遊戯王なカルデア 〜シャトー外伝〜 (スラッシュ)
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ヤンデレの無い……?
ネコミミカルデア 前編


この作品の前に、
現在連載中の“ヤンデレ・シャトーを攻略せよ”を読む事をおすすめします。


 目が覚めれば、そこには近代的な建物、研究所の様な人工的な廊下に立っていた。

 

「アヴェンジャーめ……今回は現れないのか……!

 おかげで、これがどんなシチュエーションかまるで分からない……」

 

 俺、岸宮切大(キシミヤキダ)はもう既にこの展開に慣れてしまった。

 

 恐らくここはFate/Grand Orderに登場する主人公の所属している機関、カルデア。

 現実では唯の高校生の俺だが、夢の中ではゲームの主人公となってヤンデレ化したサーヴァントから逃げ回っているのだが…… 

 

『む。なんだ今日は早いな』

 

「アヴェンジャー!」

 

 姿はないが聞こえてきた。こいつは間違いなく、俺を悪夢に引きずり込んでいる張本人、アヴェンジャーの巌窟王だ。

 

『俺が大元ではない。俺はあくまで司会、主催者では無い』

 

 が、その主催者については一切教えてはくれない。

 

『それよりも、喜べ。今回は比較的平和だ』

 

「そりゃあ、あんだけクジ引かされれて、平和な物が1つでも無いと困るっつーの!」

 

 そう、このエクストラステージとか言う悪夢が始まった日。俺は悪夢の内容を決める為のクジを引かされた。しかし、1つだけだと思い引いたクジには他のクジが接着されていた。その数なんと30枚。

 おかげで30日間悪夢を見る羽目になった訳だ。

 

『今回はカルデアのマイルームから始まる。お前が早く寝たせいで少しばかり場所がズレたからマイルームのベットに移すぞ』

 

「……どうぞお好きに」

 

 さて、いつもはヤンデレに囲まれて恐怖ばかりだったが今日は平和と言っているのでそれを信じよう。

 

『では楽しめ。【ネコミミ】をな……』

 

 

 

「……」

 

 再び夢の中で目が覚める。確かに自分が夢の中にいると感覚で分かる。

 マイルーム……ゲームの背景画像でしか知らないが、確かこんな感じで、ベッド位しかない殺風景な光景だった筈だ。

 

「にゃー、ご主人様……」

 

 ……声がする。そう言えば先から体が重い気がする。

 起き上がれない。

 

「主どの……」

 

 何とか顔を動かす。すると、目の前に2本の白い三角形があった。

 

「…………ネコミミ?」

 

「マスター……起きて……」

 

 そして漸く状況を理解した。

 

「き、清姫……? 牛若丸、リリィまでまで……!?」

 

 バーサーカークラスの清姫、ライダークラスの牛若丸、セイバークラスのリリィ。

 

 何と、年齢や見た目で言えば幼女な英霊達が俺の上左右で寝ているという、何処か犯罪臭のする状況だった。

 しかも、全員頭にネコミミが……生えている。アクセサリー類ではなさそうだ。

 清姫と牛若丸が白い耳なせいか、リリィの明るい茶色の耳が目立つ。

 

「どうなっているんだ……?」

 

「マスター……もう朝ですよ……」

「主どのー、一緒に寝ましょー……」

「ご主人様、目覚めのキスにゃー……」

 

 リリィ! 寝てる寝てる!

 オイこら清姫、お前絶対起きてるだろ!

 

 

「……と言う訳で、シェイクスピア、カエサル、ホーエンハイムの順番の後に残りのキャスター達、その後残りのサーヴァントをボコってから、この珍事態が終わらなければ新サーヴァントを見つけてボコろうと思う」

 

 俺はFGOの常套手段、取り敢えず退治作戦を唯一無事だったダ・ウィンチちゃんに言ってみた。

 

「いや、言いたい事は分かってたけど落ち着いてよマスター……」

 

「これが落ち着いていられるか!」

 

 俺は叫んだ。

 

「マスター、撫でてください!」

「主どのー、ご飯くださーい!」

「ご主人様、抱いて下さい、にゃー」

 

 おい清姫、お前絶対無事だろ! いや、思考は無事じゃないけどそれは元々だし!

 

「凄いモテモテだね」

 

 ダ・ウィンチちゃんは呑気に言うが此処に来るまで終始この状態だった上に、左右背後から抱きつかれて動きにくくてしょうがなかった。

 

「ただ構って欲しいだけだろコレ! なんで俺が無事なんだよ! いっそ俺もネコミミ付けて欲しかったわ!」

 

「でも、この事態って私のせい、と言うかアヴェンジャーさんのせいだしね。

 あ、男の方のだよ?」

 

「なるほど、じゃあダ・ウィンチちゃんは味方で俺のターゲットはアヴェンジャーか?」

 

「そうじゃなくて……この事態は時間で収まるよ。私の作ってた薬品にアヴェンジャーさんが妙な物を入れてバラ撒いたのが原因だしね」

 

「ならなんでダ・ウィンチちゃんは無事なんだ?」

 

「『一人くらい無事じゃないとあいつが暴走する』とか言って私だけバラ撒かれる前に抗剤を飲まされたからね」

 

「野郎……!」

 

「とにかく、子猫ちゃん達の世話をしないと。幸い、男性陣は野生に帰ってカルデアを出てどっか行っちゃったから私はドクターの面倒を見て、君は女性陣の世話だけで済みそうだよ」

 

(ラーマや黒ひげ辺りは暴走しそうなんだが……ん!?)

 

「いや、その分担はおかしい」

 

「役得だから文句言わないの!」

 

 こうして、俺の奇妙な悪夢が始まった。

 

 

「まずは料理か……」

 

 食堂にやって来た。

 

「ご飯! ご飯!」

「ふにゃぁ〜……」

「ミルクを下さい、にゃー」

 

 リリィの頭を撫でつつ頭を悩ませる。

 

(猫の好きそうな物でなおかつ、人間の食べ物……魚か味噌汁ご飯か?)

 

 考えつつも粉ミルクを取り出し、お湯で溶かしてマグカップに入れて清姫へ渡す。

 

「まあ、ご飯系の方が量が作れるよな」

 

 食堂を見渡す。

 

「ほら、撫でなさい」

「っふん! ……うぅ……」

「…グー……グー」

 

 偉そうにふんぞり返っているエウリュアレ。

 鼻を鳴らしてそっぽを向きつつもこちらを見る両儀式。

 寝てるアルテミス。

 

 食堂には自由気ままな行動をする女性陣(ネコたち)が集まっていた。

 

「…………あ、牛若丸、駄目だよ」

 

 味噌汁に入れる為のシャケを切り始めた俺の横から手が伸びるが、それを素早く叩く。

 

「うー……おしゃかな……」

 

(猫っていうか幼児退行してないか?)

 

 その後もキッチンで激しい攻防を繰り広げつつも、どうにかご飯と味噌汁を完成させた。

 

「はい、牛若丸。これはリリィ、これは清姫、これは……」

 

 猫耳だけとはいえ何処まで猫化しているか分からないので玉ねぎは無し。大根と鮭とゴマを入れた味噌汁をご飯にかけた物を用意する。一応、先に完成させたご飯は皿と一緒に冷蔵庫に入れて冷やしていたが大丈夫だろうか?

 

「スプーン使うかな……?」

 

 と言う心配は無用だった様で、お茶碗に入ったご飯を皆スプーンで掬って食べている。

 

 それにホッとしつつ、みんなと同じ物を食べる。

 

「ん、旨いな」

「……」

 

 そんな自画自賛をしていると黒いネコミミの生えた両儀式がこちらをジッと見ていた。

 

「どうしたの?」

「……なで……ぉ」

 

 顔が赤くなっている。それを隠すかのように俺の腕に顔を擦り付けてくる。

 

「……オレを、撫で、ろぉ……」

 

(……がはぁ!)

 

 涙目な上に照れて赤くなっている美女、だけでは飽き足らず、撫でて欲しいと言う意思を示す為に両手で俺の腕を頭に置いただとっ!!

 

(なんて破壊力……! 俺が鉄の意思(ヘタレ)を持っていなければ襲っていたっ!!)

 

「おお、お、おおう! 今、撫でて、やる…………!」

 

 腕を軽く動かす。式の両手が俺を腕を開放して、俺はサラサラする式の髪をひたすら撫でる。

 

「〜〜!」

 

(うわぁー、めっちゃ嬉しそう!)

 

 真っ赤なまま目を細める式の笑顔に俺のテンションも上がり始める。

 

「ホレホレ」

「ふにゃー……」

 

「アゴもだ―」

「にゃー……」

 

「ヨシヨシ、ヨーシヨシ」

 

「な……撫で過ぎだ!」

「あっ……」

 

 1分が過ぎた位で式が俺の手を叩く。

 思わず名残惜しい声が出てしまった。

 

「っう……! ふ、ふん!」

 

 またツンモードに戻ってしまった式。顔は赤いままだが。

 

「マスター!」

 

 しかし、それと入れ替わる様に食堂の自動ドアが開いて俺にピンク色の髪の人物が飛びかかってきた。

 

「なんで僕はヤンデレ・シャトーに入れないんだよー!」

 

 メタ発言をしながら俺の首に腕を巻き付かせ、抱きしめたのは黒色のネコミミの生えたアストルフォ。

 

(それはお前の性別が男性公認だからだよ)

 

 ツッコミを入れつつも俺はアストルフォの頭を撫でる。

 

「ふあぁ……」

 

「マスター! 遅いわよ! 私の世話はどうしたのかしら!?」

 

 そんな俺とアストルフォの前に、今度はエウリュアレが現れた。

 

「ああ、ごめんね」

 

 手を伸ばすが、叩かれた。

 

「気安く触らないで! 大体、私の頭にこんな愛くるしい三毛猫ミミが生えているのよ!? 無視するなんてありえないじゃない!」

 

 エウリュアレは元・神様だけあって意外と自己が残っている様だ。プライドが高くなってツンデレてる上に高圧的だけど。

 

「僕幸せだよマスター……」

 

 その間にも撫でていたアストルフォはすっかり力を抜き、俺の体に寄りかかっている。

 

(撫でられるのが好きな猫と嫌いな猫で極端に対応が違うだよな)

 

 実家にいた2匹の猫を思い出す。一方は撫でられればその場に留まり、もう一方は逃げ、機嫌が悪ければ引っ掻いてきた。

 

「聞いてるのかしら? こうなれば魅了で……!?」

 

「まあ、お約束だよな」

 

 アストルフォを撫でている腕とは別の手をエウリュアレに向ける。俺はその手で猫じゃらしを握っている。

 

「な、な、な……!?」

 

「ほーれ、猫じゃらしだぞ?」

 

「にゃー」

「んにゃー!」

「っにゃー」

 

 しかし、この食堂には無数の猫達がいる。

 その全員が猫じゃらしに反応しだした。

 エウリュアレはプライドのせいか我慢しようと必死に体を抑えているが、腕はぷるぷる震えている。

 

「これもどうだ?」

 

 ダ・ウィンチちゃん特製、動くネズミ人形を取り出す。その数8個。

 

「行け!」

 

「にゃー」

「待ってぇ!」

「っふん……とっ、取ってきてやる!」

 

 食堂のドアから外へと投げ込み、それを女性陣は追いかけ始める。

 

「駄目! 悔しいけど、反応しちゃう!」

 

 エウリュアレはついに猫じゃらしに近づき殴り始める。

 

 俺も軽く揺らす。

 

「にゃ! っにゃ!」

「ほーれ、じゃあ此処に置いとくからなー」

 

 セロハンテープで机に猫じゃらしの棒部分を接着して、俺はその場を離れる。

 

「僕も僕もー!」

 

 途端にアストルフォまで猫じゃらしで遊び始める。

 

「……さて、何処に退散するかな」

 

 取り敢えずマイルームへ行こうとした所で違和感に気付いた。

 

「そう言えばマシュを見てないな」

 

 特に逃げ回る必要も無さそうなので俺はまだ会ってないマシュに会いに行く事にした。

 

「マスター! 見つけった!」

 

 が、廊下を歩く俺の背中に、再び誰かが抱き着いてくる。

 

(……か、感触が……圧倒的肉圧!)

 

「どうかしらマスター、可愛いかしら?」

 

 抱きついてきたのはネコミミをぴょこぴょこ揺らすマタ・ハリだった。

 

「あ、ああ……可愛いよ」

 

 ネコミミを見せつけるマタ・ハリにそう答えた。

 

「じゃあ、こっちは?」

「っ!?」

 

 マタ・ハリは笑いながらくるりと回る。

 

(し、尻……じゃなくて! 尻尾!?)

 薄い布で隠されていない尻……ではなく耳の色と同じ明るい茶色の尻尾を見せてきた。

 

「付け尻尾だけど、可愛いかしら?」

 

 途端に距離を詰めるマタ・ハリ。なんか、普段と大して変わらない気がするが……

 

「ああ、可愛いよ」

 

「じゃあじゃあ、撫でて撫でて!」

 

 そう言ってマタ・ハリは廊下に仰向けで転がり、手と足を曲げてお腹を見せる。

 

(あんたは犬か!?)

 

 どうやら猫化して好意が現れやすくなっている様だが、普段から好意を出している者は動物的に懐いている様だ。

 

「早く早く!」

 

(こいつ……誘ってやがる!)

 

 しかし、童貞であるこの俺にこの状況は余りに刺激的すぎてよろしくない。

 なにせストリッパー衣装の女性が床に転がりながらもこれ見よがしに肢体を見せてくるのだ。しかも、大事な所をさらけ出す様に。

 

「マスター……」

 

(そんな切なそうな声を出すな……!)

 

 俺は、このままでは駄目だと思い、逃げ出した。

 

 

「っく……! 何とか逃げ切ったぞ……!」

 

 未だあの光景を思い出すだけで心臓の鼓動が早くなる。

 

(アレは、卑怯だろ……! もう少しで理性が溶ける所だった……!)

 

「ふー……良し! 落ち着いた!」

 

『先輩……?』

 

「おっわ!? ま、マシュ!? って、あ……」

 

 突然壁から声がしたと思ったがどうやらマシュの部屋の前だった様だ。壁では無くドアがあった。

 

「マシュはずっとそこにいたのか?」

 

『え、えぇ……一応、缶詰があったので……』

 

「でもなんで? もしネコミミを気にしているなら皆にも付いているけど……」

 

『い、いえ! そっちではなくて! ネコミミ……だけでは無いんです……』

 

「?」

 

『で、でも……先輩になら……あ、今開けますね!』

 

 そう言ってマシュは部屋のドアを開く。

 

「お邪魔しま――」

 

 部屋へと足を踏み入れた俺の体はそれを見た瞬間、足を止めた。

 

「……にゃー、でいいんでしょうか……?」

 

 マシュの頭には黒いネコミミ、後ろから白い尻尾が動いているのも分かる。

 

「や、やっぱり、変ですか……?」

 

 だが、他の女性陣と一線を画すのはその服装だった。

 

「と、トラだと……!?」

 

 普段装着している鎧と同じ形だが、トラ模様の毛皮で出来た様な服を着ていた。

 しかも、首には鈴付き首輪のおまけ付。

 

「黒、白、トラ模様と、まるで統一感が無い上に、どれも取れませんし脱げないんですよ……」

 

 よほど恥ずかしいのか、ずっとモジモジしながら俯いているマシュ。

 

「いや、よく似合ってるよ」

「本当、ですか?」

 

「ああ、本当に可愛い」

「……その、本当に可愛いのであれば……頭を撫でて貰えますか?」

 

「ああ」

 

 俺は笑顔を浮かべつつマシュの頭を撫でる。

 

「……先輩……気持ちいいです」

 

 目を細めるマシュの尻尾が動いている。猫は喜んでいる時とイライラしている時、どちらでも尻尾を動かすらしいが、この様子ならイライラはしていないだろう。

 

(それにしても、何でマシュだけ服装まで変わってるんだ? 尻尾も付け尻尾じゃないし……)

 

「……先輩……その、カルデア内を歩きたいんですけど、一緒に行って貰ってよろしいでしょうか?」

 

「ああ、良いよ」

 

 そう言うと俺はマシュの頭から手を放すが、マシュは俺の腕に頭を擦りつけてきた。

 

「にゃー……あれ? す、すいません!? 私、何で……」

 

「行動が猫化しているからね。皆もそんな感じだから気にしないで」

 

「そう、ですか……」

 

 赤くなりながらも頭はしっかり腕に預けるマシュ。

 

 開いたドアを、2人でくぐった。

 

「ますたぁ……にゃー」

 

 同時に待ち構えていた清姫に抱き着かれた。

 

「っと、きよ……ひめ……さん?」

 

 不意打ち。完全に不意打ちだった。

 

 ネコミミに白い尻尾。そして、まるで毛皮で出来た様な下着の様な格好。

 

「ますたぁ……体が熱い……にゃー」

 

「主どのー! 捕まえました!」

 

 そこに現れる牛若丸。指の間にネズミ人形が5体程挟まっている。

 だが、それよりも驚いたのは牛若丸も白と黒の尻尾を付けていて、服も黒い下着の様な格好なことだ。

 

「猫化、未だ進行中の様ですね」

 

「嘘だろ!?」

 

 




後編に、続く。


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ネコミミカルデア 後編

猫可愛いけど、サーヴァント達って個性が溢れてるから、あんまり猫に染まらせられないね。



 

「……にゃー」

 

「主どの! 主どの!」

 

「どーしよ、これ……」

「困り、ましたね……にゃー」

 

 猫耳と尻尾、毛皮の様な下着……ではなく水着という刺激的すぎる格好の清姫、牛若丸が抱き着き、一緒に悩んでくれているマシュは頭や体を俺に無意識に擦り付けている。

 

「や、やめろ、マシュ!」

「っは!? す、すいません……」

 

 赤くなるマシュだが、それよりも……

 

「このままだとカルデアがビーチみたいになるぞ?」

 

「それに、この猫化がどこまで進むかも不安です。服の面積に影響を与えているようですし……」

 

「…………うっ……うむ! まずい!」

 

 一瞬、全裸のネコミミマシュを想像して、直ぐに振り払う。

 

「先輩……にゃー」

 

 冷たい視線が俺を貫くが、語尾が台無しにしている。

 

「マスター、撫でて下さい。にゃー」

「はいはい」

 

 俺は清姫の頭を撫でてる。

 気持ち良さそうな顔をする清姫は、一度自分から頭を離れる。

 

「此処も、撫でて下さい。にゃー」

 

 清姫が自分の手で胸を持ち上げるが、そこに手を伸ばす訳には行かず、俺は牛若丸の頭を撫で始める。

 

「よーしよし」

「ミャー……主どの……」

 

「あ、マスター!」

 

 3人とは違う声に唐突に呼ばれた。そちらへ視線を当てて、思わず頭を手で抑えた。

 

「どうかな? 可愛い?」

 

 赤い猫耳に尻尾、赤い毛皮水着、そして手にはキグルミの様な猫の手をつけたブーディカがいた。

 

(追加オプションが増えてるんですけど……)

 

「にゃん、にゃん!」

 

 ブーディカが顔の横にまで手を上げて振り、ウィンクする。

 揺れるロングヘアー、だがそれよりも可愛い過ぎるだろ! 人妻だから手は出さないけど!

 

「ほれほれ!」

「っちょ、マジで勘弁してください、ブーディカさん!」

 

 尻尾をこちらに向けて振り始める。

 もうやってる事が完全に痴女だ。

 

「ほら、頭撫でてあげますから」

「……うん」

 

(いや、それでおとなしくなられても困るんだけど……)

 

 ブーディカに近づき、軽く頭を撫でた。

 

「〜〜!」

 

(どいつもこいつも、頭を撫でるとおとなしくなるんだよな……)

 

「マスター、私の此処も」

 

(清姫(こいつ)以外は…)

 

「先輩、私を疎かにしないで下さい!」

「主どの!」

「マスター、もっともっと!」

 

 迫りくる美女4名。流石に許容オーバーです。

 

「ええい! いくらなんでも捌き切れるか!」

 

 俺は牛若丸が回収した動くネズミ人形を投げる。

 

「にゃー」

「か、体が……勝手に!?」

「ニャア!」

 

(誰だ、猫は犬みたいに懐かないって言った奴!)

 

 俺は逆方向へと走った。

 

 

 

「マスター! つっかまえた!」

 

 廊下を走っていたら捕まった。しかも、よりによってアーチャークラスのアルテミス(トラブルメーカー)に。

 

「にゃっにゃにゃー! 一緒にオリオンを探そう!」

 

「お断りします」

 

 ゲーム内でならこの後は強制レイシフトだが、今はドクターも猫化してそれどころでは無い。

 

「じゃあ、マスター! オリオンの代わりに一緒に寝よ!」

 

「断る!」

 

 中身こそ残念なアルテミスだが、そのスタイルは抜群な上、今の衣装は白い猫耳、尻尾に白い水着に鈴付き首輪のフル装備だ。

 理性が持つ自信がない。

 

「はい、じゃあお休みー!」

 

 しかし、サーヴァントの腕力で腕を掴まれては抵抗できずに部屋に入れられるのは不可避な上に、ベッドに抱き着かれたまま押し倒されるのも避けられない。

 

「今回巨乳組頑張るね!? 俺もう理性溶けそうだよ!?」

「暴れないでね、マスター…………ぐー」

 

 もう寝てるし……

 

「……本格的に出れないんだけど」

 

 胸に当たる感触はご褒美だし、美人の寝顔が横にあるのも役得だ。

 

 しかし、俺は知っている。このあと絶対ろくな目に合わない事を。

 

「ええい、放せ!」

「……っむ……オリオン、暴れないの……」

 

 くそぅ! うちの猫は突付いただけで起きるのに……

 

「そうだ! 令呪!」

 

 俺は手の甲に描かれた令呪へ視線を向ける。

 

「……いや、でもこんな事に使うべきか?」

 

 悩む。使うべきか使わざるべきか……

 

「えへへ……一緒だよ、オリオン……マスターも……」

 

 悩み始めた俺だが、よだれを垂らしながらそんな寝言を呟くアルテミスに脱力する。

 

「アホらしい……なんで俺がこんな必死こかなきゃいけないんだっつーの」

 

 俺は腕を伸ばしてアルテミスを撫でる。

 

「――マスター、無事か――!?」

 

 が、此処でタイムアウト。ドアを殺した式が入って来たが、アルテミスの横で頭を撫でながら寝そべっている俺を見つけた。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が痛い。

 

「っふん!!」

 

 そして怒って出て行った。

 

「え、いや?ちょっと待てぇー!」

 

「っむぅ……煩いな……」

 

 どうやらアルテミスは俺の叫びで目を覚ましたようだ。

 

「チャンス!」

 

「あ、マスター!」

 

 目を擦ろうとアルテミスの腕の拘束が解かれたので、俺は急いで部屋から出ていった。

 

 

 

「さて、これからどうする……」

 

(アヴェンジャーに制限時間を聞いとけば良かったな……)

 

 体感時間的にはそろそろ2時間、と言った所だろう。

 

「平和って言えば平和だが漠然とし過ぎてて不安になるな……」

 

「あ、ご主人様!」

 

 また誰かに見つかったようだ。俯いていた顔を上げて前方を確認する。

 

「にゃー……どうかな?」

 

 立っていたのはセイバークラスのサーヴァント、シュヴァリエ・デオンだったが、慣れ始めていた茶髪の猫耳と尻尾をピクピクと振るわせているが、その服装は俺の予想を裏切っていた。

 

「で、デオン……その格好は……」

 

(か、可愛い……)

 

 メイド服を着たデオンは僅かに頬を赤く染めながらも、くるりと一回転した。

 

「にゃん!」

 

「こ、これが……猫耳メイドの破壊力か……!」

 

「ご主人様……」

 

 そう言ってデオンはこちらに何かを渡して来た。

 

「首輪を、付けて下さいにゃん!」

 

 渡された物は鈴付きの首輪。

 

「……お、おう……」

 

 どうも今回は動揺してばかりだ。

 俺は首輪を手に取るとそれをそっとデオンの首に着けた。

 チリーンといい音が鳴る。

 

「……ご主人様」

 

「お、おい!?」

 

 デオンは顔を俺の体に擦り付け始める。

 

「にゃー……撫でて、撫でて!」

 

「分かったよ! 頭撫でるから!」

 

 しかし結局これである。ヤンデレ・シャトーの時とは違い、性的行為ではなく頭を撫でて貰う事を望んでいる様だ。

 別にそれはそれで構わないが、こうも物理的に擦り寄られると小っ恥ずかしくなる。

 

「……あぁ、幸せ〜……」

 

 猫……というかただ単にペット化しているだけな気がする。

 

「さて、そろそろ――」

「もっと、もっと!」

 

 デオンが頭も体も擦り寄せてくる。

 

「おい、動きにくい――っ!」

 

 それが腕に当たった時、何故か悪寒がした。

 

(……昨日の悪夢の記憶が無いが……やっぱなんかあったのか?)

 

 廊下に貼られている紙に、“気になる人はヤンデレ・シャトーで検索!”と書かれているが、そんな事をする気は微塵も起きない。

 

「マスター、マスター!」

「はいはい……どうしたものかコレ……」

 

「あ、デオンさん!」

 

 デオンと2人で廊下を歩きながら、まだ会っていないサーヴァントを思い出す。

 

(このパターンだとあっちから接触してきそうだが……あと残ってるていったらメディア、メドゥーサと……荊軻だな)

 

「む、漸く見つけたぞ、主」

 

(噂をすれば、か……)

 

「どうしたの、荊軻?」

 

 現れたのは最終降臨のフル装備姿……ではなく、黒い猫耳と尻尾に毛皮で出来た白いスクール水着の様な格好のアサシン、荊軻。

 

(何故スクール水着なんだろう……?)

 

「少し訓練に精を出しすぎてな。汗を書いたので、主に汗を流してもらおうと思ってな」

 

「ああ、分か――ないよ! 何でだよ!?」

「? 何故と言われても……主がサーヴァントの汗をシャワールームで洗うのは当然であろう?」

 

(……猫化どころか記憶の改竄が見られるんですが……?)

 

「私とて水は苦手だが、マスターに全身を撫でてもらうのは気持ちがいいからな」

 

(無理でーす! 童貞にはハードル高いどころか、次元が違うんですよねー!)

 

「えーっと……どうすりゃ」

「マスター……私も汗をかいてしまいまして……」

 

 荊軻に続いてきたのは紺色の猫耳と尻尾に、それ以外は普段通りの格好であるライダー、メドゥーサ。

 普段通りの格好と言っても、既にラインの強調されたタイトドレス――ボディコン服と呼ばれるらしい――を着ているので結構際どい。

 

「……流して頂けないでしょうか?」

 

「……ムリデス、ますたー、チョウイソガシイデス」

 

 思わず片言になってしまった。

 あまりの衝撃に、脳も体も追いついていない。

 

「マスター! 漸く見つけたわ!」

 

 今度はキャスターのサーヴァント、メディアのご到着だ。

 これまた普段着だが、フードは被っていないので、猫耳はまる見え、尻尾は見えないが、隠している様だ。

 

「あら、マスターは猫耳が無いのね……」

 

 ご到着と同時に下がるテンション。どうやら女の子の猫耳が可愛くって気分上々な

ご様子だ。

 

「いや、まぁ……」

「それよりもマスター! 私の頭を撫でて下さるかしら?」

 

 撫でながら思ったのだが、サーヴァントによって猫化の影響に随分と差があるようだ。

 

 マシュ、メディアは自分の格好に異常や普段との違いを感じているようだが、他のサーヴァントの殆どが今の姿が当たり前だと認識しているようだ。

 この違いは一体……

 

『ただの薬の個人差だ』

「……随分、急に出てきたなアヴェンジャー」

 

『あと10分で夢から覚める。だが、その前に猫耳の薬の効果を解除してやろう』

 

「何だ? 飽きたか?」

『それもあるが……まあ、精々楽しむ事だな』

 

 

 

「わあぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁ!?」

「えぇぇぇ!?」

 

 急に響き始めたのは悲鳴だった。

 

「あ……まさか薬が切れたから!?」

 

「あ、主! こ、こっちを見るな!」

 

「あれ、私なんでメイド服を……っは!?」

 

「私は……なんて破廉恥な事を……」

 

「ま、マスター!? あ、頭をな、なでにゃいで!」

 

 後悔、羞恥、混乱。

 

「マスター……覚悟は良いわね……?」

 

「うう……マスターに汚されちゃったよ……オリオン……」

 

「ますたぁ……私の扱いが随分と酷でしたね?」

 

 怒り、悲しみ、とばっちり。

 

「主どのが撫でて下さいました!」

 

「な、何でオレ……あ、あんな事で喜んだんだ……?」

 

「……だ、駄目……私、何であんな恥ずかしい事を……」

 

「照れて逃げたマスター、すっごく可愛いかったなー♪」

 

 怒りに震えるエウリュアレとハイライトの消えた涙目で追い掛けてくるアルテミス、平常運転の清姫。

 

 迫りくる3人から逃げる為、全力疾走を開始した。

 

「て言うか半分以上俺のせいじゃなぁぁぁい!!」

 

「「「逃さない(しません)!!」」」

 

「そ、そうだ! 令呪を持って命ずる! エウリュアレ、アルテミス、清姫! 追い掛けてくるな!」

 

 令呪は3画でサーヴァント全員に7分間の命令を実行させるが、1画ならば1人に10分間の命令を実行させらられる。

 

「っく! ま、待ちなさいマスター!」

 

「やなこった!」

 

 

 俺は適当に、食堂へと逃げ込んだ。

 

 そこには1人で飯を食べ続けていたリリィがいた。

 

「なんだリリィ……まだ食べてたのか? 味噌汁結構な量あったのにもう1杯分くらいしかないな……」

 

 と言いつつ茶碗に入れて、椅子に座る。

 

「むぅ……その言い方だと、私が1人でたくさん食べたみたいじゃないですか! 猫化の影響で、魚が入った味噌汁が美味しかったんです!」

 

 俺はリリィの話を聞き流しながら味噌汁を啜った。

 

「はいはい……ん? 旨いな……」

 

「――アヴェンジャーさんも食べに来ていましたし、私だけでは――」

 

(……ん? 今嫌ワード聞こえた様な……)

 

「あ、マスター! 猫耳生えちゃってますよ!?」

 

「……ゑ? そんな馬鹿な……」

 

 頭に手を伸ばす。モフモフする。

 

「可愛いですね!」

 

「う、そ……だろ……」

 

 

 

「……んぁー……よく寝た……さて、着替えないと」

 

 目が覚めた。今日は特に夢を見なかったようだ。

 

(さて、今日のご飯は昨日作っておいたアップルパイを……)

 

「……んー? なんだろう、無性にツナが食べたい気分だ」

 




今回はだいぶ短くなったと思います。次はもう少しボリュームを増やしたい。
(というかヤンデレ・シャトーで誘惑やらキスやら甘ーいネタやり過ぎて切れ気味なんだよなー……もう少しラブコメ系の勉強しようかな?)


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マスターの睡眠事情

3年ぶりの投稿です。また再び、遊戯王じゃない投稿をする日が来るとは思いませんでした。

今回は音フェチの話となっています。苦手な方はご注意下さい。


 

 人理焼却を防ぎ、魔術王の元を去って異なる場所へと散った魔神柱達を倒した人類最後のマスター。

 

 彼の束の間の平穏は音を立てて崩れ去る事となった。

 

 拠点であった人理継続保障機関カルデアは突然の襲撃で失われ、取り戻した筈の世界は白一色に覆われ人間の住む惑星ではなくなってしまった。

 

 しかし、この事態をシャドウ・ボーダーと僅かに残ったスタッフと英霊の力を借り、人理の敵である異聞帯を切除する事に成功し、一度は海に落ちて絶体絶命のピンチを迎えるがそこで新たな仲間と拠点を得たのだった……

 

 

 ……と、此処まではあくまでも唯の前提。

 これから話すのは魔術王との最終決戦でもなければ、剣豪同士の死合でもなく、また彼の記憶に新しい果てしない再生と破壊でもなく――――彼の、睡眠の話である。

 

 

 

「失礼します、先輩」

 

 この日最初に彼を見たのは、彼の後輩でありデミ・サーヴァントであるマシュ・キリエライトだった。

 彼女は数回のノックに返事を返さなかったマスターを心配し、彼の部屋に入った。

 

 しかし、彼女の心配とは裏腹に彼は寝ているだけであり、寝返りをうったので奇妙な悪夢を見ているという事もない。

 

「先輩……昨日はハードでしたからね。

 ですが、マシュ・キリエライト! 先輩の健康の為にも心を鬼にして……あれ?」

 

 尊敬する先輩の寝顔に、マシュは違和感を覚えた。

 彼の枕元に置かれている小さな端末から線が伸びており、その先端はマスターの片耳に繋がっている。

 

(イヤホン、でしょうか? 先輩は音楽を聞いて眠る習慣は無かった筈ですが……

 ですが、睡眠時のイヤホン使用は、鼓膜を傷付ける恐れがあります。ここは一度外しましょう)

 

 マシュはそーっと手を伸ばして彼のイヤホンを取り外した。

 

 電源の点いている端末から音が流れている様で、彼女の中で好奇心が疼いた。

 

(先輩が寝ている時に聞いている曲……一体、なんでしょうか?)

 

 そっと、マシュは自分の耳に近付けて見た。

 

『ちゅぅ、はぁあ……んんっ』

 

 水音……いや、あまりその手の経験の無いマシュでも分かる。

 何かを舐める様に、まるで実際に行われている響く音。

 

 彼女はイヤホンを耳から離しながら赤面した。

 

「り、立体音響……でしょうか? た、多少意外ですが、先輩の好みであるなら後学の為です! マシュ・キリエライト、ちゃんと聞いて見せま――」

 

 そこで、ベッドの上で寝ていた先輩が起きていることに気付いた。

 

「おはよう、マシュ」

「お、おはようございます先輩!」

 

 なので、彼女は彼に手に持った端末の音声について聞いてみる事にした。

 

「これ、先輩は聴きながら眠っているんですか?」

「うん。あんまり眠れない時とかに聞いたりするよ」

 

「そう、なんですか?」

「うん、これを聞けばいい夢が見れるからね」

 

 疑問が浮かんだ。普段の先輩なら、こんなイヤらしい音声を使用していると言われたら慌てて誤魔化すのでは……

 

「でも、緊急の呼び出しとか聞き逃したりするかもしれないし、あんまり良くないのかな?」

 

「そ、そうですね! 睡眠時のイヤホンの使用は思わぬ怪我の危険性がありますし、控えて頂いた方が良いかと」

 

 自分の中の疑問を取り敢えず無視して大事な先輩の安全を優先すべきだと話を続けた。

 

「……でも、どうしようかな。

 何が起きるか分からないし、偶に本当に寝れない日があるから……」

 

「でしたら、不夜城のキャスターさんにお願いしましょう! 彼女のお話を聴きながら眠れればきっとぐっすりと熟睡できるかと!」

 

「うん。彼女には悪いけど、本当に寝れない時はお願い――」

「――旦那様の夜のお供なら、この清姫が!」

 

 突然、部屋に侵入しようとするサーヴァントにマシュは冷静に時刻を確認した後に、胸元からホイッスルを取り出し吹いた。

 

「――ストップです! 清姫さん、貴女には夜9時から朝9時にかけて、先輩の部屋への侵入禁止が言い渡されています!」

 

「う……あ、紅先生! どうかお許しを!」

「安心するでち。お淑やかな花嫁になれる様に一から教育するでち」

 

 断末魔の様な悲鳴を上げながら、清姫は廊下の向こう側へと消えていった。

 

「……だけど、そうだね。不夜城のキャスターだけに任せるのも悪いかなぁ」

 

『ふふふ、話は聞かせて貰ったよ! 随分と面白そうじゃないか!』

 

 楽しげな笑い声と共の、ダ・ヴィンチちゃんの姿がモニターに現れた。

 

「ダ・ヴィンチちゃん……」

「あの、何か考えがあるんですか?」

 

『第一回、マスター催眠選手権を開催しよう!』

 

 2人はお互いに顔を見合わせ、幕を開けてしまったお祭りに期待と不安の籠もった笑みを見合わせた。

 

 

 

「薬物は禁止だからね! あと、過度な運動も!」

 

 一応、マスターの安全を考慮して危険そうなサーヴァントを予め弾いておく。

 

「あ、勿論出禁組もね!」

「うぐぐぐ……!」

「清姫、邪念が漏れてるでち」

 

 先ず、ダ・ヴィンチによって危険人物は弾かれる。

 

「な、なんで私が駄目なのよ! 私、子守唄を歌わせても完璧なアイドルなのよ!?」

 

「夜は静かにしなくちゃいけないからね。不採用だよ。勿論、後ろの2人もね」

 

「「「なんでよーぉ!?」」」

 

「ふふふ、一人で寝れない可愛そうなマスターさんを、愛に溺れさせる良い機会ですね」

 

「オッケー! 君は参加しても良いよ!」

「え……いやいやいや……私、愛の神ですよ? ラスボスですよ? こんな危険人物をマスターに近付けるとか、頭おかしいんじゃないですか?」

 

「問題なしだよ」

 

「……うっ、い、今に見てなさい……! そんな風に甘く見られるのも今の内です!」

 

「では私も――」

「君は出禁だよぉ?」

 

「あぁ……そんな、お預けだなんて……」

 

 こうして……参加資格を手に入れたサーヴァント達は先ず最初に数名の職員にどんな風にマスターを寝付かせるのか実演する事になる。

 

「――では、儂の武勇伝を聞かせてやろうかのぉ!」

「はいアウト」

 

「なぜじゃぁ!?」

「めっちゃ気になる」

「それな」

「俺だったら途中で寝れなくなるな」

 

 武勇伝を語るのが禁止になると、戦闘向けのサーヴァントの多くが落ちる事になった。

 

「では、酒盛りを――」

「18歳未満の飲酒は禁じられております」

 

「このマスター好みの体型で誘惑を――」

「風紀の乱れを感じました! 拘束します!」

 

「何で先の審査を通したんですかぁ!?」

 

 

 問題ありそうなサーヴァントが弾かれていく中、一足先に最終審査に向かった者達がいた。

 

「……大丈夫なんでしょうか? あの方達は第二審査を受けていないんですよね?」

 

「新しく召喚されたばかりのサーヴァントは、ちゃんと知りたいから先に通して欲しいって言われちゃったからね。まあ、万が一の時は対処出来るだけのサーヴァントが控えてるし、大丈夫だよ」

 

 時刻は夜10時……を再現したシュミレーションの中。現実の時間は午後7時なので少し早い時間ではあるがカルデアのサーヴァント相手に苦労が絶えないマスターは十分な睡魔を感じていた。

 

「失礼します、マスター」

 

 寝間着に着替えて何時でも寝る準備の出来ているマスターの部屋に入ってきたのはアサシンクラスのサーヴァント、シャルロット・コルデー。

 

「ああ、ごめんね。こんな事に付き合わせちゃって」

「いえいえ、私の様な村娘にはこれ位が丁度良いんですよ」

 

 モニターから見えるサーヴァントの姿に、僅かながら緊張が走った。

 

 シャルロット・コルデーは暗殺の天使と呼ばれ、歴史に名を残した暗殺者だ。その功績は入念に練られた計画通りに事を運べた訳ではなく、確かな経験があった訳でもない。

 

 偶然、幸運、驕り……全ての可能性が彼女に味方した結果、唯の村娘であった筈の彼女は、カルデアに召喚される英霊となり得たのだ。

 

「それでは、マスターの安眠の為、朗読をさせて頂きますね?」

「うん、頼むね」

 

 だから、決して目で見たままの彼女を信じてはならない。

 

「――小鳥の囀り、心地の良い日差しと共に」

 

 しかし、心地の良い声で紡がれる音読に、マスターの瞼は、徐々に重くなる。

 

 監視している職員も、流石に自分のマスターには危害を加えないだろうと気を緩ませ始めていた。

 

「――マスター」

 

 ――瞬間、抜き見の包丁が彼の前に突き付けられ、ほんの少し目を見開いた。

 

「起きてて下さらないと、他の方の審査が行えないのでは?」

「あー……そうだったね」

 

 一度欠伸をして返事をしたマスターとは違い、カルデア職員は少し遅れて焦った。

 誰も彼女が包丁を出す前兆が見えなかったのだ。

 

「うんうん、流石は我がカルデアのマスター、動揺してないね」

「それはそうですけど、あの起こし方は心臓に悪いです!」

 

「まぁ、彼女なら安心じゃないかな? 取り敢えず合格にしておこうか」

 

「あれ観た後でそんなこと言っちゃうダ・ヴィンチちゃんって、やっぱり天才だけど馬鹿だと思う」

 

「ふふ、日常の間に潜むスリル、いいじゃないか」

 

『いやはや、事前に情報を聞いていなければ暗器を抜く暇も無かったでしょう。不意を突く事に関しては、恐るべき才能の持ち主です』

 

 隠れて護衛に付いていた呪碗のハサンに高く評価されながら、彼女は部屋を後にした。

 

 

 

「――こうして、騎士とお姫様は幸せに暮らしました! めでたしめでたし!」

「ありがとう、ガレス」

 

「えへへ……」

 

 頭を撫でられて嬉しそうに笑う少女だが、当初の目的が達成されていない事は彼女自身、気付いていない。

 

(別に本読みのテンポが悪い訳じゃないけど、感情たっぷりに、声量も上げて読むから全然眠れない……)

 

 満足げに笑って廊下へ小走りで行った彼女に、敢えて指摘するのも意地が悪いだろうと何も言わずに見送った。

 

『次で最後だよ。決して油断はしないでね』

「うん、分かってるよ」

 

 最後に残ったサーヴァント……その狂気と異常性は召喚して直ぐに察した。

 

 狂愛、執着……それが自分に向けられようと平然としていられる事こそが、カルデアのマスターたる証なのかもしれない。

 

「マスター、ふふふ、久しぶりね」

「うん、こんな事で呼び出してごめんね」

 

「あら、なんで謝るの? 私、マスターに会えて嬉しいわ」

 

 微笑むサロメは赤と金の下着の様な踊り子衣装で現れ、その手にはドクロ型の水晶を持っている。

 

 己の叔父である王を誘惑し、愛しい聖人の首を手に入れた伝承を持つ彼女が、ヨカナーンと呼び手放さないドクロ……それが本来はなんであったかは想像に難しくないだろう。

 

「今日はマスターを寝かし付ければいいのね? ふふふ、一人で寝れないなんて、マスターは可愛いね?」

「いや、寝れない訳じゃないけど……」

 

 事情が正しく伝わっていない様なので補足しようとしたが、彼女が口の前で人差し指を立てたのでそれ以上は言わない事にした。

 

「一応……確認するけど、俺に触ったら終了だからね?」

 

「マスターはイケずね。良いわ、私に任せて」

 

 サロメはヨカナーンの口を開くと、中から紙を取り出し、2つのドクロをベッドの両隣に移動させた。

 

『『じゃあ、読むね?』』

 

(これは……)

 

 左右で浮いているドクロから声が聞こえる。耳元で立体的に彼女の声が響き、体が自然と睡眠する準備を始めた。

 

(ASMRみたいだなぁ……)

 

『好き、大好き、愛してる』

 

『顔が好き、声が好き、唇が好き』

 

『レイシフトする貴方が好き、覚悟を決めた瞳が好き、指示をくれる声が好き』

 

『美味しそうに食べる口が好き、どんな話も聞いてくれる耳が好き、楽しそうに笑う口が好き』

 

『困った時にはにかむ口が好き、私に合うと手が隠す首が好き、そんな私から逃げずに真っ直ぐ見つめてくる貴方が好き』

 

『ずっと貴方の魔力を感じられる隣が好き、サーヴァントと一緒に厳しい鍛錬をする貴方が好き、狂ったサーヴァントに怯まない貴方が好き』

 

『眩しいくらいの善性が好き、困難に苦しむ姿が好き、乗り越えた先の笑顔が好き』

 

『でもやっぱり一番は……貴方の首が好き』

 

 

 

「危険な女性に好かれていますね、マスター。ええ、仕える騎士としてはやめて頂きたいですが、同じ男性としては羨ましいなと」

「今の言葉、ガレスとアルトリアにチクろうか?」

 

「ハッハッハッハ、冗談ですよ」

 

「あー! もうちょっとでマスターの首、取れたのに!」

 

 ガウェインに羽交い締めにされたサロメは悔しそうにジタバタしているが、まるで動かないのでやがて諦めた。

 

「サロメ」

 

「むー……私、今は機嫌が悪いの」

 

「今度は一緒に沢山話そう」

 

 首を取ろうとした自分から他のサーヴァントに守らせておいて、何の躊躇いもなくまた会おうと誘うマスターに彼女の顔は赤くなった。

 

「…………マスターの命知らず……ますます、好きになっちゃう……」

 

 そして、彼女は連行された。

 

 その後、マスター端末は帰ってきた。

 職員の誰かが「て言うか、部屋は防音だしイヤホン付けなくてもいいんじゃね?」と言った結果、イヤホンを使わなくても立体的に聞こえる様に改造されて帰ってきた。

 

 しかし、その使用容量は8GB程増していた。

 

「問題がありそうなのは取り除いたけど、サーヴァント達が君の為にと語り、歌い、喋った物さ。大事に使ってね」

「うん、勿論」

 

 受け取ったマスターは早速その日の夜に再生した。最初はやはり愛すべき後輩、マシュ・キリエライトの物から――

 

『――先、輩……んっ、っちゅん……はぁ……んん、ふはぁ……ん……こ、これで良いんでしょうか……』

『うんうん、良いよマシュ! マスター君はもうメロメロさ! さあ、続けて!』

『は、はい……失礼しますね…ん、んん……ちゅう……んぁ』

 

 驚き、困惑…………端末を握りしめダ・ヴィンチちゃんの元に駆け出すまで、そんなに時間は要らなかった。

 

「ああ、あれかい? どう、興奮したかい?」

「いや、マシュに何させてるの!?」

 

「あれー? おっかしいなぁ、マシュが君の端末からこんな感じの音フェチ音声があったから同じ物を取りたいってリクエストされたんだけど? 実際に君の端末の30曲中、生活音と自然音は最初の10曲だけで、あとは全部耳舐めだったよ」

「え……」

 

 それを聞いたマスターは、端末を渡した人物を思い出し、笑った。

 

「……ドクター……」

 

「……だろうね。アイドル物があったからそんな事だろうと思ったよ」

 

 それでどうする、戻す? と聞いて来たダ・ヴィンチにマスターは首を振った答えた。

 

「ドクターの事、忘れたくないけど、今はこの端末があれば十分だよ。ドクターのくれたこれが、サーヴァント達との絆を覚えててくれるなら、それでいい」

 

 ダ・ヴィンチはその言葉に満足げに頷いた。

 

「……じゃ、代わりにマシュの朗読の音声を入れておくね?」

「最初からそうしてよ」

 

「ふふふ……天才のお遊びさ」

 

 

 

 

 

「所で、今のマシュの耳舐め音声のメイキング動画があるんだけど……マナプリズム1000個でどうだい?」

 

 

[買います]

 

[買います]

 

 




またこの外伝を投稿する日が来るのか、それ自分も分かりません。
ジャックちゃんとのデュエルも書きたいです。


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遊戯王×Fate
何!? 遊戯王のヤンデレとは、ユベルの事ではないのか!?


