平成のワトソンによる受難の記録 (rikka)
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☆登場人物一覧(ネタバレ注意)

111話、『仕事、取引、捜査。ついでに紛失』までの事務所関連の人間のまとめです

 

 

※ とりあえずゲストキャラはアニメの方で登場回をまとめております。

 

 

 

≪浅見探偵事務所:人員構成≫

 

 

所長:  浅見透

 

副所長: 安室透

 

秘書課: 日向幸(アニメ77-78 『名家連続変死事件』)

 

特別協力員:メアリー

 

調査員: 瀬戸瑞紀(アニメ537-538『怪盗キッドvs最強金庫』)

     アンドレ=キャメル

     マリー=グラン(キュラソー) (劇場版コナン⑳『純黒の悪夢』) ※現在は不在

     沖矢昴

     鳥羽初穂(アニメ716~717話 『能面屋敷に鬼が踊る(前後編)』)

     恩田遼平(アニメ:File661-662 『小五郎さんはいい人(前後編』)

     小泉紅子(『まじっく快斗』より)

     遠野みずき(劇場版コナン⑮ 『沈黙の一五分』)

     世良真純

 

研修生: リシ=ラマナサン(劇場版コナン㉓ 『紺青の拳』)

 

    

事務員: 下笠穂奈美(アニメ184話 『呪いの仮面は冷たく笑う』※初登場)

     下笠美奈穂(アニメ203~204話 『黒いイカロスの翼』※二度目)

 

 

研究開発部:阿笠博士

       小沼正三 (アニメ698話 『まさか! UFO墜落事件』)

      金山誠一 (アニメ547-548話 『犯人との二日間』)※鈴木財閥より出向

 

 

特殊調査部:山猫隊 (劇場版コナン⑭『天空の難破船』)

 

保護中:クリス=ヴィンヤード

 

 

≪レストラン:マダム=ハドソン≫

 

料理長:   飯盛薫 (アニメ635話 『ダイエットにご用心』)

 

調理師:   亀倉雄二 (アニメ225話 『商売繁盛のヒミツ』)

 

パティシエ: 西谷美帆(アニメ71話 『ストーカー殺人事件』)

 

パフォーマー: 山根紫音 (劇場版コナン⑫ 『戦慄の楽譜』)

        設楽蓮希 (アニメ385-387話 『ストラディバリウスの不協和音』)

        黒羽快斗

        土井塔克樹 (アニメ132-134話『奇術愛好家殺人事件』)

 

≪調査会社≫

社長:越水七槻 (アニメ479話 『服部平次との3日間』)

 

秘書:中居芙奈子(アニメ797話 『夢見る乙女の迷推理』)

 

調査員:大嶺良介(アニメ547-548話 『犯人との二日間』)

    水野薫子(アニメ478話 『リアル30ミニッツ』)

 

    (その他多数)

 

 

≪浅見家≫

 

家政婦:米原桜子

 

居候:中北楓 (638~639話 『紅葉御殿で謎を解く(前後編)』)

   灰原哀(宮野志保)

 

ペット:源之助(白猫)  (劇場版コナン① 『時計仕掛けの摩天楼』※ほぼオリジナル)

    クッキー(ダックスフント) (アニメ635話 『ダイエットにご用心』)

 

 

 

 

≪浅見探偵事務所≫

 

 所員は基本的に全員スーツを着ています。女性もスカートではなくパンツスーツです。大事な事なので忘れないように。そしてシャツやブラウスの下には、14番目編に登場した防弾・防刃ジャケットを着込んでいます。

 

 例外として事務組の双子はメイド服。ふなちはアニメと同じ様な服や双子と同じメイド服で調査時はスーツ。小沼博士は白衣姿となっております。

 書いてて思ったんですが、双子はスーツも似合いそうだ。

 

 ちなみに家政婦の桜子ちゃんは、たまに浅見君の秘書というか付き人のような仕事をしています。

 その際は彼女もスーツ姿。

 

 

≪レストラン マダム=ハドソン≫

 

 実は店名を設定していないという笑えない事態だったのですが、感想でのコメントから勝手に一つ採用させていただきました。

 一応当初から、作品内に登場した一芸持ちのキャラを登場させやすくするための場という設定でした。

 といっても、思いついていたのは作中に出て来た料理系技能持ちのキャラのみ。

 

 ふと、キッ……じゃない、瑞紀ちゃん達を参加させればいいじゃん! と思いついてステージ追加。

 現時点で料理長は飯盛さんですが、当初は他のキャラを引っ張るつもりでした。なんで変更になったか?

 たまたまその話を見ていた上に、彼女が好みの顔と声だったからだよ!(逆切れ)

 

 

≪一階 洋菓子店≫

 

 一覧には載せておりませんが、香坂夏美と『ショコラの熱い罠』の佐倉真悠子が現在準備しているお店でございます。

 こちらも、名前が今の所未定。

 もし良い名前を思いついたら活動報告にお願いしますw

 

 

≪浅見家≫

 

 当初の予定だと今頃炎上していたはずなんですが……。

 なんやかんやで越水やふなち以外にも同居人が出来、動物も増えてきました。

 ……動物もちょっと考えておくかw

 

 今では灰原も来たので、セキュリティは最新の物へと更新され、万が一のパニックルームというかシェルターも完備というごく普通の民家にございます。

 



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ワトソン最初の事件 ― 時計仕掛けの摩天楼
001:ある大学生の日記① (副題:ワトソンが登場した日)


 4月19日

 

 いい加減、こういう形で記録を残していかないと頭がおかしくなりそうなので、今日から日記を付ける事にした。

 というか、本当にこれはどういうことなんだろう?

 自分でこう言ってはなんだが、普通の大学生だ。

 容姿も普通――だと思いたい。成績も普通、やりたいことも特に無く、ただなんとなく大学に入っただけ。決して真面目な大学生とは言えないだろうが、それでも至極真っ当な学生生活を続けていたはず。

 

 

 なのに――どういう訳か3月を越え、4月になっても進級出来ていないとはこれ如何に。

 

 

 

 

 4月20日

 

 今日も相変わらず、ごく普通の一日だった――去年と同じように、だ。

 誰一人として卒業していないし、誰一人として入学して来ない。まじでどうなってんのさこれ。三度目の2年生ってどういう事?

 まるで時間がループしているかのように世間は何にも変わらず、ただただ日々を過ごしている。

 たまにあるテストなど、問題こそ変わってはいるが範囲は変わっていない。にも拘わらず、全員、毎年ほぼ同じ資料や本を必死になって読み返して勉強している。

 

 

 そこやったから。去年も一昨年もおんなじ所やったから。

 

 

 

 4月21日

 

 一日の間に、このループ(とりあえずこの現象をそう呼ぶことにした)について考えるのはもはや日課となっている。

 一体全体、何がどうなって『終わらない一年』――いや、終わらないような一年が延々と続くんだろうか?

 今、自分はニュースを見ながらこの日記を書いているわけだが、冒頭のキャスターの挨拶も週間天気予報もなにも変わり映えのしない物となっている。だが不思議な事に、たまに表示される西暦表示だけは変わっていっている。

 天気予報が終わったテレビでは、最近よく耳にする探偵『毛利小五郎』がまた警察に多大な貢献をしたというのが話題になっている。というか、本当にこの探偵の名前をよく聞く。

 ……書いてて思い出したが、このループが始まったのって、確かこの探偵がテレビに出だした次の年からだったよな?

 機会があれば調べてみよう。

 

 

 

 4月22日

 

 

 

 講義が入っていない日に図書館に篭って、この数年の記事を調べ上げてみた。

 思った通り、一年が巻き戻ったと感じた前の五月から、新聞で『毛利小五郎』の名前が出るようになっていた。

 これは偶然だろうか?

 2度目のループを体験した時に夢想したことだが、俺は今生きている世界がいわゆる物語の世界なのではないかと考える事がある。

 そして、この世界がループを始めたのは、物語が進まなくなったために止まってしまったのではないか、と。

 逆にいえば、このループを解くには物語を進めればいいのではないかと。

 頭の片隅に追いやっていた考えだが、意外に当たっているかもしれないと思うようになった。普通ならあり得ないと思う事だろうが、すでにその前提は壊れている。

 

 これが物語なら、話を進めていく主人公がいるはずだ。

 もし、なにかの原因で話が進まなくなっているのだとしたら、それを動かしてやれば話――つまり時間は進むのではないだろうか。

 そして、いきなりTVに姿を見せるようになった『毛利小五郎』は、主人公・あるいは主人公と関わりが深い重要人物なのではないかと。

 とりあえず調べてみよう。毛利小五郎の近辺と、彼がTVに出だした前後で彼の周りで何か変わった事がなかったか。

 

 

 4月23日

 

 今日はバイトもサークルの活動も入っていなかったので、毛利探偵事務所を訪ねてみた。

 といっても特に依頼などある訳でもなし、とりあえず同じビルの一階、ちょうど毛利探偵事務所の真下にある喫茶店に立ち寄るふりをして情報収集と洒落込んでみた。長時間居てもおかしくないようにノートパソコンを持ち込んで、作業をしているふりをしながらだ。

 今、あの場所に住んでいるのは三人。あの事務所の主である毛利小五郎本人と、彼をお父さんと呼んでいた女の子。残る一人なのだが……甥っ子なのか? 毛利探偵をお父さんとかパパとかではなく、『おじさん』と呼んでいた。

 なんらかの関係で引き取った子なのだろうか。

 話しやすそうなウェイトレスの女の子――梓さんに話を聞くと、詳しい事は知らないが少し前から事務所で預かりだした子供らしい。

 

 少し前ってどのくらいのレベルでの少し前なんですかね?

 

 せめて時期が分からないとどうしようもないと、もうちょい踏み込んで聞いてみたら、『毛利小五郎という探偵が有名になる少し前からだったと思う』という証言が得られた。

 

 あくまであのトンデモ仮定が正しかったらという前提だが、これは……もしかしたらもしかするんではないだろうか?

 気になる点はまだある。その毛利小五郎と入れ替わるように消えた高校生探偵――工藤新一の存在だ。毛利小五郎、江戸川コナン、工藤新一……この三人がどうしても気に掛かる。

 引き続き、調査を継続しようと思う。

 

 

4月24日

 

 結論から書こう。

 やっぱりあの子供が主人公だったよ。

 今日、自分は以前お世話になった病院の先生――黒川大介という医者に自宅に招待されていたのだ。

 高校の頃、たまたま入院した黒川医院の内科医で、よくよく世話を見てもらっていた先生だ。

 年こそ離れているが趣味の将棋で話が合い、退院後も将棋クラブで何度か対戦を繰り返していた。

 今日は先生の自宅で、夕食を御馳走になってから一局やろうという話だったのだが……

 その夜に、先生の父親――黒川病院の院長である黒川大造さんが、撲殺されたのだ。

 当然、すぐに警察を呼ぶ事になり、程なくパトカーが到着した。

 普通の制服警官の他に、恰幅……と、体格のいい、帽子とひげが似合う警部――目暮さんと、その傍らに控えていた痩せ気味の刑事、高木さん。そして、その後ろには、あの毛利小五郎と娘の蘭、居候の江戸川コナンが立っていた。

 

 

(次のページへと続いている)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「なにが名探偵よ! そんなダジャレで私を犯人扱いするって言うの!!!?」

「い、いやこれは……いわゆる論理的な推理というやつ――」

「今のどこが論理的なのよ! それなら証拠を出してみなさいよ!!」

 

(ったく、相変わらずだな。このおっちゃんは……)

 

 高校生だった自分が『子供になって』から、このおっちゃんとは随分行動を共にしているが、相も変わらず推理はとんちんかん。

 たまーに光る時もあるんだけど……どうにも頼りない。というか見ていてハラハラする場面が多々ある。

 

(さて……そんじゃ、そろそろいつも通りに時計型麻酔銃で眠らせて……)

 

 黒川医院の院長である黒川大造を撲殺した容疑者は4人。

 被害者の後妻の黒川 三奈

 被害者の息子、長男の黒川 大介

 家政婦の中沢 麻那美

 そして。長男、黒川大介が招待した、彼の将棋仲間の大学生――浅見 透

 

 現場に残された最大の手掛かりは、被害者がパソコンのモニターに遺した『J U N』という三文字のアルファベット。

 

 犯人はもう分かっている。被害者のダイイングメッセージが指し示しているあの人だ。

 ただ、気になるのは……あの男――浅見 透だ。どういう訳か俺やおっちゃんの行動一つ一つを覗き見ている。いや、あれは観察していると見るべきか。

 小五郎のおっちゃんがとんちんかんな推理を始めてから興味を失ったのか、今度はこっちの動きをチェックしている。なぜだ? 名探偵のおっちゃんを見ているというのならば好奇心からつい、という事もあるだろうが……。名探偵についてきた子供の俺が珍しい? いや、それにしては随分と真剣に観察している。今もだ。

 

(っくしょー。どうにか、上手い事アイツの視界を避けて……)

 

 とりあえず、現場に直接入ってこれないアイツの視界から隠れてから……よし、いつも通りおっちゃんの首筋を狙って――

 

――パシュッ!!

 

「ふぁ……ふぁ……ふぁっくしょい!!」

 

――ひょい

 

(え――ちょっ!!?)

 

――パキンッ!!

 

 麻酔針を発射した瞬間、間が悪くおっちゃんが大きくクシャミをしてしまった。

 針は当然おっちゃんには当たらず、そのまま真っ直ぐ飛んでいき――その向こう側にいたあの男に……浅見 透に『叩き落とされた』。

 

 まじかよコイツ。麻酔銃の弾速は結構なモノだぞ!?

 

 男――浅見は自分が床に叩き落とした針を、指紋が付かないようにかハンカチを被せてから引き抜き、繁々と見つめている。そして――真っ直ぐに俺の目を覗き込んだ。

 

(や、やっべ……)

 

 ここで浅見に、あの針を警察に渡されたら――おまけにそれを俺がおっちゃん目掛けて発射してたってのがバレたら……っ!

 

(どうする……どうするっ!?)

 

「おい、少年探偵。ちょっとこっち来てくれないか?」

 

 浅見はニッコリ笑ってこちらに手招きしてやがる。ちくしょう、胡散臭い笑い方しやがって……

 

「な、なぁに? お兄ちゃん、僕に何か用??」

 

 大丈夫、いつもやってることじゃねーか。できるだけ無防備に、無邪気な子供を演じて――

 

「ごめんね。とっさの事とはいえ、針壊しちまった」

 

 そう言って浅見がすっと差し出したのは、先ほど俺が発射した麻酔銃の針。叩き落とされたせいか、床に刺さった上で曲がってしまっている。

 浅見はさらに体勢を低くして、声を潜める。誰にも聞かれないように。

 

「眠りの小五郎。巧いネーミングだね」

「な、なんのこと? さっきのはただの悪戯で……」

「君は頭がいい。こうして現場をうろついていられることが証拠だ。確かに毛利探偵は君を叱って現場から引っ張り出そうとしていたけど、他の警察の人間はそこまで咎めようとしない。またか、みたいな感じでね。まぁ、目立たないように動いてはいたようだけど。つまり――」

 

 彼は、一度そこで言葉を切る。軽く息を吸って、

 

「そう。つまり君は、無意味に現場を荒らすような行動を今まで全くしていないという事だ。そうでなければもっと厳しく――いや、絶対に君を現場から締め出しているハズだよ。君は線引きが上手い。捜査にプラスとなる行動をし、マイナスとなる行動をしない。その基本を守り、かつ相手を警戒させない。子供である事を最大限に利用してだ。そんな君がこんな危ない悪戯を? ないない。君はそんなことをする子じゃない。……なら、この針を撃ったのは必要な事だったんだろう? 俺は君みたいな名探偵じゃないが、ここまでくれば流石にこれくらいは分かるさ」

 

 呆気にとられ、針を受け取る事を忘れていた俺に『ほれ』と受け取るように麻酔針を勧めながら浅見は、ゆっくりと口を開く、

 

 

「眠りの小五郎さん?」

「え、えと……あの……」

 

 

 やっべぇ、マジでどうする!? この針を無理矢理刺して眠らせ……いや、ダメだ。

 コイツは勘が鋭い。そもそも、一度眠らせた所でその後どうする!? それに、今起こっているこの殺人だって……っ!

 

 

「解けているのか?」

「……え?」

「だーかーらー」

 

 

 ひょい、と、襟を掴まれ持ち上げられる。よくおっちゃんからやられているように。摘み上げられる、というのが正しいだろうか。

 

 

「犯人、わかってんだな?」

 

 

 ただ真っ直ぐに、俺の目を覗き込む。奴の瞳に俺の顔が映っているのが見えるくらい、まっすぐ、鬼気迫ると言ってもいい表情で俺を見ている。

 

「あ。あぁ」

 

 虚偽は許さない。そう言わんばかりの気迫に押されて、思わず素に戻って答えてしまった。

 

「……これ、麻酔針は使えるか?」

「ちょっと待って。……だめ、さっき拾い上げた時に布で拭ったし、かなり強く叩きつけたせいか、薬がもう出ちまってる」

「チッ。図らずも、探偵役の邪魔をしちまったわけか」

 

 軽く顔をしかめると、コイツは暫く顎に手を当てて考え込みだした。

 数秒程だろうか? 僅かな時間をそうして過ごすと、立ち上がった。

 

「声は誰の声でも出せるのか?」

「え? あ、うん」

 

「そうか。……んじゃ、頼むわ」

 

 立ち上がる際、そう呟いた浅見はもう一度僅かな時間を使って、何度か静かに、だが深く息をする。そしてついに――

 

 

「なるほど……どうやら本日は、有名な『眠りの小五郎』の推理ショーは見られないようですね」

 

 ひょっとしたら何かそういった訓練をしていたのだろうか? 程良く響く声で、そう告げた。誰に聞かせる――ではない、この場にいる全ての人間の耳を、目を引くように――惹くように声を紡いでいく。

 

 

「なら、次は私がお見せしましょう。しがない、いち大学生の推理ショーを……ね」

 

 

「にゃ、にゃにおうっ!!?」

 

 浅見は静かに、だが力強く切り出した。

 態度だけなら、既におっちゃんより探偵然としている。

 

 

「なんだね、君は一体?」

「失礼、先程は言っていませんでしたが……。私は助手なのですよ。とある探偵のね」

「探偵の……助手?」

 

 

 目暮警部の問いにそう返し、『とある探偵』の所で、こちらに目線だけで合図をしてきた。

 疑わしげな目暮警部の視線など気にしないように、不敵に笑ったまま――浅見 透という男は堂々とそこに立っていた。

 

 ……OKだぜ。なんで協力してくれるか分かんねーけど、力貸してくれるんなら――!

 

『――ふっ。そう、先ほど警部さん達の会話に出てきたJUNという三文字のダイイングメッセージ。これは極めて単純な物なんですよ。毛利探偵が見抜けなかった――いえ、見落としたのも無理はない。今まで名探偵と名高い毛利探偵が解いてきた物に比べて、質は恐らく低い物でしょうから』

 

 いつもと同じく、蝶ネクタイ型変声器で浅見の声を真似て出す。

 

「単純な物だと?」

『そうです、警部さん。このメッセージは被害者が鈍器で殴り倒された後、犯人が去った後に死ぬ間際で残る力を振り絞って遺した物。その内容はひどく単純なものなんですよ。その三文字はそのまま犯人を指し示すワード』

 

 

『そう、犯人は――貴方です!』

 

 

 これは、俺とアイツの最初の事件。そして、これから始まるとんでもない事件の始まりだった。

 この時、俺は予想もしていなかった。ホームズにワトソンがいるように、俺にも、

 

 

――相棒が出来るなんて

 



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002:ささやかな日常、及び始まりの招待状

ちょっと予定より短かったですが、キリが良かったので投下


 黒川邸の事件は無事解決できた。

 いや、できたというのは語弊がある。結局、あの江戸川コナンに全部頼った形だ。自分の力など、99%関与していなかった。残る1%? まぁ、パペット役にもそれくらいの価値はあっただろうさ。

 それに、自分は探偵ではない。それに関して無力感を感じるのも本来はお門違いというモノだ。気にするのもアレだろう。

 そう、『事件』は無事に解決できたのだが――

 

「さて……説明してもらおうか、容疑者江戸川コナン。自称6歳」

「おい。容疑者はやめろって……」

 

 俺にとっての本題はこっちだ。この終わらない一年を終わらせるためにも、ここでこの自称小学生を逃がす訳にはいかない。

 

「毛利小五郎の昔の事は色々調べていた。少し前まで事務所は閑古鳥が鳴いていたってな。もし彼に本当に能力があるのなら、さっきの様子からしてもっと派手に喧伝してるハズだ。有名になっていないのがおかしい」

「あぁ、確かに……おっちゃん、お調子者だからなぁ……」

 

 江戸川コナン――フルだと長いな。江戸川はため息混じりにそう呟く。

 まぁそうだろう。なにせ、解決した覚えのない事件が相当多いはずなのに、堂々と自分で『名探偵』と豪語しているんだ。江戸川……苦労してるんだろうなぁ。

 

「まぁ、一番不審に思ったのは、ある名探偵が消えた後に、新しい名探偵が入れ替わるように出てきたことだけどな」

「…………」

「何も言わないのか?」

「ったく。おめー、もう確信してんじゃねーか」

「子供の体ならどうにかなるんじゃないか?」

「んな事言ってる時点でもうどうしようもねーだろうが」

 

 あぁ、やっぱりそうだったのか。正直、半信半疑だったけど、やっぱりコイツ、高校生探偵の――

 

「んで、工藤新一君。なんでこんな面白可笑しい状況になってんのか……教えてくれないか?」

 

 ここだ。能力の高い高校生探偵が子供の姿になった。恐らくこれが、メインストーリーだ。

 思わず身を乗り出してしまいそうになるのを、必死に抑えながら尋ねる。だが、江戸川は俯くばかりだ。暫くばかりじっと待っていると、ようやく彼は口を開いた。

 

「……その、協力してくれた事には感謝している。本当だ。俺の事を誰にも言わなかった事も……本当に感謝してる。けど――」

「――説明するわけにはいかない。いや、違うな。知られるわけにはいかない、か?」

「……あぁ」

「……そう、か」

 

(どうする? どうにか踏み込むか?)

 

 一瞬迷ったが、この様子だと恐らく話してくれないだろう。

 とはいえ、このままバイバイというのもアレだ。

 

「ちょっと待て。えぇと……あった。ほれ」

「え?」

 

 いつも持ち歩いている手帳からそのページを見つけ出し、それを破って渡した。自分の名前と住所、家と携帯の電話番号にメールアドレスが書かれているページだ。

 

「持っときな。全てじゃないとはいえ、事情を少しは知っているんだ。役に立つ時もあるだろうさ」

「あ、あぁ……確かにそうだけど……どうしてそこまで?」

 

 さて、どうしてなのか、全て説明してやろうかとも思うが……信じてくれるだろうか?

 今年は3年目の今年なんだ、と。とんでもない現象を自分の身で体験している彼なら、あるいは信じてくれるかもしれない。だが――

 

「さぁ? そこは内緒だ」

「んだよそれ……」

 

 そうしてむくれる姿はどう見ても年相応なんだが…… 

 

「内緒にしておきたいことは誰にでもあるだろう? 君が子供になった理由を話せないようにね」

 

 結局、話さないようにした。仮にこの世界が、俺の妄想通りに物語だとするなら、それを自覚出来ている自分は間違いなくイレギュラーとなる存在だ。それを、世界の基幹だろう人物に伝えた所で、何が起こるか分かったもんじゃない。戯言と受け取られ、何も起こらない可能性も十二分にあるわけだが……。

 

「コナンくーん! そろそろ帰るわよー!! 高木刑事が送ってくれるってー!!」

 

 遠くの方から、毛利探偵の娘さんが工藤――いや、江戸川を呼んでいる。

 毛利探偵は眠そうな欠伸をしながらこちらを睨んでいる。当然と言えば当然だが、向こうのお株を奪った形になるのだ、いい印象を持たれないのは当然だろう。

 

「――あんまりあの時計、使いすぎるなよ? 『眠りの小五郎』にも意味はあるんだろうが……それをやりすぎると互いのためにはならんぞ、きっとな」

 

 なんとなくそう思い、江戸川に忠告しておく。どんな事柄にも言えることだけど、慣れと言うモノはとてつもなく恐ろしいものだ。プラスの意味での習慣ならば話は別だが、慣れはそのまま怠惰を呼び、忘れたころに痛みという教訓と共にやってくるのだ。

 物語として、あるいはその教訓を得る所まで含まれているのかもしれないが……せっかく知り合った仲なのだ。ループとか主人公かもしれないという事は置いておいて、知り合ってしまったんだ。しょうがないだろう?

 

「……そう、だな。覚えておくよ」

 

 江戸川は、最後にもう一度『ありがとよ』と小さな声で呟くと、それまでの声と違う、子供らしい高い声で「待ってー!」と叫びながら彼女達の所へと戻っていた。

 

「……さて、俺も行くか」

 

 目暮警部から調書取りのためにこれから警察に来てくれと言われているんだ。明日は休みだとはいえ、ゆっくりはしていられない。調書を終わらせたら、今日は早く休んで明日に備えよう。

 

 

 

 

 

 

 ――あ、やっべ、向こうの連絡先聞くの忘れてた

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それで浅見様は警察に……。そうですか、悪事を働いたというわけではなかったのですね。ふなち、ほっと致しました!」

「ふなちさん、昨日の夜暴走していたよね。浅見君がパトカーに乗ってるのを見かけて『浅見様がついに不祥事を!』って……」

「越水様、『さん』は不要だと――。いえ、なんにせよ安心致しました。浅見様が日ごろの鬱憤を抱えて、よもや犯罪に手を染めたのではないかと、ふなちは不安で不安で――!」

「――どうしよう越水、この腐った友人が心配してくれたことを喜ぶべきかな。それとも、いつかやらかすと思われていたことを怒るべきかな。どっち?」

「まぁ、ここは素直に喜んどいていいんじゃない?」

 

 

 そんなこんなで次の日、朝っぱらから友人(一応、先輩にあたるんだが……)のふなち、こと中居 芙奈子からのけたたましいモーニングコールに叩き起こされる羽目になった。

 朝一番から、『ついに悪事を働いてしまわれたのですか! 浅見様!!』などという叫び声を聞かされた件について一度厳重に抗議を入れたい。

 今俺たちがいるのは、ランチが安いことで有名なカフェ。

 話を聞きたいということで、二人の友人からお呼び出しを食らったのである。

 

 

「まぁ、良かったよ。私も浅見君が逮捕されたなんて聞かされたから、ちょっと焦っちゃった」

「ふなちぃぃぃぃぃぃぃ……」

「うぅ……申し訳ございませんでした……」

 

 

 もう一人は、越水七槻。同い年の大学二年生で数少ない自分の友人の一人だ。

 

 

「まぁ、安心しなよ浅見君。もし君が事件に巻き込まれたら、その時は私―いや、『ボク』が解決してあげるよ」

「お、おう……。そういや、探偵だって言ってたな。冗談だと思ってたよ」

「ひどいなぁ。一応これでも九州では有名だったんだけど?」

 

 

 また探偵かよ。俺が気付かなかっただけで、実は俺の周りにむちゃくちゃいるんじゃねーだろうな? 探偵って人種が。

 

 

「そういえば、越水様は福岡の御生まれだと以前お聞きしたことが……」

「こっち来てから、その探偵業は続けてんのか?」

 

 なんとなく気になって尋ねてみた。ふなちもそうだが、越水の将来というのがどうにも想像できない。

 探偵をやっていたと言われれば、確かに似合っている気もするが……

 そして、俺の問いかけに越水は首を横に振って、

 

 

「ううん、今は特に依頼を受けるようなことはしていないよ。もっとも、一個だけやり残したことがあって、今度の連休にもう一度四国に行くことになってるんだ。探偵稼業をやっていくかどうかは、その後で考えることにしているよ」

「ふーん……。そっか」

 

 

 ――そう、その後で……ね。

 

 

 そう小さな声で呟いた越水が、真面目な顔で呟いたのが妙に印象に残ってて――

 

 それが、真面目な顔ではなく、思い詰めた顔というべき物だと理解できたのは、ほとんどすべてが終わった時だった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「んで、話は変わるけどさ……。お前ら、ガーデンパーティーに興味ないか?」

「本当に話が飛ぶよね、浅見君。それに……ガーデンパーティー? 君にそんな高尚な趣味があったなんて知らなかったな」

「ほっとけ。つか、代役みてぇなもんだけどな」

 

 

 朝、こいつらと会うまでの話だが、ちょうど大介さんから電話があったのだ。

 

 

『昨夜は事件に巻き込んですまなかった――』

 

『それに事件まで解決してくれて、なんとお礼を言っていいのか――』

 

『それで、この屋敷を設計した人からパーティーのお誘いが来てたんだけど、こっちはこれから病院のことで忙しくて……よかったら友人を誘っていってみないかい? 招待状は3人分あって、パーティーを企画した人も別にいいって――』

 

 

「――ってな具合で、招待状くれるって言うんだけど……もらっていかないのも悪いし、かといって――」

「ご友人の少ない浅見様では、そのような華やかな場に同行して下さる方などとてもとても――」

「喧嘩売ってんのかふなちぃぃぃぃぃっ!!?」

 

 このやろう、他の人間には暴走することはあってもそれだけなのに、俺にだけはちょくちょく毒が出やがる。

 

「まぁまぁ、浅見君落ち着いて。ふなちさんもあんまり煽らない。彼、友達少ないの気にしているんだから」

「なにちゃっかり止め刺しにきてやがるっ!!」

 

 ちくしょう、お前達だって他の面子とつるむこと少ねーだろうが。特にふなち!

 

「~~~っ! ま、まぁ……残念ながらその通りだよ」

「でも、なかなか面白そうだよね。日程はいつなの?」

「あぁ、わり。そういや言ってなかったな。29日の火曜日だよ。時間は3時半。」

「29日とはまた急ですね。少々お待ちを……。えぇ、その日ならば空いております」

「私も大丈夫。久々にしっかりおめかしして行こうかな? あ、そうだ。ちなみに招待主って誰なの? さっき建築家って言ってたけど」

「えぇと、なんか有名な人らしいけど……」

 

 大介さんから聞いた名前を一応メモっておいた。後で調べようと思っていたんだが、そういえばずっと忘れていたな。

 手帳の最後の方のメモ欄に書いたはずと、そこらへんをパラパラと捲り――あった。

 

「モリヤ テイジって人なんだけど……知ってる?」

 

 メモしておいた名前を告げた。すると、ふなちと越水は顔を合わせ、

 

「知らないの!?」

「ご存知ないのですか!?」

 

 

 

 

 

「え、あ、うん…………なんか、すみません」

 

 

 

 

 

 

 




原作において、越水はどこに大学に通っているという設定がなかったような気がするので、
都合のいいように捕らえて、九州から上京してきた設定にしております。

あと原作派の方に説明しておくと。ふなちこと中居芙奈子は、アニメオリジナル回に登場したオタクな女の子です。コナンの助けがあったとはいえ、推理しているときの堂々とした態度とドヤ顔っぷりはすごい好きでした。

(σ・∀・)σ<おとぼけ~~~!


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003:ガーデンパーティー(副題:ホームズとの再会)

「一応スーツを引っ張り出してきたんだけど……大丈夫かな?」

「おぉ! お似合いです、浅見様!」

「うん、似合ってる似合ってる。やっぱりスーツなら誰が着てもそれらしく見えるね~」

「……さりげにディスるのは止めてくれませんかねぇ」

 

 ティーパーティー当日、俺たちはそれぞれ正装した上で、一旦越水の家に集合することになった。彼女が、この中で唯一車を持っている人間だからだ。自分は……まぁ、免許と安い中古の原付だけは持っているよ。

 

「それにしても……俺からすりゃあ、あれだ。フナチがドレス着てるのが一番、こう、なんというか……」

「言いたいことはわからなくもないけど、私は似合うと思っていたよ? ふなちさんの服装、いつも可愛いしねー」

「わわわわ、か、可愛い……ですか?」

 

(……まぁ、黙ってればなー)

 

 ふなちはいつもの――可愛らしい? 服装を、ちょっと大人しめにした感じだろうか。パステルカラーが多い彼女の普段着だが、今日は黒メインのパーティドレスだ。少しゴスロリ寄りと言えばそうだろうが、意外な事によく似合っている。いつも引きずっている小さなキャリーバッグもいいアクセントになっている。

 越水は、自分とほとんど変わらないスーツ姿だ。違いがあるとすれば女性用というだけだろうか。パンツスーツなので、ぱっと見た時は一瞬男に見えてしまった。

 これだけ書くと悪口のようだが、越水はセミロングの髪と中性的な顔立ちも相まって、ボーイッシュな服装が本当によく似合うのだ。

 

「浅見様? そのお顔は、なにやら私達にとって不愉快なことを考えていらっしゃる顔ですわね?」

「……越水、ちょっと今の俺の顔、写メとってくんない? これからの参考にするから」

「何の参考にする気なのよ、まったく」

 

 いつも通りのやり取りに越水は呆れたといった様子で軽く肩をすくめてみせる。

 

(まぁ、ふなちも越水も顔はいいからなぁ。着飾って化粧すればそら映えるか)

 

 正直、美人二人に囲まれて平和な日々を過ごすのは嫌いではない。むしろ積極的に好きである。

 越水は普段から気が利く存在だし、話してて苦痛ではない。

 ふなちは人を振り回し、こっちの話を聞かず平穏を乱してくる存在のトップだが、なんやかやでコイツも傍にいて苦痛に思う事はない。

 たまに喧嘩をする事はあれど、だいたい互いに謝って終わりだし、後に引いた事もそういえば少ない気がする。

 ……少しだけだが、ループを解かなくてもいいんじゃないか? と、そう思った自分がいる。

 この、楽しい時間がいつか終わると思うと――少し、いや、かなり淋しい。

 

「ま、有名な建築家のパーティに参加できるなんてそうそう無い事なんだ。いい思い出作りになんだろ、楽しもうぜ――特にふなち」

「へ? な、なにゆえ私を指名されるんですか?」

「お前、俺が誘ってなかったら今日はどうしてた?」

 

 今日ですか? とふなちは唇に軽く指を当てて考える。

 その時間はかなり短かったので、元々今日は、他人と関わらない個人的な用事を入れていたのだろう。コイツの場合だと間違いなく――

 

「まずはanime shopに行って本日の新刊とそのおまけのグッズを吟味したうえで三冊ずつ購入して、それから先日オンラインショップで注文したゲームが届きましたので……っ! 近年の乙女ゲームにおいて最高のキャラと謳われる蜃気楼の君様のその後が作中で語られるらしいですし……あぁ! やはり、残念ですがパーティーのお誘いはお断りして、本日は蜃気楼の君様と一日――」

「時刻、ヒトヨンヒトロク」

「被疑者、確保」

「よし。うら、行くぞ」

 

 ここら辺はこの2年――プラス2,3年の仲の賜物だ。即座に二人でふなちの腕をそれぞれ確保する。

 

「あ、あら!? あ、浅見様、越水様! どうか! どうか手を御放しにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

「却下だドアホウ」

「ふなちさ~ん。君の趣味を否定するつもりはないけど、いい機会だからもっと外に出ることを覚えようよ~」

「お前、ゲームのために、この間カップ麺と麦茶だけで連休過ごしてただろうが。その様子だと、今日の分――いや、今度の連休の分までカップ麺とかおにぎりとか貯め込んでやがるな?」

「この間あんなに説教したのに……」

「し、しかし! 蜃気楼の君様とのお時間は私にとって――! あぁ、ちなみに私のニックネーム『フナチ』は、ゲーム内で蜃気楼の君様をお慕いするヒロインの――」

「越水、さっさとコイツ車に詰めよう」

「トランクでもいい?」

「OK」

「浅見様ぁぁぁぁっ!!!??」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 洋風の庭園というのは、やはり圧倒されるような美しさがある。計算され尽くした美しさというのだろうか。程よい大きさの噴水が中央に設置され、それを囲むように木をメインに植物が配置されている。

 来客の印象に残らないほど地味ではなく、威圧するほど派手ではなく――。

 素人から見た感想だが、逆に言えば素人ですらいいものだと分かる作品だと言える。――ような気がする。

 

「……なるほど、屋敷の方も含めて完全に左右対称。シンメトリーになっているわね」

「イギリスの古典建築を好まれるそうですわね。なんでも森谷様、シンメトリーに拘るがゆえに名前の方も読みをそのままに漢字だけ左右対称の漢字に変えたらしいですわ。こう、ペンネームのような感じで」

「こだわりもそこまでいくと凄まじいな……」

 

 携帯でちょっと調べてみる。すると、……なるほど、森谷 帝二。『帝二』ね。

 

「うぅぅぅ、今更ではありますが、やはりふなちは場違いな気がしてきたのですが……」

「あほぅ、気にしすぎなんだよ。今回俺たちが代役としても参加してもいいって言ったのは森谷教授自身だ。なら、楽しめるようにパーティーを進めるべきなのは向こうだ。つまらなかったり浮いちまったら、森谷教授の気が利かなかったせいで、俺たちが場にそぐわないとか見当違いもいいところだろ」

 

 

「……………」

「……………」

 

「―――なに、その目?」

 

 

「…………浅見君、相変わらず変な所で肝据わってるよね……」

「……さすがの私もドン引きですわ……」

 

 さて、なにゆえ友人達から冷たい目で見られなければならないのだろうか。俺は当たり前のことを言っただけだというのに……解せぬ。

 

「おや。ひょっとして――浅見 透というのは君かね?」

 

 なにやら微妙な空気になった所に、聞いたことのない声が割って入ってきた。

 

「初めまして、浅見君。君の事は大介君から聞いたよ」

「――森谷教授ですね? 本日はお招きいただき、ありがとうございます。大介氏の代わりとして参りました、浅見 透です。どうぞ、お見知りおきを」

 

 おい、後ろの二人。陰でコソコソ「誰? あれ?」とか言ってるんじゃない。俺には聞こえてんだからな。

 

「黒川院長のことは残念だった。息子の大介君はこれから大変だろうな……。お父さんの事もそうだが病院の事もあるだろうからな……」

「えぇ……」

「だが、こう言ってはなんだが、君という存在を知れたのは非常に嬉しいよ。私は若い才能の種を見つけるのが大好きでね」

「才能……ですか?」

「あぁ、大介君から聞いたよ。あの眠りの小五郎が解けなかった殺人を、現場を一瞥しただけで物の見事に解決したと。いや、素晴らしい」

 

 いえ、解いてません。

 

「黒川院長って……この間の殺人事件? 病院の院長が自宅で撲殺されたって」

「あ、浅見様、殺人事件を解決されたのですか!?」

 

 いえ、口をパクパクさせて立っていただけなんです。

 あ、止めて、越水さん。その疑わしさMAXの微妙な視線止めてください。

 ふなちも目をキラキラさせてこっち見るの止めろ下さい。

 

「おや、こちらのお嬢さん達は――」

「あぁ、失礼致しました。二人は、同じ大学の友人です」

「申し訳ございません、御挨拶が遅れました。越水七槻です」

「あわわ、なな、中居芙奈子と申します!」

 

二人が挨拶すると、いかにも紳士といった佇まいで森谷教授は一礼する。おい、俺には頭下げなかっただろうがおっさん。

 

「今回の趣向として、ちょっとしたクイズを用意している。君みたいな推理力に優れた人間には、楽しんでいただけると思うよ」

「……なるほど、クイズ……ですか」

「えぇ、ほんの余興として、この知恵足らずの頭から捻り出したものです」

 

 照れ隠しの笑みを浮かべる森谷教授。

 それだけならば、こちらもいい年をした男だ。成人だ。「いえいえ、そのような……」のような感じで返すのが大人の対応というものだろう。

 

「もっとも、あの名探偵を上回るという頭脳をお持ちと言うのなら、このような問題など解けて当然でしょうが……」

 

 

 かっちーーーーん

 

 

 頭の中で、擬音として表わすならばそんな音がした気がした。

 大人の対応? ゲストのマナー? え、なにそれ食えるの?

 

「いえいえ、自分はしがない若造。高名な森谷教授が考案されたパズル、そう易々と解けるなんて……。『それは悪いでしょう?』」

「……ほう」

 

 いかにも、といった目で森谷教授はこちらを見ている。『解いて見せろ、小僧』と、そう挑んでいるような目だ。先に喧嘩売ってきたのはそっちだろうが。

 パーティのホストが自信満々に上から目線で挑んでくるのならば、それを叩き伏せ、踏み付けて高笑いするのがゲストの義務というモノだ。大丈夫、俺の主観で言えば俺は間違っていない。

 

 そこのどん引きした目で俺を見ている二人は後でミーティングな。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「で、いつの間に殺人事件を解決なんて探偵みたいなことをやってたの? 浅見君?」

「すみません、後で全部説明しますのでその腕を放していただけないでしょうか、越水探偵」

 

 ミーティングで強気に出て誤魔化そうと思ったけどダメだったよ。

 てか越水、お前力むっちゃ強いね。俺の腕、多分服の下で青くなってるよ、マジで。

 

「……はて?探偵って事件を解決するというより、素行などの調査が主な仕事ではないのでしょうか?」

 

 よく言ったふなち。もっと言ってやれ。越水然り、あの眼鏡のガキとか爆睡の小五郎とかそこら辺に。

 

「ねぇ、浅見君。なんでこっちを見ないの? 話をする時は人の目を見るようにって教わらなかったかな?」

「あの……ほんと、すみません。隠し事をするつもりはなかったんです」

「――危ない事はなかった? 事件を解決って、聞こえは良いけど恨みも買うよ? もし間違っていた場合は恨みどころか――」

 

 腕を掴んでいた手は、いつの間にか肩へと動いていた。

 あの、越水さん。さっきから俺の肩からギチギチと何かが鳴る音が響いていてててててっ!

 

「あ、あぁっ。恨みはわかんねーけど、そっちは大丈夫。一番の証拠になる血痕もその人から出たし、動機も含めて全部自白して認めたから……っ」

「――そう。なら、うん……いいけど」

 

 俺がそう言うと越水は手を放し、今度は顔を両手で挟むようにして自分の方にまっすぐ向けさせ、 

 

「――本当に、気をつけてよね」

「お、おう……」

 

 まぁ、昨夜の出来事は俺が『眠りの小五郎』の邪魔をしてしまうというハプニングが起きたために起きた『推理ショー』だ。探偵役になることは……あるかもしれないが、そうそうは無いだろう。

 

 

「まぁまぁ、お二人とも。そこまでにしておきましょうよ」

 

 メインの会場となるこの裏庭には、すでに多くの人が集まっている。その視線が気になり出したのだろう、ふなちが割って入ってきた。情報に疎い俺でも知っている音楽家にモデル、料理人などテレビによく出る人達がゴロゴロいる。

 

「もうすぐパーティーも始まるようですし」

 

 ふなちがそう言って視線で指し示したのは、入口の方。森谷教授が、最後の客を案内している所だ――って

 

「わぁー、すごい庭園! 来てよかったね、二人とも!」

「はは、気に入っていただけて何よりです。さぁ、遠慮なく、午後のひと時をお寛ぎ下さい」

 

 森谷教授にエスコートされて入ってきたのは、おっさん一人、女の子一人、そして眼鏡のガキンチョ一人の計三人だ。――というか。

 

「あれ? 貴方は、先日の――」

 

 やはり覚えられていたのだろう。女の子が自分を見て声を上げる。

 

「んん~? あぁぁぁっ!! き、貴様というお前は!!?」

 

 続いておっさんの方が――うん、ごめん越水。そういやこっちの恨みは買ってたよ、俺。

 

「――浅見っ……さん!?」

 

 おいそこの年齢詐称小僧、今ナチュラルに呼び捨てにしようとしたなコノヤロー。

 

「はれ? あの方は……名探偵と名高い毛利小五郎様では? 浅見様、お知り合いだったのですか?」

「まぁ、一応な? つっても、先日の事件で知り合っただけなんだけどな」

 

 つっても、あの中で知り合ったって言えるのは毛利探偵でも娘さんでもなく……

 

「や、黒川邸以来だな、江戸川君」

「久しぶりだね! 浅見おにーちゃん!」

 

 ――ゴメン、サブイボ立った。

 

 子供に目線を合わせるようにしゃがんでから小さい声でそう言うと、江戸川は小さく「うっせ」とぼやく。

 

「ってか、なんで此処にいるんだよ?」

「黒川家の皆さんの代わりだよ。事件に巻き込んだ侘びと……解決したお礼って事でな」

「ほ~~ん? 解決した、ね」

「うん、正直体中が痒くなってしゃーない」

「……わりぃ、今のは俺が悪かった」

 

 俺が江戸川と話している間に、越水とふなちは、毛利探偵たちと互いの紹介を終えたようだ。

 

「さて、どうやら招待していた方は全員揃ったようですな」

 

 そうこうしている内に、森谷教授が声を上げる。

 

「本日は私の主催するガーデンパーティへお越しいただき、誠にありがとうございます。お茶と簡単な料理を用意させていただきましたので、どうぞご自由にお寛ぎ下さい。ただ――宜しければ、ちょっとした余興はいかがでしょうか?」

 

 あの野郎、俺と毛利探偵をあからさまに見やがったな。

 

「なに、ちょっとしたクイズですよ。ある三人のパソコンに設定されているパスワードを当てる、ね」

 

 そう言って森谷教授は、紙の束を取り出した。問題用紙か?

 

「これは、その三人のプロフィールです。パスワードは三人とも同じもので、ひらがな五文字。三人の共通する言葉です。見事解かれた方には、特別に私のギャラリーへと、御招待致しましょう」

 

「もっとも、本日お越しのゲスト……名探偵である毛利小五郎さんや、彼に匹敵するとも噂されている、ある大学生には少々簡単すぎるかもしれませんが……」

 

 そう言う森谷教授の目は、さっきとは違い確実にこっちを見ている。

 それに釣られて毛利探偵もこっちを睨んでやがる。おぉう、まったくもう、どうしてこうなるのか。

 森谷教授は急に悪人顔でこっちに笑いかけている。あぁ、良い年した大人がさっきの私の煽りにかかったと?

 

「もちろん、受けて下さいますよね?」

 

 はっはっは、どうしたんですか、東都大建築学科の名誉教授。建物はともかく煽り方となると組み立てが下手ですなぁ――

 

「越水、ふなち、知恵貸せ。速攻で解いてやる」

「……や、まぁ、力になるけど……」

「燃えておりますわね、変な方向に」

 

 ふなち、うっさい。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

『小山田 力 (おやまだ りき)(A型)』

昭和31年6月生まれ

趣味:温泉めぐり

 

『空飛 佐助 (そらとび さすけ)(B型)』

昭和32年6月生まれ

趣味:ハンググライダー

 

『此掘 二(ここほり ふたつ)(O型)』

昭和33年1月生まれ

趣味:散歩

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 これが問題となる三人の情報だ。やはりというか、パッと見では共通する物がない。

 

「うーん、気になるのは名前、誕生日、趣味といった所かな」

「ええ、血液型は4種類。RHの違いを含めても8種類。こういった物の問題にするのは難しそうですわね」

「名前はどうだ? あからさまに怪しい感じだが……」

 

 三人で額を突っつき合わせて考えている。

 文字通り、三人寄れば文殊の知恵だ。越水は頭の回転速いし、ふなちも頭は悪くない。発想力と記憶力はかなりのものだ。

 俺? お察しください。

 

「あの野郎、こっちを見向きもせずにパイプ吹かしやがって……」

「なんでそんなに敵愾心を燃やしてるの?」

「人を試そうとする奴は基本的に人類の敵。常識だろ?」

「そんな常識聞いたことないよ。や、言いたいことは分かるけどさ」

「分かるんなら問題ないだろう?」

「……変な所で頑固というか負けず嫌いというか俺様気質というか馬鹿というか」

「おい、最後なんつった越水」

「え、それ以外はよろしいんですの?」

 

 そこら辺は気にしない。さて、問題で気になるのはさっき言った通り名前だが……。

 

「浅見様が仰る通り名前でしょうか? ひらがなで五文字らしいですし、何か並び替えるとか、漢字とか」

「……いや、ボクもその線は考えたけど、それらしいワードは引っ掛からなかった」

「となると……」

 

 カンニングみたいでちと気が引けるが、反射的にチラリと江戸川の方を覗いてみる。指を折って何か数え始めている。

 数える……数字。となると――

 

「越水、ふなち、誕生日で気になる事ってあるか?」

「誕生日?」

「ふむ……そういえば、綺麗に一年ずつズレていますわね」

「――だね。誕生日にそれ以外の情報があるとすれば……あっ」

 

 越水が小さく叫び声を上げるのと同時に、ふなちも勘づいたようだ。指を折って何かを確認しだしている

 

「ヒントは三匹の動物だよ、浅見君。もっとも、答えは動物じゃないけどね」

 

 耳元で越水がヒントを囁いてくれたが、まだ分からない。

 三匹の動物。つまりそれぞれの人物が動物を指している。生年月日から示される動物。 

 

「あっ」

 

 そうだ、生年月日には書かれていない情報がもう一つあった。

 

「正解は――」

「そう、」

 

 

 

「「「「ももたろう!!」」」」

 

 

 俺と越水、ふなち、そして江戸川の4人の声が、同時に裏庭に響いた。

 

 

 

 



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004:ある大学生の日記② (副題:激動の一日~前半戦~)

久しぶりに書いたっていうのもあるけど書き方が安定しないorz
リハビリ兼ねてるのもあるから慣らし慣らし書いていきますので、ここら辺の話は、内容とかはそのままにちょくちょく手直し加えるかも。


そして気が付いたら日刊2位とナニソレコワイ。(´・ω・`)
そして越水七槻の人気っぷりが凄まじくてマジでビビる


4月29日

 

 今の気分を一言で書こう。

 

 ざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 

 や、俺一人の力で勝ったわけじゃないけど、森谷帝二のあの顔に泥を塗ってやったのは最高だった。

 なんだろう、初めて会ったとは思えないほどに気が合わない相手だった。あれだ、あの紳士ぶった佇まいで攻撃的な本性を隠している感じが非常に気に入らなかったんだ。

 これを越水達に言うと、すごい怪訝な感じの目で見られたが……。

 あの後、クイズに正解した俺たちと江戸川、そして一緒に蘭さんがギャラリーへと案内された。

 中には森谷帝二がこれまで建ててきた建築物の写真が額に入れて飾られていた。有名人の屋敷、教会、橋、米花シティビルと、本当に色々建てている。名建築家というのは伊達ではないようだ。

 で、問題はここからだ。江戸川――工藤のアホは、蘭さんと5月3日に、米花シティビルの映画館でオールナイトの映画を見る約束をしているらしい。工藤新一と、毛利蘭が。

 

 アイツなにしてんの?

 

 ひょっとしたら、何か策があるか、実は自由に元の体に戻れるのかと思ってそっちを見たら、顔を引きつらせて固まっていた。

 

 アイツなにしてんの?

 

 なんでも5月4日がアイツの誕生日らしく、オールナイトの映画が終わった後に二人で祝う……らしい。

 

 え、お前ら、年とんの?

 俺、20歳から全然年取ってないんだけど。永遠のハタチなんだけど。

 

 

 4月30日

 

 今日はスーパーで生鮮食品が安くなる日だ、講義が終わり次第原付を飛ばしてスーパーまで買い物に行けば、蘭さんと、その友達の鈴木園子にあった。まさかいきなり堂々と、『あんま冴えない感じ』と言われるとは思ってもみなかった。

 まぁ、なんだろう。関わると面倒くさそうな感じはしたが、不思議とそこまで嫌みには感じなかった。

 

 感じなかったけど泣いてもいいかな(真顔)

 

 蘭さんがえらく謝ってきたが、正直その横で悪びれずに「ニヒヒ」と笑ってられる鈴木さんの肝はすごいと思った、うん。

 そのままなぜか二人と一緒に買い物をする羽目に。

 

 なんでそうなるかな?

 

 

 

5月1日

 

 珍しく、江戸川から電話が入ってきた。先日のパーティーの際に今度こそ連絡先を聞いてはいたのだが、互いの着信履歴に名前が入った事は、試しがけの一回のみだろう。

 ついに話が進んだのか? そう思って通話ボタンを押すと第一声が

 

「おい、お前変装とかそういう特技、持ってたりしないか!?」

 

 反射的に電話を切ろうとした俺は、多分間違ってないと思う。

 お前アホか。どうやら、背格好が近い俺を変装させた上で小型スピーカーを付け、例の変声機と組み合わせてどうにか乗り切ろうと考えたらしい。うん、アホか。

 そもそもだ、そうそう完全に他人になりきれる変装術の持ち主なんてそうそういて――

 あ、いるわ。キッドとかルパンとか。いや、泥棒ばっかじゃねーか。

 

 なんにせよ、そういった技能は持ってないと伝えたら、「だよなー」と電話の向こうでうなだれていた。当たり前だ。

 俺が持ってるスキルなんて、精々が家事と語学(英語のみ)くらいだ。将棋は下手の横好きだしな。

 結局、その後電話で互いの近況とかを軽く報告し合い、近いうちにまた会う約束をして会話を終えた。

 その後、ふなちと越水が来てウチにだべりに来た。酒と料理持参で。

 さすがだ、我が心の友よ

 

5月2日

 

 なんか知らんけど、猫探しに付き合う事になった。小学生の。

 出会ったのは、ゲンタ、ミツヒコ、アユミという三人組。どうやら彼らは少年探偵団というらしく。今までに数々の難事件を解決してきたと豪語していた。正直、スッゲー嫌な予感がしたが、ただの猫探しだったんで協力する事になった。

 他にもう一人いないか? って聞きたかったけど、それはそれで面倒くさい事になりそうだったんで聞けなかった。探偵系主人公とそのグループが揃って何かしてる。

 

 ―― 死人が出るな(確信)

 

 まぁ、結局そのあとどうにか猫を捕まえる事は成功し、飼い主の元へと届けた後、一応三人をそれぞれ家まで送り届けてから帰宅。

 

 そういや、明日アイツどうするつもりなんだろう? なんだったら明日、アイツのとこに寄ってみるか。

 なんか、アイツの知り合いの阿笠とかいう人に会ってほしいらしい。とりあえず、今日はもう寝よう。

 

 

 

 

 

(5月3日の記述が抜けている)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ふわぁぁ……ぁ……」

 

 いかん、眠い。日記を書き終わってからすぐに眠るつもりだったが、なーんか眠れず、うだうだやっている内に朝の5時になっていた。おまけに起きたのは9時。4時間、いや、多分3時間くらいしか眠れてない。ちっくしょー。

 このまま夕方近くまで眠ってようかとも思ったが、さすがにそこまで自堕落な生活をすると越水に怒られるし、ふなちに何も言えなくなる。それに、眠気より強く空腹感を感じる。

 

「さて、どこで食うかな」

 

 どうせ江戸川達に会うのだからと、米花駅へと原付を転がして来ていた。

 江戸川が探偵事務所にいるのなら、会いに行くついでにポアロで飯食っていこうかと思ったが、昨日アイツと電話した時、もうアイツは例の阿笠さんの家にいて、今日は泊まるような事を言っていたからなぁ……。

 とりあえず、適当なベンチに座ってコンビニで買ったお茶で喉を潤す。

 さて、どっかで適当に飯食って、それからちょっと買い物でもして――

 

――コツン。

 

 ん? 靴のかかとに何か当たったような?

 足元――ベンチの下を覗いてみると、何かあった。……かご?

 

「なんじゃこら?」

 

 ベンチの下に置いてあったのは――なんていうんだろう、犬とか猫みたいな小さいペットを入れて運ぶ――キャリーケース? ピンク色のそれが置かれていた。

 扉の所には『誰かもらって下さい』の張り紙。

 

(またベタな……)

 

 扉を開けて中身を確認すると、やはりというかなんというか、一匹の白猫が入っていた。

 妙に人懐っこい猫で、軽く撫でてやると「な~お」と鳴いて、そして喉をゴロゴロ鳴らしながらすり寄ってくる。

 

(……どうせ一人暮らしだし飼ってもいいけど……餌代とか病院代とかどうするか……んん?)

 

 おかしい。

 まず反射的にその言葉が出てきた。

 ペットを捨てるという行為は、どんな理由があったとしても良い目で見られない行為だろう。だからこそ、そういった事をする時は、まずある程度人目が少ない所でやるものじゃないだろうか? ペットを泣く泣く手放したと言うのならば、早く拾われるようにと願うかもしれないが、それにしても駅前というかなり目立つ場所に捨てるだろうか?

 

(それに、結構乱暴にカゴを持ち上げたけど、水が零れる音がしなかった。わざわざこんな金掛かりそうなキャリーに入れるくらいなら、水とか餌とか入れるんじゃ?)

 

 あぁ、奥に入ってんのか? そう思って、もう一度扉を開けて奥を覗いてみる。

 

 

 

――ピッ……ピッ……ピッ……

 

 

 

―― ぱたん。

 

 

 

 ふぅぅぅぅぅぅぅ…………………

 

 

 

――パカッ

 

 

 

――ピッ……ピッ……ピッ……

 

 

 

「目覚まし時計とセットの猫か。斬新な捨て方じゃねーか」

 

 

 なんか、時計――っていうかタイマーとセットだった気がしたんだけど。

 やだこれ。なにこれ。

 後ろになんかいかにもって感じの固形物が8~10本近くのコードでタイマーとつながれてたんだけど――

 え、どうすんのこれ。え、逃げろ―って叫べばいいの? 投げればいいの? それとも……

 

「浅見さ――んっ!!!」

 

 うえーい。

 聞き覚えのある声が聞こえたな。それも切羽詰まった感じの声で、こう、冷や汗が止まらない感じの――

 

「それを落とさないで! そいつは―」

 

 やめろくださいお願いします。その先すっごく聞きたくないです。

 それでも人の反射は簡単には止まらない。止められない。声がした方を振り向いてしまう。

 そこには、なぜかスケボーを抱えたまま鬼気迫る表情でこちらに走ってくる――死神の姿があった。

 

 

「そいつは――っ!」

 

 

 ええ、はい。爆弾なんですね? 分かりたくありません。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 5月3日。それは、蘭に一方的にとはいえ映画の約束をした――してしまった日であった。

 蘭との約束をどうするか、夜までに答えを出さなきゃいけないと頭を悩ませていた所にかかってきた電話。それは俺に――工藤新一に対する挑戦状だった。

 奴は、緑地公園では飛行機のラジコンに爆弾を取りつけ、元太達にそれを操縦させていた――どうにか被害が出ない場所で破壊出来たけど、あのままだったらきっと大勢の人間を巻き込んでいた。そして奴は工藤新一の携帯に再びかけてきて、今度は米花駅前を爆破すると言ってきたのだ。唯一のヒントは――木の下。タイムリミットは一時、もう時間がない。

 とにかく、駅にたどり着かないとどうしようもねぇ! 

 博士が開発したパワーボードで一気に飛ばして、米花駅にたどり着く。

 そこにいたのは、ピンクのキャリーケースを抱えた――

 

(浅見さん――っ!?)

 

 ここ最近、俺の周りによく現れる謎の男――浅見 透が、そこにいた。

 奴の肩には、恐らくそのケースの中に入っていたんだろう白猫がちょこんと大人しく座っている。

 

(猫……。待てよ、ヒントは木の下。木の下……下にあるのは、根っこ。根っこ……猫!!)

 

「浅見さん! それを落とさないで! そいつは……そいつは――!!」

 

 俺の方を向いた浅見は、軽くため息をつくと、中に入っていたんだろう白猫を肩に乗せたまま立ち上がる。

 

「やっぱ爆弾か! ったく、仕掛けた奴も悪趣味な目覚ましを仕掛けてくれたもんだっ!」

 

 吐き捨てるように叫ぶや否や、奴は乗って来たんだろう原付に跨り、俺に向かって自分のメットを投げ渡す!

 

「早く乗れ! もう時間がねぇ!」

「おう!」

 

 どうしてコイツがここにいたのか、そんなのは後だ! この爆弾をどうにかしないと!

 俺がメットを被って浅見の後ろに乗り、片手で爆弾を固定しながらもう片方でしがみつく。

 

「やっぱ捨てるしかねーか」

「あぁ、この近くで被害が出ない空き地――」

「かつ、人がいない場所……となりゃ――!」

 

「「――堤無津川!!」」

 

 そうだ、もうそこしかねぇ!

 

「裏道を飛ばす、つかまってろホームズ!」

「あぁ、頼んだぜ――」

 

 

 

 

 

 

 

「――ワトソンくん!!」

 

 

 

 



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005:第三の爆弾、及び共闘

難産。うーん、摩天楼編終わったら、単発シナリオを使ってちょっと練習する必要あるかも


――爆発まであと10秒切ってる!!

 

――ギリギリっ! 川の中に投げ込め、江戸川!!

 

――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドの上に、一人の男が寝ている。

 死んだように、眠っている。

 

「浅見さん……」

 

 爆弾は無事に処理できた。

 アイツは驚くほど裏道に詳しかった。原付とはいえ、隙間を縫うように住宅街を駆け抜けて、時間ギリギリだが堤無津川に爆弾を放りこめた。だが――俺は爆弾の威力を甘く見ていた。元太達が渡された爆弾と同じくらいだと思っていたのだが、それよりも一回り大きかった。

 爆風に吹き飛ばされた俺を抱きとめ、庇ってくれたのが――浅見さんだった。

 俺には一切怪我はなかった。せいぜい少し血がにじむ程度のかすり傷で済んだ。おかげで、今は病院で一応軽い検査を受けただけで済んでいる。

 だけど浅見さんは……俺を受け止めたものの爆風に踏ん張りきれず、地面を転がされた後、傍の木に叩きつけられた。

 恐らく、後頭部を強く打ったんだろう。まだ意識が戻らない。

 

「くそ――っ!」

 

 犯人からの電話はまだ来ない。さっき目暮警部と毛利のおっちゃん達が来て、工藤新一に犯人が挑戦してきたという事、爆弾が使用された事。恐らく、今日の朝ニュースで流れていた、化学工場から盗まれたオクトーゲン――それを使用して作ったプラスチック爆薬が使われていること。話せる事は全て話した。一つ、嘘をついたことは――

 

 

―― おい小僧、説明しろ! なんでコイツが爆弾持って走りまわっていたんだ!!?

 

―― そ、それは、えっと……

 

―― コナン君、全て話してくれんか?

 

―― ……あ、浅見さんは……

 

 

 

   あの人、実は――

 

 

 

 とっさに、嘘を言ってしまった。子供が動いているのはどう考えても不自然。それでとっさに思いついてしまったのだ。とんでもないウソを。

 彼が――浅見透は爆弾犯人からの工藤新一に対する挑戦を、引き受けざるを得なかったのだと――、爆発までの時間がなかった事に加え、彼は――

 

(ごめん、浅見さん。また頼る形になってる――)

 

 後で謝ろう。何度でも。面倒なことにしちまったって。本当に、悪い事しちまった。

 

(借りは絶対に返すぜ、浅見さん。この爆弾事件を解決してからな)

 

 浅見さんが起きた時にまた話を聞くため、警部達は空き病室に控えている。戻ろう。きっと犯人から電話はまた来る。今度は爆発させねぇ! 犯人は絶対に捕まえる!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 おぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉ……身体の節々が痛ぇぇぇぇぇえぇぇ…………っ

 

 

 あれだよ。俺、今度の連休とかフルに使ってバイクの免許速攻で取ってくるわ。今までちょっとした足代わりで原付乗ってたけど、あれだね。時代は小回りより速さだわ。後ろから死神が追ってくるどころか、後ろに死神乗せるシチュが増えるってんなら尚更。

 もうちょいだけ早く到着すりゃ、上手い事爆弾を川に沈めて伏せるなりなんなりできたと思うけど、結局爆風に吹き飛ばされてしまった。とっさに飛んできた江戸川の身体をキャッチしたのは自分でもファインプレーだったと自負できる物だったが、記憶がそこから曖昧に終わっている。

 江戸川抱えたまま吹きとばされて地面をゴロゴロ転がって……どうなったんだっけ?

 まぁ、部屋の様子とかから、自分がいるのがどこかの病院だということが分かっているから、とりあえずは問題ない。

 頭が包帯でグルグル巻きになっている? うん、手足が残って意識がハッキリしてるんなら安い安い。

 一番の問題は……

 

「ねぇ。僕、君に無茶しないようにって言ったよね? ついこの間言ったばっかりだよね?」

「いえ、あの……今回は不可抗力でして……」

「――――は?」

「……すみません。なんでもないです」

 

 誰か助けて。

 もうね、ブチ切れてる。今まででトップ5に入るほどのブチ切れモードだわ。どうしよう。

 

「浅見様! お目覚めになったとお聞きしまし――」

 

 ガララっ! と音を立てて入って来たのは、いつも通りにキャリーバッグを引きずっている友人の姿。

 ナイスだ、ふなち! そのままこの空気をいつものノリでなんとかしてく――

 

「――――失礼いたしました。どうぞ、ごゆっくり」

 

 ふなちてめぇ! こんな時だけ空気読んでんじゃねぇっ!!!!

 

 越水のジト目でやばいと思ったのだろう。即座にドアの向こうへと退避していくふなちの背中に思わず手を伸ばすが、その手は越水に掴まれてしまった。ちくせう。

 

「……あ、あのー、越水さん?」

「で、いつから?」

「はひ?」

 

 ずいっ。と越水が身を乗り出して来る。や、越水さん、質問の意味がよく分からないんですが。

 

「いつから、探偵の助手なんて始めてたの?」

「へ? それは――」

 

 この前の事件からってこの間――。そう言いかけた口が、越水の続けた言葉で止まってしまう。

 

 

 

 

「――工藤新一の助手をやってたなんて、聞いたことないよ!!?」

 

 

 

 

 うん。――――うん?

 

 What's? ごめん、なんだって?

 

「あの警部さんと毛利探偵が、江戸川くんから聞き出してたよ! 今回、君が爆弾抱えて走り回る羽目になったのは、工藤新一への挑戦を、代理として君が受けるしかなかったんだって!!」

 

 江戸川ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!

 いや、確かにあの時『お前』の助手ってつもりで名乗りを上げたんだから間違ってないし、多分仕方なかったんだろうけど、こう、俺が起きた時に備えて何かメッセージとか――伏線残しててくれてもいいんじゃない!!?

 違うんです越水さん! 隠し事をしていたんじゃないんです! 隠し事がいきなり生えてきたんです!

 

「じょ、助手って言っても……あ、あれだよ? ちょっとした頼まれごととか、調べ物くらいで……」

「で? そのちょっとした頼まれごとには、爆弾魔との対決なんてものも含まれてるの?」

「…………いえ、あの、気がついた時にはもう時間がなくてですね」

 

 爆弾というゴミをダイナミック不法投棄しに行っている間に江戸川から事件の顛末は聞いている。江戸川も多分事件に関する事実こそ喋ったものの、俺に関してはふわーっとしたくらいしか話していない。と、思う。

 確定しているのは、俺が工藤新一の助手だと思われている事。そして、いま江戸川がここにいないっていうことは、ここにいられないって事。

 警部達に話を聞かれているのか? それとも――犯人から電話が来たのか?

 

「――話は後で。今は情報が欲しい。今度こそ、(話せる範囲の事を確認してから、出来るだけ)きちんと全部話す。……もうちょっとだけ、待ってくれないか?」

 

 まっすぐ、越水の目を見つめてそう言う。決して誤魔化そうとかそういう意図はない。ただ考える時間が欲しいだけで――

 

「辻褄合わせる時間を稼ごうとしてる目だよね。それ」

 

 オゥ、バレテーラ。

 

 越水は、じと~~~っという擬音がしそうなジト目でこちらをしばらく睨むが、やがて肩を落として深~~いため息を吐くと、

 

「とりあえず、車いす借りてくるからじっとしてなよ」

「へ?」

「事件の情報を聞きたいんでしょう?……君の無茶はちょっとやそっとじゃ止まりそうにないからね。捜査に協力するのはいいけど、僕とふなちさんで監視しておいた方がいいみたい」

「は、はい……。え、でも車いすは?」

「身体も色々打ったみたいだし、念のために借りてくるよ」

 

 すっごい気を使われている。どうしよう、すっごく胸が苦しい。

 

「……越水さん、もうそろそろ落ち着いてくれないでしょうか? ほら一人称がもうずっと『僕』に戻って――」

 

 越水は元々自分の事を『僕』と呼んでいて、今では基本『私』だが、興奮している時とかだが、一人称が戻るのだ。……今のように。

 

「――誰のせいだと思ってるの?」

「……大変、申し訳ございません」

「ふなちさん! 車いす借りてくるから、ここで浅見君見張っててっ!!」

 

 越水が小さな声で叫ぶという微妙な技能を発揮する。その声に反応して扉の陰からふなちが飛びだし、

 

「はい、了解いたしました!」

 

 おい、ふなち。思いっきり尻に敷かれてんぞ。……俺もだけどさ。

 

『逆らえるわけないでしょう!? あんな激おこな越水様、久々に見ましたわ!!』

『だよねー』

『あの目はあれですわ、もう浅見様に首輪とリードを付けかねない勢いでした!』

『犬かよ、俺は……』

『まったくですわ。飼い主の目を避けて悪戯するなら猫でしょうに……っ!』

『いやそのつっこみはおかしい。というか――おい、なんで俺が越水に飼われている事前提になってるんだよ』

 

――そういや……あの白猫、大丈夫かな?

 

 爆風で吹き飛ばされた時、江戸川と一緒に抱えていた記憶が……あるようなないような……

 互いに小さな声でボソボソ呟いて話している。まだ外の方から気配はしない。越水が来るまでまだ時間がかかりそうだ。

 

「ふなち、刑事や江戸川達はどこにいるか分かるか?」

「確か、どこかの空いてる個室を借りて待機しているようですわ。部屋は越水様がご存じのようですが……」

「越水が?」

「えぇ、起きたら知らせてほしいと目暮様から言われておりましたので……」

 

 ん? アイツ、さっきそんな事言ってなかったけど……

 

「――多分、本当は目暮様にお伝えするつもりはなかったのではないでしょうか」

「へ?」

「浅見様が寝ている間の話ですが、江戸川様から事情を全てお聞きになってから、もう一度江戸川様にお声かけをして……すごく真剣に情報を集めておりましたわ。警察の方や、毛利様以上に」

「…………アイツ、まさか――」

「多分、工藤様や浅見様に代わって追うつもりだったのではないでしょうか。犯人を」

「…………」

「そして、目暮様たちにはまだ起きないと言い張って、事が終わるまで浅見様が事件に関わるのを防ごうとしていたのではないかと……」

 

 この間の一件からなんとなく分かっていたことだが、アイツは探偵行為……探偵を疎んでいる節がある。

 アイツ自身、元探偵だったというが、少なくとも大学に入ってからそういった活動はしていないはず。

 

(一度、話を聞くべきかな……)

 

 なんにせよ、今はこの爆弾事件――というより、江戸川との事をどうにかしよう。このままじゃ不味いことになる。

さて、どうにか越水達をまいて、アイツと合流せにゃ……

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『よくあの爆弾を防いだな。だが、もう子供の時間は終わりだ。工藤を出せ! いるのだろう!? 工藤新一は!!』

 

 やはり電話が来た。今度は完全に本当の俺を――工藤新一を名指ししてきた。即座におっちゃんがスピーカーボタンを押して、音をその場の全員が聞けるようにした。

 

「あぁ、そうだ。子供の時間は終わって、ここからは――大人の時間だ! 俺が相手になってやる!!」

 

 啖呵を切ったおっちゃんに同意するように、その場にいる目暮警部をはじめとした警察関係者が強く頷いている。

 

『誰だお前は、工藤新一を出せと言ったはずだ!!』

「あぁ! あの探偵坊主なら、自分の助手に全部任せてここにいねぇんだよ! こっからは、この名探偵、毛利小五郎が相手になってやる!」

『助手……なるほど、そういうことか。ならば、その助手はどうしたのかね? まさか、先ほどの爆発で、怖くなってリタイヤかな?』

 

 ふざけんな! 

 周りの目を気にせず、そう叫びたい衝動を抑える。感情を我慢するのが、これほどにも難しいことだと思わなかった。

 あの人は――浅見透という男は、偶然そこに居合わせたにも関わらずすばやい行動で事態を最小の被害に抑えた男だ。こんな卑劣な奴に、馬鹿にされていい男じゃねぇ!

 

 

「ふざけんなぁっ!」

 

 まるで俺の感情を代弁するかのように、おっちゃんが叫ぶ。

 

「確かにアイツはリタイヤだ! でもなぁ、逃げたわけじゃねぇ!」

 

 あぁ、そうだぜおっちゃん。

 だから、負けられねェ。なんとしても、これ以上の爆発を防がなきゃならねぇ。

 おっちゃんが、電話の向こうにいる誰かに再び啖呵を切ろうとした瞬間――

 

 

 

 

 

 

――誰がリタイヤなんですか。毛利探偵?

 

 

 

 

 

 

 

 病室が一瞬、水を打ったように静まりかえった。

 まだそれほど聞いたことのない、だが、耳に残る声。

 ガラッ、と言う音と共に部屋に入って来たのは、奴自身の友人――越水七槻が押す車いすに乗った、

 

 

「お久しぶりです、目暮警部。毛利探偵も……」

「あ、浅見君!!」

「お前っ! 怪我はいいのか!?」

 

 警部とおっちゃんが驚きの声を上げるが、浅見さんはそんな声をモノともせず、テーブルの上に置かれている携帯電話を睨みつける。

 

「お待たせしました。先日寝不足だったので、ついつい寝坊をしてしまいまして……さぁ、用意しているのでしょう? 第3幕を。まさか、さっきみたいな子供だましではないでしょうね?」

 

 浅見さんは、怪我なんて意にも介さないといった様子で、電話の向こうの相手を挑発する。

 長い付き合いで予想していたのだろう、後ろに控えている越水さんと中居さんは頭を抱えて『やっぱり……』とつぶやいている。

 

『貴様は――! そうか、工藤新一の助手……なるほど、そういうことか』

 

――ん?

 

『いいだろう、浅見透。お前を正式にゲームの挑戦者として認めてやる』

 

――なんだ、なにか違和感が? まさか……

 

 とっさに浅見さんの方を向くと――浅見さんもどうやら感じたようだ。僅かに首をかしげて……そして、にやぁぁっと笑いだした。

 あぁ、そうだ。きっと電話の相手は――。だが、どうして?

 

『一度しか言わないからよく聞け。東都環状線に、5つの爆弾を仕掛けた』

 

「な……っ!」

 

 目暮警部やおっちゃん達が絶句する。浅見の後ろにいる二人も顔を驚愕に染めている。浅見さん自身は、まるで予想していたかのように、静かに携帯を見つめている。

 

 

『その爆弾は、午後四時を過ぎてから、時速60キロ未満で走行した時に、爆発する。日没までに解除できなかった場合も同様だ』

 

『そうだな……一つだけヒントをやろう。工藤の助手に、毛利名探偵。爆弾を仕掛けたのは、××の×だ』

 

 ××の×……?

 

『×の所には漢字が一字ずつ入る。それでは……頑張ってくれたまえよ、毛利名探偵、そして工藤新一の助手君?』

 

 変声機で変えられた声は、そういうと通話を切り、残されたのは『ツー、ツー』という音だけ。

 

 いくらなんでも悪戯――ただの脅しなのでは? おっちゃんが恐る恐ると言った様子でそう言うが、目暮警部はそうは思わないと否定した。俺も同意見だ。しかし……

 

「まずは、本庁に連絡を入れなければ……っ!」

 

 目暮警部が電話をかけに、病室の外へと出て、刑事二人――佐藤、高木刑事の二人も一度浅見の方を見てから後に続く。残されたのは阿笠博士とおっちゃん、そして――浅見さんと浅見さんの友人達だ。

 

「おい、浅見! 工藤新一は――あの探偵小僧はどこにいるんだ!? お前、助手なんだろう!!」

 

 おっちゃんが、浅見に掴みかからん勢いでそう言うが、浅見さんに答えられるわけがない。いや、居場所は知っている。ここだ。ここにいるんだが……。

 

「工藤新一の居場所については後で、今は爆弾について考えましょう」

 

 浅見さんは、静かにそう言ってくれた。後ろの越水さんも頷いている。――かなり頭の切れる女性だ。さっき、自分に色々質問していた時も、かなり鋭い所まで突っ込んでいたし……多分だけど、浅見さんが動いたのは二つ目の爆弾からだともう分かってるんじゃないか? 工藤新一とのつながりが分からないから確信が持てないだけで……

 

「場所は東都環状線のどこかに5か所。タイムリミットは日没まで――」

「気になるのは、その爆弾が速度に反応するって言う所だね。加えて、日没までっていうタイムリミット」

 

 浅見さんが独り言のように状況を繰り返すと、越水さんが気になった点を追って口にする。

 

「つまり……爆弾を解除するまで列車を止めるわけにはいかないと言う訳ですわね? ……となると、タイムリミットなど関係なしに急がなければ、閉じ込められたままの乗客の皆さまがどのような行動に出るか想像もつきませんわ」

 

 そして中居さん。あまり話したことはないが、越水さん同様、頭の回転はかなり早いようだ。

 

「お、お前ら、コイツの友達の――」

「はい。越水と中居です。一方的ですみませんが、今回の事件、僕達も協力させていただきます」

 

 友人が巻き込まれていますし。そう言って越水さんは浅見さんに視線をやるが――なんでジト目?

 そうこうしている間に、阿笠博士がこっそりとこっちにやってきた。

 

「お、おい、新一。彼が、その?」

「あぁ。俺の正体に気付いて、かつ、なぜか何も言わずに協力してくれるとっても怪しい――ワトソンさ」

 

 大丈夫なのか? と、阿笠博士は少しうろたえながら聞いてくるが……なぜか、すんなりと信じられる。少なくとも、アイツからバラす事はないだろうって。さて――

 

「江戸川君、なにか思いついた事はないか?」

 

 浅見さんがこっちに話を振ってきてくれた。ありがたいが……

 

「いや、今の所は何も……」

「……やっぱり、ヒントを解くしかねぇか」

「そんなヒントが当てになるか! お前らはじっとしてろよ!? 俺は目暮警部と行く!!」

 

 おっちゃんはそういうと、病室を飛び出して行ってしまった。 

 

「わざわざ挑戦を叩きつけるほどプライドの高い犯人、か。偽のヒントをわざわざ出すとは思えないけど……」

 

 越水さんの言うとおりだ。俺が――多分浅見さんも気づいているだろう人物なら、そんな真似はしないと思う。だけど――やはり、問題はそのヒントだ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 あれからさらに時間が経った。だけど、いい案がまだ思い浮かばない。

 場所を浅見さんの病室に移し、博士が持ってきたテレビで事件の情報を得ながら考えている。

 

「行き詰ったときはあれだ。ブレインストーミングでも試してみるか」

 

 浅見さんはそう言って越水さん達に目配せをすると、二人がそれぞれ、ペンと紙を用意する。

 

「漢字二文字……キーワードは東都環状線。電車、乗客、荷物、車体、線路――」

「踏切、終点、始発、電灯、えー他には……」

 

 そして、それぞれが思い思いに意見を思いついたままに喋り出す。

 確か、正誤を問わずに意見を出し合う会議なんかの技法だったか。

 そうして書きあげた漢字二文字のキーワードの一覧を、ベッドの横にあるサイドテーブルの上に置く。越水さん達がそれを囲むように立つので、自分も浅見さんの横に立って覗き込む。

 

「じゃ、ま、とりあえずここから考えていこうか」

 

 越水さんが音頭を取り、三人はとりあえず出したキーワードを元に一個ずつ考えていく。

 

「ふむ……爆弾だけというならともかく、速度が関係するのならば乗客や荷物の線は薄いのではないでしょうか」

「うーん、断定まで出来ないから△で。一番怪しいのは車体だけど……」

「そういや、前に映画でそんなの見たことあったな。センサー付きの爆弾を車に仕掛けるやつ」

 

 そうだ、俺も最初は『車体の下』だと思ったけど……。気になるのは――

 

「タイムリミットが日没っていうのも気になるね」

「あぁ、江戸川君もそこが気になったんだね?」

「うん、夕方までっていうんなら、2番目の爆弾のように、タイマーを設定すればいいだけの話だよね? わざわざ日没って言ったってことは――」

「ひょっとして、仕掛けに何か関係があるのでしょうか?」

 

 中居さんが思いついたようにそう言った。確かに、そう考えるのは筋は通っている。

 

「日没……日が暮れると爆発。光?」

 

 浅見さんが続けて、ぼやく様にそう言う。本当に当たり前の連想ゲームだが、何かが引っかかった。

 そうだ光。日光。日光がなくなった時に爆発する。逆に言えば、日光がある間は爆発しない。

 

「そうか……っ」

「そういうことか!」

 

 越水さんも気がついた様だ。そう、爆弾が仕掛けられていたのは――っ!

 

「すぐに目暮警部に電話を! 爆弾は――線路の間に仕掛けられている!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 やっぱり、この江戸川コナン君の推理力と発想力は小学生のものじゃない。僕と同じ……いや、前のパーティーの時や、どこまで本当か分からないけど浅見君と一緒に爆弾の処理に動いていた事も考えると、下手をすると僕よりも優秀かもしれない。

 

「越水様、目暮様へのお電話は?」

「うん、大丈夫。きちんと聞いてくれたよ。今ちょうど東都鉄道の総合指令室にいるらしくてね。これから対応するって」

「そうですか……後は、お二人の推理が合っていて、爆発しない事を祈るだけですわね」

「うん、そうだね……」

 

 気にしすぎかもしれないが、やはりあの子供とは一度話をしたほうがいいだろう。 

 あの子自身についてもそうだけど、同時に工藤新一についても。

 今回、あの警部さん。目暮警部がすんなり話を信じてくれたのは、大なり小なり、浅見君が『工藤新一』に関わっているという事が作用したのだと思う。子供の江戸川君はもちろん、私だけの言葉では届かなかったかもしれない。一緒に考えていた中に、工藤新一の助手がいたから……。

 

「? あれ、そういえば浅見君は?」

「はえ? 先ほど、越水様が目暮警部へお電話をされに公衆電話の方へ行った後、越水様にお伝えすることがあると……あれ?」

「なに、それ、聞いてないんだけど」

 

 私が電話をした公衆電話は、ナースセンターの近く。エレベーターに行くなら見えるはず……いや、階段の方なら死角!

 

「江戸川君に阿笠さんは!?」

 

 そうだ、部屋に戻ってきてすぐに聞くべきだったけど、あの二人も姿が見えない。

 

「そ、その時に浅見様の車いすを押して行ったので……てっきり、越水様の所に行かれたのかと……」

 

 や、やられた――っ!

 

 咄嗟に窓に駆け寄り、外を――駐車場の方を見ると、黄色いビートルに乗り込む見慣れた背中が……っ!

 

「越水……様?」

 

 今から降りて車に乗っても多分間に合わない。しまった、まさかこの期に及んで逃げるなんて!

