紅 -kurenai- 武神の住む地 (ヨツバ)
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武人の地 交換留学

こんにちわ。
紅-kurenai-と真剣で私に恋しなさい!のクロスオーバーです。
世界感の融合や力関係のバランスが難しいですが頑張って書こうと思います。

違和感が無いようにしますが、あっても生暖かい目で読んでってください。(ここ大事)

では、始まります!!


001

 

 

とある週末の夜。真九郎は夕乃たちから迫られていた。迫られていたというのはあることに関して詳しく説明を求められているのだ。

今の状況を説明するならば五月雨荘の真九郎の部屋にて夕乃、紫、銀子、環、闇絵が夕食を食べている。

 

「真九郎よ転校ってどーいうことなのだ!!」

「違うよ紫。転校じゃなくて留学。交換留学だよ」

「何が違うのだ!!」

 

転校は違う学園に移籍すること。交換留学は短期だが違う学園で学ぶことだ。

 

「同じではないか!!」

「違うよ紫」

「だが真九郎と会えなくなるのは同じではないか!!」

 

それは否定できない。転校だろうが留学であろうが遠くに行くのは同じである。

なぜ真九郎が留学するはめになったのかは3日前の話となるのだ。

 

「もしかして、星領学園にきた交換留学の話ですね真九郎さん」

「うんそうだよ夕乃さん」

 

 

3日前の星領学園にて真九郎は生活指導の先生に職員室に呼び出されていたのだ。

真九郎が無事に二学年へと進級し、去年の濃すぎる1年間を思い出していたら生活指導の先生に出会ったのだ。

実は星領学園にある学園への交換留学がきており、その交換留学に行かせようとのことだ。なぜ選ばれたかというと単位を取らせるためである。

真九郎は生活態度は良いのだが、いかんせん成績が低いのと、欠席の多さが目立つ。一学年から二学年に上がれたのは先生としても喜ばしいのだか、去年と同じようなことを繰り返されると次回が危ないのだ。

だから交換留学を体験させて単位を取らせようと先生は考えたのだ。余計なお世話かもしれないが先生として心配してくれたということである。

 

「交換留学ですか・・・」

「ああ。3ヶ月間の交換留学だ。これを成し遂げれば単位は完璧だ」

 

交換留学と言われてもあまり実感はしない。興味が無いからだ。だから断ろうとすぐに決めた。

しかし先生はなんとか留学してもらおうと説得してくるのであった。

 

(交換留学する気は無いんだよな。でも単位は必要だ・・・)

 

揉め事処理屋として働いている真九郎には学園の単位が欲しいのは確かである。仕事は日にちを選んでくれない。

そのせいで授業に出られない事が度々あるのである。だから断ろうと最初は考えていたが、説得させられているうちに迷い始める。

師匠である法泉は「若いうちは何でも経験した方が良い」と言っている。これもその1つである。それに揉め事処理屋として他の町でパイプを作るのも良い手だ。

作れるかどうか別であるが。

 

「先生としては行ってもらいたい。しかし最終的に決めるのは紅だ。1週間待とう。よく考えてみてくれ」

 

なかなか長い説得を聞き終えて、渡された交換留学の資料を読む。

留学先は川神市にある川神学園である。

 

 

「かわかみ学園?」

「ああー聞いたことあるある!!」

「環よ。どんな学校なのだ」

「武術がとっても盛んな学園なのよ。実は私さ川神学園のOBの空手家と試合したことがあるのよ。いや~強かったよ。勝ったのは私だけどね」

 

川神学園は武術が盛んな学園として有名である。さらに武術だけでなく学力も高いのだ。とても有名な学園だ。

 

「で、真九郎はその川神学園に留学すると」

「そうだよ銀子。単位を取りつつ向こうで揉め事処理屋としてのパイプを作ってみようかなって思ってさ」

「無理よ」

 

ズバリと否定してくる。それには苦笑いで返すしかなかった。だが何事も経験である。師匠である言葉だ。

 

「本当に行くのか真九郎」

「うん。大丈夫だって紫。もう会えないわけじゃないんだ。それに川神市って案外近いよ」

「そうなのか?」

「うん」

 

案外近いものだと携帯電話の画面に地図を現す。電車でも車でも行こうと思えば行ける距離である。

休みの日に戻ってこれるし、真九郎に会いに行ける距離だ。それに少しは納得する紫であった。それでも顔は不満の膨れっ面だ。

 

「むう。真九郎が決めたことだからな・・・ワガママを言ったら迷惑をかける」

「あーん紫ちゃんは偉い!! 私なんて真九郎くんが居ないと夜が寂しいよ~」

 

酒を飲みながら環は真九郎に抱きつく。この光景もいつものことであり、「酒臭い」と言うのもいつものセリフであった。

そんな中、夕乃はブツブツと呟いており、銀子は何かを考える。

 

「少年よ。どこか旅に行くのは悪い事ではない。新たな地では新たな発見があるものだ」

 

闇絵がいつものように何かをアドバイスしてくれる。どんな内容にしても、そのアドバイスはいつも助かる。なぜなら覚悟ができるからだ。

去年の1年間はアドバイス通りに何かがいつも起こる。良くも悪くも。

 

「それとまた女難の相が出ているぞ少年」

「またですか」

 

このアドバイスには苦笑するしかない。女難の相は真九郎にいつも衝撃的な出会いをさせるからだ。もしかしたら今回も川神学園で衝撃的な出会いがあるかもしれない。

いや、あるだろう。前にニュースで見たことがある。九鳳院財閥と同じく大企業である九鬼財閥が過去の偉人を転生させたクローンがいるというニュースである。

これには世間を騒がせた。星領学園でもよく話しのネタとなっている。それでも世の中で気にする人と気にしない人もいた。

そして川神には武神と呼ばれる武術家がいる。噂を聞くに漫画であるようなビームも放てると言うのだ。なんとも規格外である。

今年もきっと濃すぎる1年が始まるのだろう。そう思いながら食事を続ける。

 

 

002

 

 

真九郎は交換留学をすることを決めて先生の元へと向う。その足取りは軽い。

職員室に入るとなぜか夕乃と銀子がいた。2人が職員室にいるのは珍しいことだ。先生に交換留学に行くことを話すと「そうかそうか。紅が行くことを決めてくれて嬉しいよ」と言ってくれる。

そして夕乃と銀子がこの職員室にいる理由も話してくれた。なんでも2人も同じく川神学園に交換留学するらしい。これには少し驚く。

銀子はこういう類に興味が無いはずである。なのに交換留学に参加するとは珍しいのだ。

 

「本当なのか銀子?」

「悪い?」

「いや、悪くない」

 

次に夕乃。彼女はもう3年であり、いろいろと忙しい時期である。そんな時期で交換留学に参加するというのだから大変だろう。

しかし夕乃は星領学園の成績は優秀である。このまま維持していけば問題は無い。先生も彼女の優秀さならば交換留学に行かせても問題ないと思っているのだ。

それに留学先の川神学園は有名な学園であり、学舎としても問題ない。3年生が行こうと申し出ても拒否することはない。

 

「真九郎さんが心配なんです。だから私もついて行きます」

「そうですか」

 

いつも心配されている。彼女からして見ればまだまだ半人前ということなのだろう。しかし実際は夕乃からしてみれば真九郎に余計な恋敵を増やしたくないからというものもある。

去年の1年間でそれを学習したのだ。今年はさらに目を光らせねばならないと思っているのだ。

 

(真九郎さんは何故かどこでも女性と縁がありますからね)

 

その女性の縁がいつも大変なのは運が良いのか悪いのか分からない。

 

「崩月先輩は3年で忙しいんじゃないですか。無理に交換留学に行かないほうが良いんじゃないですか?」

「あらあら村上さん私は大丈夫ですよ。私はうちの真九郎さんが心配で行くだけですから」

「うちの真九郎?」

「はい。うちの真九郎さんです」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

そんな後ろ文字が見えるのであった。

これで星領学園から川神学園に3人の交換留学が決まったのであった。

 

 

003

 

 

金曜の放課後。風間ファミリーと呼ばれるグループがある。彼らは金曜集会と呼ばれる集まりに全員集まっていた。

簡単に言うとただ集まって駄弁るだけであるが彼らはその時間をとても大切にしている。

そんな中で軍師と呼ばれる大和があることを言い出す。

 

「みんな知っているか。うちに交換留学生が来るって話」

「何、可愛い子ちゃんか!?」

「それは分からないよ姉さん」

 

百代が「可愛い子か!?」と反応したら岳人も反応する。そして彼の好みである「年上年上」と言うのであった。

 

「それにしてもうちの学園はどんどん人が増えるわね。義経たちや松永先輩でしょ」

「そうだね。いきなりの転校ラッシュだよ」

「今回は交換留学だけどな」

「ったく、うちのじじいは何も言わないからな」

 

過去の偉人であるクローンが転校してきたのだ。交換留学生がどんな人でも驚かない自信はあるかもしれない。

しかし、今回来る交換留学生は偉人のクローンとはまた違った濃い人物達であることをまだ知らない風間ファミリーであった。

 




読んでくれてありがとうございます。
感想などあればドンドンください。待っています。

最初はこんな感じです。(プロローグ)
マジ恋の時系列はsから始まりで、紅は歪空の戦いの後からですね。

この物語の紅勢は原作や漫画、アニメの設定をいくつか拝借しています。

次回もゆっくりとお待ちください。


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武術家の集う学園

こんにちわ。
今回は真九郎たちがついに川神学園に来た話です。
ま、自己紹介の話ですね。

では、始まります。


004

 

 

金曜の真夜中。川神学園の屋上にて武術を極めた者たちが酒盛りをしていた。全員が渋い飲み方をしているのであった。

 

「ほっほっほ。こうやって月を見ながら飲むのも悪くないわい」

「総代、飲みすぎないでくださいネ」

「分かっておるわい。それにしてもヒュームや、この学園はどうかのう?」

「ふん……赤子だらけだな。だが、マシな赤子もいるのも確かだ」

 

ヒュームはこの学園の学生たちの評価を簡単に話した。世界最強と言われる彼からしてみればの評価である。そのマシな赤子とは数名くらいだろう。

自分の孫はどうかと聞く鉄心にヒュームは「修行不足」と簡単に言い放つ。それを否定出来ない。本当だからである。

いつもサボリ癖のある孫娘には困っている。センスだけで、早い段階で武術を極めてしまった弊害であるだろう。

 

「まったくウチのモモは真面目に修行してくれれば良いのじゃがのう」

「マッタクその通りですヨ」

 

ため息を吐く2人であった。

 

「ところで新しく川神学園に交換留学生を招くそうだな」

「何じゃ知っておったのか。全くどこから仕入れたんじゃ」

「私たちにかかれば簡単なことです。と言っても噂程度で聞いた話ですよ」

 

クラウディオが酒を飲みながら説明を補足する。何もスパイの如く情報を知ったわけでは無い。ただ学生たちの噂話を聞いたから今聞いてみただけである。

 

「近頃の学生はどっから情報を仕入れているんじゃ」

「総代。ワタシは交換留学について知っていましたガ、何人来るのですカ?」

「ほっほっほっほ。3人じゃ」

 

右手の指を3本立てる。

 

「そうですカ。シカシ、その交換留学生がかわいそうでス。クローン組の義経たちに松永燕の登場で学園の生徒たちに驚きを与えていますかラ」

 

その中で交換留学生が来ても新しい驚きは無いだろう。クローン組も燕も初登場は驚かせる場面であったからだ。

 

「確かにそうですね。過去の偉人であるクローンと武神とまともに戦った松永燕様。それ以上の驚きはそうそう無いかと」

「うーむ……確かにそうじゃな。出来れば先に交換留学生たちを学園に呼びたかったわい」

 

ここで「しかし」と鉄心は付け加える。その顔は何か驚かせる隠し玉を持っているようである。

 

「どうした鉄心?」

「実はその交換留学生のうち1人はクローン組や松永よりもある意味有名なのじゃよ」

 

世間を騒がせた過去の偉人のクローン組や学園を騒がせた燕よりもある意味有名と聞けばヒュームたちが気になるのは当たり前であった。

その「ある意味有名」という言葉が引っ掛かるが聞けば分かる。そして鉄心は、もったいぶらずに続けた。

 

「その交換留学生の1人があの裏十三家なんじゃよ」

「何!? 裏十三家だと!?」

 

裏十三家。この単語を聞いた瞬間にリー以外が驚いた顔をした。

 

「総代、ソノ裏十三家とは一体なんですカ?」

「ルーは知らなかったかの。裏十三家とはこの国の裏世界の頂点に君臨していた家系じゃ」

 

現在では裏十三家の半数が断絶、廃業しているがその勇名、悪名、凶名は今なお畏怖の象徴として語られている。

そのため裏世界では強く影響を残しているのだ。

そのことを聞いて驚く。そして険しくなる顔。そんな内容を聞けば学園に招いて大丈夫かと心配になるのは当然であった。

 

「まさか裏十三家筆頭とか言うつもりか?」

「大丈夫じゃよ。来るのは崩月じゃ。それに大和撫子が似合う女の子じゃ」

 

ニッコリと笑うのであった。

 

「崩月ですか。・・・確か穏やかで温厚な者ばかりと聞いていますね」

「逆鱗に触れれば、その恐ろしさを味わうがな」

 

川神にさらなる者たちが集まるのであった。

 

 

005

 

 

月曜日の朝。川神学園のグラウンドにていつも通り学長である鉄心が朝の挨拶を行う。

その挨拶が終われば次は交換留学生の紹介が始まる。知っている者はどんな学友かと気にし、知らない者は「また?」っと思うのであった。

 

「これから学園に新しい学友が増えるぞい。みんな仲良くするんじゃぞ」

 

交換留学生は合計3人。3Sに1人、2S1人、2Fに1人である。

それぞれのクラスは新たな学友がどんな人物かとワクワクする。女子か男子かと言ったり、特別なSクラスに来る人を歓迎してやろうと言ったり様々である。

一部の男子学生は可愛い女子を所望しており、カメラを持つ者まで現れているほどである。もちろん女子学生も同じ考えである。

最初に壇上に上がったのは3Sに所属する女子。大和撫子と言う言葉が似合う崩月夕乃であった。

 

「皆さんこんにちわ。私の名前は崩月夕乃です。短い期間でありますが今日からよろしくお願いします」

 

優しい笑顔を川神学園の学生たちに送る。なれば男子学生は大はしゃぎであった。あと一部の女子も。

 

「大和撫子キター!!」なんて言う者もいれば「清楚と大和撫子で完璧コンビ」とも言う者もいた。

パシャパシャ写真を撮る音も聞こえる。

 

「うおお。すっげえ美人!!」

「うん。それに黒髪も綺麗だね」

「うーん・・・どんどんと美人が来て自信無くしそう」

 

それぞれの学生たちが夕乃に様々な感想を抱く。しかし中には注意深く観察する人物もいるのであった。

 

(あれが裏十三家の崩月か。特に闘気や殺気を出しているわけでは無いな)

 

それとなくヒュームは軽く闘気を夕乃にぶつけてみるが気にしてない反応であった。

夕乃も気付いているが相手からぶつけられた闘気が自分を試すようなものだったので受け流した。

 

(あの金髪の老執事からですね。確か紫ちゃんと同じ世界財閥である九鬼財閥の執事ヒュームさん)

 

裏十三家である夕乃は独自の情報網を持っており、今日のために川神についていくつか情報を持っている。

そのうち九鳳院と同じ世界財閥である九鬼財閥についても知っていたのだ。

彼の反応からやはり裏十三家のことを知っているのだろう。どう思っているかは分からないがこちらから敵対するつもりは無い。

 

(でも真九郎さんに何かしたら許しません)

 

大事な人を守るためなら老若男女を問わず敵対する者は敵として徹底的に叩き潰すと心に決めている。

 

(真九郎さんはうちに婿入りするのですから)

 

裏十三家であろうと夕乃は恋する乙女である。

夕乃の挨拶が終わり、次は2Sに所属する女子学生が壇上に上がる。彼女の名前は村上銀子。

 

「おはようございます。村上銀子と言います。これからよろしくお願いします」

 

淡々と挨拶をこなす銀子。

冷静な挨拶でも川神学園の学生たちは興奮している。また同じく「眼鏡っ子キター」や「クール美人だ」とか言っている。

特に2Sのクラス連中は様々なことを言っている。

 

「ほぉ、此方のクラスに来るか。これは可愛がってやらねばのう」

「若。あの子とか良いとか思ってるんじゃない?」

「良いですね。口説きたくなります」

「義経たちのクラスに新しい学友が来る。これは仲良くしなければならないな」

「そうだね~主は可愛いね」

 

2Sの連中は様々なことを思うのであった。しかし銀子も2Sの個性的な面々に負けていない。彼女は裏世界で有名な情報屋である村上銀次の孫である。

祖父の銀次にはまだ及ばないが、銀子の才能は間違いなく凄いと言えるのだ。真九郎が絶対の信頼を置いているほどである。

そんな彼女なら個性的すぎるSクラスでも上手くやっていけるだろう。コミュニケーションが上手くとれるかは別としてだが。

そして最後は2Fに所属する男子学生。紅真九郎の挨拶の番である。

 

「おはようございます。俺は紅真九郎。今日からよろしくお願いします!!」

 

無難な挨拶をする。そんな彼を見て2Fの学生たちもそれぞれ感想を言うのであった。

 

「へえ、悪くないわね。イケメンと言うよりもカワイイ系かな」

「ヒョロそうだなー。俺様の筋肉を見習わせたいぜ」

「何か武術とかやってるのかしら?」

「紅真九郎か」

 

2Fのクラス連中はそれぞれ思うのであった。それに他の2人と比べると盛り上がりは少し低い。

しかし2Sの英雄や1Sの紋白は顔を笑顔にした。

 

「おお、我が友の真九郎ではないか!!」

「知り合いですか英雄?」

「うむ。去年に知り合ったのだ。彼には助けられたことがある」

「そうなんですね。じゃあ英雄の友達なら私の友達でもありますね」

 

1Sのクラスでも似たような反応が起きている。

 

「おいクラウ爺よ。真九郎だぞ!!」

「そうですね紋様。またお会いすることができましたね」

「うむ。早速スカウトに行くぞ!!」

「あの~紋様。あの紅さんと知り合いですか?」

「うむ。その通りだムサコッス」

 

真九郎も一部の濃い面子に人気があるようである。

これにて朝の挨拶は終わる。真九郎たちは各々が自分のクラスへと向うのであった。




読んでくれてありがとうございます。
感想など待っています。

内容通りで真九郎は九鬼と実は知り合っていたことにしました。
話のネタを広げるための処置です。

どうなるかは未定ですが、次回もゆっくりお待ちください。


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川神学園の歓迎

こんにちわ。
タイトルで予想できるかもしれませんが、真九郎が川神流の歓迎を受けます。
相手はあの女性です。

では、始まります。


006

 

 

真九郎はさっそく2Fのクラスの学生に歓迎を受けていた。質問攻めというやつだ。

多すぎてどこから質問を答えればいいか悩んでいたが、担任の教師である梅子の鞭捌きでクラスは静かになる。

鞭を持っている担任なんて汗がタラリなのだが。

 

「質問は1人1回だ!!」

「えっと、まずは改めて自己紹介しようと思います」

 

自己紹介を始める。

自分の好きな物や苦手な物、得意なことを話していく。得意なことは家事全般である。五月雨荘で鍛えたのは誇れるはずである。

そして大事なことを言う。それは真九郎にとって名刺のようなものである。

 

「俺は揉め事処理屋をやっています。何か困りごとがあれば力になります」

 

揉め事処理屋は必要ならば実力行使で何でも解決します的ないわゆるひとつの何でも屋のような稼業である。

その、何でもの幅は広く深い。表から裏の世界まで揉め事を解決するからだ。

 

「皆さん。何か困りごとがあれば俺に相談してください」

 

笑顔で自分の職業を宣伝するのであった。揉め事処理屋と聞いて2Fのクラスはザワザワとする。初めて聞いた職業だからだ。だが内容は何でも屋というのは理解できた。

2Fのクラスの中でも特に源忠勝が興味を持っていた。なぜなら彼は里親の宇佐美巨人が営んでいる代行業を手伝っているからだ。

どうやら揉め事処理屋と代行業は似たような職業である。ならば必然としてライバル関係になる。

 

「揉め事処理屋ねえ」

「お、気になるのかゲンさん!!」

「うるせぇ。黙ってろ・・・まあ似たような職業だからな」

 

ここから1人1人の質問攻めが始まる。

 

「頭は良いのか?」

「好きな食べ物は?」

「揉め事処理屋ってどんなんか?」

「彼女はいる?」

「武術はやっているの?」

 

真九郎は1つずつ丁寧に質問を答えていく。

 

「頭の良さは平均くらいかな」

 

学業成績に関しては努力してやっと平均が取れる程度だ。仕事との兼ね合いで勉強が疎かになってくるのでまだ努力が必要である。

 

「好きな食べ物は・・・おにぎりかな」

 

おにぎりが嫌いな人間はいないだろう。

 

「揉め事処理屋は何でも屋と思ってくれれば幸いですね。物探しや荒事の解決とか様々です」

 

本当に何でも屋である。ただ普通と違うのは表世界でなくて裏世界も携わるくらいである。

 

「彼女はいません」

 

彼女はいないが真九郎は案外モテる。その真九郎に恋を抱く女性たちは一癖も二癖もあるのだが。

幼馴染だったり表の三大財閥の娘や裏十三家の姉弟子だったり、殺し屋だったりと複数である。もしかしたら揉め事処理屋の仕事の中でも恋に落ちた女性が他にいるかもだろう。

 

「武術はやっています。格闘技ですね」

 

真九郎の学ぶ格闘技は便宜上では崩月流と呼ばれている。しかしそれは、いわゆる武術とは一線を画するものだ。

武術とは基本的には誰でも学べるものだが崩月流はそうした普遍性ではない。人間を壊すのに特化された武術とも言えるだろう。

実際に真九郎の師匠である法泉もある意味ケンカ殺法だと言っていた。ケンカ殺法と例えて良いかは分からないのだが。

 

「よろしくお願いします」

 

あらかた真九郎の自己紹介と質問攻めが終わる。これで授業に入るかと思えば入らないのが川神学園だ。

ポニーテールが印象の元気ハツラツ、天真爛漫な女学生が手を挙げる。また「質問だろうか?」と思う。

 

「ねえ紅くんは武術をやっているんだよね。なら川神流の歓迎をするわ!!」

 

彼女は川神一子。一言で表すなら努力家少女だ。いつも頑張り屋でみんなから愛されている。

そんな一子が川神学園のワッペンを手に持つ。それを見た2Fのクラスのみんなは理解する。それは決闘である。

真九郎も川神学園で決闘が行われているのは知っている。最初に説明された時は驚いたものだ。なぜなら学園で決闘が設けられているなんて普通では無い。

しかも当たり前だが勝者が正義と言うべきか、問題を決闘で解決した場合は勝者が正義となる。

 

(本当に最初聞いた時は驚いたな。もしかしてこの学園から決闘を紹介する者が裏世界に放たれたりしてるんじゃないか?)

 

そんなことは無いだろうが可能性は0ではない。「悪宇商会にも就職してないよな・・・」と小さく呟いてしまう。さすがに無いだろうが。

それはさて置き、一子は真九郎の前に来て机にワッペンを叩き付ける。決闘の合図だ。これで同じくワッペンを叩きつければ決闘が成立するのだ。

 

「どう?」

 

いきなりの荒い歓迎である。しかしこれが川神学園の歓迎なのだ。周りの学生はいつものことだと言わんばかりの顔をしている。それを見て「えー・・・」と思う。

 

「待った。自分も川神学園の学生として歓迎したい」

「クリ?」

 

もう1人、決闘を推薦する女学生が現れた。金髪が目立つ美少女である。彼女はクリスティアーネ・フリードリヒ。

騎士道精神を持ち、真っ直ぐで礼儀正しい正確だ。しかし負けず嫌いでプライドも高く自分自身の考えを曲げない頑固さもある。

 

「何よクリ。アタシが先に言ったのよ」

「自分も最初に川神学園に転入した時のように歓迎がしたいのだ」

 

キャアキャアと一子とクリスのどっちが歓迎の決闘をするかを揉めるのであった。まだ真九郎が決闘を受理してないのにだ。

 

(血気盛んな学園だ・・・)

 

真九郎は女性の扱いについては夕乃から徹底的に仕込まれている。その英才教育の成果から周囲の女性陣の我侭を何の抵抗もなく自然に聞き入れてしまうのだ。

だから流れるように受理する結果になるのは言うまでも無い。

 

 

007

 

 

これから第1グラウンドで決闘が始まった。真九郎の決闘相手はクリスに決まった。

どうやって一子とクリスが真九郎の相手を決めたかと言うとジャンケンであった。

 

「負けた~」

「ジャンケンは運だからね」

 

一子をなだめる師岡卓也であった。

ゾロゾロと第1グラウンド場に集まる川神学園の学生たち。やはり交換留学生が決闘をやると聞いて見学にきたのだ。それはもうお祭騒ぎだ。

弁当を売る者や賭けでトトカルチョを行う者までいる。その行為を特に注意しない教師たち。本当に学園かと何度も思うのであった。

真九郎とクリスは決闘前の準備運動をするのであった。

 

「おお。我が友、真九郎が決闘するのか!!」

「お嬢様が戦うのですね。これは応援せねば!!」

 

マルギッテ・エーベルバッハは可愛い妹分であるクリスを応援するために窓から飛び降りた。窓から飛び降りるのも日常茶飯事だ。

 

「あの馬鹿・・・早速目立ってる」

 

銀子は早速目立っている真九郎を見てため息を吐く。恐らく目立っているのは揉め事処理屋としての名を川神学園に広めるためだろうと思う。

まさに正解である。この決闘で勝てば揉め事処理屋のしている強さを少しは分かってもらえる算段である。

そもそも何でも屋のようなものと説明して、荒事も解決していると口から言ってしまったら実力を見せないと信じてもらえない。それに、そうしないと揉め事処理屋として仕事を貰えないかもしれないからだ。

 

(決闘に勝たないと揉め事処理屋としてのパイプ作りにいきなり躓くわよ)

 

カチリとパソコンのキーボードを打ち込む。

 

「やあ村上さん。貴女の友人が戦うみたいですよ。近くで見なくて良いんですか?」

「ええ。ここからでも見えるから」

「そうですか。実は夜景が綺麗に見えるレストランを知っているんです。今夜どうですか?」

 

流れるように葵冬馬は銀子を口説いた。

 

「結構よ」

 

玉砕した。

その返事に冬馬は「おやおや」と余裕の表情であった。

 

「おお。若の口説きが玉砕じゃん。しかも瞬殺」

「わー。トーマがフラれたー」

「これは手厳しい。とってもクールですね」

 

無視して窓から第1グラウンド場を除く。

 

「ボクらはグラウンドで見ましょうか」

「うむ。我が友が決闘するならば近くで見ねばならんからな。行くぞあずみ。フハハハハハ!!」

「はい英雄様ぁ!!」

 

九鬼英雄と忍足あずみも外に出る。

 

「義経たちも行こう!!」

「はいは~い主」

 

2Sのクラスは天才クラスだが、やはり川神学園の学生。決闘を見に行くのであった。

 

(ここの学園って血気盛んなのね)

 

銀子も真九郎と同じ感想を抱くのであった。

 

「あ、崩月先輩」

 

いつの間にか夕乃が外に出ていた。もちろん真九郎の応援のためにだ。

 

「頑張ってください真九郎さーん!!」

 

手を振りながら応援する。応える様に手を振り返す。それよりも気になるのが夕乃の周りにいる学生たちだ。

おそらく早くも夕乃のファンになった学生だろう。もうファンを作るとは大和撫子の異名は伊達ではないようだ。

 

(でも星領学園の学生よりも積極性はありそう)

 

確かに積極性はあるだろう。変なところでだが。

夕乃の才色兼備の凄さを確認しながら準備運動をしている。準備運動が終われば決闘だ。

 

(ふむ・・・あのクリスさんと言う方は中々強いですね。でも勝てない相手ではありませんよ真九郎さん)

 

 

008

 

 

真九郎対クリスの決闘が始まる。

 

「自分は剣を使う。真九郎殿は何を使う?」

「ああ、俺は体術だよ」

 

静かに構える。その構えは隙が無い。体術と聞いて学生たちは勝手に想像する。

空手か、柔術か、ボクシングか。だがどれもが違い、崩月流である。

 

「川神学園2年F組。クリスティアーネ・フリードリヒ!!」

 

名乗り上げ。最初は崩月流を言おうとしたが止めた。あの名乗り上げは本当の闘いのみにしか言わない。

歪空魅空が言ったことを思い出す。今まであの名乗り上げは確かに命がけの時だけであった。

ならば今言う名乗り上げはクリスのを参考にするのであった。

 

「川神学園2年F組。紅真九郎!!」

 

審判が決闘開始の合図が放たれる。

 

「行くぞ真九郎殿!!」

 

クリスが強力な突きを繰り出す。

 

「ハアアアアアアアアアアア!!」

 

強力な突きは真九郎の胴体を狙っていた。突きの速さはとても速い。しかし真九郎も負けていない。速い突きを避ける。

 

「速いな・・・」

「真九郎殿もよくぞ避けたな!!」

 

攻防戦が始まる。クリスが剣で突き、真九郎が全て避ける。

学生はクリスの突きを褒める。そして全て避ける真九郎も褒めるのであった。

 

「やるわね紅くん。クリの突きを全部避けてる」

「そうだな。クリスの実力は知っているがまさか全て突きを避けるなんて驚きだ」

 

直江大和は興味深く観察する。確か揉め事処理屋をやっていると言っていた。それが本当なら強さがあるのは予想できる。

どれほどの強さか見極めたいがまだ分からない。だからこそいつの間にか横に来ていた川神百代に聞いてみた。

 

「姉さんはどう思う?」

「まあまあだな。・・・でもどこの流派か分からん。見たこと無い動きだし。古流武術かな?」

 

百代も真九郎の動きを見て何の武術かを予想する。しかし分からない。

それはそうだろう。崩月流は表世界で活躍することは無い。武神である彼女も知らないはずである。

 

(それにしてもあいつ・・身のこなしのキレがありありだな。少しは面白そうなやつだ)

 

武神に少しだけ目を付けられたのであった。

一方、真九郎は突きを完全に見切っていた。

 

(避けられる)

 

去年では自分よりも超格上の戦闘屋や殺し屋と戦ってきた。クリスの突きは速いが見切れる速さだ。

真九郎はクリスよりも早く剣を振るう少女を知っている。最も、その少女は剣士では無くて殺し屋なのだが。

 

(切彦ちゃんに比べれば・・・遅い!!)

 

怒涛の突きをすれすれで避けて剣を持っている手首を掴む。流れるように足を掃いて体勢を崩す。

 

「なに!?」

「てやあああ!!」

 

そして投げ飛ばして地面に叩き付ける。

 

「くあっ!?」

「でやっ!!」

 

トドメに拳をクリスの顔スレスレで止める。この光景を見れば誰が勝者で敗者か分かる。

 

「そこまで!! 勝者、紅真九郎!!」

 

決闘の勝者が決まった。真九郎は実力を魅せたのであった。

 




読んでくれてありがとうございます。

どうだったでしょうか?
真九郎対クリスに関しては真九郎の勝ちで揺るがないと思っています。
なにせ、真九朗は何度も自分より格上の者と命がけの戦いをしてきましたからね。
経験値の差があると思います。
でもクリスも覚醒すれば良い勝負になるまもしれませんね。

真九郎が崩月の角を開放した状態だと・・・たぶん止められるのは百代とかくらいかもしれませんね。さらに覚醒したとなると・・・・どうなるかな。

では、また次回をゆっくりとお待ちください。


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川神学園での初日

こんにちわ。
一瞬だったけどまさかのランキング1位に超ビックリ。
二度見ならぬ五度見しましたよ。そして気がつけばお気に入り500件以上も・・・嬉しいです!!

勢いのままで書いてしまいました!!

では、始まります!!


009

 

 

決闘が終わった後、真九郎は倒れているクリスを起こし上げる。

 

「大丈夫クリスさん?」

「ああ大丈夫だ。真九郎殿は強いな!!」

 

クリスは真九郎の強さを認めた。そして川神学園の学生たちも認めたのであった。

その中で真九郎の強さに興味を抱くのも複数いるのであった。

少しは戦ってみようかと考える者。

 

(まあまあの強さだな。少しは楽しませてくれるか・・・な?)

 

彼の強さを知る者。

 

「やっぱり真九郎は強いな。これはスカウトせねばな!!」

「あの赤子め・・・前に会った時よりも強くなっているな。若者はそうではなくてはな」

「そうですね。しかしどんな修羅場を潜ったんでしょうか?」

 

密かに観察する者。

 

「ふーん・・紅真九郎くんか。ちょっと強いかも」

 

他にも複数いる彼らは一癖も二癖もある学生たちであった。しかし癖のある人間には慣れている。

 

「お疲れ様です真九郎さん」

 

夕乃がタオルと水を持ってきた。もちろん2人分だ。

 

「ありがとうございます夕乃さん」

「あ、ありがとうございます。えっと崩月先輩」

 

この優しい差し入れを見て夕乃のファンは「大和撫子!!」と聞こえてきた。やはり星領学園でのファンたちと違う。

こちらの方が勢いがある。変な方向でだ。

 

「お嬢様ぁぁ!!」

 

マルギッテが走ってクリスの下に参上する。ケガが無いかと心配している。安心させるために「大丈夫だ」と返事するのであった。

 

「そうですか。良かったですお嬢様」

 

安心したマルギッテは真九郎に顔を向ける

 

「今度は私の番です。お嬢様の汚名は私が払拭します!!」

「うええ!?」

 

これには「また!?」とこぼす。

 

「駄目ですよ。真九郎さんは疲れているんですから」

 

ニコリと微笑んで庇う。

 

(む・・・この女は?)

 

一瞬の圧を感じる。それを追求しようとしたが武神の介入によりウヤムヤとなるのであった。

 

「大和撫子の夕乃ちゃーーん!!」

「え?」

 

凄い勢いで百代は夕乃に近づく。それは大和撫子と言われる夕乃を可愛がるつもりでいるからだ。武神である彼女の悪い趣味だ。

ファンの女の子は嬉しい発狂ものなのだが。

 

「遊ぼうぜ子猫ちゃん。NE・WA・ZAで!!」

 

悪ふざけをしながら絡みつこうとするが、フラリと避ける。

 

「お?」

 

今度は手首を掴もうとするが、ペシッと手を軽く叩かれる。

 

「駄目ですよ川神さん」

 

笑顔で避ける夕乃。まだ諦めない百代は絡み付こうと突きをするように手を連続で出す。

ペシペシと突き出される手を軽く叩いてまた避けるのであった。

 

「おお?」

「駄目ですよ川神さん。はしたないですよ」

「・・・・・へえ~」

 

百代の興味対象が増えた瞬間であった。

彼女は悪ふざけとは言え、相手が本気で嫌がっていたら止める。だから軽くからかって終わらせるつもりであった。

だが、ここで興味が出たのは自慢の突きにも勝る掴みの速さを軽く掃った夕乃だ。本気で無かったとは言え彼女は武神である自分の手を払った。そこが重要である。

並みの武術家ならば武神の手を掃うなんてことは出来ない。これだけで興味が出るのは当然であった。

百代は退屈していたがクローン組の参戦に松永燕の転入、そして真九郎たちの留学で楽しみがどんどん増えるのであった。

 

(これは面白くなってきたな。このまま夕乃ちゃんと戦ってみたいけどもう時間がなー・・・絶対ジジィに止められる)

 

まさにその通り。学長である鉄心が決闘を終了させてクラスに戻るように促している。

ここは学園で勉学に励むのは当然であった。学生たちは各クラスに戻る。

 

(ったくモモのことじゃから夕乃ちゃんの強さに気がついたのう・・・余計なことをせねばいいのじゃが)

 

孫の戦闘狂に悩む祖父であった。

 

 

010

 

 

午前の授業が終わり、昼休みに突入する。学園生活で1つの楽しみである。食堂には様々なメニューがあるらしい。

真九郎は風間翔一たちに誘われて食堂に向う。彼の活躍を翔一は気に入っていた。もちろん彼の実力を目の当たりにしたクリスも気に入っている。

基本的に学園生活での真九郎は大人しくてあまり目立たない存在であったが決闘したため、少しは目立つ存在になっている。

その影響か、歩くと揉め事があれば相談に乗ってほしいと言われる。これは嬉しい。本当に依頼がくるか分からないが多少は揉め事処理屋として名が川神学園に広まったと思えばまずまずだろう。

 

「・・・カレーでいっか」

 

メニューは豊富であったが多すぎで正直迷った。そのため無難なカレーを選ぶ。

 

「ならオレもカレー!!」

 

翔一も真似するのであった。

 

「ところで真九郎は揉め事処理屋をやっているんだよな。具体的にどんなことやっていたか聞きたいぞう!!」

「それは自分も聞いてみたい。同い年で仕事を傍らやっているとは気になる」

「俺も気になる」

 

翔一を筆頭にクリス、忠勝が仕事の活躍を聞きたいを言う。忠勝はある意味ライバルとも言える揉め事処理屋の仕事内容が気になっていた。

そして大和も気になっていた。人脈を広げる彼にとって揉め事処理屋とは知り合いになっていて損ではないと思っている。

 

「活躍かあ・・・」

 

真九郎の揉め事処理屋としての活躍は人に自慢できるほど凄くは無い。彼もまだまだ修行中だ。

そう自慢できるほど凄くは無いが、濃く深い事件に関わって解決したことはある。

九鳳院紫の護衛や斬島切彦との対決(未定)、星噛絶奈との激闘。そして歪空魅空との勝負。どれも普通に考えて一般学生が絶対に関わることのない事件だ。

さすがに翔一たちに説明できない。だから危険な裏の話を抜いて話すのであった。

 

「そうだな・・・いろいろ依頼を受けたよ。犬の世話をしたり、ストーカーを捕まえたり、要人を護衛したりね」

「ほう・・そうなのか」

「うん。依頼によっては海外にも行ったよ」

「何、海外まで行ったのか!!」

(揉め事処理屋ってのは海外まで・・・親父にも聞いてみるか)

 

ここで大和は気になることを聞いた。要人の護衛も依頼を受けたと言っていたのだ。どんな要人か気になる。それは翔一たちもであった。

 

「ごめん。さすがに言えないよ」

「そうか。まあ、そうだよな。さすがに要人のことは口に出せないか」

 

揉め事処理屋としてさすがに言えない。それは護衛をする身として当然である。最も真九郎が護衛をした要人に中には大和たちが知る人物がいるのだが。

 

「フハハハハハハハハハ。我、降臨!!」

 

英雄が降臨した。

 

「わっ九鬼君。いきなりの登場ね」

「うむ。一子殿は今日もお美しい」

「いきなりどうした英雄?」

 

英雄のいきなりの登場はいつも通りだがピンポイントに登場は驚く。

 

「あ、英雄君。久しぶり」

 

真九郎が手を振る。

 

「うむ。久しぶりだな我が友、真九郎!!」

 

笑いながら真九郎の肩をバンバン叩く。

 

「あずみさんも久しぶりです」

「はい。お久しぶりです!!」

 

スッとあずみは真九郎の後ろに立つ。

 

「本当に久しぶりだな揉め事処理屋の真九郎。まさか犬はいないだろうな」

 

ドスの聞いた声をかけられる。苦笑いをするしかなかった。

 

「もしかして紅君が護衛した要人ってまさか・・・」

「いや、我では無い」

「フハハハハハハハハ。我、顕現である!!」

 

今度は九鬼紋白が顕現した。そしてヒューム・ヘルシングが横に護衛としている。

 

「紋様ー!!」

「おや、これは大所帯ですね」

「たくさんー」

「・・・何やっているのよ」

 

今度は冬馬や銀子たちが食堂に訪れた。本当に大所帯である。

 

「話を戻すが真九郎が護衛をしたのは我ではなく、紋だ!!」

「久しぶりだな真九郎!!」

「うん。久しぶりだね紋白ちゃん」

「紋様だ」

「・・・うん。久しぶりだね紋様」

 

真九郎はヒュームに注意されて言い直す。

実は真九郎が護衛した要人の中に九鬼財閥からの依頼があったのだ。正確には柔沢紅香の手伝いとしてだが。

その時に英雄や紋白と出会い、知り合ったのだ。

 

「なるほど。だから英雄が友人と言っていたのですね。英雄の友人なら私の友人でもありますね」

 

冬馬が真九郎の手を絡ませて「よろしく」と挨拶する。これには「え・・・?」と引いてしまう。

説明するように井上準が「お前は若の射程圏内に入っているから」と言う。

 

「葵は男もイケる口だから気をつけろ」

「そ、そうなんだ」

 

冷や汗しか出ない。

話を置くが、銀子が冬馬のグループにいることに意外と思う。彼女の性格から誰かのグループに入るなんてことはしないからだ。

 

「意外だ」

「面倒だけど一応、交換留学生だからね。私だって少しはコミュニケーションくらいとるわ」

「なるほど。でも意外」

 

話しかけやすい準に銀子の評判を聞く。彼女は2Sに順応しているらしい。

そもそも2Sのクラスは基本的に自分のことが好きな人種が多いので新しく入ってきた銀子を歓迎はするが、そこから先は深く関わろうとはしない。

だから彼女にとって馴れ合いをしてこないクラスは助かるのであった。もちろん例外はいるのだが。

 

「若が口説いたけどキッパリ断ったクールさはあるね」

「そうなんだ。てか、口説かれたんだ」

「面倒だったのよ」

「これはこれは手厳しい」

 

本当に予想外だが銀子が他学園で順応しているなら文句は無いと思う真九郎であった。

次の真九郎の視線は紋白に移る。

 

「真九郎!! 九鬼財閥に就職しないか!!」

 

紋白はすぐさま真九郎をスカウトした。理由は簡単だ。紋白は真九郎の実力をよく知っているからだ。

さらに追撃で英雄もスカウトを援護する。これには真九郎は悩む。でも今は揉め事処理屋としてやっていくつもりなのだ。

 

「ありがとう。でも今は揉め事処理屋として進むつもりだからごめんね」

「・・・うむ。そうか。では考えが変わったらいつでも来い。九鬼はいつでも真九郎を歓迎するぞ!!」

「ありがとう紋様」

 

笑う真九郎を見ながら銀子は思う。揉め事処理屋よりも九鬼財閥に就職したほうが良いと。それは彼女の気持ちであり、望みの1つである。

やはりまだ揉め事処理屋をやめてほしい気持ちがあるのであった。

 

「それにしても紅君って紋白ちゃんの護衛をしていたんだ」

「うむ。そうなのだ!! 真九郎は有能だぞ!!」

 

紋白はその時のことを思い出す。真九郎もまた思い出す。九鬼との仕事は深く関わってしまったという他ない。

 

「あの時の真九郎のいくつかの言葉は我の心に深く突き刺さったのを思い出すぞ」

「彼は何と言ったのです英雄?」

「ちょっと待って英雄君。それは無しで」

 

真九郎は止める。真九郎のいくつかの言葉はある意味で九鬼財閥を敵にまわす言葉である。

紫を助けるために九鳳院の当主に放った言葉に似ているからだ。冷静に考えるとよく言ったと思う。でも後悔は無いと断言できる。

 

「どんな言葉を言ったのか気になるぞ。言ってくれ。頼む」

「クリスさん・・・言ったらヒュームさんに殺されます」

 

ヒュームを見る。いつ見ても恐いと思うのであった。戦っても勝てないだろう。

 

「ふん。言っても平気だ。英雄様や紋様の許しを得ているからな」

「では大丈夫ではないか」

「・・・えーと」

 

頬をポリポリしながら口よどむ。なかなか言わない真九郎に代わって紋白が言う。

 

「真九郎はな、偉大な父上に向って九鬼なんて滅びろって言ったのだぞ!!」

「「「なっ!?」」」

 

みんなが驚く。それはそうだろう。世界で有名な財閥に向って、当主に向って「滅びろ」なんてとんでもない。

 

「それは確かにある意味驚きですが・・・何があったんですか英雄?」

 

その言葉だけを聞いたら不敬でしかない。だが、続きがあるのだ。そのおかげで九鬼の家族関係が修復し、絆が大きくなったのだ。

 

「イロイロあったのだ。詳しくは言えないが九鬼の絆が一層強化されたのだ」

「うむ。真九郎のおかげだ!!」

 

次は真九郎が九鬼で何をしたのか気になるのであった。しかし、そこから先は家族の問題。教えられないのであった。

 

(紋ちゃんを見ていると紫を思い浮かべる)

 

今頃何をしているか気になるのであった。

 

(紫のことだから前みたいに川神学園にも侵入してきそう)

 

その予想は数日後に起こる。しかも裏十三家付きで。

 




読んでくれてありがとうございます。
勢いのまま書いたので、もしかしたら少し違和感があるかもです。

真九郎と九鬼の関係は気が向けば書いていきます。
もしくは物語に少しずつ部分的な話を書くかもです。

でもさすがに九鬼帝に「滅びろ」は言い過ぎたかなぁ・・・。
でも真九郎は九鳳院の当主に「滅びろ」と堂々と言い張ったから男だから大丈夫かな?

一応、九鬼帝になぜ「滅びろ」と言ったかの補足。
マジ恋の原作でもあった紋白の家族問題についてから起こったことです。
家族問題も解決してない者が絆や結束力を信条にしている財閥を維持できるはずが無いって形です。

では、次回もゆっくりお待ちください。


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島津寮

こんにちわ。
また今週中に投稿できました。

今回は島津寮に真九郎たちが来た話です。
島津寮に部屋って空いてたっけ?って思っちゃダメですよ。

では始まります。


011

 

 

学園は放課後へと移る。この時間帯は部活に向う者、帰宅する者、遊ぶ者と分かれる。

真九郎たちは帰宅する者だ。なぜなら今日から寝食をする寮に荷物が届いているはずだからだ。

すぐに帰宅して片付けをしなければならない。真九郎は夕乃と銀子と合流して帰るのであった。

今日から過ごす寮の名前は島津寮と言う。正直な感想だと五月雨荘よりも綺麗で広い。

安全さで比べるなら五月雨荘が随一であるが、風呂もあって食事も作ってくれる島津寮の方が断然に良いだろう。

今更ながら他の寮と比べると五月雨荘には不便なところがあるようだ。

 

「真九郎さん。五月雨荘が嫌になったら、いつでもうちに帰ってきても良いんですよ」

 

夕乃は優しい。崩月家に帰ればいつも安心する。そして早く一人前になろうと思って五月雨荘に戻るのだ。

夕乃からしてみればずっと崩月家に住んでくれれば良いと思っている。

 

「さあ着いたわよ。ここが島津寮ね」

 

やはり五月雨荘より大きく広い。中に入ると島津麗子と呼ばれる女性が待っていた。

 

「やあ、おかえり。あんたらが今日から住む紅くんに崩月ちゃん、村上ちゃんだね。荷物なら部屋に運んでおいたよ」

 

ニッカリと笑う大家だ。優しそうであると好感が持てる人だ。

 

「ありがとうございます」

「おっかえり!!」

 

今度は翔一が出迎えてくれた。この島津寮には翔一の他に大和、忠勝、京、クリス、由紀江が住んでいる。

真九郎からしてみれば2Fのクラスメイトだ。

 

「おお、真九郎殿も今日から島津寮に住むのか!!」

「うん。よろしくねクリスさん」

「今日からよろしく」

 

みんなで挨拶をするのであった。

真九郎は部屋に戻って荷物を片付ける。服などの生活用品が多い。それは当たり前である。

そして揉め事処理屋として必要な道具。必要になると思って持ってきたのだ。銀子曰く必要無いと言われたが。

自分でも確かに必要無い物はあると思う。例えば拳銃とかだ。この拳銃は魅空との勝負以来使っていない。できればこの川神では使うことが無いようにと思うのであった。

誰にも見つからないように隠す。見つかったら大変だからだ。でも気になることが島津寮である。

それは後輩の黛由紀江のことである。間違いなく日本刀を持っていた。リン・チェンシンのように本物の刀だ。

特に追求はしなかったが気になるのだ。銃刀法違反ではなかろうか。拳銃を持っている自分が思うことではないが。

 

「気になるなら聞いてみるのが一番か」

 

片づけを終えて食卓に足を運べると夕食の準備ができていた。今夜は海鮮料理で埋め尽くされている。

最近は魚介系。特に生魚は食べていない。久しぶりに刺身が食べられると思うのであった。

「いただきます」とみんなで食べる。

 

「うん。美味しい」

 

刺身なんて久しぶりだ。マグロの切り身をワサビ醤油に少し漬けて口に運ぶ。ツンっとくるワサビの風味も良い。

 

「刺身なんて久しぶりだよ」

「そうなんですか紅さん?」

「うん。全然食べてないよ」

 

由紀江はそれとなく質問する。先輩だが友達100人計画のためにコミュニケーションを取ろうとしているのだ。

その意図がバレバレであるため大和たちが「まゆっちが頑張ってる」と思うのであった。そんな中、夕乃が涙をポロリと落とす。

 

「ど、どうしたんですか崩月先輩?」

「いえ、真九郎さんが刺身も食べられない境遇にいるなんてって思うと涙が・・・」

「いや、俺は大丈夫ですから!!」

「辛くなったらいつでも我が家に帰ってきても良いんですよ」

 

真九郎はいつも思う。自分はそんなにも貧乏に見えるのかと。確かに銀子には支払いも待ってもらうことはあるから強く否定はできない。

銀子も同じこと思っているのか軽いため息を出している。それに今も支払いを待ってもらっている。早く払わないといけない。

 

(早く支払わないと銀子に怒られる・・・)

 

そう思いながら白米を口に運んだ。

 

「あの、質問良いだろうか崩月先輩?」

「何ですかクリスさん?」

「さっき崩月先輩が真九郎殿に我が家に帰ってきても良いと言ったが・・・それはどういう意味なんだ?」

「簡単ですよ。真九郎さんはウチの人ですから」

 

真九郎は崩月家に弟子として過ごしていたことを話す。数年も修行して住み込みをしていたから崩月とは家族のようなものである。

 

「だから真九郎さんはウチの人なんですよ村上さん」

「そうですか崩月先輩」

 

夕乃はそれとなく銀子に威圧する。いつものことである。

 

「修行としての住み込みか。なるほど!!」

「だから真九郎は強えのか。なあなあ、どんな武術なんだ!!」

「えーと・・・」

 

崩月流を話して良いか気になるところであるが、対策済みである。裏のことを取り除けば良いだけだからだ。

取り合えず崩月流は古流武術と説明した。さらに関係者以外詳しく内容も話せないとも言う。

武術には一子相伝の技があるように誰彼構わず話せないのもあるため、クリスたちも納得してくれる。

 

「古流武術ですか。確かに紅先輩の動きは見たことの無い動きでしたね」

「あ、由紀江ちゃんに聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

「は、はは、はい!!」

 

聞きたいこととは日本刀のことだ。普通に持っていたことが気になったのだ。

答えは簡単であった。国から刀を持つことが許されているらしい。彼女の父は剣聖と呼ばれている剣士であり、そのため国から帯刀の許可をえられているのだ。

それでも外で日本刀を持ち歩くのは目立っしかたないだろう。布で覆っていても見る人は驚く。

 

「そうなんだ」

「それにまゆっちは強いしな」

「うん。まゆっちは強い」

『やったぜまゆっち。みんなからベタ褒めだぜ~』

 

馬のストラップである松風がしゃべる。実際は腹話術である。これには真九郎たちもちょっと驚く。

補足で彼女はこういうキャラだと大和から説明される。やはり川神にはいろんな人がいる。

 

(疲れるかも・・・やっぱ選択を間違えたかしら)

 

銀子は少し後悔した。やはり彼女は自分の家で情報屋をしているのが性に合っていると思う。

 

「なあなあ、まゆっち」

「何でしょうか風間先輩?」

「まゆっちが思う剣の達人はどんな奴がいるか教えてくれよう」

「剣の達人ですか?」

 

実は翔一、侍を題材にしたドラマにハマッている。彼は興味のあるものは極めるまでのめり込むのだ。ちなみにクリスもそのドラマにハマッている。

だから翔一は日本刀を持つ由紀江に名のある剣士を聞いてみようと思ったのだ。バトルマニアでは無いので、本当に興味本位だ。特に戦いとは思っていない。

 

「そうですね。私はまだ未熟ですから・・・剣の達人たちについてあまり知りません。やっぱり剣の達人なら父上でしょうか」

 

剣聖の称号を持つ自分の父親の名前を出す。まだ知らぬ剣の達人は世界のどこかにいるはずだが、川神に来るまで地元にずっと住んでいたので他の剣士についてはあまり知らないのだ。

 

「でも、父上が戦ってみたい騎士はいるそうですよ」

「ほう騎士なのか!!」

「はい。剣士ではなくて騎士だそうです」

 

騎士道精神を信条とするクリスは食いつく。同じ騎士ならば興味が出るのは必然である。

日本と言う括りを飛び出して世界を見ればまだまだ多くの強き剣士たちはいるのだ。

 

「何という名の騎士なのだ!!」

「名前は聞いていないんですが二つ名が『黒騎士』と呼ばれる人です」

「黒騎士かあ。なんかカッコイイな!!」

 

『黒騎士』。それはきっとオズマリア・ラハのことだろうと思う真九郎であった。

確かに彼女はとても強い。油断していたとはいえ、彼女の剣筋は見えないほどだ。

 

「あと・・・逆に父上でも戦いたくない相手はいるんですよ」

「剣聖ですら戦いたくない相手か・・・気になるな」

 

翔一とクリスは剣聖が戦いたくない相手がどんな奴か気になり出す。ここで大和が一応予想を言う。

 

「まさか姉さんってオチじゃなよなまゆっち」

 

これには翔一たちも「あ~・・・」と言う。確かに予想できるオチである。オチが本当なら京は「しょーもない」と言うだろう。

川神には確認できるだけでも数人の圧倒的強者がいるのだ。それなら剣聖でも戦いたくない相手と言っても遜色は無い。

 

『まー・・確かにそれを言われるとな~』

 

松風がオチの感想を呟く。

 

「いえ、モモ先輩ではありません」

「じゃあ学園長か?」

『それも違うぜ~』

「じゃあ一体?」

 

もったいぶらずに剣聖が相手にしたくない者の名前を言う。その名前は真九郎がよく知っている人物だ。

 

「斬島切彦と呼ばれる人です」

 

名前を聞いた瞬間に白米が器官に入ってゴホゴホと咳き込む。余計なことを気取られないように「器官に入った」と言って誤魔化す。

ズズズッと夕乃からもらったお茶を飲んで心を落ち着かせる。まさか川神でも斬島切彦の名前を聞くとは思わなかったのだ。

 

「きりしまきりひこ・・・聞いた事の無い名前だな。どんな奴なんだ?」

「私も父上から詳しく聞いていませんが・・・絶対に戦うなと言われています」

「剣聖がそこまで言うほどの奴なのか」

「はい。しかも『剣士の敵』とも呼ばれているらしいんです」

「剣士の敵か・・・何で剣士の敵なんて呼ばれてるんだ?」

 

それは切彦が剣士では無く、ただ単に刃物の扱いが異常に上手いだけだからだ。

一流の剣士でさえも刃物の勝負では切彦には敵わない。得物がただの安物の包丁であっても凄腕の剣士を容易く斬殺し、一瞬で人の首を切り落とせる。

 

「聞いた話だと斬島切彦は刃物を扱うのがとてつもなく、異常なほど上手いだけの完全な素人らしいんです」

「刃物を扱うのが上手いだけ?」

「はい。そんな人間が真面目に剣の修行を積んだ剣士をいとも容易く上回ってしまうから『剣士の敵』だそうです」

「それは凄えな」

「でも自分は剣士の敵というのは理解できたぞ」

 

これを聞いて切彦はやはり剣士の世界ではある意味有名だと再度理解した。

彼女は斬島家では別格の天才少女。実力は真九郎より上である。しかも彼女はまだ発展途上と言うのだから末恐ろしい。

真九郎はそんな彼女と再戦の約束をしている。正直、勝ち目は少ない。でも約束は守るし負けるつもりも無い。

でも、もう少し約束は先延ばしにしてもらおうと考えるのであった。




読んでくれてありがとうございます。
今回はさらに斬島切彦の話がちょこっと出ました。彼女も早く登場させたいですね。

さて、由紀江や父である剣聖も切彦のことは知っている設定にしました。
なんせ『剣士の敵』なんて呼ばれてますから剣聖なら知っていてもおかしくないでしょう。

強さに関してもとんでもないので剣の達人でも戦うのは躊躇う感じですね。
そもそも笹の葉や髪の毛一本などの切れそうな物でも日本刀を切断しますからね、チートですよ。
それが業物を持ったならさらにヤバイと思ってます。
贔屓じゃないですが由紀江1人なら勝率は低く、初見戦なら百代ですらヤバイと思うの私だけですかね。

ではまた次回もゆっくりとお待ちください。


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それぞれの1日

こんにちわ。
勢いあまって書くことができました。
今回の話はまんまそれぞれの1日です。

では、始まります。


012

 

 

朝。気持ちの良い朝日のおかげで目が覚める。

今日の朝食ホカホカの白米、味噌汁、鮭のハラミ焼き、卵焼き、青菜のお浸し、松永納豆。デザートにヨーグルトだ。

まさに朝食の代表的な献立だろう。これは朝から食欲が湧き上がる。

 

「おはようございます麗子さん」

「おはよう紅君。朝ごはんできてるよ」

「おはようございます麗子さん。今日も一段と綺麗ですね」

「おはよう。よし。デザートにヨーグルト1つ追加だ」

 

島津寮のみんなも起きてくる。みんなで食べるご飯は良い物だ。それに誰かが料理を作ってくれるのは嬉しい。

真九郎は基本的に自炊をしている。誰かに料理を作ってくれるのはあまり無いのだ。

明るく優しい雰囲気の麗子にはどこか心が温かくなる。彼女には島津寮でお世話になるだろう。

席についてパクリと朝食をいただく。やはり美味しいの一言である。

 

「この納豆って松永納豆か?」

「そうだよ。あの子は頑張ってるからねえ。ウチも今日から松永納豆をガンガン使わせてもらうよ」

 

松永納豆。確かに美味い。安物の納豆より断然違うのが分かる。

これを売っているのが今、川神学園3年の松永燕だと大和から説明してくれた。彼女はあの武神百代と引き分けたと言うのだ。

本気では無く、手加減ありの練習試合に過ぎなかったが引き分けたこと自体が奇跡らしい。そんな彼女は川神学園で名がうなぎ上りだ。

 

「そうなんだ。松永さんか。3年なら夕乃さんが一番に面識があるかもね」

「そうですね。確か3Fだとか・・・もしかしたら会うかもですね」

 

確実に会うことになるだろう。燕は気になる相手ならば接触をしてくる。そして強さを測りにくるのだ。

それを知らない夕乃は特に気にしないのであった。寧ろその前に百代から少しなりとも目を付けられているのでそちらが大変である。

 

「ごちそうさま」

 

朝食が終えれば支度をして登校である。いつもは風間ファミリーのみんなで登校しているが今日はそこに真九郎たちが加わる。

同じ島津寮に住む者として最初くらいは登校しようとのことである。登校中とはいえ、知らない奴らが風間ファミリーの輪に入っているのに不快感が少し出た京には大和がフォローしていた。

彼女自身も確かに勝手すぎるかと思って少しだけ反省。ついでに大和にプロポーズをするが軽く避けられる。

「そんなところも好き」らしいが、いつものことのようである。

 

「おっはよおおう!!」

 

空から百代が降ってきた。この登場は大和たちにとって日常茶飯事であるが真九郎たちにとっては驚きである。

いつもは冷静の銀子ですら驚いている。人が空から降って来れば誰でも驚くだろう。今の所、銀子を驚かせたのは百代と環だけである。

 

「普通じゃないわね」

「ははは・・・やっぱり普通の人が見ればそういう感想だよね」

 

卓也がそれとなく一般人の気持ちを代弁してくれる。

 

「崩月先輩おはようございます。俺ってベンチプレス200キロを上げられます」

 

岳人が急に夕乃へアピールする。しかし夕乃が異性として見ているのは真九郎のみなので空振りしているのであった。

次は百代が夕乃にアピールする。勿論それは戦ってみないかというものだ。彼女からしてみれば少しの動作で武術を習っているか否かが分かる。

確実に夕乃は実力者。だからバトルマニアとしては戦ってみたいのだ。

 

「決闘しないか夕乃ちゃん!!」

「えっと・・・遠慮しときます」

「えーそんな!!」

 

戦う意味は無いので無難に断る。これには百代も頬を膨らませて抗議する。

 

「無理に戦うのはダメだよ姉さん」

「でも戦いたいんだよー。じゃなきゃ弟の大和で遊ぶしかないぞ」

「そこで俺をオモチャにしないで」

「今日も勇往邁進!!」

 

元気良いグループだと言うのが真九郎の感想である。こんなにも仲が良いグループは初めて見る。きっと毎日が楽しいだろう。

自分も毎日が楽しければ良いと思いながら登校する。すると大きな橋が見えてきた。この橋は川神で有名な橋だと言う。

なんでも変態橋の異名を持つのだ。イロイロな人が出現するために名付けられたらしい。今日も今日とて誰かがいる。

 

「また姉さんの挑戦者だ」

 

どうやら百代を倒すべく現れた挑戦者。その挑戦者を意図も簡単に川へと殴り飛ばす。これもいつもの光景らしい。

星領学園に登校していた時よりも過激である。そう思いながら登校するのであった。

 

 

013

 

 

2Fのクラス。ここは様々な人物が跋扈している。面白い人物ばかりである。

まず最初は教師に驚く。教師は教鞭を振ると言うが川神学園の教師を本当に鞭を振って勉強を教えてくれる。しかも素行の悪い学生には容赦なく鞭で罰を与えるのだ。

体罰はマズイのではないかと思うが川神学園ではある程度許されているらしい。星領学園ではまず有り得ない。

やはり武術が盛んな学園だと力で抑え込む的なものがあるのかもしれない。でも常識が崩れそうである。

 

「凄いって言うか・・・常識が崩れそうだ」

「まあ、他の学校から見ればそうだろうな」

 

学生たちも様々な人たちがいる。大和は軍師と呼ばれており、いろいろと策を講じるのが上手い。そのおかげで様々な事件を解決してきたらしい。

そもそも川神学園では地域で起こっている事件やちょっとした探し物などを解決しているのだ。その時に大和の策が活躍するのだ。ちなみに褒美は食券である。

まさか川神学園でも揉め事処理屋的なことをしているのには驚きである。本当に驚いてばかりである。

もしかしたら真九郎の出番が無いかもと思ったほどである。なにせ解決した事件には売春組織を潰したこともあるらしい。

 

(売春組織を潰したのか。凄いな)

 

売春組織といっても素人どもが創り上げた組織にすぎない。真九郎が潰した組織に比べれば小さいほうだろう。

そして真九郎にとって2Fで気になる学生がいるとすれば源忠勝である。彼は代行業をしており、揉め事処理屋と似たような職種なのだ。

もしかしたらライバルになるかもしれないのだ。でも川神の地理を知る者と仲良くなるのも悪くない。今度川神市を案内してもらおうと思う真九郎であった。

 

(やっぱり揉め事処理屋として地理を知るのは必要だよな)

 

一方、忠勝は真九郎の揉め事処理屋に関して興味を抱いていた。代行業の責任者である巨人から揉め事処理屋について聞いていたのだ。

揉め事処理屋とは真九郎が説明した通りの何でも屋のようなものである。しかし違う部分もある。それは最上級の揉め事処理屋は仕事を選べると言いうことだ。

最上級の揉め事処理屋は様々なお偉いさんから依頼を貰え、稼ぎも有り得ないくらいの額らしい。巨人もそれくらい稼ぎたいとぼやいている。

業界内でも巨人がリスペクトする人物がいる。業界最高クラスの実力を持つ揉め事処理屋がいるのだ。

 

その人物の名前は柔沢紅香。

川神には狂ったような強さを持つ人物がゴロゴロいるが、柔沢紅香もまた狂ったほどの実力者だと言うのだ。巨人曰く、彼女も壁超えをしているらしい。

それに超絶美人でお近づきになりたいとのこと。この感想にはどうでも良いと応えた忠勝である。

 

(親父から聞いた話じゃ揉め事処理屋は表だけじゃなく、裏世界でも活躍していると聞く。まさか紅の奴も裏世界に足を突っ込んでいるのか?)

 

忠勝の疑問は正解である。しかも深くに足を突っ込んでいる。そもそも裏十三家である崩月に内弟子として修行していたし、他の裏十三家と死闘を繰り広げた事件も解決してきた経験があるのだ。

 

(今度詳しく話を聞いてみるか)

 

揉め事処理屋の真九郎と代行業の忠勝。お互いの職業的に気になるのは当たり前であった。

授業は続く。有名な学園であるため、なかなか難しいが分かりやすくもある。ここで勉学に励んだら成績は上がるだろう。

そう思いながら真九郎はペンを動かす。

 

 

014

 

 

2Sのクラスは特別クラス。銀子が所属するクラスであり、みんなが成績優秀。テストでも50位以内に入るのだ。

しかし選民感覚もあるので他のクラスを見下している者も一部いるのだ。特に2Fとはいがみ合いがよくある。

 

(直江君から聞いた話だとよく2Sと2Fはいがみ合ってるらしいって言ってたわね)

 

それはまた面倒だという感想しかない。交換留学に来た学生を巻き込まないでほしいものである。

ため息を吐きたくなったが我慢した。しかし、自分の席の前にいる偉人のクローンたちを見る。ニュースで少しは知っていたが本当にクローンだとは驚きである。

実際には本人のクローンと言うよりも転生に近いらしい。確かに源義経、武蔵坊弁慶、那須与一は歴史上では全員男性であったはずだ。

しかし、那須与一以外は女性である。そのことがクローンでなく、転生という事実だろう。クローンであるが歴史の義経たちと現在の義経たちは別人であることの証明でもある。

 

(源義経はとても良い子だと思う)

 

義経は早くも銀子を2Sに馴染ませようと積極的に関わってくる。悪い事では無いが、あまり人と積極的に関わらない銀子にとっては義経の行動は少し合わない。

 

(でも交換留学としてはコミュニケーションは大事なのよね。ここは頑張らないといけないわね)

 

義経の行動は気持ち的にありがた迷惑もあるが、嬉しい気持ちも含まれている。

銀子は珍しく、2Sでのコミュニケーションを取るために頑張ろうと思うのであった。

 

「村上さん。少しは2Sに馴染めましたか?」

 

早速誰かが話しかけてきた。相手は冬馬である。彼はいつもの3人組だ。準と小雪がいつも一緒にいる。

風間ファミリーとはまた違う仲良し組みである。

 

「・・・そうね。少しだけかしら。私に構ってくれる人もいるからね」

「義経を呼んだか?」

「確かに」

 

フフッと軽く笑う冬馬。それだけでファンの女子は歓喜ものだろう。なぜなら彼はイケメン四天王だからだ。銀子にとって興味は無いが。

 

「村上さん。もうすぐ昼食だから一緒に食べよう」

「そうね。私も一緒に相席させてもらうわ」

「うん!!」

 

義経は笑顔で頷く。それを見た弁慶が「主可愛い」と川神水を飲みながら呟く。

 

「私もご一緒しても?」

「変なことしなければね」

「これはこれは手厳しい」

「若、警戒されてるな」

「けいかーい」

 

それでも冬馬は柔和な笑顔のままである。なぜなら最近は九鬼のおかげで自分の運が回ってきたからというのもある。

 

(それにしても井上準・・・ロリコン)

 

さすがに2Sにいればクラスメイトたちの個性は分かってくるものである。そしてロリコンがいるのには少し頭痛がしたのだ。

きっと紫に出会えば準は変な意味で覚醒するだろう。それはそれで面倒くさい。

銀子は思う。去年、紫が真九郎に会うために星領学園に侵入してきたことがある。今回ももしかしたら川神学園に侵入してくるかもしれない。

なれば何か厄介事が起こるだろう。そう思うと銀子はため息を吐きたくなる。

次に一方的に知り合いがいる。それは「選民選民」と言っている不死川心である。それは真九郎が揉め事処理屋の仕事として不死川家で依頼があったのだ。

その時に情報で調べたことがあるのだ。名家であるためか少しはブロックされたが九鳳院の情報を調べた銀子には楽勝であった。

 

「此方を見て何か用でもあるのか?」

 

扇子を口に当てながらトコトコと歩いてくる。選民である自分に興味を持ったのは良い目をしていると心は思う。そのまま友達になってやろうと上から目線で言おうとしたが銀子が先に話しを折る。

 

「いえ、特に」

「にょわあ!?」

 

いきなり出鼻を挫かれる心であった。しかし、いつもの光景である。

まだまだ2Sには個性的なメンバーはいる。

 

 

015

 

 

3Sのクラスも特別なクラスである。2Sにも負けない個性的なメンバーが揃っているのだ。

そんな3Sのクラスでも夕乃は持ち前の性格でよく馴染んでいた。しかもクローンである葉桜清楚と仲良くなり、清楚と大和撫子コンビで凄い人気を得ていた。

 

「夕乃ちゃんは運動も勉強も凄いですね」

「いえいえ、清楚さんもですよ」

 

周囲から勝手にコンビを組まされたが、お互いに仲良くなるのは時間がかからなかった。

彼女たちの会話姿を見る3Sの学生たちは「清楚で大和撫子」や「癒される」とか言っている。彼らにとって彼女たちは良い絵になっているのだ。

京極彦一も静かに笑みを浮かべるのであった。

 

「それにしても清楚さんの名前って過去の偉人の名前じゃありませんよね?」

「そうなんです。とにかく勉学に励めと言われてて、25歳あたりになれば教えてもらえるんです」

 

義経たちには教えといて清楚には教えないとはおかしい話である。予想するに教えられない理由が必ずあるのだ。

清少納言などが良いと清楚は言っているが、もしそうなら教えられているはずだ。その偉人だと教えられない理由が無い。

きっと清楚は偉人の中でも更に深い存在かもしれないと思う夕乃であった。

 

「私としては早く知りたいんですけどね」

「まあ自分のルーツですからね。気持ちは分かります」

「自分で調べるか、誰かに調べてもらおうかしら?」

「良いと思いますよ。自分自身を知るのに誰かの許可なんていりませんから」

 

クローンと言えど、自分のことを知るのは自由だ。誰かの許可はいらない。夕乃の言葉に清楚は目から鱗が取れた。

 

「そうよね。自分のことを知るのに許可なんていらないわよね」

 

今まで教えてもらうまで待つつもりしかなかった。自分から探すという考えは無かったのだ。しかし夕乃との会話から探すというのに至ったのには良いと思っている。

川神学園には依頼を頼む制度を導入している。利用するのも1つの手だろう。最初は分からないことだらけだが少しずつ自分を知ろうと決めた清楚であった。

 

「ありがとう夕乃ちゃん。何か心が少し晴れた気がするよ。お礼に杏仁豆腐奢るね」

「はい。楽しみにしてます」

 

真九朗たちは少しずつ川神学園に馴染んできている。それは良いことだ。これから川神で彼らに様々なことが起こるだろう。

まず最初の1つとして表御三家と裏十三家が川神に向かっていることだろう。




読んでくれてありがとうございます。

今回の話に補足をいれるならば、物語の展開を広げるための話でした。
簡単に分けると・・・

男のツンデレルート
ニョワニョワルート
覇王様ルート

って感じですかね。でもその前に紫と切彦の初登場ルートですが。


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訪問者

こんにちわ。
前話にも書き込みましたが勢いで書きました。
連続2話投稿と言うやつです。ここで一旦燃え尽きました。

では、始まります。


016

 

 

川神市にある河川敷。そこには雑草魂が強く根付く者たちが暮らしている。

良い言い方をすれば自由な暮らし。悪い言い方をすればホームレスだ。

ホームレスも好きでなったわけでは無いだろうが、馴れれば良いと言う人もいる。

その中で板垣姉弟と呼ばれる者たちがいるのだ。彼女たちは河川敷の中では有名である。

そんな中、板垣姉弟の三女である板垣天使は荒れていた。今はせっかくの夕食時間。「少しは静かにしろ」と長男の板垣竜平が吐き出す。

ちなみに夕食の献立は白米と山菜や川魚をふんだんに使った鍋である。

 

「何をそんなに荒れてるんだよ?」

「チキショーあんにゃろう。なにが50連勝だ」

 

実は天使がいつも遊んでいるゲームセンターで得意の格闘ゲームで大敗したのだ。自分が一番だと思っていたら上がいたという悔しさに荒れている。

 

「んだよ・・・そんなことか。下らねえ」

「んだと!! ウチの縄張りが荒らされたんだぞ!!」

「いつからあのゲーセンが天の縄張りになったんだよ」

 

ギャイギャイと天使と竜平が言い合いをする。彼女たちにとっていつもの光景だ。

 

「鍋ができたよ~」

「旨そうだねえ。ほら天に竜、飯だよ」

 

次女の板垣辰子が鍋を持ってくる。それを見た長女の板垣亜巳が食事を始めるために言い合いをしている2人を仲裁する。

 

「チキショー・・・」

「まだ言うのかい」

「だってよお・・・」

 

天使はいつものゲームセンターで珍しく格闘ゲームで連勝しまくるプレイヤーを見つけたのだ。そのプレイヤーは49連勝していた。次の挑戦者を倒せば50連勝が達成される。

その達成をぶち壊してやろうとサディストとしての心が芽生えたので、早速格闘ゲームの席に座って対戦。しかし、結果は敗退。自分が50連勝への生け贄なっただけである。

 

「リアルファイトだったら絶対に負けねえのに!!」

「止めないか天。みっともない」

「何がみっともないって?」

「師匠」

 

板垣姉弟の師匠である釈迦堂刑部が帰ってくる。手には梅屋の袋を持っている。

 

「ほれ、みやげだ。いやー梅屋の店長がサービスでくれたのよ。とろろまでつけてくれるとは嬉しいねえ」

 

袋からは牛飯が出される。早速がっつく天使。

ガツガツと食べながら負けた気持ちを振り落とす。

 

「どーしたんだ天は?」

「天ちゃんは得意のゲームで誰かに負けちゃったの」

「そんなことか」

 

刑部も呆れる。

 

「リアルファイトだったら負けねえ!!」

「暴れるのは構わないが、やり過ぎるなよ。今は九鬼の連中がうっとおしいからな」

「そのせいで師匠が真面目に働くはめになりましたしね」

「いやいや、梅屋は俺の天職だわ」

 

自由奔放な刑部も梅屋は働くに値するようである。

 

「オレは息が詰まりそうだぜ。好きなときに暴れられないからな。それに最近良い男と出会えてねーし」

 

九鬼の従者である青髪の青年を思い出す。彼は竜平にとってストライクゾーンにバッチリ入っていた。

 

「なあ天。お前にゲームで勝った奴は良い男か?」

「ざーんねん。男じゃなくて女」

「女か。なら興味ねえ」

「でも名前は男だったけどな。ププッ」

 

人の名前は様々である。世の中には珍しい名前やキラキラネームもあったりする。

天使もそうであり、「てんし」と呼ぶのではなくて「エンジェル」と呼ぶのだ。

 

「どんな名前~?」

「斬島切彦だってよ。どこからどう聞いても男の名前だよな」

 

天使はクスクス笑い、辰子たちは興味はあまり無いようだ。しかし刑部だけは違った。

その名前は裏世界で聞いたことがある。とても有名な名前だ。同姓同名の可能性はあるが、刑部が思う『斬島』はあの裏十三家しか思い浮かばなかった。

 

「なあ天。もう一度そいつの名前を聞かせてくれ」

「あん? だから斬島切彦だよ」

(おいおいマジか。しかも切彦を名乗るなら本家の直系だぞ・・・)

 

裏十三家の『斬島』が「切彦」を名乗るのは本家の直系である証だ。

殺し屋家業を継いだ名前。どんな人間も簡単に切断する。

 

(確か・・・今の斬島切彦は斬島家の中でも別格の天才だってのを聞いたことがある)

 

鍋の山菜をかじりながら深く考える。今の川神市に殺し屋がいる。しかも凄腕の殺し屋だ。

 

「天・・・お前リアルファイトしなくて良かったかもしれねえな」

「どーいうことだよ師匠?」

「いいか。師匠からの忠告だ。その斬島切彦と戦うんじゃねえ」

 

刑部はもし、切彦から板垣姉弟を守るために戦うのならば自分の首が切断される覚悟を持つだろう。

勝ったとしても四肢は無事では済まないはずだから。

 

「今の川神は何か危ねえな」

 

 

017

 

 

川神市を走る黒い車の中には一組の男女がいる。男の方は騎場大作。女の方はリン・チェンシン。九鳳院の近衛隊幹部である。

大作は序列第2位、リンは序列第8位と幹部クラスでも上位の存在だ。

大作は冷静だが、リンはアタフタしていた。

 

「もっと速く走れないのか!?」

「これが精一杯だ。それに落ち着きなさい」

「紫様が学校から抜け出したのだぞ。落ち着いてられるか!?」

 

実は九鳳院の娘である紫が学校を抜け出したと言う情報が入ったのだ。急いで確認すると紫のGPSや密かに監視している近衛隊より川神市に向かっているのが分かったのだ。

 

「紫様は真九郎殿に会いに行ったのだろう」

「また紅真九郎か!!」

「真九郎殿なら大丈夫だろう」

 

彼なら紫を守るに値する存在だ。そう思わせる程の力を持っている。

リンは真九郎に対してブツブツ文句を言うが、彼女も彼の強さは認めている。

 

「ああ・・・紫様ご無事で!!」

「大丈夫だ。それに川神には今、九鬼が目を光らせている」

「九鬼か。ならば従者部隊の奴等とも会うかもしれないな」

 

九鳳院財閥と九鬼財閥は面識がある。なれば、近衛隊と従者部隊も面識があるのは当然だ。

 

「久しぶりに最強の執事に出会えますな」

「私は会いたくないがな。それに忍のメイドに会うのも面倒だ」

「そうですか。私は嫌いじゃありませんがね。それにクラウディオ殿とは良い酒が飲めそうです」

 

九鬼従者部隊との会合を思い出す。それは九鳳院の当主である蓮丈と九鬼の当主である帝が仕事の関係で顔合わせした時だ。

 

「あの時は驚きましたね。何せ、いきなりの襲撃者がきましたから」

「我々がいるのだから蓮丈様には触れさせることは無い」

 

リンの言う通りで襲撃者たちは何もできずに近衛隊と従者部隊に潰されたのだ。その時にお互いの実力を知った。

 

「帝様の御子息たちは元気でしょうな」

「今は紫様が第一だ」

 

2人を乗せた車は川神市へと近付く。

 

「話は変わりますが、リンは川神を知っていますか?」

「武神が居るくらいしか知らないな」

「川神は良い所ですよ。美味しい食物はありますし、名所もある。それに何かと飽きない場所です」

 

大作の言う通りで川神市は様々ものがある。今注目されているのは過去の偉人たちであるクローンが有名だ。

 

「しかし、何処にも表があれば裏もある」

「どういう意味だ?」

「川神裏オークション」

 

リンはハテナマークを浮かべる。

 

「非合法のオークションです。九鬼が目を光らせている場所で開催されるとは見上げた根性だ」

「近々開催されるのか」

「ええ」

 

九鬼が目を光らせているからこそ、と言うのもあるかもしれない。灯台もと暗しと言うやつだ。

車は川神市内に入る。

 

 

018

 

 

川神市内をトコトコと歩く少女がいる。髪を黒いリボンで結んでいるのが彼女のトレードマークだ。

彼女の名前は斬島切彦。裏十三家の『斬島』の直系である。

 

「・・・あ」

 

彼女の目の前に見知った人物がいる。

 

「おお切彦ではないか!!」

 

表御三家である九鳳院紫だ。長髪をなびかせて可愛らしい笑顔をしている。

 

「切彦も真九朗に会いに来たのか?」

「紅のお兄さん・・・」

「よし。切彦も紫に着いて来い。これから真九朗に会いに行くぞ!!」

 

表御三家と裏十三家が一緒になって川神の町中を歩く。普通ならばありない状況だ。周囲にいる人たちもまさか2人がとんでもない人物だとは思わないだろう。

彼女たちの目指す場所は川神学園。訪問したら絶対に驚く人物たちはいる。そんなことも気にしない2人はドンドン進む。




読んでくれてありがとうございます。
今回の話は紫と切彦の登場フラグ話でした。

なので次回はついに紫と切彦が登場します!!
川神学園はどうなる!?
取りあえず準は覚醒するかも。

ではまた次回をゆっくりお待ちください。


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九鳳院

こんにちわ。
今回の話はついに紫と切彦が川神学園に来た話です。
そして、やはりと言うか・・・準と接触しますよ。

では、始まります。


019

 

 

紫と切彦は川神学園に到着していた。学園の大きさにまあまあ驚く。そう、まあまあだ。

九鳳院財閥の娘である紫にとって大きな建物は見慣れた光景だからだ。今まで見た学園の中で大きいからまあまあ驚いただけである。

 

「大きいな切彦」

「はい。大きいです」

 

2人は普通に川神学園に入っていく。彼女たちの侵入は周囲の学生から丸分かりだが、気にしないのが川神学園の学生だ。

なぜなら様々な人物がいる学園だからと言う弊害かもしれない。それに誰かの関係者だと思って報告もしない。

 

「真九郎はどこにいるのだろうな?」

 

取りあえず川神学園の中を探検する。まず最初は食堂に辿り着き、次は体育館、剣道場、保健室、パソコン室。

校内を探検しまくる2人であった。そして探検していれば誰かに出会うのは当たり前。というよりも紫が誰かにぶつかる。その誰かとは準であった。

 

「おお、済まない。紫がよそ見していた」

「いや、だいじょ・・・うおお!?」

 

準は紫を見た瞬間にフリーズする。

 

「おや。これは可愛らしい子ですね」

「だれー?」

 

冬馬と小雪が紫たちと接触する。彼女たちを見て一瞬で誰かを探しているのだと理解する冬馬。

そんな中、準はフリーズから解かれた。そして紫をマジマジと見る。

 

「こ、このお嬢ちゃんは・・・なんと圧倒的なカリスマ!!」

 

準は本物のロリを見てしまった。これには雷に撃たれた衝撃が走ったのだ。

準は思う。彼女もまたロリコニアを建国させることの出来る人材だと。そんな国は夢のまた夢で準の頭の妄想の国なのだが。

 

「素晴らしい・・・俺は天使を見てしまったよ」

 

優しい笑顔になって紫を見つめる。その瞳には慈愛に満ちているのであった。

 

「準がアッチの世界にいってる」

「まあ、この子を見てしまったら仕方ありませんね」

 

準のことを知っている冬馬はこうなることを予想していた。これは仕方ないと思うのであった。

 

「私は葵冬馬。よろしく」

「ボクは榊原小雪だよー」

「俺は井上準って言います。貴女のためなら何でもやりましょう」

 

いきなり忠誠を誓う準もいつも通りである。ちょうど良いと思って紫も自己紹介をして真九郎について聞いてみることにしたのだ。

 

「私は九鳳院紫だ。隣にいるのが切彦だぞ」

「よろしくです」

「よろしくお願いします紫様!!」

 

九鳳院と聞いて冬馬は少しだけ笑みを消した。その名前はとても有名な名前である。表御三家の一角だ。

表御三家とは表世界で絶大な権力を握り頂点に君臨している三つの家系。財力と名声、権力によって古来からこの国を実質的に支配している存在である。その一角が九鳳院だ。

九鬼でさえ九鳳院から見れば新参者でしかない。しかし九鬼も負けていない。なにせ躍進がどの財閥よりも圧倒的に上だからだ。今となっては九鬼も九鳳院と並ぶ財閥だ。

 

(九鳳院に娘がいると公表されたのは去年・・・まさかこの可愛らしい子が?)

「どうかしたか冬馬とやら。私は正真正銘の九鳳院の娘だ」

「・・・・・!?」

 

まさか心でも読まれたかと思ったが違う。紫の超直勘とも言うべき能力だ。それに彼女の前では嘘をつくこともできない。自分自身も嘘つけないという可愛い部分もある。

 

「なんかお主の笑顔は作り物っぽいな。でも少しずつ柔らかくなった笑顔と言うべきだな。今まで何か嫌なことでもあったのか。紫でも良ければ相談に乗るぞ!!」

「トーマ、この子・・・」

「小雪とやらも何か心に不安なことでもあるのか?」

「ムム・・・!?」

 

紫は小雪の心の何かすら感じとる。これには冬馬も小雪も少しだけ警戒してしまう。だが紫は本当に気になったから言ったまでである。悪気は無いのだ。

 

「いえ、僕は大丈夫ですよ。最近良い方に流れが回ってきましたから」

「ボクも大丈夫だよー。トーマと準がいれば全然平気なのだ!!」

「ふむ、そうか。ならば何かあれば紫が相談にのるからな!!」

(・・・この娘はとんだ大物かもしれませんね。いえ、九鳳院なら超大物でしたね)

 

次に視線を移すは紫の隣にいる切彦だ。ダウナーな雰囲気の大人しい少女に見える。そして一瞬気になったのが名前だ。

 

「切彦って男の名前っぽいねー」

「これでもちゃんと女です。証拠もあります。それに処女です」

「そんな情報聞いてないよー」

 

人さまの名前なんて様々である。珍しいと思うかもしれないが悪いとは思っていけない。

 

「よろしくです」

「はい。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

そんな中で小雪がこっそりと冬馬に耳打ちする。

 

(どうしましたユキ?)

(この娘なんか危険な感じがする)

(そうですか?)