今回は我慢出来ずに遊戯王のお話。

※オリジナルカード注意
※一応ルールとか効果は分かりやすく書いたつもりですが、分からなければすいません。
※ルールや効果ミスは感想で指摘していただけると嬉しいです。


 俺は不藤十矢(フトウジュウヤ)、現在は我が家のベットでゴロゴロしつつスマフォを弄っている。

 

「ふぅ……AP全部使ったな……よーし! デュエルするか!」

 

 Fate/Grand Orderのイベントが始まり、取り敢えずAPが無くなるまでプレイした俺は、遊戯王のデッキを2つ持って1人デュエルを開始した。

 ショップに行って誰かとデュエルしたいが、残念ながら今日は平日、時刻は午後6時。出かけるには少々遅い時間だ。

 

「……折角新しくデッキ組んだってのに、まだ対戦してないんだよな……あー! 何で一昨日の掃除サボったんだよ俺!?」

 

 現在、親に叱られショップへの外出禁止と言われた。

 俺のよく行くショップの店長は親の知り合いなので、行けばすぐにバレる。

 隣街まで行けば別の店があるが、そこそこ遠い為、気軽に行けない。

 

「攻撃宣言時、ミラフォ……してもペンデュラム効果で破壊を無効だから意味ないなー……うーん……負けか」

 

 スマフォのライフ計算アプリからピーッと鳴り試合終了。

 

「っだあー! 誰でもいいから相手してくんないかなー!? 何なら俺に勝ったら何でも言う事きいちゃうよ!?」

 

 学校にカードゲームをする友達はいない。

 カードゲームをやってる事がバレたら他の生徒からオタク扱いされるのでやっていても隠しているんだろう。

 

「はぁ……寝よ」

 

 夕食の時間になれば起こしに来るだろうと納得し、俺は1人眠りに着いた。

 

 

 

「ま・す・た・ぁ?」

 

 俺は直ぐ耳元で声を聞いて驚き飛び起きた。

 

「うぁ、清姫!?」

 

 目の前にいる存在に俺はまだ寝ぼけているのかと目を擦る。

 角の様な髪飾り、白い髪に炎の模様の黒い着物。

 扇子を握っており、こちらを見て笑っている美しい女の子は、間違いなくFate/Grand Orderに登場するバーサーカークラスのサーヴァント、清姫だ。

 

「約束の通り、相手して差し上げます」

「……約束?」

 

 約束、以前になぜ清姫がいるのかも分からない。 

 

「デュエルで勝てたら何でも言う事聞くって、言いましたよね?」

 

「デュエル! デュエルか!?」

 

 デュエルとなれば優先すべき物は直ぐに決まった。

 

(この場所やら清姫が何故いるかなどのこの際どうでも良い! デュエルだ、デュエル!)

 

 使ったことなど無いが、何度も見た事がある腕につけられた装置を起動する。

 

 デュエルディスク。

 遊戯王の漫画やアニメの登場人物達が当たり前の様に使用する、ソリッドビジョンシステムが内蔵された機械に俺は手元にあった唯一のデッキを差し込んだ。

 

「デュエルディスク、起動!」

 

 デッキが自動的にシャッフルされる。

 タッチスクリーンが付いており、フィールドの状況や、デッキ、手札の枚数が確認できるARC-Vのディスクの様だ。

 

 終わるとデッキの上の5枚のカードが突き出る。俺はそれを指で掴み、引いた。

 

「マスターが私との遊戯に全力を注いでいる……! では、私も本気で行きましょう……!」

 

 あちらも嬉しそうにデュエルディスクを取り出すかと思ったが、宙に浮く四角い物体の上にデッキを置くとデッキが吸い込まれていき、その四角い箱からカードの形をした光の様な物が清姫の前に5枚現れた。

 

「バディファイトのルミナイズやヴァンガードで出てきたのと同じシステムか!」

 

 スクリーンに何か表示される。どうやら俺は後攻の様だ。

 

「「デュエル!!」」 

 

 

 

 ジュウヤのLP(ライフポイント):8000

 清姫のLP:8000

 

「先攻は貰います……! 先攻はドローは出来ませんのでスタンバイフェイズ! 発動するカードが無いのでメインフェイズへ!」

 

 清姫は一番右にあるカードに扇子を向ける。

 

「永続魔法、【道成寺ノ呪鐘楼(どうじょうじのじゅしょうろう)】を発動します! このカードの発動と効果は無効になりません!」

 

 発動と同時に、俺の頭上に巨大な鐘が俺の頭上に出現する。

 永続魔法、フィールドに残り続けるこのカードは存在する限り効果を発揮し続ける。

 

「う、っぐ……!?」

 

 鐘から発せられる不快な音に、思わず耳を塞いだ。恐らく無効にされない効果の演出だろう。

 

「このカードが存在する限り、互いのプレイヤーが効果を無効にする効果か、攻撃を無効にする効果を発動する度に、効果を発動したプレイヤーのライフを半分にします」

 

「いきなりとんでもないオリジナルカード……!?」

 

 つまり、攻撃や効果を防ごうとすれば、守るべきライフが半分持っていかれる。

 

「そして、このカードに転身カウンターが3つ乗った時、私はこのデュエルに勝利します」

 

「特殊勝利条件のカード!?」

 

 遊戯王は8000で始まる相手のプレイヤーのライフをゼロにするか、相手のデッキのカードが0枚で相手がカードが引けなければ勝利する……のが普通の条件だ。

 

 しかし、特殊勝利条件はそれを行わずに勝つことが出来る……が、大抵は専用カードを豊富に含んだ専用デッキとなる。

 必要なカードが来なければ何も出来ずに負ける事もある、難しいデッキだ。

 

(しかし、あの【鐘楼】も転身カウンターも……清姫らしいな)

 

 サーヴァントとは使い魔の事だが、Fateのサーヴァントは昔の偉人やら英雄を現界させた英雄の幽霊、つまりは英霊だ。

 

 俺の目の前に立っている英霊清姫は日本に伝わる清姫伝説に登場する、安珍という名の僧を好きになり、嘘を吐いて逃げた彼を、龍になってまで追い駆け回し、最後には道成寺の鐘楼に隠れた安珍を焼き殺した恐ろしい逸話を持つ。

 転身とは、人の身から龍に変わった事を指しているのだろう。

 

(【鐘楼】に転身カウンター……だが、今の所カウンターを置くカードが無いが、どうやってカウンターを?)

 

「チューナーモンスター、【恋い焦がれる乙女】を攻撃表示で通常召喚します!」

 

 1ターンに1度のみ行える通常召喚で現れたのは、白い着物を着て、顔を三度笠で隠しているが長く白い髪が美しい乙女。

 

(レベル3のチューナーか……清姫に似てるな)

 

【恋い焦がれる乙女】

☆3 ATK1500 チューナー・効果

 

「このモンスターを召喚したターンに私は他のモンスターを特殊召喚できず、【恋い焦がれる乙女】はフィールドに1体しか存在できません。そして、このモンスターがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えれば、フィールドのカード1枚に1つ転身カウンターを乗せます」

 

 早い話が、あの【乙女】に攻撃されてダメージを喰らえば転身カウンターが置かれるが、それが出来るのは【乙女】がフィールドにいる間に1度だけ、という事だ。

 

「先攻は攻撃できません。カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

 魔法&罠ゾーンにカードが裏側で伏せられる。罠や速攻魔法ならば俺のターンに発動して効果が使える。

 

 これで清姫の手札は2枚になった。

 

 

「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズ! ……メインフェイズ!」

 

 ドローしたカードを見た後に、手札の他の5枚を見る。

 

(戦闘ダメージを与える必要のあるカードに攻撃を無効にすればライフ半減の永続魔法……ならば、伏せたカードは【聖なるバリア―ミラーフォース】の様な除去カードか、攻撃力を上げての返り討ち……展開を妨害するカードの可能性も有り得るが……)

 

「先ずはサーチだ! 俺は永続魔法、【ダイナミスト・チャージ】を発動! 発動時にデッキからダイナミストモンスターカードを1枚、手札に加える!」

 

 タッチスクリーンに候補カードが表示され、俺はその中から1枚を選んだ。

 

「俺は【ダイナミスト・プレシオス】を選択して、手札に加える!」

 

「マスターのデッキは全て把握してます。そのダイナミストデッキは、サーチ効果を持つ【プテラン】、2回攻撃と貫通、バウンス能力を持つ【レックス】、2回攻撃と直接攻撃の出来る【スピノス】、除外効果持ちの【アンキロス】の入っていない未完のデッキ。エクストラも3枚だけです」

 

 どうやら本当に俺のデッキは筒抜けの様だ。スマフォでダメージ計算していたのでもしかしたらそこから得た情報かもしれない。

 

(だが、それがどうした!)

 

「っは! 説明は負けフラグだぜ! 俺は、スケール3の【ダイナミスト・ステゴザウラー】をペンデュラムスケールにセッティング!」

 

 モンスターゾーンと魔法&罠ゾーンの間に位置するペンデュラムゾーンに、下半分は魔法カードのフレームで上半分は効果モンスターのフレームのカード、ペンデュラムモンスターを置いた。

 

(……手札にもう1体スケール6のダイナミストがいりゃあ良かったんだが……)

 

 右のペンデュラムゾーンにセッティングされた【ステゴザウラー】が俺の右に、光の柱と共に現れる。

 

「更に、【ダイナミスト・プレシオス】を通常召喚!」

 

 先程手札に加えた【プレシオス】を召喚する。

 召喚された機械仕掛けの青いプレシオサウルスは、尾の部分に付いているスクリューを回転させ、足元を覆う様な霧を出現させた。

 

【ダイナミスト・プレシオス】

☆4 ATK1700 ペンデュラム・効果

 

「【ステゴザウラー】のペンデュラム効果によって、ダイナミストは一度だけなら戦闘と効果による破壊から守られる! 

 更に【プレシオス】の永続効果! 相手フィールドのモンスターの攻撃力と守備力は俺のフィールドのダイナミストカードの数だけ100ポイント下がる! “ダウン・スチー厶”!!」

 

 着物で口元を抑えつつ、【乙女】は咳をし始めた。

 

「【ダイナミスト・チャージ】、【ステゴザウラー】、【プレシオス】の3枚で300ポイントダウン!」

 

【恋い焦がれ乙女】ATK1500→1200

 

「メインフェイズ終了、バトルフェイズ! 【プレシオス】で【乙女】に攻撃!」

 

(入ったか?)

 

「リバースカードを発動します!」

 

 伏せられていたカードがその姿を表す。

 

「トラップカード、【ドゥーブルパッセ】! 自分のモンスターへ攻撃してきたモンスターの攻撃を私へのダイレクトアタックにして、攻撃対象になっていたモンスターの攻撃力分、相手プレイヤーにダメージを与えます!」

 

「っく、そんなカードを!?」

 

 【乙女】に突進した筈の【プレシオス】だが、その巨体は消えた【乙女】の代わりに清姫に命中し、消えた乙女は俺へと火球を放った。

 

 ジュウヤのLP:8000→6800

 清姫のLP:8000→6300

 

「戦闘ではなく効果ダメージですから転身カウンターは乗りませんが【ドゥーブルパッセ】の効果で、【恋い焦がれる乙女】は次の私のターンに相手プレイヤーに直接攻撃できます!」

 

「っく……不味いな。カードを2枚伏せて、ターンエンド……」

 

 場に伏せられる2枚のカード。俺の手札は残り2枚。

 ペンデュラムモンスターはフィールドから墓地に送られた時、エクストラデッキに送られるルールを持つ。そこから再召喚が可能になるので、今はまだ準備の段階だ。

 

 

「では私のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、永続トラップ【連成する振動】を発動! 1ターンに1度、フィールドのペンデュラムゾーンのカードを選択して発動できる! 選択したカードを破壊して、1枚ドロー出来る! この効果は今は使わない!」

 

 永続トラップ【連成する振動】は発動さえしていれば相手ターンにも発動できる。

 

(だけど、まだだ。何が来るか分からない以上、モンスターを守れる【ステゴザウラー】は残しておかないと……)

 

「メインフェイズ、私は手札から【サファイアドラゴン】を召喚します!」

 

 清姫の場に、新たなモンスターが現れた。青く輝く宝石の様な二足歩行の竜。

 だが、その輝きも【プレシオス】の前では霧に覆われ失われてしまう。

 

【サファイアドラゴン】

☆4 ATK1900→1600 通常

 

「私はレベル4の【サファイアドラゴン】に、レベル3の【恋い焦がれる乙女】をチューニング!」

 

「レベル合計は、7か……!」

 

 【恋い焦がれる乙女】は3つの光の輪になり、その全てが【サファイアドラゴン】を囲むと、【サファイアドラゴン】の体は4つの光の球体へと変化する。

 

「“嘘吐きは燃え、逃げ道は絶たれ、愛は死を持って大成する!” シンクロ召喚! レベル7、【恋い焦がれる竜人】!」

 

 チューナーモンスターと、チューナー以外のモンスター1体以上をフィールドから墓地に送る事で行える特殊召喚方法の1つ、シンクロ召喚。

 墓地に送られたモンスターのレベルの合計と同じレベルのシンクロモンスターを、エクストラデッキと呼ばれるデッキから召喚するこの召喚法は既に8年以上経過しているが、それ以前とは比べ物にならない程デュエルの展開を大きく変えた。

 

 現在はチューナーを必要としないエクシーズ召喚が蔓延っているが、それでもいまだ強力な効果が多いモンスターだ。

 

「【恋い焦がれる竜人】……!」

 

 フィールドに現れたのは【恋い焦がれる乙女】……だった少女に竜の尻尾と翼が生え、着物も大きな物へと変化しているモンスターだった。

 

【恋い焦がれる竜人】

☆7 ATK2600→2300 シンクロ・効果

 

「攻撃力……2300!」

 

(攻撃力が【プレシオス】を上回った! やばい、【恋い焦がれる乙女】と同じ効果なら、カウンターを置かれる!)

 

「バトルフェイズ! 【恋い焦がれる竜人】は、相手フィールドのモンスターの数が1体だけなら自身の効果でダイレクトアタックできます! 更に、与えたダメージが2000以上なら、転身カウンターを2つ乗せ、表側表示で存在する限り、その効果を使用できなくなります!」

 

「嘘だろ!? ダイレクトアタック成功で、カウンターを2つ!?」

 

「十矢様に攻撃です! “転身火生三昧”!!」

 

 【恋い焦がれる竜人】から放たれた炎に、俺は焼かれ、飲み込まれた。

 

「っくうぅぅ……!!」

 

ジュウヤのLP:6700→4400

 

【道成寺ノ呪鐘楼】転身カウンター0→2

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

 嬉しそうに宣言した清姫、なかなか厳しい状況に俺もワクワクしてきた。

 

「ならエンドフェイズに【連成する振動】の効果! 【ステゴザウラー】を破壊して、デッキからで1枚ドローする! そして【ダイナミスト・チャージ】の第2の効果! 1ターンに1度だけ、フィールドからエクストラデッキに送られるダイナミストを手札に戻す! 今破壊された【ダイナミスト・ステゴザウラー】を手札に!」

 

「無駄の無い動きですね」

 

 清姫は手札が1枚、伏せカードが1枚。

 

 こちらは手札は4枚、ドローフェイズと【連成する振動】の効果を合わせれば6枚、十分反撃できそうだ。

 

 

「これから巻き返す! ドロー! スタンバイフェイズ、メインフェイズ! 手札から【ステゴザウラー】を再びセッティング!」

 

 もう一度現れた【ステゴザウラー】。だが、再び破壊される。

 

「【連成する振動】を発動! 【ステゴザウラー】を破壊して1枚ドロー! 【ダイナミスト・チャージ】の効果でエクストラデッキへ送られる【ステゴザウラー】を回収!」

 

 手札を端から端まで確認して、カードを選ぶ。

 

「俺は、速攻魔法【サイクロン】を発動! 【道成寺ノ呪鐘楼】を破壊! これで転身カウンターも消え去る!」

 

「甘いですわ! 【道成寺ノ呪鐘楼】は破壊され、墓地に送られた時、デッキから同名カードを手札に加えるか、手札の同名カードを発動して転身カウンターを1つ乗せる効果のいずれかを選んで発動できます! 私は後者を選択して、【道成寺ノ呪鐘楼】を発動します!」

 

【道成寺ノ呪鐘楼】転身カウンター0→1

 

 結果的に、清姫の手札とカウンターを1つずつ減らしただけか……

 

「だが、まだまだ! 俺は手札から【強欲なウツボ】を発動! 手札の水属性モンスター2体、【スクリーチ】と【海皇龍 ポセイドラ】をデッキに戻して、シャッフル! その後、カード3枚引く! ドロー!」

 

 ドローに次ぐドロー。俺は更に動き出す。

 

「俺は、スケール6の【ダイナミスト・ブラキオン】とスケール3の【ダイナミスト・ステゴザウラー】でペンデュラムスケールをセッティング!

 これで、レベル4と5のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 遂に2枚のペンデュラムモンスターがペンデュラムゾーンを埋めた。

 

「“波の様に揺れ動け、魂の咆哮!!” ペンデュラム召喚! 現れよ、俺のモンスター達!」

 

 フィールドに左右端にあった光の柱の間に穴が開き、そこから青い光が2つ飛び出した。

 

「レベル4、【ダイナミスト・プレシオス】! レベル5、【機海竜プレシオン】!」

 

【ダイナミスト・プレシオス】

☆4 ATK1700 ペンデュラム・効果

 

【機海竜プレシオン】

☆5 ATK2300 効果

 

「更に通常召喚! 【スクリーチ】!」

 

【スクリーチ】

☆4 ATK1500 効果

 

(本当なら【スクリーチ】の効果発動の為にワザと攻撃力が上の【恋い焦がれる竜人】に攻撃したいが……)

 

「これでどうだ! 【機海竜】の効果発動! フィールドの水属性モンスター、【スクリーチ】をリリース! 表側表示の相手モンスターを選択して破壊する! 【恋い焦がれる竜人】を選択だ!」

 

「チェーンしてトラップ発動、【亜空間物質転送装置】! 自分フィールドのモンスターをゲームから除外、エンドフェイズに帰還させます! 【恋い焦がれる竜人】は除外され、破壊効果も対象を失い不発!」

 

 チェーンとは、相手や自分が発動した、もしくは発動された効果に重ねて、カードを発動する事だ。

 今の場合は俺の【プレシオン】の選択したモンスターを破壊する効果にチェーンして、清姫は俺が選んだモンスターを除外する効果を発動した。

 その後、効果を順番に処理するのだが、この時最初に効果が発揮されるのは後に発動した効果。よって、俺の破壊効果より先に対象だった【竜人】が除外され、俺は破壊できず、発動の為に墓地に送った【スクリーチ】も戻ってこない。

 

「っく……!」

 

(クソ! 清姫のライフは6300……俺のモンスター3体のダイレクトアタックで削れるのは1700×2と2300で5700……600残る! 手札にもうカードは無い! しかも、エンドフェイズに戻ってくる【恋い焦がれる竜人】はフィールドから離れたのでカウンターを置く効果を使用できる……! 

 だが、俺のフィールドも盤石の布陣……【恋い焦がれる竜人】は相手モンスター1体のみならダイレクトアタック出来るが、俺のモンスターは3体……更に、【プレシオス】2体の効果で攻撃力も守備力もダウンしている)

 

「バトルだ! 【プレシオス】2体、【プレシオン】の順番で攻撃だ!」

「受けましょう」

 

 3体の機械竜から放たれる波の様なブレスを、清姫は黙って受けた。

 

清姫のLP:6300→4600→2900→600

 

「ですが、墓地の【恋い焦がれる乙女】の効果! ダイレクトアタックを受けたバトルフェイズ終了時、フィールドに【鐘楼】があるので特殊召喚出来ます!  守備表示で特殊召喚!」

 

【恋い焦がれる乙女】

☆4 DEF1000→0 チューナー・効果

 

 再び現れた三度笠の少女。【プレシオス】に怯えてか、三度笠を抑えてしゃがんでいる。

 

「……ターンエンド」

「エンドフェイズに、【恋い焦がれる竜人】が帰還します。この効果は特殊召喚ではありませんので、【乙女】のデメリットに邪魔されません」

 

【恋い焦がれる竜人】ATK2600→1600

 

 手札はお互いに0枚。2枚のペンデュラム効果でモンスターも守られているのだが、俺は何故か嫌な予感がしている。

 

 

「私のターン! ドロー!」

 

 清姫はカードを引いた。同時に目が鋭くなり、口は不敵な笑みを浮かべた。

 

「スタンバイフェイズ! メインフェイズ、【ハーピィの羽箒】を発動!」

「っ! チェーンして【連成する振動】の効果を発動! セッティングされている【ステゴザウラー】を破壊する!」

 

 発動されたカードに俺は咄嗟に【連成する振動】をチェーン発動した。

 【ハーピィの羽箒】は相手フィールドの魔法、罠カードを全て破壊する強力な魔法カードだ。

 

「ドロー! 更に【ダイナミスト・チャージ】の効果で【ステゴザウラー】は手札に!」

 

「ですがそこまでです」

 

 【ダイナミスト・チャージ】、【連成する振動】、伏せられていた【イタチの大暴発】が墓地に送られ、更にペンデュラムゾーンのペンデュラムモンスターは魔法カード扱いなので破壊され、エクストラデッキに送られる。

 

【恋い焦がれる乙女】DEF0→600

 

【恋い焦がれる竜人】ATK1600→2200

 

「ダイナミストカードが減って、攻撃力も守備力も戻ってきますね?」

 

「だが、どいつを攻撃しても俺のライフは削り切れないし転身カウンターも乗らない!」

 

 今のままでは攻撃力1700の【プレシオス】しか破壊出来ない上に、与えるダメージも500ポイント。【恋い焦がれる竜人】は2000ポイント以上の戦闘ダメージを与えなければカウンターは乗せられず、【乙女】はそもそも攻撃力が上回っていない。

 

「では、レベル7の【恋い焦がれる竜人】にレベル3の【恋い焦がれる乙女】をチューニング!」

 

「レベル合計、10……!?」

 

「“好きです、愛しています、添い遂げましょう、ニガシマセン……”シンクロ召喚。レベル10、【恋い焦がれる女竜(じょりゅう)】」

 

【恋い焦がれる女竜】

☆10 ATK0 シンクロ・効果

 

 現れたのは巨大な白い竜。体は蛇の如く長く、口から火の粉が見える。

 

「このモンスター召喚には恋い焦がれると名のつくチューナーと恋い焦がれると名のつくシンクロモンスターが必要ですが……効果は強力ですよ?」

 

「攻撃力……0?」

 

 レベル10、攻撃力0……清姫は、ヤンデレ。

 

「バトルです。【プレシオン】に攻撃! 【恋い焦がれる女竜】は戦闘では破壊されず、私は戦闘ダメージを受けません」

 

(これは、まさか……!?)

 

「【恋い焦がれる女竜】の効果。ダメージ計算終了時、戦闘を行った相手モンスターの攻撃力と【恋い焦がれる女竜】の攻撃力の差、その数値が相手モンスターの方が多い場合、1000ポイント毎に転身カウンターをフィールドのカードに乗せます」

 

「ぷ、【プレシオン】の攻撃力は……2300……」

 

「転身カウンターは2個、【道成寺ノ呪鐘楼】に置かれます♡」

 

 清姫がニッコリと笑ったと同時に、俺の頭上の鐘楼が落ちてきた。

 

『この瞬間、私の勝利が決定しました』

 

「熱っ!?」

 

 どうやら鐘楼ごと燃やされている様だ。スクリーンにはYou loseと表示されている。

 

『では、デュエルに勝ったので、1つ主に頼み事をさせて頂きます』

 

「な、なんだ?」

 

『私の望みは1つだけ……』

 

 

『マスターとの、結婚です』

 

 

 

 その後、過程とか色々すっ飛ばして俺は清姫と結婚した。

 

「さあ、デュエルだデュエル!」

 

「……えぇ……お相手致します……旦那様」

 

 

 

「マシュさん……助けてくださいまし……」

 

「……先輩、清姫さんがグッタリするぐらいデュエルしてるんですか……」

 

 

 好きな人と一緒にいられるって素晴らしいなー!

 




デュエルバカ大歓喜END。
作者も彼女できたら1日中デュエルの相手をしてもらいたいです


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この小説の原作は遊戯王では無い(無言の手刀)

清姫との婚約届を、リ・コントラクト・ユニバース!


 

 

「――確かに、俺は負けた。しかし、デュエルはマッチ戦だ!」

 

 鐘楼に閉じ込められていた俺、武動十矢は叫んだと同時に開放された。

 既に15枚のサイドデッキからカードを取り出して、デッキの中のカードと入れ替えている。

 

「な――!?」

「さあ、もう一戦だ! 清姫!」

 

 ノリでそんな事を言ったが、結局はもっとデュエルがしたかっただけだったりする。

 

 

 

 その後、俺は清姫と2戦した。

 

「【ブラックホール】!! 全モンスターを破壊!」

 

「フィールドががら空きに……!」

 

「ペンデュラム召喚! 【リミッター解除】、3体の一斉攻撃!」

 

 決して簡単ではなかったが……

 

「【海皇龍 ポセイドラ】の効果、特殊召喚成功時、魔法・罠を全て手札に!」

 

「そ、そんな……破壊じゃないから【鐘楼】の効果が使えません……」

 

「【ポセイドラ】で【恋い焦がれる乙女】に攻撃! “インヴェーション・キングダム”!」

 

 なんとか2勝した。

 

 

 

「そ、そんな……」

 

「っしゃあ! 勝ったぞぉ!」

 

 俺は2連勝を喜んでいるが、清姫の落ち込み具合が半端じゃない。よっぽど勝ちたかったんだろう。デュエリストとして、尊敬できる闘争本能だ。

 

「いいデュエルだったよ! ありがとう!」

「はい……マスターが満足なら私も嬉しいです……」

 

 その言葉を最後に、清姫は消滅してしまった。

 

「え……? やべえ! まさかコレ、闇のゲームだったのか!?」

 

『違う。ただ退場しただけだ』

 

 驚く俺の耳に何処からか謎の声が聞こえてくる。

 

「誰だ!」

 

『俺については気にするな。そら、次の相手の登場だ』

 

 謎の声の正体が明かされる前に、俺の前に現れたのはシールダーのサーヴァントにして、FGO後輩ヒロイン、マシュ・キリエライトだった。

 

「マシュ?」

「先輩! 私が相手です!」

 

「……なんだか分からないが、デュエルなら受けるしかないな!」

 

 俺はデュエルディスクを構えた。オートシャッフル機能が動き出し、5枚のカードを引き抜いた。

 

 対するマシュは、普段使っている黒い大盾がディスクになっているらしく、宙に浮いた大盾からカードをドローした。

 

 俺のディスクには、先攻と表示されている。

 

「「デュエル!」」

 

 

 ジュウヤのLP:8000

 マシュのLP:8000

 

「1ターン目はドローは無い! スタンバイフェイズ、メインフェイズ! 俺はスケール3の【ダイナミスト・ステゴザウラー】とスケール7の【ヨコシマウマ】をペンデュラムゾーンにセッティング!

 更にヨコシマウマの効果で、マシュのモンスターゾーンを1つ封じる!」

 

「1つ封じた所で、痛くも痒くもありません」

 

(そうなんだよなー)

 

 俺の右に【ステゴザウラー】、左に【ヨコシマウマ】が光の柱に包まれて現れる。

 

 【ヨコシマウマ】がイッシシと笑うと、マシュのモンスターゾーンの1つにシマウマが現れ寝始め、使用不可能となった。

 

「さて、これでレベル4から6のモンスターが同時に召喚可能! “波の様に揺れ動け、魂の咆哮!” ペンデュラム召喚! 現われろ! 俺のモンスター!」

 

 2つの柱の間から、光が1つ飛び出した。

 

「レベル5、【ダイナミスト・ブラキオン】! 更に通常召喚、チューナーモンスター、【SR(スピードロイド)三つ目のダイス】!」

 

【ダイナミスト・ブラキオン】 

☆5 ATK2000 ペンデュラム・効果

 

【SR三つ目のダイス】

☆3 ATK300 チューナー・効果

 

「いきなりですか!」

 

「行くぜ、俺はレベル5の【ブラキオン】にレベル3の【三つ目のダイス】をチューニング! “竜の息吹は風を呼び、輝き纏って星となる!” シンクロ召喚! 飛翔せよ! レベル8、【スターダスト・ドラゴン】!」

 

【スターダスト・ドラゴン】

☆8 ATK2500 シンクロ・効果

 

 2体のモンスターの同調によって現れたのは星屑の如く輝く白き龍。

 自身の身を犠牲にして、破壊を無効にする効果を持つ。

 

「ペンデュラムモンスターである【ブラキオン】は墓地ではなくエクストラデッキに、【三つ目のダイス】は墓地に行く! カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 使用したのは5枚のカード。先攻1ターン目で手札を全部使ったのは流石に痛い。

 

 

「行かせてもらいます、ドロー! スタンバイフェイズ、メインフェイズ!」

 

 あちらは手札6枚。果たしてどう動くか……

 

「フィールド魔法、【霊脈拠点】を発動します! このカードの持ち主は1ターンに2枚まで、手札のカードを選択して見せる事で、聖晶カウンターをこのカードに乗せ、その後選択したカードを墓地に送ります。

 お互いのプレイヤーは乗っているカウンターを1つ取り除いてライフを1000ポイント払う事で、墓地にカードが送られた場合、そのカードをゲームから除外出来ます」

 

 フィールド魔法が発動され、俺達の足元にガチャ画面で見た事のある魔法陣と盾が出現し、光を放っている。

 

 またオリカ……しかし、相手でも使えるフィールド魔法か。聖晶カウンターはガチャに使う聖晶石の事だろうし、取り除いたらなにか面倒な事が起きそうだ。1000ライフもなかなか重いし、なるべく取り除かない様に――

 

「私は手札の【E・HERO シャドー・ミスト】と【Em トリック・クラウン】を選択してカウンターを2個乗せます。そし――」

「――【霊脈拠点】効果で2000ポイント払って両方共除外する!」

 

ジュウヤのLP:8000→6000

 

 ――できなかった。

 なんだ、あの絶望的に相性の良いガチカード共は!?

 

「むぅ……やはり除外しますか……」

「当たり前だ!」

 

 【シャドーミスト】は墓地に送られればデッキから【エアーマン】とか【ブレイズマン】とか持ってくるに決まってるし、【クラウン】は1000ポイントのダメージで墓地から蘇生出来るレベル4で、ダメージを受けたら墓地から蘇る【サウザンドブレード】と一緒に大会で暴れたカードだ。

 

「ですが、【霊脈拠点】の効果発動の条件が整いました! このターンに取り除かれた聖晶カウンターの数だけデッキを3枚めくって、その中のレベル5以下のモンスターカードか装備魔法カードを取り除かれたカウンターの数だけ特殊召喚、もしくは手札に加えます!」

 

「ガチャだった! マジでガチャだった!」

 

 取り除かれたカウンターは2個、よって6枚めくって2枚手札に。

 

「1枚目、通常魔法【テラフォーミング】

 2枚目、装備魔法【妖刀竹光】

 3枚目、……レベル3モンスター【大盾の少女】

 4枚目、レベル5モンスター【シャドール・ビースト】

 5枚目、レベル4モンスター【ブリキンギョ】

 6枚目、レベル3モンスター【大盾の少女】! 私は2体の【大盾の少女】を特殊召喚します! 残りのカードはデッキへ!」

 

「何!? FGOのガチャは爆死が基本では無いのか!?」

 

 ボケておいてなんだが、自分で封入率(デッキの中身)を弄るんだから、そりゃあ当たるんだろうな。

 

 マシュのモンスターゾーンに現れたのは、マシュに似た、白衣姿で大盾を持つ少女だった。

 

【大盾の少女】

☆3 DEF1900 効果

 

「私は、2体の【大盾の少女】でオーバーレイ!」

 

 現れた【少女】達は盾を掲げ、オレンジ色の光となる。

 その光はやがて宇宙空間の様な光の渦に吸い込まれ、新たなモンスターが誕生する。

 

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! “決意が支え、心が立つ! 思いは硬い盾となる!” エクシーズ召喚! ランク3、【大盾の女戦士】!」

 

【大盾の女戦士】 

★3 DEF3000 エクシーズ・効果

 

 同じレベルのモンスターを素材にする事で可能になるエクシーズ召喚で現れたのは、先の【少女】同様大きな盾を持ったマシュの様なモンスターだが、その瞳には確かな闘志が見え、服装も白衣では無く無骨な黒い鎧だ。

 

「これが私。マスターと戦うと決めた、私のモンスターです!」

 

 ……凄い気合だ。

 

「だが、守備表示でどうする? 超重武者の様にそのまま攻撃できるのか?」

 

「いえ、出来ません……ですが、これならどうですか! 通常召喚、【小盾の少女】!」

 

【小盾の少女】

☆4 ATK1000 効果

 

 現れたのはマシュと同じ髪型の金髪少女。腕には人の頭程度の大きさの盾を装着している。

 

「【小盾の少女】の効果発動! 1ターンに一度、私の場の表側守備表示のエクシーズモンスターを選択し、選択したモンスターの守備力をエンドフェイズまでその攻撃力に加えます!」

 

「何だと!?」

 

【小盾の少女】ATK1000→4000

 

 不味い、【スターダスト】を上回った!

 

「バトルです! 【小盾の少女】で【スターダスト・ドラゴン】に攻撃です!」

 

 ……【三つ目のダイス】には墓地から除外して攻撃を無効にできる効果がある。だが、ここはあえて使わない。

 

ジュウヤのLP:6000→4500

 

「……っく!」

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド! 【大盾の女戦士】は、相手プレイヤーのメインフェイズにエクシーズ素材を取り除く事で、相手フィールドの全てのモンスターを攻撃表示にしてこのモンスターとのバトルを強制させる効果と、戦闘では破壊されない効果があります! 更に、ORU(オーバーレイユニット)である【大盾の少女】はエクシーズ素材として取り除かれた場合、場の私のモンスター全ての守備力をターンの終わりまで1000ポイントアップさせます!」

 

「【小盾】へのアフターケアも万全か……」

 

「お互いに手札0枚、エクストラデッキにはペンデュラムモンスターが1体。先輩は完全に詰んでいます!」

 

「――それはどうかな?」

 

 アニメだったらカッコーンの効果音が鳴る程のドヤ顔を浮かべた。

 

「何か、有るんですか?」

 

「マシュの【小盾】の攻撃力が元に戻る前に、リバースカードオープン! 【裁きの天秤】! このカードは俺のフィールドと手札の合計枚数が相手フィールドのカードより少ない時発動できる!

 俺のフィールドはこのカードとペンデュラムゾーンの2枚の合計3枚! マシュはモンスター2体とリバースカード2枚、そしてフィールド魔法1枚の合計5枚! その差、2枚をドローする!」

 

 強力なドローカードだが、あまり温存しすぎると、ドローのタイミングを無くしてしまう。

 

「ドロー! そして【小盾】の攻撃力は元に戻る!」

 

【小盾の少女】ATK4000→1000

 

「手札を補充しましたか……改めて、ターンエンドです!」

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 ……正直厳しい。【大盾の女戦士】は効果を使えば守備力4000の強制戦闘持ちだし手札に除去カードは一応、あるにはあるが……

 

「……スタンバイフェイズ、メインフェイズ!」

「永続トラップ、発動します! 【戦闘命令(バトルオーダー)】! 相手プレイヤーはフィールドに表側表示のモンスターがいなければ、メインフェイズ1に魔法&罠ゾーンにカードをセット出来ず、バトルフェイズを行えません!」

 

 なんて相性の良いオリカ! これじゃあ、モンスターを出さずバトルフェイズを行って、メインフェイズ2でモンスターを壁に出してターンエンドが出来ない! モンスターをセットしても、【大盾の女戦士】の効果で表側表示にされるし……

 

「だが、まだ望みはある! 

 ペンデュラム召喚! 手札から【ダイナミスト・プレシオス】、【ダイナミスト・ステゴザウラー】! そしてエクストラデッキから現われろ! 【ダイナミスト・ブラキオン】!」

 

【ダイナミスト・プレシオス】

☆4 ATK1700 ペンデュラム・効果

 

【ダイナミスト・ステゴザウラー】

☆4 ATK1600 ペンデュラム・効果

 

【ダイナミスト・ブラキオン】

☆5 ATK2000 ペンデュラム・効果

 

(【ステゴザウラー】には、他のペンデュラムモンスターが戦闘を行ったダメージ計算後、戦闘を行ったモンスターを2体まとめて破壊する効果がある! 【プレシオス】の効果と【ブラキオン】で反射ダメージを抑えて、破壊する!)

 

【小盾の少女】ATK1000→500

 

【大盾の女戦士】DEF3000→2500

 

「メインフェイズを終了したい!」

 

「なら【大盾の女戦士】の効果発動です! ORUを1つ取り除き、相手モンスターの表示形式を攻撃表示に! その後、相手プレイヤーは攻撃可能な自分のモンスターがフィールドに存在し、このモンスターがフィールドに存在する限り、【大盾の女戦士】に攻撃しなければならない! 更に取り除かれた【大盾の少女】の効果発動! 私のフィールドのモンスター全ての守備力をこのターンの間だけ1000ポイントアップさせます!」

 

【大盾の女戦士】DEF2500→3500

 

「バトルフェイズ! 【ダイナミスト・ブラキオン】で【大盾】に攻撃! “ダイナミック・ミストターボ”!」

 

 霧や蒸気を体から発しながら、突進を繰り出す自身の3倍程の大きさの【ブラキオン】を【大盾の女戦士】はその盾で微動だにせず受け止めた。

 逆に、止められた【ブラキオン】の首は俺の頭上まで返ってきて、そこから発せられた蒸気の熱が俺の体を焼く。

 

ジュウヤのLP:4500→3000

 

「あっつ! 

 だがこれで【ステゴザウラー】の効果発動! 他のペンデュラムモンスターが相手モンスターと戦闘を行ったダメージ計算後、その2体を破壊する! 【大盾の女戦士】は、効果による破壊は防げない! “ペンデュラム・ブラスト”!」

 

 【ステゴザウラー】の背中のトゲ部分が分離、発射され、【ブラキオン】の頭を貫き点滅を始める。

 【ブラキオン】は【大盾の女戦士】の盾に食い付き、そのまま【ステゴザウラー】のトゲが大爆発を起こした。

 

「っく……ですがこの瞬間、私はトラップカード、【スパルタディフェンス】を発動します! 私のモンスターを守備表示にし、攻撃力を0にする代わり、その数値分このターンの間だけ守備力がアップします!」

 

 【小盾の少女】の元々の守備力は1000、【大盾の少女】の効果で1000ポイントアップしてて、【スパルタディフェンス】の効果で更に1000ポイントアップ、【プレシオス】の効果で400ポイントダウンして……

 

【小盾の少女】DEF1000→2600

 

「構うか! 【プレシオス】で攻撃! “デーボス細胞破壊プログラム”!」

 

「技名が丸パクリじゃないですか!」

 

 【プレシオス】の口から虹色の光が放たれるが、【小盾】の腕の盾で防がれ、まるで効いた様子は無く、逆に盾で反射された光が俺を襲う。

 

ジュウヤのLP:3000→2100

 

「【ステゴザウラー】の効果で戦闘を行った2体を破壊!」

 

「うぁ……!」

 

 再び2体を巻き込んだ爆発が起こる。

 

「【ステゴザウラー】でダイレクトアタック! “ダイナミック・ミストニードル”!」

 

「っきゃ!」

 

マシュのLP:8000→6400

 

 これでマシュのモンスターは全滅。ライフはだいぶ持っていかれたが、伏せカードは無く、フィールドには発動中のフィールド魔法と永続トラップのみ。

 

「カードを伏せて、ターンエンド!」

 

 俺の手札は再び0枚。しかし、ペンデュラムスケールは健在で、エクストラには次のターンにペンデュラム召喚出来るモンスターもいる。

 

(さあ、どう出る?)

 

 

「私のターン! ……スタンバイ、メインフェイズ! 【霊脈拠点】の効果、発動します! 手札の【シャドール・ビースト】を選択し、聖晶カウンターを乗せます! さあ、どうしますか?」

 

 ……ライフの残りは少ない。【シャドール・ビースト】は効果で墓地に送られると1枚ドローする効果があるが、カウンターを取り除いて除外すれば、マシュはデッキトップ3枚を見てレベル5以下のモンスターか装備魔法を1枚加えるから、素直にドローさせたほうがいいだろう。

 

「除外はしない!」

 

「ですよね……では、ドロー!」

 

 マシュは引いたカードを見る。表情が変わった様には見えないが……

 

「……ターンエンドです」

 

 

 チャンス……と言いたいが、手札誘発のカードの可能性もある。慎重に行きたい所だ。

 

「(だが、守りを固められる手札でも無い……)“再び揺れ響け、魂の咆哮!” ペンデュラム召喚!」

 

 フィールドに再び現れる2体のモンスター。

 

【ダイナミスト・ブラキオン】

☆5 ATK2000 ペンデュラム・効果

 

【ダイナミスト・プレシオス】

☆4 ATK1700 ペンデュラム・効果

 

「バトルフェイズ! 【ステゴザウラー】でダイレクトアタック!」

 

マシュのLP:6400→4800

 

「【プレシオス】!」

 

マシュのLP:4800→3100

 

「【ブラキオン】!」

 

マシュのLP:3100→1100

 

 連続攻撃を受けつつも、マシュはグッと耐えている。

 

「……カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 手札は0枚だが、伏せたカードはデッキからダイナミストを特殊召喚する【ダイナミスト・ラッシュ】。先のターンで伏せたカードもあるし、準備は万全だ。

 

 

「私の……ターン!」

 

 マシュが決意を固めてカードを引く。

 

「私は【E・HEROエアーマン】を、通常召喚!」

 

【E・HEROエアーマン】

☆4 ATK1800→1300 効果

 

 来たな、HEROデッキのサーチカード!

 

「召喚成功時に、効果発動! デッキからHEROと名のつくカードを手札に加えます! 【E・HERO バブルマン】を手札に!」

 

 これで手札は2枚。

 問題は先のターン、ドローで手札に加えたカード。

 

「私は、手札の【二重召喚】を選択して【霊脈拠点】の効果発動! カウンターを乗せて、【霊脈拠点】の効果! 1000ポイントライフを払って、聖晶カウンターを1つを取り除いて、除外します!」

 

マシュのLP:1100→100

 

 ライフはもう残っていない。先のターンは俺の攻撃を考慮して、効果を使わなかったのか。

 

「私は【霊脈拠点】の効果を発動! デッキの上から3枚めくり、その内の装備魔法かレベル5以下のモンスターを手札か特殊召喚します!」

 

 先の発動で、ドローカードとのコンボが出来る装備魔法カードの【妖刀竹光】が見えたが、それでは意味がない。ならば狙いはモンスターか?

