幻想夢物語 〜少年の日々〜 (わたっふ)
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初夢 日々の日常の変化

弱肉強食の意味をこの世界の人々は理解している事と思う。

簡単に言えば強者が弱者を従えるという事だ。

大人の世界から見たら上司との上下関係になるだろう…しかし、子供の場合は違う

 

 

 

夏来) 「うわぁっ!」 ドサッ

夏来は放課後、校舎裏に同じクラスの紅原に呼び出され、着いた途端、肩を壁に向かって押され背中を強く打つ。

紅原) 「テメェ…今日の体育の時にぶつかってきたのに謝りもしなかったな…ぁあ?」

今日の体育の授業はクラス全体で体育館内を走る物で、夏来はゆっくり走るのは苦手なタイプの人間である為、前を走っている紅原を追い抜いた時に肩が思いっきり当たったが、走るのに夢中になり過ぎていて謝らなかった。

夏来) 「ご…ごめん…でも…」

紅原) 「でも…? なんだ?なんかあんのかよ、俺の意見を覆す様な発言をヨォ? ったく…なんでも良いから今度、こんなことしたらタダじゃおかねぇからな!分かったかァ!」

夏来がモジモジとしていると、紅原が怒鳴り散らして去っていった。

夏来) 「…何にも言えなかったな…今日も……なんか疲れた…」

夏来は倒された時に着いたチリを払いながらゆっくりと立ち上がり、転がっている鞄を拾い、家に帰る為に生徒玄関へと急ぐ。

 

炎条寺) 「ん?あ、夏来!遅かったじゃねぇか、何してたんだ?」

生徒玄関には友達の炎条寺友貴が夏来を待っていた。

高校に上がってから初めて出来た友達だった。

炎条寺は中学の時結構荒れていたらしく、夏来はもちろん、学年全員が気軽に話しかけれる様な相手ではなかったが、炎条寺の方から友達になろうと誘われたので夏来は話せる様になった。

夏来) 「ぁぁ…うん…ちょっとね…はは…」

夏来は少し戸惑うが苦笑いで誤魔化す。

炎条寺) 「そ、そうか?なんかあったら教えろよ?」

夏来) 「うん…ありがとう…」

炎条寺) 「さっ 帰ろうぜ。帰りにラーメンでも食いに行くか?」

炎条寺は学校帰りに飲食店へ寄り道してはいけない事を知っていながらやる人間だった。

別にいいんだけどね。

夏来) 「ぁぁ…んと…止めておくよ。」

炎条寺相手なら夏来は誘いや要求を断る事が出来るので、学校規則に従って止めておく事にした。

炎条寺) 「ちぇっ〜…全く…お前って奴は規則に従って動く人間の鑑だな」

炎条寺が笑いながら言う。

夏来もつられて笑う。

 

 

ーー話しながら歩いてると知らず知らずのうちに遠くまで来ていた。

夏来) 「じゃあ、こっちだから…バイバイ」

炎条寺) 「おう!また月曜な」

二人はそれぞれの家に向かって別れた。

夏来の家は十字路を何回か繰り返し曲がった先なので結構道に迷う。

しかも視界が悪いので交通事故が起こりやすい。

サッカー少年) 「それやっ!」

少年達がサッカーボールで遊んでいる。

道幅はそんなに広くは無いが、プチサッカーをやるくらいのスペースは確保されている。

サッカー少年) 「あっ!」

ある少年の蹴ったボールが投げ出される。

それを取りに行く別の少年。

そこに偶然にも早いスピードで小型トラックが走って来る。

夏来は反射的に少年に全力で駆け寄る。

夏来) 「危ないっ!」

サッカー少年) 「ぇ…?」

トラック運転手) 「うわぁっ⁉︎」

 

 

次の瞬間、夏来はサッカー少年を突き飛ばし…轢かれた。

バキッという音に、夏来はある程度の察しがついた。

 

 

サッカー少年) 「お兄さん⁉︎」

トラック運転手) 「おいっ!大丈夫か!」

ゆらゆらと揺さぶられる。

夏来) 「(ぁぁ…僕死ぬんだ…なんだか、よくわかんない人生だったな…)」

夏来は意識が朦朧としている中で考えた。

 

夏来) 「もっと……楽しく生きたかったな……」

 

そして夏来はそっと目を閉じ、意識が遠のく感覚をその身で味わった。

 

 

 

 

 

 

 

???) 「…いっ…だい……かい?」

先ほどの二人の声では無い、別の声がする。

???) 「おいっ…だいじ…かい?」

夏来) 「(な、なんだろう…誰かの声が聞こえる…)」

???) 「おいっ…だいじょ…かい?」

繰り返し声が聞こえるたび、声は大きくなって行く。

夏来) 「(うるさいなぁ…このまま寝かせてくれよ…もう疲れたんだ…)」

???) 「返事くらいせい!」 ベチッ

思いっきり頭を叩かれた。

夏来) ムクッ 「痛いじゃないか!何なんだよ!あ、あれ…?死んでない?」

???) 「おぉ…良かったわい…気がついたか」

起き上がった夏来の目の前には見知らぬ男が立っていた。

夏来) 「僕は…なぜ死んでない…それにさっきの人達は…?」

周りを見ると先ほどまで居たサッカー少年と、トラック運転手が居なかった。

夏来) 「ていうか、貴方誰ですか…」

???) 「おぉ…すまん、自己紹介を忘れておった。我はニッ怪滝、お主は名を何と申す」

歳も同じくらいの男が自己紹介をする。

夏来) 「す…皇夏来です…」

ニッ怪) 「夏来殿か…良い名前じゃな♪」

夏来) 「え、あ…ど、どうも」

夏来は今まで良い名前だ、と褒められたことが無いので、内心とても嬉しく思っている。 だが見ず知らずの人、こんなに気軽に話しかけるのは怪しい…

夏来) 「えっと…なぜ僕は…」

そっと立ち上がった夏来は少々警戒しながらも、いまこの状況を聞こうと話しかける。

ニッ怪) 「死んでないか、じゃろ?」

夏来) 「え?あ、はい! 何か分かります?」

ニッ怪) 「いや…知らぬ…」

夏来) 「ぁぁ…」

ニッ怪) 「んぁ…」

気まずい空気が二人を取り囲む。

それを察したのか、さっきまで天気が良かったのだが突然、ポツリポツリと雨が降って来た。

夏来) 「ぁ…(雨が…傘持ってきてないや…)」

夏来) 「僕は帰って、自分の状況を理解してきます…ニッ怪さんも早く帰った方が…あれ?」

先ほどまでいたニッ怪が消えている。帰るときの足音すら聞こえなかった。

夏来) 「(まぁいいや…帰ろ)」

夏来は家に大急ぎで走って帰る。

 

 

 

着いた頃には服がビショビショになっていた。

夏来) 「ねぇ!タオルもってき…ぁ…いないんだった…」

夏来は玄関先から大きな声で呼びかけだが…途中で口を濁らせた。

なぜなら、夏来には両親がいなかったからだ。

父親は仕事が上手くいかず、スランプ状態に陥ってしまい、半年前に自殺してしまった。

その後に続くように母親は病にかかり、他界してしまった。

それから夏来は家で一人暮らしだ。

生活に必要な金銭などはバイトをして補っている。

だが、学校面は田舎の方に住む叔父、叔母から頂いている。

夏来) 「はぁ…」

濡れた服を手で絞り、髪の毛も手で軽く払う。

???) 「分かった、今 持っていくぞい〜」

家の中には誰もいないはずだが声が聞こえた。

夏来) 「ま、まさかっ!」

ガチャっとドアノブを捻ると難なく右に動いた。

誰かが侵入したに間違いなかった。

夏来) 「(し、しまったァーッ!鍵かけるの忘れてタァア!やっちゃったぁぁ…ていうか、聞き覚えのある声…もしかして…)」

夏来はビショビショのまま家の中に入っていった。

入ると応接室のドアから明かりが漏れていた。

夏来はそのドアを勢い良く開けた。

バンッ!

ニッ怪) 「のわぁっ!?」

尻餅をつくニッ怪。

夏来) 「やっぱり!何でいるんですか!」

ニッ怪) 「あ…えー…何か問題でも…?」

夏来) 「いや…ありありだし…第一、人の家に勝手に転がり込まないで!」

ニッ怪) 「え、な、なぜ」

夏来) 「なぜって言うなぁー!余計に話がごちゃごちゃするぅ!」

夏来は手足をバタバタさせながら怒っている。

ニッ怪) 「そんなにピリピリせんでもよかろう…」

ゆっくりと立ち上がると、焦りの表情を見せる。

夏来) 「ぁぁ…そうですねっ!そんなのどうでも良いから早く出てってください!ここは僕の家ですっ!」

ニッ怪は泣きそうな顔で夏来を見つめる。

まるで飼い主を探している、捨てられた子猫の様な目で。

夏来) 「なっ…なんですか…この家に居座るとかやめて下さい、自分の家があるでしょう…」

次の瞬間、ニッ怪は大声で泣き叫ぶ。

ニッ怪) 「我はぁぁあ!家が無いんじゃぁぁ!行くとこが無いんじゃよぉぉ!うわぁぁあ!」

夏来) 「う、うるさいっ!泣くの止めてよ!」

耳を塞ぎながら、夏来が叫ぶ。

ニッ怪) 「お主が我をここに住ませてくれるまで、我は泣くのを止めんっ! びゃぁぁあ!」

夏来) 「ぁぁ…んもうっ!分かった!分かりましたよ!泊めれば良いんでしょ!」

ニッ怪は泣くのを止めた。数秒間、二人の間には沈黙の時間が流れた。

ニッ怪) 「……ぇ?良いのかい?」

夏来) 「ま、まぁ…ニッ怪さん、行き場所が無いんでしょ?それにあのままうるさくしてもらったら、ご近所様に迷惑ですから…」

ニッ怪) 「いやっはぁー!」

ニッ怪は飛び跳ねて喜んだ。それを見て夏来は

夏来) 「でも条件があります。」

条件引き換えを命じた。

ニッ怪) 「なぬっ!?条件じゃと!?」

夏来) 「はい、タダですませる訳にはいきませんよ。僕からの条件は、掃除、洗濯などの家事を手伝い、金銭も仕入れること、です」

ニッ怪が一瞬嫌な顔をしたのを夏来は見逃さなかった。

夏来) 「別に良いんですけど?その代わり泊めませんから」

☆ザ・ウエカラメセン☆

ニッ怪) 「ウグッ…わ、分かった。やってやるぞいっ!」

グッと拳を握るニッ怪。

夏来) 「んっ、よしっ、ならニッ怪さんを迎え入れましょう!」

夏来は内心ワクワクしていた。今まで帰ってきてもシーン…としていたこの家にも笑いが起こることに。

ニッ怪) 「うむ、これからよろしく頼む。」

ニッ怪は深々とお辞儀をした。

夏来が笑う。

つられてニッ怪も笑う。

夏来) 「んじゃあ、ニッ怪さん、もう食事済ませました?まだなら今からコンビニ行きますから、」

ニッ怪) 「……コンビニとはなんじゃ?」

ニッ怪は首を傾げた。

夏来) 「(この人、本気なのかなぁ…)」

夏来) 「ま、まぁ…なんでも売っているお店です。」

ニッ怪) 「ほうほう…なんでもとな?気になる…よし行くとしよう。」

二人は近くのコンビニに向かう。

 

 

 

着いた早々ニッ怪が声を出す。

ニッ怪) 「こ…これは…品索店の白藍かの!?」

何をいってるんだ と言う顔でニッ怪を見つめる。

ニッ怪) 「え…あ、すまん…つい我の世界の白藍にいていての…」

夏来) 「我の世界?」

ニッ怪) 「ま、まぁ、そんなことは良いじゃ無いか!さぁ、入ろうぞ。」

二人はコンビニに入ると、店員が「いらっしゃいませ」と言ってくる。

夏来) 「………」スタスタ

ニッ怪) 「失礼する! 初めての相手に ためらいなく話しかけれるとは良い事じゃな! お主は今後の人生はバラ色じゃろう!」

夏来) 「ち、ちょっと!ニッ怪さん!言わなくて良いの!まぁ…褒めるのは良いんですが…」

店員は顔を赤く染めている。

夏来) 「す、すいません…」

店員は手をブンブン振りながら「い、良いんですよ///」と言う。

夏来) 「さっ、早く買って帰るからっ!」

夏来はニッ怪の手を取り食品コーナーに行く。

夏来) 「ここが食品コーナー、全部食べれる物ですよ。」

両手を広げ説明する。

ニッ怪) 「全部かい!?凄いの!」

ニッ怪は目を輝かせながら辺りを見ている。

夏来) 「なんか良いの見つけました?」

ニッ怪) 「うむ!」

夏来) 「何が良いです?奢りますから、なんでも良いですよ?」

ニッ怪) 「全部じゃ!」

夏来) 「ダメ」

夏来は即答した。

ニッ怪はショボンとしている。

ニッ怪) 「では…この黄色い物を貰おう…」

ニッ怪はメロンパンを指差した。

夏来) 「ぁぁ…メロンパン?美味しいですよ、じゃあコレにします?」

ニッ怪は頷く。

それを見て夏来は、その隣にある「たまご蒸しパン」を手に取り、レジに行く。

ちょうど良い時間なのか、他に並んでいる人がいなかった為、スムーズに会計を終えた。

コンビニを後にした二人は、家に帰る途中、自動販売機に寄る。

夏来) 「これが自動販売機です。分かります…?」

ニッ怪) 「分からん…じゃが、良い機械じゃな…ふむふむ…」

夏来) 「何か良いの見つかりました?なんでも良いですよ?」

ニッ怪) 「良いのか!?なら、ぜ…」

夏来) 「全部はダメですよ?」

ニッ怪が全部と言う前に言って、いい気味の夏来。

ニッ怪) 「ぐぬぬ…… なら、この黒いものを貰おう」

ニッ怪はコーラを指差した。

夏来) 「だ、大丈夫ですか?シュワシュワですよ?」

ニッ怪) 「シュワシュワがなんなのかわからんが…我は飲む」

夏来は心配な顔つきでコーラを買う。

ニッ怪) 「すまぬな☆」

 

 

 

それから二人は家に帰ると買った物をテーブルの上に置いて、食べ始めた。

ニッ怪) 「ほぅ!このメロンパンとやら、実に美味じゃ!」

夏来) 「そうですか?良かったですw」

もくもくと食べ続けるニッ怪を見て、夏来が笑う。

ニッ怪) 「夏来殿よ…我らは同じ屋根の下で暮らす者同士。敬語はいらんぞい?」

夏来は少し迷ったが、ニッ怪がそう言ってくれているので夏来は

夏来) 「う、うん…そうする!」

戸惑いながらも承諾した。

ニッ怪) 「そういえば、夏来殿は名前が女のようじゃな?」

夏来) 「あ、うん、だね…両親は僕が産まれた時が夏なりかけの春だったから、夏が来るって事で夏来っていう事にしたらしいよ?まぁ…それが女らしい名前だから、お父さんは違う名前にしようとしてたらしいけど、お母さんがこの名前が良いって言ったからオッケー出したらしい…」

ニッ怪は口元を隠して笑っている。

夏来) 「な、なんだよぉ…人の名前を笑うなし…」

ムスッとした顔で、ニッ怪に言う。

ニッ怪) 「いやぁ〜面白い両親じゃのw」

夏来) 「あ、そっちw」

ニッ怪) 「うむw」 ガコッ

ニッ怪がテーブルの上にあったコーラを落とした。

夏来) 「ふぁ!?」

ニッ怪) 「良かった…まだ開けてなかったの…ふぅ…」

ニッ怪はコーラを拾った時に泡がぶくぶくしているのを発見した。

ニッ怪) 「……ま、まさか、これがシュワシュワか!?」

ペットボトルを勢いよく振り回すニッ怪の目が怖い…

ニッ怪) 「やはり…泡が増えていく!実に面白い!」

夏来) 「やめてぇ!」

夏来が立ち上がり、ニッ怪の振り回している手を止める。

ニッ怪) 「な、なんじゃ…いきなり?」

夏来) 「これ以上はダメ…死んでしまう…」

ニッ怪) 「なっ…!?」

夏来は凄い真面目な顔でニッ怪を見つめて、ニッ怪を庭先へ連れて行く。

夏来) 「後は任せたよ…」

ニッ怪) 「な、なんなんじゃ!?何が起こるんじゃ!? し、死ぬのか!?」

恐怖の表情を顔全体で表す。

夏来) 「まぁ…当然の報いだろうね…」

暗く、重たい表情を見せ、ニッ怪を恐怖のどん底に落とさせる。

ニッ怪) 「そ、そんなぁぁ!夏来殿が自動販売機とやらに寄るから悪いんじゃぁ!」

ニッ怪は泣き噦んでいる。

夏来) 「ただし、対処法が一つだけある…」

夏来は人差し指を立てながら言う。

ニッ怪) 「な、なんなんじゃ!その対処法とは!」

夏来) 「キャップを捻るの」

ニッ怪) 「ば、バカ言え!そんなことしたら爆発してしまう!」

夏来) 「大丈夫、キャップを開けることで周囲爆発じゃなくなり、ビーム状に発射される様になるんだよ」

ニッ怪) 「逆に危険じゃないかい!?」

夏来) 「まぁ大丈夫だよ…」

ニッ怪) 「し、信じるぞい!?良いかい!?」

ニッ怪が壁を向け、キャップをゆっくりと回し始める。

夏来はニッ怪の後ろで、ざわ…ざわ…と言っている。

ニッ怪) 「んん…!なんなんじゃさっきから!ざわざわ!こっちは死ぬかも知れんのじゃ!ったく…」

夏来) 「ご、ごめんw(ぁぁ…何も知らないって面白いw)」

そして、ニッ怪がグッと力を込め回し切った。

コーラが勢いよく飛び出してきた。

ニッ怪) 「のわっ!ビームがぁぁ…ん?壁に当たるが…なんともなんないの…はっ! 騙してたのかい!?」

夏来) 「もちろんさぁ☆騙すことがだぁい好きなんだ☆」

ニッ怪) 「(こ、こやつ…悪人だぁぁ…)」

夏来) 「さ、中入ろ?」

夏来が部屋の中を指差す。

夏来) 「あ、お風呂沸いてると思うから入る?」

ニッ怪) 「ふむ…そうしよう、使わせてもらうの」

ニッ怪はそう言うと、トコトコと風呂場に歩いて行った。

 

 

 

夏来) 「大丈夫かなぁ」

何もかもが初めての様なリアクションを取るニッ怪に、ちゃんと風呂から無事で出てこれるか心配な夏来。

ニッ怪) 「ギェェエ!?」

そう思っていると突然、風呂場から悲鳴が聞こえる。

夏来は風呂場に走る。

夏来) 「どうしたの!?」

夏来は浴室にいるニッ怪へドア越しに叫んだ。

ニッ怪) 「わ、わわ…我が居る…!もう一人の我が居るのじゃぁあ!」

夏来) 「ぁぁ…大丈夫だよ?それは鏡って言って、自分の姿が映るだけだから」

ニッ怪) 「な、なんじゃ…良かった…ふぅ…ありがとさん、おかげで自分の良い面構えを見れて嬉しいわいw」

夏来) 「(うぇ…ナルシィー…)」

夏来は吐く真似をしながら心の中で思った。

夏来) 「何かあったらまた呼んでね?」

ニッ怪) 「うむ〜」

夏来はリビングに行く。

 

 

2分後…ピッポッ…

ニッ怪) 「んぎゃぁぁあ!?なんじゃこれはぁあ!?」

夏来) 「どうしたぁぁあ!?」

リビングからダッシュで来て、ドア越しに叫び尋ねる。

ニッ怪) 「か、髪の毛が硬くなってしもうたぁぁあ…」

夏来) 「ぁぁ…それはニッ怪君、シャンプーとボディーソープ、逆に付けたな??シャンプーは頭だよ?ボディーソープは身体。逆にするとヤバイから気をつけてね?」

ニッ怪) 「それ、初めに行ってくれれば良かったのじゃがぁぁ…」

 

 

 

3分後…ピッポッ…

ニッ怪) 「なぁぁとぅぅきぃぃ!」

夏来) 「今度はなんだよぉぉー!」

夏来が少し呆れ気味に来る。

ニッ怪) 「何か拭く物を!」

夏来) ズテッ… 「バ…バスタオルかぁw 今度は何が起こったのか心配だったじゃないかぁ」

ニッ怪) 「なははw すまぬ」

夏来) 「はいっ!どうぞ」

夏来は近くのバスケットからバスタオルを取り出しニッ怪に手渡しする。そのバスタオルをニッ怪が受け取り、全身を吹き終わり、今度は夏来が入る番になった。

ニッ怪) 「良い湯だったぞい、ゆっくりしていくと良い」

夏来) 「うん、わかったよ。あ、リビングにお茶用意してあるから飲んでおいて、」

ニッ怪) 「うむ…了解した。」

夏来は風呂に入る。

夏来) 「はぁぁぁ…久しぶりだなぁ…こんな風に笑いながら過ごすのは…」

 

 

 

 

15分後…ピッポッ…

夏来) 「…あ、風呂場の清掃もしないと…ニッ…(ニッ怪君はまだ来たばっかりだから、今日は自分一人でやるか…明日から手伝ってもらおっと…)」

 

 

 

10分後…ピッポッ…

夏来はリビングへと来ると、ニッ怪に呼びかける。

夏来) 「いやぁ〜確かに良い湯だったね〜そういえばさ、明日から早速なんだけど、家事手伝って貰うからね?……ニッ怪君?聞いてる?」

よく見てみるとニッ怪は、ソファーに寝転び寝ていた。

夏来) 「疲れたんだね、今日はたくさん初めて?を体験したし、ハラハラドキドキしたしね…おやすみ…」

夏来は自室に戻って、日記を書く。

 

 

 

 

4月25日

 

今日、僕の人生は大きく変わった。

炎条寺君の他に友達が出来たんだ。

ニッ怪滝って言う人だった。

最初は家に侵入されたり大声で泣き叫ばれたりして、本当にキチガイかなって思ったけど、意外と良い人だったよ。

ニッ怪君とは、これから一緒に住む事になったけど別に楽しいし…大丈夫だ、問題ない。略して大問題。

なぜなら、ニッ怪君はどうやらこの世界の事をよくわかんないらしい。

記憶喪失だと思うけど…本当に大変だよ…コンビニに入ったら定員さんを褒めまくるし、食品全部買うとか言うし…コーラを振りまくるし…本当に爆発して死ぬって思ってたし…w

まぁ…これからも頑張っていこうと思うよ。

後、次回作もお楽しみに! では、お休み!

by 皇夏来(すめらぎ なつき)




皆様、わたっふの作品を読んでくださり誠にありがとうございます!これまではなかなか小説を読んで下さる方が学校に居ませんでしたので、ここで見て貰いました事は、本当に嬉しいです!あ、誤字脱字ありましたら、お伝え下さい! たくさんありそうですが…w


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弐夢 二人の夢と能力者 前編

ザッザッ

カタカタ…バンッ…

夏来) 「んぁ…」

夏来は一階から聴こえてくる物音で目を覚ました。

夏来はベッドから起き上がり、眠い目を擦りながら階段を下り、一階へと降りていく。

ニッ怪) 「ん?おぉ…夏来殿、おはよう 今日も良い天気じゃな〜」

そこには箒を手にし、掃除をしているニッ怪の姿があった。

掃除機ではやらないんだね、やり方知らないのかな…?

夏来) 「……朝から元気だね…というか掃除してくれてたんだ…ありがと」

ニッ怪)「いやいや♪」

ニッ怪は照れながら鼻の下を擦る。

手をぶらつかせ、目を半分しか開けていない夏来が、だらしなく ぁ〜と言う。

ニッ怪) 「顔洗ってサッパリしてきた方が良い…」

ニッ怪は夏来の力の無い声を聞いて、苦笑いで言った。

夏来) 「うん〜そうするぅ〜…」

夏来は洗面台に行き、顔を洗う。

 

 

 

 

夏来) 「ふぁあ、サッパリしたよ!」

夏来が笑顔でリビングに戻ってくる。

ニッ怪) 「そうかい、良かった良かった」

ニッ怪は箒用具を片付け、ソファーに座った。

夏来) 「疑問に思ったけど、ニッ怪君、テレビとか気にならないの?」

ニッ怪のあまりにも落ち着いている姿を見て不思議だった夏来は言ってみた。

ニッ怪) 「ぁぁ、大丈夫じゃよ、夏来殿が寝ている間に色々と見て回っていての、テレビという物も四角い箱の中に小人が入っていることが分かったわい」

夏来) 「あ、うん、それ違う」

夏来が間髪入れずに言うと、じゃあなんなの? と言わんばかりの目で夏来を見つめる。

夏来) 「あ、そうだ、ニッ怪君、朝ごはん何にする?」

ニッ怪) 「夏来殿に任せるぞい」

ニッ怪にそう言われると夏来は、冷蔵庫から卵を取り出し、目玉焼きを作り始める。

 

 

 

 

夏来) 「はーい、出来たよー 夏来特製っなんの変哲も無い目玉焼き!」

夏来はニッ怪の座っているソファーの目の前のテーブルに目玉焼きを置いた。

もちろん 自分の物も。

ニッ怪) 「かたじけない… ぁぁ…んと…本当に変わりないの…」

夏来) 「う、うるさいっ、早く食べな!」

自分で何の変哲も無いと言っておきながら、なぜ怒ったのか、ニッ怪には分からなかった。

ま、そんな事は置いといて、ニッ怪はパクッと一口 味を確かめる。

ニッ怪) 「ぅぅん…変わりないの」

ニッ怪は夏来の方を見て ( ^∀^) ←こんな顔で言い放つ。

夏来) 「喧嘩売ってんのか コラー!」

夏来) 「もぅ…んなわけ無いでしょ…ちゃんと塩コショウのバランス考えたんだから……パクッ ………変わりなぁ…」

ニッ怪) 「まぁ、良いでは無いか、食べようぞ」

夏来) 「だね」

二人は夏来特製(笑)目玉焼きを完食し、ニッ怪は夏来の漫画を読み、夏来は二人分の皿を洗っている。

ニッ怪) 「この漫画とやら、実に面白い。」

ニッ怪はソファーに座って姿勢よく読んでいる。

夏来) 「なははw そう?良かった」

夏来はシンクで食器を洗いながら話す。

ニッ怪) 「ぷっ…ふぁw ペラッ ん? 夏来殿ー」

夏来) 「んー?何?」

夏来は洗っていた食器を置き、手を拭いてニッ怪の元へ歩み寄る。

ニッ怪は漫画のあるページに挟まっていた紙を指差している。

ニッ怪) 「これなんじゃが…」

夏来) 「あぁ、西方鈴奈庵?結構面白いよー その他にも退却の小人、ドラゴンポール、ワンピーズ、テラブフォーマーズ、銅色のガッシュ‼︎、金魂とか色々あるから見てもいっ…」

ニッ怪) 「博麗の巫女殿…」

夏来の言葉を遮るようにニッ怪は悲しそうな顔をして、ボソッと呟いた。

夏来) 「え…?な、何?」

ニッ怪) 「あっ…いや、なんでもないぞい、ほんとになんでもない…」

ニッ怪は薄ら笑いを浮かべている。

夏来) 「そ、そう…なら良いんだけど…」

ニッ怪) 「ははは…」

夏来) 「あ、そういえば、ニッ怪君、歯磨きをするならそこのドアを開けると洗面台あるからそこでしてね」

夏来はリビングの奥右にあるドアを指差した。

ニッ怪) 「うむ…わかっておる、すでに探索済みじゃ やり方もよう分かる 心配せんでよいぞ」

夏来) 「そう、ならよかったw でも歯磨きをするにはコレが必要でしょ?」

夏来は近くの引き出しから歯ブラシを取り出し、ニッ怪に渡した。

ニッ怪) 「おぉ…すまんの」

ありがたーーーいと思っているであろう顔で言うニッ怪。

夏来は笑い、食器洗いの方に手をまわす。

その間ニッ怪は洗面台で歯磨きをし、途中に食器洗いを終えた夏来がきて歯磨きをする。

結局、二人が無事やらなければならないことを終えた頃には朝の9時半になっていた。

夏来) 「あっ、もうこんな時間…ニッ怪君、ちょっと出かけるけど、どうする?」

ニッ怪) 「喜んでお供する」

ソファーに寝転んでいたニッ怪がムクッ!と立ち、夏来の方を見る。

夏来) 「お、ぉぉ…」

それから夏来は財布等を持ち、窓も全て閉め、家を後にする。

家を出ると早速 下町へと続く広めの道路と、長い階段が見えた。

夏来) 「行くよ!ニッ怪君!」

夏来は鍵を財布の中に入れ、走り出す。

ニッ怪) 「こ、これ!待てい!」

走り出した夏来の後を追いかける ニッ怪。

二人は階段へと向かう。夏来とニッ怪は勢い良く階段を下っていく。

 

夏来) 「あははは〜!」

ニッ怪) 「ふっ ははは!」

 

長い階段をひたすら下り降り、着いた先は商店街。

多くの行き交う人が店の人とたわいもない話をしたり、ばったり会った友人と話をしたりしている、そんな賑やかなところだった。

夏来とニッ怪は階段からの見事な着地をした。

夏来) 「はぁ〜!着いたぁ」

ニッ怪) 「ここかい?出かけ先とは?」

夏来) 「うん、ここでこれからの生活に必要な食材とか、洗剤とか…ま、まぁ、色々買わないといけないんだよ」

夏来は家を出る前に書いていたメモを見ながら話す。

ニッ怪) 「ほぅ…そうであったか…確かに食材が無くなるのは死を意味してるけんのぅ…よし、たくさん買おうではないかっ!」

夏来) 「ははは…大げさだなぁwま、確かにそうだよね、 じゃ、普段よりたくさん買おっかな」

ニッ怪) 「よしっ!」

ガッツポーズをとるニッ怪。それを見て笑う夏来。

???) 「夏来〜!」

ニッ怪と話しながら歩いていると後ろから手で背中を押された。

夏来) 「のわっ…っと、あっ ちーちゃん!」

夏来とニッ怪は後ろを振り向いた。

???) 「やっほー☆」

ちーちゃんと呼ばれた人は手を振った。

ニッ怪) 「夏来殿、一体誰じゃ?」

隣で何が起こっているのかわからないニッ怪が夏来に言う。

夏来) 「あっ、紹介するね、この人は幻花 千代ちゃん 幼馴染なんだよ」

夏来は右手のひらを仰向けにし、幻花に向けながら話した。

実は幻花も夏来と同じく東京に引っ越してきていた。 一度こっちに来てから会ったものの、幻花は夏来とは違う学校に通うため、なかなか会えずにいたことも事実であった。 休日以外は。

ニッ怪) 「ほぅ…なるほど…」

幻花) 「ところで、夏来、この人は?」

幻花がニッ怪を見て言う。

ニッ怪) 「すまぬ、申し遅れてしもうた…我は ニッ怪 滝と申す者じゃ、以後お見知り置きを」

ニッ怪は軽く会釈をした。

幻花) 「宜しくね、ニッ怪」

ニッ怪) 「う、うむ…」

夏来) 「あ、ニッ怪君、ちーちゃんは初対面の相手にもかかわらず呼び捨てする人だから気にしないで(汗)」

ニッ怪) 「な…なはは…大丈夫じゃよ 実際 ほとんどの者は自己紹介が終わったら すぐに呼び捨てで呼ぶじゃろ?」

幻花) 「ふぅ…夏来にもいつの間にか友達出来てたんだね、 少し安心したよw」

夏来) 「なはは…そうだね…(本当は友達というか、もう家族みたいなもんなんだけどなぁ…)」

幻花) 「はははっ ん?夏来それ何?」

夏来) 「あ、コレ?買う物をメモしたやつだよ ほら」

夏来は左手に持っていたメモを幻花に見せる。

幻花) 「ふぅん…ほとんど食料じゃん…冷蔵庫が砂漠状態なの?」

夏来) 「う…うんw 買いだめしたことないからさぁ」

幻花) 「ははは…あ、」

ニッ怪) 「(ぅ…話に入れぬ…)」

その場に電柱のように黙って立っているニッ怪に気づき、声をかける。

幻花) 「ご、ごめんねー(汗)私らの世界に入っちゃって、気づかなかったよ」

夏来) 「ご、ごめん」

ニッ怪) 「い、いや、良いのじゃ…それより、早く済ませようぞ」

ニッ怪はメモを指差して言った。

夏来) 「あ、そうだね、済ませちゃおっか ちーちゃんもこれから?」

幻花の両手がフリーだったので、今から買い物をすると思っている夏来。

幻花) 「ううん、買わない たまたまここを通りかかっただけなの」

幻花は右手を左右に振りながら話す。

夏来、ニッ怪) 「そーなのかー」

幻花) 「そーなのだー」

2人) 「わはー」

ニッ怪) 「なはー」

両手を広げて、ネタ発言をする3人。

夏来) 「ニッ怪君、そこはなはーじゃなくて、わはーだよ? というか、このネタ知ってたんだw」

ニッ怪) 「うむ…本人とやっていた頃が懐かしいの…」

ニッ怪は以前見せたような悲しい顔を浮かべた。

夏来、幻花) 「??」

ニッ怪) 「あ、いや、なんでもないぞい(焦)」

ニッ怪は両手をブンブンと振っている。

夏来) 「なんかニッ怪君って出会った時からなんか変だよ…?目を離したら一瞬で消えてるし、アニメという物すらわからないのに西方ネタわかるし…喋り方が独特だし…なんか…アニメキャラにいそうな感じだよねw」

幻花) 「アニメキャラだったら 何かしらの能力を持ってたりしてw」

ニッ怪) ギクッ 「そ…そんな…訳ないじゃろう! わ、我はいたって普通のしn…ゲフンゲフン…人間じゃわい!」

明らかに動揺を隠せていないニッ怪にさらに二人が追い詰める。

幻花) 「えー?なに、その動揺の仕方、いかにも 持ってますよーって感じじゃんw」

夏来) 「確かにw」

ニッ怪は考えるのをやめた。これ以上はもう無理だと感じたニッ怪は黙った。

夏来) 「ニッ怪君? ごめん、冗談だって」

幻花) 「そーだよ、そんなやつがこの世にいるわけないじゃんw いるとしても超能力者くらいじゃん?」

ニッ怪) 「冗談なら良いのじゃが…」

夏来) 「ははは」ピピッ 「ん?」

突然 夏来の腕時計が鳴った。どうやらもう11時になっていたようだ。

夏来) 「あっ!ヤバイ!卵のタイムセールが始まっちゃった!」

休日は午前11時から12時、 午後3時から4時、 午後7時から8時の3つの時間帯に必須商品のなかから何点かタイムセールになるという。今日のタイムセール品のなかに卵があったので時間に余裕を持って夏来は家を早く出たのだった。しかし、幻花との話に夢中になり過ぎていたため時間を確認してなかった。

夏来) 「急がないと! じゃあ!またね、ちーちゃん」

夏来はニッ怪の手を取り、走る態勢になる。

幻花) 「じゃーねー」

ニッ怪) 「達者でな」

そして、夏来とニッ怪は全速力でスーパーへと向かう。

幻花) 「……(あの動揺の仕方…マジかも…)」

 

ニッ怪) 「うひやぁぁあ…広いのぉ!」

スーパーの中へと入った夏来とニッ怪はタイムセールコーナーへと急ぐ。

そこに着いた頃にはもう卵などのタイムセールを待ち望んでいた主婦達で埋まっていた。

夏来) 「うわっ…勝ち目ないわぁ…」

ただ呆然とその場に立ち尽くす夏来。

夏来) 「どうしよ…今日はもう卵諦めよっか…流石にあの中に入る勇気はないわぁ…死ぬって……ねぇニッ怪く…」

ニッ怪) <<バァァァアン>>

夏来) 「え!?」

なんと、いつの間にか卵2パック、ニッ怪が手に持っていた。

夏来) 「に…ニッ怪君…そ…それ、い…いつの間に⁉︎」

夏来は震えながらニッ怪の手に持っていた卵を指差す。

ニッ怪) 「さぁ〜の〜♪」

ニッ怪は微笑みを浮かべた。

いかにも、そんなことはどうでもいいからという感じがプンプン匂ったのでこれ以上は突き止めずにそっとしておくことにした夏来。

ニッ怪) 「よし!卵は確保済みじゃ 次は何を買うのじゃ?」

夏来) 「え、あっ えっと…パンだね」

ニッ怪) 「了解した!」

ニッ怪は歩を進める。

夏来) 「あっニッ怪君?道わからないでしょ?一緒に行こ♪」

ニッ怪) 「う、うむ…(いかん、一瞬可愛いと思ってしまった…)」

ニッ怪は夏来に連れられてパンコーナーへとやって来た。

ニッ怪) 「さまざまなパンが有るようじゃが、どれを選ぶのじゃ?」

ニッ怪がしゃがんでパンを1つ1つ掴んで見ていると、夏来が「あ、それ」と言ったので、ニッ怪はそのパンを手に取りカゴへとシュートした。

夏来) 「超 エクサイティング‼︎」

???) 「ツクダオリジナルからか?w」

突然、夏来達の後ろで声が聞こえて振り返る二人。

炎条寺) 「よっ!夏来…と、誰だ?」

夏来) 「あ、炎条寺君!昨日ぶりだね!元気にして…ニッ怪君…」

ニッ怪) 「ん?あ、夏来殿のご友人でおられるようで 我の名はニッ…夏来殿…」

二人同時に話した結果…

夏来) 「ニッ怪君、ここは僕が」

ニッ怪) 「何を言う、ここは我が」

夏来) 「ん?」

ニッ怪) 「お?」

炎条寺) 「お、落ち着けよ…おまいら店ん中で何やってんだよ(汗)」

炎条寺が夏来とニッ怪の中に入って止める。

炎条寺) 「はぁ…全く」

二人) 「すいましぇん…」

炎条寺) 「すまなかったな、いつもはこんなやつじゃねーんだが…続けてくれ」

夏来) 「んっあ…」

炎条寺は夏来の頭をポンポンしながら聞く。

ニッ怪) 「えっあ、我はニッ怪 滝(にっかい たき)と申す者じゃ、 以後お見知り置きを」

ニッ怪は軽く会釈する。

炎条寺) 「おう、俺の名前は炎条寺 友貴(えんじょうじ ともき) ニッ怪、宜しくな」

ニッ怪) 「うむ 宜しく頼む」

炎条寺) 「さて…と、俺は結構忙しいからゆっくりしてらんねーんだよなぁ…邪魔したな」

夏来) 「ううん、大丈夫、じゃあ また月曜日にね」

ニッ怪) 「達者での」

炎条寺は人差し指と中指を立てて「じゃあな」の形をとり、スーパーのレジへと向かった。

炎条寺) 「(…夏来も変な奴に好かれるようになったなぁ…)」

炎条寺は財布を開きながら、ふと そんなことを思った。

 

ニッ怪) 「なかなかの強面の男じゃったの…」

炎条寺が角を曲がって見えなくなった時にニッ怪がボソッと言った。

夏来) 「あぁ見えても、結構優しいんだよ? 確かに怖い顔だから人は近づきたくないらしいけどね…」

ニッ怪) 「ふ…ふむ…」

二人は苦笑いを交わした。

夏来) 「よし、と…あ、もうお昼になっちゃうよ…喋りすぎちゃったね…」

左腕に付けている腕時計を見ながら夏来が言った。

ニッ怪) 「そのようじゃのぅ…早よ済ませるかいの」

夏来) 「だね、よし、手分けしてやろっか、僕が洗剤とかトイレットペーパー、後 カップ麺にお菓子類 を手に入れて来るから、ニッ怪君はコーラ2本、普通のとzeroの お願いね」

夏来はメモのコーラの部分を切り取って、ニッ怪に渡す。

ニッ怪) 「コーラ? あ、昨日の あのシュワシュワかい? それなら、任せておけい!」

夏来) 「持ってくるとき振らないでよね…頼むよ?」

ニッ怪) 「うっ…り、了解した…」

夏来の不安そうな顔を見てニッ怪は少し戸惑ったが なんとか承諾し、各自 決められた物を手に入れたら、またこの場(パンコーナー)に集まるということと、夏来がニッ怪にコーラの売ってある場所を伝え、別れた。

それから約4分後、すでに到着していたニッ怪に夏来が駆け寄る。

夏来) 「ごめん、ごめん、遅くなっちゃった」

そう言った夏来が持つカゴには大量の食品やら洗剤やらで埋め尽くされていた。

ニッ怪) 「持ち運び、大変じゃったろう…ご苦労さん 我が代わりに持つぞい?」

夏来) 「あ、ありがとう…でも大丈夫だよ…」

ニッ怪は夏来が無理をしているのを分かっていた。

ニッ怪) 「ふっ…強い男よのぅ…しかしの、本当に強い者は一人でなんでも抱えないことなのじゃよ? じゃから、ほれ」

ニッ怪は手を差し伸べた。

夏来) 「ありがとう…ニッ怪君は優しいね… じゃあ、お言葉に甘えて…」

ニッ怪) 「ふむふむ…それでこそ、立派なおと……(え、なんじゃ……物凄く重たいではないか…ぅわ…)」

ニッ怪は夏来なら受け取ったカゴに手を伸ばして、掴んで見たところ意外にも重かった。

夏来) 「だ、大丈夫?」

ニッ怪の顔色を伺う夏来。

ニッ怪) 「だ、大丈夫じゃ、問題ない さぁ…行くぞいっ」

夏来とニッ怪はそのままレジへと向かった。

ニッ怪はキツそうな顔のまま、レジにカゴを乗せた。

店員) 「いらっしゃいま…せ…(え…何…なんでこの人こんなに怖い顔してるの…今日で二人目だよ…まるで強面のバーゲンセールだな…)」

男性店員はレジスターで読み込んでいく。

夏来はそれが終わり、会計を済ませようと待っている。

一方 ニッ怪はと言うと、近くの腰掛けで休んでいた。

男性店員が全ての商品を読み込み、値段を言う。 夏来はピッタリその金額を出し、商品を受け取り、サッカー台(袋詰めする台)へと移動する。

夏来) 「ニッ怪君も手伝ってよぉ…」

ニッ怪) 「り、了解した…よいこらせっと…」

ニッ怪は立ち上がり、夏来の元へ歩み寄る。

二人はそれぞれ同じ重さになるよう均等に分け、レジ袋に入れた。

夏来) 「さ、帰ろっか、 帰りは階段だと危ないから遠回りになるけど、大丈夫?)

ニッ怪) 「危険な目に会うのはこりごりじゃけん…良いぞ」

夏来) 「ありがと☆」

そうして二人はスーパーを出て、初めきた階段の左側を遠回りして帰ることになった。

 

ニッ怪) 「帰ったら早速飯にしようぞ♪」

ニッ怪は華麗なステップを踏みらながら歩いている。

夏来) 「はは…そうだね」

その隣で冷静に歩いている夏来。

夏来) 「でも…何作ろっかな……作る当てないからカップ麺でもいい?」

ニッ怪) 「なんでも良い!我は食べたことないのでな」

夏来) 「あ、確かにそうだよね」

二人が笑う。そして気がつく。

夏来) 「あ、そうだ ニッ怪君、川 寄ってく?綺麗な川なんだ♪」

近くに小さな川が流れているので、ニッ怪にも見せたいと思った夏来。

ニッ怪) 「川か…良いぞ、 気分転換に最適じゃ」

夏来) 「じゃあ行こー!」

こうして二人は家からも今いるところからも遠くないところに位置する川へと向かった。




幻想夢物語〜少年の日々〜第2話遅れて申し訳ありませんでした!
今回は前編のみの投稿とさせていただきます。
後編は今週で出来ると思います!
では、これからも幻想夢物語〜少年の日々〜をよろっふー☆


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参夢 二人の夢と能力者 後編

ニッ怪) 「ほぉー!なかなかではないか!」

ニッ怪が川の綺麗さに絶賛する。

夏来) 「へへ〜 でしょ? 田舎には敵わないけどねw」

ニッ怪) 「冷たっ!」

ニッ怪は平らなところに買った商品を置いて、両手で川の水に触れている。

夏来) 「はははw」

ニッ怪) 「なははw …ん?」

二人が笑っていると、ニッ怪が何かに気がついた。

ニッ怪) 「のう…夏来殿、アレは一体なんじゃ?」

ニッ怪が指差した方向には大きな丸太がドンブラコと流れてきた。

夏来) 「ただの丸太だと思うけど?」

ニッ怪) 「いや、違うぞい、よく見てみるのじゃ… 人ではないか?」

夏来はそんなに目が良いわけでもなかったので、よく分からなかった。 が、その丸太が方向転換した時、夏来の目にもしっかり映った。

夏来) 「お、女の子!?」

高校生であろう少女が丸太にしがみ付いていた。

ニッ怪) 「た、助けを呼ぼうぞ!」

夏来) 「そんな時間ないよ!僕が行く!水はそんなに深くないし…流れも遅いし、何より泳ぎは得意なんだよ!大丈夫!」

ニッ怪) 「し、しかし!」

夏来) 「人を助けるのに戸惑いは必要ないよ! ニッ怪君、これ持ってて!」

ニッ怪は夏来からスーパーで買った商品を受け取った。

次の瞬間、夏来は川へ飛び込み、泳いで少女の元へ向かった。

その間にも、少女を乗せた丸太は流れていく。

なんとか少女の所まで辿り着いた夏来は少女を丸太から降ろし、少女の手を夏来自身の肩に回して、陸へと急いだ。

ニッ怪) 「夏来殿!」

陸に上がってきた夏来達に駆け寄るニッ怪。

夏来は少女を地面にそっと寝かせると 膝に手を当て、前のめりになりながら荒い呼吸を何度か繰り返した。

ニッ怪) 「だ、大丈夫かい?」

夏来) 「う、うん…はぁ…はぁ…大丈夫…それよりも…この子…大丈夫かな…動かないんだけど…」

ニッ怪) 「まてい、今確認する」

ニッ怪は手の甲を少女の口へと持って行き、息をしているかを確認した。

ニッ怪) 「心配せんで良いぞ、気絶しているだけじゃ」

夏来) 「よかったぁぁ…」

夏来は胸に手を当て、ホッとため息をつき、服に染み込んだ水を絞った。

ニッ怪) 「それにしても一体どこの誰じゃろうかいのぅ…」

ニッ怪は顎に手を当て考える。

夏来) 「さぁ…僕は分かんないや…出来ればこの子の家に送って行ってあげたいけど…今はどうもできないよ…かと言って、ここに置いていくわけにも いかないしね…」

ニッ怪) 「一旦我らで体調が治るまで看病するのはどうじゃ?治ったら治ったで、この娘さんを家まで届ければ良かろう」

夏来) 「け、けどさ…ん?」

夏来は沢山の視線を感じて振り返る。

そこには先ほどの状況を見ていた人が5、6人程居て、こちらを見て話をしている。

夏来) 「わ、分かったよ、連れていこう」

ずっとこの状況でいるのは耐えられないので仕方なく家まで運ぶことにした夏来。

ニッ怪) 「了解!」

夏来は少女を背負い、ニッ怪は荷物を持って家に向かう。

途中、行き交う人々からの視線が全てこちらへ向けられたが、気にせずに歩いた。

程なくして家に着いた夏来とニッ怪は買ってきたものをテーブルに置いて、濡れてもいい毛布をリビングの床に敷き、その上に少女を寝かせた。

夏来、ニッ怪) 「………」

夏来) 「看病って…何すればいいのかな…」

ニッ怪) 「ま、まず濡れておる服をじゃな…脱がさんと…いけんぞい?」

二人は少女を見下ろしながら話す。

夏来) 「そ、そうだね、まずはふっ…服をね、」

二人の顔が少し笑顔になる。

夏来) 「だ、ダメだよ!こんなことしちゃ!」

ニッ怪) 「そ、そうじゃよな!わたっふ殿も、タグでRネタは無いと書いておったしの!」

夏来) 「ニッ怪君!メタ発言は禁止だぁあ!」

ビシッ っと、ニッ怪へ右手の人差し指を向ける。

ニッ怪) 「なぬぅーー!?」

ニッ怪は手のひらを口元へと持ってきて叫ぶ。

それでも起きない少女。

夏来) 「普通の人ならこんなにうるさくしたら起きるのにね…」

ニッ怪) 「きっと特別な存在なのじゃな」

ニッ怪は腕組みをしながら頷いている。

夏来) 「ヴェルタースw」

ニッ怪) 「???」

口に手を当て笑う夏来と、首をかしげるニッ怪。

夏来) 「さて…と、どうしよっか…」

ニッ怪) 「誰か相談できる者はおらんのか?」

そう言われ夏来は「あっ」と言い、スマホを取り出し、リビングの隅で何処かへ電話をかける。それを見ているニッ怪。

夏来) チリリリリンチリリリ…「あ、やぁ ちょっといいかな…?」

ニッ怪は夏来が電話をしている間、スーパーの袋を開け、冷凍食品は冷蔵庫へ、そうで無い物はその場にと、区別をしていた。

夏来が電話をかけ終わり、少女の元へ戻ってきた。ニッ怪も歩み寄る。

ニッ怪) 「お、救助を呼んだかい?」

夏来) 「うん、頼りになる人だよ」

ニッ怪) 「ほう…それは頼もっ…」

ドタドタドタバタ スパーーン!

勢い良く隣の和室の引き戸が開かれ、中から出てきたのは…

幻花) 「ほんっと、しょーが無いわねぇー!」(((o(*゚▽゚*)o)))ワクワク

夏来) 「ごめんね、ちーちゃん、忙しいところ」

和室に移動しながら、首に手を当て申し訳なさそうに夏来が言う。その後をニッ怪が付いていく。

幻花) 「いーのいーのw どうせ暇だったし」

ニッ怪) 「ぉお…幻花殿」

幻花) 「よっ♪ニッ怪 実はゲストは私だけじゃ無いのよ ほら、あんたも来なさいよ」

幻花の手が捕まえた者、それは…

炎条寺) 「おいっ!こ、こら!い、いてぇーよ!引っ張るな!」

安定の炎条寺だった。

炎条寺) 「↑おい!なんだよ安定のって!?呼んでおいてそれはねぇんじゃねーの!?」

幻花) 「はははw 元気がいいことw」

ニッ怪) 「なははw」

幻花が腹を抑えて、ニッ怪は腰に手を当てながら笑っている。

炎条寺) 「からかうのもいい加減にしろよぉお!?」

赤面になりながら怒る炎条寺。

夏来) 「あ、炎条寺君も来てくれたんだ!」

夏来の目が輝いている。

炎条寺) 「俺はこいつ(幻花)に無理矢理つれ…」

夏来) 「嬉しいよ、ありがとう♪」

炎条寺) 「お、おう って!そんなことはどーでもいいんだ、で?その女の子って?」

夏来は少女がいるリビングを指差し、皆んなをその場へと移動させた。

炎条寺) 「へぇ〜結構可愛いじゃねぇか」

炎条寺が少女のほっぺたをツンツンしながら言う。

幻花) 「うわぁあ…へんたーい!」

炎条寺) 「変態じゃねーよ!スキンシップだろうが!」

幻花) 「それがあんたのスキンシップとかw ぷっw笑っちゃうわw」

炎条寺) 「テメェ しばき倒すぞ!!」

そんな二人の会話を近くで聞いている夏来と、ニッ怪はコソコソと話していた。

ニッ怪) 「のぅ 夏来殿、この二人は仲が大変良いようじゃが? どんな関係なんじゃ?」

夏来) 「え?あ、あの二人ね、いとこらしいよ?」

ニッ怪) 「ふむ…なるほどのぅ…」

幻花と炎条寺が互いのほっぺをつねり、じゃれあっているのを見て、夏来は当初の目的と違う方向に進んでいることを改めて感じた。

夏来) 「はいはい、皆んなストップ」

夏来を抜かした3人が夏来の方を見て止まる。

夏来) 「えっとね、やってもらいたいことがあるんだよ、2つね?」

夏来は指でピースの形をとる。

夏来) 「まず1つ目、ちーちゃん、この子の服を脱がせて、身体を拭いてくれないかな?」

そう言うと夏来は脱衣所の引き出しからタオルを持ってきて、幻花に渡す。

幻花) 「あ、なるほどね、ようやく私が呼ばれた意味がわかったわ 良いよ、やってあげる」

夏来) 「ありがとう、2つ目、その他の人は料理や、洗濯、掃除やってくれないかなぁ?」

ニッ怪) 「お安い御用じゃ」

炎条寺) 「えっ……ったく…しゃーねぇな…」

夏来) 「ありがとっ 助かるよ」

 

あれから直ぐに作業に取り掛かった四人。

夏来は料理を、ニッ怪は掃除を、炎条寺は洗濯をしている。

幻花はというと、少女の服を脱がし終わり身体を拭いていた。 当然男子達が見ないように仕切りを立てて置いた。

炎条寺) 「ふぅぅ…おーい、夏来ー終わったぞー」脱衣所にある洗濯機で洗濯をしていた炎条寺がキッチンにいる夏来へ呼びかける。

夏来) 「はーい、じゃあ こっち来て、ニッ怪君と掃除してくれないー?」

炎条寺) 「へいへーい…」

面倒くさいなと思いながら掃除機を手に取り、掃除を開始する。

ニッ怪) 「ほう…そちらの方が楽そうじゃのぅ」

掃除機を使っている炎条寺を見て、ニッ怪が言う。

炎条寺) 「ニッ怪は箒か?」

ニッ怪) 「うむ…これしか使ったこと無いのでな」

炎条寺) 「へ、へぇ…」

ますます不思議な奴だなと思う炎条寺。

 

結局全ての仕事が終わったのは30分後だった。

夏来の家は綺麗になり、洗濯物も干せたし、お昼ご飯も出来たし、少女も良く気絶している。

夏来を抜かした3人はリビングのテーブルを囲んで座り、その近くで少女が横になっている。

夏来) 「はーい、出来たよー!」

と言う声と共に運ばれてきたのは、

炎条寺) 「おっ、カップラーメン!」

ニッ怪) 「目玉焼き!」

幻花) 「ちょ…合わなくね?カップラーメンと目玉焼きってw」

夏来) 「一緒に混ぜて食べるわけじゃ無いんだから、いいじゃん」

4人分のカップラーメンと目玉焼きが次々に運ばれてくる。

夏来) 「さぁ、食べよっか」

4人) 「いただきまー…」

???) ガバッ!

突然横になっていた少女が起き上がった。

4人) ∑(゚Д゚) ハッ!

4人は突然のことで動けなかった。

???) 「た…食べ…物の匂いが…するぅ…」

少女は震えながらも立ち上がり、テーブルへとたどり着く。

夏来) 「………ぁ、あぁー 食べます?」

夏来は自分の昼食を指差して言う。

少女はコクリと頷く。

………………

………

???) 「ズルズルズル パクッムシャムシャ ズルズルズル ゴクッ ぷはぁ…!」

4人) ((((;゚Д゚)))))))

???) 「ありがとう!ごちそうさま! というか…ここどこ? 君たち誰?私わかんなーい☆」

少女はハイテンションで笑いながら言う。

炎条寺) 「お前こそぉっ! 誰だーー!展開早すぎなんだよぉ!読者ついてけねぇーだろうがぁぁあ!」

仙座) 「あっ…へへ…ごめんごめん、私の名前は 仙座 ゆりか(せんざ ゆりか) よろっふー☆」

仙座はおでこに手を当てながら言う。

ニッ怪) 「我はニッ怪 滝(にっかい たき) 以後お見知り置きを」

仙座) 「あははー変な喋り方ーw」

ニッ怪) 「なっ…ぅ…」

ニッ怪は喋り方を酷く言われて落ち込んでしまった。

幻花) 「私は幻花 千代(げんか ちよ)よろしくね」

仙座) 「うん!よろっふー☆ちよちゃん♪」

幻花は何も言われなかったから逆に不安になってしまった。

炎条寺) 「…………」

仙座) 「??」

仙座が炎条寺の顔を覗き込む。

炎条寺) 「な、なんだよ」

仙座) 「あれぇー?怒らなくなっちゃった…怒ってたほうが感じ良いよw あははーw」

炎条寺) 「っ……(女をマジでぶっ飛ばしたくなったのは始めてだ…)」

炎条寺は拳をギュッと握りしめた。

夏来) 「僕の名前は皇 夏来(すめらぎ なつき)さっきの人は炎条寺 友貴(えんじょうじ ともき)君 そしてここは僕の家だよ、 仙座さんは丸太にしがみ付きながら川に流されてたけど…どうしてそうなったの?」

夏来はあの川であったことを仙座に話す。

仙座) 「えーっとね、私 旅をしてたんだ〜 九州地方でね? そこはもう暑くてね…涼みたいなぁって思って、私の能力[俳句を操る能力]で今、私を一番涼しくしてくれる川に瞬間移動したんだけど…私泳げないから溺れちゃってw そしたらそこにちょうど丸太がね、」

わけのわからない言葉を言う仙座に3人が口を出す。

夏来、幻花、炎条寺) 「え!?ちょっ、待って待って待って!?」

仙座) 「ほへ?」

夏来、幻花、炎条寺) 「能力って何!?」

仙座) 「え?んん? 誰にだってあるよ?能力くらい」

夏来、幻花、炎条寺) 「いや、ないし!」

手をブンブン振り回し、全面否定する3人。

ニッ怪) 「あるぞい…」

暗い、重たい言葉がニッ怪の口から出た。

夏来、幻花、炎条寺) 「は!? 君たち頭大丈夫!?能力とかそんなの二次元だけのもんじゃん!」

ニッ怪) 「あるんじゃよ!!!」

珍しくニッ怪が大声をあげたので静まる3人。

ニッ怪) 「お主らには信じがたい物であろう…そんなのあるわけがなかろうと言われるのが目に見えておった…たとえ信じてくれる者が居ても…気味が悪い…妖怪…そんなことを言われるのがオチじゃろ…?じゃから我ら能力者は密かに暮らしておるのじゃ…皆に嫌われたくないからの…」

ニッ怪は今まで溜めていた「何か」を吐き出したように今まで見せたことがない暗い顔を見せた。

夏来) 「ニッ怪君…」

幻花) 「やはりね…薄々気がついてたわ…貴方が能力者だってこと」

幻花はニッ怪とちゃんと面と向かって話す。

ニッ怪) 「なぬ…」

仙座) 「………」

幻花) 「貴方、最初に出会った頃から能力とかそういう単語に反応してたじゃない、普通の人ならそんなの気にしないでしょ? だから、能力者仮説を自分で立ててたの」

ニッ怪) 「そうであったか…」

ニッ怪は少し安心したような警戒したような表情を見せた。

ニッ怪) 「やはり…気味が悪いかの…」

ニッ怪はうつむきながら力無さげに言う。

仙座) 「ぁぁ…なんか余計なこと言っちゃったみたいだね私…」

ニッ怪) 「いや、仙座殿には感謝しておる…こうして皆に本当のことを伝えることが出来、きっぱり嫌われることが…」

炎条寺) 「スゲェーーー!!」

一瞬ニッ怪は何を言われたかわからなかった。

ニッ怪、仙座) 「…」

炎条寺をビックリした表情で見る二人。

炎条寺) 「え!ま、マジで能力者なのかよ!?やベーじゃん!マジスゲェーよ!」

夏来) 「カッコイイね!良かったら見せてくれたりしない!?」

夏来と炎条寺は立ち上がり興奮気味で言う。

ニッ怪) 「お…お主ら…っ」(泣)

仙座) 「良い人間で良かったね、ニッ怪君」

仙座はニッ怪の肩に手を乗せ言った。

ニッ怪) 「うむ……っ…よし!わかったぞい!」

ニッ怪は涙を拭き、立ち上がった。

ニッ怪) 「見せてやるぞい!我の能力[生命を操る能力]を! 夏来殿、少し庭の花々を借りても良いか?」

夏来) 「え?あ、うん、いいよ!」

そう言った夏来は庭に続く扉を開けニッ怪を入れさせた。そして、その後に続く4人。

ニッ怪は花々に手をかざした。次の瞬間、次々に花が枯れだした。

夏来) 「ぁあ!」

夏来は凄いという意味と花が枯れてしまったという意味で騒ぐ。

ニッ怪) 「安心せい、 ふんっ!」

気合いの声と共に枯れていた花が一斉に回復し咲き乱れた。

ニッ怪) 「我の能力は生き物から命を奪ったり、与えたり出来るのじゃ 一応 機械 相手でも出来るようになっておる」

炎条寺) 「ぉお!やwやばいなw まっ待てよ、これ現実だよな」

炎条寺は自分のほっぺたをつねった。

炎条寺) 「いっ…ヤバイ 現実だwwあ、頭がおかしくなりそうだぜw」

炎条寺は狂ったように腹を押さえて倒れこみ大笑いする。

幻花) 「もう十分おかしいじゃない」

炎条寺) 「おい!」

仙座) 「あははーw」

ニッ怪) 「なははw」

夏来) 「はははw」

幻花) 「もう、信じるしかないね、実際に見れたし」

幻花が冷静に答える。

夏来) 「そうだね 最初は信じがたかったけど、もう十分だよ、能力者は居るもんなんだねw」

仙座) 「もしかして世界征服を考えている能力者だって居るかもw」

仙座は不敵な微笑みを浮かべながら話す。

炎条寺) 「その時はニッ怪と仙座をぶつければ瞬殺だろw」

ニッ怪) 「我らを戦わせようというのかい!?」

嫌な顔をし、炎条寺に詰め寄る。

仙座) 「私は良いよ?負ける自信ないし♪」

自信たっぷりの表情を見せる仙座。

炎条寺) 「ふっw あ、そーいやぁ、仙座の能力はどんな奴なんだ?」

この発言を聞いて、皆んなが仙座に注目する。

仙座) 「ふっふっふ…見たい?どーしよーかなー?」

炎条寺) 「あ、じゃあ、良いや」

仙座) 「あっごめん!見て!」

焦りながらも炎条寺を引き止める仙座。

仙座) 「ごほん、じゃ、私の番だね [俳句を操る能力]っていうのは 5 7 5 で言った言葉が現実世界に起こる能力なんだ〜♪」

自慢気に話す仙座に4人が同時に「チートじゃん!」と言う。

仙座) 「まぁ、見ててよ うーん…何にしよっかな…あ、そうだ [内部から〜スマホ壊れる〜いとおかし〜]」

夏来) 「ちょ!やめて!全世界の情報網がー!情報網がそのものがぁー!」

仙座) 「あ、大丈夫だよ♪ 私の能力の効果は半径5メートルしか効果ないから〜」

夏来、幻花、炎条寺) 「ホッ…じゃない!」

安心したのも つかの間、3人のスマホがひでぶっ!してしまった。

夏来) 「仙座先生…スマホが…したいです(泣)」

ニッ怪) 「我に任せい! 戻時 バックタイムズ!」

すると、スマホの破片が集まり再生した。

3人) 「流石 ニッ怪!(俺 僕 私 )達に出来ないことを平然とやってのける!そこにシビれるっ憧れるぅ!」

仙座) 「ヘェ〜…なかなかやるじゃん…」

ニッ怪) 「お主ものぅ…っと、この雰囲気じゃと勝負とかになりそうじゃけん、我は退くぞい」

と言うと、ニッ怪はリビングのソファーに腰掛けた。

幻花) 「ん?あ、もうこんな時間…」

ニッ怪を目で追った幻花は視界に入ってきた時計を見て言った。

炎条寺) 「あ、もういつの間にか5時になってやがった…じゃ、俺帰るわ」

幻花) 「私も帰るね、二人とも、仙座を襲うんじゃないわよ!」

二人交互に指差しをされた。

ニッ怪) 「大丈夫じゃ、安心せい」

夏来) 「じゃーね…って襲う訳ないじゃん!!」

仙座) 「別に襲っても良いよ? ぶっ飛ばすだけだからw」

その笑顔の奥に闇があるとはまさにこのことだと思った夏来とニッ怪。

幻花、炎条寺) 「んじゃ!また!」

夏来、ニッ怪、仙座) 「ほーい!」

帰る際 夏来は今までの事は5人だけの秘密にしておくという約束をして貰った。

 

 

 

 

※おい、カップラーメンはどうしたって? ハハッ スタッフが美味しく頂きましたよ〜

 

 

 

 

仙座) 「みんな面白い人なんだねw」

クスクスと笑いながら仙座は夏来、ニッ怪と、二人を見送った。

そしてリビングに入ってきた夏来達はソファーに腰掛ける。

仙座は初めての家なので ためらいがあったが、夏来に「どうぞ」と言われたので反対側にあるソファーに腰掛けた。

夏来) 「そういえば仙座さんは旅をしているとか言ってたけど…?」

仙座が話していた事を思い出した夏来が問いかける。当然 夏来の隣にはニッ怪がいる。

仙座) 「あ、うん、九州の方を回ってたんだー♪ 私 福岡県生まれなんだよー 二人は?」

夏来) 「あ、僕は京都生まれなんだ 1年前に引っ越してきたんだよ」

ニッ怪) 「我は越後生まれじゃ」

夏来) 「新潟県ね」

ニッ怪の発言を仙座にもわかりやすいように直した。越後でもあってるけどね。

仙座) 「私の両親は私が小さい頃に死んじゃった…事故でね…それから家にも取り立て屋が来て請求とか色々ね…もう耐えられなくて、家捨てて逃げてきちゃった…私がこの能力に気付いたのはそれから8ヶ月後…この能力で私は私のように困っている人を助けるために旅をするようになったんだよ…」

夏来) 「そうだったんだ…大変だったね…」

仙座) 「うん…」

夏来) 「ねぇ…良かったらなんだけど この家に住む?」

仙座) 「え?」

俯きながら話す仙座が段々 可哀想に見えてしまい、夏来は提案する。

仙座) 「い、いいの!? で、でも夏来君の両親は…」

夏来) 「大丈夫、もう居ないから…半年前にね…」

仙座) 「ぁ…ごめん」

仙座は夏来の言いたい事を察し、それ以上は触れなかった。

夏来) 「さ、さてとっ 住むなら家事は手伝ってもらうけど大丈夫かな?」

仙座) 「え?あ!任せてよ!結構得意なんだからっ!」

仙座はソファーから降り、ガッツポーズを取りながら目をキラキラさせて言う。

それを見てクスクスと笑う夏来とニッ怪。

夏来) 「頼もしいねw」

仙座) 「へへ〜 あ、じゃあ、改めて! この家に住むことになった仙座だよ!これからもよろっふー!」

夏来、ニッ怪) 「よろっふー☆」

それから3人は仙座にハイタッチを要求されたのでやってあげた。

夏来) 「あ、でも…部屋なんだけど…無いんだよね…僕の両親の部屋は物置になってるし…和室に布団敷いて寝るって形になるけど…それでも良いかな?」

和室の方を指差しながら申し訳なさそうに言う。

仙座) 「全然良いよ![和]大好きだから♪」

ニッ怪) 「我は元々和風しか興味が無いのでな、ちょうど良い」

仙座は満面の微笑みで、ニッ怪は真顔で答える。

夏来) 「良かった良かった…あ、二人とも紅茶でもいいかな?」

夏来は安心してホッと一息つき、紅茶でも入れようと立ち上がる。

仙座) 「あ、お願いー」

ニッ怪) 「頼む」

夏来は3人分の紅茶を入れるため台所に行き、ティーパックを開け準備をする。

その間 仙座はニッ怪と何やら熱心に話していた。

仙座) 「でっ…いつから能力に目覚めたの?」

仙座はニッ怪に顔を近づけ話す。

ニッ怪) 「ぇ…ぁ…っと…約五百年前くらいに言われたのがきっかけじゃったな」

ニッ怪は赤面になりながら おどおどと話す。

仙座) 「ぇ…?五百年前って…ニッ怪君何者??」

ニッ怪) 「我は死神じゃ、じゃから我はもうとっくに死んでおる この身体は貰い物じゃが…物に触れられるし、逆に相手も我に触れることが出来る…なかなか死んだ者には良い身体なんじゃよ」

仙座) 「えーーー!?」

夏来) 「えっ!な、何!? あっ!」

仙座の大声に驚いた夏来がよそ見をし、お湯がこぼれてしまった。

仙座) 「ニッ怪君、死神なんだってー!」

そんなことは御構い無しに仙座は叫んだ。

夏来) 「は!? え、何?じゃあ僕ら死神と共同生活してるの!?w」

夏来は こぼしたお湯を拭きながら言う。

仙座) 「そ、そうなるね…ぁぁ…凄い…なんか凄いよ!」

仙座はため息と共にソファーに深々と座った。ニッ怪は照れ臭そうに笑っている。

そこにちょうど運ばれてくる紅茶。

夏来) 「はい、お待ちどうさま」

仙座) 「ありがとー!」

ニッ怪) 「かたじけない」

〜〜♪

夏来が紅茶を置き終わった時に近くにあった時計が鳴り出した。

それは午後6時を示すものだった。

夏来) 「もう6時かぁ…早いけど晩御飯にしちゃう?」

ニッ怪) 「良いの」

仙座) 「さんせーい!」

 

それから3人は紅茶を飲み終わり、夏来は仙座と一緒に晩御飯を作り始めた。作るのはカレー。二人で分担しスムーズに進める。

一方ニッ怪は待っている間 風呂に入ることにした。夏来からはバスタオルの場所など聞いたので先に取り出し、近くに掛けて入った。

各自が動きだしてから約30分後、ニッ怪が風呂から上がりバスタオルで身体を拭き、着替えとして用意されていた和服に着替え リビングに戻ってくる。それから少ししてカレーが、夏来の手によって運ばれてきた。その後を仙座が皿を3枚と、ラップに包んでおいた多めのご飯を持って駆け足で来る。

皿とご飯を置いた仙座はニッ怪とその場であぐらをかいて待つ。

ニッ怪) 「お主もあぐらをかくのかい?」

仙座) 「うんw こっちの方が楽〜♪」

夏来) 「意外w」

仙座) 「よく言われたぁぁ」

夏来とニッ怪がプッと吹く。

それを見て半分笑いながら怒る仙座。

 

それからは各自が自分の欲しい程度にカレーとご飯を盛って食べていた。

テレビは つけなかったので自然と話が盛り上がった。

途中 仙座が何度か「かっかっ辛い!」と言いってたので夏来はカルピスとコップ3つを持ってきて対策をした。

結構、3人が食べ終わる頃にはもう7時半を回っていた。

夏来と仙座は皿を洗っている。

ニッ怪は先ほど涼みに行くと言って、外に出て行った。

仙座) 「カレー美味しかったね♪」

夏来) 「だね、久しぶりに食べたかもw あ、仙座さん、お風呂先にどうぞ、ここは僕が」

仙座) 「任せちゃって良いの?」

夏来) 「うん」

仙座) 「そっ、なら先に入らせてもらうね♪」

仙座は残りの皿を夏来に任せ、脱衣所へと行く。

その間に夏来は皿を洗い終え、テーブルで椅子に座って学校からの課題をやっていた。

 

 

仙座) 「夏来〜ちょっと…」

仙座が風呂に入ってから約30分後に呼び出された。夏来は課題をカバンの中に片付け、脱衣所に向かった。

夏来) 「何?どうしたの?」

仙座) 「あ、あの…さ、き…着替えとかって…流石の私でもこれじゃあ…」

ドア越しに話をする2人。

夏来) 「あっ!ごめん!今持ってくるね!」

夏来は仙座に着替えを渡していなかったことを思い出した。大急ぎで和室のタンスから着替えを取り出し仙座のところに運ぶ。

夏来) 「あはは…ごめんごめん、今持ってきたよ」

夏来がそう言うと、ドアが少し開き、その中から白い腕が伸びてきて、着替えの服を手に取り、ドアの中に吸い込まれていった。

仙座) 「大丈夫ー」

そうドアの中から聞こえたので、夏来はリビングへと戻る。

夏来) 「そう言えば…今日は良い月だなぁ…」

夏来は電気が付いていない和室の窓から差し込む月の光に気づき、リビングの窓から月を眺める。

今日は満月だった。

夏来) 「そういえばニッ怪君…まだ外で涼んでいるのかな…」

夏来は満月を見ながらニッ怪の事を考えた。 べっ…別にボーイズラブって訳じゃないんだから!か、勘違いしないでよね!