(うん。なんて言うか・・・全てを斬り裂くイメージを感じる。あの武神ですら)

(そこまで・・・)

 

小雪は冬馬に嘘は付かない。でも目の前にいるダウナーな雰囲気の少女があの武神を斬り裂くとは思えなかった。

 

「そうだ。聞きたいことがあるのだが良いだろうか?」

「何でも聞いてください紫様!!」

 

準は今日一番の良い返事をした。

 

「実は真九郎を探しているのだ。何か知らぬか?」

「真九郎くんですか」

 

 

020

 

 

川神学園に高級な車が止まる。車の中から出てくるのは騎場大作とリン・チェンシンだ。2人とも九鳳院の近衛隊幹部であり、強者だ。

 

「紫様!!」

 

リンは急いで川神学園に入るが、彼女の前に誰かが立ちふさがる。その人物は九鬼従者部隊の序列零位のヒュームであった。

 

「強い気が川神学園に近づいていると思ったらお前たちか」

「貴様はヒュームか!!」

「九鳳院近衛隊の序列8位リン・チェンシンに序列2位の騎場大作。久しぶりだな」

「お久しぶりですヒューム殿」

 

大作が紳士的に挨拶する。

 

「九鳳院の近衛隊幹部が川神学園に何か用か?」

「実は・・・」

 

大作が用件を話そうとした時に空から誰かが降ってくる。その誰かとは百代である。

 

「空から美少女登場!!」

 

百代は強い気を感じて飛んできたのだ。バトルマニアはたまらない強さを持つ気なら文字通り飛んでくる。

 

「そこにいる可愛い姉ちゃんと紳士的なおじ様は誰ですかー?」

「また厄介な奴が・・・」

 

リンはそれどころではない。早く紫を見つけないといけないのだ。

 

「私たちは九鳳院の近衛隊です。私は騎場大作。隣にいるのがリン・チェンシンです」

「私は川神百代です」

「百代。彼らは何か用があるから勝負はできんぞ」

 

ヒュームが先に百代の動きに釘を刺す。しかし、それでも戦ってみたいと思うのが百代である。

 

(コイツらがあの有名な九鳳院の近衛隊か。女の方は強い。そして男の方も相当強いな)

 

九鳳院の近衛隊の中でも幹部クラスは「真の強者は飛び道具を使用しない」という思想を持っている。

百代はそんな大作とリンを品定めするように見る。戦ってみたい。本音はそれしかないのだ。

 

(百代殿はバトルマニアと聞いていますが本当のようですね)

 

有名な武神がこうも分かりやすいバトルマニアとはヤレヤレと言う感想だ。ヒュームも同じことを思っているのか小さく息を吐いた。

 

「ええい、退け武神。今は相手をしている暇は無い!!」

「えーつれないなあ」

 

リンは急いで走る。後を追うように百代も走るのであった。

 

「・・・で、何の用だ?」

「実は紫様が川神学園に訪れていまして、迎えに来たのです」

「成る程。紫様がいらっしゃっておられるのか」

 

高圧的な態度のヒュームも一応執事である。九鬼財閥と同等の九鳳院財閥の娘となれば口調も少し変わる。

 

「しかし、油断しすぎでは無いか。主を把握できないなぞ」

「逆にそちらは過保護すぎではないですか。それに私たちは従者ではありません」

「こっちは従者なのでな」

 

お互いに皮肉を言って軽く笑う。

 

「しかし、主を守るため。紫様を1人にするのは確かに此方の負い目でありますな。これからはより注意せねばなりません」

「その通りだ」

「では、私はこれから川神学園に手続きをしに行きます。このままでは侵入者になりますからな」

 

大作は手続きをしに歩く。

 

 

021

 

 

誤字脱字の確認は大切だ。特に資料を人に渡すならば尚更である。気にしない人もいるが、中にはちょっとの誤字脱字でうるさく言う人もいるのだから大変なのだ。

 

「これで大丈夫だと思うよ」

「思うじゃ駄目なのよ。もっと確認して」

「何度も確認したよ」

 

真九郎は今、銀子からある資料を渡されて誤字脱字の確認をさせられている。情報屋として資料を依頼者に渡す過程で誤字脱字などは許さない。そのため、真九郎は銀子を手伝っているのだ。

 

「大丈夫だって」

「じゃあ次」

「まだあるの?」

「今回の依頼は資料が多いのよ」

 

ため息を吐きながら資料を黙々と確認するしかなかった。

 

「ねえねえ、紅くんと村上さんは何をしてるの?」

 

一子が2人に話しかけてくる。何をやっているのか気になったからだ。

 

「・・・今、真九郎にバイトの手伝いをしてもらってるのよ」

「バイト?」

「そう。資料作製のバイトよ川神さん」

 

実は情報屋としての仕事をしているとは言わない。言ったら面倒なことになるからだ。目立つことを好まない銀子は差し当たりの無い答えを言うしかなかった。

 

「へえ、そうなんだ。なんならアタシも手伝いましょーか?」

 

一瞬迷ったが資料の誤字脱字くらいの確認なら大丈夫だと思い、手伝ってもらう。

 

「お願いするわ川神さん」

「任せて!!」

 

資料を確認したら一子の頭からポンッと煙が出るような反応する。資料は図やら文字やらで埋め尽くされており、混乱してしまったのだ。

頭を働かせるより体を動かす一子にとって大変なのだ。

 

「任せてもらっておいてそれは駄目だろワン子」

「だって難しいのよ大和~」

「誤字脱字の確認だけだろ」

 

一子の他にも大和たちも集まってくる。銀子の作製した資料はパッと見、難しそうだが違う。よく見ればとても分かりやすいのだ。さすがは情報屋。相手が分かりやすく作製するのは当たり前である。

 

「資料の内容は難しいけど、分かりやすくまとまってるよコレ」

「そうか? 俺様はさっぱりなんだが」

「それはガクトがちゃんと読まないからだよ」

 

資料の内容は某有名な教授が発表するようなものだ。

 

「村上さんは頭が良いのね」

「そりゃあSクラスに入れるくらいだしね」

 

確かに銀子は天才だ。何せ祖父である村上銀次は裏世界で有名な凄腕の情報屋。その地盤を引き継いで情報屋を営む程なのだから。

そこらの情報屋とは格が違う。

 

「俺も手伝うよ。ワン子が手伝ってたら夜までかかりそうだ」

 

大和も手伝うと言ってくれる。一子の時もそうだったが普段なら銀子は了承しなかっただろう。しかし、今回は違う。

依頼された資料はさほど重要では無い。人に見せても大丈夫である。だから手伝ってくれるならと甘えてみたのだ。

これには真九郎も少し驚く。やはり少しだけ頑張っているのだろうと思うのであった。

 

(銀子もコミュニケーションを取ろうと頑張ってるんだな。・・・それで無理しなきゃいいんだけど)

 

コミュニケーションを取るのは悪いことでは無い。でも無理にコミュニケーションを取るのは自分自身も疲れるだろう。

人には人の適度なコミュニケーションがあるのだ。銀子は人付き合いが苦手なので頑張ってるほうだろう。

 

「それにしても・・・この資料はクローンについて?」

「最近はクローン、義経さんたちで持ち切りだからね」

 

九鬼財閥がクローン技術を確立させてから世界の話題はクローンで持ち切りなのだ。だから教授や科学者ならばクローンについての情報はほしいのだ。

 

「うん。誤字脱字は無いよ」

 

大和は銀子の調べた資料を見て驚く。情報屋としての彼女を知らないので、一般の学生がここまで調べ上げたと思って驚きなのだ。

資料の内容はクローンに関して詳しくまとめてある。これは本当に分かりやすい。

 

「さすがSクラスに選ばれたことはあるな」

 

そんな彼女を見る福本育郎は密かに写真を撮っている。それに夕乃の写真も密かに取ろうとしてるのだ。

最近はクローン組の義経や転入者の燕と華やかさが増している。これは「魍魎の宴」が盛り上がると思うのであった。

岳人は育郎に「良い写真が撮れたら教えてくれ」とヒソヒソと密談する。どうでもよいが野獣共の宴は近いかもしれない。

 

「今回の魍魎の宴は盛り上がるな」

「サルがまた何か呟いてるわね。キッモ」

 

実は「魍魎の宴」にてイロイロ何かが起こるのだが、それはまた先の話である。

 

「これで良し。資料は大丈夫だわ。ありがとう」

「いーわよ別に。こっちも役立てて良かったわ」

「ワン子。お前はあまり役に立ってなかっただろーが」

「何をー!!」

 

一子が岳人にポカポカと叩く。

銀子がノートパソコンの蓋をパタリと閉じた瞬間、逆に2Fの扉がガラリと開いた。

 

「紅真九郎!!」

「え、リンさん!?」

「うお、新たな美人が!!」

「刀持ってるけどね」

「あ、お姉さまもいる」

 

2Fのクラスに入ってきたのはリンと百代であった。

いきなりの介入に頭がついていけない。だがこの状況はデジャブである。前回、星領学園にて紫が勝手に見学しに来たことがあったのだ。

まさか今回もって思ったがリンが先に答えを言い放つ。その答えを聞いて「やっぱり」と言うしかない。

 

「紫様はどこだ!!」

「また!?」

「紫さまって?」

 

前回と同じことが起きているらしい。




読んでくれてありがとうございます。

井上準は覚醒を通り越して、慈愛の心を持つ男になりました(笑)
そして紫の直感はハンパねえ・・・これが表御三家の異能なのか!?

次回は後半に続きます。ではまた次回!!


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紫と紋白

こんにちわ。
お気に入りがいつの間にか1000件超えてたのにビックリな作者ヨツバです。
これはとてもうれしいですね。これからも頑張ります!!

では物語をどうぞ!!


022

 

 

紫と切彦は準たちに案内されている。目指す場所は2Fのクラス。そこに真九郎がいるのだ。

真九郎がいると分かって紫は喜々として腕をブンブン振りながら歩く。その姿はとても可愛らしく微笑ましいと言う感想しかない。

幼い少女を見守ることを信条とする準にとってその光景は慈愛の心しか湧かない。小雪に「ロリコン」や「ハゲー」と言われても微動だにしないほどだ。

 

「準が何も反応しないよー」

「おやおや。今の準は仕方ありませんね」

「若・・・俺は夢を見てないよな。現実だよな」

「現実ですよ準」

 

やはり現実だと実感して更に心が晴れやかになる。この気持ちは準と同じ人種にしか分からないだろう。紫はそう思わせるほどの可愛い子なのだ。

彼女をよく知る真九郎は紫を「見ただけで得をしたような気分になる女の子」と評している。準もその評価を聞けば首を縦に必ず振る。

 

「早く行くぞ!!」

「はい紫様!!」

 

やはり良い返事をするのであった。

ドンドンと2Fのクラスへと進むが、同じく2Fに向かう者がいる。その者の名前は紋白だ。

 

「あ、紋白ではないか!!」

「むむ。お主は紫!!」

 

今ここにロリが2人揃う。すぐさまお互いに近づいて握手をする2人。パアァと笑顔を溢れるのは仲が良い知り合いだからだ。

これには準も更に幸せ一杯にしかならない。もう足が浮いて昇天するんじゃないかってほどくらい幸せ絶頂急上昇。

 

「ああ。もう死んでも良いかもしれない」

「準に死なれたら困ります」

 

準にとって今週で最高の1日に違いないだろう。

 

「これはこれは紫様。お久しぶりです」

「うむ。クラウディオも久しいな」

 

九鳳院と九鬼の会合。

同じ世界財閥同士ならばお互いに知っていてもおかしくはない。実際に彼女たちは財閥絡みで知り合っているのだ。

そこで仲良くなったのは言うまでもない。しかも間に真九郎がいるのにも言うまでもないのだ。

 

「なんで紫がここにおるのだ?」

「紫は真九郎に会いに来たのだ!!」

「なら我と同じだな。一緒に行こうではないか」

 

紫は真九郎に会いたくなったから会いに来た。紋白も同じく真九郎に会いたくなったから会いに向かっているのだ。

九鬼の絆を修復してくれた真九郎には感謝してもしきれない。それに素晴らしい人材なのだから九鬼で働いてもらいたい気持ちもある。だから断られても印象くらいは残すために行動している健気な頑張りだ。

それに紋白の心には淡い想いを抱いている。真九郎のことを思うと心が温かくなると密かに口に零したほどだ。

 

「早く真九郎に会いたいな!!」

「そうだな!!」

 

真九郎に会えると思って無意識に笑顔になる。好きな人に会える気持ちはとても温かいものだ。

 

「切彦も早く真九郎に会いたいだろう?」

「はい。会いたいです」

「この者は誰だ?」

「私の友達の切彦だ」

 

自己紹介で堂々と斬島切彦と名乗ると紋白は「よろしくな!!」と元気一杯に挨拶。そして良い人材を探すのに目がないのですぐに切彦を品定めをしてしまう。

品定め結果は合格。切彦からは何か相当な才能をビリビリ感じたのが感想だ。その才能までは分からないが中々見つからない人材なのは確かである。

 

(合格だな。しかし何故だろう・・・いつもならスカウトするのだが何処か迷っている我がいる)

 

その気持ちは無意識による防衛本能かもしれない。

 

(斬島切彦・・・まさかこの女性があの裏十三家の『斬島』なのでしょうか?)

 

クラウディオは顔には出さないように『斬島』の名を聞いて警戒する。しかも「切彦」と名乗ったということは本家の直系を意味する。

斬島切彦。「ギロチン」の異名を持ち、どんな人間も確実に斬殺させる凄腕の殺し屋である。

その正体がダウナー系の少女とは予想外なのだが。

 

(見た目や雰囲気からは普通の少女。しかし分かる・・・この少女の内から感じる刃のような鋭い何かを!!)

 

さすがは完璧執事と言うべきか、切彦の危険性を何処となく察知している。当の本人である切彦自身は特に気にもしていないが。

これから一緒に行動することになるのだから気を抜かずに心を落ち着かせる。

 

(しかし何故、表御三家の紫様と裏十三家の斬島が一緒にいるのでしょうか?)

 

そもそも清流と言われる表御三家と濁流と言われる裏十三家が一緒にいること自体が不思議であり得ないのだ。

普通では一緒になることは無く、表御三家の方から裏十三家に近寄ることがない。だが紫と切彦は友達となって表も裏も関係無くなっている。だから2人は友達として一緒にいるのだ。

 

「早く真九郎に会いに行くぞ!!」

 

みんなでルンルン気分のまま歩き出す。

 

「紋様に紫様・・・最高すぎる。ロリコニアが見える」

 

その頃、準は勝手に妄想の国に入り込もうとしていた。

 

 

023

 

 

真九郎はリンから「紫様はどこだ!?」と迫られていた。これには「落ち着いて」と言うしかなく、宥める。しかし、リンは護衛の身として紫を心配するのは当たり前。

心の中では「護衛失格だ・・・」と自分自身にイラついている。その一部を真九郎にぶつけているのだから困る。

 

「紫が川神学園に来てるんですか?」

「ああそうだ。だからこその何処だ!!」

「俺に言われても分からないですよ!?」

「紫様イコール紅真九郎だろう!?」

「何その関係図!?」

 

前回に呟いていた謎の関係図はまだ健在のようだ。しかし否定できないので首を横には振れない。そんなんだから銀子から「ロリコン」と言われるのだから。

その称号だけは勘弁してもらいたいといつも思っている。去年で何回言われたか覚えていないが、いつもグサリと身体から心に突き刺さる。その度に夕乃からは「年上が一番ですから」と言われる。

 

「ねえねえ紫様って誰?」

 

一子はそれとなく口にする。その答えを言うのは大和だ。

 

「あの女性は九鳳院の近衛隊だ。そして紫様って様付けしているってことだから九鳳院の関係者だろう」

 

紫と言うの名前は聞いたことがある。確か去年に九鳳院から娘がいると報道されたはずだ。

 

「紫様ってのは九鳳院の娘だ」

「ええっ、それって大物じゃない!?」

「大物どころか超大物だよ」

 

九鳳院は表御三家と言われる日本を支配する一角だ。大和や一子たちが関わることなんて普通は無い。

しかし、リンが言うには超大物の紫が川神学園に来ていると言うのだ。

 

「ああ。だから九鳳院の近衛隊が学園に来たわけか。しかも強者が2人も」

 

強者とはリンと大作のこと。百代がワクワクとしているのを見て、やはりバトルマニアだと思う。

 

「真九郎。早く紫ちゃんを探すわよ」

「分かってる」

 

ガタリと椅子から上がって紫を探しに行こうとする。察してくれたのか、大和たちも探すのを手伝ってくれると言ってくれる。

お礼を言おうとしたが、また2Fの扉が開かれた。そこから走って来たのは今から探しに行こうとした人物である。

 

「真九郎!!」

「む、紫!? それに切彦ちゃんまで!?」

 

紫が元気一杯に真九郎へと抱き付いてくる。それを応えるように真九郎は優しく受け止める。受け止めてくれた事実が嬉しいのか紫は幸せ一杯の笑顔になった。

やっぱり紫は年相応の可愛らしい女の子。九鳳院なんて肩書きはオマケみたいだ。

 

「どうして紫がここに?」

「真九郎に会いに来たのだ!!」

 

やはり前回と同じであった。

 

「迷惑だっただろうか?」

「そんなことないよ」

「本当か?」

「俺は嘘ついてるか?」

「ついてない」

 

パアアっと笑顔になって真九郎に強く抱き付く。それを見た準は嫉妬するが、ここはあえて無視しているみんなだ。

 

「銀子にも会いに来たぞ!!」

「ありがとう紫ちゃん」

「これ、どんな状況なの?」

 

卓也の疑問は当然であった。

この状況をどう説明すればよいか悩み、「うーん」と呟く。まず紫との関係を説明しなければならない。しかし表御三家の九鳳院との関係をどう上手く説明すればよいか真九郎は思いつかなかった。

大和たちは少なからず真九郎が九鳳院と関係があることで驚きである。やはり川神学園には普通の人はこないようだ。

 

「そうだな・・・俺と紫は」

 

九鳳院との関係を何とか説明する前に紫がいつもの爆弾発言をする。

 

「私は真九郎の恋人だ!!」

「「「ええええ!?」」」

 

本当にいつもの爆弾発言である。この答えには大和たち全員が色々な意味で驚く。

 

「こ、こんな小さな子と恋人!?」

「紅くんってそーいう趣味なんだ」

「ロリコン」

「ずるいぞ!!」

 

一部だけ嫉妬が入っているがその他は真九郎の心にグサグサと刺さる言葉の雨である。

だからこそ、強くこの言葉を言うのだ。

 

「誤解です!!」

 

本当にこの言葉だけは切実な思いを乗せている。川神学園でロリコンのレッテルを貼って過ごすのは真九郎にとってキツイ。

 

「銀子からも誤解を解くように説明を・・・」

「ハァ・・・。面倒になったわね」

 

取りあえず九鳳院との関係を当たり障りなく説明するしかなかった。やはり要人の護衛として知り合ったとしか言えない。

紫を救ったことは誇れることだと思っているが詳しく語れず、重要な部分は抜きにして説明した。

 

「なるほど。九鳳院でも護衛の仕事をしていたのか」

「そうなんだよ直江くん」

「でも凄いな九鳳院の護衛なんて。近衛隊もいるのに・・・そもそもどうやって護衛の仕事がもらえたんだ?」

 

大和が中々鋭い質問を斬り出してくる。確かに未熟な揉め事処理屋が九鳳院から護衛の仕事がもらえるとは普通思わないだろう。

そもそも大財閥が学生を護衛として任せること自体が考えにくい。

 

(やっぱり直江くんは頭が良いって言うか、鋭いって言うか)

 

鋭い質問をされたら返す答えは用意してある。それは紅香から頼まれた仕事だからだ。これは本当のことである。

 

「揉め事処理屋の師匠から依頼をもらえたからだよ」

 

嘘では無い。しかし去年はまさか当初、九鳳院と関わるとは思っても見なかった。

 

「そういうことなのか」

「うん。そうなんだ。その時に紫と知り合ったんだ」

 

取りあえず納得はしてもらえた。でもロリコンのレッテルは少し張られたかもしれない。実際に岳人たちから少しだけからかわれたからだ。

それにいつの間にか紋白も抱き付いてくる。これもロリコンと勘違いされる状況だ。

 

「真九郎~!!」

「やあ紋白ちゃん」

 

優しく抱きしめて頭を撫でる。すると紫と同じように幸せそうな笑顔になるのであった。

紫も紋白も幼いが、どちらも強い娘だ。それは真九郎がよく分かっている。もっとも紋白は紫と違い、見た目がロリなだけだが。

 

「こら紋白。私の真九郎に抱き付くな!!」

「何を言う。真九郎は誰のものでも無いぞ」

 

なんとも可愛らしい会話だ。でも周りからのからかいは困る。

 

「ハハッ、おい紅。お前ロリコンだったのかよ」

「違うからね島津くん」

「意外だわー。ちょっと残念かも」

「だから違うからね小笠原さん」

「一緒にロリコニアを目指すか?」

「・・・勘弁してください」

 

準に優しい笑顔で肩をポンと叩かれる。その顔はまるで同士を見つけたような顔だ。

本当に勘弁してくださいとしか言えない。せっかく川神学園にて馴染んできたかと思えば、まさかの評価だ。

揉め事処理屋からロリコンへの転身したのだから。

 

「俺はロリコンじゃないから!!」

 

何度も言う切実な思いだ。

しかし、勘違いされてもおかしくない状況だから仕方ない。何せ今は右に紫、左に紋白という両手に花状態だからだ。

準は真九郎の肩に手を置きながら嫉妬している。もう少しすれば嫉妬が爆発するかもしれない。

 

「紋様が楽しそうでなによりです」

「クラウディオさんお久しぶりです」

「ええ。紅真九郎様もお変わりなく」

 

クラウディオに話しかける真九郎。取りあえずロリコンとからかわれる状況を抜けたい一心にだ。

それに彼はとても安心感を与えてくれる老紳士。空気の流れを変えてくれるに違いない。

 

「今日はどうしたんですか?」

「なに、紋様が真九郎様に会いに来ただけですよ」

 

優しい笑顔になる。話を聞くとどうやら本当に真九郎に会いに来たらしい。

「そうですか」と言って紋白を見る。前に会った時より元気に見える。まるで紫の時と同じようにだ。

 

「紋様は真九郎様のスカウトを諦めてませんからね。いつでも歓迎ですよ」

「ありがとうございます。考えておきます」

「前に言ったが我はいつでも歓迎しておるぞ!!」

「真九郎は渡さないぞ!!」

 

紫と紋白の可愛らしい会話は自然と笑みを浮かべてしまう。

今日は可愛らしい訪問の日であった。




読んでくれてありがとうございます。

今回は紫と紋白の会合でもありました。そして準は今にもロリコニアに飛び立ちそうです。
真九郎は川神学園でもロリコンのレッテルを張られる苦労は仕方ないですね。

紋白に関しては真九郎に淡い想いを抱いている設定にしました。そりゃあ自分を救ってくれた人ですからね。おそらく違和感は無いと思ってます。
今回の物語は紫の訪問と言う日常パートでしたが次回は切彦に視点を移します。今回は切彦は空気でしたからね。

ではまた次回をゆっくりとお待ちください。


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案内

こんにちわ。
早めに物語が完成したので投稿しました。
前回は切彦が空気だったので今回は視点を切彦に向けました。

では、始まります!!


024

 

 

紫との再会を終えて次は切彦の番となる。何故かは分からないが前と同じで紫と同行していた。

 

「な、何で切彦ちゃんが?」

「仕事帰りですお兄さん」

「・・・そっか仕事帰りか」

 

切彦の仕事帰りとは裏の仕事。殺し屋の仕事だ。考えたくもないが何処かで切彦のターゲットが首と胴体が離れていることだろう。

何度か考えたことがあるが、切彦には殺し屋を辞めて欲しいと思っている。しかしきっとそれは不可能かもしれない。「殺し屋を辞めてくれ」と言っても無駄だと頭のどこかで思ってしまうからだ。

 

「でも何で紫と?」

「わたしもお兄さんに会いに来ました」

 

頬を赤くしながら小さく呟く。これだけなら可愛い少女であり、本当に殺し屋には見えない。

ここで少し問題が起こる。なぜなら大和やクリスは切彦と言う名前に気付いたから。由紀江が言っていた「剣士の敵」の名前を同じだからだ。

そもそもご本人なのだが。

 

「なあ、その子って斬島切彦なのか?」

「はいそうです」

 

切彦自身も肯定する。本人なのだから肯定しないわけ無い。彼女のことを知っている真九郎もここで切彦の素性を隠す真似をしたら怪しく思われるのは当然だろう。

今ここには大和や冬馬と言った鋭い者がいる。下手な誤魔化しは逆効果だ。

 

(どう説明しようか。普通に友達って言うしかないけど・・・剣士の敵については説明しきれないな)

 

せめて切彦が殺し屋だということは隠しておきたい。銀子も同じ思いだ。まさか殺し屋と知り合いとなっては後の学園生活も大変である。

 

(たぶん・・・クラウディオさんは気付いているかも)

 

九鬼財閥で上層部である従者部隊序列3位のクラウディオならば『斬島』のことは当然知っている。しかし本人と接触したのは今日が初めてである。

だから静かに警戒しているのだ。もしかしたら後で呼び出されるかもしれない。それはそれでどうしようもない。

 

(・・・うーん)

 

時間は有限である。考えているうちに、気になったら何でも質問するクリスがついに口を開いた。

 

「なあ斬島切彦殿。質問良いか?」

「どうぞ」

「剣士の敵ってのはまさか・・・切彦殿のことか?」

 

ついに来てしまった質問。

 

「・・・たぶんそうです」

 

切彦は普通に答える。それに切彦は「剣士の敵」と呼ばれるより「ギロチン」と呼ばれてるので曖昧な返事をするのであった。

曖昧な返事を返す切彦にクリスは微妙な反応である。まさかダウナー系な彼女が剣聖である黛大成が戦いを避ける程の人物には思えなかったのだ。

同じく大和や忠勝もそう思っている。正直信じられないので同姓同名かと考えてしまう。しかし「斬島切彦」なんて名前はそうそういない。

 

(本当に彼女がまゆっちの言っていた剣士の敵なのか?)

 

大和の疑問は最もである。もしここに由紀江がいれば確認してもらいたいくらいだ。

 

「そうか・・・剣士の敵なのか。何をやっているんだ?」

 

クリスは「剣士の敵」と呼ばれる切彦が何者か気になっている。だから普通に質問するのは当然だ。

そして切彦も質問の答えを普通に応える。初めて真九郎に自分の職業を伝えたように。

 

「あいむひっとまん」

 

堂々と自分の職業を言うのであった。これには真九郎も心臓がバクバクである。

 

「あいむひっとまん?」

 

この言葉を聞いて考える者は大和や冬馬、クラウディオたちだ。

 

(あいむ、ひっとまん・・・I'm Hitman・・・殺し屋?)

 

この英文を簡単に和訳すると「殺し屋」となる。しかし信じられずに冗談と思うのであった。クラウディオ以外は。

 

「なあ弟。剣士の敵って何だ。とても強そうな響きじゃないか!!」

「そのままの意味で剣士にとって最大の敵らしいよ。詳しくはまゆっちが知ってる」

「じゃあ後でまゆっちに聞こうかな~」

 

本当なら目の前にいる本人に聞けば良いのだが如何せん「剣士の敵」には見えない。それに今の百代の興味対象は九鳳院近衛隊のリンと大作である。

出来れば戦いたいと思っているのだ。しかし本人たちは無駄な戦いをする気が無いので百代の願いは叶うことは無い。

 

「お兄さん」

「何かな切彦ちゃん?」

 

ここで切彦がギュッと真九郎に抱き付く。久しぶりに真九郎に会えた衝動と言っても良い。殺し屋とは思えない可愛い少女だ。

 

「こら切彦。真九郎に抱き付くなー!!」

「嫌です」

「私の言うことが聞けぬのかー!!」

「剥がすのを手伝うぞ紫よ!!」

 

紫と紋白がやんややんやと切彦を剥がそうと奮闘している。真九郎の周りで可愛い少女たちが集まっている状況だ。

見る者なら微笑ましい光景かもしれない。準に関してはいつも通り嫉妬している。

 

「紅って年下からモテるのな」

「そうかもね」

 

岳人や卓也が今の光景の感想をそのまま言う。年上好きの岳人は特に嫉妬はしない。

 

「やべえよ若。俺・・嫉妬でキレちまいそうだよ」

「落ち着けハゲー」

 

小雪が準に鋭い蹴りを食らわして黙らせる。中々の酷い扱いだ。

静かに床へと倒れた準を他所に話は進む。紫が川神を観光してみたいと言うのだ。これには真九郎も笑顔で了承する。

川神学園にて紫たちの来訪で一悶着あったが少しずつ収まっていく。さすがは川神学園、どんな状況でも抱える懐があるようである。

 

「じゃあ行こうか真九郎!!」

 

川神を観光するメンバーは真九郎に紫、切彦だ。追加でリン、紋白とクラウディオも加わる。そして案内役として大和が選ばれた。

本当ならば準も率先して案内するが残念ながら床に倒れている状態である。彼にとっては本当に残念だろう。

 

 

025

 

 

騎場大作は今、ヒュームと鉄心とお茶を飲みながら会話をしていた。

会話内容は紫が川神学園を訪れていると言うことだ。このことを聞いた鉄心は驚きを隠せない。何せ世界財閥の一角である九鳳院の娘が川神学園にいつのまにか訪れていたのだから。

さすがに武術家でない紫の気を感じとるのはできない。だからいつの間にか訪問していたとしても分からないのだ。

 

「まったく驚きじゃわい。まさか九鳳院の娘が訪れていたとはのう」

「お騒がせ致しました」

 

大作は礼儀正しく紳士的に謝る。この紳士さはクラウディオと競えるだろう。

 

「お前は紫様から離れていて大丈夫なのか?」

「ええ。何せリンがいますから。それに真九郎様もいますからね」

「・・・なるほどな」

 

ニヤリと口元に笑みを浮かべる。ヒュームは真九郎を思い浮かべたからだ。

 

「あの上等な赤子なら確かにマシだろう」

「ほう。ヒュームが人を認めるなんて珍しいの。真九郎とは交換留学に来ていた男子学生じゃな」

 

立派な髭を擦りながら鉄心も真九郎のことを思い浮かべる。確か揉め事処理屋をしていると言っており、初日からクリスに決闘で勝った学生だ。

そんな彼がヒュームから評価されているのにチョッピリ驚きだ。何故そこまで評価しているか気になる。

 

「真九郎くんか。確かクリスに勝った少年じゃな。決闘を見たが確かに強いのう」

「まだ未熟な部分もあり、精神的な弱さもあるがな」

「辛口評価も健在じゃな」

「だが、覚醒した時の強さは目を見張るものがあるぞ」

 

何かを勿体ぶって話す感じだ。これには鉄心も気になってしまう。その変わりなのか大作が説明してくれる。

 

「真九郎様は崩月の弟子なのですよ。とても強い少年です」

「何とっ・・彼が崩月の弟子なのか!?」

「はい」

 

今回の交換留学で驚きなのは夕乃だけかと思っていたが、真九郎が崩月の弟子とはまた驚きである。噂で聞いたことがあるが崩月流の修業は常軌を逸しているらしい。

川神流の修業も相当厳しいが崩月流と比べると優しい方だろう。一子曰く、川神流を修業すればまず毎回嘔吐するくらいキツイと言うだろう。真九郎が同じように語るなら崩月流を修業すれば毎回吐血すると言う。

嘔吐と吐血じゃ全然違う。きっと崩月流の修業を知れば誰もが恐怖するかもしれない。

 

「なら普通なのは銀子ちゃんだけかのう?」

「銀子様も大層なお方ですよ」

 

大作が静かにお茶を飲みながら銀子に関して話す。この話に乗ったのはヒュームだ。

 

「そうだな。九鬼で調べたら彼女から驚くべき結果が発見したぞ」

「それは何じゃ?」

「彼女はあの凄腕の情報屋である村上銀次の孫だ」

「あの村上銀次か!?」

「そうだ。戦前戦後の混乱期、および高度経済成長期に暗躍した凄腕の情報屋の村上銀次の孫だ」

 

彼女は村上銀次の情報屋として地盤を引き継いで情報屋を営んでいる。腕も確かである。

鉄心も村上銀次のことくらいは知っている。情報屋としてとても有名だ。彼に頼めばどんな情報も得られると言われるくらいだ。その孫である銀子ならばSクラスに居てもおかしくない。

 

「全く・・・今回の交換留学は驚いてばかりじゃわい」

 

お茶を飲んで一息つく。まさかの人選に鉄心は驚いてばかりだ。

裏十三家である崩月の娘に、崩月の弟子、凄腕情報屋の孫。これだけ聞けばとんでもない人材ばかりである。普通では揃わないだろう。

さらに真九郎には少ないが濃い人脈があることを鉄心たちはまだ知らない。しかも良くも悪くもだ。

何せ、良い方で答えるなら最高峰の揉め事処理屋である柔沢紅香。悪い方で考えるなら悪宇商会と繋がりがあるくらいだ。

 

「・・・さてと、私はそろそろ紫様の元へと戻ります」

「うむ。分かった。九鳳院の娘さんを頼むぞい」

 

大作は一礼して部屋から出ていくのであった。。

 

 

026

 

 

真九郎たちは大作と合流して、紫が無事であることを伝えた。そしてこの後は川神を観光すると言う。

それに関して笑顔で了承。大作は川神市内で待機しているとのこと。何かあればすぐに駆け付ける。

 

「なので紫様は真九郎様たちと楽しんでってください」

「うむ。騎場もまたな!!」

 

紫はピョンっと真九郎に乗って肩車する。それを見た紋白が羨ましそうな顔をするのであった。

 

「頼みますよリン」

「分かっている」

「私も居ますからご安心を騎場大作様」

「お願いします。クラウディオ様」

 

紳士的にお互い挨拶する。本当に気が合いそうだ。

後日、あるBarで仲良く酒を飲む2人を見かけるがそれはまたの話である。

 

「出発なのだ。フハハハ!!」

 

元気良く川神を案内される真九郎たちであった。




読んでくれてありがとうございます。

今回は少しでも多く切彦に出番があったらなと思いながら書きました。
まだまだ切彦には活躍させる予定なので今回で終わりじゃないですよ。なんせ、まだ刃物を持たせていませんからね!!

完全な切彦モードにはきっと武士娘たちは苦戦するでしょうねえ。
おそらく1対1は切彦がハンパないと思います。

では次回!!
と言っても2話同時更新なのですぐ次へどうぞ!!


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強者の集まる梅屋

こんにちわ。
もしかしたら今回の物語はタイトルで少し展開が分かるかもですね。

では、どうぞ!!


027

 

 

川神の案内をされながら夕方の河川敷にて真九郎たちは歩く。時間的にもお腹が空くものだ。ここで紋白が何か食べたいと言い出したので何処かで食事することが決まる。

 

「何が良いですか紋様?」

「そうだな。梅屋とやらが良いな。紫も良いか?」

「構わぬぞ」

「分かりました。案内しましょう」

 

大和に案内されて梅屋へと到着する。商店街の一角のようで、今の時間帯は稼ぎ時だろう。

 

「ん?」

 

いきなりバサバサと鳥たちが飛び立つ。それは鳥たちが梅屋から異様な気を本能的に感じ取ったからだ。近くにいては危険と察知したから逃げたに過ぎない。野生動物の危機感の察知は人間より上だ。

 

「うお、急に鳥たちが飛んでいった」

「うーむ。あの梅屋からとても強い気を感じるな」

「この気の大きさは尋常じゃありません。私が確認して参ります。リン・チェンシン様。私が離れている間は紋様と紫様をお願い致します」

「分かった。引き受けよう」

 

クラウディオが尋常じゃない気の量を発している梅屋へと入っていった。

 

 

028

 

 

夕乃は百代に川神の案内をしてもらっていた。せっかくの心遣いを無下には出来ないので、喜んで百代と川神を観光する。

更にメンバーは燕に由紀江もいる。元々、燕は百代と一緒にいたが由紀江は途中で確保されたのだ。

 

「ありがとう百代さん」

「良いってことよ夕乃ちゃん。その代わり私と勝負しないか?」

「遠慮しておきます」

 

笑顔で決闘を申し込むが、同じく笑顔で断られる。

 

「むう・・・駄目か」

「アハハ。振られちゃったね百ちゃん」

「なら燕。決闘しよう!!」

「まだダメ」

「むう・・・」

 

2人にフラレた百代をタイミング良く松風がからかうが、逆に由紀江が百代に可愛がられる。

 

「あわわわ!?」

「黛さんをイジメては駄目ですよ百代さん」

「だってだってー」

「だってもさってもありませんよ」

 

母親が娘を注意しているように見えるとクスクス笑ってしまう。

バトルマニアも母親的な存在には頭が上がらないのかもしれない。

尚、真九郎は夕乃には絶対に頭が上がらない。

 

(それにしても百ちゃんは相当夕乃ちゃんを気に入ってるね。まあ、彼女から感じる強さは私も気になるけど)

 

燕は夕乃から感じる強さが気になっていた。それに微かな動作は同じ武術家なら分かるのだ。

知り合ってから少ししか経っていないが、燕は夕乃を百代と同じくらい興味対象としている。

 

(じゃれあいとは言え、百ちゃんの絡みを避けるのは並みの者はできない。でも夕乃ちゃんは簡単にやってのけた。どれくらい強いんだろう?)

 

もしかしたら、ある依頼の成功の手助けになるかと思う。それに戦うことになるかもしれないので、何か弱点を見つけておきたい。

 

(うーん。百ちゃんの心を揺さぶるなら大和くんとかかな。夕乃ちゃんは・・・真九郎くんかなあ?)

 

確かに百代の心を揺さぶるなら大和を利用すれば効果はある。しかし夕乃の場合、真九郎を利用したら叩き潰されるだろう。しかも真九郎もろとも。

いろいろな意味で容赦が無いのだ。

 

(真九郎くんにもちょっかいだしてみようかなー)

 

燕はまだ知らない。真九郎に恋する夕乃は敵対者に容赦が無いことを。しかも相手が老若男女関係無い。真九郎を利用して敵対した場合は相当の覚悟が必要である。または後悔しかないだろう。

 

「そう言えば夕乃ちゃんはどんな武術をやっているの?」

 

大和やクリスから聞いた話だと真九郎と同じ武術を習っていると知っている。情報は多いに越したことはない。

 

「それ私も聞いたな。崩月流だとか。なあ、まゆっち?」

「はい。そうですね」

 

武術の名前が『崩月』と言うことから夕乃の家系で教えていることが分かる。

 

「すいません。詳しくは教えられないんです」

「そっか。うちと同じかー」

 

川神流は門外不出の武術。同じように門外不出の武術があってもおかしくない。だから詳しく教えられないのなら理解はできる。

燕は情報が得られなかったのが少し残念だと思っているが仕方ない。

 

(何か燕さんは探りをいれてる感じですね。彼女のようなタイプは確実に勝利への策をいくつか用意しないと戦わないでしょう)

 

そして百代に関しては毎回決闘のアプローチを受けているので性格は理解している。

何度も思うが彼女はバトルマニアだ。

 

「いや~それにしても私の周りは可憐な華ばかりだ。テンション上がっちゃうなー!!」

 

戦えないけど可憐な美少女に囲まれて満足のようだ。そしてそのまま商店街通りに入る。

 

「・・・んん!?」

 

梅屋と言うファーストフード店から強い気を感じた。百代だけじゃなくて夕乃たちも気づいている。

これは気になって梅屋に入ると粋の良い挨拶が聞こえてきた。

 

「ラッシャイ!!」

「って、じじいたちか」

「おお、モモじゃないか」

 

何故、鉄心たちが梅屋にいるかと言うと自由人である刑部が働いていると聞いたからだ。

何も問題無いか確認しに来たのだ。結果は良好であり、刑部自身も天職だと認めている。

 

「悪いなじじい。奢ってくれるなんて。私はチーズ牛飯。夕乃ちゃんたちも頼んで良いぞ」

「こらっ誰も奢ると言っておらんじゃろ」

「良いじゃねえか。奢ってやれよ」

「ったく・・・仕方無いのう」

 

ヤレヤレと思いながら百代たちの分を奢る優しい鉄心である。

 

「私は豚丼、単品とろろで!!」

「おっ、分かってるねお嬢ちゃん!!」

 

好きなメニューを頼む。すると新たなお客が入店してきた。その人物とはヒュームだ。

 

「この店から強い気を感じたから入ったが、お前たちか」

「おお、ヒュームまで」

 

ヒュームは梅屋にいるメンバーを見て苦笑する。

彼らはただ客として集まっているだけだ。それを聞いたヒュームは「赤子の群れか」と笑ったのだ。

するとクラウディオが新たに入店。これにはリーも「危険なレベルの人間が増えた」と口を動かす。たしかに梅屋には強者ばかりが集っている。

 

「フ・・・赤子共はすぐ怒るということだ」

「喧嘩を売るのが好きな人ですね。高く買いますよ?」

「お前はすぐに挑発に乗るでない」

 

一方、燕は豚丼に単品とろろを貰って、マイペースと思わせながら腰の武器に手をかけている。これには松風も「やりよるわい」と呟く。

そして今度の視線は夕乃へと移す。彼女は普通に食事をしていた。無警戒と言うわけでは無いが、辰子に次ぐくらいヒュームの威圧感を無視している。

 

『この2人パネェ』

「あわわわ。2人とも冷静ですね」

 

コトリと箸を置いて口元を優雅に拭く夕乃。

 

「大丈夫ですよ黛さん。ここは食事をする処ですから」

『ほえ?』

「ここは食事する場所。戦う所ではありません。それにヒュームさんは九鬼の従者部隊序列零位。そんなお人が暴れて九鬼の評判を落とすなんてことしませんよ」

 

冷静に状況を分析して適格な言葉を言う夕乃。何も間違ったことは言っていない。

 

「むう・・・しかし俺が敵だったらどうする赤子共?」

「どうするもこうするもないでしょう」

 

パチンとヒュームの頭を叩くクラウディオ。

 

「むう」

「何を言っているんですかヒューム。ここは崩月夕乃様が言うように食事をする場所です」

「むう・・・おいっ牛焼肉定食ダブルでライス大盛だ」

 

闘気を抑えて食事を始める。ここは闘技場では無く、食事処である。

クラウディオは安全を確認してから外に出て紋白たちを中に入れる。

 

「おや、見知った顔が」

「あれ夕乃さん」

「真九郎さんじゃないですか。まさか会えるなんて私たちはやっぱり運命・・・」

 

ここで夕乃は真九郎にベッタリとくっ付いている紫、紋白、切彦を見て目を鋭くする。

何故か真九郎は汗がダラダラと垂らして動けない。やっぱり夕乃には逆らえないのであった。

 

「真九郎さん」

「はい何ですか夕乃さん」

「説明してください」

「はい」

 

真九郎に向けられる威圧感にいつもハンパない。これには百代たちも少しビックリ。




読んでくれてありがとうございます。

梅屋にはとんでもない強者たちが集まって店長びっくりですね。
さて、夕乃さんは真九郎に誰か女性が一緒に居たら取りあえず威圧感を出して説明させるのがパターンだと思ってます。

そして、原作でも燕は百代を倒すために大和にちょっかい出します。
逆に夕乃と戦うこととなったら真九郎にちょっかいを出すと思いますね。でもそれは逆効果だと思ってます。なんせ浮気は許さない精神で夕乃は真九郎もろとも叩き潰しそうですしね(愛の稽古)

ではまた次回!!


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盗人

こんにちは。
今回は梅屋の続きです。前回ではまだ終わってませんでした!!

では、始まります。


029

 

 

強者の集まっている梅屋にて食事をする。メニューは定番の牛飯だ。最初は夕乃から紫たちがいる経緯について説明されるように威圧されたが何とか宥める。

まさかの威圧感に百代たちは驚き、更に興味を植え付けたのは言うまでも無い。真九郎はまた夕乃に「年上が一番ですからね」と念押し言われる。

 

「それにしても紫ちゃんや切彦さんまでいるなんて驚きましたよ。前回と同じですか」

「うむ。真九郎に会いに来たのだ!!」

「駄目ですよ紫ちゃん。勝手に訪問してはいけません」

「真九郎に会いたくなったのだから仕方ないだろう」

 

紫の行動意欲には驚かされてばかりである。嬉しい時もあればヤレヤレって思う時もある。でも紫の笑顔を見れば許してしまう。

 

「まったく紫ちゃんは・・・」

「恋人に会うのに理由はいらんだろう」

「・・・・・・紫ちゃん」

「何だ?」

「貴女が真九郎さんと恋人とは・・・」

「恋人だぞ」

「「・・・・・・」」

 

お互いに無言の威圧を放っている。夕乃も幼い紫に容赦無いと思うかもしれないが、恋の勝負に容赦していることはできない。

一方、大和は由紀江に切彦のことを聞いていた。真九郎の横にいる彼女が「剣士の敵」だから説明を詳しく聞きたいのだ。

 

「彼女が剣士の敵ですか」

「ああ。そうみたいなんだよ」

「そうそう。ソレは私も聞いてみたかったんだよ。剣士の敵って何だ?」

 

由紀江が「剣士の敵」について説明する。そして出てくる『斬島』の名前。これを聞けば百代がワクワクするのは当然であった。

そして更にヒュームまで気にし始める。まさか裏十三家の「斬島』となれば警戒してしまう。

 

(おいクラウディオ。彼女があの『斬島』なのか?)

(おそらく。それにヒュームも感じていますでしょう。彼女から感じる斬り裂くイメージを)

(ああ確かに感じる。おい鉄心、百代には裏十三家について話しているか?)

(話しておらんわい。話したら絶対面倒じゃし。それに戦わせたくない)

 

裏十三家の『斬島』と戦おうとは考えてはいけない。そもそも戦おうと思って戦う相手ではないのだ。

百代は興味を持ってしまったができれば関わらさせたく無いと思うのが祖父としての気持ちである。

 

「そっか斬島切彦ちゃんが剣士の敵か~」

 

百代が切彦に絡むように抱き付く。切彦もなすがままである。環の絡みでなれているので特に気しないまま黙々と牛飯を食べている。

そして百代は触診まがいのことをして品定めをする。百代も切彦からは何か斬り裂くイメージを感じているのだ。

 

(妙な鍛え方をしてるな・・・でも武術家としての身体じゃない。スポーツでも無いな。何だろう?)

 

彼女が殺し屋なんて分かるはずもないだろう。さすがの百代も殺し屋については分からない。

そして由紀江も切彦をよく観察していた。剣聖である父が勝負するのを躊躇う相手だからだ。しかし正直ダウナー系な彼女からは信じられない。

 

(彼女が本当に剣士の敵である斬島切彦なのでしょうか。それに男性かと思ってましたが女性なんて・・・今度父上に聞いてみましょうか)

 

斬島切彦。剣の腕は素人でありながら熟練の剣士をいともたやすく超える強さを持つ者。

 

(斬るのが異様に上手いって父上は言っていましたが・・・どれほど上手いのでしょうか)

 

それぞれが考え事をしていると新たな来店者が入店してくる。

 

「おお、この闘気の正体は皆さんが揃っていたからか」

「あーびっくりした。ついでだから入ろうか」

「知っている顔だな。おお紋まで、更に真九郎に紫ではないか!!」

「おお揚羽!!」

「お久しぶりです揚羽さん」

 

さらに強者である義経、弁慶、揚羽まで梅屋に店入。どんどんと強者が集まる。もしかしたら強者の集まる場所には勝手に新たな強者が集まるのかもしれない。

 

「紋と英雄から真九郎が川神学園に来ていると聞いていたが、まさかここで会えるとはな!!」

「姉上!!」

「どうだ紋。真九郎をスカウトしたか?」

「はい。でもまだ良い返事はもらえてないです」

「何故だ真九郎よ?」

「一応、将来はこのまま揉め事処理屋を営むつもりなので」

「そうか」

「だから我はいつでも真九郎を待っているのです!!」

「そうかそうか。ではいつでも待っているぞ真九郎よ!!」

 

九鬼の三姉弟からスカウトされるとは中々無いだろう。真九郎はそれほどの人材だと言うのが分かる。

 

「あれ? モモちゃんに夕乃ちゃんたちまで?」

「あ、マイハニー清楚ちゃんだ」

「こんにちわ清楚さん」

 

更に綺麗どころが増え、これには百代も笑顔だ。しかし次の来店者には笑顔を向けられない。

 

「くふぅ~おらあ!!」

「え? え? え?」

 

後ろから入って来た男が清楚を捕まえてナイフを突き立てる。彼はどうやら強盗のようだ。「金を出せ」と大きく震えるように言い放っている。

自分はツイていない、今まで人生が失敗だったと不満を言いながら視線をギョロギョロ動かす。その状態を見て盗人である彼は今回が初実行と予想できる。

 

「まぁお前さんがついていないのは、今のこの状態の店に押し入った1点だけ見ても分かる」

「あ、何言っているの? お、この小僧震えていやがる」

「いえ貴方の身を案じてるから震えているんですよ?」

「何を言ってやがる俺にはナイフ。それにじゅ・・・うおあ!?」

 

盗人が大和に視線を移している隙に真九郎が一瞬で間合いを詰めてナイフを握りしめた。しかも清楚を傷つけないように刃の部分を握っている。

相手が強盗実行初心犯で震えていて周囲を把握していないからこそ出来る真九郎の荒業である。いきなりナイフを掴まれ、何が何だか分からない盗人は驚いて身体を固める。

新たに出来た隙を見てナイフを取り上げて、蹴りを食らわせる。

 

「ぐほお!?」

「大丈夫ですか葉桜先輩?」

「う、うん。ありがとう真九郎くん。それよりも手は大丈夫なの!?」

 

ナイフを掴んだ手は切れていたが大きな傷ではない。それに崩月流で鍛えているのでナイフを掴むことは平気だ。それにナイフは安物であったし、掴むこと自体初めてではない。

素人ならともかく、さすがに戦闘屋や切彦の持つナイフは触りたくないがと思うところもある。

 

「無事で良かったです葉桜先輩」

「う、うん」

 

ドキドキしてしまう清楚。このドキドキは嬉しいのか怖いのか分からないが今はそれどころではない。

すぐに倒れた盗人に視線を戻す。すると盗人の男は懐から拳銃を取り出した。一応、彼も二段構えとして用意していた物だろう。拳銃なんてどこで手に入れたか知らないが最近では一般人が簡単に手に入れることができるのだろうか。

 

(・・・案外あるな。メジャーなところだと悪宇商会か)

「貸してください」

 

一瞬考えてしまったがそれどころでは無い。次の一手を思いつき、行動しようと思ったが切彦が先に動く。

ナイフを奪って、そのまま盗人へと近づいて拳銃を真っ二つに切断した。一瞬のことであった為、盗人は何が起きたか分からない。

 

「な、何が?」

「うぜえよ、オッサン」

「ひいいい!?」

 

盗人は恐怖して逃げ出そうとするがクラウディオの糸で逃げられるはずもなく、そのまま御用となる。

そして盗人の男は従者部隊によって回収されてしまった。

 

「フハハさすが真九郎だな!!」

「いやいや。逃がさなかったのはクラウディオさんですよ」

「いえ、私は弱っていた盗人を捕まえただけです。安物のナイフとはいえ刃の部分を掴むという荒業をした真九郎様ほどではありませんよ」

 

普通はナイフの刃部分を掴むという考えはでない。掴めば切れるのは自分の手なのだから普通は考えないだろう。だが真九郎はどこか危険な行為に関して簡単に飛び越える異常性を持っている。

だからナイフを掴むなんて荒業ができるのだ。自分自身は臆病なんて思っているが、周りから見れば勇気がありすぎる評価だろう。

大和や義経たちは驚いている。

 

「凄いぞ真九郎くん。身を挺して葉桜先輩を助けたのに義経は感動した!!」

 

キラキラと言う擬音を背中に乗せて義経は真九郎の身を挺した行動に感動していた。彼女は真九郎を頼りになるお兄さん的な存在と感じたのだ。

どこか頼りになるお兄さん的存在に憧れていた義経が興味を強く抱いたのは当然である。弁慶もまた同じく興味を抱く。彼女たちではなくて梅屋にいる全員が興味を持ったのだ。

元々知る者は頷きながら微笑し、知らない者は少なからず興味を持ったのだ。

 

「さすが真九郎だな!!」

「ありがとう紫」

「それに切彦もすごかったぞ!!」

「どもです」

 

切彦の活躍もそうだ。ほとんどの者は気付かないが彼女は安物のナイフで拳銃を真っ二つにした。そのことに関して理解したのはたったの数人である。

なぜなら安物のナイフなんかでは拳銃は一太刀で切断できない。剣の熟練者でも難しいだろう。梅屋にいる由紀江だって無理だ。

その不可能を可能した切彦の腕は異能と言う他無いないだろう。この異常なる斬る腕を見てヒュームたちは彼女を確実に裏十三家の『斬島』だと確信した。

 

(間違いなく斬島だ。安物のナイフで拳銃を切断するなんて芸当は斬島の家系しかできないだろう)

(ナイフで拳銃を切断するなんて・・・私でもナイフを使って一太刀で拳銃を真っ二つにできない)

 

もし切彦が業物を使った時はきっと更なる切れ味を持って相手を簡単に切断する。斬島切彦だからこそできる芸当であり、異能である。

真九郎は未決着だが、一度だけ戦ったことがあるから分かる。彼女はきっと何でも切断する。崩月の戦鬼だって殺せる。なぜなら彼女は天才だから。

 

(もし決闘する時はどうやって勝つか・・・一太刀でもくらったら負けだからな)

 

切彦との決着。約束した決闘は必ず守る。でも、情けないがまだ戦うつもりは無い。

決着を先延ばしにしている自分を恥じているがどうしようもない。早く答えを出さないとまた切彦が不機嫌になりそうである。

 

「しかし無謀ではあったぞ」

「ヒュームさんの言う通りですよ真九郎さん。相手が素人だったから良かったものの、相手が戦闘屋であったら指を切断されてました。でもカッコ良かったですよ」

「気を付けます。そしてありがとう夕乃さん」

 

やはり、まだまだ自分は半人前だと思い知らせてしまう。これからも修練が必要だ。

梅屋にてちょっとした一悶着であった。

 

 

030

 

 

梅屋の後、紋白は真九郎たちと別れて帰宅していた。

車の中には紋白の他にヒューム、クラウディオ、燕が同席していた。揚羽たちはまだ用事があるので別行動である、

 

「姉上たちは買い物か。我も一緒に行きたかったな。でも稽古があるからな」

「少しくらいスケジュールを変更しても良いのですよ紋様?」

「いいや大丈夫だ。我も姉上のようになるために日々修練しないとな!!」

「紋ちゃんはもう少し甘えても良いんじゃないかな?」

「燕様の言う通りですよ。真九郎様が訪れていた時みたいに甘えていても大丈夫ですよ。フフフ」

「むむう」

 

頬を少し赤くしながら考える。去年に真九郎たちと出会ったことを思い出しているのだ。九鬼の家族関係を修復できた。

それに関しては感謝してもしきれない出来事だ。そして家族以外に心を許せる相手でもある。だからこそ真九郎に甘えられるのだろう。

 

「そ、それはそうと燕よ。あの依頼の方はどうだ?」

 

話を逸らすように燕に質問する。

 

「それならまだ。情報収集にもう少しかかるかな」

「そうか。まあ時間はあるしな。よろしく頼む」

「まっかせて!!」

 

ニコやかに笑顔で返事をする。

 

「しかし、そう簡単に弱点や隙を見せるわけ無いか」

「ターゲットがターゲットだからね。私としては誰か強者が戦ってくれたら良い情報として得られると思うんだけどな」

「なるほど。本番前にある程度の強者と戦わせて闘いの流れを見極めるのだな」

「その通りだよ紋ちゃん」

 

決闘する時にて勝利を少しでも確実に近づくには相手の情報は大いに越したことは無い。

相手が強ければ強いほど、勝つには前情報は必要なものだろう。

 

「でも戦わせる相手がなぁ」

「そうそう居ないもんね。でも居るとしたら義経ちゃんたちかな」

「義経たちは他の挑戦者で忙しいからな」

 

武士道プランの影響で彼女たちは忙しいという他無い。だから戦わせることはできないのだ。

川神学園には強い者は幾人かいるが、その中でも飛び出た強者は数人しかいない。それで好き好んで戦ってくれる者もいないだろう。

 

「私としては夕乃ちゃんが戦ってくれると良いかなー」

「崩月夕乃か・・・でも戦ってはくれぬだろうな」

「そうなんだよね。夕乃ちゃんは決闘をやんわり断っているし」

 

夕乃は自分から戦おうとしない。彼女から戦うのは真九郎のためか家族のためくらいだ。

 

「じゃあダークホースの真九郎くんとかはダメかな。ちょっと気になるんだよね。あの子の戦闘スタイルは見たことないし」

 

クリスとの歓迎決闘を見ていた燕は真九郎の戦い方。崩月流が気になっていた。武術とはまた違った動き。それは喧嘩殺法だからだろう。

同じく紋白は考えていた。真九郎が強いことは知っているが戦ってもらうと考えたことは無かったのだ。燕の言葉に目からウロコと言うのがピッタリである。

 

(ふむ・・・でも戦ってくれるだろうか?)

 

女性の頼みなら基本的に頼みを受ける真九郎でも決闘となると悩むだろう。

 

「ダメかな~?」

「それは真九郎様次第ですよ燕様」

「クラウ爺の言う通りかもな」

 

もし、真九郎が戦ってくれるなら勝ってくれるのではないだろうかと一瞬思う紋白であった。

 

(・・・崩月の戦鬼なら武神を打ち倒す可能性はあるだろう。そこらの武人よりかはな)

 

ヒュームは静かにそう思った。

まだまだ可能性のある若者は日本に、世界にいるのだ。これからも退屈しない日常は続く。




読んでくれてありがとうございました。

梅屋でのちょっとした強盗でした。そして盗人は運が無かった・・・原作でも。
そして真九郎はナイフを手づかみとか流石ですね。切彦も安物のナイフでも拳銃を切断とはやはり『斬島』だ。

紋白が考えている武神の討伐。
もしかしたら真九郎ならなんとかしてくれそうかもって思い始めました。でも戦ってくれるかは超未定。


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宿泊

こんにちわ。
今回は日常イベントみたいな物語です。
まったりとした雰囲気になればと思って書きました。
そして、後半は少しだけ紅の世界観を大和が知ります。

では、始まります。


031

 

 

真九郎たちは梅屋での食事を終えて島津寮に帰宅する。紫が真九郎たちが宿泊している島津寮を見てみたいということで一緒にいる。

そして切彦もいる。彼女に関してはこのままだとまた何処かで蹲ってそうなので島津寮に宿泊することを考えている。

 

「ここが真九郎の住んでいる島津寮か」

「そうだよ紫。ここに俺と夕乃さん、銀子が住んでいる。そして学友である大和くんたちも住んでいるよ」

「おお」

 

島津寮に一番に入る。出迎えてくれたのは銀子と京であった。

 

「おかえり紫ちゃん。来ると思ってたわ」

「ども。村上さんから聞いているよ。そしておかえり大和」

 

2人の美少女から出迎えられる。それに「ただいま」と答える真九郎と大和たち。

「おかえり」と「ただいま」は2つ1組の言葉だ。そして優しい言葉だと思う。

 

「こんにちは。わたしは紫だ。今日はこの寮に泊まる者だ」

「ええ!?」

「む、紫様!?」

 

まさかの宿泊宣言に驚く真九郎とリン。よくよく考えれば紫なら言うようなことだ。それに今日は金曜日。明日は土曜日で休みだから紫のスケジュールさえ空いてれば大丈夫だ。

そしてちょうど紫は明日はスケジュールが開いている。問題無しだ。

 

「泊まれるぞ。部屋なら真九郎の部屋で寝るから大丈夫だ」

「な、駄目ですよ紫ちゃん。女性が男性の部屋で一緒に寝るなんて・・・まだ早すぎます!!」

「もう真九郎と一緒に寝ているから大丈夫だぞ」

「私もお兄さんの部屋で寝てます」

「・・・真九郎さん?」

「ちょっと待って。夕乃さんも知ってるよね。誤解だって!!」

 

紫は護衛の時に五月雨荘に住み込んでいたし、切彦は看病していた時に部屋で寝かせていただけだ。

もちろん、それは知っていることだから誤解なんて起きない。夕乃たちだけは。

 

「紅くんって一体・・・こいつは驚いた」

「まさか2人目のロリコンとは」

「違うからね直江くん、椎名さん!!」

 

訳を知らない大和たちは誤解するのは仕方ない。何度も説明する気苦労は絶えないようだ。

まさか島津寮の玄関でいきなり冷や汗を垂らすことになるとは思わなかった真九郎であった。補足だが銀子が真九郎に対して「ロリコン」と言ったのはいつも通りであった。

 

「大丈夫なんですかリンさん?」

「まさかの宿泊だが、明日の紫様の予定は空いているから問題は無い」

「リンよ。騎場に連絡していてくれ」

「分かりました紫様」

 

紫が宿泊することが決定。そして切彦は泊まるところが無いので彼女もそのまま宿泊決定。

 

「よろしくです」

「どこで寝ようか?」

 

取りあえず紫たちの寝る部屋を考えながら居間へと移動。お茶と煎餅を飲み食いしながらホッと落ち着く。

 

「お兄さんの部屋で」

「紫も真九郎の部屋が良いぞ!!」

「駄目ですよ紫ちゃん」

「私も反対です」

「むう・・・」

 

紫とリンは銀子の部屋で、切彦は夕乃部屋で泊まることが決定。無難な決定だろう。

それでも明日は休みで、遅くまで楽しく会話することができる。最近は忙しくて電話だけの会話しかなかった。だから直接話すことができるのは嬉しいのだ。

話せなかった分を今日でたくさん話すつもりである。楽しい夜になりそうである。

 

「今日は夜更かしするぞ!!」

 

夜遅くまで遊ぶ気マンマンだ。それでも甘えさせてあげるのが真九郎の役目だろう。それに今は夕乃や銀子がいるし、新たな学友である大和たちもいる。

つまらないことなんてないだろう。

 

「何して遊ぼうかな!!」

「何にしよっか。直江くん。何か遊ぶ物ってあるかな?」

「トランプがあるよ。やっぱみんなで夜更かしと言ったらトランプだ!!」

「おお、感謝するぞ」

「お褒めいただき光栄です紫様」

「様付けはいらん。紫で良い」

「そっか。じゃあ紫ちゃん」

「うむ。それで良いぞ」

 

大和がマジシャンの如くトランプをシャッフルする。これでも得意な方である。

 

「トランプと言ってもゲームの種類はけっこうあるけど、どうする?」

「定番だとババ抜きや大富豪とかだけど・・・」

「紫は定番のでは無くて違うトランプのゲームがやりたいぞ」

 

ババ抜きや大富豪以外となると思いついたのはポーカーやダウトとなった。内容を説明するとダウトをやってみたいとのことでダウトをすることに決定した。

対戦人数は4人。紫、真九郎、大和、クリスである。早速トランプをもう一度シャッフルして皆に配る。ゲーム開始だ。

 

「では紫からだ。9!!」

 

誰もダウトとは言わない。いきなり最初から言うのもつまらないからだ。

次はクリスの番で堂々と10と言ってカードを置く。ここでも誰も言わない。大和は彼女の性格上、嘘のカードで無いと判断したのだ。

ゲームとは言え、正々堂々が好きなクリスは多少なりとも変化があるのだ。大和にとってはカモである。

 

「じゃあ11」

 

大和は堂々と嘘のカードを置く。手元に11のカードが無くて12のカードを出したのだ。

ゲームとは言え、負けるつもりは無い。でも相手が子供である紫に関しては接待勝利を与えても良いかもしれないと思っている。

 

(紫ちゃんと紅くんは・・・どうかな?)

 

真九郎に関しては強さを百代からまあまあ認められてるのは知っているが知力に関しては分からない。そして紫は九鳳院と言う世界財閥の繋がりから紋白のような天才かと予想している。

取りあえず初戦は様子見で2人を観察しながらダウトを進めた。

 

「12」

「13だ」

「1!!」

「2」

 

順調にカードを置きながら回る。そろそろ誰かがダウト宣言してもよい頃合いだ。

クリスが9と言ってカードを置く。大和がダウト宣言しようとしたが彼女の雰囲気から嘘のカードでないことが予想できる。

せっかくダウト宣言しようとしたがストップしてしまった。運だから仕方ないがタイミングが悪い。

 

(うーむ。そろそろ俺もダウト宣言されるな。しかも次の10のカードが無い・・・何事も無く普通に置くか)

10といつも通りカードを山札に置いた。しかし、ついにここでダウト宣言が出たのだ。

 

「ダウトだ」

「お」

 

ダウト宣言したのは紫であった。

 

「ダウトだぞ直江とやら」

「うーん。正解だよ紫ちゃん」

「やーいやーい。大和が嘘ついたー!!」

「クリスめ・・・」

 

初戦だし、ダウト宣言されるのは当たり前だ。このまま続行する。しかし勝負はまさかの紫が勝ち越している。

紫がダウト宣言すると必ず嘘のカードなのだ。しかも外れが絶対に無い。まるで嘘が分かるのかと思う大和。

しかし、それは正解なのだ。紫は直感で相手の嘘を見破る。だからダウトと言うゲームでは直感で相手が嘘か本当かのカードが分かるのだ。

それを知らない大和とクリスは負けてばかりだ。補足だが、真九郎は何となく予想はできていた。

 

(こういうゲームは紫の1人勝ちだよなあ)

 

嘘を見抜く紫は相手を見るだけで分かる。直感という能力であり、九鳳院として多くの人間を見てきたのだから磨き抜かれているのだ。

説明するのは難しいが紫は直感で分かるとしか言いようがないだろう。

 

(大和ってば手加減したんだね。優しいところもまた好き。付き合って)

(フレンドで)

 

京がいつも通り大和に告白しながらダウトの感想を聞く。彼女はダウトの勝敗を紫に花を持たせたと思っているのだ。しかし、実際は違う。

 

(いや・・・最初はそうしようと思っけど、後半からはこれでも本気でゲームをしたんだ)

(え・・・そうなの?)

(ああ。紫ちゃんはハッキリ言って強い。なぜか確実に嘘を見抜くんだ。おそらくこういうゲームは分が悪い)

 

紫は1人勝ちでホクホクと笑顔だ。そしてクリスは本気で悔しがっている。もしかしたら案外クリスの方が子供っぽい。

パソコンをカタカタと打ち込む銀子は何となく勝敗を分かっていたのは言うまでも無い。もし賭けをしているなら紫に勝利を賭けるだろう。

 

「紫は次、違うゲームがしたいぞ!!」

「じゃあ今度は定番のババ抜きをしよっか」

「うむ!!」

 

今度定番のババ抜きを開始するのであった。

 

「ねえ村上さん」

「何かしら椎名さん?」

 

意外にも京が銀子に話しかける。口数の少ない彼女からしてみれば珍しい光景だ。

同じ寮に住んでいるという点と同じような性格だから話しかけやすいというのもあるかもしれないが。

 

「紫ちゃんはトランプ強いの?」

「・・・たぶんね。私も紫ちゃんがトランプで1人勝ちしたのは初めて見たからね」

「ふーん。大物は何かしら持っているみたいだけど・・・それなのかな」

「かもね」

 

カタカタとパソコンを打ち込む。それを見て会話のネタにしようと聞いてみる。

 

「ねえ村上さん。今度は何を調べてるの?」

「またバイト関係の調べものよ」

 

情報屋の仕事とは言わない。

 

「椎名さんも何か調べてほしいことがあれば調べてあげるわよ」

「そう。何かあれば知らべてもらおうかな」

 

今はあるとしたら大和の撃墜方法か激辛料理店でも調べてもらおうかなって思っている。

 

「また紫の勝ちだー!!」

「さすがです紫様!!」

 

夜は楽しく更けていく。

 

 

032

 

 

大和は楽しく夜更かしした後で電話に父親から連絡がかかってくる。夜に電話をかけてくるなんて珍しいと思うのであった。

 

「もしもし?」

「大和か。夜遅くにすまんな」

「大丈夫だけど・・・どうしたの?」

「何、急に母さんがお前の声が聞きたいって言いだしてな。だから電話した」

「なるほど」

 

なかなか嬉しいことを言ってくれる。自然と口元が吊り上がってしまうのであった。

厳しい父親だが優しさは人一倍ある。だからこそ恵まれているのかもしれない。家族との会話を楽しむ中で大和はあること聞いてみた。

それは気になっていた3つのこと。『揉め事処理屋』、『崩月流』、剣士の敵である『斬島切彦』だ。自分の情報網でも実態が掴めない単語であるため、頼りになる父親に聞いてみた。

 

『・・・大和。お前危ない橋を渡ってるんじゃないよな?』

「え、渡ってないけど」

『なら良いんだが・・・物騒な単語が出てきてしまえば心配する』

「物騒な単語?」

 

まさかの言葉に疑問符を浮かべる。実態を知らないから仕方ないかもしれないが、その3つの単語は本当は物騒な意味を持つのだ。

 

『順を追って説明しようか。まずは揉め事処理屋についてからだ』

 

揉め事処理屋に関しては真九郎から聞いた内容で概ね同じであった。その中でも最上級の揉め事処理屋は如何なる要人から依頼をもらえると言う。

仕事内容は表世界から裏世界まで通じ、何でも力仕事で揉め事を処理するのだ。

 

『私も一度仕事で揉め事処理屋を雇ったことがある。私の日頃の行いが良いのか業界最高峰の揉め事処理屋を雇えたのだ』

「最高峰?」

『ああ。柔沢紅香と言う。彼女はとても強い・・・母さんもできれば戦いたくないって言うほどにな。それに彼女だからこそ何でも出来るなんて噂されるほどだ』

「へー、そうなんだ」

『それに良い女だ。まあ、母さん程では無いがな』

 

やはり自分の父親は母親にとても惚れてる。言葉は冷たい感じだが、中身はとても温かく思いやりを持っている愛妻家なのだ。

 

『大和よ。どこで揉め事処理屋なんて言葉を聞いたのだ?』

「実は交換留学生が川神学園に来ていて、その1人が揉め事処理屋なんだ」

『成程。川神は本当に何でも歓迎するものだな。その者の名前は何と言うんだ?』

「紅真九郎くんって人」

『・・・紅真九郎だと?』

 

まるで何かを知っている含みのある言い方だ。

 

『これはまたちょっとした有名人が川神に来たものだな』

「紅くんが有名人?』

『ああ。裏の世界では案外有名だぞ』

 

裏世界で案外有名とは聞き捨てならないのだが、このまま話しを聞く。どういった意味での有名なのかを聞きたいのだ。

川神には本当に様々な人が集まるようだ。まさか裏世界に通じる者が来るなんて予想できなかった。

大和の父である景清は何でも紅香から次に依頼する時は後輩である紅真九郎と言う男にも声をかけてみると良いなんて言っていたことがあるから多少なりとも知っているのだ。

そして調べてみると驚く情報が入り込んできたのだ。

 

『紅真九郎はある巨大裏組織の最高顧問と死闘して引き分けたという戦歴を残した男だ』

「巨大な裏組織の最高顧問と引き分け?」

『引き分けだからって甘く考えるなよ。裏組織である最高顧問の実力は化け物だ。恐らく武神並みだぞ』

「姉さんと同じ!?」

『ああ。武神と引き分けたと例えるなら分かりやすいだろう』

 

寧ろその裏組織の最高顧問は最凶、外道、絶対悪と言う分で武神よりある意味有名で上の存在だ。

そのような存在と引き分けたとなると確かに有名人になるものだ。それにしてもまさか交換留学生がそんな有名人とは思わない。

 

(・・・これは一応みんなに伝えた方が良いかな。まさか紅くんがそれほどの実力者だとは・・・だからこそ九鬼にも気に入られているのだろうか)

 

優しそうな真九郎がそれほどの実力者とは本当に思えなかった。それに大和は裏世界のことを知らないからピンと来ないのだろう。

 

『そして次に崩月流と斬島切彦という2つの言葉だが・・・大和はどこで裏十三家を知ったのだ?』

「裏十三家って何?」

『・・・お前は裏十三家を知らないで崩月と斬島の言葉を知ったのか?』

 

その理由は交換留学生に『崩月』が来たのと、『斬島』が侵入という名の見学で来たからだ。そこで知り合ったという理由を聞いて納得の景清。

 

『本当に川神は誰彼構わず大物が来るのだな』

「裏十三家って大物なの?」

『大物も何も超大物だ。何せ裏世界を牛耳っていた家系だからな。今でこそ半数が断絶しているがその名は今でも裏世界で恐られている』

 

『崩月』は今でこそ裏世界の仕事を廃業しているがその名は轟いており、未だに影響力がある。『斬島』は今も健在で直系の者は殺し屋として継いでいる。

このことを聞いて大和は戦慄してしまう。まだ短期間の出会いだが信じられないことばかりなのだ。

 

『私も崩月の者とは会っていないが・・・比較的に温厚な者ばかりで話が通じると聞いた。しかし逆鱗に触れれば一転してその恐ろしさを味わうことになるらしいぞ』

「その恐ろしさって・・・どれくらい?」

『さあな。しかし、生きていれば本当に運が良いって思うくらいだろうな。まあ廃業しているから川神学園に来ている崩月の者は大丈夫だろう』

 

真九郎は『揉め事処理屋』であって『崩月』の武術を会得している。大和は更に真九郎の評価を上げて、追加に警戒度も上げてしまう。

本当に見た目と雰囲気からでは信じられない。だがそれは彼の本性を知らないからであって、実はただ者では無いのだ。真九郎と同じように修羅場を潜った者は川神学園にはいないだろう。

そもそも本当の死闘をしたものはいない。

 

『次に斬島切彦についてだが忠告だ。今すぐ関わるの止めろ』

「それは?」

『斬島切彦とは直系の者が襲名する名前だ。その名前の者は必ず殺し屋を営む。その腕は確実でターゲットの首を必ず斬り落とす』

 

切彦が『あいむ、ひっとまん』と言っていた意味をこの瞬間で理解する。まさか彼女が本当に自分の職業を言っていたのだ。

 

『私は絶対に関わりたく無い。命がいくつあっても足りないからな。剣士たちもそうだろうな。剣士の敵と言われているのも斬島切彦は斬れる物なら全て業物の剣のような物に昇華させる。それなら剣の腕を磨く剣士にとっては歯がゆい気持ちだろう』

「なるほど・・・まゆっちが言っていたのと同じだ」

 

それでもあのダウナー系な切彦が凄腕の殺し屋とは思えなかった。確かに梅屋の件で凄みを感じたが、まだ信じられない。

 

「なんつーか・・・刺激的すぎる日常になっている」

 

これは色々と聞きださないといけないかもしれない。川神という地域はただの日常では納まりきらない。




読んでくれてありがとうございます。
感想があればガンガン下さい。

さて、今回の話はまったりとした感じで書いたつもりです。
そして紫の超直感を少しでも活躍させました(たぶんね)。紫の出番もまだまだ考えているつもりです!!

そして後半は大和がついに真九郎たちの世界観を知りました。物語もそろそろ次の展開に移したいですね!!

ではまた!!


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紅香

こんにちわ。
今回はタイトル通りで柔沢紅香の登場です!!

この物語はある事件へのフラグみたいなもんです。

では、始まります!!


033

 

 

今日は晴れの日曜日。真九郎たちは紫と一緒に風間ファミリーと遊んでいた。紫もいるので童心に返りながら皆でかくれんぼしたり、ケイドロしたりして遊んだ。

もう皆でかくれんぼやケイドロなんて真九郎たちにとって遊ばないものだ。案外久しぶりにやってみると面白い。そもそも真九郎の子供時代は壮絶なものだったので子供の遊び自体が新鮮である。

 

「みんなで遊ぶのは楽しいな真九郎!!」

「そうだね紫」

 

本当に楽しそうにはしゃぐ紫を見て此方も笑顔になる。

夢中に遊んでいると時間なんて簡単に過ぎるものだ。もう昼時となってお腹が空いてしまう。何処かで食事でもしようかと考えたが夕乃が弁当箱を出した。

もちろん全員分の手作り弁当だ。これには岳人は大喜びである。終始「大和撫子の夕乃先輩の弁当が食える。他の野郎と一歩リード」なんて口走っていた。

 

「ありがとうございます夕乃さん」

「いいのですよ。これくらい」

「夕乃ちゃんのお弁当が食える。やったあああ!!」

 

百代も大はしゃぎであった。みんなで食べるお弁当も美味しい。それにまるでピクニックのようでもある。

 

「うめえええ!!」

「うん。本当に美味しいや」

「むぐむぐ・・・おお、美味いなあ」

 

みんなが夕乃の弁当を絶賛する。確かに美味いから文句無しである。

大和も「美味い」の一言で絶賛している。しかし、彼の頭の中には昨日の夜にて父から聞いた裏十三家の情報で頭がいっぱいであった。

話を聞いてみたいが中々タイミングが掴めないのだ。まずは自分から聞いてみて金曜集会で翔一たちに話そうと思っているのだ。

 

(うーん・・・美味い。じゃなくて、いつ話せるか分からん)

「そういえば切彦はどこだ?」

「切彦さんならいつの間にか島津寮から出て行きましたよ。最初は真九郎さんの部屋に侵入したかと思って焦りました」

「だから俺の部屋に鬼気迫る顔で来たんですね・・・」

 

朝早く夕乃が気を醸し出しながら部屋に入って来た時は本当に怖かったと思う真九郎であった。正直に思うと本当に切彦が真九郎の部屋入れば、お仕置きと言う名の稽古が始まっていただろう。

あの稽古はいつも真九郎がボロボロになるから大変である。そのおかげで頑丈に鍛えられているのだが。

 

「そっか。切彦とも遊びたかったんだが仕方ないな」

(・・・たぶん切彦ちゃんは悪宇商会に戻ったんだな。仕事帰りなんて言ってたし)

 

まさしく正解である。切彦は仕事完了の報告を悪宇商会にするために帰ったのだ。やはり殺し屋として成功した仕事の報告はしなければならない。

 

「あーあ、源さんも一緒に遊べれば良かったのに」

「仕方ないよ代行業の手伝いがあるみたいだし」

「代行業か・・・詳しく聞いてみたいな」

「お、やっぱり揉め事処理屋として気になる?」

「そうだね。大和くんの言う通り気になるかな。やっぱりライバルになりそうな職業だしね」

 

もぐもぐと手作り弁当を食べながら忠勝が手伝っている代行業に興味を持つ。その言い方を面白誤解している京は大和と翔一に「こっちもライバル出現だね」と頬を赤くしながら呟く。

その面白誤解を「違うから!!」とツッコム大和であった。それでも京の妄想は止まらない。

 

「それにしても夕乃ちゃんは良いな~。料理も作れるし、美人で強い!!」

 

百代の言葉に岳人はうんうんと頷く。

 

「そういうわけで決闘しよう夕乃ちゃん!!」

「どういうわけで!?」

 

卓也がツッコムが夕乃は平常運転で決闘を断る。

 

「遠慮しておきます」

「おお、即答だな」

「なぜだぁ!?」

「決闘するつもりがありませんし」

 

しれっと決闘する意味が分からないと言う。荒くれ者が住む川神市で育たない者には分からない気持ちであろう。

そもそも百代は他の者より戦いに飢えているので彼女だけが特殊ってのもある。

 

「だから無理矢理決闘を挑むのはダメだよ姉さん」

「ぶーぶー」

「ブーイングしてもダメ」

「・・・じゃあ紅。私と決闘しないか!!」

「え、俺!?」

 

今度のターゲットが真九郎になった。

 

「何だ真九郎。百代と戦うのか?」

「そうだよ紫ちゃん」

「いや、戦いませんから!!」

 

まさかのターゲット変更に冷や汗がダラダラである。これはとても面倒になったものだ。

翔一たちはからかうように笑っているが、その中で大和は百代と真九郎の決闘を見てみたいと思っている。父から聞いた話だと真九郎は武神である百代とまともに戦える強さを持っている。

 

(これは気になるぞ。それにもしかしたら崩月先輩も姉さんと同じくらい強い可能性もあるんだよな)

 

彼の姉弟子である夕乃も強者だ。真九郎自体が敵わないと自覚しており、本気で戦っても勝利が見えない。

 

「ぐぬぬ・・・なぜダメなんだ。ならば紫ちゃんを守る近衛隊のリンさん戦いましょう!!」

「断る」

 

またもキッパリと即答される。断られると言うボディブローを食らって少しだけダウンの百代であった。

武神も戦わなければ片無しだ。松風と由紀江が同じように思ったのか、からかって返り討ちに合う。最近のところ由紀江は一言多いのだ。

もちろん悪気があるのでは無く、心が許せる相手だからこそ言える一言である。

 

「なぜだ・・・どんな女の子も私の誘いは完璧に応えてくれるのに」

「紅くんは男だよ」

「・・・紅って女装すれば卓代ちゃんみたいになりそう」

「何言ってんのさモモ先輩!?」

(・・・環さんのせいで女装したことはあるけど)

 

中々、苦い過去を思い出した。あの時の事件は解決したがその後は環と黒絵にネタとしてからかわれたものだ。

 

「あーあ。せめて新たな出会いで美女に遭遇したいなー」

「モモ先輩・・・その意見に同意だぜ」

「岳人ってば」

「いやあ、崩月先輩、村上さん、リンさん。みんな美人だ。ならこの流れで新たな美人が現れるんじゃね。俺様としては年上美人希望!!」

 

その願いが叶ったかどうか分からないが彼らの前に漆黒の流線型である特注車がいきなり爆走してきたのだ。

 

「うおおおおお!?」

「すっげ。これって特注車じゃね?」

「この車はどこから見ても・・・」

 

とても見覚えのある車。そして運転者も誰か分かる。

 

「うおおおおおっ。すっげえ美人!!」

「本当に美女がキター!!」

「紅香さん」

「よお真九郎。近くを通ったからついでに来てみたぞ」

 

揉め事処理屋の最高峰である柔沢紅香であった。

 

 

034

 

 

場所を雰囲気の良いカフェへと移動。

紅香はちょっと大人としての威厳があるため真九郎たちに奢る。

 

「それにしても何で真九郎の学友たちもついてきてるんだ?」

「いやー成り行きですよ。ハハハハ。あ、俺様は島津岳人って言います」

「私は川神百代って言います!!」

「そうか。よろしくな」

 

簡単に自己紹介を済ませる。あまり興味が無い紅香は淡泊な感じで自己紹介をしていた。これを見て「いつも通りだな」と小さく呟く。

今日、彼女が真九郎たちの元に来たのは2つ理由はある。それは仕事の依頼で川神に来たこと。もう1つはついでである。

意外にも『ついで』の方が理由として大きい。彼女は案外いい加減な所があるものだ。それでも全て上手くいっているのだから凄い。

 

「ついで・・ですか」

「ついでだ。実は仕事で川神に来たんだよ。ちょっと大きな仕事だ」

「ちょっとした?」

「ああ。まだ弥生に調査させているところだが近々ここ川神で裏オークションが始まるらしい」

 

裏オークションとは正規品の物だけでなく、違法の物まで出回るオークションだ。だが超が付くプレミアムも出回ることもあるので危険と知りながらも参加する者は多い。

その裏オークションが川神で近々開催されるらしい。物騒だが自分から関わらなければそこまで危険では無い。裏と言っても実際はオークションであり、高い買い物のようなものだ。

 

「その裏オークションには裏社会の重鎮共も集まるらしくてな。そいつら全員を捕まえてくれって依頼だ」

「なるほど」

「結構な規模でな。大掛かりな仕事になりそうだ。もしかしたらお前にも手伝ってもらうかもしれん」

「分かりました。もし手伝いがあれば言ってください」

「私は反対ですよ」

「ゆ、夕乃さん・・・」

「また優しい真九郎さんに危険な道を渡らせて。本当に仕方の無い方ですね紅香さん」

 

夕乃と紅香が軽い激突をするのはいつものことである。結局はどちらも折れないまま終わるのだが。お互いともある意味、我が強いので折れることは決してない。

 

「俺は大丈夫ですよ夕乃さん。揉め事処理屋ならどんな依頼もこなしますから」

「全く真九郎さんは・・・いつもこうなんですから」

「本当ね。こんな簡単に引き受けてたら命がいくつあっても足りないわよ」

「大丈夫だ。真九郎は強いからな」

 

パフェをパクパク食べながら紫は自信満々に言い放つ。彼女にとって真九郎は誰にも負けないヒーローだ。

真九郎もまた紫の前だけは強者であろうと誓っている。だから紫の前にいる時は負け無しである。

 

「・・・何か僕たち聞いちゃいけないことを聞いているような」

 

卓也が的を得たこと言う。確かに一般の人が聞いてよい話では無いのだ。それに気付いているが百代に関しては紅香の強さに興味深々である。

強者に飢えている百代はすぐに紅香が壁越えの存在だとすぐに気づいたのだ。もし叶うなら手合わせをしてみたい。彼女の思考はそれだけである。

 

「あの美人のネーチャンは強いぞ。勝負したいなー」

「何か最近姉さんは戦いに飢えているね」

「だって最近、強い奴ばっかりに出会うんだもん。そりゃあ戦いに飢えるさ」

(その強い奴らってのが・・・まさか裏に通じる者って姉さんまだ知らないからなあ)

 

『裏十三家』という単語を聞いたら絶対に興味を示すのは予想できる。しかも全家が異能の力を持っているのだからとんでもない家系である。

 

(関わるなって父さんは言ってたけど・・・紅くんたちはどこからどう見ても危険そうには見えない)

 

大和の目から見ても真九郎たちは『悪』には見えない。実際に悪では無いから正解だが『崩月』は昔、人殺しの家系ではあったことは事実。

夕乃自身も「自分の血が穢れている」と言っているほどだ。でも真九郎は気にせずに家族として思っている。

だから、関わっても悪いというわけでは無いのだ。裏の人間だからと言って全ての者が悪とは限らない。

 

「それにしても裏オークションか。悪の香りを感じるぞ」

「やっぱクリスは食いつくか」

「悪と言うなら見過ごせないだろう。しかも川神で起こると言うなら尚更だ」

 

正義感の強いクリスならでは意見だ。しかし今回ばかりは大和たちが正義感のためだけに動いていいものではない。

「悪を成敗したい」なんて粋な心掛けかもしれないが自分たちの力を過信しすぎないことだ。どんな人間でも踏み込める領分というものがある。

今回はクリスの気持ちだけで関わることはできない。彼女たちは善良な学生だ。裏の人間ではない。

 

「おいお前ら」

「は、はい」

「今コッソリと聞いていたことは忘れろ。興味本位やただの正義感だけで関わると碌なことが無いぞ」

 

コッソリと聞いていた大和たちはビクリとしてしまう。バレないように聞いていたつもりだが紅香にはお見通しである。

 

「お前たちは実力があるようだが何でも首を突っ込むことはしないことだ。それにこの話は揉め事処理屋の仕事だからな」

 

煙草を吸いながら警告をそれとなく伝えるのであった。さすがに一般人を巻き込むわけにはいかないので忠告くらいはする。

 

(そこにいる武神は本当に強いな。ある程度の戦闘屋なら倒せるだろう・・・もしかしたら『孤人要塞』ともまともに戦えるかもな)

 

だからこそ危うい。心が未熟な分、力がありすぎるのは危ういのだ。彼女は自分が強いと理解しているが鉄心やヒュームからはまだまだ未熟だと思われている。

それに表世界でしか戦ってこなかった百代にとって裏世界の戦いは未知であるから、その不利な部分もある。本当の『死闘』知らない彼女には荷が重い。

 

(まあ・・・でも死闘を一度乗り越えれば戦闘屋にでもなれそうだな。武神がそれを望むかは知らんがな)

 

 

035

 

 

川神にあるBar。そこは魚沼というバーテンダーが切り盛りしている。繁盛していて常連客も増え続ける好評のBarだ。

バーテンダーの魚沼はお客の話を親身に聞いてくれ、最高の一杯を提供してくれる。

今夜もお客が訪れる。

 

「おやおや、これはまた珍しいお客様がいらっしゃいますね」

「これはこれは九鬼家の重役執事たちじゃないか」

「お久しぶりです柔沢紅香様」

「久しぶりだな紅香」

 

今ここに紅香、ヒューム、クラウディオが出会う。彼らは仕事で知り合った仲だ。

 

「クラウディオは良いとしてもう1人は面倒なのが来たな」

「ほほう。俺様が面倒だと?」

「前の仕事で私が良いとこ取りしたのをまだ根に持ってるんだろ」

 

カクテルを飲む。

 

「マスターいつもの」

「承ったぞ。お客様に最高の一杯を提供する。それが俺の徹底戦略」

 

スムーズに魚沼はヒュームとクラウディオに最高の一杯を提供する。

 

「ふん。もう根に持っていない」

「どうだか」

「ヒュームはこれでも負けず嫌いですからね」

「五月蠅いぞクラウディオ」

 

美女1人にナイスミドルな老執事が2人。そして雰囲気の良いBar。絵になるとはこういうことかもしれない。

会話の内容は絵になるとは到底言えないが。ヒュームは酔うと自分のコレクションを一方的に自慢する癖がある。もちろん見知った者にしかしない。

 

「いずれは借りを返す」

「やっぱり根に持ってるだろ。それに会う度に言っているがあの時は単純に私が運が良いだけにすぎなかった。これで良いだろ」

「運も実力のうちですよ」

 

軽く笑うクラウディオ。

 

「お前と戦っても私は勝てる気がしないがな」

「それは戦ってみないと分からんぞ。最高峰の揉め事処理屋?」

「今は酒飲む時だ」

「ふん・・・確かにな」

 

ヒュームもここがBarと分かっているので挑発的なことを言うだけで戦おうとはしていない。もう相手に挑発的なことを言うのはいつものこと。

カランとグラスの中にある氷が少し溶けて音が鳴る。ちょっとした面倒な会話が始まったが酒を飲む一時に肴に昇華するしかない。

 

「それにしても紅香。何で川神にいるんだ?」

「仕事だよ。九鬼も少しは情報を掴んでいるんじゃないか。川神裏オークションについて」

「なるほどな。確かに川神裏オークションに関しては情報を得ている。まさか九鬼が目を光らせている川神で開催するとは命知らずだ」

「九鬼の判断で勝手に潰すなよ。こっちは仕事で裏世界の重役共を捕獲するんだからな」

「分かっている。しかし、向こうからこっちに手を出したら動くぞ」

 

従者部隊として敵が攻めて来たら立ち向かうのは当然。それは勿論分かっている。

いきなり襲ってきたら正当防衛が成り立つ。そこには人の仕事がどうこう言っていられない。

 

「それくらい分かっている」

「一応言っておくが絶対に手出ししないなんてことは無い。九鬼も独自で調べているからな」

「そうか。まあ仕事がキャンセルになったら、なったで構わないさ。久しぶりにアイツと過ごせるし」

「アイツ・・・お前の子か。ちゃんと飯を食わせているか?」

「優しく接していますか紅香様?」

「そもそも、ちゃんと母親をやっているのか?」

「お前らうるさい」

 

せっかく美味しく酒を飲んでいたのに母親として云々を老人2人に言われる。これは酒の肴になりもしない。

早く違う話に交代させるべく自分の弟子の話にすり替えた。真九郎が川神学園に交換留学していることは2人とも知っているはずだ。

真九郎もなんだかんだで去年は濃すぎる出来事を味わった。その経験は紅香にとって目の前にいる老人2人を紛らわすことに使われるのだから微妙だろう。

 

「真九郎はどうだ?」

「真九郎様は川神学園で人気ですよ。川神学園での決闘に勝ち、注目を浴びていますから」

「へえ、アイツがね。真九郎もついに目立つようなことをするようになったか」

 

ここに真九郎がいれば「紅香さんほどじゃないです」とすぐさま言い放つだろう。彼女の大胆さは他の者と比べれば比較することはできないだろう。

今ここで話すなら大胆話の1つとして、建込みテロリスト集団に対して「今すぐぶっ潰してやるからな!!」と啖呵を切ったこと。

 

「前に会った時より強くなっているな。やはり『孤人要塞』とやりあったからか?」

「ま、真九郎はいつも格上の奴らばかりと戦うからな。嫌でも強くなるさ」

「それでもあの『孤人要塞』と戦って引き分けまでに持ち越したのは裏世界で有名ですよ」

 

『孤人要塞』と引き分けたと言う結果は本当に裏世界からすれば有名な話なのだ。特に武術家や戦闘家からしてみれば驚く情報である。

紅香やヒュームもその情報は何度も聞き返すほどのものだ。それほど『孤人要塞』との関わりのあるものは有名である。

 

「ま、弟子も少しは強くなったってことだ。それにあの『炎帝』に勝ったしな」

「なんと・・・あの『炎帝』に勝ったのですか!?」

「ああ。本人は1人の力じゃ勝てないから友達に助けてもらったと言っていたがな」

 

これは本当のことである。真九郎1人の力じゃ『炎帝』には勝てなかった。友達の助けによって勝率が五分五分に繰り上げて勝利したのだ。

『孤人要塞』と引き分けたくらい奇跡に近い勝利だろう。

 

「ほう・・・あの『炎帝』にな」

「ああ。自分1人の力の勝利じゃないって言うが勝ったもん勝ちだ」

 

ルール無用の死闘なら卑怯も何も無い。勝利した者が正義で負けた者が悪だ。

 

「それにしても『炎帝』とは・・・武神とはまた違う不死の存在ですよね」

「ああ。正真正銘の化け物だよ。それに賞金首でとんでもない額だ。まあ、狙う奴は返り討ちにされているがな」

「そんな化け物を倒したのが真九郎か・・・あの赤子がこうも強くなるとはな。やはり若者はこうでなくては」

 

クピリと酒を口に含む。

 

「で、『炎帝』である歪空はどうなった?」

「歪空の娘は本国に送還されたよ」

「イギリスか・・・あの歪空はテロリストの元凶。超一級危険集団だから我々も密かに調べている。危険すぎるから深くまでは入り込めないがな」

「ええ。最悪、戦争になってしまいますからね」

 

さすがの九鬼も『歪空』と戦争になったら軽い傷では済まない。むろん九鳳院が相手にしてもだ。裏十三家の筆頭は伊達ではない。

 

「まあ、今『歪空』は一人娘のことで忙しいから面倒な相手はしないだろうがな」

「それでも世界中で『歪空』の影響によりテロが多発している」

 

世界は平和で無い。家柄によりテロを起こすのが仕事の者だっている。だから戦争が起こるのだ。

そこに悪なんて理由は無く、当たり前の仕事だと思われている。世界平和なんて夢のまた夢かもしれない。

 

「ま、今は歪空より川神裏オークションだがな」

 

世界で事件ばかり起こっているが、川神でも事件が起こる。それはもう少し先の話。




読んでくれてありがとうございました。
感想など待っています。

さて、紅香は真九郎に揉め事処理屋の仕事の手伝いという仕事フラグを立てさせました。
そして本来ならば一般人である大和たちに仕事の話を聞かせるなんて事はしませんが、あえて物語的に揉め事処理屋の話を聞いてしまった形にしました。これで大和たちもどんどんと紅側に近づくでしょう。

次回もお楽しみに!!


