八幡の武偵生活 (NowHunt )
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1年 1学期
ちょっと長めのプロローグ


初めて書きました、拙い文章ですが宜しくお願いします。


 オッス、オラ比企谷八幡‼

 

 ………うん、キモいな。今俺の周りでは銃声や爆発音が聴こえているぜ☆

 

 いやいや、どうしてこうなった………。

 

 

 

 ー時を遡ること3カ月前ー

 

 

 中3の冬受験シーズン真っ最中のころ、俺こと比企谷八幡は高校を決めている最中だった。

 

 中学で黒歴史を増やしてしまった俺は、なるべく他の同級生と同じ高校を選ばないように、パンフレットとにらめっこをしていた。

 

(総武か、結構いいかもな………)

 

 と、思っていると、

 

「八幡、2週間後に学園島の近くに引っ越しな」

 

 急に親父がとんでも発言を言い出した。

 

「……は?」

 

 学園島ってあれだろ?悪名高い武偵高があるところだろ?マジでか。

 

「と、いうことで八幡、お前武偵高校受験しろ」

 

「いやいやいや、なんでそうなる。俺は嫌だぞ」

 

 なんであんな危険な連中に好き好んでならなきゃいけねーんだよ。

 

「ふむ、強襲科(アサルト)がいいかもな、八幡」

 

「人の話を聞け!!」

 

「だって、近くの高校レベル高すぎてお前の学力じゃ通らないぞ。偏差値60越えばっかだかんな」

 

 確かに厳しいかもしれないけど………。

 

「だからって、なんで武偵なんだよ」

 

「自分で小町をもしもの時に助けれるようにな。武偵って何でも屋なんだろ? ま、死んだら墓は建ててやるよ。それに、面白そうだしな」

 

「後者が本音だろ………。つーか死ぬの? 俺」

 

 さらっとなんか怖いこと聞こえたぞ。

 

「知らないのか? 武偵高の殉職率3%だぞ」

 

「ふざけんな!!」

 

「ちなみに、お前に受験させようとしている強襲科(アサルト)だけだぞ。他は割と安全と聞いた」

 

「なら、そっち――「もう願書出したぞ」……仕事が早い! さすが社畜だな。……俺は働きたくないんだよ。武偵とゆーことは働くってことか。ゼッテー嫌だね」

 

「なら浪人だなー」

 

 高校浪人は嫌すぎる。

 

「クソがっ。ならせめて安全な科に変更出来るか?」

 

「御愁傷様です! いやな、お前が2年になったら出来るぞ。そうなったら、同級生との実力差が開いているんだろーなー」

 

 逃げ道なしか。詳しくないけど、1年も離れてたらキツいだろうな。

 

「ちっ、分かったよ。強襲科(アサルト)で3年間生き抜いてみせる。死んだら化けて親父を殺してやんよ」

 

「よし、決まりだな。小町は任せろ!!」

 

 我が親父ながらうぜぇな。よしこうなったら、この事伝えてやるぜ。

 

「母ちゃーん、親父のベッドの下見てみろ。色々あんぞ」

 

 しばらくするとお袋がリビングに顔を出して、手に色々持ちながらニッコリ笑顔で現れた。

 

「あらまぁ、本当だね。……お話ししましょうね、お父さん」

 

「八幡、貴様裏切ったな!……落ち着いてお母さn「隣の部屋に逝きましょう」待って、なんか漢字が違うよ」

 

 震えている親父は放っといて、にしても武偵高か~~。試験内容はっと、あれ?現地で発表か……なんか嫌な予感がプンプンするぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~回想終了~

 

 

 朝は愛しのマイシスター小町にあざと可愛く「いってらっしゃい」と、言ってもらったが、正直このクソゲーはクリア出来そうにないわ。

 

 試験内容は拳銃、グレネード、ナイフで5階建ての廃ビルで約30人もの受験生のバトルロワイヤルだな、ざっくり言うと。

 

 制限時間は1時間。

 

 まず俺は拳銃なんて今日初めて持ちました。種類は知らん。他の受験生は中等部とかで扱い慣れているらしいけど、俺は無理!脳筋すぎんだろこの学校。

 

 つーわけで、人の来なさそうな4階の隅っこで大人しくしています。

 

 バレませんようにバレませんように………。

 

 ただひたすら祈っている。

 

 時折聞こえる銃声や爆発音を聞きながら、ステルスヒッキーを発動していると終了のブザーがビル全体に鳴り響いた。

 

 ビルから出てみると、立っているのは一人だけだった(俺を除いて)。

 

 ふむ、どうやら武偵高の教師が抜き打ちで受験生を攻撃したらしいが、一人で教師を含む受験生を倒したらしい(俺を除いて)。

 

 ビルから出てきた俺を見てその受験生と試験官はかなり驚いた顔だった。いやぁ、すいませんねぇ~。驚かして。

 

 試験官に俺がどのように1時間過ごしたか説明すると、その場にいる全員叫んだ。

 

 中には「教師だって武偵なのに気配を感じさせないなんて」やら「そこは一回通ったが、気づかなかった」などなど、意外にも好評だった。あんまり褒められたことないから、なんか嬉しい。

 

 

 家に帰って1週間。試験が終わって、引っ越しした新しい部屋でゴロゴロしていると、

 

「ドア開けるよ、答えは聞いてない!」

 

 いやどこの仮面ライダーだよ、なんて脳内突っ込みしていると、

 

「お兄ちゃん! 合格だって!! いやぁ~良かったよ、これでお兄ちゃん専業主夫にならずにすんだよ。あ、今の小町的にポイント高い!」

 

 合格通知を突きつけられる。

 

「最後は余計だ。え、マジで合格したのか。……なんもしてないのに。えーと、〈あなたは強襲科Dランク武偵になりました。〉……か。わー、ホントダー。…………これで働かなきゃいけないのか。ハチマンウレシイナー」

 

 こうして、俺こと比企谷八幡の武偵生活が始まろうとしている。

 

 




批判はホドホドにしてください。おれが死にます。次はいつになるか解りません。アップされたら、こんなんあったな~、程度でいいですので
では、ばいちっ


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第1話

今からNHKのSONGSが楽しみです❗
では、どうぞ



 こうして俺こと比企谷八幡は東京武偵高校の入学が決定した。

 

 だが、問題が一つある。それは、

 

「えー………なんで寮生活しなきゃいけないんだ?」

 

 武偵高から新しい家までわりと距離あるけど、通えないこともない。お金かかるし家から通うもんだと………。

 

「だって毎日拳銃をぶら下げて帰ってこられても困るし。変な噂たてられると、そのせいで小町に迷惑かけるだろ?お前だってそれは不本意だろ?」

 

「ぐぬぬ………」

 

 確かに武偵高では、どうやら拳銃と刀剣の携帯が義務付けられている。こんな校則で小町に迷惑かけるのは千葉県の兄として(今は東京)許されない行為だ。

 

 だが、キング・オブ・ボッチの称号を持つ俺としては誰かと暮らすなんて不可能に近い。相性の良いやつじゃない限りな! だから、可能性は0じゃない。

 

「それに、やっぱり武偵って世間じゃ評判良くないんだよな」

 

 そうなのだ。やはり、武偵は常に拳銃など持ってるし、全体的に学力が低いから世間じゃ落ちこぼれ扱いらしいのだ。気持ちはわからんでもないがな。

 

 なので、仕方なく仕方なく寮生活する事にした。家から学校近いし、すぐに帰れるからね。なんなら毎週帰るし、小町を毎週愛でるし、別に拗ねてないんだからね。……拗ねてない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つーことで、せっかくの新しい家を追い出され、俺がこれから住む寮にやって来た。

 

 話を聞いたところ四人部屋なのに俺とあともう一人だけ住む予定だ。そこはグッジョブ。さあ、部屋のドアをオープン! そ~っと開ける。イケメンや怖い人は嫌だなあ~。

 

 廊下を歩いて、同僚が見えた。

 

 確かコイツはあれだ、試験の時に滅茶苦茶な強さを見せたやつだ。俺は詳しくは知らんけどな!

 

 それにしても、なんかあの時と雰囲気変わってるな。あれだわ、第一印象はネクラだな。いや、俺も人のこと言えんけどな、目腐ってるし。 

 

 などと声をかけるタイミングが分からずに1分ボーッとしていた。しかし、気付かれない。

 

 いや、いい加減気付けよ。泣くぞ! 俺泣いちゃうよ! 泣いてもいい……?

 

 すると、ようやくこっちを向いて

 

「うわっ! 全然気付かなかった、影薄すぎだろ……。あんたがルームメートか、宜しk………ん? お前……どこかで………ってそのアホ毛はあの時の試験で隠れてたやつだよな?」

 

 驚きすぎだろ、俺なんて試験でなんもしてないのにオーバーリアクションってやつだろ。

 

 駄菓子菓子、

 

「俺のアホ毛はデフォだ、気にすんな。後、その解釈で合ってる。一応自己紹介しとくと俺は比企谷八幡だ」

 

「俺は遠山キンジだ、改めて宜しくな比企谷」

 

 ネクラそうだが、俺より社交性があるな。ネクラそうだが!←ココ重要だぞ。

 

「俺はネクラじゃねーぞ、比企谷こそ目濁っているぞ?」

 

「さらっと心読むなよ、ちなみにこの目もデフォだ」

 

 人のこと勝手にディすりやがってネクラのくs「人の悪口は止めろ」……だから心読むんじゃねーよ

でも、俺の苦手な人種じゃなくて、良かった。

 

「なあ、俺どのくらい気付かなかった?」

 

 遠山が興味深そうに聞いてきた。

 

「1分以上はボーッとしていたぞ、少しも気付いた素振りも無かったな」

 

 その時の遠山の表情はなんつーか驚愕?みたいな感じだった。何をそんなに驚く?試験が終わった時もそうだが、ただ影が薄いだけだろう。

 

「すまんが、下に親父の車に荷物あるから、取りに行ってくるわ」

 

「あ、ああ………」

 

 

 

 

 

 

  ーキンジsideー

 

 比企谷が荷物を取りに行った後、少し考え事をした。

 

 俺こと遠山キンジが比企谷八幡という男を初めて知ったのは試験が終わった頃だった。

 

 試験中はある幼なじみのせいでHSS――別名ヒステリアモードになっていた。

 

 このヒステリアモードとは俺が性的興奮して、どうちゃらこうちゃらで所謂、超人になるものだ。

 

 厄介なことにこのモード中では女の前でナルシストみたいな行動をとってしまう。

 

 要するに俺はヒステリアモードには成りたくないのだ。後でかなりの自己嫌悪に襲われるからな。

 

 だが、ヒステリアモードで試験を受けてしまい、他の受験生や奇襲してきた教師も倒した。しかし、比企谷には全く気付かなかった。

 

 もしあいつが素人ではなく、技術があったら、俺はヒステリアモードでも気付けずに簡単に殺られていただろう。その確信がある。

 

 比企谷が部屋に入ったときもあいつの気配が解らなかった、あそこまでくれば才能か?

 

 戦闘スキルを習得したら不意打ちに関しては最強になるんじゃないか、一般中でどうやったらあんなに気配を消せるのか、と頭の中で考えを巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ー八幡sideー

 

 遠山と部屋の割り振りや金の管理など色々と話終わった頃にはもう夕方の4時になっていた。

 

 ここは東京だからマッ缶がない! なので、ノーパソでマッ缶を一箱申し込んだりしていると、遠山が、

 

「今日の飯当番比企谷だろ?冷蔵庫今空だから、何も作れないし、適当にコンビニ弁当にするか?」

 

 ふむ、確かに引っ越したばっかしだしどうしようか………などと迷っていると、

 

 

 

 ――――ピン、ポーン。

 

 

 

 と、お上品なかんじにインターホンが鳴った。すると、遠山の体がビクッと震えた。えっ、なにそれ面白い。

 

 俺も玄関まで付いていき、遠山が恐る恐るドアを開けるのを見る。すると、そこからまさしく大和撫子みたいな美人な女子が来た。

 

「おじゃまします、キンちゃん、さっきは本当にありがとうね」

 

「別にいいから帰って帰って」

 

 ワースゴイブッキラボウダー。……つーか遠山あんな美少女なのに対応適当すぎんだろ。あいつはリア充かよ、死ねばいいのに。俺の敵だ!

 

「そんなこと言わないでよ、キンちゃん」

 

 メッチャ涙目。

 

「くっ、とりあえずリビング上がれ」

 

「ありがとうキンちゃん。引っ越したばっかしだと思ってね、今日ね、お弁当作って来たの」

 

 遠山が美少女と言い合いしながらリビングに来たよ。あ、今の俺はソファーの隅っこでノーパソをいじっている。

 

 美人な大和撫子は俺に気付かずに隣に座ったよ。あれー?本当に気づいてないの?どれだけ影薄いの?泣くよ?

 

「キンちゃんと一緒のルームメートはどこなの?」

 

 遠山は気まずそうに、

 

「白雪………お前の隣にちゃんと座っているぞ」

 

「えっ……きゃああああ!!」

 

 やっと気付いてくれたよ、この反応今日2回目だよ。悲しい。

 

「ごめんなさい!えっと……お名前は」

 

「比企谷八幡だぞ、白雪」

 

「比企谷さんにもお弁当どうぞ」

 

 最初から2人と聞いていたのか、俺の分もある。

 

「一応紹介しとくぞ、コイツは星伽白雪。幼なじみってやつだ」

 

「こちらこそ宜しく。ほ、星伽さん」

 

 危ねーわ、なんとかきょどらずに言えたよ。

 

 それから何十分か経ってキンジと星伽さんがずっとイチャイチャしているのは端から見ていながら、飯を食べています。やっぱり遠山リア充だろ、爆発しろ!

 

 ………もういいや、部屋戻ろう。にしても星伽さんの飯美味しかったな。

 

 

 




ヤバイよ、なにがヤバイってレキと理子が出てこない
結構先になりそうで怖い
なんかすいません!
後、前回で言ったことだが、亀更新より更新不定期のほうが合ってるかな?


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第2話

前回の補足説明ですけど、試験中のキンジのヒステリアモードは白雪が不良に絡まれた時に事故ってヒステリアモードになったはず。


 武偵高入学まで残り2週間。

 

 プロローグ含んでもう3話目だぞ。時間かかりすぎだろ! ………いや、てゆーか3話目って何?武偵生活まだ始まってねーよ!! ……俺大丈夫か?

 

 まぁその話は置いといて、入学にあたって必要な物はある程度揃えた。しかし、前回言った通り……って、だから前回って何だよ?

 

 もう、いいや……。話を戻すが校則で拳銃と刀剣が必要だ。だから、武偵高の購買部で身繕わないといけない。

 

 というわけで、今俺は拳銃の一覧を見ている。にしても、色々あんだな。と感心していると、俺の目にある拳銃が映った。

 

 ーFN Five seveNー

 

 装弾数は20、ロングマガジンなるものを使えば30発もの弾が撃てる。他の拳銃に比べれば装弾数が多いな。そして、弾の種類は貫通特化だ。なんかカッコいい。

 

 そして何よりもSA○のキ○ト君が使っていた拳銃だ。よし、これにしよう。それでファイブセブンを買ったんだが、結構値段するな。

 

 他に刀剣だけど、コンバットナイフにするか。持ちやすそうだしな。重量も俺に合ってる。重すぎず、軽すぎずってやつだな。

 

 しかし、こうして拳銃を持つとなんかソワソワするな。あ? 試験? 緊張ぇまともに握ってないわ! この近くに射撃場があったな。さっそく行こうか!

 

 移動して説明書を読みながら撃つこと数分、全く当たらねぇ………。こんなに難しいのかよ、弾はとりあえず180発買った。ロングマガジンは買ってない。

 

 20発、つまり1マガジン使っても的に当たったのはたった3発だけだった。

 

 俺はかなり四苦八苦していると誰か射撃場に入ってきた。

 

「こんな時期から練習か。それは関心やけど撃ち方が全然なってないな。見ない顔やな? 新入生か?ああ、ウチは蘭豹、教師や」

 

「俺は比企谷八幡です、よろしくお願いいたしましゅ、す。」

 

 噛んでしまった。だってこの人オーラが凄いんだよ! 恐すぎだよ!

 

「確かその名前は……試験中にずっと隠れてたやつやな。いやーおもろかったで! まさかウチの教師からも隠れることができるやつがおるとはなぁ! 一般中出身やのに」

 

「そ、そりゃどうもです。それで撃ち方がなってないとは?」

 

 俺はこの台詞を言わないほうが良かった。なぜなら、このあと3時間みっちり指導されたからだ。しかもこの先生鬼教師過ぎだ。物理攻撃しょっちゅうしてくるし、もう………疲れたよ、小町。

 

 ヘトヘトになりながら帰宅するともう昼だった。寮のドアを開けた瞬間に俺はリターンした。いやだってね?星伽さんの声したもん。あんなリア充空間誰が特攻かけるか。

 

 あ、今ならこのファイブセブンで狙えるんじゃね?消音器も買ったし。

 

 でも蘭豹先生が言っていたな。確か武偵法9条だっけ?武偵は殺人禁止だとか。

 

 でもな、こんな言葉もあるんだよ〈バレなきゃ犯罪じゃない〉。俺ならバレない自信がある。影薄いしな!