夏来は外に出て行こうとした。その時に仙座がドアを開けて出てきた。

仙座) 「あれ?どこか行くの?」

夏来) 「あ、うん ニッ怪君が外に涼みに行くって言ってから結構時間経ってるのに帰ってこないからさ…心配になっちゃって」

仙座は「なんだ、そんなことか」と言わんばかりの顔で聞く。

仙座) 「あ、じゃ私も行くー」

こうして夏来と仙座は外へと出てきたが、そこにはニッ怪の姿は居なかった。2人は道路へと出て辺りを見渡す。

仙座) 「あっ…?はふ!?」

空を見上げた仙座は何かに驚いた。

夏来) 「何? どうしたの?」

夏来は仙座の視線を追う。

その先、空に浮かんで居たのはニッ怪。腕を広げ 月の光を身体全体で受けていた。さらにニッ怪の背中には身に覚えの無い<黒い翼>が生えていた。

夏来) 「!?」

ニッ怪) 「?」

2人の視線に気付いたのか、ニッ怪はゆっくりと夏来達の方に振り返った。

だが、そこに2人は居なかった。

仙座は夏来と家の中にいち早く入っていた。身の危険を感じたからだった。

身の危険とはよく分からないが、見てはいけない物を見てしまった…そのような感覚だった。

夏来) 「ど、どど…どうしたの??と…というかさっきニッ怪君…そ…空に浮かんでたみたいだったんだけど!?そ、それに翼みたいなやつ生えてたよ!?」

状況を理解できなかった夏来は仙座の慌てようにビクビクしながら言う。

仙座) 「ニ…ニッ怪君は飛んでいたから…私より上の立場の能力者みたいだね…」

夏来) 「仙座さんは飛べないの…?」

仙座) 「私は飛べな…」

玄関で立ちながら話している2人の側でガチャという音がした。2人はその方向を凝視する。

玄関のドアが開きニッ怪が入って来た。 先ほどまで話していた内容は口に出さずに苦笑いをする2人。

それを見て首を傾げるニッ怪。

仙座) 「さ…さぁ!ニッ怪君もちょうど来たことだし、和室に布団を敷いて早いけど寝る準備しちゃお!」

仙座は家に上がり和室へと入って行った。

夏来とニッ怪もその後を付いて行く。

それから3人は和室の押し入れから布団やら枕を持ち運ぶ。

横一列に並べた布団に飛び乗りゴロゴロと転がる仙座。

ニッ怪が「シワが広がるけん止めんか」と注意するも仙座は聞く耳を持たず、さらには「ニッ怪君も一緒にやろうよ」と勧誘をしてきた。ニッ怪は全面拒否も可哀想だと思い、少しだけやってあげた。

夏来はその光景を見て、ただただ笑うしかなかった。

今の時間は午後9時。夏来がいつも風呂に入る時間だった。

夏来) 「あ、そろそろ お風呂入ってくるー」

ニッ怪) 「うむ」

仙座) 「いってらっしゃーい!」

夏来は着替えをカゴの中に入れ、風呂に入る。それから約20分後、夏来は風呂から上がり、着替えて和室へと戻ってきた。

夏来) 「あ、仙座さん 寝ちゃった?」

あれだけ騒いでいた仙座が真ん中の布団で上向きで寝ていた。

ニッ怪) 「相当疲れが溜まってたんじゃろう、ころっと寝倒れてしもうたわい」

ニッ怪はあくびをしながら答える。

夏来) 「そう、ちょうどよかった 明日朝早くから見せたいものがあったから僕も寝ようかなって考えてたんだ〜 ニッ怪君も眠そうだし…どうする?」

ニッ怪) 「そうであったか、なら就寝と行こうかの」

そう言うとニッ怪は仙座の左側に上向きで寝そべる。

ニッ怪) 「夏来殿はまだ眠りにつかんのかい?」

夏来が学校カバンを確認していたので言う。

夏来) 「ん?あ、寝るよ、その前に日記をさ?」

夏来はカバンから筆記用具を取り出した。

ニッ怪) 「そうかい、ならお先に失礼するぞい」

夏来) 「うん、おやすみ」

そしてニッ怪は眠りに入った。

死人だから眠りなんていらないんだけどね?

ニッ怪が眠りについたのを確認し、夏来は日記を書き始める。

 

4月26日

今日はニッ怪君が来てから2日目、朝から忙しかった。スーパーの卵買うのにドタバタしちゃった。…ごめん、わたっふさんが書くネタ無いわって言っているので本題に移りますね。

川から桃のように川から女の子が流れてきた時は本当にびっくりしました。

しかも成り行きで家に連れて帰っちゃいました。誘拐じゃ無いんで心配しないで良いよね…?

目覚めた女の子は仙座ゆりかさんと言うんだってー。

さらに!今日発見したことは! ニッ怪君と仙座さんは能力者だった事、ニッ怪君は死神だった事の2つ!

信じがたかったけど見せられたから信じるしかなかったよ…

あ、あんまり長くなるといけないし、ここら辺で区切るね。

では、次回作もお楽しみに!では

皇 夏来




幻想夢物語 第2話後編! ついに完成しました! ふぅぅ…眠い…
ま、まぁ、そんな事はアマゾン川に流してっと…
新しい仲間 仙座ゆりか! この子の天然っぷりには勝てません>_<
あ、それで皆さんに少し申し上げなくてはならない事があるんです!
幻想夢物語 第4話の投稿はだいぶ遅れてしまうかもしれません!
理由は…ネタを考えないといけないのです!今時点で4話の内容なーーんにも考えてません(泣)
なので、時期はわかりませんが…4話は早くて8月、最低でも9月頃になってしまうかもしれません!
予めご了承下さい! では、また!


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四夢 あの日から…

「「夜」それは神聖な物であり、同時に悲しき物でもある。

誰にも見守られずに1日の閉めを飾る姿はどこか寂しい。

しかし「夜」を待ち遠しく思う者だって居る。

………「夜」と言っても、ここでは「深夜」を意味するが…

 

(((夏来…夏来…)))

 

夏来) 「ん……」

夏来は自分を呼ぶ声に目を覚ました。

ずっと前どこかで聞いたことのあるような…そんな懐かしい声だった。

2日前、ニッ怪が来てからというもの、何時もこの声が聞こえている。

実際、夏来は最初はちょっと気になっていたが、今では気にしないようにしている。

布団から起き上がった夏来は時計を確認する。午前4時30分

アラームが鳴る数分前だった。

夏来) 「ぉーぃ…起きてー…」

夏来は2人を揺さぶり起こす。

仙座) 「ぁぁ〜…ん……ふぁぁぁ…」

ニッ怪) 「ぅぅ…ん……」

二人は眠い目を擦りながら起き上がる。

夏来) 「さっ、朝日を見に行こ〜…ふぁぁ…」

二人は嫌な顔はしたが、せっかく夏来が見せてあげたいと念を押しているので渋々ついて行ってあげた。

家から出た時には、もう既に朝日が出掛かっていた。

夏来達は急いで家の近くの景色がよく見える所に設置されたベンチに向かった。

方角は東。その方向から朝日が昇っている。

なんとかギリギリ日の出に間に合った夏来達はベンチに腰掛け、その景色の美しさの前に心を奪われる。

夏来) 「綺麗だね…なんだか久しぶりに見た気がするよ…こんなに綺麗な朝日は…」

ニッ怪・仙座) 「ぉぉ〜……」

夏来) 「最近、何かと忙しかったからね…余裕が無かったんだよ〜… 学校でもそう…友達なんていないし…その…クラスの子にちょっとだけ虐められちゃってるし?w あはは…でも、こうして朝日を見てると、なんだか頑張ろうって気持ちに心が満たされるんだよね ニッ怪君達もそう思わな…」

ニッ怪・仙座) 「 Zzz…むにゃむにゃ…」

夏来) 「って 寝てるんかいっ!」

それから夏来達はベンチに座り居続けた。そのうち夏来も眠気に襲われ、いつの間にか寝てしまった。

 

太陽が天高く昇り、春といえど少々暑く、道行く人の声のダブルアタックで目を覚ました3人は近くの水飲み場で軽く顔を洗う。

ニッ怪) 「んぁぁ〜…寝不足じゃぁぁ…」

夏来) 「なはは…ごめんごめん でもどうしても見せたくて…ね?」

仙座) 「全く…私たちの身にもなってよぅ…ま、いいけどさ♪」

それから3人は来た道を引き返し、家に帰る。

帰ると同時に「お腹すいたぁ…」と言い倒れる仙座を見て、朝食を作り始める夏来。

一方、ニッ怪はと言うと、何かテレビの中から小人を取り出そうと頑張って探っている。それを見て倒れながら「無理に決まってんじゃんw」と呟く仙座。

ニッ怪が「何故?」と聞くが、仙座はどう答えれば良いか分からないのか頭を抱え黙っている。

夏来) 「2人とも、朝食は何がいいー?」

仙座) 「ん?あ、はいはーい! トリュフで」キリッ

夏来) 「あるわけないでしょっ!?」

仙座) 「だろ〜ねぇ〜」

夏来) 「え、なにその こんな家にはトリュフなんて似合わないわw バーカww みたいな顔は!」

仙座は夏来に言われて顔がゲスかかっていたことに気がついた。

そして顔を隠す。

夏来) 「今更遅いわっ! ったく…もーいいよ、自分で適当に作るから」

仙座) 「ぅー…」

ニッ怪) 「なははw 乙じゃ」

今度はテレビを付け、画面を見つめながら仙座の失態を笑うニッ怪。

仙座) 「わーらーうーなぁー! くぅ…」

ニッ怪) 「おーつ おーつ なーはっはw」

目を向けないで煽っていくと言う新しいスタイルで攻めるニッ怪。

それを見て黙っている仙座ではなかった。

ニッ怪をポコポコと叩き出した。叫びながら…

そして2人があれこれしている間に夏来は朝食を作り終わり、テレビ前 カーペットの上にある小さなテーブルに置いた。

夏来) 「ちょっと…朝から止してよ……止めないと朝食抜きだよ」

ついでにその横で騒がしくしている2人に注意をする。

ニッ怪) 「なぬ!?それはいかん! 仙座殿、ここは一旦…」

仙座) 「ふっ…そのようだね! って、目玉焼きだぁ!ヤッタァ☆」

仙座は早く食べたいのかもう箸を持っている。

ニッ怪) 「なぬ…また目玉焼きかの…昨日食べたばっかりじゃろう…」

と残念な顔をされる。

夏来・仙座) 「な、なんだってー!?」

ニッ怪) 「いや…何故夏来殿まで驚いておるのじゃ…」

夏来) 「はは…ノリだよ、ノリ あ、で話戻るけど…目玉焼きじゃダメ…?」

ニッ怪) 「いや…ダメでは無いがの…もっとこぅ…なんて言えば良いのか…」

ニッ怪が腕を組んで深く考えていると、

夏来) 「…ぁぁあ なるほど! 目玉焼きじゃなくて、卵焼きとか、卵がけご飯とか、ゆで卵とかだね!」

ニッ怪) 「いや…って なぜ卵だらけなんじゃよw」

と理由を聞くと、夏来は立ち上がり冷蔵庫の前に行き、扉を開いた。

すると、中には卵…卵…タァマァゴォォ!まさに卵地獄!

夏来) 「ごめんねw この前スーパーで大安売りしてたからぁ… それも お一人様普通は一つなんだけど、三つだったの! だからついw」

ニッ怪) 「そ…そうじゃったか…なら…仕方ないの…」

それから夏来達は朝食を食べ終え、3人で食器を洗い、夏来の誘導で歯磨きをする。

次に夏来はリビングの端に佇んでいる、木で出来た椅子に2人を座らせると話をしだす。

夏来) 「ところで…昨日 仙座さんも聞いたと思うけど…あれ、話したっけ…まぁいいや、今日は、2人のバイト先を探そうと思います!」

夏来は仁王立になりながら堂々と話す。

ニッ怪、仙座) 「うっ…働きたくない…」

一方の2人は俯きながら夏来の話を聞く。

夏来) 「やはりお金は必要だからね…それも君たち2人分も余分に稼がなきゃいけない、これはもう僕だけじゃ無理…だから、お願いー♪」

ニッ怪) 「ぅ…うむ…」

仙座) 「わかったよ……で、どうやって探すの?」

そう言われた夏来はスマホを取り出し、どこかに電話をかける。

2人が疑問に思っていると…

夏来) 「あ、もしもし、ちーちゃん?ちょっと相談に乗って貰いたくて……ニッ怪君と仙座さんのバイト先のことで………うん、あ、わかった お願いします〜」

仙座) 「…で、どうだったの?」

夏来) 「今からちーちゃんが…あ、千代ちゃんね? その話をちゃんとしたいから今から来るってさ〜良かったね♪」

そして 3人は幻花が来るのを…2人は心待ちにはしてないが 待った。

しばらくして…

ガチャッ…という音とともに話し声が玄関からしてきた。

リビングの扉を開けたのは もちろん幻花……と炎条寺?

炎条寺) 「だーかーらー!なんで俺もなんだよ!千代!」

夏来) 「いらっしゃーい おまけまで…ありがとう♪」

炎条寺) 「ちょ…おまけって言うなー!」

炎条寺は、幻花が夏来の家に来る時に取っ捕まえていた様だった。

幻花) 「っと、本題に入ろっか」

炎条寺) 「((おいー!))」

夏来が和室に案内し、話し合いが始まった。 どうやら真剣な話しなどは和室でやるという決まりがあるらしいと聞く。

幻花) 「………なるほどね、だったら良いバイト先あるけど、どう? どうせ二人とも同じとこでやるんでしょ?」

夏来) 「はは…まぁね、個々にしてると危なさそうだし…」

夏来はニッ怪を見つめる。

ニッ怪) 「……?」

仙座) 「ふふw」

首をかしげるニッ怪と、その横で笑う仙座。

幻花) 「そっ なら話は早いね、まずはそうだね…この近くのコンビニなんてどう?」

ニッ怪) 「ぁぁ!あの礼儀正しい女子殿(おなごどの)のとこじゃな!良いぞ良いぞ!」

夏来) 「ニッ怪君は大丈夫みたいだね、仙座さんは?」

仙座) 「勿論!大丈夫だよ!」

話し合いがうまく丸まった所で今まで黙っていた炎条寺が話し出す。

炎条寺) 「そうと決まれば、やることたくさんあるぞ、願書とかな」

夏来) 「そうだね、よーし!みんなで力合わせて頑張るぞー!」

ニッ怪・仙座・幻花) 「おー!」

炎条寺) 「お…おー」

 

 

 

そう…ここから始めるんだ…一から全て!

 

 

 

あれからというもの 夏来、幻花、炎条寺らはいつもと変わらない学園生活を送っている。

そう…夏来が紅原に虐められるという現実も変わっていない。

炎条寺は夏来が紅原に虐められていることは知らないようだった。 …夏来が相談するのをためらっているからだ。

一方のニッ怪、仙座らは初めはコンビニで働き始めた頃、失敗の連続だったようだ…だが、二人とも協力しあって頑張ってるみたい。今じゃあ店長に褒められる方が多いって夏来たちに自慢しているんだって。

みんなそれぞれの道を着々と歩んでいってる…それは事実。

 

そして…今は7月後半。あれから…ニッ怪たちとの出会いから約3ヶ月が経っていた。

 

ニッ怪) 「はぁぁぁ…暑いのぅ…干からびそうじゃぁ…」

夏来) 「そうだね…」

今、二人は和室で横になりうちわで扇いでいた。

今日から夏休みという事で、夏来たちに1ヶ月の休日が与えられていた。

さらに嬉しい事にニッ怪、仙座たちのバイト先のコンビニの店長が幻花の知り合いだったことで、二人に夏休みをくれないかと幻花が頼んでくれたおかげ、休みを貰えた。それも夏来たちと同じ1ヶ月間。その間は夏休みバイトを募集するとのことだったから何も心配はいらないみたい。

仙座) 「ぁぁあ〜」

仙座は読者の皆さん、人生で一回はやるであろう扇風機に声をぶつけて涼んでいた。

ニッ怪) 「夏来殿…暇じゃぁ…たすけておくれぃ…」

夏来) 「暇だねぇ…そうだねぇ…ぁ…田舎に行こう!」

ニッ怪) 「ど、どうしたんじゃ いきなり」

夏来がいきなり立ち上がったのでビックリするニッ怪。

夏来) 「僕の叔父さん、叔母さんに会いに行くんだよ!さらに昨年行った時には祭りもやってたし 楽しめるよ!」

ニッ怪) 「なんと!それを早よ言わんかい! 行こう!今すぐ行こう!」

夏来) 「ま…まぁまぁ…落ち着いて、叔父さん、叔母さんにも電話しないといけないし、炎条寺君たちにも話しておかなきゃいけないし、というか…仙座さんがどうかは…」

仙座) 「はっ…はっ…行く!行きたい!暇はヤダ!」

夏来) 「そ…そう…w なら、電話しよっか!長野県の田舎なんだ〜」

そう言うと夏来はスマホをポケットから取り出し電話をかけた。

繋ぎ先は長野県の田舎に住む夏来の叔父と叔母の家。

夏来) 「……あ、もしもし? 叔母さん?夏来だけど、 はははw うん、元気元気! 今年も行こうと思うんですが… ありがとうございます あ、えっと、今年はあと二人連れて行きたいんですが………」

電話を終えた夏来がグッドサインを出す。

ニッ怪) 「ふぅぅ…良かったぞい…」

仙座) 「暇から脱出だぁー!」

夏来) 「あとは…炎条寺君とちーちゃん だね、」

するとニッ怪がその言葉に反応する。

ニッ怪) 「夏来殿、先ほども炎条寺殿々に話をすると言っておったが、まさか我らと一緒に行くのでは?」

夏来) 「うん、叔父さん、叔母さんも連れてきてもいいよ!って言ってくれてw それに、炎条寺君たちも部活 休みだって言うし」

ニッ怪) 「ぉお!」

仙座) 「やったね!千代ちゃん来る〜!」

二人はとても嬉しかったのかハイタッチをする。

次になんか踊りだした。 よいやーよいやー

夏来はそれをみて、ただただ笑うしかなかった。

それから夏来は電話で二人に連絡を取る。 一応空いてるからと、おkを貰った。

ただ、今日行くのは流石に迷惑だと考えた夏来は折り返しで叔父、叔母、ニッ怪、仙座、炎条寺、幻花に 明日行く と伝えた。

ニッ怪) 「明日が楽しみじゃのう…田舎は良いぞ、空気も美味しかろう」

仙座) 「景色も、ね♪」

 

それからというもの、3人は明日に向け、荷物をまとめたり、お金を調整したり、もちろん ご飯やらお風呂やらも ちゃんとした。

で、朝の長野行きの電車に遅れないためにも、タイマーを7時にセットし、和室に布団を敷く。

ニッ怪と仙座は布団の上で明日のことを話し合っているみたい。

とくにニッ怪は祭りの事ばかり話している。 それほど楽しみなのか… そう思いながら夏来は リビングの机の上に日記を出す。

夏来) 「((これも何回めになるんだろう…あの日…ニッ怪君が来てからとっさに取り始めたこの日記…))」

パラパラと日記をめくる。

夏来) 「まぁ…いい思い出だね♪」

そういい、夏来は日記を書き始める。

 

7月28日

 

今日から夏休み! ニッ怪君たちも休みを貰えて嬉しそうw

明日から少しの間、長野の叔父さん、叔母さんの家に行くことになってニッ怪君たちもハイテンション!

そしてあっちに行ってからすぐに夏祭りがあるんだ!

結構大規模な祭りなんだ〜

とても楽しみだよ!

 

それじゃあ、第5話でまた

おやすみ




今回の投稿は文字数が少なくなっています!
投稿遅れてすいませんでした!


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五夢 De : これから始める田舎生活 前編

ピピピピピッピピピピピッ……

夏来) 「んん〜…」カチッ

目覚ましが和室全体に鳴り響くと同時にゆっくりと手を伸ばし止める。

今日は夏であるにもかかわらず、少し肌寒く感じるほど涼しい日だった。

夏来) 「……あれぇ?」

夏来が二人を起こそうと横を向いたが、すでに起きているのか居なく、リビングの方から何やら料理を作っているであろう音と、話し声が聞こえてきた。

夏来は3人分の布団を片付け、洗面台に行き 顔を洗って、リビングに続く引き戸を開ける。

ニッ怪) 「ぉぉ、夏来殿、おはよう」

仙座) 「あ、おはっふー☆」

夏来) 「ぉ…おはよ」

夏来はまだ眠い目を擦りながらソファーに座る。

すると仙座が何かを持ってくる。

仙座) 「あ、そうそう、はい、今日ね、私の手作り♪ 毎日毎日、悪いなって…さw」

夏来) 「ぉぉ! そうなんだ 嬉しいよw」

そう言って出されたのは卵サンド。

夏来) 「いや、ちょっと待って  普通こういった食べ物は アニメとか漫画だったら昼に公園で食べるけど…そのところは…?」

仙座) 「まぁまぁ、いいじゃんw どうせ この小説がアニメ化する訳でもないし、漫画になるわけないんだから♪」

それもそうか、と笑う 夏来とニッ怪。

 

ーーーーーー

ーーー

 

夏来) 「よし…っと、準備おっけ… ニッ怪君、仙座さん、準備出来た?」

夏来が着替えやら色々 リュックの中に詰め終わり、2人の状況を確認する。

ニッ怪) 「我々は大丈夫じゃぞ、さて、行くかい?」

ニッ怪と仙座はリュックを担ぎ、待機していた。

夏来) 「そうだね、電車が8時にあるから、それまでに着こう あ、それと、炎条寺君たちは先に駅で待ってるってさ♪」

仙座) 「なるなる…じゃあ、早く行こっ! 待たせるわけにもいかないし」

夏来) 「だね〜」

夏来たちは窓を閉め、玄関の鍵をかけ家を後にする。

最寄りの駅までは徒歩 約20分。

途中まではゆっくりと話しながら歩いていたが、段々 時間がなくなってきてしまったので、走って向かうことにした。

駅に着いた夏来たちは乗り継ぎ用の券を買い、改札を通り ホームへと足を踏み入れる。

電車が来る2分前に着いてホッと安心する夏来たち。

と、ホーム出入り口に立っていた炎条寺と幻花。

炎条寺) 「本当さぁ…お前ら時間に余裕を持って動けよw ったく…3ヶ月前からなんも変わってねーなw というか乗り継ぎだって分かってるよな?」

夏来) 「ふっ…大丈夫、問題ない 乗り継ぎとか、ただ単にこの小説の文字数を稼ぐのはダメだと思うんだよね!あと、わたっふさんが耐えられないし!」

幻花) 「んん?」

夏来) 「仙座さんの能力で長野行き直行にしたんだよ〜 途中で長野県にワープするようになってるしw」コソコソ…(ゲス顏)

炎条寺) 「お前ら…」

そこにキィィーという音を立てながら電車がゆっくりとスピードを落としながら来て止まる。

夏来) 「さらにぃ! みてよ、ほら、周りに誰もいないでしょ?これも仙座さんの能力で…」

炎条寺) 「お前ら…マジで捕まるぞw」

 

いまの状況を簡単に説明すると!

仙座の能力で長野行き直行の電車にすり替えて、被害が出ないように、夏来たち以外の乗客を一時的にこの駅自体に寄せ付けないようにしたのだった!

え?すでにいた人達?………ま、まぁ、何とかなる!

 

夏来たちが乗り込み、電車が発車する。

車内は他に誰もいないので、座席に座り 少々大きな声で話をしながら、去りゆく東京の景色を眺めている。

幻花) 「でさぁ、ワープするって言ってたけど…?」

夏来) 「あ、うん、トンネルの所でワープする様になってるよ」

炎条寺) 「ぁぁ…アニメじゃ よくあるパターンだな」

 

〜〜〜

 

発車してから10分後、前方にトンネルが見えてきた。

隣町とを繋ぐこのトンネルは夏来も良く使っている所だった。

仙座) 「はいったぁ〜♪」

ニッ怪) 「やはりトンネルと言うものは恐ろしい…怖いのぅ…」

夏来) 「死神なのに暗いところ苦手とか話にならないよ 」

炎条寺) 「だよなw ……あ、うん? おい、なんだあれ」

炎条寺がトンネルの先を窓からチラ見していると、 黄緑色の円状型のバリアみたいなのがトンネル内に張っていた。

夏来) 「あ、あれあれ、ワープポイント」

幻花) 「は、入るよ…」ゴクッ…

ニッ怪) (ニタニタ

仙座) 「さぁー!幻想夢物語〜少年の日々〜 長野 夏祭り編 開幕ぅー♪」

次の瞬間、夏来たちに大量の光が、こう…バッと…グッと…襲いかかった!!

 

 

夏来) 「んっ……ぁっ んあ?」

夏来たちがそれから目を覚ました場所はトンネル。

炎条寺) 「なんだよ、トンネルから変わってねーじゃねーかよ」

幻花) 「あ、あれじゃない? トンネルから抜けるとお花畑が出てくるって、アニメとかじゃ、よくあるパターンじゃん」

炎条寺) 「そのお花畑が悪い意味の方じゃなきゃいいんだけどな」

夏来) 「さぁさぁ 出口だよ!」

そう言って、今度こそ本当の出口の光を浴びた。

激しい逆光の中、仄かに花のいい匂いが漂ってくる。

視界が開けた、その先には!

炎条寺・幻花) 「ぉお!」

ニッ怪・仙座) 「ひょーぉ」

夏来) 「やっぱり凄い…」

夏来たちの目に映る光景には、多くの山々、花々が咲き乱れていた。

炎条寺) 「やっぱいつ見ても凄いなぁ…」

幻花) 「だねぇ」

夏来たちを乗せた電車は前方に見える小さな駅に向かう。

天気良好、夏来たち側から見える川が太陽の光に照らされて眩しく輝く。

そして電車は駅に止まり、夏来たちは降り、改札を通って駅の外へ。

電車は再び仙座の能力で東京のあのトンネルにワープされた。

夏来) 「んん〜♪ 天気最高だねぇ」

炎条寺) 「ぁぁ 良すぎるなw」

幻花) 「こんなことして良かったのか…罪悪感半端ないわぁ…」

夏来) 「まぁまぁw もう悔やんでも遅いよっ それより、バス停まで早く行こっ」

夏来の叔父、叔母が住んでいるところまではバスが出ているので、こっちに来た時には いつも乗っている。

夏来たちは駅を出た すぐそばのバス停へ行き、来るまで雑談をする。

数分後、バスが来て乗り込む夏来たち。乗客は数名ほど。

それぞれが座席に座り、バスが出発する。

バス内では小さな声で話をする。常識だよねっ!( ̄▽ ̄)

山の方へ、左右に田んぼが広がる一本道をバスは行く。

途中、自転車に乗った人や、虫取りカゴを持ち、これからの取り具合に胸を踊らせている子供達とすれ違う。

少しして、橋に差し掛かると川で釣りを楽しむ親子が見えた。

ニッ怪) 「都会では味わえん物じゃな、みな」

炎条寺) 「まぁ、都会でも出来るが…本場はこっちだよな」

野を越え山を越え、何度かバス停に止まり、約一時間半。

もう他に乗客は居なく、バス内は静まり返っていた。

「「次はー 悟河村〜悟河村〜」」

運転手の声に降りる準備をする。

そう、今から向かう 叔父叔母の住んでいる所だ。

その村はどんな所かニッ怪、仙座に話していると、どうやら着いたみたい。

夏来達はリュック等を持ち、バスから降りる。

ここは悟河村。

四方を山々に囲まれていて、数え切れない程の花々が咲き乱れ、とても美しい綺麗な川が流れている 自然豊かな所だった。

バスが過ぎ去っていくのを見送り終わり、夏来たちは 叔父叔母の家に向かう。

ニッ怪) 「それにしても…田舎とは言えど、少しばかりか商店はあるんじゃな」

炎条寺) 「ん? まぁ、そうだろ? これまで見てきたアニメの中で 商店ないとこなんてなかった…と思うぜ? つーか、なかったらサバイバルじゃねぇか?」

周りに点々とある商店を通り過ぎ、少し行くと 目的地の家が見えた。

家に着き、玄関の引き戸を右に引き、中に入る。

夏来) 「叔父さん、叔母さん、ただいま〜 お邪魔します!」

皆んな) 「お邪魔します」

叔父) 「ぉぉ、来たかぁ さぁ上がった 上がった」

奥の部屋から出てきた叔父が近場の部屋に案内する。

 

ーーーーーーー

ーーーー

 

叔父) 「………へぇ〜、ニッ怪 滝君と仙座ゆりかちゃんって言うんだね! よろしくねぇ」

皆んなで和室のテーブルを囲むように座りながら話をしている。

仙座) 「よろっふー☆」(((o(*゚▽゚*)o)))

叔父) 「ゆりかちゃんは元気が良いねぇ〜」

ニッ怪) 「よろしくお頼み申します ぇっと…」

叔父) 「叔父で良いよw わたっふさん、僕の名前なんて考えなくていいやって言ってるし」(泣)

叔父の目から泥水が流れた。

炎条寺) 「いや、そこはダイヤモンドが流れんじゃねーのぉ!? きったねーなぁ おいっ!」

夏来) 「そういえば…叔母さんは…?」

辺りを見渡しても叔母の姿が無かったので問いてみた。

叔父) 「ぁぁ…叔母さんはねぇ、8月1日…来週の月曜日にある闇籠神社でのお祭りの屋台の準備をしているんだよ」

幻花) 「ぁ、なるほど…確かに そう言えば昨年、叔母さんがたこ焼き開いてましたよね 今年もたこ焼きですか?」

仙座) 「たこ焼きぃぃー!? はぁはぁ…うへへぇ…」

ニッ怪) 「落ち着きんさい…どうどうどう…」

叔父) 「ぁぁ、多分…そうだったような」

叔父は「うーん…」と顎に手を当て、考え悩んでいる。

10秒くらい間が空き、結果 思い出せなかった 叔父。

叔父) 「まぁ、そんなことは良いや! せっかく遠出をしてくれて遥々こっちに…ん…? いや…待てよ? 普通ならこんなに早く長野に着けないはず…」

叔父に痛いところを言われ凍りつく。

叔父、叔母にはニッ怪、仙座の秘密は言ってはならない…!

どうする夏来…どう切り抜ける 皆んな!

夏来) 「ぁぁ、し…新幹線だよ 特急のねw」

叔父) 「…………」

叔父からの返答が来ず、ますます重い空気になる。

夏来) 「は…はは…」

叔父) 「………ふっw そうかそうかぁ! どうりで早いわけだ! 新幹線はどうだった?」

夏来) 「う、うん…は、速かったよw あっと言う間に着いちゃったw」

なんとかその場を乗り切り、ホッと安心する皆んな。

叔父) 「よしっ…あとは部屋案内だな」

叔父が立ち上がり、部屋から出て行ったので、夏来たちも後をつける。

叔父) 「男の子、女の子、共有でも大丈夫かな?余ってる部屋がここしか無くてねぇ〜」

それを聞いて、夏来は皆んなに良いか確認を取る。

幻花) 「昨年も言ったけど、私と友貴は大丈夫だよ? ゆりかとニッ怪はどうかは分からないけど…?」

幻花はチラッと2人の方を見る。

2人) 「良いよ(ぞ)〜」

夏来) 「だそうです」 (^^;;

叔父) 「そうか、そうかw それは良かった! 荷物はそこね、 よしと…後は何もないな… じゃあ皆んな、楽しんで行ってくれ! 僕はまだコンピュータ関係の仕事があってねぇ、 じゃあ!」

と言い、玄関通路の奥の部屋に入っていく。

皆んな) 「はーい」

緊張が解れたのか、暑さにやられたのか、 ニッ怪はその場にバタッと倒れた。

一方の夏来と炎条寺は スマホをいじり始める。

そんな中、幻花と仙座は 縁側から共有サンダルを履き、庭に出る。

庭と言っても結構な広さだった。

幻花) 「ほら、亀も居るし、鯉も、メダカも」

仙座) 「おっほぉ〜 可愛い〜♪」

どうやら日陰の所にある大きな池を見に行ったようだ。

炎条寺) 「あいつら、ほんっと元気だよなぁ」

夏来) 「だよね〜……行けっ! ブレイブヒィンタレス! ……よっ……しっ!勝った」

炎条寺) 「ぉお スゲェじゃん そこ勝てないんだよなぁ」

各自、やりたいことをやっている 今この瞬間、ニッ怪は悩んでいる。

何をしようか、と。

考えた末、

そうだ、村の探索でもしよう!

ニッ怪) 「我、少々、出てくるぞい」

と言い、立ち上がるニッ怪。

夏来と炎条寺は 「んー…」と言う。

玄関から外へと出て、なぜか家の裏手に回る。

家の後ろには小高い丘というか、山があった。

そこから伸びる小さな階段を登り始める。

 

左右に草木が生い茂っている階段を登り終わると、開けた空間に出た。

そう、ここは夏祭りが行われる会場だった。

まだ屋台などの準備はされていないようだ。

周りを見渡すニッ怪。

ニッ怪) 「ん…?」

すると、何かを発見した。

まだ奥に階段があるではないかっ…

吸い寄せられるようにニッ怪はその階段 目掛けて歩く。

ニッ怪) 「……な、何じゃこの違和感…」

ニッ怪はその階段の先から感じる違和感をとらえ、足が止まる。

ニッ怪) 「なにか…嫌な匂いがプンプンするぞぉi…!?」

いきなり後ろから肩を掴まれたニッ怪は身を翻す。

仙座) 「ど、どうしたの?w」

ニッ怪) 「な、なんじゃ…仙座殿かい…びっくりさせおって…」

仙座は状況が全く分からず、ただただ首を傾げる。

仙座) 「…ま、いいや、それより、叔母さん帰ってきたから戻ろ♪」

ニッ怪) 「うむ…というかどうして我がここに居ると?」

仙座) 「能力でニッ怪の場所まで瞬間移動するって唱えたの♪ さ、叔父さんたちの家まで送ってあげる 掴まって、」

手を差し出した仙座に軽く会釈をし、ニッ怪は手を取る。

仙座) 「叔父叔母の〜家まで移動〜安全に〜♪」

と言い、身体が光で包まれて、その場から消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???) 「神が持ちし能力を人間風情に持たされたか……これは取り返す必要があるな…」




始まりました、長野での田舎生活!!
初日から波乱の模様!?
最後の言葉は何を示すのか!

次回、城之内死す! デュエル スタンバイ!

すいませんw
次回もお楽しみに〜♪
投稿は10月後半から11月なかば位と思われます!
これからもよろっふー☆(((o(*゚▽゚*)o)))


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六夢 De : これから始める田舎生活 中編

時には人間が手に入れてはならない物も あるのかもしれない。

自分の欲しい物全てや、ましてや不老不死や……

人間離れした特殊能力もそうだろう。

 

 

 

裏山から帰ってきたニッ怪、仙座は家の中へと入り 和室(応接間)へ。

そこでは叔母と夏来たちが楽しそうに話している。

夏来) 「あっ、ニッ怪君 叔母さん、さっき話したニッ怪 滝君だよ」

叔母) 「あら、この子? 随分と男前な子だね〜」

炎条寺) 「んまっ、俺の方が男前だがな」

ニッ怪) 「なはは…」

皆んなが叔母と祭りやら、周辺の山々の景色やら会話に花を咲かせていると、突然 夏来がキョロキョロと辺りを見回す。

どうしたのか と聞くが、答えは曖昧な返事だった。

 

「「 神社に誘われるような感じ…」」

 

炎条寺) 「はぁ? なんだそりゃw」

夏来) 「うーん…」

少しして、叔母が祭りの準備に戻らなくてはならなくなり、夏来たちに 家を任せると言って出て言った。

叔母を見送った夏来たちは これから何をしようか、相談する。

相談の結果、川に行くことになったが 1つ問題が。

仙座) 「水着とかどうするの〜?」

そう、水着。

うっかり夏来が2人の水着を買うのを忘れていたのだ。

その証拠に夏来、炎条寺、幻花は水着を持って来ていた。

仙座) 「うー…」

ニッ怪) 「卑怯じゃ!信じられぬ!人間性を疑うぞい!」

夏来) 「ご…ごめん…だ、だからさ、今から買いに行こうよ」

村の少し外れた所に水遊専門店がある。

そこでこの村の人たちは釣り道具やらゴーグルやら、勿論 水着などを買っている。

それを把握していた夏来は2人に提案する。

2人はブツブツ言いながらも納得してくれたようだった。

善は急げと言うように、夏来たちは2人の水着を買う為、その店に足を運ぶ。

店内は至って普通な感じ。

男性店長) 「いらっしゃい〜」

この店は小店舗なので、店長が切り盛りしている。

水泳コーナーへ向かった夏来たちは、それぞれ2人のサイズにあう水着を手に取り、釣りもする事になっていたので ついでに餌などを買った。

男性店長) 「あぁ、そう言えば お客さん、最近 妙な噂がありましてね」

と、商品の受け渡しの際 店長が夏来たちに話を持ちかける。

夏来たちも耳を傾ける。

男性店長) 「特殊能力撲滅機動隊たる集団が日本各地を転々と回っているらしいですよ? 特殊能力とか俗に言う2次元の世界の話ですよねw ばかばかしいですわいw」

……!!

その言葉に5人は顔を青ざめた。

男性店長) 「どうしました?」

夏来) 「い、いえ……あ、さ、さようなら〜」

男性店長) 「あぃ! ありがとうございましたぁ〜」

その場の空気に耐えられそうになく、商品を手にし、店を飛び出した夏来たちは店の前で慌てふためく。

夏来) 「ど…どう言うこと!? なんでニッ怪君たちの事を!?」

炎条寺) 「し、知るかよ!」

ニッ怪) 「ぐぬ…我らの事が知られてしまったのかいの…」

幻花) 「だ…大丈夫よ! そんな奴らなんて ニッ怪たちの力でなんとかなるわ!」

仙座) 「ねぇねぇ〜…行かないのぉ〜? 川行きたぁいよぉ〜! うがー」

炎条寺) 「テメェは今この状況を考えやがれ! なに呑気に川なんて行こうとしてんだよ!」

この惨事にも関わらず呑気にしている仙座の肩を揺らしながら怒鳴り散らす。

仙座) 「ふっ…大丈夫だよ 千代ちゃんも言ってるじゃん」

仙座が自分の肩を揺らしている炎条寺の手を掴み下ろすと殺意に満ち溢れた笑顔で

仙座) 「全員ぶっ殺せばいいんでしょ?」

と言った。

その顔は犯罪者が罪を犯す前の前兆を表すような表情だった。

夏来たちは恐怖のあまり黙り込んでしまった。

そして同時に仙座に過去、どんな事があったのだろうか、と心の中で思った。

仙座) 「さっ! そん時はそん時! 今は盛大に楽しみましょー! って事だから、川へレッツゴー☆」

夏来たちは仙座の気迫に押されるがままに川へと歩み始めた。

 

 

仙座) 「うっひょー! いいねぇ いいねぇ〜 さいっこうだねぇ!」

川へ到着した夏来たちは水着に着替える為、男女に別れ距離を取る。

 

 

〜男性陣〜

炎条寺) 「まぁ…アレだな…確かにこのまま変な感情持ってても仕方ねぇしな」

夏来) 「だね、仙座さんの言う通りだよ それにいざとなったら…」

ニッ怪) 「な、なんじゃ夏来殿、こちらをチラチラと見おってぇ」

仙座の言葉が届いた様に 笑顔が戻っていた。

炎条寺) 「つーか、この作品書いてるやつ、少なくとも3人は川に行くって言ってんのに なんで事前に下に水着をつけてくれなかったんだ…」

 

 

〜女性陣〜

幻花) 「さっきはありがとね、私たち混乱しちゃっててさ… 」

仙座) 「だいじょーぶ♪ あんなこと言わないと黙らないかなって思ってw」

幻花) 「ふふw そうだね」

こちらもすっかり落ち着きを取り戻していた。

言葉は強力な力だね。

仙座) 「そんなことより、作者のわたっふりんは、なんでこんな所で私たちを着替えさせてるのか不思議…」

幻花) 「それね」

二組とも もうやめて! とっくにわたっふのライフはゼロよ!

 

 

夏来たちは着替えを済ませ 男子は泳ぎ始めた。

仙座) 「いやっはーい☆」バシャバシャ

幻花) 「わっ! やったね! それっ」 バシャ

仙座と幻花は水の掛け合いをしている。

ニッ怪) 「それにしても綺麗な川じゃ、川底までくっきりじゃ」

炎条寺) 「だな、すげーよな」

ニッ怪と炎条寺は水に浮かびながら川底を見ている。

仙座) 「あ、火タイプのポケモンが水に浸かって大丈夫なの!?」

炎条寺) 「うっせぇ!! バシャーモじゃねぇよ!」

ニッ怪・幻花) 「いけっ モンスターボール!」

炎条寺) 「やっ、ちょ バカ!石投げんな!!」

 

 

 

4人が川で騒いでいる頃、夏来は先に上がって少し上流の方で釣りをしていた。

この時期はアマゴ、アユ、ヤマメ、ワカサギなどが釣れる。

そして、7月から8月は気温が高くなりやすいので釣れにくいらしい。

だが、前前々日に雨が降ったので少し釣れやすくなっている模様。

夏来) 「アマゴは…濁ってないから無理かな…」

 

「「釣れるよ」」

 

突然 辺りに反響する声。

夏来) 「!? だ、誰」

夏来は持っていた竿を石場に落とし、辺りを見回す。

が、姿が見えない。

夏来は今のは聞き間違えだったのだと解釈し、また釣りを再開するために川の方に体を向ける。

???) 「バァ!」

夏来) 「うぅぉわぁ!?」

前を向いた瞬間、目と鼻のすぐ先に人が居てビックリし尻餅をつく。

???) 「にしししw 大丈夫?」

歳は夏来たちより若そうで、髪はロングのストレートで白髪、背が小柄な少女が手を差し出す。

夏来) 「は…はぁ…は…へ?」

夏来は突然の事で脳処理が追いつかない様子だった。

痺れを切らしたのか、その少女は夏来の手を取り起き上がらせる。

???) 「あなた、もしかして皇 夏来君だったりして?」

夏来) 「な、なんで僕の名前を……怪しい…」

???) 「ぁぁうー! 別に怪しいものじゃありません!いたって普通の人間ですぅ」

首を横に、手を振り、違いますよって事を体全体で表している。

炎条寺) 「おいっ! 夏来!大丈夫かっ!? 叫び声が聞こえたがっ!」

そこに川で騒いでいた4人が駆けつける。

夏来) 「い、いや…この人が…」

夏来は4人の方を見て少女を指差す。

仙座) 「なに言ってるの?? 誰もいないよー?」

その言葉に夏来は少女の方を見る。

が、そこには誰もいなかった。

炎条寺) 「まったく…夢でも見てたのかよぉ 心配させやがって… 行こうぜ」

4人は夏来がうたた寝して変な夢を見たと言う解釈でその場を去って行った。

夏来) 「なんだったんだ…さっきのは…」

 

 

あれから時間が過ぎ、夏来たちは帰る準備をする。

幻花) 「んで、釣り具合はどうだった?」

夏来) 「はは…なーんにも」

今の夏来には あの少女の事で頭が一杯だった。

突如現れ、突如姿を消す。

本当に夢でも見てたのかもしれない……

もしかしたら…なんらかの能力者…

炎条寺) 「おいっ! 聞いてんのか!夏来」

その言葉に我に帰る夏来。

ニッ怪) 「先程からボーッとしてどうしたんじゃ…?」

夏来) 「はは…なんでもないよ…で、どうしたの?」

炎条寺) 「準備済ませたから帰るぞって言ったんだ」

そう言った4人の手には水着やら何やら入ったバッグが下げられていた。

夏来も急いで後始末をして準備を終え、みんなで叔父、叔母の家へ。

 

 

話しながら帰る途中、前方から来た黒服に白い文字で「正義」と書かれている男女3人組に声をかけられた。

外国人らしき顔立ちだった。

ニッ怪) 「フラグ回収乙じゃ」

黒服1) 「済まないがぁ…ここらで能力者を見たってゆー情報は入ってねーかね?」

帽子を深々とかぶりながらゆっくりと話す。

夏来たち) 「!?(こ、こいつら…! な、なんでドンピシャにここをっ!)」

黒服2) 「ぎゃがははは 入ってたら村中大騒ぎですぞ!!まぁ、能力者もバカじゃねぇっすわ!素性を隠してるっすよ!」

一方、こちらは浅く被り、狂ったように高笑いをしている。

黒服3) 「(……コイツ(ニッ怪)…怪しい…」

こちらの女性は下を向きながら黙り込んだままだった。

いずれも成人ぐらいだろうか、まだ若そうだ。

夏来) 「いやぁ…話は聞いてますが…ねぇ?」

炎条寺) 「お、おう…そんな奴は知らないっすね 第一、能力者とか2次元とかなw はは」

今はこの状況を突破するのが一番。

まぁ、今ここで捕まったら尺がアレなんで、捕まりませんが。

夏来たちの発言を聞いて黒服1はお礼の言葉と3人分の名刺を渡してきた。

夏来) 「機動隊 隊長 ゾルバース・ヴェルデさん、機動隊 副隊長 ウィルフッド・ガイアさん…、機動隊 副隊長 マリエラ・バレストリさん…」

ゾルバース) 「はは そうですねぇ 2次元ですよねぇ ですがねぇ 一応と言うことでぇ そのような報告が入ったらぁ こちらに電話なりしてくだせぇや」

機動隊の隊長 ゾルバースと言う者が去り際に大きな声で夏来たちに呼び掛ける。

夏来、炎条寺、幻花の横を通り過ぎ、ニッ怪と仙座の横を通り掛かった直後、小さな声で

 

 

「「 ま、もう見つけましたが 」」

 

 

と言って去って行った。

しばらくの間、夏来たちは あまりにも突然の事で身動きが出来なかった。

ニッ怪たちが此処にいることがバレてしまった。

だが、なぜ此処にいると分かったのか?

スカウターでも付けているのか…はたまた場所を特定できる何らかの能力者…

それは夏来たちには分からない。

だが、一つだけ分かったことがある。

夏来) 「戦おう…逃げてちゃダメだ…いずれ襲いに来るなら コッチから仕掛けなきゃ!」

炎条寺) 「不意打ち作戦ってわけか…確かに、俺らが逆に襲いにかかるなんて思ってもいないだろうな」

幻花) 「でも…ニッ怪たちは ともかく…私らは力になれないわ…だって普通の一般人よ?」

仙座) 「それなら心配ご無用!私たちであいつら全員殺れるから♪」

夏来たちはゾッとする。

たまに仙座は殺すだの何だの怖い表現をするから恐ろしい。

この自信はやはり能力からか…

まぁ…何にしろ、決戦の日はすぐそこまで来ているようだ。

 

 

「「 厄介なのに関わっちゃったね〜」」

 

 

突如、川で聞いたあの声が夏来たちに聞こえて来る。

夏来以外は初めて聞く声で 最初の夏来同様、辺りを見回す。

夏来) 「厄介なのに…って 君も僕らが能力者を匿っているのを知っていたの?」

???) 「とーっくに〜」

幻花) 「な、夏来、なに? この声知ってるの?」

幻花が夏来の方に振り向いた その時、夏来と幻花の間に1人の少女が座っていた。

幻花) 「ひっ! で、出た!!」

幻花は勢い良く後ろに転んで、ニッ怪にぶつかり地面に倒れた。

下敷きになったニッ怪は一瞬白目を向かせた。

???) 「ひ、酷いなぁ…人をお化けみたいな言い表し方してぇ…」

夏来) 「う、うわ…び、ビックリした…」

炎条寺) 「だ、誰だ! お、おま…お…お前は!」

炎条寺が冷や汗を流しながら人差し指を少女に向け、震えていた。

???) 「私はただの人間で、ぁ…名前言ったほうがいいよね…? 名前は大橋 享奈って言うの〜」

仙座) 「なんかその喋り方、私とキャラ被ってる〜」

ムスッとした顔で睨みつける仙座。

享奈と言った少女は 仙座になぜか知らないけど一応 謝った。

名前を言ってもらったのでと、夏来たちも自己紹介をする。

そして夏来は話を続ける。

夏来) 「それで…どうして僕らのことを…」

享奈) 「私の主様から貴方たちの事を教えてもらったの〜 色々とね」

その主様とは誰なのか、夏来たちには分からなかった。

でも、夏来たちをよく知ってる人物らしい。

その人物について聞き出そうとしたが、それ以上は聞き出せなかった。

 

 

その主様とやらも能力者だ、という事以外…

 

 

ニッ怪) 「ふむふむ…能力者は能力者を引きつけるとなぁ〜」

幻花) 「なに言ってんの…」

享奈) 「まぁ貴方たちは この先、主様と出会う運命だから、その時までね」

この先、なんらかの出会いをすると助言した享奈。

特殊能力撲滅機動隊に、不思議な少女 享奈とその主、そして我らが夏来たち。

一体、この三組に何が起ころうとしているのだろうか。




次回! 遂に明かされる 闇籠神社の声の主! そして夏来たちとの争い! 機動隊はどう動いて来るのか!?
享奈) 「次回もお楽しみに〜」


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七夢 De : これから始める田舎生活 後編 Part1

神は人間を好んでいるのか、それは神のみぞ知る。

人間の我らには知らなければ良い物も沢山あるだろう。

 

 

 

 

 

能力者…その言葉を何度耳にしたことか。

この二人以外にもニッ怪からの情報によれば、まだまだ能力者は居ると言う。

幻花) 「享奈の主さん? 的な人も能力者ってことは…さっきの人達と敵対することになるわよね…じゃあさ、私たちと手を組まない? そうすれば怖いものなしよ!」

幻花の言っている事は確かに良いアイデアかもしれない…が、享奈は断った。

享奈の主が誰とも手を組まない系男子らしい。

2組が力を合わせれば勝てるだろうという考えは無しにしたほうがよさそうだった。

享奈) 「…決戦の日は近いんでしょ?さっきの人達との」

そう、いつ仕掛けてくるかわからない。早めに先手を打たねばならない。

だが、勘付かれては無理がある。相手の隙を狙うしか方法はなさそうだ。

さらに、機動隊らが能力者だった場合、戦いの爪痕が残るかもしれない。

場所も考えなくてはならない。

絶対にこの村の人達に危害を加えてはならない!

夏来) 「神社手前の広い敷地なら戦えるはず…!」

そこは来週の月曜日、闇籠神社の敷地で行われる祭りの会場として使われる場所だ。

まだ屋台などは準備されてなく、決戦の舞台としてはなかなか良い場所となっていた。

しかし、それまでに機動隊らが襲いに来てくれるか、はたまたこちらが機動隊らの場所を特定できるか、それが鍵になる。

炎条寺) 「ついに本格的になって来たな この小説も」

そう、これで全てが決まる。夏来たちが勝てば平和が、ゾルバースたちが勝てば機動隊の平和が約束される。

この戦いは負けられない!

HA☆HA☆HA 見ろぉ!こいつらが海賊(夏来側)と海軍(機動隊)的な立ち位置のようだぁ! HA〜HAHA!

 

 

かくして、決戦の日に備えて叔父らの家に帰った夏来たちは、居間で作戦会議を始める。

享奈はというと、こちらに来る途中まで一緒だったが、主様のとこに帰るね!と言い残し帰ってしまった。

 

ニッ怪) 「それで…どうすれば良いのじゃ」

その問いに夏来は、2人の能力を確かめると切り出した。

ここでサラッと振り返ろう。

 

ニッ怪の能力は「生命を操る能力」

他の生物の生体エネルギーを奪ったり、逆に与えて強化させることも可能。

つまり、セ○の応用バージョンと言う訳ね!

ですが、生命を操る訳なので、相手の命そのものを奪う事が出来るんじゃないの? と言う質問が画面の向こう側から少々聞こえて来ましたが…この能力は「生き物から生きるに必要な生命を全て奪う事は出来ない、奪った生体エネルギーは自身に使う事は出来ず、与えることしかできない。又、与える量も元の力の50%まで」と言う、まぁまぁ…使いづらいなと感じてしまう能力である。

 

能力は進化する事が出来るが、ニッ怪はまだ進化1段階目なので弱い分類に入ることになるだろう。

さらに、能力には「覚醒」と言うものもあり、覚醒した進化段階時点の能力の効果を何倍にも膨れあがらせる事が出来るとのこと。

界○拳みたいな。

 

次に仙座の能力は「俳句を操る能力」

俳句、すなわち 575 で言った事が実際に起きてしまう能力。

さらに、俳句と言えば、季語を入れなくてはならないが、入れなくても良いように作者が書いている。

難しいし…

これだけ見れば、これこそチート級の強さを持っているなと感じてしまう。

実際に読者の皆様も仙座の余裕っぷりな言葉を目にしたと思われる。

だが、この能力もニッ怪同様、欠点がある。

それが、「半径5メートル以内でしか能力の効果を発揮出来ない」

と言うものだった。

つまり、仙座が敵に接近、又は相手が仙座に接近しなければただの人間と変わらないと言う事だ。

半径5メートルなので難しいわけでは無いが…長距離からの攻撃は防御するのも一苦労だろう。

が、仙座にはテレポートも可能なので、そこは高評価になる点だろう。

さらに、仙座の能力は進化3段階目になっていた。

九州の方で人を助けていた時に2段階目に進化をし、夏来たちとの生活の中で3段階目に進化を遂げた。

1段階目ではテレポートは出来なく、能力発動範囲は半径5メートルではなく、半径2メートルだった。

しかし、今ではテレポートは勿論、俳句とは別に「花札」をも操る能力を手に入れていた。

 

炎条寺) 「こう考えてみるとニッ怪の能力で相手の生体エネルギーを限界まで奪って、相手が動けなくなったとこを仙座が接近し、能力で潰す って言ったとこだな」

案外、早く作戦が出来て尺余りを心配した夏来たちは、どうにか他の案は無いのか、必死に考えたが思いつかなかった。

もう直ぐ6時だ…

川にいた時間が長かったのか…享奈たちとのやり取りが長かったのか…

叔母) 「ただいま〜」

6時の鐘とともに玄関から叔母がビニール袋を持って入ってくる。

なんだろうかと思いながら見ていると、叔母がこちらに向かってくる。

ビニール袋をテーブルに置き、中から何かのパックを人数分取り出した。

焼きそばだった。

話によれば、たこ焼きの準備をしていると、隣の焼きそば屋を務めている人から貰ったらしい。

夏来たちの事を話してたからだろうか…

どちらにしても良い結果だ。

仙座) 「イヒーヒヒw 焼きそばぁ!」

先ほどまでの緊張感が途切れる。

ニッ怪) 「こ、これは…初めてみるの…麺かい…?匂いがとても良いの」

炎条寺) 「ぉお!焼きそばじゃん!」

幻花) 「あぁ……やきそばぁ…」

夏来) 「わぁ…やったぁ…!」

それぞれの反応に叔母は微笑む。

みんなは御礼をし、焼きそばを食べ始める。

食べ始めたのを確認し、叔母は叔父と夕飯を食べる為、別室に行く。

ここは子供達だけで楽しませてあげたいと言う叔母の想いからだろう。

炎条寺) 「そういやぁ…モグモグ…享奈の主ってやつは…大丈夫なのかよ…モグモグ」

幻花) 「口の中のもの飲み込んでから話しな…もぅ…」

享奈らも機動隊に狙われているのは確かだろう。

享奈は能力者では無い可能性はあるが、100%とは言えない。

そんな事を考えながら時間は過ぎて行った。

夕飯を終えた夏来たちは別室にいる叔母に「ごちそうさまでした」と言い、部屋に戻る。

壁にかけられた時計を見ると午後6時半をまわっていた。

ニッ怪) 「はぁ…月が綺麗じゃ…」

仙座) 「だねぇ〜♪」

ニッ怪、仙座、幻花らが部屋を直ぐ出た先の縁側に座り、夏来と炎条寺は部屋の中でトランプで遊んでいた。

夏来) 「くっ…どれだ…どれがババなんだぁ…」

炎条寺) 「ふっ…貴様、見ているな!」

幻花) 「あんたら…こんなピリピリした状況で良くもまぁ…」

2人の何気ないやり取りに幻花が口を挟む。

確かにこんな状況下、明日襲われるかもしれないのに呑気にトランプなんかしていると思うと馬鹿らしい。

炎条寺) 「今を楽しむ!それの何が悪いんだ!」

幻花は溜息をつき、それ以上言わなかった。

夏来と炎条寺のババ抜きは直ぐに決着が着いた。

夏来の勝利。

炎条寺) 「も、もう一回だ…勝つまでやる……テメェは俺に…本気を出させた 後悔するがいいっ!!」

そう言うと、炎条寺はカードを集めてシャッフルをし始めた。

夏来) 「はは…あ、ちーちゃん達も一緒にやろうよ! ババ抜き」

断る理由はない為、暇から脱出する為、幻花らは誘いを受け、部屋に戻る。

 

 

 

 

その頃ー

闇籠神社の敷地内ではしゃぐ1人の少女、享奈。

そう 享奈と、享奈の主は闇籠神社に住んでいる。

享奈) 「それでね〜? あいつら、やっぱり能力者だったよ 早く仕留めないとね!」

誰もいない空間に喋りかける享奈。

???) 「ぁぁ…わかっている…」

声が辺りに反響し、享奈の耳に入ってくる。

???) 「奴らは…人間の能力者は排除せねばならんからな…」

暗く、重たい声に享奈はニコリと笑う。

???) 「さぁ…始めるぞ」

享奈) 「りょーかい!」

 

 

 

 

 

ババ抜きやらスマホやら、歯磨きも忘れずに!と、楽しいひと時を満喫した夏来たちは順番に御風呂に入り、部屋に戻ってくる。

そして同時に戻ってきた人から お布団の上にダイブし、寝て行く。

よほど精神を使ったようだ。

直ぐにグッスリと眠ってしまった。

最後に部屋へ足を踏み入れた夏来はその光景に笑う。

だが、そろそろ自分も寝倒れそうになることに気づき、意識が薄れて行く中、トイレへ向かい 用をたす。

再度戻ってきた夏来は日記を付けようと、バッグから取り出す。

ちょうど月明かりがいい感じなのを見計らって夏来は縁側に座り、書き始める。

 

___________________________________

7月 29日

今日から長野の叔父さん、叔母さんの家に泊まります!