 

「ねぇ、ふなちさん」

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

「……あの大馬鹿野郎、どうしてくれようか?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「阿笠博士、協力ありがとうございます」

「い、いや、それはいいんじゃが……よかったのかのぅ? きっと、君の連れの女の子は今頃カンカンじゃろうて」

「まぁ……覚悟の上です。事が済めば折檻でも軟禁でも大人しく受け入れますよ」

 

 ははっ。蘭もそうだけど、女は怖えからなー。

 

 爆弾の位置を特定した後、越水さんに目暮警部への連絡を任せている間に、俺と阿笠博士は浅見さんがこっそり耳打ちした作戦で病院を抜け出た。

 

――こっそり抜け出したい。力を貸してくれ。

 

 浅見さんがどうしてそんな事を言ったのか。……なんとなく、分かる気がする。

 

「俺が、工藤新一の助手って事にしてしまったから?」

「――きっかけだよ、それは。結局のところ、くっそ上から目線で姿隠して馬鹿やってる奴に、その場のノリで喧嘩売ってしまった俺が原因だ」

 

 犯人に名指しで挑戦者に認定された今、あの二人と距離を置いておきたかったのだろう。

 危険が及ばないように。そして多分、越水さんよりも先に犯人を捕まえるために。

 

「まぁ、とにかく情報を集めねーとアイツを追いつめ切れねぇ。まずはそっから始めよう」

 

 浅見さんの口ぶりからして、やっぱり犯人はもう『あの人』だと目星を付けているようだ。だからこそ、浅見も……

 

「それで新一。まずはどこへ向かえばいいんじゃ?」

 

 そうだな。気になる事はいくつかあるけど……。

 

「博士、米花駅からちょっと離れた所にある児童公園に向かってくれ」

「児童公園? なんでまたそんな所に?」

「……あの爆弾が一度止まった所か」

「ああ、やっぱりそこがどうしても気にかかるんだ」

 

 浅見さんと爆弾を捨てに行っている時、確かにあの辺で一度爆弾が止まった。

 

「なるほど、犯人が遠隔操作でわざと止めたと考えておるのか?」

「いや、わからねぇ。ただ、もしそうならば、犯人があそこで爆発させたくなかった理由があるはずだ」

「……おい、ついでに工藤新一として思いつくことはねぇのか?」

「工藤新一として?」

 

 浅見さんは、頭をかきむしりながら、

 

「今回の事件。発端は工藤新一に挑戦の電話が来た所からスタートしてる。愉快犯とか、目立ちたいって理由なら、実態はともかく、今一番名前を売りだしている名探偵に挑戦を叩きつけるだろう? 消えた名探偵よりさ」

「……あぁ、そうだな。そうか、そっちも調べなきゃならねぇな……」

 

 浅見さんは俺のぼやきを聞くと、少し考え込んで……

 

「警察に、工藤新一として電話をかけるのはどうだ?」

「ん?」

「公園付近の捜査をそっちがやっている間に、俺が助手として本庁に行こう。事前に工藤新一から、助手を向かわせるって言ってな。で、資料を見させてもらって、アイツに関わってそうな、怪しいと思ったのを可能な限りピックアップしておく。そっちは公園に一区切り付いたら博士の車で本庁に、んで一緒に洗い直す」

 

 なるほど……。それはいいかもしれない。もし向こうの方で動きがあれば、警官も工藤新一の助手に教えてくれるだろうし、当然浅見さんも即座に連絡をくれる……よし。

 

「乗った。一応こっちも、児童公園でなにか気になった事があったら、メールや画像でそっちに送っていく。いい?」

「問題ない。そっちも蘭さんの事があるだろう? 今日中に片を付けるぞ」

「あぁっ!」

 

 博士がアクセルを踏み込み、ビートルは速度を上げてあの公園に――現場へと向かっていく。

 探偵とその助手を乗せて、だ。

 

 

 

 




次で摩天楼を終わらせてサクサク行きたいな……
はやく組織の連中だしたいw


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006:それぞれの動きと死亡フラグ

 俺は、ループが起こったのはこの数年の間の話だと思っていた。

 卒業式や入学式が消え、ただの始業式、終業式となったあの日から、この終わらない一年が始まったのだ、と。

 だが、今ここにきて、その考えを改めざるを得なくなっていた。きっと、もっと前にループはあったのではないかと。なにせ――

 

 

 中学最後の一年を含めたとしても2.3年の間にあの男が解いた事件の資料が膨大な量となって目の前に現れているのだから。

 

 え、たった2・3年でお前こんなに事件関わってたの? は? これ死人が出てる奴だけ? じゃあ出てないのは? あ、まだまだあるんですかそうですか。

 

「これをどうやって捌けと……」

 

 読みが甘かった。俺はループが起こったのは奴が高校生になってから江戸川コナンになるまでの、およそ2年くらいの間の資料だと思っていた。確かに今こうやってアイツと関わって事件に巻き込まれているわけだが、黒川邸の事件からは少々時間が経っている。一月に多くて3件として、一年で36件。トータルで60件もないだろう。そこからあからさまに関係なさそうな物を抜けば、多くても30がせいぜいじゃないか。そう考えていた。

 

――なに、この山? あいつが高校生探偵の時もループ実は起こってたんじゃねーだろうな? どっちかが本編で、もう片方が外伝的な感じで。

 

「本当にこの量をひとりで捌くのかい?」

 

 えぇ、正気の沙汰じゃありませんよね。いやマジで。

 資料を運んできてくれたぽっちゃりした刑事――千葉さんが、何も言わずに缶コーヒーを差し入れてくれた。ヤバイ、涙出そう。

 

「えぇ、まぁ。探偵の期待に応えるのが助手の役目なんで」

 

 出来るなら人手を借りたい所だが、さすがにそこまで図々しいお願いは出来ない。さっき聞いた情報だと、例の爆弾は位置こそまだ分かっていないが、環状線内の列車は全て他の路線に切り替え、無事に乗客を全員下ろす事が出来たそうだ。今は目暮警部が陣頭指揮をとって、残された爆弾を探しているらしい。

日没までまだまだ余裕はある。恐らく問題はないだろうが、当然今、署内の人手はかなり少ないだろう。

 

「まぁ、なにかあったら近くの人を呼んでくれよ。僕も目暮警部から言われている事があってね。そっちの調べ物をするから」

「えぇ、何から何まですみません」

「なぁに、事件に関係がある事なんだろう? 本当なら僕達警察がしっかりしなきゃいけないのに、君たちの様な若い探偵さんにこんな仕事を押しつけちゃう方が問題だよ」

 

 じゃあ、頑張って。千葉さんはそう言いながら、軽く手を振って会議室から出て行った。

 まじでいい人だなぁ……。

 

「さて。そんじゃこっちも始めるか」

 

 調べるのは新しい方から。注目すべきは『アイツ』の名前が出ていないか、あるいはなんらかの『特別な建築物』などが事件を通して何か変化したか。

 そう、多分犯人は―――あの糞野郎だ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「こうして見るとただの公園じゃのう」

「だよなぁ。公園じゃなくて、周りの方か?」

 

 児童公園で車を止めてもらい、阿笠博士と共に児童公園の近隣に何か手掛かりはないかと調べているが、特に成果は出ていない。

 

「その時、この公園に誰かいたとかじゃないかのぅ。ほれ、例えば、犯人の子供か孫が公園で遊んでおって――」

「いや、確かに子供は何人かいたけど、もしそうなら犯人は俺たちの姿を常に確認していた事になる。……いや、その前に、死なせたくないような人間がいるのなら、現場には近づかせないんじゃねぇかな」

「まぁ、死なせたくない人がいるのならばそもそもその近くで爆弾騒ぎなど起こさんと思うが……」

 

 博士がそうぼやく。確かにその通りなのだが、人間、何が原因でタガが外れるなんて分からないのだ。

 

「でも、もしずっと監視していたんなら一体どうやって? 途中までは高い場所から双眼鏡なんかで追えるかもしれないけどそれ以上は無理。この住宅街にある高い建物はアパートがあるけど、こっち側だと逆に米花駅周辺は当然見えない。加えて、爆弾を捨てに行ってる時、近づく車や人がいないか後ろを何度か確認してたけど、そんな怪しい車やバイク、人影もなかった」

「なら、どうして……」

「一番可能性が高いのは……元々、特定の場所に近づいた時にタイマーが止まるように設定されていた場合だ」

 

 そう、それならばタイマーに作用するセンサーのような仕掛けがあるハズだ。そう思ってこの近辺を探してたんだが……。もう回収されたか?

 

「なんにせよ、ここが壊されたくない理由が分かれば犯人に近づくという事じゃな?」

「あぁ。まぁな」

 

 正確には、犯人を追いつめる手段の一つになる。だが……

 期待していた手掛かりが見つからなかったんなら……。次の策に移るしかねぇか。

 

「博士、ちょっと付いてきてくれ。大人がいた方が話は早く済むだろうし……」

「あ~、それは構わんが、何をする気じゃ?」

「何って……捜査の基本」

 

 

 

「聞きこみさ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

――ぷるる、ぷるる、ぷるる

 

 大量の捜査資料と、それに添付されている無数の遺体の写真に半ばグロッキーになりながら紙をめくっていた時に、ズボンのポケットに入れていた携帯が鳴り響く。

 

「――っ、どうした? なにかわかったか?」

 

 電話の主は分かっている。携帯のディスプレイに表示されていたのは――

 

『あぁ、大至急調べてもらいたい事がある。もう本庁で資料漁ってるんだよな!?』

 

――『江戸川コナン』。何らかの理由で子供の体になってしまった……高校生探偵、工藤新一!!

 

「後ろから始めて60くらいまで終わったかな。で、怪しいのとそうでないのとは全部仕分け終わった所だ。そっちが手に入れた情報は!?」

『結論から言えば、何も分からなかった』

「はい!?」

『だから、視点を変えてみることにした。もし犯人と工藤新一につながりがあるとした場合、犯人はこの場所と繋がりがある人間じゃないかってね』

「あの場所……西多摩市か」

『そうなんだ。それで今すぐ、調べてもらいたい事件がある。元市長の件だ』

「元市長……元市長……岡本とかいう人の事件か!」

 

 それだったら、仕分けたファイルの中にあったはず。

 

『そう、それ!』

「だったらちょっと待ってろ。ちょうどさっき触ったファイルに……あった!」

 

 元西多摩市市長の岡本さんが起こした事件。というより、事故を息子さんが罪を被ろうとした事件だった。あ、西多摩って事は……

 

「江戸川、確かあれ、市長がつかまって再開発計画とやらが中止になったんじゃねーか!?」

『あぁ。やっぱりチェックしてくれてたか』

「それらしいワード拾った奴は全部メモしておいたからな。……まさか、計画していたのがアイツだったのか?」

『断定はできない。ただ工藤新一とこの場所を繋ぐ線としてソコを思いついたんだ。急いで調べてほしい』

「わかった、こっちで詳しい情報を集めよう」

 

 電話を切って、とりあえず一息吐く。

 情報はちょっとずつ集まっている。問題は、それを繋ぐピース。動機の面がよく見えてない。この調べ物でなにか分かればいいが……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「高木刑事、放火があった物件はこれらで間違いないんですね?」

「あ、うん。間違いないけど……本当、探偵って子達に縁があるなぁ、俺……」

「すみません高木刑事、顎で使うような真似をして……」

「あぁ、いやいや! 気にしないで大丈夫だから!!」

 

 問答無用で浅見君を確保しに行こうとも思ったけど、きっと浅見君はあの少年と一緒に事件を追っている。あの阿笠という人と子供が一緒ならば、多分無茶はしない……はず。

 

「黒川邸、早川邸……連続している放火事件、そして爆弾予告のあった米花駅……」

「全て森谷教授が設計された建物ですわね」

 

 病院側の御厚意で、浅見君がいた病室をそのまま借りた私たちは、高木刑事から情報提供を受けて推理を始めていた。

 少々癪ではあるが、浅見君に力を貸すのが一番浅見君の負担を減らす形になるんだ。

 ……お話は事件を終えてからにしよう。いや、その前に病院にもう一度叩きこんで精密検査を受けさせないと……。爆風で地面に叩きつけられて、転がされて、頭打ったっていうのにそんなの知った事かとばかりに浅見君ときたら本当に――!

 

「ふなちさん、早く捕まえようね」

「え、えぇと……犯人ですよね? 犯人の事をおっしゃっているんですよね?」

「…………」

「こ、越水様~~~~っ」

 

 大丈夫大丈夫、ちょっとお説教するだけだから。

 

「とにかく、今はこれについて考えよう」

「そ、そうですわね。しかし、どうして森谷教授に?」

「今は勘としか……。ただ、犯人は工藤新一に恨みがあるのは間違いないと思う。何らかの形でね。思い出して、毛利さん達がパーティーに来たのはどうして?」

「えーっと……。あっ! 工藤様の代理で!!」

「そう。そこなんだよ。森谷教授は名探偵と呼ばれた彼を招待したって言うけど、それなら毛利探偵を呼ばなかったのはどうして? いや、まぁ、ただ単に毛利探偵の方には興味がわかなかったってだけかもしれないけど……」

 

 ただ、あの爆破予告の時の反応。あれは浅見君に思わず反応したって感じだ。

 工藤新一と浅見君。探偵と助手って関係が本当だったらいくらでも心当たりはあるんだろうけど、正直僕は信じていない。これまでメディアへの露出が多かった工藤新一に対して、浅見君が一度も出ていなかったのはおかしい。

 現状、その関係を無視して考えると、二人に共通する人物となると森谷教授しか思いつかない。

 あくまで仮説だけど、多分……

 

「放火されている建築物は全て森谷教授の設計。そして駅も……。でも、東都環状線は……」

「そこなんだよねぇ……」

 

 そこがピンと来ない。今回の火災と爆弾は全て森谷教授の建築物に関係している。僕はそう推理したんだけど……。

 

「……越水様」

「ん? なに、ふなちさん?」

「あのガーデンパーティーの折に、森谷教授のギャラリーの写真を見たの覚えていらっしゃいますか?」

「あ、うん。覚えているけど……」

「その写真の中にございませんでしたっけ? 橋が」

 

 ――あっ!

 

「あの中で、唯一、塔や家ではない建築物だったので印象に残っていたのですが……」

「ちょっと待って」

 

 ふなちさんの携帯でネット機能を使って橋について調べてみる。昭和58年に完成した墨田運河をまたぐ橋で、当時主流だった鉄橋ではなく、英国風の石造りだったために話題となった。この建築で建築新人賞を取ったのが――森谷帝二!

 

「……繋がりましたわね、越水様!」

「あぁ、すぐに浅見君に連絡を――っ」

 

 ブラウザ画面を消して、電話帳を開く。彼は電話帳の一番最初、すぐに通話ボタンを押して――

 

『ただいま、電話に出ることはできません。ピーという発信音の後に――』

 

――ブツッ

 

「………………」

「………………」

「………………ふーん」

「め、メール! メールならばきっと届きますわ! わ、私が打ちますので! 越水様は警察の方に電話をですね!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「森谷教授の建築物ばかりが狙われているのは間違いないのかね、白鳥君!?」

「えぇ、私の方でも確認しましたが、――越水さんでしたか。彼女の言うとおり、全ての建築物は森谷教授のものでした」

「……となると、森谷教授への恨みの線もあるということか……」

 

 無事に環状線内の爆弾解除を確認し、東都線のコントロールルームでとりあえず安心していた目暮警部は、いきなり鳴りだした携帯に安穏を奪われた。

 

「まったく、工藤君といい毛利君といい、あの娘といい……探偵というのは心強いんだかやっかいなんだか……」

「探偵と言えば、目暮警部。彼はどうなんでしょう?」

「彼? 誰の事かね、白鳥君」

「浅見君ですよ。浅見 透。子供を連れていたのは褒められませんが、二つの爆弾を無事に処理した行動力は大したものじゃないですか」

「あぁ……工藤君の助手という。私は彼を見たことないんだがなぁ……」

「? そうなんですか?」

 

 白鳥刑事の疑問に、目暮警部は首をひねって、

 

「うむ、彼の性格からしてそんな人物がいれば現場に呼ぶか、私に顔くらいは見せていると思うのだが……」

 

 目暮の記憶の中に浅見透という男はいない。だが、あの黒川邸で披露した推理は、確かに工藤新一のそれに似ていた。いや、似ているどころか、あの自信満々の口調、論理、まさしく目暮の記憶に残る工藤新一そのもの――

 

――ぷるる! ぷるる! ぷるる!

 

「って、またかね……まったく」

 

 再び鳴りだした携帯をポケットから取り出す。ディスプレイは確認せずに通話を押しながら耳に当て――

 

「はい、目暮だが……?」

『目暮警部、遅くなりました。工藤です』

 

 電話から聞こえてきたのは、長い間顔を見ていない高校生探偵―工藤新一の声だ。

 

「おぉーっ、工藤君! 待っておったぞ!」

『事情は全て私の助手から聞いています。警部、今回の爆弾事件、全てのカギは森谷教授にあります』

「うむ、今君とは違う探偵からもそう言われてな。これから森谷教授の自宅に向かう所だ」

 

 あの越水という探偵と、傍で事件を解決する様をよく見ていたなじみの工藤が同じ答えにたどり着いた。

 他力本願的な考えであることに目暮警部は悔しさを感じるが、恥じるよりも行動しなければ刑事ではない。

 

『すみません、本来ならば私が向かう所なんですが、どうしても伺う事が出来ないんです』

「そ、そうなのかね……」

『えぇ、ですが、代わりに彼を今森谷教授の所に向かわせています。ぶしつけなお願いで申し訳ありませんが、彼の同行を許していただけないでしょうか?』

「か、彼と言うのは……やはり」

『えぇ、……私の頼れる、助手です』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…………」

「お前、元の体に戻った時大丈夫なのか? 電話を切る直前、毛利探偵なんかお前に向けて怒鳴ってたけど」

「ははっは……」

 

 江戸川が蝶ネクタイ型の変声機を元の位置に戻すのを見ながら、俺はアイツの手から受け取った公衆電話の受話器を元に戻す。

 外では阿笠博士が、止めたビートルの運転席で缶コーヒーをすすっている。

 

「しかし、結局証拠が見当たらなかったな」

「出たとこ勝負のハッタリでも仕掛けるか?」

「あー、まぁ……確かにアイツすぐに引っかかりそうだけど」

 

 なにせ、あの状況下で感情抑えきれずにヘマやらかした男だ。予想外の展開にはかなり弱いと見るが……。

 

「まさか、ここまで来て運頼みか。本当にこれ探偵のやり方か?」

「しゃーねーだろ、他にいい手段をおもいつかねーし」

 

 どうしよう、主人公だから大丈夫だと思うけど不安で不安でしゃーない。

 ……越水に協力を頼んだ方がいいかな。あとで土下座する事前提で。

 

 携帯を開いて、メール画面を開く。先ほどふなちが送ってくれたメール。全ての事件に森谷帝二の建築物が関係しているという事を知らせてくれたメールだ。

 まぁ、問題はメールの本文よりも、題名か……

 

『sub:お覚悟を』

 

 うん、たった一言でこんな不安な気持ちにさせられたことないよ。

 や、本当に悪かったって。越水には謝るから、死ぬほど謝るから。

 

「伏線、敷いておくか……」

「あん?」

 

 江戸川が上げた疑問の声はさておき、とりあえずふなちの携帯を鳴らす。

 多分出て来るのは――

 

『浅見君! 今どこにいるの!!』

 

 ですよねー。うん、出ると思ったよ。うん。

 いかんいかん、焦ってはいかん。表情という一番大事なパーツを見られないで済むのだ。堂々と――

 

「越水、心配掛けまくって悪い! けど、悪いが頼みごとがある!」

『……本気は5割、罪悪感2割、残りはやっぱり時間稼ぎって言った所?』

 

 …………なぜ分かるんですか。

 

『ま、きちんと観念して電話をかけてきたことは評価してあげる。で、何?』

「あぁ、実はな――」

 

 とりあえず、やれることは全部やった。あとは――乗り込むだけ。

 ……死ななきゃいいなぁ、俺。いや、大丈夫、例え手足が吹っ飛んでも命があれば安い安い。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ジンの兄貴。ちょっと妙な情報が入っているんですが……」

「妙?」

 

 町並みには似合わない、黒い高級車の中に、同じく黒い衣装でつま先から頭まで固めた男が二人がいた。

 

「へい、警察の中に紛れ込ませている野郎からの情報なんですが……工藤新一って覚えてやすかい?」

 

 ジンと呼ばれた男は、咥えたばかりのタバコに火をつけ、一度煙を肺に取り込み、吐き出してから口を開いた。

 

「いや、覚えてねぇな。誰だ?」

「以前、兄貴が例の毒薬を飲ませた若い探偵です。まぁ、こいつは死んだようなんですが……」

「死んだ奴に……何ができる?」

 

 ジンと呼ばれた男が不機嫌になったのが分かったのだろう、がっしりした体格の男は慌てた様子で、

 

「あぁいえ、ソイツはいいんですが……今起こっている爆弾事件。どうやらその工藤って奴の助手が動いているそうでして……」

「助手……だと? そいつが気にかかるのか、ウォッカ」

「へい」

 

 ウォッカは、ジンの機嫌が少なくとも先程より下降していない事に安堵の息を一度吐く。

 

「工藤新一は、確か死体は見つかっていないはず。あの毒を飲んだんなら死んだのは間違いないでしょうが……ひょっとして、死ぬ間際に何か聞いたんじゃないでしょうか」

「なるほど……死体が見つからないのは、薬がすぐに効かず、どこかに移動してのたれ死んだ、と?」

「へい」

「……ふん、なるほどな」

「どうしやす、兄貴。消しますかい?」

 

 ジンはすぐには答えず、もう一度紫煙をくゆらせる。

 

「ほっておけ。今は恐らく警察の近くで動いているだろう。あの時も取引現場を見られただけだったか? その工藤新一とやらが何かを知っていた訳でもねぇ」

 

 それでいいのか? 口には出さずとも表情に出ているウォッカをあざ笑うかのように、ジンは口の端を吊り上げ、言葉を続けた。

 

「――まぁ、保険は必要だが、な」

 

 

 

 

 




すみません、ちょっと感想返信はまた後日。ちょっと今追いついてないです(汗)
感想には全て目を通しておりますので、これからもよろしくお願いいたしますm(__)m


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007:時計の針が止まる時。(副題:心がやすりで削られていくその前日)

 シンメトリー。完全な左右対称を美とする英国の古風建築用法のひとつ。

 まさにそれを体現したような庭、そして玄関をくぐり抜ける。

 玄関を抜け、扉を開け、廊下をまっすぐ歩き応接間へ、そこには――

 

「ようこそ、刑事さん。それに――久しぶりだね。浅見君――」

「えぇ、お久しぶりです。――森谷教授」

 

 糞野郎がソファにふんぞり返って、待ち構えてやがる。

 英国紳士が客を座って招き入れるのはマナー違反だろ? あぁ、客ではなく敵だと。大正解だよ糞野郎。

 

「警察の方々も、さ、どうぞ腰をかけてください。それで、話があるという事でしたが?」

「え、ええ……」

 

 目暮警部が対面のソファに腰をかけ、「実はですね――」と切り出して始める。

 

「おや、どうしたのかね浅見君。くつろいでくれて構わないんだよ?」

「えぇ……お言葉に甘えて」

 

 江戸川頼むぞ、こいつのにやけヅラに泥――いや、汚物塗りたくる勢いでけなしてくれ。

 時間はなんとか稼いでみるさ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 いくらなんでも、早すぎたかな。

 とはいえ、久しぶりに――本当に久しぶりに幼馴染に会うのだ、少し気持ちが浮ついているのも仕方ない。

 友人の園子と別れてから、米花シティビル内のカフェでもう一度時間を潰している。

 9時を過ぎたら映画館の前に行こう。映画を見て、日が変わって……そしたら、アイツに誕生日を思い出させてやろう。

 

――あれ? なんか、騒がしい?

 

 辺りを見回すと、急にパトカーが何台も止まりだした。

 なにがあったんだろう? もっとよく見てみよう。そう思って立ち上がってみると、ちょうどパトカーから、私服姿の誰かが降りてくる所だった。

 あれ? どこかで見たような……

 

「いたっ! 蘭さん!」

 

 パンツルックのボーイッシュな格好にセミロングの髪、最近知り合った大学生の

 

「な、七槻さん? どうしてここに?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「なるほど……確かに、全て私が設計したものですな」

「えぇ、森谷教授。何か、心当たりはありませんか?」

「さぁ……心当たりと言っても。特にありませんなぁ……」

 

 相も変わらず胡散臭い笑みを浮かべたまま、森谷教授は目暮警部と応対をしている。

 

「しかし恨みというなら、例の工藤君はどうしたのでしょう?」

「工藤君……ですか?」

「えぇ、先ほど聞いた話では、事の始まりは工藤新一君への挑戦から始まったとか……。ならば、私の恨みもそうですが、彼の周囲――過去の事件などを調べた方がよろしいのでは?」

 

 白々しい顔しやがって……。

 事件の詳細を聞いた時から感じていたが、犯人――もうほとんど確信しているが、目の前にいる男はヒントを出すのが大好きな男だ。もちろん、親切心からではないだろう。

 想像以外の何物でもないが、二番目の爆弾しかり、その次の予告電話の時もそうだったが、あのヒントを出す癖はあの男の中にある無意識な防衛反応の表れではないかと思う。

 ヒントを出すという行為は、言い方を変えればハンデをやるという事、つまりは自分の方が立場は上だと言うアピールと言えなくもないだろうか。そして同時にヒントがあるから解けたのだという逃げ道の作成なのではないか。

 まぁ、こういうタイプは追いつめられた時はやっかいなのだが……。常に追いつめられた時の事も思考のどこかで考えているはず。

 

つまり、隠し札は必ずあると見ていい。それも、恐らく二つ以上。

 

 この考えは江戸川にも伝えてある。彼も彼で、盗まれたオクトーゲンの量からまだどこかに仕掛けられている可能性は十分以上にあると推理していた。

 

「えぇ、もちろん私の相棒――工藤新一が関わった事件に関しては、知人に頼んで洗い直してもらっています」

 

 ウソです。すでに見切りをつけて全部片付けちゃいました。

 これが『物語』の世界であるという仮定の下での当てずっぽうだが――今回の事件は今日中に終わるものと考えている。

 なにせ明日が工藤新一の誕生日。そんじょそこらにありふれた誰かの誕生日じゃない。主人公の誕生日だ。おまけに普通で考えたら、今は絶対に会えない二人――いや、実際には毎日会っている訳だが――まぁ、その二人がオールナイトの映画の約束をしている。この時点で、いわゆるイベントフラグは全部立っているといっていい。

 これだけならば恋愛方面のハートフルストーリーのフラグだが、ふなちと越水に調べさせた所その映画館がある米花シティビル。ここ、森谷帝二の設計したビルである。

 

 爆発するね。どう考えても爆発するわ。役満どころの話じゃねぇ。

 

 ヒロインと思わしき蘭さんがそこにいるのにこれでピンチにならないとか……フラグ全無視? 読者がブチ切れるわ!!

 

 以上の理由で適当な理由をつけて越水たち経由で警察にはもう動いてもらっている。先ほど、目暮警部にも確認したが、爆発物処理班も念のため動いてもらっているらしい。遠隔で爆破される可能性もあるので、最低限の人員以外には口止めもしているらしいし、大丈夫だろう。

 

「ほう、君の知人……あの二人のお嬢さんかね?」

「さぁ? 探偵という生き物は隠し札をいくつも持っている者なんですよ。工藤君が、このギリギリまで自分を隠していたように」

「ほう…………」

 

 互いに腹を探り合う。どこまで気が付いているのか、気が付いていないのか。ただ嫌悪しているだけか、確信を持ってここにいるのか。

 

(越水からも連絡はないし、江戸川からもまだ……。やっぱりないのか、証拠は……)

 

 そうとなれば、仕掛けるタイミングは必ず来る。

 そっと、自分の服の襟の裏に付いている小型スピーカーを静かに撫でる。

 

 こっちはいつでもいいぞ、――ホームズ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 目暮から見て、浅見 透という青年はやはり変わった男に見える。

 今も頭に包帯を巻き、身体の所々に擦り傷や打身を手当てした後が垣間見える。正直に言えば痛々しい。弱弱しい。だが、そんな外見とは裏腹に、その目は爛々と輝いている。

 目暮は、この目をよく知っていた。懐かしさすら覚える目だ。

 

(ぱっと見は似とらんのに、こういう時は本当に彼にそっくりだ――)

 

 今、浅見は森谷教授と話している。恨みを買う心当たりについてだが、思いつく人物に心当たりはないと言う森谷教授に、彼は「そうですか……」と納得した様子を示した後、話を変えて雑談を始めている。雑談の中から探るつもりなのだろうか?

 

(彼や越水君の言うとおり、爆弾は見つかったからとりあえずは一安心か)

 

 浅見と共に捜査をしている女子大生の探偵――越水七槻が、浅見が不審に思った点を元に意見をまとめ上げ、次に爆弾が仕掛けられているだろう建物を特定してくれた。民間人の避難も終わり、爆弾を発見したと言う情報もついさっき入ってきた。今頃は処理班による作業が始まっているだろう。

 

(浅見君と越水君の意見が正しければ、爆弾の設置個所もすぐに分かるはずだが……)

 

 二人の意見で共通しているのはもう一つ。相手は建築や設計に関係の深い人物である可能性が高いということだ。

 まぁ、分からない意見ではない。森谷教授の作品と言える場所が連続して狙われているのだから、相手もまたそういった関係者である可能性は十二分にある。そのため、タワーを破壊するのにもっとも最適な箇所に設置されているだろうというのは分からんでもない。

 気になるのは、その後に浅見が口にした追加注文だ。

 

(映画館と、その周りの階層は徹底的に洗ってくれとは、一体どういう事なんだ?)

 

 内心首をひねる目暮をよそに、浅見は話題を変えて会話を続けている。

 

(そもそも、例の建物――米花シティビルの爆弾に関しては森谷教授に伏せておいてくれだとか……)

 

 こういう、ギリギリまで何も言わず、我々が結論を出しかけた時に限ってちゃぶ台をひっくり返すが如く口を開くのが、工藤や毛利の様な探偵という人種だ。少なくとも、目暮の周りにいる探偵は。

 そして浅見 透――本人は探偵ではなく助手だと言ってはいるが、この浅見という男もそうではないか。なにせ、頼りにはなるが最も目暮をヤキモキさせる、あの『工藤新一』の助手なのだから。

 

「――さて、長々とお話をしてしまって申し訳ありません、森谷教授」

「いやいや、パーティーの時にも話したが才能を感じる若者との会話ほど面白い事はない。次は是非、工藤君も交えて話をしたいものだ」

 

 森谷教授が残念そうにそう言うと、浅見君は軽く耳を押さえ、そして軽くため息を吐いた。よく見ると、その耳にはイヤホンの様なものが付いている。

 

「工藤君ですか。……残念ですが、それは難しいですね」

「ふむ? それはまたどうして?」

「それはもちろん――」

 

 その瞬間、目暮にも分かった。雰囲気が――変わった。

 

 

「あなたがここで、『私達』に敗北するからですよ、森谷教授……いや、連続爆弾魔――森谷帝二」

 

 やっぱり、彼と同じだ。

 この、犯人を追いつめる時の顔、目つき、そして自信に満ち溢れた声。

 本当によく似ている。

 

「ほう……」

 

 一方で、森谷教授の雰囲気も一変した。先ほどまでの紳士然とした雰囲気は消え、どこか不敵な様子でパイプに火をつけた。

 

「えぇ、最初は私も目暮警部達と同じ考えでした。この事件は貴方に恨みを持つ者の犯行だと――」

「だが、そうではないと君は言うわけだ。なるほどなるほど……」

 

 自分が犯人だと言われているのに、教授はまったく余裕を崩さない。

 それは予想済みなのか、あるいは、実は内心癇に障っているのか、浅見は口を開く。

 

「余裕ですね、森谷教授」

「いやいや、これでも私は焦っているのだよ? 君が優秀な人間であるというのはよく知っているからねぇ」

 

 さて、と教授は切り出す。

 

「聞かせてもらおうじゃないか、名探偵君。なぜ、私が犯人なのか……ね」

「……私は、探偵ではなく助手なのですが……」

 

 浅見は、そこで軽く咳払いをし、

 

『そう、森谷教授。なぜ貴方が工藤新一に挑戦し、かつ自らの作品を破壊しようとしたのか。それは――貴方が完璧主義者だからです』

「あ、浅見君。それが一体どう関係するのかね……っ!?」

『事の発端はいつなのかは分かりません。ですが、もっとも大きな理由としては、西多摩市前市長――岡本氏の逮捕の時から、貴方は工藤新一を憎んでいた。違いますか?』

 

 思わず声を挟んでしまうが、二人とも自分の事など目に入っていないかのように互いの目をそらさない。

 

『調べるのに苦労しましたよ。工藤新一とのつながりを持つ人間は多い。恨む人間も当然。今回の事件で一番引っかかったのは、あの児童公園の近辺で一度爆弾が止まった事でした。犯人はなぜ爆破をわざわざ止めたのか。その理由こそが、犯人の動機につながると……』

「なるほど、確かにあそこは――」

『えぇ、西多摩市の再開発計画……設計担当は貴方でしたね? 都市開発計画ともなれば、長い時間を費やしたでしょう。その計画が立ち消えになった。……工藤新一が、計画を主導していた岡本市長の犯罪を暴いたからです』

 

 そうか、工藤君が解決した偽装事件か!

 

「ほう……。よく調べ上げたね、さすがは工藤新一の助手だ」

『……貴方が長い時間をかけて組み立てた都市計画は、あの事件で白紙になってしまった』

「…………」

『そして、爆破しようとした米花駅、あの東都環状線の石橋、放火の被害があった屋敷の数々。全て貴方が建てた建物です……。今となっては――いや、ひょっとしたら当時からかもしれませんが……貴方にとって不本意な建築物だった。そうですね?』

「……君にはギャラリーを見せていたから、ね」

『全ての建築物を、建築に造詣の深い白鳥刑事に調べてもらいました。被害にあった建築物の全ては、貴方がもっとも美しいとする完全なシンメトリーではないと』

「それで、それが許せずに自分の作品を潰して廻ったと? ふっふっ、まるで、自分の作品を気に入らずに割ってしまうという、ステレオタイプの陶芸家のようだね」

『貴方はガーデンパーティで言っていたじゃないですか。……建築家は、自分の作品に責任を持たなければならない、と』

 

 森谷教授は、完全に纏う雰囲気を変えていた。

 彼は懐から、やけに大きく、派手な装飾のライターを取り出した。パイプにまた火をつけるのかと思ったがそうせず、ただ手の中でいじっているだけだ。

 

『そう、犯人は高いプライドを持ち、かつ証拠を残さない慎重さを持っている。――そして、いちいちヒントを付け加える大胆さも』

「ほう、証拠を残さないのならば捕まえるのは難しいのではないかね?」

『いいえ、そうでもないんですよ。慎重な犯人は、常に確実性を求めます。そうなると、証拠をどのように処分するかも想像しやすいんですよ。例えば――変装などに使った道具を一体どう処分するか、なんてね?』

「なに?」

 

 ここで初めて、教授は眉をひそめた。

 そして、ほとんど同じタイミングで、いつの間にか姿を消していたコナン君が、両手に何かを持って飛び出してきた。

 

「透にーちゃん! 言われた通りの場所を探ったらこれが出て来たよっ!」

 

 それは、サングラスに付けひげ、それにぼろ布……いや、あれはかつらか?

 

「ば、馬鹿なっ! それは金庫に――」

「へぇ……金庫に、ねぇ……」

「――っ! 小僧共……貴様らっ!!」

 

 もはや教授に、先ほどまでの余裕は残されていなかった。

 逆に、浅見くんは緊張を解いたように、肩の力を抜いている。タバコか何かを取り出そうと言うのか、ジャケットの内側を探りながら――

 

「そう、貴方は完璧主義者にして慎重な性格。単純にゴミに出すハズがない。となると、絶対に俺たちが手を出せず、かつ貴方の近くに置いているだろうと思ってましたよ」

「それに、僕の友達がラジコンを渡してきたおじさんから、甘い匂いがしたって言ってたのもやっと分かったよ――あれって、パイプの臭いだったんだね!」

 

 教授は、今まさに手にしているパイプに目をやり、憎々しげにコナン君を睨みつける。

 もう、間違いない。情けない事だが……自分がする仕事は最後の仕上げだけだ。

 

「森谷教授、署まで御同行――」

「動くな!!」

 

 がたっ!

 ソファや机を倒さんばかりの勢いで教授が立ち上がった。その右手にあるのは、先ほどいじっていたライターだ。

 

「動くとスイッチを押すぞ! この屋敷に仕掛けた爆弾のなっ!」

「ば、爆弾!?」

 

 まだ残っていたのか!

 反射的に立ち上がっていたが、足が止まってしまう。

 とっさに口から「落ちつきなさい!」といういつもの言葉が出そうになるが、

 

 

―――バキンっ!!

 

「ぐあっ!!!」

 

 その時突然、森谷教授の持っているライター……起爆装置が吹き飛び、教授は思わずといった様子で右手を押さえる。

 何が起こった!?

 咄嗟に辺りを見回すと、そこには、何かを突き出すように右手を前に上げている浅見君と、それを唖然と見上げているコナン君がいた。

 それと同時に、チャリンッという音がする。机の上を見てみると――

 

「これは……鍵?」

 

 そこに落ちたのは、何の変哲もない民家の鍵だ。

 まさか……これを投げつけて起爆装置を吹き飛ばしたと言うのか?

 

「……身に付けた技術って、どこで役に立つかわかんねぇもんだな……」

 

 平然と、素に戻っている浅見君は右手を握ったり開いたりしてから鍵を拾い、そして森谷教授に不敵な笑みを浮かべる。

 

「チェックメイトです、森谷教授。米花シティビルの爆弾もすでに発見しています。恐らく、そろそろ処理が終わる頃じゃないでしょうか」

 

 浅見君がそう言った後に、私の携帯電話が鳴り始める。ディスプレイに映っているのは……白鳥君。無事だったか。

 

「貴様……っ……なぜ、ビルに爆弾を設置していると分かった!」

 

 森谷教授の言葉に、浅見君は苦笑し、少し経ってから口を開いた。

 

「繰り返すようですが、貴方は完璧主義者だ。その貴方が、一応は恨みを持つ工藤新一に挑戦状を送りつけたとはいえ……。前回のパーティーの時も欠席した彼だ。万が一を考えたんじゃないですか? だから、思ったんです。工藤新一と確実に対決するには、彼が確実に行く場所――あの日、蘭さんが話していた彼との約束の場所。米花シティビルの映画館に仕掛けるしかないんじゃないか、と。調べたら、あのビルも貴方の設計でしたしね」

 

 違いますか? 教授?

 

 目でそう語る浅見君に対し、教授はついに崩れ落ち、その場に膝をついてしまった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 5月5日

 

 どうにか全部終わった。

 江戸川の推理を聞きながらただドヤ顔浮かべて口パクしてただけだが、どうにかなってなによりだ……。いやマジで。

 森谷教授はあの後、全ての犯行を認めて目暮警部に逮捕された。

 米花シティビルの爆弾も、ギリギリ爆発する前に全て処理され、恐らくはクライマックスだったのだろう大規模な爆発は阻止できた。

 気になるのは、映画館にひとつだけあった大きな爆弾。それだけが時刻が0時3分に設定されており、また、他の爆弾と違いダミーまで用意されていたそうだ。……流れからして、多分江戸川と蘭さんが解体する奴だったんだろう。

 なんにせよ、一つの大きな事件を乗り越えた。恐らく、これでこの世界の時計の針も少しは進むことになるだろう。

 今自分は病院の庭でこれを書いている。

 病室にいても暇だし……。

 森谷を逮捕した後、米花シティビルに向かった俺を待っていたのは、越水からの凄まじい説教だった。

 いやもう本当にすみませんでした。でも、なんでお前も現場に向かっちゃったのさ。待っとけって言ったのに。

 その後、あれよあれよと病院に叩きこまれ、今は精密検査のための検査入院をしている。

 無茶をやった自覚はあるけど、今回ばかりは許してほしい。これからもするだろうけど手加減くらいはしてほしい。

 ……書いてて思ったけど、この日記、絶対に見られないようにしないと俺の寿命が縮む気がしてきた。肌身離さず持っている事にしよう。

 

 何にせよ、とりあえずこの入院が終われば色々忙しくなるだろう。今の内にゆっくりしておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 日記を書き終え……もうこれ手記だな。

 これからは肌身離さず持ち歩くことになるだろうし……。こんなん見られたら頭おかしいと思われるし、無茶します宣言など越水に見られたら、説教フルコース2本分くらいはされそうだ。

 やっぱり女は怖ぇよな……。江戸川も昨日は変声機で、電話越しに蘭さんに色々事情の説明したり謝り倒したりイチャイチャしたり……爆発しても良かったんじゃねーかな、やっぱ。

 まぁいい。問題はそっちじゃない。

 

「さて……これどうするかなぁ……」

 

 俺が手にしているには今日の発売の週刊誌。先ほどふなちが持ってきた物だ。多分、あとで越水も来るだろう……江戸川も……。というか、今日は朝から毛利探偵が来るわ目暮警部が来るわ白鳥刑事が来るわ……とにかく訪問者の数が半端じゃなかった。

 目暮警部は純粋に事件のより詳細な質問。毛利探偵からは爆弾に気がついて、娘の蘭さんを危険から遠ざけた事に対するお礼――ちょっと罪悪感で胃が痛かった。白鳥刑事からは半ば尊敬の目で見られていた……すっごく胃が痛くなった。

 そんな感じで半ば悶えながらベッドでゴロゴロしていた時にふなちが顔を見せに来てくれた。その手土産が週刊誌だった。

 その表紙の一部には、大きな文字でこう書かれている。

 

『名建築家、森谷帝二、まさかの連続爆弾魔』

 

 うん、ここまではいい。まごうごとなき事実だ。問題はその見出しの横だ。少し小さな文字――だが、人目を引くには十分な大きさでこう書かれている。

 

『新たなる名探偵登場! 正体は、あの高校生探偵の助手か!?』

 

 目暮警部達に俺の事は黙っておくように念を押したんだが……どっから漏れたんだちくしょう。

 昨日見舞いに来た江戸川と色々話したが、とりあえず俺と工藤新一の関係は公に認める事はやめておこうという話になった。相変わらず、事の全ては聞いていないが、やはりデカイ訳ありなのだろう。

 とにかく、警察の人に口止めを頼んだのにこうなるとは……。

 

「面倒事になる気がするなぁ……」

 

 売店で買った缶コーヒーのプルタブを開けて、少し口に含んで一息吐く。

 

「あの、少しよろしいですか?」

「……はい?」

 

 そして週刊誌の記事にもう一度目を通そうとした時に、いきなり声をかけられた。女性の声だ。

 誰だと思い振りかえると、スーツ姿の女性が立っていた。誰だ? いや……どこかでみたような?

 

「私、日売テレビの水無怜奈と申します」

「」

 

 なんで? なんでもう?

 ってか、水無怜奈? 有名なレポーターじゃねぇか!

 

「浅見 透さんですよね? よろしければちょっとお話を伺ってもよろしいですか?」

 

 ちょっと特定するのが早すぎませんかねぇ……

 俺に向けてニッコリと笑う水無さんの笑顔に少し見とれながらも、同時になにかげんなりとしてきた俺の気持ちを、完全に察せる奴はいるだろうか?

 そんな事を考えながら、何か答えようと頭を必死に回転させる自分がいる。

 

 

 

――ほんとにどうしよう……。

 

 

 

 



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摩天楼、その後―
008:今後の先行き、動く影(副題:乱立する死亡フラグ)


いろいろ書きたかったけど一度ここで切りますー
次からいくつか事件やって登場人物少しキープしながらフリーザ様編に入ろうと思います。


「――ええ、貴方と少年が、爆弾を川に向かって投げたという目撃情報が多く寄せられ、噂されている工藤新一の助手とは、貴方ではないかと」

 

 

 わっはぁ。さすがにあの時の人の目とかは全然気にしてなかったわ~。そんな余裕なかったし。

 

 

 

 さぁ、どうしよう。

 

 

 

 というかね、水無さんこわい。マジ怖い。

 なんだろう、この人から越水とか江戸川に近い怖さを感じる。切れ者の気配と言えばいいのだろうか。

 適当に否定しながら雑談だけして終わらせようと思っていたのだが、気が付いたらもう結構な時間喋ってしまっている。話し上手、聞き上手と言うのだろうか。

 で、こっちの隙をついて核心を放り込んでくるから性質が悪い。

 正直、言葉にこそしていないがいくつかの情報を取られている気がする……。

 やっべぇ。なにがと言われれば全てがヤバイ……気がする。病院とはいえ庭という人が集まる所にいるわけだし、すっげぇ見られている気もする。やっぱり人目を集めているか?

 

「どうでしょう、水無さん。とりあえず私の――と言うのもおかしいですけど、病室に入ってお話しませんか?」

「あら、女性を部屋の中に連れ込む気ですか?」

 

 これだよ。この人、懐に入り込むのが上手い。ふとした時の冗談で、言葉を選んでいる自分の緊張を解いて口を軽くさせる。汚いな、さすがマスコミ汚い。

 

「いえいえ、待たせている人がいるでしょうし……せっかくなら、御一緒にと思ったんですが……」

「…………」

「あれ? お一人でしたか?」

 

 雑誌の記者ならともかく、アナウンサーなんだ。カメラマンとか、一緒に来たスタッフがいるんじゃないかと思ったんだが……。

 

「え、ええ。今日は私の個人的な興味もあって来ていたので……」

 

 あー、なるほど。今言いづらそうにしたのも、この取材(?)がいわゆる先走りだったからかもしれないな。

 

「私、実は工藤君のファンでして、助手の貴方ならと思ってつい……」

「あぁ、ついでに私の事も調べたかったと」

 

 この人はまだ話が通じそうな人だったからよかったが、このままだと強引な手段で情報を手に入れようとする奴も出るだろう。……ここで水無さんと会っておいてよかったかもしれん。越水やふなちはもちろん、爆弾捨てる所を見られていたと言うのならば江戸川に向かう好奇心をどうにか遮る必要がある。

 これが原因で江戸川の動きが鈍るようなことがあれば、『本当の意味での来年』がまた遠のいてしまう。

 ……一計、案じておくか。

 

「でも、よかったです。水無さんが話しやすい方で。正直な所、マスメディアに携わる方ってもっと強引な方ばかりという偏見を持っていまして……」

「あぁ、ええ。お恥ずかしい話ですが、確かにそういう人もいます。どうしても情報を扱う人間には、早い者勝ちという意識が強くてですね」

「なるほど……。このままだとやはり私の周りの人間に強引な取材をする人間も出るでしょうか」

「……そうですね。可能性は十分にあると思います……」

 

 よぉし、マスコミ関係者からそれ聞けりゃ十分だ。

 

「そこなんですよね。正直の所、私はともかく友人に迷惑がかかるのだけはどうにか避けたくて……」

 

ここで少し考える振りをする。まるで今、真剣に悩んでいるようにだ。そして――

 

「水無さん、もしよかったら報道関係者や、それに詳しい人を紹介していただけないでしょうか?」

「えぇ?」

 

 水無さんは、ほんの少しだけ考える素振りを見せ、その後すぐに納得したように、

 

「――なるほど、報道関係の人間と親しくなって牽制か、もしくは強引な取材の気配を感じたら事前に教えてもらおうと? ちょっと分が悪い手じゃないかしら?」

「素人の浅知恵でも、打てる手は打っておこうと思いまして……」

 

 限りなく本音でもある。ぶっちゃけマスコミとか報道関係の相手にどう立ち回ればいいのか分からないし、やり過ごすのにも、どこまで周りの人間に聞こうとするのかとかいった、マスコミ側のやり方やルールを知らないと対策がたてられない。

 

「私が、素人の浅知恵を逆手に取るとは思わなかったの?」

「貴方はしないでしょう? するにしても、それをするにはまだ早いでしょうし」

 

 仮にも大手のアナウンサー。わざわざそんな小細工する必要があるとは思えないし、俺にそんな価値があるとも思えない。やるなら、自分がなんらかの形でもっと名前が売れてからだろうさ。

 

 

 

 

 

 あれ? 水無さん、どうかしました? なんかじーっとこっち見て……俺、なんかまずいこと言った?

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「……どうだった? キール」

 

 キール――水無怜奈が車に戻ると、中で待っていた二人組みの男のうち一人が声をかけてきた。

 水無は、無言のまま運転席のドアを開けてそのまま乗り込み、

 

「タダ者じゃないっていうのは確かかしら。……気付かれていたかもしれないわよ、あなた達」

「へぇ……それはよかった」

「? よかったってどういうことかしら?」

 

 怪訝な顔で、後部座席に座っている男に水無が問いかけると、男は薄笑いを浮かべながら顔の皮を剥ぎだした。いや、よく見るとそれは皮ではなく――

 

「仮にも、名探偵とよばれる人間の助手だもの、張り合いがなくてはつまらないでしょう?」

「……相変わらずね……ベルモット」

 

 それはとても薄く、だがよく出来ているマスクだった。そのマスクの下から現れた白人の美女――ベルモットは、男の扮装をしていた時と変わらない薄笑いを浮かべている。

 

「しかし、そう……。まさか、私たちの正体までは知らないでしょうけど……」

「…………ベルモット」

 

 助手席に座っているもう一人の男――こちらは間違いなく男だ。サングラスで顔を隠しているその男は、ベルモットの方に顔をやりながら……

 

「気になるのか、その男が」

 

 呟くようにそう言う。もともと寡黙な男だ、口を開くのは珍しい。仕事の事か……惚れた女に関わること以外では、

 

「えぇ、気になるわ。敵になり得る人間としても……男としても、ね」

「…………」

 

(この女……よくもまぁ白々しい事を)

 

 男――カルバドスがベルモットに惚れているというのは公然の秘密である。本人は気付かれていないと思っているだろうし、一部の勘の悪い連中は実際気付いていないだろうが……残念な事にベルモットはそういうタイプではない。むしろ、かなり勘がいい方だ。

 

(分かっていてこんな事言って……焚きつける気ね)

 

 カルバドスもプロだ。こんな言葉で仕事を間違う様な男ではない。だが、もし決断を迫られた時――彼を害するかどうかの選択を迫られた時、彼の引き金はわずかだが軽くなったはず。

 

(あの子に恨みはないけど……)

 

 今、水無の立場でどうこうすることはできない。

 当面は自分が彼に付く事になるだろうが、万が一浅見 透という男が本当に『こちら』と敵対しうる人間だったのならば……その時は、

 

(彼の能力と……悪運に賭けるしかないわね。今は……まだ)

 

 せめて祈ろう。ほんの気休めにしかならないが彼が平穏無事に過ごせる可能性があることを。

 一人そんなことを思い浮かべながら、水無はため息とともに、エンジンをかけるのだった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 とある病院の個室。そこが俺に与えられた部屋だ。

 備え付けてあるのは、ベッド以外にはサイドテーブルと、その上に置いてあるテレビくらいしかない。まぁ、ぶっちゃけ差し入れとかもあるから退屈しないし、どうせあと一日の検査入院なんだ。

 

「ねぇ江戸川。これ、どうしたらいいと思う?」

「ハ、ハハ……」

 

 奴の眼前に、水戸のご老公が如く突き付けたのは、ふなちが買ってきた例の雑誌だ。

 それを見た江戸川は、顔を引きつらせて、これまた引きつった声をあげている。

 

「まぁ、バレるのはしゃーないけどな。あのエクストリーム不法投棄の現場見られてたっぽいし」

 

 この週刊誌がどうやって情報を入手したかというのは確かに気になるが、とりあえずは直接乗り込んできた日売テレビの水無玲奈をどうにかしないといけない。

 

「もう取材とか受けたの?」

「正式には受けてない。カメラマンもいなかったし……雰囲気からしても様子見っぽかったな。ただ、どちらにせよ接触する必要はあるだろうから、連絡先は交換しておいた」

「……その、本当にごめんなさい」

「いいっていいって、直接的な命の危険に晒されてるわけじゃないし、安い安い」

「………………」

 

 おい、なんで黙る。なんで目をそらす。こっち見ろやオルァ。

 

「……江戸川?」

「いや、大丈夫。工藤新一とは音信不通ってところの矛盾さえなければ大丈夫」

 

 なんで大丈夫を二回言った。

 というか、お前この間思いっきり電話で工藤新一の名前だしとったやん(絶望)

 おうこら、一方的にフラグ立てんな。え、何、思った以上にヤバいん? や、ある程度の覚悟はあるつもりだけどさ。

 とりあえず俺の友達には被害がいかないようになんか策打っといてくれよ主人公。そこさえ安心できたら、できる限り全力で手伝うぞ。

 もう、自分が異物だと感じながら続ける日常生活は嫌なんです。嫌なんです!

 

「まぁ、とりあえずの共闘体制があるってだけでよしとしよう。問題は、俺の立場をどう使うかだ」

 

 厄介事も多い、『工藤新一の助手』という立場だが、使いようによってはかなり面白いことになるだろう。

 ……訂正、『使いこなせれば』、だが。

 

「なぁホームズ、虎の威を借る狐の気分なんだが……報道メディアへの露出を少し考えている。そっちの役に立ちそうか?」

「……どこまで読んでんだ、ワトソン君」

「……ホームズが情報を引き出す窓口を一つでも多く求めているってことくらいしか」

 

 たぶん物語の大筋は、主人公が元の体を取り戻すのが大筋だろう。そして主人公は見た目が小学生、個人では動くに動けないという設定。で、毛利探偵が主人公に代わり……代わり……操られ? なんか黒幕っぽいな。とにかく、情報入手の窓口のために毛利という探偵を持ち上げているんだろう。

 とはいえ、どうしたって窓口は一つ。今では警察にある程度顔が利くようだが、どう考えたって手数が足りないだろう。ここで使える窓が増えれば、例えばだがストーリー上間に合わなかったり、零れ落ちた事案だって救い上げることができるかもしれない。あるいは、物語が終了するまでの『年数』を大幅に短縮できる可能性だってある。

 もっとも、俺は本来は探偵じゃないし、毛利探偵のように刑事の経験もないから、万が一に備えていろいろ江戸川から手ほどきを受ける必要はあるだろう。

 

「まぁ、それに……さっきも話題に出たけど、このままだと俺とお前の両方に余計な注目を集めることになるだろう? 両方動きにくくなるんだったら、片方に全部寄せればいい」

「……かなり負担かかってしまうよ?」

「だから?」

 

 挑んでくるような目で聞いてくる江戸川に、俺はそう返す。

 お前……こっち側の住人になってみろ。文字通り先が見えないんだぞ。マジで。打ち崩す手段っぽいのが目の前に転がってるんならとりあえず試したくもなるわ。

 

「まぁ、なんだ……」

 

 利害関係は完全に一致している。具体的にどういう事件かはわからないが、絵にかいたようなヤバい奴らがいるんだろう。それも複数。だから迂闊に少年探偵は情報を出せない。けど――

 

「これからよろしくな、ホームズ」

 

 俺がそういうと、江戸川は観念したようにため息をつき、そして今度は森谷を追い詰めた時と同じ不敵な笑みを浮かべて、こう返した。

 

「こちらこそ……ワトソン君」

 

 

 

 

 

 

 



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009:つかの間の平穏(殺人事件はあるよ! やったね浅見君! 死亡フラグが増えるよ!!)

映画を見たおかげか、すっげー筆が進んだので投稿


5月14日

 

 正式に江戸川と協力体制を取り付け、退院してから一週間。

 たった一週間でもう殺人事件と殺人未遂事件に遭遇しました。はえーよ。

 殺人事件の時は毛利探偵が受けた依頼で派生した事件だったので俺と江戸川で毛利さんのアシストをしてどうにか事件を解決。江戸川も、少しはあの時計の使用を控えるそうだ。まぁ、それが一番だとは思うが……

 どういうわけか、解決したのは毛利探偵だというのに水無さんがこっちに来る。なんでや。

 地味ーに気が付いたら越水やふなちとも仲いいし……

 

 もう一つの方は、江戸川から呼び出しを受けた先で待ち構えていた事件だった。

 江戸川――工藤の中学時代の音楽教師が当人の結婚式で毒を盛られるという事件。

 江戸川は謎に気が付きはしたものの、ちょうどいい探偵役が見当たらず、電話を掛けたところ、たまたま俺が近くにいたというわけだ。

 ……江戸川がいたから事件が起こったのか、江戸川と俺がそろったから事件が起きたのか……。

 深く考えるのはやめよう。胃が痛くなってきた……。

 まぁ、事件はまた俺がパペット役を演じて無事解決。これはさきほど蘭さんから電話で聞いた話だが、犯人と被害者の花嫁は一応和解……仲直り? したそうだ。それでいいのかとも思うが……まぁ、外部が口を挟むのは野暮だろう。死人は出ず、ハッピーエンドならそれでいいか。

 問題は被害者――花嫁のお父さんが警察のお偉いさんだった。目暮警部たちの上司だって。

 娘さんの無事を直接確認した後、あのスッゲーいかつい顔を破顔させて「君の顔と名前は覚えておくぞ」って言われちゃったよ。一応計画通りだねHAHAHA!!

 

 

 

 

 あぁ、胃が痛い……

 

 

 

 

 

5月15日

 

 そういやいろいろあって書くのを忘れていたけど、うちに家族が『一匹』増えたことを書いておく。

 森谷の事件の時に拾ったあの白猫だ。あの後病院に直行だったため完全に忘れていたが、この間どういう偶然かうちの前に来ていた。ちょうど越水達が来ており、俺も一人暮らしはちょっと寂しかったので飼うことになった。

 病院代とかの出費が痛かったけど、猫がいる生活も割と悪くない。

 ただ、越水。お前のネーミングセンスはどうにかならんのか? 何、『源之助』って。お前の口からそんな渋い名前がでたのにびっくりだわ。ふなちも気が付いたら源之助様って呼んでるし……アイツ猫にも様付けなのな。

 

 今日は蘭さんが家を訪ねてきた。いや、どうやってここ知ったのさ? 今度聞いておこう。

 蘭さんから話があると言われて聞いてみれば、例の雑誌を持って来ていた。もうこの時点で胃痛Lvが3くらいまで跳ね上がったわ。で、予想通り―

 

「この記事に書かれている助手って浅見さんですよね?」

「新一がどこにいるか知りませんか?」

「連絡先は?」

「なにか手がかりだけでも欲しいんです」

「新一……どこにいっちゃったんだろう……」

 

 いつもそこにおるやないかい(激オコ)

 いや、別に彼女が嫌いなわけではないんだけど……ちょっとしつこくてまいった。

 ……たぶんこれから何度もこういうことあるだろうから、早く慣れないとマズいだろう。あ、書いててまた胃が痛くなってきた……。

 とりあえず連絡は取れないんですよーってこちらも答え続けると、ようやく諦めて帰ってくれた。

 見送るために玄関まで出ると、外に黒い車が止まっていた。ちょっと覗いてみると、水無さんと白人の美人さんがいた。――あの金髪の美人さん、どこかで見たことあるけど、結局今も思い出せていない。

 なにか取材絡みかと思って、蘭さんに関わらないでと目くばせしながら首を横に振ると、金髪さんが手を振って微笑んでくれた。

 ちょっとドキッとしたわ。

 

 

 

 

 

 

 

5月16日

 

 水無さんから連絡があり、会いたいというのでテレビ局まで行ってみると、日売テレビの関係者という男性を紹介してもらった。名前は明かせないということだったが、もし俺の友人に強引な取材が行くようならば事前に教えてくれるということだった。

 握手したときに、中肉の男性にしては指がやや細めだったので、とっさに「綺麗な手ですね?」と言ってしまった。なにそれ、お世辞にもなってないわ。というか男にいうセリフじゃなかったわ。

 幸い、向こうは気にせずニッコリ笑ってくれたけど……優しい人で良かった。水無さんの目がちょっと怖かったけど。

いや、本当にすみませんでした。わざわざ紹介していただいたのに……あとで謝罪のメール入れておこう。余計なことを言ってすみませんって。

 こうして一日の記録を書き記している間にすり寄ってくれる源之助に癒される……。

 ちょっと今日から肩に乗せる訓練しよう。

 

 

 

 

 

5月17日

 

 江戸川が風邪を引いたらしいので探偵事務所まで見舞いに行ったけど留守だった。風邪ひいたんちゃうんか。

 まぁ、ひょっとしたら毛利探偵事務所の方に仕事が有って誰もいないから、阿笠博士の家に行ったのかとそちらにも足を延ばしてみるが、こっちにもいなかった。風邪ひいたんちゃうんか。

 予想が外れたうえにもう暗くなっており、どうしようかなと思ってたら、工藤新一の家の前に車が止まっているのを見つけた。

 何事かと思って、そこにいた赤みがかった茶髪の女の子に声をかけたけど、これがまたすんげー可愛い子だった。

 

(次のページへと続いている)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 上からの命令で、工藤新一の自宅を再度調査することになった。すでに一度調査を入れているというのに、だ。

 工藤新一――私が作った……作ってしまった毒薬の犠牲者の一人。なぜ組織は彼にこだわるのだろう?

 

(死体が見つからなかった。つまりは生死不明。……ジンは毒薬を飲ませた本人というのもあって死を確信しているようだけど……)

 

 ただそれだけで組織がこれほどの人員を動かすだろうか? いや、そもそもここ最近、組織は妙に日本を重視しているような……

 

(ま、他の幹部と関わることの少ない私じゃ、知りようもないことだけど……)

 

 組織の人間で関わりがある幹部はジンとウォッカの二人を除けばほんの数人くらいだ。

 唯一頻繁に話す人間がいるとすれば姉くらいのものだが、なぜか最近姉とは会っていない。何か特別な仕事についているということだが……。

 

(この仕事が終わったら問いただそう。お姉ちゃんが今どこにいるのか……)

 

 今は目の前の仕事だ。工藤新一が死んだかどうか。その答えを上は求めている。

 そして、私は今、その答えにたどり着きそうな一つの事象を前にしていた。

 

(……やっぱり、子供服だけがない)

 

 この家は、相も変わらずほこりまみれで、人が住んでいる気配など全くない。誰も住んでいないというのは間違いないだろう。ただ――この棚だけに変化がある。

 

(一か月前には確かに子供服が入っていたはず……まさか)

 

 例の薬を用いた動物実験で、一度面白い結果が出たことがあった。投与したマウスに薬が妙な作用を起こし、死ぬのではなく幼児化するという事象だ。

 もしや、工藤新一も同じように……

 

(……私ってば、最低の女ね)

 

 この薬が本来の目的に使われていないことに腹を立てていても、こうして興味深い事象を目の前にすると好奇心が先立ってしまう。

 現に今、頭の中にあるのはいかにして組織のデータベースを改ざんして工藤新一を死んだことにするか。そして組織よりも先に工藤新一を確保するかを考えている。

 とりあえず、すこし気分転換にこのほこり臭い屋敷を出よう。

 玄関を出て、門の脇に止めてあった車へ。中には入らず、ボンネットに軽く腰掛ける。近くに自販機さえあれば何か買うんだけど……どうにも口が淋しい。

 

「あの、少しいいですか?」

 

 なんとなく暇をもてあましていたときに、一人の男が私に声をかけてきた。

 見た目を一言でいうなら――冴えない男だ。平凡そのものといった方がまだいいだろうか? どこにでもいそうな青年。年は……私と同じか、少し上くらいだろう。

 

「……なにかしら?」

 

 あまり人と関わるのは好きじゃない。接点のまったくない男ならなお更だ。

 不機嫌丸出しの声でそう返すが、男はそれを意に介さず、

 

「いえ、この家の人間とはちょっと前まで繋がりがあったので、何をしているのか少し不思議に思いまして」

「! あなた……工藤新一の知り合いなの?」

「……ほとんど連絡のやりとりはないですけどね。必要なときにだけ声がかかるみたいな……」

 

 あれ? これってただの都合のいい奴? などとつぶやきながら男は首をひねっているが――どうでもいい。

 工藤新一の知り合い。それも多分――私たち『組織』を知らない人間。仮に彼が生きていて、かつ私達の事を話していれば、彼の自宅を調べているような怪しい連中に声なんてかけないだろう。

 

「貴方、彼のなんなの?」

「……逆に聞くけど、貴女は工藤の……?」

 

 まぁ、聞くのは当然だろうが……なんて答えればいいのだろう? 恋人だなんて答えて、藪をつつくのもつつかれるのも馬鹿らしい。死体を増やすような真似をして何になるというんだろう。

 

「ちょっとした友人よ。彼と連絡つかないから心配になってね」

「ふーん……」

 

 少し疑わしげな様子だが、一応は納得したようだ。

 

「で、名前は?」

「あら、こんな所でナンパ?」

「いや、きれいな女の子ととりあえずの会話が成立すりゃ、名前聞きたくなるのが男の性じゃね?」

「それ……性を下心って置き換えても成立するわね」

「…………なんか下世話っぽくなるからやめよう、この話」

「…………そうね」

 

 情報を聞き出す才能は自分にはないらしい。まったく以て中身のない会話を繰り広げただけだ。

 ……姉さん以来かもしれない。こういうたわいない話をしたのは。

 

「ねぇ。貴方の名前は?」

「おい、そっちが聞くのかよ」

「いいじゃない。で?」

「……浅見 透」

「――――っ」

 

 浅見 透。ここ数日、組織内で噂になっている存在。あのベルモットが『面白い』と評した男。

 まさか……どうしてこんな所に!?

 

(今いるのは調査員のみ……直接的な戦力はないに等しい……まさか、この人――)

 

 

―― 待ち伏せていた!!?

 

 

「……どうやら、もう俺のことは聞いてるらしいな」

 

 私の表情を読んだのか、浅見透は目を細くして私を見つめてくる。

 

「っ……あ、貴方……本当に! ここで……」

 

 待ち伏せをしていたの?

 目でそう訴えかけると、彼は苦そうな顔で頷く。

 やっぱり……。さすがは高校生探偵の助手。聞いた話では、連続爆破事件を見事に解決したらしいが……まさか単独でこちらに仕掛けてくるとは。

 

「……ここの家主になにか用だったのか?」

「……………」

 

 どうする……狙いはいったい何なの? この男は……

 

 互いに目をそらさない。そらせない。どうする? 大声で中にいる調査員を呼び寄せるか?

 ……いや、考えてみれば、本当に単独だと限らない。

 こちらの焦りを浅見透は見透かしたように、話しかけてくる。

 

「今日は出直してきたほうがいいんじゃねぇか? 工藤はもう長いこと連絡がつかねぇし……ぶっちゃけ、生きてるかどうかすら分かんねぇからな」

「え、えぇ……そうね、そうさせてもらうわ」

 

 こちらのことなんてどうでもいいと言うように、浅見という男は気がついたら手を振って向こう側へと立ち去ろうとしていた。

 

「ま、待って!」

 

 思わず呼び止めてしまったが、正直どうしてそんなことをしたのかわからない。

 おそらくは生きているのであろう工藤新一について聞きたかったのか、それとも彼を足止めしたかったのか……

 浅見は私の声で足を止めるでもなく、そのまま歩きながら、私の声に答えた。

 

 

 

 

 

「まぁ、縁があれば……また会おうよ」

 

 

 

 

 

 

 




志保「……うかつに触れたらこっちが怪我するわね」

浅見「なにあの子むっちゃ可愛かったんだけど。外人さんといい水無さんといい、最高やわ。工藤への依頼人かな?」


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010:束の間の平穏……平穏?

(前のページからの続き)

 

 ――結局名前を聞き損ねてしまったけど、あれかな。なんかハーフっぽかった。

 それにしても、あの子まで浅見透という名前に反応したってことは、完全に自分は『工藤新一』の助手として世間から見られているのだろう。

 まぁ、好都合と言えば好都合だ。このまま警察やマスコミの関係者、それに加えて各業界方面に人脈を伸ばして、なんらかの異変が起こった際に素早く察知できる情報体制の構築が当面の目的だ。

 時間は無限にあるといえるし、ないとも言える。これから先、江戸川に関わり続ける――そして江戸川と共に行動をする事で、時計の針を進める事が出来たのならば、そのうち本命に関わることもあるだろう。その時に上手く立ち回れるように準備をしておかないと……。準備なしで戦場にいくとか無謀以外の何者でもない。

 

 書いてて思ったが、とりあえず水無さんともうちょい親しくなっておいて損はないかもしれない。

 先日の謝罪メールの時も、すぐに気にしなくていいとメールを返してくれたし、その時の流れで携帯電話の番号も交換している。

 その日なんか、わざわざ『向こうも貴方との会話を楽しんでいたから大丈夫よ』と電話で教えてくれた。

 本当に頼りになる人で困るわ~。その後も電話で色々話してしまったけど、かなり楽しい時間だった。

 ただ、電話にちょくちょくノイズが走るのさえなければもっとよかったのに……。あれだけがちょっと耳ざわりだった。

 

 

 

5月18日

 

 なんか江戸川が高熱で寝込んでいるらしい。風邪の状態で歩き回るからだよ……って思ったけど、どうも状況が少し違うらしい。蘭さんからの電話だと、今朝のニュースにもなっていた外交官の殺人事件に、また毛利探偵一行と、服部平次とかいうこれまた高校生探偵が関わっていたらしい。また探偵かよ。

 

 まぁ、ぶっちゃけそっちはどうでもいい。問題は、その場で間違った推理を披露した服部平次を止める様なタイミングで、工藤が現れたと言うのだ。

 アイツ、なにやらかしたんだ……。

 蘭さんいわく、新一もかなり体調悪そうだったから、もしそっちに来たらすぐに教えてほしいという事だった。

 

 教えないけどな!!

 

 ともあれ、一度工藤に戻ったと言う事は時計は進んでいるとみていいだろう。

 爆弾からスタートして死体に囲まれるような生活に片足入れている覚悟をしているんだ、これで全く気配がなかったら泣くぞ。

 とりあえず、明日は江戸川の見舞いに行こう。

 

 そういえば、源之助が何かを噛んだり爪を立てたり落としたりしてる。何かの小さな機械みたいなんだけど、これ何だろう? 見覚えが全くない。とりあえず使い物にはならないみたいだし、なくても困りそうにないし(そもそも猫の唾液だらけに加えて傷だらけで壊れている可能性大)、捨ててもいいかな?

 この家に来るのって越水とふなちだけだし、奴らの落し物かもしれん。明日一応二人に見せてみようと思うけど……どこにこんなんあったんだろ?

 

 

 

5月20日

 

 越水が一日のほとんどを俺の家で過ごすと言い出した。え、なんでそうなるの?

 ふなちも今までよりもこっちに来るようにしますと息巻いていた。なんで?

 そのふなちに連れられて、いつの間にかふなちと仲良くなってた千葉刑事に高木さん佐藤さんペアまでが今日は来た。本当になんで!?

 

 俺がなにかやらかしたのかと頭が真っ白になったが、どうにも俺を心配してくれている模様。

 どうやら昨日の機械、盗聴器だった模様。まじでか。

 

 いや、盗聴器仕掛けられたってのはショックだけど、それで家に人が増えるのはどう考えてもおかしい。

 心配してくれるのはありがたいけど、男の一人暮らししている家に乗り込むのってどうよ。いや、家賃光熱費とかどうでもいいから。

 

 で、そっちも問題だけど、一番デカイのはやっぱり盗聴器だ。

 誰だ? というか、どこだ? 地雷を俺はどこで踏んだ? あれか、工藤の家にいたあの女か?

 ……いや、あれは追いつめられるとクソ度胸発揮するタイプっぽかった。怪しさではトップだけどとりあえず保留。……名前を伏せてたあの人とかもうそうだけど●●●●―――

 

(ここからの2行がペンでぐちゃぐちゃにされている)

 

 あかん、疑い出すとキリがない。共闘関係にまでは持って行ったが、本当の意味での信頼関係にまでは届いていないだろう江戸川、工藤の情報が欲しい蘭さん、マスコミの怜奈さんに関係者の鐘下さん(偽名)などなど……

 信じることも、疑うことも大事な事。問題はどっちを選ぶかだ。

 とりあえず、風呂に入りながらどうするか考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

―― プルル、プルル、プルル

 

 机の上に置いていた携帯電話が鳴り響く。

 一瞬、『仲間』からの通信かと思って身構えるが、ディスプレイに表示されている名前を見て……私はさらに身を固くした。

 

――『浅見 透』

 

 初めてあった時からこちらに対してアドバンテージを持ち続ける青年。ベルモット……あの性悪女のここ最近のお気に入りにして、同時にあの女が危険視している相手。

 彼女の変装はほぼ完璧だ。顔も身体も、そのほとんどが……。ただ一つ、実際に変装したまま行動するために、ある程度の制限がかかってしまう手以外は。

 それでも彼女は、違和感のない特製の手袋を付けて、可能な限り『リアル』に近づけた。実際、彼女の手は、見た限りでは完全に少し毛深い男のそれだった――が、彼には通用しなかった。

 

 

 

 

『綺麗な手ですね』

 

 

 

 

 

 あの時のベルモットの気配。殺気と歓喜が混じったような気配は今でも忘れられない。

 

 

――ピッ

 

 

「もしもし、透君? どうしたの?」

『すみません、こんな時間に……折り入ってご相談がありまして……』

 

 相談。さて、その言葉もどこまで信じていいのだろうか?

 見た目も雰囲気も平凡と言える彼が、ふとした瞬間に垣間見せるあの雰囲気。

 陳腐な表現だが――狙った獲物を視界に納めた獣の視線。――飢えた獣。

 まだ彼と交流を持ってそんなに経っていないが、伝え聞く話が彼の異常性を物語っている。

 連続爆弾魔との対決に始まり、ベルモットの変装を見抜く観察眼、離れたベルモットやカルバドスの気配を感じる勘の良さ。推理力。最近、また一つ事件を解決へと導いたという話を『仲間』から聞いた。

 油断すれば、こっちが食われかねない。

 

「どうしたのかしら? ひょっとして、変な取材でも入った?」

『えぇ、そうみたいなんです』

 

 変な取材……こちらが情報をリークした連中のどこかが無茶でもしたのだろうか。

 

『実はですね、先日ウチに盗聴器が仕掛けられてまして……』

「――っ! な、なんですって!?」

 

 なんだ、それは!? 私はそんなもの仕掛けていない!!

 今、『組織の仲間』で彼の監視を命じられているのは実質私だけ。ベルモットは興味本位で接してはいるが、まだそんなものを使うほどじゃないはず。……カルバドス? いや、尚更違う。

 …………じゃあ、誰が……!?

 

『一応警察の方にも連絡はして、今盗聴器を調べてもらっているんですが……多分何も出ないでしょうね』

「…………た、大変ね」

 

 何も証拠は出ないと彼は確信している。つまり、それがプロの物だと彼は見抜いていると言う事になる。マズイ――!

 

『えぇ、本当に……007やらCIAでもあるまいし、誰がそんな事をしたんでしょうね』

 

 電話の向こうでは『ハハハー』といつもと変わらない感じで笑っているが……私は思わず歯を噛みしめてしまった。

 

(007……CIA……。やっぱり、彼は知っている。でも、どうして――どうやって!!?)

 

 水無怜奈が偽名であること。これは別に知られてもしょうがない。だが……もう一つのほうは、どうやって彼はたどり着いた!?

 

『警察の調査を一応は待ちますが、水無さんにも協力をお願いしてほしくて……もしマスコミ内でそれらしいことをしたという話を耳にしたり、怪しい動きがあったら教えてほしいんですよ。……これ以上の干渉はごめんですし』

「え、えぇ……そうね。こちらでも大至急調べてみるわ」

『お願いします。水無さんのこと、信じてますから』

「…………ありがとう。さっそく、知ってそうな人に連絡をとってみるわ」

『ありがとうございます。――それじゃあ、また電話しますね? 夜遅くにすみませんでした』

「ううん、気にしないで。何かあったらまた電話ちょうだい? ……それじゃあね」

 

 通話を切り、あたりに沈黙が広がる。だが、胸の鼓動は強く、うるさく脈を打っている。

 

(どうする……どうする!)

 

 彼はベルモットとも繋がりがある。組織に入っている人間というわけではないが、彼がうまく立ち回れば私はすぐにも追われる立場になる。

 

(彼を守らなくてはならない。私個人としても、CIAの一員としても)

 

 先ほど浅見からかかってきた携帯とは別の携帯を取り出し、頭に焼き付いている仲間の電話番号をコールする。

 幸い、今なら監視の目が緩んでいる。『仲間』に連絡をしないと!

 

(まさか……彼、ここまで読んで……っ!?)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「盗聴器が破壊された? なるほど……」 

 

 部下から報告を受け、降谷は『やはり……』と思っていた。

 浅見 透。『例の組織』との不自然な繋がりが見られる妙な男。

 尤も、彼自身の行動に怪しいところは少なかったため、念のための一時的な調査として盗聴器を設置したが、先日すぐに破壊されてしまった。

 そこで、念のためにもう一度仕掛けに行くよう指示を出したのだが、彼のそばにいる越水、中居という二人の女性が彼の家にいるようになり、さらに警察の人間が彼の周りをうろつくようになったために近づきづらくなっているようだ。

 

「彼は盗聴器を捨てたんですか?」

『いいえ、どうやら盗聴器自体は警視庁に提出されたようです』

「ふむ……まぁ、それは問題ない」

『えぇ……。ですが……気になることがいくつか』

「気になること?」

『はい、今日の話なんですが、浅見透の近辺の空き家のいくつかが、急に買い手がついております。それと同時に、彼の家の周りを通る人間が少し増えています。そのうちの何人かは……外国人です』

「……へぇ」

 

 それは興味深い話だ。盗聴器に気が付いた彼は、身の危険を感じたはずだ。そして彼は、身を守るために彼の知り合いに助けを求め……。

 

「浅見透から目を離すな。彼のバックボーンにも興味があるが、『組織』の人間も彼に興味を持っている。……ことが起こるとすれば、彼の周りだ。念のために、越水七槻、中居芙奈子の両名にも人員を」

『監視ですか?』

「いや、それもあるが護衛を主としてくれ。彼女たちを何としても守り抜け」

 

 浅見透のことは何度も調べているが、怪しいところは全く出ない。それが逆に怪しいからこうしてさらに調べているのだが……。

 彼は隠された地雷のような存在だ。どこを踏んだら爆発するかわからない存在。

 直接目にしてはないが、彼女たちは彼にとって大事な存在であることは間違いない様だ。

 もし彼女たちが害されたら……。

 

(間違いなく爆発する。浅見透という特大の爆弾が)

 

 どういう形でかは分からないが、こうして彼の周りにそれらしい影が現れた今、楽観視はできない。浅見透にはなんらかのバックボーンがある。

 

「……だれか来る。切るぞ」

 

 足音が聞こえてきたため、返事を待たずに電話を切る。そろそろこっちの仕事の時間のようだ。

 足音が徐々に近づき、その主が姿を現す。

 

「あら? 誰かと電話をしていたのかしら」

「なに、表の顔の依頼人ですよ。浮気調査の経過報告がありましたので」

「あぁ……そういえばあなた、探偵をしていたわね」

「それよりも遅かったですね、ベルモット」

 

 組織でも謎の多い幹部ベルモット――女優クリス=ヴィンヤードは髪をかき上げて、そこに立っている。

 

「えぇ、ちょっとお気に入りの様子を見に行ってたのよ」

「……例の彼ですか。あなたほどの大女優に気に入られるとは、彼も光栄でしょう」

「ふふ、彼は私を女優とは気づいていないでしょうけど……」

 

 ベルモットは自分の右手をさすりながら笑っている

 

(握手しただけで、ベルモットの変装を見抜くなんて……)

 

 観察力、洞察力に優れた人物。正直な話、降谷個人としても浅見透には興味がある。

 やはり、一度彼とは直に接触する必要がある。今はまだ無理だろうが機会を見て……

 

「まぁ、今はその話はいいわ。行きましょう? バーボン」

「えぇ、すぐに車を出しますよ」

 

ポケットからキーを取り出し、自分の車に向かおうとして……足を止める。

 

「あぁ、ベルモット。一つだけ聞きたいんですが」

「何かしら、バーボン?」

「例の彼、どんな人間なんですか?」

「そうねぇ……普通の男よ。本当にどこにでもいそうなハタチの男の子。でも――」

 

 ベルモットは、そこで一旦口を閉ざした。

 

「ふとしたときに、私の知り合いに似た気配を持つのよ」

「知り合いですか?」

「えぇ、一人は私の個人的な知り合い。そして、彼の持つ気配はもう一つ――あなたがよく知る男よ、バーボン。悪い意味でね」

「…………へぇ、それはそれは」

 

 自分がよく知っている男。その言葉だけならわからないが――

 

(悪い意味――か)

 

 脳裏に浮かぶのは、一人の男。この組織にいて……そして裏切った――いや、最初から裏切っていた男。

 願わくば、自分の手で決着をつけたい男――!

 

 

「会うのが楽しみですね」

 

 

 

――浅見 透くん

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「浅見様! ご飯の用意ができましたわ!」

「できましたじゃねぇ! 何ナチュラルにうちで飯食ってんだ!」

「まぁ、作っているのは越水様ですが……」

「…………」

 

 警察と水無さんが打った手の二段構え。だれが仕掛けたかはわからないけど、とりあえず盗聴器はあれから仕掛けられた様子はない。定期的に佐藤さんや高木さんも来る……千葉刑事はどういうわけかふなちとある程度は話せるようで、来るときは大体ふなちに引きずられてやってくる。

 うん、いや、それはいいんだが……。

 

『浅見君、ふなちさん! 早く来ないと夕飯冷めるよー?』

「…………どうしてこうなった」

 

 最近ではふなちも借りてるアパートではなく、車で一緒に越水の部屋に帰って寝泊まりしているようだ。もうそれルームシェアのほうが早くね? あ、もう計画してるんですかそうですか。

 

「源之助様もお腹空きましたよねー?」

 

 さっきから俺のズボンの裾で遊んでいる源之助をふなちが抱き上げてクルクル回っている。

 おい源之助、『なーお♪』じゃねーよ。お前俺が抱き上げる時より喜んでねーか?

 

「はぁ…………」

 

 まぁいいや。意外とこういう生活も悪くない。明日は講義が終わったら水無さんが話があるらしいし、今日ぐらいはゆっくりしよう。

 明日から、盗聴器の件も含めて身の回りを固めておかないと……。

 

「ちょっと待って越水ー、今行くー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胃が痛い…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 




越水「また危ないことに首突っ込んでるんでしょ!? そうでしょ!?」
浅見(ブンブンブンブン)「知らねぇ、俺知らねぇ」

水無「彼からどうにかして詳しい話を聞かないと」

降谷「赤井に似た男か……」
ベルモット(ニッコリ)







感想返しは後でちょくちょくやっていきます


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011:再び始まる受難の日々

 5月23日

 

 ここ数日は大変だった。どこから書けばいいのかちょっとわからないレベルで大変だった。

 まずは、例の盗聴器の件だ。高性能品というわけではないが、市場に出回るようなタイプの物ではなかったらしく、心当たりはないか目暮警部に電話で聞かれた。

 真っ先に思い当ったのはマスコミ関係者だ。あるいは工藤新一の関係者とか。

 そこらへんを目暮警部に伝えると、一応パトロールを強化するのと、おかしいと思った時はすぐに連絡をくれという微妙な回答だった。いや、頑張ってはくれているんだろうけどね? 佐藤さんたちも警官としてではなく個人として俺たちの所に来てくれるし。千葉刑事? いつもウチのふなちがご迷惑をおかけして申し訳ございません。今度一杯誘う事をここに決めた。

 

 ともあれ、そんなこんなで次は例の件を調べてくれるといった怜奈さんとあった時の話。待ち合わせの喫茶店に行くと、窓際にスーツ姿の水無さんがいた。仕事の合間を縫ってきてくれたかと思うと頭が下がる。

 で、さっそく怜奈さんが作成した資料(めちゃくちゃ分厚かった)とやらを一通り見たけど……思わず『なにこれガチすぎる』って思う物だった。金のためならばなんでもやるようなフリーライターのリスト、反社会勢力との間に大きな金の動きが見られるマスコミ関係者のリスト。反社会勢力の動向、最近近辺で動いているらしい警察の公安の動きなどなど……。

 見てはいけない物を見た気がするが、見てしまったものはしょうがない。

 大事なのは、近辺にこれだけ危険な種があると言う事と、この街を中心にでかい事が動き出している事だ。

 特に気になったのは公安の動きだ。公安といえば、正直イメージでしか知らないが、CIAみたいな組織の日本版だった……様な気がする。今度改めて調べてみよう。

 そんな組織が近くで動いていると言う事は、ここでなにかデカイ事が起きつつあるということだ。その大本を探せば、時計の針を大幅に加速させる行動も思いつくんじゃないだろうか?

 

 ここら辺は今度、盗聴器の件も兼ねてまた江戸川と話し合おう。

 

 大きな出来事はとりあえずこれくらいだが、細かい出来事が色々とあってまいった。

 怜奈さんとあった日の夜には、図書館で麻薬を捌いていたおっさんを蹴り倒して、次の日には蘭さんからの恒例のラブコール(対象は俺ではない)が入って、さらには毛利探偵の飲みに付き合うという……いまさらだけど奢ってもらって大丈夫だったのかな? あの「十和子」ってクラブ死ぬほど高そうだったんだけど……。

 事務所まで毛利さん連れて帰ったら蘭さんには「お父さんがごめんなさい」って頭下げられ、江戸川から(何やってんだオメー)みたいな感じで見られた。なんかイラっときた。おめー今日二日酔いで小学校行っただろーが、俺知ってんだからな。

 

 

 書いてて思ったけど二日酔いの小学生ってもう存在がロックだな。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「呼び出してごめんなさい透君、これが頼まれていた調べ物よ」

 

 呼び出した喫茶店の席で私は彼と会っていた。彼に渡すものがあるから、それと……。

 資料とは、彼の近辺で動く可能性があるフリーの人間や、なんらかの組織の動向などを調査し、まとめたものだ。

 

「ありがとうございます、怜奈さん。おかげでかなり助かりますよ」

 

 浅見透は、私が手渡した資料をその場で開き、その一枚一枚にすばやく目を通していく。本当に読んでいるのか怪しいくらいの速読、なるほど……事務能力も高いと見ていいだろう。分かってはいたが、実に多彩な技能を持つ子だ。

 

(ベルモットが、彼と重ねてみるのも分かる気がする)

 

 彼女が例の記事、組織がリークした爆弾事件の情報を元に書かれた彼を示唆する記事を目にしたとき、小さくこう呟いたのを……今でも覚えている。

 

 

 

 

――シルバーブレット、やっぱり貴方が関わるのね……。

 

 

 

 

(シルバーブレット、赤井秀一……)

 

 組織のボスが恐れる男。心臓を射抜くかもしれない……銀の弾丸。

 ベルモットが浅見透をたまに彼と重ねて見ている事は薄々気づいているが、あの口調はまるで……

 

(どういうこと? ベルモットはすでに彼と出会ったことがある?)

 

 分からない。会話の断片から彼の周囲を推理しようにも、新しい情報が出れば出るほど彼という男が分からなくなっていく。

 

「? これは……?」

 

 資料を読み進めていた彼が、パタッと手を止めた。気にかかる組織があったのだろうか。目だけを動かして彼の開いているページを覗いてみると――

 

(! 警察庁……公安?)

 

 そういえば『仲間』の方からも、彼の家の周辺を探っている何者かがいるという報告は受けていた。まさか……その何者かが?

 彼はかなりそのページを真剣に読んでいる。公安に関しての情報はガードが固いのもあって、内容としてはこの米花町を中心に何らかの活動を始めたというくらいしか分かっていない。確かたった2ページの報告だったハズだ。それを彼は、そこのページだけ何度も読み返して……そして、ニヤっと笑う。

 

 

 

 

 

―― ……悪くない流れだ

 

 

 

 

 

 普通なら聞き洩らすだろう小さな声。かすれるような声だが、今私は彼の目の前にいて、そして彼は、ある意味組織よりも油断してはいけない男だ。その小さな囁きを、私は逃がす訳にはいかなかった。

 まさか――公安の動きは、この男の計画通りだというのか!?

 あり得ない。今まで見てきたが、浅見透は確かに特異な人間だが、公安という組織を動かす程の力はなかった……ハズ。

 それとも……最初から巧妙に隠していた? そうだ、そもそもどうやって私をNOCだと調べたのかも分かっていない。

 まさか……そんなことがありうるのか。彼の背後か、あるいは彼の手の中に。CIAですら把握できていない情報戦、諜報戦に長けたナニカが。

 頭の中で今までの事を思い出していく。

 本来ならば、そろそろ私は事故死して後続の人間とバトンタッチするはずだった。それがこうなったのは――

 

(彼が現れ、組織の標的になった人間の関係者という事で注目を集め……私が張り付くようになって……そしたら盗聴器が――)

 

――盗聴器!!

