【23時35分】だよ」

 

一矢「それ以降は大体、【23時35分】を目安に更新していく」

 

アラタ「こうすることで出来るだけ色んな人に読んでもらいたいってわけ。やっぱり読者様や感想があるかどうかは切実にモチベーションに関わるからね」

 

一矢「今日から始まる新たな物語。……出来れば読んでください、感想もいただければ幸いです」

 

夕香「いきなり弱気になったなぁ」

 

アラタ「まあ兎に角、【ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway】をよろしく!」

 

 

一矢「さあ、今日のお相手は雨宮一矢と」

 

夕香「雨宮夕香と」

 

アラタ「ソウマ・アラタでした」

 

「「「ばいばーい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アラタ「そう言えばさ、委員長の本編終了後のTIPS見た?」

 

一矢「あぁあれか……。でも世界観を一新したとの話だし、お遊びだろう」

 

アラタ「でももしかしたら公式の動きとか次第であんた達もワンチャンあるかもよ?」

 

一矢「……俺達歴代ガンダムブレイカーのパーツが集まったら、起こしてくれ」

 

アラタ「いや、アンタも手伝ってよ。もうバズーカでお手玉されるのは嫌だーッ!!」

 

 

 




いよいよ、と言うべきなのでしょうか……。ただただ切実に新作ガンブレ小説をよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンブレディオ 直前SP G/B

一矢&夕香「「ガンブレディオ特別編っ!」」

 

 

 

 

OP Mirrors(BACK-ON)

 

 

 

 

一矢「パーソナリティの雨宮一矢です」

 

夕香「同じ雨宮夕香だよー」

 

一矢「ガンブレ&ガンブレ2小説【機動戦士ガンダム Silent Trigger】が五周年を迎え、Newガンブレ小説【ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway】が完結し、そしてこの小説も来年で五周年を迎えるなか、この間、記念小説をやったな」

 

夕香「あっという間だねー。とはいえ、ガンブレシリーズは今なお続いているんだけどね」

 

一矢「そう、ガンダムブレイカーモバイルだな。読者の皆様はプレイしているだろうか」

 

夕香「作者はSnatchawayの記念小説の前書きで言ってたけどデータがスマホのアクシデントと共に飛んだね。でも今じゃまたぼちぼち進めてるらしいよ」

 

一矢「ショックは大きかったらしいけどな。まあ、ちゃんと引き継ぎの術は用意しとくべきということだ」

 

夕香「教訓が一つ増えたね。とはいえ今日はガンダムブレイカーモバイルの話題も出たことだし、ただただあたし等が駄弁るだけのラジオじゃないよ」

 

一矢「そういうことだ。まあ……ガンダムブレイカーモバイルの話題が出ている以上、薄々察している人はいるんじゃないか? ということで早速、発表をしよう。今日から作者が公開する新小説だ」

 

 

ガンダムブレイカーモバイル原作小説【ガンダムビルドモバイル Puzzle G/B】

 

 

夕香「まあ、良くも悪くもだね。まさかやるとは」

 

一矢「正直、Newガンブレ小説の途中から燃えカス状態だったからな。なんでまた始めようなんて気になったんだが」

 

夕香「それはアレだね。前に一周年を迎えたガンブレモバイルと最終回を迎えたリライズの勢いに押されて気付けば書いてたらしいよ」

 

一矢「個人的な感想だがコロナ禍の中、配信再開したリライズの勢いは凄まじかったな」

 

夕香「そうだね。しかもステイホームの時期も重なってガンプラが更に売れたってネットニュースもあったしね」

 

一矢「とまあ、単純な作者であることは分かってしまったな。今更でもあるが……まあ、そんな事はさておいてゲストを紹介しよう」

 

 

奏「如月奏だ! よろしく頼む」

 

 

一矢「あい、ゲストは奏だ。ゲストの中じゃ最早最多じゃないか?」

 

夕香「Snatchawayの最終章に未来組と一緒に出てたしね。アタシ的にはてっきり最終回に翔さんと一緒に出てたあの三兄妹がゲストだと思ってたよ」

 

一矢「まあ、ウチの記念小説にも顔出ししてたしな。Snatchawayの最終回からの流用だがそのままビジュアル発表をしておこう」

 

 

【挿絵表示】

 

 

一矢「この三人がまさに主人公だな」

 

夕香「……何ともまあ……三姉妹じゃないんだよね」

 

一矢「左と真ん中は男だな。優陽が知ったらどうするのやら」

 

奏「優陽さんといえば、Snatchawayにセレナさん共々出演されていましたね。まああの二人は別世界から訪れた未来組とは違ってあの世界で生きていた平行世界の人物でしたが」

 

夕香「平行世界の人物としてって言うとさ。Snatchawayにはまさかの女体化イッチことアマミヤ・イチカが出たね。まあ、どっちかって言うとプロトイッチをベースにイッチを混ぜ込んだらしいけど……。イッチの感想が聞きたいな。これがイチカだよ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

一矢「……ノーコメント」

 

奏「……流石にショックですか。まあ、希空も悪趣味などとは言ってましたが」

 

夕香「Snatchawayにイッチを出すかどうかは本当に悩んだらしいんだけどね。公式で世界観を一新って言ってたから繋がりを持たない書き方をしてたのに、まさかTIPSであんなことが明かされるとは……」

 

奏「とはいえ、この世界でも優陽さんと一矢さん……もといイチカさんの仲は変わらずでしたね」

 

夕香「なまじあの世界のイッチは女の子だからね。友達以上恋人未満って感じだね。っつても優陽自体、なんだかんだどの世界でも一味コンビ良いよねしてるけど」

 

奏「よく二番目でもいいとは言いますが、寧ろ優陽さんは二番目が良いって人ですよね」

 

一矢「……ミサと結婚するまですれ違いそうになった時、間を取り持ってくれたり、ミサの都合がつかない時は世話を焼いてくれたっけな」

 

・・・

 

夕香「さて、ゲストである奏を迎えてのガンブレディオだけど、ゲストが奏ってどういうこと?」

 

奏「アハハ……私としても恐縮なのですが、実は私もこの三兄妹と関りを持つことと相成りまして……」

 

夕香「えっ、奏も新作に出るの?」

 

奏「そう、ですね……。結論から言えば……。とはいえ、この小説のシュウジさんみたいにガッツリは絡みません。Zガンダムのアムロのようなスポット参戦のようなものだと思っていただければ」

 

一矢「Snatchawayの最終章にも先輩ガンダムブレイカーとして出てたのに、まさかだな。やるなら寧ろSnatchawayの主人公であるアラタだろうに」

 

奏「一矢さんもそうですが、どうしても設定という部分がありまして……。Snatchawayの最終章に関して言っても私とルティナは兎も角、希空に関して無理くりでしたからね。その辺、私達如月親子と異世界組はある程度自由にやらせてもらっていますが」

 

一矢「正直、アラタとはラジオでしか絡んでないんだよな。イチカに関してもあくまでヒロインの一人のイオリをメインに絡んでただけどアラタとまともな会話はしてなかったし」

 

夕香「でもさ、着実に新世代のガンダムブレイカーが出来上がりつつあるよね」

 

一矢「まあ、翔さんがシュウジや俺を筆頭に影響を与えて最終的には奏に繋がったように、奏がアラタや新作主人公達に影響を与えるわけだろうからな」

 

奏「私はあくまで私として接するつもりですから影響云々は考えていませんね。そも私が出るのは前振りでもありますから」

 

夕香「前振り?」

 

奏「この小説、来年で五周年ではないですか」

 

一矢&夕香「「うーわ」」

 

奏「お二人とも凄い勢いでのけぞりましたね。いや時が経つのは本当に速い……。しかし今年は前述の通り、父さんのSilent Triggerが五周年を迎え、それに伴った記念小説をやったわけですが、この小説も例に漏れず五周年記念を行おうかと」

 

一矢「それがお前が新作に出るのと何が関係ある」

 

奏「……それはまあ新作が始まらなければ何とも言えません。なにせ五周年を考えるともうスケジュールが相当厳しいですからね」

 

夕香「うちらの五周年の日はエイプリルフールだもんね。今じゃ一時期に比べたら亀更新になっちゃってるし、それまでに新作がどこまで話が進むか。下手したら新作に奏が出る前に五周年を迎える可能性もあるからね」

 

 

<裏話のコーナー>

 

 

一矢「そういえば70000UA記念小説でお前が久しぶりに出てたな」

 

夕香「どうも。久しぶりに出たら人妻になってました」

 

奏「しかもお相手はウィルさんですよね。当時、一矢さんは大丈夫だったのですか? その……ウィルさんとは顔を合わせればいがみ合ってますけど」

 

一矢「……正直、嫁の貰い手がいて良かった。しかも何だかんだで相手はタイムズユニバースの経営者だし」

 

夕香「まあ結婚願望なかったしね。イッチとミサ義姉さんの結婚の時もそうだったし」

 

奏「そんな夕香さんがどうして結婚を?」

 

夕香「概ねあの話の通りだよ。まあ話せば長くなるから今度ね」

 

一矢「諸事情とはいえ未来編で影も形もなかったからな。何とかあの時間軸でも夕香はいるという事を示したかった。もっと言えば出したかったってのを人気投票に便乗した結果があの話だったな」

 

夕香「その人気投票の公約からどんだけ経ってんだか」

 

・・・

 

ED Hands(オーイシマサヨシ)

 

 

一矢「ウルトラマンかよ」

 

夕香「いやだって俺色に組み上げろなんてもう感想でピンと来てる人いたしね。いっそのこと元ネタの曲を拝借したよ」

 

一矢「あぁそうそう。そういえば近々翔さんのSilent Triggerでも記念小説の短編をやるぞ」

 

夕香「向こうの方が70000UAが早かったのにやれなかったからね」

 

一矢「ただ向こうは完全にコメディに振るつもりらしい。まあSilent Triggerはあんまりそういうのはやれなかったしな」

 

奏「申し訳ないのですが便乗して宣伝してもいいですか?」

 

一矢「まあ、この回自体宣伝だからな。良いぞ」

 

奏「来るべき五周年、そして新作小説……。その足掛かりとして本日18時頃に短編の公開を予定しております」

 

夕香「その二つが絡むってことは奏がメインってこと?」

 

奏「そうですね。所謂、前日譚というべきでしょうか。まだ新作の書き溜めの段階では私は登場していませんが、それでも向こうに私が登場した時、よりスムーズになるのではないでしょうか」

 

一矢「っつても、どうせ翔さんみたいにフラッと現れるんだけどな」

 

奏「ははっ……。ただ次回自体は一話完結のプロローグですが。もしかしら今後、特別編のように短編が続いていくかもしれません」

 

夕香「けどまあなんにせよ、新作には希空の登場は予定してないからね。完全に希空が絡まない素面の奏が見れると思うよ」

 

一矢「……それって魅力が半減してない?」

 

夕香「どうもイッチとアタシしかいないラジオだと奏のキャラが発揮されないんだよね」

 

奏「ぐぅっ……希空から離れなければならないとは……ッ! 最後に希空を思いっきり抱きしめてから行こうと思います!!」

 

夕香「……させてもらえればいいね」

 

奏「うぅっ、希空ぁ……。はっ、そういえば新作を記念してキービジュアルの撮影してきましたよ」

 

【挿絵表示】

 

一矢「奏の髪型が変わったな。ポニテか」

 

夕香「って言うか、奏の隣にいる子……。あれ、この制服……」

 

一矢「あ?」

 

奏「……まあ、それは公開後のお楽しみというわけで」

 

一矢「これはこの場だと俺と夕香にしか分らんか。それはそうとコイツは誰だ?」

 

奏「この小説で言うと……クロノさん枠でしょうか」

 

一矢「……は?」

 

奏「悪役というかライバル枠というか……。まだ何とも言えませんね」

 

夕香「この子のセリフ、言ってみてよ」

 

奏「『君の夢は何だ?』」

 

一矢「狂おしい好奇心かよ」

 

夕香「あそこまで陰湿なことしなきゃいいけどね。新作小説は11/23 AM6:00時公開予定だよ。ぜひともよろしくお願いいたします」

 

一矢「さて久しぶりの出番だったが、もうこんな時間だ。奏、この小説の代表として今後の事は頼んだぞ」

 

奏「はいっ!」

 

 

一矢「さあ、今日のお相手は雨宮一矢と」

 

夕香「雨宮夕香と」

 

奏「如月奏でした」

 

「「「ばいばーい!」」」

 

 




何だかんだで前回の予告から大分経ってしまった……。

新作への経緯はレディオの中の通りですね。リライズ面白かった……! 24話で見たいものが見れたというか、楽しそうにしてるヒロトがずっと見たかったんだぁ……!

とまあ、その熱に押されるまま気づけば新作の構想を考えて書き溜めてました。一応、これもレディオの通り、向こうに奏も出ますがあくまでスポット参戦ですね。

奏を出す理由は本当の意味で翔の物語を終わらせる為の前振りです。この小説であぁいう存在にしてしまって、ガンブレシリーズの物語を書く中でどこかで彼に依存している自分がいるので新作を皮切りに眠らせてあげたいという経緯があっての奏の登場が決まりました。

そんな新作ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第EX Plus章 英雄殺しのプロローグ
光の軌跡は新たな旅立ちへ


「親子の方達ですか。仲良いですねっ」

 

 最初はそんな言葉だったと思う。

 私もその言葉を聞いた時は悪い気はしなかったし、そもそれは私に限った事ではないだろう。親子仲が良好なのは良い事だ。

 

「お二人は姉弟ですか?」

 

 仲の良さ。それだけで言えば変わらない。しかし変わったことは確かにあった。

 そう、私は時が流れるのと同時に自然に沿って年を重ね、身体は老いていく。

 

 だけど……あの人は……“父さん”は違った。

 

 あの人は変わらない。

 その外見は私が生を受け、物心がつき、今に至るまで変化がないのだ。

 

 そしてやがて……私達に向けられた言葉は──。

 

「“親子”の方達ですか。仲良いですねっ」

 

 その言葉は私が幼い頃に聞いた言葉と変わらないはずなのに、意味が変わってしまっていた。

 私は何れ自然の流れでその生涯を他の人間と変わらずに終えるだろう。しかしあの人はどうだ?

 

 勿論、あの人にだって寿命があって生涯を終える。

 それは他の人間とは変わらないだろう。

 

 しかしあの人は時間さえ支配できるセンスを持っている。

 

 私の身体が年々衰えを感じて、やがて足腰も不自由になってバリアフリーに頼らざる得ない状況になっていくのに対してあの人は今尚変わらないのだ。

 

 あの人に対して私は老いて枯れていく。

 

 最後に残ったのは悲しみ。

 私がこの世界からいなくなった時、あの人はどうなっていくのだろう。

 

 未来を掴む覇王も輝ける新星も希望の守り手もその生涯を終え、気高き獅子さえ衰え、最強の遺伝子とも言われた私さえもいなくなり、やがてその異常さが広がっていくこの世界はあの人にとって温かな世界なのだろうか?

 

 ……変えたい。

 

 この結末だけは変えたい。変えなくてはならない。

 世界が残酷さを押し付けた結果、英雄が生まれ、答えのない探し物を求めて旅を続けるのであれば、その旅を終わらせるのが世界の役目でもあるのではないか?