今年は2人も追加したから叔父さんたちもビックリしてました。

8月1日は祭りがあるので楽しみ!

 

だけど、ニッ怪君たちを狙ってる人達がい──

__________________________________

 

 

突然、ドスッという重たい音の後に意識が無くなった夏来。

その手からシャーペンが転がり落ち、廊下にその音が響く。

軽くお姫様抱っこのような形で誰かが夏来を持ち上げると、そのまま夜の空へと飛んで行く感覚に襲われた………

 

 

 

 

次の日ー

朝7時に起きた皆んなは、夏来が居ない事に気付いた。

初めは、もう先に朝食を取っているのかと思い、居間へと向かったが姿はなく、色んな場所を見て回ったがやはり居なかった。

別室で朝食を作って居た叔母に夏来が何処にいるか聞いたが、知らないと言う。

次に外を散歩している、と思ったが玄関の鍵は開いておらず、夏来の靴もちゃんとあった。

炎条寺) 「ど…どうなってんだよ…」

ニッ怪) 「何者かに襲われたと言う可能性は考えられないかの…」

襲われたとなると、やはり機動隊の奴らが夏来をさらったと考えるのが妥当だろう。

だが…なぜ夏来を…

叔母) 「ご飯できたよ〜、顔洗って食べなさい〜」

いずれにせよ、今日が決着を付ける時だと言うのは間違い無さそうだ。

顔を洗い、朝食を食べ、着替えをし、戦闘の準備は整った。

幻花) 「機動隊…夏来を人質に取るなんて…!」

仙座) 「やろー!ぶっころしてやらー!」

それぞれの決意が固まったのを確認し、仙座の肩に手を置く。

テレポートで夏来の場所へ移動するためだ。

仙座がOKサインを出すと、4人の体が光に包まれ、その場から消えるー……

 

 

 

 

ーーたどり着いた場所はーー

 

 

 

「闇籠神社」

 

 

 

幻花) 「え、ここは…」

周りを木で囲まれて居て、そのせいか少し暗く肌寒い。

そんなことは気にせず、夏来を探すニッ怪たち。

すると神社の本殿の扉がゆっくりと横へスライドし、中から人が出てくる。

炎条寺) 「お…お前は!」

享奈) 「御機嫌よう、みなさん」

黒服の巫女姿の享奈だった。

前に会った時とは何か違う。

享奈から出てくる不吉なオーラが感じられた。

享奈は地面に降り、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

ニッ怪) 「夏来殿を何処へ!! お主、機動隊の一味であるか!」

享奈) 「仲間じゃないわよ 奴らも全員、抹殺対象だし 夏来なら本殿の中で寝て…」

享奈が言い終わる前に仙座が殴りにかかる。

見事顔面に当たったがケロっとしていた。

享奈) 「あらあら…人が言い終わるまで待てないのかなぁ!」

次の瞬間、仙座の腕を掴み、地面へと叩きつける。

とても夏来たちより若い女子の力ではなかった。

叩きつけられた衝撃で仙座は肺を強く打ち、呼吸が苦しく荒くなる。

享奈) 「次は貴方がこうなるの、ニッ怪 滝」

人差し指でニッ怪に指をさし、歪んだ微笑みを浮べた。

ニッ怪) 「なぜこのような!」

享奈) 「……私はねぇ…私らはねぇ! 人間のくせに能力に目覚めて調子に乗ってる奴が大っ嫌いなの! さらにそれを許すお前ら人間の甘さ! 愚かっ!惨めっ!怠惰!! 人間のくせに…人間のくせにぃぃぃい!!!」

享奈の歪んだ心か、はたまた怨みの念か、 享奈の背中からは黒いモヤが出ていて、目が赤黒くなっていた。

その光景に呆然と立ち尽くしていると、享奈に気づかれないように背後から仙座が胸を抑えながら立ち上がり、勢いよく体当たりし、前に押し倒した。

ニッ怪に気を取られていた享奈は突然の事にパニックに陥った。

叫びまくり、暴れまくるが、ここぞと言わんばかりにニッ怪が能力を発動。

享奈は徐々に抵抗する力を奪われてゆく。

ほぼ動かなくなったのを見て仙座が享奈から離れ、一呼吸。

ニッ怪も冷や汗を拭いた。

炎条寺) 「おい…!ニッ怪たち、人間の能力者が何をした…!」

炎条寺は動かなくなった享奈の胸ぐらを掴み上げ、怒りの目で問いかける。

享奈) 「人間は…能力を持った人間は…その力を利用し…私の主、悟神様の心を踏みにじった!! 信じていたのに!裏切られた!親しくしてきたのに!悟神様の受けた屈辱、痛み…苦しみ、悲しみ!お前達も味わうがいい!!ハハ…ハハハ!」

炎条寺は胸ぐらを掴んでいた手を勢いよく離し、3人に享奈の主を探してこんな事は止めようと伝えようと切り出した。

その際に本殿にて眠っている夏来を救出に向かった。

本殿に入ると中央に夏来が横たわっていた。

夏来に駆け寄る4人。

享奈も言っていた様にただ眠っているだけの様だった。

ニッ怪) 「夏来殿、夏来殿、」

夏来の体を揺さぶり起こそうとする。

起きそうにないので、ニッ怪は最終手段をとる。

 

───────────────

 

「なつ……の……な……どの」

だれ…だれかの声が聞こえる。

ニッ怪君…?

 

「「な…き!な…き!お願……おき…!」」

こっちは…誰の声…?

わかんないけど…なんだか…懐か…

次の瞬間、頭に痛みが走った。

 

───────────────

 

夏来) 「はっ!」

突然、頭を叩かれる衝撃に意識を取り戻した夏来が飛び起きる。

炎条寺) 「よぉ夏来、気分はどうだ」

夏来は状況がうまく掴めていなかった。

さっきまで叔父さんの家で日記を書いていたのに…

ここは神社…? なんでこんなとこに…?

ニッ怪) 「詳しい話は察しておくれ それより今は享奈殿の主殿を探さねば」

そう言うと、ニッ怪たちは神社を散策し始める。

そのあとを夏来は一応付いて行った。

享奈を見つけて騒ぐ夏来だったが、先ほどの話をニッ怪から聞き、納得したような表情を見せた。

 

それからしばらくの間、辺りを探し回ったが、それらしき人物を見つけるに至らなかった。

享奈) 「はは…人間は……滅ぶべきだぁ…」

神社の鳥居の前まで来た夏来達は、相変わらず地面に横たわりながら悪態をついて来る享奈を見つける。

炎条寺) 「享奈、悟神だっけ? が現れたらメールでも送れ! これ俺のメアドだから」

幻花) 「なんで今もってんのよ」

享奈に向けて投げられた紙をキャッチした享奈は、それをビリビリに破く。

炎条寺) 「ぁあ!て、テメェ!可愛い顔してるからって何でも許されると思ってんじゃねぇぞ!!」

今にも殴りかかりそうな炎条寺をニッ怪と夏来が必死に止める。

享奈) 「その必要はない…っ もう来てるからね…!」

享奈が仰向けになり、天に向かって手を伸ばす。

すると、それまで晴れていた空が段々と雲行きが怪しくなって来る。

カラスが鳴き、草木が騒ぎ始めた。

夏来) 「な、なな!なに!?」

次の瞬間、夏来たちは目撃する。

空に掛かった雲が割れ、光の柱が闇籠神社を照らす。

そして、その光が一点に集中し、人の形になって行くのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

悟神) 「愚かな人間の能力者よ…裁きの時だ…」



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八夢 De : これから始める田舎生活 後編 Part2

人間は神が創りし物であり、神のために尽くす存在。

のはずだった…

人間は神を良くは思っていなく、下に敷かれることを酷く嫌っていた。

それ故に人間は自由を求めるため、神々に対し反乱を起こしたー……

 

 

 

 

光が消えたのと同時に、神社の屋根の上に人が立っていた。

夏来たちを見下ろす その眼は、怒りに満ち溢れている様だった。

享奈が不敵な微笑みを見せる。

まるで、勝利を確信した様な感じに…

炎条寺) 「て…テメェか…享奈の主の悟神って奴は…! こんな事はやめろ! 万が一、一般市民に被害が及んだらどうする‼︎」

意を決して炎条寺が、一歩前に出て、喉が枯れるくらい大きな声で叫ぶ。

悟神) 「それが何だと言うのだ いずれは貴様らの味方をする者どもだ 排除せねばなら…」

と、悟神が言い終わる前に、仙座が仕掛ける。

テレポートで悟神の後ろを取った。

悟神) 「貴様は話も聞けぬのか」

はずだったが…まるで出現場所が分かっていたかのように、後ろを振り向いたかと思うと、左足回し蹴りが仙座の右横腹に入る。

そのまま、仙座は足掻くこともできず、木々にぶつかりながら、屋台が開かれる広場に蹴り飛ばされる。

なんとか地面に背中をぶつけないように体勢を立て直した仙座だったが、勢い良く木にぶつかった事で肋骨、手足の骨が粉砕骨折、堪らず倒れる。

そこに神社から走ってくる夏来たち。

駆け寄り、仙座の身体をニッ怪の治癒能力で回復させる。

仙座) 「先を読まれた感じだったよ…っ…」

夏来たちは空を見上げる。

そこには先ほどと変わらずに悟神が浮いており、両手で享奈を抱かえていた。

ゆっくり地に降りて来たかと思うと、享奈をソッと寝かせ、手を掲げる。

すると、ニッ怪の回復効果と同様、享奈がケロっとした顔立ちで、ヨロヨロと立ち上がる。

享奈) 「……許さない…たかが人間がぁっ!!」

悟神1人相手でも勝てるかわからないこの状況下、仙座をひと殴りで仕留めた享奈も加わってしまった。

ニッ怪) 「夏来殿らは下がっておれ! 何れにせよ我らが立ち向かわねば成らぬ!!」

悟神) 「ほぉ…威勢が良いな…」

夏来達が後退した直後に戦いの火蓋は切られた。

 

若干、ニッ怪らの出だしが遅れたか、2人は一挙に距離を詰められる。

ニッ怪はバックステップを踏んだが、悟神に髪を掴まれ、地面に叩きつけられる。

と同時に手をつき、右足で悟神の腹を蹴り上げる。

が、左手で止められ、髪を掴んでいた右手を離し、ニッ怪の腹に当てる。

悟神) 「闇の極 ブラッディーアイズ」

その言葉の後、夏来たちは自分の眼を疑う。

それはニッ怪の身体を内部から上下に引き裂く。

まるで眼を開けた時の瞼の動き。

腹を区切りに2つに別れたニッ怪の身体は、血の螺旋を描きながら地へ落ちる。

仙座) 「ニッ…怪……っ!!」

仙座がテレポートで悟神の死角に回る。

仙座) 「一撃で…瀕死状態…なりまっ…」

俳句の攻撃を仕掛けようとした時に、横から享奈が殴りをかます。

それを右手で受け止める仙座。

享奈が驚いたのもつかの間、次の瞬間、右手から炎が出てくる。

仙座) 「邪魔…するな…」

その顔に光は無く、ただ殺意だけが込められていた。

夏来) 「仙座さん…ニッ怪君のことを…」

炎条寺) 「ぁ…あれ…なんだ!?」

炎条寺が指差した方向を夏来たち、悟神が見る。

仙座の背中からは鳳凰が現れていた。

仙座) 「花札 桐に鳳凰」

瞬く間に炎に包まれた享奈は叫び声と共に、鳳凰に取り込まれ、空高く打ち上げられた。

悟神) 「これは…」

少しして、鳳凰の燃え盛る炎の羽と共に落ちて来た享奈は、悟神にキャッチされ、神社へと続く階段に座らされる。

後は悟神に託したのか、そのまま眠りについた。

戻って来た悟神に対し、仙座はテレポートで背後へ回り、俳句の能力でトドメをー……

 

 

 

 

 

 

させなかった。

 

悟神) 「鎖の極 チェーンロック」

 

その言葉と共に、地面から鎖が8本出て来て、仙座の首、腕、胴、足に2本ずつ巻きつく。

幻花) 「ち…ちょっと…やばいんじゃない!?」

身動きが取れない仙座の前に立ち、腹を何発も殴る。

悟神) 「痛いか? 苦しいか? 人間… だが、我が受けた痛み、苦しみ、悲しみ…これでは表せられぬぞ……!!」

殴る強さが増す度、仙座の血反吐は多くなっていく。

殴られ続け、仙座は遂に意識が無くなる。

ダラっと垂れ下がった頭、手足には、もう生きていると言う感覚が失われている様だった。

悟神) 「…今、楽にしてやろう人間… 能力者として生きて来た、この人生を恨むがいい」

悟神が、ニッ怪にした事と同様に、仙座の腹に手を置く。

 

 

 

 

そっと…優しく…あの世へと誘う、この冷たい手。

仙座は足掻く事をやめ、死を覚悟したー………

 

 

 

 

 

 

 

 

「「諦めんじゃねぇ!!!」」

 

 

 

 

 

 

その時、何処からともなく、強く…暖かい声が響いて来た。

それと同時に、右から悟神の顔が歪み、数メートル先に殴り飛ばされる。

すると、巻かれていた鎖が解け、その場に倒れこむ仙座。

仙座) 「や…やる…じゃん……」

そう、仙座がそこで見たものは、悟神を鋭い目で睨みつけ、荒い呼吸を繰り返す炎条寺と、その後を追って来た夏来の姿だった。

炎条寺) 「当たり前だ! お前らが戦って…俺らが何もしないわけには…いかねぇ!」

夏来) 「僕たちも…戦うよ!無力だけど…それでも役に立ちたい! 皆んなを守りたい!」

夏来と炎条寺の瞳には、迷いは無く、果てしない、正義の力が溢れていた。

もう怯えない、負けたくない、そんな感情が伝わってくる。

そして、少し遅れてやって来た幻花が仙座の手を自分の肩に回し、なんとか起き上がらせる。

悟神) 「ぐぐ…っ…に…人間がぁぁ…人間風情がぁぁぁあ!!!」

素早く立ち上がり、上空に飛び立ったかと思うと、手を横に突き出す。

すると、悟神の背中に名前に反し、灰色の光輪が現れる。

と、同時に空にかかっていた雲が晴れ、その中から赤黒い空が顔を出す。

幻花) 「な…なんなの…これ…」

仙座) 「本気…出して来たみたいだね…っ…!」

その光景に唖然と立ち尽くしていると、さらに悟神の周りに魔法陣の様な物が、10数個召喚される。

悟神) 「我に…勝てると思うな…!」

身構える4人。

このままでは確実に殺されると知りながらも、戦闘態勢に持ち込む。

そう、「このまま」では…

 

悟神が右手を素早く上げると、周りの魔法陣が光り出す。

悟神) 「滅びるがいい…! 連撃神光貫(れんげきしんこうがん)!!」

魔法陣から光のビームが一斉に夏来たちに向かって放たれる。

仙座が無駄だと分かりながらも、バリアを張る。

 

 

 

 

その瞬間、黒羽の生えた黒い影が夏来たちの背後から飛んでいき、悟神との間合いに入ったかと思うと、黒刀らしきもので光線を縦に真っ二つに切る。

そして夏来たちの方を見下ろす影は、爆発の光に照らされ、その顔が映し出される。

 

 

 

 

 

仙座) 「なんで…ニッ怪…死んだはずじゃ…」

ニッ怪) 「我の能力は生命を操る能力、あの程度の攻撃では再生することが可能じゃ!」

ニコッと笑ったニッ怪に、仙座は涙を流す。

ただただ…嬉しかった。

生きていて良かったと…

 

悟神) 「そ…そんな…なぜ…人間が…人間風情が…こんな…こんな…!我の能力…悟りの能力は最強のはず…」

力が抜けたかの様に、地上へと降りて来る悟神。

仙座の身体を回復させ、少し離れ、夏来たちは再び身構える。

夏来) 「悟りの能力なら…心を読み取れない様にすればいいだけ…!」

炎条寺) 「ああ…その通りだ! 行くぞっ!」

炎条寺の言葉が合図で一斉に走り出す。

悟神は動かず、ただ、じっ…と立ち尽くしていた。

今がチャンスだと言わんばかりに、攻撃を仕掛けようと数メートルまで来た瞬間、悟神の足元から黒いオーラが出て来て、全身を覆う。

急な変化に夏来たちは止まり、少し後ろに下がる。

悟神) 「許さんぞ……これほどまでに我を踏みにじったのは貴様らが2回目だ…」

悟神の周りの黒いオーラが身体に取り込まれると、服が黒一色、灰色の光輪が黒く変色し、白目が赤くなる。

あまりの変化に夏来たちが固まっていると、悟神の姿が一瞬にして消え、次の瞬間、夏来たちは吹き飛ばされる。

というべきか…殴り飛ばされる感覚。

夏来、炎条寺、幻花ら3人は吹き飛ばされ(殴り飛ばされ)た勢いで腹が、地面に激突した衝撃で脚がやられた。

しばらくの間は動けない位のダメージを受け、地に横たわる。

一方のニッ怪、仙座は動けるがかなりのダメージを受けていた。

よろよろと立ち上がると前方に悟神がケラケラと狂った様に笑っていた。

その笑い声は、闇のオーラに完全に支配されている様にも思えた。

ニッ怪) 「ぐっ……これは少々…無理が…」

仙座) 「それでも…今…此奴をやれるのは私ら…だけなんだからぁっ…!」

最後の力を振り絞り、悟神に向かって行く2人。

悟神は再度、魔法陣を出すと、右手をゆっくりと上げ、

悟神) 「……くたばれ、人間よ」

攻撃を放つ。

それは光線ではなく、光の小さな球の様な物だった。

無数の光の球が次から次へと、防御の構えをしなくなったニッ怪と仙座の身体を蝕んでいく。

そして、仙座がついに倒れる。

ニッ怪) 「仙座殿っ……!」

悟神) 「アームソード リザベクション」

悟神は、休むことなく、自らの右腕を闇のオーラが掛かった刀に変え、ニッ怪を攻撃する。

ニッ怪) 「こっ…黒青刀 毘沙門天!!」

慌てて刀を召喚したニッ怪は悟神の攻撃を防くが、反撃する隙を与えない悟神にニッ怪は押されていく一方。

挙げ句の果てには、ニッ怪の刀が弾かれ、悟神の攻撃が腹を貫く。

腹から抜かれると、強烈な回し蹴りがニッ怪を襲う。

地面に叩きつけられ、ニッ怪も遂に動けなくなった。

 

 



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九夢 終戦と悲しみの形

悟神) 「さぁ、仕上げと行こうか」

悟神が地上へ強烈な一撃とも言える攻撃を仕掛けようと、上空に飛び立とうとした その時、

夏来) 「まだっ…終わってない…!」

打ち所が良かったのか、夏来が手を地につきながら起き上がる。

そんな夏来の姿が目障りだったのだろう。

悟神は一瞬で夏来の頭上に移動し、首を掴んで、地面に叩きつける。

悟神) 「貴様らは何故、痛みに恐怖を感じようとしない? 目を覚ませ」

悟神の左手が、夏来の横腹を力強く握りしめる。

夏来が悲痛な叫び声をあげる。

悟神) 「そうだ…それでいい、貴様が今感じている、その感情こそが恐怖だ」

首を掴んだまま、グイッと持ち上げる。

夏来の苦しそうな眼が悟神を奮い立たせる。

悟神) 「恐怖を受け入れろ、どうせ貴様には何も出来ぬ 貴様らのやろうとしていた事全ては、我には通用しなかった……今や身体も満足に動かすことも出来ない 貴様に我を倒す術は…もう何もない」

顔を近づけて、ニンマリと笑う。

夏来) 「もう….なにも…」

悟神) 「そうだ、何もないのだ」

 

 

夏来) 「………清々した…」

夏来が悟神の手を掴むと出せるだけの力を入れた。

とっさに首を掴んでいた手を離し、夏来の手も振りほどき、距離を取る悟神。

悟神) 「せ……清々…せ、清々? 清々…」

夏来の言葉の意味が分からず、頭を掻きむしりながら同じ言葉を何度も繰り返す。

夏来) 「神様も人間も、皆んな生きてる、誰かのために生き続けてる! それが生を宿した者としての務めだから…」

悟神にやられた腹の部分を抑えながら、苦しながらも心の底から訴える。

悟神) 「お前……バカか…?」

炎条寺) 「バカはどっちだクソ野郎…!」

横たわりながら叫ぶ炎条寺へ振り向く。

炎条寺) 「そいつは…っ…俺みたいな才能はねぇが…心にすげぇもん持ってる…!」

ニッ怪) 「夏来殿の強さとは…特殊な能力などではない…」

幻花・仙座) 「そうだよ…夏来には恐怖と戦う…」

 

 

 

 

「「「勇気があるっ!!」」」

 

 

 

 

悟神) 「勇気…だと? なんだ…こいつら…何故そんな不確定な物に頼ろうとする………」

身を震わせている悟神を悲しそうな目で見つめる夏来。

悟神) 「止めろっ!そんな目で我を見るなっ! なんなんだ…貴様一体何者だっ!!」

夏来) 「僕は僕…それ以外の何者でもない…!」

夏来のその眼差しは、闇を切り裂く、光り輝く正義の眼をしていた。

悪を倒し、世界に平和を取り戻す、そんな意味が込められている様に感じる。

悟神) 「ぐぐ…っ…なんかイラつくぞ…あの人間共の眼差し以来だ……! もう良いっ!貴様ら全員消してやるっ! それ以外に方法は無いっ!」

両手を広げ、魔法陣を召喚する悟神。

夏来) 「僕は負けない…皆んなの為にも…世界の為にも…! みんなの勇気は貰った……あとは僕の勇気をぶつけるだけ」

悟神) 「勇気をぶつけるだぁ!?何がしたいんだ貴様はぁ!」

夏来) 「全部ひっくるめて…拳に乗せる!」

悟神) 「その細い腕で何が出来るというんだぁ!?どうせ痛くも痒くもないぃい!!全くもって何ともならん…!」

 

 

 

 

 

 

((………わからない…なぜ此奴に期待する…弱いくせに…何もないくせに…ただの人間のくせに………勇気って何だ………))

 

 

 

 

 

 

_人人人人人人人人人人人_

>ゔわぁぁぁぁぁあ!!!<

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

 

 

 

夏来) 「悟神…覚悟っ!」

甲高い叫び声を合図に夏来は駆け出す。

悟神) 「来るなぁぁぁぁあ!!!」

悟神が両手を地面に叩きつけたかと思うと、地面が揺れだし、悟神の足元を中心に段階的に盛り上がる。

足がふらつき、落ちそうになった時に、夏来の身体が光り輝く。

ニッ怪) 「夏来殿ーっ!我らの力を託したぞいっ!」

炎条寺・仙座・幻花) 「いっけぇぇぇえ!!」

体勢を立て直し、前方に居る悟神に向かって全速力で走る。

悟神が周りに召喚した魔法陣から光球と、光線を無数に夏来へ向かって放出する。

それを右左と避けていくが、肩や足やら、何発も当たり、血だらけになるが、それでも走ることをやめない。

悟神) 「我を倒した所で! 何が変わる!! どうせ、また新しい敵が現れてピンチに陥るぅう! 無駄なのだよ そんな事っ!!」

夏来) 「そんなことーー」

一瞬のうちに、攻撃の少ない場所から一気に悟神に迫る。

悟神) 「のぁああっ!?」

夏来) 「知るかぁぁぁあ!!!」

強烈な速さと重みのある右ストレートが、悟神の顔面に直撃する。

拳を左下へと流すと、悟神が一歩、二歩と後ろに下がる。

悟神) 「効かぬぞ…人間よ!! 貴様の様な弱い、何もない、ただの人間に、この我が負けるわけー」

 

 

 

 

ピシッ

 

 

 

 

何かが弾ける音が聞こえ、悟神の視界が割れる。

悟神) 「これは…なんなんだ…これが…勇気…なのか……?」

 

 

 

 

 

「「……分からないな…」」

 

 

 

 

薄れゆく意識の中で、悟神が目にしたものは、私欲の為に村を荒らしている「自身の姿」だった………

 

 

 

次の瞬間、激しい光と闇の爆発が起こり、2人の足場が崩れる。

爆発に巻き込まれた夏来は、そのまま落下していく。

地面に衝突しそうになる所を炎条寺が滑り込みでキャッチし、ゆっくりと降ろす。

その後、3人が駆けつけると、ニッ怪が、炎条寺たち4人を回復させた為、夏来の身体を回復するまでは時間が掛かるとの通告を受け、夏来はガッカリする。

悟神を倒したからか、赤黒い空が晴れ、眩しいほどの青い空が広がる。

炎条寺) 「んま、なにがともあれ、俺たちの勝利だ…!」

仙座) 「空が青いぞ〜こんちくしょ〜!」

ニッ怪) 「これで薄気味悪い世界から脱出じゃ!」

幻花) 「ありがとう…夏来 あんたが居なかったら…」

夏来) 「これは皆んなのおかげだよ! 僕からも…ありがとう!」

 

 

 

 

ガラッガラガラ…

 

 

 

平和が戻ったのも つかの間、突然の泥石を退ける様な音が聞こえ、その方向へ向く夏来たち。

だが…まさか現れたのが悟神だったとは思わなかっただろう。

炎条寺) 「な…なんでだよ…」

幻花) 「そんな…生きてる…傷ひとつ付いてない!」

再度、身構え戦闘体勢をとる。

が、その必要はなさそうだった。

 

 

悟神) 「………まさか…あの時裏切ったのは…我のせいだったとは…」

と、語る悟神の目には、悪の気配が感じられなかった。

悟神) 「皇…夏来……貴様は…我に、本当の事を教えてくれた…のか…」

夏来) 「え、え?」

突然の悟神の冷静さに夏来たちは戸惑う。

挙げ句の果てには、悟神から「すまなかった…」などと告げられ、もう意味がわからない状況。

 

 

悟神からの話によると、過去、刺激が欲しくて、とある村を私欲の為だけに全壊させたらしい。

もちろん、誰も住んでいない土地を。

悟神自身も隣村の人の許可を得ての事だったので、遠慮なくやっていたとの事。

しかし、その時に「条件がある」と言われたが、聞く耳を持たず、そのまま行ってしまった。

そして悟神が、その村へ着くや早々、魔法陣を召喚し、四方八方へ攻撃していると、隣村の能力者が襲いかかってきた。

なにがなんだか分からず、一応反撃し、その能力者がダメージを負い、帰ってしまった。

なにが起きたのか、すぐさま隣村へと戻ってきた悟神は村長に「こんな酷いことをするとは…見損なったぞ、早くこの村から出て行け!」と言われ、その村を追い出された。

これまで優しく接し、富を分け与えていたのに、なぜこんな仕打ちを受けなくてはならないのか、悟神は分からなかった。

そして、こんな事をした村の人々全てが憎く思えてきて、その村も破壊し、それで今に至ると。

結論を簡単に言うと、あの時「条件がある」と言われたのに、それを無視してしまった自分自身へ怒ってるとの事。

あの時、ちゃんと話を聞いていれば、こんな事にはならなかったのだと。

これを思い出せたのは、夏来のパンチが過去を振り返らせてくれたからと。

 

 

 

仙座) 「ふむふむ…勘違いだったんだ…」

ニッ怪) 「とんだ迷惑じゃ…」

夏来) 「全くです…」

幻花) 「私ら…戦う必要無かったかもね…そうだったら…」

炎条寺) 「マジかよ…ちゃんと確認しろよ」

各自から愚痴を淡々と言われる。

その発言を申し訳なさそうな顔で聞いている。

と、夏来たちの背後から誰かが走ってくる。

その足音に振り向いた直後、5人に向かって弾幕らしき物で攻撃をする、享奈。

それを綺麗に受け流す悟神。

享奈) 「さ、悟神様っ!?」

悟神) 「もう良いのだ、享奈 色々と…すまなかったな…」

状況がうまく掴めない享奈に夏来が、これまでのことを話す。

 

 

 

享奈) 「そんなことが…」

話を聞き終わる頃には、もう、悟神と享奈は夏来たちと普通に話していた。

まるで、先程までのことが全部嘘みたいに感じられた。

それからは、もうこんな事をしないとの約束を交わし、戦いで つけられた夏来の傷を悟神が治し、その間、残りの5人は戦いの爪痕、所々にあるクレーターや、へし折れた木々、盛り上がった大地を元に戻そうと復旧作業に励む。

 

 

 

悟神) 「完了だ…本当に申し訳ない」

夏来) 「いや、もう大丈夫ですよ ……でもなぁ〜……」

夏来の治療が完了し、ひと段落ついた事で、その場で先程の戦いについて振り返り話す。

久しぶりに体感する、この和やかな気分。

これから毎年、ここに来ても敵対する者は居ない。

もう、嘗ての悪神は居なくなったのだから。

夏来はクスクスと笑い、悟神も貰い笑いをする。

これからも、こんな日々を過ごしていければ………

 

 

 

 

 

 

 

「「それは実に、傲慢過ぎではないかぁ?」」

 

 

 

 

 

 

夏来の心に誰かが呼びかける。

何処かで聞いたことのある、なにか…嫌な声でー……

 

 

 

ズシャッ…!

 

 

 

と、鈍い音の後、夏来にもたれ掛かる悟神。

一体何が起こったのかと、悟神を起き上がらせると、右横腹に直径2センチ位の穴が開いていた。

その穴からは、ただ血がドボドボと落ちるだけで……悟神の足元には血が溜まっていた。

急いでニッ怪を呼ぼうとしたが、悟神に止められる。

悟神はニッ怪たちに心配をかけまいと思い、首を横に降る。

よく見ると、向こうの景色がみえる。

…身体を貫かれていた。

傷口に手を当て、悟神が背後の森を見つめる。

と、誰かがこちらにゆっくりと向かってくる。

そこに丁度、休憩を入れてきたニッ怪たちが来る。

夏来が震えているのを見て、ニッ怪たちは何かを感じる。

 

トスッ…

 

トスッ…

 

トスッ…トスッ…

 

森の中から姿を現した者は1人ではなかった。

 

 

 

ゾルバース) 「役者は揃ってるようだねぇ それぞれ疲れ果ててるようだけどぉ…これから死ぬから別に関係ねぇよなぁ〜?」

ウィルフッド) 「ヒャハハハッ!」

マリエラ) 「………」

 

あの時の3人だった。

どうやら夏来たちの後をつけ、戦いが始まる前に森に潜んで居たらしい。

一難去ってまた一難 と言うのは、まさにこのことだろう。

しかし、相手は3人。

1人に2人で戦えば普通に勝てる見込みがある。

 

 

そう、「3人」ならば…

 

 

ゾルバースの合図で、ウィルフッドとマリエラが、空に向かって手を突き出す。

すると、小さな稲妻が燦々とゾルバースたちの周りに落ちてくる。

 

そして…その稲妻は人の形を取って行く。

 

その数、およそ数百。

 

炎条寺) 「嘘…だろ……」

次々に召喚されて行く稲妻人間を目に、夏来たちは「勝てないかも」と言う、負の感情が芽生えた。

だが、1人は違う。

悟神) 「……ここは、この悟神 霊鳥に任せてもらおう」

と言った悟神は、苦痛ながらも、余裕の表情を見せ、なかなか進もうとしない夏来たちを背に歩いて行く。

その後を、覚悟を決めたのか、ゆっくりと享奈が付いて行く。

ゾルバース) 「おぉ〜向かってくるかぁ…この数を相手に 2人でぇ…そして後ろの奴らも交代でぇ〜?」

両者の間隔が縮まるたびに、ピリピリとした緊張感が増す。

悟神) 「2人ではない、交代も必要ない」

ゾルバース) 「あぁん?」

悟神は後ろを付いてきた享奈の頭を撫でると、耳元でソッと呟く。

 

 

 

 

 

 

「幸せにな…」

 

 

 

 

 

 

その言葉の後、享奈の巫女服の襟を掴み、夏来たちに向かって投げる。

ニッ怪がうまくキャッチすると、悟神の声が夏来たちの心に響く。

 

 

 

 

「「すまないが…享奈を、貴様らに託す この戦いで死人が出るだろう……故に死すべきは我が命で十分」」

 

 

 

 

そう言うと悟神は、あの日以来…人間を恨んだ日以来の、心からの微笑みを見せる。

幻花) 「な…なにする気…」

夏来) 「ま、まさか…!」

享奈) 「っく…!」

享奈がニッ怪の手を強引に解き、悟神に全速力で向かう。

走る…走るが…悟神までの距離が遠く感じる。

先ほどまでは、あんなに近い存在だったのに。

悟神の笑顔が…薄くなって行く…

もう少しで手が届く……何が何でも…悟神は死なせなー

 

 

 

次の瞬間、悟神が享奈との間を光のベールで塞ぐ。

そしてそれはゾルバース側に逸れて行き、両者をドーム型で包み込む。

ゾルバース) 「おい、テメェ…何しやがる…せっかく一網打尽にしてやろうとしたのによぉ」

悟神) 「貴様らを倒すにはっ…我が力で十分だからな…」

悟神が光輪を出し、周りに魔法陣を召喚する。

その光輪は以前の灰色ではなく、無限に白く輝いていた。

ゾルバース) 「いきなり眩しいなぁ〜…全く… ちょ〜っと消さないとなぁ」

マリエラ) 「武戦召喚…雷ノ邪刀(いかずちのじゃとう)」

マリエラがそう言い放つと、稲妻人間(雷兵)、一人一人の手に、日本刀の様な細長い刀が召喚される。

 

 

バンッバンッ

と、叩く音に悟神は振り返る。

そこには享奈が…泣き噦れており、その後ろで夏来たちが立ち尽くしていた。

壁越しに手を合わす悟神と享奈。

悟神) 「泣くでない、常に強くあれ」

ごもごもとした声だが、享奈の心には届いた様で、涙を拭きながら頷く。

悟神が享奈に背を向け、ゾルバースたちに向かって行く。

悟神) 「光断 シャイニングアウト」

と、ボソッと呟くと透明な光のベールが黒く染まり、外側からも、内側からも見れない様になる。

ゾルバース) 「ほぉ…自分がやられる瞬間を見せない為に、黒くしたか… 」

悟神) 「我ではない…貴様らがやられる瞬間を…だ」

ゾルバース) 「ふっ…くっはははっ!! ほざくな、戯けがぁあ!! 今すぐその口を黙らせてやらぁ! かかれぇえ!」

ゾルバースが叫ぶ、そして悟神に向かって迫ってくる雷兵の大群。

悟神も気合いの声を張り上げ、その大群に突っ込んで行く。

 

 

 

 

享奈) 「さと…がみ…さまぁ…っ」

何度も何度も壁を叩き、震えながら俯く享奈を見ながら、自分達の無力さに気づく夏来たち。

こんなにも悲しんでいるのに、苦しんでいるのに、どうすればいいのか分からない。

夏来たちには、ただただ、悟神の無事を祈るしかなかった。

 

 

 

 

殴る、殴る、迫り来る兵を諸共せず、淡々と倒して行く。

放つ、放つ、数え切れない程の大群を蹴散らす、光り輝く光線。

ゾルバース) 「三輪ノ聖玉(みわのせいぎょく)」

悟神) 「機動隊!!」

ゾルバース) 「さようなら、勇敢なる悟りの神よ!」

貫く、貫く、疲れ切った悟神の身体を容赦無く貫抜いて行く、青白く光る無数の小さな弾丸。

斬る、斬る、悟神が怯んだ瞬間、雷兵たちの刀が身体を斬りつける。

ウィルフッド・マリエラ) 「デス・エネクトル」

血しぶきを上げる悟神の身体に、闇のオーラを纏った弾幕の追撃を喰らわす。

左腕が雷兵たちによって斬り落とされ、身体中蜂の巣状態、右足を引きずりながらも戦うが、遂に膝から崩れ落ちる。

光輪も魔法陣も消え、ただ悟神という身体だけになった。

ゾルバースの「やめ」と言う指示に、兵たちが止まる。

ウィルフッドとマリエラは、ゾルバースの横に着き、3人で悟神に向かって手を掲げる。

ゾルバース) 「まぁ、良くここまで戦えたもんだぁ、褒美に楽に死なせてやろう」

そう言うと3人は、手のひらに光と闇の入り混じった、小さな球を召喚する。

悟神) 「情けないっ……これ位で…倒れるとは…」

と言いながら悟神が、今にもまた倒れそうになるくらい、ヨロヨロと立ち上がる。

ゾルバース) 「ちっ…まだ立ち上がるか…」

悟神) 「ふっ…冥土への土産に…貴様らの命を貰ってくぞっ…」

そう言うと、悟神の身体が赤く輝き始める。

その光景に、ゾルバースたちが身の危険を感じ取り、距離を置くと何かを察し、ウィルフッドが、外へ脱出する為に闇に包まれたベールを攻撃し始める。

だが、ウィルフッドの攻撃は、ヒビ一つ入らせる事も出来なかった。

 

ウィルフッドの行動を見て、ゾルバースとマリエラも気がつく。

あの時、お互いを光のベールで包み込んだのは、夏来たちに被害が出ないようにする為だけでは無く、この中で確実にゾルバースたちを殺す為でもある事だと。

この閉ざされた空間で、一瞬にして全員を殺せる技…それは……

ゾルバース) 「ま、まさか…自爆する気かっ!?」

それしか無かった。

だからあの時、享奈に別れを告げたのだろう。

 

 

 

もう生きては戻ってこれないと分かったから

 

 

 

すると悟神の身体だけで無く、周りの空気も赤くなって行くのがわかる。

そうはさせないと、ゾルバースとマリエラが遠距離から弾幕攻撃を悟神に放つが倒れない。

確実に当たっているはずなのに、ビクともしない。

むしろ赤みが増しているように感じる。

ゾルバース) 「こ、こんなことがっ…」

悟神) 「喰らえ……我が力の全てっ!!」

 

周りの空気が悟神の身体に吸い込まれると、身体の赤みが急激に減少。

次の瞬間、大爆発が起き、悟神の身体は粉々に吹き飛ぶ。

ゾルバース) 「おのれぇ…悟神ぃぃぃい!!」

機動隊、ゾルバースたちは爆発に巻き込まれる。

閉ざされた空間に逃げる場所はなく、隅々までに爆発の影響は及んだ……

 

 

 

数分後……内部の様子が静かになると同時に、闇に包まれた光のベールにヒビが入る。

縦に大きくヒビが入ると、ベールが弾け飛ぶ。

 

 

 

それは儚く、悲しみの心が砕けたかの様に、とても美しい光景だった。

 




遂に終戦を迎えた夏来たち。
取り残された享奈は何を思い、どう動くのか。
というか夏来たちは、夏祭りまでに復旧作業を終えるのだろうか。
次回もお楽しみに!

皆んなで、これからの悟神の冥土生活を祈りましょう。


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十夢 真実の世界

言葉にできる寂しさは誰かが慰めてくれる。

言葉にできない悲しさは自分で埋めなければならない…

しかし、それを埋めてくれるのが人間なのだろう。

 

 

 

 

 

弾け飛んだ光のベールが、空に吸い込まれるように消えていく。

ベールが囲んであった場所は土が凹んでおり、爆発で悟神とゾルバースたちの姿は跡形もなく消し飛んでいた。

泣いている享奈に駆け寄る夏来たち。

背中をさすって落ち着かせようと、手を伸ばしたしたニッ怪だが「触らないでっ!!」と手で払い除けられた。

ニッ怪) 「……悟神殿を失った悲しみは…十分、我らも分かっておる…じゃがの…いつまでも泣いておるのは、悟神殿が望んだことであろうか?」

その言葉に享奈は涙で濡れた顔を上げ、ニッ怪を見つめる。

享奈) 「でも……でも! ……っ…こんな…ぅっ…もう…悟神様がいないなら…し…死に…」

炎条寺) 「享奈…テメェ…良い加減にしろよ!!」

それでも泣き続ける享奈の前へ行き、右手で胸倉を掴み炎条寺が怒鳴る。

炎条寺) 「あいつは…俺らを…お前を! 助ける為に命を絶ったんだ!! 助けてもらった命を粗末に扱おうとするんじゃねぇよ!!」

炎条寺の言葉に答えたのか、ポタポタと流れていく涙が徐々に少なくなって行く。

涙を我慢し 目を赤くした享奈を見て、炎条寺はゆっくりと手を離す。

黙ったままの享奈に手を差し伸べる炎条寺。

その手を取り、享奈は立ち上がる。

夏来) 「享奈さん、きっと悟神さんも、貴女の今の前向きな姿を見て喜んでいると思います」

夏来の真剣な眼差しが、享奈の心に届き頷く。

 

 

きらーん

 

 

ふと ある物が目に入った幻花が、ベールがあった場所に、光り輝く物が落ちているのを皆んなに伝える。

享奈が駆け出す。

その後を追う夏来たち。

近くに来てよく分かった…これは、あの光のベールの小さな破片だと。

偶然にも、これだけ消えずに残っていた様だ。

享奈は指が切れないように、両手で優しく持ちあげると目を閉じ、そっと胸に当てる。

享奈) 「私、もう泣かないよ……悟神様に心配かけたくない…」

 

 

仙座) 「……ねぇ、その破片どうするの…?」

享奈は悩んだ…考えた…

そして思い出す。

 

 

享奈は本殿へと走って行き、神棚に飾ってあるお守り袋を持って来て、夏来たちに見せる。

仙座・幻花) 「袋…?」

これは悟神が初めて、この神社に来た時に貰った物らしい。

享奈は頷くと、その破片を入れようとする。

が、ニッ怪に止められる。

そのまま入れたら袋が破けてしまうからだ。

ニッ怪) 「仙座殿、丸くしておくれ」

仙座) 「ぁ…うん、 指切りし〜破片を削る〜まん丸く〜」

享奈から預かった破片を仙座に渡し、俳句の能力で凸凹を削り取る。

削り終えた姿は、まるで真珠の様にテカテカと輝いていた。

再度、ニッ怪は破片を受け取り、享奈の持っているお守り袋に入れ 紐を縛る。

享奈はそれを「悟神の形見」として大事そうに抱きしめる。

夏来たちは、その形見で少しでも、享奈の心に光が灯った様な感じがして嬉しかった。

こんな自分たちにもやれる事はあるのだと…

 

 

炎条寺) 「なぁ…ニッ怪」

 

 

ふと、横からニッ怪だけに聞こえる様な、小さな声で囁いてくる炎条寺に 耳を貸すニッ怪。

炎条寺) 「お前って、確か…死神だよな? だったら悟神を生き返す事とか出来ねぇのか…?」

だいぶ笑顔が戻って来た享奈だったが、やはり心の泣き叫ぶ思いを感じたのだろう、炎条寺が苦しそうな顔つきでニッ怪に尋ねる。

だが、ニッ怪は黙ったまま 首を横に振った。

炎条寺) 「そうか…」

炎条寺の言葉が聞こえていたのか、享奈は夏来たちに見せている表情を変える。

享奈) 「……さぁ、早く直そ? 夏祭り近いし♪」

そう笑顔で言った享奈は、見るからに作り笑いとわかる様な、哀しみのある笑顔を夏来たちに見せた………

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから時間が過ぎ、夏来たちが復旧作業を終え、家へ帰ってきたのは午後3時。

お昼も食べないで何処ほっつき歩いていたのか、叔父と叔母に少し怒り気味で言われた。

空が赤くなったりしたのに、それについては聞かないのか…?

もしや、あの光景は悟神が夏来たちだけに見せた幻想?

なんにせよ…闇籠神社前の広場で敵と闘っていた事なんて言えないし、そんなこと信じてもらえないだろう。

だから夏来たちは、ニッ怪と仙座の為に村の案内をしていたと嘘をつき、その場を切り抜けた。

部屋へ行き、その場に座る。

あんな事があったのだ、夏来たちの表情は明るくはなかった。

怒り、哀しみ、様々な想いが夏来たちの頭を駆け巡る……

 

 

叔父) 「失礼するよ」

 

 

ギシギシという音を立てながら歩いて来て、障子の引き戸から顔を出し、夏来たちに呼びかける叔父。

夏来) 「ぁ…叔父さん、どうしました…?」

叔父) 「祭りの準備を始めるんだよ、今から会場に向かうから、夏来君たちも良ければ手伝ってくれないかい?」

そういう叔父の手には玄関の鍵が握りしめられていた。

夏来たちも、祭に参加する身である為、手伝わなければならないのだろう。

気は乗らないが、断る気にもならない。

夏来たちは その誘いを受ける事にした。

 

 

会場へ着くと、そこには夏来たちしか居なかった。

これから続々と人が来る様だ。

先に始めていようと叔父が言い、祭りの準備に取り掛かる。

今日は主に屋台の取り付け作業を行うらしい。

夏来たちは享奈の事が気になりつつも、作業を進める手を休めようとはしなかった。

 

数十分後、ぞろぞろと階段を登り、会場へ足を進める村の人々。

各自、その手には工具箱が握られており、テントらしき布地を2人ずつ肩に乗せている。

叔父) 「よし、じゃあ本格的に始めようか」

 

 

 

カン↑ コーン↓ ガヤガヤ…

 

作業を始めた村の人々の話し声や、釘を打つ音でその場は包まれて居た。

時間が過ぎれば過ぎるほど、会場には次々と屋台が立って行く。

その数、数十屋。

これには初めて来るニッ怪と仙座も、驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

叔父) 「さぁ、もう時間も時間だ 飾りつけは明日にしよう、会長さんに話をして来るから、先に帰ってな」

空が夕焼け色になり、カラスの鳴き声があたりに響いて来る時間帯になると、作業を辞めて、帰っていく村の人たち。

夏来たちもその人混みに紛れながら帰っていった、、、

 

 

 

〜その日の夜〜

ニッ怪たちが寝静まった夜中に夏来は1人、外へと飛び出していた。

向かった先は闇籠神社。

享奈の事が気になって仕方がなかったのだ。

階段を登り、鳥居を潜り抜け、縁側へと足を進める。

中を見ると、部屋の中心で此方に背を向け、敷いた布団の上で横になっている享奈がいる。

夏来は少し安心した表情を見せ、腕を腿の間に入れて指と指を絡ませ、縁側に座り 月を眺める。

今日は偶然にも綺麗な満月が顔を出していた。

 

すると、享奈がそっと起き、夏来の背中に抱きついてきた。

突然の事に、夏来は動揺を隠しきれずに居た。

享奈) 「ちょっと…このまま居させて……」

そう言う享奈の声は震えていた。

振り返るとそこに、涙に濡れた享奈の顔がある様な気がして、夏来はただ前を向いていた。

享奈) 「悟神様……」

やはり悟神の死は、享奈の心に大きな穴を開けてしまった様だった……

と同時に、あの時 何もできなかった自分を思い出す。

今になって悔やんでも仕方ないのは分かっている。

だけど…自分を恨む気持ちは変わらない。

 

 

憎い…憎い…憎い憎い憎い憎い憎い!!!

 

 

こんな気持ちになんてなりたくなかった……

けど、そう思わずにはいられない…

実際、仙座のテレポートでベール内に入る事が出来たはず…

それを怠った…しなかった…しようともしなかった!

 

恐れていたからだ…

ゾルバースたち…あの数の前に太刀打ち出来るのか……いいや、出来ない

 

自分たちが死ぬのが怖かった…

誰かがやってくれるだろう、、、

だから自分が死ぬ必要はないんだ

そう…「誰か」がやってくれると信じて疑わなかった。

 

 

その結果がこれだ……

悟神が夏来たちに背を向け、歩いていく姿を見て、、、止めようともしなかった……

このままじゃ確実に悟神は死ぬと分かっていて……っ!

 

 

 

 

 

なんで……

 

 

 

 

 

 

 

なんでだよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでなんだよっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

享奈) 「夏来君…泣いてるの…?」

 

 

 

 

 

享奈の言葉で、夏来は涙を流している事に気がついた。

目から溢れた涙は静かに落ちて行き、手に優しく当たる。

 

夏来) 「…大丈夫…っ」

涙を拭き、享奈の方に振り返り 言う。

…と 享奈も同様、先ほどまで泣いていたかの様に、赤く潤んだ目をしていた。

 

夏来) 「……ごめん…悟神さんを…守れなくて…」

夏来はその状況に謝らずにはいられなかった。

享奈) 「……いいの…もう…過ぎたことは変えられないし、もしこれが運命なら…私はただ受け入れて、前に進まなきゃならない」

その言葉に夏来は、自然にまた涙が溢れてきた。

見殺しにしたのと変わりない自分に、恨むことなく、これ程までに優しく接してくれるなんて…

享奈) 「顔 上げて」

下を向き、目を閉じながら泣いている夏来を見て享奈が言い、夏来がゆっくりと顔を上げる。

と、夏来の首に両手を回し、胸にそっと寄せる。

享奈) 「もう気にしてないよ…だから泣かないで…? 夏来君が泣いてると…なんだか貰い泣きしちゃいそうだよっ……」

その発言に夏来は、また零れ落ちそうな涙をこらえる。

夏来) 「こんなんじゃ…ダメだよね…もっと…もっと強い人間にならないと…!」

享奈の手が離れると、夏来が力強く そう言った。

その姿を見て享奈は クスッ と笑い、話を続ける。

 

 

享奈) 「私も 夏来君みたいな強い人間になりたいよ、、悟神様が居なくなって…凄く切なくなって………ふっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「所詮…ここは、夢の世界なのに…」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来) 「ぇ…?」

享奈がボソッと呟いた その言葉に、夏来は違和感を感じた。

夢の世界…確かにそう言った享奈。

 

夏来) 「夢の世界って…どういうこと…?」

と夏来が問いただす。

すると享奈がこちらを向き、何をおかしな事を言っているんだ? と言わんばかりの顔で夏来を見つめる。

享奈) 「夢の世界は夢の世界だよ…? どうしたの夏来君…」

夏来) 「わ、わからないよ…夢の世界…? な、なんのこと…?」

顎に手を当て、深く悩んでいる享奈は、何かが分かったかのように立ち上がり、縁側に歩を進める。

享奈が夏来と少し距離を開けて座り、月を見ながら話始める。

享奈) 「はぁ…ニッ怪君たちから聞いてなかったんだ……てっきり…もう聞いてるのかと思ってたよ ……この世界はねー」

 

 

その内容に夏来は目を丸くして、驚きの表情を見せた。

無理もない…だって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来がトラックに轢かれた あの時、死にはしなかったが、意識不明の重体となり病院に運ばれていて、現在も夏来は病院の個室で眠っていると言う。

そして、何らかの脳の誤差動で 夏来の意識だけが この「夢の世界」に飛ばされて居たのだった…




ついに解き明かされた真実!
トラックに轢かれた夏来の意識…魂だけが ニッ怪、悟神らが居るこの世界に迷い込んで居たのだった

次回!
真実を知った夏来は、この先どう動くのかっ!
そしてどうしたら元の世界に戻れるのだろうか…


炎条寺) 「次回も楽しみにな!」
幻花) 「なんか今日…私ら出番少なかったなぁ…」


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十一夢 告げられた事実

人は時々夢を見る。

靄がかかっているかの様な浅い夢、深く溶け込むかの様な深い夢。

だが、稀に人はそれらを通り越し、完全なる「夢の世界」へと足を踏み入れてしまうこともあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

夏来) 「じ…じゃあ…この世界は…僕が創り上げた幻想の世界……なの?」

享奈から突然告げられた衝撃の事実に、夏来は震え声で質問を返す。

享奈が小さく頷くのを見た 次の瞬間、夏来は自分の意思とは無関係に、狂ったかの様に笑い出していた。

 

 

 

 

夏来) 「アハハ…アハハ八ノヽノヽノ \ / \/ \!!」

 

 

 

 

享奈) 「夏来君…」

夏来) 「フフフッ……じゃぁ…ニッ怪君たちと過ごしてきた日々は、現実の僕には何ら影響はないんだ……くふふ…」

夏来は涙を流したいのだろう……目の下がプルプルと震えている。

だが出来ない…涙を流せない……流す感情よりも先に、絶望に包まれた悲しき心が夏来を襲っているから。

…涙を流すだけでは収まらない訳なのだ…

夏来) 「………もう、いいや……現実の世界じゃ、ニッ怪君たちが居ないなんて…そんなの耐えられないよ……だったら!!一生この世界に居るよ!!! 死ぬまで!」

庭先へ駆けてゆき、享奈に背を向けて 手を空に向け突き出し、声を張り上げながら言う。

その瞳には光など無く、悲しみの念に囚われているかの様な目をして居た。

 

享奈) 「ダメだよ夏来君! 夏来君は帰らなきゃならないよ! そうじゃなきゃ…現実の世界に居る 皆んなを悲しませちゃうよ!」

 

夏来) 「ハハハッ……僕も出来ればそうしたいよ…でも!! 帰った所で何がある!? ニッ怪君たちが居ない世界で何をすればいい!? また虐められて……慰めてくれる人も居ない……家に帰っても……ひとりぼっち………そんな世の中でいいのかっ!!」

 

享奈) 「居るよっ!!!」

 

夏来) 「…!」

 

享奈) 「夏来君には…慰めてくれる…一緒に助け合って生きて行ける……そんな人が居るじゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((ん? あ、夏来! 遅かったじゃねぇか))

 

 

 

 

 

((なにしてたんだよ……ったく…ほら、ラーメン食いに行こうぜっ!))

 

 

 

 

 

夏来) 「……炎条寺君……」

 

 

 

 

 

((私、東京に行くけどさ…また……ぅぅん……いつか会いにきて! 待ってるから))

 

 

 

 

 

((来てくれるって信じてたよ…夏来…… また…っ…これからもよろしくね…!))

 

 

 

 

 

夏来) 「ち……ちーちゃん…」

 

 

 

 

 

享奈) 「大切な友達を悲しませちゃダメだよ…」

その場に倒れこみ、泣き始める夏来に駆け寄り 頭を撫でる。

夏来の声は静まり返った森に騒めきを齎すように静かに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来) 「それで…どうしたら元の世界に戻れるの……?」

泣き疲れ、落ち着きを取り戻した夏来は縁側へと腰を下ろし、冷静に元の世界に帰る方法を考える。

 

夏来) 「それと…ニッ怪君たちは元の世界には存在しないの? 僕の妄想の人物??」

 

享奈) 「ニッ怪君と、ゆりかちゃんは私にはどうか分からないけど…ただ夏来君も知ってる通り、炎条寺君と千代ちゃんは現実の世界にちゃんと居るよ この世界の記憶は無いけどね」

 

享奈) 「それと…元の世界に戻るには……夏来君の願いを叶えなきゃならないの」

 

夏来) 「願い…? 僕…別に願いなんてないよ…」

 

享奈) 「そんなことないよ… そうじゃなきゃ この世界に紛れ込んだりしないしね」

 

夏来) 「そっ…か………探してみるよ! 早く帰らなきゃ…!」

 

 

 

 

 

 

夏来が神社に来てからどれ程の時間が過ぎたのだろう。

夜の暗みが一層濃くなり、辺りが闇に包まれていくと同時に、虫のさえずりが森の中からチラホラと聞こえてくる。

それは綺麗なハーモニーを奏でていて、2人の心が奪われそうになるほどだった。

 

 

夏来は帰り際に、享奈から暗いからと、手持ちランプを貰った。

木々に覆われて、暗闇とかし、足元が良く見えない階段などはこれで安全だ。

その効果を発揮しながら小階段を下り、広場に出る。

月の明かりに照らされている屋台の数々。

その中央には巨大な太鼓台が建っている。

凄いなと感心しながら、その場を後にしようとした その時、背後に何者かの気配を感じる。

ゆっくりと後ろを振り返る夏来。

と、そこにはニッ怪の姿があった。

夜中、冷たい風が頬に当たり、肌寒く感じて戸を閉めようと起きたら夏来が居なく、玄関に夏来の靴がないと分かり、行きそうな場所として ここへ来たのだった。

 

ニッ怪) 「夏来殿……余り夜間に出歩くでない……我らには夏来殿が必要なんじゃけん」

 

丁度良い……この際、はっきり分かった事を言ってやろう!

隠し通しても、いずれニッ怪君たちから告げられる事だ。

別に言ってしまっても構わんのだろう?

 

 

夏来) 「必要って……ここが 夢の世界 だから?」

 

ニッ怪) 「なっ!? 夏来殿……なぜそれを…」

 

夏来) 「享奈さんから全部聞いたよ、この世界は僕が見ている夢……つまり幻想に過ぎないって事…………僕の願いを叶えれば元の世界に戻れるって事…」

 

ニッ怪) 「………夏来殿が悲しむと思い、心に閉じ込めておいたのじゃが……もはや必要はないかの…」

 

夏来) 「ねぇ…………ニッ怪君たちは一体何者なの…? 教えて」

 

ニッ怪) 「………そうじゃな…話すとしよう……」

 

 

そう言うとニッ怪は、自分達が何のために居るのかを話し出した。

 

その内容は

 

自分たちは夏来の「願い」を叶える為に居ること。

だが、ニッ怪たちには その「願い」は何なのか さっぱり分からないらしい。

そして、無事に夏来が元の世界に戻れたら、ニッ怪たちはニッ怪たちの世界に戻って行ける。

そう、つまり ニッ怪たちは「夢の世界」の住民では無く、まったく違う別世界から、夏来を元の世界に戻す為だけに やって来ていたのだった。

ニッ怪も、仙座も、幻花も、炎条寺も、享奈も、皆んな。

 

さらに…

 

この世界で誰かが死んでしまっても、この世界を創った夏来が無事に元の世界に帰れることができたら、その者は自分の世界で生き返ることができる。

悟神が生き返れるかは、夏来が帰れるかで決まるのだ。

 

全てを知った夏来は、脳を整理する。

つまり夏来が帰れれば、それで何もかもが良い方向に進むのだ。

だが、元の世界に帰れる方法の「願い」が分からない内は、どうする事もできない。

 

夏来) 「ありがと…」

ニッ怪が夏来を傷つけてしまうからと、心の奥底にしまい込んでいた事を、包み隠さず全て話してくれた事に、夏来は感謝の気持ちを口にする。

ニッ怪) 「いいんじゃよ……我らも今まで黙っており……申し訳ない」

一方のニッ怪は 今更告げてしまった大切な事に、もっと早く告げていれば こんな事にならずに済んだと、後悔の念に押し潰されていた。

 

夏来) 「じゃ…帰ろっか」

 

ニッ怪) 「うむ……ぁ、夏来殿 この件は我から皆に伝えるおくぞい」

 

夏来) 「……ありがと」

 

こうして夏来とニッ怪は、少々気まずい空気のまま、家へと帰っていった………

 

 




今回のお話は文字数も少なく、会話文が多く入ってしまいました。
誠に申し訳ありません……お詫びと言っては何ですが、今日から一週間以内にもう1話完成させます!


炎条寺) 「マジですまん…」
悟神) 「そんな主に連撃神光貫!!」
わたっふ) 「何で居るんだよー!!」






ゾルバース) 「アホかぁ…此奴ら……」


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十二夢 始まる夏祭り

ー翌朝ー

 

太陽の眩しい光に顔を照らされた夏来は、ゆっくりと目を開ける。

目が覚めたら元の世界に戻れて居るのでは、との思いは夏来には無かった。

起き上がり、左右を確認する。

そこには皆んなの姿は無く、枕元に置いてあった目覚まし時計の針は午前11時を回っていた。

あんな夜遅くまで起きていたから、こんな時間まで寝てしまったのだろう、そう思いながら夏来は布団を畳み、覚束無い足取りで部屋を後にする。

 

応接間へと続く廊下を進むにつれ、夏来は違和感を感じる。

 

 

 

やけに静かだ。

 

 

 

何時もなら、ニッ怪たちの話し声が聞こえるはず。

だが、それが夏来の耳には聞こえて来ない。

一体如何したのだろうと、応接間へ来た夏来は部屋の中を確認する。

 

だが誰もいない。

 

どこに行ったのか、夏来が家中を探して居ると、衣装部屋の中から出て着た叔父と出くわす。

夏来) 「あ、叔父さん おはようございます 皆んな何処にいるんですか?」

叔父) 「おはよう もう皆んな祭り会場に行って作業してるよ」

 

一瞬だが、元の世界に戻ったのかと思ってしまった自分が居る。

しかし叔父の言葉に、まだ夢から覚めていないのだと確信した夏来は、嬉しい様な…悲しい様な…複雑な気持ちに包まれる。

叔父) 「行ってあげな、みんな待ってるよ」

 

 

 

 

 

 

顔を洗い、着替えを済まし、ニッ怪たちの所へと歩いて向かう。

広場へと続く長い階段を登って行く。

昨晩と打って変わって、太陽の光が木々の隙間から入り込み、少し幻想的な風景となっている。

さらに、長く手入れされて居ない この石階段にはそこら中に苔が生えている為、そう思ってしまうのも無理ないだろう。

 

一歩一歩進んでいくにつれ、広場からは楽しそうな声が聞こえてくる。

世間話をする大人の声や、騒いでいるであろう子供たちの声。

さらにそれと同時に、焼きそばの良い匂いが漂ってくる。

どうやら お昼として皆んなに振舞っている様だ。

その匂いに釣られて、夏来の足は自然と早歩きとなって居た。

 

 

広場へと着くと、休憩所で仮眠を取る人や、木で出来た椅子に腰掛けて焼きそばを食べている人や、鬼ごっこをしている子供やらで賑わって居た。

ニッ怪) 「あ、夏来殿〜!」

全屋台の中心、太鼓台の真下に位置する長細い椅子に座り、夏来を見るなり手を振るニッ怪。

そこには仙座たちの姿も見られる。

人々の間を潜り抜け、なんとかニッ怪たちの元へと辿り着く。

ニッ怪) 「やぁ、夏来殿 遅かったではないか」

夏来) 「寝坊しちゃった」

クスクスと笑う2人の隣で、仙座たちは元気を無くしたかの様に しょぼん… として居る。

ニッ怪から例の事を伝えられたのだろう。

こちらをチラチラと見る目は、少し怯えて居る様に感じられた。

が、そこで話を切り出してくれるのがニッ怪。

ニッ怪) 「夏来殿……改めてこの場で謝罪いたす すまぬ…」

ニッ怪が黙ったままの仙座たちに向かって、「さぁ謝るのじゃ」と意味を込め、軽く頭を下げて言う。

幻花) 「ぁ…あのね…騙す気は無かったの…ごめんなさい…」

仙座) 「ごめんね夏来ぃ…」

炎条寺) 「言いたかったけど…言えなかったんだ……すまん」

その思いが届いたのか、ニッ怪に続き 3人も謝る。

その異様な光景に、周りの村の人たちの視線が夏来に突き刺さる。

もう気にしてないから、と焦りながら皆んなの頭を上げさせる夏来。

すると安心したニッ怪たちは嬉笑する。

つられて夏来も笑った。

夏来) 「あ、焼きそば!!忘れてたっ」

 

 

 

 

 

少しの休憩時間を挟んだのち、作業を開始する村の人々。

今日は飾り提灯、祭りなどによく見られる「祭」と書かれた丸い提灯を飾っている。

広場を囲んでいる木々の枝に吊り下げ、屋台の周りには点々と、太鼓台には何本も紐で結んだ提灯を大量に括り付ける。

夏来たちはと言うと、広場へと続く階段に灯篭を置いていた。

薄い紙に絵を描いて、専用の飾り台に貼り付ける あれだ。

階段の左右に一つずつ建てていく。

地味な作業に見えるが、これで夜の暗い階段を照らしてくれる。

広場へ行くときに躓いて、怪我をしてしまったら楽しめなくなるからね。

 

「おーい、誰か手の空いてる人 手伝ってくれー」

 

時間をかけて無事に全ての灯篭を置き終わった時、広場から手助けを頼む声が耳に入る。

夏来たちは急いで、その声に応えて広場へと向かった。

 

 

最終作業は この日の夕方まで続き、祭りの準備が整う。

あとは明日の祭りを待つだけとなったー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー祭り当日ー

 

辺りが夕焼け色になるにつれて、村が騒がしくなる。

この祭りは夜が本番となるからだ。

その証拠に昼間は、広場に屋台を出す人以外立ち入らなかった。

 

 

叔母) 「ほら、千代ちゃん、ゆりかちゃん、これ着て行きなさい」

叔母に衣装部屋へと連れていかれた2人は、浴衣を渡される。

幻花は大人びた感じに、黒い生地に赤とピンク色の薔薇が描かれている。

薔薇はモダン型と呼ばれ、着る季節を問わない。

さらに薔薇には、美しさや華やかさ、艶やかさなど、オールマイティな意味が込められている。

 

 

一方の仙座はと言うと、可愛らしい感じに、ピンクの生地に赤やオレンジなどの比較的明るい色の桜で統一されている。

この桜も薔薇と同様、着る季節を問わず、縁起がいいとされている。

 

仙座) 「可愛い〜! ありがと叔母さん!」

幻花) 「毎年 すいません」

叔母) 「いいのよ♪ あ、じゃぁ私は屋台の準備があるから、また後でね」

 

 

 

一方、夏来たち男子は叔父に連れられて、幻花たちが居る衣装部屋の隣の部屋に来ていた。

叔父が部屋の隅にある大きなタンスの中を夏来たちに見せる。

そこには沢山の浴衣があり、どれがいいかと聞かれた夏来たちはジャンケンをし、勝った炎条寺から選ぶことになった。

 

炎条寺は「全身黒の生地に縦横と白い線が描かれた浴衣」

夏来は「シンプルな薄い水色の浴衣」

そしてニッ怪は「灰色の浴衣」を選んだ。

 

叔母) 「失礼するわ」

スッーー

と、夏来たちが居る部屋の引き戸が右に開き、叔母が入って来る。

その背後には幻花と仙座が浴衣を持って立って居る。

叔母) 「先に屋台の準備で行くから、後は宜しくね」

叔父) 「おう、分かった 任せな」

そう叔父から言われ、叔母は部屋から出て行き、早々と広場へと向かった。

 

 

 

 

ーPM5:40ー

祭りが始まる20分前となり、村は一層騒ぎ始める。

夏来たちは叔父に早めに出て行った方がいいだろうと告げられ、準備をして居るところだ。

それぞれが別々の部屋で浴衣に着替え、下駄を持ち、扇子を帯に挿し、巾着袋を片手に玄関へと向かう。

着替えに手間取った夏来たち男子が玄関先へと出た頃には、幻花と仙座が退屈そうに待っていた。

幻花) 「遅いっ! 何してたの!」

折りたたんだ扇子を夏来たちに向け、口を尖らせて言う。

夏来) 「ご、ごめん! 帯が見当たらなくて…」

幻花の威圧に3人はヨロヨロと後ろに一歩二歩と下がりながら、夏来が震えた声で返す。

幻花) 「もぉ…しっかりしてよ〜」

呆れた様にため息をつく幻花を節目に、夏来たちの目は2人を見つめていた。

幻花) 「な、なによ ジロジロ見て…」

夏来) 「あまりにも綺麗だから…つい」

と夏来が言い、ニッ怪と炎条寺が深く頷く。

幻花の顔が見る見るうちに赤くなって行くのが分かる。

仙座) 「たこ焼き〜綿飴〜やっきっそばっ♪」

一方の仙座はそんな事はどうでもいいと言わんばかりに、自分だけの世界に入り、食べ物の名前を連呼して居いたー

 




いやぁ…ねぇ…
この小説の文字数が減って来てる事は、申し訳ないんですが
本音言いますと、なるべく話数を増やしたいって考えがあるわけですよぉ…


まぁ…そんな事は置いといてと……
書いてる時、ついつい思うんですよー
悟神さんが死んだのに、何呑気に夏祭り楽しんでんだよって…w
はぁ…ほんと何やってんだか

あ、次回のお話は今すでに8割位書いているので、今週…来週位には出せそうです!