 

「1枚目、……レベル5モンスター【十字盾の少女】!

 2枚目、……通常魔法【ミラクル・フュージョン】!」

 

 どちらも恐らく外れの様だ。さあ、どうするマシュ?

 

「3枚、――装備魔法【流星の弓-シール】!

【流星の弓-シール】を手札に!」

 

 攻撃力を1000下げる代わりにダイレクトアタックが出来る装備魔法だ。

 

「更に、墓地の【小盾の少女】の効果を発動! デュエル中に一度、このカードをゲームから除外する事で、このターンの攻撃は無効にならず、バトルフェイズの間だけ、モンスターは破壊されず、戦闘ダメージも無効になりません!」

 

「墓地の【三つ目のダイス】を封じて来たか!」

 

「カードを1枚伏せて、手札の【E・HERO バブルマン】を特殊召喚します! このカードは、手札に他のカードが無ければ特殊召喚出来ます!」

 

【E・HERO バブルマン】

☆4 ATK800→300 効果

 

 レベル4の戦士族モンスターが、2体……

 

「私は、【バブルマン】と【エアーマン】で、オーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 来るのは、あのモンスター……!

 

「“暗黒も、絶望も! その名の元に切り伏せよ!” エクシーズ召喚! ランク4、【H-C エクスカリバー】!」

 

【H-C エクスカリバー】

★4 ATK2000→1500 エクシーズ・効果

 

「ORUを2つ取り除いて効果発動! このモンスターの元々の攻撃力を倍にします!」

 

【H-C エクスカリバー】ATK1500→4000→3500 

 

「更に伏せてあった【流星の弓-シール】を、【エクスカリバー】に装備します!」

 

【H-C エクスカリバー】ATK3500→2500

 

「攻撃力2500のダイレクトアタッカー……!」

 

 俺のライフは、2100。ダイレクトアタックなので【ダイナミスト・ラッシュ】は意味が無い。

 

「これで、終わりです! バトルフェイズ、【H-C エクスカリバー】で先輩に攻撃! “約束された勝利の剣!!”」

 

 

「ー―リバースオープン、【イタチの大暴発】!」

 

「攻撃を無効にするカードじゃない!?」

 

「俺のライフが相手フィールドのモンスターの攻撃力の合計以下の時、発動出来る! 相手プレイヤーは攻撃力の合計が俺のライフと同じか、下回る様に自分のモンスターを選択してデッキに戻す!」

 

 マシュは、【エクスカリバー】を戻すしか無い。

 

「そん、な――?」

 

 剣を振り下ろそうとした【エクスカリバー】は突然の爆発を受けて後ろへと吹き飛ばされ、エクストラデッキに戻ってしまう。

 

 マシュのライフは100。俺のフィールドにはモンスターが3体。伏せカードも、手札も無い。

 

「――ターン、エンド……」

 

 

「俺のターン! ドロー! スタンバイ、メインフェイズ、このままバトルフェイズ!」

 

 【ブラキオン】が口にエネルギーをチャージを始める。

 

 後は、幕を下ろすだけだ。

 

「【ダイナミスト・ブラキオン】で、マシュにダイレクトアタック! “ギガント砲”!!」

 

マシュのLP:100→0

 

 

 

「良し! 俺の勝ち! ……ってアレ……」

 

 その後も俺はマシュに勝ち、2連勝を決める。喜びに思わずガッツポーズを取ろうとしたが、直後に体から力が抜け、地面に倒れ伏した。

 

『まあ、今日はこんな所か』

 

『明日からは――』

 

 謎の声が一方的に聞こえる中、俺の意識は遠のいた。

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

 

「や、やりました! 先輩に、勝ちました!」

 

「くっそー! 負けたぜ! 完敗だ!」

 

 その後の2戦でまさかの連敗。ガチカード+オリカは辛かった。

 

「初手で【ダークロウ】がいたらペンデュラムモンスターも除外されてロクにペンデュラム召喚が出来ないし、【地獄の暴走召喚】で【小盾の少女】3体と【大盾の女戦士】が並べられたら攻撃力4000で殴られるしで対処が……」

 

「何はともあれ私の勝ちです、先輩! 何でも1つ、言う事聞いてくれますね?」

 

「おう、何でも構わないぞ。俺に出来る事ならな!」

 

 

 

 マシュの願い事を聞いた俺は、マシュと付き合う事になった。

 

「先輩! あ、明日は、2人で、で、で、デートに行きましょう!」

 

「別にいいけど、何処か行きたい場所があるのか?」

 

「え、映画館なんて、どうでしょうか?」

「よし、いいぞ! じゃあ、今の内に予約を……」

 

(普段はデュエルばかりの先輩のテンションが上がった! やっぱり、先輩もデートは嬉しいですね!)

 

「遊戯王ザ・ダークサイド・オブ・ディメンション、2名……っと。入場者プレゼントは……」

 

「……〜!! もー、先輩! たまにはデュエルから離れて下さい!!」

 

「あ、やめろ! 推理モノは無理! せめてアクション!」

 




なんかシリアスだって? 

大丈夫、次元戦争やバリアン世界、破滅の未来にダークネス、名も無きファラオに比べたらスケール不足だから。


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連続3回遊戯王だと!? まるで意味が分からんぞ!?

今回は内容が内容だけに遅れてしまいました、ごめんなさい。

流石に、バトルロワイヤルアクションデュエルは無謀だったか……

 べ、別にヴァンガードGストライドゲート編が面白くてヴァンガード熱が再発した訳じゃ無いんだからねっ!?


「……うーん……妙な夢だったなー」

 

 デュエルする夢を見た俺は、あの後夕食を食べて風呂に入ってベッドに入り込んだ。

 

「でも夢の中でもまたデュエルしたいなー……」

 

 そんな都合の良い事を言いつつ、俺は再び夢へと落ちていった。

 

 

 

「マ――ター! 起きてく――さい!」

「おーい、起きてマスター。全く、これはマシュの役目じゃなかったの?」

 

 意識がハッキリしだす。

 

「何処、此処……」

 

「あ、起きましたね!」

「寝過ぎだよ、マスター」

 

 俺の前に、2人の女性が立っている。

 

「【幽気ウサギ】が俺の目の前に……」

 

「まだ寝惚けてるよー」

「困りましたわ……コレではデュエルができな――」

 

「デュエルだな! デュエルなんだな!」

 

 起きて立ち上がった。デッキを入れて、ディスクを構えた。此処まで約2秒の出来事である。

 

 そこで漸く誰か分かった。女海賊のサーヴァント、アン・ポニーとメアリー・リードだ。

 背の高い、巨乳で赤い海賊服姿のアンと、小さく黒い服装に白い髪で顔に大きな傷があるメアリー。

 名前の響きで何時も逆だと思ってしまう。

 

「……最初からこうすればよかったね」

「マスター、今回は特殊なルールです。少し説明してもよろしいですか?」

 

「ああ! 構わない!」

 

「今回は3人でのバトルロワイヤルルール。デュエルは、アクションデュエルです」

 

「アクションデュエル! えっとー、口上は……」

 

「マスター、君に勝てば何でもお願い聞いてもらえるんだよね?」

「おう! 構わない」

 

「その勢いは良いけど、それじゃあバトルロワイヤルにならないから、このデュエルの勝者の願いを聞くって事にしてよ」

「別に良いけど……」

 

「それと、アクションフィールドには各プレイヤーのターンにアクションカウンターが3つ配られる様になっています」

「身体能力の差を無くすためだね。アクションマジックカードはこのカウンターを消費して発動できる様になってるよ。効果が強力だと、カウンターを3つ使わないと発動できないから気を付けて」

 

「分かった! じゃあ早速……!」

 

 俺は2人から離れ、アンとメアリーも左右に別れる。

 

「アクションフィールド、【悪夢の海賊船】!」

 

 アンの宣言で俺達のいた広いだけの部屋は、海に浮かぶ幽霊船に早変わりした。

 俺はグラつく幽霊船の甲板にいる様だ。

 

「すっご……中々の迫力……」

 

 感心しているが、よく考えてみれば船は海賊のホームグラウンドだ。

 断然あちらに有利じゃないかと思いつつ、彼女達の方を見れば、それぞれの船に乗っており、3つの幽霊船は船先で繋がっている。

 

「さあマスター、準備は良い?」

「おう!」

 

 お決まりのあの口上が始まった。

 

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が……!」

 

「モンスターと地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ! これぞデュエルの最強進化系! アクション……!」

 

「「「デュエル!!!」」」

 

 

 ジュウヤのLP:8000

 メアリーのLP:8000

 アンのLP:8000

 

 

 フィールドに空中からアクションカードがバラ撒かれる。

 と言ってもこれは演出であり、恐らく船の中にもカードが現れる。

 

「さあ行こうか! 先ずは俺から!」

 

 バトルロワイヤルでは最初のターンは誰も攻撃できない。相手の妨害の少ない1ターン目で準備をして、次のターンで攻撃に出る。

 

「俺のターン! スタンバイ、メインフェイズ! せっかくの海賊船だが、俺は海に出る! 【ダイナミスト・チャージ】を発動! 発動時の効果で【ダイナミスト・プレシオス】を手札に加えて、そのまま召喚!」

 

【ダイナミスト・プレシオス】

☆4 ATK1700 ペンデュラム・効果

 

 俺がディスクに置いた【プレシオス】は海に現れて、俺を呼ぶように吠えた。

 

「よっと」

 

 海賊船から跳躍し、機械竜の背中へ。

 

(さっすがデュエリスト、なんともないぜ!)

 

「スケール3の【ダイナミスト・ステゴザウラー】とスケール6の【ダイナミスト・ブラキオン】をペンデュラムスケールにセッティングして、カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 結構良いスタートを切ったんじゃないか?

 【プレシオス】の効果で相手のモンスターの攻撃力と守備力は400ポイントダウンしてる。

 手札が1枚だけなのは不味いが補給の手段も用意している。

 問題はアクションカードだが、海に幾つか浮いている。

 

「よし、見つけた!」

 

 

「負けないよマスター、アン! 僕のターン、ドロー!」

「ふふ、どうかしらね?」

「全力で来い!」

 

 ディスクには会話機能もある。これで離れていても相手のプレイを聞き逃さない。

 俺の次はメアリーのターンだ。

 

「メインフェイズ、僕は【カットラスの下っ端】を召喚!」

 

【カットラスの下っ端】

☆4 ATK1700→1300 効果

 

「【下っ端】の効果発動! デッキから同名カードを墓地に送る事で更に【下っ端】をデッキから特殊召喚!」

 

【カットラスの下っ端】

☆4 ATK1700→1300 効果

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド! さあ、野郎ども! 行ってこい!」

「「アイアイサー!」」

 

 メアリーの命令で【下っ端】共は船の中へと消えた。恐らく、狙いはアクションカード。

 

「エンドフェイズに永続トラップ発動! 【連成する振動】! 効果は使わない!」

 

 此処で発動した理由は、2人に俺のカードを破壊させない為だ。分かっているカードより、裏側のカードの方が危険。処理順位はそちらに移るだろう。

 スタンバイフェイズに発動しなかったのは、単に拾ったアクションカードの効果を読んでいたからだ。

 

 

「手札を増やすカード……抜け目ないですね、マスター。私のターン! ドロー!」

 

 さあ、どう動く気だ、アン!

 

「私は手札から、【マスケット銃の下っ端】を召喚!」

 

【マスケット銃の下っ端】

☆4 ATK1500→1100 効果

 

「……間に合った!」

 

 メアリーから、そんな声が聞こえた。

 

(間に合った? 一体何に……)

 

「【マスケット銃の下っ端】の効果発動! デッキから【マスケット銃の下っ端】を墓地に送って、同名カードをデッキから特殊召喚します!」

 

「【カットラスの下っ端】と同じ効果?」

 

【マスケット銃の下っ端】

☆4 ATK1500→1100 効果

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

「ならエンドフェイズに【連成する振動】の効果発動! ペンデュラムゾーンの【ブラキオン】を破壊して、1枚ドロー! 更に【ダイナミスト・チャージ】の効果で【ブラキオン】は俺の手札に――」

 

「――今です! 撃ちなさい!」

「「了解しやした!」」

 

「何!? っぐ!?」

 

 【マスケット銃の下っ端】2体が同時に発泡した。1発が俺に命中し、危うく【プレシオス】から落ちそうになる。

 

ジュウヤのLP:8000→7400

 

 更に、手札にあった【ブラキオン】は墓地に送られている。

 

「あ、【ブラキオン】が!?」

 

「【マスケット銃の下っ端】が2体以上フィールドに存在する時にドロー以外でカードが相手の手札に加わった場合、1ターンに1度だけそのカードを墓地に送り、600ポイントのダメージを与えます。この効果は名称指定の1ターンに1度の制限が着いているわ」

 

 アンの説明の間に、【銃の下っ端】共は俺を笑っている。

 

「っく、メアリーが間に合ったって言っていたのはこの事か……アクションカードをこの【下っ端】が揃う前に拾えたんだな」

 

【カットラスの下っ端】ATK1300→1400

【マスケット銃の下っ端】ATK1100→1200

 

 同じレベルが2体いるのにエクシーズ召喚しなかったのは、この効果があったからか。

 

(となれば当然、メアリーの【下っ端】も似た効果を……)

 

「さあ、マスターのターンですわよ?」

 

 

 俺の手札はこのターンのドローでアクションマジックを含めて4枚。フィールドではなく手札から墓地に送られた【ブラキオン】はエクストラデッキに行かず墓地に。

 再利用は難しい。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 対してメアリーは手札が4枚、伏せカードが2枚。アンは5枚の手札と伏せカードが1枚。

 

(【ダイナミスト・チャージ】の手札に戻す効果は強制効果……ならさっさと【マスケット銃の下っ端】を倒さないと不味いな……)

 

「アクションマジック、【スケルトンの砲撃】! 自分のターン、相手フィールドのモンスターを1体破壊し、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを、全てのプレイヤーに与える! 【マスケット銃の下っ端】を1体破壊する!」

 

アクションカウンター消費:2

 

 俺の前に大砲で狙いを構えたスケルトンが現れ、狙いを定める。

 

「アクションマジック、【ミラー・バリア】! 効果によるモンスターの破壊を無効にします!」

 

アクションカウンター消費:1

 

 突然鏡が【下っ端】を囲むが、すぐに砕ける。

 

「っ!?」

 

「アクションマジック、【ノーアクション】! アンの【ミラー・バリア】は無効だよ!」

「ナイス!」

 

アクションカウンター消費:2

 

 放たれた大砲の玉は【下っ端】に命中し破壊するが大砲が爆発し、その衝撃でアンとメアリーに玉が飛んでいく。

 

ジュウヤのLP:7400→6800

メアリーのLP:8000→7400

アンのLP:8000→7400

 

「これで行ける! 俺はスケール6の【ダイナミスト・プレシオス】をペンデュラムスケールにセッティング! 【連成する振動】の効果で【ステゴザウラー】を破壊して、1枚ドロー! 【チャージ】の効果で手札に! もう一度【ステゴザウラー】をセッティング!」

 

 手札は損なく増える。更に水に浮かぶカードに手を伸ばす。

 

(おっと、アクションマジックゲット! バトルフェイズを終了できる【大脱出】か)

 

「自分フィールドに【ダイナミスト】がいて、【ダイナミスト・ケラトプス】がいないなら、手札の【ダイナミスト・ケラトプス】は特殊召喚出来る!」

 

【ダイナミスト・ケラトプス】

☆5 ATK2100 ペンデュラム・効果

 

 どういう原理かは知らないが、ケラトプスは海上に現れ走っている。

 

「更に手札から、フィールド魔法【ダイナミック・P】を永続魔法として発動!」

 

 アクションデュエルでは、フィールド魔法は永続魔法扱いとなる。

 魔法発動と同時に、俺のモンスター達は更にエンジンを唸らせる。

 

「させない! 【カットラスの下っ端】の効果! 1ターンに1度だけ、魔法カードの発動を無効にして、相手プレイヤーに800ポイントのダメージを与える!」

 

「ダメージを俺に集中させる気か!? っく!」

 

 【下っ端】2体に魔法カードを破壊され、更にカットラスの一撃を入れられた。

 

ジュウヤのLP:6800→6000

 

「【ダイナミック・P】は攻撃力を上げるだけじゃなく、ダイナミストモンスターの戦闘時、カードの効果と発動を無効にする効果があるからね」

 

「流石に通せませんね」

 

(……どうする? 手札はアクションマジック1枚、相手のモンスターは弱体化しているけど……)

 

【カットラスの下っ端】ATK1400→1200

【マスケット銃の下っ端】ATK1200→1000

 

(伏せカードもアクションマジックもある。下手に攻撃しても、不利になる可能性が……)

 

『……こう……して』

 

「……ん?」

 

「どうしたのマスター? ターンエンド?」

 

 どうやら迷い過ぎて空耳が聞こえてきたようだ。らしくない。

 

「……いや、バトルフェイズだ!」

 

「トラップ発動、【海賊の脱出経路】!」

 

 トラップが発動して、【下っ端】はメアリーと一緒に逃げ出した。

 

「自分フィールドに同名モンスターが2体以上いる時、相手プレイヤーは攻撃出来ないよ。この発動に対して相手はチェーン発動は出来ないよ」

 

 攻撃対象もプレイヤーも見失った【プレシオス】は悔しそうに吠えた。

 

「躱された……ターンエンド」

 

 

「僕のターン、ドロー!」

「姉御、お納め下さい」

 

 ドローフェイズに【下っ端】がメアリーにアクションカードを渡す。先の逃走で見つけたようだ。ちゃっかりしてやがる。

 

 これでメアリーの手札は5枚だ。アクションカウンターも補充される。

 

「まずは速攻魔法【サイクロン】! メアリーの伏せカードを破壊する」

 

「なら発動するだけです! トラップ発動、【威嚇する砲撃】! 相手はこのターン、攻撃宣言を行う度に800ポイントのダメージを受けます!」

 

 【威嚇する砲撃】は現実にある【威嚇する咆哮】と違って、攻撃宣言を止めないが攻撃にデメリットを与える効果か。アクションマジックで攻撃を回避出来るし、こっちの方がいいかもしれない。

 

(フリーチェーンばかりだな……アクションマジックもそうだし)

 

「僕は墓地の【カットラスの下っ端】を対象に、マジックカード【大嵐の前準備】を発動。デッキから通常魔法を墓地に送って、対象モンスターを手札に加える」

 

 メアリーはデッキから通常魔法、【シャッフル・リボーン】を墓地に送って【カットラスの下っ端】を手札に加えた。

 

「そして、【カットラスの下っ端】を通常召喚! 【カットラスの下っ端】が3体フィールドに揃った事で【カットラスの下っ端】の更なる効果発動! 相手の手札のカードを1枚墓地へ! アンの手札を墓地へ!」

 

「仕方ないですね……」

 

 アンの手札からランダムに1枚、墓地に送られる。

 

「3体の【下っ端】でオーバレイ!」

「来るか、エクシーズ!」

 

「3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!

 “嵐を撃ち抜く、銃撃の名手! 七つの海を夢で超えろ!” エクシーズ召喚! ランク4、【パイレーツ・オブ・ガンナー】!」

 

【パイレーツ・オブ・ガンナー】

★4 ATK2300→1800 エクシーズ・効果

 

 現れたのは赤い装束に身を包み、黄金の装飾が施されたライフル銃を手に狙いを定める女海賊。

 

「メアリーが、【ガンナー】!?」

 

 意外だ。メアリーが【カットラスの下っ端】で【ガンナー】を呼び出すなんて……

 

「行くよ! 【ガンナー】の効果! このターン中に自分のデッキか、相手の手札からカードが墓地に送られていた場合、発動できる! ORUを1つ使い、相手プレイヤーに1500ポイントのダメージ! 狙いはマスターだ!」

 

「マジで潰しに来てやがる!? うお!?」

 

ジュウヤのLP:6000→4500

 

 【ガンナー】の効果を受けて、【プレシオス】の背中から落ちそうになるが、プレシオスは俺の背中に首を動かし、受け止めてくれた。

 

「さ、サンキュー」

 

 だが、安心するのは早い。

 あちらの攻撃力は【プレシオス】を上回っている。

 

「バトルだ! 僕は【パイレーツ・オブ・ガンナー】で【プレシオス】を攻撃!」

「この瞬間、【威嚇する砲撃】の効果でメアリーに800ポイントのダメージ!」

 

 アンから放たれた砲撃がメアリーを襲い、先程の砲撃のダメージも手伝ってか、メアリーの幽霊船は沈没を始めた。

 

メアリーのLP:7400→6600

 

「よっと! このくらいじゃあ止められないよ!」

 

 メアリーは最初に俺が乗っていた幽霊船に乗り込み、【ガンナー】もメアリーと同じ船に乗ったと同時に恐ろしい程に精密な射撃で、【プレシオス】を狙う。

 

「【ステゴザウラー】を代わりに破壊して、【プレシオス】の破壊を無効にする!」

 

「だけど、ダメージは受ける!」

 

 ジュウヤのLP:4500→4400

 

 俺の目の前に【ステゴザウラー】が光の柱から飛び出し、代わりに攻撃を受け、俺に小さなダメージが飛んでくる。

 

「【ダイナミスト・チャージ】の効果で、エクストラデッキではなく手札に!」

 

「むぅ……流石に3人もいると思う様に動けない……ターンエンド」

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 アンの手札は6枚、アクションカードが既に手札に握られている。

 

「では、私はマジックカード【海賊の意地】を発動! 手札1枚を墓地に送り、自分フィールドのモンスターと同名のモンスターを墓地から可能な限り特殊召喚します」

 

 アクションカードをコストに現れるのは当然、2体の【マスケット銃の下っ端】。 

 

【マスケット銃の下っ端】

☆4 ATK1500→1100 効果

 

【マスケット銃の下っ端】

☆4 ATK1500→1100 効果

 

「【マスケット銃の下っ端】の効果! 3体揃った時、自分のデッキからカードを2枚、墓地に送ります! 【超電磁タートル】と【命運のコイン】を墓地へ!」

 

 【超電磁タートル】は墓地から除外すればバトルフェイズを終了できるカードだが、【命運のコイン】はオリカだ。効果がわからない。

 

「さあ、参ります! 私は、3体の【マスケット銃の下っ端】でオーバーレイ!

 3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、“嵐を切り裂く、戦慄の斬撃! 七つの海を望みで制覇せよ!” エクシーズ召喚! ランク4、【パイレーツ・オブ・リッパー】!」

 

【パイレーツ・オブ・リッパー】

★4 ATK2800→2400 エクシーズ・効果

 

 黒い装束に白い髪。剣身が紅いカットラスを片手に持っている。若干、メアリーが不機嫌そうなのは【ガンナー】と同じ位の身長だからだろう。

 

「【リッパー】の効果! このターン、私のデッキか、相手の手札からカードが墓地に送られていた場合、発動できます! 次のターンのエンドフェイズまでこのカードは他のカードの効果を受けず、相手プレイヤーにダイレクトアタック出来る!」

 

「何だって!?」

 

【パイレーツ・オブ・リッパー】

ATK2400→2800

 

 最強クラスの耐性と直接攻撃の付加。条件は面倒だが、ランク4としては高い攻撃力もあって厄介なモンスターだ。

 

(て言うか先からアクションカードをメタり過ぎだろ!?)

 

 対策はデュエリストとして当たり前と言われればそこまでだが、あちらが決めたデュエルなので文句も言いたくなる。

 

「さあ、行きますわよ! 【リッパー】でマスターに直接攻撃です! “テンペスト・スラッシュ!!”」

 

 【大脱出】はバトルフェイズを終了できるが、アクションカウンターの要求数が3個。俺のターンが来るまでカウンターは2個、これじゃあ足りない。

 

「ライフで受ける! っうお!?」

 

ジュウヤのLP:4400→1600

 

 斬りつけられ、今度こそ海に落ちるかと思ったが【ケラトプス】が横についてたアームで俺を掴んで、自分の背中に放り投げる様に乗せた。

 

「た、助かった……」

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

「エンドフェイズ、【連成する振動】で【プレシオス】を破壊して1枚ドロー! 更に【チャージ】で手札に戻す!」

 

 

 漸くターンが回って来た。しかし、状況はあまりよろしくない。

 

「どうした物か……俺のターン! ドロー!」

 

 フィールドには、【プレシオス】と【ケラトプス】にセッティングされた【プレシオス】、【チャージ】と【振動】。

 手札を見る。【ステゴザウラー】と【ブラキオン】、【大脱出】に【ダイナミスト・チャージ】、そして……

 

『呼んで……呼んで』

 

「……?」

 

 また何か聞こえた気がする。だが、あまり時間は無い。なら、これでなんとかするしかない。

 

「2枚目の【ダイナミスト・チャージ】を発動!  発動時の効果で、デッキから最後の【ダイナミスト・プレシオス】を手札に

! 更に【ステゴザウラー】を再びペンデュラムスケールにセッティング! さあ、行くぞ!」

 

(アクションマジック、【エクストラソード】。攻撃力が1000ポイント上がる。これなら……)

 

(伏せたのは【波紋のバリア―ウェーブ・フォース】。アンか私に直接攻撃すれば、これでマスターのモンスターをデッキに戻します) 

 

「“波の如く揺れろ、魂の咆哮!” ペンデュラム召喚! レベル4、【ダイナミスト・プレシオス】2体! レベル5、【ダイナミスト・ブラキオン】!」

 

【ダイナミスト・プレシオス】

☆4 ATK1700 ペンデュラム・効果

 

【ダイナミスト・プレシオス】

☆4 ATK1700 ペンデュラム・効果

 

【ダイナミスト・ブラキオン】

☆5 ATK2000 ペンデュラム・効果

 

「【プレシオス】とダイナミストカードが増えて、攻撃力と守備力が900×3下がる!」

 

【パイレーツ・オブ・ガンナー】

ATK1900→0

 

「【パイレーツ・オブ・リッパー】は効果を受けません!」

 

「だけどこれでアンに大ダメ――!?」

『――呼んで下さい』

 

 また何かが、今度はハッキリ聞こえた。

 

「? マスター?」

 

 手札のカードは【大脱出】と……

 

「……俺は、【ケラトプス】と、【ブラキオン】と【プレシオス】を、リリース!! この時、2枚の【チャージ】の効果で【ケラトプス】と【ブラキオン】は手札に!」

 

「な!?」

「何を!?」

 

【パイレーツ・オブ・ガンナー】

ATK0→1200

 

 【ケラトプス】は消えたが、その上にいた俺は水には落ちずに、空中で浮いている。

 

「“古代の形の傀儡を贄として、神は降臨する。神を下す神よ! その姿なき姿を、此処に現せ!” アドバンス召喚、レベル10【邪神アバター】!!」

 

【邪神アバター】

☆10 ATK?→2900 効果

 

『……呼んでくれた』

 

 俺の前に、黒い太陽の様な神々しい存在が降臨し、漆黒のまま【パイレーツ・オブ・リッパー】を形成した。

 常にフィールド上のモンスターの最大攻撃力を100上回る事が出来る、最凶の神。

 

「神の前に人の英知は意味を失う! 【ロスト・ノウレッジ】! 相手ターンで数えて2ターンの間、相手の魔法・罠の発動を禁止する!」

 

「そんな!」

「アクションマジックが……」

 

 アンの伏せカードも、メアリーの手に握られていたアクションマジックも色を失う。

 

「バトルフェイズ! 先ずは【ガンナー】だ! 【邪神アバター】で攻撃! “ダークネス・テンペスト・スラッシュ”!」

 

「っく……!」

 

 【アバター】の放った斬撃が【ガンナー】を斬り付け、そのまま葬った。

 

 メアリーのLP:6600→4900

 

「続いて、【プレシオス】で攻撃!」

 

 メアリーのLP:4900→3200

 

 ライフは依然として不利なままだけど、だいぶ巻き返した。

 

「【振動】でセッティングされた【ステゴザウラー】を破壊して1枚ドロー! 【ケラトプス】をセッティングして、1枚カードを伏せて、ターンエンド!」

 

「エンドフェイズ、【リッパー】は効果を失って、【プレシオス】の効果が適用されます」

 

【パイレーツ・オブ・リッパー】

ATK2800→1600

 

 これで手札は【大脱出】のみ。

 

(さあ、どう来る?)

 

 

「参ったな、まさに窮鼠猫を噛むだね。僕のターン、ドロー!」

 

 メアリーの手札は4枚。アクションマジックは使えないから実質3枚だ。

 

「ならこれだ! 手札の【タルワールの副船長】の効果! 墓地のカードを選択し、選択したカードと同名のカード3枚をゲームから除外して特殊召喚できる。【カットラスの下っ端】を除外! 現われろ、【タルワールの副船長】!」

 

【タルワールの副船長】

☆6 DEF2400→1200 効果

 

 現れたのは曲刀を持った女海賊。副船長だからか、縞模様の服装だった【下っ端】と違い、黒マントに、派手なアクセサリーが見え隠れしている。

 

「【副船長】の効果! デッキの一番上のカードを墓地に送って相手の墓地のカードを1枚除外する! アンの墓地の【超電磁タートル】を除外するよ!」

 

「そんな!」

 

 これでアンの防御カードは無くなった。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 アンのターンだが、【リッパー】の効果には自分のデッキか相手の手札を墓地に送る必要がある。

 魔法とトラップが封じられているので、容易な事では無い筈だ。

 

「私のターン! ドロー!」

 

 手札は4枚。アクションカードは無いようだ。

 

「私は【大砲の下っ端】を召喚します! 効果発動! デッキから同名カードを墓地に送り、【大砲の下っ端】を特殊召喚します! 【大砲の下っ端】の効果発動! 1ターンに1度、同名カードが存在する場合、私の手札の数×300ポイントのダメージを与えます! 私の手札は3枚! 900ポイントのダメージをメアリーへ!」

 

【大砲の下っ端】

☆3 ATK1400→200 効果

 

【大砲の下っ端】

☆3 DEF1400→200 効果

 

 俺のライフを【リッパー】で削りきれると踏んで、メアリーを狙ったか。

 

 メアリーのLP:3200→2400

 

「【パイレーツ・オブ・リッパー】の効果発動! ORUを1つ使って、次のターンのエンドフェイズまで効果を受けず、ダイレクトアタックが可能になるわ!」

 

【パイレーツ・オブ・リッパー】

ATK1600→2800

 

「バトルフェイズ!」

「アクションマジック、【大脱出】! バトルフェイズを終了する!」

 

 アクションカウンター消費:3

 

「っ! カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

「【振動】を発動! 【ブラキオン】を破壊して1枚ドロー! 【チャージ】の効果で手札に!」 

 

 

 アンの手札は2枚、メアリーはアクションカードを含めて2枚。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 対して俺の手札は4枚。だが、俺が動く前にアンが動いた。

 

「スタンバイフェイズに速攻魔法発動! 【ツインツイスター】! 手札を1枚コストに、2枚の魔法・罠カードを破壊します! 私はマスターの伏せカードと【チャージ】を選択し、破壊します!」

 

「ペンデュラムゾーンにセッティングされてないから守れない!」

 

 破壊された伏せカードはブラフで伏せた2枚目の【連成する振動】。

 

「だけど、その程度じゃ止まらない! 俺はフィールド魔法、【ダイナミック・P】を発動!」

 

「させない! カウンタートラップ、【海賊の小細工】! デッキから私のフィールドの【タルワールの副船長】の同名カードを墓地に送って、魔法・罠の発動を無効にする!」

 

「っく……!」

 

 どうやら2人も本格的に俺をターゲットにしているらしい。

 

「ならスケール6の【ブラキオン】をセッティング!

 ペンデュラム召喚! 手札とエクストラデッキから現われろ、レベル4、【ダイナミスト・プレシオス】、レベル5【ダイナミスト・ケラトプス】!

 【プレシオス】の効果が重複する!」

 

【ダイナミスト・プレシオス】

☆4 ATK1700 ペンデュラム・効果

 

【ダイナミスト・ケラトプス】

☆5 ATK2100 ペンデュラム・効果

 

【タルワールの副船長】DEF1200→0

【大砲の下っ端】ATK200→0

 

「バトルフェイズ! 【アバター】で【タルワールの副船長】に攻撃!」

 

【邪神アバター】ATK2900

 

 再び放たれたダークネス・テンペスト・スラッシュに、【副船長】は無念の表情のまま散った。

 

(おかしい……先までマストの根本にあったアクションカードが無い!? どうして……)

 

「更に、【プレシオス】で【大砲の下っ端】に攻撃!

 アクションマジック、【エクストラソード】! 【プレシオス】の攻撃力を1000ポイントアップ!」

 

 アクションカウンター消費:1

 

【ダイナミスト・プレシオス】

ATK1700→2700

 

 【プレシオス】の口から熱線が放たれ、【下っ端】を撃ち抜いた。

 

「っく……! 効果のためとはいえ攻撃表示は避けるべきでしたか……!」

 

(今のライフでバーンダメージは要注意だからな)

 

 アンのLP:7400→4700

 

「【プレシオス】で、メアリーに直接攻撃!」

「このままじゃ……!」

 

 メアリーのLP:2400→700

 

 攻撃を受けつつもメアリーはアクションカードを求めてアンのいる幽霊船へ飛び乗った。

 

「【プレシオス】でメアリーにダイレクトアタック!」

 

「その直接攻撃時、【波紋のバリア―ウェーブフォース】を発動! マスターの攻撃表示モンスターは全てデッキへ!」

 

(不味い! これを喰らえば5体のモンスターがデッキへ消えてしまう!)

 

 俺は目の前にあるカードに手を伸ばした。

 

「アクションマジック! 【簡易亜空間転送機】! フィールドのモンスターを1体除外して、エンドフェイズ終了時に戻す! 俺は【邪神アバター】を選択! 残りの4体のモンスターはデッキに!」

 

 アクションカウンター消費:1

 

「あ、マスター!?」

 

 そこで漸くメアリーが気づいた。

 

「アクションカードが、マスターの周りに集まってる!?」

 

 俺の周りには船内に有るべきアクションカードが浮いている。【邪神アバター】が全て引き寄せてくれたのだ。【アバター】がフィールドを離れたので今は水上に落ちている。

 

 なお、宙に浮いていた俺は除外された【アバター】のお陰で宙に浮いているままだが、一歩でも動けばたちまち海の中にダイブである。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド! 【リッパー】の効果が終了する!」

 

 エンド宣言と同時に落下したがすぐに戻ってきた【パイレーツ・オブ・リッパー】の姿の【アバター】に抱えられてまた浮かされる。同時に俺の周りにアクションカードが再び浮く。残りは8枚。

 

 

「……負けない! ドロー!」

 

 メアリーのドロー。手札は2枚、もう彼女の元にはアクションカードは無い。

 

「魔法カード、【死者蘇生】! 墓地からモンスターを選択し、特殊召喚する! 対象は、アンの【マスケット銃の下っ端】! 特殊召喚時に効果発動! デッキから同名カードを墓地に送って、同名モンスターをデッキから特殊召喚!」

 

 今度は2体の【マスケット銃の下っ端】がメアリーのフィールドに並んだ。

 

「2体のモンスターで、オーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! ランク4! 【鳥銃士カステル】!」

 

【鳥銃士カステル】

★4 ATK2000 エクシーズ・効果

 

「っげ!?」

 

 【カステル】。容易な召喚条件だが、効果は強力だ。

 

「ORUを2つ使い、効果発動! 【邪神アバター】をデッキへ!」

 

 折角守った【アバター】も、デッキに戻ってしまった。

 これで俺を守るのはセットカード1枚のみ。俺は泳ぎながらも急いで船のイカリを繋いだ鎖に向かった。

 

「バトルフェイズ! マスターに、【カステル】で直接攻撃!」

 

「アクションマジック、回避! 攻撃を無効にする! うわ!?」

 

 攻撃の衝撃でアクションカードと共にイカリの近く。

 

「僕はこれで、ターンエンド」

 

 

「私のターン、ドロー! これで終わりです!」

 

 手札は2枚。アンのフィールドには【パイレーツ・オブ・リッパー】と【大砲の下っ端】がいる。

 

「装備魔法、【守護神の矛】を【大砲の下っ端】に装備!」

 

「あれは、装備モンスターと同名の墓地のカードの数だけ攻撃力がアップするカード!」

 

【大砲の下っ端】ATK1400→3200

 

「攻撃力、3200……」

 

「終わりです! 【大砲の下っ端】で【鳥銃士カステル】に攻撃!」

 

「っく……! そんな……」

 

 メアリーのLP:600→0

 

 俺のアクションマジックを警戒して、先にメアリーに攻撃したか。

 

「覚悟はいいですか? 【パイレーツ・オブ・リッパー】で、マスターにダイレクトアタック!! “コンクエスト・セブンスシー!!”」

 

「終わるか! トラップカード、オープン! 【イタチの大暴発】! お前のモンスターの攻撃力の合計が俺のライフ、1600以下になる様にデッキに戻してもらう!」

 

「なら手札から速攻魔法、【海賊の我武者羅】を発動! モンスターをリリースして、リリースしたモンスターと同名の墓地のカード1枚につき800ポイントのダメージを与えます! 【大砲の下っ端】をリリース!」

 

「アクションマジック、【加速】! 効果ダメージを0にする!」

 

 アクションカウンター消費:1

 

 もうカウンターは残り1つ。もしまだ攻め手があれば俺の負けだ。

 

「……ターンエンドです」

 

 よし!

 

「エンドフェイズ、【振動】で【ブラキオン】を破壊、ドロー! 【ブラキオン】は手札に戻す!」

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 俺は鎖を伝って甲板に着き、アンと対峙する。

 

「行くぞ、【振動】で【ステゴザウラー】を破壊、ドロー! 【チャージ】で手札に戻す!」

 

 手札は6枚。ペンデュラムスケールは無いが、もうその必要も無い。

 

「【ダイナミスト・ブラキオン】を特殊召喚! 相手フィールドにのみモンスターがいるなら特殊召喚出来る! 更に【ダイナミスト・ケラトプス】は、フィールドにダイナミストモンスターが存在し、【ケラトプス】がいないのなら特殊召喚出来る! そして、通常召喚! 【ダイナミスト・プレシオス】!」

 

「デッキに戻った【プレシオス】を引きましたか!」

 

【ダイナミスト・ブラキオン】

☆5 ATK2000 ペンデュラム・効果

 

【ダイナミスト・ケラトプス】

☆5 ATK2100 ペンデュラム・効果

 

【ダイナミスト・プレシオス】

☆4 ATK1700 ペンデュラム・効果

 

(だけど、唯一気になるのは……【命運のコイン】。だが、バトルフェイズ中の効果と発動を無効にする【ダイナミック・P】はもうデッキに無い……)

 

「バトルフェイズ!」

 

「負けません!」

 

 アンは船から飛び出し、海へ飛び込んだ。

 狙いは、船の近くの水上に浮いているアクションカード!

 

「させない! 【ケラトプス】でダイレクトアタック!」

 

「あぁ!」

 

 ケラトプスが電撃を放ち、アンの動きを止めた。

 

 アンのLP:4700→2600

 

 だが、アクションカードはアンの目の前だ。

 

「【ブラキオン】で攻撃!」

 

「うっく!」

 

 アンのLP:2600→600

 

 ブラキオンが砲撃を放つ。その威力でアンの体を吹き飛ばす。

 

「止めだ! 【プレシオス】で攻撃! “ブレイブ・フィニッシュ!”」

 

 【プレシオス】の攻撃が放たれる瞬間、アンは必死でもがいてカードをディスクに置いた。

 

「アクションマジック、【回避】!」

 

 最後に取ったか! これでは【プレシオス】の攻撃が通らない――

 

「アクションマジック、【ノーアクション】!」

 

 ――取っておいて正解だったな。

 

「そんな!?」

「終わりだぁ!」

 

 だが、【プレシオス】の攻撃は1枚のトラップカードに止めたれた。

 

「墓地の【命運のコイン】の効果を発動! 戦闘ダメージで私のライフが尽きる前に発動出来ます! 3回コイントスをして、表の数だけライフを1000回復します! 裏が出た場合、デッキトップをゲームから除外します!」

 

 コイントスによるライフ回復! 

 効果を見れば、フィールドではコイントスをして表で自分のライフを1000回復して、裏で相手のライフを500回復させるカードの様だ。

 

「来い!」

 

「行きます! 一度目!」

 

 トラップカードからコインが舞う。裏、表、裏、表……回転しながら再びカードヘ降りた。

 

「……裏。デッキトップを除外します。続けてもう一度!」

 

 思わず喉を鳴らす。アンが生き残るには表が2回出る必要がある。

 緊張のままコインが上り降りる様を見届ける。

 

「……表!」

 

 アンのLP:600→1600

 

「さあ、最後です!」

 

「……来い!」

 

 運命の、コイントスだ。

 

 

 

【コインが表だったら……】

 

「マスター! 遅いですよ!」

「……むぅー」

 

 駅前、走ってやって来た俺にアンとメアリー、2人の厳しい視線が向けられる。

 

「ごめんごめん、ちょっと次元領域デュエルに巻き込まれて――」

「ーーマスター? あまりおかしな言い訳をしますと私の銃が笑ってしまいますよ?」

 

 笑ってない目で物騒な物を向けられた。

 

「あはは……ホントウニスイマセン、寝坊しました」

「はい、素直でよろしい」

 

 アンはそう言うと銃を片付けて俺の頭を撫でる。

 

「むぅ………」

 

 が、メアリーは不機嫌なままだ。

 

「どうした、メアリー?」

「この娘、マスターを独占したくて仕方なかったんですよ。で、私のこの3人デートが不満で……」

 

「知ってた……。アンは2人でマスターとデートしてくれるって知ってた。だから勝者1人の言う事だけ聞いてもらおうと思ったのに…」

 

「メアリー、拗ねないの」

 

「大体、2人で1騎のサーヴァント何だから、別けられないだろ?」

 

「むぅー……」

 

「……っふ、ふふ」

「……あっははは」

 

 俺とアンは顔を見合わせると困った顔で笑った。

 

「ほら! 早く行こうか! メアリーも、遊園地でアイス奢るから、な?」

 

「……パフェが良い」

 

「マスター、私にも奢ってくださいな!」

 

「分かった、分かった! とにかく、早く電車乗ろうか!」

 




次回は真面目にFGO話が書きたいです。

何? 遊戯王で構わない?(幻聴)

所でどうやって鬼殺し級周回してるの? 自分はやらい級を必死に回してます。


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遊戯王以外だと? 知らん、俺の管轄外だ。

遅くなって申し訳ありません。
分かっている方もいるでしょうが、自分の中ではこちらの小説の優先順位は低いです。楽しみにしている方には申し訳ありません。


 

「……夏バテかなぁ」

 

 俺は不藤十矢、現在進行形でベッドで寝込んでいる。

 原因は恐らく夏風邪とか夏バテとか。理由は今が夏だから。

 

「くっそー……ポケモンの巣に行きたかったのに……」

 

 

 残念ながら貴重な夏休みの1日が潰されそうだ。

 ぼやきながらも、俺は体をベッドに預け、やがて眠りにつくのだった。

 

 

 

「マスター、デュエルしましょう?」

 

 マタ・ハリに挑戦状を叩き付けられた。

 

「勿論、受けて立つ!」

 

 相変わらず夢の中らしき場所でデュエルする事になる訳も目的もはっきりしないが、デュエルするのであれば基本そんな事はどうでも良くなる。

 

 今回はダイナミストのデッキでは無く別のデッキだが、まあどうにかなるだろう。

 

 久方ぶりのデュエルディスクに興奮しつつも、俺はデッキを入れる。

 

「スタンダートルールのデュエルで、負けたら何でも言う事を聞く……では始めましょう?」

「よっしゃ、来い!」

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 ジュウヤのLP:8000

 マタ・ハリのLP:8000

 

 ディスクには先攻と表示される。

 

「行くぞ! 俺のターン、スタンバイ、メインフェイズ! 手札から永続マジック、【陽炎柱(ヘイズ・ピラー)】発動! このカードがフィールドにある限り、俺が陽炎獣(ヘイズビースト)を召喚する際のリリースが1体少なくなる!」

 

 早い話がレベル6までの陽炎獣がそのまま召喚できる様になったという事だ。

 

「この効果により俺は【陽炎獣 サーベラス】を通常召喚!」

 

【陽炎獣 サーベラス】

☆6 ATK2000 効果

 

 現れたのは炎で出来た体に3つの首を持つ伝説の番犬。

 このデッキにおけるエンジン役だ。

 

「カード1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 手札は残り2枚。さて、どう動く?