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工場

こんにちわ。

今回は源さんと川神の探索です!!
真九朗も夜の川神を知ろうと動いています。そして出会う荒くれ者たち。

では、始まります!!


036

親不孝通り。ここは怪しい界隈である。一般の人もあまり近付かない場所だが、中には火遊び目的で集まる若者だっている。

何処の町も怪しいスポットはあるものだ。

 

「ここはあまり近づかねえ方がいいぞ・・・って言いたいが揉め事処理屋のお前なら必要ないか」

 

忠勝は真九郎に川神の危険な場所を教えている。実は真九郎が代行業をしている忠勝から川神の様々なことを教えてほしいと頼んだからだ。

何でも屋ならば川神のちょっとした裏情報も知っていると思ってのことだ。

 

「ううん。助かるよ源くん」

「商売敵に手助けしてるみたいで俺は微妙な気分だがな」

 

愚痴を呟くが表情は穏やかである。商売敵と言っているが、仕事仲間として仲良くした方がお互い良いのだ。

同年代で同じ何でも屋ならお互いに情報交換でもすれば少しは成長する糧になるだろう。

 

「この親不孝通りは最近じゃあ九鬼の連中のおかげで少しはマシになっているが、変な野郎共はまだいるからな」

「まあ・・・どこでも変な人はいるからね」

 

トコトコと親不孝通りを歩くと周囲から視線を感じる。新参者として見られてるのかもしれない。実際にそうだし、気にもしない。

 

「ここらの不良を束ねている奴もいてな。そいつは板垣竜兵って名前だ」

「板垣竜兵ね」

「けっこう危険な奴だ。暴力だけで不良をまとめるくらいだからな」

「なるほど。気をつけるよ」

 

強い不良程度なら真九郎の敵にはならないだろう。戦闘屋と戦って勝利した彼なら不良に負けない。

 

「それにしても何で斬島までいるんだ?」

「それは・・・えと」

「なりゆきです」

 

実は切彦も一緒にいた。案内をされている途中で、いつも通り道の端で見つけたのだ。

 

「島津寮からいつの間にか出ていったかと思えば・・・道の端にいるから驚いたよ」

「地球はわたしの敵です」

「弱点ばかりじゃねえかよ」

 

忠勝は切彦の弱点発言に呆れてしまう。

 

「次は青空闘技場を案内する」

「青空闘技場?」

「川神は荒くれ者が集まる場所だからな。そういう場所はある。それに案外、武術の有名人もたまに参加してるぜ」

 

青空闘技場と聞いてついキリングフロアを思い出す。しかし、さすがに違うだろうと頭を振るう。

あんな醜悪な場所はもう懲り懲りだ。

 

「こっちだ」

 

案内されて数十分後に工場地帯に到着。その中の第51工場に入ると喧しい声が聞こえてきた。

 

「今日は青空闘技場が開催されてる日だ」

「だから喚声が聞こえるのか」

 

工場内の中心部に行くと2人の男が殴り合っていた。正確には1人の男が優勢なので一方的と言うのが正しい。

 

「今、相手の男をノックアウトしたのが板垣竜兵だ」

「彼が板垣竜兵」

 

ここらの不良のまとめ役。長い黒髪をなびかせ、暴力という荒々しさを感じさせる男だ。

 

「おらあっ!! 次はいねえのかああ!!」

 

荒々しく吼える。まるで鎖でも抑えられない野獣のようである。

 

「ったく、詰まんねえぜ」

 

好きな時に暴れられない竜兵は最近では息が詰まりそうであった。唯一の救いは青空闘技場が潰されなかったことだろう。ここでならまだ好きに暴れられるからだ。

 

「今日はもう俺の相手をしてくれる奴はいねえか。あーあ、この猛りを静めてくれる良い男でも探すか」

「おいリュウ」

「あんだ天?」

「そろそろ代われよ。アタシもそろそろ暴れたい」

「いいぜ」

 

今度は赤髪のツインテール少女がリングに上がる。青空闘技場に性別や年齢は関係無い。戦う覚悟があれば参加資格だ。

 

「なぜゴルフクラブ?」

「あいつは板垣三姉妹の1人だ」

 

板垣三姉妹。竜兵の姉や妹だ。実力は相当あるらしい。

 

「オラァ。対戦者上がってこいや!!」

 

とても元気で好戦的な少女のようだ。

すると同じく元気な対戦者がリングに上がって試合が始まる。

 

「うわあ・・・」

 

試合はすぐに決着がついた。勝利したのは天使だ。ゴルフクラブを遠慮なく振るって相手を叩きのめした。

 

「何と言うか。遠慮が無いって言うか・・・」

「けっこう危険な奴らだ。案外有名だぜ」

「そうなんだ」

 

ある程度、青空闘技場を見学したから引き返そうとしたができなかった。

 

「あん・・・って、てめえは!?」

「どーした天?」

「おいそこにいる金髪少女!! 確か・・・斬島切彦!!」

「はい?」

 

天使が切彦を呼び止めたからだ。これには真九郎も立ち止まる。

 

「知り合いなの切彦ちゃん?」

「・・・ゲーセンで会った気がします」

「なるほど」

 

おそらく格闘ゲームの流れだろうと予測する。まさに正解で、切彦は天使をゲーセンで出会っていたのだ。

しかも天使を格闘ゲームで倒したので、彼女からは迷惑な因縁をつけられている。

 

「まさかこんな所で会えるとはな。よっしゃあ、リベンジだ。リングに上がってこい!!」

 

ゲームで負けた腹いせにリアルファイトをするわけではない。天使は切彦の実力を知りたいのだ。

師匠である刑部が切彦と戦うなと念を押されて言われたからだ。ダウナー系な雰囲気の彼女を前に戦うなとは理解できない。

ならば戦って証明するしかないのだ。

 

(何で師匠が戦うなっつってたか理解できねえ。なら確かめてやる。こんな奴に負けるアタシじゃねえ!!)

 

ゴルフクラブを肩に担いで切彦がリングに上がるのを待つ。

 

「切彦ちゃん。無理に戦う必要は・・・」

 

真九郎が止めようとしたが切彦が自らリングへと簡単に跳ぶ。

 

「へへん。ヤル気マンマンじゃん!!」

「・・・ん」

「あん?」

 

取り出したのはバターナイフ。これを見て天使はキレた。

 

「ナメてんのかあああ!!」

「ナメてねえよ。これで充分だ」

「それがナメてるってことだろうが!!」

 

バターナイフとゴルフクラブの勝負だ。

 

「おいおい大丈夫なのかよ」

「危ないかも・・・」

「バターナイフじゃふざけすぎだろ」

「赤髪の子が心配だ」

「そっちかよ!? つーか、は?」

 

普通に考えたらバターナイフでゴルフクラブに勝てるはずはない。だが、使い手によっては勝てると言うべきだろう。

でもどんな使い手でもバターナイフは使わない。

切彦だからこそできるのだ。

 

「いくぞ。オラァァァァァァ!!」

 

天使がフルスイングで切彦を狙う。

しかし、ゴルフクラブが切彦に届くことは無かった。

 

「は?」

 

間違いなく天使は遠慮無くゴルフクラブを振るった。だが手応えは無くて、寧ろいつも持っているゴルフクラブが軽すぎる。それはゴルフクラブが綺麗に切られているからだ。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

なぜゴルフクラブが切断されているのか分からず、声をあげるしかなかった。

 

「何でだ!?」

 

周りの観客たちも分からない。真九郎以外は何が起こったか分からないだろう。

 

「何しやがったてめえ!!」

「切っただけだよ」

「何だと!?」

 

バターナイフでゴルフクラブを切断したなんて誰もが信じられない。

そう思って切断されたゴルフクラブを切彦に投げたが、その後に思いさらされる。

切彦がバターナイフで残りのゴルフクラブを細切れにしたのだ。今度は周りの観客も分かるようにだ。

 

「う、嘘だろ。バターナイフだろアレ」

「シンジラレナイ・・・」

「何者なんだ彼女は!?」

 

観客たちはそれぞれのことを呟く。信じられないと思っているのは天使自身だ。目の前で自慢のゴルフクラブをバターナイフなんかで切断されたのだから。

 

「どーすんだ。give up or challenge?」

「んぐぐ、チャレンジだ!!」

 

武器を無くしたが基礎訓練をおこなっていないので肉弾戦で戦える。

拳と蹴りを繰り出そうとするが、その前に切彦がリングを切断した。

 

「ほえ?」

「give upだろ?」

 

切彦対天使の勝負は切彦の勝利で終わった。観客たちからの歓声が爆発。耳を塞ぐくらいうるさい。

 

「お前・・・何者だよ?」

 

バターナイフをポッケに入れて、のんびりした声で口にする。

 

「斬島切彦。あいむひっとまん」

「あ?」

「また格ゲーしましょう」

 

正直リアルファイトするよりも格闘ゲームをしている方が楽しいものだ。

いきなりの格闘ゲームの誘いに天使はポカーンとする。さっきまでの鋭い殺気は何処えやらって感じだ。

 

「お、おう。今度は負けねえかんな!!」

「ではまた」

 

何事も無くリングから降りる。

 

「よお天。普通に負けてんじゃねえか」

「うるせえ。でも師匠が戦うなって言ってたのが分かったぜ。あの野郎とんでもねえ強さだ。もしかしたら辰姉が覚醒した状態でも勝てるか分からないぜ」

「おいおい、マジかよ」

 

辰子は板垣家の中で切り札とも言える存在。姉弟ならどれくらい強いかは当然分かる。その切り札でも、もしかしたら敵わないと言うのだから信じられないのだ。

 

「だが、あの切れ味は確かにとんでもねえな」

「だろ」

「とんでもねえ女がいるもんだ・・・って、あの女はここらでの代行業をしている源の連れかよ」

 

そして更に忠勝の隣にいる真九郎を見てニヤリとする。それは良い男を見つけたからだ。

 

「おいおい。源の野郎は前から良い男と思っていたが今回は更に追加で良い男がいるじゃねえか。興奮するぜ」

「どこ行くんだよ」

 

己の野獣が起き上がる。自分の野獣を鎮めたい欲求に駆られるためか、足は勝手に動いていた。

 

「よお」

「お前は・・・板垣竜兵」

 

不良の大将がズンズンと近づいてくる。彼からは暴力の雰囲気しか感じない。どんなものも全て力でねじ伏せる存在だ。

 

「お前ら良い男だな。どうだ、もう青空闘技場も閉まる。これから夜の町を一緒に過ごさねえか?」

「え?」

「プククク、気を付けろ。竜はガチホモだかんな。油断してたらすぐ掘られるぜ」

「え・・・」

 

天使がとても怖いことを呟いた。その言葉を何度も頭の中で確認するが、やはり怖いことだった。

 

「そう身構えるなよ。興奮しちまうぜ」

「・・・悪いが俺たちはもう帰る。てめえの相手をしてる暇はねえよ」

 

少しだけ後退する。忠勝は真九郎と切彦を見て、2人だけに聞こえるように呟いた。

 

(俺が合図したら走るぞ)

(分かったよ源くん)

(・・・分かりました)

 

ズンズンと近づいてくる竜兵にサービスで貰っていたドリンクを投げつける。それが合図となって真九郎たちは走り出す。

 

「あ、待てお前らぁ!!」

 

追いかけっこが始まる。捕まれば野獣の相手をする嵌めになるだろう。

それだけは御免被る。真九郎たちは全力で逃げる。

もし、逃げられなければ力でねじ伏せるしかないだらう。




読んでくれてありがとうございました。

ついに不良の大将に目をつけられた真九朗。
イロイロと危険です・・・はい。背後を取られたら最後だなあ

次回は久しぶりに戦いとなります。
頑張って書かなきゃ!!

ではまた次回!!


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暴力の野獣

こんにちわ。
今回は真九朗VS竜平です!!
さあ、勝負はどうなる!?
結果が知りたいなら、物語をどうぞ!!


037

 

 

竜平との追いかけっこだが結果的に言えば逃げられなかった。普通に出口に向かっては先回りされると予想して入り組んだ工場内を走り回って攪乱しようとしたが意味は無かった。

なぜなら竜平の方は此方より地の利を知っていたからだ。流石はここらの元締めと言うべきだろう。このゴチャゴチャした工場地帯をよく知り尽くしている。

 

「やっと追い詰めたぜ。源、お前もここらの地を知っているみたいだがよ。俺様の方は詳しいんだぜ」

 

やはり地の利を知っている方が追いかけっこに負けてしまう。目の前には猛る野獣。もう力づくでねじ伏せるしか道が無くなった。

 

「女は興味ねえから帰っていいぜ。用があるのはそこの2人だからな。へへっ!!」

 

背筋がゾッとした。これには絶対に無事で帰らないといけないと決心。

 

「俺が戦うよ。これでも揉め事処理屋だから悪漢くらい相手にできる」

「おい紅」

「大丈夫だから」

 

2人を守るように前に出る。相手はここらの不良の大将だが勝負してもそう簡単に負けない。状況を整理する真九郎は拳を構える。

板垣竜平は不良。実力は青空闘技場で見た限り我流で喧嘩殺法のような戦いをする者。力だけならそこらの武術家より上だろう。

特別な武器を持っているような気配は無く、己の暴力だけで相手を叩き潰す男と判断。負ければ自分の貞操が終わり。負けたくない相手。

 

「すう・・・ふぅ」

 

息を軽く吸って吐く。戦う準備は完了。

 

「来いよ不良の大将」

「生きが良いじゃねえか!!」

 

板垣竜平も拳を構える。

 

「板垣家長男。板垣竜平」

「俺は揉め事処理屋の紅真九郎だ」

 

お互いに走り出し、お互いの拳を突き出した。

鈍い音が響くが、結果は拳同士が合わさっていた。どちらも引かずに拳の押し合いである。

 

(やっぱり強い・・・不良だけど力だけはあるな)

(何だこいつ。華奢なくせに力があるじゃねえか)

 

お互いに力があると思い至る。

次の一手は竜平の腕を掴み、足を掃って投げ飛ばす。背中からドシャアと叩きつけたが相手も頑丈だ。この程度でくたばるはずも無い。

だから追撃を行なった。手刀を作って喉を狙い、足を鞭のように蹴り上げて金的を狙った。その二撃は容赦の無い攻撃。

 

「うおおっと!?」

 

決まれば終わったはずだが相手も簡単には倒されてくれないようだ。相手は川神の不良どもを力だけで倒してまとめ上げた存在。

きっとルール無用の戦いに慣れているのかもしれない。ならば竜平も急所対策はある程度してあるのだろう。

 

「ほう・・・容赦無く人間の急所を潰しにきたか。いいぜ。その容赦の無さが気に入った!!」

「気に入られてもな」

「おらあ!!」

「ぐ!!」

 

いきなり殴りかかってきても両腕で受け止める。ビリビリと痛みが伝わるが戦闘屋に比べれば軽いものだ。

思い出せ。絶奈の『要塞砲』を、夕乃のキツイ稽古を、昔味わった血反吐を吐く崩月の稽古を思い出せ。それらに比べれば痛くも痒くも無いはずだ。

 

「はあっ!!」

「何っ!?」

 

殴られても踏み止まり、固く握りしめた拳を竜平の顔面に容赦無く突き出した。

 

「ぐおお・・・!?」

「寝てろ」

 

両手で顔を抑えている竜平に回し蹴りを繰り出し工場のゴチャゴチャした方向へと追いやった。

ガジャアン!!っとパイプやらの機材に埋まり、這い出てくる様子が無い。どうやら気絶したようだ。むろん、相手の意識を刈り取るつもりで回し蹴りをした。

 

「・・・どうやら勝ったみたいだな」

「源くん」

「お兄さんのうぃん」

 

勝ったがウカウカもしていられない。もしかしたらすぐに起き上がってくるかもしれないからだ。

急いでその場から立ち去る真九郎たちであった。

その数十分後。天使が真九郎と竜平が戦った場所を訪れる。

 

「おーい生きてるかリュウ~?」

 

ガラガラとパイプやら機材やらから這い出てくる。

 

「生きてるに決まってんだろ」

「何だよリュウだって負けたじゃん。キャハハハハ!!」

「うるせえ。・・・ったく痛ってえぜ」

 

顔をガシガシと擦り、首をゴキゴキと鳴らす。

本当に容赦の無い攻撃だった。確実に叩き潰すといった拳に蹴り。今まで戦ったものよりもゾクゾクと感じた感覚。

そのゾクゾクは今まで戦ってきたどの男よりも一番クるものだ。リベンジしてやると強く思うのであった。

 

「ヤベえな・・・今までのどの男よりも最高だぜ。必ず壊してやる。必ず食らってやるぜ」

「うわー。あの男もご愁傷さま」

「ククッ・・・ハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

リベンジに燃える大きな笑いが工場に響くのであった。

 

「もったいないなあ。あの男けっこうカッコイイのに。リュウに狙われたら壊されちまうなー」

 

 

038

 

 

息を切らしながら工場地帯から何とかにげてきた真九郎たち。切彦はそこまで恐くなかったが、男2人にとっては恐怖以外の何物でもなかったのだ。

 

「ここまで来れば大丈夫だろ」

「そ、そうだね」

 

荒くなった息を整えるために深呼吸。これで大分落ち着くことができる。

できればもう会いたくないが、川神にいる限り再度会う可能性はあるだろう。ゾッとしてしまう予感しかない。

 

「嫌な野郎に目を付けられたな。でも、お前の強さなら大丈夫だろ。流石は揉め事処理屋ってとこだな」

「荒事には慣れてるからね」

 

軽く笑いながら先程の恐怖を吹き飛ばす。恐怖と言ってもある意味怖いものだが。

 

「喉乾いただろ。ほれ」

「ありがとう源くん」

「ありがとです」

 

忠勝から缶コーヒーを貰い一口飲む。

疲れた体に透き通るように甘味と苦味が充満する。

ふと、真九郎は切彦が猫舌だと思い出す。この缶コーヒーがホットなら「あひゅい」と言い出しそうだ。実際はコールドなので小動物のようにコクコクと飲んでいる。

 

「つめたいです」

「そりゃあコールドだからな」

 

喉が相当乾いていたのか忠勝は一気に飲み干した。同じく真九郎も一気に飲み干す。

 

「それにしても紅は本当に強いな。流石は揉め事処理屋の最高峰の弟子」

「紅香さんを知ってるの?」

「まあな。それにオヤジがファンなんだよ」

「流石は紅香さんだ」

 

あるBarのバーテンダーを思い出す。彼もまた紅香のファンだった。彼女の活躍を知る者は全員ファンかもしれない。

そのことを言えば彼女は「当然だな」と余裕で言いそうだ。

真九郎も紅香を尊敬しているのでファンではある。

 

(やっば紅香さんは凄いな。俺もまだまだ未熟ってことだよな)

「俺はあんまり柔沢紅香のことを知らねえがオヤジが言うにはとんでもないヤツらしいな」

「うん。とんでもない人だよ」

 

本当にとんでもない人である。だからこそ業界内で最高峰なんて呼ばれるのだろう。しかし真九郎だって負けていない。彼は自覚していないかもしれないが、去年の事件の数々は目を見張るものばかりだ。

 

「紅には強さの秘訣ってのがあるのか?」

「強さの秘訣か・・・血反吐を吐くくらいの修行かな」

 

キツイ過去を思い出す。崩月の修業は本当に常軌を逸していた。それを耐え抜いたからこそ得られた力だ。

 

「でも俺にとって力は二の次なんだよ」

「どういうことだ?」

「揉め事処理屋は強さや勝ち負けの先を見ているからさ」

 

真九郎も最初は生きるために強さばかり求めていた。しかし紅香のアドバイスで力だけが全てではないと気づいたのだ。

 

「先を見る。勝ち負けだけじゃ無い。俺ら揉め事処理屋は相手をどう救うかが大事なんだよ」

「・・・そうか」

 

強さや勝ち負けだけじゃ駄目なのだ。確かに必要な要素だが、それだけじゃ全て解決できるとは限らない。

揉め事処理屋の仕事で真九郎は様々な人を救ってきた。しかし、その過程で人に恨まれることもあっただろう。

その一例が『歪空』の事件だ。確かに罪を被されそうになった少女を救うことはできた。しかし、魅空の友人たちには恨みを買われたのだ。彼女たちには真実を教えることはできない。だから真九郎は進んで恨みを買った。

真実でいつも人を救えるとは限らない。嘘でも人を救える時もあるのだ。

世界はいつも残酷である。銀子が言っていた。「神様がいるから、この世界はまだこの程度なの」と。まさにそうかもしれない。

 

「紅はどこか大人びてるな。いや、悟ってる感じだぜ」

「そうかな?」

「ああ。俺らよりも見ている世界が違うような気がする」

 

川神が力で解決できる地域ってのもあるかもしれないが、忠勝は真九郎の強さや精神に何かを感じる。

 

「俺は強く無いよ」

「謙虚過ぎると嫌味になるぞ」

「本当だよ。俺は臆病で皆がいないと駄目なんだ」

 

真九郎は1人でも揉め事を解決してきた。だから弱いなんてことは無い。しかし、いざと言うときは仲間にいつも助けてもらったからこそ解決できた事もある。

周りに紫や夕乃、銀子たちがいるから真九郎は強くなれるのだ。

 

「俺が強いのは皆のおかげさ」

 

特に紫の前では強者でいることは絶対に守っている。彼女の前だけはヒーローでいるのだ。どんな悪や困難が襲ってきようと最後は全て解決するヒーローのように。

 

「やっぱ紅は強いよ」

「源くんだって。何だかんだで直江くんや川神さんたちのことを心配して助けてる。それも強さだよ」

「・・・けっ、なんの事だかな」

 

一緒に飲み干した缶をゴミ箱に投げ捨てる。そして、お互いに微笑していた。

 

「さて、帰るか」

「そうだね」

「眠いです」

 

切彦はもう眠そうだ。真九郎は背中を向けて背負う。

彼女は頬を赤くしながら真九郎におぶさる。

 

「斬島も信じられないな。これがああなるとは」

「斬彦ちゃんは強いけど、本当は可愛い女の子だよ」

「・・・うみゅう」

 

3人は島津寮へと帰る。少し濃い夜だったが、あとはゆっくり帰るだけだ。

月の光が暗い夜を照らす。




読んでくれてありがとうございました。
感想など待っています。

真九朗VS竜平の戦いは真九朗の勝利でした。
お互いに本気の本気の戦いじゃありませんでしたが、経験の差で真九朗の勝利ですね。

そして真九朗は源さんと夜の道で語り合いました。友情ですね。
でも最後は切彦ちゃんの可愛さで全て持っていかれました。

では、次回もお楽しみに!!


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明け

こんにちわ。
日常パートです!!
こんな日常もたまにはあります。

では物語をどうぞ!!


039

 

 

土曜日の昼前。この時間帯は腹がそろそろ減る時間だ。特に食欲旺盛の学生たちにとってもう空腹になるかもしれない。

その1人が翔一である。

 

「あー、腹が減った」

「そろそろ昼時だからな。俺も小腹が減ってきた」

「大和~何か作ってくれ」

「俺は料理作れない」

「同じく。俺は食べる専門!!」

 

料理を作れない男が2人揃っても意味は無い。ただただ時間が過ぎて、腹が減るだけだ。

 

「誰か作れる奴は居ないのか。源さんとか」

「我らが愛する源さんは宇佐美先生の所にいるから駄目だ」

「帰ってきてくれ源さん~」

 

料理を作れる由紀江はクラスの友達である伊予と出掛けているの今は居ない。京は激辛料理なので選択として外される。そもそも新刊の本を買いに行っているので島津寮に不在。そしてクリスは論外。

 

「駄目か・・・真九郎、崩月先輩や村上さんは?」

「さすがに図々しいだろ」

「でも、このままじゃ餓死するのは俺らだぞう」

「そもそも崩月先輩は出掛けてるし、村上さんは部屋から出ていないから分からない。そして紅くんは昨日の夜遅くまでと源さんと仕事の手伝いをしてたから寝てる」

 

腹がぐううっと鳴る。

 

「・・・うーん。クリスに頼んで村上さんに作ってもらうか?」

「作ってくれるか分からないけどな」

「それは無理だと思うぞ」

 

好きな大河ドラマを見ながらクリスが会話に加わる。彼女もまた小腹が空いてきたのだ。

 

「何でだクリス?」

「銀子殿は今部屋で資料作りのバイトで忙しいみたいだ。私がオススメする大河ドラマを一緒に見ようと誘ったら忙しくて断られてしまったからな」

 

ならば銀子はバイトが終わるまで下に降りてこないだろう。これでは料理を作ってもらうという選択肢は消えた。

 

「どうするか~」

「真九朗殿は?」

「紅くんは昨日の夜遅くまで源さんの手伝いをしていたから寝てる」

 

真九朗に作ってもらう選択肢も厳しい。でも昼時になるから、もしかしたら起きてくれるかもしれない。

 

「・・・起きているかもしれないから静かに見てみるか」

 

椅子から立ち上がったと同時に誰かが近づいてきた。タイミングが良いとしか言えない。ちょうど噂をしていた真九朗である。

 

「待ってたぜ真九朗!!」

「え、待ってたって何かな翔一くん?」

「腹減ったあ!!」

「何となく察したよ」

 

腹の鳴る音で全てを理解する。

皆がお腹を空かしているのだ。そして誰か料理が作れる人を待っていた。

 

「真九朗殿は確か料理を作れるんだったな。作ってはくれないだろうか?」

「いいよ」

 

夕乃に英才教育をされた真九朗は女性の頼みを断らない。今すぐ料理を作り始める。

 

「紅くん。基本的に冷蔵庫の中身は使っても大丈夫だよ」

「分かったよ直江くん」

 

献立は卵丼に決定。そして汁物。

だし汁、砂糖、酒、みりん、醤油などで煮汁を作り、それを玉ねぎと一緒に大きめのフライパンに投入。一煮立ちさせてから溶いた卵と刻んだかまぼこを加える。そして決め手に上から三つ葉を散らしてしばらく待つ。

いい具合に火が通るのを待つ間は汁物に取り掛かる。お椀に鶏ガラのだしと擦ったしょうがを投入。そしてお湯を注げば簡単なしょうがの汁物が完成だ。

 

「そろそろ火が通ったかな」

 

フライパンの卵を均等に分けてご飯に盛りつける。そうすれば卵丼の完成だ。

 

「出来たよ」

「おお、旨そうだ!!」

 

パクパクと食べていくクリスたち。味の感想は「美味い!!」の一言。翔一はガツガツとかきこんでいる。

 

「美味い。空きっ腹だったから更に美味く感じるぜ!!」

「ありがとう」

「自己紹介でも言ってたけど紅くんは料理ができるんだ」

「うん。これでも一人暮らしをしてるからさ」

 

五月雨荘で鍛えた家事全般能力は高いのだ。正確には環と闇絵に鍛えられたと言っても過言ではない。

 

「真九郎殿の料理は美味いな~もぐもぐ」

 

クリスが本当に幸せそうに食べている。やっぱり自分が作った料理を美味しく食べてもらうのは嬉しいものだ。

 

「真九朗殿はよく誰かに料理を作ってたりしてるのか?」

「まあ、しょっちゅうかな」

 

いつのまにか部屋に入り込んでいる環と闇絵に御飯をねだられている。毎回ねだられているので誰かによく作っているのは当てはまる。

 

「本当に美味いな」

「夕乃さんほどじゃないけどね」

「それでもすごいよ。俺なんか何も作れないしね」

「俺はカップ麺なら作れる!!」

「それ料理じゃないだろ」

 

ボケとツッコミにかるく笑う真九朗たち。こんな青春も悪くない一時だ。

 

「ところで紅くんは何かツマミとかって作れる?」

「まあ、簡単なものなら作れるよ」

「じゃあ今度作ってくれないかな。もちろんタダじゃないよ」

「ツマミくらいならタダで大丈夫だよ」

「それはありがとう」

 

お盆に玉子丼と汁物を乗せる。これは銀子の分だ。これをクリスに持っていってもらう。自分で持っていきたいが女子部屋は入ることが禁止なので仕方ない。

 

「任されたぞ」

「うん。お願い」

 

銀子も美味しく食べてくれると嬉しいなと思うのであった。

 

 

040

 

 

村上銀子の部屋。

特に拘りが無くて簡素な内装だ。そもそも交換留学中だけしか住まないので凝った内装にしても意味は無いと思っている。

部屋の主である銀子はパソコンのキーボードを素早くカタカタと打ち込み終える。ちょうど情報屋としての仕事を終えたのだ。

 

「これで良し」

 

トントン。

ドアをノックする音が聞こえる。

 

「空いてるわ」

「失礼するぞ銀子殿」

 

クリスが玉子丼を持って入ってくる。そういえばもう昼時である。昼食の時間だと思い至る。

 

「昼食だぞ銀子殿。この玉子丼は真九朗殿が作ったものだ!!」

「そう。ありがとね」

「しかし真九朗は料理が上手いのだな。凄いぞ」

「まあ、あいつは五月雨荘で無駄に鍛えてるからね」

 

たまに五月雨荘で集まって皆で食べる食事を思い出す。ごちゃごちゃとした食事会だ。おもに環が原因なのだが。

 

(それにしてもクリスさんか。たしかドイツ軍のフランク中将の娘。そして2Sにいるマルギッテさんの妹分ね)

 

銀子は自分の持つ情報収集能力で川神学園のことを調べていた。もちろん学生から教師まで。だからクリスのことがある程度分かる。

 

(まあ九鬼とかは相手をすると面倒だから深くは調べられないけどね)

 

流石に九鬼財閥までは相手にできない。相手にしようと思えばできるがリスクが高いため平気な程度しか調べていないのだ。

 

(調べてたら九鬼のシークレットがパンドラボックスとか出てきたけど・・・これは罠よね。機密情報なら調べて簡単に出てくるはずがない)

「銀子殿?」

「ああ、ご免なさい。考え事をしていたわ」

 

九鬼を相手するのも面倒だが、クリスのバッグにいるドイツ軍も面倒だ。彼女の性格から進んで相手をすることなんて無いが。

 

(確かマルギッテさんは猟犬部隊のリーダー。特に選りすぐりのメンバーをまとめてるのよね)

 

川神学園に軍の関係者がいる。やはり驚きだ。自分たちの方も人の事は言えないかもしれないけれども。

 

「なあ銀子殿。午後から暇なら一緒にオススメの大河ドラマを見ないか!!」

「大河ドラマか。良いわよ。私も一緒に見て良いかしら?」

「勿論だとも!!」

 

クリスの無垢な笑顔を見ていたら難しい事なんて吹き飛ぶ。今は交換留学中だ。何でもかんでも情報屋として接するのは疲れるだけだろう。

 

(それに川神学園には水上体育祭と言う行事があるみたいね。それでも聞いてみようかしら)

 

学園の行事を聞くなんて、なんとも学生らしいだろう。これもまた日常である。

大河ドラマを見るために下に降りるとマルギッテが訪問していた。訪問理由は簡単。クリスに会いに来たという一点それだけだ。

 

「クリスお嬢様!!」

「おおーマルさん!!」

 

ヒシッと抱き付くクリス。どこからどう見てもお姉さん大好きっ子だ。そしてマルギッテが持っているケーキに超反応するのであった。

 

「クリスお嬢様のために買ってきました。そしてあなた方の分もあります」

「みんなで食べよう!!」

「ありがとうございます」

 

銀子が心の中で気にしていたドイツ軍人が来た。今は川神学園を大人しく過ごそうと思っていた矢先がこれである。

どうやら今の流れはまだ大人しく過ごすものではないらしい。人知れずに心の中でため息を吐いてしまった。

 

「今紅茶を用意しますね」

 

真九朗はすぐさま紅茶を用意してブレイクタイム。マルギッテの買ってきたケーキも人数分に分け与える。そして話の内容は水上体育祭の話だ。

 

「え、川神学園には海で体育祭をするんだ」

「そうなんだよ。うちの学園長は様々な行事を考えて実行する持ち主なんだ」

 

海で体育祭とは珍しい。しかも競技は他の学園と違って豊富である。内容は多少物騒だが武術が盛んと言う点のせいでもあるだろう。

 

「んでもって学園長はよく自分で考えたわけの分からない競技を出すぞ」

「訳の分からない?」

「ああ。学園長は何でもどうでも良いことを考えてる。しかも本人は超真面目」

「川神学園の学園長って・・・」

「まあ村上さんの言いたいことは分かるよ」

 

去年の水上体育祭を思い出す大和は今年はどんな変な競技が出されるか不安しかなかった。

 

「自分はどんな競技でも全力だぞ」

「さすがクリスお嬢様です。私も負けていられませんね」

「自分も負けないぞ!!」

 

本当に姉妹ように見える。仲が良いの素晴らしいことだ。夕乃と散鶴のように仲が良い。

 

(ちーちゃん元気かな)

 

夕乃の妹である散鶴を思い浮かべる。今度また会いに行くのも良いだろう。

 

「マルさんは強いからな。手加減無しだ!!」

「私も手加減しませんよクリスお嬢様。どんな競技も猟犬部隊のリーダーとして恥の無いようにします」

「猟犬部隊?」

「ああ。マルさんはドイツ軍人で猟犬部隊と言う特別部隊に所属して隊長なんだ!!」

「へえ。軍人か」

「特別部隊ってカッコイイよな。どんなんだ。教えてくれい!!」

 

翔一は堂々を教えてほしいと口を開く。彼の性格上気になったら聞くのは仕方ない。

 

「おいおいドイツの機密情報だぞ。教えてやれないぞ」

「じゃあ俺の秘蔵のプリンをやろう」

「わあ、プリンだ!!」

 

プリンに目が暗み、ペラペラと猟犬部隊をしゃべってしまう。

 

「お、お嬢様!?」

 

「チョロイ」なんて思ったのはマルギッテとクリス以外が思ったことであった。

 

「安心しろマルさん。流石に自分だってプリンで全て話すことはしない。話すのは言っても全然平気なくらいだ。それに今話したのはどうせ調べれば分かることだしな」

 

確かに聞いたのは隊長や副隊長とかのくらいだ。そしてクリスがよく仲良くしてもらっている猟犬部隊のメンバーの紹介。

これくらいならば聞いたところで差し支えない。そもそもクリスの言う通り調べればどうせ分かる情報だろう。

 

「猟犬部隊のメンバーは全員美人だな」

「ああ。猟犬部隊は美人揃いだ!!」

「皆、自慢の仲間です」

「それにマルさんが率いる猟犬部隊は仕事の成功率100%だ!!」

「当然です!!」

 

ドイツの猟犬部隊はおこ数年で有名になった部隊。軍事関係では名を知らぬ者はいないほどだ。

特にマルギッテが選りすぐりのメンバーを集めているので強さも最高レベルだ。

 

「でもマルさんの猟犬部隊でも危なかったことはあったんだ。その時は凄く心配したんだぞ」

「その説は申し訳ありません。クリスお嬢様にとても心配させてしまいました」

「でも過去の話だ。今はマルさんが近くに居てくれて嬉しいぞ!!」

「お嬢様・・・」

 

本当に仲が良い。

 

「でもマルギッテさん程の実力者が危なかったほどの任務って何だ?」

 

翔一や大和は素朴な疑問を抱く。彼らはマルギッテの実力を知っている。だからこそ気になるのだ。

軍の任務なんて確かに危険なものしかないが、彼女の実力からは気になってしまう。

 

「テロリストの制圧時だな。あの時は大きな任務であって、予想外なことも起こった」

 

マルギッテも既に終わった任務なので差し支えない程に話す。

 

「まず制圧したテロリスト自体が厄介だったな。そのテロリストグループはある組織をバックに援助してもらっていたため任務レベル高かった」

「ああ・・・確かユガミソラって言ったけ?」

「そうですお嬢様。『歪空』です」

 

テロリストと聞いて、まさかだとは思ったが『歪空』と言う単語が出てきた。

『歪空』は代々テロリストの家系だ。本家はイギリスに移住している。そして今なお健在だ。ならば世界中で起きているテロ事件に関わっている可能性は高い。

ドイツ軍人であるクリスやマルギッテが知っていてもおかしくない情報だろう。

 

(歪空か)

「ユガミソラ・・・何だそりゃ?」

「学生であるあなた方は知らなくて良いことです。とりあえず大きなテロ組織のようなものです」

 

その大きなテロ組織の1人娘と死闘した真九朗は取りあえず黙っておく。言ったら面倒だろう。

 

「任務自体はレベルが高かったが成功しました」

 

だからこそマルギッテがここにいる。それが証拠だ。

 

「しかし、その後が予想外の問題が起きたのです。不幸な事故とも言うべきしょう」

 

起きた不幸な事故とは猟犬部隊とは別にテロリストを制圧していた者との戦闘だ。戦場では起こってしまう不幸な事故の1つ。

普通ならばマルギッテたちが起こすようなミスでは無いが相手が相手と言うべきだろう。

何故なら、戦場のド真ん中で赤髪の女性がたった1人でテロリストグループを壊滅させたのだから。

 

「たった1人ぃ!?」

「ああ。たった1人で別のテロリストグループを潰していた。しかも酷すぎる戦場となっていた」

 

たった1人でテロリストグループを壊滅させるなんて翔一からしてみれば武神である百代くらいしか思えなかった。

 

「おいおいモモ先輩かよ」

「もちろん武神では無かった。だが今思えば、彼女は武神並みかもしれんな」

 

不幸な戦闘を思い出すマルギッテ。結果を言えば猟犬部隊の敗北だった。正直アレは死を覚悟したものだ。

自慢のトンファーを叩き折られ、信頼する仲間の攻撃も効かない。奇策を講じても相手の理不尽なまでの暴力で叩き潰された。

敗北はしたが不幸な事故と相手が気付き、勝手に撤退していった。何でも依頼以上の仕事はしないとのこと。

 

「武神は不死身と聞きますが、彼女も不死身かもしれん。なにせ攻撃が全く効かったからな」

「おいおいマジか」

「ああ。銃も刃も通さない肉体。全てを砕くような打撃だったからな」

「モモ先輩じゃねえか」

 

弾丸が頭に当たっても貫通せず、跳ね返った。ナイフで斬りつけたが一ミリも切れない。そんな現実を見てしまえば人間ではなく化け物と思うだろう。

それを聞いて翔一はますます「やっぱモモ先輩じゃん」と言う。

 

「世界にはモモ先輩なのがいるんだなー」

(武神並みか・・・正直不気味さで言えば『孤人要塞』の方が)

 

日常を過ごしていたらまさかの話が出る。どうやら川神にはいろいろとあるようだ。

良くも悪くも。真九朗は川神で普通の青春は過ごせないかもしれないと密かに思った。どうしてこうも自分の関わりのある話が自然に出るのだろうと。

 




読んでくれてありがとうございます。
感想などあればジャンジャンください。

今回はそのまま日常パートでした。
自分で書いてて卵丼が食べたくなりましたね。親子丼でも可!!

そして軍事関係のクリスやマルギッテなら『歪空』を少しは知っていてもおかしくないと思って少しだけ関係性を出しました。
そしてマルギッテと猟犬部隊に関しては星噛絶奈と不幸な事故というエピソードも組み込みました。可能性としてはあると思うんですよね。原作でも依頼が重なるなんてこともありましたし。
星噛絶奈自身はデスクワークが多いって言ってましたが、たまに仕事で戦場に行くいこともあるので違和感は無いと思います。
マルギッテや猟犬部隊は強いですが、やはり星噛絶奈となると厳しいでしょうね。


ではまた次回!!


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源氏物語 だらけ部

こんにちわ。
連続更新です!!

今回から真九朗は弁慶ルートの物語に関わります。
どうやって関わり合うかは頑張って書いていこうと思います!!

では始まります!!


041

 

 

大和に弁慶、巨人は空室でだらけていた。彼らは非公式の『だらけ部』に所属しているメンバーだ。

所属できる資格はただ1つ。だらける才能があるかどうか。それだけである。だらけるのに才能なんて必要無いが。

 

「あー・・・だらけるのって最高」

「弁慶はいつもだらけてる気がする」

「そんなこと無いよ先生。私はこれでも真面目だよ~」

 

だらける雰囲気で会話するが、そこにツマミである生うにを差し出す。

 

「おいおい。生うに持ってくる学生がどこにいんだよ」

「不死川心とか?」

「ああ・・・。寂しいやつか。今度オジサンが相談してあげるか」

 

生うにをツマミに川神水を飲む。そして会話はダラダラしながら続ける。内容は弁慶や義経の幼い頃の話だ。

話を聞いていて昔から川神水を飲んでいる子だったらしい。するとトットットットと足音が聞こえた。予想するに2人分。

大和たちは無視して寝たふりをするのであった。そして扉が開かれる。

 

「やっぱりここにいやがったなオヤジ!!」

「げ、源さん!!違うんだ。これは寝たふりしてたわけじゃないんだ!!」

「何言ってんだ直江?」

「ここにいたんだね直江くん」

「あれ、紅くんまで?」

 

ここで忠勝の有り難い説教が始まる。全て正論で優しく説教するので大和たちは否定もできない。

忠勝の言い分は代行業の仕事に影響が響いているからだ。巨人がサボっているのを注意している。今は稼ぎ時だから今のうちにどう捌くか決めなければならない。

大和にはだらけて生活に支障が出ないように注意する。弁慶には義経が頑張っているから迷惑かけないようにしろとのこと。全て否定できない。3人は「はい」と返事するしかない。

 

「ったく活気がねえな。これでも食って元気だせ」

 

差し入れを出してくれる。やはり忠勝は優しい。

 

「じゃあな。溜まってる仕事は俺らで捌いとくからオヤジもサボるなよ」

「はい・・・」

 

真面目な息子で嬉しいが少しはサボりたい本音もあるのであった。

 

「で、俺だけど」

「紅くんはどうしたの?」

「ほら、直江くんが前にツマミを作ってくれって言ったでしょ。それがこれ」

 

パカリと箱を開けると中にはチクワ。ただしただのチクワでは無い。中身にタラコやらキュウリや入れてあるアレンジチクワだ。

環にも酒のツマミを作ったこともあったので作れるには作れるのだ。一応、他にもナムルもある。

 

「おおー。ありがとう紅くん!!」

「こ、これは・・・チクワソムリエとして見過ごせない!!」

「じゃあどうぞ弁慶さん」

 

弁慶を筆頭に大和と巨人もご相伴に預かる。モグモグと食べる。

 

「う、美味い!!」

 

全員が美味いと言ってくれて真九朗は笑顔になる。やはり自分が作った物を美味しいと言ってくれると嬉しいものだ。

 

「うん美味い。紅くんって料理上手なんだ。毎日ツマミを作って欲しいな~」

「まあ、時間がある時なら良いよ」

「え、本当。冗談で言ったのに」

「良いよ。でもさっき言った通り時間がある時ね」

「へえ・・・」

 

夕乃の英才教育の賜物で女性からの頼みはすぐに受ける。これは彼の良い所でもあるし悪い所だ。

女性だからと言って全て引き受けるのは考えものだ。銀子にもよく注意される。でも脳髄まで刻み込まれた英才教育はどうしようもない。

 

「紅くんって良い男だね。川神水飲む?」

「今は遠慮しとくよ」

「そっか。ねえ真九朗って呼んでいいかな?」

「良いよ弁慶さん」

 

全て二つ返事で了承。

 

「へえ。主が気に入っているのが何となく分かった気がする」

「主って義経さんのこと?」

「そうだよ~」

 

義経に気に入られているとは不思議だ。理由を聞くと梅屋での強盗事件の一件で気に入ったらしい。

危険にも関わらずナイフを掴み取った真九朗の勇士にとても気に入ったとのこと。川神だと案外誰でも実行しそうな感じだが義経の中では彼が初めてであった。

 

「主はよく家で真九朗の話をしているよ。なんか気に入ったみたい」

「そ、そうなんだ」

「うん。それに紋白だって気に入ってるし。今度遊びにおいでよ。絶対に歓迎されるよ」

「まあ、紋白ちゃんにもいつでも遊びに来てくれって言われてるし、近いうちに遊びに行くよ」

 

知らない所で評価が上がっていてどうリアクションすればよいか分からないが謙虚な感じで通した。

 

 

042

 

 

次の日。

真九朗は代行業の手伝いをしていた。なんでも仕事の依頼が多すぎて助っ人が欲しいとのことだ。

それに代行業のメンバーの1人がヒクイドリの捕獲時に負傷したらしい。これを聞いて驚きだ。

 

「何故ヒクイドリ・・・」

「川神には怖い者知らずがいるんだよ」

 

揉め事処理屋としての依頼では無いがこれも1つのパイプ作りだろう。もしかしたら代行業にも解決出来ない仕事が来たとして揉め事処理屋に流してくれるかもしれない。

そんな予想を立てて、今のうちに代行業の忠勝たちと連携をとっておいても良しだからだ。

 

「今日のノルマ分はこなせたかな」

「いや、それ以上だ。助かったぜ紅」

「さすが真九朗くん!!」

 

今、真九朗は忠勝と義経で代行業の仕事をノルマ以上にこなしていた。依頼はペット探しやストーカー退治、草むしりと様々だ。

案外揉め事処理屋と同じようなことをしているので難しいことは無かった。正直久しぶりに多くの仕事をこなしたのに実感がある。

 

(仕事の依頼がなかなか無いからな・・・)

 

忠勝が仕事している代行業の依頼の多さに若干羨ましくなってしまうのであった。

 

「さて、今日はありがとな。お礼は弾むぜ」

「うん。ありがとう」

「なら義経は弁慶の手伝い先に行くよ。メールで頑張っているって来たんだ。これは見に行かねば!!」

「過保護だな。これは与一も過保護だって呟くはずだ」

 

奢りのジュースを貰って忠勝と別れる。真九朗は義経と共に弁慶のバイト先へと向かうのであった。

 

「一緒に来てもらってすまない真九朗くん」

「いいよこれくらい。夜は危ないからさ」

「義経は強いから大丈夫だぞ」

「ははは。かもね」

 

夜の海辺を歩く男女。見ようによってはカップルだ。2人とも案外鈍感なので気付かないが。

もしこの光景を夕乃が見たら問い詰められるだろう。しかし居ないので助かった真九朗である。

 

「それにしても真九朗くんは仕事慣れしているんだな。どの依頼も頑張ってこなしていたな」

「揉め事処理屋でも様々な仕事をするからね。代行業の仕事も普段通りにできたよ。それに一番頑張っていたのは義経ちゃんだよ」

「そ、そうかな?」

「そうだよ。義経ちゃんは学校でもバイトでも頑張っている。凄いよ」

「えへへ。そうかな」

 

テレテレしてしまう義経。褒められれば照れてしまうのは仕方ないだろう。

誰だって褒められれば嬉しいものだ。

 

「でも、頑張りすぎはダメだよ。無理しないこと」

「うん。分かっている」

 

無理をしすぎない。その言葉は真九朗にも当てはまるがここは気にしないことにする。

 

(それにしても真九朗くんってどこかお兄ちゃんみたいだなあ)

 

どこか兄に憧れる目で見る義経に真九朗は疑問符。それに気づくのはもう少し先である。

 

「そろそろ弁慶がバイトをしているBarに到着だな・・・ってあれは弁慶!?」

 

目の前には弁慶が白いコートを着た奴らと戦っていた。これは助けなければっと思って動こうとしたが必要無さそうだ。

彼女はたった1人で白いコートの奴らをぶちのめしていた。「強い」と一言呟いてしまう。手に持っている獲物はモップのようだが、それでも錫杖のように振り回して戦っている。

それから数分で敵を全て倒し切った。「お見事!!」と2人で呟いてしまう。

 

「さすが弁慶だ!!」

「強いですね弁慶さん」

「あれ、主に真九朗じゃないか」

「本当だ。義経さんに紅くんまで」

「直江くんまで。大丈夫だった?」

 

結果は見ての通り全然大丈夫である。そしてパチパチと誰かが拍手をしながら近づいてきた。

 

「よう悪いな試すような真似して。俺はぁ鍋島だ。天神館の館長だ」

 

西の武闘学園である天神館の館長の鍋島。どうやら噂のクローンの実力をい見たかったらしく、気で作り上げた人形をけしかけたらしい。

なんとも茶目っ気のあるオジサンである。けしかけられた弁慶側からしてみれば迷惑極まりない。

 

「悪かったな。そのお詫びと言っちゃなんだがそこBarで飲んでいくぜ」

(なんとも豪快なオジサンだ)

 

真九朗は通り魔のようなことをした学園長に冷や汗を垂らしてしまう。

いつから学園の長は相手を試すために人を襲うのだろう。世の中はどうやら真九朗の知らないところで歪んでしまったようだ。

大和たちからしてみれば日常の1つだが真九朗にとっては非日常。そもそもお互いに日常から外れた日常を送っているのでどっちも歪んでいるのかもしれないが。

 

(弁慶に義経・・・そしてこの小僧はうちの石田を追い詰めた奴だったな。確か直江大和と言って、策略に長ける)

 

鍋島は東西交流戦で活躍していた直江を覚えていた。何も武術だけが全てでは無い。戦略を立てていた大和も注目している。

 

(でもこの小僧は誰だ。交流戦の時に居たっけな?)

 

鍋島が知らないのは無理もない。真九朗は交換留学生なのだから仕方なし。

でも彼からは強い気を感じったのだ。微かに感じとったのは鬼のような気だ。

 

(人は見かけによらないって言うが・・・それでも見た目に反してって感じだな。何者だか)

 

そのまま皆で魚沼が経営するBarへと入っていく。もちろん真九朗たちはお酒を飲まない。

飲むのは20歳になってからだ。これは誰もが守るべきルールである。

 

「おや。強い気を感じると思ったらアンタたちか」

「これは鍋島様」

「鍋島か」

 

いつの間にかクラウディオとヒュームが飲んでいた。そこに加わる鍋島。強者が飲むグループが出来上がっていた。

なかなか近寄りにくいグループである。それでも弁慶はバイトとして頑張って酒を提供するのであった。

一方、真九朗たちは酒を飲まないため端の席に座ってミルクを注文していた。

 

「直江くんも弁慶さんもバイト中だから邪魔しないようにしないとね」

「真九朗くんの言う通りだ。義経もミルクを注文する!!」

「はい。注文受けました主~」

「こらこら。相手が知り合いだからってお客様だからね。ダラダラしちゃダメ」

 

ミルクを飲みながら弁慶と大和の仕事っぷりを見守るのであった。

 

「ところでお前たちはあの少年を知っているか?」

「ああ、紅真九朗様のことですね」

「ほう・・・あの少年は紅真九朗と言うのか」

「ふっ・・・やはりお前も気付くか」

 

壁越えである鍋島も武人だから強き者には興味を示すものだ。

 

「あの男は良いな。鍛錬させれば強くなるぞ」

「まだまだ荒いがな。しかし壁越え手前だ。鍛え上げれば壁越えは可能だろう」

(戦鬼になれば間違いなく壁越えですがね)

 

戦鬼なればっとクラウディオは思うのであった。クラウディオとヒュームは一度だけ真九朗の戦鬼を見たことがある。

あの強さは間違いなく壁越え。もしくはそれ以上だろう。まだまだ若い小僧があれだけの力を振るえばヒュームだって評価を変えるものだ。

 

(あの強さは間違いない。恐らく力だけなら武神と同等・・・もしくはそれ以上でしょうな)

 

カランと酒の入ったグラスが音を鳴らす。

 

「それに紅は恐らく川神学園で5本の指に入るだろうな」

「ヒュームがそこまで評価するとは珍しいな」

「そうなりますよ。なんせ『孤人要塞』と引き分け、『炎帝』に勝利すれば嫌でも評価しますとも」

 

『孤人要塞』と『炎帝』と言う単語を聞いて鍋島は目を見開く。「それは本当か?」という顔もしている。

そして静かに頷くクラウディオ。これには久しぶりに驚くのであった。

 

「マジか・・・こいつは大物じゃないか」

 

実はその会話をコッソリと聞いていた大和と弁慶。彼らも更に真九朗に興味を示すのであった。




読んでくれてありがとうございました。
今回から弁慶ルート。とりあえずどう物語を着陸させるか考えないといけないなあ。
これからもゆっくりと更新していくのお待ちくださいね。

次回はどうしようかな。
いきなり書店バトルか・・・水上体育祭か。悩むなあ


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水上体育祭

こんにちわ!!
今回は水上体育祭です。
海なんて・・・もう行ってないなぁ


043

 

 

青い空。広大に広がる海。熱くサンサンと降り注ぐ太陽。女子の可愛い水着。そして男共の歓喜。

今、川神学園は水上体育祭と言う体育祭が行われているのだ。海で体育祭とはまた珍しい行事であると真九朗は思う。

そして更に驚いたのは女子の水着である。正確には驚いたと言うよりも「え?」と言う素っ頓狂な声が出ただけだ。

 

「この学園の指定水着がスクール水着・・・」

「アハハ・・・スク水なんて小学生以来ですよ」

 

銀子と夕乃が何とも言えない顔をしている。気持ちは分からなくもないがまさかこの年にもなって着るとは思わなかっただろう。

真九朗はどう言えば分からないが、取りあえず「似合っている」と言う。そして銀子の返事は「馬鹿」であった。

それにしても本当に男共は歓喜しまくっている。そして一部の女子もだ。

 

「夕乃ちゃーん!!」

 

百代は夕乃の豊満な胸を揉むために突撃するが避けられる。燕にも避けられていたので次は夕乃をターゲットにしたのだ。

 

「駄目ですよ百代さん」

「だってだって夕乃ちゃんの胸がけしからんだもん!!」

「だもん・・・じゃありません」

 

美少女だらけで男子学生と百代は大興奮である。そして逆に女子学生はイケメン男子学生にも興奮している。男子も女子も青春である。

そしてそんな美少女である百代はオメガウェポンとある男子学生に言われていたが大和たちも妙に納得してしまうのであった。

 

「何でこの可憐で美少女である私がオメガウェポンなんだー!!」

「いつもの行動から出た錆でしょ」

 

どうしようもない。

 

「それにしても紫まで何で居るんだ?」

「真九朗が海に行くと聞いて来たのだ!!」

 

スク水姿の紫が何故か一緒に来ていた。彼女のスク水姿は年相応と言うべきか、良く似合っている。

 

「似合っているよ紫」

「そうだろうそうだろう!!」

「とてもお似合いです紫様!!」

 

そしていつの間にか準が膝をついて褒めていた。彼はロリの居るところに現れる能力でも持っているのかもしれない。

 

「おお紫!!」

「紋白よ。私も来たぞ!!」

「紋様ぁぁぁぁ!!」

 

ダブルロリコンビが揃う。準にとって神々しすぎて全ての穢れが祓われるようだと呟く。

 

「ああ・・・やはり不純物の無いロリは良いな。そう思わないか紅」

 

キラーパスが飛んできた。これには何も言えない。最近、真九朗は準によく話しかけられる。

仲が良いのは構わないのだが、それで勝手にロリコンと称されるのは勘弁してもらいたいものだ。しかし彼が「可愛い」と言う感想は同意である。

 

「やっぱり紅はロリコンか」

「違うからね島津君!?」

「でも今の光景を見るとな」

 

真九朗の両手には紫と紋白。両手に花と言うよりもも両手に小さな花だ。しかしこれでロリコンとは言われたくない。せめて保育園のお兄さんと言ってもらいたい。

それならまだマシだろう。周りの見る目が変わるはずだ。本当にロリコンと称されるのは勘弁してもらいたいのだ。

 

「では遊ぼうではないか真九朗!!」

「いやいや、今日は遊びに来たんじゃないんだよ紫」

「あっ、そうであったな。すまぬ。すっかり忘れていた」

「紅真九朗。貴様は紫様と遊ばないと言うのか?」

「リンさん・・・その剣は抜かないでください」

「これはアクセサリーだ」

 

紫の護衛としてリンも来ており、水着は前に九鳳院系列で遊んだ時のものだ。リンも美人なので男子学生からは大好評である。

それでもアクセサリーと言っている2本の刀を帯刀しているので一部の男子学生は怖がっているが。

 

「でも時間が空いたら遊ぶよ紫」

「うん。じゃあ私は真九朗を応援するからな!!」

「ありがとう紫」

 

紫の応援されたら頑張るしかないだろう。

 

「私も応援しますよ真九朗さん」

「夕乃さんもありがとう」

「ま、頑張りなさい」

「銀子もね」

「私は日陰で本を読んでいるわ」

「それって良いのかよ」

「2Sの雰囲気はヤル気無しよ」

 

銀子の言ったことは本当であり、2Sのクラスはゆっくりとしようとする雰囲気だ。水上体育祭に参加するというわけでなく、バカンスしに来た感じだ。

 

「そうなの井上くん?」

「ああ、そうだぜ。クラスの連中はバカンス気分だよ」

 

準はヤレヤレと言った顔をしている。そろそろ冬馬と小雪が気になるので2Sのクラスへ帰っていった。

本当は紫と紋白の所から離れたくない気持ちがあるが仕方ない。チラチラと見ながら2Sに帰って行く。

 

「後で2Sとやらに紫が行くから紹介してくれなー」

「・・・はぁ!!」

「ん?」

「イエス。マイロード!!」

 

ノリノリで帰って行った。

 

「元気なハゲだな」

「ロリコンだからな」

「ロリコンってなんだ?」

「紫は知らなくて良いから」

「知らなくて良いのか?」

「知らなくていいんだ」

 

紫には知らなくて情報がある。それがロリコンだ。本当に知らなくて良い情報だ。

 

「私もそろそろ戻るわ」

「うん。またな」

 

銀子は真九朗たちと会話した後は自分のクラスである2Sに戻ると口をきつく閉じた。理由はクラスの雰囲気にある。

銀子がクラスから離れる前はクラスのほとんどはヤル気が無い感じであったのになぜか皆が水上体育祭でのヤル気がガンガンに出していた。それはもう人が変わったように。

しかも数分前まで普通だった準も変化していた。数分前に何があったか気になる。

 

「これは一体何?」

「ああ村上さん。これは京極先輩の言霊のせいさ」

「言霊?」

 

言霊とは言葉の力。言葉には意味があり、力がある。

人は言葉に惑わさせられたり、信じたり、力になったりするのだ。誰もが持つ力だが、その力を極めるのが京極だ。

 

「京極先輩はみんなのヤル気を出すためって言ったけど・・・」

「これ洗脳の類ね」

「あ、やっぱり?」

 

言葉は人を誘導させる力を持つがこれはもう洗脳の域だろう。言葉の力も極めればとんでもない。

 

「行くぞ我が主。お前は前だけを見ろ。後ろは全て俺に任せろ!!」

 

あの与一ですらノリノリである。どの時代も言葉に強い意志を持った者が人を動かした。これもその1つだろう。

 

「その結果がこれなのね」

 

ヤル気マンマンの2Sは怒涛の勢いで競技に参加して優勝へと近づいていく。無論、2Fだって負けていない。勝負は2Sと2Fで拮抗している。

岳人対準、翔一対英雄、一子対小雪。どの勝負も熱い。

 

「なんだなんだ。2Sの奴らは妙にヤル気だな!?」

「慢心してくれないと勝てないぞ」

「妙に元気ね」

 

2Fの感想はごもっともだろう。

そしてその勢いについていけず、ただただ流される銀子と弁慶。補足だが真面目な義経は競技に参加していた。

 

「義経は与一が競技に参加してくれて嬉しいぞ!!」

「任せな主!!」

「別人だろ」

 

本当に怒涛の勢いで競技をこなしていった。そしてそろそろ終盤へと近づく。

ここで学長である鉄心が新たな競技を宣言する。それは代表者が段ボール被って女性の足を見て、誰かを見極める競技である。

これが体育祭の競技かどうか分からない。

 

「・・・ここの学長って」

「言いたいことは分かるよ村上さん」

 

 

044

 

 

人の足しか見えない。これが真九朗の思ったことだ。

今、段ボールを被って女性の足を見ていると言う訳の分からない状況である。しかもこれが体育祭の競技だと言うのだから本当に分からない。

いまいち自分が何をしているのか分からなくなるのであった。そして見ている足も誰の足か分からない。

とりあえず分かるのは2Fのクラスの女子と言うだけ。正直に言ってしまうとつい最近に交換留学してきた真九朗に分かるはずも無い。

だから答えなんて、ここ一番の勘で当てるしかない。運任せである。

 

「クリスさん?」

 

クリスと答えたのは単純に頭に浮かんだからだ。彼女とは決闘しているので川神学園の中で一番印象に残っている。

 

「正解じゃ!!」

 

適当に言ったのが正解で自分自身でも驚いている。

 

「凄いな真九朗殿。よく分かったな」

「いやいや、これはもう勘だよ」

 

勘でも正解すればこっちのものだ。この競技は難しく、クリアできる者は当たり前に少ない。しかし本当にどうでも良い競技であった。

 

「では次じゃ!!」

「おいおいまだあるのかよ?」

 

学長である鉄心が考えた競技はまだあるようだ。しかも次の競技はさらにどうでもよいものである。

 

競技名は「ますらお決定戦」。内容はまず男が磔にされる。女が磔にされた男を誘惑する。男の獣が反応したら負け。反応したら電気が走る。最後まで残った者が男の中の男である「ますらお」だ。

 

「・・・・・・・・」

 

この競技を聞いて絶句してしまう。川神学園はどうなっているのかいろいろと問いただしたいものだ。

それを察した大和は真九朗の肩に手を置いて説明する。

 

「言いたいことは分かるけど、これが川神なんだ」

「川神って・・・」

 

そもそもこれが大の大人が考える競技なのだろうか。

 

「まあ学長だし」

(学長って・・・)

 

ごちゃごちゃ考えても競技は始まる。1クラス1人が選出される。2Fは大和か真九朗まで候補として出た。

 

「いや、俺は・・・」

「案外、紅くんの方が良いかもしれない」

「直江くん!?」

 

理由は代表で出るよりも、軍師として相手を潰す考えをしたいからだ。

 

「まあ頑張って紅くん」

「ちょっ!?」

 

強制的に磔にされる真九朗であった。本当に本当にこの水上体育祭が分からない。

彼の目の前には女。聞こえてくる男共の悲鳴。そして焦げ臭い臭い。これは絶対に水上体育祭では無い。

 

「何やってんのよアンタ」

「ははは・・・何か強制的に参加させられたんだよ銀子」

「馬鹿ね」

 

呆れる銀子。彼女が呆れるのもいつものことである。

 

「・・・誘惑するのか銀子?」

「しないわよ。私が誘惑したら即電気ショックでしょ」

「自信あるんだな」

「アンタ相手なら簡単よ」

 

ここまで言われれば真九朗も男としてプライドがある。何か言い返そうとしたが前の出来事を思い出す。

それは銀子に2人きりで旅行に行かないかと言われた時だ。その時は本気でドキリとした。そのことを思い出してしまうと言い返せない。

 

「誘惑されないように精々気を付けることね」

「そうだな・・・誘惑されたら電気が走るし」

 

銀子は真九朗から離れて遠くから本を読みながら観察する。すると真九朗の元に2Sの女子たちが集まってくる。

 

「真九朗くんが磔にされてる!?」

「へ~・・・真九朗が代表なのかぁ」

「義経さんに弁慶さん・・・」

 

他にもあずみやマルギッテ、心、小雪などが集まって来た。彼女たちは誰もが認める美人である。いきなりピンチだ。

あの真九朗が磔にされているのを見てあずみは笑う。

 

「ははは。おいおい真九朗。磔にされて気分はどうだ?」

「あんま良くないですあずみさん」

 

磔にされて気分なんて良くないに決まっている。これで良い気分と言うのは特殊の人たちだろう。

もう苦笑いしかできない状況である。そしてよくわからない競技も始まる。

 

「アタシが誘惑してやんよ」

「お手柔らかに・・・」

 

真九朗の周りに2Sの美人たちが集まってくる。彼も男だから水着美人に囲まれればドキドキするのは当たり前。

 

「私もがんばろっかな~」

「義経も頑張るぞ!!」

「この競技に頑張る要素はありません」

 

弁慶は色気溢れるポーズをし、義経は恥ずかしがりながらポーズをとっている。これには男だったら嬉しく反応するだろう。

だが耐える。なぜなら反応したら電気が走ると聞けば性欲求よりも恐怖の方が勝るに決まっている。

 

(だと言うのに・・・既に他のクラスの代表者は電気の餌食になってる。え、普通は恐怖が勝つものじゃないかな)

 

川神学園の男子は恐怖よりも性欲求が強いらしい。だから電気ショックの餌食になっているのだ。

 

「色気のあるポーズじゃダメか~。じゃあもう少し攻めてみるか」

「ちょっ・・・弁慶さん!?」

 

顔が近い、そして「ふぅ」と息を吐いて来た。これにはゾワゾワしてしまう。

彼女はとても色気があり、艶がありすぎる。彼女のような存在をエロイ女っていわれるのかもしれない。

 

(・・・そう思うのは失礼かな)

「ふんふ~ん」

「わわわ、弁慶が攻めてる!?」

「アタイたちも攻めるか猟犬」

「くだらない競技ですが早く終わらせましょう。相手はただの学生ですから」

「そりゃ違うぜ猟犬」

「む・・・確か彼は揉め事処理屋でしたね」

「そうだけど違うぜ。あいつはただの揉め事処理屋じゃねえ。あいつは裏じゃ有名な奴だぜ」

 

裏では有名と聞いてマルギッテは首を傾ける。揉め事処理屋の学生が裏で有名とは気になるのは確かだ。

マルギッテは軍人であるため、多少は裏のことも知っている。しかし彼女は真九朗活躍のことは知らない。それはマルギッテが日本に居ないで海外にいたからと言う理由もある。

 

「彼は裏ではどのような存在なのですか?」

「あいつは裏で「孤人要塞」と引き分け。「炎帝」には勝利した男だ」

「なっ・・・あの「孤人要塞」に!?」

「ああ。あいつもある意味とんでもない男だよ」

 

まさかの事実を聞いて驚く。それもそうだ。過去に彼女は「孤人要塞」に戦ったから分かる。

あの化け物によく引き分けまで持ち堪えたものだ。普通の者なら一瞬で殺される。そのような化け物に引き分けは凄い。

 

「ほう。あの男がな」

 

あずみの説明を聞けば興味を出すマルギッテ。競技には興味は無いが真九朗自身には興味が湧き出た。彼女も彼のことを知ろうと近づく。

 

「マ、マルギッテさん?」

「ふむ・・・鍛えられている身体です。しかし妙な鍛え方だ。普通の鍛え方じゃできない身体だ」

 

真九朗の身体を触る。くすぐったくて何とも言えない気持ちになってしまう。同じく弁慶に義経も触ってくる。

 

「つんつん」

「榊原さん・・・つんつんしないでください」

「つんつーん」

「にしてもよく見ると身体に傷の痕があるじゃねえか」

 

分かる人には分かるのだろう。真九朗はこれでも拳銃で撃たれた経験があるほどだ。なれば身体に傷痕が残るのは当たり前。

それでも崩月の修業で脅威の回復力があるのだから自分でも驚くばかりである。去年で何回拳銃に撃たれたのか数えたくないものだ。

 

(・・・これって銃痕じゃねえか。どんな修羅場を通ってるんだよこいつは)

(拳銃を受けた肉体か。だが傷は癒えている。武神ほどでは無いがとんでもない回復力だ)

(何か拳銃を受けた傷を見てる気がする・・・)

 

ベタベタと触ってくる2Sの美女たち。これには本当にドキドキしてしまう。しかし反応したら電気ショックだ。

性と恐怖の堺に挟まれる真九朗は頭がグラグラしてくる。日差しも強いからさらに頭がグラグラする。これは最悪熱中症になってしまいそうである。

早く終わってくれないかと思ってしまう。もしくは誰かに助けてもらいたい。そんなことを思っていたら誰かが声を荒げた。

 

「こらぁぁぁぁぁ。止めぬか!!」

 

この声は聴いたことがある。

 

「ええい。散らぬか!!」

「心さん!!」

「だ、大丈夫か真九朗くん!!」

「助かったよ心さん」

 

真九朗を助けてくれたのは不死川心であった。

彼女とは知り合い。去年に出会って友達となったのだ。出会いの経緯はいつも通り揉め事処理屋としての依頼である。

心がよく言う選民たちが開くパーティでの護衛仕事。一応何事も無いのが平和だが選民たちのパーティにはたまに事件が起こるものである。そして真九朗が護衛をした日こそが「たまに」が起こってしまった日だ。

逆恨みを持った暴漢が現れて心を襲おうとしたのだ。そこを助けたのが真九朗である。年も近いせいか仲良くなるのに時間はかからなかった。

正確にはいつもの真九朗の意図しない女たらし言葉で懐柔したというのが正しい。

 

「久しぶりですね心さん。学園ではクラスが違うからなかなか会話できなくて」

「いやいや良いのじゃ真九朗くん!!」

 

本当はなかなか会話できなくて寂しい思いをしていたのだ。でもそんなことを言えるはずもなく我慢する日々である。

真九朗と一緒になればもう一人で昼食を取らなくてよいし、憧れの友達生活が始まる。

 

「もう大丈夫じゃからな真九朗くん。今度は此方が守ってやるぞ」

「ありがとう心さん」

 

本当に助かるものだ。

 

「何だ知り合いなのか」

「と、友達じゃ!!」

 

顔を赤くしながら「友達」と宣言する心。そして友達を肯定する真九朗。

これには笑顔になる心。友達と認められてとても嬉しいのだ。口元はついにやけてしまう。

 

「でもこれは競技であり2F対2Sの勝負だぜ」

「そ、そうなのじゃが。友達が困っていたら助けるじゃろうが!!」

「そんなこと言わない~」

「にょわ弁慶!?」

 

弁慶が心を絡みつき真九朗へと押しやる。

 

「にょわ。ごめん真九朗くん!!」

「このまま雪崩れ込めー!!」

「ちょっ!?」

 

心を巻き込んで弁慶たち2Sの美女たちが真九朗へと雪崩れ込む。今の状況は真九朗に美女たちがベッタリとしている。

一言で言うなら「ハーレム」だ。これは男冥利に尽きるかもしれない。しかしこうも密着してしまえば男として反応してしまう。電気ショック覚悟したがその後のことは更に怖いものであった。

これは覚悟をしても怖い。なぜなら目の前に夕乃がいるからだ。それに紫もいる。

 

「ゆ、ゆゆ、夕乃さん。それに紫・・・」

「真九朗。他の女にベッタリとはどういうことだ!?」

「真九朗さん後で稽古をしましょう。でもその前にここでお灸を据えます」

 

電気ショックの方がマシだったかもしれない。真九朗は違う意味でリタイヤした。




読んでくれてありがとうございました。
感想など待っています。

今回は青春?的な物語でした。
それにしても磔に色気に電気ショックって・・・非常識すぎる。


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古書争奪戦の始まり

こんにちわ!!
今回からつい弁慶ルートのメインである古書争奪戦が始まります。
本当にタイトル通りで始まりまでです。

では、物語をどうぞ!!


045

 

 

川神学園の屋上。ここは昼休みのスポットだったり、サボりのスポットだったりする。

今は昼休みであり昼食の時間だ。真九郎はアンパンと焼きそばパンを齧り、牛乳を飲み込む。簡単な昼食だが彼にとっては十分な食事だ。

 

「それだけで足りるのか真九郎くん?」

 

そう言ってくれたのは心だ。真九郎は今、彼女と昼食をとっている。一緒に昼食を食べようと約束したのだ。

 

「うん。足りるよ」

 

去年は金欠で食べられないことがあった。それに比べると食事ができるなんて幸せなものだ。

その度に銀子や夕乃に心配されるのだから自分自身に困ってしまうものである。

 

「いや、それだけでは足りぬだろう。此方のお弁当を少しやるぞ!!」

 

心の弁当は重箱で真九朗が滅多に食べられない食べ物ばかりだ。流石名家だろう。

 

「いやさすがに・・・」

「遠慮するものではないぞ。人がせっかくあげると言うのだから貰うべきじゃ」

「そんなものですかね?」

 

確かに人の好意を無下にするわけにはいかない。ここは甘えて心の豪華弁当を貰うことにしたのであった。

何を貰えるのかと期待していたらメインそうなおかずである伊勢海老のエビフライをつまむ心。しかし伊勢海老。その食材は真九朗が食べるなんて本当に無い。

 

「し、真九郎くん。あ、あーん」

「・・・え?」

 

顔を真っ赤にしながらプルプルと口元にエビフライを近づけてくる。

一瞬だけ間が開いたけれど、ここは何もしないのは空気が悪くなるだろう。口を開いて運ばれるエビフライを食べる。

肉厚でプリプリしている。衣もサクサクしていて美味しいと言うのが感想だ。何故か真九朗は自分の食生活に悲しくなる。

 

「うん。美味しいよ心さん」

「そ、そうか。ならもっとやるぞ!!」

「それだと心さんのが無くなるよ」

 

食事は美味しく続く。補足だが夕乃に見つかれば後が怖いものである。ただでさえ水上体育祭での出来事で稽古をしたのだ。

更にまたあの稽古を続けると死闘もしていないのにボロボロになってしまう。

 

「水上体育祭の時はすまぬな」

「いや、気にしてないから。あれは仕方ないよ・・・ははは」

 

空笑い。もう空笑いをするしかないのだ。

 

「しかし、まさか真九郎が川神学園にくるとは思わなかったぞ」

「俺も川神学園に来てまさかの再会に驚きばかりだよ」

「真九郎くんはやはり今も揉め事処理屋を目指すのか?」

「うん。揉め事処理屋が俺の目標だからね」

 

真九郎にはまだ将来を決める時間はある。それでもやはり揉め事処理屋が目指す目標である。

あの柔沢紅香のような揉め事処理屋になりたいと思っている。とても難しいが彼の目標である。

 

「そうか・・・でも大変じゃろう」

「大変だよ。でもこんな俺が目指す目標なんだよ」

「・・・のう真九郎くん。もし、もしもじゃが、途中で揉め事処理屋では無くて違う職を考えたら此方の下に来ぬか!!」

「心さんの所に?」

「う、うむ。不死川家は名家じゃからな。不満なことはないぞ!!」

 

名家である不死川家に職としてつく。確かに悪くないかもしれない。

今の真九郎にはいくつかの将来ルートができている。まずは元々の目標である揉め事処理屋。2つ目は九鬼財閥への就職。3つ目は先ほど言われた不死川家への就職。最後は銀子から言われている風味亭への就職である。

この中で一番安定するのは九鬼財閥の就職であろう。案外、真九朗は将来に対してもう道ができている。若者にしてはそうそうない状況である。

 

「考えとくよ心さん。もしもの時はお願いするよ」

「うむ。九鬼よりも不死川だからのう!!」

 

 

046

 

 

今日は真九郎はある本屋のバイトをしていた。翔一のヘルプ宣言で真九朗と大和に弁慶が助っ人にきている。

 

「助かったぜお前たち。即戦力だぜ!!」

「助かるぜ。バッキャロー」

 

本屋の店長が笑顔で罵声を放つ。おそらく口癖なのか来ていて嫌な気分にはならない。

まずは店長が買い取った価値ある古書を取りに行くことだ。相当な量であるため一人では重労働になる。確かに複数人いたほうが良いだろう。

それに本運びなんて簡単だ。ただ重いだけの仕事であって真九郎には簡単すぎる仕事だ。

 

「へえ。真九郎って力持ちなんだ~。華奢な割にはってやつ」

「まあね。これでも鍛えてるし」

「確かに。水上体育祭で身体を触ったけど妙な鍛え方だったよね。なんていうか・・・何かを使いこなすような土台作りみたい」

 

よく分かったと言いたいものだ。用途までは分からないだろうが真九朗の肉体は『崩月の角』を使いこなすために鍛え上げられた。

だから常識はずれの剛力を扱えるのだ。でなければ身体が壊れてしまうだろう。

 

(武術家だから少しは分かるのかな・・・それに『鉄腕』の奴も俺の身体を見て土台作りは良いって言っていた)

 

分かる人には分かるのかもしれない。古書の積まれたダンボールをヒョイヒョイ持っていく。量は本当に多いが全然平気である。

バイトが終わる頃には夕方近くになっていた。

 

「仕事が早くて助かったぜ。バッキャロー!!」

 

本屋の店長は笑顔である。終わりごろには巨人とクッキー2が迎えに来ていた。それにしてもロボットとは驚きである。

いざ帰ろうとしたら誰かの声が聞こえてきた。メガネにスーツ。整った顔立ちの男だ。

 

「エコノミーの香りのする場所にファーストクラスが来ましたよ」

 

彼の名前は武蔵文太。

話に耳を立てると本屋の店長の店を買収に来たようだ。どこにでもこのような揉め事があるようだ。

しかし『揉め事』なら真九朗の出番である。それでもまだ動けない。本人たちの対話に「揉め事処理屋です」と言ってズイズイと出られない。

どちらか片方が言えば今すぐに出られる。真九朗の気持ちとしては本屋の店長に味方したいものである。

 

(・・・大手でも何か裏があるかもしれない。銀子に頼めば何かしら裏が取れるかも)

 

気は早いが本屋の店長を頼まれ視点で考えていると文太の方から決闘の話が持ち上がる。何でも6体6の決闘を行いたいと言う。

決闘を承諾していく翔一たち。なんとも荒々しい方法であるが揉め事処理屋である真九郎は気にしない。最終的には力で訴えるのだから。

 

「紅くんも頭数に入れらてるけど大丈夫?」

「大丈夫だよ。これはある意味揉め事だ。力になるよ」

「報酬は何か奢るで良い?」

「それで良いよ」

 

決闘場所は川神で変態橋と称される下の草場だ。

本屋の店長チームは真九郎に大和、翔一、弁慶、巨人、クッキー2。

文太チームは本人である文太、辰子、竜平、大和の母、そして天神館の鍋島正。

 

「え」

「あ!!」

「てめえは!!」

「ヤホー」

「おう大和!!」

 

相手のメンバーは案外知り合いだらけであった。




読んでくれてありがとうございました。
感想があればバンバン待っています。

今回の前半は心との会話。後半は弁慶ルートである古書争奪戦です。
それにしても真九朗は早くも竜平に再開ですね。

次回はまた決闘です!!
『角』を開放するのかしないのか!?

また次回をゆっくりとお待ちください。


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古書争奪戦

こんにちわ。
ついに始まった古書争奪戦。原作とあまり変わらないので巻きで物語は進みます。
そして真九郎はまた彼と戦う!!

では始まります!!


047

 

 

夕暮れの河原で決闘が始まる。続々と観客たちが物珍しさで集まってくる。中には知り合いもいた。

 

(・・・銀子)

 

銀子も橋の上から冷静に見ていた。表情からは「また面倒事なのね」と伝わってくる。

その通りだとアイコンタクトで返事をするしかなかった。よく見るとクラスメイトや島津寮の麗子までいる。

もうイベントのような感じとなっている。賑やかな川神ならではのことだから住民たちもきにしていないのかもしれない。

 

「さーて、ここからはアタシがルールをロックに説明してやるぜ」

「メイドがハーレーで登場したよ」

 

決闘形式は簡単である。

勝負時間は1分。ギブアップは30秒後でなければ宣言できない。ルールは基本何でもあり。

決闘相手は決めるのはサイコロで決める。出た目の数で戦う者が選ばれるのだ。

その中でトランプの1から7までカードがある。決闘が始まる前にカードによって大富豪のような勝負が始まる。それによって勝った者が決闘を流すか続行するかを決められるのだ。

 

「へへっ、燃えてきたぜ。あの時の借りを返してやるぜ」

 

竜平の目線は真九郎に送られる。できればもう再会したくない相手だが再会してしまったものは仕方ない。それに今回は依頼されているためお互いに勝手な行動はできないはずである。

しかし、もし決闘になってしまった場合は気を付けないといけないだろう。

 

「こいこいこい!!」

「ヤル気だね~リュウちゃん」

「あの時のリベンジをしてやるぜ」

「あれ、知り合いでもいるの?」

 

サイコロが振るわれる。出た目の数により組み合わせが弁慶対文太となった。次はカードにより決闘が行われるか決める。

大和たちとしてはチャンスである勝負だ。ここで1勝をしておきたい。文太が良く分からない計算方法を口にしていたが気にしない。

しかしカードの結果で勝負は流れることとなった。惜しいものをしたものである。

 

「流れたか」

「みたいだね」

 

次のサイコロが振るわれる。対戦は大和対大和の母だ。親子対決である。

 

「がんばれ大和!!」

「おう!!」

 

決闘が開始される。見ていてヒヤヒヤしていたが結果は引き分け。長期戦では無く、制限時間が1分と言うのに助かっただろう。

それにしても母親だからと言って手加減はしていなかった。愛の鞭というやつかもしれない。

 

「直江くんのお母さんって強いな」

「元ヤンキーらしいよ」

「・・・へえ」

 

特にツッコミはせずに疑問を飲み込む。ここで気にしたら面倒ごとがあると理解しているからだ。そして次の対戦カードが決まる。

次は大和の母対クッキー2。人間とロボットの戦いだ。ロボットが戦うとなると案外気になる。実は昔からロボットが好きな真九郎はワクワクしてしまう。

九鬼財閥が制作したと言うのだから驚きである。そう考えると九鬼財閥に就職するのも案外悪くないかもしれない。

ワクワクしながらクッキー2の戦いを見る。やはりロボットらしい戦い方だ。ビームセイバーとかカッコイイとか思ってしまう。

 

(・・・やっぱ好きなもんは好きなんだよ。でもあの時は誤解やらなんやらで大変だったな)

 

前に真九郎の大切な物を見つけようと躍起になっていた夕乃や環との時を思い出す。あの後は環のせいで性癖の誤解が生まれたのだから。

 

「お、クッキー2が勝ったね」

 

ダイナミックな必殺技で勝利をもたらしたクッキー2。本屋の店長チームが1勝して幸先の良い流れとなる。

 

「さすがクッキーだぜ!!」

「まあな」

「負けちまったか」

「お疲れ様ですサキさん。実力が未知数の相手が分かっただけでも十分ですよ」

 

4試合目のサイコロが振るわれる。次の対戦カードは巨人対竜平である。

 

「ゲッ・・・オジサンかよ」

「んだよオッサンか。オレはあいつとヤリたかったのに。つーか、あのオッサンはよく見る顔だな」

「直江。できればオレはこの勝負流したいぞ・・・」

「高いカードで行くか」

「あ、流す気無いだろでめえ」

 

勝負は流れずに試合は開始される。

巨人の実力に皆が驚く。真九郎もまた意外に驚く。やはり川神学園の教師をやっているのだから腕は確かなのかもしれない。

それでも油断は禁物だ。竜平の実力は不良であるが確かだ。それでも巨人は竜平の拳を上手く避けている。

 

「宇佐美先生って強いんだ」

「真九郎みたいに意外って奴だね」

「あはは・・・宇佐美先生と同じかあ」

 

力の限り殴り掛かる竜平に巨人は目にも止まらぬ速さでカウンターパンチを繰り出した。相手の力を利用したカウンターだから威力は相当ある。

呻き声をあげながら後ずさりする竜平に余裕の顔をする巨人である。それでも相手を舐めてはいけない。相手は暴力の野獣だ。

 

「リュウちゃんファイト~」

「ったく、これでもちったあ効いたんだぜ辰姉」

「やっぱタフいな。簡単にはいかねえか」

「余裕こいてんじゃねえぞ。行くぞおらあああああああ!!」

 

油断せずに戦えば勝負は見えていたかもしれない。しかしここで意外な展開が起こった。

グギリと嫌な音を聞いてしまった巨人。それはギックリ腰。なった者は相当の痛みを伴う。ギックリ腰になった者に勝負の微笑みは無い。

あるのは負けと言う二文字と腰の痛みだけである。ギックリ腰にはなりたくないものだ。

 

「おらああああああ!!」

「ぐえ!?」

 

竜平の勝利である。

 

「宇佐美先生大丈夫ですか!?」

「紅・・・あと頼んだ。オジサンもう駄目かも」

「今直しますよ」

「え、弁慶治せるの?」

「どれどれ見せてみ。そぉぉぉい!!」

「痛あああああああ!?」

 

それでも治ったのだから驚きである。弁慶って整体師になれるのではなかろうか。

 

「流れが悪くなってきたな」

「紅くんもそう思う?」

「ああ。次は勝っておきたいな」

 

しかし大和の希望は叶わない。今度の勝負は鍋島対クッキー2。クッキー2が男を見せたが結果は鍋島の勝利であった。

勝負の流れは悪い。しかもカード対決もまるで文太に読まれているように負けてしまう。

 

(・・・何でこうもカード対決で負けるんだ。何かあるのか?)