 

 安らぎも微睡もあの人にもあるべきものなのだから──。

 

 

 ・・・

 

「──……夢?」

 

 締め切ったカーテンから木漏れ日のような日差しが差し込んでいくなか、ベッドの上で如月奏は目を覚ました。

 

 不思議な夢を見た。

 自分と……父親である如月翔との夢だ。

 はっきりとは思い出せないものの幸せだったその夢が深い悲しみに塗り潰されていくような……。

 

 何故あのような夢を見たのだろうか。

 ベッドから降りて簡単にベッドメイクを行いながらそんなことを考えていた。

 父親である翔に関して言えば最近こそとある理由で一時は行方不明になったりもしたが特に問題なく過ごしている筈だ。

 

「──起きたか?」

「は、はい!」

 

 そんな矢先のこと、ふと奏がいる部屋にノック音が響き渡り、扉越しに聞き覚えのある男性の声が聞こえてくると先程まで物思いに耽っていた奏の意識も急速に現実に引き戻される。

 

「入るぞ」

 

 一言入れつつ部屋に入ってきたのは一矢であった。

 何故寝起きの奏の部屋に一矢が現れたのか。実を言えば今、奏がいる部屋は一矢の、もっと言えば希空の実家なのだ。

 

「昨日のイベント、改めてお疲れさま。お前のお陰で大盛り上がりだ」

「いえ、イベントのゲストとして招待されるだけ光栄ですし、私は私として楽しまさせていただいただけですので」

 

 何故、奏が一矢の家に泊まっていたのか。その理由は一矢の口から放たれたイベントという言葉だ。

 

 奏はボイジャーズ学園を卒業後、進学しつつもガンプラのイベントともなればガンダムブレイカー及びグランドカップ出場者としてゲストに呼ばれることも増えた。最近では動画サイトなどで企業が行う番組にも出演している程だ。

 

 今日もその一環で彩渡街の百貨店のイベントに一矢共々招待され、そのまま一矢の厚意でこの家に泊まった始末だ。

 

「最後のバトルに関して言えば、私としても一矢さんの胸を借りるつもりで挑みましたので、あのイベントの全てが私にとっても充実したものになっています。寧ろ感謝したいくらいです」

「大袈裟な奴だ。だが俺としてもお前とのバトルはすればする度に見違える。俺も良い刺激をもらってるよ」

 

 イベントではガンダムブレイカーである奏と一矢によるバトルもあったのだろう。勝敗に関わらず二人の表情は充実感に満ち溢れた穏やかなものであった。

 

 ・・・

 

 それなら数時間後、近くのゲームセンターには一矢と奏の姿があった。二人の目の前にはガンプラバトルシミュレーターと観戦モニターがあり、そこには先程までバトルをしていたのだろう。リミットブレイカーとブレイカークロスゼロの激しい剣戟の様が映っていた。

 

「お前の本領は近接戦で発揮されるな。射撃もこなせるオールラウンダーではあるが遠距離戦がメインになった際に遅れを取る場合が見られる」

「そうですね。私としても射撃はどちらかと言えば牽制や誘導でそこから自分の距離に持っていく事が多いです」

「俺も同じようなものだ。まあ、だから助言も出来るわけだが」

 

 ガンダムブレイカー達の中でも一矢と奏の戦い方は共通点が多い。それ故、アセンやバトルなど共感し合うことも多いのだろう。

 長くバトルを続けている一矢にとって、まだまだ成長の過程にいる奏には幾らでもアドバイスが出来るのと同時に奏もすんなりと享受することが出来るのだ。

 

「一矢さんのお陰でまた一歩踏み出せそうですっ。先達から学んだことは無駄にはしません!」

「本当に大袈裟な奴だ」

 

 一矢との時間は奏の中でも色濃いものとなっているのだろう。元よりガンダムブレイカーとしての先輩、もっと言えば偉大なファイターとの時間は奏にとって一分一秒たりとも無駄にはしたくないのだろう。終いにはメモさえ取って瞳を輝かせる奏に一矢は苦笑してしまう。

 

(……“アイツ”もこんな気持ちだったのかな)

 

 そんな事はありません、とこの時間の貴重さを力説する奏の真っ直ぐに自分の背中を追いかける姿にかつて兄貴分の背中を追いかけていた日々を思い出しながら苦笑する。最も奏ほど素直に慕う姿を見せられなかったが。

 

「──イッチー!」

 

 そんな矢先、不意に乱入者が現れ、途端に一矢の首元に衝撃が走る。

 

「なになに、おねーちゃんとバトルしてたの? 昨日あれだけしたんなら今日はルティナとして欲しいのにー」

 

 何とか踏ん張って原因に目を向けてみれば、そこには先ほどまで懐かしんでいた日々の中の中心にいた兄貴分の娘であるルティナが無邪気な笑顔で抱きついていたではないか。

 

「こら、ルティナ! 一矢さんに失礼だろ、早く降りなさい!」

「えー? 良いじゃん、アタシとイッチの仲だよ?」

「どんな仲だ! 馴れ馴れしすぎるぞ!」

「イッチはおとーさんの弟子だったんでしょ? ルティナもおとーさんから覇王不敗流を学んだわけだし、イッチはルティナの兄弟子って事だよねっ」

 

 たちまち奏はルティナを離そうとするが、意外にビクともせず、まるで子猫か何かのように一矢にじゃれついている。

 グランドカップへの道半ばで一矢達に負け、Newガンダムブレイカーズでは過去の一矢と覇王不敗流とぶつかり合った件もあったことも相まって今、ルティナの中で一矢への関心が高まっているのだろう。

 

「……別に構わん。それでどうした? バトルでもしに来たか?」

「イッチとバトルしたいっ! ……っんだけどぉ」

 

 一矢としても兄のように慕っていた存在の娘に懐かれるのは悪い気がしないのだろう。ルティナの好きにさせながら用件を尋ねると今のルティナにとってこれ以上なく魅力的な提案に瞳を輝かせるのだが、そうもいかないようで渋々と奏を見る。

 

「私に用か?」

 

 どうやらルティナの目的は奏だったようだ。てっきり一矢とバトルでもしに来たのだろうと考えていたこともあって少々意外そうにするもののどうやらここでは話せない様子のルティナに誘われるまま一矢に別れを告げ、この場を去るのであった。

 

 ・・・

 

「──まさかこうなるとはな」

 

 それから数十分後、ルティナに連れられたのは奏にとって予想すらしていない場所だった。

 そこは確かにコロニーが存在し、一見すれば自分の取り巻く環境と何ら変わりないようにも見える。しかしその根元は大きく変わっていた。

 

「どう、おねーちゃん。“自分が生まれた世界”は?」

 

 そう、ここは奏や一矢達が普段過ごす平穏な世界ではなくルティナやシュウジ達が過ごす修羅の世界だ。今では少しずつ平穏を取り戻しつつあるようだがそれでも過去で生まれた傷跡は今尚生々しく残っている。

 

「ここはね、サイド6って言うんだよ。昔は中立コロニーとして戦火を逃れる為に金持ち達が暮らしてたんだ」

「……一生、この眼で見ることはないと思っていたから変な感じだ。とはいえ長居したくはないな」

 

 一矢達とシュウジ達の世界ではその技術水準は大きく異なる。

 いかに戦火の爪痕が色濃く残る世界といえどその技術は奏が今まで見てきた物の全てを越えており、驚かされるもののこれだけ進歩した技術が自分を“作り出した”と考えると薄気味悪さも感じてしまう。

 

 だからだろう。この世界に来てから、奏はいつもの快活さが鳴りを潜め、ずっと眉を顰めてしまっている。長居したくないというのも半ば本能的なものだろう。その様子に自分の世界ということもあって苦笑しながらもルティナは郊外にある屋敷にまで奏を連れてきた。

 

「ある人がね、どうしてもおねーちゃんに会いたいって言うからさ。少しだけでも良いから話をしてあげて」

 

 あまり人の気配を感じない屋敷の門を開き、そのまま玄関の鍵を開けて、奏を案内するルティナ。どうやら奏に会いたいと願っている人物がいるようだ。元々自分を作った世界とはいえ、一体誰が呼んだのか、その疑問が頭に残るなかルティナはリビングの扉を開き、奏に入るよう促す。

 

「お待たせ、連れてきたよ」

 

 リビングは屋敷の外観に劣らず、上品さを感じる内装になっていた。迷い込んだかのように辺りを見渡していると不意に背後にいたルティナが呼びかけるように声を上げると暫く経ってから奥の扉が開き、屋敷の主が姿を現した。

 

「……アナタは」

 

 そこにいたのはとても美しい人形のような人物だった。奏の周囲には美麗な存在が多くいるが、そんな環境にいた奏が目を奪われる程の人物がそこにいたのだ。

 

「はじめまして、奏……。私はリーナ。リーナ・ハイゼンベルグだよ」

 

 年齢こそ重ねたが、かつてと変わらないナチュラルブロンドの煌めく髪と宝石のような紫色の瞳。そこにいたのは紛れもなくかつてこの世界で作り出され、やがては異世界でもその翼を広げたリーナ・ハイゼンベルグだった。

 

「ごめんね。足を悪くしちゃってて……。治療して良くはなってるんだけど満足に歩くにはまだ心許ないんだ」

 

 しかし大きく変わったのは彼女が今利用している車椅子だろう。すぐにルティナがリーナのサポートに回るなか、出迎えが遅れたことを詫びるリーナの姿を奏は目を逸らすことが出来なかった。

 

『結果的に生まれたばかりで物心つく前におねーちゃんはおねーちゃんにとって姉に近い人にこの世界に暮らす如月翔の元に届けられたんだよ』

 

 かつてルティナから聞いた自身の出自についての話を思い出す。自分をあの世界に届けた人物。それがリーナであることが、そのエヴェイユの感覚を通じて自分に近いものを感じた奏には分かってしまった。

 

「ルティナから話は聞いてる。でも……安心した。少なくともアナタから邪気を感じない。それどころか……うん、太陽みたいな感じがする。翔に託したのは正解だったかな」

 

 リーナの口からも肯定された。リーナもまたエヴェイユとして奏の感覚を感じながら、あの時の赤ん坊を翔に託した行動に間違いはなかったんだと安堵したような笑みを見せる。

 

「……本当はアナタをこの世界に連れてくるつもりはなかったんだ」

「では何故……?」

「……翔のことだよ」

 

 だからこそなのだろう。視線を伏せながら奏を再びこの世界に呼び戻してしまったことを悔いているリーナにその理由を尋ねると今にも消え入りそうなほどか細い声で翔の名前が出てきたのだ。

 

「夢を見たんだ。親子の夢。だけど時間の流れと共に親子は変わっていった。……ううん、父親は変わらず、娘だけは衰えて深い悲しみのどん底に落ちる夢」

 

 普通ならたかが夢で自分を呼び出したのかと呆れるところだろう。だがそうは出来なかった。何故ならばそれは今朝、奏が見た夢と酷似した内容だったからだ。

 

「きっとアレは……。そう、奏。アナタだよ」

「わた、し……?」

「……うん、遠い未来か、それとも平行世界か。どこかのアナタが強く願ったから、それが私達に届いた」

 

 段々と頭が真っ白になっていくのを感じる。荒唐無稽だ。そうやって一蹴することも出来るだろう。しかし奏にとってもリーナにとってもそうしてはいけないと本能的に訴えかけているのだ。

 

「翔はさ、時折この世界にも来てくれるんだ。でもすぐにいなくなる。だってここは翔の居場所じゃないから。でも自分の世界ですら段々と居場所を失ってきている」

 

 あの夢の通りであれば寿命はあるにしろ、肉体は衰え、慕っている先人達は土に還るなかで翔だけは些細な変化に留まっているのだ。それがエヴェイユさえ越えた新種になってしまったからなのかはわからない。しかし翔の理解者がどんどん消えていく世界で変わらない翔を世界は異常な目で見ていくだろう。今でさえ冗談で翔の外見を周囲は揶揄うが、そんな彼らでさえ薄々その異常さに気付いているというのに。

 

「……前に翔は答えのない探し物を求めて旅をしているって言ってた。それが自分の居場所なのか何なのか。それは翔でさえ分かっているのかは分からない。でも……このままじゃいけないのは確か。翔だっていつかは死ぬ。でも私のお姉ちゃん……。シーナ・ハイゼンベルグのようにその魂が宇宙(そら)を漂い、争いを無くすための存在を探して世界を越えたように翔もそうならないとは限らない」

「……ですが私にどうしろと」

 

 翔が何を求めているのか。それは近しい奏でさえ分からない。しかし今の翔は奏から見ても超然的な部分はあるものの今にも消え去りそうな儚さも持っているのだ。しかし翔の為に動きたくてもどうして良いかなど分からなかった。

 

「翔に近いアナタだからこそ翔とは違う可能性を見てきて欲しい」

 

 そう言って車椅子で奏に近づきながらリーナは懐から小さなケースを取り出して開けて見せる。そこにはリーナの瞳にも負けぬ美しい宝石が埋め込まれたバングルがあったのだ。

 

「これはアリスタって言うんだ。アリスタはシーナお姉ちゃんが見つけたものなんだ。これが私達が異世界を渡る技術を手に入れたきっかけであり、翔が今も一人で異世界を渡れる理由」

 

 その宝石の名はアリスタ。アリスタという単語、そしてその名を関する宝石をガンダムシリーズに精通している奏は知っているがまさか同じものなのかとマジマジと見つめるなか、リーナに差し出されたアリスタのバングルを手に取る。

 

『さあ、勝利を組み立てようか』

 

 その瞬間、奏の脳裏に強いビジョンが過ったのだ。それは破壊と創造を行いながらも手を伸ばす青年の姿だ。

 

「アラ、タ……?」

「最近、翔が持っているアリスタを通じて、断片的に翔達とは違う新しいガンダムブレイカーの可能性が見えてくるようになったんだ」

 

 その青年の名を奏は知っている。いや実際に会話をしたことだってある。“ガンブレ学園”。一か月近く行方不明になっていた翔を探して、自分は一時はあの場にいて出会ったのだから。なぜ、そんな青年の姿をアリスタを通じて見たのか、その理由がリーナによって教えられる。

 

「そして最近、もう一つ見え始めた」

 

 そう言って奏が握っているバングルにリーナはその手を包むように両手で持つと再び奏の脳裏に映像が流れ込んでくる。

 

『『俺色に組み上げろ、ガンプラ!』』

 

 それは二人組の柔らかな顔立ちの青年達が今まさにガンプラバトルをはじめようとする光景だったのだ。しかしこちらの二人組に関しては奏も知らなかった。

 

「その子達がガンダムブレイカーなのかは分からないけど共通しているのはガンプラであり、翔は時折その世界にいる。だからアナタにお願いしたかった。アナタの都合がつく時にでもその可能性を翔に近いアナタが見てきて欲しいんだ」

 

 確かにガンブレ学園はガンプラに特化した学園であり、今の二人組もガンプラの単語を口にしていた。ガンプラファイターであり、ガンダムブレイカーでもあり、そして何より“如月奏”だからこそ見えるものがあるのだろうとリーナは奏を選んだのだ。

 

「……旅はどんな形であれ終わるものです。旅の終着点に辿り着いたから、もしくは半ばで諦めたり……。ですがどうせなら父さんに最良な形で旅を終えてほしい」

 

 そう言って奏はバングルを手首につける。アリスタがキラリと輝くなか、精神統一をするようにゆっくり息を吐いた奏はリーナとルティナに向き直る。

 

「私に手を差し伸べて如月奏にしてくれたのは紛れもなく如月翔だ。ならば私は走る。この足がいつかあの人がいる場所に辿り着くように」

 

 それは紛れもなく奏の決意であった。エヴェイユに苦しんだがそれでも如月奏としてあれたのは翔の存在があったからだ。であれば父親の為に動くことに何の問題もない。そんな奏の決意に触れ、リーナとルティナは静かに笑みを零す。

 

「……ありがとう、リーナさん。アナタに会えたのは私にとっても喜ばしいものだった」

「うん……。私も成長したアナタに会えて嬉しかった」

 

 改めてリーナに合わせて膝を折って屈み、視線を合わせると真っ直ぐと感謝の気持ちを口にする。不思議なものでリーナと話していると心地良いものがあったからだ。それはリーナも同じなのだろう。その瞳に薄っすらと涙を見せながら出会いの喜びを噛み締めるなか、奏はこの世界から立ち去るのであった。

 

 ・・・

 

 それから数週間が経った。リーナからも自分の都合で良いと言われたこともあってか、奏はまだあれから異世界には旅立っていなかった。それは何より今、彼女の目の前にあるガンプラが理由だろう。

 

「私は一人じゃない。私が見てきた物の全て……。その集大成。このガンプラは私の翼、刃、そして支えになるだろう」

 

 そのガンプラは奏らしくダブルオーがベースであった。しかし今までのクロスオーブレイカーやガンダムブレイカークロスゼロとは違ったコンセプトがあった。

 

 

 ──争いの連鎖を断ち切る英雄(ガンダムブレイカー0)

 

 

 ──想いを継ぎ、輝きを放つ新星(リミットガンダムブレイカー)

 

 

 ──新たな可能性を創造する天才(ν-ブレイカー)

 

 

 そのガンプラは奏が見てきた全て。その中でも未来を切り開いてきた輝ける翼達。輝きは違えど、強く羽ばたき、見る者を多大な影響を与えてきた。それは奏も例外ではなくそんな翼達が残した羽がこのガンプラに組み込まれているのだ。

 

「ガンダムブレイカー0ビヨンド……。共に光の軌跡を紡ごう」

 

 今、如月翔が託したバトンは雨宮一矢に届き、世代を越え、如月奏に受け継がれ、その想いは今、世界を越えてまた新しいガンダムブレイカーであるソウマ・アラタへと繋がれた。だがそれで奏がガンダムブレイカーとして終わったわけではない。寧ろこれからも歩み続けるのだ。

 

 いよいよ旅立つ時だ。

 準備は出来ている。奏は今、一人で暮らしているアパートを出て、旅立とうとする。

 

「──奏?」

 

 その時であった。

 決して忘れる事はない存在の声が聞こえてくる。その声に心臓が跳ねるような想いで振り返れば、そこにいたのは希空だった。

 

「……近くに寄ったから来てみました。その、どこかに行くんですか?」

「……そうだな。少々遠出をする」

 