 

 浅見透は仕掛けられたからと言っていたが、あれが彼による自作自演だったら? あの時点で彼は私を知っていた。重大なアドバンテージを持っていた。だから、彼は私に違うと分かっていてあえて警告の連絡をしたとしたら……彼にはわかっていたハズだ、周辺を固めるために人員を出すと! しまった!

 

(我々CIAは……釣り出されたのかもしれない!)

 

 目的は分からないが、この町に人員を集めている今になって公安が動き出した。これから先、迂闊なまねはできなくなる。彼の目的が、CIAをこの米花町に足止めすることだったとしたら!?

 

(彼は公安の人間!? いや、それならばさっきの呟きはおかしい。じゃあ、公安も同じように?)

 

 CIAと公安。二つの諜報機関をこの米花町に集める事が彼の目的だった!? 馬鹿な、何のために!?

 目をそらすため? あり得ない。公安もCIAもそんな小さい組織ではない。この町に来ている人員だって最小限の物だ。

 

(やっぱり、浅見透はなんらかの目的のために行動している。それだけは間違いない)

 

 そう、彼は何らかの目的のために行動している。そして、それを知らないまま迂闊な行動に出れば……我々は呑まれてしまうだろう。浅見透の得体の知れなさは、漠然とそんな予感をさせる。

 資料を大体読み終わりそうな彼を尻目に、こっそりと携帯で仲間にメールを送る。内容はたった一言――『撤退』だ。

 近くのビルの屋上を見ると、待機していた『狙撃班』の影がちらっと見えた。

 

(今、うかつに彼を消す訳にはいかない……。もっと情報を得ないと……)

 

「ありがとうございました、怜奈さん。おかげでかなり参考になりました」

 

 あれだけの膨大な資料をもう読み終えたようだ。

 

「そう、それなら良かったわ。どう、目星は着いた?」

「いや、それはまだなんですけど……。ただ、これだけ周囲の動きが分かれば、色々手は打てそうです。本当にありがとうございました」

「ふふ、お役に立てて嬉しいわ」

 

 手を打つ……。彼の周りで何かが動き出すと言う事だろう。調査をより強固にする必要がある。

 

「しかし、ここまで詳しく調べてもらってすみませんでした」

「いいのよ、私はただまとめただけだし」

「いえいえ、そんな事は。それと、調べてもらった方々にもよろしくとお伝えください。報酬もキチンと――」

「――お金はいいって言っていたわ。それよりも、また面白いネタを提供してほしいって」

「……自分、基本的にはしがない大学生なんですけどね……?」

 

 なるほど、この白々しさはベルモットに似ているかもしれない。これに胡散臭さも加われば、それこそ男版のベルモットだろう。なんて性質の悪い……。

 

「一応このファイルはお返ししておきます。盗聴器を仕掛けられたばかりの家にあっていいものじゃないでしょうし」

「そうね、もし必要な項目があったら連絡を頂戴?」

「えぇ、その時はまたお願いします」

 

 そして浅見は右手をすっと差し出し、

「貴女と知り合えて、本当に良かったです」

「……えぇ、こちらこそ」

 

 私もまた、彼の手を握って答える。決して逃がさない。貴方が何者なのかを知るまでは。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 5月24日

 

 小学校が終わるのを待って江戸川に会って来た。

 内容はもちろん、盗聴器に関することだ。仕掛けられていたという話をした時、江戸川の顔がすっげー真っ青になったが、公安がうろついているという話をすると、今度は真面目な顔になった。

 あの顔色を見る限り、もう厄ネタが動いているとみて間違いないだろう。思ったよりも早かったな、ちくしょう。江戸川もヤバいと思ったのか、改めて阿笠博士の家で話す事になった。これで本格的に関わることができるだろう。

 とりあえず、その盗聴器の件で性質の悪いマスコミ関係の可能性があるとした上で、いろんな方面に顔が利く水無怜奈に協力を頼んだ事を全て話した。

 その後、怜奈さんから見せてもらったファイルの内容を記憶している限り江戸川には伝え、周辺の状況を伝えておいた。正直、役に立つかどうかは分からないが、主人公なら活かせるだろう。

 

 問題は厄ネタへの対処法だ。公安の動きの中心にいるのが、江戸川の身体が小さくなった理由とやらに関係しているんじゃないかと伝えると、その可能性は十分にあるとアイツは言っていた。

 そうなると、公安の人間とどうにかして接触したい所だが……公安の動きの中心点となってるのはいったいなんなんだろう?

 それと、江戸川が今度怜奈さんと会う時は呼んでほしいとの事なので、近いうちに場をセッティングしておく必要があるな。これも忘れないうちに準備を進めておこう。

 

 

 

 

 

 5月29日

 

 なんか爆弾事件に巻き込まれて死ぬとこだった。また爆弾ってどういうこと?

 雰囲気がいいという噂を聞いて米花町の大黒ビルの最上階にあるラウンジバー『カクテル』という店で飲んでて、ちょっと電話をしに店の外に出た瞬間いきなり明るくなったかと思ったら、病院だった。なに書いてるか分かんねーけどマジでこんな感じだった。気が付いたら越水もふなちもむっちゃ泣いてるわ目暮警部一行や毛利探偵一行までが勢ぞろい。いやもうマジで何が何だか分かんなかった。

 とりあえず体が痛ぇ。軽い火傷で済んだのが奇跡だったらしいけど……。正直まだ実感が湧いてない。

 江戸川、頼むから後日説明プリーズ。

 




感想返そうと思ってたらいつの間にか話を書いてたというこのorz
今話こそはキチンと返信……できるといいなぁ(汗)

いつも感想ありがとうございます。結局返せてませんがいつも楽しみにさせてもらっています。
誤字報告をしてくださる方も本当にありがとうございます。

浅見君を示す言葉が『なぜか死なないアイツ』で固定されつつあって爆笑させていただきましたw
これからもどうか、よろしくお願いいたします!


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012:ある大学生の周辺(副題:フラグが立たない日ってあるの?)

やばい、キールさんいじめるのが楽しくなってきた。
こんな扱いにするハズじゃなかったのに……


「一体どうなっているの!?」

 

 痛む胃を押さえながら、水無怜奈は病院のエントランスで思わず呻いていた。

 始まりは彼の監視をしていた仲間から、無茶苦茶な報告が入った所から始まる。

 

 

――浅見透が単身、組織の取引現場に乗り込んでいった。

 

 

 もうこの時点でテレビ局を飛び出したかったのだが、続く報告でさらに愕然とした。

 『浅見透が爆発に巻き込まれた』とは一体どういう事なのか。今、彼に万が一があっては困ると慌てて病院に行けば、当の本人はほぼ無傷でピンピンしているときた。一体彼はなんなんだろう。

 監視していた人間が言うには、出入り口の重い扉を上手い事爆風を逃がすような角度で盾にし、殺しきれなかった爆風に逆らわず被害を最小に防いだらしい。

 確かに彼の身体はかなり鍛えられているが、ほとんど傷はなかった。そんな高度な訓練を受けたとは思えないが……。あぁ違う、先入観に囚われたらダメだ。その結果がCIAの人員がうかつな行動ができない今に繋がっているのだ。

 問題は、彼が一体何の目的で『カクテル』に向かったのかだ。これに関しては私もジンに報告を上げるしかなく、正式にカルバドスも彼の監視に付くことになった。

 これから先、私もますます動きづらくなるだろう。先日彼が言っていた『手を打つ』というのがなんなのかすらまだ分かっていないというのにっ! 

 人手が足りない。全く足りない。早急に何か手を打たないと……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「つまり、あの店はヤバい奴らの取引に使われていた現場だったってわけか」

 

 再び病院のやっかいになっている俺の元に江戸川が阿笠博士と一緒にやってきたのは、空が赤くなり始めた頃だ。

 

「で、そのヤバい奴らっていうのがお前の身体を小さくした原因で、江戸川はそいつらを追っていると」

「あぁ……。せっかく見つけた手掛かりは爆死して、残ってた手掛かりも同じく吹っ飛んじまった」

「同じく? その手掛かりとやら、口封じとかで殺されたのか?」

 

 となると知っちゃいけないことを知った、いわゆる重要なショートカットを逃したことになるが……。

 

「いんや、ソイツが死んだのは手違いだったよ。犯人は、本当はその取引相手を殺そうとしていたんだけど爆発物を仕掛けたカバンが取引で入れ替わって……」

「悪者にこういうのもなんだけど、不運ってレベルじゃねーな」

 

 いや、本当に。しかしなるほど……おそらく、流れそのものは本来とそう変わってはいないのだろう。俺がかかわっていたとしても変えられそうにない様子だし……。それにしても、手掛かりが全部吹っ飛んだか。物語のお約束に当てはめると、これはどのパターンだ? メインストーリーにかかわっているのは間違いないだろうが、何も進行しないなんて考えづらい。現状、あるとしたらこっちじゃなく、敵側に何かが?

 

「江戸川、他になんもないのか? 例えば取引の内容とか」

「一応聞いてきたけど、優秀なプログラマーのリストを高値で取引したとしか……」

「プログラマーのリスト?」

 

 なんじゃそりゃ? と尋ねたら、阿笠博士が答えてくれた。

 

「あの企業のヘッドハンティング候補者のリストじゃったらしい。同時に、警戒せねばならん相手のリストでもあったらしいのぅ」

「? 事件があった企業って確かゲームの開発を主とする会社でしたよね。プログラマーが大事っていうのは分かりますけど……やっぱり取り合いが激しいんですか?」

「うむ、今は様々な会社が次世代ハードの開発に専念しておる。満天堂のような国内の会社もそうじゃが、最近では海外のシンドラーカンパニー等が新しいプロジェクトを立ち上げておる」

 

 シンドラーカンパニー? あー、どっかで聞いたことがあるようなないような……あ、

 

「例の天才少年がいた所か」

 

 確か、サワダ ヒロキくんとか言ったっけか。この間にニュースで特集が流れていたハズだ。その特集というのが――

 

「うむ……残念な事に先日、自殺してしまったがのぅ……」

 

 ――そう、追悼特集だった。現養父のトマス=シンドラー氏や実の父親である人のコメントまで入っていて、ヒロキくんがどんな子だったかを語っていた。

 

「んんっ! 話がそれてしまったの。まぁ、そのリストを調べて何かが出ればいいんじゃが……」

「奴らに関しては手掛かりなしだろうな……」

 

 江戸川は本当に残念だという感情を全て込めたような、深ーいため息を吐いた。

 この様子からすると、どうやら物語もまだまだ序盤の方なのだろうか? 少なくとも、そうであるという覚悟だけはしておいた方がよさそうだ。

 

(……俺、あと何年大学二年生をやるんだろう……)

 

 この時期はまだいいが、12月とか1月辺りになるとダメージがでかいのだ。心の。あ、ヤバい、泣きそうになる。話題を変えよう。

 

「あぁ、それと怜奈さんに会う件だけどもうちょっと待ってくんない? ここんとこ頼みごとの連発で俺としてもちょっと間を置きたいんだわ」

「それは別にいいけど……どういう人なの? 例の資料、裏も取ったから本物だって分かるけど……あれ、とんでもないものだろ?」

「色んな方面に顔が利く人なんだと。いや~むちゃくちゃいい人だわあの人。盗聴器の時なんか電話の向こうで無茶苦茶心配してくれてな?」

 

 江戸川の懸念も分からなくはない。確かに、一アナウンサーにしては怜奈さんは有能すぎると思う。だからこそ、俺は確信している。あの人は間違いなくメインストーリーに関わる人間だ、恐らくは――味方で。

 まだ完全な確信は持てないから、いくつかカマをかけたりしながら立ち位置を探ろう。江戸川と会わせるのはそれからでいいだろう。

 

「あぁ、そうだ。浅見さん退院はいつの予定?」

「ん? おぉ……ぶっちゃけ明日にでも退院できるぞ。軽い火傷と、身体を打っただけだしな」

「ふーん……。それじゃあさ、今度の土曜日って空いてる?」

「あん? 空いてるけど、なんかあったのか?」

「多分、後で蘭か園子からまた声かけられると思うけどさ――」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「浅見さんを誘えって……なんでそんな事になったの?」

 

 放課後、園子と街に行く約束をしていた蘭は、彼女と二人で色んな店を見て回っていたのだが、ふと園子からある事を頼まれていた。

 

「次郎吉おじさまに頼まれたのよ。彼を是非とも連れてこいって」

「次郎吉おじさま?」

「あー、そっか、蘭は面識なかったっけ? パパのお兄さんで、鈴木財閥の相談役をやっている人。ついでに無類の目立ちたがりでさー、色んな事に手を出しては賞とってんのよ。ゴルフにヨット、サバンナラリー他諸々ってね。この間も何かの賞を取ったみたいなんだけど……それがこの間の爆弾事件で、一面に乗るはずの記事が潰れてしまってもうカンカン」

「ちょっと園子、それで浅見さんを呼び付けて八つ当たりしようなんて話だったら私断るわよー?」

 

 蘭が焦った様にそう言うと、園子は「ないない」という様に手を横にパタパタと振り、

 

「逆よ逆! 『儂の一面を潰した憎っくき悪党を捕らえた若造に、是非とも会って直接話したい!!』とか言っちゃってさー。まぁ、面倒なのには変わりないけど、蘭が心配しているような事にはならないんじゃない?」

 

 もはや世間では、静かに浅見透の名が広まりつつあった。正確には名ではなく、事件を解決した『工藤新一の助手』が存在するという話なのだが……。

 

「でもビックリしたよね。あの新一君に助手がいて、しかもそれがあの浅見さんだったなんてさー」

 

 園子から見て、一度だけ会った事のある浅見透は、極々普通の男だった。顔は……悪い訳ではないが、いい訳でもない。面食いの園子の食指が働く相手ではなかった。

 

「あの人なら、新一君の居場所も知ってるんじゃない?」

「ううん、あの人も新一の場所は今は分からないって。連絡もろくに取れないって言ってたし」

「ふーん、そっかぁ……」

「ま、まぁ、浅見さんにはこっちから声をかけておくから……えっと、米花シティビルの?」

「そそ、例の爆弾があった所。ウチが出資してるイベントだから、浅見さんには本当に感謝だね~」

 

 もし米花シティビルが崩壊でもしようものならば、イベントどころの話ではなくなり、かなりの損失がいろんな方面に出ていただろう。あのビルの出資者である鈴木財閥ならばなおさらだ。

 

「浅見さんがこういうのに興味あるかどうか分かんないけど、一応パーティーもするみたいだからよろしく誘っておいてね!」

 

 

 

 

 

「来月の15日から始まる、わが鈴木財閥主催の展覧会! 『ロマノフ王朝の秘宝展』に!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 6月1日

 

 今度、鈴木財閥のパーティーに参加する事になりました。ちょっと最近状況動きすぎじゃね??

 なんでも、森谷が爆弾仕掛けたあのビル、鈴木財閥も一枚噛んでいたそうな。それに加えて、理由こそ詳しくは聞いてないけど、鈴木財閥の相談役という人から直々に俺にお誘いがあったそうな。……園子ちゃんに聞いた所、言っておけばその人数分の招待状を出してくれるというので、俺と越水、ふなちと怜奈さんの分を頼んでおいた。蘭さんや江戸川も恐らくは来るだろうし……え、何も起こらないよね?

 

 まぁいいや、怜奈さんにも電話で予定を確認したら、大丈夫と言っていたし。……楽しんでもらえるといいなぁ、ここ最近はお世話になりっぱなしだ。今度時間が合えば、どこかいいレストランでも誘ってみよう。少しずつでも借りを返していかないと、ついついあの人には甘えてしまいそうになる。お姉ちゃん気質っていうのだろうか? 面倒見がよくて、会話をしてて苦にならない人だ。越水やふなちもそうなんだけど……。

 

 越水達にもフォローしとかにゃヤバい。ついに一人暮らしから三人暮らしになってしまった。うん、もう勘弁してくんないかな、マジで。

 俺が爆弾に巻き込まれたのは、誰かが俺を狙っているからじゃないかと思ったらしく、越水が傍から離れてくれない。

 組織などの事情が説明できなかった俺も悪いのだが……うん、その、肩身が狭いです。

 まぁ、向こうからしたら家賃なんかは浮くし、こっちの光熱費とかに当てても安く済むから悪い事ばかりじゃないんだけど……交代制だけどご飯も作ってくれるし、外食とか弁当が減ったから実質食費も浮いてるし、一人だとろくすっぽしてなかった掃除もするようになったし……。なんだろう書いてると俺がダメ人間な気がしてきた。

 

 代わりと言っちゃなんだけど、近いうちに越水の調査を手伝う事になった。本当はこの間のGWの時に四国に行くつもりだったらしいけど、例の爆弾事件で行くのを取りやめたそうだ。怪我しまくっていた俺を放っておけなかったそうで「君って本当にズルいよね」って散々言われた。もうそろそろ許してくれませんかね(汗)

 飲みに行くときも迂闊に遅くなれないし、その事を話したら毛利探偵は爆笑してるし、江戸川は乾いた笑いを浮かべているし。

 おのれー。

 

 

 

 

 6月2日

 

 源之助が肩に乗ってくれるようになった。一度やってみたかったんだ、猫を肩に乗せて歩いてみるって。中二病と笑わば笑え、それでも一度やってみたかったんだ。実際、試しに家の周りをグルっと回れば、例の少年探偵団のメンツにすっごい人気だった。

 ……越水とふなちから生温かい視線を頂いた。ちくしょう、意地でも乗せ続けてやる。

 

 今日は水無さんから身体は大丈夫かという連絡が入った。いつも心配してもらって本当に頭が下がります。まじで今度どこかで奢ろう。死傷者こそ多く出ているが、幸い自分には大した怪我はない。

『爆発程度なら慣れてますからー』と冗談で言ったら沈黙されたのがちょっとつらい。慌てて弁明したが、怒らせてしまっただろうか?

 例のバーにはどうして向かったのか聞かれたが、ぶっちゃけ本当に偶然だったので『ちょっと気になってて』と正直に答えると、また少し沈黙。どうしよう、この人にも越水が言っているように俺が狙われていると思われているのだろうか? 実際、ここ最近は確かにえらい心配をかけている。

 身を守る方法も考えておいた方がいいなぁ。一番手っ取り早いのは……人を集めるか。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「浅見の兄ちゃん、相変わらず面白いよな! 肩に白猫乗せてさ!」

「うん! あのお猫さん、すっごい可愛かったー!」

 

 元太くんと歩美ちゃんが口々に先ほど再会した男の人の感想を言っている。

 

「まるであの小説、三毛猫ホームズのようでしたね」

 

 前に会ったのは先月の初め、僕たち少年探偵団に猫探しの依頼が来た時だ。その時はコナン君が先に帰ってしまっていたため、僕たち三人だけで捜査をすることになった。けど、僕たちだけでは目撃証言が集まらず、途方に暮れていた所に、あの人が――浅見さんが力を貸してくれました。

 子供の言う事で、話を聞いてくれそうにない人がいたら、浅見さんが上手く聞き出してくれて、猫のいそうな場所なんかもリストアップしてくれて……。本当にいい人でした。

 

「でも、浅見さん……怪我をしていましたね」

 

 前に会った時はなかった包帯が腕に巻かれていた。包帯がない所にも擦り傷などの痕があった。一体どうしたんだろう。

 

「あの兄ちゃん、うっかりして転んだんじゃねーか?」

「でも、浅見さん、前に猫を一緒に探した時はしっかりしてそうな人だったよ」

「はい、僕も歩美ちゃんと同意見です」

 

 あの人、ぱっと見は痩せているけど、腕とか見る限りかなり鍛えているように見えた。

 最近ではこっそり人を観察するように心がけているのだ。いつまでもコナンくんに負けるわけにはいかない、と。自分も少年探偵団の一員なんですから――!

 

「そんなに怪我が気になるんならよー。明日、浅見の兄ちゃんのとこに遊びに行こうぜ!」

「え、元太君、浅見さんの家知ってるの?」

「コナンなら知ってんじゃねーの? この間二人で歩いている所を見たぜ!」

 

 そうか、浅見さんはコナンくんと知り合いだったのか。……やっぱりコナンくんはすごい。毛利探偵と一緒にいるというのもあるけど、彼は変な所で色んな知り合いを作っている。

 

「それなら、後でコナン君に電話をして予定を合わせましょう! 浅見さんも、我々少年探偵団の協力者! いわば身内なんですから! 様子を見に行くのは何も不自然なことじゃありません!!」

「「おーっ!」」

 

 歩美ちゃんに元太君の同意も得たし、後はコナンくんだけ。近くにいるのならば探偵バッジで呼びかけて――

 

「おや、ひょっとして君たち、浅見透の知り合いなのかい?」

 

 と思ったら、いきなり後ろから声をかけられた。聞いたことのない声だ。

 

「なんだよ兄ちゃん! 浅見にーちゃんの知り合いなのか!?」

 

 振り向いた時には、すで元太君がいつも通り、元気にその人に突っ掛かっていた。

 第一印象は、ちょっとかっこいい人。肌は少し黒くて、背は高い。年は20歳よりは上だと思う。

 

「知り合いというか、同業かな。ちょっと彼について調べててね。話を聞かせてもらえないかな?」

「その前に、貴方が誰なのか教えてくれませんか?」

 

 少し警戒を込めて僕がそう尋ねるが、彼は全然気にした様子もなくニッコリと笑って、

 

「僕は、安室透。彼と同じ――探偵だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 




ベーカー街と世紀末のフラグが立っていますが、一応次は14番目です。
その間に色々やらかすつもりですがw


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013:鈴木財閥という色んな意味での爆破フラグ(たまに墜落もあるよ!)

久々の一万超ww
やっぱり戦闘描写が苦手になってる。またここも要練習ですねorz



 6月3日

 

 なんかまた俺の周りに人が増えた。昨日会ったばかりの少年探偵団が、江戸川と一緒に遊びに来たんだ。光彦君曰く、怪我をしたっぽい俺の見舞いに来てくれたらしいが、歩美ちゃんは源之助目当てみたいだ。サービス精神なのだろうか、歩美ちゃんの目の前で普段見せないレベルでゴロゴロしている。お前普段ゴロゴロどころか動きもしねーだろうが。大体ソファの上でぐでーんとなっているだけだろうが。

 ともあれ、遊びに来てくれたので、適当にお菓子とジュースを出しておもてなしタイム。

 元太くん、よく食べるなー。あの後ちゃんと家でご飯が食べられたか不安になるレベルで。

 

 んで、その後飯を待っていたら(今日の当番はふなちだった)お客さんが来た。

 この近くで開業した私立探偵の安室透という男だ。ちくしょうイケメンは爆発しろ。爆ぜろ。

 その挨拶という事で同業者の俺の所に挨拶に来たらしい。ちゃう、俺探偵ちゃう。ただの助手って言ってんじゃん。

 なんでも、探偵の中では俺の名前が地味に広がっているらしく、是非会いたかったとのこと。うん、計画としては悪くない流れなんだけど、まだこっち守りが固まってない(汗)

 水無さんから誰か紹介してもらうのも考えたけど、まだ決め兼ねている。ストーリーに関わるキャラなのはほぼ間違いなしと見てはいるが、どの立ち位置かがまだハッキリしない。あの性格から『馬鹿め! ひっかかったな!』というタイプではない……と、思うのだが……。

 

 ともあれ、今日はカレーという事と、たまに出るふなちのよくわからん天然がさく裂して安室さんを入れた4人で夕食となった。マジでどうやったらこんなミラクル起きるんだよ。ふなちすげぇ。

 会話もごく普通に進むという奇跡。ふなちの空気の読め無さと安室さんの会話術が上手い事噛みあって……上手い事? うん、まぁとにかく面白い夕食ではあった。

 越水も安室さんと結構話していたが……アレは警戒しているっぽいな。まぁ、盗聴器が仕掛けられてしばらくしたら探偵が乗り込んできたんだから、そりゃ疑うわ。

 ただ、安室さんも疑われるのを知ってるっぽいんだよなー。こう、なんと言えばいいんだろう? 勘と言えば勘なんだが……。俺から少し踏み込んでみるか。多分、関わらざるを得ないんだろうな……。

 

 

 

 

 

6月4日

 

 毛利探偵と江戸川、それに蘭さん。三人は今日から三泊四日のツアーに出かけるそうだ。『シャーロック・ホームズ・フリーク歓迎ツアー』というツアーらしいが……。これ、俺ついていかなくていいんだろうか? どう考えても人が死ぬ。絶対死ぬ。賭けてもいい。

 まぁ、足が原付しかないしどうしようもない。明日から教習所に行こう、早くバイクの免許取らねーと……車の免許ならあるけど……ぶっちゃけ手が出ないし、置く所もないしなぁ……。唯一の車庫は今越水とふなちの車で埋まってるし……。

 まぁ、江戸川と眠りの小五郎のペアがいるなら一応は大丈夫だろう。……大丈夫だよな?

 

 その後、恒例となりつつある源之助を連れての散歩。今日は八木沢さんと会った。散歩のときによく合う男性で、いつもゴールデンレトリーバーの『クール』という犬を連れて散歩をしている人だ。非常に大人しい犬で、うちの源之助とも仲がいい。今日もクールと会うや否や、俺の肩からひょいっと飛び降りてクールの背中に乗っかってぐで~っとなっている。頭をクールの頭の上に乗せて、なんか新種の生き物みたいになっていた。

 

 八木沢さんと別れた後、今度は水無さんと会えた。今日はサングラスをかけた男と一緒だった。TV関係の人か……恋人だろうか? サングラスとキャップのせいで顔は分からないけど結構顔はいい方な気がする。

 珍しく源之助が威嚇する人だった。『こいつが威嚇するなんて中々ないんだけどねー』って笑い飛ばしてみたが、男の人はクスリとも笑ってくれなかった。……今思い返してもやりづらい人だ……。さりげなく握手しようとしても応じてくれず、話のタネとして趣味とか仕事とか酒の話を振ってみたけど答えてくれず。

 なんとなく目線を合わせづらくて胸のあたりに視線をやってたけど、男のそんな所見ても楽しくないのでしょうがなくまた目線を合わせる。本当に変な意味で緊張した。…………水無さんに言いよる男と思われたのかなぁ。いや、下心がゼロかって聞かれると素直に答えられないけどさ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、お前やベルモットが警戒するわけだ」

 

 カルバドスが、冷や汗を隠そうともせずにそう言ってため息をついた。この男がこんなに緊張するのを見るのは初めてだ。

 

「……浅見透。あの男、こちらが武装している事に気がついていたな」

 

 そうだ、それは傍から見ていた私からも分かった。彼の視線は、カルバドスがサスペンダーに付けているホルスターを確認していた。偽装もしていたから、ほんの少しの膨らみしかなかったはずなのに……。

 

「おそらく、俺の動きで分かったんだろう。銃を下げている方は重心が下がる。意識して隠したつもりだったが……。すまん、奴の観察力と洞察力は聞いていたのに……」

 

(まさか、あの無口なカルバドスが私に謝罪するなんて……)

 

 あまり組んだことのない男だが、プライドが高い男だというのは知っていた。その男がこうも簡単に謝罪の言葉を口にするとは……。

 よほど恥じている……いや、悔しかったのか。見破られた事が。

 

(……惚れた相手であるベルモットが認めた洞察力と観察力、それを試したかった……いや、信じたくなかったのかしら?)

 

 とてもそんな軽率な男とは思えないが……いや、それでも女が関わると男は変わってしまう。良くも悪くも……。

 

「それにしても、『好きな酒はなに』と来たか。どう思う、キール?」

「……何とも言えないわね。雑談の流れとしてはおかしくなかったし」

「だが、警戒して損はない相手、か。奴の体付き、恐らくは何かの体術を修めているものだろう。それに、あの手――」

「手?」

 

 そういえば、彼から握手を求められた時、身じろぎもせずにじっと彼の手を観察していたが……

 

「肉の付き方や人差し指のタコ……。かなり使い込んだ手だ。訓練か、あるいは実戦で」

「……得物は?」

 

 私が口にした問いを、彼自身も考えていたのかもしれない。彼はあらゆる武器を使いこなす人間だ。当然、武器を使う人間を多く見てきている。カルバドスはしばらく、何も言わずに考え込んで――

 

「ダーツか……細身のナイフのような物の投擲。それと多分――リボルバーだ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

6月7日

 

 江戸川が帰って来た。思った通りというかなんというか……やはり向こうで事件が起こったようだ。江戸川くんマジパネェっす。さらに、正体があの関西の高校生探偵にバレたらしい。素晴らしい、いい流れだ。アイツには悪いけど、正体を知る人間、あるいは協力者が増えるというのは俺にとっての一つの目安になる。

 最近では江戸川もすっかり家の一員になりつつある。ふなちが運んで来て、越水とテレビを見ながら色々話している。……大丈夫かなぁ、越水も勘が鋭いし、言質を引きずり出す技術はトップクラスだし、迂闊にバレなきゃいいんだけど。や、越水がストーリーに関わっている可能性は十分にあるけど――アイツも元とはいえ高校生探偵だしなぁ――なんにせよ、アイツに江戸川の正体や例の組織がらみが知られると、どう動くのか一番想像がつかねぇ女だ。出来るだけ伏せておきたい。

 

 日が沈みかけてから、江戸川を毛利探偵事務所まで送っていって、毛利さんと顔合わせしておいた。友好関係を築いておいて損がない人物のトップ3には入る人だ。……見ていて不安になる人でもあるが……飲みに付き合っておいた方がいいだろう。事務所に散らばる競馬新聞やパチスロ雑誌を見ていると、目を放した瞬間に身持ちを崩してそうですっげー怖い。

 最近はよく飲みに誘われているし、結構いい関係は築いているはずだ。……もうちょっと様子を見て、近いうちにこの人から色々人を紹介してもらおう。警察関係者ならそこそこ顔は利くはずだ。

 

 

 

 

6月8日

 

 やばい予感がする。今日、鈴木家から誘われて例の展示会――まだ準備段階の物だが――に招待してもらった。

 なんでも、鈴木相談役――すっげー元気な冒険おじさんが、俺と会うのを我慢できなかったらしい。文章にしてみてもあんまり嬉しくねェ。や、すっげぇ権力振り回せる人と知り合えたのはこれ以上ない幸運だったけど……なんで安室さんまで来てるんだ。いや、たまたま居合わせたっていうんなら分かるけど、なにちゃっかりついてきてんだ。相談役も構わんとか言いだすし。

 まぁいいや、ここまでは比較的どうでもいい。一番の問題は、パーティだよ。

 

 江戸川いねーのに、なんで俺が事件に巻き込まれてんの?

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「お主が、あの森谷なる卑劣な輩をとっ捕まえた小僧か! よくやった、この鈴木次郎吉が褒めてつかわすわ!!!」

 

 今回のロマノフ王朝の秘宝展は、鈴木財閥が前々から企画していた物らしく、米花シティビルの最も大きな展示場を借りているとの事。相談役はともかく、園子ちゃんのお父さんである鈴木史郎氏はかなり力を入れているらしい。

 

(まぁ、なにか政治がらみの動きもあったんだろうけど)

 

 今度の展覧会の直前に予定されているパーティには、政財界の大物や警察の関係者などかなりの大物が多く招待されているらしい――と、安室さんが教えてくれた。安室さんどんだけ顔知ってんだよマジぱねぇ。

 というか、それだけの顔を知っているってことは……安室さん、ひょっとしてどこかの御曹司とかじゃねーだろうな?

 だとしたら、是非ともつながりが欲しい所だけど、この人は相当怪しいからなぁ。今回はおかしくない程度に……そうだな、警察関係者あたりから当たっていこうか。経済界に政界はまだ手が出せん。というか、よくよく考えたらそっち方面は数人顔を作っておけばいい。一番大事なのは警察関係と医療関係だと思う。

 

 そう考えてから、とりあえず鈴木相談役と園子ちゃんに招待されたお礼を言わねばと近付いたらこれだよ。横にいた安室さんも、気が付いたら距離を取って引きつった笑いを浮かべてやがる。

 

「鈴木相談役ですね? 今回はこの場にお招きいただき、ありがとうございました!」

「なぁに! お主とは是非逢うてみたかった。警察の人間からも話は聞いておったからのう。園子の友人でもある工藤何某にも劣らぬ有能な男だとのぅ!!」

 

 あっあっあっ! と、独特な笑い声を上げる上機嫌なオジさん。あ、やめて。褒めるの止めて、俺いいとこパペットなんだからさ。あとぶっちゃけ俺の推理ってその工藤何某の物なんです。

 

「いえ、鈴木相談役、自分はまだまだ物を知らぬ若造でして――」

「はっはっは! 随分と謙虚じゃのう。気にいったぞ小僧!」

 

 ねぇ止めてよ、フレンドリーに接してこないでよ。警備態勢確認している人達の目が集まっちゃうから、集まりすぎちゃうから……。

 安室さんはこっち眺めているだけで――おい、俺の内面察しているだろう貴様、そのニヤニヤやめろ。

 

「すっごいわね、浅見さん。おじ様がここまで気にいるなんて滅多にないことよ」

 

 まじでか、園子ちゃん。このおっさん初っ端からえっらいフレンドリーなんだけど。

 

「どうじゃ、一足先にロマノフの秘宝を見てみぬか?」

「え、いいんですか? 一応まだ未公開なんじゃ……」

「なぁに、構いはせぬ。公開が始まれば、ゆっくり見ることなど出来ぬからのう」

 

 

 

 

 

 

「へぇ……」

 

 展示場に飾られているのは、まさしく秘宝展の名にふさわしい宝の数々だ。

 豪華絢爛な宝石を大量に使用したアクセサリー、宝剣、彫像……。

 警備の人下げちゃったけど大丈夫なんすか、相談役? あ、外は固めてるんですか。

 

「こりゃすごい。さすがはロマノフ王朝……さすがは鈴木財閥といったところか」

「まぁのう。もっとも、おかげで釣られてやってくる奴が多いがのぅ。今日もロシアの大使館から交渉を持ちかけられて史郎が困っておったわい! まぁ、ほとんどはくれてやってもいいが……」

 

 俺や園子ちゃん、安室さんを先導するように鈴木相談役は一つのショーケースの前に立った。

 そのショーケースの中に入っていたのは――

 

「卵?」

「これは……インペリアル・イースターエッグですか?」

「ほう、安室と言ったか? よく知っておるのう。そう、これが鈴木家の蔵から発掘された51番目のインペリアル・イースターエッグ。展覧会で一番の目玉じゃよ!!」

 

 パっと見で感想を言うならば、二つに綺麗に割れた緑色の卵だ。片方は蓋で、もう片方には中身が入っている。金かな? それで出来た彫刻が中に納められている。一つの大きなソファに、恐らくは父親だろう人物が本を広げ、それを赤ちゃんを抱えた妻や4人の子供が覗き込んでいる。

 

「中にいるのはニコライ皇帝一家の模型じゃ。むろん、純金で出来ておる」

 

 外側だけを見たら緑色の卵型のおもちゃだろう。だがなるほど、こうして開けてみると大したものだ。

 ……多分。俺に良し悪しが分かるはずがないだろう。

 

「ん? どうしたんですか、浅見さん」

 

 実際いいものかどうか考えていたのが顔に出てしまっていたのだろうか、いきなり安室さんが話しかけてくる。

 

「あ、いえ……ちょっと気になって」

「ほう、お主も気になっておるか!」

 

 え、適当に出た言葉に食いついて来たんだけどこのオジさん。安室さんも目を丸くして驚いている。

 

「鈴木相談役も? へぇ……何が気になっているんですか、浅見さん?」

 

 俺が聞きたいです。切実に。鈴木相談役、俺の代わりにご感想を――あ、聞く姿勢に入っていますね。

 

「いや、その、上手く口に出来ないんですけど……何か、物足りないような」

「うむ、儂も同じ事を思っておった。史郎のやつは『こういうものじゃないですか?』などと言っておったが……まったく、目利きに関しては朋子くんの方が頼りになる」

 

 ……ハッタリも意外と役に立つもんだ。ってか、俺が適当に言った事に同意しただけじゃねぇだろうな相談役。……実は美術オンチ? さすがにそれはないか。

 安室さんは今の流れをどうやら信じてくれたらしく、「お二人ともすごい観察力ですね!」等と言っている。なんだろう、やっぱこの人なんか胡散臭い。同時になんか憎めない感じだけど。

 ともあれ、もう少し安室さんを知る必要がある――前に、相談役としっかり関係を築いておこう。金持ちと仲良くしておいて損はないんだ。俺知ってる。

 

(――あれ?)

 

 いざ相談役に適当に無難な話題を放り込もうと思ったんだが……なんだろう、今空気が変わった様な気がした。なんとなくだが、

 

「安室さん、今周りに警備の人いますよね?」

「え? あぁ、この展示室にはいないけど、僕たちが入る時、確かに周辺は固めていたようだよ。これだけ国宝級の物が揃っているんだから、設備も人員もかなりの物だったよ」

「…………」

 

 聞かなきゃよかったと思った。いや、警備がなかったなんて言われたらもっと不味いが、こう、しっかり固めてあるというのは、なんだかフラグっぽい――

 

 

 

 

――バチン!!

 

 

 

 

「……そらきたよ」

 

 周りを見渡しても、今は何も見えない。全ての灯りが一斉に消えたからだ。慌てた声を上げる相談役と、腰を落としたのかやや低い位置に安室さんの気配を感じる。

 

「な、なんじゃ、これは一体――」

「しっ!」

「相談役、声を立てずに体勢を低くしてください」

 

 安室さんは、落ちついて相談役の安全を確保している。――手慣れてるな。

 

「安室さん、相談役をお願いします」

「分かった。気をつけて」

 

 これで相談役は大丈夫だろう。手探りで展示物の位置を確認しながら、出入り口の方に向かう。

 異常は外も感じているはず。それで中に入ってこないどころか物音一つしないというのは、少し嫌な予感がするが……。ともかく一度外に。

 

 

――チャキッ

 

 

 いつだか聞いたことのある音がした瞬間、気がつけばその方向に全力で鍵を投げつけていた。昔『師匠』の方に教わった簡単な技術。一番真っ直ぐ、かつ速く相手に物をぶつける技術。方向からして、間違いなく相談役や安室さんではない。となれば―

 

(当たってくれ!)

 

 ヒュンッ! という音と共に自分も音のする方に走る。徐々に暗闇に慣れてきたため、遮蔽物があるかないか位はなんとか見えてきた。

 

(立ち止まったらアウト! さっさと確保する!)

 

 人影はうっすら見える。それを確認するのと同時にチャリン!という音とそれとは別に重い何かが落ちる音がした。人影は――普通に立っている。外れか!

 叫び声を上げたい欲求にかられるが、そんな事をしたら完全に場所がばれる。

 

(もういっちょ!)

 

 ポケットに入れておいた携帯を、今度はソイツの足元辺りを目掛けて思いっきり投げつける。こっちの姿は向こうにももう見えているハズ。投げた動作位は見えただろう!

 

「…………っ!」

 

 向こうの呼吸が乱れる音が聞こえた。当たったかどうかは関係ない。迷わず、そいつの腹の辺りをめがけて思いっきり蹴りをお見舞いしてやった。

 肉にめり込む感触が足を通して伝わってくる。

 

「おおぉっ!!」

 

 ここまでくればもう声なんて関係ない。自分を奮い立たせる意味で叫びながら、そのまま相手を押さえ込――

 

『―――――っ!』

「がふ……っ!」

 

 

 マスクか何かをしていたのか、くぐもった声で何か怒鳴りつけられたのと同時に腹に熱が走る。チラっと目でそちらを見ると、相手の膝がめり込んでいる。くそ、かなり重いっ!

 こちらが一瞬怯んでしまった隙に、相手はこちらから距離を取り――いや、『タタタタッ』と走り去る音が聞こえる。音が聞こえなくなるかならないかというタイミングで、復旧したのだろう。電灯が徐々に点灯しだした。

 犯人らしき姿は……あるはずない。先ほどと変わっているのは、落ちた鍵と――拳銃。漫画やゲームでよく見かけるサイレンサーの様なものと、レーザーサイトが付いている。

 

「浅見くん! 大丈夫かい!?」

「小僧、無事か!」

 

 もう安全だと判断した安室さんと鈴木相談役がこっちに来る。

 腹の痛みはまだあるが、少しずつ引いてきている。口も開けるし、立てもする。あそこで怯まなかったら――

 

 

 

「……くそっ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『昨日、米花シティビルにて発生した強盗未遂事件の続報です。犯人は、催眠ガスの様なもので警備員達を無力化した後、展示会会場の全ての電源を落とし――』

 

『ロマノフ王朝に関連した物を狙っていた事や、現場に残された銃などから、犯人は国際手配されている盗賊、通称スコーピオンである可能性が高いと見られ、当局は捜査を――』

 

『武装した犯人を撃退した大学生に怪我はなく、居合わせた鈴木次郎吉相談役も――』

 

 

 

 翌朝――もう昼か。昨日の夜、警察まで浅見君を迎えに行った時に説明は受けていたけど……こうしてテレビで情報が流されると、改めて実感が湧いてくる。

 

 今、目の前で眠そうな顔のまま肩に源之助を乗せて、のほほんとテレビを見ている大馬鹿野郎が、また危ない目にあったと言う事が……っ!

 

「浅見様はあれですか? ホラーやサスペンスもので最初に転んじゃったり逃げようとするドジっ子の如き一級フラグ建築士なのでしょうか? このままではいつか浅見様が乙ってしまうのではないかと……」

「乙ってしまうってなんだ、乙ってしまうって。そもそも昨日の事だけは俺は悪くないぞ。いやまじで。招待受けたらこれだぞ、どうなってるんだ。俺は巻き込まれた被害者なわけで――」

「でも、拳銃を持った犯人目掛けて特攻されましたよね? 丸腰で」

「おっとそろそろ江戸川の所に行かなきゃ、俺ちょっと準備して――」

 

「浅見君、ステイ」

「…………わん」

「なおぅ……」

 

 私がそう声をかけると、怒られると思ったのか椅子の上で小さくなっていく。なぜか肩の源之助まで一緒に小さくなってるけど……。

 危ない目に遭ったという自覚は――あるけどないんだろうなぁ。薄々気づいていたけど、本当に危なっかしい。自分の命というか、体を軽く見ている所がある。仮に昨日、犯人に撃たれて身体に障害が残ったり、手足を失うような事になったとしても『命が残ってりゃおっけおっけ』とか言いかねない。

 それでも心配かけた事は悪いと思っているんだろう。心からそう思っているのが分かるから余計に性質が悪い。見るからにしゅーん、と項垂れている。もう、本当に……もうっ!

 

「はぁ……。まぁ、最後の特攻だけは褒められないけど、あのまま待っていたら多分撃たれただろうし、前の! 爆弾事件の時とは違って! 自分から首突っ込んだわけじゃないから、今回は許してあげる。……今回だけだからね!?」

「アッハイ」

 

 まぁ、今回はしょうがない。浅見君が無事に帰ってきてくれただけでも良かったとしよう。

 それにしても――浅見君から聞きだしたい事がすごい勢いで増えつつある。

 ただでさえ、工藤くんとの事や江戸川君との事、盗聴器の心当たりに絡んでくる水無怜奈さんの事と色々あったのに、今回の件でまた一つ増えた。

 

 あの安室さんの話が事実なら、暗闇の中で物を投げつけて的確に拳銃を叩き落とすなんて尋常じゃない技能を持ってる事になる。目暮警部から、森谷教授の起爆装置を家の鍵で叩き落としたのは聞いていたけど……。

 

 彼が日課として身体を鍛えているのは知っている。知ってはいるが、室内でどんな事をしているのかまではさすがに知らない。せいぜい外でやってる走り込みと、庭先での木刀の素振り位しか知らない。部屋の中でも筋トレのような事はやっているらしいが……。多分、それだ。

 

 さて、いい加減積もりに積もったこの話、どうやって切り出そう……。

 とりあえず、この空気をどうにかするためにもテレビに注意を向ける。画面には、鈴木相談役の記者会見がライブで流れている。

 

 

 

『では、鈴木相談役。その大学生とは、例の連続爆弾事件を解決した彼なんですね!?』

『うむ、あの暗闇での冷静さ、犯人の気配を感じるや否や立ち向かう勇気! 度胸! まっことアッパレな若者よ! あの浅見透という男は!!』

 

「うぉいっ!!!!???」

 

 それまで気まずそうにチラチラと画面を見ていた浅見君が、がたっと立ちあがって思わず声を上げる。そりゃ上げるだろう。私も上げそうになった。というか、上げたのかもしれない。開いた口が塞がらないというのはこういう事か。

 警察には口止めしてあったのが、まさかこんな形であっさりばらされるとは!

 

『あの小僧も、あれだけの能力があるのならばもっと早くから出ておればよかったモノを!』

『は、はぁ……』

 

 うん、記者の人も困っている。そりゃそうだろう。僕があそこにいたとしてもなんと言えばいいか分からない。浅見君がその場にいたら? 泣いてる。

 

『なに、これからは心配いらん。奴には場をくれてやったわい!』

 

「…………浅見くん。『場』って、なに?」

 

 知らないだろうと思いつつ聞いてみると、やはりそうだ。『ブンブンブンブンっ!』と音が出るくらい首を横に振っている。源之助も。なんで動きがリンクしてるの? というかよく落ちないね、源之助。

 

――ピン、ポーン……

 

 ちっ、テレビの方に集中しようかと思ったらインターホンが鳴った。誰だろう、こんなタイミングで?

 

「はーい……今行きまーす」

 

 宅配便? いや、それとも江戸川君だろうか? 今日は浅見君と会う約束をしていたようだし……

 半ば茫然としていた浅見君がフラフラーっと立ちあがり、玄関口に降りて、適当な靴に足を引っ掛けてドアを開ける。そこにいたのは――

 

「おはようございます! 昨日はご活躍でしたね!」

「安室さん!?」

 

 いきなり僕たちの前に現れた探偵、安室透。今、僕が一番警戒している相手だ。なんでこの家に!?

 

「どうしたんですか、安室さん? 昨日の件でまた何か?」

「? あれ……相談役から聞いていないんですか? もう自分は用意を終わらせたんですが……」

「…………用意?」

 

 浅見君と駆け寄ったふなちさん、ついでに源之助が揃ってキョトンと首をかしげている。安室さんは、この場にいる全員の視線をモノともせず、懐から手のひらサイズの――名刺入れだ。それから一枚引き抜いて浅見君に渡す。浅見君は受け取ったそれに目を通して……あ、固まった。ふなちさんが横から覗いて、あ、こっちも固まった。

 僕も浅見君の所に寄って覗きこむ。やっぱり名刺のようだ。

 えーとなになに、『浅見探偵事務所 所属調査員 安室 透』。へー…………うん?

 

 

 

 

「「「浅見探偵事務所!!!?」」」

 

 

 

 

 そこに書かれている内容に驚いた僕と、再起動した二人の叫び声が重なった。

 思わず浅見君の横顔を見るが、叫んだまま開けた口をパクパクさせている。

 

「はい! 昨夜、警察の調書取りを終えた後、鈴木相談役から、浅見さんに協力してくれと頼まれまして。相談役がすでに事務所も用意してありますので、案内も兼ねて迎えに来たんです」

 

 そんな馬鹿な。いくらなんでも無茶苦茶すぎ――あぁ、でも、噂に聞く鈴木相談役なら確かにやりかねない。いやいや、まさか本人の了承も得ずに……いやいやいや。資本金とかどうしたのさ。まさかもう相談役が? まさか財閥の金は使えないだろうし……個人資産? いやいやいやいや、そんなまさか――まさか……え、まじで?

 

「表に車を止めてあるので、どうぞ乗ってください。越水さんや中居さんもどうぞ」

 

 安室さんが一歩下がると、彼の物と思われる白のRX-7が止まっている。

 浅見くんが何か言いたげに茫然とした様子で安室さんを見ているが、言葉が出ない――言葉にならないのだろう、変わらずパクパクさせているだけだ。

 

「本日からよろしくお願いします! 『浅見所長』!!」

 

 ここ最近ドタバタしている浅見君の家に、無駄に明るい安室さんの声が大きく響くのと同時に、浅見くんが膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

――浅見くん……君、どんな星の下に生まれてきたの??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は珍しくキールさん出番なし。なお次回から本格的にやりたい事が出来そうでなんだかワクワクしておりますw


探偵事務所の細部というか細かい所も次回! 説明の矛盾があった場合?
優しく温かい目で見守っておいてください(汗)


-追記-
ごめん、キールさん出番あったやん(汗)


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探偵事務所設立―
014:浅見探偵事務所、満を持してオープン!!(強制)


昔集めていたVHSを引っ張り出して当時のビデオを見返すと結構楽しいですね。
オリジナル回とかは完全に忘れていて、当時を思い出しながらすっげー楽しめました!



……あれ、なんで泣いてるんだろう



 作業用のビジネスデスクがそこそこの数設置されている。応接用のスペースもキチンとしており、さらに個室もいくつかあり、おまけにトイレはどこぞの施設のように男女に別れた上にいくつか数があって、その全てがセンサー式。なぜかバスルームまで設置されているという――

 

「……事務所ってなんだっけ……」

 

 少なくとも、そのまま宿泊施設として使える様な場所ではない。

 事務所だとしても、こんな高そうな調度品がごろごろ転がっている場所って大丈夫なん?

 デスクとか椅子もいいけど、来客用のソファとかパッと見で超高そうなんだけど……。 いや、そもそも実質『ビル』の2階と3階をほぼ丸ごと貸すのは間違っていると思う。2階とかさらに広くて使いづらいわ。これもう完全なテナントじゃん、どう使えって言うのさ。一応3階の方が事務所って事になってるけど……。え、今月まではいいけどそれからはテナント料取る? 一月もない時間で探偵事務所を、こんな一等地でやっていけるほど流行らせろとかなんて無理ゲー?

 

「所長。まだ少ないですけど、いくつか依頼が入っています」

 

 そして安室さんやい。年下にそんな言葉使わないで、俺泣きそうになるから……おっと涙が。

 安室さんからFAXや手紙の束を受け取り、片っぱしから目を通していく。浮気調査にストーカーの調査、結婚相手の素行調査などなど――

 

「……時間制限がある結婚相手の素行調査が一つあるから……これは安室さん、お願いします。ストーカーの調査は俺と越水で行こう。残りは……緊急性がありそうなものは毛利探偵事務所に回すか。ふなち、一応事務所は閉めておくけどFAXとか郵便物の整理、毛利探偵事務所との仕事の調整をお願い。あぁ、それと――」

 

 事務所のドアをそっと開けると、そこには色んな所――白鳥刑事に松本警視正や毛利探偵事務所、黒川医院に水無さん、それと鈴木財閥関係の所から送られてきた花が所狭しと並べられている。あれ? こんな花あったっけ……From Chris Vineyard……クリス=ヴィンヤード……誰だ? 聞き覚えはあるけど……。

 

「まぁ……これ、どうにか上手い事飾っておいて」

「……地味に難題ですわね」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

6月19日

 

 この一週間、日記書く暇が全然なかった。大学終わったら事務所に行って調査に入るか、依頼主の所に行くか……。この間にバイクの免許をとる予定だったけどほとんど教習所に行けてねぇ。おのれあの狸ジジィ! 今の所は昼は安室さんに事務所を任せてるけど、人が足りねぇ……。

 ちくしょう、なんでこんな事になったんだ。毛利探偵事務所に行きゃあ毛利探偵から『よぅ浅見~、お前も偉くなったもんだなぁ。ん~~!?』という有り難くないお言葉を頂戴し、頭を下げる蘭さんの姿を見ることになる。なんだろう、俺、何か悪い事したかなぁ、江戸川からは純粋に心配されてガチ泣きしそうになった……。

 

 ここしばらくは水無さん経由である女優の警護依頼に専念していた。星野輝美という女優で、元アイドルグループのアースレディース。安室さんと交代で張り付いて――途中、安室さんはモデルのスカウト受けていた。イケメン爆発しろ――まぁ、どうにかストーカーは無事に捕獲。事務所からの依頼料に加えて、星野さんからポケットマネーでボーナスいただいた。ありがたやありがたや。

 

 

 星野さんは工藤新一のファンだったらしく、江戸川から色々聞いていた話をそのまましたら結構楽しんでもらえ――それに我慢できなくなったストーカーが飛びかかって来たのを取り押さえて終わり。千葉刑事に来てもらって逮捕してもらった。いや、本当に神経使う仕事だったわー。工藤新一の助手という形で名前も覚えてもらったらしく、これから先なにかあったらウチの事務所を頼ってくれるらしい。

 

 ……人手がまじで足りねぇ。ある意味目的にはかなり近づいているが、やることが多すぎて何から手をつけていいか分かんねぇ……人手ぇぇぇぇ。

 

 

 

 

6月20日

 

 ふなちがちょっと――いや、相当グロッキーだ。そりゃ事務仕事溜まってるもんなー。今いる人員全員で出来るだけやってるけど、さすがに多い。調査依頼もあるから効率も悪いし……あれ、そういやしっかり休んだ日ってなくない? やべぇ、いくらなんでもこれはブラックだわぁ……。

 

 鈴木財閥からは税理関係の人員は借りているが、手を出しすぎないように相談役から言われているらしいから、多分人手は貸してくれないだろう。

 ……募集をかけるか。というか、紹介所みたいなやつないかなぁ。個人情報が多いから信頼できる人間がいいんだけど……。

 今日はまさかの殺人事件。またかよ……。江戸川いないのになんで起きるかなぁ。やっぱ俺か?

 俺と安室さんで、浮気調査の結果報告に行ったら、依頼主の旦那さんが殺害されていた。幸い、複雑なトリックではなく、俺と安室さんだけでどうにか解決できた。佐藤刑事と高木刑事が到着した時には、犯人である奥さんの偽装工作を安室さんが暴き、そのまま警察に引き渡すだけで終わった。

 安室さんの頭の回転も相当なものだ。正直、江戸川並みだと思ったわ。――けど、それならなんで俺みたいな出来そこないの探偵に協力してくれるんだろうか?

 ……そんな事言ってる場合じゃねぇ、優秀な人がいてくれるならラッキーだ。愛想尽かされないように頑張ろう。

 

 

 

 

6月23日

 

 人手が来てくれた! 事務員というか、どちらかと言えば使用人だが。

 下笠穂奈美さんと美奈穂さん。双子の姉妹で、俺の一つ上だ。

 この間募集の広告を出してみて見つけた人だ。一応、受けた依頼の報酬自体はすでに大分多かったから――テレビ局関係の仕事の払いがよかったというのがあるが――早すぎるが思い切ってやってみた所、何人かの応募が来ていた。その中で、来客対応もこなせる人という事で二人を選んだ。

 で、今日が出勤だったんだが――うん、服装については何も言わなかったけど……なんでメイド服? や、すっげぇ優秀な二人だから全然いいけど。何かある度に二人同時にステレオみたいにしゃべるのにビビってしまう。

 そして、遊びに来た江戸川から微妙な視線を頂いた。違う、違うんだ江戸川……俺の趣味じゃないんだってば……。

 

 

 

 

6月24日

 

 双子すげぇ……。接客出来るってのもでかいけど事務能力高ぇ……。空いた時間で掃除もやって料理もやってくれている。確かにキッチンはあったけど使う事はないと思ってたのに、講義が終わって事務所に入ればいつも飯がある。ふなちは双子を完全に尊敬の目で見てる。いやそりゃそうだわ、安室さんとも話してたけどあの二人絶対手放さねぇ。派遣会社抜けてもらってから再雇用とか真面目に考えている。給料もっと出すよ、いやまじで。

 

 

 

 

7月5日

 

 月末乗り越えた! 色々面倒くさい書類仕事を全部終わらせ、税理の人に提出して……おぉう、まじで疲れた。

 儲けもかなりあって、各人員の給料と経費分差っぴいても相当ある。もうちょい人増やしても余裕――というほどでもないが、まぁ大丈夫っぽい。や、あくまでこの調子が続けばの話だけどさ。

 そういえば、今日訪ねてきたお客さんから聞いた話だが、例の中止になったロマノフ展は、機会をみて大阪でやるらしい。浦思青蘭さんというロマノフ王朝の研究家だそうだ。どうやら、あのイースターエッグを見せてほしいと鈴木財閥に頼んだんだが断られ、実際に目にしたという俺から話を聞きたかったらしい。

 ロマノフ王朝の研究をしていて、その論文のために是非とも見たかったとか……。

 ぶっちゃけすっげー好みだわ。今度食事の約束を取り付けたし、良い事あるといいなぁ。

 今日も夜は水無さんと食事。おぉ、俺今すっげープレイボーイっぽくね!?

 

 あー、でもアレだ。今日事務所に行く途中に、すっごい綺麗な女子高生から「貴方、なんで生きてるの?」とか聞かれた。なんでなんですかねぇ(哲学)

 なんか、男連中の取り巻きを従えて歩いてる、漫画でしか見たことない様な子だった。「アカコ様」って呼ばれてたけど……なんだったんだ、あれ? 高校生探偵ならぬ高校生占い師? むちゃくちゃ美人だったけど、なんか面倒くさそうなオーラが出てた。

 しかし、顔を見られるや否やあんな質問されるとは思ってなかった。俺、そんなに死にそうな顔してたのか。

 

 

 

 

7月10日

 

 また事件に巻き込まれてた。事の始まりは、阿笠博士に頼んでいた物を受け取りに行った時だ。

 これから先、緊急事態も増えるだろうという予想の元に、阿笠博士に特殊なサバイバルキットと、江戸川と行動する時用に、例の少年探偵団のバッジと同じ機能の物を作ってもらった。阿笠博士、本当にありがとうございました。代金こそもう振り込みましたが、今度また何か美味い物を持っていきます。

 

 で、江戸川と将棋の対局をしていたら、阿笠博士が江戸川に伊豆のツアーを勧めていた。阿笠博士が友人とその孫娘さんの三人で行く予定だったが、その孫娘さんが熱を出したためにキャンセル。代わりに毛利さん達3人で行こうという話らしい。

 ミステリーツアーはどうでもいいが、伊豆というのは素晴らしい案だとこの時俺は思ったんだ。

 最近休みらしい休みはなかったし、ちょうどいいと事務所のメンバー全員で軽く伊豆のホテルで遊んで行こうと――今、心から思う事がある。どうして俺はこの時、江戸川達のホテルや日程を確認してなかったんだろう。

 

 

 調査依頼も一区切りついていた事だし、といざ予約を取って『伊豆プリンセスホテル』という豪華なホテルに。運よく部屋がギリギリ空いてて――今思ったけどこれフラグだったんじゃね?

 運転は下笠姉妹が車を二台出してくれるというのでお言葉に甘えて伊豆のビーチへ!

 

 初日はすっごい楽しかった。到着してからプールで泳いだり、美味い飯食ったり酒呑んだり。そうだよ、あれこそ休日だよ。やばい、ちょっと無理して良かった。さすがに毎月は無理だろうけど、今度また企画しよう。今度こそ江戸川と予定をずらしてな!

 んで、次の日だ。嫌な予感はしてたんだよ。プールの方ですごい水しぶきが上がった音がしたので見に行ったら、見覚えのある姿の小さな子供がずぶ濡れのまま走り去っていく姿が見えた。

 そっかー、同じ伊豆に行くって話だったもんなー。日程もホテルも俺確認してなかったしなー。ちくせう。

 まぁ、常にフラグが立つ訳じゃないだろうって思いながら、念のために事務所の面子全員で行動してたら――起きたわけです。悲鳴が。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 悲鳴を聞きつけて3階の屋外レストランに駆け付けた時には、俺たちも参加していたツアーの客の一人、江原時男が銅像の剣に串刺しになっていた――父さんの小説の登場人物――闇の男爵、ナイトバロンの格好をして。俺は蘭や刑事の目を盗んで、下ろされて横になった遺体を調べている。

 

「なるほど、客の中に紛れている主催者を突きとめる謎解きツアーで、その主催者がナイトバロン……。では、江原さんが主催者ということですか!?」

「さ、さぁ……よく分かりませんけど」

 

 後ろでは蘭が、駆け付けた刑事――埼玉から静岡県警に異動してきた横溝刑事に事情を説明している。

 どこかで飲んでるだろうおっちゃんも、あの悲鳴を聞いてりゃ駆けつけてくるだろう。その前に出来るだけ調べておかなきゃいけない。こういう時に浅見さんがいると楽でいいんだが……っ。

 

(これは……ベルトも、ネクタイの結び方まで……!?)

 

 おかしい。おかしいぞ、この死体――!

 

「う~む、これは……自殺か、事故死か、それとも……」

 

 

 

――殺人ですよ、刑事さん。

 

 

 

(そう、これは殺人……て、え?)

 

「な、誰だ! 君たちは!!」

 

 自分の内心と重なるように、聞き慣れない男の声がした。いや、でもどっかで聞いた様な――

 思わずそっちの方を向いてみると、立ち入り禁止のテープギリギリの所に6人の男女が立っていた。――って、おい!

 

「そのネクタイとベルトを見てください。おかしいとは思いませんか?」

「え、えぇと……」

 

 褐色肌の男が、横溝刑事にそう言うと、横溝刑事は素直に遺体を調べ出す。

 

「ん~? ……これは! 逆だ! 結び方が逆になっている!」

「ベルトもだよ、刑事さん」

 

 横溝刑事が気付いた事を叫んだ後、今度はセミロングの女性が口を挟む。慌ててそっちも調べ、やはりベルトも締め方が逆になっている事を確認した横溝刑事は難しい顔で死体を見つめている。

 

「なるほど――つまり、その遺体が着ているその妙な衣装は、他の誰かが着せた物である可能性が高いという訳ですわね?」

「あ、貴方達は一体……?」

 

 締めくくるようにそう言ったツインテールの女は、セミロングの人と同じで良く知っている顔だ。そうか、ここに来ていたのか――

 

 

「「申し訳ございません。御挨拶が遅れました」」

 

 双子のメイドが、まったく同じタイミングで頭を下げる。そして、ここ最近でもっとも付き合いの深い男が面倒くさそうなため息と共に前に出る。

 

「浅見探偵事務所、代表の……浅見 透です。よろしければここに来ているはずの毛利探偵と共に、事件に協力をしたいのですが――よろしいでしょうか?」

 

 横溝刑事の顔を真っ直ぐ見てそう言った少し後に、こっそりと俺に目配せをする。

 

 

 

 

―― 浅見さん、久々に一緒に動けるな。

 

 

 

 

―― …………あぁ、そうだな

 




コ:一緒に動けるな!(喜)

浅:あぁ、そうだな!(泣)


登場キャラ紹介を入れておきますw
興味を持たれた方はぜひググったりして調べてみてくださいw


○星野輝美(ほしの てるみ)
File249-250 アイドル達の秘密(前後編)(アニメ)
32巻File5-7

 毛利小五郎のお気に入り歌手で有名な沖野ヨーコや他二人の計4人で『アースレディース』というアイドルグループで活躍していた人。23歳。今は女優をやっているようです。
 工藤新一の大ファンで、演技にもそれが表れているクールに見えて可愛い人です。
 アースレディースのメンバーも是非もう一度出てきてほしいですw




○下笠穂奈美 (しもがさ ほなみ)
   美奈穂 (しもがさ みなほ)

File184 一時間スペシャル
『呪いの仮面は冷たく笑う』にて初出。

 アニメ版のオリジナルキャラで、何気に一度復活しているメイドさんです。
 もう一度出てこないかなー、この二人の雰囲気すっごい好きだったw



○アカコ様

 まだ本登場とは言えませんが、「まじっく怪斗」のもう一人のヒロイン、小泉紅子(こいずみ あかこ)の事です。
 余りに美人過ぎて、キッド以外の男は全て跪くらしいですが、コナン世界と混じってしまったから決してなびかない男が爆発的に増えたという……残念!

 とっても綺麗な魔女(ガチ)です。
 正直、当時からメインヒロインの青子より彼女の方が好きでしたw





○浦思青蘭(ほし せいらん)

調べたい人は調べてみてください(にっこり)


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015:幕間 ―探偵事務所の日常―

1日でこれだけ書こうと思えば書けるもんなんだ……(汗)

感想でしばしば言われていた探偵事務所の様子などを別キャラ視点で書いてみました。
ノリと勢いで書いた作品でもあるので深く気にしないで頂けると幸いです(汗)


 事の顛末を話すと、ベルモットは車の助手席で上機嫌に笑い転げていた。

 

「それで……貴方達のせっかくの休暇を潰した殺人事件も解決というわけ?」

「えぇ。まったく、あの事務所にいる人員の能力は侮れないモノです。越水七槻、中居芙奈子。……二人とも素晴らしい探偵です」

 

 普通ならば、この女にこんなに親しい人間の話はしないのだが……。自分も迂闊なことをしているという自覚はある。だが同時に、この女は浅見透を敵になる可能性がある人間として見ていない気がする。論理的な根拠は一つもないが、割と合っている気がするのだ。

 この女が事務所に送ってきた花束の中に、アクセントとしてアゲラタムという花が添えられていた。

 この花は日本では育ちにくく、冬前に枯れてしまうので、園芸用に改良されたものを春ごろに蒔き夏ごろに開花する小さな花――要するに生花店で普通に注文しても、まず花束には使われない花だ。アゲラタム。ギリシャ語で『老い知らず』という意味の花だ。そして、その花言葉は――『信頼』。

 

(彼女は一体、彼の何を信頼しているのか……あるいは、何に対して信頼を求めているのか……)

 

 この一月、彼の部下として働いているが、本当に彼は興味が尽きない。

 あの『スコーピオン』と対決した夜。あの暗闇の中での正確な投擲。

 一撃目で拳銃を狙って武器を奪い、二撃目で利き足を正確に攻撃して勢いが落ちた所に真っ直ぐ突き抜けての攻撃。最後の詰めは甘かったが……いや、そもそも評価すべきはそこじゃない。あのブレーカーが落ちる前に見せた異常なまでの勘の良さ。あそこで暗闇に対してあんなに早く暗順応をするなんて、そういった訓練を受けていたからとしか思えない。キールから聞いた、カルバドスの話がそれを裏付けている。

 加えて、徐々にだが彼は影響力を強めていっている。事務所を開業してから広がっていく人脈、彼自身の有能さ、なにより見え隠れする鈴木財閥との関係。中には鈴木次郎吉相談役の隠し子、隠し孫なのではないかという噂も広まりつつある。

 浅見透の両親が亡くなっていて、それより前の血縁がハッキリしないのが手伝っているのだろう。まぁ、あくまで噂。せいぜいほんのささやかな悪口のスパイス程度に終わるのがオチだろう。

 

(両親がいないから……かな)

 

 彼が小学4年生の時に両親が事故で他界。以後、引き取る親戚もおらず施設に預けられている。一時期行方不明の期間があるのが気になるが……。

 

「ベルモット、貴女が彼を赤井に似ていると評した理由がよく分かりましたよ。性格、言動、その他もろもろ、赤井と彼は全く似ていない。けど――」

 

 あの得体の知れなさは確かに、と思う。

 

「一緒に仕事をしていてどう?」

「そうですね……まだ二十歳とは思えないくらいに有能だというのは間違いないですね」

「探偵として……かしら?」

「いいえ、探偵としては……まぁ、優秀な方とは言えますが、越水さんの方が優秀でしょう」

「へぇ?」

「ですが、助手――サポートとしては掛け値なしに優秀なんですよね……」

 

 異常なまでの勘の良さ、観察力、行動力、構築しつつある人脈と、それを使う手腕。

 残念なことに単独では答えにたどり着く所まで行かないが――誰か一人。一人、推理力を持つ人間が傍にいれば、あっという間に事件が解けてしまう。先日のナイトバロン事件の時も、居合わせた毛利探偵や自分達探偵事務所の面々を使って、的確に情報を集めたのは間違いなく彼の功績だ。

 空手の達人である蘭さんの攻撃を、犯人らしき人物が全てかわしたという話が入って来た時も、彼は動じずに多方面から事件を見ていた。

 

「楽なんですよね、一緒に仕事をしていても……一緒に酒を飲んでいても……。それに、後数年経験を積めば、それこそ本当の名探偵になりますよ、彼」

「あら、本当に彼を買っているのね」

「えぇ、それはもう――貴方と同じですよ、ベルモット」

 

 今ベルモットは、あの時自分が撮った写真を見ている。事務所の面々や、途中合流した毛利探偵たちの写真……さすがに遺体の写真は警察に提出したが、捜査中に撮ったのも入っている。彼女が興味を示したのが少々意外だったが……よくよく考えれば浅見君にはかなり執着を見せていた。

 

「……ねぇ、バーボン?」

「なんですか?」

「この写真、いえ、他にもいくつか焼き増ししてもらえないかしら?」

「……本当に珍しいですね。別にかまいませんよ?」

「フフ、ありがとう」

 

 彼女が指定した写真を横目で確認する。

 

「えぇ、この子もすごい優秀な子でしたね。実質、彼と浅見君で事件を解いた様なものです」

 

 写真に写っていたのは、二人の男――いや、男が一人と少年が一人、というのが正しいだろうか。

 我らが浅見探偵事務所の所長、浅見透と、毛利探偵事務所の居候、江戸川コナン君。

 あの事件を解くきっかけとなった壊れた万年筆を見て、二人して――悪戯小僧の様な不敵な笑みを浮かべているその写真をベルモットはじっと、宝物を見るような目で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「おはようございます所長。さっそくですが、こちらが緊急性の高い御依頼になります」

「ありがとう、穂奈美さん」

「所長、お茶はこちらに」

「美奈穂さんもありがとう。……これは安室さんに頼んで、これは俺、こっちは越水……よし。ふなちー、これお願ーい」

「はい、かしこまりました! いつも通り、毛利探偵事務所に紹介しておけばいいんですね?」

「こっちで向こうにFAXで書類を送っておくから、スケジュール調整は任せるよ。向こうがだめだったら……そうだな、ダメだったら槍田さんの所当たってみて」

「はい、それでは行ってきます!」

 

 下笠さん達が来てからは本当にふなちさんも元気になった。最近では毛利探偵事務所や他の探偵さんとの連絡や調整を主な仕事にしている。普段はエキセントリックな彼女だけど、やっぱり優秀なんだよなぁ。

 

 元気に事務所を出ていくふなちさんを眺めながら、僕は自分のデスクにつく。

 奥の所長席には浅見君が座って、その肩には源之助が座っている。

 傍には下笠――今日は穂奈美さんかな? が控えていて、お茶やお菓子を出している。僕やふなちさんの席はもちろん、今日は昼からこっちにくるという安室さんにはまだ出されていないが、事務所に来た瞬間に美味しいお茶とお菓子を出してくれるんだろう。

 美奈穂さんは接客用の備品を確認したり、テーブルをしっかりと磨き上げている。

 

 今日もいつも通りの事務所だ。――いや、安室さんがいないから、完全にいつも通りってわけじゃないか。

 

「あ、そうだ。今日は少年探偵団も来る日じゃん。穂奈美さん――」

 

 壁に掛けられたスケジュールボードを見て、浅見君が声を上げると、すぐに穂奈美さんが内容を察して返答する。

 

「はい、すでに皆様の分のランチボックスは用意してあります。それと、少年探偵団の皆様に手伝っていただく仕事……警視庁のこども防犯キャンペーンへの協力ですね。こちらは、私達が車で送迎いたします」

「悪いね。前もって御両親にはパンフで説明しておいたけど……。もう一度こっちで電話しておくか」

「所長、探偵団員のご自宅の電話番号はこちらになります」

「ん」

 

 もうすぐ7月も終わる。浅見君がスコーピオンの事件に巻き込まれてからドタバタする形で開業することになった探偵業だけど、どうにかこうにか順調な流れになってきた。空いている金食い虫の2階のテナントをどうするかが問題なわけだが……浅見君が相談役と昨日、飲みながら話したらしいけど、ここを手放すことは許さないらしい。

 ……浅見君の適性を見るためかな? ただ広いだけのテナントは、言ってみれば真っ白いキャンバスの様なものだ。元々探偵の助手だった浅見君に探偵事務所以外にどんな絵が描けるのかを試すつもりなんだろうか?

 まぁ、今月の締め日に計算をして、予算案をある程度考えてからの形になるんだろうけど……

 

「浅見君、新しい人員はどうする? 今は夏休みだからいいけど、このままじゃ学校始まった途端にまたあの地獄になっちゃうよ?」

「そこだよ、そこなんだよ……。マジでどうすっかねー」

 

 浅見君も悩んでいるんだろう。何枚か履歴書が郵送で届いているのは知っているが、彼にはピンと来なかったらしい。最近では、あの江戸川君も仕事を手伝ってくれているが……これ、児童労働にならないよね?

 いや、そもそも彼と浅見君で仕事に行けば二回に一回は殺人事件とか誘拐事件だし……本当にこれ問題にならないよね? 

 ま、まぁ……おかげで浅見探偵事務所も名が売れて、今では毛利小五郎と人気を二分する名探偵扱いである。ここ最近は雑誌やテレビの取材も多くなっている。本来は断りたいところだが、テレビ局の関係者はウチのお得意様でもあって、断れない。この間なんて、とうとう安室さんや私までテレビに出てしまった。安室さんも「まいりましたね」なんて苦笑いをしていた。……私も変な風に映ってなければいいけど……。

 

「そういえば安室さん、またスカウトされてたね。今度はCMに出てみないかって」

「おのれイケメンめ! 絶対に許さん!!」

「……安室さんが辞めるなんて言い出したら」

「足にすがりついてでも止めます」

「だよねー」

 

 今も正直、安室さんのことは疑っているけど……。ここまで真摯に浅見君を支えてくれているのは間違いなく彼だ。……ちょっと悔しいけど、多分浅見君も彼を必要としている。

 

(それと……江戸川君)

 

 事件に関われば関わるほど、彼の特異性が露わになる。いくらなんでも小学生にしては優秀すぎる。

 浅見君と安室さん、そして江戸川君の三人がそろった時に殺人が起きた時なんて、すごく安心して見ていられる。これは今日中に解決するなと考えてしまうだろう――本当に解いてしまう辺りが頼もしすぎて性質が悪い。

 ついこの間は、偶然誘拐事件に遭遇したが酷い物だった。娘を誘拐された父親が、病院に入院していたある男を殺すように脅迫されていた事件があったが、江戸川君と安室さんが気付いた時点でもう犯人は詰んでいたと言っていい。

 父親の監視役だった二人は安室さんと浅見君が瞬く間に制圧。近くのデパートの屋上で人質と一緒にいた女は、江戸川君のよく分からない威力のシュートで吹っ飛ばされていた。

 思わず合掌してしまったのは、割と正しい反応なのではないだろうか。

 

 あれ? 考えてみればあのシュートもおかしいよね。地上から屋上まであの威力のシュートなんて子供には……いやいや人には出せないよね? あれ? 江戸川君ってあの年でもう人間辞めてる?

 

「どしたの越水? 変な顔して」

「あ、うぅん、なんでもない」

「…………なぉぅ?」

 

 浅見君と、最近ではこの事務所のマスコットになりつつある源之助が僕の顔を覗き込んでいる。

 拾った当初は毛が伸び放題でボッサボサの白猫が、今ではトリミングしてすごいスマートな猫になっている。事務所にいる時はよく肩に乗っているから、雑誌の記者も面白がってその時の写真を良く使っている。

 雑誌かぁ……。ほんの数ヶ月前までは、こんな生活になるなんて思ってもみなかったな。

 

「ま、予定通り週末には四国に行けるだろ。さすがに他の面子は動かせないけど……ま、俺とお前の二人ならどうにかなるだろ」

「うん…………」

 

 そうだ、そのこともある。なんとしても、解かなきゃいけない謎。

 でも、その謎を解いた時に……僕は……

 

「越水、お前本当に大丈夫か? 顔色ワリィぞ」

「……うん、大丈夫。さ! 今日も仕事頑張ろう!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「あ、浅見さん、いらっしゃい」

 

 夜の九時を回った頃に、事務所のドアがノックされた。この時間にお客さんが来ることは少ない。でも、ここ最近は週1でこの時間にいつも来る人がいる。新一の助手で、今は一探偵事務所の所長でもある浅見さんだ。

 

「おー、浅見ー」

 

 お父さんはソファに寝そべって、飲みかけの缶ビールを掲げて浅見さんを迎える。もう、行儀が悪いんだから!

 

「お、もう始めてましたか名探偵。どうです? ウチの職員がちょっとしたツマミを作ってくれたんですが」

「おぉ! あの双子のメイドか! あの二人の料理は美味いからなー! おう、そこに座れ浅見! 蘭ちゃん、ビール持ってきてちょーだい!」

「もう、お父さんっ……! すみません浅見さん、いつも」

 

 ここ最近、こっちが暇な時を見計らって仕事を持ってきてくれてる人なのに!

 

「あー、それじゃあ蘭ちゃん、これを冷蔵庫に入れておいて」

「本当にすみません、浅見さん」

 

 ここ最近は浅見さんがビールを持ってきて、入れ替えるようにこちらがビールをお渡ししている。

 ……本当に、今度何かお返ししないといけない。浅見探偵事務所の人達にはお世話になりっぱなしだ。事件の時も、コナン君が電話をして浅見さんに知恵を借りてる時もあるし、事件で困った時に居合わせた安室さんにも助けてもらっている。

 本当にどうやってお返ししよう。

 私が頭を悩ませている事になんてまるで気付かず、お父さんは浅見さんとビールで乾杯している。

 あ、いつの間にかコナン君も浅見さんの横でジュース飲んでる。もうっ!

 

「あ、蘭ちゃんもよかったらどうぞ。今日は美奈穂さんが作ったマリネです。サーモンとキノコ類がさっぱりしてて美味しいですよ? そこそこ量も多いですし」

「すみません、それじゃあお言葉に甘えて――」

 

 わぁ、本当に美味しい! 下笠さんとはあの伊豆の事件の後も何度か会ったけど、本当に料理が上手なんだ。越水さんにふなちさんも上手だったけど……。

 

「そういえば浅見さん、今日も仕事を紹介していただいてありがとうございました」

「あー、いえ。こちらも手が足りていないので、毛利探偵が受けてくれてこちらとしても助かりました」

 

 なんというか……同じ探偵事務所のトップでこうも違いが出るのかと思う。

 お父さんは確かに名探偵だけど、普段の姿を見ると浅見さんの方が立派な探偵に見える。向こうの調査員の安室さんや越水さんもすごい推理力で、この2か月でズバズバ事件を解決している。

 

「お、そういや浅見。あの綺麗なねーちゃんとは最近どうなんでぃ? もう振られたかー?」

「ふっはっは! 残念ですが小五郎さん、まだまだ縁は切れてませんよ。今度も食事に行く約束を取り付けています」

「かーっ! 本当にうまいことやりやがって、こいつぅ!!」

「? 浅見さん、誰とご飯食べるの?」

 

 コナン君が不思議そうな顔で聞く。うん、誰のことだろう? 話の流れからして越水さんでもふなちさんでもないよね?

 

「あぁ、そうか、コナンとは面識なかったっけ。浦思青蘭さんっていう中国からきた学者さん。ロマノフ王朝を主に研究している人だよ」

「ロマノフって……じゃあ、あのスコーピオンの事件で?」

「あぁ、七月の初めくらいにウチの事務所を訪ねて――話を聞きたいってね。あの後、展示会は中止になったからな……。展示される予定だった美術品のいくつかの話を聞きたいってなってな。そっからちょくちょく飯に行ったり、美術館に行ったりしてるんだ」

「ふーん……」

「はっはっは! 浅見、女は大事にしとけよ! いざとなると、女は怖いからなー!」

 

 へぇ、浅見さんモテるんだ。この間もアナウンサーの水無怜奈に似た人と歩いてたし……。

 そんな軽い人には見えないけど……越水さん、大丈夫かな。

 

「そういやコナン。少年探偵団、今日は大丈夫だった? 一応穂奈美さんから報告はもらったけど」

「あぁ、大丈夫大丈夫。ポスター用の写真撮影がメインだったし、その後地域企画課の人と――」

 

 本当に幅広くやっている事務所だ。園子から聞いた話だと、次郎吉さんが浅見さんの事務所が新聞に載る度に切り取って額に入れているらしい。本当に浅見さんを気に入っているんだろう。――逆に、相談役の道楽のおこぼれをもらった男って悪く言う人もいるらしいけど……園子のお父さん、お母さんも浅見さんに興味を持ち始めたらしいし、本当にすごい。

 気に入っていると言えば、最近はコナン君ともすごい仲がいい。江戸川君って呼んでいたのが、いつの間にかコナンって呼び捨てにしてるし、コナン君もよく浅見さんにくっついて仕事をお手伝いしている。まるで、本当の兄弟みたいだ。

 

「――て感じだったよ」

「……なるほどなー。穂奈美さんからも聞いてたけど、地域企画課の大沼さん、少年探偵団を気に入っててな。また変な頼みごとするかもしれないから、その時は頼むわ」

「わかった。あいつらも、変に事件に関わったりするよりこういうちょっとした仕事の方がいいだろうし」

「だよなー。あ、そうだ、阿笠博士にまたちょっと依頼したい事があるんだけど――」

 

 浅見さんと話す時、人目がある時はコナン君も丁寧な言葉を使おうとしているが、ふと気を抜いたら、まるで長く連れ添った友人のように話している。今がそうだ。

 

(本当に、仲良しなんだから……)

 

 お父さんに茶々を入れられ、浅見さんがお酒を勧めて、コナン君が呆れた目でそれを見ている。

 ここ最近は本当に良く見る流れだ。なんだか家族みたいな光景で、少しだけ焼きもちを焼いてしまいそうになる――と思ったら、まるで空気を察したように浅見さんが私に話を振ってくる。

 本当に、敵わない。

 

(……私にお兄ちゃんがいたら、こんな感じだったのかなぁ……)

 

 お父さんがいて、私がいて、コナン君と浅見さんがいて……ここに、お母さんがいれば。

 

(そうだ、お父さんとお母さんの仲を取り持つの、今度浅見さんに相談してみよう!)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「今日は僕に用がある人が多いですね……どうかしましたか? 水無怜奈さん」

 

 ベルモットと別れたあと、昼から事務所入りして仕事を終えた時に、電話がかかってきた。

 キール……水無怜奈からだ。

 

「貴方の口から聞きたかったのよ。浅見君について、ね」

「貴方もですか……。今日はベルモットからもその話を聞かれたのですが……なんでも、もうすぐ一度向こうに戻らなければならないので、浅見君の話を聞いておきたいと」

 

 ベルモットの名前を出した瞬間、後部座席からわずかに衣ずれの音がした。

 

「……女は怖い。そうは思いませんか? カルバドス」

 

 

――チャキッ

 

 

「……その口を閉じてやろうか。――バーボン」

「ちょっと、カルバドス! バーボンも止めて!」

「すみません、ちょっとからかってみたくなって……」

 

 キールが間に入ったおかげで、後ろから感じる殺気が薄れていく。

 あのスコーピオンの事件以来、カルバドスは浅見透をより強く意識しているとは聞いていたが……ここまでとは――

 

「カルバドス。一応仲間として忠告しておきます。常に冷静でいないと足元をすくわれますよ……彼なら、尚更。――浅見透、今は敵じゃあありませんが……今回彼は、財閥という大きな力を味方につけました。もし彼と敵対する日が来るとしたら、その時はより大きな力を率いているでしょう」

 

 これは間違いないと確信している。彼が一体どのような仕事を重視するかで、彼が何を求めているのかは推理できる。目先の金ならば単純に効率のいい仕事を、人脈ならば高名な依頼人を優先するように、大体の流れというモノが見えてくる。

 では、彼は? 浅見透の目指す物は?

 

(おそらく、最終的に目指す物は……巨大な情報網、あるいはそれ以上の何か)

 

 彼は基本、キャパ以上の仕事は受けないか後回しにしているが、警察関係の依頼はどんな小さな物でも必ず受けている。今日もそうだ。厳密には彼が受けたわけじゃないが、少年探偵団を説得して警察の地域課の仕事を手伝わせた。それも、ほぼ無料に近い形で。警察との間に友好関係を築こうとするのはおかしくないが、彼の場合は相当重視しているのが分かる。後は病院関係者や、テレビ局関係者――特に報道関係者は、水無怜奈であるキールを通じてこまめに顔つなぎをしている。鈴木財閥からの依頼も当然受けているが、傍で見ていてそこまで熱意はない様に思える。

 

(報道、マスコミ関係から始まり、警察や病院。それも特定の部署などではなく全体的に……彼は、何かを調べるための環境を整えようとしていると見ていいだろう)

 

 政治絡みの依頼はまだないが、もしこれから先そのような依頼を受けた時に彼がどう動くのか、今からすでに興味を惹かれてしょうがない。

 

(そして、もう一つ気になるのは……彼がどんな依頼を受けていても必ず優先するもの――)

 

 『彼』から電話があった時は必ずそっちを優先していた。どんなことがあっても、だ。

 さすがに全てを放り投げるわけではないが、張り込みなどの拘束される仕事の時は、常に自分や越水さんを傍において、『彼』から電話があった時はこちらに任せて、浅見透は必ず彼の元へと駆け付けている。――本当に、なにがあっても……

 

(……江戸川コナン君……か)

 

「本当に……当分は退屈しないで済みそうだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おっと忘れてた、名前だけの登場ですが新キャラ紹介!