 

 しかし、蘭豹先生のしごきがキツすぎてもうそんな気力なんて残って無いんだよ。練習してもまだ、命中率6割だし。慣れが必要だと先生は言っていた。頑張るか。

 

 ふん、命拾いしたな遠山よ。やべぇ、負け犬感半端ねぇ………。

 

 ダメだ、アホなこと考えすぎて流石に腹減りすぎた。どっかのコンビニで適当に済ますか。いいなあ遠山は、星伽さんの美味しいご飯食べれて………疲れた。

 

 ようやくコンビニ到着。

 

 さて、何を食べようかな? と、辺りを物色していると不思議な光景が目についた。

 

 それは水色の髪をした少女が何かを肩に担いで、大量のカロリーメイトを買っていた。

 

 ………どんくらいあるんだよ? カゴ2つぐらいあんぞ。店員も若干引いてるぞ。そんなに美味しいか、あれ? ま、趣味なんてもんは人それぞれだもんな。

 

 そんなこと考えずに自分の買い物するか、と思いながら振り返ってみるとさっきの不思議少女と目が合った。………というよりは不思議少女が俺をじっくり見ていた。俺の自意識過剰じゃないよね!? なんか怖いし、早く退散しよう、そうしよう。

 

 にしても、あの不思議少女お人形さんみたいで、美人だったな。っと、そんな考えキモすぎるな。煩悩はお祓い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーレキsideー

 

 あの人はなんだったのだろうか?

 

 特に殺気などは無かったが、風が警戒しろと言っている。目の腐ったあの人を。だったら、私は風に従うだけだ。

 

「私は、一発の銃弾」

 

 私はそう呟いた。

 

 そうだ、ただの銃弾は目標に向かって飛ぶだけ。

 

 私は何も考えない。なぜ風が命令したのか理由は考えない。………ただ、本当になぜか、彼に対して興味という感情を覚えた。

 

 




やっとレキ出てきたよ
次回からやっと入学できる予定です。あくまで予定
緋弾のアリアって2年からだから、1年の行事がわからん、やっぱりaa買うべきかな?でも金ないんだよ(´・ω・`)


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第3話

UA5700、お気に入り120突破しました
凄い嬉しいです、ありがとうございます‼
AW新刊最高でした。
それでは(o≧▽゜)o


 今俺は東京武偵高校入学式に出席している。

 

 あれから俺はランニングしたり射撃訓練したり筋トレしたりと順調に入学までの準備をこなしていた。

 

 なんでこんな立派に武偵に向けて色々とやってんの? 死んでも働きたくない俺だったのに。もう社畜に染まってきたのな。なんか泣けてきた……。

 

 勉強? 簡単すぎてすぐに終わりました、ごめんなさい。

 

 俺の嫌いな理系科目ですら、わりかしすぐにすぐに終わったぞ。大丈夫か? この学校、学力低すぎだろ。偏差値40ぐらいだったな………ナニコノ筋肉学校。

 

 これだから、評判悪いんだよ。まともな学力あれば多少はマシだっただろうに………。

 

 さすが金さえ貰えればなんでもやる仕事だな(主に荒事)。おー、怖い怖い。しかしまぁ、俺も今日からその一員なんだよな。

 

 などと考え事をしていると、校長の話が終わった。他の学校と違って話が凄かった、相応の重みがあった。やっぱりあの校長も武偵なのだろうか?

 

 まあ、先生全員が武偵って聞くしそうなのだろう。

 

 でも、校長には武偵特有のオーラが無かったように見えた。周りにいる先生はかなりのオーラというより圧がある。

 

 あれで校長が務まるのか?とりあえず顔は覚えたぞ。……なにが起こるかわかんねえしな。

 

 

 

 

 

 俺は入学式のあと俺の所属する1ーCに少し遅れて入ってきた。

 

 入った途端、

 

「うわぁ………」

 

 と、思わず言ってしまった。誰にも聞こえてないな。

 

 なぜなら、クラスの奴らが一言で言うと凄い、これに限るな。

 

 まずガタイのいいうるさい奴にかなりのイケメン、金髪の可愛い女子(かなりのブリッ子)。

 

 他には明らかに小学生だろって思うぐらい背の小さい女子。あとは遠山と星伽さんにあれはコンビニで会った不思議少女もいる。あの子武偵だったのか。

 

 他にも色々と個性的な奴らがてんこ盛り。

 

 武偵ってこんなに個性的なの? 個性的じゃないといけないの?

 

 しかし、俺にも個性ならあんぞ。個性がないという個性がな! え? それは個性とは言わない? やかましいぞ! 立派な個性だろ………そうだよね? ヤバイ不安になってきた………………。

 

 そんな話は置いとこう。とりあえずは席に座るか。

 

 席は廊下から2番目の一番後ろだ。右隣はあの不思議少女だ。関わらないように座ってからイヤホン着け寝たふりをする。

 

 寝たふりすること数分。

 

「オラー静かにせんかい、ガキ共!! 今日からこのクラスの担任をする事になった蘭豹や! 強襲科担当や」

 

 ちっ、よりによって蘭豹先生かよ。もうちょい優しそうな先生いないのかな? この学校には。

 

「今から自己紹介すんで、出席番号順で始めろ」

 

 そうして自己紹介が始まった。しばらくするとあのイケメンが自己紹介を始めた。名前は不知火亮というらしい。

 

 少し時間が経ち、次は遠山。

 

「遠山キンジです。強襲科Sランクです。」

 

 えっ、遠山ってSランクだったのか。確か一個小隊や中隊と同じくらいの強さだったはずだ。あいつそんなに強いのか。クラスもざわつく。

 

 そして、遠山が終わり、他の奴らも順当に自己紹介を終え次は俺だな。

 

 というところであの先生が

 

「次はそこのチビやな、さっさと終わらせ」

 

「平賀文、装備科ですのだ。よろしくですのだ。」 

 

 と、小学生女子の自己紹介が終わった。

 

 

 

 

 

 ――――What?

 

 

 

 

 

 俺を飛ばすな。え? ナンデナンデ俺居ますよ、ここに居ますよ! いやマジでざけんな!!

 

 蘭豹先生の方を見るとこっちに気付いてない。

 

 マジで? お願いします、俺を見て! 初対面ならまだしも、あんた俺のこと知ってるだろ! そこまで影薄いか? 存在感ないのか?

 

 前を見ると、遠山が俺の方を見て、苦笑いしている。よく見れば星伽さんもだ。アカン、ここまでくればぼっち確定かな? 確定だな………。

 

 諦めて他の自己紹介でも聞くか。えーと、星伽さんが終わって金髪ブリッ子か。

 

「峰理子でーす。探偵科だよ、みんなよろしくねっ!」

 

 ……おお、さすがブリッ子なだけある自己紹介だな。

 

 でも、何か違和感がする。それは、自分を取り繕っているみたいな……なんて言えばいいかな?

 

 自分を見せない仮面を被って、自分を偽っているみたいだな。

 

 そりゃ、もちろん外面とか色々あるんだろうが、にしたって不自然な気がする。この考えが全くの的はずれかとしれないけどな。

 

 つっても、俺と関わることなんて無いだろう。

 

 だって、生きている世界が違うから。多分あいつはスクールカースト上位に入るだろう。俺はどうだ?自己紹介も出来なかったぼっちが人の輪に入れるだろうか、いや入れない。反語です。

 

 峰の次はガタイのいい奴か。どうやら名前は武藤剛気という。名前からして暑苦しい奴だな。ただ、良い奴そう。

 

 そして、武藤から少し進んで最後に俺の隣の不思議少女の番だ。

 

「名前はレキです。狙撃科Sランクです。」

 

 言った途端クラスがまたもやざわつき始めた。

 

 それもそうだろう。ただでさえSランクは世界で人数制限があると聞く。それが1クラスに2人いるのだから騒ぐ理由もわかる。………実際問題俺もかなり驚いている。

 

 

 

 こうして、クラスの自己紹介が終わった(俺以外)。

 

 

 認めたくないが、やっと俺の武偵生活が始まろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ー理子sideー

 

 

 私は後ろを見て、1人の男子を見る

 

 いやぁ~あの目の腐った男子はちょっと面白かったな~。まさか自己紹介させてもらえないとはね。思わず笑っちゃいそうだったよ。

 

 でも、遠山キンジと星伽白雪が振り向くまでは私も気付かなかったな。

 

 ここまで人に気配を悟らせないとは………。

 

 名前は比企谷八幡か。あの隠密スキルどうやって使っているのか、知りたいな。私は力が欲しい。そして、あいつを、いつか…………。

 

 もしかしたら、比企谷八幡を<あそこ>に招待出来るかな?

 

 Sランク2人にも注目だけど、一番は目の腐った男子、比企谷八幡の動向には気を付けないとね。

 

 面白くなってきたな~、くふふっ!

 

 

 

 




前回と似たような終わりになってしまった
文才が欲しい。


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第4話

テストが近づいております、アンドネタ考え中です。
更新ペースは確実に落ちます、すいません。


「ああー、疲れたー!!」

 

 入学式から2週間が経って今は木曜日だ。

 

 自己紹介出来なかったからぼっちと思われたが、クラスでは遠山と不知火と武藤といることがある。結構あいつらいい奴だった。だが、あくまで[ある]だけで基本は独りだ。

 

 今俺は自室のベッドの上だ。

 

 武偵高の授業は予想以上に疲れる。一般科目は簡単すぎていつも寝ている。他の奴らが寝ると三角定規やチョークが飛んでくるが俺には来ないので(恐らく影が薄いから)、好きなだけ寝れる。

 

 それでも、強襲科で体力がごっそり削られる。射撃訓練にCQCをたっぷりやった。こんなにキツイとは予想外だな。やはり命を懸ける職業だからだろう。

 

 

 

 

 

 いきなりすぎるが話を変えよう、ここ武偵高は単位制だ。単位は任務(クエスト)や授業をこなすことで取得出来る。

 

 なので、俺としては早めに任務をこなし、後を楽に過ごしたい。

 

 というわけで、明日任務一覧を見に行こう。だから、俺は寝る、とことん寝る。文脈繋がってねえな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。

 

 さて、さっそく見に行こうか。張り出されている任務で楽そうで単位が多い物を選ぼう。

 

 

 

 『ビル1フロアの清掃  0.3単位  報酬 25000円』

 

 

 

 これだ! これを受けよう!

 

 てゆーか専用の人雇えよ。………いやどうやら詳細を読むと、このビルは完成したばっかりでまだ人を雇う余裕はないらしい。そこで武偵を使うのか。いやー、なかなかいい感じだな。しかしこんなことも武偵はやるのか。

 

 

 教務科に行ってこの任務を受注してきた。

 

 土曜日に開始だ。休日出勤は死んでもお断りだが、これも俺が後で楽するために仕方なく……仕方なく働く。

 

 別にこの仕事は危険というわけではない。俺は強襲科だが、なるべく危ないのは避けたいしな。

 

 寮に帰ったら、遠山の靴があった。星伽さんは……いないな。うんOK! 入るか。

 

「比企谷、先帰ってたぞ。遅かったけど、何か用事あったのか?」

 

「ああ、少しな」

 

「そうだ、明日不知火と武藤と一緒にどこかに行かないか?」

 

「すまんな、明日は任務(クエスト)があるんだ」

 

「比企谷が? 働く? ………あんなに働きたくないって、愚痴っていたのに」

 

「勘違いするなよ、遠山。後で楽したいから俺は働くんだよ。」

 

「ははっ、納得したよ。なら仕事頑張れよ。ところで、どんな任務受けたんだ?」

 

「Dランク武偵に相応しいビルのお掃除だよ。」

 

 すると、遠山は少し鋭い目で俺を見てきた。なぜだ?わからん

 

 遠山は顔を元に戻して、

 

「武偵ってそんなこともするんだな。てっきりほとんど荒事かと思ってたよ、兄さ……姉さん? や父さん、正義の味方を見てきたから」

 

 正義の味方………ね。武偵をそんな捉え方をする人もいるんだな。

 

 基本はそうなんだろうが、世間がどれだけそう認識しているかな? 犯罪紛いも平然とやると思っている者だっているはずだ。

 

「ま、悪いがあいつらには断っておいてくれ」

 

「ああ、わかった。」

 

 遠山と会話したあと授業の課題をさっさと終わらした。仕事は9時からだ。寝るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーキンジsideー

 

 

 比企谷は自分の本当の力を理解しているのだろうか

 

 [誰にも気付かれない]これは一般人の間では笑われるだけだろう。

 

 しかし、ここは武偵、命の取り合いだ。気付かれないというアドバンテージがどれだけデカイか比企谷は知っているのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ー比企谷sideー

 

 

「やっと終わったーー!!」

 

 土曜日の夕方。

 

 俺は9時から16時ほとんどぶっ通しで1フロアを掃除していた。1フロアといっても、規模が広すぎる。しかも部屋数がとにかく多い、正直誰か連れて行きたかったが、そもそも誘う奴がいない。ナニソレカナシイ。

 

「お疲れ様、比企谷君」

 

 と、このビルの管理人が話しかけてきた。

 

「ホントに疲れましたよ」

 

「そう言うと思って報酬金は1人でやってくれたし、多めにしたよ。後、武偵高校の教師には期待以上に掃除してくれた、と報告しておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

 ハチマンはお金を手に入れた。

 

 いやぁ……社畜は嫌だけど、なんか気分がいい。

 

「では、俺はこれでお疲れ様でした。」

 

「ああ、助かったよ。ありがとう」

 

 

 これで単位がゲットできた。この調子でさっさと単位取得を終わらせよう。安全な方向で。

 

 フハハハハ、案外楽なもんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………しかし、俺のこの考えはかなり甘かった。

 

 武偵は危険と常に隣り合わせということをいずれ思い知らされることになる。

 

 




こんな感じでごめんなさい!
次回は八幡頑張ります


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第5話

なんとか投稿できた
前回あんな話ですいません
戦闘描写難しすぎないですか?


 拳銃の音――――銃声が鳴り響く。

 

 ここは強襲科所有の射撃場。俺もファイブセブンを撃っていた。命中率は20メートル以内だとかなり上がって9割5分になってきた。

 

 これでもずっと色んなこと独りでやってきた。だから集中力はそれなりにある方だと自負している。

 

 とはいえ、今は近接戦の強化が必要だ。特に受け身がどうも上手くいかない。逆に殴るなかでも掌底が得意かな? 結構キレイに決まったりする。グーで殴るのは痛い。

 

 受け身は瞬時にどこでとるかを判断しなければいけない。俺は無駄に考えてしまうから、反射的に動けないことが多々ある。しかし、ダメージを抑えるために必要な技術だ。

 

 だから、見る。人の技術を盗む。今までぼっちを貫いた俺は人間観察に長けている。見ることで学習する。………だからといって、実際に練習してみないと意味ないがな。

 

 今日は同じ強襲科の遠山と不知火と特訓した。やっぱ、見るとやるではだいぶ違うな。成功率は4割ってところか、体に覚えこませるしかないな。最終的には反射レベルでできるようにならないと。何事も反復練習ってのは大切だな。

 

 

 

 

 

 学校も終わり、俺は自室のベッドで倒れこんでいる。

 

 最初のころは筋肉痛がひどすぎたが、今となってはだいぶマシになった。でも、そのぶん疲労がひどいと思う今日この頃。

 

 

 ブーッ、ブーッ!

 

 

 あ?携帯が鳴ったのか。……どうせamazonだろ、と携帯を見るとなんとLINEだった。相手は我が愛すべき妹小町からだ。

 

えーと内容は、

 

『武偵高校ってお台場の近くだよね? 今度実家に戻るときなんかお土産買ってきて。お兄ちゃん、働いているからお金あるんだよね?』

 

 親父から仕送りは貰っているが、それはほとんど生活費や食費として消える。自由に使えるお金は2万ぐらいだ。普通の高校生なら多い金額だろう。

 

 しかし、武偵は武器の補充やメンテナンスで金がごっそり消える。ぶっちゃけ金ないのだ。この前受けたお掃除での金は1万しか残ってない。

 

 てゆーか小町なんで欲しいの? 中学生の分際で。しかも新しい家から近いのに………。

 

 と、頭で考えていても結局俺は小町に甘い。小町への返事は、

 

『小町すぐに台場ぐらい行けるだろ、まあ買ったるが』

 

 とした。すぐに返事がきて、

 

『そこを気にするなんてごみぃちゃんキモいよ。お兄ちゃんが寮に引きこもると思うから外出させるんだよ! 買ってくれるなら何でもいいから。あ、今の小町的にポイント高い!』

 

 

 こ、小町の奴ちゃっかりハードル上げてきやがる。こんな子に育てた覚えはありません!!

