ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア- (結城ソラ)
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First:出会い、響く
Build.01:ガンプラカフェの昼下がり


 ――飛ぶことに憧れた

 もっと疾く

 もっと高く

 だけど

 それは叶わなかった

 心が折れた

 ――それでも

 まだ、ここにいる


「ん……」

 

  ワッ、という声が耳に届き目を覚ます。どうも眠っていたらしい。

 

「あー……30分くらい寝てたか?」

 

  テーブルの端に開いたまま置かれた懐中時計に目を見やりボーッとした頭のまま呟く。それからテーブルの中央に置かれた“それ”を見やる。

  背中と耳元に翼のようなパーツがあしらわれた特徴的なプラモデル。ガラスから差し込む日光が胸部のエメラルドグリーンのクリアパーツを反射する。

  “HGAC ウイングガンダムゼロ”。『新機動戦記ガンダムW』の後期主役機を立体化したプラモデル――ガンプラだ。

 

「なかなかいいデキだね」

「……おかわり頼んでないんですけど」

「いいガンプラを見せてくれたお礼さ♪」

 

  コーヒーを置きながらエプロンを着けた成年がウイングゼロの目線に合わせて屈み込む。

 

「それ、墨入れくらいしかしてないですけど」

「誉めて新しい常連になってもらおうと思って」

「心の声だだ漏れなんですが」

「うちは“ガンプラカフェ”だからねー。いいビルダーさんには是非常連になってもらいたいのさ」

 

  “ガンプラカフェ”。かつてはガンダムカフェの名前でガンダムの関連グッズやガンダムをモチーフにしたメニューを提供していた公式喫茶だ。

  現在でもガンダムカフェ自体は存在するが“ガンプラカフェ”という姉妹店というべき存在が生まれたのは十数年ほど前、プラフスキー粒子と呼ばれる粒子が発見されその性質が解明されたことに起因する。

 

「うち、バトル台も無料解放してるんだよ。良かったらやってかない?」

「パッと見埋まってるみたいに見えますけど。……流石はガンプラバトル最初期からバトルしてたガンプラカフェ。連結台まであるんですね」

「連結状態の設定を戻すのがめんどくさいだけなんだけどね実は……」

 

  高濃度で散布されたプラフスキー粒子はガンプラのプラスチックに反応し流体化する性質を持っている。これを用いて動力を持たないガンプラを操作して戦わせる競技――ガンプラバトルは世界規模での流行を見せている。

  ガンプラカフェの元祖はガンプラバトルのβ版とも呼べるものを設置し、テストを行っていたガンダムカフェだった。

 

「うちは正式版実装以降にできたから常に最新版にアプデかけてるからやりやすいと思うよ!」

「なんでそんなにバトルさせたいんですか……」

「オタクだからだよ。店長常にヒマだからな!」

 

  不意にテーブルの下から声がする。そしてにゅっとテーブルの影から手が伸びてテーブルの上にあったプチハロシュー(ハロを模した一口シュークリーム)を摘まんだ。

  思わず変な声と一緒に立ち上がりかけたがそれより先に店長の蹴りが手の主を抉った。

 

「げばっ!?」

「……カイチ? いつになったらお前は商品に勝手に手を付けることを止めるんだい?」

「い、いやだから大丈夫なヤツしかしなイデイダダダ!? つかなんでその靴そんなにつま先尖ってんだよ!?」

「ふふ、いいだろう。ZⅡをイメージしてるんだ」

「みぞっ、鳩尾ばっかそんな狙うなっでぇぇっ」

 

  影の主が絶叫する。しかし店長は尚も容赦せず笑顔で的確に深いダメージが刻まれるポイントを狙って蹴り付ける。テーブルの下で行われているハズなのに何故一切テーブルに振動が伝わってこないのかは気になるところだがたぶん聞かないほうが賢明だろう。

  やがて折檻(?)が終わりを迎えたのかボロ雑巾じみた状態になった人物がテーブルの下から現れる。

  恐らく染めているのであろう金髪にパーカーのラフなスタイル。頬の絆創膏が目を引いたがそれ以上に白目を剥いたまま気絶している少年の姿に哀れみを覚えながら席を移動する。

  流石に気絶した人間を足蹴にしたまま食事をする悪趣味も無い。かといって介抱する気もさらさら無いのだが。

 

「あれは?」

「気付いたら名物化してた妖怪タカりお化けだよ」

「妖怪なのかお化けなのかゆるキャラなのかいまいち絞りきれないですね」

 

  その後店長と呼ばれた彼はプチハロシューのおかわりを持ってきて目の前の席に座り込んだ。本格的に話し込む気らしいが果たして仕事はいいのだろうか。

 

「で、アレはいったい」

「彼はアキヅキ・カイチ。昔からこの辺に住んでいるまぁ顔馴染みなんだけど勝手に商品食べることを覚えてしまってね…」

「放置してていいんですかそれ」

「その分タダ働き要員として一週間くらいはこき使うんだけどね」

「どっちに同情すればいいのか分からなくなってきました」

「仕方ないじゃないかー。彼どんだけ勧めてもガンプラバトルしないんだし」

「店長の基準はガンプラバトル以外に存在しないんですか」

「もちろんだよキミぃ!」

「威張らないでください。……じゃあアレも店長のイベントですか」

「ん?」

 

 溜息を吐いてシュークリームを口に運びながら指差した方向に人だまりができている。バトル台を囲んでできたそれはガンプラバトルをキッカケとしたものなのは予想ができた。

 

「いいや今日はイベントは特に予定してないけど?」

「店長ー!」

 

 その輪からまだ小学生くらいと思わしき少年が駆けてくる。

 

「どうしたんだい?」

「荒らされてるんだ……」

 

 指差した先に一回り大きな男が居た。すでに成人はしているであろう人物がバトルフィールドを形成する青い粒子の中で得意気に笑んでいる。

 

「見ないお客さんだね」

「ずっとバトル台に居座ってるんだよ…負けたら譲るって言ったきりで」

「うわめんどくせ」

 

 見た限り対戦相手には子供も居るしそのガンプラは素組に毛が生えた程度のものが多い。一方男はガンプラを操作するコントロールスフィアの動かし方に慣れている。そこそこやり込んでいるファイターなのだろう。

 それらの状況から察するにあの男は弱い者いじめやビギナー狩りを楽しむタイプ、ということだろう。正直、あまり面白くはない。

 観察を続けているうちに彼らを包む粒子が崩れてゆく。どうやら決着がついたらしく、その結果は両者の表情を見れば一目瞭然だった。

 

「また勝っちゃった…」

「見た限り腕も結構あるね」

「店長何とかしてよぉ」

「えぇ!? いやムリムリ! 仕事中だし!」

「今こうして休んでおやつ食べてるじゃないですか!」

「だって姪っ子にガンプラバトルするなってじっくり釘刺されてるし…」

「本音なんだろうけど理由が弱すぎるよ店長!」

「…あ、いやちょっと待って」

 

 不意に店長がほほ笑む。

 イヤな予感が、背筋を走った。

 

 

☆★☆

 

 

「ふぅ、いやぁ連勝連勝! 歯ごたえねぇなぁおい!」

 

 豪快に笑う。まさにご満悦というところだ。周りの目などまるで気にしていない。

 

「もっと強いヤツいないのかぁ? 流石にこれじゃあ面白くないぞ?」

「言ってくれんじゃんか、よし俺が相手を」

「オリニィ、ガンプラできてないからパーツ買いに来たって覚えてる?」

「あっ」

「はーいストップストップ!」

 

 ギャラリーがざわつく中を店長が頭の上で手を叩きながら割いていく。連れ立って居るのはとてつもなく嫌そうな表情をする少年。

 

「店長!」

「お? 次はあんたが相手かい?」

「はっはっは! そうしたいのは山々なんだけどね、取り上げられててね……グスッ」

「あ?」

「まぁともかく! 次のチャレンジャーは彼だ!」

「そんなことだと思いましたよ!」

 

 若干キレ気味にツッコミを入れる。が、自分からここまで一緒についてきている時点でやる気はあるのだろう。

 そして店長はその辺を見抜いているのかとてもにこやかな笑顔である。

 

「ふふふ、我がカフェの秘密戦力の力を見るが良い!」

「いや初対面ですが」

「はっ、んだよ。覇気のねぇ奴だな? 瞬殺されてぇのか?」

「…できるならむしろ見せてくれないですか?」

「あ?」

「俺粘り弱いんで、すぐにあんたを瞬殺しちゃうかもよ?」

 

 ぴきり、と男の額に青筋が浮かぶ。

 

「いいぜ、さっさと向こうの台に行けよ。相手してやるぜ」

「…いいのか?」

「おいおい今更怖気づいたか?」

「いや? …勝てるな、って思っただけだ」

 

 表情を見る必要はもうない。ウイングゼロをその手にバトル台の反対側へと悠然と歩く。

 

「さぁ行け我らが秘密兵器よ!」

「ガンバレあんちゃーん!」

「俺のカタキを取ってくれよー!」

「オリニィは戦わずして負けてるからね?」

「ところで店長、あの人なんていうの?」

「…………」

「…………」

「さぁ?」

「店長ー!?」

 

 

 気だるげな面持ちのまま彼はポケットに入れていた手を出す。その手に握られていたのは白い端末。

 GPベース。ガンプラバトルを行うために必要な端末でありガンプラの情報が詰まっている。

 今回使用するガンプラは先ほど組んだばかりのウイングゼロ。入力データは最低限でいい。

 

 “Ganpura Battle Combat Mode!”

 

 “Battle Damage Level Set To 『B』”

 

 “Please Set Your GPBase!”

 

 バトル装置が起動しシステム音声が操作を要求する。ハイテンション気味な音声はヤジマ商事に変わってからの特徴の一つだ。

 設定を終えたGPベースをセットする。

 GPベースに機体とファイターの名前が表示される。

 

 “Begining Plavsky Particle Dispersal”

 

 “Stage 5 『City』”

 

 蒼い粒子が周辺を包み込み、バトル台の上に1/144スケールの街のジオラマが生み出される。

 これがプラフスキー粒子の凄いところだ。

 

 “Plase Set Your GUNPLA!”

 

 システムの声に従いウイングゼロをセットする。

 バトルシステムの光がガンプラをサーチしその出来栄えを判定する。

 サーチが終了すると手元に青い球体が現れる。『逆シャア』のアームレイカーを想起させるそれはガンプラを動かすためのコントローラー、コントロールスフィアだ。

 

 少しだけ手首を回してからコンソールを握りしめる。それに呼応するようにウイングゼロに命が吹き込まれツインアイが光る。

 

 

 “Battle Start !!”

 

 

 ウイングゼロの周辺に出撃用のカタパルトが生成される。膝を曲げ、カタパルトの衝撃に備えさせたところで息を吸う。

 

「…ヤナミ・ミコト、ウイングガンダムゼロ。勝ちに行く!」

 

  少年――ヤナミ・ミコトの声と共に足元のカタパルトが動きだし、次の瞬間には粒子が作り上げた世界へとウイングゼロが放たれる。

  空を抜け、降り立ったのは都市部だ。MSが降り立っても少しは余裕のある道路にビル群の中カメラに映ったのはビルに囲まれるように凸字型に配された特徴的な建物と都市周辺を包む広大な砂漠だ。

 

「ダカールか」

 

  『機動戦士Zガンダム』劇中でダカール演説という名シーンの舞台となった町、ダカール。ミコトの記憶にある限りこれといって特殊な仕掛けも無いハズだ。

 

 “Danger”

 

「――ッ」

 

  ビルのガラスが何かを反射したことを認識した瞬間危険を知らせるアラート音が鳴り響く。咄嗟にコントロールスフィアを操作し飛ぶ。

  次の瞬間、ウイングゼロが立って居た場所を黄緑色の光が薙ぎ払った。

 

『ちぃ、外したか』

「面倒なご挨拶だこって」

 

  舌打ちを聞いてカメラを敵影へと向け正体を確認する。白い大型の巨体は全身に装甲を纏い尖った頭の中央に配されたピンクのモノアイを輝かせる。

  PMX-003 ジ・O。白く染められた機体の腹部から煙が立ち上っているのを見てミコトは舌打ちをした。

 

「サザビーの拡散メガ粒子砲か…ただのジ・Oならそこそこ有利だってのによ」

 

  ジ・Oはその重装甲と重火力を誇りながらも全身に装備されたスラスターによる速さも脅威の機体だ。だがそもそもが無重力下で運用されることが前提とされている機体。ガンプラバトルとはいえ今回のフィールドは敵にとっては不利な状況だ。

  そうなれば重力下でも飛行することができ遠距離から高火力を撃ち込めるウイングゼロの方が有利だとミコトは踏んでいた。

  だが、敵はただのジ・Oではなくガンプラだ。腹に追加されたモノ(メガ粒子砲)を考えればその辺も対処しているだろう。

 

「さぁて、どう攻めるかね」

『考える必要なんざねぇよ!!!』

 

  再びスピーカーから耳障りな声が響きジ・Oが動きだす。右手に持った大型のビームライフルを照準もろくに合わせずに連射を開始。対してミコトはすぐにウイングゼロのウイングバインダー内部のバーニアを吹かしてアスファルトを蹴る。

 

『逃がすかよっ!』

「当たるかよっ!」

 

  細かくバインダーと足裏のブースターを吹かしながらビルを足場に連続的にジャンプし続けビームを躱す。

  それを見ていたギャラリーの1人が店長へと問いかける。

 

「店長、なんであの人あんなに逃げてるんだ?」

「観察してるんだよ、たぶんね」

「でもあんな慎重すぎっていうか…」

「ジ・Oの背中を見てごらん」

 

  指摘されたギャラリーが改めてジ・Oを見る。白に染められた機体の背に背負われた灰色の6つのポッド。塗装されていたがその色合いは機体色に溶け込んでおらず浮いていた。

  MLRS(多連装ロケットシステム)。ガンダム試作2号機の装備バリエーションの一つであり中~遠距離への支援砲撃を行うことを目的として作られた武装。

 

「目立ち過ぎじゃん。自意識過剰の現れ?」

「いやアレはわざと見せてるんだよ。たぶん対空装備として設定されてるんじゃないかな」

「その通りですよ」

 

  店長の言葉に先ほどまであのジ・Oと戦っていた人物が答える。

 

「弾速はそんな早くないけど特殊効果があって飛行能力の制御系をちょっと乱されるんです。遅い分追尾性がバカみたいに高いし着弾時の爆風が広いんで対処しにくいんです」

「そのうえであからさまに対空武装を意識させるような装備の仕方。見せ装備でありながら効果は実際にある、と」

 

  厄介なものだ。実際にウイングゼロは対空ミサイルを警戒してできるだけ飛行しないようにしていた。

  敵の策に嵌りうまく攻めきれない苛立ちを二度目の舌打ちと共にミコトは吐き出す。イラついて凡ミスして負けるという無様を晒したくはなかった。

 

『ちょこまかすんじゃねぇ!!!』

 

  叫びとともにビームライフルを持たない手にビームソードが握られる。そのままジ・Oは近くのビルの一つを根元から輪切りにして串刺しにする。そのまま持ちあげたビルをウイングゼロへと投げつけた。

  なんという馬鹿力。感心半分呆れ半分の状態でウイングゼロはツインバスターライフルを分割し片方のトリガーを引く。

 特徴的なSEとともにジ・Oのビームよりも強力なビームが放たれビルの残骸に着弾、貫通する。

 

「ちぃっ」

 

  バーニアを吹かしてビームを緊急回避するジ・O。外れたビームが地面をえぐり、その熱量に耐え切れずにアスファルトが溶解する。

 

「意外とすばしっこいな」

『素組の癖に無駄に高い火力しやがって』

 

 お互いに舌打ちをしながらライフルを向け合う。だが撃ち合いならば二丁のバスターライフルの火力と連射性からウイングゼロが優位を取る。

 押し切れる。ミコトは脳裏の戦闘プランを一気に詰めるべくジ・Oの足元を狙い連射する。

 

『ぐっ』

 

 ジ・Oの足が止まったのを確認してミコトはコントロールスフィアを操作しツインバスターライフルのモードを切り替え連結させる。

 二丁を一つに合わせた連結状態のツインバスターライフルの出力は非常に高い。初登場時に直径数十kmのコロニーをこの武器の一射で破壊したシーンはウイングゼロの代名詞として有名だ。

 一度足を止めたジ・Oなら最大出力の攻撃範囲を今から逃げ出すことはできない。決めきれずとも大ダメージは逃れえないハズである。

 

『させるかよっ!』

 

 だがジ・Oも自らの致命傷になりかねない砲撃を放たせるわけにはいかない。背中のMLRSの一つが開かれロケット弾が一つ放たれる。

 空へと昇ったロケット弾は爆発と同時に轟音と強烈な光を放った。

 

「ッ!? ス、タングレネード!?」

 

 唐突に五感のうちの二つをジャックされる。咄嗟に膨大な光を映し続けるカメラを切りツインバスターライフルを発射する。

 だがコンソールにヒット判定は表示されない。必勝の一撃を完全に外した。

 

「まずっ……」

『おらぁ!』

 

 目と耳が回復しカメラを復活させると一気に距離を詰めたジ・Oがビームソードを振りかぶりながら眼前へと迫っていた。

 回避しようと足場を踏み砕く勢いでウイングゼロが跳びあがるが加速しきったジ・Oを振り切るには至らない。ならばと肩を展開し内蔵されたビームサーベルを引き抜きビームソードを迎え撃つ。

 バチバチと火花やプラズマのエフェクトを放ちながらビーム刃どうしがせめぎ合う。

 

「……あ?」

 

 緑と黄の刃による鍔迫り合いは互角。そのことにミコトは違和感を覚える。

 

『ふんっ!』

「ぐぁっ……!」

 

 違和感にとらわれたミコトを不意に衝撃が襲う。コックピット乗っているわけではないがリアリティを出すための疑似的な揺れが伝わり実際にダメージを受けたような感覚を感じる。

 ウイングゼロの態勢が崩れビームソードが振り切られる。衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされたウイングゼロはそのままダカール演説の舞台となった連邦議会を押し潰すような形で墜落する。

 

「隠し腕にしてはやけに力強い…!」

 

 ジ・Oの姿を見て死角からの攻撃の正体を悟る。フロントアーマーから伸びていたそれはジ・Oを象徴するギミックの隠し腕だった。

 次いで衝撃のあった周辺を画面に映してみると焼け焦げたような跡が見えた。恐らくあの隠し腕に最初から小型爆弾でも持たせていたのだろう。

 

『おらおらぁ!』

 

 立ち上がるよりも早くジ・Oがビームを連射しウイングゼロを襲う。咄嗟にシールドで防御するがビームの雨の前にウイングゼロは動くことさえできない。

 ビームを放ちながらジ・Oがゆっくりと歩み寄る。元々地上での運用が考慮されていないジ・Oの動きは鈍重だが、見る者によってはそのゆっくりとした歩みと巨体は恐怖を掻き立てられるものがあるだろう。

 

『面倒だからさっさと降参したらどうだ?』

「そっちがした後に考えてやるよ」

『減らず口を!』

 

 ビームライフルを握っていない手が何かを投げつける。先ほどの衝撃の原因――クラッカーだ。

 

「そう何度も!」

 

 肩部のカバーを外しマシンキャノンをクラッカー周辺に大雑把に撃ちまくる。弾丸が数発クラッカーに突き刺さり撃ち落とすことに成功した。

 だがそれで一瞬油断した。先ほど展開されていなかったサブアームが展開され足元にクラッカーを転がす。たどり着いたクラッカーによりシールドの内側で爆発が起きる。

 爆風がウイングゼロとバスターライフルを別々の方向に吹き飛ばす。

 

「っ…バスターライフルが!」

『これでお前はアドバンテージを失ったなぁ!』

 

 叫びと共にジ・Oの計7基のバーニアから炎が吹きあがる。足場を踏み砕きながら大質量の機体が一気にトップスピードまで加速し隠し腕も合わせてビームソード四本を引き抜く。

 

「こン、のっ!!」

 

 取り付かれたら負ける。

 ウイングを広げ吹き飛ばされた態勢そのままに上空へと進行方向を無理矢理変える。そのまま左のバーニアだけを吹かし態勢を何とか立て直すが直後に危険を知らせるアラート音が響き渡る。

 上空へと逃れたハズが超加速を維持したジ・Oはそのままウイングゼロを追って上空へと飛翔していた。

 

「おいおい重力下だぞ!」

『俺のジ・Oから逃げられると本気で思ってんのかよ!』

 

 飛行しているわけではない。ブースターの推力だけで無理矢理重力を無視しているだけだ。物理法則もあったものじゃない。

 だが、これができるのがガンプラバトルだ。

 戦っている舞台は実際のダカールではなくプラフスキー粒子が再現したフィールド。そして今迫りくるジ・OもMSではなくガンプラだ。

 故に、とある人物はこう叫ぶ。

 

『ガンプラは、自由だ!』

 

 と。

 

「だけど所詮は直線的な加速だ!」

 

 無理矢理上空まで跳んでいるジ・Oはまっすぐにしか勧めないがウイングゼロは元々飛行できる機体だ。わざわざ鬼ごっこに付き合う必要は無い。

 コントロールスフィアを操作し“Deformation”と書かれたカーソルに合わせる。スフィア上に表示されたボタンを押せばそのコマンドが実行される。

 

 だが。

 

「……ッ」

 

 ためらった。

 

 それは自分への不信感。

 

 自分にできるのか?

 

 その言葉が頭によぎり、一瞬、時間にして0.1秒も無いだろうが操作が止まる。

 

 

 

 

 その一瞬が、命取り。

 

 

 

 

 六基のMLRSの1つが開き一発が発射される。少し間を開けさらに三発が発射された。

 先に放たれたロケット弾が二機の間で爆発。黒い煙を充満させる。

 煙幕だと気付いた時にはジ・Oもロケット弾もその姿を確認できなかった。

 

「まずい…」

 

 完全な失策だ。今から逃げても姿を隠したロケット弾に追われたところを四本のビームソードに狙われることは必至だ。

 ここを切り抜ける方法があるとしたら。

 考えが無いわけではないがあまりにも博打が過ぎる。それでも、勝利するためには思い切る必要がある。

 自分への不信感がこの危機を作り上げたなら。

 

「自分の悪運を信じるしかねぇわなぁ!!」

 

 ウイングバインダー以外のバーニアを切り逆にウイングのバーニアは全開にする。態勢を前かがみにすることでウイングゼロの軌道が山なりに変化し前転するかのようにして反転した。

 曲芸飛行も真っ青なマニューバ。実際にMSで行えばタダでは済まないだろう。耐えられるとすればヒイロ・ユイ辺りだろうか?

 

(いや、だいたいが規格外なガンダムのパイロット達なら案外誰でもこなせるかもな)

 

 口元に笑みさえ刻みながら自ら煙幕へと突っ込っみながらマシンキャノンを出鱈目に発射する。

 通常のガンダニュウム製MS程度なら一瞬で破壊可能な火力を誇る弾丸はやがて煙幕の中でこちらを追尾してきていたロケット弾の1つを捉え、爆発させる。

 スタングレネードや煙幕弾とは違い今回は純粋な火薬が積んであったらしく大きな爆発が巻き起こり煙幕の一部を晴らす。その際に黒い煙の中に白いシルエットを見つけた。

 

「ビンゴ!」

 

 シルエットへ向けて全力で飛ぶ。肩アーマーを展開し内蔵されていたビームサーベルを両手に握りしめる。

 

『馬鹿め! こっちの策を1つ破ったと思って調子に乗ったな!』

 

 煙幕の中からジ・Oが姿を現した。そして自らへと接近してくるウイングゼロに向けて既にエネルギーをチャージし終えた腹部のメガ粒子砲を放つ。

 黄緑色の光がウイングゼロへと襲い掛かるがウイングゼロはそれをシールドで受け止める。

 

『防げるわけがないだろう!』

「勘違いすんなよ!」

 

 シールドがビームの熱量に耐え切れずその形状を歪ませる。だがウイングゼロは止まらない。

 足場の無い中空では踏ん張りがきかずにビームを放ちながら後退するジ・Oに向けて最短距離で突っ込み、懐に潜りこむ。

 だが近付くということはダメージも上がるということ。完全なインファイトへと持ち込んだところでシールドをメガ粒子が貫通する。かろうじて機体を捻って直撃は避けたものの左のサイドアーマーとウイング、さらには足の一部を抉られる。

 最早シールドの役割を果たせなくなったシールドをメガ粒子砲の発射口へと突き刺す。ネオバード形態で機首となるシールドにはある程度の貫通性が備わっておりメガ粒子砲を発射不可能にするほどのダメージを与える。

 

「おおおおおお!」

『ちぃっ!』

 

 腹部のダメージに耐え切れずよろめいたジ・Oに勢いそのままシールドを投げ捨て大振りに振りかぶったサーベルを左足から右肩に向かって切り裂こうとするがジ・Oのビームソードが受け止める。再び緑と黄のビーム刃による“互角”の鍔迫り合いが繰り広げられる。

 

(…やっぱりだ)

 

 一度目の鍔迫り合いで感じた違和感の正体にミコトは当たりを付け、同時に心の中の冷めた感情を自覚した。

 この感情は自分がビルダーでありファイターであるが故のものだ。

 

『これでも喰らっとけ!』

「直情的な考えありがとう。おかげで読みやすいよ!」

 

 フロントアーマーから二本の隠し腕が再び現れ装備された二本のビームソードで貫かんとウイングゼロに襲い掛かる。だがそれを読めないほど、そして回避できないほどミコトとウイングゼロは鈍重ではない。

 ジ・Oのフロントアーマーを蹴飛ばしビームソードの間合いの外へと逃れる。逃さないと言わんがばかりに右腕のビームソードを投げつけマウントしていたビームライフルを手に持つジ・O。

 ビームソードを回避したところで三度ミコトの耳朶を危険を知らせるアラート音が叩く。先ほど放たれたロケット弾の残り2発が迫っていたのだ。

 背後に別々から襲い掛かるロケット弾と正面のジ・O。さらには先ほどのメガ粒子砲でウイングの一部を破壊されたことで機動力も奪われている。

 

「ならさぁ!」

 

 ジ・Oが放ったビームを避けながらギリギリまで引きつけたロケット弾の1発を足裏のバーニアを稼働させロケット弾よりも僅かに高い位置へと飛び、そのまま弾頭の部分を避けて踏みつける。

 踏み台となったロケット弾はそのままダカールに墜落し瓦礫を巻き上げながら爆発を起こした。爆風にあおられた最後のロケット弾が速度を落としたところに突っ込み、すれ違いざまに切り捨て爆発の範囲から抜ける。わずかに爆風にあおられビームサーベルを落としてしまうがダメージは受けていない。

 

「これで…」

『よくよく頑張ったがここまでだ!』

 

 ジ・Oのビームライフルのバレルに光が集まっていく。最大火力を撃ち込む気なのだろう。いくら翼が損傷しているといっても避けれない攻撃じゃない。そう思った瞬間、ウイングバインダーのバーニアが機能を停止した。

 

「なっ・・・!?」

『爆風を受ければバーニア類は少し沈黙するようになってんだよぉ。このまま落ちろよ、カトンボぉ!』

 

 ぬかった。あそこまで警戒しておいてこのザマだ。まったくもって詰めが甘い。

 このバトル中何度目かの舌打ちを自分への叱責に変える。まだビームライフルのチャージが終わっていないのを確認し態勢を整えマシンキャノンのトリガーを引く。回転を始めた銃身から放たれた弾丸がジ・Oの胸部周辺を捉える。

 原作ではビルゴを破壊するほどの威力を見せたマシンキャノンだがジ・Oの重装甲は弾丸を弾いて見せる。

 

『悪足掻きにもほどがあるなぁ! 悲しくなってくる!』

「…そのガンプラ、いいデキだよ。実際強いしな」

『はっは! 泣き言で命乞いかなぁ!?』

「だけど、それお前が作ってないだろ」

 

 どこまでも冷めきった声音がスピーカーを通して響く。

 

『何を・・・』

「連戦してるわりに整備することなくすぐにバトル台に立った。自分で作ったビルダーならまずしないことだ」

『ダメージなど大して無かったのだから整備する必要など無かっただけだ! 連戦と言ってもザコばかりだったからなぁ!』

「…気付いてないから言ってんだよ」

『自分の危機に気付いていないようなザコがぁ!!』

 

 激情を爆発させると同時にビームライフルのチャージ完了を知らせる音が鳴る。未だマシンキャノンを放つウイングゼロに飛行能力は戻っていない。

 

『これでぇ……終わりだァ!!』

 

 ジ・Oのマニュピレーターがトリガーを引く。一瞬のラグの後、強烈な威力を誇るビームがウイングゼロを貫く――

 

 

 

 ――ハズだった――

 

 黄緑色に輝くビームはウイングゼロを捉えることなくウイングゼロの真上を通過した。

 ウイングゼロは避けていない。ビームが()()()()()()だけだ。

 

「ほぅら」

『バ、バカな・・・何で!?』

「肩のポリが摩耗して弱っているのに気付いてないなんてビルダーならありえないんだよ」

 

 ジ・Oの右腕が無くなっていた。いや、よく見ればジ・Oの背後にビームライフルを握ったまま浮いている。

 

「……なるほどねぇ」

「て、店長!? 何が起こったのさ!?」

「あのジ・O、ずっと連戦してたろ? ダメージレベル()で」

「ダメージがたまってたってこと?」

「いやでもさ? Bなんて一回バトルが終わっちまえばそんな言うほどダメージ残らないぜ?」

「オリニィ、この場合外的要因はそこまで重要じゃない」

「あれだけ激しくビームソードを振り回していたのが原因さ」

 

 バトル序盤。ビームソードで輪切りにしたビルを突き刺して投げつけるという力技を披露したジ・O。だがそれは明らかに腕の関節部分に負担を強いる。

 プラフスキー粒子が作りだした仮想空間とはいえガンプラが触れるオブジェクトには確かに質量を、重さを持っている。ビル1つを投げ飛ばすとなればそれは凄まじい力が要ることは想像に難くない。

 

 本来ガンプラとは作り、ポーズを決めて飾って楽しむものだ。ガンプラバトルとはイレギュラーな遊びなのだ。

 そういう楽しみ方をした者ならば誰しも経験があるだろう。大振りな武器を構えたり原作のポーズを再現したりと所謂“素立ち”の状態から関節を動かした状態で飾り続けたガンプラの関節が()()()()ことが。

 そうなったガンプラは大概が接続が甘くなり何もしないでもパーツが重力に負けて外れたりする。ポーズを決めようと動かせばより外れやすいだろう。

 ガンプラバトルは激しい動きをしやすい。そうなればもちろん関節や接続の摩耗が激しくなることなど想像に難くない。ましてやダメージが一切残らないダメージレベル“C”ではなくある程度のダメージがガンプラに伝わる“B”ではその摩耗速度も早いだろう。

 

「要するにあのジ・Oは最大出力で撃ったビームライフルの反動に耐えられないほど肩関節を摩耗してたんだよ。だけどファイターはそれに気付いていなかった」

 

 ガンプラを作るビルダーならばそこに気付かないわけがない。それはつまり、操縦しているファイターがガンプラを理解していないが故に発生する事故だ。

 ミコトが肩関節が弱っていることに気付いたのは二度の鍔迫り合いの時だ。そもそもウイングゼロよりも巨大なジ・Oと真正面から刃を打ち合って互角などありえないのだ。

 とはいえアフターコロニー世界でも最強クラスのビームソードを持つエピオンと打ち合えるウイングゼロだ。単に出力の差の可能性もあった。だが直接重さが伝わる空中戦においても互角の鍔迫り合いを行えたことで確信することができた。

 だから弱っている関節周辺に向けてマシンキャノンを集中させた。結果はこの通り、ジ・Oの腕が文字通り吹き飛び形勢は一気に逆転した。

 

『こ、こんなことが……』

「ガンプラはバトルが終われば勝手に弾薬なんかの補充はされても修理はされない。ナノマシンによる自動修復なんて起こらない」

 

 バインダーのバーニアが息を吹き返す。どうやらロケット弾の特殊効果が消えたらしい。

 

「分かるか? ガンプラは俺たち自身が修理してコンディションを完璧にしなきゃならねぇんだ」

 

 空中での姿勢を安定させたところで失ったビームサーベルに代わってもう一本のビームサーベルを引き抜く。

 

「だって当然だろう? ガンプラは、兵器じゃないんだから」

 

 ウイングゼロのバーニアが点火し一気にトップスピードへと到達し、ジ・Oに迫った。

 

『くっ、来るなっ!?』

「ガンプラはぁ…おもちゃなんだよおおおおお!!!」

 

 ジ・Oが体を反転させて地上へと自身の重量と推力に重力を合わせて逃げようとするがウイングゼロはそれよりも速い。

 横薙ぎに払われたビームサーベルが緑色の軌跡を残しながらジ・Oの足をまとめて斬り飛ばす。そのままウイングバインダーの角度を変えて方向転換。重力に引っ張られて落下するジ・Oを真下から斬り抜ける形で残っていた左腕を斬り落とすとそのまま背後から空になったMLRSごとサーベルの刃を突き立てた。

 足を斬られた際に隠し腕をフロントアーマーごと斬り捨てられ完全に四肢を失ったジ・Oは最早重力から逃れる手段を持たなかった。

 

「デ、デシル斬り……」

「しかもサーベルで突き刺して抑え込んだまま地面に叩きつける気だぞ……」

「これでフィールドが宇宙だったらイズナ落としだったのに」

「容赦ねぇ……」

 

 ギャラリーが若干引いていた。それほどまでに圧倒的な逆転劇だった。

 というか、ミコト自身もちょっと引いていた。どうも本気でキレていたらしい。

 誰もが決着が付いたと思った――1人を除いて。

 

『ま、負けねぇ…こんなわけわかんねぇヤツにこの俺が負けるかよぉ!!』

 

 ジ・Oのモノアイが光る。そして無事だったMLRS最後のポッドが爆発する。

 ポッドを開かずに内部のロケット弾を発射したのだろう。爆発の衝撃で態勢を崩したウイングゼロは即座にジ・Oから離れる。

 次いでジ・Oの周辺を黒い煙が包んだ。どうやら最後の一発は煙幕弾だったようだ。

 悪足掻き、と誰もが思ったが煙幕から姿を現したジ・Oの姿がそれは悪足掻きではないと分からされる。

 右腕が戻っていたのだ。どういうカラクリかは分からないが煙幕の中で外れた腕を回収して再接続したらしい。そして先ほどチャージしたエネルギーの余剰分が残っていたらしくライフルに強い光が灯る。

 

『ははは!! ここまでだなぁ!!』

 

 既にセンサーがウイングゼロを捉えている。そのセンサーに任せてオートで銃口を向ける。

 銃口は、真下を向いた。

 

『んなっ・・・!?』

「ターゲット、ロックオン」

 

 ウイングゼロが倒壊した連邦議会の上に居た。バックパックのウイングは展開され四枚羽を形成し地面に向かってバーニアの炎を吐き出している。

 そしてその手には連結状態の長大なライフル――サーチアイ前面で支えたツインバスターライフルがあった。

 

 “リーブラ撃ち”あるいは“ファイナルシューティング”と呼ばれるガンダムW最終回でウイングゼロが見せた構えだ。

 

 煙幕を張られた段階で全ての武装を使い切っていた状態だったミコトはトドメの一撃として失ったツインバスターライフルを回収するために動いた。ツインバスターライフルを届けてくれる味方(アルトロン)が居ないのが悔やまれた。

 幸いなことに連邦議会のガレキに埋まっていたのが先ほど蹴り落としたロケット弾の爆発によって勝手に出てきてくれていたためすぐに回収はできた。

 そして往生際の悪いジ・Oへのトドメを刺すべくマニュピレータからエネルギーをツインバスターライフルに送り込む。

 

「破壊する、ってな」

『ク、ッソがあああああ!!!』

 

 ジ・Oがビームライフルを放つ。それに一瞬遅れてウイングゼロがトリガーを引く。圧倒的なエネルギー粒子の塊が敵のビームを飲み込んだ。

 減退することなくビームはジ・Oを飲み込む――

 

 

 “Time Over !!”

 

 

 ――ことなく、フィールドを形成するプラフスキー粒子が崩壊した。

 

「はっ!?」

「時間切れ…?」

 

 ざわめくギャラリーの中、1人合点がいったと言わんがばかりにポン、と手を打つ店長。

 

「あ。そういえばこの前の大会用に制限時間短くしてたんだった」

「店長ー!?」

「どぉぅらぁ!!」

「ドラッツェぇっ!?」

 

 ギャラリーを切り裂くようにしてバトル台から駆け込んできたミコトが宙を舞い、跳び蹴りが見事に店長の鳩尾を穿つ。

 さながらザクに蹴飛ばされたボールのように店長が吹き飛ぶ。

 

「シャアザクかよ」

「シナンジュやMk-Ⅱかもしんないぞ?」

「バカねぇ。今の跳び蹴りだからリック・ディアスでしょ」

「ゼイドラやギラーガ改のイナズマキック説を」

「ここまで真流星胡蝶剣と聖槍蹴り無し」

「人の恋路を邪魔する奴はぁ!」

「最早人型の蹴りじゃないからそれ」

「やっぱアイツ容赦ねぇわ」

 

 引いていたギャラリーがなぜかキック談義を始める辺りファンの層を感じる。ちなみに蹴りを放ったミコトはというと全力で蹴飛ばしたせいか既にスッキリしていた。

 

「ま、勝ち確だったし。こんなもんか」

「待ててめぇ」

 

 バトル台から声がかかる。嫌そうな表情を隠しもせずに振り返れば先ほどまで戦っていた相手がこちらを見ていた。

 表情の色は言うまでもなく、憤怒。

 

「時間切れによる引き分けだ。間違えるな」

「あーヤダヤダ。これだから負け犬の遠吠えは」

「こっちは連戦だ! そもそも条件が五分じゃねぇ!」

「バトル前の自分の言動思い出してくれませんかねぇ」

 

 話は終わり、と言わんがばかりにヒラヒラと手を振ってバトル台に残ったウイングゼロとGPベースを回収する。

 そのままさっさとその場を逃げ出そうとするが肩を捕まれる。余計に嫌気が増した。

 

「ぼーりょくはいろいろ問題になるぜぇ? 目撃者はいっぱいだ」

「まぁ待て。言っちまえば俺も見苦しいことをしてる自覚はある」

 

 ほう、とその言葉を聞いて振り向く。肩を掴んだ手を振り払うことは無論忘れない。

 

「今回は引きさがってやる。だが整備をした後明日もっかい同じ時間にここでバトルしやがれ」

「却下。受けるメリットねぇ」

「明日負けたらこのカフェに顔はもう出さねぇよ」

「だから俺に受けるメリットが」

「よし明日だね! 準備しておこう!」

「おらぁ!!」

「ゴッッグ!?」

 

 復活した店長が勝手に承諾したので裏拳を叩き込んだ。にしてもバリエーション豊かな鳴き声の数々である。

 

「はっはっは! じゃあ明日だ! 逃げたら何するか分からんぜ?」

「あぁもうめんどくせぇことに…」

「それと今回は居ないが明日は俺のパートナーを連れてくる。お前も呼んでおくのをオススメするぜ?」

「あ゛!?」

 

 待て最後の言葉は聞き捨てならない。

 だが止める声など掻き消す勢いで無駄にデカイ笑い声を上げながらギャラリーのど真ん中を突っ切り退店した。

 

「まぁ今日勝てたんだし、キミもそれだけ動かせるってことは一緒にバトルしてた人がいたんだろう? なら明日も安寧さ!」

 

 お気楽にこの事態を作りだした店長が嗤う。迷惑な客を排除してくれるのが正直ありがたくて仕方ないのだろう。

 だが対してミコトの表情は死ぬほど暗かった。

 

「……ーよ」

「へ?」

「んなの居ねーよ! 俺三日前にここに引っ越してきたばっかりなんだっての!!」

 

 最早逃れえぬこの事態にミコトは悲痛な叫びを上げた。

 

 

 

 ――これが、ヤナミ・ミコトとガンプラカフェとの腐れ縁の始まりでありとあるガンプラバトルチームの起点。

 

 そして()()を中心に

 物語は、開かれる。

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「ボッチじゃねぇから! アテもねぇけどなぁ!?」

「俺と出会った不幸を呪いながら落ちろ!」

「……わりとお人よしだね、キミ」

 

【Build.02:出会いと、プロトタイプ】

 

「ところで、これどうやったら動くんだ?」

「バーカ!!」




 初めまして。いかがだったでしょうか?
 少しでも楽しんでいただければ幸いです。
 感想などありましたら是非お願いいたしますm(_ _)m


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Build.02:出会いと、プロトタイプ(前編)

 深い黒の髪と目。ジャケットやパンツまでほぼ黒。シャツ以外は黒ずくめで覇気の無い目つきが印象的な少年。
 だいたいを面倒くさい、と言ってしまいそうなその感じを見てカイチもバカをやったのだろう。アレはそういうことを普通にやる。

 だが、バトル台に立った時に目つきが変わった。

『ガンプラはぁ…おもちゃなんだよおおおおお!!!』

 叫ぶ。そういうキャラには見えなかったがどうも盛り上がると周りが見えなくなるタイプなのだろう。

 少し見守っていると粒子が散っていった。結果は時間切れによる引き分けらしく再戦を持ちかけられていた。
 ……あ、押し切られた。

「んなの居ねーよ! 俺三日前にここに引っ越してきたばっかりなんだっての!!」
「え……まさかボッ」
「ボッチじゃねぇから! アテもねぇけどなぁ!?」

 対戦相手だった迷惑客が去っていった辺りでギャーギャー騒いでいる。どうも再戦の約束を勝手にしたようだ。
 とりあえず、バカをやっているサボり魔の首根っこを掴み捕獲する。そのままズルズルと引きずる時に彼とすれ違った。

「……わりとお人よしだね、キミ」

 そんな言葉が口から漏れ出たのは、何でだろうか?


「あー……何やってんだか……」

 

 濡れた髪の上にタオルを被せたままミコトは自室の椅子に身を投げた。その表情は疲れ切っていた。

 

「流されるがまま再戦することになっちまったし、逃げたらあのバカに何て絡まれるか分かったもんじゃねー…」

 

 結局あの後店長の口車に乗って再戦を承諾してしまった。一応勝利の暁にはカフェのガンプラをある程度融通する、という報酬を取り付けた。でなければこんなことはやらない。

 そもそもアレから逃げるのは気に食わないし。

 

『……わりとお人よしだね、キミ』

 

 店長を叩きのめして引きずっていた少女の言葉を思い出し確かに、と思わず苦笑した。

 

「……過ぎたことを気にしても仕方ねぇわな」

 

 頬を叩いて気持ちを切り替える。

 とりあえず今考えるべきは明日のバトルだ。他に味方が居ないことを基本に考えなければならない。

 

 GPベースをパソコンに接続し今日のバトルの映像を表示する。記録された白いジ・Oとウイングゼロの戦闘を確認し、改めて確信する。

 

「勝てたのはアレがバカだったおかげだ。でも今度はたぶん作ったヤツを引き連れてくるだろーし……ウイングゼロじゃ勝てないかもな。と、なれば」

 

 目線を画面から机の作業スペースへとスライドさせる。視界に入ってきたのはカッティングマットとその上に転がるパーツの数々。それはまだ、何かの作業をしている最中だと物語っていた。

 

「完成には程遠いけど、まぁお前に頼らせてもらうか」

 

 タオルの中に髪を包み込むような形でバンダナを作って装備するとミコトは机に備え付けられたスタンドのスイッチを入れる。

 スタンドの光に反射して、唯一完全な形をしていた頭部パーツのツインアイが輝いた。

 

 まるで、ミコトに応えるかのように。

 

★☆★

 

 翌日。昨日見たギャラリーたちが集まっていた。

 ミコトが現れると暖かい感じで迎え入れてくれたり背中をバンバン叩いたりといろいろ激励してくれた。

 

「じゃあ誰か一緒に戦ってくれよ……」

「「「いやムリムリ」」」

「なっさけねぇなぁ! まぁ俺に任せと」

「オリニィ昨日自分の指瞬着したせいでパーツ壊したよね?」

「あっ」

 

 知ってた。どーせこうなるって分かってた。めちゃくちゃ逃げたいけど、そうもいかないのが悲しい。

 そうこうしているうちにギャラリーの波が引いていく。その先に居たのは見るだけでげんなりする大柄な男と得意気にしている小柄な男。

 なんというかこう、某国民的たn……猫型ロボットアニメの凸凹コンビを思い起こす組み合わせである。

 

「逃げなかったんだなぁおい?」

「ブーメランの自覚ある?」

「くっくっく、1人でよくもまぁそこまで自信満々なことでやんすなぁ」

 

 小男が鬱陶しい表情でそう言う。つーかやんすって。

 とはいえ実際問題こちらは1人。あっちはきっちり二人目を連れてきてるわけで逃げたい感は凄まじい。

 

「まぁせっかくボコられに来たんだ。さっさと台に行ってかっこ悪い所を見せろや」

「ブーメランがお好きなこって。言わなくともかっこ悪くても勝手やるよ」

「けっけっけ。自信があるみたいでやんすが人生そう簡単にはいかないでやんすよぉ? ヒーローなんてものは現れないでやんすからなぁ」

 

『そォいつぁどうかなァ!?』

 

 ドデカイ声、というよりも音がカフェを揺らした。その場に居る全員が耳をふさぎながら音源を探す。

 居た。カウンターのすぐ横にテーブルをなぜか三段重ねにした上に金髪の少年がマイクを持って叫んでいた。テーブル周辺にはマイクとケーブルで接続されたイベント用の大型スピーカーが設置されていた。

 

「お、おいおい・・・あんなトコにあんなんあったか…?」

「無かった…」

「ってことはアイツ、わざわざこの登場のために作ったのか?」

「こいつ馬鹿だっ!」

 

『えーいうるせぇうるせぇ!』

「うるさいのはお前だバカイチ!!!!」

『ゴファォ!?』

 

 怒りの叫びと共に超級覇王電影弾(東方不敗師匠の頭付き)の形をしたクッションボールを投げつける店長。ルワン・ダラーラも真っ青な剛速球は狙いたがわず少年――アキヅキ・カイチの顔面を抉り飛ばす。

 宙を舞ったカイチはそのまま錐揉み回転の後に首から落下。その後積み上げたテーブルが雪崩のように崩れ落ちてきた。

 

「・・・何やってんだアレ」

「名物」

「ヤな名物だなぁ」

「うがぁッ!!」

 

 呆れながらミコトが呟くと同時にゾンビの如く腕だけを突き上げテーブルを押し退けながらの中から復活する。何らかの補正でも掛かっているのか深刻なダメージは無いようだった。

 

「とりあえずこのバカ分は給料から天引きしとくからな」

「ヒデェよ店長! …が、それはさておきそこなデッカイのォ!」

「あ?」

「俺のホームグランドよくも荒らしてくれたじゃん! お天道様が許してもこのアキヅキ・カイチ様が許しゃしねぇぜぇ!」

 

 ズビシッ! と指を突き立てながら決め顔で叫ぶ。「おぉ~」という声とパチパチという小さな拍手が見事にぶち壊していたが。

 

「ありがとうありがとう諸君マジありがとう」

「って言うけどカイチ、お前ガンプラそもそも持ってないだろ?」

「あぁ、それなら大丈夫。これがあるぜ!」

 

 どこからともなく取り出したのは細身の黒い素体に緑の装甲等のパーツを取り付けたかのような特徴的なシルエットに左右の長さの違うブレードアンテナを持った機体。

 GNX-Y903VS ブレイヴ一般用試験機。『劇場版 機動戦士ガンダムOO -A wakening of the Trailblazer-』に登場したソルブレイヴス隊が用いる可変機だ。パイロット達の実力もさることながら劇中の技術進歩により量産機としては破格の性能を誇る傑作機だ。

 

「あ、ああああ!? それはウチにこの前持って帰ったブレイヴ!? 何でお前が持ってんだカイチ!?」

「こいつがあるなら幾らでも行けるだろ!」

「まぁ盾にはなるかな」

「雑な扱いしないで!? せっかく連邦の技術体系じゃなくてCB(ソレスタルビーイング)系技術で再構成したブレイヴを作る予定なんだから!?」

 

 店長が叫ぶが原因となったカイチは気にする素振りも見せない。一方のミコトも1人で戦う気だったこともありカイチを比較的受け入れていた。

 

「ま、せっかくヒーローやるんだ。かっこよく決めてやるから期待しとけ!」

「じゃあお手並み拝見させてもらうとするよゆるキャラヒーロー。向こうもそろそろしびれを切らしそうだしさっさと行こうか」

「おうよ!」

 

 カイチを連れ立ってバトル台の前へと移動する。既に台には対戦相手二人組が待っていた。

 バトル台の左右には既にバトルがされているため自然と四台のバトル台を連結した大型のバトル台で今回のバトルを行うことになる。

 

「お待たー」

「気安いなテメェ…。ちくしょうまだ頭がクラクラする・・・」

「これがヒーローパワーってヤツ?」

「ぜってぇちげぇ」

「と、とにかく始めるでやんすよ」

「おっとその前に」

 

 全員が臨戦態勢に入った所で店長が現れる。

 

「ヤナミ君は知らないだろうから改めて説明するよ。ガンプラカフェは歴史が結構あってカフェごとにローカルルールができているトコが多いんだ。当然ウチもそうだね」

「あぁ、カフェルールってのは噂で聞いたことがあります」

「ウチのローカルはわりとガンプラカフェではよくあるヤツだけどね。ルールは大きく2つ。

 まず1つはステージ選択ルール。ランダムに3つのステージが選ばれるからその中から投票して得票率が一番高いものが選ばれる。もし票が同数だったらさらにランダム抽選になるけどね」

 

 このルールは地形を戦術を組み込むために決まったルールらしい。確かに水泳部MSが砂漠等の水が一切無い地上に放り出されればそれだけで不利だろうが投票である程度選べるならば戦闘の有利不利も減るだろう。

 

「もう1つは支援機(サポートマシン)を使用可能ってことだね」

「支援機?」

「シルエットフライヤーやGNアームズ、さらにはG-ビット何かも当たるね」

 

 言うならばメイン機体とは別に使用できるサブ機体、あるいは換装や補給等を行うためのユニットということなのだろう。換装を得意とした機体やゲーム等でよく見る召喚攻撃のような連携攻撃を行えるということであろう。

 

「ただし! 今までのバトルのようにサポート担当のコパイを用意できないから一人で2機分を操縦することになる。ついでに支援機は基本性能も下方補正がかけられる」

「なるほど。そもそもの操作難易度自体が上がるから手放しに使える強いわけじゃない、と」

 

 とはいえこれは今は関係ない情報だ。今後は使ってみたいシステムではあるが。

 

「さて、最後に確認だ。今回は時間無制限でダメージレベルはB。全滅した方の負け、でいいね?」

「あぁ」

「問題ねぇ」

 

 二人の了承の声を聞き店長がバトル台の電源を入れる。

 

 “Ganpura Battle Combat Mode!”

 

 “Battle Damage Level Set To 『B』”

 

 “Beginning, PLAVSKY PARTICLE dispersal”

 

 “Please Set Your GPBase!”

 

 システム音声が響く、要求されたBPベースをセットする。

 

“Begining Plavsky Particle Dispersal”

 

 “Stage Select”

 

 GPベースに“Forest”“Space”“Desert”の表示が現れる。これが先ほど言っていた投票システムなのだろう。

 

(・・・ジ・Oが相手なら砂漠がいいけど、こっちも厳しいかもな。だったら森か)

 

 “Forest”の表示をタッチする。しばらく画面にグルグルと回るローディング画面が表示された後に“Space”の表示が画面いっぱいに広がった。

 

 “Field1, SPACE”

 

 プラフスキー粒子が広がり宇宙空間を再現していく。どうやら投票の結果宇宙に決まったらしい。

 ジ・Oのホームグランドたる宇宙空間が選ばれたのは正直痛い。だがこっちの機体も宇宙への適応力は低くはないしブレイヴの適正は言うまでも無い。悪くはない、ハズだ。

 

 “Plase Set Your GUNPLA!”

 

 システムがガンプラを促す。持っていた小型のケースを開けてガンプラを取り出す。

 

青いガンダムという印象を受ける機体。全身に青が散りばめられるもガンダムらしい白が印象を引き締めている。バックパックもブースターが取り付けられただけのシンプルなランドセルタイプ。

全体的にスタンダートなアナザーガンダムといった印象を受けるがよく見れば型アーマーの下や胸部、袖口の内側に青いクリアパーツが組み込まれている。また青い耳飾りのようなパーツとV字のガードパーツが後頭部にあり兜のようなイメージを抱かされる。

 

これが、ヤナミ・ミコトが自身のために生み出したガンプラ。

セットされたガンプラをバトルシステムが読み込みプラフスキー粒子と共に魂を吹き込む。それを証明するように緑のツインアイカメラが輝き、上半身に散りばめられたクリアパーツが仄かに光る。

 

「……くくっ」

 

思わず笑い声が漏れた。やはりというか、この瞬間は心踊る。

息を吸い、全てを吐き出しながら現れたコントロールスフィアを握り締める。

 

 “Battle Start !!”

 

「ヤナミ・ミコト、ゲシュテルンガンダム・プロトタイプ! 勝ちに行く!」

 

 声と共にコントロールスフィアを押し込みカタパルトを起動。ゲシュテルンガンダムと呼ばれたガンプラがプラフスキー粒子の宇宙へと飛び出す。

 右手に持った大型のビームライフルを握りなおし、ランドセルのブースターを吹かす。初めてのゲシュテルンの初実戦であり初宙間戦だ。少し不安だったが問題なく全身が動いてくれた。

 

「・・・ん?」

 

 機能チェックを終えたところでふと周りを見渡す。ブレイヴが居ない。

 機能チェックをしている最中に先行した可能性もあったがレーダーにも映っていないのが気にかかった。

 

「おい、どうした。何かトラブルか?」

「・・・そういやお前名前何て言うの?」

「あぁ?」

「ヤ、自己紹介とかしてねーじゃんって思ってさ。ちなみに俺はアキヅキ・カイチな」

「あんだけ全力で叫んでんだから知ってるっての。ヤナミ・ミコトだ」

「そうか! じゃあヤナミ!」

「なんだよ」

「ところで、これどうやったら動くんだ?」

「バーカ!!」

 

★☆★

 

 アキヅキ・カイチは想定以上の馬鹿だった。まずバトル台の前に立ったのはその場のノリでだしそもそもGPベースすら持っていなかった。要するにホントに一切ガンプラバトルを知らない状態で出しゃばったらしい。

 なのでとりあえずカフェ貸出のGPベースを持ってきてもらい最低限の設定を行い出撃させた。それから操作を教え込むこととなった。

 ここでもう1つ誤算だったのはカイチの飲み込みが異常に早かったことだ。幼い頃からガンプラカフェに入り浸っていた影響か操作を自然と少し記憶していたのかものの五分程度で操作をほぼマスターするという離れ業を見せた。

 まさしく馬鹿と何とかは紙一重、というヤツだろう。

 

「おっし操作は完璧だぜー」

「今回は信じといてやるよ」

「任せとけって! ところでこのEXって書いてるのは試さなくていいのか?」

「触らない方が身のためだと忠告はしとく」

 

 EXスロット、つまりはトランザムの起動スロットだ。切り札と言えるこれをカイチには教えていない。

 そもそも初めてガンプラを動かすようなヤツが急激な性能変化を起こすトランザムを使いこなせるとは思えない。下手すれば自爆するまでありえる。

 間違っても「トランザムは使うなよ」とか言ってはならない。

 

「んじゃあ行こうぜ! さっさとあいつらぶん殴って退場させねぇとな!」

「・・・あぁ」

 

 飛び出すブレイヴを見てそれを追いながらミコトは考える。

 操作を覚えるのがやたら早かったカイチだがその間一切敵の襲撃が無かったことが引っかかる。正直狙われたら一網打尽の危険性もあっただけに助かったのだが、素直には喜べない。

 

(敵は準備を終えている、と見た方がいいかね)

 

 とはいえそれはこっちも同じだ。カイチは戦力として何とか数えれる状態になったしその中でゲシュテルンガンダムの操作最適化もほぼ完了した。今更恐れる必要等無い。

 

「――居たッ!」

 

 カイチの声にミコトもカメラを合わせる。漆黒の宇宙空間に揺蕩(たゆた)う廃コロニーを足場にして立っている白い大型MSとその横につき従うように大きく張った棘付きの肩とガスマスクのような特徴的な顔をしたモスグリーンに塗装された小型MSが居た。

 大型MSは前回戦闘したジ・Oだ。前回と見た目に大きな違いは無いが恐らくMLRSの中身が変わってる可能性が高いだろう。

 もう一方のモスグリーンのMSは“機動戦士ガンダムF91”に登場したクロスボーン・バンガードの主力量産型モビルスーツ、デナン・ゾン。技術の進歩により小型化と高出力化を両立した名機だ。

 

「デカ物とドチビが相手かよ」

「まぁ、横に居るのがジ・Oのせいでデナン・ゾンが余計小さく見えるよな」

 

 ちなみに設定上ジ・Oは28.4m。対してデナン・ゾンは14mとほぼそのサイズは二倍の差がある。操るファイター二人の凸凹っぷりを思い出して思わず納得してしまった。

 

『よう、負ける準備は万端か?』

「だからブーメランだっての」

「はっはっはー! 命乞いの準備は万端かー!?」

「お前はもう何キャラだよ」

『まぁぶっちゃけ奇襲をかけようと思ったら四台連結分のフィールドが広すぎたってオチがあるんでやんすがねぇ…』

 

 デナン・ゾンがやれやれといったジェスチャーをした。やはりというか、デナン・ゾンはやんすの機体のようである。

 

「そんじゃ、いくぜぇぇぇ!!」

 

 ブレイヴの背中のGNドライヴ[T]が音と赤い粒子を散らしながら稼働、突撃する。サイドバインダーに収納された直刀型の刀身を形成したGNビームサーベルがその手には握られている。

 その機動性はガンダムハルートさえも上回るブレイヴは瞬間的にトップスピードへ到達。ジ・Oの喉元にサーベルを叩きつけようとするが、到達寸前でブレイヴの胸元で爆発が起きる。

 隠し腕に収納された例のクラッカーだ。

 

「うわっ!?」

「よくやった! リソース削りと盾役両立は偉いぞ!」

「俺を何だと思ってんだテメェ!?」

「盾。おっと」

 

 デナン・ゾンがゲシュテルンに向けてショットランサーに内蔵されたヘビーマシンガンを放つ。ゲシュテルンはコロニーの破片を足場にしながら回避しつつビームライフルのトリガーを引く。大型のライフルに違わない出力のビームがデナン・ゾンが避けた後の廃コロニーの一部を穿つ。

 

『貫くでやーんす!』

「なんのっ!」

 

 ショットランサーによる突撃攻撃を掻い潜りビームライフルを振り回す。銃口からロングビームサーベルが展開し横っ腹に叩きつけんとするが咄嗟に左腕のビームシールドを展開することでデナン・ゾンも受け止める。

 

『げぇ、見た目はアナザーガンダムの癖に持ってるビームライフルはリゼルのものたぁ予想外でやんす!』

「その口調で今のを防がれるのも予想外だけどな!」

 

 袖口に仕込んだビームマシンガンを散らしデナン・ゾンから距離を取ったところに特徴的なSE(翼竜の咆哮)を響かせながら粒子ビームが飛ぶ。

 ブレイヴのビームライフル、ドレイクハウリングだ。

 

「ヤナミ! このビームの音超カッコイイぞ!」

「あーそーかい良かったねっと!」

 

 サーベルを切ってライフルを再び放つ。ジ・Oに向かったビームは隠し腕が投げたコロニーの破片を破壊する。

 

(ちっ、動きがよくなってるな。本来のスペックって感じか。それにあのやんすもザコくさい喋りしてるのにわりと油断ならない動きしてやがるし、観察力も高い)

 

 認識を改める。昨日と同じと舐めてかかったら足元をすくわれる。

 

「ヤナミ、デカブツを先に倒そうぜ! チビはなんとでもなりそうだ!」

「わりといい感してるじゃねぇかアキヅキ。連携して攻めるぞ!」

「OK、ヤナミ!」

 

 デナン・ゾンの横を一瞬で抜けジ・Oに向かって突撃する。だがジ・OもMLRSをこちらに向かって一発射出してきた。

 ミサイルが先に破裂し中から針のような小型の鋭いミサイルが降り注ぐ。

 

「アメアラレぇッ!?」

「あの程度なら大したダメージにならねぇ! このまま突っ込め!」

『できると思ってんじゃねぇ!!』

 

 ジ・Oの大型ビームライフルから高出力ビームが降る。針ミサイルと合わさって動きを狭められる。

 

『俺と出会った不幸を呪いながら落ちろ!』

「落ちるほどじゃねぇけど・・・・・・進めねぇんだけどっ」

「足止めでしかねぇ! 針ミサイルが切れればそれまでだ!」

 

 だが。

 足止めをするということは、時間を稼ぐと何かが起こるということだ。

 

 危険を知らせる音が、響いた。

 

「高エネルギーアラート!?」

「ヤナミ、アレ何だ!?」

 

 指差した方向にあったのは、デブリに足を突き刺して固定したMSよりも大きな超巨大砲台と、砲手を務めるデナン・ゾン。

 ビッグガン。ジオン公国軍リビング・デッド師団が使用する大型ビーム兵器。技術的問題による巨大さを誇る兵器だがそのサイズから狙撃距離と出力は一年戦争時代の物とは思えない火力を誇る。

 

「本命は、アレか!?」

 

 足止めをしつつデナン・ゾンがビッグガンに向かっていたのだろう。ビッグガンの設置自体はカイチの操作をレクチャーしていた間に行ったのだろう。だが、

 

(ビッグガンまでの距離が結構ある・・・あれじゃ破壊はできない。なのに、デナン・ゾンはどうやってあそこまで行った?)

 

 デナン・ゾンから目を離した時間はそこまで長くはない。先ほどの交戦で向こうの機動力も把握しているがあの距離を駆け抜けた上で隠してあったビッグガンを取り出すだけの時間があったのか。

 

(支援機、か?)

 

 SFS(サブフライトシステム)のような機動力を補助する支援機を導入しているのならあの移動にも説明は付くが――。

 

『吹き飛ぶがいいでやーんす!』

「ッ!」

 

 ビッグガンから巨大な光の爆流が放たれた。逃げ場は、無い。

 二体のガンプラが飲み込まれた。

 

『くぁはっはっはー! 一網打尽! この程度だったか!』

 

 哄笑が響き渡る。カフェがシン、と静かになる。

 

「舐めんなああああああ!!!!」

 

 爆煙を切り裂いて緑色の疾風が吹き抜ける。

 クルーズポジションの形態を取ったブレイヴと、その腕に捕まっているゲシュテルンガンダムだ。両機を赤いフィールドが包み込んでいる。

 

『バカなぁ!? GNフィールドで突破したとでも言うでやんすかぁ!?』

「このアキヅキ・カイチ様を舐めるなって話だよッ!」

 

 クルーズモードでGNフィールドを全開にした状態で突撃することでビッグガンの攻撃範囲を抜けだした。高機動を誇るブレイヴだからこそ成功した技だ。

 

「はっはー! どーよ、ヤナミ! めっちゃ心臓バクバクしてんぞ!?」

「・・・素直に褒めてやるド素人!」

 

 変形自体は簡単にできる。だが、戦闘中にそれをこなすのは難しいものだ。無駄な動作になりやすいものだし機動力や姿勢の変化に付いていけなくなることが多い。故にOOでは変形を取り込んだ機動(マニューバ)を“グラハムスペシャル”等と呼ばれている。

 

 口で教えた程度でそれをこなすカイチに、少しだけ嫉妬した。

 

「なーんて、な・・・アキヅキ、一気に近付いたら人型に戻れ! そのまま投げ飛ばしてくれればいい!」

「おうよ!」

 

 速度を殺さずに一気にクルーズポジション(巡航形態)からスタンドポジション(人型形態)へと移行する。その勢いを利用してゲシュテルンを投げ飛ばし、ブレイヴもそれに続く。

 ライフルを投げ捨てサイドアーマーのビームサーベルを引き抜く。ブレイヴも同様に片手にGNビームサーベルを握った。

 既にサーベルのレンジに入っている。スピードは、こちらが上!

 

「もらったァ!」

『馬鹿が!!』

 

 ジ・Oから電流のようなフィールドが迸り、二機を飲み込んだ。バチバチとスパークが爆ぜる。

 

「がァッ!? な、なんだ!?」

「プレッシャー、かっ!? ンで使えんだ!?」

 

 本来ジ・Oにはサイコフレームのようなオカルト装備は積まれていない。だが、この動きを止めるプレッシャー攻撃と呼ばれるモノは一部の格ゲーに実装されている。

 だがガンプラバトルでは基本的に原作で使用されている技が使用しやすい。別作品で生まれた技を実装するにはそれなりの技量が必要になってくる。前回使ってこなかったのは、恐らく前回では使えなかったから。

 

『あっしの秘密兵器第1弾、お楽しみいただいているようで何よりでやんす。ついでに第2弾も味わってもらうでやんすよぉ!』

 

 メカニックたるやんすの声と、高エネルギーアラートが響く。上方を見上げれば、そこに青い巨大な銃のシルエットを握ったデナン・ゾンが居た。

 

「メガバズーカランチャー! アレで移動してたのか!?」

 

 ランチャーはそれ自体が推力を持つ。支援機ではなくあのサイズなら一気に移動していたとすれば説明は付く。だが、

 

(あのサイズじゃあ小回りが効かない。今まで隠せていたことに説明が付かねぇだろ!)