○槍田 郁美(そうだいくみ) 29歳
File219 集められた名探偵! 工藤新一vs怪盗キッド
30巻file4-7

名前だけなら劇場版にも実は出ている、名探偵の一人。元検死官の美人さんです。
元検死官らしく、ルミノール等の検死に使う薬品を常に持っているという鑑識みたいな活躍をした人です。
この人とか、同時に登場した茂木さんとかもっと出番あってもいいキャラだと思うんだけどなぁ……。
この世界では、7月の間に一度出くわして連絡を取り合っているという事になっております。


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016:四国と魔女と新入りと

当初考えていた『事務所』の面子はこれでほとんどは揃ったかな?
四国編というか越水編は地味に長くなるか、四国編と○○編(ちょっと未定)の二つにわけるかも知れません。

なお、改めて強調させていただきますが、『紅子様』は魔女(ガチ)でございます。


8月3日

 

 あーつーいー!

 畜生まじで今年は半端ない暑さだな! テレビのお天気お姉さんも言っているよ! 今年は例年にない猛暑になるようです……それ去年も言ってたやん! 去年っていつだよ! 去年は今だよ! 今年は来年だよ!!!!!(激おこ)

 

 なんにせよ、浅見探偵事務所は今日も盛況でした。っつっても仕事があったっていうよりも仕事が一段落した後処理に追われていたって感じだけど……。ひたすら浮気の様子を文章にしていく作業って心にくるなぁ、ちくしょう。旦那さんの方にはもう一度だけ顔を合わせておこう。お酒が好きって言ってたし、お酒も持って行ったほうがいいか。

 仕事の方はさておき、とりあえず今月からは資金繰りに力を入れよう。……さて、二階のテナントどうしようかな。ちょっと越水と安室さん交えて話し合っておこう。

 ……駅前だし、飲食関係が無難かなぁ。とはいってもそれやるとなると下笠姉妹の負担が間違いなく増えるけど……。

 帰りがけに公園のベンチに座って缶コーヒー飲んでたら、この間の女王様みたいな女子高生が隣に座って来た。……なんで?

 隣に座ったかと思ったらこっち見て鼻で笑って、そのまま無言。なんだったんだろう、あの空気。

 しばらくそのまま互いに無言で座ってたら、向こうが俺に手帳を渡してきた。白紙のページを開いて、貴方の連絡先を書きなさいと来たもんだ。良く分からないが、自分の名前と事務所の電話番号を書いたら、奪い取るように手帳を取り、「今度連絡するわ」と言って立ち去って行った。……新手の逆ナン?

 

 んで、夜からついさっきまで次郎吉さんに呼ばれて晩酌に付き合わされていた。

 なんでも、次郎吉さんに反抗的な連中の口を俺たちが黙らせているらしい。いつそんな事したっけと思ったら、地味に妨害を受けていたらしい。なにそれ、初めて聞いた。

 かなりヤバそうな妨害は次郎吉さんが止めてくれたらしいが、そうでないのはわざと見逃してたらしい。なんでやねん。で、見逃したのって何かと思えば、居もしないストーカーの調査を依頼して、わざと俺たちを失敗させて、相談役に対しての発言権をいくらか得ようとしたらしい。……暇な奴もいるもんだ。しかもその調査って安室さんが担当した奴じゃねーか……。確かにストーカーも存在せず、しかもその事を説明して納得してもらったって報告書にあったけど……明日一応安室さんに聞いておくか。

 なんにせよ、鈴木の関係者内ではそこそこ名が売れてきているらしい。

 相談役は教えてくれなかったが、予約待ちしてる仕事の中に残った嫌がらせが混じっているんだろうなぁ。

 ……今月、遅くても来月中にはもう一人くらい雇わないとまじで対応できなくなる。

 いや、スタートダッシュで金銭面の悩み少ないってのがこれ以上ない幸運ってのは分かっているけど……人手かぁ。

 

 

 

 

 

 

8月4日

 

 仕事の後始末、完了。月締め作業の確認も終わり。

 さぁ! 行くぞ四国に!

 明後日からだけどね。やべぇ、全然準備してねえ(汗)

 家の事はふなちに任せてるし、ついでに下笠さん達もあの家に泊まるようにお願いした。少し厚かましいお願いだとは思うが、女の子一人で家に放置というのも不安だったし、ついでにふなちは下笠姉妹とはプライベートでも交友があったので頼みこんできた。ふなちは基本的な家事スキルは高いけど、空いてる時間を全て趣味に費やしかねない所があるからな。

 それと、安室さんに例の調査の件を聞いたら、向こうの狙いは一目瞭然だったので、先手を打ったらしい。向こう側の不正の証拠を叩きつけた上で調査完了の書類にサインをしてもらったとのこと。その部分まで報告してほしかった(涙)

 まぁ、安室さんもこの事務所に割と洒落にならない悪意が叩きつけられているのを言いたくなかったんだろう。多分、向こうが何もできないという確信があったんだろうけど。

 まぁ、逆に言えば何かあっても安室さんなら対応できると分かったのは良かった。これからもかなり頼る事になるだろうから、改めてこれからもよろしくお願いします。

 ……うん、安室さんに頼ってる面が大きすぎる。早く人員追加しよう。

 

 面接をしてみて一人妙に気にかかった人がいる。フルではなく、時間をある程度自由に入れられるパートタイムでならという人員だが……なんでか雇う事になった。書いててちょっと分かんないけど、雇った方がいい気がして、とりあえず試用という形で雇ったんだ。やべぇ、理由聞かれたら答えられねェ。安室さんや越水に今問い詰められたら多分ぶっ殺される。

 明後日の仕事の時に、試しに皆と一緒に仕事をさせるつもりだ。四国の件が終わって帰ってきたら安室さんから評価を聞こう。

 

 

 

8月5日

 

 引き継ぎも兼ねて安室さんと飯食いに行った後、久しぶりに飲みに行った。そして安室さんにこの間次郎吉おじさんから聞いた話をかいつまんで話しておいた。これからいくつか妨害が入る可能性があると言う事と、下笠姉妹をウチにしばらく泊まってもらう事を話したら、そのうちあの姉妹も同居することになるんじゃないかとからかわれた。俺のうぬぼれじゃなければ、ここ最近はすっごい安室さんと仲良くなった気がする。最初の時みたいな演技っぽさが消えて、本当に所長として見てもらってる気がする。

 今日はコナンとの事を良く聞かれた。まぁ、そろそろ聞かれると思っていたよ。先月は俺と安室さん、そしてコナンの三人か、あるいはそのうちの二人で事件を解決する事が多かったからなー。コナンも安室さんの手腕を無茶苦茶褒めてたし、この間三人で飯食いに行ったらコナンも安室さんと話が合うみたいで、ずっと暗号の種類や解読法について色々と話していた――だけならよかったけど、気が付いたら女の事で二人からすっげーからかわれた。大人の安室さんはともかく小学生にからかわれる俺って……いや、高校生だけど……いや、やっぱ年下じゃん。

 

追伸:日記書き終って、明日の準備を終わらせようと思ったら青蘭さんからメールが来てた。明日から四国に行くというメールの返信で、『数日とはいえ、しばらくお会いできないというのは寂しいです。帰って来た時は、またお食事でもいかがですか?』というメール。……やばい、今すっごいテンション上がってる。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 長距離を運転するのは疲れるので、僕たちは新幹線で四国に行くことになった。まずは岡山まで行って、そこから乗り換える予定だ。

 

「…………ん…………ん~……」

 

 僕の隣では、浅見君が完全に熟睡している。早起きできる自信がなかったから徹夜してたって……本当にもう、子供みたいな事をして!

 まさか安室さんに駅まで連れてこられるなんて思ってなかった。今日は安室さん達、確か事務所の全員でやる大仕事があったはずなのに……。

 

――ずず……っ

 

「あ、ちょっと――!」

 

 少しずつ頭がずれて変な姿勢になっていたのには気が付いてたけど、思いっきりズレそうになる所をとっさに肩と二の腕で受け止める。――あ、やっぱりお酒臭い。

 まったく、お酒に強いのは知ってるけど、たまにやらかす無茶な飲みはどうにかならないかな。

 ここ最近は忙しかったのと、付き合いもあって飲酒量も増えてるし……。せめて休肝日を作るようにきつく言っておかないと……。

 

(まったく……何考えてるんだろう、僕……)

 

 僕は、彼女の事件――正確には、彼女の事件を調べた奴を見つけ出さなくてはいけない。なんとしても――なんとしても、だ。

 そうだ、本当ならば浅見君だけではなく、安室さん達も呼ぶべきなんだ。僕以上に優秀な安室さん、それに観察力と僕たちにはない視点を持つふなちさん、下笠さん達だって、事件に役立つ話をしてくれることが良くある。……それでも皆に話さなかったのは……多分、まだ心のどこかで燻っているんだろう、自分の中にあるこの――復讐心が……。

 

(そうだよ……。皆を呼ぶべきだなんて考えていたけど、本当は一人で行くべきだったんだ――いやそもそも)

 

 手掛かりは、彼女が『死ぬ』前に残したメッセージだけだ。今から四国に行くのは、新たな手掛かりを集めるため。――そうだ、だからこそ、もっと早く行かなければいけなかった。なのにそうしなかったのは、

 

(僕が、親友の彼女より……彼を優先してしまったからだ)

 

 浅見君もまた親友だ。初めて会ったのは大学に入ったばかりの時、下心が透けて見える学生たちの誘いを断り続けている時に、先輩にあたる女生徒――ふなちさんといきなり、漫才みたいな喧嘩をしている人がいた――これが浅見君だった。浅見君も下心がない訳ではない。自分がちょっと露出の多い服装をしたりすればちらっと視線を感じるし、美人の頼みにはほいほいついていっちゃう女好きだ。そこまで女好きなら、もうちょっと身だしなみに気をつければいいのに、いつも無難な服装とボサボサ頭のままで、ちょっと頼りなくて……でも、優しくて変な男の子。

 正直、ふなちさんもちょっと似てる。身だしなみには気をつけているけど、彼とは違う方向にエキセントリックで、変わった視点で物事を見て、ふとしたときに核心をつくあたりは本当にそっくりだ。

 ちょっと気になって、話しかけただけだった。本当にすれ違うのと変わらないくらいの、ちょっとした接触。それが気が付いたら、いつも傍にいた。いてくれた。浅見君と……ふなちさんが……。

 決して、彼女をおろそかにしたつもりなんてなかった。いつも電話で話して……連休の時はいつも顔を出していた。けど、すぐに調べなければいけない時に僕は動けなかった。動かなかった。

 

(浅見君が心配で、心配で……気が付いたらずっと付きっきりで……)

 

 考えがまとまらない。さっきからずっと頭の中で思考がぐるぐるとループしている。

 僕は、いつの間にか彼女を過去の存在にしていたんじゃないか? 結局の所はこれに尽きる。

 それともう一つ――

 

(……ねぇ、浅見君。なんで僕、君だけに付いてきてもらったんだろう?)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで浅見所長、越水副所長が共に不在なので、代理として数日はこの僕――安室透が仕切らせていただきます!」

 

 自分がそう言うと、中居さんや下笠さん達がパチパチパチっと拍手を送ってくれる。

 今の自分は演じた物だ。普段の自分が一人称で『僕』なんて使っている光景なんて考えただけで笑えてくる。

 ただ……『彼』と一緒に、一から作り上げたこの事務所で働いていくのも悪くはない。不思議……ではないのかもしれない、一から始めたここは、妙な懐かしさの様な物を感じる。

 もっとも、今は肝心の『彼』がいないが……。こうして探偵として働く『僕』も捨てたものじゃないと、そう考えている自分がいる。

 

(浅見君……あっちは大丈夫かな)

 

 自分にとっての宿敵に似ていると言われていた浅見透。実際に会ってみたら、まるで似ていない――様で、どこか似ている不思議な子だった。同時に、越水さんとふなちさんが彼のことを飼い犬の様だと話していたが、まさしくその通りだと思った。

 

(自分や周りに危険が迫れば、たちまち牙をむく狂犬に早変わりするけど……ね……)

 

「それで安室様、今日は下笠様も参加する大きな仕事と聞いておりますが?」

「えぇ……正直な話、今日の仕事は探偵の仕事とは言えないような気もするんですが……」

 

 そう切り出すと、下笠姉妹はそろって首をかしげる。

 

「要するに遺産……というか遺品整理なんです。ある資産家の当主が亡くなりまして、その屋敷に残された物の整理をするのですが……所々に仕掛けがあるらしくて……それで、調査に優れた探偵と共に調べたいということです」

「仕掛け……ですか?」

「えぇ、例えば開け方の分からない金庫や、隠し部屋などがあったようです」

「……なんだか、宝探しのようですわね」

「あはは――」

 

 実際、認識としては間違っていないだろう。見つけた物の保護、保存が主な仕事で、それでいて報酬はでかい。まぁ、実入りのいい仕事だ。浅見君もそう考えて、この仕事を彼がいない間に入れておいたのだろう。

 経験不足なのはもちろんだが、それでも彼には人を使う才能があるようだ。

 ぱっと見た様子ではその様には見えないのだが――せめてもうちょっと髪や服など身だしなみを整えれば、本当に有能な人間に見えると思うのだが……何度言っても中々髪を切りにいかない。短くして、ギリギリまで伸ばしてまた切るというのを繰り返しているらしい。

 

(まぁ、それでも人を集める才能があるのだから、彼はよく分からないんだけど――)

 

「……そういえば安室様。今日の仕事、また江戸川様がお手伝いに来られるそうですが?」

 

 ――そう、江戸川コナン君。あのずば抜けた切れ者に信頼される男というだけで、彼に対する興味はつきない。同時に、わずか7歳で自分と同じか、それ以上の才覚をみせる江戸川コナンという傑物も。

 

「えぇ、車を出して毛利探偵事務所に寄って、彼を拾ってから依頼主の家に行きます。あぁ、その前に――」

 

 

――ピンポーン!

 

 

 もう一人来るんです。と言おうとした時に、事務所のインターホンが鳴った。あぁ、そういえばそろそろ来る時間だったか。

 

 

「どうぞ、入ってください!」

 

 そう言うと、ドアを開けて一人の女の子が入ってきた。また女の子か。

 浅見君が妙に気にかかる子がいたと言っていたけど――彼、やっぱり女好きだよ。本人も特に否定してないけど……。彼が帰って来た時に、またコナン君と一緒に煽ってみよう。毛利探偵と一緒でも面白そうだ。

 

「は、はい――っと、うわわわわ!!!」

 

 中に入ってきた女の子は、事務所に入ってきた瞬間に何もない所で思いっきりずっこけた。

 ……おい、浅見君。本当に大丈夫なんだろうね?

 

「お怪我はございませんか?」

 

 すかさず下笠姉妹がそっと駆け寄り、手を貸すと彼女はよたよたと立ち上がり 

 

「す、すみません! あの、本日から試用ということで世話になる『瀬戸 瑞紀』です! 皆さん、よろしくお願いします!!」

 

 恐らく、浅見君から動きやすい格好でと言われていたのだろう。スカートではなくジーンズを履いたショートヘアの、ちょっとおっちょこちょいな女の子――瀬戸瑞紀さんは、なぜか敬礼をしながら元気に自己紹介をした。……ここは警察でも自衛隊でもないんだけど。

 

「では、瀬戸様ですわね! 今日からよろしくお願いいたします!」

 

 どうやらふなちさんとは波長が合うようだ。互いに手を取ってにこやかにあいさつをしている。可愛らしい女性二人がそうしている光景は確かに目の保養にはなるけど……浅見君。君、本当に――本当に顔だけで選んでないだろうね?

 

「ま、まぁ……詳しい自己紹介は依頼主の所に向かいながらする事にしましょう」

「……そういえば、依頼主をまだ聞いていないのですが」

 

 聞いていないのは当然だ。説明する暇がなかったのだから……。

 まいったな、どうにもペースを崩されている。

 

「すみません、そうでしたね。えー、依頼主は香坂夏美さんという、パリでパティシエールをしている女性です。年齢は27歳。そのお婆さまの邸宅が今日の仕事場で――」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 米花駅前の綺麗なビル。その三階の窓に大きく書かれてある『浅見探偵事務所』という七文字を、一人の女の子が見上げていた。セーラー服を着たその女の子は、後ろに執事を控えさせていることから、お嬢様であるのは間違いないだろう。

 

「よろしかったのですか、紅子様? あの浅見という男、少々危険な臭いがいたしますが……」

「『理』から外れた人間なんて、初めて見たのよ。それも死線がいくつもまとわりついていて……つい手を貸してあげたくなってしまったわ」

「は、はぁ……」

「まったく、ほんのちょっと会わないだけであんなに死線が激増してるなんて……本当に、どうして生きているのかしら、彼」

 

 紅子様と呼ばれた少女は、浅見探偵時事務所を眺めたままため息をつく。

 

「それにしても、まさかこんな形で『彼』にお願いごとをする事になるなんて思わなかったわ」

 

 もっとも、『彼』も利点を見いだしたから私の頼みを聞いてくれたのだろう。この浅見探偵事務所が鈴木財閥の息がかかっているのは公然の事実。さらに、その音頭を取っている相談役は道楽好きときた。今の会長夫人も含め、お宝を集めるのが大好きな一族の近くに潜り込めるのは、十分彼にとって利になるだろう。

 

「この小泉紅子が手を貸したのよ……簡単に死んだりしたら――」

 

 死んだらどうするのか。それを口にはせず、紅子はふふっと静かに笑うと、近くに止められていた車の後部座席に乗り込む。控えていた執事も、ドアを閉めて運転席に向かう実に忠実な執事っぷりを見せる。

 

 

 

――じゃあ、後は頼んだわよ。

 

 

 口には出さずそう願った紅子は、『出して』と告げて執事に車を発進させる。

 現代に生き残る最後の魔女は、自分にこんな気まぐれを起こさせた冴えない男の困り顔と、自分が頼みごとをした時の『彼』が目を白黒させた時の顔を思い出しながら、再び静かに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




紅子と『彼』のやり取りは次回ー


新キャラが出たのでいつも通りの解説です



○香坂夏美 27歳
世紀末の魔術師

もはや語る必要もないほど有名なキャラ。コナンの女性の人気キャラでは大体上位に入っている女性。いやまじで美人さん。世紀末の魔術師は二人の女性が出るけどどっちも好きですw


○瀬戸瑞紀 23歳
File537-538 怪盗キッドvs最強金庫
64巻file11 65巻file1-2

知らない人は感想欄を見る前にググってください。出来る事ならば更にその前にレンタルで該当する所を借りてほしいです。まじでこれしか言えねぇw


あ、そうだ。意外にこの作品を読んでふなちを知ったと言う方が多いので、改めてしっかりと紹介しておきます。さぁ、興味を持った人はDVDやブルーレイを買うんだ(ダイマ)

○中居芙奈子 22歳
file797 夢みる乙女の迷推理

最近のアニオリキャラでは恐らく一番インパクトがあるキャラじゃないでしょうか?
ぶっちゃけ、当作品のふなちはめちゃくちゃ大人しい方です。いざあのキャラを表現しようとするとめちゃくちゃ難しかった。

オタク。それも乙女ゲー特化のオタクです。引きずっているキャリーバックには好きな乙女ゲーのキャラ『蜃気楼の君』のステッカーを張りまくっているという筋金入り。
 ただし、コナンの手助けはありましたが、コナンが呟いた一言に対してほぼノータイムで正解に辿りついたり、走ってきたルートに何の店があったか即座に出てくる辺り、暴走癖こそあるものの割と優秀なオリキャラでした。

(σ・∀・)σ<おとぼけ~~~!



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017:四国にて浅見探偵事務所、出張営業中(なお、所長は放置中)

今回、越水さん及び香坂さんはちょっとお休み。次回で多分出せると思う。


今、何かタイプしようとした瞬間に忘れた件について。
思い出したら追記しておきます(汗)


「なーんで俺が探偵の手伝いしなきゃなんねーんだよ」

 

 放課後大事な話があるからと、取り巻き連中から殺気立った視線のシャワーを浴びながら呼び出された場所――音楽室に行ってみりゃ、相も変わらず偉そうな顔をしている紅子がピアノ前の椅子に座って、これまた偉そうに足を組んで待っていた。んで、いきなり何を言うかと思えば……

 

「もう一度言うわ、快斗君。最近ちやほやされてるあの浅見っていう探偵に協力……ううん、守ってやってほしいの」

「だーかーらー! なんで探偵の仕事を手伝わなきゃなんねーのかって聞いてんだよ、俺はどろ……マジシャンだぞ!?」

 

 思わず泥棒と言いかけたの必死に止めてマジシャンと言い直す。もっとも、コイツはどうやってかは知らないがとっくの昔に確信してる様子だけど……。

 

「えぇ、分かっているわ。ただ……あの浅見っていう男。一人でも多く味方がいないと死んじゃいそうなのよ……というか死ぬわ。絶対。確実に。間違いなく」

「どんだけ死ぬんだよソイツ!?」

「それくらい、よ」

 

 紅子はそう言って、足を組みかえながらため息を吐く。

 

「……お前がそんな顔するなんて初めて見たな。まじでどうしたんだ?」

 

 いつもなら高笑いしながら自分を良い様に振り回す女が、憂鬱そうな顔をしてため息をつく姿なんてそうそうない。少なくとも、興味は惹かれる。

 

「――とりあえず話してみろよ、紅子」

 

 しゃーねぇ。話だけでも聞いてみるか……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ここらへんを歩いた時の足音からして多分……」

 

 瀬戸さんがそう言いながら、使われていない暖炉の中でゴソゴソしていると思ったら、次の瞬間にはガコン!! という音と共に瀬戸さんの姿がいきなり消える。

 

「……地下室への入り口……ですか」

 

 

――安室さーん! こっちに扉がいくつか見えまーす!!

 

 

 瀬戸さんが消えた所に大きな穴が開いていて、近づいてみると階段があった。そして一番下には、無邪気な笑顔で手を振っている瀬戸さんの姿があった。

 

(疑ってごめん、浅見君。君の人を見る目はやっぱり凄かった)

 

 かなりおっちょこちょいに見えた瀬戸瑞紀さんだったが、その観察力は一級品だ。隠し金庫や隠しスイッチを容易くみつけ、その中に設置された防犯トラップも解除できる。……危険度の低い物に限ってたまに引っかかってしまう辺りがちょっと残念だが……。金庫や鍵開けのスキルは自分では足元にも及ばないだろう。まさしくプロ級――しかも頭に超一流がつくレベルだ。

 よくこれほどの人材を発掘したものだ、今現在はフリーターと言う事だが……。

 

(こっち側に勧誘できないものか……)

 

 いっその事、浅見探偵事務所の人員を丸ごとこちらに引き込めないかと、最近よく考えている。まだ浅見君は、その目的やバックボーンが不透明なため完全な信頼は出来ないが……。

 例の外国人達の事も調査を続けているがかなりガードが固く、アメリカから入国した事しか実質分かっていない。当然パスポートから色々わかった情報はあるが、おそらくほとんどがダミーだろう。

 彼の周りを調べているキールも、奴らの事はよく分かっていないそうだ。この間、浅見君の情報を問題ない所まで流した時に尋ねてみたが、分からないと首を横に振っていた。

 

「瑞紀おねーちゃん、こんなのよく見つけられたねー!」

「コナンくんも、さっき隠し金庫見つけたじゃない。えらいねー!」

「えっへへー」

 

 褒められて素直に嬉しかったのか、近寄って来たコナン君の頭を撫でている。

 瀬戸さんについて特に意外だったのは、コナン君と相性がよかった事だ。ふなちさんと組ませようかとも思ったが、車の中でコナン君の相手をしていた時……コナン君が自分や浅見君といる時のような話し方ではなく、全力で子供らしさを表現したような笑える――もとい、素晴らしい演技で瀬戸さんと話しているのを聞いて、試しに組ませてみようと思ったのだが――これが正解だった。

 子供相手にどう対応するかも見てみたかったし、コナン君の観察眼なら信頼できる。それに、子供相手に酷な事を言うようだが、彼なら仮に何かあっても大抵の事態は乗り越えられるだろう。

 さっきこっそり、新入りの様子を見てくれと頼んでおいたし、後でさらに詳しい話を聞くとしよう。ふなちさんはもちろん下笠さん達とも見た限りでは仲良くやれているみたいだし、フルで雇ったとしても人間関係は悪くはならないと思う。

 おっちょこちょいな所と、本人の都合で浅見君たち以上に働ける時間が少ないという欠点はあるが、それでもチャラ――いや、それどころがおつりがくる人材だ。

 

「いやぁ、お見事ですね瀬戸さん。先ほども、あの不可思議な金庫をたった5分で開けるなんて」

「えぇ、まぁ。一時期、鍵師の手ほどきを受けていたんです」

「貴女程の腕前を鍛え上げた先生ですか……是非お会いしたいものです。その方は今どちらへ?」

「……八年前に亡くなりまして……」

「それは……すみませんでした。しかし、大変有能な方だったんですね、貴女の先生は」

「はい、とってもすごい人でした! 私が世界で一番尊敬している人です!」

 

 もういないとなると、実質、彼女はその方の後継者の様なものだろう。

 いっそ今ここで彼女に頭を下げて、教えを請いたいものだ。いや、時間を見て教授をお願いしよう。ポケットマネーから授業料を払ってもいいと思うくらいだ。

 

「――って、うん? …………コナンくん、これ」

「え? …………これ、図面?」

「どうかしたかい、二人とも?」

 

 先ほど見つけた地下道は、どうやら特殊なワインセラーだったようだ。部屋ごとにワインの種類が分かれていた。今は三人で、一番奥の部屋――ワインセラーではなく、純粋な倉庫……しかも長い間使われていなかった部屋を調べている。残りの面子は、応接間を使って依頼人と話しながら、今まで発見した物の整理をしている。

 コナン君と瀬戸さんは、並んで古い紙を慎重に眺めている。どうやら一枚の紙が破れて二枚になっているようだ。

 

「……安室さん、確か浅見さんと一緒にロマノフ展にいたんだよね?」

「? あぁ、いたけど……それがどうかしたのかい、コナン君?」

「ちょっと、これを見てもらえませんか?」

 

 瀬戸さんが懐中電灯でその紙を照らしたまま、そっと数歩離れる。

 彼女と場所を入れ替わるようにして、その紙を覗き込むと……

 

「これは……あの時の?」

 

 そこに書かれていたのは世界でもっとも豪華な卵――インペリアル・イースター・エッグが描かれていた。……? でも、あの時見た物と違うような?

 紙全体を見回すと、文字で注釈のような物が書かれているようだが、そのほとんどがもう読めない状態だ。唯一読めるのは、小さい紙の左下の個所。そこにはアルファベットで『MEMORIES』と書かれている。

 

「……メモリーズ・エッグ」

 

 瀬戸さんが静かにそう呟いたのが、この地下室に響き渡る。妙に響き渡り、残響するその声が、どうにも不吉な予感をさせていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「開幕放置プレイってどーなのよ越水……」

 

 いざ、四国が愛媛――そして問題の屋敷に到着したのはいいんだけど……。

 俺たちの宿を取って、越水からようやく話を聞く事が出来た。どうも、ラベンダー畑の中にある屋敷で起こった殺人事件と、その後に起こった被疑者の自殺の再調査が目的らしい。

 越水は屋敷の関係者やそこから繋がる人達に話を聞いてくるといい、俺はいきなり別行動宣言をされて途方に暮れていた。

 

(いやー、それにしてもなーんか引っかかるんだけど……)

 

 なんだろう、越水らしくないというか……しっくりこないというか……。

 俺が頼まれたのは、別視点からの調査――調査? まぁ調査か。

 主にやっている事は、その殺人事件から半年後に現れ推理をした高校生探偵が誰かという調査だった。

 どうもその高校生探偵から、推理の経緯なんかを聞きたいみたいだけど……ふむ?

 

(そもそも、アイツにしちゃあ何から何まで不親切すぎるんだよ。あからさまに何か隠してるんで疑って下さいって言ってるようなもんだが――)

 

 さて、どうしたものか。今回ばかりは越水の真意が読み取れない。これが江戸川が関わってるような案件だったら違う視点から推理もできるんだけど……、さすがにこういう時、物語前提での展開予想は使えない。

 

「さて……どうしたものか」

 

 一応屋敷の関係者や、白鳥刑事経由でこちらの刑事に情報を流してもらったりしたけど、肝心のその男の事は教えてもらえなかった。本人のプライバシーのためと言っていたが、恐らくその男が目立たないように口止めをお願いしたのだろう。そして今、図書館で調べ物をし終えて、適当なファミレスで軽い食事を取っている所だ。――あとアルコール。……一杯、一杯だけだから。

 

(新聞や雑誌の情報だって、結局は高校生探偵としか書いていなかったし……)

 

 そういえば、なんでその情報だけが出てるんだろう? 名前を出さなかったのは……謙虚なのか、あるいはなんらかの形で名前を出したくなかったかの多分どちらかだろう。

 とはいえ、本当に謙虚だったらそもそも存在すら出さないだろう。俺で言えば、あの黒川邸の事件の時がそうだった。最初っから刑事にそう言っておけばキチンと黙ってくれる物だ。噂とかの口コミは止められないだろうが、新聞に『高校生探偵』という言葉が書かれることすらないはずだ。――となると……どういうことだ?

 

「あー、だめだ。よくわからねぇ」

 

 じんわりと汗で湿った髪を手櫛でおおざっぱにとかしながら、さっきコピーした新聞や雑誌をホッチキスで止めたものをもう一度パラパラっと読み直してみる。ちくしょう……どうしたものかな。

 

「こういうことを難しく考えるのって、そもそも本来の探偵の仕事じゃねーだろ……はぁ、殺人事件よりも、まだ身辺調査の方が気が楽だ……」

「せやせや! なんで一々殺人が起こったら首を突っ込まなアカンねん!」

「あれだろ、もう本能っていうか習性みたいなもんだろ。それがなきゃ生きていけないんだよ」

「そんなん、人の不幸でおまんま頂いてます~って言うてるようなもんやん!」

「だよなー。つっても、殺人起こった時なんて顔キラキラさせて首突っ込んじゃうからもうどうしようねぇ……」

「ホンマホンマ」

「まぁ、実際それで狡い事して逃げようとしてる奴引きずり出してるわけだから、必要っちゃ必要なんだけど」

「そやけど、物事には限度っちゅーもんがあると思わん!?」

「言いたい事は分かるけど……止められる? あのキラキラした悪戯小僧みたいな顔見てさ」

「……………」

「……………」

「……アカン、無理やわ」

「だろう?」

「「アッハッハッハッハッハ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「で、おたく誰?」」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 後ろに座っている見知らぬ客と偶然会話が成立するという奇跡を見せた後、その関西弁の女の子――遠山和葉ちゃんという高校生と相席することになった。ポニーテールいいなぁ。

 

「あぁ! 名前に聞き覚えがあるなぁ思うとったら……平次が最近話す工藤とかいう女の連れやん!」

 

 速報、俺の相棒がいつの間にか性転換した模様……じゃなくて。

 多分、俺の知る工藤の事だと思いつつ訂正を入れると、本気で工藤という人物を女だと思ってたらしく、真っ赤になって照れてしまっていた。

 しかし、工藤――コナンと話している人物か。

 

「それで、相棒さんがなんで愛媛に来とるん?」

「……連れの手伝いに来たつもりが振り回されてるっていったところかなぁ……」

「……苦労しとるん……やね?」

「分かってくれるか」

「いや、ちいとも分からへんけど……ごめん、嘘、ちょっとは分かる気がする」

 

 和葉ちゃんもまた、先ほどの俺と同じように「はぁ……」とため息をつく。あぁ、なんだろう事務所開いたばっかりの頃の俺ってこんな感じだったのかと思ってしまった。

 

「なに? 和葉ちゃん、彼氏さんが探偵なん?」

「な……っ! ちゃうちゃう、彼氏とちゃう!! ただの幼馴染や!」

「ほーーん?」

「な、なんやねん! その気色悪い反応は!」

 

 ……多分年の頃は高校生。幼馴染っていうなら相手も当然同じ年、誤差があったとしても前後1年くらい――やはり相手も高校生と見ていいだろう。工藤新一と同じ高校生の探偵で? 彼の事をよく話していて? かわいい幼馴染がいて、かつ関係がじれったい所から中々進みそうにない爆発しろ。……ストーリー関係者か。

 となると、やはりもうあの子で間違いないだろう。名前も一致するし。

 

「ひょっとして、君の幼馴染って服部平次君?」

「! やっぱり、平次の事知っとるん?」

「まぁね。直接会ったことはないけど……コナン君から服部君の話を聞いていたから」

「コナン君?」

「……あぁ、服部君は話してないのかな? 二つの事件で服部君が相手をしていた子供だよ。あの子とは仲よくてね」

 

 一回工藤に戻ったっていう時は知らんけど、コナンとの遭遇はまだなし。……服部平次の名前が出たならストーリー関係者は確定、ただ今回は本編前にフライングで会ったと見てよし。となると、やっぱり今この時は描かれてない、あるいは存在しない場面と見るが吉。うかつな展開予想は避けた方がいいだろう。こういう時にいつも頼りにしている越水は隠し事をしていて、全部俺には話してくれないだろうし。――よし。

 

「――そういや、服部君は今どこにいるの? 」

 

 ブレイン役の確保から始めよう。他力本願と笑わば笑え。保険は掛けられるんなら掛けておくに越したことはない。

 

「平次なら、今警察に行っとるわ。せっかく夏休みの旅行にきたのに事件起こって首突っ込んで――ホンマ腹立つわ、平次の奴」

 

 ごめんなさい、巻き込む気満々なんです。恨むんなら、俺に隠れてこそこそ何かしてる越水を恨んで――あ、止めとこ。後でボコられる。

 

「あはは。旅行は何日の予定なの?」

「ん? 愛媛には今日来たばっかなんよ。平次の夏の大会が終わった後に、ゆっくり四国回ろう言うてて……そうやね、あと四泊くらいで他にも色んな所を回ろうと思うとるんや」 

「へぇ、それじゃあ結構ゆっくりじゃないか。まだ彼氏君と過ごせる時間は十分にあるって」

 

 その時間、こっちにもらうけどな!

 

「だ、だから彼氏やないって!!」

 

 照れて必死に否定する和葉ちゃんを尻目に、越水には少し遅れるとメールを打っておいた。もう少し遅くなっても大丈夫だろう。怒られたら? 怒る元気があるなら安心出来るわ。

 向こうが隠れているように、俺も隠れてこそこそ動く事になるが……親友が『触ってほしいけど触ってほしくない』という何かがあるなら、近づける所まで近づくのが俺のスタンスだっていうのは向こうも知っているはずだ。

 

 

―― 一応、もう一個の保険もあるし……

 

 

 サマージャケットの胸ポケットに差している『サングラス』を無意識に手でいじりながら、俺は和葉ちゃんとの会話を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「あー、すまん和葉! えらい遅なってしもた!」

 

 いくらなんでも遅くなりすぎたと、服部平次は慌てて県警近くのファミレスに駆け込んで入った。

 

(むちゃくちゃ怒っとるやろうなぁ……。こらきっついで……)

 

 県警本部で事件の事を話すついでに色々な事を聞いていたら、気が付いた時には予想した時間を2時間も過ぎてしまっていた。

 席を見回すと、目当ての姿がそこにいた。予想通り一人で待っているが、

 

(あれ? 思うた程怒っておらんな……)

 

 不機嫌なのは間違いないが、正直店に入った瞬間に怒鳴りつけられる覚悟はしていた服部だったが、とうの和葉はむすーっとはしているが、激怒している様には見えなかった。

 

「か、和葉! 本っっっ当にすまんかった!」

 

 とはいえ、怒っていることには変わりなく、平謝りするしかない事を服部は分かっていた。席にはつかず、頭を下げていると、和葉は「はぁーーーーーっ」と深いため息をついて、

 

「わかっとるわかっとる、事件の話色々聞いとったら、気になる事がぎょーさん増えて色々話して、ほんで遅なったんやろ? まぁ、ちゃんと慌てて謝ったし? ええ、ええ、アタシも理解のある方やし、もう許したるわ」

「………………」

「……なんやのん? 人の顔じーっと見て」

「和葉、お前……なんや悪いもんでも食うたんか?」

 

 

――かっちぃぃぃぃ……ん

 

 

「こん……のぉ……。せっかく人が下手に出たっちゅーのに……」

 

(あ、しもたっ!)

 

 口にしたのが不味かったと服部が気が付いた時にはもう遅かった。

 和葉はプルプル震えながら『ゆらぁ……り』と立ち上がり、その拳を握りしめて―― 一歩ずつ、服部の方に足を進め、

 

「ちょ、ちょー待て和葉! おお、俺が悪かった! つ、つい口が滑ってやな――」

「口が、滑ったやとぉ…………っ」

「あ、ちょ……ちが―――」

 

 

 

 

 

「こんっの……あほんだらぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんでな、その浅見っちゅー人がずっと話を聞いてくれてなっ!」

「……そら、よかったのぅ……」

 

 赤く腫れた頬を押さえながら、目の前で料理を凄い勢いでパクつきながら話す和葉の姿を服部はジトっとした目で眺めている。非があるのは自分だと服部も理解はしているが……

 

「って、浅見? おい、和葉。その人ひょっとして浅見 透か?」

「あ、そやそや! 言うの忘れとった、その人、アンタが電話でこそこそ話しよる工藤君の相方やって!」

「こそこそて……なんや、棘があるのぅ」

 

 ぶーたれながらも服部は、以前友人の江戸川コナン――工藤新一が話していた助手について思い出していた。工藤曰く、自分の推理を、持ち前の身体能力、観察力、なにより事務所を設立してから広げている人脈を駆使して手助けしてくれる、優秀な助手。

 

(うらやましい話やのぅ……)

 

 高校生探偵である自分は、いざ事件に関わる時も信用が足りず、知り合いの刑事の協力を得ないと何もできない時がある。それに対して工藤は、名探偵の毛利小五郎について事件に関われる上に、いまや社会的地位がある男が様々な手法でバックアップしてくれる。

 

(ほんまに恵まれとるやないか、工藤。噂が本当なら鈴木財閥もバックについとるっちゅーし……)

 

 まぁ、強いて言うならホームズではなくワトソンの方が、世間では名探偵と称されているのが少々皮肉だが……。

 

「ほんで? その浅見っていう人、なんか用やったんか?」

「うん。でも、ウチやなくて平次にって話やったで?」

「? 俺に?」

「うん……なんでも、手伝ってほしい事件があるって……あ、そうや、これを平次に渡してくれって!」

 

 和葉が自分の鞄から取り出したのは、数枚のコピー用紙をホチキスで止めた物だった。言うまでもなく、浅見が図書館で作った簡単な書類である。

 裏には浅見透の名前と、携帯電話の番号、そしてメールアドレスが書かれている。

 服部は表情を引き締めて、その書類に目を通す。

 

 

「ふーん……なるほどなぁ。ラベンダー屋敷の密室殺人……っちゅーわけか」

 

 

 

 

 

 

 

 




越「で、なんで帰りが遅くなったの?」
浅「いえ、あの……ですね。たまたま共通の知り合いがいる子と会いまして」
越「…………年下の女の子?」
浅「なんでわかるんですか」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


関西弁は難しいので、自分で想像して違和感が出来るだけないように書いています。
もしよっぽど酷い物などがあったらコメかメッセージでお願いいたしますw

ようやく服部と、原作より早い和葉を出せて一安心です。
この話を終えたら、あとはキッド(ある意味出てるけど)を出してから日記編でスキップして14番目に入ろうと思っています。

それと、感想欄でも書いた事ですが、基本劇場版が順番にやるつもりではありますが、アニメ版は意図的に順序を変えたりすることがあります。ご了承ください。

え、そんなことしたら違和感が強い? サザエさん時空のせいだから仕方ない


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018:四国での騒動の一幕

「協力者?」

「そう、協力者」

 

 とりあえず越水に今日の行動を洗いざらい吐かされた。

 なんでも、ファミレスの席で後ろ向きに喋った時にか、髪の毛が一本付いていたらしい。髪型までずばり言い当てられて、「第一回浅見透の好みは年下か年上か討論会」が勃発した。しかも自分の意見を、討論会の最初に宣誓した通り正直に話したらドン引きされた。なんなんだよ、マジで。

 

 

……あれ? そういえばなんで年下って分かったんだろう?

 

 

 ……ともあれ、本題に移ろう。越水の方も、今日は特に進展はなかったらしい。

 だから俺も一緒に行くって言ってんだろうが。一応最低限の知識はコナンから叩きこまれてる。状況を保存したまま倒れた人の生死を確認する方法、遺体の死後硬直や死斑から判断する遺体の状況判断、爆弾解体の基礎知識、緊急時における蘇生法、基本的な暗号パターンに毒も含めた薬品の種類とその対処法などなど……。事務所を開いてからは、工藤新一の家から本を持ってきてくれたりして、阿笠博士の家で授業を受けている。

 はたから見るとシュールな光景だけど、実は結構楽しい時間だ。阿笠博士と協力しての様々な実験なんかやってくれたのは、昔の理科の実験を思い出して、中々楽しかった。

 ともあれ、そんなこともあって今なら結構役に立てると思うのだが……。

 

「ちなみに、その協力者って誰なの?」

「ん? ああ、工藤の知り合いだよ。西の高校生探偵の服部平次――」

 

 

 

――ガタンッ!

 

 

 

「あっちあっちあっちぃ!! おい、なんでいきなり湯呑み倒した! しかも狙ったように俺の方に!!」

 

 

 思いっきり手にかかった熱いお茶を振り払いながら、思わず立ち上がった。

 とりあえず冷やそうと、冷蔵庫に入れておいたコーラの缶を押しつけて冷やす。……あれ、静かだな?

 

「……お~い、越水? どうした~?」

 

 越水は黙ってずっと手元を見ている。おうこっち見ろやコルァ。

 

「…………ねぇ、浅見君。彼、どんな喋り方だった?」

「へ? いや、俺まだ直接会ってないんだけど……。てか、さっき説明しただろうが……お前、本当に大丈夫か?」

 

 おかしい。どうにも集中できてない。こんな越水久しぶりに見るな。それこそ、入学したての時みたいだ。そういや、あの時のコイツは上京したばっかだからか、えらいピリピリしてた……まぁ、コイツ顔はいいからナンパとかサークルの勧誘がしつこくてイライラしてたっていうのもあったんだろうけど……。

 

「浅見君、明日も別々に調査しよう。君の方には協力者がいるから大丈夫だよね?」

「おーい無視か。お茶ぶっかけたのはスルーか、おい……」

「僕は、もう一度心当たりを当たってみる。浅見君には、また今日と同じように独自に動いてほしいんだ。で、明日その調査を詳しく話して欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「――その高校生探偵が、どんな推理をするのか、ね」

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「瑞紀様、一息入れてお茶とお菓子はいかがですか?」

「わぁ! ありがとうございます!」

「いえ、瑞紀様は今日も大変な場所の調査をされると聞いておりますので……、あ、こちらにお弁当も用意しております。……ちゃんと、お魚は使っておりませんのでご安心を」

「本当にありがとうございます、美奈穂さん!」

 

 美人のメイドさんから弁当箱を受け取る。こちらの好みを把握していた上で、バランスも取れた美味い食事、必要な設備や装備は安室さん――本来は所長だが……――に申請すれば大体は揃えられるという優遇っぷり、ついでに調べ物が必要な時などかなり濃い資料が揃う。疲れた時は、何も言わなくてもすぐに美味しいお茶とお菓子が出てくる。

 

(悪くねぇなぁ! この環境!!)

 

 紅子の頼みで、瀬戸瑞紀という人間に成り済ましてこの『浅見探偵事務所』に入り込んでまだ二日だけだが、今の所仕事内容に不満はない――どころか気に入りかけている。

 昨日の香坂家の一件で鍵開けや仕掛け物に強いと判断されたのか、変わった鍵や仕掛け等が関係する場所の調査を優先させてもらえることになった。昼から行く場所もそうだが、今予定が入っている仕事はいわくつきの開かずの間や廃旅館の調査、幕末の天才絡繰師、三水吉右衛門が絡んだ絡繰屋敷の調査などなど……

 

(やっべぇ、ここの仕事、超楽しい……)

 

 てっきり、浮気やら素行調査やら他人のあらを探すような仕事ばっかりになると思っていたが、こういう仕事になるんなら全然OKだ。仕事も事務所に来た時に溜まっているものから自分で選んでいいってことだし、報告書を書くのは少し面倒くさいがそんなの全然気にならない内容だ。そして給料も悪くない。

 唯一気になるとしたら、紅子も気にしていた浅見という探偵。まだ自分も面接の時の一回しか会ったことがないが……。安室さんや中居さん――もとい、ふなちが『優秀な変人』という評価をする男。……部下にそう評価される上司ってどうなんだろうとも思うが……。

 

「でも、穂奈美さんも美奈穂さんもすっごい料理お上手ですよね! 昨日の夕飯とかすっごい美味しかったです!」

「ふふ。ありがとうございます、瀬戸様。でも、今度は私たちの魚料理、一品だけは食べてくださいね? 魚らしい生臭さや食感は工夫いたしますから」

「あ、あはは……。ぜ、善処しまーす」

 

 

――ピンポーン!

 

 

 あれ、お客さんか? 基本的にここに来る依頼は電話かFAX、メールが主って聞いていたけど。

 

「はい、少々お待ち下さい」

 

 すぐに穂奈美さんがトレイを片付けて、ドアの方に向かい扉を開け、応接スペースへと案内する。

 今日は安室さんもふなちも香坂家の方に呼ばれていて不在。今いるのは自分と下笠姉妹だけだ。と。なれば自分が話を聞くしかないんだろうなぁ……。

 

「どうぞ、お掛けになってください」

 

 中に入ってきたのは、――あー、話が本当ならばうちの所長は絶対に声かけるだろうなっていう美人だ。真っ直ぐ伸びた長い黒髪に整った顔……すっげー美人だなー。

 ソファに腰をかけた女の人は、まだ落ちつかない様子で窓やドアを気にしている。人目を避けてここまで来たのかな? なら電話をすりゃいいのに……いや、何かの理由で電話をかけることが出来なかった?

 

「すみません、浅見透さんは……」

 

「申し訳ございません、所長の浅見は今四国に出張しておりまして……」

「私が話を伺いますよ! 所長は明後日までは帰ってこないようですし」

 

 しゃーねぇ、一応俺が話を聞いておくか。緊急性があった場合――例えば身の危険を感じるとかそういった話の場合は、どうしても俺が動かなきゃならねーだろうし……

 

「とりあえず、お名前とご用件を伺ってもよろしいですか?」

「あ、はい。名探偵と名高い浅見さんにお願いがあって来たのですが――」

 

 

 

 

 

 

「私は、……広田……広田雅美という者です」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ほーん、なるほどなぁ。こら確かに、『ラベンダー屋敷』やな」

「ほんま、どっちのほう見てもラベンダーだらけや! 綺麗やなー」

 

 翌日、俺は平次君と和葉ちゃんの二人と合流してから、例のラベンダー屋敷に来ていた。

 さすがに越水の態度が引っかかって少し強めに問い質したが、結局友人からの依頼の一点張りで何も教えてくれず、朝には少し喧嘩してしまった。おぉ、もう……こうなると長引くんだよなぁ。ふなちがいてくれると楽なんだが……。

 

「平次くんも和葉ちゃんもごめんね。せっかくの旅行の間に巻き込んでしまって」

「かまへんて! せっかく良い人と友達になれたんやし、ここで力を貸さんとか関西人の名折れや! なぁ平次!」

「……いつから俺ら、関西の名を背負うたんや……」

「あ、あははは……」

 

 平次君、和葉ちゃん、本当にごめんなさい! 今度必ず良い感じのデートをセッティングしてあげるから今回だけはご協力お願いいたします。基本的に自分は無能なんです。

 

「とりあえず、現場に入ってみようか……」

 

 今、事件のあったラベンダー畑は人の手を離れ、無人となっている。買い手がまだつかないらしい。

 おかげでこうして俺たちが入れるんだが……。

 

「せやな。現場を見ぃひんことにはなーんも分からへんし、早速中に入ってみよか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、結論から言おう。ぶっちゃけ、ほぼ結論しかないんだが――むちゃくちゃ早くトリックはわかった。調べて2,3時間くらいで終わったんじゃなかろーか。

 窓枠全体が一度取り外されて、ボンドで仮止めされていた状態だったのだ。ようするに、鍵をかけたまま窓を、螺子を外して枠ごと外し、後からボンドで固定したのではないかという事だ。ご丁寧に窓を固定しているネジの先端を切り取ってからまた締めて、パッと見は細工をされていると分からない代物だった。

 証拠までしっかり残っており、近くに切り取られたネジ片が落ちていたのだ。

 とてつもなく単純なトリック……だからこそ、今俺と平次君は行き詰っていた。

 

「浅見さん、こんな簡単なトリックを初動捜査で警察の鑑識が見逃すやろか? どこぞの山奥とかやなくて、十分な用意をしてから来れる所やっちゅーのに」

「だよなぁ……。仮に最初の通りに自殺の線で見ていたっつっても、侵入できそうな窓は徹底的に調べるだろうし……」

 

 平次君がいてくれてよかった。俺一人だったら、おかしいとは思ってもこの『ミステリー世界』ならまかり通るんじゃないかと納得しかける所だった。

 

「でも、実際にこういう仕掛けがあるんやったら、やっぱりその自殺したっちゅうメイドさんが犯人やったんとちゃうん?」

「……いや、どうだろう。もう一個引っかかっているのがアレだ。自殺って決まってから半年も経ってから殺人ってなった点だ」

「せや、ネジの錆具合もちょっと事件から半年以上経ってるにしては、錆が新しすぎるわ。こらひょっとしたら……」

 

 昨日図書館で漁った資料のコピーを読み返す。今日は朝から何度も読み返している資料だ。いい加減に内容は全部頭に刻み込まれているが、それでも読み返している。

 

「今思えば変だな……県警の人も教えてくれたのは概要だけで、詳しい事は教えてくれなかった……」

「関係ない探偵やったからやないか? 向こうもそう簡単に、一探偵を信じるわけにはいかんやろ」

「でも、一応警視庁のキャリア組からの紹介で、かつ解決した事件なのに?」

「……そう言われてみればそうやな……」

 

 気になっているのは刑事の反応もそうだけど、なによりも『半年』という期間が気になっている。

 

「……平次君、ちょっと和葉ちゃんと一緒に動いてもらっていい?」

「ん? かまへんけど……あぁ」

 

 平次君も納得したように声を上げる。

 

「人手が必要っちゅーことは……聞きこみやな?」

「あぁ、ちょっと調べてほしい。……あの『半年』の間のことを、ね」

「おっしゃ、まかしとき! あんたも同じ聞きこみか?」

「あぁ、ただその前に――」

 

 俺はその間に携帯電話の電話帳を開いて、フォルダ区分の二つ目からまず誰から始めようかと選んでいる。どうにも、警察の動きに引っかかる所が多すぎる。平次君までおかしいと言っているなら、何か隠している事があると見て間違いないだろう。

 そうとなれば話は早い。こちらに後ろめたい事がないのならば、打てる手はいくらでもある。目には目を、歯には歯を、権力には――当然、権力を。

 

「使えるコネを有効に使わせてもらうけどね」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 ほとんど人が乗っていない電車の中、僕は一人で席に座っている。……いつもならいる二人が、どっちもいない。

 

(……まいったなぁ……)

 

 浅見君があれだけ僕に強く出たのなんて久しぶりだ。気が付いたら、言い合いになっていた。

 まぁ、彼と喧嘩をするなんて一年の時はよくあったことだけど……。

 今から行くのは、あの屋敷の近くの街だ。あの『高校生探偵』の情報を集めるには、やはりあの街に行くしかない。仮にも探偵だと言うのならば、きっとあの街である程度の聞きこみはしたハズだ。

 

――もし、それすらしていない様だったら……

 

 絶対に許してはおけない。許すわけにはいかない。

 人の人生に関わる事で、最善を尽くさない人間など許されていいはずがない。存在していいわけがない。

 現に、それであの子は追いつめられて、死んだ。――殺されたんだ。警察に、マスコミに、……どこかの探偵きどりの、取るに足らない奴に――!

 

 浅見君を昨日一人で動かしている間に、警察に当時の事を聞きに行ったがなしのつぶて。解決済みの一点張りで何も教えてもらえなかった。

 

(浅見君だったら、どうするかなぁ……)

 

 ほんの数カ月で、隣にいたはずの浅見君が随分と遠くに行ってしまった気がする。何かの謎に当たる度に、彼の観察力にはいつも驚かされている。推理の方も安室さんや江戸川君の影響か、徐々に鋭くなっていってる気がする。きっとそのうち、一人でもある程度の事件を解決できるくらいにはなるだろう。もっと時間をかければ、もっともっと……すごい探偵になれる。

 なにせ、あの性格だ。感情に呑みこまれるようなことがなければ、きっとたくさんの人の助けになれる。

 

(だからもう……僕は――)

 

 

 

――ブー、ブー、ブー

 

 

 

 ポケットに入れていた携帯が震える。そうだ、マナーモードにしてたのを忘れていた。

 席を立って、人がいない端っこの方に行って携帯を開く。

 表示された文字は……『浅見くん』

 

――ピッ……。

 

「も……もしもし?」

『……あー、越水? その……今、大丈夫か?』

 

 やっぱり、居心地が悪そう……って、そりゃそうか。喧嘩、しちゃったもんね。

 

「うん、大丈夫……なにか、分かったの?」

『あぁ、一応な……ラベンダー屋敷のトリックが分かった』

「……殺人事件の?」

『いや、その……盗難事件の方だけど……』

 

 え……盗難事件?

 

『平次君……例の関西の高校生探偵と聞きこみをして、辺りの情報を洗い直したんだ。事件が起こってからの半年前後を重点的に。そしたら、例の屋敷の仕掛けと同じような手口の空き巣が数件発生してる。追えたのは途中までだけど、多分かなりの常習犯だ』

「それ、本当!?」

『このタイミングで冗談言ってる場合かよ。今警察に問い合わせたんだけど、この空き巣の件を聞いたらなぜか門前払い喰らった。例のラベンダー屋敷の事件に関しても同様だ』

「……っ! じゃあ、警察も……っ」

 

 やっぱり、警察も薄々感づいて――! おかしいと思ったんだ! 被疑者である彼女が死んだ後の裏取り捜査が、やけに早く終わっていたのが!!

 

『…………。今、小田切警視長と次郎吉さんに頼んで愛媛県警に圧力を掛けている。ある程度の確証が取れたら、水無さんの知り合いのフリーのライターやカメラマンも動いてくれるハズだ』

「浅見君!」

 

 そこまでの人を動かしてくれたのか。次郎吉さんはともかく、小田切警視長なんて、例の連続爆弾事件の説明で一度会っただけの人だ。……多分、毛利さんか目暮警部……知り合いの警察関係者全員に頭を下げてどうにかチャンスを作り――やってくれたんだ。

 

『……片が付いたら、全部話してもらうからな』

 

 最後に浅見君はそう言うと、一方的に切ってしまった。

 ……とっさにお礼の言葉が出なかった自分が嫌で……でも、やっぱり嬉しい。

 

「ごめんね……『透君』。……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「よし、準備完了。行こうか」

「……俺、こんな怖い探偵事務所、初めて見たわ」

 

 平次君が引きつった笑顔でこっちを見ている。はて、そこまで酷い事してるかな? 今の所、警察の偉い方にとある県警の風紀に妙な所があると教えて、ついでにフリーライターの方達に県警にカマかけるようにお願いしただけである。別に潰そうとかしているわけではないからセーフ!

 

「まぁ、実際は内部調査の人が行くだろうって話だったけどね。いやー、小田切さん堅物だったわ」

「……その堅物の警視長相手にやり合うアンタも相当なもんやと思うけど……」

 

 平次君がなにかボヤいているが、気にしたら負けだ。とりあえずこれでどういう形にせよ警察は動くだろう。さて、マスコミの方も次郎吉さん経由で財閥の圧力掛かってるだろうし、今から行きゃあ面白い話が聞けるだろう。

 

「さぁ行こうか、西の高校生探偵。こっからが一番難しいと思うよ?」

「ま、の。でもやる気は湧いてきたで……。裏付けもようせんまま、下手な推理で人ひとり死なせたドアホウがどこのどいつか知らんままやと、俺の気も収まらんしの……ただ、どうする気や?」

 

 そこなんだよなー。と、口には出さずにボヤく。一番悪いのは誰かとなれば間違いなく警察とマスコミだ。だからこそ、それ相応の責任を取ってもらうために色々手を回しているが……その口出しした高校生探偵ってのは、言っちゃあなんだが、ある意味で責任はない。

 

(恨みは相当深い……と、思う)

 

 さっき電話をした時、警察の方の話になったらアイツは警察『も』と言っていた。多分――

 

「その越水っちゅー姉ちゃんも、多分警察やマスコミが必死に隠しとることがあるのに気がついとるんやろ?」

「……みたい、だね」

「……なぁ、ひょっとしてその姉ちゃん。そのどこぞのアホウを――」

 

 それ以上言わせないように、人差し指を一本立てて、平次君の前に突き出す。

 いや、多分それで合ってると思うんだけど……。越水も少しは思いとどまってくれたんじゃないかと思う。

 責任が重い所をこれから徹底的に引っ張り出すんだ。少なくとも、亡くなったメイドさん――越水とどういう関係だったかは分からないが……多分、友人だろう――の名誉は回復するだろう。越水が実際に見つけ出してどうするかは分からないが、仲間として当然力になるし、もし一線を越えようとしたのならば、身体を張って止めるのも仲間の役目だろう。

 

「ま、それよりもまずは一番大事な所から押さえよう。例の、清掃業者を装って侵入していた奴の足取りを追う」

「任せとき。こうなったら最後まで付き合うで」

「……和葉ちゃん。今度、東京に来たら最高の旅行をプレゼントするから――」

「ええってええって、大事な人の一大事やったんやろ? ウチも最後まで付き合うで」

「……ありがとう」

 

 さぁ、最後の締めだ。張り切っていこう!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

8月12日

 

 色々あったが、無事に四国から帰って来た。事件についてはメモで残しているので、その後どうなったかを書いておこう。

 あの後、全ての元凶とも言える連続窃盗犯、槌尾広生を追う事になった。足取りを追っていくうちにちょうど現行犯で発見。やっと追いつめたと思ったら、清掃業者の物に偽装したワゴンで逃走しやがった。とっさに和葉ちゃんとバトンタッチして平次君のバイクで追跡、野郎の車が速度を上げて逃げきろうとしたのだが、逃げ込んだ先の県警が上手い事非常線を張っていてくれて無事に捕まえる事が出来た。

 越水の方は、あの屋敷の使用人だった甲谷廉三という人物を追いつめていた。どうやら、この人は最初の娘さんが自殺だと知っていたらしく、娘さんが自殺した事を彼女の汚名だと考え、黙っていたらしい。

 今日、越水から聞いた話だが、最初は彼も槌尾も殺そうと思っていたらしい。

 その後の調査で、越水は例の高校生探偵が誰かもわかったらしいが、本人いわく、もういいとの事。

 

「今どこにいるか分からないクソヤローより、いつ何をやらかすか分からない目の前の大馬鹿の世話で手いっぱい!」

 

 だ、そうだ。大馬鹿で悪かったな。ちくしょう……平次君が、あのワゴン止めるために俺が飛び移ろうとしたのバラしちゃったから……。もうね、むちゃくちゃ怒られた。おかげで只今絶賛禁酒中。お酒~、お酒~。

 

 今向こう側は大騒ぎになっている。どこの馬の骨とも知らない高校生の言葉を真に受けて騒いだマスコミと、それに加えて無実の人間を死に追いやるほど厳しい尋問をした警察――というか向こうの県警は激しいバッシングを受けている。

 一部の雑誌では、問題の高校生探偵はコイツだと、顔写真に目線をいれて『T・J』氏と載せたらしいが……まぁ、正直興味なし。ん? なんかフリーライターに追われているらしい? さ~て、なんのことやら。

 そのついでに、事実の解明に動いたのは俺たちだという記事もあったが、怜奈さんがツテを使って抑えてくれた。また今度奢らせていただきます。

 マスコミはともかく、警察の方は相当風通しがよくなったらしい。安室さんが知り合いから教えてもらったらしく、これからは少しはまともになるだろうという話だ。……そういえばどっから聞いたんだろう? ここ最近機嫌がいつもよりちょっといいし。

 

 ついでに瑞紀ちゃんも良く働いてくれてる。来月からは少し減るそうだが、思ったよりも来てくれそうだ。

 そういや、その瑞紀ちゃんから明日改めて話があるって事だけどなんなんだろう?

 

 

 

 

 




最初の予定では、浅見が四国で服部と槌尾を追いかけ、北海道に時津を殺しに行った越水はコナンと安室が止めに行くという予定でしたが、モチベや無駄にシリアスが長くなりそうだったので大幅カット!
次回はシェリーの伏線を引きながらいくつか主要ストーリーを消化しつつ14番目に備えていきますw


また忘れてた。登場した新キャラ紹介

○小田切敏郎 56歳

警視庁刑事部部長
瞳の中の暗殺者(初出)

多分、劇場版限定キャラ……だったはず(汗)
真実を明らかにするのは警察の仕事だという信念を持ちながら、コナンの能力に一目置いているおじ様。居合のシーンはすごい印象的でした。
実はその後の劇場版でもチラホラ出ているお方。自分は名前が思い出せなかった時は
いつも『記者会見の刑事さん』と言っていましたw
容疑者の一人だったために、左利きという役に立つのか立たないのか良く分からない設定がある方ですw




甲子園編の人は……超簡潔でいいかな?w
○槌尾広生

時津もそうだけど、こいつさえいなければ全部丸く収まったんじゃないかと思った。
けちなコソ泥。以上。




○甲谷廉三
ラベンダー屋敷の使用人。

お嬢様の自殺を恥と考えて黙っていたら、メイドが疑われる。

捜査が進めば疑いが晴れるだろうと放置

え、自殺? うっそでー! ……マジ?


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019:グラサン、散髪、行方不明者の三本立て

サングラス=かっこいい
グラサン=マダオ

サブタイ書いてたらなんかこんなイメージが浮かんできた


「さてと、それで浅見君。これは何かな?」

「その……発信器、です。はい……」

 

 ちくしょう、回収するの忘れてた。

 越水の様子がおかしいから、阿笠さんに作ってもらった発信器をあいつの鞄に仕掛けていたのだ。念のために。帰りの電車でこっそり回収するつもりが、平次君と色々話している内に完全に存在を忘れていた……今の今まで。

 事務所に行こうとしたら越水に呼びとめられて、今越水は椅子に腰かけて足を組んだ上で俺を見下ろしている。

 

 そして――俺はその目の前で正座させられている。もちろん床に。

 おい、足組み変えるな、下着が見えるぞ。

 

「で? なんで女の子の鞄に発信器なんて仕掛けたの?」

「いや、その、これは手違いでして――」

「……で?」

「えーと、発信器を仕掛けたつもりはなくて、俺本当はサプライズのプレゼントを――」

「……で?」

「……じゃなくて! なーんとそれは発信器に見せかけた驚きのびっくり変形――」

「吐け」

「はい」

 

 やだ越水さん超怖い。今までに見たことないくらいの満面の笑顔が逆に怖い。

 

「その、越水――さん、の様子がおかしく感じまして、はい。それで……」

「それで?」

「……」

「……」

「……あーっと! 瑞紀ちゃんから大事な報告があるんだった。ちょっと急いで事務所に行ってき――」

「おすわり」

「……わん」

 

 言わなきゃだめですかそうですか。

 

「し、心配しまして……」

「…………」

「…………」

「そっか……ボクが心配だったんだ」

「あの……。恐れ多くも……はい」

「…………ふーん」

「………………」

「……そっか。そっかそっか」

「……あの、もし?」

「そっかー、心配させちゃったって、そりゃ当然だよね。それじゃあ、ちょっとやりすぎても仕方ないか」

「あの……越水さん?」

 

 なんかすっごい笑顔だ。え、なに、どしたの?

 怒ってるの? そうじゃないの? どっち?

 

「それで、この発信器ってどうなってるの?」

「あぁ……、このサングラスが受信機っつかディスプレイになっていて、他にもいくつか機能が付いてるんだけど……」

「へぇ、ま、詳しい事は今度聞くよ。今日は瑞紀ちゃんから何か話があるんでしょ? ボクもふなちさんと行く所があるからさ」

 

 えぇ、まぁ機嫌がいいみたいで何よりなんですが……俺、いつまで正座してればいいんすかね。もう足が痺れ切ってて――おいこら、頭撫でるな。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「浅見君が本気を出すとこうなるわけね。……本当に恐ろしいわ」

 

 事の全てがまとめられた資料を読み直して、改めてそう思う。

 マスコミの方は私が少し手を貸したが、あの短時間で警察関係者――それもかなり上の方を一気に動かし、県警という一つの大きな組織を相手に見事やり合うあの手腕。フリーの報道マンを動かすタイミング、逃げ道のつぶし方。理想的な詰将棋と言えばいいだろうか? 確信した。あの男と敵対することは、全力で避けるべきだ。

 本来ならばマスコミも警察も自分達の不始末である。それを公開させるというのは非常に難しいハズだが、浅見君はその全ての関係者を説得……いや、利を示す事で物の見事に操った。

 今現在、県警はともかく警察は、自ら動いた形を見せたおかげで自浄作用が機能しているという形を見せた。マスコミも、不審な所があった地方局に対して調査を入れて、情報を扱う者としての筋を通したと。

 ただの大学生なら誰も耳を貸さないが、彼はただの大学生などではない。一探偵事務所の所長にして、鈴木財閥相談役と深いつながりを見せる男だ。そういう意味でも、最初に鈴木相談役を動かしたのは大きい。力にも流れがある。それを上手く使うあたり、浅見透は非凡という言葉が似合う男だ。

 

 こうしてみると、最初から懐に入り込んで絶対の信頼を得たバーボンは最適な行動を選んでいた。

 ただ、気になるのは……浅見君の信頼を買うのは別にいい。だが、同時にバーボンも、安室透として浅見君を信頼しているような節が見える。バーボン……一体何を考えているのか……。

 

(相も変わらず彼の背後関係は見えないし……)

 

 バーボンは、彼の周りを固めている人間――CIAの仲間に目をつけ始めているようだ。

 私も、両方の組織から彼とのつながりを強くしろと言われているし……。多分、彼からそう悪くは思われていないと思うが、彼は本当によくわからない。例のスコーピオン――国際手配されているような凶悪犯と真正面から渡り合い、今では謎のバックボーンの存在など関係なく、各勢力にとって無視できない勢力へと変わろうとしている。

 

(バーボンは、女性に弱いとか言ってたけど……)

 

 言われてみれば、彼は女性との繋がりが多い。最近では浦思青蘭という学者とよくデートをしているようだし、そういえば越水さんやふなちさん、事務所に所属している双子のメイドに、報告にあった瀬戸瑞紀。……言われて見れば綺麗な人達を侍らせているわね。……私も警戒した方がいいのかしら? あの年頃には珍しい落ちつきを持っている子だと思っていたが。

 

(なんにせよ、彼にはもっと注意を払わなければならないわ)

 

 今では越水さんや中居さんにも例の公安らしき人間が付いている。彼女達の安全はほぼ確実だろう。

 彼らにちょっかいを掛けようとしていた反社会勢力はこちらから手を廻して潰したし、公安も似たような動きをした痕跡がある。今あの事務所は日本でも有数の安全地帯かもしれない。

 

 CIAの人員は、別の件があってこちらから減らさなければならない。公安に目をつけられている気配があるというのもあって、動きづらくなってきたのだ。

 

 ここからが勝負だ。人数こそ少なくなったとはいえ、彼も――浅見透も表舞台に上がりつつある。表舞台に上がったとなれば、彼にもまた動きに制限がかかってくる。組織からの命に応えながらも、彼の正体を明らかにする。それが――

 

(それが私の――任務なのだから)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

8月14日

 

 さて、またもや奇妙な話になってきた。瑞紀ちゃんが対応したお客さん。広田さんの行方が掴めなくなった。

 そもそも依頼からして奇妙な物で、『もしこの事務所にこの娘が来たら、保護をお願いします』というすっごいふわふわした感じの依頼だった。で、押しつけるように渡された依頼料100万円と写真を押しつけられたらしい。どういうこっちゃ。

 

 しかも一緒に受け取った写真を見せてもらったら、すっげー見覚えのある子だった。あの時、工藤の家の前でうろうろしていた可愛い子じゃん。え、ひょっとしてあの子重要人物だった? やっべぇ、しくった。

 

 瑞紀ちゃんも、依頼主さんが『可能な限り内密に』とすごく念を押していたのが気になって、一応彼女の事は居合わせたメイド姉妹と瑞紀ちゃんだけの秘密となっている。ナイスだ瑞紀ちゃん。うかつに広めていいものじゃないっぽい。

 安室さん達には悪いが、当面の間この件は俺と瑞紀ちゃんで対処する。とりあえず、広田さんを探す所から始めよう。

 

 

 

 

 

8月21日

 

 1週間たっても全然みつからねぇ、どうなってんだ一体。瑞紀ちゃんは、あの広田雅美という名前が偽名だったと見ている。俺も同感です。しかし、名前を隠されるとなると……。一応コナンにも、例の写真を見せて事情は説明しておいた。コナンもその顔に見覚えはないらしいが、個人的に探してみると言っていた。

 明日は瑞紀ちゃんに、コナンが協力してくれる事を伝えておこう。瑞紀ちゃんとコナンのコンビもヤバいからなー。この間の殺人事件の時も瑞紀ちゃんが趣味の手品からトリックを見抜き、コナンが証拠を抑えて安室さんが犯人ぶん殴って無事解決……文章にするともう意味わかんねぇなこれ。

 

 そうそう、最近では安室さん、瑞紀ちゃんの時間が空いてる時に、事務所でピッキングや金庫破りの手ほどきを受けている。うん、これも書いてみるとおかしいよね。うち、探偵事務所だったハズなんだけど……。あれ、探偵ってあらゆる方向のエキスパートじゃないとやってけないの?

 今日も、鈴木相談役から受けた……受けた? 受けさせられた依頼は調査とかじゃなくてとある企業間の交渉事だったし……。俺はいつからネゴシエイターになったんだろうか。探偵だって――やっべ、素で間違えた。助手だって言ってんじゃん。

 

 というか、この1週間は財閥のお偉いさんと会う機会が異様に多かった。どいつもこいつも娘さんを紹介してきやがって眼福でしたありがとうございます。ただ、見る分にはよくても好みじゃないけどな。まだ園子ちゃんの方がいいわ。あの子は基本的に裏表がなくて付き合いやすい。

 

 それこそ今日園子ちゃんに会ったんだが「偉くなったんだからちょっとは身だしなみをどうにかしなさい!」って怒られて、知り合いという美容院にぶち込まれ、その後は服をいくつか見繕ってもらった。

 なんだろう、蘭ちゃんとは違う方面で妹みたいな子だ。今度蘭ちゃんとコナンも誘ってケーキバイキングでも奢ってあげよう。

 

 

 

8月22日

 

 阿笠博士に頼んだ、コナンの眼鏡と一部機能をリンクさせたサングラスが完全に完成した。四国の時までは少し重かったからかけていなかったが、軽量化と機能性がようやく安定したので事務所にかけていったら、安室さんに「そんな馬鹿な」って言われた。どういうことやねん。俺がお洒落をしたのがそんなに意外だったのか。泣くぞこら。

 

 で、警察の方に用事があったから警視庁の方に行ったら、今度は捜査1課の皆さまや由美さんに茫然とされた。なんでや。てゆーか由美さん、『松田君』って誰やねん?

 高木さんも疑問だったらしく、周りの反応を不思議そうにキョロキョロしてた。

 

 で、そのまま歩いてたら今度は佐藤さんに遭遇。さっきまでの例から身構えていたら、中身が入った紙コップを落として茫然としていた。あ、また勘違いされてるなと思って俺が「あの、浅見ですけど」って言った瞬間なぜか全力の平手打ちをくらった。泣いたぞこら。

 

 もうすっげーテンション下がりながら事務所に帰ってたら、たまたますれ違った蘭ちゃんが、「すっごいカッコよくなりましたね!」って言ってくれた。ありがとうございます。

 次に向こうの事務所に行く時は有名店のケーキを買ってきてあげよう。

 

 

 

8月25日

 

 佐藤刑事が事務所までわざわざ謝りに来た。なんでも、知り合いに似ていると思ったら、色々感極まって思わず手が出てしまったらしい。どういう人なん? その説明だと疑問しか残らない人なんだけど。

 安室さんも知ってる人だったらしく、その事で安室さんと佐藤さんはどうやら気があったらしい。

 

 最近刑事さんと仲良くなってる面子が多いな、うちの事務所……。ふなちもよく千葉刑事とフィギュアショップを冷やかしに行くらしいし……。

 俺? 仲良いのは……由美さんと高木さん、佐藤さん、あとは白鳥さんかな? 非番が重なった日には、たまに5人でカラオケに行ったり呑みに行ったりするし……。そういや最近はトオル・ブラザーズっつって安室さんも一緒になる時があるな。妙に警察関係の皆さんが生温かい目で見るし、安室さんも似たような目をする時があるけど、あれなんなんだろう? 高木さんもその時は様子変だったし。

 

 あぁ、そうだ。今日も俺、コナン、瑞紀ちゃんの3人プラス源之助の一匹で例の広田さんの情報を探しまわっていた。が、相変わらず情報なし! 顔を書くのが上手いふなちに、詳しい情報は伏せて瑞紀ちゃんの説明を元に書いてもらった似顔絵を元に探しているが、相も変わらず引っかからない。

 いくらなんでも上手く隠れすぎだ。これそうとう厄介な物が動いているんじゃないか? それこそ、例の組織の可能性も含めて考えた方がよさそうだ。やっぱり、最低限の人員で極秘裏に動くのが吉だろう。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(はて、この女性を探しているのでしょうか……)

 

 浅見透が、仕事の関係で描かせた似顔絵。念のために、もう一度その似顔絵を描いて手元に置いていた。

 

(普段ならば安室様や越水様にすぐに相談される浅見様が、これだけ慎重に動くとなると……)

 

 浅見透とは、そこそこ長い付き合いだ。その性格のせいか、友人と呼べる人間がいなかった中居にとって浅見と越水は大学生活で初めての友人だった。特に、浅見透。サークルの勧誘活動の際に、思い切って自分の趣味のサークルを開こうと色々暴走してた時に、自分と関わってくれた男の子。

 自分にとって一番の趣味が違うのにも関わらず、これだけ腹を割って話せる人がいるとは思わなかった。

 だからこそ、一番の友人。浅見透も越水七槻も、中居芙奈子にとってはかけがえのない友人だ。だからこそ、一緒に住む事もできる。

 

(……ひょっとして、越水様に報告した方がいいのでしょうか)

 

 越水から、もし浅見が無茶をやるような素振りを見せたらすぐに教えてほしいと言われているが……判断が難しい。

 確かに浅見は凄まじい勢いで危険地帯に猛ダッシュしていく男だ。だけど、基本的に無意味にそんな事をする人間ではないし、周りに気を配ることもできる人間だ。……女が関わらない限りは。

 

(……浅見様も殿方ですから……可愛い方や綺麗な方に何か言われるとほいほい言う事を聞いてしまいますし……)

 

 で、良い様に利用されて捨てられて泣いて越水七槻が慰める、というのが1年の時に何度も見た流れだ。今ではそれに飲み潰れるまでがセットなのがまた性質が悪い。

 

「はぁ……。仕事を受けたのが瑞紀様とはいえ……不安ですわ」

 

 似顔絵をもう一度眺める。おそらく美人だろう。瀬戸もそっくりだと言っていたし。

 二年生になってからは妙に大人びてきたし、例の爆弾事件を乗り越えてからは――正直、少し格好良くなった気もするし、先日髪をいつもの理髪店ではなく美容院で切ってもらってからはかなり印象が変わったと思う。

 

「あぁ、でもでも最近は浅見様も蜃気楼の君様のライバルキャラ、染井吉野に似た渋みが出てきてお傍には石蕗の方にそっくりな安室様まで! ここしばらくは忙しくてしっかり堪能できてませんが、実は私、今天国にいるのでは――わぷっ」

 

 色々想像を膨らませて楽しんでいると、どうやら目の前が見えていなかったらしく誰かに思いっきりぶつかってしまった。

 キャリーケースは問題ないが、手に持っていた似顔絵がひらひらっと宙を舞い、そして地面に……落ちる前に、ぶつかった相手――背の高い男が素早くそれを拾ってくれた。……と思ったら、拾ったその絵をじっと見つめている。

 

「あ、あのー?」

「――あぁ、すまない。この絵が、少し知り合いと似ていた気がしたので、つい」

「! その方をご存じなのですか!?」

 

 手掛かりが見つかった!

 そう思って思わず詰め寄るが、男は表情を崩さず――いや、まったく変えずに、

 

「いや、勘違いだったようだ。すまない……」

「い、いえ……こちらこそ、ぶつかってしまって申し訳ございませんでした」

「気にする事はない。俺も少し考え込んでいた……過失の割合は50:50と言ったところだ」

 

 その男はわずかにずれたニット帽を直すと、もう一度謝罪の言葉を口にして立ち去って行った。

 その去っていく背中をぼけーっと見ている。僅かにこちらをうかがったような素振りが見えたからだ。

 

(あれ、さっき少しだけ……笑った?)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「――彼女が日本に来ているのは間違いないようです」

『ふむ、情報は正しかったようだな』

 

 彼女が行方をくらませたと聞き、保護のためにあちこち情報を聞きまわっていた。どうにか日本に来ている可能性があるという情報を頼りに日本に訪れてみたが……こうも早く手掛かりが見つかるとは。

 先ほどぶつかった少女の後を尾行しながら、電話で現状を報告する。

 

「しかし、幸運の女神はこちらに微笑んでくれたようです」

『末端とはいえ、組織にとっての重要人物と思われる人物の姉だ。出来る事ならばこちらで確保したい』

「えぇ、決して逃しはしません」

 

 そう、逃すわけにはいかない。彼女とは――約束がある。

 

 少女が、自宅と思わしき民家にたどり着いた。……どういうわけか、監視の目があるようだ。それも、複数。余り近づかないようにしながら、小型の単眼鏡で表札を覗き見る――『浅見』、か。

 

 

 

――越水様、ただいま戻りましたー!

 

 

――おかえりー。浅見君は江戸川君たちとご飯を食べてくるから遅くなるよー。

 

 

 少なくとも、違う名字――つまりは血縁関係のない3人の人間がこの一軒家に住んでいるようだ。

 会話の内容も普通の家族――いや、友人のようだが……なぜ、こんな監視が?

 ……『彼女』の似顔絵を持っていた事もある。面白い、実に興味深い家だ。

 

『我々はまだそちらには行けない。頼んだよ――赤井君』

 

 電話の相手の言葉に、返す言葉は一つだけ。この状況では、他の言葉など必要ない。

 

 

 

 

 

 

「――了解」

 

 

 

 

 

 

 




今回はモブの新キャラは出ていない……よね?(汗)

久々にコナンのfile600くらいを見直してたら、出したいモブが多すぎて困る。
500位からモブでも相当可愛い子が増えたイメージあるなぁ。

次回では、9月から、進めることができれば1月くらいまでのテナント回を含んだスキップ日記をやって……そっから14番目ですなw


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020:すきっぷ!(飛ばしてるんだからフラグが立つはずがない)

9月4日

 

 とりあえず、広田さん(仮名)の捜索は一旦打ちきることにした。手掛かりがまったく見当たらねぇ。

 コナンは、家の前にいたという女の子が気になっているらしく、そっち方面から当たってみるらしい。

 月末処理も確認まで終わって、ちょっとお休みモード。

 今日は俺とふなちでストーカー被害の女の子の警護……というか、付きまとわれているという証拠を掴むために見つからないように張り付いていた。それらしい奴を発見した時に、ちょうどいいタイミングで佐藤刑事も来てくれた。いやマジでいいタイミングだったわ。

 

 で、電車に乗って杯戸町に着いた時に、依頼者を階段から突き落とそうとした瞬間を取り押さえた。その場で殺人未遂の現行犯で御用。依頼者も、ようやく安心できたのかへたり込んでいた。無事に解決出来てよかったが、あの様子だと相当追いつめられていたようだ。下手したら自殺か……むしろどうにかして相手を殺していたような気がする。警察での調書取りの後、一度部屋に上がらせてもらったが、窓もドアも錠を付けたりしていて、数か所に防犯スプレーが置かれている。相当ストレスだったんだろう。

 

 ストーカーが捕まった今でもちょっと参っているっぽかったので、ふなちと相談した結果、事務所の使っていない個室を使う事になった。一人であの事務所に泊めるのもあれなので、ふなちもしばらく泊まることになった。

 念のために越水も泊まるように言っておこうか? ってふなちに言ったら「浅見様はひょっとして頭にドが付くほどの阿呆なのでしょうか?」と言われた。解せぬ。何が悪かったんだろうか?

 

 

 

9月5日

 

 例の依頼者――西谷さんから改めてお礼を言われた。久々にぐっすり眠れたらしい。

 なんでも、元はパティシエールを目指して洋菓子店で働いていたが、ストーカーの被害にあってから夜に眠るのが怖くなり、夜働ける24時間営業のファミレスに転職したらしい。米花町に住んでいるのにわざわざ杯戸町で働いているのも無関係ではないのだろう。当面はこの事務所を拠点として使っていいと言っているので大丈夫だろう。いいと言ったのに家賃を払ってくれるというし、こちらとしては文句はない。

 下笠姉妹の料理の腕前に惹かれたらしく、空いた時間に鍛えてくださいと言っていた。

 西谷さんもなんだかここの一員になりそうだなぁ、割とマジで。

 

 ……そして、安室さんの俺を見る目が痛かった。いや怒ってるとかじゃなくて、『分かってる分かってる』みたいな感じで見られるのがちょっとつらい。言っておくけど、西谷さん俺じゃなくて安室さんの方を見ているからね? 気づいてる?

 

 

 

 9月9日

 

 西谷さんの一件も少しずつ落ちついて来たので、蘭ちゃん園子ちゃんと以前約束した通り、有名なヨガのダイエット合宿に週末を利用して付き合わされた。男の俺がヨガというのもどうだろうと思ったが、約束は約束。コナンも付いてきてたし、いかにも殺されそうな人もいたしで身構えていたら……うん、起こっちゃったよ、殺人事件。

 被害者は出川アツ子。出川コンツェルンの社長の娘さんで、かつ悪質クレーマーだったらしい。らしいというか……うん、実際目の前でみてたけど凄まじかった。合宿所――『チャンダニ』という所だけど、そこにいたシェフは前に被害者にいちゃもん付けられてクビにされて、合宿所を経営していた里山さんなんざ、俺たちの目の前で土下座をさせられていた。死んだ人を悪く書くのはあれだが、アイツ本当に半端ないわ。

 

 俺とコナンで事件は解決できたが、合宿所は閉鎖が確定。なんとも後味の悪い事件となった。

 働く場所を失ったシェフ――飯盛さんも、その場の流れでウチに来る事になった。……安室さん、そのニヤニヤは止めろ下さい。いや、今回は仕方なくない? 目の前で綺麗な女の人が困ってたら手を貸したくなるのは男の性じゃない? つまり俺は健全な一般男性じゃん? ちょっと最近使えるお金とか色々な物が爆発的に増えてるけど。

 ……例の女の子ともこんな話をしたなそういえば。

 ついでに、合宿所のマスコットだった犬も預かることになった。クッキーっていうダックスフンドだけど、死ぬほど可愛い。源之助とも喧嘩はしてないようだし、家で飼うことになった。またいろいろ買ってきてやらねぇとなぁ。

 

 

 

9月11日

 

 とりあえずはテナントの方が決定ー。後々さらに改装すること前提で、やや大きめな厨房スペースにホール設備を整えてレストランになりましたとさ。や、今から手を入れるんだけど。

 メインは飯盛さん、サブに西谷さんで回してみるらしい。できれば下笠姉妹のどちらかも貸してほしいとのことだが……まぁ、ふなちを完全に事務に回せばなんとかなるだろ。

 

 そうだ、瑞紀ちゃんが言ってたけど、小さな組み立て式のステージとか用意してマジックショーとかも悪くないかもしれない。なんでも、知り合いの男の子が有名なマジシャンの息子さんらしく、結構腕は立つらしい。それを鵜呑みにするわけではないが、探偵事務所の下にある店なのだから、少しはミステリーの雰囲気があっていいだろう。やろうと思えば、ショーの度にマジシャンや、あるいはピアノやヴァイオリンの奏者を呼べるし。……ちょっと今度ADの篠原さんに話を聞いてみるか。テレビ局のADならば、ステージとか演出とかの話には詳しいだろうし。

 

 ついでに、事務所がお金を出す形で、双子に合気道を習ってもらいにいった。念のためだが、――例えばしつこい記者とか、あるいはうちの事務所に恨みを持っている奴とかからある程度身を守る手段を身につけてほしいし……。この間、阿笠博士に作ってもらった緊急用の発信機――ボタンを押すと、俺のサングラスに居場所が表示される奴だ――を渡しておいたし、例のサバイバルキットも全員に渡してある。

 こっそり調査を続けていても未だに見つからない広田さんの事もあるし、事務所員の安全確保は最優先だ。そういえば、今日珍しく小田切さんから食事の誘いがあった。四国の件だろうか? 今から行ってくるけど……これ大丈夫なんかね?

 

 

 

9月12日

 

 小田切さんとの会食、なぜか大阪府警本部長までが参加している始末でした。あ、平次君のおとうさんでしたかそうでしたか。それに加えて途中から警視総監の白馬という人まで出てきて死ぬほど緊張した……。

 なんかそれぞれが息子さんの事で色々話していたが、その後は四国での話や、県警のその後、マスコミ関係の動きなんかの話になってた。なんかそれぞれのお方から褒められてすっげー背中が痒かった。

 いや、部下の人達が超人級に優秀なだけで、俺トップにも関わらずバックアップが専門なんですが……。

 

 なんやかんやで、それぞれの方との名刺交換をしてもらい、白馬警視総監からは、機会があれば息子と会ってくれとのこと。あ、高校生探偵なんですかそうですか。絶対ストーリーに無茶絡む重要人物じゃねーか! 平次君とかも間違いないし! 是非今度会わせてください!