 

 くそ………お金が消えていく。

 

 次の休日にでも台場行ってやるか。仕方ない妹だな。せっかくだし高めの鞄でも買ってやるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 台場って広いな。迷いそう。でも、鞄のめぼしい店はネットで調べた。さっそく買うか。………確かこっちの方だったよな。

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 

 

 ふー、周りの人たちには変な目で見られながら買った。そりゃそうだろ、女性向けの店に男独りでいたんだからな。

 

 でも、店員は優しかった。妹のプレゼントを買いたいと言ったらかなりの笑顔で接客してくれたからな。店員いないと精神的に死んでいた可能性がある。

 

 俺の予算オーバーして12000円の鞄買ったよ。小町喜んでくれるかね? 俺は大きめの鞄を持ってきたからそれに入れて、時間もいい具合だし昼飯でも食うかと思っていたら……

 

 

 

 

 

 ――――パァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 これは………銃声!? どこからだ?

 

 音の発生源に急いで走ると……そこには防弾アーマーを装着した奴が3人と人質と思われる女子中学生が1人だ。

 

 周りに武偵らしき人物は見当たらない。………マジかよ、俺1人か?

 

 少なくとも防弾制服着ているのは俺だけだ。状況確認終了だ。すぐに教師に連絡しなければ。

 

 蘭豹先生曰く、「応援は要請した、お前は1年で心苦しいやろうけど、なんとかしろ」との事だ。

 

 あの人は無茶を言う、戦闘経験皆無だぞ俺は。だが、それは本番の前ではなんの言い訳にはならない。………この前は案外楽と思ったが俺は馬鹿だな。

 

 

 武偵の仕事は無法者を狩ること。遅かれ早かれこうなる。そうだよ、そうなんだ。

 

 ならば比企谷八幡は、

 

 

 

 

「………任務を遂行する」

 

 

 

 

 

 

 覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、あれは近くで銀行強盗して逃げていた途中で車のガソリンが無くなって一時的に立て籠ったと言う感じだ。

 

 俺は強盗犯の位置確認をする。

 

 ……ふむ、俺がこの距離から狙えるのは2人だけだ。人質と一緒にいるのは防弾アーマーのくせに武器はナイフだけ、見たところは拳銃はない。

 

 しかし、ここから拳銃で狙うのは人質が危ない。こいつは後回しだな。残り2人はトカレフをご丁寧に1丁ずつ持っている

 

 こいつらは1人が人質をとって、残りの2人が周りを固めるというわけか。1人ではかなり厳しいな。

 

 まあいい、そんなの関係ない。やるしか選択肢ないのだから。

 

 さて、ファイブセブンでトカレフの2人を先に無力化させたい。なら撃つべきなのはトカレフを持っている手だろう。

 

 そうしたいが、人質を誤射するかもしれない。だったら、相手の機動力を奪う。狙うべきは足だ。

 

 俺の鞄を物陰に置いて、足音を殺しながら必中距離まで近づく。そしてファイブセブンを握って構える。

 

 そして、いざ行こうとしたら

 

「…………っ!」

 

 手からものすごい汗が出た。

 

 これは………ヤバイな。人を撃つのはこれが正真正銘初めてだ。命を奪うわけではない。………分かってる、分かってはいるんだ。

 

 だが、わかっていても鼓動がどんどん加速していく、手が震える。

 

 駄目だ、落ち着け。まずは深呼吸だ。

 

「ふー…………」

 

 よし、落ち着いた。大丈夫………大丈夫。

 

 第一目標は人質の安全を確保することだな。そのためには早急にあの2人を片付ける。ファイブセブンの弾<SS190弾>は物によるが、防弾アーマーぐらいなら貫通できる。

 

 ――――撃つ!

 

 

 パァン! パァン! と、銃声が辺りに鳴る。

 

 

「「ぐわぁぁ!!」」

 

 

 命中、どちらもトカレフ落としたな。

 

 チャンスだ。姿勢を低くしながら、全力ダッシュ。

 

「なんだ!? どこにいる!?」

 

 もう1人が叫ぶ。

 

 俺が見えてないのか? ………なるほど、そういうことか。まさかここで俺の影の薄さが役に立つとはな。

 

 ――――パン!

 

 そこで、俺はいきなり強盗犯の目の前で猫騙しを渚君みたいに使った。

 

 強盗犯は俺の行動に予想外らしく人質を握っていた腕が緩んだ。その隙を逃さず人質を俺のほうに引き寄せて救出。

 

 人質を逃がしていると、強盗犯はかなり動揺していた。

 

 そして、ナイフを構えながら勢いよく突っ込んでくる。

 

 だが焦りすぎて、ちゃんとナイフを握れていない。俺はナイフを持っている手を掴みながら、強盗犯の顎に掌底を叩き込んだ。

 

 キレイに俺の掌底が決まり、強盗犯は気絶した。俺が撃った2人はまだ足を抑えている。

 

「武偵だ、抵抗は止めろ」

 

 やべぇ、なんか格好いいかも、俺。……いや、今はどうでもいいな。

 

 

 

 

 

 俺がベルトについているワイヤーで強盗犯たちをぐるぐる巻きにしていると、多分上級生の武偵たちが何人かと警察が来た。

 

 そこで、状況を簡単に説明して、後の事後処理は上級生たちに任せることにした。だってもう充分働いたからね!

 

 

 俺は人を撃った。上級生たちには、

 

「あの状況を1人で犠牲者をださずに解決したのは、凄い」

 

 と言われた。

 

 でも、俺は人を撃った。武偵だったら当たり前のことなんだろうが、初めてだと………キツい。

 

 そんなことを考えていたら、タッタッと足音が聞こえる。

 

 俺が助けたらしき女子中学生がこっちに駆け寄って、

 

 

「助けていただきありがとうございました」

 

 

 と、お礼を言われた。

 

 今の気分は人を撃って、正直精神がキツかった。だから、お礼を言われて俺は嬉しかった。

 

「気にすんな。仕事だよ。それに俺は自分のために動いただけだからな」

 

「自分のためですか?」

 

「ああ、あそこで見捨てたら、寝覚めが悪いだろうし、何より妹に失望されたくなかったからな」

 

「……アハハ、なんだか捻くれていますね。ですが、助けていただいたことは変わりはありません、本当にありがとうございました」

 

 女子中学生は丁寧にお辞儀をしてきた。

 

 そうか、こんな俺でも人を救うことはできるんだな。

 

 そう思いながら俺は少し涙を流した。

 

 

 

 

 

 




長くなってすいません
この話は頭に浮かんでいたので、書けて良かったです

ではまた、ばいちっ


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第6話

投稿する時間が確実に削られてきている
遅くなりますけど申し訳ないです
あと、原作は緋弾のアリアに変更しました


 お台場の事件の翌日俺こと比企谷八幡は機嫌が良かった。

 

 機嫌が良い理由は事件解決で1学期残り全部と2学期の半分の単位が貰えた。やったね、これで、働かずにすむよ。でも、金足りなくなったら、簡単なやつで稼ぐがな。

 

 そして、もうひとつの理由は小町に会うことができるからだ。昨日買った鞄を渡すために俺は家に帰っている途中だ。やっぱり家近いし、寮生活面倒だよな~。武偵高まで45分歩けば着くし、自転車ならもっと早いし。

 

 まあ、もう決めたことをぐちぐち言うつもりはないが、小町に会う時間が減るのはとてもとても悲しい。いや、俺シスコン拗らせすぎだろ。

 

「たーしかにーぼーくはー託された………お、着いた」

 

 リゼロいいよね。

 

 せっかくの新しい家なのに圧倒的に滞在する時間が少ない。でも、寮は星伽さんがいなければ、基本は静かなんだよな。俺も遠山もあんまりしゃべんねーしな。それでも居心地が悪いとは思わない。今その話は別にいっか。

 

「ただいまー」

 

「おー、おかえりー、お兄ちゃん」

 

 小町が笑顔で迎えてくれた。さすが俺の天使。その笑顔プライスレス。

 

「ごみぃちゃん、それはかなりキモいよ」

 

「ねぇ、小町ちゃん。さらっと俺の心簡単に読まないでくれるかな?」

 

「お兄ちゃん顔にでやすいんだよね」

 

 マジか、ポーカーフェイスには自信あるのだがな

 

「それより、どうして帰ってきたの?なんか用事あったっけ?」

 

 忘れるなよ。

 

「お前が昨日何か買ってくれと言っただろうに、小町そんな頭残念でお兄ちゃん悲しいよ」

 

「本当に買ってきてくれたの!?あのお兄ちゃんが?ともかくありがとう。」

 

 うん、喜んでくれてなにより。少し余計な言葉があったけど。これでいらないとか言われたら、1週間は立ち直れないな!いや、メンタル弱すぎだろ俺………。

 

「高かったから大切にしてくれよ」

 

 買った鞄を小町に渡す。

 

「どのくらいしたの?この鞄」

 

「確か12000ぐらいだったな。しかし値段は気にすんな」

 

「わかったよ♪あ、ところでさお兄ちゃん」

 

 唐突に話を切り替えてきた。

 

「おう、なんだ小町よ」

 

「この鞄昨日買ったんだよね?」

 

「そうだが?」

 

「今日の朝刊読んだけどお台場で強盗犯が立て籠ったって書いてあったけど大丈夫だった?」

 

 記事になってたのか。知らなかった。

 

「この通り大丈夫だよ我が愛しき小町ちゃん。それより、親父たちは?」

 

「だからキモいって………。お父さんたちなら今出かけているよ。で、話戻すけど、その事件武偵が解決したんだよね?」

 

「みたいだな」

 

「人質だった子のインタビュー記事読むとね『その武偵は特徴的なアホ毛で目が濁っていた。あと、言動がなんか捻くれていた』と書いているのですが、それはもしかしてお兄ちゃんだったりする?」

 

 マジか。そんな顔の特徴書かれてるの………。

 

「そこまでくればもう確定だろ、そうだよ。俺だよ」

 

「フォ――――!凄いよお兄ちゃんが立派に人助けするなんて。小町感激だよ!」

 

 小町テンション高杉。

 

「うっせぇ。そこに俺1人しか武偵いなかったんだよ。たまたまだ、たまたま」

 

「そんなに照れなくていいのに~。この人質だった子茶髪のツインテールで可愛いね、この子の名前知ってる?」

 

「いや全く」

 

 茶髪で可愛らしい女の子だったな。

 

「何やってんのよ…………。これだからはお兄ちゃんは。もしかしたらお嫁さん候補になったかもなのに」

 

 

 

 

 

 

 などと小町としばらく言い合いして、帰宅した。

 

 明日から学校か~。あ、この土日全然休めなかったな。解せぬ。

 

 

 

 はー……、学校か~。

 

 ただでさえ月曜日は気分最悪だというのに、さらに追い討ちを駆けるが如く生徒会長が厄介な行事が近づいてきたことを連絡してきた。

 

 

 その行事の名は――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――カルテット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短くてすいません、日常の話になるとこれが限度です。

カルテットのルールは毒の一撃ではなくオリジナルルールにしてみます。
ルールに穴があったらすいません

では、ばいちっ


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第7話

テスト週間だというのに投稿しました
理子の口調が掴めない
ところで、レム可愛いですよね、あんなの反則ですよね




 カルテット。

 

 それは簡単に言えば4対4のチーム戦だ。

 

 やべぇな。まずその時点で無理ゲー。ぼっち界の王様こと俺に人と組むなんて高等技術求めんなよ。

 

 俺が話しかけたところで「え、なにこいつ?こんなのいたっけ?」で終わり。新たな黒歴史を増やすだけだ。………悲しいけど、これって現実なんだよな。

 

 1年生全員参加で場合によっては中学生も参加してもよいと書いてある。

 

 つまりサボれない。もしばれたらマフィアの娘である蘭豹先生から体罰にあう。あれは痛い、めっちゃ痛い。だから参加するしかないのだが、名簿で確認されるから俺のステルスは意味を為さない。よって

 

「誰と組めばいい…………」

 

 こうなる。

 

 クラスには碌に知り合いがいない。

 

 強いて言うなら遠山とその周りぐらいだ。あと何故かたまにレキだったっけ?そいつがジーっと見てくるくらいだ。俺何かしたっけ?あいつと話したことないんだけど。あ、クラスの奴らとほとんど話したことねぇわ。ナニソレカナシイ。

 

 周りは誰と組むかで盛り上がっている。そこは武偵云えど高校生。それでも、中学生の時みたいに和気あいあいではなく、かなり殺伐としている。

 

 それもそうか、自分の命に関わるから慎重にもなるか。

 

「………ん?」

 

 お、遠山がこっちに来た。

 

「比企谷、カルテット一緒のチームにならないか?」

 

 遠山にとっては普通に話しかけたのだろう、しかし俺としてはかなり助かった。

 

「ああ、わかった。助かる。他に誰がいるんだ?」

 

「他は不知火と武藤だな」

 

 知ってるメンバーで良かった。これで知らないメンバーだったら人見知り発動していたところだ。今更だが、遠山も知り合い少ないよな、ネクラだし。

 

「比企谷お前何か失礼なこと考えてないよな?」

 

「いや、大丈夫でしゅよ?」

 

「………そこは噛むなよ。お前尋問されたらすぐ吐いてしまって終わりだなぁ」

 

 何を心外な、俺が尋問されたら速攻で吐いてしまうぞ。あれ?遠山の言う通りだ。

 

「話がずれたな。リーダーは遠山がやれよ。俺はやらん。リーダーなんか合わない」

 

「俺が誘ったしな………。わかったよ。今から登録に行ってくるから、先に不知火たちと寮に帰っといてくれ」

 

「わかった」

 

 遠山が登録に行ったあと、不知火たちと合流して寮に戻った。俺らが戻ってから30分後経ってから遠山が帰ってきた。

 

「帰ったぞ、いきなりだけど対戦チームが発表された。3日後レキがいるチームだ。」

 

 うへぇ、マジかよ。Sランクが相手かよ。運が悪い。

 

 他の面子は俺の知ってるやつだとレキと峰だけだ。あとの2人も厄介だ。資料見たら全員女子だな。戦いにくいな~……嫌だな~………。

 

 チラッと見回すと遠山はなんか変な汗かいてる。武藤は嬉しそうだし、不知火はいつも通りニコニコしてるよ。ケッ、このイケメンが。

 

 大丈夫かな?このチーム………。不安になったきた。

 

「これが今回のルールだ、頭入れとけよ」

 

 ふむ、カルテットのルールは、

 

 『鬼ごっこ(タグ)』

 

 そのまんまだな、おい。

 

 ルールは………、

 

 1、逃げるチームは制服の胸にプラスチック製のワッペンをつける。

 

 2、鬼のチームはどんな手段でもワッペンを破壊したら勝ち。

 

 3、ワッペンが破壊されたら攻撃はしてはいけない。もし、攻撃したらそのチームは失格。但し、指示を出すのはオーケー。

 

 4、準備時間は10分制限時間は1時間、フィールドの広さは3km四方。街中でやる予定。当然通行人もいる。

 

 5、拳銃の弾はゴム弾を使用。こちらが合計50発用意する。

 

 6、勝利条件。鬼チームは全員のワッペン破壊。逃げるチームは1人でもワッペンを破壊されなかったら勝ち。

 

 

「ちなみに俺らは逃げるチームだ」

 

 

 ………これはキツイな。一見逃げるほうが楽そうだが、相手チームには天才狙撃手レキがいる。狙撃手はいるだけで行動が制限される厄介な存在だ。

 

 遠山もレキと同じSランクだが、戦う土俵が違う。俺らは逃げるチームだがレキを抑えないと勝ちは厳しいだろう。

 

 遠山たちも同じことを思ったようだな。

 

「レキをどうにかしねぇとやべぇよな」

 

 と、武藤。

 

「そうだろうね、遠山君どうする?」

 

 と、不知火。

 

「武藤に同感だが、俺に振るなよ………。比企谷なんか案あるか?」

 

 遠山、お前も同じだろ。まあいい。

 

 ふむ、狙撃手は居場所がばれるとキツイとある漫画で読んだことがある、千佳ちゃん可愛いよね。トリオンの量マジぱねぇー。

 

「まずは索敵が必要だな。なぁ武藤、お前ラジコン作れるか?」

 

「そんなの朝飯前だぜ。………なるほどな、ラジコンを飛ばして索敵か。面白ーな。任せとけ」

 

 流石だ、察したか。

 

「ラジコンにつけれるカメラってどんな性能なんだ?」

 

「俺が持っている物では撮れる距離は大体2.5kmが最大だな」 

 

「充分だ。誰かレキの射程距離知ってるか?」 

 

「確か………2051mだったかな?」

 

「でも、使う弾がゴム弾だし、だいぶ減ると思うよ。多く見積もって1800mぐらいじゃないかな?」

 

 それでもチートだろ。でもレキへの索敵はなんとかなりそうだが

 

「レキの位置がわかったとして誰がレキを抑えにいく?」

 

 リーダーの遠山が問う。

 

「レキの射程距離に入らないように逃げ回るだけじゃダメなのか」

 

 武藤の提案に俺は反応する。

 

「恐らく相手もそこまでは考えるだろう。だから、どうにかしてレキの陣地に誘い込むように動くはずた。」

 

「確かにその通りだね。でも、この中で狙撃手と戦ったことのある人はいないよね?」

 

「「「ああ、ない」」」

 

 不知火以外の声が揃う。

 

 マジでどうしよう?レキの所に向かった所で補則されたらまず簡単に殺られるだろう。

 

 あ――――!!シールド欲しいイーグレットならなんとか止めること出来るし!