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十三夢 絶望の傍で恋は咲く

 

普段はひっそりとしている広場に祭囃子の太鼓や笛の音が鳴り響き、参道は色鮮やかな浴衣姿の少年少女や子どもを連れた若い夫婦たちで賑わっていた。

屋台のりんご飴の甘い香りが漂ってくる。

仙座) 「りんご飴〜!」

炎条寺) 「ちょ、ゆりか待てよ! 転ぶぞっ!」

その匂いに釣られた仙座が駆け出す。

その後を追う炎条寺。

取り残された3人は一緒に回ろうとしたが、空気を読んでくれたのか ニッ怪が2人でどうぞと言ってくれた………

 

 

 

 

考えて見たら…僕とちーちゃんの付き合いほんと長いよなぁ…

小学校の頃出会って直ぐに毎日遊ぶ様になって…

東京に来てからも変わらずにさ…

 

幻花) 「くふふふっ 変な顔〜」

 

お面を見て笑ってる……こんな笑顔を何回見たんだろうか…

その度に僕の心は ちーちゃんに近付こうとする…

 

「ねぇ、あれ見て あの綺麗な黒髪〜」

「スタイル良いなぁ〜羨ましい〜」

「浴衣と合って大人みたい〜」

 

幻花) 「ふふ〜ん?」

夏来) 「分かったから そのドヤ顔やめてっ!?」

 

「しっかし…彼氏の方が冴えねぇなぁ」

「なんであんなのと付き合ってんのかな」

「遊びに決まってんじゃん」

 

夏来) 「ぐぶはぁっ!」

幻花) 「ブッ…ww」

夏来) 「ち、ちーちゃん! ちょっとムカつくよっ!?」

 

 

 

 

 

 

全く…

しかし、カップルに見えるんだ僕たち…

そう思われてるって感じると、何だか嬉しいなぁ…

まぁ、2人っきりだからそう思われるんだろうけど

 

……はぁ、それにしても信じられないな……

 

今いるこの世界が本当の僕が生きるべき場所ではないなんてさ…

しかも夢……こんなに素晴らしい世界なのにさ…

 

幻花) 「夏来?」

夏来) 「え、ぁ、ごめん ちょっと考え事してた…………ねぇ ちーちゃん」

幻花) 「ん?」

夏来) 「ぁ………っ…や、やっぱり何でもないよ…」

 

ここで自分の気持ちを伝えても…現実の世界じゃ変わらないんだ…

だったら無事に元の世界に戻って、本物の ちーちゃんに想いを伝えなきゃならない

今ここで言うべきでは無いだろうと思って、夏来は口を紡ぐ。

 

幻花) 「…? まぁいいや あっちに輪投げとかあるから行こ♪ ほらほら」

そう言い幻花は夏来の手を掴む。

ドクンドクンと言う音が聴こえてしまうくらいに、夏来の心臓の鼓動は大きく跳ね上がり、赤くなった顔を隠す。

 

そしてそのまま夏来と幻花は、人混みの中へと消えて行った…

 

 

 

 

場所は移り変わり、仙座と炎条寺の2人は、タコ焼き屋の前を通りかかろうとしていた。

仙座の両手は多くの袋が下げられていた。

その中には焼きそばや、フランクフルト、りんご飴に、綿飴などなど食べ物だらけだった。

鼻歌を歌い、ご機嫌な様子の仙座とは裏腹に、炎条寺は仙座自身では持ちきれない物を強制的に持たされて少しイライラしている。

 

仙座) 「ぁっ!叔母さん!」

タコ焼きを作っている夏来の叔母に声をかけ、後から来て買おうとしていたのだが、別に今でも良いかと思い、話がてらに一つ買って再び歩き出す。

 

炎条寺) 「ぉ…おい…持ってやってんだぞ……俺の分は買ってくんねーのかよ」

仙座) 「え〜 8個入りだから一緒に食べようよ〜♪」

炎条寺の方に振り向いた仙座は、ニコニコと笑っていて実に可愛らしい。

 

まぁ…コイツのワガママも聞いてやるか…

……それで喜んでくれるんだったら嬉しいからな…

 

それを見るや否や、炎条寺の鋭く尖っていた目は優しく、和んだ目へと変わっていた。

 

 

 

 

 

そして取り残されたニッ怪は闇籠神社へと来ていた。

本殿内に明かりは灯って居らず、あの時と同じ様に暗く重い空気に包まれていた。

鳥居をくぐり抜けて空中へと飛び出し、神社の屋根へと降りて腰を下ろしたニッ怪は、空に浮かぶ、雲一つ掛からない少し欠けた綺麗な月を眺める。

ふと誰かの視線を感じたニッ怪は後ろを振り向く。

と、そこには浴衣姿の享奈が月を見上げながら立っていた。

そのまま何も言わずニッ怪は前に向き直し、帯に挿してある扇子を取り出してパタパタと扇ぐ。

ニッ怪) 「……悟神殿の事を考えておるのかい?」

享奈) 「うん…この世界に来る前から一緒に居たからね……私の大切な人だよ…」

悲しげな感情が…気持ちが…ニッ怪には痛いほど伝わって来た………

 

 

ひゅ〜〜ドーン!

 

 

そんな時、祭りが最高潮に達するのと同時に、様々な色や形、大きさの打ち上げ花火が上がり始めた。

さらに手持ち花火を楽しむ子供たちなど、村の人たちは花火に夢中になって居た。

 

 

ニッ怪) 「……悟神殿を生き返らせる為にも、我らが必ず夏来殿を返す……ここに宣言致そう」

ピシッと扇子を閉じて振り返り、享奈の目をしっかり見て言う。

ニッ怪) 「じゃからの……今は祭りを楽しもうぞ!」

ニカッと笑ったニッ怪が手を差し伸べる。

享奈) 「……うん!」

その手を取ると、ニッ怪が享奈を横抱き(お姫様抱っこ)して地面に降り立ち、享奈を下ろすと横に並びながら広場へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

夏来) 「花火綺麗だね、ちーちゃん ♪」

幻花) 「ほんとっ…やっぱりこれが有るから夏祭りはサイコーよね〜」

一方その頃、この2人は人混みに紛れて夜空に咲く無数の花火に目を輝かせて居た。

打ち上がるたびに至る所から歓声が溢れてくる。

と そんな中、休憩場の椅子に炎条寺と仙座がグッタリと座って居るのを発見する。

どうしたのだろうかと2人は人混みの中を掻き分けつつ向かった。

 

何とか2人の元に着いた夏来と幻花は、俯きながら何回も溜め息を吐いている2人の姿を見て、疲れたと言うよりも後悔している様に感じられた。

夏来) 「2人とも…花火だよ? 打ち上げ花火っ…」

炎条寺) 「射的で出禁喰らっちまった…」

仙座) 「イージー過ぎて調子乗っちゃってお金無くなっちゃった…」

そう言う2人の側には沢山の食べ物の袋と、大きな袋に大量の景品がどっさりと入って置いてある。

夏来と幻花は只々苦笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

 

祭りも終盤に差し掛かり、徐々に人が少なくなって行く。

それに連れ、屋台を閉めて帰って行く人がチラホラと見え始める。

時計柱を見てみると、もう午後9時を回って居た。

 

炎条寺) 「さーて、俺たちも帰るか 明日も祭りあるしな」

夏来) 「うんっ あ、ニッ怪君 多分神社に居ると思うから呼びに行ってくるね!」

炎条寺) 「おう、任せた じゃ俺たち先に帰ってるわ」

 

 

 

駆け足で細長く続く階段を上がり、神社へと来た夏来。

……だが来たは良いものの、人の気配が無い。

鳥居をくぐり抜け、本殿の中を覗く。

何時もなら其処に享奈が居るはずだが、今日に限って居なかった。

 

ニッ怪君…享奈さんと一緒にお祭りに行ったのかな…

 

そう思った夏来が来た道を引き返そうと振り返り、右足を一歩踏み出したその時、

 

 

 

 

 

いつから其処に居たのだろう…夏来と鳥居の間にポツンと高身長で瘦せぎすの、地面まで届く黒い服を着た赤黒い短髪の男の人が立って居た。

その男は夏来が此方を重視しているのを見ると、左手を胸に当て深々と礼をする。

???) 「貴方と話せる時を待って居ましたよ」

と発する声は低く、とてもネットリとしている。

正体の分からない男が、ニタニタとした不気味な笑顔で夏来に近づいて来る。

夏来) 「だ…誰ですか…」

それを見て夏来は一歩二歩と後ずさる。

???) 「ォオ〜! こぉぉおれぇは大変申し訳ありませんでぇぇしたぁ 私は特殊能力撲滅機動隊 遠征部隊 隊長 レウザ・ディアスと申します」

機動隊…その言葉を聞いた瞬間、夏来は自然と距離を取り 身構えて居た。

その夏来の慌てふためく姿を見てレウザはクスクスと笑う。

レウザ) 「そこまで警戒しなくても良いのですよ? 戦いに来たわけでは無いのです」

 

夏来) 「じ…じゃぁ…何なんですか…」

 

レウザ) 「春、機動隊の最高戦力部隊が其方に伺う事をお伝えに来ました そう伝えろと上が言って来ましてね」

 

夏来) 「………なんで…僕たちを襲うんですか…」

 

レウザ) 「それは私達、正義の為に戦おうとしない悪質性能力者が居るから、と言うのが分かりやすいですが………強いて言えば貴方が居るからなのです」

 

夏来) 「僕が…?」

 

レウザ) 「この世界は貴方の願いを叶える為だけに造られた世界です 貴方が元の世界に帰ると言う事は即ち、願いを見つけたと言う事 つまり、もうこの世界には用が無くなるのです そうなるとこの世界は形を保つことが出来なくなり消滅してしまうのです なので私達 夢の世界の民は貴方が元の世界に戻る前に殺す事に決めたのです」

 

夏来は何も言えなかった。

僕のせいでニッ怪君たちを危険にさらして居るんだ……

 

そう僕が…みんなを……

 

だけど…悟神さんを生き返らせる為、ニッ怪君たちを元の世界に戻す為、僕は無事に帰らなくちゃならない

 

レウザ) 「…まぁ…どう足掻こうが、私達からは逃れられませんよ、貴方が願いを見つけるその時まで…」

 

 

炎条寺) 「おーい、夏来〜! ニッ怪居たぞ〜 帰るぞ!」

 

遠くから夏来を呼ぶ炎条寺の声が聞こえる。

 

レウザ) 「おや…長居してしまいましたね、では私はこれで…来年の春、またお会いしましょう」

そう言い残し レウザは、身体の周りに召喚した闇がかった炎と共に消えていった……

 

 

その後、ほんの数秒後に炎条寺と享奈が神社へ駆け足で登って来た。

呼んでも返事がなく、なかなか来ないので何かあったのかと心配になって居たが、夏来の何時もと変らない その姿を見て肩の力が抜ける。

炎条寺) 「夏来……あんまり心配掛けんなよ…ほら、帰るぞ」

夏来) 「うん…」

享奈) 「じゃぁ、また明日ね バイバイ〜」

手を振る享奈に2人も手を振り返し、そして前を向いて歩き出す。

 

広場へと下りてくると、其処に居ると思って居た皆んなの姿は無く、周りを見渡す夏来。

まだチラホラと祭りを楽しんで居る人も見られる。

と、炎条寺がそのまま広場を素通りした事で、夏来はニッ怪たちが先に家に帰って居る事を知る。

夏来) 「(そう言えば先に帰ってるって言ってたっけ…)」

先を歩く炎条寺が夏来を呼ぶ。

その声に応えて、駆け足で歩み寄り、横に並んで2人は家へと帰って行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は着々と過ぎて行き、夏休みも終わりに近づいて来た。

夏来) 「では、そろそろ出ますね」

東京へ帰る準備を終えて荷物を持ち、夏来たちは玄関の扉に手をかける。

叔父) 「きーつけてな」

叔母) 「またいつでも遊びに来てね〜」

2人の笑顔に夏来たちも笑顔で手を振り、扉を開けて少し離れた場所にあるバス停へと向かった。

 

話しながら歩いていると いつの間にか着いていた。

ここは余りバスが入らない場所に位置して居る為、下手をしたら1、2時間待つ事になる。

が、今回は運が良かった。

11時35分に来る様で、夏来がスマホを取り出し時刻を見る。

現在時刻は11時29分だった。

 

約5分後、バスが来て炎条寺、幻花、仙座、ニッ怪の順番で乗り込んで行き、最後に夏来が乗り込もうとした時、後ろから掠れた声で呼び止められた。

振り向いた夏来の目に映ったのは、膝に手を当てて荒い呼吸を繰り返す享奈の姿だった。

夏来) 「享奈さん…?」

享奈) 「これを…っ」

と言い、享奈が自分の首にかけてある、紐が長く小さい御守りを取り外して夏来に渡す。

夏来はコロコロとした感触に、その御守りが何なのかがすぐに分かった。

夏来) 「これ…悟神さんの…」

享奈) 「私より夏来君が持って居た方が良い気がするの」

夏来) 「……分かった」

 

 

ー間も無く発車いたしますー

 

運転手の呼びかけに応え、乗り込むと同時にドアが閉まり、ゆっくりとバスが発車する。

窓際に座った夏来達は窓を開けて、手を天に突き上げる享奈に向かって、同じ様に手を突き上げる。

 

願いはきっと見つかる…

 

幻想には…必ず終わりが来るんだ

 

だからその時まで頑張って………夏来君…

 

 

 

バスが角を曲がり、完全に見えなくなると享奈はゆっくりと手を下ろし、青々と果てし無く続く空を見上げた。

 

享奈) 「これで良かったんだよね…悟神様」

 

 

 

 

 

 

 

 

野を越え、山を越え、バスは駅へと着く。

仙座が俳句を詠み上げ 電車を召喚する。

それに乗り込むと夏来は1人、ニッ怪達から少し離れた場所に座った。

仙座が呼びに行こうとするのを炎条寺が止め、首を横に振る。

それを見て察した仙座は席に戻り、指を鳴らして電車を発車させる。

 

運転手も乗客も居ない無人電車内は、ニッ怪達の話す声が良く響く。

その傍で夏来は、享奈から受け取った御守りを取り出して眺めて居た。

悟神が残した、享奈にとって たった1つの大切な物を受け取ったのだ…

享奈自身、手放したくなかったのだろう。

だから、夏来を信じて全てを託した享奈の思いを無駄には出来ない。

顔を上げ、御守りをギュッと握り締めた右手を胸に当てる。

夏来) 「(絶対に…叶えて見せる…っ!)」

 

 

 

 

 

 

 

こうして東京へと帰った夏来たちは、また何気無い普通の生活を送ることになった。

夏来は願いを見つけながら…

 

だが…これから先起こる最悪な展開を、この時はまだ知る由もなかった。

 




投稿遅れてすいませんでしたぁぁ…m(_ _)m
色々とやるべき事が沢山あって…
学校の宿題でしょ? それと宿題と宿題……
って!宿題だけかよっ!!
悟神) 「1人ツッコミとは…見苦しいぞ」
ゾルバース) 「マジキメェ(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎」


………チッ


あ、次回の投稿は…遅くなるかもです!
あらかじめご了承下さい(>_<)

レウザ) 「………に…賑やかですね、ここ」


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十四夢 決戦に向け、正悪は動き出す

ゆっくりと息を吸い込み、吐きながら目を開けた。

視界は不明瞭で、何処かボヤけている。

瞬きを何度か繰り返しても上手く頭が働かず、ようやく自分がうたた寝をして居たのだと気がついた。

和室はとても静かだった。

誰かの話し声など聞こえない。

庭から差し込む攻撃的な夕日の色を、カーテンが柔らかく包み込んで室内を淡く染めて居た。

 

願いを見つけられないまま……どれだけの時間が過ぎたのだろう…

夏来がリビングの窓を開けると其処には秋の世界が広がって居た。

町中が赤や黄色で彩っており、とても美しい。

目を細め、遠くの景色を見ていると、ガチャッという音と共に ニッ怪と仙座が外から帰ってきた。

リビングへと入ってきた2人はテーブルの上にビニール袋を置く。

夏来) 「おかえり それ何?」

ニッ怪) 「松茸じゃよ、松茸」

松茸…その言葉に夏来は耳を疑った。

ビニール袋の盛り上がり具合から見て、相当入っているのだと分かる。

松茸をこんなに沢山買えるお金は2人には無い事からして、仙座のテレポート能力で日本各地を回って集めてきたのだろう。

仙座) 「運動の秋…読書の秋…食欲の秋! 今すぐ食べよっ! ねっ!ねっ!今すぐ〜!」

ニッ怪にがっつく仙座を見て、夏来は折角だから炎条寺たちも誘おうと提案し電話をかけた。

 

 

2人が来るまでの時間、夏来たちは準備に取り掛かかった。

松茸に付いている土などを落とす為、台所でサッと洗う。

洗い終わったら、いしずきを鉛筆を削る様に薄く削り、そこで後で割ききやすいように十字の切れ目を入れる。

大きめの皿を2皿取り出し、その上に乗せていく。

残ったビニール袋はゴミ箱にシュゥゥゥーッ!!

仙座) 「松茸バトルドームも でぇたぁ☆」

 

 

乗せ終わった皿と、焼くための網などを持って庭へと出る。

と、丁度そこへ2人が話しながら入って来た。

夏来) 「あ、ごめん まだ準備出来てなくて…」

炎条寺) 「ぁぁ、いいんだ それより松茸は?」

キョロキョロと見渡す炎条寺に、仙座が皿に乗せた松茸を見せびらかす。

それを見て2人は目を輝かせる。

今までこれ程の量を、こんな間近で見た事が有るだろうか?

いいや無い……もしかして一生見られない光景かもしれない。

 

網をセットし、ガスコンロの火をつけて松茸を焼き始める。

少し経つと松茸から汁気がジュッと出て来る。

5人分の紙皿に2個づつ乗せ、ポン酢・柚子醤油・塩などを付けて食べる。

幻花) 「はぁ〜/// おいしい…」

ニッ怪) 「匂いはキツイが、とても美味…高級と聞けば尚更のぉ……」

あまりの美味しさに手は休むことを知らず、あっと言う間に無くなってしまった。

と、まだ夏来の手元には松茸が一つ残っているではないか。

それに眉を寄せ、何処か顔色が悪いようにも見える。

聞けば夏来はキノコが苦手らしい。

松茸と聞いて、人間の希少な物には目が無いと言う感情が勝ってしまい、自分がキノコ嫌いだったのをスッカリ忘れてしまっていた。

炎条寺) 「んじゃ、いっただき〜!」

と炎条寺が松茸に割り箸を近づける。

が、それを手首を掴んで来た仙座に止められる。

 

仙座) 「待ってよ〜松茸私もまだ食べ足りないんだけど それに私が採ってきたんだからね?」

 

炎条寺) 「こーゆーもんはな、早い者勝ちなんだよ 出直してこい」

 

仙座) 「へぇ…大口叩けるようになってきたじゃん非能力者が………ま、今は違うかっ 炎を操る能力者さん」

 

炎条寺が短い溜め息をつくと同時に、火の粉が口からパラパラと出て来る。

 

 

 

 

 

 

 

そう、僕らは全員「能力者」となって居た。

 

 

 

 

 

 

 

夏休みの終わり、東京へと帰って来た皆んなは、夏来から闇籠神社でレウザと会って居た事、来年の春に機動隊の最高戦力部隊が襲いに来ることを告げていた。

だが それも想定内か、ニッ怪たちの反応は至って冷静であり、直ぐに話し合いを始める。

悟神とゾルバースの戦いを見ていた夏来たちには一つだけ分かっていることがあった。

それは奴らが「対能力者用の能力者」であると言う事。

あの時、ゾルバースたちは雷を操っていた。

となれば、最高戦力部隊の奴らも能力者である可能性が高い。

そうなった時の為にも、奴らに対抗出来る戦力が必要になる。

だが何時もなら頼りになる警察も、奴らの前では今や無力。

そもそも余り被害は出したく無い。

と言う事は、もう残ってる方法は一つしか残らないだろう。

 

そう、夏来たちは自分たちが強くなればいいのだと考えた。

 

しかし大きな問題があった。

それは夏来、炎条寺、幻花の非能力者の存在だ。

特に夏来には死なれては困る。

そこでニッ怪はある提案をする。

 

「皆、能力者になれんかいの?」

 

こう提案したのにはちゃんと理由があった。

仙座の能力だ。

俳句を操る能力は575で言った事が周りで起こると言う能力で、つまり夏来たち3人が「能力を持つ」と言う意味で俳句を作り詠めば、能力者になれるのでは無いかとの事。

試しに実験として炎条寺を使って見た所、なんと成功。

さらに持ち主に合った能力が選ばれる様だ。

こうして炎条寺は「炎を操る能力」を手に入れた。

続いて夏来と幻花にも同じことをする。

それにより夏来には「身体強化能力」、幻花には「風を操る能力」が与えられた。

能力者相手なら特殊能力無効化が欲しい所だが、どうやら自分(俳句)の能力よりも性能、危険性が高いものは与えられないようだった……

 

 

あれから各自自分の能力を何とかコントロール出来る様になっていた。

炎条寺) 「チッ……わーかったよっ! 確かにお前が採ってきたんだしな くれてやる」

仙座) 「あぅ……」

申し訳なさそうに身を縮めている仙座を見て、ニッ怪が包丁を手に持ち、松茸目掛けて振り下ろした。

ぱかっと二つに別れた松茸を見た仙座は、なるほど!と言った顔でニッ怪を見つめる。

仙座) 「友貴っ!」

炎条寺) ビクッ「な、なんだy!?」

振り向いた炎条寺が口を開いた瞬間、仙座が半分の松茸を強引にねじ込ませる。

喉が大きく上下し、飲み込んだのを確認した仙座は満面の笑みを炎条寺に見せた。

仙座) 「これで解決だね♪ 残り半分は私のだー! ぱくりっ」

炎条寺) 「ぐ……」

怒りたいが、その笑顔に負けて黙る炎条寺を見て、夏来たちはクスクスと笑った………

 

 

 

それからと言うもの、夏来たちは沢山の秋イベントを楽しんだ。

仙座) 「おーばけーだぞー!」

ハロウィンや…

 

幻花) 「あの有名なメタセ…何だっけ?」

夏来) 「メタセコイア並木だよ」

紅葉狩りや…

 

炎条寺) 「いやぁクッソうめーな はむはむ」

ニッ怪) 「焼き芋も中々じゃぞい」

ぶどう狩りや焼き芋…?

 

 

 

 

 

 

 

そして一年最後の季節を迎え、寒さは一層激しさを増してきた。

東北などでは雪が積もっている頃だ。

だが夏来たちの居る東京では雪なんて降らない。

だが…別に此処で少量の雪を降らしてしまっても構わんのだろう?

 

夏来) 「雪だ……」

学校からの帰り道、不意に頬に冷たい物が当たったのを感じ、夏来は空を見上げた。

パラパラと降ってくる物体は、地に落ちると同時に優しく溶けて水となる。

早く帰らなきゃ。

そう思った夏来は、今日雨が降ると言う予報を聞いて持ってきた傘を差して駆け出した。

 

家へ着き、傘立てに傘を入れ、家の中へ入ろうと鍵を取り出す。

と その時、裏庭からドンッと重い音が聞こえた。

夏来はリュックを玄関に置き、裏庭へと回る。

 

仙座) 「ふぅ…」

ニッ怪) 「大量大量!」

 

そこで夏来が目にしたのは、自分の身長の倍以上ある、大きな山の様に盛られた雪だった。

夏来) 「ちょ!どうしたのコレ!?」

ニッ怪) 「む? おや夏来殿、おかえり 此れは我が故郷 越後から仕入れた本場の雪じゃ!」

その光景に口を開けながら唖然としていると、仙座が雪山の上から雪玉を一個、夏来の顔めがけて投げた。

が、夏来は短い悲鳴と共に それを避ける。

今までの夏来だったら避けられなかっただろう。

瞬間的に反射神経を強化した夏来の体は残像を残す程に素早く動き、もはや人間の動きではなかった。

仙座) 「ふふ… 身体強化能力は使いこなせてる様だね〜 これなら機動隊の奴らにも対抗できっ」ボフッ

夏来) 「お返しだー!」

と夏来が、避けた際に高速で作り出した雪玉を仙座に向けて投げ、それがクリーンヒットした衝撃で、仙座が雪山から転げ落ちる。

仙座) 「ぐぬぬぅ……雪玉が〜夏来の顔に〜ヒットする〜 はっ!!」

落ちる瞬間に体勢を立て直し、予備として作っておいた複数の雪玉を一斉に夏来に向けて放つ。

それに対し、夏来は仙座が能力を使ったと言うことは、避けても必ず当たってしまうのだと考え、こちらも複数の雪玉を一瞬で作り上げ、勇逸の手段として相殺する。

夏来と仙座の間を粉雪が舞う。

仙座) 「こなぁぁぁぁゆきぃぃぃぃ!!!」

夏来) 「ねぇ♪」

と、2人が楽しんでいる横で、ニッ怪は和んだ目をしていた。

 

 

 

冬も秋と同様、様々なイベントがあった。

 

クリスマスや、

幻花) 「呼ばれてないけど来たわ!!」

炎条寺) 「ひとりぼっちは寂しいもんな」

 

 

お正月や、

仙座) 「あのちーへいせーん かーがーやくーのーはー」

ニッ怪) 「どこかーに おかーね かくしてーいるーのーかー?」バッ

夏来) 「僕のだぞッッッ!!!」

 

 

スキーや、

夏来) 「む、無理だよ!スキーやっぱり無理!」

炎条寺) 「命は投げ捨てるもの、行ってこいっ!!」ドンッ

夏来) 「ビクトリィィイ!!!」

 

 

バレンタインや、

幻花) 「はい夏来! 義理チョコって言うか…それ以上って言うか…えっと……う…受け取って!」

仙座) 「夏来〜!私もっ私もっ! はい♪」

夏来) 「ありがとう♪」

炎条寺) 「もうウンザリなんだよ!義理だの本命だのくだらねェやり取りしてるバレンタインという悪習そのものがっ!!もうみんなで一斉に止めようぜ!?来年からチョコ送ったやつも貰ったやつも全員死刑でファイナルアンサー!?」

仙座) 「友貴にもニッ怪にも ちゃんと有るからね♪」

炎条寺) 「よしニッ怪、俺たちはまだ神に見放されてないんだな」キリッ

ニッ怪) 「う…うむ」

 

 

黄昏?

炎条寺) 「今日は……風が騒がしいな…」

幻花) 「じゃぁ風止めちゃおうか!」←風を操る能力

炎条寺) 「バカッ止めろ!」

夏来) 「早く中入ろ…? 風邪引くよ?」

炎条寺) 「作者に従わなきゃいけねぇんだよ!だってこれ小説だから!!(泣)」

 

 

 

 

 

 

 

そして……春

 

 

 

新年になり、早四ヶ月。

夏来たちは無事高校2年生へと進級出来ていた。

まぁ、夢の世界だから進級もクソもないけどねっ!!

 

制服に身を包み、ビシッとキメた姿で学校へ向かおうと準備する夏来。

今日は学校登校日だ。

玄関を開け、坂道を下った所の角で炎条寺とバッタリ会う。

夏来) 「あっ炎条寺君 おはよ〜」

と挨拶をしたが、どこか忙しそう。

スマホで時刻を見ても、学校が始まるまでまだ15分も有るのに…

炎条寺) 「ちょ…何呑気に歩いてんだ! 何時もより10分早く始めるって言ってたろ!?」

夏来) 「えっ!?」

そう、夏来はおっちょこちょいなのだ…

炎条寺) 「ほら行くぞっ!」ガシッ

夏来) 「もうダメだぁ…おしまいだー!!」

 

そして、学校へ着く頃にはせっかくキチンと整えた髪も、ボサッとだらし無くなってしまっていたとさ……

夏来) 「なんて日だっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ー

 

広大な荒野を見渡せる、切り立った崖に一人の男が座っていた。

???) 「脳内通信とか…貴様らしくないな…」

そう言う男は、自分の頭に右手を当て話している。

???) 「全く…俺が動く必要のある程の相手なのか…? ………はぁ…しゃーねーな…んじゃ、いっちょケリつけに行くか…」

 

 

((頼んだぞ、バールド))

 

 

バールド) 「ぁぁ……安心しろ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾルバース…」




いやぁ〜結構進みましたねぇ
夏来たちも能力を持ち、戦力は跳ね上がりました!
けど……勝てるのかなぁ…
まっ!それはこのスマホを操る手が決める事だけど!!
っと…今回も読んでくださり、ありがとうございます♪

次回は遂に機動隊の最高戦力部隊との戦いっ!
夏来たちは未知の能力に打ち勝てるのか⁉︎

夏来) 「次回も乞うご期待…する程じゃないかも…?」
炎条寺) 「あ、言い忘れてたが、わたっふの高校2年へと上がるための試験が有るから、次回作は少し遅れるらしい」


それではっ……バイビッ!


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十五夢 宿敵との対立

「……おかしい…」

 

桜の花が水面に舞い落ち、波紋を広げて行く様子に、川沿いのベンチに座って享奈から貰った御守りを撫りながら夏来はボソッと呟いた。

あの日、レウザが言った言葉は夏来の心にグサッと根深く突き刺さり、離れようとしなかった。

いっそ忘れてしまいたかった…だが忘れられるわけがない…

だから何時も何時も、夏来は迫り来る恐怖に怯えていた。

無事に帰る事が出来るのか、それがとても心配だった。

ニッ怪たちに余計な心配をかけまいと、二人が寝静まった頃にヒッソリと泣いていた時もあった。

でも、何時迄もクヨクヨしていられない。

享奈との約束……強くなると言う約束を破ってしまうから…

だから夏来は奴らを倒すべく、今日まで前向きに力強く生きて来たのだ。

 

 

だが どうだ……

肝心の奴らが来るのだと思っていたこの時期も、もう終わりを迎えている。

 

……奴らの動きが感じられない……

 

 

 

「「来年の春、またお会いしましょう」」

 

 

 

もしかして、あの言葉は脅しだったのだろうか…

そう思っている夏来を節目に、横に座っている炎条寺は何時もより眉間にシワを寄せ、目つきが鋭くなっていた。

理由は聞くまでもない……炎条寺には分かるのだろう。

そんな姿を見て、夏来が考えを改め直した時、一通のメールが夏来のスマホへ送られてくる。

 

夏来) 「ちーちゃんから…?」

炎条寺) 「……内容は?」

夏来) 「機動隊の事で話があるって…」

炎条寺) 「そうか、ニッ怪たちも集合してるかもしれねーから急ぐぞ」

 

 

 

 

暫くして、幻花の家に集合した夏来たちは応接間へと移動し、幻花と向かい合わせになるように2人は座った。

 

夏来) 「あれ…ニッ怪君と仙座さんは…?」

 

幻花) 「ぁー……ちょっと訳あって2人で出掛けてるよ」

 

炎条寺) 「こんな切羽詰まった時に呑気なもんだぜ で? 機動隊の事で話があるって言ってたけど?」

 

幻花) 「えぇ………実はかなり前に、機動隊に滅ぼされかけて、なんとか逃げ延びた能力者5人と、ニッ怪とゆきなが接触に成功してね? その人達は機動隊の最高戦力部隊にやられたって言うの」

 

夏来) 「やっぱりまだ僕たちの他にも居たんだ……」

 

炎条寺) 「なにか良い情報でも手に入れたのか?」

 

幻花) 「まぁね、その人達の発言からは、奴らは決まって春の終わりに来るらしいの」

 

夏来) 「春の終わり……もう来てもおかしくないよね…」

 

幻花) 「そう…あと…奴らの能力も分かったわ」

 

夏来) 「能力…!? それって…」

 

と、夏来がグイッと幻花に顔を近づけた瞬間、家全体が細かく揺れだした。

突然の事態に慌てる2人を落ち着かせた炎条寺が何に気づき、カーテンを素早く開け、空を見上げたかと思うと、2人の手を掴み玄関先へと出て来た。

辺りを見渡すと、先程の揺れを感じて家から出て来た人達で溢れかえっていた。

天候もガラッと変わり、雲が空全体にかかり薄暗い。

 

幻花) 「今の…地震?」

炎条寺) 「いや…違う……もっと恐ろしいもんだ……来いっ! 行くぞ! 」

 

前を走る炎条寺の後を追う2人は、今行く方向には何か良からぬ者が待ち伏せている様な気がした。

その証拠に、前方から逃げて来る大勢の人達が3人の横を通り過ぎて行く。

ふと、空を見上げた夏来は稲妻が走っているのを確認する。

先程の揺れは地震などではなく、稲妻が地面に落下した際の衝撃から来る揺れだと言う事を察した。

 

 

 

地面がめくり上がった、ひらけた場所に出た3人。

その目線の先には、あの機動隊の姿があった。

稲妻が地面に落下する度に、機動隊…雷兵が召喚される。

その数はゾルバースの時程では無いにしろ、夏来たちにとっては絶望的な数である事に変わりはない。

すると、雷兵の間をかき分ける様に、1人の男が前に出て来る。

 

レウザ) 「おおおお〜!!! またお会い出来て光栄ですよッ 皇 夏来さぁん」

 

天に向かって両手を突き上げ、甲高い声で狂った様に話す姿に、夏来は見覚えがあった。

それは闇籠神社で出会ったレウザ・ディアス本人だった。

相変わらずの、そのネットリとした喋り方とニタニタとした不気味な笑顔を見て、夏来は一歩足を引いた。

 

炎条寺) 「なんだコイツ…」

幻花) 「夏来…こいつが…レウザ…?」

夏来) 「うん……間違いないよ…」

 

と話している間も、ニタニタとした笑顔を崩さないレウザに、3人は恐怖という物を植え付けられている様な気がした。

冷や汗を流している3人と、機動隊との間に暫くの沈黙が続いた後、レウザが口を開いた。

 

レウザ) 「まぁ……立ち話もなんです……座って話しましょう」

 

座って話そう、これが「楽になって話そう」と言う事だと分かった3人が身構える。

楽になって話す……つまり、夏来たちを倒してから話をしようと言う事だ。

レウザの狂った笑い声を合図に、雷兵の軍団が3人に襲い掛かった。

ここは俺たちに任せろ、そう言った炎条寺が幻花と共に雷兵たちに立ち向かって行った。

残された夏来がレウザの姿を確認しようと前を振り向くが、そこには姿が無く、頭上を見上げると、いつの間にかレウザが拳を握りしめて夏来に迫っていた。

ギリギリの所でそれを避け、距離を取る。

レウザが拳を叩きつけた地面にはヒビが入り、凹んでいる。

 

レウザ) 「良く避けましたね〜 素晴らしいです!!」

夏来) 「(今のを受けていたら流石に……!)」

 

安心したのもつかの間、レウザの左ストレートが夏来を襲う。

一方の夏来も、一瞬で反射神経を倍増させ避ける。

が、レウザの追撃の右回し蹴りに、横腹を思いっきり蹴られた夏来は地面を数メートル転がる。

何とか立とうとするが、その度に激痛が走り、徐々に夏来の足に力が入らなくなる。

レウザが夏来の目の前にしゃがみこみ、夏来の髪を掴み上げる。

 

レウザ) 「あらぁ〜? もぅ終わりなのですか? 案外 呆気ない物ですねぇ〜? もっと本気を出して下さいよォ!!!」

 

レウザは夏来の髪を掴んだ手を上下に動かす。

それに従って夏来は顔を地面に叩きつけられる。

 

レウザ) 「そんなっ……物ではっ……無いっ……はずです!!」

夏来) 「…っ…うわぁぁぁあ!!!」

 

夏来が声を張り上げると、右アッパーが油断していたレウザの顎を殴り上げる。

宙を舞い地面に落ちたレウザが、体を左右に揺らしながら立ち上がり、首の骨を鳴らす。

 

レウザ) 「ぁぁぁ……良いです…これです!! これこそが私が望んだ貴方の力!!」

夏来) 「ぅ……っ…効いて…ないの……」

 

額から流れ出る血を袖で拭い、横腹を手で押さえ、なんとか立ち上がった夏来。

 

炎条寺) 「くっ…! 夏来!今行くぞっ!」

 

夏来の声を聞いた炎条寺が、雷兵を倒しながら夏来の元へ走って来る。

レウザは炎条寺の姿を見て、クスクスと笑った。

 

レウザ) 「助けようとしても無駄ですよぉ〜」

 

とレウザが言うと、また一つ、稲妻が炎条寺と夏来との間に落ちた。

稲妻の光が消え去った後、そこにはフードを深々と被った人間が立っていた。

その人間は立ち尽くしている炎条寺に向かって手をかざしたかと思うと、次の瞬間、炎条寺が後ろに飛ばされる

衝撃波だった。

その威力は計り知れないもので、後方にいた幻花と雷兵たちも吹き飛ばされた。

さらには建物も崩壊し、反対側…夏来とレウザの後ろにあった建物のガラスも全て割れる。

 

レウザ) 「バールドさん!貴方…兵を…!」

バールド) 「すまない…つい力が入っちまってよ」

 

バールドと呼ばれた男は、フードを捲り上げると、レウザに背を向けたまま言った。

そして拳を鳴らしながら炎条寺と幻花に近づいて行った。

 

バールド) 「今度は俺と遊ぼうぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

夏来は絶望していた。

レウザと同じ……いや、それ以上かもしれない実力者がまだ居た事。

そしてこの戦いで、町に…町の人々に危険な思いをさせてしまう事に……

 

レウザ) 「くふふ…大丈夫ですよ? 私はあなた方だけ敵視しているのです 町の人々には危害は加えませんよ?」

 

小刻みに震えている夏来を見て、レウザは心を読んだかの様に夏来の思っている事に返事をした。

 

レウザ) 「そう……私ならですが…………くくく…さぁあ! 貴方の本気をもっと見せて下さいぃぃ!!」

 

レウザが地面を蹴り、右手を後ろに引きながら夏来へ一気に迫る。

夏来がレウザの接近に我に返る時には、ガードをする間もない程に間合いを詰められていた。

レウザの右手が貫手付きの構えになっているのを確認した夏来は、

 

夏来) 「リミッター解除っ!」

 

その言葉と共に夏来の姿がレウザの前から消えた。

 

レウザ) 「なるほどぉ……スピードを格段にアップしましたか……気配がそこら中から感じます……ですが…」

 

右手を前方にかざし、横に白い光を作り出す。

 

レウザ) 「シャイニングストラーレイン」

 

その後その光から無数のガラス雨のような光線を射出する。

それは広範囲に渡って広がっていき、建物を破壊尽くしていく。

そんな強力な技を夏来は避けれるはずもなく、右頬と左腕全体が擦り傷を負い、左肩と右足の太ももが少し削れ、足元はそこから流れ出た血で赤く染まっていた。

 

レウザ) 「捕まえましたよォ〜」

夏来) 「ぁっぐ……ぁぁっ!」

 

右足をやられた夏来は、たまらずその場に膝から崩れ落ちる。

荒い呼吸を繰り返す夏来の脳裏には「死」の文字が見えていた。

ニッ怪が居ない今、回復手段は何一つ無い。

戦慄でガチガチと歯がぶつかり合う音が、異常なまでに大きく聞こえる。

顔を上げ、歯を食いしばりながらレウザを睨みつける。

そんな夏来を遠くで見つめているレウザは、相変わらずの不気味な微笑みを浮かべていた………

 

 

 

 

 

 

夏来がレウザの攻撃を受けたのを炎条寺は横目で確認した。

助けに行こうとも、目の前の敵に足止めを食らってしまう。

 

バールド) 「おいおい…どこへ行くんだ? まだ終わってねーよ」

 

一瞬で炎条寺の前に現れ、腹に蹴りを入れる。

それはズッシリと重く速い攻撃で、炎条寺の身体は横U字型の形で地面へと叩きつけられた。

側に駆け寄る幻花。

幸い、雷兵はバールドの攻撃を受けて全員戦闘不能状態になっていた為、邪魔が入る事は無かった。

 

バールド) 「手応えねぇな〜 おい」

炎条寺) 「ガハッ……化け物め…」

幻花) 「友貴! …このっ!」

 

幻花がバールドに攻撃を仕掛ける。

風を掴み、空中へと飛び出した幻花が手を横に広げると、周りに風を受け高速で回転する白い刃が無数に作り出される。

 

幻花) 「私の全力をこの技にかけるっ!!」

 

それを見て少し驚いた表情を見せたバールドだったが、それも一瞬だけ。

怪しいほどの真率な表情が漲る。

 

バールド) 「ならばその例に応じよう…」

 

そう言うとバールドは、自身の頭上に光のゲートを2つ召喚する。

そしてその中から剣を出現させると、手に取り、胸の前でクロスさせた。

 

幻花) 「白き刃は敵を切り裂く……ミリアドゥーブレード!!」

 

幻花が両手を前に突き出すと、刃が一斉にバールドに向かって放たれる。

その瞬間、バールドが2つの剣に力を込め勢い良く振るうと、斬撃が形を持ったまま飛ばされる。

そして呆気なく幻花の攻撃は、バールドが放った斬撃により相殺された。

空中で大規模な爆発が起こる。

 

幻花) 「そ……そんな…っ!!」

バールド) 「どこを見ている…空を飛べないとは言ってないぞ」

幻花) 「なっ…!」

 

爆発に気を取られていた幻花の背後に回り、背中へ足を振り下ろす。

そのまま垂直に落下した幻花は、立つことが出来なかった。

血反吐を吐き、さらには右足が折れ曲がっていた。

 

炎条寺) 「千代!」

バールド) 「所詮は人間……自分を守れず…仲間を守れず……本当に愚かだ」

炎条寺) 「ぐっ……この野郎!!」

 

地面に倒れたままの炎条寺が、力を振り絞って右手から炎を飛ばす。

バールドはそれを避けるわけでも、弾くわけでもなく、自ら当たりに行った。

バールドの口元が引きつる。

 

炎条寺) 「…なんで…効かねんだよ…! 当ててるはずなのにっ……!」

 

バールド) 「くくく……良いだろう…教えてやる どうせ死ぬんだからな 俺は受けたダメージを自身の力に変えることが出来る能力を持っている」

 

炎条寺) 「なんだと…!?」

 

バールド) 「そしてあそこに居るレウザは不死身の能力を持っている 最初からお前らには勝機なんて無かったんだよ」

 

炎条寺) 「……………」

 

バールド) 「ふっ…… おいレウザ! そっちは終わったか」

 

レウザ) 「はい、動けないように痛めつけて置きました」

 

バールド) 「んじゃ…そろっと終わりにすっか」

 

レウザが夏来の目の前に立ち、バールドと共に3人に向けて手をかざす。

闇の球が2人の手に宿り、黒いオーラに包まれる。

 

バールド) 「少しは楽しかったぜ」

レウザ) 「さようなら」

 

耳に届く その言葉に夏来たちは目を閉じる。

逃げる気力も体力も無い。

潔く死を認めるしか無かった。

 

2人) 「冥界への誘い(ヘル・アルーア)」

 

次の瞬間、夏来には聞こえた。

何かが突き刺さったのと同時に、血が噴き出している音が………

だが、不思議と身体は痛くない。

 

 

 

 

 

 

そしてこの音が自分自身の体から発しているのではないと分かったのは、ほんの数秒後の事だった。

 

 

顔を上げた炎条寺の目に、レウザの方を見て何かに驚いているバールドの姿が映る。

そのまま視線を横にやると、そこには背中から氷の槍に腹まで貫かれ、大量の血を吹き出しているレウザの姿があった。

夏来は顔を上げた拍子に、顔中に血を浴びる。

一方のレウザは、自分の身に何が起こったのか分からなかった。

腹部をさわるとジワっと暖かい何かに触れる。

そしてそれが血だと言うことが分かった途端、レウザが氷の槍を前に押し出したかと思うと、勢い良く後ろに引いて抜く。

槍の先端にある返しから、レウザの身体から引き千切られた生々しい肉片が足元にボトリと落ちる。

レウザは貫かれた所を再生し、振り向くと空を見上げた。

夏来たちも、その視線の先に目を移す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲がかかった薄暗い空に7人の人間の姿を確認する。

 

 

 

ニッ怪) 「さぁ……今度は我らが相手じゃ」

 




2日間、殆ど寝ないで考えていたので、少し文章がおかしい所もあるかもしれませんが、目を瞑ってください!

ついに機動隊との戦いに入りました夏来たち一行。
バールドとレウザにコテンパンにやられるが、最後にニッ怪たち登場!
おや?でも7人? あーれー?おっかしーなー


そして、そんな疑問は次回明らかとなる!
次回作はなるべく早く出しますので楽しみにしてて下さいね!

あと関係ないけど、国語赤点だった……(´・ω・`)


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十六夢 不死身と痛感

頬に当たる冷たい風が、辺りに漂う血の匂いを運んでいく。

その場はまるで戦場の様な雰囲気に包まれていた。

 

レウザ) 「おやおやぁ…敵将の登場ですか……これはまたピンチに助けに来るとは、ふふふ……どこまで私たちを楽しませてくれる人達ですかぁぁあ!!」

 

両手を広げ、歓迎を表すかの様な仕草を見せながら言うレウザに対し、空中に浮かぶ7人の中から1人の人間が前に出てきて、右手に細長い刀を召喚する。

 

糜爛) 「我が名は糜爛 時雨……我らが友を失った悲しみ…今ここで晴らしてくれよう!!」

 

長い黒髪を後ろで結んだ糜爛の外見からは、女性を連想させられるが、発せられる声は低く男性だと言う事が分かる。

糜爛が叫ぶ。

それを合図に、ニッ怪を抜かした残り6人がレウザとバールドに攻撃を仕掛ける。

それに応じて2人も飛び出し、激しい空中戦が幕を開けた。

 

突如ニッ怪、仙座と共に現れた5人の人達の強さは確かなもので、人数的に有利だとしても夏来たち3人を簡単に遊び倒したバールド、レウザ相手に互角以上の戦いをしている。

そんな希望に満ちた光景を見て唖然としている夏来に、ニッ怪が駆け寄り傷を癒し、顔に着いた血を拭く。

 

夏来) 「ありがとうニッ怪君 ……あの人たちは…」

ニッ怪) 「…機動隊に恨みを持つ者たちじゃよ」

 

その言葉に、夏来は幻花の発言を思い出す。

過去に機動隊に滅ぼされかけた人達が居た事……

それが今、夏来の目の前で激戦を繰り広げている人達なのだろう。

機動隊に糜爛たちがどんな酷い事をされたかは夏来には分からない。

だが、彼らから感じられる殺気と怒りの混じり合った思いが、夏来には痛いほど伝わって来た。

 

夏来) 「ニッ怪君、ちーちゃん達を!」

ニッ怪) 「承知」

バールド) 「クソッ…!」

 

倒れている炎条寺と幻花に駆け寄る2人に、バールドが衝撃波を放つ。

 

糜爛) 「愛佳!」

神代) 「任せて 時」

仙座) 「捕まって!」

 

神代が仙座の手を掴み、瞬間移動で夏来たちとバールドの間に割って入ると、神代が斜め右上に向かって手を素早く動かす。

すると その部分の空中が割れ、ブラックホールの様な黒い渦が巻く小さな空間が現れる。

そしてその空間の淵に両手をかけ、腕に力を入れて左右に広げる。

それに従って、幅が大きく変化していき、バールドの衝撃波が吸い込まれていく。

 

バールド) 「っ!」

神代) 「ディメンション・ワープ」

 

と神代が言った次の瞬間、バールドの頭上に同じ空間が現れ、そこから先程吸い込まれた衝撃波が放たれる。

それに気づいたバールドが避けようとするものの、その攻撃範囲の広さは大きく、こんな至近距離で避けられる訳が無かった。

地面に叩きつけられたバールドが、ヨロヨロと立ち上がる。

 

バールド) 「ぁぁぁ……くそ…自分のを喰らうとはな…」

 

右手で頭を押さえ、左手で服に付いた塵を払う。

額から血が流れてくる。

その様子に炎条寺は違和感を感じていた。

バールドが言っていた自身の能力……受けたダメージを力に変える能力が働いて居ない様に感じた。

 

仙座) 「……あいつは自分の攻撃と斬撃には能力が発動しないんだよ……糜爛達から聞いた」

 

炎条寺) 「そうなのか!?」

 

神代) 「はい、ですから此処は私と糜爛、ニッ怪さんに任せて、貴方達はレウザを! 奴は不死身ですが…勝てない相手では無いはずです!」

 

夏来) 「分かりました! 」

 

神代はそう言うと、ニッ怪と共にバールドに向かっていった。

夏来、炎条寺、幻花、仙座の4人はレウザに標的を合わせ、仙座の手を掴み瞬間移動でレウザと戦っている3人の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

3人) 「ッァァァア!!」

 

レウザに対して、三方向から攻撃をしている。

水と氷の弾丸、そして青白く光る弾、それが一斉に無防備のレウザに襲いかかって居た。

流石に身動きが取れない事に危険を感じたのか、レウザが周りにバリアを張って攻撃を防ぎ、さらにそれを3人に向け攻撃として放つ。

3人は咄嗟に頭の前で手をクロスさせ、ガードの姿勢を取り、ダメージを軽減する。

攻撃が収まり、再度標的を確認しようと前を向くが、其処にレウザの姿は無かった。

 

幻花) 「ボサッとしない!」

 

と、其処へ仙座の瞬間移動で加勢に来た幻花が横に着き、斜め上を見上げる。

3人がその方向を向くと、レウザが右手を前にかざし、横に白い光を作り出して居た。

 

仙座) 「武!皆んなで一斉に攻撃して! 策を思いついたの!」

 

武次) 「ゆりかさん……分かった! 澄華、泰人 行くぞっ!!」

 

澄華・泰人) 「了解!」

 

仙座の指示により、4人が攻撃の体制に入る。

その瞬間、視界に入るレウザの姿が光に包まれた。

 

レウザ) 「御返しです! シャイニングストラーレイン!!」

 

そしてその光が形を変え、無数の光線となって降り注いで来るとの同時に、幻花達は手を前に突き出す。

 

幻花) 「フェザー ストーム」

武次) 「アイス バーニング」

澄華) 「ウォーター マジックスマッシュ」

泰人) 「ゼロ スピアポイント」

 

それぞれから多様多色な弾幕が放たれ、迫り来る光線と打つかり相殺されて行き、その度に小規模爆発が起こる。

 

レウザ) 「ぎ……ぐっ……これなら…どうですかっ!!」

 

幻花たちの抵抗により、少しずつ押されていたレウザが、フリーとなっている左手で横にもう1本の線を引き、そこから更に無数の光線を放つ。

それにより状況は一変し、レウザの攻撃が幻花達を追い詰めていく。

防ぎきれなかった光線が4人の体に傷をつける。

何回も何回も、それを体に喰らう度に力が弱まり、防ぎきれない光線の数が増える。

それでも諦めない幻花達は、自分の持っている力を全て出し切ろうと力を込める。

それにより、再度レウザが押し返される。

 

レウザ) 「ぐぐっ……調子に…乗るなァァァア!!!」

 

諦めの悪い幻花達に怒りを覚えたのか、レウザの口調が荒くなる。

その瞬間、放たれる光線の量が爆発的に増える。

だが幻花達も負けまいと気合いの入った叫び声を上げる。

 

レウザ) 「テメェらは何故彼奴の味方をするっ!? 彼奴を帰したら…俺らは全員この世界と共に死ぬんだぞっ!!」

 

武次) 「そんなのは分かっている……!! だが我らは死ぬ事に恐怖などない! 」

 

澄華) 「お前らは私達の幸せを壊した…っ!絶対に許さない!」

 

泰人) 「夏来さんは俺らにチャンスをくれたんだ!! だから俺らの亡き友の為に…」

 

3人) 「お前らを倒す!!」

 

レウザ) 「ククク……クハハハッ! そりゃぁ結構な事でぇ!! だったらそんな夢物語は俺がぶっ壊してやるよォ!!!」

 

仙座) 「行くよ2人共!今がベストだよ!」

 

レウザが目を充血させ、興奮状態に入ったのを俳句の能力で会得した千里眼により確認し、夏来と炎条寺に伝えると、仙座が瞬間移動でレウザの近くへと回った。

目の前の敵に意識を集中させているレウザに向け、仙座が右手の人差し指から一発の弾を撃ち込む。

 

完全なる不意打ちだった。

 

仙座の攻撃を受けて怯んだレウザが血走った目で睨みつけると、仙座に両手を向け攻撃の仕草を見せる。

と次の瞬間、魔力が送られてくるレウザの手が離れた事で白いラインに宿る力が失われ、そこから放たれた光線が一瞬で粉々に砕け散る。

 

そう…レウザが興奮状態に入り、理性を保てなくなったのを利用したのだ。

両手が使えない時に攻撃をすれば、反撃をしなければならなくなる。

もしも正常だった場合、レウザは手を離したりはしなかっただろう。

不死身の体に攻撃なんて効かないのだから……

 

策が十分すぎるほど完璧にこなされたと言う意味を込め、仙座はクスッと笑った。

そして……光線が消滅した事で、対の存在が無くなった幻花達の放った弾幕がレウザを襲う。

 

レウザ) 「し…しまっ…!」

 

その視野に広がる弾幕に、レウザの身体が飲み込まれる。

数秒後、身体中に痛みを感じたレウザが悲痛な叫び声を上げた。

不死身と言っても一度に大量の攻撃や、致命傷を受ければ痛みも感じるだろう。

その点、ただ氷の槍で貫いただけではビクともしないのは、不死身らしいと言えば不死身らしい……

 

炎条寺) 「今だ千代!」

 

レウザが踠いて居るこの瞬間、地上にて待機していた炎条寺が幻花に指示を出す。

 

幻花) 「ブラスト!」

 

それを聞いた幻花が左手をフリーにし、上昇気流を作り出す。

そして夏来と炎条寺を浮かび上がらせると、レウザ目掛けて物凄いスピードで飛ばした。

武次達の横を通り過ぎると、炎条寺が夏来の身体の周りを二重の炎で包む。

炎条寺が上昇気流から外れ、落下して行く。

 

炎条寺) 「やっちまえぇえ夏来ーー!!」

 

レウザ) 「ッェァア!!」

 

レウザが両手を前に出し弾幕を放つ。

しかし、それは夏来に当たる直前に幻花達の弾幕に相殺される。

さらに上昇気流に乗り、爆煙がレウザに覆い被さった。

なんとか視界を確保しようとレウザが、爆煙の中から上に向かって飛び出す。

だが其処にはそれを待っていたかの様に、力強く握りしめられた仙座の拳があった。

 

仙座) 「落ちな」

 

顔面を殴られ真下に吹き飛ばされるが、なんとか上手く体制を立て直す。

 

レウザ) 「こ……こんな事がっ…!」

 

まさか不死身の自分が此れ程まで追い詰められるとは思っても見なかったのだろう。

それまで余裕の表情を見せていたレウザが冷や汗を流す。

それと同時に理性を取り戻したレウザは、ある事に気づいた。

先程まで自分目掛けて弾幕を放っていた幻花達が、今がチャンスだと言うのに攻撃をしてこない事に…

何故だと思い幻花達の方を振り向こうとした時、爆煙を掻き分けて炎と共に夏来が現れた。

 

レウザ) 「な……何!?」

 

幻花) 「ストーム・スキャホールド!」

 

幻花が夏来の姿を確認すると、瞬時に夏来の足元に空気を固めて作り出した足場を召喚する。

夏来がそれに足を掛けて膝を曲げ、全身の炎を右手に集中移動させる。

 

レウザ) 「こんな所で…! シャイニングーー」

 

夏来) 「ブースト……!」

 

ストラーレイン、という言葉を発する前に、レウザは腹部に違和感を感じた。

内臓が焼ける様に痛い。

視線をそっと下へとずらすと、腹から背中にかけて夏来の右手が貫いていた。

 

夏来) 「うわぁぁぁぁあ!!!」

 

叫び声を上げながら、夏来が右手をグッと押す。

 

レウザ) 「速い……です…ね… ガァァッッ!!」

 

レウザは左手で夏来の右手を身体から抜き出すと、右足で夏来を地上へ向けて蹴る。

体に力が入らないまま落ちて行く夏来を目で追いながら、レウザは貫かれた腹を再生しようと力を込める。

しかし、何故か元に戻らない。

不思議に思ったレウザが確認すると、腹の中が焼け焦げていた。

 

……炎……

 

レウザ) 「それはぁ…再生出来ないじゃないですか……」

 

よろめき、バランスを崩したレウザは力を無くしたかの様に頭から落ちていき、地面へ勢い良く叩きつけられ、その後は少しの間身動きが取れなかった………

 

一方、レウザとの激しい戦いによって負傷した夏来達は、傷を治す為に仙座の瞬間移動でニッ怪の元へと向かった。

近くまで来た夏来達が、ニッ怪達3人の姿を見つける。

声を掛けようと夏来が息を吸い込んだ瞬間、3人の方向から何かが宙を舞い、地面へ落ちて此方にコロコロと転がって来た。

 

 

 

それを確認する為、夏来達は近づく。

 

 

人は好奇心旺盛だ。

 

 

それ故、物見たさに見てはいけないものまで見てしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来達の目に映ったのは、まだ血がトクトクと流れ出している肩から切断された人の腕だった。

 




春休みを利用して小説を書く……
だけど宿題があるぅぅう!!
宿題…小説…宿題…小説……ぁぁ…小説を書く宿題が欲しいよ!


次回予告!

斬撃が効くと言う事を聞いたニッ怪、糜爛はバールドとの激しい剣闘を繰り広げる!
ワープを作り出せる神代に、バールドはどう対策をして行くのか!
そして決着が着いた時……新たなる脅威が夏来達を襲う!
この作品中、最大の絶望が待っている!

夏来) 「次回はいつも以上に期待しててね!」
仙座) 「制作時間は少し掛かるかも!」


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十七夢 無敵のバールド、そして──

書いたら長くなってしまったので、この話は前編みたいな感じで見てもらえたら嬉しいです!

それと、まさか一年前から見て下さってる方は居ないと思いますが、偶然見かけて見て下さってる方々へ一言……
一年間ありがとうございました!!


レウザと夏来達の戦いから少し時間は遡り、ニッ怪、糜爛、バールドは互いに剣を召喚し、睨み合っていた。

いつでも動ける様につま先に力を入れる。

 

レウザ) 「御返しです! シャイニングストラーレイン!!」

 

遠くでレウザの声が聞こえる。

それを合図に、弾かれる様にバールドが前へ。

 

バールド) 「テヤッ!」

 

上段からの打ち下ろしに、2人は剣を使わず体捌きで躱す。

剣戟が空を切る。

すかさず剣を返し、遅滞なく横薙ぎに移行した。

バールドはそれをもう片方の手に瞬時に召喚した大剣で防ぐ。

体制を崩した2人の首元を狙い、バールドが両手に持っている2種の剣で突き刺す。

が、ここぞと言わんばかりに能力を使う時を伺っていた神代が、2人の上半身にワープホールを展開。

それによりバールドの剣は吸い込まれ、そして背後にワープの出口を創り出す。

 

完璧だった。

 

何も失態など無い。

 

だがバールドにはダメージは入らなかった。

神代の行動を予知していたのか、背中全体を覆う様な形で透明なバリアが備えられていた。

そして間を空けずに、左手に持つ大剣を地面に突き刺す。

するとニッ怪達の足元のコンクリートが剥がれ落ち、長く大きな柱状に変形した土の塊が飛び出して来て3人の腹に直撃する。

 

ニッ怪) 「うぐっ…」

糜爛・神代) 「ガハッ…!」

 

空中へと放り出されると、地上から弾幕が襲いかかって来る。

だがそれを物ともせず、剣で斬り裂きながら迫り来る2人。

一方、神代は2人が防ぎきれなかった弾幕を数カ所に展開したワープに吸い込ませる。

 

バールド) 「しぶてーな……おい」

 

困り顔を浮かべ、舌打ちをしたバールドは目を瞑り、少し浮かび上がらせた右足に全神経を集中させる。

 

バールド) 「グランド・オブ・アルマス!!」

 

目を見開き、力強い声を上げ、勢い良く足を下ろしたバールドを中心に、広範囲の地面が段階的に凹む。

剥がれたコンクリートの欠けらが舞い上がったかと思うと、それらが彼方此方で合体し、直径10㎝程の先の尖った細長い物体へと形を変え、3人へ向け放たれ──

 

はしなかった。

 

いや、正確には…

 

3人では無く「神代」に向けて全てを放った。

 

神代) 「あっ………」

 

突然のことに神代は反応が出来ず、その物体は彼女の身体を貫いて行く。

 

皮が捲り上がり、生々しい肉片と共に宙を舞う。

グシャグシャ…と、その物体は まるで飢えた獣が獲物を狩るが如くに、神代の身体から全てを奪い去ろうとしている。

 

痛みが、苦しみが、怒りが、悲しみが、とめどなく流れ出る血により塗り潰される。

意識が朦朧としている世界で、いつ命が尽きるか分からない世界で、神代の心を支配したのは、受け入れがたき死への恐怖だった。

 

もう? もうなの? 今って生きてるの? 死んでるの?

生きるって何なの? 命を弄ばれてるって生きてるって言えるの?

生死って何なの? 死ぬって何で怖いの? 何で 生きるのは必要なの?