「ちっくしょう動かねぇぞどうなってんだ!? コントローラ壊れてんじゃねぇの!?」

「プレッシャーにスタン属性が絡んでる! これを跳ね除けねぇと!」

 

 もがく。だが、拘束からは逃れられない。

 

『ここまでだな。まぁまぁ楽しかったぜぇ?』

 

 ジ・Oが離脱していくがスタンは抜けきらない。ランチャーの銃口に光が集まっていく。

 

 逃げ、きれない。

 

「ちっくしょう! さっきのバリアーで防いでやる!」

「・・・ここまでかよ」

 

 相棒の初陣が、一掃で終わり?

 冗談じゃ、ねぇ! だけど!

 

 

 

 

 閃光が、弾けた。

 

 

 

『ななな、何でやんすかぁ!?』

 

 朱い閃光が宇宙の果てからメガバズーカランチャーを貫いた。爆発に巻き込まれないようにデナン・ゾンが大慌てでランチャーから離れる。

 

「朱・・・疑似太陽炉のビーム? でも…」

『やっぱりアマアマだね、ヤナミ・ミコト』

 

 オープンチャンネルでソプラノ系の声が響いた。

 男だらけの戦場で響くことのない、聞き覚えの無い声。

 

「いや、この声どこかで――」

「ヤナミ! あそこに居るぜ!」

 

 カメラをめいっぱいズームする。コロニーよりもさらに向こう側、バトル台の端近くに何かが居た。

 全身を包む外套から伸びた右腕に大型のロングライフルを持った機体。一本角と四つ目が輝く特徴的な頭部を持った機体。

 

「GN-Xか、アレ? アイツが撃った……ってここはバトル台の中央周辺だぞ!?」

『あんなヤツバトル前には居なかったでやんすよ!?』

『乱入者だと!? 卑怯にも程があるだろうが!』

『・・・ホント、ブーメランがお好きなようで』

「その声・・・アマネじゃねぇか!」

 

 GN-Xの四つ目がOO独特のSEを鳴らしながら輝いた。

 

『――セリザワ・アマネ、GN-X オリジン。歪みに介入する』

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「げぇ!? あっしの自信作がぁ!?」

「アナタのガンプラ、その程度?」

「いい加減見苦しいったらありゃしねぇ!」

 

【Build.03:出会いと、プロトタイプ(後編)】

 

「【System・EX】起動!

 お目覚めだ、ゲシュテルンガンダム!」




長くなったので前後編に分けました。後編を早めに投稿できるように頑張ります。


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Build.03:出会いと、プロトタイプ(後編)

セリザワ・アマネ。GN-Xを駆る乱入者はそう名乗りロングライフルを下ろしこちらに向けて移動を始める。

でも、どこから彼女は現れた?

 

『おうおうテメェ急に乱入しやがって、どこに隠れてた? まったく卑怯にも程があるじゃねぇか』

『あら、乱入方々はそっちが一番分かってると思ったけど?』

 

クスリ、と笑う気配が伝わってきた。

 

「おいアマネ、いったいどーいうことだよー」

「つーかアキヅキ、お前知り合いなの?」

「幼馴染み的なアレだよ。店長の姪っ子」

「へぇ」

『ま、今回はウチのバカ店主のフォローのために出てきたわけ。……GN-X・オリジン、狙い撃ってみようか』

 

ため息混じりにそう言うとオリジンと呼ばれたGN-Xが不意にライフルを構え、放つ。

 

「・・・・・・ん?」

 

反動を受け止めるオリジン。だが、先程の朱いビームが放たれたようには見えなかった。

それが追加で2度、合計で3度続いた。

 

ジャムってる(弾詰まり)か? いや、ビームでそんなわけないよな?」

『もう1発、っと!』

 

4度反動を抑えるようなモーション。だが、ここで動きが現れる。

ビッグガン周辺を漂うデブリが割れた。その奥に、モスグリーンの機体の姿を捉えた。

 

『あ』

「デナン・ゾン・・・が、もう一機!?」

『これが瞬間移動の正体。・・・要するに、最初から二機デナン・ゾンが居ただけ』

 

 オープンチャンネル越しに響く声色に嫌悪感が混じる。そして5度目の反動を抑えるモーションを見せた時、その姿を晒したデナン・ゾンの胴体に大きな穴が開き、爆散した。

 

「い、いつ撃った!?」

『まったく見えなかっただと!? オールレンジ攻撃か!?』

『・・・・・・見えない狙撃にマントのGN-X・・・・・・セリザワって・・・・・・ま、まさか“魔弾の射手”でやんすか!?』

『知ってるのか!?』

『へぇ! 去年の選手権予選で決勝まで残ってた1人でやんす! 見えない狙撃は百発百二十中! どこに居てもその詳細が掴めないことからその狙撃は“魔弾”と呼ばれるようになったでやんす!』

『・・・一応言っとくけど、自分から名乗ったことは一度も無いからね? ただ、ガンプラバトルファンってのはそういう二つ名を付けるのが恒例みたいだから』

 

 見えない弾。さっき反動を抑えるようなアクションを見せたのは、実際に撃っていたから?

 かつての世界大会にはクリアパーツを用いることで透明のファンネルのよるオールレンジ攻撃を行っていた選手が居たがビームの射線から攻撃を読まれるためもっぱら使い方はファンネル・ミサイル式だったという話もある。

 射線が見えないスナイパーとなればファンネルと違い本体を撃墜しなければ延々と攻撃される。厄介だろうし何より避けにくい狙撃など恐怖でしかない。

 

「百発百二十中。あながち冗談になってないな・・・」

「ところで、あのガスマスクチビって結局どうやって入り込んだんだ? 俺、遅れて入ったからアイツらがガンプラ入れるの見てたけど二体分入れたようには見えなかったぜ?」

『隣を見れば分かるわよ』

「隣ぃ?」

 

 ――――LE END !”

 

 システム音声が響いた方向からパリパリと青い粒子が散っていくのが見えた。隣の台のバトルが終わったようだった。いったいこれが何だと言うのか?

 

「・・・あれ、なんであっちはガンプラ一体しかいねーんだ?」

 

 言われて気付く。バトル台には無傷のMSと支援機と思わしき戦車のような機体がバトル台の上に鎮座している。

 ダメージレベルがCだったのか、特に損傷は見当たらないが、では対戦していたガンプラは? 戦車がヒルドルブ系のものだったとしても戦車は健在。システムがバトル終了をコールするわけがない。

 

『つまりあっちの台からこっちにあのデナン・ゾンが移動してきたってこと』

「はぁ!? そんなことできんのかよ!?」

『バトル台の連結設定をリセットしてない弊害。あのメガバズーカランチャーの推力を使ってフィールドから飛び出してこっちに飛び移ったのよ。少なくとも私はそうできた』

 

 ・・・そういえばこの前店長が「バトル台を連結した状態から戻すのめんどくさい」とか言ってた記憶がある。

 

『・・・さて、何か申し開きはあるかしら?』

『・・・いいや。百点満点の正解だぜよく気付いたもんだぜ』

『ずいぶんと素直だことで。謝ってみる?』

『はぁ? 何でだよ』

 

 その声音は一切の動揺も見当たらないやたらと堂々としたものだった。

 

『俺は確かに相棒を連れてくるとは言ったが人数指定までしてねぇ。隠れてたのは確かだが、最初から居たんだぜ? 何を謝る必要があるんだ?』

『屁理屈ね』

『しかぁし事実でやんす! 確認しなかったそっちの不備てやんすなぁ?』

「屁理屈にもほどがあんだろテメェら!」

『荒らしはそういう屁理屈で動き回るものよカイチ。だからこそ、正面から叩かないと意味が無い』

「アマネが出てきた理由ってもしかしてそれか? ホンット真面目律儀なヤツだなぁ」

『性分だから。それにあの屁理屈を通すなら、私も戦闘にこのまま参加しても何の問題も無いわけだし』

『げぇ、気付かれたでやんす』

 

 なるほど、相手がそもそも人数を指定していなかったという理屈を通したのなら自分たちにもそれが適応されるということ。

 それを理由に彼女はこのバカ騒ぎに参戦しようという目論見らしい。

 理屈は分かった。だが、

 

「要らん」

『・・・・・・はい?』

「あいつらが人数を誤魔化してたのは俺たちに勝てないと思ってたからだろう? だったら人数が互角になった段階でこんな腰抜けなんぞに俺たちが負けることはないさ」

 

 敢えて気取った口調で言葉を紡ぐ。

 この挑発は必要だ。ほぼ間違いなくこれ以上は居ないと思うが他に居ないとは言い切れない。

 

『テメェ黙って聞いてれば・・・腰抜けだと?』

「・・・そうだな、あんたなんかと一緒にされちゃ腰抜けに失礼だな。ありがとう指摘してくれて」

『なんだとっ!?』

 

 密かにミコトはほくそ笑んだ。

 

「それともまだ隠してるかい? 自信満々みたいだしさ」

『居るわけねぇだろうが! 居たとしても下がらせてやるよ!』

「そいつぁ素晴らしい男気、ってね」

『あーあ、言質取られたでやんす・・・』

 

 やんす、意外と勘がいいらしい。だが言質を取った以上こっちのものだ。

 

「ま、そんなわけで・・・セリザワだっけ? あんたはその特等席でゆっくり見ててくれよ」

『了解。個人的には応援しててあげるから勝ってみなさいな』

「言われるまでもねぇ。行くぞ、アキヅキ。・・・・・・アキヅキ?」

「・・・はっ!? ね、寝てねぇよ?」

「ぶん殴んぞテメェ!?」

 

 そうこうしているうちにオリジンが姿を消す。恐らくGN粒子によるステルス迷彩を行ったのだろう。・・・ステルスする上に見えないビームを放つスナイパー、考えるだけでイヤになってくる機体である。

 

 そうして戦いが再開される。ブレイヴがクルーズポジションへと変形しデナン・ゾンへ突撃するのを確認してジ・Oへと向き直る。

 あれだけ挑発して、流石に無視するのは厳しいだろう。

 

「さて、お相手してやろう。1人で大丈夫か?」

『ぬかせ!』

 

 腹部のメガ粒子砲が放たれ、広範囲に拡散する。命中させるのが目当てではなくこちらの逃げ道と行動パターンを潰す攻撃。

 それに対してゲシュテルンのバーニアが点火し正面から突撃する。

 

『イノシシが! 同じことを繰り返すか!』

 

 手足を折りたたむようにして体を縮こめる。プレッシャーを放つ構えだ。

 

「二度も!」

 

 どっちみちこのプレッシャーを破らないことには勝ち目は無いのだ。なら、最初から使わせる!

 

「喰らってたまるかよぉ!」

 

 ゲシュテルンの両手が、青く光った。

 

☆★☆

 

 デナン・ゾンがデブリに隠れる。サイドバインダーからGNミサイルが射出されデブリを破壊するとそれに合わせて飛び出したデナン・ゾンの両手にはダブルハンドガトリングが握られている。

 

『ハチの巣でやんす!』

「どんだけ武器隠してんだ!?」

 

 大量の弾幕がブレイヴを襲う。急上昇をかけることで回避するが射撃を続けながらデナン・ゾンが追いかける。

 

『はははは! 怖かろう! これにはブライトさんもにっこりでやんす!』

「怖いか笑うかどっちかにしろよ!?」

 

 回転しながら逃げ、頭上を取る。一瞬でスタンドポジションへと変形しGNビームサーベルを引き抜く。

 

「おらぁ!」

『おっと、これでもどうぞでやんす』

「ぷげっ!?」

 

 ぽいっとなんの惜しげも無く両手のガトリングを投げつける。避けきれずにブレイヴが直撃、すぐさまサーベルで斬り捨てるがマウントしていたショットランサーを手にしたデナン・ゾンがマトリョーシカ状に重なった槍先を飛ばしてきた。

 何とか回避をして距離を取った所でカイチが若干キレた。

 

「テメェどんだけ武器隠してるんだよ!?」

『クークック! もとより大量に持ち込んでおいてあるでやーんす! というかそもそもあっし、こういう風に大型機体で物量で押すのがメインの戦法なんでやんすよ・・・』

 

 オープンチャンネル越しにやんすのため息が漏れる。

 

『そもそもあのジ・Oだって元はあっしが使うためのガンプラでやんす。それを持ってかれるわ、こっちの説明はちゃんと聞いてくれないわ・・・』

「ゴメン、ちょっと泣けてきた・・・」

『ああああああっしを憐れむなぁ!?』

 

 なぜか勝手に動揺している。とりあえず問答無用でドレイクハウリングを撃っておいた。

 

『オゥチ!? きききき貴様!? 血も涙も無いでやんすか!?』

「いや隙だらけだったからつい」

『もうキレちまったでやんすよ! こっからはトーシロと言えど容赦なくボコボコでやんす!』

「へっ、言ってろよ!」

 

 ドレイクハウリングをマウントしもう一本のGNビームサーベルを引き抜き一気に接近。特に狙いを定めず滅多切りにすべく剣を振り回す。

 だが、サーベルはデナン・ゾンを捉えきれない。大雑把な攻撃に対抗するように器用に回避し、避けきれない分はビームシールドで受け流す。その際に態勢を崩したブレイヴを蹴り飛ばす。

 

「おわっ!?」

『くっくっく、宇宙フィールドを甘くみたでやんすなぁ。トーシロでそこまで動けるのは正直称賛に値するでやんすが? その程度の動きは幾らでも見てきたでやんす』

「ンだとテメェ!?」

『事実でやんす。だって』

 

 不意にデナン・ゾンが何かを投げつける。クラッカーだ。

 それをデナン・ゾンの腕部ビームガンが貫き大きな煙をまき散らす。

 

『こーいうことには対応できまぁい!』

「いろいろ言っといて煙幕かよ!!」

 

 クルーズポジションに変形し自ら煙幕へと突っ込む。煙を貫き向こう側へと飛び出るがデナン・ゾンの姿は見当たらない。

 

「ど、どこ行った?」

『ふはははは! だからこそトーシロなのでやーんす!』

 

 ズゴゴゴゴ、と謎の音が聞こえてきた気がした。カメラの端に巨大な影が映った。

 まるでデナン・ゾンを捕食しているかのように装備されたモスグリーンの機体。両足を巨大なスキー板のようなパーツに乗せ両手に当たる部分に灰色の巨大なシールドのようなパーツがあり両肩部分からは巨大なキャノン砲が二門ある。そして背部には長大な銃身がマウントされている。

 

「なんじゃありゃあ!?」

『NGNアームズTYPE-D・ナンゾン! これこそがあっしの自信作支援機、切り札でやーんす!』

『へぇ、ガンダムデュナメス用のGNアームズをデナン・ゾン用にアジャストさせてきてるんだ…Nって付いてるからドライヴ要らず、と。意外と腕あるなぁあのやんす』

「だー!? あんなデッカイのは聞いてねぇ!?」

 

 思わず近くで観戦していたアマネが舌を巻き、カイチが頭を抱えそうになりながら叫ぶ。それを尻目にNGNアームズの両腕のコンテナが開く。

 放たれたのは銀色に輝く大量のミサイル。一気に射出されたその量は周辺を覆い尽くす。

 

『そぉれ! ミサイルパーティでやーんす!!』

「なんだその馬鹿みたいなミサイルはああああああ!?」

 

 一気に回頭して逃げ出す。まっすぐに飛ばずに蛇行飛行することでターゲットを散らそうとするがオートで追ってくる。

 ならば、とクルーズポジションの形態の都合上背後を向いた腕に装備されたGNビームマシンガンを連射する。ミサイルを穿ち爆発させるが爆煙を切り裂いてミサイルが襲来する。

 どれほど逃げても逃げきれず、迎撃してもしきれない。まるで無限にミサイルを放ち続けているような錯覚を覚える。

 

「だったら本体を先にぶっ壊してや・・・ってどこ行った!?」

 

 ミサイルを撃ち込んだNGNアームズを見るとデナン・ゾンの姿が見当たらない。NGNアームズ自体は既に内蔵していた大量のミサイルを吐きだしきったのか沈黙している。

 さらによく見れば背部に背負っていた長大な砲身が失われていた。

 

『くっくっく、ここまででやんすなぁ』

「なっ」

 

 アラート音がけたましく鳴り響く。カメラがアラートの原因を捉えると、デナン・ゾンがデブリに設置された巨大な大砲――先ほど用いられたビッグガンの元に居た。違いと言えば、NGNアームズが背負っていた銃身を装備していることだろうか。

 

グレートネオ(G N)ビッグガンの超砲撃を喰らうがいいでやーんす!』

「ネーミングセンスゼロかテメェ!?」

 

 ミサイルが急に追いかけるのをやめ散っていくと全三門の砲身に光の球体が大きくなり爆発するように放たれる。先ほど見たモノとは段違いの破壊力だ。

 必死になってコントロールスフィアを操作して射線から外れる。極太のビームが機体のウイングを掠ってバランスを崩すが推力で誤魔化す。

 ビームを避けきったと思えばアラートとは別の金属がきしむような音が耳朶を叩く。ミサイルだ。

 

「ビーム避けて俺だけを狙ってくんのかよ!?」

 

 意思を持ったかのようにホーミングしてくるミサイルに叫ぶ。カイチは知らないがこのミサイルは“ELS”を意識したモノでありある程度操作が効くミサイルなのだ。

 大量の物量が延々と獲物を追い続ける。これこそがやんすの“自信作”なのである。

 

「振り切れない・・・! ちくしょう!」

 

 全身のブースターを使って必死に逃げるがミサイルの追尾は振り切れない。

 

「だぁぁぁどうすりゃいいんだ・・・ってお?」

 

 視界の端にチカチカと光るアイコンが目に止まった。それは先ほどまで灰色の状態だった“EXスロット”。

 

『カイチ、トランザムのロック解除してあげたからさっさと自爆特攻してきなさい』

「そんなことしてたのかよ! つかこれ自爆技なのか!?」

『普通に使ったらすぐ誤爆しそうだったからブレイヴ貸したげる前にロックかけといたのよ』

「でもこの技使えば逆転できるんだよな!?」

「えぇ、爆発しなければね」

『けーけけけっ! できるわけがないでやんす! トーシロが使ったところで・・・』

「・・・て・・・た・・・」

『やんす?』

 

 

 

「燃・え・て・き・たぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 何の迷いも無くカイチはコントロールスフィアを操作する。慣れているとは言えない手つきだがそれでも正確にEXスロットへとカーソルを合わせる。

 

「自爆するかもしれない必殺技! 使いこなせば不利な展開を大逆転! いいじゃんいいじゃん王道にカッコイイじゃん! これで燃えなきゃ、男じゃねぇ!」

 

 叫びと共に選択される。

 

「行こうぜブレイヴ! トランザム、だぁぁ!」

 

 コンソール上に“TRANS-AM”の表示が現れる演出と高音をトリガーにブレイヴの身を紅い鎧が覆う。GNドライヴの回転速度が急上昇し、次の瞬間トップスピードを一気に突破する。

 

「う、ぉ!」

 

 今まで以上にコントロールスフィアの暴れ方が激しくなる。全力で握りしめ、制御を試みる。

 ミサイルはしつこく追いかけてくるが引き離した。それでもアラート音は粒子制御のレッドゾーンギリギリを知らせるためにひっきりなしに鳴り響く。

 

『カイチ、前!』

「げ!」

 

 目の前にデブリが迫っていた。最高速度の三倍近い速度を出しているブレイヴが今更回避することは難しい。止まったとしても背後から迫るミサイルに追いつかれる。

 

『詰みってヤツでやんすなぁ!』

 

 追い討ちとばかりにやんすのデナン・ゾンがビッグガンをブレイヴへと向ける。

 

「だったらぁ!!」

 

 ここにきてカイチはさらに出力を上げ加速した。カメラいっぱいにデブリが広がる。

 

「ここ、だぁ!!」

 

 それは見るも鮮やかな変形。トランザムのせいもあってか目にも止まらぬ速度で半分だけ変形する。

 人型と巡航の間とも言える状態になったブレイヴは現れた足をデブリへと全力で打ち込む。果たしてブレイヴは、まるでゴムボールのようにデブリを蹴飛ばして跳ねるように軌道を大きく変えたではないか。

 

『んな!?』

『カイチ…いくらなんでも無茶苦茶が過ぎる』

「足がダメになったかも、だけど関係ねぇ!」

 

 ブラリと垂れ下がった足を固定し純粋な巡航形態へと戻り、その間だけ使用可能なスロットへとカーソルを合わせた。

 

 ――いいか、それは言っちまえば必殺技だ。強力だが粒子を馬鹿食いする。確実に当てられないなら絶対使うなよ。

 

「今が、そのときだぁ!」

 

 ミコトの忠告が脳内をよぎりながらも“必殺技”を起動する。機首となったドレイクハウリングが展開し高出力モードへと移行、両サイドのGNキャノンが連動しプラズマを生む。

 

「トライパニッシャァァァァ! いっけぇぇぇぇ!」

 

 三門の砲から放たれたビームは一つに収束し巨大なビームを形成する。ビームは一瞬でミサイルを飲み込み爆発させた。

 

『げぇ!? あっしの自信作がぁ!?』

 

 叫びながらもやんすはビッグガンを向けなおし、その射線へと追い込むようにミサイルを誘導する。

 対してブレイヴは追い込まれんとすべく再び先ほどの半変形状態へと移行し、ドライヴを進行方向に向けて大量の粒子を吐きだしブレーキをかける。

 

「う、ぉ、ぁ、ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁ!」

 

 巨大な慣性負荷が働いている状態を再現しているのかコントロールスフィアが重たい。まるで山を押しているかのような不動。

 だが、それでも。

 

「これで・・・・・・どう、だぁぁぁぁ!!!」

 

 咆哮と共にカイチはコントロールスフィアを引きちぎる勢いで振り抜いた。それに呼応しブレイヴもまた身体を180度回転させ、放たれ続けていたトライパニッシャーが半円の軌跡を描いた。

 軌跡上にあったのは、ミサイルとビッグガンに機体を固定したデナン・ゾン。

 

『ば、バカなぁ!? グラハム・スペシャルとでも言う気でやんすかぁ!?』

 

 脱出は間に合わない。トライパニッシャーは全てのミサイルと、ビッグガンと、デナン・ゾンを飲み込み、そして。

 

『そ、そんな・・・このあっしが、あっしがぁぁぁぁ!?』

 

 一瞬を置いて、真っ暗な宇宙を大量の爆発の光が彩った。

 爆発をバイザーのカメラ越しにモニターに映し出しながらブレイヴはようやく静止しトライパニッシャーが消えた。

 

「ッ・・・勝、ったぞぉ・・・・・・!」

 

 大きくカイチが息を吐きだすと同時にブレイヴの真紅の鎧が霧散する。

 アキヅキ・カイチが、この戦闘に勝利した瞬間だった。

 

『お疲れ。・・・ま、バトルはまだ終わってないけどね?』

「わーってらぁ・・・・・・ヤナミのヤツ、1人でボコボコにされてるかもだしさっさと助けに行ってやんねぇとな・・・」

『ボコボコかどうかは知らないけどカイチのオープンチャンネルが繋がらないくらいは粒子を大きく使って戦ってるみたいね。・・・でも、あんたもブレイヴも限界でしょ?』

 

 人型へと姿を戻したブレイヴは足がブラリと垂れ下がった状態のまま。さらにトランザム中にトライパニッシャーという大技を使った影響でブレイヴに蓄えられた粒子はほとんど使い切ってしまっていた。

 

「それでもいかねーわけにはなんねぇだろ・・・・・・あ」

 

 たまたまだ。たまたま『ソレ』はカメラの端に映っていた。それを拡大したのはカイチの誤操作が原因だ。

 だが、そのたまたま視界に入ってしまった『ソレ』は、悪戯小僧が新たな悪戯を思いつくには充分な内容を持っていた。

 

☆★☆

 

『なんでだ・・・』

「ぐ、ぅ・・・」

『なんで、押し潰されてねぇ!?』

 

 放たれたプレッシャーを、青く輝くゲシュテルンガンダムの両手が抑え込み大量のプラズマが迸っていた。

 パルマフィオキーナ。ゲシュテルンガンダムの両手の正体でありZGMF-X42S デスティニーガンダムが装備する武装であり所謂【フィンガー系】に括られる技として使われる。設定上でも未知の武装でありパイロットの発想次第でいろいろな使い方ができるとされているためかガンプラバトルにおいては意外と応用ができる武装でもある。

 過去にはボクシング経験者のファイターがパルマフィオキーナから放たれた粒子を腕に纏わせて格闘戦を行ったというバトルの記録もある。

 

「意外と、うまくいくもんだな・・・!」

『テメェ、何しやがった!?』

「答えるわけ、ねぇ・・・だろ!」

 

 汗が頬を伝った。

 プレッシャー攻撃の正体は粒子を波にして撃ち出すことで制御系を乱すモノだった。それに対してパルマフィオキーナで直接粒子をぶつけ続けることで波の向きとも言えるものを変え続けることで抑え込むことができた。

 これ自体はかなり厳しい賭けであり、波の感覚を読み間違えれば抑え込むことには失敗するし狙いがバレた瞬間別の波をぶつけられればそれに対応することはできない。

 例えばジ・Oのファイターがやんすであったならすぐに気付いただろう。だが今のファイターはマニュアルで動かすだけで機体を深く理解していない。

 剣を斬る武器ではなく投げて使えば、弓で矢を射らずに殴打するために使えば、その威力は半減以下になる。

 【理解する】とはそれだけで力になるのだ。

 

『ちくしょうがぁ!』

 

 ジ・Oの腹に光が集まっていく。動けなくともそれくらいは撃てるのだろう。

 

「だったらぁ!」

 

 バーニアをフルバーストさせる。パルマフィオキーナの出力を上げ、抑え込むのではなくそのまま前進する。

 右手が、ほんの少しだけ、プレッシャーの内側へと入り込んだ。手首周辺はプレッシャーの影響か削れるような感覚を受ける。

 

『それがどうしたぁ! チャージはもう終わ・・・』

「遅いんだよウスノロ!」

 

 集まった粒子が、右手の前に球状の塊へと姿を変える。拳二回り分といったサイズの球体は一瞬停滞した後にジ・Oの腹部を抉った。

 

『ぐおっ!?』

「パルマフィオキーナの射撃! マニアックな技を使うねぇ」

「店長、アレの正体分かるの?」

「あぁ。アレはデスティニーガンダムが初めて戦闘を見せたゲーム作品の技だよ」

 

 デスティニーガンダムのシルエットは“ガンダムSEED DESTINY”のOPに存在していたため早くからその存在は確立していた。

 そのためかアニメ本編放送中に発売されたゲームにはゲスト枠として当時まだアニメに登場していなかったデスティニーガンダムとストライクフリーダムが登場している。だがそのためアニメ本編での戦闘とは少し違うスタイルのパルマフィオキーナができあがった。

 それがフィンガー系ではなく純粋にビーム砲として用いる近~中距離武器としてのパルマフィオキーナ――たった今ゲシュテルンガンダムが用いた光球の正体だ。

 

「チャンス!」

 

 不意のダメージに巨体が揺れプレッシャーが消失する。勢いそのままにゲシュテルンがジ・Oの肩を踏み台に跳ぶ。

 跳んだ先にあったのは、先ほど投げ捨てたビームライフル。握った瞬間反転しライフルのモードを切り替える。

 ギロチン・バーストと呼ばれるメガ粒子の塊がジ・Oを穿つ。

 

「ッ」

 

 穿ったのは、ジ・Oの左足のみだった。先ほどムリにパルマフィオキーナを使い続けたのが原因か、射撃にブレが生じた。

 絶好のチャンスを逃した。一転して、チャンスはピンチへと変わる。

 

『どこまでもふざけてんじゃねぇぞテメェエエエェェ!!』

 

 先ほどまで腹に溜め込んだメガ粒子を放つジ・O。パルマの影響か、収束はせずに拡散状態で無茶苦茶に放つ。

 結果的に逃げ場を失ったゲシュテルンは両手のソリドゥス・フルゴールを起動しシールドで防ぐ。

 だが続いMLRSから放たれた三発のミサイルがゲシュテルンを襲う。ダメージは防げたものの爆風に飲み込まれ態勢を崩しライフルも巻き込まれる。

 

『落ちろやぁ!』

「ちぃっ!」

 

 態勢を立て直すより早くジ・Oが迫りくる。一時的とはいえ重力を振り切るほどの推力を叩き出す加速は片足の一部を失っても損なわれていない。

 

「逃げきれ・・・」

「待ぁぁぁぁたせたなぁぁぁぁぁ!!」

 

 大声が響き渡る。そして次の瞬間巨大な腕部と思われるユニットパーツがゲシュテルンとジ・Oの間に入り込み、翼竜の咆哮(ドレイクハウリング)がミサイルを撃ち切り空になったユニットを爆発させる。

 

『ぐぉぁ!? 何だぁ!?』

「はっはっはー! これこそやんすの自信作!」

 

 声の主――アキヅキ・カイチのブレイヴは異形の姿を取っていた。

 MAと見間違わんがばかりのその状態、やんす作のNGNアームズを身に纏っていたのだ。

 

「あっしの自信作がぁぁぁぁ!?」

「大丈夫だって、ちょっと借りただけだから。返すかどうかは知んないけど」

「うおおおお!? 今すぐ返すでやんす!? あっしの自信作をそんな雑に扱うなぁぁぁでやーんす!?」

 

 既に戦場からリタイアしていたやんすの悲痛な叫びはカイチは無視し接続パーツをパージして投げまくる。宇宙空間というフィールドにおいて大質量の物質にぶつかればただですまないため、ジ・Oも必死になって斬り飛ばす。

 斬り飛ばす度にやんすの悲鳴が舞ったがむしろカイチはそれを喜びつつ最終的にNGNアームズ本体を蹴飛ばした。

 

『ぐぉ!?』

 

 流石の巨大さに処理しきれずたまらず回避する。その間に態勢を立て直しきったゲシュテルンの元にブレイヴが飛ぶ。

 

「貸し二つだな」

「戯言ほざくなよ。・・・助かった」

「へっ、いいってことよ! 俺も楽しくなってきたしな!」

『潰す!!』

 

 怒りを爆発させてジ・Oが腹部メガ粒子砲をぶちまける。やはり収束はしないがまるで流星のように降り注ぐ。

 狙いが定まってないビームの雨を掻い潜り二機がジ・Oへと一気に詰め寄る。ゲシュテルンが袖口のビームマシンガンでジ・Oを穿たんとするうちにブレイヴがサーベルを大上段に構え唐竹割りのように正面から打ち下ろす。

 

「ってぅおっ!?」

 

 振り下ろすよりも先に足が引っ張られた。見ればブレイヴの足をジ・Oの隠し腕が掴んでいた。

 

『鬱陶しいんだよハエがぁ!』

 

 そのまま巨体の質量を存分に活かし腰の入った拳をブレイヴへと打ち込む。勢いそのままに吹き飛んだブレイヴがデブリへと激突する。

 

「アキヅキ!」

『人の心配するなんて余裕だなぁエェ!?』

 

 最早獰猛な獣の如く吠えながらジ・Oのモノアイがゲシュテルンを捉え跳びかかる。

 宇宙の漆黒を切り裂く黄金の輝きは四閃。片足を一部失っても健在な隠し腕を含めた四本のビームソードがゲシュテルンを襲う。

 

『ヒャァ!』

 

 獲物を狩り取る歓喜の声が響く、が。

 

「うるせぇ!」

 

 黄金の輝きを青い輝きが受け止める。咄嗟に逆手で抜き放たれたビームサーベルが隠し腕を、ガントレットから発したビームシールドが腕のビームソードを受け止めていた。

 バチバチと弾ける粒子の光が二機を照らし出す。

 

『いい加減見苦しいったらありゃしねぇ!』

「黙、れ・・・ッ!」

 

 悪態は出る。だが力でジ・Oに勝つことはできない。ゆっくり、少しずつソードが食い込んでいく。

 突破されるのは時間の問題だが、打開策は無い。カイチの動きも止まったままだ。

 見苦しいという言葉は無駄に当て嵌まっているということに気付き、うつむきながら自嘲気味に笑う。

 

『――そんなもの?』

 

 響いた声にミコトは思い出す。

 この声は、自分をお人よしと笑んだ声。だがこの声音に含まれていたのは、

 

『アナタのガンプラ、その程度?』

 

 失望。心底ガッカリしたという期待外れの声。

 

「――ざ、けんな・・・」

 

 コントロールスフィアを握る手に力が入った。

 

「勝手に、決めつけんじゃねぇ」

 

 顔を上げる。その表情に刻まれているのは憤怒か悲嘆かあるいは愉悦か。

 

「見せてやるよ、今のゲシュテルンガンダムの全力――」

 

 一度も使ったことの無い力。失敗すればかっこ悪いなんてものじゃ済まない。

 だが、失望されたまま終われるわけがない。それが、ヤナミ・ミコトというビルドファイターの“意地”だ。

 

「――【System・EX】起動!

 お目覚めだ、ゲシュテルンガンダム!」

 

 ゲシュテルンガンダムの身に刻まれた青いクリアパーツが輝き、ツインアイに光が灯る。

 次の瞬間、サーベルとシールドを構成する粒子量が爆発するように膨れ上がりジ・Oを弾き飛ばした。

 

『なっ――』

「装甲に回す粒子はほとんどいらねぇ。相手も弾切れだしアキヅキも頼りにならねぇ! なら求めるのは、一瞬で決着を付けれる速さと力!!」

 

 予備動作ゼロでゲシュテルンが突撃する。今までと比べものにならないほどのスピードで肉薄した瞬間、ビームサーベルが蒼銀に輝く軌跡を残しながら隠し腕を切り裂いた。

 

『へぇ』

「っらぁぁぁぁ!」

『調子に、乗るなぁ!』

 

 隠し腕を切られながらもジ・Oはその反動を利用し回転、回し蹴りをゲシュテルンに打ち込む。ゲシュテルンの胸部が大きく抉れた。

 

「ダメージが大きい!? さっきまであんなに喰らってはいなかっただろう!?」

「スピードが上がったこと、サーベルの切れ味が上がったことに何か関係があるのかな・・・?」

 

 ギャラリーの声が疑念に満ちる。それらを一切排除しながらゲシュテルンは肩アーマーのスラスターで姿勢を制御し再びジ・Oに肉薄する。先ほどまでの倍近い速度で最短距離を直進する単純な機動にジ・Oはカウンターを合わせる。

 

「俺を忘れんなよ!」

 

 頭上より緑の影が飛来する。ブレイヴだ。

 

「アキヅキ!」

 

 ビームサーベルを刃を形成したまま投げる。サーベルはジ・Oを躱しブレイヴの手元に収まる。

 

『カイチ、今の粒子量でもOne Seconds・・・1秒間だけなら可能よ』

「充分!」

 

 高音と共にブレイヴを紅蓮の鎧が包み加速する。タックルの形でジ・Oを吹き飛ばしゲシュテルンガンダムとの挟撃の形を作りだす。

 崩れた態勢をジ・Oは正すことができずに対応も追いつかない。

 二機が同時にビームサーベルを振りかぶった。

 

『て、テメェら!?』

「亡霊にでも!」

「なりやがれぇぇぇぇ!!!」

 

 二閃。蒼銀と真紅、二つの光が白き巨人を両断した――。

 

 

 

“BATTLE END!”

 

 

 

☆★☆

 

「納得いかねぇ!」

「ちっ」

 

 詰め寄ってくるジ・Oのファイターを見て一切迷いなく舌打ちした。

 

「いい加減見苦しいったらありゃしねぇ」

「あァ!?」

「はっはー! 負けてんだからさっさと帰りやがれー!」

「うーむ、実際これ以上波風立たせない方がいい気がするでやんす・・・」

 

 やんすが諫めるがその怒りが収まらない。

 

「落ち着けよ、アンタかっこ悪いぜ」

「知ったことか!」

「ちょ、お客さん! 暴力はダメ!」

 

 拳を振り上げんとするので店長が止めようとする。その対象になるミコトは疲れているのか本当に拳を振り上げると思っていなかったのか目を開いたまま動かない。

 不意にその巨漢が宙を舞った。床に叩きつけると同時に腕を締め上げる。

 

「なっ、ご・・・おぉっ!?」

「あまり抵抗をするな。これ以上手荒な真似はしたくない」

 

 鮮やかな技だった。ガタイのいい男性、年は30代くらいだろうか。その男性が完全にロックがかけており一切の動きを封じていた。

 何かの武術なのだろうが生憎ミコトはそういった知識には疎かったため正体は分からない。

 

「機体の性能に頼り切り理解を放棄し最後は暴力。ファイターとして、筋がいいだけに残念だ」

「いでででで! 分かった、これ以上何もしねぇし出ていくから放してくれ!!」

「了解した。・・・キミも文句は無いな?」

「へへぇ! まったく問題無いでやんす!!」

 

 声をかけられたやんすは土下座する勢いで逃げ出していた。それを見て男性は嘆息を一つすると解放した。

 

「ち、ちくしょう・・・覚えてやがれ!?」

 

 清々しいまでの負け台詞を吐きやんすを追うように逃げ出す。一緒に逃げ出した人物が二人ほど居たがさっきの仕込みをやっていた仲間なのだろう。

 何というか、あまりにコロコロ切り替わる展開に正直付いていけない。

 

「サクタさんー! ありがとうございます助かりましたー!」

「当然のことですよ。私にとってもここは居心地のいい場所ですからね」

「ミタさんもこの前来てくれたんですよ。新しい紅茶を持ってきてもらったのでどうですか?」

「いいですね、いただきます」

 

 先ほどまでのピリッとした雰囲気とは違い少しほがらかに笑った後サクタと呼ばれた人物はミコトへと目を向けた。

 

「いいバトルだった。最後の辺りはキミの意地を感じた」

「え、あぁどうも」

「今後もキミのガンプラを楽しみにさせてもらう」

 

 そう言い残してサクタは店長と一緒にカウンターの方へと歩いていった。

 それをきっかけに緊張の糸が途切れたのか、近くの椅子にミコトは身を投げた。

 

「お疲れさん」

「おう、アキヅキも助かった。正直、1人じゃ勝てなかっただろうな」

「へへっ、当然だな! にしても楽しかったぜ!」

 

 隣の椅子にカイチも座り込む。汗をかいているが興奮しているのかテンション高めに笑ってきた。

 

「楽しかったか、ガンプラバトル」

「久しぶりにガンガン熱くなった! やってみるもんだな!」

「そうか・・・じゃあ」

 

 ニッ、と笑って握り拳をミコトは突き出す。一瞬目をぱちくりとさせるがカイチも笑って拳を突き出した。

 コツン、とお互いの拳が軽くぶつかり合った。

 

「ようこそ、ガンプラバトルへ。歓迎するぜアキヅキ」

「おうよ! よろしくなヤナミ!」

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「ガンプラバトルはいいねぇ。心を潤してくれる」

「しかァし! 今までの俺と違って今の俺は抗議する力を得たァ!」

「藤の花の前に、二度目は無いぞ」

 

【Build.04:天駆ける流星Ⅰ ~抵抗戦線~】

 

「これが俺たち双子の!」

「ぜったいむてきのこんびねーしょーん。かっこぼーかっことじ」




ずいぶん前編から空いてしまいました・・・もう少し早く投稿できるようになりたいものです。


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Build.04:天駆ける流星Ⅰ ~抵抗戦線~

 ――向かい合う、二機の強者。

 片やトリコロールにクリアパーツを散りばめた星の輝きを誇る攻撃者。

 片やアシンメトリーの身体をトレコローレに染め上げ、幾つもの激戦の証したる傷を刻んだ不死鳥。

 互いにその身はボロボロであり武器も何も持っていない。ただ、“意地”だけで彼らは戦っていた。

 攻撃者の拳が輝き、不死鳥の拳をビームマントが覆う。

 

 止まることなく、頭さえ失いながらも。

 二機は、同時に最後の拳を振るった。

 

☆★☆

 

「いやー、ガンプラバトルはいいねぇ。心が潤うようだ」

「はいはい、っとー」

「ちょっとヤナミ君! これの凄さと感動が分からないキミじゃないだろう!?」

「俺が今一番分からないのは仕事を普通にサボって客に絡みにくる店長そのものですかね」

 

 普段は使わないPC用の眼鏡を付けカタカタと持ち込んだノートパソコンをタイピングしながら話半分にミコトは受け流す。ついでにシャットアウトしきってしまおうとノートパソコンのジャックに刺さったイヤホン手を――。

 

「・・・ちぇ」

 

 愛用のイヤホンが断線して使いものにならなくなったことを思い出して嘆息した。

 

「近場のいい電気屋教えようか?」

「こういうのは自前で探し回らないと納得できないタチなんですよ」

 

 その一言で気分を切り替えてパソコンの操作に集中する。パソコンにはUSBを介してGPベースが接続されており、GPベースには普段は使われないスタンドパーツが装着されている。

 スタンドされているのは言うまでもなくゲシュテルンガンダムだ。パソコンに繋げることでGPベースに記録された設定やデータを編集することで機体のバージョンアップを行っているのだ。

 

「だいたい何で第7回世界大会の映像なんて持ってんですか。アレ今結構貴重でしょう?」

「ん、あぁ実はドイツのカフェの関係者さんに以前から交渉しててね。最近こっちにいらっしゃったからもらったのさ♪」

「私は不満があるけどね」

 

 コーヒーを運んできた少女が頭の上から声を投げかけてきた。声の方に顔を向けるとライムグリーンを基調としたセーラー服の上にカフェ従業員用のエプロンを着けた赤毛の少女が居た。

 

「セリザワ」

 

 セリザワ・アマネ。以前のバトルで乱入して不正を暴いた“魔弾の射手(ファントム・シューター)”なる二つ名を冠するファイターであり、目の前でサボっている店長の姪である。

 

「はい、サービスの『俺と一緒に地獄へ逝こうぜぇ珈琲~ハイパージャマーに隠された角砂糖~』」

「長いなおい」

「地獄のような苦さと熱さでデスサイズのビームサイズを表現してるらしいけど」

「サービスならもうちょいノーマルなヤツでいいものを……」

「一回来店の度にドリンクサービスなんだから文句言わないの」

 

 サービス、というのは実は正確ではない。このコーヒーは以前凸凹コンビを打ち倒した報酬なのだ。

 

「ガンプラのパーツ融通するだけに飽き足らず一回来店の度にドリンク一杯無料はぼったくりじゃない?」

「それくらいの働きはしたってのー。それにちゃんと居座る時はピーク時とかは避けてきてるだろ」

「単純に人口密度高いのが嫌いなだけでしょ?」

「何のことだかさっぱりー」

 

 適当に話を切り上げる。これ以上追及されるのも面倒だし実際アマネの言ってることは図星なので言い訳はこの辺でいいだろう。

 

「珍しく突っかかってるけどもしかしてアマネまだスネてる?」

「?」

「いや映像くれた人が『1ドット分の画質低下も許さない!』って人でね。わざわざドイツから直接持ってきてくれたんだけどアマネが希望してた第6回世界大会のライナー・チョマー対パトリック・マネキン戦の動画を忘れてさ」

「謝り倒されたけど絶対転送しない主義を通されたのよね」

「何、セリザワってライナー・チョマーのファンなの?」

「ビルダーとしての能力は凄いと思うしコメディアンとしても毎回楽しんでるけど私の目的はそっちじゃないわ」

 

 さらっと世界大会常連をコメディアン呼ばわりしやがったコイツ。

 

「私の目的はパトリック・マネキンのGN-X」

「あぁ、そういえばセリザワの機体ってGN-Xだったな」

 

 全身を外套に包みブレードアンテナの着いた頭とライフルを持った腕しか見えていないため忘れていたが、確かに彼女の機体は初期型のGN-Xをベースにした機体だった。

 世界大会常連のファイターが駆るGN-Xともなればその能力はトップクラス。同系統の機体を持つアマネにとってその詳細な戦闘データはそれこそ喉から手が出るほど欲しいだろう。

 そこまで考えた所で先に注文しておいたカッティングマットをイメージしたというカッティングワッフル(色の再現の都合上抹茶味で固定)を口に運ぶ。

 

「そら拗ねるわな」

「拗ねてない。そのワッフルはサービスじゃないけど」

「俺だってコーヒー以外も頼む」

「旨いもんなー。アマネの焼き菓子とか特に――」

 

 声と一緒に影から手が伸び、ワッフルを掴まんとする。

 しかし慣れた二人は早かった。まず店長が椅子から滑り落ちるように地面に降り立ち手の主に足払いをかける。次いで倒れゆく影の背中を一寸の狂いもなくアマネの足が捕らえ踏み抜く。

 背中の中心点を抑えられ完全に床に縫い付けられたソレに一切の慈悲は無く、周辺にあった椅子をパズルのように組み合わせて見事に拘束した。

 唯一動かなかったミコトは途中で何が起こったかを把握し、全てが終わったところで思わず拍手を送った。

 

「おー」

「ヤ、ヤナミ助けて・・・・・・俺達相棒だろ・・・・・・」

「何のことかさっぱり」

 

 自身の相棒を自称する少年――言うまでもないが正体は常習犯のアキヅキ・カイチである――を見ることすらなく見捨てコーヒーを口にする。

 苦い。が、どこか遠くの方に甘味を感じないでもない。そして何故沸騰してないのか分からない勢いで恐ろしく熱い。

 

「ビームサイズの熱量もできる限り追い求めてる」

「要らねぇわその追求」

 

 無表情でサムズアップしたアマネをスルーしてワッフルとコーヒーを持って移動する。最早慣れたパターンだがこの後カイチの贖罪(タダ働き)の内容を決めるための会議が始まるのでその間は近付かないことがこのガンプラカフェの暗黙の了解であった。

 

「・・・・・・相席、どうぞ」

「ん、あぁ。ありがとう」

 

 別の席を探していると声がかかった。ちょうどカイチ拘束に使ったためか他の飽き席も無くなっていたので素直に好意を受け入れる。

 招き入れてくれたのは藤色の髪をした少年だった。読書中らしく顔を上に向けないがとりあえず座る。

 特に動きも無いため会話による親睦を深めようという考えも無いらしい。カイチの件を理解した常連なのだろう。特にお喋りをしたいタイプでもないのでミコトも静かにコーヒーを飲む。

 

「とりあえず屋根の塗装剥げてたから塗り直させる?」

「ちゃんと上がった後に梯子回収しとかないとね」

「だー! 今回は断ってやる!」

「「無理無理」」

「しかァし! 今までの俺と違って今の俺は抗議する力を得たァ!」

「頭ワいた?」

「アマネ、元からだよ」

「ひでぇ」

 

 法廷的な有り様と化した椅子の牢獄からまるで蛇か軟体動物かのようにヌルリと逃げ出したカイチは「パッパパー!」というセルフSEを駆使しながらどこからともなく何かを取り出した。

 黒い人型をしたガンプラだ。海賊をイメージさせる帽子に髑髏のシールが張られており片目をバイザーパーツが覆っている。両肩にはアンカーが装備されたバインダーがある。

 一部が白くなっている部分があるがそれは“機動戦士ガンダムAGE”第3部に登場するガンダムAGE-2 ダークハウンドに間違いなかった。

 

「アマネと店長が普通にブレイヴくれなかったから作ったこの何かカッコイイ黒いガンプラ、こいつで勝負だアマネ! 俺が勝てば免除でいいな!」

「え、ヤダ」

「おぉい!?」

「だって流石に素人に負けるとは思えないから。あんたスナイプ避けれないでしょ」

「そ、そんなことねぇし」

「最低でもフォローしてくれる味方確保してから来なさいな」

「よっし俺たちの力見せつけてやろうぜぇヤナミィ!」

「めんどくせぇ」

「裏切る速度ォ!?」

 

 助けを求めて来たが一切の迷いなく斬り捨てた。それでもなお無様にあがいているが特にカイチを助ける声は店内から上がらない。

 「アキヅキ・カイチは触れずに観賞用」。これがこのカフェの77の暗黙の了解の一つであるらしい。

 

「話は聞かせてもらったぁッ!」

 

 たまにそれを破るヤツも居るわけだが。

 バターンと激しく扉を開けた人物がそのままカイチの元に歩み寄りそのまま手を握る。

 

「俺が助けよう兄弟!」

「助かったぜ兄弟!」

 

 そのまま暑苦しいテンション全開のまま二人はひしっと抱き合った、ところで脳天にチョップが叩き込まれた。

 

「オリニィ、暑苦しいし鬱陶しい」

「オリネェ、もうちょい優しく・・・」

 

 そんな二人を見てミコトは軽く目を張った。

 男性の方は青白い髪を刈りあげたスポーティなスタイルで服装もジャージ系のモノでさわやかな感じの男性だ。露出した肌は引き締まった筋肉をしておりスポーツマンらしい。

 一方女性の方はショートよりも少し長い程度の同じ青白い髪にうなじを隠す程度の長さをした髪のパンツスタイル。スポーティさが故の薄着は女性らしい彼女のスタイルを強調している。おかげで“彼女”と断言できる。

 二人の顔はほぼ一緒だ。顔つきだけで見分けるのはかなり困難だろう。

 

「ヤナミ君はカザマーズは初めてだったっけか」

「なんスかその小学生ネーミング」

「あの二人は大学生だよ? まぁ見ての通り双子でね。高校生の時にガンプラ選手権に出るからってここに作りに来て以来よく利用してくれててねぇ…大学の受験勉強の指導を大人組がするのも以前は恒例だったんだよ?」

 

 いつの間にか近付いてきていた店長がどこか遠くを見つめて感慨深げに呟く。

 そういえばこのカフェに入り浸る原因になったバトルの時もしゃしゃり出てきては話しかけてきた二人組だ、と今になって気付いてから別の疑問にミコトは突き当たる。

 

「あんな呼び方だけどどっちが兄姉?」

「ん、あぁ。それが本人達も分かんないんだって」

「ハァ?」

「なんでも生まれた時に病院が停電になって先にどっちが生まれたか分かんなくなったんだってさ。んで、物心つく頃にはお互い“ニィ”で“ネェ”になってたんだって」

「カザマ・オリヤだ! 改めてよろしくなァ!」

「・・・カザマ・オリハ。よろしー」

 

 話していることに気付いたらしく手を軽く振って自己紹介してくれる。

 

「んで、ヤナミ君アマネを助けてもらっていいかい? あのままだとアマネが1vs3になだれ込みそうだ」

「片方が別れれば2vs2じゃ?」

「あの二人喧嘩でタイマンすることはあるんだけどチーム戦は必ず二人セットのチームなんだよ。今回もオリヤ君がカイチの味方するならオリハちゃんも出るだろうね」

「えぇ・・・」

 

 まぁとはいえセリザワ・アマネには借りがあるわけで、ほっとくのもアレなのだ。

 

「俺も少し取りたいデータがあるからいいッスけど、とはいえもう一人欲しいッスよ」

「うーん・・・あ、アイバ君。コーヒーおごるからキミが出てみない?」

「オレですか」

 

 本から顔を上げた眼鏡の少年は少し困ったような表情をして、しかしすぐにため息を吐いた。

 

「・・・いいですよ。どうせ店長が逃してくれるわけないの知ってますし、試してみたかったところです」

 

 立ち上がったアイバと呼ばれた少年は鞄の中から一体のガンプラとGPベースを取り出した。

 

「アイバ・トウジ。協力させてもらうよ」

「ヤナミ・ミコト。まぁ短い付き合いになるだろうけどよろしく」

 

 軽く必要最低限の会話だけで挨拶を終えると二人はほぼ同時に立ち上がった。

 

 

☆★☆

 

 

 “Ganpura Battle Combat Mode!”

 

 “Battle Damage Level Set To 『C』”

 

 “Beginning, PLAVSKY PARTICLE dispersal”

 

 “Please Set Your GPBase!”

 

 

 青い粒子が世界を作りだすのを見ながらGPベースをセットしガンプラを取り出す。

 バトルシステムの向かい側には予想通りカイチとカザマ双子が立っている。一方ミコトの側にはアマネとトウジ。

 

 “Stage Select”

 

 GPベースに表示されたステージは“Forest”“Colony”“Mountain”。

 

「コロニー?」

「カフェのはステージセレクトがあるから店舗によっては普通のよりステージを小分けしてることがあるの」

「へぇ」

「中には気象とか属性を設定する店舗もあるけどね」

「それで、今回はどのステージを選ぶんだ?」

「コロニーはカイチの馬鹿が壊してフィールド変化されると困るわね」

「森は個人的に目立つ色合いしてるからイヤ、かな」

「セリザワとアイバの意見を総合すると・・・山だな」

 

 二人が頷き全員が“Mountain”を選択する。

 

 “Field4,Mountain”

 

 粒子が満たされフィールドを作りだす。白銀の雪が降り積もる山岳地帯の一角が作りだされる。

 

 “Plase Set Your GUNPLA!”

 

 ミコトはゲシュテルンガンダム、アマネは外套を身に纏ったGN-X オリジン。そしてアイバ・トウジは真っ白な機体を取り出す。

 白い機体カラーに薄い青のラインが刻まれたウイングガンダムだ。元の翼に加えてもう一対V字型の翼を持っている他背中に大型のキャノン砲を背負っている。

 

「・・・白雪姫(スノウ・ホワイト)

「残念。実際にはウイングの系列機の親戚くらいだよ」

「新型?」

「あぁ、少し事情があってね。ようやくテストをクリアして実戦レベルまで持ってこれたんだ」

 

 少しだけ苦笑いのような表情を浮かべたのが気にかかったが特に言う必要も無いだろうと判断し、ガンプラをセットし現れたコンソールを握る。

 それと連動するように三人を操縦席が覆い、ガンプラ達の前にはフィールドへと飛び立つためのカタパルトが生成される。

 

 “Battle Start !!”

 

「ヤナミ・ミコト、ゲシュテルンガンダム・プロトタイプ! 勝ちに行く!」

「セリザワ・アマネ、GN-X・オリジン。撃ち抜いていこうか」

「アイバ・トウジ、ガンダムウィスタリア。出る!」

 

 雪山に三機のガンプラが飛び出す。オリジンとウィスタリアはそのまま雪の降る空を駆け、ゲシュテルンガンダムは雪の積もる大地を踏み締める。

 その際ゲシュテルンガンダムの足が水のたまった穴に足を取られた。よく見ればその自らは白い湯気が立ち上っている。

 

「温泉・・・これヒマラヤか」

 

 ミコトがポソリと呟く。『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』においてアプサラスと共に大破し墜落した陸戦型ガンダムの出力最弱に絞ったビームサーベルが温泉を作り出したシーンを思い起こし、視聴した記憶を何とか漁って地形を把握しようとしてみる。

 

「・・・・・・」

「・・・悪いんだけど、シローとアイナの混浴シーンのインパクト強すぎてそれ以外の情報が思い出せない」

「男に限らず、私も同じく」

「まぁ、仕方ねぇわ。どーせ相手も条件同じだろ」

 

 三人が頭の中に浮かぶ問題のシーンを振り払おうとした時、不意に敵の接近を知らせるアラームが鳴り響く。

 

「幾らなんでも早すぎないかっ!?」

「元々一台で動かしてるからフィールド自体そんなに大きくないけど、このスピードは一直線に先行して突っ込んで来てるタイプ・・・ってことは」

「あー・・・オチが読めた」

『ハーハッハッハのッハァー!』

 

 想像通りの大音量の声がスピーカー越しに響いた。オチを予測していたミコトとアマネは揃って音量を絞っていたがトウジだけはダイレクトに喰らってしまいちょっとした衝撃に倒れそうになった。

 

『アキヅキ・カイチィ! ガンダムAGE-2 ダークハウンドォ! ぶっ飛ばしていくぜぇぇぇ!!!』

 

 ストライダーモードで姿を現した漆黒の猟犬が雪を吹き飛ばしながらオリジンに狙いを定めトップスピードで突っ込んでくる。カイチは意図していないだろうが完全にスイカバー・アタック等と呼ばれる突撃攻撃の構えだ。

 

『ハッハァー! アマネ、覚悟ォ!!』

「――えぃっ」

『おっわぁっ!?』

 

 酷く冷めたテンションのまま突撃してきたダークハウンドをマントを翻すようにしてスッと位置を少しだけずらした。ただそれだけ真っ直ぐに突撃していたダークハウンドは狙いを外し雪山の一角へと激突した。

 

「って、おい!」

 

 軽く雪崩が起きて雪の波がゲシュテルンガンダム周辺を襲う。

 

「待て! 飛べねぇから! それはマズイ!」

「こっちへ!」

 

 ウィスタリアが素早くバードモードへと変形しゲシュテルンに向かって飛ぶ。固定された足の部分を咄嗟に掴み空へと逃れる。少し後にゲシュテルンが居た付近を雪崩が通過していった。

 

「あっぶねぇ・・・」

 

 冷や汗を拭いながらミコトは改めてバードモードへと変形したウィスタリアを見る。元のウイングよりも長めの砲身による機首と四枚の翼が空中での安定感を生み出している。背に追加された巨大なキャノン砲が重量感を感じさせる。

 恐らくは、敢えて大型化させた装備を追加することで火力を増強しつつ空戦での安定感を追及しているのだろう。

 

「――――」

 

 そのカラーリングと合わせて、ミコトの頭の片隅にある“ソレ”がチリチリと焦げるような感覚がした。

 

「・・・ウィスタリアが、どうかした?」

「あぁ、いや。少し思い出にふけってただけだ。それより助かったよ」

『うぉっらぁ!!』

 

 ゴバァ、と雪崩跡から人型形態へと変形する勢いを利用してダークハウンドが飛び出してくる。右手にビームサーベルを持ちそのままぶら下がるゲシュテルンに刃を振り抜く。

 

「ぃよっと!」

 

 ウィスタリアの足を放しサーベルを真っ向からパルマフィオキーナをぶつける。パルマ特有の高音と閃光を撒き散らす。

 

『おっととぉ!?』

「おらよっ! AGE-2にはもってこいってな!」

 

 右手に持っていたGバウンサータイプのドッズライフルを撃ち込む。ギリギリでダークハウンドは回避するが。

 

『げっ』

 

 カイチの視界に飛び込んできたのは自らに向けて可変しながら飛び込んでくるウィスタリアの姿。

 

「マルチバスターライフル【MODE2:SWORD】!」

 

 振り抜いたマルチバスターライフルの銃身が展開し緑色のビームソードが現れる。咄嗟にダークハウンドも自らのビームサーベルで受け止めるが、停滞は一瞬。次の瞬間には出力差があったのか弾き飛ばされる。

 

「マルチバスターライフル【MODE1:RIFLE】!」

 

 刀身が消え展開していた銃身が戻る。再び形状をバスターライフル状に戻したウィスタリアが態勢の崩れたダークハウンドに照準を合わせる。

 

「悪いけど、藤の花の前に二度目は無い。確実に仕留める」

 

 その宣言の通り、ウィスタリアのマルチバスターライフルに収束した粒子は直撃すればダークハウンドを一撃で吹き飛ばす分が溜まっていっていた。

 

『そら流石にムリだって!? ここは六十六系統、逃げるが勝ちなんだよぉ~!』

「兵法三十六計逃げるに如かずだから。逃げるくらいしか合ってないわよカイチ」

 

 ストライダーへと変形しようとするダークハウンドを不意に衝撃が遅い変形をキャンセルした。見えない狙撃、セリザワ・アマネの“魔弾(ファントム・バレット)”。

 ダークハウンドのカメラがオリジンの姿を映した時には既にオリジンのライフルにも目に見えるレベルで粒子が収束している所だった。これも狙撃とか関係無く当てて一発で吹き飛ばそうという意図によるものだ。

 

『もしかしなくても大ピンチってヤツぅ!?』

「さっさと屋根登ってきなさい!」

『やらせるかよ!』

 

 ギュン、と風切り音が響き六枚の手裏剣のようなディスクが飛来する。咄嗟にチャージを止めた二機が避けようとするが、ディスクは二機を追いかけ軌道を変える。

 

「えっ!?」

「サイコミュ!?」

 

 ウィスタリアが頭部バルカンを発射する。六枚の内四枚を撃墜することに成功するが煙を突き破り残った二枚がオリジンとウィスタリアを捉える。サイズは大きくないが回転速度が早いためか二機を弾き飛ばす。

 態勢を崩した所を見逃さずダークハウンドはすぐさま離脱を試みるがそうは問屋が卸さないとばかりに地上に降り立ったゲシュテルンがドッズライフルで狙い撃つ。

 

『させない』

 

 轟音が響いたと思った瞬間、射線上にそれまで居なかったハズの影が割り込む。影はその左腕に装備されたシールドでDODS効果を発揮するビームを受け止める。一瞬の停滞の後に、ビームは四散した。

 

「ビームコートか!?」

『オリニィ!』

『行ってこい! ファンネル・ディスク!』

 

 オリジンとウィスタリアを攻撃したディスクがさらにゲシュテルンを襲う。

 

「チッ!」

 

 舌打ちしながらもミコトは機動自体はそこまで複雑なモノではないことを確認している。両袖のビームマシンガンを乱射しディスクを一つ残らず破壊する。

 だが、それにより位置を固定されてしまったことに気付いたのは目の前に巨大な鋭い鉤爪が飛来していたのを確認した時だった。

 

「ぐぅっ!?」

 

 両手のソリドゥス・フルゴールを展開し直撃を避けるものの衝撃は殺せず、雪崩によって深く積もった雪の塊へと投げ出された。

 

『これが俺たち双子の!』

『ぜったいむてきのこんびねーしょーん。かっこぼーかっことじ』

 

 まるで熱血主人公のような気の張った声と、気等抜けきったと言わんがばかりの声。

 

『オリヤンにオリハ!』

『大丈夫かよカイチ! あんまムチャすんなよ!』

『一人で先行しすぎ。でも、的確に敵を見つけた嗅覚はぐっじょぶ』

 

 漆黒の猟犬を追い抜き、雪空を切り裂きながら騎士が舞う。それはあらゆる侵略者を許さず天空を守護する空覇の騎士(エアキャヴァルリー)

 そして大地を震わせ雪を巻き上げて突撃してくる影は巨大な突撃槍を手にし、自らが侵略し抗うものを撃退する滅地の騎士(ガイアキャヴァルリー)

 

「ガンダムキマリスに、キマリストルーパー!」

 

 雪の中から脱出したミコトが現れた二機の姿を確認して叫ぶ。

 片や大型の肩とブレードのようなウイングパーツが目を引く青空の如き騎士は完全に重力の井戸に縛られることなく自在に空を舞い、空中で静止してみせる。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』において宇宙空間を自在に駆け抜け鉄華団と激戦を繰り広げたガンダムキマリスをベースにした機体である。

 

『お祈りは済んだか? ガンダムキマリス・オラシオン!』

 

 片や射出していた大型の爪を持った異形の籠手を右腕に戻した、肩・背・腰にそれぞれブースターと左腕にシールドブースターを装備する徹底的な推力の強化が見て取れる紫電の如き騎士もまた『オルフェンズ』において地球上での戦いのために換装されたガンダムキマリストルーパーをベースにした機体だ。

 

『希望は捨てた方がいいよ・・・ガンダムキマリス・ディザイア』

 

 空と大地にそれぞれ君臨した二騎はその双眸(ツインアイ)を輝かせる。

 

『カザマ・オリヤ!』

『カザマ・オリハー』

 

 力強く叫ぶオリヤと力の抜けた声音のオリハ。

 対極とも言える、まるで共通性の無い二つの声は。

 

『――突撃、開始!』

 

 一切のズレも無く、一つの声となった。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「やっぱ俺って、不可能を可能にしちまうんだな!」

「まだ生きてる! まだ生きてるから勝手に夕日とか召喚すんなっ!?」

「地上は私が、空中はオリニィが制覇する。勝ち目、無いよ?」

 

【Build.05:天駆ける流星Ⅱ ~双騎乱舞~】

 

「プロトを超えて、そっちの舞台に乗り込んでやろうじゃねぇか!」




月一投稿から月二投稿にペースアップしたい今日この頃。そしてようやっとカザマ双子がギャラリーからファイターに格上げでございますやったぜ。


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Build.05:天駆ける流星Ⅱ ~双騎乱舞~

最近キャラデザをいただきました。近いうちにガンプラ共々公開できればなー、と思っております。


『突撃、開始!』

 

 宣言と共に二機のキマリスが動き出す。地上を駆け抜けるディザイアがゲシュテルンに狙いを絞り、オラシオンはウィスタリアとオリジンを薙ぎ払わんとする。

 

『おっしゃー! 俺も続くぜぇ!』

 

 合わせてダークハウンドが突撃を開始した。それを見て地上からゲシュテルンがドッズライフルの照準を合わせる。

 

『おっと、そっちには動かないでもらうぜー!』

「ちっ!」

 

 上空のオラシオンがその手に持つビームバズーカを発射する。一瞬のチャージの後にゲシュテルンの周辺を拡散したビームが吹き荒れる。

 舌打ちと共に防御行動を取るがビームの幕が視界を遮る。

 

『こっち』

「ぐぅ!?」

 

 ビームの中をシールドで弾きながら迫ってきたディザイアが左手に持ったデストロイヤー・ランスをフルスイングする。ディザイア本体よりも巨大なランスによる殴打は強烈な衝撃を