 

 あれ?そういや俺影薄いよな?でも本職に通じるか?いや、確か試験の時にプロの武偵がいたよな、俺隠れることに成功したな………イケるんじゃね?

 

 ダメ元で試してみるか

 

「俺がレキを抑える」

 

「比企谷が?………そういうことか、わかった」

 

「おいおい大丈夫か?」

 

「なるほど、比企谷君が適任かもしれないね」

 

 皆が意外にも肯定的だ。だったらやれるとこまでやってやる。

 

「お前らは3人でどうするか考えろよ、3人固まるか、バラけるかどうかとか」

 

「うん、ありがとう。そうしてもらうよ」

 

 いい笑顔 死ねばいいのに イケメンは。

 

 あ、川柳出来ちゃった。エヘッ。

 

 さて、俺もレキ相手にどう動くか考えないと。噂ではレキは視力も人間離れをしているらしい。確か6.0だったな、本当にチートキャラだよな。

 

 

 

 

 

 まあ、俺が出来ることなんて1つだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 ー理子sideー

 

 今私はカルテットで同じチームと一緒に会議をしている。メンバーは私とレキと平賀文と島苺だ。レキと平賀文はクラスが一緒で島苺とは私のアミカの島麒麟の姉だ、アミカとは簡単に言えば私の弟子のこと。

 

 会議も終盤

 

「ねえねえ、レキュ~」

 

「なんですか?」

 

「使う弾はゴム弾だけど射程距離どのくらいまで撃てる?」

 

「先程試しましたが、1827mです。」

 

「それでも充分すぎるほど凄いのだ~」

 

 平賀ちゃんの意見に賛同する。全く凄いよ、その腕。

 

「うん、わかった。当日はレキュが狙撃しやすいように皆でサポート。隙あればワッペンを破壊する。これでいいよね?」

 

 私はこうまとめた。

  

「いいのだ」

 

「大丈夫ですよ~」

 

「じゃあ、解散ね、皆またねっ」

 

「さようなら」

 

「またあとでなのだ」

 

「さようならですの~」

 

 皆が帰ったあと、私は獰猛な笑みを浮かべていた。なぜなら、相手にあの人がいるからだ。その人物はSランクの遠山キンジではない。比企谷八幡だ。

 

 比企谷八幡はクラスでも認識している人は少ない。私が注目している点はそこだ。どうしたらそこまで認識出来ないほど影を薄めることが出来るのだろう?

 

 この前のお台場での強盗の事件は比企谷八幡が解決したらしい。戦闘は見れなかったけど1人で3人を圧倒した。

 

 2年になるとそのくらい普通だが、彼は調べたところ中学まではごく普通の学校で生活をしていた。だというのに初戦闘で完璧に事件を解決したと聞いた。

 

 いったい彼はどんな人生を送ったのか?

 

「楽しみにしているよ、比企谷八幡君。くふふっ、あははははは」

 

 私は自然と声を出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カルテットのルールおかしかったらご指摘下さい。
あと、理子が怖くなってきた
次回はカルテットです。


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第8話

テスト一日目終了
はい、死にました。数Bムズい

カルテットは2話予定です


 はあ……、とうとう来てしまったよ。え?何がって?カルテットだよ!

 

 心底面倒だ。中学生の時は行事をサボっても痛くもかゆくもなかったが、武偵高でサボったら、痛いんだよ、物理的に。

 

 蘭豹先生何か気に食わないことがあったら、殴るんだよ。主に恋愛事で………。コレ、この前も思ったな。

 

 その話は別にいい。しかし、やるからには自分の仕事をこなさないといけない。この考え本当に社蓄に染まってきている俺ガイル。

 

 仕事といっても隠れて、見つからないようにレキを抑えるだけだが。まあ、それが簡単に出来れば苦労しないんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 カルテットのスタート地点はステージ四隅の北のギリギリの場所だ。相手チームは対角線上つまり南にいる。最初の10分で半径1kmまで移動していいことになっている。

 

「多分レキは移動出来る範囲で一番高いビルにいるよなぁ?」

 

「恐らくそうだよな」

 

 武藤と遠山の話に俺も参加する。

 

「もしかしたらもっと高いビルに移動するかもしれない」

 

「だったら高いビルを中心的に索敵すんぜ」

 

 武藤がラジコンを空に飛ばす。

 

「ああ、頼む。俺は移動を開始する。」

 

「頑張ってね」

 

「任せたぞ、比企谷」

 

 リーダーからのお達しだ。気合い入れるか。

 

 

 

 とりあえず、見つからないようにビル群を駆けぬかないといけない。ビルの合間を縫いながら走る。

 

 おっと、移動出来る範囲はここまでだな。チラッといた監視員が俺に注意してくる。

 

 にしても1kmを走るのに3分かからないとは、少し驚いた。ただ走るだけなら未だしも、遠回りしながら走ったからな。中学とは違って結構体力ついてきたな。

 

 

 

 

 

 ブブ――――――――!!

 

 

 

 

 

 始まりのブザーが鳴った。

 

 よし、まずは武藤の連絡待ちだ。今俺はビルのオフィスに身を隠している。

 

 待つこと2分

 

『レキを見つけた、比企谷がいる地点から1.5km南東の一番高いビルにいる』

 

 俺は北西側にいる。

 

「つまり、俺は」

 

『わかってるみたいだな。もう比企谷はレキの射程圏内にいるぞ。気を付けろ』

 

「了解した」

 

 もうレキが狙える範囲に俺はいる。狙撃距離は替わるから確証はないがた。Sランクならそのくらいやるだろうな。

 

 一応の救いはレキの位置が判明していることだ。これでどこにいるかわかんないとか怖すぎだろ、全く。でも、相手はSランク。油断したら一気に殺られる、慎重に行くぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーキンジsideー

 

 相手に車輌科(ロジ)がいたことを懸念していた。

 

 今俺たちの状況は島苺が運転しているトラックで追っかけ回されている。トラックの中には峰理子、平賀文もいる。

 

 位置は多分だがレキが報告したな。あの目を侮っていた。視力6.0これ程脅威になるとは。

 

 何回かベレッタでタイヤに迎撃しているがあっさり弾かれる。防弾タイヤだ。

 

 用意がいいな。思わず舌打ちする。おまけにこっちは実弾ではなくゴム弾だ。島苺に平賀文、流石の手際だ。

 

「武藤、なんか乗り物ないのか?」

 

「悪いな、キンジ。比企谷に頼まれていたラジコンの調整が予想以上にかかっちまった。ここら辺りに捨てられいる車も無さそうだ」

 

「もうこれはバラけた方が良さそうだね、どうしよっか?遠山君」

  

 不知火の言う通り、確かにこのままでは3人まとめてレキの射程圏内に入ってしまうかもしれん。向こうの車は1台しか無いな。

 

「わかった、不知火の言う通りにしよう。比企谷からの連絡次第では合流するぞ」

 

「わかった」

 

「了解だよ」

 

 早くレキを抑えてくれよな、比企谷。一時間も車と追いかけっこは嫌だぞ。

 

 何だ?島苺が奇声を上げて同じ車輌科の武藤を狙っていた。島苺私怨とか入ってないよな?1年の中ではライバル関係と聞くけど…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー八幡sideー

 

 

 不味い、残り約700m地点で止まってしまった。理由は簡単、レキの所に近づくには10mはある大通りを通らないととても近づけない。どうするべきかと迷っていると。

 

 うん?何人かの声が聞こえる。これは…………何だ?

 

 そうか、羨ましいことに今日はカルテットに参加する生徒以外は学校休みだ。ちょうど上級生の男女集団が歩いている。しかも防弾制服で。

 

 ちょーっと邪魔するぜ。

 

 これに紛れて移動するぞ。これなら何とかなりそうだな。

 

 俺のステルスは1対1の時にも有効だけど、恐らく集団に隠れるほうがより性能を発揮する。………なんだか中二病みたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーレキsideー

 

 

 駄目だ、あの人だけ見つからない。

 

 数分前に理子さんたちにキンジさんたちがいる位置を教えたが、そこにはあの時コンビニで出会ったアホ毛が特徴な人、比企谷八幡がいない。

 

 彼は席が隣で観察しているけど、風が警戒しろと言った理由が未だにわからなかった。しかし、今日その理由が少し理解出来た気がする。

 

 それは隠密に特化している、言い方を変えればただ単に影が薄いことだ。今まで相対してきた人物はやはりそれなりの気配やオーラがしたものだ。

 

 だけど、比企谷八幡は異質なのだ、気配やオーラを感じさせない。

 

 これは比企谷八幡は私にとって一番の天敵になるかもしれない。

 

 

 

 

 その考えは今は放棄だ。それよりも、急いで探さないといけない。あそこの大通りにいる人たちは……多分休みの日だから出掛けているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー八幡sideー

 

 

 

 ふー、やっとレキのいるビルに着いた。多分バレてないはず、武藤によればレキは屋上にいるらしい。屋上に行くのにドアを開ける音で気付かれるかも・・・

どうする?考えろ、ぼっちは無駄に思考速度が速い。だから考える

 

 お、一個案を思いついた。かなり単純だけどな。この作戦のためには

 

「武藤、今どこだ?」

 

『あ――――!今トラックと鬼ごっこだよ』

 

 煩いな。向こうも大変そうだ。

 

「レキの射程には入っているか?」

 

『ギリギリ入ってねーよ、で?なんだ比企谷?』

 

「合図したら、レキに撃たれてくれ」

 

『はぁ!?どういうことだ?比企谷!』

 

 ………鼓膜破れるわ。

 

「レキにわざと撃たすために武藤にはレキに姿を見せてもらう。レキに見られたらレキの射程圏内で複雑な動きをしろ。路地裏に逃げるとか、そしたら多少は意識を武藤に向けるはずだ」

 

『そこで比企谷がレキを抑えるということだな。ちっ、わかったよ。ミスったら轢いてやるぞ、ロードローラーとかで』

 

「それは絶対嫌だ、だったら成功させるしかないな」

 

『そこは素直に任せろって言えよ、回りくどいぜ。やっぱり捻くれてんな』

 

 なんだよ、捻くれているって俺はいつでも自分に素直だぜ。

 

「じゃあ、頼むぞ」

 

 

 さてと、ビルに潜入開始。足音をなるべく殺して進むぞ。エレベーターは動いているが、エレベーターの音でバレるのは避けたい。疲れてしまうけど、走るか。

 

 

 2分で屋上のドアの前に到着した。ちなみにこのビル15階建てで登るの超大変だったよ。

 

 

「武藤、ゴー」

 

『おう』

 

 

 しばらくすると………、

 

「私は一発の銃弾」

 

 なる声が聞こえた。

 

 何だ?暗示みたいなもんか?

 

 その直後に。

 

 

 ――――――――パァァン!!!

 

 

 銃声がした。

 

 瞬間俺はドアを慎重に開けて気配を最大限に消した。そしてレキの後ろに行く。俺は右手にファイブセブン、左手にスタンバトンを持っている。

 

 スタンバトンとはスタンガンの長い棒状のような武器だ。

 

 

 レキの後ろに立ち、スタンバトンを首に当てて、

 

「ライフルをこっちに寄越せ、じゃなきゃ気絶させるぞ」

 

 

 

 

 

 

 




もうすぐ夏アニメスタート
皆さん何を見る予定ですか?

こっちはクオリディア・コード楽しみにしています!
LiSAさんオープニング歌いますからね


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第9話

テスト終わった
疲れた、本当に疲れた
そして、平均以下ばっかりorz


 ーレキsideー

 

「ライフルをこっちに寄越せ、じゃなきゃ気絶させるぞ」

 

 声が聞こえた時にはもう首筋に冷たい何かの感触があった。恐らくスタンガン辺りだろう

 

 やっと、私の今置かれている状況を理解した。

 

 比企谷八幡がいつの間にか後ろにいて、私は全く気付かなかったこと

 

 ……何であなたはそこにいるの?あなたは何なの?

 

 そう思った。

 

 とはいえ、ここでドラグノフを渡さないと気絶させられるのはわかりきっていた。だから、ドラグノフから手を離し比企谷八幡の方に置いた。

 

 それを確認すると私に届かないように移動させて私の隣に座った。

 

 そして、比企谷八幡は、

 

「あー、大丈夫そのライフル壊したりはしないから。カルテットが終わるまで俺が預かるだけだからな」

 

 落ち着いた口調でそう言った。何だか優しい?人だと感じた。

 

「遠山と不知火、レキは抑えたから大丈夫だぞ」

 

「すいません、援護出来なくなりました」

 

 2人は互いのチームに連絡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーキンジsideー

 *八幡がレキを抑える前*

 

 ふー、トラックが来ないってことはまだ武藤は殺られてないな。今のうちにビルにでも隠れてトラックを無力化させるか。

 

 と、考えていると携帯が震えた。確認すると、

 

 ………くそっ、武藤殺られたか。早く潜伏するビル決めないと。

 

 その直後、

 

『遠山と不知火、レキは抑えたから大丈夫だぞ』

 

 比企谷からの連絡が入った。

 

 もしかして武藤が殺られたのはわざとか?流石比企谷だ。これであとはトラックから逃げるだけだ。レキの狙撃がなくなるだけで大分楽になる。

 

「遠山、了解」

 

 

 

 

 

 

 

 ー理子sideー

 

「やったよ、レキュが武藤を仕留めた。次は遠山キンジだ。あいつを誘導してレキュの陣地に誘い込むよ皆」

 

「はいですの~」

 

「了解なのだ~」

 

 ところで、比企谷八幡はどこに消えた?始まってから姿が確認出来てないのだが………。

 

 

『すいません、援護出来なくなりました』

 

 と、突如レキュから連絡がくる。

 

 

 

 ………………え?

 

 

 

 

 まさか比企谷八幡が!?

 

 あのレキを抑えたの?どうやって?いくら隠密に優れているとしても、相手はレキ、Sランク武偵だ。

 

 レキが素人に殺られたのか………。

 

 いや、素人だからこそ?

 

 素人だから武偵の風格を感じるこたが出来なかったのかな?

 

 まさかここまでするとは、ますます君のことを気に入ったよ。

 

 くふふっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーキンジsideー

 

 くっそ、レキが殺られたからか、なりふり構わずトラックが突っ込んで来る。しかも、運転手は車輌科なだけあってかなり上手い。

 

 トラックを確認すると、峰理子がドアを開けて身を乗り出して拳銃を撃ってくる。

 

 待って!駄目だ、その角度は………風でスカートがめくれて、し、下着が見えてしまう。

 

 目を逸らそうにも俺はハニーゴールドの下着を目に焼き付けってしまった。

 

 

 ――――ドクン、ドクン。

 

 血流が体の中心に集まる。この感覚はなってしまったな、ヒステリアモードに。

 

 

 さて、逃げるのは女性に失礼だが、ここはビルに隠れさせてもらうよ。

 

 ビルの3階に足を踏み入れて数分後に何かがこっちに来た。

 

『これは私、島苺と平賀文特製ドローンですの。覚悟するのです』

 

 ………なるほど、ドローンか。しかもこのドローン砲身が1機につき3つ付いている。こんな改造してよくカルテットに間に合わせたね。

 

『とーやま君覚悟ー』

 

 スピーカーから平賀さんの声がした。

 

 そして、

 

 ――――パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン。

 

 俺は走って物影に隠れた。

 

 ふむ、なかなかの精度。俺の動くほうを予測して撃ってきている。結構厄介だ。

 

 多分だけど弾は平賀さんと島苺ちゃんの分が入っている。なので残りの弾は91発、俺は24発だ。大分最初に使ってしまった。

 

 でもね、ドローンは駄目だよ。島苺ちゃんは車輌科だ、ならドローンに頼らずに自分で操作すればいい。武藤みたいに。

 

 その点でいえば比企谷が正解だったな。武藤が索敵させる時ラジコンにしたのはかなり良かった。そのおかげですぐにレキを見つけることが出来たからね。

 

 いつもの俺なら手も足もでないだろう。なにせ至近距離に15丁もの拳銃があるのと同じだしね。

 

 しかし、今はヒステリアモードだ。

 

 いつでも最善の道を探すから、機械は動きが読みやすい。そこを利用するまでだ。

 

 

 

 

 

 

 10分経って――――

 

 

 結局ドローン全部破壊してしまった。

 

 ドローンの砲身に弾を入れて破壊をしたのが3機、ドローンを誘導して、互いに衝突させて破壊したのが2機

 

 ちょっとやり過ぎたかな?