 よりにもよって旅立ちの日に希空が来るとは思っていなかった。普段なら今にも抱き着いて頬擦りでもしていることだろうか。しかし今の奏はその様子すらない。いつもの奏とは違う様子に希空は戸惑ってしまう。

 

「……帰ってきますよね?」

「当たり前だろう。お前が存在する限り、私がここにいる理由の一つは消えやしない。なんてたって私はお前だけの奏お姉ちゃんだからなっ」

 

 奏から感じた儚さ。その違和感に思わずそんなことを尋ねてしまう。しかしその質問を聞いた途端、奏は穏やかな笑みを見せながらいつもの快活な様子を取り戻して希空の頭を撫でる。

 

「案ずるな。長い別れではない。何だったら明日にでも戻っているかもしれないしな」

「期間を決めてないんですか?」

「決められんかった……かな。なに、お前を寂しがらせるつもりはない。いや私がいなくて寂しがる希空はそれはそれでキュンキュンするのだが、それはそうとして私がお前を悲しませるなど絶対にあってはならんことだからなっ! その姿だけは妄想に留めておこう!」

「何で思ったことをそのまま口に出すんですか。少しは脳を介して喋ってください」

 

 どうして自分と絡んでいる時の奏はシリアスを続けられないのか、いつも疑問に思ってしまう希空だが寧ろ安定している奏の姿にどこか安堵してしまう。まあそれはそうとその言動に引いてしまうのだが。

 

「……だから私も少しだけ脳を介さずに話します」

 

 とはいえだからこそ彼女は自分にとって“奏お姉ちゃん”なのだ。この場所だけは誰にも譲る気はない。故にその場所を決して手放すまいとするかのように希空は奏の背中に両腕を回して身体を密着させる。

 

「……正直言えば少し寂しい。でも……我慢する。だから……これ以上寂しくならないように早く帰ってきてね、奏お姉ちゃん」

 

 少しだけ、少しだけなら本心を口にしたって罰は当たらないだろう。なに、少しだけ奏と同じことをするだけだ。あぁだがしかし慣れないことはするものではないかな。お陰で顔は熱いし、抱き着いたまま奏の顔が見れない。

 

「行って来る」

 

 様子が伺えない奏から聞いてきたのはこれ以上になく穏やかな声色だった。そのまま顔を上げてみれば、幼い頃無邪気に慕っていた変わらない陽だまりのような笑顔があるではないか。

 

 その言葉を最後に希空の頭を撫でた奏は旅立っていく。自分は長い旅をする気はない。それに万が一、旅が長くなろうとしても自分には自分の生活がある。ちゃんとその都度帰る場所に帰ることだろう。

 

 なににせよ、まずは一歩踏み出すことからはじめよう。

 英雄がかつて異世界で訳の分からない状況に対してまずはそうしたように。

 

 

 ──争いの連鎖を断ち切る英雄。

 

 ──輝ける未来をその手に掴む覇王。

 

 ──想いを継ぎ、輝きを放つ新星。

 

 ──希望の守り手。

 

 ──守護の花を抱きし気高き獅子。

 

 ──目醒めし最強の遺伝子。

 

 ──新たな可能性を創造(ビルド)する天才。

 

 

 そして今、新たな物語の幕が開く。

 

 

 ──不屈の絆を纏う光の奇跡。

 

 

 さあ、Puzzleを自分の色に組み立てろ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5 Years After
5年後の君達


この小説を投稿してもう五年ですか。去年、前作の五周年を迎えた時もあっという間に感じましたが、そんな事を考えながらこちらも五周年を迎えました。

ガンブレディオの方で新作と絡めた五周年記念回という名の完結編をやりたかったのですが、あっちは漸く奏が出たところで話が進んでいないので、本来やる予定だった話とは違う新作話をやろうと思います。


 まさに世界中を巻き込み、多くのファイターが誇り(プライド)を賭した戦いは新星の輝きと共に終結し、事件の首謀者は逮捕され、また変わりない日常へと戻っていくなか、人知れずそれぞれがお互いの道へ進む為に大きな別れを迎えてから五年の歳月が経過した。

 

 自分達の世界で少年少女達はその身体の変化を迎えながら、彼らもまたそれぞれの道へ進んだ。そしてその道はこれからも続いていき、また違う未来を生み出していく。これは輝ける新星と花のような少女との出会いから五年後が経った幕間の物語──。

 

 ・・・

 

 朝日がゆっくりと昇るなか、人の気配のない公園には一人の青年がいた。彼の名は雨宮一矢。ガンダムブレイカーの使い手であり、想いを継ぎ、輝きを放つ新星だ。

 

【挿絵表示】

 

 かつてはまだ少年の名残のある華奢な体格も今では男性らしいガッチリとした体格となっており、今も彼しかいない公園でさながら演舞のように身体を動かしている。

 それはかつて彼が陰では兄貴分のように慕っていた輝ける未来をその手に掴む覇王が教えてくれた覇王不敗流と呼ばれる流派によるものだ。一通り、身体を動かした一矢はゆっくりと楽な体勢となって深呼吸をすると帰路につく。

 

 毎朝、とは言わないまでもルーティーンのようにこうして早朝の公園で覇王不敗流の動きを一通り行う。覇王はいなくなったが彼が残したものは今も一矢の中で息づいているのだ。

 

(……別に大それたもんじゃないんだけどな)

 

 とはいえ言葉通りにそのまま彼に伝えれば否定することだろう。

 先程の洗練された覇王不敗流の動きから一転、背を丸め猫背のままズボンのポケットに手を突っ込みながらぼやく。

 

(けど……昔の思い出だけにはしたくない)

 

 覇王はいなくなり、直接の思い出は新しく作れない。面倒臭がりでインドアな彼がわざわざ覇王不敗流を定期的に行うのは昔、覇王がいて、そんな事を教わっていたという過去にするのではなく今として繋ぎ止めて、彼なりに昇華させたいのかもしれない。

 

 そうこうしていると一矢は現在暮らしている自身のアパートに辿り着いた。彩渡街から遠く離れたわけではないが現在通っている大学に通うため実家を離れて一人暮らしをしているのだ。

 

「おかえりっ」

 

 一人暮らし、というにも関わらず、一矢が玄関を開けた瞬間、出迎えの言葉がかけられたではないか。一矢自身も特に驚いた様子もなく日常的なことなのか、そのまま視線を向ければ青色の瞳と視線を重なる。

 

【挿絵表示】

 

 そこにいたのは、かつておさげにしていた桃色の髪を後頭部にシニヨンヘアに纏め、少女と見間違う程の可憐さを持っていた外見はそのまま昇華され、一層の美しさを持つ存在へと成長した南雲優陽であった。

 

「朝ご飯出来てるよ。冷めないうちに食べようよ」

「……ああ」

 

 優陽に誘われるまま帰宅した一矢はテーブル越しに向き合いながら座り込む。優陽が作った朝食を見てみれば、カリカリに焼き上げたトーストと鮮やかなスクランブルエッグと程よく焼かれたハリのあるウインナー。栄養を考えて盛られたミニサラダだ。

 

「……いつも悪いな」

「気にしないでよ。好きでやってることだし」

 

 いただきます、と声を重ねながら食事を取る。一矢と優陽もかれこれ長い付き合いとなるだろう。学校こそ違ったがそれでも出会う度に学友以上の濃厚な時間を過ごしてきた。

 

「まっ、少しは気にしてるなら生活力を身につけようね。この間みたいに引っ越ししてから暫くして遊びに来たら、やつれて死にかけてましたなんてのはゴメンだし、身の回りの世話をするって言いだしたミサちゃんだけに負担をかけるのがアレだったから僕もこうして協力してるだけだしね」

「……高校時代は夕香が髪のセットとかしてくれたし、飯や洗濯も親がやってくれてたからなぁ」

「自立なんて言えば立派だけど一矢の場合は立ててないからね?」

 

 優陽が何故、一人暮らしの一矢のアパートにいるのか。それはどうやら生活力のない一矢の世話をするためのようだ。とはいえ、このまま生活力がないままにしてはおけないという意識はあるようで優陽には珍しく一矢に注意の範囲内として咎める。

 

「今はまだ良いけど来年からは今程、会えなくなるんだよ。僕も一矢に甘いって言われるけど流石に最低限の生活力は身に付けて欲しいんだ」

 

 彼ら二人はこの春から大学4年生だ。二人とも内定をもらい、最後の大学生生活を送る。つまりは来年からは社会人というわけだ。

 何れ交際中のミサと一つ屋根の下に暮らすにせよ、それまでの間、必ずしもミサや優陽が世話を焼いてくれる時間を確保できる訳ではないのだ。

 それにいつまでも甘やかしっぱなしというのも良くはない。一矢の為を思って、僅かに尖った言い方で伝える。

 

「来年か……。今程の自由は無くなるんだろうな」

「環境もガラッと変わるからね」

 

 食事中にいつまでも小言を言うつもりはないのか、スパッとそこで話を終え、話題を変えて談笑でもしようかと思った矢先、ふと先程の優陽の言葉から一矢が引っ掛かった部分を口にした。

 その言葉には不安や憂鬱さが感じられて、時間の流れとは言え、こればかりは仕方ないとばかり優陽は苦笑している。

 

 ・・・

 

「一矢、忘れ物はないよね? 鍵はちゃんと持ってる? ハンカチやティッシュは?」

「……早く一人で暮らせるところを見せないとヤバイな」

「さっきはあぁは言ったけど、昔は週に何日か泊まり込みだったのが今は週末に様子を見に来るついでに家事をするだけに済んでるんだからマシになって来てると思うよ」

 

 朝食を終えて身支度を整えた一矢は優陽と共に出掛けようとしていた。しかし戸締まりをしている最中に優陽はまるで母親が出掛ける前の子供に確認するように接してきた為、このままではまずいと改めて生活力を身に付けようと決意していると焦らなくて良いよ、とばかりに朗らかに微笑んでいた。

 

 元々あまりコミュニケーションを取ろうとしない一矢と違い、優陽は分け隔てなく誰に対しても物腰は柔らかい。お陰で一矢の周囲の中ではまだ知り合ってからの期間が浅い部類だが、いつの間にか彼といると楽な自分がいた。

 

 そんなことを考えながら、一矢は優陽と電車に乗って移動する。目的は彩渡商店街だ。

 程なくして見慣れたアーチが飛び込んでくる。かつては閑古鳥が鳴く時代に取り残されたこの商店街も今ではかつての賑わいを思い起こさせるように人で賑わっていた。

 

「おーっ、一矢と優陽じゃねえーか」

 

 人混みの中を歩いていると、不意に声をかけられる。

 二人揃って顔を向けてみれば、そこには精肉店を営むマチオの姿があった。

 

 ガンプラバトルをきっかけに大きく知名度を跳ね上げた彩渡商店街は今では開けていない店もない程、繁盛しており、マチオの一声をきっかけにわらわらと商店街の人々が一矢に集まってくる。

 

「一矢、今度バトルしないか?」

「いや、アセンのアドバイスをもらいたいな」

 

 たちまち人だかりができてしまった。特にガンプラで名をはせた存在だけあってガンプラを嗜む者達から声をかけられることは多く、今も轟炎と赤坂龍騎に声をかけられている。

 

「もしもガンプラやバトルで悩んでいるならこのガンプラ兄さんがアドバイスするぞ?」

「深田さん、バトルに関しては一矢にもう勝てなくなってるじゃないですか」

「しかもガンプラ兄さんなんていつまで言ってるんだよ」

 

 どこからともなく現れた深田宏祐にこの商店街のトイショップの常連である杜村誠と保泉純に即座にツッコミを入れられてしまう。五年前は一矢にとって馴染みのある存在達ではなかったが、周囲の影響もあって今では知人の間柄だ。

 

「久しぶりねぇ、一矢ちゃん。ほら野菜持って行って!」

「えっ? いや、でも……」

「ミサちゃんから聞いてるわよ? 一人暮らしを始めて、ずーっとコンビニ弁当やカップ麵ばっかだったって。あんまり心配かけちゃダメよ」

 

 ガンプラ関連も程々に夫婦で八百屋を営む女性からいくつかの野菜が入った袋を渡されそうになるなか、流石にそれは悪いと思ってやんわりと断ろうとするが、一矢の近況はミサを通じて商店街に広まっているのだろう。半ば強引に手渡されてしまう。

 

「……」

「……なんだよ」

「いんやぁー? 一矢は愛されてるなぁって思ってさ」

 

 あれよあれよと物を手渡されていく一矢だが、ふと隣から視線を感じてみれば、ニヤニヤとした笑みをこちらに向けてくる優陽がいた。状況が状況だった為、半ばぶっきらぼうな反応を取ってしまうが、それさえ優陽からしてみれば面白いのか相変わらず笑みを見せたままだ。

 

 これ以上、下手に文句を言っても優陽を楽しませるだけだろうと諦めた一矢は商店街の人々に別れを告げて、目的となるトイショップへと向かう。

 

 自動ドアを開いて、静かに足を踏み入れる。このトイショップに何度通ったかはもう覚えてはいないが、最早我が家のような温かさがある。

 

「──一矢っ!」

 

 それはきっと彼女の存在のお陰だろう。

 来店客に反応して、対応しようとした時、それが最愛の人だったと分かった瞬間、店番をしていた少女はすぐに駆け出して一矢に飛びつく。

 

「……ミサ」

 

【挿絵表示】

 

 そこにいたのは一矢と共に多くのガンプラバトルを駆け抜けてきたミサであった。かつて纏めていた髪も今はロングヘアーに下ろし、少女から一人の女性に成長しつつある彼女に対して一矢も自然と表情を綻ばせながらも愛する彼女の名を口にするのであった。

 

 ・・・

 

「涼、このガンプラ新発売だってよ」

「それ欲しかった奴だ! 売り切れる前に早く買っちゃおう」

 

 店内は多くの来店客で賑わっていた。それもこれも一矢やミサ達の活躍のお陰だろう。今となっては親子やバイトで世話になっている一矢の他にも雇って店を回しているほどだ。今も桜川恭と桜川涼の兄弟が手に取ってガンプラをレジへと持っている。

「ごめんね、呼び出しちゃって」

 

 そんなミサの父であるユウイチが経営するこのトイショップにやって来たのは、どうやらミサからの呼び出しがあったからのようだ。普段は作業ブースに使っている一角に集まりながらミサは本題を切り出す。

 

「実は翔さんからガンプラバトル大会への参加オファーが来たんだ」

 

 どうやらガンプラバトル大会への参加に関する事だったようだ。翔からの誘いに驚きつつもミサに促されるまま一矢と優陽はテーブルの上の書面に目を通す。

 

「GGF博物館5周年セレモニー・ガンプラバトル大会……」

 

 それはかつて一矢やミサが訪れたことのあるGGF博物館にて行われるガンプラバトル大会であった。

 ガンプラバトルの始まりの地である東京台場は一種の聖地になっており、そこでイベントをやるとなれば注目が集まるのは必然であろう。

 

「翔さんの話だと他にも厳也達とかセレナちゃん達にも声をかけてるみたいだから大々的なイベントになるかもね」

 

 どうやら一矢達の他にも国内だけではなく世界中のファイターに声をかけているようだ。いかんせんすぐに会えるような環境ならばともかく、お互いの生活に加えて住む場所も違うとなれば中々会う機会もなく自然と疎遠になっていくもの。もし会えるのであればらそれは単純に喜ばしいことだろう。

 

「参加、するでしょ?」

「……」

 

 ガンプライベントの参加。躊躇う理由などないだろう。そう思っていたミサと優陽だが一矢は何か答える素振りはなく、目を細めてどこか悩んでいるようだった。

 

「……ああ、何でもない。参加しよう」

 

 思わずミサと優陽が怪訝そうに一矢の顔を覗き込むなか、そこで視線に気付いた一矢は我に返ったように頷く。その様子にミサ達は顔を見合わせて首をかしげるなか、そのまま三人は当日の打ち合わせをしつつ流れで雑談に移行し、和やかな時間を過ごすのであった。




五年後の一矢のキャラデザはよりしっかりとした体付きにしながら髪型も一矢の髪でシュウジの髪型をセットするようなイメージで考えました。優陽に関しても五年前は可愛い男の娘をイメージしていましたが今回は可愛いというよりは美しさを念頭にデザインしました。

最後の彼女に関しては正直、グレーゾーンというか、五年後をイメージした結果、そもそも別キャラになってんじゃんというか……。

おまけ
ミサチャン☆ペッタンコ(優陽&ミサ)

【挿絵表示】

ミサ「は? 最早変わり過ぎて誰か分からない? いや、そんなこと言われても……」
優陽「そうだよねぇ。こんなに変わってないのに……」
ミサ「ど こ 見 て 言 っ て る の ?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

揺りかごの中の温もり

 当日、台場へと向かう電車の中には一矢達がおり、その中にはカドマツの姿があった。何気ない会話を繰り返していると話題はこれから参加するイベントへ移っていく。

 