 

 

「私のターン、ドロー! スタンバイ、メインフェイズ」

 

 マタ・ハリは落ち着いた様子でカードを引いて、ディスクに置いた。

 

「私は手札から、【魅惑の踊り手】を召喚します」

 

【魅惑の踊り手】

☆3 ATK1200 効果

 

 現れたのは赤色の水着の様な衣装を身に纏った、ポニーテールの女性。

 微笑みながら、舌で自分の唇をなぞる。

 

『ふふ……』

 

 マタ・ハリと似ていて、露出も凄い。

 

 生足、谷間、唇、肩、へそ……何処を見ても艶や張りが素晴らしく誘惑的である。

 

 が、俺は首を振って邪念を取り払った。

 

「いかんいかん……」

「ふふふ、マスター。私の体も、凝視してもらっても構いませんよ?」

 

 両腕を頭上へと掲げ、足を絡める妖艶な動きが男心を掻き立てる。

 胸が強調され、前へと押し出された足――

 

『浮気……だめ……』

 

「いや、デュエルだデュエル!!」

 

 しかしゲーム中である。浮気は許されない。

 

「あらあら、照れちゃって……マジックカード発動、【ラブアピール】! マスターのライフを300ポイント回復させて、私のモンスター1体のコントロールを、マスターに移します」

 

ジュウヤのLP:8000⇢8300

 

『きゃぁ!』

「うぉ、っと……」

 

 ハートマークが俺に当たるとライフが回復し、逃げる様にこちらのフィールドにやってきた【踊り手】が俺の前で転びそうになり、思わず両手で支えた。

 心無しか【踊り手】の顔が赤い気がする。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドです」

 

 2枚のカードを握りながらも、マタ・ハリは笑う。

 

 支えていた【踊り手】を立たせた後に俺のフィールドにコントロールの移った【魅惑の踊り手】の効果に目を通す。

 

「えーっと……このカードのコントローラーは互いのエンドフェイズに500ポイントのダメージを受け、相手プレイヤーはライフを500ポイント回復する……へ?」

 

 顔を上げると、【魅惑の踊り手】がニッコリと笑いながら俺の頬へキスをした。

 

『ッ……!』

『ッチュ……』

 

ジュウヤのLP:8300⇢7800

マタ・ハリのLP:8000⇢8500

 

 キスをされるとライフが減り、あちらはライフが回復した。

 

「スパイかよ!?」

「さぁさぁ、マスターのターンですよ?」

 

 

「くっそ……俺のターン! ドロー!」

 

 面倒臭い事に、【踊り手】はシンクロ召喚とエクシーズ召喚の素材に出来ず、アドバイス召喚の為のリリースにも使用出来ない。

 

「抜け道は自爆させるかカード効果でフィールドから別の場所に送るだけか……」

 

「スタンバイフェイズ、私は永続トラップ、【誤情報】を発動するわ」

 

 更にマタ・ハリはロックカードを重ねて来た。

 

「元々のコントローラーが自分のモンスターが相手フィールドにいる限り、相手はバトルフェイズを行えなくなります」

 

 バトルを封じられた。ならば何としてでも【魅惑の踊り手】を除去しなければ……!

 

「更に永続トラップ、【安全地帯】を発動! 対象は【魅惑の踊り手】!」

 

 【安全地帯】は対象モンスターの直接攻撃を封じる代わりに戦闘、及び効果破壊を無効にした上に相手プレイヤーである俺は効果の対象に【踊り手】を選択出来なくなる。

 

「ちょっと待て!? どうすれば……!?」

 

 一番手っ取り早いのは、【安全地帯】を除去する方法だ。

 【踊り手】は【安全地帯】が無くなれば【安全地帯】の効果で破壊される。

 

 だが、生憎この手札ではそれが出来そうに無い。

 

 【安全地帯】の対象になった【踊り手】は俺の位置を安全と見たのか背中に抱き着いてきた。

 

「……カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 最初のターンに伏せたのは蘇生カードの【リビングデッドの呼び声】。

 今伏せたのはサポートカードの【陽炎光輪(ヘイズグローリー)】。

 この状況では役に立たないカードだ。手札の2枚も今のままでは使えない。

 

 そして、【踊り手】がギュッと抱き着いて首後ろにキスをした。

 

『ッチュ……』

 

『うっとしい……』

 

ジュウヤのLP:7800⇢7300

マタ・ハリのLP:8500⇢9000

 

 

「此処から詰めて行きますね? 私のターン、ドロー!」

 

 マタ・ハリは引いたカードを発動する。

 

「私はマジックカード【ハニーパーティー】を発動! デッキから相手フィールドのモンスターと同名のモンスターを2体まで相手のフィールドに特殊召喚します! 対象は取らないので、【安全地帯】も【サーベラス】の効果も妨げません。現れなさい、【魅惑の踊り手】!」

 

【魅惑の踊り手】

☆3 ATK1200 効果

 

【魅惑の踊り手】

☆3 ATK1200 効果

 

 俺のフィールドに特殊召喚された2体の【踊り手】。手を振ってフレンドリーにこちらにやって来た。

 不本意ながらハニートラップに完全に掛かってしまっている。

 

「私はこれでターンエンドです。【魅惑の踊り手】3体の効果が発動します!」

 

 手札は依然として2枚のままだが、エンドフェイズを迎える毎にこちらがひたすら不利になる一方だ。

 

 背中から耳辺りを舐められ、額に優しく、更に頬をキスされた。

 

『……ユルサナ――』

 

ジュウヤのLP:7300⇢5800

マタ・ハリのLP:9000⇢10500

 

 

 先から謎の幻聴が聞こえる。前のデュエルの時もそうだった気がする。

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 手札に来たカードを見る。

 

「っ! これなら!」

 

 深く考えずネタで入れたカードだが、これなら行けるかもしれない。

 

「俺は、【サーベラス】をリリース! 【イグナイト・キャリバー】をアドバンス召喚!」

 

【イグナイト・キャリバー】

☆6 ATK2100 ペンデュラム・通常

 

 【サーベラス】が炎と化して、その中から鋼の戦士が現れた。

 陽炎獣と名のつくモンスターでは無いので【陽炎柱】の効果を受けないのでリリースが必要だが、今は助かる。

 

「……何が狙いですか? そのモンスターは効果の無い通常モンスターですよね?」

 

「さあな? カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 手札は1枚に減りはしたが、後は一か八かだ。

 

 キスで再びライフが奪われる。

 

『はな、レロ……!!』

 

ジュウヤのLP:5800⇢4300

マタ・ハリのLP:10500⇢12000

 

 

「何か手がある様ですね……私のターン、ドロー!」

 

 マタ・ハリはモンスターゾーンにカードを置いた。

 

「通常召喚、【ビューティーハッカー】!」

 

【ビューティーハッカー】

☆4 ATK1000 効果

 

 召喚されたのはライダースーツの様なぴっちりしたスーツに包まれた女性。金髪にメガネを着用している。片手でノートパソコンらしき端末を抱えている。

 

「召喚成功時に効果発動! マスターのフィールドに存在する元々のコントローラーが私のモンスターの数だけ、カードをドローします! 3枚をドロー!」

 

 マタ・ハリの手札が一気に増えた。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

『いっぱい気持ちよくなってね……?』

『チュー!』

『触りたく、ないかしら?』

 

ジュウヤのLP:4300⇢2800

マタ・ハリのLP:12000⇢13500

 

 ライフが大分削られている。次のターンでどうにかしなければ敗北は必至だ。

 

 だけど、それよりも手に握ってるカードから何か途方も無い悪寒を感じる。

 

『コロス……絶対ユルサナイ……!』

 

 

「……行くぜ! 俺のターン! ドロー!」

 

 不安を感じるが、これで行くしかないならやるしか無い。

 

「速攻魔法【サイクロン】を発動だ! 俺が選択するのは、そこの伏せカード!

 

 最初のターンにマタ・ハリが伏せたカードを破壊する。伏せられていたのは永続トラップを破壊から守る永続トラップ、【王宮のしきたり】だ。

 

「ドンピシャ!」

「ですが、まだ何も解決していませんよ?」

 

 【誤情報】と【安全地帯】に伏せカード。誤情報のせいで攻撃できないが、【安全地帯】でエンドフェイズに受けるダメージを減らさないと不味いかもしれない。

 

「まず俺は、永続トラップ【グラビティ・バインド】を発動だ! それにチェーンして【陽炎光輪】、更にチェーンして【リビングデッドの呼び声】を発動!」

 

 この瞬間、3枚のトラップを発動した。

 

「逆順処理だ。

 【リビングデッド】の効果で墓地の【サーベラス】を攻撃表示で特殊召喚!

 【陽炎光輪】が発動して、【グラビティ・バインド】の効果でレベル4以上のモンスターの攻撃を封じる!」

 

 【サーベラス】が復活するが、【踊り手】と【ハッカー】以外はその動きを封じられる。

 

「それになんの意味が!?」

 

「俺は【イグナイト・キャリバー】と【陽炎獣 サーベラス】で、オーバーレイ!

 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 

 “太陽の幻想獣よ! 数多の敵を喰らって永久に燃え続けろ!” エクシーズ召喚! ランク6、【陽炎獣 バジリコック】!!」

 

【陽炎獣 バジリコック】

★6 ATK2500 エクシーズ・効果

 

 呼び出したのは炎が鳥を形取ったかの様な姿のモンスター。漫画やアニメではトカゲや蛇の姿でよく知られるバジリスクの別名で、鳥の姿もバジリスクの姿の一種である。

 

 だが、こいつの相手モンスターを除外する効果は今は役に立たない。

 

「俺は、表側になっている対象を失いフィールドに残っている【リビングデッドの呼び声】、【陽炎光輪】、【グラビティ・バインド】をリリース!」

 

「まさか!?」

 

「“燃え上がれ、滅びを示す紅蓮の炎! 神へと届く頂へ!” アドバンス召喚! レベル10、【神炎皇 ウリア】!!」

 

 ――辺りが炎に包まれた。

 

 地面が溶けて巨大な穴が空いた。

 全てを飲み込まんとする咆哮と共に、幻魔がその姿を顕わにした。

 

 竜の如く長く巨大な紅蓮の体が、俺の体の周りを囲むかの様に浮いている。

 

『コロス……マスターニ触レタ者、全テ!!』

 

 殺る気満々のご様子だ。

 

「す、凄い迫力……! 【ウリア】のモンスター効果! 墓地の永続トラップカードの数×1000の攻撃力になる! 墓地の永続トラップは3枚!」

 

【神炎皇 ウリア】

☆10 ATK0⇢3000 効果

 

「更に【ウリア】のモンスター効果発動! 1ターンに一度、相手の魔法かトラップカードを1枚、破壊する! この効果にチェーンで他のカードは発動できな――い!?」

 

 俺がそう宣言すると【ウリア】は巨大な口を開き、火球を【安全地帯】へと放った。

 

『ッキャー!』

 

「【安全地帯】がフィールドを離れたので、【魅惑の踊り手】は破壊される……」

 

 【ウリア】の予想外の行動に戸惑うが、俺は【バジリコック】に指示を出す。

 

「ば……【バジリコック】のモンスター効果! ORUを1つ取り除き、【ビューティーハッカー】をゲームから除外する! “バーン・フレア”!」

 

 【バジリコック】から放たれた炎が【ビューティーハッカー】を消し去った。

 

「俺はこれで、ターンエンド」

 

 【ウリア】の登場に驚いて俺に抱き着いてきた2体の【魅惑の踊り手】が冷や汗をかきながら頬をキスする。

 

『ハ ナ レ ロ ! !』

 

ジュウヤのLP:4300⇢3300

マタ・ハリのLP:13500⇢14500

 

 

「……私のターン、ドロー!」

 

 先の大量ドローも合わさり、マタ・ハリの手札には4枚のカード。

 

「行きます……」

 

 マタ・ハリはそっとカードを見ると、動き出した。

 

「儀式魔法、発動! 【禁断の陽光】! 相手フィールドの元々のコントローラーが自分のモンスターをリリースして、儀式召喚を行います! 私は、マスターのフィールドに存在する【魅惑の踊り手】を2体リリースします!」

 

 【魅惑の踊り手】が最後にこちらを見る。ニッコリと笑うと、2体とも消えていった。

 

「“……任務を脱ぎ、仮面を捨て、本当の姿を貴方だけに……” 儀式召喚! レベル6、【陽眼の花嫁 マルガレータ】!!」

 

【陽眼の花嫁 マルガレータ】

☆6 ATK2400 儀式・効果

 

 マタ・ハリ。

 2人目のマタ・ハリが現れたかの様な光景だった。

 唯一の違いは、一目で魅了する様な衣装ではなく、永久の愛を紡ぐウェディングドレスだと言う事だ。

 

「……」

 

「【花嫁】の効果発動。儀式召喚成功時にこのモンスターは相手プレイヤーへとコントロールを移します!」

 

 またしてもマタ・ハリのモンスターがこちらに移動する。

 

「【花嫁】のコントローラーは、エンドフェイズにライフを1000ポイント払っても構いません。ですが、払わなければデュエルに敗北します」

 

「なんだと!?」

 

 特殊勝利ならぬ特殊敗北効果に戦慄する。

 

「【デス・メテオ】を発動します! 1000ポイントのダメージをマスターへ!」

 

「っく!?」

 

ジュウヤのLP:3300⇢2300

 

 このままだと不味い! もうライフが無い。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド! さあ、マスター? 払う? 払わない?」

 

「払うしかない!」

 

ジュウヤのLP:2300⇢1300

 

 【花嫁】は涙を浮かべながらもこちらに近づいてきた。

 

『マスターニ……近付クナ……!!』

 

 【ウリア】の炎も怒りと共に威力が上昇している様だ。

 

 

「俺のターン!」

 

 恐らくこれが最後のターン。

 

 【花嫁】は【魅惑の踊り手】同様、融合召喚以外の素材には出来ない。

 

 バトルフェイズが行えなくなる【誤情報】はあるが、【ウリア】で破壊できる。後は、俺のドローカードに全てかかっている。

 

「ドロー!!」

 

 引いたの……

 

「俺は【陽炎柱】の効果で【陽炎獣 スピンクス】を通常召喚!」

 

【陽炎獣 スピンクス】

☆6 ATK1900 効果

 

 炎の様な赤い髪に女性の顔の様な姿のスフィンクスが俺のフィールドに現れた。

 

「【ウリア】のモンスター効果発動! 【誤情報】を破壊だ! “トラップ・デストラクション”!!」

 

 【誤情報】が破壊され、マタ・ハリのフィールドにモンスターはいない。

 

 【スピンクス】にはカードの種類を宣言してデッキトップのカードを墓地に送って、正解すれば墓地か手札の炎属性のモンスターを特殊召喚できる効果がある。

 

 残念ながら墓地のモンスターはORUとして墓地に送られた【サーベラス】のみ。此処で勝つには墓地に送るカードはモンスターでなければならない。

 

(【ウリア】は3000、【バジリコック】2500、【花嫁】は2400、【スピンクス】は1900……9900。此処で何を引いても、14500のライフを削り切るのは不可能……いや、まだ……!)

 

「え……?」

 

 “このカードが相手プレイヤーに与えるダメージは2倍になる”

 

 【花嫁】にそう書かれていた。

 

(なら……! ダメージのトータルは12300! 攻撃力2200以上のモンスターが来れば……)

 

「行くぞ! 【スピンクス】のモンスター効果発動! 俺はモンスターカードを宣言! デッキトップのカードがモンスターカードなら墓地か手札から炎属性のモンスターを特殊召喚する! “ジャッジメント・サン”!!」

 

 デッキトップのカードを引く。

 

「……【炎王神獣 ガルドニクス】!! モンスターカードが墓地に送られたので効果が発動する! 墓地の炎属性モンスター、【炎王神獣 ガルドニクス】を特殊召喚!!」

 

【炎王神獣 ガルドニクス】

☆7 ATK2700 効果

 

「……っ!」

 

 マタ・ハリが一瞬苦い顔をする。演技では無い事を祈って俺は攻撃を開始した。

 

「バトルフェイズ! 【陽炎獣スピンクス】.マタ・ハリでダイレクトアタック!」

 

マタ・ハリのLP:14500⇢12600

 

「【陽炎獣 バジリコック】で攻撃! “陽炎翼”!!」

 

マタ・ハリのLP:12600⇢10100

 

「【炎王神獣 ガルドニクス】! “業火強襲”!!」

 

マタ・ハリのLP:10100⇢7400

 

「【神炎皇 ウリア】で攻撃! “ハイパー・ブレイズ”!!」

 

マタ・ハリのLP:7400⇢4400

 

「これでトドメだ! 【陽眼の花嫁 マルガレータ】で、マタ・ハリでダイレクトアタック!!」

 

 【花嫁】はマタ・ハリにブーケを投げた。

 

 マタ・ハリがそれを受け取ると同時に、ライフがゼロになった。

 

マタ・ハリのLP:4400⇢0

 

 

 

「負けちゃった……」

 

「マタ・ハリ!」

 

 俺はどうしても気になったのでマタ・ハリに問う事にした。

 

「どうして、伏せカードを使わなかったんだ?」

 

「……このデッキは【陽眼の花嫁 マルガレータ】でマスターに勝つデッキです。

 私の伏せていたカード、【破壊工作】は元々のコントローラーが私だったモンスター、【花嫁】以外のモンスター全て破壊する効果がありますが……【ガルドニクス】に破壊されてしまいますから」

 

 マタ・ハリはそう言って微笑んだ。

 

 【ガルドニクス】は効果で破壊されると次のスタンバイフェイズにフィールドのモンスターを全て破壊する効果を持っている。【花嫁】の効果で俺の敗北は決まらない。

 

 本人のしたいプレイングだから文句を言うのはお門違いだろう。手加減された感じがして嫌だというのは俺のワガママに過ぎないし……

 

「じゃあ、マスター? もう一戦、しませんか? 私、こう見えても負けず嫌いですので」

「あったり前だ! 今度こそ完勝してやる!」

 

 

 

【マタ・ハリが勝ったら……】

 

「マスター!」

「なにー?」

 

 マタ・ハリに負けた俺が要求されたのは、“甘えさせる”事だった。

 

 普段は甘やかし、相手から情報を奪っていたマタ・ハリだが、甘えたい事もあるという事だろう。

 

「私、アイスクリームが食べたいです」

「了解了解……」

 

 遊園地にやって来た俺はマタ・ハリに言われるがまま、アトラクションを楽しみ、飲食店に並ぶ。

 

「マスター! 次は……観覧車がいいです!」

「良し。行こう」

 

 2人で観覧車に入り、景色を見る。降りる頃には、マタ・ハリは俺の肩に頭を寝てしまった。

 

「思えば、一番英雄としては平凡なんだよな……」

 

 幾つもの男性を虜にしたマタ・ハリ。その潜入能力は確かに驚異的だが、言ってしまえばどれだけだ。

 

 国を率いた訳でも、大きな戦争で勝利した訳でも無い。強力な神秘が操れた訳でもなければ、何か未知を明らかにした訳でもない。

 

 経験と自身の持てる才能の全てを使用し、何かを成し遂げる事無く処刑された女。

 

 それがアサシン、マタ・ハリの英雄たる所以だ。

 

「もしかしたら、一番精神的に辛かったのかもな……」

 

 俺はマタ・ハリの頭を撫で、観覧車がそろそろ地上に近付いている事に気付いた。

 

 俺はゆっくりとマタ・ハリを抱えて、連れて帰った。

 




今回のデッキは自分がリアルで最初に大会用に作ったデッキです。
政竜をサモンリミッターでメタって倒したのはいい思い出です。(なおマッチ戦での勝率は……)


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デュエルとはどんな効果だ? いつ発動する?

ティーチングデュエル回。
今回はオリカ無しです。

あ、あとロリコン注意。


 新しいデッキを組んだ。

 回るかギリギリなネタデッキだが、ガチカードで無理矢理勝つ事も可能な構成だ。と思う。

 

 実際に回す為にも1人デュエルでも良いが、ここはやはり……

 

「寝よう」

 

 サーヴァントに対戦相手をしてもらおう。

 

 

 

「お母さん!」

 

 夢の中らしき場所で気が付いて直ぐに幼女が抱き着いてきたので、直ぐに辺りを見渡しておまわりさんがいない事を確認した。

 

(いない様だな……(じゅるり))

 

「でゅえる、教えて!」

「おう! 任せろ!」

 

(デュエルに幼女とは……まるで好物の焼肉とケーキを前にしている気分だ。

 しかし、まさかジャックちゃんとデュエルする日が来ようとは……!)

 

「ジャックちゃんはデッキ持ってるの?」

「これ!」

 

 ほうほう、どれどれ…………オリカ無しの基本的なデッキ……スターターデッキっぽく組まれているな。難しいカードは無いしこれなら……

 

「じゃあ、実際にやってみようか!」

 

 

 ジュウヤのLP:8000

 ジャックのLP:8000

「これはライフポイント。8000ポイントからスタートして、デュエルでは基本的にこれを削って0にするのが勝利条件だ」

 

 俺はデッキを手動でシャッフルしてディスクにセットした。

 

「ゲームの前にデッキを良く混ぜて、ディスクにセットする。まあディスクがやってくれるから此処では入れるだけで良いけど」

「どうやって混ぜるの? あっ……」

 

 ジャックちゃんの手からカードが落ちる。

 

「あらら……まあ慣れないうちは机の上に8つの束に分けたりすれば良いよ。変に力を入れたりするとカードが曲がっちゃうから」

 

 拾ったカードを元に戻しディスクに入れた。

 

「さて、まずは先攻か後攻、最初にプレイするプレイヤーと後に動くプレイヤーを決めよう。遊戯王はプレイヤー同士が交互にターンを回して戦うゲームだからね」

 

「じゃあ、先が良い!」

「うーん……悪いけど、先攻か後攻かは……プレイヤーが選んで良いけど、どっちが選ぶかを決めないと駄目なんだ。ジャンケンやコイントス、サイコロを投げて決めようか」

 

「じゃあ、サイコロで決めたい!」

 

 っく……なんて純粋な笑顔なんだ……!? サイコロを振る事すら楽しんでいる!

 

 ジャックちゃんの要望に答えて俺はディスクのシステムで大きめのサイコロを出した。

 

「行っくよー! えい!」

 

 ジャックちゃんが野球ボールサイズのサイコロを投げた。

 

 出た目は、5だ。

 

(6出るな6出るな6出るな6出るな6出るな)

 

 俺は数字の6を呪い殺せるレベルの邪念を込めて、サイコロを投げた。

 

『えーい!』

 出た目は、6だ。

 

(ファック!? 今の幻聴、ぜってー許さねぇ!)

 

「あ……負けちゃった……」

「勝った人が決めるルールだからジャックちゃん先攻で良いよぉ!」

 

 実際そうなので先攻を譲るのは問題ない。寧ろ譲らないとか悪魔の所業だろ。

 

「やったぁ!」

「まずはカードを5枚ドロー……デッキのカードを引く事だね。これが手札になる」

 

 手札を引いたがジャックちゃんの喜ぶ姿が可愛すぎるので確認は後回しだ。

 

「じゃあ、デュエルを始めよう。先ずはジャックちゃんのターンだ」

「何をすればいいの?」

 

「先ずはドローフェイズ、デッキから必ず1枚カードを引くんだけど、先攻の最初のターン出来ない。

 次はスタンバイフェイズ、まあこれは今は何も無いね。

 そしてメインフェイズ。此処でモンスターや魔法カードの使用、カードを裏側でセット出来る」

 

「えっと……」

 

 どうやら一度に言い過ぎたようだ。

 

「先ずはモンスターを出してみよっか。肌色のカード、もしくは茶色いカードは無い?」

「えーっとね……あったぁ!」

 

 笑顔で手札にあったカードを見せてくるジャックちゃん。

 可愛い。

 

ジャックLP:8000→8500

 

「あれ? 何これ?」

「え? あー……【黄金の天道虫(ゴールデン・レディバグ)】かぁ……ジャックちゃんがスタンバイフェイズの終了を宣言しなかったから発動したのか……」

 

 見せられたカードはジャックちゃんの手を離れてこっちを見つめる様に表側で浮いている。

 

《このロリコンめ!》

 

 黙れ、紳士と呼べ!

 

「そのカードの効果、能力だよ。茶色いカードは効果モンスターって言って様々なタイミングで効果が発動するんだ」

「効果……」

 

「そのカードは【ゴールデン・レディバグ】。スタンバイフェイズに相手に見せて、ターン終了時まで公開する代わりにライフが500ポイント回復するんだ」

 

「なるほど……じゃあ、コレは残して……これ出したい!」

 

【コスモ・クイーン】

☆8 ATK2900 通常

 

「……うーむ、残念ながらメインフェイズに行える通常召喚だと、☆の数が4個以下じゃないと出せないんだ。

 5個以上だとフィールドにいる自分のモンスターを墓地に送る、リリースを行わないと召喚できないんだ」

 

「この星は、レベルって言うの?」

 

「! うん、よく知ってるね?」

 

 ジャックちゃんは手元のカードを確認している。

 

「お母さん、特殊召喚って何?」

「通常召喚と違って、条件やコストを払えば1ターンに何度でもやっていい召喚の事だよ。これだと、特別なモンスターやレベルの高いモンスターもそのまま出せるよ」

 

「えっと、魔法カードは?」

「使い捨てで効果を発揮する緑色のカードだよ。条件やコストが書いてあるならそれを満たさないといけないけど……」

 

「じゃあ、私たちはこれを使うよ! 【古のルール】! レベル5以上の通常モンスターを、手札から自分のフィールドに特殊召喚するよ! 【コスモ・クイーン】!」

 

【コスモ・クイーン】

☆8 ATK2900 通常

 

 ジャックちゃんの頭の回転が早いから、ルールを理解するのも早いんだな。

 

「凄いよジャックちゃん! 初心者の最初に出すモンスターにしては凄過ぎるよ!」

「えへへ! お母さんに褒められた!」

 

 褒められて嬉しそうなジャックちゃんマジ天使。

 

「お母さん! このピンク色のカードは?」

「それはトラップカード。フィールドに裏側でセットしたターンの次のターンから、相手のターンでも発動出来るカードだよ。   

 因みに魔法カードの種類の一つ、速攻魔法カードもセットすれば同様に使えるよ」

 

「じゃあ……2枚セットして……」

「先攻の最初のターンは、攻撃ができないから他にやる事が無いならターンエンドだね」

 

「うん! ターンエンド!」

 

 ジャックちゃんは手札を殆ど使い切った様だ。残り1枚は【レディバグ】だし。

 

 

「じゃあ、俺のターン! ここからは必ずターンの初めにカードを引くよ! ドロー!」

 

 さてさて、ネタで作ったカードの足りないコンボデッキ。

 手札にキーカードが来ないと何も出来ずに負けるんだが……

 

(……完璧過ぎるんだが……)

 

 遊戯王初心者を絶対混乱させるコンボが既に手札に揃っていた。

 

『早く出して、早く早く!』

 

(今日の幻聴、なんか元気いいな……)

 

 仕方が無いので幻聴の発信元らしきカードを墓地に叩き落とす事にした。

 

「スタンバイ、メインフェイズ! マジックカード、【愚かな埋葬】を発動するよ。デッキからモンスターを1枚、墓地に送る」

「墓地に?」

 

 ジャックちゃんははてなマークを浮かべているだろう。

 

「俺が送るのは、【妖精伝姫(フェアリーテイル)―シラユキ】」

 

『お昼寝するね! 王子様のキスで起こしてね!』

 

 これがこのデッキの主役である。やっぱり幻聴はこいつが原因か。

 

「更に【マスマティシャン】を通常召喚!」

 

【マスマティシャン】

☆3 ATK1500 効果

 

「効果発動! 召喚成功時にデッキからレベル4以下のモンスターを墓地に!」

「えい! トラップ発動! 【落とし穴】! 攻撃力1000以上のモンスターが召喚されたら、それを破壊するよ!」

 

 ヒゲを指で触る小人の様な老人は、息をつく間も無く穴に落とされた。

 

「だけど、召喚は成功だ! モンスターがいなくなっても発動した効果は健在だ。効果でデッキからレベル4の【不知火の宮司】を墓地へ!」

 

 召喚成功時に発動する効果は一度発動すれば、その後に発動した【落とし穴】の効果でモンスターが先に破壊されても効果は使える。

 

 まあ、破壊されたモンスターをフィールドに必要とする効果は不発になるけど。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

「よく分からないけど……私のターン!」

「今度はドロー出来るよ」

 

「ドローして……スタンバイフェイズ! 手札の【ゴールデン・レディバグ】を見せて、ライフを500ポイント回復する!」

 

ジャックのLP:8500→9000

 

 またこちらを見張る様に現れる黄金色のてんとう虫。

 

《ペロペロしたいんだろ? このロリコンめ!!》

 

 くっそ……! なぜこちらの考えが筒抜けなんだ……!?

 

「行っくよぉ! 【コスモ・クイーン】で攻撃するよ!」

「通す! うっぐ……!」

 

ジュウヤのLP:8000→5100

 

「俺のフィールドに何もいない状態で【コスモ・クイーン】の攻撃を受けたから攻撃力の2900が俺へのダメージになる。

 もし攻撃表示の【コスモ・クイーン】より攻撃力の低いモンスターがいた場合、【コスモ・クイーン】の攻撃力からそのモンスターの攻撃力分を引いた数字がダメージ。

 だけど、モンスターが横向きの状態、守備表示なら守備力が攻撃力より下でもモンスターは破壊されるけど、ダメージは受けない」

 

「どうやって守備表示にするの?」

 

「通常召喚をする時は攻撃表示じゃないと駄目だけど、通常召喚の代わりにモンスターを裏側守備表示でセットできる。

 特殊召喚ならなんの縛りもなければ表側攻撃表示か表側守備表示のどっちかを選択して召喚できるよ」

 

「それと、前にターンに召喚された、攻撃していないモンスターはメインフェイズ時に攻撃表示か守備表示かに変えられるよ。セットされたモンスターもね」

 

「……えーっと……つまり【コスモ・クイーン】は攻撃したから守備表示に出来ないんだね」

 

「バトルした後にメインフェイズ2に行くからモンスターを召喚したり、魔法カードの発動やセットをターン終了する前に行えるよ」

 

「んー……何も出来ない……ターンエンド!」

 

 手札は1枚。ライフ差は開いているが……

 

『……ッチラ』

(幻聴で目を開ける音が聞こえて来たんですけど?)

 

 どうしろと言うのだ。

 コンボを出せばジャックちゃんのデュエルへの興味が終わる可能性すらあるぞ。

 

 

「俺のターン、ドローして、スタンバイ、メインフェイズ!」

 

 だが、せめて逆転する意思を見せなければジャックちゃんも納得しないだろう。

 

「リバースカードオープン! 【スケープゴート】! 攻撃力と守備力が0の【羊トークン】を4体場に特殊召喚する! 全部守備表示だ」

 

【羊トークン】×4

☆1 DEF0 通常

 

「トークン?」

「ああ、カードの効果で召喚されるモンスターだよ。フィールドを離れるとゲームから消滅するんだ。

 【スケープゴート】の効果でこのカードを発動したターンは召喚・反転召喚・特殊召喚出来ない。セットは出来るんだけど……しないかな。これでターンエンド」

 

 仕方が無いので次のターンに反撃させてもらおう。

 ああ、俺、ジャックちゃんに嫌われるのかな……

 

 

「私たちのターン、ドロー! スタンバイフェイズに【ゴールデン・レディバグ】の効果発動!」

 

ジャックのLP:9000→9500

 

《ロリコン死すべし、慈悲はない》

 

「メインフェイズに手札からマジックカード、【ビックバン・シュート】を発動するよ。どうやって使うのかな……?」

 

「装備魔法カードだね。それはフィールドの表側表示のモンスター1体に装備させて、カードがフィールドに残り続けるカードだ。

 表側なら相手モンスターにも使えるのが大きな特徴だね。

 【ビッグバン・シュート】は攻撃力を400ポイントアップさせて、守備表示モンスターとのバトルでも装備モンスターの攻撃力分の数値から守備力を引いた分だけ貫通ダメージを与える効果を持つよ」

 

「じゃあ……【コスモ・クイーン】に装備!」

 

【コスモ・クイーン】

ATK2900→3300

 

「これでトークン攻撃されると3300ダメージか……痛いな」

 

「バトルフェイズ!」

 

「今だ! 墓地の【シラユキ】の効果発動! フィールド・墓地・手札にあるカードを合計7枚をゲームから除外する事で墓地の【シラユキ】を特殊召喚する!」

 

「俺はフィールドの【羊トークン】4体とセットされていたトラップカード、【エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ】、墓地の【不知火の宮司】、【愚かな埋葬】を除外して特殊召喚!

 “慌てふためく小人さん。目覚めた時には誰もいない!” 特殊召喚、【妖精伝説―シラユキ】!」

 

『あれれ? 小人さんも王子様もいない? あ、マスターが王子様だぁ!』

 

【妖精伝説―シラユキ】

☆4 DEF1000 効果

 

 現れたのはリスの耳に、尻尾。赤いリボン……では無く緑色のリボンが巻かれた女の子。尻尾には本が結び付けられている。

 

(米国版の修正の入ったカードだ。諸々の事情でデッキに3枚積む為に手元にあった米版を入れたのだ)

 

 女の子である。しかし、ジャックちゃんの前だ。ソリッドビジョンにペロペロは控えよう。

 

「【シラユキ】には特殊召喚成功時の効果があるが……その前に除外された【不知火の宮司】とセットされて除外された【エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ】の効果が発動する!」

 

「除外されて発動する効果?」

 

「遊戯王は墓地も除外も利用できるゲームなんだ。先ずは【ディメンション・スプラッシュ】の効果で、デッキの水属性、レベル8のモンスターを2体選択して特殊召喚する!」

「【コスモ・クイーン】と同じレベルのモンスターを2体!?」

 

「現われろ! 【スプラッシュ・サーペント】2体!」

 

【スプラッシュ・サーペント】×2

☆8 ATK2900 通常

 

「この効果で召喚されたモンスターは攻撃出来ず、効果も無効化された上で、リリースも出来ない!」

「? 唯の、お人形さん?」

 

「そして【不知火の宮司】が除外された場合、相手フィールドの表側表示カードを破壊する!」

「【コスモ・クイーン】が破壊されちゃう!?」

 

「俺が破壊するのは、表側表示の【ビッグバン・シュート】!」

 

「え? っきゃぁ!?」

 

 墓地から放たれた紅い炎が【ビッグバン・シュート】を破壊すると、【コスモ・クイーン】が爆発を起こした。

 

「【ビッグバン・シュート】の効果発動。このカードがフィールドを離れた時、装備モンスターはゲームから除外される」

 

「そんな……」

「どうする、ジャックちゃん? 【シラユキ】は相手モンスター1体を裏側表示にする効果があるけど、対象がいないので使わない」

 

「……負けないもん! 私たちのターン!」

「おっと、ストップ!」

 

 デッキトップに手を掛けようとするジャックちゃんに俺は待ったをかけた。

 

「確かに俺が色々やったけど、まだジャックちゃんのターンだよ?」

「あ……そっか」

 

 よくある事だ。相手に色々されると相手のターンと勘違いする。

 

「……ターンエンド」

 

 手札は【ゴールデン・レディバグ】1枚。何も出来ない様だ。ジャックちゃんのテンションが目に見えて下がっている。

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 とは言えこちらは主役の【シラユキ】で場を荒らした後に一気に攻めるデッキ。ここらへんで本気出さないと……

 

「じゃあ、見せてあげるよ! エクシーズ召喚を!」

 

 俺は手を前へとかざして声を張り上げる。

 

「“俺は、レベル8の【スプラッシュ・サーペント】2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 9つの柱束ね、神聖なる力を天空より刻め!” エクシーズ召喚! ランク8、【聖刻神竜―エネアード】!」

 

【聖刻神竜―エネアード】

★8 ATK3000 エクシーズ・効果

 

 現れたのは太陽の如き輝きと巨体を持つ聖刻の竜。

 その姿は見る者を圧倒する。

 

「……おっきい」

「エクシーズモンスターはフィールドのレベルの同じモンスター2体以上を素材としてエクストラデッキから特殊召喚できる、レベルではなくランクを持つモンスター。 

 俺は【シラユキ】を攻撃表示に変更する」

 

【妖精伝説―シラユキ】

DEF1000→ATK1850

 

 正直不安である。たとえ映像だとしてもジャックちゃんにエネアードで攻撃するのはやばい気がする。

 だって、俺の身長と足が同じ位の大きさな巨体だぞ!? これを喰らって大丈夫な訳がない。

 

「え、【エネアード】……? 優しくね、優しくしてね?」

 

『ッゴォォォ!』

 

 了解した様に吠えてくれるが逆に不安になる。

 

『私は全力で行っちゃうよぉ!』

 

「バトルだ! 【シラユキ】でダイレクトアタック! 【スノーストーリー】!」

『ええい!』

 

「うわぁ! 雪だぁ!」

 

 突然の雪にジャックちゃんは大喜びだ。

 

ジャックのLP9500→7650

 

「【エネアード】! 【セイグリッド・DP(デコピン)】!!」

『ゴォォォ……!』

 

 低く唸りながらエネアードは腕を伸ばしてそ~っと指でジャックちゃんを弾いた。

 

「あ、痛っ!」

 

ジャックのLP:7650→4650

 

「……ふう、俺はこれでターンエンド!」

 

 何もなければこのまま俺の勝ちなのだが……どうだろう?

 普段なら今のはフラグだが……

 

 

「私のターン、ドロー! ……【ゴールデン・レディバグ】の効果で、500ポイント回復!」

 

ジャックのLP:4650→5150

 

「マジックカード、【ご隠居の猛毒薬】を発動……ライフを1200ポイント回復するね」

 

ジャックのLP:5150→6350

 

「……うう……ターンエンド」

 

 随分とライフを回復するが、このままだと追い付くのは明らかだ。

 初心者がビートダウン型のスターターデッキから1枚の回復カードよりモンスターカードを入れた方が良いと気付くのが、次に進む為の第一歩だ。

 

 

「俺のターン!」

『バリアンズ・カオス!』

「ドロー! って被せるな!!」

 

 隣で嬉しそうに笑っている【シラユキ】を横目で見つつ引いたカードを確認する。

 

RUM(ランクアップマジック)―バリアンズ・フォース】

 

当然だけど、【七皇の剣(ザ・セブンス・ワン)】はデッキに入ってないから、バリアンって言ったらこれしか無いよな……

 

「……メインフェイズ! 悪いけどジャックちゃん、これで終わりだよ!」

「あぅ!?」

 

「マジックカード発動! 【RUM―バリアンズ・フォース】! フィールドのエクシーズモンスター1体を素材に、種族が同じでランクが1つ上のCX(カオスエクシーズ)CNo(カオスナンバーズ)をエクシーズ召喚扱いで特殊召喚する!」

 

「ランク……アップ?」

 

「“時の流れは逆流し、始まりは混沌より訪れる……ランクアップ、カオス・エクシーズ・チェンジ! 顕現せよ!”

 【CNo.107 超銀河眼(ネオ・ギャラクシーアイズ)時空龍(タキオン・ドラゴン)】!!」

 

【CNo.107 超銀河眼の時空龍】

★9 ATK4500 エクシーズ・効果

 

 時空を超越し、フィールドに出現したの3つ首の黄金龍。その力は時の流れすら逆転させる。

 

「攻撃力……4500……!?」

 

「ジャストキル……だね? 【タキオンドラゴン】の攻撃! ……優しくな? “アルティメット・タキオン・スパイラル”!!」

 

 【タキオン】はジャックちゃんの体をその尻尾で掴んで、コマの様にその場で回転させる。

 

「うぅ……目が回る…………」

 

ジャックのLP:6350→1850

 

「トドメだ、【シラユキ】!」

 

『スノーストーリー!』

 

ジャックのLP:1850→0

 

 

 

「このカードを入れて……」

「うんうん……あ、このカードは?」

 

 あのデュエルの後、ジャックちゃんのデッキの構築を始めた。

 

 オリカばかりで苦戦するがなんとかなりそうだ。

 

「お母さん、ギューッとするね?」

 

 胡座をかいている俺の膝の上のジャックちゃんが抱き着く。

 

「えへへ……暖かい……」

「じゃ、ジャックちゃん……可愛い!」

 

 

 

「結婚しよう!」

 

 ………………くそぅ、こう言うオチか!!

 

「くっ……夢だと分かっていた……分かっていたけど……む?」

 

 あれ、体の上にカードが2枚ある。

 

 急いでそれを裏返す。

 

「【邪神アバター】と【神炎皇ウリア】? アレ? ダイナミストも陽炎獣デッキも机の上なのに……」

 

 風でも吹いたか?

 

 

 




モリンフェンとかエンジェルイヤーズを使う人に憧れています。


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インチキオリカも大概にしろ!

4年近く投稿してなかったデュエル。

ルールはちゃんと最新のマスタールールを採用しております。



「ジャックちゃんとデュエル、デュエル……!」

 

 前回から色々ゲームのルールが変わったり4年経ったりしたけど、此処はサザエさん時空なので特に変化なし!

 

 俺、不藤十矢は今日も元気だ!

 この前ジャックちゃんとデュエルしてデッキを組んだから今日も夢の中でジャックちゃんに会うんだ。

 

「In To The Vrains!」

 

 え、もうアニメ終わった?

 

 

 

「よぉーし! ジャックちゃん、来たよー!」

 

 手を上げて大声で呼んだ。

 今日は大好きなジャックちゃんと遊ぶ為に、楽しいデュエルの出来るデッキを持って来ているんだ。

 

「えーっとね、ごめんねマスター?」

 

 ジャックちゃんみたいに露出の多い服、下半身。

 

 だが、その人は白髪ではなく赤色の髪を持ち、ナイフではなく剣と盾を携えており、そして幼女体型ではなく大人な女性だ。胸もでかい。

 

「じゃ……ジャックちゃん、Lv7?」

 

「流石に、それは無理があると思うよマスター」

「ふ、ふふ……分かってるさ……服が白いからライトレイ・ジャックちゃんに間違いない」

 

「光属性を幾ら墓地に溜めても召喚できないよ。いい加減受け入れてくれないかな?」

 

 く……な、何故だ!? FGOを始めて召喚された時は確かに魅了されて、ライダーが少なかったから聖杯まで捧げちゃった気がするけど……!

 

「何で、ブーディカさんなんですか!?」

 

「だからごめんねって……ね?」

 

 そんな可愛く謝っても許さ…………許さ……

 …………絶対許さねぇ! ドン・サウザンド!!

 

『我が登場サーヴァントを書き換えたのだ』

 

「裏声で何してるのマスター? ほら、デュエルだよデュエル! マスター、好きでしょ?」

「くぅ……傷心の隙を突くか……最強の盤外戦術、心理フェイズを使ってくるとは……」

 

「お姉さん、そんなに悪役かなぁ……」

 

「「デュエル!!」」

 

 

 ジュウヤのLP:8000

 

 ブーディカのLP:8000

 

 

「お姉さんの先行だね。

 先ずは、永続魔法【約束されざる剣(アンプロミス・ソード)】を発動! このカードがフィールドに存在する限り、私が戦闘ダメージを受ける度にリベンジカウンターがこのカードに置かれるよ」

 

 約束されざる、か……リベンジって事はブーディカの果たせなかった復讐を表してるのか。

 

「置かれているリベンジカウンターの数だけ、私の【約束されざる】モンスターの攻撃力は100ポイントアップするよ」

 

「100ポイントだけなのか?」

 

 受動的な効果の割に上昇値が低過ぎるのでは……?

 

「甘く見ない方が良いよ!

 続けて手札から【約束されざる戦士(アンプロミス・ウォーリアー)】を召喚!」

 

【約束されざる戦士】

☆4 ATK1900 効果

 

 貧相な鎧の剣士が現れた。その剣は刃こぼれが酷い。

 

「手札の【約束されざる弓手(アンプロミス・アーチャー)】の効果! 【約束されざる(アンプロミス)】モンスターの召喚成功時にこのカードを特殊召喚出来る!」

 

【約束されざる弓手】

☆3 ATK1500 効果

 

 こちらも装備は軽いし、武器は損傷が見られる。

 

「ターン終了だよ」

 

 手札を2枚まで減らした割には、サーチも展開も無い。

 

 

「レベルが違うし、チューナーでも無い……エクストラデッキは使わないのか? いや、ちゃんと15枚ある……」

 

 嵐を予感させる静けさだが、俺は臆さず攻めるだけだ。

 

 マスタールールだから、リンクモンスターを使わなくてもエクストラデッキのモンスターを並べられる。

 

「このデッキの力、見せてやるさ! 俺のターン、ドロー!」

 

 見せてやる。ヤンデレっぽい名前のカードをメインにした俺のシンクロデッキ!