 

 

 時間を確認すると、残り5分。もうすぐ終わりだな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー八幡sideー

 *キンジがドローンと遭遇している時*

 

 一緒に座っていたら、急にレキが

 

「質問いいですか?」

 

「アッハイ………。どうぞ」

 

 急に声かけられた。びっくりした………。

 

「八幡さん、貴方はどうやって私の後ろに立てたのですか?いくら近づけたとしても、屋上のドアを開けた時に私なら気付けたと思うのですが」

 

 何か名前で呼ばれたんですけど、

 

「あー、それはな、わざとお前に武藤を狙わせたんだよ。武藤に複雑な動きをしてくれって言ったから恐らく少しぐらいは武藤に意識向けてただろ?」

 

「はい、私はあの時、跳弾(エル)を使いました」

 

「え………る?」

 

 何だそれ、初めて聞いたぞ。

 

「物に弾を跳ね返らせて相手を撃つ技術です」

 

 ……怖っ!Sランクはそこまで出来るのか。人間辞めてるな。

 

「そうですか、確かに私は跳弾を使うためにいつもより集中しました。そこを狙ったということですか?」

 

「結果的にそうなったってことだろ」

 

「お答え頂きありがとうございます。次からは周りにも気を使いながら撃つことにします」

 

「そ、そうですか………」

 

 何かレキを強くしてしまったらしいぞ。味方なら頼もしいが、敵だと怖いな。

 

 

 その後特に会話はなかった。

 

 …………この雰囲気悪くない、むしろ好きだな。黙っていても、俺からしたら不快じゃない。

 

 この静けさ、最高です。

 

 

 

 

 ブ――――――――!!

 

 

 街全体に終了のブザーが鳴った。

 

 

 ふー、やっと終わったな。

 

 結局遠山と不知火は時間までビルに隠れてこっちの勝利という形でカルテットは終了した。

 

 なんかあっさり終わったな。……まあ、楽だったら別にいいけど。いや、俺はかなり大変だったな。

 

 何でも平賀さんと島さんが作ったドローン兵器が何機か遠山を襲ったらしい。しかも15本もの砲身があったらしい。けど、遠山は試験の時みたいな強さを見せて撃墜したらしい。あとで映像を確認した。

 

 

 

 

 

 ……………遠山も人間辞めてるな

 

 

 

 

 

 




八幡の武偵生活やのにキンちゃんの戦闘シーン書いてよかったのかな?

あと、みなさんに質問です
台本形式についてですが嫌な方いますか?
1人でもいるのなら次の話は試しに台本形式をなしにしてみます


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第10話

UA30000、
お気に入り400、
感想20件突破!!

読者に感謝ばかりです

これからもよろしくお願いいたします


「俺らの勝ちを祝してカンパーイ!!」

 

 武藤が元気よく言った。

 

「うん、乾杯」

 

「………乾杯」

 

「…………」

 

 不知火はいつも通りに、とこやま遠山は小声で、続けて言う。

 

 え?俺だけ何も言ってない?まぁな、だって俺だぜ?

 

 さすがに武藤が、

 

「お前らテンション上げろよ!せっかくの祝勝会だぜ、わざわざ台場まで来てるのに」

 

 ……そら怒るわな。だが、俺にだって言い分がある。

 

「俺疲れた、ちょー疲れた。何で台場まで来たんだよ。そこらにあるファミレスでいいじゃねぇかよ」

 

「比企谷に同じく」

 

 ですよねー。やはり俺も遠山もどことなく共感できる部分がある。

 

「まあまあ、遠山君に比企谷君。たまにはいいじゃないか」

 

 不知火お前、その場をなだめるの上手だな。やはりイケメンは違うのか、イケメン死すべし。

 

 それよりも今言うべきことがある。

 

「打ち上げは別に良しとしよう。………だけどなんで部外者もいるんだ?なあ、星伽さんに峰理子にレキなぜいる?」

 

 別に星伽さんはいてもいいと思うよ。でも、敵チームの2人はここにいる理由がわからない。

 

「そんなこと言わないで下さい、比企谷さん。せっかくキンちゃんとご一緒できるから…………」

 

 ちっ、このリア充が……。羨ましい。

 

「まあまあいいじゃない、ハチハチ~。気にするなって」

 

「おい、ハチハチって俺のことか?峰さん」

 

 そんな不名誉なあだ名つけるなよ。

 

「ハチハチ~、私のことは理子でいいよ。武偵が名前で呼び合うのはおかしいことじゃないよ?」

 

「へー……。そうなのか?遠山」

 

「確かにそんな話も聞いたことがあるな。名字だと色々悪用されたりするって」

 

 武偵もそういうところ深いな。

 

「でもまぁ、呼ばないけど。……で、レキはなんでいるの?」

 

「ちょっと待った!ハチハチ。どうしてレキは名前で呼んでるの?」

 

「だって苗字知らないし。で、レキの苗字って何?」

 

「私に苗字はありません」

 

 うわ……。怪しさ満天だな。武偵高ってそこら辺り適当だよ。しっかりしろよ。

 

 

 

「気にすんなって、比企谷。ここは楽しもうぜ」

 

 武藤、俺が馬鹿騒ぎするやつに見えるのか?もし見えるなら、お前の目は節穴か?節穴だな。

 

「ハチハチ~、そんなに目を腐らせないで。そ、れ、で、聞きたいことがあるんだけど」

 

 駄目だ、峰のテンションについていけない。

 

「あ?何だ?」

 

「え~っとね、どうやってあのレキに近づけたの?」

 

 峰が一瞬まるで、獲物を狩るような目になった気がした。だけど、すぐに戻った。

 

「あえて言うなら俺にしか出来ない技だ」

 

 カッコつけて言う。そしたら、今度は遠山が、

 

「そういうのいいから、一体どうやったらあんなに気配消せるんだ?」

 

 えっ?物好きだな、そんなに特別でもないぞ。

 

「小学生と中学生の前半イジメにイジメられてたんだよ。そして、極力目立たないように過ごしてきた。その結果がこのステルスだ」

 

「なんか……ゴメン、比企谷」

 

「私もゴメンね、アハハ」

 

 誰だ?空気重くしたのは。…………ハイ、俺ですね、すみませんでした。

 

「ところでハチハチ~、それって私にも使えたりする?」

 

 峰にも使えるか?そんなの答えは決まっている。

 

「無理だ」

 

「え~!なんで~!!そんなこと言う子にはプンプンガオーだぞー」

 

 両手で角を作ってなんかしてる。

 

 ……こういうのは男受けいいんだろうが、俺からしたらハイハイ、あざといあざとい。ぐらいの感想しか出ない」

 

「私はあざとくないよ!」

 

「あれ?声出てた?」

 

「比企谷、ガッツリ出してたぞ」

 

 武藤が突っ込みを入れる。マジか。

 

「峰、話の続きしていいか?」

 

 とりあえず続けていいか確認をとる

 

「あ、どうぞどうぞ~」

 

「簡単な話だ、峰は客観的に見て可愛い部類に入る。その点俺は目が腐ってる、基本空気と同化している。そんなやつだから使える芸当なんだよ」

 

 峰は顔を赤くしながら、

 

「ハチハチも言うねっ、可愛いとか。くふふっ」

 

「俺は客観的に見てと言った。つまり俺自身はお前のことを可愛いと言ってない」

 

 俺はお前を可愛いとは感じない。

 

 なぜなら………

 

 峰理子よ、お前は他人には見せないような仮面を被っているように見える。かなり異質な仮面。

 

 自分を騙して、別の自分を演じて楽しいか?そんな生活に意味はあるのか?

 

 俺からしたら全然楽しくない。自分をそこまで偽ることは過去の自分を肯定できてない証拠だ。

 

 なぜそこまでして過去の自分を否定する必要がある?  

 

 とはいえ俺はお前の過去を知らないから知ったような口は聞けないけどな、知る気もないし。これが間違っているかもしれないし。

 

 それに峰が可愛いなら小町のほうが何倍も可愛いね。はぁ………あの笑顔に癒されたい

 

「そんなに照れなくていいのに。でも、なるほどねやっぱり私には無理かー」

 

 うん、本当に苦手ですよ、この子の相手するの。

 

 今更なんだがこれが峰と話すの初めてなんだけどね。

 

「まあ、今回は色々と武藤を頼りにしたけど。レキの索敵とか囮とか」

 

 少し話をそらしてみる。

 

「そーだぜ、比企谷。レキの攻撃なんとか避けたと思ったら、何故かワッペン壊れたんだけど」

 

 お、乗ってきたな。

 

「そーだ比企谷。お前何か奢れよ」

 

「……はあ?何でだよ武藤。結局武藤の囮は成功しただろ。轢かれる理由も奢る理由もない」

 

「うっせー、いいから奢れ轢くぞ」

 

 理不尽な。

 

「金欠なんで止めて下さい」

 

「ちっ、しゃーねーな。今回は比企谷の活躍に免じて見逃してやるよ」

 

 なんという上から目線、腹立たしい。

 

 絶対武藤には奢らないと心に誓った。あとでラーメンくらいなら奢るけど。

 

 そして、完璧に話をそらせたな。面倒事はゴメンだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までのレキの反応は…………特になし。

 

 せっかく台場にいるのにカロリーメイト食べている。

 

 甘党、トマト嫌いの俺が言えたことではないけど栄養バランス悪すぎだ。兄として生きてきたから心配になってくる。

 

 ま、余計なお世話だと思うだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして打ち上げが進んでいく。こういうのは初めてだけど、案外楽しいもんだ。

 

 しかし問題が1つ。

 

 それは時折レキの視線を感じることだ。

 

 自意識過剰とかじゃなくてチラッとレキを見ると確実に俺のことを見ている。教室でも見られている時がある。

 

 え?俺のこと好きなの?レキ可愛いし、勝手に勘違いして告白して振られちゃうよ。いや、やっぱり振られるのか。

 

 ん?………そういえばレキの表情が動いたところ見たことねーわ

 

 俺ですら笑ったり目を腐らせたり泣いたり目を腐らせたりするのに……(大事なことなので2回言いました)。

 

 

 

 今、気づいたが、もうグループが作られている。

 

 どうしよう?周りのやつらの会話に入れる度胸ないし、遠山は星伽さんとイチャイチャしてるし俺とレキだけ取り残されてる。

 

 だから話しかけられたら適当に返事するぐらいしかやることない。

 

 もう……いいや…………。

 

 いつもの事だし、べ、別に寂しいとか思ってないんだからね!!

 

 うん、普通にキモい。男のツンデレとか誰得だよ、需要ねーだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 あのあとボーっとしてたら武藤の解散の号令で皆帰ってた

 

 残ったのは俺とレキだけだ。まあ、ここは挨拶しとくか

 

「じゃあな、レキ」

 

「はい、では、また」

 

 また……か。なんだかすぐに会いそうな予感がするな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー翌日ー

 

 

 カルテットは平日全て使って行われる。俺たちは月曜日に行われた。つまりだ、残り4日間は休みというわけになる。

 

 ちょーエキサイティング!

 

 

 

 

 

 朝起きると遠山が、

 

「武藤と不知火で金曜日まで旅行行ってくる」

 

 うん、当然俺は入ってないんだな。誘われても行かんが。

 

「遠山さ、そいつら以外に知り合いいないのか?」

 

「お前な、それ特大ブーメランだからな」

 

 ですよね。……わかってるよそんなことは!

 

「はいよ、いってらっしゃい。お土産よろしく」

 

「ああ、わかった。行ってくる」 

 

 

 遠山、ナイス!これでしばらくの間1人でだらだら出来る。ここは楽園ですか?そうですか、わっははははは。

 

 とりあえずコンビニで朝ごはん買うか。

 

 

 

 

 

 

 適当にパンを買って帰ろうとする。

 

 ――――すると、後ろから。

 

「おはようございます」

 

「うっひゃあ!」

 

 レキの声がした。

 

 ビックリした、急に声かけないでよ。ぼっちにはかなりダメージデカイんだよ、

 

 ソースは作者。いや………作者ってなんだよ

 

「あ、うん。おはようございます、レキさん。何か御用ですか?ないならすぐに帰って寝たいんですけど」

 

 俺は心底面倒くさそうな表情をする。

 

 しかしレキは無表情でこう返した。

 

「単刀直入に言います。比企谷八幡さん、私はあなたのことを知りに来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか長くなった

勢いでこうなった、
後悔もしないし反省もしない


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第11話

何故か別シリーズ始めました

結構適当ですけど

レキの口調掴むの難しいですね


 あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!

 

 1、遠山が旅行に行った。

 2、八幡はコンビニに朝飯を買いに行った。

 3、帰ってる途中レキに告白みたいなことをされた。

 

 …………人生初経験だわ、こんな朝。

 

 

 

 

 そして最初に戻る。

 

「ワンモアプリーズ」

 

 頼む、聞き間違いだったことを祈るぜ。

 

「あなたのことを知りに来ました」

 

 聞き間違いじゃなかった………。

 

 本当に告白か?いやまだわからん。俺は悲しいくらい嘘告白されてきたからな。たがらもう少し話を聞く必要がある。

 

 しかし何故か、この時の俺は、

 

「とりあえず俺の部屋に来るか?」

 

 と、言ってしまった。

 

 瞬間俺は思った。

 

 ………あ、やっちまった、と。

 

 後先考えず女子を誘ってしまったよ。断れ、断れ、断ってくれ。

 

 脳内で必死に頼んでいると、

 

「そうさせてもらいます」

 

 おいこら、そこは否定しろよ、否定してくれよ。

 

 今日の黒歴史確定じゃないか。………この言い方だと毎日黒歴史製造してるみたいだねっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キングクリムゾン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と遠山の部屋のリビングに今レキといる。

 

 今の比企谷八幡の内心穏やかではない。

 

 早くベッドの中で悶えたい、ジタバタして今日のことを忘れたいよ。俺は何であんな恥ずかしいことを言ってしまったんだー!!!

 

 これの繰り返し。

 

 

 

 

 

 ………それは後回しだ、さっきの言葉の真意を確認しないとな、うんそうしよう(現実逃避)。

 

「で、さっきの知りたいってどういう意味だ?」

 

「風に命令されたからです」

 

 風……?自然現象の風なのか、もしくは誰かのコードネームのことか?

 

「風って何だ?」

 

「風は風です」

 

「………いやだから風って誰かのコードネームとか?」

 

「風は風です」

 

 さっきと同じ答えだ

 

 レキ、お前はドラクエの村人か!

 

 このままでは確実に無限ループする気がする。

 

「その話はおいといて、知りたいってどんな感じにだ?レキが質問して俺が答えるとか?」

 

 これなら早くレキを退散させることが可能だ。

 

「いいえ、私はしばらくあなたと暮らすことにします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ハッ!!

 

 

 

 

 やっと意識を取り戻した。

 

 ふー、脳が機能停止していたぜ。

 

 にしてもとんでもない爆弾発言してきたな。いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた比企谷八幡でもこれはビックリだ。

 

「どういう意味だ?」

 

「あなたを監視してあなたのことを知ることにします。そのために生活を共にします」

 

 ワケガワカラナイヨ!

 

 じゃねーよ!………突っ込みどころ多すぎだ。

 

「俺は男、レキは女。この意味わかる?」

 

「はい」

 

 速効で肯定してきたよ。

 

 駄目だこいつ早く何とかしないと…………。

 

「あ、それに遠山もいるからそれは厳しいかなー。それに俺はアレでアレがアレだから」

 

 遠回しに断ってみると、レキはまたまた爆弾発言をしてきた。

 

「なら私の部屋に泊まって下さい」

 

 おうふ………。

 

「嫌だって言ったらお前はどうするつもりだ」

 

 俺はせめてもの抵抗を試みる。

 

「八幡さん、あなたに拒否権はありません」

 

 レキって喋るとこんなやつだったのか………かなり予想外だわ。女子は怖い(確信)。無表情だから余計に。

 

 

 

 

 

 ――――急にレキの雰囲気が変わった。これは……殺気!!