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

限りなく押し寄せて来る、絶対的な死への拒絶。

 

神代) 「タ……セッ……」

 

小声で呟いたソレは、神代の最期の言葉となった。

手足はだらしなく垂れ下がり、その身体は力無く下へ下へと落ちて行く。

 

糜爛) 「ぁ………ぁぁ………」

ニッ怪) 「…っ! 糜爛殿!!」

 

自分を呼ぶ声にゆっくりと振り向いた糜爛の目に、白く光り輝く剣が映り込む。

次の瞬間、腹部が急激に熱くなり、さらに何かが喉を通って口から吐き出される。

それは新鮮な赤、綺麗な赤、これまでに見た事がない程の「赤」だった。

 

剣を引き抜いたバールドの蹴りが背中に当たり、糜爛は地面へと叩きつけられる。

力を振り絞って立ち上がろうとするものの、何かに手を滑らせ、再び地面に身体を強く打つ。

ピシャリと音が鳴る。

舞い上がった赤い水玉が糜爛の目に映り込む。

 

血……赤い…血………

 

憎い…憎い…に……く…い……

 

地面に伏せながら、糜爛は視線を横に移す。

そこには身体がボロボロになった神代が、此方に顔を見せながら、血溜まりの上で横たわっていた。

 

糜爛) 「す…まない……愛…佳」

 

目の前が暗闇に包まれ、だんだんと意識が遠のいて行く……

 

 

 

 

 

 

 

 

地へと降り立ったニッ怪とバールド。

先程まで一緒に戦っていた2人が血を流し、倒れている。

ピクリとも動かない。

そんな光景を見て、バールドはケタケタと笑っていた。

 

バールド) 「一気に2キルかよ! クハハハハッ!! お前らは デカイ態度の割には、最期は小さく呆気ない物の様だなァァア!?」

 

ニッ怪) 「…れ…」

 

バールド) 「あ? 聞こえねーよ」

 

ニッ怪) 「黙れ…」

 

谷から吹き上げて来る野分の様に、襲って来たのは激しい怒りだった。

そんな怒りに満ちた心は口を押し開けて、笛の様な息と共に外に溢れる。

 

ニヤリと微笑むバールドに、鷹の様な据わった眼差しを向ける。

 

バールド) 「その怒りを力で示して見せろ!!」

 

ニッ怪) 「討つ…」

 

相手の動くタイミングを見計らい、地面を蹴り前へ。

剣と剣のぶつかり合う音が響き渡り、火花が散る。

鍔迫り合いで両者の距離が一気に縮まり、互いの眼を睨み合う形となる。

 

バールド) 「ふっ」

 

と、バールドが力を抜いて誘う様に半歩退く。

 

ニッ怪) 「ハァァッ!」

 

この機に乗って、一気に追い詰めにかかる。

同時に無防備に残されたバールドの右足を踏み抜いて………。

 

ニッ怪) 「ぐっ…!」

 

しかし それは叶わず、バールドがもう片方の手に召喚した小さなナイフを飛ばし、ニッ怪の右横腹を切り裂く。

さらに畳み掛ける様に重い蹴りが腹に入り、血を撒き散らしながらニッ怪は大きく転がる。

だが、即座に体制を立て直し、能力を発動。

身体に付いた傷が見る見るうちに消えて行く。

 

 

バールド) 「流石だな……情報以上だ いいぞ…」

 

ニッ怪) 「……貴様らは…何故 能力者を殺し続ける……その先に何があると申すか!」

 

バールド) 「平和がある それの実現の為には、いずれ脅威となる能力者は排除せねばならない 俺たちは幻想を叶える人々にとって、絶対的な信頼者でなくてはならないのだ」

 

ニッ怪) 「そのような者は信頼者などでは無い! 屍の上に立つ唯の殺戮者じゃ」

 

バールド) 「そう呼ばれても別に構わない 死にたくなければ、歯向かわず従属すれば良い」

 

ニッ怪) 「違う…」

 

バールド) 「そう出来ない者は死ぬ そこの2人も俺たちに歯向かうが故に死んだのだ この世とはそう言う物だろ?」

 

ニッ怪) 「違う!」

 

自分の身体から流れ出た血により、赤く染まった剣を拾い上げ、バールドに斬りかかる。

 

ニッ怪) 「誰もが生きたいと願っておる!命とは他人に支配される物では無い!」

 

バールド) 「屑の戯言など…知った事かァ!!」

 

剣を押し上げられ、大きく後ろへと退いたニッ怪に向け、バールドは地面に手を置き、地中からの攻撃を放つ。

コンクリートが割れ、土の柱が出現。

ニッ怪は胸の前で剣を盾のように構えて受け止めるが、絶大な衝突の威力により宙へ打ち上げられる。

 

バールド) 「貫けっ!」

 

その言葉と共に、神代に放った先の尖った小さな土の塊が……いいや、それよりも遥かに大きな物がニッ怪に襲いかかった。

 

剣ごと身体を回転させ、目の前の物体を真っ二つに切り裂きながら進む。

バールドに近付くに連れ、それは数を増やして───

 

ニッ怪) 「なっ……!」

 

突然、バールドの攻撃が止んだかと思うと、ニッ怪の横を黒い何かが通過。

慌てて振り向いたニッ怪の目と鼻の先には、今にも彼の頭部に蹴り降ろされ様としているバールドの右足が映っていた。

グキッ…と鈍い音が脳に響き渡る。

 

 

次に身体が強烈な刺激を味わったのは、地面へと叩きつけられた後だった。

頭が、首が、全身がとてつもなく痛い。

痛くて、その痛みだけで死にそうな程に。

 

バールドの足音が近づいて来る。

聞こえるだけで、見ることは出来ない。

何故だろうか……先程から全くと言って良い程に、首が動かなくなっていた。

恐怖から…? いいや、違う。

 

バールド) 「おいおい…もう終わりかよ〜 もっと楽しもうぜ? その首治してからよ」

 

バールドの右足が、ニッ怪の腹を踏みつける。

ジリジリと熱が帯びる感覚が伝わる。

 

ニッ怪) 「ぁ…が…」

 

首の骨が折れた今、呼吸が出来る事は奇跡に近かった。

この奇跡で得た、死までの僅かな時間を無駄には出来ない。

近くに転がる剣に手を伸ばす。

だが其れさえも行う事は許されず、その手はバールドの持つ剣に串刺しにされる。

 

バールド) 「……どいつもこいつも屑ばかりだな」

 

呆れたように溜息をつき、バールドは右足を地面に降ろす。

ニッ怪の手の甲に刺した剣を引き抜き、足元に召喚した光のゲートに吸い込ませると、入れ替わりに短剣が飛び出して来た。

右手で素早く掴み、そのまま流れる様にニッ怪の首元に当てる。

 

バールド) 「ならば俺は、お前の指を一本一本切断する感覚を堪能しながら、ジワジワと苦しみ踠いて死んで行く様を見届けるとしよう」

 

狂気的にギラギラと輝く双眸が視界いっぱいに広がる。

死ぬ……いや、もう死は経験済みか…

二度目だとしても、やはり受け入れ難い物だ。

 

首から離れた短剣が、ニッ怪の指に優しく触れる。

滑らかに手前へ軽く引くと、短剣の刃が皮膚を斬り裂き、肉へと達する。

 

バールド) 「一本目…」

 

ボソッと呟いた直後、大量のアドレナリンが発生すると共に、人差し指の第一関節から上がボトリと落ちる。

 

ニッ怪) 「……ーッ!」

 

今のニッ怪には、もはや「痛い」と言う事すら儘ならない。

バールドが切断した指を拾い、ニッ怪の目の前に放り投げる。

生々しく赤い物体の中に、白い物が見えた。

恐怖に引きつる顔を見たかったのだろう。

顔を覗くも、ニッ怪は睨むだけで表情を変えようとしない。

 

バールド) 「……不服、不承、不承知 実につまらない……死と言う運命に抗おうとしない者は──」

 

横になっているニッ怪の顔を上に向かせ、短剣を振り上げる。

 

バールド) 「ここで死ね」

 

その言葉は灰色に染まった世界で、死を目前に投げかけられたものだった。

正義に反し、世界を破滅へと導く愚か者への断罪の言葉。

風を切る音に合わせ、短剣がニッ怪の首へと振り下ろされた────その時、

 

 

 

ニッ怪が目を見開いて、バールドの背後を直視する。

その目線の先には、バールドへ向けて弾幕を放つ「ワープホール」が存在していた。

直ぐに異変を察知したバールドは振り返り、その攻撃を体全体で受け止める。

此方に背を向けたのを物にし、ニッ怪は素早く立ち上がって距離を取り、身体を回復する。

 

 

ワープホールは神代が使う技。

その持ち主が死した今、何故出現したかは分からない。

……分からないが、こんな機会は二度とないだろう。

呼吸を整え、決意を固めたニッ怪の目付きが変わる。

 

バールド) 「………! ほぉ…それがお前の本気か 」

 

弾幕を全て出し尽くしたワープホールを破壊し、振り返り直したバールドは「あるモノ」を見た。

肩甲骨部分の服を貫き、黒翼が羽根を広げているニッ怪の姿を。

 

ニッ怪) 「我は死神と言う立場より、多くの者の命を奪ってきた……」

 

俯向きながら話すニッ怪の右腕が、青黒いオーラに包まれる。

それが手のひらに集まると、日本刀の様な細長い形へと姿を変える。

 

ニッ怪) 「嘆き…悲しみ…怒り……黒青刀は全てを覚えたり 我はそれを受け止める」

 

バールド) 「驚いたな 最後に相応しい奥の手と言ったところか」

 

ニッ怪) 「この身に変えても……貴様を倒す!」

 

バールドが短剣を投げ捨て、再び剣を召喚する。

直後、ニッ怪の足元の地面が砂煙を上げると共に、その場から忽然と姿が消えた。

瞬きを一回。

この一瞬の内に、ニッ怪はバールドに間合いを詰めていた。

 

バールド) 「……くっ!」

 

黒青刀の刃が、体を反らしたバールドの頬を掠る。

さらに間を空けず、重く素早い蹴りを背中に食らわす。

その衝撃に宙へと打ち上げられたバールド。

先程まで圧倒していた者に、顔に傷を付けられただけでなく、蹴りまで入れられた事に苛立ちの表情を見せる。

 

バールド) 「おのれ────おのれ、おのれおのれおのれおのれェェェエ!!!!」

 

冷静さを失ったバールドは、無造作にニッ怪へ向けて弾幕を放つ。

だが、そんないい加減な攻撃は当たるはずも無く、黒青刀の一振りによって生まれた斬撃が、弾幕を破壊尽くす。

 

ニッ怪) 「……これに終わりか? なお本気にやりてほしいの」

 

バールド) 「ホ……ホザけ!! 殺してやる…野郎ぶっ殺してやらァァァア!!」

 

逆転に次ぐ逆転に、冷や汗を流すバールドは焦りを感じていた。

負けてしまうかもしれない、勝てないかもしれない。

憶測でしか無いが、確かな何かがバールドの心の中で危険信号を発していた。

 

 

ギラギラと光る剣を、バールドは頭上に掲げた。

すると、その剣先に1つの光の玉が宿る。

それが秒を重ねるごとに、二倍三倍と大きさを変えて行き、止まる頃には人間の身長の何十倍もの大きさとなっていた。

 

バールド) 「これは衝撃波の塊ィ!! 避ければ此処一帯は吹っ飛ぶ! 受けざるを得んぞ!!」

 

剣を振り下ろすと、その塊は地上へ向け放たれる。

 

ニッ怪) 「我は負けぬ……夏来殿の為、皆の為……この刀に全てをかける!」

 

迫り来る衝撃波の塊に乗り、激しい突風がニッ怪を襲う。

 

バールド) 「喰らえェェェエ!!」

 

ニッ怪) 「黒青刀…毘沙門天!」

 

地面を蹴り、宙へと飛び出したニッ怪は、衝撃波の塊に刀を突き刺す。

瞬間、これまで味わった事の無いような感情が、切先から感じ取れた。

誰かの悲しみの気持ち、誰かの怒りの気持ち、それらが混じり合った不思議な………

 

「私の悲しみを……俺の怒りを……力に変えて」

 

何処からか、そんな声が聞こえた気がした。

暖かく、力が湧き出してくる感じ…

 

 

身体を打つけながらも、奥へ奥へと刀を押す。

何度も何度も身体を傷付ける痛みに耐えながら、ニッ怪は勢い良く刀を押し上げた。

それに従い、衝撃波の塊は2つに分かれ、それぞれが地面に着く前に爆発する。

解き放たれた衝撃波の波が辺り一帯に広がり、1番近くに居たニッ怪は、その直撃により遠くへと飛ばされる。

が、すぐに身を翻し、バールドへ向けて翼を羽ばたかせる。

 

バールド) 「は………ぁ……?」

 

ニッ怪の接近に気付いた時には、もう避けることなど出来なかった。

地面に打ち付けられたバールドは、頭を抱えながら力無くヨロヨロと立ち上がる。

 

今がチャンスと空気を掴み、猛スピードでバールドに迫るニッ怪だったが………

突然、グラっと身体が揺れたかと思うと、手足の自由が利かなくなり、そのまま地面へ落下。

手をついて起き上がったニッ怪は、自身の影を見て目を疑った。

……あるであろう黒翼の影が確認できない。

背中を触って存在を確かめるが、そこには何も無かった。

 

バールド) 「どうやら……時間切れのようだな……」

 

ニッ怪) 「くっ…!」

 

刀を構えたニッ怪に対し、先制するのはバネの様に身体が大きく跳躍したバールド。

見えない空気の壁を足場とし、膝を伸ばす再跳躍でニッ怪目掛けて飛びかかった。

剣と刀が十字に交わる。

打つかる衝撃に、地面に着く足が土を擦りながら滑る。

声を張り上げたニッ怪は地面を踏み直し、自分の持てる力全てを注ぎ込む。

 

跳ね返された剣が宙を舞い、地面に落ちる。

バールドの喉元に刃先を突きつけるニッ怪。

その表情は険しく、今にも刀を横へと引こうとするその手は小刻みに震えていた。

今まで沢山の人間を手にかけて来た……

ためらい無く、自分の為に行って来た事。

この男を殺すのは、自分の為……そして仲間の為なのに……こんなにも殺意が湧いているのに、この行動に終止符を打とうとする手が拒否反応を起こす。

 

バールド) 「フッ…….」

 

目を細め、小さな笑みを浮かべるバールド。

直後、背中に張り裂ける様な痛みを感じたニッ怪が膝から崩れ落ちる。

 

バールド) 「すまねぇな、余りにもガラ空きだったからよ〜」

 

背中に深く刺した一本の短いナイフを引き抜き、ゲートに吸い込ませる。

ニッ怪の髪を掴み上げると、その顔目掛けて拳を振るう。

殴り飛ばされたニッ怪の身体は、地面を数メートル転がって止まる。

刀を突き刺し、それを杖の様に使い起き上がると傷を癒し、荒い呼吸を何度か繰り返す。

 

ニッ怪) 「(この黒青刀の力も長くは持たぬ……) 次で決める……!」

 

バールド) 「俺も全身全霊で答えよう……来い」

 

この狂気と張り合えるのは、現状の戦力、戦術では自分しかいない。

街への被害、仲間への影響を最小限に食い止め、その上で奴を仕留められるのは自分だけ。

距離を取り、剣を拾い上げる男を睨み付け、ニッ怪の踏み込みの速度が上がった。

接近を食い止める様に、周りに出現した光のゲートから射出される弾幕の攻撃を置き去りに、ニッ怪は矢の如く疾走する。

 

不要な感情を削ぎ落とし、黒青刀と1つになり、鋼で邪悪たる者を切り裂くために猛進する。

バールドに近づくに連れ、光のゲートから繰り出される攻撃の激しさは増す。

ニッ怪が片手から1つの小さな光の弾を、バールドの手前の地面に向けて放つ。

砂埃が舞い、バールドの姿勢が崩れる。

その中心へ刀を持つ手を突き出す。

 

バールド) 「……学習しないな…」

 

グシャ…と音を立てて、ニッ怪の身体が宙で固まる。

上下から細長い剣に身体を貫かれていた。

 

バールド) 「流石のお前も、これじゃぁ身動き取れねぇだろ?」

 

ニッ怪) 「…………」

 

バールド) 「最期はお前自身の刀でとどめを刺してやる 楽しかったぞ」

 

足元に転がる刀を拾い上げる。

青黒いオーラを失っている刀に少し違和感を覚えたが、構わずに刀をニッ怪の首元に突き刺した。

顔が崩れる程の笑みを浮かべるバールドだったが、それも一瞬のうちに打ち砕かれる。

 

皮膚を破り、うなじまで達した刀。

だが不思議な事に、傷口からは血が滴り落ちてこない。

今思えば、先ほど身体を貫かれた時も血が吹き出して来てなかった………なぜ?

 

バールド) 「………まさ…!」

 

その答えにバールドが目を見開き、声を上げようとした瞬間ーー、

 

ニッ怪) 「ぢぁぁぁぁぁぁ───ッ!!」

 

頭上から放たれる連泊の気合いに、バールドは凝然と顔を上げた。

その身体を袈裟斬りに落ちる斬撃が、バールドを斬り捨てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肩から腰までを深々と斬り付けられ、致命的な傷にバールドの姿勢が大きく揺らぐ。

 

バールド) 「な…ぜだ……何故、俺は……」

 

ニッ怪) 「貴様が見た我の残像は、殺気の塊……油断故に、無となりた我には気付かぬ」

 

バールド) 「フッ……面白いな……そ、その力は…何処から来るのだ……」

 

ニッ怪) 「皆の想いが、貴様ら機動隊に殺された者の念が、我に力を与えた……それだけじゃ……」

 

黒青刀をオーラに変えて身体に吸収し、ニッ怪は激痛に顔を歪めるバールドに背を向けて歩き出す。

 

バールド) 「ま、待て! 何処へ行く……まだ決着は…」

 

ニッ怪) 「ついたも同然、今の貴様には我を倒せる程の力は残っておらん」

 

バールド) 「ぐっ……」

 

ニッ怪) 「情けをかける気は無し……その身体でも死ぬ事は無いじゃろう 行け…我らの前に二度とその姿を見せるで無い」

 

刀剣士は非情でなければならない。

しかし、必要以上に相手を苦しめる事は許されない。

また、殺す相手も同じ刀剣を操る者である以上、名誉や誇りは尊重すべきである。

よって相手の命は奪うものの、致命傷で苦しむ者にとどめを刺し楽に死なせる事や、死後丁重に弔うと言った刀剣士としての温情を掛けなければならない。

 

 

だが、ニッ怪は違った。

 

 

情けをかける事すら拒否し、最後の最後までバールドを許そうとはしなかった。

 

見逃され、命を救われ、刀剣士として死ぬ名誉を軽視する無用の深情けを受けたバールドは、奥歯を噛み締めた。

 

バールド) 「お前は……この俺に………」

 

津波のように押し寄せて来る悔しさに耐えきれなくなったバールドが、糜爛と神代のそばに寄り添うニッ怪に手をかざし────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

糜爛殿……糜爛殿……!

 

暗闇の中、遠くの方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえて来る。

その声に答えるように、閉じていた目を開く糜爛。

そこには、心配そうに顔を覗かせたニッ怪の顔があった。

 

糜爛) 「滝…さん…」

 

ニッ怪) 「動くでない…」

 

糜爛の腹の上に、そっと手を乗せる。

白く輝く光が傷口に触れると、細胞同士が再生機能をフルに働かせ、常人ではあり得ないほどの回復力を見せつけた。

 

ニッ怪) 「お主が生きておったとは………希望はまだある様じゃな……」

 

糜爛) 「すまない……愛佳は…愛佳はどうなっ……」

 

糜爛が言い終わる前に、ニッ怪は唇を噛みながら首を横に動かした。

ニッ怪の視線が、糜爛の背後に移る。

ゆっくりと振り返ると、そこには未だに血の上に横たわる神代が居た。

 

糜爛) 「………そう……ですか…」

 

ニッ怪) 「しかし不思議じゃ……何故あの時 ワープホールが…」

 

糜爛) 「それは愛佳が仕掛けた物です……[タイムセット]……愛佳は最期まで諦めては居なかった……」

 

もう動かない神代の手を取り、額に当てると一粒の涙を流しながら言った。

その姿を見つめたまま立ち尽くすニッ怪。

 

糜爛) 「ニッ怪さん…愛佳の身体を治してはくれないでしょうか…」

 

ニッ怪) 「生き返りはしないぞい…」

 

糜爛) 「分かっています……ですが、いつもの変わらない愛佳のままで居させてあげたいのです……」

 

ニッ怪) 「承知した」

 

糜爛の願いを聞き入れ、神代に手をかざす。

光が神代の全身を包み込み、見るも無惨なその姿は、徐々に元の傷1つ無い美しい姿へと回復して行った。

感謝の言葉を言い、神代を抱えた糜爛は、此方に向かって来る夏来達と合流しようと歩を進める。

 

後を追おうとニッ怪が足を前に出した時、背後からの強烈な殺気を感じる。

振り返った2人は、此方に手をかざしているバールドを見た。

 

バールド) 「この俺に……殺されるべきなんだァ──!!」

 

直後、その手から衝撃波が放たれる。

それは怒りの気持ちが蓄積して行くように大きくなり、地表を削りながら2人に迫る。

 

ニッ怪) 「たわけ者め!!」

 

地面を蹴り、ニッ怪が1人 衝撃波に立ち向かう。

黒翼形態になる力も、黒青刀を創り出す体力も無い今の状態では、素手で迎え討つしか無かった。

衝撃波自らが生み出した斬撃に、ニッ怪の両手はズタズタに斬り付けられる。

斬られ、斬られ、斬り裂かれる………左手が肩から切断され、爆風に乗って遠くへと飛ばされる。

 

バールド) 「死ね…死ね死ネ死ネシネシネェェェエ!!! ヒャハハハッ!」

 

髪を掻き毟り、目を充血させ、バールドは感極まって激情を堪えられない。

 

ニッ怪) 「ぐっ……っぁぁあっ!!」

 

気合いの声を上げるニッ怪は、糜爛の心の中へ直接ある事を語りかけていた。

それを聞いた糜爛は少し驚いたが、納得したかの様に声を上げる。

 

糜爛) 「分かりました! 私の力を使ってください!!」

 

その言葉を聞いたニッ怪は、躊躇うことなく能力を発動する。

心臓がドクンと跳ね上がったかと思うと、力が湧き上がって来るのを感じた。

背中に黒翼を広げ、右腕に青黒いオーラを纏う。

 

ニッ怪) 「黒青刀 毘沙門天」

 

オーラが刀へと形を変え、柄を握ったニッ怪は、衝撃波を下から上へと斬りあげる。

それに従う様に衝撃波は軌道を変え、天高く打ち上げられた。

 

バールド) 「ぁぁ……ま…また……俺は…ま、まま負け……ぐっ……がぁぁぁあ!」

 

狂った様に周囲に光のゲートを張りめぐらせるバールド。

だが不思議な事に、そこからは弾幕や剣は出てこなかった。

不意に後ろから突き飛ばされる感覚を味わい、前方に倒れる。

立ち上がろうにも、手に力がほぼ入らず、両膝と両手を地面につける。

 

バールド) 「か…かか……身体が…」

 

ニッ怪) 「悲しき男よ……体力が尽きた様じゃな……いい加減諦めたらどうじゃ…」

 

そんなニッ怪の言葉も、怒りに打ち震えるバールドには届かなかった。

 

と、そこへ先程飛ばされたニッ怪の左腕を持った夏来と、その後を追う仙座達が合流。

糜爛の腕の中で安らかに眠る神代を見て、それぞれ悲しみの表情を見せた。

誰1人取り乱すこと無く、冷静な反応が出来たのは、過去これと同じ様な光景を見てきたからだろう。

夏来達は悟神の死を……糜爛達は沢山の仲間の死を。

 

そんな夏来達をよそに、バールドは歯をむき出しにし、唸る様に声を上げる。

 

バールド) 「雑魚共め………1人じゃ何も出ねぇクズが」

 

炎条寺) 「うるせぇ!! 殺人鬼の癖に勝手に決めつけてんじゃねぇ!!」

 

相変わらず悪態をつけるバールドに、拳を強く握った炎条寺が怒りの声を上げる。

 

バールド) 「この世界の為に働かない奴を排除して何が悪い? アァ!?」

 

炎条寺) 「そいつらにも命はあるんだ! それをお前らの考えだけで絶たれる身になってみろ!」

 

こいつらは罪も無い人々を殺す、正義という名の皮を被った殺人鬼だ。

こんな奴らを野放しにしたら、この世界に平和なんて訪れるわけが無い。

拳に炎を纏わせ近付く炎条寺に、恐怖の眼差しを向けるバールドへ誰かが声をかける。

 

 

「「お前の言う通りだァ バールド 世界の為にならねぇ奴ァ 消すしかねぇよなぁ?」」

 

 

その声は夏来達にもハッキリ聞こえた。

どこかで聞いた様な、二度と聞きたくなかった声で───、

 

 

 

 

 

次の瞬間、夏来達は目の前でまた一つ命の灯火が消えるのを目撃する。

 

空から雨の如く降り注ぐ、電気を帯びた無数の矢。

それがバールドの背中を深く抉り、血を撒き散らしながら前のめりに倒れる。

 

空を見上げた夏来達は、その声の主の男を視界に捉えた。

稲妻に乗り、地面に降り立った男は夏来達を見るや否や、ケタケタと嗤いながら再開を喜ぶ様に両手を広げ───、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「特殊能力撲滅機動隊 戦闘部隊隊長──ゾルバース・ヴェルデ、デス」」

 

 

そう声高に名乗りを上げた。

 




誠に申し訳ありませんでした──!!
一ヶ月間何やってたんだ! って言われるのも分かります!
でも…でも!!

花粉症になったり、メモに書いた丸一日分の文章が消えたり、宿題にバタバタしたりしたんですよ……

そのお詫びと申しますか……この話は他の話と比べても5000文字位多くしました!!

これで許してください……


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十八夢 約束を果たす その日まで

悟神との争いで相打ちとなったはずの仇敵「ゾルバース・ヴェルデ」

今この場所に存在してはいけない者が、しっかりと当時の面影を残したまま其処には居た。

軽く一礼し、微笑む狂者に立ち塞がれ、夏来達は一歩身を退いた。

 

仙座) 「な…なんで……死んだはずじゃ……」

 

あり得ない事態に怯える仙座の問いに、ゾルバースは頰を引きつるだけで答えようとしない。

 

幻花) 「話は決着が着いてからって事ね」

 

幻花が導き出した考えに応える様にゾルバースは右手を上げる。

すると、ゾルバースの背後から夏来達側に逸れていく様に稲妻が落ち、最終的に雷兵が周りを囲む様に召喚された。

悟神の時と同じ──いや、それよりも最悪な状況になってしまった。

ゾルバースの狂笑を合図に、無数の雷兵が両手に電気を纏わせ走り出す。

咆哮を上げた夏来達が、四方八方から攻めてくる雷兵に立ち向かって行く。

 

炎条寺) 「奴への道は俺たちが切り開く! 夏来は思う存分やってこい!」

 

夏来) 「分かった!」

 

炎条寺が掌に巨大な炎の玉を出現させ、雷兵目掛けて放つ。

そして連携する様に、背後から幻花が突風を巻き起こす。

炎は風に吹かれて交わり、辺り一帯は火の海と化す。

炎に身体を焼かれる雷兵の断末魔を耳に入れる事なく、炎の中を猛進する夏来。

 

ゾルバース) 「ふっ…来たかァ」

 

炎の海を抜けた先に、ポツンと佇むゾルバースの姿が見えた。

夏来はその場で止まり、開戦の心準備を整える。

目の前に居るのは、初めて心の底から恨み、殺したいと願い、全ての元凶であると憎悪した敵の主となる存在。

おそらく自分の短い人生の中で──いや、この先生きて行く中で、この者達ほど憎む相手は存在しないだろう。

自然と拳を強く握る夏来に、ゾルバースは呆れた様な表情を見せた。

 

ゾルバース) 「おいテメェ……1人で立ち向かうとかよォ……ナメてんのかァ?」

 

夏来) 「僕1人の力で勝たなきゃいけないんだよ! 今まで他人に頼ってばかりで……僕は何も出来なかった……だから僕は強くなる…強くなってみせる!!」

 

ゾルバース) 「ならば足掻いてみせろォ! 歴史を変えてやるとなァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降り注ぐ電気を帯びた矢を、夏来は己の限界を超えた起動で突破する。

左右に身を振り、速度に緩急を付け、可能な限り大仰に跳ねまわり、敵を翻弄しながら引き寄せ、掠める程にギリギリの攻防を繰り返しながら徐々に間合いを詰める。

何度も何度も拳を豪快に振るう夏来に対して、ゾルバースは落ち着いてその攻撃を滑らかに交しては、反撃として一発の重い殴りを入れる。

刻々と時間が経つにつれ、夏来の綺麗な白い肌は所々が赤紫色へと変わっていた。

 

ゾルバース) 「ほらほらァ! もっと来いよォ!! つまんねぇんだよォォォオ!!!」

 

夏来) 「ガッ……ガハッ!!」

 

夏来の攻めが弱くなり、楽しみと言えるこの戦いに終わりが来てしまうことに苛立ちを覚えたゾルバースが、夏来をまだ死なせるわけにはいかないと、夏来の襟を掴んで出来るだけ遠くへと投げ飛ばす。

地面に身体を強く打ち、転がる夏来を心配そうに見つめるゾルバース。

だが勿論、それは炎条寺達が感じる心配とは全くの別物。

 

壊れてないか? まだ使えるか? 俺を楽しませてくれるのか?

 

そう、唯の道具として見て居るのである。

手を着き、フラフラと立ち上がる夏来は口から血を垂れ流しながら、再度身構える。

 

ゾルバース) 「良い……良いぞ……スゥゥウバラシィィィイ!!!」

 

すでに作り出された無数の矢が天を埋め尽くし、狂える声と共に撃ち放たれる。

この規模であると、後ろで雷兵達を相手にしている炎条寺達をも巻き込んでしまうだろう。

止めなければ、そう決心して叫ぶが、それは何の力も持たない絶叫だった。

そのまま、ゾルバースの酷薄が世界を黒に染めあげる───その直前だった。

 

 

 

「そこまでです、ゾル」

 

 

 

──声がした。

そして、その声の持ち主に夏来は呆気に取られた。

目を見開き、呆然としたまま空を見上げて、身動きが取れなくなる。

なぜなら──、

 

 

「シャイニングストラーレイン!!」

 

 

電気を帯びた無数の矢を上回る、ガラス雨の様な光線が空を覆い尽くしていた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い光が乱舞し、血と炎の紅に染まる町を煌めきながら彩っていた。

互いにぶつかり合う力が爆風を生み出し、夏来は飛ばされない様に身を伏せる。

数十秒後、風の強さが弱まって来た所で顔を上げた夏来に、先ほどの声の主が呼びかける。

 

レウザ) 「勘違いしないでいただきたいですね……貴方よりも先に始末する必要がある者が増えただけです」

 

夏来) 「ぁ……ぇっ…」

 

ゾルバース) 「レウザ…テメェなんのマネだァ?」

 

レウザ) 「私の親友を……私達に欠かせない存在を……よくも、よくもバールドを!!」

 

地へと降り立ったレウザは、目線の先に立つゾルバースを敵と見極め、厳しい声音を深々と突き刺す。

その瞳に悲嘆と戦意を宿して、ゾルバースに──自分達のリーダーとも言うべき者に鋭い眼光を向けていた。

 

ゾルバース) 「俺達に欠かせない存在ィ? ふっ……クハハハッ!! それってよォ【友情】って奴かァ!? ぷっ……笑える…笑えるぜェェエ!!!」

レウザ) 「笑わないで下さい……次は警告しません」

 

腹を抱えて狂笑うゾルバースに、レウザは掌を突き付けたまま宣告する。

しかし、ゾルバースの耳に静止の呼びかけは届かない。

 

ゾルバース) 「俺はあいつの言った事をそのまま実行しただけだぜェ? 使えない者は要らない……この言葉、あいつに良く合ってたよなァ〜!! ケッハハハハハ!!!」

 

レウザ) 「───笑うなと、そう言いました」

 

警告通り、2度目はなかった。

周辺に光の弾を召喚、一瞬にして放たれる。

確実に命を断ち切る一撃は、直撃した存在を貫く。

ただし、

 

ゾルバース) 「危ないねェ〜」

 

強制的に転送された数人の雷兵が盾となり、肉片と化した傍でゾルバースは楽しそうに笑っていた。

その様子に絶句するレウザと夏来に、ゾルバースは足元に転がるバラバラになった雷兵の身体から滴る血に指先を付け、口へと運ぶ。

身が震え、白目を剥きながら喜声を上げるゾルバースが、自身の両手を漆黒のオーラで包み込む。

一触即発、強大な力を持つ存在同士の激突が始まる。

 

 

 

 

夏来) 「もうやめてよ……待って……」

 

仙座) 「待つのは夏来だよ! 行っちゃダメ」

 

開戦寸前の2人の間に割り込もうと足を踏み出した夏来の手が取られた。

引っ張られる力に夏来が驚いて振り向くと、そこにはいつの間にか返り血を頰に付けたままの仙座が居た。

 

仙座) 「その身体じゃ無理だよ、夏来が死んじゃったら元も子もないんだよ!?」

 

夏来) 「そんな事分かってるよ! でも──もう誰かが傷つく姿なんて見たくないんだよ……それが敵であっても……」

 

仙座) 「夏来………」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは、直前までの苛烈なやりとりの様に荒々しく始まった。

一歩目から最高速に入り、滑走するレウザに向かってゾルバースが掌から灰が舞う黒い弾を数発打ち出す。

片手を振り下ろし、上空に予備として設置しておいた光の弾が地面に落ち、ゾルバースの攻撃を防ぐ壁と化す。

だが、攻撃が当たった部分から広がる様に壁は黒く変色していき、灰となって崩れ落ちる。

壁の瓦礫の間を、灰に視界を遮られながらも何とかすり抜け、レウザはゾルバースを中心に大きく円を描いて狙いを攪乱する。

 

ゾルバース) 「ちっ……」

 

後追い、先回り、何を仕掛けても擦りもしない。

 

レウザ) 「貴方は私に勝てません──絶対に!」

 

力強く宣言した瞬間、再び白く輝く光の壁が出現し ゾルバースを包み込む。

逃げ道を無くし、ゾルバースの身体は完全に無防備を晒した。

直後、光壁がキシキシと音を立てて軋み、壁面から内側に向かって光線が射出される。

だが───、

 

ゾルバース) 「そんなものデェ! この俺を倒せると思ったかァ!!!」

 

閉ざされた壁の中で雄叫びが上がり、甲高い声と共に光壁が木っ端微塵となる。

破片となった壁を横目に、飛び出したゾルバースは無傷の状態だった。

しかし、勝ち誇った顔で宙へと飛び上がったゾルバースの腹に、レウザの蹴りが突き刺さる。

速度、勢い、全てにおいて十分すぎる威力の追撃に、ゾルバースの身体は地面に打ち付けられる。

が、バウンドした事を利用して体勢を立て直し、両手に宿した闇のオーラを円形状に変形させ、レウザに向けて投げ飛ばす。

空を切り裂いて飛来する円盤に、レウザは身を翻して真っ正面から突き進んで行く。

起動を読み、上手く2つの円盤の間を通り抜けたレウザだったが──、

 

ゾルバース) 「甘く見られちャァ困るぜェェェエ!!!」

 

ニタニタと笑うゾルバースを見て、レウザが何かを感じ後方に目を向けると、そこには先程回避した筈の円盤が少しの距離を置いてレウザの後をつけて来ていた。

不自然な動機で追尾をする円盤に振り回されならがも、レウザは後方に向けて「シャイニングストラーレイン」を放ち、円盤を破壊する。

 

ゾルバース) 「抗うネェ〜 ウザったらしい位にィ!」

 

目を赤く光らせ、礼と言わんばかりに猛威を成形、ゾルバースから感じる殺意はレウザの肌を粟立てた。

戦意を込めて両手を合わせ──、

 

ゾルバース) 「デス・エネクトル」

 

レウザ) 「──っ!」

 

肌を斬り付けられる感触にレウザの表情が強張った。

まさに先程の返礼、逃げ道を塞ぐ様に放たれた漆黒たる弾幕が暴威を振るう。

そしてそれはレウザの身体を何度も何度も貫いては、徐々に……少しずつ……ゆっくりと蝕んでいく。

 

ゾルバース) 「ケッヒャ──ッ!!流石のお前でも少しはダメージが入っただろォ!?」

 

レウザ) 「っぇえや──!!」

 

ガッツポーズの勝利宣言が蹴撃で中断、死角からのひと蹴りにその身体は吹き飛ぶ。

完全に予想外の出来事に何が起きたかわからないでいるゾルバースの目の前で、レウザの光像が粉々に砕け散る。

 

レウザ) 「よそ見とは──随分と余裕なのですね」

 

蹴りを浴びて地を転がるゾルバース、その両手足を拘束する光の輪が嵌められた。

身動きを封じられたゾルバースは身体を大地に縫い止められる形となる。

 

ゾルバース) 「ア〜ァ……ここまでとはなァ」

 

レウザ) 「───ありがとう」

 

嗤うゾルバースの胸に振り下ろされる光の拳が背中まで突き抜ける。

苦痛に顔を歪めて苦鳴を溢す。

だがそれも一瞬で終わりを迎え、ゾルバースの正義にかけた短かき命は断たれる。

 

 

───それが2人の戦いの決着となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの最後を見届け、夏来は声にならない声を上げて棒立ちとなっていた。

 

ニッ怪) 「夏来殿! 仙座殿!」

 

と、そこへ全ての雷兵を倒しきったニッ怪達が駆けつける。

身体中にアザを残したままの夏来とは違い、ニッ怪は勿論のこと、炎条寺達にも傷跡すら見受けられなかった。

それ程まで一方的な戦いだったのだろう、今のニッ怪達にはまだ力が有り余っている様に感じた。

 

ニッ怪) 「これはいみじ……痛かろう、良く耐え抜いたの ジッとしておれ」

 

夏来はニッ怪に身体を触れられてアザの存在を自覚する。

急に、合図もなく激しい痛みが一気に押し寄せて来た。

だが、それもほんの僅かな時間だけ。

みんなが自分を心配していてくれているのが痛い程伝わって来た夏来は、傷が癒えた身体を起き上がらせて、震えた声で感謝と謝罪の言葉を言う。

「気にすることない」そう言われて安心した夏来は、横目で戦場となった街の真ん中で倒れたままのゾルバースを見下ろすレウザを見つめる。

その死に、レウザがどの様な感情を抱いているのかは分からない。

ただ──、夏来の目にはレウザの頰に一筋の涙が流れたのが見えた。

 

レウザ) 「………!」

 

しかしレウザは頰を伝う涙に気付き、直ぐに裾で拭ってしまう。

何か独り言を言っているように見えるが、何を言っているのか口の動きだけでは判断できなかった。

 

夏来) 「──?」

 

ふと、レウザを見つめる夏来の心に奇妙な感情が芽生えた気がした。

それは今までの想いとは全くの別物で、どこか嫌な雰囲気がしていた。

それはまるで────。

 

レウザ) 「さて、では今度こそ あなた方を潰して───ッ」

 

振り向き直したレウザの目が夏来をとらえた瞬間、その身が黒いオーラに包まれる。

 

「デス・ホール」

 

小さく呟く声がどこからか聞こえてきて、夏来は周りを見渡す。

その声はどうやら夏来以外には聞こえていないらしく、皆んなはレウザの異変に目を見張っている。

 

糜爛) 「ぇ……」

 

オーラが弾かれ、その場に倒れるレウザ。

ピクリとも動かない身体は、夏来達に向けて完全なる「死」を表している様だった。

 

炎条寺) 「おい夏来……これってどういう──」

 

棒立ちの状態で何をすれば良いのか分からなかった筈なのに──、

 

炎条寺) 「……夏来?」

 

振り返った炎条寺の視界遠くに、どこかへ向かって走る「皇 夏来」の姿が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭を抱え、吐き気を堪えながら何処までも駆けていく。

出来るだけ、可能な限り遠くへ……

町から遠くへ、あの場から遠くへ───ニッ怪達から遠くへ。

 

夏来) 「はぁっ…はぁっ…」

 

息を切らしながら懸命に、1人になる場所を探しながら走り続ける。

心臓を締め付けられる感覚に苦しさを感じるが、それに気を向けてなんていられなかった。

瞼の裏には、自分が暮らしていた世界で、楽しそうに笑う3人の姿があった。

戻りたかった場所──戻らなくてはならない場所なのに、今はそんな事はどうでも良くなっていた。

それは諦めたわけでも、怖気付いたでもない。

もっと別の「何か」だ。

忌まわしく、悍ましい理由があるから───。

 

ニッ怪) 「──夏来殿! 何処へ行くのじゃ!」

 

夏来) 「うっ…!?」

 

誰にも追いつかれないよう、自身の出せる限界のスピードを出して走ったのにも拘らず、声に呼ばれて夏来は足を止めた。

振り返る視線の先には見慣れた4人が立っていた。

返り血で汚れた服の裾を払うニッ怪は、荒い呼吸を繰り返す夏来を見据える。

 

ニッ怪) 「夏来殿…一体どうしたと言うんじゃ? 機動隊らは倒せたではないか」

 

夏来) 「────」

 

幻花) 「──ちょっと、夏来」

 

押し黙り、何も語ろうとしない夏来に幻花は眉を顰める。

違和感を覚えながらも一歩、怪我をした者を案ずる眼差しを向けながら近付く。

しかし、身体には問題はない。

ニッ怪のおかげで問題なく動く。

そう──問題なく、自由に、思い通りに。

 

幻花) 「なつ──」

 

夏来) 「来ちゃだめだ、僕から逃げ───られると良いなァ〜」

 

仙座) 「──!?」

 

必死に抵抗する夏来の言葉は半ばで妨害を受けて沈黙、代わりに言葉を発したのは夏来の意志からではない。

だが、その途切れた部分を聞いた幻花は即座に後ろへと身を退き、夏来の攻撃を躱した。

 

夏来) 「流石だなァ〜 外見こそ変わりないコイツに油断してると思ったがァ……」

 

空振りした腕を摩り、『夏来』は口を引き攣りながら言う。

 

炎条寺) 「おい…嘘だろ…」

 

両膝を突き、絶望の表情を見せる炎条寺が力なく呟く。

 

仙座) 「ニッ怪! これって……」

 

ケタケタと嗤う『夏来』の姿に目を見開く仙座はニッ怪の横に並び、険しい目を向ける。

空気が張り詰め、それぞれが顔を歪める中、『夏来』だけは両手を広げて楽しげに口を開いて──、

 

 

 

「「特殊能力撲滅機動隊 戦闘部隊隊長──ゾルバース・ヴェルデ、デス」

 

 

そう、名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やられた、完全にしてやられた。

一番大事な部分であり、ゾルバースが機動隊を指揮する理由、レウザに殺される瞬間まで嗤う理由がやっと分かった。

 

──ゾルバース・ヴェルデは、その身体が死しても、魂が適する者に取り憑く事で生き続けられる「精神体」だったのだ。

悟神の時も、森の中に憑く事が出来る雷兵を1人待機させておいたのだろう。

 

万が一の為に……

 

夏来) 「ァァア〜力がァ…コイツに秘められた力が俺の物となっていく……クフフ…カァハハハ──ッ!」

 

炎条寺) 「夏来から……夏来の身体から離れやがれぇぇえ!!」

 

地面を踏み込み、夏来──ゾルバースに炎を纏わせた拳を振るう。

だが夏来の能力を使い、スピードを極限まで高めたゾルバースには攻撃は当たらず、炎条寺は腹に重く速い一撃を食らわされる。

 

夏来) 「攻撃はしない方が良いぜェ? 俺が受けるダメージは、当然コイツにも影響されるんだからなァ」

 

ニッ怪) 「夏来殿!目を覚ますんじゃ!」

 

夏来) 「フッ…無駄無駄ァ コイツにはテメェの声なんざ聞こえねェよ」

 

ニッ怪) 「貴様には話しておらん! 夏来殿、思い出せい! 何の為に戦い、何をしに元の世界へ戻るのかを!!」

 

ゾルバースを一喝し、ニッ怪は今にも悪に支配されそうな夏来の心の中へ叫ぶ。

その圧倒的な気迫に一瞬だけ押される。

完全に意識を覆ったゾルバース、そこに僅かな緩みが生まれる。

そして──、

 

夏来) 「な、なんだ!? 何が……俺の身体………なわけ、ない……これは、僕の身体だ……!」

 

内側から湧き上がる対の感情に、ゾルバースが驚きと恐怖の入り混じる目を見開いた。

その口から漏れ出た言葉は途切れ途切れではあったが、この身体の持ち主の意思が片鱗を見せる。

そのまま、驚嘆するゾルバースを押し返し、苦しみもがく夏来の心が這い出てくる。

 

 

「「──夏来!!!」」

 

 

夏来) 「コイツ、まだ……あ、諦めてなんかいない……うる、せぇよォ……」

 

負けない、負けたくない、この心を黒く埋め尽くそうとする淀みに。

強がり、希望を持ち、自身を奮い立たせる。

そうでもしないと、今すぐにでも闇に堕ちてしまいそうだから……

 

夏来) 「絶対に帰さない、絶対にィィィイ!!!」

 

そこで再度、夏来の抵抗を飛び越えたゾルバースの声が放たれた。

これ程までに根付いた想いを、感情を、狂気を口にしてきた精神で押し出す。

それはこれまで感じて来たどんな狂態よりも夏来を底冷させる闇だった。

そして理解する。

 

──これは決して表に出してはいけない物だと。

 

夏来) 「ニッ怪君……やって……殺って」

 

ゾルバースの抵抗が弱まり、この身体の主導権が自分にある間に決着をつける。

その為に夏来は最も効率的で、簡単な方法を選んだ。

夏来が元の世界へ帰る為だけにニッ怪達がこの世界に召喚されたのなら、夏来という存在が消えたらニッ怪達は目的を無くし、各自 自分の世界へ帰れるのだろう。

その指名に、ニッ怪は凝然と目を見開いて唇を震わせる。

 

ニッ怪) 「な、何を、言い出すのじゃ」

 

夏来) 「もう、これ以上…皆んなを巻き込みたくないんだ………早く…」

 

炎条寺) 「何言ってんだ夏来!!俺たちも、お前も!皆んなで帰るって約束しただろ!」

 

絞り出すような掠れた声の答えに、炎条寺が苦渋に顔を歪める。

前向きで、優雅で、勇敢で、どんな困難にも立ち向って、いつでも余裕を絶やさない。

そんな態度を貫き通して来た炎条寺の表情に、夏来は少しだけ驚く。

違う世界線の『皇 夏来』だと言うのに、ここまで躊躇うとは。

 

仙座) 「そうだよ夏来! 約束は……守らなきゃいけないんだよ!」

 

夏来) 「ごめん……守れそうに、ないや……」

 

いつ交わした約束だったのか、夏来は覚えていない。

けれど、皆んなと一緒に帰りたかった事は事実だ。

無事に帰って、元の世界でまた会えたら───そんな事も考えてたっけ。

 

夏来) 「───ちーちゃん…」

 

この闇は、夏来以外には払えない。

だが、当の本人には払うほどの力なんてある訳なかった。

夏来は息を吐くように無様な自分を嘲笑い、最後の1人に任せる事にした。

 

幻花) 「──こんな事になったのは、私達の責任でもある……ごめんなさい」

 

涙目の幻花、その手が夏来の胸に触れて変化が生まれる。

──それは肺へと送られる酸素が逆流する様などうする事も出来ない苦痛、さらに体内の水分が分解され、酸素と水素に分かれた様な………

 

夏来) 「あ、あぁぁ───ッ!!」

 

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛

苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦し苦し苦し苦し苦しししししししししシシシシシシシシイイィィィィィ

 

『ア゛ア゛ア゛ァァ───ッ!?』

 

潰れる鼓膜とは別の場所に、自分以外の何物かの断末魔が響き渡った。

操る身体は1つ、宿る精神は2つ。

当然、ゾルバース自身も言っていた通り、夏来が受ける痛みは共有される。

逃さない、このまま魂を閉じ込めてあの世まで送ってやる……

 

夏来) 「───」

 

苦しみ悶えた末、身動きが出来なくなる。

辛うじて出来る呼吸も、肺へと流れるのは少しだけだった。

 

炎条寺) 「千代! 何やって……」

 

幻花) 「最期くらい叶えてあげようよ! これが夏来の望みだから!」

 

炎条寺) 「だからって──こんな事する必要ねぇだろ!!」

 

幻花) 「──っ! 私が! 躊躇わずにやったと思う!? この力で、夏来を守る為の力で、こんな事を……!」

 

無念の嘆きと、それを塗り潰す悲嘆の怒声が聞こえる。

しかし、そちらに首を傾ける力もなく、夏来は望まない手段をさせてしまった幻花に内心で詫びた。

ごめん、の一言が言えたらよかったのに。

 

ニッ怪) 「──夏来殿 お主と居た時間、我は忘れぬぞ」

 

あぁ、忘れないでほしい……僕という存在を。

 

──だから僕も絶対に皆んなを忘れない。魂だけになっても、無と化しても、絶対に。

 

ニッ怪) 「───」

 

一瞬、躊躇いが生まれた。

しかし、それは武士としての覚悟を挫けさせはしない。

青黒いオーラに包まれた刀を掲げ、見送ってくれる事に嬉しくも悲しい意味のこもった息が漏れた。

 

語りかけてくれる声も小さくなっていき、何も考えられなくなる。

忘れないと誓った事だけを身に秘めて──

 

 

夏来) 「ァァア! バカな…バカなァ……俺は、こんなァ 適した者が居ればァ……この身が滅ぶ事などォ………」

 

 

 

 

 

 

────さよなら、

 




はい、やっと終わりました18話!
あ、これで終わりじゃありませんよ?
後2話分ありますので、楽しみにしてて下さいね!

まぁ、今回の話はリゼロ23話を凄く意識して書きましたね〜 (ほぼ同じ)


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十九夢 希望の光と絶望の闇

 

 

「暗闇」

 

 

 

 

それは絶え間無く広がる黒の世界。

負の感情を持つ者が辿り着く最後の場所、その中心に皇 夏来は立っていた。

踏みしめる地面はフワフワとしていて、まるで雲の上にいるかの様だ。

 

夏来) 「……」

 

足元を見下ろしながら自分が犯した罪を、自分の過ちを振り返る夏来。

悔しさに、情けなさに、自分への怒りの言葉を止めることは出来なかった。

溢れ出る涙が何の意味を持つのか、それさえも分からないまま……

 

 

「貴様にとっては呆気ない最後だったな」

 

 

そんな後悔の念に浸る夏来に向けて、どこからか聞き覚えのある声が投げかけられる。

と、夏来の首に掛けてある享奈から受け取った御守りが光り輝いた。

その光が夏来の前方に2人の人間の形を取る様に集まる。

 

夏来) 「───え?」

 

思わず疑問の声を発し動揺する夏来に向けて、目の前に立つ者たちは片手を差し伸べる。

 

 

「生きたければ」

 

 

「まだ諦めていないのでしたら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「共に、戦おう」」

 

 

 

 

 

 

薄れゆく2人の姿に、夏来の手は自然と動いていた。

瞬間、夏来を包み込む暗闇の世界が眩しいほどの光に照らされる。

思わず目を瞑り、光が収まるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目を覚ましたのは、騒音と血の匂いが漂う世界だった。

ふと横を向いた夏来の目に、仙座の姿が映る。

そして前方には、ゾルバースとレウザが激戦を繰り広げていた。

理解し難い光景に、夏来は目を見開きながら佇む。

 

夏来) 「なんで……」

 

そう思うのも無理は無い。

確かにゾルバースに取り憑かれ、最後の手段としてニッ怪にゾルバースもろとも殺してもらったはず。

 

自分が選んだ死の道なのに……

 

視線を落とした夏来は、ニッ怪に斬られた場所を確認した。

そこには切り傷は無く、ゾルバースとの闘いにより受けたアザが痛々しく残っていた。

それは、死を経験したあの時間全てが偽りのものだと語り掛けているかの様だった。

 

 

ゾルバース) 「ア〜ァ……ここまでとはなァ」

 

レウザ) 「───ありがとう」

 

 

レウザが光の拳を振り下ろし、ゾルバースの命を奪う姿を、

 

 

ニッ怪) 「夏来殿……これは」

 

仙座) 「た、倒しちゃった……」

 

 

驚きと、仇敵ゾルバースが敗北した事による安心感が入り混じった会話を、夏来は覚えている。

ニッ怪に身体を回復してもらい、すでに死したゾルバースを悲しそうな目で見下ろすレウザを見据える。

もし本当にこの世界が過去だとしたら、これから起こることに対処できるのは夏来だけだ。

そう、これから起こる事……それは───

 

 

 

ドクン……

 

 

 

それまで一定のリズムを刻んでいた夏来の心臓が大きく脈を打つ。

その瞬間、瞼の裏側に邪悪な何者かの存在を感じた。

この身体を支配しようとするその力は、とても夏来が持つ力では対抗できない。

 

 

【デス・ホール】

 

 

脳内に響き渡る憎き者の声。

直後、此方に振り返ったレウザが、死体となったゾルバースの身体から溢れ出してくる黒いオーラに身を包まれる。

数回の瞬きの後、オーラから解き放たれたレウザがその場に膝から崩れ落ちた。

 

夏来) 「ぐっ……!」

 

レウザの突然の死に驚愕の目を向ける炎条寺達。

そんな彼らに背を向けて夏来は走り出す。

 

遠くへ……もっと遠くへ……

 

あの時と同じ過ちを繰り返してしまった自分を責め立てながら走り続ける。

建物の間をすり抜け、何度も転びながらも皆んなから距離を取ろうとする。

だが、やはり未来は変えようとしても、そう簡単に変えられる物ではないのだろう。

 

背後から放たれる静止の呼びかけに、夏来は足を止め振り返る。

そこには夏来を心配そうに見つめる4人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒雲の下、肌寒さを感じる程の冷たい風が夏来達の髪を靡かせる。

辺りは怪しい程の緊張感に満ちていた。

 

ニッ怪) 「夏来殿…一体どうしたと言うんじゃ? 機動隊らは倒せたではないか」

 

幻花) 「──夏来?」

 

視線を下げ、押し黙り続けている夏来に近づく幻花。

ここまでは あの絶望的なシナリオ通りだ。

ゾルバースの命令により、夏来の意思を無視して右手が力強く握り締められる。

 

 

止めなきゃ……声を出さなきゃ……そうしないと目の前でちーちゃんが……っ!!

 

 

叫び、抗う、今の自分に出来る事を可能な限り行う。

闇を掻き分け、今にも閉ざされそうな光の隙間へと手を伸ばした。

 

夏来) 「来ちゃダメだ! 僕から逃げ───られると良いなァ〜」

 

一瞬……ほんの僅かな時間だが、ゾルバースから身体の主導権を奪う事に成功した夏来。

それまでニッ怪達に届かなかった叫びが、その口から一気に漏れ出した。

だがそんな抵抗も虚しく、夏来の言葉は半ばで妨害を受けて沈黙。

再びゾルバースが夏来を闇へと引きずり込んだ。

 

幻花) 「っ──!?」

 

途切れた言葉の断片を聞いた幻花は、視線を上げた夏来の右手から繰り出される一撃を、身を退いて躱した。

 

夏来) 「流石だなァ〜 外見こそ変わりないコイツに油断してると思ったがァ……」

 

空振りした右腕を摩り、『夏来』は口を引きつりながら言う。

 

ニッ怪) 「何と言う事じゃ……」

 

仙座) 「ぁ…ぁぁ……」

 

空気が張り詰め、それぞれが顔を歪める中、『夏来』だけは両手を広げて楽しげに口を開き──、

 

 

 

 

「「特殊能力撲滅機動隊 戦闘部隊隊長──ゾルバース・ヴェルデ、デス」

 

 

 

 

そう、高らかに声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来) 「ククク……アッハハハ!!」

 

ゾルバースは笑っていた。

それは取り憑く事に成功した喜びと、夏来の何も出来ない無様さへの笑い。

 

炎条寺) 「夏来から離れやがれっ!!」

 

何をしようと無駄なのはわかっていた……

だが、このまま何もしなければ夏来はゾルバースに身体を支配されるだけだ。

拳に炎を纏わせ、夏来──もといゾルバース目掛けて振りかぶる。

しかし目の前に映るのは、共に助け合い、協力しあった親友とも呼べる者の存在。

炎条寺の心に一瞬、躊躇いが生まれた。

その時をゾルバースは見逃さなかった。

宿主の能力を使用し、身体能力を極限まで高めたゾルバースの一撃が、炎条寺の腹に命中。

その衝撃に、地面に強く身体を打ちつけながら転がる炎条寺。

 

夏来) 「攻撃はしない方が良いぜェ? 俺が受けるダメージは当然コイツにも影響されるんだからなァ」

 

炎条寺) 「ク……ソッ…ガハッ……くっ! おい……夏来……出てこい お前!!」

 

ヨロヨロと立ち上がり、荒い呼吸を繰り返す。

どうしようもない この状況をどう乗り越えるか、それを頭で考えながら声を出した。

 

夏来) 「無駄無駄ァ テメェの声なんざ聞こえねぇよ」

 

炎条寺) 「お前には話してねぇ!! おい夏来、思い出せ! 何のために戦い、何をしに元の世界へ戻るのかを! まだやり残したことが沢山あるだろ!!」

 

ゾルバースを一喝し、炎条寺は悪に支配されそうな夏来の心の中へ叫ぶ。

その力強い気迫に押されたゾルバースが一歩退くも、未だ夏来を覆い尽くす闇は衰えを見せない。

 

だが────

 

 

 

 

 

「貴様も落ちたものだな 皇 夏来」

 

「後は私たちに任せて」

 

 

 

 

ふと、どこからか聞こえてくる声。

それは死後の世界にて聞いた声だった。

諦めかけていた夏来の心が、仄かに熱を帯びる。

次の瞬間、夏来を取り巻く闇に大きく亀裂が入った。

 

そして、、、

 

 

 

 

 

 

夏来) 「な、なんだ!? 何が……あ、熱い……目が…目ガァァア!!」

 

ニッ怪) 「──!?」

 

内側から湧き上がる対の存在に、ゾルバースが頭を抱えながら苦しみもがく。

すると、夏来の身体から逃げるように、漆黒のオーラが滲み出てきた。

それが夏来達から少し離れた場所に人間の形をとると、片目を焼かれた状態のゾルバースが姿を現した。

 

ゾルバース) 「はぁ…はぁ…な、何が起こって──っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「連撃神光貫!!」

 

 

 

 

何が起こったか分からないでいるゾルバースが、前方から聞こえる声に顔を上げる。

本当ならそこには、驚きの表情を見せている夏来達が佇んでいるはずだった。

が……目の前に映るのは、光を周囲に放ちながら迫りくる無数の光線だけだった。

突然のことに行動ができないゾルバースは、その攻撃を真正面から受ける。

身体を貫かれ、血飛沫が上がる。

しかし、いつまでもこの状況が続く訳もなく、両手を突き出したゾルバースが「黒纏性弾幕」を放ち応戦する。

数分に及ぶ攻防戦の後、両者の攻撃に衰えが見始めた。

これをチャンスとし、ゾルバースは目線の先にいる、正体不明の相手に向けて押し返すように弾幕の勢いを増した。

すると、光線の勢いが急激に減少し始める。

 

ゾルバース) 「……ふっ…」

 

完全に押し勝ったゾルバースは、目を細めて不気味に微笑んだ。

だが、その微笑みは数秒後に完全に打ち砕かれる事になる。

 

夏来) 「はぁぁぁあ!!」

 

光線の光により、前方の様子が見えなかったゾルバース。

それ故に、夏来の接近に気がつくのが遅れてしまった。

次の瞬間、ゾルバースは右頬から伝わる激痛に顔を歪めた。

 

ゾルバース) 「な、何ィ!?」

 

殴り飛ばされた身体が宙を舞う。

 

夏来) 「ラディカル・バースト!!」

 

ゾルバースが飛んでいく方向に、ワープホールが展開される。

その中から出現した夏来の右回し蹴りが横腹に命中。

そのままゾルバースは、身動き出来ずに建物へと衝突した。

 

炎条寺) 「夏来……なんだよな……」

 

仙座) 「さっきのって悟神の技……なんで…」

 

糜爛) 「あれは…愛佳の…」

 

夏来の一方的な攻撃を地上から見ているニッ怪達は、その光景に驚愕の目を向けて居た。

そこへ異変を察知した糜爛達が駆けつけた。

 

嘗て敵だった「悟神 霊鳥」、バールドに無残にも殺されてしまった「神代 愛佳」の2人の技を夏来は使いこなしていた。

 

夏来) 「ブーストッ!!」

 

理由は分からない。

だが……夏来の心から感じる「モノ」の中に、確かに夏来ではない、別の何かの存在をニッ怪達は感じていた。

それはゾルバースの様な邪悪な「モノ」では無く、優しく包み込むかの様な温かい存在だった。

 

ゾルバース) 「調子に乗りやがってェェエ!!」

 

ブーストにより速度を増して向かって来る夏来に対し、ゾルバースは地面に転がる無数の瓦礫を闇のオーラで覆い一斉に投げつける。

脅威を目前に夏来は顔色一つ変えず、両手に宿した光のオーラを前方に撃ち放つ。

直後、その2つの光が交わり、夏来を守るかの様にバリアが創り上げられた。

 

キシ…パキッ……

 

バリアに瓦礫が衝突するたびに、夏来の耳に鈍い音が入って来る。

 

夏来) 「(そう長くは持たない…か) 一気に決めさせて貰うよ!」

 

決意を新たに、夏来は今にも砕け散りそうなバリアと瓦礫との間にワープホールを展開する。

そしてその出口を、ゾルバースの頭上数メートルの所に仕掛けた。

それに気付いたゾルバースが、既の所で大量の瓦礫の攻撃を避ける。

 

ゾルバース) 「小賢しい真似をっ!!」

 

勢い良く空中へと飛び出したゾルバースに、バリアを光の剣へと変形させた夏来が斬りかかる。

しかし、ゾルバースが懐から取り出した短剣で弾き返されてしまい、夏来の手を離れた光の剣は地上へと落下して行ってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それまでの状況が一変、ゾルバースの猛攻が夏来に襲いかかった。

顔面へ左右から繰り出される反撃の一撃は重く、流石の夏来も口から血を流し、苦痛の表情を浮かべている。

 

だが──夏来はそれでも何処か余裕を感じさせていた。

殴られ、蹴られ、絶えぬ攻撃の最中、夏来は只々笑っていた。

 

ゾルバース) 「はぁ…はぁ…わ、笑うなァァア!!」

 

夏来) 「……悪かったよ……僕も驚いているんだ、自分のあまりの強さにさ……」

 

ゾルバース) 「な、なんだとっ…!」

 

夏来) 「お前のパンチがくすぐったいんだよ」

 

ゾルバース) 「ぐぐっ……! なめんじゃねぇ──っ!!」

 

此奴は絶対に殺さなきゃならない存在だ。

この世界を守る為、我々の未来を約束する為、此奴を元の世界に帰してはならない。

様々な想いが巡り会う中、目前の敵を……例え敵わないと分かっている敵だとしても、倒さなくてはならない事を改めて感じたゾルバース。

右拳に力を込め、渾身の一撃を叩き込む。

殴り飛ばされ、地面へと叩きつけられた夏来がゆっくりと立ち上がる。

 

ゾルバース) 「これならどうだ───雷衝烈撃弾(らいしょうれつげきだん)!!」

 

両手を胸部の前で向かい合わせ、その中心に電気を帯びた黒い球を召喚する。

それは力を注ぎ込む度に2倍、3倍と巨大化していき、ゾルバースは自身の身長の数十倍へと変化した雷衝烈撃弾を撃ち放った。

 

夏来) 「アームソード リザベクション」

 

爆風とスパークを放ち接近する雷衝烈撃弾に対し、夏来は右腕そのものを光り輝く剣へと変形させた。

地面を踏み込み、空中へと飛び出した夏来が腕を横流しに振るう。

その軌道に合わせ黒球は弾き飛ばされ、遠く離れた場所で爆発した。

衝撃に地面が小刻みに揺れ、僅かな電流が身体へと流れてくるのが分かる。

 

夏来) 「僕とお前とじゃ……力の差が付きすぎてしまった」

 

右腕を元に戻し、最後の大技を破られてしまった事に動揺を隠せないゾルバースへ向けて、挑発するかの様な言葉を投げ掛ける。

 

ゾルバース) 「だ、黙れ!黙れ!黙れェェエ!!」

 

怒り、それを露わにしたかの様に両手から無数の弾幕を放つゾルバース。

夏来を中心とした周りの地面や建物が粉々に破壊される。

 

夏来) 「だがな……お前だけは許すわけにはいかないんだ」

 

ゾルバース) 「──っ!!」

 

夏来) 「やり過ぎだ、悪さが過ぎたな……ゾルバース!!」

 

視界を遮る砂煙を、光のオーラで吹き飛ばした夏来が一瞬でゾルバースに接近、腹に渾身の一撃を食らわす。

 

ゾルバース) 「かっ……グハッ!!」

 

さらにだめ押しと言わんばかりに、夏来は強烈な一撃を、その顔に喰らわせようとする。

だが──、

 

 

ゾルバース) 「ダークティーオーラ」

 

 

突如ゾルバースの身体から滲み出てきた漆黒のオーラを全身に浴びた夏来。

振り払おうとするが、なぜか身動きが取れない。

十数秒後、周りに漂う漆黒のオーラが弾け飛んだ。

その瞬間、それまで指1つ動かすことが出来なかった夏来の身体に力が入る。

 

夏来) 「い…一体何が──」

 

 

 

 

 

 

ゾルバース) 「皇……夏来ィィイ!!」

 

 

 

 

 

 

後方からの叫び声に、振り向いた夏来の目に映り込んできたのは、両手を広げて2つの闇を身体に取り込んでいるゾルバースの姿だった。

その2つの闇の原点を辿ろうと目線を地上へと向けた。

そして見つけ、察し、納得した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇は「レウザ・ディアス」そして「バールド・アウディルズ」の2人の身体から流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前は

 

 

 

この世界に

 

 

 

不必要だ

 

 




あ…あの……えっと……画面の向こう側から非難の声が聞こえてくるのですが……

本当に御免なさい!!