「今回のイベントに使うバトルシミュレーターは既存のものだが、下手すればでかいイベントで使われるのはこれで最後かもしれんぞ」

「そっか。新型ガンプラバトルシミュレーターの完成ももう秒読みなんだっけ」

 

 何気なくカドマツから話された内容に合点がいったようにミサは頷く。

 かつて五年ほど前に新型ガンプラバトルシミュレーターとしてVR空間を舞台にバトルを行った事があるが、あれからもう五年。一般に幅広く展開するために更なる開発が進められていたシミュレーターがもう間もなく世に出回ることになるだろう。

 

(時間が進めば、色んな事が変わるな)

 

 親しみなれた既存のシミュレーターから今度はVRを舞台にガンプラバトルを繰り広げることになるだろう。

 きっとそうなればもっと幅が広がるだろうし、遠く離れたファイターとも交流できる。しかしどこか言いえぬ寂しさもあった。

 

『──バトンタッチさ。俺達が残したものをお前達の未来に繋げてくれ』

 

 そんなことを考えれば、かつて自分達に想いを託して去っていった覇王の姿が脳裏を過る。

 

(……分かってるさ)

 

 自分もただ時間の流れに身を任せて、惰性で生きていくわけにはいかない。

 彼の覇王は言った。自分達の未来が再び交わった時、またバトルをしようと。あれから5年近くが経過した今でも再会の時を迎えていないが、いざその時が来た時、彼を失望させるわけにはいかない。炎のように燃えるようなバトンを心に宿しながら、一矢は大会の地へと臨むのであった。

 

 ・・・

 

「久しぶりに来たねー」

 

 GGF博物館を目前にしながら感慨深そうにミサは呟く。

 かつては自分の行動が原因で一度は訪れる機会を逃したが、ウイルス事件をきっかけに一矢に案内をしてもらった場所だ。当時からもう5年。時間はあっという間であり、おいそれと通うことも中々難しいこともあって半ば5年ぶりの再会というわけだ。

 

「──イッチ!」

 

 感傷に浸っていると現実に引き戻すかのように声をかけられる。声に誘われるままに顔を向ければ旧友であるレン・アマダとその知人であるジーナ・M・アメリアの姿があった。

 

「あなた達が揃ってるってことは今回のイベント絡みかしら」

「……そんなところ」

「気が付けばイッチも遠い存在になったなぁ……。でもいつだってイッチの活躍はチェックしてるからな」

 

 レンとジーナに会うのも久方ぶりだ。昔は頻繁に出会っては他愛ない会話を繰り返していたが時間の経過と共に顔を合わせる機会というのも減っていった。

 しかしだからと言ってお互いの仲が変わることはない。短いやり取りでそれを再確認しながら別れるのであった。

 

 まだ一矢達が参加するイベントまで時間がある。一行は周囲の散策を後回しに物販コーナーへと向かった。

 

「うわー……やっぱそれなりに混んでるね」

「半ばオープンと同時に来たのにね。目当てのガンプラは残ってくれるかなぁ」

 

 物販コーナーに訪れてみれば遠巻きでも分かるほどの列が形成されていた。見るだけでも頭が痛くなってくるが買いたいというなら並ばなければならないだろう。

 

「……もし手に入らなくても後日、通販でも扱うみたいだよ」

 

 仕方ないと並ぼうとした時、声をかけられる

 誰かと思い、確認してみればそこにはリージョンカップでバトルした三宅ヴェールをはじめ、三日月未来、岡崎ユーリがいた。

 

「……そうは言ってもお前達だって並ぶみたいだな」

「欲しいからね」

 

 とは言いつつ、ヴェール達はそのまま一矢達の後に並んでいる。確かにこの場で買えなくても後日、通販で買うという選択肢もあるだろうが、思い出を作ったその場で購入するという良さもある。

 その点、一矢達もヴェール達も同じなのだろう。順番待ちをしながら何気ない談笑をする。

 

 ・・・

 

 物販コーナーで目当ての限定品を購入した一矢達はヴェール達と別れて、GGF博物館を散策する。訪れたことがあっても時期によっては展示内容も変わるこの施設はいつ訪れても新鮮さを与えてくれる。

 

「あれ、秀哉達じゃない?」

 

 発売予定の新作ガンプラのサンプルを眺めていると、なにかに気付いた優陽がとんとんと一矢の肩を叩きながらか細い指でその方向を指す。

 そこには確かに根城秀哉、貴広、裕喜達根城兄妹と姫矢一輝、その友人達である千樹准と孤門憐がいた。

 

「イッチだ! ミサ達もひっさしぶりー!」

 

 向こうも一矢達に気付いたようだ。高校時代から変わらないテンションで裕喜は手をブンブンと振って、こちらに駆け出してくると彼女なりのスキンシップで抱き着いてくる。彼女のこういう部分は天然なようでそれで勘違いさせてしまうことも多々あるが、そんな彼女と話すのは楽しい一時を与えてくれる。

 

「最近は中々会えなかったな。元気そうで何よりだ」

「まあ、その辺は僕とミサちゃんのお陰だったんだけどね」

 

 遅れて秀哉達も合流する。年を重ねるにつれて近くに住んでいても顔を合わせる機会も減っていき、秀哉達とは久方ぶりに会った。変わらず健康そうな一矢達を見て、微笑む秀哉に一矢も自然と微笑を見せようとするがその直前に放たれた優陽の一言に微笑はひきつった笑みに変わっていく。

 

「そう言えば夕香ちゃんは?こっちに来るとは行ってたんだけど」

「あぁ、それなんだけど……」

 

 一矢の近況については会いはしなくても広まっているのだろう。苦笑している周囲に対して冷や汗を流す一矢を見かねてか、助け船を出すようにミサが話題を変えると答えた一輝の一言をきっかけに事情を知る裕喜達はぎこちない笑みを見せる。

 

「その……さっきまでシオンと一緒だったんだけど、そこにウィル達が来て、あることがきっかけでシオンとウィルが揉めちゃって今、ガンプラバトル中なんだよね。夕香はその付き添いっていうか、お目付け役というか」

「あることってなんだ?」

「イッチには言えないかなぁ……」

「別に暴れだしたりはしないけど……」

((((((どの口が言ってるんだ))))))

 

 どうやら夕香を巡ってシオンとウィルの間でまた火花を散らしているらしい。それ自体は珍しいことではないため大した驚きもないが一応、理由を聞いておこうと思ったが、何やら裕喜達ははぐらかしたよう笑みを浮かべている。

 シオンとウィルの喧嘩は半ば日常茶飯事な為、別に隠す必要もないだろうとは思うが、深く問い詰める必要もない為、それ以上の追求を止める。最も一矢の何気ない発言に周囲の人間は内心で即座にツッコミを入れていたが。

 

「一矢君」

 

 久しぶりの再会から近況を話していると声をかけられる。

 ここに来て、目を見開き一番の反応を示す一矢と同時に周囲にざわめきが起こる。

 腰まで届く艶やかなグレーがかった黒髪を一本に纏め、その男性とも女性ともとれる外見……。如月翔がそこにいたのだ。

 

「翔さん、お久しぶりです」

「ああ、こちらこそ招待に応じてくれて感謝する」

 

 片やガンプラバトル立ち上げから第一線で活躍し、ガンダムブレイカーの名を一躍広めたガンプラ界のレジェンドのような存在となっている翔とそのガンダムブレイカーを継ぎ、劇的な世界大会進出に留まらず数々のウイルス事件を解決してきた一矢は注目の的なのだろう。何気ない会話をしている二人だが遠巻きでパシャパシャとシャッター音が聞こえてくる。

 

「社長さんは忙しそうだね」

「そうだな。店舗拡大と言えば聞こえは良いが簡単な話ではない」

 

 ミサや秀哉達が会釈するなか、一矢の後ろからひょっこり顔を出した優陽が翔に声をかける。今や翔が経営するブレイカーズは一つの店舗に留まらず、新たに二号店をオープンし、あやこが店長として切り盛りしているが順風満帆という訳ではなく苦労もあるのだろう。しかし言葉だけで、その表情に微塵もその様子を感じさせないのは流石と言うべきなのだろうか。

 

「それに悪い事ばかりではない。久方ぶりに会うと喜びも一塩だ。皆、成長している……。特に一矢君、大きくなったな」

「図体ばかりが大きくなっているだけですよ。翔さんには追いつけない」

「なに、君達のような存在が後ろにいるから追い抜かれないように走っているだけさ。君の成長……。その心の成長は君の顔を見れば分かるさ」

 

 そう、気が付けば一矢の身長は180㎝は優に超え、翔の身長を上回っているのだ。

 一矢を見上げる形になるなか、翔の言葉を身長を指したと感じた一矢は謙遜した様子を見せるが、そうではないとばかりにその頭を優しく撫でられる。久方ぶりに再会し、短いやり取りではあったがそれだけでまだまだ翔には及ばない事を痛感する。

 

「そうだ、君達に紹介したい者達がいる」

 

 話も程々に切り上げ、翔は背後に控えていた二人組に一矢を紹介するように一歩引くと、それが合図だと感じた二人は一矢達に近づいてくる。

 それは男女の外国人だった。女性の方が赤子を抱いている事から二人は夫婦なのだろうか。そんな事を考えながらナチュラルブロンドの癖のある髪を掻き分けながら男性の方が口を開く。

 

「翔、待ちくたびれたぜ。ずっーと話がしてみたくてウズウズしてたんだ」

「大人なんだから落ち着きなさいって何度も言ったんだけどね。どっちが子供か分かんないわね」

 

 高身長の一矢からしても僅かに見上げる形となるなか、快活で人懐っこい笑みを浮かべながら男性は興味津々な様子で一矢を見やる。そんな男性を嗜めながら隣に立つ女性も腕に抱いている眠っている我が子に慈しむような笑みを向ける。

 

「紹介しよう。アメリカのイベントで知り合ったファイターであるオリバー・ウェインとその妻であり、ビルダーを専門にするジェシカ・ウェイン。そして……」

 

 一矢達も外国のイベントに招待されることはあるが、やはり翔程ではなくその人脈は計り知れない。簡単に二人を紹介しながら翔の視線はそのままジェシカが抱いている赤子に移る。

 

「二人にとって第一子であるラグナ・ウェイン君だ」

 

 これはある意味で運命の日だったのかもしれない。

 翔、一矢、優陽の視線が眠る赤ん坊に集中するなか、ただ静かに寝息を立てている。眠れる獅子はまだ唯一無二の穏やかで温かな揺りかごの中にいた……。

 




おまけ
pixivさんとTwitterの方に投稿していたイラスト

如月奏(闇墜ちif)

【挿絵表示】

作者の中で吹き荒れた突然の闇墜ちブームによって爆誕した奏。本編終了後に旅に出る流れまでは同じだが父親を救えないまま時間だけが経つことに絶望した奏が力を求めて自身を生み出した研究所に流れ着き、その後かつての研究員達と接触した結果、力を求める奏と最強のエヴェイユを生み出すという研究員達との利害一致によって生まれた強化人間。

強化実験の副作用からか記憶は既に混濁しており、“如月奏”の根底にあった変わらぬ願いは塗りつぶされ、されども本来の彼女が辿る筈だった生体兵器“EVシリーズ”を大きく覆す名前のない怪物が彼女だ。半ば常時エヴェイユの力を発動させているものの時折、脳裏に自分を不器用にも慕う少女の存在がフラッシュバックし、その度に強い吐き気と頭痛に襲われ、精神状態もひどく不安定になっているが自分が何者に成り果てようとも父親を救う、ただそれだけにしがみ付いて生きているラスボス系ファザコン。

……っていうところまで考えて、満足してたんですよね。まあ本編に出すかどうかすら怪しい暇潰しで生まれた怪物なんですが。いや、奏ってあんなキャラですけど歴代ガンダムブレイカーの中じゃ一番、闇墜ちする可能性が高い子なんです。

おまけ2(闇墜ち奏を攻略したら、とんでもないことになった)

【挿絵表示】

奏(闇)「やーっと起きた。君の寝顔は愛いが私を見ている君の顔はもっと愛おしい。む、何故、馬乗りになっているのかって? やたらと君のものではない甘い匂いがするのでな。あぁいや、勘違いしないでくれ。別に私以外の女と話すなとか接触するなとは言っていない。私はそこまで狭量ではないし、君を信じている……があまり気分が良いという訳ではないのも事実だ。だから……私の匂いで塗替えたかったのだ。父さんを救う、それだけの為に生きてきた私を君は救ってくれた。この力のせいで緩やかだった世界は君のお陰で正常に戻った。君さえいてくれれば……私と君だけの世界があれば、ついついそう思ってしまう。いや、待てよ。そうだ、私が生まれたあの研究所に行こう。研究所にはデータが残っている。私程でなくても君にエヴェイユのような力を与える事が出来る。そうすれば君は時間を支配できる、時間に干渉できるようになれば、そこは君と私しかいない世界が誕生する! 例えどんな女が近づこうとも私と君だけの世界には干渉できない……。ふふっ……あはっ、素晴らしいじゃないか! 私は君が望むことなら何でもしてあげたい、が、私と君の為なら手段は選ばない。さあ行こう、どんな君になっても愛しているよ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誇りが宿る宇宙へ

「皆さん、本日のイベントは楽しまれているでしょうかー! 本日の目玉であるGGF博物館5周年セレモニー・ガンプラバトルイベント、楽しまれているでしょうかっ!」

 

 GGF博物館内でも一際人が集まる場所があった。

 多くの視線を集めながら巨大スクリーンをバックにMCを務めるのは御剣コトであった。今なお現役で活躍するコトの知名度は高いのだろう。彼女の一挙手一投足に歓声が上がる。

 

 どうやらコトはこのガンプラバトル大会のMCを務めているようだ。彼女のバックのスクリーンに映像が映し出される。それは機動戦士ガンダムに登場する開いた傘のような独特な外観の宇宙要塞ア・バオア・クーだった。

 

「このア・バオア・クーステージが今回のイベントステージです。しかし一年戦争の再現、というとまた違います。今回再現したのはガンプラブームに再び火を点け、後々続くシリーズの始祖ともなったガンダムビルドファイターズの最終決戦のステージなのです!」

 

 どうやらア・バオア・クーをステージにしてもそれは機動戦士ガンダムの最終決戦を再現、というよりはガンプラを扱った作品であるガンダムビルドファイターズをベースにしたステージだったようだ。

 

「こちらは原作同様にプレイヤー8名によるア・バオア・クー最深部に存在する巨大アリスタの破壊したタイムを競っていただいております。しかしプレイヤーに立ち塞がる相手も伊達でありません。GGFのスタッフが用意した敵機体達、そして運営側が招待したファイターの中からピックアップされた方々が皆様の前に立ち塞がることでしょう!」

 

  ベースをガンダムビルドファイターズの最終決戦にしつつGGF博物館ならではのアレンジが施されているようだ。用意された敵機体も気になるところだがやはり一番は運営側が招待したのはファイター達だろう。

 

「それでは早速、プレイしているプレイヤーさん達を見ていきましょうっ!」

 

 説明も程々にコトの言葉をきっかけに背後に映っているア・バオア・クーの映像が切り替わり、実際にプレイヤー達が遊んでいるステージの様子が映し出される。

 

 ・・・

 

「いよぉーしっ! 碧、いっくぞー!」

「まったく少しは落ち着きを持ったらどうだ」

 

 バトルステージを映すモニターには風香のエクリプスと碧のロックダウンが真っ先に映り、二人の会話こそ外部には届かないものの迫りくる敵機体とバトルを繰り広げながら二人らしい掛け合いをする。

 

「敵機体もHGサイズだけなら良かったんだけど……ッ」

「まさかPGサイズが連続で出てくるとはな……」

 

 そんな二人を他所に天城勇が操るバアルと一風留が駆るアストレイブラッドXが巧みな操作でア・バオア・クーから張られる弾幕を搔い潜りながら苦々しい表情を浮かべる。二機の視線の先にはPGクラスのゴッドガンダムとウイングガンダムゼロが行く手をふさいでいた。

 

 PGサイズはその巨躯から攻撃を当てる事自体は容易い。しかしイコールで簡単に撃破出来るわけではなく、その堅牢な装甲と高出力の攻撃はかすっただけでも一たまりもなくプレイヤーを苦しめる。これこそがGGFのスタッフが用意した敵機体のメインだ。

 

「──きゃあぁっ!?」

 

 その時だ。ストライクレイスを操る一ノ瀬春花が悲鳴を上げる。勇達が確認してみれば、ストライクレイスは大きく被弾し、何とか後方に退くことが精いっぱいのようだった。

 

「簡単には行かせないぜ。なんたって俺は英雄だからな」

 