 

「私の言うことを聞かないと」

 

 レキはライフル、銃剣付きドラグノフを構えた、そして、

 

「風穴を開けます」

 

 と言った。

 

「ちっ」

 

 俺はすぐさま腰にあるコンバットナイフを抜刀してレキの手を狙いに行った。

 

 しかし、距離がありすぎた。俺の手はドラグノフの銃剣によってあっさり弾かれてしまった。その衝撃でコンバットナイフが俺の後ろに飛んでいった

 

 ヤバイ、リーチが違いすぎる。

 

 ファイブセブンは………俺の部屋でクリーニングしてる途中だった、スタンバトンも同じく部屋にある。コンバットナイフを取りに行こうとしてもその間に殺られる

 

銃剣を掻い潜れるか?相手は狙撃手、近づけばあの時みたいに何とかなるはずだ。

 

 

 

 ――――ゾクッ

 

 

 猛烈な嫌な予感。

 

 俺はすぐにしゃがんだ。上を恐る恐る見ると、そこにはさっき俺の首があった位置に銃剣があった

 

 まさか殺すつもりなの……か?武偵法9条違反だぞ。

 

 どうする?いくら同じ武偵とはいえ向こうはプロ、こっちはまだ成り立てのヒヨッ子だ。踏んできた場数があまりにも違いすぎる。近接戦は俺に分があると思うが、そこまで近づける自信がない。

 

 ……残る選択はっと、降参かな。<押して駄目なら諦めろ>俺の座右の銘に従って動くか

 

「ハイハイ、降参降参。しばらくはレキに従うよ」

 

 はー……、せっかくの休日(独り)が見事に潰れたよ。

 

 さよなら俺の休日、また会う日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここに書くネタ尽きてきた

最近午前授業なので書こうと思っても寝てしまう


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第12話

すいません
寝てたり、ネタが思いつかなかったり、LiSAさんのMV見てました


 レキと一緒に暮らすことになって俺がやることは1つ。早くあいつに飽きてもらうことだな、うん。

 

 女子といきなり暮らすなんか今の俺にはただの地獄イベントだ。いや、誰だってそうだろう。

 

 なんせ生きてきた経験上女子は苦手なんだよ。だが、今まで見てきた奴は表情等で大体考えていることは読めたりした。

 

 しかし、しかしだ!レキを見てみよう!可愛いが、無表情も無表情だ、完璧な無表情だ。趣味が人間観察の俺でも読めない。さすがアダ名がロボット・レキだな。

 

 あ、このアダ名は俺が寝たふりしている時に周りが騒いでいたのを聞いて初めて知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リビングにて。

 

「キンジさんは今外出中ですか?」

 

 あのあとレキは銃剣をしまった。俺は念のためファイブセブンとスタンバトンとコンバットナイフのフル装備で話を続けた。

 

「ああ、金曜まで旅行だとよ」

 

「そうですか、ならキンジさんが帰ってくるまでこちらでお世話になります」

 

 俺に拒否権は………ないですよね、わかります。

 

 しかしまあ、遠山が戻る前に何とかしないと面倒事になるな。いや、あいつの場合星伽さんがいるからいいのか?

 

 ………今思えば遠山いつも女子は苦手と言っていた な、何でだ?昔女子にひどいことでもやられたのか、俺みたいに。もしかして遠山の強さに関係……ないな。自分で言ってて意味わかんねーわ。

 

 でも、武藤にバレたら絶対鬱陶しいな。ずっと彼女欲しいー!って叫んでるもん。

 

「聞いていますか?八幡さん」

 

 おっと、現実逃避もここまでか。

 

「この部屋に泊まる話か?」

 

「はい、私は荷物を取りに戻ります、この部屋に空き部屋はありますか?」

 

「まあ、この部屋元々4人部屋だから余ってるけど」

 

「ありがとうございます、ではまた後程」

 

 そう言ってレキは出ていった。

 

 ここから俺はどう動くべきか?逃げても視力6.0がそれを許してくれないだろう。女子寮からここは2km圏内、逃げたら心臓に風穴が開く。やっぱり諦めるか

 

 いや、違うだろう比企谷八幡。どうやってレキに俺という存在をいかに幻滅させることが大切だ。

 

 ふむ、素っ気ない態度を取るとか?………いつも素っ気ねーわ、俺って。

 

 

 そう言えばレキは遠山が帰ってくるまでここにいるみたいなこと言ったな。

 

 と言うことは、レキのセリフからして最低金曜までは滞在する感じか。はい、死にました。

 

 

 

 あれから30分経ってレキが戻ってきた。それまで俺はソファでじたばたしていた。だって、黒歴史が新たに生まれたんだよ?誰だってそうするだろ?

 

「ではしばらくお世話になります」

 

 久しぶりに1人の楽しい楽しい休日を送る予定が………。

 

 ちくしょー!!

 

 

 

 

 

 時計を見ると、もう昼が近づいてきてる。

 

「昼飯食べるか?」

 

「お願いします」

 

 冷蔵庫の中身を確認すると昼飯は2人分はあるな。レキだって見方を変えると一応客だし、主夫希望の実力を発揮するか。

 

「何かリクエストあるか?」

 

 ふ、お前の次のセリフはわかるぜ。

 

 何でもいい、とかだろ?

 

「何でもいいです」

 

 はい、正解。

 

 

 

 適当にラーメンを茹でて、冷やして、卵焼きを切って、きゅうり、ハムも切り、めんつゆかけて出来上がり。

 

 まだ春だけど冷やし中華の完成。

 

 今は夏という突っ込みはなしだぜ?

 

 

「「いただきます」」

 

 食べている最中極力レキを見ないようにしていた。理由?そんなのレキが可愛いからだよ。緊張するしな、小町以外の女子と一緒に食べる経験なんてなかったし。

 

 

 食べてる音があんまりしないからふと、レキを見てしまった。そしたら驚くべき光景がそこにあった。

 

 なんと麺を1本ずつ吸っていた、しかも全く間隔がない。ものすごいスピードだ。俺だって男子高校生だ、それなりの量を作った。もしかしたら、女子なら食べ残しそうな量だ。

 

 なのに俺より速く食べている。………これは驚いた。まあ、文句無いし良かった。………文句なんて言わなさそうなんだが。

 

 

 昼飯を食べ終わり、レキといるのもアレだし本屋にでも行くか。

 

 

 

 

 

 と、思っていた時期もありました。

 

 予想していたけど、俺の横にレキがいます。

 

「別に本屋行くだけだし、ついてこなくて大丈夫だぞ?」

 

 八幡は、秘技!嫌そうな顔をした。

 

「構いません」

 

 が、レキには効果がないようだ。

 

 くっ、大概のやつは今ので察してくれるんだがな。「あっ……(察し)」みたいな感じで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 新作のラノベを3冊買った。本を探している間もレキが隣から離れなかった。

 

 普通男子がこういうの買ってたら興味ある女子以外には軽蔑の眼差しで見られるんだよなぁ。

 

 ソースは小町、昔小町と2人で本を買いに行った以降小町と一緒に行ったことがありません。

 

 表紙を見て敬遠するのではなく、中身は素晴らしい作品が多いのだからぜひ読んでその目で確かめてほしい。SAOとか普通に面白いから。

 

 ………あの時の小町の目一生忘れない。

 

 何もこんな趣味に対して文句無いし、あれ?案外レキっていいのかな?

 

 

 

 さて、晩飯はどうしようか?遠山がいないから外食でもいいんだが、もしかしたら俺の数少ない知り合いに会うかもしれない。

 

 スーパーである程度買っとくか、明日の夜の分まで。

 

「スーパーで買い物するから帰ってていいぞ」

 

「心配いりません」

 

 やっぱりダメか………。

 

 

 

 買い物している最中もレキが隣にいた。しかも周りに武偵高の奴らがいて、

 

「あれってSランクのレキじゃね?」

 

「うわ、ホントだ」

 

「隣にいる男誰だよ?」

 

「うそー、付き合っているのかな?」

 

「あんな目が腐ってるやつが!?」

 

「だからそもそもあいつ誰?」

 

「悔しいし、撃ってやろうか」

 

「ちっ、リア充が。ああ、結婚したい………」

 

 こんな会話が聞こえてきた、俺学校で認識されてないんだな。そりゃ冴えないDランク武偵だしな。

 

 あと、最後のほうに物騒な言葉を発した奴がいたけど、これが武偵高の中では当たり前なんだよな、おお、怖い怖い。

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「あっ、うん」

 

 晩飯も適当に作って、2人同時ぐらいに食べ終わった。時間は、大体7時。

 

 寝るまで、今日買ったラノベでも読んでるか。

 

 

 

 しばらく読んでいるとレキが、

 

「すいません、今から銃の整備をするので空き部屋お借りしていいですか?」

 

 ま、その程度なら気にしない。むしろ俺から離れてくれる。

 

「おう、別にいいぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな感じでレキとの生活1日目が終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 




レキとの話4日間ある予定ですが途中省略しようかな?

そして読者の皆さん!
もし暇ならLiSAさんの曲聞いてみてください!
おすすめはリスキー、Mr.launcher empty mermaid
believe in myself です


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第13話

すいません

塾の夏期講習等で時間が削られるんですよ




 レキとの生活は2日目も3日目も何事もなく過ぎていった。今は金曜日

 

 特に面倒事もなく、俺が買い物した時にレキが隣にいるぐらいで、例えるならまるでただの老夫婦みたいな感じだ。

 

 俺はそれを苦とは思わない。むしろ居心地がいい。

 

 レキと結婚したら、Sランクだから金あるだろうから俺を養ってくれそう、それにレキの雰囲気好きなほうだと思うし・・・・・・うん、キモいわ。その考え止めとくか

 

 

 

 

 ここ2日俺はほとんど部屋に引きこもったままだから、さすがに今日はどこかに外出するか

 

「今から出かけるが、お前はどうする?」

 

「ついていきます、もちろん」

 

 ホントに告白と勘違いしそうで怖い。この子多分だけど素で言ってるもん、もう少し言葉遣い考えて、レキさん。世の中の男を殺すおつもりですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わりお台場に俺たちはいる。しかしここにはあまりいい思い出がない。

 なんせ俺が初めて人に銃を撃った場所だからな。

 でも、小町以外で生まれて初めて感謝された場所でもある。

 

 なんかビミョーな心境だ。

 

 

 

 そこで適当にぶらついている、出かけたはいいけど、ぼっちの俺だからやることがない。そこで少しの可能性があるレキに尋ねてみた

 

「レキ、どこか行きたい場所とかあるか?」

 

「はい、新しくヘッドホンを買おうと思っていたので、その辺りを見て回ろうかと」

 

 確かにいつも首にヘッドホンかけてるよな~

 

 ま、それはそれとして助かった、このままじゃホントにどこかをずっとうろついていただけだろうから。

 

 今回は俺がレキについていき、レキがいつもヘッドホンを買ってるという店にやって来た。

 

 

 

 *作者はお台場に数回しか行ったことがありません。なので実際にそのような店があるかどうかなんてわかりません。

 作者は数回行った中でガンダムしかぶっちゃけ見てません。

 

 

 

 

 

 ほー、ヘッドホンやイヤホンだけでも結構種類あるんだな。値段も種類が多いだけに色々だ。

 

 と、こんな感じで物色していると、レキが話しかけてきた

 

レキ「八幡さん、買い終わりました。付き合っていただき、ありがとうございました」

 

 見たら手提げ袋にヘッドホンの箱が入っている。確認してみると今つけている物と全く同じだった。使い慣れているとかあるんかね?

 

「ああ、気にするな。もう昼頃だしどっかで飯にするか?」

 

「はい、そうします」

 

 ここ最近俺と一緒に食べるときはカロリーメイトを食べさせないようにしている。

 

 え?なぜかって?何となく心配になるからだよ。俺の兄スキルってやつだよ。

 ・・・なんか俺がレキの主夫みたいになってる・・・・・・、俺が望んでるのは逆の立ち位置なんですけどそれは

 

 

 

 

 

 飲食店を探していると、とある店を見つけた。それは、皆さんご存知サイゼリヤである。

 

「サイゼリヤでいいか?」

 

「構いません」

 

 ノータイムで答えるレキ。なんつーか息ぴったりだ。

 

 さて、サイゼリヤに入るか

 

 その瞬間、聞き覚えのある声がした

 

「やっはろーーー!!」

 

 その声は俺の妹にあたる小町の声だ。

 

「いやぁ~、あの見覚えのあるアホ毛と負のオーラがあるから声かけたら正解だったよ」

 

 こら、小町。兄に向かってそんなこと言ってはいけません。あと、なんだその挨拶

 

「およよ?え、嘘・・・、こ、これが女子と一緒にい・・・る?」

 

 小町・・・お前驚きすぎだ。仕方ないだろ、一緒にいないと俺死ぬんだから。あと、これはねぇだろ

 

「あのなぁ、俺武偵だぞ。一応武偵の付き合いだってあるからな」

 

 するとレキがジト目で尋ねてきた

 

「八幡さん、そちらの方とはどんな関係でしょうか?」

 

 なんか不機嫌そうだ。妹と話して何が悪いんだ?

 

 僕は悪くない

 

「ああー、紹介するわ。妹の小町だ」

 

「妹でしたか。私はレキといいます」

 

 ふー、さっきの雰囲気が和らいだ

 

「これの妹の小町です。よろしくお願いします。ところでお兄ちゃんとレキさんはどのような関係で?」

 

 いきなりぶっこんできたな。どう説明すればいいんだ?

 

「八幡さんとは今一緒に暮らしています」

 

 ・・・・・・・・・

 

 あ~あ、言っちゃった。言ってほしくなかったけどいずれはバレちゃうからな

 

 それを聞いて小町は絶賛フリーズ中である。今の小町も可愛い、凄い可愛い

 

 と、思っているとレキに脛を蹴られた。結構痛いんですけど、何故に?

 

 数十秒後、小町が再起動した、再起動して、俺とレキは小町に引っ張られながらサイゼリヤに入店。

 

 で、俺の隣にレキ、目の前には小町の席順だ。ちなみに小町は目を輝かせている、嫌な予感しかしないぜ。

 

「お兄ちゃん、レキさんとはどのような経緯で知り合ったの?」

 

「えーっと、初めて会ったのはコンビニでだな」

 

「そういうのじゃなくて、いつから話すようになったの?」

 

 いつから?・・・カルテットだな。だけど、小町にカルテットの事言いたくないな。

 

「とある行事からだ、一応その行事の概要は伏せるが」

 

「ほーほー、なるほどね。まあ、小町も深くは聞かないことにするよ」

 

 

 そうしてくれると助かるな

 

「メインはここからだよ!なんでお兄ちゃんとレキさんが暮らすことになったの?」

 

 どう説明したらいいんだろう?ダメです、わかりません

 

「私が八幡さんの事を知りたいと言いました。そしてそのためには行動を共にするのが早いと思いました、その結果です」

 

 レキが無表情で答えた

 

小町今日2度目のフリーズ!!気持ちはわからんでもない、俺も似たような反応したからな

 

「お、お兄ちゃんに春到来!?」

 

 こら、小町、お店の中では静かにしなさい。迷惑かかるでしょう。そして大声で言わないで、めっちゃ恥ずかしいから

 

 

 

 

 

 

 

「レキさん、今日はありがとうございました。さようならです!」

 

「さようなら」

 

 あれ?小町帰ったよ。俺には何もないの?・・・妹に見捨てられた

 

 あれ?目から汗が・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 結局小町が質問して俺とレキが答えての繰り返し、精神ごっそり持ってかれたよ。小町よ、嫁候補嫁候補うるさい!レキは基本無表情だからいいけど、これが他の女子だったら俺死ぬぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日で遠山が帰ってくる。というわけで、レキと一先ず別れることになった。

 

 頼み込んで、レキとの同居は避けてもらった。

 

「じゃあな、レキ」

 

「さようなら、また学校で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




急な展開ですいません

これ以上書くとネタなくなります

ではまた、ばいちっ


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第14話

お気に入り500突発
ありがとうございます


アクセルワールドの映画見てきました
はい、最高でした。ニコが面白かったです




 

ああー、眠い。月曜日なんていらないだろ。

 

そう今は月曜日の朝だ。

遠山は予定通り金曜日に戻った。俺は当然レキのことは黙り、土日はずっとだらだらしていた。楽しかったです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間ギリギリに登校して、教室に、入りいつも通り寝たふりをする。いつも通りって悲しいな

 

そこである会話が耳に入った。

 

「カルテットで、あのレキに見つからなかった奴がいるんだって」

 

「遠山じゃなくて?」

 

「ああ、そうらしい。見つからずにレキの背後に立ったとの話だ」

 

「そいつ凄いな、名前は?」

 

「うーん、そこまで聞いてない」

 

 

おおー、俺がいい方面で噂になってる。なんだか嬉しい

 

というより皆さーん、ここで寝ている奴がそうですよ

 

他には・・・

 

「ねえ、聞いた?レキさんと誰かが買い物してたり、お台場でデートしていたって」

 

「それ本当!?誰なのよ?」

 

「そうなのよ、でもその男性の名前わからなかったのよね」

 

「情報科(インフォルマ)としては是非レキさんにインタビューしてみたいわね」

 

 

 

これまた俺だ、こっちは嬉しくないな

 

 

 

皆がガヤガヤしている中、レキがこっそり登校してきた

 

レキ「八幡さん、おはようございます」

 

俺は机に突っ伏したまま、

 

八幡「ああ、おはよう」

 

と、答えた

 

教室で初めてレキと会話した

 

ちなみにこのやり取りに気づいた者はいないらしい、気づかれてたら面倒だったかもな。特に武藤、おめぇはダメだ

 

俺の影の薄さに感謝感謝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前の普通授業を適当に済ませ、今は午後の強襲科の授業だ

 

 

 

 

 

 

 

全員近接格闘の練習中だ、他の人を見てみると一人一人格闘スタイルが違う。こうしてみると勉強になる

 

 

 

 

 

 

 

不知火「ありがとね、比企谷君」

 

八幡「ああ、こっちもな」

 

 

 

ふー、不知火とさっきまでCQCやってた。避けるばかりで俺から上手く踏み込めないな

 

少し休憩しようと体育館の隅のほうに行こうとすると

 

蘭豹「比企谷、あたしとせっかくやし少し殺ろうか」

 

声をかけてきたのは蘭豹先生、(やる)の漢字が違うふうに聞こえたのは気のせいですか?