 

「手札からチューナーモンスター、【執愛のウヴァループ】を通常召喚!」

 

【執愛のウヴァループ】

☆4 ATK1200 チューナー・効果

 

 人の様な両手を持ち、2本の足で立ったラクダが数多の装飾品を身に纏って現れた。

 

「更に【風来王ワイルド・ワインド】は攻撃力1500以下の悪魔族チューナーが存在する時、手札から特殊召喚出来る!」

 

【風来王ワインド・ワインド】

☆4 ATK1700 効果

 

 緑色のマントを靡かせて、黒豹の獣人が降り立った。

 

「但しこの効果で特殊召喚したターン、俺はシンクロモンスターしかエクストラデッキから特殊召喚出来ない」

「随分妙な姿をしたモンスター達だね」

 

「だけど、これで俺の最初のコンボは完成する!

 レベル4の【ワイルド・ワインド】に、レベル4の【ウヴァループ】をチューニング!

 “天空の翼よ、愚かな生命を導きたまえ!”

 シンクロ召喚! レベル8、【ゼラの天使】!!」

 

【ゼラの天使】

☆8 ATK2800 シンクロ・効果

 

「天使か……」

「バトルだ! 【ゼラの天使】で【弓手】を攻撃!」

 

 【ゼラ】を撃ち落とそうと数発の弓を放った【弓手】だったが、その速さに追いつけずに突撃を受けて破壊された。

 

 ブーディカのLP:8000→6500

 

「っ! だけど、この瞬間【約束されざる剣】の効果でリベンジカウンターが置かれる!

 更に【約束されざる戦士】の効果! 私が戦闘ダメージを受けた時、カードを1枚ドローして、一枚捨てる!」

 

【約束されざる剣】リベンジカウンター:1

【約束されざる戦士】ATK1900→2000

 

「手札交換か……バトルフェイズを終了する。

 そして、メインフェイズに墓地の【ウヴァループ】の効果発動! フィールドに存在するシンクロモンスター、【ゼラの天使】を除外!」

 

「折角出したシンクロモンスターを除外……?」

 

「これにより【ウヴァループ】は手札に戻ってくる! カードを1枚伏せて、ターン終了!」

 

 手札は4枚。場にモンスターは居ないが、それもすぐに解決する。

 

 

「行くよ、私のターン、ドロー!」

「この瞬間、除外された【ゼラの天使】の効果発動! 除外されたこのモンスターを次のスタンバイフェイズに特殊召喚できる!」

 

【ゼラの天使】

☆8 ATK2800 シンクロ・効果

 

 次元の裂け目から再び、大翼の天使が光臨した。

 

「なるほど……先のラクダで除外した【ゼラの天使】は何度でも除外から復活する訳ね」

「因みに、【ゼラの天使】の効果はフィールドだけでなく墓地から除外されても発動するし、手札の【ウヴァループ】はシンクロモンスターをフィールドか墓地から除外すれば特殊召喚できる! つまり、毎ターン蘇り続けるのさ!」

 

「厄介ね。私は手札から魔法カード【破軍の号令】を発動! このターン、私が受ける戦闘ダメージは100になる!」

「戦闘ダメージを固定!?」

 

 随分変わったカードだ。お互いの戦闘ダメージを固定するカードなら実際のデュエルでもあるが、自分だけに及ぶ効果は見た事が無い。

 

「更に【約束されざる剣】がフィールドにあるので、このターン中に私のモンスターが戦闘で破壊される度、カードを1枚ドローする!」

 

 手札補充までするのか。

 

「手札から【約束されざる軍師(アンプロミス・ブレイン)】を通常召喚! 召喚した時に効果発動! 手札から2体目の【約束されざる戦士】を特殊召喚!」

 

【約束されざる軍師】

☆3 ATK1400→1500 効果

【約束されざる戦士】

☆4 ATK1900→2000 効果

 

「並べて来たな……!」

「バトル! 【軍師】で【ゼラの天使】を攻撃!」

 

 ボロくて所々ビリビリに破れているローブの老人は短剣を手に、無謀にも【ゼラの天使】に突っ込んでくる。

 

ブーディカのLP:6500→6400

 

「っ、この瞬間! 【破軍の号令】の適用済みの効果で一枚ドロー!

【約束されざる剣】にリベンジ・カウンターが置かれる!

 2体の【約束されざる戦士】の効果を発動するよ! 【戦士】の効果に制約は無いから、ダメージを受ければ何度でも発動できる!」

 

【約束されざる剣】リベンジカウンター:2

【約束されざる戦士】×2 ATK2000→2100

 

 1枚しかない手札は2回入れ替わり、墓地の枚数と質を上げていく。

 

「2枚ドローして2枚捨てる!

 続け、【戦士】で攻撃!」

 

 やはり、貧弱な装備の【戦士】は【ゼラの天使】の前では無力、破壊された。

 だけど、なんだかブーディカの様子が……?

 

 ブーティカのLP:6400→6300

 

「1枚ドロー! カウンターも追加!

 更に【戦士】の効果で1枚ドローして1枚捨てる!」

 

【約束されざる剣】リベンジカウンター:3

【約束されざる戦士】 ATK2100→2200

 

「止まるな! 【戦士】!」

 

ブーディカのLP:6300→6200

 

【約束されざる剣】リベンジカウンター:4

 

 またしても手札を増やしたが、【戦士】がいない以上もう入れ替えは行われない。

 それに、幾ら手札が増えてもモンスターは0。リバースカードさえケア出来れば次のターンで勝つのも難しくない筈だ。

 

「……マスター」

「は、はい?」

 

 突然名前を呼ばれ、間の抜けた返事を返してしまった。

 

「よくも……よくもやってくれたな!!」

「え、えぇぇぇ!?」

 

 突然、怒りの形相とともにマントをなびかせ、王冠を被った彼女は俺を仇であるローマを見る様な瞳で睨み付けた。

 

「私の仲間を、私の子供達を、夫を! 許さない! 絶対に、このままにしてなるものか!!」

 

 やはりコレは闇のゲームだったのか……ダークシグナーを彷彿とさせるレベルの逆恨みを募らせた彼女から漆黒のオーラが溢れ出している。

 

「私のモンスターが2体以上戦闘で破壊され、フィールドにリベンジカウンターが3個以上置かれているバトルフェイズに手札のこのカードは召喚出来る!!」

 

 もしかして、3つは死んだ彼女の家族の数で2体破壊は復讐の切っ掛けであろう娘2人の……?

 それにしたって召喚条件が厳しい。

 

 だがそれだけに、俺はそのカードの登場に心震えていた。

 

 いや、べ、別にアヴェンジャー状態のブーディカさんが怖い訳じゃないし……!

 

「“刺せ! 殺せ! 蹂躙しろ、貶めろ! 我らの憤怒のままに!!”

 【約束されざる女王(アンプロミス・クイーン)】!」

 

【約束されざる女王】

☆8 ATK2500→2900 効果

 

 現れたのはボロボロの盾と剣を持ち、漆黒のドレスに身を包む血塗られた女王だった。

 

「【女王】の効果は3つ! 1つ目、召喚に成功した時、カード1枚の上に置かれているリベンジカウンターの数を5倍にする!

 “果てなき憎悪”!」

 

【約束されざる剣】リベンジカウンター:20

 

「え、嘘? 5倍って言った!?」

「どうした? 大した上昇値じゃないんでしょ?」

 

【約束されざる女王】ATK2900→4500

 

 カウンターを倍だって聞いた事無いのに、5倍って何!? え、まさか【約束されざる剣】って今、全体の攻撃力を2000もアップするの!?

 

「【女王】の効果はまだ続く! 2つ目、自分のターンにリベンジカウンターが置かれていたなら、このターン中に戦闘で破壊された【約束されざる】モンスターを2体まで効果を無効にして復活させる! “尽きない憤怒”!」

 

【約束されざる戦士】×2 

☆4 ATK1900→3900 効果

 

「えええっ!? 攻撃力の合計が12300!?」

 

 いや本当に、舐めた事言ってすいませんでした!

 

「今こそ、あの忌まわしき天使を滅せよ! 【約束されざる戦士】で【ゼラの天使】を攻撃!」

 

 先まで一方的に倒されていた【戦士】の動きが、まるで血に飢えた獣の様に豹変し、【ゼラの天使】の翼を両断し、破壊した。

 

ジュウヤのLP:8000→6900

 

「っぐぁ……!」

 

 このまま攻撃を喰らえば俺のライフは尽きる……!

 

「リバースカード、オープン! 【シャドー・インパルス】! 俺のシンクロモンスターが破壊された時、そのモンスターと同じレベル・種族の名前の異なるシンクロモンスターを1体、エクストラデッキから特殊召喚する!

 こい、【神聖騎士(ホーリーナイト)パーシアス】!」

 

【神聖騎士パーシアス】

☆8 DEF2100 シンクロ・効果

 

 天使族のシンクロモンスターで、本来は強制的に守備表示にする効果と貫通ダメージで相手モンスターを倒す攻撃用のモンスターだが、今は守備で出して凌ぐしかない……!

 

「無駄だ! 【女王】の最後の効果! 私の【約束されざる】モンスター達は貫通能力を得る!」

 

「アニメの後出し説明かよ……おわぁ!?」

 

 2体目の【戦士】の攻撃でまたしても天使の翼はもがれ、その衝撃が俺を襲う。

 

ジュウヤのLP:6900→5100

 

「【女王】よ! 奴を斬れ!」

 

 顔の半分が血で覆われた女王は、憎しみを込めて刃を振るった。

 

「ダイレクトアタック!」

「っぐぁぁぁ!?」

 

ジュウヤのLP:5100→600

 

「逃れられると思うな! 貴様は必ず殺す! ターン終了!」

 

 あちらの手札は2枚だがライフとフィールドの差がエグイ。

 

 

 

「だけど、やられっぱなしでいられるかっての!

 俺のターン、ドロー!」

 

 これで手札は5枚。それに墓地にはこいつがいる。

 

「墓地の【風来王 ワイルド・ワインド】の効果発動! こいつを除外してデッキから、攻撃力1500以下の悪魔族チューナーを1枚、デッキから手札に加える! 俺が選択するのは【レッド・リゾネーター】!」

 

 よし、動ける!

 

「手札から魔法発動、【調和の宝札】! 手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナーモンスター、【ガード・オブ・フレムベル】を墓地に送って、カードを2枚ドロー!

 更にモンスターカードを1枚墓地に送って【ワン・フォー・ワン】を発動! デッキからレベル1のモンスター、【ハイ・キューピット】を特殊召喚する!」

 

【ハイ・キューピット】

☆1 ATK600 効果

 

「更に、手札から【レッド・リゾネーター】を通常召喚! 効果発動! 手札から【ジャンク・シンクロン】を特殊召喚!」

 

【レッド・リゾネーター】

☆2 ATK600 チューナー・効果

 

【ジャンク・シンクロン】

☆3 ATK1300 チューナー・効果

 

「わらわらと……うっとおしい!」

 

 イラついた様子のブーディカ。

 【ジャンク・シンクロン】には召喚に成功した時に墓地のモンスターを召喚する効果があるが、特殊召喚したので使えない。

 

「デッキの上からカード1枚を墓地に送って【ハイ・キューピット】のモンスター効果発動! 送った数だけ自分のレベルを上昇させる!」

 

【ハイ・キューピット】☆1→2

 

「行くぞ! 俺はレベル2の【ハイ・キューピット】とレベル2のチューナーモンスター【レッド・リゾネーター】をチューニング!

 “名状しがたい神よ。風と共に現れ、世界を狂わせ!”

 シンクロ召喚! レベル4、【古神ハストール】!」

 

【古神ハストール】

☆4 ATK2300 シンクロ・効果

 

 現れたのは黄色い衣を纏った怪人とトカゲの様な巨大な生物。

 

「更に、【ハストール】に【ジャンク・シンクロン】をチューニング!

 “光射す道を行け! デュエルと共に、進化せよ!”

 シンクロ召喚! レベル7、【シグナル・ウォーリアー】!」

 

【シグナル・ウォリアー】

☆7 ATK2400 シンクロ・効果

 

 音速を超える速度で現れる赤いバイクの様なボディを持つ機械戦士。

 

「……それだけか? そんなモンスターでは私の軍を超える事は――」

「――なら自慢の【女王】を見てみるんだな!」

 

 そう言ってデュエルディスクを彼女に見せた。俺の魔法&罠ゾーンに【ハストール】が置かれる瞬間を。

 

「何!?」

 

 【女王】は黄色い衣を着せられ、剣と盾を落として更に衣からトカゲの様な長い尻尾が体に巻きついて、身動きを封じていた。

 

「【ハストール】がモンスターゾーンから墓地に送られた場合、こいつを相手モンスターに装備して攻撃と効果を封じる!」

「っく、だが今更女王を封じた所で……!」

 

「俺は手札の【ウヴァループ】の効果を発動して、墓地の【ゼラの天使】を除外して特殊召喚!」

 

【執愛のウヴァループ】

☆4 DEF1800 チューナー・効果

 

「これで最後だ! 速攻魔法、【サイクロン】を発動!

 破壊するのは当然、【約束されざる剣】!」

 

 古今東西、どんなデュエリストも使ったであろう汎用魔法罠破壊カード。

 その風で復讐の剣を打ち砕いた。

 

【約束されざる戦士】×2 ATK3900→1900

【約束されざる女王】 ATK4500→2500

 

「っく!? しまった――」

「――いけ! 【シグナル・ウォリアー】!  【戦士】を倒せ!

“シグナル・ロード”!」

 

 復讐の力を失くして、動きの止まった【戦士】は【シグナル・ウォリアー】の敵ではない。レッドランプの一閃が貫き去って行った。

 

ブーディカのLP:6200→5600

 

「う……あれ、……私は何を……?」

 

 どうやら、ブーディカの復讐心も【剣】と共に消え去った様だ。

 こっちはもう手札が空だ。 

 

 

 

「私のターン、ドロー……この、カードは――」

 

「――スタンバイフェイズ! 【シグナル・ウォリアー】の効果発動!

 こいつ自身にシグナルカウンターを置く!」

 

 フィールド全体のシグナルカウンター:1

 

 【シグナル・ウォリアー】の体のランプが赤く点滅した。

 

「更に、俺のフィールドに【ゼラの天使】が蘇る!」

 

【ゼラの天使】

☆8 DEF2300 シンクロ・効果

 

「【シグナル・ウォリアー】にシグナルカウンターがある限り、戦闘・効果では破壊されない!」

 

 これで相手の貫通を無効にし、戦闘破壊による突破もされなくなった。

 

 怖いのは【ガガガガンマン】による効果ダメージやモンスターを無視するダイレクトアタックだけど、【約束されざる剣】の効果を考えれば戦闘を行わずにダメージを与える手段がある可能性は低い筈だ。

 

「……」

 

 ブーディカは、引いたばかりのカードを見て固まっている。

 どうした? 何を引いた?

 

「……私は」

 

 突然、彼女の王冠がその場に落ちた。

 

 それを彼女はゆっくりとしゃがんで拾い上げる。

 

「……またこんな側面を出しちゃって。ふふふ、だらしないなぁ」

「ブーディカ……?」

 

 急に慈愛に満ちた、普段通りの笑顔を浮かべるブーディカに俺は困惑する。

 

「恥ずかしい所、見せちゃったね。でも此処からは君から貰った力を、見せてあげる!」

 

 そう言って彼女は俺に1枚のカードを見せつけた。

 だけど、そのカードは……

 

「名前も、絵も効果も、無い……?」

 

「君がくれたんだよ。

 マジックカード【親愛の聖杯】を発動!」

 

 その言葉と同時に、効果の無かったカードの情報全てが浮かび上がる。

 

「馬鹿なっ!? カードを生み出しただとっ!?」

 

「このカードは使うサーヴァントによって効果が変わる特別なカード!

 発動条件は、フィールドに存在するレベル5以上のモンスターをリリースする事! 私は【約束されざる女王】をリリース!」

 

 彼女の復讐者としての象徴、【女王】は消え、【ハストール】も再び墓地に送られるがもう効果は使用出来ない。

 

「この効果を発動した後、私のエクストラデッキから違う属性で同じ種族の【L(リンケッド)】と名のつくリンクモンスターを、召喚条件を無視して特殊召喚する!」

 

「リンクモンスター!?」

 

 【女王】は闇属性の戦士族だ。

 

「“ありがとう、マスター。君は私にもう一度、人を好きになる機会をくれた。”

 【L(リンケッド)-約束する勝利の女王《プロミス・ブーディカ》】!!」

 

【L-約束する勝利の女王】

Link-3 ATK2500 リンク・効果 

 

 遂に俺から見て左側のエクストラモンスターゾーンにリンクモンスターが召喚された。

 

 リンクモンスターはエクストラモンスターゾーンと、リンクモンスターが持つリンクマーカーが指しているメインモンスターゾーンにしかエクストラデッキから特殊召喚できない。

 

 そのリンクマーカーは全て左下、真下、右下と彼女のフィールドを指し示している。

 

 地属性の戦士族である【L-約束する勝利の女王】は、今の彼女同様の純白の服と赤いスカート、そして眩しく輝く剣と盾を携えている。

 

「行くよ! 【親愛の聖杯】を発動したターンの間、この効果で召喚した【勝利の女王】が攻撃するまで私はフィールドじゃなくて、墓地からリンクモンスターをリンク召喚する為のモンスターをデッキに戻してのみ、リンク召喚出来る! 但し、【勝利の女王】以外のリンクモンスターの効果は無効になる!」

 

「墓地のモンスターでリンク召喚!?」

 

 俺は慌てて墓地を確認する。

 やはり、さっきの【戦士】の効果で見覚えないのないモンスターが沢山墓地にいる。

 

「えーっと、確か……“現れて! 明日を導くサーキット!

 召喚条件は、レベル3の戦士族モンスター1体!

 【約束されざる弓手】をリンクマーカーにセット!”

 リンク召喚! 【調理の弓手(アーチャー)】!」

 

【調理の弓手】

Link-1 ATK1000 リンク・効果

 

 【勝利の女王】の右下に、左上に向いたリンクマーカーを持つ【調理の弓手】が現れた。

 リンクマーカーが向き合って、相互フォロー、じゃなくて相互リンク状態になっている。

 

 手にフライパンを持ち、見た目は白髪で褐色肌の、どこぞの面倒見のいい皮肉屋のおかんを思い出させる。

 

「次は貴女! “召喚条件は、レベル3以下の戦士族モンスター2体!

 【約束されざる影(アンプロミス・シャドー)】と2枚目の【約束されざる弓手】をリンクマーカーにセット!”

 リンク召喚! 【オレンジ・フレンド】!」

 

【オレンジ・フレンド】

Link-2 ATK1000 リンク・効果

 

 名前の通りの色の衣装を身に纏った、花の髪飾りをした彼女は【勝利の女王】の左後ろに相互リンク状態で召喚されて、嬉しそうに手を繋いでいる。

 

「最後はこの子! “召喚条件はレベル1のモンスター1体!

 【約束されざる命(アンプロミス・ライフ)】をリンクマーカーにセット!”

 リンク召喚、【闇夜の暗殺者】!」

 

 【闇夜の暗殺者】

Link-1 ATK500 リンク・効果

 

 最後に【勝利の女王】の後ろに召喚された【闇夜の暗殺者】。リンクマーカーが上に向いており、【勝利の女王】と相互リンクしている。

 

 ジャックちゃんに似た小さな【暗殺者】は【勝利の女王】に「めっ」とされてナイフを下ろした。

 

「さあ、マスター! 終わらせちゃうよ!」

「っく、どうするつもりだ!?」

 

 ここまでされてはもはや、どうやって止めを刺されるのかとちょっとドキドキする。

 

「2枚目の【約束されざる剣】を発動!」

 

 再び現れる復讐の剣だが、心なしか先ほどよりも誇らしく輝いている。

 

「【L-約束する勝利の女神】は相互リンクの数によって効果を得る! 1つ目、フィールドの永続魔法を墓地に送る事で、フィールドのリンクモンスターの数×800ポイント回復する!」

 

ブーディカのLP:6200→9800

 

「折角の【剣】を!?」

「そしてデッキ・墓地から、永続魔法【約束する車輪】1枚を発動できる!」

 

 フィールドに残っていた剣が消えて、新たに現れた馬車がモンスター達の周りを疾走している。

 

「【約束する車輪】は私のモンスター達をあらゆる破壊から守り、リンクモンスターがいるなら私は戦闘ダメージを受けない!

 続けて【勝利の女王】の第2の効果! 相互リンク状態のモンスター1体の効果を得る! これで【闇夜の暗殺者】の効果、リンク先に相手モンスターがいなければ直接攻撃出来るを貰うよ!」

 

 【暗殺者】が嬉しそうに【勝利の女王】にナイフを貸している。

  

 ……だが、俺の墓地には先のターン【ワン・フォー・ワン】のコストで手札からこっそり墓地に送っていた【超電磁タートル】がいる。バトルフェイズに除外すれば、バトルフェイズを終了して生き残れる!

 

「……おっと! 私は勝利の女王で、お姉さんだよ! マスターの悪戯は見逃さない! 【勝利の女王】の第3の効果! このカードの効果でライフポイントを1000以上回復しているなら、1000ポイントにつき1枚、フィールドと墓地のカードを除外できる!」

 

「何!?」

 

 回復したのは3600ポイント、つまり3枚!?

 

「【シグナル・ウォリアー】と、墓地の【超電磁タートル】! ……あとその気持ち悪いラクダ君も退場!」

 

 彼女に指名された3枚のカードは、掲げられた剣の輝きに当てられて消え去った。

 もはやこれまでだ。

 

「どう? お姉さん、ちゃんと強いでしょ?」

「強過ぎでは……?」

 

「それじゃあ、バトルフェイズ!

 【L-約束する勝利の女王】でマスターに、ダイレクトアタック!」

 

「防げる訳ねぇ!」

 

ジュウヤのLP:600→0

 

 

 

「……拗ねちゃった?」

 

「拗ねてねぇし……別に……俺が捧げた聖杯がインチキカードに変わってショックを受けたりなんか……してないし……」

「ショックだったんだね……よしよし」

 

 ぎゅっと抱きしめられて大きな胸の感触で俺を包んでも、癒されない。

 

 ……癒されないから、もう少し抱きしめてて欲しいです。

 

「あ、素直になった」

「なってない。なってないので抱きしめて下さい」

 

「はいはい。

 今度は、ジャック達も誘うから、ね?」

 

「……うん」

 

「……あれ? でもデュエルに勝ったら言う事聞くのって……ま、いいっか」

 




リンケッドはLinkの過去形、Linked=繋がったが由来。
聖杯を与える程に繋がったサーヴァント、という意味です。(間違ってたら指摘してください)

【L-約束する勝利の女王】の正規召喚条件はレベル5以上の戦士族モンスター3体。
【HERO】とかならワンチャン有りそうですが、それでも3体相互リンク揃えるのは難易度高いかも?

そして現れた【聖杯】カード。星杯とは名称が違うのでサーチ出来ません。安心ですね。


主人公が使ったのは【シグナル・ウォリアー】と【スマイル・アクション】でライディング・アクションデュエルをするデッキですが、肝心の【スマイル・アクション】が引けず。引けても【L-約束する勝利の女王】で除外されていましたけど。


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完全復活、パーフェクトアストルフォ様だぜい!【募集企画】

今回は活動報告で募集したデュエルです。なのでオリカは無しで、デュエルするのもジュウヤではありません。

募集自体は先着3名で、まだ1人分の枠がありますので参加したい方は活動報告をご覧になって下さい。



「会いたかったぞマスター!」

 

「うぉ、またネロか!?」

 

 俺は一度、俺を苦しめたいという良い趣味をお持ちのアヴェンジャー達を揃えてヤンデレ・シャトーを終わらせたが、ネロ・ブライドが自身のスキルでアヴェンジャーと化す事で俺を再び悪夢の世界に誘っている。

 

「今日は余の創った品の数々をマスターに披露してやろう! 以前作ったふぃぎゅあ、だけではなく黄金の像やチョコ、指人形やそふび(?) 等の古今東西あらゆる製法、材料で作ったネロミュージアム! 最初にして唯一の入場者となる幸運を噛みしめるがよ……い?」

 

 夢中で語っていた彼女だったが、振り返るとマスターは忽然と消えていた。

 

「……マスター……? マスター!?

 ……よ、余を置いていかないでくれ! 何処に消えたのだマスター!?

 うぅぅ……な、泣かんぞ! 余が必ず、そなたを見つけ出すからな!」

 

 

 

 ネロの部屋にいたら突然、嘴に捕らえられヤンデレ・シャトーの別の階へと引き摺り込まれてしまった。

 

「よーし、良く連れてきてくれたね。ありがとう、ヒポグリフ!」

 

 その犯人はライダークラスのサーヴァント、アストルフォだった。

 ピンク髪にスカートと、何処からどう見ても男の娘な彼は頭のネジが多分10本くらい足りておらず、理性がよく蒸発する。

 

「アストルフォ……!」

 

 背中……ではなく、尻に悪寒が走る。

 このサーヴァント、キャラクターとしては大好きなんだけどヤンデレ・シャトー時代、何度も何度も尻を狙われるという男として最悪な体験をさせられていた。

 

「マスター。僕は怒ってるよ! もうプンプンだ!

 なんで此処に戻って来たのに、僕に一回も挨拶に来ないの!?」

「えぇ……だって絶対俺の尻狙ってるだろ」

 

「そんな事! …………ないとは言い切れないけどさ!」

 

 正直だけど、股間を抑えながら言われるとゾッとするのでやめてくれ。

 

「兎に角、僕はもう怒った、怒りに怒った! だから、今から君を抱く!

 ……筈だったんだけど、忌々しい皇帝さんに僕はこの階層に閉じ込められた。何せ、僕のヒポグリフで階層を移動されるとあの人には捕まえる手段がないからね!」

 

 階層……確か、ヤンデレ・シャトーは階層によってサーヴァントにヤンデレ属性以外にも追加効果を与えたりするんだったけ。

 

「此処はヤンデレ・シャトーの地下。別名、地下決闘場!」

「決闘場!?」

 

「此処では、サーヴァントとマスターはデュエルを介してのみ、己の要求を通す事が出来る!」

 

 ちょっと待て、デュエルってまさか遊戯王か!? 俺それ以外のデュエルを知らないんだけど。

 

「つまり、僕が勝てば君の貞操を! 君が勝てば僕を自由にして良いって事さ!」

「いや、俺は無事に帰りたいだけなんだけど……」

 

「ならそれでいいさ! どうせ僕が勝つんだからね!」

 

 そう言って右手を掲げたアストルフォ。すると何処からともなく羽根が……違う、羽根型のデュエルディスクが彼の手にはめられた。

 

「さあ、マスターも自分の盾と剣を手に取って!」

 

「く……やるしかないか」

 

 漫画やアニメで見た闇のゲームを、まさか自分の尻を掛けてやる事になるなんて……だけど、俺だってデュエリストだ。

 こうなったら、俺のデッキを信じてやってやる!

 

「準備はいい!? 行くよ!」

「くっ、絶対勝つ!」

 

『デュエル!』

 

 

アストルフォのLP:8000

マスターのLP:8000

 

 

「先攻は俺だ!」

 

 こうなったら最強カードで一気にケリをつけてやる!

 

「マジックカード【レッドアイズ・インサイト】発動!

 デッキの【真紅眼(レッドアイズ・)の黒竜《ブラックドラゴン》】を墓地に送って、デッキから【真紅眼融合(レッドアイズ・フュージョン)】を手札に加え、そのまま発動だ!」

 

 デッキから2枚のカードが自動的に突き出された。【真紅眼の黒竜】と【ブラック・マジシャン】の2枚だ。

 

「“可能性の竜よ! 同じ色の力と勇気に翼をもたらせ!”

 融合召喚! レベル8、【超魔導竜騎士—ドラグーン・オブ・レッドアイズ】!」

 

【超魔導竜騎士—ドラグーン・オブ・レッドアイズ】(真紅眼の黒竜扱い)

☆8 ATK3000 融合・効果

 

 俺のフィールドに黒竜を鎧の様に纏った騎士が現れる。

 

「いきなりそいつ!?」

「更にマジックカード【黒炎弾】を発動! フィールドの【真紅眼の黒竜】1体を選択して、その攻撃力分のダメージを相手に与える! 【ドラグーン】は【真紅眼融合】の効果で【真紅眼の黒竜】として扱われている!」

 

「うぁっ!? あ、アチチチッ!?」

 

アストルフォのLP:8000→5000

 

「【真紅眼融合】の効果でこれ以上モンスターを召喚出来ない。

 カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 【ドラグーン】は効果の対象にならず、効果では破壊されないし、相手の効果の発動を一度だけ手札1枚と引き換えに一度だけ無効に出来る。

 勿論、手札はまだ2枚もある。

 

 

「いきなりかぁ……僕のターン、ドロー!」

 

 アストルフォは手札6枚。

 尻への恐怖に駆られて何も考えずに【ドラグーン】を立ててしまったが、一体どんなデッキを使ってくるんだ?

 

 もしかして、とんでもオリカデッキなんじゃ……?

 

「僕は魔法カード【成金ゴブリン】を発動するよ! マスターのライフを1000ポイント回復させて、カード1枚ドローする!」

 

 あ、これはまさか……?

 

「無効にしないなら、僕はもう1枚同じカードを発動するよ!」

 

マスターのLP:8000→10000

 

「そして、更に魔法カード【閃刀術式—ベクタードブラスト】を発動!」

 

 不味い、ルールが変わったのに前の新マスタールールの癖が抜けずにエクストラモンスターゾーンに召喚してしまった……!

 

 【ベクタードブラスト】は互いのデッキトップのカードを2枚墓地に送るカードだが、もし墓地に魔法カードが3枚以上あれば追加効果で互いのエクストラモンスターゾーンのモンスターをデッキに戻す効果がある!

 今のアストルフォの墓地には2枚の魔法があり、先に2枚デッキのカードを墓地に送るから発動条件が満たされる可能性は高い!

 

「っく、手札を捨てて【ドラグーン】の効果発動! その発動を無効にして攻撃力を1000ポイントアップ!」

「あーあ、これで【ドラグーン】を処理できたら楽だったんだけどなぁ」

 

【超魔導竜騎士—ドラグーン・オブ・レッドアイズ】ATK3000→4000

 

 これは不味い。

 俺は慌てて、伏せていたカードを発動させた。

 

「永続トラップ発動、【真紅眼(リターン・オブ)鎧旋(・レッドアイズ)】! そのまま第一の効果、フィールドに【レッドアイズ】モンスターが存在するので墓地の通常モンスターである【真紅眼】を特殊召喚!」

 

【真紅眼の黒竜】

☆7 DEF2000 通常

 

「……ふぅーん」

 

 アストルフォはそれを見てニヤリと笑った。

 

「何がおかしい?」

「ふっふっふ! 焦っているマスターを見てるのが嬉しくてね」

 

「焦ってる? 俺が?」

「だって、頼みの綱の【竜騎士】がやられちゃうと思って【鎧旋】を今発動させたんでしょ? しかも、そのカードって墓地の通常モンスターを召喚できる効果なのにステータスが高い【ブラック・マジシャン】を召喚しなくてよかったの?」

 

 ……確かに。

 これはプレイングミスだ……!

 

「えへへ、大丈夫だよ。僕が勝って君を気持ちよーくしてあげるからね!

 魔法カード【閃刀起動—エンゲージ】を発動! デッキから【閃刀機—ホーネットビット】を手札に加えて、更に墓地に3枚以上魔法カードがあるから追加でカードを1枚ドロー!」

 

 ここにきて展開札を引き込まれたのは不味い!

 

「更に今加えた【ホーネットビット】を発動!」

「唯ではさせない! 【増殖するG】の効果! このターン、相手の特殊召喚の度にカードを1枚ドローする!」

 

「ま、それくらいは良いかな。【閃刀姫トークン】を攻守1500で特殊召喚!」

 

【閃刀姫トークン】

☆1 DEF1500 通常

 

「さあ行くよ! “現れろ、乙女の道を照らす未来回路! 召喚条件は【閃刀姫】モンスター1体! 【閃刀姫トークン】をリンクマーカーにセット!”

 リンク召喚! 【閃刀姫—カガリ】!」

 

【閃刀姫—カガリ】

Link-1 ATK1500 リンク・効果

 

 現れたのは真っ赤なドレスの様なフォルムを持つ機械的な装備に身を包んだ金の髪の少女。背後に取り付けられた羽根の様な機関が炎を放っている。

 

「攻撃力は墓地の魔法カード1枚につき100ポイントアップ!

 更に特殊召喚に成功した場合、墓地の【エンゲージ】を手札に加えるけどその前に! 手札の【閃刀姫—ロゼ】の効果発動! この子を手札から特殊召喚するよ!」

 

【閃刀姫—ロゼ】

☆4 ATK1500 効果

 

 銀色の髪と赤い瞳。黒い軍服に身を包んだ少女が静かにこちらを見据えている。

 

【閃刀姫—カガリ】ATK1500→1900

 

 俺の手札はここまでの特殊召喚で3枚も増えたが、アストルフォも手札を回復しつつ展開している。

 

「更に2体のモンスターでリンク召喚! こい、【閃刀姫—ジーク】!」

 

【閃刀姫—ジーク】

Link—2 ATK1500 リンク・効果

 

 先の【カガリ】とは打って変わって邪悪さを醸し出す黒と赤の機械装甲。フルフェイスなので誰が乗っているのかは分からない。

 

「1枚ドロー!」

「これでメインモンスターゾーンにモンスターがいないので【エンゲージ】を発動! 【閃刀術式—アフターバーナー】を手札に加えて1枚ドロー!」

 

 あれは、フィールドのモンスターと魔法&罠を破壊するカード。

 

「フィールド魔法【閃刀空域—エリアゼロ】を発動! 【ジーク】を対象にとって、デッキから3枚めくって【閃刀】があれば1枚手札に加える!

 【閃刀機—ウィンド・アンカー】を手札に! そして【ジーク】を墓地に送るよ!」

 

 【ジーク】を墓地に送った。狙いは――

 

「【ロゼ】の効果発動! エクストラモンスターゾーンのモンスターが僕の効果で墓地に送られたから、特殊召喚して、更に相手のモンスターの効果を対象をとらずに無効にする! これで【ドラグーン】は丸裸さ!」

「だが1枚ドローだ!」

 

「無駄無駄。マスターのデッキに【G】以外の手札誘発は入ってないよね? それにレッドアイズデッキなら、幾らドローしてもむしろデッキの【真紅眼の黒竜】が無くなって動き辛くなるでしょ?」

 

 っく、確かに……ピン刺しの融合素材とか、死に札になりうるカードも抱えるリスクがある。

 

「【ロゼ】1体でリンク召喚! 【閃刀姫—シズク】をリンク召喚!」

「1枚ドロー!」

 

【閃刀姫—シズク】

Link—1 ATK1500 リンク・効果

 

 【カガリ】と同じ少女が、青色のアーム部分が巨大な鎧に身を包んで現れた。その後ろには盾の様なオプションパーツが浮遊している。

 

「効果で相手モンスターの攻守が墓地の魔法カード数だけ100ポイントダウン!」

 

【超魔導竜騎士—ドラグーン・オブ・レッドアイズ】ATK3000→2500

【真紅眼の黒竜】DEF2000→1500

 

「メインモンスターゾーンが空いてるから【閃刀術式—アフターバーナー】を発動! フィールドの【ドラグーン】を対象に破壊! 追加効果は無しで! 【鎧旋】を破壊しちゃうと、【ドラグーン】が蘇っちゃうからね!」

「っく!」

 

 突然現れた炎の大翼が、黒竜の加護を失った【ドラグーン】を貫いた。

 

【真紅眼の黒竜】DEF1500→1400

 

 更に今の魔法カードが墓地に送られて、遂に【真紅眼】の守備力が【シズク】の攻撃力を下回った。

 

「バトルだ! 【真紅眼】を攻撃だ!」

「うっぐ!?」

 

 守備表示の【真紅眼】が破壊されてもダメージは無いが、初めて感じるバトルの衝撃に、俺の体は吹き飛ばされる。

 

「……このっ」

「どう? サレンダーする?」

 

 …………いや……これは……

 

「……楽しいな」

「へ?」

 

 やはり、先までの俺はちょっとどうにかしていたらしい。

 デュエリストなら誰もが憧れるソリッドヴィジョンでのデュエルを、貞操の危機に駆り立てられて見えなくなっていた。

 

 そのせいで、肝心のデュエルにも集中できていないんだから、デュエリストとして二流の誹りを免れないだろう。

 

「こんだけ手札があるのに、サレンダーする訳ないだろ! 寝ぼけた事言うなよ、アストルフォ!」

「……うわー、ちょっとエンジン点いちゃったかな?

 まあ、でもマスターが楽しそうだから、いっか!

 カードを2枚伏せて、エンドフェイズに【シズク】の効果を発動! 墓地に同じ名前のカードが存在しない【閃刀】魔法カードを手札に加える! 加えるのは【閃刀術式—シザーズクロス】! これでターンエンド!」

 

 あれだけ動いて、未だにアストルフォの手札は6枚。

 しかも伏せたカードは先【エリアゼロ】で手札に加えた、こちらの効果モンスターの効果を無効にしてコントロールを奪う【閃刀機—ウィンド・アンカー】なのはほぼ間違いないだろう。

 

 もっとも、俺の手札にはそれを打開するカードが6枚もある。

 

 さあ、行くぞ俺のデッキ。反撃開始だ。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 彼女の伏せカードのもう1枚が何かわからない。

 だが、【鎧旋】と同じ縦列に置いたので、もしかしたらアレかもしれない。

 

「【真紅眼(レッドアイズ・)鉄騎士(メタルナイト)—ギア・フリード】を召喚!」

 

【真紅眼の鉄騎士—ギア・フリード】

☆4 ATK1800→1200 効果

 

「更に手札の【黒鋼竜(ブラックメタルドラゴン)】の効果発動! 【ギア・フリード】に攻撃力が600ポイントアップする装備カードとして装備する!」

 

 更に【ギア・フリード】の効果で装備カードを破壊すれば魔法&罠を1枚破壊出来る!」

 

「やらせないよ! 装備効果にチェーンして罠発動、【無限泡影】! これで【ギア・フリード】と、このカードと同じ縦列の【鎧旋】の効果を無効にするよ!」

 

「なら無効になる前にチェーン発動だ! 【鎧旋】の効果で甦れ、【真紅眼の黒竜】!」

 

【真紅眼の黒竜】

☆7 ATK2400→1800 通常

 

【真紅眼の鉄騎士—ギア・フリード】ATK1200→1800

 

 俺の呼び声に答える様に、短い吼えた【真紅眼】は俺にチラリと視線を向けた。

 

「……うぉぉぉ! レッドアイズ! やっぱりお前はかっけぇーよ!」

「おーい、マスター?」

 

「本当に、先までの俺はどうかしてた! やっぱり、お前は最高のドラゴンだ!」

「マスター……僕の事、ろくに褒めた事も無いのに……」

 

 ひとしきりその雄姿を拝み倒した所でデュエルに意識を戻した。

 

「マジック発動、【融合徴兵】! EXデッキの融合モンスターを公開して、そいつに指定されているモンスターをデッキから手札に加える! 但し、このターンの間、そのモンスターを召喚、特殊召喚できずモンスター効果も使用できない!

 俺は融合モンスター【ブラックデーモンズドラゴン】を見せて、デッキの【デーモンの召喚】を手札に加える!

 そしてマジックカード【融合】!」

 

「【悪魔龍】を呼ぶつもり?」

「チッチッチ! 外れだ! フィールドの【真紅眼】と手札の【デーモンの召喚】で融合!

 “可能性の竜よ、悪魔の骨を身に纏い、迷いの宮さえ超えて行け!”

 融合召喚! レベル9、【ブラックデーモンズドラゴン】!」

 

【ブラックデーモンズドラゴン】

☆9 ATK3200→2600 融合

 

 今度はメインモンスターゾーンに、一応セットカードを避けて召喚した。

 

「え? なんで? 【悪魔龍】なら墓地の【真紅眼】をデッキに戻せるのに?」

「【ブラックデーモンズドラゴン】は効果を持たない融合モンスターだ! よって、効果モンスターを対象にする【ウィンド・アンカー】の効果を受けない!」

 

「あ、そうだった!」

 

「バトルだ! 【ブラックデーモンズドラゴン】で、【シズク】を攻撃!」

「っあだ!?」

 

 アストルフォのLP:5000→3900

 

「これで【シズク】が消えて攻撃力は元に戻る!」

 

【ブラックデーモンズドラゴン】ATK2600→3200

【真紅眼の鉄騎士—ギア・フリード】ATK1800→2400

 

「だ、だけどこの瞬間墓地の【閃刀姫—ロゼ】の効果! エクストラモンスターゾーンの【閃刀姫】が破壊されたから特殊召喚!」

 

【閃刀姫—ロゼ】

☆4 DEF1500 効果

 

「【ギア・フリード】で攻撃!」

「っく!」

 

 メインフェイズ2に入って俺は1枚を手札に残して、2枚のカードを伏せた。

 

「ターンエンドだ」

 

 

「覚悟しろマスター! 僕のターン、ドロー!」

 

 アストルフォの手札は7枚。厳しいターンになりそうだ。

 

「スタンバイフェイズ、トラップ発動【鎖付き真紅眼牙(レッドアイズ・ファング)】! こいつを【ギア・フリード】に装備する!」

 

 【牙】には相手の効果モンスターを装備カードに変える効果がある。

 

「【ギア・フリード】を奪っても【牙】の効果でこっちのモンスターを除去するつもりだね! なら永続魔法【閃刀機関—マルチロール】を発動!

 このカードはエンドフェイズに、このカードが表側表示の間に発動した【閃刀】魔法カードを任意の枚数セット出来る!」

 

 あのカードが発動したと言う事は……速攻魔法を大量に消費するつもりか。

 

「魔法発動【閃刀術式—アフターバーナー】! これで【ブラックデーモンズドラゴン】と【牙】を破壊するよ!」

 

 いきなりこっちの妨害札を破壊して来たか!

 

「これで伏せていた速攻魔法カード【閃刀機—ウィンド・アンカー】を発動! 【ギア・フリ―ド】の効果を無効にして頂いていくよ!」

「なら【真紅眼】がいる内にチェーンして【鎧旋】の効果を発動! 対象は墓地の【ブラック・マジシャ――】」

「――速攻魔法、【閃刀機—シャークキャノン】! 対象になっている【ブラック・マジシャン】を対象に、追加効果で僕のフィールドに攻撃不能の状態で特殊召喚!」

 

【ブラック・マジシャン】

☆7 DEF2100 通常

 

 2体もモンスターを奪われた。

 いや、この流れはもしかしてリンク4か!?

 

「手札から【閃刀姫—レイ】を召喚! 更に【閃刀姫】が召喚された時、手札から【閃刀姫—ロゼ】を特殊召喚!」

 

【閃刀姫—レイ】

☆4 ATK1500 効果

 

【閃刀姫—ロゼ】

☆4 ATK1500 効果

 

 現れた金髪青眼の美少女は、既に召喚されていた【カガリ】や【シズク】の鎧を纏っていた彼女だ。

 

「魔法カード【閃刀術式—シザーズクロス】! 墓地の【ロゼ】を1枚手札に加えておいて、バトル!」

 

 敵意の視線を向け合う少女達だが、一度頷いてから刀と共にこちらへと駆け出す。

 

「【レイ】と【ロゼ】でダイレクトアタック!」

 

「ガァッ!?」

 

マスターのLP:10000→8500→7000

 

 初ダメージ。ライフもまだ半分以上ある。

 だが、思ったよりもはっきりとした痛みと、衝撃が俺の心を貫いていく。

 

「……大丈夫、マスター? まあ、一種の闇のゲームだからね。

 めちゃくちゃ痛かったかな?」

 

「っく……なんの!」

 

 と強がっておいたが、吹き飛ばされてはいない筈なのに膝を折ってしまう衝撃だった。

 

「続けて【ギア・フリード】でダイレクトアタック!」

 

 仲間だった筈の鋼の騎士の一閃が、俺のライフを削り取る。

 

マスターのLP:7000→4600

 

「っぐぉ!?」

 

「メインフェイズ2! 【ブラック・マジシャン】と【閃刀姫—ロゼ】でリンク召喚! 【閃刀姫—ジーク】!

 “更に現れろ! 乙女の道を照らす未来回路! 召喚条件は効果モンスター3体以上! 【ギア・フリード】、【レイ】、リンク2の【ジーク】を2体分としてリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!”

 リンク召喚! 【ヴァレルロード・ドラゴン】!」

 

【ヴァレルロード・ドラゴン】

Link-4 ATK3000 リンク・効果

 

 鋼の体に無数の光のラインを発光させて現れた赤い銃身の様なドラゴン。

 こいつはヤバい。

 

「だけど、【ギア・フリード】に装備させられていた【黒鋼竜】が墓地に送られたので効果発動! 【レッドアイズ】カードである【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を手札に加える!」

 

「さあ、お楽しみのエンドフェイズ!