 

生み出し、ゲシュテルンを吹き飛ばす。

 

「ヤナミ君ッ」

『このまま追撃かける』

『任せた!』

『おっしゃぁ! 俺も行くぜぇ!』

 

 雪の積もった森林に姿を消したゲシュテルンを四足のホバークラフト状態、騎兵(トルーパー)モードになりディザイアも姿を消す。

 それに合わせてオラシオンが肩に装備したフラッシュエッジを引き抜きビーム刃を生み出し、ダークハウンドはドッズランサーを構える。

 

「・・・悪いけどアイバ君、少し時間稼いでもらっていい? 狙撃できるポジション取りしたい」

 

 本来ならミコトとトウジが敵とエンカウントする前にポジション取りをする予定だったのだが後先見ず、勘だけでこちらの居場所に最速で到達されたため狙撃手としての役割を果たせない状態なのだ。

 それを理解したトウジは軽く頷く。

 

「アキヅキの方は素組だしオリヤさんも何回か戦ってるから戦い方はなんとなく分かるから、ある程度何とかなると思う」

「悪いけど、お願い」

 

 言葉と共にオリジンの姿が消えていく。ステルス迷彩だ。

 

『おおっ? やっべーよオリヤン! アマネ居なくなっちまったぜ!?』

『落ち着けカイチィ! それ対策の作戦があるだろっ!』

『ハッ! そうだった!』

「・・・バカが増えた・・・」

 

 思わず頭を抱えたくなる衝動をアマネは必死に抑えた。

 それが一瞬の油断に繋がった。不意にダークハウンドの胸部の髑髏がキラリと輝き、オラシオンの頭部から四つの弾が放たれる。

 

 光が、爆発した。

 

☆★☆

 

 雪山の一角を巨大な衝撃が襲い、雪や木々が弾け飛ぶ。吹き飛んだ雪の中に機影がある。ゲシュテルンガンダムと二足形態へと戻ったガンダムキマリス・ディザイアだ。

 

「馬鹿力がっ」

『褒め言葉』

 

 吹き飛ばされながら悪態を吐くミコトの言葉に無表情のままオリハが答える。

 

(どれだけ飛ばされた? 結構離されちまったか)

 

 思わず舌打ちする。離れようとしても騎兵形態になることで相手は足場を気にせずに走るうえ、馬鹿みたいな推力を叩き出せる装備をしている。

 さらには推力を用いてデストロイヤー・ランスを振り回す勢いが激しいため防御を幾ら固めても当たれば大きく吹き飛ばされ、あるいは回避を繰り返しているうちに最初の会敵したエリアからは遠く離されていた。

 

「こんのっ!」

 

 さらなる突撃に合わせてドッズライフルを撃ち込むがシールドに受け止められる。しかし構えたシールドによってふさがった視界を狙ってビームサーベルをシールドの死角から叩き込むが今度は右手の籠手がサーベルを受け止める。

 ドッズライフルよりかは、ある程度サーベルの方が効いているような気がするがダメージは大して見えない。

 

「全身にビームコートでもしてんのかよ」

『鉄血機体だから、ビーム耐性バッチリ。この耐性が世界からビームを奪った』

 

 さらっと言い切りランスによる連続突きを放つ。サーベルはリーチの差があることに加えてランスにまでビームコート加工されてサーベルを弾かれるとどうしようも無い。

 

「だったら・・・!」

 

 回避行動を取りながらサーベルを腰に戻し両手を開き、バックステップでバーニアを吹かしながら逃げる。

 

『逃がさない』

 

 肩と腰のスラスターが火を噴き突撃の構えをしながら左手の籠手を射出する。鋭利な爪が、ゲシュテルンを逃がさず抉りとらんとする。

 

「こ、こぉ!」

 

 バーニアを切り、地面を全力で踏み締める。

 雪が溶かし跡を残しながら速度を無理矢理削り取る。踏み止まった瞬間に身体ねじり込み爪の射線の内側へと潜り込む。

 

『えっ』

「破ァ、ってな!」

 

 射出されたクローにパルマフィオキーナを叩き込む。甲高い音と共にクローが吹き飛ぶ。その瞬間を逃さずにバーニアを再び着火し突撃する。

 

「たとえビームが効かなくても、パルマフィオキーナで直接ビームを叩き込めば幾らビーム耐性があろうが関係ねぇ!」

 

 光が右腕に集中し、ディザイアの胴体へとその右腕を突き出した。

 だが、

 

『惜しい』

「・・・はっ?」

 

 吹き飛ばされた。ディザイアは態勢を崩したままで対応しきれないハズだというのに。

 

『突撃に関しては、私達双子が負けるわけにはいかない』

 

 ガシャン、と前のめりに倒れるようにして態勢を立て直すディザイア。その脚部は既に騎兵形態へと変わっている。

 

「・・・ッ! そうか、ホバークラフト!」

 

 ホバークラフトを展開する前足を構成するパーツは人型形態の膝アーマーの内側に収納されている。カメラの死角で展開、ゲシュテルンに向かって突き出されたホバークラフトを放つ先端から強烈な空気圧が放たれ吹き飛ばされたのだろう。

 それにしても突撃に合わせて完璧にカウンターを決められた。完全にタイミングを把握されている。

 

『本当の突撃は、こう・・・!』

「うっ、そだろ!?」

 

 シールドブースターを含めた七つの加速装置が一瞬で火を噴き、その推力は一瞬で最速へと到達する。

 ドンッ、という轟音と衝撃を響かせながら距離を詰めたその様は外から見ていればまるで数コマを飛ばした瞬間移動のようにも見えたほどの圧倒的加速。

 “本当の突撃”。それを謳うに相応しい瞬間的突撃だった。当然それに対応できるわけもなく、シールド・バッシュを受けたゲシュテルンが吹き飛ばされた。

 

「ちっくしょう!」

 

 思わず悪態を吐き捨て溜め込んだパルマフィオキーナのエネルギーを地面に向かって解き放つ。

 高熱を伴ったエネルギーが雪を一瞬で吹き飛ばし、白煙が吹き荒れる。

 

『・・・小癪。でも、甘い』

 

 肩の大型ブースターを前面に向け、一瞬だけ全力で噴射する。押し出された大量の空気が白煙吹き飛ばした。

 

『・・・・・・むぅ』

 

 だが、白煙の晴れた後にゲシュテルンの姿は無い。

 

『逃げ足凄い。まるで私のプリン食べた時のオリニィみたい。・・・仕方ないな』

 

 オリハは一つため息を吐くと、通信回線を開こうとしつつ移動を開始する。

 

『・・・・・・山狩りって響き、ちょっと楽しそう』

 

☆★☆

 

 真っ白に染まった視界を振り払うようにカイチは頭を振る。

 

「目がイったかと思ったゼ・・・」

「フラッシュアイと閃光弾で視界を奪う、しかもアマネちゃんはスナイプするべくセンサーの感度を引き上げてる! その結果保護用の視界カメラのセーフティがかかって無力化できる!」

 

 HAHAHA、とアメリカンな高笑いを上げるオリヤにノリだけでカイチも続く。

 

「ところでオリヤン、肝心のアマネどこ行った?」

「んん? ステルスが継続してるのか・・・だけどどーせウイングの後ろに下がったままだろ! 突撃するぜぇカイチ!」

「OK! オリヤン!」

 

 ウィスタリアの背後に照準を絞り一気に突撃を開始する。

 

『5・・・・・・4・・・・・・』

「ッ!? カイチ、止まれ!」

「え、ムリだって!?」

 

 ゆらり、とウィスタリアが動いた。それを感じた瞬間に止まろうとするがトップスピードに入った二機は止まれない

 

『2・・・・・・1・・・・・・・・・1つずらして、今ッ!』

「なッ!?」

「うぉぉぅ!?」

 

 すれ違った一瞬後にダークハウンドの足とオラシオンの手首をウィスタリアの両手が掴み変形する。

 まったく警戒をしていなかったカイチとオリヤは対応が遅れそのまま空に向かって連れ出された。

 

「おおおお!? これどうされるんだあああ!?」

「まっじぃぞカイチ! ここのバトル台の通信システムは店長の拘りで戦闘で大きく粒子が動いている時は使えなくなってる仕様だから目的はアマネちゃんとヤナミの合流だこれ!」

 

 ちなみにこの仕様は店長が「ミノ粉っぽく通信阻害起こしたら盛り上がんないかな!? 戦闘中は通信繋がりにくくなるからよりチームの連携が大事とかさ!」とかのたまったため実装されたシステムだ。

 

『このまま引き離・・・』

「おぃっしょぉ!」

『してぇっ!?』

 

 急上昇が止まる。オラシオンがカメラを向ければそこに映ったのは両肩のバインダーからアンカーショットを放ち片方をウィスタリアに巻き付け、もう片方のアンカーを地上に楔として打ち込むダークハウンドの姿。

 

「やっぱ俺って、不可能を可能にしちまうんだなァ!」

「素ッ晴らしいぜぇカイチクゥン!」

「まぁなぁ! さて、この状態から切り抜けるには・・・お! この時だけ使える特殊技とかあるじゃん!」

「え、ちょ、待てカイチ! それたぶん――」

「ポチッとな☆」

 

 途端、三機を光が包んだ。ステータスアップのオーラ的なモノでは断じてなく、チカチカと電飾のように点滅する光であり、要するにガンダムお馴染み“ワイヤー+高圧電流”である。

 さてここで状況を整理してみよう。

 電流の大本であるダークハウンドはそのアンカーを地表に突き立てもう片方をウィスタリアに巻き付けている。だが、ウィスタリアの両手にはダークハウンドとオラシオンが捕まれている。

 そんな状態で高圧電流を流すと――。

 

「アバババババ!?」

「そりゃ俺らも揃って感電するってのー!?」

『抜かった・・・アキヅキ・カイチのバカさを計り損ねてた・・・』

 

 しばらく電流が流れたところでオラシオンが放されウィスタリアとダークハウンドがワイヤーで絡み合ったまま落下していく。元々ダークハウンドの高圧電流はパイロット及び内部機器にダメージを与えるモノのため、操縦システムが一部麻痺したのだろう。

 ある程度風に流されながら自由落下したところでオラシオンの制御系が復活し、慌てて空中で体勢を立て直してプラフスキークラフトを再起動する。

 

「あぶね・・・流石に墜落は洒落になんないぜ・・・」

 

 次いでカイチの反応を探してみるが見当たらない。周辺を見回してみても先ほどと少し景色が変わっている。

 

「カイチが地面にアンカーを刺してたしワイヤーが絡まってたから重たい分一気に落ちたか・・・んで、俺は山風に乗っちまって結構離されたっぽいなぁ」

『オリニィ』

「おわっ、オリネェ!?」

 

 不意に目の前の画面にオリハの姿が映る。どうやら大きく離れたことで通信回線が回復したようだ。

 

「もしかして仕留めたー?」

『・・・・・・』

「あ、うん。ごめん」

 

 半眼になって睨まれたので何かを言われる前に謝る。早めに言っとかないと後でプリンとか奢らされる。

 

『ところでオリニィ』

「うん?」

『・・・山狩りって響き、かっこよくない?』

 

 少しタメを作ってからオリハが言う。その目は基本さざ波くらいの動きしか無い目がちょっと輝いてる気がする。

 

「オリネェ・・・・・・」

 

 オリヤはその瞳を見、言葉を聞いた瞬間に抱いた感情をストレートに紡いだ。

 

「ワルカッコイイにもほどがありすぎてグッジョブだぜ!」

『うん、ぐっじょぶ』

 

 双子は一寸のズレもなく画面に向かってサムズアップした。

 

☆★☆

 

「正直シンドイわー・・・」

 

 山の一部、ぽっかりと空いた空洞に身を隠したミコトは思わず呟いた。

 

「座標軸確認用のビーコンがようやく機能し始めたな。プロトの利点だわな・・・このまま通信も回復すれば・・・」

『あっ、繋がった?』

 

 不意に画面上に“Sound Only”の文字が浮かぶ。スピーカー越しに響くのはアマネの声だ。

 

「セリザワ。生きてたようで何より」

『厄介なの喰らっちゃったけどね』

 

 そこからアマネは離された後の事情をミコトへと話す。

 ステルスで狙撃ポジションに移動しようとしたところ閃光弾とフラッシュアイを喰らいセーフティがかかったたらしい。スナイプに専念するためにセンサーの感度を引き上げていた故のダメージ。

 幸いステルスは機能を失わなかったらしく、ウィスタリアが二機を無理矢理抑え込んでその隙に逃げ出したらしい。一応ウィスタリアの撃墜マークは出ていないので無事逃げ延びたのではないだろうか。

 

『こっちの話はこんな所。そっちもしんどそうだし何とか合流したいわね』

「あぁ、それならいいのがある。今データそっちに転送するけど・・・合流してもフレンドリーファイアはゴメンだぜ?」

『スナイパーは伊達じゃないわよ。ノーマルなアッガイくらいならエレドア抜きでも一発で撃墜してあげる。・・・流石に、高機動空戦機二体を目隠ししたまま一発で撃ち抜く自信は無いけどね』

「おーけー。信用しとく」

 

 コンソールを操作しとあるデータをアマネへと向けて送り出す。視界以外のシステム面は何とか復旧してきているようだ。そんなことを思いながら転送が八割ほど済んだ時。

 

 ――ズゥゥゥン――

 

『キャッ!?』

「うぉ!? 何だ!?」

 

 重々しい振動と共にパラパラと小石が天井から落ちてくる。それが2度、3度と続く。

 

『まずっ・・・!』

「どうしたっ?」

『音か・・・・・・て・・・雪崩がま・・・気をつ』

 

 ブツリ、とまるでコンセントが抜けたようにノイズがかったアマネの声が消え通信が途絶する。その原因を悟ったミコトはランドセルのブースターを点火し洞窟の外を目指す。

 ノイズがかかり、少ししてからそれまで良好だった通信が不意に切れた。ということは。

 

(俺かセリザワの付近に粒子が乱れる程急接近してきてる敵が居る――!)

 

 光が近付く。出口はすぐそこ。その光を突っ切り――。

 

『・・・いらっしゃいまーせー』

「ブースターパージ!」

 

 直進方向にキマリス・ディザイアが待ち構えて居た。だがその長大なデストロイヤーランスによる突きのモーションより先にゲシュテルンの背のランドセルが分離しその推力を余すこと無くディザイアの頭部付近にぶつかり小規模の爆発を起こす。

 その隙を見逃さずスライディングの形でゲシュテルンがディザイアの足下から背後に逃げ出す。

 

『あう。・・・ヒドイんだー、女の子の顔狙うなんてー』

「うっせ知ったことか。近付かれてるの分かった時点で対策打つ準備はするっての」

 

 オリハが少し頬を膨らませるような素振りをした。ミコトには見えないが言葉を聞いて肩をすくめる。

 

 ――キュァァァン――

 

「いっ!?」

 

 ゲシュテルンとディザイアが向かい合った直後、空から幾重もの重なったビームがほどけ、雨のように降り注いだ。

 

『んー、オリニィ炙り出し作戦まだ続いてると思ってるのかな? もう通信できないし』

「雪崩とか洞窟が崩れかかったのやっぱお前らのせいかっ!?」

『・・・山狩り』

「は?」

『山狩りって響きは、とっても、ぐっじょぶだった』

 

 不意にオリハが語り始める。呆気に取られ、つい聞いてしまうミコトにオリハはさらに言葉を紡ぐ。

 

『とりあえず、空からオリニィが旋回しまくって、私は騎兵モードで悪路をものともせず探し回った』

「お、おう」

『でも飽きた』

「おい」

『そこで二人でいっぱい考えてみた。時間にして約13秒』

「短いからな? それだいぶ短いからな? ギリギリ即断即決じゃないだけだからなっ?」

『とりあえず空からビームバズーカ撃ちまくって炙り出す作戦にした』

「バカじゃねぇの!?」

『破壊も楽しいガンプラバトルは、自由だ』

「自由と無法を間違えんなダァホゥ!!」

 

 ダメだこの双子。頭痛を必死に押さえ付けながらミコトはツッコミと同時にドッズライフルを放つ。これをディザイアは何事も無いように右手の籠手で弾いてみせる。

 

『無駄。希望は無いよ?』

「勝手に決めんな」

『ブースターをパージしてこの雪崩で荒れまくったヒマラヤで私とディザイアから逃れられると思ってるの? よしんば逃げられても上にオリニィが居る』

 

 ディザイアが籠手の爪をゲシュテルンに向け、左手の槍で空を指し示す。

 

『地上は私が、空中はオリニィが制覇する。勝ち目、無いよ?』

 

 何の澱みも無く彼女は言い切る。当然だと。誰もが分かりきっていることだと。

 

『ガンダム最初の主人公がアムロ・レイなくらいは当然だと思ってる』

「・・・・・・」

 

 その言葉には答えず、ミコトはディザイアの足下周辺をビームマシンガンで薙ぎ払い視界を奪わんとする。

 

『無駄、だって・・・・・・』

 

 意にも介さずディザイアが動いた。一瞬の加速でゲシュテルンをランスの間合いへと納め、振り抜く。

 それに対応せんとドッズライフルを投げ捨てたゲシュテルンの右手が輝く。

 

『言ってる!』

 

 語気を幾分強めたオリハの言葉と共に籠手が射出される。咄嗟にパルマのエネルギーを光球に変換し放つことで籠手を弾き飛ばすが、結果としてランスを防ぐ手段は無くなった。

 トった――! 否応なしに、オリハの口元が僅かに歪む。

 

 ――ギュァン!

 

 故に、ディザイアを横殴りに突き飛ばした衝撃に。オリハの思考はフリーズした。

 

「ぉぉらぁ!」

 

 左のパルマフィオキーナが輝き、その粒子エネルギーを余すこと無くディザイアの内側へと叩き付ける。

 

『ぁう・・・!?』

「散々吹き飛ばしてくれた礼だっ!」

 

 声と共に吹き飛ばされ、弾丸と化したディザイアがそのまま壁面へと轟音と共にめり込む。

 

「容赦の無いことで」

「容赦したら撃墜されるっての」

 

 森林の葉が揺れ、赤い粒子が渦巻けばそこにブレードアンテナを持ち外套で身を隠したアマネのGN-X・オリジンの姿が現れる。その特徴的な四つ目には一つとして光が灯ってはいない。

 

『なん、で・・・? まだ目は見えてないハズなのにここまで正確に来れてるの?』

 

 よろけながらもディザイアが立ち上がる。パルマもまたビーム攻撃判定になるためかビーム耐性を真面目に考え組み込んだだけありその威力は半減しているのだろう。それでもダメージはあるのが目に見える。

 

「スナイパーの直観、というのは半分冗談。ここまで来れたのはまぁ上からの砲撃が止んだからっていうのとここの座標位置を正確に掴んでたから」

『座標を正確に・・・?』

「ディザイアが丸々ビーコンになってれば流石に、ね」

『ビーコンって、そんなの、いつの間に』

「ランドセルをぶつけた時に、さ」

 

 ニタリ、と笑いながらミコトが説明を引き継ぐ。

 

「あのランドセルには元々サーベルとかをオミットした代わりにガイドビーコンが詰まっててな。実はちょこちょこ逃げながら設置して現在位置を確定させてたわけだ」

『それで、ランドセルの爆発した時に飛び散ったビーコンを頭から被ったディザイアがビーコンにされてたってこと・・・?』

「そーいうこった」

『で、でも何でビーコン? ギャラリーで初陣を見てたけどそのガンプラは、チーム戦を意識して作った機体じゃないハズ・・・』

「何で、ねぇ」

 

 途端、ミコトの表情が歪んだ。それはもう悪どさ全開の歪みっぷりであり、もしもオリハやアマネがこの顔を見れば間違いなくドン引くだろう。

 

「さっきあんたこう言ったよな。『地上と空中を制覇する以上勝ち目は無い』『それはガンダムの初代主人公がアムロ・レイなくらい当然』って」

『だいぶ要約されてるけど、言った』

「北米で最初に放映されたガンダムは『ガンダムW』だからその辺では初代ガンダム主人公はヒイロ・ユイだって知ってる?」

『え・・・?』

「舞台が変われば当然の法則も変わる。じゃあ、俺が負ける当然を覆すにはどうするか?」

 

 不意に。

 ディザイアのスピーカーが何らかの高音を捉える。普段からディザイアでの高速戦闘を行うオリハにはその音の正体が高速で飛来する“風切り音”であると直観的に理解した。

 

「今の舞台じゃ、プロトじゃあダメだってんなら!」

 

 森林を突き抜け、ゲシュテルンガンダムに向かう風切り音の正体が現れる。

 赤い翼が、大きく目を引いた。

 

「プロトを超えて、そっちの舞台に乗り込んでやろうじゃねぇか!」

 

☆★☆

 

 時間は少し遡る。

 しっかり双子で相談しあったこと13秒。オリヤは上空でビームバズーカを拡散モードに設定して撃ちまくっていた。

 

「ヒマラヤ破壊は楽しいぞい、ってな」

 

 撃つ度にヒマラヤが揺れ、ちょこちょこ雪崩が起きる。

 

「やっべ、正直気持ちいい・・・」

『ちょ、ま、オリヤン待て待ぁぁぁぁ』

「あっ」

 

 スピーカーから響いた声に気付きとりあえずバズーカを撃つのを止める。

 轟音と共に雪崩が巻き起こる。同時に雪崩と共に響いた悲鳴を聞き、しばらく見たところでそっと西の空を見つめた。

 何故か夕日が召喚された。

 

「さらばカイチ。お前のことはちょっとだけ忘れない」

「まだ生きてる! まだ生きてるから勝手に夕日とか召喚すんなっ!?」

 

 雪をかき分けてダークハウンドが飛び上がる。焦ったコミカルなアクションと共に何かSD目のようなものが見えたのは気のせいであろうか?

 

「おぉ、カイチ! 信じてたぜ! ところでアイバっちは?」

「んー、雪崩に揃って巻き込まれたんだよな」

「おいおい。確認くらいしとけよぉ~」

「オリヤンが俺のこと忘れて雪崩起こしまくったからだろうっ!?」

「てへっ☆」

「うわキモッ」

 

 軽口を叩き会う二人の間に弛緩した空気が流れる。

 そんな空気を、狩人は見逃さない。

 雪崩により深く積もった雪の一部が赤く赤熱し吹き飛ぶ。雪の中からバードモードのウィスタリアが飛び出す。

 

「真下っ!?」

「でもバードならバスター撃つしかないだろ! 避けれる!」

『マルチバスターライフル【MODE4:STRIKER】!』

 

 マルチバスターライフルの先端が展開しビームが形を成す。

 それは先程使ったビームソード形態ではない。矢尻のように尖った巨大な先端からは移動に合わせて機体を覆うように尾を引くその様は、さながらウィスタリアそのものが突撃槍(ファランクス)になったような状態。

 

「緊急回避!」

「OK!」

 

 一声で二機が向き合い各々に蹴りを叩き込む。衝撃で二機が少し飛ばされると、一瞬後にウィスタリアが通りすぎる。だがそれでもダークハウンドのバインダーの一部がビームファランクスの粒子の端に触れ、触れた部分が抉り取られる。

 

「周りの部分に触れただけでこれかよっ!?」

「高出力のバスターライフルで形成するビームファランクスだ、シールドクラスの役割を持つシールドアタックみたいなもんなんだろ!」

 

 太陽を背にしたウィスタリアが変形する。人形へと戻ったその手にはシールドから再び取り外されたマルチバスターライフル。既にビームファランクスは消え、代わりに大量の粒子が光球として銃口に集う。

 

『マルチバスターライフル、出力最大』

「やっべオリヤン! あれだいぶ範囲デケェから避けれねぇぜたぶん!?」

「カイチ、そこ動くなよ!」

「オリヤン!?」

『――破壊するっ!』

 

 さながらヒイロ・ユイの如き台詞と共にトウジがトリガーを引く。一瞬の収束と後に解放された粒子はMAでさえ飲み込むであろう巨大なビームへと姿を変えカイチとオリヤに迫る。

 それに対してオリヤが取った行動はダークハウンドの前に移動し盾を構えることだった。

 激突が轟音を生む。ビームがオラシオンに激突したことで拡散しヒマラヤの表面を穿つ。世界がほの暗い黄色気味の色に塗り替えられビームが触れた地表は雪崩云々の前に蒸発した。

 

『ッ――!』

 

 溜め込んだ粒子が無くなり砲身から大量の白煙が吐き出され排熱処理がされる。オーバーヒート寸前だったのか、マルチバスターライフルの一部が歪んでいた。

 

「――おぉぉ!」

『なっ!?』

 

 無意識に仕留めたと感じていたトウジの心の隙を突くようにダークハウンドがビームサーベルを振りかぶりながら一気に突っ込んでくる。先程と完全に立場が逆転した。

 一閃。サーベルがバスターライフルの銃口を切り裂いた。

 

「ちぃ! やっぱ狙いがちょいズレた!」

『何で・・・!』

「当然、オリヤンのおかげ!」

 

 慌てて距離を取りながらウィスタリアのカメラが晴れ行く黒煙の中を映す。

 そこに居たのは構えたシールドからピンク色のビームシールドを形成したオラシオン。機体の各所に傷を負っているもののまったくもって健在だ。

 

『ビームバリア! どこまでΞなんですその機体!』

「どこまでもに決まってるだろ!」

 

 ビームバリアを解除したオラシオンがお返しと言わんがばかりにモードを収束モードへと切り替えたビームバズーカを撃ち込む。ウィスタリアはそれをシールドで受け止める。が、その背後からダークハウンドのドッズランサーが打ち込まれる。

 思考すら挟まない動物的勘による連係。仕留めきれる獲物を前に、猟犬はより鋭く牙を食い込ませんとする。

 

『うぁっ・・・!』

「おらぁ!」

 

 さらにドッズランサーを振るいウィスタリアを吹き飛ばすが、それでもギリギリ致命傷とはならずに四枚のウイングのうち一枚を奪い取るに止まる。

 ウィスタリアの墜落が始まる。

 

「しぶてぇ!」

 

 トドメと言わんがばかりにランサーをマウントしたダークハウンドがビームサーベル二本を引き抜き急降下する。

 自由落下するウィスタリアと加速し接近するダークハウンド。二体の距離はどんどん縮まり、やがて、ゼロになろうとした。

 

「――ッ?」

 

 不意に。

 カイチの視界の端で何かがチカリと光ったような気がした。

 いや、気のせいなどではない。

 なぜなら視界の端で捉えた光は、

 

『でぇぇぇぇらぁ!』

 

 さながら大地から天へと駆け上がる流星の如く、ほんの数瞬で自らに迫ってきたのだから!

 蒼く輝く光の翼を震わせながら、その機体はダークハウンドの二本のサーベルを己が二本のサーベルで受け止めてみせる。バチバチとビームが干渉し合うスパークが巻き起こる。

 

「随ッ分ご機嫌な格好じゃねぇのぉ・・・ヤナミィ!」

『お前は常時テンションが鬱陶しいなアキヅキ!』

 

 鍔迫り合いを止め、ダークハウンドを弾き飛ばし、片方の光の翼を消しながらゲシュテルンガンダムが回し蹴りを叩き込む。片方の推進材が切れたことでゲシュテルンを中心に回転したことで回し蹴りの威力が上乗せされる。

 飛ばされたダークハウンドに向けてゲシュテルンがビームマシンガンを乱射する。

 

「させねぇ!」

 

 オラシオンが割り込みIフィールドを展開する。ビームマシンガンの弾が当たっては弾け飛ぶ。

 

『鬱陶しい!』

 

 ビームマシンガンの雨が止み次いでパルマフィオキーナの光球がビームバリアを襲う。ぶつかり合った瞬間フィールドがスパークと共に軋み、ビームバリアを発生させるシールドの中央部から煙が上がり爆発する。

 ビームバリアと共に光球が弾け飛んだ。

 

「あー、やっぱ流石にバスターライフル真正面から受け止めるのはムリがあったかぁ」

「必殺目くらまし!」

 

 カッ、とフラッシュアイが輝き視界を包む。 その瞬間を見逃さずに態勢を立て直したオラシオンがダークハウンドと共に離脱する。

 

「ナイスカイチぃ! しかしあんな隠し玉があったとはなぁ」

「おう、アレなんだよ聞いてねー」

『――オリニィ、ゴメンミスった』

 

 通信回線が開きオリハの顔が映る。その語調は少し早口気味だ。

 

「オリネェ結構焦ってる?」

『油断した。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて思いもしなかった・・・光を見てそっちに飛んでいったけど』

「あぁ、もうこっちまで来てるぜ」

 

 カメラをアップにするとウィスタリアを地上へと下ろしているゲシュテルンが見えた。既にあの青い光の翼は消えてそのシルエットがよく分かる。

 本体はインパルスのように色が変わってはいない。所々にクリアパーツがあしらわれた真っ赤な翼が目を引くがよく見れば武装ラックのようなものが伸びているのが見えた。

 そして後姿を見せていたためその背には巨大な剣が背負われていることに気付く。アロンダイトやエクスカリバーのようにも見えなくもないが明らかにそれらとは別物だ。

 

『ついでにアマネちゃんも逃がしちゃったからとりあえずそっちに合流しに行くから』

「オッケーだオリネェ。とりあえず、その間に倒しとく」

 

 ゲシュテルンが再び空へと舞い上がり、オラシオンとダークハウンドの目の前で止まる。

 通信回線を閉じ、オープンチャンネルでオリヤは口を開く。

 

「どっちかって言うとデスティニーインパルスだったのかそれ」

『デスティニーとインパルス、それぞれを学習し最適化したってコンセプトだよ』

「でも大丈夫かよヤナミ? 2対1だぜ?」

 

 カイチが自信満々に笑うが、ミコトもそれに応えるように笑い返した。

 

『今の俺ら相手にむしろ2人で足りるかね?』

「言ってくれんじゃん!」

「そこまで言われちゃ、カイチだけじゃなくて俺も燃えてくるっての!」

 

 オラシオンがフラッシュエッジを握りダークハウンドがビームサーベルを展開する。

 対してゲシュテルンガンダムも両手のパルマフィオキーナを輝かせた。

 

『そんじゃあ、行くぜ・・・!』

 

 獰猛な笑みをミコトは刻む。新たな翼を震わせるその喜びを隠しきれないといわんがばかりに。

 

『GO! ゲシュテルンガンダムフリューゲル!』

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「なんでこぉなるのぉっ!?」

「無効耐性じゃないなら、上から撃ち砕くだけってね」

「なんだよ、やっぱお前超熱いじゃん!!」

 

【Build.06:天駆ける流星Ⅲ ~流星蒼翼~】

 

「速さは要らない! 一撃で砕いてやるぞ、クラレント!!」




 長くなりまくり場面転換わりと多め。いやはや、勉強すべきことは数知れず、ですね。
 次回で一応この戦闘は終わりになります。さてどーなることやら。


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Build.06:天駆ける流星Ⅲ ~流星蒼翼~

死ぬほど遅くなった上にまた長くなりましたぁ!(土下座)
とりあえず遅れてた原因の病気の方は小手術とかして何とかなりそうな感じなので次回は早めに投稿できるように心がけます。はい。


 空を飛んでみたいだとか、虹を掴んでみたいだとか。そんな言葉を簡単に吐けるのは子供の特権だろう。

 大人になったら言えなくなるのはきっと、空など飛べず虹など掴めるハズがないという限界をはっきりと感じるから。

 それでも、ここが仮想の世界とはいえ。感じきった限界をこの世界にある重力ごと振り切って自在に空を飛ぶ。

 ミコトの全身をぞわぞわと泡立つような快感が駆け抜ける。

 

(やっぱ、たまんねぇ)

 

 飛行機乗りが空を飛ぶことに快楽を覚え、魅了されるという話を聞く。ヤナミ・ミコトもまた、この粒子の生み出した仮想の空に少なからず魅了されたファイターだった。

 

「ヤナミ、この辺でいいよ」

「ん、あー。了解」

 

 若干トリップしていた思考をトウジの声を聞きミコトは引き戻すと、そのままゆっくりと地上へとウィスタリアを降ろした。

 

「助かった」

「どーも。とりあえずセリザワがこっちに向かってるから合流してオリハの方を何とかしてくれ。上は何とか抑える」

「ずいぶん自信満々に見えるけど?」

「少しハイになってるかもな。・・・まぁ少なくとも、アレよりはまだ勝ち目があるし」

 

 これは偽らざる本音だ。ディザイア相手に唯一通用しそうなパルマフィオキーナでさえ致命傷を与えることができなかった以上ゲシュテルンでディザイアを倒すことはほぼ不可能だろう。

 

「そのシルエットがあっても?」

 

 翼を見ながらトウジがさらに言葉を紡ぐ。

 ゲシュテルの背に追加されたデスティニータイプのウイングユニット“EXシルエット・フリューゲル”。これを装備した“ゲシュテルンガンダムフリューゲル”は機動力と飛行能力に特化したフォース系統にソードの近接戦闘能力を組み込むことを目的としたシルエットだ。ついでに言えば機動力を安定供給するためにシルエットそのものにバッテリーが組み込まれているため今までのプロトタイプよりも全体的出力は上がっている。

 それでも結局は武装がビームに偏っている以上強烈なビーム耐性と、元より備わっているナノラミネートアーマーによる衝撃耐性を両立したディザイアに痛打を与えることはできないだろう。

 

「まぁダメージ叩き込める可能性も無いわけじゃないが、当てられる気がしねぇ」

「なるほどね。ってことは、飛べなくなったオレにはオリハさんの方を止めろってことね」

「頼んでも?」

「承った。何とか頑張ってみるよ」

「任せる。んじゃ、行ってくる」

 

 コンソールを操作しゲシュテルンが重力の束縛を振り切る。ふわりと浮き上がり、そのままオラシオンとダークハウンドの目の前で静止する。

 

『どっちかって言うとデスティニーインパルスだったのかそれ』

 

 何のつもりか、オープンチャンネルでオリヤが声をかけてきたのでミコトは肩をすくめて返す。

 

「デスティニーとインパルス、それぞれを学習し最適化したってコンセプトだよ」

『でも大丈夫かよヤナミ? 2対1だぜ?』

 

 自信満々にカイチが笑ってきた。何となくだが、それにミコトも笑みで返す。

 

「今の俺ら相手にむしろ2人で足りるかね?」

『言ってくれんじゃん!』

『そこまで言われちゃ、カイチだけじゃなくて俺も燃えてくるっての!』

 

 オラシオンがフラッシュエッジを握りダークハウンドがビームサーベルを展開する。

 対してゲシュテルンガンダムも両手のパルマフィオキーナを輝かせた。

 

「そんじゃあ、行くぜ・・・!」

 

 獰猛な笑みをミコトは刻む。新たな翼を震わせるその喜びを隠しきれないといわんがばかりに。

 

「GO! ゲシュテルンガンダムフリューゲル!」

 

 空気を揺るがしゲシュテルンが突っ込む。それと同時にダークハウンドとオラシオンも各々の獲物を振りかぶって突撃する。

 溜め込んだ粒子を解き放ち光球をオラシオンに向けて叩き込む。フラッシュエッジを振るい光球を叩き落とすがオラシオンは一時的にその足を止めた。

 その様を視界の端に捉えたミコトはオラシオンを一旦意識から排除し、迫るダークハウンドに対してシルエットによって追加されたリボルバーを引き抜き弾丸を撃ち込む。

 だが、そこは流石アキヅキ・カイチというべきか。

 

『おりゃぁ!』

「はっ!?」

 

 まるで不可視の床でもあるかのようにダークハウンドが“跳ねる”。そう表現するしかない勢いでダークハウンドがゲシュテルンの上を取る。

 ブースターによる急激な方向転換、アンカーを用いたワイヤーアクション、あるいはプラフスキー粒子の動きを読み切り本当に足場としたのか。真実は分からないが、少なくとも完全に一瞬死角に潜り込んだダークハウンドはサーベルを手の中で回転させ逆手に持つ。重力に合わせてブースターを吹かした猟犬は、己が牙を真下の獲物へ突き立てた。

 

『って、お?』

 

 しかしてその牙は突き刺さることなく機体ごとすり抜けた。

 残像だ。ダークハウンドが捉えたのは光の翼による高速移動とミラージュコロイドの併用により敵を幻惑する一瞬前のゲシュテルンの影。

 

『って、じゃあ本物は・・・』

「甘いんだよっ!」

 

 ダークハウンドの背後、光の翼を用いて前進したゲシュテルンは片翼のみ光の翼を使用することで180度の無茶苦茶なターンを決めて見せ、ビームサーベルをこちらも引き抜いていた。

 そのままサーベルを振るうのではなく勢いそのままに突き刺さんとするが勘だけでダークハウンドもサーベルを横薙ぎに振り抜く。果たして、その一閃はゲシュテルンのサーベルを捉え弾き飛ばした。

 

「デタラメにもほどがあんだろっ!」

『流石俺ェ!』

「鬱陶しい!」

『ぐぇふっ!?』

 

 左手に持ったままだったリボルバーをダークハウンドに向かって連射、数発の弾丸がダークハウンドを抉る。

 

『こっちも喰らえッ!』

 

 空気を裂く音と共に連結状態のフラッシュエッジが飛来する。それを対処しようとした瞬間に危険を報せるアラートが重なる。

 背に向かって元々キマリスが持つスラッシュディスクをファンネルへと改造したファンネル・ディスクが迫っていた。

 

「やる・・・! 逃げ場を潰す用に設置してたか!」

『カイチにかまけ過ぎたな! 数の不利があるのにタイマン重視し過ぎだ!』

「ご指導どうも!」

 

 言葉を放つと共に光の翼を先程よりも強く広げ、真下へ向かって全速力で飛ぶ。当然それをディスクは追う。

 

「こういうときの王道な対策は・・・」

『マジか!?』

「こうだろぉ!」

 

 地表に激突する寸前、V字を描くようにほとんど直角にゲシュテルンが再飛翔する。

 追撃していたファンネル・ディスクとフラッシュエッジは当然勢いそのままに地表に積もった雪の中に埋もれていった。

 

『マジかー・・・テンションごりアゲしてんなぁ』

『言ってる場合じゃねぇぜオリヤン! 同時攻撃だぁ!』

『おうよ! ガンガン行くぜ!』

「だったら俺も、いってみるか」

 

 リボルバーをラックへと戻しもう片方のハンドガンを抜く。それはゲシュテルンが今まで使っていたリボルバーよりも大型で、ドクロの装飾が刻まれている。

 

『豆鉄砲を切り替えたところで問題ねぇ!』

 

 ダークハウンドがバインダーを構えその身を弾丸から守るために隠す。先ほど弾丸を受けても大してダメージを受けなかった故のカイチの判断だ。

 

「豆鉄砲、ねぇ」

 

 一方のミコトはどことなくうんざりした表情でコントロールスフィアを細かく動かす。

 

「その方が嬉しいんだけどな」

 

 パルマフィオキーナを薄く両掌を覆うように展開し光の翼を姿勢制御のために大きく広げる。さらには片手で撃てるサイズではあるがハンドガンをしっかりと両手で構える。さながら気分はアロンダイトを白刃取りするストライクフリーダムだ。

 やりすぎと思われるかもしれないかもだが、これでもまだ足りない気が全然するのだから先入観というものはヒドイものだ。

 

「――いけっ!」

 

 トリガーを引く。

 ズドン、という轟音が遅れて響いてきた。

 

『・・・はっ?』

『はぁっ!?』

「・・・ハァ」

 

 それぞれ理解が追いつかないのカイチと驚愕が吹き荒れるオリヤ。そして予想通りの結果に嘆息するミコト。

 ハンドガンから放たれた弾丸は狙い違わずダークハウンドのバインダーを穿ち、貫通し腕を抉り取った。

 そう、文字通り腕が抉り取られた。命中した弾丸は途中で止まることなく貫通。貫通した箇所には大きな穴が開き、関節部が無くなった腕が重力に引かれて大地に向かって落ちていく。

 

『ううう腕がぁ!? っていうか何なんだよヤナミそのチート銃ー!?』

「自重ってヤツを知らない人には俺も困ってるよ!」

 

 カチカチと細かくコントロールスフィアを操作しゲシュテルンの状態をチェックしながらほとんど吐き捨てるように言う。

 ハンドガンを直接握っていた右腕が真っ赤に表示されている上に操作がうまくきかない。さらには反動が機体にある程度来ているのか全体的に動きが少し悪い。

 右腕の回復には少し時間がかかるだろうが全身に回る反動はすぐに回復するハズだ。とはいえ、このハンドガンはもう使えない。

 

(出力に多少余裕にあるフリューゲルで全力で備えてこれとか・・・まったくあの人は・・・)

『これならどーよ! ビームバリアバーッシュ!』

「ちぃっ!」

 

 シールドをより巨大なビームバリアが覆いそれを全身を捻って勢いを生み出したオラシオンが振り抜く。咄嗟にゲシュテルンはソリドゥス・フルゴールを展開した。

 ビームバリアどうしの鍔迫り合いという世にも奇妙な展開は、右腕がまともに動かないゲシュテルンが次第に押し込まれていく。

 

「くそっ!」

『そして抑え込んだところで!』

『真打が行くぜぇぇぇぇ!』

 

 オリヤの言葉に反応しカイチがダークハウンドを変形させる。

 

『ハイパァ・・・ブゥゥゥゥゥストォッ!』

 

 さながらスーパーロボットの必殺技のノリでカイチが叫び、ストライダーが突っ込んでくる。ドッズランサーを用いたスイカバーアタックにダークハウンド特有の超加速(ハイパーブースト)を重ねた突撃攻撃だ。

 

「やっべ・・・離脱できねぇっ」

『ハッハッハー! それが狙いさー!』

『オリヤンと俺の完璧な作戦さー!』

「さーさーうるせぇ!」

 

 馬鹿二人にツッコミを入れながらもコンソールの操作を続ける。だが回復は追いつかない。

 轟音と共に、機体が貫かれた。

 

『ぃよっしゃぁ! 大勝利ー・・・・・・って、おやぁ?』

 

 勝利を確信したカイチの言葉が不意に曇る。

 カメラが急に上を向いた後、グルグルと激しく回転しながら地面に迫っていく感覚が襲ってきたからだ。

 

『え、え・・・えー!?』

『赤いビームが飛んできた、ってことはぁ・・・』

「言ったでしょ、カイチ」

 

 カイチが叫ぶ中()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見てしまったオリヤが何が起こったかを察する。

 そしてそれらの声に続いて響いた声と共に地上の何も無い空間が蜃気楼のように歪んでいく。

 四つ目(クアッドアイ)を怪しく輝かせながら“魔弾の射手”GN-X・オリジンがその姿を現した。

 

「スナイプ避けれないあんたに負けることは無いって」

『せっかくの初陣なのにぃ!』

 

 バチリと一際大きなスパークが巻き起こった次の瞬間、ダークハウンドが爆散する。

 

『なんでこぉなるのぉっ!?』

 

 妙に芸人チックなカイチの断末魔が響いた。

 

「汚い花火ね・・・」

「某王子かお前、は!」

『どわぁっ!?』

 

 呆気に取られていたオリヤの隙を突いてミコトは腰にマウントしたままのビームサーベルを起動する。

 本来は抜刀しやすいようにビーム刃発振口が背中を向いてマウントすることの多いビームサーベルだがゲシュテルンは敢えて発振口を前面に向けて装備している。

 そのためビームシールドでの鍔迫り合いという両機が密着したこの状態でサーベル刃を発生させればオラシオンの腹部に向かって刃が伸び、そのまま突き刺さる。

 

「刺さった、ならあっちよりは耐性低めか!」

『自分でビーム使うからどうしても、な!』

 

 それでも軽いダメージでしか無いようだ。ビームバリアを切りオラシオンが離脱する。

 だが、離脱した瞬間にオラシオンのシールドが吹き飛ばされる。見えない狙撃、地上のアマネの正確無比な“魔弾”だ。

 

「今度はそっちが数の不利ってわけだ」

『なるほどねぇ。でもさ』

 

 不敵に笑うミコトに釣られるようにオリヤも笑む。

 

『俺達を侮るなよ?』

「はっ?」

『――オリニィ!』

「きゃっ」

 

 木々を薙ぎ倒して不意に現れたのは、トップスピードに乗ったガンダムキマリス・ディザイア。その左手に握るデストロイヤー・ランスを振るいGN-X・オリジンを吹き飛ばす。

 

「セリザワッ」

『ナイスタイミングオリネェ!』

『オリニィ、任せた』

 

 ディザイアの腕のシールドブースターが反転しそのまま点火。ディザイアの腕から飛び立った。

 オラシオンが腕を薙ぐとピッタリとその位置まで来ていたシールドブースターがそれまでシールドが装備されたジョイントに接続される。

 さらにはシールドブースター裏にマウントされていたバトルブレードを引き抜く。盾と長剣を装備したオラシオンはさながら中世の騎士を思わせる凛々しい姿を見せた。

 

『こっちはこのまま倒させてもらうから』

「セリザワ、生き残れるかっ!」

「1人では流石にムリ」

 

 完全にディザイアに張り付かれたオリジン。しかしゲシュテルンもまたオラシオンを目の前にしてオリジンの援護に向かうことなど到底できない。恐らくこの騎士に背を向ければ一瞬で撃墜されるだろうからだ。

 改めて思い知る。得意なエリアでそれぞれに追い込み、分断したところで各個撃破。これがこの双子の得意戦法なのだと。

 しかしこの得意戦法、1つ穴がある。それは――

 

「こっちへ!」

「キャッ!?」

 

 ディザイアが進んできた森の影に隠れていたのか、影から飛び出してきたウィスタリアがオリジンを引っ掴んでそのまま滑り込むようにして急な斜面に向かって消えていった。

 そう、この双子の得意戦法。実は数的不利が取られた時点でわりと簡単に戦線離脱を許してしまう等の問題がある。特にディザイアがタイマン系に武装を偏らせているため余計にそういった事態になりやすいのである。

 故に、それら一連の光景を目にしてもオリハは落ち着いたものであった。チラリとオラシオンを一瞥しただけで何も言わずにディザイアも斜面へと身を躍らせた。

 

『オッケーオリネェ、任せたぜ』

「アイコンタクトか・・・? そもそも通信もできないハズなのに、なんで来るのが分かったんだ?」

『生まれた時から一緒に居てガンプラバトルも一緒に始めた。俺とオリネェはニュータイプ的感応波でお互い何してるかなんとなく分かるのさ』

「オカルトはサイコフレームかバイオセンサー搭載機使ってる時にでも言っとけ」

 

 とはいえ、なんとなく分かるというのは本当だろう。

 そもそも生まれた時から一緒に居るということはそれだけ相手を理解する時間があるということ。その思考の傾向は無意識にでも分かるだろう。

 第7回世界大会で初めて三代目メイジン・カワグチを追い詰めたレナート兄弟やイオリ・セイのアブソーブ技術をコピーし三機合体により猛威を振るったチームSD-Rのように双子や三つ子のファイター達は華麗とも言えるコンビネーションを魅せる者が多い。

 だがオリヤとオリハはそれらの名を馳せたファイター達とは少し違う。共に駆けるのではなく天と地をそれぞれに駆け抜け勝利を勝ち取る。どちらもが兄で姉である特異な対等関係は“生まれた時からの相棒”とも言うべきものを形成しているのだろう。

 

(ったく。ムカツクけど、正直羨ましい)

『オリネェより先に終わらせるから、覚悟しろよ!』

 

 ミコトの思考を切り裂くようにオリヤの鋭い言葉と共にオラシオンが剣を振りかぶりながら突撃を始める。

 どこまでも突撃一筋の双子に対してミコトもまた覚悟を決める。

 ほんの少しだけ、自分でも気付かないくらい小さく唇を歪ませながら。

 

☆★☆

 

 雪の積もった急な山道に三つの大きな雪煙が舞う。それぞれスライディングの態勢で無理矢理滑り落ちているだけのオリジンとウィスタリア、そして唯一姿勢を安定させ攻撃のチャンスを狙う騎兵形態のディザイアだ。

 

「これ、どこに向かってるの?」

「ヤナミのビーコンのおかげで把握できたけど、僕ら側のスタート地点」

「って、最初の温泉エリア? そんな開けた場所で戦わなくても、得物が大きいんだから森林地帯で戦えば」

「残念だけど、それだとオレが足手纏いになる」

 

 悔しげに唇を噛みながらトウジはウィスタリアの背を見る。ダークハウンドの攻撃によりウイングを1枚失いダメージも限界ギリギリ。最早飛行することも叶わないのが現状だ。

 機動力が大きく奪われた都合、相手の動きを予想しやすい開けた場所での戦闘が不可欠となってしまった。

 

「一人で戦おうか?」

「嫌み?」

「当然」

「勘弁。そもそもパルマでようやくまともなダメージになるような全身ビーム耐性の塊に狙撃で勝てるの?」

「ストフリの金間接使ってるならいける」

「無理ってことね・・・」

『はい、お喋りお仕舞い』

 

 地面の角度が激しくなったタイミングを狙いディザイアが翔ぶ。六基のブースターを巧みに扱いさながら無重力のようにディザイアがコの字の軌跡を残しながらウィスタリア達に突っ込む。

 

「重力下だろ!?」

『どこぞのジ・Oにできて私にできない道理は無い』

「見てて悔しくなっちゃったかぁ・・・」

 

 接客をしたり勉強をたまに教えてもらうアマネにはいつぞやミコトとの戦いであの白いジ・Oの重力振り切りを見て真似てみたことが容易に想像ができた。カザマ・オリハはこと加速においてはかなりの負けず嫌いだから。

 ディザイアが激突したショックで表面の雪が大きく巻き上げられ、二機が吹き飛ばされる。

 ボチャリと、トウジの耳をスピーカーから流れた水音が叩いた。目的地であるスタート地点の温泉にウィスタリアの一部が浸かったのだ。

 

「――着いた! セリザワさん!」

「うーん、調子に乗り過ぎたかなぁ」

 

 声の方にカメラを向けてトウジは言葉を失う。

 オリジンの左半身が大きく抉れている。先程の攻撃を避けきれなかったようだ。左腕が丸々無くなっており落下した際にライフルが折れてしまったようだ。

 

「防御面をGNフィールドに任せすぎたかな。いやスナイプする分にはそれが最適解なんだけど」

『その最適解じゃ倒せない相手も居るってこと。・・・終わらせる』

 

 態勢を立て直したディザイアがブースターを起動させ一直線に突撃する。

 

「どうする? 緩衝材になるくらいならできると思うけど?」

「・・・いや、緩衝材になられるとむしろ不都合かな」

「へぇ?」

「ビームのダメージを受けないわけじゃないんだろ? だったら」

 

 ウィスタリアが軽いステップを踏みオリジンの前へと出るとマルチバスターライフルをディザイアに向ける。

 

「無効耐性じゃないなら、上から撃ち砕くだけってね」

『斬られたバスターライフルで? 悪いけど、ツインバスターライフルだってディザイアは受け止めるよ?』

「それはバスターライフルの話でしょう」

『えっ?』

 

 ガコン、と鈍い音を立てながらウィスタリアが背負っていたキャノン砲が射出され宙を舞う。

 

「これは、マルチバスターライフルだ」

 

 マルチバスターライフルを天に向けるその様はまるでファーストガンダムの最も有名なポーズとも言えるラストシューティングの構えのようにも見える。

 構えた姿勢のままキャノン砲がマルチバスターライフルに接続される。大型のキャノンとなったマルチバスターライフルをウィスタリアは両手で大きく構えた。

 

「マルチバスターライフル【MODE3:CANNON】!」

『サテライトキャノン!?』

「全エネルギーを纏めて撃ち出す砲身です。これは、耐えられますか?」

 

 サテライトキャノンのような形状をしたマルチバスターライフルだがマイクロウェーブを受信することも無く粒子が砲身に集中し、一瞬の時間差を置いて解き放つ。

 マルチバスターライフル内に溜め込まれたすべての粒子がガンダムキマリス・ディザイアに襲い掛かる。機体よりも遥かに巨大なビームの塊がヒマラヤの大地を削り取り、白銀の世界を夕暮れ時のような色へと塗り替える。

 

『・・・いけっ』

 

 対してディザイアは、止まることなくランスを構えたまま真正面から突っ込んだ。

 ランスがビームとぶつかり合い、ビームが真っ二つに裂けディザイアの背後へと着弾する。

 

「マジですかっ!?」

『マジ、だよっ!』

 

 ビーム耐性の塊とも言うべきディザイアはゆっくりと、しかし止まることなくビームを切り裂きながら突き進む。だがウィスタリアもまた全粒子を振り絞った全力全開の攻撃だ。

 進めば進むほどに砲口に近付くためその威力と熱量はどんどん上がり、次第にデストロイヤー・ランスや肩の大型ブースターが溶解を始める。

 

『こ、の・・・!』

「堕ち、てくださいよ!」

 

 ディザイアがビームに耐えきれず呑み込まれるのが先か、あるいはウィスタリアが限界を向かえ突破され貫かれるのが先か。最早二人のファイターの意地だけで競り合っている状況と言えた。

 

 ――そう、二人の――

 

 ドスリ

 

『へっ・・・?』

「えっ、何が・・・」

「アイバ君、キャノン切って。私まで蒸発しちゃう」

 

 外部スピーカー越しに聞こえた声に大慌てでマルチバスターライフルのトリガーを離す。ビームが途切れ、夕暮れ色に染まっていた世界が銀世界の色を再び取り戻す。

 そしてトウジは今度こそ目を大きく見張る。あの難攻不落としか言い様の無かったディザイアを、貫いた真っ赤に輝く腕が見えたからだ。

 ガショリ、と腕を引き抜くと支えを失ったディザイアが崩れ去り、腕の主であるGN-X・オリジンの姿が現れる。

 

『アマネちゃん・・・どうやって後ろに・・・?』

「飛んで上から。幸い飛行能力は残ってましたから」

『にしても、入り込む速度が速いよ?』

「裏技は最後まで残しとく主義なんです」

 

 ブン、と腕を振るうとオリジンの右腕にまとわり付いていた赤い粒子が霧散する。

 ディザイアを貫いた腕の正体はGN-Xに装備されながらも特に使われた描写の存在しない武装、GNクローだ。GNフィールドを纏うことで威力を引き上げるのだが、オリジンはGNフィールドに防御を任せている都合上この武装も威力が上がる。

 実はアマネが気に入っている武装だったりした。

 

「あの赤い粒子、トランザム・・・? GN-XⅠなのに?」

「さて、どうでしょうか?」

 

 クスクスとカメラ越しに微笑むアマネに、声をかけたトウジは背中に何故か冷たい何かが走り抜けたような気分になる。そしてつい思ってしまう。

 このセリザワ・アマネというファイター、スナイパーというよりむしろ・・・。

 

暗殺者(アサシン)、なんだな根本的に・・・)

『うぅ・・・悔しい・・・後は任せたオリニィ』

 

 とりとめのないことをトウジが考えているうちに限界を迎えたディザイアがオリハの台詞と共に爆発する。これで残るは、カザマ・オリヤのガンダムキマリス・オラシオンのみ。対してこちらは三機が健在。だが、

 

「セリザワさん、ヤナミの援護に行く余裕ある?」

「無いかな。さっきの裏技で実はほとんど動けなくなってる」

「だよね・・・ウィスタリアも限界。これ以上動けそうに無い」

「ということは、図らずともヤナミ君には一人で頑張ってもらわないといけないわけだー」

「・・・あの、セリザワさん。オレの感覚が正しければ、声が弾んでるように聞こえるんだけど・・・」

「タダより高いものは無いのよ」

「はい?」

「タダで飲んでガンプラして、なんてしてるヤナミ君にもたまにはガッツリ働いてもらわなきゃ、ね?」

「・・・・・・」

 

 何かを言いそうになったがトウジはぐっと言葉を押し止めた。自分まで巻き込まれるのはごめんだった。

 

「ヤナミ、意外とその契約、悪魔の契約だったかもよ・・・?」

 

☆★☆

 

「背筋がゾワゾワァ!?」

『うおぉぅっ?』

 

 雑に力いっぱい振り抜きバトルブレードを弾き飛ばす。ゲシュテルンとオラシオンの戦いは近接戦闘に切り替わっていた。

 

「なんだったんだ今の悪寒・・・終わったらさっさと帰るべきか・・・?」

『にしても硬すぎるだろその銃! なんで剣を弾き飛ばすかねぇ!』

「そりゃああの火力を耐えるためにはそんだけ硬い必要があるって」

『納得いかねー!』

「ドーカン」

 

 ゲシュテルンが手に持つのは変わらず大型のハンドガンだ。だがその使い方は発砲すれば腕が吹き飛びかねないためバトルブレードを銃身で弾くという無茶苦茶なものだった。

 だがそんな無茶苦茶な使い方でもハンドガンは折れることも切り裂かれることも無く、真正面からバトルブレードと打ち合うという不思議な状態に陥っていた。

 

『へへ、まぁ硬ければそんだけ斬りがいがあるってもんだ。ちょうど馴染んできたしな』

「あ? 馴染む?」

『見て驚きやがれ!』

 

 バトルブレードを両手で祈るような構えをした後今度はホームラン予告のようにブレードをゲシュテルンへと向ける。

 変化はその一連の流れの後に訪れた。甲高く澄み切った高音が響くと同時にバトルブレードの刀身が根元から暗い朱色に染まったのだ。

 再びバトルブレードを両手で握り身体を捩りながらオラシオンが突撃する。対してミコトはそれまでと一変した雰囲気を感じ取り咄嗟に収納していたリボルバーを放り投げ、光の翼を展開してその場を離脱する。

 一瞬遅れてオラシオンが勢いそのままに振り抜いたバトルブレードは残されたゲシュテルンの残像とリボルバーを捉え、斬り裂いた。一切の停滞は無く、さながら熱したナイフに触れたバターのようにそこそこの強度を持っていたハズのリボルバーは真っ二つとなった。

 

「ちょっと待てぇ!?」

『どうよぉ! これが振動剣、単分子ブレードってヤツよぉ!』

「微妙に違うからなその二種!」

 

 ミコトが焦ったように叫べば得意げにオリヤが胸を張る。

 単分子ブレード。単分子ほどの薄さの刀身を持つ理論上最も鋭い切れ味を誇る剣。だがベースにバトルブレードを用いているためか刀身はそれほど薄いわけではない。故に単分子ブレードとオリヤは呼んでいるが実際は先に呼んだ振動剣の方が呼称として正しいのだろう。

 振動剣とは刀身を超高速で振動をさせることで触れたものを削り取る剣だ。場合によっては熱を用いて溶断する場合もあるがガンダムにおいてはアーマーシュナイダーやフォールディングレイザー、ソニックブレイドのような振動により強力な斬撃を用いることが多い武装。恐らくはオラシオンのブレードも同じだろう。

 

『単分子ブレードの方が響きはカッコイイだろう!?』

「そんな理由かよ!!」

 

 思わずツッコミを入れてしまったがあの切れ味はヤバイ。先ほどまでと違ってハンドガンで受け止めるのは厳しいだろう。

 となれば、対抗しうる武器は1つしか無い。再び単分子ブレードを構えて斬り裂かんと迫ってきているのをカメラ越しに見てミコトは武器スロットの今まで触れていなかったスロットを選択する。

 ガコンと、背中の大剣のロックが外れ重力に従い回転しながら落下する。

 半回転した所で柄が延び、それを握ったゲシュテルンは肩アーマーのスラスターを併用し力任せに振り回した。単分子ブレードとぶつかり合った大剣は一瞬の停滞も許さず単分子ブレードを弾き飛ばした。

 

『ウッソだろおい!?』

「Vガン要素は無いぞ?」

『そんなボケは要らねぇ!? 単分子ブレードで斬れないとかお前の追加武器さっきから何なんだよ!?』

「古代遺跡から出土したアーティファクトってことでよろしく頼む、わ!」

 

 柄を両手で握り直すとゲシュテルンは勢いそのままに一回転し振り下ろすような形で単分子ブレードを弾かれて態勢を大きく崩したオラシオンを大剣で捉える。

 ゴリ、と鈍い音を鳴らした直後オラシオンは凄まじい速度で落下、ヒマラヤの表面に叩き付けられた。

 

「ふぅ・・・少しは使えてるか? クラレント」

 

 クラレントの銘で呼ばれた剣はまるで応えるように翠のクリアパーツに陽光を反射する。

 途端、白銀の世界が黄昏へと染まった。

 

「なんだっ!?」

『隙ありぃ!』

 

 雪を吹き飛ばしながらオラシオンが高速で突っ込んでくる。咄嗟に反応が遅れたゲシュテルンの右肩のアーマーを単分子ブレードが斬り飛ばす。

 

「なんつー反応速度してやがるっ」

 

 悪態と共にクラレントをさらに振り回すがオラシオンはそれを両手で握り直した単分子ブレードで受け止め、そのまま受け流してみせる。

 

『動きが流石に重たすぎるぜ!』

「そっちこそ、動きが鈍くなってるな。さっきのダメージが思ってたよりデカかったんだろ?」

 

 お互いの振るう剣は共に必殺。しかし現状を見るならクラレントを受け流してみせたオラシオンの方が有利だろう。

 どうしても重たい大剣という武器の都合上振れる角度等も決まりがちだが、それを重さで補い撃ち砕くのが大剣という武器の性質だ。なのにオラシオンはその重量を的確なテクニックだけで受け流してしまうのだから、ある意味お手上げ状態だ。

 

(長引いたらこっちが不利。だったら、ダメージがまだ抜けきってないここで叩くしかねぇか!)

 

 スロットを呼び出しカーソルを“EX”へと合わせる。一拍の間を置いて、ミコトはスロットに内包されたシステムを解放する。

 

「【System・EX】! 行くぜ、ゲシュテルンガンダムフリューゲル!」

 

 ゲシュテルンガンダムに青い輝きが宿り蒼銀に輝く光の翼を広げる。クラレントを肩に担ぐような姿勢になるとオラシオンをにらみつける。

 オラシオンもまた、その視線に不敵に応える。

 

『真正面からのぶつかり合いってこったな。いいぜ、応じてやる』

「全力ってヤツだ。・・・叩き潰す」

『ハハッ! いいねいいねぇ! なんだよ、やっぱお前超熱いじゃん!!』

「今のやり取りでなんでそーなんだよ」

『決まってるだろ! 真正面からぶつかり合いたい、小細工も全部駆使して全力で叩き潰しにくるから俺にもそうしろって言ってんだろ! それを熱い以外にどう言えってんだよ!』

「・・・勝手に言っとけ」

 

 オラシオンもまた、全力で剣を振るうべく単分子ブレードを振りかぶり、シールドブースターを点火する。

 静寂。お互いに、最速で目の前の敵を打ち倒す一瞬を狙っている。

 そんな中でオリヤは青い輝きを放つゲシュテルンガンダムの現象について当たりを付ける。以前、白いジ・Oとの戦いでそれを見ていたオリヤには何となく正体が察せていた。

 

 ――あの時は蹴飛ばされて大きなダメージを喰らってた。その分火力とスピードが跳ね上がってたところを見ると、防御力を犠牲にした能力アップってトコだろ?――

 

 ならばあの状態になった時点でオラシオンの攻撃が確実に一撃必殺になる。

 オリヤは自身の勝利のルートを幾つか考え、その中の1つを絞り込む。

 不意に、視界の色が黄昏色から白銀へと戻る。それは1つの戦場での戦いが終わった証なのだが2人には分からない。

 睨み合っていた2機が世界の色が変わったことをトリガーにして弾かれたように飛び出し合った。そのタイミングは完全に同じ。

 

『予想通・・・りっ!?』

 

 オリヤの声が裏返る。オリヤはそれまでの幾度もの激突を経てゲシュテルンのスピードをだいたい把握していた。

 それ以上に早く鋭い激突を予測していたのだが、実際には。

 

『遅ぇ!?』

「速さは要らない! 一撃で砕いてやるぞ、クラレント!!」

 

 そう、遅いのだ。【System・EX】を起動するより前に比べても、全然遅い。光の翼を展開していることでようやくまともなスピードになっている程度だ。

 予想よりもずっと遅いためにタイミングが完全にズレたオラシオンはタイミングを取り戻すためにファンネル・ディスクを射出するが、ゲシュテルンはまるで意に介さずそのまま突き進む。明らかに防御力が上がっていた。

 

『ま、待てっ!? それって防御を犠牲に速くなって火力上がるんじゃねぇの!?』

「勝手に決めつけてんじゃねぇよ・・・!」

 

 止まることなく突き進んだゲシュテルンガンダムはそのままオラシオンへと肉薄する。大きくその身体を捩り込み、竜巻でも起こす勢いでクラレントを振り抜いた。

 一瞬遅れてオラシオンも単分子ブレードを振り抜く。2本の剣がぶつかり合い火花が激しく散る。

 打ち勝ったのは、剣の中の王者とも呼ばれし輝剣――ゲシュテルンガンダムフリューゲルが振るうクラレントだった。

 単分子ブレードがちょうど真ん中の腹の部分から砕け散り刃と刀身を覆っていた朱色の輝きがガラスのように陽光を反射して舞い散った。

 

『マジで?』

「墜、ちろぉ!」

 

 勢いそのままにクラレントが振り抜かれた。その剣筋の先にあったオラシオンを巻き込みつつ。

 オラシオンの胴体が、破砕された。

 

 

 

“BATTLE END!”