 そんなアストレイブラッドX達の前に立ちふさがるのはトールギス・アキレウスであり、ファイターはもちろんアキレアス・アンド蘆屋淄雄レウだ。自信満々に言い放つ彼と共に並び立つのはアリシア・カサヴェテスのダソス・キニゴスとヘラクレス・サマラスのヘラク・ストライク。ここにネオ・アルゴナウタイが集結した。

 

 何故、ネオ・アルゴナウタイが立ち塞がるのか。それは彼らが運営に招待されたファイターだからだ。チームで活躍する彼らの連携にたちまち挑戦プレイヤー達は窮地に追いやられる。これには観戦モニターで自分の番を待っていた風留の知り合いの天音勇太と天音千佳、春花のチームメイトの上代裕喜も不安げな様子だ。

 

「うおおぉらぁあっっ!!!」

 

 しかしその中で劣勢の状況を切り払うように飛び出したのは挑戦プレイヤーの一人である拓也が駆るBD the.BLADE ASSAULTであった。疾風の如く飛び出し、トールギス・アキレウスに試製9.1m対艦刀を振り下ろすが受け止められてしまった。

 

「よくやったっ!」

「ああ、ただ負けっ放しってのは柄じゃないんでな!」

 

 すかさず挑戦プレイヤーの最後の二人である蘆屋淄雄のリグ・コンティオとかつてジャパンカップにも出場していた秋田県代表チームの一人、大和清光の試製特参式歩行戦車一番機“暁”の援護射撃が加わり、トールギス・アキレウスを怯ませると自身の武器を受け止められていたBD the.BLADE ASSAULTはその隙にトールギス・アキレウスの片腕を切断することに成功する。

 その様子に観戦モニターで固唾を飲んで見守っていたかつての秋田県代表の赤城国広、日向国永、加賀小夜や淄雄と共に遊びに来ていた留守佳那は知人の活躍に喜び、会場もさらに盛り上がる。

 

 ・・・

 

「盛り上がってますねー!それでは次のブロックの様子を見てみましょう!」

 

 立ち塞がるPG機体とネオ・アルゴナウタイに圧されながらもいまだプレイヤー達の戦意は衰えていない。それはこの状況すら楽しむようにも見える。その様子が画面からも伝わってくるなか、コトは違うバトルを映像に映し出す。

 そこに真っ先に映ったのはウィルが操るセレネスとシオンが操るキマリスヴィダールの激しい近接戦であった。

 

 ・・・

 

「……」

 

 そしてその様子を死んだような目でいるのは夕香であった。彼女が操るバルバトスルプスレクスも覇気もなくただ宙に漂っている。その視線の先にはセレネスとキマリスヴィダールがおり……。

 

「いい加減に諦めたらどうだい!」

「それはこっちの台詞ですわぁっ!」

 

 セレネスとキマリスヴィダール、どちらもファイターの好みもあって近距離を主としている。そんな二機を操るファイター達は幾度となく自身の獲物を交わしながら接触回線で叫ぶように言い合っていた。

 当初こそ夕香とシオンを含めた8名でプレイをしていたのだが、招待ファイターとして行く手を阻んだのはよりにもよってウィルのセレネスであり、シオンとぶつかり合うのにそう時間はかからなかった。

 

「本当に夕香が絡むといつもあぁだよな」

「それだけ大切な存在って事なんでしょうけどね」

 

 ウィルと同じく招待ファイターであり、挑戦プレイヤーに立ち塞がっていた村雨莫耶とアメリア・マーガトロイドが何とも言えず苦笑しており、こんな所でもまたやってるよと言わんばかりだ。

 

「いつまでも粘るじゃないか。さっきもそのせいで決着がつかなかったが、ここで終わらせるよっ!」

「ぬぬぬぅぅっ! 勝った方が夕香とという約束でしたがアナタに負けるくらいならわたくしの服とお父様の服を一緒に洗った方がまだマシですわっ!」

「フンッ、僕はこの日を心待ちにしていたんだ。君に譲るくらいならミスターのアフロを継いだ方がマシだね!」

 

 元々、実力を持ち合わせているシオンだがそれでもウィルを相手にするには分が悪いのか何とか落とされないようにするのが精一杯だった。しかし僅かな隙が命取りとなり、遂にキマリスヴィダールの左腕ごとバックパックを切断されてしまう。

 

 負けず嫌いのシオンがこれ以上になく歯を食いしばり、画面に映るセレネスを眼光鋭く睨みつけるがその行動がウィルの行動を阻めるわけでもなく遂にセレネスが刀を振り被る。

 

「──なっ」

 

 しかし直後に閃光の如し影がセレネスを吹き飛ばしたのだ。

 

「あれは……ガンダムタブリス!?」

「どうして……? 彼女は挑戦プレイヤーの中にはいなかったでしょう?」

 

 誰もが予想しなかった出来事に啞然とするなか、張本人であるガンダムタブリスがキマリスヴィダールを守るようにその場にいるではないか。思わずこのフィールドの挑戦プレイヤーの一人である神無月正泰と麻沼シアルが理由が分からず困惑した様子を見せる。

 

「──ビルドファイターズの最終決戦には援軍がいただろう?」

「それが私達というわけです!」

 

 そんな正泰達にPG Zガンダムがビームライフルを向けようとする中、上方からの攻撃に破壊されてしまった。次から次に起こる出来事に挑戦プレイヤー達が戸惑うなか、PG Zガンダムを流れるように撃破したのは御剣ジンのユニティーエースガンダムと御剣サヤのジョイントエースガンダムであった。

 

 ジン達は招待ファイターだ。しかし何故、エネミーではないのか。それは彼らの言葉通りだ。運営側が用意したPG機体と世界最高峰のファイター達。ただそれが相手ならば挑戦プレイヤーはあまりにも不利だ。だからこそ運営が用意したのは一定時間後にまた別の招待ファイターを援軍として参戦させることであった。

 

「まっ、そういうわけさ。シオンを守るのはボクの役目だし、君との決着もついてなかったしね」

 

【挿絵表示】

 

 これに関しては挑戦プレイヤーにはサプライズだったようで誰もが驚いている。最も同じ招待ファイターであるウィルはその事自体は知っていても折角のチャンスによりにもよって世界トップレベルのセレナに邪魔されたことで苦虫を嚙み潰したようタブリスを見つめている。そんなウィルを知ってか知らずか、そよ風を受けたかのような涼し気な表情を見せながらセレナのタブリスはセレネスに向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「──それでは最後にこのガンプラバトル大会を締めくくる最後のバトルです!」

 

 それから数十分後、応募者のバトルを全て終えたのを確認したコトはMCとして観客に告げる。

 

「最後は招待ファイター8名による攻略戦です! 条件はこれまでのステージよりも跳ね上がった難易度ですが、どれほどの活躍を見せてくれるのか! それでは紹介を兼ねての出撃です!」

 

 招待されたファイター達は知名度のあるファイター達だ。自然と観客の注目が集まるなか、コトは大きく手を上げると背後のモニターの映像が切り替わり、今まさに出撃しようとするカタパルト画面を表示させる。

 

 ・・・

 

 

「秋城影二、ダウンフォール……行くぞ」

 

 

「砂谷厳也、クロス・ベイオネット……出撃じゃ!」

 

 

「ガンダムゼフィランサス フルバーニアン、オリバー・ウェインで行くのよォん!」

 

 

「セレナ・アルトニクス、ガンダムタブリス、飛翔するよ」

 

 

「ガンダムセレネスだ。出すよ」

 

 

「南雲優陽、EXガンダムブレイカー……推して参るよ!」

 

 

「アザレアリバイブ、行きまーすっ!」

 

 

「雨宮一矢、リミットガンダムブレイカー……出るっ!」

 

 

 選ばれたファイター達はそれぞれの誇りを胸にア・バオア・クー宙域に出撃していくのであった。




セレナのイラストがNewガンブレ小説からの使い回し? そいつぁ言わねぇお約束よ。予定では次回で完結予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再び重なる未来へ

 バトルフィールドとなったア・バオア・クー宙域を八機のガンプラが突き進んでいく。自身が出掛けたガンプラへの絶対的な自信を感じさせるような堂々たる行進に誰しもが注目するなか、ア・バオア・クーからも次々とHGクラスのMS部隊が出撃し、あっという間に一矢達のモニターを埋め尽くす。

 

「水先案内人はこのEXブレイカーが引き受けたっ!」

 

 まともに交戦をしていてはキリがなく、かと言って進むためにはア・バオア・クーへの道を開かねばならない。ならばこの場の適任は自分であろうと高らかに声を上げた優陽と共にツインアイを輝かせながらEXブレイカーが先行して舞い上がる。

 

「ハイメガフルバーストだ! いっけえええぇぇぇぇーーーぇぇぇっっっ!!!!!」

 

 EXブレイカーはZZガンダムをベースにした高火力を誇るガンプラだ。シグマシスライフルに大型ビームランチャー、ミサイルポッドをはじめとした兵装を解き放ち、その間にチャージしていた額のハイメガキャノン砲を放つ。

 

 唸りを上げんばかりに放たれたハイメガキャノンは閃光となって前方の敵機体群を飲み込み、逃した機体も予め回避コースを予測して放っていたビームとミサイルの直撃で藻屑となっていく。

 

「……もう来たか」

 

 大規模な爆発によってモニターが閃光と爆炎に染まるなか、閃光を貫いて高出力のビームがリミットブレイカー達を襲う。とはいえある程度予想の範囲内だったのだろう。難なく回避したもののこれから現れる存在について検討はついているのか、一矢は顔をしかめてしまっている。程なくして煙の中から巨体が姿を表した。

 

 PG ストライクフリーダムガンダムたPG ダブルオーライザーだ。どちらもPG機体だけあって全長はリミットブレイカー達を優に上回り、その存在感を示す。

 

「だけど!」

 

 しかしそれが彼らの意志を折ることにはならない。PG機体達が動き出そうとするよりも早くアザレアリバイブが飛び出してメガキャノンを展開するとチャージの完了と共に放つ。

 

 周囲のNPC機を巻き込みながらか向かっていき、程なくしてPG機体達に直撃する。爆発によって黒煙が広がるなか、様子を伺っているとPG機体達は何事もなかったようにゆっくりと姿を現したではないか。

 

 的は大きいとはいえ、だからと言ってその装甲を突破することは容易ではない。PG機体達への対処をファイター達が一瞬の思考の中で導きたそうとしていると……。

 

「このファンネルは……!?」

 

 それさえも遮断するように四方八方からのオールレンジ攻撃が仕掛けられる。まさに縦横無尽、嵐の中心にいるのかと錯覚しかねない攻撃を何とか掻い潜っているとファンネルは主人の元に戻っていく。

 

 ──ガンダムブレイカーネクスト。

 

 それこそが彼の英雄が駆る破壊者。先程の攻撃は挨拶代わりだったと言わんばかりに悠然とその場に留まっていた。

 

「……満を持してって所か」

「やれやれ、これは中々厳しいのぉ」

 

 ただその場にいるだけで放たれる圧倒的な存在感は威圧感に変わって挑戦者達に襲いかかる。ブレイカーネクストだけでも厄介なところにいまだ健在なPG機体達や次々にア・バオア・クーから出撃してくるNPC機体達、時間をかければかけるほど不利になるのは明らかであった。

 

「──っ!」

 

 その時であった。ブレイカーネクストのGNスナイパーライフルIIの銃口がリミットブレイカーに向けられたのだ。引き金が引かれたのと同時にリミットブレイカーも回避行動に入り、次々に避ける。

 

「……まさか」

 

 しかしここで一矢は違和感に気付いた。

 ブレイカーネクストの狙撃はあくまでリミットブレイカーだけを狙っている。しかし翔の狙撃にしては精密さに欠け、まるで挑発のようにリミットブレイカーを狙っていたのだ。

 

「ブレイカーネクストは俺が引き受ける……。巨大アリスタの破壊は……」

「任せてよ。だから一矢は思う存分、戦ってきてっ!」

 

 翔の狙いは一矢なのだろう。ならば自分が翔を引き付ける。一矢の意図は伝わったのだろう。言い終えるよりも早くミサは頼もしく答えてくれた。

 

「如月翔とバトルしてみたかったけど、ここは譲ろうかな」

 

 しかし巨大アリスタが存在するア・バオア・クーに向かうにも未だPG機体達は健在だ。だが逆にその圧倒的な存在はファイターの心を擽るものがあったのだろう。

 

 いつもの飄々とした笑みから一転、空腹時の獰猛な獣がご馳走に今まさにかぶりつくかのように口角を吊り上げたセレナに呼応するようにタブリスはPGストライクフリーダムの弾幕を掻い潜って一気に肉薄する。

 

「あはぁっ……」

 

 既に眼前にまで迫ったタブリスにPGストライクフリーダムは一瞬だけ動きを止める。人間的な反応ではなく、次の動きを算出する為の一瞬の間であった。しかしその間と共に自分を見上げるストライクフリーダムに嗜虐心をそそられたのか、快感染みた笑い声をあげると頭部と胴体の間のポリキャップにジェネレーター直結型ビームソードを最大出力で突き刺し、そのまま首を狩る。

 

「装甲は堅くてもそういったところは弱いかッ!」

 

 セレナの行動が転機となったのだろう。タブリスのサポートに回るようにセレネスはPGストライクフリーダムに迫るとそのまま右腕部の関節部に一太刀を入れる。

 

「とはいえ、それでも骨が折れる事には変わりなさそうだ……!」

「じゃが倒せん事ではない!」

 

 PGストライクフリーダムはあの二人に任せても大丈夫だろう。ダウンフォールとクロス・ベイオネットは頷き合うと両者はPGダブルオーライザーに向かっていく。

 

「ぃよォーしッ! おい、そこの二人! ア・バオア・クーに入るまでの雑魚は全部引き受けるからキチッとアリスタをぶっ壊してきなァーッ!」

 

 もう十分、刺激を受けたのか、オリバーが操るゼフィランサスFBはこちらに迫るNPC機群をビームライフルの早撃ちで無力化するとミサと優陽に告げて道を開くように突き進んでいく。

 

 最後にリミットブレイカーとアザレアリバイブが視線を交わす。最早、言葉は必要ない。静かに頷き合った一矢とミサは行動を起こし、リミットブレイカーはブレイカーネクストを追い、アザレアリバイブはEXブレイカーと共にア・バオア・クー最深部への攻略を目指す。

 

 ・・・

 

「一矢君、どうして俺が君をこのイベントに呼んだか分かるか?」

「……分かるよ、と言いたい所ですが深い理由があるのだとしたら正直分からない」

「フッ……正直だな。ここは知っての通り最後の戦いが行われた地だ。そして一つの物語が思った場所でもある」

 

 ア・バオア・クー宙域。ガンダムシリーズに触れたことのある者ならば一度は聞いたことがある名前だろう。

 機動戦士ガンダムという作品を締める最後の戦いが行われた場所。わざわざア・バオア・クーをイベントステージにしたのは理由があるのだろうか。

 

「人には転機が存在する。今の君にとってはクロノを打倒し、ロボ太やシュウジ達と別れた5年前がそうだろう」

 

 翔にも何度かその時が訪れたり、このア・バオア・クーに限っても後の時代や異なる結末があったように一矢にもまたターニングポイントが存在していた。

 

「君の物語(人生)はあそこで終わったのか? 違うだろう。ここで一つの物語が終わり、新たな時代が開いたように君の物語(人生)はまだまだ続いていく」

 

 一つの区切りを迎えたとしてもそこで人生が終わるわけではない。何より一矢はまだ若い。これからどんどん経験を積んでいく事であろう。

 

「成人を迎え、社会に出ようとする君はこれまでの苦難や苦しみとはまた違った経験をしていくだろう。もしかしたらそれは苦いものばかりなのかもしれない」

 

 一矢達はいよいよ社会に出ようとしている。社会に出るということはやりがいや面白さなどだけではなく社会の仕組みに戸惑い、その中で過ごしていく内にうちひしがれる事も多くなっていくだろう。

 

「だから今だけは全てを忘れてぶつかって来い。今の君が感じられるものはこの瞬間にしか感じられないものなのだから」

 

 正直に言ってしまえば、一矢からしてももう一年も経たずして社会に出る事は不安の方が大きく、翔の言葉を聞いたその表情はどんどんとその様子を滲ませている。しかしそんな一矢を見透かしてか、すべてを受け止めようという意思表示のようにブレイカーネクストの両腕を広げるとGNスナイパーライフルⅡ3連バルカンモードの銃口をリミットブレイカーに向ける。

 

「ならば……行きますッ!」

 

 ゴクリと生唾を飲む。翔が憧れの存在であることには変わりない。どこまでも遠くにいる存在。それを間近に見上げればその存在に緊張してしまう。

 一息、深呼吸を済ませて改めてブレイカーネクストを見上げる。確かに緊張感はあるが今はどことなく心地良さを感じてしまう。カレトヴルッフを一振りすると胴体の中心に構えて切っ先を真っ直ぐブレイカーネクストに向ける。