「えーとこの辺かあ?」

「あと2歩後ろだね」

 

鍋島に空高く殴り飛ばされたクッキー2をキャッチする。ダメージが酷く連戦させるのは不可能だろう。

もしまたクッキー2が戦う羽目になったら不戦勝になるだろう。こればかりは運に任せるしかない。

 

「ダイスロォォォォル!!」

 

次の対戦は辰子対大和。相手はほんわかしているが弁慶の見立てでは相当強いとのこと。

もし捕まったらヤバイとアドバイスをする。大和も避けに徹することを決める。

 

「頑張って直江くん」

「任せて」

 

勝負が始まる。最初は何とか避けていたがついに捕まってしまう。

 

「直江くん!?・・・・・て、あれ?」

「ん?」

「ありゃあ・・・」

 

大和は辰子に捕まった。そして鯖折りのように絞められているように見えるが実際は抱きしめられているだけである。

普通に美少女に抱きしめられているので男子からは非常に羨ましい状況だ。橋の上にいるクラスメイトたちは絞められているのに耐えていると勘違いしている。

近くに居る真九郎たちは呆然である。このままだと勝負は引き分けだろう。そして予想は正解で引き分けであった。

 

「・・・あれ?」

「お、おい辰姉なにしてんだ。あのままぎゅいーと絞めて、そいやっと投げ飛ばしてやればよかったのによ」

「ふぃ~」

「そんなツヤツヤした顔をされてもな・・・」

 

ツヤツヤした顔で満足顔である。何だか締まらない決闘であった。

気を取り直して次の対戦カードが決まる。大和の母対巨人である。この勝負は流れた。

 

「助かるぜ。オジサン紳士だから女性相手だとね」

「さっきのダメージが抜けてないだけでしょ」

「それにしてもカード勝負が負けてばかりだ。何かあるのかもしれないな」

「真九郎の言う通りかもね。何か相手ちょっと行動が怪しいよね」

 

現在の所、大和たちは1勝しかしていない。相手の文太チームは3勝であって大和たちはピンチの状態である。

それにしても相手の文太は大和の読みを的確に当てている。まるで朱雀神のように心を読む力でも持っているかのようである。

でもそれは無いと言える。心を読める力を持っているなら今までの勝負を有利にこなしていただろうし、決闘をするまでも無く本屋の店長を追い込んだであるはずだ。

 

(何か裏があるかもな。銀子なら分かるかもしれない)

 

真九郎の考えは正解である。銀子はそれとなく周囲の情報を集めていた。すると河川敷に設置されている監視カメラに文太が細工してあると見つけ出していたのだ。

このことを伝えようしたいがこの勝負に銀子は無関係。どうするか考えたが先にイカサマをしている相手にどう思っても関係無い。メールを真九郎に送る。

 

(銀子から・・・なるほどね)

 

メール内容を確認して真九郎は大和に小さく呟く。

 

「やっぱり・・・」

「やっぱりって事は気付いてた?」

「一応ね。でも確認はしてみる」

 

勝負の流れは変化する。次の勝負は翔一対鍋島で勝負結果は鍋島の勝利。

4対1で文太チームがリーチをかけたが、ここからが本番とも言える。

もしかしたら最後の戦いになるかもしれないサイコロが振られる。

 

「よっしゃあリベンジだぜ!!」

 

サイコロの目により次の対戦カードが決まる。その対戦カードは真九郎対竜平。

 

「なに向こうの不良と知り合いなの?」

「まあ・・・ちょっとね」

 

実は忠勝の夜の川神を案内されていた時に知り合い勝負をしている。前回は撤退戦を目的とした勝負であったが今回は本当に勝ちにいかなければならない。

 

「俺は戦えるよ直江くん」

「任せたよ紅くん」

 

2人がカードを出す。文太が2で大和が3であった。

 

「は!?」

「どうしました?」

「い、いや何でも無い」

 

文太が予想外と言った顔をしている。それでもすぐに何か納得したような顔をして終わった。

 

「頑張れ真九郎~」

 

相手は力のある不良だ。容赦無く闘うことを前提にした方が良いだろう。ストレッチをして身体を慣らす。

竜平は既に準備が出来て前に出てきている。相手がもう準備できているならばこちらも前に出る。

 

「久しぶりだな真九郎。今度は負けねえ!!」

「悪いが今回は撤退戦じゃないんでね。俺も負けるつもりは無い」

 

お互いに拳を構える。そして名乗り上げる。それは本気の名乗りでは無いが。

 

「俺は揉め事処理屋の紅真九郎」

「板垣家長男。板垣竜平!!」

 

今度は撤退戦では無い。勝たねばならない決闘だ。

 

 

048

 

 

橋の上には観客が更に増えている。クリスや京、マルギッテまで観客として来ていた。

彼女たちは既に来ていた麗子に状況を説明される。

 

「それはまた大ピンチな状況だな」

「そうなんだよ。みんなで大和ちゃんたちを応援しよう!!」

「うん。もちろんそうする。でも大丈夫な気がする。大和の目を見ると打開策ができたんだよ」

「そうなのか。でも真九郎いるしな。大丈夫だろう!!」

(紅真九郎・・・あの『孤人要塞』と引き分けた男。どれほどか見せてもらいますよ)

 

橋の下。

大和の母である咲は真九郎を見て思う。

 

(あの子が紅真九郎。あの柔沢紅香の弟子か・・・こりゃあ分からない展開だな)

(あの子は今回で初めて闘うな。まだ実力が未知数だけど不良のまとめ役である板垣竜平なら大丈夫だろう)

 

文太は楽勝だと思い、大和の母は鋭く今回の戦いを見る。

今から始まる彼の戦い方は今までの戦い方と違う。普通に見る分には今までの決闘は可愛い方かもしれない。

しかしこれから始まる真九郎対竜平の決闘は本当に容赦が無いと言うべきだ。最初に決められたルール無用と言うのが効いている。

これが揉め事処理屋の、紅真九郎の戦い方だ。相手を容赦なく叩き潰す。金髪メイドのステイシーが勝負開始を言い放つ。

 

 

049

 

 

真九郎対竜平。

 

「行くぞおらああああああああああ!!」

「行くぞ」

 

拳と拳が合わさる。お互いに引かずに拳の押し合いである。ガツゥンと骨と肉がぶつかる鈍い音を感じても気にしない。

余った片手で手刀を作って相手の目を擦るように振るが避けられる。次に金的狙いで蹴り上げるが、これもまた避けられる。

 

「やっぱ容赦ねえな。そう思って警戒しててよかったぜ」

「前に戦ったからな。避けられるのは予想していたさ」

「ふん」

 

また拳同士が合わさる。だがすぐに拳を引いて今度は回し蹴りで横腹に蹴り払った。

 

「この野郎!?」

 

竜平も負け時と無理矢理にでも拳を真九郎の顔にめり込ませた。だがこんなものは歯を食いしばれば我慢できる。

歪空魅空に顔面に拳銃で撃たれた時の痛みに比べれば軽いものだ。真九郎は気にせずに近づいて同じように竜平への顔面へと拳をめり込ませる。

 

「ぐおああ!?」

「顔面を殴られるのは痛いだろ?」

「ケッ・・・やるじゃねえか。でもこっち今回は猛るに猛ってんだ。まだ終わらないぜ!!」

「覚悟は決まってるってことか。でもこっちも乗りかかった船だから負けるつもりは無い」

 

拳のラッシュで攻めるが真九郎は受け流す。そのまま流れる水流のように動いて裏拳を勢いよく放つ。

スパアアアアン!!っと音が響くだけで裏拳の威力がどれ程のものか理解できるのだ。腕で防がれたが骨まで響いて痺れるだろう。

水流のように流れる動きで真九郎が攻め続ける。まるで手足が鞭のように振るわれた。

 

「あれが『崩月流』か。こりゃあ相手するとなると厄介かもな」

 

大和の母である咲は観察を続ける。見ていて感想はまるで喧嘩殺法と思ってしまう。彼女の感想は正解である。

他の武術と違って確実に相手を破壊するように戦っている。あれが本気の殺し合いで使われたらゾッとしてしまう。

そもそも真九郎は相手の急所を狙うのに躊躇いが無い。それだけでも容赦の無い者だと理解してしまう。実際に勝つのに急所を狙うのは適格だろう。

しかし今回は大和の母である咲は大和とクッキー2と戦っていたからすっかり油断していた。確実に相手を壊す相手もいると言うことを。

 

(ったく流石は柔沢紅香の弟子ってとこか。彼女も容赦無いしな)

 

どんな相手でも銃をぶっ放す紅香を思い出す咲であった。

 

「おらああああああああああ!!」

「ぐう!?」

 

連続で拳が振るわれる。デタラメだが威力は人間を壊すくらいあるが竜平の重い拳を受け止める。

ガッチリと拳を握りつぶすくらい握る。そしてそのまま睨み合いとなる。

 

「楽しそうだな」

「おう楽しいぜ。潰しあいってのは本能が滾るからな。闘うギラギラした感じに飢えてるんだよ!!」

 

確かに彼の目は闘いに飢えている目をしている。最悪の未来だと竜平は人を殺してしまうかもしれない。最悪の未来の話ならばだ。

でも一応彼にも人の心はある。姉である辰子と話す時はどこか優しい彼となるからだ。家族は信じる。他はただの人としか思っていない人だ。

 

「おうらあああ!!」

 

残りの拳も振るってきたが同じく受け止める。

 

「何!?」

「戦闘狂か。あんた戦闘屋になれるよ」

 

真九郎は思ったことをそのまま口にした。彼ならきっと戦闘屋になれるだろう。

 

「戦闘屋か・・・良いかもな」

 

竜平も満更悪くないと口をニヤける。

 

「好きなように暴れられて負けたらそこで終わり。悪くないなあ!!」

 

両腕に力を込めて押し込もうとするが真九郎も負けまいと押し返す。

 

「あんたが戦闘屋になろうがなかろうが俺には関係無い。でもこの勝負は勝たせてもらう」

「言ってろおおお!!」

「ふっ」

 

力をいっきに抜いて前へと倒してバランスを崩させる。そして小指を立てて竜平の左耳へと容赦無く突っ込んだ。

 

「うごああ!?」

 

鼓膜の完全破壊とは言わない。ただ小指を耳の中に入れただけだ。他人の指が人の耳の中に入ったら異物感が相当あるだろう。

だから真九郎のいきなりの行動に竜平は対処しきれなかったのだ。

 

「もう沈め」

 

右拳に力を込めて顔面に力の限り殴った。そしてトドメに踵落としで意識を刈り取り勝負を終わらせた。

 

「そこまで。勝者は紅真九朗!!」

 

竜平は強い。しかし真九郎の方が戦闘の場数として上だったのだ。

 




読んでくれてありがとうございました。

さて、今回はまた真九郎VS竜平でした。
そして勝負結果は真九郎の勝ちです。不良相手には負けませんよ。
容赦なく耳に小指を突っ込む行動はさすが揉め事処理屋と言う他ありませんね!!

次回でもう古書争奪戦は決着です!!
どうしようかなー


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名乗り

こんにちわ。
今回はついに名乗りをあげます。やっとかな。

どんな内容かは物語をどうぞ!!
前回と変わらず巻きな感じですが生暖かい目で読んでってください。


050

 

 

真九郎対竜平の勝負は終わった。彼の戦いを見た者たちはそれぞれの事を思っていた。

橋の上にて。

 

「やはり真九郎は強いな!!」

「うん・・・それに何て言うか容赦の無い戦い方だったね」

(成程、確かに容赦が無い。それに強い。しかしあの実力で『孤人要塞』と引き分けたとは考えにくいな)

 

真九郎は強い。でもマルギッテは『孤人要塞』と戦った過去があるためあの彼女の強さを知っている。だから真九郎の実力を見ても納得がいかない。

確かに強いがそれでも『孤人要塞』と引き分ける程では無い。しかし彼の実力はマルギッテが所属する猟犬部隊に匹敵はするだろう。

 

「紅くんってあんなに強かったんだ」

「こりゃ驚きだわ。アタイってばゾクゾクしちゃった」

 

観客たちも彼の強さに驚いている。そして歓声が上がる。その中にいる銀子は小さく「お疲れ」と言う。

聞こえていないだろうがそれでも無意識に言いたかったのだ。これで勝負の流れは完全に変化する。

 

(ふむふむ。真九郎くんは容赦の無い戦い方をするっと・・・まあでも対処はできるかな)

 

いつの間にか燕が彼らの戦い方を観察する。実力者揃いの戦いとなれば燕としては観察しないわけにはいかない。

 

(うーん強いや。たぶん学園の中でも上位に入るね)

 

気になる相手はとことん調べる燕。真九郎は燕に観察されるに値する者である。

 

(・・・でも何か隠してる気がするんだよねー)

 

橋の下。

 

(おーおー、強いなあの小僧。ヒュームが評価しただけはある。でも何か実力を隠してるな。その実力を見てみたいもんだぜ)

(流石は柔沢紅香の弟子。強いわ。もし戦うことになったらアタシも覚悟決めないとな)

「ば、馬鹿な。あいつあんなに強いのか!?」

 

鍋島と咲は納得し、文太はまさかの強さに驚いていた。

 

「リュウちゃん大丈夫~?」

「こいつは意識失ってる。まあそのうち起きるから大丈夫だろうな」

 

真九郎は竜平が辰子に介抱されているのを見てから大和たちの陣営に戻る。「ふう」と息を吐いて気を抜く。

気を抜いたせいか痛みが急に身体中に伝わる。心の中で「痛たた・・・」と呟く。痛いものは痛い。でも勝利したのだ。

これで次の試合につなげることができた。まだ勝負は分からない。もしまた真九郎が選ばれても戦う。

 

「ただいま」

「おかえり真九郎。強いね」

「お疲れ紅くん。これで次につなげられたよ」

「凄いな真九郎!!」

 

大和たちから労われ感謝。疲れたがまだ戦える。正直戦うにあたって一番マズイのは鍋島だろう。

彼は武術者として壁を超えた実力者だ。竜平とは比べものにはならない。相手はヒュームや武神である百代と相手するようなものだ。

 

(・・・一応、引き分けになれば勝ちって言われたけどキツイかな。何か策を考えないと。もしくは『角』を開放させるか)

 

次の対戦カードが決まる。弁慶対辰子。ここに来てついに弁慶の出番となる。

今まで待っていたかいがあったと言うものだ。弁慶はストレッチをしながら試合に臨む。カード対決も仕掛けが分かってきた大和も大丈夫。

文太はまだ大和が仕掛けに気付いていないと分かっていないのかアタフタしている。

 

「じゃあ始めな!!」

 

弁慶対辰子の勝負が始まる。

 

「よーし投げちゃうぞ~。ポーイって」

「行くよ」

 

力と力の対決だ。だが殴り合いと言うわけでは無い。弁慶は一瞬の隙を突いてバックドロップを出す。

良い感じに決まったが辰子は打たれ強い。簡単にはノックアウトにはならない。技のパレードリーがたくさんだ。それでも辰子は起き上がる。

辰子は力を大きく攻撃を振るう。弁慶は確実に技を打ち込んでいく。勝負の流れは弁慶だ。

 

「源氏式、スイパーホールド!!」

 

辰子を捕まえて絞める。このままなら勝負が決まるが急に辰子が豹変したのだ。まさか急激に力を増幅して脱出する。

いつの間にか目覚めた竜平が言うには「無意識に覚醒した」とのこと。彼女はいわゆる原石なのかもしれない。離れていても力強さをピリピリと感じる。

ここからもしかしたら戦況が変わるかもしれないと思ったが次の行動で拍子抜けしてしまう。

 

「は?」

 

脱出して反撃してくると思えば眠りだしたのだ。これには本当に拍子抜けしてしまう。それでも勝者は弁慶である。

一瞬だけヒヤッとしたがこれで4対3。これで分からなくなってきた。そして次も勝たないといけない。流れは川神書店側だがついに難所が来た。

鍋島対弁慶。観客や大和たちもこの勝負はとても危険だと言うのは分かる。しかし弁慶は逃げなかった。

ここはあえて勝負を決めたのだ。カード勝負なんて意味は無く、流さずに勝負が始まる。

 

「頑張って弁慶」

「全力で勝負するんだ弁慶」

「うん任せて。真九郎、大和」

 

大一番とも言うべき上部が始まる。

弁慶は鍋島に全力で立ち向かう。釈杖を投げつけての打返し対決は目を見張るものだった。

釈杖を最初は軽く投げて相手のカウンターで倍返しさせる。その力の乗った釈杖を逆に利用して倍返しをする。壁を超えた者の力を利用した威力なら効くはずだ。

しかし相手の鍋島は規格外。この策はさらにカウンターで跳ね返された。

 

「うあ!?」

「弁慶!?」

「流石は弁慶。タフだな」

 

最初は食い掛かっていたがどんどんと劣勢になっていく。トドメと言わんばかりの一本背負いは重い一撃だ。

誰もがこの勝負が鍋島の勝ちだと思ってしまう。しかし、真九郎や大和は弁慶を信じる。

 

「頑張れ弁慶!!」

「ははは。応援どうも」

 

応援に促されて立ち上がる。こんな劣勢でも彼女は諦めない。なぜなら彼女にはどんな苦境も跳ね返せる切り札を持っているのだ。

まさに今がその時だ。弁慶の切り札であり、必殺技。橋の上にいる清楚が彼女の切り札を発動するスイッチが入ったのを感じて口にしてしまう。

 

「金剛纏身!!」

 

『金剛纏身』を清楚は語る。難しい説明はいらない。相手が強ければ強いほど、苦境であれば苦境であるほど自分の潜在能力を各段に上昇させる。

簡単に言うと火事場の力と言うようなものだ。絶対時間は3分だけだがこの場にいる誰よりも強くなった弁慶。残り時間も10秒。

弁慶はいっきに鍋島との間合いを詰めて渾身の攻撃を繰り出す。

 

「速い!?」

「そおい!!!!」

 

彼女の一撃は壁を超えた者にすら屠る。鍋島も一瞬だったが白目を向いて意識を失った。

この結果を見るに誰もが勝敗を理解する。この勝負は弁慶の勝利だ。

 

「流石弁慶だな。俺もまだまだ修行不足ってところだ」

「おじさん。まだ戦えるかい!?」

「ああ。けっこう効いたがまだ戦えるぜ」

 

この言葉にホッとする。4対4で追いつかれてしまったがまた鍋島が勝負に出れば勝ち目があると思っているのだ。

弁慶の切り札には大いに驚かせられたがもう彼女は戦えない。まだ勝負はどっちも分からないのだ。

 

「お疲れ弁慶」

「疲れた~。勝ったけど向こうはまだピンピンしてる。これじゃあどっち勝者か分からないよ」

 

とても疲れている。やはり大技を使った後は身体に負担があるのだろう。ヨロヨロしているから肩を貸す。

 

「ありがとう真九郎。優しいね」

「これくらい当然だよ」

「紳士だね」

 

彼が紳士なのは夕乃の英才教育のおかげである。何度でも言うが夕乃の英才教育のおかげである。

優しいのは女性であっても男性であっても好感が持てるものだ。

 

「さて、次で決着だぞ。最後の勝負だ」

 

巨人の言う通りで次で最後の勝負である。決着へのサイコロが振るわれる。

 

「あ」

「お、また俺か?」

 

決着の勝負が始まる。対戦カードは真九郎対鍋島。

 

「真九郎。いける?」

「うん弁慶さん。大丈夫だよ。直江くん、どのカードでも構わない」

 

真九郎対鍋島の勝負が決定した。

 

「お前さんはヒュームから聞いているぜ。なかなかの修羅場をくぐっているそうだな」

「修羅場って・・・」

「だから手加減はしないぜ。弁慶との勝負で自分はまだまだってのが分かったからな」

 

当たり前と言うか弁慶に負けた鍋島は真九郎との戦いでは完全に慢心を捨てる。それに裏世界で有名となった真九郎には片手間で戦おうとは思っていない。

 

(実力を見てみたいってのもあるがな。さーてあの『孤人要塞』に『炎帝』と戦った実力は如何ほどか)

 

もちろん引き分けなら勝ちなのは変わらない。最初に言った事は守る。それに関しては助かるが慢心を無くした鍋島に引き分けまで持ち堪えるのは相当難しい。

真九郎はどうやって勝つか考える。そして思いついたのは簡単なことだった。初撃必殺。

開幕と同時に決着をつけるだけだ。各上の相手と戦うのに長期決戦は愚策である。

 

(・・・『角』を開放するしかないな。観客がいるけど別に隠しているわけじゃない)

 

川神は武神と言う規格外がいるので案外許容するかもしれないが。息を吸って吐く。

相手は格上の実力者であり、経験豊富であり、真九郎よりも強い。だが全て負けているというわけでは無い。彼にも鍋島に勝てる可能性はあり、ゼロではないのだ。

 

「んじゃあ、前に出ろヤロー共!!」

 

真九郎と鍋島が前に出る。もう勝負が始まるので引き返せないから覚悟を決める。

心の奥にあるスイッチを入れる。右肘の皮膚を突き破って『崩月の角』が開放され、身体中の血液が沸騰するくらい熱くなる。身体に力が巡る。負けられない戦いに勝負を挑む。

 

「お、お前さん・・・その右腕から出ている角はもしや」

「きっと鍋島さんが思っているので正解だと思いますよ。でも今はそんなの関係無いです」

 

いつでも戦えるように構える。それでも驚く鍋島だ。彼だけでなく、周りの者たちも驚いている。

 

「な、何だアレは・・・骨、角?」

 

大和や弁慶たちは真九郎の右肘から突き出した『崩月の角』に驚き、慄いている。人間の右肘から角が出れば当然の反応だろう。

しかしそれよりも驚いたのが真九郎の気の異常な強さだ。弁慶の『金剛纏身』と同じくありえないくらい気を醸し出している。

もしかしたらそれ以上かもしれない。今まさに真九郎は川神で言うところの壁越えを軽く超えた存在だ。

 

「弁慶の強さも相当だったがお前さんもだな」

「アレが何だか分かる大和?」

「・・・分からない。でも素人の俺でも紅くんが角を開放した瞬間にとんでもないくらい気が膨れ上がったのが分かる」

「そうだね。正直あれは戦鬼みたいだよ」

「紅のやつってうちの学長みたいに人外かよ」

「あの右腕に生えてる角カッケー!!!!」

 

橋の上。

 

(あのバカ。こんな所で『崩月の角』を・・・)

 

銀子は片手で顔を隠す。『崩月の角』は元々隠しているものでは無いがこうも大勢の前で発動とは頭が痛くなる。だが相手は格上の存在。発動しなければ勝ち目はなからこそ仕方ないだろう。

 

(まったく・・・負けても勝っても明日から大変よ)

「何・・・あれ」

「分からないぞ。真九郎があんなのを隠し持っていたとは・・・でも凄まじい気の大きさだぞ」

(まさかアレが『孤人要塞』と引き分けた秘密か!?)

 

やはり初めて『崩月の角』を見る者は驚くだろう。カッコイイと思ったのは紫や翔一くらいだ。

 

「凄い・・・紅くん」

「あれはもう鬼のようだな」

 

清楚と京極も驚く。異能と言うべき『崩月の角』。誰もが真九郎に視線を移ししている。

もちろん燕もこの異能を見逃すつもりは無い。食い入るように見ている。

 

(何あれ・・・あんなの初めて見るんだけど。しかも凄い気の大きさ)

 

誰もが食い入るように真九郎対鍋島の戦いを見守る。

 

「はっ、アタシとしたことが呆けちまったぜ。じゃあ始めるぜ!!」

 

試合が開始させる。『崩月の角』を開放したのだから負けられない。真九郎は本気の名乗りをあげた。呼応するように鍋島も名乗りあげる。同じ立場に立つ者として認めたからこそだ。

 

「崩月流甲一種第二級戦鬼。紅真九郎」

「天神館館長。鍋島正」

 

闘いが始まる。

 




読んでくれてありがとうございました。
感想など待っています。

ついに真九郎が名乗りをあげました。さすがに鍋島相手だと『崩月の角』を開放しないと勝負にならないと思い、こんな感じになりました。
流石に角無しじゃあ厳しいと思いますので。

次回の戦闘内容はどうしようか難しい所です。一応「初撃必殺」の内容ですが頑張って書きます。

では次回もゆっくりとお待ちください。


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決着

こんにちわ!!
タイトル通りで決着の物語です。
真九VS鍋島。どんな展開かは物語をどうぞ!!


051

 

 

真九郎対鍋島

 

「崩月流甲一種第二級戦鬼、紅真九郎」

「天神館館長。鍋島正」

 

壁を超えた者同士の戦士たちが闘い始める。戦いが始まった瞬間に周囲の空気がピリピリし、観客たちは全員息を飲む。

この勝負は誰もが静かに見守っている。どうなろうがこの勝負で本当に決着がつくのだ。

 

「あんたはこの中で一番強い。なら俺の一撃を逃げずに立ち向かってくれるよな。行くぞ鍋島さん!!」

「・・・良いぜ来い紅真九郎!!」

 

鍋島はクッキー2や弁慶との闘いで倍返しが好きだと言っていた。なら挑発すれば乗ってくると期待した。

しかし相手は慢心を捨てているから本気で攻撃してくるに違いない。でも勝負世界でそんなのは構わないと思っている。

ステイシーが試合開始の合図を言い放ち、その合図と同時に力を込めた両足に動かす。重力の無視のロケットスタートだ。

いっきに鍋島に近づいて右拳を突き出す。同じく真九郎の挑発に乗った鍋島は彼のロケットスタートに一瞬驚きながらもすぐに冷静になり同じように拳を突き出す。

 

「はあっ!!」

「ふん!!」

 

拳と拳が合わさる。竜平と戦った時と同じだが威力は比べものにはならない。それでも負けるつもりはなく、勢いのまま拳を振るう。

 

「こ、この力は!?」

「・・・はああああああああああああ!!」

 

重い一撃だ。だが『崩月の角』を開放した真九郎には軽いと思えた。もちろん相手は本気で攻撃しているのだろうが込めてる覚悟が足りない。

真九郎を倒すにはもう動けなくなるまで壊さなければ駄目だ。この古書争奪戦での覚悟のあり方としては似つかわしくないだろうが本当に真九郎を倒すにはそれくらいの覚悟がなければいけない。

だから鍋島は拳に込めた覚悟が間違っていた。鍋島は勝つ気持ちはあったが真九郎の力を試したいという気持ちの方が強い。逆に真九郎は『崩月の角』を開放した時から既に覚悟を決めていた。

真九郎は全力で容赦の無く、ただ相手を倒すために、勝利をもたらすために拳を振るったのだ。

 

「ぶっ飛べえええ!!」

 

拮抗なんて状態は無く全力の拳は鍋島を撃ち抜いた。その威力は計り知れない。もし例えるならば超特急電車が突撃したみたいだと後の鍋島は語ることとなる。

 

「ぬおおおおおおお!?」

 

鍋島の身体が殴り飛ばされ、重力関係無く一直線に飛んで行った。

ドシャアアアッと河原に無造作に転がり倒れる。気で身体防護していたとは言え戦鬼の全力をまともにくらったのだ。鍋島の身体がいうことを効かない。

 

(い、意識を吹き飛びそうだったぜ。弁慶の時みたいに気のガードしてなかったらゾッとするぜ。しかし動けん)

 

たった1発。たった1発の一撃でこの状態とは恐れいるものだ。だが鍋島にはこれでも武術者として誇りがある。ここで立ち上がらないわけにはいかない。年だなんて言ってられないのだ。

 

「や、やるじゃねえか」

(・・・今ので立ち上がるか。でも俺だって素人じゃ無い。鍋島さんは無理しているな)

 

息を荒荒く吐いてもう一度強く吸う。初撃必殺は不発であった。だが全く効いていないわけでは無く次の一撃で今度こそ決着がつく。

恐らく鍋島も今度は本気の本気で攻撃してくるだろう。ならば真九郎は捨て身で突撃する。四肢に力を込めて歯を食いしばる。

仕切り直し。

 

「真九郎。お前さんを強者だと認めて攻撃するぜ。肉が潰れても骨が折れても恨みっこ無しだ。まあそん時は良い医者を紹介するぜ」

「鍋島さん・・・構わない。こっちも壊すつもり行く」

 

2人の目はギラめき構える。お互い放つ気は熱く、周りの者たちでさえビビらせる。鍋島は剛毅な武人に見え、真九郎は荒荒しい戦鬼と誰かが言った。

年とは言え、それでも剛毅な気を纏う鍋島には真九郎は尊敬する。やはり自分よりも強き者だと思ってしまう。強力無比な一撃をくらったら、きっと自分なら弱い部分が出てマイナスな方向に考えてしまいそうだ。

 

(こちらはまだダメージは無い。動ける)

 

どうやって鍋島を倒すか考えるが難しいだろう。初撃必殺で決めるつもりだったからだ。しかし一応次の手は打ってある。

まさか失敗の後のことを考えていないわけではない。これでもプロであるのだからいくつか策は講じている。その中で確実なのを選ぶ。

 

(・・・・・確実なのはカウンターだな。どうせ無傷で勝てるなんて思ってない。なら覚悟を決めて突破する)

 

決死の覚悟を決める。殴られようが蹴られようが、骨を折られようが血を吐き出そうが突き進む。絶対に拳を届かせて見せる。

でなければ勝てないからだ。今までの戦いで簡単な戦いなんてなかった。覚悟を決める真九郎。

 

「行くぞ鍋島さん!!」

「来な真九郎!!」

 

もう一度鍋島に向かって走る。目の前にいる鍋島は構えたまま動かない。おそらく向こうもカウンターを狙っているのだろう。

ならばあえて乗ってやると思って突貫。すぐさま間合いを詰めて攻撃するが紙一重で避けられ、渾身の一撃が真九郎を襲う。

 

「うらあああああああ!!」

「が、ぐううっ!!!!」

 

鍋島の攻撃が人間の出す威力とは思えない。人のことを言えないがこれが壁を超えた者の一撃。意識をもっていかれないように歯を食いしばる。

肉が撃たれ、骨が軋んで悲鳴をあげるがそれでも耐えて目を開く。今この瞬間ならもう一度拳が届く。

どんな達人でも攻撃の後は隙ができるものだ。その一瞬の隙をつく。曰く、肉を切らせて骨を断つ。

 

(実戦でやるのは珍しいけど覚悟があればできる。そして身体が動けば確実に相手へと拳が届く!!)

 

攻撃をくらってもなお無理矢理身体を動かして拳を振るう。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

「こいつ・・・無理矢理!?」

「くらええええええええええ!!」

「ぐわあああああああああ!?」

 

今度こそトドメの拳を振るった。肉をえぐり、骨まで到達するくらいの勢いで拳を振るった。そうでなければ勝てないから。

ミシミシと拳から肉と骨の感触が伝わる。そのまま力の限り殴り飛ばして河原の彼方先へとぶっ飛んだ。

 

「そこまで。勝者は紅真九郎!!」

 

 

052

 

 

「ったく。今回は油断せずに戦ったつもりなんだがな。負けちまったぜ」

「ありがとうございました鍋島さん」

「こっちもだぜ。久々に熱い戦いだったぜ」

 

仰向けに倒れている鍋島を起こす。戦いが終わった後は2人とも顔が穏やかだ。

戦いの後がこんなにも清々しいのは初めての気分である。きっとこれが青春の1つかもしれないと真九郎は考え込む。

 

「それにしてもお前さんの力はとんでもないな。流石は崩月の弟子・・・それにまさか角まで継承しているとは驚きだぜ」

「・・・鍋島さんはやっぱり知っていたんですね『崩月の角』のことを」

「まあ『裏十三家』は有名だ。そして戦鬼のことも多少知ってるさ。・・・その角は移植したのか」

 

やはり知っている者は知っているようだ。でも鍋島は堂々と言いふらす人間ではない。しかしもう遅いだろう。観客たちが見ている。

自分自身のことがこの川神でどこまで広まるか今から不安である。自分で開放していて何だが。

でも今は古書争奪戦に勝利したのが大事だ。文太を見るとまるで信じられないと言った顔をしている。

 

「ば、馬鹿な・・・オジサンが負けた!?」

「これで俺たちの勝ちですね」

「く、くそっ・・・」

 

勝ちにと言うよりも上に立ち続けたいという気持ちが高い文太はこの敗北に納得ができない。誰でも敗北は認めたくないかもしれないが誰が見ようとも真九郎の勝利であり、直江たちの勝利でもある。

 

「そんな・・・負け?」

「ああ負けだぜ。どっからどう見てもな」

「オ、オジサン」

 

納得できない文太を諭すように鍋島がヨロヨロしながら近づく。それでもモヤモヤは取れない。

だから真九郎も話しかける。敵側からの言葉なんて聞くか分からないが敗北を何度も知っているからこそ多少は負けの気持ちが分かる。

 

「文太さん。負けってのは誰もが悔しいものですよ。でも負けても終わりと続きがある」

「続きだと? 負けで終わりじゃないのかよ」

「文太さんは負けました。で、もう終わりですか。死んでしまうんですか」

「し、死ぬわけないだろ!?」

「なら良いじゃないですか。まだ人生に続きがある。文太さんは俺なんかよりも才能がある。俺は羨ましいですよ」

 

文太は確かに真九郎より頭が良いし才能がある。経済的にも上であり、社会でも上手く渡って行ける。真九郎の今なんかよりも相当良いだろう。

負けてもまだやり直せるなら良い。真九郎は本当にそう思っている。今まで彼が経験した中で負けたらやり直しも出来ないし、死にたくなるほどの事もあった可能性がある。

なら今の文太の状況はどうだろう。醜態は晒したし、貴重な古書も手に入れられなかった。大きな痛手だろう。でもまだ挽回はできる。

ならば大丈夫だと言える。

 

「・・・・・簡単に言ってくれるな」

「文太さんはファーストクラスの人材でしょ。なら俺よりも成功しますよ。今ここで終わりでは無いですよね」

「・・・・・ふん。今回ただ貴重な古書が手に入らなかっただけだ」

 

文太の顔からは敗北の顔からリベンジの顔に変化する。こんな時はズルズルと引っ張っていくより早く立ち直った方が一番である。

幸い文太は負けず嫌いのようですぐさまリベンジしてやろうと思っている顔している。

 

「今に見てろ。すぐさまお前らが驚くような存在になってやるさ」

「おう。その意気だな。はっはっはっはっは!!」

 

鍋島が文太の意気込みに関心しながら笑う。

 

「でも今はまだ敗北の傷が心に染みるな」

「そういう時はお酒が良いですよ。その心の痛みを和らげてくれると思います」

「酒か・・・・お前酒飲めないのにそんなことを推奨するのか」

「まあ、知り合いに酒癖の悪い人がいますから。彼女曰く酒を飲むと嫌なことを忘れるらしいですよ」

 

ここはもうちょっとそれらしいことを言いたかったが酒に関しての知り合いは2人。しかも2人とも酒癖が悪い。

詳しく言ってもあの2人じゃ参考にはならないだろう。1人はエロオヤジ走る五月雨荘の住人。もう1人は酒を酒と思わず飲む超人。

 

「酒か・・・良いな。最近良いBarを知ったんだ。連れてってやるよ」

 

鍋島がガシリと肩を掴む。おそらく魚沼もBarかもしれない。この川神では人気のBarだからきっと文太も気に入るだろう。

 

「これで勝負は終わったな。いやーこれで全て良しってことだな。オジサンも帰りに一杯やっていこうかな」

「お、良いね」

「弁慶さんは駄目でしょ。手に持ってる川神水で我慢してください」

「ちぇー・・・んくんく。ぷはあ。はい大和に真九郎も」

「俺たちも?」

 

せっかく渡された川神水を捨てるのはもったいない。真九郎と大和はいっきにグイっと川神水を飲み干す。

 

「・・・水」

「川神水だよ。ノンアルコール」

 

ノンアルコールの割には弁慶が酔っているように見える。場酔いの可能性もあるが、それにしても酔ってる。

この川神水は本当にノンアルコールなのかともう一度確認のために大和を見るが「ノンアルコール」と言われる。

 

「ノンアルコールか・・・」

 

納得できないがノンアルコールを主張するのだから信じることにした。深く考えてもどうしようもない案件は本当にどうしようもないからだ。

今大事なのは古書争奪戦に勝ったことだけだ。今は勝利を感じよう。

 

「良くやってくれたぜバッキャロー。本当にありがとう!!!!」

 

本屋の店長が凄い笑顔で喜んでくれた。これを見ただけでも心が温かくなる。やっぱり誰かのために戦って勝つのは悪くないかもしれない。

「これからも営業頑張ってください」と言うとさらに本屋の店長は笑顔になる。お返しかどうか分からないが今度本を買いに来た時は安くしてやると言ってくれた。

あまり本は買わないけどたまには良いかもしれないと思った瞬間だ。今度銀子を連れて行こうとも思った真九郎。

 

「・・・真九郎か」

「何かな弁慶さん?」

「なに、ちょっと良いかなって思っただけだよ」

「そう?」

 

弁慶の気持ちをよく分かっていない真九郎はただ頷くことしかできなかった。彼女の心にもまだ小さな燻りだ。

それでも彼に何か惹かれてしまう。それは彼の危険な香りなのか、優しい力強さなのかはまだ分からない。

周りの観客たちは決闘の終わりに嬉しく喚きだす。祭りの雰囲気ももう終わりで九鬼の従者が片づけを始めている。

クラスメイトや銀子たちが河原に降りてくる。「凄い」や「お疲れ」と言ってくれる。そして質問してくる『崩月の角』。

詳しくは話せないのでやんわりと断る。秘密の力とかそんな感じに言うしかなかった。きっと川神学園ではもっと質問攻めされるだろう。今から考えるだけで大変な目になりそうだ。

 

「お疲れ」

「銀子。・・・ああお疲れ」

 

『崩月の角』を戻して布で肘を巻く。肘を突き破って開放されるのだから案外傷が大きいものだ。

 

「私が巻いてあげるわ」

「ありがとう銀子」

「・・・む」

「どうした弁慶?」

「何でも」

 

先ほどまで夕方だったがもう暗くなる。お腹も空いた。

 

「家に帰ろう」

 

 

 

 

 

052

 

 

源義経。武蔵坊弁慶。那須与一。葉桜清楚。

全員がクローン人間であり、偉人の転生者とも言える存在だ。葉桜清楚だけ名前から偉人が想像できないが九鬼財閥から公式に歴史の人物と言われているのできっと凄い偉人なのかもしれない。

そんな偉人のクローンたちは日本的にも世界的にも有名な存在となっている。しかも武術者と言うことで世界中から挑戦者が川神に集まっているのだ。

那須与一や武蔵坊弁慶は面倒ということで上手く逃げているが真面目な源義経は無理にならない程度で挑戦者と戦っている。

これに関しては考えてみると大変だろう。なにせ世界中からの挑戦者と戦うのだから。もしこれが自分自身だったら本当に面倒だ。武蔵坊弁慶や那須与一の気持ちが分かりそうになる。

自分自身の気持ちの問題を置いといて、彼女たちの話にすぐ戻す。

容姿端麗で誰もが認める美人であり、イケメンだ。誰も容姿に関して文句を言わないだろう。知識も一般の者と比べれば頭が良い方だ。

性格に関しては那須与一が難有りだが後々治せるものなので問題無い。そして武術者と言うことでもちろん強く、才能はある。きっと数年後には更なる成長で強くなるだろう。

壁を超えた者たちからして見ればきっとマスタークラスになれると言うはずだろう。皆が良く言う将来有望と言うやつだ。

 

パララララ。

今のは写真と資料が机に適当に置かれた音だ。

写真には源義経たちが写っており、資料には彼女たちのプロフィールが書かれている。机に適当に置いたのは資料を読み終えたからだ。

ギシリとフカフカの椅子に背中を預ける赤髪の女性。「ふう」と息をついて酒をまるでコーヒーのように飲み干す。

これでも一応仕事をしているのだ。仕事中に酒を飲むなんてどうかと思われるが今は彼女1人だけなのでバレない。そもそも時間的にも定時をすぎているので世間的にはセーフ。

 

「それにしてもまさかクローン人間を欲しがる奴がいるなんてね。まあ・・・いるか」

 

人間には様々な人間がいる。優しい性格の人間もいれば、残酷な性格の人間、何を考えているか分からない人間もいる。

 

「この依頼者は良い趣味してるわ。クローン人間を誘拐しろなんて・・・相手はこれでも九鬼財閥なのよね」

 

言葉の意味としては物騒な良い方だ。何せ誘拐をするのだから。しかし彼女は眉1つ動かずにどの人材を送り出すか考える。

 

「あの3人でいっか」

 

ここは裏社会では最大手の人材派遣会社である悪宇商会。さらに詳しく語るなら最高顧問の部屋。

悪宇商会は金次第でどんな犯罪にも加担し、どんな犯罪の解決にも協力する。だから誘拐の依頼を受けてもビジネスとしか思っていない。そこには善悪は無い。

 

「これって最悪・・・九鬼財閥と戦争になりかねないんだけど。今回はただ人材を派遣するだけだからセーフでしょ。向こうもこっちの存在に気付いたとしても簡単には手を出せないからね」

 

パソコンのキーボードをカタカタと打ち込む。彼女が決めた人材を3人予定に入れる。

 

「それにしても川神か。あそこには良い人材がいそうねー」

 

川神に裏世界の闇が滲む。




読んでくれてありがとうございます。
感想などあればガンガン下さい!!

今回の物語はどうでしたでしょうか。
戦いに関してはシンプルな感じだと思いますが確実な戦い方だと思ってます。
これから工夫ある戦闘も頑張って考えていこうと思います!!

そして真九郎の会話。彼って説得の力(言霊)を持っていそうです。
なにせ言葉の威圧だけで戦闘モードの切彦を無理矢理人助けに変更させますし。

そして最後に次の物語の布石が!!
登場した赤髪の女性とは一体!?←バレバレですね

次回から川神に紅の世界観が少しづつ迫ります。


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組織

こんにちわ。
今回から源氏組の那須与一が少しずつ出番が増えます。
厨二設定を面白くカッコよく書けたらなーと思います。
そんでもって今回からはオリジナルの物語要素が含まれて行きます!!


053

 

 

ビルの中。パソコンの光と窓の外からの光で部屋は明るい。その中で一人の女性が電話対応をしている。

 

『お世話になります。頼んだ人材は此方と合流しました。ありがとうございます』

「いえいえ。こちらこそありがとうございました。派遣した人材は良い仕事をしますのでよろしくお願いいたします」

『それにしても大丈夫なのか。相手はあの九鬼になるからな』

「はい。我が社はお相手の事情に一切関係無くご依頼にお受け致します。それが悪宇商会ですから」

『そうか。ではお願いする』

 

ピッと携帯電話を切る。相手は電話内容の通りお客様である。依頼内容は九鬼財閥が最近発表したクローンが欲しいから誘拐するために人材を派遣してほしいとの事だ。

悪宇商会はどんな人間だろうがどんな仕事だろうが受ける。それが裏世界で5本の指に入る程となった会社の実力かもしれない。

それにしても相手は良い趣味をしている。クローンが欲しいなど普通の考えの持ち主では無い。きっと変わった性癖の人物だ。名前は明かせないが裏社会の人間で一種のコレクターである。

相手は九鬼財閥なのだから相手も覚悟はしているだろう。依頼を受けたからには最高の仕事をするが九鬼財閥と戦争になったら責任をとらねばならないだろう。

 

「まったく・・・なかなかの依頼ですよ。一応うちの最高顧問からGOサインを貰っているので大丈夫だと思いますが」

 

ピピピピピピピピピピ。携帯電話がまた鳴る。

 

「はいもしもし。悪宇商会のルーシー・メイです」

 

 

054

 

 

厨二病。それは少年少女がある日を境に目覚める人格のことだ。もはや別人かと言いたくなるほどだ。

しかも本人は至って真面目でふざけているわけでは無いからかえって性質が悪い。

言動や行動にも影響が出ており、人それぞれであるが意味深な事を言う。例えば「闇の人格」とか「封印が」とか呟いている。

行動に関しては無駄にカッコイイようにしている節がある。正直何が原因で厨二病になっているのか最先端技術の医療を持つ日本ですら不明である。

だが問題があるかどうかと言われれば害は無い。単純に絡みづらいだけくらいだ。気にしない人は気にしない、気にする人は気にする。

やはり人の個性だろう。そして川神学園に厨二病にならなかった人、厨二病なった人、絶賛厨二病になっている人がちょうどいる。

 

「まさかお前は腕に鬼の角の宿していたとはな。異能者同士は惹かれ合う運命か」

 

今まさに厨二病的な発言をしたのは与一。彼は誰もが認める厨二病患者だ。そしてそんな言葉を贈られたのは真九郎である。

最近はというとよく与一に話かけられる。理由としては古書争奪戦の時に『崩月の角』を開放したからだ。川神では噂は広まるのはどうやら早いようである。

あれ以来彼は様々な人から質問攻めにあっている。詳しく話すつもりは無いので「秘密」としか言えない。しかも一部の連中に目をつけられた。

あの武神である百代に目を付けられて夕乃と同じように決闘をふっかけられる始末だ。さらに何故か燕にも目を付けられた。おそらく『崩月の角』について聞き出したいのだろう。

 

「与一はこんなんだから。まあはっきり言って厨二病だ」

 

諭すように言ってくれたのは大和。彼は元厨二病患者であり、与一のことを見ていると黒歴史は蘇って心にクリティカルヒットするらしい。

 

「見て分かるよ」

 

真九郎は厨二病にならなかった者。そもそも彼の人生に厨二病なる切っ掛けは無かった。人生経験が一般と違うとしか言いようがない。

 

「紅も組織に狙われるだろう。お互いに普通の暮らしができないらしいな」

「組織に狙われるって・・・」

 

狙われているというか休戦をしている組織はある。その組織とは悪宇商会だ。案外的を得ている与一には苦笑いをするしかない。

そもそも変な所で現実として厨二病に厨二設定を与えるとややこしくなるものだ。きっと『裏十三家』とか『悪宇商会』とか彼にとって良い情報だろう。

 

「今しか日常を楽しめない。卒業したら後戻りができないからな。だから悔いのないように青春しとけ・・・これは先輩の受け売りだかな」

「先輩?」

「そこにいる大和だ」

「・・・へえ」

「紅くん。後で話し合おう。主に誤解を解く話」

 

大和はまるで自分の昔を見ているようで恥ずかしい以外の何者でもない。やはり自分の黒歴史を掘り返されるのは精神的に苦痛である。

実際に自分の思い出したくない過去とは向き合いたくないものだ。

 

「あ、有名人」

「真九郎くんに直江くん。与一!!」

「有名人は弁慶さんもでしょ」

 

古書争奪戦で有名人になったのは何も真九郎だけでは無い。弁慶もまた同じくらい有名人だ。

彼女もまた様々な人から挑戦を受けさせられようとしている。でも面倒だということで戦わないで断っている。

 

「もう私は十分戦ったからねえ~。褒めて」

「・・・偉いです弁慶さん」

「うん弁慶は偉い!!」

「もっともっと褒めて~」

「流石弁慶だぜ!!」

 

弁慶の褒める会が始まった。そんな中で与一が「くだらえねえ」と言った瞬間に源氏式ラリアットをくらっていた。

まるで当たり前のような動作で「おおー」と呟いた。聞くところによるといつものことらしい。いつものことでラリアットとは物騒だ。

 

「それにしてもどこに行っても質問攻めだし、挑戦しようしてきてウザイ」

「弁慶、何を言ってるんだ。注目されてるからこそ挑戦者が現れるんじゃないか」

「主は本当に真面目だね。そこが可愛いんだけど」

 

酔っ払いの如く義経に抱き付く弁慶。どこか弁慶には環の雰囲気を感じてしまうがまだマシだろう。

 

(つーか、この前メールで環さんと闇絵さんが遊びに来るとか来たな・・・正直面倒ごとしかない)

 

この本音を伝えたらきっと環はウソ泣きしながらからかってくる。何だかんだでめげない心の持ち主だから仕方ない。

 

(・・・一応お酒を用意しとくか。そして直江くんたちに迷惑かけないように注意もしなきゃなあ)

 

酒癖の悪い環のことを考えると頭が痛くなるが彼女には助けてもらっているので無碍にはできない。でもあの性格に関しては少し直してもらいたいものだ。

性格を少しでも直せばきっとモテるだろう。そうでなければ別れ話を何度か聞くことは無かったはずだ。

 

「どうしたんだ真九郎?」

「ん、実は今度知り合いが川神にくるみたいなんだ」

「紅くんの知り合いか」

「うん。正確には俺が元々住んでいる五月雨荘の住人だよ。癖のある人たちだから注意」

「癖のある人たちには慣れてるから平気」

「そいつらも異能者か!?」

「普通・・・の人です」

 

一瞬迷ったが普通ということにした。正直、環も闇絵も癖が強い人間だ。

環は素手で岩をも砕き、下駄でフルマラソンを走り切るらしいのである意味超人。闇絵は五月雨荘で一番妖しい人物である。正直何をしているのか分からない。

本当に2人は普通と答えるのが正解か怪しいものだ。よくよく考えると五月雨荘には一般的と言う人がいない気がする。五月雨荘1号室の住人である鋼森は基本的に五月雨荘にいないのでよく分からない。

 

(・・・なんか普通の人との出会いがないな)

「異能者では無いのか・・・」

「異能者じゃないよ。異能者同士は惹かれ合うって言ってるけど、そんなすぐには出会わないよ」

「・・・かもな。惹かれ合うって言ってもすぐさま出会うわけじゃない。タイミングってもんがある。そして場所だ」

 

急に語り出す与一。これは止められないと思って聞きに徹底しようと思って口を閉じる。

 

「タイミングは俺たちが川神学園に来た時だ。そして出会いはこの川神という場所そのもの。まるで運命かのように人が集まり出している」

 

それは単純に転校と留学が重なっただけであろう。場所もたまたまだ。

 

「今は友好的な流れだがそろそろ敵対勢力である裏組織が動き出すころだ。気を付けないとな」

 

被害妄想が相当大きい。

 

「ねえ与一。あんたはいっつも裏組織、裏組織って言ってるけど・・・どんな裏組織に狙われてるんだ?」

「姉御・・・流石に言えない。言ったら巻き込まれる」

「何に巻き込まれるんだか・・・」

 

呆れ顔の弁慶を無視して与一は手で顔を覆いポーズをとる。やはり厨二病特有の行動を起こしている。

それにしても狙われていると聞いて、もしかしたらその可能性は少しはあると思ってしまう。彼らは偉人のクローン人間。

胸糞悪い趣味のコレクターは裏世界に何人もいる。その内の1人は余計な行動を起こすかもしれないのだ。そんな胸糞悪い予想はさっさと捨て去る。

 

「じゃあ俺たちに教えてくれよ。もうどうせ狙われてる身だ。なら情報があった方が良い」

「・・・そうだな大和と紅には教えておく。しかし無理に調べようとするな。したら組織が攻めてくる」

「直江くん?」

 

ノリノリの厨二病の大和。これは与一と会話する時しか出さない。この後大和は羞恥に身悶える。

与一は弁慶と義経に聞かれないようにコッソリと呟く。その勝手に狙われていると言う裏組織の名前を。

その裏組織の名を聞いて真九郎は顔には出さないが驚いてしまった。どこでその裏組織を知ったのか知らないが与一の言っていることが冗談に聞こえなくなってしまう。

 

「悪宇商会だ」

「・・・!?」

 

本当にどこで手に入れた情報だろう。例え九鬼財閥にいるとは言え、あんな危険な組織を知らせるはずはない。

そもそも一般の者が知って良いものではない。ただでさえ表世界に住む者が裏世界に足を突っ込むなんて危険すぎるのだ。

 

「悪宇・・・商会?」

「そう悪宇商会だ。裏世界を牛耳る組織で異能者が集まると聞く。中には肉体を改造しているらしいぞ」

(・・・だいたい合ってる)

「・・・・・悪宇商会ねえ」

 

大和は微妙そうな顔をしたのはきっと信じていないからだ。それが一番である。悪宇商会に関わると碌な目に合わない。

 

「一応聞くけど、どんな組織だ?」

「悪いが分からない。知れば確実に狙われる・・・だが噂だとどんなことでもする組織だ。犯罪を起こしたり、逆に人助けしたりもな」

(・・・それもだいたい合ってる。しかしどこで知ったんだ?)

 

九鬼財閥が悪宇商会のことを与一に教えるはずがない。ならば彼は独自に情報を調べ上げたのだろう。

ここまできたら厨二病も馬鹿にできない。どんなものでも極めれば凄いというものだ。

 

「その悪宇商会って組織はどこで知ったのんだ?」

「ふ、電子の世界で知った」

「インターネットのことだよ紅くん」

「そう」

 

会話するのも少し難しいと分かった瞬間であった。

だが悪宇商会をどこで知ったのかが分かった。インターネットなら分からなくもない。悪宇商会はあれでも人材派遣会社でビジネスに徹底している。

ならばインターネットで広告をしているのにおかしいことではないだろう。そもそも去年に九鳳院系列のホテルのスパを貸し切ったことがある。そこで悪宇商会の力を借りた一般人がテロ未遂を起こした。

案外調べ上げれば表の人間でも悪宇商会に辿り着くのだろう。

 

(彼はきっとインターネットを調べているうちに偶然に知ったんだろうな。しかも嘘じゃなくて真実だから余計こじらせてるよな・・・だけど本当のことを教えても危険だ。もしかしたら逆にもっとのめり込むかもしれない)

 

やはり知らせない方が良いと判断して軽く笑いながら平和な会話を続ける。

 

 

055

 

 

岳人と卓也は仲が良い。体育会系と文化系と言う形で正反対な感じでアベコベなコンビだが、それでも何だかんだで親友だ。

そんな2人は何度目か分からないナンパをしている。主にノリ気なのが岳人であり卓也はそうでもない。このナンパに関してはいつも失敗して最後は美味い物を食べるのがシメである。

今回のナンパもそうなりそうでどこで食事をするか卓也は調べ始めている。

 

「まだまだ俺様は諦めねえ!!」

「もう今回もダメだよ。そんなことよりも今季のアニメはさ」

「待て、その話は長いから後で聞く。今は次の女を探すぞ!!」

「まだやるの・・・」

 

呆れるしかない。でもそんな彼でも付き合うのが親友だからこそだろう。

島津岳人は力強く優しい男性だ。正直に言う感想なら悪いはずはない。それでもモテないのはタイミングが悪いのか、ガツガツした性格が災いを招いているかのどちからかだろう。

そんな彼の恋はいつ成就するか分からないがそのうち叶うと思われる。確率は低いかもしれないが。

 

「うぬぬぬぬ」

「そんなギラついた目で女性を探してたら怪しまれるよガクト」

「おお!!」

「どうしたの?」

「すげー良い女を見つけた」

「誰々?」

 

卓也も男だから良い女と言われれば気になるのは仕方ない。指を指す方向を見ると美少女がベンチに座っていた。

その彼女は棒付きキャンディを咥えて、携帯電話を操作している。何と言うか「ギャルっぽい?」と思ったのが卓也である。

少し苦手と思うのは彼の性格からのものだろう。逆に岳人は好みだと言わんばかり興奮している。

 

「話しかけてみるか!!」

「・・・ほんと、ガクトは積極的だね。そういうところは尊敬するよ」

 

今日最後のチャンスだと思ってズンズンと近づく。おそらくそのちょっとした行動が失敗だろうと思ってしまう。

 

「そこの綺麗なお嬢さん。今暇かい?」

 

キザったらしく会話を始める。どうも岳人は女性と会話を始める時はキザな感じで始める。厳しいかもしれないが正直似合わないだろう。

棒付きキャンディを咥えている女性は一瞬ポカンとしたがすぐに怪しい笑みを零す。これには脈ありかと勝手に期待するがそうではない。

 

「どうですか。これから一緒に食事でも?」

「あは。お誘いありがとうございます。でも私、これから大事な仕事の打ち合わせがあるんです」

「だ、大事な打ち合わせ?」

「はい。大事な大事な仕事の打ち合わせです」

 

ペロっと棒付きキャンディを舐める動作にドキリと興奮してしまう。彼女からどこか怪しい色気を感じる。そして何か危険な香りも。

 

「お誘いありがとうございます逞しいお兄さん」

 

チロっと舌を出して去っていく。

 

「ほえー・・・」

「ナンパ失敗だね」

「んー・・・何かあの美人。何かあるな」

「何かって何さ」

「なんつーか・・・うちらの女性陣や知っている武士娘たちと違って何かある感じなんだよ」

「ふーん」

 

その何かとは結局分からないが岳人は気を取り直して食事に行こうと決める。最後に会った女性のせいでナンパの気分ではなくなった。

プルルルルルルルルルル。電話が鳴る。

 

「もしもーしこちらビアンカ。今は川神を探索中。そんでもってさっきナンパに会ったよ」

『それはどうでもいい。計画のための探索は順調か?』

「ええ大丈夫よ。ターゲットたちがよく通るルートに人気の無い時間帯とかオーケー。後は九鬼の奴らをどうにかするだけ」

『そっちは問題ない。依頼者の方が我々とは別に策を打っている』

「策って何?」

『別業者に頼んで九鬼の会社に侵入させて目を背けさせるようだ』

「ふーん。ま、九鬼の連中もターゲットをずっと監視しているわけないし時間との勝負ね」

『そうだな。じゃあ切るぞビアンカ』

「じゃあねユージェニー」

 

ピッと通話ボタンを切る。

川神に怪しい影は見え始める。




読んでくれてありがとうございました。
感想などがあればガンガンください。

今回から悪宇商会がついに出てきました。
ルーシー・メイが派遣した人材とは一体!?・・・って分かる人には分かるか。

そんでもって今の私の頭の中の構想中ではこんな感じです。
???VSビアンカ
???VSユージェニー
真九朗VS???

まあバトル展開をまた考えないとなぁ(悩)
ではまた次回!!



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鉤爪の女

こんにちわ。
今回も少しずつ悪宇商会の魔の手が川神に滲んでいます。
そんな状況でも川神はいつも通りの平和?です。



056

 

 

アンパンを齧り牛乳を口に含む。

 

「なあ銀子。悪宇商会って簡単に知れ渡るものなのか?」

「急に何よ」

 

カタカタとパソコンのキーボードを止めずに打ち込む。彼女はいつも通り情報屋の仕事をおこなっている。

真九郎と違って銀子の情報屋としての仕事は繁盛している。ここまで繁盛しているなら幼馴染みよしみで借りた金を帳消しにしてもらいたいくらいだ。

そんな甘えは捨て去って、本題に戻ることにする。悪宇商会とは一般の者でも知ることができるかどうか。

 

「ええ。知ることができるわよ。去年の九鳳院系列でのテロ未遂があったでしょ」

「やっぱりそうか」

「どうしたのよ」

「いや、銀子のクラスにいる与一くんが悪宇商会のことをネットで偶然知ったみたいなんだ。だから案外ネットであるのかなって」

「あるわよ悪宇商会のホームページ」

「あるんだ」

 

また意外かと思ったが悪宇商会は人材派遣会社でビジネスに徹底している。会社の経営としては可笑しなことではない。

もちろん裏社会の組織だから悪宇商会のサイトに行くには手順があるらしい。もしくは伝手が無い限り連絡は取れないだろう。

去年起きたテロ未遂を起こした奴らはどうやって悪宇商会と連絡を取れたか疑問である。

 

「本気で復讐したい奴らは何が何でもするわ」

「そんなものかな」

「そんなものよ。だからあんな奴らがくだらない理由でも簡単にテロを起こそうとしたのよ」

 

カタカタとキーボードを無心に打ち込む。

 

「これ以上余計なことに首を突っ込まないでしょうね?」

「それはどうかな」

「馬鹿」

 

いつもの会話である。罵声を浴びるのがいつもの会話とは変かもしれないが真九郎はそういう性癖ではない。

単純に変な意味を加えないで普通の安心できる会話なのだ。

 

「クラスの方はどうだ銀子。こっちは馴染めてきてるよ」

「私の方もまあまあよ。義経たちや葵くんたち。後は不死川さんとかね」

 

2Sも2Fも癖の強いクラスメイトが多いが癖の強い人物には慣れてる2人は問題無い。銀子はあまり他人に話しかけないが2Sだと義経たちがどんどん話しかけてくれる。

少し鬱陶しい時もあるが嬉しい時もある。そして2Sでは珍しく心もたまに話しかけてくる。内容は真九郎のことを聞いてくるので多少「むっ」としてしまうが顔には出さない。

そもそも最近は真九郎の話題が多いのだ。それは古書争奪戦のせいだろう。そんなの本人に聞けばよいことなのに何故か銀子にも聞いてくる者もいる。

単純に詳しく聞きたい者もいれば『崩月の角』について聞きにきた者もいた。その最たる例が燕である。銀子は情報屋として燕は自分のためになる情報を徹底して手に入れる者だと気付いている。

 

(ああいうタイプはあまり表で活躍しない。ここぞという時に活躍するわよね。それにしても『崩月の角』を知ったところで何もできないのに・・・利用でもするのかしら?)

 

真九郎に「気を付けなさいよ」と注意するがよく分かっていない様子だ。これにはいつも通りため息が出る。

どうして真九郎は自分のことを大切にしないのかと思ってしまう。彼は今もまだ誰かから心配されているということに自覚していないのだ。

 

「・・・・・なあ銀子。今度暇ができたら出かけないか?」

「良いわよ」

「本当か?」

「溜まったお金を返してくれたらね」

「・・・善処します」

 

これもいつもの会話である。本当にいつもの会話だ。

そんな会話を遮るように聞こえている声。

 

「真九郎さん。こんなところに居たのですね」

「夕乃さん」

 

夕乃が優しい笑顔で近づいてくる。そしてこの後の展開が読めてしまう。

またと言うか、いつも通り夕乃と銀子のちょっとした対決である。夕乃がいつも通りに真九郎を我が物宣言をして、銀子が冷たく受け流して彼女の言葉を否定する。

「私の真九郎さん」に対して「貴女の物じゃないわ崩月先輩」と空気が凍りそうである。このままだと静かに怖いことが起きそうなので真九郎が中心に入る。

 

「ど、どうしたの夕乃さん?」

「ああそうでした。実は真九郎さんに用があったんですよ」

「俺に用ですか?」

「はい」

 

ニッコリと優しい笑顔。彼女が言う用とは崩月家に関することだ。

何でも今度の休日に崩月家の人たちが来るらしいのだ。その人たちとは崩月冥理と崩月散鶴だ。崩月法泉は来れるかは分からない。

どうやら交換留学の行き先である川神が気になったのと夕乃たちが上手く過ごしているか気になるから訪れるらしい。基本的に観光気分で来るようだ。

 

「冥理さんたちが今度来るんですね」

「はいそうなんですよ。全くお母さんったら急なんですから」

 

崩月家である意味一番強いのは冥理である。姉弟子である夕乃でさえ敵わないのだから。母は強しである。

 

「そっか。ならこっちも準備しないとな」

「そうなんですよ。なので今度お買い物をしましょう!!」

 

「もちろんです」と答えたが今何か誘導された気もするが真九郎は素で気付かない。夕乃は真九郎とデートの約束することができたので心の中でガッツポーズだ。

そして銀子はムカムカと機嫌が悪くなる。これもまた青春である。

 

 

057

 

 

川神には様々な噂や出来事が飛び交う。真九郎や弁慶が活躍した古書争奪戦も勿論川神で一瞬で知らせれた。

だからこそ真九郎と弁慶は今注目の的である。それが面倒なのだが人間として新しい何かはどうしても惹かれるものだ。

そしてまた川神に新しい噂が広まる。その噂とは『鉤爪の女』。

 

「鉤爪の女?」

「そうなのよ大和。何でも『鉤爪の女』ってのは最近この川神で強者たちを倒しまわってるらしいわ」

 

一子はこういう噂が好きで自分も戦ってみたいと思うのは根っからの武士娘だからこそだろう。

だがよく分からない者と戦うのは危険と判断して大和は一子に注意する。それはまるで子犬を注意する如く。

 

「ふむ。自分も戦ってみたいがな・・・でも危険なのだろうか京?」

「さあ。でも誰彼構わず戦ってるわけじゃないみたいだけど」

 

『鉤爪の女』は京が言った通り誰彼構わず戦っていない。そもそも噂の始まりはクローンからだ。

偉人のクローンと戦ってみたいと言う武人たちが川神に集まり、義経と戦う。しかし、そこで終わりでない。

武人が川神にたくさん集まれば他の武人たちが決闘するのは当たり前かもしれない。武人にとって強者が近くにいれば手合わせしてみたいと思うだろう。

その中で『鉤爪の女』は決闘してくる武人を倒してきたにすぎない。そして負けた武人は他の武人に『鉤爪の女』が強いと話して、さらに他の武人が戦いに挑みに行くのだ。

それが何度もループして『鉤爪の女』が強いという噂が広まったのだ。だから一子の耳に噂が入ったのだ。もちろん一子の耳に入れば百代の耳に入る。

 

「私も『鉤爪の女』ちゃんと戦ってみたいなー」

「姉さんはいつも急に現れるね」

「お前の姉だからな」

「意味分からない」

「まあ、そんなことよりも。その『鉤爪の女』がどこにいるか分からないんだよ」

 

目立つように戦っていないのと自分自身から戦っていないので、どこに現れるか不明なのだ。戦った武人たちも偶然出会ったから決闘したという話が多い。

ゲームで例えるなら中々出会えないまるでレアキャラみたいだなっと思った大和である。最も向こうも意図してやっているわけでは無い。

 

「キャップでも連れて探すか」

「キャップの剛運は凄いけどさ。基本的にキャップだけが使える運だから恩恵を得られるか分からないよ」

「それでも無理矢理引き連れる。お前もだ弟」

「俺を巻き込まないで」

「でも何だかんだでついてくるだろ?」

「・・・まあ」

 

今日の放課後あたりでも探しに行こうと考える百代であった。その捜索にもちろん一子も加わる。

百代がいるから大丈夫だと思うが大和は一応心配なのでついていくことを決める。ファミリーの愛玩動物枠である一子が心配だし、超人である姉もある意味心配なので保護者感覚だ。

 

「ところで姉さんは崩月先輩と紅くんに決闘を迫ってるんだって?」

「そうなんだよー。しかも断られるし」

「無暗に戦いたくないんだってよ」

「何でだよー。強いんだろ。戦いたいよー。角とやらを見てみたいよー」

 

駄々っ子のように不満を言う百代。大和は真九郎から「無暗に戦う主義じゃない」と聞いているから断られていることは察する。

 

「私は見てなかったからあんま分からないけど凄かったんだろ。弁慶の時も凄い気を感じたが紅のやつの気は更に鬼のように荒々しい気のようだったぞ」

「そうね。アタシも遠目だったけど右肘から角が飛び出した瞬間に背筋がゾゾゾってしたわ」

「強い奴が川神に集まってくれるのは良いけど、戦えないのが不満だ」

「でも義経たちの挑戦者の選別の決闘はしているでしょ」

「まあな。でも燕はまだ戦ってくれないし、夕乃ちゃんは普通に断られるんだよ」

 

燕は策を講じて戦うのでホイホイと戦うことはしない。夕乃に関しては戦う理由がなければ戦わない。しかし、真九郎が絡めばすぐに戦うが知らない百代は分からない情報である。知っていたとしてもどうにも出来ないが。

 

「やっぱ『鉤爪の女』を探すか」

 

今の百代の戦い脳の中には燕、夕乃、真九郎たちはいる。だが彼女たちとは戦えないので今噂になっている『鉤爪の女』がターゲットになったのだ。

「戦えるか分からないけど探してみようか」

与一ではないけど大和は何か嫌な予感がするのだ。だから百代たちについていって注意せねばならない。

 

(姉さんがいるから大丈夫だと思うけど・・・何かある気がする)

 

こんなことを口にすればまた百代たちに厨二病でからかわれてしまう。だからソっと言葉を飲み込む。

今日の放課後に噂の『鉤爪の女』を探しに行くことが決定。

 

 

058

 

 

放課後。大和たちは早速、噂の『鉤爪の女』を探しに行く。

メンバーは大和に百代、一子、京、クリスだ。大和以外は全員とも噂の『鉤爪の女』に興味深々である。

中でも百代は強者に目が無く、女の子にも目が無い。興味が出るのは早い段階に分かっていた。

 

「どこにいるのかな~噂の鉤爪ちゃんは?」

「噂だからね。よく出没する場所なんて分からないから虱潰しで探すしかないよ」

 

取りあえず自分の情報網を使って今日の川神で決闘を行っている場所をまとめる。情報をまとめても『鉤爪の女』はどこも決闘をおこなっていないようである。

だがもしかしたら決闘場所の近くにいるかもしれないから1つずつ回ることが決定した。

 

「そういえば真九郎は?」

「紅くんは崩月先輩と買い物してるよ。何でも今度の休みに知り合いがくるから用意したいみたいだよ」

「知り合いとは・・・可愛い子ちゃんか!?」

「それは知らない」

 

今度来るのは環に闇絵、崩月家族たちだ。真九郎なら可愛い子と言われれば散鶴だろう。

環と闇絵は可愛いとは言わない。むしろ面倒と怪しいが似合う。冥理は大人の色気と言うのが似合う。

 

「でも紅くんの知り合いは気になるかも。揉め事処理屋の知り合いだと一癖も二癖もありそう」

「実際に癖の強い人たちらしいよ」

「可愛い子ちゃんなら問題無し!!」

「モモ先輩はいつもどーり」

 

歩いていると騒がしい声が聞こえてきた。どうやら路上決闘をしているようである。百代が決闘している相手たちを見て「知らないな」と小さく呟いたので有名ではないのかもしれない。

そして両方とも男性なので『鉤爪の女』ではないだろう。周囲を見渡してもそれらしい人物は見当たらない。

 

「そういえば『鉤爪の女』の特徴って分かるかワン子」

「鉤爪よ!!」

「常時鉤爪をつけてる女はいないよワン子」

 

京が冷静に応える。確かに彼女の言う通り鉤爪を常時装備している女はいないだろう。これでは分からないので他の情報が必要だ。

情報網をまた駆使してまた『鉤爪の女』の情報を得る。すると新たな情報が出てくる。

 

「何々・・・どこかの学園の制服を着ているらしいよ」

「同じ学生かあ。どんなトレーニングしてるか気になるわね!!」

「周囲に制服着た子は・・・」

「いる?」

「居た」

「どこどこ!?」

「そこ」

 

京が指を指す先を見ると制服を着た女性がいた。鉤爪はつけていないが、特徴としてはここの場所では彼女しかいない。

もしかしたら彼女が『鉤爪の女』かもしれない。まずは会話からだろうと思って話しかけようと思ったら既に百代が話しかけていた。

 

「へい、そこのお嬢さん。もしかして噂の『鉤爪の女』かい?」

 

キザったらしく会話を始める百代に顔を向ける制服の女性。顔の反応からでは普通である。まさに「なに?」って感じである。

 

「・・・噂だとそうなっている」

 

噂の『鉤爪の女』を発見した。百代はすぐさま品定めをしてしまう。

 

(・・・ふむ、確かに噂通り強いな。たぶんマルギッテくらいか?)

 

百代は彼女の気の強さと雰囲気で大体の予想をする。今ここには複数の武術家が集まっているがおそらく彼女が1番強い。

一子たちも彼女の強さを感じており、中でも百代と一子は戦ってみたいとソワソワしている。

 

「お姉さま。アタシ彼女と戦ってみたいわ」

「私も戦ってみたかったが、まあ良いぞ。ワンコ頑張れ」

 

一子が『鉤爪の女』と戦うことが決定した。

 

「・・・勝手に決めないでもらいたい」

「そうだよ姉さん。それにワンコ。向こうは決闘するなんて言ってないんだぞ」

「大丈夫。今から交渉するから。アタシと決闘しましょう!!」

 

元気良く決闘を交渉する一子は本当にいつも通りだ。そこが彼女の良いところなのかもしれないが。

 

「・・・良いですよ」

「やった!!」

 

喜ぶ一子とは逆に『鉤爪の女』は顔1つ変えないで鉤爪を装備している。

 

「アタシは川神一子。よろしくお願いします!!」

「ユージェニーだ」

 

川神院の一子と噂の『鉤爪の女』が決闘すると周囲がワイワイ騒ぎ始める。

 

「何か向こうが騒がしいですね真九郎さん?」

「路上で決闘するみたいだ。さすが川神」

「まあ今は買い物ですよ買い物。行きましょう真九郎さん!!」

 

真九郎と夕乃は買い物に向かう。

 

(真九郎さんと買い物デート。幸せ日記に書かなきゃ!!)




読んでくれてありがとうございました。
感想などあればゆっくり待っています。

今回の『鉤爪の女』はユージェニーでした。
紅の漫画版を見ている人はすぐに理解したでしょう。前回はビアンカでしたからね。
なら最後の1人も分かりますね。(隠す気なし)

悪宇商会のユージェニーに決闘を挑んだ一子はどうなる!?
正直危険だぜ・・・一子たちは相手がプロの戦闘屋と気付いていませんから。

そして真九朗はそのことに気付かない(夕乃に買い物デートをさせられてます


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鉤爪の女と戦い

こんにちわ。
今回は一子VS悪宇商会の少女です!!
もちろん一子は相手がプロの戦闘屋と気付いていません。
この勝負はどうなるか!? 結果はだいたい想像できそうですが。




059

 

 

「行くわよ!!」

「いつでも」

 

一子が走り、薙刀を下から上へと振るうがユージェニーは軽やかに避けて鉤爪を突き立てる。だが一子も相手が強者だと分かっているので避けられることも予想済みだ。

すぐさま防御をとって鉤爪を受け止める。ガキンっと金属音が聞こえ、腕に重みが掛かってくる。

 

「おっとお!?」

「はっ!!」

 

今度はユージェニーが攻撃に回り、鉤爪を使って連続で攻撃する。素早く縦横無尽に鉤爪が襲い掛かってくる。

無論、鉤爪だけで攻撃しているだけでは無く、連続で流れるように攻撃している中で肘打ちや蹴りも含まれているのだ。彼女は無表情のまま淡々と攻撃してくる。

まだ始まったばかりだが百代はユージェニーの戦闘スタイルを見て「戦い慣れてる」と小さく呟く。武神と言われる百代なら相手の微かな動きでも強さが大体分かる。

 

(あの女は・・戦いに慣れてるな。決闘に慣れてるっつーか場数を踏んでる感じだ)

 

ユージェニーからただならぬ何かを感じるが詳しくまでは分からない。しかし良い感じでは無いと確定できる。

もし一子が危険になったらすぐにでも助けるつもりだ。ピリッとした気が空間を包む。

 

(・・・分からないけど武神に睨まれたな。何か感づかれたか?)

 

薙刀をかわしながら一瞬チラリと百代を見る。見た目なら美少女だが中身は暴れたい衝動を抑え込んでいる獣だ。

 

(計画のために私は少しだけ目立つつもりだったがここまで目立つとはな。武神にも目をつけられたか?)

 

ある計画のために彼女は少しだけ目立っている。詳しくは言えないが彼女は自分自身が目立つことである者たちからある者たちを欺けるのだ。

だが彼女自身も目立ちすぎると計画に支障を来すので、そろそろ控えるべきだろうと考え始める。更に周囲を見るとメイドや執事が静かに見ている。

 

(ふむ・・・ここらが引き際か)

「たああああああ!!」

「ふん」

「よそ見してない!?」

「していない」

 

勝負状況は一子の薙刀を軽やかに避けるユージェニーといったところだ。そして少しずつ鉤爪で攻めている。微小の傷とはいえ、どちらが有利か丸分かりで一子は切り傷が至る所にある。

だが一子にとって生傷には慣れているので気にしない。彼女はよくオーバーワークで自分自身を苦しめているので全然平気だ。

これくらいで痛いなど辛いなど全然へこたれるのが彼女ではなく、寧ろ逆向に立ち向かう度に強くなるために努力するのだ。だからこの状況でも笑いながら戦いに挑んでいるのだ。

 

「アナタって強いわね。でもまだまだよ!!」

 

薙刀を振るう速さがどんどん早くなる。それでも避けれるユージェニーである。

 

(発展途上の武術学生がプロの戦闘屋に勝てると思うな・・・が、そんな相手にどう思っても仕方ないな)

「そろそろ決める。山崩し!!」

 

頭上で大きく旋回させた薙刀を 斜めに振り下ろして、相手の足を狙った。今まで相手の上半身を重点的に攻めていたので急に下半身への攻撃は予想外。そもそも一子は隙を作るために狙っていたのだ。

この攻撃にユージェニーは少し評価を変え、自分に油断があると反省。この瞬間だけ動けないのはやはり軸足を攻撃されたから。

その隙を突いて一子が空高く飛び上がり、一回転して急降下しながらカカト落としを繰り出す。

 

「天の槌!!!!」

 

ズドン!!!!!!

手応えのある鈍い音が聞こえてきた。そして今度は聞こえてくる声がユージェニーでは無くて一子の声であった。

勝利の確信への声ではなく、痛みの声であった。

 

「痛ったああああああああああああ!?」

 

足を抑えてバタバタしている姿を見て大和は「ワン子!?」と叫んでしまう。これでも目は良い方だが何があったか分からない。

 

「アレは痛いな」

「だね。もうこの戦いで蹴りは出せないかも」

「なあ、何があったんだ?」

 

クリスたちは何があったか見えていたらしい。ならば聞くのが一番だ。

 

「犬の『天の槌』が相手に決まったかと思ったが決まって無かったんだ。相手はカカト落とし鉤爪で受けたんだよ」

「受けた?」

「ああ。カカト落としが直撃する前に相手は振り落とす犬の足に鉤爪を正確に突き立てて刺したんだ」

「ウゲ・・・それは」

 

鉤爪が足に刺さるのは痛い。それが勢いあって深く刺さったなら考えたくもないだろう。すぐにでも一子の下に駆け寄りたいと思うのは大和たち全員だが決闘はまだ終わっていない。

なぜなら一子の目はまだ諦めてないからだ。武術家の者たちにとって諦めていない者を降ろすのは出来ない。

 

「ワン子の諦めない目を見た。ならば最後まで戦え!!」

「はいお姉さま!!」

 

気合いで立ち上がり、一子はもう一度薙刀を構える。もう不利しかないが諦めずに立ち向かう姿に周囲の観客たちはつい応援してしまう。

 

「いっくわよ!!」

「・・・もう終わりにします」

 

痛いのを我慢して一子はユージェニーに立ち向かったが奇跡なんて起きず、勝敗は決まった。勝者はユージェニー。

 

 

060

 

 

「負けた~」

 

第一声が悔しい言葉であった。バタリと仰向けになって倒れる姿はまさに敗北した姿であろう。しかし一子の気持ちは勝負した達成感が充実していた。

鉤爪が刺さった片足は酷く痛いが、それでも試合できたことに良しとする。この痛みは川神院の特製傷薬を使えば治るものだ。

 

「ワン子!!」

「あ、大和。アタシ負けちゃったわ」

「いいから足を見せろ」

 

一子の足を見ると、やはり深く鉤爪が刺さっている痕が分かる。いつも常備している布を優しく巻く。歩くのは辛いだろうから帰りは抱えてくのが彼女のためだろう。

これは勝負事によって負ってしまった傷だから文句なんて言えないが大切な仲間が傷つけられれば文句が言いたくなってしまう。

 

(でもこれは勝負事・・・ワン子は負けた。だから俺が文句を言っても仕方ない)

 

大和は武術家ではないが勝負の世界くらいは分かっているつもりだ。百代たちだって心配してないわけ無いが勝負で負った傷はどうしようもない。

ここは早く川神院に連れてって傷を治療した方が良いだろう。その後は美味しい物でも奢ってやるのが一番である。

 

「よく頑張ったなワン子」

「うん。頑張ったわお姉さま」

「ほら犬。肩を貸してやる」

「ありがとクリ」

 

クリスは一子に肩を貸して彼女を支える。今いる決闘場所から川神院まで近いから足への負担は少ないだろう。

だがその前に百代が動く。妹の敵討ちと自分が戦ってみたい欲求を滲み出しながらユージェニーに近づく。

 

「さあ今度は私が相手だ。決闘しようぜ!!」

「・・・お断りします」

「何で!?」

 

意気揚々と決闘を迫ったが断られて出鼻を挫かれる。最近、本当に目を付けた相手ばっかり決闘を断られるので不満が募る。

燕も夕乃も真九郎も決闘を断られてもう戦闘欲求が爆発しそうである。まだ燕と稽古をしているからマシだがそろそろ全力で勝負した今日この頃。

 

「な、何でダメなんだー!?」

「これから用事がある。だからもう決闘はできない」

「そ、そんな~」

 

ユージェニーは百代を待つことなく人込みの中へと入っていき姿を消した。追いかけようとしたが気配を消しているのと妹である一子がケガした状況から断念する。

それでも川神に楽しみが1つ増えたと考えれば良しと思える。また会えることを願いながら帰ることにした。

周囲の野次馬たちも決闘が終わったので帰宅し始める。別の武術家たちはまだ見ぬ武術家を探しに、もしくはすぐ近くにいる武神の百代に勝負をする。

 

(・・・鉤爪ちゃんと戦いたかったが仕方ない。他の挑戦者で我慢するか)

 

百代は挑戦者たちの決闘を受けることにして溜まった戦闘欲求を解消することにした。

 

「私は挑戦者の相手をする大和たちは先に川神院に戻っていてくれ。終わったらすぐに私も向かう」

「分かったよ姉さん」

「今日は大和が美味しい物を奢ってくれるからな」

「姉さんに奢るとは言ってない。あとお金返して」

「さあかかってこい挑戦者!!」

 

借金の話になるとすぐに逃げる。これにはいつも通りだと思う京である。

 

「大丈夫ワン子?」

「ええ大丈夫よ京。それにしても強かったわ『鉤爪の女』。えっと名前はユージェニーって言ってたわね」

「うん。鉤爪を使って戦うスタイルはすばしこかったね。あれは接近戦になったら私もキツイかも」

 

京は弓矢をメインに戦う。一応、接近戦も想定して対応策は考えているがそれでも厳しいだろう。

 

「大和から濃厚な愛を貰えれば勝てるかも。ね、大和」

「ノーコメントで」

「なあ。あの女を見ていて強いと思ったが実際に戦った身としてはどうだった?」

「うん強かったわ。でもちょっと気になることがあったのよね」

「気になること?」

「うん。何かあの人と戦っていると違う感じなのよね」

 

違うという言葉の意味は何か。それは一子がユージェニーに感じ取った危険な雰囲気というべきものだ。

その危険が何かは分からない。でも今まで戦ってきた者たちとは比べることができない深い闇を感じ取ったのだ。

 

「見た目からは危険とは見えないけど・・・どっか彼女からは危険と感じ取ったのよ」

「危険ねえ。俺はそう見えなかったけど」

(あの危険な感じ・・・どこかで味わったような。とても嫌なもの)

 

一子が昔味わった危険な何か。忘れないが忘れたい記憶。それは昔、川神院で修業していた時の一瞬の油断で大ケガしてしまったことだ。

今は元気で健康であるが、その時の大ケガは一歩間違えれば死んでいたかもしれないのだ。油断からの事故、ケガは本当に命を落としてしまうのだ。

だから注意しなければならない。一子か感じていたのは当たり前にある危険であり、普段なら頭の片隅にある危険だ。それが死である。

 

「う~ん分かんないわ」

「分からないなら今は川神院に戻ろう。早く足の治療をしないとな」

 

昔に味わった死の記憶は普通忘れたいものだ。だから一子は今回に何となく感じた危険な感覚が分からなかった。

だが、いつか思い出す時がくる。それが早いか遅いかはまだ分からない。

 

 

061

 

 

川神にある喫茶店。ここに2人の女性がゆっくりと休憩している。

 

「どうだった川神院の人間と決闘した感想は?」

「未熟のアマチュア。依頼だったら簡単に仕留められる」

 

感想はストレートに放つ。

 

「だが武神である川神百代は危険だ。アレをもし仕留めるなら私たちだけでは足らないな」

「武神にも出会ったんだ」

「ああ。そろそろ目立つのは控える。私が目立っている間にそっちは準備できたか?」

「ええ。ユージェニーが目立っていたおかげでこっちは九鬼に見つからずに川神を調べ上げられたわ。後は実行するだけよ」

「了解した。もう私も戦うのは止めよう。これ以上戦うと本当に九鬼に目をつけられそうだ」

 

紅茶を一口飲む。今流行りのパンケーキ切り分けてクリームたっぷり付けて食べる。

その姿からは今時の女子にしか見えなく、彼女たちが悪宇商会の戦闘屋とも見えない。

 

「プリムラはどうした?」

「えっとね。プリムラは九鬼の動向を調べてるわ。捕獲の時に邪魔されたら困るしね」

「だが捕獲の時は他業者が九鬼に潜入して欺けるのだろう?」

「他業者だけでは信用ならないみたいだよ。絶対に成功させるために独自に調べて他業者に情報を渡してる」

「そうか。一応聞くが大丈夫か?」

 

世界財閥の九鬼を調べるのは危険であろう。しかし、そこは案外大丈夫である。世界財閥の九鬼は無敵のように見えるが少しでも情報を盗み取ろうとする輩はいくらでもいる。

だから九鬼財閥は敵が多い。多い敵のうち1人なら此方の方で上手く動けば感づかれない。だが細心の注意をしなければならない危険な相手である。

 

「そうなのか」

「そうよ。貴女のおかげで九鬼も多少の目は欺けてるし」

「なら良い。私は今日で身を潜める。計画時には忘れられてるくらいにはな」

「一応噂は一瞬だけ広まってすぐに消えるような感じにしたから大丈夫でしょ。私もそういう風に噂を流したし」

 

紅茶を飲み干してパンケーキを完食する。2人は代金を払ってまた人込みの中へと消えていく。




読んでくれてありがとうございました。
感想などあればガンガンください。

今回の勝負は一子の敗北でした。流石にプロの戦闘屋に勝つのは厳しいでしょう。
でも一子もただただ負けるのは書きたくなかったので少しだけ活躍させたつもりです。
努力する子は嫌いじゃないです。

そしてセーフであった一子。命は無事です。
悪宇商会は仕事以外では殺しはしませんので。今回は前準備のようなものなので本当にセーフです。
でも百代と言わず一子もプロの戦闘屋から感じる死の気配を感じ取りました。

どんどん紅の世界観の危険度が迫りますね。


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ストーカー

こんにちは。
今回はタイトルで分かるような展開です。

簡単に言うと大和たちと競りで勝ち取った事件を解決します


062

 

 

川神周辺でデートをするなら何処が良いか。そんな質問を川神の学生に聞くと色々と答えが返ってくる。

例えば七浜が良いらしい。港があって、海も見える。更に近くには中華街あるので食事にも誘える。確かにデートのコースとしては最適かもしれない。

 

「でも今回は買い物が目的なんですよね。映画とかお洒落な食事は関係ないんですよね」

「どうしたの夕乃ちゃん?」

「あ、清楚さん。実は今日の帰りに真九郎さんと買い物に行くんですよ」

「買い物?」

「はい。今度の休みに家族が訪れるんです。その為にもてなす御菓子でも買おうかと考えてるんですよ」

 

娘が心配だから家族が様子を見にくるのは何らおかしいことではない。ほかにも川神を観光したい思いもまた不思議ではないだろう。

家族が様子を見に来たら終わりではない。その後、夕乃は家族を観光させるつもりなのだ。もっとも彼女はまだ川神の隅々を知っているわけでは無いのでデートスポットとは別に観光スポットも聞いている。

 

「家族が来るんですね。観光ならやっぱ川神院とか仲見世通りとか良いと思うよ」

「やっぱりそうですか。他の方たちに聞いたんですが、仲見世通りからの川神院と言うのが定番のルートらしいですね」

 

教えてもらった定番の観光ルートを回るのが一番だろう。無理にあっち行ったりこっち行ったりするのは疲れるだけだ。観光はゆったりと余裕を持ってするものである。

 

「放課後はやっぱり何処かで軽めに食事なんて良いですかね」

「それ憧れちゃうな。紅くんと一緒に行くの?」

「はい。真九郎さんにはちゃんとエスコートしてもらいませんと。それが殿方としての役割です」

 

夕乃は真九郎を理想の男性へと成長させている。しかも本人はその事実に気付かない。

 

「・・・紅くんと一緒にかあ。良いな」

 

ボソリと呟いた言葉だが誰にも聞こえない。そもそも何で、そんなことを呟いたか分からないので急に顔を赤くしてしまう。

ふるふると顔を振ってクールダウンさせるが何処か羨ましがっている自分に驚いていた。

 

「・・・・・・ん?」

 

その少しの雰囲気を感じ取った夕乃は何か不穏を感じた。例えるなら恋する乙女の敵が現れたような感覚だ。

 

(まさか真九郎さん・・・いえ、そんなことありませんよね?)