 

 

 

☆★☆

 

 

 

『完璧な威力やね・・・自分の才能が恐いわぁ』

「馬鹿言ってないで、セーフティロックかけるんで調整用のパスワードさっさと寄越してください」

 

 これ以上無く鬱陶しそうにミコトはパソコンから放たれた声に要求する。

 バトル終了直後、ミコトはガンプラカフェのすぐ外でネット通話を行っていた。相手側にはこちらの顔を見せろと強要されているため仕方なくノートパソコン備え付けのカメラで映像を流しているがミコトの通話相手は海賊旗のようなドクロの下に2丁の銃がバツを作っているアイコンのままだ。

 

『えぇー』

「何がえぇー、ですか! 撃つだけでこっちが撃墜判定貰いかけるハンドガンなんて聞いたことないですよ!」

『いやん、怒らんといてー』

「怒られたくないならさっさとパスワードをですね」

『おねえちゃん』

「は?」

『その気持ち悪ーい標準語止めておねえちゃんって呼び。そしたら教えたらんでもないで』

 

はぁ、とため息と共にミコトは頭を抱える。この必要以上にふざけているように聞こえるこの人物は、本気全開の発言なのが死ぬほど質が悪い。

 

「・・・姐さん」

『んー、まぁ固いけど良しとしたろう』

「頼むから勘弁してください。俺かてあんま得意やないし、そもそもあなたを姉なんて呼べるわけないでしょう?」

『実際ほとんどおねえちゃんやーん』

「・・・ふざけてでも言えませんよ。そんなん」

『責任感強すぎるンも考えモンやなぁ・・・』

 

 やれやれといった感じに肩をすくめる気配がパソコンの画面越しに伝わってくる。

 固いと言われようがきっと変わることはない。だってそれは、ヤナミ・ミコトの根幹の一部なのだから。

 

『ま、パスワードは送っといたる。今回のデータもあればある程度調整用のパーツも作って送ったるよ』

「今更ですけど銃匠(ガンスミス)がそんなポンポンと1人のファイターに提供して大丈夫なんスか・・・」

『おねえちゃんとオトート君の仲やないのぉー』

「一切そんな仲は無いんで」

『えー。・・・おっ、剣匠(ソードスミス)の剣もえぇ感じに使えるようになっとるやん』

 

 どうも今送ったさっきまでのバトルのムービーを現在進行形で見ているらしい。ちょくちょく感想が挟まっていくため話の腰が折れまくる。

 こうなってしまうとまともに話を聞かないだろう。というかほっといたら変な愚痴の相手にされかねない。

 

「切りますよ。外でパソコン開いてるのわりと重くてしんどいんで」

『んー、しゃあないなぁ。次のバトルも経過報告よろしくなー』

「はいはい、っと」

 

 軽く操作を行い通話を切りノートパソコンを閉じる。そのままさっさと帰路へと付かんとする。

 不意に目の前の扉が開いてその帰路を邪魔されたのだが。

 

「おう、ミコト」

「凄まじく馴れ馴れしいなっ」

「全力で戦ったのなら、もうマブダチ」

 

 グッとサムズアップするオリハとこれ以上なく笑顔を浮かべ同じくサムズアップするオリヤ。先ほどまで激戦を繰り広げたカザマ双子である。

 やはりというか、なんとなく暑苦しい。

 

「アァァァァァ!!!!」

 

 扉の向こうから何か聞こえてきたので全力で扉を閉めた。声はなんとなくアキヅキ・カイチのもののような気がしたが気にしてはいけない。気にして巻き込まれるのはただただ馬鹿なのだ。

 

「いやぁ、久しぶりにガッツリバトルできて楽しかったぜー。ありがとなー」

「いや、礼を言われるようなことなんてしてねーよ。こっちもいいデータが取れたし、そもそも勝ったのは俺らだぜ? 爽やかすぎやしねぇか?」

「オリニィは常に馬鹿みたいに全力で戦うから、勝ち負け関係無く自分がスッキリすればそれでいいって考えなの。馬鹿だから」

「オリネェだって同じだろう!?」

「揃いも揃ってあんたら双子は・・・」

 

 ため息を吐きながらもどことなく楽し気にミコトも応える。正直に言えば、ついつい熱くなったバトルの後だ。それを繰り広げた相手との会話は楽しいというところはあった。

 少しバトルを回想してふと持ちあがった疑問をミコトはオリヤに投げ掛ける。

 

「何で最後真っ向からぶつかってきたんだ? 別に応じる必要性はまるで無かったしむしろ少し距離取った方がそっちが有利になったろ?」

 

 それは最後のぶつかり合い。ゲシュテルンとオラシオンの剣撃対決。真正面からのぶつかり合いを望んだのはミコトでありオリヤが応じる必要は一切無かった。むしろ、あの段階で機動性に勝るオラシオンが機動戦を仕掛けていればゲシュテルンが打ち勝つのは厳しかっただろう。

 それは当然、歴戦のファイターであるオリヤも承知のハズだ。

 だがオリヤは、ミコトの予想だにもしないことをきょとんとした表情のまま言い放った。

 

「何でって、それが一番楽しいだろ?」

「ハァ?」

「お互い全力を出しきって戦うのってさ、結構難しいじゃん? 自分が全力を出せば相手が全力を出してくれるわけじゃない」

「毎回毎回全力を出せば相手も応えてくれるわけがない。それをやれるのは・・・それこそ、メイジンくらいじゃないかな」

 

 何かを思い出すようにオリハもオリヤの言葉に続く。

 

「残念だけど、私にもオリニィにもそんな技量は無いけどね」

「だけどさ、お前は全力で俺を真正面から倒そうとしてきてくれたじゃん。それが楽しくなっちまってさ! だったら俺も当然今出せる全力で真正面からぶつかってやらぁ! って気持ちに満ち溢れたってわけだ!」

「私はラストがラストだけだっただけにちょっと消化不良だけど・・・まぁオリニィはこの通り馬鹿だから全力出し合ったからスッキリしちゃってるの。オリニィの理論だから真面目に考えるだけ無駄だと思うよ」

「オリネェ何か消化不良だからって毒強くなってない?」

「なってない・・・とは言わない」

「オリネェ・・・」

「・・・くっ、くくっ」

 

 双子のいつも通りのやり取りなのだろう。慣れたように会話し合う2人を見ているうちにミコトは腹の底からこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。それでも漏れ出た笑いは何というか、低い笑い声なのだが。

 

「若干キモイなその笑い方」

「悪かったな。・・・ま、アレだ。俺も・・・楽しかった」

 

 笑い声を抑えてオリヤとオリハを見る。2人も笑んでいた。

 

「また遊ぼうぜ」

「おう、次は負けねぇからよ!」

「私は実質ミコト君には負けてないけど、また相手してあげる。・・・ちょっと生意気な年下だし、次勝ったらお姉さん呼びを強要してみようかな」

「ここでもそれは勘弁願いてぇわぁ」

 

 笑い声が反響する。

 ここはガンプラカフェ。ガンプラ好きがふらりと立ち寄り、ガンプラを通じて新たな繋がりを作る場所。

 

「イヤァァァァァ!? 店長もアマネも許してェェェェ!!?」

 

 たまにある者にとっては地獄と化すこともあるが、それはまた、別のお話。

 

☆★☆

 

 

「ただいま」

 

 一足早く帰宅したアイバ・トウジはリビングのミニボードに書かれた文字を見る。

 どうも母は用事で遅くなるらしい。夕食は冷蔵庫に入っているので自分の好きなタイミングを選べるのは正直ありがたかった。

 足早に自室に入るとすぐに専用のケースから愛機であるガンダムウィスタリアを取り出す。今日のバトルは激しかった。いくら設定されていたダメージレベルがCとはいえ、調整はやっておいて損は無い。それがきっと、強くなるためには必要だから。

 

「・・・・・・」

 

 ふと目線をベッドの上へと向ける。吊るされたコルクボードにはたくさんの写真が同じくコルクのピンで貼り付けられていた。

 目を引くのは、中央の写真。それは少しだけ今のトウジより幼いトウジと、もう1人が写る写真だ。

 写真の中のトウジはウイングガンダムを。

 もう1人の人物はガンダムXを持っている。

 2人とも輝かんばかりの笑顔だ。

 

「・・・強くなるんだ」

 

 ギリ、とトウジは歯を強めに噛み締める。

 

「そのために、藤の花(ウィスタリア)は咲いたんだから」

 

 アイバ・トウジ。彼が自分のガンプラバトルに求めるものは。

 強さ。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「ガンプラから離れてリラックスする日も必要ってこったなぁ」

「お願いしますUFOキャッチャーさーん! 後生、後生ですからぁ!!」

「カイチなら潰れたけどさらに使い潰してる最中だけど?」

 

【Build.07:ヤナミ・ミコトの華麗でも何でもないとある1日】

 

「チームを組もう。チーム名は――」



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Build.07:ヤナミ・ミコトの華麗でも何でもないとある1日

※今回ガンプラバトルはありませんご注意を。
また『Build.05:天駆ける流星Ⅱ ~双騎乱舞~』において鉄血機体のビーム耐性云々の記述を一部変更してありますご了承ください。


 あぁ、眠い。

 ヤナミ・ミコト。普段はガンプラカフェに通ってみたりするような少年だが彼も言ってしまえばただの少年。

 当然、学校に行かねばならない。なんだったら転校してきた都合もあって便宜もあるとはいえ出席日数には他の生徒よりも気を使った方がいいくらいだ。

 とはいえ季節は春から夏へと移り変わる暖かな日である。そりゃあもう眠気はひどいもので耐えられる方がおかしいというものではなかろうか?

 

「うどんは小ね」

「はいよ、580円ね」

 

 まぁそんな眠い目をこすりながらもやらねばならないことがある。すなわち、昼食の確保である。

 今日は月に一度の学食名物“カツカレーうどん定食”。カツとカレーうどんとご飯、さらに30円付け足せば味噌汁とたくあんがセットになるサービス付きだ。ちなみにご飯はお代わり自由。

 そのボリュームと学食特有のリーズナブルな価格、ついでに月一というレアリティは学生達による争奪戦が行われておりその日はかなり食堂が混むものだ。

 しかしミコトは椅子を引いてゆっくりと座る。注文を受けてからカツを揚げるため呼び出しベルを渡されているのだが特にまだ混雑はしていない。

 これには実は理由がある。

 

「サボりは良くないぜー転校生クン?」

「変な言いがかりは止めろよネノハラ。休み時間に寝てたら移動教室の場所が分からなくなってそのまま適当な場所で時間潰してただけだっての」

「やっぱサボりじゃねーか」

 

 笑いをかみ殺せないと言った表情でミコトの前に座った少年をミコトは面倒くさそうに一瞥する。それでも彼の同席を拒絶することは無かった。

 ネノハラと呼ばれたこの少年はミコトが転校してきてからひたすら構い倒してきた相手だ。あまり他人の顔と名前を一致して覚えることが苦手なミコトだが流石に毎日構ってこられればイヤでも覚えるというもの。

 

「ったく、アキヅキといい、どうしてこういうのが寄ってくるかねぇ」

「んん?」

「なんでもねーよ。そーいやお前ゲーセンって詳しかったっけ」

「お、何一緒に撃ちに行く!?」

「急にテンション上げ過ぎだろ」

 

 面倒くさげに頬杖を突くミコトに目を輝かせて身を乗り出すネノハラ。詳細はよくわからないがどうにも賞金の出るガンシューティングゲームにハマっているらしく、そもそも初めて話しかけてきた時から既に「二つのガンコンを組み合わせるのが~」とか言ってた記憶がある。

 

「まぁ俺は今日は遠征の予定だしなぁ。一緒には無理か。でもなんで急に?」

「・・・いろいろ理由があるんだよ。んで、何か無いのかよ」

「んー、そうだなぁ・・・」

 

 明らかに話題を逸らしたがネノハラは気にせず頭をひねるのを見てミコトは少しだけ息を吐く。

 普段のミコトは放課後をガンプラカフェで過ごすのだがここ最近飲み物飲んで持ち込んだガンプラを弄るだけであまりにも財布を開かない日々を過ごしていたのだ。すると笑顔を浮かべたのはアマネであり、

 

『そんなに暇ならお給料出すからバイト、する?』

 

 などとのたまってきたのだ。その場は濁して逃げ出したのだが、裏で変なうめき声をあげながら酷使されているカイチを見てしまっているのだ。

 絶対にあそこで、アマネの下で働いてはいけない。文字通りの下僕になり下がる。その確信からしばらく放課後のカフェ率を下げるために新しい遊び場を探していたのだった。

 

「・・・理由がダサすぎるだろ・・・」

「さっきから独り言多いけど疲れてんのかー? ところでここなんてどーよ」

 

 ネノハラがタブレットを差し出したのでミコトが受け取る。表示された画面上には【ゲームセンター・ウォッチ】の文字がある。

 場所も学校の近くらしい。ここなら放課後にすぐ行けるだろう。

 

「最近できたばっかのゲーセンで俺の遊ぶゲームが置いてないから行ってなかったんだよ。ついでにどんなのがあるか調べといてくれよ」

「あいよ。それくらいなら構わねーよ・・・お」

 

 テーブルの上に置かれたアラームが鳴る。どうやらお目当てのカツカレーうどん定食が完成したらしい。

 カラッと揚げたての衣はきつね色。付け合わせの千切りキャベツが色を引き立てる。これに加えて真っ白な白米がホカホカと湯気が上がっている。

 ここまでなら普通のカツ定食なのだがその横には丼いっぱいに注がれたカレーの海に溺れるうどん。明らかに浮いている。あるいはカツたちが浮いている。

 

「きたきたー。やっぱりガッツリ食うならこれよこれ!」

「正直、転校してきて食った時は衝撃だったよな」

「ヤナミ無理して食べて昼ダウンしてたよなー」

「うるせぇだから今回小うどんにしてんだろ。うどんだけ食い切った後にカツとライス投入するのが旨いし」

「あ? カツ On The ライスにキャベツを乗せて上からソースかけた状態でオカズにカレーうどんが正解だろ」

「よろしい戦争だ」

 

 ――カツカレーうどん定食。それは食べる者によって食べ方を変える魔の定食。

 カレーうどんを食べつつカツでご飯を食べる者。あるいはカレーにカツを投入してふやけさせて食べる者。その食べ方は人それぞれであり、食事を共にする者どうしがそれぞれに最も旨いと信じる食べ方をし、そして最上を求め議論を、時折力を込めて交わす。

 カツカレーうどん定食。それは人の友情と成長を破壊し再生させより高みへと押し上げる――可能性もある謎の食べ物。

 ちなみにカロリーは気にしてはいけない。気にするとこれまた戦いを誘発するからだ。

 

 

☆★☆

 

 

 時間は流れて放課後。ミコトは最近少しブレーキが効きにくくなってきた自転車を駐輪場に止め、目的地を見上げる。

 ゲームセンターと聞いていたがそこそこ大きい。よく見れば看板があり1つの建物内にどうやら家電量販店と映画館、それにちょっとした書店とレストランも入っているらしい。

 

「娯楽施設の塊ってわけな」

 

 思わず口に出したところで案内板を見直す。3階建ての建物は1階が家電量販店、3階に幾つもの飲食店と映画館が占めており、目的地であるゲーセンは映画館と半分ずつ2階のスペースを取り合っているらしい。

 

「・・・こんだけデカイならレアなガンプラも・・・」

 

 一瞬いつも通りの放課後の過ごし方を考えてしまったがすぐに頭を振ってその考えを振り払う。

 新たなEXシルエット作成のために今日はガンプラ封印して脳内リフレッシュ、という決意をミコトは改めて固めると若干後ろ髪を引かれながら家電量販店の前のエスカレーターを利用した。

 エスカレーターを降りると目の前に自動ドアがあり近付いたことを関知したセンサーが扉を開ける。途端にゲーセン特有の複数のゲームが吐き出している雑多な音の波がミコトを襲う。

 しばらくこの手の施設に足を運んでいなかったミコトは心踊る衝動をとりあえず抑え込みながらプレイするゲームを見繕うべく店内へと足を踏み入れ――。

 

「お願いしますUFOキャッチャーさーん! 後生、後生ですからぁ!!」

 

 明らかに厄介事だと分かるイベントに遭遇し、足を止めてしまった。余談だがこういうところがセリザワ・アマネがヤナミ・ミコトの人物評を「お人好し」から変更しない理由である。

 

「あ、あぁぁぁ・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 店内に入ってすぐの位置に設置されたクレーンゲームの前に立つ少女が分かりやすく落ち込み項垂れる。その際にピョコリと後頭部に纏められた栗色のポニーテールも追随したため妙に可愛らしい仕草に見えてしまう。

 白地に金と黒で装飾された袖口やスカートなどのブレザーの制服は彼女が学生であることを雄弁に語っているが引っ越してきたばかりのミコトには少なくとも自分の通う学校のものではない、くらいのことしか分からなかった。

 

「もう一回、もう一回やれば取れる気がする!」

 

 動け、何故動かんヤナミ・ミコトォ!

 脳内でミコトがスイカバーされそうになっている中少女は自分を鼓舞しコイン投入口の横に積まれた100円玉の塔の頂点を投入しクレーンアームを動かす。

 彼女が狙っているのはどうやらキャラクター系の柔らかクッションらしい。座っても良し抱いても良しパソコン等をするときの肘起きにしても良しの良品である。鉄棒に引っかけられたリングに紐で繋がれた形式になっておりリングを落とせば商品ゲットだ。

 少女は身体をガシガシ動かしては色々な角度から見て精密にアームを操作する。そして狙いを定めたところでアームを降下させた。リングをアームで押し出す作戦のようだ。

 

「―――あぁっ!?」

 

 カスって少し動いた。だがそれだけ。恐らくあの反応からして何度も繰り返しているのだろう。

 故に、惜しい。

 

「・・・・・・はぁ」

 

 ガラスに張り付きながら少女が横側から覗こうと台を離れた瞬間にポケットから1クレジットを投入した。

 

「あっ!?」

 

 横から声がしたが放置。軽くアームを動かしていき真上より少し手前の位置に固定。アームを降ろす。

 やがてアームは最下層で止まり、ゆっくりと広げたアームを閉じるとリングを挟み込み上へと持ち上げる。

 しかしこれはリング。上に引っ張っても下の部分が引っ掛かり、アームの力では耐えきれずにリングを離す。

 

「――あっ」

 

 アームから離れたリングが勢いそのままに鉄棒に当たり、跳ねた。それが最後の一押しとなりクッションが取り出し口へと落ちる。

 拾い上げてみれば一目瞭然で、リング側に少し出っ張りが付いている。動かすのは少しずつアームで押し込む必要はあるが最後は引っ張りあげないと出っ張りがストッパーとなり落ちないのだ。とはいえ、持ち上げて落ちるかと言えばそこはほとんど運ゲーなのがやらしいところである。

 

「あ、あぁ・・・」

 

 やたら絶望に染まった声が聞こえた。面倒臭げに声の方を向けば先程までクレーンを操っていた少女が絶望と涙に歪んだ表情をこちらに向けていた。

 綺麗というよりは可愛らしい雰囲気をした少女はピョコピョコ動くポニーテールと合わせてどことなく年下に見える。だが目を引くのは左目を被う医療用の眼帯だ。恐らくアレのせいで距離感を掴みきれなかったのだろう。それでも当てられたのは慣れているからなのだろうか?

 とりあえずミコトはほっといて逃げようかと考えるがまず間違いなく泣く、泣かれる。こんな場面で野郎に味方するヤツはまず居ない。

 となれば、選択肢は1つだった。

 

「やる」

 

 クッションを放り投げた。

 

「へ、あ、ちょ!? わっ、わぁー!?」

 

 わたわたと慌てるようにしてガラスから手を離した少女はクッションを抱き止めるが何故かそのまま前に向かって倒れる。

 危うく地面にぶつかる直前、ピタリと止まった。恐る恐る少女が目を開くタイミングで首根っこ摘まんだミコトが少女を立ち上がらせる。

 やたらと軽かったため勢いが付きすぎてミコトの目線まで持ち上げてしまったのはミコトの大きな誤算だったのだが。

 

「あ、ありがとうございます」

「・・・気にすんな。倒れたところを一頻り笑ってから去るかとても悩んだがしなかっただけだ」

「鬼ですか悪魔ですかデビルオーガですかアナタは!?」

「よし離すぞ」

「ははは離す前に杖取ってくださいー!?」

「あぁ?」

 

 バタバタと腕を振った方向を見ればゲーム台に立て掛けるように杖が置いてある。よく見る松葉杖ではなく肘を固定するカフと握るためのグリップが備え付けられた杖だ。

 ミコトは知らないがこの杖は主にリハビリ用に使われるロフスタンドクランチと呼ばれる杖であり、足を過剰に庇わないように足の衰えた筋肉や骨を鍛え直すために使われることが主な杖である。それは彼女がある程度回復した怪我人であることを表していた。

 とにかくミコトは首根っこを掴んだまま杖の近くまで運ぶ。杖を掴んだ彼女はそのままゆっくりと地面に足を下ろした。下ろした際に痛みに顔を歪ませたがすぐにその表情を引っ込める。

 

「あ、改めてありがとうございます。そしてクッションはいただきます」

「おう、俺は要らんから気にすんな」

「お名前は!」

「は?」

「ここまでお世話になったので聞いておこうかと!」

 

 じーっとまっすぐ見つめられる。いたたまれなくなり目線を逸らしたら目線に入り込んで来る。杖を突いてるクセに妙に動きが素早い。

 

「・・・ヤナミ・ミコト・・・」

 

 根負けしたミコトが目を逸らしながら呟くと少女の笑顔がパッと明るくなる。ミコトには妙にその笑顔がまぶしく感じられた。

 

「ミコト君・・・よし、覚えた」

「いきなりファーストネームかよ」

「言いやすい方を選んだから」

 

 笑顔はそのままに、彼女は自分の胸に手を当てながら言葉をさらに紡いだ。

 

「コトバネ・アイカです! よろしく、ミコト君」

「はぁ・・・・・・待て、ちょっと待てよろしくって何だおい」

 

 こうして、ヤナミ・ミコトの一人で満喫する予定だった優雅な一日は見事に崩れ去り、優雅でもなんでもない一日が改めてリスタートするのであった。

 

 

☆★☆

 

 

「あれカイチはー?」

「アマネちゃん一人?」

「あらカザマさんズ、いらっしゃい。カイチなら潰れたけどさらに使い潰してる最中だけど?」

 

 厨房にアマネが視線を送るとまるで地獄の亡者が重労働をさせられているかのような音が流れ出していたがオリヤとオリハはそれに触れないことを即座に決意した。

 

「カイチはともかく店長はどうしたのさ。アマネちゃんがサボらせるわけないだろ?」

「休憩時間はちゃんとありからますからね? まぁ今はお客さん対応中です」

「お客さん?」

「サクタさん」

「ダグザさんが個別の話?」

 

 サクタさん。いかつめの容姿と鋭い眼光に加えて実際に柔道何かの有段者らしくその見た目と強さから常連達から“ガンダムUC”のダグザ・マックールに似ているからと親しみを込めて『ダグザさん』と呼ばれているカフェ常連の一人。

 アマネも彼の友人という人から紅茶の入れ方を教わってみたりサクタさんから護身術を習ってみたりしたことがある。店長とも友人関係を築いているようだ。

 

「何かまたイベントでもやんのかな」

「前のガンプラ動物園カフェ祭りは楽しかったな・・・」

「また何か企んでるのは間違いないっぽいけど、それとは別に今回なーんか視線向けてきたんですよね・・・」

 

 アマネは今朝の店長の様子を思い返して嘆息する。やたらとニヤニヤしていたその表情は若干イラッとしたものだ。

 とはいえあの表情。絶対何か企んでる顔だったのは間違いないという確信があった。

 

「何か起こらないわけ、ないよねぇ・・・」

「「???」」

 

 

☆★☆

 

 

「次はあれどうですか!」

「その足でどうやってレースゲームのアクセルブレーキする気だ」

「・・・あぅ」

「いちいち泣きそうになるなっ!」

 

 コツコツと甲高い音を立てて歩き回る少女――コトバネ・アイカに連れ回されながら最早何度目か数える気も失せたツッコミを入れた。

 とてつもなく頭痛がする。リフレッシュに遊びに来たというのに何故このようなことになっているのか。

 

「・・・じゃあ次はあれで!」

「少しは休もうという気は無いのかこのお嬢様は・・・」

 

 アイカはアイカで凹んでは即座に復活という行程を幾らでもするためミコトの頭痛は増すばかりである。

 そもそも流れで一緒に回っているこの状態自体が頭痛の種である。度々逃げようとしては謎の圧力と涙目に捕まり逃げられないの繰り返しという攻防があったせいで最早逃げる気力も無いのだが。

 

(育ちはいいんだろうけど、妙にパーソナルゾーンに踏み込む速度が速いというか上手いというか・・・)

「あれ、なんですか?」

「ん?」

 

 アイカが指差した方にあったのはちょうど入り口から最も遠い位置に配置された白い卵形の筐体だ。

 

「VRゲームだろ。中に入ってオキュラスグラスを付けて遊ぶんだよ。密閉空間にすることで五感に直接働きかけて没入感を高めつつ安全を守るためにエッグ型が多いんだ」

「へぇ・・・」

 

 実はミコトはこの手のモノに少し詳しかった。というのもVRゲームの発展はガンプラバトル、ひいてはプラフスキー粒子の発展と関連付けることができるからだ。

 ガンプラバトルは流体化した粒子を用いてガンプラを直接動かし、そして戦いを再現するものだ。フィールドや武器のダメージ判定や再現も粒子が基本は行っている。

 由来がよく分からなかった初期型粒子の頃には遅れていた研究だったが新粒子がニルス・ニールセン(現ヤジマ)氏によって発見、精製と提供の効率化が起こったことで粒子技術を応用した技術研究は一気に進んだと言える。その中でも発展途上であったVRゲームは比較的ガンプラバトルで培われた技術を流用しやすかったこともありまさに進化のビッグバンとも言える現象が巻き起こったのだ。

 現在では中規模程度のゲーセンでも置かれるようになりその人気は一定の水準を保っている。ゲーセン離れだった客もまた増えてきているとかいう話だ。ミコトもまた、そうしたVRから新たにガンプラにフィードバックできる種が無いかとちょくちょく遊んでいた口だった。

 

「これ、立ちっぱですか?」

「いや、中に椅子があるけど・・・片目それだとやりにくいぞ。さっきも言ったけどオキュラスグラス・・・サングラスにメイン映像が流れるからな」

「ふふん、ミコト君は私を侮りすぎです。今後のためにもここらでスゴい所を見せておきましょう!」

 

 やたら自信たっぷりに胸を張る。女子がそういうことあんまりするな、というツッコミは色々面倒なので放棄した。

 筐体には「サイコミラージュ」という看板と操作説明がかかっており、全方位から襲いかかってくるエネミーを倒していくスコアアタックタイプのゲームだ。

 アイカが中に入るのを見届けるとミコトは飲み物を買って近くの休憩スペースに座り設置されたモニターに視線をやる。

 ちょうど準備が終わりアイカのアバターが火山のフィールドに出てきたところだった。赤みがかったメタリックな人形ボディに頭部がまるで竜のような形をしたメットタイプのアバター。テーブルの上に置かれたパンフレットによると超能力による遠隔攻撃タイプらしい。

 

「ファンネル使うニュータイプ、ってトコかね」

 

 ついついガンダム解釈を口にしているとバトルが始まっていた。

 アイカに襲いかかるのは宙に浮かぶ竜の生首と地を這う蛇。どちらもサイズはアバターの半分くらいか。

 対してアイカは周辺に赤・青・黄の三色の光球を呼び出す。近付いてきた生首竜が火を吐くが青い光球が盾に変化し防ぎ、そのまま竜を弾き飛ばす。

 それを見て東洋竜がスピードを上げて牙を光らせ――赤い光球が無数の剣や槍、矢に形を変え大地に縫い付ける。

 大群の動きが止まった瞬間、最後に残った黄色い光球が肥大化し空気を詰め込んだ風船のように破裂しレーザーの雨を降らす。

 無慈悲な光が竜蛇を残さず蒸発させた。

 えげつな、と呟きそうになったミコトの見るモニターが赤く点滅する。ボスエネミーがポップアップするお知らせのようだ。

 ポップアップしたボスエネミーはガッシリした四足西洋竜だ。竜蛇の母体と思われる濃緑色のその姿は実にボスに相応しい威厳を放っていた。

 完全にポップアップを完了したボスドラは咆哮と共に鹿のような黄金の角から雷を放つがアイカは盾を確実に展開し全てを受け止めて見せる。

 続いてボスドラは思い切り息を吸うモーション。隙の大きいブレスだろうと予想したのかアイカが攻撃モーションに入る。

 しかしアイカは攻撃モーションを無理矢理キャンセルして光球の剣を自身の左側に突き立てた。直後、鋭利な爪が光剣を吹き飛ばした。

 

「・・・いや待て。何で前足が伸びるんだ」

 

 思わず突っ込んだミコトを尻目に炎のブレスが放たれる。アイカは真正面から黄色の光球を細いビームに変えて1本放った。

 ぶつかり合った瞬間、ビームがブレスに穴を抉じ開け炎が拡散する。そしてアイカを勝手に避けた炎とはビームは寸分違わずボスドラを貫いた。

 小爆発が幾つも巻き起こり、プスンと煙も吹き出て・・・煙?

 ドカン、と爆発が起こると顔の造形が変化した。黒い仮面のようなパーツには実にサイバーなラインが走り隙間から禍々しい光が漏れる。第2形態と言わんがばかりに前足を持ち上げ尻尾が鋭い剣へと変わる。この手のお約束通り濃緑色の皮膚の下からはメカメカしい銀色が――。

 

「ってダナジンじゃねーかアレ!」

 

 ある程度アレンジは加わっているが最早ミコトは立ち上がらずを得なかった。その姿はミコトの記憶にある“ガンダムAGE”に登場するヴェイガンMS、ダナジンと8割方一致したからだ。

 そういえば噂を聞いたことがある。粒子技術を転用したゲームの中にはガンプラのデータを転用させることでよりVR空間に適した強力なエネミーを作れるとかデザイナーにも予想しきれない動きをするとか。

 

「いやそれでいいのかゲームデザイナー!?」

 

 ミコトが頭を抱えている間にダナジン擬きがアイカに伸縮自在の尻尾剣を振り抜く。アイカはそれを盾で防ぐとレーザーによる反撃を行った。

 ニヤリとダナジン擬きが笑ったように見えたのは気のせいか。と思っているとパカッと仮面が展開し、レーザーを吸収した。間違いない、あれはかの有名なスタービルドストライクガンダムに搭載されていたというアブソーブシステム!

 

「どこに積んでんだよ!」

 

 元になったダナジンの制作者は果たしてどんな人物だったのかという疑問が尽きない内にレーザーが切れダナジン擬きの食事が終わる。すると首がガコンという音と共に落ちた。

 テクスチャーの張られていない暗黒面が一瞬見えたがすぐに頭に代わる何かがポップアップする。それは白いビームキャノン砲。

 アブソーブシステムの特性をしっかり受け継いでいるらしくチャージらしいチャージをするまでもなく大量の熱と光が集束する。放たれれば間違いなくアイカを消滅させるビームの塊、なのだが。

 ドスリ。

 赤い光剣が発射口を貫く。溜まっていたビームエネルギーはそのまま逆流、大爆発を巻き起こしダナジン擬きを木っ端微塵に吹き飛ばしその体を「Congratulation!」という文字へと変化させた。どうやらクリアしたらしい。

 ・・・世界観とか色々ツッコミが多すぎて若干気持ち悪くなってきたがミコトは必死にその感覚を抑え込む。後で制作会社調べてアンケートでちょっと苦情気味の感想を送ろうと心に誓ったところでドヤ顔のアイカが筐体から出てきた。

 

「ふふん、どんなもんですかスゴかったでしょう!」

「・・・あぁ普通にスゴいわお前」

「ふぇっ?」

 

 痛烈な皮肉がと 飛んでくると実は身構えていたアイカは想像とまるで異なる対応に狼狽え、思わず杖をおとしかけた。

 一方ミコトはミコトで感嘆していた。

 アイカのプレイングは無慈悲で正確だった。確実に発揮する防御と動きを止める牽制、そして何より一切の討ち漏らしの存在しない攻撃。彼女のスコアはほとんどパーフェクトだ。

 何よりVRゲームの戦闘は特にリアルの身体の影響を受けやすい。阿頼耶識システムでも無い限り片目片足が使えない状態で彼女は1度も動かず勝利を収めてみせた。

 どうあがいてもミコトにはできないことだ。ニュータイプやイノベイター、Xラウンダーのような天才の域をアイカは見せつけた。

 

「普通にスゴいと思うけどな」

「そ、そこまで誉められると恥ずかしいというか・・・やっぱりミコト君は素直に思ってることを言うのがいいですよ」

「誉めてんのか貶してんのかどっちだ」

「ほ、誉めたつもりですよ・・・あ、そうだ」

 

 少し顔を赤くしながらアイカが杖を持たない手で何かを差し出す。掌には白い猫のキーホルダーが乗っていた。

 

「ハイスコアボーナス景品だそうですので、クッションと交換しちゃいます」

「あー、どうも・・・なんでマッキーが出てくるんだ・・・」

 

 アイカは気付いていないがこの猫、間違いなく“3丁目のおるふぇんちゅ”という“鉄血のオルフェンズ”の番外作品のマスコットキーホルダーである。なぜそれがゲーセンのハイスコア景品に・・・。

 

「喜んでもらえて何より! ・・・実はもう帰らないといけないから」

「あー、もうそんな時間か」

「私は楽しかったですけど、ミコト君は振り回しちゃいました。どうでした?」

「コトバネに振り回してる自覚があったことに驚きだよ」

「・・・ズルいです」

「・・・急に何だよ」

 

 分かりやすく頬を膨らませるアイカにこれ以上無く嫌な予感と共に顔に出すミコト。

 それに対してアイカはビシッ!と指をミコトの眼前に出して見せた。

 

「今日一日ミコト君呼んでたのに私は名字というのはズルいというか距離感を感じるというか」

「いやお前が踏み込み過ぎなだけだからな? 初対面だからな?」

「まぁ今日は許してあげましょう。次までの宿題です」

「お前何言い出してんの!?」

 

 半分悲鳴に近いものをあげるミコトを見てアイカはしてやったり、と笑うとそのままキーホルダーをミコトに押し付けて軽く走っていった。杖を実に器用に使うものである。

 

「なんなんだまったく・・・無駄にコロコロ表情も変えやがってからに」

 

 ため息と共に時計を確認する。まだ少しだけ時間に余裕はある。

 ずいぶん疲れたが最後に少しだけ収穫はあった、と自分に言い聞かせるとミコトもまた出入口に向かって歩き出した。

 今日は行かないつもりだったが予定変更。本日の〆はガンプラカフェだ。

 

 

☆★☆

 

 

「チームを組もう。チーム名は――」

「目潰しドーン」

「ガルバぁルディっ!?」

 

 扉を開けた瞬間肩を掴んで意味不明なことを宣う店長を容赦なくミコトは粉砕した。妙な悲鳴と共に床をゴロゴロと転がる店長を飛び越えアマネの前のカウンター席に座る。

 

「逃げれる?」

「ムリ」

「だよなー」

 

 店長の脈絡の無い無茶振りは別に今に始まったことではない。そしてそれは回避可能なものと不可能なものに別れる。不可能なものを回避したくばカフェに入り浸るのを止めれば良いのだがミコトにはさらさらその気は無いわけで。

 

「先に教えてもらっても?」

「・・・まぁいいけど。実は全国のカフェを運営してるヤジマ商事からね、カフェに属するガンプラバトルチームを組むように、ってお達しがあったらしいの」

「ヤジマ商事が?」

「えぇ。もうすぐ選手権が始まるからそこのテコ入れもあるんじゃないかしら」

 

 そう言われて夏のガンプラ選手権のことを思い出したミコトは同時に納得した。

 練習試合等でこの時期に調整する事の多い時期だが学生大会はスリーマンセルのチーム戦だ。気軽にガンプラバトルを楽しむ事を目的としたガンプラカフェとしてはチームバトルの門を広く開けるためにカフェに属するガンプラバトルチームを作るのは納得ができる。

 

「叔父さんはそのチームに私とカイチ、それにヤナミ君を指名したのよね」

「何で俺を指名するかねぇ・・・」

「・・・もっと見たいんだって、アナタのバトルを」

「は?」

「困ったことなんだけどね。叔父さんはお気に入りのファイターを見つけると入れ込んじゃうの」

 

 やれやれと肩を落としながら少しだけ苦笑いをアマネは浮かべる。

 

「無駄に見る目は肥えてる人をファンにしたんだから、少しくらいは誇ってもいいかもね?」

「勘弁してくれ」

 

 苦笑いを返すとミコトは立ち上がり未だにゴロゴロ転がっている店長を踏みつけて止めた。

 

「あああああ世界が回転を止めたけど闇に呑まれたままぁぁぁ」

「お楽しみのところ申し訳ないんですが店長」

「これのどこが楽しそうに見えるのかなぁぁぁぁぁ」

「チームの話、受けますよ」

「本当かいっ!? あぁ急に光が戻ってきたけど戻り過ぎてやっぱり目がぁぁぁ」

 

 ガバッと跳ね上がったが再び崩れ落ちるという妙に面白いモーションを見せたところでアマネの元に戻る。気をきかせてくれたのか紅茶が置かれているので一言言葉を投げかけてから手に取る。

 

「・・・もう少しダダ捏ねると思ったのに。意外」

「ダダっつーな。・・・ま、素直になれってさっき言われてな」

「?」

「んで、チーム名は決まってんの?」

「えぇ、カイチと叔父さんのは聞いてて頭痛しかしなかったから私が考えといた」

 

 予想通りの言葉にミコトは安心感を覚える。下に付くのはとても酷いことになるのは間違いないが対等な相手としてならいい関係を築けるだろう。

 

「頼むぜリーダー」

「冗談ポイよそんなの。立場を明確に決めるの嫌いだしね」

「そーかい。んで、チーム名は?」

「そうね、チーム名は――」

 

 

 

 全てのバトルをより強調する者達――アクセンツ。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「EXシルエット:コマンダント。さぁ行ってみようか!」

「さぁ踊ろうよ! これは楽しいガンプラバトル!」

「物事はスマートに、な」

 

【Build.08:激闘・強調者と三傑Ⅰ ~切札舞踏~】

 

「三位一体一意専心、チーム・デルタエースが参る。・・・お覚悟を!」



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Build.08:激闘・強調者と三傑Ⅰ ~切札舞踏~

 鉄血最終回の日に今年初の投稿が間に合って本気で良かったと思ってます!!! 次回から更新もっと早めます!


 シン、と静まり澄んだ朝の空気が道場を満たす。

 その空気の中に正座し空気の主となっている人物が居た。まだ年若いながら袴姿と堂に入った雰囲気がその少女の存在感を際立てていた。

 道場の窓から入り込んで来る風が菫色の髪を揺らしながら幾らかの時間が流れ、不意に空気の主の瞳が開かれる。それに連動するように立ち上がりながら手元に置いてあった薙刀を握り構え、そして振るう。

 

「――ふっ」

 

 鋭い呼気と共に真横へと薙刀を薙ぎ払い、振り切った瞬間にピタリと身体を停止させる。一瞬の間を空けた後に頭の上に向かって振り上げ、再びの停止の後に振り下ろす。

 静から動へ、動から静へ。精練された動きは美しく見る者によっては芸術的と称されるだろう。

 尤も少女――クスノキ・メグルはこの演舞を誰かに見せようという気はまるで無い。この演舞は幼い頃から続けているルーティーンに過ぎず、言うなれば朝のウォーキングとなんら変わらない。メグルにとってのウォーキングが演舞であっただけの話だ。

 

「・・・・・・」

 

 演舞の型を終えピタリと止まった所で息を整え、髪と同じ菫色の瞳を次の目的に向けた。

 道場の反対側へと姿勢を留めたまま移動する。そこには木で組まれた人型の人形に同じく木で作られた的が人体の急所に配置されている。

 

 

「はっ!」

 

 これまでよりも強い気迫と共に薙刀を振り抜く。三つの的のみを薙刀の刃が切り裂き、さらに残っていた1つの的を槍の要領で刺突、そのまま突き刺さった薙刀から手を離し足元に転がっていた弓を蹴り上げ握り締める。

 矢を正眼に構え背負っていた矢筒から三本の矢を抜き放ち弦に一本を番える。

 ヒュッ、と空気を切る音を残し的の中心を穿つ。その結果を見ずにメグルは二本目、三本目の矢を連射する。三本の矢は狙い違わず全てが的を捉えた。

 

「――」

 

 弓を捨て、立てかけてあった刀をメグルは手に取る。それまでの力強い動きから一転。刀を腰に構えたメグルは鞘と柄に手を添えたまま静止した。

 時間にして10秒程。一瞬が、永遠に感じられるほどの静寂の後、

 

「せぃっ!」

 

 鋭い剣閃が放たれる。その一閃は的を通り越し、人形さえも斬り倒した。

 

「・・・ふぅ・・・」

 

 息を吐き切る。メグルによって作り出された引き締まった空気が解き放たれる。

 パチパチパチ、と不意に緩んだ世界に音が鳴り響いた。

 

「ブラーヴァ、メグルー!」

「いやー、いつ見ても綺麗なもんじゃないかこれがさー」

「マ、マイちゃん!? それに部長!?」

 

 道場の入口に二人の制服の少年少女が立っていた。

 ヒノクニ・マイとカミシロ・アリマ。共に同じ部活に所属する人見知りなメグルにとって数少ない親しい友人だ。

 

「いやぁ、ようやくレアなメグルのダンスを見れたよー。大会とか出ればいいのに」

「わ、私の演舞は自分の修行みたいなものだしマイちゃんの魅せる踊りとは全然違うから・・・」

「もぉ、意地らしいなぁメグルはぁ! ぐりぐりー!」

「あぅわわわー!?」

 

 抱き枕か何かの勢いでメグルにダイビングしながらマイが抱き着く。バタバタと手を振り乱しながら真っ赤になる。

 見る人が見れば花とかハートとかが舞い散っていそうな空間が展開される勢いをほがらかと笑いながらアリマはその空間を見つめる。

 

「って、止めてくださいよ部長ッ!?」

「いやぁ、楽しそうだからつい、な?」

「もうっ! それで、こんなに朝早く休みの日に何の用ですかっ!」

「ふぇっ? メグル、もしかして忘れてる?」

「え?」

「これから出発だから迎えに来たんだが・・・クスノキもしかして」

「あ、あぁっ!?」

 

 今日が何の日だったかをそこまで言われてようやくメグルは思い出した。勢いだけでマイを振り解くと演舞の片付けもそこそこに道場に隣接した自宅へと凄まじい勢いで走り出す。その様を見ていた二人は揃って苦笑いを浮かべた。

 

「今日、ガンプラカフェってとこでの練習試合の日だったー!?」

 

 

☆★☆

 

 

「ヤナミー、目の下の隈が酷いけどどーしたんだよそれ」

「寝付けなくてロボSRPGやってたら太陽が昇ってた」

「ヤナミ君ってやっぱり馬鹿よね? 遠足の前日寝れなかったタイプでしょ?」

「うっせぇ遠足はそこまで楽しみでもなかったからグッスリ寝てたわ」

 

 日曜日の昼下がり。どこまでも眠たそうにミコトが反論するのをニヤニヤしながらカイチが弄ろうとしアマネが追撃する。わりと見慣れた会話だが珍しく違う部分はアマネが店のエプロンを着けておらず一緒に座っていることだ。

 チーム・アクセンツの結成から一週間。結成前から実は練習試合が組まれていたため店長には非難の嵐が巻き起こったものだが、拒否っても時間とは流れるものでいつの間にか試合当日。店長がバトルの準備を整えもうすぐやってくるという対戦相手を待つだけという状態だ。

 

「まったく、タイミングがいいんだか悪いんだか」

「そーいやヤナミ、“アレ”できたのか?」

「セリザワに手伝ってもらっておかげでなんとか。テストはもっとしたかったけどな」

「今回は見せたけど毎回こんな協力するとは思わないでね?」

「分かってるって。流石に毎度設計基礎を聞いたりしねーよ」

 

 ヒラヒラと手を振ってアマネに答えるがこれでミコトは結構アマネに感謝していた。

 “フリューゲルシルエット”に続く第二のゲシュテルン用の装備、その設計はアマネのGN-X・オリジンを参考にしてある。というより、何度か彼女のバトルを見るうちに設計に組み込みたくなった、というのがミコトの本音だ。

 チームに入ることを即決したのは実はそんな下心もあり、アマネも渋々といった感じだったが了承した。

 

「まったく。その分ちゃんと戦ってもらうからね?」

「もちろん、やれる限りの全力は出させてもらうから安心しとけよ。そうじゃなきゃ面白くないだろ?」

「快楽主義者にも程がない、それ?」

「面白くないガンプラバトルに何の意味があるよ?」

 

 けたけたと笑うミコトを呆れたようにため息を吐くアマネ。まるでそれを見ていたかのようにカララン、とカフェのドアに備え付けられた超級覇王電影弾ベルが鳴る。

 

「待たせた」

「ダグザさん、お疲れ様です」

「ヤナミ、キミまでそれで呼ばないでくれ。一作品ファンとして気恥ずかしい」

 

 ソフトモヒカンでがっしりした体つきをした男性――サクタさんが少し困ったように後頭部を掻く。

 今回の対戦相手のマッチングを行ってくれたのはこのサクタさんだ。何でも対戦相手の高校の顧問が友人らしくカフェに連れてくる手筈になっていたのだ。

 

「それで、対戦相手は――」

「ひゃぁ、これはナナハチの頭型ステレオ! こっちは1/1ラプラスの箱!」

「マ、マイちゃん急に入ってそんなにわちゃわちゃしたらっ!?」

「ま、マニアにはたまらんエリアだから仕方ないんだなこれが」

「部長も呑気な事を・・・」

 

 風のように入り込んできてカフェのガンダムグッズにダイビングした少女はとても大きい一挙手一投足で栗色のウェーブのかかった髪を振り回して喜びを表現している。後からほがらかとした表情で笑いながら入ってきた少年と、それらを慌てた素振りで諫めるそばかす少女。

 なんというか、一人に疲労が集中する凸凹感が凄まじいトリオである。

 

「ふふ、分かる人には分かるいいアイテムをそろえているからね・・・」

「店長仕事しろ」

「今一仕事終えて来たんだけどねっ!」

 

 奥の扉から現れた妙に笑顔満開な店長に辛辣な言葉をいつも通りミコトは投げかける。

 

「ってことはアレが?」

「そ、対戦相手の明星学園のガンプラ部のみんなさ。アマネは少しくらい知ってるんじゃないかい?」

「明星・・・確か去年選手権予選の二回戦くらいで戦ったかしら? でも、あの三人は誰も知らないけど?」

「そりゃあたぶん別の明星チームだからだよ」

 

 声を投げかけてきたのは三人組の中で部長と呼ばれていた少年だ。彼はアマネを見てニヤリと笑う。

 

「初めまして、“魔弾の射手”。明星学園ガンプラ部の部長をやらせてもらってる。去年は別チームに居たからそっちは知らないだろうけどなー」

「へぇ・・・そういえば明星は2、3チームを持ってる部だったものね」

 

 意外と大きい部、それを任せられる人物。思ってたより厄介な相手だな、と隠れてミコトはため息を吐き出すと立ち上がり、新シルエットの調整をするためにも先にバトル台へと向かうことにした。

 ふと、アマネと会話している部長と名乗った少年の向こうで店長がカイチを引き連れマニア魂を爆発させている少女へと得意そうに解説しているのが見えた。

 栗色の髪が揺れるのを見て、ガンプラを収めたケースの持ち手付近に付いている猫のキーホルダーに指が触れる。

 

「・・・ガラじゃねぇわ」

 

 頭の中にふわりと現れたいろいろ強烈なインパクトを残してくれた少女の幻影を振り払い、ミコトはバトルシステムの置かれた部屋への扉を開けた。

 

 

☆★☆

 

 

 “Ganpura Battle Combat Mode!”

 

 

 “Battle Damage Level Set To 『B』”

 

「ダメージレベルはBで助かったな・・・」

「あら、ヤナミ君ならAをガンガン推奨するかと思ったけど」

「セリザワの中の俺のイメージどんなんだよ。俺は基本的にAにはしてほしくないんだよ」

 

 “Beginning, PLAVSKY PARTICLE dispersal”

 

 蒼い粒子が世界を満たす。こみ上げてくるのは戦いの興奮。

 

 “Please Set Your GPBase!”

 

 GPベースをセットし表示が更新されたデータになっているのを確認する。こういった部分を怠れば一気に勝利というものは逃げて行くものだ。

 

 “Field X,SEA”

 

「・・・フィールド、エックス?」

 

 嫌な予感が爆発する。何だフィールドエックスって聞いたことねぇ。

 

 “Plase Set Your GUNPLA !”

 

 アナウンスにガンプラを催促され嫌な予感はとりあえず振り払いゲシュテルンガンダムを取り出す。ミコトが置いたゲシュテルンガンダムには背面に四枚、サイドに二枚の合計六枚のウイングバインダーと同じく六基のテールバインダー状のパーツが備え付けられたバックパックを装備している。

 新たなシルエット、“コマンダントシルエット”だ。

 そしてその手に持つのはとある人物からのオファーにより渋々持たされたジオン御用達の巨大な対艦ライフルだ。

 

「EXシルエット:コマンダント。さぁ、行ってみようか!」

 

 新しいシルエットへの期待半分不安半分といった面持ちでミコトは現れたアームレイカーを握り締める。それに応えるように、ゲシュテルンの瞳に光が宿る。

 そして、その時がついに訪れる。

 

 “Battle Start !!”

 

「アキヅキ・カイチ! ガンダムAGE-2ダークハウンドぉ!」

「ヤナミ・ミコト、ゲシュテルンガンダム・コマンダント」

「セリザワ・アマネ 、GN-X・オリジン。・・・チーム・アクセンツ」

 

 ゆっくりとアマネが口にしたチーム名を聞き、3人がより強くアームレイカーを握り締める。

 

「さぁ、行きましょうか!」

「おっしゃぁ!」

「あいよっ、と」

 

 アマネの号令に従いカイチとミコトもアームレイカーを押し込む。指示を受けたカタパルトが三機のガンプラを粒子が作り出した戦場へと送り出す。

 曇り空のせいで少し重たい雰囲気のフィールドは足元を海が埋め尽くしていた。よく見ればMSの残骸と思わしきパーツや朽ちて海に浮かぶ戦艦が見える。中には他の戦艦と明らかに違うものがあり、それを目にしたミコトは思わず呟く。

 

「アークエンジェルにミネルバか?」

「みたいね。さしずめ天使が墜ちた(エンジェルダウン)跡地の数年後と言ったところかしら?」

「何の話だよお前らー。・・・あり、そういえばヤナミ今回は飛べるんだな」

 

 手持ちぶさたそうにボヤいたカイチはふと今のゲシュテルンを見て言葉を繋ぐ。

 カイチは素のゲシュテルンを見慣れており、以前の戦いでも飛べないのを見ている。最後には飛んでいたものの見た目に分かりやすい翼を着けたフリューゲルだけの特性だろうと思ったのだろう。

 

「コマンダントは能力複合シルエットだからな。飛行能力はフリューゲルには及ばないがフライトユニットくらいは飛べるもんさ」

「なるほど分からん!」

「・・・とりあえず飛べる、くらいに理解しとけ」

 

 自分から聞いといて、という言葉を押し込めミコトが仏頂面を浮かべる。そんな様を見てアマネは改めてミコトの典型的なオタク気質を感じとりニヤニヤする。

 アクセンツの空気が弛緩しかったその時を、まるで狙い澄ましたように危険を知らせるアラームが鳴り響く。直後、遠くの艦船に一筋の光が曇天を貫いて降り立つのが見えた。

 

「ってちょっと待てぇッ!?」

「開幕マイクロウェーブ来ちゃうのはどうなのそれっ!?」

「え、何かヤバイ感じ?」

「ドヤバイ! 今すぐ散開しろっ!」

 

 慌てて回避行動を取るゲシュテルンとオリジンを見て遅れてダークハウンドも離れる。直後、天からの光が絶えるのを合図にそれまで三機が居た空間を暴力的という言葉でさえ生易しい光と熱の嵐が吹き荒れる。

 

「どわぁっ!?」

 

 危うく回避失敗しかけたカイチが悲鳴をあげる。嵐の如き強烈なビームはそのまま何もない空間を通過し上空を覆う曇天へと着弾する。

 雲が弾け飛び、強い月光と吹き飛ばされた雲が引火したかのように炎の雨が海面に降り注いだ。

 炎は演出なのだろう。ガンプラに影響は無いが中々に地獄絵図な状態になったフィールドを見て思わずカイチは冷や汗を流した。

 

「空が割れて炎が舞った・・・こりゃ次は巨大魔神が見参だな」

「バカイチ、少し黙って」

「炎はあくまで粒子の過剰演出だ。ま、もっかいサテライトキャノンされるのはイヤだし、一気に距離詰めるぞ。マイクロウェーブのおかげで位置は割り出せた」

「横から第二第三のサテライトキャノンが来ないことを祈りましょうか」

「警戒は任せる。アキヅキ、ストライダーで牽引してくれ! 俺らで先行してセリザワに後ろの警戒をしてもらう」

「おうよ!」

 

 ミコトの言葉に従いカイチはダークハウンドをストライダーへと変形させ、その背(正確には脚部なのだが)にゲシュテルンが乗る。

 

「いいぞ、頼む」

「おっしゃ任せとけぇ!」

 

 ゲシュテルンの体勢が安定したのを確認し、出された合図に従いカイチがダークハウンドを飛ばす。みるみるうちにオリジンの姿が離れて行く。

 

「――居たっ!」

 

 少しの間を開けて、その姿をカイチは見つけ出す。

 ミキシングビルド。その言葉をまるで体現したようにそのガンプラは赤、青、白が散りばめられたカラーリングは統一性の無さ故の派手さと力強さを感じさせる。

 アイリッシュ級戦艦ラーディッシュの甲板上で微動だにせず佇むその手には未だに放熱中なのか巨大なキャノン砲が握られていた。

 

「アスタロトか・・・? ってかなんでUC系戦艦がCE系ステージに配置されてんだ・・・」

「何かよく分かんねぇけど隙だらけだぁ! 一気にぶっ飛ばぁす!」

「ってバカ!? あんなの見え見えの罠に決まって――」

『分かっていてもムダなんだがな、これが』

 

 それは最早脊髄反射。ミコトは本能に従いダークハウンドを蹴飛ばしゲシュテルンを飛翔させ、ダークハウンドを海面に叩き付ける。

 直後、甲高い特徴的なSEと紅い粒子を伴った剣閃がそれまで二機が居た空間を斬り裂いた。

 

『逃がさん!』

「ふざけんなっ! いきなり使ってくるパターンじゃねぇだろうそれ!」

『物事はスマートに、な』

「これスマートかホントにっ!?」

 

 紅い残像を残しながら大振りな剣を構えて突進してくるガンプラを視界に捉えながらミコトは悪態を叩き付ける。

 

「開幕サテライトキャノンの次はアストレアのトランザムとかふざけんじゃねぇよクソッ!」

 

 ほとんどヤケクソ気味にミコトが叫ぶ。

 サテライトキャノンにトランザム。それはそこそこガンダムを知っている者ならば口を揃えて“必殺技”或いは“必殺武装”と呼ばれるものだ。

 ガンプラバトルでもこれらの武装は大きく粒子を消費する代わりに破格の能力を発揮する文字通りの“必殺技”になる。愛用するファイターは誰しもこれらを勝利の詰めの段階で使用することが多いものだ。

 だが、彼らはそれを惜し気もなく最初から使ってきた。後の事等考えない恐ろしいまでの超速攻。

 二機の連携、計略通りに自分達は動かされた。その事にミコトは歯噛みし、

 

(――待て。もう一人はどこだっ!?)

 

 相手のカードの枚数を読み違えていることに気付いた。

 トランザムの猛攻をギリギリでいなしながらせめて海上に居るアスタロトから距離を取ろうと上空へとさらに上がる。だが、そこでゲシュテルンに影が落ちる。

 

「しまっ・・・」

『やぁぁっ!』

 

 赤い身体に白の装甲を纏ったガンプラ――ガンダムアストレイ・レッドフレームが原典には無い大鎌を振り抜く。最初から感知できない程の上空に潜んでいたのだろう。その攻撃には何の淀みも無くゲシュテルンの腹部を切り裂く――。

 

「舐、めんなっ!」

『ッ!?』

 

 ゲシュテルンの上半身と下半身が“刃が届くより早く”分かたれる。大振りに振り抜かれた鎌の勢いに飲まれてレッドフレームが体勢を崩す。

 その隙を狙いミコトは分離した下半身――チェストフライヤーを呼び戻しながら大振りな対艦ライフルを大雑把に連射する。命中するかと思われた瞬間、レッドフレームは腰の鞘からガーベラストレートを僅かに引き抜き命中する弾丸のみを正確に弾いてみせた。

 

「おいおいマジかっ。腐っても対艦ライフルだぞ!?」

『業の前には無問題ってことだこれがなぁ!』

「しつこ、ぐっ!」

 

 レッドフレームとの距離を稼いだ瞬間にトランザム中のアストレアが回し蹴りでゲシュテルンを再びレッドフレームの元へと送り返す。

 すかさずレッドフレームは大鎌をフライトユニットにマウントし両腰に装備された二本の刀の柄を握る。体勢を大きく崩されたゲシュテルンに刀から逃れる術は、無かった。

 

『これで、終わりですっ』

「だ、か、ら、さぁ・・・!」

 

 距離が縮まり、刀のレンジへと後少しで突入する。

 

「舐めるなって、言ってんだろうがぁ!」

 

 ミコトが叫び、素早くそれまで触っていなかったコマンドを呼び出す。

 

「ブラスター、アクティブ!」

 

 その合図と共にシルエットに登載されたテールバインダー状の四基のパーツがゲシュテルンから離れ、レッドフレームへと殺到する。

 

『えっ!?』

『逃げろクスノキ、ビットだ!』

 

 アストレアの主が叫ぶ。レッドフレームは声に従い抜刀を止め空中を滑るようにその場を逃げ出す。

 直後、四門の砲門からビームが殺到する。間一髪レッドフレームはその砲撃をすり抜けゲシュテルンへと迫る。

 

『このままっ!』

「セイバー、アクティブ!」

 

 残った二基のビットがゲシュテルンから離れる。滑らかに滑り込むビットはそのままレッドフレームの首へと迫り――。

 

『させんっ』

「ちぃっ」

 

 割り込んできたアストレアの剣に甲高い音と共に受け止められた。

 

『ガンビットにソードビットを両方搭載してるわけか・・・だが、ビットを動かす間は動きが鈍っているぞ!』

「あ? 問題ねぇよ」

 

 不敵にミコトが笑むと次の瞬間何かに思いきりぶつかったようにレッドフレームが吹き飛ぶ。

 

『何っ!?』

『っ、すいません部長! 下のマイちゃんと合流します!』

『了解だ! ・・・見えない弾丸、“魔弾”。だが来る方向が分かれば!』

 

 離脱するレッドフレームを見届けるとアストレアがGNフィールドを展開し、追撃を狙ってきた狙撃を弾き飛ばす。

 

『ギリギリ防げそうだなぁ!』

「そうね、このままだと防ぎ切られる。だから」

 

 姿を隠していたGN-X・オリジンが、不意に現れた。

 

『なっ』

「収束、からの全解放(フルバースト)!」

 

 ライフルの先端に赤い球体が一瞬現れ爆発的に解き放たれる。さながらビームマグナムの如くビームの本流がGNフィールドごと地表へと押し流した。

 

「おま、そんなことできるのな」

「粒子結構使うけど、あぁいう防御をされるとしんどいからね。対策技は必須ってこと」

「はぁ、そういうこ、っとぉ!?」

 

 息吐く間も無く真下から銃弾の雨が昇ってくる。雨が昇ってくるとはどういうものか、とも思わなくもないがそう表現でしか言い表せなかった。

 咄嗟にゲシュテルンはソリドゥス・フルゴールを、オリジンはGNフィールドを展開しその身を守る。幸い距離が大きく離れているためか防ぐことは容易だった。

 カメラを向ければ、ラーディッシュの上に待機していたアスタロトが大型のガトリングを放っていた。ラーディッシュのどこかに隠していたのだろう。

 

「下に残したアスタロト、そんな武器まで持ってたかっ! セリザワ、狙撃!」

「ゲシュマイディッヒ・パンツァーも無いのにフィールド維持しながらどうやって狙撃しろと? その大きなライフルで何とかしてもらえる?」

「いやこっちも弾当たるから・・・あぁ、もう分かったよ! やりゃあいいんだろやりゃあ!」

 

 装甲がまだゲシュテルンの方が分厚い、という判断をされたのだろう。どうせこれ以上言っても無駄だと思いより高く飛ぶとゲシュテルンは対艦ライフルをアスタロトの付近に狙いを付け雑多に連射した。

 だが、その弾丸は数発がラーディッシュを貫通したに留まり、アスタロトには命中しない。

 

『おぉっと、ヤケクソかなぁ? それじゃあ当たらないよ!』

「ですよねー。流石にこの距離じゃあ足場を崩すのも無理が・・・」

「おっらああああああああ!!!!」

『ッ!?』

 

 ラーディッシュの甲板が不自然に膨れ上がる。異変を感じ取ったアスタロトが射撃を止めラーディッシュから一足飛びで離れる。

 膨れ上がった甲板はそのまま一気に限界を迎え真下から黒い影――カイチのダークハウンドが現れる。どうやら海から真下に潜り込みラーディッシュを貫通したようだ。

 

「あ、忘れてた」

「テッメェヤナミ!! お前が海に落としたんだろう!?」

「ケンカしてる場合じゃないから。カイチ、その向こうにあるカラフルな戦艦、そっちに行って。合流するから」

「カラフルって・・・ディーヴァのことか」

 

 ちょうどアスタロトが退避した別の戦艦――フリーデンと向き合うように配置されたその戦艦にアマネは指示を出す。もはや世界観とか陸上戦艦とかのツッコミはするだけ無駄だなぁ、等と気の抜けた考えを頭に浮かべながらミコトもダークハウンドがディーヴァに乗り移るのを見てオリジンと共にゲシュテルンを降下させる。

 ディーヴァに降り立ち合流したところで対面に存在するフリーデンを見やれば向こうも三機が合流していた。

 

「アストレイ、アストレア、アスタロト。全員がAS(エース)の名を冠するガンダム、か」

『ふふーん、いい風に言ってくれるね強敵さんたち! 燃えてくるよ!』

 

 アスタロトから聞こえた声は、どうやらあの栗毛のやたら元気の良い少女の声だ。彼女はさらに言葉を紡ぐ。

 

『こりゃあ改めて、名乗りを上げるしかないね!』

『いや何でそうなるのマイちゃん?』

『そうだな、そういえばしっかりとまだ名乗ってない。こっちは向こうを少しは知ってるんだし、自己紹介は必要だろうなこれが』

「ところでそっちの部長さん、さっき喋った時とキャラ変わってない?」

『あ、部長はその、好きなゲームのキャラクターに影響受けててそれがバトルとかで出ちゃう感じでして・・・』

『クスノキ? 途端に俺が痛いヤツになり下がったぞ? 分かってるのか?』

『す、すいません・・・』

「・・・さっきまでの緊張感どこ行ったよ」

「いいじゃんいいじゃん! せっかく見せてもらおうぜ!」

 

 思わずミコトはボヤくがカイチが妙に興味津々といった感じで声を上げる。

 

『では、リクエストにお答えして!』

 

 アスタロトが一歩前に出て優雅に胸に手を当てて礼をした。

 

『ヒノクニ・マイ、ガンダムアスタロト・D・Arne! さぁ踊ろうよ、これは楽しいガンプラバトル!』

『なら続いては俺、ガンダムアストレア・シュバリエとカミシロ・アリマだ! スマートに、勝たせてもらうぞこれがなぁ!』

『え、私が〆ですかっ!?』

『大丈夫大丈夫! メグルならかっこよくいけるからさ!』

『何の自信!?』

『まぁまぁ、ほれ。お客さんがお待ちだ。頼むぞクスノキ』

『・・・分かりました』

 

 不承不承、と言った感じだがアストレイのファイターが一度息を吸い、吐き出す。

 たったそれだけで、雰囲気が変わるのを感じた。

 

『クスノキ・メグル。我が相剣の銘は、ガンダムアストレイ・二刃(フタバ)!』

 

 言葉に力が宿り、フィールドの空気を飲み込む。

 

『三位一体一意専心、チーム・デルタエースが参る。・・・お覚悟を!』

「デルタエース・・・三人の、エース」

 

 そのチーム名を聞き、ミコトの心の奥の何かがチクリと蠢いた。

 

「くぅー! カッコイイじゃん! 俺たちもやらね!?」

「バカイチの発想に付き合う必要は無し、と。そもそもアドリブでできるほど私達は役者じゃないわよ?」

「・・・あぁそうだな。あれはあいつらだからこそ決まるんだろうよ」

 

 ピリピリとした空気を一瞬で作り上げたデルタエースは、紛れもなく強敵だ。だが、だからこそ面白い。ミコトは笑いながら、自然とその言葉を口に出した。

 

「俺達は、アクセンツだからな」

「・・・へっ、そーだな。名乗りはしっかり後で考えようぜ」

「考えるかどうかはさておき、まぁヤナミ君の言葉には同意かな。私達は私達」

 

 カイチが鼻をこすって笑い、アマネもまた静かに笑う。強敵を前に、三人のファイターの思いは1つ。

 

「・・・勝ちましょうか」

「おうよ! アクセンツとして、初勝利を貰いに行くぜ!」

『申し訳ありませんが、デルタエースも負ける気はありません!』

「はっ、当然だろ! 全力で勝ちを奪い合おうじゃねぇの!」

 

 最早言葉は要らない。

 戦いは遭遇戦から本格的な戦いへと移行した。

 激戦が、始まる。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「女の子に剥ぎ取るなんて、やらしーんだ」

「これがジョーカーだ!」

「ヤベェ俺もしかして甘く見られてね!?」

 

【Build.09:激闘・強調者と三傑Ⅱ ~切札閃煌~】

 

「ガンプラバトル、教えてやるよ!」




 最後に、実は本作には友人のとり肉さんからイラストやらキャラデザやらをちょこちょこいただいておりまして。今回一枚公開させていただきたいと思います。


【挿絵表示】

 チーム・アクセンツの三人、左から順にカイチ・ミコト・アマネの三人になります。
 お正月にいただいてたのに執筆速度が遅すぎて四月になりましたごめんなさい!? でもホントにありがとうございます! アクセンティアはホントにたくさんの友人に支えられておりますが、こういう時に改めて強く実感しますね・・・。
 ガンプラ何かも少しづつ完成してきておりますのでデルタエース編と合わせて公開していきたいところ。よろしければまた、お付き合いくださいませ。ではでは!