 

 まぁ、とりあえず会食は無事に終わり、そのまま家で爆睡。いつもだと起こしに来るのはふなちなのだが、越水が起こしに来るとなんか落ちつかねぇ。

 夕食の時も、えらい楽しそうに飯を作ってるし……やっぱ落ちつかねぇ。

 

 ともあれ、今日は工事の人達やシェフの飯盛さんと話し合いながらレストランの大まかな構図を決めていってた。

 自分の店を持てるとなって、すっごい楽しそうだ。

 

 

9月15日

 

 なんか、死ぬほど美味いラーメン屋を見つけた。何がびっくりってマジで店の名前がそうなんだよ。よく付けようと思ったな、こんな店名。それも多分、相当な年期が入った物だし……。

 そして実際に味が美味い上にビビるほど安いというのがまた……。ただ美味いのではなく、本当に美味いのである。隣の席に座った人も思わずと言った様子で「美味い」って呟いていた。

 

 ニット帽を被った人で、なんか鋭い目つきの人だけど悪い人じゃなかったっぽい。なんか、銃を撃ち慣れた手のように見えたけど、気のせいだったかな? 目元の感じとかからスコープをつけたライフルとか撃ってる姿が想像できたけど……。諸星さんって人だが、話した感じも悪くなかった。

 事務所に戻ってから安室さんに話したら、「面白そうな人だね」って言ってたけど、その人の様子とかを一切聞かなかったのが気になった。――知ってる人だったのかな?

 

 仕事が片付いたので、久々に将棋クラブに顔を出してきたら、えっらい強い人がいた。皆からシュウさんとか羽田さんとか呼ばれてたけど、一手差す時間がほぼノータイムでめちゃくちゃ強かった。三回目でようやく勝てたけど、次の局ではほぼ完封された。なんだあの眼鏡の人。今度また指しましょうって言われたけど……。しまった、連絡先聞いておけばよかった。

 

 

9月20日

 

 安室さんから、広田さんから預かったまま手つかずの100万円の事を尋ねられた。そりゃ尋ねられるよね。さすがにこれ以上は話さない訳にはいかないと思って、瑞紀ちゃんと一緒に、こちらが怪しいと思っている事は全部伏せて広田さんの事を話した。

 そしたらなぜか安室さん、諸星さんを最近見たかって聞いて来たけど……え、なんで? どんなミラクル推理で諸星さんが話に出てくるのさ?

 例のラーメン屋の時から会ってなかったから、「いや、あれから見てないんですよねー」って言ったら、もし今度会ったら教えてほしいとの事。……知り合い?

 珍しく安室さんがすっげー焦ってるというか、余裕がない感じだったから全力で探すって答えておいたけど……、なんだろう、すっげー嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「で、最近は探偵事務所どうなの?」

「変わんねーよ。調査に出歩いて、変な場所を探検して、報告書をまとめて、利害の調整交渉を手伝って、下のテナントの打ち合わせをして、会食に出て、パーティに出て――」

「…………探偵……事務所?」

「うん、俺も今ちょっと疑問に思った。……いやいや、でも小五郎さんの所も割と同じような感じじゃねぇか?」

「いくらなんでも、浅見さんの所みたいにいつも呼ばれてないよ。園子のツテが多いし……そういやこの間はテレビに出てたよね。浅見さんじゃなくて下笠さん達だけど――しかも探偵要素一切ない料理番組に」

「キャラ立ってるからなぁ……。美人の双子で探偵事務所に勤めていて料理がプロ級と来たもんだ。おかげでテレビ関係者との付き合いがネズミ算のように増えて増えて……」

「おっちゃんが、沖野ヨーコが出る時は呼べってよ」

「…………あの人、この間事務所で飲んだ時も同じ事言ってたなぁ……」

 

「「はぁ…………」」

 

 久々にまるまる一日空いた休日。せっかくなのでコナンに飯でも奢ろうかと、先日諸星さんと会った例のラーメン屋『小倉』に来ていた。

 注文はもちろん、閻魔大王ラーメン。本当はこれ以外を頼もうかと思ったんだが、バイトの大橋さんが注文させてくれなかった。ちくせう。

 

「おう、この間の兄ちゃんじゃねーか! まいどっ!」

「ども、まいどです。今日は知り合いの子を連れてきました」

 

 大将は俺の顔を覚えてくれたようで――こら、コナン、客が少なすぎるとか言うんじゃない。

 味は最高、値段はとびっきり安いという珍しい優良店なんだから。ちょくちょく通って残してやらないと……次は安室さん――いや、佐藤、高木ペアとか千葉さん連れてくるか。

 

「いやー、この間は助かったよ兄ちゃん、店の騒ぎを止めてくれてよぅ!」

「? 店の騒ぎ? 浅見さん、なにかしたの?」

「ん、ただの喧嘩の仲裁だよ」

 

 正確には諸星さんが黙らせたようなものだけど、俺がやった事っつったら爪楊枝を投げつけただけだ。

 あとは諸星さんがじっと睨んで小さな声で2,3言なにか話したら黙って出て行った。いやー、安室さんが警戒しているちょっと怪しい人だけど、正直あの雰囲気はちょっとカッコ良かった。

 

「はい、閻魔大王ラーメン2丁、お待たせ!!」

 

 そうしていると、ちょうど大橋さんがラーメンを持ってきた。メンマが大量に乗せられているラーメンを見てコナンが半笑いを浮かべるが、一口啜った瞬間、箸が止まらなくなったようだ。うんめー! と声をあげてから、アッと言う間に具も麺も食べつくしてしまった。俺もだ。

 

「ふぅー。美味かった美味かった」

「今度小五郎さん達ときたらどうだ?」

「あぁ、機会をみて誘ってみるさ」

 

 どうやら満足していただけたようだ。水をもう一杯いただいて少し舌を休める。

 

「――で、コナン。広田さんの足取りはどう?」

「瀬戸さんが言うとおり、偽名なのは間違いないよ。前に助けてもらったお礼がしたいからって理由であちこちで探してみたんだけど、目撃情報はなし」

「……例のハーフっぽい女の子は?」

「あぁ、阿笠博士に頼んで、博士の家から俺の家を映すカメラをつけてもらって、いつもチェックしてるんだけど……この間から掃除に来るようになった蘭と園子以外は入ってねーよ」

「……しまったな、ナンバーも車の車種も覚えてないし……ぶっちゃけ黒かったって事くらいしか覚えてねぇ……」

「……黒、か」

 

 そういえば、例の組織の奴は黒ずくめだったか。そりゃあ気にするわな。

 

「あ、そうだ。大将!」

「へい! なんでしょう」

「ビールとウーロン茶!」

「あいよ!」

 

「……おい、昼からかよ」

 

「まぁまぁ……。それと大将、聞きたいことがあるんだけどさ」

「ん? なんでい?」

「この間一緒にいたあの男の人って、最近こっちに来た?」

「ああぁ! あの目つきの怖ぇ兄ちゃんか! いや、見てねぇな。客なんざほとんど来ねぇから……来たら忘れねぇと思うんだけどな……」

「そっか……悪いね大将」

 

 来てないのか。もし来てたら安室さんに教えておこうかと思ったけど……。

 

「何のこと?」

「ん? そっちの事務所で話すさ。今日は俺の仕事は入ってないし、今は――」

「真昼間から酒呑んでると、越水さんに怒られるよ?」

「…………一杯、昼は一杯だけだから」

「昼はって……あぁ、まぁそうだよなぁ……」

 

 コナンも俺の酒好きは理解してくれているのか、「好きだねぇ」とため息を吐くだけだ。

 まぁ、さすがに小五郎さんみたいに酔い潰れたりはしないから勘弁してほしい。最近は越水に酒の管理されてるんだから……。

 

「ま、当初の目的通り色々な情報が入って来るようになったんだ。広田さんの件もそうだけど、怪しいと思った情報はそっちに回すから」

「あぁ、よろしく頼むよ。おっちゃんの事務所にも事件は来るけど、そっちも中々凄い事件が来るから」

「おう、期待しとけ。これから事務所ももっと大きくなるだろうし、そうすれば面白い情報がもっと来るようになるだろうさ」

 

 ちょうど運ばれてきたビールジョッキを少し掲げると、コナンも受け取ったウーロン茶のグラスを軽く掲げて、軽くぶつけた。

 

 

 うん――悪くない休日だ。

 

 

 

 

 




浅見用サングラスの機能一覧でございます

・超小型カメラ(コナンの眼鏡とリンク)
・発信器の追跡機能
・暗視モード
・サーモグラフィーモード
・なお完全防水

辺りを想定しております。これから先の場面によっては劇場版の如く機能が追加されていくでしょうw

 また、かなり前に阿笠博士に頼んでいたサバイバルキットの解説を――

・緊急用簡易酸素ボンベ
・レーション
・塩、砂糖の丸薬
・ソーイングセット
・工具セット
・メタルライター
・十徳ナイフ

 ここら辺を想定しております。蛇足になるかも知れませんが、装備考えるのすっごく楽しいですw 小学校の頃とか思い出すwww

では恒例のキャラ紹介! 今回は多くの美人さん出せて大満足。


西谷美帆(作中では西谷さん)
file71 ストーカー殺人事件
アニメオリジナル

ストーカーの被害に合っていた美人さん。年齢は分かりませんが20~25くらいではないでしょうか?
かなり初期のアニオリ回で、個人的には完成度が高かったと思う作品です。
基本的な情報は作中でほぼ書いてしまいましたので割愛。『西谷美穂 コナン』でググったらキチンの画像が出たので是非調べてほしいですw



『file635:ダイエットにご用心』
アニメオリジナル

アニオリ回で好きな作品の一つ。
とはいえ、描写的にトリックが分かりやすいため、自分でも大体解けてしまいましたがww

被害者である出川アツ子。ご令嬢とは思えない外見(26歳というのが未だに信じられないww)と圧倒的クレーマーで犯人以上の悪役感を出した人。いやまじで。だから印象に残っているんですかね?w

そして舞台となるヨガ合宿所『チャンダニ』オーナーの里山月子さんとシェフの飯盛薫さん。二人とも美人です。
 特に里山さんは、善人というか良い人というかそういうオーラがすごいです。作中でも描写した土下座シーンやその後のセリフなどは、この人本当にすごいと思いました。出来る事なら当作品で使いたかったのですが、上手く思いつけず断念。
 代わりと言ってはなんですが、飯盛さんは西谷さんと一緒に、原作での梓ちゃん的役割を果たしてもらおうと思いますw



篠原浩子(作中:ADの篠原さん)
File789 女王様の天気予報

今気が付いた。やっべぇ、この人ググっても顔出てこない(汗)
録画撮ってる奴からキャプチャ取って来た方がいいかな(汗)

一部のファンからはアナ雪回と言われている回。その中に登場する容疑者の一人でございます。この回は作画というか、描写がすっごい良く出来てた作品です。ほんの一瞬のカットにもヒントというか暗示するものがしっかり描かれており、たまたま録画を見返した時に(あっ)てなる作品でした。
え? トリック? うん、まぁ……


―追記―
ずっと忘れておりましたが、感想欄にて有志の方が画像を挙げてくれたので、一応ここに載せておきます。……大丈夫だと思う。もし引っかかるようだったらすぐに下げますので(汗)

ttp://i.imgur.com/azumf6X.jpg




『死ぬほど美味いラーメン』
File644-645
73巻File3-5

小倉功雅(作中:大将)
49歳 

「死ぬほど美味いラーメン 小倉」の店長。腕はいいがギャンブル狂。なぜその店名にしようと思ったし。
ですが、味は本当に美味いらしく、世良や「領域外の妹」もちょくちょく来てるお店です。閻魔大王ラーメン一度でいいから食べてみてぇwww

大橋彩代
28歳

同じく「死ぬど(以下略)」で働くバイト。いつか同じようなラーメンを作る事夢見る方です。いざ書こうと思うと特徴がない人なんですが、なぜか結構好きな人なんですよねw

メニューを取る時のあのやり取り大好きw 原作コミックもいいですが、この作品はアニメの方をオススメいたします(そのワンシーンのためだけですがww)



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021:もう一度すきっぷ!(スキップだから以下略)

 

 

(まさか……まさか日本に来ていただなんて……)

 

 あの人を死なせた――いや、殺した男。

 なんとしても、俺の手で一矢報いなければならない男……っ!

 

(赤井――赤井秀一!)

 

 恐らく、明美さんを保護するために来たのだろう。あの男にとって彼女は――特別だから。

 そしてFBIとしても、彼女の妹――『シェリー』が組織にとって重要な人物というのは知っている。姉である宮野明美を確保する事で、彼女となんらかの交渉を行う際に有利に立つことができる。恐らく赤井から、明美さんが組織内での立場が危険であることは聞いているだろうし――

 

(渡すものか……貴様に――貴様なんかにっ!!!)

 

 今、安室透――いや、降谷零は公衆電話で、急いで部下の電話番号をプッシュしている。すると、コール音が二回鳴り響いた所で、電話を取る音がした。相変わらず早い。

 

『……はい、風見です』

「風見。動かせる人員を全て動かせ。中居、越水に付けている人員はそのまま……浅見く――浅見透に付けてる人員も最低限は残して、残りは人探しに回ってほしい。……現時点での最重要任務とする」

『! 了解しました!』

「資料と詳しい指示はすぐに回す。頼んだぞ」

 

 確か、昔のモノとはいえ写真が残っているはずだ。面影があるかどうかだけでもかなり効率は違うだろう。

 問題は……組織の人間がこちらの動きに気づくかどうか、だ。

 赤井の存在を報告しておとりにする――いや、ダメだ。行動が被ってしまえば意味がない。

 そもそも、これだけ探しても見つからないと言う事は、今明美さんはジン……あるいはピスコと一緒にいる可能性がある。

 迂闊には動けない……エリアを絞りながら、聞きこみではなく目に頼った地道な調査をしていくしかない。

 そして、それと同時に――

 

「炙りだしてやるぞ……赤井っ!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

11月3日

 

 最近は月日が過ぎるのが早い。

 ここしばらく、仕事としては鈴木財閥の内部調査が主だった。不正している連中を徐々に炙りだして引っ張り出す。それを財閥自体が手を加えたということで、財閥内の自浄作用を強調しようということだろう。

 おかげで結構な仕事を毛利探偵や槍田さんに回すことになってしまった。物によっては江戸川と穂奈美さんの管理の元で少年探偵団に手伝ってもらうことになった。いや本当にすみません。特に少年探偵団。まさか猫探しが殺人事件になるとは思ってなかったんだよ。油断していた。

 

 そうそう、テナントのオープンは来月初めの予定になった。一応内装はある程度完成し、並行してメニュー作りや仕入れ先の調整をしているそうだ。今月末にプレオープンを行う予定らしい。

 大衆向けとは次郎吉さんにも言っているし大丈夫だと思うけど……。飯盛さんも、もう一人シェフがいればいいって言ってるし、探してみるか。

 

 

 

 

11月10日

 

 青蘭さんがお菓子を持ってきてくれた。そういやしばらく会えてなかったからなー。久々にちょっと高めの中華店で食事。青蘭さんオススメの場所と言うだけあって美味かった。こっちが払うって言ってるのに今回は向こうがご馳走してくれた。やっぱ良い人だなぁ……。例のラーメン屋『小倉』の話を気に入ってくれたらしくて、今度連れて行く形になった。……味はともかくちょっと汚い店だけど大丈夫かなぁ。

 あと、帰ったら越水がリビングで酔いつぶれてた。お前なにしてんの?

 

11月15日

 

 今日はカメラマンと雑誌の取材の人がセットで来ていた。俺と小五郎さんによる名探偵の対談という取材依頼が来ていたのが一つと、カメラマンの人――宍戸永明さんから犯罪に関してのコメントというか意見を頂きたいと言う事だった。なんでも、『犯罪者達の肖像』という写真集の第二集を作るらしく、それにコメントを乗せたいと言う事だ。

 宍戸さんとは、なんかすっげぇ馬が合った。口調こそ乱暴で、俺を探偵坊主と呼んでくるが話しててそんなに苦にならない人だ。ぶっちゃけすっげぇ気にいった。そのまま、一緒に居酒屋で晩飯も兼ねてがっつり呑んできた。写真家という仕事にかなりの誇りを持っている人だ。各地を回った話や、それこそ今日話していた犯罪者の写真についても色々聞かせてもらった。

 

 

11月20日

 

 ふなちと一仕事終わらせて事務所に戻ろうとしてたら、久々に諸星さんに会った。いや本当にお久しぶりですね。ふなちも会ったことがあるらしく、挨拶していた。なんでも仕事でこっちに来ているらしく、俺たちとほぼ同業と言う事だ。ほぼってどういう意味だろう。探偵に似た仕事という意味なのか、俺たちが探偵とはちょっと違うのか……やべぇ、後者な気がする。

 またいつか一緒に食事でもしようという話をして、しれーっと連絡先を教えてもらおうと思ったらふらーっとどこかに行ってしまった。気づかれたかな? 帰り道には息切らした安室さんとも会うし……やっぱり知り合いなんだろうか?

 

 そういえば、今日杯戸町ですごいチェイスがあったらしい。なんでも十数台の車が街中で猛スピードの追いかけっこを繰り広げていたらしいけど……。コナンが少し気にしているのがちょっと引っかかったけど……すぐに興味失くしてたし……どっちだろう?

 あ、そういえば、瑞紀ちゃんから阿笠博士に会わせてほしいって頼まれた。なんか作ってほしいものがあるのかな。

 

 

11月22日

 

 なんでも瑞紀ちゃん、小型のグライダーを作ってもらっているらしい。ブレスレット型から一気に展開される、片手でぶら下がるグライダー。なんでも、今度の週末に調査に入る鍾乳洞の中が高低差が激しいらしく、万が一のために用意しておきたいらしい。小型の小回りが利く、丈夫な物ならベストと言ったら、博士も気合いを入れて開発を進めているらしい。瑞紀ちゃんの貯金から資金を出すらしいが、そんなことはさせられないと阿笠博士に領収書を頼みに行って来た。

 瑞紀ちゃん、本当にいい子だよなー。9月に入ってから少し来れなくなるとか言ってたけど、それでもかなりの頻度で仕事を受けてくれるし……。ふなちと同じくウチのマスコットみたいな子だわ。最近ではシャツにベストにスラックスというバーテンダーみたいな姿でいつもいるけど、よく似合っている。バーテンダーみたいって言ったら、「マジシャンって言って下さいよ!」って怒られたけど……。

 この間彼女の紹介で来てた土井塔さんも黒羽くんも、優秀なマジシャンだったし……例のステージの話、本格的に考えておこう。篠原さんも、こっちの仕事の方がストレス発散になるって良くウチに来てくれるし、協力してくれる事も多い。うん、本当によくうちに来るよね。下笠さんの飯食いに……レストランがオープンしたら常連になるんじゃなかろうか?

 

11月29日

 

 さて、レストランの一件で、下笠姉妹のどちらか一方が下を交代で手伝うことになったので、せめて補助が必要という事で少し前から人材募集を載せていたのだが、一人どうしても気になる人がいて採用してしまった。

 

 小沼正三さん。ダブルワーク希望の58歳。

 現職業――UFO研究博士。

 

 採用。超採用。これは採用せざるを得ない。

 

 安室さんからは「正気かい!?」って言われたけど、大丈夫大丈夫。こういう夢追い人――それもこの年までまっすぐ……いや、ある意味曲がりくねっているかもしれないが――追いかけ続けている人は信用できる。逆にしっかりしすぎるくらい経歴を事細かにして優秀さをアピールして「探偵事務所に入りたいです」っていう奴の方が信用出来ねぇ。

 この人も、研究資金に回せる金が少なくなって、より稼ぎの良いこちらで仕事したいということだったし……変に優秀な人間よりもいいんじゃないかな。今なら下笠さんもふなちも仕事を教えられるくらいには習熟してきたし。――仕事には関係ないが、今度阿笠博士に会わせてみたら面白いかもしれない。ちょっと計画してみよう。

 

 

12月5日

 

 小沼博士、思った以上に有能だわ。いや、さすがに下笠姉妹には負けるけど、まったく慣れてない仕事でもそこそここなせている。穂奈美さんの教え方が上手いってのもあるけど……。とはいえ完璧ではなく、穂奈美さんにちょくちょく注意されている。まぁ、穂奈美さんも優しく教えているし、博士もちゃんと反省して次に活かしている。……変わった人だというのは分かるが、第一印象通りすっごくいい人なんだよなぁ。今日来た少年探偵団の面子とも仲良くやれてたし。

 安室さんも一応は認めてくれたのか「君の人を見る目はもう異次元だよね」とのこと。え、褒められてるの? けなされてるの? うん、まぁ、今日は小沼博士って呼んで親しくしていたから悪い方にはならないだろう。もし人が合わなくてストレス溜まるようだったら、別々に飲みにでも誘って軌道修正して行けばいい。――上手くいけばだけど。

 

 そして先日からOPENしたレストラン。いや、中々繁盛してますわ。今日は特に人が多くて……でもなんか外人さん多くない? いや、多いって程じゃないけど……開店当初にしてはなんか割合が、ね?

 そして怜奈さんお久しぶりでした。わざわざ来ていただいて……でもなんか痩せたような?

 ご予約されてた中森さん一家に、紅子ちゃんと執事さん、青蘭さんに篠原さん、毛利さん達も今日は来てくれてたし……ただ、佐藤さんと高木さん。いや来ていただいて嬉しいんですがあからさまに貴方達を尾けてる集団……っていうか警視庁男性陣の皆さまも来てるんですが。というかキレてるんですが……おい白鳥さん、そのニット帽は変装ですか? 変装のつもりですか? シーッじゃない。明日直接会いに行ってやろうかな……。

 

 まぁ、突貫工事とはいえ作り上げたステージでは、瑞紀ちゃんから紹介された黒羽君のマジックがかなり好評で拍手がすごかった。こっそり様子を見に来ていた次郎吉さんにも喜んでもらえたようだ。

 一番印象的だったのは紅子ちゃんだなぁ。いつもクールというか大人びた表情だと思ってたけど、あんな女の子みたいな顔するんだ。中森さん――確か捜査2課の刑事さんだ――の娘さんも同じような顔で黒羽君見てたし……青春だなぁ。

 いやぁ……、作って良かったなぁ。この店。

 

 

12月20日

 

 師走とはやはり忙しいものなんです。いやまじで。

 探偵の仕事もそうだけど、テレビに呼ばれたりパーティーに呼ばれたり会食に参加したりと忙しかった。

 安室さんも携帯に誰かから電話がかかってきて――風見って言ってたな。その人から電話を受けるとどっかに車飛ばして行っちゃった……緊急なのかな? お疲れ様です。

 

 レストランの方は予約だけでも凄まじい事になっていて、週末には下笠姉妹が両方厨房に入ったりしている。レストランの皆も下笠姉妹、小沼博士もふなちもお疲れ様です。俺らも手伝っているけど……なんか、懐かしいなぁ。半年前くらいになるのか? 俺と安室さん、越水とふなちの4人で立ち上げた――させられた時は皆でひぃひぃ言いながら苦労したものだが……。

 

 ――あぁ、もうすぐ今年が終わるのか。一応来年にはなるけど……なるけどなぁ……ちくしょう。

 

 例の組織の人間も、結局俺は一人も会ってないし、見てもいない。コナンはあのテキーラとかいう爆死した奴と接触したらしいが……。本編に間違いなく関わったって言えるのはあの爆弾事件とテキーラの件くらいか……。

 俺は……つながりだけは広いけど、まだ怪しい人には出会ってない。この間も自動車メーカーの会長さん――枡山さんって人を紹介してもらったけど、それだけだしなぁ……。当面はやっぱり今のまま手を広げていくのが一番か。

 

 ちょうど今テレビを流しているが、大きな事件といえるのは小五郎さん――多分コナンだろうなぁ……が解決した事件の話と、ついさっき起こったという首都高での4~5台の暴走車の話くらいだ。最近暴走車の話多いなぁ……。そういやその運転手にはいつも逃げられてるらしいし……あれかな、やっぱりまたデカイ事件のフラグなのかな? そういやバイクの免許取ってから運転するのが1週間に1回くらいだし、念のために回数増やして慣れておくか。

 

 

1月3日

 

 皆で初詣に行こうと話していたので、レストランの方が休みに入る今日、事務所やレストランの皆で近くの神社に。

 事務所自体は年末年始を含めて1週間お休みをいただいているが、そもそも正月の間は年賀状の処理と追加に書く分で大変だった。ちなみに、小沼博士が年賀状の束を凄まじい勢いで事務所宛てと各個人あての物を捌ききるという無駄にすごい技能を見せて高笑いしていた。やっぱ面白い人だなぁ、この人。

 

 んで、いざ出発してみると……カメラマンが大勢待ち構えているのを回避するのが面倒くさかった。勢ぞろいしてりゃ、そら張り込まれるか。ここ最近は浅見探偵事務所全員で――という取材依頼が多くて困る。さすがにこれだけはいつも断っているが……ちょっと面倒くさいな。

 

 ともあれ、今日は本当に久々に皆で揃ったんだ。大人数で少し不便な所もあったが楽しかった。西谷さんも楽しそうでなにより。最近安室さん、忙しそうだったからねぇ。

 事務所のメンバー用に作られていたおせちは、レストランの二人に下笠姉妹、そしてなんと安室さんが作ったらしい。……料理が出来て気配り出来る上で仕事までできるイケメンとか爆死すればいいのに。

 

 事務所に戻ると、コナンと少年探偵団が挨拶に来てたのでお年玉を渡しておいた。――それ目当てだったなこいつら。

 蘭ちゃんと園子ちゃんも来てくれて、閉めている下のレストランで簡単なパーティーを行う事になったが……人数多くなったなまじで。気が付けば捜査1課の刑事さん達――佐藤、高木ペアに白鳥刑事。千葉さんといったいつもの面子も参加することになり、飯盛さん達は結局働かせてしまった。本人達は楽しかったと言っているが……。なんにせよ、皆さんあけましておめでとうございます。今年――うん、今年もよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ふなちがこっちに帰るのもなんか久々だな。……西谷さんに迷惑かけてないだろうな?」

「久々に帰ってきたらこの扱いとは……少々酷いのでは、浅見様?」

「うわぁ……なんか懐かしいね、この空気」

 

 久々にこの家に三人揃った。西谷さんが今日明日は実家に泊るらしいので、今日はふなちが家に帰って来た。そうか、帰って来たか。……なんというか、あれだ。本当にここは俺たちの家なんだなぁと思った。

 

『……それで浅見様。越水様とは?』

 

 急にひそひそ声になったふなちが、耳元で話しかけてくる。ねぇそれくすぐったいから止めてくんない?

 

『ん? あぁ、いつも通り。酒の量を日に日に制限されてるけど……まぁ楽しくやっているよ』

『…………』

『……どしたの、ふなち?』

 

「……浅見様、ちょっとそこに正座してもらってよろしいでしょうか?」

「え、なんで――」

「正座してもらってよろしいでしょうか?」

「おい、俺なにか――」

「正座してもらってよろしいでしょうか?」

「あっはい」

 

 やだデジャヴ? 少し前にもこんなやりとりした覚えがあるんだけど。

 文句を言ったら実力行使に出かねないと大人しく正座をしたら、ふなちがずいっと顔を近づけて、

 

「――浅見様……貴方という方は本当に……ヘタレですわね!!?」

「ふぁっ!?」

 

 まさかド直球で罵倒されるとは思わなかった。え、なに、なんで俺怒られてんの?

 

「何のために私が事m――」

「わー! わー! ふなちさんストップ! ストーーップ!!」

 

 そのまま越水が乱入してきて、ふなちを押し倒して口を塞いでいる。なにこれ? ユリ?

 そのまま小声でごにょごにょなにか話しているけど……

 

「……年明けから騒がしいなぁ。なぁ、お前ら?」

 

 もう一度コタツに入って寝っ転がると、いつの間にかコタツの中に入っていた源之助とクッキーが『ひょこっ』と顔を出して、俺の傍でごろごろしだす。クッキーも完全にウチの一員だなぁ。あの人が帰って来た時は返すことになるけど……。

 

「ま、今までと変わった年明けってのは……良い方なのか、な?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 赤井秀一は、離れた場所から浅見家の様子を双眼鏡でうかがっていた。最近突然、この家の監視に穴が開いたからだ。なんらかの要因があったと考えられるが……。

 

(こうして見ると……まさしく家族、だな)

 

 先日弟から、将棋で浅見透に一度負けたと聞いている。手加減も兼ねて一手だけ最善手ではなく次善の手を打ったら、そこから切り崩してきたと嬉しそうに話していた。弟も、いい練習相手が見つかって嬉しいのだろう。あれからも彼とは何度か手合わせをしているようだ。今では全力で指しているようで、彼には一勝も許していないが、彼も喰らいつこうと最近は彼の将棋仲間以外では弟とばかり打っているようだ。

 

(強者に喰らいつくガッツ。そして僅かな手加減を見抜いた観察力。……探偵、いや――刑事向きの男だ)

 

 有能な面は多々見られるが、同時に弱点も多く見られる。――たとえば女とか……だが、面白い男だ。

 彼の――あのバーボンの入れ込みようを見れば分かる。本来ならば、とっくに事務所を飛び出してでも自分を捕まえようとするだろう。それをしていない理由は……彼の周りにいるいくつかの不自然な影を警戒してのことだろう。

 缶コーヒーを近くに置いて、ここ最近撮った写真を見る。浅見探偵事務所の面々を隠し取った写真だ。

 

(浅見探偵事務所。各界とのつながりを急速に広げていく探偵集団。だが、各界との付き合い方から、目的は金銭や権力ではなく……広域情報網の構築。だがその真の目的はいまだ見えず、か)

 

 多少の運があったとはいえ、ここまで手を広げていくのは所長である浅見透の意思であると見て間違いないだろう。彼が持つコネクションは、捨て置くには惜しすぎる。だが――

 

(俺は、彼に顔を知られている。よほどの変装でなければ彼に見抜かれるだろう。そうなると……)

 

 誰か。誰かをあの事務所の内部に置いておきたい。今動かせる人員で、顔を知られていない存在。二人程思いついたが、恐らく動かせるのは一人――奴なら、やってくれるだろう。

 携帯の電話帳から上司の番号を選び、プッシュする。

 

『……私だ。どうした、赤井君?』

「ジェイムズ。今のままでは彼女の確保は難しいと判断せざるを得ない。最近は『彼』に追いかけまわされて、彼らとの接触もままならない。だから……一人、貸し出してほしい人員がいる」

『ふむ、誰だね?』

 

 

 

 

 

 

 

「――キャメルを。アンドレ=キャメル捜査官を、お借りしたい」

 

 

 

 

 

 

 




次の4月位に飛んで、ブラックスター事件やってから14番目。
ようやく……ようやく!!


○宍戸永明
14番目の標的

 劇場版に登場した男性キャラではトップクラスに好きな人。
 口は悪いけど、あの緊急事態で子供や水に弱い仁科さんを助けようとするめっちゃ良い人。もう片方のピーター=フォードも結構好きですが、どちらかと言われればこっちかなぁw




○小沼正三
File698 まさか!UFO墜落事件
アニメオリジナル

すっごい好きな話。トリックもへったくそもない話ですが、なぜか何度も見直してしまう回です。そして、そんな話に出てきた小沼飛行円盤研究所所長! それが小沼昭三さんです!!(なお、研究所の中身は以下略)
この回はこの人も好きでしたが、犯人(?)の人も大好きでしたww


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14番目の標的編
022:剣と毒


さすがに連続投稿はここまでになりそうです。連休の9割はパソコンの前で過ごした気がするwwwwwww

=追記=

4月の浅見君のけだるさ描写ですが、モチベ維持のために違う機会に誰かの視点でやろうと思っています。(越水かコナン?)
今回、違和感があるでしょうが、ご了承ください。


3月15日

 

 大学と探偵事務所の二足のわらじももはや慣れたもんだ。今日は安室さんと一緒にストーカーの調査というか確保。ちょっと米花町も杯戸町もストーカー多すぎない? いや殺人事件も多すぎるってレベルじゃないけどさ。そもそも毒も拳銃も手に入りすぎててビビるわ。それこそ今日とか、ただのストーカーが拳銃ぶっ放してきた時は死ぬほどビビった。安室さんが囮になって作ってくれた隙にいつも通り鍵を投げつけて撃鉄の隙間に差し込んだ。

 拳銃が撃てなくなり、撃鉄の所に引っかかった鍵を外そうとしている間に安室さんが一気に接近して気絶させて解決。高木さんを呼んで逮捕してもらったわ。いや本当にこの町おかしい。

 銃口こっちに向けられて引き金引かれた時は死ぬかと思った。世界の全てがスローになって飛んでくる銃弾が見えたような気がして必死に体動かしたら、どうにか頬にかするだけで済んだ。これなんて言うんだっけ、走馬灯? 俺死ぬところだったじゃん。

 

 警察から帰ってきたら越水が超心配してた。うん、そりゃそうだよね。いやマジでゴメン。

 今度どっか連れて行くからさ。

 

 

3月20日

 

 割と物騒な案件が結構あると言う事で、そういう覚悟がある人を募集しようといつも通り広告出していたら、早速人が来た。向こうで刑事をやっていたという人相の悪いアメリカ人だ。名前はアンドレ=キャメル。ちょうど3か月前から日本に住みだしたらしく、仕事を探していたらここを見つけたと言う事。かなり身体は鍛えているみたいだし、向こうでは発砲なんて日常茶飯事だったから動けないなんてことはないと言う事。

 安室さんがちょっと怖い顔で見てたけど、体付きからしてキチンとした訓練を受けているのは間違いないと、能力に関しては太鼓判を押してくれた。採用。

 

 なんでも一番の特技は車の運転らしく、運転手は任せてくださいと笑っていた。たまに来る警護依頼の時とかはぜひお任せしよう。

 

 とりあえず、歓迎会という事で下のレストランで簡単な食事会。うん、かなり気にいってもらえたらしい。なんか感動していた。一瞬演技かと思ったけど、あれガチっぽかった。安室さんも呆気にとられてたし。今日は車で来てたからお酒は飲めなかったけど、今度は飲みに行きましょうって言ったら是非と言われた。うん、顔は怖いけど悪い感じがする人じゃない。多分大丈夫だ。

 

 

 

3月24日

 

 最近園子ちゃんは安室さんにお熱のようだ。放課後寄った時に安室さんの手料理を食べて感動していた。

 そして西谷さん、俺の陰に隠れるのは百歩譲っていいとして肩を全力で掴むの止めてくれませんかねぇ……。痛いっす。いや、元気になったって分かるからいいけどさ。安室さんも気づいているのか気づいてないのか上手く流すからなぁ……。

 今日はキャメルさんとコンビを組んで動いていたら……またかよ殺人事件。んでもって念のために辺りを調べようとしたら――いたよコナン。少年探偵団と一緒に。んでもって、目暮警部が来るまでに出来るだけ調べて、目暮警部に頼み込んで俺が容疑者の取り調べに同行。この時の音声と映像は全部コナンの眼鏡に転送して情報を共有。その後、証拠品探しを少年探偵団に頼んでスピード解決。キャメルさんから尊敬の目で見られるようになった。うぇーい。

 

 キャメルさんが来てくれたおかげで学校がある時でも昼の事務所の運営が楽になった。いくつか話してみて、彼は純粋な調査に向いているように思える。なんと言えばいいのかな、『刑事は足が命』っていうキャラっていうか……コナンや安室さんみたいに万能超人ではないが、聞きこみや調査のような堅実な手法にはかなり向いてるようだ。良い人が入ってくれたなー、いやまじで。一番欲しかった人材だ。

 

 

3月26日

 

 今日はどうしても人手がいると言う事で、キャメルさんは瑞紀ちゃんの手伝いに行っている。週末を利用しての一泊二日である。

 なんでも、一度目の調査で、最低二人いないと仕掛けが解けないようになっている隠された地下通路があったらしい。三水吉右衛門の絡繰らしいが……すっげぇな三水吉右衛門。厄介な家とか金庫の内の三割くらいは間違いなくあの変人絡繰じーさんの作品な気がする。それをまた片っぱしから解いていく瑞紀ちゃんもマジぱねぇっす。

 

 キャメルさんもまた、瑞紀ちゃんの鍵開けスキルに惚れこんだらしく、瑞紀ちゃんの手が空いた時は俺たち全員で講習を受けている。報酬は穂奈美さんか美奈穂さんの夜食。瑞紀ちゃんがすっげぇ気にいっているらしい。今では、彼女らが作ったものならば苦手な魚料理もいくつかは食べられるらしい。先日瑞紀ちゃんのお母さんという人が家の事務所を訪ねて来て、下笠姉妹に頭を下げてレシピを伝授してもらってた。そういや、この間出版社の人からレシピ本出さないかって話が来てたな。下のレストランと下笠姉妹に。どうするかは飯盛さんに決めてもらうつもりだけど……。

 

 ……あれ? うち探偵事務所だよね?

 

 

3月28日

 

 なんだろう。キャメルさんが最近可愛く思えてきた。皆が色んな方面で活躍するたびにすっごい感動してくれる。最初はかなり警戒していた様子の安室さんも、なにかある度に「しょうがないですねぇ……」とか言いながら色々キャメルさんに教えている。憎めないじゃなくて……なんていうんだろう、あのタイプ。

 うん、ただふなちからオタクの知識教えられて「日本の文化はすごいですね!」って感心するのは止めてほしい。見かけた時は必ず妨害しているが……。越水にも相談しておこう。いやマジで。

 

 明日からしばらく瑞紀ちゃんは来れないらしいし、マジックショーもしばらく中止か。

 代わりというのも変な話だが、堂本音楽アカデミーの一揮さんから紹介されたヴァイオリニスト、山根紫音という女性をたまにステージに上げることになった。なんでも、神経質な子らしくて、ヴァイオリンの腕はいいんだが小さく縮こまってしまう癖があるらしく、うちのステージで弾かせて自信をつけさせてくれと言うことだった。

 

 写真を見る。

 むっちゃ美人。

 俺の好みのドンピシャリ。

 

 二つ返事でOKした。一揮さんは元ピアニストの、現オルガニスト。音楽という芸術の場の第一線で活躍している人だ。ある依頼で会ったことがある人だが、熱い情熱を持っている人だ。そんな人が紹介した人なら信用できる。だから大丈夫、大丈夫なんです。

 ねぇ、理由はあるんだから安室さん、ため息とセットのいつもの目は止めてくれませんかね?

 

 

4月2日

 

 コナンが昨夜、泥棒と対決したらしい。珍しくすっげぇ燃えている。なんでもブラックスターという真珠を狙って動いたらしいが、初戦は完全に向こうにしてやられたらしい。19日に再戦するらしく、今度は必ず捕まえると言っている。で、頼まれたのが……俺たちには出ないでくれとの事。なんでも、サシで勝負をつけたいらしい。あ、これ引き分けで泥棒は捕まえられないパターンや。服部君とは違う、今度こそ本当のライバルポジションか。

 じつは鈴木朋子さんからも依頼が今日来たのだが……代わりにコナンを推薦するという形を取った。やっぱり向こうも小学生を推薦するなんてって怒ってきて、朋子さんと賭けをすることになった。もし宝石を盗まれたら、この事務所は朋子さんの直属になると言う事。まぁこれもOKしたけど。代わりにこっちも条件を提示した……。

 で、この事を一応次郎吉さんに報告しておいたら、電話の向こうで超爆笑してた。『結果を楽しみにしとるぞ!』とのこと。あ、それでいいんすか。ちょっとは怒られると思ったけど……。

 

 

 

4月15日

 

 枡山会長に会食にお呼ばれした。なんだろう、お偉いさんと二人っきりで会話って初めてな気がする。

 何の話題を振ろうと考えていたら、どうして探偵業を始めたのかという話から切り出された。上手く答えられねぇ。いや、だって……気が付いたら始まってたんだもん。スコーピオンの事件から安室さんが登場するまでの流れの大体を正直に話したら、なんか受けがよかったから良いとするが。

 

 それより、ここしばらく瑞紀ちゃんの休みが増えているのが気になる。例の紫音さんが今は毎回ヴァイオリンを弾いてくれているから別にいいが……タイミングというのは重なるもので、他の二人のマジシャンも休みだ。

 今では、瑞紀ちゃん自身と有名な真田さん、それに黒羽君と土井塔さんの4人で交代しながらショーをやっている。今度は演奏家の方を増やしてみるか。紫音さんのヴァイオリンも人気だし……。

 あ、最近ようやく紫音さんが喋ってくれるようになった。最初は弾き終ったらすぐに帰ってたけど、俺と越水、安室さんには話してくれるようになった。……もうちょいアプローチしてみようかなぁ。

 

 そして、なんか気が付いたら鞄に口紅で『約束の件をお願いします』って書かれた手紙が入ってた。越水から紫音さんの事と一緒にすっごい問い詰められてる……いや、マジで分かんねーんだけど。

 

 

 

4月20日

 

 久々に瑞紀ちゃんが帰って来たけど風邪のようだ。マスクをしている状態で出勤。穂奈美さんが生姜湯を作って渡してた。休んでいいって言ってるのに、ここの仕事がしたかったと言ってすぐさま調査に行っちゃった。……本当にいい子だなぁ。

 

 例の勝負も、予想通りコナンと泥棒――怪盗キッドってやつとの引き分け。朋子さんに電話をかけようと思ったら、本人が直接事務所に乗り込んできた。『まったく、想像通り生意気な顔をしていますわね』というのが事務所に入って最初の一言だった。一緒に鈴木財閥の会長さんまで来てたけど……大丈夫なの、鈴木財閥? こんな探偵事務所にわざわざ来る前にもっとやることあるんでね?

 その後しばらく朋子さんとやり取りして、今後、ウチの事務所にちょっかいは出さない。との事で決着はついた。その後も色々話していたが、鈴木会長がウチラのファンだと言ってくれたのがちょっと嬉しかった。

 

 

 

4月29日

 

 この一週間、安室さん、キャメルさんと一緒に不正の疑いがある会社に夜間に連日潜入していた。夜の間に少しずつセキュリティを書き換えて、昨夜、ここ3年の帳簿と裏帳簿の両方のデータを吸いだして次郎吉さんと鈴木会長に提出してきた。どうも、陰でこっそり麻薬や他社の研究データなどを取り扱っていたようだ。

 今回は鈴木会長が会社の動きを取り押さえてから、こっちで警察に提出する手はずになっている。ちょっと卑怯臭い気もするが、混乱を最小にする工作だと言う事で安室さん達に納得してもらった。というか、安室さんが最初に言い出したことだけど……。

 

 キャメルさんが「日本の探偵ってこんなこともするんですか?」って少し青い顔しながら言ってたけど、うちでは良くあること良くあること。鈴木財閥の内部をこっそり調べることはある。少なくとも、余所の汚くないデータを盗むスパイの様な真似はしないから安心してほしい。

 

 そうそう、今日は報告書を全部まとめてからキャメルさんと飲みに行ってきた。今までの仕事の内容とか聞かれて答えてたけど、なんでちょっと顔色悪かったんだろう。この一週間の物はともかく、他の仕事は結構普通だと思うんだけどなぁ……。

 

 

 

5月3日

 

 なんでも、今日は小五郎さんが奥さんと食事をするらしい。蘭ちゃんが言うには別居中だとか。写真も見せてもらったけど……これ妃先生じゃん。裁判所で見たことある。検事の九条さんから事件の説明をお願いされた時に、法廷で会っていた。本人も罪を認めているのがあって、かなり減刑されたようだ。後で九条さんが「さすが妃英理」と悔しそうに褒めていたのを思い出す。……九条先生、元気かね。向こうも忙しくてなかなか会えない人だけど。

 

 そういや最近、越水と飲む機会が増えた。なんでも、酒を教えてほしいとの事、なんじゃそら。飲兵衛の自分が言うのもなんだが、酒呑み過ぎるとあまり良い事はない気がするが……。小五郎さんを見てるとそう思う。他の奴に酔いつぶれた姿を見せるのもあれだから、基本家飲み。……まぁ、少しだけお酒の制限が緩くなったからいっか。ただ毎回毎回、俺の目の前でダウンしてるけど……ベッドまで運ぶ俺の身にもなってくれ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

――キキィッ!

 

 キャメルさんが運転するワゴンが、ブレーキ音を立てて目的地にたどり着いた。米花中央病院だ。

 車を回してくるというキャメルさんを置いてけぼりにするような形になるが、一緒に来ていた安室さん、越水、瑞紀ちゃんの4人で病室を聞きだしてそこに向かう。622号室だ。歩きながら、瑞紀ちゃんがキャメルさんにメールで病室番号を教えている。――着いた!

 ノックが少々乱暴になってしまったが勘弁してほしい! 中からどうぞという事が聞こえるのと同時に中に入る。

 

「目暮さん! ご無事でしたか!」

 

 ベッドに横たわっているのは、いつもお世話になっている鬼警部、目暮さんだ。傍には白鳥刑事も一緒にいる。――なんで帽子被ったままなんですか、目暮さん?

 

「おぉ、浅見君……越水君達も来てくれたのか」

「お久しぶりです、目暮警部。……お体の方は」

「心配無用だよ、安室君。この通り、ピンピンしとるよ」

「これお見舞いの品です。こちらに置いておきますね?」

「あぁ、瀬戸君もありがとう」

 

 目暮警部が襲われたという話を聞いたのはついさっきだ。今日はここ数日の依頼に関する書類作成が主だったもので、俺たちは全員デスクに向かって仕事をしていた。佐藤刑事から電話がかかってきたのはそんな時だ。

 目暮警部が、朝のジョギング中にボウガンで撃たれたという知らせが。

 そこからは、すぐにキャメルさんに車を出してもらって、こちらに急行したわけだ。

 多分、そろそろ小五郎さんも来るはずだろう。そっちには白鳥さんが連絡をしたらしいし……。

 傷の具合を聞くと、急所を外れていた様で、命に別状はないと言う事。ただ、数日はやはり入院が必要らしいが……。

 

 白鳥刑事から話を聞いている内に、小五郎さんに蘭ちゃん、コナン――で、なぜか少年探偵団も来ていた。……そういや、コナンが皆でハイキングに行く予定って言ってたな。

 同じタイミングでキャメルさんも到着し、これで面子は揃った。

 

「それで白鳥、捜査の方はどうなっている?」

 

 やはり小五郎さんもそっちが気になっているのだろう。目暮警部の無事な様子にホッとすると、早速白鳥刑事に話しかけている。

 

「はい、まず凶器についてですが、ハンドガンタイプのボウガンの様です」

「ハンドガンタイプ……片手で使える軽い奴って事か」

「はい。狙いが目暮警部だったのか、たまたまそこにいた人間を狙ったのか……その両面から、捜査を開始しています」

「警察官なら誰でもよかったと言う可能性もあるのでは?」

 

 キャメルさんが自分の考えを口にすると、安室さんが、

 

「その可能性も無くは無いと思うけど……もしそうなら、分かりやすい制服警官を狙うんじゃないかな? 目暮警部はその時はジョギング中。格好だって恐らく運動着だったのでは?」

「あ、あぁ。いつも着慣れたジャージを着ておったよ」

「ならば、警察官への無差別だとは考えにくいよ。それで警察官と分かったのならば、つまり目暮警部の事をよく知っている事になるからね。ほら、そうなると無差別という前提は崩れるだろう?」

「な、なるほど……」

 

 キャメルさんはひとしきり感心した後に「すみません、余計な口を挟んで」と小さくなってしまった。安室さんも慌ててフォローを入れているが……なんだろう。知り合いが襲われた時に不謹慎だけど、和むなぁ。

 

「それと実は、犯人がボウガンを発射したと思われる場所にこんなものが落ちていました」

 

 そういってサイドテーブルからビニールに入った何かを摘みあげる。

 

「……剣、ですよね?」

「ダンボールで作った物にしてはかなりしっかりと作っていますね……」

 

 越水と瑞紀ちゃんが見た感想をそれぞれ言う。実際にその通りだ。強いて言うなら、剣と言うには少々短すぎる気がするが……。

 

『おいコナン、どう思う?』

 

 こそっとしゃがんで、小声でコナンに意見を聞いてみる。今までずっと黙っていたから、ちょっと気になったんだ。

 

『さすがにまだなんとも……ただ、あの作り物の剣。どっかで見たことある気がするんだよなぁ』

『……何か違う事件で、とか?』

『いや、そういうのじゃなくて……』

 

 それ以上は考えても出てこないらしい。いつもの考えているポーズのまま、じっと何かを思い出そうとしている。

 

「しかし、警察官を堂々と狙うか……」

 

 それも、間違いなく重要人物の一人が。

 これは……来たな。

 

「キャメルさん、安室さん、今日は空いてる個室で待機してもらえますか。……一応、念のために」

「了解しました」

「僕はそのつもりでしたよ。まだニュースの扱いは小さいですが、刑事を狙うなんて物騒な事件。我々が見逃すわけにはいきませんからね」

 

 キャメルさんも安室さんもしっかりと返事をしてくれた。

 その後の安室さんの発言に、キャメルさんは「探偵ってなんだっけ?」って首をかしげていたが……。

 越水と瑞紀ちゃんも、何か相談している。後でどう動くつもりなのか聞いておこう。

 

『コナン、何かあったらすぐに連絡を頼むな?』

 

 こっそりそう言うと、コナンも頷いて。

 

『あぁ。こっちこそ、何かあったら色々お願いすると思う』

 

 どうやら、コナンも少し嫌な予感がしているようだ。

 ……こりゃマジでヤバいかも。まだ現状を把握していないふなち達にも身辺に気をつけろって言っておいた方がいいかも。

 それと、コナンとも連絡を密にしておこう。あのダンボールの剣の事も何か思い出すかもしれない。

 そう考えながら、俺たちは事務所へと戻り、それぞれの準備を始めていた。

 

 そして、俺たちは事務所で一夜を明かし――その日の昼前に、妃先生に毒物が盛られたという話を電話でコナンから聞かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『戦慄の楽譜』より

○堂本一揮
堂本音楽アカデミーの創始者。俺、最初はこの人犯人だと思ってましたすんまっせんorz



○山根紫音
劇中、余りにセリフが少なすぎてコイツ犯人じゃないなと思った子(笑)
この考えが当たっているかどうかは是非作品をご覧になってくださいw

いや、すっげぇ可愛い子で印象に残ってた。もっと出番の多かった千草ららのほうは……個人ではなくシーンで覚えている模様(ラストのアメイジング・グレイスの所ですね)



○真田一三
File96 追いつめられた名探偵! 連続2大殺人事件
14巻File1-4

結構覚えている方も多いのではないでしょうか? 最近では出番がないですが、ブラックスターの事件ではキッドに変装をして寸劇を行ったマジシャンです。
初登場の事件でのマコさんとかも正直出したかったのですが、あの人は既に罪を犯している方ですから、残念ながら断念。

割とコナンの中にはキッドの存在があるからか、マジシャンの登場人物は多いですよね。



○九条玲子 33歳
File264 法廷の対決 妃vs毛利小五郎

アニメの方を見ている方ならば知っていて、かつ印象に残っている方も多いのではないでしょうか?w
『検察のマドンナ』と称される東京地方検察庁きってのエリート検事。『法廷のマドンナ』と呼ばれる妃先生のライバルキャラであります。

むちゃくちゃ好きな人で、下手したらこの人がレギュラーになってたかもしれませんww


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023:ボウガンと銃弾と『出来そこない』

動かしたい人が多すぎて収集つかなくなりそうなので、ちょっと短いですが投下w




 

 

 

「手ごわいな。……実に手ごわい」

 

 ある大手自動車メーカーの会長、枡山憲三。――いや、コードネーム・ピスコは静かにそう呟いた。周りにいるのは水無怜奈――キールと、その補佐のカルバドス、そしてもう一人の女が立っている。

 

「貴方から見てもそう思いますか、ピスコ」

 

 キールが、どこか安堵したような様子でそう言う。どれだけ探りを入れても浅見透の背後関係が分からず、加えてここ最近は彼の周りで奇妙な動きが多いため、とても追い切れないのだろう。補佐のカルバドスも頑張ってくれているのだが、どうにも浅見透を強く意識しすぎている。幾度か見せている彼の非凡さに、どこか余裕が見られない気がする。

 

「あの会食は開いて正解だったよ。……起こった事実のみで上手く話を盛り上げ、自分の感情、感想は出来るだけ排除して、自分の裏を悟らせない。そしてこの短期間で恐ろしい程のコネクションを構築する手腕。歳に見合わぬ老獪さ……。素晴らしい。『あのお方』が気にかけるだけのことはある。実に素晴らしい若者だ」

 

 ピスコの言葉に、キールは驚愕の表情を、カルバドスも珍しく表情を動かす。彼の傍に立っている女は、驚きに息を呑むがすぐに冷静さを取り戻し、静かに呼吸を落ちつける。

 

「キール、カルバドス。君達への命令は変更だ」

「変更……ですか?」

「あぁ、浅見透の背後調査は、バーボン、そして後から来る人員に任せることになる」

「なら……俺達は?」

 

 カルバドスが静かにそう尋ねると、ピスコは老獪な笑みを浮かべたまま、指令を伝える。

 

「キール、カルバドス。君たちには……虎穴に手を入れてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「それで、蘭ちゃんのお母さんは無事だったのか?」

「あぁ、胃洗浄が早かったおかげで大丈夫だったよ。今は、東都大学病院に入院している」

「……好物のチョコに毒を盛られたんだっけか?」

「あぁ、あの人の事務所の郵便受けに直接置かれていたらしい」

「……犯人はあの人の好物を知っていたってことか?」

「あぁ……そうなる」

 

 今日は事務所の方を越水と安室さんに任せて、俺たち――コナンと、肩にいる源之助だ――は阿笠さんの家で事件の整理をしていた。

 目暮警部が襲われたことから始まり、今度は妃英理弁護士。

 

「しかし、あの慎重な人が差出人不明の物を口にするとは……」

 

 阿笠博士が、コナンの特製パワースケボーを調整しながらそう口にする。

 まぁそうだろう。普通の人でも、見知らぬ人からの贈り物など警戒するだろうに……

 

「あぁ……。この前の食事の時におっちゃん、結局蘭のお母さんを怒らせちまって……」

「あぁ、それ聞いたよ。蘭ちゃんから電話で一時間くらい愚痴られて大変だった――」

 

「………………」

 

「え、なんで俺睨まれてんの?」

「いーや、べっつにー」

「良く分からんが腹立つわぁ……」

「……んんっ! とにかく、あれだよ。怒らせちまった後だから、おっちゃんからのお詫びの品だと思ったらしいんだよ」

 

 あー、なるほど。名前も何も書いていないのが照れ隠しだと思ったのか。

 しょうがない気がする。自分なら……たとえば越水とかと喧嘩した後に同じような事されたら疑わずに手をつけてしまう気がする。

 

「あぁ、そうだコナン。例の紙で作られた花だけど、瑞紀ちゃんが面白い事言ってたぞ」

「! なにか分かったのか!?」

 

 コナンから送られてきた紙花の写メを印刷したモノと、前に撮らせてもらったダンボールの剣の写真を事務所の机に並べて皆で考えていた所、瑞紀ちゃんが「あの~」と静かに手を挙げたのだった。

 

「あぁ、あれ……トランプなんじゃねーかってな」

「トランプ?」

「剣はスペードのキングの絵柄で王様が持っている剣。花も同じくスペード、クイーンの絵柄で女王様が持っている花なんじゃないかってね。ほれ」

 

 ここに来る前に携帯で撮った写真、瑞紀ちゃんが見せてくれたトランプを撮った写メを見せる。

 あー、こら源之助、携帯で遊んじゃだめだってば。『なーう?』じゃねぇ。

 

「そうか、見覚えがあるってこれの事だったんだ。目暮警部の名前は十三でそのまま13のキング。妃先生の場合はクイーン、そういうことか! さすが手品師の瑞紀さん。……じゃあ、次に狙われるのはジャックの11が示す人?」

「多分な。瑞紀ちゃんの指摘には、安室さんも頷いていた」

「……浅見さんの所、前から思ってたけど色々おかしい――いや、変だよね。新しく入ったキャメルさんも、聞きこみ上手いし車の運転はプロ級だし……。おっちゃんから聞いたけど、映画の関係者から依頼を受けた時、一緒にカースタントの代打もこなしたんだって?」

「あぁ。……運転上手いとは聞いてたけどあんなに上手いとは思ってなかったわ。おかげでちょっと目立ち過ぎた気がするけど……」

「今更だよなぁ……」

 

 最近は、少々鬱陶しいレベルで取材やら撮影の依頼がわんさか来る。露出を可能な限り抑えている安室さんへの依頼はトップクラスだ。さすがイケメンおのれイケメン。土下座しますからうちの仕事を辞めるのだけは勘弁してください。テレビとかモデルの方が稼ぎ良さそうなら給料上げるからさ! っていうかもう上げたからさ!!

 

「……部下持つと大変だね」

「ただの部下じゃねぇぞ。頭に、『上司の数倍有能な』って言葉が付く」

「は、はは……」

 

 いつも通りの半笑いを頂いたあと、コナンと共に口を閉じる。お互い考えているのだ。ジャック、或いは11という数字が示しそうな人物を。先にその人が分かれば、これ以上の被害を抑えたまま犯人を抑えられるのだが――

 

――パリーンッ!!!

 

「……あん?」

 

 突然ガラスが割れる音が阿笠邸に鳴り響いた。

 

「誰じゃ! こんな悪戯をしたのは!」

 

 ちょうどスケボーの修理を終えた博士がそう言いながらドアへと向かっていく。

 誰かが石を投げ込んだようだ。……え、このタイミングで? ――やばっ!

 

「下がれっ!!」

「博士! 出ちゃだめだ!」

 

 たどり着いた方法は少々違うだろうが、俺とコナンが同時に叫ぶ。

 割れたガラスの部分から僅かに向こう側が――うわぁ、あからさまにヤバそうな奴いるし!

 

「くそがっ!」

 

 かなり早い段階で叫んだおかげか、阿笠さんもドアの前で呆気に取られているままだ。

 一気に走りだし、阿笠博士をそこからどかせようと失礼だとは思いつつ襟首を掴んでこちら側に引き寄せる。それよりも僅かに早く、『パシュッ』と音が耳に入った。あ、これ不味い!

 

 

――ズキ……ッ!!

 

 

「……っ――らぁっ!」

 

 とっさに見えた影に、速度を合わせて、這わせるように指を絡めて――よし、掴んだ。

 ちっと手の皮をやったが、大した怪我じゃない。……毒を塗られてなければ。うん、多分大丈夫大丈夫。

 

「浅見君!!?」

 

 阿笠博士が飛んできた矢に驚いているがそれどころじゃねぇ。

 

「コナン、追え!」

「お、おう!」

 

 コナンも少し驚いていたようだが、すぐにスケボーを抱えて走り出す。

 向こうも慌てて逃げ出したが――あのスケボーの速度なら、なにか妙な事態が起きない限り多分追いつけるだろう。

 

「あ、浅見君、大丈夫なのかね? あぁ、ちょっと待ってくれ、すぐに消毒液と包帯を持ってくる!」

 

 阿笠博士が、少し血がにじんでいる手を見てドタバタと奥の方へと走っていく。そんなに慌てなくても傷――というか怪我というレベルなんだけど……。

 問題はそんなことより……

 

(これが一連の奴の仕業なら、あれがあるはずだ)

 

 スペードのジャックが示すモノ。あの――よく分からない奴。あれマジでなんなの? 剣なの? 杖なの? 今度瑞紀ちゃんに聞いてみよう。

 

「あぁ――やっぱりあったか」

 

 バイクがいた辺り――玄関の所に、例のよくわからないヤツが落ちていた。とりあえず回収しておくか。指紋が残らないようにハンカチ用意して――

 

「ふしゃーーっ!!」

「……なんだよ源之助……」

 

 いつの間にか玄関先まで来ていた源之助――ガラス踏んでないだろうな?――が、毛を逆立てて俺に向かって威嚇している。今までにない剣幕だったので、思わず身体の動きを止めて反射的に身体をそっちの方に逸らしてしまった。

 

「ふぅぅぅぅぅぅっ」

 

 なに? ついに飼い猫にまで嫌われたの俺? とりあえず宥めようと手を振り……あれ、俺の手ってこんなに重かったっけ?

 ふっと自分の手……妙に動かない手を見ると、えらい真っ赤に染まってる。あれ? あれ?

 よくよく見ると、自分の服に穴があいている。……撃たれた? どこから? え、さっきの奴逃げたじゃん? じゃあ――誰?

 

 あ、ダメだ。身体に力が入らねぇ……。阿笠博士が俺を抱き起して家の中に運んでくれてるのが分かるが感覚がねぇ。くそ、メインらしき話が始まった瞬間にこれか、笑うしかねぇ。

 

 

 

 

 

 

――クソったれ……

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「……紙一重で致命傷を避けたか」

 

 スコープごしに、倒れたターゲットが屋内に回収されていくのを見て、カルバドスは笑みを浮かべた――わけではなく、頬に冷や汗を垂らす。

 

(この目に焼き付けられたと言うべきか……)

 

 狙いをつけ、引き金を引いて着弾を確認する一瞬の刹那。その一瞬の間に、これ以上の狙撃はないと確信しているように、スコープを通して自分の目を見てニヤッと笑い、そしてそのまま倒れた男――浅見透。

 最初は胴体を撃ち抜くつもりだったが、まるで650Mも離れたこの距離など関係ないとばかりにあの男はこちらの狙いをわずかに外れ、傷こそ負ったが致命的な物にはならないだろう。腕の、それももっとも被害が少ない箇所で貫通させた。口惜しいが……さすがと言わざるを得ない。

 

「キール。とりあえず狙撃は完了した。これからどうする?」

『……彼、大人しく撃たれたの?』

「……お前もそう考えるか」

 

 つまりは……撃たれた、のではなく――あえて撃たせたんじゃないかと。あのスコープ越しの笑み、狙い澄ましたかのような程良いケガ。

 確信はない。だが、じわじわと胸の内に広がっていくような気味の悪さが己の頭の中を表している。

 

「……今回の任務。お前はどう思う?」

『……怪しいわね。本当に組織のための指令なのか……ピスコの私欲による暴走なのか』

 

 奴は、昔こそ後進の育成などに力を入れる優れた幹部だったが……組織の力を利用して今の社会的地位を手に入れてからは、少しずつ変わっているように思う。彼に育てられたアイリッシュ等は、彼を父親のように慕っていると聞くが……。

 

『浅見くん――ごめんなさい、ターゲットは、今各方面に対する発言力を強めている人間。大企業の会長でもあるピスコは、表の意味でも裏の意味でもターゲットが邪魔になるはず。……今回はあくまで脅してこいという命令だったけど、本当は消したくて仕方がないんじゃないかしら? 未確認の情報だけど、ターゲットが動いた結果いくつもの裏金や副業のルートや、産業スパイが挙げられているという話を聞くわ』

「…………あの男ならば十二分にあり得る」

 

 唯一、あの男の起こした出来事で確実な情報となっている、四国での一件。あれがきっかけで、道府県警はもちろん警視庁も、どこかで奴の動きを意識している。ひどい噂になると、奴が公安の中でもさらに特殊な位置にいる重要人物だというものまで……。奴ほど、退屈とは無縁な男も珍しいだろう。

 

「……ピスコが胸を張って組織のために必要なことだというのならば、完全な暗殺命令が来るはずだ。今回みたいなどっちに転んでもいいというモノではなく」

『……組織に対しての無意識の後ろめたさが、ピスコに今回の手段を取らせたと?』

「でなければ、奴に最も近いバーボンに隠す必要がない。どういう任務にせよ、浅見透への工作が最も確実なのはアイツなのだから。確かに、浅見透に入れ込み過ぎていると思うが……」

 

 恐らく、あの家の主人――阿笠とかいう発明家が呼んだのだろう、救急車のサイレンがこちらに近づいてくる。これ以上の長居は無用か。

 

「撤退する。キール、早すぎない程度に早く奴の見舞いに行くんだな」

 

 ……バーボン程ではないが、キールも奴を気にしている一人だろう。

 よく、奴に関して愚痴が出る時があるが、奴の家や事務所に顔を出す時は楽しそうにしている。

 

『……えぇ、そうさせてもらうわ。貴方も、見つからないように上手く撤退することね』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「小僧、無事だったかぁっ!!!!」

 

 あ、はい。貴方の声が今んとこ一番のダメージです。次郎吉さん。

 ……訂正、俺が目を覚ました瞬間の越水・ふなちタッグによる渾身のダブルハグが一番キツかったかも。いや、柔らかいしいい匂いがしたしでそれは良かったのだが、身体へのダメージはMAXだったわ。

 

「相談役……。えぇ、まぁ大丈夫です。撃たれただけなんで」

 

 いや、正直結構怖いけど、命を取られることはないと思う。俺が意識失ってから、阿笠博士が屋内に運んでくれるまでに少しは時間が開いていたようだし、本気で命を取ろうとしていたのならばさっさと二発目を撃ち込んでいるはずだ。出血死の可能性こそあったが、腕を撃ち抜いただけだったんだから。

 

 今まで関わったどこかが、俺たちの関与に気付いたか疑いを持ったか――まぁ、そんな所で脅しにかかったというところじゃなかろーか?

 

「おのれ、悪党め! 儂の身内に手を出すとはいい覚悟じゃ!」

 

 問題はこのおっさんだよ。今にも『槍を持てぃ! 出陣じゃあ!!!』とか言いかねない勢いでヒートアップしている。ここ病院なんですけど……。あと寝てる人がいるんで……。

 

「俺の事は大丈夫です。銃撃程度ならば対処法はいくらでもあります。……ただ、ひとつお願いしたい事が」

 

 俺が目でそっとそちらを示すと、次郎吉さんも分かっておると言いたげに頷いていた。

 俺が病院に担ぎ込まれてから目を覚ますまで、まる一日かかった。その間、ずっと俺の世話をしてくれていた二人の同居人が、恐らく病院の人が持ってきてくれたんだろう大きめのソファー、というかベンチに横になっている。かかっている毛布は、小沼博士と穂奈美さんが持ってきてくれたものだ。

 

「お主にとっての家族は、儂にとっても家族の様なものじゃ。必ず、守り抜いてみせよう」

「……ありがとうございます。相談役」

 

 次郎吉さんが来る前に警察には、今回の事件はパニックを防ぐためにも可能な限り伏せていてほしいと頼んでいる。いや、正確には念を押したというべきか。既に安室さんが各所を走り回って必要な工作を全部終わらせてくれていた。本当に俺の考えを分かってくれてるなぁ。

 小沼博士が言っていたが、俺が撃たれたと聞いてから安室さん、寝ずにあちこち走り回っているらしい。今はサイドボードに入っているが、『いい機会だからゆっくり休んでいいんじゃないかな? 後の事は任せてくれ』っていう手紙だけで、安室さんは直接見舞いには来ていない。

 

 いやぁ、そんな手紙をもらってそんな現状を聞かされると勤労意欲が湧いてくるというモノだ。

 多分別件だろうが、トランプ事件の件もある。

 え、気遣い? それを無下にする所までワンセットだって安室さんなら気づいているって、大丈夫大丈夫。怒られたら土下座した後でどこかで一杯奢ろう。

 

「行くのか? 名探偵?」

 

 次郎吉相談役が、俺の顔を見てそう聞いてくる。や、俺名探偵じゃないっす。いいとこ頭に『出来そこないの』が付きます。

 

「お主も普段は飄々というか助平な顔をしているが、やはり武者じゃのう」

 

 出てるんすか、顔に出てるんすか。俺が肝心な所でモテないのはそこっすか。

 了解しました。この件終わったら、自分ちょっとキャラを修正する所存にございます。

 

「男には闘う時が必ず来る。が、無茶だけはするでないぞ」

「えぇ、任せてください。相談役なら知っているでしょう?」

 

 

 

 

 

 

「手を抜くのは得意なんですよ、自分」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うーん、ちょっと内容が薄かったような気が…・・
次回はもっと濃い内容にできるといいなぁと反省中でございます。

感想は全て目を通しております! ちょっと全部に答えることができないですがorz
これからも皆よろしくお願いします!


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024:それぞれの捜査網

感想返せてない(汗) こ、今度こそかならず……出来るといいなぁ
いまさらですが、『疲労胃ン』という当て字を生み出したこの作品ってなんなんですかね?(汗)


 さて、寝ていた二人は次郎吉さんに任せて来たけど、これからどうしよう。とりあえず真っ青な顔で必死に追いかけてくる看護師さんやら張り込んでた刑事達は撒いたけど……。あーくそ、腕が重い。これ外しちゃだめかな。

 一応いつものスーツに着替えたけど、腕だけは不格好な物になっている。ワイシャツもそっちだけハサミ入れて腕まくりして誤魔化してるし……今度また新しい奴買わなきゃ。

 

(まずはどこから手をつけるかねぇ……)

 

 安室さんと合流したうえでコナンと合流するのがベストなんだが、コナンの奴、さっき一度顔見せた時に真っ青な顔だったからなぁ。腕とかの事を色々聞いた後で、フラフラっと出て行っちまって。なんか責任感じてるっぽいし……アイツの言う組織の人間に撃たれたと考えているんだろう。

 

(とはいえ、少なくともあのトランプ野郎は別件だろう。例の組織ならわざわざ証拠残したりしねーし。なら撃った奴が組織の人間か? そうなると俺を殺さなかった理由が分からねぇ……生かしておく理由なんてないだろうに……)

 

 今の所、事務所の人間には被害が出ていない。まぁ、まだ一日しか経っていないから機会を窺がっているだけかもしれないが……とりあえず所長であるという意味でも俺が狙われているという仮定で行動しよう。

 一つ考えていたことが、俺達がいくつか潰した妙な密輸ルートが、例の組織の物だったんじゃないかという物だ。ただこれなら、組織の手の早さからとっくにもう皆殺されている気がする。……が、それらを辿ればどこか一つにたどり着く可能性は高い気がする。

 ……うん、やっぱ出来そこないの名探偵は一人じゃ答えにたどり着けません。ってな訳で――

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 自分の『本来の上司』に、彼が撃たれた事やそれによって事務所の人間がどのように動いているかの報告メールを打っている時にかかってきた一本の電話。その電話によって呼び出され……今自分は車を運転して街中を走っている。

 

「いやキャメルさん本当にありがとうございました。安室さんとかに頼むとその場で確保されそうだったんで……」

 

 いや、貴方撃たれたばっかりですよね? 病院から出てて大丈夫なんですか? あと、なんで後部座席で身を低くしているんですか? ……隠れてますよね? 誰かから隠れてますよね?

 

「いや、ほら狙撃されたばっかりなんで姿を見せるのも拙いかと思って」

「……確か、副所長と中居さんが一緒だったと思いますが」

「あぁ、鈴木相談役に引き取ってもらったよ。あの人なら確実に守ってくれるだろうし」

「す、鈴木相談役!? い、いいんですか、そんな大物を顎で――」

「次郎吉さんもあの二人は気に入ってくれてるし、動いてくれるって言うんなら遠慮なく使わせてもらうさ。それで、事件の方はどうなっている? 聞いた話だと安室さんと小五郎さんがすっげーピリピリしてるってことだけど」

 

 そういえば、毛利探偵もすごく所長の事を気にされていた様子だ。警察の人に「こいつを頼む」と言ってそのまま自分も捜査に向かわれたようだし……。あれ? ということは所長、警察も撒いて来たのか?

 

「え、えぇ。今警察では『村上 丈』という男を重要参考人として追っているようです」

「村上丈?」

「はい、なんでも毛利探偵が刑事時代に捕まえた男らしく、カード賭博のディーラーだったとか」

「カード賭博……トランプからそこにたどり着いたのか」

「はい。先日仮出所したばかりで、今目暮警部達が行方を追っています」

 

 警察からの情報がすぐに集まるのがこの探偵事務所の一番の特色かもしれない。よく事務所に来る若い刑事達はもちろん、あの恰幅の良い警部も色々と教えてくれる。本当に、変わった探偵事務所だ。

 

 そのまま、事件は毛利探偵に近い人間を狙っているのではないか、所長を狙撃した共犯者は未だ手掛かりが掴めていないこと。10年前、毛利探偵が村上を捕まえた時に何かあったらしい事など、自分が聞いた限りの事は全て伝えた。

 

 バックミラーで後ろを確認すると、所長の浅見透はじーっと考え込んでいる。自分を狙撃したのが村上かどうか考えているのだろうか。そのまましばらく運転していると、後ろからボソリと……だが妙に確信した声がした。

 

 

「――違うな」

 

 

 という、妙に説得力を含んだ、たった一言が――

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 キャメルさんから聞いた情報を纏めるとこうだ。犯人と思われている男――村上丈は、10年前に毛利探偵に逮捕されたという恨みがあり、仮出所として外に出た今、自分の商売道具だったトランプになぞって13から逆順に小五郎さんに関係がある、名前に数字が入った人間を襲っていると。

 うん、まぁツッコミ所がいくつかあるのも含めて、こういう時は得てして一番最初に疑われた人間は犯人じゃない。仮に犯人だとしても裏で操っている人間がいたり、他にも意図しない犯人がいたりする物だ。参考にする事はあっても、ほぼミスリードと判断していいだろう。

 その考えが口から出ていたのか、キャメルさんが慌てた様子で「ち、違うんですか!?」と聞いてくる。

 前を見なさい、前を。せっかく苦労して看護師や佐藤さん達から逃げて来たんだから、ここでパクられたら病院に逆戻りだ。あの人なんでか泣きそうな顔で追ってくるから超悪いことした気分になってしまう……。

 

「そもそも、本当に小五郎さんが狙いならば本人を直接狙えばいい。それを抜きにしても、目暮警部や妃先生は理解できるが阿笠博士を狙ったのが解せねェ。蘭ちゃんならつながりあるけど、小五郎さんにはないだろ?」

「た、確かにっ! じゃあ……一体誰が!?」

「さすがにそこまでは……ただ、一つヒントがあるとすれば」

「あ、あるとすれば?」

「……妃先生の好物を知っていたってのが引っかかるな」

 

 小五郎さんと妃先生の共通の知り合いってのが容疑者の中にいりゃあドンピシャ……だと思う。安室さんかコナンが同じ答えならほぼ確信できるんだけど……。

 

「あのー」

「? なにか?」

「犯人が村上丈ではないかもしれないというのは分かりましたが……所長を撃った人間は、誰なんでしょう?」

「……一応気になってる人がいるにはいるんだけど」

「い、いるんですか!?」

「ん、まぁ……。こればっかりは完全な勘なんだけど……」

「だ、誰なんです!!?」

 

 今、俺が知っている人間でそれっぽいイメージを持っているのは二人いるが、妙に気になっているのは――

 

「諸星――諸星大って男なんだけどおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!????」

 

 ちょっとキャメルさんやい! なんでいきなりハンドル切った!? 顔が引きつってる上に真っ青だけど腹でも壊したの!!? ちょ、前! 前!!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「――ええ、やっぱりそうなりましたか。すみません佐藤刑事、お手間をかけさせてしまって」

『こちらこそ、ごめんなさい。なんとか捕まえようと思ったんだけど撒かれてしまって……本当にごめんなさい』

「いえ、浅見君が本気になると誰にも止められませんから……」

『……そんな所ばかりそっくりなのね、彼。アイツと……』

「……えぇ、困ったものですよね」

『本当にね。……すぐに所轄に応援を出して探してもらうわ』

「いえ、それは不要です。先ほども言いましたが、もうこうなったら止められませんから……。それより、出来る事ならば捜査の状況を流してほしいですね」

『……そのちゃっかりした所、浅見君と同じね。さすがはトオル・ブラザーズの兄貴分かしら?』

 

 電話の向こうで佐藤刑事が笑いながらそう言うが……少しだけ涙ぐんでいるような気がする。

 

 

――やはり、重ね合わせているか……アイツと……。

 

 

『本当はだめだけど、状況が動けばすぐにそっちに連絡するわ。……目暮警部には内緒ね? それと――』

「分かっています。こちらも何か掴め次第情報を送ります」

『ついでに今度奢りなさい。もちろん払いは浅見君でね! それじゃ、また後で!!』

 

 向こうも急いでいるのだろう、そこまで言うと一方的に切られてしまった。……まぁ、当たり前だが。

 さて、問題はここからだ。警察が動き出す前に狙撃場所を特定したが、650mとそこそこの距離だ。少なくとも狙撃の訓練を受けた人間であることは間違いない。

 

(まさか、赤井が? ……いや)

 

 可能性があるとすれば、浅見君が『組織』の重要人物だと推測して威嚇を兼ねて撃ったという場合だが……この日本で、それも人を撃つという事をアイツがするだろうか?

 いや、正直あの男ならばやりかねないと思う。……俺は、だが。

 

(先入観を捨てろ……。今だけは全部忘れろ……っ!)

 

 優先順位を忘れてはいけない。浅見君を狙った奴を燻りだし、その背後を確認しなければならない。万が一、組織が動いている場合は……。

 

(いざという時は別の戸籍を用意する準備も整っている)

 

 守らなければという思いがある。公安の一員としてだけではない。……口調も性格も違う癖に、顔やたまに出る言葉が自分の友を思い出させる彼を――いや、それだけじゃない。そうだ、さっき佐藤刑事も言っていたじゃないか――

 

「弟分を守るのも……兄貴分の役目といった所か」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(――ったく、紅子が言った通り、死亡フラグだらけの男ってことか)

 

 瀬戸瑞紀――の格好をしたまま、俺はあのやっかいなガキンチョと一緒に動いていた。

 動いている、といっても、今は人のいない毛利探偵事務所で事件を見直しているが……。

 あの青子にちょっと似てる蘭って子は今病院に向かっている。うちの所長のお見舞いだそうだ。俺とガキンチョも誘われたんだが、こいつは断って事務所に残っている。……なんか釈然としねーな。

 

「それでコナン君。次の10の人に心当たりは?」

「……10、つまりは『とお』って事で浅見さんが狙われたんじゃないかっていう意見が警察内では出てるみたいだけど……」

「トランプが置かれていなかった。それに、状況を聞く限りバイクの犯人がコナン君に追いかけられたのは予想外だったはず。わざわざ狙撃手を配置できるわけがない」

 

 それにしても、このガキンチョいつもに比べて余裕も元気もねーな。……所長さんが心配だからか? まるで兄貴みてーに懐いてる感じだったから仕方ねーっちゃあ仕方ねーが……大丈夫か? 蘭ちゃんもかなりまいっているようだし……。

 

「狙撃事件の方はウチのエースが調べているから大丈夫ですよ。私たちはこっちの方を解決しましょう! こっちは、最悪あと10人の人間が狙われているんですから、放っておくわけにもいきませんし!」

 

 あー、ちくしょう。本当なら俺も安室さんと動きたかったけど、安室さんからこっちの捜査を手伝ってほしいってメール来てたしなぁ。多分、副所長さんとふなちにも同じような内容で送ってんだろうけど……。

 

(どこのどいつか知らねぇけど……俺の職場に手を出したツケはしっかり払ってもらうぞ……)

 

 ぶっちゃけた話――あの職場は理想の職場だ。仕事もやりがいがあるし、そうでなくても今では下のステージがある。料理や酒に注意を向けてる客が、俺の一挙一動に注目しだすあの瞬間の高揚感。瀬戸瑞紀の時は違う視線も感じるが……。小さな舞台、仕掛けも何もないから、行うのはテーブルマジック。レストランだから当然動物は使わない。制限がある中でどうやって奥の席の客にも分かるように、派手に、大胆に、だが新鮮さを失わないようにと創意工夫を重ねていく日々。とても充実している日々だ。

 

(きっかけは紅子。与えてくれたのは所長さんだ)

 

 恩は返さないといけねぇよな。所長さんは……何かあっちゃあ酒呑むし、美人や可愛い娘を見かけたらヘタレの癖に声かけて、副所長の愚痴を俺とふなちで聞くことになって、酒に付き合わされて、呑んでないのを気づかれないように中身減らすのに苦労して……俺に面倒事を持ってくる人だ。だけど……だけど――

 

(まぁ、今だけは平成のルパンではなく平成のジム・バーネットってことで――)

 

 どっちの事件も解決してやるさ。また、事務所の面子と……ついでにこのガキンチョに、とびっきりのマジックを見せてやるために。

 まずはガキンチョを元気づける所から始めるか――

 

――プルル! プルル! プルル!

 

 そう考えていたら、ガキンチョの携帯が鳴りだした。ガキンチョは、「誰だよこんな時に……っ」とぼやきながら画面を確認して、慌てて通話ボタンを押す。一瞬だけ名前が見えたが、どうやら蘭ちゃんのようだ。二、三言葉を交わしてからしばらく黙ったままのガキンチョだが、唐突に――

 

 

「――えええっ!!? あ、浅見さんが病院から脱走したぁっ!!!!!!!!??」

 

 

 

 

 

 ……せめて抜け出したって言ってやれよ、ガキンチョ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「どうしようキャメルさん。なんか俺、この事件が終わったら正座どころかボッコボコにされる予感がしてきました。色んな人に」

「じゃあ病院に帰りましょうよ!? 撃たれたばっかりなんですよ!!?」

「大丈夫大丈夫。弾は貫通してるから」

「どちらにしろ腕に穴が開いてるじゃないですかぁ……」

 

 えぇい、デカい図体で泣きそうな声を出すんじゃない。

 

「とりあえず、どう動くべきかなぁ……。人を当たるか、そうでない所に目をつけるか……」

「……その、あk――諸星大という方が犯人だと思っているんですか?」

「あー、どうなんだろう?」

 

 単純にそれっぽい――つまり、狙撃仕様かどうかはともかく、ライフルを使っていると思った人で思いついたのが諸星さんだった。もう一人は水無さんと一緒にいた人……ただ、あの人の手は良く分からなかったな……どっちかっていうと猟師とかそっち系な感じがしたけど。

 まぁ、あくまで目星だ。

 

「正直、実行犯よりも理由の方を明らかにしたいかな?」

「理由……ですか」

「恨みだったら恨みで、逆恨みなのか正当な物なのか。浅見探偵事務所に向けてのものか、浅見透に向けてのものなのか。そこを明らかにしねぇとちょっと安心できねぇな」

 

 前にコナンから聞いた話だが、しっかりしたスナイパーライフルを素人が使って当てられるのは、銃の性能にもよるが300~400程だと聞いた覚えがある。そうなると、650という距離で成功させた今回の狙撃犯は訓練を受けたプロだという事になる。

 となると、やはり今回の狙撃は俺を殺すつもりはなかったんじゃないかと考えても――いいよね? いいよね?

 

「……あくまで俺の考えだけど、やっぱり今回は脅しだったと思うんだよね」

 

 狙撃に関わるような人間に喧嘩を売った覚えはない。そのプロは誰かに雇われたと考えるのが自然だろう。つまり、雇うような金とコネを持っている人間となる。

 

「入ってみて驚きましたが、この事務所はいろんな所を対象にした依頼が来ますから……」

「そりゃしゃーない。人員は優秀だから自然と仕事のレベルも上がっていくし、次郎吉さんによる無茶ぶりが来る時もあったしね」

「いや、この間の潜入捜査もそうですけど……ここ、本当に探偵事務所なんですよね?」

「安心してくれ、盗聴、防諜態勢は完璧だから。相談役が今の内に壁とか床、窓ガラスまで対策入れてくれるし、ネットの方も独自の――」

「本当に探偵事務所なんですよね!!?」

 

 だからそうだと言ってるじゃない。看板に堂々と探偵事務所と書いているでしょうが。

 

「ま、その話はさておき……」

 

 相手に今殺す気がないなら、手を打つ時間はまだあるってことだ。とりあえず、詰めれる所から詰めていくか。

 

「さて、どうにかコナンと連絡を取らねーと……」

 

 

 

 

 

 



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025:なお、越水七槻は処刑方法を模索中

お待たせいたしました! 飲み会が続いていたのもありますが、劇場版はある程度自由にできる間の話に比べて、限られた枠でどうキャラを動かすのかが難しくて少々筆が遅くなりそうですw 気分は既にピスコ編に向いていたりww


「そ、それで浅見さん飛び出して行っちゃったんですか!? 撃たれたばっかりなのに!?」

 

 白鳥刑事が話してくれたお父さんの事、それに新一が電話で言った事を相談したくて、お見舞いを口実に浅見さんに会いに行ってみたら、彼ではなく彼を探しまわっている高木刑事に会った。

 

「あぁ、狙撃される心当たりについて聞こうと思ったら鈴木相談役が「アヤツはもう行った」って言って……慌てて皆で探し出して追い掛けたけど撒かれちゃって……」

「な、何を考えてるんですか、あの人は!!?」

「僕が知りたいよぉ……」

 

 高木刑事が泣きそうな声でそう言っているが、今はどうでもいい。越水さんとふなちさんが一緒だったはずだけど――

 

「蘭ちゃん? どうしたの?」

 

 あの二人の事を高木刑事から聞き出そうとしたとき、後ろからまた違う声が掛けられた。佐藤刑事だ。

 

「佐藤刑事! 浅見さんが飛びだしちゃったって」

「えぇ。彼、足も速いのね。あっという間に走っていっちゃって……見失っちゃったわ」

 

 そういう佐藤刑事の目が、少し――ほんの少しだけ赤くなっている気がする。どうしたんだろう?