 

 機動兵装ウイングからスーパードラグーンを展開し、光の翼を展開させると今再び二機のガンダムブレイカー、英雄と新星がぶつかり合うのであった。

 

 ・・・

 

「キリがないっ!」

 

 一方、ア・バオア・クーに突入したアザレアリバイブとEXブレイカーだが群として現れるNPC機に苦しめられていた。しかし最深部まではあともう少しである為、たった二機でここまで辿り着いたのは流石の一言であろう。

 

「ハイメガ……ッ……キャノンッ!」

 

 EXブレイカーのハイメガキャノンがNPC機群を飲み込む。歴代ガンダムブレイカーの中でも特出した火力を誇るEXブレイカーだがエネルギーの消費も激しく、ファイターである優陽も神経を研ぎ澄ますバトルに消耗している。

 

「ミサちゃん、ここは僕が引き受けた」

「あの数を一人で相手にする気なの!?」

「そういう意味で言ったんだからわざわざ言わなくていいよ」

 

 アザレアリバイブを庇いながら静かに告げた言葉に当然、反対するかのように声を上げるが優陽の意思は固く、画面を埋め尽くさんばかりのNPC機群やPG機体から目を離すことなく答える。

 

「一矢は翔さんを一人で相手にしてる訳でしょ? カッコイイよね。僕もさ、格好つけたくなったんだ」

「……優陽」

 

 レーダーを確認すれば異常なスピードで飛びまわっている二機を確認できる。正直、優陽が翔の相手をすると言っても長時間は持たないだろう。だが一矢は自ら翔と戦う事を選んで道を開いた。ならば自分は自分なりの道を開くだけだ。優陽の覚悟を感じ取ったのだろう。僅かに考えたミサは確かに頷くとEXブレイカーを残して最深部へと向かう。

 

「さぁーて! さあさあこちらにどうぞ、引き立て役の皆さん!」

 

 アザレアリバイブが巨大アリスタに向かった事を確認するとそれを追おうとするNPC機を牽制しながらEXブレイカーはその存在を誇示しながら立ち塞がる。自らを鼓舞するように声を張り上げた優陽は改めて戦いに身を投じるのであった。

 

 ・・・

 

「ぶっ飛ぶほど凄いわ……」

 

 一方で複数の観戦モニターでバトルの様子を眺めていたギャラリーは一挙手一投足を見逃さんとばかりに食い入るように見つめていた。それはジェシカも同じようで自身が出掛けたゼフィランサス フルバーニアンの活躍だけではなく他のガンプラの完成度やそこから放たれる鮮やかな動きに釘付けになっていた。

 

「んぅっ……」

「あっ、ラグナ、起きちゃった?」

 

 すると胸に抱いていたラグナが漸く目を覚ましたではないか。夢中になって気が付かなかったことに苦笑しつつラグナが泣き出す前に場所を変えようとした時……。

 

「あぅ……」

 

 絶え間なく閃光が照らすア・バオア・クーを無垢な瞳はジッと観戦モニターを見つめていたのだ。その姿に驚いたジェシカだが、じゃあもう少しいようかとラグナが見やすいように抱き直す。より見やすい位置についたラグナの視線はやがてガンダムブレイカーのバトルに集中する。

 

 ・・・

 

 ア・バオア・クー宙域。激闘の舞台となったこの場所で一際注目を集めていたのはガンダムブレイカーネクストとリミットガンダムブレイカーだ。今なおこのア・バオア・クーをあるがままに飛び回りながら幾度となくぶつかり合う。

 

(やはり近距離では一矢君の方が上か)

 

 ブレイカーネクストを追うリミットブレイカー。モニターで確認しながら迫るリミットブレイカーに冷静な眼差しを送る。

 

 翔と一矢とでは得意とする距離が違う。遠距離を得意とする翔と特に近距離においては絶大な実力を発揮する一矢……。何とか自分の距離まで引き離そうするも高い機動力を誇るリミットブレイカーを遠ざける事は至難の技であった。

 

(それにあの動き……)

 

 こちらを追うリミットブレイカーの動きに翔は覚えがあった。一切の減速をせずにデブリをスレスレで飛び続け、更に加速する曲芸染みた操作。

 翔にはその動きに覚えがあった。さながら"稲妻"を彷彿とさせる苛烈ながら冷静な操縦捌き。翔の中でこのような芸当が出来る人物は一人しか思い浮かばなかった。

 

 どんどん距離を縮めてくるリミットブレイカーに脳裏を過った少女の存在を降りきり、ブレイカーネクストは両肩のツインドッズキャノンを稼働させ、背後のリミットブレイカーに放つ。

 

 背面撃ちとなるなか、リミットブレイカーは一瞬の動きで回避。まさに紙一重であるが更に加速しようとする。しかし翔の狙いは他にあった。

 

 両肩のツインドッズキャノンを同時に放ち、二発のビームのうち、一発がリミットブレイカーに鋭く向かっていったのに対してもう一発はあらぬ方向に向かっていった。ドッズキャノンを回避したのも束の間、一矢はすぐに苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。何とリミットブレイカーの回避方向に存在していたデブリをもう一発のドッズキャノンが撃ち抜いていたのだ。

 

 貫かれたデブリが周囲に飛散するなか、その煽りを受けたリミットブレイカーは動きを阻害しようとする。

 

(──ッ)

 

 しかしそれでも進むことは止めなかった。

 Cファンネルを瞬時に展開して、リミットブレイカーの周囲を高速回転させるとお構い無しにデブリ片に突っ込んだのだ。

 

「……成る程」

 

 デブリ片が高速回転するCファンネルによって粉々に切り刻まれるなか、そのデブリ片を突っ切ってリミットブレイカーはブレイカーネクストに迫る。

 

 ならばとGNスナイパーライフルIIを展開して狙撃を敢行しようとする。距離は詰められている状況だが一矢が一瞬でもデブリに気を取られたお陰で翔にとって狙撃が出来る時間は稼げた。

 

 張り詰めた糸のように鋭い緊張と共に引き金が引かれる。まるで吸い込まれるような射撃はリミットブレイカーに迫るがカレトヴルッフを盾代わりにしながら尚も距離を詰め、遂にブレイカーネクストに振りかぶった。

 

 刹那、両機の間にスパークが走る。何と振り下ろしたカレトヴルッフに対してGNスナイパーライフルIIを手早く捨てて二刀流のビームサーベルで受け止めたのだ。

 

 瞬時に腰部のレールガンを展開し、一瞬の間もなく銃口が火を吹く。至近距離で放たれた弾丸はリミットブレイカーに直撃して撃破に至らないまでも機体をよろめかせ、その一瞬の隙で蹴り飛ばされる。

 

(翔さんが近距離が苦手だと思っていた訳ではないが……ッ!)

 

 すぐさま距離を取ろうと体勢を立て直しつつ飛び退こうとするが追尾劇が一転、今度はブレイカーネクストがリミットブレイカーを追う形となり、今もツインドッズキャノンの攻撃を何とか避ける。

 

 このままでは何れ翔に完全に捉えられてしまう。

 そうなってはその射撃術によって瞬く間に追い詰められ、撃破されるだろう。

 

 このバトルをそんな終わらせ方で締めたくはない。ならばこの状況を覆す為に打って出るしかないとリミットブレイカーは覚醒を果たす。

 

(……ならば)

 

 しかし覚醒を使えるのは一矢だけではない。

 リミットブレイカーと同じく闇を照らすかのような紅き輝きを放つと両機は一気に近づいて中心で鍔迫り合いとなる。二つの紅き輝きが幾度となくぶつかり合う。既にファンネルもスーパードラグーンも破壊され、それぞれ全身の武装の大部分を失っている。最早、お互いに機体の損傷は激しく、一瞬の隙が勝敗を別つ事になるだろう。

 

(あの時、この場所で俺はアナタに負けた。だが……ッ!)

 

 誰もが巨大アリスタの破壊よりもガンダムブレイカー同士のバトルに釘付けになるなか、一矢はすべての集中力を注ぎ込んでボロボロのリミットブレイカーを突き動かす。かつてGGF博物館のイベントでバトルをした際、自分は翔に負けた。最後の土壇場、自分は翔を捉える事すら出来なかったのだ。

 

「あの時とは違うッ!」

 

 翔は近距離にも対応できる。しかし一矢のように特化したタイプには流石に分が悪いのだろう。幾度となく続いた剣戟はやがてリミットブレイカーが制し、カレトヴルッフを振り払ってブレイカー0の両腕を弾くと素早く上段に振り被ってブレイカー0の脳天から両断して撃破しようとする。

 

「──ッ」

 

 しかしそうはならなかった。刹那、翔の瞳がオーロラ色に輝いたのだ。

 

「……君は本当に凄いな。君を相手にすると無意識にエヴェイユの力を使ってしまう」

 

 半ば本能に近いのかもしれない。かつての一矢とのバトルと同じだ。全てが鈍重になった世界でリミットブレイカーの背後を取りながら翔はいつの間にか流れる冷や汗を拭う。最早、得意とする距離は違うが単純なバトルの実力だけで言えば翔と一矢は並び立っているだろう。後は内に存在する力の違いだ。

 

 無意識に発動したエヴェイユの力で一矢から勝利を勝ち取る事は不本意ではあるが、このまま誰かが巨大アリスタを破壊して有耶無耶に引き分けるよりは良い。これで終わりだとばかりにブレイカーネクストはビームサーベルを振り下ろす。

 

「なっ──!?」

 

 しかし翔の表情が珍しく驚愕の一色で染まる。何と寸での所で機体を捻って避けたリミットブレイカーはそのまま回転の勢いを利用してブレイカーネクストの胴体に一太刀入れたではないか。致命傷に至らないまでもそれがどれだけ驚くべき事なのかは何より最強のエヴェイユである翔が理解していた。対して一矢は一言も喋らない。ただ瞬きすら忘れる程の集中力で確かにブレイカーネクストを捉えているのだ。

 

(一矢君はエヴェイユではない。ならば何故……!?)

 

 土壇場で一矢がエヴェイユにもなったか? そんなことはあり得ない。エヴェイユ同士が出会った際の奇妙な感覚は感じない。だがそれが余計に翔を混乱させる。エヴェイユによって鈍重になった世界に踏み込んできたリミットブレイカーという存在に。

 

(……そうか。難しい話ではない)

 

 流石にトップスピードとは言わないまでも高機動を発揮するリミットブレイカーの攻撃を避けながら、やがて目の前で覚醒の輝きを強めるリミットブレイカーに一つの結論が達する。

 

 ・・・

 

「ブレイカーネクストが虹色に光ったと思ったら一瞬でリミットブレイカーの背後にいたのに……」

「ああ、すぐに対応してみせた……」

 

 それをバトルで見ていた裕喜の呆然とした呟きに同じように秀哉は頷く。翔の放つ虹色の輝きはエヴェイユを知らずとも特別な力である事は理解しているのだろう。これまであの光を放った後、ブレイカー0の前に立つ敵は一方的な戦いを強いられた後、あっけなく撃破されるのだから。

 

「……お前さんはやっぱり凄い奴だよ」

 

 しかしそれが逆に観客達を盛り上げるのだろう。この勝負の結末を見届けようと瞬く間に歓声が沸くなか、カドマツは静かに微笑む。

 

「覚醒は未だに詳細が分かっていないからシステムの上限さえ分からないんだ。だけどお前さんはクロノの野郎と戦いながら嬢ちゃんと奇跡の覚醒を果たした。きっと今のお前さんなら覚醒の力を限界以上に引き出せる」

 

 覚醒したから使える。その程度の認識だった半ば幻のシステムだった覚醒はいまだに詳細が明らかになっていない。しかしその覚醒の力でこれまで幾度となく道を切り開いてきた一矢は恐らくこの世界で誰よりも使いこなせる事だろう。

 

「そうさ、お前さんが諦めない限り。お前さんが進み続ける限りッ!」

 

 今の一矢は多くの可能性を内包した存在だ。だからこそ幾らでも挑戦し続けることが出来る。それは自分自身への未来へ、今まさにブレイカー0に我武者羅なまでに食いついていくリミットブレイカーにカドマツは精一杯の声援を送る。

 

 ・・・

 

「これはロボ太の……」

 

 バトルフィールドではブレイカーネクストに彗星の如き斬撃波が飛んでくる。覚えのある攻撃を何とか避けるとリミットブレイカーは既に眼前に迫り、今度は自身の周囲に電撃を走らせた。

 ブレイカーネクストの損傷が更に目立つなか、リミットブレイカーのカレトヴルッフが紅蓮の炎に包まれる。悪を滅ぼさんばかりの勇ましい炎は一直線にブレイカーネクストに迫る。

 

「……クロノが君に興味を持った理由を実感したよ」

 

 一矢もリミットブレイカーも、そして覚醒の力の限界を超えてエヴェイユの世界に踏み込んできた。いつその集中が切れてもおかしくないなか、エヴェイユの力で肥大化したビームサーベルの刃によって炎の剣と化したカレトヴルッフを破壊する。

 

 しかしそれでもリミットブレイカーは諦めない。主武装を失ったにも関わらず、お構いなしにブレイカーネクストを殴ってきたではないか。武器を失えば手足で、それはまさに不屈の闘志を表すかのように。

 

「もう二度と全力を尽くしてぶつかり合える相手なんて巡り合えないと思っていたんだがなッ!」

 

 我武者羅な攻撃はやがてブレイカーネクストのビームサーベルをマニピュレータから弾く。最早、条件は同じだ。すぐさまブレイカーネクストは殴り返し、そのままリミットブレイカーの頭部を毟り取る。

 

 いつからだろう。エヴェイユの力を身に着けてからガンプラバトルを“全霊”でバトルできる存在はいなくなってしまった。しかし今、半ば奇跡の如く覚醒した存在が目の前にいる。今の一矢にならば全力でバトルが出来る。翔はいつしか心からの笑みを浮かべながらリミットブレイカーと殴り合う。

 

「何かか来る……ッ!」

 

 リミットブレイカーのパンチを受け止め、そのまま脇腹を蹴って機体をよろめかせるとグルリと投げ飛ばす。すぐにでも追撃をしようとした瞬間、体勢を立て直したリミットブレイカーは前腕部からビームサーベルを展開するとブレイカーネクストに突っ込んだのだ。

 

 その覚悟を感じさせるような迷いのない動きに経験上、何かを察した翔は最大限の警戒をする。するとブレイカーネクストに向かうリミットブレイカーはその身を龍に変えたかのように苛烈な勢いでブレイカーネクストに体全てでぶつかったのだ。

 

「閃光斬……ッ! いや、それだけじゃないッ!!」

 

 それは紛れもなくロボ太の閃光斬だった。シールドの出力を最大限に何とか受け止めたブレイカーネクストはバルカンを発射しながら引き剝がそうとするがここで更に違和感に気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──忘れんなよ』

 

 

 

 

『俺の中にお前達がいるようにお前の中に俺達がいれば同じ道を歩いている。立ち止まることがあっても背中を押してくれる筈だ』

 

 

 

 

『なあに心配すんな。お前の手には未来を掴む手があるんだ。ただ真っ直ぐ前だけ見てくれれば、そのうちに俺達の道は重なるさ』

 

 

 

 

『また会おうぜ、一矢』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオォォォォォーーーーーーーーーァァァァァアアアアアアッッッッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 一矢の脳裏に浮かんだのは友であり兄のような存在であり師の言葉。今、隣にいなくても、近くにいなくてもその存在が自分の中で消えたわけではない。

 

 雨宮一矢は未完成だ。未熟な存在だ。だから彼は出会えた存在が与えてくれたものをかけがえのないモノとして自分の心に、誇り(プライド)に刻み込んだ。

 

 今、この場で如月翔に挑んでいるのは雨宮一矢だけではない。彼を導いた稲妻の如き狙撃手、共に駆け抜けた誇り高きトモダチ、そして自分に手を伸ばす強さを教えてくれた未来を掴む覇王。

 

 彼らだけではない。出会えた全ての存在が、今の一矢を作り、強くした。

 

 やがてブレイカーネクストが受け止める閃光斬の輝きが紅蓮の炎を宿した紅き竜に変わる。その閃光のような苛烈さと炎のような力強さを宿しながら閃光斬とバーニングフィンガーの併せ技によって遂にブレイカーネクストを貫き、撃破したのだ。

 

 勝敗は決した。程なくして最深部に到着したミサによってこのバトルの幕が閉じるのであった。

 

 ・・・

 

「一矢君、素晴らしいバトルをありがとう」

「それは俺からも言わせてください、翔さん」

 

 バトルを終え、コトがMCとしてトークを繰り広げるなか、舞台裏では翔と一矢が固く握手を交わす。これ以上にない高揚感と充実感、改めてバトルをして良かったと心から言える。