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Build.09:激闘・強調者と三傑Ⅱ ~切札閃煌~

 ドカン、と激しい衝撃がフリーデンを揺らす。その衝撃は二機のガンプラが武器を打ち合わせたことに起因する。

 片や、突撃馬鹿(カザマ)双子の影響を受けまくりドッズランサーによる突撃戦法を好むようになったアキヅキ・カイチとダークハウンド。

 片や、納刀した刀を抜かずに大鎌を振るう幾つもの武器に精通した武術を収めるクスノキ・メグルとレッドフレーム・二刃(フタバ)

 ドッズランサーと大鎌。高速で飛来したカイチのスピードと重力を乗せた一撃を的確に受け止め二刃は勢いを足元に逃がす。

 衝撃が海へと伝わりそれは世界を伝播する波へと変わる。

 武器を交え動作を止めた黒と赤のガンダムに計四基の板状の武器――ブラスタービットが飛来しその銃口に粒子を集めビームを放つ。

 二刃のみを狙ったビームだったが実際にそれを受け止めたのは射線に瞬間的に割り込んできたシュバリエとD・Arneだ。GNフィールドとナノラミネートがビームを受け止め拡散する。

 すぐさまミコトはゲシュテルンの付近に待機させていた残り二基のセイバービットを二刃に差し向けんとするが目を離した瞬間を逃さずにシュヴァリエが一瞬だけトランザムを纏い加速、懐に潜り込みGNソードを振るう。

 紅蓮の騎士の剣戟を防ごうとビットを操作するが、それよりも早くオリジンの魔弾がシュバリエを撃ち抜く。何かに大きく殴り飛ばされたかのように跳ねるシュバリエに向けてセイバービットを飛ばす。

 体制を崩したシュバリエにビットを避ける術は無い。それを察知して飛び出したのは二刃だった。ダークハウンドの勢いを受け流し、手を胸に添えて背後へと飛ばした。その結果を見ることなく跳んだ二刃を感知したシュバリエは、粒子制御により勢いを強め自身とセイバービットとの間の空間に二刃が入り込む余地を作り出す。

 果たしてその作り出された空間に入り込んだ二刃は大鎌の一閃を以ってセイバービットを刈り取る。それより一瞬早くミコトはセイバービットに帰還を命令していたために撃墜を免れ、コマンダントシルエットへとセイバービットが戻る。

 ビットの無事を確認したところでミコトは舌打ちをした。

 

「ちっ、やっぱ向いてねぇ!」

 

 悪態を吐き散らす。そもそもコマンダントにビットを装備する気等無く、店長から試作のシステムを渡され渋々組み込んだだけなのだ。悪態はとにかく増える。

 のだが、

 

『がっら空きぃ!』

「ブラスター、撃て(ファイア)!」

『うわわ!?』

 

 隙と感じた瞬間を逃さずゲシュテルンに突っ込んできたD・Arneをブラスターの砲撃が迎撃する。咄嗟に腕をクロスして防御体制をD・Arneが固めビームの嵐を耐え抜く。

 

『ヘタクソだと思ったけどやっぱ上手い!?』

「ヘタクソだよ。チート使ってるようやくなんとかなる程度はな」

 

 どことなく諦め気味にミコトはボヤく。

 オールレンジ武器は便利且つ強力な武装ではあるがその操作難易度ははガンプラバトルでも特に高く、両手でそれぞれペンを持って別々の文字を書くようなものだ。

 さて、そんなオールレンジ攻撃だが最近“ガンプラ学園”のビルドファイターが思考制御を行っているという噂が流れ、ある全国大会の地区予選でも使用されたなんて話がある。

 眉唾物の噂だが、その情報はガンプラバトルへの革命でもありファイター達がニュータイプを本気で夢見てオールレンジ攻撃を学び始めるキッカケを作り出した。

 尤もミコト曰く、

 

「そういった特殊能力じみた技はそれこそ主人公やライバルが得るべきものだろ。俺には欠片も縁なんて無ぇよ」

 

 と愚痴り、早々に諦めたタイプだった。そんな中、店長から提供されたのが“音声認識システム”のテストモデルだ。

 このシステムは“意思”に反応するプラフスキー粒子に“声”を媒介に叩き付けることであらかじめ設定しておいたプログラムを起動させる。

 今回の場合は“起きろ(アクティブ)”“撃て(ファイア)”“行け(ゴー)”“戻れ(バック)”“散れ(フォール)”の五つだ。

 ビットの操作をある程度オート化した上で手を動かさにオート以外の行動を起こせるこの機能はバトルにおいて画期的とも言える。少なくとも自他ともに認める「ヘタクソ」のミコトでもデルタエースに通用しているのは完全にこのシステムのおかげだった。

 未だ世間に広まっていないヤジマ商事の試験システムを運用できるのも公式サイドと言えるガンプラカフェの専属チームの特権とも言える。だからこそ「チート」でありミコトが嫌々な理由なのだが。

 

「助けられちまったなぁ・・・」

 

 舌打ちではなく珍しく苦笑を浮かべた。なんだかんだで未知の技術を使うことの好奇心等はまるで抑えられないようである。

 

「ま、こっちのが得意なんだよなッ!」

『へっ? ってわわぁ!?』

 

 四基のブラスタービットをコマンダントへと戻すとそのままビームを放つ。勢いが付いたゲシュテルンはそのままD・Arneへとパルマフィオキーナを突き出す。

 完全にD・Arneを捉えたと思った攻撃は何とマト○クス避けを披露、さらにはグルングルンと連続バク転を決め距離を取る。

 

『さっすがガンダムフレームの可動! なんともないぜー!』

「いろいろ規格外だなこんちきしょう!」

『うーん、しっかし正面からぶつかるのはダメかな! じゃあ、とっておき・・・出しちゃおうかなぁ!』

『・・・ってちょっと待てヒノクニ!? こんな乱戦状態でかっ!?』

『マイちゃん、ストップ! 流石にマズイよ!?』

『二人とも、私の後ろに下がっといてねー!』

 

 焦ったようにシュバリエと二刃がゲシュテルンに向けてダークハウンドを蹴飛ばし離脱する。

 それを視認したマイはD・Arneの背負う巨大な砲身――サテライトキャノンを構えリフレクターを展開する。

 

「いぃっ!? ヤバイ感じ!?」

「サテライトならチャージ時間がかかる! 目の前で構えるもんじゃねぇ!」

『そーれーはー、どうかなぁ!?』

 

 周辺の光をキャノンが吸い込み、内部で光が膨れ上がると砲門から光が漏れ出す。

 

『これがジョーカーだ!』

 

 マイの言葉をトリガーに、キャノンからマイクロウェーブを待たずに砲撃が放たれた。光の爆流が自分達へと迫ることを確認して一瞬思考を止めた後カイチが叫ぶ。

 

「ってそれチャージ時間とか結構要るんじゃねーのかよっ!?」

『ふっふっふ、D・Arneは粒子制御系統に特化した構築をしているのさ! さっき撃ったサテライトキャノンは65%! つまり今は残りの35%ってこと!』

 

 そもそもD・Arneはビーム兵装をまるで使わない『鉄血のオルフェンズ』のMSを素体にしたガンプラだ。当然ビームを操作する系統技術を持たないのだがマイは改めてビームを制御するシステムを構築しそれに特化させたガンプラを完成させた。

 この結果サテライトキャノンのエネルギーを分割して放つことが可能になり、開幕当たろうが当たるまいが構わないのでとりあえずサテライトキャノンぶっぱという戦法をデルタエースに確立させていた。

 

「ちょ、これどーすんだよっ!?」

「そっから動くなアキヅキ!」

『おぉ、庇って一人犠牲になる感じっ!?』

「こいつのために犠牲になるかよっ!」

 

 ミコトは叫びと共にコンソールを制御し指示を送る。

 途端にコマンダントシルエットのウイングバインダーが展開し三本一基のベースパーツ二基がゲシュテルンの前に突き出され、三角形を描くように広がる。

 巨大な波打つ蒼壁が現れ、光の爆流を受け止めた。

 

『んなっ。ウソでしょっ!?』

「粒子制御はこっちも・・・コマンダント(指揮官)の得意分野なんだよっ!」

 

 これは実はミコトにとっては嬉しい誤算であった。器用貧乏を命題に作り上げたコマンダントだが音声認識によるビットを装備したことにより副次的に粒子制御能力が高まっていたのだ。

 この点に着目し飛行制御のウイングに粒子を操作し展開するシステムを構築した。それがこの大量の粒子を前面に展開することで大出力のビームを防ぐフィールド――プラフスキー・フィールド発生システムだ。

 約十秒間のぶつかり合いの後、サテライトキャノンに貯蔵された粒子を吐き出しきったのかD・Arneの砲撃が止まり、それを合図にフィールドが蒼い煌めきを残して砕け散る。

 

「出力50%なら危なかったかも、な」

『うっそぉ・・・』

『マイちゃんのアレを防ぐなんて・・・』

「そしてこっから俺の出番だぜ!」

 

 ストライダーモードへと変形したダークハウンドが何度目かの突撃を行う。その突撃をいなすのはD・Arneの前に躍り出たシュバリエだ。勢いを乗せたランスを受け流すがさらに変形したダークハウンドがサーベルを振り抜きシュバリエもGNビームサーベルで迎え撃つ。

 だが不意に、朱く光るビーム刃がD・Arneの展開したままリフレクターが切断された。

 

『いっ!?』

『マイちゃん、動かないで!』

 

 二刃が大鎌をブーメランのように投げつける。豪快な風切り音を響かせD・Arneに迫る大鎌を何かが弾く。ダメージを受けたのかサーベルの持ち主――姿を消していたGN-X・オリジンが身に纏う外套の一部を切り裂かれながら現れる。

 

「勘が鋭いわね」

『スナイパーが後ろから斬りかかるってどーなの!?』

「あら、狙撃だけが取り柄と思われてたなんて心外ね」

『ちぃ、押されてきてるな・・・仕方ない、な。ヒノクニ、プランK・M・Gだ』

『了解、やるしかないね!』

「まだ何かあんのかよ!?」

『ふふん、まぁキミには分からないだろうけど私達にはスーパー作戦の数々があるのだよダークハウンドのアキヅキクン!』

「ヤベェ俺もしかして甘く見られてね!?」

「何を今更」

『え、待って二人とも私もそのプラン知らな』

『よし、じゃあ頼んだよメグル!』

『お前なら安心できる。というわけでガンバレ!』

 

 シュバリエが二刃のフライトユニットに触れる。一瞬トランザムを解き放つと不意に“フライトユニットがトランザム特有の輝き”を放つ。

 さながら破裂した爆弾の如き勢いを持ちフライトユニットがロケット噴射する。爆発的推力で真正面へと向かった二刃はそのまま前に居たゲシュテルンに衝突――して止まることなく、そのまま共々吹っ飛んでいく。

 

『ちょ、ウソ、え!? 部長にマイちゃんこれいったいいいいいい!?』

「なんっで巻き込まれてんだ俺ぇぇぇ!?」

「ヤナミ、ワイヤーに捕ま、あムリヤッパハナシテェェェェ!?」

 

 赤い粒子の軌跡を残し、二機とゲシュテルンにワイヤーアンカーを捕まれたダークハウンドが水平線の果てまで消えて行く。唖然と見送ったアマネに対してマイとアリマは笑顔でサムズアップした。

 

『プランK・M・G・・・クスノキ・メグル・ガンパレ』

『トランザムの粒子を流し込んで疑似トランザムを発生させフライトユニットの出力を大幅アップ。敵一人とクスノキを纏めて今の戦場から大きく離すことでタイマン性能が高いクスノキに頑張って討ち取ってもらう・・・完璧なプランだなこれが』

『一人付いて行っちゃったけどワイヤーなら途中で切れそうだったしまぁ結果オーライってことだね!』

「あなたたち人間の心とか持ってる?」

 

 呆れ気味に呟くがアマネは冷や汗が流れたことを感じる。内容はどうあれ、完全に目の前に二人の敵を残した状態で孤立してしまったのだから。

 

『さて、さっきクスノキの大鎌に切り裂かれてステルスが乱れたところを見ると・・・“魔弾の射手(ファントム・シューター)”の秘密はその外套にあるということだな』

 

 スッとアリマは目を細めオリジンを見据える。

 

『ならばその秘密を崩すためにもその外套、剥ぎ取らせてもらう』

『ちょっと悪役っぽいけど、ごめんねー。これ真剣勝負なのよね』

 

 シュバリエは剣の切っ先をオリジンに突き付け、D・Arneは二刃の残した大鎌を手に取る。

 冷や汗を感じながらもアマネは不敵な態度を崩さず、一言だけ言葉を返してみせた。

 

「女の子を剥ぎ取るだなんて、やらしーんだ」

 

 

☆★☆

 

 

 水柱が上がる。対艦ライフルの能力を存分に発揮し足場兼オブジェクトである戦艦達を轟沈させていく。

 そんな暴力的な弾丸の嵐を二刃は避け、斬り、突き進む。

 ゲシュテルンと二刃の戦いは直前まで戦闘していたエリアから大きく離れた位置で展開していた。直接注入された粒子が切れたために改めて戦闘となったわけだが正直ここまでしっかり戦闘ができるまでにモチベーションを復活させたミコトとメグルの苦労と気まずさは想像に難くない。

 ちなみにカイチは吹き飛ばされたかなり早い段階でワイヤーが切れて海にまた沈んでいった。

 

戻れ(バック)撃て(ファイア)!」

 

 ブラスタービットに号令を出し整列、斉射。真っ直ぐ突っ込んでくる二刃のルートを潰し動きを鈍らせるとそのまま戦艦の影を利用しその場を逃げ出す。

 

『させません』

「ちょっ!?」

 

 最早神速としか言い様の無い速度でサムライソードを抜刀した二刃は何の躊躇いも無くそれを投げ付ける。狙い違わず飛来した刃はゲシュテルンの右足を掠めて戦艦――ハーフビーク級の艦首席のあるエリアへと突き刺さった。

 残念ながらクジャン公は乗っていなかったらしく見事に貫通イヤそうではなく。

 

「反応速度が馬鹿げてやがる・・・強化人間か超兵か、よっ!?」

 

 イラつくのを隠しもせずに悪態に変換した瞬間、サムライソードに括り付けられていた閃光弾が強烈な光と共に弾け、ミコトの視界を奪う。

 

「流行ってんのかこれっ!?」

 

 だがいつぞやのジ・Oとの戦いのおかげで対処法は身に付いている。咄嗟にメインカメラをサブカメラに移行し逃げを続行しようとする。

 が、それを許す程メグルも甘くはない。投擲直後に降り立った白い扇形の艦――ピースミリオンを足場に力を込める。

 ズガン、という鈍く重たい轟音と共に足場を“踏み砕き”、文字通りの一足跳びでゲシュテルンの懐に潜り込む。外から見ていた店長らには瞬間移動のようにさえ見えただろう。

 

「デタラメにも程があるやろうがっ!?」

 

 ミコトが反応できたのはたまたまサブカメラに切り替えた瞬間に迫り来る二刃が映り込んでいたからだ。必死にビームサーベルを引き抜き二刃の軌道上に突き出し迎撃を狙う。

 二刃は首を少しだけ曲げると、必殺を狙った光刃は二刃を素通りした。

 納刀されていたガーベラストレートの刃が鞘から少しだけ覗き、ギラリと輝いた。

 

『トった・・・!』

「なんて言わせるか!」

 

 ゲシュテルンのビームマシンガンが放たれ二刃を穿つ。

 

『ッ・・・ですが、甘く、そして浅い!』

 

 衝撃を受け軌道を変えた二刃だがダメージは微々たるものと言わんがばかりに崩した態勢を整えることなく無理矢理ガーベラ・ストレートを抜刀する。

 ――ミコトの目に捉えられたのは、刃が通りすぎた後の銀の輝閃のみ。気付けばアラートが鳴り響きコンソールにはライフルを持った右腕が失われたことを示す表示が現れていた。

 斬り飛ばされたのだ。落ちていく右腕はライフルの先端下に向けて先程二刃が踏み砕いたピースミリオンに突き刺さった。

 理解が追い付かないミコトをさらに衝撃が襲う。打撃。二刃はガーベラ・ストレートを納刀し、その流れで肘鉄をゲシュテルンへと打ち込む。

 続けてその身をくの字に曲げたゲシュテルンの顎を目掛けて掌底を叩き込むとそのまま止まらず膝による追撃。完全に力が抜けたところで追い討ちに一本背負いの要領で残った左腕を掴んで投げ飛ばす。

 

「呆れる程有効なコンバットだ・・・」

「流石、クスノキの娘だ。実用面に振り切れているのに幅広いスタイルだ」

「サクタさん知ってるんですか?」

「門下生に部下が居てその縁でね。何度か尋ねたことがある」

「世界って狭いもんですねぇ」

 

 外から観戦している二人はその動きに感嘆しながら他愛のない話をするが実際に戦っているミコトからしたらたまったものではない。必死にウイングバインダーを動かし態勢を制御しながら海面スレスレで制止する。

 復活したメインカメラを使い見上げた二刃は天に向かって突き出した左手にバチバチと音を立てる光球を生み出していた。

 

『光雷球!』

「【System・EX】起動!」

 

 投げ付けられた光雷球を蒼い輝きを放ちながらゲシュテルンは無事な左手を煌めかせ鷲掴みにする。放たれたパルマフィオキーナが、光雷球を握り潰した。

 一瞬気圧されたようにメグルの動きが止まるがすぐにフライトユニットに取り付けられたグレネードランチャーを連射する。

 

「おっらぁぁ!」

 

 ミコトはすぐさまソリドゥス・フルゴールを展開し裏拳で叩き落す。爆風を少し喰らったがダメージらしいダメージはまるで見えない。

 次いですぐにゲシュテルンはまるで空気の足場を踏みしめるように構えると二刃がやったように空気を揺らして超加速をする。

 

『速い・・・けどっ』

 

 構えを取り直し二刃は迎撃態勢を整える。それを見てゲシュテルンはコマンダントのバインダーベースを前方に展開する。

 

『またバリア・・・?』

「残念!」

 

 メグルの予想とは異なりベースは展開することなく先端を向いたまま――回転を始めた。

 

『ドリ・・・!?』

 

 高音を響かせながらドリルと化した二基のウイングベースが二刃へと迫る。完全な不意打ちを二刃は身体を捻り両手に再び光雷球を放つ。ドリルとぶつかった光雷球が強烈な爆発を巻き起こす。ダメージを受けながらも、その爆風に乗って二刃が離脱する。

 

『っ・・・やりますね』

「そりゃどー、っも!」

 

 光雷球のお返しとばかりにミコトもまたパルマフィオキーナから光球を放つ。メグルはそれに焦る素振りもなくハーフヴィーク級に突き刺さっていたサムライソードを引き抜いた勢いで一刀両断してみせた。

 粒子変容塗料、かとも思ったが恐らく違うとミコトは直感する。先程見せた居合い共々、あれは『技』だと。

 

「冷酷無情、悪鬼羅刹な化け物かよ」

『・・・・・・そ、そこまで、悪口羅列しなくても・・・』

「今更紙メンタルみたいなこと言ってんじゃねぇよ!?」

『・・・でも、少し分かったことがあります』

「あ?」

 

 ツッコミを思わず飛ばしたミコトの言葉を受けて少しだけ言葉尻が弱まったがメグルも言葉を返す。

 

『その光は気功のようなものですね。急激に動きが速くなったり硬くなったように感じますが、今のドリル攻撃を光雷球ではじけた・・・今までぶつかっていた感触ではあんなに簡単にできるとは正直思っていませんでした』

「・・・・・・」

『攻撃力を防御力と素早さに変換した内気功。もしかして、今回以外のパターンもあるんじゃないですか?』

「・・・やっぱ才能とかある化け物って俺嫌ーい」

 

 拗ねたように呟いた後ミコトとゲシュテルンが肩をすくめる。

 

「大正解だ。【System・EX】は【Experience point】、経験値を由来にしたシステムだ。発想元がRPGだから若干引っ張られたが、まぁゲシュテルンのベースに組み込んでるエクストリームガンダムとイクスにも引っ掛けてある」

『経験値?』

「戦いってのは得意分野と不得意分野をどう扱うかで大きく変わるだろ? 俺はバトルでは自分の得意な事を常に相手に押し付けたい。ま、凡才故の見苦しい足掻きってヤツだ。・・・なんで俺今回こんなに自虐しなきゃいけねーんだよ」

 

 ケッ、と忌々しそうに悪態を吐き出しながらもミコトは自身の愛機の核心たる部分を包み隠さず話す。

 それは隠しても無駄だと考えているのか、ただ語りたいだけなのか。それとも。

 

「ゲシュテルンには粒子を多く貯蔵できるようエクストリーム由来のクリアパーツを組み込んである。これは普段のバトルじゃ使わないが、ゲシュテルン本体を動かす粒子を全部機体外に吐き出した時に流れ込むようになってるのさ。ちなみに今起こっている発光現象は粒子を吐き出す余波みたいなもんだ」

『外気功、のようなものですね』

「その中華な感じの響きの内容は詳しくねーから察しきれねぇが、まぁそんなもんじゃね? とにかく、貯蔵した粒子を適切に分配してやることでゲシュテルンには1つ変化が起こる。機体性能、言うなればパラメータをイジることができるんだよ」

 

 本来ガンプラの性能というのはガンプラ本来の特性等の他にGPベースによってビルダーが設定した部分をある程度反映し決まるものだ。攻撃に特化した機体やある程度万能に戦える機体までそれはファイターの個性によって決まるものだろう。

 だが例えば敵が高い防御力を持つ機体であったなら、攻撃力が足りずにまるで歯が立たないというようなこともあるだろう。バトルが始まった時点である種のジャンケンが既に起こっているのだ。

 あまりにも性能差・実力差があるならばこの前提は覆るものの拮抗した戦いであればこのジャンケンは大きな意味を持つ。ミコトは何度かこのジャンケンに敗れ、敗北を喫した経験がそれなりにあった。

 ならばと考案し構築されたのがゲシュテルンガンダムの【System・EX】――戦闘中に攻撃力・防御力・スピードの三つのどれかを削り残りを大きく高めるというシステムを搭載した。これに加えてインパルス由来のシルエットによる換装システムを行使することにより相手の弱点たる部分を狙い撃つことができる。

 要するに、後出しジャンケンである。

 

「尤もー? システムのプロトタイプを動かしてる時に分かったが所詮は小技だから二戦目以降に対策されたりとかは結構あるんだがな」

『それ、どうなんですか・・・?』

「ハッ、最初の1回だけ勝てば後99回負けようがとりあえず優越感に浸ってられるだろうが」

『なんて根暗なポジティブシンキング!?』

「はっはっは。ちなみに以前この話をしたらとあるヤツに『性悪根暗糞人間』とか言われたことがある。まぁ気にしてない、さっぱり気にしてないがな!」

『え、それ気にしてるんじゃ』

「まぁバトル中1回しか使えないとか弱点は結構あるんだが、俺は好き好んでる。こんな所でとりあえずお話は終わりだが・・・ちょーっと迂闊すぎるぞ、お前」

『えっ』

 

 ニヤリと悪い笑みを浮かべミコトはコマンダントのバインダーを展開する。展開状態で高速回転を始めたベースパーツが海へと沈み、プラフスキー・フィールドを形成するほどの過剰な粒子が注入する。

 直後、過剰な粒子にフィールドを構成する粒子が反応し海面が大爆発を起こした。

 噴き上がる水柱がゲシュテルンを覆い、空から見下ろしていたメグルの視界から隠した。

 一瞬メグルも慌てかけるがすぐに落ち着く。円柱を描くように噴き上がる水柱は一時的に姿を隠してもそこから逃げるためには水を突っ切る必要がありすぐに分かる。ならば目を凝らせばいいだけだ。

 十数秒ほどの静寂の後に水柱の一部を吹き飛ばして飛び出る影を二刃のカメラが捉える。弾かれたように二刃が影に向かって飛び出した。

 

『・・・ッ!?』

 

 だがすぐにメグルは間違いに気付く。影は人型ではなく小さな鳥のような形状――ゲシュテルンが背負っていたコマンダントシルエットのみが飛んで行るのだと。

 囮だ、と気付いた瞬間すぐに反転する。背後で水柱が弾けることを感じたからだ。

 

『逃がさない!』

 

 それほど早くゲシュテルンは動いていない。シルエットが外れたことにより推力が大幅にがた落ちしているのだ。そのためすぐ近くにあったピンク色の戦艦へとギリギリたどり着くのがやっとだった。

 だが、ミコトはニヤリとあくどく笑う。そのままゲシュテルンを走らせ戦艦の砲台へと辿り着くとシルエットが外れ露出したコネクタに接続した。

 

「接続成功・・・ミーティア、リフトオフ!」

 

 ミーティアが戦艦――エターナルが離れ空中へと浮かび上がり、二刃へと砲身を向ける。

 

『そんなのありですかっ!?』

「ありだよ、ガンプラバトルなんだからさぁ!」

 

 ロックオンを示す心地よい音を聞きながらトリガーを引く。ミーティアに内蔵された60cmエリナケウス 対艦ミサイルと93.7cm高エネルギー収束火線砲より放たれた巨大なビームが二刃を襲う。

 焦りながらも必死にメグルはアームレイカーを操作しビームを回避し、迫りくる大量のミサイルを弾き、斬り飛ばす。無尽蔵とも言えるその物量を被弾こそあれどメグルは直撃無く捌ききった。

 

「まだまだぁ!」

 

 だがミコトは手を緩めずミーティアソードを展開し進路上にあった戦艦を破壊し轟沈させながら二刃へと突撃する。

 

「おっらああああ」

『く、ぉぁああああああ』

 

 迫るソードに対してメグルはビームサーベルを初めて抜き放つ。二本の刀身を交差し身体を潜らせる。

 停滞は一瞬。すぐにミーティアソードが二刃を飲み込む――直前、内蔵電力が切れたのかソードが消失した。

 

「ちっ、流石に引っ張り出しただけじゃダメか!」

『ッ・・・腕へのダメージがスゴイけど動けないわけじゃありません。でも、そちらはそうはいかないでしょう』

 

 ゆっくりと落ちて行くミーティアを足場にして佇むゲシュテルンへとメグルは言葉を紡ぐ。

 

『そこまで大きなものを動かし、攻撃を全力で行っていた以上もう限界のハズです。ここで一思いに落とさせてもらいます』

「あー、そうだな。ミーティア内蔵電力で動かしていたとはいえ、流石に粒子限界が近いし降参が手っ取り早いなぁ・・・くくっ」

『・・・なんで、笑うんですか』

「お前の常識ならそうなんだろうな、って面白くなっちまったのさ」

 

 ミコトはくぐもった笑いを隠さない。自分の予想が正しいのだと信じて疑わない彼は、言葉を吐き出した。

 

「お前、ガンプラバトル経験まだ全然浅いだろ」

『えっ!?』

「粒子が足りない? なら、供給すりゃあいいじゃねぇか」

 

 曇天が吹き飛び何かがゲシュテルンへと迫る。巨大な紅い翼を装備したその戦闘飛行機というべきそれをメグルはアストレイの知識を得る際に同シリーズの中にそれを見た。

 シルエットフライヤー。ということは、フライヤーが装備しているそれは。

 

「来いっ!」

 

 シルエットがフライヤーから外れゲシュテルンへと向かう。そうはさせるかと二刃が駆けるがシルエットフライヤーに取り付けられた機関砲の攻撃を受け妨害に失敗する。

 赤外線のガイドラインに従いゲシュテルンの背へと翼が舞い降り、合体する。余剰粒子を吐き出しているのか、ゲシュテルンは空へと浮かび上がりながら蒼銀に輝く光の翼を展開した。

 実を言えば先程長々と【System・EX】の解説をしていたのは近場にあったエターナルのミーティアが稼働するか、そして射出したシルエットフライヤーが近くに来るまでの時間稼ぎの一環だったのだ。口八丁で乗り切り逆転の一手を狙う。それは長くバトルをしてきた“凡人”ヤナミ・ミコトが貪欲に勝利を欲するが故に手に入れた彼特有の武器であった。

 

「・・・うっし、シルエットフィッティング完了。ゲシュテルンガンダムフリューゲル、いくぜっ!」

『そんな、装備が飛んでくるなんて・・・』

「ありえないってか? そうだな、リアルな戦闘ならなかなか無いようなことだろ」

 

 普段は持たない左手でフリューゲルに装備された大剣――クラレントを引き抜き二刃に切っ先を向ける。

 

「だけどこういうのが起こることこそガンプラバトルなのさ。面白いだろ?」

『え・・・』

「だから、さ」

 

 メグルの困惑をよそにミコトはこみ上げてくる兪悦を顔に浮かべる。

 これ以上無く楽しい、と言わんがばかりに。

 

「ガンプラバトル、教えてやるよ!」

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「がぼごぶごばぼばばばば!」

「クラレント、モード:スラッシュ!」

「“魔弾の射手”・・・その名前、私大嫌いなの」

 

【Build.10:激闘・強調者と三傑Ⅲ ~切札廻炎~】

 

「――刃が無くとも斬り裂く。私は、“二刃”だ――」



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Build.10:激闘・強調者と三傑Ⅲ ~切札廻炎~

「がぼごぶごばぼばばばば!」

 

 アキヅキ・カイチは海に沈んだままなぜか溺れたような声を上げた。いや実際は溺れていないのだが。ぶっちゃけ雰囲気に流されているだけである。

 

「うーん、これまじぃんじゃねぇの? ヤナミはどっか行っちまったし、アマネの居た場所はもうどこか分かんねぇし・・・孤立してるのって一番ダメだよなぁ」

 

 逆さになったまま胡坐に腕組みといったポーズで海を漂いながら、カイチはカイチなりに頭を回転させる。

 

「まぁとりあえず上がってから考えっか。うん、それがいい」

 

 即座に考えることを放棄したカイチはダークハウンドを漫画の空中遊泳の如く泳がせる。

 もうすぐで海面に出る――そう思った次の瞬間、横殴りの波に飲まれた。

 

「ごぼばはっ!? なななな何だァ!?」

 

 波に飲まれた勢いで幸か不幸か海上へと叩き出される。波を引き起こした何かが通った跡なのか、空気中に紫電が舞っていた。

 戦艦の幾つかが吹き飛ばされたらしく海上に浮いていた残骸にとりあえずしがみついて一息吐く。

 

「ふぃー。何が何だかだぜ・・・にしてもこれからどうす・・・ん?」

 

 スピーカーから何かが近付いてくることを知らせる音が鳴る。だがそれは危険を知らせるアラートではない。

 目を凝らして見ると水平線の向こうから何かが飛んでくるのが見えた。鳥か、何かか――。

 ソレの正体に勘付いたカイチはだらしなく「にひ」と笑った。

 

「・・・もしかして、ラッキーってヤツかぁ?」

 

 

☆★☆

 

 

 逃げていた。逃避行だ。セリザワ・アマネは得意のステルスすら使わせてもらえず狙撃も狙える程離れることもできないほどに追い込まれているのだ。

 獲物を狩らんとするのは天使と悪魔の名を冠する二機のガンダム――ガンダムアストレア・シュバリエとガンダムアスタロト・D・Arne(ディ・アーナ)。確実に、二機は逃げ惑うオリジンを時に射撃で、時に斬撃で攻め立てる。

 だが、アマネはスナイパーだ。攻撃範囲や射線を正確に見切ることには他の追随を許さない彼女の視界には生き延びるラインがしっかりと映っている。

 自身へと通る射線を即座に把握し射線を切るように艦の陰へと移動する。オリジンの盾になりシュバリエのビームを受けた小規模な艦が一隻海へと沈んでいく。

 激しく吹き上がる水柱に乗じてオリジンが戦域からの離脱を選択する。少しでも離れれば――アマネの距離になりさえすれば戦況をひっくり返す準備を整えられる。

 しかしそれを許すほど、彼ら(デルタエース)は甘くない。紅蓮の輝きを放つトランザム状態へと移行したシュバリエが水柱を正面から突破しオリジンへと肉薄する。

 

「ッ・・・さっきまでより、速いッ」

『リミット解除の出し惜しみ無しだっ! このトランザム、触れれば斬れるぞ!』

「それは、イヤね!」

 

 振り抜かれるGNソードに対してアマネはいつの間にかその手に握っていたGNビームサーベルを展開し受け止める。

 拮抗は一瞬。鍔迫り合いに発展することもなくあっさりとオリジンが吹き飛ばされ戦艦のブリッジへと突っ込む。

 無理矢理カメラを回しそれがデラーズ・フリート旗艦、グワデンであることを理解したアマネが思わず毒吐く。

 

「私はアナベル・ガトー怒りの制裁代わりかしら」

『余裕寂々か! だが、ここまでだ! そのマントの下の秘密ごと、切り裂く!』

「・・・1つ、アドバイスをあげる」

 

 紅蓮の影を引きながら迫るシュバリエに対してオリジンが立ち上がる。

 翻した外套から二門の砲門が展開され、シュバリエをロックした。

 

『なっ!?』

「女の子にはみーんな踏み込まれたくない秘密の花園があるの。そこにムリヤリ踏み込むのは、ケガする上にモテないわよ?」

 

 クスリと微笑み、GNビームキャノンのグリップを握り締める。

 トリガーが引かれて放たれた朱い弾丸はトランザムの勢いに乗って突進するシュバリエには避けることが叶わず直撃し吹き飛ぶ。しばらく錐揉み回転をしたシュバリエはそのまま体勢を立て直せず海へと落下した。

 

「これで・・・」

『終わるとは言わないんだなぁこれがぁ! なんちゃって!』

 

 太陽を背に大鎌を構えたD・Arneが上空から降ってくる。振り抜かれた刃を咄嗟に抜いたサーベルでオリジンは受け止めた。今度は鍔迫り合いの形が完成する。

 

『確かにブチョーはデリカシーがわりと無いからモテない! でもでも、女の子の花園なら同じ女の子の私は当然踏み込んでいいよね!』

「心を許してない相手には踏み込まれたくないわね! テンプレ的に言うなら、恥を知りなさい俗物、ってね!」

 

 大鎌を受け流しオリジンは手にしたGNロングビームライフルを空に向かって放り投げGNクローを起動する。

 完全な不意打ちがD・Arneの胸を貫かんと迫る。

 

『まッだまだ!』

「っ!?」

 

 攻撃を視認したマイは大鎌を躊躇いなく甲板に叩きつけ棒高跳びの要領で急激に跳躍する。GNクローが何も無い空間を貫くと同時にD・Arneは大鎌を支点に身体を回転させオリジンに回し蹴りを叩き込む。

 衝撃によろめいたオリジンに再び大鎌の刃が大上段が振り下ろされる。背後から迫る寒気を感じたアマネは外套に隠れたGNビームキャノンを発射。

 反動で機体を前に押し出し回避したオリジンに対しD・Arneの大鎌が甲板に突き刺さった。

 

『あっれ!?』

「これでっ!」

 

 振り向き様にGNビームキャノンを構えロックを待たずして発射する。

 バチバチと弾ける電流を伴った弾丸をD・Arneはその巨大な手甲で受け止める。

 シュバリエと違いナノラミネートアーマーの装甲を貫くことは叶わなないものの装甲を焦がしながら腕を弾くのを見てアマネはビームサーベルを突き出す。

 P.D.(ポストディザスター)世界に置いてビームに対して最強のビーム耐性を誇るナノラミネートアーマーだがガンプラバトルでまで無敵とは言えない。

 戦っているのはMSではなくガンプラなのだ。多少ビームに強くともビームすべてを弾くためにはしっかりと作り込む必要がある。

 凄まじい防御力を誇るからこそちょっとの傷でも付け入る隙になる。アマネのモットーは「隙は徹底的に狙うが無ければ作れ」だ。

 果たして直接突き刺されたサーベル刃はD・Arneの胸部を浅く抉った。致命傷ではないが確かなダメージ。

 ダメージを認識した瞬間D・Arneが転がった。その足を大鎌に絡めながら勢いを乗せて甲板から刃を引き抜き振るう。

 サーベルを手放してギリギリでその一閃をオリジンは避けるがD・Arneの猛攻は止まらない。勢いそのままに大鎌を回転させ石突きに当たる部分をオリジンへと向けると連続で突きを放つ。

 先程までの一撃の威力を重視した斬撃による攻撃から一転した戦闘スタイルは、時折刃での斬撃を交えながらアマネをさらにジリジリと追い詰める。

 

『やっはぁ!』

「えっ!?」

 

 D・Arneは不意に刃をオリジンの目の前に振り下ろし再び甲板へと大鎌を突き刺す。それがミスではないのは動きの迷いの無さで分かる。

 では何故、という疑問が一瞬アマネの思考に空白を作る。その隙を見逃さずD・Arneは大鎌を支柱に回し蹴りを打ち込む。

 アクロバティックな動きと共に放たれた衝撃にオリジンがよろめくのを見たマイはそのまま着地することなく横軸の回転から縦軸の回転へと動きを変え、その勢いを利用して三度大鎌を大上段から振り下ろす。

 当たれば大ダメージは免れない。アマネはファイターの本能だけでオリジンにバックステップを命ずる。

 

 ――背後の海から気配を殺して上がってきたシュバリエに気付かず。

 

 シュバリエの手にはD・Arneが先程まで使用していたガトリングが握られていた。放たれた弾丸が自ら飛び込んできた獲物(オリジン)に吸い込まれる。

 

「ッ――!?」

 

 衝撃で押し出されたオリジンのカメラいっぱいに大鎌の刃が映し出され、次の瞬間には激しい振動とアラートが鳴り響く。

 ついに、悪魔の大鎌が逃げ惑う魔弾の射手を捉えたのだ。

 

『・・・その肩は・・・?』

『なるほど、そういうカラクリ、か!?』

 

 不意にマイとアリマのスピーカーからも危険を知らせるアラートが響き渡る。そのタイプは最大級の危険を知らせるタイプのものだ。

 次の瞬間。

 サテライトキャノンよりも巨大なビームが飛来し、グワデンを吹き飛ばした。

 

 

☆★☆

 

 

「どうしたどうしたぁ! こんなもんかよぉ!」

『っ、く・・・』

 

 完全に言動が悪役(ヒール)のそれだが、アドレナリンが爆発しているミコトは気にも止めない。

 戦況は大きく変わっていた。左手のみでクラレントを振るうゲシュテルンは重厚な一撃を二刃(フタバ)の防御越しに叩き付け、空中で踏ん張りの効かない二刃を吹き飛ばす。

 すぐに光の翼の高速移動による追撃が行われる。残像を残しながら背後に回り込んだゲシュテルンは再びクラレントを叩き込む。

 防戦一方ではあるが絶対に直撃を貰わないように適格な防御に若干苛立ちながらもミコトは多少大雑把になりながらも一瞬足りとも追撃の手を緩めない。この状況がミコトにとって最も有利な状態だと理解しているからだ。

 

「空中戦は厳しいか? だけどこれが、ガンプラバトルってもんだろ?」

『言われ、なくても・・・!』

 

 ここまでの戦況の逆転が起こったのは一重に両者の長所の違いが原因だった。

 クスノキ・メグルは天賦の才(ギフト)とも言うべきセンスと幼少時から修めてきたクスノキの業、それらがガンプラバトルとガンダムアストレイ レッドフレームという機体にこれ以上なく合致していた。

 始めて数ヵ月という短さで充分以上にメグルが戦えるのはこれらが大きい。では、対するミコトはどうか?

 才能など無いと公言し、ビルドファイターとしてもずば抜けた技能を持たないミコトだが、メグルにどうあっても負けないものが実はある。

 それはガンプラバトルバカであること。彼がガンプラバトルを始め、作り上げては壊してまた作ってを繰り返してきた月日は9年間。その間、何百回ものトライ・アゲインで培われた経験値。それこそがヤナミ・ミコトの何にも勝る力となっていた。

 実際地に足が着かず前後左右に加えて上下からも苛烈に攻め込んでくるゲシュテルンに対してメグルは有効な一手を打てていない。現実で相対しての戦いならばきっとこうはいかない。

 メグルにはまるで経験の無い戦いは、対して宇宙や海中でも何度も戦っているミコトにとっては慣れたモノだ。

 時間。それこそが、ミコトが勝利を得るために費やし続けた力の正体だ。

 

『だからといってぇ!』

 

 大人しくやられるほどクスノキ・メグルという少女はか弱くなかった。声に気合いを込め、突撃してくるゲシュテルンに向けて両手から光雷球を整列させるかのようにして連続で放つ。

 最高速をほぼ出したまま自在に駆け抜けるゲシュテルンだが、少しでも蛇行しスピードが落ちれば反撃を打ち込むことはできる。メグルは防御を少し解き、ガーベラストレートの柄と鞘に手をかける。

 

「舐めんなァ!」

 

 対してミコトはクラレントを振りかぶったまま、正面を向いた手甲から一気に粒子を注ぎ込みソリドゥス・フルゴールを展開する。

 注ぎ込まれた多量の粒子に対応するようにソリドゥスはゲシュテルンを隠すほど巨大化し、光雷球へと止まることなく突っ込む。

 ソリドゥスとぶつかり合った光雷球は爆発を起こし、連鎖的に周辺の雷光球も爆発していく。

 吹き上がる爆風を纏いながら突き進むゲシュテルンは展開していたソリドゥスを圧縮する。

 一際強烈な光が手甲に集まり、ビームガンのように射出された。

 迫り来る閃光を二刃は抜き放った二本のビームサーベルで迎撃する。

 

『っ、あっ!?』

 

 力負けしたのは二刃だった。先程のミーティアの猛攻を潜り抜けた代償か、腕に思っていた以上に力が伝わらず大きく体勢を崩す。

 崩れた防御を狙いゲシュテルンが一気に接近する。全身を捻り、クラレントを振り抜く全力の攻撃を叩き付ける。

 嵐の如き一撃は咄嗟に動かしたフライトユニットのバーニアから生まれた推力に二刃が引っ張られ、嵐の中から抜け出す。

 

「なにっ!?」

『やぁぁぁ!』

 

 ミコトの予想外は続く。懐に潜り込んだ二刃はその手にビームサーベルを握ったまま“手を回転”させ、勢いが乗ったビーム刃がフリューゲルに装備されたリボルバーのホルスターを焼き斬った。

 間髪入れずにさらに二刃はもう片手に握っていたサーベルを投擲する。鋭く飛来したサーベルが反対側のハンドガンと翼の一部を穿った。

 

「コイ、ツ!」

 

 崩れた姿勢を整えるためについにゲシュテルンの動きが止まる。それを見た二刃は空いた左手にサムライソードの柄を握る。

 ミコトの脳裏に右腕を奪われたシーンがフラッシュバックし、ほぼ反射的に光の翼を最大出力で解き放つ。強烈な光圧がフィールドを形成する粒子の一部をかき乱しノイズを形成した。初めての衝撃にメグルの視界が揺れ、サムライソードを抜刀するタイミングが遅れたことでゲシュテルンが一気に間合いから離脱する。

 距離を取り合いお互いが相手を正面を見据える。腕を通常の状態に戻した二刃を見ながらミコトは今起きたやりとりに軽く驚愕する。

 フライトユニットのバーニアを利用したあの回避は地に足の付いていない空中戦だからできるマニューバーだ。それに加えてシーブック・アノーとガンダムF91で印象的な手首ごと回す回転サーベル。

 知ってか知らずかはミコトには分からないが、メグルの戦いは数分前より遥かに“ガンプラバトル”に適応していっていた。

 

(適応、というか最早進化だな。ったくこれだから・・・)

 

 自分が同じようなことをできるまでに費やした時間を思い返し、妬み嫉みを詰め込んだ舌打ちと共に一気に決着を付けることを決意する。

 ――その決意が、少しだけ遅かった。

 二刃がろくに狙いも付けずにグレネードランチャーを連射する。がむしゃらに放った後にすぐに投げ捨てたところを見るに弾切れを起こしたようだ。

 爆発した弾が煙幕を作り出し二刃の姿を隠す。対してミコトは焦ることなくビームマシンガンを無造作に放ち煙幕を吹き払う。

 

「――んなっ」

 

 煙幕を飛び越えいつの間にか上空から迫った二刃はガーベラストレートを鋭く抜き放つとクラレントに叩き付けた。

 硬質な音が響き渡り両者の力が拮抗する。

 

『斬れません、か・・・流石の業物ということっ』

「舐めんなよっ、鍛冶師(スミス)の魂だ!」

『ならば直接!』

 

 二刃が左手に握るサーベルに刃を灯す。ガーベラストレートでクラレントを抑え込まれ、右腕を失ったゲシュテルンに横腹に叩き込まれるビームサーベルを防ぐ手段は無い。

 少なくとも、メグルの考えでは。

 バチバチと火花を散らしながら二刃のサーベルを受け止めたのは先程までホルスターが装備されていたアーム。ホルスターを失った空洞部分からビーム刃が展開し受け止めていた。

 

『嘘っ!? 腕も無いのにまだっ』

「はっ、これなら腕が無くなると戦えなくて弱いとか鬱陶しいケチつけられないだろ!」

『何の話ですかっ!?』

「知りたきゃデスティニーガンダムでググれ!」

 

 わりと理不尽なキレっぷりを披露しつつミコトは反対のアームを操作する。伸びたアームにも当然のようにピンク色の刃が現れ二刃の首を狙う。

 ギリギリで刃が届くよりも先に二刃の首が傾き素通りするがそこで一気に力の拮抗が崩れ、クラレントの重さに任せた押し込みで二刃を海面スレスレまで吹き飛ばす。

 動きを完全に止めた二刃を見たミコトは一切の躊躇い無く光の翼を展開し一直線に突っ込む。

 

『舐めるな、は、こちらの台詞ですね! 直線的な動きなら――』

「クラレント、モード:スラッシュ!」

 

 操作と共にクラレントの内部から刃がさらに展開され、延長された刀身に使われたクリアパーツが光を宿す。

 

「クらっ、えぇぇぇェェェェ!!!!」

『遅い!!!』

 

 翡翠に輝くクリアの刃が光の軌跡を引きながら二刃に叩き込もうとする。

 二刃は鞘に戻したサムライソードの柄に手をかけ、居合を放つ。

 力と速さ。それぞれが違った性質を持つ剣がぶつかり合う。

 

 切り裂かれたのは、二刃だった。

 

 

☆★☆

 

 

 ――お前の技は良い。居合は特にだがそれに合わせる体術をよく修めたと言えよう。

 

 メグルの脳裏によぎるのは、祖父の声。

 普段は子煩悩孫煩悩な祖父だが道場に入れば実に厳格で厳しい師匠だ。

 

 ――だが、まだ至らぬ。メグルよ、お主はまだ“奥義”の域に至っておらぬ。

 

≪“奥義”・・・≫

 

 自分の声が反響した。

 

 ――クスノキの技はその技を会得する者によって千差万別となる、言うなれば水の技。それは分かっておるな?

 

≪はい。技に果て無し道に果て無し、何よりも己に果て無し。水のように柔軟に一つの型に収まらず生きる限り先へと歩み続ける。それがクスノキの教えです≫

 

 それが幼い頃から自分が教わってきたこと。“クスノキ”という立派な巨木育て続けた水、それこそが先人達でありメグルの目指す目標。

 

 ――勘違いするでない。心、そして技と体は必ずしも重要ではない。

 

≪えっ・・・おじいちゃんそれはいった・・・も、申し訳ありません師匠≫

 

 ギロリと年齢を感じさせない鋭い眼光を光らせた後、祖父は立派な白い髭を撫で下ろし嘆息する。

 

 ――・・・まぁ良い。クスノキの“奥義”に至るものは必ずを自分だけのオリジナルを開眼しておるのだ。実際に“奥義”に至った歴代の中には、先代のモノを修めること無くその生涯を終えた者も多い。

 

≪それは・・・≫

 

 ――難しく考える必要は無いが考え続けよメグル。お主が考えに考え抜き、そして得た答え。それが“奥義”とも呼べる技となろう。お主がクスノキの新たな技を見出すのだ。

 

『――まだ落ちないかよ。幾ら何でもやりすぎだ』

 

 不意に響いたこれ以上無くマイナスな感情が渦巻きまくった声でメグルは我に返る。見上げた視界に映るのは道場でも祖父でもなく、紅い翼を広げた隻腕の剣士――ガンダムだ。

 名乗りが無かったので機体の名前は知らないが、確かバトル前に聞いた話だとファイターはヤナミ・ミコトという名前だったか?

 正直、苦手なタイプだ。ぶつかり合う度に放たれる口撃の数々はメグルが今まで学んできた相手には無いもので、しかも所々にわりと本気の恨み節のようなものを感じる。

 というか何回か真面目に泣きそうになった。

 

(もしかして、一瞬意識が飛んでた?)

 

 ハッと鈍かった思考が覚醒しダメージを受けたショックで二刃の損傷を確認する。

 酷いものだ。迎撃のために居合で放ったサムライソードは見事に切断され握っていた左腕もボロボロ。斬撃をムリヤリ受け止めたガーベラストレート入りの鞘はどこかに飛んで行ったのか見当たらない。肝心のガーベラストレート本体はかなり刃こぼれした状態で目の前に転がっていた。

 後の損傷はこすりつけるように墜落したのか、左足とサムライソードの鞘がボロボロに削れているし、フライトユニットのウイング等にも損傷があった。

 いつの間にか戦っていた場所も大きく変わっていたのか、足場になっている戦艦はジオンに木馬と呼ばれたガンダム最初の戦艦、ホワイトベースの上だった

 

『なんで、立ち上がれるかねぇ』

「あなただって、立ち上がるでしょう?」

 

 問いの答えは鼻で笑われて終わった。その意図は、メグルには理解できない。

 ガンプラバトルを知らないと彼は言った。

 確かにそうだ。自分はまだ初めて数か月だし、そもそも始めたキッカケだってたまたま剣道部も弓道部も無かったから途方に暮れていた時にマイに捕まりガンプラ部に入部しただけ。

 そして二刃に、ガンダムアストレイ レッドフレームに出会った。赤い身体に白い装甲。刀を使った戦い方にも惹きつけられた。

 動かした時の感動は今でも覚えているが、何よりも自分が修めてきた業を振るい戦えた時の昂ぶりは抑えの効かなかったほどだ。

 楽しかったし自分とも相性が良かった。だからこそ公式戦に出るためのチームの一つに組み込まれたのは嬉しかったしこうして練習試合にやってきた。

 

「私は、負けたくないんです」

『・・・・・・』

「だから、折れません」

『ハッ、そうかよ』

 

 今度こそトドメを、そう言わんがばかりに敵が迫り来る。

 ガーベラストレートを拾う。刃こぼれした刀ではもう一度あの剣を受け止める事はできないだろう。

 

(そもそも、今まで“叩き潰す”性質だった大剣が“切り裂く”性質になるだなんて、これもガンプラバトルだから?)

 

 浮かんだ疑問が泡のようにはじけ、メグルはガーベラストレートをサムライソードの鞘に納刀した。

 今の自分には、結局居合しか無い。ならば、王道ではない道(アストレイ)を突き進むのみ。

 赤翼の剣士を真っ直ぐ見据えたメグルは、二刃の居合を構えた状態で動きを止める。

 

(二刀が使えない。一本は折られ、もう一本は打ち合いはほぼムリ・・・でも、それでも)

 

 一挙手一投足を見逃さないように見つめながらメグルの意識がまるで水面に沈みこむように静かに落ち着いていく。広がる水面の波紋が消えて行き、静寂へ。

 

『――――!!』

 

 何かを叫んでいるようだがもうメグルには分からない。刃を放つ、そのことだけに意識が一本化していく。

 今この瞬間、クスノキ・メグルと二刃は一振りの刀と化していた。

 

「――刃が無くとも斬り裂く。私は、“二刃”だ――」

 

 放たれた。銀の一閃が大剣とぶつかり合い、力を比べ合う。

 結果は引き分け。お互いの刃が反発しあいお互いの身体が仰け反る。

 だが、重さを利用して赤翼の剣士はすぐさま刃を二刃へと差し向ける。トった、と彼の口元が歪み――顔が変わる。

 

 二刃が放った疾風(ハヤテ)の斬撃は、サイズが合っていないサムライソードの鞘をギザギザに刃こぼれした刃が幾度となくこすらせることで火花を舞い散らせた。

 舞った火花は風に導かれ紅蓮の刃へと変わり、銀閃を一切違わずになぞる。

 唯一なぞらなかったのは大剣との打ち合い。紅蓮に燃える炎刀は止まることなく翼を捉え、そしてその身に届かせる。

 放たれたのは一刃。だが届いたのは二刃。

 “二刃”。その名に、偽り無し。

 

 

☆★☆

 

 

「んっ、なのありかよぉ」

 

 光とコントロールスフィアが消えたシステムの中でミコトは悔しげに項垂れる。

 再生される記憶は撃墜された原因。防いだと思えばすぐに追撃してきた紅蓮に燃える斬撃に襲われ、耐えることなど叶わぬその一撃に愛機は無惨にやられた。

 操作を受け付けなくなったバトル台には、セットしたゲシュテルンが先程のバトル等夢であったと言わんがばかりに五体満足で立っている。

 だが、ミコトの手によって装備されていないハズのフリューゲルシルエットがその説をすぐさま否定する。

 

「業・・・粒子が反応したのか。自覚してやった感じじゃ無かったトコを見ると・・・これだから才能のあるヤツは」

 

 ケッ、と悪態を吐き出すとゲシュテルンを回収しシステムに背を向けて粒子が構築する世界から退散する。

 待機している店長とサクタさんを見てそちらの席に近付きながらふと振り返り中の状況を映し出したモニターを見やる。

 

「いい主人公(ヒロイン)っぷりだったよ。俺には逆立ちしたって届かない域で、正直羨ましい。・・・だけど、ちょっと“らしすぎ”だな。・・・」

 

 続きそうになった言葉を飲み込む。客観的に見てかっこ悪いと思ってしまったからだ。

 代わりにボロボロな二刃が映し出されたモニターに視線を向け、したり顔で笑いながら柄にも無い台詞を口にした。

 

「チェック、メイト」

 

 

☆★☆

 

 

 甲板を削りながらギリギリで着地をする。振り返れば、オリジンに追い付いた二機のガンダムが対面する艦の甲板に降り立ったところだった。

 オリジンが立つネェル・アーガマとシュバリエ、D・Arneが立つラー・カイラムはまるで寄り添うように並んでいた。

 

『やっと追い詰めたぁ』

『グワデン轟沈に合わせてジャマー散布からの離脱。いい手際だったが逃げ切れないんだなこれが』

『ジャマーというか、その肩のせいというか?』

 

 マイはオリジンの肩を見やりながらしきりに頷く。

 外套が剥ぎ取られ現れた肩はGN-X特有の丸い肩ではなく黒と赤の尖った肩だ。

 その正体は西暦世界の国連軍のモノではなく、C.E.世界の連合軍に作られたモノ――GAT-X207 ブリッツの肩だ。

 “SEED”を象徴するミラージュコロイド初搭載機であり、切り落とされた右腕を移植したゴールドフレーム天ですら凄まじい隠密性を発揮したブリッツだがコロイド粒子を散布するのが肩だ。

 オリジンは、その肩を持っていた。

 

『肩から散布するコロイド粒子にGN粒子の二乗ステルス。腕に直結するGMロングビームライフルに直接混ぜ合わせた粒子をビームとして放つことで透明化。・・・それが、“魔弾”の正体にして“魔弾の射手”が外套に隠した秘密か』

『ミラージュコロイドの弱点をGN粒子で補填した上でGN粒子のステルスをより精密にする。うーん、よく考えられてる』

「あら、憶測でしょう?」

『流石に見苦しいぞ? 正解はもう出た』

「女の子の秘密は深いもの。決め付けはよくないわよ?」

 

 無論ほぼ嘘だ。オリジンのギミックのほぼ全てを見破られているがアマネが認めていないだけである。

 強いて言うなら切り裂かれた外套――GNマントは常に薄いGNフィールドで覆われ、内側から発するミラージュコロイドの熱探知や粒子流出等の欠点を補いながらステルス性能を底上げしていたくらいだろうか。

 

『狙撃ができる距離はもう取らせない。何を狙っているかは知らんが、勝ちはやらんぞ“魔弾の射手”』

「・・・ふぅ」

 

 ため息を吐き、アマネはじとっとした視線を向ける。その顔色は明らかに不機嫌といった感じだ。

 

「“魔弾の射手”・・・その名前、私大嫌いなの」

『・・・何?』

「オペラの魔弾の射手は七発の弾の内六発は必ず当たるのに最後の一発は必ず外して大切な人に命中してしまう、そういうモノなの。結果的にはハッピーエンドになる物語だけど」

 

 そもそも魔弾の射手とは狩人が射撃大会で結果を残さねば恋人との結婚を許されない、そんな時に同僚の狩人が悪魔に生贄の肩代わりをしてもらうために百発百中の弾を作ってもらうのだが、最後の一発だけは命中する対象を悪魔が決めるという物語だ。

 最終的に悪魔と契約していた同僚が魔弾に倒れ伏し、主人公は恋人と一年後に結婚するハッピーエンドを迎えるわけだが、この物語を起源とした“魔弾の射手(ファントム・シューター)”の異名にアマネは結構立腹していた。

 

「わりと屈辱よ? だって大切な一発を外す百発九十九中の狙撃手、って言われてるようなものだもの」

『あー、なるほど・・・?』

「まぁどうせ、付けた人はオペラとしてのお話を知らないで響きだけで付けたんでしょうけど・・・まさか自分の理想と真逆の名前が広まっちゃえば流石にいい顔はできないわ」

『理想と真逆?』

「えぇ、真逆」

 

 マイの疑問にクスリと笑みを浮かべ、アマネは言葉を紡ぐ。

 

「大切な一発だけは必ず当て、落とす。百発一中。それが私の理想よ」

『確かに真逆だ。・・・だが、悪いな“魔弾の射手”。その理想はこのバトル以降で叶えてくれ』

「・・・イーヤ」

 

 言葉と共に残っていたGNマントを自ら剥ぎ取り投げつけ、マントに向けてライフルを放つ。

 表面に張られたGNフィールドが受け止め大きく広がる。広がる布が視界を奪うがシュバリエのGNソードが一閃しGNマントを切り裂く。

 

『――どこに行った!?』

『上!』

 

 太陽に向かって飛ぶオリジンを発見した瞬間シュバリエが追う。スピードの差は歴然であり一気にその距離が詰まり剣の間合いへと――。

 

『部長、何かおかしい!』

『分かっている! だが背を向けている間に斬れば終わる!』

「その考えまで含めて、期待通りね」

 

 GNソードが届くよりも先にGNマントが無くなり露出したオリジンの背中のGNドライヴが展開する。

 甲高い音と共に放たれる粒子が増加し、()()()()()()()()()()()()()のを合図に粒子が爆発するように展開した。

 さながら、羽の如く広がった粒子の勢いに押されてシュバリエが吹き飛ぶ。

 

『GNフェザーだとっ!?』

『わ、わわ!? センサーやカメラにノイズがー!?』

「気分的には“TRANS-AM RAISER”くらいは流したいところね・・・さて、いかがかしらオリジンの由来、私の切り札は?」

 

 腕を広げ、ゆっくりと振り向きながらシュバリエを見下ろすその様は、ソラン・イブラヒムが神を見出した“OO”冒頭のシーンを想起させる。

 そこでようやくアリマは気付いた。アマネが隠し続けた本当の“秘密”の正体に。

 

『そのドライヴは疑似ではなく・・・Oガンダムの、オリジナルGNドライヴか!!』

「ご名答。肩のおかげで意外とたどり着けなかったでしょう?」

『ッ、だが! だからどうした! フェザーの中だろうとこっちもオリジナルの・・・』

「あら、私の切り札はこれで終わりだけど“私達”の切り札はまだなんだけど?」

『な――』

「ふふっ・・・・・・ブラスター、セイバー、“起きろ(アクティブ)”」

 

 囁くように口にした言葉に反応し、海から六基のテールバインダー状のパーツが飛来する。鋭い輝きを宿した刃がシュバリエの右手を切り飛ばし、砲門から放たれたビームが頭を飲み込んだ。

 

『ば、かな! それはお前のではなく・・・!?』

「えぇ。ヤナミ君のビットよ」

 

 チャキリ。ライフルの砲身が直接シュバリエの胸に突き付けられ、ブラスタービットもまたライフルを囲むように整列する。

 

「“撃て(ファイア)”」

 

 計五つのビームがシュバリエを貫き、吹き飛ばした。

 

「よく思いついたものよ。フェザーのジャミング機能を使ってシステムにアクセス。そのままコントロールをこっちに移す。自分が居なくなっても爪痕を残すなんて、案外献身的なタイプかもね?」

『――――』

 

 追い詰めたつもりが、ビットを隠してある位置まで誘導されていたのだと気付きアリマは二の句が継げなくなった。そのまま爆発に飲み込まれたシュバリエは、フィールドから姿を消した。

 

『部長っ』

「このままっ!」

 

 ブラスタービットが殺到しD・Arneにビームを見舞うがD・Arneは腕をクロスさせ全て受け止める。

 

『使い手が変わっても、同じ武器なら!』

「使い手が変われば、同じ武器でも変わるものよ」

 

 高速で飛来したセイバービットが腕に突き刺さり、その反動でムリヤリガードが崩される。続けざまにブラスタービットが零距離に近い位置で砲撃を放つ。

 絶え間なく放たれ続けるビームがD・Arneを次第に飲み込んでいく。

 

「さて、何発撃ち込めばそのナノラミの塗料は剥げるかしら?」

『うわ、わわわっ!?』

 

 幾ら強固なビーム耐性を誇ろうが流石にノーガードで砲撃を受け続ければダメージは積もっていく。

 

『ジリ貧・・・ならぁ!』

 

 曇天の空を突き抜け、一筋の光が伸びた後にD・Arneに向かって光の柱が降り注いだ。

 

「砲身も無く、リフレクターも損傷してるのにマイクロウェーブを!?」

『いっけぇ!!!』

 

 損傷したリフレクターを広げ、脚部に備え付けられたスラスターの出力が最大で吹き荒れる。強烈な熱量にD・Arneが立つラー・カイラムの甲板が溶解する。

 さながら引き絞られた矢のように力をため込んだD・Arneが放たれる。閃光と化したD・Arneはビームの嵐を突き抜けオリジンへと肉薄する。

 直線的に突っ込んでくるD・Arneに対して何の迷いもなくアマネはライフルの出力を最大に設定し迎撃のための一射を放つ。

 

『そんなものぉ!』

 

 アスタロト特有の分厚いアームガードが装備された左腕が振るわれ翠の閃光が弾かれる。ブラスタービットがD・Arneを追うが、追いつけない。

 

『ポーズは取れないけど、これでレベランス!』

 

 アームガードが展開し拳を構える。勢いを乗せたこの一撃は、既にオリジンが耐えることは叶わない。

 

「当たれば、ね」

 

 D・Arneの頭上からビームが降り注ぎ、ネェル・アーガマへと縫い付けた。

 

『何、が・・・!?』

 

 ライフルにエネルギーが集まる様をカメラ越しに見たマイは我武者羅に操作を送りD・Arneを起こし、回転するようにして避ける。外れたビームは追ってきたブラスタービットへと向かい、ビットから放たれたビームがビームを弾き返した。

 

『え、えぇっ!?』

 

 縦横無尽に動き回るビットが放つビームがオリジンより放たれたビームを撃ち抜いてはまるで壁に当たったボールのように軌道を変えていく。何度かの屈折の内、跳弾したビームはD・Arneを穿つ。

 オリジンの連射が始まる。明後日の方向に放たれたハズのビームはありえない跳弾を繰り返しあらゆる方向からD・Arneに殺到する。たまらず足を止めてガードを固めるD・Arneを、アマネが見逃す道理は無かった。

 

「トランザムッ!」

 

 翠から紅へ。GNフェザーが変色し粒子の鎧を身に纏いライフルを投げ捨てたオリジンが自らD・Arneの懐へと潜り込む。

 GNクローが起動し、左手の一閃でガードをムリヤリ崩す。

 そして右手には、隠されていた武器が握られた。

 

「どうしても跳弾は威力が減衰しちゃうから決め手にならないの。だから、リスクを踏み込まないといけない」

 

 D・Arneを貫きながらアマネは静かに呟く。その右手に握られていたのは槍、ドッズランサーだ。

 

「だから必死に隠してたわ。私の最後の切り札は」

『あ、あはは。そりゃそうだ。それ、オリジナルGNドライヴなんだもんね。トランザムくらい、できるかー』

「ついでにカイチと合流した際にあなたの対策として借りといたわけ」

『対策バッチリ。こりゃあ、完敗だなぁ』

 

 力なく笑ったマイの言葉を聞き、アマネは躊躇いなくブラスタービットに最後の命令を下す。

 

「“全て、撃て(フル・ファイア)”」

 

 ビームを受け止めたD・Arneはそのまま海に吹き飛び、ある程度沈んだ所で爆発を起こした。

 

「・・・お株を奪わせてもらうわね」

 

 オリジンは腰を低くしながら右足を大きく後ろへ引く。左手は胸に当て、右手を体の前方下にかざしながら礼をする。

 レベランス。踊りの最後を伝えるポーズを以ってアマネはバトルを〆て見せた。

 

 

☆★☆

 

 

「えっ」

 

 激戦を終え、ようやく一息吐いたメグルの視界に飛び込んで来たのは、二人の仲間の撃墜判定。

 

「そん、な」

 

 頼りになるチームメイト二人が先に撃墜され自分だけが孤立する。実は、この状況もメグルにとっては初めての状況だ。

 だが、動揺してばかりはいられない。自身もボロボロだがあの二人と対峙した相手が無傷とも思えない。ならば、残った自分が諦めるわけには――。

 

『いやー・・・何かこう、そこまでボロボロなのにやらなきゃならないのはちょーっと?気まずいよなぁ』

 

 ぬかった、と自らを心の中で叱責する。戦闘後の余韻から若干トリップしていた上に仲間の撃墜に動揺していたとはいえ、すぐそこに迫っていた敵に気付かないなんて・・・。

 律儀に目の前に降り立ち、バツが悪そうに頭を掻く黒いガンダム。帽子のような頭にドクロのシールが貼られており片目は眼帯のようなパーツで覆われている。

 まさしく“海賊”というべきその機体は部活仲間が大好きだと公言し、活躍集を動画編集までしてアピールしてきたため基本的にガンダム知識の薄いメグルにも名前が分かった。

 宇宙海賊ビシディアン首領、キャプテン・アッシュの駆るガンダムAGE-2 ダークハウンド――そして、ファイターはカフェに入った時にマイと波長のあっていた少年、アキヅキ・カイチ。

 よく見ればダークハウンドを象徴する得物(ドッズランサー)はどこにも無く、代わりに両腕にはウイング状のパーツが対になるように装備されている。

 

『ま、なんだ? 勝ち負けはハッキリ決めなきゃなんだが・・・ショージキ、ボロボロの女の子にトドメとかワルモンじゃん? そういうのヤナミで間に合ってるし、降参してくんない?』

 

 やたらと人間臭い仕種で降伏勧告するダークハウンドに思わずメグルは吹き出しかける。友人が見せてくれた動画のどこにもこんな姿は無かったから

 でも、それも当然だ。何せ目の前に居るのはMSではなく、ガンプラなのだから。

 

「・・・正直、不愉快です」

『へ?』

「なんでもう勝ったみたいに言うんですか?」

 

 だからこそ、メグルの思いはストレートに言葉に変わる。既に先程の紅蓮に耐えきれず溶解し、まともに役目を果たせないであろうガーベラストレートと鞘を捨て、無事だった二本のビームサーベルを展開すると、その切っ先をダークハウンドへ向ける。

 

「まだ私達が立ってる。今からあなた達を倒せば、それで私達(デルタエース)の勝ちです。ほら、負けてない」

『・・・・・・・ぷっ・・・はは、はーはっはー!』

 

 一瞬の沈黙の後、思わずカイチが笑い出す。若干高笑いっぽくしようとして失敗している感は否めないが、とにかく心の底から笑う。

 

『・・・わりぃ、甘かった。アンタもアマネやヤナミと・・・ここに集まるファイターなんだもんな』

 

 カイチの脳裏に過るのは幼い頃からの記憶。遊び場として入り浸っていたガンプラカフェの記憶は、いつだって熱い闘志のぶつけ合いに彩られている。

 正直大人ばかりで気後れして始めるキッカケを失っていたカイチだが、熱気に充てられた時間は長い。

 だから分かったし楽しかった。目の前に立つこの真っ赤なヤツは、そんな状態でも自分を熱くしてくれる――!