 

「とにかく、浅見君の事は安室さんに任せてきたわ。彼なら浅見君に追いつけるでしょ」

 

 そういえば、安室さんと佐藤刑事は結構仲が良かった。浅見さんも一緒にだが。

 部活の帰りなどの、少し遅い時間に浅見さんの事務所に寄ると、事務所の中で浅見さんと安室さん、佐藤さんの三人と、他の誰かが混じってお酒を飲んでる光景をよく目にする。……一番多いのは由美さんかもしれない。

 

「じゃあ、佐藤刑事達は?」

「これから毛利さんと一緒にいる目暮警部と合流するわ。浅見君が10っていうのもしっくりこないし、10番を指し示す物が何も見つかっていないしね」

 

 じゃあ、お父さんは10と思われる人の所にいるんだ。

 

「蘭ちゃんは家に帰りなさい。大丈夫! 私達が必ず、この事件を解決するから!」

 

 元気そうにそう言う佐藤刑事の様子を見て、なんとなく分かった。多分、佐藤刑事もお父さんの事を聞いているんだろう。

 

「…………でも」

 

 じっとなんてしていられない。自分の父親のせいで多くの人が狙われているのだ。お母さんだって……。それに――いくら腕に自信があったからなんて言っても、お母さんに銃を向けて、そして傷つけたお父さんを許せないし、信じることができない。そんな今、お父さんを信じてただ待つなんて……。

 

「あれ? 瀬戸さん? っとと――もしもし?」

 

 考えがまとまらなくなってきた時、高木刑事が震えだした携帯を取り出しながら離れていく。瀬戸さんも動いているんだ。当たり前か、所長である浅見さんが撃たれた事に関係がある事件だ。あの事務所の人達は皆仲がいいから……きっと皆が怒っているだろう。心配させている浅見さんにも、あの人を傷つけた犯人にも。

 

「――えぇ!? 10の付く人がもう一人いた!? 今からそっちにいくって……コナン君も一緒なのかい!?」

 

 

 

――えぇっ!?

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「事務所に来ても誰一人いねぇし……」

「鍵が開けっぱなしでしたが……大丈夫なんでしょうか?」

「中が荒らされてねぇし大丈夫だと思うけど……コナンの電話も繋がらねーし、探偵バッジの方も範囲外ときたもんだ」

 

 とりあえずコナンと合流しようと思った俺は、キャメルさんに頼んで毛利探偵事務所へとたどり着いたのだが、事務所が完全にもぬけのからとなっている。

 ……あれ? この香り――

 

「瑞紀ちゃんがいたのかな?」

「え?」

「あの子がよく使ってる香水の香りが少し残ってる」

「…………」

「何か言いたい事でも?」

「……いえ、何も」

 

 いや、なんとなく何思ったか分かるけど仕方ないじゃん。分かっちゃったんだから。

 

(しかし……コナンと瑞紀ちゃんがコンビで動いているとなると、逆に余計なおせっかいか?)

 

 コナンは主人公を張る能力があるし、瑞紀ちゃんは普段こそドジっ子だが決める所は決めてくれる、何気に安室さんと同じく我が事務所のエースだ。推理力も相当なもので、コナンや安室さんとは違うマジシャンとしての視点が役に立つ事が多い。ちょっと厄介な案件だと思った時は、大体安室さんか越水と瑞紀ちゃんのペアを当てることが結構多い。瑞紀ちゃん、地味に自衛もしっかりできる子だし。普通のトランプ投げつけて、暴漢がナイフ持ってる手に当てて武装解除した時は思わず感嘆の声を出してしまった。いや、今思い返してもやっぱあの子凄いわ。

 

「あれ? ここに鍵ありますね。それにメモも……って、所長、これ瀬戸さんから貴方宛てにです」

「……俺宛て?」

 

 少し事務所の中を見て回っていたキャメルさんが、机の上の物を指して俺に声をかける。

 そちらに目を向けてみると、なるほど確かに。鍵を重しにして、一枚の紙が置かれている。

 

「出ていく時は鍵をかけておいてください……瑞紀ちゃん、俺がここに来ることが分かってたんだな」

「……あの、最後に赤字で添えられている『ご愁傷様です』の一言は――」

「俺の目には何も見えん」

「はぁ……」

 

 やけに最後の一文だけ達筆に書きやがって……、ちくしょう、森谷の時のふなちからのメールを思い出すな。結局あの時は色々あってそこまで怒られなかったけど。あー、やっぱりなんらかの形で一応捜査に協力させておけば……いやいや――

 

「あのぅ、所長」

「はい? 何か気付いたことが?」

「いえ、ずっと気になっていたんですが……どうして副所長と中居さんを置いて来たんでしょうか? あの二人がいれば、捜査もかなり楽だと思うんですが。特に副所長は、安室さんと同じくらい切れ者ですし」

「……俺が撃たれりゃ、アイツの事だ。いつもみたいに冷静にとはいかねーだろ」

 

 ここに来るって事を予測したうえで、鍵開けたまんま行ったってことは、なにかヒントを残しているはずだ。直接さっきのメモに書くかメールくれればいいのにそうしないのは、一応の抵抗っていったところか。

 事務所の様子を眺めながら、

 

「四国の件で分かったけど、アイツ、実の所かなりの激情家なんですよ。エンジン入るどころか怒り狂うかもしれないアイツには、文字通り命かかってる今回は後ろに控えておいてほしいのが本音です。……次郎吉さんの下でふなちも一緒なら、うかつに動くような真似はしないでしょうし……」

 

 ついでに言うなら、俺個人が狙われているんなら出来るだけアイツ等とは距離を取っておきたい。

 俺に万一の事があっても、次郎吉さんなら面倒見てくれるだろうし、安室さんがいるなら事務所の方だって安心だ。

 

「……まぁ、ヤバい事になる前にケリをつけましょう。――急いで解決しないと越水の怒りゲージが限界を突破しかねん」

「……もうすでに振り切っているのでは……」

「ごめんキャメルさん、今日耳日曜、何言ってるかわかんない」

「今まさに会話していますよね!?」

 

 あーあーきーこーえーなーいー

 

「……っと、なるほど……こういうことか」

「何か分かりましたか?」

 

 こっちに近づいてきたキャメルさんに何も言わずに、書類棚の上を指す。

 そこには場違いなトロフィーと一緒に大きめの写真立てが飾られており、その写真立ての下には、一枚のトランプが挟まれていた。種類はもちろん――スペードの10。

 その写真に写っている人こそが、次のターゲットの可能性がある人。そう言う彼女のメッセージだろう。

 

「この人は確か……プロゴルファーの?」

「俺もあまり詳しくないですけど、以前に小五郎さんから話だけは聞いていますよ――辻弘樹さんの事はね」

 

 さて、敵が複数いるのならば、まずは手っ取り早い方から潰させてもらおう。

 こういう時に動いてくれる高木刑事……佐藤さんと一緒っぽいからパス。千葉刑事……ふなち経由で七槻の先兵になってそうだからこれもパス。白鳥刑事……目暮警部と一緒に行動してる可能性が高いので同じくパス。由美さん……対価が怖いのでこちらもパス。……よし、所轄だけど内部の動きを聞くことくらいはできるだろう。ピ、ポ、パっと――

 

「誰にかけているんですか?」

「この間知り合った杯戸署の人」

「……婦警ですか?」

「…………なぜ分かる」

 

 イカン、最近ちょっと俺のイメージがぐらついている気がする。やっぱりどこかで軌道修正しないと――

 

「お、もしもし三池さん? 今大丈夫ですか? えぇ、ちょっと緊急で教えてほしい事があるんですけど――」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 あの後、小沼博士の運転で来たコナン君と瀬戸さんと合流した後、私はお父さんも辻さんの所に向かっていると聞いて、そのままヘリポートまで向かった。そうだ、レストランでお会いした時も、今度ヘリコプターを飛ばすという事を言っていた。

 ヘリポートに到着した時には、お父さんと目暮警部、白鳥刑事が辻さんと話している。きっと、今回のフライトは取りやめるように説得しているんだろう。近づいていったら、実際そうだった。

 

「それで、毛利さんに関わる人間が次々と襲われていて、次は私かもしれない。そういう事ですか?」

「えぇ、ですから今回のフライトは取りやめた方が――」

「大丈夫ですって。狙っているって言っても、これから僕は空に行くんですよ? 何にもできやしませんよ」

 

 目暮警部が説明しているが、辻さんは聞く気はない様だ。

 

「そんなに不安でしたら、毛利さんや刑事さんも一緒に乗られたらどうです?」

「あ~、いや……空を飛ぶ物はちょっと……」

 

 お父さんは高い所がダメだ。完全に外が見えない飛行機の通路席とかならどうにか大丈夫みたいだけど、ヘリコプターみたいな狭くてすぐ下が見える物はダメだろう。

 

「あのー、それなら私、乗せてもらってもいいですか?」

 

 そんな時、手を挙げて瀬戸さんがそう言いだした。

 

「安室さんから可能な限り警察に協力しろと言われていますし、私としても所長の狙撃事件につながっている可能性があるのならば出来ることはしたいんですが……」

 

 目暮警部もお父さんも、反論したそうに口をモゴモゴさせるが、そう言われると弱いのだろう。結局大きなため息をついて、

 

「分かった。瀬戸君も一緒に乗りなさい。君ならばまぁ、大丈夫だろう」

 

 何が大丈夫なのだろうと思ったが、なんとなく分かる様な気がする。あのすっごい優秀な人達が揃っている事務所の中でも安室さんと瀬戸さんは、どんな厄介事に巻き込まれてもなんとかしてしまうだろうという安心感がある。浅見さんは……何とかするけど最後に大怪我しそうで怖い。頼りになるけど頼りに出来ないというかなんというか……。

 

「警部、村上は目的地である東都空港で待ち伏せをしている可能性があります。念のため、私は先にそちらに向かっておきます」

「うむ、頼んだぞ白鳥君。そしてこちらは……ほれ、行くぞ毛利君!」

「あのー……私も白鳥刑事と共に空港へ――」

「一人だけ逃げる気か! 行くぞ!!」

「いやあの、私ちょっとトイレに……け、警部殿ーーーぉっ!!」

 

 お父さんは警部に無理矢理ヘリコプターの中に押し込まれていった。

 瀬戸さんも乗り込もうと近づいているが、タイミングが計れず少し困った様な笑みを浮かべている。

 

「蘭君。残念だが、君達はここまでだ。後は、我々警察に任せてくれ」

「大丈夫です蘭さん。私達、浅見探偵事務所も安室さんを始め、皆完全にスイッチ入っていますから! このトランプにまつわる事件、必ず解決します!」

 

 瀬戸さんが大げさに胸を張ってそう言うのと一緒に、後ろにいる小沼博士も「うむっ!」と力強く頷いている。……いつもどこか抜けている二人だけど、やっぱりあの事務所の一員なんだ。説明しづらい、変な説得力がある。この人達なら、本当にどうにかしてしまうんだっていう……。

 

「分かりました……。瀬戸さん、お父さんの事お願いします」

「はい、任されました!」

 

 本当に、この人の笑顔は強い。

 瀬戸さんは呑気な様子のままヘリの助手席に乗り込みドアを閉め、――そのままお父さんたちと一緒に飛び去って行った。

 

「それでは蘭ちゃん、事務所まで儂が送っていくぞ? 儂も、阿笠先生の所に用事があったからの」

 

 小沼博士は、先日阿笠博士と話してからすっごい尊敬している。今では先生と呼んで一緒に色んな研究をしているらしい。この間は昆虫の飛ぶ構造とUFOの飛ぶ構造がどうのこうのとすっごい話しあっていたけど……。

 口にした事はないが、あの事務所の人脈は色んな方向に飛び火していて謎だらけだ。図にしてみたら凄い事になるんじゃないかな?

 

「では蘭さん、私も空港の方に行きますので……」

「あ、はい。ご迷惑をおかけしました――ほら、コナン君行くよー? ……コナン君?」

 

 これ以上長居する必要はないとコナン君に声をかけるが返事がない。慌てて辺りを見回すが、どこにもいない。

 

「コ、コナン君!?」

「あー、蘭ちゃん? あのメガネの少年なら――」

 

 

――キキィィィ……ッ!

 

 

 

 小沼博士が何か言おうとした時に、小さなスキール音を響かせて見覚えのあるパジェロがヘリポートに乗りつけてきた。あの車――キャメルさんの車だ。そして助手席に座っているのは――

 

 

「キャメルさん……それに、浅見さん!!?」

 

 あの人ときたら本当に……っ! 越水さん達を心配させているのになんてことない顔をして――っ!

 

「しょ、所長!? 病院を抜け出したとは聞いておりましたが……」

 

 車がしっかり止まる前に飛び降りるように車から出た浅見さんは、そのまま白鳥さんの方に向かっていく。私の事なんて目に入っていないように。――そんな所がちょっと『アイツ』にそっくりで……少し、いやかなりイラッと来てしまった。

 

「ちょっと浅見さん!! 今まで一体どこに――」

「アイツは、コナンはどこ行った!?」

「え……」

 

 そうだ、浅見さんの事で頭が沸騰しかけたけどコナン君!

 

「あー、浅見所長。江戸川君なら……瑞紀ちゃんと一緒にヘリコプターに乗って行ったぞ」

「えぇぇーーーっ!!」

 

 一緒に乗って行ったって――どうして止めてくれなかったの瀬戸さん! 小沼博士!

 

「あ、いや、瑞紀ちゃんが江戸川君と一緒にこちらに目配せをしてきたのでつい……」

「ついって――」

 

 

「所長、どうしましょう? ……所長?」

 

 車を降りて浅見さんの傍に来たキャメルさんが心配そうな顔でそう言うが、浅見さんは胸ポケットに入れてるサングラスを片手で器用に開いてかけると、深刻なのか軽いのかよく分からない声で、小さく呟いているのが聞こえた。

 

「そっかー。そっかそっかー…………乗っちゃったかー」

 

 浅見さんは、その場に「どかっ」と片膝立てて座り込むと、その膝に肘を立てて頬杖をつきながらしばらく考え込みだした。白鳥刑事は、何も言っていないのに横で浅見さんに、今の状況を全部話している。

 

 

 

 

「なるほど。なるほどなるほど……」

 

 状況を全て聞くと頬杖を解いて、その手で今度は面倒くさそうに頭をバリバリと掻き毟る。そして――

 

「白鳥刑事」

「はい。何かお役に立てますか?」

 

 白鳥刑事も、浅見さんと仲がいい刑事の一人だ。浅見さんの呼びかけに少し皮肉気に返答すると、浅見さんも口元をニヤッと歪めて、

 

「地図、貸してもらえる? それと、刑事の立場」

「……それだけかい?」

「とりあえずは。……ダメ?」

「まさか――」

 

 

 

 

 

「喜んで、協力させてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ぐあ……あぁぁぁぁっ!」

「辻さん! しっかりして、右に流れています!」

「くぅ……っ」

 

 ヘリを発進させてしばらくは大丈夫だった。ヘリに何かが仕掛けられた様子はなく、そのまま快適な空の旅を(おっちゃん以外は)楽しんでいた。異変が起こったのは、それからしばらくしてからだ。

 時折、辻さんが目をこすっていたり、顔をしかめて目を細くしていたのは気になっていたが、突然顔を抑えて絶叫しだした。眩しくて目を開けられないと、

 

(クソ! このままじゃ墜落しちまう!)

 

「辻さん、ペダル操作!」

 

 瑞紀さんの声で我に返ったのか、流れかけてた態勢を取り戻す。けど、目が開けないこのままじゃあ……っ!

 

「毛利君! ヘリの操縦は出来るかね!?」

「出来るわけないでしょ!!」

 

 後ろでは高所恐怖症のおっちゃんはもちろん、目暮警部も焦っている。

 

「私が出来ます!」

 

 そんな時、瑞紀さんが声を上げる。

 

「辻さん、こちらに……コナン君。悪いけど――」

「大丈夫、少しはヘリの操縦は分かるから、移動させてる間はなんとか安定させるよ」

 

 それまで瑞紀さんの膝に乗せられていた俺は、操縦席に潜り込んで操縦桿を掴む。この身体だとペダル操作が難しいけど、少しの間なら可能だ。そして、辻さんと瑞紀さんが完全に入れ替わり――

 

「どうする、コナン君? とりあえずは大丈夫だけど」

「うん、早く辻さんを病院に連れて――いや、もうどこかに緊急着陸をしないと……っ」

 

 

――どうする! どうする!?

 

 

 そんな時に、胸の探偵バッジが機械音を上げる。これは――

 

 

『コナン! やっぱり何かあったか!?』

 

 

――浅見さん!

 

 

 思わずホッとしそうになるが、ここで安心している場合ではない。墜落の危険がなくなったといっても、辻さんの容態がどうなるか分からないんだ。

 

「所長! こっちは大丈夫ですが、辻さんの容態が変なんです!」

 

 俺の探偵バッジに向かって瑞紀さんがそう言うと、浅見さんは、

 

『おぉう、やっぱり何かあったか……』

 

 やっぱり、何かが起こることを予想していたんだろう。

 

「今からどこかに着陸させるつもりだけど……」

『そうなると思ってたよ。今、白鳥刑事に頼んで帝丹小学校の全校生徒を避難させた所だ。校庭を空けるようにな』

 

 帝丹小学校! そうだ、あの場所ならもうこの近くだ!

 

「瑞紀さん」

「えぇ、了解です!」

 

 瑞紀さんが進路を少し直すと、帝丹小学校が目視できる。浅見さんが言うとおり生徒は校門前に整列して待機していて、広い校庭の端にはキャメルさん、蘭と小沼博士、そして――サングラスをかけたままこちらに軽く手を挙げている、ワトソンが立っていた。

 




「そっかー、コナンが乗っちゃったかー」
(あ、落ちかけるな)


サブタイトルは今回使用したこれとは別に、『なお、使用されたヘリはカプコン製』のどっちにするかで悩みましたw


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026:【速報】ふなち、早くも説得を諦め、所長の無事を祈っている模様

 

 

「はぁ……水が美味しい。どうにか逃げ切ったか」

「蘭さん、本気で所長を気絶させるつもりでしたね」

「命を狙っていましたって言われても納得できるわ。ちくしょう、コナンと瑞紀ちゃんとは話しておきたい事があったんだけど……」

 

 ヘリコプターは無事に帝丹小学校の校庭に着陸。念のために呼んでおいた救急車に辻さんを乗せて、こっそり皆から離れようとした時、妙に嫌な予感がしてその場を飛びのいた。その瞬間――空を斬る音と共に尖った拳が俺がいた所を貫いたのだ。

 

「お願いだからじっとしていてくださいって言われてもなぁ。あんな殺気籠らせた目で睨まれたら逃げたくなるよ」

「痛くはしませんという言葉とも矛盾していましたね」

「あれだろ、痛みを感じる前に落としますって意味だったんだろ」

「……あぁ……」

 

 とっさにキャメルさんと一緒に車に飛び乗ってギリギリの所で逃げ切れた。怒ってはいるだろうなぁと思っていたけどあんなにブチ切れていたとは……片がついたら土下座しに行こう……。

 ともあれ、そんなこんなで今はファミレスにて一息入れている次第だ。おろ? 着信?

 

「? メールですか?」

「あぁ、白鳥刑事から……。目暮警部や蘭ちゃんに隠れてこっそり情報流してくれたわ」

「いい人ですねぇ」

「……佐藤と高木の両名が絡まなければな」

「? 何かあるんですか?」

「…………キャメルさん、今度一緒に警視庁に行かない?」

「丁重にお断りいたします」

 

 こやつ、ノータイムで断りやがった。

 危険というか厄介事を察知する勘がだいぶ鍛えられているようだ。所長として嬉しい限り……。よし、今度行く時は安室さんにキャメルさんの確保をお願いしよう。俺一人であのテンションはキツイし。

 

 ともあれ……なるほど、目薬に仕掛けがしてあったのか。……こりゃあますます村上とかいう奴じゃねぇな。妃先生の時もそうだけど、細かい所まで知りすぎている。となると、そいつの知り合いの中にいるっぽいけど……。誰だ? いや、そもそも俺は犯人と会っていない可能性がある。主人公はあくまでコナンで、そして恐らく本来の重大なサブキャラは小五郎さんだろう。村上の件といい妃さんが狙われたことといい、少なくともこの事件の中では重要なポジションにいると見ていいんじゃないかな。

 となると、コナンと小五郎さんがこれまで辿った道筋の中に犯人がいる可能性が高い。……とはいえ、二人に怪しい奴は誰がいますか? って聞いてもピンとこねーだろうし……。

 そもそも毛利さんは俺に動くなって言ってきそうだ。さっきは蘭ちゃんが問答無用で襲いかかってきたから呆気に取られていたようだけど……。あぁ、自業自得とはいえ胃が痛い……。

 

「とりあえず何か頼もう、腹に何か入れておかないと持たないわ」

「ですね、さすがに私もお腹が空きました……。カレーにしようかな」

「俺が奢るんです。好きな物頼んでいいですよ?」

「いえいえ、ここのカレーライスが絶品なんですよ。先日給料を頂いた時は、ついついここでレトルトの物を買い溜めしてしまって」

 

 え、そんなに美味いの? ここのカレー?

 とりあえず頼んでみて、味が普通だったら休日にキャメルさん連れてグルメ食べ歩きツアーを企画しておこう。そうしよう。さて……さすがにビールは拙いよな。…………いや、一杯くらいなら。

 

「おや? 久しぶりじゃないか、浅見君」

 

 そんな時、いきなり後ろから声をかけられた。目線だけ動かしてそっちを確認すると――

 

「……諸星さん?」

「少し遅めのランチかな?」

「えぇ、まぁ、そんな所です」

 

 いつも会う時は手に何も着けていなかったが、今は皮の手袋を着けている。以前も被っていたニット帽に黒いジャケット、そしてワンショルダーの肩ヒモをつけた、かなり大きなケースを背負っている。

 いつものあの薄い笑みを浮かべて、特になにも言わずじっとこちらの様子をうかがっている彼に、俺は口を開いた。

 

 

「先ほどこの店を出ていった家族。子供が持っていたおもちゃは?」

「仮面ヤイバーの小さなフィギュア。塗装が色褪せていたから、おそらくあの子の私物だろう」

「母親が付けていた指輪はいくつ?」

「二つ。結婚指輪と、恐らくは何かの記念か、小さなアメジストがついた指輪をネックレスに通してつけていた」

「俺の後ろ側、端っこのテーブルの客の数は?」

「4人。母親、祖母、そして子供二人。子供は男の子と女の子だ」

 

「……諸星大は偽名?」

「ああ」

「本名は?」

「それは答えられないな」

「…………なるほど」

 

 俺の質問に、ほぼノータイムですらすらと答えていく。観察力半端ねぇな。俺が分かった事以上の事まで答えていってる。ついでにと名前の事も聞いてみたけど、まさか正直に答えてくれるとは思わなかった。

 ん? あぁ、そういえば諸星さんが狙撃犯かもって話したっけか。キャメルさん微妙に顔が引きつってるけど……。

 ともあれ、これだけ観察力が高い人だ。他の能力も結構――いやかなり高いと見るべきだろう。んでもって本当に俺を撃った犯人で、かつ殺す気があるのならばとっくにここで撃っているハズ。というより姿を見せる必要はないはず……少なくとも今すぐ命のやり取りをする相手ではない、と。あ、忘れてた。

 

「あぁ、そうだ。これが最後の質問なんだけど――」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(な、なんで赤井さんがここに……。それに所長もなんであんなことを聞いて――)

 

 誰かが所長の所に来ているなと思って、注意をメニューからその人物にやった時――どういう顔をすればいいのか真剣に悩んでしまった。自分の本来の上司が――赤井秀一がそこに立っていた。

 それだけでも内心いっぱいいっぱいだったのに、今度は所長が赤井さんに色々な質問をしていく。

 先ほど出て行った家族についての質問はともかく、その後赤井さんの偽名については……赤井さんも堂々と答えてしまうし……。

 

(わ、私はどうするのが正解なんだろう……何も知らないふりをして……いやでも赤井さんの誤解を解かないと――)

 

「あぁ、そうだ。これが最後の質問なんだけど――」

 

 自分が葛藤している間に、所長が赤井さんに最後の質問と切り出してきた。この質問が終わったら、一緒に食事でもと誘って……いやいや、奢ってもらうのにそんな事を言い出すのは不自然だ。どうすれば――

 

 

「諸星さん、650m離れた所からライフルで人を撃てます?」

 

 

(…………え)

 

 

「あぁ、可能だとも」

 

 

(あ、赤井さん!!?)

 

 そ、そんな質問に答えたら! 所長は貴方を疑っているんで……そうか、それを知らないんだ。自分がもっと早く報告しておけば――

 

「……キャメルさん。席を詰めてもらえますか?」

 

 所長は自分にそう指示をすると、さっきまで自分が見ていたメニューを手に取り、そして赤井さんに差しだす。そして――

 

「ここの飯はそこそこ美味いらしいですよ。そちらの彼が言うにはカレーが絶品だとか」

「ほう?」

 

 赤井さんは、面白がるような目でこちらを見てくる。いや、赤井さんそれどころじゃないんですってば――

 

「ここは俺がご馳走しますから、なんでも好きな物をどうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「――長丁場になりそうですし」

「……ふっ。なるほど……ではお言葉に甘えよう」

 

 そして赤井さんは自分の隣に座りメニューに目を通している。……気のせいでなければ、少し楽しそうだ。テーブルを挟んでいる所長も。

 

(……なにがどうなっているんだ……)

 

 元々赤井さんの考えは読めた試しがない。後になってから『こういうことだったのか』と納得できるが、それまでは全く分からない。

 所長――浅見透もよく似ている。所長もどうしてその答えにたどり着くのか分からないが、気が付いたら重要な証拠を見つけたり、真実に辿りついたりしている。人に対しての観察力――人を見る目というべきか――に関しては、あのずば抜けて優秀な安室さんですら『理解するのを諦めた』と匙を投げるほどだ。

 確実に分かる事といえば、二人とも信じられないほどに優秀だという事だけだ。

 

 よく分からないが、……本当によく分からないが今の所二人は意気投合している――様に見える。

 なら、深く考えても仕方ない。これ以上考えると胃が痛くなりそうだ。いや、痛い。所長の言葉を信じるのなら長丁場になるという。そんな時にこんなコンディションでは参ってしまう。そうだ、これは自己防衛というものだ。

 

「お待たせいたしました。ご注文は何になさいますか?」

「…………カレーライス。サラダセットで」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「君がわざわざ訪ねてくるとは……一体、どういう風の吹き回しかね? バーボン」

「いえ、最近貴方とお会いしていなかったので、いい機会ですし親交を深めようかと……」

「ほう? 独断専行の多い君にしては殊勝な心がけじゃないか。まぁ、確かに君とは最近会えてなかったな」

 

 組織の重鎮にして、『あの方』の側近――ピスコ。安室の目から見れば成金趣味にしか見えない応接室で、彼はその老獪な男を相手にしていた。

 

「いつもあの事務所の仕事にかかりきっているおかげで、中々会えないからねぇ」

「えぇ、事務所も盛況でして、自然に抜けるのが難しくなってしまっています」

「ふむ、余裕がないくらいに仕事を入れているのか……浅見透という男、話に聞く程有能ではないようだな」

「ハハ、おっしゃる通りで、おかげで苦労しています。……マスコミにも注目されていますし、本当に予想外の事ばかりです」

 

 見た目は質素だが、かなり座り心地のいいソファに腰をかけたまま安室は笑みを浮かべたまま雑談に興じている。――その内心は別にして、だが。

 

「そういえば、今現在の浅見透の動きが不透明だが、どうなっているのかね?」

「えぇ、それが……つい先日の話ですが銃撃に遭い……一応マスコミには混乱を防ぐようにと伏せていますが、彼は入院しています」

「ふむ? なるほどなるほど……腐っても有名な探偵事務所。恨みだけはたくさん買っていると……どうかね、バーボン。そろそろ彼には見切りをつけてこちらに戻ってきては? 君には大きな仕事を任せたいと思っている」

「それは魅力的な提案ですが……申し訳ございません、まだやり残している事が残っておりまして」

 

 差し出されたお茶に口をつけた安室は、至極残念だという風に首を振りながらそう言う。

 

「やり残している事?」

「あの事務所は警察とのつながりが非常に強いので、今の内にやっておきたいことがたくさんあるんですよ」

「ほう……具体的には?」

「そこは、仕掛けが終わってからの楽しみという事で……」

「くっくっ、相変わらずの秘密主義か」

 

 ピスコは、老獪な笑みを浮かべたまま安室との雑談を続けている。

 安室が最も嫌いな笑みだ。静かに己の顔に張り付け、その下を見せない仮面の笑み。

 実質、社会に出る――いや、誰かと関わる以上誰もが持つ物だが……質が――匂いが違うと言えばいいだろうか? 安室に取っては鼻につく物だった。

 

「どうかねバーボン? 君のコードネームには合わないが、なかなか質の良いワインが手に入ったんだ。よければ一杯?」

「――是非」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(バーボン。才気に溢れる麒麟児だが――まだまだ若い)

 

 先ほどまで彼が座っていた席。そこに残された空のワイングラスを眺めて、ピスコは静かに先ほどの短い会話を思い返していた。

 

(会話としては、私の言葉を肯定して浅見透をけなしていた。が、ただの雑談にしても、報告にしても過剰すぎる肯定。……組織への忠誠は知らんが、彼の気持ちはあの探偵事務所にかなり傾いていると見ていいだろう)

 

 彼に馳走したワインはまだ残っている。自分のグラスにそれを注いで、少し口に含む。程良い酸味と風味が、頭の動きをなめらかにしてくれるのだ。

 

 今回バーボンが自分の元を訪ねてきたのは、大方あの狙撃が組織の命令だったのかどうかの確認だろう。普段ならばぶれることのない体幹が僅かに乱れていた。恐らくカルバドスに命じたあの狙撃から、ほとんど休みを取らずに動き回っているのだろう。それだけで、バーボンが浅見透をどれだけ大事にしているかが透けて見える。

 

(あの麒麟児をそこまで突き動かす、もう一人の麒麟児。こちらは能力ではバーボンに劣るが、こと話術と交渉においてはなかなかどうして……。)

 

 長く生きた分、多くの人間を見てきたという自負はある。だが、浅見透のような男は初めて目にする。

 言葉では説明できないが、あえて一語でそれを表すとすれば――矛盾。天真爛漫にほとんど飾らず、あるがままに振舞う――だが強かな男。自分にとって欲しい物をかっさらっていくあの才能は……なるほど、鈴木次郎吉が手元に置く訳だ。

 あれは凡人に好まれ、良くも悪くも才人の注意を引き続ける男だ。それがあの事務所の多様な人材を集め、広がり続ける人脈を形成している。やっかいだ。実にやっかいだ。

 

(さて、出来る事ならば麒麟児達の勢いは削いでおきたい。いずれは大きな邪魔になるだろうあの事務所自体も……すでに私の持っていたルートもいくつか削られてしまった。これ以上被害が大きくなることは防ぎたい)

 

 だが、その手段をどうするか。今日の様子によってはバーボンというカードを切ろうと思っていたが、あの様子だと殺した振りをして匿う可能性がありそうだ。理想を言えば、バーボンにその行動を起こさせ、あの男を匿わせた後で現場を抑えるというのがベストなのだが……。

 

(奴はベルモットとつながりがある。噂ではベルモットもあの男を気に入っているとか……。可能性は低いが浅見透を救うために、あるいはあの女狐までが動くやもしれん)

 

 そうなると少々面倒なことになる。ただでさえあの女は厄介なのだ。

 

(さて、最善となる一手。どの駒を、どこに打つべきか)

 

 時間はまだある。焦る必要などどこにもない。

 今はこの程良く冷えたワインを楽しむ事にしよう。

 傍に控えている女性に注ぎ終えて空になったボトルを渡す。

 

「そのうち、君にも動いてもらうよ? 明美君」

「…………はい」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「アクアクリスタル? 聞き覚えがある名前ですが……」

「あぁ、でしょうね。ここ最近ニュースでやってたから」

「ニュース……あぁ、思い出しました。確か今度新しくオープンする海洋娯楽施設の名前でしたね」

「そのニュースなら俺も見たな。旭勝義という実業家が主導しているとか……。なるほど、『旭』か。確かに九が名前に含まれているな」

 

 新たに加わった諸星さん(仮名、もとい、偽名)も含めて三人でファミレスで食事を取って、これまでの流れを説明している時に、白鳥刑事からメールが来た。

 小五郎さんの友人で『8』が名前に入っているというソムリエさんの家に行っている時に、旭さんの名前が出たらしい。その『8』の人――沢木 公平さんという人も招待されていたという事で、旭さんが待つアクアクリスタルに向かうそうだ。……『8』と『9』が名前に入っている人が揃う。……揃うのはそれだけか? 襲われた人間は今の所、目暮警部、妃さん、阿笠博士、俺――は、とりあえず除いて辻さんの4人。長編小説なら前後編に分かれていてもそろそろ最後の山場に来るんじゃないかな? ……って、さすがにそれだけだと断定できないか。

 

(森谷の時は、コナン――工藤の誕生日っていう明確なフラグがあったから想定しやすかったけど……)

 

 なんにせよ、これで現場に数字が入っている人間が揃えばラストステージと見ていいんじゃなかろうか? ……そうだな、あれだけデカい施設が舞台になるというのも十分なフラグだろう。

 

「さて、これからどう動く? 名探偵」

「やめてくださいよ諸星さん。話してて分かりますけど、推理力も観察力も貴方の方が確実に上ですよ」

「そうかな? 君は、俺とは違う視点で見ている様に伺える。俺が気にする所と、君が気にする所は随分と違うからね」

「ははは……」

 

 やっべぇ、この人の観察力マジぱねぇ。今まで自分の視点を気づかれないようにフェイントかけたり視線誘導するのは大体容疑者がいる時だけだったけど、これからはもっと注意したほうがいいかもしれない。

 

「ともあれ……諸星さん、どう思う?」

「そうだな。君が推理した通り、犯人は被害者の候補となっている人間の中にいる可能性は十分にあると思う」

 

 とりあえず、白鳥刑事から教えてもらった話をまとめると、主に新しい登場人物は名前に数字が入った人ばかりということ。その線で捜査しているから当たり前だが。

 

 辻さんの時から、コナンも白鳥刑事と一緒に行動しているらしいから、手に入った情報も基本的には同じはず。その前の時の情報が少し気になるが……今は置いておこう。

 そうなると、犯人になり得る人物は狙われている数字が入った人間と見ていいだろう。

 

「そうなると、犯人は9から先の人物の中に紛れているということでしょうか?」

「ふむ……今まで狙われて命を取り留めた人間はどうだ?」

「カモフラージュでわざと、ですか? ……俺からの視点で言えばないですね」

 

 ほとんどが知り合い――加えていわゆる主要人物っぽいからというのが理由だが……理由づけが難しい。辻さんは死亡する確率が高いものだったし、全米オープンには参加できなくなっているから除外してもいいと自信を持って言えるが……。

 恐らく、俺が内心困っているのをなんとなく察したんだろう諸星さんがニヤッと笑っている。いつぞやの安室さんを思い出したぞこの野郎。

 

「そうか……君がそう言うのならば、それでいいんじゃないのかな? ところで」

「?」

「ずっと気になっていたんだが、その腕はどうしたんだ?」

「あぁ、撃たれました」

 

 そういうと諸星さんはすっげー面白そうに声をあげて笑いだした。なんでやねん。

 そしてキャメルさんは頭を抱えていた。なんでやねん。

 

「そうか、撃たれたか。それは大変だったな」

「いや全く。こうして撃たれたのは初めてですけど……まぁ、貴重な体験でした」

 

 実際撃たれると、最初は全く痛くないんだな。いや、俺がボーっと油断していたせいもあっただろうけど。気が付いたら痛み――というか熱が一気に来る。あの感覚は正直忘れられそうにない。

 悪くない体験だ。遅かれ早かれ銃持った相手と相対することもあるだろうし、今にして思うと――うん、本当にいい経験だった。

 だからなんで諸星さん楽しそうなん? 俺が撃たれたのがそんなに楽しいかこの野郎。

 

「……君は、俺が撃ったと思っているのだろう?」

「今は違いますが……えぇ、まぁ、重要参考人といったところでしょうか。……今だから分かりますけど、諸星さん、常に高所からの視界なんかを気にしていますよね。それに、手に大型の銃を扱い慣れた人特有の型が付いていますし」

「ほう、さすがだな。手の型で分かるとは……ライフルを扱う人間を見たことあるのか?」

「たまに……基本はいつも拳銃使う人でした」

「だろうな。ついでに言うなら早撃ちが得意のようだが?」

 

 そういう諸星さんは、今度は俺の手を見て頷いている。うん、貴方なら分かりますよね。

 

「まぁ、そんな所です。――さて、それじゃあそろそろ行きましょうか」

 

 さて、とりあえず腹ごしらえはおしまいだ。……ビール飲めなかったけどしょうがない。

 諸星さんは例のケースを背負う態勢に入っている。キャメルさんも車の鍵を取り出して、やる気満々といったところだ。

 

「行き先はアクアクリスタルでいいのか?」

「えぇ、さっさと序幕は引いちゃいましょう」

 

 

 

 

「この事件が終わった時が、本幕が開く時です」

 

 

 

 

 




やっぱり組織の人間出すと筆が進みますわwww


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027:佐藤刑事の携帯に着信が入りました (副題:水面下の暗躍)

今回出番のない人の話ですが、検察のマドンナこと九条検事、一度作画が変わってすごくかわいい容姿になりましたが、自分は普段のお姿にも興奮します(何)

久々に可愛い方の九条検事みたけどこっちもまた可愛くていいなぁ。
当作品では、皆さんのお好きな方でお楽しみくださいw
(活躍させたいのですが、まだ出番が決まってないという……orz)


「やはり来たか。そろそろだと思っておったぞ、安室君」

「お久しぶりです、相談役」

「そんな堅苦しい呼び方などせんでいいわ。お主も透同様、儂にとっては身内同然。透のように次郎吉さんでいいぞ?」

 

 冗談めかして――いや、恐らくは本気でそう言う鈴木相談役の笑顔に迎えられながら、俺は促されるまま席に着く。

 あの老人とは違う。この空気は……なんというか、すごく合う。

 

「うちの副所長達は大丈夫ですか?」

「透との約束があるからの。まぁ、割と自由にさせてはいるが……強いぞ、あの娘っ子達は。待つ事も戦いの一つであることを心得ておる」

「えぇ。我らが副所長と、ムードメーカーですから」

「うむ。……まぁ、事が終わったら透は八つ裂きにされるやもしれんが……」

「そちらは問題ありません、良くあることですから」

「……そうじゃのう」

 

 まったく、アイツも本当に懲りない奴だ。関わった案件で、誰かが傷つきそうになったら身を張って止めて、副所長に心配されて怒られて――ついでにいうとそう言う時に限って美人と関わるから彼女も機嫌が悪くて……本当に、我らが所長と来たら……

 

「相談役。多分ですが、相談役自ら、例の狙撃事件に関しては独自の手を使って調べているのではないでしょうか?」

「うむ、儂を訪ねてきた理由はやはりそれだったか」

「えぇ。警察からの情報は、知り合いから回してもらっていますが……恐らくこの事件、それだけでは情報が足りないかと」

「……やはり、いずれかの企業か組織が裏にあると思うか?」

 

 やはり鈴木相談役も調べていたか。この人の性格からして、大人しく座して待っているとは思えなかったが……当たりのようだ。

 

「まだ分かりません。ですが、狙撃距離から考えて、かなり精度のいいライフルとスコープ、そして当然それを使いこなせる腕を持つ人間が必要です」

「人はともかく、物は海外から来たと考えるか?」

「断定はできませんが……」

 

 ピスコは過剰なまでに浅見君をけなしてこちらの反応を窺っていた。あのあからさまな態度は、『組織を裏切るつもりじゃないだろうな?』というメッセージにも見えるし、あるいは『浅見透から距離を取れ』という意味に取れる。――少し揺さぶりをかけてみたが、全てのらりくらりと逃げられてしまった。

 今の所一番怪しいのはあの老人だが、断定は難しい。そして、これ以上の揺さぶりもまた難しい。

 

 ……あの老人はやっかいだ。彼自身も少々やっかいだが、一番の脅威はピスコが育てた子飼いの連中だ。有能な人間も多くいるし、特にアイリッシュというコードネームを与えられた奴はかなり優秀だと聞いている。

 より詳しい情報を得るならベルモットの協力を得るという手段もあるが、個人的に可能な限り彼女の助力は最低限の物にしておきたい。現段階では。

 雑な物言いだが、今は勘を頼りに動いてみよう。瀬戸さんも、警察や毛利探偵と一緒に例のトランプ事件の中枢に近づきつつあるという報告は受けている。瀬戸さんは信頼できる娘だし、あのコナン君と一緒だとなれば大丈夫だろう。彼女から見て、少々ナーバスになっているようだが……。

 

(……君は、すでに多くの人間に影響を与える人間なんだ。気をつけろよ……)

 

 撃たれるなとは言わない。一度狙われれば完全な回避は難しいし、彼の性分から大人しくしている事も出来ないだろう。せめて――せめて生きてくれれば……。

 

「調べさせたのは信頼できる者だけだ。外部には漏らさんように厳重に言いつけておる」

 

 相談役が用意していたファイルを受け取り、パラパラっと見てみる。推測される狙撃地点周辺での不審人物の目撃情報。銃刀類を含むの密輸ルートと思われる不自然な流通のリストなどなど、事件に関係あると思われる事象を片っぱしから調べたリストだ。

 この短時間で、しかも少人数でここまで調べるのは大変だったろうに……。

 

「少しはお主の手助けになるかの?」

「少しどころではありません。大変参考になる資料です」

 

 この人も裏でこっそり動いてくれていたんだ。本当に頭が下がる思いだ。ケリがついたら、浅見君と一緒に頭を下げに来よう。……彼が色んな意味で無事ならば、だが。

 

「本当にありがとうございます、相談役――いえ、次郎吉さん。早速ですがこれを頼りに捜査を進めようと思います」

 

 深く頭を下げると、「頭を下げる必要などない」と笑って一蹴された。本当にこの人は……。

 

 思わず口の両端がつり上がる。ピスコが謀略でのし上がった男ならば、この人は純粋な行動力でのし上がった男だ。ピスコは敵を可能な限り作らないように動いていく。事実、権力欲からの闘争はもちろんあるだろうが、上手い事直接的な闘争は避け、己の手を汚さずに玉座を守るだろう。

 

 対して鈴木次郎吉は、力を振りかざすことはあっても、必ず姿を見せて突き進む男だ。ピスコと比べると敵を作りやすいだろうが、同時にピスコとはまた違うカリスマを備えている。

 優劣を競う訳ではないが――安室透は、降谷零は、そんな次郎吉がどうしても嫌いになれないのだ。

 逆に言えば、ピスコ――枡山憲三はどう頑張っても好きになれないのだが……。

 

「あぁ、安室くん」

「? なんでしょうか?」

 

 もう一度軽く頭を下げ、この場を去ろうとした所を呼びとめられ振り向くと、相談役がいつもの豪快な笑みではなく……真面目な笑みと言えばいいのだろうか。そんな笑みを浮かべて静かに、俺に向けてこう言った。

 

 

「身体は、労わるようにな?」

 

 

 

 

「…………はいっ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「コナン君、この場に集められた人達って……」

「うん。瑞紀さんも気づいた?」

「うん……一応」

 

 全自動のモノレールに乗って海洋娯楽施設『アクアクリスタル』へと到着した俺たちは、モデルの小山内奈々が、料理エッセイストの仁科さんに対して「紹介していた店が不味かった」と文句をつけているのを尻目に瑞紀さんと話していた。

 

「招待主の旭さんの『九』、ソムリエの沢木 公平は公の字の『八』。モデルの小山内さんは名前がそのまま『7』になる」

「宍戸さんも『六』が入ってますし、5は毛利探偵、ニュースキャスターのフォードさんにも『4』の数字が入ります……仁科さんが『二』だとして……3と1は?」

 

 そこまで揃えば全ての数字が揃う事になるが……。

 

「……3なら、僕じゃないかな?」

「え?」

 

 3の数字が入る人間について考えていたら、いつの間にか傍に来ていた白鳥刑事がそう言った。

 

「白鳥刑事の名前って?」

「あぁ。僕の名前は任三郎だから」

 

「……白鳥」

「……任三郎」

「あぁ。……なんだい、二人とも変な顔をして」

「「いや(いえ)、別に」」

 

 でも、そうか……その可能性があったか。

 

「コナン君。ひょっとして所長が3だと思ってた?」

「……浅見の『浅』のさんずい、あるいは右上の部分が漢数字の三になるからね。ひょっとしたらって思ってた」

「……コナン君、今は所長の事は考えないようにしよう? 大丈夫、銃弾どころか爆発に巻き込まれても平然としてそうなのが所長だよ?」

「あぁ、でも……多分浅見さん、ここに来るよね?」

 

 白鳥刑事が誰かにこっそりメールを送っていたのは分かっていた。警察関係者――例えば佐藤刑事かとも思ったが、それならあんなにコソコソやる必要はない。多分、情報を回していたのは……

 

「白鳥刑事が所長に情報流してるから……多分」

「…………まぁ、君達には気づかれていると思ったけど。あぁ、浅見君にいくつか頼まれていてね」

「いくつか?」

「あぁ、今回の事件に関係する情報を出来るだけ流してくれという事。それとコナン君に瀬戸さん、そして蘭さん、君達の事をね」

「え……僕達と――蘭ねーちゃんの事?」

 

 白鳥刑事が軽く頷き、

 

「あぁ、もし浅見君本人が君たちの傍に居れなかった時、出来るだけでいいから力を貸してやってほしいと。そして蘭さんについては……どうもいつもと様子が違うようだからこちらもよく見ておいてほしいって……。彼女に関しては僕に責任があるからね……」

 

 確かに、蘭がこれだけ今回の事件に執着しているのは、あの時白鳥刑事が話した村上との一件があるからだろう。

 署から逃走しようとした村上が、蘭のお母さんを人質に。おっちゃんは、腕に自信があったのか拳銃を発砲。それは村上には当たらず、蘭のお母さんの足に当たり負傷させてしまった。その後すぐにもう一発発砲して村上を確保。蘭のお母さんも怪我は大したことはなかったが、その後二人の別居が始まり――おっちゃんも人質がいるにもかかわらず発砲したのが問題になり、追われるように刑事を辞めてしまった。

 

 恐らく蘭は、お母さんを撃ったおっちゃんに不信感を覚えているのだろう。そしてその結果、また多くの人を巻き込んでいることでじっとしていられないのだろう。……最近、本当の兄みたいに慕っている浅見さんが撃たれたのも、それを手伝っていると見える。

 

「蘭ちゃん、所長が逃げた後少し泣いてましたものね。男って勝手なことばかりするって」

「……蘭」

 

 俺がコナンになってから、自惚れかもしれないが、蘭は人がいなくなることに少し臆病に――そして敏感になっている節がある。蘭のお母さんとおっちゃんの間を取り持とうと計画する『作戦』の頻度が上がっているのもひょっとしたら……。

 

「コナン君、君がそんな顔しちゃダメだよ。ちゃっちゃと事件を解決して、笑顔で蘭ちゃんを元気づけてあげよう? 大丈夫! 私と君、それに白鳥刑事がいるのならこんな事件どうにかなるよ!」

「……瑞紀さん」

 

 浅見さんが撃たれてからというもの、『奴ら』の影がちらついて全く集中できていなかった。そんな時、手掛かりを見落とさず、重くなりそうな空気をどうにかしながらずっと助けてくれたのは、瑞紀さんだ。

 

「……ありがとう、瑞紀さん」

「いえいえ! ヘリの時も言いましたけど、安室さんからこちらの事件を任されていますから!」

 

 胸を張ってそういう瑞紀さんはどこまでも明るい。本当に、どれだけ救われたことか……。

 

「とりあえず、場の空気ちょっと悪いみたいだし、飲み物でも持って来てから少しずつ話を聞いていくっていうのはどうかな?」

「その案、いいね」

 

 俺の言葉に同意してくれた瑞紀さんが、皆が座ってるテーブルの方に歩いていって、『皆さん飲み物はどうですか~?』と聞きに行っている。そういえば、下笠さん達に使用人としての教育を受けてたっけ。マジシャンの仕事が入っていない時、たまに下のレストランでメイドの格好して給仕をしているらしい。

 

 うん、よし、気持ちを切り替えよう。浅見さんは大丈夫だ。少なくともキャメルさんが一緒にいて、ある意味であの人最大の武器である車もある。よほどのことがない限り、危険から逃げることは難しくないはずだ。

 

「あ、瑞紀さん、僕も手伝うよ!」

 

 これ以上犠牲者は出させねェ。絶対に!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「まさかもう抜け出していたなんて……撃たれたばっかりなのに!」

「あぁ……あの男の行動力でもさすがに、と考えていたが……」

 

 浅見透という最大の障害を一時的にとはいえ行動不能にした――と思い、ちょうどいい機会だと探偵事務所の方に探りを入れたが……異常なセキュリティレベルの高さに断念。鈴木財閥関係のセキュリティ会社もいたし……あれは窓ガラスを防弾仕様にしているようだ。さらに床や窓が二層構造になっていて、その間に何かの音が流れる仕掛けが施されていて、高精度のレーザーマイクロフォンやコンクリートマイクでも中の様子を外部から探るのは不可能だった。変装が得意ならば、作業員の中に紛れ込んで盗聴器を仕掛けることも出来たが……いや、彼やその周りのスタッフが相手なら、証拠が残る方法は危険か……。

 

 ともあれ、中にいた双子のメイド――なんでメイド? 趣味かしら?――の下笠さんから、知っているつもりだった浅見君の現状を聞いて、入院している病院の場所を聞いたという状況を手に入れようと思っていたのだが……。彼女達から、すでに意識を回復して病院から抜け出したということだった。

 

(CIAの方の仲間が少なくなったこの瞬間を狙っての行動。仲間も撒かれたようだし、その情報を手に入れるにも現状カルバドスと行動を共にしている以上、どうしても状況の把握に誤差が出てしまう。――これが計算されていたものならば……いや、仮定で思考を組み立てるのは危険ね。あのピスコやバーボン、ベルモットが認める男だ。全てが彼の掌で踊らされている位に考えていいわ)

 

 恐らくカルバドスも同じ考えなのだろう。最悪、組織を隠れ蓑にバーボンに手配をしてもらって事務所の人間を誰か拉致。情報を無理矢理引きだそうかとも考えたが――

 

「浅見透の行方が分からない今、うかつに事務所に手を出せば痛い目を見るな」

 

 カルバドスの言葉を信じるならば、彼はあの長距離の狙撃を察したうえで、ピンポイントでどこに弾丸が来るかを理解して一番ダメージの少ない部位であえて受けたとのこと。信じられない神業だが……やはり、彼ならばあり得ると思ってしまう。――今思えば、油断していた。彼の普段の様子に惑わされてはいけないと、いつも言い聞かせているのにまたやってしまった。……彼は本当に、人の隙を引き出すのが上手い……。

 

「えぇ……。それにしても、撃たれてからすぐに行動を開始するなんて、呆れた行動力ね。彼、今なにをしていると思う?」

「……普通に考えれば、狙撃犯。つまりは俺を探しているだろう。例の連続殺人未遂事件の方を追っている可能性もあるが……いや、奴の思考パターンならむしろ……」

 

 カルバドスは、彼が所有している銃火器のメンテナンスを続けながら言葉を続ける。

 

「銃の入手経路などに関してはダミーを張り巡らせている。相当な数だ、そうそう足は付かないだろう。鈴木財閥に所属している調査機関がいくつか調べているようだが、奴らが調べているのは組織的なルートだしな……」

 

 分解した銃をパーツごとに磨いている手は止めず、だが言葉は少し止め、少し経ってから彼は呟く。

 

「――だが、奴は何らかの形でこちらに気づくだろう。仮にバーボンが何か手を回してくれたとしても……」

 

 仮に、か。やはりカルバドスもこう考えているのだろう。バーボンが、浅見透が関わる組織――事務所ではない。例の、公安と繋がりが見られる未だに姿が見えない組織と関係しているのかもしれない、と。

 傍から見ても、浅見君とバーボンの間には強い信頼関係にあるように見える。本人は『演技も疲れますね』と愚痴っているが、私にはその言葉こそ演技に見える。根拠などない、ただの勘だが……。

 

「……キール」

「? なに、カルバドス?」

「この任務から手を引け。そして、出来るなら日本を出ろ」

「――え」

「嫌な予感がする」

「……浅見透が私達に対して反撃の用意をしていると?」

「それもあるが、――ピスコだ」

 

 彼が愛用しているショットガン、その銃口を掃除している手を止め、ついに身体ごと私の方を向く。いつも何を考えているか分からない無表情が、この場の真剣味を増している。

 

「……彼が、どうしたの?」

「奴もこの組織の重鎮。保身と利を得る事には長けた男だ。そうでなければとっくに消されている」

 

 言っている事は理解できるが、それがなんだろう? 浅見君の狙撃の件を、彼にやらせたことを言っているのか?

 

「狙撃もそうだが、浅見透の動きを阻害しようとするのは奴の保身のため。……なら、利はどこにある?」

「……貴方はどう考えているのかしら?」

「分からん。何も。何もだ。……だからこそ、分かることもある。奴が何かを隠しているという事が、な」

 

 カルバドスは、ケースに弾丸を込めて蓋をする。出かける準備は出来たようだ。

 

「……貴方は、これからどうするの?」

「なんにせよ、浅見透は行動に出ている。このままでは我々の存在に追いつく可能性があるだろう。そうでなくても、意図こそ分からんがピスコに利用されている可能性がある。ならば――」

「……消すの? 浅見君を……」

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「会長にお会いしたいというお客様が来ておりますが……」

「私に……学生かね? 明美君」

「えぇ」

「そうか、ようやくたどり着いたか……うんうん、通しなさい」

「……はい」

 

 老人――ピスコが自分とは別の秘書に命じるのを横で見ながら、私は答えの出ない思考の迷路にまた足を踏み入れている。

 厳重な監視をつけられたまま、ピスコの管理下に置かれてどれだけたっただろう?

 

(……志保。貴女はまだ、あそこにいるのかしら)

 

 妹は優秀だ。薬学の知識で妹の右に出る者はいない。組織からしても、彼女はなんとしても手元に置いておきたい人間だろう。……私が大きな功績を残せば、妹と一緒に組織を抜け出す事を許すと言ってはいたが……そんな口約束、信用しろという方が無理だ。私は、仮に大きな功績を上げられたとしても……多分、殺されるだろう。私が死んだと分かれば、あの子は必ず組織に反抗するだろう。……利用価値があるあの子が殺されるとは思わないが……いや、それは楽観的だ。殺されるかどうかは、いい所半々と見ておくべきだ。

 

(……浅見透。噂ではコードネーム持ちの幹部が数人がかりでも尻尾一つ掴めない存在)

 

 あの優秀な妹だ。ひょっとしたら組織から逃げる事ができるかもしれない。ただ、一人で逃げ続ける事など不可能。あの子には、仲間が必要だ。あの子が一人ぼっちにならないように。寂しくないように。……そしてあの強がりの彼女が、頼る事が出来る人――

 

(浅見さん。もし、もし志保が貴方に関わることができたのならば……)

 

 100万程度じゃ安すぎる事は重々承知している。それでも、あの時持ち出せるお金はあれが精一杯だった。

 そして、思いつく場所もあそこしかなかった。思いつく人は貴方しかいなかった。志保を守ることができる場所は……

 

――コン、コンッ……

 

「あぁ、入りたまえ」

 

 ピスコがそう言うのに合わせて、私がドアを開ける。すると、そこにいたのは先ほどの秘書と、眼鏡をかけた男の子がいた。

 

「あ、あの、わざわざお招きいただき、ありがとうございます! ぼ、僕は――」

「あぁ、そんなに固くなる必要はない。言葉遣いもね。さぁ、そこにかけなさい」

「は、はい! しし、失礼します!」

 

 固くなるなと言われても無理だろう。大企業の会長が目の前にいるのだ。……しかし、就職活動中の学生にしては若すぎる。……高校生くらいだろうか?

 私は用意していたお茶をそれぞれに差し出し、後ろに控える。

 

「さて、聞きたい事があるそうだが?」

「え、えぇ……先日の日売テレビでの特集番組についてなんですが……」

「ふむ?」

 

 ……嫌な感じだ。

 好々爺を装っている時のこの男は、陰で何かを進めている時に間違いない。だが、この男の子がなんだというんだろう? どう見ても普通の男の子なのに……。

 

「同局のアナウンサー、水無怜奈が取材に来ていましたよね? 実は、お聞きしたい事とはその事なんですが……」

 

 男の子は、持ってきていた鞄から写真を取り出しピスコに渡した。それを見たピスコは――

 

(今……笑おうとしたのを我慢した?)

 

「ふむ、若い時の水無怜奈に見えるが……これがどうかしたのかね?」

「その……実は……」

 

 口ごもる少年に対して、ピスコは好々爺の仮面をかぶったまま口を開く。

 

「少し長くなりそうだね。二人とも下がっていなさい。……あぁ、そうだ。君の名前は何と言ったかね?」

「は、はい。本堂、本堂瑛祐といいます」

「ほう、そうかそうか君の名前は――」

 

 私達がそこにいないように会話を続ける二人に一礼してから、部屋を立ち去る。

 部屋を出てから、ドアを閉じるその時、隙間からそっとピスコの表情を覗き見る。……ほんの一瞬だけ、あの仮面が外れた瞬間を――

 

 

 

 

 

 

「本堂というのか……良い名前じゃないか」

 

 

 

 

 

 

「――本当に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




珍しく主人公お休み回。

なお、佐藤刑事に電話をかけたのは……


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028:下笠姉妹はレストランの方で活躍中

「それで諸星さん、今の所異常は?」

『今君がいる地点、そして例の施設に向かうモノレール、到着口の向こう側、各地点に対して有効な狙撃ポイントをそれぞれ順に一通りチェックしたが、誰かが潜んでいる痕跡はない。もっとも、下見に来ただけという可能性は十分にあるが……』

「……やっぱり、それぞれの事件は別と考えていいか。それじゃあ、引き続き警戒をお願いします。こちらは今から、キャメルさんと一緒にモノレールに乗って内部に入り込むんで」

「……皆さん、きっといますよね?」

「えぇ、多分」

「……蘭さんも……ですよね?」

「祈ってください。お願いですから」

「所長の冥福をですか?」

「おい」

 

 どうしたのキャメルさん急に擦れちゃって。ついさっきまでの素直で素敵な貴方はどこにいったの? ……俺のせいですかそうですか。うん、なんか本当に俺のせいな気がする。なんかごめんなさい。

 ファミレスでのやり取りあたりから少しずつ雰囲気変わってたけど……あれか、狙撃犯候補の諸星さんと相席とかしたから心臓に悪かったのかな。そう考えると悪い事をした気になる。

 

 あの後諸星さんとは別行動を取り、彼には狙撃手を警戒してもらっている。

 ねぇ、諸星さん。電話の向こうで静かに笑ってるの、微妙に聞こえてるんですが……。

 

『なんにせよ、気をつける事だ。ここで君が倒れると俺にとっても面倒でな……』

「そうやって利害関係を口にしてくれると、こちらとしても楽でありがたいです」

 

 たとえば枡山会長とか、ガチドSモードに突入した朋子さん――鈴木会長夫人とかだと、表向きはにこやかでもどこかで言質を取ろうと会話振って来るから料理も酒も味が分からなくなるんだよな……せめて笑顔だけは壊さないようにして言葉を最低限にして応対してるけど……。

 

「まぁ、色んな事はさておき……」

 

 

 

「背中は任せますよ。……『今』は」

『あぁ。――任せてもらおう』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 やっぱり、犯人はここで片をつけるつもりだ!

 未だに水槽の中に浮かぶ『9』を示す標的――旭勝義さんの遺体を睨みつけながら、俺は舌打ちをした。

 

 今は俺と蘭、瑞紀さん、そして恐らくは次の標的だと思われる小山内奈々さんの4人でエントランスに残っている。残る人達は、どこかに脱出できる出口がないか探しまわっている。

 

(正面玄関も封鎖され、今の所見つかっている非常口は全部セメントで固められている……)

 

 本音を言うなら、今すぐにこの場を抜け出して脱出口を探しに行きたいが、次の標的かもしれない奈々さんと蘭を置いていくわけにはいかない。

 

「ねぇ、コナン君」

「ん?」

「そもそもこの事件、本当に村上丈の犯行だと思う?」

「…………」

 

 そうだ、そこが最初っから引っかかっていた。

 村上丈が犯人だとするのならば、出所してからの短い間に目暮警部のジョギングコースや妃さんの好物。そしておっちゃんが仕事で応対した人間までわざわざ調べ上げた事になる。……それに、辻さんの目薬の事やヘリで飛行する事まで……そんな事が可能なのか?

 だが、村上が犯人じゃないとしたら……

 

「……もし、本当に恨みを持っている犯人ならば、親しい目暮警部や妃さんを生かしたまま、見逃すわけがないよね?」

「……もっとも確実に殺そうとしたのは、ヘリを墜落させて殺そうとした辻さん、そして、多分犯人が直接殺した旭さん……」

「……今思った事なんだけど」

「? なに、瑞紀さん?」

 

「――ABC殺人事件って読んだことある?」

「そりゃあまぁ。ミステリーファンなら基本中の基本――」

 

 当然だ。クリスティの作品でも評価が高い作品。イニシャルがAA、BB、CCの人達が次々と殺されていく事件。その連続殺人の真の狙いは――

 

「――なるほど。そういう事か」

「どう? ヒントになったかしら?」

「あぁ……それに、今思い出した事があるんだ」

「思い出した事?」

 

 思い出した事は二つ。一つはディーラー時代の村上の写真。あの写真の中で、村上はトランプを『左手』で配っていた。そして、あの時阿笠博士を狙っていたバイクの男。あの時奴は、右手でボウガンを構えていた。つまり、この連続殺人の犯人は村上じゃないという事になる!

 

「なるほど、利き手が違うか。……確定だね」

「あぁ……。でも瑞紀さんも凄いよ。どこで気が付いたの?」

「ううん、私じゃないのよ」

「え?」

 

 瑞紀さんは、ポケットからピンクの可愛らしい携帯を取り出すと、あるメールを開いてこちらに見せる。受信者は当然瑞紀さん。送信者は……あぁ、やっぱり。

 

「――さすがというか、なんというか……」

「うん、気持ちは分かるよ。――所長だもんね」

 

 

――村上にこだわるな。気をつけて。

 

 

 たったこれだけの短いメール。恐らく、急いでメールを打ったんだろう。――やっべ、そういえばアクアクリスタルに入ってからメール確認してなかった。

 慌てて携帯を広げて確認すると、やっぱり俺にもメールが送られてきていた。浅見さんからだ。多分同じ内容だと思うけど……。

 

 

 

――狙撃手一名確保。準備が出来次第反撃する次第にて候。

 

 

 

「どういうことだ!?」

「……さ、さすが所長。一歩先すら読めないですね……」

 

 事件とは別に頭が痛くなってくる。撃たれたばかりでもう動き回るなんて……いや、誰かに狙われているとしたら、行き先を隠して動き回った方が安全だと考えたのか? それなら説明はつくけど――いや、十分にありそうだ。

 そう考えると、普段の無茶な行動にも全部理由がある気がしてくる。例えば……越水さんや中居さんに被害が行かないように目立つ事で注意を引きつけている? 確かに、あの探偵事務所で一番有名なのは浅見さん。安室さんも色々騒がれているけど、メディアへの露出は一番少ない……。トップという事もあって、やはり何かあった時に狙われるのは浅見さんだろう。――そうなると、やはり……。

 

(まさか浅見さん、もう組織に関わっているんじゃないだろうな……)

 

 さすがにそれはないと思うが、浅見さんのあの人脈の広さと、あの事務所に来る依頼の多様さを考えると関わっていてもおかしくない。本人は気が付いていないかもしれないが、怪しい件がいくつかあったのかもしれない。越水さん――いや、もし気が付いていたらもう浅見さんに忠告しているだろうし……

 

(この件が終わったら、それとなく安室さんに聞いてみるか。あの人なら信用できるし……)

 

 あの人は、見た目小学生の俺の言葉もキチンと聞いてくれるし、言葉をきちんと選べばそこまで怪しまれずに話してくれるだろう。

 安室さん自身、時に自分を頼りにしてくれる人だし、俺も話しやすい人だ。……さすがに全部を話すわけにはいかないが、出来る事ならば仲間になってほしい人なんだけど……。

 あの相談役に巻き込まれる形で一緒に事務所を建てる事になったらしいし、浅見さんからの信頼も厚い人でもある。『もし俺がいない時にヤバイ事になったら安室さんを頼れ』ってよく言ってるくらいだ。

 

「まぁ……所長の事は一旦置いておきましょう。問題は犯人……どう、コナン君? 今の時点で他に引っかかっていることはない?」

「……ずっと引っかかっていたのは、狙っている人間の行動パターンや好物なんかを知っていたっていう事なんだけど」

「……やっぱり、知り合いの中にいると思う?」

「多分……。そうなると、チョコの件や村上に罪を着せようとした点から考えて、少なくともおっちゃんや妃先生の事をよく知っている人だと思うんだけど……」

「……真犯人にとっての本命が分からないと推測が難しい、か」

 

 そうだ。一つだけ分かっているのは、これまでの人物を殺害しようとした方法から、もっとも確実性があったのは辻さんだけだ。他の被害者には、さっき考えたが執着というものがないように見える。

 

「奈々さんの轢き逃げの話も気になるし――」

「……あっ。そういえば、奈々さんだけプレゼントもらってましたよね? マニキュアを」

「そういえば……。旭さんから送られたって言われたけど、もしあれが真犯人からの物だとしたら……あれには一体どんな意味が――」

 

 俺が瑞紀さんにそう言った瞬間、突然ライトが順々に消えていき――闇がその場を支配した。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「しっかし、完全無人のモノレールとか……これ緊急時とかヤバいような……」

「ですねぇ。いやしかし、日本の技術はやはりスゴいというかユニークというか……」

 

 モノレールのプラットホームはもぬけの殻だった。いきなり移動手段を絶たれたと思い、最悪レールの上を歩いていこうかと悩んでいた時に、浅見所長がこちら側にモノレールを動かす運転室を見つけてくれた。

 そしてモノレールが到着して乗り込むと、車両の先頭に発進のボタンを見つけた。いや本当にすごい。ボタン一つで扉が閉まって自動的に発進していくなんて……いや、でもこれ却って危ないような?

 

「いやしかし、この光景は素晴らしいですね。捜査中に不謹慎ですが、海の上を走っているようで……」

「綺麗なものを綺麗と思えるのは良い事ですよ。周りを見る余裕があるという事ですし」

 

 浅見所長は少し笑みを浮かべてそう言ってくれる。そして彼も、サングラスをかけたまま窓の外に目を向けて、鼻歌交じりにその光景を楽しみだす。

 

(よくもまぁ、これだけリラックスしていられるものだ……)

 

 浅見所長が撃たれたと聞いた時は本当に驚いた。それも、たまに起こる拳銃を使用した犯罪などではなく、プロの手による狙撃。当然所長も同じ情報を得ているのだが、まさか即座に病院を抜け出して単独で犯人を追おうとするなんて……。

 この事務所に潜り込んで最初の大仕事――とある企業への潜入調査の際に安室さんから『ここの事務所、特に所長に常識は通用しない』と釘を刺されていた時は、異常な依頼の数々にそのことかと納得していたが……恐らくこの事を言っていたんだろう。所長本人はいつも『自分は能力的に皆さんに劣りますから』等と言っているが嘘だ。絶対に嘘だ。特にバイタリティとメンタルは狂人の域といってもいいのではないだろうか。自分は死なないと思っているのか、あるいは命を安く見ているのか……。

 

 なんにせよ、この人の思考パターンは私には分からない。ヘリの時などまさにそうだ。話を聞く限り、どうやってかの部分をすっ飛ばして、ヘリを墜落させようとする犯人の狙いだけを見抜いたように見える。それも、かなり確信を持って。

 そうでなくば、即座に地図でフライトプランのルートの上で着陸できそうな場所を即座に確保し、消防車と救急車を事前に呼んでおくなどしないだろう。

 

 

(あの異常といっていいレベルの先読み。……なるほど、赤井さんが気に入ったのも理解できる)

 

 二年前、自分のミスのせいで赤井さんが潜入捜査に失敗した時から、普段から笑わないあの人が更に物静かになった。あの人が静かに笑うのは何度かあったが、あんなに声を上げて笑った所なんて初めて見る。

 先ほどの電話の時も、自分にも聞こえるほど電話の向こうで笑っていた。

 

(まぁ、安室さんが言ったように完全に理解しようとするのは無駄な労力ということか)

 

 浅見さんは、狙撃事件の前にトランプ事件の方のケリをつけると言っていた。となると、今このモノレールの目的地である『アクアクリスタル』に犯人がいる可能性は十二分にあり得る。所長も赤井さんも、犯人を村上丈ではなく、例の名前に数字が入っている人間の中に紛れている可能性があると見ている。

 ……覚悟をしておいた方がいいかもしれない。一応、先日小沼博士と阿笠さんが共同で作った防弾、防刃チョッキを下に着込んでいるから、いざという時も大丈夫のハズだ。

 とりあえず、今はこの光景を楽しんでおこう。

 

「? ねぇ、キャメルさん……」

「はい、なんでしょう所長?」

 

 

 

 

 

「なんか、今少し揺れなかった?」

 

 

 

 

 

 

 




少々短いですが、今回はここで一旦投下!
あと2、3話で14番目を終える予定です。


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029:アクアクリスタルへの突入(副題:Snipe)

「うぅ……ああっ!」

「大丈夫です、奈々さん! 致命傷じゃあありません!」

「瑞紀さん、包帯あったよ! 消毒液もあるし、これで止血を!」

「ありがとう。少し沁みますけど、我慢してくださいね……」

 

 明かりが消え、遮られたはずの視界に飛び込んできた薄い明かり――それは、奈々さんの爪。旭さんから送られたというマニキュアに蛍光塗料が混ぜられていたのだ。

 暗闇の中、それを目印に犯人はナイフで彼女に襲いかかったが、彼女が叫び声をあげた瞬間、かすかに見えた人影目掛けて、瑞紀さんがトランプを飛ばした。恐らく直撃はしなかったのだろうが、手にしていたナイフの軌道を逸らせることには成功したようだ。ただ、奈々さんは背中を切りつけられて大きな傷を負ってしまった。命に別状はないだろうが……モデルの仕事は――

 

「――張りつけたまま縛ってと……。よし」

「あぁ……っ……ち、くしょう……」

 

 かなり傷むんだろう。奈々さんは顔をしかめたまま、椅子の上でうずくまっている。

 瑞紀さんが止血をしている間に戻ってきた皆は、席に着いてそれぞれ強がっている。……や、宍戸さんだけは普段通りだけど……。そういやあの人、浅見さんと特に仲良かったっけ。何回か一緒に飲みに行ってるって聞いたことがある。

 

「どう、瑞紀さん?」

「やっぱりコナン君の記憶は正しかったよ。奈々さんの肩に強く掴まれた跡があったけど、形からして左手で掴んだのは間違いないわ」

「ならやっぱり、犯人は――」

 

 

「「右利き」」

 

 

 浅見さんが予想した通り、犯人は村上じゃないのは間違いないだろう。

 

「犯人は旭さんの名前を騙ってここにいる人達を呼び寄せた」

「奈々さんにわざわざ夜光塗料入りのマニキュアを送りつけるという事は、殺害方法に停電を利用することは織り込み済み。となると、この建物をよく知っている人間という事よね?」

「宍戸さんはカメラマン、仁科さんはエッセイストでフォードさんはニュースキャスター。そしてソムリエの沢木さん……」

「ソムリエの沢木さんは、元々ここの店で働く誘いがあったから、オープン前の店の様子を見に来ていてもおかしくないわね。それに、残りの人達も取材とかでここを訪れていた可能性は十分にあるわね……」

「うん。どうにか犯人を絞り込む方法があればいいんだけど」

「……あ、実はね瑞紀さん。さっき奈々さんが襲われた時なんだけど……」

 

 そう言って瑞紀さんに屈んでもらって耳元に口を近づけながら、一か所に集まっている皆の方を見る。注目するのは――足元。

 

『実はね、ブレーカーが落とされる前に中身がかなり残ってるジュース缶を置いたままにしちゃったんだ……。ほら』

 

 目でそちらの方を示すと、瑞紀さんも転がっているジュースの缶を確認したようだ。なるほど、と小さく呟いて、全員の足元を確認する。足元が汚れているのは……いた!

 

「……あの人、か」

「みたいね。でも動機は? 奈々さんはなんとなく分かるけど、旭さんはこのレストランを任せようとしてたんじゃなかったかしら」

「……分からないけど、ひょっとしたら」

 

 もう一個気になることがある。瑞紀さんと一緒に飲み物を取りに行った時、キッチンにはちょうどあの人がいた。

 あの時、あの人は調味料を舐めていたけど……

 

 

「瑞紀さん、ちょっといい?」

「もちろん、今の私はコナン君の助手だもの!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 モノレールが発進したのを確認した。奴は……乗っている。

 

 奴を狙撃する最適なポイントをいくつか歩き回って考えてみたが、並大抵のポイントでは奴に気づかれるだろう。かといって近接戦を挑めば、奴の傍にいるあの大柄な男も同時に相手にする事になる。詳細は分からないが、恐らくこちらもなんらかの訓練を受けていると見える。ただでさえ戦力の把握が出来ていない男を相手にするのに、余計な要素を加えるのは悪手だ。

 

 念入りに調整したライフルを構えて撃つ場所を確認する。幸い奴はモノレールの席に着いて外の光景を眺めている。いきなり大きく動く可能性は低いし、仮に失敗しても外に出るルートが限られているこの施設ならば、チャンスは必ずもう一度来る。その時はより困難な狙撃になるが……。

 

(確信がある。ここでこの件になんらかのケリをつけなければ、ピスコは何らかの手を打ってくるだろう)

 

 それも多分、俺たちにとっても浅見透にとっても面白くない手を……。

 このまま流れをピスコに操られるのは、俺にとっても好ましくない。

 年食った男に、何も分からないまま好きなように踊らされるのは趣味じゃない。

 あの老人の事でかろうじて言えるのは、俺があの男に拘っているのと同じように、ピスコもまた拘っているように見えることだ。

 

(それと、最近余裕がない様に見えるキール……)

 

 浅見透に振り回されているとはいえ、ここ最近は特に余裕がない。

 仕事に私情を挟まれても困ると、こっそり彼女の事も監視し、周囲を調べていたが、たまたま彼女がどこかに電話をかけているのを耳にした。どこにかけているかまでは分からなかったが、どうやら電話の相手の監視下にあった彼女の弟が、行方をくらましたらしい。……奴に家族はいないと聞いていたが。

 

 先日、浅見透に接触しようとして取りやめているのを見たことがあったが……奴に弟を探させようとしていたのかもしれない。それをためらう理由は分からないが……。

 ひょっとしたら、奴に迷惑をかけると考えたのだろうか。もしそうなら、キールもかなりあの男に気を許している事になるが――さて。

 

(許せよキール。だが、ここで奴を始末せねば――)

 

 そろそろ奴を乗せたモノレールがポイントに入る。走行中のモノレール、しかもその中の人の頭に当てるのは難しいが……だからこそ、さすがの奴でも多少の油断は出るはず。射撃体勢に入り、スコープを覗く。理想を言えばもう一段高い、近くの建物の方が気づかれにくい地点なのだが、距離や高さから考えて、ただでさえ高難度の狙撃がより難しくなってしまう。

 

 モノレールが、海の上を走っていく。……モノレールの速度、風、そしてこのライフルの弾速から計算して、5秒前…………3……2……っ

 

 トリガーに指をかけ、そして力を――

 

 

――ガキィ……ンッ!

 

 

 

「ぐあっ!」

 

 力を込め、引き金を引こうとした瞬間、いきなり凄い衝撃がライフルの側面からかかって弾き飛ばされてしまった。

 悪態が出そうになる口を閉じ、咄嗟に身体を衝撃がした方向から隠す。それと同時に、遅れて飛んできた発砲音が聞こえてくる。音より早い弾速、それが明確に分かるほど離れた地点からの――

 

(スナイプっ!? 一体、誰が!?)

 

 浅見透本人は、拳銃を使う人間特有の跡――右手母指球の独特なふくらみと、加えて左手中央の撃鉄跡からリボルバー、それも早撃ちの使い手なのは分かるが、他には銃を扱うような人間は奴の周りには、今奴と一緒にいるドイツ系の男と、バーボンしかいないはず。なら――誰が!?

 

 身を隠し、偵察用に持っていた双眼鏡で狙撃方向を覗く。最初に自分が狙撃ポイントにしようと思っていた、あの場所だ。かなり入念に下調べをしたから建物の構造は頭の中に入っている。その場所に、ライフルを構えているのは……

 

「そうか。お前のつながりが一つ、見えたぞ……浅見透」

 

 実働隊の幹部ならば恐らく知らない者はいないだろう男。かつて我々の中に潜り込んでいたFBIの捜査官。『あのお方』が最も恐れる男――我々の心臓を射抜きうる、唯一の男。

 

「FBI――赤井……秀一!!」

 

 双眼鏡の中の男は、目が合った瞬間にニヤリと笑い――レンズの向こう側で、引き金を……止めた。

 なぜか? 俺にも分かる。僅かにだが、妙な震動がここにまで伝わってきた。これは――あの施設の方からだ。

 浅見透との関係は分からないが、共闘関係にあるのは間違いないだろう。

 仮にも手を組んでいる相手が向かう先に異変を感じたのならば、わずかに気を取られてもおかしくない。

 

(九死に一生を得たか……っ)

 

 その一瞬の隙をついてライフルを足で引き寄せ、この手に戻す。自分の装備に雑な事はしたくなかったが……。

 

(足音は聞こえない。そうなると、仲間はいないか)

 

 ここから狙撃をするというのがバレていて、かつ仲間と共に動いているのならば、とっくに突入しているはずだ。

 どうする。このまま逃げるか? ――逃げるべきなのだろう。今なら敵は赤井一人、逃走に専念すればどうにか……。だが、このままでは自分の汚点になる。普段ならば気にしないが、今は政治に長けたピスコが背後にいる。本当に守ってくれるのか、それとも背中を刺そうとしているのか読めない相手だが。――少なくとも、抗ったという事実は必要だろう。

 

「……敵の浅見や赤井よりも、味方のピスコの方が面倒とは、な」

 

 ままならない。そう思いながら、銃の調子を確かめる。だめだ、的確に破壊されている。

 壊れたライフルは、しょうがないが捨てるしかないだろう。最終的には逃げると決めているため、重荷になるものは可能な限り排除しなくてはならない。痕跡を残さないように。

 

 本当にままならない。本当に。

 頭の中で同じようなフレーズを繰り返しながら、バッグに入れていた予備のライフルを組み立て、それを構える前にと、胸ポケットから煙草を取り出す。

 

 自分の居場所を知られている今だ、集中を高める意味でなら一服くらい許されるだろう。

 咥えた煙草にそっとライターで火をつける。そして煙を肺に貯め、一巡させて吐き出す。

 自分が吐いた煙よりも、煙草から今立ち上っているか細く揺らめいている紫煙の方が綺麗だと、なぜかそんな事を思った。

 自分を構成する全てが、少しずつスローになっていく。

 聴覚、視覚、触覚、嗅覚、そして味覚も……。

 煙を吸うと、口から喉、喉から胸へと、甘みと苦みがじわじわと浸食していくのが分かる。

 好きでもあり、嫌いでもあるこの感覚――

 

「……不味い」

 

 今日は、また格別に。

 

 2、3度だけ吸った、まだ長い煙草を海に放り捨てる。そして、その後に続くように相棒と言えるライフルを同じく海へと放り捨てる。

 元々大仕事のつもりだったのだ。何事もなく狙撃だけで終わるなんていう方が都合のいい甘えだった。

 スコープの様子を確認して、弾を込めて装填する。鋼材同士が擦れる音は、こちらの準備が整った合図だ。さて――

 

 

「お手柔らかに……とは、いかないか」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「あぁもうっ! 厄介な事に!」

 

 いつもほんわかしている瑞紀さんも、さすがにこの事態は予想外だったのか珍しく小さな声で毒づいている。

 

 瑞紀さんの協力で、犯人を特定するために一つ仕掛けをして確信し、犯人を名指ししようとした矢先に異変が起きた。ホールと海を隔てる分厚いアクリルの壁が、仕掛けられていた爆弾で破壊されてしまった。恐らく、リモコンによる遠隔操作で起爆させたのだろう。ちくしょう!

 流れ込んで来た濁流に流され、身体を打ちつけそうになった俺を瑞紀さんが助けてくれた。見た目は華奢だけど結構力があって、怪我のせいもあって身動きとれずに溺れかかっていた奈々さんも一緒に掴んで水面へと連れて行ってくれた。

 

 目暮警部は白鳥刑事が引き上げて、泳げない仁科さんはおっちゃんが引き上げた。

 蘭を見失った時は焦ったが、瑞紀さんの協力と浅見さんが阿笠博士に作らせて、事務所員や俺達に持たせてくれたサバイバルキット――その中の一つの携帯酸素ボンベ。そして、同じく博士が作ってくれたサスペンダーのおかげで蘭を救う事は出来た。海水が流れ込んできた時に、その海水に流された車に足を取られてそのままだったせいでかなり疲労しているが……。

 

「こりゃあ、早く脱出しねぇとやばいぞ……」

 

 おっちゃんがそう呟く。背中を怪我している奈々さんはもちろん、おそらく海水が流れ込んできた時の衝撃でだろう、傷口が開いた目暮警部もかなり辛そうだ。このままじゃあ皆の体力が持たない。

 

「瑞紀さん、酸素ボンベはあといくつある?」

「この間仕事で使ってから補充してなかったから、今のが最後……コナン君は?」

「2本だけ……」

 

 脱出する方法は思いついている。今の爆発で破壊された箇所だ。一度下まで潜る必要があるが、そこからならば外に出られる。だけど――

 

(目暮警部はともかく、襲われて怪我をしている奈々さんは体力が持つのか? それに蘭、仁科さんも……)

 

 正直な話、迷っている時間はない。時間が経てば経つほど体力が失われて、脱出の手段が失われていく。

 しょうがねぇ、ボンベは奈々さんと仁科さんに渡して蘭に頑張ってもらうしか――

 

――カンッ! カンッ! カンッ!

 

 結論を出しかかった時に、金属をまた違う金属で叩きつけるような音が響き渡った。

 

「な、なんだこの音?」

「村上かっ!?」

 

(いや違う……もっと上の方から……閉じられていた扉か?)

 

 しばらくその音は続くと急に止み、走るような足音が今度は響く。音の数は二つ。

 

「……瑞紀さん、これって」

「多分、そうだと思うよ」

 

 思わず瑞紀さんと顔を見合わせる。いや、来るとは思ってたけど……。

 そのまま白鳥刑事の方も見てみると、『さすが……』と呟いて苦笑いし、仲が良い宍戸さんも気づいたのか、遅ぇよと豪快に笑っている。

 

「多分、下に向かうエレベーターが止まっちまってんだな……」

「それで別ルートを探して……」

 

 しばらくしてその音が止むと、今度はぎぎぃ……っ、何かに力を掛ける音が響き、そして、

 

 

 

――バキンっ!!

 

 

 

「――っしゃおら! 外れたぞ! って、うお、浸水してんのか!」

 

 やっぱり浅見さんだ。多分通風孔から入り込んで、音と俺の探偵バッジを頼りにこの場所の真上を捜し出して薄い所をこじ開けたんだろう。キャメルさんがいないのは、身体が大きいから入り込めなかったせいか。

 俺たちが掴まっている大きな飾り柱からすぐ上の天井から、工具を掴んだ右手と顔を覗かせている。

 ……確保したという狙撃手はどうしたんだろう? もう警察に捕まえてもらってるのか?