 

 

 

蘭豹「ガキ共!!邪魔や!!端によれ!!」

 

 

 

先生の号令が鳴り響き、生徒たちは移動した。まさか全員の前で闘うのか?・・・・・・マジですか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蘭豹「比企谷、好きにどうぞ」

 

ニヤニヤしながらと言ったが、俺は動かない。

 

数十秒経ったのに俺が動かないのにしびれを切らしたのか

 

蘭豹「ああー!もう!こっちから行くぞ!!」

 

そうして素早い右足の蹴りが俺の頭に迫ってくる。それを俺は間一髪でしゃがんで回避

 

続けて蘭豹は蹴った時の勢いを利用して裏拳を叩き込んでくる。物凄い速さだ。両手を使い、なんとか裏拳の向きを変えた、すなわちこの攻撃をいなした

 

 

 

 

 

蘭豹が驚いている

 

それもそうだろう

 

 

普通の奴ならとっくにのびていただろう。だが、俺は違う

 

 

俺は元々観察眼が優れている。

 

 

それを利用して相手の重心、予備動作、目線を見てかなり正確に次の動きを読むことができる。

フェイントなんかも大体だけどわかる、かなりの確率でハズレるけど

 

 

 

 

 

蘭豹「ほう、いい動きだ」

 

不敵に笑う蘭豹

 

八幡「ありがとうございます」

 

とはいえ内心、冷や汗だらだらな俺

 

カッコつけたはいいものを、数センチ横にずれていたら吹っ飛ばされてたもんな

 

蘭豹「なら、もっと速くするで!」

 

くっ、集中しろ、比企谷八幡

 

そこからは蘭豹の攻撃の連続。しかも一段と速い。だが俺はそれを予測してなんとか回避、いなす動作を続けることができた。少しでも気を抜けば吹っ飛ばされそうだ。

 

見ろ

 

見ろ

 

見ろ

 

ひたすら見ろ

 

頭を使え

 

相手より速く動け

 

思考を止めるな

 

考え続けろ

 

考えを止めたら死ぬと思え

 

相手の動きを感じとれ

 

 

 

 

 

 

 

 

蘭豹の速すぎる攻撃と俺のギリギリの防御は3分続いた

 

 

 

 

 

 

3分経って、思考にほんの少しだけ余裕がでてきた

 

そこで最初に考えたことを思い返していた

 

それは

 

ある動作を待ち続けていたこと

 

そのためには相手がイライラするのを待つ必要がある。だから敢えて俺から攻撃をしない

 

蘭豹はずっと俺にクリーンヒットがない

 

だから

 

さすがにイラついたのだろう

 

そして

 

蘭豹の纏っている雰囲気が変わった

 

 

 

蘭豹「うらあああ!!」

 

 

 

来た!恐らく渾身の右ストレート!

 

 

俺が待ってたのは冷静さを失ってからの大振りの攻撃だ

 

これならイケる!

 

俺はバックステップし、そのあと蘭豹のほうに体を勢いよく傾けた。両手は蘭豹の右腕に。そしてその勢いを使い

 

 

 

 

ダン!!

 

 

 

 

地面を蹴り、蘭豹の右腕と俺の両手を支点にロンダート

 

蘭豹の頭上を飛び越えながら、後頭部に蹴りを入れる

 

 

 

この不意打ちは決まったな

 

 

 

と思ったが

 

 

 

蘭豹は体を捻り、左手で俺の蹴りをあっさり掴んだ

 

八幡「はあ!?」

 

左手で掴んだまま俺は投げられた。体育館の端まで飛んだ。

 

 

バン!!

 

 

受け身はとれたけど、意識がまだ朦朧としている

 

人を簡単に投げるなよ・・・・・・、全く

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして蘭豹先生が近づいてきた。ニヤニヤしながら

 

蘭豹「なかなかいい動きやったな。けど、まだまだやな」

 

くそ~、このニヤケ顔がムカつく

 

蘭豹「比企谷が何かを狙ってるのはわかってた。もし気付いてほしくないなら、時折攻撃を交ぜるべきやったな」

 

それもそうか、何もしなかったから、何かをするというイメージを余計に相手に持たせてしまうってことか

 

蘭豹「でもまあ、なかなか良かったで。何よりその目は素晴らしいな。まさかあそこまで動きを読まれるとはな。」

 

八幡「あ、ども」

 

バレてたか、目で読んだのを。さすがだな

 

蘭豹「しかし、それに頼りすぎたらアカンで。例えば閃光弾とかで視界が奪われた時に何も出来んくなるからな」

 

た、確かに・・・・・・

 

蘭豹「他に聴力も鍛えてみろ、これも武偵、特に強襲科や情報科とかの必須スキルや」

 

八幡「わ、わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りを見渡すと、ほとんどの生徒が俺を見ていた。は、恥ずかしい。あんだけ派手な動きをしたのにあっさり負けるっていうね

 

キンジ「比企谷、惜しかったな」

 

ん?遠山か 

 

八幡「本当にな、あの人人間か?強すぎだろ」

 

キンジ「はは、まあな。いやでも比企谷も充分凄いけどな」

 

それを言うならお前もな

 

八幡「はあー、俺もあの不意打ち決まったと思ったんだけどな・・・・・・。やっぱ、種族誤魔化してるんじゃねーのか」

 

蘭豹「ほほう、言うやないか。いい度胸やな、比企谷」

 

俺の後ろに蘭豹がいた、こっわー

 

八幡「ら、蘭豹先生・・・。な、何か用ですか?」

 

蘭豹「いやなあ、お前に用事や。お台場やカルテット、それにあたしとの戦闘でな、そこそこな実力やし武偵ランク定期外考査を受けてええかもなって」

 

 

 

武偵ランク定期外考査とは

 

武偵校の生徒のランクを上げることを目的とした考査。筆記・実戦試験の成績や解決した事件の多さなどのデータを見て、教務科が許可を出した生徒のみ受けられる。PCを使った記述式試験・CQCと射撃による技能試験・教務科が定めた相手と1対1の対戦を行う実戦試験が主な内容。

 

byユキペディア・・・じゃなくてウィキぺディア先生

 

 

 

 

 

ほう、嬉しいような残念なような

 

まあいい、せっかくだし受けるか

 

八幡「ありがとうございます、受けてみます」

 

蘭豹「そういうと思ったで」

 

八幡「てことは、今DだからCになるってことですか?」

 

蘭豹「いや~、わからんで。お前は1人で今まで動いたからな。案外評価高いねんで。ほら、カルテットの時も比企谷だけ、単独行動やったし、それでレキを抑えたしな」

 

そしたら遠山が

 

キンジ「へー、やっぱり凄いな比企谷は。」

 

八幡「うるさいぞ、Sランク。無駄に目立ってるな。目立ちたくないのに」

 

蘭豹「あ、そうそう。日程は3日後やからな。ま、お前なら余裕やろ」

 

 

じゃあなと、言い残して蘭豹は去っていた。後ろ姿がやけに格好いい。これが男ならさぞモテたろうに・・・・・・

 

 

キンジ「ま、頑張れよ」

 

八幡「あ、うん」

 




感想貰えると、心の中でヒャッハーしています
外に出してしまうとひかれますけどねw

これからも感想(批判は止めてね)待ってます


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第15話

いやー、まさかのUA50000突発ですよ。いつの間にか
ありがとうございます‼



5月の中旬、武偵ランク定期外考査を受けに来ていた。蘭豹から通達があってから3日過ぎた

 

 

 

 

まあ、これで失敗しても終わりってわけでもないし、気楽に行くか

 

 

 

 

 

 

試験その1 筆記試験

 

これは・・・強襲科の座学で習った武偵に関する問題が100点か・・・・・・

 

 

 

 

 

結果は69点、くっ、なんか微妙だ

 

犯罪に対しての動きかたや銃の構造等は強襲科の座学で習ったからなんとか解けた。

 

間違った部分はほとんど銃の種類だった。有名所のトカレフとかベレッタぐらいならギリギリでわかるけど、他のやつのはマジで見分けがつかない。遠山はなぜわかるのだろうか?

 

しかし合否基準はまさかの40点、半分の50点ですらない。さすが脳筋高校。レベルが違うぜ

 

 

 

 

 

 

試験その2 射撃テスト

 

これは15mの距離から半径15cmの的に20発撃ってどのくらいの精度か、自分の銃との相性はとかを調べるテストらしい。そもそもの話、銃に相性ってあるのか?よーわからん

 

 

 

結果・・・ABCで+-含む9段階評価でA -だった。つまり上から3番目、そこそこってところか。

 

的には20発中17発命中でした。したが、的に当たった弾はけっこまばらまばらだ。的にギリギリの弾もあった。ここ最近はそんなに撃ってなかったからな。少し腕が落ちたな、八幡、反省反省

 

あ、でも銃との相性はいいと褒められた

 

 

 

 

 

試験その3 CQC

 

これは近接格闘の試験だ。

 

これは教師から指定された動きをサンドバッグに叩き込む。

 

武道で言うところの型だ。だが、武道の型とは違って、手本そのままするわけではなく、いかに素早く、自分流に持っていくかが重要である。

 

 

 

 

 

 

結果はBだった、

 

いつも避けるばかりだから、ずっと殴る蹴るしてたら疲れて狙いが不安定になる。

長時間動けるスタミナだけではなく、短時間で全力を出せる時間を長くしないと

 

その代わり、避けるだけだったら、精神は消耗しても、体力はあんまり消耗しないだよなあ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に1対1の実戦だ。確か教師側が相手を決めるはずだな。

 

ルールは地面に背中がつくか気絶したら負け。銃、刀剣の類いの武器はなし

 

 

 

 

 

 

 

 

相手は、うわー、武藤よりゴツい奴なんだけど。威圧感あるわー、顔もイカツイ・・・・・・あ、俺も目付き悪いから人の事言えないわ

 

 

 

 

試験官の合図で相手が動き出した。俺はいつも通り攻撃を後ろに下がりながら避けて、観察する。

 

すると気付いたことがある。

 

コイツの攻撃の主体は・・・・・・・・・投げ技だ。

 

前回の蘭豹との闘いでわかったことがある。それは俺は投げ技に極端に弱いことだ。

 

なぜなら攻撃をいなす時に捕まれたりするとそこから抜け出すことが困難だからだ。意外と投げ技ってレパートリー多いから。

 

とはいえ避けるだけではいずれ限界がくる。見た感じ俺より力もありそうだしな

 

さて、どうしたもんか?

 

相手が疲労が蓄積するのを待つか、それとも一気に決めるか。蘭豹の時みたいに意識外の攻撃をするか、地道にダメージを与えるか。

 

 

 

まず、一気に決めるのはナシだな。そんなことをして、相手の形に持ち込まれたら意味がない

 

なら、このまま距離を取って避けよう

 

相手は俺の足を的確に狙い、バランスを崩そうとしている。崩れた所をを逃さず上半身を掴もうとする。

確かに足を狙われて避ける時にジャンプするから着地した瞬間は危ない、少しでも動きが硬直するからだ。実に厄介。もっと距離を取らないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は一切手を出さずに相手の攻撃を避けて5分経過した。試験官を見ると、なぜか俺に関心しているように見える。

いや、本当になんで?普通呆れるもんじゃないの?

 

 

 

 

 

 

 

避け続けていると

 

 

 

ん?

 

 

 

 

相手の動きがだんだん鈍くなっている。俺は避けてるだけだからまだ体力に余裕がある。

 

 

これなら勝ち筋が見えてきた。俺としては出来るだけ1発で決めたい。

 

だったら、あの時強盗を倒した時と同じく掌底を使うか、当てる場所は顎か頭、特に後頭部だ。

 

決めたなら、そのためにどう動けばいいのか考える

 

隙を作るべきだとは思うが、方法は・・・・・・ある、でもこれは・・・大丈夫か?

 

やるだけやってみるか

 

 

 

 

 

 

 

 

相手はもうスタミナが限界に近いのだろう。かなり息が乱れている。俺は精神がもうキツい。

 

ここが勝負時だな、お互いに

 

相手はかなりのスピードで俺の襟を右手で掴もうとする。俺は両手を使い、手首を掴む。  

 

そして・・・・・・俺は

 

 

 

バン!!!

 

「うがあああ!!!」

 

 

相手は勢いよく膝を着いた。それもそうだろう。だって、右手を掴んだ瞬間股間をおもいっきり蹴ったからな。

 

今の俺の顔は誰が見てもゲス顔だろう。股間を押さえて悶えている姿を見て笑えてくる。ヤベェーSに目覚めそう

 

イカン、イカン。俺は普通、いたって普通。オーケー?

 

 

 

あ、相手は涙目ですぐに起き上がろうとしている。

 

ヤバイ

 

俺は急いで後ろに回って後頭部に出来る限り体重を乗せて掌底を叩き込んだ

 

 

 

 

ガン!

 

 

 

この時に重心を後ろから前に移動させるのがコツだ。左足を軸にして右足で踏み込むと尚良し、逆でもいいけど。

まあ、たまに踏み込む時間が無かったりするけど

 

 

 

 

 

 

そして、相手はもうこれで完全に気絶した

 

 

 

 

 

 

 

僕の勝ちだ!!(キラ風)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで武偵ランク定期外考査は終了した。

 

 

 

 

余談だけど、俺の相手Cランク武偵で、肉弾戦に関していえば、かなりの強さらしい、少しでも掴まれたらヤバかった。

 

いかに相手に対して不利な状況を作るかが必要だな

 

そして、どうやって自分の得意な戦法に繋げるか。

 

今回の闘いはいい参考になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、ちなみに、結果としてはDからBランク武偵に昇格した。

 

飛び級で上がるのはなかなか無いらしい

 

 

 

 




八幡がどんどん強くなっていくw

今思ったけど、八幡とかなめの相性が良さそうだな


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第16話

今回この作品で初めて台本形式を止めてみました
ご意見のほう、よろしくお願いします


今はもう6月下旬だ

 

武偵ランク定期外考査が終わってから1ヶ月以上経ってんだな

 

俺がBランク武偵になったあと、遠山たちとなぜかファミレスで馬鹿騒ぎになった。遠山、不知火はいい。しかし、武藤、ただ単に騒ぎたいだけだろ、お前は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言えば、5月末に武偵イメージアップのためのアドシアードなる行事があった

 

アドシアードとは武偵の国際競技だ。一般の高校生でいうところのインターハイ、他に例えるなら、オリンピックだ。まあ、競技はかーなーり、殺伐としているけど。

 

しかし1年の俺には何もやることなんて無かった。だから、裏方に回った。確かレキは狙撃の代表に選ばれていた。が、それだけなので割愛。

 

 

 

 

 

 

 

 

他には金が無くなってきたら適当に任務を受けて、たくさん稼いだ。おかげで、お台場での事件のを含めて2学期の単位3/4は終わった。

 

 

 

 

 

後は・・・・・・、遠山が不在の時にレキが訪ねてきたぐらいだな。なにそのラブコメ展開。

 

 

と、思うじゃん?