 

『白黒付けようじゃぁねぇの! これで燃えなきゃ、男じゃねぇ!』

「――参ります!」

 

 ダークハウンドもまた同じように二本のサーベルを展開し、赤と黒の一騎討ちが始まる。

 先手を取ったのはダメージを感じさせない程に滑らかに走り出した二刃だ。体制を低く前屈みに走る二刃は風のように敵の懐に潜り込みサーベルを振るう。

 対してダークハウンドはクルリとサーベルを回転させ逆手に持ち変え、受け止める。バチバチと火花が飛び散り、二機を鮮やかに照らす。

 

『らぁ!』

 

 鍔競り合いを拒否したカイチの操作によるダークハウンドが無防備な二刃の胸に蹴りを叩き込む。不意打ちを受けた二刃はボールのように軽々と吹き飛んだ。

 受け身を取って着地するが蓄積したダメージはやはり大きく、思わず左のビームサーベル手放してしまう。既にあらゆる計器はレッドゾーンを指し示しアラートはひっきりなしに鳴り響く。

 それでも。手を緩めずすぐに追撃をかけてきたダークハウンドの腕を絡めとり投げ飛ばした。甲板に激突したダークハウンドが勢いそのままにホワイトベースのウイング部分にぶつかり破壊しながら煙を上げる。

 立ち込めた煙は、轟音と共に吹き飛ぶ。見ればダークハウンドは既に人型ではなく鮫を思わせる突撃形態――ストライダーへと変形していた。

 機首であるドッズランサーが無い代わりか、腕のウイングと“両肩のウイング”が展開した。

 

『ハイパーブーストォ! 行ィくゥぜェェ!!』

 

 超高速の突撃。さらに6枚のウイングが展開する事を合図にダークハウンドの前面を山なりに青い膜――プラフスキーフィールドが覆う。

 驚きの声を上げる間もなく二機は再び激突する。圧縮された粒子に対して二刃はありったけの粒子を注ぎ込んだビームサーベルで抵抗する。

 

「ぐ、ぅぅ・・・ぁ・・・ぁぁあああ!!!」

 

 バキリ、とこれまで二刃を支えてきた右足が圧力に耐えきれずに砕ける。背中から倒れ込みそうになるが必死で身体を捻り、最大出力まで出力を引き上げたサーベルでダークハウンドを受け流す。

 

『え、お、ちょぉ――!?』

 

 強すぎる勢いはダークハウンドをそのまま大空彼方まで運ぶ。軌道修正をしきれず真上へと飛翔したダークハウンドは、そのまま果て――粒子が構築する世界の天井を一度突き抜ける。

 一気に推力が失われただのガンプラに戻ったダークハウンドは、重力に引かれて落下。真上に飛んでいたことが幸いしフィールドに復帰することはできたが当然自在に動かせる程の粒子をすぐに取り戻せるわけもない。

 バタバタと手足を動かしながら最高地点から落下し、甲板に激突する。ギリギリホワイトベースそのものは壊れなかったが、甲板の上に大きなクレーターが現れるという奇妙な状態に陥った。

 這う這うの体、と言った感じでダークハウンドがクレーターを這い上がる。

 

『あ、っぶねぇー・・・まーた場外負けするとこだった』

「またって・・・それに、その羽は」

『おう、ヤナミの遺産さ』

 

 コマンダントシルエット。万能を目指したそのシルエットの本質はここにある。

 ビットと制御システムはアマネが。翼と粒子システムはカイチが。それぞれが運用できるように仕込まれていた。

 そのためにミコトはオリジンの構造を学び、ダークハウンドにも一部加工を施していた。

 

『あのデカビームの後に飛んできたからヤナミの合図だったんだろうなぁ。アレのおかげでアマネと合流できた』

「・・・・・・」

 

 デカビーム、とは恐らくシルエットを換装する前に放ったアレの事だろう。だとすれば。

 

(アレは、私への攻撃だけじゃなくて仲間への合図? 確かにビームはあの背負い物が飛んで行った方向に撃たれてた)

 

 まさか、と言葉が漏れ出る。必死になって打ち倒した彼は、自分が追い詰められ墜とされることまで織り込み済みで戦っていたのか。

 ・・・彼はどこまで予見していたのか。そして、どれだけ戦えばそこまでの正確な予測が立てられるのか。

 予測はセンスの問題ではない。精度を高めるためには何度も何度も戦い続ける必要がある。未だ初心者であるメグルには分からない境地に、メグルは密かに戦慄する。

 

「・・・いえ、今は関係ありません」

 

 砕けた足ではもう立てない。フライトユニットを用いて何とか浮遊し、最大出力の反動で機能不全を起こしたサーベルに代わって折れたガーベラストレートを拾い上げ

構える。

 最早動いているのが不思議な程にボロボロな二刃だが、その纏う雰囲気は決して弱まっていない。むしろより強くなっているようにカイチは感じた。

 

『・・・もう何も言わねぇぜ。終わりにしてやるよ』

「こっちの台詞です」

 

 ダークハウンドがウイングブレードを手に持ち直し構え二刃と向き合う。シン、と二機の間の空気が静寂に包まれる。

 一瞬か、永遠か。どちらとも思えるほどの時間が流れ――。

 

「ぃやぁぁぁぁぁ!!!」

『オッラァァァァ!!!』

 

 同時に二機が踏み出した。一瞬で互いの刃のレンジへと入り、振るう。

 果たしてその刃が届いたのは――より疾く鋭い二刃の刃。折れた刀がダークハウンドの首を刈り取りながら斬り飛ばす。

 

「これで・・・!」

『やっぱ、正面からはムリだよなぁ! だから!』

 

 ダークハウンドのソードを持たない手にはいつの間にか外れたバインダーに装備されていたアンカーショットが握られていた。放たれたアンカーが木馬と呼ばれる原因となったホワイトベースの頭状の部分へ飛来し、フック部分が引っかかる。

 カイチはバーニアをフル稼働させ一気に推力を得る。轟音と共に前へと突き進むダークハウンド。

 やがてワイヤーが限界まで突き進むと引っかかったアンカーが回転し弧を描くように空へと舞い上がる。

 

「そんなっ!?」

『ぉおおおおぉぉぉ!!!』

 

 メグルの常識から外れ、二刃の背後へと回ったダークハウンドはアンカーショットを手放し、腕に備え付けたままのウイングブレードを展開し、突き出す。

 傷だらけの二刃へと、刃が吸い込まれた。

 

“――BATTLE END――”

 

 静かなコールが、フィールドへと響き渡った。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「というわけで今回はコスプレ回です!!」

「ジオン驚異のメカニズムに震えなさぁぁぁい!!」

「Hi-ブロッサムはダテやスイキョウじゃなーーーーい!!」

 

【Build.11:ガンプラコスプレカフェ狂想曲-前編-】

 

「父さんと、母さんです・・・」




史上最大に長くなりましたねー・・・前回にもう少し詰め込むべきでした。
最後に一つイラストを。今回激闘を繰り広げたクスノキ・メグルちゃんです。


【挿絵表示】


描かれたのはメグルちゃんと二刃の生みの親である原崎篝火さんです。提供、ありがとうございました!


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Build.11:ガンプラコスプレカフェ狂想曲-前編-

「というわけで今回はコスプレ回です!!!」

『イェーイ、店長分かってるぅ!!』

 

 やたらと強烈に熱気渦巻くここはガンプラカフェ。ただし普段とその見た目は様変わりしている。

 普段は店の四割程をガンプラや工具、ビルダーズパーツ等のアイテムを売っているブースはまるっと開けられ新たにテーブルや椅子が設置され、さらには店の外にまでパラソルテーブルが設置され簡易的なテラス席が作られている。

 様変わりしたこれらの風景と渦巻く熱気には当然理由がある。

 

『三つのガンプラカフェ合同で行うお祭り企画、“ガンプラコスプレカフェ”! お茶しててもいいですが、この後イベントも盛りだくさん!

あ、申し遅れましたが司会進行は私、ホシナリ・リサがお送りしまーす!』

 

 

☆★☆

 

 

 

「司会能力がこんな高いとは思わなかった・・・思わぬ掘り出し物ね」

 

 チラリとスタッフルームからカフェの様子を伺いながらアマネは呟く。

 ホシナリ・リサは最近話題の読者モデルだ。今回のイベントは衣装が物を言うため色々交渉して呼び込んだらしい。実際着こなすのが難しくきわどいミーア・キャンベルのコスプレを着こなし、さらにはしっかりとMCをできている彼女は広告塔として確かな効果を発揮していた。

 昨今この手のモデル系はちょこちょこガンプライベントに現れる。ガンプラバトルの世界的ムーブメントも理由の一つだが、やはり“ガンプラアイドル”の括りで売り出され現在はハリウッド女優まで上り詰めたミホシや全国大会での出演がキッカケで知名度を大幅に上げたカミキ・ミライ等、この界隈は一種のスターダムと化していることが原因だろう。

 

「粒子システムを用いたアイドルとかも居るわけだし、手広い業界よね」

 

 カンペをバッチリ読みながら今日のスケジュールを紹介しているリサを見ながら呟くと、不意にアマネの背後の扉が開く。

 バツの悪そうな表情をしているその人物の格好を見たアマネはニヤニヤと笑って声をかける。

 

「似合ってるわよヤナミ君。主人公っぽい」

「色々怒られるぞ」

 

 ケッ、と言葉を吐き捨てたヤナミ・ミコトをアマネは改めて監察する。

 深い赤色を基調としたジャケットにボトムスは動きやすさ重視のジャージ系。ウィッグは使っていないがある程度髪を跳ねさせる等して近付けている。

 赤服と呼ばれる衣装は他にも着ているキャラは多いためカラーコンタクトを用いている。その甲斐もあってか今のミコトはかなり“SEED DESTINY”のシン・アスカに近付いていた。

 

「元の色が黒系の髪だからやりやすそうね。カラコンはもう少しハイライトが薄くなるようなのにすれば良かったのに」

「常時種割れとか勘弁してくれ。ただでさえ衣装班の熱意に圧されて苦手なコンタクトまで入れてんだ」

「あー、分かる。いいもの持ってきてくれるのはいいんだけど流石に胸元開いたミニスカキャプテン・アッシュ風改造服とか異常に完成度高い後期OPリリーナコスとかは厳しいというか」

「お前のそれは一種のファンアクションだろ。というかその格好で言うかね」

 

 アマネの対面に座り、頬杖を付きながらミコトがため息を吐く。

 今のアマネの装いはスカートではなく動きやすいパンツスタイルではあるが胸元結構開いてるし肩も露出している。

 明らかに紫に見える銀髪ではなく(曰く元々長い髪をウィッグに隠すには結構物理的に頭が痛くなるくらい締め上げるため嫌っているらしい)いつも通りの赤毛のまま髪を下ろしているが“ZZ”のルー・ルカのコスプレだ。

 

「好きなキャラを選んだだけよ。まぁ、着てみて改めてルーのスタイルの良さが分かってちょっと凹むけどね」

「おぉ、アマネっちに若干喧嘩売られてるんじゃないこれ?」

「マイちゃん、何で入り込むのっ」

「緊張してないようで何より」

 

 いつの間にか寄ってきていた臨時バイトの二人――先日激闘を繰り広げたチーム・デルタエースのクスノキ・メグルとヒノクニ・マイにアマネは柔らかく笑う。

 この二人も当然コスプレ済みであり、メグルは“OO”ファーストシーズンのマリナ・イスマイール、マイは“Gガンダム”のアレンビー・ビアズリーの私服をそれぞれ着用。アクセンツの二人と違いこちらはウィッグをちゃんと着用済みである。

 

「先輩さんからちゃんと教えられてる?」

「え、あ、はい。口数はそんなに多くないしあんまり感情は読み取れませんけど、オリハさん丁寧に必要な事を教えてくれるから助かってます」

 

 アマネはスタッフルームに入る際にすれ違ったカザマ・オリハの無言のサムズアップを思い出してなるほど、と一人納得する。時折カフェでのバイトをするオリハは今回のイベントにも自ら協力を申し出てくれたので新人の指導を担当してもらっていたのだ。

 

「自分が地球統制統合艦隊の台詞噛まないように練習してる最中だったのにねー。悪いことしたかなぁ?」

「ところでアキヅキ君はどうしたんですか? 今日は見てないですけど」

 

 メグルの問いかけにサッと顔を背けたミコトとアマネは無言で隣を指差す。よく見れば、なぜか肩が震えている。

 胡乱げな表情で指示された部屋をのぞき込むメグルとマイ。そこは厨房であり、ちゃんと衛生基準法を守ったコスプレをした料理人達が居るのだが・・・やけに異彩を放つコスプレが居た。

 ずんぐりむっくりした体形であり頭デッカチ。カラーリングはRX-78系トリコロールであり足音は「キュポッ」。コスプレというよりは着ぐるみである。

 

「アッガイだねぇ・・・なんで厨房に・・・」

 

 爪の無い腕には手が出ておりその両手に料理を乗せた盆を持ったアッガイが、振り返った。

 

「「ぶふっ!?」」

 

 同時に吹きだした。振り向いたアッガイの本来モノアイがあるには――アキヅキ・カイチの顔があった。

 

「カイチはあれで昔からよくつまみ食いしてたせいかデザート類以外を再現する料理が妙にうまくてね。しかもたまたま手違いで届いたあのアッガイの着ぐるみを妙に着こなしてね・・・」

「なんであの手で完璧且つスピーディーにキャベツの千切りできるのか謎だわ・・・」

 

 必死になって吹き出すのを堪えるミコトとアマネ。その間にも厨房でテキパキとしっかりと仕事をこなすカイチに四人はひとしきり笑ったところでふとミコトが思い出したように口を開く。

 

「んで、喧嘩って何の事だよ」

「おっと忘れてたぁ! 流石ミコっち!」

「その呼び方止めろっ」

「余計な事を・・・」

「アマネちゃんに物申ーす!」

 

 スビシッ、と突き立てられたマイの指は横に居たメグルに静かに下ろされた。

 

「それでスタイル悪いとか我が親友メグルに喧嘩売ってるとしか!」

「抉ってるのマイちゃんだよぉ! た、確かに、その、コンプレックスというかなんというかだけど・・・」

「というかヒノクニさんが言うことかしら」

 

 アレンビーの私服というかなり体のラインが出るコスプレをしているマイだが、ダンスという自身の動きや肢体を魅せる競技を行っている事もあり出るとこ出た上で引き締まった筋肉が実に健康的だ。

 一方そんなマイに捕まっているメグルは涙目である。思わず自分の胸元を触ってしまいさらに涙目を深める様はどことなく小動物を連想させる。

 

「お化粧してくれるって言われたのに、そばかすはあんまり隠してくれなかったし・・・」

「あー・・・」

 

 衣装班からすればそれがむしろ萌えポイントだと譲らなかったらしい。衣装班、恐ろしいまでに欲望に忠実である。

 

「ところで、クスノキ」

「ひゃいっ!」

「・・・呼んだだけで怯えるなよ」

 

 話題を蒸し返した事に責任を感じたミコトがメグルに声をかけるがその反応は最早蛇に睨まれた蛙の如くだ。

 

「度重なる言葉攻めをしといてそれはムリってものじゃな~い?」

「ヒノクニ、お前マジで誤解以外を招かないような言い方止めろっ! ・・・あー、とだな、この前のあの炎の剣、アレもっかいできたか?」

「・・・いえ・・・」

 

 声のトーンが分かりやすく沈没した。

 

「あれから何度も試したんですが上手くいかなくて・・・あの時は確かに二刃をこの手に感じてたんです。それに、負けたくないって思いに二刃は確かに応えてくれました。でも今は、そこまでの境地に至れなくて・・・」

「・・・思いに応える、ねぇ」

 

 小さく呟き思案するような素振りを見せると、ミコトは立ち上がる。

 

「そろそろガンプラ教室の準備してくる。サポーター後で頼む」

 

 ヒラヒラと手を振って隣のスタッフルームへとミコトは移動する。パタン、と閉じられた扉の音を合図にやはり涙目のままメグルがアマネを見た。

 

「あ、あの・・・やっぱり不愉快にさせちゃったでしょうか・・・」

「陰気なのはいつもの事だから気にしなくていいわよ」

 

 安心させるように微笑むアマネに思わずメグルとマイがドキリとする。同性とはいえ、初めて見た優しげに微笑むアマネは充分に魅力的だった。

 

(ヤナミ君、やっぱりこの手の話にずいぶんご執心ね)

 

 一方微笑みの裏でアマネは立ち去ったミコトとメグルの話した内容について考えていた。

 プラフスキー粒子が人の思いに応えるというのはかの第7回世界大会以来最早通説の域に至る程に論じられ、実例も確認されている。

 だが誰しもその域に到達するわけではない。さながらNTとOTのように至れる者と至れない者はハッキリと別れる。

 ヤナミ・ミコトも当然後者に当たる。しかし普段ならすぐに自分に合わないとしてスッパリ諦める彼が、この粒子反応に対してだけは色々と調べては検証している事をアマネは知っていた。

 

(ま、詮索が過ぎるのも問題か)

 

 そこまで考えた所でそう結論を出してアマネも立ち上がる。既に時計に刻まれた時刻が自分の休憩の終わりを告げていた。

 盛大にオープニングを終えたガンプラカフェは、ここから本格的に忙しくなるのであった。

 

 

☆★☆

 

 

『さぁイベントも盛り上がって来ましたー! 次はいよいよ本日メインイベント、バトルロイヤルです! 準備が整うまでしばしご歓談をー!』

 

 マイクを手に台詞を言い切ったリサに隣の店長がドリンクを差し出す。受け取ると一息にリサは飲み干した。

 

「美味しい」

「うちの自慢の姪っ子が入れたアイスティーさ。美味しいんだが、姪しか入れられないから商品としては提供できない」

「致命的だ」

 

 朗らかに笑うリサの視界が青い光に染まる。すぐそこにあるバトルシステムからプラフスキー粒子が展開していく。

 

「わぁ・・・」

「ふっふっふ。ガンプラカフェ三店舗合同は伊達じゃないのさぁ! 世界大会クラスの10ユニット構成! わざわざクゼに交渉してもらって広い会場確保して良かったよ」

 

 どや顔全開の店長は完全に無視しリサは広がり作り出される青い世界を見つめる。

 時折見たことはあるもののこれほどの規模の粒子散布を、ましてや直接見るのは初めてだった。

 

「ホシナリさんもまだバトルをしたこと無いんだろう? この機会に是非」

「あ、基本仕事とプライベートはバッチリ分けるタイプなんで間に合ってま~す」

 

 三度の飯よりガンプラバトル布教な店長が血の涙を流しているうちに粒子散布が終わり、八機のガンプラが作り出された宇宙へと飛び出し、バトルロイヤルが始まる。

 天井から吊られたモニターには早くも2つの戦場が構成されたのが映し出されてる。

 全身に分厚い装甲と大型のブースター等のゴテゴテとした背中にはこれまた大型なライフルパーツが装備されたガンダムが超高速で迫る。その攻撃をいなすのは両手足に鋭い爪を持つ細身の緑色のガンダムだ。

 

「おぉ・・・GP01HFAbにガンダムダブルドラゴン。どっちも漫画版オリジナル形態とは、また気合いの入ったの出してきたなぁ」

「あ、あっちのカワイイ!」

 

 リサが注目したモニターに映っていたのはどちらも赤いモノアイの機体どうしの戦いだった。

 ただしどちらも二~三頭身程のデフォルメされている。ついでに言えばその見た目は鎧のような形状をしたタイプとマントをはためかせるようなタイプであり、どこか人間が装備したようにさえ見える。

 

「天鵬 司馬懿サザビーとコマンダーサザビーのSDサザビー対決とはこれまた渋い」

「同じ名前なんです?」

「SDガンダムの世界は基本それぞれ独立してるんだけどモチーフになるMSが一緒という事さ。三國志の世界をモチーフに司馬懿の演者として選ばれたサザビーと、侵略者の指揮官として選ばれたサザビーがあの二体だよ」

「微妙に分かりにくいけど、元ネタが一緒だって事は分かりました」

 

 外野とは裏腹に宇宙の戦いが激化する。HFAbが両手に持ったビームライフルを連射し弾幕を張りながら突撃する。

 対するダブルドラゴンはドラゴンファイヤーで弾幕を吹き飛ばすと一旦大きく距離を取り、その背に蝶の翅を展開する。

 その動きを見たHFAbは動きを止めメガビームキャノンをチャージし、放つ。

 轟音と共に迫る戦艦クラスのビームに臆することなく脚のクローを展開したダブルドラゴンが真・流星胡蝶剣で迎え撃つ。激しい激突に真っ暗な宇宙に光が溢れ、ダブルドラゴンは真っ二つにビームを割りながらも押しきれず、二機の必殺攻撃は停滞し拮抗する。

 

 攻撃の余波は、別の戦場にも飛来する。

 

 得物をぶつけ合うサザビー二機が危険を感知し飛び退る。次の瞬間、直前まで二機がぶつかり合っていた場所をビームを通過した。

 距離を取ったサザビー達は同時にファンネルを展開すると遠距離からの撃ち合い、避け続けるが見えないビームの主を警戒しているのが分かる。

 

「やべぇなダブルドラゴン。よくアレ作ったよ」

「コマンダーと司馬懿も派手だなぁ。流石実質ラスボス対決」

「私あのゼフィランサス知らない・・・漫画ちょっと買ってくるー!」

 

 ギャラリーたちはモニターに映るガンプラ達のそれぞれの挙動に一喜一憂し、そのたびに会場のボルテージが跳ね上がっていく。

 その熱を感じた店長は腕を組みながら満足げに何度も「うんうん」と笑顔で頷いた。

 

「うーん、派手だねぇいいねぇたまんないねぇ・・・。この熱い感じ、やっぱバトルはいぃ・・・」

「あ。あそこのバトルスゴイ」

 

 恍惚とする店長の横でリサは新しくモニターに映し出された戦闘を指差す。

 

「・・・・・・ゲェッ!?」

 

 何かがひゃげたような声が思わず店長から噴き出た。

 

 

☆★☆

 

 

 甲高い音と共に刃を打ち合わせる二機のガンダム。打ち合わせては離れ、また打ち込んでは離れる。何度も何度も打ち合った二機は全力で振り被った渾身の一撃で鍔迫り合いに発展する。

 二機の剣士はそれぞれ、ガンダムキマリス・オラシオンとカザマ・オリヤ、ガンダムアストレア・シュバリエとカミシロ・アリマといった。

 

「オリねぇから借りてきた単分子ブレードとシールドブースターのラッシュを受けきるとは、やるじゃねぇの!!」

「そっちこそ、新しいGNブレイドをここまで受けきられるとは思っていなかったぞこれがぁ!」

 

 お互いが意地になり足を止めた剣戟の応酬が始まる。

 斬る。突く。叩く。互いに片手に握った剣で火花を撒き散らしながら無限とも思える一瞬を打ち合い続ける。

 その無限を打ち砕いたのは、ビームの嵐だった。

 

「な、なんだっ!?」

「やばっ、離れるぞっ!?」

 

 オラシオンとシュバリエが戦闘を中断し逃げ惑う。嵐はやがて過ぎ去り、その主が姿を見せた。

 

「Hi-νとケンプファー?」

 

 呟きに応えるように二機のカメラアイが輝く。

 Hi-νと思わしき機体は本体にはほぼ手が加えられていない(せいぜいサイドアーマーがGP03のテールバインダーになっているくらい)だが、その背にはファンネルは無く、代わりにドラムパーツに接続されたビームスマートガンとレドームが装備されている。

 一方のケンプファーは機体カラーが濃い藍色になっている他とにかく追加武装が目立つ。左腕にはアレックス由来と思われるガトリングガン、右手にはパンツァーアイゼンが装備されている。さらには背にはシュベルトゲベールとバインダーにさらにガトリング砲とアシンメトリーにてんこ盛りだ。

 その二機がまるでオリヤ達等眼中に無いと言わんがばかりにぶつかり合う。スマートガンの大出力の砲撃をシュベルトゲベールが一閃し吹き飛ばす。拡散したビームがオラシオンとシュバリエを襲うがまるで気にした様子は無い。

 ケンプファーがガトリングを連射すればHi-νは宇宙のデブリを足場に飛び回りニュー・ハイパー・バズーカを放つ。

 逆にHi-νが腕部ガトリングを撃ちまくればケンプファーは前傾姿勢を取り被弾面積を減らすとスラスターを吹かせて一気に体当たりする。

 マイダスパンツァーでHi-νを捉えたケンプファーはショットガンを撃ち込もうとしたがHi-νのシールドに装備されたビームキャノンでケンプファーを追い払う。

 思わず見とれる程の高度な戦闘だ。・・・ただし、その攻撃のだいたいが周りに被害を撒き散らしていなければ、だが。

 

「ま、まずい! このままじゃ俺ら流れ弾で一掃されるぞ!?」

「一時休戦だ! 確実に死ぬほど強いが、片方に肩入れして戦えば落とせる!」

「よっしゃそれでいこう!」

 

 オリヤとアリマが即座に結託すると比較的倒しやすそうに見えるケンプファーに二人がかりで突っ込む。

 流石の突撃力を誇るオラシオンと掴まったシュバリエは一気に懐に入り込むと共に鋭い切れ味を誇る愛剣を振った。

 だが、

 

「なっ」

「うそぉ」

Behinderung(邪魔)

 

 高速の斬撃は対艦刀が受け止めていた。さらにどれだけ押し込んでも片手で持ったシュベルトゲベールに抑え込まれた剣は進まない。

 

『Gut。若者はこれだけ熱い方がいいものだ』

『そうね。でも、この国にはこういう言葉もあるでしょう?』

 

 流暢な日本語がスピーカーから届く。直後、シュベルトゲベールに込める力を強められると、振り抜かれた。

 

『人の痴話喧嘩を邪魔するヤツは?』

『馬に蹴られて分子崩壊!!』

 

 真っ二つに切り裂かれたオラシオンとシュバリエを二門のガトリング砲が蜂の巣にする。さらには容赦ない追撃がビームスマートガンから放たれ飲み込む。

 いろいろちげーよ、というツッコミすらすることもできずに、カザマ・オリヤとカミシロ・アリマはリタイアした。

 

『・・・静かになったなティア』

『えぇそうねブレージ。・・・これで邪魔者は居ない』

『あぁ・・・続きを始めよう』

 

 二機のガンプラは各々の得物を構え直し、叫びながら再びぶつかり合った。

 ハイレベルな文字通りの激闘。とにかく周辺をひたすらに余波で破壊しつくす形で行われるという点に目を瞑れば、まだエンターテインメントとして観客は若干引きながらも蚊帳の外故の気楽さで楽しんでいた。

 ――この時までは――

 

『ジオン驚異のメカニズムに震えなさぁぁぁい!!』

『Hi-ブロッサムはダテやスイキョウじゃなーーーーい!!』

 

 

☆★☆

 

 

「というわけでお願いします我らがアマネちゃんだけが頼りなんだー!」

「うん、流石にこれは対応するしかないからその情けない感じは止めましょうか」

 

 仕事中に呼び出されたアマネはため息を吐き出すと縋りついてきた店長をぞんざいに振り払った。

 

「えっと、あのチョー強いガンプラ達はいったい」

 

 一方訳が分からないと言った感じで困惑しているのがリサである。加えて言えば先程カメラに映り圧倒した二体のガンプラに引いていたりする。

 

「ブレージ・リリーマルレーンさんとクリスティアーネ・リリーマルレーンさん。ドイツのガンプラカフェの店長夫婦さんで今回のイベントの協力者」

「店長さん? あのめちゃくちゃ強い人達が?」

「公式のガンプラバトル宣伝目的の店の店長だからね。バトルが強い人は多いさ」

 

 ヤジマ商事がより手軽にガンプラに触れる機会を増やしたいと企画されたのがガンプラカフェだ。そこの店長に選ばれるという事は何かしらの能力を持っている人物である事でもある。

 人を惹きつけるビルダー能力。楽しさを教え伝える指導能力。そして、ガンプラバトルの強さ。

 

「伝えるためにもある程度強くないといけないものさ」

「店長さんも強いと?」

「当然! まぁ普段は禁止されてるんだけど・・・この前みたいにヤナミ君とかくらいなら・・・」

「脱線してるわよ」

 

 ジトッとした目線を受けた二人は慌てて話の軌道修正を図る。

 

「え、えーっと。そんな強いのが普通な店長さんが何であんな事を?」

「・・・普段のあのリリーマルレーン夫妻はそれはもう砂糖吐くだけじゃ物足りないくらいイチャイチャしてる夫婦なんだけどね」

「その反動なのか、一瞬で険悪になっては決着が付くまで喧嘩するんです。千かマイナス千かの二択」

「まぁ喧嘩するだけならいいんだけど、今回みたいにイベント中でも急にバトル始めるもんだから・・・」

 

 我が世の冬が来たと言わんがばかりに沈痛な面持ちで語る店長とアマネにリサもかなり重大な事だと理解する。

 

「でもバトルロイヤルなら決着まで戦っても別に」

「問題はそこですホシナリさん。さっきオリヤさん達が撃墜されたように、あの二人は周りに気を使わない」

「そして、それが一般参加者ならまだしも協同してるカフェの店長だとバレれば・・・ぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ」

「まだバレてないのに騒がない!」

「ゴットラタンッ!?」

 

 鳩尾に拳を叩き込んで一発K.O.したところでアマネがまたため息を吐き、モニターを見る。

 問題源は共に健在であり激しく戦闘を続けている。トランザムバーストでも止まるか怪しいレベルだ。

 

「ア、アマネなら狙撃で何とかなる可能性がある。ヤナミ君達だと得意レンジになる前に落とされかねない。頼む、よ?」

「息も絶え絶えで悪いんだけど叔父さん。あの二体完全に新作よ。流石にデータ無しであの二人を撃墜できるかというとムリが・・・」

「あの二体はそれぞれガンダム・Hi-ブロッサムとケンプファーAS(アームドサヴェージ)と言うそうです」

 

 かけられた声にリサが目を向ければそこに珍しくコスプレをしていない人物が居た。

 ハロの缶バッジを付けたハンチング帽から漏れ出た濃いクリーム色の髪が片目を隠している。すらりと伸びた足といい実にモデル体型である。

 

「可愛い! この女の子もお知り合いですか?」

「Mann! オ・ト・コです!」

「はいはいストップストップ」

 

 食い気味にツッコミを入れる少女のように綺麗な顔の少年をアマネが窘める。

 

「リサさん、こちらハンス・リリーマルレーン君。正真正銘の男性」

「・・・リリーマルレーン?」

 

 聞き覚えのある苗字にハンスをリサが見やる。するとハンスはその目から光を消し、影のかかったかのような暗い表情で未だ派手に戦闘を続けているモニターを指差した。

 

「父さんと、母さんです」

 

 

☆★☆

 

 

 着替える暇は当然無かったため、ルー・ルカの服のまま空いたバトル台に愛機GN-X・オリジンをアマネはセットする。

 次いで介入できるようにバトルシステムの一部プログラムにアクセス。複数現れた金色に輝くコントロールスフィアにデータを入力していき、乱入できないようにセットされていたファイアウォールを外していく。

 本来は気軽に遊びやすくするために解除厳禁なのだが、放置することを良しとしない状況ができた時のためにアマネはシステムに介入する権利を持っている。いつぞやミコトとカイチが組んでいたバトルの時は予想外のイレギュラーで乱入されてはいたが、基本アマネがややこしい手順を踏まなければカフェのバトルに乱入する事は叶わない。

 

「――これで良し」

 

 入力を終え、金色のスフィアが消えた後にはいつもの粒子が作り出した青いコンソール達が浮かんでいるだけだ。

 

Verzeihung(ごめんなさい)アマネさん。お手を煩わせて」

「やっぱり下手な日本人より日本語扱いこなすわね・・・気にしないでハンス君。貴方に謝られるくらいならあっちに謝ってもらいたいわ。さしあたって、アクセルレイトジンクスのレプリカパーツ提供をしてもらおうと思ってるから」

「ホント好きなんですね・・・」

 

 モニターに映ったハンスの顔が苦笑いに染まる。

 まるでそれを合図にしたかのようにシステムが再起動する。オリジンの前にカタパルトが形成され、アマネの前には通常通りのコントロールスフィアが出現する。

 アマネが握り込めばオリジンが応えるようにその姿勢をカタパルトの勢いに耐えられるように調整する。完全にシステムは乱入者であるアマネの参加を認めていた。

 

「さ、時間も無いし・・・セリザワ・アマネ、GN-X・オリジン。速攻で、片を付けましょうか」

 

 カタパルトが起動しオリジンの身を宇宙へと投げ出す。センサーがすぐさま戦闘の気配を察知するが目標ではない事を悟ったオリジンはそのまま宇宙を翔ぶ。

 

「僕のヘヴンズが壁になります。後ろから狙い撃ってください」

 

 オリジンに並び翔ぶ白い影がハンス・リリーマルレーンの声で呼び掛ける。

 ハンスが操るガンプラは、細くスラリとしたハンスと反比例するかのように随分とマッシブだ。全身を分厚い装甲に身を包んだ機体は肩に4門と脚部に2門のキャノンを持っている他、その背に大柄な機体と並ぶ程に巨大なリングパーツ――スターゲイザーのヴォワチュール・リュミエールが装備されている。

 何より特徴的なのはガンダムタイプでありながら角が円形になっていることだ。

 ヘヴンズガンダム。ガンダムヴァーチェの改良機でありながらラファエルガンダムのGNビッグキャノンを追加した大出力機体。

 HG故にガンダムナドレへのパージシステムを持たないがその分内側の隙間を埋めきった機体は硬く、大出力の砲撃に耐えられるようになっている。

 

「了解。気付かれないのが一番だけど・・・」

『来たかぁいMein Sohn(我が息子)!』

『そちらはアマネさんね。Lange nicht gesehen(お久しぶり)

 

 並び立つ二機がアマネ達を出迎える。当然ながら、ガンダムHi-ブロッサムとケンプファーASだ。

 

『ハンスが来る前に決着を付けたかったが、来てしまったものは仕方ない』

「待ち構えてられる冷静があったらこんな馬鹿騒ぎさっさと止めてもらっていいかな父さん母さん!?」

『それはできないわハンス・・・ここでキッチリ雌雄を決しないといけないの』

「なんでさっ」

『『店に飾るHi-νガンダムの色を決めなきゃいけないから!!』』

「デリケートな所いったわねぇ・・・」

『やはり青と白! 定着しているイメージでこそ!』

『お客の機体に答えるにはやっぱり元祖! 小説版カラーの白に黒であるべきでしょう!』

『地の文ではそれはνガンダムだったろう!』

『そもそもHi-ν自体が後付けなんだから関係無いっ!』

『ティア、それはエゴだ・・・』

「吹き飛べ」

 

 恐ろしく低い声でハンスはヘヴンズのGNビッグキャノンのトリガーを引いた。一瞬収縮した粒子は次の瞬間には膨大な光を放ちながらHi-ブロッサムとケンプファーASを飲み込もうとする。

 二機が錐揉み回転しながらビーム避ける。

 

『威嚇すら無しかっ。そんな子に育てた覚えは』

「これが一番だと間違いなく言いますとも! 馬鹿騒ぎは早めに修めるに限る!」

『仕方ない・・・先にハンスを落としましょう』

『りょ、了解だ!』

 

 一切の容赦なく大出力のビームを放ちまくるヘヴンズに対して先程まで戦闘をしていた二機が連携して行動を開始する。

 連携したのを見たアマネはオリジンを動かし、ASに向けて“魔弾”を放つ。

 

『はっ!』

『げふっ!?』

 

 ASが即座にHi-ブロッサムを蹴飛ばし方向転換する。狙撃は頭部の角で吹き飛ばし、一部当たった装甲を削りながらも一気にオリジンへと迫る。

 放たれたガトリングの斉射はGNフィールドで防ぐが、次いで放たれたパンツァーアイゼンがフィールドを引き裂く。

 ケンプファーASのバーニアが出力を上げて火を吹き、シュベルドゲベールを振りかぶるのを見、アマネはGNキャノンを放つが、振り抜かれた対艦刀はビームを切り裂いた。

 

「粒子変容塗料に、ケンプファー・アメイジングのレプリカ機! 流石にズルい!」

 

 ケンプファー・アメイジング。かの三代目メイジン・カワグチが初の公式戦で使用したワークスモデルだ。

 ガンプラカフェではこのような知名度の高いガンプラを少数生産で一部商品化しており、特にメイジンの機体はレプリカモデルとしてある程度の数が市場に出回っている。クリスティアーネのケンプファーのベースはそのレプリカモデルが使われている。

 

『使えるものは幾らでも使わないと』

「そのストイックさを喧嘩で好き勝手するため以外に使ってもらえますか!」

 

 シュベルトゲベールを振り回すASに対してGNビームサーベルで受け流しながら距離を取ってはライフルを放つ。ある程度近い距離でありながらもケンプファーASは的確に角がビームを弾き飛ばす。技量は、圧倒的。

 

 

『そぅら!』

「ッ、ぐ!?」

 

 回転蹴りを叩き込まれたオリジンが吹き飛び、反射的に飛び出したヘヴンズが器用に受け止める。

 

『ナイスだティア! 一網打尽にしろという事だね!』

「なんのっ!」

 

 歓喜の声と共にHi-ブロッサムがビームスマートガンを発射する。それをヘヴンズは高出力のGNフィールドを展開し受け止める。

 

「これ、耐えられる!?」

「長時間はムリ、なので!」

 

 背面のリングがヘヴンズの胴を中心で包むように稼働する。さらに展開されたヴォワチュール・リュミエールに反応するように円状に展開されたGNフィールドが鋭く尖っていく。

 

「これが、GNノヴァブラスター!」

 

 指向性を持たされたフィールドがヴォワチュール・リュミエールを伴いながらHi-ブロッサムのビームを弾きながら迫る。

 すぐにHi-ブロッサムがビームを切ると横入りしたケンプファーASがシュベルトゲベールで受け止め、切り伏せる。真っ二つになったフィールドは二機を避け、背後に漂っていたコロニーを貫通した。

 

『素晴らしい威力だハンス・・・ちょっと震えたぞ』

『だけど、このままでは決着を付けきる前に消耗しきってしまうわね・・・やりたくはなかったけど、仕方ない』

 

 目を合わせ、頷き合った二機がスッと片腕を上げる。

 

『『モォッ、クゥゥゥ!!』』

 

 パチィィィン、と甲高い音と共に指が鳴り、ブレージとクリスティアーネの声が高らかに響く。

 すると宇宙が揺れ、一部が大きな暗黒に包まれるとその暗黒から指のようなものが現れる。

 指はそのまま暗黒の端を掴むと押し込むように広げていく。やがて充分に広がったのか、奥に赤い光を滲ませながらその姿を現した。

 深いグリーンの機体は何故か腕が3対あるがその体付きはどこもかしこも丸く、どことなく愛嬌さえある。――ただし、その大きさと引き連れている同型機の数を除けばだが。

 

「メ、メガサイズのハイモック?」

『ふっふっふ。これぞ夫婦共同作業で生み出したメガサイズモック3体を用いて作ったイベント用ガンプラ、ギガモック!』

『そして引き連れるハイモックも二人で夜鍋して作ったわ。本当は888体作りたかったけど時間が無かったから519体しか居ないけど』

「充分過ぎです母さん!!」

『とぉにかく、これ以上邪魔したいのであればそのギガモックを倒して進んでくるがいい! 期待してるぞっ!』

 

 あまりにも無責任な言葉を残してHi-ブロッサムとケンプファーASが飛び去るとそれらの進路を妨害するようにギガモックとハイモック達が立ちはだかる。

 ギガモックのモノアイが輝き、六本の腕がそれぞれハルバード、ハンマー、メイス、ヒートホーク、ランス、ヒートサーベルを握ったギガモックがゆっくりと動き出した。

 

「・・・うーん、これは流石にイベントで済ませれないかなぁ。どうやって修正しようかしら」

 

 若干現実逃避をしつつ、アマネはギガモックにライフルの銃口を向ける。

 こうしてただの夫婦喧嘩の仲裁は、いつの間にかカフェを大きく巻き込んだ祭りと化していくのであった。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「ろ、ロケットパンチッ!?」

「――天来変幻!」

「みんなホントに綺麗・・・まるで、星屑の宝石みたい・・・」

 

【Build.12:ガンプラコスプレカフェ狂想曲 -後編-】

 

「悔い、改めろっ♡」



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Build.12:ガンプラコスプレカフェ狂想曲 -後編-

「先手必勝です!」

 

 先んじて動いたヘヴンズが再びGNビッグキャノンを発射し直撃させるが、ギガモックはまるで堪えた素振りを見せない。

 お返しと言わんがばかりにハルバードを振り払う。大雑把な狙い故かヘヴンズの真横を刃が通過するが、付近にあったコロニーに激突したハルバードはコロニーをそのまま破砕する。

 

「巨体も合わさって硬すぎる!? 当たったらタダじゃ・・・」

「ならまず得物から!」

 

 ヘヴンズの背後から飛び出したオリジンが動きを止めたハルバードの上に陣取ると、ハルバードの一点に向けてライフルを連射する。的確に、一点のみを狙い撃つ狙撃はハルバードの柄を穿ち、8射目で貫通した事を確認するとビームサーベルを打ち込みハルバードを叩き折った。

 

「硬いけど、倒せないまでじゃ・・・」

「アマネさん、下がって!」

 

 ハンスの声が響く。いつの間にかギガモックの巨大なモノアイが、オリジンを見つめている。

 ギガモックは折れたハルバートを投げ棄てながら空白になった手を握り締め、その巨大な腕を前へと突き出す。

 腕の付け根から炎が舞い、オリジンへと向けて飛翔した。

 

「ろ、ロケットパンチッ!?」

 

 半分悲鳴が混ざったようなハンスの声を受けてオリジンが回避行動を取ろうとするが、その巨大さ故の攻撃面積の多さと存外早いスピードを見たアマネはふぅ、と息を吐いた。

 

「ムリ、かな」

 

 最後の抵抗と言わんがばかりに展開したGNフィールドはあっさりとロケットパンチに破壊される。

 圧倒的な破壊がオリジンを襲おうとした、その時。

 蒼く輝く小さな影が割り込み、その身の丈に合わない巨大な双剣で拳を受け止めてみせた。

 

「根性見せろよ飛駆鳥! 飛燕・・・竜巻返し!」

 

 青い身なりをした武者――武者飛駆鳥がその手に握った二本のエクスカリバーに灯るビームが輝きを増し、回転と共に振り抜かれた瞬間輝く竜巻となり拳を吹き飛ばす。

 代償に、二本のエクスカリバーが見事に折れたが。

 

「ちっ・・・やっぱ旧HG版じゃ厳しいか」

「・・・仕事はどうしたのヤナミ君?」

「助けてやった第一声がそれかよ。別に俺だけじゃねーよ」

 

 途端に不機嫌そうな声をしたミコトは飛駆鳥の肩越しに後ろを指差すと同時に複数のモックが吹き飛ぶ。

 巧みにGNガンブレイドを操り吹き飛ばし、切り飛ばすのはダブルオークアンタフルセイバーだ。ELSをも殲滅できると称される力を絶え間無く放ち続け、背後から迫るバスタードソードを持ったモックを腰に装備していたGNソードⅤの居合いの一刀で片付ける。

 二本のビームダガーの軌跡を刻みながら美しい剣舞(ソードダンス)でモックを切り刻むのはピクシーだ。本来地上戦用に回収されたその機体にはFbのユニバーサルポッドが装備され、妖精の名に恥じない踊りを魅せていた。

 宇宙の黒を引き裂くように飛ぶ二つの赤い閃光は備え付けられたビーム武装を駆使し巧みにモックを追い詰める。一塊の集団になった所で二機の戦闘機は合体し一機のMS――リバウに姿を変える。そのままSDEXシナンジュを変形させた高出力ビームライフルの一射で固まっていたモックを纏めて吹き飛ばした。

 それぞれがある程度撃墜していく内に警戒したのかモック達が下がっていく。それを見た三機が近寄ってくる動きを見たアマネはそのファイター達を見破る。

 

「クアンタはクスノキさん、ピクシーはヒノクニさんで、リバウはオリハさん?」

「はい。店長さんからの新しいお仕事で助太刀に来ました」

「流石に騒ぎが大きすぎて他のお仕事にも支障が出るからってねー」

 

 神妙なメグルの顔とどこか楽しげにヤレヤレといった素振りをするマイがモニターに映し出される。オリハは無言でサムズアップしており、どうやら店長からの助っ人というのは本当らしい。

 そうこうしている内にギガモックが再び動き出す。並のガンプラよりも巨大なヒートサーベルを振りかぶる。

 

「まずいです、固まってたら一網打尽に」

「問題無し。ここまで含めて囮作戦だから」

「ぃよっしゃぁぁぁ!」

 

 オリハに続くようにやたらとボリュームの大きな声が響き渡る。すぐにその正体を見抜いたアマネは文句を言おうと繋がった通信モニターを見る。

 

「プッ」

「一目見ただけで笑ってんじゃねーよ!?」

「アキヅキ、その主張する暇があったらしっかり制御してっ!」

 

 トリコロールのアッガイ、もといカイチがかなり泣きの入った声の抗議を別の声が遮る。

 次いで姿を現したストライダーでハイパーブーストするダークハウンドは別の鳥のような戦闘機系の機体を牽引していた。

 ギガモックの図上まで到達したダークハウンドは牽引していた機体を離して離脱する。ダークハウンドから放たれたその機体はすぐに変形し人型を取ると、背負っていた砲身をバスターライフルに接続する。背中のウイングが展開する。

 ガンダムウィスタリアの瞳が光るのを合図にアイバ・トウジがトリガーを引く。ビッグキャノン以上の出力を誇る大出力の砲撃がギガモックを穿つ。

 防御態勢を取っていた巨大な体躯が、離れた位置にあるデブリ帯まで飛ばした。

 

「流石に撃墜はムリとは分かってたけど、ちょっとは堪えたかな?」

「アイバ君まで・・・これどういう事?」

「オレは臨時バイト、かな。安全地帯(セーフゾーン)作りのための」

「安全地帯?」

 

 疑問の声が響く中、ミコト達乱入組全員が堪えきれないように笑う。

 すると変化が訪れる。

 宇宙に、無数の穴が開いた。

 

 

☆★☆

 

 

 

 真っ暗な宇宙を無数の“色”が染め上げる。

 “色”の正体は様々だ。ビームだったり、バーニアの火だったり、爆発だったり。

――そして、数えるのが馬鹿馬鹿しい程の無数のガンプラだったりした。

 

「さぁ、シークレットイベントである悪のギガモック軍団と有志により結成された“ガンプラカフェ連合”との激しい戦いが繰り広げられています! 果たして元凶のギガモックを打ち倒し、撃墜数を稼いだスーパーエースの称号はどのファイターが勝ち取るのかぁ!」

 

 渡された即興のカンペを全力で読み上げるリサ。この大問題を店長は“自由参加型大規模レイドイベント”と称してイベントの一環だと言い張る事にした。

 そのために他のバトル第を追加しカフェ側のスタッフを一部送り込んだ。送り込まれた面々はモック達を吹き飛ばし安全地帯を作り出すと、そこに有志の参加者達が出撃できるエリアを作成した。

 後はありったけ追加したバトル台から順次出撃する事でモック軍団に対抗する“ガンプラカフェ連合”の出来上がりというわけだ。

 尤も連合を維持するために店長がシステムのコントロールルームで必死になって制御を担当している(時折悲痛な悲鳴が聞こえてきたがスタッフは全員ガン無視した)。

 

「・・・スッゴいなぁ」

 

 一人司会を任されたリサはひっきりなしに色んな戦場を映し出すモニターに釘付けになっていた。

 様々なガンプラ達がハイモックと激闘を繰り広げる。撃墜し、撃墜される度に観客達から声が上がる。

 

「あぁ、宇宙での戦いなんだから周りに気を使わないと!」

「ザコの数が多すぎるって・・・」

「モックたちはだいたい攻撃力重視の装備で装甲が薄いみたいだから距離を取って戦うのが有効じゃない?」

「デカブツが動き始めてる! 前線に誰か伝えろー!」

「サポート組、しっかり考察しろよー! 外からギガモックの弱点を見つけるんだ!」

「っていうかモニター足りねぇ把握しきれねぇっ!?」

 

 バトル台の数に限りがあり出撃できるファイターにも限りがある。出撃できないメンバーは他のファイターをサポートするために入り込んでいるし、それでも出撃できないギャラリーはモニターの映像から少しでもサポートのための情報を読み取ろうとする。

 この熱気はせっかくの楽しいイベントを邪魔する(モック)を何とかしたい、という正義感故か?

 

「・・・ううん、違う」

 

 すぐにリサはその考えを改める。なぜならそれは、ギャラリーたちの反応を見ればすぐに分かる事だからだ。

 掌底に蒼い風を纏ったステイメンがモックを内側から粉砕すれば、その身を紅白に染めたバルバトスがクタンと連携しながら自慢の打刀で叩き切る。

 コロニーの外壁を滑走するヅダが立ちはだかる(モック)を吹き飛ばし、漆黒のアデルが乱雑な徒手空拳で蹴飛ばし砕く。

 片翼のストライクフリーダムが失った左翼の代わりに追加したブラスターを含めたフルバーストで何十ものモックを撃墜すれば、その撃墜により発生した大爆発の炎熱を取り込んだ炎剣をV2が振るい溶断する。

 さらにはHAFbに牽引されてダブルドラゴンとSDサザビー達も駆け付け、戦場はより混迷を深めていく。

 個性豊かなガンプラ達が活躍すればするほど、ギャラリーのボルテージはどんどん上がっていく。

 

「みんな、好きなんだなぁ」

 

 ガンプラ好きのビルドファイターズ。彼らは、総じてお祭り好きなのである。

 モニターが全体を映し出すように引いていく。幾つもの輝きが、リサの瞳に反射した。

 

「あの、くあんた? っていうガンプラも特別綺麗だったけど・・・」

 

 ほぅ、と無意識に息が漏れ出ていた。

 

「みんなホントに綺麗・・・まるで、星屑の宝石みたい・・・」

 

 ホシナリ・リサ。彼女もまた、ガンプラバトルに魅了されつつある者であった。

 

 

☆★☆

 

 

 

「ハチャメチャが押し寄せてるねぇ」

「クスノキさん、ツッコミ待ち?」

「分かってるならツッコんでよぉアマネっちぃ」

 

 オリジンを小突いたピクシーはそのまま離脱する。

 

「セリザワ、あのデカブツどもは俺らの“仕事”の範囲内だ。・・・つーわけで、元凶は任せた」

「・・・そうね。ハンス君、行きましょう」

「え・・・・・・いえ、分かりました」

 

 一瞬逡巡したがすぐにハンスも頷き、ヘヴンズとオリジンが粒子を散らしながら飛ぶ。少し移動した所で思い出したようにオリジンが振り返る。

 

「ところで機体が普段と違うのは何でなの?」

「火力系のシルエットのテストに店長と戦った時にゲシュテルンが吹き飛ばされてオーバーホールしてるからだよ! 何だよ1/100アプサラスにザク頭の代わりにPGZZの上半身装備って!?」

「あはは・・・こんなことになるとは思ってなかったので二刃を置いて来てて・・・」

「ガンプラ教室で作ってみたしせっかくだからこっちで踊ってみたくなったんだー!」

「・・・オリニィに、武器盗られたままだから・・・絶許」

 

 四者四様の声が返ってきた。特に最初と最後には色々な感情が渦巻いていたがアマネはそこに触れない事にした。

 

「・・・信頼してあげるんだから、ヘマしないでよ?」

「うっせ。信頼してんならさっさと何とかしてこいよ」

「はいはい。じゃ、頑張ってね」

 

 ウインクを一度飛ばすとアマネのモニターが消え、オリジンが加速した。そうはさせないと離脱していく二機に向けてギガモックがヒートサーベルとハンマーを降り下ろし行く手を阻もうとする。

 

「やらせねぇよウスノロがっ!」

 

 攻撃に飛駆鳥が割り込みその瞳をSDガンダム特有の鋭い目付きへと変え、その背から身の丈を遥かに超える閃光翼(ビームウイング)を展開し迎撃する。

 翼が動きを抑え込んでいる間に完全にオリジンとヘヴンズは離脱する。そのまましばしの拮抗を見せるが、質量差はどうしようもないらしく飛駆鳥が押され始める。

 

「だー!? こんな事ならリクエストなんぞ無視して普通のV2作りゃ良かったー!?」

「ミコっちの感情の爆発が足りないから負けてるんだよきっとー!」

「飛駆鳥的には間違ってない・・・マイ、助けてあげよう」

「ほいほい、了解だよオリハ先輩!」

 

 素早くギガモックの身体を駆け上がるようにピクシーとリバウが舞う。そのまま武器を保持した腕にロックをかける。

 

「巨大機体を狙う時の御約束~!」

「関節、狙い!」

 

 ピクシーはビームダガー二本を、リバウはビームナギナタを構えると関節目掛けて回転しながら突っ込む。一回転する度に斬撃が叩き込まれていき、ものの十秒程で腕二本を切り落とした。

 

「やった! マイちゃんオリハさん凄い!」

「あ、ありがとうメグウプッ」

「き、気持ち悪い・・・リバース、案件・・・まっし、ぐら」

「助けてくれたのは感謝するがお前ら馬鹿だなやっぱ!」

 

 閃光翼の推力を利用して飛駆鳥がピクシーとリバウを回収する。

 次いでその隙を突いてハイパーブーストで超加速したダークハウンドが突っ込む。が、物悲しい金属音と共に見事に装甲に弾かれた。

 

「あぁぁ槍が折れたどーすんだこれぇぇぇ!?」

「アキヅキ、相手はダークハウンドの天敵典型例なんだからこっちで護衛してくれ! クアンタの人、合わせて!」

「は、はい!」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばしたトウジに従いメグルのクアンタがウィスタリアと並び立つ。

 近寄ってくるモックをカイチが追い払っている間にウィスタリアのキャノンとクアンタのGNバスターライフルに粒子を集める。

 

「マルチバスターライフル【MODE3:CANNON】!」

「トランザム、ライザー!」

「「イッ、けぇぇぇ!!」」

 

 GX譲りのマルチバスターライフルのキャノンモードと全長最大約1万kmにも達するトランザムライザーソード。

 どちらも戦術兵器に分類されるMSには過剰過ぎる文字通りの“必殺技”が束ねられ、残った四本の腕を防御姿勢で固めたギガモックに直撃する。

 だが、使う必殺技が常識はずれならギガモックもよっぽど常識はずれだった。

 

「か、貫通すらしない!?」

「一射目で後退りさせるだけしか出来なかったから束ねたのに、これが店長クラスの作り込みって事ですか!」

 

 驚愕の声を挙げながらも攻撃続けるがギガモックの防御は分厚く突破は叶わない。次第に全力の攻撃の代償に粒子を食い潰していき、トウジとメグルの耳朶をアラートが叩く。

 焦りが二人を支配し始める中、まるで激励するように大出力のビームがギガモックを穿った。

 

「何っ!?」

 

 ツインアイに何故かSDガンダム風のニッコリ笑顔の瞳を浮かべサムズアップする機体がショルダーキャノンからビームを放っていた。

 

「パーフェクトガンダム! なんて出力の・・・」

 

 パーフェクトガンダムの影から新たに二体の機体が飛び出す。ビームサーベル六刀流を構えるビギニングガンダムとオオワシストライカーを装備したストライクガンダムだ。激しいビームの嵐を絶妙なマニューバでギガモックに迫ると、ビギニングは六本のサーベルを鋭く振り抜きストライクは73F式改高エネルギービーム砲をそれぞれ防御する腕に叩き込む。

 先程オリハとマイが必死になって壊した腕をビギニングとストライクはあっさりと破壊し、鉄壁と思われたギガモックの防御をついに崩す。

 

「今なら! この後の事なんて考えず、全力で!」

「お願いクアンタ、切り開いて!」

 

 ウィスタリアとクアンタがありったけの粒子を振り絞りキャノンとライザーソードの威力を引き上げる。それに合わせるようにパーフェクトも放ち続けていたビームキャノンの出力をさらに引き上げた。

 防御の崩れたギガモックを穿ったビームはそのまま腹部に突き刺さると、やがて轟音と共に貫通した。

 

「よし、倒し・・・ウプッ」

「いや、まだだ!」

 

 オリハが吐き気と戦いながら希望を口にするが即座にミコトが否定する。

 キャノンとライザーソードに注げる程の粒子が無くなりギガモックの姿が克明に宇宙に浮かび上がる。だがその姿は腹部に大穴を開けられて尚、何かを掴むようにその巨大な腕を伸ばしているものだった。

 まだ、動いている。

 

「う、噂のゾンビットなモックとか・・・ウェェ」

「――天来変幻!」

 

 声と共にミコトはカタパルトから黄金に輝くサポートメカを発進させる。すぐに飛来したそれを、黄金の羽衣へと変え飛駆鳥が纏う。

 そのまま鋼鉄迦楼羅・超鋼(メタルガルーダ・スーパーハガネ)にマウントされた目牙閃光爆星(メガビームバスター)目牙閃光銃(メガビームライフル)をギガモックへと照準を合わせる。

 

「こういう時に言ってやる台詞は、一つだろ」

「・・・なるほど。その通リ・・よ、よし復活してきた」

「わ、私も何とかー・・・メグル、ガンブレイド貸してー」

「うん、私も一本分くらいならまだ使えるから、一緒に」

「ライフルモードくらいなら、ウィスタリアもまだ撃てそうだ」

「え、ちょ、何お前ら分かり合ってるの俺さっぱりだよ!? 仲間外れ良くないと思うぞー!?」

 

 混乱するカイチをよそに全員が武器を構える。それは何もミコト達だけではなく、その場に居るガンプラカフェ連合のほとんどがギガモックに照準を合わせていた。

 ニヤリとミコトは笑い、ギガモックに最後の言葉を贈る。

 

「戦いは、数だよ」

 

 みながトリガーを引く。

 ビームが、砲弾が、魔法が、技が、天驚拳が。多種多様な攻撃がギガモックへと纏めて打ち込まれる。

 腹を、背中を、足を、腕を、頭を。命中した攻撃は少しづつ、少しづつギガモックを削り取っていく。やがてそれらは積み重なり――。

 最後には、不死身のギガモック消滅させていた。

 

 

☆★☆

 

 

「もうやだ・・・」

 

 諦めたようにハンスが肩を落とす。

 最早あらゆる場所が戦場となっている宇宙で戦闘が見えないエリア。そこには複数の撃墜されたガンプラと、前が見えないレベルでびっしり陣形を組んでいるモック軍団が居た。

 

「肉の壁ならぬモックの壁ね」

「向こうから反応があります。でもあの陣形・・・」

「邪魔物が来たらすぐに壁を解いて誘い込む罠でしょうね」

 

 モック達はみな両手にサブアームを使って合計四枚の大楯を構えており、攻撃の気配はまるでない。だというのに、周辺には撃墜されたガンプラがある。

 それはつまり、撃墜したのが向こう側に居る二人に違いないという事だ。

 

「一撃で突破して、不意討ち。実力差を考慮するならそれしかないけど・・・」

「なら・・・情けない話ですがアマネさん。不意討ちを頼んでいいですか?」

「えぇ。というか、それが最適解でしょ?」

「・・・Vielen Dank。いずれ、お礼をします」

 

 心底申し訳なさそうなハンスに二つ返事で頷くアマネ。それに対してハンスは深々と頭を下げる。

 そして、顔を上げたハンスの表情には既に先程までの穏やかさ、申し訳なさ、可愛げ等は消え去っていた。

 

「ヴォワチュール・リュミエール、オーバーロードモード・・・トランザム、スタート!」

 

 苛烈で好戦的。そんな印象さえ抱かせる表情へと変わったハンスはヘヴンズに二つの指示を送る。

 指示に反応したヘヴンズから二色の強烈な輝きが放たれる。ヘヴンズそのものは真っ赤に染まり、ヴォワチュール・リュミエールは周囲の色を塗り潰さんとばかりに計7つのリングとなり高速回転していく。

 異変に気付いたモック達が密集を深めるのを尻目に展開されたヴォワチュール・リュミエールはさらに加速しながら次第にヘヴンズへと迫る。

 リング全てがヘヴンズへと同時に触れ、内部へと潜り込むのを合図に一際強い閃光が放たれる。

 閃光が晴れると、ヘヴンズの姿が少し変化していた。

 白。純白の、しかして最も強く全てを塗り潰す光を機体の内側から放つその姿は名前に相応しい神々しさがあった。

 ヘヴンズガンダムが全ての砲門に純白の粒子を集めると、それぞれの砲門に光球が発生する。

 計六つの光球はどんどん巨大化していき、やがて触れ合った光球は一つになる。そのサイズはいつの間にか、ヘヴンズよりも遥かに大きく成っていた。

 

「――Fire――!」

 

 圧縮された粒子がビームとして解放される事無く球状のまま放たれる。たまらず飛び出した数機のモックがシールドを構え立ち塞がるが、粒子は一瞬でモックを飲み込みながら停滞することなく突き進む。

 惨劇を目の当たりにしたモックが陣形を組み直しより壁を分厚くする。果たしてその目論見は当たり、壁の大半を飲み込んだ光球はその威力を弱める。

 壁の向こう側に居たHi-ブロッサムのビームスマートガンの砲撃とケンプファーASのシュベルトゲベールが力を失った光球を破壊し霧散させる。

 

『素晴らしい一撃だったよハンス。だが、捨て身でもギリギリ届かない』

「――届いた」

 

 ビッグキャノンごとオーバーヒートした疑似太陽炉をパージすると、ハンスは額を伝った汗を拭いながら不敵に笑った。

 白い燐光を失いながらもツインアイに宿した光は消えずに、ASの背後に不意に現れる紅い影を見据えた。

 

『しまっ・・・アマネさん!?』

「背面の装甲、ケンプファーなんだから薄いですよね!」

Unwahrscheinlich(ありえない)!? Hi-ブロッサムのレドームの索敵を掻い潜る等・・・』

「油断大敵だよ、父さん。さっきのオーバードライブで粒子がそこには溢れかえっている。索敵の精度は落ちるし、アマネさんなら当然掻い潜る」

 

 ハンスがしたり顔で頷き、アマネはトランザムの粒子をそのままライフルに注ぎ込む。砲身がひしゃげるのも構わず背中に勢いよく付き出し、零距離でGNロングライフルのトリガーを引く。

 収束した粒子が、放っているライフルのバレルを破砕しながらもビームマグナムに似た重たいSEを響かせながらケンプファーASを貫通した。

 

『ティア!』

『タ、ダで・・・終わらない!』

「ッ!?」

 

 アマネにダメージを知らせる揺れとアラートが届く。既に限界を迎えていたハズのケンプファーASは、振り向いてバーニアに僅かな火をつけるといつの間にか握っていたアメイジングナイフをオリジンの胸に突き刺しながら組みつく。その状態でついに力尽きたのか静かにモノアイの光が失われる。

 しかしナイフを突き刺しオリジンに組み付いた腕の力は弱まらない。ASはその巨体でオリジンの動きを大きく制限していた。

 

『よくも・・・だが、ティアが最後に残してくれたこの状態・・・まさしく愛だ!』

「だからそれが、迷惑なんです!」

 

 叫びと共にアマネはGNフェザーを展開する。空気の無いハズの宇宙に強烈な風圧に似た衝撃が周囲に広まり、拘束していたASを突き放す。

 

Nutzlosigkeit(無駄)! ビームスマートガンは伊達ではない!』

 

 フェザーを展開する間に既にリチャージを済ませていたビームスマートガンをブレージは放った。圧倒的出力を誇るビームがオリジンに迫る。回避など、考えるだけ無駄な速度だ。

 

「ここで足止めをされて避けれないのが愛だというなら」

『あっ!?』

「こうできるのも、愛ですかっ!」

 

 だがアマネは冷静に、その手の奪った大剣――ケンプファーASのシュベルトゲベールを振り抜きビームを迎撃する。

 粒子変容塗料の効果は凄まじく、放たれたビームは見事に切り裂かれた。

 

『ちょ、アマネちゃんそれは反そ・・・!?』

「何が、ですか?」

 

 ゾワゾワッ。

 恐ろしいまでに底冷えする声に、対面するブレージのみならずたまたま通信を拾ってしまったファイター達皆の背筋を冷たい氷塊が伝った。

 そして偶然か必然か。何故かブレージのモニターにアマネの表情が映る。

 目元に影がかかっているがその目は決して笑っていない。なのに口許にはブリザード吹き荒れる微笑が刻まれていた。明らかに、アンバランス。

 

『ひっ』

「悔い、改めろっ♡」

 

 何故だかやけに可愛らしい(語尾にハートマークが付きそうな勢いで)声と共に展開するGNフェザーと同等レベルのGN粒子でコーティングされたシュベルトゲベールがHi-ブロッサムに叩き込まれる。

 一際強いGNフェザーの輝きが真っ暗な宇宙を照らし出したのを合図に、混沌吹き荒れる傍迷惑な夫婦喧嘩は幕を閉じたのであった。

 

 

☆★☆

 

 

「刻の涙が、見える・・・」

「しっかりしてブレージ・・・ここを、ここを乗り切れば!」

「二人とも余裕だねぇ。じゃあ追加」

「「ィャァァァァッ!?」」

 

 殆ど断末魔と化した声が響く。幸いスタッフルーム間にしか届いていないらしく、あらゆるスタッフはそれを無視した。

 

「まぁ、ギリ恩情だな・・・」

「カイっチ。アレ結構拷問めいてるよ?」

「拷問めいてるだけなら、マシよ?」

「闇が深いよオリハ先輩!」

 

 覗き込んでいたカイチとマイ、オリハの視界には赤茶色の髪をしたわりと引き締まった体格をした男性とどこか優雅さや気品を感じる金髪の女性が刺々しい健康マット上に正座させられ、その膝の上にガンプラの箱――中身はガンプラではないものが詰まっている――が積まれていた。

 言うまでもなくこのいつの時代の拷問かというような罰を受けているのは本日の騒ぎの元凶のリリーマルレーン夫妻であり、執行官は頬が痩せこけたように見えるも額にハッキリと青筋を浮かべた店長であった。

 満面の笑みで新しい箱を絶妙なバランスで積み上げ、夫妻を的確に追い込んでいく様は話に聞くフランスの処刑人を連想させる。

 

「さー、そろそろクゼも来る頃です。御説教の準備できてませんね? その状態でしっかりみっちり受けてください♪」

「「Brachial(人でなし)!?」」

「・・・ところでブチョー、どこ行ったんだろ」

「オリニィと戦ってたコなら、撃墜されて復帰できない判定喰らってたから拗ねて横で膝抱えてたよ」

「あー。何か分かるかも」

 

 それ以上は見るに耐えなかったのかカイチ達は撤退し、何事も無かったように世間話を始める。

 

「あの、そのクゼさんって・・・」

「今日のイベントの共同したカフェの店長さんよ。あの人の御説教凄くてね。しっかり心構えしてないと心が崩れ去るわよ?」

「じょ、冗談に聞こえないです・・・」

 

 涙目になり震えるメグルにどこか楽しげにアマネは紅茶を啜る。

 ガチャリという音と共に扉が開き、向こう側からミコトとハンスが入ってきた。

 

「お疲れ様。ごめんなさいねハンス君、手伝ってもらっちゃって」

「いえいえ。これくらいで罪滅ぼしになれば・・・」

「俺には何にも無しかよ」

 

 けっ、と悪態を吐き出しそのままミコトは自販機に向かう。それを確認してからアマネはハンスに近寄った。

 

「何か聞かれてたみたいだけど?」

「あー、ヘヴンズのコンセプトとか設計思想とか、そういう所を。自機に使うための参考にしたいと」

「・・・要るかしら。火力系のシルエット」

「シルエットは三つがお約束だろーが」

 

 聞こえていたらしく、“テクス先生のコーヒー”とパッケージに書かれた缶コーヒーを取り出しながらミコトは顔をしかめる。

 時刻は夕暮れ時。すでにイベントのほとんどが消化し終わり、馬鹿騒ぎは少しづつ静寂へと落ち着いていっていた。

 それでもメインホールからは喧騒が消えず、アマネはホールを眺める。

 

「楽しそーだな」

「えぇ、ヤナミ君だって分かるでしょう?」

 

 振り向きながらアマネはミコトに優しげに、そしてこれ以上無く嬉しそうに微笑んだ。

 

「お祭りは楽しいもの。私たちの考えた事で楽しく過ごしてもらえたなら、それは幸せな事じゃないかしら?」

 

 

☆★☆

 

 

“BATTLE END!”