二ヶ月も伸ばしちゃって、待ってた方もいるかもしれないのに……

ちょっと言い訳に聞こえるかも知れませんが、学校が本当に忙しくて……もう本当に……ね

それとですね、自分 小説のネタをメモに書いてるんですよ〜 んで、そのメモを間違って消しちゃって、一からまた書き始めたんですよ(泣)



まぁ、はい、本当にすいませんでした……


あともう1つ謝らなければならないことがあるんですが、18話の後書きに「あと2話続きますよー」って書いてたんですが、もう1話分書きます。


炎条寺) 「やっと後2話かぁ さっさと最後が見てんだけどなぁ」

って方も必ず居ると思っています。

はい、もう本当にすいません

(焼き土下座は勘弁してください)


で、では! 次回予告です!

レウザ・バールドの力を奪ったゾルバースと、悟神・神代の力を受け継いだ夏来の戦いに決着が着く!
ほぼ互角の両者、天はどちらに微笑むのか!?
そして幻花の仲間を信じ抜く強い意志を感じ取ったゾルバースが1つの提案を持ちかける!



次回も乞うご期待!

夏来) 「更新遅れるかも…」


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二十夢 たった一人の戦士

薄暗く、少々息苦しい空気が漂う世界の中心で……

 

ゾルバース) 「クックックッ……」

 

夏来) 「……….」

 

希望と絶望、対の存在同士のこの世界を賭けた最後の決戦が幕を開けようとしていた。

睨み合う2人の間に、誰も分け入る事は出来ない。

それ程までに圧倒的な次元の差を醸し出していたのだ。

 

それぞれが息を呑む中、空に掛かる黒雲の中で鳴り響く稲妻の音を合図に、両者は前方の敵目掛けて大量の弾幕を放つ。

空中で互いの弾幕が打ち消し合い、彼方此方で小爆発が起こる。

それが両者の姿を包み隠し、互いに相手が見えない状況となった。

 

ゾルバース) 「ふっ……態々ありがとよォ皇 夏来ィ! ダークネス・インセニティ!!」

 

互いが見えないと言う事は、同時に相手が何をしているのか分からないと言う事。

それを実現させてくれた夏来に感謝しつつ、ゾルバースは周囲に漂う闇を一気に光線状に撃ち放つ。

 

夏来) 「何処狙ってるんだぁ!!」

 

ゾルバース) 「ちっ!」

 

しかし、標的が姿を現したのは自身の居る高度よりも更に高い場所。

そこからの無数の光線攻撃に行動が遅れたゾルバースだったが、その表情には焦りは無かった。

夏来の放った光線が、ゾルバースの身体に直撃した瞬間、光が闇に飲み込まれるかの様に吸収される。

 

ゾルバース) 「クッハハハ! やっぱりテメェはバカだァ! 俺にはバールドの能力があるんだぜェ?」

 

夏来) 「っ!」

 

夏来は忘れていた、バールドの厄介な能力をゾルバースが取り込んだ事を。

そして思い出す、仙座の言葉を……

 

 

 

あいつは自分の攻撃と斬撃には、ダメージ吸収能力が発動しないんだよ

 

 

 

あぁ……そうだった……

なんでこんな重要な事を忘れていたんだろう……

 

 

悔やむ、惜しむ、側む。

忘れてはいけない事を忘れていた自分を責めたてる。

しかし、そんな事をしても自体は一向に変わらない。

今の自分に出来るのは、斬撃をゾルバースに与える事だと理解した夏来が攻撃を止めた。

 

ゾルバース) 「ハハハッ!! おいおい大丈夫かァ? 俺の攻撃をもろに喰らっちま━━━」

 

夏来) 「アームソード リザベクション!!」

 

その言葉を掻き消す様に、ワープホールから出てきた夏来の雄叫びが、ゾルバースの頭上から鳴り響く。

右手を光輝く剣へと変形させた夏来の上段からの振り下ろしに、ゾルバースは身を引いて躱す。

続く横流しの2撃目を懐から取り出した短剣で弾き返し、バランスが崩れた夏来の左側へと回り込んだ。

 

夏来) 「くっ!」

 

完全な無防備を曝け出した事に気付いた夏来。

反射的に動いた左手がゾルバースの頬にめり込んだ。

 

ゾルバース) 「ガハッ!」

 

顔を歪ませ、血を吐くゾルバース。

 

夏来) 「ぇ…?」

 

こちらが与えられる技は斬撃しか効かない、そうゾルバース自身も言っていた。

 

 

なんで……物理が……効いてる!?

 

 

ゾルバース) 「っ……ウラァァァァアアア!!!!」

 

自身の身に何が起こったのか分からないのだろう。

ゾルバースも殴られてダメージを負った事に驚きの表情を見せた。

しかしすぐに血走った目へと変わり、反撃に出たゾルバースが夏来を地上へ向けて殴り飛ばす。

 

ゾルバース) 「さぁ…地上戦とでも行こうかァ!」

 

地面に上手く着地したのと同時に、夏来がワープホールを展開し、ゾルバースの背後へと回った。

右手に出来る限り力を入れ、振り向く顔面へと叩き込む。

しかし、それを片手で受け止められ、ゾルバースは夏来の手首を掴んだまま振り回し、地面に叩きつける。

 

夏来) 「ぐっ……っぁあ!!」

 

バウンドした身体を利用し、夏来は空かさず反撃する。

地面に両手をつき、浮いた両足でゾルバースの顎に蹴りを喰らわす。

不意の一撃に怯んだゾルバースに対して、夏来の攻撃は止まることを知らない。

ガラ空きになった腹部へと殴る蹴るの猛攻を続ける。

 

ゾルバース) 「ガッ……ぐ……調子に乗りやがッてェェェエ!!!」

 

しかし、ほんの一瞬の隙を見て身を翻したゾルバースの蹴りが、夏来の背中へと打ち付けられた。

 

ゾルバース) 「ハァ……ハァ……これで…終わりにしてやるッ!!」

 

蹴り飛ばされ、地面に倒れ込む夏来に掌を向けるゾルバース。

直後、スパークを放つ球体が掌に出現する。

 

夏来) 「ぐっ……」

 

身体中から伝わる激痛に耐えながら、なんとか顔を上げた夏来の前方に、ケタケタと狂った様に笑うゾルバースが立っていた。

 

ゾルバース) 「電撃滅裂弾(でんげきめつれつだん)」

 

勢い良く撃ち放たれる球体が、夏来目掛けて接近する。

 

 

ぁぁ……死ぬ……これ 死ぬ……

早く立たないと……立って……立……って?

 

 

だが、夏来は逃げようとも、避けようともしない。

いや、正確には【今の夏来】には出来なかった。

徐々に狭まる、死をもたらす球体との距離。

 

 

 

 

何で? 何で動かないの!? 動いてよ!!!

 

 

ゾルバース) 「クク……」

 

 

動いてっ!

 

 

 

 

 

………あ……もうダメだ……

 

 

 

 

 

球体が、目と鼻の先まで近づく。

手を伸ばせば確実に届く距離だ。

これでは避けようが無い、そう思った夏来が諦めかけたその時━━━、

 

 

「エネミーアウト・フレア!!」

 

 

何処からか聞こえてくる、力強く、もっとも聞き慣れた声。

目線を声が聞こえた方向へ向けるよりも早く、夏来の目の前にある球体が、赤い光線とぶつかり横へと押し出される。

 

ゾルバース) 「アァ?」

 

夏来に続き、ゾルバースも声が聞こえた方向へと振り向く。

両者が見つめる先━━━瓦礫の上に立つ人間は、手に炎を宿らせていた。

 

夏来) 「炎条寺君!」

 

炎条寺) 「よう、夏来 すまねぇな、加勢できなくてよ」

 

夏来) 「ううん……ありがとう…」

 

ゾルバース) 「……フフ……アハハハッ! 随分遅かったじゃねぇかァ? テメェが参戦するのを待ってたんだぜェ〜」

 

安堵の息をつき、炎条寺に手を貸して貰いながら立ち上がる夏来。

ゾルバースは突然の加勢者の登場に、両手を広げて歓迎の声を上げた。

 

ゾルバース) 「だが残念だなァ〜 2人相手じャァ……俺も本気を出さなきャいけねェ……」

 

溜息をつき、物足りない様な表情を見せるゾルバース。

広げられた両手が振り下ろされると同時に、周囲が怪しげな空気に包まれた。

 

炎条寺) 「行くぞ夏来!」

 

夏来) 「あぁ!」

 

能力を解放し、両手に炎を纏わせる炎条寺に続き、夏来もワープホールを創り出そうと手に力を込めた。

 

ゾルバース) 「フッ……懲りねぇ奴らだァ……そろそろ終わりにしてやるよォ!」

 

地面を蹴り、その勢いのまま風に乗って飛来するゾルバース。

対する炎条寺は、剥き出しの鉄骨を利用して空中へと飛び出した。

 

ゾルバース) 「ッハハハハ━━━!!」

 

炎条寺) 「テェヤァァァア━━!!」

 

ぶつかり合う拳と拳。

互いに隙を与えない攻防戦が繰り広げられる中、先に優勢を得たのはゾルバースだった。

攻撃を防がれた瞬間に、フリーとなった右足を炎条寺の横腹へ打ち込む。

蹴り飛ばされ、地面へと激突する炎条寺。

 

ゾルバース) 「もう降参かァ? だとしても逃さねェぜ!!」

 

血を吐き、苦痛に歪む顔を見せ、ゆらゆらと立ち上がろうとする炎条寺目掛け、両手から大量の弾幕を繰り出す。

 

炎条寺) 「今だ……夏来━━━!!!」

 

それに気付いた炎条寺が、此処ぞと言わんばかりに夏来へ向けて叫ぶ。

 

………………………

 

………………

 

…………

 

しかし、いつ迄立っても夏来からの返事が返ってこない事に、何か嫌な予感を感じた炎条寺が振り返る。

 

炎条寺) 「な、夏来っ!?」

 

その目に映り込んで来たのは、両手両膝を地面に着き、吐血を繰り返す夏来の姿だった。

 

ゾルバース) 「よそ見してんじャねェ━━━!!」

 

炎条寺) 「うぐっ!?」

 

再びゾルバースの方へ向き直した炎条寺が、大量の弾幕をその身に浴びた。

嘗て無い程の激痛に襲われ、あまりの痛さに身動きが取れない。

そんな姿を見て地上へと降り立ったゾルバースが、炎条寺へと歩み寄る。

 

ゾルバース) 「残念だったなァ〜? 何をしようとしてたかは分かんねェが、この結果だァ………オラ 見てみろォ」

 

炎条寺の髪を掴み上げ、夏来の方へと顔を向かせる。

 

ゾルバース) 「今のアイツにはァ、俺を倒せる力は残ッてねェ……託された2つの力をアイツは無駄にしたんだァ……」

 

炎条寺) 「は……なせよ……クソが…!」

 

ゾルバース) 「あぁ、放してやるよォ せいぜい最後の時間をアイツと過ごしなァ!!」

 

髪を掴む手を目の前に突き出し、そして放す。

重力に引かれて落ちる炎条寺の顔面に、ゾルバースの渾身の一撃が入った。

地面を削る程の強烈な威力だったのか、炎条寺が殴り飛ばされた方角へ、一本の太い線が出来ていた━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激痛に目を固く閉ざしていた炎条寺が、ボソボソと聞こえてくる夏来の声に目を開ける。

 

夏来) 「炎条寺君……ご…ごめん…ね……な、なんか……力が…出ないんだ……」

 

炎条寺) 「う…嘘だろ……マジ…か……」

 

いつから力を失っていたのか、夏来自身にも分からない。

ゾルバースと戦っていた時には、確かに悟神と神代の気配はハッキリと感じていた。

だが、今の夏来には2人の気配を全く感じ取る事が出来なかった。

 

夏来) 「………」

 

炎条寺) 「……諦めんなよ夏来」

 

夏来) 「……!」

 

まだ希望はあるんだ、負けてなんかいない。

そんな意味を込めて語りかける炎条寺の言葉に、夏来の心が突き動かされる。

 

炎条寺) 「負けても……また立ち上がれば、それは負けじゃねぇ!!」

 

夏来) 「炎条寺君………そうだ…そうだよ……まだ負けてない……!!」

 

最後の力を振り絞り立ち上がる2人。

その胸に秘めた悪を倒すと言う決意が、いっそう強く燃え上がった。

 

ゾルバース) 「さてとォ……先ずはどっちから殺してやろうかァ?」

 

しかし、本能に身体は逆らえない。

前方から迫り来る悪を目の当たりにし、2人の足は恐怖に震える。

いや、足だけじゃない……全身が「死」を齎す存在を拒絶している。

 

ゾルバース) 「返答無しかァ……なら面倒だ、まとめて消してやるよォ!」

 

そう言い放った瞬間、その場から姿を消すゾルバース。

そして次に姿を現したのは、2人の顔面に拳を叩き込んだ直後だった。

速過ぎて捉えられないその攻撃に、反撃の形すら作れないまま、壊れ賭けのビルへと殴り飛ばされる。

衝突した勢いでビルが崩壊し、2人は瓦礫に埋もれた。

 

炎条寺) 「っぐ……なっ!?」

 

瓦礫を手で退かしながら起き上がった炎条寺が、空中に浮かぶ巨大な黒い球体に目を見開く。

その視線の先を辿って、夏来も圧倒的な脅威を目の当たりにした。

 

ゾルバース) 「これで貴様ら全員を一気にぶち殺してやらァ」

 

炎条寺) 「な、なんだと!?」

 

ゾルバース) 「さっきは弾き飛ばされちまったがァ、力を失った今のテメェには出来るかァ?」

 

両手を天へと掲げ、掌に存在する球体は秒を重ねるごとに大きくなって行く。

 

仙座) 「……もう…ダメだ………は…ははは…」

 

その様子を遠くから見て居る仙座は、自身が死を迎える事実に、不思議と笑いが込み上げていた。

死を覚悟した仙座を横目に、ニッ怪、幻花、糜爛達は何も出来ない自分達の力を恨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

ゾルバース) 「皇 夏来ィ! テメェら共々消えて無くなれェ!!」

 

狂気の混じる雄叫びを上げながら、ゾルバースは夏来達に向けて制裁の一撃を放った。

迫り来る正義という名の皮を被った「邪悪たるもの」に、炎条寺は最後の抵抗を見せる。

 

炎条寺) 「クソッ…! ファイヤーネル━━、」

 

夏来) 「退いて炎条寺君!」

 

炎条寺) 「っ!?」

 

しかしその抵抗を邪魔するかの様に割り込んで来た夏来が、炎条寺の服を掴み出来るだけ遠くへと投げ飛ばした。

地面に上手く着地した炎条寺が顔を上げる。

目線の先、先程まで自分が立って居た所には、放たれた黒い球体を両手で受け止めている夏来の姿が見えた。

 

ゾルバース) 「全く……最後の最後までバカな野郎だぜテメェはよォ!! 強がんなよ、助けを求めろォ! 1人じゃ何も出来やしねぇクズがァァア!!」

 

夏来) 「強がってなんか…いない……! クズだって言われても…構わない……! だけど こんな僕にも、避けては通れない道が……あるんだ…!」

 

ゾルバース) 「クセェ事言ってんじゃねェ!! さっさと━━━死ねェェェエ!!」

 

ゾルバースが力を最大限まで高め、追撃に両手から漆黒のオーラを纏った弾幕を放つ。

そしてそれは黒き球体を貫通し、夏来の身体に直撃する。

 

 

 

 

 

 

諦めちゃダメだ、

諦めちゃダメだ、

ここで諦めたら全てが終わる……

 

 

 

 

 

 

 

耐える

 

激痛に、苦辛に、苦痛に、重苦に、倒懸に

恐怖に、絶望に、諦觀に、諦念に、遺棄に

 

 

 

この身体から全てを奪い去ろうとする闇に

 

 

 

 

 

 

 

だが━━━、

 

 

 

 

夏来) 「ガハッ……!」

 

ダメージを負いすぎた身体は夏来の意思を受け付けず、その身が赤く染まるに連れて抵抗力が弱まり始める。

 

ゾルバース) 「これで━━━━終わりだァ!!」

 

力の差を知らしめるかの様に押し切る制裁の一撃が、衝撃の渦へと夏来を呑み込む。

今まで体験した事の無い程の痛みが、怒りが、悔しみが、悲しみが、ドクドクと溢れ出してくる血と混じり合い心に満ちていく………

 

炎条寺) 「夏来っ!」

 

地へと衝突した球体は、着地点を中心として広範囲の地面を吹き飛ばす。

その時に発生した強烈な突風で、ビルやマンション、多くの家が崩壊した。

近くに居た炎条寺と糜爛達は、飛ばされない様に鉄骨などに掴まり難を逃れた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分に及ぶ荒々しい風音の後、それまでとは打って変わって辺りに不気味な程の静寂が訪れた。

 

武次) 「……ぐ……あ、あれ……い、生きて…る?」

 

物陰に隠れていた武次、泰人、澄香の3人は体験するであろう死の痛みが来ない事に気が付いた。

先程まで立ち尽くしていた場所には仙座達が目を見開きながら「何か」を凝視している。

急いで駆けつけた3人は、其処で衝撃の光景を目の当たりにした。

 

泰人) 「ぁ……ぁぁ……」

 

澄香) 「ま、街が…」

 

視線の先━━、誰もが驚きと絶望を抱く光景。

それもそうだろう。

 

 

東京と言う都市のど真ん中に、底が見えない程の巨大な穴が空いて居るのだから………

 

 

ゾルバース) 「自分を犠牲に仲間を救ったかァ……だが所詮貴様は犬死だァ! クク……クハハハハッ!!」

 

幻花) 「夏来……夏来ーー!!」

 

目の前で起こった事は余りにも酷く、その場にいる全員は受け入れがたい事実から目を背けた。

夏来の死は、幻花にとってこれ以上ない悲しみを植え付けたのだろう。

力無く膝から崩れ落ち、その白く綺麗な頬を涙が伝った。

 

ゾルバース) 「これで俺は最強だァ! テメェらをぶっ殺し、俺はこの世界の神となるのだァァァア!!! 」

 

両手を広げ、歓喜の声を上げながら発狂するゾルバース。

その身体から滲み出る闇のオーラを、空に掛かる黒雲に注ぎ込み始めた。

次の瞬間、黒みが増した雲の中で雷鳴する稲妻が次々と地上へと落ち、彼方此方で火災が発生する。

山が割れ、津波が押し寄せ、人々が泣き叫び、真っ赤な血が舞い、まるでこの世の終わりを見ているかの様だった。

 

炎条寺) 「終わりだ……俺たちの負けだ……俺たちじゃ彼奴を倒せねぇ…」

 

壁に手を付き、右足を引きずりながら仙座達の所まで辿り着く炎条寺。

 

仙座) 「と、友貴……!」

 

炎条条) 「夏来は死んじまった……そして今度は俺たちの番だと……ふざけるな……ふざけるなぁぁあ!!」

 

希望の光が闇に呑み込まれ、完全に勝機を失った今、炎条寺の心にある決心が芽生えた。

 

炎条寺) 「お前たちは生きろ……なるべくここから離れて、どこか遠いところへ逃げろ! 生き延びて、いつか必ず奴を倒せ、ゆりか! 千代、ニッ怪! お前らが夏来の仇を討つんだ、良いな!!」

 

その呼びかけの答えを聞かず、仙座達に背を向けて走り出す炎条寺。

右足の痛みに耐えながら、挫折しそうな自分の心に強く呼びかけた。

背後から放たれる複数の静止の呼びかけに耳を傾けず、只々ゾルバースに向けて猛進する。

 

炎条寺) 「……」

 

夏来が死んでもなお、この世界から脱出する事は叶わなかった。

それ故に、自分たちが今置かれている状況は絶望的なものだ。

レウザとバールドの力を取り入れ、パワーアップしたゾルバースに勝てる者は夏来しか居なかったのだから……

 

炎条寺) 「…………」

 

ニッ怪、仙座、幻花、炎条寺、この4人がかりでもゾルバースにダメージを与えるのは困難だろう。

だったら1人でも多く生き残って、ゾルバースに対抗出来る力を付けなければならない。

 

 

『1人の命すら守れない奴に、多くの命は守れない』

 

 

なんでこんな時に、この言葉が浮かんでくんだよ……

1人の命……夏来を助けられなかったのに、あいつらを助けれる訳ねぇだ?

勝手に決めつけてんじゃねーよ…

 

 

「ここ」に出来る奴だって居るんだからよ!

 

 

死を拒絶する思いが強くなるにつれて、バクバクと跳ね打つ心臓の鼓動。

しかし、今の炎条寺にはそんな思いを打ち消す「覚悟」があった。

 

ゾルバース) 「………まだ生きてたのかァ……」

 

背後から聞こえる荒い呼吸音に振り返ったゾルバース。

そこには戦闘態勢に入った炎条寺の姿があった。

 

炎条寺) 「ふんっ…お前の中途半端な攻撃で死にぞこなったぜ…」

 

ゾルバース) 「ほぉ…? ならば今度こそ死を体験させてやるよォ」

 

 

とうとう、俺の物語に終止符が打たれちまうな。

思い返してみれば、中々楽しい人生だった……

夏来、千代、ニッ怪……お前らは本当に最高の友達だった。

一緒にバカやったり、笑ったり、泣いたり……こんな楽しかった時間は無かった。

 

 

そして、ゆりか……

 

お前に会った時から、俺はお前の事が好きだった。

明るくて、いつも笑顔を絶やさなくて、そんなお前を好きな俺が居た。

けど、それを口に出す勇気が無かった……

表では強がってたけど、本当の俺は臆病で情け無い奴なんだ。

 

炎条寺) 「覚悟しやがれ、ゾルバース!」

 

いつか…何年先になるか分からねぇが、無事にあっちの世界に帰れる手段が見つかったら また会おうぜ!

その時は、俺も勇気を出して想いを伝える。

だから、絶対に死ぬなよ!!

 

 

炎条寺は決意を固め、悪を倒す業火のごとく、その身を炎で包んだ。

 




はいっと……やぁ…また遅れてしまいました……

申し訳ありません!!!!
今後は気をつけます!!

でも〜 (言い訳パート)
資格試験とかぁ……まぁ色々あって書けなかったってのが遅れた原因かもしれないですね( ͡° ͜ʖ ͡°)
ま、次回話はもう70%位書き上げてるんだけどね(´∀`)

あ、それとまた変更事なんですが、やっぱりもう一話分増えちゃいます!!
許してヒヤシンス ペロ…

ま、そんなこんなで次回予告〜!!


ゾルバースに単体で勝負を挑んだ炎条寺。
しかし、その圧倒的な力に敵うはずもなかった。
遂には舞い戻ったニッ怪達までもが、ゾルバースの猛攻に次々と破れ去ってしまう!
そんな絶体絶命の中で、彼らが最後に見た復活の光とは!?

そして……死神がついた優しい嘘とは……

次回 二十一夢【この世界の終わりに希望を抱いた少年】

さぁ〜て! さっさと書き上げちゃうぞ!


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二十一夢 この世界の終わりに希望を抱いた少年

 

 

壊れ行く世界に背を見せ、あの場から、ゾルバースから、炎条寺から離れる。

怪我をした者や、自力では飛べない者は手を貸してもらいながら飛行する中、最後尾に付いていた幻花が突然立ち止まった。

 

幻花) 「……後は頼んだよ」

 

全てを託すかの様な目を見せ、幻花が元来た道を引き返す。

それに気づいた糜爛が振り返る。

 

糜爛) 「千代さ…」

 

追いかけようとする糜爛の手を掴み、引き止めるニッ怪。

 

糜爛) 「ニッ怪さん…」

 

ニッ怪) 「糜爛殿、すまぬが後の指揮は任せたぞい」

 

ただ、その一言だけを残して幻花の後を追う。

命を投げ打つ覚悟を胸に秘めて……

 

糜爛) 「………」

 

糜爛の目に映ったその時のニッ怪は、絶望的な冷めきった物では無く、どこかに希望の可能性を抱いて居る暖かい物に包まれていた気がした。

 

仙座) 「澄ちゃん、皆んなをお願い」

 

澄華) 「や…やだよ……行っちゃ…」

 

仙座) 「何言ってんのさ〜 ここで諦めちゃ、夏来に申し訳ないじゃん! それに……あの2人だけを行かせるわけには行かないし……ほら、しっかりしてよ!」

 

俯く澄華の肩を叩き、気合いを入れ直させる仙座。

その優しさに自然と涙が溢れ出してきた。

一緒に居た時間はとても短かったけど、それでも最後まで友達として居てくれた仙座に「ありがとう」と伝えたい。

 

澄華) 「ねぇ……ゆりかちゃん」

 

だが───、

 

顔を上げた澄華の前に、仙座ゆりかの姿は無かった。

 

澄華) 「どうか……死なないで…」

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

────────

 

────

 

 

地の底の底、光さえも届かぬ暗闇の世界に夏来は横たわって居た。

見上げる上空の彼方、空にかかる雲は一層黒みを増している。

 

 

 

悟神さん……神代さん……

 

そして この世界のみんな……

 

僕に力を……力を貸して……

 

このままじゃ終われないんだ……

 

 

 

 

 

────────────

 

───────

 

────

 

 

 

ゾルバース) 「ヒャッハハハー!!」

 

炎条寺の髪を掴み、復讐の怒りに満ちた顔面を地面へと叩き込む。

その反動で浮き上がった身体に追撃の蹴りを入れた。

力無く倒れ込んだ炎条寺の身体を、舞い上がる砂煙が覆い隠す。

 

ゾルバース) 「終わりだァ……シャイニングストラーレイン!」

 

右手人差し指を前方で横にスライド。

空中に描かれた光の線から無数の光線が射出された。

 

ゾルバース) 「案外呆気なかったなァ……もう少し楽しめると思ったが、所詮は雑魚か」

 

 

 

 

 

「さぁ、それはどうかな?」

 

 

 

 

 

突然、前方から放たれる炎条寺では無い別の声。

その直後、無数の光線が見えない壁に阻まれた。

 

ゾルバース) 「ほォ……?」

 

砂煙に遮られていた視界が開け、ゾルバースは目に写り込んできた光景に苛立ちを感じた。

そこには先程逃げた筈の3人が、仙座のバリアに身を守られながら炎条寺を囲む様に立っていた。

 

炎条寺) 「お、お前ら……!」

 

仙座) 「友貴だけ、先に逝かせるわけないよん♪」

 

ニッ怪) 「我ら、死ぬ時は一緒じゃ」

 

幻花) 「そうね、どうせ死ぬんだったら夏来と…皆んなと一緒に戦った この戦場で死にたいわ」

 

炎条寺) 「ったく……思い残す事は無いか!」

 

炎条寺の掛け声に、3人は強く頷く。

そして仇敵ゾルバースを倒すべく、炎条寺達は無謀にも戦いを挑む。

 

ゾルバース) 「雑魚共がァ……鬱陶しいんだよォ!!」

 

ニッ怪の黒青刀を、バールドの力を使って取り出した大剣で弾き返して腹部を突き刺し、

 

勢い良く引き抜いた大剣を両手に持ち替えて、鳳凰と化した仙座の翼を斬り裂き、

 

幻花が放った風の刃を、片手からの衝撃波で粉々に粉砕、

 

炎条寺の両手からの火柱を、その身で受けて力へと変換する。

 

ゾルバース) 「ダメだ……ダメなんだよォ……それじゃあァ!! 全くもってつまらんのだァァア!!」

 

大剣を足元に展開した光のゲート内にしまい込み、空中へと飛び出したゾルバースが、炎条寺達に向けて両手からの弾幕を喰らわす。

 

炎条寺) 「グハッ!くっ……うぉぉおお!!」

 

身体中を血で濡らしながらも、炎条寺達は痛みに耐えて反撃を仕掛ける。

だがそんな抵抗も虚しく、次々と力無く倒れていく姿に、ゾルバースの狂笑いは止まらない。

そして最後まで戦い続けた炎条寺までもが、その猛攻の前に倒れ散った。

━━かに見えた。

 

ゾルバース) 「ちっ……しぶてぇ奴だな」

 

地面に身体が着く直前、脳裏に浮かぶ夏来の姿。

 

 

 

頑張って……死んでいった人達の為にも、ゾルバースに勝つんだ。

僕は皆んなを…信じ…て……る………

 

 

 

幻花) 「分かってる……わよ…夏来」

炎条寺) 「諦めてなんか……いねぇ!」

ニッ怪) 「ここで諦めてしもうたら……」

仙座) 「夏来に合わせる顔が無いんだから!」

 

最後の力を振り絞り、炎条寺が倒れまいと足に力を入れる。

さらに、倒れていたニッ怪達も手をついて起き上がった。

その時に見た彼らの目は、今までの怯えきった物では無く、ゾルバースに対する怒りと復讐心に燃えていた。

力強い雄叫びをあげ、再度立ち向かう炎条寺達。

 

ゾルバース) 「けっ! 往生際の悪い奴らだァ……さっさとくたばっちまえよォォオ!!」

 

自分の思い通りに事が進まず、ゾルバースの苛立ちは溜まって行く一方。

これ以上の戦闘は、無駄な体力を消耗してしまうと考えたゾルバースは、一撃必殺の大技を放つ。

 

ゾルバース) 「グランド・オブ・アルマス」

 

そう、その技は神代 愛佳を倒した、バールドの決め技だった。

目の前の地面が大きく凹み、砕けたコンクリートのカケラが一斉に炎条寺達を襲う。

先が針の様に鋭く尖った物体は、仙座のバリアさえも貫いて行く。

 

仙座) 「ガハッ!」

 

口から血を吹き出し、コンクリートのカケラが左眉を擦り、さらに右肩と両足を貫通。

額から流れ出る血が目の前を赤く染め上げ、仙座はその場に倒れた。

 

炎条寺) 「ぐっ……!」

 

遠くから聞こえる衝撃波の音。

その直後、横たわる仙座の前に左腕があり得ない方向に曲がった状態の炎条寺が飛ばされて来た………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来) 「あはは……それはダメだよ仙座さん」

 

炎条寺) 「まっ、アホらしい所が ゆりか らしいっちゃ、そうなんだけどなw」

 

仙座) 「むー! 笑うなぁ! 私はこう言う食べ方がいいの!」

 

ニッ怪) 「しかしの……西瓜を米と一緒に食べるのはどうかと……」

 

幻花) 「ゆりかって、友貴の言う通りちょっとア───」

 

仙座) 「それ以上言うなぁ──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何でだろう……

皆んなと過ごしたあの日々が……景色が……思い出が……

次々と脳内に映像として再生される。

笑いあったり、喜びを分かち合ったりしたのが随分前に感じるのは何故だろうか……

 

結局私は最初から最後まで、何の役にも立てなかったのかな……

 

ごめんね…夏来…皆んな……私━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾルバース) 「おいおい、立てよオラァ!」

 

膝をつくニッ怪の髪を掴み上げ、顔面へと重い一撃を喰らわす。

何度も何度もその顔に叩き込まれる拳が、ニッ怪の口から吐き出された血と鼻血に薄っすらと赤く染まる。

 

ニッ怪) 「あ……がっ……」

 

最早言葉を発する事すらままならず、だらしなく垂れ下がった手足が完全なる敗北を物語っていた。

 

幻花) 「は……な…せ……!」

 

ユラユラと足元が覚束ない状態で立ち上がる幻花。

その姿を横目で黙視するゾルバースは、数秒の間を空かせ、ニッ怪の髪を掴む手を放し、遠くへと蹴り飛ばした。

 

ゾルバース) 「ついに1人だけになっちまったなァ………そこでだ、俺と1つ取引しねェか?」

 

幻花の方へ振り向き直したゾルバースが、右手を伸ばして問いかける。

 

幻花) 「と、取引……?」

 

ゾルバース) 「あぁ、他の奴らはまだ死んでねェ テメェが俺に付いて来れば、其奴らを見逃してやるよォ」

 

幻花) 「そ…そんなの……」

 

当然、幻花は拒絶した。

夏来を殺した敵の仲間になるなんて、死んでも嫌だったから。

しかし━━━━、

 

ゾルバース) 「嫌だってかァ? 別にそれでも良いんだぜェ? その代わりテメェらは全員死ぬ事になるがなァ」

 

そう聞いた瞬間、幻花の心が揺らぎ始める。

自分がゾルバース達の仲間になれば、ニッ怪達の命は助けられる。

その方が、誰も死なないで済む……

だけど…そうなると、皆を裏切ってしまう事になるんだ。

 

ゾルバース) 「俺はこの世界の神となる そんな弱々しいクズ共と居るよりも、俺と居た方が良いとは思わねェか? 俺がテメェを気に入ってるからこそ、最後の選択を選ばせてやってんだぜェ?」

 

幻花に歩み寄るゾルバース。

立場が良いことを利用し、様々なメリットを上げ、仲間に引き入れようとする。

 

だが、表情を和らげ、ゆっくりと口を開いた幻花の答えに、ゾルバースは耳を疑った。

 

幻花) 「私は……私を裏切りたくない……例え、どんなに追い詰められたとしても……あんたの様な奴の仲間になんか……なるわけ無い」

 

ゾルバース) 「良いのかァ? その判断のせいで、彼奴らは死ぬんだぜェ?」

 

幻花) 「死なない……」

 

ゾルバース) 「ハァ?」

 

幻花) 「あんたに私達は殺せない……その前に、あんたは敗れ去るから…!」

 

ゾルバース) 「テメェ……何言って━━━」

 

意味の分からない発言に、聴き直そうとしたゾルバースの声を遮る爆発音が背後から響く。

振り返ったゾルバースは、目に映り込んで来た衝撃の光景に目を見開いた。

 

ゾルバース) 「なッ! き、貴様 生きてやがったのかッ!?」

 

深穴の中から姿を現した者は、身の回りを白く輝くオーラで包んで居る。

片手を天へと突き上げ、光を放つ虹色の小さな球体が現れた。

瞬間、空に掛かる黒雲が逃げ去る様に晴れていき、闇に支配されていた地上に天の光柱が射し込む。

ギラギラと輝く太陽の日差しが、痛みを感じるほどに眩しかった。

 

夏来) 「ありがとう、ちーちゃん 最後まで信じてくれて」

 

幻花) 「いいのよ夏来……貴方が無事で良かっ……た……」

 

安心したかの様に全身の力が抜け、その場に崩れ落ちる幻花。

そんな彼女を抱えて逃げ去る、両足を血で染めた炎を纏う鳥。

 

仙座) 「やっちゃえ夏来━━━!!」

 

思わぬ不幸の事態が続き、ついにゾルバースの苛立ちは頂点へ達した。

 

ゾルバース) 「た、確かにテメェは死んだはずっ!! 何故だ…何故だ何故だ何故だァァァア!!!」

 

空中に浮かぶ夏来へ向けて大量の弾幕を放つ。

しかし、それは夏来に直撃する前に白いオーラに阻まれて爆発する。

 

ゾルバース) 「これでもォォォ食らいやがれェェエ!!」

 

両手を目の前で向かい合わせ、その隙間に身体中の全ての力を注ぎ込む。

そしてゾルバースの手の中に、夏来を倒した、あの黒い球体が現れた。

 

夏来) 「フッ……」

 

殺意と怒りの篭った黒き球体を目にし、苦痛に顔を歪ませたまま薄ら笑いを浮かべる夏来。

掌にある虹色の球体がいっそう輝きを増す………

 

 

 

 

感じる……2人の力を……この世界のみんなの力を……

 

ありがとう悟神さん、神代さん、そして……皆んな

 

こんな情け無い僕を信じてくれて

 

この想い、無駄にはしない

 

僕の力で……いや、皆んなの力で

 

「悪」を……

 

 

 

 

「「「ゾルバースを倒すっ!」」」

 

 

 

 

ゾルバース) 「ッァァァアアア!!!」

 

夏来) 「はぁぁぁあ!!!」

 

 

 

両者の掌から撃ち放たれた球体が、空中でぶつかり合う。

大気を震わせる程の衝撃に、大地が大きく揺れている。

 

夏来) 「僕は負けないっ! 皆んなを守る為に、もっともっと強くなってみせるっ!!」

 

ゾルバース) 「ァァア……グガガガァァア!?」

 

決死の夏来の言葉が世界に響き渡ると同時に、ゾルバースの身体から無数の光が溢れ出し始める。

さらには、全身の力と言う力が失われて行く感覚に、ゾルバースは自分の身が悲鳴をあげて居るのを感じた。

 

ゾルバース) 「な、なな…なんだ…こ、これはァァア!?」

 

夏来) 「だから……お前なんかに負けるわけにはいかないんだ━━━━!!!」

 

抵抗する力に負けじと、心からの【願い】を叫び、言い押し切る夏来。

直後、相対する黒き球体が光に包まれて粉々に砕け散る。

降り注ぐ光に、どこか懐かしくも悲しい想いを抱いた瞬間、虹色の球体がゾルバースの身体に取り込まれて行く━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゾル! ほら、前から欲しがってたロボットだぞ! 嬉しいか? そうか、良かった良かった! はっはっは!」

 

色んな事を教えてくれて、俺を強くしてくれた父

 

 

 

「また喧嘩してきたの? 元気なのは良いけど、他の子を傷つけちゃダメよ?」

 

いつも見守ってくれて、俺を愛してくれた母

 

 

 

「おーいゾルー! また遊びに来てやったぜ!」

「トランプしましょトランプ!」

 

どんな時も力を貸してくれて、一緒に笑い合った仲間たち

 

 

 

 

 

 

 

俺は……いつからこんな奴になッちまッたんだ

 

 

 

 

 

 

『ッヒャヒャハハハ━━━!! 先ずはこの能力を試してみるかぁ! 村の奴らを全員皆殺しだぁ━━!!』

 

《おぉぉぉぉ!!!》

 

平和な土地に、絶望を齎す者が現れる。

 

「早く行け!! お前だけでも生き延びるんだっ!!」

 

ゾルバース) 「嫌だ……嫌だよ父さん!!」

 

「何でそんな我儘を言うの! 最期くらい母さん達の言う事を聞いてよ……!」

 

『ぴーぴーうるせぇんだよ!!』

 

空から降り注ぐ、黒々しいオーラを纏う矢の数々。

ゾルバースの目の前で、悲しい表情を見せて居た両親の顔が地面へと倒れ落ちる。

2人の身体から流れ出る血が、辺りを赤く染め上げた。

 

 

 

ぁ………ぁぁ………ぁぁぁァァァア!!!!!

 

 

 

憎い……

 

憎い……

 

憎き……能力者め……

 

 

 

 

【バキッ】

 

 

 

 

暗闇に閉ざされた中で、鈍い音を立て何かが壊れる。

それは愛、幸せ、嬉、喜び、そして━━━、

 

 

 

 

 

ゾルバース) 「俺の……心……」

 

夏来) 「………」

 

そう呟いたゾルバースの目から、大粒の涙が溢れ出して来た。

自ら狂気に陥る事を望み、この事実から目を背け続けた今までの日々。

決して消えることの無い、あの能力者への恨みの念。

その全てが、この光によって浄化されて行く。

 

ゾルバース) 「俺はまたァ……愛を感じる事が出来るのだろうかァ……」

 

夏来) 「出来るよ……本当の自分を取り戻せば、必ず……」

 

ゾルバース) 「そうか……良かっ……た……」

 

涙に濡れた顔で、最期に心からの微笑みを見せたゾルバース。

その身が完全に消え去り、天へと昇っていく様を、夏来は只々見つめて居た━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京都内で始まった、【夏来&糜爛率いる全10名の戦士】 VS 【特殊能力撲滅機動隊3大勢力】の戦いは、夏来達の勝利と言う型で幕を閉じた。

倒壊した建物や、生臭い血の匂いが漂っていたりと、激しい戦いの爪痕が痛々しく残っていた。

 

夏来) 「終わっ……た……」

 

全ての力を使いきった夏来。

身体を包む白いオーラが砕け散り、夏来はそのまま地面へと落下する。

地に崩れ倒れる夏来に、足を引きずりながら歩み寄る炎条寺達。

近くに居たニッ怪は始めに夏来の傷を癒し、続いて重傷の仙座と炎条寺、最後に軽傷の幻花の治療を行った。

完全なる勝利を掴み取り、それぞれが勝利を喜ぶ声を上げる中、遠くから夏来を呼ぶ声が聞こえて来た。

 

糜爛) 「夏来さんっ! まさか生きておられたとは…… 奴らに勝ったんですね!」

 

澄華) 「ゆりかちゃんっ………良かった…本当に良かったよ……」

 

地に降り立ち、夏来の元へ駆け寄る糜爛達。

だが、澄華だけは夏来には目もくれずに仙座の胸へと飛び込んだ。

その瞳に涙を浮かべ、安心したかの様に泣き出す澄華を見て、夏来達は久しぶりに【平和】と言うものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

しかし━━━━、

 

 

 

 

 

 

 

幻花) 「……待って……何この地響き…」

 

そんな平和と呼べる時間は、幻花の言葉で掻き消された。

足元から伝わる細かな振動。

それが段々と大きくなりながら夏来達に襲い掛かってくる。

 

糜爛) 「時間ですね……」

 

そう呟いた糜爛の言葉の意味を、炎条寺達は知ら無い。

「何が時間なのか」と、焦る様に聞き返そうと顔を上げた炎条寺の目に、ある光景が映り込んで来た。

 

澄華) 「ぁぁ……」

 

手足の指先から、徐々に光と共に消えて行く糜爛達の姿。

それはゾルバースの最期を思わせる光景だった。

 

糜爛) 「───ここでお別れの様ですね」

 

夏来) 「……」

 

夏来は知っていた。

自分が【願い】を叶えれば、この世界は存在意義を失い、消滅してしまう事。

そして同時に、夢の世界の民も消えてしまう事を……

だから何時も不安だった。

偽りの世界だとしても、皆んなと過ごした日々は本物であり、掛け替えのない存在だ。

それが全て一瞬のうちに砕け散ってしまうのだから……

 

ニッ怪) 「崩壊が始まってしもうたか……」

 

仙座) 「ほ、崩壊……そ、そんな……」

 

糜爛) 「我々はこの世界に住む者 共に生き、共に消える………これは逃れられぬ運命なのですよ」

 

悲しそうな目で、夏来達一人一人を見据える糜爛。

光球が下半身を奪い去り、続いて腰回りへと上がって来る。

 

糜爛) 「さぁ進んで下さい、あの先にきっと出口はあるはずです」

 

糜爛が夏来達の背後の空を指差す。

その指を指した先を見ると、天へと長く続く大きな階段が光と共に現れた。

涙を飲み、糜爛達に背を向けて歩き出す夏来達。

仙座は、最後に澄華と抱き合い、別れの言葉を言って夏来達の後を追った。

 

糜爛) 「良かった、皆の仇を討てて……もう思い残すことは無い」

 

澄華) 「そうだね………夏来さん達には感謝しきれないよ…」

 

階段を登る夏来達の背中が、どんどん小さくなって行く………

 

糜爛) 「お前もそう思うだろ? 愛佳」

 

手の中で安らかに眠る神代に声を掛ける。

その言葉を最後に、糜爛達は聖なる光に魂を包まれ、この世界から完全に消え去った━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上を離れ、天へと長く続く道を歩んで行く。

踏みしめる半透明の階段を通して見える下界は、酷く荒れていた。

山が割れ、海は裂け、彼方此方で夢の世界に住む民が光へと姿を変える。

この様な結果を招いてしまったのは自分自身なのだと、改めて目の当たりにした夏来の表情が段々と暗くなるのを見て、隣を歩む幻花は何か優しい言葉を掛けようと口を開く。

だが、今の夏来の心にどう届くのか、そんな思いが頭の中を駆け抜けて、幻花は半開きになったままの口を静かに閉じた。

 

ニッ怪) 「そろそろじゃの」

 

不意に、先頭を歩くニッ怪がボソッと呟く。

と同時に、前方に青白くユラユラと光り輝くオーラに包まれた、二本の巨大な柱が姿を現した。

 

 

早く帰らなきゃ、、

 

 

そう決意を新たに、夏来達の足は自然と走り出していた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽光がサンサンと照らす雲の上。

夏来達の目の前にそびえ立つ、不思議な程に静まり返った白障壁の神殿。

足元は、神殿の奥に見える門の僅かな隙間から流れ出てくる、青く透き通った水に満たされていた。

 

夏来) 「雲の上にこんな場所があったなんて…」

 

幻花) 「空気も薄くない……浮遊島って感じ…?」

 

水に沈んでいない石場を渡りながら、夏来達は人1人ようやく入れるほどの隙間を通り、門をくぐり抜け、神殿内部へと足を踏み入れる。

天井一面が氷に覆われ、壁に掛けられた松明の炎が空間全体を明るく照らしている。

 

仙座) 「すっごい……こんなの見たことないよ……」

 

水、氷、炎、その3つが同じ空間に層の如く段々と積み重なっている。

この不気味で不思議かつ、幻想的に美しい光景を目の当たりにし、仙座はその場に立ち尽くす。

 

瞬間、夏来達の耳に此処から少し離れた場所で、何かが崩壊した音が聞こえてくる。

それが先程登って来た、あの階段なのだと察した夏来は先を急ごうとニッ怪達に呼びかけた────。

 

 

 

 

 

 

 

いくつもの部屋を抜け、神殿の最深部へと辿り着く。

中へ入ると同時に、すぐ近くの壁に大きな亀裂が入り、地面がグラグラと大きく揺れる。

どうやら、もうすぐで此処も夢の世界の消滅に飲み込まれてしまうようだ。

 

炎条寺) 「アレか!? よし行くぞ、お前ら飛び込めっ!!」

 

部屋の中央にポツンと立つ、苔と植物の蔦が絡み合った円形状のゲート。

その中へ炎条寺、仙座、幻花の順番で飛び込んで行く。

 

幻花) 「ほら2人共! 急いで!」

 

幻花がゲート内から夏来とニッ怪に向けて手を伸ばす。

その手を掴んだ夏来は、振り返ってニッ怪の方を向く。

 

ニッ怪) 「ぅ……ぐっ……」

 

そこには、右目を抑えながら歯を食いしばるニッ怪が居た。

咄嗟に手を離し、駆け寄る夏来。

 

ニッ怪) 「来るでない!!」

 

だが、その足は放たれた張り声に止まる。

荒い呼吸を何度か繰り返し、右目を抑える手を下ろすニッ怪。

そして、目に映り込んで来た衝撃の光景に、その場に居る全員が凍りついた。

 

夏来) 「ニッ怪……君……な、なにそれ……そんな……」

 

 

 

なぜなら………

 

 

 

 

 

 

ニッ怪の右目から、ゾルバースや糜爛達との最後に見た、あの「光」が溢れていたのだから────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ去る夢の世界、その中心で新たな真実を突きつけられ悲しみに耽る少年がいた。

 

夏来) 「それ……な、なんで……ニッ怪君は──」

 

あまりの衝撃的な事に、目の前が真っ白に染まる。

 

【ニッ怪は夢の世界の民だった】

 

と言う事実が、夏来の心へ容赦なく突き刺さる。

 

ニッ怪) 「夏来殿、皆………すまぬ……我はまたつまらん嘘をついてしまっていた様じゃ」

 

仙座) 「ぇ……その光って……まさか……」

 

炎条寺) 「おい…嘘だろ……」

 

皆んなが動揺し、取り乱す中、ゲート内から出てきた幻花が、夏来の手を掴み引っ張る。

必死にその手を振りほどこうとする夏来、だが幻花は俯きながら夏来の手を掴んだまま離さない。

 

夏来) 「離してちーちゃん!! ニッ怪君を置いていくわけにはいかな───」

 

その必死の言葉が、頰に受ける痛みに半ばで沈黙。

平手打ちを食らわせた幻花を見て、炎条寺と仙座は唖然として驚いた。

 

幻花) 「ニッ怪はこの世界に居なきゃいけないの! 夏来がどうかしようとしても、できない事なのよ!」

 

顔を上げ、声を張り上げた幻花。

その目から零れ落ちる涙が頰を伝うのを見て、夏来は目の前の事実と向き合う決心をする。

 

夏来) 「………ちーちゃん、先にゲートに入ってて……最後はニッ怪君と2人で話したいんだ……」

 

幻花) 「……分かったわ」

 

ゆっくりと手にかかる力を緩め、夏来の手を離す。

そのまま後ろへと下り、ゲートに入った幻花を確認した夏来は、再びニッ怪の方へと向き直す。

 

ニッ怪) 「夏来殿……お主には2度も嘘をついてしまったの」

 

夏来) 「本当だよ……こんな最後の最後に嘘なんかついてさ………本当……もう……」

 

目元が震え、今にも泣き出しそうな自分を奮い立たせ、夏来はニッ怪の目をしっかりと見つめる。

 

ニッ怪) 「成長したの……初めて会った頃とは大違いじゃ」

 

笑みを見せ、夏来の成長を喜ぶニッ怪。

その笑顔を見た夏来は、貰い笑いをする。

 

ニッ怪) 「何はともあれ、夏来殿……お主と会えて我は嬉しい限りじゃ……沢山の幸せを貰い、優しさを受け、これまでにない程に楽しかった……」

 

夏来) 「僕もだよ、ニッ怪君……元の世界に帰っても絶対にニッ怪君と……皆んなと過ごした日々を忘れない……」

 

ニッ怪) 「我の物語は此処で幕を閉じてしまうが、お主の物語はまだ始まったばかりじゃ……じゃからの、強く生きよ夏来殿! 進み続けよ!決して止まるでは無いぞ」

 

また会えるかはわからない。

でも、いつか会えたら───

それこそ僕が死んだ時でも会えたらと願い、夏来は最後に小さく呟いた。

目を離すのが怖くて……惜しくて……悲しくて……

この光景を少しでも目に焼き付けておきたくて、夏来はゆっくりと後ずさった。

夢の世界から出る直前、ニッ怪は一粒の涙を見せ微笑んだ。

 

 

ニッ怪) 「……さらばじゃ、我の分まで幸せになるのじゃぞ…皆…」

 

 

夏来がゲートの中に一歩を踏み出す。

1秒にも満たない瞬きの間に、ニッ怪の姿は消えていた。

そこには、ただ崩れ去っていく世界が見えるだけで……

 

夏来) 「ニッ怪君…」

 

次の瞬間、夏来達4人を取り巻く光が一層激しさを増す。

思わず目を瞑り、光が消えるのを待った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして────世界は動転する。




これで夢の世界での物語は終わりを迎えました。
まさか最後の最後でニッ怪君が消えてしまうとは、読者の皆さんは思いつかなかったでしょう。
本当に衝撃的ですよね……
自分も正直、ニッ怪君を手にかけるのはどうかと思ったのですが、編集の方が

「こっちの方が、ニッ怪君への思いが深まるんじゃない?」

とか言っちゃって……口論の末、仕方なく編集さんの思いを入れる結果となりました………
自分自身、なんて言いますか……ニッ怪君の事を気に入ってたので……悲しいですね

(因みに ニッ怪君、幻花さん、炎条寺君、仙座さん、夏来君の順番で好きかな! どうも夏来君だけは自分を客観的に見て居るような気がして好きになれません)←ま、この中に機動隊入れて良いなら二位にレウザさんが入るかな!



と、自分が今抱いている悲しみの感情と、編集さんへの怒りを只々書きました所で、さっそく次回予告と行きますか!(これは後で確認しに来た編集さんにLINEでなんか言われるな……ぉぉ怖い怖い)



無事、元の世界に戻って来られた夏来!
しかし、待ち受けるのは仙座とニッ怪が居ない悲しみと、いじめっ子 紅原の存在
能力をなくし、夢の世界の出来事を知る者が居ない世界で、夏来はどう立ち向かうのか!?
そして学校に新たな転校生の姿が───


次回 最終夢【幻想夢物語】

もう、この小説も終わってしまいますね……


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最終夢 幻想夢物語

 

夏来) 「んぅ……」

 

瞼の隙間から差し込む眩しい光に、夏来はゆっくりと目を開けた。

ボヤけていた視界が開けると共に、目の前の状況を理解し始める。

白い天井に白い壁、手前には固く質素な布地が被されてあるだけのようだ。

というのも、まだ体があまり動かないので感覚だけの意識であったからだ。

重い体を無理に起こすと同時に、風のささやきと落ち葉の空言が耳に響きわたる。

 

 

何か、とても長い夢を見ていたような気がする………

 

 

少し開いた窓の外を見れば、今が秋の季節だと理解出来た。

そうしてやっと、その反対側に誰かがいるのを感覚で察知した。

目をやると、そこにはありえないと言うか、予想を上回る人物がうたた寝をしながら座っていた。

長く清い黒髪をしなやかに垂らすその姿に、何故か懐かしさを覚える。

 

夏来) 「ちーちゃん……?」

 

思わず漏れ出した声、それに反応するかの様に閉じていた目を開けた少女 【幻花 千代】は、

目を丸くして驚きの表情を見せる。

 

幻花) 「...な、夏来...…夏来!?」

 

夏来) 「え……え?」

 

幻花) 「だ、大丈夫!? 貴方、だってもう起きないって........」

 

目頭が熱くなるのを必死に抑えているのか、幻花は唇を噛み締めていた。

その努力もたいして効果はなく、今にも泣き崩れそうな表情をしながらこちらを見続けていた。

 

夏来) 「……ち、ちーちゃん?」

 

ダメだ……まだ頭がボーッとする。

口を開く意識はあるが、いかんせん話している気がしない。

幻花が泣きそうになる理由を探しても出てくるはずもなく、混乱した頭をよぎるのは謝罪だけだった。

 

夏来) 「ごめん、ちーちゃん…….思い出せない、僕が何かしたかな……?」

 

怒ったかと思うと泣きそうになったり、非常に今日の幻花は感情的だなと楽観視していたが、どうやら本気らしい。

実際に病室にいるらしく、左腕には点滴を打たれていた。

下半身にも点滴がついていたのを確認すれば、ここに昏睡していた時間が長いと確信せざるを得ない。

余りにも情報量が多く、少し現実味が無かったが無視することもできないのが現状だ。

機能が回復してきた頭を回転させ、理解を深めた。

 

夏来) 「……ごめん、ちーちゃん……」

 

もう涙は止まっているらしいが、幻花の顔は下を向いていた。

必死に何かを隠すように……

 

幻花) 「私……怒ってるよ」

 

夏来が口を挟む暇もなく、幻花がただただ冷静に、静かに口を開いた。

 

幻花) 「急に事故に遭ったっていうから、それから毎日見舞いに行ってたのに、全然起きないし……」

 

もごもごとした口取りで話す理由は、涙が込み上げてくるからだろう。

辛く、悲しみの篭った言葉の一語一語は、どんな罵倒よりも強く夏来の胸を貫いた。

その言葉で、改めて自分がここに居る理由が分かった夏来は、幻花の優しさに弱々しい声が漏れた。

 

幻花) 「お医者さんからも、意識はハッキリとしているが何故か起きないって言われて……」

 

かすれそうな声を必死に探り、思いを伝えることは決して簡単なことではない。

相手を思うからこそ声がかすれるのだ。

 

幻花) 「もう..….本当に会えないかと思ったんだよ?」

 

今度は涙目を隠さず、思いを夏来にさらけ出した。

不意に来る幻花の美しさに圧倒されながらも、条件反射で口が動く。

 

夏来) 「心配かけて ごめんね……」

 

が、今の夏来にはかける言葉がなかった。

先程から謝罪を述べるだけである。

 

幻花) 「やだ……許さない」

 

涙目のまま頬を膨らませ、客人用の丸椅子に体育座りで顔を隠しながら、幻花はいじけてしまった。

 

夏来) 「うぅ……」

 

幻花) 「じゃあ名前で呼んだら許す」

 

頭を抱えて悩む夏来から目を放し、幻花がそっぽを向きながらそんなことを語り出す。

 

夏来) 「ぇ……?」

 

幻花「ちーちゃんは、もう恥ずかしい……だがら……」

 

こちらに目を向き直したかと思えば、涙で潤った瞳が強く訴えかけてくる。

 

夏来) 「………ち、」

 

つっかえる口元を必死に動かし、息づかいが荒くなる。

感情が口を抑制する───

 

夏来) 「千代……ちゃん?」

 

幻花) 「ちゃんはいらない」

 

恥ずかしさを克服し、もう一度 口を直した。

そこには前までの夏来はいなく、かっこよくはなくても少し大人びた少年がいるだけであった。

 

夏来) 「ち……千代…………ごめん」

 

幻花) 「──はぁ……色々言いたいことあったけど、もう全部忘れた 特別にちゃんでも許すっ!」

 

ため息の反動から帰ってきたその笑顔は、彼女の今までの最大の笑みであろう。

その安堵の表情から、夏来もつられて頬が緩んだ。

 

幻花) 「先ずはお帰り、夏来」

 

夏来) 「うん……ただいま」

 

秋の病室に似合う甘酸っぱい出来事は、やはりずっと現実であった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長いリハビリの時間が終わると、公欠になっていた学校が始まる。

もうすっかり忘れてしまった感覚を取り戻そうと努力するのだが、あいにく寝ていた時間が長すぎて、いわば休みボケ気分になっていた。

新年を迎え、3学期へと入った今でもまだ寒さは衰えを知らない。

吹き付ける風は肌を刺す様に冷たく、厚着でないと寒さに耐えきれない程であった。

 

夏来) 「はぁぁ……」

 

大きな溜息をつき、机に顔を伏せる夏来。

そんな姿を見てクスクスと笑う声が前の席から聞こえてきて、夏来はゆっくりと顔を上げた。

そこに居たのは夏来の親友である【炎条寺 友貴】だった。

 

炎条寺) 「オイオイ 一体どうしたんだよ? そんなナマケモノみてぇな顔しやがって」

 

夏来) 「あぁそうだよ……僕は怠け者さ……」

 

炎条寺) 「しっかし可哀想だよな、ナマケモノなんて名前付けられてよ もっとマシなやつなかったんかな」

 

夏来) 「僕が怠け者って言うのは否定しないんだ……というか動物の方だったんだ」

 

顎に手を当てて深く考え込んでいる炎条寺に、夏来の掠れた声は届かない。

眉間にしわを寄せ、唸り声を上げる炎条寺を横目に、夏来は窓から見える景色を眺める。

溜息をついたのは疲れからと言うのもあるが、それ以上に【何か大事な事を忘れている】気がして堪らなかったからだ。

思い出そうとしても、出てくるのは靄の掛かった時間だけ。

その中には今まで経験したことのない様な色鮮やかな思い出が眠っている……そんな感じがしたのだ。

 

 

「───夏来」

 

 

しかし、どうすれば思い出せるか……その方法が分からない。

これは一種の記憶喪失なのだろうか?

 

 

「おい──夏来」

 

 

記憶喪失だとしたら、この時間は僕の人生の中のどの部分に存在しているのか?

それさえ分かれば、なんとか思い出せそうなのだが………

 

 

炎条寺) 「おい、夏来!」

 

夏来) 「ふぇゃ!?」

 

 

不意に肩を強く揺すられて、夏来は身体ごと椅子を勢い良く後ろへと引いた。

同時に、その口から発した事の無いような声が漏れ出す。

 

炎条寺) 「そろっと先生来るぞ」

 

夏来) 「ぇ……あ、あぁ…」

 

炎条寺の言葉に、ゆっくりと身体を前に向き直す夏来。

それとほぼ同時に、ガラガラという音を立てて教室のドアが開く。

長身で強面の我らがクラスの担任と、キョロキョロと教室内を見渡す薄桃色のくせっ毛の目立つボブの女の子が入って来る。

普段の光景とは違う状況に、生徒達が騒ぎ出す。

 

『お前ら静かにしないか! 単位下げるぞッ!!』

 

と先生は怒鳴りながら教卓の上に出席簿を叩きつける。

シーンと静まり返った教室を見て、先生が黒板に名前を書き始める。

漢字2文字、平仮名3文字を書き上げ、クルッと回転して再び話し出す。

 

『突然だが、お前らに新しいクラスメイトを紹介する! 自己紹介を』

 

そう言われて元気よく返事をした少女は、腕組みをして両足を広げると、目を見開きながら大きく口を開く。

 

仙座) 「私の名前は仙座 ゆりか! 得意な事は俳句や花かるた! あと好きな食べ物は苺♪ みんな、よろっふー!」

 

教室内に響き渡る程の声で挨拶を終わらせた【仙座 ゆりか】

直後、その声よりも大きなクラス中の生徒からの声援やら口笛が飛び交った。

 

『仙座さんは親御さんの都合により、福岡から来たんだ、みんな仲良くしてやれよ』

 

炎条寺) 「おい夏来、聞いたか? 福岡だってよ めっちゃ遠いな」

 

夏来) 「ぁぁ……うん……そうだね」

 

別に驚く程でも無い。

アニメや小説では転校生なんて珍しく無いんだし、それが現実になっただけの事なんだから。

そんな事を考えながら夏来は、筆箱から取り出したペンを右手に持ち、机の上に広げてあるノートにスラスラと絵を描いていく。

 

『じゃあ席なんだが───おい皇』

 

夏来) 「ぇ……は、はい」

 

先生に呼ばれ、ペンを動かす手を止めて前を向く夏来。

 

『お前の隣が空いて居たな、隣の教室に使われてない机と椅子があるから持ってこい』

 

夏来) 「えぇ……」

 

これはまずい事になった。

よりによって隣なんて……それに机と椅子を持ってこい?

僕が力ない事分かってるでしょ先生!!

 

炎条寺) 「あ、いや俺行って来ますよ コイツじゃ時間かかるんで」

 

まるで心を読んだかの様に、席を立った炎条寺がそう切り出す。

 

『そうか、なら頼む』

 

炎条寺) 「はい」

 

そのまま席を離れた炎条寺は小走りで隣の教室へ行き、机と椅子を重ねて持ってくる。

コトッと小さな音を立てて置かれた机。

椅子を下ろし終わり、自分の席に戻ると身体ごと夏来へと向ける。

 

『仙座さん、あそこへ』

 

トコトコと姿勢良く歩く仙座。

炎条寺の横を通り、夏来の隣の席へ座る。

 

炎条寺) 「俺、炎条寺 友貴ってんだ、こっちは皇 夏来」

 

仙座) 「えへへ〜よろしくね♪」

 

夏来) 「よ……よろしく……」

 

いきなり挨拶をされ、おどおどしながら挨拶を返す夏来に対し、炎条寺は自分から話しかけるという形をとる。

それは夏来にとってとても凄いことであった。

ただでさえ内気なのに、それでいて挨拶をしようもんなら口が裂けてしまいそうだ。

口裂け女じゃなく、口裂け男になってしまう。

 

え……?

ちょっと何言ってんのか分かんない?