 

 

「俺たちは大丈夫! ただ――」

「怪我人が一人いるんです!」

 

 瑞紀さんがそう叫ぶと、浅見さんが舌打ちをして、

 

「そこの女の人か。この隙間を通れるか?」

「……多分、厳しいと思う。深い怪我をしているから身動きも取れないし、まだ爆弾がセットされている可能性だってある事を考えると……」

「……あっ、そうか。爆弾がまだある可能性もあったか。そうなると脱出に時間がかかるここは拙いか」

 

 ちょっと待ってと浅見さんは言うと、おそらくキャメルさんと連絡を取っているのだろう。ボソボソと話声が聞こえる。そしてその後、今度は身体を揺するようにして穴から抜け出し水面にダイブした。

 

「――ぷはっ! あつつ……海水が沁みる。で、コナン。脱出方法は何かあるか?」

「うん、さっきの爆発でここと海が完全に繋がっているから――」

「そこをくぐり抜けて外に出ようってことか。それなら……」

 

 浅見さんが懐から、俺達が持っているのと同じキットを取りだす。当然ある酸素ボンベの本数を確認して、

 

「怪我人の女と目暮警部と……蘭ちゃんもヤバそうだな」

「それと、仁科さんも泳げないんだ」

「……俺とコナンのを合わせて4つ。ギリギリ足りるな。コナン、お前は大丈夫か?」

「いや、そういう浅見さんこそ大丈夫?」

「あぁ、傷口は開いてないし、他に怪我らしい怪我もないよ」

 

 こういう身体面において、浅見さんはさすがだと思う。

 例の狙撃手と対決したらしいのに、特に傷らしい傷はない。ここまであの細い通風孔をくぐって、無理矢理道をこじ開ける作業までこなして……

 

(前々から思ってたけど、この人五感も身体能力もずば抜けてんだよなぁ……)

 

 ぐったりしている奈々さんに酸素ボンベをセットさせながら――美人だから真っ先に行ったな――瑞紀さんとなにか話している浅見さんを見ながら、割とヤバい状況にも関わらず、なぜかため息をついてしまった。

 

(ホンットに……よくわかんねー人だなぁ……)

 

 蘭を支えている小五郎のおっちゃんに酸素ボンベを渡して、使い方を教えている。

 色々聞きたいことはあるけど、とりあえずは脱出して――あの人を捕まえてからだ。

 

 

 

 




ホームズがサッカーボールをワトソンの顔面に叩きこむカウントダウンが開始されました。どれほどめり込むかはコナン君が足のツボを刺激するか否かにかかっております。

この間のコナン(827話)は、他の部分の作画が少し手を抜いていた変わりに、黒タイツさんがスッゲーぬるぬる動いていましたねw これは録画ではなく後々DVD購入したいですわw 何回見直しても笑ってしまうww 最後の〆のシーンですらただ一人動くとかwww

あと忘れてたんですが、あのラーメン屋って由美さんと羽田さん使ってたんすねw


―追加―

作中の携帯酸素ボンベ。これは映画『紺碧の棺』にて阿笠博士が開発した優れモノです。ペンライトをもっと太くした感じでして(多分そうだった……久々に借りて確認するか)10分程呼吸ができるという色々おかしい壊れ道具の一つですw
 こういった超優秀な道具が単発で終わり、なぜか花火ボールが常連になるという劇場版スタッフのチョイスは凄いと思うw


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030:苦悩する男

さぼってた。超さぼってた。何が悪いかって整理してたら出てきたスクールランブルのDVD全巻とVHSに録画したロストユニバース全話が悪い。





いや、本当にすみませんでしたorz


「やっと直接顔を合わせる事が出来たな」

 

 裏路地ともなれば人目はない。いや目どころか少し大きな音がした所で周りの騒音にかき消され、誰も気づかないだろう。そんな場所で、二人の男が顔を向き合わせていた。

 

「赤井……秀一……」

 

 今ここで何が起こっても、気づく人間は誰もいないだろう。それが銃声だろうが、苦痛に喘ぐ声だろうと……。男の片方――安室透はそう考えるが……

 

「驚いた。まさか君がこんな手段を取るなど、思いもしなかった」

「…………」

 

 言うべき言葉を口にしたい。しなければならないのに、安室透の感情がそれを拒否する。正確には、感情の一つが。今、彼は頭の中で、様々な感情からどの行動を選択すべきか迷っていた。

 

(決めていたハズなんだがな……)

 

 安室は、自分の迷いを自嘲し、何のために彼と接触したかを頭の中で反芻する。

 

「これまで、確実に俺を捕まえようと、部下を使って網を張り巡らせていた君が、なぜいきなりこんな分かりやすい穴を? まるで――」

「まるでもなにも、想像している通りだ。一対一でお前と会うには、お前が絶対に逃げられる状況で誘いをかけるのが一番だと考えたまで。思った以上に早かったがな……」

 

 安室が取った手段はなんてことない。赤井という男が、なんらかの形でこちらの動きをかなりの精度で把握しているのは知っていた。だから、今まで動かしていた人員に指示を出して『穴』を作ったのだ。

 赤井秀一と会うために。もちろん捕まえるため……ではない。その欲求は今でもある。安室透自身の手で捕まえ、赤井を追っている人間に突き出して利用するという――復讐心は。

 だが、それと同じくらい――

 

「それで? 裏切り者のFBIになんのようだ?」

「……取引をしに来た」

「……取引?」

 

 元々安室透――バーボンらしくない行動に好奇の目を向けていた赤井は、より強く『面白い』と思ったのか、彼の目を真っ直ぐ見る。

 

「宮野明美に関する情報を提供してもいいと考えている。俺が知る限りの事だが……」

「なるほど。……それで、俺は何を提供すればいい?」

 

 まさか、俺の首だなんて言わないだろうな?

 赤井が冗談めかしてそういうが、安室はまったく笑わず、持ってきていた大きなバッグを赤井へと渡す。

 赤井が開けて中身を確認すると、そこに入っていたのはライフル。スコープを取りつけた、長距離狙撃仕様のものだ。性能も悪くない。

 

「まさか、FBIの俺に暗殺を依頼するつもりか?」

「……いや」

 

 安室は首を振りながら、懐から一枚の写真を取りだして赤井に見せる。

 

「彼を守ってほしい。お前なら、出来るハズだ」

 

 その写真に写っているのは、浅見探偵事務所の面々で飲みに行った時に撮った一枚の写真。安室の隣に座っていた『彼』の写真だ。 

 

「説明はいらないハズだな?」

「……君なら守れるんじゃないのか? 病院を君の部下で固めればいいだろう」

 

 赤井がそう言うと、安室は首を横に振る。

 

「あの病院を固めたら、敵をおびき寄せる事になる。というより――彼はじっとするのが苦手でな……もう元気に走り回っているよ」

 

 それに、浅見透には動いてもらった方がいいかもしれないと安室は思っていた。怪我をした彼が一か所に留まれば、敵が――『組織』かもしれない連中が付け狙ってくる可能性は高い。それよりかは、彼には動き回ってもらった方がいい。それが安室の考えだ。……少し、諦めも混じっているかもしれない。

 

 最初安室は、浅見を撃ったのは赤井かもしれないと考えた。今でもその考えが拭いきれない。

 同時に、それが先入観――いや、自分の感情に振り回されていると言うことにも気が付いている。

 安室は、浅見探偵事務所にいる時のような軽い喋りではなく、重苦しく口を開く。

 

「もう分かっているだろうが……彼を撃ったのは、『組織』の人間の可能性がある」

 

 それは赤井も重々承知の事だ。だからこそ、この依頼が解せない。赤井からすれば、確かに目の前の男――コードネーム『バーボン』という男は、組織の構成員ではあるが組織の人間だという確信が持てない男だ。

 

「……断ると言ったら、どうするつもりだ?」

 

 罠の可能性はほぼ0だと、赤井は確信している。この発言は、より情報を引き出すためのカマだった。いや、カマにすらならないただの好奇心から来る発言だったという方が正しいかもしれない。

 だから、赤井にとってその光景は予想の遥か外にあるものだった。

 

 

 

 

 あのバーボンが、自分に頭を下げる光景など。

 

 

 

 

「…………頼むっ」

 

 

 

 

 宿敵に頭を下げるのは悔しいはずだ。屈辱なはずだ。 

 安室の口元から、歯を食いしばる音がするのがその証拠。そして、幸か不幸か赤井秀一という男は、それを聞き逃すような男ではなかった。

 赤井は何も言わず、渡されたライフルケースを背負い彼に背を向ける。掛ける言葉が思い当らなかった。そしてなにより、今の彼に余計な言葉は無粋だと、そう思っていた。

 

「その取引、引き受けよう」

 

 示すべきは行動だ。赤井はそう思った。だから――

 

「守ってみせるさ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(……顔を見れば分かるかと思ったが……俺の知らない顔だな)

 

 今ちょうど撃った2射目を避け、また物陰に身を隠した男。スコープ越しに見たその風貌を思い返すが……記憶に残る顔ではない。だが、弾丸がかなりきわどい所を掠めたにも関わらず、ピクリともせずただ真っ直ぐに自分を狙い、この頭を狙って引き金を引く姿は、これまで見たどの狙撃手より手ごわさを感じる。

 

(だが、狙撃手ならば逃げるべきこの状況で逃げないとは……)

 

 撤退という選択肢が出てこない程冷静を失っている? 否だ。この男の狙撃がそれを物語っている。

 こちらもそうだが、相手も撤退をするというフェイントを掛けながら、互いに居場所を変えながら一撃を叩き込もうとしている。

 もっとも、こんな狙撃戦は本来あり得ない。発見されれば即撤退。そして態勢を立て直して次の機会を待つのが狙撃手だ。こうなっているのは、奴がこのまま逃げ切ろうとしないからだ。

 まぁ、こっちもそう易々と奴を逃がすつもりはないが……。

 

(なんにせよ、奴は出来る事ならばこちらで捕らえたい。バーボンは可能性が高いなどと言っていたが、確信していなければ俺を頼ろうなんてしないだろう)

 

 あのバーボンが頭を下げた時は、自分の目を疑った物だ。彼にとって自分は仇以外の何者でもないはずだ。それが、歯を食いしばってまで頭を下げるなど……。

 

(さぁ、どうする? 俺としても、早く向こうに行きたいんだが……)

 

 先ほどの振動は、恐らく海中でそれなりの爆発が起こったものだ。おそらくは――爆弾。

 先ほど隙をついてキャメルと浅見透が乗っているモノレールを確認したが、とりあえず向こう側には無事着いたようだ。もっとも、すぐにでもまた次の異変が起こるだろうが……。

 

 

チュイ……ッン――!

 

 

 相手の弾丸がかなり上の方の壁に当たる。かなり狙いにくい筈だ。相手はモノレールを狙える位置をキープしていたようだが、こちらの建物を狙うには、間に変則的な強風が吹いている。

 こちらの不利な点は時間。利点は、この地の利。

 

「さて……それじゃあ、そろそろ決着と行こうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(やっべぇ、強がったけどまた傷開いてるわこれ……)

 

 痛いのか熱いのか冷たいのか分からない嫌な感覚を右手から感じながら、必死に泳いでいる。

 念のために強めに包帯締めて、その上からまた布巻いたけど、その時コナンがこっち見てたから多分気づかれてる。あぁ、これ後で下手したら皆の前で小学生に説教される大学生という構図が出来上がる訳か。

 誰かコイツの身体を今すぐ元に戻せる薬師さん来てちょ。まじで大至急。

 ……ダメじゃん。戻っても高校生じゃん年下じゃん。成長促進剤はよ。

 

 そんな事を考えている間に、だんだん水面が近くなってくる。ぶっちゃけもう相当きつい。泳ぎづらいってのもある上に息がもう限界。鼻とかもう既にツーンってなっているし、なによりこんなバカな事を考えてないともうきつい、やっぱ腕が痛い。さっきから考えないようにしてたけど、目の前が良く見えないのって海水が目に入ってとか息が切れそうとかじゃなくて、意識が朦朧としてるからかもしんない。いやまだまだ持つよ、うん。多分。メイビー。プロバブリー。

 

(……事前にこうなるって読んでりゃ酸素ボンベ多めに持ってきたのにな……)

 

 いつからその話が始まって、一体どこがその締めになる場所なのか。これを読めなきゃ生き残るのは難しい。こういった爆弾騒ぎになればなおさらだ。

 

(犯人を捕まえる前に施設が一部崩壊し、そして脱出か……)

 

 多分、もうコナン――それに瑞紀ちゃんも犯人が分かっているんだろう。そうなると、水面から上がってすぐに推理ショーの時間か。今回俺はほとんど事件に加わっていないから瑞紀ちゃんとコナンのコンビに頼るしかないんだけど、前回の森谷の時と同じ様に、多分これだけじゃあ終わらないんだろうなぁ。

 

(絶対爆弾が爆発する。んでもってさらに、白鳥刑事から聞いた話だと蘭ちゃんが違う意味の爆弾持ってるみたいだし……ストーリー上の締めはここだろうな)

 

「――ぷはっ!」

 

 とにかく、どうにか無事に外に出れた。

 すぐ近くに上れそうな所があったのでそっちの方に泳ぎ、よじ登ろうとした瞬間ガシッと手を掴まれる。

 

「所長! 大丈夫ですか!」

「あぁキャメルさん……ナイスタイミング」

 

 事前に避難させていたキャメルさんが俺を引き上げてくれた。

 いや、本当に頼りになるわキャメルさん。安室さんや越水とは違った方向に。

 

「――ま……ったく! 所長! じっとしていないのはいつもの事ですけど、何もこんな時に来なくてもいいじゃないですか!!」

 

 同じようにキャメルさんに引き上げられた瑞紀ちゃんがそう叫ぶ。

 

「いやいや、おかげでボンベが十分に確保できたのにこの雑さはいかに?」

「いかに? じゃないですよ!! 七槻さんに怒られますよ!?」

「監禁までは覚悟してる」

「そこまでして!!?」

 

 いやだって俺が狙いだった場合、アイツに傍にいられると狙われるかもしんないじゃん。

 ……つまりしゃーなくない?

 

「ほんっっとうにこの人は……」

 

 息を切らしながらため息を吐くという地味に器用な仕草をする瑞紀ちゃん。

 ? なんか違和感があるんだけど……気のせいか?

 まぁ、今は置いておこう。

 とにかく、怪我人を含めて全員を引き上げないといけない。

 あの怪我してた美人さんもそうだが、早い所全員引き揚げて瑞紀ちゃんとコナンに推理ショーをさせないと、じゃねーと……

 

 

 

 

 

 

 

 

――…………っ――ぁぁぁんー!

 

 

 

 

 

――…………たぁ――っん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この遠くの方から微かに聞こえてくるこの銃声についての説明もできやしない。

 や、出来る事なら説明したくないんだけどね。コナンと瑞紀ちゃんがすっごい目でこっちを見てる。

 や、大丈夫大丈夫。片方の狙撃手はこっちの味方だから。ねぇキャメルさん? なんでそっぽを向くのキャメルさん?

 とりあえず悪くは無い状況なんだよと伝えるためコナンと瑞紀ちゃんにサムズアップをすると、向こうもサムズアップで返してくれた。よし、とりあえず状況は伝わった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あ、親指が二人とも下向いた。

 

 

 

 



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031:救助完了、そして……

 

 

(くそっ! どうして――どうしてこうなったんだ!)

 

 数合わせの連中はどうでもいいとして、結局殺さなきゃいけなかった連中で殺せたのはたった一人。

 あの旭だけだ。他の連中は全員無事……。辻も、あの女も、仁科も!!

 

(くそっ! くそっ! くそぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!)

 

「大丈夫ですか? 引き上げるんで、捕まってください」

 

 自分の目の前に、一本の手が差し伸ばされる。細い割に、引き締まった硬い腕。

 もう片方の腕は包帯が巻かれているが、それでもこの男の身体能力は尋常じゃない。

 その瞬間を、この目で見ているから――!

 

(コイツだ! 全部……全部この男のせいだ!)

 

 最近テレビに良く出る男。毛利小五郎と同じく、米花町を代表する――忌々しい名探偵。

 

(浅見……透ぅぅっ!!!!)

 

 聞けば、辻を殺し損ねたのもコイツとコイツの事務所の人間のせいだった。

 小山内奈々を殺し損ねたのも! 仁科が既に水から逃れ、荒い息をしているのも!

 全部全部全部!!!!

 

 どうする……どうする! また違う機会を待つのか!? ……いや、いくつもの事件を解決している探偵が複数いるのだ。時間が経てば経つほど、こちらにとって不利になる。なら――!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「……家の方は、そこまでセキュリティがきつい訳じゃないのね」

 

 カルバドスと別れた後、私は浅見君の家を調べに来ていた。

 カルバドスは私が彼と関わる事をあまり良いとは思っていないようだが、どちらの顔でも彼の情報は必要だ。なんとしても。

 

 幸い、同居している七槻ちゃんやふなちちゃんも今はいない。鈴木相談役が万一に備えて保護しているらしい。

 ――いざという時の備えも早い。その彼が、この家にさほど防犯・防諜設備を置いていないのが気になる……いや、一般の住居にしては過剰ではあるが。

 

(……何か、一つでもいい。彼より優位に――いや、せめて交渉できる道筋を見つけないと……っ)

 

 組織の方はバーボンが近くにいるため、特に何か言ってくる事は無い。

 問題は自分が本当に所属する組織の方だ。日本の様々な組織――マスコミ関係に財閥、有力企業、警察……そして恐らくは、公安も彼と繋がりを持ちつつある。

 上も、ある種の危機感を持ち始めたのだろう。

 やれ裏を洗え、やれ暗殺計画を立てろ、やれ友好を保て……。

 いい加減にしろと怒鳴りたくなることが何度もあったが、潜入している身。内心で罵声を浴びせるだけで精一杯だ。

 ただ、同時に理解も出来る。恐らく、彼が怖いのだろう。

 現に今回も、彼にはしてやられている。監視は全て振りきられた。それも撃たれたすぐ後に。

 これは、彼には監視を振りきること等容易いという事。つまり、これまでの私達の監視は『見逃してもらっていた』ということに他ならない。

 

(本当に……どこまでも底が見えない子。一体、どのような生活をすればああなるのか――私よりも年下なのに)

 

 私個人としても、やはり彼は恐ろしく――そして同時に、だからこそ頼りに出来る人間でもある。彼ならば……彼ならば救ってくれるのではないだろうか? 自分の……自分のたった一人の弟を――たった一人の家族を。

 

 もっとも、彼に対してある種の不安感があるのも事実。だからこうして隠れて家探しをしているのだ。

 心の底から彼を信じられていたら、とっくに彼に助けを求めている。弟の事を話している。

 

 

 

――カタッ

 

 

 

 日記の様なものがないかと探してみたが、それらしい物は本棚や机の上にはない。

 なにかないかと机の引き出しを開けてみると――それはあった。

 黒光りする、手よりも大きい金属の塊。いや―― 

 

「……リボルバー……」

 

 

『ダーツか……細身のナイフのような物の投擲。それと多分――リボルバーだ』

 

 カルバドスの言葉を思い出す。まだ彼と接触し始めた時に、彼について尋ねた時にカルバドスがそう言っていた。

 正直、そんな馬鹿なという思いがあった。何度調べても、彼は孤児院暮らしの時期があるとはいえ基本的には普通の男の子だった。それが――

 

(それにしても、この銃……妙に重いわね……)

 

 なんとなく、弾を込める部位――シリンダーを確認してみる。

 

(これは?)

 

 本来ならば弾を込める薬室は埋められていた。銃弾ではない、鉛によってだ。それに、薬室自体よく見ると歪められているようだ。これではどう足掻いても使い物にならない。

 だがグリップやトリガー、フレームについた所々に残っている手垢の跡から、使いこんでいる事が良く分かる。手入れを欠かしていないことも……。

 さらに調べてみると、トリガーを引くとレーザーが発射されるようになっている事が分かった。

 

(練習用……ということかしら?)

 

 なにか手掛かりがないかと他の部位も観察していると、グリップの底――グリップエンドと呼ばれる部位に、文字が刻まれている事に気がついた。刻まれているのは、たった一文字のアルファベット。

 

「……J?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 サングラスをかけた狙撃手は、未だに逃走するそぶりを見せない。

 あの様子からして、逃げるわけにはいかない理由でもあるのだろうか?

 こうして互いをスコープに捉えようと策を弄している間、なんというか……執念を感じる。なんとしてもここで浅見透という男を倒しておきたいという執念。

 ――ひょっとしたら、あの組織に目の敵とされている自分よりも強いそれをだ。

 

(なるほど……キャメルの報告書にも書いてあったが、浅見透という男は随分とモテるようだ)

 

 色んな意味で、と付け加え、諸星大――否、赤井秀一は狙撃戦の僅かな隙に、彼らの位置を確認する。

 

 彼ら――浅見透達が今いるのは例の施設の海上に出ている所の一部。おそらく、先ほどの爆発で内側と海が繋がったのだろう場所を全員でくぐり抜けてきて、近場に泳ぎ着いたという所か。

 事前に別ルートで脱出していたキャメルが、泳いできた彼らを次々に引っ張り上げている。

 後からついて来た刑事や、『彼』と人気を二分する名探偵――毛利小五郎もそれに加わっている。――キャメルはどうやら上手く彼らの中に馴染めているようだと、ひそかに赤井は安堵していた。人相や間の悪さが手伝って、アンドレ=キャメルという男は誤解をされやすいからだ。

 

 少し安堵の息を漏らすと、再び索敵を始める。オペラグラスではなく、再び構えたスコープで。

 一対一であることを確信したあのサングラスの男は、恐らく自分と相対しているように見せかけているが、実際は浅見透を狙う隙を狙いだしたハズだ。

 

 その証拠に、彼らの姿を確認したあたりから向こうの索敵頻度が少し落ちた。

 だからこちらも彼らの状況を確認する時間が取れたのだ。

 狙いが分かれば思考が絞れ、思考を絞れば場所が絞れる。

 

 そして、敵がその中のどの位置に現れるか。ここからは経験則に基づく勘になる。

 だが、この勘が上手くはまった時――その時の静かな高揚感は抑えるのに苦労するほどたまらない。

 

 

 

 

 ちょうど今、スコープの真ん中に現れてくれたように。

 

 

 

 

 

 ――そして赤井秀一は……引き金を引き絞った。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 とにかくほとんどの人間を無事に引き上げた。

 不安だった怪我人も、とりあえずは大丈夫だ。

 奈々さんも、かなり強めに傷口周りを縛っておいたおかげか、一番恐れていた海の中で意識を失う事は無かったようだ。

 目暮警部も傷が開いたとは言っていたが、意識はしっかりしているようだ。

 蘭ちゃんも意識が朦朧とはしているようだが、小五郎さんの声にきちんと答えている。

 残っているのは――

 

「……っ……すみません、今引き上げます!」

 

 ヤバイヤバイ。今一瞬、浮遊感に近い感覚――いや、快感を脳が認識した。真面目にヤバいかも……。

 とはいえ残すはこの人――ソムリエの沢木さんだけだ。そしてここが今回の事件のラストステージなら、ここまで引き上げた人間の中に犯人がいるはず。ソイツを速やかに確保すれば……。

 

 かなりの負傷を負っている小山内奈々、そして俺たちがいなかったら危なかった仁科さんは無視していいだろう。残るのは……この沢木さんと宍戸さん、ピーターフォードの三人。

 相手は爆弾を用意している。つまり――その、大事件ということだ。それもコナンがいる。

 なんらかの形でストーリー上に関わる大事件となれば、犯人は例の組織に関わる人間か、あるいは主人公勢の誰かと関係が深い人間が殺されるか犯人かのパターンが推測される。

 今回、襲われているのは工藤新一というより小五郎さんの知人。それが基本だ。

 そして犯人は、この場合小五郎さんと親しい人間であるパターンである――と思う。

 そうなると……この人っぽくはあるんだが……。

 

 しかし――キツい。恐らく海水にダイブしたのが良くなかったんだろう。

 痛みを感じているうちはまだまだ大丈夫だと思うが、もう一度さっきの浮遊感が来たらヤバいかもしれない。

 

(助けに来ておいてこのザマってのも締まらねぇな……)

 

 狙いとしては、自分を客観的に見てここに行くだろうという所に姿を見せる事で囮になる事だった。

 まぁ、同時に必要ならばコナン達に手を貸せるかもしれないという気持ちもあったが……。

 知り合いを次々に巻き込んでいく事件、ヘリコプターを墜落させようという規模のデカイ犯行、ついでにまたコナン(主人公)と蘭ちゃん(ヒロイン)が一緒にいる。

 そうなると、去年という今年初めの森谷帝二の様な犯罪者が現れたのは確定だった。当然ヒロインである蘭ちゃんの危機もあるだろう。それを少しでも軽減出来ればと思ったが――

 

(……事が全て片付いたら、当分は七槻に軟禁されるな。間違いなく。さすがにふなちも庇ってくれまい)

 

 前に安室さんと一緒に拳銃持ったストーカー相手に戦ったことがばれた時は警視庁のロビーでまさかの正座をする羽目になった。

 今度はいったいどんな罰が待っているのか――禁酒は間違いなくあるな。加えて……

 

(割と真面目に怪我が治るまでは軟禁かなぁ……)

 

 さすがにこれ以上の無茶は出来ん。例の狙撃手は諸星さんに任せているが、銃声は先ほどのを最後に途絶えた。諸星さんの推理通りの場所に相手はいるはず。もし諸星さんが負けたのならば今頃俺の頭は吹っ飛んでいるはずだ。

 ということは――諸星さんがやってくれたのだろう。諸星さんも彼を確保したいと言っていたし、殺してはいないだろう。情報は共有してくれるという約束だし、場合によっては警察に引き渡してくれるという。

 詳しい話は後で聞くとして――

 

「――大丈夫ですか? 引き上げるんで、捕まってください」

 

 よっぽど疲弊したのか、荒い息をしながら海面から上がろうとしない。差し出した自分の腕を掴もうともせず、ただ浮いているだけだ。

 この人もどこかで怪我をしたのか?

 

 だとしたら、尚更はやく引き上げてやらないとヤバい!

 さらに身を乗り出してその人の腕を掴むと、意外とすんなり力を込めてくれたから引き上げるのは容易かった。怪我をしていた訳じゃないのか。

 とりあえずこれで全員だ。この後は推理ショーになるはず。すぐにコナンから話を聞いておかないと……。それと、一度壊れた後の周辺の状況を確認して、爆弾が仕掛けられてそうな場所をチェックしておかなければ――

 

 

 

 

 

「――所長!」

「――浅見さん!!」

 

 

 

 

 そんな事を考えていたら、瑞紀ちゃんとコナンが俺に向かって叫び出した。

 似たようなシチュエーションを思い出す。つい先日、俺に向かって唸り声を上げた源之助の声だ。

 ということはつまり――

 

(あ、ヤバい……っ!)

 

 自分の最も傍にいる人間――沢木公平さんから距離を取ろうと反射的に腕を振ろうとした瞬間、脇腹に熱湯をかけられたような熱と、金属の冷たさを同時に感じる。

 とっさにそこに手をやると、抉り上げるように刺さったナイフがある。そして顔を上げると、たった今自分が引き揚げたばかりの男――この事件の犯人が、壊れた笑いを上げながら、撃たれた傷に指を食いこませてきた。

 

 

 

 




普通に難産。
次回で14番目編が終わるため、越水さんがバイキルトを唱えながらアップを始めました。


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032:決着

「――っ……ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 これまでにも、浅見さんが危ない目に遭う事は何度もあった。俺と浅見さんが初めて一緒に解決した森谷帝二の事件の時は俺を庇って吹っ飛ばされた。それからしばらくして今度は組織の奴らが仕掛けた証拠隠滅のための爆弾に巻き込まれ、そして探偵事務所を始めさせられてからは次々に凶悪犯と向き合ってきた。

 刃物を振り回す相手はもちろん、拳銃や猟銃を持っている相手だっていた。

 そんな事件の数々をあの人は、あの事務所にいる優秀な人員と一緒にくぐり抜けてきた。

 怪我をすることだってあったが、いつだってあの人は笑っていた。

 

 初めて、そう、初めて聞いた。あの人の絶叫を。

 初めて見た。あの人が激痛で顔を苦悶に歪める姿を。

 

「――さ、沢木……さん?」

 

 おっちゃんが、信じられないという様子で声を出す。いつもの声じゃない。本当に力の抜けた、か細い声だ。

 いや、声が出ただけおっちゃんはまだ現状が分かっているほうかもしれない。

 他の皆は何が起こっているのか全く理解できてない。

 いや、その中の二人――瑞紀さんとキャメルさんを除いてだ。

 特に瑞紀さんは、それこそ人を殺せそうな目で沢木さんを睨みつけている。

 普段のほんわかとした雰囲気はどこにもなく、隙を見せ次第飛びかからんばかりの怒気を全身から発してだ。

 

「……これから私達の推理ショーを……って思っていたのに、まさか先手を打たれるとは思ってませんでしたよ。沢木さん」

 

 瑞紀さんは、ユラリと背筋を伸ばす。沢木さん――いや、沢木公平を睨みつけたまま。

 隙を見せ次第、恐らく投げつけるのだろうトランプをさり気なく手の中に隠して。

 

「クックックック……やっぱりお前らは気づいていたんだな? いつだ……いつから気づいていた!」

 

 人の良い顔をしていた沢木さんが、今では人が変わった様な凄まじい顔をしている。

 笑っているにもかかわらず、まるでこの世の全てに絶望し、憎んでいるような顔だ。

 

「コナン君の記憶力の良さのおかげですよ。コナン君が阿笠博士が襲われた時の様子を詳しく覚えてくれてたから分かったんです。犯人は村上丈じゃないってね」

「そう、阿笠博士を襲った犯人も、奈々さんを襲った犯人も両方――右利きだったからね」

 

 瑞紀さんの後に続けるように、俺も口を開く。少しでも浅見さんへの注意を引くように。隙が出来れば――隙を作れば……っ!

 

「白鳥刑事が見せてくれた写真では村上丈は左利きだった。もし村上丈が犯人ならば、当然ボウガンだって左手で撃っていたはずだからね!」

 

 少し自分を奮い立たせる意味でも、強い口調でそう言う。

 刺さっていた場所を考えると、すぐに止血しないと危険だ。

 恐らく浅見さんも、立っているのが精いっぱいだろう。さっきから反応が一切ない。無意識の下、気力だけで立っているのだろう。

 くそ――っ! 待ってろ浅見さん……今助けるっ!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「…………さすがと……言ったところか……っ」

 

 思わず手をついた壁に、血の手形が付く。

 大丈夫、グローブはしているから指紋などは出ない。もっとも、捕まってしまえばそれまでだが……。

 朦朧とする意識でそんなしょうもない事を考えながら、カルバドスは階段を降りていく。

 

(……出来る事なら、ピスコに対しての発言権を得ておきたいと欲張ったのが俺のミス、か)

 

 赤井の狙撃は見事なものだった。的確に右手を撃ち抜き、こちらの戦力を奪っていった。

 一応ライフルは海に落としはしたが、逃げ切らなければ意味がない。

 あの建物からここまで少し距離がある。ここにたどり着くまでには多少は時間がかかるだろう。

 それまでに脱出しなければ……。

 

(……とはいえ、一つしかない出入り口は間違いなく危険だ。俺ならなんらかの手を打つ……)

 

 赤井は間違いなく、俺を生かして捕らえようと考えている。

 FBIは組織の情報を必要としている。そして赤井個人としても内部の情報は知りたい所だろう。

 どこまでが真実かは知らないが、組織内部に親しい人間を残してきたという話がある。女だと言う話だが……。

 とにかく、コードネーム持ちの人間の身柄は喉から手が出るほど欲しいだろう。

 

 階段を一段一段踏み締めるたびに、今すぐ拳銃を引き抜き自分の頭を吹き飛ばしたい欲求にかられる。

 いや、本来ならばそうするべきだ。決して知られてはならない、組織の一員として。

 だが――

 

(キール……)

 

 あの女を放っておくわけにはいかない。そう強く感じていた。

 あの女はなにかを背負っているのだろう。それも、とびっきりやっかいな何かを。そしてそれを俺たち仲間に言えない。

 個人的な事かとも思ったが、それなら尚更あの時浅見探偵事務所の戸を叩かなかったのが気にかかる。

 我々のターゲットになり得る男の力を借りたくなかったというのも考えられるが……。

 

(薄々は分かっていた。あの女、多分――)

 

 裏切っているのだろう。以前、ベルモットが組織内部にNOC―― 一般民間人を装い行動する工作員が入り込んでいるらしいと言っていた。恐らくはあの女……あるいは他にも……。

 

(……関わる理由はない。ないのだが……)

 

 アイツを問い詰めなければならない。それが組織の人間として取るべき行動だが――そういう気が一切起こらない。

 

「……馬鹿な事をしているな……俺は……」

 

 細かい事は後で考えよう。今はなんとかして脱出しなければ――。

 かといって出入り口は使えない。

 ならば……残る道は……

 

「海……か。賭けだな」

 

 ――賭けるものは、自分の命。頼るのは……自分の体力と悪運。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「――沢木さん。貴方の目的は、村上丈による毛利小五郎への復讐……というフェイクの下で、小山内 奈々、旭 勝義、そして辻 弘樹の三人を殺害することだった。そうだよね?」

「どこで情報を手に入れたかは知らないけど、村上丈がトランプ賭博に関わっていた事や、毛利探偵に捕まえられた事を知って利用しようとした」

 

 コナン君と瑞紀ちゃんが、何かを言っているのがぼんやりとした頭に入ってくる。

 詳しい内容はよく分からない。ただあの人が……沢木さんが犯人だというのだけは分かっていた。

 

(……お父さん……)

 

 力が入らない私を支えてくれているお父さんの腕が、細かく震えているのが伝わる。

 視界がぼやけてよく見えないが、口元が小さく動いている様な気がする。

 

(そうだよね……信じられないよね……)

 

 お母さんと喧嘩したあのレストランで、古い友人だと言っていた。

 きっと、お母さんと、そしてあの人との楽しかった思い出はいくらでもあるだろう。それが……。

 

「その通りだよ。アイツが仮出所した日に、毛利探偵事務所を訪ねて来た村上とたまたま会ってね……」

「――おっちゃんが麻雀で事務所を空にしてた日か」

「あぁ。初めは恨んでいたが、今はただあの時の事を謝りたいなどと言っていたなぁ……その時思いついたのさ。この男を利用して、そこにいる小山内 奈々! 仁科 稔! 今頃そこらへんを漂っている旭 勝義! そして……辻 弘樹――っ! 奴らを殺す計画をなぁっ!!」

 

 お父さんとお母さんとそんなに親しかった人が……どうして?

 

「…………蘭」

 

 いつの間にか、お父さんの腕の震えが止まっていた。

 首に少し力を込めてお父さんの顔を見上げようとしたら、その前にお父さんが近くの壁に私の背を預けるようにそっと私を下ろした。

 

「ちょっとだ。ちょっとの間だけ……一人で頑張れるか?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 所長さんは顔を俯かせたまま動かない。唯一動きがあるのは、荒い呼吸のために上下する肩だけ。

 

(くそっ……! 俺とした事が油断してたぜ。まさかいきなり襲いかかってくるとは……)

 

 村上丈の犯行に見せかけていることから、あの沢木って男は犯罪者の汚名から逃げようとしていると俺たちは考えた。

 だから、全員の安全を確認してから所長さんと一緒に相手を制圧しようとガキンチョと打ちあわせていたのだが……

 

『瑞紀さん、トランプで相手のナイフを撃ち落とせる?』

 

 推理の話で時間を稼ぎながら隙を狙っているが、状況は不味くなる一方だ。

 合間にガキンチョが俺にそう提案してきたが――

 

『……近づけば―――ううん、ダメ。ここじゃあ風の影響を強く受ける。正確に狙った所に当てるのは難しいわ』

 

 沢木の奴は、ナイフの切っ先を所長さんの首筋にピッタリ付けている。呼吸のたびに僅かに傷ついているのか、首元に少し血がにじんでいるのが見える。あの切っ先がもう数ミリ食い込めば……食い込んでしまったら……っ

 

(――所長さん!)

 

「い、いい加減にしろ沢木公平! 浅見君を放せ! さもないと撃つぞぉ!」

「面白いじゃないか! 撃てるものなら撃ってみろぉ!!」

 

 所長さんがよく一緒に遊んでいる刑事の一人――白鳥さんが撃鉄を上げて銃口を沢木に向ける。

 だが、その手は恐怖か緊張か不慣れなのか、震えている。……だめだ、そんなんじゃ所長さんに当たっちまう。それが分かっているのだろう、沢木の奴も全く銃を恐れていない。

 

(せめて――せめていつものトランプ銃があれば……っ!)

 

 怪盗キッドとして使い慣れたあの銃ならば、綺麗に当ててナイフを落とすことも可能かもしれないが、『瀬戸瑞紀』はそれを持ち歩いていない。特に、今回はガキンチョと行動を共にするため、万が一に備えてアジトに置いてきていた。

 

(どうする――どうすれば所長さんを救える!?)

 

 白鳥さんの拳銃を奪い取って自分が使おうかとも一瞬思ったが、自分は実銃を撃った経験はない。不慣れな物を使って精密射撃を行うのは不可能だ。せめて、誰か拳銃を使う事に慣れてる人がいれば――

 

 

 

――それに、仮に銃を持っていたとしても私は毛利君と違ってそっちの腕はからっきしダメでなぁ……

 

 

 

 ふと脳裏をよぎったのは、あの病院で目暮警部と話した時の会話。

 

 

 

――警視庁でも一位、二位を争う腕前だったんだよ。

 

 

 

(毛利さん!)

 

 頭の中身を瀬戸瑞紀から『キッド』へと変えていく。舞台はここ、観客は所長さんにナイフを突きつけているクソ野郎。そして自分の近くにいる人間。今注目されているのは自分とガキンチョという探偵役の二人と犯人の奴。どうやって視線を逸らせるか……。

 

「もう……もう止めてくれ、沢木さん」

 

 そんな時、俺たちの後ろから声が上がる。

 

「この間英理と飯を食いに行った時、俺の話を聞いていたんなら知ってるはずだ。アンタが刃物突き付けている奴ぁ、娘が――蘭が兄貴の様に慕ってる奴だ」

 

 体力を消耗した蘭ちゃんを抱きかかえていた毛利さんが、いつの間にか立ちあがっていた。

 さっきまで動揺していた毛利さんは、今は覚悟を決めた目をしている。

 

「ソイツ、頭は切れるハズなのに馬鹿でなぁ……。女見かけりゃ鼻の下伸ばすし、それで蘭や七槻ちゃんに説教くらってショボくれて……」

 

 一歩、また一歩、毛利さんが――眠りの小五郎が足を前に運んでいく。

 今なら、俺から注意が離れている。この隙に――っ!

 

「そんでまた俺が飲みに誘えば、懲りもせずについてきて……また俺と一緒に蘭に怒られる。そんな事の繰り返しばっかやってる……大馬鹿野郎だ」

 

 ガキンチョもこれをチャンスと見たのか、沢木から見えない所で腕時計をイジっている。

 

「蘭も、そんなやり取りをなんだかんだで楽しんでるのか、浅見がウチに来る時は楽しそうでなぁ……」

 

 俺が沢木から離れるのとは逆に、ガキンチョは少しずつ間合いを詰めていく。

 あの腕時計の仕掛けは近づかなきゃ出来ないものなのか、他に狙いがあるのか……。ともかく俺は目当ての場所にどうにか意識されずに辿りつけたようだ。――銃を下ろして、それでも隙を窺っている白鳥刑事の近くに。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 自分が浅見さんの代わりに人質になって、近寄った隙に麻酔銃で眠らせる。俺が思いついた作戦だ。

 時計型麻酔銃の存在をおっちゃんや目暮警部達に知られる可能性があるが、そんなの二の次だ。

 なんとしても浅見さんを助けないと――っ!

 

 最初は瑞紀さんにナイフを叩き落としてもらおうかと思っていたが、それは難しかった。それに、仮に瑞紀さんがどうにかナイフを叩き落とせたとしても、確保する間に浅見さんに危害を加える可能性が高い。普段だったら浅見さん自身が倒しているんだろうが、体力を消耗しきっていて、かつ撃たれた傷を抉られた今、意識があるのかどうかも怪しい。ここで更に傷を抉られたら、出血だって不味い。すでに包帯には真っ赤な楕円が広がり、包帯が吸い切れない血液が滴となって地面に滴っていく。

 

(くそ! 時間がねぇ……っ!)

 

 まだ沢木さんには理性がある。本当にヤケクソというのなら、とっくに浅見さんの首にナイフが突き立てられているはずだ。

 あの人はまだ、逃げる事を考えている。それなら浅見さんより俺の方が人質に適していると判断するはずだ。そう思い、沢木さんに子供の演技で声を掛けようとした時に――

 

「もう……もう止めてくれ、沢木さん」

 

 おっちゃんが動いた。

 後ろを全然見ていなかったが、いつの間にか蘭を安全な所に置いて、ゆっくりこちらに向かってきている。沢木さんもおっちゃんに気を取られている。

 おっちゃんは、沢木さんに向けて言っているのか、あるいは自分でこれまでの事を確認するかの様に浅見さんとの思い出を口にしながら歩いてくる。

 

 

「――浅見が蘭の兄貴分なら……なぁ、俺にとっちゃ息子ってことになるだろ」

 

 

 

「なぁ、沢木さん。――なんでだっ!!!?」

 

 

 

「なんで俺の友達が! 俺の息子を殺そうとしている光景なんて見せつけられなきゃいけないんだ!」

 

 

 ――おっちゃん……っ

 

 おっちゃんが浅見さんと仲が良いのはよく知っていた。

 浅見さんは事務所を開いてから、おっちゃんの事務所に何度も足を運んでいた。

 浅見さん自身は『同業との繋がりっていう下心ありきの訪問』なんて言っていたが、おっちゃんは毎週浅見さんと飲みに行くのを楽しみにしていた。初めて会った時こそ険悪だったけど……やっぱりおっちゃんと浅見さんは――

 

「知った事かっ! コイツが探偵なんてやって、私の邪魔をするのが悪いんだよ……」

 

 沢木さんには、おっちゃんの言葉は届かない。多分頭にあるのは――

 

「さぁ、コイツの首をかっ斬られたくなかったら小山内奈々をその銃で撃て!」

 

 やっぱりそうだ。今回、一番の原因となった奈々さんは殺せず、理由こそ分からないがかなり殺意をもっていたであろう辻さんも殺せなかった。

 この人の殺意のきっかけは味覚障害だろう。

 瑞紀さんに配ってもらったミネラルウォーターに、あの人の物にだけ塩を入れたのに気がつかなかったから間違いない。

 味覚障害には様々な原因があるが、おそらくこの人の場合は事故の後遺症、そしてストレス。

 奈々さんが車でひき逃げをしてしまったと言っていたその相手が恐らく沢木さんだ。そして詳しくは分からないが、ストレスの原因となったのが辻さんたちなのだろう。――多分、殺害の邪魔をし続けた浅見探偵事務所……その代表の浅見さんにも……。

 

「――白鳥! 銃をよこせ!」

「……っ! 何を言ってるんですか……貴方には渡せませんよ!」

 

 焦れたのかおっちゃんがそう叫ぶが、白鳥刑事は眉に皺をよせて断る。昔のおっちゃんの話を知っているから、不信感があるのだろう。

 だけど、これじゃあ状況はどんどん悪くなるばっかりだ。どうすれば……どうすれば……っ!

 

「はいはい、とりあえずそんなに力んでいると、暴発しちゃいますよ?」

「――え、瀬戸さん!?」

 

 いつの間にか、瑞紀さんが白鳥刑事の隣に立っていた。

 瑞紀さんは、さっきまでの緊張した声ではなく、あのレストランでマジックを披露する時の様な笑みを浮かべている。

 瑞紀さんは、胸ポケットから白いハンカチーフを取り出してそれを白鳥さんの手元にかけた。

 白鳥刑事はいつの間にか隣に来ていた瑞紀さんに驚いて動きが固まってしまう。そして瑞紀さんはハンカチーフに手を掛け、『スリー……トゥー……』とカウントを始める。

 

「瀬戸さん、何を――!?」

「ワン……ゼロッ!」

 

 白鳥さんの驚く声をよそに、瑞紀さんがハンカチーフを取り払う。すると、そこにあった拳銃が姿を消していた。

 

「……なっ!?」

 

 握っていたはずの拳銃が無くなり、白鳥刑事は唖然としている。そして瑞紀さんはおっちゃんの方を向いて、自分の脇腹のあたりを叩いて見せる。

 それに気がついたおっちゃんは、自分の脇腹の辺り――内ポケットをまさぐる。そしてそこから取り出したのは、先ほどまで白鳥刑事の手にあった拳銃だ。

 

「……毛利探偵、後は――」

「あぁ、お前んトコの所長は任せろ」

 

 慌てておっちゃんを止めようと白鳥刑事が慌てるが、瑞紀さんが肩に手を置いて止めている。

 そしておっちゃんは瑞紀さんの言葉に軽く答え――銃を構えた。

 

「浅見ぃっ!!」

 

 おっちゃんが叫んで呼びかける。聞こえているかどうかはわからない。だが――

 

「俺を信じろ……っ!!」

 

 わずか――ほんのわずかに顔が上がった浅見さんが、ニヤッといつもの不敵な笑みを浮かべた……気がした。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 やべぇ、少し眠って痛たたたたたたたたっ!

 いやちげぇよ! 思い出した! 沢木ってソムリエが犯人だと気づいた瞬間に傷口思いっきり抉られたんだ。ついでに刺された。いや刺さってないけど。防弾・防刃チョッキのおかげで思いっきり食い込んだだけで済んだ。いや、少しチクッてきたけどそれだけ。

 阿笠、小沼両博士には今度お礼をしておこう。ついでにこのチョッキ、警視庁に売り込んでみようかな……。

 

 それにしてもこのソムリエ野郎、思いっきり傷口を抉りやがって……激痛のおかげで意識が少しハッキリしてきた事には礼を言うけど、後できっちり豚箱に叩きこんでやる。

 とりあえず顔を動かさずに状況を把握する。キャメルさんがいつでも飛びかかれるように待機していて、コナンは後ろ手でなにか――多分麻酔銃を起動させてんだろう。瑞紀ちゃんは白鳥刑事の肩を掴んでいる。なんで?

 他の面子は――

 

「浅見ぃっ!!」

 

 はいなんでしょう?

 

 とっさに目線を声の方向に向けると――小五郎さんが真っ直ぐ俺に向けて銃を構えていた。

 

 視界がボヤけてはっきりとした狙いは見えないけど、この状況ならば恐らく後ろのソムリエだろう。

 犯人と探偵――主人公ではないが主要人物の対峙。これがクライマックスだろう。本来ならコナンか蘭ちゃんのどっちかがいそうなポジションに自分がいるわけだが……。そうだよ、これどう見てもヒロインのポジションじゃん。何が悲しくて激痛で意識朦朧としながら野郎に密着されてナイフ突きつけられなければならんのだ。せめて青蘭さんとか怜奈さんみたいな美女でお願いします。

 

 ……ヤバい、馬鹿な思考でどうにか意識保たせようと思ったけど限界だわ。

 

「俺を信じろ……っ!!」

 

 当然じゃないですか。主要人物というのもありますけど、こういうガチな時の小五郎さんは本気で頼りにしています。

 そしてこのクライマックスの綺麗な構図。恐れる理由が一つもない。綺麗にナイフ、あるいは腕に当ててその後確保という流れか。

 立っているのが精いっぱいで、上手く取り押さえられる自信はない。コナンとキャメルさんに頼るしかない。俺に出来る事は、さらに犯人に捕まるとかいうポカを防ぐためにさっさと距離を取るくらいだ。

 

 残った気力を全部費やして足に力を込める。少し体勢を左に傾けて、小五郎さんがナイフを狙いやすい様にする。そしてOKという意味を込めて、小五郎さんに向けて軽く笑ってやった。

 

 意図は伝わったのだろう。飲んだくれてる時のだらしない顔ではなく、少しニヒルな笑いを浮かべると小五郎さんは銃を構え直す。そして、引き金に指をかけ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――俺の脚に激痛が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………え、そっち?

 

 

 

 

 

 

 




相変わらずの難産。
次回は後日談という形でこの後の出来事を色んな人の視点から描いていこうと思います。

以前あと二人ほど事務所に入れたいと言ってましたが、作中のモブから二人という意味でした(汗)

Q本編で重要だった人は? A:関わらない理由がない。

Q:事務所外で登場させたい人物はどれくらい?? A:多数。


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033:一難去って……まぁ、こうなるよね

 あの事件から数日。お母さんの具合も良くなり、今日から仕事に復帰すると聞いてコナン君と一緒に様子を見に来た。正確には、あの事件でやっと分かった事をお母さんに話しておきたかったのだけど……。

 

「えーーっ!! お母さん、お父さんが撃った理由が分かってたの!?」

「当たり前じゃない。これでも一応妻ですもの」

 

 意識が朦朧としていたあの時、一瞬目に入った光景が信じられなかった。

 子供のころ見たあの光景。まるでそれを再現するように、お父さんは銃を構えていた。

 その向こう側には、別人のように怖い顔をしている沢木さん。そして、あの沢木さんにナイフを突きつけられている――浅見さん。

 

 とっさに叫んでいた。『お父さんやめてっ!』って。

 お母さんみたいに、浅見さんが遠くに行ってしまうようで……。

 でもあの瞬間、視界がボヤけていたにも関わらずハッキリ見えた気がした。

 お父さんに向けて、たまに見せるニヤリとした笑みを浮かべた浅見さんの顔が……。

 

「人質を盾にしている被疑者を確保するには、要は人質が邪魔になればいい。囲まれている状況では、殺す暇もない」

 

 そう、そして多分浅見さんもそれが分かっていたんだろう。後でキャメルさんから聞いた話だと、お父さんが撃ちやすく、そして体勢が崩れても自分に被害が出ないように姿勢を変えていたらしい。

 あの瞬間、浅見さんとお父さんは互いを理解して、信じあっていた。そう思うとなんだか嬉しい。

 本当に――本当に浅見さんが私の家族になった気がして……。

 

「そういえば、例の浅見透はどうしたの? 出血が酷かったって話は聞いたけど……」

「うん、お見舞いに行った時は元気そうだったよ?」

 

 浅見さんが目が覚ました日、私とコナン君でお見舞いに行って来た。

 やや広い個室で、『ひまーひーまー……蘭ちゃんお酒持ってきてー』なんてふざけてたけど……。

 足を吊っている布には、七槻さんの文字で『今度こそ大人しくしているように』なんて書かれていた。

 そういえば、その後しばらく安静にさせるって七槻さんからメールが来てたっけ。

 今度またお見舞いに行こうと思うけど……。

 

「コナン君は聞いてる? 私、あの後は詳しい事は聞いてなくて……」

「あー……」

 

 特に仲が良いコナン君に聞いてみる。ひょっとしたらあの後浅見さんの所に行っていたかもしれない。

 すると、コナン君はお見舞いの時の瀬戸さんみたいに顔を引きつらせる。

 

「うん……まぁ、大丈夫なんじゃない? ……今の所は」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 さぁ、お待ちかねのクイズタイムだ。窓の上から鉄格子が取り付けられ、カーテンを引けばプライバシーはある程度確保できるとはいえ監視カメラの目がある。ついでにガラスは防弾仕様で、鍵は外からしか掛けられない部屋ってなーんだ?

 

 

 

――病室である。

 

 

 

 

――病室である。浅見透専用の。

 

 

 

 

「……どうしてこうなったんだ」

 

 軟禁は覚悟してたけど、まさか病室を魔改造されるとは思わなかったよ。しかも俺専用の個室。

 目を覚ました時は普通の個室だったと思うんだけど、一度眠って目が覚めてたらこうなっていた。俺はこの出来事を『本当にあった○○な話』とかいう感じでどこかに投稿した方がいいんだろうか?

 

 足の怪我はかすっただけだったので、歩けるようになって取り敢えず鉄格子を外してみようとチャレンジしたらセンサーが反応して20秒で高木刑事がすっ飛んできた。なんで警察官が来るんですかねぇ……。

 聞けば、自分を捕獲した後のことをふなちが佐藤刑事に相談していたらしい。その結果、狙撃されたということもあるので護衛として人員を付けるのは難しくないと――佐藤さんやってくれるなぁ……。

 

「はぁ……」

 

 まさかの鈴木財閥――というより次郎吉さんがポケットマネーを使ってこの部屋を用意させて設備を整えたようだ。あの後、ヘリで迎えに来た安室さんが俺や蘭ちゃん、怪我をしている奈々さんを救助してくれ、コナンや小五郎さん達は海保の船に助けられたらしい。

 なんでも、爆薬はまだまだあったらしく、爆発していたら建物は崩壊していただろうとの事。

 

(だけど、やっぱりデカい事件の時は爆弾が関係するか)

 

 やはり、そっち方面の知識は多く吸収しておいていいだろう。特に解体技術。

 ……刑事の誰かに頼めばいい人教えてくれるかな? コナンも十分な知識を持ってるけど、勉強しておいて損はない。……高木刑事――なんか不安だからパス。白鳥刑事……最近忙しそうだからこれもパス。

 

(――佐藤刑事なら教えてくれるかな?)

 

 ぶっちゃけ、刑事の知り合いは多い。非常に多い。最近白鳥刑事や由美さんの誘いで他の刑事と居酒屋に飲みに行ったりしている内に知り合いが非常に増えている。

 この病室を埋め尽くさんばかりの見舞い品のうち、警察関係者から送られてきた花やフルーツは交通課や地域課の婦警さん達から。ハートマークや音符マークが入ったカラフルなメッセージカード付きである。皆さん本当にありがとうございます。

 

 そして小さな盆栽やサボテンといった鉢物は、知り合いの警視庁男性陣の皆さまからの見舞い品である。お前ら退院したらおぼえてろよ。

 それぞれにボールペンや筆ペンで、『しっかり休んどけ馬鹿!』とか『そのままじっとしてろ馬鹿!』等と書かれたメモやチラシの裏をちぎった物がセロテープで張りつけられている。煽り雑じゃね? 馬鹿馬鹿書きすぎじゃね?

 見舞いに来た九条検事が、それ見て珍しく爆笑してたんだけど。

 

 ともあれ、知り合いこそ多いがそっち方面の人脈を期待できる面子はそんなにいないのだ。鉢物持ってきた奴ら? マージャンとか飲みの相手ならいくらでも紹介してくれそうだが……。

 

――コン、コン

 

 これからの計画を立てていたら、ドアがノックされる。ノックの仕方、そして直前の足音の小ささは……

 

「安室さん? 鍵閉まってるんで開けて入ってください」

 

 そう答えるとガチャッという音がして鍵が開く。

 

「やぁ。見舞いが遅くなってすまない」

「いえ、安室さんもお疲れですし……もう意識は無かったんですが、あの後ヘリで迎えに来てくれたんですよね? おかげで病院への搬送がスムーズだったようで……ありがとうございます」

 

 ここしばらく姿を見ていなかった安室さんが顔を見せた。目の下に少しクマが出来ている所を見ると、本当に休まず動いてくれていたのだろう。いやもう本当にすみません。

 

「しかし……五体満足ってことは、まだ副所長が来るような事態じゃないみたいだね」

 

 すみません、七槻の奴は何をやらかす気なんですかねぇ……。

 何か知ってるんならすぐに教えてほしいんですけど……もう一回だけ抜け出す気だし。

 ――大丈夫、一晩だけ、一晩だけだから。ちょっと野暮用済ませるだけだから。

 

「それにしても……所長が人気者で調査員の僕も鼻が高いよ。これ全部お見舞いの品だろう?」

「呪いや罵りの言葉とセットなのが妙に多いんですがそれは……」

「愛されている証拠じゃないか」

「愛とは一体」

 

 思わず哲学へと思いを馳せる所だがおいておこう。

 

「それで浅見君。怪我の経過はどうだい?」

「怪我は全く問題ないです。むしろ七――越水とふなちの二人と顔を合わせた時を想像した時の胃へのダメージの方が深刻です」

「それはもう諦めるしかないね」

「いやはやまったく……。まぁ、真面目に怪我は問題ありません。阿笠博士と小沼博士が作ったジャケット、ウチで正式採用ですね。ついでに警視庁――SITやSATにも売り込もうと思うんですが……」

「君という奴は本当に……本当に無駄にたくましいよね。色んな意味で」

 

 おかしい。普通の雑談をしているはずなのに、俺が口を開くたびに安室さんのため息が大きくなっている気がする。

 

「ま、まぁ元気そうでなによりだよ。で、浅見君――いや、所長。今度紹介したい人がいるんですけど」

「? 安室さんから?」

「えぇ。出来れば、しばらく試用で使ってみてもらいたいんですが」

 

 それはまた珍しい。安室さんはむしろ、ウチで働きたいという人間を断る方が仕事なんだが……。

 

「履歴書とかは? まぁ、写真だけでもいいんですけど」

「もちろん。こちらですが……」

 

 そういって安室さんが、持ってきていた鞄から茶色の書類袋を取り出して俺に差し出す。

 それを受け取り、中から紙を取り出す。

 

「えーと、マリー=グラン……外人さん?」

 

 書類から顔写真ははがれていた。書類袋を覗くと、それらしい物が中に入っているので後廻し。

 で、名前を見る限りは外国人の女性のようだ。ふと頭に思い浮かんだのは、いつぞやの金髪美人さん。もしあの人なら即採用なんだが……。

 や、ほら、水無さんと一緒に動いていたから、そういう方面から情報を得る事に長けているかもしれないからね? それなら十分に採用する理由として妥当じゃん? 見た目有能そうだし、スーツ似合いそうな美人だったし……ねぇ?

 

「安室さんは、どこでこの人を?」

「以前、一人で探偵業をやっていた時に何度か仕事を手伝ってもらっていた人です。調査能力――そうですね……情報収集に関しては僕以上かと」

「ふむ……」

 

 余り経歴は書かれていないのが気になったが、探偵という事ならば分かる。あんまり何をやったこれをやったという情報を書く訳にもいかないだろうし。

 一応出来ることに格闘術や護身術に長けていると書かれているし、少々特殊なウチの仕事でも活躍できるだろう。

 

 で、顔は――

 

「どうしろっていうのさ」

 

 思わずそう呟いた俺は悪くない。いや、普通の人なら気にしない所か喜ぶ事なんだろうけどさ。

 書類袋の底から写真を回収して見る。――うん、美人。すっごい美人。それはいい。積極的にいい。が――

 

(……キャラ立ちすぎじゃね?)

 

 気の強そうな表情をした、あの金髪さんと同じくスーツ姿が似合いそうな銀髪ロングの美人さんがそこにいた。

 銀髪て。銀髪て。

 こう、なんだろう。ここまでキャラが立ってると『あぁ、絶対なんらかの関係者だ』と考えざるを得ない。

 

(そして紹介してきたのが、滅茶苦茶優秀な安室さん。おぉ、もう……)

 

 これは少し判断に困る。いや、重要そうな人物と言うなら要チェック人物なのだが……。

 

(雇う? それとも違う方法で少し距離を置いて観察した方がいい?)

 

 要するに、彼女が味方サイドか敵サイドかという話だ。

 ついでに、ここまで目立つ外見のキャラだとそれだけで死亡フラグが立っているような気がする。

 この世界に、緑とかピンクの髪のキャラがいればそこまで警戒しなくていいんだが……。

 やべぇ、これまじでどうしよう。

 

「……意外ですね。美人ですから、所長なら写真みて即答すると思ってたんですが――美人ですから」

「なんという風評被害。訴訟も辞さない」

「へぇ……胸に手を当てて思い返したらどうです? 瀬戸さんとか紫音さんとか。……どうです?」

「記憶にございません」

 

 えぇまったく。一体なんのことやら。

 記憶にないって記憶にない人が言ってんだからそのニヤニヤ止めてくれませんかね。

 

「――安室さん」

「はい?」

 

 まぁ、どっちにせよ確保しておくべき人ではある。彼女が敵か味方かで安室さんへの対応も変わるだろうが――

 

「手綱はしっかり握っておいてください? その……無茶しない限りで」

 

 万が一安室さんが敵だったとしても、いざって時に対応できる諸星さんっていう知り合いも出来たし。

 

 ――ある見舞い品の中に、携帯電話の番号を書いた紙入の封筒を紛れ込ませていた。

 紙には諸星だと書かれた上で、別の名前で登録してからこの紙を処分するようにと走り書きで書かれていた。

 スパイかよ。ちゃんと処分したけどさ。

 

 それはともかく……ぶっちゃけ今更疑ってもなぁ。

 もうこうなったら突っ走れる所まで突っ走るのも悪くないだろう。

 

 一方、安室さんは俺がそう言うと、……唖然とした様子と言えばいいのだろうか。ぽかーんとしばらく俺を見ていた。どうしたんすか?

 

「……いいのかい? 僕に任せて」

「頼りにしてますから」

 

 他になんて言えばいいんだろうか?

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「随分と時間がかかったようだが……彼は元気だったかい?」

「お前には関係のない話だ」

「仮にも護衛を務めた身としては気になってな」

 

 浅見君との会話を終えて車を止めてある駐車場に戻ると、俺の車の傍に見たくない顔が平然と立っていた。赤井だ。

 

「よくもまぁ平然としていられるものだな。お前を殺したいと思っている男の目の前で」

「彼のために頭を下げた君だ。君がどう思おうと、私は君を信頼できる人間だと思ったまで」

 

 あくまで、彼が関わっている事に関してだが、と奴は断りを入れるが……。この薄い笑いが浮かんだ顔を、今すぐ全力で殴り飛ばしたい衝動に駆られる。

 

「一応礼は言っておく。おかげで彼もピンピンしているよ。撃たれた腕を更に抉られたとは思えない程にな」

「さすがというかなんというか、凄まじい生命力だな。我々FBIの中でも、撃たれてすぐに行動できる者が何人いるか……」

「じっとしていてもらいたいというのが本音だがな……」

 

 もっとも、今回は彼が動いてくれたおかげで色々と事が運べた。例えば――

 

「例の男は確保したのか?」

「さぁ? なんのことだ?」

 

 部下――『組織』ではない方のだ。そちらを走らせ、アクアクリスタル付近の海岸で負傷して打ち上げられていたカルバドスの確保に成功した。

 今は怪我の影響で未だに意識が戻らないようだが……戻り次第尋問をする事になるだろう。

 実行部隊の一員にすぎない奴が、そこまで情報を握っているかという不安はあるが――

 

(ともあれ、牙を一つ抜いた事には変わりない、か)

 

 問題はやはりピスコだ。恐らくは個人としてカルバドス……恐らくキールも動かして浅見君に対する揺さぶりを掛けようとしていたのだろうが――

 

(今回の件、上手く印象を操作していかないと不味いな……)

 

 ピスコは浅見君への警戒を強めている。カルバドスの失踪はそれに拍車をかけるだろう。もっとも、捕まえなかったらまた不味い事になっていたのは間違いない。非常に面倒な状況だ。

 とはいえ、ピスコは未だに動く気配を見せない。いざという時のために、浅見君の家と事務所の双方に部下をつけて、なおかつピスコも監視させているが……。

 

「とりあえず、これが報酬だ。受け取れ」

 

 ともかく、コイツに渡す物を渡してさっさと消えてもらおう。一緒にいる所を見られると不味い。

 用意していたもう一つの書類袋を赤井に押し付ける。『あの人』に関しての情報をまとめた物だ。

 赤井は中身を軽くパラパラと確認し、眉に皺を寄せる。

 

「……ピスコの元にいるのか。ある意味で一番やっかいな所だな」

 

 確かにそうだ。だが、身体の安全という意味では現状悪くない場所にいると思う。これがジンの元ならば、すでに危険な仕事を押し付けられて使い捨てられていてもおかしくない。

 むしろ、やっかいな事になったのはそっちじゃなく……やはりというかなんというか――

 

「赤井、お前は出来るだけ事務所には近づくな。こっちもこっちで面倒な女が張り付く事になった」

 

 浅見探偵事務所に、情報収集に特化した幹部を潜入させる事が決定してしまった。

 ピスコからの指示ならばどうにか回避できると思ったが、どうももっと上からの命令らしい。そうなると自分にはどうにも出来ない。

 だからお前が見られるとヤバイ。そういう意味を込めて発言したのだが、コイツは頭を軽く押さえてため息をつく。

 

「女……となると美人だろう? 君も苦労するな」

「…………」

 

 浅見君、君は――君という奴は、赤井にもそう思われているのか……。

 何とも言えない脱力感を少し覚えるが、笑い事ではない。

 

「その女好きの浅見透が、警戒する美女。と言えばどうだ?」

 

 正直、彼の事だから書類を見た瞬間『採用!』なんて即答すると半ば確信していたのが……良い意味でその確信は外れた。

 

 以前から感じていたが、彼の人を見る目は理解できないレベルで凄いと思う。瀬戸さんや小沼博士の件、自分の視点からみて非常に怪しいが、アンドレ=キャメルもまた優秀な人員だ。

 あれだけの人員を見出す彼が、真剣に悩んだ。短い時間とはいえ本気で。

 

(実際、正しい。なにせ、組織のNo.2――ラムの側近と言われる女だ)

 

 コードネーム・キュラソー。顔を見るのは今回が初めてだった。情報収集に長けた工作員で、その技能から警察組織や政府関係の組織が主な仕事対象だったと聞く。組織が、それほどの女を浅見探偵事務所に付ける理由はなんだ? 

 

「ふむ……」

 

 赤井も事態の厄介さは理解しているのか、顎に手をやり考えているが――すぐにその表情は苦笑になる。

 

「――なにがおかしい」

「いや、彼ならどうにかしてしまいそうだと思ってな」

「…………」

 

 笑っている場合かと怒鳴り返したかったが、出来なかった。

 なぜか? その言葉に納得してしまったからに決まっている。

 

「はぁ……っ」

 

 本当に、彼が関わった途端にありとあらゆる事象の――重力のような物が軽くなってしまう気がする。

 

「とにかく、渡せる情報はここまでだ。次からはまたお前を追い掛ける。お前は――お前は……」

 

 ――仇。仇なのだからと言おうとしたが、それを今は言う気分にならなかった。

 

「情報はありがたく頂いていく。――それと、これも前回同様好奇心だが……これから君はどうするんだ?」

 

 これからの事を考えて携帯を取り出した瞬間、赤井が尋ねてくる。本当に何気なく聞いたんだろう。

 

「……ちょっとした野暮用だ」

 

 携帯のディスプレイには、ある人物からのメールが来ていることを伝えるアイコンが表示されている。

 その人物は自分にとって一応の上司に当たり――しかも年下の人物である。ただし、浅見透ではない。

 つまり――

 

 

『越水七槻』

 

 

 我らが副所長からのメールであった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「柚嬉ちゃ~~ん! いつものちょうだ~~い♪」

「もう! 毛利さん、ここのところほぼ毎日来てるじゃないですか! 娘さんが心配してるんじゃないですか!?」

「だ~いじょ~ぶだ~いじょ~ぶ! 心配ないって~!」

 

 蘭には英理の所に通ってやれと言っている。実際、毒を飲まされてからアイツも心細いだろうし、今日はコナンと一緒に向こうに泊まると言っていた。

 俺が来たのは、ここ最近よく飲みに来る『ブルー・パロット』というバーだ。ダーツやビリヤードが置いてある、おおよそ自分のような歳の男には似合わない店だが、よく通っている。

 この女の子が可愛いからだ。この女の子が可愛いからだ。

 今俺の相手をしてくれている柚嬉ちゃんは、バーテンダーとしてここで働いている子だ。

 よくこうして怒られるが、なんだかんだで今みたいに酒を出してくれる。

 

 冷えたグラスに注がれたビールをグッと喉に叩きつける。

 炭酸と苦みから来る、痛みに似たような刺激。これが今の自分の癒しだ。

 だが、それもあっという間に無くなってしまう。

 しばらくは煙草の苦い煙で満足しているが、すぐにまた口寂しくなってしまう。

 さっそくお気に入りの子にお代りの注文を頼み、再びビールを口に含み――。

 

「――ここで飲んでたんですか。他の店回ってもいないから探し回りましたよ」

 

 

――ぶうううううううぅぅぅぅぅぅっ!!!

 

 

 盛大に吹いた。柚嬉ちゃんが『ちょっと毛利さん!』と怒っている。

 

「あ、あ、浅見!? お前入院してんじゃねぇのか!?」

「抜けだしてきました。監視カメラ誤魔化しながらセンサーを無力化するのにどれだけ手間暇がかかったことか……」

「なにやってんだてめぇ!?」

 

 失礼しまーすと、軽いノリで俺の横に座ったのは、ついこの間大怪我のオンパレードを負った――はずの年下の同業者だ。

 

「ちょっと羽を伸ばしに……ですかね。さすがに常に監視されているのはキツい」

「って……お前例の狙撃犯はどうなんだよ」

 

 刑事連中から『歩いても寝ててもネジがポロポロ落ちていく男』と呼ばれているのは知っていたし、コイツの怖いもの知らずな所も知っているつもりだったが……まさかあの監視すら抜け出すとは……。

 

「そっちの方は多分カタが付いたと思うので、あんまり心配してません」

「カ、カタがついたって……」

 

 相変わらずコイツ自身もコイツの周りも謎だらけだ。この間拳銃をもったストーカーが出た時も、コイツとコイツの部下の安室という奴の二人掛かりとはいえ、ほぼ丸腰かつ無傷で取り押さえている。

 

 先日の事件の時は、俺が足を掠めるように撃った直後、コイツは綺麗に犯人――沢木さんの体勢を崩すように倒れた。どういう訳かウチの居候のガキが近づいていたが……なんであのガキ近づいたんだ?

 

 そしてナイフがコイツの身体から離れた瞬間、あの手品師の嬢ちゃんがトランプを投げつけた。数枚同時に投げた内の一枚が綺麗にナイフに当たり、取り落とした所を今度は同時に飛び出していた大柄な運転手が取り押さえる。刑事時代にあまりそういう機会はなかったが、少なくとも自分には素晴らしいコンビネーションに見えた。

 

(本当にどうにかしちまった……って言っても納得できちまうのがこいつらだよなぁ……)

 

「ま、飲み仲間がいないと寂しいですからね」

 

 浅見がポロッとこぼした言葉に、なんとなくコイツがここに来た目的が分かった気がする。

 恐らく、言葉通りだろう。ただ、それは浅見自身じゃなく――

 

(……この馬鹿野郎、人の事を気遣っている場合かよ)

 

 コイツが目を覚ました時に、蘭と一緒に見舞いに行ったが、その時も自分の事より蘭や俺を気遣っている気配はあった。余計な事をするガキめと思ったが……。

 

「ったく、柚嬉ちゃん! コイツに何か軽い物作ってくれ! 浅見ぃ! 一杯飲んだら帰れよ!?」

「もちろんです! ゴチになります!」

「調子いいな、てめぇはよぉ!!」

 

 この数日、一人で店の人間に管を巻いていた。

 それはそれで悪くはない。気晴らしにはなった。だが、カウンターの向こうの人間ではなく、隣にいる奴と話すのも……まぁ、悪くない。

 怪我人でなければ、もっといい。

 

「浅見、早く怪我治せよ」

「はい」

「んで、また美味いツマミでも持ってこいよ。安酒で良ければ用意しといてやる」

「はい」

「……浅見」

「はい?」

 

「何歳になっても。いや、歳を取ったからこそか……」

「…………」

「……友達を失くすのは……堪えるなぁ……」

「…………」

 

 柚嬉ちゃんが、浅見のグラスを持ってくる。普段のコイツなら絶対に飲まないカクテルだ。

 本人も似合わないと思ったのか、微妙に苦笑しながらグラスを掲げる。

 

「浅見」

「はい」

 

 体の向きをそちらに向ける。松葉づえを足にひっかけながら、コイツも俺の方をしっかり向いてくれる。

 

「お疲れさん」

「小五郎さんも、お疲れさまでした」

 

 軽くグラスをぶつけ、軽い音がカウンターの上に響く。

 若い奴と飲む機会なんて、去年まではお店の女の子相手がほとんどだったが……こんな馬鹿と飲む酒も、悪くないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「まったくもう……」

 

 ブルーパロット。発信器が指し示しているのはこの店で間違いない。

 

「例によって例の如く無理無茶無謀の三拍子で色々突っ走ったばかりだっていうのにさっそく脱走するなんて――」

「いやぁ、副所長の読みは凄いですね。そろそろ逃げ出す頃だから待機ってメールが来た時は何事かと思いましたよ」

 

 運転席にいる安室さんは、やけにニコニコしながら店の方を眺めている。多分だけどボクも似たような顔をしているんだろう。バックミラーに映るふなちさんは、さっき一度十字を切ってから手を組んで必死に祈っている。優しいなぁふなちさんは……。

 

――ザ、ザザ……っ!

 

『こちらキャメル、配置に付きました。万が一タクシー等に乗られた時に備えてエンジンはかけています』

 

『瀬戸瑞紀、こっちも大丈夫です。小沼博士と待機してます!』

 

『美奈穂です。こちらには穂奈美、それに非番でした由美様もご一緒です』

 

 無線から次々と報告が流れてくる。ブルーパロットから、仮に裏口等を使ってこっそり逃げようとしても追えるよう完全に逃げ道をふさいでいる。アリ一匹逃さない包囲とはこのことだ。

 

『あ、あのぅ……本当にいいんでしょうか?』

 

 キャメルさんが不安そうな声でたずねて来た。

 

「大丈夫です、店に突入なんて無粋な事はしません。店を出て離れた所を速やかに確保します。多分毛利探偵と一緒でしょうが……仕方ありません。同時に包囲して彼を引き渡してもらいます」

『いつからウチの所長は凶悪犯のような扱いをされるようになったんでしょうか……』

 

 結構前からだと思う。というか、まさかセンサーを無効化されるとは……おそらくコナン君や阿笠博士と一緒にやっている『授業』で技術だけはほいほい取り込んでいるんだろう。……対策が必要だなぁ。瑞紀ちゃんと一緒に色々考えてみるか。

 

「あ、あのぅ……越水様?」

「ん? なに、ふなちさん?」

「さ、さすがに浅見様も今回はすぐに帰るのでは……いや、あの人もきっと反省して――」

「ふ・な・ち・さ・ん」

「ひゅいっ!?」

 

 どうしたのふなちさん。変な声出して。僕、君の名前を読んだだけじゃない。

 

「前にね、ボクが彼に心配かけちゃった時にさ、浅見君色々と用意してたんだ」

「は、はぁ……」

「発信器用意して、おまけに走行中のバイクから飛び降りて並走してるワゴン車に飛び乗ろうとしたりさ……」

「あの、もし?」

「要するにさ、ふなちさん」

 

――こんなに心配かけてるんだから、こっちがちょっと位やりすぎても仕方ないよね?

 

 どうしたのふなちさん、また十字を切ったりして?

 

 




この文量でこの内容は少し薄かった気がする……長い間書いてないと色々と変になりますねぇ……
次回、後日談もう一話やってから、再びスキップモードに入らせていただきます



そしてよっしゃー! 久々のキャラ紹介!

○福井柚嬉(26歳)

アニメ:File738-739 小五郎はBARにいる(前後編)
原作:81巻File2-5

調べるまで知らなかったんですけど、どうやらイベントでファンの名前を実際に使ったキャラのようですね。

小五郎の行きつけの店、『ブルーパロット』に勤めるバーテンダー。
名前に『ゆず』が入っていることから、柑橘系の香りが好きな方です。
個人的には可愛い系で結構上位に入る人ですねw



○マリー=グラン

この名前はオリジナルですが、正体は作中で書いた通り。
ぶっちゃけ何書いてもあれなんで、分からない人は『純黒の悪夢』のDVD・BDを是非買いましょう!

……レンタルでも可!!!!w



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034:その後の色々そのに(副題:内緒のクリーニング)

「ねぇ浅見君。大人しくするってどういう意味か知ってる?」

「あ、はい。えぇと――」

「どういう意味か知ってる?」

「いや、だから」

「どういう意味か知ってる?」

「お願いだから喋らせてくれませんかねぇっ!!?」

 

 酔っぱらった小五郎さんをタクシーに乗せて、見送った三秒後には包囲されてました。

 由美さん、なんでノリノリで交通課の方々引き連れてきちゃったんですか……他の人から見ればどう考えても俺、取り押さえられる直前の逃亡犯じゃないですか。……あれ? 間違ってなくない?

 

「……ねぇ、浅見君」

 

 越水がカーテンを閉めて、ベッドの端にちょこんと腰をかける。

 

「僕達の事を考えて、相談役の所に保護をお願いしてくれたのは分かってる。ありがとうね?」

「……越水?」

 

 あれ? スタンガンの一撃くらいは来ると思ってたけど……あれ?

 

「でもさ、もうちょっと僕達に――僕に頼ってくれても良かったんじゃない?」

「……おいっ」

 

 一瞬、何かで手の甲を刺されたのかと思った。だが違う。その感触の正体は、ひんやりとした七槻の指だった。

 

「うん、知ってた。そういう意味では、安室さんや瑞紀ちゃんを頼りにしてるっていうのは。実際正しいと思う。荒事が関わりそうな事件であればあるほど、あの二人は頼りになる。僕が浅見君の立場でもそうするよ」

 

 手の甲に伝わる冷たさが、点から面になる。不思議と顔が動かせないが、理解できる。越水が、俺の手の甲に自分の手を這わせている。

 おかしい。様子がいつもの七槻と違う。

 気が付いたら、もう片方にも越水の手が添えられている。そこまで考えて、ようやく今の状況に気が付いた。

 

「七槻、お前――!」

 

 気が付いたら、七槻が完全に自分の動きを封じていた。俺の上に乗る事で。

 

「ねぇ、浅見君。答えてくれないかな?」

 

 顔を見て、俺は何も言えなくなった。――そりゃそうだ、この状況で何か言える奴がいるなら俺はそいつを勇者と呼んでやる。

 

 

――涙を流す女に勝てる男なんて、そうそういねぇだろうさ。

 

 

「僕、そんなに頼りないかな?」

「……七槻」

 

 違う、そうじゃないんだ。反射的に七槻の顔に手を伸ばそうとしたが、不思議と手は動かなかった。

 俺の手を撫でるようにしていた動きが止まり、指と指が絡み合う。

 その手が少しずつ上へと伸びていき、それと同時に少しずつ七槻の顔が近づいてくる。

 思わず目を閉じながら、今言わなきゃいけない言葉を探して、口にする。

 

「七槻……ごめん。俺が悪かった、でも――」

 

 手を七槻の背中に回そうとする。だが、動かせない。

 手首に感じる冷たい感触。こころなしか先ほどよりも強く、そして痛く感じる。

 

「……おい」

「ねぇ、答えてよ。僕、頼りないかな?」

「――その前に、俺が聞きたいんだが」

 

 手首を――ほとんど身動きのできなくなった両手首を動かすと、『ジャラッ』という金属音がする。

 ベッドの金属部分――ではない。もちろん。

 

「なに? 僕に何が出来るか? そうだね、今まで推理力には自信があったんだけど最近じゃあ安室さんに――」

「誰がんなこと聞いてんだくらぁっ!」

 

 ガシャガシャと音をたてて、自分の両手を拘束している『手錠』の存在を強調するが、七槻は俺に乗っかったまま平然とした顔で言葉を続ける。おい、今ポケットに隠したの目薬か? 目薬だよな!? 

 

「てっめこの野郎!! 完全に拘束するために芝居打ちやがったな!?」

「撃たれて刺されて抉られて銃弾掠めたのにさっそく抜けだしてる奴に発言権があると思ってるの!?」

「馬鹿野郎! 撃たれて抉られて銃弾掠めたんだ! ジャケットのおかげで『刺された』のはノーカンだノーカン!」

「ちょっとでも肌に傷が付いて血が出たんなら刺されたでいいんだよ!」

 

 どうにかコイツをどかそうと足をバタバタさせるが、腰の上に乗っているために攻撃が一切届かないちくしょう。

 

「ほら、暴れない。傷口開くよ?」

「てめぇがどきゃ済む事だろうが! や、その前に手錠外してくださいお願いします! 所長命令ですだよ!?」

「副所長権限で却下」

「ガッデム!」

 

 このやろう、ここ最近で一番いい笑顔してやがる! なんて女だ! 俺はただ怪我を無視して病院抜けて暴れ回ってちょっとまた怪我した後でもう一度病院抜け出しただけじゃないか!!

 

「ま、いい機会だから身体をしっかり休めておきなよ」

「拘束された状態でか!?」

「仕事の方は僕達でやっておくからさ」

「うぉぃっ!?」

 

 あ、ダメだ。こいつマジで俺をここに監禁するつもりでいやがる。

 お巡りさん助けてお巡りさん! ……あぁ、いるよねお巡りさん。多分すぐ外に。

 

 越水は、引き攣っているのだろう俺の顔を携帯のカメラでパシャっと撮ると、満面の笑顔でその出来を確認して――

 

「と、いうわけで所長。後の事は我々に任せてゆっくり療養をしててね?」

「良し分かった。きっかり療養取ってやるからこれを! 手錠を外してくれ! さっきからトイレ行きたくてしゃーねーんだ!! せめて鍵おいていってくれ!」

「…………ふーん」

 

 そういうと越水は、『わかったわかった、ちょっと待ってね』と言って立ちあがるとベッドから離れ、カーテンを開け、そしてドアを開けて笑顔で手を振り、そしてそのまま鍵をかけていったのだった。

 

 

 

 

 

 

「――――鍵寄越せっつったんだよ誰が掛けていけっつったんだオラァ!!?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 多分、今頃ドアの向こうで浅見君は騒いでいるだろうが、ここまでくれば音は聞こえない。防音対策はしっかりしている部屋だ。ウチの事務所とほぼ同レベルの防音、盗聴対策をしている特別室。そう簡単に声が漏れる事はないだろう。

 

(さて、手錠の近くに隠したナースコールのスイッチにいつ頃気付くかな?)

 

 緊急事態の時はともかく、普段の彼は変な所でおっちょこちょいだからひょっとしたら気が付かないままかも……まぁ、それはそれでいいか。

 

「…………ふふっ」

 

 懐から、さっきまで録音機能をONにしていた携帯を取り出し、耳に当てて再生を始める。

 

 

 

――『……七槻』

 

 

 

――『七槻……ごめん』

 

 

 

 思わずと言った様子で彼の口から出た、自分の名前。

 罪悪感のせいか、弱弱しいが確かに『七槻』と呼んでいる。

 

「~~~~♪」

 

 特に深い意味はないが、その音声データにロックを掛けて、ファイル名を編集して日付をタイトルにする。

 そのままストラップの紐を指にかけて、くるくると宙で回しながら病院の出口へと向かう。今日はここしばらく溜まってた仕事の整理をしなければいけないから事務所に泊まろう。外に小沼博士と穂奈美さん達が車を止めて待ってくれている。

 これからとっても忙しい夜になるが――良い夜になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご覧ください。あれが、浅見様を完全に監禁、その後上機嫌で鼻歌を歌いながら立ち去る我らが副所長の勇姿ですわ」

 

 半分スキップになりかかっている越水の後ろ姿を物陰から見つめる複数の姿があった。

 事務員兼調査員のふなちに、主力調査員の安室、瀬戸の三人だ。

 

「安室様、瀬戸様。……ご感想は?」

 

「そうですね……とりあえず、副所長には……」

「ぜ、絶対に逆らわないようにします」

 

 順々にそう答える安室と瀬戸。その回答に、それが正解だと言わんばかりに『うんうん』と頷いているふなち。

 揃って引き攣った笑みを浮かべている三人の探偵は、微かに金属をぶつける音と『トイレ~』とか『カメラを~』などといった微妙な声が漏れてくる病室のドアを開けるかどうか僅かに悩み――結局、そのまま静かに病院を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 沈みかかった太陽が、堤無津川に紅いイルミネーションをかけていく。

 その河原を、一人の男が息を切らしながら走っている。

 その男――白鳥は、いつものスーツではなく、めったに着ないジャージ姿だ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ」

 

 かれこれ5時間程、ほとんど休まずに白鳥は走っていた。

 非番の日だから、時間は気にしなくていい。たまに水を口に含みながら、限界まで足を前へ前へと踏み出していた。

 

「あれ? 白鳥刑事じゃないですか」

 

 ふと足を止めて、夕日が川に反射する光景を眺めていたら、後ろから声を掛けられた。

 誰だと思い白鳥が後ろを向くと、よく知っている顔がそこにいた。

 最近よく一緒に仕事やプライベートで一緒になる男の子が立ち上げた探偵事務所。その調査員の一人で、スタントマンが舌を巻く程の運転技能を持つ男――アンドレ=キャメルだ。

 

「キャメルさん……あなたも走っているんですか?」

 

 キャメルも、白鳥と同じようにジャージ姿だ。額の汗を、首にかけているタオルで拭い、白鳥の傍へと歩いてくる。

 

「えぇ、トレーニングは向こうにいた頃からの日課でして……特に、ウチの事務所は思いがけない仕事が多いので気が抜けなくて……」

 

 ハハッと笑うキャメルの身体を、白鳥は観察していた。ガッシリした身体付き、太い腕に足。しっかりと鍛えられていることが良く分かる。

 そうでなくても、キャメルが格闘術に長けているのは先日の一件で白鳥は知っていた。

 

「そういう白鳥刑事こそ、トレーニングですか? 千葉刑事から、今日は非番だと聞いていましたが……」

「えぇ、ちょっと鍛え直そうと思って……しかし、日頃の訓練があるとはいえ、それだけだと徐々に鈍るものですね……」

 

 その様子にキャメルは疑問を持った。普段からトレーニングをする人間だと、大体の限界を知っているモノだ。それがあからさまなオーバーワークをしている事に気が付いたからだ。

 

「無計画で身体に負荷を掛けるのは逆効果ですよ?」

「えぇ、そうですね。本当に……今まで何をやっていたのか……」

「……白鳥刑事?」

 

 白鳥は、既に限界まで走っていたのか、その場に腰を下ろした。

 キャメルも、なんとなくその隣に腰を下す。

 

「どうかされたんですか?」

「……先日の一件で、自分の無力さを痛感したんですよ」

 

 先日のトランプに纏わる一連の事件。その最後の時に、結局自分は何の力にもなれなかった。そう白鳥は痛感していた。

 ヘリが墜落しかかった辻の一件は、浅見透という名探偵の思考を頼っただけだった。

 最後の時――その浅見透が人質になった時も、毛利小五郎と彼――浅見透の部下の人達が解決した。

 怪我をしていた目暮警部は仕方ないにせよ……一切負傷をしていなかった自分が何もできなかった。

 あの時銃を構えた時も、震えが止まらない自分の手を見て、自分が撃てない事を白鳥は自覚していた。

 

「……犯人が分からなかった事……ですか?」

 

 キャメルは、経験則――自分の経験から、少々無神経だと思いつつも突っ込んで聞いてみた。そっちの方が良いだろうと思った。

 

「えぇ、まぁ……平たく言うとそうですね。それに……」

 

 白鳥は、水分補給用に買ってきていたミネラルウォーターのペットボトルを取り出しキャップを開ける。

 だが、それを口に付ける様子はない。そのまま川の水面を眺めたまま、言葉を続ける。

 

「あの時、瀬戸さんが僕の拳銃を奪い取った時に……少しだけ僕は――ホッとしてしまったんです」

 

 その時の感情を思い出したのか、白鳥は苦虫を噛み潰したような顔をした。そして水を飲もうとしたが、まるで飲むことが罪だと言うように額に更に皺をよせ、結局飲まないままキャップを閉めた。

 

「責任、行動、そして結果。それが自分の手から離れて他人の手に渡った。そう思って……」

「白鳥刑事……」

 

 刑事として何も出来なかった事に責任を感じているのか、あるいは歳の離れた友人のために何も出来なかったことを悔いているのか……。そこまで話した白鳥は、大きくため息をつく。

 

「僕が警察官を目指したのは、ある女の子との思い出を追い掛けたのが理由でした。……桜の花は警察の花、正義の花。そういって笑いかけてくれた女の子の事が忘れられずに、ここまで……ですが――」

 

「――今の僕は、正義という言葉がふさわしい男なんですかね?」

 

 別に答えを求めていたというわけではない。自問自答という言葉が最も合うだろう。

 キャメルには、白鳥になんと声をかければいいか分からず、しばらく揃って水面を見つめていた。

 

「……自分も、失敗したことがあります。大きな失敗を。……それこそ仲間の、そして人の命にかかわる事でです」

 

 しばらくしてから、キャメルが口を開く。キャメルの顔も先ほどの白鳥の様に、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「胃が痛いなんてものじゃありませんでした。幸い、犠牲者は出ませんでしたが任務は失敗。……そのせいで、今もある人物は危険な状態にあると思われます」

 

 キャメルの痛恨のミス。ある意味で、アンドレ=キャメルという男が今、浅見探偵事務所にいる原因と言えるミスだった。

 

「その失態をなんとか償いたい。そう思って、私は日本に来ました」

「? それで、どうしてあの探偵事務所に?」

「え? あ、あぁ、それはえーと……じ、事件などを調べるのならば、あの探偵事務所が一番妥当だと思ったんですよ」

 

 ハッハハハと、誤魔化すように笑うキャメルに白鳥は首をかしげたが、特に追究せずに「そうだったんですか」と一応納得したようだ。

 

「自分は、今も足掻き続けています。あの時の失態を背負って……」

 

 引き攣った笑いをひっこめたキャメルは、真っ直ぐに白鳥の顔を見る。

 

「白鳥さん。貴方もそうするべきだと、勝手ながら思います。本当に誰かを失う前に。ただ、がむしゃらに――今の様に」

「…………」

 

 白鳥は、その言葉を聞いて目を見開く――訳でもなく、その言葉を予想していたように少し笑って頷いていた。

 その横顔を見てキャメルは、ほっとしたように息を吐いて、

 

「ただ、やはりオーバーワークはオススメしません。良かったら、簡単なメニューで良ければ作りましょうか?」

「是非、お願いします」

 

 事務所で一番の新参者というのもあって、キャメルと白鳥はあまり話した事がなかった。

 知り合いの刑事、知り合いの探偵という間柄だった。だが、今日こうして言葉を交わしてよかったと、互いに思っていた。いい友人になれると、そう感じていたのだ。

 

「どうです? 先日安室さんに教えてもらったんですが、この近くに安くて美味い定食屋があるらしいです」

「いいですねぇ。喜んで、ご一緒させていただきます」

 

 そうして立ち上がったジャージ姿の大人二人は、その後も雑談を続けながら、夕焼けに染まる河を背に、肩を揃えて立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「んで? 結局狙撃手って誰だったの? 名探偵の浅見透さん!」

「すみません、とりあえずパリパリ音が鳴ってるその靴どうにしてくれませんか? あとお前の猫撫で声って鳥肌立つから止め――あ、ごめんなさいごめんなさい俺が悪かった! 悪かったから靴のダイヤルを一段階上げるのやめてくんない!?」

 

 先日、俺の尊厳をガリガリと削ってくれたあの一夜から数日が経った。もう本当に……もうちょっとでもっとヤバくなる所だった。カメラのデータも消してもらったし――

 

 一応今はある程度自由を許され、こうして外の庭でコナンと話している。

 

「と、とりあえず順番に話すんだけどさ――」

 

 そっから俺は、見舞いに来ていたコナン(凶器所持)に色々と説明した。

 ヘリの一件の後、白鳥刑事からの情報を頼りに動こうとした時に狙撃手っぽい個人的最重要参考人こと諸星さんと遭遇。

 そっからなんやかんやで囮作戦を決行。敵がいるという前提で狙撃する場所を限定させて、その場所目掛けてカウンタースナイプというとっても効果的な作戦を――おいホームズ、なんで靴をさらにいじった?