 

「君をこのイベントに呼んだのはまた再びバトルを楽しんでほしかったからだ」

「えっ……」

「……君は一時期、イベントに来る度に事件に巻き込まれていた。事件は解決しても、どこかでかつての出来事が心を巣食い、ミサちゃんの話では最近ではイベントへの参加も消極的だと聞いた。君にまた心からイベントを楽しんでほしかった」

 

 もうクロノは捕まった。そう思っていてもどこかでかつての事件を重ねて、イベントへの参加に消極的になってしまった。それは決して良い事ではない。誰かの身勝手な理由で楽しむ心を失うなんてあってはならない。だからこそまたその心に火を灯すために一矢を招待したのだ。

 

「だけど実際、俺の方が君に楽しませてもらった。情けないな」

「そんなことありません。俺、嬉しかったです。翔さんと全力でバトルをした上で勝てただけじゃない。改めてみんながくれた火は大きな炎のように今も心の中で燃えてるんだって再確認できましたから」

 

 翔自身も一矢の予想外の行動に驚かされ、最後は無我夢中でバトルをしていた。あんなに楽しんだのは久方ぶりかもしれない。翔も一矢もどこかで純粋に楽しむ気持ちを失っていた。しかし今、この瞬間、全力を尽くした上で見えたものを噛み締め、楽しんでいた。

 

「──一矢ーっ!」

 

 その時だ。ミサがぶんぶんと手を振ってそのまま一矢に飛びついてくる。何とか受け止めながらミサを見ると幸せそうに胸の中で頬擦りしていた。

 

「あぁ、ごめんごめん! それより一矢、みんなが待ってるっ!」

 

 ミサの好きにさせていると我に返ったのだろう。気恥ずかしそうに頬を染めながらミサは一矢の手を取るとそのまま舞台裏から引っ張り出す。二人が辿り着いた場所、そこには彼らの知り合いが多くいた。

 

「やっほー、イッチ。凄かったね」

「ああ。ところでこの集まりは?」

 

 見知った顔ぶれが一矢の勝利を祝うなか、夕香がそれとなく一矢の隣に立つと丁度良いとばかりにこの集まりを尋ねる。

 

「GGFでのイベントはこれで終わりじゃが……」

「ああ、イベントはまだ終わらない」

 

 しかし夕香も仔細は知らないようで肩を竦めている。すると勿体つけたように巌也と影二が口を開く。それだけではまだ要領を得ない。一矢と夕香が顔を見合わせていると背後から追いついた翔が二人の肩を抱いて引き寄せながら微笑む。

 

「一矢君、夕香ちゃん、お誕生日おめでとう。ありがとう、生まれてきてくれて」

 

 そう、今日は一矢と夕香の誕生日なのだ。しかし元々自身の誕生日にあまり関心がないのか、多忙だったからか、二人とも忘れていたようでハッとしたように驚いている。

 

「じゃあ、あんた等が散々喧嘩してた理由は……」

「まさかこのパツキンと誕生日プレゼントの内容が被るとは思いませんでしたわ」

「だがそこで折れるわけでもないさ。これから君達二人の誕生日を祝うが、その後は夕香、君と僕だけでこの日が終わるまで夜景を眺めるのも良いだろう」

「わたくしが用意したホテルの方が素晴らしい夜景が待っておりますわ。夕香、わたくしだって久しぶりに会えたアナタと話したい事はいっぱいありますのよ……?」

 

 どうやらウィルとシオンの喧嘩の内容も夕香への誕生日プレゼントが被ってしまった事にあるようだ。しかも二人とも予約済みなようで、どっちを取るんだとばかりに迫る二人に夕香はただただ苦笑いを見せる。

 

「いやー、目出度い日に日本に来れたんだなァ。よっしゃ、思いっきし祝ってやるぜー!」

「と言っても子供達の事もあるから羽目を外さないようにな」

 

 バトルを終えたオリバーがラグナを抱いて頬擦りしながら一矢達の誕生会への意欲を見せると、同じく第一子を授かったジンが二歳になる愛娘であるサヤナを抱き上げながら釘をさす。

 

(例えこの場にいなくても、この心に確かに存在している……)

 

 わぁーてるよー。とジンに言い返すオリバーなど和気藹々としている周囲を見ながら、五年前ならばここにいたであろう存在達を重ねて、一瞬、寂しそうな顔を見せながら己の胸に手を添える。

 

「過去の存在じゃない。自分の一部にして進化するんだ。再び道が重なった後、堂々と胸を張れるように」

 

 今はまだ再会出来ないかも知れない。だが再会を諦める事だけは決してしない。約束した道を重ねる為にも一矢は進み続ける。心配はない。これだけ多くの存在が彼の周囲には存在する。苦難が待っていても乗り越えていくことだろう。




<おまけ>
五周年記念絵 一矢&ミサ

【挿絵表示】

ミサ「ここが一番落ち着くなぁ……」
一矢「俺もミサとこうしてるのが一番好きだ」


<あとがきという名の自分語り>

思いの外、長くなった……。このバトルで思わぬ姿を見せた一矢もあってEX章 偉大なる父のように、柔らかな母のように での翔から奏への言葉があります。

一矢って私のキャラの中で一番描き切ったっていう満足のいくキャラなんですよ。勿論、歴代主人公の中で一番付き合いが長いんですけど私自身が等身大のキャラが好みで悩み、あがいて、葛藤した上でその精神を強くするようなキャラが凄い好きなんです。そういう意味ではジョジョの奇妙な冒険の川尻早人辺りが凄い好きでスタンド能力も持たない小学生が不条理に折れそうになりながらも黄金の精神を宿しながら運命に勝つ……。今でもトップクラスに好きです。

横道に逸れましたが、私のキャラ、特に主人公には絶対に弱さや根底に苦悩を与えるようにしています。それが最後まで纏まって上手く料理出来るかは私の腕次第ですが、翔、シュウジ、一矢、希空、アラタ、そして新作のマトイ三兄妹……。主人公に限らず、私のキャラの一人でも共感できるような存在がいたら“ウルトラゼロ”としての存在にも意味があるのかなと思います。改めてここまでのお付き合い、誠にありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

GUNDAM BREAKER FINAL
ひさかたの


お久しぶりです。
この小説を覚えてらっしゃる方はいるかな…?

中々執筆できない状況も続き、筆を置いた身ではありますがビルドメタバースに感化され、再び戻ってきた次第であります。

数年ぶりの執筆ではありますが、リハビリを兼ねて風呂敷を広げたままの如月翔の話をここで完結させようと思います。全四話程度を予定しておりますのでよければお付き合い願います。

優陽「みんな、久しぶりっ。今回は読者参加型のガンプラ系の新小説も考えているから良かったら活動報告もみてねっ」

【挿絵表示】




 

 エヴェイユ。

 それは時間や空間を支配できるとすら言われた能力。機械仕掛けの巨神であるMSにも干渉し、眩い光と共にその性能以上の力を発揮する事さえ出来る未だその全てが明かされていない未知の能力だ。

 

 それは今、宇宙空間を舞台にガンプラバトルを行っている如月翔もその能力者である。

 かつて異世界で英雄と呼ばれ、己の世界に帰還してなお、ガンプラを通じて多大な影響力を持つ人物のでもある。

 今、彼は現在の愛機であるガンダムブレイカーインフィニティを駆り、広大な宇宙空間を所狭しと駆け巡っていた。

 

「逃がさないッ!」

 

 その相手は彼の娘である如月奏だ。

 彼女もまた愛機であるガンダムブレイカークロスゼロによって得意な近接戦に持ち込んでブレイカーインフィニティを肉薄する。

 

「逃げる気などない。新型ガンプラシミュレーターVRの試作テストとはいえ、お前との久方ぶりのバトルだからな」

 

 このバトルはどうやらガンプラバトルシミュレーターのテストも兼ねているようだ。

 とはいえ親子の間柄ではあるものの翔にとっても奏とのバトルは高揚感があるのか、自然と笑みが零れる。

 

 だがここでブレイカーインフィニティのガンプラシミュレーター内でアラートが鳴り響く。

 ブレイカーインフィニティに向かって高エネルギービームが迫っているのだ。完全なる奇襲ではあるもののブレイカーインフィニティはこれを難なく避け、相手を確認する。

 

「ウイングゼロにエクリプス……。まさかリーナと風香か!」

 

 こちらに迫る二機をレーダーが捉える。それは純白の翼を持つウイングガンダムゼロとカスタマイズを施されたガンプラであるエクリプスだった。エヴェイユとして同じ能力者であるリーナと風香の存在を感じ取ったもののバトルに関しては奏とのシングル戦とだけ聞かされていたようでどこか面食らった様子だ。

 

 対して奏はさして驚いた様子もなく、ブレイカークロスゼロはそのままブレイカーインフィニティに組み付いたではないか。自身の隙が招いた結果とはいえ、すぐさま思考を切り替えてブレイカークロスゼロを振りほどこうとするが、ここでブレイカークロスゼロに異変が起こる。

 

 まるで宇宙を照らすかのように眩い光を放ったのだ。

 否、ブレイカークロスゼロだけではない。ウイングゼロとエクリプスもそうだ。

 三機はまるでブレイカーインフィニティを取り囲むようにしてエヴェイユの力を開放し、その光は混ざり合い、やがてはブレイカーインフィニティを包み込み、翔もまた引きずりだされるかのようにエヴェイユの力を開放する。

 

「なんだ……。なにをするつもりだ……!?」

 

 翔にとって乱入ならまだしも、自身の身に起きているこの状況は予想外なのだろう。

 自身が知るエヴェイユの力を持つ全ての者が一堂に会して能力を発現するなか、光はどんどん強まっていき、翔の視界を奪っていく。

 

「──きっと楽しい事だよ」

 

 少なからずの動揺を見せる翔とは対照的に通信越しに優しげな奏の声が耳に届く。

 異常な状況とそのあまりにも優しい声を最後に遂には意識までも手放してしまうのであった。

 

 ……

 

 あれからどれだけの時間が経ったのだろう。

 しかし自分はまだガンプラバトルシミュレーターのVR空間にいるのだろう。ゆっくりと覚醒する頭で少しでも情報を取り入れようと周辺の状況を確認する。

 

 まず第一に自分がいるのは先程までの宇宙空間ではなく、どこかの荒野ステージのようだ。

 今のガンプラバトルシミュレーターならばフィールドの設定次第で宇宙空間から大気圏に突入し、地上での戦闘も可能だが、仮にそうやって場所を変えたにしても意識を失った状態で大気圏を突入して地上に降りたにしてはブレイカーインフィニティに目だった損傷はない。寧ろこの場合、宇宙空間からそのまま荒野ステージに転移したと言い表したほうがしっくりくる。

 

「奏達は……いないのか」

 

 この状況を作り出した奏達の機体反応はない。

 ただただ状況に混乱するなか、またしてもブレイカーインフィニティのシミュレーターが接近警報を知らせる。

 

 その瞬間、空を割るかのように二つの閃光が舞い降りた。

 

「あれはリミットブレイカー……。一矢君か?」

 

 どうやらバトル中らしく、確認してみれば一機は自身がよく知る雨宮一矢が駆るリミットガンダムブレイカーであった。圧倒的なまでの高機動を売りにするガンプラだが、相手もまたその機動力に翻弄されることなく、寧ろ互角に渡り合っているではないか。

 

 一矢とリミットブレイカーの実力を知るだけにそれだけ渡り合う相手にも興味が湧き、確認すればここで翔は驚きで目を見開き、息を呑む。

 

「ν-ブレイカー……!? まさかアラタ君なのか!?」

 

 鮮やかな発光パーツを輝かせながらリミットブレイカーとバトルしているのはν-ブレイカーと呼ばれるガンプラだった。しかしそんな訳はないと翔は顔を顰める。

 

 何故ならばν-ブレイカーはこことは異なる世界に存在するガンダムブレイカーであるからだ。しかし異なる世界とはいえ、それは自身の直近の後輩である覇王の異名を持つシュウジの世界とは違い、それを操るソウマ・アラタはガンブレ学園に通う普通の学生であり、世界もそのような技術などない。

 

 だが翔の困惑を他所に激しさを増していくリミットブレイカーとν-ブレイカーのバトルはここで決着をつけるかのように大空に舞い上がり、リミットブレイカー渾身のバーニングフィンガーとν-ブレイカー全力の高トルクパンチのぶつかり合いにより、辺り一帯に大きな衝撃波を生み出す。それはまるでこれから起こる波乱を翔に告げるかのように……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブレイカー 次元を越えて

エントリーグレードのラーガンダムを作ったんですけど、EGはあまり組んだことはありませんが中々のクオリティで驚いてます。


 リミットブレイカーとν-ブレイカーのバトルを見届けた翔はその後、シミュレーターのマップが示す最寄りのベースキャンプへと向かった。一度ログアウトをしようと考えたが、奏、リーナ、風香が意味もなくあのような行動をするとも思えず、暫くはこのVR空間にいる事にした。

 

「──近くで反応があるなぁとは思ってたけど、まさかアナタだったとは」

 

 ブレイカーインフィニティを格納庫に収め、ブレイカーインフィニティから降りてきた翔に声をかけたのは先程までバトルをしていたソウマ・アラタであった。

 

「どーも……って、何ですその顔、いくらこの天っっっ才ガンプラビルダーに久しぶりに会ったからってそんな信じられないものを見るような目をしなくたっていいでしょうに」

「いや、しかし君は……」

 

 やはりν-ブレイカーを操っていたのはアラタで間違いはないようだ。

 しかしだとしても今、自分達の世界にアラタがいるなんてことはあり得ない筈だ。しかしそんな翔の心情を他所にどこ吹く風か、アラタは飄々と三本指をクルリと回す。

 

「なに食ってたら、そんな事恥ずかしげもなく言えるんだ」

 

 そんな翔とアラタの間に入ってきたのはリミットブレイカーを駆る雨宮一矢だった。

 しかし自分の知る一矢は少なくとも実年齢は50歳に近い。だが目の前の一矢は自分にとっても印象深い30年前の青年の姿だったのだ。

 

「翔さん、いつの間にこんなガンプラを作っていたんですね。ブレイカーネクストも良いガンプラだったけど、このガンプラも良い」

「ホントホント。翔さんのガンプラを目にしたのは初めてだったけど、細部までの作りこみ……。マリカちゃんにも見せてやりたいな」

 

 ここでまたしても翔は驚いた。

 アラタは兎も角、ブレイカーインフィニティを見た一矢の反応だ。少なくともブレイカーインフィニティを自分が知っている一矢は知っている筈だ。しかし目の前の一矢は初めて見るようではっきりと表には出さないものの感激しているのが見て取れる。

 

「……すまない、一矢君、アラタ君。状況を教えてくれないか? 君達二人はなぜここにいる? ここは何なんだ?」

 

 遂に耐え切れなくなったのか、翔は口火を切る。

 自分だけが知らないこの状況、少なくとも目の前の二人は何かを知っていると思ったからだ。

 

「……いや、俺達も詳しい事は。気付いたらここにいたとしか言えないんですよ」

「でも、この感覚……。NEWガンダムブレイカーズでしたっけ? あれに似てるってさっき一矢さんと話してたんですよ」

「まさかあの時のガンダムがお前だったとはな。あの時と違って、カスタマイズされたガンプラだったし、興味本位でバトルをしたら熱が入り過ぎてしまった」

「俺もですよ。でも一矢さんってバトルスタイルもイチカさんに似てるんだよなぁ……。本当に兄妹や親戚にいません? 一矢さんに雰囲気がそっくりなんですよ。まるでそう……一矢さんが女性になったような」

「いや知らないが……」

 

 一矢とアラタの会話を他所に翔は思考を張り巡らす。

 

 NEWガンダムブレイカーズ。

 それは翔も関わったゲームの名だ。ゲームとは名ばかりに翔の思惑を持って行い、その際、エヴェイユの力を開放して次元を超えてガンダムブレイカーの使い手たちを一同に会し、一丸となって敵を打ち破った。

 

(ならばここはNEWガンダムブレイカーズのような空間なのか。しかし奏達はわざわざどうして)

 

 目の前の一矢とアラタがNEWガンダムブレイカーズに呼び寄せられた存在なのであれば先程の一矢の反応も、奏達の行動も説明がつく。だとしても自分でも負担が大きかったNEWガンダムブレイカーズの世界を今一度作ろうなどと考えたのだろうか。

 

「──おかえりー」

 

 どんどん思考の渦に呑み込まれていく翔だが、ここで現実に引き戻される。VRだが。

 聞き覚えのある可憐な声が耳に届き、誘われるかのように視線を向ければこちらに向かって手を振りながら駆け寄る南雲優陽の姿があった。

 

「凄いバトルだったねー。アラタ君も一矢が興味を見せただけあるよ」

 

 優陽もまた一矢のように30年前の出で立ちで考えるにNEWガンダムブレイカーズ同様、この世界に呼び寄せられたのだろうか。相変わらず愛らしい容姿のままポンと胸の前で手を叩いて一矢とアラタの健闘を称えると視線をそのまま翔へと移す。

 

「翔さんもやっと来たね。って言っても僕らもこの間みたいだとは思ってるけどそれ程情報は知らないんだけどね」

 

 以前のNEWガンダムブレイカーズにはかつてシーナ・ハイゼンベルグと同化していた如月翔がいたが、今回はどうやら状況が違うらしく、少なくとも優陽達とはまだ出会っていないようだ。

 

「そうだ、そろそろミサちゃんやユイちゃん達のバトルも終わって戻って来るよ。折角だから迎えに行こうよ。年も近いのもあって意気投合してバトルしに行っちゃうんだから微笑ましいよね」

 

 かつてのNEWガンダムブレイカーズはガンダムブレイカーの名を持つ者だけが次元を超えて集結した。しかしだからこそ今の優陽の言葉は決して聞き逃すことは出来なかった。

 

 ミサは当然ながら一矢とチームを組んでいる彩渡商店街の彼女だろう。

 そしてユイ……。恐らくだがこれがアラタが通うガンブレ学園に在籍するアラタの先輩の筈だ。

 

 ミサとユイの年が近い……。と言うのであればミサやユイ達もまた一矢達のようにこの空間に呼ばれたのか? 