 

僕自身も、何言ってるかわかんないよ。

 

 

『ではこれでホームルームを終わる 各自1時間目の準備を始めろ』

 

そう言われて動き始める生徒達。

それに紛れて先生は教室を後にする。

 

夏来) 「はぁ……なんだかなぁ〜」

 

仙座) 「ふふふ〜ん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼休み、一人で寂しそうにしている仙座に、クラスのみんなが駆け寄り質問責めが始まった。

前の学校はどうだったか? 彼氏はいるの?そんな話題が飛び交う中、嬉しそうに受け答えをしている仙座。

みんなと話しているところを見ると、本当に明るくて元気な子だというのが分かる。

 

炎条寺) 「おい夏来 お前も話に入れよ〜」

 

仙座を囲む輪の中から、炎条寺が顔を出しながら手招きして夏来を誘う。

 

夏来) 「ごめん、ちょっと用事があるから……」

 

そう嘘をつき、夏来は急ぎ足で教室を後にする。

行き先は屋上。

炎条寺が学校を休んだ時や、1人になりたい時などは何時もここに来ている。

屋上へと続く階段を上がり扉を開けた。

隙間から入り込む眩しいほどの光に襲われる夏来。

視界がクリアになると、街を一望できる自分だけの世界に入っていた。

フェンスに両手を掛け、遠くの景色を眺めていると、ふと自分以外に人が居たことに気づいた。

 

《君はこの世界は嫌い?》

 

空を見上げ、両手を広げながら風を感じている少年と思わしき人物が、不意に夏来に問いかける。

フードを深々と被っているせいで顔はハッキリと見えないが、この学校の生徒ではない事が服装と発せられる声からして察する事ができた。

その声は何処と無く自分の声に似ていた……

 

夏来) 「…………」

 

見知らぬ人物からの質問に、無言で立ち尽くす夏来。

 

《だけど、逃げてばかりじゃ何にも変わらない 立ち向かう事が大切な時もあるんだよ?》

 

両手を下ろした少年が、今度はきちんと夏来の方に身体を向けて話す。

その時、夏来の記憶の中で何かが動き始めた気がした。

靄のかかった時間が、段々と晴れていくのが感覚的に伝わってくる。

 

夏来) 「あの……どこかでお会いしましたっけ……?」

 

何故こんな事を言ったのか、自分でもよく分からない。

 

けれど……なんだろう………

 

何故か凄く懐かしい感じがする……

 

《さぁ……会ったかもしれないけど、会わなかったかもしれないね》

 

夏来) 「あ……あれ……」

 

少年を見つめる自分の視界が、ユラユラと揺れて霞んでいく。

瞬間、手の甲にポトリと落ちる雫に、夏来は自身が泣いている事を知った。

咄嗟に手で涙を拭うが、それでも止めどなく溢れ出てくる涙。

その意味を夏来は理解できないでいた。

 

夏来) 「……ぁ……貴方は……っ……」

 

《………さぁ……なんだろうね 僕から言えることといえば───》

 

仙座) 「なーつきっ!」

 

夏来) 「わひゃっ!?」

 

会話の途中、不意に肩を掴まれる夏来。

その反動で身体をビクッと震わせた夏来は、背後に立つ仙座を見てホッと息を吐く。

 

夏来) 「仙座さん……驚かさないでくださいよ……」

 

仙座) 「えへへ♪ 夏来君が1人でどっかに行っちゃうから、バレないように後をついてきたの〜」

 

夏来) 「あっ……そうだったんですか…」

 

泣き顔を見られた、そんな事を考えた夏来の頰が赤くなっていく。

人前で涙を見せた事なんて無かったものだから、余計に恥ずかしさを覚える夏来。

耐えきれず顔を手で覆い隠そうとした時、右手に何かが握られているのを感触で気づく。

ゆっくりと手を開くと、何やら小さいお守りのようなものがあった。

 

仙座) 「何これー?」

 

仙座が夏来の手からソレを持ち上げ、良く観察し始める。

いつのまに握って居たのか……屋上に来る前までは無かったはず……。

となると、あの少年と話し始めた後───

 

夏来) 「あっ、すいません……あの、これって───」

 

振り返り、再び少年の方へと向き直す夏来。

その姿を不思議そうに見つめる仙座は、夏来の横へと回り入る。

 

夏来) 「あれ……」

 

しかし、振り向いた夏来の視界に あの少年の姿はなかった。

 

仙座) 「ねぇ、そう言えば言い忘れてたけど───」

 

夏来) 「仙座さん、さっきまで居た───」

 

仙座) 「誰と話してたの? 長い独り言だったけど」

 

あの人は?と言い切るよりも早く、仙座からの疑問の声が分け入る。

その問いの正しい回答を、夏来は持ち合わせてはいない。

 

夏来) 「だ…誰とって──」

 

つい先程まで話していた少年が、仙座には見えていなかったのか?

いいや絶対違う。

僕は霊感なんて持ってないし、何か特別な力も無い。

こんな極普通の人間に見えて、この少女に見えないなんてことは無いはずだ。

 

夏来) 「か……からかわないでよ、さっきまで居たじゃん」

 

仙座) 「ううん、本当だよ! 誰もいナッシングなんだから!」

 

両手を胸の前で交差させ、違うと言い張る仙座。

これでも彼女自身、至って真面目に答えているのだろう。

夏来を見つめる仙座の目がそう強く訴えかけていた。

 

仙座) 「私が来た時、夏来君フラフラしてたし……疲れてるんじゃない?」

 

夏来) 「そう……かな」

 

仙座) 「そうだよ! ってそれよりこのお守り、黒地に赤ってカッコイイね〜 どこで買ったの?」

 

夏来) 「ぁ…いや……分かんない いつの間にか握ってて──」

 

右手に持つお守りと思わしき物に付いている紐に指を通し、バッと夏来の目の前に突き出す。

ユラユラと揺れるそれは、黒い生地に赤い糸で【守永光】と縫いられていた。

「しゅえいこう」と読むのか?

永遠に守る光と言う意味だとは思うが……光とは何を指すのだろう。

そんな事を考えていると、ふと右下に小さく何か文字の様な物が書かれているのに気付く。

仙座からお守りを預かり、よく見てみると其処には【闇籠神社】と記されていた。

 

夏来) 「闇籠神社…?」

 

仙座) 「ちょっと調べてみよっか、えーと……クークルマップっと」

 

制服のポケットからスマホを取り出し、某地図サイトを開く。

文字を打ち込み、検索をかけると、その場所が画面に表示される。

 

 

仙座) 「うーん……なんか長野県の悟河村ってとこにあるみたいだね」

 

スマホの画面を夏来に向けながら話す仙座。

どうやらその場所は山奥にあるらしく、自然に囲まれた所である事が分かった。

 

夏来) 「そこって……」

 

上空からの写真、そこに映る場所と地名を夏来は知っている。

 

【悟河村】

それは夏来の叔父と叔母が住んでいる村の名前だ。

夏休みなどの時間を使って、よく幻花と炎条寺を連れて泊まりに行っていた。

だが、そんな名前の神社は無かった筈……

 

夏来) 「仙座さん、ちょっと貸してもらっていいかな」

 

仙座) 「え? あぁうん」

 

正確な場所を確認すべく、仙座からスマホを受け取り操作する夏来。

親指と人差し指を内側へと滑らせ、画面に表示される範囲を広げる。

村全体が映る所まで広げた夏来は、村の入り口から神社までの道のりを目で追う。

その目線の行く先にあったものは、大きな山だった。

 

夏来) 「もしかして……」

 

何かに気付く夏来。

今度は指を内側から外側へと押し出して拡大すると、ある一軒の家を映し出した。

 

夏来) 「やっぱり……」

 

仙座) 「何がやっぱりなの?」

 

夏来) 「その神社、おじさん家の裏山にあるみたい」

 

そして思い出し、察した。

昨年の夏、あの村で夏祭りが行われた時だ。

夏祭りが開かれる会場は、その山を少し登った所にある拓けた平地。

そこを埋め尽くすほどの屋台に混じり、見慣れない軽トラと、何もない森の中を指差しながら楽しそうに話す親子と思わしき2人の姿。

軽トラの荷台には木材やら工具等が大量に積んであり、何かを建てようとしていたのだろう。

そしてこの闇籠神社の存在。

これは偶然かもしれないが、確認してみる価値はありそうだ。

 

夏来) 「仙座さん、今度の───」

 

と夏来が何かを言いかけた時、三階へと降りる階段の扉がギィィと音を立てて開かれる。

 

炎条寺) 「あ、お前ら こんなとこにいたのか 早く教室行こうぜ? 置いてくぞー」

 

ニョキッと顔だけを出して辺りを見渡し、2人を発見するやいなや、手招きをしながら再び元来た道を引き返す炎条寺。

教室に戻ってからまた話すといい、右手に持っている仙座から借りたスマホを返し、2人は足早に屋上を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

仙座) 「あ〜ぁ…購買にパン買いに行く予定だったのに……お腹空いたぁぅ…」

 

椅子に浅く腰をかけ、足を伸ばしながら呟く仙座。

その発言に申し訳なさそうに身体を縮ませる夏来と、「お前自身が招いた事なんだし、自業自得だろ」と笑い飛ばす炎条寺。

 

仙座) 「あっ……で、何か言いそびれてたみたいだったけど?」

 

先程の夏来の発言を聞き直すべく、身体を起こし顔を向き直す。

 

夏来) 「あ、え…えっと……その…夏休みにさっき言ってた悟河村に行くんだけど、せ…仙座さんもどうかなって…」

 

仙座) 「おっ いいねぇ!闇籠神社ってのも気になるし、それに夏休みは暇だからちょうど良いや!」

 

あってまだ数時間な上に、そんなに親しいわけでもなかったので、てっきり断られるかと思われたが、意外にも乗り気の様だ。

目をキラキラと輝かせながら夏来を見つめる仙座。

その様子に前席の炎条寺は頭を抱えて口を開く。

 

炎条寺) 「ちょちょ待てっ! え、お前も来んのか? ってかどうしてそんな話になってんだよ……」

 

状況を理解出来ない炎条寺。

その口から出た言葉には焦りと困惑が混じっていた。

何故こんな話に発展したのか?

その経路を説明するべく、夏来はポケットから例のお守りを取り出して机の上に置き、話し始めた。

仙座には見えなかったあの存在、いつのまにか握っていたお守り、そして闇籠神社のこと。

それらを簡潔にまとめて説明した。

 

炎条寺) 「なるほどな、それなら仕方ねぇ 歓迎するぜ」

 

夏来) 「ごめんね……ぁ…それと……僕と炎条寺君のほかに、もう1人誘うんだけど……大丈夫かな…」

 

炎条寺) 「そうそう!あの暴力女…俺あいつに何度ボコられたか……」

 

仙座) 「あっうん、いいよ!」

 

炎条寺) 「おまっ…いいのかよ ここまで言っておいて即答と───」

 

それまで苦笑いを通してきた炎条寺の顔が、ある一点を見つめて引きつる。

その目線の先は夏来と仙座の背後。

只ならぬ気配を感じ、ゆっくりと冷や汗をかきながら振り向く2人より早く、肩に振り下ろされた大きな手からの殺気が伝わってくる。

 

夏来) 「ひっ…」

 

仙座) 「みゃっ」

 

『昼休みは終わりだ……授業を始める 数学の教科書を出せッ!』

 

小さく口を開け、この世の者とは思えない程の低い声を発する授業担任。

恐怖に身体が硬直したままの3人は、震える声で返事をした─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月日が流れるのは楽しい時を過ごす様にあっという間で、肌を刺す冬の寒さは去り、春の陽気がこの世界を包み込んでいた。

もうすっかりとクラスに馴染めた仙座は、今やクラスの中心人物となっていた。

誰とでも明るく楽しそうに接する姿は、男女問わず全ての者からの好感度が高かった。

その一方、隣に座って本を読み、外部との接触を断ち切っている少年がいた。

目の下にクマを作り、負のオーラを漂わせている少年には、当然の事ながら声をかける者や相手にする者など現れない。

唯一話せる炎条寺も、先程昼食をとり終わり、数人でバスケをしに体育館へ向かったばかりだ。

 

『オイ、ちょっとツラ貸せよ』

 

不意に来る、夏来にとって最も聞きたくないであろう声が前方から聞こえた。

その声に反応して目を見開き、奥歯をガタガタと鳴らしながらゆっくりと顔を上げる。

 

 

───そこには、夏来を裏で虐めている【紅原 海斗】が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅原に半ば無理矢理に連れてこられたのは人目のつかない校舎裏。

そこへ着くと同時に、物陰から出てきた別のクラスの者と思わしき2人組に逃げ道を塞がれる。

 

紅原) 「お前さぁ……最近俺たちが手ぇ出してねぇからって、あんま調子こいてんじゃねーよ」

 

夏来) 「べ……別に…ち…調子になんて……の…のの…」

 

紅原) 「乗ってないってか?バカかテメェは? お前じゃなくて俺から見てってことだっつーの

察し悪りぃな……本当にウゼェわぁ……ちょっと抑えてろ」

 

紅原に指図され、両脇に立つ2人が夏来の腕を拘束する。

思わぬ事態に、必死に振りほどこうとする夏来だったが、貧弱ゆえに抵抗する力は無意味に終わった。

 

紅原) 「最近イライラしてたから丁度いいぜェ! おらよっとォ!」

 

ピョンピョンと跳ねながら拳を構える紅原。

次の瞬間、右手から繰り出される一撃が夏来の頬に命中する。

それを区切りに絶えず強力なパンチが顔面へ、腹部へと叩き込まれ続ける。

逃げる気力も、抵抗する力も無くなった夏来。

左手で髪を掴み上げられ、口から血が垂れ流れる。

 

紅原) 「毎回思うが…お前マジで弱すぎ───けどサンドバッグには丁度良いわァ!! ヒャハハハ!!」

 

右手を大きく後ろへと引き、再度頬に叩き込む。

その瞬間に両腕の拘束が解け、そのまま夏来は剥き出しの地面へ倒れこんだ。

それと同時に、夏来の頭を紅原が靴で踏みつけ、他の2人が無防備の腹部と背中に蹴りを入れる。

 

夏来) 「ぅっ……ぎ……ぁ…」

 

紅原) 「ククッ……よォし、後は俺がやる 下がってろ」

 

紅原の令に軽く返事をし、2人は少し離れた場所で腕組みをしながら、ニタニタと笑みを浮かべて様子を見ている。

その時───

 

 

「どけ」

 

 

不意に背後から放たれる男の声に、2人が振り返る────

否、それよりも早く肩を強く押され尻餅をつく。

 

『テ、テメェェエ!!!』

『野郎ぉぉお!!』

 

怒りに駆られた2人が、歩みを進める男に飛びかかる。

しかし、それを華麗に躱した男はバランスを崩した2人を足払いで転倒させる。

顔面を強打した2人は短い悲鳴をあげて地面を転がった。

 

紅原) 「あ?」

 

その声に気づいた紅原が夏来を蹴る脚を止め、こちらに向かって来る男を凝視する。

 

「そいつから……夏来から離れろ……」

 

怒りの篭った声を出す男。

直後、合図なしに駆け出した男の拳が、目にも留まらぬ速さで迫り来る。

突然の事に反応出来ない紅原は、その直撃を許してしまう。

弧を描いで殴り飛ばされる紅原が壁に叩きつけられ、少量の鼻血が流れる。

 

紅原) 「なっ……何しやがるっ!!」

 

夏来) 「炎条寺……君……」

 

2人の目線が行く先に立つ者───その男の名は【炎条寺 友貴】

 

何を隠そう彼は──

仲間が傷付くのを許さない【元ヤンの戦闘鬼】だ。

 

紅原) 「俺が……この俺が……血を……ふ…ふざけやがってェェエ!!!」

 

ポタポタと滴り落ちる血を見て怒り狂った紅原が、その怒りに身を任せて攻撃を仕掛ける。

しかし、顔面目掛けて突き出した拳は左腕で弾き返され、さらには体勢を低くした炎条寺の強烈な一撃が腹部へとめり込んだ。

 

紅原) 「ガァッ……グ……ァ!」

 

ヨロヨロと後退り、腹を抑えて右膝をつく紅原。

 

炎条寺) 「紅原……お前が夏来にしたのはこんなもんじゃ済まねぇぞ……本当なら血反吐吐く位まで痛めつけてやりたい所だが、これ以上やると俺も学校から何言われるか分かんねぇからな……」

 

紅原) 「グッ……」

 

炎条寺) 「これに懲りたら、もう2度とすんじゃねぇ……夏来のバックには俺がいる事を忘れんな」

 

そう言い捨てるように紅原から視線を逸らし、横たわる夏来へ歩を進める。

その発言を聞き、これまで味わったことのない【憎悪】が紅原の心を支配した。

眉間にしわを寄せ、拳を強く握り締める。

こちらに背中を向けた炎条寺を睨みつけ、懐にしまっていた小型のナイフを取り出した。

 

夏来) 「ッ───!?」

 

驚きと恐怖の入り混じる夏来の表情を見て、状況を察した炎条寺が瞬時に身体を横へと滑らせた。

 

紅原) 「はぁ……はぁ……ク、クソ野郎ォオ!!」

 

先ほどまでいた場所に、紅原がナイフを片手に突っ込んで来た。

目を充血させ、歯をむき出しにし、荒い息遣いを繰り返している。

 

炎条寺) 「こりねぇな……」

 

紅原) 「ウラァァァアア!!」

 

甲高い雄叫びを上げ、ナイフを突き出しながら炎条寺に襲いかかる紅原。

ナイフ技を使うわけでもなく、ましてや目立った身体技もない。

故にその存在は、炎条寺にとって何の障壁にもならないものだった。

バックステップを踏み、校舎の壁まで近づく炎条寺。

 

紅原) 「わざわざ逃げ場なくして……バカかテメェはァァア!?」

 

炎条寺) 「バカは────お前の方だ」

 

2人の距離が2メートルまで縮まった時、炎条寺が地面を蹴り上げて飛び上がり、壁を伝って紅原に空中からの回し蹴りを食らわす。

 

紅原) 「ぁ…が……ッ!」

 

見事に命中した炎条寺の攻撃に、一歩二歩と覚束ない足取りで後退する紅原。

その手に持っているナイフを、倒れる瞬間に炎条寺目掛けて投げ飛ばした。

右頰スレスレをナイフが通り過ぎ、壁に当たって音を立てながら落ちる。

 

紅原) 「く……そ…が……」

 

唇を噛み締め、地面に肩から崩れ落ちた紅原。

そこへ倒れていた2人が近づき、紅原の肩に手を回して起き上がらせる。

力無く俯きながら何かをブツブツと呟く紅原を連れて、3人はその場から消え去るように逃げていった。

 

炎条寺) 「───うっわ めっちゃ怖かったぁあ!! おい見たかよ夏来……あいつのあの顔 まるで鬼じゃねぇかよぉぉ……」

 

夏来) 「……………」

 

炎条寺) 「本当に死ぬかと思ったわぁ……人生終了!Die & Dead!」

 

夏来) 「……………」

 

炎条寺) 「まぁ……けどよ、夏来が助けを求めてくれんなら、俺はいつだって駆けつけるからな 照れ隠しぃ…なんちゃって」

 

夏来) 「……………」

 

こちらに背を向けながら横たわる夏来。

一言も返事がない事を不思議に思った炎条寺が、夏来の身体を揺すった。

 

炎条寺) 「ぇ……」

 

思わず声が漏れた炎条寺。

その目に映る夏来の姿は、彼に不安感を与えた。

必死に呼び掛ける炎条寺の声に、一切の反応も見せない夏来。

 

炎条寺) 「ぉぃ……おい…おいおい嘘だろ!?」

 

声が裏返り、冷や汗が流れる。

咄嗟に夏来の胸に耳を当て、心臓の動作を確認する。

ドクン…ドクン…と一定のリズムを刻む鼓動の音が聞こえ、ホッと胸を撫で下ろす炎条寺。

しかし、このまま放っておく訳にはいかず、夏来の身体をどうにか動かし、背中に担いで保健室へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来) 「んぐ……ぁ……はっ」

 

不意に頬を指で押される感触に、夏来が意識を取り戻す。

フカフカのベッドの感触と、薬の匂いが微かに漂う事から、今自分が保健室にいるのだと分かった。

ゆっくりと目を開けた夏来の視界に映り込んだのは、氷を包んだ真っ白な厚い布の様だ。

モゴモゴと口を動かす夏来。

それに気付いた数人の男女の声が耳に入ってくる。

 

炎条寺) 「おぉ! 気が付いたか!」

 

夏来の顔に覆い被さっている布を退かし、炎条寺が大声を上げる。

急に視界が明るくなった事と、大音量の声が耳に入って来た事により、夏来を激しい頭痛が襲う。

 

幻花) 「友貴、怪我人なんだから余計なことしないの 先生に言われたでしょ」

 

瞼を強く閉じながら唸る夏来の姿を見て、椅子に座る幻花が炎条寺に注意する。

枕元に落ちた布を再び顔に目を隠さない様にして被せ、立ち上がった幻花は腰に手を当てて夏来を見下ろす。

 

夏来) 「ちー………あ、いゃ…千代ちゃんが何でここに………?」

 

炎条寺) 「こいつ、夏来がボコられたって聞いて、放課後になったらあっちからすぐ飛んできやがったんだ」

 

仙座) 「ひゅーひゅー 良いね良いねぇ〜?」

 

幻花) 「なっ…ち、違うしっ! 家がこっち方面だからついでに来ただけだしっ!! ゆりかも、 別にそんなんじゃないから!」

 

顔を赤らめながら はにかんでいる様子は、清浄無垢の少女がその衣物を一枚一枚剥がされていく様な優しさだった。

全身が燃え滾る心地がして、わあっ!と叫んでしまいそうな気配を必死で抑える幻花。

 

仙座) 「そんなこと言っちゃって〜本当は夏来君のこと────」

 

幻花) 「あぁぁぁ!!?」

 

仙座) 「ちょ、いっ…いたっ いにゃいよっ! あゔぅぁ〜」

 

だが仙座からの効果抜群な痛すぎる質問に、抑えた感情が一気に爆発する。

仙座の頬を横に引っ張り、上下奥手前にぐるんぐるんと回す。

 

夏来) 「ぁ……あ、ねぇ炎条寺君……」

 

炎条寺) 「ぁ───え、あ…なんだ?」

 

荒々しい2人のやりとりに呆気に取られていた炎条寺が、夏来の呼び声に我に返る。

モゴモゴと喋りづらそうにしている夏来を見て、幻花がこちらに注目していないのを良い様に、布を少し退かして口元を出してあげる。

 

夏来) 「ありがとう……そのさ、あの2人……いつからあんなに仲が……」

 

炎条寺) 「ぁ──俺とゆりかがここに見舞いに来て、それから30……いや、20か? まぁそんくらい経ってから千代が来て、そこで会ってから気があったのか、それで────」

 

夏来) 「あぁ、うん、もう分かったよ ありがとう」

 

両手でそれまでの流れを表しながら、長々と話す炎条寺。

今止めないといつまで話すか分からない状況で、夏来のこの判断は的確なものだった。

 

──うん、そう思いたい。

 

炎条寺) 「え? あ、そっ」

 

夏来) 「うん……というか、今って放課後なんだ」

 

先程までの炎条寺達の会話にもあった、放課後という言葉。

どうやら昼休みに気を失ってから随分と眠っていた様だ。

上半身を起こし、右側に立て掛けられた鏡で自分の顔を見つめる。

紅原に殴られた頬は、薄っすらと紫色をしていた。

その状態から、受けた痣の症状はまだ軽いことが分かった。

 

炎条寺) 「お、おい! 大丈夫かよ まだ身体……」

 

幻花) 「ちょっと夏来っ! 安静にしてなきゃダメだってば!」

 

うっかり高い声を出してしまった炎条寺。

その声を聞いて振り返った幻花は、鏡を見て顔に手を当てている夏来の姿を目撃する。

 

炎条寺) 「おい待て千代、なにを──アベシッ!!」

 

何かをしでかすであろう雰囲気を醸し出しながら近付く幻花を止めるべく、炎条寺が行く手に立ち塞がる。

しかし簡単に片手で押し退けられて、炎条寺は壁に顔面からぶつかり短い悲鳴をあげる。

そして夏来は、幻花に肩を掴まれたままベッドに背中を打つ。

 

夏来) 「ぁ…ちょ……ぉ……!」

 

視線の先には幻花の瞳。

見つめ合う2人から遠ざかる炎条寺と仙座は、その場から立ち去るべく ドアに手を伸ばす。

しかし、その手が届く直前に横へと勢い良く開かれたドア。

何事かと見上げる2人の目の前には、大きな影が存在していた。

夕陽の赤い陽射しを背に、腕組みをしながら仁王立ちをする者の名は───

 

 

『なんだ、まだ帰ってなかったのか!! 保健室はくつろげる空間だろう!』

 

 

異常に機嫌が良い、我が高校のオアシスの先住民【nursing teacher】又の名を───

 

 

ゆかこ) 「オラァ! 保健室の先生 ゆかこ様の御通りダァ 道を開けろぉ! 汚物は消毒だ〜!!」

 

 

いつかの世紀末に居そうな、オラオラ系養護教諭さんである。

 

炎条寺) 「ゆかこ先生が消毒とか言うとガチめの消毒しようとするから嫌いだぁ!」

 

仙座) 「ちゃんと治してくれるか心配になってきたよ……」

 

そして彼女は、生徒からの不信感が学校内で一番高い人間でもある。

だが、それよりも酷い事がもう一つあるのだ。

それは───

 

ゆかこ) 「おっ! なんだなんだぁ〜? 2人でベッドで見つめ合うなんてぇ〜 ラブラブだねぇ〜! 付き合ってんの? お似合いじゃ〜ん♪」

 

恋愛系の生徒間の問題をある意味好み、その生徒の【弱み】を握る異常者であったのだ。

 

夏来・幻花) 「ち、違うからっ!!」

 

炎条寺・仙座) 「ヤバッ! 見つかったぁあ!?」

 

ゆかこ) 「ハッハッハッ! 2年B組 皇 夏来君の弱みゲッチュ! これからは私に逆らえないねぇ〜! はい、今後もよろしくぅ!」

 

一向に衰えないテンションで、部屋中にその高笑いを反響させる ゆかこ先生。

こんな最低最悪な性格に呆れ果てる夏来と炎条寺に対し、「こういう人には気をつけないと」と戒心する幻花と仙座。

 

ゆかこ) 「ハァ───ッハッハッハッハッハ!!!」

 

一方のゆかこ先生はというと、そんな事など御構い無しに絶えず笑いこけて居た。

 

炎条寺) 「ちっ……ほんとうるせぇな この脳筋サイレンゴリラ….…」

 

ゆかこ) 「よぉーし、もうここ閉めるから後は家で安静にしな! 腹部には包帯巻いてあるからキツイかもしれないけど、まぁ頑張りな! さぁ帰った帰った!」

 

夏来の痣の治り具合を確認して、ゆかこ先生は4人を強制的に部屋から追い出した。

 

幻花) 「身体、大丈夫? 歩ける?」

 

夏来に寄り添い、不安げな表情を浮かべる幻花。

正直、あの時よりは全身の痛みは治まって来たが、それでも無理に動かそうとすると激痛が走る。

しかし……こんなにも自分を大切に思ってくれている人に、これ以上迷惑をかける訳にはいかない。

そんな思いが心に満ちた時、夏来は右足を前へ出し歩き出していた。

 

夏来) 「大丈夫だよ! さ、早く帰ろっ」

 

退院してからと言うもの、相変わらずのその暗い性格を露わにしていた夏来。

ただでさえ笑顔なんて見せたことなんてなかったはずなのに、その時ばかりは不思議と笑みが溢れていた。

 

幻花) 「──そうね」

 

仙座) 「然り(便乗)」

 

炎条寺) 「あんまり無理すんなよ」

 

それぞれの返答を聞き、再度前を向いて歩を進める。

その後ろ姿に、何処と無く懐かしい気持ちを抱いた3人。

直後、脳内に存在する様々な記憶の中に、靄の掛かった思い出が現れた。

 

幻花) 「………」

 

この靄の先にある「モノ」を私達は知っている気がする。

 

炎条寺) 「なんだ……これ」

 

それは幻想の世界……ある一人の少年が見た、夢の────

 

夏来) 「おーい 皆んな〜!」

 

長く続く廊下の奥で、手を振りながら3人を呼ぶ夏来。

その声に弾かれた炎条寺と幻花が、駆け足で夏来の元へと急ぐ。

そして、その場に1人取り残された仙座は、クスクスと笑いながらゆっくりと歩き出す。

 

仙座) 「──ふふ……考えたねぇ、あっちの私」

 

小さな声で意味深な独り言を呟く仙座。

その言葉は誰にも聞かれることなく、夕焼けの闇に消えていった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから約4ヶ月の月日が流れた。

前よりも心から笑うことが増え、学校が初めて楽しいと感じていた夏来。

そう言えるのには【紅原が居なくなった】という事実が絡んでいた。

あの事件の詳細を炎条寺から聞いた学校側が、紅原と共犯2人に対し自主退学を突きつけたのだ。

歯を噛み締め、渋々その要求を飲んだと聞いた時は、やっと恐怖から逃れられたとの喜びから嬉し泣きをしていたのだと炎条寺から聞かされた。

 

夏来) 「寝坊しちゃったぁぁあ!!」

 

世界が緑に包まれ 蒸し暑い日々が続く中、夏休みに入った夏来達は、長野の夏来の叔父と叔母の家へと向かう為、駅に集合していた。

 

炎条寺) 「おっせぇぞ夏来! お守りと水着、ちゃんと持ってきたよな?」

 

夏来) 「ごめんごめん! 勿論持ってきたよ」

 

額に汗をかきながら、ハァハァと荒い呼吸を繰り返す夏来。

その姿を見て苦笑いをする炎条寺が、背後からの大声に肩を跳ね上げた。

振り返ると、向かいのホームに数人のサラリーマンに紛れて、大きく手を振る仙座と小説を読んでいる幻花の姿があった。

跨線橋を渡り、2番線へと着くと同時に、緩やかなスピードで電車が入ってくる。

 

炎条寺) 「あっぶねぇ……もう少しで乗り遅れるところだったぜ……」

 

夏来) 「良かったぁ…」

 

安堵の息を漏らす炎条寺と夏来。

ぞろぞろと下車する人々を待ち、いざ乗車。

電車内に足を踏み入れると同時に、クーラーの涼しい風が夏来達の肌に触れた。

幸い、昼頃の東京から長野方面行きはあんまり混まないようで、見渡す限り空席がいくつもある。

通路を挟んで左側のボックスシートに腰掛け、出発した電車内から過ぎ行く東京の景色を眺める。

それぞれがスマホの電源を切り、高校の話を持ち出した炎条寺のおかげで、自然と会話は弾んでいった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは電車をいくつか乗り継ぎながら、数時間かけてようやく長野のある市に着いた。

無人の改札を通って駅を出た夏来達は、近場のバス停へと急ぎ時刻表を確認する。

 

幻花) 「20:00のやつに乗るしかないわ それ逃したら次22:00よ」

 

幻花がスマホの画面に表示される時間を3人に見せながら、ゆっくりと息を吐くように言う。

現在の時刻は19:40分。

辺りはすっかり暗くなっており、民家の灯りが点々とあるだけで、時間を潰せそうな所が無い。

この状況下で待たされる気になると、本当に辛いものである。

側のベンチに座り込み、深いため息をつきながら天を仰ぐ夏来。

 

夏来) 「やっぱり星が綺麗だよね、ここ」

 

ボソッと呟くその声を聞き、3人が空を見上げる。

 

仙座) 「おぉ〜本当だぁ すっごく綺麗……」

 

幻花) 「東京は明るすぎて見えないもの 当然と言えば当然よ」

 

無数に光り輝く星空のカーテン。

東京では全くと言っていいほど目にすることが出来ない光景と、人口音の無い真の静けさに、不思議な気持ちを抱く4人。

 

炎条寺) 「おっしゃ、時間つぶしに星座でも調べるか!」

 

幻花) 「ふふん♪ その必要はないわ!」

 

スマホを取り出した炎条寺の手を鷲掴み、強引に引っ込ませる幻花。

夜空に向かって手を突き出し、特徴的な星座の説明を淡々と夏来達に話す。

 

幻花) 「まずはアレよね! 夏の大三角形! ほらあそこ! あの高いとこにある3つの星【ベガ】、【アルタイル】、【デネブ】の三輝星がつくる三角形を夏の大三角形って言うのは分かるでしょ!? それでその中の【アルタイル】っていう星座の名前は、アラビア名ナスル・アルターイル 別名【飛ぶ鷲】に由来するの! それとね───」

 

半ば放心状態で、その止まることを知らない幻花の星座知識を聞く炎条寺と夏来。

だが1人、仙座だけは勉強になると言わんばかりに幻花の話に魅入っており、さらには質問まで投げ掛けていた。

完全に空気と化した炎条寺と夏来。

と、その時、前方から木々に紛れて淡い光が近付いてくるのが見えた。

星座の話に夢中な2人と、ぐったりとしている夏来に呼びかけ、こちらに近づく物体を見つめる。

両脇に建ち並ぶ住宅から漏れる光に照らされ、それは姿を露わにした。

 

炎条寺) 「来たぁ───! バスゥゥウ!!」

 

仙座) 「あれ? もうそんなに時間経ったの?」

 

幻花) 「早いもんね、楽しい時間ってのは」

 

〈ピロピロピロン〉と音を立てながら、ゆっくりと夏来達の前に止まるバス。

乗り込んで整理券を取り、それぞれが席に着くと同時にバスが発車する。

煌々と照らす車内の電気に、目を細めながら辺りを見渡す炎条寺。

どうやらこのバスには夏来達以外に誰も乗っていないようだ。

 

炎条寺) 「一度でいいから、この道を朝か昼頃に通ってみてぇな」

 

先程の駅前から遠ざかること数分、左右に田んぼが広がる一本道に入った時、炎条寺が外の暗闇を見ながらボソッと呟く。

 

幻花) 「帰りに必ず通ってるじゃない」

 

炎条寺) 「いや、この山方面へと向かう光景を見たいんだよ」

 

幻花) 「……変な拘りを持つよね友貴って」

 

仙座) 「ほんとほんと」

 

夏来) 「そ、そうだね」

 

思案に暮れる炎条寺に聞こえないように、バスの走行音を利用しながらヒソヒソと話す3人。

川に架かる橋を渡り、野を超え山を越え、何度かバス停に止まりながら約一時間半。

途中、乗車して来た人々も既に降り終わり、再度バス内は夏来達の声に包まれていた。

 

『次は──悟河村──悟河村です』

 

運転手の声に、降車ボタンを押して荷物をまとめる。

悟河村と聞いて、初めて行く地に興奮気味な仙座。

数分後、徐々に速度を落とすバスの左手の窓から見える景色に、駅前で見た様な民家の灯りが映り込んで来た。

村の手前にあるバス停で料金を支払って降り立ち、バスを見送った夏来達は叔父と叔母の家へと向かう。

 

幻花) 「いつ見ても、この村は活気あるわね こんな時間でもやってる店が結構あるのは凄いと思うわ」

 

炎条寺) 「マジそれ! 村って呼べんのか? 村以上町未満って感じ?」

 

仙座) 「ラーメン屋もあるし、居酒屋も、コンビニも、喫茶店も、カラオケもあるっ!! 何ここ凄ッ!?」

 

夏来) 「叔父さんから聞いたんだけど、都会から田舎に移り住みたいって話が沢山あったみたいで、この村の人口が結構増えたらしいよ」

 

炎条寺) 「あぁ……だから前来た時に無かった喫茶店とカラオケがあるのか」

 

目に映る【村】とは言い難い光景。

その東京で見慣れた商店の横を通り過ぎ、ひしめき合うように建ち並ぶ住宅地へと入ると、前方にある一軒の大きな家が見えてくる。

先頭を歩く夏来は その家の前で止まり、チャイムを鳴らす。

せかせかと歩く人影がこちらに向かって来たかと思うと、ガラッと勢いよく引き戸が開かれた。

 

叔父) 「おぉ! 来たか来たかぁ! 無事で良かった……もう心配で心配で」

 

叔母) 「あんた!玄関口で見っともない……子供達が引いてるじゃない! ごめんなさいね、さ 上がって上がって」

 

奥の部屋から姿を現した叔母が、夏来達の目の前で膝をついて半泣きしている叔父の服を掴み、グイッと後ろへ引く。

鬼の様な顔付きから一変し、聖母の様な表情へと変わった叔母は、そのまま叔父を引きずりながら夏来達を近場の部屋へと通した─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叔父) 「へぇ〜 仙座 ゆりかちゃんて言うんだ よろしくねぇ」

 

仙座) 「よろっふ〜♪」

 

木で出来たテーブルを囲む様に、畳の上で楽な体勢を取りながら会話を弾ませている。

その間に、叔母は夏来達の荷物を客室へと運び、「手伝いますよ」と言った幻花と共に遅い夕食の支度を始めた。

目の前でグゥーと腹を鳴らした叔父を見ると、どうやら夏来達が来るまで夕食を預けていた様だ。

 

叔父) 「はは…は……お腹空いたねぇ ねーまだ──!?」

 

叔母) 「うっさいわね! それ以上喋ったら今から作る料理に そこらへんの道草を大量にぶち込んで消化不良起こしてやるからね!!」

 

叔父) 「は…はい…すみません…」

 

一瞬にして先程までの叔父の笑顔が崩れ去り、怯えた表情へと変わった。

それを目の当たりにした夏来達は、この家に居る限り、叔母には逆らってはいけないのだと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分は待っただろうか? 台所の方から良い匂いが漂って来た。

 

夏来) 「あっ、これって」

 

炎条寺) 「あぁ…奴だ 今度こそ負けねぇからなぁ……」

 

叔母) 「はいはい〜まずはご飯ね、それとお味噌汁」

 

叔母がウェイターの如く、両手を使って片方に4人分のご飯が乗ったおぼん、もう片方にはお味噌汁の乗ったおぼんを運んで来る。

叔父、夏来、炎条寺、仙座へ配り終わり 引っ込む叔母に変わり、すれ違いで幻花が入って来る。

 

叔父) 「ふっ……いつの世も争いは起こるもの……」

 

炎条寺) 「その理由はただ一つ────」

 

その手に持つ大皿の料理を目にし、叔父と炎条寺の目つきが変わる。

まるで、飢えた猛獣が獲物を狩る時に見せる様な………

 

幻花) 「はいどうぞ、山賊焼きですよ」

 

それぞれに割り箸を渡し、メインメニューをドンとテーブルの真ん中に置く。

瞬間、目にも留まらぬ速さで割り箸を割った叔父と炎条寺が山賊焼きに箸を伸ばす。

 

叔父・炎条寺) 「そこに肉があるからだァァァア!!!」

 

仙座) 「ぁ……ぇ……」

 

食べる!食べる!

口に頬張り、続いてご飯を掻き込む!

喉につっかえたのならば味噌汁で胃まで強制的に流し込めぇぇえ!!!

汚い?そんなの知った事か!!

人類は他を食して生きている!

食べねば生きられない!

そんな中で綺麗汚いなんぞ不要!!

誰が決めた!?

誰が綺麗に食べないといけないといった!?

そんな事を言う奴は地べたに這いつくばりながらク○でも食ってろォォオ!!!

 

炎条寺) 「肉ッ!! 即ち神秘の美! 身体を作り出す源ォ! 魚心あれば肉心ォ! 旅は道連れ肉情けェェイ!!!」

 

叔父) 「酒肉竹林ッ! 焼肉定食ッ! 鶏肉胸肉ッ!! 肉巻豆腐ゥ!! ポォゥルトゥリィィィィイ!!!」

 

叔父・炎条寺) 「ファイヤァァァァァァアアア!!!」

 

夏来) 「うっ……あっ…熱いっ!」

 

空中で箸を交える叔父と炎条寺。

カシッビシッと音を立てながらぶつかり合う様は、まさに剣と剣の闘いを見ている様だった。

 

幻花) 「はぁ……いただきます」

 

その傍で静かに正座をしながら、自分のご飯とお味噌汁を持ってきた幻花が手を合わせて食べ始める。

それを見て夏来と仙座も、2人を避けながら山賊焼きを一つずつ取ってご飯と一緒に食べる。

 

仙座) 「どうしてこんなに熱くなれるのかねぇ〜私には理解できないねっ!」

 

叔母) 「はい、馬刺しもあるわよ〜」

 

と、そこへ新たな料理を叔母が運んで来る。

馬刺しと聞いた瞬間、それまで2人の争いを笑い物にしていた仙座が血走った目を見せた。

 

仙座) 「馬刺しッ! 美味しッ! コク深しッ! 我が腹中に一片の肉無しッ!! ホース博士、お許しくださいッ!!」

 

そして馬刺しをこれでもかと口に頬張りながら、2人の争いに自ら突っ込んでいく仙座であった。

 

叔父・炎条寺・仙座) 「ハァァァァァアア!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来) 「ぅ…お腹いっぱい……ご馳走様です…」

 

幻花) 「ご馳走様でした、とても美味しかったです」

 

叔母) 「あら そう? ふふ♪ なんだか嬉しいわ」

 

ご飯とお味噌汁を平らげ、手を合わせてお茶碗を片付けに行く夏来と幻花。

台所で横に並びながら洗い物をしていると、不意に幻花がクスクスと笑い出した。

 

夏来) 「え、ど、どうしたの?」

 

幻花) 「いっ…いやね…ふふ……見た? あの3人のお茶碗の中のご飯……ふふ」

 

夏来) 「いやぁ…見てなかったけど……な、何かあったの?」

 

幻花) 「ご飯がカッピカピだったの! くふふ……あはは!」

 

案外、幻花は笑いの沸点が低いんだなぁと感じた夏来。

しかし、笑いの沸点が低いのは社会に出た時、意外と役に立つんだと聞いたことがあったのを思い出し、少し羨ましい気持ちも抱いていた。

 

叔母) 「ほらほら〜手止まってるよ! イチャつくのは後々!」

 

夏来・幻花) 「べ、別にイチャついてなんかぁ!」

 

トンッと2人の肩に手を掛ける叔母。

その直後に言い放った言葉をかき消すかの様に、大声で見事にハモった2人。

その姿に叔父との学生時代の日々を思い出す叔母。

───余談だが、この夫婦は学生時代を共に過ごし、行く学校も全て同じな言わば幼馴染らしい。

 

叔母) 「ま、それはそうとお風呂沸かして置いたから好きな時に入りな? んじゃおっ先〜♪」

 

そう言い残すと、軽いステップを踏みながら叔母は自室に寄って着替えを持ち、お風呂場へと向かった。

洗い物もひと段落し、他にやる事が無くなった夏来は、話があると幻花に誘われ、未だに争いを繰り広げている3人の横を通り過ぎて、客室へと続く長い縁側へと腰を下ろす。

月明かりに照らされながらの2人きりという状況に、夏来が手を絡ませながらモジモジとしていると、幻花が悲しそうな声で話し始めた。

 

幻花) 「ねぇ夏来……? その……変なこと言っちゃうけどさ、私たちって何時もこの4人だったっけ?」

 

夏来) 「え? どう言うこと……?」

 

幻花) 「なんか足りないのよ……上手くは言えないんだけど……誰かを忘れている気がするの とっても大事な……私たちにとってかけがえのない存在を」

 

夏来) 「かけがえの……ない……ァッグ!?」

 

その幻花の話を聞いた途端、激しい頭痛が夏来を襲った。

これまで味わったことの無いような痛みの中で、身体の力が抜けて行くのを感じる。

 

幻花) 「な、夏来? ちょっと大丈夫!?」

 

幻花が異変に気付き、夏来の体を揺さぶる。

グラグラと揺れ動く身体が、大きく後ろへと引っ張られる感覚に襲われる。

意識が朦朧としている中で、夏来は何とか踏みとどまろうと力を入れた。

しかしその努力は無駄に終わり、次に夏来を襲ったのは何処までも深く、ぽっかりと穴が空いた白色の想い出だった。

そこに落ちて行く夏来。

見上げる彼方からは、今にでも消えかかりそうな幻花の弱々しい声。

そんな中、背後から夏来の名前を呼ぶ声が聞こえて来る。

 

 

──誰?

 

 

「ボクは夢を司る……まぁ神みたいな存在さ」

 

 

──夢──神様?

 

 

「今から君を、ちょっとだけ目覚めの空間へと導いてあげる このままじゃ、何の為にボクが存在したのか分からないからね」

 

 

──ま、待って! 千代ちゃんは! 皆んなは!? 僕はどうなるの!?

 

 

「大丈夫、終わったら元の世界に帰してあげるよ」

 

 

───も、元の世界? 終わったらって、な、なにを───

 

 

 

 

 

その答えを聞くことが出来ないまま、夏来の意識はプツンと音を立てて切れた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来) 「───なにをするんだ! あ、あれ………?」

 

それから次に目を覚ましたのは、意識が切れた数秒後だったような気がする。

反射的に飛び起きたせいで前方に倒れそうになる夏来の身体を、誰かがそっと支えた。

 

夏来) 「は…はぁ…あ、危なかったぁ……ありがとう千代ちゃん……」

 

冷たい手が夏来の手首から離れ、振り向きざまに助けてくれたであろう幻花に感謝の言葉を言う。

が、振り向いて顔を上げた夏来の目に飛び込んできたのは、隣に座って居た筈の幻花では無かった。

 

***) 『何を言っとるんじゃ夏来殿? 幻花殿はすでに寝ておろうに それに……【ちーちゃん】では無かったのかい?』

 

そして幻花の代わりに声を発したその者は、首を傾げながら不思議そうに夏来を見つめる。

 

夏来) 「だ、誰ですか……あなた……」

 

***) 『誰かて? 一体どうしたんじゃ夏来殿 我はニッ────』

 

見ず知らずの男が目の前にドンと佇み、夏来を睨みつけるような鷹の目を向けていた。

ビクビクと体を震わせながら後退りし、恐る恐る名前を問う。

その質問の答えを一切の躊躇なく答えるかと思われた矢先、突然言葉を詰まらせ、夏来の目を見て納得したかの様にその男は頷いた。

 

***) 『なるほど、その様子では無事に元の世界に帰れた様じゃの』

 

夏来) 「な、何を言ってるんですか……」

 

***) 『いや、こちらの話じゃ ぁぁ…誠に、嬉しい限りじゃ!』

 

先程から意味不明な言動を繰り返す男と、夢の神だと言い張る謎の声。

この気味の悪い2つの存在に、夏来は今いる場所が自分の居るべきところではないことを察した。

 

夏来) 「───ここは一体何処なんですか?」

 

異世界……とは言い難いこの謎の空間。

足元はふわふわとしていて、まるで時折見る夢の中のようだ。

だが、それにしてはハッキリと伝わる手の冷たさや、肌を撫でる暖かい風が妙にリアルである。

しかし、これが現実ではない事は確かだ。

どんちゃん騒ぎをしていた、あの3人が一瞬にして寝るなんて考えられないし、幻花も苦しむ夏来を見捨てるなんて出来やしない。

 

***) 『そうじゃな……幻叶世界(げんきょうせかい)とでも言っておこうかの お主らは【夢の世界】と言っておったが』

 

夏来) 「幻叶世界……夢の世界……?」

 

夏来はその言葉に違和感を覚えた。

何処か懐かしく、切ない、そんな様々な感情が溢れ出してくる。

と同時に、脳内の奥底にある【靄のかかった記憶】に、何やらユラユラと揺れ動く影が見え隠れした。

 

夏来) 「で……なんで僕が……えっと…その……幻叶世界に……」

 

しかし、未だに状況を良く把握出来ないでいる夏来。

その様子を見て、頭を悩ませながら低く唸る男は、顎に手を当てて再び話し始める。

 

***) 『ん───こう言えば伝わるかの……この時間軸の中に存在する【皇 夏来】の身体に、お主の精神が干渉している状態である、と』

 

空中に指で絵を描く様に説明してくれた男。

話によると、自分の精神が平行世界に存在するもう1人の自分の身体に乗り移っている……らしい。

到底そんなことは信じられないと言い張る夏来。

なかなか理解してもらえず、どうしたものかと考える男が、何かに反応してバッと勢い良く顔を上げた。

その男の視線の先を追った夏来は、広い庭の中央にドンと立派に立つ【ある一本の樹木】を見て腰を抜かした。

 

夏来) 「う、うわぁぁあ!? な、何アレ!?」

 

樹木全体に覆い被さる様に現れた、白く輝く謎の靄。

それを直視し ガタガタと震えながら、振り向きざまに男へ向けて叫び散らす。

恐怖に怯える夏来とは違い、落ち着いた表情のまま正座をし、深くお辞儀をする男の姿に驚愕した夏来が、再び靄の方へと振り返った。

その時だった────

 

「あーそんなことしなくていいよ! ボクたちの仲じゃないか〜」

 

突然聞こえる、側に居る男以外の声。

それはこの世界に来る直前に、白色の穴の中で聞いた声だった。

 

***) 「では……お情けに甘え」

 

「そうそう、堅っ苦しいことなんていらな──あ……やぁ皇 夏来君! どう? この人と会ってみての感想ってのは───ま、でも記憶消えちゃってるんだよねぇ! 残念残念〜」

 

夏来) 「え……ぁ…は……?」

 

どうやら この楽しげな甲高い声を出しているのは、目の前に見える靄からのようだ。

そんな謎の物体が人間の言葉を話すと言う状況に、これ以上ないほど身体が硬直して声が出せなくなる夏来。

 

「おっと、こんな姿じゃ君には少々 刺激やら何やらと強すぎたかな? ──じゃあ、これはどうかな?」

 

そんな状態の夏来を落ち着かせるべく、その靄は次の瞬間、地面にボトリと落ちたかと思うと、足の指先から人間の形を創り出していく。

全身を白一色で統一された仮の姿。

そして顔が露わになると同時に、その身体から光が弾け飛び、普通の人間と対して変わらない外見へと変貌を遂げた。

 

「ん〜……やっぱり人間体はキツイね〜 身体が重すぎるっての」

 

悪態をつき、癖っ毛の目立つ髪をかき上げながら2人に近付く【靄だったモノ】。

その容姿から分かる事としては、小柄で幼い中学生くらいの美少年であることのみ。

 

***) 「夏来殿、紹介しておこう……この方は先程話した″世界,, ───分かりやすく言わば【幻叶世界】様そのものであられる」

 

夏来) 「え……げ、幻叶世界って……」

 

幻叶) 「よろ〜! 幻叶って呼んでね! 擬人化参上ッ!」

 

内股で身体を少し斜めに傾け、ニコニコと笑いながら両手でピースの形を作る幻叶と名乗る少年。

その名を聞いた夏来は、周りをキョロキョロと見渡したり、空を見上げたりと落ち着きがない。

 

幻叶) 「む──」

 

自分に夏来の目が向いていないことに不満を感じた幻叶が、頰をぷくーと膨らませて不機嫌そうな感じを漂わす。

そんな姿を見て、慌てた様子で夏来の身体を掴み幻叶の方へと向かせる男。

 

幻叶) 「……今はボクに集中してよ……っぐ……ぅ…」

 

鼻を赤くし、目をウルウルとさせながら震えた声で言う幻叶。

先程の話を信じるとすれば、この世界自身と呼べる幻叶の機嫌を損ねたり、泣かせたりすれば大変な事になるだろう。

いや、信じるとすればではなく、信じるしかない……目の前であんなのを見てしまったら尚更のこと……

 

夏来) 「ぁあ! ご、ごめんなさい! ちゃんと聞きます! 聞きますから!」

 

冷や汗を流しながら叫び、2人がかりでやっとの思いで落ち着かせることに成功し、ホッと胸を撫で下ろす夏来。

涙を袖で拭い、パァと表情を明るくした幻叶が今度は落ち着いて話し出した。

 

幻叶) 「ごめんね、ボク いっつもあんな感じで……テヘヘ……」

 

***) 「ゴホン……幻叶様、何か用がおありのようであられたが……」

 

わざと大きめな咳をし、2人の視線を自分の方へと向けた男は、真剣な眼差しで幻叶の目を見て言った。

それに応えるように幻叶も、それまでのユルさをしまい込み、冷静になって話し始めた──

 

幻叶) 「うん、夏来君に見てほしい物があって───って遅かったみたい」

 

だが、その用件とやらを聞くことは叶わなかった。

幻叶と男が夏来をみて悲しげな表情を見せる。

その理由がなんなのかは、直後襲い来る激しい頭痛により、ある程度察しがついた。

手で頭を押さながら苦しそうに唸る夏来を背に、両手を広げて身体から光を溢れ出しながら歩き出す幻叶。

 

幻叶) 「───ねぇ夏来君!」

 

その場の暗い雰囲気を壊すかのような明るい声が聞こえた。

顔を上げる夏来の目に映り込んで来たのは、涙に濡れた顔で満面の笑みを浮かべている幻叶の姿だった。

 

幻叶) 「君のポケットに入れているお守り、絶対に無くさないでね……それは君たちが積み重ねて来た大切な記憶だから もっと伝えたいこといっぱいあったけど、今はこれだけ 後のことは時期にわかる日がくるよ」

 

夏来) 「記憶……あっ……」

 

唯、そう最後に言い残して、幻叶は2人の前から姿を消した。

光と化した者は暖かな風に吹かれ、夜空へと昇っていった───

 

夏来) 「ぁぁ……」

 

頭痛が段々と治まって来ると、次に意識が朦朧として来る。

そんな中で消えていった幻叶を見届けた夏来は、言葉にならない声を上げた。

 

***) 「で 気を付け 帰 され夏 殿」

 

不意に、背後に立つ男が夏来に声を掛ける。

振り返った夏来だが、今にも途切れてしまいそうな意識のせいで、何を言ったのかが良く聞き取れなかった。

しかし、もうこの世界には居られないということは確かだった。

 

夏来) 「あなたは一体……」

 

ならばと、最後の力を振り絞って男へ最初の質問と同じことを聞き直す。

 

***) 「………」

 

どうやら男は返答に困っているようだ。

正体を明かすだけなのに、どうしてそこまで悩む必要があるのか、夏来にはわからなかった。

 

夏来) 「ぅぐ……!」

 

もう自身の意識を保つ事さえままならならず、縁側へ【ドン】と重い音を立てて崩れ落ちる夏来。

全身の力が抜け、「やっと元の世界へ帰れる」と目を閉じたその時、重く閉ざされた男の口が開かれた。

 

ニッ怪) 「我の名はニッ怪 滝。いくつもの平行世界を渡り歩き、何度もお主の夢を叶える手助けをして来た。この世界は第24番目の平行世界。故に、23番目に助けたのがお主じゃ。」

 

それまで途切れ途切れに聞こえていた声が、今は不思議なほどハッキリと聞こえる。

何でそんなことを、と口に出そうとした夏来だったが、もはや口を動かす力さえ出せなかった。

それでも構わず、【ニッ怪 滝】と名乗った男は話を続ける。

 

ニッ怪) 「何故にそのようなことを、とでも思っておるかの? 我も好きでやっておるわけではない……仕方なくじゃ。 ある妖怪に呪いをかけられての、孤独な少年の願いを叶え続けるというもんじゃった。」

 

先を話すに連れ、低くなっていく声のトーン。

過去に何があったのか、それは話を聞いても分からないことだらけだが、夏来には想像も出来ないことがニッ怪にはあったのだろう。

 

ニッ怪) 「初めは馬鹿馬鹿しかった。何故我ともあろう者が人間風情を助ける必要があるのかと……じゃから無視をした。出会うべき者とは反対の生を送った……だが長くは続かなかった。お主が死ねば我も死ぬ……それがこの幻叶世界と我が呪いにかけられた罪の重さ。」

 

夏来) 「……………」

 

ニッ怪) 「それからはお主らと行動を共にした。何度も何度も失敗しては次の世界へ……そうして行くうちに段々とお主らと居るのも悪くないと感じて来た。そんな中で始めて夏来殿が願いを叶えられたのが、お主が住む第23番目の平行世界じゃった。我自身は薄々気づいておった……我がお主らを信用するに連れて、それまで存在しなかった時間や人物が増えて行くことに。糜爛殿たち、そして悟神殿やゾルバースなどの敵が現れたのも、お主の世界が始めてじゃ」

 

先程の低いトーンから一変、今度は自身の進歩について楽しそうに話すニッ怪が想像できた。

この先も彼は、自分にかけられた呪いを解く事が出来ず、幾多の【幻叶世界】を彷徨い続けることだろう。

しかし、それは苦を生み出すだけのものではない。

人間と死神との信頼を得る為の【手段】である。

彼は、その一歩を【皇 夏来】という少年と共に歩みだしたのだ。

 

ニッ怪) 「──少々、話がすぎたかの……」

 

夏来) 「っ……」

 

今にも消えかかりそうなニッ怪の声に、夏来は なんとかゆっくりと小さく首を横へ振った。

そんな僅かな反応を見て、嬉しそうに笑うニッ怪の声がする。

 

ニッ怪) 「何時迄も変わらんの、お主の優しさというものは」

 

そう小さく呟いたニッ怪は、過去を懐かしみながら右手を夏来の背に当てる。

 

ニッ怪) 「───もう2度とこの世界に来てはならぬぞ。仕事を…増やされてしまっては……敵わんからの!」

 

涙に震える声が聞こえた直後、背中から伝わる衝撃波に、それまで支えて来た夏来の意識は一瞬にして崩壊した。

そして その世界から去る直前、脳内にニッ怪からの最後の言葉が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【感謝致すぞ 夏来殿】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーンミンミンミンミンミーン……

 

夏来) 「ぅぐ…ぁ……ぃ… はっ!」

 

真夏の焼けるような日差しと、うるさいほど耳に入ってくる蝉の声に夏来は目を覚ました。

勢いよく飛び起きたせいで、額に当ててあった冷たいタオルが足元にポトリと落ちた。

それを拾い上げて辺りを見回す夏来。

枕元には氷が入っていたであろう、キンキンに冷えきった水の容器とペットボトルが置かれてあった。

 

夏来) 「ぁ……」

 

ある程度の状況判断が終わり、夏来は自分が頭痛で倒れたことを思い出した。

だが、それ以上のことは思い出せそうにない。

誰かと話していた気がする、辛うじて記憶の中にあるものはこの位だ。

 

夏来) 「……まぁいいか…」

 

あまり深く考えないで行こう。

どうせ下らない【夢】なんだから。

 

そんな思いのまま客室を後にした夏来は、微かに聞こえる声の方向へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風鈴が折々思い出したかのように、リンリンとなる廊下を進む夏来。

床がギシギシと嫌な音を出す廊下を進むにつれ、その声の発生源が昨日食卓を囲んだ居間からであることが分かった。

締め切った窓をゆっくりと開けると、中に居た人影が夏来へと身体を向けた。

 

炎条寺) 「おっやっと起きたか 具合はどうだ?」

 

そこに居たのは、横に寝そべりながらテレビを見ている炎条寺だった。

 

夏来) 「うん……なんとか痛みは引いたよ それより……炎条寺君1人なの?」

 

炎条寺) 「あぁ、もうこんな時間だしな。叔父さんは仕事に行くって言ってたし、あの2人は叔母さんの買い物に付き合ってる。ま、俺はこの家を守る為にも留守番ってわけだ」

 

炎条寺が、テレビの上に掛けられている古ぼけた時計を横目に話す。

その時計の針は、午前9:30を指していた。

昨日の夜から今までとなると、約10時間程度気を失っていたことになるのだろう。

着ている服も昨日のままだ。

 

夏来) 「単に買い物がめんどくさかったからでしょ、行かなかったの」

 

炎条寺) 「げっ……ん、んなこたーねぇよ! ってそんなことは良いから、顔と歯磨きぐらいはして来いよな! ついでにシャワー浴びてこいッ!!」

 

痛いところをつかれたと言わんばかりの慌て様で、炎条寺が居間から夏来を追い出す。

 

夏来) 「わっ、わかってるよ……むぅ……」

 

ムスッとした態度のままその場を後にし、今日の分の着替えと歯ブラシを持って脱衣所へと向かう。

脱いだ服をカゴに入れ、軽くシャワーを浴びて

風呂場から上がる。

濡れたままの全身を頭から下へとバスタオルで拭いた後、ボサボサな状態の髪の毛をドライヤーで乾かし始める。

 

夏来) 「ふぃ……」

 

暖かな風に吹かれて気持ち良さげに息を吐く。

髪全体がある程度乾いてくると、パサパサ髪対策として冷風でサッと仕上げる。

 

夏来) 「よしっ、歯磨きっと……うぅ……」

 

髪の毛を乾かした後は歯磨きが待っていた。

昨日は昼を電車内で食べたせいで、昼食後の歯磨きをしていない。

そして夜には頭痛が重なり出来ずじまい。

実質、丸一日分の歯磨きが溜まっているのだ。

そんな事を考えながらだと、とても気持ちが悪い。

今日はいつもより念入りに、と歯ブラシを持つ手に力が入る。

ゴシゴシと上下左右にゆっくり動かすこと約5分、虫歯予防の為にも3回のうがいで済ませて終わった。

 

夏来) 「んむむ……」

 

歯磨き粉の苦い味を感じながら、長い長い廊下を歩いて行く。

 

ガラガラガラ───

 

その時、真っ正面に見える玄関の戸が音を立てながら横へと開いた。

中へ入って来たのは買い物に行っていた叔母達だった。

それぞれがパンパンに膨れたビニール袋を手に下げ、やっとの思いで玄関マットの上に置く。

 

夏来) 「おかえり〜」

 

そう何気なく話しかける。

その声に反応して、バッと顔を上げた幻花は素早く靴を脱ぎ、夏来の元へと駆けつける。

 

幻花) 「な、夏来! あんた大丈夫なの!? 立ちくらみは? 頭痛は!?」

 

夏来) 「え……ぁ…だ、大丈夫だよ なはは…」

 

目を見開き、肩を掴んで揺らす。

少々大げさ過ぎではないか?と思いながらも、今は元気なことを表すべく、咄嗟に笑顔を見せた。

 

幻花) 「そ……そう……良かった……」

 

途端に、幻花の手の力が弱まった。

深い息を吐きながら壁にもたれかかる。

その姿は、逆にこちらが心配になってしまうほどの焦りようだった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叔母) 「何はともあれ 元気そうね、 良かった良かった」

 

仙座) 「夏来完全復活を祝って〜? ジャーン!」

 

荷物を台所に運んだ3人が、夏来と炎条寺が待つ居間へと入ってくる。

仙座の両手には【果物ミックスジュース】の二種類のパックが握られていた。

そして叔母からは人数分のコップ。

 

夏来) 「あれ、叔母さんは?」

 

それぞれの手元に支給されるコップだったが、最後の1人、肝心の叔母の分がなかった。

 

叔母) 「あ〜いやいや、大丈夫よ 今から夕方まで仕事だからね〜」

 

そう呑気に話す叔母の目には、疲れの症状が現れている。

それを察知した夏来たちが、叔母から仕事内容を聞き出した。

 

叔母) 「いやぁね……裏の畑の野菜を収穫しなきゃならないのよ〜 それが終わったら今度はたこ焼き屋の準備」

 

仙座) 「えっ! たこ焼きぃ!?」

 

仙座の目がキラーンと光る。

突然振り向いた仙座にビックリした叔母が、動揺しながら返事を返すと、目を見開きながら息遣いが荒くなり始める。

 

幻花) 「ゆりかは たこ焼き好きだもんね〜?」

 

仙座) 「うんっ! 大大大っ好きぃ!! 叔母さん! たくさん作ってね!」

 

夏来たちは知らない、2人だけの情報。

先ほどの反応から見るに、仙座は相当な たこ焼キラー! なんちゃって☆

 

夏来) 「………」

 

炎条寺) 「うぅ……なんか急に寒くなったな……ジュースはお預けにしようぜ……ぉぉぅ…」

 

幻花) 「じゃあ この機会に、叔母さんの仕事のお手伝いでもする? ただ厄介になってるだけじゃ迷惑よ」

 

夏来) 「そうだね、こんな時にこそ身体を動かして寒さを忘れなきゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

それから夏来たちは玄関を出て裏手に回り、軍手をつけて作業に取り掛かった。

大きな畑に実るナス、ピーマン、トマトに胡瓜。

夏野菜を代表するものがそこにはあった。

 

仙座) 「おぉ〜! これ大きいよ! ほら!」

 

幻花) 「あ、ほんとね でもこっちも負けてないよ?」

 

仙座) 「なっ!? ぐぬぬ……」

 

随分と楽しそうにはしゃぐ幻花と仙座。

その傍で、夏来と炎条寺は首筋を焼かれながら苦しそうに畝る。

───今日はいつにも増して、日差しが強く感じる日だった。

 

 

 

 

 

 

 

炎条寺) 「あ゛あ゛疲れたぁ…」

 

太陽が天高く昇り、さらに気温が高まってきた昼頃、一通り作業を終えた夏来たちは居間で風に当たりながら涼んでいた。

 

叔母) 「みんなありがとね〜本当に助かったわ〜」

 

そこへ笑顔で礼を言いながら、両手で大きな容器を抱かえて持ってくる叔母。

ドンっと重そうな音を立てて、テーブルの上に置かれた容器の中を覗くと、先ほど採れたばかりの胡瓜とトマトがトッピングしてある大量の素麺が入っていた。

 

夏来・幻花) 「わっ…」

 

山の様に盛られた素麺に、思わず声が漏れる夏来と幻花。

それぞれが麺つゆを受け取ると、夏来達は手を合わせ、割り箸をつまんで食べ始めた。

最初は完食は無理だろうと諦めていた夏来だったが、炎条寺と仙座が人一倍食べてくれたおかげで、意外にも早く量は減っていった。

 

 

 

 

 

 

 

食後。

闇籠神社へ行こうとなった夏来達。

しかし、肝心の御守りを無くしてしまっていることに気がつき、炎条寺と2人で部屋中を探し回っていた。

 

仙座) 「2人とも、まだ─?」

 

炎条寺) 「わ、分かってる! クソっ…どこにあんだよ…」

 

廊下から仙座の声がし、焦りながら探る手を急がせる2人。

 

仙座) 「もう行くよ──!」

 

夏来) 「あっ! あった!」

 

その時、夏来がちゃぶ台の足の下に挟まっていた御守りを見つける。

素早く取ってポケットに入れる夏来。

ドタドタと部屋から出ると、玄関で呆れた様子の2人が待っていた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎条寺) 「あ……暑………」

 

夏来たちを容赦なく襲う、燦々と降り注ぐ太陽の陽射し。

家から出たばかりだというのに、すぐにも汗が吹き出し始める。

 

トボトボ……トボトボ……

 

暑さにやられて話す気力すら無い男子2人。

前のめりになって今にも倒れそうだ。

 

夏来) 「外……嫌い……」

 

炎条寺) 「俺、一生引きこもりの親不孝なクズニート野郎でもいいから、クーラーとポテチと快適な空間が欲しい……」

 

額から流れる汗を拭う。

それは運動をして気持ちいい!って時のような爽やかな汗などではなく、ただ単に不快なものだった。

肉体的に、そして精神的に参るのも時間の問題だ。

山の入り口までの距離を測る為、希望を胸に顔を上げる2人。

するとちょうど、曲がり角から数人の幼い少年たちが現れた。

短パンに白シャツ、麦わら帽子に虫かご、そして虫取り網。

ドラマや漫画でしか観たことの無いような【ザ・虫取り少年】が夏来たちの横をはしゃぎながら通り過ぎて行く。

その後ろ姿を追って、振り返り見てみると、互いに寄り添って日傘を持ち合う幻花と仙座の姿が目に映り込んで来た。

 

炎条寺) 「なっ!? テメェらやけによく喋るなと思ったら日傘かよォォオ!!」

 

夏来) 「ズルイ……」

 

冷ややかな視線を送る夏来と炎条寺。

 

幻花) 「持ってこなかった、あんたたちが悪い ね〜ゆりか♪」

 

仙座) 「そーだそーだ! 友喜はともかく、夏来は肌焼いた方がいいって、それ一番言われてるから」

 

夏来) 「うぅ…それはそうだけど……」

 

自分の痛い所を指摘され、嫌そうな表情を見せる夏来。

学校に行く以外、ほぼ家の中で日光の当たらない生活を送ってきた夏来の肌は、中学生時代

に【色素くん】や【コウメ太夫】と言われるほどに色白だった。

しかし、夏来の中学時代を知る者はこの中には居ない。

自分から口を滑らせない限り、3人は夏来の真実を知ることはない。

ホッと胸をなでおろし、安堵の息を着く。

だが そんな夏来を裏目に、夏来の過去を聞きたいと言ってきた仙座が不気味に微笑む。

それにつられて炎条寺と幻花も、擦り寄ってくる。

夏来は3人を振りほどこうと、他の話題を持ち出すために頭を悩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

それから約10分後、山の入口へとたどり着いた夏来たち一行。

その頃にはもう話の話題は、最近のニュースやゲーム、面白かったYouTuberなどになっていた。

祭り会場となる平地へと続く長い石段を登っていく。

時折吹く風が周りの木々を揺らし、涼しげな音を奏でていた。

息を切らしながら石段を登り終わると、作業をする大勢の人たちが目に映り込んできた。

作業の邪魔にならない様にと、端を進んで反対側へと出る。

周囲を見回す夏来たち。

すると炎条寺が茂みの中に壊れかけの石段を発見する。

覆いかぶさる木々の葉を掻き分けながら登って行くと、目線の先に小さな赤い鳥居が見えてくる。

 

夏来) 「ここが闇籠神社……ん?」

 

鳥居をくぐり抜け、周囲を見渡す夏来たち。

すると、巫女姿の小柄な少女が箒を片手に境内の掃除をしていた。

夏来たちに気付いた少女は目を見開いて固まっている。

 

夏来) 「あ、あの……」

 

と夏来がポケットから取り出した例のお守りを右手に、石灯籠の両脇を通り過ぎた瞬間だった。

そのお守りが目を塞ぐほどに光り輝き出し、夏来たち4人に襲いかかってきた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───あなたは覚えていますか?