 

 システムが終了を告げる中、白と灰色で彩られた戦乙女の名を冠した機体が残骸達に腰を下ろす。

 包まれた粒子が消え、座った姿勢のままそのガンプラは動かなくなった。

 

「――ふむ、シュヴェルトライテは順調だな」

 

 手元のコンソールを操作するとフィールドにあったハズのシュヴェルトライテと呼ばれた機体が男の手元に移動する。

 ボサボサの髪に無精髭、目の下の隈を隠すような大きなフレームのメガネを付けた男性。自堕落な印象をも覚えるが、よれた白衣が科学者然とした雰囲気を作り出していた。

 

「71%。ようやく形に成ってきたか」

『もう充分? つまんないし僕引き上げていーいー? 暗いしさー』

 

 コントロールルームに粒子が消えて真っ暗になった試験場からの通信が届く。男は顔をしかめ、マイクに声を飛ばす。

 

「始まりは喜んでいた癖に」

『シュヴェルトライテを動かすのは楽しーけどさー』

『こうも機体が違うだけのCPU相手では、ワタクシ満足できません』

『せめて対人戦やらせろよ。勝手に漁りに行くぞ』

「・・・好きにしろ。だが、シュヴェルトライテは持ち出し厳禁だ」

『いいじゃないですか。どうせ自分以外に使わせるアテも無いんでしょう?』

 

 男は一際大きなため息を吐き出し、向こうに居る声に答える。

 

「お前が使ってるこのガンプラはあくまで“試験試作機”だ。自惚れるな」

『って言ってもねー』

『しっくり来るのがトライテだけですのに』

『俺が持ってればスクランブルみたいに暴走しないで済むじゃねぇか』

「極論を出すな。外出許可は後で出してやるからさっさと戻れ」

 

 シッシッ、とこれ以上無く邪険に手を払う。それを見たためか、お返しとばかりにため息を吐く気配が伝わってきた。

 

『はいはーい、っと』

『それでは・・・今日はオルボワール、と送らせていただきます』

『問題起きて泣きついてきても知らねぇぜー』

『失礼します』

 

 壁の影になっている自動扉が開いたらしく少しだけ暗がりの試験場に光が入り込む。

 光を反射して生まれた小さなセルリアンブルーの輝きを視界の端に捉えた男は即座に思考を切り替え、背後に居たスタッフ達に向き直った。

 皆が皆、白衣を纏った科学者然とした統一感を持っていた。

 

「さて、漸く試験も見れるくらいには進んだ」

 

 冷房の効いているというのにどこか浮かれたような熱気が部屋全体を包んでいる。

 誰もが、次の言葉を望んでいる。それを分かった男はニヤリとそれはそれは悪どく笑い、芝居がかった口調と動きで言葉を紡いだ。

 

「さぁ同志諸君。本格的に解き明かしていこうじゃないか。素晴らしき“マシタの遺産”の真理を!」

 

 歓喜の声に応えるように、男はさらに笑みを深めた。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「ミコト君今どこですかぁぁぁ!?」

「デスティニーとストフリ。実に良き展開じゃないか」

「集中、ですよ。アイカさんの才能は保証しますから」

 

【Build.13:Diva・Oratorio】

 

「・・・歌、か・・・?」




今回もイラストとガンプラいただいております!
今回不憫に頑張ってたハンス・リリーマルレーン君と愛機ヘヴンズガンダムです。


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イラスト及びビルダーは友人のリヴェルさんです。ありがとうございます!


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Build.13:Diva・Oratorio

「ふーるすーくらっちらーぶ♪ ぜーろから、ひゃーくまで組み上げったーい♪」

 

 コツコツと杖を鳴らしながら歩く少女の片目には眼帯が付いているが痛々しさ等はまるで無く、ヘッドホンから流れる音楽に合わせて歌詞を口ずさむ度にピョコピョコと栗色のポニーテールが揺れる様は快活で可愛らしい印象を受ける。

 

『目的地周辺です』

「あ、この辺かー」

 

 しばらく上機嫌で歩いていた少女はヘッドホンに接続されたスマホから流れてきた合成音声の指示に従いきょろきょろと周りを見渡す。

 視界を巡らせていると、目を引くモニュメントが設置された建物が見えた。思わず少女の頬が緩む。

 

「あそこに居るんだっけ・・・よーし、行くぞー!」

 

 おー! と拳を振り上げた後少女はヘッドホンを首にかけ直し、鼻歌混じりにその建物へと向かった。

 

 

☆★☆

 

 

「あ、ヤナミだ」

「学校から直接来たの?」

「ホントはサボって居座りたかった」

 

 カフェの扉を開け、視界に入り込んできたミコトを見たカイチとアマネが驚く。

 時刻はまだ三時過ぎでありミコトも半袖のカッターシャツにパンツという普通に夏服の学生スタイルだ。

 カイチとアマネはカフェで着替える事も多いため制服姿を見せる事は多いがミコトは基本私服でしか現れず、自分達より後に来るのが基本なため二人が珍しがるのも当然だった。

 

「仕方ないだろ。コレが届いたって朝一で連絡があったんだから」

「あぁ、ソレってヤナミ君の注文だったの。・・・使いこなせるの?」

「普通に使えばムリだろ。原型機だって当然使えないだろうからなー」

 

 切り取ったパーツに軽く鑢をかけながら気の無い返事を返す。随分と集中しているようだ。

 

「んなガンプラ買ってどーすんだよ」

「あ? 決まってんだろそんなの。パーツ――」

「えぇ? 確かに居るけどクゼが何のようだい?」

 

 不意にカウンターから抜けた声が響いてきた。三人が揃って視線を向けると備え付けの電話の受話器を持った店長のどこか困ったような視線とぶつかった。

 

「あぁ――うん、いやだから何でそっちのお客さんからその名前が出るのかでだね――えー、強引だなぁもう。分かった分かったちょっと待って」

 

 やれやれとため息を吐き出すと店長は受話器空いている手で手招きする。視線の先に居るのは明らかにミコトだ。

 

「・・・俺?」

「何か別のカフェでキミを探してるお客さんが居るらしくてねー。悪いけど受け取ってもらえるかい?」

「別のカフェって・・・俺そんなトコに知り合いなんていねーんだけど・・・」

 

 思わず三人で顔を見合わせた後、首をかしげたままミコトが店長から受話器を受け取る。

 

「はいヤナミですけど、どちらさんでー・・・」

『ミコト君今どこですかぁぁぁ!?』

 

 受話器から凄まじい音量が響き渡った。耳に直接当てていたミコトの脳に白黒のスパークが弾けるような感覚があった。

 そのまましばらく襲っていた耳鳴りが少し収まってきたところで、ようやく受話器から響いた声がどこかで聞いた事がある事に気付いたミコトは少しだけ溜めてから、受話器の向こう側に居る相手に声をかけた。

 

「――誰?」

『鬼ですか悪魔ですかデビルオーガですかミコト君の人でなしッ!?』

 

 

☆★☆

 

 

 恐ろしく不服という顔でミコトはガンプラを作り続ける。隣に座る店長が苦笑を浮かべながら愛車のハンドルを切る。

 

「頼むから車の揺れでケガ、なんて止めてくれよ? 安全運転で行くけどキミはうちの大事なファイターなんだから」

「へーへー。分かってますっての」

 

 あの電話の後。店長は店をアマネに任せてミコトを連れて件のガンプラカフェに赴く事にしていた。当然ミコトは嫌がったが早急な解決を優先し店長は首根っこを掴んだ。

 流石にミコトも思う所があったのか不機嫌そうにしながらも器用に車の揺れの中ガンプラを組み上げつつ素直に座っている。

 

「しかしソレ、どうするんだい? キミの事だからひねくれた使い方をするんだろうけど」

「ひねくれ前提ッスか・・・まぁいいけど。とりあえず使えるかどうかまだ分かんないし秘密ってことで」

「えぇー・・・そういうトコがひねくれてるトコだよぉ? ・・・っと、着いたよここだ」

 

 車を駐車場に止めた店長に促され道具を片付けたミコトは目的地を視界に入れる。

 白を基調にしつつも木材等を用いたデザイン、は実にカフェといった感じだ。

 とはいえ入口の自動扉の上にはバルバトスのツノのモニュメントが備え付けられているし、ショーウインドウには“ガンダムW”後期OPでのウイングゼロとエピオンの鍔迫り合いが再現された立像がある。ついでにガンプラのボックスアートが展示されている辺り、やはりここはガンプラカフェなのだろう。

 

「同じカフェでもずいぶん違うんスね」

「店長の権利である程度発注もできるからね。うちの開店に合わせて開くゼータのツノとかは僕の拘りだし・・・・」

「へーそーですか」

 

 語り始めた店長は放置してさっさと荷物を持つとミコトはカフェの扉を開く。

 

「勝者、コトバネ・アイカー!」

「やったー!」

「バカな、これで六人抜き・・・!?」

「カフェカラオケ七天衆、久しぶりの更新かっ!」

「というか女の子であんなヴェステンフルスな声が出せるものなのか・・・」

「アタシ、ファンになっ」

 

 スパーン!と高速で扉を閉め、そのまま回れ右をしたミコトは何も見なかった事にして徒歩でいいからさっさと帰ろうと決意する。

 最も、その決意は振り向いた段階で首根っこを掴まれたせいですぐさま瓦解する事となったのだが。

 

「いつの間にかうちの姫に収まった女性がお待ちだよ少年?」

「姫に収まったんならそっちで何とかしてくれって話なんだけど・・・」

「あー! 来てくれたー!」

 

 じたばたしている間に見つかった事を悟ると掴まれた手が離される。仕方なく振り向けばそこには杖を器用に使って歩いてくる眼帯少女と、自分を捕獲していた長身の女性がニカッと笑っているのが目に入る。

 少女の正体はやはりというか、以前ゲームセンターで出会ったコトバネ・アイカだ。きっと波乱しか起こらないのでできる事なら違ってほしかったという希望はハッキリと打ち砕かれた事実に、思わず項垂れる。

 

「クゼ、そうなったらもう彼は逃げないから放してあげなよ」

「ふむ。キミがそういうなら仕方ない」

 

 ほがらかに笑いながらやってきた店長の言葉を受けた女性がミコトを放す。ぶすっとした顔のまま襟首を直すミコトだったが、ふと聞き覚えのある名前に首を傾げる。

 

「クゼ、って・・・」

「私の事さ少年。このガンプラカフェの店長をやらせてもらってるクゼ・クラリッサだ。気軽にあだ名のクラン姐さんと呼んでくれればいい」

「それ、まだ言ってるのかい・・・?」

「当然だろう? クゼ・クランの方が正直収まりがいいとさえ思っているとも」

 

 はっは、と豪快に笑うクゼに思わず引きながら。ミコトは改めてここに来てしまった事の後悔を合わせた嘆息を吐き出すのであった。

 

 

☆★☆

 

 

 とりあえず落ち着いて話をしようという事になりカフェに入店した一行はファミリー向けのテーブル席に座る。

 ちなみに先程まで行われていた“毎週恒例ガンダムカラオケ大会”は勝ち抜き中だったアイカが抜けた事で自然と解散しており、店内には落ち着いたジャズが流れている。サンダーボルトな感じではないのでやはり普通にカフェとして利用している客もそこそこ要るようだ。

 

「それで、お前なんでこんなトコ来たんだ?」

「こんな・・・その物言いは流石に傷付くぞ少年」

 

 注文したマカハロンを口に運びながらミコトはクゼを無視して早速本題に切り込む。

 

「あ、うん。この前お祭りがあったんでしょ? そこに友達のリサちゃんが参加してる写真を見せてもらってて」

「コトバネさんはホシナリさんのお友達なのかい?」

「はい! クラスメイトです!」

 

 ホシナリ・リサ。この前の合同ガンプラカフェのイベントで司会を勤めていた少女である。同時にモデルでもある彼女は確かに仕事用に何度か写真撮影を行っていた。

 

「それで、その中にミコト君が写ってるのを見つけて」

「あー・・・そういえば俺のガンプラ教室にも来て撮影してたよーな・・・いや待て。だからといって何で来るって発想になる」

「え? 友達見つけたら会いに行きたくならない?」

「いや1回会っただけだろーがッ」

「あれだけ深く遊べば友達ですー!」

「はいはい。それで彼女にガンプラカフェの事を聞いて調べてみたらうちに引っ掛かったと」

「あー、なるほど。あの会場手配したのクゼだったしこっちの方が近いもんね。それでヤナミ君がこっちに居ると思ったわけだ」

「が、実際にはそっちの常連だったわけだな。それで話を聞いた私は半べそだった姫を放っておけずに連絡した、というのが事のあらましさ」

「な、泣いてませんっ!?」

「そのまま放っておいてほしかった・・・」

 

 パタパタと手を振って否定するアイカを見て深めのため息を吐くミコト。するとそれに反応したアイカが頬を膨らませる。

 

「ミコト君、さっきから反応がドライ過ぎませんか」

「あのなコトバネ。そもそもの話・・・」

「あー! あー! また苗字で呼んだー! 前に会ったとき次は名前呼びって約束したのに!」

「約束はしてねぇよ都合よく捏造してんなっ!?」

「いやぁ、青春だねぇ」

「店長やっぱ目腐ってますよね?」

「まぁまぁ。ヤナミ君の今日の主目的は調整バトルだろう? 別のカフェでのバトルは新しいデータ収集にちょうどいいんじゃない?」

「それはまぁ、確かに」

「じゃあ私やります!」

 

 バッと手を元気良く挙げるアイカ。ホントに怪我人なのか怪しいレベルでよく動く娘である。

 

「一応聞くよ姫? バトルの経験は?」

「クゼ店長、私の呼び方それで固定ですか・・・? えーっと、友達と遊びに行った時とかに一緒に遊んでます! アニメも見ましたよ?」

「女子会でアニメ鑑賞か・・・ちなみに何を見たんだい?」

「SEEDと続編と、後Wです」

「おぉぅ・・・そこでWに行く辺りガチを感じる・・・」

「・・・何でクゼ店長、女子会って決め付けたんだろ」

「あれ、もしかしてヤナミ君知らない?」

 

 ミルクティーに手を付けながら楽しげに質疑応答をしているアイカに視線を向ける。正確には、その制服に。

 

「あの制服、この辺では結構いいトコな女子高の制服。わりと無防備感があるのもそういう環境故だと思うけど、上手いこと引っ掛けたねぇ」

「人聞きの悪い事言わないでもらえます?」

 

 ニヤニヤと肩を小突いてくる店長を鬱陶しそうに振り払いながらミコトもアイカにチラリと視線を向ける。

 確かに無防備である。今時あんな天然記念物チックな小動物がよく自然淘汰されなかったものだと思うほどに。

 そんな風に考えているとアイカとミコトの目が合う。笑顔を向けてくるアイカに対して、ミコトは自然に顔を反らした。

 

「ふむ。聞いてる限りなら少し教え込めばバトルができそうだ。問題は、姫に合うガンプラなんだが・・・」

「でしたら、こちらを使っていただけませんか?」

 

 クゼが唸っているとすぐ隣のカウンター席から声が届き、思わず全員が視線を向ける。

 

 同時に、全員“彼女”から視線が外せなくなった。

 

 真っ白な長い髪に紅い瞳。身に纏っているのは、黒を貴重に赤いフリルによって装飾されたドレス。

 そして片目を覆う仮面というあまりにも異質なスタイルを、彼女は当然といった雰囲気で着こなして、そしてこの空間に馴染んでいた。

 

「・・・?」

 

 さながら物語から直接現れ出たかのような異質な少女に対して誰もが沈黙する中、何故かミコトは首元の大きめな蒼いクリスタルがあしらわれたチョーカーに一瞬目を奪われていた。

 

「・・・何だ・・・?」

「えーっと、キミは?」

 

 ミコトの呟きを掻き消しながら、ようやく店長が声をかけると少女は「あら」と口元に手をやって改めて微笑んだ。

 

「失礼しました。ワタクシの事は、シャーロットとお呼びください。・・・あまりにも皆様が楽しそうなので、ワタクシも何か協力させていただきたいなと思いまして。・・・アナタ、お名前は?」

「あ、はい。こ、コトバネ・アイカと言います!」

「では、アイカと呼ばせてもらっても?」

「はい! ど、どうぞ!」

「ありがとうございます。アイカのお話を聞いていて、ぜひともこの子を貰ってほしくて」

 

 ふわりと微笑んだシャーロットはアイカの目の前にスタンドに接続したガンプラを差し出した。

 金色の間接が輝く8枚4対の青い翼を持ったガンプラだ。

 

「ストライクフリーダム?」

「ほう・・・しっかりシャープ化もされている。ドラグーンは触ればケガをしそうだ」

 

 店長二人がほう、と息を吐く。

 ストライクフリーダム。“SEED DESTINY”に登場するキラ・ヤマト専用機であり初登場時には25体のMSと3隻の戦艦を戦闘不能にする等C.E.世界最強の称号を与えられる事もある機体なのだが、無視できない問題がある。

 ストライクフリーダムはとにかくキラが運用することを前提に開発されているためわりと操縦難易度が高いのだ。そうでなくても多数の武装やドラグーンは初心者には荷が重いと言える。

 

「・・・この子なら動きもイメージできるし、やってみようかな」

「マジかよ・・・」

 

 そんなことを知ってか知らずか、アイカはシャーロットからストライクフリーダムを受け取る。少しだけ動きを確認するように動かしたところで笑顔をミコトに向けた。

 

「よーし、この子で勝負だよミコト君!」

 

 力強くストライクフリーダムを付き出すアイカの瞳はキラキラと輝いていたが、対してミコトの目には対照的にやる気の無さがにじみ出ていた。

 

「お前さぁ・・・そもそも俺、一回たりともお前とバトルするなんて言ってねぇけど?」

「うっ!?」

「とかなんとか言って、やるんだろう?」

「先回りしないでもらえます?」

 

 ため息と共にマカハロンを摘まみながらミコトが立ち上がる。

 

「クゼさん、貸出のガンプラ見せてもらいますね。決めたら個室で作業してるんでその間にチュートリアルでも済ませといてください」

「構わんが・・・ガンプラ持っていないわけではないだろう?」

「アレ相手じゃまともに調整できませんよ。・・・何より、どーせやるならそこそこハンデはあるべきでしょ?」

「それどーいう事ですかっ!?」

 

 アイカが思わず大きめの声を出すのを見てやれやれとミコトは肩をすくめる。

 

「勝って余裕とかそんな態度ですね分かります! いーです絶対泣かせてあげますからー!」

「おーおー言ってろ言ってろ。後で泣くのそっちだから」

「カチーンときましたいいですよやってやりますよ! 負けたらミコト君、私の事今度こそちゃんとアイカって呼んでもらいますからねっ!」

「お前、それ拘るのな・・・」

「も、もちろん私が負ければ何か言うこと聞きま・・・」

「要らん。勝ってトーゼンなんだからそんな虐めみたい事しねーよ」

 

 それだけ言い切るとミコトはひらひらと手を振って席を外す。

 一方のアイカはミコトの消えた方向を見た後に俯き、肩を静かに震わす。「ふ・・・ふふ・・・」と不気味な笑い声が口元から盛れているので店長はサッと目を反らしてミルクティーで喉を潤した。

 

「絶対・・・ゼーーーーッッタイッ! ギャフンと言わせてやるー!」

「うちの姫にあの物言いと自信。へし折ってやるのが実に楽しみだ」

「ワタクシも当然協力いたします。楽しく成ってきましたねぇ」

 

 絵面は華やかなハズなのに背景に燃え滾る炎が見えるせいか周囲の客たちが一斉に引く。

 一方図太く席に居座り続けたままミルクティーのおかわりを注文し終えた店長は燃える女性陣を感じながら楽しげに呟くのであった。

 

「戦闘前の女性との一悶着は死亡フラグだぞぉぅ。さぁて、ヤナミ君は乗り越えられるかな?」

 

 

☆★☆

 

 

 

“GUNPLA BATTLE. Combat mode, start up”

 

“Mode damage level, set to【C】”

 

“Please, set your GPbase”

 

 システムに促されたアイカは貸出のGPベースをセットする。向こう側には同じように自分のベースをセットするミコトが目に入る。

 

「負けないから!」

「へーへー。ま、頑張ってくれや」

「むぅぅぅ!!」

 

“Biginning, 【PLAVSKY PARTICLE】 dispersal”

 

 粒子が展開するされていきミコトの姿が隠れていく。その姿が消える直前、ニヤリと笑ったように見えたのは気のせいだろうか。

 

“Field 1, 【Space】”

 

 蒼い粒子が輝き、幾つもの光を内包する漆黒の宇宙空間が作り出される。思わずアイカはグッと拳を握り締めていた。

 

“Please, set your GUNPLA”

 

 まだ出会ってからの時間は浅いが手に馴染んできたストライクフリーダムをバトルシステムに置く。

 次いでアイカは杖を横に置くと椅子に座る。専用の位置に調整された位置に出現したアームレイカーを握り締める。

 

“Battle Start !!”

 

「コトバネ・アイカ、ストライクフリーダムガンダム!……行きます!」

 

 カタパルトが動き出し、フリーダムに接続されていたケーブルが一瞬制止をかけるがすぐに弾け飛ぶ。

 宇宙へとその身を踊らせたフリーダムが1回転すると、灰色がかったディアクティブモードから一転し本来の色を取り戻す。

 そのまま宇宙を滑るように飛ぶフリーダムを見ながら思わず店長は舌を巻いた。

 

「無重力ステージでの操縦でしっかりストフリを乗りこなしている。初心者の躓きやすいポイントだと思うけど、上手いものだ。流石のレクチャー力だねクゼ」

「元々遊んでいたから基礎が出来上がっていたおかげで手のかからない生徒だったよ。優秀な助手も居たしね」

「あら。ワタクシがしたことは重箱の隅を突いた程度です。それに・・・」

 

 デブリ帯に突入したフリーダムが難なくデブリの隙間を潜り抜ける様を見ながらシャーロットは柔らかく微笑む。

 

「アイカの才能は間違いなく素晴らしいものですし、それまでに使った機体の経験も良かった」

「遊びで使ったって、レンタル機体の事かい? いったい何を?」

「聞いて驚け。デビュー戦はジオングだったそうだ」

「よりにもよってかいっ!?」

「他にはトールギスⅡ、ギャブラン、Ex-S、マーメイドガンダム・・・」

「他はともかくマーメイドを貸し出す豪胆さにモノ申したい感があるんだけど…」

 

 どれもこれもクセのあるガンプラばかりである。純粋なガンダムタイプでさえ使ったのがALICEの補助込みで動かすEx-Sという色物っぷりである。

 そんな経験故か、フリーダムを操作したアイカの感想は「素直なコ」であり、結局店長達が話している間にアイカは華麗とも言えるマニューバでデブリ帯を無傷で切り抜けていた。

 

「よっし、後は見つけるだけ・・・ッ!?」

 

 唇を舐めながらカメラを動かすアイカの視界が強い光に照らされる。

 少し離れた場所からビームが昇っていた。強い光はしばらく宇宙を照らし、うっすらと消えて行く。

 ステージギミック等では断じてない。それの意図を理解したアイカはうっすらと手に滲んだ汗を拭うと、ビームの上がっていた場所――月面へと向けてフリーダムを動かした。

 

「・・・これって・・・」

 

 やがてビームの上がったポイントに到着したアイカはその風景に言葉を失った。微塵に砕けた機械の破片が漂い、その他にもMSの残骸らしきものまである。

 まるで、何かの墓場のようだ。

 

『よ』

 

 場の雰囲気にこれ以上なくそぐわない気の抜けた声をスピーカーが拾った。漂う残骸の奥に、その声の主は居た。

 巨大なレンズ状の物体に小型の戦闘機のようなものが突き刺さっており、その上に一体のガンプラが器用に座っている。

 目を引くのは赤い翼と血涙のような隈取り。身の丈程の剣と大砲を背負うその姿はどこか悪魔のようだ。

 ZGMF-X42S“デスティニー”。ザフトが作り上げた名機にしてデストロイの軍団を叩き伏せる活躍が印象的な機体。

 そしてデスティニーガンダムの姿を見てアイカはようやく周囲に漂う残骸が“DESTINY”に登場した量産機達であり、デスティニーが腰掛けているのがレクイエムに突き刺さったファトゥム-01だと気付く。このステージの正体はどうやらダイダロス基地らしい。

 

『さて、マニューバは合格点だな』

 

 ファトゥムから月面に降り立ったデスティニーがコキコキと首を鳴らす素振りをするとフリーダムへと視線を向ける。

 思わずアイカが唾を飲み込むのに対して、ミコトは不適に笑ってライフルを抜いた。

 

『おら、来いよ。相手してやる』

「・・・いくよっ!」

 

 アイカは躊躇わずに連結しておいたビームライフルのトリガーを引く。出力を高められたビームがデスティニーを狙うが、デスティニーは展開したソリドゥスであっさりと受け止める。

 

「まだまだ!」

 

 防がれたと見るやすぐにフリーダムはライフルを分割しながら月面を蹴りデスティニーに低空飛行で突撃する。

 さらには勢いそのままに回転を始めると両手のライフルを連射する。回転を伴った事でビームはデタラメな軌跡を描きながらデスティニーに殺到する。

 たまらずデスティニーが飛翔する。それを見たアイカはフリーダムのメインスラスターを点火し加速した。

 

 ――いいかい姫。たぶん真正面からぶつかっても通用しない。ならば、手は1つだ。

 

 クゼの言葉を反芻しながらアイカはフリーダムをデスティニーの真下へと潜り込ませ、クスィフィアス3を展開すると上昇するデスティニーに弾丸を発射した。

 フリーダムの運動性と数多の武装による奇襲戦法。クゼがアイカに短時間に叩き込んだスタイルだ。

 デスティニーが振り返る。自らに迫る弾丸をカメラに映し、

 

「お株、いただきだ!」

 

 赤く発光した右足を振り抜き、弾丸を蹴飛ばした。

 

 

★☆★

 

 

「デスティニーとストフリ。実に良き展開じゃないか」

「VPSの電圧を右足に集中させて防御力を強化してレールガンを蹴飛ばしたか・・・無茶苦茶をするな」

「粒子制御によるステータス弄りに卑怯奇天烈な奇襲戦法はそれこそ彼の十八番(オハコ)だからねー」

 

 本日四杯目のミルクティーに口を付けながら本人が聞けば笑顔でグーパンしそうな評価を店長が口にする。何か言いたげな目をするがすぐにクゼはため息へと変える。

 

「にしても、アレだけ反応できて読めているなら姫を落とすのも簡単だろうに」

「うーん、そういうわけでもないんだろうけど。確かにヤナミ君にしては攻めなさすぎだね。・・・その辺、シャーロットちゃんはどうだい?」

 

 笑顔で話を振る店長に対してシャーロットは手元のオレンジジュースを飲みながら笑顔を返す。

 

「あら、ワタクシよりも店長さんの方が彼を知っているでしょう?」

「いやいや。キミのカウンセリング能力を見込んでの質問さ」

 

 にこやかな雰囲気で交わされる会話。その雰囲気にクゼは怪訝そうな表情を浮かべるが、それを気にせずシャーロットは一言「簡単ですよ」と笑みの質をイタズラっぽいものに変質させながら口を開く。

 

「ワタクシ達は今日のアイカしか知りませんが、彼はそれ以外のアイカを知っている。なら、期待する事も我々とは別物ということなのでしょう」

 

 

★☆★

 

 

 左手のライフルをマウントしながらフリーダムがデスティニーに向かって飛び上がる。ビームを連射しながら空いた左手でビームサーベルを握る。

 対してデスティニーは肩のフラッシュエッジを1本抜くと間髪入れずに投擲。正確にフリーダムの正面に飛来する回転する刃にフリーダムは連射を止め、渦を描くような機動で回避する。

 そのままフリーダムは持っていたライフルを上に向かって投げた。一瞬ミコトの視線がライフルを追う。

 それを確認せずにフリーダムはさらに加速しながらライフルの代わりにサーベルを逆手状態で握ると刃を展開、一気にデスティニーへと突っ込んだ。

 

『狙いは悪くない、けどなっ!』

 

 軽くスラスターを吹かせ微妙に位置を変えたデスティニーはそのままスウェーバックで刃を避ける。

 

「それでもっ!」

 

 すれ違い様にライフルをマウントしていないクスィフィアス3を無理矢理展開してデスティニーに叩き付ける。思わぬ衝撃に初めてデスティニーがよろける。

 距離を取りながら振り向いたフリーダムはサーベルを連結すると勢いよく振りかぶり、

 

「いっけぇ!」

 

 投げた。

 

『それは流石に・・・ッ!?』

 

 かなりの勢いを持ちながらビーム刃を展開したまま迫り来るサーベルに対処しようとしたミコトの顔色が驚愕に染まる。

 サーベルを投げたフリーダムのカリドゥスが間髪入れずに放たれていたからだ。直進した大出力の砲撃は進路上のサーベルにぶち当たり――拡散した。

 

『ビームコンフューズっ!?』

 

 広範囲に拡散するビームを回避する術は流石に無いのか、出力を引き上げカバーする範囲を広げたソリドゥスを展開して防御に徹するデスティニー。

 

「ドラグーン!」

 

 初めて足を止めたデスティニーにアイカはストライクフリーダムの代名詞とも言えるスーパードラグーンを放つ。ビームコンフューズが欠き消えるタイミングでデスティニーをドラグーンが包囲する。

 逃げ場の無い集中砲火がデスティニーに襲い掛かる――が、ビームが貫いたのはデスティニーの影だけだった。

 

「残・・・像・・・?」

『よしちょーっと危なかったが問題無し!』

 

 若干早口になりながらミコトは展開していた光の翼を消してアイカを見下ろす。その意図を図りきれずにアイカの思考が一瞬止まるが、放り投げていたライフルをすぐに回収するとマウントしていた分も含めての連射態勢に入る。

 

『はい残念』

 

 バトルシステムがアイカに背後からの揺れを伝える。

 

「せ、背中に、何?」

『フラッシュエッジ2には簡易ドラグーンが積まれてる。ヘタクソでも、回収するための線上に乗ってもらえば当てれるってもんだ』

 

 縦一文字にフリーダムのバックパックの中央部――メインバーニアを切り裂きながら手元に戻ってきたフラッシュエッジを肩へと戻しながらどこか得意気にミコトが語る。

 

「っぅ!」

 

 ダメージを確認したアイカは狙いを付けずにでたらめに両手のライフルを連射し周辺のデブリや残骸を破壊し目くらましを行った。

 爆煙に呑まれて姿を隠したところで出力が極端に落ちたバーニアを吹かせて衛星の影へと逃げ込む。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ダメだ、通じてないし、バレてばっかりだ・・・・・・強いや、ミコト君・・・」

 

 ジワリと滲んだ汗を拭う事すらできないままアイカは荒れた息を整えようと必死になる。その中で、ダメージを負った今の状態でどれだけ勝機を手繰れるか。ひたすらに考え続ける。

 

「ゼロシステム、だっけ。あれがあればなぁ・・・いやいや、無い物強請りは無しだよね。でも奇襲作戦はどれもミコト君に読まれてるっぽいし・・・」

 

 何とか落ち着いてきた呼吸に対してまるで考えは纏まらない。

 

 ――集中、ですよ。アイカの才能は保障しますから

 

 不意に脳内にリフレインしたのはクゼとの特訓を終えた後にかけられたシャーロットの言葉だ。彼女はこちらを安心させるような柔和な笑みを浮かべながらアイカに語りかけてきた。

 

 ――アイカ。夢中と集中は違いますよ。貴女ならちゃんと集中できれば、フィールドの細かな機微すら分かるハズです。それが貴女の才能だとワタクシは考えます。

 

(でも、そんな集中どうやって・・・)

 

 ――簡単ですよ。バトルに関係無く、普段から貴女が集中するために行うルーティーン。それを実行しましょう。

 

(ルー、ティーン?)

 

 そういえば、とアイカは思い出す。以前、同じような状況でスッと集中できた事があった。

 そう、それはあのゲームセンターでの出来事。銀色の怪獣と戦った時はもっと集中していたように思う。

 ならば、今とあの時の違いは?

 

「・・・あ」

 

 思い付いた。同時にそれは“普段の自分”が好む行為だ。でも、そんな事で?

 

「・・・ううん。やってみてダメならその時、諦めて笑えばいいよね」

 

 深く息を吸い、吐き出す。

 頭のスイッチを切り替え、アイカはその思い付きを実行した。

 

 

★☆★

 

 

「こんなもん、か」

 

 人知れずミコトは小さくため息を吐く。

 アイカの奇襲戦法やそれを成り立たせるマニューバ、初心者とは思えない才能に溢れた動きには驚嘆したがミコトにとってはその程度。

 それこそ最近だけでも自分を遥かに上回る才能を持つカイチとメグルを見ているし、これだけ動ける素人は他にも見たこと戦ったことがある。

 ただしゲーセンで見せたオールレンジ攻撃の動きは別だ。あのVRゲームはガンプラバトルのシステムを一部応用してある。そのシステム下で卓越した戦いを見せたアイカのデータを取りたかった。

 要するに、アイカの事など欠片も考えずにミコトは完全な打算でアイカの相手をしていたのである。

 

(正直期待外れだな。あのドラグーンの動きはほぼシステムサポートのテンプレパターンだった。勝手が違うのかもしれねぇけど・・・ま、もういいな)

 

 軽くトドメを刺そうと決めたミコトはフリーダムが逃げ込んだ影に狙いを付けると、それまで使用を止めていた長距離ビーム砲を展開する。

 充分なチャージを行い、トリガーを引く。場所を知らせるために使った高出力のビームが衛星を破壊する。

 影からフリーダムが飛び出す。狙い通りに誘き出されたフリーダムの姿を確認した瞬間にミコトは長距離ビーム砲を収納しないまま二本のフラッシュエッジを投げ付けた。

 退路を狙われたフリーダムは一瞬の停止の後軌道を変えて逃げ出す。その方向を長距離ビーム砲の砲身が向いている。

 

「チェック」

 

 溜め込んだ粒子を一気に撃ち出す。強烈な破壊の閃光がフリーダムを呑み込もうとする。

 

『――握った――』

「ッ・・・?」

 

 そんな時に聞こえたソレは、ミコトの意識を惹き付けた。

 

『――拳の――』

 

 途端に、変化は訪れる。

 フリーダムはドラグーンを射出し、先程は展開しなかった光の翼を広げ射線から離脱する。

 

『強さで』

 

 二機のドラグーンがスパイクを形成しながら突っ込んでくる。すぐにCIWSで撃ち落とそうとした瞬間、危険を知らせるアラートが鳴り響く。

 反射的にミコトは光の翼の推力に乗りドラグーンスパイクに掠りながら前進する。直後、先程まで居た空間を上下から放たれたビームが通過する。

 

「スパイクとは別にドラグーンを置いて・・・っ!?」

『砕けた・・・!』

 

 真正面に移動していたフリーダムは連結ライフルを既に構えており、飛び込んでくるデスティニーに正確な射撃を放つ。ギリギリでソリドゥスを展開し受け止めるが、威力を殺しきれずにデスティニーが弾き飛ばされる。

 

「っ、の・・・何だよいったい!」

『――願いに・・・血を流、すてーのひ、ら――』

「・・・歌、か・・・?」

 

 頭に上った血がスピーカーから流れてくるリズムと言葉を聴くうちに落ち着いていく。その歌詞に、覚えがあったから。

 “vestige-ヴェスティージ-”。ストライクフリーダムの初陣で流れ、リマスター版では四期のOPとなったこの曲は静かなバラード調が特徴であり「C.E.世界を生きる全ての人の歌」とも称される曲。

 アイカはそれを口ずさんでいた。

 

『果てない、翼と。鎖は・・・よく似て』

「けど、何で歌でこんなッ!?」

 

 自ら距離を一気に詰めると今度はクスィフィアス3を連射する。舌打ちと共に月面スレスレを飛翔し弾丸を回避しながらデスティニーもビームライフルで反撃を試みる。

 

『重さで――何処にも行、け、ずに――』

 

 一回転。ただそれだけの動作でフリーダムはビームを避け、デスティニーの進路上にドラグーンを呼び寄せ攻撃を放つ。

 対するデスティニーは静かな動きで回避したフリーダムとは対照的に月面を蹴り上げて激しく上昇する。

 

『失くす、ばかりの・・・幼い(ひとみ)、で・・・』

 

 動きのキレ。八機のスーパードラグーンによる追い込み。何より、実行までの速さ。

 動きは読めるのに対応するミコトの反応を越えてアイカは一手、また一手と研ぎ澄まされた攻撃を撃ち込んでいく。

 

『人は、還らぬ・・・星を(おも)う・・・!』

「ゲーセンで見せた動きの正体が、コレって事かッ!?」

 

 例えば思い入れのある歌やBGMを聞いて効率よく何かを終わらせた事が無いだろうか?

 心と身体が完全に溶け合い調和し、不必要なノイズによる思考のタイムラグが削られた超集中状態。“歌”によりアイカはほとんど“直観”だけで最も効率的な選択を行う。

 アキヅキ・カイチともクスノキ・メグルとも違う。コトバネ・アイカの才能は、極端なまでの集中力から生まれる演算処理能力だった。

 

「これだから・・・!」

『掲げた――それぞ、れの灯を!』

「ぐっ!?」

 

 フラッシュエッジに通常のビームサーベル程の長さの刃を形成して近接戦を仕掛けたデスティニーをフリーダムが蹴り飛ばす。

 

『命と、咲か、せ、て!』

 

 体勢の崩れたデスティニーにドラグーンの猛攻が襲い掛かる。逃げるデスティニーに降り注ぐビームの雨が、ついにデスティニーの右足を捉え吹き飛ばした。

 足を失ったショックとそれに伴った衝撃を受けたデスティニーはそのまま最初に居たレクイエム跡地付近に叩き落される。

 

「くっそ・・・!」

『運んで――いくことが運、命』

 

 歯ぎしりするミコトを尻目にドラグーンがフリーダムの元へと帰還する。ただしプラットフォームへと再装填されるわけではなく、フリーダムを囲むように整列するという形で。

 

『輝き、刻む――』

「それ、は流石にっ!?」

 

 フリーダムの金色の関節が輝く。光と化した粒子を溢れさせながら両手のビームライフルとクスィフィアス3、腹部のカリドゥスと整列するスーパードラグーンの全ての砲口が月面で動きを止めたデスティニーへと向ける。

 

『誰もが優しい――』

 

 全てが、一斉に放たれた。

 

『刻の痕跡(きずあと)――!!』

 

 ドラグーン・フルバースト。大量の敵を圧倒的な火力で吹き飛ばして面制圧を行うストライクフリーダムの代名詞だる必殺技が、デスティニーを呑み込んだ。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「さぁヤナミ少年! キミからの滾りは我が軍を動かせるかな!?」

「心が、動きましたね?」

「ミコト君、負けちゃうの・・・?」

 

【Build.14:最果てへの挑戦】

 

「これが! ゲシュテルンガンダム・カノニーア!!」



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Build.14:最果てへの挑戦

「ふ、ぅ・・・」

 滴る汗を初めて拭いながら、アイカは大きく息を吐き出した。
 フリーダムのカメラが映し出すのは爆煙。周辺に浮いていた残骸も巻き込まれたらしく、その色は濃い。
 必殺のフルバーストには確かな手応えがあった。それこそ勝利を確信して笑んでしまうほど。
 なのに、何だろうこの違和感は。胸に引っ掛かる棘は。
 深く考える。音の無くなった宇宙はこれ以上無く静かで――。

「・・・なんで、終わってないの?」

 ハッと気付く。ミコトを打ち倒したハズなのに未だにプラフスキー粒子はこの世界を作ったまま。
 それが指し示す答えは、一つ。

『歌は、終わりだな?』
「ッ!?」
『こんだけ詰め込んだ勝ち確フラグが折れたんだ。つーことは、だ!』

 爆煙の内側から眩い輝きが吹き荒れ、月面を覆っていた爆煙が一気に吹き飛ばされる。
 ボロボロになりながら、さながら理不尽を纏った悪魔のように。光の翼を広げたデスティニーがその姿を現した。

『こっからは、俺のターンだ。アイカ!』
「何、っで!」

 口を三日月のように吊り上げて笑うミコトに対してアイカが思わず叫ぶ。
 何故必殺のフルバーストを受けてデスティニーが撃墜されていないのか。その理由を問われれば、“ヤナミ・ミコトのズル賢さ故”としか言いようが無いだろう。
 そもそもこのダイダロス基地付近を戦場に選んだのはデブリとMSの残骸達で的を散らすためだったのだが、散策していたミコトに嬉しい誤算が二つあった。
 一つは残骸の中にスウェン・カル・パヤン仕様のストライクEが二機も見つかった事だ。何故カスタム仕様だったのかというツッコミは呑み込み、内蔵されたワイヤーアンカーで複数のMSを繋げておいた。
 もう一つはファトゥムが動いた事だ。とはいえ無敵の突進力は無く前に飛ばすのがやっとなのだが、ストライクEのワイヤーに繋げて射出する事でMS達を牽引くらいはしてくれる。
 後はワイヤーを隠蔽し、ファトゥムの上に座って視線を反らす準備を整えた上で場所を知らせた。・・・結果、余裕を振る舞い過ぎて危うく撃墜される所だったのだが。
 そしてフルバーストの最にファトゥムを起動させファトゥムとMS達の壁、そして自身のソリドゥスで身を固めて何とか生き残ったというのが事の真相だ。
 初心者相手にやる罠ではない、という冷たーい店長sの視線は一切気にせずミコトはバトルを終わらせるべく月面を飛び立ちながらライフルを連射する。

『デスティニーなら、こういう戦いもできる!』

 ビームに対してフリーダムはアクロバティックな軌道で回避を行うが、その内の数射がフリーダムを捉え傷付ける。

『次はコイツをくらえっ』

 動きが鈍るのを分かっていたようにデスティニーは長距離ビーム砲を発射する。回避が困難だと悟ったアイカは咄嗟に両腕のソリドゥスを展開して受け止める。
 だがここまでの戦闘でダメージを受け続けた上にフルバーストで大量の粒子を消費していたフリーダムが受け切るのは難しく、ある程度の威力を減衰させた段階でソリドゥスは破壊され左手が吹き飛ばされる。

「ッ!」
『まだだ、逃がすか!』

 デスティニーがそれまで一度も抜いていなかった大剣――アロンダイトを構えながら光の翼を全開にして突撃する。アイカはすぐさまドラグーンに命令を下し残った粒子の大半をカリドゥスに注ぎ込んで解き放つ。
 フルバーストほどではないが充分な火線がデスティニーに殺到する。

「・・・えっ!?」

 目を疑った。デスティニーは、まるで螺旋を描くようにカリドゥスのビームに沿いながら飛んでいた。
 最も強い出力のビームに巻き込まれドラグーンの射撃はデスティニーに届かない。一方でビームすれすれを飛ぶデスティニーもまた、ビームの余波を螺旋状に飛ぶ事で逃がしてはいるのだが少しずつ装甲が焼けていく。
 いつぞやアマネが行っていたものと同じマニューバ。実は元々ミコトが教えたモノなのだ。
 敢えて違いを挙げるならアマネが行ったのは基本防御等をしっかり固めた合理的な“戦闘軌道”。対してミコトはそんな事を考えず、ギリギリ切り抜ける見栄えを重視した“曲芸飛行”。
 ぶっちゃけただの趣味回避なのだが、ドラグーンの攻撃を切り抜け踏み込むには充分な結果を残す。

『これで――!』

 迫る。迫る。迫る。残像を引きながらアロンダイトを振りかぶったデスティニーがさらに加速した。
 刹那の内にフリーダムの懐に潜り込んだデスティニーのアロンダイトが閃く。斬られたのだと気付いたアイカにさらなる衝撃が襲いかかる。
 振り抜いた勢いそのままに回転し切っ先をフリーダムへ向け、突撃。カリドゥス越しにアロンダイトが貫通し運動エネルギーに従って背後に飛ぶ。
 吹き飛びながらもフリーダムのCIWSが無茶苦茶に放たれるがデスティニーは冷静に頭部だけに狙いを定めたCIWSで返礼する。
 フリーダムの頭部が粉砕されると同時に二機はデブリへと激突する。深々とアロンダイトを突き刺しフリーダムをデブリに縫い付けるとデスティニーはアロンダイトを手放す。
 その右手を輝かせながら。

『吹っ飛べ――!!』

 パルマフィオキーナの閃光が宇宙の暗闇を照らし出す。一瞬の静寂の後。

 “BATTLE END!”

 バトル終了を告げるアナウンスが流れた。


「むぅぅぅ」

「いやまぁうん、流石に大人げ無かった。反省してない」

 

 頬を膨らませながら恨みがましい目線をミコトに向けるアイカはそのまま提供されたオレンジジュースをストローいっぱいに吸い上げる。

 完膚なきまでに、それこそ初心者に行うようなものではない必殺コンビネーションで文字通り粉砕されたわけなのだが、アイカがご機嫌斜めなのは何も負けた事が原因ではない。

 

「そりゃあちょっとでも本気を出してくれたのは嬉しいけど、あんな風にガーっと迫ってきて突き刺すは頭吹き飛ばされるわ・・・流石に怖いというかぁ・・・」

 

 訂正しよう。負けた事“だけ”が原因ではない。

 別に自分の実力を過信するつもりは無いが、最後の攻撃にはまるで反応できなかった。それはつまり、ミコトの本気をまるで引き出せていなかったという事。その事実にアイカは落ち込んでいたのである。

 尤もミコトからすれば余裕ぶっこいた結果わりとシャレにならないレベルで追い詰められていたわけで。ぶっちゃけバクバクする心臓を悟られないように必死に取り繕っていたのだが。

 

「流石に初心者相手に連敗はプライドが許さねーというかなんというか」

 

 思いのほかクスノキ・メグルに敗戦が後を曳いているらしくバツの悪い表情のまま後頭部を掻く。

 その光景を微笑ましげに見る店長コンビの横をすり抜け、朱いドレスと銀の髪が舞う。ミコトの横にやってきたシャーロットはまるで絵画の一枚のような笑顔を見せる。

 

「素敵なバトルでした」

「・・・アレがか?」

 

 胡散臭い、と言わんがばかりのミコトにシャーロットはやはり笑みで返す。

 

「少なくともアイカが楽しく戦えるように舞ってたじゃないですか。ね、アイカ?」

「へ、あ・・・うん」

 

 不意に話を振られたアイカが慌てたように肯定する。

 

「楽しかった。特にほら、歌ってると頭がスーッとクリアになっていって、こうフィールドが全部感じられた時は凄く楽しくて・・・あれ、私何か変な事言ってるかな?」

「いいえ、そんなことありませんよアイカ。粒子は人の心に反応するんです。アイカの思いが伝わったんですよきっと」

「そ、そうなの?」

「えぇ。ミコトさんもそれを認めて、最後は名前を呼んだんですし」

「え?」

「・・・・・・」

 

 興味深そうに話を聞いていたミコトがサッと目を反らす。アイカが無言で詰め寄るが一切目を合わせないようにして逃げの一手を打ち続けるミコトを見て、どこかそれまでとは違った雰囲気を纏いながらシャーロットが口を開く。

 

「だからこそ、欲求が沸きました」

「あ?」

「アナタの全力全霊を」

 

 熱に浮かされたかのような瞳で、妖艶な笑みを浮かべたシャーロットにミコトは片目を閉じて僅かに表情を歪ませる。アイカもいつの間にかシャーロットから目を離せなくなっていた。

 

「アナタの愛機を用いた全力のバトル。それを是非見せていただきたいのです。ワタクシの熱が、それを求めています」

「熱、って・・・シャロちゃん・・・?」

「・・・別にやる分には構わねぇけど、相手が・・・」

「ちょぉっと待った」

 

 アイカが注文していたオレンジジュースのお代わりを持ったクゼが会話に割り込んできた。そのままシャーロットに背を向けてミコトに歯を剥き出しにした凶悪な笑みを浮かべた。

 

「その相手、私が勤めようじゃないか」

「クゼ店長が、ですか?」

 

 アイカが驚きの声を挙げると「まぁ」とシャーロットが手を軽く合わせる。

 

「ガンプラカフェの店長さんなら全力で問題無さそうですね。とても良いお話です!」

「却下」

「おや、フるのが早すぎないかヤナミ少年」

「相手にならねぇですよ。瞬殺されて終わりじゃデータもクソもねぇ」

 

 ジト目になったミコトが面倒くさげにため息を吐く。

 ガンプラカフェはヤジマ商事の展開する公式店舗である。そこを任せられる店長は自然とバトルの実力の高い者が選ばれる。

 実際問題ミコトは以前店長とのバトルでこっぴどく負けている。店長クラスとの実力差は身に沁みて分かっているのだが。

 

「何、その点は任せてくれたまえ。そこの加減をできぬMA馬鹿とは違うさ。私の戦い方は相手に合わせやすいモノだからね」

 

 ウィンク。アイカやシャーロットからの視線や店長の苦笑いで最早クゼから逃げる手段が存在しない事を悟ったミコトは面倒と言わんがばかりにため息を吐き出した。

 

「・・・存分な手加減を希望します」

 

 

☆★☆

 

 

 カバンから取り出した貸出の物ではなく本来の自分のGPベースをセットする。それを合図に青い粒子が噴き上がり、新たな世界を構築していく。

 手慣れた手付きでゲシュテルンガンダムを取り出しながらコネクタが露出した背面をジッと見つめる。

 

「・・・相手が何かも分かんねぇし特化型のフリューゲルじゃ何もできずにやられるかもしんねぇし・・・いっそ、アレで・・・」

 

“Please, set your GUNPLA”

 

 考え込むミコトにバトルシステムが催促してくる。舌打ちを1つすると万能対応が可能な“EXシルエット:コマンダント”を取り出してゲシュテルンのバックパックに装備するとそのままシステムにセットする。

 

“Battle Start !!”

 

「ヤナミ・ミコト、ゲシュテルンガンダム・コマンダント。勝ちに行く!」

 

 コマンダントシルエットを装備したゲシュテルンガンダムがカタパルトから射出される。

 吹き荒ぶ風が、ゲシュテルンガンダムの翼を撫でた。

 

「・・・マジか・・・」

 

 頭を抱えたくなる衝動をミコトは必死に抑えながら、抑えきれずに言葉が漏れ出る。

 カメラに広がるのは爽やかな緑。吹く風も柔らかく、地面を覆う短い草がゆるゆると揺れる。青空とキラキラと輝く太陽も含めて実に爽やかである。

 だが、それだけだ。

 木も建物も川も山も残骸も何も無い。地形の凹凸すら変わらないどこまでも平らな草原が広がるばかりだ。

 プレーンステージ。一切の障害物・ギミックを廃した実力だけをぶつけ合うためのステージであり、昔から格闘ゲーマーに愛されるタイプのステージだ。

 当然ガンプラバトルでもそういう希望があるので実装されたステージではあるのだがミコトからすれば苦手意識しかなかったりする。

 元々ミコトは自身の実力をカバーするために搦め手を駆使する事を基本戦術として確立している。故に市街地等の障害物の多いステージを好き好むのだが、プレーンステージではそんな搦め手の大部分が使えなくなるのだ。

 

「ただでさえ実力不足だって言ってんのによ・・・」

 

 いやそもそもクゼの目的は自分の実力を測る事だとか言っていた気がする。それはつまりガチの殴り合いをご所望という事だろうか?

 

「・・・おいおい」

 

 平原に立つ影を見つけた瞬間にゲッソリとした口調で思わずボヤく。

 影の正体は腕組みをして立ち尽くすクゼのガンプラだ。白を基調に全身に緑の刺し色が加えられ、装甲を追加されたグレイズがゲシュテルンをジッと見つめている。

 

「アクティ・・・」

『おっと、待ちたまえヤナミ少年』

 

 ビットに命令を下そうとしたミコトをよく通る声が静止する。

 

『キミにハンデの説明をしていなかった。だからこうして待ち構えていたのさ』

「・・・」

『そう露骨に警戒してくれるなよ。何、簡単だ。私のグレイズ・ブランヴェールに一発攻撃を直撃させる事ができれば、キミの勝ち』

「・・・舐めてます?」

 

 流石にイラついたような声を漏らすミコトにクゼは焦ったように言葉を紡ぐ。

 

『気を悪くしたなら謝ろう。だが』

 

 ブランヴェールが両手を広げる。

 それを合図にしたようにブランヴェールの周辺の地面が至る所でせり上がるとそこから次々と影が射出された。

 それはカタパルト。バトルフィールドに投入されるガンプラ達が必ず通る入口。その正体の意味する所は。

 

「ちょっと、待てっ!?」

『さぁ・・・これが我が軍団(クラン)!』

 

 大地に幾つもの影が降り立つ。

 指揮官機、改、流星号、マクギリス・ガエリオ専用シュヴァルベ、カルタ専用リッター、レギンレイズ、ゲイレール、リーガルリリー、アードラ、シルト、シュタッヘル、フレック。

 さらにバトルブレード、マシンガン、バズーカ、バトルアックスをそれぞれ両手に持ちさらに背に幾つもの武装を背負ったノーマルのグレイズが3体。そして1/100スケールのタワーシールドを両手に装備した量産カラーのリッターが3機。

 クゼのブランヴェールを含めればその総計は20体になる。

 

『安心したまえ。まだ余裕はあるがこれ以上追加しないしブランヴェール自体は移動しない。この破格の条件で、ブランヴェールに一撃当てればいいというわけだ!』

 

 頬を引き攣らせるミコト等気にせずクゼが得意気に笑った。

 

『さぁヤナミ少年! キミからの滾りは我が軍を動かせるかな!?』

 

 

☆★☆

 

 

「アレありなんですかっ!?」

「まぁレギュレーションを明確化してないからね。ハンデというのもクゼの独断と偏見でやってるから果たして成立してるのかどうか不安なラインだけど」

 

 諦めと諦観に満ち溢れた表情で紅茶を飲む店長に食いかかっていたアイカが謎の圧に押し返される。

 とはいえカメラに映る軍団はあまりにも圧倒的でありミコトの不利は誰がどう見ても明らかである。

 

「ですがアイカ、先程あなたが使ったドラグーンでも動かすのが大変だったでしょう? それ以上の数のガンプラを同時に動かす事の難しさも分かるのでは?」

「うっ・・・」

「まぁアレがクゼ・クランなのさ」

 

 店長は苦笑いをしながらズラリと並ぶグレイズ軍団を見やる。

 

「自前の制御プログラムを組んだ半オートと直接操作を代わる代わる1人で軍団を操作する指揮官。まさしくクラン(軍団)だろう?」

 

 

☆★☆

 

 

「クソゲーだわこんなもん!!」

『どうしたどうしたぁ。打開策を打たねば延々と打ちっぱなしだぞぉぅ!』

 

 大量の銃弾やミサイルの数々を避け回るゲシュテルン。ミコトが額に青筋を浮かべながら叫べば楽しげにクゼが応える。

 挑発への返礼代りにグレイズ軍団の地上からの絶え間ない攻撃を高高度で回避を続けるゲシュテルンが両手にそれぞれ持つDXのシールドバスターライフルをクゼがメインで操るブランヴェールに向けて発射する。

 しかし悲しきかな。ブランヴェールの前方に展開するタワーシールドを二枚装備したリッターにビームは受け止められ霧散する。シールド越しにチラリと見えるリッターの顔が何故かドヤ顔しているように見えて余計に腹が立った。

 

「この距離じゃナノラミを突破できねぇ、けどこれ以上高度を落とすと蜂の巣待った無しっ」

『ははは、そこが安全だと誰が言ったぁ!?』

 

 砲撃が一瞬止む。次の瞬間、近接武装に身を固めたグレイズが助走を付けて2体大ジャンプ。

 無論重力下での空戦能力を考慮していないグレイズではゲシュテルンの高度まで届かず、落下を開始すると思った。だが、その背後から強烈にブースターを吹かせて飛び上がる影――シュヴァルベ・グレイズが現れ、先行していたグレイズを踏みつけた。

 

「味方を踏台にしたぁ!?」

 

 味方を足場にさらにブースターの出力を上げたシュヴァルベ達がゲシュテルンへと迫る。お約束の叫びを上げてしまいついつい反応が遅れたミコトの不注意をクゼが逃すわけもなく、ガエリオ機がワイヤークローでゲシュテルンを捕まえる。

 すぐさまワイヤーを巻き取りながらガエリオ機らしくランスユニットを用いての刺突を狙う。

 

「ブラスター、起きろ(アクティブ)撃て(ファイア)!」

 

 そうはさせじとコマンダントシルエットに装備されたブラスタービットをミコトは起動。放たれた四基のビットの内一基がワイヤーを撃ち抜き残りの三基がシュヴァルベに砲撃。致命傷には程遠いが空中での支えを失ったシュヴァルベはそのまま地上へと押し返される。

 息を吐く間も無くガエリオ機に注意を奪われている間に頭上を取ったマクギリス機が何故か装備していた滑空砲を向け、放つ。轟音と共に放たれた砲弾が無防備なゲシュテルンを狙い撃つ。

 

「セイバー、起きろ(アクティブ)廻れ(スピン)!」

 

 シルエットに残されていたセイバービットが砲弾とゲシュテルンの間に滑り込む。直後、刃の無い平面部分を砲弾へと向けると回転を始め砲弾を受け止める。

 甲高い金属音を響かせながらセイバービットが砲弾を打ち落とすと、ガエリオ機を撃ち落としたのと同じように背面から四基のブラスタービットの一斉射でマクギリス機に叩き付け地上へと強制送還する。

 

『ほほう、不意討ちへの対処はやはり実に上手いな少年!』

「お褒めいただきどーも! 皮肉にしか聞こえませんけど!」

『ひねくれてるねぇ。そこは素直に喜ぶ所だよ。カトー君くらいは楽しませてくれそうで私はワクワクしているのに!』

「カトー?」

 

 攻撃を中断し一斉に「嘆かわしい」というポーズを取るグレイズ軍団に思わずイラッとする。

 

「誰の事言ってんスか。あれですか、糖分過剰接種系ファイターか、それともいつぞやの大会を騒がせた“ブラック・ナイトメア”ですか」

「いいや、“軍団の魔術師”のカトー君だが?」

「ほぼ世界級やないか!!!」

 

 今度こそ本気でブチギレながら発砲。怒りを吸い上げたかのような勢いと威力を持ったビームを受け止めたリッターはたたらを踏んだ。

 それを合図にしたようにグレイズ軍団が再び攻撃を開始。一転してゲシュテルンもまた回避に集中する。

 

『そーんなに怒る事でもないだろう。後数年も研鑽を積み続ければヤナミ少年もいいトコいくと思うという期待の現れなんだが』

「買いかぶりが過ぎ、るッ!?」

『というわけで洗礼だ。受け取れぃ』

 

 ブランヴェールの背後に控えていたグレイズ改と流星号が何かを持ち出し地表にバンカーを突き刺して姿勢を安定させながら構える。

 それはMSよりも遥かに巨大な狙撃用ライフル――俗にアンチマテリアルライフルと呼称される対戦車砲である。

 

「んなもん無くても死ぬほど戦車に優位だろっ!?」

『てー!』

 

 クゼの号令とブランヴェールの右腕を下ろすアクションに合わせてアンチマテリアルライフルが火を吹く。撒き散らした紫電により電磁加速された砲弾は目にも止まらぬスピードでゲシュテルンへと飛来し、シルエットの翼を木端微塵に粉砕した。

 

「ッ――!」

 

 飛行能力の要を破砕されたゲシュテルンが重力に引っ張られて落下する。咄嗟に手を伸ばしてビットを掴み落下速度を緩めようとするが、

 

「ぬおっ!?」

 

 バスターソードを振り回しながら迫り来るレギンレイズに邪魔をされる。

 

「ブラスター、ゴぶっ!?」

 

 ブラスタービットに迎撃を命令しようとした瞬間謎の衝撃に襲われ命令を中断させられる。カメラを向ければ、クリームカーキのレギンレイズが「これが正義の一撃だ!」と言わんがばかりのガッツポーズをしていた。

 イラッ☆としたのでとりあえずレールガンごと左腕をセイバービットで切り落としてから防御体勢を固め、回避不能のバスターソードに対して両手のディフェンスプレートを投げつける。

 

「おらぁっ!」

 

 軽くディフェンスプレートを切り裂きながらせまるバスターソードに対してミコトはその刃を直接掴み取る選択をする。次いで放たれるのは当然パルマフィオキーナだ。

 高熱と勢いだけでバスターソードをへし折ったゲシュテルンはすぐさまバインダーを展開。獲物を失い無防備なレギンレイズに追撃をかけようとする。

 

『それは流石に甘いなぁ』

「しまっ!?」

 

 ゲシュテルンの足を何かが引っ張り地表に引き寄せる。正体は、先程退けた二機のシュヴァルベのワイヤークローだ。

 既に飛行ユニットを攻撃特化の形態に変化させていた事が仇となり抗うことすら許されず、ゲシュテルンは地面へと叩き落とされる。

 

「まずっ・・・!」

 

 機体へのダメージを確認すらせずにミコトは左右にバインダーを展開しプラフスキー・フィールドを発生させると背後に全ビットを呼び寄せ、正面には両手のソリドゥスを全力で展開する。

 次の瞬間、最早“壁”と称するべき程の圧倒的な弾幕が四方八方からゲシュテルンへと襲いかかる。落下地点を囲んだグレイズ軍団全てが持つマシンガンの弾丸だ。

 延々と放たれ続ける弾丸は全力で敷いたゲシュテルンガンダム・コマンダントの防御を無慈悲に削り取り、装甲を削り取る。

 ダメージが入っているのを理解しながらクゼは一切手を緩める事無く軍団に発砲指示を送り続ける。

 やがて。装填されている弾丸を全て撃ち尽くしたのか、銃を下ろしフィールド全体を覆いかねないほどに広がった煙をグレイズ達が一斉に装甲を展開して先程まで発砲していた一点を見つめる。その様はあまりに不気味で無機質だ。

 痛い程の静寂。ゆっくりと煙が晴れていき、煙の中に揺らめく影が徐々にその姿を、現した。

 

 

☆★☆

 

 

「ッ――!?」

 

 固唾を飲んで見守っていたアイカが思わず息を飲んだ。

 煙の中から現れたゲシュテルンガンダムは未だ撃墜されていない。

 

 だが、それだけだ。

 

 元よりアンチマテリアルライフルによりダメージを負っていたコマンダントシルエットはアームを粉砕され、ベース部分は背後からの弾丸を受け止めるクッションとしての役割は果たしていたようだがめり込んだ弾丸が機能停止を訴えている。

 膝立ちしていたせいか脚部は他よりはマシではあったがそれでも抉れた足では立つことは叶わないだろう。ギリギリまで受け止めていたのか、その付近の地面には六基のビットの残骸が突き刺さっている。

 そしてソリドゥスを張っていた腕はオーバーヒートしたのか焼けただれて溶解していた。肩アーマーのおかげでかろうじて接続されてはいるがブラリと垂れ下がった力無い腕がまともに動くようには思えない。

 頭部と胸部はそれほどダメージを負っていないためか撃墜判定は出されていないらしい。しかし動くこともままならないゲシュテルンに、何ができるだろうか?