 【マルチロール】の効果発動! このターン発動した【閃刀】魔法カードである、【ウィンド・アンカー】【シャークキャノン】【アフターバーナー】【シザーズクロス】をセットして、ターン終了だよ!」

 

 アストルフォの手札は残り2枚。

 だけど場には俺の効果モンスターを奪う【ウィンド・アンカー】と墓地からモンスターを奪う【シャークキャノン】が準備されている。

 

 俺の手札2枚。場には伏せカードと【鎧旋】だけ……

 

 

「――それでも、戦うのがデュエリストだ! 俺のターン、ドロー!」

 

 俺は最後のドローに望みをかける。

 

「来てくれたか!」

「甘いよ、マスター! スタンバイフェイズに速攻魔法【閃刀機—シャークキャノン】! これで君の墓地の【超魔導竜騎士—ドラグーン・オブ・レッドアイズ】を頂きます!」

 

【超魔導竜騎士—ドラグーン・オブ・レッドアイズ】

☆8 ATK3000 融合・効果

 

 融合召喚されていない【ドラグーン】だが、耐性と無効効果は未だに健在だ。

 

「なら、魔法カード【死者蘇生】を発動! 墓地の【ブラックデーモンズドラゴン】を――」

「手札のカード1枚を墓地に捨てて【ドラグーン】の効果発動! 【死者蘇生】は無効だぁ!」

 

【超魔導竜騎士—ドラグーン・オブ・レッドアイズ】ATK3000→4000

 

 即座に無効にされてしまった。

 

「なら……これしかないよな」

 

 俺は先ほど手札に加えた【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を、墓地に送った。

 

「手札の【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】をリリース! 来い、【真紅眼(レッドアイズ・)亜黒竜(オルタナティブ・ブラックドラゴン)】!」

 

 

【真紅眼の亜黒竜】

☆7 ATK2400 効果

 

 赤い影を身に纏って現れたのは可能性の竜とは異なる力を持った【亜黒竜】だ。

 

「その竜は……!」

「バトルフェイズ! 【亜黒竜】で【ヴァレルロード・ドラゴン】を攻撃!」

 

 俺の指示を信じて【亜黒竜】は敵へと攻撃を放つが、攻撃力は【ヴァレルロード】の方が上だ。

 その弾丸で撃ち抜かれて、黒の外殻は壊される。

 

マスターのLP:4600→4000

 

 だが、壊された外殻から炎が噴き出し、漆黒の姿で再誕する。

 

「【亜黒竜】が破壊された時、墓地から【レッドアイズ】を特殊召喚できる!

 この時、特殊召喚したのが【真紅眼の黒竜】なら攻撃力は倍になる!」

「うぎゅ!?」

 

【真紅眼の黒竜】

☆7 ATK2400→4800 通常

 

 どうやら、アストルフォはパニックになってしまった様だ。

 

「バトル続行! いけ【真紅眼の黒竜】! 【ドラグーン】を打ち砕け!」

「えぇ、えーと! ……そうだ! 【ヴァレルロード】の効果発動! 

 【黒竜】の攻撃力を500ポイント下げる!」

 

【真紅眼の黒竜】ATK4800→4300

 

「無駄だ、“ダーク・メガ・フレア”!」

 

アストルフォのLP:3900→3600

 

「でも、これでマスターはもう攻撃出来ないし、仮に伏せカードが【黒炎弾】でも発動出来ないから僕の勝ち!?」

「じゃあ、伏せカードが【レッドアイズ・スピリッツ】ならどうだ?」

 

【真紅眼の亜黒竜】

☆7 ATK2400 効果

 

「え? ま、まさか……!?」

「【亜黒竜】の効果に1ターンに1度の制限はない! もう一度行け、【亜黒竜】!」

 

マスターのLP:4000→3600

 

「すまん……! だが、これでもう1体の【真紅眼の黒竜】が復活する!」

 

【真紅眼の黒竜】

☆7 ATK2400→4800 通常

 

「あ、あわわわっ!」

「いけ、【真紅眼】! 【ヴァレルロード】を焼き尽くせ!

“ダーク・メガ・フレア、ダイニダァ”!!」

 

アストルフォのLP:3600→1800

 

「あだだだ……あれ? でも僕のライフ残ってるじゃん! やった、次のターンで僕の――」

「何勘違いしてるんだ?」

「ひょ?」

「まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!

 フィールドに【レッドアイズ】が存在する時、永続罠【真紅眼の鎧旋】の効果発動! 墓地から甦れ、3体目の【真紅眼の黒竜】!」

 

【真紅眼の黒竜】

☆7 ATK2400 通常

 

「っな!? 3体目なんていつの間に!?」

「俺がテンパってた2ターン目、【ドラグーン】の手札コストとして墓地に送ったんだ。まあ、かっこよく決められるだから結果オーライだな!」

 

「そんな、嘘だぁぁぁ……僕はマスターと……!」

「“ダーク・メガ・フレア、ダイサンダァ”!!」

 

 

 

「危ねぇ……ギリギリだったぁ」

 

 もし最後のモンスターが【ヴァレルロード】じゃなくて戦闘破壊出来ない【ヴァレルソード】や、【閃刀機—イーグルブースター】を伏せられていたら俺の負けだった。

 

「うぁあぁぁぁぁぁ! 悔しいぃぃぃ! もう少しでマスターの体も心も僕の物だったのにぃぃぃ!」

 

 しかも、あのデッキを理性蒸発のアストルフォが回していたんだから驚きだ。

 

 床に転がりながら元気に泣いているし。

 

「うぅ……やっぱり僕は駄目な弱いサーヴァントなんだ……」

「……」

 

 流石に、あそこまで泣かれていると気が引ける。

 

「なぁ、アストルフォ」

「……何?」

 

「また、デュエルをしよう」

 

 俺はそう言ってピンクの髪を撫でた。

 

「マスターは、まだ僕の事が好き?」

「ああ」

 

「……えへへ、だよねー! 知ってたよ!」

 

 急に元気に飛び跳ね始めた。

 

「よーし! 次はもっと強くて簡単なデッキ借りてこよーっと!」

「借りる? 誰に?」

 

「ブラちゃんからだよ! あ、でもマスターは会っちゃダメだよ!」

 

 はいはいと、俺は頷いておく事にした。

 

 

 

「なるほど……あのピンク美少年の仕業か。

 大事には至っていない様だし、今日は穏便に済ましてやるとするが……なるほど、デュエルか……」

 

 白い花嫁姿の皇帝はニヤリと笑った。

 

「実に面白い! 愛の駆け引きという奴だな! こうなったら、余もマスターに相応しき相手になるように準備をしなくてはな!」

 

 そう言って彼女は自分の懐から聖杯を取り出した。

 

「さあ、余の望みを叶えよ! 願望器!」

 

 その後、彼がネロ・クラウディウスの引き起こす大事件に巻き込まれる事になるのはまた別の話。

 

 




企画にアレが駄目とかこれが駄目とか決めてませんし、全く問題ないんですけど……
【魔性の月】でアストルフォをアホの子にしたり、【ムーン・スクレイパー】でそれを解除したりとかを予想していたら、そんな物一切なしの真剣勝負でしたね。
自分、エンジョイ勢なので今回出てきた殆どのカードに触った事がなく、全部確認しながら震えてました。【シャークキャノン】と【ウィンド・アンカー】強過ぎ怖い。


作者が使った事ないデッキ同士なので、ルールミスが見つかったら教えて下さい。



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さぁデッキからカードの拳を抜け【募集企画】

活動報告で募集した企画第2弾です。

今回はヤンデレ・シャトーではお馴染みの玲のデュエル。
弟に付き合ってあげる優しいお兄ちゃんは、邪悪な師匠の野望を打ち砕けるか?


「あー、ぺ太郎」

「ん? なに?」

 

 放課後、同じゲーム研究部の1人に声を掛けた。他の連中は知識が狭く深いが、こいつは最近実況者になったらしく、結構幅広いゲームをやっている。

 

 因みにぺ太郎はあだ名だ。オンラインゲームのアバターとかSNSのアイコンにペンギンを使っているので、クラスメイトや研究会の奴らにそう呼ばれ、本人も気に入っているので俺もそう呼んでる。

 

「最近、弟の奴がカードゲームに嵌ってな。相手をしろって母さんがうるせぇんだけど、お前、俺にルールとか教えてくれねぇか?」

「いいけど……何のゲーム? デュエマ?」

「いや、遊戯王」

 

 それを聞いてぺ太郎は嫌そうな顔をして額を抑えた。

 

「うわぁ……また面倒な」

「そうなのか?」

「ちょっと色々複雑だけど……玲ならなんとかなりそうだね」

 

「おう、頼むわ」

「でもデッキは?」

「貰いもんだけど、これで良いか?」

 

 俺が持ってきたカードケースを渡すとぺタロウは驚いた様子で中を確認した。

 

「すごい。これ、一昔前だったら結構高いデッキだ」

「ん? そうなのか?」

「しっかりスリーブまで……エクストラデッキは無いけど、面白いなこのデッキ。誰から貰ったの?」

 

「カードショップのおっさん。一昨日、強盗に襲われているのを偶々助けてやったら、お礼がしたいって言われて、遊戯王のデッキをくれって言ったらこれをくれた」

 

「やっぱり、君は存在自体がチートだよ」

「かもな」

 

 俺がそう返すと呆れた様子のぺ太郎はごそごそと自分の鞄を弄ってケースを取り出した。あれ、もしかしてこいつ……

 

「……お前、いつもそれ持ち歩いてんの?」

「まあね」

 

 デュエリストだからね、とかドヤ顔で言われてイラっとした。

 

「あ……取り敢えず、この2枚はあげるよ」

「良いのか?」

「お礼だよ。いつも僕の動画に高評価してくれてるだろ? そのお礼」

 

 なんか良く分からん黒いカード、【銀河眼(ギャラクシーアイズ)光波竜(サイファー・ドラゴン)】と【銀河眼(ギャラクシーアイズ)光波刃竜(サイファー・ブレード・ドラゴン)】を貰い、基本的なルールとデッキの回し方を教わった。

 

 因みに、研究会の奴らをそれを見て何かひそひそと話していた。

 多分、他のゲームでボコボコにされていた鬱憤を晴らそうとか、そんな下らない事だと思うので、一応このデッキの弱点や対策をぺ太郎に聞いておいた。

 

 その後家に帰ってから、真からも融合モンスターとやらのカードを貰った。

 

「でもこの召喚条件じゃ出せなくねぇか?」

「んー、でも余ってるし取り敢えず入れてみたら?」

 

 明日2人でカードを買いに行く約束をしつつ、初心者同士で戸惑いながらデュエルをした。

 

 

「義兄上殿、私と勝負をしてみないか?」

 

 明日は週末、うるさい母さんも仕事でいなかったので真とデュエルをしてそのまま一緒に寝たら、あの金髪青コートのライネスが夢の中で挑発してきたので、取り敢えずアイアンクローで持ち上げてやる。

 

「あたたたっ!? ちょ、ちょっと待て!」

「あ、ライネス師匠!」

 

 真がやってきたので、放してやる。

 

「いっ……ふ、ふふ……今回ばかりは力に屈しない! 私は司馬懿殿とトリムマウのおかげでこの塔の特性を理解したのだからな!」

「特性?」

 

 情けなさそうに頭を撫でながら歩いて、俺と距離をとったな。

 

「この場所は決闘場! デュエル……君達風に言うなら遊戯王での勝負をする場所だ」

「デュエル!」

 

 真は嬉しそうだが俺はちっとも喜べない。

 つまり、ガチンコ勝負じゃなくてゲームで決着を着けようって事か。

 

「という訳で、私は義兄上殿とデュエルをして、私が勝てば真とデートさせて頂こう」

「なんだと?」

 

 俺は振り返って真を見る。

 あいつ、結構遠くまで行ってるな。もしかして今の聞いてなかったか?

 

「……ん? 兄ちゃんとデュエル? 俺……僕は?」

「……安心したまえ、マスター……」

 

 おい、何ちょっとニヤニヤしてやがる。俺の弟がてめぇに気を使って一人称を変えたのがそんなに嬉しいか?

 

「君の対戦相手は兄上のサーヴァントだ」

「弟君に勝てれば部長を好き放題できると聞いて」

 

 この青コート、Xオルタまで用意してやがったか。

 

「所で部長」

「ん? なんだ?」

「あんぱん下さい」

 

 なんでこいつ俺が此処にあんぱん持って来てると思ったんだ……あるし。

 

「では、これはお礼です。好きに使ってください」

「ん? おい、なんだこの弱そうな――おい、勝手にデッキに入ったんだが?」

 

「では、私達はあちらで観戦しましょう」

「うん! 兄ちゃん、頑張ってねぇ!」

 

 意味不明なカードをデッキに入れられたまま、Xオルタは真と一緒に観客席に向かった。

 

「むっ……ごほん、ごほん! 弟子よ、君の師匠は誰か、忘れてしまったのか?」

 

「あ……! ら、ライネス師匠も、頑張れー!」

 

 うちの弟に変な気を使わせるな。

 

「では――」

 

 光を放って、霊基を変えた。

 

「――始めようか!」

 

 青コートから、白と水色の袖口がスカートみたいにデカい中華衣装に変化した。

 

「やってやるよ、ライネス!」

「司馬懿殿に願掛けしてでも、勝つ!」

 

『デュエル!』

 

 

ライネスのLP:8000

レイのLP:8000

 

 

「私の先攻、最初は【魔界発現世行きデスガイド】を召喚する」

 

【魔界発現世行きデスガイド】

☆3 ATK1000 効果

 

「このカードの召喚に成功した時、デッキからレベル3の悪魔族モンスター【クリッター】を特殊召喚する。この【クリッター】は効果が無効になり、シンクロ召喚の素材にも出来ない」

 

【クリッター】

☆3 ATK1000 効果

 

 なんか早速湧いてきやがったな。レベルが同じだから、エクシーズとやらか?

 

「ライネス師匠のデッキは悪魔族?」

「いえ、確かフィールドにいるモンスターは悪魔族ですが、これだけでは何かは分かりません」

 

「いかせてもらおう。“現れろ、勝利を誘う未来回路。召喚条件は通常召喚された攻撃力1000以下のモンスター1体。【デスガイド】をリンクマーカーにセット”

リンク召喚、リンク1【転生炎獣(サラマングレイト)アルミラージ】」

 

【転生炎獣アルミラージ】

Link-1 ATK0 リンク・効果

 

「続けて、“召喚条件は名前の異なるモンスター2体。【アルミラージ】と【クリッター】をリンクマーカーにセット”。

リンク召喚、リンク2【クロシープ】」

 

【クロシープ】

Link-2 ATK700 リンク・効果

 

 黒い羊が椅子に座って呑気に編み物してやがるぞ。

 

「リンクモンスターについての講義は必要かね?」

「いらん。続けろ」

 

 位置が重要とか、リンクマーカーとやらがないと2体以上召喚出来ない事位なら知っている。

 

「では……【クリッター】の効果でデッキから攻撃力1500以下の【灰琉うらら】を手札に加える」

「っげ、手札誘発……」

 

「そして、此処からこのデッキの真価をお見せしよう。

 フィールドにエクストラデッキから召喚されたモンスターがいる時、手札の【教導(ドラグマ)の聖女エレクシア】を特殊召喚できる」

 

【教導の聖女エレクシア】

☆4 DEF1500 効果

 

 なんかジャンヌ・ダルクっぽい金髪に白衣装の女が現れた。手に持ってる得物は随分ごついハンマーみたいだが。

 

「【ドラグマ】デッキ!」

「意外ですね。ライネスさんならもっと嫌らしいデッキで来るかと……」

 

「先攻で完全に制圧するよりも、僅かな希望を摘まれた時の絶望感が良いじゃないか」

 

「嫌らしいのは性根の方だな」

 

「では続けよう。【エレクシア】の効果発動。デッキより【ドラグマ】の名を持つ罠カード【ドラクマ・エンカウンター】を手札に加える。この効果を使用したターンはこれ以降、エクストラデッキからの特殊召喚が封じられる」

 

 つまり、エクストラデッキを多用するデッキじゃねえって事か?

 

「更にマジックカード【天底の使徒】を発動する。

 まず代償としてエクストラデッキのモンスター【灰燼竜バスタード】を墓地に送り、その後デッキから【アルバスの――」

 

……ん? なんだ、動きが止まった?

 

(司馬懿殿、なぜ腕を……ん? エクストラデッキを見ろ? ……3枚?)

 

「――なるほど、私は【教導(マクシムス)大神衹官(ドラグマ)】を手札に加える」

 

「何故部長のエクストラデッキは3枚だけなんですか?」

「えーっと、貰ったデッキにエクストラデッキが無かったみたいだから学校の友達と僕のカードを入れたんだって」

「なるほど」

 

(3枚……つまりこの機を逃せば互いのエクストラデッキのカードを2枚墓地に送れる【マクシムス】の効果を使えるタイミングが無くなってしまう訳だ)

 

「墓地に存在するリンクモンスター、【転生炎獣アルミラージ】を除外して手札の【マクシムス】を特殊召喚する」

 

【教導の大神衹官】

☆8 DEF3000 効果

 

「【マクシムス】の効果発動。互いのプレイヤーは自身のエクストラデッキから2枚のカードを墓地に送る。まずは私はシンクロモンスターの【ウィンドペガサス@イグニスター】と【PSY(サイ)フレームロード・Ω】を墓地に送る」

「俺は……」

 

 選択肢は少ない。ここは【銀河眼の光波竜】を残しておきたいんだが……真から貰ったカードだし、あいつの前だから残しとこう。

 

「【光波竜】と【光波刃竜】を墓地に送る」

 

「私は2枚のカードを伏せて、エンドフェイズに移行しよう。

 墓地に送られていた【灰燼竜バスタード】の効果を発動、デッキから【アルバスの落胤】を手札に加える」

 

 随分長いターンだったな。手札は3枚。その内の1枚は【灰琉うらら】か。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ぺ太郎のアドバイスだと、確か何をするにも先に伏せカードは破壊するか使わせろだったな。

 

「これとか丁度いいな。速攻魔法【ツインツイスター】、手札を墓地に送って伏せカードを破壊する!」

「何!?」

 

 そして破壊されたカードは……先手札に加えてた【エンカウンター】と【ドラグマ・パニッシュメント】か。

 

(いきなりこちらの妨害札を潰されたか。義兄上殿はどうやら運もサーヴァント級らしいな……って、司馬懿殿、関心してる場合ではないのでは?)

 

「そして、今捨てた【伝説(ホワイト・オブ)白石(レジェンド)】の効果発動! デッキから【青眼(ブルーアイズ)白龍(ホワイト・ドラゴン)】を手札に加える」

 

 此処で【灰琉うらら】は使ってこない。って事は、もう1つの方を警戒してやがるな?

 

「そして、手札の【青眼の白龍】を相手に見せる事でこいつは手札から特殊召喚できる! 来やがれ、【青眼(ブルーアイズ)亜白龍(オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン)】!」

 

【青眼の亜白龍】

☆8 ATK3000 効果

 

「こいつは、攻撃の代わりに相手モンスターを破壊できる! 【マクシムス】を破壊する!」

 

 これで一番ウザい壁はいなくなったか。

 

「なら手札から魔法カード【ドラゴン・目覚めの旋律】を発動! 手札1枚を墓地に送って――」

「【灰琉うらら】の効果でそのカード効果は無効だ」

 

 っち、やっぱり2枚のカードを手札に加える【旋律】は許さないか。

 

「ならこれならどうだ? 魔法カード【モンスターゲート】を発動! フィールドの【亜白龍】をリリースして、デッキの上から通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを墓地に送る! 

 1枚目【復活の福音】、2枚目罠カード、3枚目儀式モンスター【青眼(ブルーアイズ)混沌龍(カオス・ドラゴン)】、4枚目、【青眼の白龍】!」

 

【青眼の白龍】

☆8 ATK3000 通常

 

「【亜白龍】を攻撃可能な【青眼】に変更したか」

 

「まだだ。2枚目に墓地に送られていた罠カード【強靭! 無敵! 最強!】の効果で、【ブルーアイズ】の召喚と同時フィールドにセット出来る!

 バトルフェイズ! 【青眼】で【クロシープ】を攻撃!

 “滅びの爆裂疾風弾(バースト・ストリーム)”!」

 

 編み物をしている所悪いが、【青眼】の一撃で消し飛んだ。

 

 ライネスのLP:8000→5700

 

「っく……! まずまずと言った所か。だが、私の対抗策もまだある。

 墓地の【ウィンドペガサス@イグニスター】を除外して効果発動。私のモンスターが破壊された時、フィールドのモンスターを1体デッキに戻す。【青眼】にはご退場願おう」

 

 っく、こっちの場をがら空きにしやがったか。

 

「だが、エンドフェイズに先の手札コストで墓地に送っておいた【太古(ホワイト・オブ)白石(エンシェント)】の効果発動!

 デッキから【ブルーアイズ】モンスターである【深淵(ディープ・オブ)青眼龍(ブルーアイズ)】を特殊召喚し、更にこいつの効果発動!」

 

【深淵の青眼龍】

☆8 ATK2500 効果

 

「デッキか儀式魔法【カオス・フォーム】を手札に加えて、更にエンドフェイズに発動する効果によりレベル8以上のドラゴン族、【ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン】を手札に加える!」

 

 これで俺の準備は万全だ。今加えておいた【ディープアイズ】はフィールドのドラゴン族が破壊された時に特殊召喚できる効果を持っている。

 

 

「私のターン、ドロー」

 

「ライネス師匠の手札は4枚。その内の1枚は相手モンスターと融合する【アルバスの落胤】」

「ですが、部長が伏せた【強靭! 以下略】はフィールドの【ブルーアイズ】モンスター1体に効果を受けず、戦闘で破壊されず、戦闘した相手モンスターを破壊する効果を付与します」

 

「ならばこのターンでそれらを使わせるまでだ。【アルバスの落胤】を召喚し、手札1枚を墓地に送って効果を発動する」

 

【アルバスの落胤】

☆4 ATK1800 効果

 

「当然、【強靭! 無敵! 最強!】を発動させて、その効果で【深淵の青眼龍】はこのターン、一切カード効果を受けず破壊されなくなる! 【強靭!】はその後除外される」

 

「ならば私は“フィールドの【エレクシア】と【落胤】をオーバーレイ、2体のレベル4モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!”

 エクシーズ召喚、ランク4【No(ナンバーズ).101 S・H・Ark Knight】!」

 

【No.101 S・H・Ark Knight】

★4 ATK2100 エクシーズ・効果

 

「そいつでどうするつもりだ?」

 

「【アークナイト】のオーバーレイユニットを2つ取り除き、効果を発動し、【深淵の青眼龍】を対象に選択するが効果は受けない」

 

 何? なんで態々効果を……?

 

「エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターがいる時、手札から2枚目の【エクレシア】を特殊召喚し、効果発動。デッキから【教導(ドラグマ)の騎士フルルドリス】を手札に加える」

 

【教導の聖女エレクシア】

☆4 ATK1500 効果

 

 【フルルドリス】は、どうやら手札からモンスター効果を無効にするモンスターらしい。

 

「そして【天底の使徒】を発動し、2体目の【バスタード】を墓地に送ってデッキから【ドラグマ・エンカウンター】を手札に加えて、セット」

 

 手札は1枚だけなので隠しもしないか。

 

「そして、【バスタード】の効果でデッキから【教導(ドラグマ)の鉄槌テオ】を手札に加えて、ターン終了」

 

 まずい。ダメージゼロで乗り切ったが、あっちの妨害が手厚い。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「兄ちゃん……」

「このターンが勝負ですね。アドバンテージは【ドラグマ】の方が上手です」

 

「さあ、どうする義兄上殿。どうやって突破する?」

 

「こうしてやるさ。墓地の【太古の白石】の効果発動! 除外して、墓地の【亜白龍】を回収し、【青眼】を見せて手札から特殊召喚!」

 

【青眼の亜白龍】

☆8 ATK3000 効果

 

「またか。だが効果は使わせない。伏せていた【ドラグマ・エンカウンター】を発動し、墓地の【アルバスの落胤】を特殊召喚する」

 

【アルバスの落胤】

☆4 ATK1800 効果

 

 この為に態々【アークナイト】の効果を使用して【アルバスの落胤】を墓地に送っていた訳か。

 

「手札を捨てて【アルバス】と【亜白龍】で融合を行う。

 “黒き力よ、白と混ざって灰となれ!”

 融合召喚、レベル8、【灰燼竜バスタード】!」

 

【灰燼竜バスタード】

☆8 ATK2500 効果

 

「【バスタード】はこのターン、エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターの効果を受けない。さらに攻撃力は融合素材となったモンスターのレベル×100アップする」

 

「融合素材に使われたモンスターのレベル合計は12ですね」

 

【灰燼竜バスタード】ATK2500→3700

 

 4本の角と棘だらけのドラゴンが吠え、地面が砕かれる。

 予想していたが、これは……面倒だな。

 

「なら、バトルフェイズだ!

 【深淵の青眼龍】で【エレクシア】を攻撃だ!」

 

「兄ちゃんの手札じゃこれ以上動けないのかな?」

「いえ、恐らく【フルルドリス】の弱点を理解したんだと思います。

 あのカードはフィールドに【ドラグマ】モンスターが居なければ無効にする効果は使用できない」

「じゃあ、フィールドにいる【エレクシア】を破壊すれば!」

 

「当然そうくるだろう。

 ならば、メインフェイズ終了時に【フルルドリス】を召喚して、【深淵の青眼龍】の効果を無効にする」

 

【教導の騎士フルルドリス】

☆8 ATK2500 効果

 

「メインフェイズは変わらず終了、攻撃は続行だ!」

 

ライネスのLP:5700→4700

 

「だがこれでエンドフェイズにドラゴン族をサーチする【深淵の青眼龍】の効果を封じられ、バトルフェイズも終了だ」

 

「【ブルーアイズ】デッキじゃ、バトルフェイズがないとモンスターを破壊出来ないんじゃ……」

「無い訳ではないですが、厳しいですね」

 

「ターン終了だ」

 

 俺の手札は4枚。【青眼の白龍】と【カオス・フォーム】、【ディープアイズ】は割れている。不安だが、最後に引いた弱いこいつに賭けるしかねぇ。

 

 

「では、そろそろ本調理といこう。ドロー」

 

 こちらからは見えない2枚の手札。あれが俺の未来を決める。

 

「私は【アドバンスドロー】を発動。フィールドの【フルルドリス】を墓地に送り、カードを2枚ドローする。更に【貪欲な壺】を発動。墓地から5枚のモンスター、【灰燼竜バスタード】1枚、【アルバスの落胤】2枚、【エクレシア】2枚をデッキに戻して、カードを2枚ドローする」

 

 増やしてきやがったな。

 

「ふ、素引きとはな。

 【アルバスの落胤】を召喚! 効果発動、手札のカードを墓地に捨てて【深淵の青眼龍】と融合だ!」

「っく、【ディープアイズ】の効果は使えねぇのかよ!」

 

「再び降臨せよ! 【灰燼竜バスタード】!」

 

【灰燼竜バスタード】

☆8 ATK2500→3700 融合・効果

 

 これでライネスの合計攻撃力は9500!

 

「更に、私と義兄上の墓地に眠る融合モンスター【バスタード】、シンクロモンスター【Ω】、エクシーズモンスター【銀河眼の光波竜】、リンクモンスター【クロシープ】を除外して、手札より現れよ! 【教導枢機テトラドラグマ】!」

 

【教導枢機テトラドラグマ】

レベル11 ATK3200 効果

 

「攻撃力3200!」

「兄ちゃん!」

 

「これで終わりだ! 【テトラドラグマ】でダイレクトアタック!」

 

「……」

 

 ――……あ、これもしかして行ける?

 

 漸く理解した俺は、チラリと真とXオルタに視線をやって、笑ってやった。

 

「……兄ちゃん?」

「引いてましたか」

 

「今攻撃宣言したな?」

 

「何?」

 

「こいつは、相手の攻撃宣言時に手札から捨てて効果発動できる!

 俺が捨てるのは【アンクリボー】だ!」

 

「あ、【アンクリボー】だと!?」

 

「こいつはお前と俺の墓地からモンスターを1体特殊召喚出来る! 散々人のモンスターを使いやがって! 今度は俺の番だ! 来やがれ、【アルバスの落胤】!」

 

【アルバスの落胤】

☆4 ATK1800 効果

 

 何度も俺のモンスターと融合した黒フードの野郎が、何処かへこへこした態度で俺のフィールドに現れた。

 

「だ、だがこの状況で出せる融合モンスターは【青眼】に――」

 

「――こいつの効果発動! 前のターンからいた方の【灰燼竜バスタード】! 半分は俺のモンスターだ、使わせてもらう!

 融合召喚、レベル8【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!」

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

☆8 ATK2800 効果

 

「なんでそんなカードが!?」

「真がくれたカードだ! 効果で【灰燼竜バスタード】の攻撃力分、攻撃力をアップさせる!」

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】ATK2800→6500

 

「く、我が弟子のカード……羨ま――じゃなくて、面倒な!」

 

 ライネスは【スターヴ・ヴェノム】を睨みつけるがそれ以上動けない。

 

「……【アークナイト】を守備表示にして、エンドフェイズにこのターン墓地に送られた【バスタード】の効果で【フルルドリス】を手札に加える」

 

【アークナイト】DEF1000

 

 手札2枚の奴のターンは終了した。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「っく、まだだ! まだ私のライフは残っている!」

「いーや、これで終わりだ。【スターヴ・ヴェノム】の効果発動! 【テトラドラグマ】の効果を得る!」

「手札から【フルルドリス】を特殊召喚し。その効果で【スターヴ・ヴェノム】の効果を無効にする!」

 

【教導の騎士フルルドリス】

☆8 DEF2500 効果

 

「これでコピーした全体破壊は――」

 

 ――甘ぇ!

 

「儀式魔法【カオス・フォーム】を発動! 墓地の【青眼の白龍】を除外して、手札から降臨しろ、【ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン】!!」

 

【ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン】

☆8 ATK4000 儀式・効果

 

「此処で【カオス・MAX】だと! インチキドローも大概にしたまえ!」

 

「墓地の【深淵の青眼龍】の効果発動! 除外して、フィールドのレベル8以上のドラゴン族モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

「っく、義兄上殿め……! も、もう少しで……我弟子が私の物に――」

 

 狙うは守備表示の【フルルドリス】だ。

 

「――バトル、【カオス・MAX・ドラゴン】、思いっきりやってやれ! 

【フルルドリス】を攻撃! こいつの効果で、倍の貫通ダメージを喰らいやがれぇ!」

 

ライネスのLP:4900→0

 

 

 

「兄ちゃん! 勝ったね!」

「おう、真のおかげだ。ありがとな」

 

 興奮した様子の弟を抑えようと、頭を撫でるが完全に火が点いた様で収まる気配がない。

 

「凄かった! アニメみたいですげー楽しかった!」

「う……我弟子……無様に倒れてしまった師匠には、なんの言葉もなしか……?」

 

「あ、し、師匠、大丈夫ですか!?」

「あ、おい」

 

 あの変態青コートに近付けさせてなる物かと動こうとした瞬間に、左腕をXオルタに掴まれた。

 

「逆転のカードを授けた後輩に、何か言う事はないんですか?」

「……まあ、確かにな。ありがとよ。返すよ」

 

 そう言って返そうとデッキから【アンクリボー】に触れると……一瞬で別のカードに変わった。

 

「……何?」 

 

 そのカードの後ろには【アンクリボー】がいた。しかし触った瞬間、また後ろのカードと入れ替わった。

 

「おい、逃げんな【アンクリボー】!」

「部長、気に入りましたか?」

 

「違う、【アンクリボー】が勝手に!」

「……じゃあ、その子はあげますね」

「……良いのか?」

「はい」

 

「我弟子、私のデュエルはどうだった?」

「めっちゃかっこ良かったです師匠!」

 

「そうだろう、そうだろう」

「最後のモンスターを並べた時のライネス師匠、魔王みたいでした!」

 

「……それは褒めているのかね?」

「勿論です!」

「……心が折れそうだ。頭を撫でてくれ」

「はいはい」

 

 あの野郎、何イチャついてやがる……!

 

「――ライネスさん、次は真君と私のデュエルです。

 真君、私が勝ったら部長とデートに行かせてもらいます」

 

「え、兄ちゃんと謎のヒロインXオルタさんがデート!?」

 

「おい、真。勝てよ」

「良いの?」

 

「勝ったら好きなポケモンをやる」

 

「分かった! 絶対勝つ!」

 

「……大丈夫なのか? 我弟子は強いのか?」

「こういうゲームで、俺はあいつに全く勝てん」

 

「「……え?」」

 

 

 その後、先攻1ターン目の【インスペクト・ボーダー】と手札誘発と伏せカードが越えられずXオルタは何も出来ず敗北しましたとさ。

 




書いてて思ったのがドラグマ強っ! でしたね。

「青眼だしカオスMAXで余裕だろ」とか思ってたら、フルルドリスが対象取らないし、落胤は融合するし本当に最近のテーマって凄い。

募集企画は次で最後です。お楽しみに。


6月30日最後の2ターンを修正しました。


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ガッチャ! 楽しいガチデュエルだったぜ! 【募集企画】

唐突に始まった募集企画、今回で最後です。

十矢の友達が登場。その対戦相手はあのゲーマークラスのサーヴァント……果たして彼はガチを乗り越える事が出来るのか……ってまたガチか!?


  俺、櫻井(サクライ)遊大(ユウタ)には十矢と言う友達がいる。

 

 今はクラスは違うけど俺と同じ位デュエルが好きで放課後カードショップで良く対戦する中だ。

 

 たまに面白いデッキを持ってくる事もあるけど、大体レシピを見た瞬間、なにこれぇ? って言いたくなるレベルで未完成だったり、調整の出来ていない物が多く、俺は良く試運転に付き合わされていた。

 

 しかし、最近になってからデッキの完成度が高くなった。

 どうしてだ、と聞いてみると夢の中でデュエルしているらしい。

 

 非ィ科学的だぁ! と否定してみるが、どうも本気でそう思っている様だ。

 

 ヤンデレ・シャトーと呼ばれるそれを試しにネットで調べてみたが、同じ名前の小説と「嘘乙」等の否定レスばかりの50件程度で終わっている都市伝説掲示板くらいしかなかった。

 

「で、その例の夢の世界に入る方法って?」

「それがさっぱり分からない。【シグナル・ウォリアー】で攻撃」

 

 役に立たないな。あとその攻撃は駄目だ。

 

「【オネスティネオス】を捨てて、攻撃力をアップ!」

「【ラッシュ・ウォリアー】と【リミッター解除】を手札から、捨ててしまったあああ!」

「それは捨ててない! 墓地に送ってんの!」

 

 とんでもないごり押しに俺は敗北した。

 今の奴の手札みたいに都合の良い悪夢があったら、是非見てみたいなとその時の俺は本当に思っていた。

 

「――だからジャックちゃんとデュエルする為にこのデッキの完成度を上げたいんだけど」

「お前……やっぱり、その趣味だけは合わないなぁ。年上が一番だろ? 俺はアーチャー・インフェルノが良いなぁ」

「えー、人妻だぞ?」

 

「だから、そう言う属性じゃなくてあのお淑やかなで落ち着ている感じが良いだって」

「……この話はやめておこう。俺達、この前はこの話で盛り上がり過ぎて、帰りが遅くなったからな」

 

「……そうだな」

 

 カードショップから出て、暫く歩いてから十矢と別れた。

 

「さて、買い物でもして――」

「――遊太さん!」

 

 と思ったら、背後から小さな誰かに抱き着かれた。周囲の目が痛いのでやめてくれと言ったんだけど……

 

「ちょっと、離れてくれって」

「こんな時間に買い食いですか!?」

 

 俺より一回り位小さい隣の家の中学生。

 

「違う違う、ちょっと買い物をしようとしてるだけだ」

「じゃあ、私達も一緒に行くわ」

 

 その彼女の友達。

 

 懐かれているのか舐められているかしらないが、この2人は何時も一緒に俺を振り回してくる。

 俺の年上好き、もしくは年下嫌いの原因かもしれない。

 

「ねぇ、帰りにあそこのアイス食べよう!」

「もう今月お金ないから駄目です」

「何をそんなに使うんですか?」

「なんでも良いだろう」

 

 俺の趣味については成るべく隠している。学校でバレるのは良いが、この2人は駄目だ。確実に面倒臭い事になる。

 

 ……きっと、この2人と出歩いているの十矢に見つかれば、暫くはガチデッキで先攻制圧や1ターンキルでしかデュエルしてくれないんだろうなぁ。

 

 

 

 その夜、俺は夢の中で目が覚めた。

 

「え、布団に、畳……?」

「マスター。目が覚めましたか」

 

 嘘だろ、と叫びそうになった。

 

「アーチャー・インフェルノ!?」

「は、はい。そうですよ?」

 

 どうやら、俺も噂のヤンデレ・シャトーに来れた様だ。

 しかも一番のお気に入りサーヴァントに出迎えられてしまっては、マスターとして冥利に尽きる。

 

「は、初めまして、俺は遊太って言います! えっと、その……!」

「ふふふ、何故改まって自己紹介なんてしているんですか? ええ、存じ上げています。私の大切なマスターですから」

 

 っくぅ……いやいや待て待て、これドッキリだな!? 俺の心臓が今直ぐにでも破裂してしまいそうな程に暴れているし、発作に殺す気だ!

 

「なので、マスターの好みも理解しております」

「お、俺の好み……!?」

 

 俺が期待に胸高鳴らせていると、彼女はこちらにある物を差し出して来た。

 

「……こ、これは……!」

「私と一戦、交えませんか?」

 

 気が付けば俺達は、互い腕にデュエルディスクを装着して外で向かえ合っていた。

 

「あ、因みに私が勝ったらマスターに望みを1つ叶えて抱きますが、構いませんか?」

「全然問題ないです!」

 

「それではいざ――」

 

『デュエル!』

 

 

ユウタのLP:8000

インフェルノのLP:8000

 

「くー! どんだけこの時を待っていたか! 言わせてもらう、俺のターン!」

「ふふふ、この私の贈り物、喜んで頂けた様で嬉しいです」

 

「よっし、先ずはこれだ!

 手札から【V(ヴィジョン)・HERO ヴァイロン】を通常召喚! こいつの効果で、デッキから【E(エレメンタル)・HERO シャドー・ミスト】を墓地に送る!」

 

【V・HERO ヴァイオン】

☆4 ATK1000 効果

 

 HEROデッキの初動と言えばこれだ。ソリッドビジョンで現れたスマートな映画泥棒みたいな戦士に俺のテンションは爆上がりだ。

 

 あ、映画泥棒じゃないですね! すいません! 眩しいからこっち睨まないで!

 

「っくう……目が……! 【シャドー・ミスト】の効果発動! デッキから【E・HERO リキッドマン】を手札に加え、更に【ヴァイオン】の効果を発動して、墓地の【シャドー・ミスト】を除外してデッキから【融合】として扱う【置換融合】を手札に加える!」

 

 此処で一気に最初のターンの牙城を作る!

 

「手札から魔法カード【フュージョン・デステニー】を発動!

 手札・デッキのモンスターを素材に【D(デステニー)—HERO】モンスターを融合召喚する! 但し、このカードを発動した後は、ターンが終わるまで闇属性の【HERO】しか特殊召喚出来ない!

 デッキの【D-HERO ディアボリックガイ】と【D-HERO ダイナマイトガイ】で融合! “悪魔の運命を背負いし英雄よ、宿命を打ち抜く英雄と一つとなりて血塗られた世界に君臨せよ! 融合召喚! カモン! 【D-HERO デッドリーガイ】!」

 

【D-HERO デッドリーガイ】

☆8 ATK2000 融合・効果

 

「墓地に存在する【D-HERO ディアボリックガイ】の効果を発動! 自身を除外してデッキより同名モンスターを特殊召喚出来る! カモン、アナザーワン!」

 

【D-HERO ディアボリックガイ】

☆6 DEF800 効果

 

「そして、“現れろ、未来を導くサーキット! アローヘッド確認、召喚条件は戦士族モンスター2体! 俺は【ヴァイオン】と【ディアボリックガイ】の2体を、リンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!”

 リンク召喚、リンク2【X(エクストラ)-HERO クロスガイ】!」

 

【X-HERO クロスガイ】

Link-2 ATK1600 リンク・効果

 

「【クロスガイ】の効果発動! 墓地に存在する【D・HERO ディアボリックガイ】を特殊召喚! カモン、アナザーワン!」

 

【D-HERO ディアボリックガイ】

☆6 DEF800 効果

 

「“再び現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件は【HERO】モンスター2体以上! 【ディアボリックガイ】とリンク2【クロスガイ】を2体分として扱い、サーキットコンバイン!”

リンク召喚! 【X・HERO-ドレッドバスター】!」

 

【X・HERO ドレッドバスター】

Link-3 ATK2500 リンク・効果s

 

 現れた右手に巨大な武器を取り付けた紺の中に銀色のアーマーが輝くヒーロー。それと繋がる様に後ろに並ぶ、牙を持った恐ろしさと力強さを兼ね備えたマントの男。

 

「仕上げだ! 手札から速攻魔法【マスク・チェンジ】を発動! 【デッドリーガイ】を闇属性の【M(マスクド)・HERO ダークロウ】に変身させる!」

 

【M・HERO ダークロウ】

☆6 ATK2400 融合・効果

 

「【ドレッドバスター】の効果で、こいつとリンク先の【ダークロウ】の攻撃力は墓地の【HERO】の数×100ポイントアップする!」

 

【X-HERO ドレッドバスター】ATK2500→3100

【M-HERO ダークロウ】ATK2400→2800

 

 強い、早い、かっこいいの三拍子揃った最強ヒーローの登場である。

 取り敢えず2人纏めて1枚撮って良いですか? あ、写真NG……そうですか……

 

「……カードを1枚伏せて、ターン終了!」

「子供っぽいマスターが見れて嬉しいような、私に構ってくれなくて寂しいような……」

 

 何を言う! デュエル中は相手だけを見るのはデュエリストとして当たり前だ。

 まあ、それはそれとしてこの状況は楽しむけど。

 

「では、今度は私が参ります」

 

 俺の手札は3枚。

 

 十矢が言うには確か、サーヴァントは大体オリカを使ってくるらしいのでどんなカードが来るかさっぱり分からないが、【ダークロウ】には相手の墓地送りを除外して封じる効果と、ドロー以外で手札に加わった時に1枚除外する効果が備わっている。そう簡単には好き勝手出来ないだろう。

 

 

「私のターン、1枚引きます」

「スタンバイフェイズ! 先のターンに墓地に送られていた【ドローガイ】のモンスター効果発動! 墓地に存在するこのカードを特殊召喚し、もう一つの効果で互いに1枚ドロー!」

 

【D-HERO ドローガイ】

☆4 DEF800 効果

 

 恐らく、鬼の混血だからデュアルとか、もしくは融合デッキなんて可能性も――

 

「手札から【グローアップ・ブルーム】を通常召喚!

 

【グローアップ・ブルーム】

☆1 ATK0 効果

 

 え……? オリカじゃなくね?

 あ、いや待て妖怪って確かアンデットのカテゴリーだったし鬼要素の可能――

 

「手札を1枚捨てて【超融合】を発動します! 【ブルーム】とマスターの【ダークロウ】を融合させます! 来て下さい、【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!」

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

☆8 ATK2800 融合・効果 

 

「待ってくれ、なんで普通に【スターヴ・ヴェノム】!?」

 

 あ、やべぇ! 【ダークロウ】がいなくなったから【ブルーム】が墓地に!

 

「墓地に送られた【グローアップ・ブルーム】を除外して効果発動! デッキからレベル5以上のアンデッド族モンスター、【黄金卿エルドリッチ】を手札に加えます!」

 

「ガチ!?」

 

 おい、十矢! 何処がオリカだ! この人妻普通のガチデッキ使ってる! まるで意味が分からんぞ!?

 

「例え遊戯であっても、マスターが私の望みを叶えて下さるなら全力で行かせて頂きますよ?」

 

 その姿勢は嫌いじゃないけど……さてはアーチャーじゃなくてゲーマークラスだな!

 

「永続魔法【呪われしエルドランド】を発動! ライフを800ポイント払って、デッキから【黄金卿】と名の付く【黄金卿のガーディアン】を手札に加えさせて頂きます!」

「駄目です!」

「頂きます!」

 

インフェルノのLP:8000→7200

 

 くそ、これがデュエルじゃなければ今すぐ令呪で止めてぇ……!