 

 

夏来) 「──え?」

 

何処からともなく聞こえてくる、自分とよく似た声。

辺りは真っ暗な空間に包まれており、一歩先さえも見えない。

 

炎条寺) 「お、おい! なんだよ此処!?」

 

幻花) 「夏来の声……? ど、どうなってるの……?」

 

そんな中、背後からの震え声に夏来は振り返る。

そこには、怯えた様子の炎条寺と幻花が立っていた。

 

仙座) 「………ふっ」

 

その横で無言のまま、何も無い空を見上げる仙座は、目を瞑ってクスッと小さく微笑む。

そして夏来は炎条寺たちを横目に、再び聞こえる声に耳を傾ける。

 

 

───僕たちが過ごした、あの時間を

 

 

夏来) 「僕たち……」

 

 

───君の夢を叶えるための、夢の世界を

 

 

【夢の世界】

その言葉を聞いた瞬間、夏来は今朝 目覚める前に見ていた夢を思い出した。

ニッ怪 滝と言う人間、そして幻叶世界だと名乗る自称【神】

彼らに会ったのは初めてだったが、今になってみると何処と無く懐かしさを感じる。

 

夏来) 「僕は……何かを忘れているの?」

 

 

───君が叶えた願いは、君自身が取り戻さないといけない

 

 

突然、それまで思ってもいなかった言葉が、夏来の口から溢れ出してきた。

その言葉に、悲しそうな口調で答える声。

 

夏来) 「教えてよ! 僕は一体何を──」

 

──その時だった。

 

夏来の記憶の片隅に存在する、靄の掛かった記憶。

それを囲む見えない壁に、中心から縦に小さなヒビが入る。

 

夏来) 「ガァッ……!」

 

それを感じ取った夏来は、突如襲い掛かってくる心臓の締め付けられるような痛みに、胸を押さえながら膝から崩れ落ちる。

 

幻花) 「夏来! 大丈──」

 

夏来の元へ駆け寄る炎条寺と幻花。

だが、同時に全身の力が奪われていく感覚に、数歩進んで堪らず地面に倒れこんだ。

 

 

───どうか、思い出して欲しい

 

 

そして、その言葉を最後に、語りかける声は聞こえなくなってしまった。

徐々に痛みが引いてくると、辺りに漂う闇が段々と晴れていく。

 

炎条寺) 「なんだよ…あれ……」

 

手をついて立ち上がった炎条寺が、ある一点を見つめて呟く。

その目線の先を追うと、何かの映像が流れているスクリーンのようなものが現れていた。

 

仙座) 「……」

 

それを見つめながら立ち尽くす仙座の側まで駆け寄り、夏来たちも映像に見入る。

そこに映るのは、どれも夏来たち4人と、1人の長身の男。

楽しそうに話すその姿に、炎条寺と幻花は違和感を覚える。

 

炎条寺・幻花) 「夢の世界……夏来の願い……」

 

ふと我に帰った時には、そう口に出していた。

そして全てを見終わった瞬間、夏来たちの記憶の片隅にある、靄の掛かった記憶を囲む見えない壁が、大きな音を立てて弾け飛ぶ。

 

仙座) 「そうだったんだね……」

 

無数の光に包まれた記憶が、靄を振り払いながら噴水のように溢れ出てくる。

 

 

みんなと過ごした日々。

 

悟神やゾルバースたちとの死闘。

 

流した血と経験した数々の死。

 

そして叶えられた願いと、訪れる別れ。

 

 

炎条寺) 「そうだ……俺たちは夏来の願いを叶える為に……」

 

幻花) 「敵と戦って……傷ついて……失って……光を得た……」

 

全てを思い出した夏来たち。

あの世界で起きた、幻想的な夢物語を───

 

夏来) 「ニッ怪……くん………くっ…うぅ……」

 

炎条寺・幻花) 「夏来……」

 

振り返る2人。

そこには蹲りながら、大粒の涙を流す夏来の姿があった。

身体を震わせながらも必死に耐えているようだったが、漏れ出す悲痛な泣き声が、事の重さを物語っていた。

 

仙座) 「今は、そっとしておこうよ」

 

背後から聞こえる仙座の声に相槌を打ち、夏来の後ろ姿を見つめながら、3人は遠のいていく意識に身を任せた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カナカナカナ……と鳴く【ヒグラシ】の澄んだ高い音調に、横たわる夏来たちは目を覚ます。

畳の独特な匂いに、どうやら室内へと運ばれているのが分かった。

 

???) 「あ、起きた起きた」

 

それと同時に、先に意識を取り戻していた仙座のクスクスと言った笑い声に混じって、聞き覚えのある声が聞こえて来る。

 

夏来) 「あ……ぁ!」

 

???) 「ふふん! ようやく思い出してもらえたようだね〜 幻叶様に感謝しなきゃね!」

 

そこにいたのは、夢の世界で戦った時と同じ黒生地の巫女服を着た【大橋 享奈】だった。

それぞれが驚きの表情を見せるのを、面白おかしく笑う享奈と仙座。

 

炎条寺) 「お前も、無事にこっちに戻ってきたんだな」

 

享奈) 「へへっ、なんとかね〜 あっ」

 

その時、祭り会場から作業終了のお知らせ放送が流れてくる。

古時計を見てみると、針は午後6時半を回っていた。

享奈が「ちょっと行って来る」と言って出て行く。

 

 

 

 

 

 

数分後。

ドタドタ と廊下を歩いて来る足音が聞こえ、顔を上げる夏来たち。

1人分の足音ではないことから、先ほどの発言は誰かを迎えに行っていたのだと察した。

 

享奈) 「おまたせ〜」

 

スゥーと戸が開かれる。

享奈に続いて室内へと入ってくるその人影を見るやいなや、目を見開いた炎条寺が戦闘態勢に移る。

両手に力を込めて炎を出そうとするが、当然のことながら出るはずもない。

 

炎条寺) 「あ……って……今の俺はただの人間じゃねぇか……」

 

そんな炎条寺を見て、やれやれと呆れた様子でその場に腰を下ろす男。

 

???) 「よっこらせ……ふぅ…いつかは貴様らが此処へ来るとは思っておったが……よりにもよって夏祭り前日とはな」

 

夏来) 「あっ…す、すいません…」

 

そう言って頭を下げる先にいたのは、この闇籠神社の守り神であり、夢の世界で対立した勢力の一つ。

【悟りを操りし神】悟神 霊鳥。

 

その威圧感は未だ健在で、目の前にしてる夏来たちは緊張からか、冷や汗を流し始める。

 

悟神) 「ふっ…気にするな………それより、よくぞあのゾルバースとやらに打ち勝ったな皇 夏来」

 

夏来) 「いえ……皆んなの力無しじゃ、勝てませんでしたよ」

 

悟神) 「クックック……そうか……皆の力ねぇ〜」

 

丸テーブルに肘をつけ、指を絡ませながら興味深そうに話をする悟神。

そんな彼が見つめるのは【皇 夏来】のみ。

他の者になど興味を示さない様な姿勢に、堪らず口が動く炎条寺。

 

炎条寺) 「オイ、話に割り込んじまうけどよ、この世界でもテメェは悪さを働くのかよ?」

 

その一言に、一瞬 嫌な表情を見せた悟神だったが、自分も聞きたいと言わんばかりの目線を向ける夏来を見て、深いため息をつきながらも応える。

 

悟神) 「忌々しい能力者が居ないこの世界で 一体なにをしろと? 第一 我自身も能力は無くしておる それに───今は我が娘を大切にしてやらんとな」

 

幻花) 「え? お子さんがいらっしゃるんですか?」

 

我が娘、確かにそう聞こえた。

決して聞き間違いなどではない。

一体どういうことなのか?

それをハッキリさせる為、幻花は悟神に対して疑問を投げかける。

すると、横にいた享奈が肩をツンツンと突く。

 

享奈) 「いるも何も、私がそうだよ」

 

仙座) 「あれ? 確か……苗字 大橋じゃなかったっけ?」

 

その発言に仙座は、顎に手を当てて思い出したかの様に呟く。

彼女の本名は上記で書いたように【大橋 享奈】だ。

 

享奈) 「あーそれはもう捨てたんだ〜 今は悟神 享奈って名前で通ってるの♪」

 

【悟神 享奈】

初めて聞く名に、なるほどと納得した夏来たち。

夢の世界で独りきりだった享奈にとって、この悟神という者の存在は大きかった。

実の親よりも深い愛情を受け、信頼しあい、認め合い……

人間を心底嫌っていた悟神も、彼女だけは嫌いになれなかった。

そしてこの日々が永遠に続くことを願って、本当の家族になった───

 

ボーン……ボーン……

 

そんなことを想いながら話を続けていると、夏来たちの耳に午後7時を告げる古時計の音が聞こえてくる。

 

悟神) 「おっと、話が長引いてしまったようだな……もう帰ったほうが良い」

 

享奈) 「気をつけてね」

 

そう言われて、叔父と叔母の心配する顔が頭に浮かんだ夏来たち。

初日のように泣きつかれては敵わない。

まだ外は薄っすらと明るい。

早々に帰宅したほうが身のためだろう。

 

夏来) 「では…また」

 

去り際に軽く会釈をし、夏来たちは闇籠神社を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来は幻花と横に並んで歩きながら、沈みゆく太陽をその目に映した。

森を抜ける頃には辺りはすっかりと暗くなっており、見上げる夜空には無数の星々が輝いていた。

遮る雲一つない、とても綺麗で美しく──そして何処と無く悲しげな空。

こんな想いになるのも、あの世界で成長したからなのだろうか………。

 

 

 

……………………。

 

 

……………。

 

 

………。

 

 

 

夏来たちはコンビニで買ってきた夕食を食べ終わり、お風呂を済ませた後、テレビもつけずに物静かに居間で寛いでいた。

眠たそうに目をこする夏来の手には、客室から持ってきた薄い毛布が握られている。

 

炎条寺) 「…………」

 

いつもは楽しそうにスマホをいじる炎条寺だったが、その時ばかりは何やら思いつめた表情をしていた。

闇籠神社での出来事がまだ受け入れられ無いのだろう。

実際、幻叶世界の生みの親である夏来自身であっても、あっちの世界で過ごした記憶と、こっちの世界で過ごした記憶が混じり合っている今の状況に、頭を悩ませている始末だ。

唯でさえ頭がおかしくなりそうな状態なのにもかかわらず、あっちの世界の記憶で体感した【友の死】又は【自身の死】が、余計に心を締め付けていく。

 

ドタドタ……ドタドタ……

 

遠くから此方に向かってくる足音が聞こえる。

次に居間の窓が少し開くと、叔父が顔をヒョッコリと出してきた。

 

叔父) 「あんまり夜更かしすると、明日起きられないぞ〜 長起きもほどほどにな」

 

そう言い残し、叔父は寝室へと戻っていった。

 

 

 

 

それからどれ程の間 悩んでいたのだろう……。

時計の針は午後11時を回っていた。

明日の為にも早く寝る、と言った幻花に続いて、仙座もトボトボと後をついていく。

 

 

 

 

幻花と仙座は先に寝て、部屋には夏来と炎条寺の2人きり。

夏来は横になって薄い毛布に包まり、寝入っても良い体勢を取っていた。

網戸の外からは、虫の鳴き声が聞こえてくる。

そして部屋の片隅からは扇風機の音。

目を開けた夏来の視界に、風に当たりながら気持ち良さげな表情を見せる炎条寺の姿があった。

 

炎条寺) 「なんだ、起きてたのか」

 

パチッ…

起きている夏来に気づいたのか、炎条寺が扇風機を止めて、右手をテーブルの上に置き 顔だけを向けながら話す。

 

夏来) 「なんだか、不思議だよね……夢の世界でおきたこと……」

 

炎条寺) 「あぁ、そうだな……」

 

夏来) 「………」

 

2人が黙り込むと、先程までの静寂が再び訪れる。

虫たちの声が聞こえる……

騒がしい都会の街中とは違い、田舎町の夜というものはこんなにも過ごしやすく、そこに住み着く虫たちの世界となりうるのだろうか……

 

炎条寺は、ふとそんなことを思った───。

 

炎条寺) 「よっしゃ、今日は飲むぜっ! オールや!」

 

冷蔵庫で冷やしてある、夏来たち用に買ってきたジュースを2本抱き抱えて持って来る。

それからはコップに少しついではグイッと一気飲み。

またコップに注いでは一気飲みと、まるで酒でも飲んでいるかのような雰囲気で時間を潰していく。

飲んで忘れようとしているのだろうか?

程々にね、と半目で忠告した夏来は、壁の方を向いて目を閉じる。

 

静かな涼しい夜。

 

時折ジュースをコップに注ぐ音が聞こえるだけで、他には物音すらしなかった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペンギン) 「おはよぉ!こんちわぁ!こんばんわぁ!おやすみぃ!おきてええええええええええええええええ!!!!!!!!」

 

目の前にいるペンギンが、耳を塞ぐ夏来へ挨拶をする。

 

うるさいペンギンだなぁ……

 

ぴょこぴょこと跳ねたり、顔に手をビシバシと叩きつける。

その柔らかい食感に、ぬいぐるみの類だと理解した。

 

───いや、普通に考えてペンギンがこんなとこにいて、人の言葉を話す訳がないんだが………。

 

眠い目をこすりながら起き上がる。

それはキャッキャッとはしゃぎながら、客室の方へと駆けて行った。

その後ろ姿と声から、この爆音目覚まし犯人として、ある1人の少女が浮かんで来る。

 

間違いない、仙座ゆりかだ。

 

いつもよりご機嫌そうな声が家中に響き渡っていた。

 

ドタドタ……バタバタ……

 

そして落ち着きがない。

 

夏来) 「(そういえば、今日って夏祭りだったっけ…)」

 

顔を洗い、歯を磨く夏来。

そして今日がなんの日かを察し、仙座のあの様子に納得がいく。

時計を見ると、もうすぐ昼になる頃だった。

夏休みに入ってからと言うもの、なかなか早起きが出来ない日々が続いている。

日頃の疲れが溜まっていたのだろう。

先程までも、仙座の声に起こされるまで熟睡していたようだった。

 

ガヤガヤ……

 

外からは大勢の人々の声。

祭り当日ともなれば、それは村中も賑わうだろう。

 

仙座) 「きゃ──!」

 

そして客室の方からは仙座の叫び声。

何事かと客室の方へと急ぐ夏来。

すると、ペンギンのぬいぐるみを抱きしめた仙座が焦った様子で出てきた。

 

仙座) 「どいてどいてぇ!」

 

夏来はその声に反応して素早く避け、壁に背中を打つける。

走り去って行く仙座の背中を見届け、再び客室の方へと振り向く。

すると、中から別の声が聞こえて来た。

 

炎条寺) 「がお──! 待て待て──って うわぁお!?」

 

部屋から飛び出して来た炎条寺が、目の前に現れた夏来の姿を見て高声を上げた。

 

夏来) 「えっと……何やってるの?」

 

炎条寺) 「見れば分かるだろ 弱肉強食ごっこだ」

 

夏来) 「何それ!?」

 

初めて聞く単語に、すかさず疑問を投げかける。

そのとき、台所の方から「あれー!?」と仙座のショックを受けたような声が聞こえてきた。

台所の戸を勢いよく開け、中にいる仙座に声をかける。

 

仙座) 「ほら見てよ! ジュースの買い置きがなくなってるんだけど!」

 

炎条寺) 「買いに行くか? まったく……いつの間になくなったんだか…」

 

呆れた様子で腕組みをしながら話す炎条寺を見て、昨日の夜中の出来事を思い出す夏来。

 

「今日は呑むぜっ!」

 

とか言って、グビグビとジュースを飲み干して行く炎条寺の姿が映った。

 

夏来) 「え、それは昨日炎条寺君が…」

 

炎条寺) 「だぁ──っ!! 知らない知らない! 昨日の夜中にジュースを2パックも飲んだことなんて知らん!」

 

仙座) 「む?」

 

夏来) 「自分から言っちゃうのか…」

 

炎条寺) 「いいから行くぞっ! 俺の金で買ってやるよ!」

 

仙座) 「あ、じゃあお菓子も買ってよ! 奢りだ奢りだ♪」

 

そう言い残し、2人はドタドタと忙しい音を立てながら外へと飛び出していった。

そして1人残された夏来。

シーンと静まり返った家の中を歩いている時、二階からの突然の物音に驚いた夏来は階段の方を見つめる。

すると、背の高い人影が姿を現した。

 

夏来) 「叔父さん、おはようございます あの……千代ちゃんは──」

 

目に映り込んで来たのは、寝癖を弄りながら眠たそうにあくびをする叔父の姿。

 

叔父) 「あぁ、おはよう 彼女ならたこ焼き屋の手伝いをするって言って叔母ちゃんと出て行ったよ」

 

夏来) 「人手が足りないんですか?」

 

叔父) 「さぁ、どうだろうね 夏来くんも行ってみるといいさ もう祭りは始まっているしね」

 

夏来) 「そうですね……行ってみます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は昼を少し過ぎ、一層騒がしさを強めた外からの人々の声。

その中を行く夏来は、祭り会場へと足を運んだ。

今日は昨日ほどの暑さは無く、むしろ涼しいくらいだ。

見上げる空には入道雲、そしてその横に描かれた飛行機雲が消えていく。

 

夏来) 「あ、いたいた」

 

目線の先に、せっせとたこ焼きを作っている2人の姿が見えた。

 

幻花) 「いらっしゃ──あ、夏来」

 

近付いて声を掛けると、商売慣れした口調で幻花がバッと顔を上げる。

 

叔母) 「あら夏来くん、おはよう」

 

夏来) 「おはようございます 手伝いましょうか?」

 

叔母) 「えぇ、そうしてくれると助かるわ」

 

ニコッと笑った叔母が、夏来を店の裏側へと誘う。

服が汚れると悪いからと、エプロンを着させた。

その時、店先に作業着姿の悟神が現れる。

 

悟神) 「ご無沙汰しております」

 

叔母) 「あら悟神さん 最後にあったのはいつだったかね〜 享奈ちゃんは元気?」

 

悟神) 「えぇ、育ち盛りなもんで食費がかかるのなんの」

 

叔母) 「ふふっ あのくらいの歳じゃあ そんくらいがええんよ……ま、それにしても まだ若いのに1人で大変ねぇ」

 

悟神) 「いえ、そうでもないですよ」

 

そう言って振り返る悟神。

その目線の先には、社会人なりたての様な、まだ幼い顔つきの男女がいた。

夏来と幻花が驚愕の目を送る。

何故ならば、その5人の顔が、夢の世界で出会った糜爛達と瓜二つだったからだ。

すると、多数の視線に気付いた5人は、こちらに向けて大きく手を振るう。

 

夏来) 「あの……糜爛さんたちは、僕らに気付いてるんですか?」

 

悟神) 「いいや、あの世界の記憶を持っているのは我らのみだ」

 

出来上がっていくたこ焼きを、まじまじと見つめながら答える悟神。

どうやら記憶を持つ者は限られているようだ。

しかし等の夏来たちも、あのお守りを持って闇籠神社へ行かなかったら、永遠に忘れたままだった。

そう考えると あの時、学校の屋上に現れた人物は何者だったのか?

そしてどんな思いで、夏来に受け渡したのかが気になる。

夢の世界の記憶を持って、これから何をすれば良いのだろうか。

 

悟神) 「そうですね……では6パックお願いします」

 

──それは後々考えよう。

いつかは分かる日が来るはずだ。

今は祭りを……この世界を楽しもう。

 

叔母) 「はいよ、2人とも 至急あと4つ作るよ!」

 

夏来・仙座) 「はい!」

 

元気いっぱいの返事をして、夏来たちは熱気の中、たこ焼きを作り続けていった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

昼間の賑やかさは夜になっても衰えを知らず、何時もは暗い外でも、今日ばかりは祭りの光に照らされ、仄かに明るい。

 

炎条寺) 「おっ、出て来たぞ」

 

家の前で壁にもたれかかる2人に駆け寄る幻花と仙座。

幻花は芍薬の模様が入った紺色の浴衣を身に着け、髪飾りで髪を結い上げている。

一方の仙座は薄いピンク色の浴衣に、牡丹の模様が散りばめられていた。

 

仙座) 「じゃーん! さぁさぁ見よ! この浴衣姿を!」

 

夏来・炎条寺) 「おぉ!」

 

草履のつま先で、クルリと優雅に回る仙座に思わず声が漏れる。

 

幻花) 「何やってんのよ、早く来ないと置いてくよ」

 

ムスッと頰を膨らませた幻花が、夏来の手を引っ張ってセカセカと歩く。

「何か悪いことでもしたかな?」と思った夏来だったが、今までの行動を振り返っても、その原因を生み出した言動に心当たりがない。

ならばと夏来は、幻花の機嫌を直すべく横に付いて笑顔で話しかける。

 

夏来) 「浴衣、千代ちゃんならなんでも似合うね!」

 

幻花) 「えっ、そ、そうかな?」

 

似合うと言われたのが少々くすぐったかったのだろうか、幻花の顔がほんのり赤くなっていく。

 

仙座) 「あ〜! 照れてる〜!」

 

とそこへ、2人に追いついた仙座が割り込んでくる。

下を向く幻花の顔を覗き込むや否や、わざとらしく夏来と炎条寺にもハッキリと聞こえる声を発した。

 

幻花) 「べ、別に照れてなんかっ……!」

 

炎条寺) 「おいおい〜 惚れちまったんじゃねぇの〜? やっぱお前って夏来のこと───」

 

そう口にした炎条寺の言葉が、突然半ばにして途絶える。

 

炎条寺) 「ぐぇっ!」

 

そして次の瞬間、短い悲鳴のようなものが聞こえた気がした。

振り返る2人が、目に映り込んでくる衝撃の光景に身体を震わせる。

 

炎条寺) 「ちょ、き…聞いてなっ……」

 

不気味に微笑む幻花が、炎条寺の腹部へと拳を叩き込んでいた。

低いうなり声をあげながら、その場に崩れ落ちる炎条寺。

 

仙座) 「あわわわ!」

 

幻花を怒らせてはいけない、そう改めて感じた瞬間だった。

 

炎条寺) 「い……いいパンチだ……衝撃的だな……だが無意味だ……ぉぉ……」

 

背後からの苦しそうな炎条寺の声に、振り返ることなく楽しそうに話をする幻花と、冷や汗を流しながら苦笑いをする仙座。

手を伸ばし助けを求める姿を見て哀れむ夏来は、炎条寺の元へと駆け寄り、肩に手を回して歩き出す。

 

炎条寺) 「俺……いつかはあいつに殺されるかも……」

 

そう呟く炎条寺。

確かに少々やり過ぎだとは思うが、その原因を知っているにもかかわらず、こうして返り討ちにあうのは救いようがない。

 

夏来) 「は…はは……」

 

そんな思いが頭を巡り、夏来はただただ笑うことしか出来なかった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後、祭り会場の平地へと続く山の入り口に着いた夏来たち。

 

仙座) 「お祭りっ! やっほ〜い!」

 

すると仙座が1人、はしゃぎながら駆け出した。

苔の生えた石段を一段飛ばしで登っていく。

 

炎条寺) 「お、おい待て! 危ないだろ! ったく……俺はあいつを見張るから、後はお前たちで好きにしてくれっ!」

 

そう言い残して、炎条寺が小走りで追いかけて行った。

左手で腹を抑えていたことから、よほど幻花のパンチが効いたようだ。

 

夏来) 「こっちの世界でも、あの2人は変わらないね」

 

幻花) 「ふふっ…ほんと、落ち着きがないっていうか」

 

クスクスと笑いながら横に並んで、一歩一歩ゆっくりと石段を踏み歩く。

左右の木々につけられた提灯の灯りが連なり、2人の行く手を照らしていた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祭囃子の綺麗な音色に包まれた会場へ足を踏み入れる。

色とりどりの屋台が立ち並ぶ側で、橙色に滲む提灯の数々。

そこは昼間に来た時とは比べ物にならない程の大賑わいを見せていた。

その中で、そわそわと落ち着きがない享奈を見かける。

 

夏来) 「享奈さん こんばんは」

 

享奈) 「あ、やっぱり2人も来てたんだ〜 こんばんは♪」

 

下ろし立ての明るい色の浴衣を着た享奈は、2人に気付くとニカッと笑って言った。

そして、すぐに辺りを気にし始める。

 

幻花) 「1人で来たの?」

 

何が気がかりでそんな状態なのか、それを知るために幻花が享奈に問いかける。

 

享奈) 「ううん、悟神さ……お父さんと来てるんだ〜」

 

口を濁らせ、此方側の呼び名へ言い換える。

その時、背後から誰かが夏来たちに声を掛ける。

 

悟神) 「ほう、やはり貴様らか 後ろ姿でまさかとは思ったが」

 

夏来) 「あ、悟神さん こんばんは〜」

 

幻花) 「こんばんは」

 

振り向いた夏来につられて幻花も、その目線の先を追う。

そこに立っていたのは、灰色と黒の暗めの浴衣を着た悟神だった。

 

悟神) 「あぁ、こんばんは そうだ……これ食べるか? あいにく甘いものは苦手でね サービスで一つ余分に頂いてしまったのだよ」

 

そう言って右手に下げている袋を突き付ける。

ふわふわな触り心地の袋をドキドキしながら開封すると、中から大きな綿飴が出てきた。

そして同じ型の袋を、今度は享奈に手渡す。

 

享奈) 「わーい! ありがと〜!」

 

それを受け取り、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねて喜ぶ享奈の頭を、優しく微笑みながら撫でる悟神。

かつて邪神として悪の限りを尽くして来た者とは思えないほどの変わりように、思わず笑みがこぼれる2人。

 

悟神) 「さて……我らはもう行くが……着いてくるか?」

 

享奈) 「一緒に回ろうよ! ほらほらっ!」

 

幻花の手を掴み、享奈が歩き出す。

その後を渋々と着いて行く夏来は、悟神と夢の世界での出来事を語り合った────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、駆け出した仙座を探し回る炎条寺。

途中で見失ってしまったが、昨日の幻花と仙座の会話を思い出し、夏来の叔母が出しているたこ焼き屋へと向かった。

 

炎条寺) 「やっぱりな、ここに居たか 探したぞゆりか」

 

そこには予想通り、ベンチに座りながら口いっぱいにたこ焼きを頬張る仙座の姿があった。

 

仙座) 「ふぁ〜ほむきぃ! ほれ、おいひい!」

 

炎条寺) 「口に含んだやつ飲み込んでから喋ろよ……何言ってっかわかんねぇ!」

 

そう言われ 急いで飲み込み、喉につっかえたタコを手元のりんごジュースで流し込む。

「ぷはぁ!」となんとも満足そうな表現をする仙座を見ている炎条寺は、急にお腹が空いてくるのを感じた。

 

炎条寺) 「おばさん、たこ焼き一つ」

 

叔母) 「はいよ、あら? 夏来くんと千代ちゃんは一緒じゃないの?」

 

炎条寺) 「あ──こいつのせいで別行動っす」

 

親指で仙座を指し、ため息をつく炎条寺に同情する叔母。

お金を渡し、出来立てのたこ焼きを貰う。

 

仙座) 「あっ!」

 

炎条寺) 「あぁ!?」

 

そして炎条寺がベンチに座って たこ焼きを食べ進めた時、ふと我に帰った仙座が声を上げる。

突然の事にビクッと身体が跳ね、右手に持っていた爪楊枝に刺した たこ焼きが、手元を離れて静かに地面に落ちた。

 

炎条寺) 「ぁぁ……俺の……My Takoyaki がぁ──!」

 

しかも その爪楊枝は細長かったため、2つまとめて刺していた。

なんだか 今日は不運が続くな、と内心思って気分が悪くなる炎条寺。

せっかくの祭りなのに、あまりにも仕打ちが酷すぎる。

道行く人が、落ちた たこ焼きに涙する炎条寺に可哀想な視線を送る。

 

仙座) 「友喜!」

 

頭を抱え、絶望感に浸る炎条寺の肩を叩く仙座。

 

炎条寺) 「なんだよぉ……」

 

力なく返事をし、顔だけを少し傾ける。

 

仙座) 「これ、美味しい!」

 

そう言って見せつけられたのは、残り2つしか無いたこ焼きのパック。

炎条寺の脳内に、落とした瞬間の映像が流れ始める。

 

炎条寺) 「わかっとるわっ!! 今食べた所だっつーの!」

 

声を荒げながら空のパックを指差す。

「もう食べ終わったの!?」と言い出しそうになった自分を止める仙座。

 

仙座) 「その──ごめん お詫びにこれ、はい あーん」

 

視界の隅に移る、砂と混じり合った たこ焼き2つ。

自分のせいでこうなってしまったんだと、仙座にしては珍しい反省の気持ちを込めて、たこ焼き1つをプレゼントする。

 

炎条寺) 「や、ま、待て ふ、普通に食うから置けって!」

 

仙座) 「私からじゃ……ダメ?」

 

炎条寺) 「な──」

 

泣きそうな目で上目遣いをしてくる仙座に、言葉を失った炎条寺は、心臓の鼓動が早くなるのをその身で感じた。

 

炎条寺) 「ったく……そこまで言うなら───」

 

と、大きく口を開けた時だった。

遠くから夏来と幻花に混じって、悟神と享奈がこちらに向かって来ていた。

今のこの状況を見られるのは流石にまずいと思い、

 

炎条寺) 「これはゆりかが食べろ 俺はお前のその気持ちだけで腹いっぱいだ」

 

などとクサい台詞を言い放つと、足元に落ちてあるたこ焼きを拾い上げ 空のパックに入れ、食べ終わった仙座から預かったパックと共にゴミ箱へと捨てる。

 

炎条寺) 「よしっ、今度はあっち行こうぜ!」

 

仙座) 「ぉぉ〜!」

 

今は、今だけは仙座と2人きりで居たい。

この短い時間を少しでも一緒に居たいから──

 

炎条寺は仙座の手を掴んで、夏来たちとは反対の方向へと走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4人は立ち並ぶ屋台を見ながら、ぶらぶらとあてもなく歩いていた。

左右には食べ物から玩具など、様々な店があり目移りしてしまいそうだ。

 

悟神) 「享奈、何か食べたいものはあるか?」

 

享奈) 「かき氷っ! かき氷食べよ!」

 

悟神が財布を出しながら尋ねると、享奈は目を輝かせながら興奮気味で答えた。

 

悟神) 「かき氷か……最近暑くなって来たからな、良かろう」

 

悟神が笑って頷く。

人混みの熱気に熱された身体を冷やすために、冷たいかき氷はうってつけだ。

 

悟神) 「すまない、かき氷を3つ 全部のシロップをかけてくれ」

 

ここで待ってろ、と夏来たちをベンチに座らせた悟神が かき氷屋の前に行き、3人分を注文した。

屋台のおじさんは分厚い氷を、シャリシャリと削っていく。

プラスチックカップからはみ出すほどに盛られた かき氷を受け取る悟神。

 

夏来) 「え、いいんですか?」

 

そのかき氷を手渡された夏来と幻花が、そっぽを向く悟神に問いかける。

 

悟神) 「あぁ、いいからさっさと食え」

 

腕組みをしながら周りを見渡す悟神に、奢ってくれたことを感謝しながら、夏来たちは食べ始めた。

色鮮やかなシロップで味付けされた氷が、舌の上で ふわりと溶ける。

頭が痛くならない程度に、夏来はスプーンですくった氷を口に含んだ。

 

夏来) 「ん〜! 美味しい!」

 

久しぶりに食べる食感に、夏来が頰に手を当てながらそう呟く。

 

幻花) 「ほんと…凄く美味しいわ やっぱり夏祭りはかき氷よね」

 

享奈) 「────!」

 

2人がよく味わいながら食べる中、享奈はガツガツと忙しく食べ進めている。

そして最後にカップの底に残る溶けかけの氷と混じったシロップを、ストローで一気に吸い上げる。

 

享奈) 「クゥーッ! ぁあっ!」

 

頭を抑え、声を上げて唸る享奈を見ながら、2人は面白がってクスクスと笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仙座) 「うっぷ……おいしぃ…」

 

帯を押さえながら腹を膨らました仙座が、休憩所にて満足そうに声を上げる。

その手元には焼きそばが入っていた紙パック。

使い終わった割り箸と一緒にゴミ箱へ放り込む。

 

炎条寺) 「おい、そろっと花火が上がるぞ」

 

仙座) 「えっ! 花火!? どこどこ!?」

 

炎条寺) 「良く見えるポイント知ってんだ、行こうぜ」

 

強く頷いた仙座の手を引っ張り、2人は近場の人気のない緩やかな野原坂へと辿り着く。

お互いに少々走ったせいか、辺りに響くのは2人の荒い息遣いのみ。

 

仙座) 「あ…あのさ……」

 

そこで胸の前に手を当てた仙座が、斜め下を向きながら恥ずかしそうに言う。

そして、次の言葉を聞くよりも先に、炎条寺は仙座の手を握りっぱなしだったことに気付いた。

 

炎条寺) 「ぁ……す、すまん」

 

そう消えかかるような小さな声で謝り、2人はその場に腰を下ろす。

それから会話は特になかったが、不思議なほどに苦ではなかった。

夢の世界で初めて出会ってから約2年、今まで築き上げてきた関係なら、沈黙さえも楽しく思える。

だから今を逃したら、この心に秘めた思いは消え去ってしまう。

いつまでも仙座が、彼氏を作らない保証なんてないのだから。

 

仙座) 「こんなとこがあったんだね、あっそうだ! 夏来たちも呼んでこようよ!」

 

祭り会場へ戻り、夏来たちを探しに行こうと切り出した仙座が立ち上がる。

 

炎条寺) 「──ゆりか!」

 

身を翻し、足を踏み出した仙座の背に向け叫ぶ。

呼ばれてゆっくりと振り返った仙座は、どうしたの? と言いたげな表情をしている。

あと一歩、2人の間を縮められる距離はあるが、この足を踏み出す勇気がない。

しばらく黙り込んでしまった炎条寺を見て、仙座は迷惑な友人を見るような、この状況をどうすればいいのか分からないような、そしてある種の期待が混じったような表情を見せている。

 

炎条寺) 「お、俺さ」

 

雲から顔を出した月と星々が2人を照らす。

 

仙座) 「ん〜?」

 

様々な表情の中で捉えたそれが……仙座の本当の気持ちだったら良いなと思い、炎条寺は覚悟を決める。

 

炎条寺) 「俺は──」

 

このまま何も得られずに、夏休みを過ごすのが惜しくて──

1番気の合う異性で、お互い一緒にいることが楽しくなってきた気がするのに、高校を出てしまえば別れてしまう。

そんなの、悲しすぎるにも程がある。

 

仙座) 「───」

 

顔を上げ、仙座の目を見つめる炎条寺の顔は、今までのどんな時よりも赤みがかっているだろう。

だがそれは楽しくて赤いんじゃない。

疲れたから赤いんじゃない。

この気持ちの───感情の高ぶりを示す赤だ。

目が合い続けている仙座は、何かを察したように表情を変える。

その姿が、現状から逃げる様ではなく、全てを受け入れる姿に見えて、炎条寺は仙座の気持ちに背中を押される。

 

炎条寺) 「ゆりか、好きだ」

 

そう口に出す。

自分の声が乾いた響きになってはいないかと心配するほどに、喉が渇いている。

ギュッと握りしめる拳に、力を込める。

 

炎条寺) 「最初は、お前を変なやつ位にしか見てなかった。 いつも勝手なことばっかして、俺たちを困らせて───」

 

 

 

『ありがとう! ごちそうさま! というか…ここどこ? 君たち誰? 私わかんなーい☆』

 

『あれぇー? 怒んなくなっちゃった…怒ってたほうが感じ良いよ〜 あははー!』

 

 

 

炎条寺) 「能力があるとか言ってバカみてぇな事言い出して、ニッ怪のこと怒らせて──」

 

 

 

『え? んん? 誰にだってあるよ? 能力ぐらい』

 

『ごほん、じゃ、私の番だね [俳句を操る能力]っていうのは 5 7 5 で言った言葉が現実世界に起こる能力なんだ〜♪』

 

 

 

炎条寺) 「けど、そうしてく内に、俺はそんなお前を守りたいって思えてきた。 悟神の時や、ゾルバースの時、俺は無我夢中でお前を助けようと必死だった───」

 

 

 

『当たり前だ! お前らが戦って…俺らが何もしないわけには…いかねぇ!』

 

『お前たちは生きろ……なるべくここから離れて、どこか遠いところへ逃げろ! 生き延びて、いつか必ず奴を倒せ!』

 

 

 

炎条寺) 「ひ弱な俺に……どうすることも出来なかったくせによ……」

 

当時の自分を思い出し、唇を噛みしめる。

助けるって言っておいて、結局はみんな無意味なことばっかり。

 

 

*********

 

炎条寺) 「ふんっ…お前の中途半端な攻撃で死にぞこなったぜ…」

 

ゾルバース) 「ほぉ…? ならば今度こそ死を体験させてやるよォ」

 

*********

 

 

炎条寺) 「だけど………あの時は本当にお前を守れた気がした。 好きな人のために死ねるって、あんなにも気持ちがいいなんてな」

 

死の覚悟を迫られたあの瞬間を思い出しながら、震えた声で言う炎条寺の瞳に、一粒の光る雫が見えた。

 

炎条寺) 「だから、今度こそ お前を───」

 

その最後の言葉を遮る衝撃が、炎条寺の胸に飛び込んでくる。

見おろすと、そこには身体をピッタリと寄せた仙座が立っていた。

 

仙座) 「幸せだよ……もう…友喜といるだけで……幸せだってば……」

 

「だから、これからも守ってね」と、満面の笑みを浮かべた仙座を見て、炎条寺の目から大粒の涙が零れ落ちてきた。

今まで一度たりとも見せなかった涙に、恥ずかしさと嬉しさで顔をグシャグシャにしながら、ギュッと仙座を抱きしめる。

その時、2人を青白い光が包み込む。

空を見上げれば、花火が夜空に大輪の花を咲かせていた。

青い光が空に広がり、キラキラと光り輝いている。

散らばった光は弧を描いて落下し、闇に溶けて消えていった。

それを合図に次々と打ち上がる花火を、2人は座って手を繋ぎながら見つめていた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脇道を駆けていく2人の姿を、夏来たちは横目で確認する。

時間的に、もうすぐ花火が上がる頃だ。

2人だけが知る絶景ポイントがあるのだろうかと思った夏来は、3人と共に2人の後を追いかけていった。

 

夏来) 「あ、ここって」

 

そうして辿り着いた先は、夏来たちしか知らない秘密の場所。

こんな所で何をしているのか、と2人に歩み寄る夏来は腕を掴まれ、頭を横に振るう悟神に止められる。

口に指を当て、「静かに」と呟く。

 

仙座) 「こんなとこがあったんだね、あっそうだ! 夏来たちも呼んでこようよ!」

 

立ち上がった仙座が、こちらに向き直し一歩を踏み出す。

それぞれが見つからないようにと、瞬時に草木の影へと隠れる。

しかし、その必要は無かったようだ。

大声で仙座を呼び止めた炎条寺が、言葉を詰まらせる。

少しの沈黙を置き、再び口を開いた。

 

「好きだ」と。

 

それを聞いた夏来たちは驚きと同時に、心の中で歓声をあげる。

すると、その時を待っていたと言わんばかりに、色鮮やかな花火が打ち上がり始めた。

 

夏来) 「僕たちはあっちに行こ」

 

この一生忘れないであろう、2人だけの甘酸っぱい思い出に邪魔者は不要だ。

音を立てないように静かに立ち上がり、夏来たちは来た道を引き返していった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後。

祭りも終盤に差し掛かかり、徐々に人が少なくなっていく中で、悟神たちと別れた夏来と幻花は型抜きに挑んでいた。

 

幻花) 「あーもぉ! 難し過ぎっての! もう一枚ちょうだい!」

 

あと一歩という所で手が震えてしまい、ピンがずれバキバキに割れてしまった。

だがそれでも諦めずに、失敗したぶどう味の型を口へと運んで本日5枚目の型へと挑戦する。

その横顔を盗み見た夏来は、先程の炎条寺の言葉を思い出す。

 

夏来) 「───」

 

しかし、その気持ちを夏来は心にしまい込む。

この想いを伝えなくても、こうして2人でいるだけで夏来は嬉しかった。

炎条寺のような告白は、夏来には到底出来そうにない。

いくら夢の世界で心身ともに強くなったとしても、これだけはどうにもならないのだ。

 

幻花) 「あ、出来た! ほら!」

 

夏来の顔を真っ直ぐに見つめる幻花の瞳がキラキラと輝く。

その手には、けん玉の形の型が摘ままれていた。

賞金として800円を受け取った幻花は、美味しいものを食べられ、さらには儲けられたのもあり上機嫌だ。

 

仙座) 「お〜い!」

 

そして祭りの帰り道。

手を振りながら2人に駆け寄ってくる仙座と、ポケットに手を入れながら照れた様子の炎条寺が歩いてくる。

 

仙座) 「やっほ! やっと会えたよ〜 楽しめた〜?」

 

幻花) 「まぁね、そっちはどうなの? 随分と機嫌が良いようだけど?」

 

いつもと変わらない口調で会話する2人。

どうやら仙座は、炎条寺と付き合っていることを隠し通すつもりのようだ。

 

仙座) 「えっ……ぁ…そ、そう? 別に何も……」

 

その分かりやすい挙動不審さに、幻花は仙座自身が真相を明かすまで、容赦なくグイグイと迫っていった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月が雲に隠れ、真の闇が広がる外の景色を、炎条寺は1人孤独に縁側から眺めていた。

 

幻花) 「どうしたのよ、浮かない顔しちゃって」

 

すると、足音と共に幻花が部屋から出て来る。

 

炎条寺) 「ぁ……寝てなかったのか」

 

幻花) 「えぇ、さっきまで ゆりかの恋愛話に付き合ってた所よ。 それにしても、まさかあんたから切り出すとはね。 正直、見直したわ」

 

炎条寺) 「……なんだあいつ、言っちまったのかよ」

 

頭を押さえて、「はぁ…」と深いため息をつく。

元々おしゃべりなのは承知していた炎条寺だったが、これは流石にダメージが大きすぎたようだ。

しかし、知られたのは夏来と幻花の2人のみ。

それも、信頼しあった仲だ。

これから先、ずっと隠し通していられる自信がなかった自分には、これは逆に良かったと言うべきだろう。

 

炎条寺) 「バレたんならしょうがねぇな。 俺も頑張るから、お前も早く夏来とだな───」

 

そう思えた炎条寺は、吹っ切れたように明るい表情を見せた。

そして勢い余って余計なことを言いだしてしまう。

 

炎条寺) 「あっ、ヤベ……」

 

──気付いた頃にはもう遅かった。

居間からの弱々しい光に照らされ、振り上げられた拳が目に映り込んでくる。

目を強く瞑り、襲いかかる痛みから顔を逸らす。

しかし いくら待っても訪れない衝撃に、うっすらと目を開ける炎条寺。

 

炎条寺) 「なんだよ、殴んねぇとはお前らしくないな」

 

振り上げたはずの拳を、幻花は静かに下ろしていた。

いつもなら問答無用で殴りかかってくるはずなのにと、物珍しそうに見つめる。

 

炎条寺) 「──なぁ、千代」

 

そして表情を変えた炎条寺は、あることを切り出す。

 

幻花) 「なによ」

 

炎条寺) 「俺の代わりに、夏来をこれからも守ってやってくれないか?」

 

幻花) 「え?」

 

それを聞いた幻花は一瞬、何を言われたのか分からないと言った顔を見せた。

しかし、その強く訴えかけるような炎条寺の目を見て本気なのだと悟る。

 

炎条寺) 「別に付き合えとまでは言わん。 ただ、あいつのちょっとした心の支えになってほしいんだ」

 

そう言われ、髪を弄りながら目線を落とす幻花。

 

炎条寺) 「おい」

 

幻花) 「わ、分かってる! そんなこと言われなくても分かってるからっ!」

 

顔を覗き込まれ、幻花は恥ずかしさのあまり、ズカズカと部屋へと戻っていった。

 

炎条寺) 「さてと、俺も寝るか……」

 

怠そうに膝に手を当てて起き上がり、幻花の後を追って部屋へと入っていく。

 

仙座) 「んにゅ……ぁぅ…」

 

気持ち良さげに寝言を呟く仙座の頰を突くと、なんとも可愛らしい反応を見せた。

その姿に見惚れていると、「早く寝ろ」と幻花が囁く。

渋々布団の中へ入ると、すぐに睡魔が襲ってきた。

炎条寺は流されるがまま、目を閉じて眠りへとついた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもと変わらない、大量のセミの鳴き声に目が覚めた。

夏来にとって、この聞き慣れた鳴き声は目覚まし時計の代わり。

左右を確認すると、炎条寺たちはまだグッスリと眠っていた。

 

夏来) 「早いなぁ…」

 

そう悲しげに呟くのにはある理由があった。

カレンダーを見て、今日が2学期が始まる一週間前だと知る。

 

あの夏祭りからと言うもの、毎日のように悟神家へと遊びに出かけていた夏来たち。

天気が良い日は本格的な山登りや、澄んだ川での水浴び。

そして夜には山の平地にて、両家の知人を集めての2泊のキャンプを楽しんだりもした。

 

しかし、そんな楽しかった日々も今日で終わる。

残念な気持ちに包まれ短く息を吐いた夏来は、皆んなを起こさないようにと、細心の注意を払って部屋を後にする。

 

 

 

 

 

夏来) 「よっ はっ」

 

夏来は玄関前で、朝の体操を始める。

小学生の頃は、こんなこともしていたんだなと考えながら、近くの自動販売機で買ってきた【なっちゃん! オレンジ】を手にとる。

かぽっと、力を入れてキャップを回し、左手で腰に手を当てながらジュースを飲む。

 

ゴクゴク……

 

夏来) 「ん〜っ! 動いた後はやっぱりコレでしょ!」

 

ラベルを見つめながら、満足げに一息つく。

夏の日差しが照らす中、喉を通るジュースの冷たさに、身体全体が震える。

水分補給がこんなにも有難いものなんだと改めて感じた。

 

夏来) 「ウォーキングでもしよっかなぁ」

 

朝のまだ涼しい風の中、照らす太陽の光は然程暑くもない。

日頃から運動をしていない夏来にとって、今は身体を動かす絶好の機会だ。

飲み干した空のジュースを片手に、先程の自動販売機の横に置かれたペットボトル入れに放り込むと、そのまま家とは反対方向に歩き出した。

寂れた小さな工場や公園を抜けて行くと、建ち並ぶ家々も疎らになり、郊外へと出た。

地面が砂利に変わり、道の両側に畑が広がる。

記憶が正しければ、今まで一度も来たことのない所だ。

 

夏来) 「あっ」

 

行く手に橋が見える。

あまり水量はないらしく、せせらぎの音は穏やかだ。

息を切らした夏来は、疲れから橋にもたれかかる。

するとどこからか、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『大丈夫かァ?』

 

獣のような低い声。

その声が聞こえた方を振り返ると、こちらに顔を向けた成人男性が土手に座りながら釣りをしていた。

 

夏来) 「あ、はい。大丈夫です……はぁはぁ」

 

逆光でよく顔が見えない状況の中、「疲れてるみてェだなァ……水あるが、飲むかァ?」と誘う男性。

知らない人だったが、優しく接してくれているのに拒否してしまうのは失礼だろう。

 

夏来) 「じゃぁ…お言葉に甘え──」

 

そう心を許した瞬間、光に遮られていた男性の顔がハッキリと目に映り込んで来た。

その顔を見て目を見開きながら、バランスを崩して地面に崩れ落ちる夏来。

 

『おッと……ほら、捕まれェ』

 

駆け寄る男性が、夏来に手を差し伸べる。

 

夏来) 「あ、あああの、す、すいません!失礼します!」

 

目の前の手を取り、起き上がる。

勢いよくお辞儀をすると身を翻し、その場から逃げ出した夏来。

背後から何かを叫ぶ声が聞こえたが、そんなことを気にしている場合ではなかった。

 

灰色の髪

 

正気とは思えない無感情の目

 

不気味な笑み

 

独特な言葉遣い

 

 

そしてなにより、【ゾルバース・ヴェルデ】そっくりの顔つき。

改めて近くで見ると迫力がありすぎだ。

夢の世界で受けた傷の痛みが、脳を通って伝わってくる。

 

夏来) 「はぁっ…はぁっ…」

 

冷や汗をかきながら家の中へと駆け込む夏来。

台所へ行き、水を一杯飲んで心を落ち着かせた。

あちらは夏来を見ても何にも感じていない様子だった。

悟神が言っていた、夢の世界の記憶を持つ者は夏来たちだけというのは正しかったらしい。

 

夏来) 「はぁ…ビックリした…悟神さんも居るってことは、ゾルバースたちも居るとは思ってたけど……急すぎだよ……」

 

と、そんな事を思っていると、背後から眠い目をこすりながら、フラフラとした足取りの仙座が現れた。

 

仙座) 「あれ、夏来? 早いね〜」

 

キョトンとした表情を見せる。

それほどに仙座にとっては、夏来が早起きだったのが珍しかったのだろう。

 

夏来) 「お、おおおはよう。そ、そろそろみんなのこと起こしに行こっか」

 

仙座) 「大丈夫、みんなもう起きてるよ。」

 

ほら、と指を指す先には、居間で目を閉じながらこくりこくりと身体を前後に揺れ動かす2人の姿があった。

こんな姿を見るのは久しぶりだな、と思った夏来は、声をかけて顔を洗ってくるように促す。

 

夏来) 「朝ごはんは僕が作るから、ちょっと待っててね」

 

戻ってきた2人が座り込むと、夏来が立ち上がって手を合わせながら言う。

台所に立って料理を作る夏来の後ろ姿を見ていると、ふと居間の中央に置かれているテーブルの端に、小さな紙切れがテープ止めされているのを見つける。

それを取った炎条寺は、そこに書かれている文を読み上げる。

 

炎条寺) 「えーなになに? 朝早くから仕事が入っちゃって朝ごはんを作る時間がありませんでした。 適当に冷蔵庫のもの使ってね。だとさ」

 

読み終わった紙を丸めてゴミ箱に放り込む。

何時もは慌ただしい朝が、今日は恐ろしく静かだった原因が分かり、納得したように頷く。

すると台所から、「あっ」と夏来の短い声が聞こえて来る。

顔色を変えた幻花が、夏来の元へと慌てた様子で向かう。

 

幻花) 「どうしたの夏来──って何これ」

 

夏来) 「はは……ベーコンだよ……」

 

駆けつけた幻花がそこで見たのは、黒こげと化した1枚のベーコン。

箸で恐る恐る触って見ると、パサリと砕け落ちた。

 

幻花) 「はぁ……ちょっと貸して」

 

夏来に任せてしまっていては、この先何が起きるかわからない。

不安な気持ちに駆られた幻花は、火を止めてフライパンを軽く洗い、よく拭いて再び火にかける。

その間、ベーコンを半分に切り分けておいてと言われた夏来は、調理用バサミで切っていく。

 

幻花) 「こうしておくと、食事の時に食べやすくなるのよ。 みんなもやってみてね」

 

夏来) 「誰に言ってるの?」

 

幻花) 「これを読んでる読者のみんなよ」

 

夏来) 「えぇ……」

 

困惑しながら、火が通ったフライパンに切り分けたベーコンを並べると、卵を2つ割り入れて蓋をする。

それから約5分後、白身が白くなって来たのを見計らい火を止める。

 

幻花) 「この時、すぐには蓋を開けないように! 余熱で黄身の色が変わって来たら食べごろよ。 これ大事だから、みんなも覚えておくように。 詳しくはhttps://cookpad.co──」

 

夏来) 「やめてよ千代ちゃん……こっちから見たら誰もいない空間に語りかけてる危ない人に見えるから!」

 

幻花) 「はいはい、分かってるから。 そんなことよりお皿出して? あんたたちもボサッと座ってないで手伝いなさいよ」

 

夏来の忠告を払いのけ、棚を指差して皿の準備を呼びかける。

重い腰をなんとか起こした2人は、盛られた目玉焼きを手に、居間へと戻って食べ始める。

その後を追って夏来と幻花も、急いで食事に取り掛かった。

 

炎条寺) 「おい、なんでそんなに急いで食べんだよ? もっと味わってだな……」

 

幻花) 「友貴……あんた今日の昼前にはこの家出るってこと分かってんの?」

 

炎条寺) 「えっ!? そうなのか!?」

 

幻花) 「はぁ……2学期一週間前なの分かってなかったの? 新学期に向けて色々と準備や夏休み課題やら残ってるんだから。 ほんっと、あんたって小さい頃からド忘れ多いし……バカはいつまで経ってもバカってね」

 

炎条寺) 「バ…バカ……」

 

薔薇の棘のような発言に、炎条寺がドンと落ち込む。

全て本当のことであるが故に、言い返したいが言葉が出てこないのだろう。

朝食を食べ終わった3人が、皿を流し台へと置きに行く中、炎条寺はただ1人箸を止めたまま「バカ……俺はバカ…」と唱え続けていた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歯磨きを済ませ、客室にて帰る準備を進める夏来たち。

部屋中に散らばった自分の持ち物を整理している時、突然夏来が声を上げた。

 

夏来) 「御守りが……」

 

短パンのポケットに入れていた、あの大事な御守りが無くなっていたのだ。

そして今朝、あの橋で地面に倒れこんだ事を思い出す。

きっとあそこにあるに違いない。

 

幻花) 「ち、ちょっと夏来! どこ行くの!?」

 

そう思った夏来は、荷物を担いで家を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関の戸を開け、勢いよく駆け出す。

なんだか今日は走ってばっかりだ。

右に曲がり、自動販売機の前を通り過ぎる。

そして突き当たりを左に曲がると、突然目の前に人影が現れた。

 

夏来) 「あっ! す、すいません」

 

もう数秒反応が遅れていたら ぶつかっていた距離だ。

周囲をよく見ていなかったことを謝罪し、軽く頭を下げる。

 

『よォ、届けに来てやッたぜェ』

 

夏来) 「え……ぇ?」

 

と その時、再びあの声が聞こえてくる。

そーっと顔を上げると、そこにはゾルバースが御守りを持って立っていた。

 

ゾルバース) 「裏に皇ッて書いてあったからなァ……ここらじャあァ、皇ッてんのはお宅しかないんでねェ。 ほら」

 

御守りを投げ渡す。

 

ゾルバース) 「もう落とすんじャねェぞ」

 

夏来) 「あ、あの!」

 

ゾルバース) 「あ?」

 

夏来) 「ありがとうございます!」

 

ゾルバース) 「────フッ。 じャあな少年、元気でなァ」

 

そう言ってゾルバースは、風に揺られる髪を手で押さえながら、夏来に背を向け歩き出す。

 

夏来) 「貴方も元気で……」

 

彼らには喜びを。

そして僕らには希望を。

愛を失った邪人はもう居ない。

 

こっちは無事に終わったよ、ニッ怪君。

 

夏来は無意識に空を見上げる。

青々と晴れ渡る空に、ゆったりと流れていく雲。

その先の世界で、今も何処かで夏来たちと共に運命に立ち向かうニッ怪の姿が見えた。

 

幻花) 「夏来──! 御守り見つかった──? 早く行かないとバスが来るよ!」

 

不意に聞こえてくる声に、視線を落とした夏来が振り向くと、前方に荷物を担いだ3人の姿があった。

 

夏来) 「──うん! 今いく!」

 

進もう。

あの世界が僕らに伝えたかった想いを探しに。

 

もう頼ってばかりはいられない。

自分で答えを導き出すんだ。

 

そう心の中で自分に言い聞かせた夏来は、3人と共に、この地との別れを惜しみながら東京へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2学期初日の朝。

机に向きながら、自作の小説をノートに書いていく夏来。

その内容には、あの夢の世界での出来事が綴られていた。

内気な少年が、夢の世界を通して力強く成長していく───そう、まさに自分自身のことを書いているのだ。

 

夏来) 「えっと……ここはなんだったっけ……」

 

頭を悩ませながら、夢の世界の記憶を遡っていく夏来。

唸り声を上げ、もうすこしで思い出しそうになった、その時───

 

ドンっ!!

 

と何かが窓に打つかる音が聞こえた。

肩をビクッと震わせ、恐る恐る音の聞こえた方へと近づく。

 

夏来) 「───はぁ!?」

 

そして【ソレ】を目撃し、思わず腰が抜け床に座り込む。

目線の先に居たのは、ボールや小鳥なんかじゃない。

 

夏来) 「た、たた、鷹ぁ!?」

 

その場に居たのは、堂々とした佇まいまま、夏来の目を見つめる大きな鷹だった。

近くにあった箒を手に取り、右手に構えてジリジリと歩み寄る。

それでも逃げる仕草すらしない鷹を、夏来は興味深そうに見つめる。

 

夏来) 「あっ……凄い」

 

よく見ると、鷹の目はオッドアイであった。

右目が黒一色に染まっており、そこから首にかけて数本の傷跡のようなものがある。

そして咥えている青白い石を地面に落とし、くちばしで夏来の方へと転がす。

状況の整理が追いつかない夏来は、鷹の不可解な行動に首をかしげると同時に、ある人物の名が頭を過ぎった。

 

夏来) 「───ニッ怪君?」

 

その呼び名に反応して、鷹は夏来に背を向けて駆け出す。

大きな翼を広げ、地を蹴る。

風を掴み、どこまでも高みへ羽ばたいていく───

 

夏来) 「……来てくれたんだね」

 

青々と晴れ渡る空に、一羽の鳥を映す。

悲しみと喜びの混じる、不思議な気持ちが夏来の心に満ちた。

 

夏来) 「後は任せて、ニッ怪君」

 

戸を開け、足元に転がっている青白い石を掴み上げると、机の上に大事そうに置かれた御守りの中へと入れる。

紐をリュックのファスナーに通し、解けないようにギュッと縛り付ける。

 

炎条寺) 「おーい夏来 そろそろ行くぞー」

 

とその時、外から炎条寺の声と、それに紛れて幻花と仙座の話し声が聞こえてくる。

リュックに教科書を詰め込み、背中に担いで玄関へと急ぐ。

靴を履き、ドアノブに手を掛け振り返る夏来。

だがそこには、かつて夢の世界で過ごした、あの楽しかった日々の面影は無く、ただ静寂に包まれた空間があるだけだった。

しかし、今更悲しみに暮れる必要はない。

 

力強くドアを開け、光差す希望の未来へ夏来は歩き出す。

その姿は今までのどんな夏来とも違う【勇気】を持っていた。

それはあの世界を忘れない限り、決して消えることはないだろう。

 

炎条寺) 「ほら、早くいかねぇと遅刻だぞ!」

 

仙座) 「待ってよ友貴〜!」

 

夏来) 「ごめんね、千代ちゃん。学校違うのに来てもらって」

 

幻花) 「べ、別に……今日くらいはって言うか……その……ぁあもう! そんなのはいいって! 早くいこ!」

 

これからも僕たちはこの街で、この世界で生きていく。

それはとても辛く、苦しいものかもしれない。

けれど、今の僕には恐れなんてない。

 

 

【さらばじゃ、我の分まで幸せになるのじゃよ…皆…】

 

 

大丈夫だよ、ニッ怪君。

僕は自分で幸せな道を選べる。

その為に必要な事を知ったから───

 

 

 

けれど、僕のわがままを許してくれるなら 1つだけ聞いてほしい。

 

無数に存在する世界線の中で、僕たちが過ごした時間はニッ怪君にとって、ほんの一瞬だったのかもしれない。

けれど、僕たちにとっては一生の思い出だよ。

だから、どうか時々でいい。

僕たちを思い出してほしいんだ。

 

幻花) 「どうしたの夏来?」

 

手をかざしながら空を見上げる夏来を、不思議そうに見つめる幻花。

 

夏来) 「何でもないよ、行こっか」

 

下ろした手を固く握って、先を歩く幻花の背を追う。

そして最後に、夏来は振り返り呟いた。

 

 

「さようなら」

 

 

その言葉は、何もない静かな路地に響き渡って消えていく。

 

幻花) 「おーい夏来」

 

夏来) 「──うんっ!」

 

あの幻想的な夢物語を、夏来たちはこれからも忘れないだろう。

時が過ぎても、彼らの子供へ、そのまた子供へと繋がっていく。

 

 

 

 

それを願いながら、屋根の上で寝転がる死神は表情を緩めて優しく微笑んだ。

 

 

幻想夢物語〜少年の日々〜 (完)

 

 





長いこと連載を止めてしまっていて、大変申し訳ありませんでした。
これにて夏来たちの物語は無事に終了。
これから先の未来は、夏来たち自身に任せることにしましょう。
それでは、また会える日を楽しみに───





って、堅っ苦しいのは川に流そうッ!!
今現在、私は高校3ってことなんで、しばらく小説の活動は止めようと思ってますん……

すいません、許してください! 何でもしますから!((ん?

まぁ、幻想夢物語の1〜10話くらいまでを編集するくらいはやりますんで、これからもお楽しみに! ではでは、これにてドロン!


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