 

自分の予想が的中するなんて、そんなことはない。

念を押しながら思うしかなかった。だけどそろそろ真九郎の周りの女性関係について確認しなくてはならないだろう。川神学園にきてから女性と関わることは無かったなんてことは有り得ない。ただでさえ島津寮には3人の女性が居るのだから接点はある。

 

(近いうちに真九郎さんと面談しないといけませんね。ただでさえ今は恋敵が多いのに・・・更に増えるのは困ります)

 

紅真九郎。近いうちに面談することが勝手に決定する。欠席は不可。もし欠席したら稽古を開始する。補足だが面談結果によっては稽古をする。

どのみち逃げ場が無い。

 

 

063

 

 

今度の休みに崩月冥理たちが川神に訪れる。ならば歓迎の準備をしなくてはならないだろう。本人たちはただ様子を見に行くだけだから、そこまで準備なんてしなくても構わないと言うが夕乃の性格と真九郎の性格では許さない。

真九郎にとって冥理たちは愛を教えてくれた大切な家族だ。何もしないわけにはいかない。

 

「何が良いかな夕乃さん?」

「そうですね。散鶴も来ますから甘い御菓子とか良いかもしれません」

「なら小笠原さんの店が良いかも」

「小笠原さんの店?」

「クラスメイトです。仲見世通りで和菓子屋を経営してるんですよ」

「ならそこに行きましょう。エスコートをお願いしますね」

 

仲見世通りまで買い物に行く。途中でガヤガヤと騒いでいる場所があり、聞いたことのある声が聞こえてきたが気にせずに通りこす。

川神では路上決闘が当たり前なので気にしないことにしている。そもそも決闘場所にいると百代にまた決闘を吹っ掛けられそうなので退散である。

 

「真九郎さんも百代さんに決闘を迫られてるんですね」

「そうなんですよ。夕乃さんの気持ちが分かります」

 

百代の決闘したいアプローチは大変だ。いきなり空から降ってきたり、子供のようによく分からない屁理屈で決闘を迫ったりとあるのだ。

流石に問答無用で仕掛けてこないが毎回会うたびに決闘を吹っ掛けられては疲れる。

 

「それは真九郎さんが角を解放したからです。川神さんは戦いが大好きなお方ですから角を見れば興味を沸きますよ」

「・・・ですよね」

「崩月の角は隠しているわけではありませんが、堂々と出すものでもありませんよ」

 

彼女の言う通りで『崩月の角』は隠しているものではない。崩月を知っている者なら角も知っている。だがあっけらかんと話すものでもない。言うならば隠してないけど公に言うものでもない。

 

「もしかしたら交換留学中に決闘することになるかもしれませんね」

「勝てないですよ」

「男性たるもの最初から諦めるものではありません。出席番号17番の真九郎くん」

「・・・またソレですか」

 

夕乃はたまにお茶目なことを言う。

 

「それはそうと真九郎さん」

「はい?」

「私たちって周りの人から見るとどんな風に思われてるんでしょうか?」

「え、それは普通に買い物してるだけ」

「違います!!」

 

ビシリと否定される。

 

「違います。これはお買い物デートです」

「は、はあ」

「夕乃さんと買い物できて嬉しい。夕乃さんが居れば安心だ。夕乃さんが居ないと何も出来ない・・・」

「あの、そこまでは」

「はい?」

「そう思ってます」

 

笑顔の圧で答えさせられる。こういった時は反論しないで頷くのが得策である。

 

「だから・・・」

 

夕乃は控えめに手を出して、目で訴えるが真九郎は何もしないわけには理解出来ない。

 

「真九郎さん?」

「はい」

「・・・分からないんですか?」

「・・・・・・すいません」

 

笑顔であるが空気がピシリと聞こえたような気がした。

 

「手を出しているんですから、繋いでほしいってことです!!」

 

そんなことも分からない真九郎は本当に鈍感である。夕乃がどんなに言っても注意しても真九郎はきっと分からないだろう。

だが鈍感な真九郎でも天然でもあり、無意識にするべき答えが分かるのか行動できる。ぷんぷんと言う擬音を出している夕乃の手を真九郎は優しく握る。

 

「あ・・・」

「あの、夕乃さん?」

「・・・取りあえずまだこのままで」

 

夕乃は不意な行動に弱い。顔が真っ赤だが理由が分からないのはやはり真九郎の鈍感ゆえだろう。

そんな出来事は先日の話である。真九郎は夕乃に冗談で言われた宿題を考え込む。その宿題とはなぜ手を握って欲しいと分からなかったのかだ。

今も考えているが鈍感な彼にはいつまでたっても分からないだろう。

 

プルルルルルルルルル。

電話のコール音が鳴る。携帯電話の通話ボタンを押すと聞きなれた声が聞こえてくる。

 

『私だ。紫だ。真九郎よ今大丈夫か?』

「大丈夫だよ紫。どうしたんだ?」

『急に電話したくなったんだ。良いだろうか?』

「ああ。良いよ」

 

たまにだが紫から電話がかかってくる時がある。理由は特に無く、真九郎と会話をしたいから電話をかけてるのだ。

真九郎も紫からの電話を迷惑なんて1度も思った事が無いし、寧ろ気が落ち着く。中には会話の中で答えにくいこともあるが、それはお約束のようなものだ。

 

『なあ真九郎。前にも話したが私と結婚しないか?』

 

このような会話が真九郎にとって答えにくいものである。紫のことは嫌いではないが結婚とか恋人とかなどの話になると上手く答えが出ない。

この話は深く踏み込まないように大体いつもはぐらかしているのだ。だがそれでもいつかは答えなければならない。

いつになるかは未定だが今はこの関係を崩したくない。今はこの関係が心地よいのだ。

 

『結婚というのは女性が16歳から。男性が18歳からと聞いたぞ』

「まあ、そうだね」

『だから私が16歳になるまで待っていてくれ!!』

「・・・考えとくよ」

 

ここもいつも通りはぐらかす。

 

『しかし約10年は長いな。ならば婚約だけでも結んでおくか!!』

「それは・・・」

『何か不満か?』

「不満じゃないけどダメ」

『何故ダメなのだ。結婚は約10年待たないのとダメと分かった。それに前の話では仕事で大変だからまだ結婚する気になれないと理解した。しかし婚約ならキープと言うやつだろう?』

「婚約をキープなんて言葉使っちゃダメ」

『そうなのか。環に教えてもらった言葉なのだが・・・他にも光源計画とか禁断の愛とかな』

「それは忘れるんだ紫」

 

本当に環は紫に余計なことを教えないなっと頭を抱えてしまう。心の中で「あのエロオヤジ」と悪態を吐く。

いつものことなのだが環はああいう性格だから仕方ない。いつも注意してるがどうせ直るなんてことは無いので諦めている。

 

『そうだ。今度の休みにまた遊び行くぞ。良いだろうか?』

「良いよ。それに今度の休みは環さんたちや冥理さんたちも来るんだ」

『おお、そうなのか!!』

「ああ。また皆が集まるね」

『絶対に遊びに行くぞ!!』

 

紫の声は元気一杯である。また会えるのがとても嬉しいのだろう。真九郎もつい顔が優しく綻んでしまう。

 

『ではまたな真九郎』

「ああ、またな」

 

紫が先に電話を切るのを待ってから切る。そして携帯電話をしまったら肩をポンと叩かれる。

誰かと思って後ろを振り向くと優しい顔をした準であった。

 

「い、井上くん?」

「紫様と電話してたんだな」

「そ、そうだけど」

「また遊びに来るんだってな」

「う、うん」

「その日に俺も遊びに行ってもいいかな?」

「ストップだハゲー!!」

 

小雪が準を蹴飛ばして、冬馬が回収する。

 

「準がすみませんね。どうやら紫ちゃんが大層気に入ったみたいで」

「気にしないよ。それに紫も井上くんのことが気に入ったみたいで良い人だって言っていたよ」

「本当か!!」

「うわーん。準がパワーアップした~」

 

準曰くロリが絡めばパワーアップするらしい。更に同じ空間内に居れば数倍パワーアップする。

人が強くなるキカッケは人それぞれだ。準とは違うが真九郎だって紫の鼓舞で今まで強くなってきたことがある。

人は誰しも守りたい人がいるはずだから、その人のことを思うと力が湧いてくるのだろう。人によるかもしれないが真九郎はそうである。

 

「今度遊びに行くぜー!!」

「行きますよ準」

 

小雪にズルズルと引きずられながら準は連れてかれる。

 

「・・・ここ屋上でさっきまで誰も居なかったはずなんだけど」

 

ここはいつも通り川神学園の屋上。そして先ほどまで真九郎しか居なかったのにいつの間にか準たちが来たのに微妙に驚く。

油断していたのか、ロリの力で準の力が上昇したかは分からない。

 

「俺もそろそろ戻るか」

 

屋上から階段へと戻り、カツカツと降りて廊下を歩く。廊下を歩けば誰かに会うのは当たり前である。

 

「あ、紅くんだ!!」

「やあ川神さん。足は大丈夫?」

「うん大丈夫よ。川神院特製の傷薬を使えば平気よ!!」

 

一子が路上決闘で負傷したのは聞いている。その決闘によって足を負傷したみたいだが本人は平気とのことだ。しかし完治するまで決闘はできないだろう。

毎日かかしている修業も満足にできないので少々不満らしい。代わりに勉強をしてみればと言うが頬掻きながら口ごもんでしまった。

 

「勉強は苦手なのよう」

「なるほど。まあ、俺も苦手だよ」

 

勉強が好きだと言う人間が少ないだろう。勉強するのは自分のためであり、将来のために勉強するのだ。

たまに「コレ勉強して意味がある?」なんて疑問を誰でも1回は思うかもしれないが何だかんだで意味があったりしている。それはやはりステータスとしてだろう。

真九郎の勝手な理論だが、受験や就職で武器になるのはステータスだ。履歴書を出すときに勉強した結果が書き込めれば武器になる。だから勉強するのだ。

 

「でも何かしら専門知識があってもマイナスにはならないよ」

「そんなものかしら?」

「そんなものだよ」

 

揉め事処理屋でも専門の知識があった方が良い時がたまにある。そもそも揉め事処理屋は何でも屋でもあるので知識はいくらあっても良いくらいである。

最も真九郎は勉強を頑張っているが、身体を酷使する仕事の方が多いので一子に「勉強した方が良い」なんて言うのは微妙な気もする。

 

「それにしても強かったわ。次こそはリベンジするわ!!」

「頑張ってね川神さん」

「そうだ。紅くんもいつか勝負してね!!」

「・・・考えとくよ」

 

姉が姉なら妹も妹なのかもしれないと思った瞬間であった。留学の時に決闘をしようと言われたのだから、いつか言われるとは分かっていたが笑顔で言われると断りにくいものである。

一子は本当に元気で天真爛漫な人であり、風間ファミリーが可愛がっている気持ちが何となく分かる。彼女には良い人生を歩んでほしいものだ。

 

(俺みたいに不幸にあってはいけない子だな)

 

彼女は元々、孤児院出身であり、真九郎と親が居ないという意味では一緒。そして引き取り先の新たな家族が良い人たちであったのも同じだ。

彼らはそれだけでも幸せであろう。何せ良い人たちに出会えたのだから。

 

「でもリベンジしたいけど・・・最近『鉤爪の女』が川神から居なくなったみたいんだよね」

「そうなの?」

「うん。最近噂も消えてきたかな」

「まあ、噂も一時だからね」

 

噂なんて急に流れたと思えば、気が付けば消えるものである。たいして興味が無い者にとっては「そんな噂があったんだ」と言うくらいだろう。

彼女は「足が完治すればまた会いに行こうとしてたのに~」なんて言って残念そうである。

 

「彼女も武術家ならまた川神に来るよ。だってここは武術の町だからね」

「そうよね!!」

 

本当に元気一杯で笑顔が似合う女の子だ。

 

「取りあえず、足に負担を掛けないように修業するわ」

「そこは勉強じゃないんだ」

「勉強より修業!!」

「いや、勉強しろ犬」

 

ここでクリスがヒョッコリと現れる。どうやら真九郎を探していたらしい。

何故探していたかと言うと今日の放課後にある依頼を達成させるためだ。ある依頼とは川神学園の競りで行われた依頼である。

 

「あ、もしかしてキャップが前に競った依頼ね」

「そうだ。だが犬が負傷してしまったからな。流石に負傷している犬を依頼に参加させるわけにはいかないからな」

「えー」

「えー、じゃない。負傷者は療養しろ」

 

負傷者は大人しくしている。ケガ人にはそれが一番だろう。

 

「それでだ。空いたメンバーをどうしようかと考えたんだが真九郎に手伝ってもらおうかと」

「なるほどね。どんな依頼?」

「簡単だ。悪質なストーカーを捕まえる」

「・・・簡単?」

 

ストーカー逮捕は簡単では無いと思うのだが彼女にとっては簡単らしい。

 

「悪を捕まえる崇高な依頼だ」

「風間ファミリーだっけ。全員で行くの?」

「いや、全員じゃない。自分にキャップ、大和、ガクトに由紀恵だ」

「川神先輩たちは?」

「普段なら全員参加だが、用事と言うものがあるらしい」

 

百代ならこういう依頼なら参加しそうだが今回は本当に用事があるらしい。その用事が終わればすぐに駆け付けるとのこと。他のメンバーも似たような状況らしい。

 

「なるほど。良いよ」

「助かるぞ真九郎」

「じゃあ説明するからついてきてくれ」

「分かった」

「またね紅くん、クリ」

 

一子と別れてクリスについていく。

場所は川神学園の食堂である。そこにはクリスが話していたメンバーが机に座っていた。そして知らない女学生。

 

「お、紅を誘えたのか」

「待ってたぜ真九郎!!」

 

中々の歓迎ムード。手伝うことは物騒であるが。

 

「俺が早速説明しよう」

 

大和が丁寧に説明してくれる。

ストーカーの被害者は川神学園のCクラス2年女学生の上岡梓。陸上部に所属しており、まさにスポーツ少女といった子である。

被害にあったのは1週間前で帰宅時に尾行されたり、迷惑な手紙が何十枚も送られたり、最悪だと盗聴器も仕掛けられているのではないかと不安になる始末だ。

最近だと家まで来て夜中ずっと見られているくらいになっている。これは酷い状況で女性でも男性でも怖いと感じるだろう。

 

「なんて悪質な・・・」

「ああ許せないぜ」

「だから捕まえる」

 

翔一たちはストーカーの所業を許せない気持ちで一杯である。しかもストーカーは自分の行いを悪いと思っていないのだから困る。

どんな理由かは分からないが梓を好きになったから起こしてしまった行動だ。その行動が悪質だと気付いていなければ性質が悪い。

 

「・・・わたし、もう怖くて家から出るのも辛いの」

「大丈夫だ上岡さん。俺らが絶対にストーカーを捕まえてみせるよ」

 

大和が慰めるように安心させる言葉を言う。あまり意味は無いかもしれないが声をかけるだけでも多少は違う。

 

「ストーカーか」

 

ポツリと呟く。去年に真九郎はストーカー被害にあった女性を助けたことがある。そのストーカーも悪質な奴であった。

今回は流石にそれほどでは無いと思いたいが悪質な奴ならそんな希望は思わないことだ。

 

(・・・確かあのダム建設は人員をまだ欲しがっていたな)

 

捕まえた後の事を考えるとどのように処置するかを勝手に決める。実際は警察とかに任せるだろうが二度とストーカーなんてさせないように釘をさすように準備する。

ストーカーを捕まえて更生の余地無しなら同情せずに罰を与える準備である。真九郎が去年捕まえたストーカーは更生の余地が無かったから過酷なダム建設現場へ送り出したのだ。

 

「じゃあ早速捕まえる計画を立てよう」

 

ストーカー捕獲作戦開始。

 

 

064

 

 

ストーカー捕獲作戦決行。

作戦は至ってシンプルだ。上岡梓には申し訳ないがストーカーを釣るための餌になってもらう。と言っても普段通り帰宅してもらうだけ。後は大和たちがストーカーにバレないように一般人を装い、周囲を探るだけだ。

 

「今のところ近くに怪しい奴は居ないな」

「そうだね島津くん」

 

組分けをしており、真九郎に岳人、クリスに由紀恵、大和に翔一である。

携帯電話を駆使しながら連絡も取り合う。

 

「俺らの事がバレたか?」

「疑り深い奴なら俺らのことを警戒している場合はあるね。でも最近の出来事なら近くにいる可能性はあるよ」

「大和に一旦連絡してみるわ。高いところから周辺を探索するって言ってたしな」

 

携帯電話を取り出して連絡を取り合う。何か変化が無いかどうか。このまま何もなければストーカーは警戒して今回は出てこないかもしれない。

 

「大和。周辺はどうだ?」

『今のところ目ぼしい野郎は居ないな・・・あ、そっちバイクが向かってるくらいだ』

「バイクだけか?」

『ああ。怪しい奴は居ない』

 

バイクだけが向かってると聞いて何か嫌な予感がする。まるで去年と少しデジャブなような感じだ。

そう感じた瞬間に身体は勝手に動いていた。

 

「島津くん。バイクの奴がストーカーかもしれない!!」

「何だって!?」

 

バイクに乗った男はスピードを緩めずに上岡梓に近付く。徐行しようともしない。

 

「危ない上岡さん!!」

「きゃあ!?」

 

一直線に走ってくるバイクが梓に衝突する前に急いで走り跳び、間一髪で助け出した。

 

「大丈夫か上岡さん、紅!?」

「ああ。無事だよ。それにトラックよりマシだ」

「トラック?」

「ごめん。こっちの話」

 

今回は轢かれはしなかった。身体が頑丈とはいえ、轢かれるのが平気なはずがない。

 

「すまん。遅くなった!!」

「悪は成敗する!!」

 

大和やクリスたちも集まる。これで完全にストーカーを包囲した。

 

「もう逃げられないぜストーカーさんよ」

「・・・・・・ふん」

 

大和の言葉に何も焦りもしないストーカー。バイクを蒸かして、逆に挑発している。

 

「これは・・・皆さん周りに注意してください!!」

 

由紀恵が叫んだ途端に周りから凶器などを持った輩がゾロゾロと出てくる。

実はこのストーカーは不良集団のリーダーでもある。ストーカーに不良集団のリーダーとは質が悪い。

 

「ったくリーダーがストーカーしてるなら周りの奴等は止めろよな」

 

翔一が尤もな事を呟き構える。どうせ話し合いは通じない。ならやっぱり力付くでどうにかするしかないだろう。

 

「数は・・・20人くらいか」

「20くらい平気だぜ大和」

「ああ。自分は大丈夫だ。売春組織の時よりも楽だな」

 

全員が拳や武器を構える。

 

「一応言っておく。大人しく投降すれば痛い目には合わないぞ」

「痛い目に合うのはそっちだ。人の恋路を邪魔すんな!!」

「その恋路が悪質だから止めろって言ってんだよ!!」

 

大和たちと不良集団が戦い始める。この勝負だが不良と武術家が戦ったらどっちが勝つかなんて聞かれたら誰もが大体予想できる。

その予想とは武術家の勝ちであることだ。大和たちは武術家では無いが不良などに負けないくらいには鍛えている。

梓を守りながら大和たちは不良を倒していく。

不良に周囲を囲まれている状況なので真九郎たちが梓を円の中心のように守るように壁となる。

 

「成敗!!」

「はああああ!!」

「風になるぜ!!」

「おらおらおら!!」

 

クリスと由紀恵の斬撃で不良を吹き飛ばし、翔一と岳人は拳でぶっ飛ばす。大和は梓を守りながら立ち回り、真九郎は確実に蹴り倒す。

たかが20人だと言わんばかりの勢いで不良を倒していく。

 

「ストーカー大将は任せろ!!」

 

岳人が不良の大将であるストーカーに立ち向かう。掴みかかるが相手も中々強い。やはり力だけで大将になっただけはある。だが岳人の方が鍛えているし、腕力だって負けない。

どんどんと力で押し返すとストーカーはあり得ないと言った顔をしている。

 

「どうしたストーカー。こんなものか!!」

 

相手は身体がデカいが岳人は簡単に持ち上げて「おらああああ!!」と投げ飛ばした。

投げられた先はバイクでガドンッとぶつかった。だが相手は怒ってバイクに乗って走って来た。

 

「あいつまたバイクに乗りやがったな!?」

「任せて」

 

真九郎がバイクに向かって走り出す。そして闘牛を飛び越えるようにバイクを飛び越えてストーカーを飛んだ勢いで掴み取ってバイクから引き離した。

 

「うおおおおお!?」

「バイクから降りろ」

「すげーな真九郎!!」

 

これくらいは出来る身体能力を持っている。そもそもビルから飛び降りる勇気と身体能力があるので走るバイクを乗り越えるのは簡単だ。

 

「やるな紅。俺様に合わせな!!」

 

片腕を大きく上げて合図を送ると真九郎はすぐに理解できた。内容が理解できたので同じように片腕を上げる。そして同時に走り出す2人。

 

「行くぜ紅!!」

「合わせるよ」

 

岳人と真九郎はタイミング良くストーカーにラリアットを食らわした。

 

「コンビネーションラリアットだぜ!!」

 

2人のラリアットが直撃して倒れるストーカー。これでストーカーに他の不良共を全て潰した。

 

 

065

 

 

不良とストーカーと取っちめてからは、もう二度と馬鹿な事をさせないように大和たちは言い聞かせる。しかし、こういう奴は言葉で言っても聞きはしない。

だからボコボコにした今でも無駄に強気でいるのだ。やはり癖の強い奴は言葉では足らないのかもしれない。

 

「覚えていろ。必ず報復してやる・・・絶対に手に入れて見せる」

「まだ言うかこの野郎」

 

まったく反省の色が見られないストーカーを見て大和たちはどうしようかと考える。

さっさと警察か九鬼財閥にでも差し出すか、もう少し痛い目にあってもらうかのどちらかだろう。もし今百代がいれば二度と馬鹿な事をしないように痛めつけていただろう。

やることは酷いものかもしれないが先に酷いことをしたのは目の前のストーカーであり、同情するつもりは無い。

 

「姉さんを呼ぶか」

「それが一番かもな」

「あ、待って」

「どうした紅?」

「俺が何とかしてみるよ」

 

真九郎がストーカーの前に出て携帯電話を取り出す。

 

「お前って頑丈そうだな」

「何を言ってやがる。お前も報復してやるぞ」

「元気そうだな。実は良い斡旋所があるんだ。海外でな・・・ダム建設をしている場所だ」

 

前に解決したストーカー事件で捕まえた田渕薫を送り込んだ場所である。詳しくは教えられないがストーカーには特別厳しく、逃げ出すことも不可能と言う。

そして日本に帰るのが何十年かかるかも分からない。冷淡に言うとストーカーは青ざめていく。それでも信じられないのか、まだ強気である。

 

「信じられないなら信じなくて良いよ。でも俺が責任持って連れていくよ」

 

真九郎はにっこりと怖い笑顔で無言の圧を押しかける。これにはストーカーも『本気』を感じ取り、急に許しを請うようになった。

一応、彼にも家族がいるだろうから実際にはすぐに海外に送り飛ばすことは出来ないのだが気付かない。

 

「これで良し」

「良い笑顔で言うなあ紅」

「こういう奴にはここまで言わないとね」

「それに関しては俺も同感だ。・・・一応聞くけどハッタリ?」

「本当だよ」

「おおう・・・」

 

真九郎はこれでも大和と違う情報網と伝手がある。だからこそ海外にストーカーを送らせるなんてことができるのだ。

 

「これで大丈夫だよ上岡さん」

「あ、ありがとうございます!!」

 

これにてストーカー事件は解決したのであった。

その語は梓をクリスと由紀恵が家まで送りに行くことになる。補足だが岳人は今回の活躍で梓にホレさせるつもりが少しあったが、特に何も起こるはずも無かった。

なので解決祝いに何か美味しい物で食べに行くことが決定した。

 

「俺様の活躍でホレてねえかな~」

「さあなー。何食べるか。もちろん真九郎も参加な!!」

「良いの翔一くん?」

「もちろんだぜ!!」

 

後程合流するクリスと由紀恵に店の情報をメールで送り、商店街の近くで待機するのであった。

 

「ん?」

 

ここで大和はある人物を見かける。

 

「あ、義経さんたちだ」

「真九郎くんに直江くんじゃないか!!」

 

クローン組の全員が帰宅中であった。




読んでくれてありがとうございました。
今回の話は次の大きな事件への閑話休題的なノリで書きました。
息抜きみたいな話ですね。

そして次回からついに悪宇商会が本格的に動き出します。


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3人の戦闘屋

こんにちわ。
タイトルで分かるかもしれませんがついに本格的に彼女たちが登場です。
今までぐだぐだな感じで日常回を書いてきましたが急な展開になります!!

では物語をどうぞ!!


066

 

帰宅中の義経たちと出会う。話を聞くと与一の買い物に付き合っているらしい。

与一本人は静かに1人で買い物したいらしいので本音は義経たちにさっさと帰宅してもらいたいとのこと。ここで早く帰宅してもらいたいのは彼女たちの安全も考えているが、そんな本音は言わない。

買いたい物は本でタイトルは『天への道』。内容はどうやったら天へと行けるかと言うもの。中二病の与一には興味を引くタイトルだろう。

ピクリと大和は少し反応したが誰にもバレないように知らんぷりをする。本当に最近、与一と接触する度に昔の中二病が再発しそうである意味怖くて恥ずかしい。

 

「また面白そうな本だな。大和~気になるんじゃないか?」

「さ、さあな」

「ふーん。大和は中二病」

「やめてくれ弁慶、ガクト!!」

 

「うわあああ」と言いたくなるが心の中に押し込む。取りあえず話を逸らしたいが今の話の中心は与一なので難しいだろう。

ここは案外大人しくしている方が良いかもしれない。

 

(向こうから話を変えてくれると助かるんだがな)

「ところで直江くんたちはどうしたんだ?」

(流れの変わりが来た!!)

 

ここで大和たちは自分たちがした出来事を伝える。それはストーカー事件を解決したことである。

やはり相手のことを伝えると女性の気持ちが分かるのか義経たちはストーカーに対して怒る。だが真九郎が然るべき脅しをしたので溜飲を下げてくれたようだ。

 

「女性の敵は即・瞬・殺」

「私もストーカーはちょっと・・・」

「ですよね葉桜先輩!! 女性の敵は俺様がバッシバシと倒してやりますよ!!」

 

いつも通りカッコつけようとしているが悲しいかな、あまり目に入っていない。これもいつも通りのパターンである。しかし、清楚は人の良い性格をしているので感想は言う。

そのせいか岳人が勝手に舞い上がるのだが気にしない。彼にはいつか良いことが起こってほしいものである。

 

「あ、そうだ真九郎くん。夕乃ちゃんとのデートはどうだった?」

「え?」

「な、なにいいいい!? おい紅どういうことだ!!」

「違う違う。ただの買い物に付き合っただけだよ」

 

岳人は真九郎の肩を掴んでガクガクと揺らす。これには頭の中がごちゃまぜになりそうであるので止めてもらいたいものだ。

 

「俺は一人で買い物がしたいから、お前らは先に帰ってろ。・・・早く帰りな。もう闇の時間だ」

 

彼の言葉の意味は「夜遅くなると危険だから早く帰れ」ということである。中二病で変なところでツンデレ。こうもキャラを入れすぎるとブレるものだが、これは与一が悪いと言うかこういう性格になってしまった弊害である。

 

「あ、待って与一!!」

「ついてくるな主。早く安全な家に帰りな。闇の世界は俺の管轄だ」

「うう・・・そうか」

「そうだよ主。与一はほっといて帰ろ」

「与一も早く帰ってくるんだぞ」

「わあったよ」

 

頭をガシガシ掻きながら与一は人込みの中へと消えていく。

 

「きっと今のアレ、カッコイイと思ってるな。そういうシーンぽかったし」

「何となく分かる」

 

真九郎たちに義経たちは帰路につく。

 

 

067

 

 

もう日が沈み辺りは暗くなってきた。夜遅くまで出掛けるのは悪いものでは無いが義経に弁慶、清楚は早く家に帰るタイプだ。最も九鬼財閥は安全を考慮しているため早目の帰宅を推奨をさせている。

いつもの帰宅ルートを歩いて早く帰ろうとすると急に違和感を感じる義経たち。だが周囲に変化は無い。

 

(何だろう・・・嫌な感じだ)

 

こんな時は早く家に帰るのが一番である。電車が通るの待つために踏切で止まる。

 

「ねえ主」

「弁慶も感じるか。何か嫌な感じだ」

「ああ。まるで狙われてる感じ」

 

与一では無いが本当に狙われてる感じがすると思ったのが彼女たちの感想だ。清楚も何か感じ取ったのか不安な顔をしている。だが彼女はこれでも義経たちの先輩だ。後輩の不安を取り除くために明るく言葉をだす。

 

「そんな顔をしないよ義経ちゃんに弁慶ちゃん。早く帰ろう」

「そうですね清楚先輩」

 

電車が完全に通りすぎた。そして彼女たちの目の前には眼鏡を掛けた長髪スーツ姿の女性が立っていた。

 

「っ!?」

 

目の前にいる女性からはただならぬ気配を感じる。まさに狙われてる感じとは彼女から発せられている。

 

(おいおい誰だ。挑戦者ってわけでもないな)

 

弁慶は義経と清楚の前に守るように出る。間違いなく目の前にいる女性は普通ではない。

その女性は無表情のままゆっくりと歩いてくる。

 

「弁慶ちゃん、義経ちゃん。後ろ!!」

「なに!?」

 

背後をみると新たな女性が歩いてくる。また普通の一般人では無さそうである。棒つきキャンディ舐めながら手には長い杖を持っている。

怪しい笑みをしながら長髪スーツ姿の女性と同じようにゆっくりと近づいてきた。

 

「マジか・・・今度は横から」

 

弁慶の言った通り今度は横から鉤爪を装着した制服の女性がゆっくりと歩いてきた。

全員がただ者ではない。危険だと脳髄から警告が走る。

 

「・・・あんたら何。決闘の挑戦ならもう今日は終わりなんだよね。だからまた明日にしてもらいたい」

 

まずは無難な会話をする。本当に挑戦者ならマシだが彼女たちは違う。

 

「始めまして。私は2代目レッドキャップのプリムラです」

(2代目レッドキャップ?)

「貴女方に用があります。拒否権はありません。大人しく同行してくれれば痛い目には合いませんよ」

 

もはや強制であり、会話なんて聞かなそうだとすぐに判断できた。しかし「はいそうですか」と言いなりになるつもりは無い。

 

「あんたら何者?」

「答える義理はありません」

「つーかさ。一人足りなくなぁい?」

「那須与一のクローンがいない」

 

彼女たちの狙いがクローン組であるというのがすぐに理解出来た。何のために狙われてるかはまだ分からない。何とか会話を続けて相手の真意を掴もうとする。

 

「・・・どうやら一人いないようですが構いません。どうせ後で捕獲します」

「それもそうね。じゃあこいつらからさっさと捕まえちゃおっか」

「勝手に話を進めないでほしいな」

 

まるで弁慶たちを野性動物のように捕獲すると言っているようで聞いていて良い気分ではない。

弁慶と義経は得物を持って清楚を守るように構える。

 

「貴女方は一体誰なんだ。何が目的なんだ」

 

義経が静かに問う。どうせ返事は返ってこないだろうが聞かなければどうしようもないのだ。

 

「先程も言いましたが答える義理はありません。・・・しかし大人しく同行するなら教えてあげましょう」

「・・・それならお断りだね。知らない人に着いていったらダメって教わってるし」

「残念ですね。痛い目に合ってもらいましょう」

 

プリムラは眼鏡をクイっと直す。

3対3であるが清楚は戦えないため実質的には3対2である。不利の状況だが言辞の主従コンビで覆すしかない。

 

「主・・・眼鏡の女は私がどうにかする。だから残り2人はお願いできる?」

「分かった任せて弁慶。たぶん彼女が一番危険だ」

「分かってるよ主」

 

ピリピリと感じて嫌な汗が垂れる。

清楚はすぐさま九鬼に知らせようとバレないように携帯電話を操作しようとする。

 

「あは。余計な動きはしないでね葉桜清楚さん。例えばこっそり電話するとか」

「っ!?」

 

読まれていた。これでは何もできない。

 

「行くよ主」

「うん!!」

「時間がありません。急いで捕獲します」

 

先に動いたのは弁慶である。錫杖を素早く力の限りプリムラの頭部へと振るう。早さも錫杖を振るうタイミングも完璧。弁慶は「直撃」と思った。しかし現実は何が起こるかは分からない。

 

「なっ!?」

「中々重い一撃です。ですがまだまだ」

 

プリムラは錫杖を片手だけで掴み取っていた。ギリギリと握りしめていて、どれだけの握力なのかと予想できない。しかしバキリと聞こえた瞬間に絶対に彼女に締められたら終わりだと確定した。

 

「錫杖を砕いた!?」

 

弁慶の錫杖は九鬼が用意した得物であり、そこらの安物ではない。だから丈夫で業物とも言える。だがプリムラはその錫杖を握りしめて砕いたのだ。

 

「ああ!?」

 

恐ろしい握力の手は弁慶の首を掴み、締め上げる。

 

「あ、あぐ・・・」

「貴女がただのターゲットでなくて良かったですね。捕獲対称でなければ確実に死ぬまで壊していました」

 

ミシミシと首筋から嫌な音が聞こえてくる。取り外そうと弁慶はプリムラの腕を握る。弁慶の握力も強いがプリムラは更に強かった。

 

(何だこいつの握力・・・壁超えクラスか)

「あまりターゲットを傷つけるわけにはいかないからすぐに終わります」

「ぐ、この。捕獲ってことはどこの誰かが私たちを欲しがってるってこと?」

「答える義理はありません。どうせすぐに会えます」

 

プリムラは握力を更に加えて弁慶を締め落とした。弁慶は朦朧とする中で義経の名前を呟いた。

 

「弁慶!?」

「弁慶ちゃん!?」

「余所見は危ないですよ」

 

ガキンっと鉤爪と刀が交差する。

 

「そうそう。実質2対1で勝てるの?」

 

次は杖が鋭く振るわれた。義経は防戦一方のため攻撃ができない。鋭い鉤爪の斬撃に杖の連続打撃。捌くだけでも一苦労なのだ。

 

(この2人強い。しかも今まで戦ってきた人たちとは何か違う凄味がある)

 

鉤爪を刀で受け流し、杖は打ち落とす。しかし攻撃は止まない。次から次へと容赦の無い攻撃が続く。

せめての救いは相手は義経たちを捕獲対称としているため急所となる箇所や重症にならないようにしか攻撃してこない。

 

(この2人をどうにかして清楚先輩だけでもここから逃がさないと)

 

義経は防戦の中で無理矢理距離をとる。そして刀を鞘に戻し、腰を低くして構えた。その構えを見た2人は動きを止める。

 

「・・・居合い。横一文字ですかね?」

 

居合い。

相手を自分の間合いに誘い込み、神速の如く速さで相手を断ち切る剣技だ。

この技なら相手も迂闊に近づいてこない。

居合いは誰もが使える剣技だが極める者は一握り。義経もまだまだ未熟。しかし義経の居合いは既に必殺の一撃になり得ている。

 

「すう・・・はあ」

 

息を吸って吐く。これで2人をまとめて倒せるから良し。時間を稼いで九鬼に助けを求めるの良しだ。

だが義経はこの居合いで2人を倒すと決めた。

 

(2人を倒したら次は早く弁慶を助けないと)

「・・・ビアンカは私の後ろに。私が先頭に立とう」

「はいはぁい。了解したよユージェニー」

 

ビアンカはユージェニーの背後に立つ。これを見た義経は1人を盾にしてもう1人が攻撃してくるのだと予想した。

 

(関係ない。2人まとめて倒す!!)

 

ユージェニーたちが走り、義経の間合いに入る。

 

(今だ!!)

 

神速の如く刀を抜刀。ユージェニーたちを断ち切るつもりだった。だが声が聞こえた。

 

「何をしているのですか。抜刀なんてさせなければよいでしょう」

 

声を聞いた後で義経の目に写ったのは弁慶だった。

 

「弁慶!?」

 

抜刀が止まり、弁慶を急いで受け止める。

何が起きたかなんて簡単だ。プリムラが弁慶を義経の前に投げたのだ。そんなことをされれば義経の性格上抜刀が止まる。そして弁慶を助ける。

 

「そこが貴女の油断です」

 

プリムラの声がまた聞こえた瞬間に義経の意識は途切れた。

 

「後は貴女だけです葉桜清楚。懸命な判断をしてもらいますよ」

「義経ちゃん、弁慶ちゃん・・・」

「どうしますか。大人しく同行してくれますか?」

「・・・これでも私は偉人のクローンです。何もしないで捕まりません」

「残念です」

 

清楚はプリムラに走って向かうがいつの間にか後ろにいたビアンカとユージェニーに意識を刈り取られた。

 

「まずは第一段階完了ですね」

 

日常はどんな時も急な変化を起こす。




読んでくれてありがとうございました。
感想などあればガンガンください!!

前半はぐだぐだな日常回。後半は物語の急展開でした。
ついに動き出した悪宇商会の戦闘屋。壊す目的では無くて捕獲でしたが裏社会の闇が義経たちを襲います!!
次回からは九鬼や真九郎たち、川神が大忙しです!!

では次回もゆっくりとお待ちください。
急展開だから調整しないとなあ


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交渉

こんにちわ。
今回は戦いに向けての話となります。

では、どうぞ!!


067

 

 

九鬼財閥極東支部。

今は緊急事態で内部はバタバタしている。その緊急事態とはクローン組である源義経、武蔵坊弁慶、葉桜清楚が行方不明という事態。これには九鬼帝も急いで今やっている仕事を放り投げて戻って来た。

緊急会議が始まった。 メンバーは九鬼帝、九鬼局、揚羽、英雄、、紋白、マープル、クラウディオ、ヒューム、あずみ、小十郎、ステイシー、季、鯉。

会議の空気は重く、全員が張り詰めた顔をしている。

 

「これは大問題だな。捜索隊は?」

「もう動いております」

「那須与一は?」

「部屋にいます。警護として従者部隊を2人つけてます」

「引き続き警護に専念しろ」

「はい」

 

今の状況をまとめて適切な指示を出していく。

 

「どこの馬鹿がやったか分かったか?」

「はい。既に調べはついております」

「さすがクラウディオ。良い仕事をしてるぜ」

「ありがとうございます」

「では話してくれ」

「はい局様。犯人は裏世界の有名な人材コレクターです。名は御隈秀一。悪い噂が絶えない男ですな」

「聞いたことのある奴だな。人材コレクターと言うか人種コレクターだろう。悪い趣味を持つ男だ」

「そんな男が・・・」

「紋、お前はこんな男のことは覚えなくて良いぞー。脳の記憶力の負担になるからな」

 

帝としては紋に無駄な知識を覚えなくて良いと思っている。そもそもこんな会議にも出て欲しく無いが、こればかりは身内の問題だから仕方なし。

 

「もしかして侵入してきた奴らは御隈の手先か?」

「はい。その者たちから尋問して聞き出しましたから。しかし、問題があります。義経たちを誘拐したのが悪宇商会の戦闘屋なのです」

「悪宇商会か・・・また厄介なのが来たものだ。極東支部に侵入してきた輩は陽動で本隊が悪宇商会の奴らか」

 

実は九鬼財閥極東支部に侵入者が侵入してきたのだ。これに関しては簡単に対処できたがまさか同時に義経たちを狙われるとは予想外であったのだ。

従者部隊の者たちはこの失態に苦い顔をした。よくよく考えればクローン組が狙われるという可能性はあった。しかし監視はしていたが彼女たちのプライバシーも考えて24時間張り込みはしていない。

そこを狙われた可能性があるだろう。ヒュームもクラウディオもこの失態を恥じている。

 

「クローン組が狙われる可能性があった。これは私の思慮不足でもあるさね」

「マープル」

「今すぐに捜査隊からの情報を得て奪還隊を結成します」

「そうしてくれ。ヒュームにクラウディオは奪還隊に加わりすぐにでも義経たちを奪還してくれ」

「分かりました」

「仰せのままに」

 

行動方針がどんどんと決められていくがこれも帝の采配によるものだろう。アワワと狼狽している時間があるなら解決策を考えるべきだ。

 

「御隈秀一がどうしてくるか知らないが容赦をするな。うちのもんに手をだしたんだからな」

「はい。串刺しにしてやります」

「気を付けろ。相手は悪宇商会の戦闘屋もいるからな」

「悪宇商会か・・・」

 

ポツリと揚羽は呟く。彼女は壁を超えた実力者だが悪宇商会には良い思いは無い。なぜなら戦ったことがあるからだ。

百代やヒュームと違い、悪宇商会の戦闘屋との戦いは確実に殺し合いだ。一度ある事件により戦って痛い目にあったことがあるからこそ分かる。悪宇商会と戦うには本気の覚悟が必要である。

 

「うう、悪宇商会」

「紋・・・。出来れば悪宇商会とはぶつかりたくはない。もし、戦争が始まれば命が散る」

「それは難しいでしょう。私もヒュームも覚悟を決めて奪還しに行きます」

「この事に関しては情報を公開するな。これ以上大事になるのは止めておけ。あずみ頼むぞ」

「わかりました。情報操作はお任せください」

 

会議は遅くまで続く。

 

 

068

 

 

御隈秀一邸。

世間一般的に言うならば金持ちの家で漫画なんかでありそうな屋敷だ。しかも山奥の人気の少ない静かなところで隠れ家や別荘には最適な場所ではある。

しかし今回は静かというよりドタバタしている。何せ九鬼財閥の従者部隊2トップが義経たちを救出しに強襲をかけているからだ。

「スマートに正面突破で行きましょう」とクラウディオが呟いたのが強襲スタートの合図で、そこからは特急列車の如く止まらない。物の数分で従者部隊で構成された奪還隊は御隈秀一の屋敷を制圧した。

クラウディオとヒュームの目の前には冷や汗ダラダラの御隈秀一がいる。

 

「さあ、もう貴方の負けです。大人しく義経たちを解放なさい」

「ぐ・・・この九鬼の犬共があ。私のコレクションを奪うのか!?」

「義経たちは貴方の物ではありません。彼女たちは彼女たち自身の身体です」

「何を言う。私が手に入れた物だ。せっかく手に入れた物を手放す馬鹿はいない」

「このような状況でそのような発言をするお前も馬鹿だと思うがな」

 

クラウディオもヒュームもいつでも秀一に痛い目を合わせることができるが、流石に今はまだ拳で語ることはできない。まだ義経を奪還していないからだ。

現在進行形で他の奪還部隊も屋敷内を捜索しているがまだ見つからない。見つかったのは他に捕まった哀れな人たちだ。

 

「まだ見つかった連絡はありません。もしかしたらまだ捕獲隊の悪宇商会が引き渡してないのかもしれませんね」

「・・・・・」

「無駄に黙っているのが怪しいですね」

「このまま悪宇商会のやつらがノコノコとやってきてくれると助かるが・・・そんな真似はしないだろうな」

 

捕獲対象を取引相手の所に持っていくにあたって、取引先に異常事態があれば不用意には近づかないだろう。屋敷の近くに来ていると考えて奪還隊を外で捜索させる。

通信機を使って外にいるメンバーに連絡を入れるが繋がらない。いつでも通信が出られるように言っているのでこれは何かあった状態だろう。

何らかの戦闘にあったか、やられたかのどちらかだろう。しかしこの屋敷は既に制圧しているので御隈秀一の部下にやられるはずは無い。このことから推察するに外部から攻撃された可能性はある。

 

「・・・悪宇商会が来たのかもしれませんね」

「ノコノコとやってくるとは助かるな」

 

ヒュームはガッシリと拳を合わせる。

その時、通信機にザザザっと通信が繋がる。

 

『もしもし。私は悪宇商会のプリムラです。この通信先は九鬼財閥の方ですか?』

 

悪宇商会の者から通信が入った瞬間に空気がピリっと変化する。

 

「悪宇商会から連絡がくるとはな」

「プリムラよクローンはどうした!?」

『今から話しますよ』

「・・・近くに来ているな」

「はい。そうですね」

 

扉が開いた先には長髪にスーツ姿の女性が現れていた。彼女こそが悪宇商会のプリムラだ。

 

「プリムラ!! クローンは!?」

「ご安心ください御隈様。クローンは無事ですよ」

「義経たちは貴様の物ではないと何度言えば分かるんだか・・・さて、悪宇商会の戦闘屋よ。義経たちを返してもらおうか」

「九鬼財閥の従者部隊第0位のヒュームに3位のクラウディオか。大物が来ましたね」

 

室内に大きな気と殺気が溢れる。状況はヒュームたちの方が圧倒的有利だが油断はできない。相手が曲者であるのも確かだが、人質として義経たちがいるので余計な事はまずできない。

秀一は戦闘屋を使って逃げる算段を考える。まずは逃げなければどうしようもないからだ。この状況さえどうにかできれば後はどうにでもなる。しかし、プリムラは後にとんでもない事を言い出す。

 

「どうしますか御隈様?」

「こいつらを殺せ!!」

「はい・・・と言いたいですが先に御隈様が危険です」

「なんでだ!?」

「よくご自分の周りをご確認ください」

 

御隈は自分の周りを確認する。彼自身の前にはヒュームとクラウディオでその先にプリムラ。これではプリムラが2人を殺す前にどちらかが秀一を攻撃するだろう。

逆に取引先を捕縛されれでは悪宇商会としては動けなくなる。この事実を理解した秀一は顔を青くする。

 

「私でもこの2人を1人で相手するのは不可能ですね。最も、御隈様の身の安全を考えなければ不可能ではありませんが」

「言うではないか戦闘屋の女」

「嘘ではありませんよ。さらに付け足すなら私も四肢が無事でありそうもありませんがね」

(・・・あの女の両腕から何か感じる)

(ええ。何か仕込んでますね・・・とても危険な何かを)

 

緊張が走る。

 

「どうしますか御隈様。このままクローンを九鬼に返せば助かります。おそらく痛い目を合ってから」

「それは駄目だ。私の物を渡すなぞありえん。くそっ・・・どうすれば突破できるのだ」

「クローンを人質にとれば有利ですが、御隈様も人質にとられればお相子ですね」

 

今の状況はお互いに手が出せない。これではずっと解決しないままだ。

 

「くそ、まだもう1人のクローンだって手に入れていないのに!!」

「・・・クラウディオさん。妙な動きは止めてください」

「おや、分からないように糸を巡らしたのですがね」

「しかし、もう遅いぞ」

「はい。貴女がこの部屋に来る前には糸はあらかた仕掛けてありますので」

 

クラウディオが指をクイっと動かすと秀一が一瞬で捕縛された。

 

「うおおおおお!?」

「お静かに」

「何をしても良いから助けろプリムラぁ!?」

「分かりました」

 

メガネをクイっと掛け直し、とんでもない事を言い出す。

 

「御隈様を離さなければクローンを殺します」

「む」

「何だと?」

「それは駄目だあああ!!」

 

ヒュームやクラウディオよりも秀一が大きく反応する。

 

「何を馬鹿なことを言うんだ!?」

「何をしても良いと言うので。今はクローンよりも御隈様の命が大切ですよ」

「ぐ・・・確かに。それに今は逃げてクローン技術さえ盗めばなんとかなるか」

「馬鹿な事を言うなこの誘拐犯ども」

 

パキリと指を鳴らすヒューム。

先ほどから黙って聞いていたらイラつく事ばかり言う奴らだ。向こうから大切な仲間を奪っておいて、身の危険を感じたら切り捨てる。

命を軽んじているようだ。確かに自分の命と他人の命を比べると自分の命が大事に決まっている。もしいるならば聖人くらいだ。

温厚なクラウディオもイラつき始める。彼は怒ればヒュームよりも怖く、非情となる。だが秀一に巻き付けた糸で縛る力を強めない。ここで無駄な動きをしたら義経たちが危険と理解しているからだ。

 

「大人しくすることをお勧めします。このまま逃げても九鬼財閥は必ず追いかけ捕まえます。最も、今この瞬間を逃がす程愚かではありませんよ私たちは」

「その通りだ。逃げ場は無いぞ。悪党ども」

「・・・確かに逃げ場はありませんね。お互いどちらかが退かない限り、この状況はどうにもできません」

 

お互いの状況は未だに解決に至っていない。無駄にアレコレ空っぽの会話をしていても何も起こりはしないのだ。

だからプリムラは今の現状を打破する策を口にしたのだ。

 

「ならばゲームをしましょうか」

「ゲームだと?」

「はい。ゲームでそちらが勝てばクローンを返しましょう」

「お、おい何を言って・・・!?」

「逆にこちらが勝てば残りのクローンである那須与一を貰います」

「何?」

「おお、そうか、そういうことか!!」

 

ゲーム。悪宇商会の戦闘屋が提案したものなんてきっと良いものでは無い。そもそも彼女の言う賞品が義経や与一と言っている時点で人を賭けるゲームだ。

人を賭けるなんていつの時代の話をしているんだ。まるで義経たちを奴隷のように扱っている。

 

(・・・いえ、彼女は依頼をこなすために言っているに過ぎない。悪宇商会は依頼を成功させるにあたって手段は問いませんからね)

 

悪宇商会は仕事の内容によっては善にも悪にもなる。今回はどう見ても悪側だろう。だから依頼主の願いであるクローンが欲しいという仕事を完遂するに至ってどんな方法でもこなすのだ。

悪宇商会の人間にもよるかもしれないが基本的に仕事に忠実で、そこに私情は挟まずに効率の良い方法を模索するだけだ。

 

「一応聞くが・・・ゲームの内容は何だ?」

「簡単です。決闘ですよ」

「決闘だと?」

「川神は決闘を良しとしている物騒な町と聞いています」

 

物騒な町。この言葉を聞いて否定できないのが残念だが事実だから仕方ない。

 

「御隈秀一様。どうぞ決めてください」

「き、決める?」

「はい。決闘内容です。どのような決闘にして、どのような勝敗にするか、どのような場所で行うか等々です」

「そ、そうか」

「おい、そんな決闘が認められるとでも」

「認めるのは貴方ではありませんよ。九鬼家の当主です」

「こいつ・・・」

「それに貴方がたはクローンを殺したなんて結果を九鬼家当主に報告するつもりですか?」

 

本当の現状のところ実はヒューム側が不利なのだ。お互いに人質を取っているとはいえ、ヒュームたちは義経を殺すわけにはいかない。だから秀一を殺すなんてことはできない。

もし、秀一がクローンを諦めれば命が助かる。悪宇商会は依頼主を守ったと言うことで報酬はもらえる。クローンの奪還の際に警備も任されているから報酬は半分はもらえる算段だ。

逆に、九鬼家の当主が決闘の話に応じれば現状の結果から良いと言っても良い。

 

(御隈秀一は脅威ではない。脅威なのは悪宇商会の戦闘屋だ。この現状から決闘の話を持ち掛けるとは中々肝が据わっている)

「面白いじゃねえかその決闘を受けてやる」

「帝様!!」

 

現状が多少変化すれば流れも急激に変化する。九鬼帝が扉をぶち破って登場した。

 

「これは九鬼家の当主様。お目にかかり光栄です」

「ほー。お前さんが悪宇商会の戦闘屋か。美人じゃねえか」

「ありがとうございます」

「さて、御隈秀一。その決闘を受けてやるぜ」

「くく、九鬼家の当主がでしゃばるとはな」

「何か、俺様の勘がここに来いとピンと来たからな」

「帝様はいつも破天荒でいらっしゃる」

「じゃあ、決闘の内容を決めようぜ」

 

 

069

 

 

決闘内容が決定した。

3対3の団体戦。ルール無用のバトル形式だ。1つだけあるとしたら『殺し』は不可。

賞品となるのはクローン組となる。悪宇商会側が賭けるのは義経、弁慶、清楚。九鬼が賭けるのは与一となる。

九鬼側が全員助けるには悪宇商会の戦闘屋を全員倒さねばならない。逆に悪宇商会側は1人でも勝てば与一を奪えるのだ。

そして決闘場所は深夜の川神学園となる。場所が場所だけに川神学園の学長である鉄心に話を持ち掛ける。

 

「なんとも面倒な話を持ち掛けてくるもんじゃな」

「申し訳ございません。しかし、川神学園の学生に身の危険はさらしません。そして決闘によって起こる壊れ物に関してもこちらが保障します」

「まあ、構わん。川神学園が決闘場なんていつものことじゃしのう。しかし、今回は不快な事件じゃな。学生たちも義経たちが急な欠席となって心配しておる」

「必ず助け出すさ。しかし、今回の決闘は勝手が違うのだ。忌々しいことにな」

「なんじゃい勝手が違うとは?」

「決闘をするメンバーに問題があってな」

「メンバーじゃと?」

「ああ。九鬼から1人と残り2人は九鬼以外から選べとのことだ」

 

これに関しては秀一が九鬼からの強力な従者部隊を恐れたからに過ぎない。しかし一人も決闘相手を出さないのは許してくれるはずも無く、1人だけという形に納まったのだ。

 

「よく譲歩したのう」

「御隈ではなく、頭の切れる悪宇商会が横やりを入れてきたのだ。もっとも決闘形式やルールなどはこちらで決めさせてもらったがな」

「やられっぱなしでは無いということじゃな」

「で、誰が出るんじゃ?」

「本当なら俺やクラウディオが出るはずなんだが・・・与一の奴が出ることとなった」

「おい、狙われている那須与一が出て良いんか!?」

「ああ。反対したさ。だが与一は義経たちと一緒に居てやれなかったことを後悔して自分で助け出すと言ってこちらの話を聞かんのだ」

「で、彼が出ることになったと?」

「帝様直々に了解が出たからな。それに決闘場所は川神学園でこちらのホームグラウンドだ」

「ううむ。そうか」

「納得がいかないようですね。帝様も破天荒さはいつものことですが、今回は賭けに近いですからね」

 

危険だが与一を信じた結果と言えるようなものだろう。

 

「ふむ。では残り2人は?」

「目星はつけている。だが、その2人が川神学園に所属しているから鉄心に話をつけようと思っている」

「・・・誰じゃ?」

「紅真九郎様に松永燕様です」

「彼らか」

「真九郎様と燕様は私たちと九鬼と関係がありますからね。頼みを了承してくれるか分かりませんが」

「・・・学長としては反対したいところだが、義経たちを助けたいのもある」

 

学生を助けたい気持ちと学生に危険な目を合わせたくない気持ちのせめぎ合いだ。鉄心は悩み悩んで決定する。

 

「・・・分かった。しかし2人に決定権があるのが一番じゃぞ」

「分かっております。無理強いはさせません」

「それと立ち合いにワシも連れていってくれ。そもそも決闘場所が川神学園じゃし」

「もちろんでございます」

「じゃあ早速、件の2人を呼ぶか」

 

指をパチンと鳴らすと真九郎と燕が部屋に入ってくる。これには鉄心も「仕事が早いのう」と呟く。

 

「およ、真九郎くんも呼ばれてたんだ」

「松永さんもですか。何の話ですかね?」

「それは今から俺が説明する」

 

ヒュームが今回のクローン組誘拐事件を語る。真九郎たちは義経たちが急に欠席している理由が今分かった。

学園でも義経たちの急な欠席は今でも心配されている。その理由がまさか誘拐とは良い気持ちにはならない。しかし、どこに住んでいても胸糞悪くなる事件は起こるものだ。

誘拐は真九郎も子供の時に経験している。当時はどうでもよく、死んでも構わないなんて思っていたが、今は知り合いが誘拐されて心が静かに怒る。

 

「ヒュームさん。誘拐事件で核心となる話は何ですか?」

「フ、話が早くて助かる。実は誘拐した奴から決闘を申し込まれた。義経たちと与一を賭けた決闘だ」

「人を賭ける・・・」

「思うところもあるかもしれませんが、誘拐犯から九鬼の従者部隊は出ないこと決められてますからね。こちらとしては実力があり、信頼できる相手にしか頼めません」

「・・・相手は誰ですか?」

「戦闘屋だ」

 

戦闘屋。その言葉を聞いて良い思い出は無い。だが今回の戦いに容赦はいらないだろう。

戦闘屋と戦うにあたって容赦も慈悲も無い。あったら逆に殺される。

 

「それにしても紅くん。即決とは凄いね」

「即決ってわけじゃないですよ。これでも考えて受けたつもりです。それにこれは『揉め事処理屋』の仕事ですから」

「その通りだ。もちろん謝礼は出す。無償で戦わせるなんてことはさせない」

 

揉め事処理屋の仕事なら断るつもりは無い。今の真九郎はフリーだから忙しいわけでも無い。危険な依頼だがこの業界では危険なんて言葉は当たり前の言葉だ。

だから真九郎は了承してこの依頼を受けたのだ。

 

「ふーん。ま、私も受けるよ」

「松永さんも?」

「危険な依頼だけど、私も学友を見捨てるなんて非情さは無いよ」

 

燕は常に計算しながら周囲の状況を確認している。だが今回は計算よりも感情が動いた。

 

「ありがとうございます燕様」

「では、情報提供をしよう」

 

ヒュームは決闘相手の写真を出す。その写真を見て真九郎は目を見開いて驚く。

 

「こいつらは・・・」

「知っているの?」

「はい」

 

彼女たち3人は去年真九郎が関わったとある事件の首謀者たちだ。悪宇商会の戦闘屋とは今回の事件は根が深そうだ。

 

「悪宇商会か。これはあの人に連絡かな」

 

ボソリと呟く。

 




読んでくれてありがとうございました。
感想などあれば気軽にくださいね。

さて、今回の誘拐犯は『御隈秀一』というオリジナルキャラです。
単純に義経たちを誘拐する元凶を登場させたかったのでオリジナルを考えました。
そしてもう登場は無いでしょう。
悪宇商会VS真九郎勢の構図を作りたかっただけのキャラです。

そして決闘メンバーは九鬼絡みで燕と与一を活躍させたかったので、この2人にしました。最初は従者部隊の誰かを考えてましたかメインキャラである2人にしました。
これからバトルシーンの構図を考えなきゃなあ。今年中にはあと1,2話は更新したい。

では、また次回!!


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決闘

こんにちわ。
今回も決闘前の物語となります。次回こそついに決闘です!!
では、物語をどうぞ。


070

 

 

プルルルルルルルルルル。電話のコール音が鳴り響く。

 

『はい、もしもし。悪宇商会のルーシー・メイです。って紅さんですか』

「お久しぶりです。ルーシーさん」

『どうしました紅さん。もしかして悪宇商会に就職したいとか?』

「いえ、違います。そちらの方で『御隈秀一』という人から九鬼財閥が発表したクローンを誘拐する依頼が来てませんか?」

『どうでしょうね。あったとしても教えるとでも?』

「仕事での秘密の黙秘は確かにありますね。ではハッキリと言います。御隈秀一と九鬼財閥がクローンを賭けて決闘をします。その決闘に俺は選ばれました。相手は悪宇商会の戦闘屋と聞きます。これは条約の関係でどうかという問題で電話しました」

『・・・はぁ。紅さんはどうしてこう、私たち悪宇商会と敵対してしまうんですかね』

 

敵対したくて敵対しているわけでは無い。ただ単純に運命と言うか、運が悪いのか分からないが、悪宇商会とぶつかってしまうのだ。

今回のクローン誘拐事件もそうだ。九鬼財閥から揉め事処理屋として仕事を依頼されたが相手が悪宇商会とは情報を聞いてから知ったのだ。

だが、このような事例は可能性としてあるものだ。だから悪宇商会側の方もすぐに返事はできる。

 

『そこまで今回の依頼を知っているなら話しても構いませんね。今回のクローンを賭けた決闘ですが、紅さんが参加しても構いません』

「分かりました。ありがとうございます」

『このような状況も想定してますからね。今回に限って条約は破られたことにはなりません。しかし、決闘いうことで戦いますよね?』

「そうですね」

『なので不慮の事故扱いで紅さんが死んでしまってもこちらは条約を破ったことにはなりませんよ』

「はい。それに関しては文句はありません」

『私としてはこちらの仕事を完遂させたいので応援なんてしませんよ』

「分かってますよ。でもこちらも彼女たちを助けないといけないんで負けるつもりはありません」

『・・・何だが宣戦布告されてるようですよ』

「そんなつもりは無いんですが」

『今回はこちら側が頭を抱える案件になりました。仕事は完遂させたいですが、紅さんが負ければうちの最高顧問が五月蠅そうです』

「絶奈さんですか」

 

星噛家はビジネスに徹するが絶奈自身の個人的な気持ちとしては自分と引き分けた真九郎が他の戦闘屋に負けるのは許せないらしい。

なんとも板挟み的な案件となっているらしい。でも今回は私闘では無く仕事としての戦い。結局はビジネスに徹するような形になりそうだとルーシー・メイは言う。

 

『これはあくまで仕事ですからクローンがどうなろうとも恨まないでくださいよ。では、失礼致します』

 

ピッと携帯電話の通話ボタンを切る。

 

「これで今回の事件で俺も参加できるな」

 

携帯電話をズボンのポケットに閉まって、九鬼財閥極東支部へと向かう。義経たちを救うための決闘に関しての作戦会議を行うのだ。

見張りのメイドであるステイシーたちに挨拶して会議室へと案内される。案内されながらつい内部を見てしまうが本当に執事やメイドがたくさんいるのだ。中には学者の人やスーツ姿の人もいる。

あるスーツ姿の人は何か不思議な雰囲気を醸し出していたし、ある年配の学者は「アイエス」がどうこう言っていたが今は気にしてる暇も無い。今は義経たちを救うのが先決だ。

 

「真九郎!!」

「あ、紋ちゃん」

 

九鬼家の末娘である紋白がトテトテと歩いて来た。その顔は不安さも混ざっていた。

 

「すまぬ真九郎。我らの問題に力を貸してもらって」

「良いよ。俺だって義経たちが心配だ。それに紋ちゃんの力になれるなら本望だよ」

 

しゃがんで真九郎は紋白の頭を優しく撫でる。彼はとても優しい顔だ。その優しさに紋白は胸のあたりが温かくなる。

よく姉や兄から頭を撫でられるが真九郎から撫でられるのはどこか温かみが別なのだ。おかげで不安が消えていく。

 

「任せてね紋ちゃん」

「う、うむ!!」

 

紋白と別れて会議室に入ると既に燕と与一がいた。

 

「紅、来たか」

「紅くん。ヤッホー」

「さっそく作戦会議を始めようか」

 

椅子に座って手元にある資料を見る。そこには悪宇商会の戦闘屋3人の資料だ。流石は世界一を誇る九鬼財閥だ。

短時間でここまで調べ上げるとは凄い。だが悪宇商会側も負けていないだろう。調べられる範囲も限りがあったようだ。

 

「私たちはこの3人の誰かと戦うんだよね」

「そのようだな。ヒュームから聞いたが紅はこいつらを知っているそうだな」

「知っているけど、戦ったわけじゃないよ。俺が戦ったのはこいつらをまとめていたリーダー格さ。でも情報はある程度分かる」

「教えて」

「分かった。まずはこの女性から」

 

プリムラ。彼女は素手で戦う戦闘屋で握力が尋常では無い。元々、部下の指揮や雑務などを担当するキレ者だ。

実力に関しては強いはずだが分からない。前回に倒したのが切彦であって、一太刀で仕留めたらしいから彼女も首を傾げていた。

 

「この3人組のリーダー格か」

「次にこの人」

 

ビアンカ。悪宇商会の戦闘屋で二つ名は『八角杖』。戦闘スタイルは長い棍棒を用いて戦う。

環やリンが戦った感想だとやはり強いとのこと。彼女の棍棒の間合いに入られると攻めが厳しいのだ。

長い棍棒は自分の間合いを保ったまま攻撃できるし、防御もできる。勝負の鍵はどうやってビアンカの間合いを破るかだ。

 

「なるほどな」

「最後に彼女だ」

 

ユージェニー。悪宇商会の戦闘屋で二つ名は『裂爪士』。武器に鉤爪状の刃物を使い、間合いに入り込まれると即座にピンチとなる。

彼女は身軽で簡単に間合いに入ってくるので注意のことだ。接近戦に適した戦闘屋であろう。

 

「俺なら遠距離で攻めることができる」

「与一くんなら相性が良いかも。でも近づかれたらヤバイよね」

「ああ。でも近づけさせなければ良いだけだ」

 

簡単に言うが相手は死線を潜り抜けた戦闘屋だ。近づけさせなければ良いなんて言葉を簡単に実行させるほど甘くは無いだろう。

真九郎以外はプロの戦闘屋と戦った経験は無いから油断は本当にしないで欲しい。油断してなくとも更に気を張って欲しいのだ。戦闘屋と戦うことはケガをするだけでは済まされないからだ。

今回のルールでは殺しは不可だからと言っても安心してはいけない。燕と真九郎が戦うにあたって最も危険だ。与一に関しては賭けの賞品であるから殺されることは無いがケガはするだろう。

 

「気を付けないとね。で、相手が出る順番だけど先鋒がビアンカ、中堅がユージェニー、大将がプリムラってことみたいだよ」

「順番まで分かるのか。流石九鬼財閥」

 

この仕事の速さは本当に凄い。紅香の付き人である犬塚弥生と同じ、もしくはそれ以上かもしれない。

そういえば、あずみは犬塚弥生を同じ忍としてライバル視していた。弥生に関しては特に気にしてもないようであるが。

そもそも彼女はあまり他人に関心がないためライバルとか気にせず、ただあずみが突っかかってくるだけだ。

あずみ曰く「今度会ったら忍として勝つ」なんて言っていた。

 

「で、誰がどう戦う?」

「俺は順番は気にしない」

「じゃあ紅くんは大将ね」

 

さも当然のように厄介で1番強い奴を真九郎に渡す燕はなかなかの者だ。

 

「じゃあ俺はこのユージェニーにする。間合いに入り込まれれば危険だが、逆にこっちが間合いを保てば勝てる」

「んー、私は残りでビアンカって人かあ」

 

それぞれが写真を見る。

燕はビアンカと戦うことが決定した。

 

「武器は棍棒か。リーチはあるね。どうにか掻い潜って攻撃するかな」

 

ビアンカのあるだけの情報から燕は脳内で何通りのも戦闘を考える。自分も実力はあると理解しているが戦闘屋と戦うのは今回が初めてである。

これは出し惜しみなんて考えるのも馬鹿だろう。切り札である『平蜘蛛』も出すべきだ。

 

(平蜘蛛の調整を急がないとね)

 

燕は切り札の『平蜘蛛』を準備する。

 

「俺はこいつか」

 

与一はユージェニーと戦うことが決定。彼は愛弓である『ソドムとゴモラ』を調整しないとと思っている。

後は自分の冷静なる精神力を保ちできるかどうかだ。義経たちには恥ずかしくて言えないが与一にとって大切な家族だ。彼女たちを誘拐した奴らを絶対に許せない。

 

(悪宇商会め。何故先に俺を狙わなかった。くそっ、俺が居ながら)

 

最初は悪宇商会なんて存在は与一の妄想の世界の存在であった。しかし今回で現実の存在となったのだ。

ただ運が悪いのか良いか分からないが偶然に『悪宇商会』の存在をネットで知った。そして彼の中二心に触れてつい調べてしまうくらいのものだったが、本当に関わりあってしまった。

もう中二病とか何だか言っていられない状況なのだ。遠い妄想がすぐ近くの現実。

 

「待ってろ。俺が助け出す」

 

真九郎はプリムラと戦うことが決定する。

去年の事件にて顔見知りではあるが、よくは知らない。ただ切彦からは握力はとんでもないと言っていた。

なら気を付けるのは彼女の両手だろう。捕まれば簡単に人の肉を握り取り、骨を握り潰す。

 

「こいつらか」

 

夕乃や銀子に伝えるか悩んだが、結局伝えることにする。どうせ彼女たちには隠し事はできない。なら後で説教させられるなら言う方が賢明だ。

 

(こいつらなら隻さんはいるのだろうか?)

 

兄弟子とあたる赤馬隻。彼と戦って以来、もう再会することはなかった。崩月家は今でも彼の帰りを待っている。

彼のやったことは許せるものではないが、それでも家族なのだ。崩月家は彼の罪さえ抱え込む懐の深さがある。

 

(彼女たちに聞いてみるか)

 

隻のことを知れるかどうか分からないが会えるなら話すことはいくらかあるだろう。

 

「ところで紅くん」

「何ですか松永さん?」

「何か悪宇商会を知ってるようだけどさ。どうして?」

「まあ、何回か接触したことはあるから」

「そうなの!?」

「な、聞いてないぞ!!」

 

今まで言うつもりは無かったからだ。

 

「何か戦うことを最初難しい顔をしてたけど、それは?」

「それは、悪宇商会とちょっとした休戦協定があったから。今回は特例として無しにしてもらったんだ」

「ちょっと待って!? それってよく聞くととんでもないことじゃないの!?」

「どうやって休戦までに?」

「今はどうでもよいじゃないですか」

「どうでもよくないぞ!!」

 

作戦会議は続く。

 

 

071

 

 

夜。川神学園のグラウンド場に複数の男女が集まる。九鬼財閥に選ばれた者に、その関係者。そして悪宇商会の戦闘屋。

その場の雰囲気は男女の集まりとしては重く、ピリピリとした空気だ。それもそうだろう。これから行うのは人間を賭けた決闘だ。川神市で行われた決闘の中でもきっと最悪な内容だ。

 

「お互いによく集まってくださいました。これより義経たちを賭けた決闘えお開始致します」

「ワシの名は川神鉄心。今回の決闘の審判をする者じゃ。公平な審判を下す」

 

決闘の審判をする者が鉄心なら安心だろう。最も決闘を審判する者は公平な者にしかできない。

 

「悪宇商会よ。義経たちはどうした?」

「いますよ。こちらに」

 

悪宇商会のプリムラの背後に義経、弁慶、清楚がいる。様子を確認すると無事のようだ。

 

「義経、姉御、葉桜先輩!!」

「よ、与一。すまない、捕まってしまった」

「謝るな。絶対に助けるからな」

「紅くんに燕ちゃんまで…」

「主を守れなかった。すまない」

「だから謝るな姉御。この決闘に勝てば全て丸く収まるからな」

 

与一の言う通りでこの決闘に勝てば全て丸く収まるのだ。義経たちが捕まったことを、どうこう言うのは間違っている。

これから決闘をおこなう与一たちの心は冷静でありながら熱い。与一に関しては怒りを抑えながら悪宇商会を見る。彼は今すぐにでも義経たちを助け出したいだろう。

 

「…彼女たちはやっぱりあの時の悪宇商会か」

 

写真で見た時と同じように、やっぱりあの時の事件の戦闘屋たちだ。彼女たちは真九郎を見ても顔色は変えない。いや、プリムラだけは殺気が少し滲み出た気がする。

相手も真九郎との休戦協定を知っているはずだが、今回は特例として無しと言うのも伝わっているだろう。

 

「ねえ、あいつって紅真九郎だよね」

「そうだな。あの時の奴だ」

「紅真九郎…!!」

 

真九郎は悪宇商会に思うところがあるが、相手も思うところがある。休戦協定をしているし、前回の事件で関わったのだから当然だろう。

だが、今回はもう違う。前回の事件はもう片付いて今回は別の事件となっている。相手もプロなら気持ちを切り替えているだろう。これに関しては真九郎の予想であるが。

 

「では、先鋒の方はグラウンド場へ出てください」

 

九鬼財閥側は燕が、悪宇商会側はビアンカが前に出る。

 

「こんにちわ。私は悪宇商会のビアンカと申します」

「こちらこそよろしく。松永燕だよん」

 

なんとなく握手をもちかけるが無視するビアンカ。棒付きキャンディをパキリと噛み砕いて、棍棒を振り回して構える。

これを見た燕は最初の掴みは失敗と判断して、ベルトを装着する。

 

「ベルト?」

「いっくよん!!」

 

変身した。変身したのだ。それはもう日曜日に放送される特撮番組のようにだ。

黒を基調としたボディスーツに蜘蛛をイメージしたガントレット型の武器。チューブをベルトに装着して機械音の声が響く。

 

「勝つよ!!」

「勝てるかな?」

「では、これより松永燕対ビアンカの決闘を開始する!!」

 

松永燕VSビアンカ。

 

「悪宇商会所属。『八角杖』ビアンカ」

「川神学園3年F組。松永家の娘、松永燕!!」

 

決闘が始まる。




読んでくれてありがとうございました。
感想などあれば気軽にください。

今回は決闘について作戦会議的な感じになりました。
真九郎と悪宇商会の休戦協定もまとめておきました。

私の考えではお互いに、敵対することが禁止であって、仕事上にぶつかる場合は流石に考慮させられると思います。
例えば、ある事件を中心に別々の依頼者が悪宇商会と紅真九郎に依頼してぶつかったら考慮するしかないと思います。じゃないと仕事の達成ができませんからね。
どちらか一方が諦めるなんてありえませんし。


では次回は今度こそ決闘です!!


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松永燕VSビアンカ

こんにちわ。
ついに悪宇商会との決闘です。どんな戦いになるかは物語を読んでってください。

では、どうぞ!!


072

 

 

松永燕VSビアンカ

 

「悪宇商会所属。『八角杖』ビアンカ」

「川神学園3年F組。松永家の娘、松永燕!!」

 

先に仕掛けたのはビアンカであり、棍棒を真っすぐに突き出してきた。次に斜めに振り払い、回転させながら連続で振るう。

 

「おわっと!?」

 

燕は相手が棍棒を使う戦闘屋と既に情報として得ているので、どう攻撃してくるかが大体予想できるので何とか避けることが可能だ。

だが相手は戦闘屋のプロ。攻撃に一切の遠慮が無く、鋭い一撃ばかりである。一発でも食らえば大ダメージだろう。

 

(ちょっと相手ってば本気で殺しにきてない!?この決闘は一応不殺でしょ!?)

 

これに関しては燕の考えが少し甘かったと言うしかない。相手は戦闘屋。決闘でも相手を本気で壊しに来る者なのだ。

燕も考えが甘えてたわけでは無いが、戦闘屋との決闘は初めてで予想を外していたのだ。すぐに考えを切り替える。

 

(もう考えた策を全て出し切るつもりで戦わないとマズイね)

 

そう思った瞬間に彼女も一手を繰り出す。蜘蛛型の籠手から電撃が走る。

 

『スタン』

 

機械音が響き、バチチッと電撃が走る音も聞こえてきた。ビアンカは痺れた手を見て何度も握っては開いてを繰り返す。

 

「ふーん。その籠手にいくつか仕掛けがあるみたいだね。でも電撃くらいじゃ効かないよ」

 

棍棒を再度握ってビアンカは走り出す。

 

「次!!」

『スモーク』

 

今度は煙幕が放出され、川神学園のグラウンド場が煙で埋まる。これは当たり前のように目くらまし。

どんな人間も煙幕の中では目に頼ることができない。実力のある武人ならば相手の気を察知して何とかするが相手は武人では無くて戦闘屋だ。この隙をつく燕。

平蜘蛛の籠手からは先ほどよりも高圧の電撃が走る。

 

(もらった!!)

「もらってないよ」

 

スレスレで避けるビアンカ。そして容赦なく振るわれた棍棒は燕の腹部に痛すぎる衝撃が走った。

ミシミシと軋る音が聞こえて煙を吹き飛ばしながら後方へと転がる。

 

「ゴホゴホッ…とんでもなく効いた」

「あは、煙幕で目くらましなんて効かないよ。戦闘屋をナメないでよね」

 

なぜ燕の位置が分かったのか。それは殺気による感知であるビアンカが分かったのだ。彼女は悪宇商会の戦闘屋で日常的に、仕事で殺し合いをしている。

ならばそこらの武人以上に殺気の感知に長けているのは当たり前だろう。正直な感想を言えばどちらが戦いの経験があればと語るならばビアンカだ。

 

「やっぱり簡単には上手くいかないか」

 

よろよろと立ち上がり、腹部を擦る。ダメージはやはり大きく、一発で重症だ。骨は折れていないが次に同じところ打ち込まれたら骨がボキリといくだろう。

 

『キュア』

「へえ、回復機能もついているんだ。ま、微々たるものだと思うけど?」

「どうかな?」

「強がりだね」

(う、正解)

 

煙幕はモウモウと舞っている。特別製なのかまだ消えない。これはせめて少しでも回避率を上げるためでもある。

 

(まあ他にもあるけどね)

 

歯を食いしばってビアンカに突撃する。平蜘蛛の籠手からは高圧電流が走る。

 

「やああああ!!」

 

連続攻撃。一息させる間も無く連続で攻撃していく。奇襲も何も無いが煙に潜みながら攻撃していくがビアンカには避けられる。

やはり相手の方が殺気の感知に長けているのだ。だが避けられるとしてもスレスレの状況ならば1つ流れが変われば攻撃は直撃するはずだ。

 

『ショット』

「おっとお!?」

 

いきなり放たれた弾幕を棍棒で弾き飛ばす。平蜘蛛の籠手には様々な仕掛けが施されている。

多種多様に使う燕は強いと思うビアンカ。しかし所詮はただの学生で戦闘屋に敵うはずがない。仕事はキッチリこなすがこの決闘で少し遊んでしまおうかと思ってしまう。

 

「連続発射!!」

「当たらないよ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってことわざがあるけど、実際はそうでもないよね。当たらないものは当たらないの」

 

棍棒を高速回転しながら弾幕を弾き飛ばす。そしてそのまま突撃して棍棒で連続の突きを繰り出してきた。

平蜘蛛の籠手を盾に連続の突きを受ける、避ける。この籠手が特別製でなければ砕けていたかもしれない。

 

(向こうの棍棒も特別製かもね。良い素材で作られている)

「あは、この棍棒を砕けるなんて思わないこと。これは悪宇商会で制作された特別製だからさ」

 

横に一閃、斜めに一閃、縦に一閃。棍棒を鋭くを振るう。空気を切る音が聞こえる。どれくらいの速さで振るっているか気になる。

 

(あの細腕で…)

「そら!!」

「がう!?」

 

平蜘蛛の籠手の上から無理矢理、棍棒を叩きつけてくる。まさに力任せだ。これ程の力は単に腕力だけじゃなくて遠心力も利用している。

その威力から横に殴り飛ばされたが初撃の時よりかはマシなので着地する。カチャリと籠手の様子を見ると異常は無し。

 

「まだ大丈夫みたいだね」

 

カチリと平蜘蛛の籠手を起動するとキュイインと機械音が鳴る。

 

「次はこう!!」

 

ビアンカは人間とは思えない跳躍で高く跳んで上から棍棒を突き刺してきた。

 

「危なっ!?」

 

ズガンっと地面には綺麗な穴が出来上がる。食らえば間違いなく肉がえぐれ、粉砕骨折だ。

 

「あは、外れちゃったか」

「まったく容赦無いね」

「戦いに容赦も何もありませんよ。ふふ」

「そうだね。私も容赦無くいくよ」

 

シュパッと平蜘蛛の籠手からワイヤーが放出される。キリリリと鋭く棍棒に絡みついた。

 

「棍棒を奪う…いや、電流を流す気か」

「正解。くらえ!!」

「あは、くらわないわ」

 

カシャリと音が聞こえた瞬間に棍棒が2つに分かれた。

 

「な、仕込みか!?」

「正解。終わりよ」

 

一瞬にして燕の間合いに入り込んで半分になった棍棒を首めがけて振るった。

 

「あぐあああ!?」

 

首にとてつもない衝撃が走った。ミシミシと嫌な音が聞こえてくる。

 

「あ、あぐ」

「あは、これはびっくり。首の骨が折れなかったんだね。柔軟に鍛えてたおかげかもね」

 

確かに折れてはいない。しかし思った以上にダメージが酷いのだ。痛みで目さえも開かない。

ビアンカはスタスタと燕から離れて半分になった棍棒を拾い直して元の棍棒に戻す。

 

「そろそろ終わりにしましょ。足を折っておしまい」

 

ビアンカが燕にトドメをさすために近づく。機動力である足を潰せば負け確定だ。しかし燕の目は諦めていない。

まだ秘策はあると思える目をしているのだ。彼女は諦めない。

 

「その目は不快。潰してあげる」

「でっきるかな?」

「ふん、つよがり…を?」

 

急にビアンカの身体がふらつき、眩暈もする。この症状に混乱したがすぐに理解できた。

 

「まさか…毒?」

「正解」

「いつの間に毒を。それらしい攻撃なんて…まさか!?」

「そのまさかよ」

 

周囲の煙幕を見る。その煙幕こそが毒であるのだ。そもそも燕はマスクを装着していた意味が分かる。最初はただの装備かと思っていたが全てこの為である。

煙幕を出した時に『ポイズン』も出したのだ。この毒は無色無臭。殺傷能力は無いが麻痺させることはできる効力はある。

 

「く、こんな毒くらいで」

 

ビアンカも毒の耐性はあるが全く効かないというわけでは無い。この毒は即効性があるわけでは無いため、徐々に時間をかけながら毒が侵すように戦っていたのだ。

作戦は成功したが時間をかけてバレないように戦っていた結果がこの体たらくなのだが。それでも成功したもの勝ちなのだ。

 

「うん。完全に効いていないのは予想できた。でも少しでも毒が効いてくれれば良いの」

 

燕は手を空高く掲げる。

 

「来て、平蜘蛛!!」

 

燕の切り札である平蜘蛛が起動する。

空高く、天高く、人がやっと進出した宇宙に九鬼専用の武器庫衛星が形態変化する。

平蜘蛛の扉が開き、勢いよく放出された。目的地は燕のいる川神学園だ。隕石の如く落下する。

 

「あれが平蜘蛛」

 

ポツリと誰かが呟く。燕の下には精密、芸術とも言える出来である武器の平蜘蛛が降り立った。

ガチャリと平蜘蛛を装着して、ターゲットであるビアンカに標準を定める。

 

「決めるよ!!」

 

決着をつけるために燕は走り出す。

 

「くらええええええええええええ!!」

 

平蜘蛛はビアンカに直撃する。最初の一撃の後に追撃で二撃目がガシャンと打ち込まれた。

 

「ああああああああああ!?」

 

平蜘蛛の攻撃は超撃とも言える威力。切り札ならば当然の威力である。

ビアンカは平蜘蛛の攻撃で数メートル先まで殴り飛ばされた。その威力は電車の突撃の如く。

 

「どうだ!!」

 

決着。

 

「そこまで。勝者は松永燕!!」

 

 

073

 

 

松永燕VSビアンカの戦いは松永燕の勝利。

なかなか一方的な決闘であったが彼女の策で何とかビアンカを倒すことに成功した。ボロボロで痛みが酷いが勝ったことの方が気持ち的に上回っている。

 

「痛たた…まったく酷いや」

「お疲れさまです。燕さん」

 

真九郎は手を貸す。燕の身体はもうボロボロであるのでがから手を貸さねば上手く立ち上がれないだろう。

燕も遠慮なく真九郎の手を借りて立ち上がる。致命傷では無いがすぐに治療すれば完全回復するはずだ。そう思っているといつの間にか九鬼の医療班が駆け付けていた。

 

「戦闘屋って強いや…いや、正直に言うと怖かったよ」

 

武人でも燕は学生。プロの戦闘屋と戦うにあたって恐怖がまったく無いなんてことは無かった。

 

「それでも燕さんは勝利しました。凄いですよ。それに怖いっていってますが俺にとっては勇気をもって戦った。素敵ですよ」

「あはは、ありがとう真九郎くん」

「松永燕様の治療はお任せください。最高の治療を致します」

「ありがとうございますクラウディオさん。でも治療は病院じゃなくてここでお願いします。この決闘を最後まで見届けたいんです」

「分かりました。ですが絶対安静ですよ。致命傷はありませんが重症であることはありません。特に首へのダメージは酷いのですから…痛みが引くまで不自由な生活になるでしょう」

「気にしませんよ。それより勝ったんですから義経ちゃんたちは?」

「はい。この勝利で弁慶を取り戻すことができました。ありがとうございます」

 

横を見ると弁慶がヒュームに連れられて戻って来た。見るとケガ等はなく無事そうだ。

 

「弁慶さん」

「弁慶ちゃん」

「姉御、無事か!!」

「ああ無事だよ。でも先に私じゃなくて義経か清楚先輩を戻した方が良かったのに」

 

やはり臣下として主である義経の無事を確保したいが、これは決闘で決められたルールであるため仕方が無い。義経を救うにはユージェニーを決闘で倒さねばならないのだ。

 

「無事で良かった弁慶さん」

「心配してくれてありがとう。それにしても私が主を守れなかった…」

「落ち込まないで弁慶さん。貴女は何も悪くない。ここは俺らに任せてください」

 

真九郎に力ある目を見て信じられる気持ちが溢れる。

 

「義経を救うのは俺の役目だ。任せろ姉御」

「与一…そうか、じゃあ頑張れ!!」

 

弁慶が応援という名の気合いを与一の背中に注入する。紅葉である。

 

「痛ってええええええ!?」

「行け与一。必ず主を救え」

「ったく、言われるまでもねえ」

 

与一が愛用の弓矢を握り、グラウンド場にへ堂々と歩く。決闘2戦目が始まる。

既にグラウンド場には悪宇商会のユージェニーが立っている。彼女からは静かに闘気、殺気が滲み出ている。彼女の鉤爪がギラリと鈍く光る。

 

「来たか残りのクローン」

「那須与一だ。お前を倒して義経を救う」

「ビアンカがやられたのは予想外だった。だがお前を倒せば元に戻る。そしてプリムラが紅を倒せば良し」

「俺は負けねえ」

「そうか。なら特に話すことは無い。仕事を完遂させる」

 

2戦目は那須与一VSユージェニーの決闘が始まる。

 




読んでくれてありがとうございました。
感想などあれば気軽に下さい。

それにしても本当に戦闘シーンが大変でした。
何せ、戦闘屋のプロVS学生の武人の戦闘シーンは難しいですよ。
燕の策は毒による動きを止めて、切り札を叩きこむというシンプルなものになりました。
流石の戦闘屋もあの『平蜘蛛』が直撃すればただじゃすまないですからね。
でも『平蜘蛛』を叩きこむには相手の機動力を削ぐ必要があります。あれだけの大振りならプロの戦闘屋は避けるでしょうから。そのための毒でした。


次回は与一VSユージェニー
どんな戦闘にするかまた悩みますので次回もゆっくりとお待ちください。


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那須与一VSユージェニー

こんにちわ。
時期的には、あけましておめでとうございます。

では、早速物語をどうぞ!!
タイトル通り、バトルです!!


074

 

 

那須与一VSユージェニー

 

「源義経が家臣。那須与一」

「悪宇商会所属。『裂爪士』ユージェニー」

 

名乗りを上げた瞬間が試合開始の合図だ。先に仕掛けたのは与一である。

決闘形式であることから間合いはとれているので与一はすぐに矢を放った。鋭い矢は一直線にユージェニーに向かう。

音を切り、空を切り、何よりも早く矢が放たれたのだ。その威力は岩をも貫き砕く。

 

「速い。そして鋭い。でも当たらなければ意味は無い」

 

矢は正確にユージェニーを捉えていたが、その正確さが仇となった。正確に一直線にユージェニーの頭を狙って来た矢を軽く首を傾けただけで矢は後ろにへと飛んで行った。

 

「何!?」

「正確すぎる矢ほど避けやすい矢はない」

 

ユージェニーの言う言葉は挑発とも言えるし、本当のことだ。速すぎる矢とはいえ、一直線で向かってくるものなら狙いの場所が分かれば避けることが可能である。

与一の正確すぎる一撃は正確すぎるゆえに避け易いのだ。これならまだ乱射する方が当たるかもしれない。だが相手はプロであるため乱射の意味はないだろう。

 

「まだだ!!」

 

弓の弦を弾いて矢をもう一度放つ。次の狙いは右足、左肩、左手、左脇腹と矢を放つが全て避けられる。

 

「正確だと避け易い」

 

この決闘はユージェニーにとって仕事の延長線上である。ただ淡々と相手を倒せば良いだけだ。それだけで仕事は完遂する。

2つの鉤爪を交差し、ギャリギャリと金属音が響く。火花まで散るほどまで力を入れている。

 

「来るか」

「もう来た」

 

ユージェニーが一瞬で与一の間合いに走り込んできた。与一の目は彼女の動きを捉えていたが身体の反応が追いつかなかったのだ。

一直線に走って来たのは分かったがどう動けばより効率が良かったのか。そう反応して行動にするまでの過程を行えなかったのだ。だからこそ彼女に間合いに入り込まれたのである。

 

(速えな!?)