 

「フィールドの【ドレッドバスター】を対象に【エルドリッチ】の効果発動! フィールドの【エルドランド】を墓地に送り、更に【ドレッドバスター】は墓地に送られます!」

 

 どんどんカードが墓地に送られ、逆に俺の場は枯れている。これは非常に良くない。

 

「手札の【黄金卿のガーディアン】を墓地に送り、墓地の【エルドリッチ】の効果発動! このカードを手札に戻し、その後手札のアンデットモンスター【黄金卿エルドリッチ】を特殊召喚し、このターンの間攻撃力が1000ポイントアップし、効果で破壊されません!」

 

【黄金卿エルドリッチ】

☆10 ATK2500→3500 効果

 

「バトルです! 【スターヴ・ヴェノム】で【ドローガイ】を攻撃!」

 

 【スターヴ・ヴェノム】が伸ばした触手の様なツルに、【ドローガイ】はその体を何か所も同時に噛みつかれ、消滅した。

 

「続けて、【エルドリッチ】でダイレクトアタック!」

「ぐ、うぁぁぁ!?」

 

ユウタのLP:8000→4500

 

 その攻撃はリアルな衝撃を起こし、俺を吹き飛ばした。

 これがサイコデュエリストの力かっ……!?

 

「あっ……! っく!」

「だらしないですよマスター! ……っく……くくく、そんな顔をされたら鬼の血が騒いでしまうでは無いですか……!」

 

 先まで凛々しい顔だったのに、突然2本の角を生やしてこちらをあざ笑うかの様な笑みを浮かべている。

 それを見た俺の背中に悪寒が走った。

 

「私はカードを1枚伏せて、エンドフェイズに墓地に送った【白き宿命のエルドリクシル】の効果を発動! 墓地のこのカードを除外する事でデッキから【黄金郷のコンキスタドール】をセットします!

 更に【黄金郷のガーディアン】と【黄金郷のワッケーロ】もそれぞれの効果で【白き宿命のエルドリクシル】と【紅き血染めのエルドリクシル】の2枚を伏せて、手番を終わります!」

 

【黄金郷のエルドリッチ】ATK3500→2500

 

 手札は1枚残っていて、伏せられたカードは合計4枚。沢渡さん、大嵐っすよ! 状態ではあるが……

 

「ふふふ、まずは身動きを封じる為に手足を頂きましょうか?」

 

 ……ええい、ビビってたまるか!

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 そう都合よく制限カードの【羽根帚】なんて引けやしない。だが、此処から逆転するのが最高に楽しいデュエルだ。

 この5枚で、やってやるさ。

 

「手札を1枚捨てて装備魔法カード【D(ディファレント)D(ディメンション)R(リバイバル)】を発動! 除外されてる【E・HERO シャドーミスト】を――」

 

「させませんよ? 永続罠【黄金郷のコンキスタドール】を発動! このカードを通常モンスターとして特殊召喚し、【エルドリッチ】が場にいるのでフィールドの【D・D・R】を墓地に送ります! 装備魔法は墓地に送られた時点で効果が消えるので【シャドーミスト】は場に出ません」

 

【黄金郷のコンキスタドール】

☆5 DEF1800 通常

 

「っく! だがこれで妨害札は1つ消えた! 今墓地に捨てた【置換融合】の効果発動! 融合モンスター【M・HERO ダークロウ】をエクストラデッキに戻して、カードを1枚ドローする!」

 

 これで取り敢えず損失を抑えた。あわよくば2枚目の【マスク・チェンジ】で【ダークロウ】をもう一度出せればと考えたが、流石に無理があるか。

 

「【E・HERO リキッドマン】を通常召喚! その効果で、墓地より甦れ【V・HERO ヴァイオン】!」

 

【E・HERO リキッドマン】

☆4 ATK1400 効果

 

【V・HERO ヴァイオン】

☆4 DEF1200 効果

 

「【ヴァイオン】の効果発動! デッキから【E(イービル)-HERO シニスター・ネクロム】を墓地に送る! 【シニスター・ネクロム】を除外して効果発動! デッキから【E-HERO】を特殊召喚――」

 

「それもさせません。カウンター罠【永久に輝けし黄金郷】! アンデット族である【コンキスタドール】をリリースして、その効果を無効に破壊します!」

 

「だが、これでいける! 魔法発動【ネオス・フュージョン】! デッキの【E・HERO ネオス】と【究極宝玉神レインボードラゴン】を融合!

“宇宙より来たりしヒーローよ、虹の輝きを受けて世界を照らせ!”

 融合召喚、【レインボー・ネオス】!」

 

【レインボー・ネオス】

☆10 ATK4500 融合・効果

 

 虹色の光を放ち降臨した最強のネオス。こいつにはモンスター、魔法&罠、墓地のいずれかを消し飛ばす力がある。

 

「れ【レインボー・ネオス】!?」

「これで一気に終わらせてやる! 【レインボー・ネオス】の効果発動! フィールドのモンスター【リキッドマン】を墓地に送り、相手のモンスターを全てデッキに戻す!」

 

 これで厄介な【スターヴ・ヴェノム】と【エルドリッチ】は居なくなった!

 

「ダイレクトアタックだ! 行け、【レインボー・ネオス】!」

「させません! 【紅き血染めのエルドリクシル】を発動! デッキから【エルドリッチ】を特殊召喚!」

 

【黄金卿エルドリッチ】

☆10 DEF2800 効果

 

 そのカードは分かっていたけど、使わせないとどの道使われていた。

 

「なら攻撃を中止して……」

 

 墓地に送れば【白き宿命のエルドリクシル】を使われてしまう。

 そうなればインフェルノはエンドフェイズに【黄金郷】カード2枚をセットしてターンを迎える。【コンキスタドール】や【ガーディアン】を使われれば、次のターンに敗北もあり得る。

 

「……ターン終了だ」

「少々焦りましたが、エンドフェイズに【紅き血染め】の効果を除外して発動し、【黄金郷のコンキスタドール】をセット。更に【コンキスタドール】を除外してその効果で【黒き覚醒のエルドリクシル】をセット!」

 

 こちらの手札は2枚と伏せカード1枚、そしてあちらは伏せカードが3枚。

 

 

「私のターン、ドロー! ……っ!」

 

 ――っ、笑った?

 

「【エルドリッチ】を攻撃表示に変更し、【ヴァイオン】を攻撃!」

 

【ヴァイオン】を攻撃され、僅かな衝撃が俺を襲う。

 

「っく!? いきなり攻撃って事は――」

「メインフェイズ2終了、そして魔法カード【命削りの宝札】を発動! このターンの特殊召喚を封じ、エンドフェイズに手札を全て墓地に送り、発動後一切のダメージは与えられなくなる。

 ですが、手札が3枚になる様に引ける」

 

 いきなり手札が3枚になった。しかも、【エルドリッチ】デッキなら墓地に送られてもアドバンテージになる!

 

「カードを1枚伏せてターン終了。そして、エンドフェイズに手札の【紅き血染めのエルドリクシル】と2枚目の【エルドリッチ】を墓地に送り、【紅き血染め】を除外してデッキから【黄金郷のワッケーロ】を伏せます!」

 

 伏せカード5枚。【白き宿命】、【黒き覚醒】、【コンキスタドール】、【ワッケーロ】、そして正体不明のカード。

 

「ヤバいな……! 地雷だらけって訳か」

「どうしますか? 降参しますか? 勿論、そうなればマスターの肉体は全て、私の物になりますが……」

 

 鬼の血に飲まれているのか、まるで苦しむ俺を愛でるかの様な彼女を見て、痛みが心を苛んだ。

 

 ここが十矢の言っていた夢の中なら、此処に現れるサーヴァントは全てヤンデレになってしまっている筈だ。

 

 本来の彼女はあの鬼の血の自制心で抑え込んでいるのに、そのせいで鬼と化してる。つまり、あんな振る舞いを本当はしたくはない筈だ。

 痛みに震えて逃げる訳にはいかない。

 

 

「それだけは無いな! 俺のターン、ドロー!」

「スタンバイフェイズ、【ワッケーロ】を発動し、特殊召喚してマスターの【ネオス・フュージョン】を除外し、更に【コンキスタドール】を発動! 特殊召喚して【レインボー・ネオス】を墓地へ!」

 

【黄金郷のワッケーロ】

☆5 DEF1500 通常

 

【黄金郷のコンキスタドール】

☆5 DEF1800 通常

 

 やはり、【レインボー・ネオス】を墓地に送って来るか。

 【ネオス・フュージョン】は【E・HERO ネオス】を融合素材に指定するモンスターを破壊から守れるけど、先に【ワッケーロ】で除外されてしまえば対処の仕様がない。

 

「なら魔法カード【ミラクル・フュージョン】を発動! フィールドと墓地のモンスターで――」

「永続罠【虚無空間(ヴァニティー・スペース)】を発動! このカードが存在する限り、互いのプレイヤーはモンスターを特殊召喚出来ません!」

 

 しまった、【ミラクル・フュージョン】が不発にされた。

 

「だけど、【虚無空間】はコントローラーのデッキかフィールドから墓地にカードが送られれば破壊される効果がある」

 

 つまり何でもいいからインフェルノの場のカードを破壊すればあのカードも消え去る!

 

「手札から【E・HERO ブレイズマン】を召喚し、効果でデッキの【E・HERO ネオス】を墓地に送り、攻撃力と属性を同じにする!」

 

【E・HERO ブレイズマン】

☆4 ATK1200→2500 効果

 

だが、【ブレイズマン】を残してしまうと次のターン、復活した【エルドリッチ】の的になってしまう。

 なら此処は相打ちだ。

 

「【E・HERO ブレイズマン】で【エルドリッチ】を攻撃!」

 

「可愛い攻撃ですね。マスターの必死さが伝わってきます」

 

「っく、魔法カード【死者蘇生】! 墓地から【ネオス】を守備表示で特殊召喚してターン終了!」 

 

【E・HERO ネオス】

☆7 DEF2000 通常

 

 手札1枚。手札誘発もない。

 

 

「では、私のターン、引きましょう」

 

 引いたカードに対して、彼女の反応は無かった。もしかしたらこの状態では使えないカードを引いたか?

 

(【超融合】……使うには手札が足りませんが、このターンで決めてしまえば問題ありません)

 

「カードをセットし、墓地の【黄金卿エルドリッチ】の効果発動! セットされている魔法カード【超融合】を墓地に送り、【黄金郷エルドリッチ】を手札に戻し、特殊召喚! これで効果で破壊されず、攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

【黄金卿エルドリッチ】

☆10 ATK2500→3500 効果

 

「そして、伏せていた【黒き覚醒のエルドリクシル】を発動! デッキから最後の【黄金卿エルドリッチ】を特殊召喚! 更に【白き宿命のエルドリクシル】の効果で墓地の【黄金卿エルドリッチ】を特殊召喚!」

 

【黄金卿エルドリッチ】×2

☆10 ATK2500 効果

 

「これで終わりです! 攻撃力2500の【黄金卿エルドリッチ】で【ネオス】を攻撃!」

 

 俺の場の唯一のモンスターが破壊される。

 

「攻撃力の上がった【エルドリッチ】で、止めです!」

 

 これで、俺の4500しかないライフは……0に……

 

 

 

「……何故、ライフが減っていないんですか!」

「俺は攻撃の瞬間、速攻魔法【ジェネレーション・ネスクト】を発動させていたのさ」

 

 俺のライフの代わりに、墓地に【ハネクリボー】が送られていた。

 

「こいつは、俺のライフが相手より少ない時に発動出来る魔法カード、その差の数値以下のモンスターである【ハネクリボー】を特殊召喚したのさ。

 但し、この効果で召喚したモンスターの効果は発動できないので、【ハネクリボー】のダメージを0にする効果は無い」

 

「……まだ足掻きますか。では最後の【エルドリッチ】でダイレクトアタック!」

「うあぁぁぁっ!」

 

 ユウタのLP:4500→2000

 

「……エンドフェイズ。墓地の【白き宿命】と【黒き覚醒】を除外して【黄金郷のワッケーロ】と【コンキスタドール】をセットしてターン終了です」

 

【黄金卿エルドリッチ】ATK3500→2500

 

 衝撃で吹き飛ばされた俺の頬から、少量の血が滲み出た。

 

「ふふふ、マスターのお顔、切れてしまいましたね……なんだが、良き香りが私の鼻をくすぐります」

 

 インフェルノの鬼の気配が高まってきている。

 

「ああ、何故だか……腹が減ってしかたありません」

 

 これで敗北したら心臓を握り潰されるんじゃないかとすら思わせている。

 そんな事、彼女にさせて堪るか!

 

 

「頼むぜ、俺のデッキ! 俺のターン、ドロー!」

 

 今セットされた【ワッケーロ】と【コンキスタドール】は一見脅威だが、インフェルノの場は3体の【エルドリッチ】と守備表示の【コンキスタドール】と【ワッケーロ】で全部埋まっている。

 

 発動させなければ問題ない!

 

「今引いたこのカードに賭ける! 魔法カード【HEROの遺産】! 墓地の【HERO】モンスターを素材にしている融合モンスター【デッドリーガイ】と【レインボー・ネオス】の2体をエクストラデッキに戻して、カードを3枚ドローする!」

 

 同時に引いた3枚に、俺はとてつもない熱を感じた。

 っ――なんだ、このカード!?

 

「……おいおい、まさかインフェルノが使わないから俺が使うってのか?」

「? 何を言っているんですか?」

 

 一度だって見た事の無いカードに、俺は驚きを隠せない。

 だけど、俺の知っている主人公達なら、此処は――

 

「――使うに決まってるだろ!

 魔法カード【鬼抑の聖杯】!」

 

「な、【聖杯】のカード!?」

 

「こいつは除外されているカードを3種類まで対象にし、対象カードをデッキに戻す事で同じ種類のカードをデッキから手札に加え、更にこの効果で戻さなかったカードが1種類だけならその種類のカードを相手はこのターン発動できない!

 戻したカードに悪魔族、もしくはアンデット族モンスターが含まれていないなら俺はこのターン、炎属性以外のモンスターは特殊召喚出来ず、攻撃も出来ない!」

 

 このカードから、インフェルノがどんなデッキを本当は使っていたのかが伝わってくる。恐らく【不知火】の様なデッキだったんだろう。

 

 少なくとも、今の鬼の様に暴力的にこちらを押しつぶすようなデッキではない。

 

「俺が戻すのは除外されている悪魔族モンスターカード【E-HERO シニスター・ネクロム】と魔法カード【置換融合】!

 これによりモンスターカード【E・HERO オネスティ・ネオス】と魔法カード【賢者の石—サバティエル】を手札に加える!

 更に、罠カードを戻さなかったからこのターン、インフェルノは罠を使えない!」

 

 空中に輝く【聖杯】より2枚のカードが齎され、その輝きはインフェルノの伏せカードに降り注ぎ、石化した。

 

「【賢者の石—サバティエル】!? そのカードは――!?」

 

「【賢者の石—サバティエル】は、墓地に【ハネクリボー】がいる時、ライフを半分払って発動出来る!

 【融合】魔法カードか【フュージョン】魔法カードを手札に加える!

俺は【融合】を手札に加える!」

 

ユウタのLP:2000→1000

 

「2枚目の魔法カード【賢者の石—サバティエル】を発動! 同じくライフを払い、【決闘融合—バトル・フュージョン】を手札に加える!」

 

「な、まさか!?」

 

ユウタのLP:1000→500

 

「そして3度目の【賢者の石―サバティエル】を発動! ライフを払い、【融合徴兵】を手札に加える!」

 

「3枚の【賢者の石】!? そんな奇跡が――!?」

 

ユウタのLP;500→250

 

 何が起こるか分からない、それがデュエルだ!

 

「【融合徴兵】を発動! 【レインボー・ネオス】の融合素材に指定されいる【E・HERO ネオス】を手札に加える!

【融合】を発動! 俺は【E・HERO ネオス】と手札の【E・HERO リキッドマン】を融合!

“宇宙より来たりしヒーローよ、形無き水流の仲間と共に勇気の心で世界を救え!” 融合召喚、【E・HERO ブレイブ・ネオス】!」

 

【E・HERO ブレイブ・ネオス】

☆7 ATK2500 融合・効果

 

「【ブレイブ・ネオス】の攻撃力は墓地の【E・HERO】1体につき100ポイントアップする! その数、4体!」

 

【E・HERO ブレイブ・ネオス】ATK2500→2900

 

「行くぞ! 【オネスティ・ネオス】の効果発動! 手札から捨てて【ブレイブ・ネオス】の攻撃力を2500ポイントアップ!」

 

【E・HERO ブレイブ・ネオス】ATK2900→5400

 

「三度望みを叶えた【賢者の石—サバティエル】の真の効果を発動! 墓地の【サバティエル】3枚を除外して、【ブレイブ・ネオス】の攻撃力を、フィールドで最も攻撃力が高い【ブレイブ・ネオス】の攻撃力分、5400ポイントアップさせる!」

 

【E・HERO ブレイブ・ネオス】ATK5400→10800

 

「攻撃力、10800!?」

 

「これで止めだ! インフェルノ、元の貴方に戻ってくれ!

【E・HERO ブレイブ・ネオス】で【黄金卿エルドリッチ】を攻撃!」

 

 俺は駄目押しに最後の1枚を発動させた。

 

「速攻魔法【決闘融合―バトル・フュージョン】! 【ブレイブ・ネオス】の攻撃力を【エルドリッチ】の攻撃力分アップさせる!」

 

【E・HERO ブレイブ・ネオス】ATK10800→13300

 

「“ラス・オブ・ネオス・ブレイブ”!!」

 

インフェルノのLP:7200→0

 

 

 

 デュエルが終わり、ソリッド・ヴィジョンが消える中、俺は慌てて倒れたインフェルノの元に向かった。

 

「おい、大丈夫か!?」

「う、っう……マスター……!」

 

「しっかりしろ!」

 

 突然、彼女の体から光の粒子が溢れ出ていた。

 

「私、鬼となってしまっても……マスターと、デュエル出来て……幸せ、でした……」

 

「おい、待ってくれ!? なんで、ま、まさかこれって闇の――」

「――さようなら」

 

「インフェルノ、待て――待ってくれぇぇぇぇ!!」

 

 

 ……

 …………

 ………………え? あれ?

 

 光、収まったけど?

 

「……」

「あ、あの……マスター? まだ、続けますか?」

 

「え、インフェルノ、生きてる?」

「……えーっと、何か間違えましたか? マスターがこんな場面が好きだと聴いて居たので……」

 

 あれ、つまり?

 

「……え、演技?」

「はい……やり過ぎたでしょうか?」

 

 力が抜けて、次にその照れた顔を愛しいと思ってしまった。

 顔を合わせる事も出来そうにないので、思わず両手で顔を隠した。

 

「……」

 

 チラリと見るとあちらも恥ずかしそうに視線を逸らしていた。

 

「いや……好き過ぎる」

「そ、そうですか! 良かったぁ!」

 

 あ、これ俺の漏らした言葉の意味が理解できない年上お姉さんじゃん。もうストライク過ぎるから勘弁して。

 

「はぁ、ですが安心しました! 普段のマスターはその、随分小さい子に囲まれていましたので……」

「い、いやいや! 俺はどちらかと言うとインフェルノさんが好きですよ!」

 

 セカンド・チャンス!

 

「そ、そうですか?」

「はい、だからその、俺と――」

 

 

 

「――付き合って……」

 

 ……目覚めてしまった。

 

「…………」

 

 顔の横にはスマホがあった。FGOが付いていたが、メッセージが送られてきたので確認する。

 

『今日もデュエルするか?』

 

「……する……あ、いや待てよ。

 【エルドリッチ】デッキ、持ってるか、っと……」

 

 俺はインフェルノと再びデュエル出来る日を夢見て、“対エルドリッチ”と“熊を伏せる修行”を決行するのだった。

 

 

 

 




今回は主人公のデッキが余り細かく指定されませんでしたので現実では事故必須なニ郎系【HERO】。DVMで展開してEがパワーカードを出して暴れる感じです。

インフェルノの【エルドリッチ】は参考にしたデッキに【永久に輝けし黄金郷】が1枚のみの採用でしたのでこうなりましたが、正直都合よすぎる聖杯カードがなければ……と言った状況でした。


こんな感じで、外伝の投稿は一旦ストップ。思い出した時にまた書きます。


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貴様に遊戯王プレイヤーを名乗る資格は無い!

3週間程前には対戦動画までYoutubeに投稿したけど、中々執筆しないから報告できなかったスラッシュです。見たい方は活動報告から探してみて下さい。

またイイ感じの動画が撮影出来たら動画も上げていくつもりです。対戦相手も募集中です。


「俺もキャラデッキ作りたいな」

 

 不意に俺は友達の櫻井にそんな言葉を漏らした。

 

「ほう、遂に貴様もこのキングの前に立つつもりか……」

「おい、アトラスが抜けてないぞ」

 

「このキングをアトラス呼びするのはお前だけだぞ」

 

 なりきるのは良いが、盤面にいる全除外のスーパーノヴァが邪魔過ぎて……あ。

 

怪獣(ガメシエル)引いた」

「MA☆TTE!!」

 

 その後、大した妨害札もなかった奴の盤面にダイナミストの連続攻撃を喰らわせてやった。

 

「っぐ……で、結局誰のキャラデッキを作るんだよ?」

「えー……出来ればあんまり作ってる人がいない奴が良いよな。後、本編でのデュエルシーンが少なかったら割と自由にデッキ組めそうだし……」

 

「その思考、多分根本的にキャラデッキ作るのに向いてないぞ?」

 

 そんなツッコミをされた後に、帰り道でうんうん唸っていた。

 

「まあ、持ってるカードでキャラの切り札になりそうな奴を探してみるか……」

 

 こうして、デュエリストの宿命である睡眠時間を削るデッキ構築を始めたのだった。

 

 

 

「……あれ? 此処は……」

 

 気が付いたらヤンデレ・シャトーにいた。

 どうやらデッキを作って寝てしまった様だ。

 

「丁度いいや……此処の誰かに相手になってもらって――」

「――この! 馬鹿マスター!」

「へぶっ!?」

 

 突然、頬を殴られた。

 多分素手じゃなくてハンマーの様な物だったと思う。柔らかくて人の温もりはあったけど、鈍器以外では出せない威力だったと思う。

 

「何時まで夜更かしなんてしてるのよ! 早く寝ないと――こほん!

 もう少し、お体を労わって下さい」

 

 そんな説教を背中が壁にめり込んだ状態の俺にしたのは、マルタ……のルーラーの方だった。 

 

 竜であるタラスクを沈めた信仰深き聖女だけど、その実態はそこら辺のチンピラやヤクザすら裸足で逃げ出すステゴロ姉貴だ。

 

「だ、だったら……ぶっ飛ばさない方が良いんじゃ?

 あんまり叩かれるとその衝撃で起きるって」

「起きません。この空間ではデュエルしないと起きないんだから……こほん、起きませんから」

 

 口調を気にしてるみたいだけどその黒ビキニにジャージの姿じゃどんな言動をとっても聖女にはならないと思う。

 

「そう言う訳でこの聖女マルタ、マスターがゲームにかまけている時間を減らす為に、お相手します」

「げ、なんかお母さんみたいな事言い始めた……」

 

 とはいえ、あちらがデュエルディスクを構えたらこちらも応戦せざるを得ない。

 

 ――っと、その前に。

 

「このデッキを使うんだったら――こほんっ」

「?」

 

「――ハノイに逆らう愚か者め! この私にデュエルを挑んだ事、後悔させてくれる!」

 

「……」

「ふふっふ、私のデッキにはリボルバー様から頂いた最強のモンスターが……」

 

「…………」

「…………」

 

 ……こちらをまるで養豚場の豚を見る様な目で見つめたままだったので、俺はすっと手を上にあげた。

 

「令呪を持って命ず――」

「――分かった、分かったわよ! 付き合ってあげるから!」

 

 

 

『デュエル!』

 

マルタのLP:8000

ジュウヤのLP:8000

 

 

「私の先行ね! 先ずは永続魔法【聖者の来訪】! このカードの発動と共に、デッキから【聖女】を1枚手札に加える。私が手札に加えるのは【一家の聖女】!」

「良いだろう」

 

「更に【聖者の来訪】はこの効果で加えたカードのレベルによって効果が変わる! 【一家の聖女】はレベル7だから、このカードがフィールドにある限り【聖女】は1つ少ないリリースで召喚できる。

 更に永続魔法【聖者の教え】を発動! その効果の為に手札の【一家の聖女】を見せてあげるわ!」

 

 【一家の聖女】はどうやら彼女のライダーの時の姿らしく、白い修道女の様な姿の女性が机を拭いているイラストが見える。

 

「見せたのはレベル7! よってライフポイントをレベル×200ポイント回復させ、更にこのカードがフィールドにある限り【聖女】のリリースは1つ減る!」

 

マルタのLP:8000→9400

 

「これでお前の【聖女】の召喚にリリースは必要ないと言う訳か」

「そう言う事! 現れなさい、【一家の聖女】!」

 

【一家の聖女】

☆7 ATK2500 効果

 

 修道服の女性は箒と共に現れて床を掃いている。

 しかし、その後ろからは永続魔法の影響か光が放たれている。

 

「永続魔法をもう1枚発動、【聖者の道標】! このカードがフィールドに存在する限り、リリースなしで通常召喚されたレベル5以上の【聖女】は戦闘及び効果では破壊されず、相手のバトルフェイズ終了時に同じ条件の【聖女】がいればカードを1枚ドローできる」

 

 更なる魔法の光を受けて、【聖女】はより輝きを増し、祈る様に手を重ねている。

 

「随分と永続魔法を多用するデッキだな」

 

「そうね。まあ、魔法って言い方は嫌いなんだけど……そこは大目に見るわ。

 ターンエンドよ」

 

 

 マルタさんの手札は2枚だが、永続魔法はフィールドに残り続ける限り効力があるので出来れば早めに破壊しておきたい所だ。

 

「偶然か、必然かは分からないが、ならばこそ私とこのデッキの力を見せてやろう! 私のターン、ドロー!」

 

 俺は改めて自分の手札を見た。そして――

 

(……あれ、これはもしや?)

 

「完璧な手札だ! これなら最初から全力で行ける!」

「あっそう、ならさっさと来なさい」

 

 見せてやろう、このハノイの騎士デッキの力をっ!

 

「ライフを1000ポイント払って、永続魔法【ドラゴノイド・ジェネレーター】を発動する!」

「ならそのタイミングね」

 

 っ!? まさか、【一家の聖女】に妨害効果が!?

 

「【一家の聖女】の効果発動! 私の前で魔法を使うとどうなるのか、教えてあげるわ!

 ドラゴン族モンスターの特殊召喚もしくは魔法カードを発動した時、私はまず自分の永続魔法の数だけライフを1000ポイント失う」

 

マルタのLP:9400→6400

 

「そして、次の私のスタンバイフェイズまでランダムに相手の手札を私の永続魔法につき1枚、最大2枚を裏側で除外するわ!」

「何だと、っく!?」

 

 光に照らされ、よりによって重要なコンボパーツを失ってしまった。

 

「っぐ……!」

「悪行を悔い改めろって事ね。【ドラゴノイド・ジェネレーター】は無効にはならないけれど、どうする?」

 

 此処で下手に動いても、あの聖女を突破できない所かこちらのリソースが尽きて負けてしまう。

 

「仕方ない。私はこれでターンを終了する」

「エンドフェイズ、【一家の聖女】の効果で除外した手札と同じ枚数の永続魔法を私のフィールドから墓地に送る。【来訪】と【教え】の2枚を墓地へ」

 

 コストはライフだけじゃなかったか。だけど、1度の効果で2枚ものハンド・アドバンテージを失わせる効果は強力だった。

 

 

「私のターン、ドロー!」

「このスタンバイフェイズ! 先のターンに除外されたカード達が戻って来る!」

 

「そうね。けど、戻って来るのは貴方の手札なんて誰が言ったかしら?」

 

「なんだと!?」

 

「除外されたカードは裏側のまま、フィールドにセットされるわ!」

 

 彼女の言葉と共に次元の間から俺のモンスターゾーンに1枚、魔法・罠ゾーンにセットされた。

 

「なんだと!?」

「私がタラスクを沈めた後布でグルグル巻きにして引き渡したって伝承が残ってるんだけど、知ってたかしら?」

 

 つまり、除外されたカードを身動きの取れないままフィールドに戻した訳か。

 

「さあ、重く行くわ」

 

 言いながら腕を鳴らさないで……!

 

「フィールド魔法【サマー特異点 ファースト・アイランド】を発動!

 このカードの発動時にデッキから自分のフィールドのモンスターと同名のカード……【鉄拳の聖女】を手札に加えるわ……」

 

 めっちゃ不服そうに加えたけど間違いなくマルタさん本人じゃん……とは口が裂けても言えない。

 

「このカードは【一家の聖女】として扱う効果を持ってるわ」

「なるほど。そのお陰で【ファースト・アイランド】の効果で持ってこれた訳か」

 

「そう言う事! 【鉄拳の聖女】の効果発動! フィールドの同じレベルの【聖女】を手札に戻す事で、このカードを特殊召喚する!

 “ヤコブ様、モーゼ様……マルタ、拳を解禁します!”

【鉄拳の聖女】を特殊召喚!」

 

【鉄拳の聖女】

☆7 ATK2500 効果

 

 現れたのは修道服を脱ぎ捨て、赤の特攻服に晒を巻いたスケバンスタイルに早変わりした聖女。その手には無骨なナックルを嵌めている。

 

「【鉄拳の聖女】が特殊召喚に成功した時、相手のセットモンスターを全て破壊する!」

「なんだと!? っく!」

 

 【聖女】が伏せられていたカードに拳を振り下ろした。

 

「っぐ、【暗黒の魔王 ディアボロス】がっ!」

「さあ、覚悟しなさいマスター! 2枚目の永続魔法【聖者の教え】を発動して【一家の聖女】を見せてライフを回復!」

 

マルタのLP:6400→7800

 

「そして【鉄拳の聖女】の効果発動! フィールドに存在する全ての魔法罠の効果をこのモンスターがフィールドに存在する間無効にして、表側の魔法カードの数だけ攻撃力が1000ポイントアップする! “正堂の海”!」

 

「何!? 貴様の場には2枚の永続魔法とフィールド魔法が……!

 っ、しまった!」

 

【鉄拳の聖女】ATK2500→6500

 

「あんたの【ドラゴノイド・ジェネレーター】も頭数に入ってるっての!

 さあ、バトルよ! 【鉄拳の聖女】でマスターに直接攻撃! 

 “鉄・拳・制・裁”!」

 

 魔王すら1撃で沈めた拳が、的確に俺の腹を抉りぬいた。

 

「っぐぁあぁぁぁぁ!?」

 

ジュウヤのLP:8000→1500

 

「うっぐぅ……!」

「さあ、さっさと立ちなさい。立てなくなったデュエリストに、ターンは回ってこないわよ」

 

「っく、言ってくれる……!」

 

 一度に大ダメージを喰らってフラフラしつつも、何とか立ち上がった。

 

「バトルフェイズ終了時、効果を発動した【鉄拳の聖女】の効果。手札に戻り、このカード以外の同じレベルの【聖女】をリリース無しで召喚する。

 【一家の聖女】を召喚!」

 

【一家の聖女】

☆7 ATK2500 効果

 

 再び修道服に着替え、慌ててナックルを何処かへ放り投げていた。

 

「これで魔法カードの効果も戻って来るわ」

「なるほど……攻撃は【鉄拳の聖女】、守りは【一家の聖女】が行うという訳か」

 

「ええ、そう言う事よ」

「ならば、教えてやろう! 貴様のその戦略が私の前では無駄だと言う事を!」

 

「御託は良いから掛かって来なさいっての! 私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 マルタさんの手札は【鉄拳の聖女】の1枚のみ。先は妨害のせいでまるで展開できなかったが、このターンで本領発揮だ。

 

 

「私のターン、ドロー! 完璧な手札だ!」

「スタンバイフェイズ、【ファースト・アイランド】の効果発動!」

 

 俺の前に2つの映像が浮かび上がった。

 

 1つは青い空の下に建てられたマルタさんの様な像、もう1つは夕焼けに照らされタラスクの上で佇むマルタ像。

 

「マスター、選びなさい。このスタンバイフェイズに私のライフを1000ポイント回復させるか、エンドフェイズに2000ポイント回復させるか」

「なるほど。回復か……ならば、このタイミングで1000ポイント回復させる!」

 

マルタのLP:7800→8800

 

 この程度、この4枚のカードで乗り越えて見せる!

 

「まずは、セットされていた永続魔法【冥界の宝札】を発動!」

「忘れたのかしら? 魔法カードが発動した時、【一家の聖女】の効果発動! 2000ポイントのライフと引き換えに、マスターの手札を2枚除外する!」

 

マルタのLP:8800→6800

 

 2枚除外は確かに痛手だ……だが!

 

「私の最強モンスターは2枚有る! ならば1枚でも残る可能性に賭ける!」

 

 また減らされた手札、だが俺の切り札には――

 

 ――いた!

 

「私は既に発動していた永続魔法【ドラゴノイド・ジェネレーター】の効果を発動する! この効果で【ドラゴノイドトークン】を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

【ドラゴノイドトークン】

☆1 ATK300 通常

 

「この効果は1ターンに2回使える!」

 

【ドラゴノイドトークン】

☆1 ATK300 通常

 

「この効果を使用したターン、エクストラデッキからの特殊召喚は封じられるが……関係ないな」

 

「【冥界の宝札】は2体以上のモンスターをリリースした際にドローする効果を持つカード……なら狙いは」

「そうだ! 今見せてやろう! リボルバー様から授かった最強の僕!

“浸食せよ! この世全ての情報を! 人類の未来こそがお前の飢えを満たす糧となるのだ!”

 アドバンス召喚! 【クラッキング・ドラゴン】!」

 

【クラッキング・ドラゴン】

☆8 ATK3000 効果

 

 電脳空間のテクスチャをぶち破り現れたのは、強大な姿と力を持つネット世界の略奪者。

 黒鉄の竜、【クラッキング・ドラゴン】こそがこのデッキ、そしてハノイの騎士のエースモンスターだ。

 

「【冥界の宝札】の効果発動! 2体をリリースしてアドバンス召喚に成功した時、デッキからカードを2枚ドローする!

 そしてバトルだ! 【クラッキング・ドラゴン】よ! 【一家の聖女】を攻撃!

“トラフィック・ブラスト”!!」

「けど、【一家の聖女】は【光の道標】の効果で戦闘と効果では破壊されない!」

 

 【クラッキング・ドラゴン】の口から放たれる青い炎の様な熱線。

 だが、【聖女】の後ろから放たれる光が彼女を守った。

 

マルタのLP:6800→6300

 

「っく……バトルは終了だ」

「なら、【道標】の効果で1枚カードをドローするわ」

 

「カードを1枚伏せて、エンドフェイズに移行する」

 

エースを召喚できたが、手札は残り1枚。それにマルタさんの手札には【鉄拳】が待ち構えている。だが――

 

「――まだだ! 【ドラゴノイド・ジェネレーター】の効果を使用したエンドフェイズ、相手の場に【ドラゴノイドトークン】を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

【ドラゴノイドトークン】

☆1 ATK300 通常

 

「そして相手の場に1体のモンスターが召喚・特殊召喚された時、【クラッキング・ドラゴン】の効果が発動する!

 そのモンスターのレベル×200ポイント、攻撃力をこのターンの終了時までダウンさせその数値分相手のライフポイントにダメージを与える! “クラックフォール”!」

 

「面倒な……!」

 

【ドラゴノイドトークン】ATK300→100

 

マルタのLP:6300→6100

 

「【ドラゴノイド・ジェネレーター】の効果は2回使った! よってもう一体のトークンが生み出され、“クラックフォール”の餌食となる!」

 

【ドラゴノイドトークン】

☆1 ATK300 通常

 

【ドラゴノイドトークン】ATK300→100

 

マルタのLP:6100→5900

 

「ああ、もううっとおしい! 【一家の聖女】の効果で【道標】と【教え】の2枚を墓地に送るわ!」

 

「これでターン終了だ」

 

 

 

「私のターン! ドロー!」

 

「このスタンバイフェイズ、先のターンに除外された2枚のカードがフィールドにセットされる」

 

 俺はモンスターゾーンに1枚、魔法&罠ゾーンに1枚カードをセットした。

 

「さあ、覚悟する事ね! 私は手札の【鉄拳の聖女】の効果を発動するわ!

 【一家の聖女】を手札に戻して、【鉄拳の聖女】を特殊召喚!」

 

【鉄拳の聖女】

☆7 ATK2500 効果

 

「かかったな! この瞬間、【クラッキング・ドラゴン】のモンスター効果を再び発動!“クラックフォール”!

 相手のフィールドに召喚・特殊召喚されたモンスターの攻撃力を、レベル×200ポイントダウンさせ、その数値分のダメージを与える!」

「猪口才な……だけど、【鉄拳の聖女】の効果でセットモンスターは破壊されるわ!」

 

【鉄拳の聖女】ATK2500→1100

 

マルタのLP:5900→4500

 

 ダメージを与えたものの、俺の場にセットされていた2枚目の【クラッキング・ドラゴン】は破壊された。

 

「リバースカード、【聖者の伝承】! このカードは私のメインフェイズにしか発動できないトラップカード! 手札を1枚墓地に送って【聖女】の効果で墓地に送られたカードを3枚までフィールドに表側表示で置ける!」

 

 【聖者の来訪】、【聖者の教え】、【聖者の道標】の3枚が再びフィールドに……!

 

「残念だけどそれぞれの発動時の効果は使えないわ。だけど、これで終わりよ!

 【鉄拳の聖女】の効果、“正堂の海”! フィールドの魔法・罠カードの効果を無効にして、無効にした表側表示の魔法カードの数だけ攻撃力が1000ポイントアップする!」

 

「まだだ! その発動にチェーンして、私は罠カード【パルス・ボム】を発動する!

私の場に機械族モンスターがいる時、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て守備表示に変更し、更にこのターン中に召喚・特殊召喚されるモンスターを強制的に守備表示にする!」

 

 無効にされる前に発動し、攻撃される前に守備にしてしまえば、【鉄拳の聖女】も恐れるに足らず!

 

【鉄拳の聖女】ATK1100→DEF2500

【ドラゴノイドトークン】×2 ATK300→DEF300

 

【鉄拳の聖女】ATK1100→7100

 

「っく……やってくれたわね!」

「ふふふ、いかに高い攻撃力を持っていても守備表示ではどうにもなるまい! さあ、どうする!?」

 

 この【クラッキング・ドラゴン】のダウン効果と【パルス・ボム】の強制守備変更、一見最強コンボに見えるかもしれないがレベルを持たないエクシーズやリンクモンスターの攻撃力を下げられず、リンクモンスターに至っては守備表示になる事も無い。

 

 もしマルタさんが以前に戦ったブーディカの様な【聖杯】カードや、俺が与えてしまった2体の【トークン】を使ってリンク召喚してしまえば突破されてしまうかもしれないが……

 

(危ない危ない……まだ俺は彼女に聖杯を捧げていないから、あのチートカードも恐らく入っていない筈だ)

 

 手札は【鉄拳】の効果で戻した【一家の聖女】のみ。

 

「……私は、これでターン終了よ」

「攻撃力は元に戻り、無効になっていたカードの効果も復活する」

 

 

 

「やはり【クラッキング・ドラゴン】を操る私こそ、最強デュエリスト!

 ドロー!」

 

「まだよ、【ファースト・アイランド】の効果発動!」

「1000ポイント程度、くれてやる!」

 

 マルタのLP:4500→5500

 

 此処で勝負を決める!

 

「永続魔法【ドラゴノイド・ジェネレーター】の効果を再び発動!

 【ドラゴノイドトークン】を1体特殊召喚し、更に手札から【ジェスター・コンフィ】を特殊召喚!」

 

【ドラゴノイドトークン】

☆1 ATK300 通常

 

【ジェスター・コンフィ】

☆1 ATK0 効果

 

「そして、手札から魔法カード【悪夢再び】を発動! 墓地から守備力0の闇属性モンスター【クラッキング・ドラゴン】を手札に加える!」

「まさか……!」

 

「そのまさかだ! 1体の【トークン】と【ジェスター・コンフィ】をリリースし、最強モンスター、【クラッキング・ドラゴン】をアドバンス召喚!」

 

【クラッキング・ドラゴン】

☆8 ATK3000 効果

 

 再び現れる黒鉄竜。

 だが、今回はそれだけでは終わらん!

 

「その咆哮で【冥界の宝札】が発動し、そして闇属性である【ジェスター・コンフィ】の悲鳴が墓地の【暗黒の魔王ディアボロス】の効果を発動させる!」

「【ディアボロス】!?」

 

「闇属性モンスターがリリースされた時、【暗黒の魔王ディアボロス】は蘇る!」

 

【暗黒の魔王ディアボロス】

☆8 ATK3000 効果

 

「更に2枚のカードをドロー!」

 

 2体の【クラッキング・ドラゴン】そして【暗黒の魔王ディアボロス】……ふふふ、これぞ私の求めた最強のフィールドだ!

 

「さあ、これで終わりだ!

【クラッキング・ドラゴン】よ! 【鉄拳の聖女】を攻撃しろ!

“トラフィック・ブラスト”!」

 

「【光の道標】が守るのは通常召喚された【聖女】のみ! 特殊召喚された【鉄拳の聖女】は対象外! これで私の勝ちだ!」

 

 【クラッキング・ドラゴン】の熱線が確かに【鉄拳の聖女】を貫いた。

 

 しかし――

 

「――最後の最後で、見誤ったわね」

「何っ!? 何故破壊されない!?」

 

「私が何をした英霊か、忘れてしまったのかしら?

 【鉄拳の聖女】はフィールドにドラゴン族モンスターが存在する時、戦闘では破壊されないわ」

 

「なんだと!?」

 

「先からマスターが出すのがドラゴンとは名ばかりの鉄の塊だったから発動できなかったけど、【ディアボロス】を出してくれて助かったわ」

「っぐ……! ならば【ディアボロス】と【クラッキング・ドラゴン】で【ドラゴノイドトークン】を攻撃!」

 

 だが破壊しても守備表示ではダメージは入らない。

 

「っく……! メインフェイズ2、【暗黒の魔王ディアボロス】自身をリリースして効果を発動させる……! 貴様の手札を1枚、デッキの上か下に戻してもらおうか」

「私は下に戻すわ」

 

 これで唯一の手札が消えた……だが、完全に流れをあっちに持って行かれた。

 

「まだだ……まだ負けん!

 セットされていた永続魔法【悪夢の拷問部屋】を発動! 同名カード以外で効果ダメージを与えた時、追加で300ポイントのダメージを与える!

 そしてエンドフェイズ! 【ドラゴノイド・ジェネレーター】と2体の“クラックフォール”のコンボを喰らえ!」

 

【ドラゴノイドトークン】

☆1 ATK300→0 通常

 

マルタのLP:5500→5000→4600

 

 1体目の【クラッキング・ドラゴン】の効果で攻撃力が200ダウンしてダメージを与え【拷問部屋】で300ポイントのダメージ、2体目は100ダウンしダメージも100、【拷問部屋】で300ポイントの追加ダメージ。

 

 俺の手札は2枚……まだ、勝機はある!

 

 

 

「さあ、決めるわ! 私のターン、ドロー!

 メインフェイズ、【鉄拳の聖女】の効果を発動してフィールドの魔法・罠の効果を――」

「――させると思ったか! 手札の【エフェクト・ヴェーラー】の効果! 【鉄拳の聖女】の効果を無効にする!」

 

 これで【鉄拳の聖女】の攻撃力は上がらない……! 仮に永続魔法を生贄にして【降雷皇ハモン】を召喚すれば、【クラッキング・ドラゴン】2体と【拷問部屋】のコンボでライフが尽きてジ・エンド……! 

 

「言っておくけど、私は【幻魔】に頼ったりなんてしないわよ?

 手札の【哀しき竜‐タラスク】の効果発動! 手札のこのカードは戦士族【聖女】モンスターに装備する事が出来る!」

 

 あ、【鉄拳の聖女】さん戦士族だったんですね。意外ですねー。(棒読み)

 

「そして、装備モンスターの攻撃力を2000ポイントアップさせる!」

 

【鉄拳の聖女】ATK2500→4500

 

 こ、これは……終わったか?

 

「【タラスク】を墓地に送って直接攻撃する効果もあるけど、このまま【クラッキング・ドラゴン】を攻撃すれば貴方の残りのライフ1500ポイントが綺麗に飛んで終わりね」

 

「……だが、【クラッキング・ドラゴン】は自身のレベル以下のモンスターとの戦闘では破壊されない」

「それがどうかしたのかしら?」

 

「まさか、結局聖女マルタが【クラッキング・“ドラゴン”】と拳を交えても倒せずにデュエルが決着するなんて……と少しガッカリしただけだ」

 

「へぇ……つまり、ストレートにぶちのめされたいと?」

 

「なんとでもいえ。私はエースカードたる【クラッキング・ドラゴン】が傷付くのはみたくない……それだけだ」

 

「良いでしょう。その意気に免じて、【タラスク】の効果を発動します。これで【鉄拳の聖女】は直接攻撃できます」

 

【鉄拳の聖女】ATK4500→2500

 

「バトルフェイズ! 【鉄拳の聖女】で、ダイレクトアタック!」

 

「……どうやらこれで勝負は着いたようだな」

 

「? 何を今さら……」

 

「ふふふっふふ、分かっていない様だな。私の言葉の意味が!」

 

「あ、あんたまさか!?」

 

 まんまとかかったな、聖女マルタぁ!