 疑問だけが頭に浮かぶが、その後優陽に連れられて向かってみれば、確かにそこにいたのはかつてのミサであり、ユイもまたガンブレ学園に通う少女だった。

 

 ……

 

(奏……。なにを考えている)

 

 その後、このVR空間を回れるだけ回ったが、やはり次元を超え、自分が良く知る存在達がこの場に集まっていた。皆、状況は飲み込み切れてはいないものの各々で割り切っているのか、今はそれぞれこのVR空間でガンプラやバトルを楽しんでいた。

 

 しかしいくら探しても奏の姿はなかった。いや、それどころかリーナや風香もだ。

 ベンチに座って思考を張り巡らせる翔にふと陰が差し込む。見上げてみれば、そこいたのは義理の息子であるラグナ・ウェインであった。

 

「お疲れ様です、父さん。流石に疲れてしまいましたか」

「ラグナ……。お前は」

「ははっ、奏に誘われてこのVR空間に大分しましたが、まさかNEWガンダムブレイカーズのような状況……。いやそれ以上の規模になっていますね」

 

 そのまま流れるように翔の隣に座ったラグナは翔を気遣う。

 少なくとも隣にいるラグナは翔が知っているラグナであるようで、その点に関して安心したようだが、どうやら彼も奏に招待されてこの空間にやって来たようだ。

 

「……こうやって父さんと話すのは久しぶりですね」

「お互い社会人だからな。中々話す機会と言うのもないだろう」

「そうですね……。ですが私はそれでも寂しさを感じてしまいました」

 

 どこかしんみりとした口調で話すラグナに翔は苦笑する。

 翔は一人の経営者であり、ラグナは教職員だ。中々話すだけでも時間を合わせるのは難しい。それは承知の上でもラグナは子供みたいですよねと付け加えながら笑う。

 

「最近の父さんはまるで何か探しているかのようでした。いや、今もでしょうか……。それだけならまだ良い。でも今の父さんは放っておけばこの世界から消えてしまうかのようなそんな印象すら抱いてしまうんです。だからこそ以前、一時的とはいえ消息を絶った時は気が気じゃありませんでした」

 

 その言葉に思い当たるものがないと言えばウソになる。

 翔は確かになにかを探している。それは自分でさえはっきりと分からない曖昧なものだ。だからこそ世界を渡り、アラタ達に出会った。最もその世界の移動に費やしていた時間のせいで何も知らないラグナ達にはいらぬ心配をかけてしまったが。

 

「そうだな……。確かに俺は何かを探しているのは間違いない。だが心配をかけてしまったのは反省しなければな」

 

 翔はエヴェイユを超えた存在だ。だからこそこんな自分の意味を探していた。

 シーナ・ハイゼンベルグ、ルスラン・シュレーカーの能力を受け継ぎ、如月翔という個が曖昧になってしまったからこそ曖昧なまま答えを探していた。しかしそれでも翔にとって心配をかけさせてしまったのは本望ではないのだろう。ラグナの頭を撫でながら困ったように笑い、つられるようにラグナも笑うのだった。

 

 ……

 

「VRなら空間だって気にしなくて良いし、思いっきりPGア・バオア・クーを作るぞー!」

「「「おぉーっ!」」」

 

 その後も翔は改めてこのVR空間を回ってみた。

 すっかり意気投合したのか、ミサを筆頭にユイ達と協力して夢のPGア・バオア・クーを作ったり

 

「ラグナ先生、すんげぇ鍛えこみだな! どんな筋トレしてんだ!?」

「お前はそればかりだな筋肉馬鹿」

 

 筋トレが趣味のアラタの相棒であるトモン・リュウマは衣服越しでも分かるラグナの鍛え抜かれた肉体に目を輝かせて詰め寄るがすかさずアラタのツッコミが入り、ラグナも思わず苦笑してしまっている。

 

「「えっ」」

「パパと……似てる……。やっぱり女の子のパパ……?」

 

 異世界の、それも異性になっている自分にばったりと出くわし、目を丸くする一矢の横で娘である希空もアラタ達の世界に訪れた際に見かけた事のある目の前にいる驚きでパクパクと口を開けるアマミヤ・イチカに視線を向ける。

 

 どこもかしこも賑やかだ。

 思わず翔も笑みを零してしまうなか、手持ちの携帯端末に着信が入る。相手は如月奏であった。

 

≪バトルフィールドで待ってる≫

 

 文面にはそれだけしか書かれていなかったが同時にVR空間の至る場所で立体映像が表示される。

 

『ハーイ、みんな! この空間は楽しんでる? 新しいイベントをお知らせに来たよ』

 

 映像には優陽の姪である姫川歌音の姿が。

 どうやらNEWガンダムブレイカーズのようにナビゲーターを務めているらしい。

 

『いよいよ本イベントの目玉であるチーム対抗ガンプラバトルが開かれるよ! 我こそはと思うファイターはVRハンガーへ向かってエントリーしてね!』

 

 バトル内容は大型チーム戦。どうやらエントリーして自動で割り振られたチームによって勝敗を決するような内容のようだ。このVR空間にいるファイター達にこのイベントを無視するという選択肢はそもそも存在しないのか、我先にとチーム戦へのエントリーを行う。

 

「乗りかかった舟という奴か……。奏、お前がなにを考えているか分からないが最後まで付き合ってやる」

 

 この空間自体、何らかの奏の思惑が絡んでいるのだろう。

 だが相手は奏だ。決して悪いようにはしないだろう。翔のまたチーム対抗戦にエントリーを済ませてコックピットに乗り込む。

 

「ガンダムブレイカーインフィニティ 如月翔、出る!」

 

 チームが割り振られ、いよいよ出撃の時となった。

 多くのファイターが参加するであろうバトルに胸躍るなか、ブレイカーインフィニティはバトルフィールドとなる宇宙空間へ出撃していくのであった。




半年前に描いた優陽

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

英雄殺しの舞台

劇場版SEEDの滅茶苦茶面白ぇ!!!と興奮のなか、デスティニーSpecⅡのメタロボ魂やクリアガンプラを予約してウキウキしてたらガンダムブレイカー4が発表された……。

もう夢のようだ……。もう知った瞬間、ブレーザー君みたいな声が出たもんね(ルロロォォイッ!!!


 遂に始まったチーム対抗戦。

 制限時間内に多くのポイントを手に入れた方の勝利となるこのバトルは単純に敵チームのガンプラを破壊するのでも良いがフィールド上にランダムで出現するPGクラス、もしくはMAの撃破でより大きなポイントがゲットできるという仕組みだ。

 

「──まさか君のようなファイターがいるとはね!」

 

 宇宙空間を幾度となくぶつかり合う機体の姿があった。その内の一機は一矢のライバルでもあるウィルが駆るガンダムセレネスだ。

 

「それはこちらの台詞だよ」

 

 対するはガンブレ学園前生徒会長であり、アラタとも因縁のあったシイナ・ユウキが駆るガンダムアルプトラオムだ。しかし一機に対するセレネスにアルプトラオムは三機で対峙しているのだ。

 

 複数のファイターが複製したガンプラを使用しているのか? 否、三機のアルプトラオムは全てユウキ一人で操っているのだ。

 

「僕のセンスオブエクスパンションに対応できる存在がいるとは」

 

 実質、三対一の状況にも関わらず、互角以上に渡り合うウィルには普段、気怠げにしているユウキも目を見張るものがあるのだろう。その声色からこのバトルが充実しているものであるのが感じ取れる。

 

 ウィルとユウキのバトルのように下手な実力者では立ち入ることが出来ないバトルがあちらこちらで繰り広げられている。

 

「強ぇな、アンタ!」

 

 マグマの如く力強い紅蓮の龍を思わせるような苛烈な攻勢を見せるのはアラタの相棒であるトモン・リュウマが駆るレイジングガンダムボルケーノだ。

 

「ったりめぇだ! お前こそまだ荒削りだが見所あるじゃねえか」

 

 穿つように放たれたマニピュレーターを真っ向から同じくマニピュレーターで打ち返したのはシュウジのバーニングガンダムゴッドブレイカーである。

 

 お互いに近距離特化型であるものの覇王不敗流の使い手であるシュウジに対してリュウマはただの学生だ。

 

 しかしシュウジの言うようにまだ荒削りで未熟な面こそ目立つもののその天性の感の鋭さは目を見張るものがあるのか、相手取りながらもシュウジの声色はどこか高揚しているように聞こえる。

 

「ったく、あの筋肉バカ。はしゃぎまわちゃって」

「相方が誰かに夢中になってて嫉妬ってところか?」

 

 遠目からでも苛烈な勢いを見せながらぶつかり合うバーニングゴッドブレイカーとレイジングボルケーノ。ガンブレ学園でも同じインファイターでリュウマ以上の実力を持つ者とは中々出会えないのだろう。その声色は明らかに高揚しているのが感じ取れるリュウマの様子にどこかぶっきらぼうな姿を見せるアラタに意地悪く一矢はくつくつと笑う。

 

「やっすい挑発ですね。味方じゃなかったらバトルしてるところだ」

「ああ、お前とまたバトルするのも良いが肩を並べるからこそ分かることもある。行くぞ」

 

 意地の悪い一矢に不貞腐れたように答える。

 今の一矢とアラタは同じチーム。アラタとしても一矢の言葉がなくともまた一矢とリミットブレイカーとバトルが出来るのなら願ってもないことだが今の状況がそれを許さない。

 

 横一列に並び立った2機のガンダムブレイカーは間髪入れずに飛び出し、激しい戦闘に入る。一矢とアラタだけではない、

 

 複雑な事情もなにもない。

 ただ所狭しとこのフィールドに存在する素晴らしいファイターとそのガンプラに己の全てを持ってぶつかっているのだ。

 

「ずっとこんな時間が……」

 

 そこまで言いかけて寂しげな微笑と共に飲み込む。どんなに素晴らしい時間でもそれは永遠ではないのだ。

 

 もう如月翔という存在は人というカテゴライズから外れてしまった。

 

 そこから自分は自分自身でさえ分からないなにかを求めるようになってしまった。それはまるで人から外れてしまった今の自分自身の存在理由を探し求めるかのように。

 

 どんどん底を知らぬ暗闇のような思考の中に落ちていくなか、ブレイカーインフィニティのアラートがけたたましく接近する敵機の襲来を知らせる。

 

「……漸くお出ましか」

 

 ブレイカーインフィニティに迫る影。

 それは翔をこの世界に誘った奏が操るブレイカークロスゼロであった。識別反応を見る限り、奏は相手チームの一人であるようだ。

 

「父さん、この世界を楽しんでいるか?」

「そうだな、混乱もあったが楽しませて貰っているよ」

 

 いまだ真意を語らない奏。

 この世界に翔を誘ったのは何か意図があるものだろう。だが、それを抜きにしてもこの一時は今の翔にとっても価値あるものだと言えた。

 

「それは良かった。私としてもそうでなければ意味はない。どうせなら父さんには穏やかに、楽しいと感じている中で最後を迎えてもらいたい」

「随分と嫌な言い方だな」

 

 奏も翔が楽しんでいる状況は喜ばしいものなのだろう。

 しかしその言い方は語弊を招きかねず、思わず苦笑してしまう。

 

「そうだな。だがあえてそう言わせてもらう」

 

 翔に合わせて奏も釣られて笑みをこぼすが、それも一瞬ですぐに思考を遮断するように目を閉じ、再びゆっくりと開く頃にはその瞳は明るく天真爛漫な奏には想像もつかない程、冷徹な瞳をブレイカーインフィニティに向けていた。

 

「これは英雄殺しの為の舞台なのだからな」

 

 GNソードⅢの切っ先をブレイカーインフィニティに向けた冷淡な言葉。その娘の言葉は少なからず翔にとってショックを与えたようで思わず目を見開く。

 

「ッ」

 

 が、その瞬間ブレイカーインフィニティの周囲からファンネルによるオールレンジ攻撃を仕掛けられる。

 すぐさま回避行動に入るブレイカーインフィニティだがまるで挨拶代わりのようにすぐさま主の元へと戻っていく。翔も思わず相手は誰なのか目で追うが再び翔に衝撃を与える。

 

「ブレイカー0に……ネメシスだと……!?」

 

 それはかつて翔か異世界で共に駆け抜けた愛機とも言えるブレイカー0とその世界で未来を切り開く為に散った機体であるネメシスであった。

 

 思わぬ機体の登場に翔が動揺しているなか、ブレイカークロスゼロを挟むようにブレイカー0とネメシスは動きを止める。

 

「……どういうつもりだ、奏。それにその機体達は……!」

「言った筈だ。これは英雄殺しの舞台だと。その最後を迎えるには相応しい演者とは思わないか」

 

 ブレイカー0、そしてネメシスは翔にとっては安易に触れられたくはない存在だ。だがそれ以上に奏がその2機の存在をなぜ知り、なぜ並び立ったいるのかという疑問も浮かび、複雑な感情のまま険しい表情を見せる翔に奏は以前として冷たい表情を崩さない。

 

 話は終わりだとばかりに飛び出すブレイカークロスゼロ。斬りかかろうとするブレイカークロスゼロから咄嗟に距離をとろうとするもすぐさまブレイカー0とネメシスも行動を起こす。

 

(早い、しかしそれ以上にこの動きは……!)

 

 奏だけでも相当な実力者だがブレイカー0とネメシスも負けず劣らずの動きを見せる。だが翔にとってはそれ以上にその2機の動きはある存在達を脳裏に過らせる。

 

「しまった……ッ!?」

 

 少なくともそれが多少の動揺として現れたのだろう。

 ブレイカークロスゼロに近づかれ、彼女の得意な距離に持ち込まれる。同時に背後からもブレイカー0とネメシスが近づいてくるのが分かる。このままでは翔と言えど撃破されるのは時間の問題であろう。

 

「……っ」

 

 だがその時は今ではなかったようだ。

 遠くに流星のように煌めいた光が走ったかと思えばそれはすぐさまブレイカーインフィニティとブレイカークロスゼロの間に入り、ブレイカークロスゼロが振り下ろした刃を受け止める。

 

「一矢君……!」

「大丈夫ですか、翔さん」

 

 それは一矢が駆るリミットブレイカーであった。

 思わぬ救援に驚く翔とは対照的に一矢は穏やかな声色で話しかけながらそのままブレイカークロスゼロを振り払う。

 

 だがいまだ背後には迫るブレイカー0とネメシスの存在がある。だがその2機も突然自分達に放たれた高エネルギービームに阻まれ、距離をとる。

 

「アラタ君か!」

「どーも。招待状はないんですけど飛び入りでも構いません?」

 

 そのままブレイカーインフィニティに合流したのはアラタのν-ブレイカーであった。相も変わらぬ飄々とした態度に翔は思わず微笑をみせる。

 

「──役者は揃った、といったところかな」

 

 いつの間にかブレイカークロスゼロもブレイカー0とネメシスに合流し、三機のガンダムブレイカーに相対する。リミットブレイカーとν-ブレイカーは想定の範囲内だったのか奏に動揺は見られなかった。

 

「ならばフィナーレを迎えようか」

 

 同時に奏の瞳は虹色に変化し、ブレイカークロスゼロは輝きを纏う。それは巨大なプレッシャーとしてガンダムブレイカー達を襲うなか、英雄殺しの舞台は幕を開けるのであった。




現在、このファイナルの最後にイラストを投稿しようと『ひさかたの』からアンケートを取っております。

よろしければご協力お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 50~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。