「その腕もらった」

 

鉤爪はちょうど与一の右肩を狙って来た。弓矢を使う者にとって腕を攻撃されて使い物にならなくなったら敗北確定である。何せ弓が引けないのだから。

瞬時に与一は今の状況を理解して身体を捻った。そうすれば大事な腕を守れるからだ。そのおかげで完全な負傷は免れたが引っ掻き傷の生々しい痕がついた。

ポタポタと紅い血が落ちる。すぐさまもう片方の手で抑えても痛みがジンジンする。でも我慢できないほどの痛みではない。それよりも次の一手がくるから避けないといけない。

 

「よく避けた。次はどうだ」

 

今度はえぐるように鉤爪が顔面に迫る。

 

「危なっ!?」

 

両足で力の限り地面を蹴って後退する。何とか間合いを取るための脱出なので受け身などは上手くとれずにゴロゴロと転がりながら離れた。

 

「ったく、とんでもないな」

 

ボソリと小さく呟く。

 

「離れても意味はない。どうせすぐに追いつく」

「できるかな?」

「ただの戯言だな。実力の差が分からない者じゃないだろう?」

 

与一はユージェニーとの実力差が分かっているのだ。戦闘屋と学生。これだけの言葉を比較すれば誰だって分かるもの。

彼自身だってこの決闘が不利すぎるものだと理解している。普段の彼ならこんな戦いは挑まないだろうが相手が家族とも言える義経たちを誘拐するような奴を許さない。

譲れない意志、戦いが男にはあるのだ。

 

「ああ。実力の差くらい分かっている。俺が圧倒的に実戦経験が無くてアンタに負けているってことはな」

「ならすぐに降参すれば良い。痛い目に合いませんよ」

「出来るかバーカ。したら俺らはどこも知らねえクズにコレクションとして見世物にされるか実験されるかだろーが」

「…依頼者は自分の物は大切にするらしいですよ」

「んな情報はいらねえ」

 

吐き捨てるように言葉を言う。

負けたら引き渡される誘拐犯の元凶なんか情報としていらない。できるなら相手に勝つ情報がほしいものだ。

そんな情報があってももらえるはずもないのだが。ならば自分で勝つ経路を探し当てるしかない。

 

「まったく、貴方は依頼品なのですからあまり傷をつけるわけにはいかないのです。…ですがこうも反抗されると仕方ありませんね」

 

彼女の殺気が濃くなる。与一は一歩後退してしまう。流石は戦闘屋だと言いたいが飲み込んだ。

 

(とんでもねえな。だが負けられないんだよ)

 

矢を取り出して弓の弦を引く。

 

「何度言えば分かる。当たらないぞ」

 

与一は口元をニヤリとする。そして矢が放たれた。

 

「避けられ…な!?」

 

まっすぐに飛んできた矢が軌道修正して傾いた。そして避けようとしたユージェニーに迫る。

これは矢の後ろについている羽の部分に細工をしたからだ。それに矢を少し削って重さも微妙に変えている。矢を少しでも細工すれば何かしら変化するのだ。

だが、細工した矢が自分の思った通りに飛ぶとは限らない。細工するにも計算は細かく、難しい。

 

「かすったか」

 

ユージェニーの頬から血がツゥーっと垂れる。完全なヒットでは無いがヒットである。彼女は血を手で拭って見る。

 

「油断。いえ、良い小細工です。だけどもう分かった」

「言ってろ。必ず矢をてめえの脳天にぶち込んでやる」

 

指を自分の頭にズンと突き立てる。

 

「くらいな」

 

変則な動きをする矢が連発される。

 

「良い小細工だと言ったが、もう意味はない。変則する矢ならば避けずに全て切り裂けばよいだけの話だ」

 

飛んでくる変則の矢を全て鉤爪で全て切り裂いた。

 

「どうする。もう…何?」

 

ユージェニーが見たのは与一が川神学園の内部に入っていく姿であった。

 

「追いかけっこをするつもりか。いや、場所を変えたいようだな」

 

 

075

 

 

2Sの教室。

 

「はぁはぁ。これでよし」

 

カチリと音が聞こえた。

 

「20分。時間との勝負だな」

 

ガチャガチャと武器を持てるだけ持つ。ここが川神学園だからレプリカの武器がある。普通の学園ならば複数の武器のレプリカなんて無い。

 

「ここが川神学園だってのに感謝だな。だから色々とある」

 

与一にとって川神学園はよく知っている空間だ。中二病特有の性質からで学園中を調べ尽くしている。だから彼にとっては動きやすい。

逆にユージェニーは川神学園の内部なんて知らない。有利なのは与一だ。

 

「実力差は埋まるワケじゃねえ。だが勝率は0.0001くらいは上がる」

 

ほんの少し勝率が上がっても、なんて思うだろうが実力が負けている者にとって可能性があるだけあればよいのだ。

 

「スマートな戦いじゃないが、ウダウダと言ってられないからな。見せてやるぜ。俺のどろどろの糞みたいな戦いをな」

 

ガラリと扉を開いて走り出す。

 

「決着をつけてやる悪宇商会」

 

 

076

 

 

ユージェニーは静かに川神学園の廊下を歩く。耳は微かな音さえ見逃さないように鋭くしている。

今、川神学園には与一とユージェニーしかいない。なら自分が出した音以外ならターゲットの与一となる。

 

「学園内に入り込み身を潜めたか。だが無駄だ。すぐにでも見つける。それに内部なんて弓矢がさらに使えないだろう」

 

川神学園が広いといっても弓矢で狙撃するには障害物が多すぎる。攻撃に至っては与一は大幅ダウンである。

有利な地形だとしても決闘の最中で戦力を落とすとは厳しい。これは防衛戦ではないのだから。

 

「何処にいる那須与一のクローン。逃げているだけか?」

 

ここで大きな声を出す。自分の居場所を教える行為だが、彼女にとって何ら問題はない。今は早くターゲットの場所を把握しなければならないからだ。

更に鉤爪でギャリギャリと音も立てる。

 

「いたな」

 

廊下の角を曲がると廊下が一直線になっていた。そしてその先にいる与一。複数の武器を身体に身に付けている。

 

「武器を増やしたところで何も変わらない」

「言ってろ」

 

シュパッ。

矢がまたユージェニーに向かって放たれたが避けられる。

 

「ただの無駄打ちだろう」

「無駄打ちでも打つことに意味があるんだよ」

 

シュパッシュパッシュパッ。

連続で放たれる矢。すべて避けられる矢。だが、与一は矢を放つのを止めない。

 

「やはりただの無駄打ちだったな」

 

ユージェニーはまたも矢を全て避けて与一の間合いに入り込む。だが前と違うのは与一が他の武器も持っていることだ。

 

「おら!!」

 

日本刀に持ち変えて抜刀する。素人同然だが無いよりマシだ。そしてすぐに捨て去り、次の武器のレイピアを突き刺す。

 

「届かない」

 

レイピアがユージェニーに届く前に鉤爪の間に入り込ませて捻り折る。そのまま蹴りあげた。

与一は窓から他の教室へと跳ばされた。

 

「ぐう、女の脚力じゃねえ。いや、女でも馬鹿力はいるか」

 

ガラリと勢いよく扉が開き、突撃してくるユージェニー。そうはさせまいと誰の机か知らないが心の中で謝りながらぶん投げた。

机が勢いよく投げ飛ばされてきたが、蹴り返される。

 

「危なっ!?」

「その腕もらった」

「さらに危なっ!?」

 

鉤爪が右腕を狙う。だが、与一は目がよいのだ。今回は何とか避けて、鉤爪がその後ろの壁に深く刺さる。

 

「今だ」

「何が今です?」

 

ドス。

与一の右肩に鉤爪の爪の部分が1本刺さっていた。

 

「何いい!?」

「この鉤爪には仕掛けがある」

「くっ、この」

 

爪を抜き取り、体勢を立て直すために教室から出る。ユージェニーは壁に刺さった鉤爪を抜き取り、1本欠けた爪を再装着する。予備の爪はまだある。

 

「また追いかけっこか」

 

ユージェニーは与一を追いかける。

 

「右肩をやられちったか。だがまだ大丈夫だ」

 

与一は走る。逃げているのではない。誘き寄せているのだ。気付かれたら終わりだから悟らせないように必死さを演じる。

 

「誘き寄せるのにこの傷は使える。血が俺の場所を教えてくれるからな」

 

到着した場所は科学実験室。ここには色々ある。そう、様々な物が揃っているのだ。危険な物でも。

 

「ここか」

「ここだよ悪宇商会」

 

今度は棍棒を片手で持って応戦する。リーチを活かしながらユージェニーを攻めるが基本的に素人なので決定打はない。それが片手なら尚更だ。よく振るえるものだ。

 

「おら!!」

 

近くにあった椅子を蹴り飛ばす。

 

「もう面倒だ。さっさと終わらせます」

 

踏み込み、一気に間合いに入り込む。そして鉤爪の連続攻撃が始まる。

右、左、右下、右上、下、上、左上。至るところから鉤爪が与一を攻撃していく。この連続攻撃を何とか避けるが切り傷がどんどん増えていく。科学実験室に血がピタピタと跳ねていく。

 

「脇腹」

「ぐあっ!?」

 

ついに鉤爪が与一の脇腹にグザリと刺さってしまった。激痛が身体に走る。

 

「今度は腕を貰う」

「腕はやらねえよ」

 

与一の懐から液体の入ったビンがユージェニーに迫る。

パキャアッと割れると液体がユージェニーにかかった。謎の液体を警戒して一旦離れた。

 

「この臭いはアルコールか?」

「正解。よく理科室とかにあるだろ」

 

そう言うと与一はまた懐からアルコールランプとライターを取り出す。これもよく理科室や実験室にある物だろう。

 

「火炙りにでもするつもりか」

「もっと酷いぜ。気付いてるか。今この部屋はガスで充満してる」

「貴様!?」

 

与一の発言はとても危険なものであった。

 

「何を驚いてるんだよ。戦闘屋は死と隣り合わせなんだろ?」

「貴様…たしかに戦闘屋は死と隣り合わせだ。だが、自ら死地に踏み込んで戦う戦闘屋はいない。貴様は馬鹿か?」

 

百戦錬磨の戦闘屋でも猛毒の充満する部屋でターゲットを仕留めろと言われて戦う者はいない。前提がおかしいのだ。死ぬと分かって戦う奴なんていない。

 

「馬鹿かもな。開き直ってるから。負けたら死ぬのと変わらないからなあ!!」

 

ガシャアンッと窓から飛び出す与一。それと同時にアルコールランプに着火して外から科学実験室に投げ込んだ。

 

「那須与一のクローン!!」

 

爆発音が響いた。

 

「死にはしないだろ。これでもガスの量は調整したからな。でも損傷は酷いだろうな」

 

与一は爆風に巻き込まれながらプールへと落下した。

バチャリとプールから這い上がる。

 

「はぁはぁ、やり過ぎた。でもこうでもしないと勝てないからな」

 

相手は非情な戦闘屋。ならこっちだって非情で容赦なく戦わなければならない。

ドチャッと座り込む。時計を見て時間を確認する。

ぼそりと「後少し」と呟く。

 

「やり過ぎた。学長すまねえ。そして従者部隊の出番だろ…俺も罪を償う」

 

息を整えながら爆発した科学実験室を見る。部屋からは爆煙が吹き出している。

 

「…チッ」

 

舌打ちをした瞬間に科学実験室からガシャアンと飛び出してプールへと落下してきた。それが誰かはすぐに理解する。

 

「嘘だろ。あれでまだ動けるのかよ」

 

バチャリとプールから這い上がるユージェニー。身体には火傷の痕が見てわかる。

 

「さすがに死ぬかと思った。でも万策尽きたはず。もう今度こそ終わりにしましょう」

「ちきしょうが」

 

鉤爪を構えてゆらゆらと近づいてくる。脇腹の痛みが酷くなる。嫌な汗まで垂れる。

 

「終わりだ」

 

ユージェニーが走り出し、与一へと突っ込んだ。与一は動かない。

そして鉤爪が与一に刺さった。

 

「ぐううがあ!?」

「これで終わりだ」

 

ポタポタと血が落ちる。

 

「ああ。終わりだな」

「負けを認めた…がっ!?」

 

まさか瞬間。まさかの出来事。まさかの攻撃。ありえない方向から矢が飛んできてユージェニーの脳天に直撃した。

その衝撃に真横へと倒される。

 

「あぐ…な、何が!?」

「言ったろ。脳天に必ずぶちこむってな!!」

「ど、どうやって!?」

「簡単だよ。お前の目で見えるか?」

 

与一が目線を2Sのクラスに向ける。ユージェニーも何とか目線を向けるが脳天にくらった矢のせいで見ることができない。

 

「見えないか。ボウガンだよ」

 

与一が川神学園内に入ってまず先に向かったのが2Sのクラスだ。ここでボウガンの仕掛けをセットしておいたのである。

矢が自分以外から放たれるなんてことはないという隙をついた作戦である。そして今いる場所がボウガンが放たれる地点。ここまでおびき寄せたのだ。

 

「本当ならあの爆破でくたばってくれたら、こんな賭けまがいな作戦はしなかったがな」

「く、こんな当たるかも分からない作戦を実行したのか!?」

「ああ。だからアンタが倒れているんだろ」

 

与一が密かに投げ込んでいた棍棒を拾い上げる。そして動けないユージェニーに近づく。

 

「俺はアンタに実力じゃ負けている、技術も負けている、殺気も負けている。でもよ、それでも勝っている部分があったぜ」

 

棍棒を大きく振りかぶる。

 

「それは運だよ。どんな勝負も運の流れってのは必ずある。今回は俺にその運が流れた!!」

「この、クローンが!!」

 

棍棒がユージェニーの脳天にクリーンヒットした。この瞬間に勝敗が決定したのだ。

勝者は那須与一。彼は自分らしくない戦いをした。本人は糞みたいな戦いだったとずっと言い続けるだろうが救われた者にとっては、見ていた者にとってはガッツのある戦いだったと言われるはずだ。

この決闘は彼に大きな成長と大きな悪の存在を教え込んだ。

 

 

077

 

 

「与一!! 弁慶!!」

「主!!」

 

義経が弁慶と与一に思いっきり抱き付く。

 

「痛たたたっ。痛い!!」

「わわ、ごめん与一!!」

「それくらい我慢しろ与一!!」

「俺はこれでもケガ人だ!!」

 

仲良し3人組とも言うべきだろう。彼女たちの姿は良い。お互いに支え合い、励ましている。家族とはああいうもののことを言うのだろう。

 

「松永先輩、真九郎くんもありがとう!!」

「いや、俺は何もしてないよ。助けたのは与一だ」

「そうそう。頑張ったのは与一くん」

「でも私たちの為に戦ってくれる。本当にありがとう!!」

 

涙をポロポロ流しながら笑顔だ。だがまだ完全な笑顔では無い。清楚を助けねばならないのだ。

 

「おい」

「何だ与一?」

「まだ完全勝利じゃねえんだから喜ぶな。まだ清楚先輩がいるだろ」

「そ、そうだな。ゴ、ゴメン」

「謝らなくていい」

 

プイっと顔を背ける。弁慶は「可愛くないねえ」と呟くが軽く笑っている。

 

「頼むぜ真九郎。俺は勝った。だからお前も必ず勝て!!」

「分かった」

 

手と手を強くパシンっと合わせる。そしてグラウンドの中央へと向かう。相手は既に準備ができているのか、静かに立っている。

ついに大将戦。紅真九郎の戦いが始まる。




読んでくれてありがとうございます。
感想など気軽にください。

今回のバトルはどうでしょうか。戦闘屋のプロになんとか与一がどろどろになりながら戦ったバトルでした。
正直、弓矢だけでは勝てるシーンが思い浮かばなかったので学園内に入り込み、様々な手を使って、運に任せて勝った状況でした。

そして次回はついに真九郎VSプリムラです。
どんな戦いになるかまた考えないとなあ…。


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真九郎VSプリムラ

こんにちは。
悪宇商会の3人の戦闘屋との決闘は最終戦です。
どんな戦闘にしようかと悩みましたが頑張って何とか書きました。

どんなんかは物語をどうぞ!!


078

 

真九郎VSプリムラ

川神学園のグラウンド場に二人の男女が対立する。男が真九郎で、女がプリムラだ。

二人は初対面では無く、ちょっとした知り合いである。最も、知り合いと言っても出会いは最悪。最初から敵である。

 

「おひさしぶりですね紅真九朗」

「・・・確か隻さんの部下の人ですね」

「貴様がセキ様の名を口にするな」

 

いきなり重い殺気を放たれる。だが、真九朗は負けない。殺気なんて今まで何度も味わっている。だが、今回の殺気は怒気が含まれている。

真九朗は確実にプリムラから恨まれているのだ。恨まれている理由なんて『あの時』の事件だろう。しかし、恨まれる筋合いは無い。先に手を出したのはプリムラたちの方なのだから。

 

「貴方とは休戦中の条約をしていますが今回の場合は適用されません」

「ああ、確認はとってある」

「この決闘で戦うのにあたって、万が一殺しても構わないということです」

「・・・文句は無い」

 

彼女からの殺気からで分かる。どうせ殺す気だろうというのがヒシヒシ伝わるのだ。この決闘は殺しは不可となっているが『不慮の事故』扱いは含まれない。

彼女とは個人的な因縁なんてものは無い。あるのは隻を倒した事に関しての事かもしれない。

そんなものは逆恨みだ。だが、この業界に入ったときから理不尽な怨みや理解されない怒りを受ける覚悟は出来ている。

以前に魅空の友人から怨みを買ったが、その友人は真相を何も知らないから真九郎を恨んでいる。だが真九郎は彼女の友人のためにも真相を明かすつもりはない。黙って怨みを買うだけ良いことだと判断している。

 

「仕事を完遂させるために私一人で残りの2人も倒す嵌めになりました。貴方をさっさと仕留めます」

「悪いが殺されるつもりは無い。人を商品のように扱う奴等に義経さんたちを渡すわけにはいかないからな」

 

さっきから殺気を受けるのは理不尽だ。人を道具のように思うなんて良い気はしない。真九郎は静かに怒る。

ビリビリと周囲に殺気と怒りが響く。

 

「この業界では当たり前のことです」

「ああ、そうだな。だが知り合いや友人がそんな目に会えば冷静に我慢できるほど人間できていないんだよ俺は」

 

銀子や夕乃、紫が狙われたら真九郎は冷静になれる自信は無いとすぐに答えるだろう。

 

「ですが、この決闘で負けたら文句は言わせませんよ」

「・・・分かっている」

 

負ければ終わりだ。負ければ命は無いかもしれない。義経たちも奪われる。だから今の精神は静かに燃え上がらせる。

 

「・・・いくぞ」

「こいよ」

 

お互いに拳を強く握る。お互いに走り出す。お互いに拳を突きだした。

そして、押し負けたのは真九郎であった。

 

「がっ、ぐぅ!?」

 

グラウンドをゴロゴロと転がっていく。その威力はそこらの戦闘屋を超えている。星噛絶奈の『要塞砲』よりかは劣るが人間を殴り飛ばす威力は充分過ぎるだろう。

プリムラとは今回が初めて戦う。前回は詳細を聞いたところ、切彦が倒したそうだ。一太刀で倒したため、実力は分からないと切彦は言っていた。彼女が強すぎるのだ。だが今のプリムラの姿を見て強さの理由がすぐに分かった。

 

「その両腕のは・・・」

「セキ様と同じ力だ」

「星噛製の刃。しかも2つか」

 

プリムラの両腕の肘から『星噛製の刃』が埋め込められていた。隻の時と違い、両腕とは無茶をしている。

 

「セキ様に近付くために最高顧問に大金をはたいて埋め込んでもらった。私はセキ様のためなら身体をいくら改造しても構わない」

 

プリムラは隻のことを尊敬し、妄信し、崇拝している。彼のためなら何でもできる覚悟があるのだ。その覚悟の現れが『星噛製の刃』だろう。

 

(・・・あの刃の性能が上がっている。星噛の発展力か)

 

サイボーグ技術を持つ星噛家は1度破られた物を更に修正するのは当然だ。今回の『星噛の刃』はより、切れ味を増して腕力に握力を向上させる機能を持っている。

 

「私はセキ様を倒したお前を認めない」

「認めなくていいよ。認めて貰う必要はない」

 

ただの敵に認めて貰うなんて必要はない。そもそも何を認めてもらうというのだろう。

赤馬隻を倒したことだろうか。だが倒したことは真九郎の中で事実。

彼は銀子を、紫を、夕乃を、崩月の家族を危険な目に合わせた。それは許さない。しかし崩月家は彼の罪を一緒に背負う覚悟をもっているのだ。その後に関してはとやかく言うつもりは無い。

 

「その星噛製の刃で隻さんに近付いたつもりか?」

「何だと?」

「その刃を埋め込めば強くなれるだろう。でも隻さんに近付けるわけじゃない」

「黙れ!!」

 

プリムラが間合いを詰めて力の限り殴りかかる。両腕で防ぐが肉を潰し、骨まで衝撃が伝わる。

 

「はあ!!」

 

刃で横一閃。腕にスバリと斬れて血がピタピタ流れる。それでも彼女の猛攻撃は止まない。

 

「私はセキ様が姿を眩ましてたからどんな依頼も達成してきた。功績を建て替え続ければ、必ず私の元に帰ってくる!!」

 

重い拳に鋭すぎる刃。猛攻は続く。

その勢いはまるで暴走に近い。彼女は赤馬隻を尊敬し、崇拝し、妄信しすぎて彼に関わる事に関しては常識が通じなくなっている。

 

「はああああああ!!」

 

力の限り『星噛の刃』を振るうと川神学園のグラウンド場が切断された。もうえげつないほどに傷痕をつけた。

身体をねじって危機一髪で避けた。直撃していたら身体が真っ二つであっただろう。それほどの鋭さと切れ味を持っているのだ。

 

「上手く避けたな」

「でやあ!!」

 

跳躍して鋭い蹴りを繰り出す。蹴りが直撃する音が響くが腕で防がれている。これでも破壊する気で蹴ったはずだが頑丈のようだ。

 

「掴んだぞ」

 

プリムラは真九郎の首を掴み、ミシミシと締め付ける。

 

「ぐが…!?」

「このまま絞め殺しても良いが、決闘上では殺しが不可です。…なので上手く誤魔化しますよ」

「こ、この」

 

真九郎はプリムラの腕を掴む。なんとか首を絞めている腕を引き剥がすために。

 

「お前を殺せばセキ様が帰ってくる!!」

「…帰ってこないよ。俺を殺したくらいで帰ってくるなんてことはない。誰かを殺せば人が帰ってくるなんて事があってたまるか!!」

「黙れ!!」

 

プリムラは真九郎の顔を、腹部を、身体中を殴る。その一撃一撃は重く、殺意の籠った拳だ。

 

「セキ様は必ず私の元に帰ってくる。だから私はどんな任務も達成する。そしてセキ様を苦しめたお前を殺す!!」

 

殴るのを止めないプリムラ。

 

「隻さんはあの事件の後、消えた。それは自分を見つめ直すためじゃないのか!?」

 

こんなのは真九郎の勝手な予想だが、崩月家の家族と再会した後、隻は何か心を改心させられるキッカケをもらったように感じた。

その後、彼がどうなったかは分からない。まだ生きているのか死んでしまったのか分からない。でも夕乃とはまた帰ってくると思っている。

 

「見つめなおすだと。セキ様はあの冷酷さこそセキ様だ!!」

 

血が刎ねる。内出血を起こす。肉が潰れ、骨が今でも折れそうだ。もしかしたら骨にヒビが入っているのかもしれない。

ゴガッと鈍い音が響く。

 

「何故だ。何故こんな弱い男にセキ様は…!!」

「あんたが隻さんを待つのは良い。待つのは誰もが持つ権利だ。でも待つ意味を履き違えるな!!」

「五月蠅い!!」

 

ゴキャッ。

 

「ぐう…」

「こんな弱い男に!!」

 

プリムラが拳を大きく振りかぶって殴ろうとした瞬間に声が聞こえた。

 

「真九郎は弱くない!!」

 

 

079

 

 

プリムラの両肘から突起した『星噛の刃』を見て燕はすぐさまアレが何か考える。武器を扱う松永家としてアレは危険すぎると理解した。

あんな物を人間の身体に埋め込むとは何処の人間か知りたいくらいだ。いや、どんな人間が作ったのかの方が知りたいくらいだ。

 

(アレ何!?あんな武器っていうか兵器は見たことないんだけど!?)

 

武器を扱う松永家だからこそ『星噛の刃』の価値、、殺傷能力、危険性が分かるのだ。

プリムラが刃を振るった瞬間にグラウンド場が切断された。あのサイズでグラウンド場に一直線に切断する威力はありえない。

川神には規格外はあってもおかしくは無いが、武器として、兵器として『星噛の刃』も規格外である。しかもソレを二本も腕に埋め込んでいるのだ。

 

(本当にアレは何かしら。まるで紅くんの角っぽいけど)

 

燕は分からない。星噛家を知らなければ当然だ。何せ裏世界の一角なのだから。彼女は今この瞬間に裏世界の一端を目にした。

 

「ヒューム…紅様は『星噛』と言いましたね。と言うことはもしや」

「ああ、だろうな。裏十三家の『星噛』だろう。こんなところで星噛製の武器を見るとはな」

 

九鬼家も様々な物を製作している。だが星噛家は九鬼とも対等だ。寧ろ人工臓器の分野に関して言えば星噛家が上だ。

星噛製の人口臓器はとても精密で頑丈だ。その価値は同等の重さの宝石と取引されるくらいと言われる。

 

「あれは人口臓器ではないが、特別製の武器だな」

「ええ、あんなものを身体に埋め込むとは…あの女性も無茶をするものですね」

「だが分かるだろう。あの女、強いぞ」

「はい。もう既に彼女は人間ではなく兵器ですね」

 

涼しい顔をしているヒュームとクラウディオ。だが彼女のバックにいるであろう星噛家に警戒してしまう。

そもそも事前の情報で悪宇商会の最高顧問が星噛の人間というのは知っている。あの『孤人要塞』だ。

 

「むう。最後の最後でとんでもない者が出てきおったな」

 

鉄心も自慢の髭を撫でながら唸る。

 

「俺は勝つがな」

「今はお主じゃなくて紅の戦いじゃろう」

「ふん。あいつは大した赤子だ」

 

目を向けると真九郎が首を掴まれ、殴られている。

 

「真九郎…」

「あ、ああ真九郎くんが」

 

義経たちは身体が震えて目も向けられなくなっている。それでも与一は目を背けない。

勝手な思いだが真九郎の勝利を望んでいるのだ。だが、状況を見ると真九郎の不利は見るだけで分かる。

プリムラの攻撃で真九郎は傷だらけ、痣だらけ、内出血を起こしているだろう。首を絞める握力で今にも首の骨を折られそうだ。それでも真九郎の目は死んでいない。

反撃のチャンスを待っているのだ。そしてそのチャンスを彼の天使が伝えに来た。

 

「この声は…まさか」

 

 

078

 

 

「真九郎は弱くない!! 真九郎は誰よりも強いのだ!!」

 

声が聞こえた。その声は今ここで聞くはずがない声。その声は真九郎にいつも勇気をくれた声。その声は彼が守らなくてはいけない女の子の声。

 

「む、紫!?」

「紫ちゃん!?」

「紫様!!」

 

九鳳院紫が川神学園に現れた。その現れ方はいつも真九郎のピンチの時に現れる。それはヒーローのようにではなく、彼に幸運を与えてくれる天使のように。

何故、川神学園に来たのか。それは「緊急事態というやつだ」とでも言いそうな顔をしている。前にも似たようなことがあった。

さらに護衛にリンもいる。当たり前だが紫が1人なわけがない。

 

「おい眼鏡女。お前は何も見えてないな。見てるのは自分のことばかりだ!!」

「何ですって?」

「そうだろう。私は少ししか聞かなかったが、さっきお前はセキという奴の為に、戻ってくるために戦うと言っていたな。それは相手が望んだことなのか?」

「貴様…!?」

「相手が本当に望まなければ意味なんてない!!そんなの誰でも分かることだ!!」

 

相手が望まなければ意味はない。それは当たり前のことで難しいものだ。

 

「私は真九郎に助けを望んで助けてもらった。でもセキとかいう奴は望んだのか。望んでもいないのに勝手にやるのは自分のことしか見ていない証拠だ!!」

 

プリムラが黙る。論破されたから黙ったのではない。静かに殺気を紫に向けているからだ。

10年も生きていない子供が大人の世界に、裏の世界に口を出すのはただただイラつかせるだけだ。さらに自分の覚悟を真っ向から否定されれば殺気も出るものだ。

 

「五月蠅い子供ですね」

 

プリムラの額にビキリと青筋が浮き出る。人の覚悟を否定された。何も知らない子供に否定された。

大人げないと言われるかもしれない。だが自分が心の底から決めた覚悟を否定されたら誰だって怒るだろう。覚悟を決めた者なら善人でも悪人でも関係無いからだ。

紫が言っていることは確信ではあるが、覚悟を持ったプリムラからしてみればただの子供の戯言にすぎない。

これはどっちもどっちであるようなものだ。結局のところ人の言い分とは相手を如何に自分の主張を通すかによるものだろう。

 

「…あの子供は目障りだ。殺すか?」

「…な!?」

「それに情報屋も崩月も潰す。セキ様を追い詰めた者は全て!!」

 

プリムラの目は酷く濁っている。

酷く濁った殺気が紫に向けられた。すぐさまリンが紫の前に出る。だが、そんな状況を真九郎が黙っているはずがない。

 

「おい」

「なん・・・ぐが!?」

 

ゴキン。

何かが折れる鈍い音が聞こえた。それは真九郎がプリムラの左腕を破壊したからだ。

 

「ぐうううう、おのれ紅真九郎!?」

「おい。銀子に、夕乃さんに、紫に手を出すな!!」

 

真九郎が怒る。冗談でも彼の大切な人に手を出すなんて言葉を言ってはいけない。怒りによって身体が熱くなる。

力が全身に入って、プリムラに殴られていた痛みなんて忘れてしまう。

 

「すう、かはああ」

 

息を吸って熱い息を吐く。そして『崩月の角』を開放する。全身の細胞が活性化して力がみなぎる。

 

「この崩月の鬼が!!」

「崩月流甲一種第二級戦鬼、紅真九郎。名乗れよ。俺はあんたの覚悟なんてどうでもいい。だが大切な人を傷つけるなら俺は何が何でも守る!!」

「…二代目レッドキャップ、プリムラ。セキ様の意志を継ぐ者!!」

 

プリムラは無事な右拳をこれでもかというくらい握りしめる。真九郎は地面を砕く勢いで踏み、突撃する。

どちらも小細工無しの真っ向勝負。妄信によって固められた覚悟の拳と大切な者を守る為に強者であり続けると決めた拳がぶつかる。

 

「俺はあんたの覚悟なんて本当にどうでもいい。他人の覚悟なんて分からないからな。だから俺の覚悟もあんたには分からないだろう。それでもいいさ。大切な人が守れるなら」

 

拳を前にへと突き出す。その瞬間にプリムラは殴り飛ばされ、『星噛の刃』が砕け散った。

 

「あんたが隻さんを大切に思っているのはなんとなく分かっていたさ。でも負けるわけにはいかないんだ。なにせ負けられない理由があるんだよ」

 

チラリと真九郎は紫を見る。すると紫は太陽のような笑顔だ。それを見て心からホッとしてしまう。

 

「セ、セキ様…わ、私は」

「…俺の勝ちだ」

 

真九郎VSプリムラ。

勝者は紅真九朗。長く、深すぎる一夜が終わった瞬間であった。




読んでくれてありがとうございました。
感想など気軽にください。

今回の戦いは会話が多く、戦いの描写が少ない感じになりました。
これは真九郎の会話から始まる戦いを意識して書いたものです。
原作でも戦闘描写よりも会話のせめぎ合いの方が多いですから。

そしてプリムラは赤馬隻を妄信してしまったが故に歪んでしまった感を出しました。
漫画版でもそのような雰囲気もありましたし。そしてあの事件からこうなるんじゃないかなっと思いました。
確か隻は切彦の粛清で死んだってことになっていたような気がしますが本当のところは分からないので2人とも隻がまだ生きているかもしれないって感じになっています。

これで3人の戦闘屋との決闘編(クローン奪還編)は終了です。
次回で後日談を書いて一区切りですね。

そして新章はやっと環さんや闇絵さん。崩月の家族が登場の物語となります!!



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長い夜が明ける

決闘後の後日談的なものです
簡単にまとめたものになっております。

非日常から日常へと戻ります。


080

 

 

クローン奪還戦の後日談を語ろう。

真九郎がプリムラに勝利し、清楚を奪還した。悪宇商会のプリムラたちは文句も言わずに撤退していった。

これでも仕事のプロであるためルールをちゃんと守ってくれた。流石にルールを守らない程の愚かな戦闘屋ではないようだ。その彼女が歪んでいようとも。

この決闘後はきっと悪宇商会から連絡があるかもしれない。今回は特別であったが元々、悪宇商会とは休戦状態なのだから。それを考えると少し憂鬱な気分になる。

だが紫の笑顔を見たらどうでもよくなった。そして義経たちの笑顔も見れば尚更だ。今は勝利を、彼女たちを救えたことを喜ぼうと思っている。

真九郎たちは精神的にも肉体的にもボロボロであるが達成感はある。今回の一件で真九郎は燕と与一と繋がりはできた。死闘を乗り越えた的な意味で。

 

「今回は私たちだけの秘密だね」

「秘密って言うかな?」

 

そして今回の黒幕と言うか元凶である御隈秀一は決闘の結果により捕縛。九鬼の力で御用となったのだ。彼はもう何もできないだろう。

裏世界でも大きな力を持つ者の1人とはいえ、九鬼も本気を出せば潰せることはできる。警察も動いたと聞くが、もしかしたら『円堂』も裏で動いたかもしれない。『円堂』に関しては真九郎の勝手な推測である。

この一連の事件でもう裏世界の人間はクローンを狙うなんて馬鹿な真似はしなくなるだろう。だが九鬼の人間は裏世界へ目を光らすこととなるだろう。

 

「ありがとうございました真九郎様」

「義経さんたちが助かって良かったですよクラウディオさん」

「真九郎様には御礼として報酬がございます。どうやら金銭面で苦労しているようですから」

 

微笑むクラウディオ。これはこちらも微笑むしかない。確かに金銭面では苦労しているので言い返せないし、御礼金は嬉しい。

 

「真九郎様も大変ですね。もしよければ九鬼で働きませんか?」

「嬉しいお誘いですが…」

「まあ応えは分かっておりましたよ。でも九鬼はいつでもお待ちしています。紋様も待っていますよ」

「ありがとうございます」

 

前回は九鬼にて関わった事件を解決したが今回も事件を解決した。自覚をまだ持っていないが真九郎は九鬼との大きな繋がりができたのだ。

これが今回の事件の一連の後日談である。

 

 

081

 

 

正座をしている真九郎。そして正面には夕乃が正座をしている。これはクローン奪還戦の報告をしているのだ。

何故か正座をさせられているのは夕乃の命令である。今回の戦いでボロボロになったからとのこと。戦えば身体がボロボロになるのは当たり前なのだが。

 

「良いですか真九郎さん。今回はちゃんと悪宇商会と戦うと事前に言ってくれたのは良いでしょう」

「はあ」

「でもそんなボロボロになるまで戦うとは許してませんよ!!」

「でも義経さんたちを救うには振り絞って戦うしかないですし…」

「それでもです。私は真九郎さんが傷つくのが嫌なんです」

 

夕乃も義経たちが誘拐されたのに心配はした。とても心配した。だが真九郎が傷つく方がもっと心配してしまうのだ。

 

「全く…本当に心配したんですからね。これはとっても怒ってます!!」

「す、すいません」

 

理不尽かもしれないが本当に心配されているのだから真九郎は頭が上がらない。そもそも夕乃には絶対に頭が上がらない。

 

「謝っても怒りが収まりません。これ何かしてくれないとダメです!!」

「な、何かって…」

「そうですね。今度どこかに遊びに連れてってください。それで怒りは収まります」

「わ、分かりました。じゃあ今度どこかに出かけましょう」

 

真九郎が了承したのにピクリと反応する。

 

「本当ですか?」

「本当です」

「私と2人っきりですか?」

「え、あ、はい」

「村上さんや紫ちゃんたちは含めませんよ」

「はい」

 

完全に肯定した真九郎。そしたらズズイっと夕乃が近づいて早速、遊びに行くもといデートプランを打ち合わせするのであった。

 

「それともう1つ。ぎゅっとしてください」

「え?」

「抱擁、ハグとも言います」

「…えっと」

「しないんですか、どうなんですか!!」

「は、はい!!」

 

優しく抱擁する。

 

(幸せ日記に書かなくちゃ!!)

 

 

082

 

 

「…機嫌でも悪いのか銀子?」

「…そうよ」

「何で?」

「言わなきゃ分からないの?」

「…すいません」

 

銀子の機嫌が悪いのは言うまでもなく今回のクローン奪還戦である。夕乃と同じように報告はしたが馬鹿みたいにボロボロになって心配させてしまったのだ。

これも理不尽ともいえるような扱いかもしれないが心配されている証拠だ。毎回いつも心配されては怒られているのだ。

 

「ごめん銀子。でも知り合いを見捨てるなんてできなかったからさ」

「馬鹿ね。九鬼にでも任せれば良かったのに」

「その九鬼から任されたからね」

「…なら私をもっと頼りなさいよ」

 

ボソリと呟くのであった。

 

「うん。頼るよ」

 

真九郎もボソリと呟く。

彼と彼女の関係は信頼しあっている。何となくお互いの気持ちが分かるように。しかし色恋沙汰に関しては除外されるが。

 

「それにしても悪宇商会が川神まで…本当に世間は狭いわね。で、今回の一件でまた本社にでも呼ばれるのかしら?」

「それはまだ分からない。でも連絡はくると思う」

「気を付けないさいよ」

「分かってる」

 

 

083

 

 

可愛い女の子が真九郎の懐に飛び込んできた。紫である。彼女のおかげで今回の決闘に勝てたのもある。

真九郎は紫を優しく抱きしめて頭を優しく撫でる。

 

「緊急事態とはいえ、来てしまって悪かった。ああいうところは危ないと分かっていたけど真九郎が心配だったのだ」

「いいよ。寧ろ来てくれてありがとう紫」

「真九郎!!」

 

紫はさらにぎゅっと抱き付く。小さいがとても温かく、子供の強い力を感じる。この子を必ず守ろうと思うのであった。

 

「私はよくわからないが今回はもう大丈夫なのか?」

「ああ。もう大丈夫だよ。今度さ義経たちにまた会ってくれ。御礼を言いたいそうだ」

「私は何もしてないぞ」

「それでも来てほしいってさ。来てくれたことに意味があるんだ」

「そうか。分かった!!」

 

本当に彼女の笑顔は太陽のようだ。時折見せる大人の対応もしているが何だかんだで年相応の女の子。

 

「そうだ。今度の休みにまた遊びに行ってよいだろうか?」

「うん大丈夫。それに今度の休みは環さんたちや冥理さんたちがくるんだ」

「おお、全員集合だな」

「そうなんだよね」

 

きっとごちゃごちゃでうるさくなるだろうが、面白くなるだろう。

環はきっと酒で絡んでくるだろう。闇絵は意味ありげな言葉でからかってくるだろう。散鶴は甘えてくるかもしれない。冥理は突拍子もない言葉で悩ませてくるかもしれない。

それでもきっと良い日になるだろう。そう思いながら真九郎も笑顔になるのであった。

 

 

084

 

 

「真九郎くん!!」

「やあ義経さんたち」

「実は改めて御礼が言いたいんだ」

 

義経たちは真九郎に御礼を言いにきた。彼はまさしく命の恩人だ。だから御礼を言いたいと義経は言うのだ。

この彼女の提案は弁慶や清楚も文句はない。寧ろそれが当たり前だ。その中には与一もいて、クローン組の勢ぞろいだ。こうも改まって来てくれると真九郎もどう返事をしようか悩んでしまいそうだ。

 

「改めてありがとう真九郎くん。君のおかげで助かったよ。もう義経は君に感謝いっぱいでどう御礼をすればいいか分かんない程だ」

「主~そんなの身体でも何でもで返せば良いじゃない」

「べ、弁慶。そ、それは!?」

「弁慶ちゃん。それは流石にだめよ」

「はーい清楚先輩」

「全く…姉御は」

「あんだって与一?」

「何で俺だけ!?」

 

いつものクローン組だ。これには微笑ましく思ってしまう。

それはともかくとして身体で返されても困ると思う。そんなの後が怖いに決まっているからだ。主に夕乃たち的な意味で。

正直のところもしもを考えたとして、死しか未来が見えない。そんなのもう『稽古』の話どころではなくなる。

 

「真九郎くんは命の恩人だ。もし何か困ったことがあったら何でも言ってくれ。義経は必ず真九郎くんの力になるよ!!」

 

その言葉に弁慶たちも頷く。力になってくれる。この言葉は嬉しいものだ。

 

「ありがとう。何かあれば力を貸してもらうよ」

 

クローン組との絆は深まっただろう。あれだけ濃すぎる長い夜だったのだ。日常とは違う非日常。

彼らは成長したとは違うが世界の見識は変化しただろう。裏世界の一部を見てしまったのだから。

真九郎は思う。彼らにはもう裏世界に関わって欲しくないと。関わったら碌なことがない。それは真九郎自身が味わっている。しかし彼は後悔していない。自分で選んだ道なのだから。

 

(でも1度裏世界に関わると簡単には切り離せないものだ。それが表で有名な九鬼財閥なら尚更。でも彼らにもう危険なことがないことを願うしかないな)

 

彼らを守りたいと思うが真九郎は誰彼全てを守れるヒーローではない。ならば揉め事処理屋として頼られたら力になろうと思うのであった。

 

「あの真九郎くん。良いかな?」

「何ですか葉桜先輩?」

「助けてもらって何なんだけど頼みがあるの」

「頼み?」

「良いかな。助けられてばっかりで今度は頼みごとなんて」

「構いませんよ。俺は揉め事処理屋ですから」

「ありがとう。真九郎くん!!」

 

揉め事処理屋の仕事は終わらない。




読んでくれてありはとうございました。
後日談で簡単にまとめたものなので物足りない感があるかもしれませんが生温かい目で読んでってくださいね。

そして次回はついに環さんたちが登場だ!!
たぶんはっちゃけるかな?


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絶対切断 酒癖の悪い女と悪女

ついに環さんと闇絵さんの登場だ!!
この一言で足りる!!


085

 

 

ある2人が川神市に訪れる。そのうち1人は昼間から酒を飲み、陽気な女。もう1人は全身黒装束で不思議な女。

川神には様々な人間がいるがその2人は川神にいる人に負けないくらい癖の強い女性だ。おそらく川神でも上位にはいるくらい。

そんな事を彼女たちに言えば否定してくるかもしれなし、肯定してくるかもしれない。

 

「いやー、お酒が美味しいね闇絵さん」

「そうだな。このワインなんか血のように赤く良い」

「あははは~。それにしても早く川神に着いちゃった。愛しの真九郎くんがまだ駅にいないよー」

「なら、少し川神を観光してみるのも良いかもな」

 

クイっとワインを飲む黒装束の女の動作は優雅で悪女のようだ。逆にもう1人の女は豪快に酒を飲む。見ていてなんとも美味しく飲むのだろうと人行く人たちは思う。

最も昼間から酒飲む女性をどう思うかは人それぞれである。

 

「じゃあ川神の観光にレッツラゴー!!」

 

五月雨荘の武藤環に闇絵。彼女たちは真九郎たちが留学している地域の川神市に興味を持って観光しに来たのだ。

本来ならば時間になれば真九郎たちが迎えに来るはずなのだが、予定よりも早く到着した為に時間が余っている。だから彼女たちは余った時間で近くを観光することを決めた。

 

「取りあえずお酒のツマミは売ってないかなー?」

「近くにはないな。あまり他の人に迷惑はかけるなよ」

「分かってるよ闇絵さん!!」

 

酒を持ってハイテンション姿の環と酒を飲んでも冷静な闇絵。なんとも正反対な2人である。取り合ず彼女たちは風の赴くまま、気の向くままに歩き出した。

 

「ふんふ~ん」

 

鼻歌を歌いながら歩く。普通ならご機嫌な人と思われて終わるだけだが環は昼間っから酒を飲んでハイテンションな美人。ある意味注目を浴びている。

環は美人だが、とにかく身だしなみに気を遣わず、素行も「山猿みたいな習性」と評される程に女らしくないので、素材を全て台無しにしているのだ。これには真九郎たちも頷いてしまう。

 

「それにしても川神は武術の盛んな地だから、そこらでバトってるかと思ったけど案外違うみたいだね」

「そんなのはただの無法地帯だ」

 

そんな話をしていたら前の方で騒がしい声が聞こえてきた。良く見ると人が集まっている。何かと思って近づいてみると誰かが決闘をしているのだ。

 

「無法地帯だったな」

「わー。血気盛んじゃーん。こういうの良いね!!」

 

ドコン。決闘する1人が相手をぶっ飛ばして決着がついた。

 

「今の人はまあまあでしたね。決闘資格はありますよ」

「分かりました。では義経様の決闘表にチェックしておきます」

「お姉さまお疲れさま。はいスポーツドリンク。水分補給は大事よ」

「おおーありがとうワン子。出来る妹だなあ」

「えへへ」

 

とても仲の良い姉妹がいる。その彼女たちは川神姉妹だ。

 

「うわー。可愛いアンド美人!!」

「どうやら姉の方がさっきから決闘しているみたいだな」

「あの人たち有名な川神姉妹だよ。姉の方が武神なんて呼ばれている武人だ!!」

「へえ、あれがねえ。内側からにじみ出る鬼だな」

 

闇絵は的確な表現をした。百代は確かに鬼のような戦闘狂だ。分かる人には分かる雰囲気を醸し出しているのだ。

だがこっちには酒鬼がいると思い横にいる環を見る。まるで水のように飲んでいるが最終的には全て吐くのが彼女である。

 

「いよーし、アタシも挑戦しよっかな」

「勝てるのか?」

「やってみなきゃ分からないよ!!」

 

環は人だかりをかき分けて前へと進んでいった。それを見て闇絵は小さく「ほどほどにな」と呟くのであった。

 

「挑戦者はもういませんか?」

(今日はこれで終わりか。まあまあ楽しかったけどアタリは居なかったなー)

 

最近の百代は義経たちと決闘したい武術家の品定めのために戦っていて多少は戦闘への欲求不満は消えている。しかし、ここにきて夕乃や真九郎たちが交換留学に来て治まった戦闘への欲求不満が戻ったのだ。

ただでさえ、つい最近のある夜は鉄心から絶対に外に出るななんて言われたことがあった。何でも川神学園である人物たちが決闘をしていたとのこと。その決闘は間違いなく彼女にとって面白いと思われるものであったに違いない。だがクローン奪還戦に百代が参加していたら間違いなくややこしくなっていただろう。

 

(あの夜に決闘していたのは間違いなく燕に与一、それに紅だな。見に行きたかったけど、ジジイからめっちゃ出るなと言われてたからなー)

 

彼らが戦った相手は間違いなく強者だ。遠くからでも気を探ってみると強い気を感じたからだ。

 

(ちぇっ、戦いたかったなー。でも決闘なら勝手に対戦相手を奪うわけにはいかないし。困った)

 

そもそも鉄心は百代に悪宇商会の者と戦わせるつもりはない。彼女はまだ本当の死闘を知らない。

もし悪宇商会を知って戦闘屋と戦いたいなんて言い出したら鉄心の胃のダメージがハンパないだろう。世間を知らなすぎるし、常識がずれている。

だが、それも今までの人生と彼女の才能のせいかもしれないのもある。

 

(燕のやつ、身体中にダメージが残ってたな。燕にあそこまでダメージを与えるとは相手が気になる)

 

百代は考える。

 

(与一なんかは目に見るようにボロボロだ。あの与一があんなんになるまで戦うとはな)

 

どんな相手と戦ったのか。

 

(とくに紅は顔に痣があったな。でも消えかけてた…紅も回復力があるのか?)

 

普通の者なら分からないかもしれないが百代は真九郎の顔の痣は分かっていた。そんなのがあれば気になる人は聞いてくる。

だけど答えは決闘した傷痕だとかで納得させられてしまう。川神ならばその答えでほとんどの者が納得するからだ。決闘が多い市だからこそだろう。

 

(強い奴と戦いたいー、死闘をしたいなー)

 

彼女の戦闘欲求は収まらない。収まらせるには彼女を発散させるくらいの戦いをするか、彼女の鼻っ柱の叩き折るかだろう。

鉄心もそうさせたいところだが、相手がいないので難しいと思っている。だがヒュームは、九鬼側は何かしら用意しているらしい。そのことが百代にとって楽しみではある。

 

「今日はもう挑戦者が居ないし変えるかワン子」

「はいお姉さま!!」

 

仲良く走り込みで川神院まで戻ろうかと思っていた矢先、元気でハイテンションな感じの声が聞こえてきた。

 

「ハイハーイ!! 最後にアタシ挑戦したーい!!」

「お、挑戦者か」

「おやおや、飛び入り参加ですね」

 

今回の九鬼家から出た審判役である桐山鯉は最後に出てきた挑戦者を見る。

 

(…酔っ払い。いえ、これは!?)

 

鯉は名乗り出た挑戦者を観察すると強さのレベルを感じ取って驚く。戦わなくても間違いなく義経たちと戦うに値する者であると。

だが酔っ払いなのがいただけない。でも相手が女性なので口にはしない。

 

「川神様がよろしければ決闘は成立しますがどうですか?」

「構わない。それに相手は美人のお姉さんだ!!」

「でも酔っ払いよお姉さま」

「ああ。酔っ払いだな」

 

酔っぱらいの環が武神の百代に勝負を仕掛けてきた。

 

 

086

 

 

武藤環VS川神百代

 

酔っ払いと武神の決闘が急遽始まった。お互いに真剣なんてものではなくお遊び感覚の決闘だ。

環は観光の記念に。百代は酔っ払いだけど美人のお姉さんの相手ができると思って。もし本気で決闘するならこんな状態で決闘あんてしないはずだ。

 

「では挑戦者はお名前をお願いいたします」

「はーい。武藤環。女子大学生でーす!!」

「では決闘を始めますので酒瓶は置いてください」

 

普通ならこんな者を決闘なんてさせるつもりはないが百代自身が勝負しても良いと言うので不問となる。

ふらふらと百代の前に立って構える環。

 

(あの構えは空手家か?)

 

正解である。環はこれでも町の空手道場で師範をしている程の実力者だ。道場に来てくれている教え子にちゃんと教えているかが気になるところではある。

 

「では、両者共に名乗りを!!」

 

百代も構える。

 

「川神院所属。川神百代!! 拳で戦う美少女!!」

「武藤環でーす!!」

「では、始め!!」

 

百代は環の様子を見る。相手が如何に酔っ払いとはいえ、武神である自分に決闘を仕掛けてくるのだから多少は実力があるのだろう。

 

「うー、ひっく」

「…酔拳でもつかうのか?」

「ひっく…」

 

なかなか仕掛けてこない環を見て百代は考えを変更する。どうやら相手もこちらの動きを様子見をしているらしい。ならばこっちから仕掛けてやると改めた。

 

(うっぷ、飲みすぎたかな。急にちょっと気持ち悪くなってきた)

 

だが百代の考えは的外れで、ただ少し気持ち悪くなったから動かないだけである。

 

「いくぞ。川神流無双正拳突き!!」

 

武神の無双とも言える拳が環に向けられて突かれる。その突かれる速さは常人では見切れない。そう常人ならば。

 

「なっ!?」

「わー、すっごい良い突きだね!?」

 

環は何なく百代の突きを受け止めていた。いや、何なくと言う表現は武神を軽んじる言葉になってしまう。

彼女が武神の拳を受け止めたのはそれほどの度量を鍛え上げたからの代物だからだ。環は女性でありながら大男の拳を指2本で受け止められる。

ならば腕1つならば怪力男の拳だって止められるだろう。だから武神の拳をも止められる実力までは完全に達している。

 

「嘘っ、あの人お姉さまの突きを受け止めた!?」

 

一子だけでなく周りにいる観客たちも驚いている。あの武神の拳を受け止めたという事実はそれだけで人を驚かせるものだ。

事実、百代自身でも驚いている。自分の拳が止められる相手なんて指で数えられるくらいしかいないから新に自分の拳を止めた環に強い興味を抱いた。

 

「ハハハ、これは面白い。私の拳を止めるとはな!!」

「こりゃあ強い突きだね」

 

環も武神である百代の一撃に驚いている。おかげで酔いが少し覚めたほどだ。

拳をはらって、構え直す。どうやら百代は環のことを強者として認めたのだ。もう義経たちと戦う資格は十分にあるが、寧ろ自分が思いっきり戦いのだ。

 

「これは久々に楽しめそうだな」

 

ニヤリと笑う百代。やっとまともに戦えそうな相手が久しぶりに現れたのがとても嬉しいのだ。

つい張り切って闘気を滲み出してしまう。

 

「お姉さまが少し本気出してわ」

(武神が少し本気を出した。と言うことはやはりあの女性は相当の実力者ですね)

「仕切り直しだ!!」

 

百代は瞬時に間合いを詰めて連続で必殺の突きを繰り出すが環は何とか避けて、受け止める。武神の猛攻とも言える攻撃に環は焦る。

決闘とはいえ本気で相手をするつもりはなかったお遊びだったが何故か百代が急にヤル気を出した。最初は百代だって遊び感覚だったと感じていたのに急な変わりようである。

 

「ハハハッハハハ、良いぞ良いぞ。もっと楽しませてくれ!!」

「元気だね!?」

 

どんどんと突きの速度が速くなる。環がクリーンヒットをさせてくれないのが嬉しくて、ついギアを上げてしまう。

これならもっと本気を出せる。もっと力を出せる。もっと楽しめる。もっと戦える。

 

「防いでばかりじゃ詰まらないぞ!!」

「じゃあこっちからも行くよ!!」

 

素早い突きをかわしながら拳を作る。酔っていてもしっかりと相手を見定めて狙う。

 

「むむっ!?」

「ふうう…」

 

環から一瞬だけ出た闘気を感じ取った百代はすぐに守りに入る。

 

「正拳!!」

 

正拳突きが百代に放たれた。すぐに守りに入ってたのでクリーンヒットはしないが正拳の威力はとんでもない。

彼女の拳は屈強な大男でさえ一撃で沈める。しかもまだこれで本気では無い。

 

「へえ。突きの威力も申し分無し!!」

「あちゃー、防がれちゃったかー」

「まだまだ終わりじゃないぞ!!」

 

鋭い蹴りが一閃するがしゃがんで避ける。そして環はその瞬間に目を光らせた。

 

「むむ、見えなかった!?」

「私のスカートは鉄壁だ!!」

 

何故か急にエロオヤジの才覚が出るのであった。しかもこの時に百代は何故か環に似たようなモノを感じ取った。

それは同じエロオヤジ属性があるからだろう。今は決闘中だが、話し会いでもすればすぐにでも仲良くなれるだろう。

 

「うらららららら!!!!」

「よ、はっと!!」

「やるな。ならこれはどうだ!! 川神流畳返し!!」

 

畳ではなくて地面がひっペ返して壁となった。そして壁を殴って破片が飛散した。これは防御のためでなく攻撃ためだ。

 

「痛たたた!?」

「もらった!!」

「もらっちゃやだ!?」

 

またも拳を受け止める。激闘が繰り広げられる。

観客たちや負けた武術家たちは固唾を飲んで決闘を見ている。何せあの武神である百代と対等に張り合っているからだ。

 

「す、凄いぞあの酔っ払い!!」

「あの武神とまともに!?」

「あ、ありえないわね。名のある武術家だったりするのかしら?」

 

拳同士がぶつかり合う。鋭い蹴りが繰り出される。

 

「ハハハハッハ。面白いぞ!!」

「いやーやるね。こりゃあ、ちょっとヤバイか……うぷっ」

 

決闘のボルテージも上がってきたがここで環のボルテージが下がってしまう。決闘のボルテージというよりも酔いの許容量に限界が超える。

 

「どうした。急に動きが悪くなった…ぞ!?」

「えろろろろろろおろろおろろろろろろ」

 

環は決闘中、盛大にリバースした。しかも百代の目の前で。

 

「吐いたぁぁぁぁぁ!?」

「おろろろろろろろろろ」

「やれやれ。限界だったか」

「あれ、何か黒い服の女性が出てきたわ」

「何やってんですか環さん!?」

 

ここで保護者の真九郎の登場である。




読んでくれてありがとうございます。

今回は環さんたちが登場で軽く百代と決闘しました。
でも環さんは相手が武神でもいつもどおりです。そしてまともに戦えます。

なんせ原作の作者様が環さんが能力とか無しならば最強と認めるくらいですからね。


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崩月の家族

お待たせしました!!
今回は崩月の家族たちが登場です!!

日常回ですね。そして崩月家は川神でも通常運転です。


087

 

 

崩月冥理と崩月散鶴は川神に訪れていた。訪れた理由は娘の夕乃たちがちゃんと新しい学園生活になじんでいるか気になったからだ。

この思ったことは親として当然の気持ちだろう。親が子を心配しないわけがない。最も冥理は真九郎と夕乃が夜の営みをしているかどうかが気になっているだけではある。

何せ若い男女が新しい地で生活するのだ。何があってもおかしくないと言う冥理の勝手な持論である。

 

(あの子ったら妙な所で弱気になるのよね。ちゃんと真九郎くんをリードできるかしら?)

「はやくお姉ちゃんとお兄ちゃんに会いたいな」

「そうね散鶴」

 

早く娘たちの顔を見たい。それでも川神に早く到着したので迎えの夕乃たちがまだ到着していないのだ。

 

「どうしましょう。どこかで時間を潰してましょうか」

「お母さん。お腹が空いちゃった」

「そうね。小腹が空いたし、どこかで軽食にでもしましょうか。時間はあるし」

 

どこか軽めな食事ができないかと歩きながら周りを見るがどうもよく分からない。実際に初めての地であり、念入りに観光の準備をしたわけではないので土地勘はまさしくゼロである。

適当に入ってハズレを引くと散鶴が可哀想なので賭けはできない。このことから導き出した答えは単純。

 

「誰か地元の人に聞くのが一番ね」

 

そう思いついたら早速行動するべき。チラリを見渡して、何となく見つけた仲がよさそうな3人組に声をかけた。

その3人を見ての感想は色黒のイケメンに幸薄そうな白い少女、そしてハゲ。また面白い組み合わせだなっと思う他ない。しかし何故かハゲには散鶴を近づけさせてはいけない気がしたが気のせいだと思うのであった。

 

「あの、すいません」

「はい。何でしょうか…これはこれはお美しいお方ですね」

「あら、お上手。うふふ」

 

冬馬は息をするように女性を褒めるが冥理も大人の対応で返す。

 

「おおおおおおお」

「どうしたハゲって、ああそういう」

 

準は散鶴を視界に入れた瞬間、静かに声を漏らしていて小雪も納得していた。

 

(こ、このロリは極上のロリ。紋様や紫様、委員長と並び立つロリだ!!)

「あう?」

(仕草も素晴らすぃー!!)

 

準の不純な何かを感じ取った散鶴は母である冥理の後ろに隠れる。もともと人見知りなので当然な行動だろう。しかし準にとっては目の保養でしかない。

しかし誤解してはならないが準は幼女に対しては絶対の紳士である。絶対に間違いはないはずである。相手を怖がらせるなんて馬鹿な真似はしない。

 

「どうしたのですか?」

「実は観光でここに訪れたのだけど、よく分からなくてね。どこか軽い食事でもできる良い場所をしらないかしら?」

「なるほど。お任せください」

 

ニコリと良い笑顔。お返しに冥理もニコリと良い笑顔。

 

(ふむ。強敵ですね)

(駄目だよトーマ。相手は人妻だよー)

(不倫ってクる言葉ですよね)

(全くもう…でも相手は簡単にはいかなそー)

(ユキまでそう思いますか。やはり強敵ですね)

 

冬馬がそう思うのは当たり前だ。彼女は真九郎も夕乃さえも敵わない大人の女性だ。

女性に対して百戦錬磨の冬馬でも冥理を相手にするにはまだ経験値が足りないのだ。それでも口説くように会話するのは冬馬ならではかもしれない。

川神市の観光場所を説明しながらどことなく口説くが意味はなかった。

 

「いろいろと教えてくれてありがとうね」

「いえいえ、力になれて何よりですよ」

「ウフフ。こんなオバサンを口説くよりも若い子を口説きなさいな」

「いえいえ、貴女はまだまだお若いですよ」

「あらお上手ね」

 

この会話を聞いていた小雪は「トーマが相手にされてない。珍しー」なんて呟いた。

ところで準はというと優しい顔で散鶴を見ていた。散鶴も準から邪悪さを感じないから少しは警戒が薄れる。でも何かモヤモヤしたもの感じるのは分からない。でも危険さはない気がするのだ。

 

「俺は井上準。君は?」

「わ、私はち、散鶴」

「散鶴ちゃんって言うんだね。可愛い名前だ」

「ボクはユキだよ。よろしくねー」

 

一応、準が何かしでかさないように見張る小雪である。最も何度も確認しても準が小さい女の子に変なことをすることは絶対に無い。

 

「あ、ありがと」

 

可愛い名前と言われれば嬉しくないはずがない。つい赤面してしまう。これが真九郎ならもっと赤面して嬉しがるだろう。

 

(可愛い…心は浄化されるようだ)

 

準の周りに委員長に紋、紫、散鶴とロリが集まって最近は心に安寧を迎えられている。そして勝手に同士認定している真九郎がいるので充実もしている。

彼は1日1日を楽しんでいる。どんな楽しみ方かは人それぞれであるが、楽しいのなら小雪も冬馬も満足しているのだ。

 

「じゃあ行きましょう散鶴。ありがとうねイケメン方」

「バイバイ」

「では縁があればまた」

「バーイ」

「またね散鶴ちゃん」

 

たった短い会話であったが何とも満足のいくものであった。そして別れようと思ったが縁とはやはり意外なものである。

 

「お母さんってばこんなところに」

「あら、夕乃に真九郎くん」

 

ここで夕乃と真九郎が仲良く歩いて来た。もちろん冥理たちを迎えに来たのだ。

 

「お母さん?ってことはあの女性は崩月先輩の母親なのですか。あの美しさには納得しました」

「あれ、葵くんに井上くん、榊原さんまで?」

 

何故、冥理と一緒にいるのか分からなかったが聞いてみると単純に川神市について聞かれただけらしい。それなら納得である。

 

「紅くんは崩月先輩とデートですか?」

「いや、違…」

「もー葵くんったら。そう見えますよね!!」

 

夕乃は真九郎が今回の目的を言う前に遮る。やはりそう見られるのは彼女にとって嬉しいのだ。恋する乙女は第三者に好きな人のことについてそう言われるとつい盲目にもなる。

しかも彼女は冬馬の言葉を恥ずかしながらやや否定するのではなく、肯定する所は強かではある。

 

「お互いに羨ましいですよ」

(ん?お互いに?)

 

冬馬がお互いに羨ましいと言ったのは、彼が両刀使いだからだ。だが真九郎は気付く前に頭の片隅に追いやった。

気付いたら、気付いたで嫌な予感がすると無意識に反応した防衛反応だろう。

 

「崩月先輩のご家族が遊びに来ていたのですね。なら川神をお楽しみにください。川神は良いところですから」

「ええ。そうするわイケメンのお兄さん」

 

笑顔で冬馬たちと別れるが、その時に準から謎の視線を感じたがこれも無視することにした。

補足だがその視線を感じたのは真九郎に散鶴が駆け寄ってきて抱き付かれた時である。

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

「何でもないよちーちゃん」

 

そう。何でもないはずである。最近、準から同志認定されたり、嫉妬されたり大変である。

 

「ところで…環さんたちはまだ来てないか。もう時間なんだけどな」

「そういえば環さんたちも来るんでしたっけ?」

「そう。でもまだいないな」

 

そろそろ集合時間なのに環と闇絵が来ない。ならば携帯電話で連絡を取る。

プルルルルル。プルルルルル。プルルルルル。

形態電話のコール音が3回鳴った後に電話が繋がる。

 

「もしもし環さん?」

『私だ少年』

「あれ、闇絵さん!?」

『環は今、手が離せなくてな。代わりに私が出た所存だ』

「はあ。で、今何処にいるんですか?」

『そうだな集合場所の駅から左方向に1キロ先くらいの場所にいる』

「結構離れてますね」

『速く川神に到着してな。少しだけブラブラしてたのさ。そして環は今決闘中だ』

「なるほど…って決闘中!?」

 

いきなりそんなことを聞かされて「何で決闘しているんだあの酔っ払いは!?」と思ってしまった。しかも相手はあの武神。

何がどうやったら武神である川神百代と決闘する羽目になったのか気になる。だが、それよりも心配しているのが迷惑をかけていないかどうかだ。

 

「今からすぐに向かいますから!!」

『待ってるよ少年』

 

 

088

 

 

百代は不意を突かれた。基本的に敵なしの百代でも不意を突かれることは案外あるのだ。

今回の不意に関しては本気で驚いたと言っても過言ではない。何せ決闘中に目の前で嘔吐されたからだ。

決闘中に嘔吐なんて結構あることだが、それは相手に攻撃して当たり所が悪かった時に起きる場合だ。それなら百代も平気である。

しかし、今回の嘔吐は本当に予想外であった為に一瞬フリーズしてしまうほどであったのだ。最初から酔っていたとはいえ、こうも不意を突かれるように嘔吐されれば武神とはいえ驚く。

 

「は、吐いたあああああああああ!?」

「えろろろろろろろろろろろ」

 

吐しゃ物特有の酸味とも言えないような臭いと様々な酒の匂いが周囲に漂う。この臭いに当てられてもらいゲロをしそうになる一子であったが我慢する。

環はまだ「えろろろろろろろ」と嘔吐していて、これではもう決闘どころではない。

普通なら決闘が中断されて戦闘への欲求不満が残るはずの百代だが、今回ばかりは戦闘意欲が全て消えた。

 

「ええー」

「おろろろろろろおろろおろろ」

 

まだ吐く環。

 

「何やってんですか環さん!!」

「そうですよ環さん!!」

 

ここで保護者たちが登場。

 

「おお、紅じゃないか。それに夕乃ちゃんまで!!」

 

彼女にとって最近の興味対象であり、決闘したい2人が近づいて来た。

 

「あらあら、まあ」

「え、えと…」

「そして妖艶な奥様と可愛い幼女も!!」

 

この言葉を聞いて百代も環と同じ属性を持っていそうだと感じたのは当然かもしれない。なぜなら彼女もそうなのだから。

百代と環が気が合って暴走するのだが、それはまだ先の話である。

 

「ほら環さん。水ですよ」

「うう…ありがと真九郎くん」

 

水を飲んでいる彼女の背中を優しく擦る。そのおかげで多少は楽になった。

もう決闘は御開きだ。九鬼の従者である鯉は既に決闘不可と取って、観客たちに帰るように促している。流石は九鬼財閥の従者で仕事が早い。

 

「うう…気持ち悪い。真九郎く~ん、背中ぁ」

「はいはい」

 

環を背負る。この状態の環はもうどうすることはできない。このまま島津寮に帰るのが一番だろう。

 

そして島津寮。

島津寮に返ってきた真九郎一行。帰って玄関を拓くと大和と京が出迎えてくれた。

 

「おかえり。て、お客さん?」

「モモ先輩にワンコもいる」

 

彼らの反応は最もだろう。だから普通に自分たちの知り合い、家族と説明。するとすぐに大和たちは把握。

ここからは率先して大和が寮内を案内してくれる。やはり彼は気が利くというか、気配りができる人間の一種だ。

 

「お邪魔します」

「お、おじゃまします…」

 

居間に集まってお茶うけ等を用意し、環は真九郎の部屋で寝かせる。補足だが環が「あん、真九郎くん。続きはベットでぇ」なんて戯れ言を呟いた時は本気で誤解が生じようとしたから大変であった。

大和たちの目が「え!?」とか「案外、紅くんって…」なんて感じ取れた時はどうしようと思った程である。特に夕乃は目が笑っていない。

 

「本当に何をやってんのよ馬鹿」

「銀子…これは俺のせいじゃないと思うんだけど」

 

確かに彼のせいではない。ただの偶然と環の戯れ言のせいである。

 

閑話休題。

ここで一区切りがついたのでやっと落ち着くことができて、本題の話ができる。それは今まさにっていう状況だが、崩月家の家族と五月雨荘の住人が川神に遊びに来たということだ。

 

「初めまして。私は夕乃の母で崩月冥理です。娘と真九郎くんがお世話になってます」

「崩月散鶴と言います。よろしくお願いします」

「闇絵だ」

 

自己紹介を簡単に済ませて談笑する。

 

「銀子ちゃんも元気そうね」

「はい。お世話様です」

「うんうん。夕乃も真九郎くんも学校では上手くいっている?」

「もちろんです」

「まあまあですかね」

「うんうん。良し良し。お友達の方はどうかしら?」

 

大和たちから真九郎たちの評判を聞きたいということだ。せっかく友人たちが、学友がいるのだから親としては評判を知りたいものだ。

気兼ねなく、異端無く評価を教えて欲しいという笑顔をしている。ならばと大和たちは遠慮なく答えるのであった。

 

「そうですね、紅くんは優しいと評判ですよ」

 

実際に真九郎は優しいと評判である。その評判の理由は目立つことはここぞという時以外はしないが、何だかんだで雑用もとい手伝いをしてくれるのだ。

特に女学生の頼みは絶対に断らないので女学生からは評判が本当に良い。そのおかげで夕乃と銀子は不満になったりするだ。そしてついでに岳人からも嫉妬されたりする。

 

「そうなのね。さすが真九郎くん」

「村上殿は冷静な性格だな。それに頭が良いし、調べものなんかは彼女に任せれば完璧だぞ!!」

「え、銀子いつのまにクリスさんに?」

「…断り切れなかったのよ」

「何調べたの?」

「…何てことの無い日本の歴史についてよ。しかも結構マニア向けなヤツ」

 

それは歴史好きで、侍とか戦国とかについてで、さらに奥に踏み込んだものである。

クリスは銀子が調べものが凄いと言う理由で知りたかった歴史について調べて欲しいと頼んだのだ。しかも目をキラキラさせる純真無垢な子供のように。

その謎の圧からつい断れなかった銀子は仕方なく調べたというわけだ。その感想はまるで甘えん坊の子供を相手にしたかと思ったほどである。一応報酬は駅前の評判の良いフルーツケーキである。

 

(実際にクリスは甘えん坊と言うか、子供っぽいと言うか…そういう時があるからな)

 

彼女と仲良くなれば性格を把握できる。良い言い方をすれば可愛い天然さん。悪い言い方をすればおバカさんって感じだろう。

 

「で、最後に夕乃ちゃんはとっても大和撫子で私なんかメロメロだ。そして決闘したい!!」

「あらあら決闘なんて」

「だって夕乃ちゃん強いだろ?」

 

ジーっと夕乃を見る百代。まだ彼女は決闘を諦めていないのであった。何とか留学中に決闘しようと考えているのだ。

本当に懲りない武神だと思う一同であるが、彼女の性格故なので誰も責めることはしない。

 

「どうだい夕乃ちゃん。私とデートでも」

「お断りしますね」

「また振られた!?」

「夕乃は川神学園でもモテモテなのね」

「でもってことはそちらの学校でも?」

「ええそうよ。去年のクリスマスなんか先輩や後輩から何人も誘いを受けてたのよ」

 

彼女の武勇伝を聞いてると彼女がとてもモテるのがよく分かった。だが彼女は真九郎一筋なので他の男なんて見えていない。

その為、他の男性から言い寄られるのはとても面倒なのだ。しかし彼女の性格上、他の男性を突っぱねることができないのでいつも断るのに苦労しているのだ。

 

「成程。ウチの学園でも夕乃先輩はすごくモテてますよね。しかもファンクラブまでできてますし」

『そーそー。葉桜先輩とのコンビで大和撫子で清楚で凄いことになってるよなー』

 

散鶴は松風が気になったのかジーと見ている。興味を持ってくれたのが嬉しいのですぐさま散鶴の相手をする由紀江であった。

 

「大変ねえ。なら早く行動した方が良いかもね夕乃」

「行動って何ですかお母さん?」

「それは勿論、夕乃が他の男に言い寄られないようにするための行動、方法よ」

「それは?」

「ここなら実家から離れてるし、気兼ねなくしていいのよSEX…」

「お母さん!!!!!」

 

自分の母親が何を言いだすかと思えば、まさか娘に性行為を進めるとは思うまい。崩月家でなければ。

もう夕乃は顔が真っ赤になりながら母親に抗議している。普通の人が見ればどう反応すれば分からないが崩月家では日常茶飯事である。

この崩月家の日常茶飯事には大和たちもやや驚き。まさか大和撫子の夕乃が性に対してからかわれているのは意外である。でも大和や百代は夕乃の意外な一面が見れて良しと思っている。

 

「大丈夫よ。ここは寮だけど学友たちも暗黙の了解で…」

「そういうわけじゃありません!!」

「そんなんじゃ周りの男性からしつこくまとわりつかれるわよ?」

「だから…もう!!」

 

何を言っても聞かなそうなのでこちらが折れるしかなかった。やはり母はいろいろな意味で強しである。

口では絶対に勝てないのでどうしようもない。深いため息を吐きながら席に座る。

 

「うーん、何とも個性的と言うか、大胆と言うか」

「だな。まさか堂々と娘に性行為を、その、進めるとは…」

「あうあう」

「あわわわわ」

 

百代と京以外の女性陣はSEXと聞いてしまい顔が真っ赤だ。この3人は興味はあるけど耐性が少ないという女性たちである。

 

「大胆ですね。夕乃ちゃんのお母さまは」

「常識外れなだけです!!」

「酷いわ夕乃」

「娘の前で、学友の前であんなことは言うからです!!」

「でも皆くらいだと気になる年頃でしょ」

 

誰とは言わないがある者たちは心の中で頷くのであった。

 

「しかし、夕乃ちゃんのお母さまは紅を相手にさせるのですね」

「ええ。どこの馬の骨に相手させるよりは家族の真九郎くんが信頼できるしね」

 

ニコニコと真九郎に顔を向けるが苦笑するしかできない。こういう話は上手く会話できないのだ。そもそも余計なことを言うと話がややこしくなりそうなので迂闊に発言は控えている。

予想だが絶対にややこしくなりそうな気がするので注意しているのだ。そして今まさに環で酔っ払って寝ているのがせめての救いである。彼女がこの会話に混ざったら絶対に暴走する。

 

「それにいつか散鶴の相手もしてもらうのよね」

 

お茶を飲んでいたが咽た。この発言だけは真九郎もヤバイ。しかも散鶴も笑顔で「うん。お兄ちゃんに教えてもらう」なんて堂々とい言う始末。

さらに遊び相手になっていた由紀江に「SEXって何?」なんて聞いている。これには由紀江は答えられない。

 

「え、えと、そのあのそのえっと!?」

「ちーちゃん。前にも言ったけど大きくなったら教えてもらえるよ」

「そっか。やっぱりお兄ちゃんに教えてもらうね」

「ははは…」

 

空笑い。

 

「ロリコン」

「違うから!!」

 

銀子からの冷ややかな一言。何度も言おう。真九郎はロリコンではない。

 

「ろりこんって何?」

「ちーちゃんが知らなくて良いことだよ」

 

幼い彼女には知らなくて良い十字架である。

 

「さて、せっかくだから観光したいのだけど良いかしら?」

「もちろん。せっかく来たんだからね」

「じゃあ、もう少し休憩したら観光しに行きましょう。もちろんお友達もね」

 

ニコリと笑顔で大和たちを見る。その返しに「いいんですか?」と答える。

それはそうだろう。せっかく家族が会いに来てくれたのだ。家族たちだけで楽しむかと思っていたのだから。

 

「あら、せっかく仲良くなれたもの。みんなで楽しんだ方が良いでしょう。それにお友達の方が詳しいでしょう?」

「そうですね。なら川神さんたちが良ければですが」

「私はオーケーだ。こんな美人家族と一緒に観光だなんて最高だ」

 

百代を筆頭に大和たちも同行することを決める。なんとも大所帯な観光だ。観光自体が大所帯でするものでもあるが。

 

「じゃあ行きましょうか。まずが御昼ご飯を食べに行きましょう!!」

「なら俺が良い所を知ってますよ」

 

大和が携帯電話を取り出してオススメの場所をピックアップする。

 

「ところでそちらのミステリアス且つ不思議な貴女様は?」

「歩くのは面倒だが食事はしたいしな。行くとしよう」

「うーん。ミステリアスな淑女…良いな」

「姉さんってば」

「私は淑女ではないよ」

「なら?」

「私は悪女さ」

 

ピシャリと堂々と言い放つ悪女宣言。どうでもいいが何故かカッコイイと思ってしまった一子。

 

「環さんはどうします?」

「せっかく来たけど酔っ払ってるからね。寝てもらうとしよう」

 

流石に酔っ払いを連れて外を出るわけにはいかない。ここは部屋でゆっくりと寝てもらおう。しかし、島津寮で一人お留守番もある意味心配ではあるが。

そんなことを思っているとドタドタと聞こえてきた。その足音の正体は件の環である。

 

「私も連れてけー!!」

「うわっ環さん!?」

「置いていくなんて酷いよ真九郎くん!!」

「酔っ払いは寝てください」

「あーん。真九郎くんが冷たーい」

 

酔っ払いには優しくしない。ただ寝させるだけである。何せ酔っ払いに何を言っても会話が成立しないからだ。

 

「少しは酔いが覚めたから大丈夫。あ、それと真九郎くんの部屋にはエロ本無いんだね」

「何を調べてるんだ酔っ払い!!」

(無いのか)

(無いんだ)

(無いのですね)

 

人が集まれば騒がしい。それは当然の摂理かもしれない。

 

「騒がしい連中だな。だが平和だ…この寮ではな」

 

闇絵はテレビをチラリと見る。今はニュースがやっている時間帯だ。

内容は様々である。政治家の汚職事件に殺人事件、強盗事件と日本の闇が放映されている。平和の裏にはいつも闇が隠れているものだ。

平和しかない世界なんてものは存在しないのかもしれない。そんなの夢のまた夢。永遠に平和主義者が望み続ける願いだろう。

 

「ふむ、脱走事件か。よく脱走できたものだな」

 

脱走事件。三十代前半頃の大柄な白人男性が脱走したというニュースも流れていた。

 

「出かける前にウコン茶作って真九郎くん」

「やっぱ寝てろ」

 




読んでくださってありがとうございます。
今回の話はオリジナルかサヤカルートを組み込もうと思っています。
そして『絶対切断』というタイトルがある通り切彦もメインで登場させようと思ってますよ!!

次回もゆっくりお待ちください。
次はもう少し早く投稿できたらなって思ってます。


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余計な道へ

こんにちわ。
今回は大勢で洋食屋へ行きます!!
まあ、日常回ですけどマジ恋勢が少しづつ紅の世界へと足を進めていきます感じかな


089

 

 

真九郎たち一行は昼食を取るために島津寮から出る。そこから先は縁があるのか岳人や卓也たちとも合流する。

 

「崩月先輩の家族が来たと聞いて!!」

「なりゆきだけど同伴させてもらいます」

 

さらに約束を忘れてはいけない。崩月の家族や環たちが来ると伝えて約束した女の子がいるのだ。

 

「真九郎!!」

「紫、こっちだよ」

「紫ちゃんだー!!」

「環よ久しいな!!」

 

紫に護衛のリンまでも加わる。本当にもう大所帯である。観光目的の集団にしかみえないだろう。

最も崩月家と環たちは本当に観光の人たちではあるが。

 

「良いお店って何処?」

「クマちゃんに教えてもらったお店で、洋食が美味しい洒落た食堂だよ」

「クマちゃんのオススメならハズレはないね」

 

クマちゃんこと熊飼満。彼は美味しい物には情報通で食については彼に聞けばハズレは無いと言われている。

そんな彼のオススメのレストランなら友人や崩月家の人たちを案内しても大丈夫である。

 

「美味しいごはん。楽しみねー」

「そうだな犬。クマ殿のオススメなら安心だろう」

 

今からランチが楽しみな一子にクリスである。

 

「いやーそれにしても崩月先輩のお母さまは妖艶でイイな」

「駄目だよガクト。相手は人妻だよ!!」

「それが良いんじゃないか。年上に人妻。サイコーだな」

「全くガクトは…いつものことだけどさ」

 

本当に年上美人だと岳人はある意味ダメとなる。しかもそこに人妻とつけば岳人は更に興奮する。だからと言ってどうと何かが起こるわけでは無く、ただ勝手に岳人が興奮してるだけである。

補足だがついでに百代もテンションが上がっている。エロ親父魂の発揮である。さらに補足だがやはりと言うか、環とすぐに仲良くなる。

 

「うーむ。更に切彦がいれば良いのだが…居ないのか」

「切彦ちゃんはたぶん仕事だよ。だからまた今度誘おう」

「うむ。そうだな!!」

 

紫はいつも通り元気な笑顔だ。そして真九郎の右手を強くぎゅっと握っている。それは左手を握っている散鶴がいるからだろう。

会う度に「真九郎はやらん」と言って先制しているのだ。しかしこれでも夕乃の妹であるので弱気でありながらもしっかりと真九郎にベッタリしているのを見るとしたたかではある。

今は内気であるが夕乃と同じくらいの年になれば強かな女性になるかもしれない。そして真九郎よりも強い崩月流の使い手になるかもしれないだろう。

前に銀子から散鶴は成長したら真九郎より強くなるのでは、と聞かれたことがある。その問に対して否定はできなかった。確かに彼女は真九郎よりも強くなる可能性を持っているのだから。

 

「紅くんってば小さな子からモテモテね」

「そうだなー。やっぱロリコンだな」

 

ニコニコと見る一子とニヤニヤと見る岳人。お願いだからこれ以上ロリコンと言わないでもらいたいと思うのであった。

ただでさえ、もう既に川神学園で真九郎はロリコンのレッテルを張られ始めているのだから。

 

「川神学園では井上に次ぐ第二のロリコンだからな」

「やめてよ本当に…」

 

川神学園であだ名がロリコンになったら目も当てられない。

こんなんだが真九郎はからかわれながらも仲良くやっているつもりである。そんな様子を集団の中から見る大和。

 

(…うん。普通に見ても普通の学生だな)

 

大和は最近まで秘密裡にあることを調べていた。それは『裏十三家』についてだ。

 

(今日は裏十三家の崩月が家族で来ている。何か分かるだろうか?)

 

父親からは関わることは止めろと言われているが同じクラス、同じ寮にいるのだから関わるなというのは無理な話だ。だが深く踏み込まなければ良いだけだ。

それなのに調べるのは父親に反抗したわけでもないし、自ら危険に飛び込んだつもりもない。ただ仲間に危険が及ばないように自分が準備を固めているだけなのだ。

これは仲間思いの大和が動いたことである。しかし、大和は自分が調べ上げているモノが何なのかを理解していないし、触れていいものでもないことが分かっていなかった。

彼は軍師と仲間から頼られていても、やはり彼は表世界の人間だ。表世界の人間が裏世界のことを調べ上げても碌なことがおこらない。

だけど大和はその危険性に気付かない。真九郎がもし気付いていたら今すぐにでも彼を止めさせていただろう。

大和が本当に気付くのはまだ先の話である。そもそも『裏十三家』という言葉を聞かなかったら彼は、彼らは今後に起こった『アノ事件』に関わらなかっただろう。

 

 

090

 

 

クマちゃんこと熊飼満のオススメの洋食のレストランに到着し、ゾロゾロと入店していく。店の雰囲気も良くて、繁盛している。これは期待しても良いだろう。

席に座ってメニューを開く。何を食べようかと考えながら決めていく。

 

「わたしはこの、チーズハンバーグとやらを食べるぞ。真九郎は何にするのだ?」

「そうだな。俺はこのエビフライ定食で」

 

全員が決まったら店員を呼んで注文を頼む。届くまで彼らは雑談を楽しむのであった。

 

「お酒は…」

「ダメです。十分呑んだでしょ」

「でも吐いちゃったし」

「吐いたらって呑んだことがゼロになりません」

「ぶーぶー」

「鳴いてもダメです」

 

環はまだ酒が飲み足りないようだ。前に「お酒を飲むと楽しくなる」なんて言っていたが吐くまで飲むのは違うと思う。

 

「ところで環さんは何で川神先輩と決闘してたんですか?」

「うーんと、ノリ」

「ノリで決闘したんですか…」

 

もう呆れてしまう。ノリで武神と決闘するのは環くらいかもしれない。

 

「それにしても百代ちゃんだっけ。凄く強いね。おねーさんビックリしちゃった!!」

「それはこちらのセリフですよ。武藤さんも強いですね。また決闘したいなーなんて」

「良いよ。おねーさんいくらでも相手しちゃうよ」

「本当ですか。ヤッター!!」

 

テンションが上がるのはやはり、久しぶりに強者が、百代が強者だと確信できる相手が決闘を応じてくれたからだろう。

何せ最近はお預け、もしくは目の前に強者がいるのに手を出せなかったのだから。

 

「モモ先輩が強者だと認める程なんてそんなに強いの?」

「そうだな。俺様には酔っぱらいの美人にしか見えないぜ」

 

卓也に岳人たちの疑問は確かだが、武神が言うのだから確かなのだろう。

 

「ええ。強いと思うわ」

「そうなのワンコ?」

「うん。だって酔ってたのにあの人はお姉さまの拳を受け止めたのよ」

「マジかよ」

 

彼女たちの基準だと百代の拳を受け止めた人なら強者確定である。いつも一緒で武神の肩書きを持つ者と居ればそんな考えになってもおかしくはないだろう。

しかし、人の強さなんて一概には言えない。

 

「楽しみだなー!!」

「私もー!!」

「環さんまだ酔ってますね」

 

すぐに仲良くなる二人。やはり、気が合う性格だからかもしれない。

 

「実際にどれくらい強いんだ?」

「前に大男を拳一発で沈めたのと、複数の男たちを簡単に倒してた」

「おお、マジか。つーか、どんな場面だよ」

 

どんな場面かと言われて思い出す。それは下着泥棒を捕まえる時と暴力団事務所で暴れた時だろう。

 

「下着泥棒を捕まえる時かな」

「下着泥棒は女の敵ね」

「確かに。そんなのは悪だ!!」

 

一子にクリスが息が合うように下着泥棒は許さないと言う。真面目で頑張り屋からしてみれば下着泥棒などの犯罪は許さないのは当たり前だろう。さらに彼女たちのような正義感の強い者たちにとってもだろう。

 

「確かに敵だよね」

「一応言うけど京もある意味人のこと言えないからな」

「大和ってばキツイよ。でもソコがまた良い。付き合って」

「お友達で」

「この一連の流れは最近何度も見てるな」

 

大和と京のこの流れはいつもの流れ。最初はよく堂々と告白できるものだと思うが最近は気にしなくなってきた。

だがその告白は本気の本気の告白ではない。もし本気なら気持ち的に違うはずだ。

本気の告白とは全てを吐き出すくらいの気持ちがなければ告白ではないと真九郎は思っている。本気の告白とは紫が純粋に真っすぐに、心の底から言うくらいじゃないといけない気がする。

最もその考えは真九郎の考えだが、純粋すぎるのも返答が困るけれども。

 

「武藤さんの武術は空手ですね」

「そうだよ。これでも空手道場の師範代で私の可愛いアイドルたちに教えてるんだー」

「おお、師範代!!」

 

目をキラキラさせる一子。彼女の目標が川神院の師範代なのだから他流派とはいえ、自分の目標に達した人は無条件に尊敬してしまう。

 

「どうやって師範代になったんですか!!」

「頑張ったから」

「やっぱり努力なんですね!!」

(ダメ人間が努力を口にするのか…)

 

環の「頑張る」や「努力」と言う言葉はどうも真九郎たちが聞くと違和感しかない。

 

「何よその顔は真九郎くん?」

「何でもありません」

「鏡で自分の顔を見ろと言うことだ」

「えー闇絵さんったら鏡見たら美人が映るだけだよ。ねー百代ちゃん」

「ええ。映るのは美人ですね」

「だよねー!!」

 

確かに美人だと頷く岳人だが環の性格的にに美人をぶちこわしているのをまだ分からない。

 

「武藤さんの空手はどんな流派なんですか?」

「流派?普通の空手だよ。全然普通のね。特別って言ったらやっぱここにいる崩月の崩月流かな」

「へえ。やっぱ崩月流は特別なんだ。どんなんか知りたいな」

 

この情報は大和も知りたい。これにより崩月というのがどんな存在か少しでも分かるかもしれない。『裏十三家』も分かるかもしれない。

 

「駄目ですよ。教えません」

「えー…ってそうだよな。ウチだって門外不出だし」

「川神さんが入門すれば分かるわよ」

「お母さん冗談はそこまで」

「はいはい」

「夕乃ちゃん家に住み込みかあ…何とも魅惑的な誘いだ。んーでも私は川神院があるしなー。悩むぞう」

「そこは悩んだらダメだろモモ先輩」

 

これでも川神院の次期総代である百代が他の流派に誘惑されてどうするのだろうか。

 

「でも崩月流は特に秘密にしてるわけじゃないけどね」

「え、そうなんですか?」

「崩月流はただの喧嘩殺法よ。お父さんもそう言ってるしね」

「喧嘩殺法?」

 

崩月家現当主の崩月法泉が自分の流派を喧嘩殺法と言うくらいなのだから喧嘩なのだろう。それに崩月流は門外不出というわけでは無い。

現当主の法泉が許可すれば誰だって入門できる。何故教えられない、教えなかったというのはやはり崩月流は真っ当な武術ではないからだろう。

川神流も規格外だが崩月流は裏に通じるものだ。子供時代の真九郎のように『生きる為に』門を叩いたのと普通に習いたいとでは訳が違うのだ。

 

「喧嘩殺法って?」

「そのままの通りよ」

(…変にに聞くと怪しまれそうだな)

 

づいづいと崩月に関して聞くと探りを入れてるように思われるからダメだ。大和は慎重に言葉を選ぶ。

差し支えの無い質問や会話で崩月の情報のことを見つけていく。でも確信ともいえるような情報は無い。どれもまるで一般家庭にあるようなものばかりだ。

それはそうだろう。何せ『裏十三家』の一角とはいえ既に廃業しているのだから崩月家としてのマトモな答えが出てくるわけはない。

崩月の闇は法泉の時代で終わっている。あるのは闇の残りカスだけだろう。裏から足を洗っても完全には拭いきれないものだ。それが『裏十三家』ならば尚更である。

 

(裏十三家って何ですかって聞ければ良いんだけど…そんな直球はムリだよな)

 

流石に崩月の家族が揃って個人情報を堂々と洋食店で聞くなんて馬鹿なことはできない。

それに聞きたいのはたくさんあるのだ。大和は考えた結果、今度にでも真九郎と一対一で会話をしようと決めた。

向こうは応じてくれるか分からないが、彼が裏世界で有名なら警戒して聞き出すなんてことは最もな理由になるかもしれない。

 

(今回は少しでも崩月のことが分かれば良いってことにしようか)

 

彼はここで次への扉。裏への扉の入口に近づく。

 

(あの少年…余計な考えをしていそうだな)

 

楽しそうに会話や食事をするこの瞬間。大和だけが別に考えていた。そして彼の些細な雰囲気を気付いた闇絵はコーヒーを静かに口にするのであった。

 

「少年よ」

「何ですか闇絵さん?」

「1つアドバイス。いや、小さな注意をしよう」

「い、いきなりなんですか…」

「前途ある若者が余計な道を通ろうとしているぞ」

「え、それって…?」

「おお。チーズハンバーグとやらが来たぞ!!」

 

謎の注意を受けて楽しい食事が始まる

 

「それにしても川神にも可愛い子が多いねー!!」

「うわわわ!?」

「ちょっ!?」

「だろー武藤さん!!」

「止めんか酔っ払い!!」

 

 

091

 

 

レトロな雰囲気の喫茶店。

コーヒーに角砂糖を二個入れてかき混ぜる切彦。その目の前に黒いコートを着た男にも女にも見える女性のルーシー・メイが優雅にコーヒーを飲む。

 

「いやー切彦くん。またまた仕事が入りましたよ」

「どんな仕事ですか?」

「脱走者の確保、もしくは始末です」

「そうですか」

 

脱走者の確保は分かる。しかし始末も含まれるとはなかなか物騒なものだ。だが裏の仕事なんて『物騒』なんて言葉は可愛いものである。

裏の仕事はいつもが命のやりとりである。そこに感情なんてあったら命がいくつあっても足りない。裏の仕事は機械のようにこなすべきだ。

 

「どんな奴だよ」

 

バターナイフを持って急に切彦の雰囲気が変わる。そしてぺたぺたとホットケーキにバターを塗っていた。

 

「これが資料です」

 

パサリと渡されて中身の確認する。

 

「相手は同じく裏世界の人間で白昼堂々とあの『殺人未遂』を起こした人物です」

「ああ、アイツか。だがアイツは紅の兄さんに鼓膜と股間を潰された後に現行犯逮捕…それで脱走か」

「こんな人を野放しにできないから悪宇商会に依頼が来たんですよ。もっとも我が社の他にも依頼はいってるかもですね」

「例えば揉め事処理屋とか?」

「かもねですね…例えば紅さんとか」

 

この脱走者は大物の令嬢を狙った犯罪者だ。その犯罪者を潰したのが件の真九郎である。もしかしたらこの犯罪者は真九郎の元にあらわれるかもしれない。

なぜなら恨みをもって現れるかもしれないからだ。ならば向かう先はあの川神市になりそうだ。

 

「ならさっさと向かうか」

 

コーヒーを飲んで、バターナイフをポッケに入れて店を出る。

 

「幸運を祈りますよ。…と言っても切彦さんは死神でしたね」

 

ルーシー・メイは白紙のメモ帳を開いてこれからの予定を確認する。悪宇商会は裏世界でも5本の指に数えられるくらいに大きな企業だ。

忙しいくらい依頼が入っている。これからルーシー・メイは次の依頼人の元に向かわなければならない。企業が繁盛しているのは良いかもしれないが忙しすぎて休みがとれないのは困ったものである。

次の依頼人は相当の金持ちで曰く、名のある名家である。護衛と言う名の警備を担当してほしいとのこと。

こんな名家が悪宇商会に依頼するなんてと一瞬思ったが『表御三家』の九鳳院も依頼があったなと思い出す。最も九鳳院ではあるが、その九鳳院の次男個人が依頼したわけだが。

 

「たぶんこの名家も個人的の誰かでしょうねえ。なんせこの名家の仕事がら我々悪宇商会を使うとは考えにくいですし」

 

パラパラと白紙のメモ帳を開いて次の予定も確認する。

 

「そういえば川神で『川神裏オークション』をやる情報がありましたね。これは依頼が入って来そうですね」

 

次の大仕事をどう捌くかを考えるルーシー・メイであった。




読んでくれてありがとうございました。
今回の日常回に少しづつ次なる事件やフラグを混ぜ込んだ形になりました。

極悪人が動き、悪宇商会もとい切彦が動きます!! そして大和は裏十三家を追い始める。
マジ恋と紅が少しずつ混ざっていきます!!