 

「直接攻撃宣言時、手札の【バトルフェーダー】の効果発動! このモンスターを特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」

 

【バトルフェーダー】

☆1 DEF0 効果

 

「はぁぁぁっ!?」

 

「これで私の勝ちだぁ!」

 

 

 

 ――よし、後は手札の【星遺物‐星鎧】を召喚して総攻撃を……ん?

 

「? どうした【鉄拳の聖女】? さっさと自分のフィールドに……あれ?」

 

 目の前の【鉄拳の聖女】の後ろで、【鉄拳の聖女】が逆サムズアップをして――

 

「――鉄・拳・制・裁!」

 

「うごぉぉぉぉぉ!?」

 

 マルタさんのリアル・ダイレクトアタックをモロに受けた俺の体は吹き飛び、壁に体がめり込んだ。

 

「ふ、ふふふ……随分舐めた真似をしてくれたわね……!」

 

「ちょ、ちょっと待てっ!? こ、これデュエルだから!?」

「そのふざけたお芝居に付き合ってあげたらこれよ! その腐った性根を叩き直してあげる!」

 

「い、いや、精神攻撃は基本だから……」

 

 そう言うと、目の前まで来ていたマルタさんは拳を下ろした。

 

「あら、そう」

「う、うん……だ、だから……」

 

「私も1つ知ってるのよ」

「え、何を?」

 

「遊戯王にリアルファイトは付き物、よね? マスターはデュエルマッスルとやらは鍛えているのかしら?」

 

 そう言って俺の両足を掴んで――ぶん回し始めた。

 

「あああぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「オラオラオラ! ハハハハハ!!」

 

 数分後、デュエルはマルタさんの反則負けとなったが俺はボコボコにされたので翌日の記憶からこの出来事は消える事になった。

 

 

 

【直接攻撃しなかったら……】

 

「もう寝る時間よ! デッキ調整なんて明日にしなさい」

「え? でも、今まだ10時――」

 

「――寝・な・さ・い!」

 

 そう言ってマルタさんに無理矢理就寝させられた。

 しかし――

 

「――あの、寝れないです」

「何でよ。私が隣にいるのよ? 安心して寝なさい」

 

 この人……自分がどんな姿か分かっていないんだろうか……?

 仕方なく背を向けているけど、やっぱり隣だとつい意識して……

 

「お、お願いだから……1人で寝かせてください」

「駄目よ。私が離れたらまたデッキ弄る気でしょ?」

 

「しないから!」

「絶対するわ!」

 

「しないって!」

「絶対する!」

 

 そんな言い合いがエスカレートし、遂に互いに向き合って――

 

『――』

 

 ――俺の腕が、彼女の胸に触れた。

 

 あ、死んだなこれ。

 そう思っていたら……

 

「……絶対、しないの?」

 

 赤面した彼女の質問に、思わず聞き返してしまいたくなったけどグッと我慢して答えた。

 

「……し、しません……」

「そ、そう……しないのね」

 

 ……その夜の会話は、これっきりだった。

 

 

 

 

 

 ――因みに、翌日の櫻井との対戦は――

 

「――いや、どう考えてもこのデッキ、【冥界軸最上級】だろ」

「いやいや、【ハノイの騎士】だって」

 

「はぁ? 【ハック・ワーム】と【ジャック・ワイバーン】を入れろよ」

「そいつら絶妙に使いずらいから……」

 

「いや、だからこそのキャラデッキだろ?」

「【クラッキング・ドラゴン】がエースだから十分だって」

 

「【暗黒の魔王ディアボロス】、【ダークネス・シムルグ】まで入ってるし間違いなく【冥界軸最上級】だ!」

「【ドラゴノイド・ジェネレーター】も使ってんだから【ハノイの騎士】!」

 

「それリボルバーが使ったカードだろうが!」

「【クラッキング・ドラゴン】も使ったわ!」

 

 そんな押し問答で1日が過ぎ去ったのだった。

 




ルールとマナーを守って楽しくデュエル!


【ハノイの騎士】とは……?

ジャック・ワイバーンにビックバン・シュート装備させたり、ロンリー・ブレイブと戦った奴は【インヴェルズ】使ってたし、きっと【冥界軸最上級】を使うハノイもいるよね。
そう思う事にします。

あとマルタさん、その服装で聖女は無理で――(人間が時速360キロで飛ぶ音)


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行く手に神が立ち塞がるなら、神をなぎ倒して行け!

久し振りの更新。
今回も頭のおかしいオリカが暴れ散らかします。


 キャラデッキを作る……それが最近の俺のマイブーム。

 

 なので櫻井を相手に出来たばかりのキャラデッキを使ってやるのだが……全部にダメだしされる。

 

「だから【クラッキング・ドラゴン】のアドバンス召喚でアド稼ぐな!」

 

「【@イグニスター】に【転生炎獣】混ぜるな!」

 

「【E・HERO】の初動で【捕食植物】使うな!」

 

 こんな様なのだ。

 

「……あのさ、キャラデッキって何かご存じ?」

「キャラクターが使ったカードが入ったデッキ」

 

「だいぶ自由度高い解釈してんじゃねぇー!!」

 

 理不尽だろ、こんなの。

 しょうがないので、俺は一度初心に帰って自分で考えたオリジナルのデッキを作る事にした。

 

「いや、今までもそんな感じだったから。キャラデッキの威を借るオリジナルだったから」

「うるせえ、【ニビル】ぶつけんぞ」

 

 その日は最終的にお互いガチデッキをぶつけるデュエルになってしまった。

 きっと親の顔より【黄金郷エルドリッチ】の顔面を多く見た日になっただろう。【ワッケーロ】で除外してやったけどな。

 

 

 

「あ……!! あ、ああ……!!」

 

「マスター? どうかなさったの?」

「具合でも悪いの?」

 

 目の前のサーヴァントの、否、2人のサーヴァント達の余りの存在感に俺の語彙力はゼロとなり、顔を地面に向けた体勢で唯々感嘆符の様な声を出すしかなかった。

 

 1人はアビゲイル・ウィリアムズ、通称アビーちゃん。黒いフリルに萌え袖で着こなす可愛いフォーリナー。めっちゃ良い子。

 

「今日は一緒に遊ぼうと思っていたのだけれど……」

 

 もう1人はアビゲイル・ウィリアムズ、通称アビーちゃん。ちょっと暗い肌の色とこの年の女の子が着ていいのか怪しい露出範囲の黒ビキニを着ている可愛いフォーリナー。背後には触手が見えている。多分良い子。

 

「残念。今日のマスターと遊べないのかしら?」

 

「遊びます! めっちゃ遊べます!」

 

 めっちゃ悪戯っぽい笑顔でこちらを見る彼女に、俺は慌てて顔を上げて答えた。

 

「それじゃあ、私達とデュエルしましょう!」

「するする!」

 

 まさか、アビーちゃん2人と同時に、こんな可愛い子達と同時にデュエル出来るなんて……! 

 

(あわわわわわ……!)

 

 普段よりおぼつかない手でデュエルディスクをセットした俺は彼女達の方を向き直るった。

 

「……あれ? ディスクじゃなくて、机?」

 

「ごめんなさい、マスター。私達、デッキを1つしか持っていなくて……」

「本当に不本意だけれど、私とこの娘で1人の対戦相手にさせて下さる?」

 

「全然いいよ!」

 

 つまり、実質1対1のスタンダートなデュエルって事だな。

 

「それじゃあ、始めましょう!」

「勝ったらマスターは私達の物ね?」

 

「……み、魅力的だけど、デュエルは手を抜かない!」

 

 

 

『デュエル!!』

 

アビーズのLP:8000

ジュウヤのLP:8000

 

 

 最初のターンプレイヤーは俺。そして今回のデッキはネタ全振りのこのデッキ……俺は5枚の手札から3枚のカードを引き抜いた。

 

「俺のターン! 手札のカードを3枚伏せて、ターン終了!」

 

「あら? 手札が良くないのかしら?」

「油断しないで。きっとアレが最善手よ」

 

 首を傾げるアビーに、水着アビゲイルが警告を鳴らす。

 さてさて、俺の狙い通りに行くだろうか?

 

 

「まずは私の番ね! ドロー!」

 

 宇宙最強の可愛さを持つアビーだが、彼女のクラスは異界の神が蠢くフォーリナー。遊戯王的にも、その強さは計り知れないだろう。

 

「私はフィールド魔法を発動するわ! 【外理の宇宙】!」

 

 アビーが発動を宣言すると共に空間は歪み、やがて辺りは草原と化した。

 上空には綺麗な青空――ではなく、神秘の宇宙が広がっている。しかし、こちらに光を放っているのは決して星や惑星なんかじゃない。

 

「――さあ、始めましょう?」

 

 変わったのはフィールドだけじゃない。

 目の前にいた2人のアビゲイルの姿は、肌の色から違っていた数瞬前とは異なりそれぞれ額に鍵穴が開いた健康的な肌色の姿に変わっていた。

 

 服装もお互い大きく変わっていて、アビーの服は服と呼べるかも怪しく、木の枝の様な装飾が肌を隠しており、水着アビーの方は水着は白色の布面積の広い物に、背後に蠢いていた触手は墓石に変化している。

 

 

「これもっ!」

 

 

「とてもっ!!」

 

 

「善き!!!」

 

 

「マスターが嬉しいなら、私も嬉しいわ」

「好意が素直過ぎて、ちょっと受け止め切れないかもしれないわ」

 

 ああああああ 姉妹じゃん! 双子じゃん! かわかわじゃん! 

(※同一人物です)

 ちょっと待て、俺の心のフォーカス・フォースのオーバーレイ・ユニット(以下ORUと表記)がもうない!! フリーザードン呼んで! でも寒そうだからあまり近付かないで!

 

「大丈夫かしら?」

「続けていればきっと戻って来て下さるわ。私は手札から、【外神に魅入られた少女】を召喚するわ」

 

【外神に魅入られた少女】

☆3→★3 ATK500 通常→エクシーズ

 

「――……あれ?」

「漸く正気に戻ったのね、マスター」

 

「なんで通常モンスターの【魅入られた少女】がランクを? エクシーズになってるし」

 

「【外理の宇宙】が存在する限り、互いのフィールドの通常モンスターはレベルを失い、代わりに同じ数のランクを得てエクシーズモンスターとして扱われるわ」

「通常モンスターをエクシーズに!?」

 

「ただし【外理の宇宙】のデメリットで私は魔法カードの効果以外で【外神】の名前を持つモンスター以外をエクシーズ召喚出来ず、ORUを持たないエクシーズモンスターをリンク素材に使用する事も出来ないわ」

 

 つまり、複数のエクシーズモンスターを素材として要求する【未来皇】や【メガトンゲイル】をエクシーズ化した通常モンスターでお手軽召喚……なんて事を不可能にしているのか。相手にはその制約はないようだけど。

 

「そして、ORUを持たない【外神】エクシーズモンスターは攻撃すら行えないわ」

 

 となると、このモンスターは恐らく――

 

「――速攻魔法、【RUM(ランクアップマジック)幻影騎士団(ファントム・ナイツ)ラウンチ】! フィールドのORUを持たない闇属性エクシーズを、ランクの1つ上の闇属性エクシーズモンスターにランクアップさせる!」

 

 ぬいぐるみを抱きしめていた【少女】は、気が付くと地上ではなく宇宙にいた。そんな彼女に亡霊の様な存在が集まり、彼女を覆い隠した。

 

「“これは再誕の儀である! 外から覗く神に仕える喜びに打ち震え、歓喜せよ!” ランク4! 【外神の巫女】!」

 

【外神の巫女】

★4 ATK2000 エクシーズ・効果

 

 【少女】から【巫女】になってしまったようだ。

 ぬいぐるみは手足がもがれた状態で散乱しているし、白いワンピースを着ていた筈が今では黒一色な上にフードで目元まで隠れている。

 

 カードとして実在する【外神アザトート】はランク5で禁止に指定されてるし、ランク4の【外神ナイアルラ】は地属性。

 あのカードこそアビゲイル達の切り札か。

 

「魔法カードの効果でエクシーズモンスターの特殊召喚に成功した時、【外理の宇宙】の効果発動! 1ターンに一度だけ、デッキから【RUM】を墓地に送って、【外神】の名前を持つカードを1枚手札に加える!

 【RUM-アストラル・フォース】を墓地に! 魔法カード【外神の招来】を手札に加える!」

 

 【アストラル・フォース】は通常のドローの代わりに墓地から手札に加える事が出来るカード。つまり、実質サーチされた様な物だ。

 【外神の招来】に関してはてんで分からない。実際の遊戯王の【外神】ってそんなに多くないし。

 

「【外神の巫女】の効果発動! 墓地の【RUM】カードである【アストラル・フォース】をこのモンスターのORUにする事が出来る!」

「【RUM】を素材に!?」

 

「【外神の巫女】はORUになっている【RUM】を取り除く事で初めてその真価を発揮するのよ、マスター。

 “異神の招来!”

 【幻影騎士団ラウンチ】を取り除いて、EXデッキからレベル4の融合・シンクロモンスターを1体、効果を無効化し、召喚条件を無視して特殊召喚出来る!

 【旧神ヌトス】!」

 

【旧神ヌトス】

レベル4 ATK2500 融合・効果

 

「この効果に1ターンに一度の制限はないわ。【アストラル・フォース】を取り除き、【古神クトグア】!」

 

【古神クトグア】

レベル4 ATK2200 シンクロ・効果

 

「ユゥユゥですよ~! 呼ばれた気がしたので登場です!」

「楊貴妃!?」

 

 槍と盾を構えた勇ましくも美しい神【ヌトス】。

 その横に青い火と共に現れたのは、【クトグア】……ではなくサーヴァントである筈の楊貴妃だった。

 

「天子様っ!? ずるいですよ、アビーさんだけマスターと遊んでるなんて!」

「ユゥユゥさん。今はデュエル中だから力を貸して下さると有難いのだけど」

 

「むー……でも今のあたし、動けないし炎も上手く出ない……これって」

「【外神の招来】を発動! これで【外神】エクシーズモンスターはこのターンの間だけ元々のランクと同じレベルのモンスターとしてエクシーズ召喚の素材になるわ。更にデッキから【RUM】を墓地に送る事が出来る! 【RUM-アージェント・カオス・フォース】を墓地に!」

 

 また【RUM】を墓地に……

 

「わーん!? やっぱりあたし、他の神格の素材扱い!?」

「ごめんなさいユゥユゥさん!」

 

「レベル4の【旧神ヌトス】、【古神クトグア】、【外神の巫女】でオーバレイ!

 “異なる神々と下僕の呼び声を鍵として、人の理の外より扉は開かん!”」

 

 アビゲイルの口上に反応するかのように――

 

「“我が父!”」

 

 上空に浮かぶ銀河が怪しい光を放ち――

 

「“偉大なる父!”」

 

 大きく揺れて――

 

 遂に、その姿があらわになった。

 

「エクシーズ召喚、ランク4! 【外神ヨグソトース】!!」

 

【外神ヨグソートス】

★4 ATK2300 エクシーズ・効果

 

「こ、これが……【ヨグソートス】!?」

 

 攻撃力は【デコード・トーカー】と同じなんですね? なんてふざけた事すら言えなかった。

 

 空に浮かぶ無数の触手。どこが端でどこが終わりかも分からない、まさに外神だ。

 

「さあ、此処からが本番よマスター! 【ユゥユゥさん(クトグア)】によって齎された【ヨグソートス】の効果を発動! エクシーズ召喚成功時に、カードを1枚ドロー!」

 

 色々やってるっぽいのに、まだ手札が4枚もあるのか。

 

「そして【ヨグソートス】の永続効果! 墓地に落ちた別世界の理、【RUM】の数だけ攻撃力が1000ポイントアップする!」

 

「何!?」

 

【外神ヨグソートス】ATK2300→5300

 

「ランク4で攻撃力5300!?」

「まだよ、ORUを1つ取り除いて【ヨグソートス】の更なる効果発動! 私のデッキの上から3枚のカードをゲームから除外する!」

「自分のカードを除外?」

 

 アビーは3枚のカードを表側で除外した。

 

「除外されたのは【幻夢境(ドリームランド)】、【ドン・サウザンドの契約】、【守護神の宝札】!」

「見事に魔法一色だな……」

 

 しかも全部ちゃんと現実にあるカードなんだけど……どれもシナジーが見えてこないぞ?

 

「ええ、本当にそうね?」

 

 ちょっ、やめて!? そんな可愛い顔で悪戯っぽく笑わないで! 悪魔的に可愛い!

 

「感動する時間は与えないわ。

 この効果を発動する為に墓地に送られた【旧神ヌトス】の効果発動! フィールドのカードを1枚破壊するわ!」

 

 対象に取られた俺の罠カード、【ホーリージャベリン】が破壊された。

 

「そして、【ヨグソートス】のもう1つの永続効果! フィールドゾーンにカードがある時、このカードの効果で除外された永続魔法とフィールド魔法は自分のフィールドに表側表示で存在する物として扱い、効果を適用し続けるわ!」

 

 …………?

 

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 …………今、一瞬頭の中の宇宙に疑問符を浮かべる猫がいた気がしたんだけど……

 

「……よーし、よく考えよう。

 【ヨグソートス】がいると、除外されている永続魔法とフィールド魔法の効果が、自分のフィールドに、表側表示で存在する扱いになる……」

「そうよ」

 

「つまりフィールド魔法の【幻夢境】、永続魔法【ドン・サウザンドの契約】と【守護神の宝札】の効果が適用される……」

「ピンポーン♪」

 

「……テキスト確認していいっすか?」

 

 対戦相手のカードを触る時には先に持ち主の了承を得るというマナーを守りつつ、除外された魔法カードの効果を確認した。

 

 【幻夢境】は自分のエンドフェイズに自分のフィールドにエクシーズモンスターが存在する場合、レベルの1番高いモンスターを破壊する強制効果がある。

 

 【ドン・サウザンドの契約】は発動時のドローとライフコストは発生しないが、こいつが存在している間にドローしたカードはお互いに公開され、魔法カードを公開しているプレイヤーは通常召喚が出来ない。

 

 【守護神の宝札】も発動時の手札5枚を捨てて2ドローの効果はなくなり、コントローラーはドローフェイズにカードを2枚ドロー出来る事になる……って!

 

「なんじゃそりゃ!?」

「ふふふ、漸くマスターが驚いてくれたわ」

 

 そりゃそうだろ!

 こ、こんな、こんな効果……!

 

「めちゃくちゃ面白過ぎる……!」

 

 やべぇ【炎星】みたいなテーマとコンボできたりしないかな!? え、実在しない? そんなぁー!!

 

「それじゃあ、そろそろバトルフェイズよ!

 【外神ヨグソートス】で攻撃!」

 

 アビーの声と共に再び宇宙が揺れて、こちらに攻撃力5300の神の攻撃が襲ってくる。

 

「っく、受けるしかないないけど……リバースカードオープン、【メタバース】!

 このトラップはデッキからフィールド魔法を発動できる!

 “データマテリアル解放! 発動しろ、【サイバネット・ストーム】”!」

 

 俺が発動した【サイバネット・ストーム】により俺の周りの空間が電脳空間へと変貌し、背後にはデータの渦、データストームが吹き荒れている。

 

 日常的な風景の地上と蠢く上空の銀河でコズミックホラー感のある【外理の宇宙】、空中に浮かぶ幻想的な島【幻夢境】、そして【サイバネット・ストーム】。

 3つのフィールド魔法が決闘場に現れ、混沌を極めていた。

 

 このまま――

 

「――ライフで受ける、っぐああぁぁぁ!!!」

 

 ジュウヤのLP:8000→2700

 

 強大過ぎる触手の一撃に、俺の体は背後にあったデータストームまで吹き飛ばされた。

 

「ま、マスター!?」

「マスター!」

 

BK(バーニングナックラー)-ベイル】

☆4 DEF1800 効果

 

 ジュウヤのLP:2700→8000

 

「……ちぇ、チェーン2で、手札の【BK-ベイル】を発動! こいつを特殊召喚し、受けた戦闘ダメージと同じ分のライフを回復する……!」

「無事だったのね!」

 

「待って、チェーン2?」

「そう。【ベイル】の前にフィールド魔法【サイバネット・ストーム】の効果が発動しているのさ!

 俺が2000ポイント以上のダメージを一度に受けた時、エクストラデッキからランダムに一枚めくり、そいつがサイバース族リンクモンスターなら特殊召喚出来る!」

 

 これが俺のデッキ、【ストームガチャ】だ!

 

「“ストームアクセス!”

 リンク3、現れろ! 【パワーコード・トーカー】!!」

 

【パワーコード・トーカー】

リンク3 ATK2300 リンク・効果

 

 現れたのは真っ赤な体を持つサイバースの戦士。

 力強さを感じるボディ、右腕には鋏の様な武器を装備している。

 

「パワー倍加と効果無効を持つこいつなら、【ヨグソートス】も倒せる!」

「これでどう? 速攻魔法【黒白の波動】」

 

 まーたそんな悪い顔で笑っちゃって。

 普段も可愛いのに偶にそんな顔されちゃ、くっー! たまんないね!

 

「って、【パワーコード・トーカー】ぁぁぁっ!?」

「【黒白の波動】はシンクロモンスターをORUに持つエクシーズモンスターが存在している時に発動出来るカード。これで【パワーコード】は除外され、わたしはカードを1枚ドローする」

 

 やばい。あっさりこっちのモンスターを除去された。

 

「メインフェイズ2。カードを1枚伏せてターンエンド。

 エンドフェイズに、【幻夢境】の効果で【ベイル】を破壊!」

 

「黙って破壊されて堪るか! 永続トラップ【闇の増産工場】発動! 1ターンに一度、手札かフィールドのモンスターを墓地に送って、カードを1枚ドローする! 破壊されようとしてる【ベイル】を墓地に送ってドロー!」 

 

「この瞬間、【ドン・サウザンドの契約】の永続効果が適用されるわ。ドローしたカードを見せて」

 

「モンスターカード、【絶対王 バック・ジャック】だ」

 

 こちらのフィールドのモンスターは根こそぎ刈り尽くされた上に、あっちは攻撃力5300の【ヨグソートス】とセットカード、3枚の手札と3枚の除外された魔法カードがある。アドバンテージの差がえげつない。

 

「しかも、魔法カードをドローすれば【ドン・サウザンドの契約】で通常召喚が出来なくなる……」

 

 

 手札2枚と伏せカード1枚――

 ――だが【サイバネット・ストーム】があればまだガチャは回せる!

 

「俺のターン、ドロー!」

「【ドン・サウザンドの契約】の効果でそのカードも公開してもらうわ」

 

「……俺が引いたのは【転生炎獣エメラルド・イーグル】! モンスターカードだ!」

 

 このタイミングで儀式モンスター……まあ、こいつは元々こんな役回りだったな。

 

「永続トラップ【闇の増産工場】の効果発動! 俺は【エメラルド・イーグル】を墓地に送って1枚ドロー!」

 

 【ドン・サウザンドの契約】の効果で、ドローしたカードを公開する。

 

「モンスターカード、【G(ジャイアント)・コザッキー】!」

 

 来たぜ、俺の呼符!

 

「こいつをそのまま通常召喚!」

 

【G・コザッキー】

☆4 ATK2500 効果

 

 このブッサイクな巨大メカは――

 

「――どわぁっ!?」

 

ジュウヤのLP:8000→5500

 

「ま、マスター!?」

「勝手に爆発した!?」

 

「っぐ、こ、こいつはその圧倒的な攻撃力ゆえに、場に【コザッキー】がいないと自壊して、その時のコントローラーに自分の攻撃力分のダメージを与えるだが……【サイバネット・ストーム】の効果発動!」

 

 伸ばした手の先には当然、データストーム!

 

「っと、その前に! 効果ダメージを受けた時、【スピードローダー・ドラゴン】を手札から特殊召喚する! そして、アビー達に俺が受けた2500ポイントのダメージをプレゼントだ!」

 

【スピードローダー・ドラゴン】

☆6 DEF600 効果

 

「っきゃ!」

「……うふふ」

 

 アビーズのLP:8000→5500

 

「更に俺はダメージの半分を回復!」

 

 ジュウヤのLP:5500→6750

 

「そしてお待ちかね! 【サイバネット・ストーム】の効果で、現れろ!

 ……リンク1、【リンクリボー】!」

 

【リンクリボー】

リンク1 ATK300 リンク・効果

 

 まあ、運に任せてればこういう事もあるよなぁ……

 

 ごめんよ、やる気満々って感じで出て来た所悪いんだけど【リンクリボー】、お前じゃ【ヨグソートス】の相手は無理だ。

 

 【バック・ジャック】とこの盤面でなんとか凌がなくては……!

 

「……ターン終了!」

 

 

 

「今度は私の番! そして、バリアンズ・カオス・ドロー!」

 

 水着姿のアビゲイルが赤い光を放ちながら2枚のカードをドローした。

 

「ちょ、ちょっと何をしているの!?」

 

 何故か先までプレイしていたアビゲイルは彼女の行動に困惑している。

 

「? 【守護神の宝札】の効果で2枚のカードを引いたのよ?」

「そっちじゃなくて、ドローの方! なんでカードを書き換えてしまったの!?」

 

「書き換えたのは貴方の方でしょう? デッキのカードを5枚も変えてしまうなんて、いくら何でもやり過ぎじゃないかしら?」

 

 ん? なんだろう、喧嘩だろうか?

 

「兎に角、私はマスターとは私らしい方法で戦うわ! まずは手札から2枚目の【黒白の波動】を発動! マスターの【リンクリボー】を除外するわ」

 

 【リンクリボー】には攻撃してきたモンスターの攻撃力をゼロにする効果がある。このまま除外されてドローされるよりは【闇の増産工場】で……否、それじゃあこのターンに敗北する可能性が高まる。

 

「……このまま、除外される」

「1枚ドロー! そして、このカードで勝負よ! 【森羅の施し】!」

 

「【森羅の施し】!?」

 

 バリアンズ・カオス・ドローで創造したカードはアレか? あれはカテゴリー以外じゃデッキトップ操作で使われるカードだ。

 

「デッキから3枚のカードをドロー! そして、【森羅】の名前を持つカードを見せなければ、手札のカードを全てデッキの上に戻すわ」

「此処で手札を全部失う気なの?」

 

 そして、水着アビーは7枚も有った手札を全て自分のデッキに戻した。

 

「一体何を……?」

「【ヨグソートス】の効果を発動! ORUを取り除いて、既にこのカードの効果で除外されているカードを全てを墓地送り、新たにデッキから3枚のカードを上から除外するわ!」

 

 デッキにカードを戻したのはこの効果の為か。

 

 しかし、水着アビーの手がデッキに触れたと同時に彼女達の姿は再び変わる。

 

 既に悪い子になっていたアビーは、肌色が人間離れした薄色に変色し、更に体の前面を隠していた枝の様な装飾も減ってよりエッチになってしまった。後ろにはそれに見とれた俺を飲み込むつもりなのか、触手が蠢いている。

 

 逆に水着アビーは鍵穴もなくなり、不穏だった墓石は色とりどりな可愛い浮き輪になり、水着もフリルの付いた、フレア・ビキニにお着換えしている。

 

 

「言わずもがなっ!!」

 

 

「最オブ高!!!」

 

 

「うふふ、マスターったら、子供みたいで可愛い」

「それより、此処まで私のプランを台無しにして、勝てるの?」

「大丈夫よ。さあ、カオス・バリアンズ・ドロー!」

 

 ……ん? あれ、もしかして今またカード書き換えた?

 

「除外したのは永続魔法の【パンケーキ!】と【みゃんみゃん!】、フィールド魔法【サマー特異点 フィフス・マウンテン】!」

「また3枚とも発動!?」

 

 って言うか、カード名から効果が全く想像できない! 可愛いけど!

 

「【パンケーキ!】は除外された場合、手札に加えられる永続魔法なので手札に加えてー、【みゃんみゃん】は後でのお楽しみ! 【フィフス・マウンテン】の効果でエクシーズモンスターは効果で破壊されなくなりました!」

 

 さらっと【ヨグソートス】に怖い耐性つけてやがる……

 

「そして手札に加えた【パンケーキ !】を発動!

 発動時の効果で墓地の【外神】、【外神に魅入られた少女】を特殊召喚!」

 

 【外神に魅入られた少女】

☆3→★3 ATK500 通常→エクシーズ

 

「またランクアップか?」

「パンケーキ!】はとっても美味しくて、おっきなパンケーキを作る夢の魔法カードなの! さあ、【少女】の為にとってもとっても大きなパンケーキを作りましょう!」

 

 今度は何事か、宇宙からこちらを見下ろしていた【ヨグソートス】が突然、光の球体となって少女の足元に降り注いだ。

 

 【外神ヨグソートス】は素材を全て墓地に送られた後、フィールドにいる【魅入られた少女】の下に入った。つまりORUになってしまったのだ。

 

「え」

 

 そして【少女】の足元から、彼女よりも大きな――パンケーキが現れた。【少女】はあたふたした様子でそれを見つめている。

 

「さーらーに、墓地の融合、シンクロ、エクシーズモンスターもぜーんぶつみあげちゃおー!」

 

 とても可愛らしいと思います。

 その行為で積み上がっていくパンケーキの原材料が【旧神】や【古神】、【外神】じゃなければな!

 

 なんか偶に【少女】の座っている4段のパンケーキの横から、目玉とか触手、槍に青い炎が見えるし、怪しげな呪文まで聞こえそうなんですが……

 

「完成ね! 【パンケーキ!】の効果で特殊召喚したモンスターはフィールドの【外神】モンスターを全てORUにして、その後墓地の融合シンクロエクシーズモンスターもORUに出来るの! 更に【パンケーキ!】の効果で攻撃力がORU1つにつき1000ポイントアップ!」

 

【外神に魅入られた少女】ATK500→4500

 

「更にORUの【外神】エクシーズモンスター1体の効果をコピー出来るから、【外神ヨグソートス】の効果をコピーして墓地の【RUM】の数×1000ポイント攻撃力アップ!」

 

【外神に魅入られた少女】ATK4500→7500

 

「後は、フィールド魔法【外理の宇宙】の効果! 魔法カードでエクシーズモンスターを特殊召喚したから【RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース】を墓地に送って【外神】カード、【パンケーキの歌】を手札に加えるわ!」

 

【外神に魅入られた少女】ATK7500→8500

 

 待て待て待て!?

 

 まさかあの【パンケーキ!】とか【みゃんみゃん!】、【パンケーキの歌】、全部【外神】カードとして扱う効果を持ってるのか!?

 持ってるし……!

 

「【パンケーキの歌】を発動! デッキから【外神に鳴く猫】を3枚までデッキから【外神に魅入られた少女】のORUにするわ!」

 

【外神に魅入られた少女】ATK8500→11500

 

「更にリバースカード、永続罠【リサーガム・エクシーズ】を発動! エクシーズモンスターの攻撃力を800ポイントアップ!」

 

【外神に魅入られた少女】ATK11500→12300

 

 積み上げられたパンケーキは7段。もはや【魅入られた】とか可哀想な娘なんてレベルじゃない。

 そりゃあお前、巨大邪神パンケーキの上に乗って歌っている女の子なんて神に目を付けられて当然だろう。

 

 歴戦のデュエリストである俺も、流石にこの冒涜の上に冒涜を重ねた様な名称し難きパンケーキには正気度を削られた気がする。

 なんだったら、ヤバい知識と引き換えに上限すら失ったかもしれない。

 

「で、デカすぎんだろ……」

「此処で、除外されている【みゃんみゃん!】の効果! 黒猫とパンケーキを作るっ♪」

 

 可愛いらしいアビーの歌と共に、まるで影の様な真っ黒な猫が【少女】の頭の上に乗った。

 

「【みゃんみゃん!】の効果でフィールドのORUが3つ以上ある【外神】エクシーズモンスターは2回攻撃! 更にエンドフェイズ時に現在の攻撃力を次の自分のターンのスタンバイフェイズまで元々の攻撃力として扱う効果を発動できます!」

「な、なんだと!?」

 

 12300の2回攻撃!? しかも攻撃力を固定!?

 

「バトルフェイズ! 【魅入られた少女】でマスターの【スピードローダー・ドラゴン】に攻撃! “黒猫パンケーキ!”」

 

 なんてこった!? あの大きさのパンケーキが、空を飛んで【スピードローダー・ドラゴン】を潰しやがった!?

 

「っぐ、このままだと不味い……! 【闇の増産工場】の効果発動!

手札の【絶対王 バック・ジャック】を墓地に送ってカードを1枚ドロー!」

 

 もはやこれに賭けるしかない!

 

「何を引いても此処で終わりよ!」

「いや、【絶対王 バック・ジャック】は墓地に送られた場合、デッキの上から3枚のカードを確認して好きな順番に入れ替える事が出来る!」

 

 よし、これなら!

 

「更にこの効果の後、【バック・ジャック】のもう1つの効果! こいつを除外して、デッキの上のカードを公開し、それが通常罠だったらセットして、このターンに発動できる!」

「一体何を仕込んだの?」

 

「今見せてやる! “王者の試練”! デッキの上のカードは、当然通常罠! 【一か八か】だ! このままセット!」

 

「またデッキの上を捲るカード……! 良いわ、【少女】でダイレクトアタック!」

 

「勿論発動だ、トラップカード【一か八か】! デッキの一番上のカードを公開し、そいつがレベル1か8のモンスターで特殊召喚可能ならそのまま特殊召喚出来る!」

 

 これも【バック・ジャック】で操作したカード。なので当然……!

 

「レベル8、【グッサリ@イグニスター】! こいつを守備表示で特殊召喚だ!」

 

【グッサリ@イグニスター】

☆8 DEF3000 効果

 

「そのまま【少女】で攻撃!」

 

 幾ら大きな槍を持っていても、あの質量のパンケーキが相手では約に立たず、そのままぺしゃんこになってしまった。

 

「耐えられてしまったわね」

「良いわ。次のターン、私がまたカードを書き換えてマスターに止めを刺して終わりにしてあげる」

 

 ゼアル並みにカードを書き換えようとしてる……

 対して、俺の手札は1枚。【闇の増産工場】があるとは言え、このままだと次のアビー達のターンに敗北する。

 

「エンドフェイズ! 【パンケーキ!】の効果で【外神に魅入られた少女】がコピーした【外神ヨグソートス】の効果は終了するけど、攻撃力はそのまま!」

 

 彼女の手札はゼロ枚。

 俺の次のドローカードは既に【バック・ジャック】の効果で確認してる。

 それでも、こいつを引くしかない!

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 シャイニング・ドローなんてチート能力を持っていない俺では、やはりこのカードをドローする運命は変えられなかった。

 

(――だけど、こいつで逆転のモンスターを呼ぶ事が出来れば……)

 

 そう、このデッキは【ストーム・ガチャ】。結局全ては運任せ。

 

「……なら、この博打に打って出る!

 魔法カード、【死者蘇生】!」

 

 俺が墓地から蘇らせたのは――

 

【G・コザッキー】

☆4 ATK2400 効果

 

 そしてすぐさま2度目の爆発をするポンコツロボット。

 

 ジュウヤのLP:6750→4250

 

「この瞬間、【サイバネット・ストーム】の効果発動! エクストラデッキより、現れろ!」

 

 俺はシャッフルされたエクストラデッキのカードに手を掛けて、そして唱えた。

 

「“気炎万丈!炎の大河から蘇りし魂、灼熱となりてここに燃え上がれ!”」

 

 勿論、カードは見ていないし分からない。だけど、此処でこいつが来ないと勝つ手段がない。

 

「“ストーム・アクセス”! っ――よっしゃぁぁぁ!

 リンク3、【ファイアフェニックス@イグニスター】!!」

 

【ファイアフェニックス@イグニスター】

リンク3 ATK2300 リンク・効果

 

 耐え切れずに喜びを叫んでしまったが、この局面で唯一の勝ち筋を引けた。

 

 炎の翼を纏った電子世界の不死鳥。

 こいつの効果なら、例え攻撃力12300の【外神】が遮っていても、アビー達に一撃を加える事が出来る。

 

 だが、本当の賭けは此処からだ。

 

「来てくれ、フォウ君! 【ミミックリル】を通常召喚!」

 

【ミミックリル】

☆3 ATK0 効果

 

 紫色の猫が真っ赤なリボンで着飾っている……ぬいぐるみ。しかも、2つに割れた顔の中には正体不明のナニかが潜んでこちらを見ている。

 

「まあ、マスターも黒猫を?」

「ああ。だけど、この子は直ぐにお家に帰っちゃうんだ」

 

 俺は再び、デッキトップのカードに指を乗せた。

 

「【ミミックリル】の効果! 1ターンに一度、デッキトップのカードを捲り、そいつが特殊召喚可能なモンスターなら、【ミミックリル】自身をデッキの下に戻して特殊召喚出来る!」

 

「マスター、賭け事が大好きな悪い大人になっていないかしら? 心配だわ」

「あら、賭け事位なら悪い子の私だってするわ。だってゾクゾクするのだもの」

 

「さあ、行くぞ! “単発召喚!”」

 

 捲られたカードは――――効果モンスター、レベル11……攻撃力、3000!

 

「大当たりだ! 来い、【サブテラーマリス・エルガウスト】!!」

 

【サブテラーマリス・エルガウスト】

☆11 ATK3000 リバース・効果

 

 ぬいぐるみと入れ替わって出現したのは地底世界の巨大な悪魔。

 

「【ミミックリル】の効果で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズにデッキに戻る」

「なるほど。そのデメリットを回避する為の【エルガウスト】なのね」

 

 【サブテラーマリス】モンスター達は自分自身を裏側守備表示にする効果を持っている。まあ、もっともこのターンで決めるから今は関係ない。

 

「決めるぜ、バトルフェイズだ! 【ファイアフェニックス@イグニスター】で【少女】を攻撃!」

「え、でも【外神に魅入られた少女】の攻撃力は12300よ?」

 

 炎に包まれた鳥が突っ込んでいくが、巨大なパンケーキの前ではそれすら無謀に見えてしまう。

 

「この瞬間、墓地の【グッサリ@イグニスター】を除外して効果発動!

 自分のリンクモンスターがバトルする攻撃宣言時に、互いのモンスターの攻撃力を3000にする!」

 

「「ええぇ!?」」

 

【ファイアフェニックス@イグニスター】ATK2300→3000

【外神に魅入られた少女】ATK12300→3000

 

「だ、だけど、次のターンで【死者蘇生】で【ヨグソートス】を復活させれば――」

「――【ファイアフェニックス@イグニスター】の効果発動!

 自分が攻撃しているダメージ計算時、このバトルで相手に与える戦闘ダメージを0にして、代わりに自分の攻撃力と同じ数値の効果ダメージを相手に与える!」

 

「相打ちなのに!?」

「私達だけダメージ!?」

 

「いけぇぇぇ!」

 

 【ファイアフェニックス】はその鉤爪で【少女】を掴んだ。

 その状態に慌てふためく彼女と共に更に高く上昇し、パンケーキ目掛けて【少女】を落とした。

 

 なんともない、良かった……と安心している暇もなく、【少女】の下のパンケーキはバランスを崩し始め、遂にはアビー達に向かって落ちて行った。

 

 アビーズのLP:5500→2500

 

「「きゃ、きゃぁぁぁ……」」

 

 パンケーキに飲まれ、二人の声は消えて行く。

 

「止めだ! 【サブテラーマリス・エルガウスト】でダイレクト・アタック!!

 

 ……しつつ、助けてあげて!」

 

 『あ? なんでだよ?』みたいな顔で一瞬俺を睨んだ【エルガウスト】だったが、アビーズの元に向かうとパンケーキを全部吹き飛ばしてから、2人を指で抓んで――パクリと食べた。

 

 

 

「2人共! 大丈夫っ!?」

 

「うう……あのパンケーキ、夢に出て来そう……」

「私も……当分の間はちょっと遠慮しようかしら……」

 

 デュエルも終了し、【エルガウスト】が消えたので無事に戻って来れた2人だったがお互いデュエル開始前の姿に戻っている。

 

「何はともあれ、負けてしまったから……マスターを私の物に出来なくなってしまったわ。折角、夢の世界に案内しようと思っていたのに」

 

 ……どうなんだろう。幻夢境が邪神パンケーキだらけの世界なら全力でご遠慮願うけど。

 

「でも、マスターは私達の事が大好きなら、もっと一緒に遊んでも良いでしょう?」

「そうね! もう一度、もう一度デュエルしましょう! 今度こそ私達が勝ってマスターを!」

 

 そう来るなら俺も全力で受けてやろうとデュエルディスクを構え直そうとした瞬間――

 

「ピー! ピー! 駄目ですよ!」

「楊貴妃!?」

 

「ユゥユゥさん?」

 

「アビーさん、マスターを独り占めしては駄目です! 

 だから、天子様とは今度は私がデュエルを――」

 

「――貴方はもう召喚されたんですし、一緒に敗北した惨めな3匹のブタさんって事で良いじゃないですか。

 今度は私、BBちゃんの番です!」

 

「あびげいるの仇討ちなら、おれの出番でぇい!」

 

「ウへへ、エヘヘ……ゴッホ、マスターと一緒に、闇のゲームがしたいです……

 ……ゴッホジョーク」

 

「デュエルはコスモ刑事の嗜み! 私の給料3ヵ月分が火を噴きます!」

 

 最強のギャラクシー決戦!(コズミックホラー的な意味で) が始まりそうなので、俺はその場から逃げる事にした。

 

 因みに仮に俺が負けててもこの惨状だったらしいので、今回は後日談は無い。

 なのでSAN値がなくなる前に此処から逃げ出す事にした。

 

 

 あー知らない。

 

 

 【古神クトグア】を相手ターンに3体召喚とか、

 【外神ナイアルラ】と【女神ペレ】で融合なんて聞こえませーん。

 

 

 だから【古神クトゥルフ】なんて知らないから。

 そして何で1人だけ【銀河眼】なんだとか、全然知りません。

 

 ……え、ゴッホ・ドローってその場で自分で描くの? イラストアド高過ぎでは……? 

 ん? あれ、もしかしてこれからデッキのカード全部描くの? え、北斎さんもそうする?

 

 完成した奴見ていい?

 

 

 

「……あ……」

 

「…………あああぁぁぁ!!」

 

 

 

 お花が、こっちを見てる。

 

 お星さま、きれい……

 

 海が、花が、ヨンでる…… 

 

 くる、来る、クル、繰る、クル…………

 

 深き海の底から――遥かなる火星から――

 

 

 

 

 

「……なぁ、最近ずっと同じ【クトゥルフ】デッキ使ってるけど、ハマったのか?」

「うん。最高」

 

「……にしちゃあ、テンションが低いしいつも同じ動きばっかだし。

 終いには、ツイッターでずっと【外神アザトート】の禁止解除ってばっか呟いてるし……SAN値大丈夫か?」

 

「いあ、いあ……」

「お、おい?」

 

「……いあ、いあ」

「マジで精神病院に連れて行った方がいいかもな」

 




勝鬨君の頭が大変な事になる回でした。
通常モンスターをエクシーズ化させるカード、実際にOCG化されたら色々な悪さしそうですね。

【外神】がエクシーズモンスターなのもありますが、【RUM】がバリアンやアストラル世界と言う高次元世界、つまり外の世界の力なのでそこと絡めてみました。

今回のカードは効果が相手にも及ぶので、【ドラコネット】が初動になるカードや、【ブルーアイズ】【レッドアイズ】のシンクロやエクシーズ召喚が封じられる事にもなるので妨害札としても機能するデザインになってます。
自分側は魔法カードの効果以外でのエクシーズ召喚に制限が掛かるんですが、【ナイアルラ】との相性を保つためにこんな設定になりました。


主人公が使ったデッキは【サイバネット・ストーム】と【ミミックリル】を主軸にした【ガチャ】デッキ。
レベル1の【絶対王 バック・ジャック】や【D・モバフォン】でデッキトップを操作して【ミミックリル】や【一か八か】のデッキトップガチャを成功させつつ。防御札の【リンクリボー】をリンク召喚してEXデッキを圧縮。
【ホーリー・ジャベリン】や【BK-ベイル】等のダメージ回復や【G・コザッキー】や【破壊輪】なんかのセルフバーンで【サイバネット・ストーム】の効果による特殊召喚を狙います。

最近はこれでデュエルしていますので、その内動画化して投稿したいと思ってます。


またその内、募集企画をしようかと考えています。その時が来たら活動報告を読んで参加して頂けたら幸いです。


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