 

「つまり、ワトソン君の言い分をまとめると……会ったばかりで、しかもこの日本で狙撃銃を所持している超不審人物を勘を頼りに信じて背中を任せた――って事でいいんだよね?」

「…………おっと、そろそろ部屋に戻らないとまた監禁コースだ。それじゃあコナン! 詳しい説明はまた今どぇっぱぁあっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、そいつはどんな奴だったんだよ?」

「待って、ちょっと待って。まずはおれの首が真っ直ぐになるかどうかゆっくり試した後にして。いやマジで」

 

 すでに十分痛いが、それ以上に首を伸ばすのが怖い。非常に怖い。本人はちゃんと手加減したって言っているが嘘だ、絶対嘘だ。だったらなんで威力を強めたんだよ。そもそもサッカーボール持参の時点でやる気満々じゃねーか。

 

「ま、まぁ恐らく大丈夫じゃろうて。それで浅見君。その諸星という人はそれから連絡を?」

 

 今では場所を移動して、駐車場で待っていた阿笠博士の車の中に移動していた。このちびっこホームズ、マジで俺への制裁のために庭まで来ていたのかこの野郎。

 

「一度だけ向こうから。『後日詳しい話をしよう。連絡はこっちからする』っていうメールが来たな」

「まぁ、だろうな。狙撃銃を持っているような人物なら、今も狙撃事件の捜査を続けている警察を警戒して当然。今、浅見さんはふなちの要請で警察が張り付いているから……」

「あぁ、おかげでナースコールの時も検温の時も食事の時も、看護婦さんと刑事がセットで来るんだけど……」

「ハ、ハハ……ある意味愛されてんじゃねーか」

「おめーまで安室さんみてーな事言ってんじゃねーよ」

 

 最近は千葉刑事と佐藤さんがよくよく張り付いてくれる。他の刑事も大勢来るが……特に最近ではキャメルさんと一緒に白鳥刑事が来てくれる。

 

「まぁ、こっちから連絡すりゃあ多分取れると思う。とりあえず、退院したらこっそり飯にでも誘って詳しい話を聞こうと思うんだけど。さっき言った通り、向こうも話があるみたいだし」

「……博士。浅見さんのサングラス、確かそっちの音を俺のメガネに送ることができるよな?」

「ん? おぉ、可能じゃ。眼鏡のつるの先にイヤホンを付けられるようにしておる。それで浅見君のサングラスが拾った音を転送する事ができるぞぃ」

 

 そうだな、それが一番良いだろう。うかつにコナンを前に出すわけにもいかない。コナンが言うとおりまだ怪しいと言えば怪しい人物だ。

 個人的には、怪しすぎて実は味方サイド。あるいは中間の第三者っていうポジションっぽいんだが……これ言ったら頭の心配されるか、今度こそ話に聞く大木をへし折ったレベルのキックを喰らうかもしれん。

 

「……問題の狙撃手の方は?」

「あぁ、安室さんが調べたら、諸星さんが言った通りの建物に血痕があったよ。それを追っていったら、海に続いていたらしい」

「……逃げられたか」

「いや、それなんだけど……」

 

 ちょっと重要な事なので、念のために周辺を見回す。

 こちらに注意を払っている奴はいない。

 そっと後部座席から身を乗り出して、助手席のコナンの耳元に口を近づける。

 

「一応捕まえたらしい。警察の――公安が」

「……はぁっ!?」

 

 おいこら傍で叫ぶんじゃない。しっ!

 

「あぁ、この間、風見さんっていう人が来て状況を教えてくれたんだ。あの近くで、打ち上げられていた男を確保したって」

「……本当に公安の人だったのか?」

「あぁ、多分。高木刑事が敬礼してたのがチラッと見えたし。――まぁ、ともかくだ」

 

 んんっ、と咳払いをして後を続ける。

 

「この話は他の面子は知らない……っていうか話しちゃいけないってことだからよろしく頼む」

「あ、あぁ、それで? なにか分かったのか?」

「全然。今の所、意識が戻らなくてずっとベッドの上ってことだ。どこにいるのかはさすがに教えてくれなかったけど……」

「そっか……」

 

 加えて、仮に何か分かったとしてもあの風見という刑事が教えてくれるかどうかは疑問だ。

 俺に対して高圧的というか威圧的というか――

 

(なんだか敵視されているような気がしたな、あの人)

 

 正直、話していてあまり楽しい相手ではなかった。今までの警察関係者が余りにフレンドリー過ぎるだけかもしれないけど。

 えらく言葉の一つ一つが皮肉めいていて、やたらめったら『一般人の貴方は~』『一般人なのだから~』って一般人という所を強調されていた。いや、本当に話してて肩凝った……。

 

(まぁ、それでも守ってくれていたのは間違いないみたいだけど……)

 

 以前水無さんが見せてくれたファイルで、公安が米花町で動いていたのは知っていた。

 コナンではないが、俺も正直本物の公安の人かどうか不安だったので、さりげなく

 

『いつもありがとうございます』

 

 と言ったら一瞬だけ動揺した。その後『さて、何のことでしょう?』なんて嘯いていたが……。

 

「ともあれ、今回俺はほとんど足引っ張っただけだったわ。悪かったな、コナン」

 

 いや本当に。せいぜい俺が『本来の流れ』から被害を減らせた所があるとしたら、多分最後の爆弾だけだろう。

 

「バーロー、浅見さんが探偵事務所で人を集めていたから犠牲が少なかったんだよ。ヘリの時もそうだし、奈々さんが襲われた時も瀬戸さんがいなかったらどうなっていたことか……」

「……そうかな?」

「そーだよ」

「……ふむ」

 

 コナンからの視点であからさまに足を引っ張ったと言う事はないのか。

 最後の時とかは完全にしくったと思ったんだが……。

 

(まぁ……終わりよければすべてよし、か)

 

 

 




今回のゲスト!

○風見 裕也

映画『純黒の悪夢』に登場した安室さんの部下。作中でも描写した通り公安の人間です。

今週のサンデーに乗っていた彼は違うんでしょうか? 髪型が違うようですが帽子かけてますし……
というかコナンは原作でもどんどんキャラが増えていきますねぇ(汗)
単行本買わないと、例の和葉のライバル(?)っぽい人の事件見逃してて分かんないんですよねぇ……例の新しい先生の件も(汗)

次回からスキップモード! 出したいキャラが多くて困る!!(笑)


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探偵事務所の日常(2年目)
035:新顔、家政婦、そして手品師


6月4日

 

 超久々に日記を書く。いや、書く機会はあったんだけど入院生活が退屈すぎて……。

 とにかくここ最近の出来事を書いておこう。

 まず、久々に現場復帰したのと同時に例のマリーさんと会ってみた。うん、超強気。

 

 こうなんだろう。自信満々というか、いかにも試している視線というか――ある意味でこの間会った風見さんに近い気がする。まぁ、なんらかの重要人物であるっぽい事に加えて美人だから良し。優秀だから良し。

 

 んで俺と安室さん、そしてマリーさんでさっそく一仕事。今回は行方が分からなくなった家出娘を探してくれという内容だったが、調査を続けていけばまさかの麻薬がらみ。おまけにドンパチがセットで付いてきやがった。どうなってんだよ米花町。

 久々ってレベルじゃないくらい久々に銃撃ったけど怖かった……。先生からもらった銃で練習だけはずっとやってたけど、そのおかげか怪我をさせずに無力化できた。

 その後警察が来て全員無事に御用。小田切さんから『相変わらずだな』って言われたけど俺普段からこんな無茶してましたっけ? ……してましたね。うん。狙撃の件も無視して走り回ったばっかりだったし。

 

 ともあれ事件は無事に解決。家出していた娘さんは、友達に薬を止めさせようとして巻き込まれたようだ。幸いヤバい事になる前に無事保護。そして事が終わったらマリーさんがスッゴイ目で俺を見ていましたとさ。

 ……ホント、立ち位置不明だけど安室さん手綱をしっかりとお願いしますね?

 さて、そろそろペンを置いて、七槻に全力で土下座しに行ってこよう。

 

 

 

6月6日

 

 家政婦さんを雇う事になった。

 というのも、大学と事務所を行き来しているせいで、家がどんどん汚れていく一方だったためである。

 交代、あるいは同時に休みを取ってはいるのだが、ふと油断すると洗い物が溜まっていたり、洗濯物が積み重なっていたりする。家事をやる余裕が段々無くなっている。

 

 そういう話を、狙撃事件の前に知り合ったデザイン会社社長の若松という人に話したら、一人紹介してくれるらしい。なんでも、娘みたいな子だと言っていたが……。

 

 それと同時に、事務所の方も人を増やす計画が出ている。

 別に調査員足りてるんじゃない? って思ったんだけど、七槻の案で医療関係の知識を持っている人を出来れば雇いたいと言うことだった。本人は、『調査の際の視点がより多角的になる』なんて言っていたが、多分目的は俺だろう。

 まぁ、実際の所物騒な事が増えつつあるから、何かあった時のためにそういう人がいてくれるとありがたい。……元看護師とか、看護師から転職を考えている人とかを探してみるか。

 

 ついでに今日は次郎吉さんの所に行って来た。なんでも、例の『ロマノフ王朝の秘宝展』の再開を真面目に計画しているらしい。青蘭さんにメールで教えておくか。

 

 

 

6月7日

 

 今日は書類仕事だけで、しかもすぐに終わったので安室さんからギターを教わっていた。

 

 七槻やふなち辺りに言ったらなんで? って聞かれるだろう。実際俺もどういう流れでギターを教わっていたのか説明できないが……なんでだろう?

 

 なぜか途中で瑞紀ちゃんが来て、更には紫音さんやコナン達少年探偵団まで来るというカオス。特に紫音さん、迷惑じゃありませんでした? 安室さんみたいに上手い人ならともかく、こんな下手なギターを聞かせてすみませんでした。

 

 一通り終わって、皆で近くのファミレスでご飯食べてた時に、なんでギター教えてくれたのか聞いてみたけど、安室さんも笑いながら『なんとなくですよ』と言うだけ。

 まぁ、楽しかったからよし。今度は瑞紀ちゃんがキーボードをやりたいって言っていたし、少年探偵団は一緒にリコーダーの練習をしたいって言ってたし、どこかのスタジオ借りておくか。

 安室さんがギターなら、俺はベースにしようかな……安室さんどっちも教えられるって言ってたし。

 

 

 

 P・S

 なお、コナンの音痴っぷりが凄まじかったことを追記しておく。

 紫音さんが『ある意味天才的』と言うレベルだ。もっと分かりやすく書くと、安室さんがフォローできないレベル。お前すげーなマジで。

 

 

 

6月9日

 

 今日から家政婦さんが来てくれるようになった。やばい、すっごい可愛い。や、顔とかもそうだけど仕草とか声とか口調とかで滅茶苦茶癒される。米原 桜子さんっていう女性で、俺より年上なんだけど年下みたいな扱いになりそうだ。気をつけないと……。

 

 ついでに例の求人も出しているが、今の所まだ引っかからない。まぁ、看護師や医者、薬剤師から探偵を目指す人なんてまずいないからなぁ……。

 なぜか雑誌なんかでは、ウチの事務所が募集をかけているって既に騒いでいるようだが――そんなに騒ぐレベルなんだろうか?

 マリーさんの情報も地味に出回っているらしく、『謎の美人探偵、参戦!』みたいな感じの記事が週刊誌ではチラホラ出ている。それを見たマリーさんが忌々しそうに眉に皺をよせていたのが印象的だった。

 

 マリーさん、一応俺や安室さんとはそこそこ話すけど、他の面子とは打ち解けていない様だ。七槻はともかく、小沼博士やふなちはちょっとやりづらそうだ。どうしたものか……。

 

 

 

6月10日

 

 とりあえず、アニマルセラピー効果を期待して源之助とクッキーを交互に事務所に連れて来るようにした。二匹とも躾はしっかりしているから、粗相をすることはないし安心できる。

 

 源之助はともかく、クッキーは人懐っこい犬だ。誰にでも懐く。源之助? なぜか俺にだけ素っ気ないです。はい。

 源之助も、寝るときは俺の所に来るがそれ以外は基本『ぐで~~っ』となっている。俺以外の奴が相手の時だと全力で媚を売るんだが……具体的に言うと少年探偵団とか蘭ちゃんとか。

 

 今日は瑞紀ちゃんと一緒に枡山会長の所に顔を出してきた。怪我が完治した事に対する御挨拶という奴だ。

 枡山会長も変わらない笑顔と握手で出迎えてくれた。ついでに豪華な飯と酒(瀬戸さんは遠慮していたが)を振舞ってくれた。いやぁ、油断はできないけど良い人だなぁやっぱ。

 飲んでいた時に色々と聞かれたけど、事務所というか俺の目的とか。

 お酒が入っていたから思わず、時間に関係する所を話しかけたけど、それっぽい事言って誤魔化した……誤魔化せたよね? 一応、本音に近い所であったのは間違いないし。

 

 で、戻ってから穂奈美さんと一緒に書類仕事をやっていたら、蘭ちゃんと園子ちゃんが変なドジっ子を連れて来た。なんでも先日転校してきた子で、本堂瑛祐というらしい。そう、男である。ドジッ子の男というのは一体どの層に向けてのキャラなのか……。物語のキャラっぽくはない――と俺は思ったんだが……怜奈さんにちょっと似てるんだよなぁ。一応注意をしておこう。

 

 ……そう言えば瑞紀ちゃん、あの後野暮用が出来たって言ってたけどなんだったんだろう?

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「……まさか、堂々と真正面から乗り込んで来るとは……」

 

 枡山憲三――コードネーム・ピスコは昼間に彼をもてなしたのと同じボトルをグラスに注いでいた。珍しく手酌である。隣にたっている明美が注ごうかと戸惑っているが、今のピスコにはその暇すら煩わしかった。

 

「浅見透。……カルバドスを倒したのは恐らく間違いあるまい。その上で奴の単独犯と考えたのか、違う存在を背景と推理したか、あるいは――」

 

 そう、これはあり得ない事だ。あり得ない事だが――この枡山憲三が黒幕だと気が付いた上でここを訪れたとしたら? その本意は? ……一つしかない。

 

(宣戦……布告……っ)

 

 先ほどの会話を思い出す。いつもと変わらない一見軽薄な――その実、自信に満ち溢れたあの眼。

 奴は、あの眼で真っ直ぐ私を見据え、私とこんな会話をしたのだ。

 

 

『――狙撃犯の行方は未だ知れずなのか。全く警察は何をやっているのかねぇ?』

 

『いえいえ、警察の方には非常に助けられています。おかげで無防備だった自分が、完全に回復できたのですから。おかげでまた動けます』

 

『動く……ふむ。今回の事件では、例の連続殺人犯と狙撃犯に随分と痛い目に遭わされたと聞くが――それでも君は止まらないと言うのかね?』

 

『――止まりません。止まれませんよ』

 

『ほう? どこまでだね? 浅見透という男は、どこまで走り続けるつもりなのかね?』

 

『……そうですね。色々とあります。やりたい事、やらなきゃいけない事、終わらせなきゃいけない物……でも結局は――』

 

 

 

―― 俺の中の好奇心が燃え尽きるその時まで……ですかね。

 

 

 

 あの眼はいかん。あの眼はダメだ。

 バーボン、そして浅見透の二人に並ぶもう一人の麒麟児――赤井秀一。シルバーブレットと称された存在。『組織』を恐れさせる『個』。

 あの時の浅見透の眼は、奴のそれと同じ物だった。狙ったものは逃さないという――覚悟を秘めた眼。

 

(――奴の人脈の広さ、そして繋がりの質から、下手に消すのは悪手と思い先手を打ったが……)

 

 ここに来て、それが悪手だったと気付いた。気付いてしまった。これから先、あの男は決して立ち止まることはないだろう――我々の喉笛を、噛み切るその時まで。

 

(……いいだろう。君がどういうつもりだろうが、私は君に挑戦しよう。ピスコとして……いや、枡山憲三として……)

 

「明美君、例の高校生に連絡を取ってほしい。会って話したい事が出来た、とね」

「……かしこまりました」

 

 まずは、一手。確実に動く手駒を用意せねばなるまい。

 もし、浅見透という男が真に私を敵と見据えているのならば、奴もまた次なる一手を打つだろう。

 

(……久しぶりだ。この緊張感は――)

 

 一歩間違えれば、浅見透達の手によって捕らえられるか、組織の人間から粛清されるかのどちらかになるだろう。だが――

 

「負けはせんよ。……決してな――」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 とある建物の、とある部屋の中にその男はいた。――シルバーブレット、赤井秀一。

 安室透から渡された狙撃銃は、まだ手元にある。返そうと思ったら『銃刀法違反で警察にしょっ引かれろ』と言って押し付けられていた。まとまった数の予備弾丸を渡されて、だ。

 

(あの駐車場の時もそうだが……僅かに変わった……)

 

 組織にいた時、彼は秘密主義を貫く男だった。何をしているかは知らないが、気が付いたら結果を残す。そんな男だった。当然、彼と行動を共にする人間などほとんどいない。彼自身、自分の事をあまり知られないために単独行動を多く取っていたのだろうが……。

 

 そのバーボンが、徐々にだが棘が取れていっている。いや、ある意味逆か。見せかけの仮面が取れ、彼本来の顔がたまに出る時がある。軽い皮肉を飛ばして、笑って苦難を乗り越えていく。『彼』と共に。

 

(相変わらず、興味の尽きない探偵だ)

 

 あの事件の後、例の狙撃手のリトライを警戒して彼の周辺を見張っていたが――まさか、彼自身があのセンサーを無力化し、病室の窓から逃走するとは思っていなかった。

 直後にバーボンが追い掛けていたのでそのまま待機していたら、やはりというかなんというか……満面の笑顔の越水七槻やバーボン、そしてなぜか警察の面々に連行される彼の姿があった。

 ミニパトの後部座席にちょこんと座らされ、両隣りをいかつい刑事に固められている様は紛れもない容疑者そのもので、思わず声を出して笑ってしまったものだ。

 それは、バーボンも同じだった。彼を病院へと連行していく彼の姿は、とても仮面をかぶっているいつもの彼とは重ならなかった。まるで、歳の近い悪友とのやり取りを見ているようだった。

 

 なんとなく微笑ましい気分になった赤井は、窓の外を眺めながら煙草を取り出す。そしてそれを咥え、火を付ける。――いや、付けようとした。

 

 

 

――シュガッ!!!!!

 

 

 

 咥えたばかりの煙草が飛んできた『ナニカ』によって斬り飛ばされたからだ。

 

「……ほう? ここを嗅ぎつけるとしたら、奴らだと思っていたが……」

 

 斬り飛ばされて、煙草が短くなった事を気にせず赤井は、片方の耳に付けていたイヤホンを外してゆっくり立ち上がる。その先にいるのは、『ナニカ』を投げ飛ばした人間――女がたった一人で立っていた。

 

「驚かせてすみません。得体のしれない人には、インパクトを与えておきたかったので」

 

 浅見探偵事務所に所属する調査員。その中でも主力と言われる女――瀬戸瑞紀が笑みを浮かべてそこに立っていた。

 彼女は布の塊を取り出すと、それをゆっくりほどいていく。中から出たのは、盗聴器。

 赤井自身が、ピスコの家に忍び込んで仕掛けた物だった。

 

「やはり君が回収していたのか。あの時の様子からそうじゃないかと思っていたが……」

「感謝してください。あの場所だといずれ気付かれていましたよ?」

「気付かれても良かったのだが、君たちがあの男の家に入った時は焦ったよ。下手に発見されれば、君たち浅見探偵事務所に疑いが向いただろうからな――缶コーヒーでよかったらどうだ?」

「はい、いただきます♪」

 

 赤井が座っていたソファの向かい側の椅子に腰を掛けた瀬戸瑞紀は、缶コーヒーを受け取り、カシュッという音を立ててタブを開ける。

 

「しかし、よくこの場所が分かったな」

 

 冷たいコーヒーを一口飲んだ瀬戸は、ため息をついてから、赤井の問いかけに答える。

 

「この盗聴器は、有効受信範囲がそんなに広い物じゃありません。その範囲内で気にかかった場所を順番に調べていたんです。――特に、枡山会長の家を狙撃出来そうな場所は念入りに」

「ほう……」

 

 赤井はまっすぐ、話を聞きながら瀬戸の視線を観察していた。彼女もまた、真っ直ぐにこちらを見据えているが、一瞬だけ自分の後ろに立てかけてあるケースに視線がいった。

 

「――正直、得体が知れない人ですし、聞きたい事が山ほどありますがまずは……ありがとうございます。少し納得はできないですけど、所長を守ってくれてたんですよね?」

「あぁ。俺個人として、彼を死なせるわけにはいかなくてね」

「そうなんですか?」

 

 目の前でキョトンと首をかしげる姿は、無邪気で無防備な女そのものだ。だが、最初に彼女が見せたトランプ投げ、盗聴器に気が付いた鋭い観察力、この場所を探し当てた推理力と行動力が、彼女が油断ならない存在だということを示している。

 

「まぁ、せっかくですし……ちょっとお話しませんか? えぇと……」

「諸星大。彼にはそう名乗っている」

「その偽名は表に出してもいい名前ですか?」

「不味いな」

「それ、所長に伝えてますか?」

「ふむ……」

 

 短くなっていたため、すぐに吸い終ってしまった煙草を灰皿に押し付け、

 

「忘れていたな」

「……伝えておきまーす」

 

 ジト目になった瀬戸は携帯を取り出し、素早くメールを打って送信する。そしてその携帯を閉じると、今度は懐から一枚の写真と一枚の絵を取り出す。

 

「で、まぁ本題なんですけど――」

 

 その写真も、絵も、赤井にとって馴染み深い物だ。自分がたった一つ抱えている――約束。

 

「この二人の事、詳しく知りたいんです。……多分、お互いのためになる事でしょう?」

 

 やはり変わらない笑顔。否、ポーカーフェイス。だけどその目は、あの日怪我を物ともせずに死地へと身を投げ込んだ彼と同じ目だ。

 

 

―― 俺の中の好奇心が燃え尽きるその時まで……ですかね。

 

 

 

 あの時盗聴器から聞こえた、どこかで聞いたことがある様なフレーズを思い出し、思わず笑みが漏れる。

 

「……本当に、あの事務所の面子はやっかい者揃いだな」

 

 誰に言うのでもない、思わず口にした言葉に、瀬戸瑞紀は当然と言わんばかりに平然としている。

 長い夜になりそうだ。そんな事を考えながら赤井は煙草をもう一本取り出し、そして静かに火を付けた。

 

「さて、まずは君から話してくれないか? 名探偵さん」

「深く知ってそうな方から話してくださいよ。それに、探偵じゃありません」

 

 そう言って彼女がパチンッと指を鳴らすと、火を付けたばかりの煙草がポトリッと灰皿の上に落ちた。

 目を見開いて落ちた煙草を見ると、先ほどの煙草の様に切られていた。いや――まったく同じ……。

 

「――マジシャンなんですよ。私」

 

 そう言って瀬戸瑞紀は、ニッコリと笑みを深めた。

 

 

 




○米原桜子

初登場
コミック74巻
アニメ652話「毒と幻のデザイン(EYE)」

皆大好き家政婦さん。家政婦さんみたいな立ち位置の可愛いor美人キャラって結構多いですが(魔犬とかホロスコープ事件の姪っこさんとか)
その中でも個人的トップクラス。CV丹下桜。 CV丹下桜。(超重要なので2回以下略)

何気に登場回数が多い準レギュラー。警察の三池苗子の友人ということもあって、これからも登場する機会は多いと思われます。
可愛い声ですがよくよく殺人事件に巻き込まれ、目暮警部に「私、呪われているんでしょうか!?」と不安を零すが、本物の死神はその時隣にいました。

この子が実は組織の一員だったとか聞かされたらマジ泣きする。

筆者的セクハラしたいキャラ№1。



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036:スパイとフリーターと小学生の三本立て (なお、主人公は大学生)

「おい、バーボン」

「? どうかしましたか?」

 

 今日の仕事は俺と、新入りのマリー……コードネーム・キュラソーとの二人での仕事。――というより後始末だ。先日浅見君と一緒に潰した麻薬取引に関係する組織、その残党の動きの把握と処理が目的だ。相変わらず、普通の事務所のやることではないが、今回はまぁしょうがないと言うべきだろう。引き受けた依頼が偶然、大事に関わっていただけなのだ。

 

「……あの男は、なんだ?」

 

 だが、彼女の眼にはやはり彼の存在は奇異に映ったのだろう。それもまた、仕方がない。

 

(――厄介事を引き寄せるのは君の特徴だが……せめてもう少しタイミングという物をだな……)

 

 今ここにはいない弟分に向けて、口には出さずに愚痴を零す。

 

「体術に関してはそこまでではない。だが……あの早撃ちは――」

 

 そうだ。そこは自分も驚いた。あの時、俺たちに銃口を向けた男達に向けて素早く銃――取引品の一つだったのだろうリボルバーを拾い、構えた浅見透は文字通り『目にも止まらぬ早撃ち』で相手のほとんどを無力化して見せた。誰一人怪我をさせず、見事に武器だけを弾き飛ばして。

 

(相も変わらず、怪しい所ばっかり増えていく。だが――)

 

 普通に考えたら、あのような状況とはいえ銃を扱えるという技能を表に出すのはためらう所だろう。 だが、彼は何の迷いも見せずに銃を抜いた。俺やこの女、そしてあの家出少女のために。

 

(とりあえず、この女の印象をどうするか)

 

「えぇ、僕も驚きましたよ。まさかあそこまでの射撃能力を持っていたとは……」

「今まで見せた事は無かったのか?」

「もちろんです。射撃が必要になる様な事件はありませんでしたし、彼も拳銃を所持していません。今回は本当に特別なケースだったんです」

 

 そうだ、彼自身は拳銃を持ったことは一度もない。今回はそこにあった物を拾って使っただけだ。

 そういう意味合いを込めてそう言うが、それでもキュラソーの目から警戒の色合いは消えない。まぁ当然か。

「……身体付きなどから、鍛えてはいても体術の類は大したことないだろう。だが、あの射撃は間違いなく脅威だ」

「ですが、あの性格です。他人を振り回す事に嫌悪を感じる――十分に避ける事が可能なレベルです。我々が警戒すべき脅威は他にありますよ」

「……ライ。いや、赤井秀一か」

 

 組織の№2、ラムの側近だけあって奴の事も聞いていたのだろう。眉をひそめたキュラソーは。

 

「間違いないのか? 奴が日本に再潜入したと言うのは」

「えぇ、確かな筋からの情報です」

 

 実際会っているから――とは、口が裂けても言えない。そして奴には悪いが、囮になってもらおう。組織のトップ――『あのお方』と呼ばれる人物が恐れている相手がいるとなれば、どうしてもそちらに注意を向けなければならないだろう。

 奴にも警告は出していたし、事務所からは距離を取るはず。

 

(――その隙に、可能な限りこの女を調べる)

 

 俺自身の任務を達成するために。そして――

 

 

 

 

 ――弟分へ向かう害意を、減らすために。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

6月12日

 

 最近人を紹介する人多くない?

 今度は瑞紀ちゃんから人を紹介された。瑞紀ちゃんの知り合いで、沖矢昴という現在フリーターの人だ。

 瑞紀ちゃんが言うには、シャーロキアンで且つミステリー関係の知識が深い人だという話。職探しに難航していて、知り合いの瑞紀ちゃんを頼ってきたらしい。

 瑞紀ちゃんが言うには、観察力がずば抜けていて、瑞紀ちゃんの手品のネタも少し考えれば見抜けてしまうらしい。

 正直、ちょっと悩んだけど優秀な瑞紀ちゃんの紹介だ。加えて、就職難……就職難というか、人によっては延々面接を繰り返しているかもしれない人達の事を考えると――

 

 とりあえず、瑞紀ちゃんと同じ体制で雇おう。

 

 

 

6月15日

 

 なぜ沖矢さんがフリーターだったのか疑問に思わざるを得ない。え、なにこの人、ストーリーに関わる人じゃないの? 安室さんや瑞紀ちゃん、マリーさんとほぼ同レベルなんだけど。

 簡単な調査を選んだと思ったら短期間で簡単に証拠を抑えて、かつ報告書も不備なし。強いて言うならアフターフォローを軽視する傾向があるが、俺がむしろ気を使い過ぎなのか。

 とりあえず、先日俺と安室さん、マリーさんに加えて昴さんも鈴木財閥絡みの調査に入れてみたけど、普通にこなした。え、マジで? 手の感じとか雰囲気とか、すっごい諸星さんに近い。――いや、でも違う……違うよね?

 

 ともあれ、これだけのスキル持ってる人間がフリーター。これは日本に革命を起こさざるを得ない。

 や、多分例によって例のごとく進まない時間のせいだと思うけど……。

 

 とりあえず今度正式に社員として雇用させてもらおう。

 いやぁ、すごい人が入ってきたもんだ。

 

 

 

6月16日

 

 更に人員が追加されました。元看護婦さんです。鳥羽初穂という年上の方だが、やはり元看護婦。応急手当などに関しての知識は大したものだ。若い時に苦労した人の様だし、採用。

 こう、なんというか――妙にウマが合う所があった。

 今はまだ猫を被っているのだろうが、時間が経てばいい関係を築けるのではなかろうか?

 

 とりあえずは下笠姉妹に任せておこう。技術に関してはとりあえず安室さんが色々と教え込むらしい。

 今日はマリーさんと、とあるお偉いさんの元にきた脅迫状の送り主を探す調査依頼を受けて来た。

 具体的な調査はこれからになるけど、とりあえず指紋を調べる所から始めようか。

 

 そうだ、今日は久しぶりに水無さんと一緒に飯を食ってきた。コナンが一緒だったが。

 いい機会だから、例のサングラスの人がどこにいるか聞いてみたが、分からないと言う事。

 やっぱりあの人が狙撃犯だったのだろうか。そうなると水無さんは? 敵にしては、こちらに有益な行動をやけに取ってくれる様な……。とりあえず多少は警戒しながら動いた方がいいか。

 そういえば、水無さんに少し似た男の子が蘭ちゃん達の高校に転校してきて、かつウチの事務所に顔を出すようになった事を話した時に、僅かに顔色が悪くなった様に感じたけど――やはり何か関係があるんだろうか?

 

 本堂瑛祐。……水無さんと直接会わせてみようかな。

 コナンはコナンで、本堂瑛祐が気になっているらしいし。水無さんとなんらかの関係があるのならば、彼の立ち位置もひょっとしたら重要な物かもしれない。――例えば人質ポジとか。

 

 

 

6月17日

 

 今日はマリーさんと仕事をしていたら銃撃された件について。先に気が付けたから隠れられたけどさ。

 あの時の狙撃手かと思ったけど、捕まえてみたら全然違った。ただのストーカーだった。いや、ただのストーカーがなんで銃を……今更か。

 マリーさんはともかく俺が顔を知られていたため、探偵が自分の事を調べに来たんだと感づいて俺を殺そうとしたらしい。行動力のある奴ってどっかでやっかいなんだよな。マジで。

 

 それにしてもマリーさん強いわ、マジで。咄嗟に隠れた後、弾を込めてる一瞬の隙をついて物陰から飛び出して即確保。さすが安室さんが紹介した人だ。キャラが立ち過ぎてるのと合わせて最強に見える。

 

 で、飛んできた千葉刑事と一緒にこいつを連行したら、別の仕事についていた瑞紀ちゃんと昴さん、ふなちは殺人事件を解決して来ていた。この街ときたら本当に……。

 

 

 

6月19日

 

 キャメルさんのスキルアップが著しい。最近白鳥さんと訓練をしている時があるのは知っていたが、瑞紀ちゃんや安室さんから様々な技術を吸収しようと頑張っている。

 鍵開けや演技、簡単な変装なんかはもちろん、休日には、公共の多目的施設の体育館を借りて体術の訓練を重ねている。今日は流れで自分も参加することに。

 

 ……すみません、探偵ってなんですかね? 今更ですかそうですか……

 安室さんやマリーさんが強いのは知っていたけど昴さんも強いっすね。あっさり取り押さえられてしまった。今の所、俺とキャメルさんでいい勝負だろうか? ……いや、まだまだ自分が下か。

 

 小沼博士は、今日から阿笠博士と一緒に飛行機械の開発・研究を行うため明日から一週間ほど有給を取っている。

 あの二人は気が付いたら生活がずぼらになりそうだから、美奈穂さんと初穂さんに様子を見てもらうように頼んである。自分もちょくちょくコナンと一緒に様子を見に行くか。

 

 

 

6月22日

 

 最近、あの瑛祐君がよくウチに顔を出して来る。今日は蘭ちゃんに連れられて一緒に事務所に遊びに来ていたので、仕事に一区切り付いていた初穂さんとマリーさんも連れてご飯を奢ろうとした所に、青い車が女の子を引き殺そうとする事件に遭遇した。

 間一髪でマリーさんが少女と、その傍にいた女性を救出。俺はたまたまポケットに入っていたやや大きな六角ナットを運転席に向けて思いっきり投げつけた。

 罅が入って視界を奪うのに成功したのか、車はそのまま逃げて行った。ナンバーは一応確認したんだけど警察に確認した所ただの盗難車。

 念のために、皆で彼女の家まで送っていくことになった。……まさかの不動産王、片寄王三郎の屋敷だったけどな! 紅葉御殿って呼ばれている屋敷で、今は季節外れだが素晴らしい紅葉が見られると噂の屋敷だ。

 女の子と一緒にいた女性は片寄家の運転手の須坂衛子さん。そして問題の女の子は王三郎さんの養子という中北楓ちゃん。

 

 金持ちの家に招待され、しかもそこに関係する小さい子が殺されかかる。この時点で本編と判断したが、どの様に展開するか謎だった。念のために、王三郎さんと色々話していくうちに一晩泊っていくことになり、楓ちゃんと王三郎さんの両方に注意を払っていたが何にもなかった。

 屋敷に一緒に住んでいた王三郎さんの長男・長女の方(あからさまに遺産を狙っていた)には瑛祐君と初穂さんに注意を払ってもらっていたが、翌日になってもやはり何も起こらず。

 

 事件が起こるのを未然に防げたのだろうか? ――いや、紅葉御殿での事件だから、時期が合わなかったと考えるべきか。まぁ、状況が大きく変わるから、これから先の展開になんらかの変化が起こるのは間違いあるまい。今回の事件のおかげで、ウチの家に居候が増えたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『お兄ちゃん! 朝ごはん出来たって桜子さんが呼んでるよー! 早く起きなさ―い!』

「うぇーぃ……」

 

 子供は元気がいいなぁ。何歳だっけ? 8歳か。俺? 永遠のハタチだよ! ははっ!

 寝そべっている自分の腹の上で寝そべっている源之助の首を毛布の上からつまみあげる。すると源之助は不満そうに『なーご……』と小さく鳴くと、一度俺の腹の上に着地して、そのまま毛布をずるずると引きずっていく。おいこら、持っていくな。あと5分。あと5分だけ……

 

「こーらっ! 起きなさ―い!」

 

 バンッ! と俺の部屋のドアを勢いよく開けて出て来たのは楓ちゃんだ。王三郎さんからの依頼で、彼女を預かってほしいとの事。まぁ、あからさまに命を狙われているからしゃーないだろう。

 学校も、ちょうど帝丹小学校に転校させる所だったという話だし、それならと引き受けたのだ。

 一応彼女の生活費に少々色を付けた額を毎月いただく形で話が付いた。放課後は、ウチの探偵事務所の人間が付いた上で須藤さんが車で迎えに来て、そして紅葉御殿まで顔を出しに行くが……まぁ、今の所襲撃は無いし問題ないか。

 

「オーケー、分かった。分かったよ楓ちゃん、今起きるからちょっと待ってね?」

「ご飯を食べる前にちゃんと手を洗うの忘れないでね!?」

「……はーい」

 

 預かってからの数日で痛感していたが……どうしよう、小学生に面倒見られてる大学生がいる。言葉にすると情けなさが半端ない。

 とりあえず着替えて、下に降りようとした時に玄関のインターホンが鳴る。

 彼女の護衛を兼ねた面子――まぁ、要するにウチの所員である。

 

「おはようございます、所長」

「おはよう。……浅見さん、やっぱり寝起きだったね?」

 

 ちょうど降りて行った先にこの数日で完全におなじみになった顔が二つ並んでいる。安室さんとコナンだ。その足元には、クッキーが全力で尻尾を振って二人を出迎えていた。

 

「所長、やっと起きたんですね? あ、安室さんおはようございます。コナン君もおはよう!」

 

 そこにエプロン姿の桜子ちゃんがダイニングのドアを開けてくる。基本、紅葉御殿への送迎は安室さんかマリーさんのどっちかが付いている。そして学校や通学路ではコナンが注意を払っていると言うわけだ。や、登下校の際も出来るだけウチの所員一人は付けているけどさ。

 

「安室さん、コナン君も上がってください。朝食は出来上がってますので」

「えぇ、御馳走になります」

「桜子さん、ありがとう!」

 

 そして、コナンと付いて来た所員がうちで朝飯食って行くのも、もはや恒例になりつつある。なんだろうこの光景。そして一応家主の俺の扱いが軽い気がするのもいかがなものか。――いや、いつものことか。

 

「ほーら浅見君、さっさと顔と手を洗って来てよ。皆を遅刻させる気?」

 

 はいはい、今行きまーす。だからちょっと待って下さい越水さん。

 

「……もう完全に大家族だよな。浅見さんの所」

「そしたらお前は長男だぞ。小学一年生」

「あぁん?」

「そしたらコナン君は私の弟だね!」

「――えぇっ!?」

 

 

「漫才している暇があったらさっさと顔と手を洗って来なさーーいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「「マリー様、おはようございます」」

「おや、マリーさん。おはようございます」

 

 事務所に着くと、双子のメイドと眼鏡をかけた優男――沖矢昴が出迎えた。

 

「軽い物で良ければ朝食のご用意は整っております。いかがいたしますか?」

「あぁ、いただく」

「「かしこまりました」」

 

 この事務所に潜入してそれなりの時間が経つが、相変わらず慣れない。

 この事務所に来れば大体双子のメイドが出迎えて、色々と世話を焼いてくれる。世話好き共め。

 あまり不審に思われてもやりづらいから、それなりに愛想良くするように努力しているが――クソッ……。 

 

 しばらく経ってから、双子の片方がトレイにトーストが乗った皿に、ベーコンエッグとベイクドビーンズ、そしてサラダが盛られたプレートを乗せて私のデスクに来る。

 もう片方は、オニオンスープと紅茶が入ったティーポッド、そして温められたティーカップをトレイに乗せてその後ろを付いてくる。

 

「ありがとう。それで、今日の仕事は?」

「今日は、僕と組む事になるみたいですよ?」

 

 そう言ったのは沖矢昴。こっちは離れたデスクで、こちらはカップに入ったコーヒーを飲んでいる。

 

「ある企業のお偉いさんが、脅迫状を送り付けられたそうです。詳しい内容は知りませんが、どうやら警察には内密にという事で……極秘裏に解決するために、我々に依頼をしたという訳です」

「……なるほど」

 

 この男も、要注意人物の一人だ。格闘術に優れていて、恐らく私やバーボンとほぼ互角だろう。加えて高い洞察力と推理力を持つ存在。敵には回したくない男だ。

 このような人材が集まっていく事を考えると、やはり浅見探偵事務所は到底無視できる存在ではない。

 

(安室透――バーボンはいいとして……)

 

 浅見透、越水七槻に瀬戸瑞紀、アンドレ=キャメル。どれも優秀で、無視するには危険すぎる存在達。

 

(……しかし、カルバドスを隠しているような痕跡はない、か)

 

 この事務所は3階部分にかなりの居住スペースがある。下のレストランの従業員や、浅見透の友人仲居芙奈子は実際ここに住んでいる。未だ行方が掴めないカルバドスがもし浅見探偵事務所の人間に捕まっているとすればここだと思ったのだが――

 

(まぁいい。カルバドスはそこまで重要ではない。私の任務は浅見探偵事務所を隠れ蓑に、この事務所の物も含めての諜報態勢を構築する事。そして――)

 

「あぁ、もっとも今回はあくまでも打ち合わせ。所長達が来てからはまた違う仕事になる様ですよ」

 

 私にかけられた沖矢昴の声で、思考の海から自我を引き戻す。

 

「浅見所長が来てからは?」

「まずは――こども防犯プロジェクトの続きで、少年探偵団のポスター撮影、及びパンフレット用の写真撮影の付き添いですかね?」

「……少年探偵団? この事務所は子供も使うのか?」

 

 子供相手ならば、警戒を緩める人間もいるだろう。計算して組織をしているとなると――浅見透、やはりやっかいな相手だと言う事になるが……。

 

「まさか、違いますよ。帝丹小学校の生徒――ほら、例の江戸川コナン君の友人達が勝手にそう名乗っているだけです」

 

 江戸川コナンという名前を聞いて、ようやく思いだす。子供っぽい様子を見せるが、バーボンに負けず劣らずの観察眼を見せる奇妙な子供。その周りをウロチョロしている3人の子供。

 

(……あのうるさい連中か)

 

 江戸川コナンはまだいい。あれは聞きわけがあって接しやすいが、あの三人は奔放かつ自由で――苦手だ。

 

「その後は、今調査に出ている初穂さんとキャメルさんの二人と合流して、場合によっては本格的に脅迫状の調査に入るらしいです」

「……了解」

 

 なんにせよ、当面の間はできるだけ従順に従っておく必要がある。

 浅見透からの信頼を得つつ、キールと共に動かなければ……

 

(面倒だ……。果てしなく……)

 




次回は瑛祐視点も含めた話になります! そしてキャラ紹介!


○鳥羽初穂
TVオリジナル file716,717
「能面屋敷に鬼が踊る(前後編)」

とある美術館の館長の専属ナース。28歳です。

割と好きなオリジナル回。ただし、いくつか首をかしげざるを得ない部分がちょくちょくありますがが、それが吹っ飛ぶほどのラストの推理ショー!
観た人は分かるでしょうが、非常に印象に残るシーンでしたwww

「はいは~~い♪ お・待・た・せ」



○中北楓(8)
○須坂衛子(48)
○片寄王三郎(68)

TVオリジナル file638,639
「紅葉御殿で謎を解く(前後編)」

同じく妙に気にいっているTVオリジナル回。ただし、最後がなんかやるせない。
これ最後楓ちゃんどうなるの? ってすっごい疑問に思った回。
結局事情は知らないまま事件は終わっているけど、知った時がなぁ……。

どうでもいいけど運転手の須坂衛子ってなんか描き方がルパン世界のソレに見えてしまうw

楓ちゃんは、コナンとすぐに仲良くなるちょっとボーイッシュな女の子です。



さて、どんどん酷い事になっていく事務所ですが大丈夫なんでしょうか?



……大丈夫なんでしょうか、色んな意味で(汗)
多少変更があったとはいえ、予定通りに進んでいるハズなのに……

いつも誤字報告をして下さる方はありがとうございます! 非常に助かっておりますw


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037:暗躍、軍師、デート、そして新人の3本立て――3?

これで出したい面子は完成。問題は描きたいシーンが多すぎる事だ。


『それで瑛祐君。彼らの動きはどうかね?』

 

 本堂瑛祐が携帯を掛けた先は、本来ならば一介の高校生が気軽に掛ける事など出来ない相手、―― 一大企業の会長の携帯電話だった。

 

「はい。最近では不動産王、片寄王三郎の養子を自宅で保護しているようです」

『ほう……。あの片寄氏を……面白い方向に手を伸ばしていくな、彼は』

「……その養子、楓ちゃんを狙ったのは浅見探偵事務所の人間の仕業でしょうか?」

 

 瑛祐は、あるいはその可能性があると考えていた。

 元々片寄王三郎は有名な不動産王。自宅である紅葉屋敷の事も含めて、名前は聞いた事ある人間は多いだろう。探偵事務所という、情報を扱う場所ならば、より詳細な情報を得ている可能性は十分以上にあり得る。

 

『なるほど、確かにその可能性はある。片寄氏が可愛がっていた養子が彼らの手の内にある。それを下地に片寄氏の莫大な財産を手に入れる用意を整えたのかもしれん。やはり、彼らは警戒せねばならんようだ』

 

 浅見探偵事務所。姉さん――いや、姉さんの振りをしている奴と繋がっている可能性の高い連中。

 ただ単に水無怜奈に会いたいと言っても、何の肩書も持たない自分にはとうてい不可能。だったら、可能性が少しでもある所を当たるしかない。そんな折に――

 

『なんにせよ、情報が必要だ。ゆっくり、少しずつ、だが確実に事を進める必要がある。――分かるね? 瑛祐君』

「――はい」

 

(ようやく見つけた可能性だ。なんとしても見つけてやる……っ)

 

 

 

 

 

(瑛海姉さんの手掛かりをっ!)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「珍しい組み合わせになりましたね。我々三人での調査なんて」

「はい、こういう事件の本格的な調査は初めてになるので、どうかよろしくお願いします」

 

 今日は俺と昴さん、そして鳥羽さんの三人で長野まで足を伸ばしている。とある家出人の捜索依頼を受けて調査をしていった結果、長野で偽名を使って歓楽街で働いているようだ。もう一度確認したうえで、依頼人に資料を送付、その後来てもらって再確認という形になるだろう。

 

 ここまで言えば分かると思うが、その仕事はもうほとんど終わっている。では調査とは一体なんなのか。

 

 OK。誰にでも分かるように説明しよう。

 俺たちの後ろには泣き崩れたり混乱して騒いでいる人達が何人かいる。

 そして前には、頭から血を流して倒れた女の人がいる。ピクリとも動かない。

 すでに鳥羽さんが脈が止まっているのを確認している。

 お分かりいただけましたか? ――そう、またである。

 

(……コナンの死神補正が俺たちに伝染しているんじゃなかろうか)

 

 本人が聞いたら、また靴のダイヤルをいじり出しそうな事を考えながら、とりあえずどうしようか考える。――まずは保存だな。

 

 探偵稼業の必須アイテムとしてカメラは常に持っている。コナンや元検死官の槍田さんから現場保存のやり方は徹底的に教わっているし、そもそもそれなりに経験がある。長野県には刑事の知り合いはいないから少し揉めるだろう。

 ……小田切さんも基本的に俺たちが事件に関わる事を良しとはしない人だし、そもそも探偵が刑事に協力しろなんて言えるはずがない。

 ――とりあえず、可能な限り情報を集めて警察の人間に提供。後は静観というのが正しい判断だろう。昴さんは録音機を持っているから、より正確な情報提供出来るだろうし……。

 

「俺は現場を保存します。昴さんと初穂さんは、皆さんを別室にお連れして話を聞いておいてください」

「分かりました。それでは皆さんこちらに……初穂さん」

「えぇ。――皆さん落ちついてください! 浅見探偵事務所の者です! すぐに警察が来ますので――」

 

 とりあえずこれでいいだろう。昴さん一人だと全員を見張ることが出来ないし、補佐としてはベストだろう。死体を見ても取り乱さなかった時点で、俺の鳥羽さんへの評価は鰻登り。推理力は分からないけど、補佐としてはかなりベストな人材を拾ったんじゃないだろうか。

 さて、とりあえず写真を全部取って現場を状態を確保したら俺も調査に加わ――

 

「なるほど、見事な手際。さすがは、あらゆる難事件を解決してきた精鋭集団。お噂はかねがね……」

 

 ――はい?

 

 妙に落ち着いて、且つもったいぶった様な言い回しをする男――三十代前半くらいかだろうか? が後ろに立っていた。なんだろう、小五郎さんとは違う、細く整えられた口髭と、鋭さと柔らかさを合わせたようなつり目が印象的な人だ。

 彼は自分と同じように手袋をはめようとしている。そして、その手袋をしっかりとはめた後、内ポケットに手を入れ――

 

「申し遅れました。姓は諸伏、名は高明、あだ名は名前の音読みで――コウメイ」

 

 内ポケットから取り出したのは、警察手帳だった。階級は警部と書かれている。

 

「長野県警新野署に所属する者です」

 

 そして、どこか自信満々な微笑を見て、俺もまた静かにこう思うのだった。

 

(――また、えらくキャラの濃い刑事が出てきたなぁ……)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

6月25日

 

 長野への出張から無事に帰宅。また面白い刑事さんと知り合って来た。いやぁ、すごい人だわ諸伏警部。最近周辺に有能な人が増えていると言う事は、また事態が大きく動く前兆と見ていいのかな。

 ちょっとした資料作製のために立ち寄った図書館で殺人事件が発生。その時たまたま現場に居合わせたのが新野署の警部さんだった。名前は諸伏高明。前述したとおり、すごく有能な刑事さんだ。

 昴さんと高明さんだけで実質解決。

 犯人は逃げようとしたけど、鳥羽さんが本をネクタイで縛って掴みをつけた物で犯人の顔をフルスイング。一撃で昏倒していた。いやぁ、大人しそうな顔でその実アグレッシブとかいいギャップだね。俺の中での鳥羽さんの評価は右肩上がりである。来月から給料跳ね上げよう。この人逃がしちゃいけないわ。

 

 その後元々の依頼だった家出人捜索をしっかりと終えた後、諸伏警部と仲良くなって(特に昴さんとは馬が合ったようだ)携帯の電話番号とメールを交換してきました。

 

 俺達が出ている間に、安室さんとマリーさん、越水の三人は企業への脅迫状を解決。こっちは未然にテロを防いだらしい。いやぁ、本当に皆頼もしい。

 

 

 

6月26日

 

 久々に青蘭さんとデートしてきた。つっても主に美術館や博物館めぐりだったけど……いやでも楽しかったなぁ。やはりロマノフ王朝を主にしているとはいえ歴史の研究者。日本や中国の歴史にも詳しく、非常に楽しかった。一通り回った後はレストランで食事をして、その後は瑞紀ちゃんがこの間教えてくれた『ブルー・パロット』というプールバー(柚嬉ちゃんの店とは違う)で飲んで来た。

 

 一番の予想外だったのは、別れ際に向こうからキスしてくれたことだろうか。

 正直、今もすっごいドキドキしている。

 

 

 

6月28日

 

 楓が少年探偵団に入ったらしい。いっつもコナンの傍にくっついていてズルい! って話を歩美ちゃんから愚痴られた。早いよ小学生、怖いよ小学生。夕飯の時に桜子ちゃんと七槻で、最近の子は進んでるよね!? って話で盛り上がった。最近では桜子ちゃんも結構ここにいる事が増えた。若松社長からこっちの仕事を重視するように言われたらしい。なんで? って今日聞いたら、

 

『あれほど危なっかしい男は見たことがない。しっかり見張ってやってくれ』

 

 ということらしい。待って、待って若松社長。貴方は俺をなんだと思ってるんですか。危なっかしいって言っても死ぬような事態は可能な限り全力で避けてますって。手足はともかく。

 書いてて思いだしたけど、そういえば楓ちゃんにもこの一週間で怒られてるなぁ……。銃とか爆弾関係の事件に関わった後に『今日くらいは大人しくしてなさいっ!』って怒鳴られる。ちなみにその後ろには大抵七槻と桜子ちゃんが腕を組んで立っている。どう考えても勝てません。

 

 そうそう、楓ちゃんは今日は博士の家に泊まっている。阿笠博士が皆でカレーパーティーをやろうと企画してくれたのだ。本当に面倒見のいい人だよなぁ、博士。

 今日は仕事が終わってから小沼博士も行くと言っていたし、途中入った報告だと買い出し途中にマリーさんも一緒になったらしい。最近マリーさんは少年探偵団とよく一緒にいると楓から聞いている。

 ふむ、あの感じから子供は苦手だと思っていたが――なんだかんだで意外と相性がいいのだろうか?

 

 

6月30日

 

 やっべぇ、ちょっと浮かれてた。遊びすぎた。人が増えて安心してたけど月末はやっぱり地獄でした。まぁ、無事終わったけどさ。今日はマリーさんや昴さん、鳥羽さんといった新人さん達の歓迎会をキチンとした形でやっていなかったというわけで下のレストランでちょっと豪華な食事を。瑞紀ちゃんのマジックショーと一緒に、紫音さんがヴァイオリンで盛り上げてくれた。今までこういう事をしたことはなかったのだが、紫音さんが自分から提案してくれた。紫音さんも最近ではよく話しかけてくれる。今日なんてレアな笑顔を見せてくれて思わず惚れかかった。その直後にふなちに股間蹴りあげられたけど。

 

 あぁ、そうだ。来月からはふなちもまた家に戻る事になった。

 色々あって、マリーさんも事務所に住む事になったため、今住んでる女性達の護衛としては十分すぎるという事になった。というか、安室さんも事務所に住む事になったし、防犯という意味では非常に安心できる。

 そういう意味合いを込めて『ありがとうございます!』って安室さんにいったら『君という奴は本当に……』って言われながら頭全力で掴まれた。解せぬ。

 

 

 

 

7月5日

 

 大学の先輩が毛利小五郎のコスプレをしていた件について。いや本当にびびった。恩田先輩なにしてんすか。

 おばあちゃん相手に『お待たせしました、毛利小五郎です』なんて言ってる所に出くわしたから、一緒にいたふなちと佐藤刑事と一緒に締めあげたのは絶対に間違ってない。そのおばあちゃんに怒られたけどさ。

 

 問い詰めたところ、おばあちゃんは恩田先輩の小学校時代の先生だったらしい。

 それがなんで毛利小五郎を名乗る事になったのか非常に謎だが、まぁ心配して様子を見に行っていたということらしい。佐藤刑事も、他人の名を騙るだけでは一応罪にはならないらしく、悪意もなかったという事でこっそり叱るだけで済ませた。が、問題はおばあちゃん。目の前でドタバタやったから説明をしないわけにはいかず、かといって先輩を突き放す真似も憚られた。

 別に単純に真実を突きつけても良かったが、それもなんだか後味が悪かった。

 鳥羽さんが、想定を超えて単独でも動けるくらい優秀だったし、もう一人雇うのも悪くない。

 

 と、いうわけで。偽物の名探偵を本物の探偵にしてきました。安室さん、キャメルさん。がっつりしごいちゃってください。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ひぃ……はぁ……っ」

 

 以前白鳥刑事と走った河原で、安室さんと一緒に新入りの若い男を走らせている。

 

「もうちょっと頑張りましょう! あと2キロ走ったら休憩です!」

「に、2キロ……っ……」

「なぁに、すぐに慣れますよ。慣れてきたら今度は階段を全力で上り下りする訓練ですね」

「ちょ……っ……!?」

 

 所長が新しい人員を連れてくると言った時は、一体何事かと思った。基本的に所長はいつも、一芸をもった人間を募集していた。自分の時は現場の経験を、鳥羽さんは医療関係の経験を求めての求人で入った。沖矢さんやマリーさんは、主力人員の推薦で雇用した人員だ。

 

(……所長が連れてくる人員にしては……普通、ですよね?)

 

 要するに、気にかかっているのはそこだった。浅見探偵事務所の人員は全員なんらかの一芸を持っている。だからこそ、全員が最前線で活躍できる訳だが――

 

「この事務所でやっていけるのかって顔をしてますね、キャメルさん」

「安室さん……えぇ、まぁ……」

 

 一緒に彼の訓練に付き合っている安室さんは、いつも通りの笑顔だ。不安や懸念などどこにもない。そう言うように。

 

「確かに、彼の能力は現状きわめて低い。ですが、それはあくまで現状。だから所長から、こうして彼の訓練を頼まれた訳ですし」

 

 まぁ、確かに今、彼は一生懸命訓練を受けている。大学生活も送りながら、体力作りに所長や副所長が色々な技術を教えている。なぜか、所長が教える時はコナン君も一緒にいるが……。

 

「それになにより――キャメルさん、所長が連れて来た人間が普通だと本当に思いますか?」

「思いません。あり得ません」

 

 色々と不安な所は確かにあるが、所長が連れて来た人間というのはある意味で信頼できる要素でもある。

 そうだ、信頼できる要素ではあるんだが――

 

「……予想外の方向にぶっ飛んでいたりしませんよね?」

「…………きっと、多分、いや――覚悟だけはしておこうか」

 

 もはや息も絶え絶えになりながらも、必死に足を動かしている新人の死にそうな顔を見ながら、二人の探偵は彼に聞こえないようにため息を吐いた。彼に向けてではなく――ここにはいない、とびっきりぶっ飛んでいる所長に向けて。

 

 

 

 

 

 




まずはキャラ紹介。

○諸伏高明(35)

※初登場回
アニメ:File558-561
コミック:65巻File8-11,66巻File1

『赤い壁』シリーズにて登場した長野県警の刑事の一人。この時点では所轄の刑事でしたが、次に登場した時は県警本部に復活していました。

 同じ長野県警の大和敢助とはライバル関係にありますが、いい幼馴染でもあるようです。長野県警が出てくる事件は大体二人の内のどちらかが容疑者になる気がします。
 というか長野県警は優秀な人間多いけど闇も深い気がする。

 落ちついた話し方で、故事成語を引用するのが癖ですが、これを再現するのが難しい。なぜか? 作者の教養不足。

 個人的に、『漆黒の追跡者』には大和刑事と一緒に出てきてほしかったですね。まだ出てなかったかもしれませんがww



○恩田遼平(21)

アニメ:File661-662
小五郎さんはいい人(前後編)

コミック75巻:File3-5

割と最近の人なので、覚えている人も多いのでは? 二代目『偽』毛利小五郎でございます。尚、初代は悪人ヅラな上に速攻で死んだ模様。

昔の恩師の様子を見に行くために毛利小五郎になりきるという謎のウルトラCを決めてくれた大学生。男性キャラですっごい好きなキャラ。この話の構成を考えていた時に、この男は絶対に引っ張ってこようと決めていたキャラですw

ふなちと違い、100%コナンに頼りっきりの推理でしたが、アニメでは声優さんの名演技もあり(外見だけは)名探偵になっておりました……最後以外は(汗)


明日辺りに、リクエストに答えて事務所の人間をまとめた物を乗せます。
今回で事務所の面子は完成といって良いでしょう。



……あ、新出先生(?)を勧誘したいなんて、考えてないんだからね!!?


まぁ、真面目にどうにか設定作って、小咄用のキャラをストックの場みたいなものは欲しいと考えています。


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038:とある探偵事務所の平穏な日……うん、まぁ平穏

「どうです? 変装の具合は」

「問題ない。彼もまったく気付いていない様だし……見事な技能だな」

 

 プールバー『ブルーパロット』。先日、所長がデートに使ったバーは、同時に『俺』のアジトでもある。

 そこの従業員スペースで、『俺』は瀬戸瑞紀のまま、先日出会った狙撃手、諸星大(偽名)に変装の技術を教えている。

 

「とりあえず、諸星さんはレフティ(左利き)というのが特徴です。右利きの練習を欠かさないようにしてください。演技自体に関しては問題ないですから」

「ほう、君ほどの逸材から及第点をもらえるとは……。知人に自慢出来るな」

「――事務所内では止めて下さいよ? 絶対ですよ? 振りじゃないですからね!?」

 

 この人、なんとなく所長に似ているから不安になってしまう。こう、なんと言えばいいのだろうか……。

 

――コイツ、何かやらかしそう。

 

 というのが一番しっくりくる言い方か。

 

「あぁ、分かっている。もし私の正体が知られたら、最低でも一人は死人が出るからな」

「分かってはいたけどデンジャラスですね!?」

 

(本当にコイツ所長さんに似てんなちくしょう!)

 

 いや、パッと見の鋭さとか緊張感とかから見て、単純な能力で言えば所長よりもずっと高いんだろうけど。

 

「それで、諸星……いえ、昴さん。枡山会長は黒という事でいいんですよね?」

「あぁ。詳しくは話せないが、様々な組織が彼と、その背後にいる者たちを探ろうとしている」

「そんな大物が……どうして所長を?」

「そうだな、考えられるのは……あの男の裏の仕事、あるいは副業を邪魔したのではないか?」

「副業?」

「武器や麻薬の密輸、そしてそれらを安価で売りさばき治安を悪化させ、混乱を作りだす事か」

「……心当たりがありすぎますぅ……」

 

 ついこの間、情報は伏せてもらっているものの麻薬の密売組織とやり合ったばかりだし、妙に出回っている銃や爆弾がらみの事件は片っぱしからそうだよなぁ……探偵事務所の仕事じゃねぇよな、どう考えても。

 毛利探偵の所も、妙に殺人事件なんかに絡むけどあそこは元刑事だからなぁ……。

 うちは設立の理由からして、あの鈴木の爺さんのごり押しとかいう訳のわからない物だ。設立してしばらくは普通の探偵の仕事が多かったけど、今ではそれに加えて企業内偵や利害調整の交渉、不審な動きのある組織や施設の調査――場合によっては警察が来る前に制圧。うん、おかしい。どう考えてもおかしい。何度か参加してるけどさ。

 爆弾や罠の解体技術の取得が必須条件の探偵事務所なんてあってたまるか。

 

「あぁ、ここしばらく君たちの活動は監視させてもらっていた。警察顔負け、いや、スペシャルチームも顔負けの活躍ぶりをな」

「もう色々とおかしいですよねぇ」

「そういう君も、やっている仕事のほとんどは、探偵というよりもトレジャーハンターのようだが?」

「……言い返せません」

 

 あぁ、ダメだ。話が変な方向にずれていってしまう。

 

「ともかく、枡山会長の動きを注視する必要がありますねぇ。……隠れていましたけど、例の『広田雅美さん』も確認しました。こっそりこちらに接触しようとしていましたけど、諦めたようです。まぁ、あれだけ監視があれば仕方ないですけど。何を伝えようとしたんですかね?」

「多分、妹の事だろう。妹の件を君たちに依頼したということは……妹の方も、やはり日本にいるとみていいか」

「どういう人なんですか? 広田さんの妹さんって」

 

 諸星さんは、俺が預かっていた例の写真を取り出す。

 

「俺も詳しくは分からないが、組織でも特別な立ち位置にいる女。……優秀な薬学者だと聞いている」

「……薬学」

 

 なるほど、その知識を買われて重要視されてんのか。

 

「その妹さん。捕まっていると思いますか? それとも、まだ――」

「姉が無事なのだから……協力をしているだろうな。組織に強い反感を持っていたとしても、姉がいる以上協力せざるを得ないだろう。余り会えないとはいえ、姉妹仲は良好だった」

 

 となると、当然やっている。あるいはやらされている事は薬の研究。それが出来そうな場所は製薬工場、あるいは――

 

「製薬会社。早速いくつか当たってみます」

「顔を変えて、かな?」

 

 あたりめーだ。瀬戸瑞紀で顔を見られでもしたら事務所に迷惑が行っちまう。

 

「……私がいない間、所長の周辺をお願いしますね?」

「あぁ――もちろんだとも」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 警察病院の中にある、案内図には載っていない病室。その病室に、厳重な監視の下で昏々と眠り続けている男がいる。

 

「どうだ、風見。奴は起きたか?」

「あ、降谷さん。お疲れ様です」

 

 その病室の監視カメラの映像が回してある部屋を、俺は公安警察官、降谷零として定期的に訪れていた。

 事務所の人間や、組織の人間に気付かれないように、全力で注意はしてある。

 

「今の所、まだ起きる気配はありません。先日の脳波検査でも確認しています」

「そうか……」

 

 一刻も早く、ピスコに対して攻勢に出なければならない。出来る事ならば警察として奴を捕まえたいが、最悪組織の人間として奴を失脚させる。そうすれば浅見君の身の安全もしばらくは確保できるだろう。

 その後、誰がこちらに来るかで厄介事の度合いが大きく変わる。

 

(ピスコ自身は動きを見せない。一番あり得そうなのは、やはり他の人間を使っているということだが……)

 

 キュラソーは違う。あの女は別の目的で動いているようだ。正直、脅威の度合いで言えばピスコよりも上だが、情報が足りない今では動けない。

 まずは、ピスコの手足となっている人間を抑えなければならない。

 そこで最も怪しいのは――

 

「風見、本堂瑛祐という少年について可能な限り調べてもらいたい」

「例の、帝丹高校に転校してきた少年でしたか……最近では浅見探偵事務所に顔を出しているようですが……」

「調べてみた所、毛利探偵事務所にも顔を出している。どうやら、両方に探りを入れているようだ」

 

 彼とは何度か話してみた。基本的には友好的な態度を装っているが、稀に――稀に俺や浅見君に、僅かな敵意……いや、不信感という方が正しいか? ともかく、弱いとはいえ負の感情を向けているように見える。

 幸い全員という訳ではなく、瀬戸さんや小沼博士には多少。新顔の沖矢さんや恩田君にはそれなりに心を許しているようだ。

 

(……やはり、浅見君に何らかの疑いをもって調べに来たと考えるべきか)

 

 その内容――目的を知る事さえできれば、あるいは彼を味方につける事だって可能かもしれない。

 

「あの……降谷さん」

「? あ、あぁすまない。なんだ、風見?」

 

 思考に没頭していたのだろう。部下が心配そうな顔で声を掛けて来た事にしばらく気付かなかった。

 

「いえ、大丈夫ですか? 例の浅見透への狙撃事件以降、あまり休息も取っていないのでは……?」

「はは、アイツにも同じ事言われて怒られたよ。大怪我している年下に叱られるのは……全く、堪える」

 

 最近よく楓ちゃんに怒られている所長の気持ちが少しは分かる気がする。

 少年探偵団が事務所に遊びに来た時の恒例行事を思い出し、思わずでそうになった笑いをかみ殺す。

 

「……降谷さん」

「安心しろ、事務所の方は明日まで休みをもらっている。少し羽を伸ばさせてもらうさ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

7月10日

 

 仕事が終わってコナンと蘭ちゃん、園子ちゃんと一緒に飯を食いに行ったら今日も元気に殺人事件だ! 勘弁してくれませんかねぇ……。

 しかも青蘭さん来ちゃうし。腕組んでくるし胸が当たってたわでドッキドキ、蘭ちゃんが指をパキポキ鳴らし出してドッキドキ。なんでそこで七槻とふなちの名前が出てくるのか……。

 

 事件も無事に解決し、青蘭さんから飲みのお誘いがあったのだが蘭ちゃんに腕を固められて引きはがされてしまった。とりあえずコナン。いつもより5割増しのあざとい声で俺に駄々こねるの止めろ。嫌な汗が出るから。

 

 

 

7月12日

 

 瑛祐君と仕事する事になった。なんでや。事務所員じゃねーのに。

 今日は単純に素行調査だったのだが、それになぜか瑛祐君が同行させてくれという事。

 とりあえず瑞紀ちゃんも一緒だし、なにかあっても大丈夫だろうと仕事を開始。

 依頼人である女性からの依頼は、息子さんが付き合っている女を調べてほしいという仕事で、すでにある程度は調査済み。今日から尾行して調べていこうと思っていたら、まさかの目の前で誘拐未遂である。本当にどうなってんのこの街。

 

 どうにかそっちは解決。いきなり車で目撃者の俺たちを轢き殺そうとしたのはびっくりしたけど、瑞紀ちゃんが逃げ遅れた瑛祐君を救出。その後とっさに阿笠博士作の発信機を取り付ける事に成功。白鳥刑事と千葉刑事が車で追い掛けてくれて無事に確保。最後の最後でお約束の人質を盾にして『来るなー!』をやられたけど、隙だらけだったんで俺が投げた500円玉でノックアウト。凶器のナイフは同時に瑞紀ちゃんのトランプで弾き飛ばして問題なし。

 

 

 

7月13日

 

 瑛祐君がすっごい懐いている。……瑞紀ちゃんに。

 あれ? 俺は? 昨日俺も活躍したじゃん。

 助けたのが瑞紀ちゃんだったからか?

 

 しかもなぜかふなちに慰められてる。え、俺そんなに落ち込んでた?

 瑛祐くんにも、『あ、浅見探偵もカッコ良かったですよ?』というフォローをいただく始末。

 安室さんは滅茶苦茶笑ってるし、マリーさんは微妙な顔で俺を見てるし、小沼博士は俺にフォローという名のトドメを刺しに来た。おのれ、おのれ。

 

 小五郎さんの所で晩酌ついでに愚痴ったらこっちでも爆笑された。なんでや。

 

 

 

7月15日

 

 青蘭さんが例のインペリアル・イースターエッグを展示会の後になんとか譲ってもらえないかと次郎吉さんと交渉しているらしい。さっき、家に遊びに来た次郎吉さんと飲んでたら話してくれたのだ。

 ふぅむ、さすがにあれだけ高価な物だと肩入れする訳にはいかんしなぁ。

 なんでも、他にも色んな人達があのエッグを狙って動いているらしい。

 今ではロシア大使館の人間や古物商が多数、交渉を持ちかけてくるらしい。次郎吉さんの様子からして、かなりうっとうしいんだろう。こりゃあ史郎さんに全部押し付けるつもりかな?

 

 今日はふなちと一緒に、以前仕事を依頼してくれた香坂さんに会ってきた。自分はその時、ちょうど四国の件でいなかったので直接顔を合わせるのは初めてだった。……真面目に後悔している。なぜ俺は、もっと早くこの人とコンタクトを取っていなかったのか。一年近くこの人と接するチャンスを逃していた事になる。

 

 こちらも目当てはイースターエッグだったが、欲しいというより確認させてほしいので、次郎吉さんに会わせてということだった。え、美人だよ? 断る理由あんの?

 

 ふなちから足を全力で踏みつけられたが、美人の前では恐れる事など何もない。むろん即座に快諾。ついでにいうならば、さっき次郎吉さんの了承を得た。

 加えて戦果として、レストランへたまに遊びに来ていただく約束を取りつけた。美人だし癒されるし西谷さんが目指すパティシエ――しかも海外で活動している方だ。きっと得るモノは多いだろう。だから、ほら、俺超ファインプレーじゃない?

 

 

 

7月18日

 

 やばい、思った以上に夏美さんいい人だわ。早速店に来て、西谷さんに色々と教えてくれた。

 グッジョブ。俺本当にグッジョブ。安室さんとも気が合ったのか作ったお菓子について西谷さんを交えた三人で色々話していた。料理も出来る安室さんも興味がある話題だったのか、すっごく楽しそうだ。

 

 西谷さんも久々に安室さんと話せてよかったよかった。

 だから『余計な事を……っ!』って視線で俺を睨んでくるのはどうにかしてほしい。え、明日になってもあんな目で見られるんなら、許してくれるまで厨房の入り口で泣きながら土下座してやる。

 

 

 

7月21日

 

 今日は就職してから連絡をしなくなった息子さんの調査をお願いされた。会社に親が連絡するのも、迷惑だと思ってということらしい。そうだよ、こういう仕事でいいんだよ。企業に潜入したり死体を触ったり爆弾を解体したりしなくていいんだよ! や、そういう事しないと時間は進まないんだろうけどさ!

 

 佐藤刑事に『爆弾絡みの事件には絶対に関わらないで!』って胸倉掴まれたけど、向こうから飛んでくるからどうしようもないよね。

 

 勤めていた製薬会社に偽名を使って問い合わせ。無事に発見できたので、その人に電話で状況を説明。これでご両親にキチンと連絡を取ってくれるだろう。

 そういえば、今日散歩していたらいつぞやの女王様系女子高生に会った。なんで俺の顔見た瞬間に顔を引き攣らせたんですか? なんかその後、テクテク近づいて来たと思ったら何も言わずに頭を撫でてくれたんだけど……今思い返しても謎だ。あれなんだったんだろう?

 俺、なんか泣きそうな顔でもしていたんだろうか? 別に普通だったと思うんだが……。

 

 

 

7月25日

 

 最近マリーさんや昴さんと仕事をするようになった。マリーさんはもちろん、本格的に昴さんも主力として動いているので、自分が次郎吉さんから受けるような仕事も一緒にやった方がいいんじゃないかということだった。

 

 ぶっちゃけ一理あるから快諾。昴さんは訓練必要ないくらい技能持ってるし、むしろこちらから頼りにしたい。

 

 恩田さんも、尾行や簡単な調査は出来るようになった。瑞紀ちゃんが言っていたが、恩田さんは演技に関しては才能があるらしい。むろん、まだまだ要特訓ということだが。

 最近では安室さんとキャメルさんが、体力の訓練に加えて解錠技術を教えている。そこまでいけば、本格的に仕事を回してみようという話になった。

 

 そういえば、最近瑞紀ちゃんは抜ける事が多いな。なんでも、ちょっと忙しくなってきたらしいが……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「所長、先日の件の報告書が仕上がりましたわ」

「あ、ありがとうございます鳥羽さん。上がってもらって構いませんよ?」

「いえ、せっかくですしお待ちします」

 

 今日は七槻とふなちはお休みで、二人でどこかに食べに行ってくると言っていた。沖矢さんは安室さんと一緒に仕事に行ってるし、マリーさんは阿笠博士の企画した潮干狩りに少年探偵団と一緒に参加している。

 

「そういや恩田さんは?」

「先ほど戻ってきましたが、かなりお疲れの様だったのでキャメルさんが自宅まで送って行きました」

「まぁ、ここ最近は走り込みが多いからなぁ……」

 

 新しい人がかなり入ってきたおかげで、仕事をこなすのもかなり安定してきた。最近ではえらく難しく、時間もかかる依頼も多いため、簡単な仕事は毛利探偵事務所に回すことが多い。

 恩田さんの訓練が一通り終われば、鳥羽さんかキャメルさんとコンビでそういった案件を担当してもらおうか。

 

「――そういえば、前からお聞きしたかったのですが……」

「はい?」

「所長はどうして私を買って下さるんですか?」

 

 鳥羽さんは唐突にそう聞いて来た。

 

「? 採用理由ってことですか?」

「えぇ、まぁ。実際に入ってみて思ったのですが、ここの事務所は求められる人物像が非常に高いので……恩田君も、根性はすごいですし」

「……ふむ」

「そんな中で、特に最近はお給料も増やしていただきましたし――少々気になってしまいまして……」

 

 まぁ、気になるのは仕方ないか。自画自賛する様だが、うちの事務所はかなり有名だ。取材依頼なんかも凄まじいし、安室さんとマリーさんの二人は特に輪を掛けてすごい。パパラッチが出てくるレベルだ。本当にどんな事務所なんだウチは……。

 

「そうですね、理由としては経験や技能なんかですが……」

 

 どうしよう、一番の理由を言って怒られないかな。

 

「一番自然だったから、ですかね」

「――自然……ですか?」

「えぇ、あの条件で面接を受けに来た人達、言っちゃなんですがお金やある種の名誉が目的の人が多かったんです」

「まぁ、あれだけの好条件でしたから……。自分も正直それが目当てでしたし。あの、ひょっとして自然だというのは……猫かぶり、ですか?」

 

 あ、はいそうです。コロコロ笑って下さって本当にありがとうございます。

 

「――別に善人である必要はないですからね。ウチに必要なのは」

 

 そりゃあ、『私、実は例の組織の人間なんです』とか言われたら困るけど、『私、欲まみれの悪人なんです』なんて可愛いもんだ。むしろそういう人間がいてくれると助かる。普通では気が付かない道筋や視点を教えてくれそうだ。

 

「悪人だろうが元犯罪者だろうが、一緒にやっていけるならそれで十分です。正しいかどうかは大事じゃない。今犯罪者だとか、何かを計画しているとかじゃなければ、ですけど」

 

 ついでに言うなら、鳥羽さんはいざという時にためらうことなく行動出来る事が分かったから個人的には無茶苦茶気に入った人員である。

 

「ぷっ――はは、ははっ!!」

 

 そしたら、鳥羽さんはこらえきれないと言った様子で大笑いをしだした。いつもの静かな笑いじゃない。腹を抱える本当の大笑いだ。

 しばらく笑い続けた鳥羽さんは、何度か深い呼吸をした後、大きく息を吐き、

 

「はーっ、やれやれ。降参だよ、所長さん」

 

 鳥羽さんはいつもやや長い髪を、後ろで団子みたいにまとめている。軽く目を瞑った彼女はそれを束ねている紐をほどき、ポニーテールに髪型を変える。そして開いた目は、いつもの優しい目じゃない。

 

「……野良犬の目、かな?」

 

 とっさに口にしてしまった俺をちょっとぶん殴りたいと思ったが、当の本人はツボにはまったのかまた大笑い。さすがにさっきよりは落ちついているが。

 

「いいねぇ、その表現。自分じゃよくわかんないけど多分アタシにゃピッタリさ」

 

 手をひらひらさせる鳥羽さんは、いつもみたいに真っ直ぐ立つのではなく、ソファに軽く腰をかけている。いつもの清楚な感じは微塵もないが、個人的には今の鳥羽さんの方が好きだ。

 

「今のが鳥羽さんの素って事でいいんだよね?」

「初穂でいいさ。アンタにゃ色々とバレちまったからね」

 

 何が? いや、猫かぶってたってのは知ってるけど、バレるってほどですかね?

 

「まぁ、ここは居心地がいいからね。払うもん払ってくれてるし、むしろ増やしてくれたから文句はないよ。ここで金を稼いでから計画を実行しようと思ってたけど、名探偵に気付かれてるんならしょーがない。あの馬鹿な姉や、むかっ腹の立つジジィ達は生かしてやるか……」

 

 

 

――はい?

 

 

 

「と、いうわけで。当面の間は探偵をやってやるよ」

 

 いやすみません、何をやらかす気だったんですかね!? 姉? ジジィ!?

 

「所長さん、よ・ろ・し・く♪」

 

 ピースサインを送る鳥羽さん――あぁいや、初穂さんの悪者みたいな笑顔に、俺もなんとなくピースサインを返した。

 ……よく分からないけど俺――ヤバい事を止めたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 少し引き攣った笑顔でピースサインを返す所長の顔がおかしくて、また大笑いをする所だった。

 有名な探偵事務所ならば難事件を解く事だってある。そこらへんを参考にしながら、貧乏だった自分たちをさっさと切り捨てた姉や、その姉とよろしくやっていた爺さんを殺して、ついでにいただけるモノをもらっていく計画を立てようと思っていたが……まさか自分を悪者だと知った上で雇っていたとは知らなかった。

 

(何かをやらかそうとしているって所まで気付かれてんじゃあ、下手に動く訳にもいかない、か)

 

 実際にここで働いてから、ここが普通の探偵事務所じゃないのはよく理解していた。しかしまぁ――なるほど、ぶっ飛んだ所長さんだ。アタシが事務所相手に何か企むとは考えなかったのだろうか? ……いや、仮にそうだと考えていたとしても、この男は平然と受け入れそうで――怖い。あぁ、そうだ、この年下の男は怖い男だ。怖くて――面白い。

 

(……意外と、面白い所に拾われたのかもしれないねぇ)

 

「あー、とりあえず、互いに腹を割ったって事で」

 

 ぼんやりとそんな事を考えていると、所長さんが後ろ頭をかきむしりながら口を開いた。

 

「――飯、食いに行くか?」

「ハハッ、いいねいいねぇ。たまにゃいい男と並んで見せつけるのも悪くない」

「そっちかよ!」

 

 多分、所長以外にもアタシが悪人だってことに気が付いている奴はいる。安室やマリー……特に安室はアタシを警戒している。ただ、所長ほど深い所まで理解はしていないはずだ。

 深い所まで知った上で、飯に誘う馬鹿は――多分、コイツしかいない。

 

「所長さん」

「はい?」

 

 

 

「……なんだかんだで……長い付き合いになりそうだねぇ」

 

 

 




なお、浅見君は色々と踏んでしまった模様。

鳥羽さんや恩田さんに関しては、色々と補完する事が多いと思われます。
原作のイメージとは異なるのでDVDを借りるんだ!

次回辺りから色々動くかな? ずっと14番目をやっていたから、色々と遊びたい気持ちもありますが(笑)


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039:再起

本日? 2度目の更新です。うだうだやってたら出来てしまった。


「――最近瑞紀ちゃんが俺の傍を離れないんだけどこれってそういう意味なのかな? どう思うコナン?」

「まず目を洗って耳も洗って、それで脳みそ洗ってみたら?」

「よし表出ろ、決闘だこら」

「いいぜ、PK勝負な」

「……お前が両足禁止なら」

「PKだって言ってんだろーが」

 

 時期的に例の連絡の取れなくなった息子さんと母親の仲を取り持った辺りからだろうか。

 あの辺りから仕事の時は大抵瑞紀ちゃんと組む事が増えた。そうでない時も、『所長は一人で行動するべきじゃないです! 色んな意味で!』ということだ。え、なに、俺またなにかやらかした? それか、やらかしそうだと思われてんの?

 

「自分でそういう風に思うってことはそーゆーことなんじゃない?」

 

 後、最近コナンが毒を吐く事が多くて悲しくなる。

 

「この野郎、せっかく他の所員に黙ってこっそりデータ作ってきたって言うのに」

「わぁい! ありがとう浅見にーちゃん!」

「……コナン、今度恩田先輩と一緒に瑞紀ちゃんの講習受ける? 今演技の訓練やってんだけど」

「うっせ」

 

 微妙に拗ねたが、まぁいつも通りだ。とりあえず本題に入ろうと、徹夜でまとめた資料をコナンに渡す。

 

「捜索願が出されたり、連絡が付かなくなったプログラマーやSEのリストだ。もっとも、方向性の様なものは見えない。まぁ、全部が全部組織のモノってわけじゃないだろうから当然か」

「まぁ、だよなぁ……。例の『テキーラ』がプログラマーリストを狙っていたから、そこから何か分かるんじゃないかと思ったけど……」

「ふむ……やっぱり色々と足りないか」

 

 時間を進める条件は大きく分けて二つ。組織の事件を解決することと、そして当然だがコナンの身体が元に戻ることだ。前者は恐らく、ゲームでいうフラグがいくつか立たないと無理だろう。これに関しては何がキーになるか分からないので静観。何がフラグか分かれば手元に置いてキープしたり、探偵事務所という強みを使って監視しておくんだが……。

 

「薬学に強い人間が欲しいなぁ……」

 

 これは以前から考えていた事だ。以前コナンが工藤新一に戻り、服部平次と推理対決した時には……なんだっけ? パイカル? とかいう中国酒を飲んで元に戻ったと聞いている。つまり、その酒の成分などを解析すれば身体が戻る薬を作れるんじゃないだろうか?