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二大エロオヤジの決闘

こんにちわ。タイトルで分かるように2人の決闘です。
といっても内容は様々な視点で書かれているので本気のバトルシーンではない感じとなっていますね。

どんな内容でも生暖かい目で読んでってください!!


092

 

 

洋食レストランで食事を終えてから真九郎たちはその後みんなで川神を観光した後、別行動で観光をすることになった。

まず最初の視点は環たちにあたる。メンバーは環に百代、一子、闇絵、真九郎、紫、リン、銀子、大和、由紀江である。

真九郎がこっち側にいるのはまず環が何かしでかさないように見張るためである。本当なら崩月家の方が良いのだが百代と仲良くなったので更に何かが起こるか分からないので警戒しているのだ。

大和も同じように感じ取った為、こちら側にいるのだ。この時だけお互いにアイコンタクトで「大変だ」、「お互いにね」と目で会話した。

お互いに年上の女性に縁がある、からかわれるという点では同じなので苦労はすぐに分かる。理解ではなく共感できたのだ。

 

「これからどこに行きたいですか?」

「んーどうしようかな…やっぱ百代ちゃんの住んでる川神院にしよう!!」

 

彼女も武人だから武神と呼ばれる百代の川神院を見てみたいのだ。それに武術家の総本山ならば武人なら見てみたいと思うのは当然である。

勝手な想像で武術の総本山だから多くの武人が修業をしてるんだろうと思っている。例えばテレビとかで見る中国拳法を大勢で修業しているイメージだ。

そのイメージはあながち間違っていない。川神院には多くの修行者がいて、毎日キツイ修業でしごかれているのだ。その修業を乗り越えてこそ強者へとなれるのだろう。その中にいる一子は目標の師範代になるために毎日努力しているのだ。

 

「一子ちゃんが毎日頑張っているところか。他にも可愛い子がいる?」

「武藤さん…残念ながら川神院にはムサイ野郎しかいないんだ」

「それは残念ね」

「でもみんな頼りがいのある奴らばっかりですがね」

 

川神院にいる門下生は全員が頼りがいある。その認識は百代も一子も嘘ではない。門下生たちは何か事件でもあればすぐにでも動いてくれる。

 

「もし良かったら手合わせもしてみますか。その後にでも私と!!」

「それもいいかもね。ま、今は川神院の見学かな。川神院も観光名所になってるんでしょ?」

「はい。そうなんですよ。お姉さまや総代に会いに来る人や挑戦者もたくさん来るんですよ!!」

「挑戦者は基本は姉さんだけだけどな」

 

川神院は観光者も多く来るし、挑戦者もたくさん来る。あの川神で観光名所になるくらいだから流石人気スポットの1つだ。

 

「私も最初来たときは凄いと思いました。たくさんの門下生がたが熱心に修業してました」

『あの修業はパネエよな。まあウチらの修業だって負けてないけどな』

「いやいや松風。川神院の修業は私の家よりも密度がありますよ」

「いやぁ、それにしても由紀江ちゃんは良いお尻してるよね」

「ふぇえ!?」

「うんうん。まゆっちは良いお尻をしている。どうだい今晩私と…」

「そこまでだ姉さん」

「環さんまだ酒が抜けてないんですか?」

 

二人のエロオヤジが何か仕出かす前に大和と真九郎は止める。

真九郎と大和が共感できるならば環と百代はまさに性格面での考えがガッチする。そのガッチはできればしないでほしかったが仕方ない。

そこは保護者が注意するしかないのだ。何故なら問題児が改心しないから保護者が後始末をするしかないのである。

 

「ほら環さん。行きますよ!!」

「姉さんも!!」

「「えー」」

「まったく…」

「じゃあ銀子ちゃん!!」

「ええ!?」

「クールな銀子ちゃんがアタフタする。良い」

「「止めんか」」

 

そうこうしているうちに川神院に到着する。

 

「今戻ったぞじじい」

「ただいまじいちゃん!!」

「おかえりじゃぞい。お客さんかのう?」

「ああ上客だじじい。もてなせ」

「なぜモモが威張っておる」

「オヤ、お客さんだネ。案内するヨ!!」

 

鉄心とルーが案内してくれるなんて豪華だ。何せ現川神院の総代と右腕とも言える師範代が案内してくれるのだから。

川神院の景観や造りも文化遺産のようで素晴らしいし、それに観光客用に門下生たちも舞武を見せてくれる。流石は川神の観光スポットの1つだろう。

 

「おお凄い凄い」

「ふむ。暑苦しいが全員が生き生きしているな」

「凄いな銀子。これが武術家の修業なんだな」

「何で新鮮な感じになってるのよ。修業なら崩月でもしたでしょ」

「いや、だって崩月と比べたら全然違うから」

 

修業が違うのは流派によって当たり前だ。だが彼にとって自分の修業と違うのは何故か新鮮になった。

 

「崩月の修業ってやっぱキツイの?」

「まあね」

「でも川神院の方がキツイと思うわ。何せとんでもない修業量だからね」

 

確かに川神院の修業はきつく、大変だろうが崩月流と比べてはならない。何度も言うが川神流は武術で崩月流は肉体改造の目的で行われている。

力を求めるベクトルが違うのだ。だが一子はそんなことは知らない。崩月流の修業を体験したらまず恐怖するかもしれない。

 

「崩月流の修業ってどんなことするの。教えられる範囲でいいわ」

「そうだな…とりあえずキツイ修業だったよ。骨が折れるなんて当たり前だったし」

「え、そんなにですか!?」

『パネエ』

「ふ、ふん。川神流の修業だって骨折くらい」

「一子…修業でケガするのを張り合ってどうするネ」

「ケガを張り合うなんて無意味なことだ。ケガについて語るのは医者くらいで十分だ」

「闇絵サンの言う通りだネ」

「はーい。ってあれ、お姉さまは?」

「環さんもいないわね」

「総代もだネ」

 

いつの間にか鉄心に百代、環がいなくなっていた。何処に行ったかとルーは気配を探ろうとした時に修業場の方から声が聞こえてきたのだ。

何かと思って歩いていくと、環が川神院の門下生たちを倒していた光景が目に入る。まさかと思って聞いてみると川神院の者たちと手合わせをしていたという予想通りの答えであった。

 

「何してるんですか環さん」

「いやー百代ちゃんが川神院の者と手合わせしてみないかって言われちゃったからさ」

「その結果がこの山積みですか」

「うん。けっこう強かったよ」

 

何十人も門下生と試合したというのに彼女は全くもって息が上がっていない。まだまだ試合ができると言わんばかりである。

この結果を見て百代はワクワク顔を隠しきれないのは自分も早く戦いたいと思っているからである。

そして鉄心は環の実力を感心させられた。世の中にはまだまだ強者はいると理解していたが、こうも自慢の門下生をことごとく倒した彼女は素直に凄いと思っているのだ。

相手はある空手道場の師範代と聞いていたが実力はその枠組みに当てはまらない。もっと彼女にあった呼び名があっても良いだろう。

 

(むう…彼女は間違いなく壁越えクラスじゃな。モモが喜々として話してくるわけじゃ)

「やっぱ可愛い子はいないのね」

「そうなんだよムサイ奴ばっかりで…愛でることもできないんだよなー」

「仕方ないね」

(それに性格もじゃな)

 

まるで姉妹のように仲が良く見える。悪いことではないのだが何故か少し不安を感じるのは気のせいだと思いたい。

そう思うのは間違いでは無いと思う。百代がまだ幼かったら確実に悪い影響を与えるからだ。現在進行形で紫にどうでもよい知識を与えているのだから。

真九郎もリンもこればかりは止めて欲しいが言うことを聞かないので最近は諦めようと思い始めたが、その考えも止めた。紫に悪影響を与えるわけにはいかない。

 

「環はやっぱり強いな!!」

「まあね紫ちゃんも私の道場に入門すれば強くなれるよ」

「ふむ。入ろうかな」

「駄目です紫様」

「ダメなのか?」

「駄目です。こやつの道場なんていけません」

「えー、ちゃんと教えるよ」

 

環は師範代としてちゃんと可愛い教え子たちに教えている。師匠として申し分ないはずだ。

 

「いろいろな体位とかね」

「それが駄目な原因だ!!」

 

エロオヤジ成分さえなければ本当に申し分ない。寧ろ良い方だろう。

ギャアギャアと環とリンが言い合いをしているのも日常の1つである。

 

(あの九鳳院の近衛隊の女性も相当の凄腕じゃのう。モモが襲い掛からないか心配じゃわい)

 

その心配は分からなくも無いが今の百代は多少なりとも大人しい。何せ環が百代との決闘を応じて約束したのだから。

環の実力なら百代の戦闘欲を満たしてくれるかもしれない。彼女は何だかんだで単なる空手家じゃない恐るべき強さを持っているのだから。

 

(それにしても百代ちゃんてば私やリンちゃんに闘気がむき出しだね)

 

環もリンも百代から発せられる『闘いという意志』に気付いている。彼女はその気持ちを隠そうとしないので簡単に気付かれるのだ。

 

(闘う約束はしたけど百代ちゃんは本当に規格外っぽいからね)

 

どんな傷もたちまち修復し、気でビーム砲が放てるなんて漫画やアニメの世界から飛び出してきたような人物である。

そんな規格外と戦って勝利が見えるのかと言われれば、多くの人は見れない。見れるのは本当に一握りの者だけ。覚悟を持つ者や同じく規格外の人物だろう。

 

(百代ちゃんだって私と同じ人間。急所はあるし、永遠に戦えるというわけじゃないんだよね)

 

武神と言われても彼女は人間だ。本当に無敵の神様ではない。闘えば痛みを受けるし、最悪死ぬ。いや、人間なら死ぬのは当たり前である。

 

(決闘で勝つ方法は強引にいくしかないかな)

 

環は百代に勝つイメージを頭に思い浮かべる。それはとても簡単でシンプルなものである。

 

「武藤さん。丁度場所もありますし、試合しませんか!!」

「こりゃモモ」

「ちゃんと事前に約束はしてあるぞじじい」

「いいよ。川神院で武神の百代ちゃんと試合なんて最高に残る思い出だしね!!」

「流石話が分かりますね武藤さん!!」

「武藤サンが良いなら大丈夫ですかネ総代」

「そうじゃのう」

 

ニンマリする百代。やっと、本当に満足のできる戦い出来そうだと思っている。

 

「喧嘩するのか環?」

「違うよ紫ちゃん。試合だよ試合。スポーツ」

「そうなのか。頑張れ!!」

 

 

093

 

 

環VS百代。

約束していた決闘が早速できると百代はハイテンションだ。ハイテンションすぎて闘気を滲み出して川神市内にいる強者たちに何事かと気付かれている程だ。

だが百代の気持ちも察してもらいたいものだ。いつでも強者と戦いたい系の女の子としては最近ずっとお預けされてたので我慢できない。それに彼女はある意味孤独なのだ。

周囲に自分と競い合える者がいなかったのも原因だろう。だから自分で強者だと認めた者と戦えるのが嬉しいのだ。

 

「お願いします武藤さん!!」

「よろしくね百代ちゃん」

 

二人が対面し、百代はニンマリと喜々とした顔で環を見る。逆に環はニコニコしながら百代を見る。

お互いに気持ちは武道大会の試合をしているかのようで新鮮さはある。今回の決闘はどちらも信念とか覚悟とかいうものはない。ただ単純に戦いを楽しみたいだけである。

環はもう百代の性質を理解していた。彼女はただ戦いを純粋に楽しみたい。その欲求を人生の先輩として晴らしてあげようじゃないかと環は拳をつくる。

ルーが二人の間に入って審判を行う。

 

「二人とも準備はいいかイ?」

「いつでも!!」

「私も準備オッケー」

 

百代は拳を作り構え、同じく環も構える。

 

「では両者見合って…ハジメ!!」

 

リーの開始の合図を言った瞬間に百代が仕掛ける。普通の武術家では反応しきれない速度である。

 

「川神流無双正拳突きぃ!!」

「よっと!!」

 

必殺の突きを環は受け止める。

 

「おお。本当にモモ先輩の拳を受け止めたね」

「でしょでしょ京。お姉さまの拳を受け止めるなんて凄いわよね」

 

拳の突き合いが始まる。二人とも引かずに拳を連続で打つ。一子はつい心の中でマシンガンの撃ち合いみたいと思ってしまう。

 

「おらおらおらおらおら!!」

「やっぱ凄い勢いだね!?」

 

圧されながらも冷静に対処していき、百代は満面の笑みで拳を振るう。

試合が始まってから1分が経過した。武神の百代と戦って1分も持つのは凄いことらしい。ルーや一子たちは驚いた顔をしている。

例えるなら小さい子供が大きな大人と喧嘩をして持たせている状況だ。最も二人とも例えるな規格外すぎる。

 

(モモとまともに渡り合うとはのう。何者じゃか…いや、世の中にはまだまだ知らぬ強者がおる。それが彼女だったということじゃろう。試合の結果によってモモが少しでも変われば良いんじゃがのう)

 

「だだだだだだだだだだだ!!」

「あらよっとお!!」

 

拳が脚があらゆる方向から攻撃しては捌いていく。百代は相手が強ければ強いほど戦闘を長くしようとする癖がある。だから最初は試すような真似をしながら戦う。そして良いと思ってきてから技ををどんどん出してくる。

手に気を溜めて一気に放つ『致死蛍』を発動。環に向かって蛍のような気の弾幕が襲い掛かる。

 

「うわわっ!?これが『気』ってやつ!?」

 

気なんてゲームや漫画だけのものかとずっと思っていたが現実に見てしまえば信じるしかない。正直なところ一瞬だけワクワクしてしまったのは責めるべきではないだろう。

被弾するが一発一発の威力は小さい。しかし全て食らっていては負担が大きい。環はできるかぎりくらはないように弾幕を両手で捌いていく。

 

「武藤さん流石ですね。ならこれはどうだ。川神流地球割り!!」

 

地面に拳を突きつけることによって 地面を割るように直線上に衝撃波を走らせた。

 

「凄い力技だ」

「崩月のもある意味力技だと思うわよ」

「まあ、確かにね。それにしても『気』って本当にあったんだな銀子」

「川神の人間は『気』を操るのに特化した人間なのかもね。『裏十三家』や『西四門家』の人間が特別な力持つ人間のように」

「かもな」

 

世の中にはまるでゲームや漫画の世界のように特別な力を持った人間がいる。その1つとして裏十三家があげられる。

崩月なら角による圧倒的な怪力、斬島なら異様に上手いというくらいの斬る力だろう。そして今まさに見ている川神家は気を操る力なのかもしれない。

 

「川神も特別な存在ってことね」

「揉め事処理屋としてパイプを作っても悪くないかな?」

「悪くはないと思うけど、その代償として川神先輩と決闘する羽目になるわよ。勝てる?」

「うっ…それは。どうだろう」

 

もし百代と決闘する羽目になったとして勝てるかどうか。正直に思うと勝てる確率は非常に低いだろう。それは真九郎自身が完全に思っていることだ。

一度頭の中でイメージしてみたが勝てるイメージが中々浮かばない。やはり『武神』と言われる呼び名は伊達では無い。

 

「大丈夫だぞ真九郎」

「え、紫?」

「真九郎は強い。だから負けないぞ」

「…そうだな」

 

紫からそう言われてしまえば負けるわけにはいかないだろう。

もしもの話。本当に百代と決闘することになり、紫がいたら負けるわけにはいかなくなった。

 

「もし戦う羽目になったらか…」

 

真九郎はもしもの話だが決闘する羽目になった場合をもう一度考えながら環と百代の決闘を見るのであった。

 

「それにしても武神はとても嬉しそうに闘うのだな」

「分かりますかのう?」

「ああ、分かるとも。あれは武神の悪い癖かな?」

「むむ、そこを指摘されると言い返せないのう」

 

いつの間にか鉄心と闇絵が百代の悪い癖について話していた。孫の痛い所を突かれると祖父として言い返せないものだ。

鉄心としては真面目に修業してほしいものだが今の彼女では難しいだろう。だからこそこの決闘で少し変化の兆しがあれば嬉しいのだ。

 

「やるねえ百代ちゃん!!それにしても良い身体してるう!!」

「武藤さんこそ。それにまだ成長期ですよ!!」

「マジで!?よよよ…スタイルでは完全に負けちゃってるよ」

「いやいや武藤さんも良いスタイルしてますよ。今夜一緒にお風呂入りませんか?」

「お、良いね。それなら銀子ちゃんや由紀江ちゃんたちも一緒に誘おっか。銀子ちゃんがどれくらい成長したか気になるし、由紀江ちゃんのお尻も気になるんだよね」

「イイネ!!」

 

決闘している最中に何故か不穏な会話が聞こえてきた。隣に座っている銀子は顔を青くし、由紀江はあわわっと顔を赤くしていた。

喜々として決闘しながら、喜々として会話をしている姿を見ると本当に相性が良いのだろう。リーは微妙な顔をしながら真剣に決闘を見て、鉄心は彼女たちの会話を聞いて良い笑顔で妄想していた。

この祖父にして孫なのかもしれない。鉄心は小さく「ご一緒したい」なんて言うがこれでも学園長だろうか疑問である。

もしも言及したら「どんなに年を取っても男はいつまでもの助平なのじゃあ!!」なんて答えるだろう。なんという開き直りだ。

 

「九鳳院の近衛隊の人も良いですね!!」

「リンさんだね。スタイル良いよね。スラリとしてくびれもあるし」

「何故か悪寒が…」

「大丈夫かリン?」

「はい大丈夫です紫様」

「闇絵さんという方も良いですよね。あのミステリアス感がイイ!!」

「あー…闇絵さんは難しいよ」

「そうのか?」

 

チラリと決闘中に闇絵を見ると、気が付いたのか返事をしてくれた。

 

「私と入浴するなら入浴料がいるぞ。私の肌は安くない」

「何、いくらですか!? 大和、金貸して!!」

「嫌です姉さん。それに借金を返してから言って」

「さあ武藤さん。まだまだいきますよ。せいっ!!!!」

「振っておいて無視か姉さん」

 

自分が不利になる金銭面の話になると百代はすぐにとぼける。これでも借りた金はちゃんと返すが期日は守ってくれないのだ。

「全く…」と思いながら大和は呆れるしかなかった。だがそれよりも気になることがあるので借金の話は頭の片隅に追いやる。

 

(さっき紅くんと村上さんは特別な能力について言っていた。それは一体?)

 

特別な能力と聞いて真九郎の角のことを思い出す。確かにアレは特別なものだろう。しかしアレは崩月のもので紅の名を持つ真九郎は何故あるのかが分からない。

 

(…移植?)

 

大和の考えは正解だ。真九郎の角は法泉から譲り受けたものである。

 

(裏十三家ってのはもしかして一家ごとに特別な力を持つ家系なのか…)

 

川神家は規格外だと理解しているが気を当たり前のように使っているため、疑問にしてなかった。それをよくよく考えてみると『気を操る』に特化した家系と当てはめると納得する。

他の武術家も気を操る者はいるが川神家ほどでは無い。だから真九郎たちは「特化」なんて言葉を使ったのだろう。確かに納得してしまう。

 

(姉さんだけでも規格外なのにあと十三家も特別な力を持つ家系が世の中にいるんだな。確かにそれなら父さんが言う用に特別だ)

 

また大和は知らない世界を知っていく。

 

(あと…『西四門家』って何だ?)

 

単語からして四つの家系だ。そして『西』と聞いたら西日本方面を思い浮かべる。西四門家も裏十三家のように特別な家系なのだろう。

関連性があるかは今の大和には分からないが、西のことは西に聞くのが一番。天神館での知り合いに聞いてみるのが一番かもしれない。

 

(紅くんたちと関わってから何かが変わるような気がする)

 

確かに変化しているだろう。しかしその変化が彼に良い変化か悪い変化かはまだ分からない。

 




読んでくれてありがとうございました。
今回の内容はいくつかな視点で考えごとをする感じの物語にしたつもりです。
環と百代、鉄心、真九郎と銀子、大和たちが考えちょっとしたフラグを立てたつもりです。
フラグになったかどうかは不明ですがね

ではまた次回!!
次回はこのまま決闘に続くか、別れた夕乃チームにしようか考え中です。


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欲求

こんにちは。
今回で環と百代の決闘は終了です。結果はまあ、賛否両論あるかもしれませんが自分としては落ち着いた感じになったと思います。



094

 

 

拳が飛び交い、蹴りも交差する。環と百代の決闘が開始されてから今5分が経過した。

武神である百代と決闘して5分も経過したなんてもう凄すぎると言うのが大和たちの感想である。先ほどから環と百代が決闘を始めてから「凄い」しか感想しかない。

だが人間は本当に驚きしかない場合は「凄い」としか言いようがないのだ。それほどまで大和たちは環を評価している。

最近で言えば百代にもし対抗するならばと考えた場合、九鬼家の中で従者部隊の一桁台の者や燕があげられる。その中に環はまさにランクインしている。

ここに燕がいればすぐにでも観察するだろう。そしてこんな好カードの試合があったと聞けば燕は見逃したと絶対後悔しただろう。

 

「はははははははははは!!」

「良い笑い声だな」

「ですね闇絵さん」

「戦いを楽しむ…か」

 

真九郎からしてみれば戦いなんて楽しむ余裕はないし、楽しむ気持ちも分からない。特に分からず、悪態を最もつきたかった時はキリングフロアでのことだろう。今も思い出しても良いものではない。

決闘はスポーツという感覚にもなれない。ここ川神でが武術をどこかスポーツという感覚がるような気がする。それは川神学園の影響もあるかもしれない。やはり学生ではどうしても命のはかりごとはできない。

そう考えると真九郎の考えもまたおかしいのかもしれない。彼は戦いとなると命を賭けることを考える。それは彼の人生の影響だ。

こればかりはどちらかが違うというわけではなく、どちらも正解なのかもしれない。

武術は扱う人間によってその意味合いが変わるものだ。相手を潰すだけ使う。人を守るために使う。自分の身を守るために使う。少し考えるだけでいくつも上がる。

だから今の百代は武術を楽しむために使う。真九郎はというと生きるために使う。やはり人が違うと武術という名の力の使いようはこうも違うものだ。

 

「紅くんは戦いを楽しむとは思えないかね?」

「学園長…そうですね。すいません。どうも職業柄、戦いは楽しむとは思えません」

「謝らんでよろしい。戦いとは元来楽しむものではない。楽しむと思うようになったのは時代によって変化したせいじゃ。今やテレビでも格闘技は娯楽で放映されておるからな」

 

どこか真九郎の気持ちを感じ取ったのか鉄心は口を開く。鉄心は彼についての評価は中々高い。

学園での評価を聞くところ彼の行いは良いが学力に関してはもう少し。精神、心の強さに関してはどこか波がある。でも彼は『戦い』に関して人並、それ以上に本当の意味を理解しているのだ。それは今時の若い子に関しては異常なくらい。

その理解に関しては百代にも見習ってもらいたいと思っているのだ。自分の孫はどうしても戦いを楽しむ癖がある。武術をスポーツとして楽しむことに関しては構わない。

だが『死闘』と『試合』の意味合いを一緒にしないでほしいのだ。孫である百代は2つの戦いを一緒にしているのだ。それは彼女の退屈と戦闘欲求が支配しているからだろう。

 

(彼らはある意味異質な者たちじゃ。だが彼らがモモに良い意味で影響を与えてくれるといいのじゃが…)

 

良い影響を与えるか悪い影響を与えるかは彼女の影響の受け方次第だろう。

 

「おおー。もう何が何だか分からない」

「まだ拳の撃ち合いが続いております紫様」

 

紫は環と百代の決闘をしっかりと見ているが動きが早すぎて全然分からないのでリンの解説を聞きながら見ている。でもやはり紫は幼女なので戦いに関して分からない。

だから聞いても見ても「凄い」としか思えない。だが彼女は直感で相手の気持ちを感じられる。だから2人が、特に百代が楽しんでいるのが分かる。

 

「とっても楽しそうだな」

「そうだな。だがそろそろ決着かつきそうだ」

「そうなのか。どっちもまだまだ戦えそうだが?」

「時間だ」

「ああ、そういうことか」

 

今回の環と百代の決闘にはちゃんとルールが設けられている。川神院で師範代のルーが審判をしているのだからちゃんとしたルールはあるに決まっている。

非公式とはいえ、百代が暴走しないようにルールは付けられる。ルール無用なのは殺し合いだけだ。

今回のルールは簡単だ。

制限時間は多めに取って7分。武器等は有り。場所は川神院内。不殺であること(当たり前)。時間内に決着がつかない場合は審判による判断で勝敗が決まる。

 

「もうすぐ7分経過する。どっちにしろ終わりだ」

 

百代がとても楽しんでいる決闘ももうすぐ終わる。だからまだ倒せない環ともっと戦いを続けたいと思っている。だが戦いは始まれば終わりはある。

だからこそ彼女は最後の最後で拳に渾身の力を籠める。

 

「いくぞ武藤さん。川神流無双正拳突きぃ!!!!」

「じゃあ私も…正拳!!!!」

 

拳同士が交差する。

 

「ぐあっ…なんて突きだ!?」

「意識飛びそうなんだけ…でも、こっからは頭の固さが物を言わせるわよ!!」

「いいでしょう!!」

 

額と額がぶつかりあう頭突き。どっちも遠慮なく振り上げた結果、鈍い音が響く。この音を聞いただけで痛いと思ってしまう。

当の本人たちはそのまま一瞬だけ動かなかった。そしてルーがタイムアップ終了を宣言したのであった。

 

「引き分け!!」

「痛っつー…」

「一瞬…意識が飛びましたよ」

 

額を擦りながら2人は地面に座り込んでしまう。やはり石頭でもどっちも超石頭同士がぶつかり合えば相当効くらしい。

 

「ウーン…悩ム。これは難しいヨ」

 

ルーは今回の決闘の勝敗について審査しているが判定が難しいのか悩みに悩んでいる。総代である鉄心だって悩んでいる。

武神である百代と引き分けたならば寧ろ勝ちを譲りたいが、ただ相手が武神だからってことでは勝利を宣言するわけにはいかない。勝敗はどちらがより技や攻め、防ぎを上手く立ち回れたによって決まる。

環は上手く百代の攻撃を防ぎながら決闘していた。逆に百代は技を多彩に繰り出し攻めていた。どっちも判定評価としては充分だ。だからこそ決めにくいのだ。

 

「ウムム…これは本当に引き分けと言いたいガ、勝者は百代!!」

「あり、負けちゃったかー」

 

残念と言いたい感じで口にしたが表情は悔しい顔はしていない。寧ろ楽しかった感じの顔だ。それは百代も同じで、表情は晴れ晴れしていた。

やっとマトモな戦いができて戦闘欲求が解消できたのだ。今回戦った環は自分と張り合える武人でまだ力を出し切っていない。なら次はもっと楽しめるかもしれない。

そう思うと百代はワクワクが止まらないし、またすぐにで戦闘欲求が出てくるだろう。

 

「百代を勝ちにしたのはやはり有効打が武藤サンより百代の方が少し多かったカラ。そう判断したヨ」

「そっか。防御に徹しすぎたからな」

「だけどこれはワタシの判断結果ダ。他の者なら武藤サンを勝ちにしてもおかしくないくらいの評価だったヨ」

「うむ、その通りじゃ。ワシじゃったら武藤さんを勝ちにしてたのう」

「総代!!」

「何だよジジイ、そこは孫の私にしろよなー」

「馬鹿者。孫だからといって贔屓せんわい。モモだって決闘の判定は真剣にするじゃろうが」

「まあな。流石に私だって贔屓や妥協はしないさ。だからこそ武藤さんの強さは本物だ」

 

視線を環に移す。彼女はまだまだ本気を出していないことくらい戦った百代は理解している。だから今度は本気の本気で戦いと思っている。その目は尊敬や興味などを含めたものが含まれていた。これを見た鉄心はため息を吐きそうになってしまう。これは彼女があまり変化が無いことが分かってしまったからだ。

強者と出会ってしまい彼女はさらにもっと戦いをしたいと欲求が生まれてしまったのだ。彼女の中の退屈は無くなった。だが次はよりもっと戦いたい、死闘をしてみたい、命を燃やすような戦いをしてみたいという欲求が彼女の中で生まれてしまったのだ。

 

(モモのやつ…余計なこと思ってなきゃいいんじゃが。やはり根本的に変化あるにはモモに敗北を知らなきゃいけないかのう)

 

戦いに勝ち続ける百代。その影響で彼女の成長は停滞していると過言ではない。何も敗北しなければ成長しないというわけではない。彼女の心の変化があれば良い。

だが鉄心が今思うのはやはり敗北をしって欲しいのもある。そこから学ぶ物もあるからだ。

 

「お疲れ様です環さん」

「頑張ったな環!!」

「いやー負けちゃったよ。でも楽しかった!!」

「…何か食べたい物ありますか。作りますよ」

「ありがと真九郎くーん!!」

 

ガバッと抱き付いてくる環だが真九郎は引き剥がさない。良い勝負であったが負けたのだから少しは悔しいと思ってるかもしれない。

今回くらいは大目に見ようと思っているのだ。去年、環は夕乃と戦ったことがある。原因は真九郎のせいであるが、その時のことを聞いてみたら落ち込んでいた。

やはりどんな勝負でも負けると落ち込むものだ。だから優しく接しようと思った矢先。

 

「銀子ちゃーん、由紀江ちゃーん。慰めてー!! あ、柔らかいし良いお尻!!」

「キャアァァァ!?」

「あわわわわわ!?」

「だから止めんか!!」

 

前言撤回したくなったのは仕方ない。あと補足だが夕乃に負けて落ち込んだのではなく、スタイルに負けて落ち込んだかなんだか。

 

「さあて、次は九鳳院の近衛隊のリンさんと紅と戦いたいなーなんて」

「遠慮する。私の仕事は武神と戦うことではなく紫様を護衛することだ」

「あ、俺もです。戦う理由がありませんし」

「だよな」

「まだ戦う気かいモモ」

「でも武藤さんと戦えたから良いんだもん!!」

 

まだ戦いたいようだが今の気持ちはスッキリしているようなので簡単に食い下がってくれた。

 

「…武神に1つアドバイスをしよう。甘く危険な誘惑に耳を傾けないことだ」

「およ、ミステリアスな闇絵さんからアドバイスなんて…有り難く受け取っておこう!!」

「本当に受け取ったんかいモモめ」

 

急にポツリとアドバイスをした闇絵。どういう意図かと聞いてみると「少年にもあったことさ」と返されるだけであった。

彼女は多くは語らないが的確な事を言ってくれる。そのアドバイスが外れたことはない。

 

 

095

 

 

電車の中。

 

「お姉ちゃん。本当にお友達できたのかな?」

 

ガタンゴトンガタンゴトンっと揺れる電車の中で可憐な少女は自分の姉の心配をしていた。妹は姉のコミュニケーション能力が低すぎることは理解していた。

だから新生活が始まって川神に向かった時は大丈夫かといつも心配していたほどである。そんな時に手紙が届き、友達ができたと報告がきたのだ。これは本当かどうかと思い抜き打ちチェックをしようと決断。

必要な物を用意して川神に向かっているのだ。姉はとても優しく、家族に心配をかけないように嘘をついているかもしれない。それに『松風』の件もある。やはり妹として心配するのは当たり前であった。

駅の売店て買ったお菓子を齧りながら川神までゆっくりと待つ。そんな時に彼女の席に1人の少女が近づいて来た。

 

「席、失礼します」

「あ、はいどうぞ」

 

電車の同じ席に座って来たのは自分と同じくらいの歳で、金髪のサイドテールの少女。雰囲気はどこなダウナー系である。

普通なら挨拶するだけで終わりなのだが、何となく彼女からは興味が出てしまった。この直感は女の感なのか、父親と同じように武士の感なのかは分からない。ただの赤の他人のはずと思ってその興味を置いておく。

 

「…紅のお兄さん」

 

小さく誰かの名前を聞いたが、声が小さすぎたので誰のことか分からなかった。

 




読んでくれてありがといございました。

百代VS環の決闘はなんだかんだで百代の勝ちにしました。
環さんも規格外ですけど原作の紅だと謎めいた感じで詳しくは語られなかったんですよね。だから今回は負けたけどまだまだ余力はあるぞ的な感じで決着にしました。

本当に環さんて何者だろう・・・指2本で拳を止めるし、複数の敵を簡単に倒すし。
更に夕乃さんとも渡り合うみたいで、『黒騎士』に気付かれないように尾行もする。
環さん・・・本当に何者ですか。


そして由紀江の妹と切彦もそろそろ参戦しますよー。
今回の章は彼女のルートにオリジナルを加える物語になっていきます!!


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観光はここまで

096

 

 

もう1つの視点に移す。崩月家族が観光するチームだ。

夕乃、冥理、散鶴、クリス、岳人、卓也、翔一のチーム。夕乃と散鶴は真九郎に居て欲しいと思っていたが環の保護者になってしまったならば仕方ない。

しかし、環が暴走して厄介な事という名の酔っ払い事件を起こすわけにもいかない。最も彼女は事件を起こしたことはないが。

 

(もう、もう。環さんのおかげで真九郎さんと離れ離れになっちゃったじゃないですか。しかも村上さんと紫ちゃんが一緒だなんて!!)

「あらあら夕乃。真九郎くんが一緒じゃないからってガッカリしないの」

「お、お母さん!?」

 

母親の冥理に考えを読まれてドッキリしてしまう。流石は母親と言うべきか、娘の考えが手に取るように分かるらしい。

 

「寮に帰ったら真九郎くんと一緒にお風呂に入りなさい」

「ちょ、お母さん!!」

「あら入らないの? ならお母さんは一緒に入ろうかな。散鶴も一緒に入る?」

「うん。散鶴も入る!!」

「止めてくださいお母さん!!」

「良いじゃない。じゃあ今夜はどうする?私は真九郎くんの部屋で寝ようかしら?」

「だから、もう!!」

 

もう夕乃は冥理に翻弄されっぱなしである。

そんな中で彼女たちの会話を聞いて嫉妬全開の者がいた。筋骨隆々の男の岳人だ。何故嫉妬しているかというのは真九郎に対してである。

美人の夕乃たちの会話を聞くと、なんて青春で羨ましく、けしからんことだろうか。そのおかげで真九郎は岳人から理不尽な醜い嫉妬を送られているのだ。

 

「くっそぉ、何故だ。俺様の方がガタイが良いのに」

「ガタイの問題じゃないと思うよガクト」

「ガタイなら真九郎はけっこう鍛えてたぞ」

「そうなのキャップ?」

「おう、大和と源さんと真九郎で一緒に風呂入った時に見た」

 

今の発言は京に妄想の材料になりそうだなっと卓也は思ったがすぐさま彼方に置いて来た。

 

「華奢な身体なのに鍛えてた。つーか水上体育祭の時に見なかったのか?」

「今思えば、そうだったね」

「俺様は野郎の身体に興味はねえ!!」

「ガクトは本当にガクトだね」

「俺様は俺様だぜ?」

「そういうことじゃないよ」

 

岳人は岳人である。

 

「それにしても崩月先輩に好かれてる紅が羨ましすぎるぜ。しかもあんな美人な人妻も一緒だなんて!!」

「住み込みで修業してたって言ってたし、まるでギャルゲーみたいな設定だね!!」

「俺様も崩月先輩の家に住み込みで修業でもするか?」

「そんな不純な動機は止めようよ…」

 

ガッツはある岳人だが不純な動機で崩月家に住み込み修業をしたら耐えられるはずもない。そもそも川神ファミリー中で崩月流の修業に耐えられる覚悟を持つ者はいないだろう。

百代に関しては例外だが、それでも真面目に修業するとは思えない。川神院での修行だってサボっているのだから。

 

「なあ崩月先輩殿。聞きたいことがあるのだが良いだろうか?」

「何ですかクリスさん?」

「紅殿でだ。彼はどんな人柄なのかなって。学園や寮でも関わって知っているが昔の紅殿は知らないからな」

「そうですね。とっても優しい強い男性です」

「ああ、それは分かります」

「昔の真九郎くんだと…まず表情の無い子だったわね。いえ、心が欠けた少年だったわ」

 

心が欠けた少年。まるで信じられない言葉だ。クリスたちが知る真九郎は心が欠けていたなんて微塵も感じられない。

よくよく思ったとして何処か浮世離れしている雰囲気がある。それは揉め事処理屋をしているからかもしれない。だが真実は彼の生きざまだろう。

 

「心が欠けていたって何でまた?」

「詳しくは本人の為に言えないけど、真九郎くんはウチに来る時は家族がいなかったの」

「え、それって!?」

「事故で家族を失っていたのよ」

 

まさかの重い話が出てきてしまい、聞いていいのかと思ってしまうが冥理は普通に話す。重い話だけども彼女も真九郎のために話していいことと駄目な線引きはしている。

だから真九郎の心のキズを開かせないように話すのは彼女にとって、家族として当たり前であった。

 

「真九朗君が崩月の門を叩いたのは『強く』なるためじゃなくて『生きる』ためだったわ。小さい真九郎くんが表情のない顔で生きるためと答えた時は…大丈夫かしらと思ったわ」

 

小さな子供が武術を習うにあたって生きる為だけに習うなんて今の世では異常だ。だが小さい頃の真九郎を異常にしてしまったのは『あの事件』のせいである。

『あの事件』は彼にとって深い闇だから気軽に話せない。その事は伝えないで話していく冥理。

 

「真九郎くんは生きるために修業を頑張ったわ。そのおかげで確かに強くなったと思う。でも心の方はいつまでたっても欠けたままだったわ」

 

崩月家でも流石にいつまでも心の欠けた彼を無視なんてできなかった。特に冥理はそんな彼をいつも心配していたのだ。血は繋がらなくても彼女は彼のことを家族と認め、息子のように思っている。

だからこそ、心の欠けた真九郎をどうにかしたくて優しい声をかけ続けたのだ。

 

「心の傷は簡単には治らないわよね。でも私は…私たちはずっと優しく接したわ。そして散鶴が生まれた年にやっと真九郎くんに笑顔が戻ったわ」

 

その時ときたら散鶴が生まれた嬉しさも会い合わさってとても心が熱くなったほどである。やっと笑顔になったあの子。それは子供にとって笑顔はしないなんて幸せではない。

 

「今もどこか心に波があると思うけど昔に比べれば強くなったと思う」

 

今でも心配するのはやはり冥理が真九郎の母だから。親にとって子はいつまでたっても心配なのだ。だから夕乃も早く真九郎と結ばれてほしいとも思っている。

 

「クリスさんたちは真九郎くんたちのお友達かな?」

「おうそうだぜ!!」

 

翔一が即答してくれる。それを皮切りにクリスも笑顔で答え、岳人もニカッと笑顔で答える。信頼する人以外あまり良い顔をしない卓也も流石に空気を読む。

それに卓也は真九郎の馴れ馴れしさが無いので、それは人付き合いの苦手な彼にとっては嫌いではない。

 

「ありがとう。交換留学中は夕乃や真九郎たちをよろしくね。もちろん村上さんも」

「ああ、任せてください!!」

 

風間ファミリーは個性的な面々が多く、無茶ばかりするが悪い人間はいない。そんな善人ばかりのグループに出会えたことは真九郎たちにとって良いことだろう。

 

 

097

 

 

夕乃チームは川神市の様々なスポット観光しながら真九郎チームへと合流する。川神市は広いので全てのスポットは回り切れない。なのでピックアップしたスポットを回り切ったのだ。

観光が多い場所だと1日では回り切れなくて大変だ。でも環や冥理たちは連休を使って川神にきているのだからまた明日にでも観光の続きをすれば良い。

もう時間帯は夕方で島津寮に戻る。帰る道すがら真九郎は環に今日何が食べたいかを聞く。リクエストされたメニューはみんなで食べることができる焼肉であった。

こんなに大勢いるのなら焼肉は最適だろう。それに食材を用意し、焼くだけだから簡単である。

 

「なら肉や野菜とか買わないとな」

「焼肉かあ良いな」

「勝手に決めちゃったけど良いかな直江くん?」

「構わないよ。それに焼肉ならみんな賛成だ。な、みんな」

 

大和は翔一やクリスたちに確認を取ると笑顔でみんな賛成してくれた。食欲盛りの彼らにとって焼き肉は大好物だ。

特に肉が大好きな岳人は子供のように嬉しく思っている。翔一に関しては心が少年なので心から好物だと言い張って笑顔である。

 

「じゃあ俺らは寮に帰って準備をしよう」

「ならこっちは食材の買い出しをしてくるよ」

 

買い出し開始。

大和たちは島津寮に戻って焼肉の準備を。真九郎たちは食材を買いに。

大人数で食べ盛りが多いので食材はたくさん買わないとすぐに切れるだろう。

 

「お肉がいっぱいだな真九郎」

「野菜もちゃんと食べないとダメだからな紫」

「ピーマンも最近は食べられるように努力はしているのだ」

「じゃあピーマンも買おうか」

「うう…がんばる」

 

買い物かごには赤い塊だけじゃなくて瑞々しい緑もたくさんだ。これだけあれば十分だろう。

 

「ねーねー真九郎くん。このお酒買って!!」

「少年よ。このワインなんて悪魔の血のように紅い。飲みたいと思わないか?」

「はいはい2人とも買いませんよ」

「真九郎よこのお菓子は駄目かな?」

「ち、散鶴も」

「1個だけだからね」

「あ、ずるーい!!」

「環はさんはいい大人だから我慢してください。今度買ってあげますから」

「今がいいー」

「今度です」

「今日はモモちゃんに負けて落ち込んでるのに」

「だから焼肉にしたでしょ」

 

今晩の夕飯にはリクエストしたがお酒はリクエストしていないので却下である。大勢の前で環さんの酔っ払いが始まると収拾がつかなくなりそうだからだ。

酔っ払い状態の姿をこれ以上見せるわけにはいかないのだ。もう手遅れかもしれないが迷惑だけはかけられない。

 

「本当なら真九郎さんと2人っきりが良かったのに」

「あらあら夕乃ったら」

「お母さんが邪魔しなかったら良かったんです!!」

「せっかく遊びにきたのにそれはないわ夕乃。お母さん悲しい…じゃあ散鶴と一緒に今夜は真九郎くんに慰めてもらおうかしら?」

「それがいけない理由です!!」

「馬鹿」

「え、何で俺は馬鹿にされたの銀子?」

「不潔だ紅真九郎」

 

なぜか銀子とリンから冷たい目で見られる。真九郎の行動や言動からの賜物や彼に関係のある人物から言動によっていつも冷たい目で見られるのだ。

これは今までの真九郎が築き上げた結果によるものだ。女性に好意を寄せられるのは悪くはないが、女性からしてみれば好意を持つ男性があっちこっちにいろんな女性に連れまわされたら困るものだ。

夕乃に関しては真九郎に悪い虫がつかないようにいつも注意している。その度に真九郎に教え込み、身体にも物理的に教え込む時もあるものだ。

 

「あ、そうだ銀子ちょっといいか?」

「なに?」

「実は相談があるんだけどいいか?」

「揉め事処理屋の依頼かなにか?」

「うん、そうなんだ。実は偉人を調べて欲しい」

「葉桜清楚さんに関してね」

 

すぐさま理解してくれる。この川神で偉人について調べて欲しいなんて言われたら消去法ですぐに分かるものだが。

 

「葉桜先輩から依頼されたんだ。自分の正体が知りたいって」

「なるほどね。でもたしか25歳くらいになったら教えてもらえるんでしょ。待てば良いと思うわ」

「自分だけ正体が分からないから知りたいみたいなんだ」

 

気持ちは分からないでもない。自分のルーツは早く知れるのなら知りたいものだ。それに自分自身のことだというのに何故教えてくれないのか。

教えてくれないなんて何故だ。自分自身のことなのだから知る権利はある。

 

「分かったわ」

「ありがとう銀子。俺も少しずつ葉桜先輩に関連がありそうなものはいくつか探してる」

「じゃあその調べたものを教えて。そこから更に調べてみるから」

「分かった。寮に戻ったら渡すよ」

「それにしても葉桜先輩の正体か。案外意外な偉人かもね」

「誰だろうな?」

「さあね。でも名前だって案外、正体のカギかも」

「名前…『葉桜清楚』なんて偉人は聞いたこと無いけど」

「そうじゃないわよ。読み方よ」

 

源義経、武蔵坊弁慶、那須与一。彼女たちは偉人たちの名前をそのままもらっている。ならば葉桜清楚も偉人の名前のはずだ。

彼女だけ名前に意味が無いはずがないかもしれない。もしかしたら名前の読み方を変換してみると意外な偉人が出てくるかもしれないのだ。

 

「例えば『葉桜清楚』という字の読み方を変えるとか英名にしてみるとか、名前を並び替えるとかね」

「なるほど」

「調べとくわ」

「助かるよ」

 

島津寮に戻る。

 

「ただいま戻ったぞ!!」

「おうおかえり!!」

 

紫が元気に島津寮の扉を開くと元気に翔一が返事を返してくれた。

 

「もう準備はできてる。あとは肉を焼くだけだぜ!!」

「うん分かった。早速焼こうか」

「それと客が来てるぜ」

「お客?」

「ああ。切島とまゆっちの妹がきてるんだ」

「切彦ちゃんが…と黛さんの妹?」

「ああ来てくれ」

 

居間に戻ると斬島切彦がいた。そして黛由紀江の妹もいた。何故か百代が彼女たちの間に入って両手に花状態。

 

「こ、こんにちわ」

「紅のお兄さん」

「こんにちわ」

 




読んでくれてありがとうございました。
次回からやっと切彦と沙也加ちゃんが加わります!!
登場キャラが多すぎてパンクしそうだ・・・次回からは少しコンパクトにするか。


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黛の妹

098

 

 

「初めまして。黛由紀江の妹の黛沙也加です。よろしくお願いします」

「あ、丁寧にどうも。紅真九郎です」

 

彼女が、沙也加が何故この島津寮にいるかというと姉の由紀江が心配だから抜き打ちで訪問したとのことだ。

事の発端は由紀江から友達ができたという手紙だ。沙也加としてはこの手紙の内容が真実かどうか確認したかったのだ。何せ姉の由紀恵は松風というストラップと会話をしているちょっと他人から見たら危ない子に見えるからだ。

そんな姉から親しい友達ができたなんて家族を安心させるために書いた嘘かもしれないと逆に心配してしまう。だからこそ妹の沙也加が川神まできたのだ。

 

「まあまゆっちのことを知ってる身内なら確認したくはなるよね」

 

島津寮に滞在してから由紀江の言動に関してはもう慣れている。言動というか松風との会話だ。最初は少し引いたが慣れれば平気だ。むしろ真面目な後輩だと評価は高い。

彼女について内容を聞くと連休中は島津寮に泊まっていくそうだ。せっかくの姉妹再開だから良い思い出が残せると良い。

 

「で、まさか切彦ちゃんは何でまたここに?」

「たまたまです」

「そ、そうなんだ」

 

切彦が真九郎の前に現れるのはいつも突然だ。何故かいつも弱っていたが今回はそうでもないらしい。

それにたまたまと言っているが仕事の最中の可能性だってある。だがこちらから踏み込まなければ何か起こるはずはないだろう。

切彦はどんな殺しの仕事も請け負うが基本的に無関係な人は巻き込まない。それに怒りを買わなければ全くもって無害だ。

ここにいるみんなは切彦にちょっかいはかけないだろう。百代だって流石に切彦には手をださないだろう。

 

「そういえば何で切彦ちゃんは沙也加ちゃんと一緒に?」

「たまたまです」

「そうなんですよ。えっと、斬島さんとは電車の中で会ってそのままここまで一緒だったんです。私もまさか行き先が同じだとは思いませんでした」

 

切彦と沙也加が一緒にいるのは本当に偶然である。妙な縁というやつだろう。

縁とは不思議なものでどんな人間が会うなんて分かったものではない。切彦は裏十三家の1つで剣士の敵と呼ばれている。一方、沙也加は剣聖の娘である。

普通に見れば思いっ切り敵同士だと言ってもよいだろう。ただ切るのが上手い者と剣の道を究める者では全く別の道を辿る者だからだ。

 

「まさか電車の席から駅、島津寮まで一緒に歩いた時は流石に「え?」って思っちゃいましたよ」

「まあそう思うわよね。私は村上銀子。川神学園の交換留学生よ」

「よろしくお願いします」

 

銀子も自己紹介してくれる。その皮切りに夕乃たちも自己紹介してくれた。

 

「わたしは紫だ。九鳳院紫。よろしくな」

「え、九鳳院ってもしかして…」

「表御三家の九鳳院家だよ」

「あわわ…あの表御三家の。よ、よろしくお願いします」

 

沙也加はぷるぷると紫と握手する。小さい手だが温かいぬくもりを感じる。

こんな可愛く小さな子供があの九鳳院家とは驚きだ。正直なところ緊張しないなんて難しい。彼女も聖剣の娘で良い所のお嬢様ではあるが九鳳院と比べると負けてしまう。

最も九鳳院と張り合うとしたら他の表御三家か九鬼家くらいしかいないのだが。

 

「沙也加と言ったな。わたしが九鳳院だからといって畏まらなくても良い。ここにいるわたし紫だ」

「…わあ。大物ですね」

 

紫の堂々さに感服してしまう。正直なところ気にするなと言われても難しいものだが、こんな小さな子が気を遣ってくれるとは大人だ。

 

「うん。よろしくね紫様」

「さま付けはいらぬ」

「じゃあ紫ちゃん」

「うむ。よろしくな」

 

早くも紫は沙也加とのコミュニケーションを確立させていた。流石は紫だろう。何せ多くの人たちと交流をしているのだからこれくらい簡単なものだろう。

その姿をみた由紀江は「羨ましい」と言っている。紫のコミュニケーション能力が凄いと思っているのだ。沙也加もコミュニケーション能力が高いので紫との会話も弾む。

 

(さ、流石です沙也加…私も紫ちゃんと会話するのに時間かかったというのに)

『妹は恐るべしだなー』

 

単純に由紀江にコニュニケーション能力が低すぎるだけなのだが、こればかりは自分自身の問題なので頑張るしかない。

この問題は簡単には解決できない。すこしずつ頑張っていくしかないだろう。

 

「せっかくだ。夕食も食べてくでしょ?」

「良いんですか?」

「もちろん。ここで夕食を一緒にしないなんて選択は無い」

「切彦ちゃんも食べてく?」

「良いんですか紅のお兄さん?」

「もちろんだよ」

 

食材はたくさん買って来たから足りないことなんてことはないだろう。早速、焼肉の開始だ。

焼肉が始まればみんながハイテンションだ。どうも焼肉はみんなのテンションを上げる食事だ。流石は焼肉、打ち上げやみんなで集まって食べる食事だ。

1人焼肉なんてものもあるが、それはそれも良いものもあるだろう。真九郎は金銭面の関係で絶対にできないだろうが。

 

「焼け焼け~!!」

「この肉は俺様が育てる!!」

「野菜もちゃんと食べるんだよ」

「ピーマン…」

「鉄板が熱いです。敵です」

「ほんとに切彦ちゃんは敵が多いね」

 

焼肉が始まり、皆が肉の奪い合いが始まる。流石は食欲盛りの学生。

そんな中、大人である冥理たちは慎ましく焼肉を食べる。環に関しては学生たちとテンションが同じなので焼肉の奪い合いをする。

真九郎は女子力を発揮してるので紫や散鶴たちに野菜や肉を皿に入れていく。自分も食べれば良いというのに他の人を優先させるところ謙虚というか教育された賜物なのか。

 

「ほら紫、ちーちゃん」

「ありがとお兄ちゃん」

「ありがとう真九郎!! ピーマンは少なめで」

「ちづるも」

「はいはい」

「真九郎くんも食べないと。ほれほれ!!」

「環さん俺の皿に肉を山盛りにしないでください」

 

皿には胃がもたれるくらいの量の肉が積まれている。真九郎はそんなに大食漢ではない。寧ろ小食の方だろう。

それは彼の食生活がしたのかもしれない。そんな彼を見てクリスが子供のように肉を貰おうとする。

 

「食べないなら私がいただこう」

「いいよ」

「わーい。おいし~」

「クリスはやっぱ子供だなあ」

 

マルギッテやクリスの父が可愛がっている理由が分かる気がする。

 

「ところで何故、姉さんは沙也加ちゃんと切彦ちゃんの間に?」

「そこに美少女がいるから!!!!」

「セクハラはしないでよ姉さん!!」

「そんなことは分かってるよ。つーか最近大和は私を何だと思ってるんだ」

「そう思われたくなかったら言動や行動に気を付けて」

 

頼りになる武神であり、姉である百代だがやっぱり問題児なところはある。でも信頼できる仲間であり、大切な姉だ。

 

(それにしても斬島か。確か崩月先輩と同じ裏十三家…紅くんたちとはどんな関係なんだろう)

 

もくもくと小動物のように食べている切彦を見る。やはりどこからどう見ても大人しい少女だ。だけど梅屋の一件では裏の顔を一瞬だけ見た気がする。それに由紀江が言っていた『剣士の敵』も気になるキーワードだ。

紅くんを中心に何か温かいような暗いようなものがある気がする。だけど今の食卓には考えないでおこう。今は楽しく焼肉だ。

大和はいつの間にか皿に京が激辛京スペシャルを入れるのを阻止しながら考えを振り払った。

 

「むむ。その赤いのは何だ京?」

「これは京スペシャル。これにお肉を付けると美味しいよ」

「子供にそんな危険物を説明すんな」

 

明るい食卓だ。

 

「それにしてもお姉ちゃんが本当に友達ができて安心しましたよ」

「もう沙也加ったらそこまで心配しなくても…」

「何言ってんのお姉ちゃん。最初は松風を友達として紹介された妹の気持ちを考えてよ」

 

沙也加の言葉にみんな納得する。確かに実の姉が馬のストラップを魅せられて「友達の付喪神です」と言われたらどう返答すれば良いか分からない。

 

『オラは本物の付喪神だぜ』

「ああ、うん」

 

沙也加の第一印象は可愛いしっかり者の妹だ。彼女もまた夕乃ように大和撫子の素質があるだろう。

でも彼女にも意外な一面があるものだが、んな一面は姉である由紀江も知らないし、この連休中で分かることはないだろう。

 

「真九郎くん。お酒が欲しいよ」

「少しだけですからね」

「もっと~。お酒が駄目なら真九郎くんのでいいから!!」

「何を言ってんですか!?」

「真九郎の?真九郎のお酒ってことか?」

「紫様。聞かない方が良いです」

「全く環さんは…沙也加ちゃんこの人の言うことは気にしなくていいから」

 

環の言葉基本的に気にしない。いちいち気にしていたら疲れるだけだからだ。

 

「く、紅さんのお酒ってもしかして…え、でもそういう意味だよね。紅さんと武藤さんって…そんな関係なのかな?」

 

ボソボソとなにか呟いている。

 

「どうしたの沙也加ちゃん?」

「あ、いえいえ何でもないです!!」

「沙也加はたまに独り言があるんですよね」

『何を言ってるかは聞き取れないけどな』

 

どうやら沙也加は独り言がたまに言うらしい。だけど独り言なんて誰だってすることはある。対して変なことではない。

夕乃だってクリスマスの時に花を渡したときも独り言でブツブツ呟いてた気がする。

 

「沙也加ちゃん。遠慮しないで食べてね」

「はい。ありがとうございます紅さん。何か紅さんってお兄さんみたいですね」

「そうかな?」

「ふふ、散鶴のお兄さんだしね」

「ああ、そうですね」

「確かに、それなら紫ちゃんにとってもお兄さんですね」

「それは違うぞ夕乃。わたしは真九郎のお嫁さんだ!!」

「…紫ちゃん?」

「何だ?」

「貴女と真九郎さんが?」

「嫁だ」

 

夕乃と紫の睨み合いが始まる。

 

「え、え…紅さんのお嫁さんが紫ちゃんの?でもでも相手はまだ小さい子だし」

「どうしたの?」

「いえいえ何でもないです!!」

「ああ、紅はロリコンだからな」

「違います!!」

 

沙也加までロリコンという誤解を教え込まないでほしいものだ。

 

「ところで明日はどうするか?」

「私は妹の沙也加を川神を案内しますよ」

「じゃあ一緒についてく!!」

「武藤さんたちはどうしますか?」

「まだまだ回り切れてない場所もあるからまた観光するよ」

「それなら私たちもね」

 

明日の予定は決定した。明日もまた川神観光だ。

大和たちは沙也加と一緒に観光。環たちとは別行動だ。今日は一緒だったが明日は別々で観光だ。

明日もまた賑やかな一日なるだろう。

 

 

099

 

 

楽しい食事が終わり、真九郎は食器を洗う。その横からヒョイと新たな洗い物を持ってくる切彦。

 

「お願いします」

「ああ、持ってきてくれてありがとう」

 

シャカシャカと泡立てながら皿を綺麗にしていく。汚れ物が綺麗になっていくのは見ていて良いものだ。

なんというか気持ち的にスッキリする。最初は洗うのは面倒と思うが洗い始めると全部綺麗にしてみせるという気持ちも出てくるものだ。これは綺麗好きの心があるのかもしれない。

 

「そういえば切彦ちゃんはどうしてここに? もしかしてまた仕事なのかな」

「…そうです」

「…そっか」

 

自分自身で聞いておいて少し暗い気持ちになる。彼女の仕事は殺しの仕事。切彦は悪宇商会に所属しているのだから当たり前だ。

彼女とは仲が良いとはいえ、仕事とプライベートはキッチリの区別されている。時に味方、時に敵の関係。

真九郎と切彦の関係は何とも言い難いものだ。友達ではあるが殺し合いを、決闘をする仲。その関係性がお互いを悩まさせるものだ。

 

(切彦ちゃんの仕事を聞いたところで俺には止める術はないんだよな)

 

切彦とは友達であり敵。あの病院での戦い、京都での一件、歪空との戦いでの共闘。本当に複雑な仲だ。

そんな彼女を仕事に関してどうこう言えない。彼女だって好きで殺しをしているわけではなく、仕事で殺しをしているのだ。

ここで真九郎が彼女の仕事に対して口にするのは彼女に対して五月蠅いだけだろう。もし言ったところで聞きはしないし、ザッパリと一太刀くらうだけかもしれない。

だから真九郎は本当に何も言えない。もし口を挟むとしたら彼と彼女が関係する場合の時だけだ。彼らが本気でぶつかりあった時だけなのだ。

できればそんな事は起きないでほしいものだ。でもいつの日か決闘をしなくてはならない。そんなことを思っていると切彦の方から口にしてきた。

 

「紅のお兄さん」

「何かな切彦ちゃん?」

「いつ私と戦ってくれるんですか?」

「…えーと、時間がある時にね」

 

今は本当にはぐらかすことしかできない自分が情けなかった。

 

「お、何だ何だ。真九郎殿は切彦殿と決闘するのか?」

「おわ、クリスさん!?」

 

ヒョコリとクリスが顔を出す。他に一子もだ。どうやら彼らの決闘についての会話を聞いて興味を持ったらしい。流石は武士娘なのだろうか。

更に百代たちも「決闘か!?」と集まってくる。正直なところ彼らの決闘は川神で行われる決闘とは概念が違うので集まってもワイワイと話すことはできない。

だから誤魔化す感じで話すしかないだろう。百代たちは武術家だが表世界の者たちだ。裏世界の戦いを関わらせるわけにはいかない。

 

「はい。紅のお兄さんと決闘です」

「えー切彦ちゃんずるいな。私も紅と決闘したいぞ」

「…えっと切彦ちゃんとは約束してるんですよ」

「約束ですか?」

 

夕乃や銀子から「そんなの聞いてない」という目で見られる。これは後でコッテリと絞られそうだ。特に隠していたわけではないけど話したら面倒になるのは理解していたが。

切彦との決闘する約束は破る気はない。ただ先延ばしにしているだけだと思うとまた情けなくなる。

 

「決闘するけどまだしません。でも必ず約束は守るよ」

「なら私が立ち会って審判を務めても良いぞ!!」

(ありがたいけど、遠慮します)

 

心の中で呟く。正直、彼女と決闘は二人だけでおこないたいので。そもそも彼女との決闘は血を見るだろう。

 

「紅さんも武術家なんですか?」

 

沙也加が真九郎について質問する。残念ながら武術家ではない。彼は揉め事処理屋だ。

 

「揉め事処理屋…ですか?」

「そうだよ。何か揉め事があれば言ってね。困ったことでも解決するよ」

 

揉め事、困ったことを解決してくれる。どんな簡単なことから物騒なことまで揉め事の幅は広い。揉め事処理屋はそういうことを解決する専門家だ。

その言葉を聞いて沙也加は何かを考え込む。

 

「どうしたの?」

「いえいえ、何でもありません」

「そう。でも何かあれば言ってね沙也加ちゃん」

 

紫や切彦、散鶴と接しているとやはり年下には優しく甘いのだろう。つい「困ったことがあれば言ってくれ」と言ってしまった。

揉め事処理屋は立派な仕事なのだからお金がかかるというのに。先に説明しないといけない。

 

「それにしても…やっぱり紅さんは優しいお兄さんみたい」

「ん?」

「ううん。何でもありません」

「じー」

「じぃぃ」

「うう」

 

紫、散鶴、切彦の年下3人が真九郎を見る。その目には何かを訴える意志が含まれていたが気付かない真九郎であった。

 




読んでくれてありがとうございました。
沙也加ルートに突入です。彼女を中心に切彦や環さんたちの物語を展開させていきたいと思います!!

それにして真九郎は個性すぎる女性と年下の女性にモテる気がします。


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かき氷とBAR

100

 

 

熱い日差しの中で真九郎と大和は全力疾走をしていた。彼らが全力疾走しているのはオッサンを追っているからだ。

オッサンを追っているのは何も変な意味は絶対に無い。ただ彼らはオッサンが営むかき氷を買いたいだけなのだ。

そんな理由も無いのに汗水垂らしながらオッサンなんて追いたくはない。

 

「な、何でかき氷屋がお客を待ってくれないんだ!?」

「そ、それはここが川神だからだよ紅くん!!」

「そんな理由なの直江くん!?」

 

川神市が異質ならかき氷屋も異質なのだろうか。そんなのは認めたくないし、営業なんてできないだろうと心の中でツッコム。

 

「待ちなかき氷屋!!」

「全然待ってくれないよ直江くん!?」

「まあ、待てと言われて待つ奴はいないよね」

「それがおかしいよ!!」

 

口ではなく足を動かしたいが、こんな不条理なかき氷屋を追いかけていると文句しか言えない。

だけど何とか追いついて買わなければならない。これは沙也加と紫のためだ。

実は今日の真九郎は大和、沙也加、紫、リンと散歩に出かけていた。その途中で件のかき氷屋が彼らの横を全力で過ぎ去ったのだ。

同じく全力疾走しているかき氷屋は川神で今話題のかき氷屋だ。なかなか捕まえられないが、もし追いつけば最高のかき氷を食べさせてくれるのだ。

 

「かき氷だよおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!」

「何で追いつかないと買わせてくれないんだ!!」

 

もう都市伝説の噂になる一歩手前のくらだと思う。逃げるかき氷屋に追いつけば最高のかき氷を食わしてくれる。どこかで似たような話があったような気がする。

 

「美味しい氷だよおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!」

「追いつくのにあとちょっと!!」

「待ってくれかき氷屋さん!!」

「フン、追いついてみな。追いついたら、最高のかき氷だ」

「聞こえてるなら止まってくださいよ!?」

「さあ、かかってこぉい」

 

勝負ではなく営業をしてほしいものだ。何でこんなかき氷屋が今話題なのだろうか。

形態電話が鳴り、出てみるとリンからである。電話の内容は「まだかき氷屋は捕まえられないのか?」とのこと。

今まさに全力疾走で追いかけているところである。なのでもう少し待ってほしい。

 

「あと5分で追いつきますから」

『そうか早くしろ。紫様はメロン味のかき氷がご所望だ。沙也加殿はブルーハワイ味だそうだ』

『頑張れ真九郎、大和』

『が、頑張ってください紅さん、直江さん』

 

リンからの催促と紫と沙也加の応援で2人は脚に力を込めて更に限界突破で疾走してやっと追いつくのであった。

 

「や、やっと追いついた」

「い、息が…最近身体が鈍っていた影響か。姉さんと京からもらった筋トレをこなさないと」

「おう、よく追いついたな、坊主共。さあ好きなかき氷を、欲望のままに口にしろ」

(…なんだそのセリフは)

 

接客業にはあるまじきセリフであった。

 

「あ、追いついたんですね大和さん、紅さん」

「おおよくやったぞ真九郎に大和!!」

 

紫と沙也加、リンが後から追いついてくる。

 

「おう、お嬢ちゃんたちは坊主共の連れか。さあ、かき氷は何がいい? 欲望のままにぶちまけろ」

「ぶ、ぶちまけるって…まさか変な意味じゃないですよね!?」

「どうした?」

「いえいえ、何でもありません。私はブルーハワイで」

「紫はメロン味だ」

「私はレモン味を貰おう」

「リンさんも食べるんですか?」

「当たり前だ。お前たちも早く選ぶと良い」

 

奢ってくれそうな感じで話すが実際に払うのは真九郎か大和である。だが気にしたら負けなので彼らも自分たちが好きなかき氷を注文したのであった。

 

「はい紫、沙也加ちゃんどうぞ」

「ありがとう真九郎!!」

「ありがとうございます紅さん」

「じゃあな、お嬢ちゃんたち、坊主共」

 

かき氷屋のオッサンはまたも疾走し、彼らの前から素早く、クールに去っていった。

 

(クールかな?)

「さて、ここじゃ熱いし、何処かの日陰で食べようか」

 

大和の提案に賛成し、近くにある公園に足を勧めた。日陰のベンチに座ってかき氷を食べる。

 

「ん~冷たくて美味しい!!」

「だね紫ちゃん」

「真九郎のも食べさせてくれないか?」

「良いよ。はい紫」

「あーん」

「はい、あーん」

 

パクリと可愛く食べる紫。これを見て可愛いと思ったのはここにいる全員の共通である。

 

「ほれ、沙也加も食べろ」

 

今度は紫から沙也加へとかき氷が運ばれる。

 

「あーん」

「あーん…うん冷たくて美味しいね紫ちゃん」

「うむ!!」

 

紫は本当に可愛い女の子だ。足をプラプラしながらかき氷を食べる。こんな光景が彼女にとってまた1つの思い出だ。

リンもいつも難しい顔をしているが紫が楽しい顔をしていると少しだけ微笑む。

 

「はくはくはく」

「あ、紫ちゃん。かき氷を急いで食べると頭がキーンってしちゃうよ」

「うう、頭がキーンってする」

「ありゃりゃ遅かったか」

 

笑顔が絶えない一時である。こんな幸せを紫にはずっと続いてほしいものだ。

かき氷を食べていればあるあるで舌がシロップで変色する。そうすれば見せ合いっこである。

 

「紫ちゃんの舌が緑色だね」

「沙也加は青でリンは黄色だな。真九郎と大和はどうだ?」

 

真九郎はグレープのシロップを選んだので舌が濃く紫色で、大和はイチゴ味を選んだので赤だ。

 

「ふむ。なんだか面白いな」

「ところで紅さん質問をいいですか?」

「なんだい沙也加ちゃん?」

「斬島さんについてなんですけど」

「切彦ちゃん?」

 

切彦について質問とは何だろうか。そう思ったがすぐに察することができた。沙也加は剣聖の娘だ。ならば『剣士の敵』である斬島切彦について少なからず知っているかもしれない。

だから友達である真九郎について質問したいのかもしれない。

 

「実はですね…お父さんからある事を言われてまして、斬島切彦さんって方には注意しろなんて言われてたんですよ」

 

真九郎の予想は的中した。気になるのはしかたないだろう。なにせ剣士たちにとって最大の敵なのだから。

 

「それは斬島切彦さんって方が『剣士の敵』って呼ばれてるからなんです。私は斬島さんの名前を聞いて内心驚きましたよ」

「なるほどね」

「お姉ちゃんからも聞いてみましたが恐らく斬島さんは確かに斬島切彦だと言いました。なので友達の紅さんにも聞いてみようかと」

「うーん…」

 

応えていいかどうか悩む。『剣士の敵』と聞いているならある程度は『斬島切彦』について知っているだろう。

ならば深いところまでは言わずに必要最低限のところだけでいいだろう。彼女の口ぶりからはおそらく剣聖は『剣士の敵』という部分だけ教えて『裏十三家』については言ってないのだろう。

 

「確かに切彦ちゃんは『剣士の敵』って呼ばれてるよ」

「やっぱり…でも大人しい人でお父さんが注意するような雰囲気じゃない気がするんだけどなあ」

「まあ確かにね。ただ彼女はオンオフがハッキリしている子なんだよ」

「ああ、なるほど。例えるなら仕事とプライベートは別ってやつですか」

「そうだね。その例えは的を得ているかも」

 

沙也加の例えはまさしく的を得ている。

 

「まあ、沙也加ちゃんのお父さんが注意しろって言ってるなら、あまり切彦ちゃんに根掘り葉掘り聞かない方が良いかもね。でも普通に接する分なら大丈夫だから」

 

切彦に危害を加えなければただの可愛い女の子。楽しく会話もするし、笑顔もするし、照れたりもする。普通の女の子と変わらないのだ。

 

「分かりました。今度会ったら女子トークでも振ってみます!!」

「グイグイ行くね沙也加ちゃん」

「だが気を付けることだ沙也加殿」

「リンさん?」

「剣士としての忠告だ。だがあやつは紫様のご友人だ。『剣士の敵』だが悪いように思わないでくれ」

「はい!!」

「なあ紅くん。今度は俺から質問いいか?」

「何かな直江くん?」

「今じゃなくてもいい。今度時間がある時に聞きたいことがあるんだ」

「…何かな?」

「紅くんは『裏十三家』についてどれだけ知ってる?」

 

ここからあの事件への物語は動き出す。

 

 

101

 

 

今夜の予定だが真九郎は環と闇絵の観光を回る。裏向きは彼女たちが面倒ごとを起こさない保護者である。

と言っても今日の観光は夜である。川神でも人気のBARに行きたいとの事だ。その人気のBARとは魚沼を経営している所だ。

魚沼が経営しているBARは新規のお客はもちろん常連が好んで通う店である。出されるお酒は全て最高の一杯だ。

何故魚沼のBARに行きたいと言うと川神のパンフレットを見た環と闇絵のお願いである。真九郎にとって予想できるものだ。

 

「お酒が飲みたーい!!」

「はいはい。でも魚沼さんの店で騒ぐのは駄目ですよ」

「分かってるって」

「ああ、騒がなさいさ」

「闇絵さんは良いとして、環さんですよ」

「…なんか真九郎くんは私のこと問題児だと見てない?」

「それはいつもの行動と言動を省みてください」

 

彼女は問題児と認定しているが頼りがいのある良い女性でもある。何だかんだで迷惑はかけられているが助けられてもいる。

だから真九郎は環の我儘を聞くし、面倒を見ている。真九郎は環のことを嫌いじゃない、寧ろ好きだ。でもそれは第三者から見れば母性というか父性なんじゃないかと思われるかもしれない。

全くもって手のかかる子とはこういうものなのかもしれない。環には言えないが。

 

「そろそろ着きますよ」

「お、到着」

 

3人は静かに入店する。魚沼のBARにを見て環と闇絵は「ほお」と感嘆する。店内のインテリア、雰囲気、香る酒。

どれも素晴らしいもので、これなら2人はきっと満足するだろう。

 

「お、真九郎じゃないか」

「おや、紅くん。それに新しいお客さんかな」

「お疲れさまです弁慶さん、魚沼さん」

 

弁慶は魚沼のBARでバイトをしている。どうやら彼女にとって天職のようで、前にバイトを始めてから続けているのだ。

魚沼も弁慶の仕事ぶりは認めており、従業員として助かっている。寧ろバイトじゃなくて正規に雇いたいくらいだと思っている。

 

「弁慶ちゃんか。綺麗で可愛いな」

「マスターよ。お勧めを頼む」

「あ、私も」

「任された。弁慶は紅くんを任せたよ」

「はい。真九郎は何が良い?」

「ミルクで」

 

魚沼は完成された動きでカクテルを作り始める。その動きはスマートですぐさま2人の前にカクテルが出される。そして真九郎の前にはポンっとミルクが置かれる。

環は豪快に飲み、闇絵は優雅に飲む。感想は「美味しい」の一言だ。真九郎はまだ酒は飲めないが、飲むとしたらこんなBARで飲みたいものだ。

彼はミルクを口に含んだ。そして弁慶がこちらをニコニコと見ていた。

 

「どうしたの弁慶さん?」

「いや、ミルクだけど真九郎は静かに飲むんだなーって」

「普通だと思うけど」

「いや、真九郎は雰囲気あるなって」

「雰囲気?」

「そうそう。飲み慣れてるんじゃなくてBARの雰囲気に慣れてるみたい」

「うーん」

 

慣れているというのは確かにそうかもしれない。彼は揉め事処理屋の仕事をしている中で情報収集でBARにいくことはある。

紅香から紹介されたBARなどはいくつかある。そこに何回も行き来していれば慣れるのは当たり前だろう。しかし弁慶はよく気付くものだなと考える。

 

(ふむ、確かに紅くんは慣れているな。しかしその慣れは流石、揉め事処理屋というところだろう)

 

魚沼はこれでも物騒なことに関わりある。映画やドラマみたいだが実際にBARに情報を聞きにくるのだ。だから彼は真九郎の慣れについてすぐに理解できた。

 

(この慣れはBARなどのそういう店を何度も通っているな)

 

いずれ彼も魚沼のところに情報を聞きにくるのかもしれない。そう思うと魚沼は誰にも気付かれない微笑をしてしまった。

 

「マスター。次はワインを頼む」

「私はまたカクテル」

「分かりました」

 

次のお酒を出す魚沼。マスターとしてお酒を美味しく飲んでくれるのはとても嬉しい。闇絵も環もお酒の飲み方を分かっている。

こういう分かってるお客はなかなかいない。だからこそ嬉しいものだ。

 

「ねえ真九郎。もう傷の方は良いの?」

「傷…ああ、もう大丈夫だよ」

「そっか。それにしても傷の治りが早いんだね」

「まあ頑丈だし」

「え、何の話~?」

「環さんには関係ないですよ」

「男と女の秘密は根掘り葉掘り聞くものじゃないぞ環」

「えーその言い方何かヤラシイ闇絵さん」

「ストップです2人とも」

 

環の下ネタが入りそうだったので先制して止める。でも真九郎の頑張りは後に意味を成さないだろう。

そんな時に新たな客が入店する。その客はこの店には似合わない者だ。何処からどう見ても未成年だからである。BARに未成年がくるのは間違いだ。

魚沼は口を開こうとしたが、その前に真九郎の口が開いた。

 

「あれ、切彦ちゃん?」

「どうもです」

「おや、知り合いかね?」

「はい。友達です」

 

真九郎たちの知り合いなら入店するのに不思議なことはない。だが彼らの口ぶりだと魚沼のBARで待ち合わせをしている感じではない。

切彦は自らの意志でこの店に訪れたようだ。そうすると何故、未成年の彼女は来たかだ。

 

「どうしたのかね。ここは未成年お断りだよ」

 

切彦は魚沼の言葉を無視しながらカウンターに座る。そして彼だけにある写真を見せた。

 

「この人を知ってますか?」

 

魚沼は写真を見る。グラスを拭きながら彼女について理解してしまった。

彼女は表の人間じゃなく、裏の人間だと理解してしまったのだ。その写真に写る人は知っている。何せ魚沼のBARに最近来たからだ。

 

「コーヒーありますか?」

 

魚沼は無言でコーヒーを淹れて出す。それと同時に切彦は魚沼にチップを出す。

 

「知っている」

 

その写真に写る男は魚沼にとって警戒した相手だ。少し会話をしただけで裏の人間だと分かったからだ。魚沼は職業柄様々な人間を見ているので、どんな人間かは分かる。

だからこそ写真に写る男は危険と判断したのだ。そして切彦が裏の人間について聞いてきたということは彼女もまた裏に通ずる人間なのだ。

 

(こんな子が裏世界の人間だとは…世の中はどうなっているのだか)

 

黙っている魚沼に対して切彦は更にチップを出す。

 

「チップは先ほどので十分だよ」

「そうですか」

「この男だがこの店に来たよ。おそらくだがまだ川神にいると思う。つい先日に来たばかりだからな」

「そうですか。ありがとうございます」

 

切彦はコーヒーをチビチビと飲んでから店を出て行った。

 

「…なんだったのあの子?」

「関わらない方が良いと思うよ弁慶さん」

「え、そうなの?」

「少年の言う通りだ少女よ。経験者の言葉には素直に従うのが吉だ」

「凄い気になるんだけど」

 

闇絵のアドバイスは無難に聞いた方が良いと真九郎は弁慶に呟く。弁慶はよく分かっていないが取りあえず深追いはしなことだけは頭に響いたのであった。

 

(切彦ちゃん…)

 

彼女が魚沼に見せた写真はきっと今回のターゲットなのだろう。ミルクを口にしたが味が分からなかった。

 




読んでくれてありがとうございました。
感想などあれば気軽にくださいね。

さて、日常シーンはまだある予定です。
沙也加ルートですがまた『裏』が入り込んできてます。これは紅勢がいるから仕方ないね!!

さて、大和はついに真九郎に対話をする約束をしました。
これも「あの事件」への入り口&裏世界についての入口です!!