 

『わりと本気で仕留めにいったんだがね。確実に生き残れるように中心部を重点的に守ったわけだ』

『・・・・・・』

 

 返答は無く肩で息をするような呼吸音が聞こえるだけ。クゼは少しだけ肩をすくめると、ベロウズアックスを担いだリーガルリリーをゲシュテルンへと差し向ける。

 力無く項垂れたゲシュテルンに迫る姿はさながら斬首刑を行わんとする処刑人といったところか。重たい足音がフィールドの静寂を掻き乱す。

 張り詰めた空気に耐えきれなかったのは、アイカだ。バトル台の近くまで杖を付きながら駆け寄る。

 うっすらと青い壁の向こうで項垂れるミコトに向かって何かを言おうとして、迷い、惑う。

 その間にもリーガルリリーが迫る。両者の距離はほとんど無い。

 焦ったのか、それとも考えるのを止めたのかアイカにも分からない。それでも、気付けばスルリとその言葉が、唇から漏れ出ていた。

 

「ミコト君、負けちゃうの・・・?」

 

 リーガルリリーがついにアックスの射程に到達し、迷うことなくアックスを振り上げる。アイカはただ、ミコトの返答を待つ。

 

『――ハッ』

 

 そこでようやく気付いた。ミコトの指がせわしなく動き回っていることに。その口元に笑みが刻まれていることに。

 アイカの妙な不安は、たちまち掻き消えた。

 

『まだ、負けねーよっ!』

 

 アックスが振り下ろされるより早く、ゲシュテルンガンダムの足元が勢いよく飛び出し、ゲシュテルンを天空の彼方に投げ飛ばした。

 

 

☆★☆

 

 

 せり上がった地面。それはクゼが使用したグレイズ軍団を呼び寄せた出撃ゲート。

 どうやらクゼが使っていたのを見たミコトが自分でも使える事と場所を調整できる事に気付いたらしい。動けないゲシュテルンの真下に起動する事で逃がす辺りの選択に思わずクゼが舌を巻く。

 

『さぁ、何が出てくるんだい?』

 

 上に逃げたゲシュテルンは高すぎて狙えない以上グレイズ軍団は口を開けたゲートを見つめる。

 開いたという事は、何かが出撃してくるという事だ。

 

『換装が得意と聞いたが・・・やはりシルエットフライヤーかな? だが、シルエットだけで打開・・・』

 

 クゼの言葉の最中にギラリとゲートの奥が光る。ビームか、と思ったが違う。それは炎の灯だ。

 白煙と炎の尾を引きながら飛来したのは――大量のミサイル。甲高い音が響き渡りのぞき込んでいたグレイズに突き刺さり、爆発する。

 噴き上がるミサイルの爆煙を分厚い影が突っ切る。その正体は巨大な大砲とミサイルを放ったミサイルポッドを備えたタンクだ。

 

『アレは・・・Gホッパー!?』

「来い、EXホッパー!」

 

 タンク――EXホッパーはその厚い装甲を利用して包囲網を突っ切ると備え付けられたブースターを利用して宙を舞い、放り投げられていたゲシュテルンの元へと駆け付ける。

 それをカメラに捉えたゲシュテルンは両腕・脚部・シルエットを全てパージした。

 

『そう簡単にはさせんぞ!』

 

 動いたのはグレイズ改と流星号。バイポッドからアンチマテリアルライフルを取り外し空中のEXホッパーへと照準を合わせる。

 

「そう簡単に行くとは思ってない!」

 

 流星号に空から何かが猛烈な勢いで突っ込む。ゲシュテルンガンダムがパージした脚部、レッグフライヤーがアンチマテリアルライフルを抱えていたがために回避行動を取れない流星号に直撃する。

 さらにサイドアーマーのビームサーベルが刃を形成しアンチマテリアルライフルを貫く。弾倉を貫通したのか、レッグフライヤー共々大爆発に巻き込まれる流星号と爆風に煽られ体勢を大きく崩すグレイズ改。

 その間にEXホッパーは幾つものパーツを射出する。それはそのまま失われたゲシュテルンの四肢へと吸い寄せられ、新たな四肢を形成する。

 

『ふ、ふふ。なるほどなるほど。“進化”と“換装”。それらを主題にしたガンダムをベースに制作したその機体は、確かにウェアとの相性が良かったわけだ』

 

 してやられた、というには随分と愉悦に満ち溢れた声音でクゼが呟く。

 ウェア。“機動戦士ガンダムAGE”を象徴するギミックの一つであるこのシステムはバックパックの換装により戦闘スタイルを切り替えるストライカー、シルエット等の“SEED”系の換装よりもより大がかりな四肢の換装を行い、劇的に性能・戦闘スタイルを一新するシステムである。

 

『尤も。機構はAGE-3のモノなのに換装のやり方が旧式なのはご愛敬かな?』

 

 コアスプレンダーに牽引された新たなバックパックが変形したコアスプレンダーごと装着される様を見て、クゼの胸の奥からゾクゾクする愉悦が沸き溢れる。最早邪魔をする気は一切無いらしく、むしろその姿を早く見たいと言わんがばかりに見上げるだけだ。

 接続された各部から青白い粒子を蒸気のように吐き出しながら、ゲシュテルンガンダムの頭部が180度回転する。

 次いで正面を向いた後頭部のガードパーツも同様に180度の回転。ガードパーツの裏に隠れていたツインアイがAGE系特有のSEを響かせながら黄金に輝いた。

 

「これが、ゲシュテルンガンダム・カノニーア!」

 

 見得を切る。アニメの換装バンクを意識したモノをついついやってしまう辺りは悪癖と捉えるべきか?

 空中での換装を終えたゲシュテルンガンダム・カノニーアが落下する。勢い良く着地した瞬間、フィールド全体が振動した。

 

『重いな。うん、そのゴテ盛りなら当然か!』

 

 思わずクゼが叫んだ。それも当然だろう。

 右肩に二門のキャノン砲。同様の砲が腕にも同じく二門。左腕に至っては最早腕の代わりにガトリング砲になっており肩にはこれ見よがしに大型の弾倉が接続されている。

 フォートレスを転用して制作された脚部は新たに複数のミサイルポッドが装備されサイドアーマーがスラスターを搭載したバインダーになっており全体的なボリュームはとにかく肥大化している。

 極めつけは新たなバックパックだ。二段構成になったパックには上部ブロックに大型のウイングブースターとロングキャノン砲が一対ずつフレキシブルアーム越しに接続されており、下部ブロックにはシュツルムブースターとランチャーがこれまた一対。ランチャーに至ってはこれまでの全装備中最大のサイズを誇っている始末。

 ゴテ盛りとか全部盛りとか最早そんな言葉が馬鹿らしくなる程の過剰装備の代償に重量は凄まじく、ただ立っているだけで機体が地面に沈んでいる程だ。

 まさしく、砲兵(カノニーア)

 

『何というか、これまでとは随分とイメージが違う気がするな』

「本当はこれもシルエットだったんですがねぇ。俺のヘッポコ腕じゃ大した火力を出せなかったので“全身”使うしかなかったんですよ」

 

 ため息を吐く割に口元を歪ませている辺りミコトもこの結果にはそこまで不満を感じていないようだった。

 そもそも設計段階で高起動戦を重視して作成されたゲシュテルンガンダムでは火力を叩き出すための武装を使用するには装甲が保たない事は分かり切っていた事だった。それこそビームマグナムを放ったデルタプラスのような動作不良を起こしかねない。

 ちなみにこれがアマネが「要る?」と言っていた理由である。ぶっちゃけ採用理由はミコトの趣味でしかない。

 

「ま、敢えて旧式の分厚い装甲を採用して異常な火力を出す機体を見れたのが作成に踏み切った理由なわけなんですが」

 

 実を言えばウェアを用いようと思ったキッカケはハンス・リリーマルレーンのヘヴンズガンダムからインスピレーションを受けてのものだった。ヘヴンズは粒子制御能力の劣る分、装甲が厚いヴァーチェを用いる事で尋常ではない自身の火力を受け止めより火力に特化したセッティングを行う紗発想は実に目から鱗であった。

 結果フルアーマーのように装甲を被せるのではなく新たな四肢を用いるウェア換装を選択したのはほとんど意地でしかないが。

 

『だが、それ動けるのかい?』

「無理ッス。重量過多でホバー使っても浮く事しかできないんで」

『ほほう、では後ろから攻めてみよう!』

 

 激しく地面を蹴り上げて背後からバトルブレードを大上段に振り上げたグレイズが襲い掛かる。

 対してゲシュテルンはホバーを稼働させるが、先程の言葉通り機体が僅かに地面から浮くだけで動き出す気配も無い。・・・だというのに、ミコトの不敵な笑みは消えない。

 

「フレキシブル・アメイジング・ブースター、点火!」

 

 アームに接続された大型ブースターのウイングが開く。次いで高熱の黒煙が吐き出され背後のグレイズを飲み込み、吹き飛ばした。

 

『何っ!?』

「さぁ、突っ走るぞカノニーア!」

 

 黒煙が青い炎へと変わり、同様の炎を全身のスラスターもまた吐き出す。

 一瞬の後、ゲシュテルンが吹き飛んだ。

 

『無茶苦茶だなキミはっ!? らしくないようにさえ見えるっ!』

「ッ、ぅ・・・ハッハ、ハァ! 浮いてさえいれば、指向性のある推力を与えればその方向に進むのは当然でしょうっ!!」

 

 あまりの加速とその制御の難しさに軽く後悔しながらミコトが吠える。

 らしくない、とクゼは言った。確かに、とミコトは思う。

 過剰装備により重たくなった重量を同じく大量に増設した推進装置で吹っ飛ばす、等と今までのミコトならきっとやらなかっただろう。これに踏み切ったのはそれを実現したとある機体の入手と、カザマ・オリハのガンダムキマリス・ディザイアとのバトル経験を得てしまったせいだ。

 雪山という不安定な足場でありながらトルーパー由来の踏破能力を大量のブースターで強化しフィールドを駆け回りミコトを追い詰めた。そんな事が可能だと実際に経験しなければ、きっとこんな機体を作らなかった。それだけは間違いないだろう。

 

『なるほど。そしてそのブースター、遅ればせながらようやく気付いたよ! それは、アメイジングストライクフリーダムのヴレイブドラグーン! その運用の仕方はラピッドアメイジングストライクフリーダム、いや重装備の機体をかっ飛ばすというスタイル的にはアメイジングフルアメイジングストライクフリーダムかなっ!?』

「これのレプリカモデルが手に入らなきゃ、こんな事絶対しませんでしたよ!」

 

 アメイジングストライクフリーダムガンダム。三代目メイジン・カワグチが第八回世界大会で使用した名機。予選終了後はストライカーシステムとユウキのVPS塗料を併用した複数の形態を魅せた。

 このガンプラのレプリカモデルの一部を用いたのがカノニーアのメイン推力だ。尤も、推力に特化させるためにドラグーンとしての機能の一切が失われているのだが。

 

「さぁ、ぶち抜かせてもらいましょうか!」

 

 吹っ飛びながら機体姿勢をようやく整えたゲシュテルンが右腕を突き出す。右側に四門全てを偏らせたシグマシスキャノンから四発のビームが一斉に放たれる。すぐさま全てのビームが統合、一発の分厚いビームとなってグレイズ軍団に、その奥に居るブランヴェールに襲い掛かる。

 それを受け止めたのは進路上に飛び出したグレイズ改と流星号だ。ナノラミネートがビームに反応させ拡散させるが勢いそのものを殺しきれない二機はそのまま戦場の外れへと向かって吹き飛ばされる。

 

「ちっ、撃墜までは持ってけないか」

『はは、いいじゃないかぁ! ドンドン行ってみよぉぅ!』

 

 進路上に現れたリーガルリリーがベロウズアックスを振り被る。さらには左右からシュタッヘルとアードラ、フレックにゲイレールがアックスを持って挟撃をかける。

 

「しゃらくせぇ!」

 

 脚部のミサイルポッドが展開しリーガルリリーの攻撃を妨害するとミコトはF  A   B(フレキシブルアメイジングブースター)を真横へ向け右足のアンカーを地面に穿つ。アンカーが大地を抉り取りながら片足を軸とし、推力の方向が変わった事によりゲシュテルンがその場で独楽のように回転を始める。

 

『何、ぉぅっ!?』

 

 バックパック上部に装備されたロングキャノン――ツインドッズブラスターが左右に向かって放たれる。無論、回転したまま。

 編まれるのはゲシュテルンを起点としたビームの嵐。無差別に吹き荒れるビームが挟撃を掛けていたグレイズ達を何度も殴打し装甲を、フレームを抉り取る。元より装甲の薄い四機はそのまま膝を付く。

 

「次!」

 

 アンカーを外して再び前進を行おうとしたゲシュテルンを背後から二機のシュヴァルベがバズーカを構えながら突っ込む。完全に前しか見ていないミコトに不意打ちが決まったように見えた。

 しかして。ピンポイントに背後を向いたツインドッズブラスターから放たれた二条の閃光は狙い違わずシュヴァルベ二機を撃ち抜く。肩関節に撃ち込まれたビームはフレームを焼き切りバズーカごと腕を落とす。既にトリガーは引かれていたのか、バズーカから放たれた弾頭が地面にぶつかり爆発を起こした。

 

『キミは後ろに目でも付いて・・・・・・いるな! そういえば!』

 

 思わずクゼが叫ぶ。そういえば換装の際にエクストリーム由来のギミックである頭部の反転を行っている。バックパックやコアスプレンダーで隠れてはいるが今まで使っていたメインカメラが背後に付いているのだ。背後からの強襲には滅法強くなっているのだろう。

 

「セリザワみたいに動きながらの狙撃はやっぱムリだよなぁクソッ」

 

 チームメイトの腕前を改めて痛感しながら今度こそ一気に加速。体制を立て直そうとしていたリーガルリリーの懐へと入り込むと左腕を振り被り、アッパーカット気味に胸部を殴りつける。

 零距離を維持したままミコトの操作により弾倉に仕込まれたカートリッジが入れ替わる。

 

「撃ち、貫けぇっ!!」

 

 ゴゥン! という重々しい重低音が二度、三度――合計六度響き渡る。グラリとリーガルリリーがふらつき、倒れる。ガトリングから白煙と共に零れ落ちた薬莢と、背中を貫通している杭を見ればリーガルリリーが墜とされた事は火を見るよりも明らかだ。

 

『ガトリングバンカーとはまた浪漫武器だな! だが、足を完全に止めたのは愚策と言わせてもらおう!』

「ちぃっ!」

 

 排熱を行うゲシュテルンに向かってタワーシールドの影から二体のレギンレイズとカルタ専用リッターが飛びかかる。全機がバトルブレードを抜剣している。

 

「真正面からなら好都合!」

 

 ミコトの取った行動は迎撃。両足のアンカーを突き刺し姿勢を安定させるとシュツルムブースターに接続されたランチャー砲を正面へと向ける。

 

「最大火力のグラストロバスターなら、どれだけ溶けるかなっ!」

 

 グラストロランチャーを元に火力強化を施した最大装備であるグラストロバスターの最大火力。これまでのどのビームよりも巨大に、そして激しく地面を溶かしながら直進した極光をレギンレイズとリッターがバトルブレードを盾に防ごうとする。

 それでも、じりじりと押し込まれていく。

 

「なら、後先考えなけりゃいいんだろうがぁ!!」

 

 スラスターを吹かして勢いに負けそうになる機体を支えながらバスターの出力をさらに引き上げる。保たれていた拮抗が崩れ去り、モスグリーンのレギンレイズとリッターが何とか離脱するがビットの攻撃で損傷していたカーキのレギンレイズは逃げる事が叶わず飲み込まれる。

 レギンレイズを飲み込んだバスターはそのままブランヴェールの前に展開するタワーシールド持ちのリッター部隊に直撃する。

 

「・・・ちぃ!」

 

 それでも展開するタワーシールドを突破する事はできない。

 

『後一歩だぞ! だがそれでは抜けないなぁ!』

「なら、これがホントのホントな全身全霊!」

 

 両腕を突き出し右肩のシグマシスキャノン、バックパックのツインドッズブラスターをリッター部隊へ向けながらリロードがなされたミサイルポッドを開く。

 カノニーアに備わる全ての武装が一点を狙う。

 

「そうさ、こいつが俺の最果てへの挑戦だ!」

『来るがいいさ! 受け止めよう!』

「フル――ブラスティア!!!」

 

 FABとシュツルムブースターを含めた全ての推進装置をフル展開して勢いを殺しながら全武装一斉攻撃が放たれる。ミサイルの雨がタワーシールドを叩き、束ねられる事なく撃ち込まれた数多のビームがフィールドを極彩色に――やがて、真っ白に染め上げる。

 リッター達は耐える。ブランヴェールはその背後で微動だにせず腕を組んで仁王立ちしていた。

 永遠とさえ思える砲撃が穏やかな草原を薙ぎ払いながら、少しずつ、少しずつ消えていく。

 そして。極光が消え去った跡には。

 

『――ふっ』

 

 高熱にさらされ続けた結果抉れ、溶けたリッター部隊と周辺の地形。だが、ブランヴェールの周辺だけを避けて抉れた地形は、リッターの守護が勝ったことを雄弁と語っていた。

 

「まだまだぁぁぁ!!」

 

 リッターの屍を吹き飛ばしながらかろうじて残ったブースターを吹かせながら自らを弾丸としたゲシュテルンが突撃する。フルブラスティアの影響により既に砲身は全て焼け付いていており全身はボロボロだが、ツインドッズブラスターの砲身をパージし砲口のあった個所をブランヴェールに向ける。

 

 ――ギャリィィィィン――

 

『ふふ、砲身を変更したツインドッズキャノン。ならば当然、ビームソードの機能は残していると思ったよ』

 

 ツインドッズブラスターから伸びたビームの刃をバトルアックスとシールドで受け止めながらクゼが笑う。

 ミコトの勝利条件はブランヴェールに一撃でも当てる事。故に最後の突撃を仕掛けてくる事をクゼは読んでいた。読んだ上で、受け止めたくなったのだ。

 グラリとゲシュテルンが崩れ落ちる。最早ここまで、と誰もが思ったその時。

 

 ――カツンッ

 

『・・・へ?』

「一撃、もーらい」

 

 間抜けな声を上げるクゼの画面には、ブランヴェールが被弾した事を知らせる表示。何が、と思った瞬間、ブランヴェールのカメラはゲシュテルンの脚部から上がる一筋の白煙を捉えた。

 

『あ、ああぁぁぁぁ!?』

「奇襲で終わる気満々なんですよ? ミサイルの一発くらい、残しとくのが当然っしょ?」

 

 崩れ落ちたのはゲシュテルンガンダム。だが、勝者は違う。

 99回負ける前にした1勝を死ぬほど誇る。ヤナミ・ミコトの意地汚さは、ここに極まっていた。

 

 

☆★☆

 

 

「もう二度とやんねぇあんな分が悪いだけの賭け・・・」

「あら、お好きなようにしか見えませんでしたよ」

 

 ドッと噴き出した疲労に対応すべく糖分の溢れたミックスジュースを飲んでいたミコトに声をかけたのはシャーロットだ。

 激戦の後、本気で悔しがったクゼの恨み事と「もっかい!」から逃れるべくミコトはカフェの外で風に当たっていた。今は中でクゼをアイカと店長が取りなしているハズだ。

 既に日は沈みつつあり世界は夕焼けに染まっていた。

 

「お前のせいだぞ、こんなクソめんどくさい事にしやがって」

「いえいえ、お気になさらず」

「日本語としての使い方間違ってるぞ。故意かこんにゃろう」

 

 溢れかえる疲労のせいかミコトのツッコミにキレが無い。くすくすと笑った後、シャーロットは何も言わずにミコトの隣へと座り込んだ。

 

「素敵でしたよ?」

「あーそーかい」

「それに、既視感の正体も分かりました」

「あ?」

「推力を、片方に集中させての旋回機動。資料で知っていただけでしたが、クゼ店長も同じ結論を出してくれたので助かりました」

 

 微笑んだ。どこか、ゾクリとする笑み。

 

「ジン・ユウヒ」

 

 火照った身体が、急に冷めた。

 

「ッ・・・なん、の」

「心が、揺れましたね?」

 

 いつの間にか、シャーロットの人形のように整った端正な顔がミコトの文字通り目の前にあった。

 底が見えないガラス玉のような瞳が、ミコトの全てを見透かしているようだった。

 

「アハ・・・大正解を引けるのは、気持ちいいなぁ」

「シャー・・・ロット?」

「うん、何かな?」

 

 雰囲気が、変わった? という疑問を口にできなくなっていた。先程潤したハズの喉が異常に渇く。

 コロコロと笑いながら、距離がさらに詰まる。シャーロットの前髪がミコトの額を撫でる。

 

「僕は、どうにもキミを気に入ってしまったらしいんだ。・・・だから、さ」

 

 目の前にあった顔が霞み、視界に少女の首元と青白く輝くチョーカーが映り込むと同時に。

 額に、柔らかく暖かな感触が触れた。

 

「次は、ワタクシとも遊びましょうね」

 

 いつの間にかシャーロットとの距離が空いていた。夕陽を背に優雅に可憐に微笑む笑顔は今日一日見ていた笑みと同じものだった。

 

「全力、全霊でネ?」

「ッ、待て!」

 

 駆け出したシャーロットがすぐに曲がり角に消えたのを見てミコトが弾かれたように追いかける。

 だが、ミコトが曲がり角を曲がった先にシャーロットの姿は無く、真っ直ぐ伸びるだけの道があるだけだった。

 

「クソッ、何なんだよあいつは!」

 

 ガンッ、と憤りのままに壁を殴りつける。反動でめちゃくちゃ痛くてすぐに後悔した。

 

「・・・来るんじゃなかった。ったく、アイカは間違いなく疫病神だ」

 

 勝手にこの場に居ない少女を疫病神認定する。ヒイロに付き合うデュオはこんな感じなんだろうか、等と取り留めない事を考えながらふと遠くに沈みゆく夕日を見つめる。

 

「・・・ユウヒ・・・・・・やめやめっ、ガラじゃねぇよこんなん」

 

 一度舌打ちをして頭を振って押し寄せた感情を振り払う。

 沈みゆく夕陽に照らされるミコトの影が、揺らいで見えたのは。きっと、気のせいだろう。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「やっぱ俺って、超! 最高!」

「カイチのバカがまたバカやらかしたんだろうなぁ」

「夏休みを利用しての新オープンのカフェへの遠征。勝手に決める内容じゃあねぇよなぁ」

 

【Build.15:明日のムチャ修行】

 

「お前はダークハウンドを! AGE-2を! どれだけ知っている!!」




クソ長くてスイマセンでしたぁぁぁ!!!(超土下座)


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Build.15:明日のムチャ修行

 キュッ、キュと、磨かれた床が靴のラバーに引っかかり、音を鳴らす。同じようにダンッ、ダンと、どこか重めの音を鳴らしているのは、何度も床に叩き付けられているボールだ。
 ボールの持ち主は周りを囲まれ、軸足を固定してフェイントをかける。突破の隙を探すが、他の仲間もマークはキツイ。
状況は、控えめに言っても圧倒的に不利だった。

「寄越せ!」

 そんな重苦しい空気を吹き飛ばすように、マークを抜けて影が走り抜ける。

「まかせた、アキヅキ!」

 すぐにボールが金髪少年――カイチに投げ渡される。
 ボールを床にバウンドさせながら走り出すと、目前に居た相手チームの選手を一息で抜き去る。
 センターラインを越え、尚も加速する驚異の身体能力。最早止まらない――かと思われた、その時。
 大きな壁が、立ちはだかった。
 違う。身長2mはあろうかという巨漢だ。さながら相撲取りのように、カイチを潰すように張り手気味に掌を突き出す。

「・・・へっ」

 カイチは怯む事無く、上半身を倒さずに腰だけを落とすと、右手のボールを自身の股下へと投げつける。
 ボールを受け止めたのは、カイチの左手。瞬間的な巨漢の張り手は空を切り、その体勢を大きく崩す。
 レッグスルーと呼ばれるテクニックを披露したカイチは、そのまま回転するように巨漢を抜き去ると最後の加速をすべく、体育館の床を蹴る。

「――いけっ!」

 加速した勢いそのままに、カイチの身体が宙を舞う。
 直後に鳴り響いた音は、全部で三種類。
 タイムアップを知らせるブザービート。
 ボールがゴールへと直接叩き付けられるダンクの轟音。
 そして、勝利と敗北。その逆転を味わった者達の悲喜の叫び。
 それらをバックに、アキヅキ・カイチは清々しい笑顔で拳を突き上げるのだった。

「やっぱ俺って、超! 最高!」





「ぷはー! 勝利の美酒ってのはなんでこうも美味いかねぇ!」

 

 身体をベンチに投げ出しながら、カイチはコーラを一気に喉へと流し込む。

 噴き出る汗は既に近場の銭湯で洗い流した。勝利の余韻も手伝って、非常にいい気分である。

 さて、何故カイチが此処――私立白光(びゃっこう)学園に居るのか。

 答えは実に学生らしいもので、カイチが所属するバスケットボール部の練習試合のためである。

 普段ガンプラカフェに入り浸っていると言ってもアキヅキ・カイチも健全な中学三年生。部活に汗と青春を流す青少年の一人に他ならないのだ。

 

「いよっ、お疲れさん」

 

 そんなカイチの頭上からかけられる声。カイチが頭を上げれば、そこにはここ最近で仲を深めた青年――カザマ・オリヤの顔があった。

 

「オリヤン? なんでこんなトコに?」

「俺とオリネェ、ここの卒業生なんだよ。今日はオリネェが後輩の手伝いをする事になってたから、俺はその付き添い。・・・つっても、俺の役割は終わっちまったから暇してたんだよ」

「それは分かったけど・・・なんでそんなに汗だくなワケ?」

「吹奏楽部の資材運搬とかいう超力仕事やらされたからだよ・・・カイチ、銭湯の場所教えてくれね? あ、後それくれ」

「ちょ⁉」

 

 カイチの持っていたコーラを掴み取ると、口を付けずにオリヤが一気に飲み干す。

 

「後で新品買ってやるからブーブー言うなって。ついでにいいこと教えてやっからさ」

「汗臭ぇって。んで、いいことって?」

「第二体育館にガンプラ部があんだけどさ。・・・今のウチの部長はヤベーぜ」

 

 ニィ、と。それはそれは楽しげにオリヤは笑う。

 

「へー」

 

 対するカイチの反応は恐ろしくあっさりしたもので。そそくさとスポーツバックからスポーツドリンクを取り出していた。

 

「・・・随分あっさりしてんなぁ」

「俺はバスケしに来てんだって。ヤナミみたいなガンプラバカみたいに四六時中ガンプラの事ばっか考えてねぇって話」

「・・・お前、さては飽きてんな?」

 

 うっ、と呻いた後、露骨に目を反らすカイチ。

 

「し、仕方ねぇじゃん・・・最近勝てねぇし、ヤナミやアマネは『それくらい分かれ』って言って突き放すし・・・」

「噂で聞いたけど、お前ガガにドッズランサーで突っ込んで爆散したんだって?」

「刺したら爆発するとか聞いてねー。黒髭危機一髪かよ」

「明らかな勉強不足だろ。もしくは聞く耳持たなかったか」

 

 やれやれ、と言わんがばかりにオリヤは肩をすくめ、カバンから一つの箱を取り出してカイチへと手渡す。

 胡乱げな眼差しを向けるカイチの視線を黙殺するオリヤに、今度はカイチが肩をすくめて箱を開ける。

 中身は、カイチが愛機としているガンダムAGE-2 ダークハウンドとGPベースだ。

 

「アマネちゃんからの届け物だ。それ持ってさっさとガンプラ部覗いてこい」

「えー・・・」

「いいから行ってこいって。こういう事をやるのは今回きり、ってアマネちゃんも言ってたぜ?」

「・・・ちぇっ。分かったよ」

 

 不承不承、とでも言わんがばかりにダラダラと立ち上がるカイチ。その姿が体育館の方に消えて行くのを見て、オリヤはどこかホッとしたように息を吐く。

 

「・・・これで瞑れるならそこまでだ。ガンバレよ、カイチ」

 

 誰に対してでもない呟きを口にすると、オリヤはカイチに教わった銭湯に向けて歩を進めるのであった。

 

 

★☆★

 

 

「ヤナミ君ってホント暇よね。他に行くアテ無いの?」

「うっせ。店長に許可貰ってんだからいいだろ別に」

 

 学校指定の制服に身を包んだアマネの開口一番の棘を含みまくったその言葉に、同じく制服姿のミコトが反発する。

 本日はガンプラカフェ定休日。店長が店の仕入れ等で出掃う日であり、当然一般客は居ない。だというのに、さも当然と言わんがばかりに備品のコーヒーをカップに注いだミコトの姿には、如何なアマネと言えどため息を禁じ得ない。

 相変わらずガンプラを弄っている辺り、ここを便利な作業場として認識しているようである。

 

「そういうセリザワは何しに来たんだよ」

「新しいお菓子のレシピが手に入ったから作りに。・・・なによ、その顔」

「女子力似合わねぇ」

「・・・蹴るわよ」

「蹴ってから言うな⁉」

 

 強烈なハイキックをミコトの後頭部に叩き込むアマネ。当然スカート姿なので見る人が居れば絶景が広がっていたのだろうが、残念ながら観客はゼロである。

 

「ッ~~~そういうトコが男前なんだよお前・・・」

「自覚はあるわよ? バレンタインとか、よくチョコを貰うし?」

「だろうなー」

 

 若干涙目になりながら蹴られた辺りを擦るミコト。一旦集中力が途切れたのか、手元の作業を中断してカップのコーヒーに口を付ける。

 

「・・・で? アキヅキは大丈夫なワケ?」

「今回のテコ入れでダメなら、別のメンバーを探さないとダメでしょうね」

「それならそれで仕方ねぇわなぁ」

 

 ハァ、と今度は揃ってため息をつく二人。

 目下アクセンツの悩みの種は天才素人、カイチのやる気問題だった。

 この問題の根は深い。なにせ、これはアキヅキ・カイチという少年の人間性(パーソナリティ)、及び人生観の問題なのだから。

 昔から、恵まれた運動神経と直観に優れたカイチはだいたいの競技事に長けていた。努力の過程をすっ飛ばし、エースとして君臨してきた。俗に『天才』と呼ばれる部類なのは間違いない。

 だが、この世の中は天才『程度』では渡り切れないモノだ。

 当然のようにカイチのような天才は他にも居るし、努力を重ねた凡才をそう簡単に超える事はできない。そうした人々は、色んな過程をすっ飛ばしたカイチの前に文字通りの壁として立ちはだかる。

 その壁は決して高くは無いハズなのだが――『なんとなく』で始め、できてしまうカイチには、壁を超える手段を知りえない。

 その結果積み重なるのは『敗北』のみだ。競技において、敗北以上にストレスとなるものは存在しない。楽しく感じていたハズの競技が、ただのストレスと化していく。

 やがて何故やっていたのか、そんな事すら分からなくなり――カイチは「飽きた」の一言で別の競技へと鞍替えし、またそこでそれなりに活躍してしまう。

 そんな悪循環(サイクル)で辿り着いたのが、誘われて入ったバスケ部と、いつぞやの騒ぎに悪ノリ感覚で介入したガンプラバトルだった。

 幸い、バスケットボールに関してはまだ壁に激突しきっていないようだが、ガンプラバトルは違う。

 ただでさえガンプラカフェには初心者から実力ある熟練者までもが集まる場なのだ。そこの専属チームに所属して戦っていれば、チームとして勝利してもカイチだけは負けている事も多い。

 最近はその傾向が目立ってきており、露骨に姿を見せる機会が減っていた。姿を見せても適当に客と絡んだりつまみ食いをしたり――愛機のダークハウンドに触れる事無く帰ってしまう事も増えている。

 当然、ミコトとアマネはこの状況に頭を痛めるしか無く対処法を幾つか検討していたのだが。

 

「・・・伊達に幼馴染じゃないわ。これ以上やっても、無駄ね」

 

 先日ボソリと呟いたアマネの台詞を以ってして、カイチのやる気を再燃させる計画立案は終わりを告げた。

 唯一最後に残った計画――バスケの練習試合に赴いた先の白光学園。強豪と名高い現場を刺激に変える事ができれば、というあまりにも神頼みな計画を除いて。

 

「・・・オリヤさんからさっき連絡が来たわ。ダークハウンドは渡してくれたって」

「これでうまくいきゃあいいけどな・・・上手い事、”白金の統狼”に出くわしてくれることを祈るのみだ」

 

 万に一つの可能性があるとすれば。

 それは、圧倒的に格上の実力者に出会う事。

 そんな事を考えながら、ミコトはふとカウンターに置かれた電子時計を見る。

 秒刻みの時間をカウントする時計には、日付までもが記録されている。

 七月九日。夏が始まり、熱気が溢れかえる時期。そしてそれ以上に、ミコトの胸をかき乱すのは、ここを借り受ける前に店長から聞いた言葉。

 それを思い返し、思わず吐いたため息は――どこか、高揚感が滲んでいた。

「夏休みを利用しての新オープンのカフェへの遠征。勝手に決める内容じゃあねぇよなぁ」

 

 

★☆★

 

 

「つまんねぇ・・・」

 

 頬杖を突きながら体育館二階から見下ろし、カイチは思わず呟いた。

 眼下に広がるのは白光学園ガンプラ部の練習風景。十数人ほどの生徒達がバトルを行っていたりガンプラの調整をしていたり、或いは談笑に花を咲かせていたり。

 確かにレベルは高いように思える、のだが。

 

「もっとスゲェヤツらを見ちまってるからなぁ」

 

 カイチの目は無駄に肥えている。

 何せ幼い頃からガンプラカフェに入り浸っていたのだ。その中で見た歴戦のファイター達は、決して学生レベルと比較してはいけないモノ達が多い。

 

「・・・帰るか」

 

 オリヤに言われた通りに、見るものは見た。ならば居座る理由も無い。さっさと撤退する事を決意し、カイチは体育館を後にしようとする。

 

「おいおい帰っちまうのか? そいつぁもったいない」

 

 背後から、軽薄な声がかけられた。

 振り向けばそこには、パイプイスの背もたれを抱き抱えるように座っている、色黒に白髪の男だった。ニヤニヤと笑ったまま、カイチを見つめている。

 

「誰」

「おっと、知らないか。ということは、モグリだな」

「あぁ?」

「おいおい、ガラが悪いぞ?」

 

 人を食ったような笑みを浮かべる男。額に青筋を浮かび上がらせ、カイチはその場を離れようとする。

 

「待て待て、ちょっと待てよ」

「馴れ馴れしく肩を掴むんじゃねぇよ」

「いや何、実はアレの整備をやっててな。試運転がてら、動かしてほしいんだよ」

 

 くいっ、と背後を指す男。その先には、回路の部分を開いたままのバトル台が置いてある。

 

「・・・んなもん下の連中にやらせろよ」

「言ったろ? もったいない、って。ちゃんとした、桁違いにデケェ壁を知るより先に逃げるなんて、ダセェからさ」

「アァ・・・?」

 

 本気でイラついた声を出すカイチに軽くウインクすると、男は飄々とした態度を崩す事無くバトル台の前へと立つ。

 そのままニヤリと笑ったまま手をカイチへと伸ばし、何度か指を曲げる。

 明らかな、挑発。

 

「・・・やってやろうじゃんか」

 

 頬を引き攣らせ、大股で歩くカイチ。

 そのままどこか乱暴にGPベースをセットし、次いで少しだけ慎重にダークハウンドをセットする。

 システムによるサーチが奔った後、バトル台からプラフスキー粒子が吹き上がる。音声は流れていないが、恐らくメンテナンス中で止められているのだろう。

 店長もたまにやっている事だし、と勝手に納得し、カイチはコントロールスフィアを握り締め、ダークハウンドの瞳が輝く。

 

「アキヅキ・カイチ、ダークハウンドぉ! 行くぞ!」

 

 カタパルトが動き出し、ダークハウンドを粒子の世界へと投げ出す。

 構成された世界は、シンプルな宇宙ステージだった。デブリが大量に浮かんでいるエリアもあるが、特にそれ以外のギミックは見当たらない。

 

「野郎はどこに・・・」

『そういえば、自己紹介をしてなかったな』

 

 デブリ帯を背にするように、棒立ちの影があった。

 その機体のカラーリングは、白。

 肩に付けられた二対の翼を含め、全身を純白で覆った機体は宇宙では眩しい程だ。だがそれ故に、翠に輝くツインアイと胸部の『A』マークがより際立つ。

 その機体にカイチは思わず既視感を覚える。

それもそうだろう。何せ、それは自身の愛機――その別の姿なのだから。

 

『ガンダムAGE-2 特務隊仕様。部に置いてある機体だが、別段弄っちゃぁいない。そして、それを操るのが最高の俺』

 

 親指を自分へと向ける。実際にファイター自身が行う動作をする辺り、しっかりと染み付いた癖なのだろう。

 

『オオガミ・アルクだ。・・・野郎相手にするのは、テンション下がるけどな』

「じゃあそのまま下がりっぱなしで落としてやるよぉ!」

 

 ドッズランサーを構え、突撃(チャージ)をかけるカイチ。

 しかしAGE-2はランサーを受ける直前、ほんの少しだけ体勢を傾ける。ただそれだけで、さながら風に舞う木葉のようにダークハウンドの攻撃は外れる。

 

「おぉっ⁉」

 

 躱す直前、AGE-2の手が軽くダークハウンドの背を押す。それだけでベクトルが狂い、ダークハウンドが回転する。

 そんな分かりやすい隙を見せるダークハウンドのすぐ横を、螺旋を描くビームがすり抜けた。振り向けば、そこにはハイパードッズライフルを構えたAGE-2の姿。

 

「わざと外したってのか? 舐めやがって・・・!」

 

 ギリ、と歯噛みしている間にAGE-2はストライダーへと変形し、ダークハウンドに背を向けて飛び去る。

 

「逃がすか!」

 

 完全に頭に血が上ったカイチに、その不自然な行動の意図を理解しようという考えは無かった。自身もダークハウンドを変形させると、追いかける。

 スタートが出遅れた事もあり、カイチはフルスロットルでブーストをかけるが――その距離は、一向に縮まる気配は無い。

 その事実はより強くカイチをイラつかせ、同時に思い知る。

 オオガミと名乗った男は、間違いなく格上だ、と。

 

「それが、どうした! ハイパーブースト!」

 

 デブリ帯に入り込み、ジグザグの軌道を描き始めたAGE-2を見たカイチは、迷いなくハイパーブーストを起動する。

 超加速に包まれたダークハウンドは、細かなデブリを片っ端から弾き飛ばし、直進する。当然、その距離はどんどんと縮まっていくが――。

 

「なん、でだ⁉」

 

 縮まる速度が、あまりにも遅かった。

 確かに、このままの速度を保ち続け、飛び続ければ“いずれ”は追いつくだろう。ジグザグに飛ぶAGE-2をまっすぐに飛翔するダークハウンドが捉えられるハズだ

 その“いずれ”がいつになるかは、分かったものではないが。

 

『・・・もういい』

 

 冷めきった声がスピーカーから届いたと思った瞬間、AGE-2が変形する。

 変形の勢いを利用し、ダークハウンドに向けてAGE-2がデブリを蹴飛ばす。しかしそのくらいは想定内だったのか、ダークハウンドはビームバルカンでデブリを破壊する。

 宇宙空間をデブリであったクズが充満し、カメラを遮る。何とか視界の悪い空間を飛び出し、カイチは周囲を見渡す。

 

「え、あれ、どこ行った⁉」

 

 破壊したデブリの向こう側に、既にAGE-2の姿は無かった。すぐさま周りを探す、が。

 ズガン、という上からの衝撃に揺さぶられ、アラートが鳴り響く。

 カイチが衝撃の正体を把握しようとするよりも先に、カメラにビームの刀身が映し出される。

 マウントを取るような形で、ダークハウンドの上にAGE-2が乗っていた。少しビームサーベルをズラせば、ダークハウンドは両断されるだろう。

 

「・・・クソっ」

 

 一瞬で撃墜寸前まで追い込まれている事に、カイチは戦慄しながらも悪態を吐き出す。

 だが、待てど暮せどトドメの一撃は訪れない。不審に思い、思わずカイチが首をかしげると。

 

『お前は・・・』

「?」

『お前はダークハウンドを! AGE-2を! どれだけ知っている!!』

 

 スピーカーから響いてきたのは、オオガミの怒号だった。思わず耳を抑えるカイチに、オオガミの言葉がさらに叩き付けられる。

 

『そも、ダークハウンドはシドとの攻防の末に大破しAGEシステムを取り外されたAGE-2をマッドーナ工房が回収し、宇宙戦と格闘戦に特化した仕様変更が成された宇宙海賊ビシディアンらしい改造機だ! 分かるか、普通にやればこのAGE-2よりも速いんだよダークハウンドは!』

「お、おう?」

 

 唐突なまでのマシンガントークに思わずカイチが目を白黒させる。

 やがて落ち着いたのか、もう一度だけオオガミはため息をつくと、カイチへと語りかける。

 

『・・・だからもったいないんだ、お前は。機体の事を知らない、知ろうともしない。そんな状態で勝てるわけがない。これまで勝てていたとしても、続くわけが無いんだ』

「・・・・・・」

『飽きたなら構わねぇよ。さっさと尻尾撒いて行っちまえ。所詮、お前はそこまでだ』

 

 勝手な事を、とは思う。

 だが困った事に、オオガミを正しいと思う自分も居る。

 ミコトやアマネよりうまく動けた事は幾らでも思い出せる。自分がキッカケで勝利を得た事も当然ある。

 しかし。思い返してみれば、倒した敵達は皆どこかしら驚きを浮かべていたような気がする。それはきっと、カイチが素人だったから、なのだろう。

 セオリーは無視する。警戒すべき部分を警戒しない。とりあえず一人で突撃する。

 上げればキリが無い特異な戦闘スタイル。それらは全て、アキヅキ・カイチが無知だから出来上がったモノだった。

 普通ならきっと勝てないハズが、カイチは勝ててしまった。だから、学ぶ機会を逃した。そんな状態で行き詰らないわけが無いのだ。

 だからきっと。オオガミの言葉は正しいのだ。間違っているのはカイチの方。

 

「・・・・・・んなもん」

 

 それ故に、カイチはカメラの向こうに移る純白のガンダムを睨み付ける。

 

「知った事かよ!」

 

 次の瞬間。ダークハウンドのブースターが最大出力で解き放たれた。前へと爆発するように進んだダークハウンドの頭部右半分がビームサーベルによって焼き斬られる。

 

『お前は・・・!』

「知ってんだよ、俺が知らない事なんてよ!」

 

 振り向き様にカイチはダークハウンドを腕だけを変形させる。露出した肩に内蔵されたビームバルカンが斉射されるが、一瞬早く飛び退ったAGE-2には当たらない。

 

「だけどなぁ!」

 

 距離を取ったAGE-2は瞬時に照準を合わせるとハイパードッズライフルのトリガーを引く。螺旋を描くビームがダークハウンドに襲い掛かる。

 

「それでも! 俺が誰よりも知ってる事はあるんだよ!」

 

 途中で止めていた変形プロセスを再開する。ストライダーへと変形しきった直後、螺旋の弾丸がダークハウンドに着弾した。

 巻き起こる爆煙。撃墜を示すハズのソレは、次の瞬間弾け飛ぶ。

 煙の内側から飛び出したのは、ドッズランサーに何かを突き刺したダークハウンドの姿だった。

 

『何っ⁉』

「分かってたぜ、耐えれるってなぁ!」

 

 罅が全体へと広がり、ランサーの穂先と共に砕け散ったのはダークハウンドのバインダーだった。

 ストライダーへと変形していた事により、二枚重ねるように突き刺したバインダーに機体が隠されていた。この結果、前方から飛来したハイパードッズライフルの弾丸は見事にバインダーにのみぶち当たり、ダークハウンドへと届く事は無かった。

 普通はきっとやらない事だ。ハイパードッズライフルの弾丸は非常に貫通力に優れ、原作でも二基のドラドを纏めて貫いてみせ、隕石ごと敵機を吹き飛ばす。

 そんな弾丸を無理矢理受け止めるなど、正気の沙汰ではない。

 

「俺はさぁ・・・確かにその、ビシ何とかとかは分からねぇよ! でもさぁ!」

 

 機首となるドッズランサーが罅割れている事もお構いなしに、ダークハウンドがAGE-2へと迫る。

 が、AGE-2は軽くステップを踏むように移動する。それだけでダークハウンドの突撃は狙いを捉える事無く外れてしまう。

 しかし。

 

「こういう事ができるって、俺は知ってる!」

 

 両手に握られていたアンカーショットが飛び出し、近くのデブリへと突き刺さる。ワイヤーが限界いっぱいまで引き伸ばされ、張りきったワイヤーに導かれたダークハウンドはグルリと円を描くように回転する。

 一回転しながら再度変形を行いながらアンカーショットを手放す。次いでビームサーベルを抜き放てば、その眼前には再度AGE-2が現れる。

 

『一回転して戻ってきやがった⁉』

「こういう事ができるって、俺は知ってる!」

 

 そのままビームサーベルを振り下ろす。斬撃に追従する光の軌跡は、これほどの不意打ちをかけたにも関わらずAGE-2を捉える事は無かった。

 

「お、っらぁ!」

 

 だが。まるで斬撃をなぞるように蹴り上げられた右足が、ついにAGE-2を捉える。

 激しい衝撃は、正しく攻撃が命中した証。それを感じ取ったカイチはビームサーベルを納刀し、罅割れたドッズランサーを引き抜く。

 

「俺が一緒に戦ってる相棒は、ガンダムじゃねぇ!」

 

 ドッズランサーによる神速の一突きは、ハイパードッズライフルを捉えると同時に貫く。

 咄嗟にAGE-2がハイパードッズライフルを手放した次の瞬間、ダメージが深部に到達したのかライフルが爆散する。

 

「俺が一緒に戦ってる相棒は、俺が作ったガンプラ! ガンダムAGE-2 ダークハウンドなんだよ! だから! 他は知らなくても、コイツにできること、やれること! それを俺は知ってんだ! そこに文句もケチも言わせねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 叫ぶ。他の何を否定されようと、それだけは譲れないと。

 唯一つと言ってもいい。その言葉こそが、ビルドファイターアキヅキ・カイチのプライド。

 ミコトもアマネもオオガミも、世界中の誰であっても、今こうして戦っているダークハウンドの事を一番知っているのは、アキヅキ・カイチに他ならないのだから!

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 限界いっぱいまでブースターを燃やす。カイチの叫びに応えるように、ダークハウンドの左目が煌めき、AGE-2へと向けて飛翔する。

 

『・・・あぁ、これは・・・誤ったほうがいいな』

 

 迫りくるダークハウンドを捉えながら、オオガミは静かに笑った。

 

『すまん。お前はその程度何かじゃねぇ。高みに行ける、真っ当なファイターだ』

 

 その笑みは静かで、楽しげで、獰猛だった。

 

『だから・・・完膚なきまで、叩き潰してやるよ!』

 

 一瞬、光が閃いた

 そう感じた時にはアラートが鳴り響いていた。激しい衝撃がそれまでの推力を無視し、ダークハウンドをその場へと押し留めていた。

 既に目の前にAGE-2の姿は無い。胸部でクロスするように突き刺されたビームサーベルの刃が斜めに突き出ており、腰の辺りから刀身が飛び出している。

 まったく見えなかったが、どうやら事実から察するに抜刀したAGE-2のサーベルなのだろう。それでも撃墜されていない事を確認すると、カイチはアラートを無視してAGE-2を探す。

 居た。自分よりも下。足の向こう側に、純白の機影を発見する。

 

「突き刺したまま下に抜けたのかよ・・・! でも!」

 

 体勢を整えたらしいAGE-2の背中のバーニアが火を噴き、ダークハウンドへと向かってくる。それを察知したカイチは、迎撃のためにビームサーベルを抜こうとして――。

 何も無い空間を、ダークハウンドの手が掴んだ。

 

「・・・え?」

『隙ありだ!』

 

 ズガン、という鋭い衝撃が足から頭にかけて突き抜ける。

 交差する瞬間、胸部と腰のつなぎ目の辺りを狙ってさらに二本のビームサーベルがダークハウンドへと突き立てられる。

 新たに二本のビーム刃が首側へと向かって貫通する。まるでその姿は、獣の牙が突き立てられたかのようだった。

 

「なんで・・・なんで、四本サーベルがあるんだよ・・・」

『後から刺したヤツ、よーく見てみな?』

 

 言われるがままカイチはビームサーベルにカメラを合わせる。

 するとそこには、白と黒、二色のビームサーベルが映り込む。

 

「黒・・・って⁉」

 

 そのサーベルは、ダークハウンドのものだった。

 

『すれ違う時にコッソリとな。本来四本でやるサイコーな必殺技なんだよ』

 

 そう言われ、最早カイチは力なく笑う事しかできなかった。

 抜刀からの高速軌道。そのままダークハウンドのサーベルを奪い、返す刃でさらに突き刺す。

 そのほとんどがカイチには見えなかった。圧倒的という言葉さえ生温い、完全敗北。

 

「さぁ、俺の“フェンリルファング”を受けて、まだ戦うか?」

 

 未だに撃墜判定がされない中、カイチは両手を挙げた。

 

「ムリ。こーさん」

 

 まるでその言葉に反応するように、パリパリと音を立ててバトルフィールドが崩れ去っていく。

 後には動かぬ二基のガンダムAGE-2と、その向こうでニヤニヤ笑うオオガミの姿。

 

「なぁ」

「なんだよ」

「面白かったか?」

「・・・完敗喰らった上で、そんな事聞くかね」

 

 そう言いながらもどこかカイチは嬉しそうにしながら、ダークハウンドを回収する。すると背後から、パチパチと気の抜けた拍手が聞こえてきた。

 

「お疲れー、カイチにオオガミ」

「オリヤン?」

「悪かったなオオガミ、忙しいのに付き合わせちまってさ」

「これっきりッスよ先輩。次はカワイコちゃんで」

「副部長にブチギレられるぞ」

「あー・・・ミーちゃんは置いとく方向で」

 

 親しげに話し込むオリヤとオオガミ。

 混乱するカイチに、オリヤは人の悪い笑みを浮かべる。

 

「今回の事、全部俺らの仕込み」

「え、えぇっ⁉」

「ついでに、こいつの正体も教えてやるよ」

 

 トン、とオオガミの肩に手を置きながらオリヤはどこか誇らしげに喋る。

 

「”白金の統狼”オオガミ・アルク。この白光学園ガンプラ部部長で、世界大会にエントリーしてるヤツ。つまり、文字通りの超強者だよ」

 

 

★☆★

 

 

 ドガーン、という轟音と共に扉が蹴り飛ばされるように開け放たれる。

 ミコトが鬱陶しそうに扉を見やれば、そこには汗だくのカイチが居た。

 

「ま、そろそろ来る頃だと思ってた」

「アマネは⁉」

「帰った」

「お前らもグルだったのかよ!」

 

 詰め寄るカイチを無視して細かい部分にヤスリをかける。

 

「荒療治だけど仕方ねぇだろ? オリヤさんが”白金の統狼”なんてヤバイレベルのヤツに渡りを付けられるって言うからな」

「なんっでわざわざそんなに回りくどい事を」

「今更お前以外のチームメンバーを探したくなかったからだよ。・・・今回がダメなら、遠征のためにもホントに新しいメンバー探すトコだったけどな」

 

 淡々と語るミコトに、カイチも二の句が継げなくなる。

 うんざりしたような口調だが、ミコトは間違いなくカイチをチームメイトとして認めて引き留めようとしている。

 そう理解したカイチは一度だけため息を吐き出すと、ミコトの前に座り込む。そのまま神妙な表情で別の話題を口にした。

 

「なぁ、世界大会出場者って、どんだけ強いんだ?」

「あぁ?」

 

 ようやくカイチの顔を見るミコト。どういう冗談かと思ったが、カイチの表情は真剣そのものだった。

 

「・・・そうさな。それこそ、グレイ・ストーク卿が連れて行ったニュータイプが返ってくるか・・・」

「か?」

「ガンプラバトルをやる異世界人でも居ない限りは、最強の一角だろうよ」

 

 そんなファンタジーなんてありえないだろうけど、という言葉を付け加えながら再び手元の作業に集中するミコト。

 その様を見ながらカイチは静かに虚空を睨む。

 手も足も出なかった、文字通り次元の違う強さを見せつけた男。オオガミ・アルク。

 

「・・・勝ちてぇ」

 

 ギュッと握り込んだ拳に力が込められる。

 

「俺、あんなにボロ負けしたの初めてだよ」

「そーか」

「だから、俺はアイツに勝ちてぇ」

「・・・で?」

「アイツに勝つために、俺は止めねぇからよ。・・・これからも頼むぜ」

 

 ニッ、とカイチが笑う。対するミコトは、どこか面倒くさそうに言葉を返す。

 

「無自覚でそんな感じの台詞吐くなよ」

「は?」

「いや、いいわ。・・・ま、頑張ってくれたまえ」

「おうよ!」

 

 力強く宣言するカイチ。

 その宣言は、ビルドファイター、アキヅキ・カイチが本当の意味でスタートした事を意味していた。

 

 

☆★☆

 

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「アイカ・・・アナタにストフリは向いていません!」

「ちゃんと服を着てくださいー⁉」

「ズバリ、キラキラエクシア!」

 

【Build.16:ガンプラ女子会】

 

「普通、女子会でガンプラは作らないと思う」




ずいぶん久しぶりの投稿になりました。今後も不定期に更新すると思われます。


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EX:ガンプラ紹介
Gunpla.01 【ゲシュテルンガンダム】


 ガーンプラ、紹介ー、コーーーーーナーーーーー!!! パフー、ドンドンドーン!
 ・・・なんだこの謎テンション。えー、本章はアクセンティア本編に登場したガンプラを紹介するコーナーです。解説もたまにします。
 本コーナー製作にあたって似た形式を使わせていただくことを快く快諾してくださった『ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド』亀川ダイブ先生、『ガンダムビルドファイターズF』滝つぼキリコ先生お二方に改めてお礼を。ありがとうございます!

 第一回は主人公機【ゲシュテルンガンダム】です。


【EX-DI/Ⅳ ゲシュテルンガンダム】

・武装:ビームサーベル×2

    ビームマシンガン×2

    パルマフィオキーナ×2

    ソリドゥス・フルゴール×2

・特殊:System・EX

    換装

 

Ⅰ:フロントビュー

 

 

【挿絵表示】

 

 

 エクストリームの上半身とレッグフライヤーをミキシングしただけで加工無し。

 レッグフライヤーのサイドアーマーはビルドストライクのものに変更してビームサーベルを装備できるようにしてあります。代わりにアーマーシュナイダーはありません(そもそもインパルスに付属してないからネ!)

 ちなみに「ゲシュテルン(Gestirn)」はドイツ語で「運命・星・天体」を意味する言葉だったりします。

 

Ⅱ:リアビュー

 

 

【挿絵表示】

 

 

 離れすぎた()

 バックパックコネクタはスカルウェポン辺りに付属していたモノのピンを切り飛ばして接着して無理やりオールガンダムプロジェクト規格のコネクタを用意しました。・・・ただこのせいで初登場時のランドセルタイプができなくなっているのですが(おいおい)

 後頭部? ナンノコトカナー?

 

Ⅲ:バストショット

 

 

【挿絵表示】

 

 

 アンテナはデスティニーのものに交換。肩はエクストリームの肩にG-セイバーの肩アーマーを挟んでるだけで特に固定はしていません(どっちも気を抜くとポロリます)

 

Ⅳ:比較

 

 

【挿絵表示】

 

 

 我が家の獅電クンと。バイザーが無いのは気にするな。

 レッグフライヤーを用いている都合上結構足長ですね。HGCEインパルス由来の良い部分です。

 

Ⅴ:ソリドゥス

 

 

【挿絵表示】

 

 

 エクストリームの腕にデスティニーのハンドパーツを付けているので両手からソリドゥス展開が可能。

 ちなみにハンドパーツもHGのモノなのでエクストリームの腕に付いているビームマシンガンに干渉するので腕は逆に組んでいます。

 

Ⅵ:クラレント

 

 

【挿絵表示】

 

 

 パルマフィオキーナとかサーベル刃が見つからないので急遽フリューゲルシルエット装備武装クラレントを。

 ちなみに一品物のハンドメイド品。謎の刀鍛冶とか龍の覇王とか呼ばれてる人から送りつけられました。本来使用予定だったアロンダイトは触媒に使って以来行方不明です()

 実は隠しギミックもあったりと遊びすぎて既にわりとボロボロ。

 

Ⅶ:でけぇ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 獅電のパルチザンとシールドと並べてみて。ゲシュテルン本体よりデカイので取り回しやら重さやらいろいろありますが迫力は素晴らしいですねぇ。

 

Ⅷ:ヤナミ・ミコト

 

 

【挿絵表示】

 

 

 作中のゲシュテルンガンダムのビルドファイター、ヤナミ・ミコト。一応は物語の都合上彼の目線を中心とした主人公として描かれる存在。

 そこまで才能が無いただのガンプラ好きなオタクな彼ですが元は私が一番書いた小説の主人公と一番動かしたキャラクターを混ぜてBFの世界観に合う部分だけを残してそぎ落とすということをして生まれたキャラです。ロボット系が初めてなので主人公の位置に置くキャラは動かしやすさ重視でこういう造形になりました。

 ちなみにアクセンティアのキャラクターは皆自機に関連した要素を使って名前を決めていますがミコトは特に難儀な命名パターンになっております。

 

ヤ⇒矢⇒アロー⇒アロイ

ナミ⇒波⇒ストリーム⇒エクストリーム

ミコト⇒命⇒運命⇒デスティニー

 

 と言った感じのめんどくささw

 三つ分の要素が入ってるのは今のところ彼だけです。ミコトの名前の由来にはこの他とあるヒルコの剣士とか(分かる人居るのかこのネタ)その割にはミコットの存在とかはスッパリ忘れてたんですけどね!!!

 

 

 

 さて、如何だったでしょうか。主人公機ゲシュテルンガンダム。

 アクションショットとか換装形態とかまだまだ載せたいノはたくさんあるんですがもう少し撮影環境を整えたら改めて、ということでw

 墨入れやら加工やら僕が最初に触って生み出したガンプラ、僕のガンプラの原点。こういう形で動かして公開できてというのは喜びひとしおです。

 そんなゲシュテルンと共にこれからもアクセンティアは続いていきます。ゲシュテルンとミコトのこれからの戦いを是非、見て行ってやってください。




 余談ですが本投稿を持って「ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-」の投稿からちょうど一年と相成りました。わりと一年書き続けるのは飽き性な自分にしては珍しく少し驚いています。
 これもひとえにたくさんの支えてくれた人々のおかげです。
 ガンプラを貸してくれた謎のビルダーS氏や絵師ビルダーRV氏をはじめとした友人軍団。
 読んで指摘してくれたり設定の話で夜を明かしたりするGBF小説書き仲間のK氏や8氏。
 イラストをくれたりしてモチベを上げつつ退路を断ちに来るとり肉さん。

 そして何より、アクセンティアのために時間を使って読んでくださっているアナタに、心からの感謝を。読むために使ってもらえたその時間が愉快でポジティブものになっていれば幸いです。

 二年目になりましたアクセンティア。私自身も精進を怠らず書き続けていきたいと思っておりますのでよろしければこれからもよろしくお願いします! ではっ!


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