「あの事件」に関して気になるかもしれませんがもう作中にちょっと出てます。


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裏の一端を知る

102

 

 

昼下がり。真九郎と銀子、紫の3人で川神を散歩していた。いや、散歩ではなく買い物だ。

冥理さんたちや環さんたちがそろそろ実家に戻るので美味しい物を作るために買い出しだ。最初はどこかで外食でもしようと考えていたが手料理が良いと環からの一声で決定したのだ。

買い出しメモを見ながら歩き続ける。そして彼らは川神のある意味有名なスポットの変態橋に近づく。

 

「なあ真九郎。何故ここがへんたいばしなのだ?」

「…なんでだろうね」

 

理由はこの橋によく変わり者や変態が多く出没するから付けられたのだ。九鬼や警察だって動いているのに何故この橋に変態が現れるのだろう。

それが疑問である。こうも変質者や変態が現れるなら対応策があるはずだろう。しかし大和たちから聞くと変わらずいつも通りに変態が現れる。

この問題に関して銀子が聞いた時、頭を痛めたほどである。真九郎もまた同じく頭が痛くなるのだが。ふと思ったがここでなら揉め事処理屋としていくつか稼げそうだ。

 

「普通に見る分なら普通に橋なんだがなあ」

 

橋を全体的に見ると知り合いの井上準がいた。そして彼の目の前に少女もいた。

はっきり言おう。大和たちがいたら猛ダッシュで準を攻撃したかもしれない。しかし真九郎たちはまだ準のことを深く知らないので普通に歩みよる。

 

「井上くん。どうしたの…って、え?」

「ポポポ…鳩ポッポポポポポポポポ(混乱中)」

 

何故か準が混乱していた。詳しく言うならば今彼の意識は宇宙に打ち上げられている。

 

「どうしたのだ準」

 

紫が話しかける。

 

「は、紫様!!」

 

準の意識は急降下して元に戻った。

この時、銀子は冷たい目で見ていた。

 

「ねえ、井上くん。一応聞くけどまさか」

「待て村上。お前は誤解している」

 

すぐさま真九郎たちがいるのを確認して状況を判断する準。そして銀子が誤解しているはずだがら弁解する。

褐色肌の少女は迷子みたいだったので保護していただけである。更に付け加えるならば変質者に襲われそうだったので助けたのだ。

準は誠心誠意、嘘無く真実を話す。しかし銀子は冷たい目のままである。

 

「信じようよ銀子…」

「助けたのか準はお手柄だな!!」

「流石…紫様。そして我が同士の真九郎よ助かる」

「あんた…」

「銀子。その目は止めて欲しいんだけど」

 

準に同士認定させられたおかげで二次災害を被る真九郎であった。

 

「迷子なら早く親を探さないとね」

「そうだな。よしお前、名は何と申す。私は九鳳院紫だ!!」

「…ウルラ」

「良い名前だ」

 

準が良い声で彼女の名前を褒めた。

 

「ねえウルラちゃん。お母さんとお父さんは?」

「おかあさん、おとおさん。何それいないよ。わたしは一人」

 

銀子は目線を合わせて優しく質問したが望んでいた答えでは無かった。迷子であることは確かだが、どこか訳ありのような感じだ。

 

「どこから来たの?」

「おおうなばら」

「…そっか。ありがとうウルラちゃん」

 

銀子はウルラの頭を優しく撫でる。

何か彼女の親と連絡がつくような物を持っていないか聞いてみるが何も持っていないらしい。これでは本当に何も分からない。

こういう時は交番にでも連れていくのが一番だ。しかしここで準が待ったをかける。どうやら準が一緒だと在らぬ誤解が生まれそうだと言うこと。ならば真九郎たちに任せれば良いだけなのだが、どうやらウルラは準に懐いている。

これなら引き剥がせない。彼女のためにも今はまだ準と一緒にいさせてやるべきだ。

 

「ねえウルラちゃん。お家はどこかな?」

「おうち…そんなのないよ」

「…訳ありかな」

 

家が無いなんて訳ありしかない。取りあえず川神院の鉄心に事情を話して保護してもらうこととなった。

 

「よし。ウルラよ一緒に行くぞ。ついて来い!!」

「…わかった」

 

紫の後を追うウルラ。準はこの光景を見て微笑ましくしている。

 

「いいよなあ…少女2人は仲良く。そう思わないか真九郎」

「うん、まあ良いと思う」

 

変な意味などない。正直に感想を言った。紫とウルラが並んでいると年相応の友達みたいである。

 

「あー、心が浄化される」

 

この後、川神院まで行こうとした途中で九鬼財閥の者と出会って彼女の保護をしてもらった。

 

 

103

 

 

島津寮の真九郎の部屋。部屋には真九郎と大和が居座っている。真九郎の部屋なのだから居座るのは当然である。

だが何故に大和がいるかというと、ある話を聞きたいからである。その話とは前に大和が真九郎に聞きたいと言っていた『裏十三家』についてだ。

大和は父親から偶然と警告によって『裏十三家』を知ってしまった。そのキッカケは真九郎ならば始まりも真九郎から聞こうと思ったのだ。

 

「裏十三家についてか…直江くんはどこまで知ってるんだ。そもそもどこで知ったのかな?」

 

真九郎は言葉を慎重に選ぶ。何故、大和が『裏十三家』について探っているのか分からないからだ。

分からないけど彼が余計な探りを入れているならば余計な事は言えない。結果的に大和が危険な目にあう必要はないはずだ。

最も大和自身が裏世界に関わるというのならば止める必要はないのだが。何故ならその先は全て自己責任だ。真九郎もそうだから。

 

「裏十三家を知ったのは父親から知ったんだよ」

「父親から?」

「ああ。親と電話した時に紅くんたちが交換留学に来たというのを話したんだ。そしたら紅くんが裏世界で有名な人って驚いてた」

 

更に揉め事処理屋の柔沢紅香とも仕事で知り合ったらしく、その時に紅真九郎のことも宣伝された。そして調べたら色々と分かったとの事である。

 

「ああ…」

 

全て納得した。話を更に聞くと大和の父親である直江景清はヨーロッパ方面で会社経営をしている。その手腕は恐ろしく賢く狡猾であり、ヨーロッパで金を動かす男とも言われている。

結果を成し遂げるならば機械のように仕事をこなすが、妻と息子には深い愛情を注いでいるのだ。

 

(直江景清…聞いたことがあるな。確かに彼程の経営者なら揉め事処理屋を使う機会はあるな。っていうか紅香さんと知り合いかあ)

 

確かに景清ほどの者なら真九郎のことを調べれば裏十三家にも通じてしまう。だからこそ父親から大和は知ったのだろう。

 

「俺が知っているのは裏十三家の名前だけだよ。それと真九郎くんが裏世界で有名…なんでも裏世界でも大きな裏組織のトップと戦って引き分けにしたとか」

「そこは知っているのか」

 

裏世界で有名になったのは真九郎が悪宇商会の最高顧問である星噛絶奈と争奪戦をして、お互いに満身創痍になるまで殴りあった結果、引き分けになったことだろう。

その争奪戦は裏世界にいっきに広まった。悪宇商会も情報を操作したかは分からないが規制したと思う。だがその情報はとても濃いものだ。

 

「教えてくれないかな紅くん。何で知りたいかは仲間を守るためにつながるからだ」

「仲間のため?」

「ああ。こんな言い方は嫌かもしれないけど裏世界に通じている紅くんがいることで、裏十三家というもので仲間に危険が及ばないためにだ」

 

まるで真九郎が厄介事のように、危険人物のように例える大和だが真九郎は嫌な気はしない。彼の感情は当然だし、自分がもし一般人だったら同じ反応をしただろう。

よくよく考えてみよう。学園のクラスに裏世界に深く通じている人が留学に来たし、同じ寮にも居る。これだけでも警戒するのは当然だ。だから大和の感情は正常だ。

 

「聞いて納得する。それで裏世界には関わらないさ」

「それなら聞かないのが一番だと思うけど」

 

裏世界に関わらない為には一切合切に見ない、聞かない、行動しないだ。真九郎の言葉は正しい。

 

「俺もそう思うけど…裏十三家の崩月先輩に斬島さんに知ってしまったら聞かないと納得できない」

「切彦ちゃんのことも知ってるのか?」

「ああ。何でも殺し屋なんだよな。『切彦』って名前は代々殺し屋になる直系がつける。それに前に会った時、自己紹介で「あいむ、ひっとまん」と言ってた」

「そこも知ってるのか」

 

切彦の自己紹介の時に確かに「あいむ、ひっとまん」と言っていた。その意味は和訳すれば辿り着くが、冗談としか受け止められないだろう。しかし、大和は父親から情報を貰って本物だと確信したのだ。

 

「正直に言うと斬島さんは殺し屋には見えない。でも梅屋の一件がある」

 

ここまで知っているのなら隠し通せない。ここで教えなかったら彼は独自で調べるだろう。ならここで教えても教えなくても同じだ。

 

「オレも裏十三家のことを全て知ってるわけじゃない。それでもいいかな?」

「もちろん。それに教えてもらう身なんだから文句は言わないよ」

「そうだね…まずは知ってると思うけど裏十三家について」

 

もう知っているかもしれないが『裏十三家』はその名の通り全てで十三家ある。

歪空、堕花、斬島、円堂、崩月、虚村、豪我、師水、戒園、御巫、病葉、亞城、星噛の計十三家である。そして『裏十三家』には家系ごとに特殊な能力が特化された一族でもある。

その異能が裏世界に影響力を与えた要因の1つだ。だが現在は半分以上が断絶している。

 

「どの裏十三家が断絶しているかまでは知らない。現在存在する裏十三家は俺が知っているので崩月に斬島、星噛、歪空、円堂…あと亞城もかな」

「特殊な異能はどんなのがあるんだ?」

「崩月は知ってるよね」

「ああ。あの角だろ」

「そうだ。俺のは貰い物だけど崩月の異能は腕に宿した角を力の源にした剛力」

 

彼の力は河川敷での戦いで見ている。正直に言うと力だけなら百代に対抗できると大和は思っている。

崩月は幾代にも渡って常軌を逸した激しい肉体改造を繰り返した末に戦鬼の力を手に入れた一族だ。戦鬼化を発動させた者は常人を遥かに上回る尋常ではない身体能力と剛力を発揮し、全身の機能も格段に上昇する。その豪腕から繰り出される拳の破壊力は想像を絶する。

発揮される力は使用者の精神状態によって左右される。簡単に言うと気持ちの切り替えだ。人にもよるが真九郎は怒りをトリガーにしている。彼が怒りを引き金にした時の方が威力が飛躍的に倍増するようで、威力も尋常ではないのだ。

 

「剛力か」

「次に斬島も知っている通り異常な刃物の扱いの巧さ」

「斬るのが巧いってのは聞いたけど…どれくらいなんだ?」

 

斬るのが巧い。聞くのは簡単で大和はいまいちピンとは来ない。梅屋の一件で拳銃をナイフで真っ二つにしたのは確かに凄いが川神では迫力は薄い。

そのせいで大和は斬島の異能さが分からないでいる。彼の周りには由紀江、義経といった剣の達人がいる。彼女たちの太刀筋はそこらの剣士を超えている。

 

(…確かにそうだよなあ。由紀江ちゃんと義経さんの剣は俺から見ても凄いし。でも切彦ちゃんのは違う)

 

切彦は剣士ではない。斬るのが異様に巧い殺し屋である。

 

「斬島の斬るのが巧いのだけど詳しく言うなら斬れそうな物なら何でも斬れるって思ってくれれば…」

「斬れそうな物って…」

「そこは斬島の人たちの判断だよ。切彦ちゃんの場合だと髪の毛や笹の葉、バターナイフでも斬れる物と判断して斬るけど」

「バターナイフでも納得できないけど。髪の毛と笹の葉って…え?」

 

髪の毛で人体を切断するし、笹の葉で真剣を切断する。巧いなんて言葉で片づけられないかもしれないが、これが斬島の異能だ。本当に『異常な刃物の扱いの巧い』

まさに『異常』なのだ。異常すぎるのだ。

 

「信じられないけど紅くん…そうなんだよな」

「そうだ。由紀江ちゃんも言ってたけどその異能こそが『剣士の敵』と言われる要因」

 

剣術などではなく、単に刃物の扱いがとてつもなく異常に巧いだけであり、技術的なものではない。剣術を一切学ばずに一流の剣豪を軽々と斬殺できる。ゆえに技術の研鑽を積んだ剣士たちには眼の敵にされている。

 

「…異常さが分かった」

 

この二家が大和が関わった裏十三家である。ここからは大和の知らない裏十三家だ。

 

「次に星噛の異能はサイボーグ化」

「サイボーグ化?」

「ああ、サイボーグって言っても漫画やアニメみたいに超化学兵器とかロボットとかそういうのじゃない」

 

義手、義足から果ては生殖器まで及ぶ人造臓器まで、人体のあらゆる箇所の代替品を作り出す一族だ。人工物により不死に近づく家系。

 

「義手や義足か」

「ああ。その完成度や強度は人間の物と同じ。いや、それ以上だ。自前のよりも星噛の製作した方が良いなんてものもあるよ」

「凄さでいうとどれくらい?」

「電車に轢かれても無傷」

「信じられないんだけど」

 

電車に轢かれて無傷なんて人間ではないと思う。百代だって電車に轢かれればただでは済まないだろう。瞬間回復という奥義があっても轢かれたくはないはずだ。

 

「あと星噛は裏世界に深く根付いている。今も健在だ。絶対に関わるな直江くん」

「裏世界に根付いているって…もしかして巨大な組織に関わりがあるとか?」

「鋭いね直江くん。星噛はある裏組織の設立にも深く関わっていて、一族の伝統として会社経営に参加しているんだよ」

「その裏組織って?」

「聞かなくてもいいよ。関わらない方がいい…ってもう聞いてるか」

「聞いてないけど」

「前に与一くんが言ってたよ」

「与一が…あ」

 

悪宇商会。

裏社会では最大手の人材派遣会社。裏世界で五本の指に入る程の規模の大組織。戦闘屋、殺し屋、呪い屋、払い屋、逃がし屋、護衛屋など多種多様な人材を揃えており、裏社会での一流の人材が多数所属している。

依頼に応じて適した者を送りこみ、報酬を得る。その活動には善悪の区別もポリシーもなく、金次第でどんな犯罪にも加担し、どんな犯罪の解決にも協力する。政治家やマフィアに利用されるケースも多い。

 

「そんな組織が裏世界にあるのか。てか本当だったのか」

「裏世界なんて人の頭を簡単に裏返すものだ」

「裏だけに?」

「そういうつもりで言ったんじゃないんだけど…」

 

仕切り直し。

 

「政治家も利用するのか」

「政治家だっていろいろあるってことさ。でも関わっても碌なことはない」

「まあ学生の俺が関わるなんてことはないけど、了解した」

「うん。本当に関わらない方がいい。関わったら良いことなんてないよ」

 

真九郎の言葉にどこか説得力のある含みが感じられる。その意味は彼の体験談だ。あの体験は醜悪で悪夢。

悪夢からの目覚めは良いものではなかったが落ち着くところで落ち着いた。

 

「最後に歪空」

「最後?」

「ああ、他の裏十三家は知らないんだ。崩月に斬島、星噛、歪空くらいなんだ」

「なるほど」

 

歪空の特殊能力は不死、圧倒的な再生能力 。裏十三家筆頭と言われる一族である。

 

「異能が不死?」

「ああ。でも完全な不老不死というわけじゃない。歪空の不死ってのは自然死以外で死ぬことは無く、いかなる怪我でも治癒し、病気にもかからない。天寿を全うするまで生き続けるってことなんだ」

「それって、えっ!?」

「俺は正真正銘の化け物だと思ってるよ」

 

あの紅香でさえ歪空を化け物と言い、冥理さんも関わりたくない家系である。

 

「その異能さはどんな傷も修復するし、薬や毒だって効かない」

「姉さんの瞬間回復とは違う…人間が呼吸するのと同じくらいの異能なのか」

「そうだね。歪空はそういう異能で体質だ」

 

百代の瞬間回復は自分の気を大量に消費して回復する。しかし歪空は呼吸するように当たり前に回復する。歪空の身体はいつでも何時も正常な身体に戻す。

 

(天寿を全うする一族…姉さんでも)

 

大和は考えた。もし百代が歪空の一族と闘ったら勝てるかどうか。百代の敗北なんて考えられないが歪空の異能は常軌を逸している。

百代でも鉄心でもただではすまないだろう。

 

「川神先輩も規格外だけど彼女は表の人間だ。裏の人間と表の人間は違うんだ」

「表と裏…」

「ああ、表は常識が通じる。けど裏は常識が通じないと思ってくれ」

 

表の世界は日当たりの良い。しかし裏の世界は暗く冷たい。

ゲームで例えるなんて馬鹿かもしれないが、表世界はメインシナリオ。裏世界はエキストラストーリー。表と裏では難易度が軽く違う。

大和や百代はメインシナリオで止まっており、真九朗たちは最初からメインを飛ばしてエキストラストーリーにいるのだ。

 

「そして歪空は代々テロリストの家系だ」

「テロリスト!?」

「今も健在だ。本家は日本を飛び出して海外に行ったらしいけどね」

 

歪空の本家はイギリスに在住している。このことは伏せておいた。この情報は知らなくてよいだろう。

 

「テロってことは歪空が世界中のテロに加担しているとか?」

「その可能性はある。そもそも歪空が日本を出たのは日本でテロを起こせなくなったから。だから海外に出たんだ」

 

日本は海外から見ると平和だ。だが海外には紛争地帯は存在する。そこに目をつけたのが歪空である。テロリストの家系ならば日本国内に拘る必要はない。

 

「裏十三家で俺が知っているのはこれくらいだ」

 

真九郎が知っている情報はこれくらい。伏せている部分もあるが、伏せている部分は開示しなくてもよい情報だ。

大和には必要最低限の情報を与えるだけで良い。裏十三家の情報はこれだけでも十分だ。

 

「教えてくれてありがとう紅くん。やっぱり…関わらない方が良いんだね」

「直江くんは表の人間だ。裏に関わらない方が良いのは当然だよ。でも…」

「今の話を聞いたからって崩月先輩たちを恐れたりしないよ。もちろん紅くんだって」

「そっか」

 

大和の言葉を聞いて安心する。大和は心が広いようで、話だけで人のことを決めつけない。

はっきり言おう。夕乃は裏十三家だが良い人だ。その血が人殺しの血で汚れていても真九郎ははっきりと「好きだ」と言う。

彼女は彼にとって大切な家族だ。そんな彼女を裏十三家という肩書だけで悪人にはさせたくない。

 

「この話は誰彼構わず話すことは」

「しない」

 

本当に大和は話しが分かってくれて助かる。それに大和も真九郎の話を聞いて納得する。

今までモヤモヤしていたモノが消える。あとすることは風間ファミリーに話すかどうか。

 

(いや…裏十三家を知ってるのは俺だけ。ならファミリーに言う必要はないよな)

 

関わりはあるけど知らないだけ。ならばこのまま交換留学が終わるまでクラスメイトとして接するのが一番だ。

そう思って大和は裏十三家のことは心に仕舞い込んだ。この判断は正解であろう。

それでも世の中上手くいかないこともあるものだ。それが分かるまでもう少し。




読んでくれてありがとうございました。

沙也加ルートですがまさかの井上準ルートも含みました。
時間枠がメチャクチャですが、そこはスルーしといてください。

そして大和は真九郎とついに裏十三家について話しました。
ひっぱといてやっとですよ。
ここで関わらないと決めましたが・・・物語はそうはいかない


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妹の揉め事

こんにちわ。ついに沙也加ルートの話になっていきます。
しかし真九郎が絡みのでオリジナルになっていきます!!


104

 

 

揉め事の仕事が真九郎のところに届けられた。依頼者は黛沙也加である。

姉の由紀江が心配で川神市に訪れたのことだが、実際のところは別の理由もあって川神市に来たというのだ。

それは彼女たちの父親との揉め事だ。彼女たちの父親は剣聖と言われる黛大成だ。国から帯刀を許可されている人間国宝。

そんな偉人ともなりえる人と揉め事とは良くないだろう。まさか暴力でも振るわれているのだろうか。どんな人間にも隠された人格はある。

表では優しくても裏では凶悪な一面があったりするものだ。家庭内暴力なんてまさにその典型だ。

沙也加はとても良い子だ。こんな子が不幸な目に合うのは不条理である。ならば真九郎は揉め事処理屋として解決しなくてはならない。

プロとして心を落ち着かせて沙也加の言葉を待つ。申し訳なさそうな顔をしているが、そんな顔はしないでほしい。どんな揉め事も処理するのが揉め事処理屋なのだから話してほしい。

 

「紅さん…実は」

「うんうん」

「お父さんが…私を結婚させようとするんです。結婚というかお見合いをさせようとしてるですかね」

「え?」

 

予想していた揉め事と違くてつい間の抜けた声を出してしまった。だがよくよく考えてみよう。お見合いに関しての揉め事なんてよくあるものだ。

これも立派な揉め事だ。もしかしたら無理矢理お見合いさせようとしているのかもしれない。

話を聞いていくとあらかた正解であった。だが悪いのあるお見合いではなく、父親として善意のあるお見合いであった。

 

「お父さんは私のためと思ってお見合いの機会を作ってくれたんですが私に内緒で勝手に進めてるんです。私はまだそんなの早いって言ってるんですけどお父さんが聞いてくれなくて」

 

娘の幸せのためにお見合いをセットしたことは善意であるが、娘の沙也加にとっては有難迷惑でしかない。

 

「なるほど。じゃあそのお見合いを解消したいってことだね」

「はい。そうなんです」

 

お見合いの解消が今回の仕事。といってもやることは簡単だ。聞いてるだけだと彼女のお見合いは父親が勝手にセッティングしたのなら父親に嫌だと言えば良いだけだ。

アドバイスとして大成にはっきりと「お見合いしません」と言えばよいと沙也加に伝えるが、彼女は「それができたら…」と言いよどむ。

彼女の父親である大成はどうやら頑固でもあるらしく、一度お見合いしてからでもよいだろうとのことだ。お見合いして嫌だったなら断ればよい。そう主張するのが大成だ。

その主張も間違いではないが、ここは沙也加の主張を汲み取る。何せ彼女が依頼主なのだから。

 

「実はお父さんに遠距離恋愛をしている恋人がいるって言ったんです。だからお父さんに恋人がいるって思わせてお見合いを解消させようと思うんです」

 

この揉め事は大和たち風間ファミリーにも相談しているらしい。そして嘘の恋人作戦を実行しようと賛成したのだ。

それにこの作戦を仕立てる材料はある。姉がいる島津寮に訪れたのは遠距離恋愛の彼氏もいたという設定なら沙也加が川神市にきたのも大成も騙せるだろう。

そして嘘の恋人役だが候補として大和か真九郎の名前が挙がったのだ。遠距離恋愛という理由では2人は選ばれる要素はある。

 

「へえ、俺が」

「はい。紅さんって大人っぽいですし、恋人役としても十分だと思うんです」

 

恋人役になるのは構わないが夕乃や紫から何か言われるだろう。もし恋人役になって過ごしたら凄い目で見られるのは予想できそうだ。

だが真九郎は理由も分からないで視線を浴び続けるだろう。

 

「力を貸してもらっても良いでしょうか。姉の私からもお願いします」

「俺からも頼む紅くん」

 

由紀江や大和も頼まれる。もちろん依頼は受けよう。断る必要はないからである。

 

「お願いします」

「うん。その依頼を受けるよ」

「ありがとうございます!!」

 

まずは遠距離恋愛の恋人を決めましょうと沙也加が言う。相手は大和か真九郎だ。どっちでも構わない沙也加は悩んでいる。

 

(うーん、直江さんも紅さんもどっちか悩んじゃいます。嘘の恋人役なのに何で悩んでるんだろう)

 

嘘の恋人役と仕立てるとはいえ、彼女も乙女だ。悩むのは仕方ないだろう。それに沙也加は大和と真九郎に淡い思いが少しだけあるのだ。

大和は知的で一緒にいるとノリ良く接してくれる。真九郎はお兄さんのようで頼りがいのある男性だ。背伸びをしたい沙也加にとって彼らは魅力のある男性だろう。

 

「えっと…じゃあ」

「ちょっと待って」

 

ここで真九郎は待ったをかける。彼女の揉め事を解決するのは決定した。だけど嘘の恋人作戦をするとは言っていない。

 

「え、でもそれじゃあ作戦が…」

「そんなことしなくてもいいじゃないか。普通に嫌だって言えば良いだけだよ」

 

真九郎の言葉は正しい。それなのに嘘の恋人作戦をやってお見合いを解消させるなんて面倒なだけだ。

 

「あの、だからお父さんは私の話を聞いてくれないから作戦を行うわけで」

「話聞いてた紅くん?」

「聞いてたよ」

 

沙也加も大和たちも嘘の恋人作戦を真剣に思って実行しようとしている。しかし真九郎からしてみればそんなことをせずともよいと思っている。

頑固な父親でも娘の幸せを願っているなら、ちゃんと沙也加の言葉を聞いてくれるはずである。余計な嘘なんてつかないで言いたいことをはっきりと言えば良いだけだ。

 

「嘘をついても結局はバレる。ならはっきりと言った方が早いよ」

「え、でも…」

「大丈夫。俺も一緒に付き添うからさ」

「紅さん…」

 

今回の解決方法は自分の本当の気持ちを言うだけで良いだけだ。

 

「それでも無理矢理にお見合いにつれていくなら俺が止める」

 

 

105

 

 

大和たちと沙也加が立案した嘘の恋人作戦は無しとなった。するのは直球勝負の会話だ。

嫌なら嫌とはっきり言うのが一番なのだ。余計なことはしなくてもいい。沙也加は言いたいことを父親の大成に言えばいい。

 

「なんだせっかく嘘の恋人作戦のためにいくつか考えてたのに」

「作戦って何さガクト」

「デートスポットの下見とか。なら今度俺様が彼女できた時に使うか」

「そもそもガクトが彼女できたらね」

「それを言うなよ京…」

 

岳人は彼女をつくるために頑張っているが全て連敗。彼は良い人なのだが、がっつき過ぎなのがいけないのだと思う。

そうじゃなければ彼ももしかしたら素敵な女性と出会えるかもしれない。

 

「ふむ、嘘を言わずにはっきりと堂々と言うか。真九郎殿は正直者なのだな!!」

 

クリスはこの作戦に賛成していたが彼女の性格上、やはり「嘘」という言葉に納得できないでいたのだ。彼女自身が作戦を立案しといて何だが。

そんな中で真九郎が嘘を言わずに正直にぶつかった方が良いと言ったのに感動していた。目をキラキラしているのは尊敬する者を見ているかのようだ。

 

「いや、俺は正直者じゃないよ。俺だって嘘はつくし」

 

流石にクリスからそんな純粋な目で見られては申し訳ない。真九郎はクリスが思っている程、正義を準ずるような者じゃないのだから。

 

「え、そうなのか!?」

「いや、人間なら嘘の1つや2つ言うだろ」

「大和は嘘ばっかりだからな」

「そんなに嘘はついてないぞ。俺の場合は策を考えてたり仕込みをしてるだけだ」

「それが義に反しているのだ」

「はいはい」

 

大和とクリスの会話には終わりはない。どっちも一方通行の意見なのだから。なのでそうそうに大和が先に折れる。

 

「真九郎殿も嘘つきなのか…」

「俺だって嘘はつくさ。クリスさんは嘘が嫌いなんだね?」

「もちろんだ。嘘なぞ正義に反する」

 

頭をポリポリと掻きながら真九郎は苦笑いだ。嘘は確かに良いものではないが、人生で生きていくには必要な時もある。

意地悪をするつもりではないがクリスには彼女の正義について少し考えてもらおう。

 

「ねえクリスさん。例えばの話をしていいかな」

「例えば?」

「ああ、ある悪人がいたとする。そしてその悪人を捕まえる善人もいる」

「ふむふむ」

「そして悪人には友人もいる。その友人は悪人が犯罪を犯しているのを知らないんだ。

だから友人は悪人のことを本当に親友だと思ってる」

「ほう」

「善人はついに悪人を捕まえた」

「それで良いじゃないか」

 

勧善懲悪の話なら特におかしいことはない。この話で要なのは友人に対してだ。

 

「ここからが本番。友人は善人に悪人のことを聞くんだ。彼はどこに行ったのかと?」

「それって…」

「さあクリスさん。君ならどう応える?」

 

友人は悪人のことを親友だと思っていて、犯罪なんて犯しているなんて知らない。そんな彼について聞いて来た友人に善人はどう返事をするのか。

真実を言うのか、嘘を言うのか。それは善人次第である。

 

「…さらに身近な人に当てはめてみようか。すいません、直江くん、川神さんに川神先輩で例えさせてもらいます」

 

善人が大和で悪人が百代、友人が一子とする。これならもっと分かりやすいだろう。一子と百代の中は見て分かるように仲良しで家族愛に溢れている。

さて、真九郎が言う例えに当てはめると一子は百代が悪人だと知らない。そんな時に捕まってしまったことで一子の元から消えてしまった。

知っているのは大和で彼女たちの仲は痛い程知っている。さあ、どう言うべきだろうか。

 

「そ、そんな…」

 

クリスは黙ってしまう。正義として真実は言うべきだと思うが感情的には言えない。

 

「んん…これは」

「意地悪言っちゃったかな。難しいよね。でも俺だったら嘘を言うよ」

「むう~」

「これに正確な答えはない。クリスさんが選べばいい」

「むむむ~」

 

クリスが悩みに悩んで頭から蒸気が噴出しそうだ。世の中にはこんな選択を迫られることもある。

結局のところ嘘を言うか真実を言うかは本人次第だが、優しい嘘を言う時もあるということだ。

 

「ま、今回は嘘を言わずに真実を言うべきだけどね」

 

話が脱線したが今回は嘘を言わずに真実を言うのだ。

 

「…ねえ紅くん。さっきの例えって実体験?」

「…ま、どうだったかな」

 

意味がありそうな雰囲気だ。きっと彼にも同じようなことがあったんだなと大和は思った。

 

「はっきり言うっていってもどうやって?」

「そんなの沙也加ちゃんのお父さんの目の前でだよ。俺も一緒に付き添うから実家までついてくよ」

「そこまでしてくれてありがとうございます」

 

やることは決まった。なら早速いつの日に行くかと決めようとしたがここで銀子がある物を持ってきた。

 

「沙也加ちゃん。貴女当てに手紙が届いてるわよ」

「あ、ありがとうございます村上さん」

 

手紙を受け取って中身を見た瞬間に沙也加は目を丸くした。

 

「どうしたの沙也加ちゃん?」

「…お父さんが来るって、川神に」

「え、そうなの?」

「ちょうどいーじゃんか。何時?」

「明日です」

「ワンモア」

「明日です」

 

急な来訪なものだ。

 




読んでくれてありがとうございます。
やっと沙也加ルートですよ。しかし真九郎の考えで嘘の恋人作戦は吹き飛ばしました。
彼からしてみれば嘘で固めずに「言いたいことは言え」で通します。

九鳳院蓮杖に堂々と言いたいことを言って納得させたし、紫を助ける時も彼女の気持ちを汲み取って助けました。
そんな彼にとってお見合いを善意とはいえ、無理やりセッティングしている父親相手なら言いたいことを沙也加に言わせるしかない。
結局のところ嘘よりも本当の言葉の方が大成に響くと思ったからです。


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剣聖と娘の対話

今回は沙也加VS大成の対話です。
原作と違いオリジナル要素の物語なので生暖かい目で読んでってください。


106

 

 

川神駅。人がゾロゾロと横断している中で一際目立つ存在がいる。外国人が見れば間違いなく『侍』と言うであろう。

彼こそが剣聖と言われる黛大成である。穏やかそうな雰囲気でありながら、刀のように鋭い気も感じる。流石は人間国宝に選ばれるだけはある。きっと今まで鍛錬した賜物なのだろう。

今日は大成に沙也加の本音をぶちまける日だ。真九郎と大和、由紀江が一緒に連れ添う。

 

「あ、父上。こちらです」

「おお、由紀江。よおく見つけてくれた。ここは電子公告がありすぎて酔いそうだ」

『ダディは相変わらず電子機器が苦手のようで』

 

電子機器が苦手な人は案外仲間の内にも1人はいるだろう。何故苦手なのかはその人自身もよく分かっておらず、ただただ操作が『分からない』のだ。

まるで遺伝子に電子機器が扱えないというモノが刻まれているが如くだ。大成もその部類の人間に当てはまる。

 

「沙也加。久しぶりだな」

「はい。お父さん…急に家を飛び出してごめんなさい」

「いや、元気なら安心したよ沙也加」

 

真九郎の見た感想だが良い父上のような気がする。

 

「ん? そこに君たちは…どちらかが沙也加のボーイフレンドかな?」

「あ、お父さん。そのことなんだけど」

「2人いるということはまさか由紀江にもボーイフレンドが出来たのか?」

「ええ!? ち、違いますよ父上!!」

「む、そうか。早とちりだったな」

「俺は紅真九郎で由紀江ちゃんたちの友達です」

「同じく直江大和です」

 

沙也加に彼氏がいるという嘘を聞いていた大成。今日の出迎えに男がいればボーイフレンドと思うだろう。そんな中で男が2人。由紀江も一緒にいれば姉妹仲良く彼氏ができたと勘違いするかもしれない。

父親の勘違いなんてスルーすればよいだけなのだが由紀江はこういうのは不得手なのか顔が赤くなっている。

 

「あの、お父さん。大事に話があります。聞いて」

「…ふむ。良いだろう」

 

大成は沙也加から何かを感じ取ったのか真剣な父親の目になる。娘が覚悟を持って何かを伝えようとしてくる。ならば父親として聞かねばならない。

ドンッと構えながら娘の沙也加から話を聞こうとした矢先に不良というかチャラそうな男性2人が絡んできた。

 

「お、サムライか~?」

「芸人じゃね。おいオッサン芸見せてくれよ~。だっはっはっはっは!!」

 

世の中、こういう輩はいるものだ。人に迷惑をかけているのに気付かない。だから変な事件が起こる時がある。

真九郎がヤレヤレと思いながら前に出ようとした時に大成が動いた。

 

「紅くん、直江くん大丈夫だ。任せなさい」

 

大成はカチンと鍔を鳴らした。すると不良の2人は気絶していたのだ。

 

(…速い)

「うーん、見えなかった」

「流石ですね父上」

「え?」

 

大和だけは分からなかったようだが、詳細は大成が不良2人にみねうちをしたのだ。

その速度はまさに神速だ。一般人じゃ絶対に彼の太刀筋を見ることはできない。

 

「場所を変えようか。これではゆっくり話も聞けない」

「そうですね」

「だがその前に川神院に訪れていいかね。川神にいる間は川神院に滞在するつもりなのだ」

 

まずは川神院に向かう。由紀江に案内されて川神院に訪れるといつも通り門下生たちが修業をしていた。

本当にいつもながら気合いと熱気が合わさり頑張っている。流石は武術の総本山。門下生たちもレベルが高いと大成は思う。

 

「鉄心殿はいらっしゃるか?」

「おお、これは黛大成殿。よくいらっしゃてくれた。修業で賑わっているが川神に滞在する間はゆっくりしていってのう」

「かたじけない。助かります」

「ほっほっほ。門下生たちも剣聖が来たとはりきっておるわい」

「私も昔の勘を取り戻すために若者の中に入り、修業するのも良いかもしれません」

 

大成は昔と比べて今は剣の腕が少し落ちたと実感している。ならば川神院で腕を磨き上げようと思ってるのだ。

川神院ならば昔の勘を甦らせるかもしれない。そう思って一緒に修業するのも良いだろう。

 

「黛さん。こんにちわ!! 今日からよろしくお願いします!!」

「こんにちわ。よろしくお願いします!!」

 

川神姉妹も奥から走って来た。今日から川神院に滞在するのだから挨拶は大切だ。

 

「ん、沙也加ちゃんにまゆっちも来てるのか」

 

百代がグッと親指を立てる。これからの対話に「頑張れ!!」と応援してくれているのだ。沙也加も意味を汲み取って首をコクコクと縦に振る。

補足だが川神姉妹は大成に修業を見てもらえるようにと約束をしてもらった。ちゃっかりしている姉妹だ。戦いが好きな姉に努力家の妹ならではかもしれない。

 

「じゃあ私たちが今滞在している島津寮に行きましょう」

「ああ。話を聞こう」

 

川神院から島津寮から案内。

 

「ここが由紀江たちが滞在している島津寮か。趣があって良い寮だな」

「はい。それにここの寮長の麗子さんはとても優しい方なんです!!」

『イイ女だぜ。オラがもうちょっと若ければ狙ってたかもしんねえ』

「そうかそうか。滞在中に挨拶せねばならんな。それにまた今度に北陸の幸を送ろう。何か好きな幸があれば聞かなくてはな」

「麗子さんも喜びます」

 

北陸の美味しい幸を送られれば誰だって嬉しいし、真九郎だって嬉しい。もし五月雨荘に送られれば美味しい海の幸料理が作れそうだ。

そして環や闇絵たちに食われるというオチまで見えた。

 

「さて、沙也加。話とは何かね?」

 

真九郎がお茶とお茶請けを出す。ここからが父親と娘の対話の時間だ。

 

 

107

 

 

父親と娘の対話開始。

 

「お父さん!!」

「うむ。何かね沙也加」

「ごめんなさい!!」

 

いきなりの謝罪。

 

「ど、どうした沙也加」

「実はお父さんに嘘をつきました」

「嘘とは…?」

「私、お父さんに遠距離恋愛の彼氏がいるって言ったよね。それね、嘘で彼氏なんていない。嘘言ってごめんなさい!!」

 

まずは嘘についての謝罪だ。家出の原因が父親としても嘘をついて家出して心配をさせてしまったのだから謝罪は必要だろう。

 

「…そうか、よく謝ってくれた。自分の言った嘘を認め、謝罪する。素晴らしいことだ」

「お父さん…」

「私は怒ってない。寧ろ謝ってくれたことに感動しているよ」

 

大成は感動していた。娘が嘘を認めて謝るとは。嘘なんて言うだけ言って終わりだ。なのに娘は嘘に対して謝ったのだ。

なんて誠実な娘なのだろう。父親としてとても誇らしく思う。

 

「でね、お見合いの件なんだけど」

「うむ。もしかして受けてくれるか?」

「…それだけど」

「頑張って沙也加ちゃん」

 

真九郎が小さく沙也加を応援する。何かあれば彼が助けてくれる。心強い真九郎を信じて沙也加はついに口を切った。

 

「お見合いだけど…受けません」

「…沙也加。受けるだけでも」

「嫌ですお父さん。私ははっきり言うよ。お見合いは受けない。結婚するなら好きな人としたい!!」

 

お見合いをしたくない。今はそういうのは考えたくないのだ。好きな人は自分で決める。親が分からないことを決めてくれるのは悪いことではないだろう。

しかし好きな人くらい自分で決めたい。人生を寄り添ってくれる人は自分が決める。何度も、何度も言う沙也加。

 

「お父さん何度も言うよ。私はお見合いをしない。好きな人は自分で探して決める」

「…そうか」

 

大成は目を瞑り、黙る。そして口を開いた。

 

「ならばお見合いはしなくともよい。先鋒には私から断っておこう」

「ほ、本当?」

「ああ。娘が正面切って、今度は強い思いをもって父に言ったのだ。ならば私は無理強いはさせない」

 

沙也加の強い思いが父親に伝わった瞬間であった。頑固と聞いていたから渋るかと思っていたが案外簡単に彼女の気持ちを理解してくれたのだ。

 

「本当にお父さん?」

「ああ。自分の付き合う男性は沙也加自身で決めなさい」

「あ、ありがとうお父さん!!」

 

揉めると思っていたがすぐに解決した。揉め事処理屋の仕事は無かったようだ。仕事が無くなって残念のようなそうでもないような。そんな気持ちが出てくるが無事に揉め事が解決したならば良いはずだ。

解決したならば一息。新たなお茶を淹れ直す。沙也加も大成を気を張っただろう。甘さ控えめのお茶菓子を追加する。

 

「ありがとう紅くん」

「ありがとうございます紅さん」

「やったね沙也加ちゃん」

「はい!!」

 

満面の笑顔だ。本当に良かったと思う。

 

「ところで紅くん。君は?」

 

沙也加の話を真剣に聞くために大成は真九郎のことは触れなかったが、彼は一体何者か分からなかった。先ほどから沙也加の後ろで控えていたのだ。

彼氏でないなら彼は沙也加の何か分からなかったのだ。

 

「俺は揉め事処理屋の真九郎です」

「揉め事処理屋とな」

「はい」

「あのね、お父さん。紅さんは今回のことでいくつかアドバイスを貰ってたの」

「ほう、そうなのか」

「うん。揉め事処理屋ってのは様々な揉め事を解決してくれる職業なんだって」

「まあ、今回は沙也加ちゃんの純粋な気持ちが黛さんに届いたみたいだから出番はありませんでしたよ」

「いやいや、紅くんが沙也加にアドバイスしたのだろう。ならばちゃんと力になったはずだ」

「うん。お父さんの言う通りです。ありがとうございます。それにお姉ちゃんや直江さんたちも本当にありがとうございます」

 

今回相談に乗ってくれた全員に御礼を言う沙也加。この場に居ない者たちには後日御礼を言うつもりだ。

 

「いやはや、今回は私も悪かった。沙也加が飛び出した後、皆に窘められてしまった。それに妻からは相当怒られてしまったよ」

 

娘の扱いも刀と同じで繊細な物だと妻に言ったらさらに怒られたのは言うまでも無い。女性は刀なんかよりも繊細だ。

余談だが崩月家の女性もこの話を聞いたら大成を説教して如何に女性の気持ちをどうかと分からせるだろう。ちなみに真九郎は夕乃から女性に対しての対応は完璧に学習済みである。

 

「早速先鋒には断りの連絡はしておこう。早めに言った方がいいからな。それに明日は娘たちと川神観光もしたい」

「うん。明日は私が案内するねお父さん!!」

「ああ、楽しみにしてるよ沙也加」

 

大成が沙也加を見る目はとても優しい。今回の揉め事は父親の早すぎたお節介だった。でもちゃんと娘の気持ちを汲み取ってくれたのだ。

間違いなく良い父親だ。こんな親を持つ沙也加はきっと幸せだろう。面倒事がまた起こるかもしれないけれどもう沙也加は大丈夫だろう。自分の気持ちは正直に言えるようになったのだから。

 

「ところで父上、沙也加のお見合い相手は誰だったのですか?」

「む、沙也加の相手だがある名家の…」

「お邪魔します」

「あれ切彦ちゃん?」

 

ここで切彦が島津寮に訪れたことで沙也加のお見合い相手が誰だったのかは分からずじまいであった。

 

 

 




読んでくれてありがとうございました。

対話は案外すんなりと解決しました。原作でも黛大成は相当な頑固者ではなく、娘のことをちゃんと考える父親なので沙也加が心の籠った本音を言えば理解してくれると思ったので今回の物語はこんな感じになりました。

だから真九郎の啖呵(出番があまりなし)が切れることはありませんでしたね。
でももし、大成が頑固ものだったら真九郎は啖呵を切るでしょうね。相手が剣聖でもおかまいなしです。やっぱ凄いなあ。

そして次回は『剣聖』と『剣士の敵』が顔合わせです。
どうなることやら




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剣聖と剣士の敵

108

 

 

川神の採掘場に黛一家と真九郎に切彦、大和は来ていた。何でも川神の採掘場には綺麗な石が手に入るらしい。

大成はこういうモノが好きなので取りにきたのだ。そんな時に一文字石という石を見つけた。なんでも多くの剣士たちが腕試しで斬り付けた石らしい。

よく見ると一文字石には無数の斬傷が見える。多くの剣士たちが挑んだ痕というものだろう。真九郎はよく見るが傷だらけでも切断されてはいない、相当の硬い石のようだ。

何故か沙也加が「カッチンカッチンだよ」と自分で言っておきながら顔を赤くしていた。何故かは分からない。

 

「試すのも一興だろう」

 

腕試しということで由紀江が一文字石に挑戦だ。通常の斬撃を繰り出し、一文字石に綺麗な斬撃の痕を残した。

前に由紀江の刀を振るうのを見たことがある。努力の賜物と才能の集大成だろう。彼女の腕は間違いなく熟練者だ。

 

「わあやっぱりすごいねお姉ちゃん!!」

「ふむ、流石は由紀江だ。奥義を使えば切断することも可能だろう。しかし及第点だな」

 

今度は大成がお手本とばかりに前に出た。構えて抜刀する。

 

「ただ斬るだけでなく、石の弱い部分を見極め、そこに線を入れるように斬ればよし」

 

流石は剣聖で一文字石を容易に切断した。その教えを由紀江はすぐさま取り込む。真九郎も大和も石を刀で切断したのは初めて見た。

 

「流石剣聖だね紅くん」

「そうだね」

 

真九郎も凄いと思ってる。刀で石を斬るなんて初めて見た感動がある。しかし驚いたけれどそれほど驚きではない。

何故なら彼の横にいる切彦の方が規格外だからだ。大成のことを大したことは無いと思っているわけではない。ただ大成の本気を見ていないから真九郎は分からないのだ。

チラリと切彦を見ると興味無さそうにしている。やはり切彦にとって剣士は全くもって興味対象外のようである。殺し屋にとって剣士の気持ちは知らない。

彼女にとって剣の腕はどうでもいい。剣の技術も関係無い。ただ刃物を振るえば相手が切断されるのだから。しかも得物は切れそうな物なら何でもいいのだ。

 

「斬島切彦どの。よければ君も試してみないか?」

「私もですか?」

 

急に大成が切彦に対して一文字石を試してほしいと言う。何でそんなことを言い出したか分からないと思ったが大成は剣聖。

剣士として最高峰の存在だ。ならばそのある意味逆に存在する者である『剣士の敵』の切彦に興味を持つのは必然かもしれない。

 

(彼女が本当に剣士の敵である斬島切彦なのか?)

 

大成が切彦に対して気にしているのは正解だ。だから確かめたいのだ。全ての剣士から敵にされている存在を。

何故、切彦は剣士の敵なのか、噂は本当なのかを確かめたい。

 

「…いいですよ」

(由紀江は彼女の名前を確かに『斬島切彦』と教えてくれた。はっきり言って男性かと思っていたが女性とはな)

 

目を鋭くして彼女の動作を見逃さないようにする。

 

(彼女があの『斬島』なら『切彦』を名乗るという意味…それは間違いなく本物だろう)

 

切彦は切断された一文字石の前に立つ。大成によって切断されて半分になったとはいえ、硬度は変わらない。そんな一文字石をどうやって斬るかを大成は見る。

 

「む、得物は?」

「あ、確かに。私の刀を貸しましょうか。き、斬島さん」

「これで大丈夫です」

 

切彦がポケットから出したのはステーキとかを切るナイフであった。これには大成も「え?」という顔になるのは当然だろう。

『剣士の敵』とはいえ、特別な刃物でも持っているのかと思っていた。しかし手にしたのはただのナイフだ。しかも食事用のナイフである。

 

(あのナイフに妙な仕込みはないな。本当にただのナイフのようだ)

 

大成は斬島について斬るのが異常な程に巧いというのは知っている。だがその巧さは見たことはない。だからきっと仕掛けがあると考えていた。

その仕掛けは何か分からないが予想として機械とかを駆使した技術的なものだと思っている。そうでなければ熟練の剣士が素人に負けるとは思えない。

 

(服の何処かに何か仕込んでるのだろうか?)

 

大成は更に切彦を見る。絶対に彼女の動きを見逃さないように注意深くだ。

 

(……見極めさせてもらおう)

 

切彦は一文字石をナイフで切断した。簡単にいつも通りにだ。

 

「こ、これは…」

 

切彦の動きを確実に見ていたがやはり何も仕掛けはなかった。彼女は正真正銘ただのナイフで一文字石を切断したのだ。

これには大成を含め由紀江たちは驚く他ない。流石にナイフで一文字石を斬ろうなんて馬鹿にしているのかと思われたが、彼らの予想を遥かに超えたのだ。

彼女の持っているナイフはただのナイフで仕掛けも無し、更には服装の中に何かを隠し持っているわけでもない。それは大成が目を光らせて見ていたので間違いはない。

だから切彦は本当にただのナイフで、刀に勝るはずも無いナイフで一文字石を切断したのだ。

 

(し、信じられぬ…私と由紀江は刀で斬ったというのに彼女はナイフでだと!?)

 

これで完全に確信してしまった。彼女こそが『剣士の敵』である『斬島切彦』だ。

 

(彼女の動きを見て思ったが恐ろしく速い。だが素人の振り方だ。それでも何故あんな簡単に切断できるのだ)

 

剣士の敵と言われる由縁は斬るのが恐ろしく、異様に巧いということ。大成は「なるほど」と納得してしまう。一文字石は熟練の剣士でないと斬れない。なのにただのナイフで素人当然の振り方で切断した。これだけで彼女は熟練の剣士たちを上回った証拠となる。

これでは一文字石に痕を付けてきた剣士たちの修業は何だったのだろうと思われても仕方ないだろう。しかも今の切彦は歴代の切彦の中で一番の才能を持っている天才だ。

 

(しかもこれで発展途中なのだから恐ろしいと言う他はなかろう。あと数年でもしたら彼女は…)

 

彼女の年を考えればまだ発展途中と分かる。なのに既に壁越えレベルの実力に加えて武神の百代に劣らないだろう才能の持ち主。

 

(なるほどまさしく剣士の敵だ。私も剣聖と言われているが、これではまだまだ)

 

大成は静かに自分の剣の腕を磨き直すことを思う。剣聖の称号を貰って、娘に自分の全てを教えるつもりであったが考えを改めさせられる。

彼の剣の道はまだ止まらない。相手は剣の道を進む剣士ではないが、剣士として『剣士の敵』には負けられないのであった。

 

「斬島さんって…本当に何者なの」

(裏十三家の一角だよ沙也加ちゃん。でも言えないよなあ。あまり大っぴらには言わない方がいいって紅くんも言ってたし)

「由紀江よ。私たちの剣の腕はまだまだであるようだ」

「はい父上」

(…彼女たちが切彦ちゃんと戦ってほしくはないな)

 

 

109

 

 

レトロな雰囲気のある喫茶店にて真九郎と切彦はコーヒーを飲んでいた。黛家の川神観光を付き合っていたらもう夕刻になっていたのだ。

切彦はコーヒー砂糖とミルクを淹れてかき混ぜていた。真九郎は何も淹れずにブラックで飲む。苦味と風味が口の中に広がって良い。

 

「なあ紅の兄さん。いつオレと戦ってくれるんだよ」

 

切彦から急に決闘の催促を促された。フレンチトーストを食べるのにナイフを使うのだが、そのナイフを持って彼女はいつもどおり好戦的な性格へと豹変していた。

 

「急だね切彦ちゃん」

「だってよお…いつまでたっても決闘に応じてくれねえじゃねえか」

 

そこを突かれると何も言い返せない。しかし今は川神学園に交換留学中だ。そんな時に切彦と決闘は出来ないだろう。

如何に川神市が武術家が集い、決闘が当たり前のように行われても雰囲気に乗って切彦と決闘をするつもりはない。まだ決闘をしないだけだ。

何度も、何度も言うが切彦との決闘の約束は必ず守る。ただ、いろいろと重なって決闘を引き延ばしてるだけに過ぎない。ここは真九郎に非があるので自分自身が情けないと思う。

 

「チッ、ったくしょうがねえなあ。早くしてくれよな。それとオレ以外に殺されんなよ」

「うん、分かってる。俺は殺されないよ。ちゃんと切彦ちゃんの約束は必ず守る」

 

真九郎は切彦の目を正面切って見る。堂々と恥ずかしげになく見つめてくるので切彦はちょいと気がくるう。

 

「お、おう。早くしてくれよな紅の兄さん」

 

またも「しょうがねえなあ」みたいな感じで今回のことは許してくれたようだ。

ナイフでフレンチトーストを切って突き刺し、切彦は口に運ぶ。マナーとか関係無いが切るのは上手いのでフレンチトーストは全て一口サイズになっている。

 

「切彦ちゃんはこれからどうするの。また島津寮に来る?」

「…いや行かねえよ。ホテルに泊まってるさ。そろそろ仕事の準備が出来たしな」

「そ、そっか」

 

仕事の準備が出来たと彼女は言う。それは悪宇商会の仕事。気が重くなるが仕事なのだからどうしようもない。

彼一人の力では切彦を止めることはできないし、止める権利もない。こればかりは話題をすぐに変えた方が良さそうである。

 

「ところで切彦ちゃん。切彦ちゃんは剣聖を見てどう思った?」

「あん?」

「黛大成さんだよ。あの人は日本で認められた剣聖だし」

「前にも言ったろ。オレの前じゃ剣帝も剣聖も剣神だって同じだ。全部斬れる対象だ」

「そうなんだ」

 

やはり切彦にとって剣士は視界に入れていないらしい。全てを切断する『ギロチン』という異名を持つ切彦ならではだろう。

彼女は真剣勝負ではない。ただ斬るだけなのだから。こんな彼女だから剣士たちには『剣士の敵』とも呼ばれる由縁かもしれない。

 

「あのオッサンも強いだろーけどオレの前じゃ変わんねえよ」

 

大成が聞いたら怒りそうだ。大成の場合は静かに怒るタイプな気がするとどうでもよい想像をしてしまった。

今日は偶然、切彦は黛家の観光と一緒であった。ならば剣聖の大成は切彦に対して何か思っていただろう。特に一文字石の時は目を鋭くしていた。

あの岩は熟練の剣士ではないと斬れないという。だが切彦は何気ない顔で、当たり前のように切断したのだ。しかもたまたま持っていたナイフでだ。

これに関しては剣聖として認めたくない部分はあるだろう。大成は刀を使って切断したのに、切彦はナイフだ。

切彦自身は馬鹿にしてるつもりは無いが、剣士の目からしてみれば馬鹿にしている以外ない。

 

(斬るのが異様に巧いか…でも信じられないくらい巧すぎるんだよな)

 

バターナイフや髪の毛、笹の葉なんかでどうやって硬い物体が切断できるのだろうか。やはり斬る速さ、角度、筋力などが絶妙に上手く使っているのだろうか。

裏十三家はやはり説明できないくらい謎が含まれているようだ。崩月だって『角』に関しては謎の部分だってあるのだから。

 

「ごちそうさまです」

 

フレンチト-ストを食べ終わり、切彦はナイフを置いた。すると低電力モードのようにダウナー系に戻る。

 

「お腹はいっぱいです」

「おそまつさまだね」

 

真九郎が作ったわけでは無いがつい言ってしまった。切彦がコーヒーをチビチビ飲んでいる姿は可愛い女の子にしか見えない。

こんな可愛い子が殺しの仕事をするのだから世の中は分からないものだ。そんな考えをしていると切彦が席を降りて真九郎の隣の席に移動してちょこんと座る。

先ほどまでの席を詳しく言うならばお互いに正面を向いて座っていたのだ。なのに急に真九郎の横に座る。

 

「えっと、切彦ちゃん?」

「…これでいいです」

 

真九郎は特に分からなかったが言及はしないでおいた。

周りの客からは真九郎と切彦がラブラブカップルと思われているらしい。そんなことは真九郎は鈍感なので気付きもしないが。

ヒソヒソと「可愛いカップルね」とか「あの子ったら甘えん坊」とか「頑張って」とか呟かれている。

そういえば前に紫と一緒にファミレスに言った時、急にキスされたことがある。そのキスはまるで真九郎は私のものだと言わんばかりのキスだったと思う。

それを見た客は微笑ましい目で真九郎と紫を見ていた。今の状況はその時の様子と似ていたような。

 

 

110

 

 

崩月家族や環たち、大成が川神市に来てからは毎日が充実している。だが、そんな充実した日に事件が起きてしまった。

そんな事件が起きる予兆なんてなかったはずなのに。だが世の中は事件で溢れかえっている。神様がいなかったらもっと恐ろしい世の中になっているだろう。

 

「直江くんから電話だ。もしもし?」

『紅くん。いきなりだけど力を貸してほしい』

「何があったの?」

『沙也加ちゃんが攫われた』

 

世の中は平和じゃないらしい。

 




読んでくれてありがとうございました。

さて、今回は剣聖である大成が切彦の実力をみたら?という物語でした。
私としては大成が切彦を見ても『剣士の敵』として嫌悪感を出すようなイメージはありませんでした。
人格者である大成なら切彦の実力を見て、確かに剣士として今までの剣の道を馬鹿にされるような腕前を見せられましたが目の敵にはしません。彼が思うのは剣聖という域に到達しても剣の道を進むのを止まらないと思い直すことでしょう。

だからこの物語の大成は更に腕を磨き直すことになりました。


そしてついに沙也加ルートも佳境に入ります。
あの名家が動きます。しかも原作よりもヤバイ奴が2人ほど…います。
その関係で切彦の仕事も始まります。そして大和たちが本当の裏の実力知ることになるでしょう。


沙也加ルートが終わったらそろそろ悪宇商会の最高顧問を登場させたいなあ。


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救出決行

沙也加ルートの終幕に突入です。
そしてあいつらがちょっと登場です。


111

 

 

黛沙也加が攫われたと大和から真九郎に連絡が来た。つい先日まで仲良くみんなで遊んでいたのに今日になったらいきなり物騒すぎる知らせである。

何故、彼女がこんな不幸な目に会わなければならないのだろう。彼女が一体何をしたというのだろうか。

沙也加は善人で彼女は誰かに恨まれることはしていないはずである。なのに攫われるとはどうしたものか。

 

「沙也加ちゃん…」

 

すぐさま島津寮で緊急会議が始まった。風間ファミリーや環たちが全員集合だ。

沙也加と関わった者は心配して集まってくれている。その中で由紀江はとても不安で心配している。実の妹が攫われたのだから当然だろう。そして父親である大成もまた心配している。

 

「黛さん。狙われる理由や恨みを買っているのような輩はいますか?」

「いや、いないな。しかし知らぬ間に恨みを誰かに買われている可能性はあるかもしれんな」

「それは黛さんの『剣聖』という域に達した嫉妬のようなもので恨まれているとかですかね?」

「あるやもしれん」

 

偉業などを達した者は多くの者から讃えられるが、ごく一部には嫉妬という恨みを買われることもある。その嫉妬する者に対してこちらからは何もしていないのに恨まれるとは不条理である。

しかし世の中にいる人間は全員が全員褒めたたえてくれるわけではない。

 

「それはあるかもしれませんね。武術を極める者の中でも相手の才能に嫉妬して恨んでくる人はいますからね」

「むー、相手の才能に対して恨むのは駄目よ。しかも関係無い娘に手を出すってのは許せないわ!!」

 

勝手な因縁をつける奴が無関係な人を巻き込むのは許せない。一子の言葉に納得する全員だ。

 

「今までも似たようなことはありましたか?」

「いや、無い。今回が初めてだよ。今までこんなことは一回も無かった」

 

今まで黛家に対して事件はなかった。今回の沙也加が攫われたのが初めての事件なのだ。ならば予想するに2つほど候補がある。

1つ、昔から恨みを持っている者が実行した。1つ、最近の出来事で恨みを買った者が実行したかだ。この候補だと後者が可能性があるだろう。

 

「黛さん。最近だと何か人間関係で問題が起きたりはありますか?」

「うーむ…無い。だがあるとすればお見合い相手かもしれんな」

「お見合い相手ですか?」

「ああ。お見合いの件を断ったのだが…相手はたいそうお見合いをしたいとしつこかったな。それほど沙也加を紹介写真で気に入っていたのかもしれん」

 

お見合いをするはずだった相手が沙也加を攫うとは相手はとんでもない相手だろう。普通はここまで出来るはずがない。

こんなことが出来るとしたら相手は相当な力を持っている人だろう。一般家庭ではないとしたら大物になる。

 

「ふむ。確かに沙也加のお見合い相手の家は莫大な財力と権力がある。しかし見合い写真を見て相手はそこまで余裕が無いような男とは思えんかったが…私の目は節穴だったかもしれん」

「見合い相手とは?」

「綾小路麻呂という」

「え」

 

何処かで聞いたことがある名前だ。大和たちを見ると凄く微妙な顔をしている。

 

「直江くん…俺の勘違いかな。綾小路麻呂って川神学園の綾小路先生じゃないよね?」

「…たぶんどころじゃなくて、本当に綾小路先生だろうね」

 

川神学園の教師が何をしているんだ。こんなものはニュースに放映されて、川神学園が叩かれる事件ではないか。

 

「あんのえせ平安貴族が!!」

「性格は悪いと前々から思ってたけど…これはやりすぎよ!!」

「許せねえ!!」

 

麻呂の評価は今この瞬間に地に堕ちた。しかしこれは当然だろう。教師としてあるまじき行為だ。

確かに麻呂の評価は川神学園でも低い。それでも歴史の授業では、特に平安時代での範囲授業は確かな腕を持っていたというのに。

 

「助けいくべきだ」

「紅くんなら言うと思ったよ」

 

真九郎の言葉に全員が頷く。

 

「ならなら私も力になるよ」

 

環たちも力になってくれると言う。これは百人力である。

 

「銀子。沙也加ちゃんが誘拐された場所を特定してほしい」

「もう特定したわ」

 

流石は凄腕の情報屋だ。仕事が早くて助かるものだ。

 

「凄いな銀子殿!!」

「なら今からでも突撃だ。美少女らしく正面からな!!」

 

 

112

 

 

沙也加は困惑しており、不安に駆られていた。今いる場所はまるで高級料亭の庭のような場所だ。

何故こんな所にいるかと言われれば忍者に誘拐されたのだ。そして彼女を誘拐するように依頼したのが目の前にいる平安貴族のような姿をした綾小路麻呂であった。

 

「よくやったの鉢屋よ」

 

忍者の正体は天神館の十勇士の1人である鉢屋壱助。彼は忍者の末裔として現代に忍者の名を残そうと様々な仕事をしているのだ。今回の依頼もその1つである。

 

「いえ、これも忍者としての仕事をこなしたまでです」

「うむうむ。其方の仕事ぶり素晴らしい。約束の報酬は例の口座に入れておく、の」

「では、引き続き周囲を警備してきます」

 

そう言うと十勇士の鉢屋壱助は音も無く消える。

 

「さて、麻呂はお主のお見合いである綾小路麻呂でおじゃる」

「お、お見合い相手って…貴方が!?」

 

全然お見合い写真の人物が違うので凄い勢いでツッコミをしてしまう。凄い写真詐欺である。

まさしく麻呂がお見合い写真を弄っているので違うのは当たり前である。しかしこうも別人になるほど弄るのは詐欺レベルだ。

 

「何でこんなことをするんですか!?」

「もちろん麻呂と清くお付き合いするためでおじゃる」

「誘拐する時点で汚れきってます!!」

「誘拐から始まる恋もあるでおじゃる」

「ありません!!」

 

話が通じなくて心底嫌な気持ちになる。まさかこんな人がお見合い相手なんて本当に反対した選択は正解であった。

しかし結局、誘拐なんて荒事をして対峙させられるなんて夢にも思わなかっただろう。普通では体験しないし、普通でも誘拐はされない。

 

「私はお見合いを反対しているんですよ。なのに何でですか!?」

「ふむ。それは麻呂がお主に惚れたからでおじゃ。お主の可愛らしい丸顔、それに清楚な雰囲気に黛という家名。麻呂の妻にふさわしい、の」

「私はお見合いするつもりも結婚するつもりもありません。他の人をあたってください!!」

「ふっふっふ。嫌も嫌も好きのうちっていうでおじゃる。それにこれから麻呂のことを好きになっていけば問題ないでおじゃるよ」

「そ、それって…」

 

実は沙也加は結構妄想が激しいのでこれから起きることを変に意識してしまう。それに状況が状況なので余計不安なことを思ってしまう。

これから沙也加は麻呂にどうされるのか、ナニをされるのか、襲われてしまうのかと思ってしまう。妄想が激しいからそう思ってしまうのだ。

 

「まずは手始めに清く交換日記から、の」

 

最も相手の麻呂はヘタレなのか初心なのか分からないが沙也加が妄想していることはいきなり起きたりはしない。

 

「ふふ、ふふふ。さあ麻呂と一緒に遊ぼうぞ。…麻呂についでおいで」

「うう、嫌ぁ…助けて」

 

心の底から出た言葉であった。そして彼女は物語で言うところの助け出される姫のような存在。彼女の言葉は届いたのだ。

 

「沙也加ちゃん!!」

「沙也加!!」

「く、紅さん。お姉ちゃん!!」

 

真九郎に由紀江、風間ファミリーの面々が綾小路家の隠れ屋敷に突撃してきたのであった。

 

「むお、お前たちは!?」

「沙也加を返しに貰いに来ました綾小路先生」

「沙也加ちゃんを返せ!!」

「むむむ、麻呂の恋を邪魔するか。それに不法侵入でおじゃるよ!!」

「先に誘拐という犯罪を犯したのはそっちだろーが!!」

 

これは麻呂も言い返せないが、聞いてはくれないだろう。

 

「うぬぬ。鉢屋、それに綾小路御庭番衆よ出会え出会えぇぇぇぇ!!」

 

麻呂の掛け声で壱助を筆頭に多くの綾小路のガードマンたちが現れる。

 

「おい忍者。何で麻呂なんかについてんだよ」

「これも仕事だ。恨むなら恨め。…相手を見て油断するな。奴らは実力者だぞ!!」

 

壱助の言葉に綾小路家の御庭番衆たちが目をギラつかせる。どうやら警護のリーダーは鉢屋のようだ。

そして壱助が煙幕を焚いた。モクモクと煙幕が庭を包み込む。だが百代が気を周囲に放出すると煙幕が一瞬で消える。

 

「私に不意打ちは効かんぞ」

「いや、今のは一瞬だけ隙ができれば良い」

「姉さん。麻呂と沙也加ちゃんがいない!?」

「なに!?」

 

今の煙幕は麻呂と沙也加を移動させるためのものであった。

 

「ならアタシは追いかけるわ」

「自分も行くぞ!!」

「私も向かいます」

 

一子、クリスに由紀江が沙也加を助けるのに走り出す。

 

「俺も行く」

 

真九郎も彼女たちとは別のルートで麻呂と沙也加を探しに行くのであった。

残ったメンバーは壱助と御庭番衆の片づけだ。百代に翔一たちは構える。

 

「私も頑張っちゃうよ」

「お願いします環さん!!」

 

環と翔一たちが御庭番衆やガードマンたちに突撃して次ぎから次へと殴り飛ばしていく。彼らもプロなのだが翔一たちも負けていない。仲間のコンビネーションによって綾小路のガードマンたちを翻弄しているのだ。

彼らの実力を見て環は口笛を鳴らす。学生だが実力あると認めた口笛である。だが環は彼らの倍以上は既に倒している。

 

「むう、あの女は相当な実力だな」

「もちろんだ。この私と戦えるくらいだからな」

「ほう、それはそれは。しかし今は目の前にいる武神に集中しよう」

 

壱助と御庭番衆は気を引き締める。相手は天災扱いの存在であるため初撃に全てを込めるつもりだ。

 

「沙也加ちゃんを早く助けるからさっさと終わらせるぞ!!」

「そう簡単に終わらせるとよく言う」

「行くぞ光龍覚醒!!」

「その技は御大将の!?」

「私はその先を行く!!」

 

壱助と御庭番衆の前には光耀く雷の龍が降臨した。

 

 

113

 

 

庭の反対側で巨大な雷が迸った光景を見た。

 

「おー、何か凄い雷でも落ちたんですかねえ若君サン」

「それは後でいいから目の前の不埒者を片づけるのでおじゃる!!」

「了解」

 

由紀江たちの前に大柄のアロハシャツ男が立つ。由紀江たちはすぐさま目の前の男が強い存在だと理解した。

纏う気が普通じゃない。そのおかげで3人は迂闊に動けない。すぐそこに沙也加がいるというのに助けられない。

 

「この人…強い」

「ああ。只者じゃないぞ」

 

警戒しながら目の前のアロハシャツ男を囲むように移動する。

 

「今回の警護仕事の最初の相手が女子供とはなあ。ま、でも昔ガキが相手で痛い目にはあってるからな。油断はしないぜ」

 

ガキンっと鉄の拳を合わせた。そして静かに構える。

 

「早く片づけるのじゃ『鉄腕』!!」

「オーケー!!」

「来ます!!」

 

『鉄腕』と呼ばれた男が最初に一子に殴り掛かる。だが負けじと一子も薙刀を振るう。

 

「どりゃあ!!」

「おっと、なかなかの振るうスピードだな」

「はああああああ!!」

「てえい!!」

 

クリスも由紀江も攻撃を仕掛ける。レイピアの突きと日本刀の斬撃が舞うとガキィンと鉄の腕でガードされる。

 

「やるねえ嬢ちゃん」

「まだまだ!!」

(特に刀を持つ嬢ちゃんがなかなか強い。流石はサムライガールってやつか)

 

『鉄腕』が拳を突くと地面がえぐれたのを見て、食らえば骨が折れるのは間違いないだろう。一撃でも食らえば重症である。

 

「おい『鉄腕』よ!!」

「なんすか若君サン?」

「絶対に殺すな。痛い目に合わせるだけじゃぞ!!」

「面倒っすねえ」

「相手は不法侵入者といえ麻呂の生徒じゃ。教師として殺すなんてできるかぁ!!」

 

麻呂も一応教師なので殺すなんてことはさせない。問題教師ではあるが心までは完全に腐っていないらしい。

 

「じゃあ痛い目に合わせるだけにしますよ」

「そうするでおじゃる」

「お姉ちゃん…」

 

不安になる沙也加だが姉である由紀江は安心させるために諦めない目で見る。

 

「必ず助けますから待っててください!!」

 

由紀江たちは相手がどんな存在かをまだ知らない。

 

「言うねえ。オレは悪宇商会所属『鉄腕』ダニエル・ブランチャードだ!! 行くぞ嬢ちゃんたち!!」

 

彼女たちは裏の者に立ち向かう。

一方、真九郎は別の場所で因縁の相手と再会していた。

 

「何でお前がこんなところにいるんだ」

「ちょっとした成り行きだよ小僧」

「…『サンダーボルト』」

 

本当に何で彼がここにいるのか分からなかった。

 




読んでくれてありがとうございました。

次回『鉄腕』と『サンダーボルト』との戦いです。
彼らが何故いるのか。またも悪宇商会との条約などは次回に詳しく書いていくつもりです。

しかし、由紀江たちはついに悪宇商会の者と戦う羽目になりました。ただでは済まない・・・。ついに関わる!!

そして麻呂も一応教師なので「殺すな」宣言はさせました。原作でも麻呂は教師らしからぬ存在ですが殺人まではしないですからね。

切彦は次回登場しますよ。仕事の内容が『サンダーボルト』に関することなんですよね


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嫌な再会

114

 

 

眩しすぎるくらい輝く光龍が鉢屋と綾小路家御庭番衆を黒焦げにして勝敗が決まった。

 

「く…やはり武神、強すぎる。しかも御大将の奥義を再現するとはな」

「だから私はその上をいってるぞ」

 

周辺はもう死屍累々というやつだ。翔一や岳人たちは周囲を見て「あちゃー」といった顔をしている。

 

「流石はモモ先輩だぜ!!」

「俺様の活躍まで取るなよモモ先輩~」

「おい鉢屋。沙也加ちゃんたちは何処だ!!」

 

倒れている鉢屋を叩き起こして麻呂と沙也加がどこにいるかを聞き出す。だが負けても忍者として依頼者の所在は言わない。

どんな尋問も拷問も耐え抜いて見せるのが闇に生きる忍者だ。それをすぐに分かった大和は聞いてもすぐに無駄だと気付く。

 

「一発殴っとくか?」

「やっても無駄だよ。すぐに俺たちも探しに行こう」

「なら私に任せな。気で探る」

「私も弓兵の目で探すよ」

 

京は屋根に登って周囲を見て、百代は気で探り始める。沙也加の気は遊んだ数日間で覚えている。彼女が気配を消さなければすぐに探知することは可能だ。

 

「見つけたぞ!!」

「こっちも発見したよ」

 

だが2人の表情は険しかった。

 

「な、何だこの嫌な気は?」

「モモ先輩は早く沙也加ちゃんたちのところへ!! ワン子たちは危ないよ!?」

「今行く!!」

 

百代は全力で飛跳ねて沙也加ちゃんたちがいる場所へと向かった。そして向こうで着地した。

 

「向こうで何が見えるんだ京!!」

「ワン子たちが変なヤツに劣勢になってる!?」

「何だって!?」

 

一子にクリス、由紀江がいるというのに劣勢。ならば麻呂がいる向こうには余程の手練れがいるということだ。

 

「おい鉢屋、向こうに誰がいんだよ。まさか他に十勇士がいんのか?」

「いや、十勇士は拙者だけだ。恐らく向こうにいるのは…綾小路がもしもの為に雇った護衛だろうな」

「護衛だと!?」

「詳しくは言えない。だが仲間が心配だと思うなら急げ。奴は只者じゃないぞ。忍者とは違う闇の者だ」

「チッ、オレらも急ぐぞ」

「ああキャップ!!」

 

大和たちも急ぐ。そして素早く沙也加たちの元へと跳んだ百代は静かに怒っていた。

 

「OH…空から女が降ってくるなんて流石はジャパンだぜ」

「も、ももも百代か!!」

「おい麻呂。そいつは誰だよ」

 

百代は目の前の大柄なアロハシャツ男を見て、そして後ろにいる酷く傷ついた一子たちも見る。

 

「お前は誰だ」

「…『鉄腕』ダニエル・ブランチャード。お前があの有名な武神か。初めて見る」

 

ゴキゴキと指を鳴らす仕草はダニエルをどうやって屠ろうかと考えている意味も含まれている。何故、百代が静かに怒っているかというと大事な仲間が酷く傷つけられたからだ。

戦いなら傷つくのは当たり前だ。しかし彼女たちのダメージは酷すぎる。まるで痛めつけるようにつけられた傷なのだ。

戦いで受けた傷は責めないが、拷問のように一方的につけられた傷は仲間として許さない。

 

「モモ先輩。そいつ強いぞ」

「安心しろ。すぐに倒すから。そしてすぐに沙也加ちゃんを助けるからな」

 

ゴキンと指の音を鳴らした直後に百代は『鉄腕』の懐に入り、拳を突き出した。鈍い音が響いたが手応えのある感じではなかった。

口笛を吹きながら『鉄腕』は自慢の鋼鉄の腕で防いでいた。ビリビリと響く打撃にニヤリと口をにやける。

 

「流石は表世界最強なんて言われてる武神だな。まさかここまでとはな・・・特注品じゃなきゃ砕けてたぜ」

 

そう言って『鉄腕』はお返しと言わんばかりに百代に殴り掛かる。彼女も同じように腕で防がれるがミシミシと鈍い音が聞こえる。

 

「チッ…」

 

百代は防いだ腕を見る。骨は折れてはいないがヒビは入っただろう。遠慮が一切ない攻撃で百代に傷をつける程の強者。

今までで一番分かりやすく殺気を放ってくる者でもあった。普段なら良い試合ができそうと思うだろうが、仲間を傷つけた奴にそんなことは思えない。思うのはただ蹂躙するのみ。

 

「瞬間回復」

 

ヒビの入った腕に気を集めて治癒する。腕に異常が無い確認してから構え直す。

 

「おいおいマジか。骨を折る気で殴ったんだが無傷かよ。これも武神と言われる由縁か?」

 

言い終わると同時にまた殴り掛かる。百代も負けじと殴り掛かる。突きの連打が繰り広げられた。

 

「はああああ!!」

 

今の百代に手加減は一切ない。ただあるのは相手を倒すことだけを考える。だが『鉄腕』は今まで戦った事の無いタイプの者だ。

彼は武術家ではなく軍人でもない。だからと言ってボディーガードのように護衛専門として鍛え上げられた者でもない。本当に人間を壊すのに特化したかのような者である。

 

(何者だ。いや、間違いなく裏の者だな)

 

流石の百代だってこれほどの者なら表の人間か裏の人間くらい分かる。そして正体もあらかた分かってくる。

 

(まさか殺し屋に入る部類か!?)

 

大体正解だ。正確に答えるならば彼は『戦闘屋』である。どんな人間も壊すプロである。

 

「川神流無双正拳突き!!」

「ふん!!」

 

お互いに渾身の一撃を食らう。どちらも怪力なので反発し合って吹き飛ぶのは当たり前であった。

 

「まだまだ!!」

「…こいつ、武神とはいえここまで戦えるか。本当に驚きだぜ」

 

これで裏の戦いをまだ知らないというのだから、化けたらもっと強くなるだろう。

 

「くらえ、川神流畳返し!!」

 

地面に拳を突き出し、畳の如く引っぺがした。『鉄腕』の前面に畳のような地面が映ったと思えば砕かれて破片が飛んでくる。

視覚を隠し、油断させたところを飛礫攻撃は相手を防御にまわさせる。そこをすかさず百代は無双正拳突きのラッシュで攻める。

 

「舐めるなよ武神!!」

 

『鉄腕』はラッシュの攻撃を受けながら怪力任せの拳を百代に振るう。ゴシャっという嫌な音が聞こえる。

百代は気を身体に纏わせて耐久度を上げている。『鉄腕』は規格外の体躯と改良された肉体による耐久がある。どちらも耐久力があるが百代にやや軍配が低い。

気で強化するのと改造されて強化されているのは違うのだ。気の集中が消えれば普通の肉体に戻ってしまうからだ。しかし改造された肉体は関係ない。

だから『鉄腕』は相手攻撃を食らったまま無理矢理攻撃できるのだ。頑丈な身体を持つ者ができる攻撃だろう。

 

「くっ…今度は骨が逝ったか?」

 

腕でもう一度防いだがブランと下がるのを見て舌打ちする。そしてすぐ瞬間回復で治癒する。

 

「おいおい、さっきの確かに折れたはずだろ。なのに何で直ってるんだ?」

 

『鉄腕』は考える。確かに殴った感触で百代の腕は折れたはずである。しかし、どう見ても治っているのだ。

折れた骨がすぐに完治するなんて普通ではあり得ない。あり得ないのだ。

 

(武神のやつは『瞬間回復』なんて言ってたな。何かの技か…もしくはうちのボスと同じように特異な力でも持ってるのか)

 

油断はしているつもりはない。過去に痛い目にあっているから相手がガキだろうが油断はできないのだ。だがどこか本気にはなれていなかった。それは依頼主から殺すなと宣言されているからだろう。

しかし殺す気で丁度良いかもしれない。骨を折っても回復するなら手加減は必要ない。サングラスで隠れた目がギラリとどす黒く光る。

 

「お前の耐久度に回復力…まるでうちのボスと『炎帝』並みに近いな」

「お前んところのボスに『炎帝』?」

「こっちの話だぜ」

 

脚を踏み込んでいっきに百代の間合いに入った。

 

「Hey!!」

「さっさとぶっ飛べ!!」

 

ドオンっと拳が合わさる度に衝撃がビリビリと周囲に広がる。吹き飛ばされないように一子たちは踏ん張っている。麻呂は既に吹き飛んでいる。

 

「悪宇商会所属。『鉄腕』ダニエル・ブランチャードだ!!名乗れ武神!!」

 

『鉄腕』は百代の才能を見抜いたからこそ手加減はしない。彼女は『戦闘屋』の才能がある。この仕事が終わればルーシー・メイに教えるのも良いかもしれない。

 

 

115

 

 

バチバチ両手から電撃を走らせる白人の大男。目の前の男は『サンダーボルト』の通り名を持つグレイ・ブレナー。

彼は前に真九郎が倒し、警察に現行逮捕されたはずなのだ。なのにここにいるということは脱獄したということだろう。

 

「サンダーボルト」

「よお小僧。久しぶりだな」

「何でこんな所にいる」

「脱獄したからな。海外に出るために金がいるんだよ。で、丁度良いカモがいたんでな売り込んだんだ」

 

綾小路家は莫大な財力に権力を持っている。そんな家に自分を売り込めば潜伏できるし、逃げるための金も手に入る。脱獄したグレイには本当に丁度良い隠れ家であった。

 

「んで、依頼主の屋敷に侵入者が来たかと思えばお前に再開するとは思わなかったぜ」

「俺は会いたくなかったよ」

「何だ。やっぱガキを襲ったことをまだ根に持ってんのか?」

 

ギリィと歯を食いしばり、拳をこれでもかと握る。真九郎はグレイに怒りしか湧かない。彼は紫を傷つけた張本人で、今でも当時のことを思い出すと理性が吹き飛びそうになる

 

「見ろよこの顔。まだ銃痕が残ってる。小僧だけが恨んでるわけじゃないんだぜ」

 

殺気が彼からにじみ出るが真九郎だって殺気を出す。どちらも尋常じゃないほどの殺気で一般人なら気を保てない。未熟な武術家でも2人には近づけない。

きっとここに大和たちがいれば真九郎の豹変っぷりに恐れるかもしれない。

 

「あの時の復讐してやる小僧」

「また鼓膜と股間を潰されたいか」

「もう油断しねえよ」

 

両手から迸る電撃がいよいよあり得ないくらい強くなる。前は店内での戦いで今みたいなほどではなかったが触れられれば感電死するだろう。

 

「小僧…今お前は侵入者だ。殺されても文句は言えないぜ」

「サンダーボルト。お前は脱獄囚だ。何をされても文句は言えないぞ」

 

お互いに黙る。そして互いに間が空いた後に叫んだ。

 

「死ね小僧が!!」

「黙れ!!」

 

グレイは両手を広げて突撃し、真九郎は上着を脱いで走った。上着を脱いだのはグレイの顔に被せて視覚を消すためだ。

 

「邪魔だ!!」

 

上着を電撃で焼き払い視覚を元に戻すが真九郎がいないの確認し、背後を見る。

 

「お見通しだ小僧!!」

 

電撃を振りかざすのを避ける。視覚を潰して仕留めようと思ったがグレイも馬鹿じゃない。

 

(あの高圧電圧に触れれば一撃で感電死…絶対に触れられてはならない)

「さっさと死ね」

 

掴みかかるグレイの腕を避ける。振るう腕の速さはプロ並みだが真九郎が集中を乱さなければ全て避けられる。

やはり前回と違いグレイは油断はしていない。早くグレイを潰して沙也加を探さなければならないのだ。

 

「チッ、すばしっこいハエみたいだな」

「そうか?」

「挑発には乗ってこないか。ならば…つ!?」

 

グレイが更に電撃の高圧を上げると腕に痛みが走った。何事かと思って片手を見ると包丁が突き刺さっていた。

 

「何だと!?」

 

どこから包丁なんてものが飛んできたのか。真九郎が仕込んだ物ではない。

 

「誰だ!?」

「オレだよ。よお紅に兄さん。オレの獲物を取んなよ」

「切彦ちゃん?」

 

切彦が包丁を持って屋敷の屋根に立っていた。軽やかに屋根から飛び降りて真九郎の横に立つ。

 

「獲物って切彦ちゃんもしかして」

「そいつはオレの仕事の獲物なんだよ」

 

彼女が前々から言っていた仕事とは脱走したグレイの始末か捕縛であったのだ。その仕事に真九郎たちも一緒に混ざってしまったのだ。こんな偶然もあるもだがなんという確率だろう。

 

「まさかお前はギロチンか!?」

「よおデカブツ」

 

グレイは片手に突き刺さった包丁を抜く。状況は一変した。

自分を追う者がいるくらいは理解していたがまさか『ギロチン』が出てくるとは思わなかった。戦っても負けるつもりは無いが状況が状況なだけに不利ではある。

2対1で、しかも相手が『ギロチン』なら勝てない。それに片手は潰されたために電撃も出せない。

 

(ここは撤退しないとな)

 

無事である片手から最大の電圧を出す。触れれば切彦だってただでは済まない。だから斬られるのを覚悟して突っ込む。腕一本で切彦を殺せるのならば安い代償なものである。

 

「死ね『ギロチン』」

「死ぬのはてめーだ」

 

切彦は無慈悲に電撃を出すグレイの手首を包丁で切断した。

 

「ぐうおおおおお!?」

 

斬られた手から鮮血の血飛沫が飛び散る。身体に浴びる切彦は気にせずにグレイの胴体を斜めに斬った。

ボタボタと血が垂れていくグレイに切彦はトドメに首を落とそうした時、真九郎が彼の後頭部に容赦の無い蹴りで意識を刈り取った。

 

「おい紅の兄さん。何で邪魔すんだよ」

「邪魔する気はない…ここには直江くんたちもいるからね。やるなら彼らのいない場所で仕事をしてほしい」

 

悪宇商会の仕事を邪魔する気はない。だけどここでは仕事をしないでほしい。ここには大和たちがいるのだ。ここで殺し屋の仕事を表の人間である彼らに見せるわけにはいかない。

それに切彦と彼らは少し仲良くなってきたのだ。できれば彼らに切彦の『ギロチン』の姿は見せたくなかったのだ。

こんな考えは真九郎の馬鹿で未熟なワガママだ。切彦はなんとも微妙な顔をしている。

 

「甘いな紅の兄さんよ」

「いいよ、それでも」

「チッ…まあ仕事も始末か捕獲のどっちかだからな」

「ありがとう」

 

包丁に刃に付いた血を拭いとる。

 

「じゃあ運ぶの手伝えよ」

「分かった。でもその前にこっちもやることがあるんだ」

「何だよそれ?」

「ちょっと誘拐されたから助けに」

「あっそ」

 

真九郎は沙也加のもとへと急ぐ。だがそこではまた何とも言えない再開があるのは数分後のことである。

 




読んでくれてありがとうございました。

今回の話は百代VS鉄腕と真九郎と切彦VSサンダーボルトでした!!
結構悩みましたが、百代と鉄腕の戦いはまだ続く感じです。
百代は強すぎますけど悪宇商会の戦闘屋なら百代にダメージを与えられると思って今回のような戦闘描写になりました。そして裏を知らない百代ですが実力は規格外なので一子たちと違って戦闘屋と戦えるという設定ですね。

そしてサンダーボルト戦ですが切彦が出れば勝負は長引かず決着でした。
仕事内容もバレてかもしれませんが彼の始末か捕縛でした。
サンダーボルトも強いですが切彦の方が異様な強さなので一蹴したような感じになりました。
出番を切彦に奪われた真九郎は仕方ありません。彼女の仕事ですしね。

次回は真九郎が鉄腕と再会です。


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奪還

こんにちは。
今回の話で沙也加ルートは終了です。


116

 

 

「川神流雪達磨からの川神流星砕き!!」

 

腕に送った気を冷気に変換させ、絶対零度の如く『鉄腕』の片腕を凍らせた。流石の鋼鉄の腕も凍ってしまえば動かない。そして気を溜めた手からエネルギーが放出される。そのエネルギーは星をも砕くとも言われる威力から『星砕き』と命名された。

綾小路の屋敷から空へと一直線に放出されたが、ターゲットは『鉄腕』である。百代は渾身の気を溜めて『鉄腕』へと星砕きを放ったのだ。

 

「ぐおお…今のが『気』ってやつか。クレイジーだぜ」

 

『鉄腕』は星砕きを受けて身体中がプスプスと焦げていた。いくら改造されたの肉体でも百代の渾身の気の攻撃は十分に効いたのだ。

この威力に『鉄腕』も予想外である。こんなのが武術家とは世の中は自分が知らない間に大きく変化したようである。

気とは身体に巡る力で存在することは知っている。だがこうも目に見える程あつかえるなんて初めて見たものだ。まるでゲームや漫画のようである。

 

(まあ、ウチのボスも大概だがな)

「これで終わりだ。川神流無双正拳突き!!」

 

容赦無いの連続の正拳突きが『鉄拳』にめり込んで屋敷の壁際まで殴り飛ばされた。身体がミシミシと軋み、サングラスがパリンと割れる。

 

「姉さん!!」

「おお、大和か。今終わったぞ」

 

大和たちが百代たちのところ到着。翔一たちは傷ついた一子たちの元に駆け寄り介抱をしながら注意深く警戒するのであった。

だが、状況を見た瞬間に気が緩む。百代が敵を圧倒しているのを見れば警戒は緩んでしまうものだ。もう戦況は百代たちの勝利なのだ。それにこの後に控える切り札も残っている。

 

「だがよ。これで終わりじゃないぜ。まだ俺と同じくらいの奴は…」

「サンダーボルトはもう瀕死だ」

「ん、小僧!?」

「まさかあんたまでいるとは思わなかったぞ『鉄腕』」

 

真九郎は冷静になりながらまさかの再会をした『鉄腕』を見て、沙也加も見る。

 

「もう大丈夫だよ沙也加ちゃん」

「く、紅さん」

「まあ、見たところもう終わりのようだけどね」

 

周囲を見て完全に判断できた。勝敗は真九郎たちの勝利だ。

 

「お前までいるとはな」

「こっちのセリフだ。何でここにいるんだ」

「仕事だよ仕事…邪魔する気か?」

「条約があるから俺からは何もしない」

 

悪宇商会とは休戦状態だ。そんな状況で仕事の邪魔をしたら契約違反になってしまう。前のクローン奪還戦は異例のことではあったが。

 

「それならいい。それにこっちからもちょっかいかけるわけにはいかないしな。したらうちのボスに殺される」

「…絶奈さんか」

 

真九郎の頭に過ぎる悪宇商会の最高顧問。彼女とはもう関わりたくはないが、そんなことはできないだろう。

 

「それにしても『サンダーボルト』をやったのかよ。こっちに来てもらえば面白くなったのにな」

「そうなったら俺が相手をする。あいつは悪宇商会じゃないしな」

「最もだな」

「それにサンダーボルトはあんたんところのエースが仕事で確保したよ」

「うちのエース?」

「…ギロチン」

 

『ギロチン』という言葉を聞いて全てを察した『鉄腕』であった。

切彦ならよっぽどのことがなければヘマはしない。『鉄腕』は『サンダーボルト』の首でも切断されたかと思って合流する案を忘れた。

 

「じゃあ俺1人でやるか」

 

黒焦げの身体を動かすが真九郎は止める。

 

「何だ。仕事の邪魔をするな。契約違反だぜ」

「違う。もう護衛の仕事がキャンセルになるからだよ」

「どういうことだ」

「今から分かる」

 

真九郎は麻呂の方に顔を向ける。

 

「ば、馬鹿な麻呂の護衛たちが!?」

「さあて、一発覚悟してもらうぜ!!」

「ひいっ!?」

 

だが大和が止める。あんな奴でも教師は教師だ。こんな奴が教師なのかも疑問ものではあるが。

 

「大丈夫だ。然るべき適任がいる」

「え、誰?」

「大和、連れてきたよ!!」

 

卓也が連れてきたのは大成と麻呂の実の父親であった。

 

「麻呂おおおおおお!!」

「ひいいい、父上えええ!?」

 

子が最悪だったとしても親も同じというわけではない。逆も然りである。

 

「麻呂よ…これはどういうことだ!!」

「ひいいい!?」

 

麻呂の父親は怒髪天というのが似合うくらい怒っていた。目なんて怒りで光り輝いているようだ。

 

「どうやら私はお前のことを甘やかしすぎたようだな。こんなことをしてしまうとは親として悲しく…怒っているぞ!!」

 

麻呂の父親の怒りは極限まで達している。大事な息子がこんな犯罪を起こしていればそうだろう。悲しみもあり、怒りもある。

 

「お、お前ら父上をどうやって!?」

「話を逸らすな麻呂!!」

「ぴえぃ!?」

 

流石の麻呂も父親には逆らえないようだ。綾小路家は莫大な財力と権力があるとはいえ、家督はまだ麻呂の父親が持っている。いかに息子とはいえ、綾小路家の全てを掌握しているわけではないのだ。寧ろ全く掌握していなく、曰く七光りのような存在だ。

七光りの息子が親に逆らえるはずも無く、麻呂の父親が登場したことによって麻呂の勝敗は決した。

 

「すまない沙也加殿、大成殿、由紀江殿。私が甘かったばかりにこんな事を起こしてしまうとは…」

 

とてもすまない顔をしている。どうやら彼はまともな人格者であるようだ。これなら真九郎たちから言うことはない。

あとは被害者と加害者同士の話し合いとなるだろう。真九郎たちは決着を見守る。

 

「沙也加殿。謝っても済まされることでは無い。なんなら麻呂と私を斬ってもかまわない」

「ぴえ、父上!?」

「それほどの事をしたのだ。当たり前だ!!」

 

寧ろそれでも許されないと思っている麻呂の父親である。

沙也加は木刀を持って麻呂の前に立つ。そして振り落とした。

 

「ぴ、ひええええええええ!?」

 

木刀は麻呂に当たらずに地面に突き刺さっていた。

 

「いいです。誘拐はされましたけど別に何もされてませんでしたから。それにこんな人を斬っても何も意味はないです」

「沙也加…」

「沙也加がそう言うなら私も刀は抜きません」

 

由紀江も沙也加と同じく刀は抜かず、そして大成もまた刀を抜かなかった。

 

「沙也加が許したのなら私も何も言うことはない」

「大成殿まで…本当に申し訳ない。麻呂も詫びよ!!」

「ご、ごめん…なさい」

「聞こえぬわ馬鹿者!!」

「ご、ごめんなさいいいいいい!!」

 

麻呂の絶叫とも言える謝罪により沙也加の誘拐事件は幕を閉じた。

 

 

117

 

 

沙也加誘拐事件のその後の顛末。

まず、黛家と綾小路家で起きた事件だがお互いに落ち着くところに落ち着いたので警察沙汰になることはなかった。

本当なら警察沙汰になってもおかしくないものだが、被害者の黛家が許したことにより事件が大きくなることはなかった。

一方、加害者の綾小路麻呂だが父親の綾小路大麻呂により深く反省させるために全て任されたのだ。今頃、山にこもって俗世を忘れさせる修業をさせられていることだろう。

川神学園に帰ってきたらきっと心の綺麗な麻呂が復帰するはずだ。復帰できればの話であるが。

次に真九郎や川神ファミリーたちだが沙也加を奪還するためとはいえ、名家の綾小路家に乗り込んだ事実は消せない。何かしらあるかと思っていたが綾小路大麻呂が全て黙認。

彼らの行動は大胆であったが全て人を助けるというものだ。そもそも最初に手を出したのは麻呂だ。ならば綾小路家が何も言えないのだ。

 

「何か言われるかと思ったけど」

「そうなったらなったで、用意はしてあったけどね」

「悪いな銀子。せっかく用意させてたのに」

「構わないわよ」

 

用意とは綾小路家が言いがかりでも言い出したら問答無用で黙らせる情報のことである。その切り札を銀子に調べるように頼んでいたのだ。

彼女曰く、大麻呂の方はやはり人格者で悪い情報は出てこなかったが、麻呂に関してはいくつか出てくるとのこと。とんでもない汚職というわけではないがちらほらと『しくじり』があるらしい。

それを財力と権力で握りつぶしていたようである。これを提示されたら大麻呂は目も当てられないだろう。

 

「でも、綾小路大麻呂さんも今回で息子の行動が分かったから彼の捜索が始まると思うから…結局見つかるのは時間の問題よね」

「銀子もそう思う?」

「ええ。ところで川神さんやクリスさんたちは大丈夫? 悪宇商会と戦ってしまったんでしょ?」

「痛めつけられたみたいけどクリスさんたちは川神院の特別な治療により回復したよ」

 

川神院は武術だけでなく医学も発達しているのだ。武術で身体を鍛えてはケガすることもある。そんなこともあれば肉体に関して詳しくなるのは当然である。

 

「そっか」

 

銀子が安心した顔をしている。あまり人と関わらない彼女にしては珍しいものだ。この島津寮に住んでいるからこそ変わったのかもしれない。

それは真九郎も同じであり、久しぶりに多くの同年代と関わっているのだ。星領学園ではあまり味わえない体験だ。

 

「悪宇商会の人はどうなったの?」

「家督の大麻呂さんが全ての実権を持ってるからね。麻呂さんが依頼した仕事は全部キャンセルになったよ」

 

仕事が全てキャンセルになれば悪宇商会だって黙って引き下がる。悪宇商会では仕事以外での殺人や私闘は禁止されている。

ならば『鉄腕』だって麻呂よりも上の大麻呂が依頼をキャンセルさせられたおかげで何もできないのだ。そこはプロなので文句も言わずに切彦と悪宇商会本社に帰って行ったのだ。

切彦は切彦で『サンダーボルト』始末せずに捕獲したので然るべきところへと連れて行ったとのことだ。『サンダーボルト』がもう脱走しないよいうに『円堂』が動くかもしれない。

 

「そう。悪宇商会もただ暴れる輩じゃないってことね」

「ビジネスライクの組織だしね」

 

『ビックフッド』の時は流石にやりすぎだと思うが、あの時は異例だったのかもしれない。

今回も悪宇商会と接触するとは思わなかったが、休戦条約は破っていない。何せ依頼主がキャンセルしたのだから真九郎に非は全くもってないのだ。

 

(それにしても『鉄腕』のやつ妙なことを言っていたな)

 

鉄腕は去る時に妙なことを言っていたのだ。今回の仕事はキャンセルされたが得るものはあったらしい。彼は「良い人材が見つかった」と言っていたのだ。

その言葉の意味が分かるのは後日のことである。おかげでまた厄介なことが起こるのだが今は真九郎は分からない。

 

「…気を付けなさいよ」

「分かってるよ」

「そういえば環さんは?」

「ああ、環さんは…」

「真九郎くーん、銀子ちゃーん!!」

 

件の環がタイミン