 

 

実際一緒にいても2人でボーッとしているだけだ。たまに、俺が出掛けたらついてくるぐらい。あまり話さない。・・・この老夫婦感なんなんだよ。

 

別にレキといるのは嫌いではない、寧ろ謎の心地良さがある。お互いの領域に踏み込まないみたいな感じの。そんな関係が俺からしたら新鮮で気持ちいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで起こった出来事と言ったらこんなもんだ。

受けた任務と言っても遠山と一緒に借金取りとかやったくらいだ。武偵ってこんなのもやるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今は日曜日。俺は遠山と不知火とで武偵高にいる。なぜなら、今日の午前中強襲科全員が補修あっんだよ。

 

あー、本当に疲れた。蘭豹の特別授業がキツかった。あいつ横暴すぎるだろ。気に入らなかったらすぐに殴る蹴る。しかも痛い。教師としてあの人向いてないだろ、全くよー。

 

 

 

 

それで今、他の生徒は全員帰ったが、俺達は学食で昼飯にすることにした。結構美味しい。値段が妙に高いメニューもあるけど。

 

 

 

昼飯を食べていること30分、蘭豹が食堂に堂々とした態度でやって来た。こ、怖いけど、カッコいい。

 

駄菓子菓子、なんだか嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

「強襲科で残っているのはお前ら3人だけか?」

 

蘭豹が険しい顔で言う。珍しいな、蘭豹がそんな顔するなんて。

 

不知火が戸惑った感じに

 

「え、ええ。恐らくそのはずです」

 

「皆帰ったと思います」

 

遠山も不知火に続く。これは絶対厄介な案件だろうな、俺でもわかる。

 

「くそっ、それだけか。まあいい、時間がない。お前ら3人さっさと食べてついてこい。話がある」

 

急いで俺らは昼飯を食べ、教務科に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らに緊急任務がある。先日山梨辺りで男10数人が銀行強盗した挙げ句、銃を乱射して何人かが亡くなってしまった事件があったのは知っているな?」

 

「はい、知っています」

 

遠山は答える。俺も知っている、あの胸くそ悪い事件のことだな。

 

 

 

 

*最近はテロ等が多いので気分を害された方、誠に申し訳ありません。*

 

 

 

 

 

 

「もしかして・・・」

 

不知火が不安そうな声で尋ねる。

確か5、6人は今現在逃走中と聞いている。

 

「不知火の予想通りや。アメ横の店が今そいつらで占拠されてる。すまんが、あたしも出撃したいところやけど、前にアメ横を一部破壊してしまってなー。今はアメ横出禁やねんな。これがバレたらあたしが校長にどやされんねん。次はないって言われてるからな」

 

おいおい、そりゃないぜ。この人がいれば、百人力なのに。てゆーか、破壊ってどんな経緯でそうなったのか・・・・・・・。

 

 

 

「そこで、お前らや。人選も大丈夫だろう。あの屑共を取り押さえてこい」

 

遠山はS、俺と不知火はBランク。

 

 

 

 

 

 

*この時の不知火の武偵ランクはBにしています。*

 

 

 

 

 

 

多分だが、実力が全開ならこの面子は相当強いだろう。しかし遠山の強さは結構不安定だ、俺は実戦経験は多いとは言えない、寧ろ少ない。

 

しかし、やるしかないのか。幸いにも武器は全員揃っている。そこで防弾制服より優れている装備を着る。

 

 

 

車輌科になぜか武藤がいたので、ちょうど良いので、こいつを俺達の足にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、出陣だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




文章の中に注意書きを増やしてしまい、すいません

さて、一学期も後数回で終わる予定です。
これからもお願いします


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第17話

リゼロの18話を見ました。
メッチャ感動しました、水瀬さんがスゴすぎです。
スバルの演技にも感動しました。


「陣形を確認する。俺が後ろから援護、比企谷と不知火が犯人を接近戦で仕留めろ」

 

今回のリーダーである遠山が俺達に言う。

 

俺はそこそこ銃での命中率は良いほうだけど、実戦で2発しか撃ったことしかない。そして、近接戦も少ない。そこで、不知火とコンビを組むというわけか。

 

「ちょっと待て、俺はどうするんだ?」

 

「そうそう、武藤はお留守番な」

 

笑いながら遠山が伝える。

 

「マジかよ、つまんねーな」

 

ぶつくさ文句を言う武藤。

 

「まあ、冗談だよ。武藤は犯人の退路や足を抑えてほしい」

 

「オーケーオーケー、任せとけよ」

 

どうやら遠山と武藤で話は纏まったみたいだな。俺も逃げられては困るしそれが最善だと思う。

 

 

 

今は目的地に防弾車で向かっている。後5分で到着予定だ。武藤運転上手だ、さすがは車輌科。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地に着いた。周りは警察が囲っている状態だ。全員がピリピリしているな、なにこれ吐きそう。

 

・・・・・・冗談はこのくらいにして、今の状況を聞くか。あ、もう遠山と不知火が行ってる。

 

 

 

 

 

 

聞いたところ状況は最悪と言ってもいいらしい。

 

監視カメラを確認したところ建物の最上階に女子中学生が4人、犯人は5人。犯人全員拳銃持ち、顔はマスクを被ってわからず。犯人の目的は特になし。ただ暴れたいだけかよ。

 

思ったけどベタだな。

 

 

 

 

 

 

入り口は監視されてないから簡単に侵入出来る。だが、警察は動かない。

 

理由を聞いてみると、警察はどうやら上から交渉を試みると圧力がかかって、今はまだ動けないとのことだ。

 

くそが、人命を考えたらそんなの関係無いだろ。交渉なんて応えるわけ無いに決まってる。もし応えるようなら、こんなことやるわけないんだよ。そのぐらい理解出来んだろ。

 

そこで警察に関係ない武偵が必要なのか。

 

無駄に思考を巡らせていると・・・

 

 

 

 

 

「いいか、今回の任務の目的は人質の安全、次に犯人の確保だ」

 

遠山の声で考えを一旦止めて意識を戻す。

 

「わかった」

 

「おう、キンジ、俺は裏口を抑えとくぜ」

 

「了解だよ、遠山君」

 

3人口を揃えて返事をする。

 

「武藤、頼んだぞ。俺らはギリギリまで上がるぞ。エレベーターは使わない、階段を使う、足音を殺して進む。ここからは喋らないで行くぞ」

 

武藤が去っていく、俺と不知火は同時に頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最上階に着いた、恐らくだがバレてはない。だって扉がほとんど閉まっているし。

 

遠山は武偵手帳にある鏡で中の様子を見ているので、それを覗く。

 

ふむ、人質を真ん中に固めて、犯人は周りにいる。典型的な陣形で一番厄介だ。

防弾装備はなし、普通のパーカーだ。武器は視認出来る限りは拳銃だけ。人質は猿ぐつわをされていて、声は出せない。

 

 

 

 

 

 

 

え・・・・・・

 

 

 

 

 

そこで俺は信じられない光景を目撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こ・・・ま・・・・・・ち?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小町だ、人質の1人は俺の妹の小町だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでここにいるんだ?よりによってこんな時に。

 

 

 

汗が流れる。尋常じゃない程の汗が。今までと比べものにならないぐらい。お台場で初めて人を撃った時以上の汗が。

 

心配そうに遠山と不知火が俺を見る。とりあえず頷いたが、頭がこんがらがっている。 

 

 

落ち着け、落ち着くんだ。

 

兄として、男として、俺の成すべきだと思ったことを成せ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠山が強襲科で習ったマバタキ信号で俺と不知火2人に指示を出す。

 

 

内容は 「自分」「撃つ」 「2人」 「近接」 

 

遠山が撃って、犯人の気を散らしてから不知火と一緒に一気に抑えるってことか。

 

やってやる、小町、待ってろ。

 

 

 

 

 

パン!!

 

 

 

遠山は扉を開けてベレッタで天井を撃つ。

 

「なんだ、なんだ?」

 

 

犯人達が騒ぎだす。そりゃびっくりするわな。

 

 

遠山が合図を送る。そして、俺はスタンバトン、不知火はナイフを持って走る。

 

まだ、犯人は動転している。

 

イケるか・・・・・・

 

俺達が踏み込んで、

 

「武偵だ!」

 

小町が驚いた顔をしている。だろうな。

 

 

 

 

 

 

俺は叫んびながら、手前にいた奴の脛を蹴り、俺が蹴った不知火が直後にみぞおちを殴る。これで1人ダウン、銃は軽く滑らせて遠山に渡す。

 

 

 

次の相手に目を向けた時にはもう、

 

「う、うわああぁあぁあぁあああ!!!」

 

 

 

パァン!!!

 

 

 

 

1人が狂ったのか怖くなったのか震えながら銃を撃った。

 

 

 

 

 

 

小町に向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果として弾は小町には当たらなかった。掠りもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普段の俺ならば理性でいつも行動している。そんなにあまり感情に身を任せたことはない。リスクリターンの管理はきちんとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の理性が何かどす黒い感情に覆われるのが解る。

 

 

 

 

こんな感覚は初めてだ。

 

 

 

 

 

 

オレノ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナニカガ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチギレタ

 

 

 

 

 

 

 




短めですいません。

これからは台本形式を外します。

ではまた、ばいちっ!


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第18話

八幡誕生日おめでとう!

短めですが、どうぞ。


ーキンジsideー

 

 

 

 

ゾクッ!!!

 

 

ものすごい寒気がした。 

 

その寒気の正体は・・・・・・・・・、

 

とてつもない殺気だ。

 

 

 

 

な、何だ。何なんだこの溢れんばかりの殺気は・・・・・・、

 

 

 

 

思わず俺は1歩下がる。不知火も同様に俺の所に下がってくる。

 

「と、遠山君、これは・・・・・・」

 

「あ、ああ・・・」

 

 

 

 

この殺気の発生源は・・・・・・比企谷だ。

 

 

 

比企谷八幡と言えば、いつも理性に従い動く印象がある。自分が出来ることをして、出来ないことは極力しないけど、でも、いざと言うときは捻くれながらも動く、そんな奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

だけど、今の状態は危険だ。

何が比企谷をここまでさせたのかわからない。

 

しかし、これでは武偵法9条を破る行為、つまり人を殺しそうな勢いだ。それほどの殺気を放っている。ダメだ、マズイ。急いで止めないと。

 

 

「比企谷!!止まれ!!」

 

叫ぶが、俺の声は比企谷には届かない。だったら、比企谷を止めるために走ろうとするが・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足が動かない、体が震えている。

 

 

 

 

なぜなら、こんな純度の高い殺気は初めて感じるからだ。

 

今まで生きてきた中で、こんなにも恐怖を覚えたことはなかった。

 

ダメだ、全然足が動かない。横を見ると不知火も動こうとしない。いや、やはり不知火も動けないのか。

 

人って恐怖でここまで動けなくなるのか・・・・・・。

 

俺が今ヒステリアモードならば、なんとかなったのかもしれない。でも、今はあの俺になれる要素がない。

 

くそっ、所詮俺が受けたSランクなんて紛い物だ。今の俺は無力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしている間に比企谷がゆっくりと、歩いている。殺気は解かずにゆっくりと。

 

人質全員は泣いている。

 

犯人達残り4人はビビって腰を抜かしている。特に銃を撃った奴は特に。

 

 

あいつが比企谷に何かしたのか?

 

もしかして撃たれそうになった人質の1人は比企谷と関係のある人なのか?それなら納得がいく。

 

そう言えば、あの子どことなく比企谷に似ているな。

 

 

そんな考えをしている内に、

 

 

「こ、この野郎!!」

 

 

犯人の中の2人が急に立って比企谷を撃とうとする。ガタガタ震えながら、撃とうとする。この時比企谷との距離は目測3m。これは外れるな、照準がぶれぶれだ。

 

比企谷はその間合いを一気に詰めてファイブセブンを抜き、グリップで1人は頭を殴る。もう1人はスタンバトンで、頬を思いっきり殴ってから電気を流した。

 

モロに攻撃を食らったから2人は気絶した。

 

しかし、比企谷は気絶しているそいつらを蹴る、蹴る、ひたすら蹴る。もうただのオーバーキルだ。

 

や、止めろ、比企谷。もうそいつらはボロボロだ。

 

 

 

 

それでも、比企谷がこんなになっていても、俺と不知火は動くことが出来ない。怖い、比企谷が怖い。ただただ怖い。

 

俺は情けない、本当に情けない。こんな時に同じ武偵が危うい道に進んでいるのに、止めることが出来ない。

 

 

 

 

 

 

ひとしきり蹴った後、別の1人に近づく。そいつは涙目で腰が抜けて、戦意なんてものは少したりとも存在しない。

 

だが、それを気にせずに蹴る、倒れたところを踏みつける、踏みつける、踏みつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

こ、これは、戦闘じゃない、蹂躙だ。一方的に、圧倒的な力で敵をいたぶっているだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遂に、比企谷は恐らく比企谷との関係者だと思う者を撃った奴を見る。その距離6m。

 

 

「く、来るなよ。来るな、来るな来るな来るな来るな来るな来るな!!」

 

そいつは肌は真っ青、涙目、全身震えて、比企谷を見ている。後退りながら必死に命乞いをしている。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこと気にせず、比企谷はファイブセブンを構える。そして相手の頭に照準を合わせる。

 

「ひ、ひいぃぃ」

 

 

ヤバイ!マジで殺すつもりか。あいつならこの距離で外すことはない。

 

 

 

ここで、やっと俺達は動くことが出来た。  

 

俺はベレッタをホルスターから抜こうとする。あいつは防弾制服だし、とりあえず撃っても死なない。少しでも動きを止めないといけない。不知火も同様に拳銃H&K MARK 23を抜こうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、俺達のその動作はほんの1歩遅れた。

 

その時比企谷八幡は、

 

 

 

 

パアァン!!!!

 

 

 

 

もう既にファイブセブンの引き金を引いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その直前にパリィィンと窓が割れる音がした。

 

そして、比企谷が撃ったと同時に

 

 

ガキィィン!!

 

 

金属がぶつかり合う音がした。

 

 

気付いた時には天井と床に銃弾がめり込んでいた。

 

比企谷に撃たれた奴は無事だ。もちろん人質も。比企谷自身は、今は動いてない。

 

 

そしてゆっくりと窓が割れた方角へ振り向く。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・これは、どういうことだい?」

 

不知火が俺に聞いてくるが、

 

「わ、わからない・・・。何が起こったんだ?」

 

すると、耳に付けている通信機から通信が入った。

 

『キンジさん、不知火さん。遅れてしまい、申し訳ありません。お待たせしました』

 

通信機から、とある狙撃手の声がした。

 

 

 

 

 

 




八幡誕生日のくせして
こんな暗い話ですいません


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第19話

UA70000突発
お気に入り登録700以上
ありがとうございます!

新幹線からの投稿です。
それで思ったのですが、キンジって新幹線の上で戦ったことがあるんですよね。怖すぎだろ


 

この声は・・・・・・、

 

「もしかして、レ、レキか!?」

 

『はい』

 

この援軍は心強い。

 

「悪い、助かった。それで、レキ、お前はさっき何したんだ?」

 

『簡単なことです、キンジさん、私の銃弾で八幡さんの銃弾を弾きました』

 

 

 

 

それは昔兄さんが見せてくれたことのある、銃弾弾き(ビリヤード)という技と同じ原理か。まさか、レキが出来るとは思わなかった。しかも狙撃で。

 

というより、簡単って言うなよ・・・。

 

 

 

 

 

 

『キンジさん、不知火さん。今なら、人質を解放出来ます。先に比企谷小町さん、八幡さんの妹を解放してください。恐らくあの子ならきっと八幡さんを・・・・・・』

 

そうか、あの子は比企谷の妹だったのか。あいつは確かシスコンだったな、納得。

 

レキの言葉の意味は・・・。考えるのは後だ。

 

「ああ、わかった。不知火、行くぞ」

 

「うん、わかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう犯人たちはほとんどが気絶しているし、人質は簡単に解放出来た。

 

まず、最初にレキが言った通りに比企谷妹の所に行く。不知火は他の人質の所に行く。

 

見渡したが、比企谷妹以外の他の人質は気絶している。

 

・・・・・・比企谷妹はスゴい泣いている。まあ、実の兄が殺す直前までいったからな。

 

俺のバタフライナイフで猿ぐつわされている部分をとりあえず切る。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい。でも、お兄ちゃんが・・・・・・」

 

そこで、チラッと比企谷の方を見る。

 

今はまるで機能停止した機械みたいに動いていない。じっと窓が割れた方を、恐らくだがレキがいる方を見ている。まだ殺気は解かずに。

 

比企谷妹のトラウマにならなければいいが・・・・・・

 

比企谷妹の猿ぐつわは完全に外し、他に拘束されている場所も外す。他の人質は不知火に任せて、比企谷の方に向かおうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、比企谷に撃たれそうになった犯人が拳銃を拾って、

 

「て、テメエ!ふ、ふざけんじゃねえ!!!!」

 

構える。

 

 

 

マズイぞ、もし撃たれたら、あの弾は比企谷に当たる。まず間違いなく。

 

 

 

なぜなら、犯人はもうヤケクソなのか無駄に冷静だ。

対して比企谷はまだ、我を失っている。ちゃんと状況判断が出来るかわからない。しかも今は機能停止状態だ、オマケにさっきから動いてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、同時に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!!!」

 

比企谷妹が叫んだ。

 

 

 

 

 

ガン!

 

 

 

それともう1つ、犯人の持っていた銃が弾かれた。・・・レキの狙撃か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比企谷妹の声で比企谷の意識が復活したのか、比企谷は比企谷妹の方へ振り向く。

 

その時、比企谷の表情が変わったような気がした。

 

今までの比企谷の目はまるで光が無い、暗闇のような目、全ての光を飲み込むような感じだった。

 

しかし今はいつもの腐った目に戻っている。

 

・・・自分で言ってて思ったが、腐った目って言ってごめん。

 

 

『キンジさん、今から私はそちらに向かいます』

 

「わかった。ありがとうな、レキ」

 

なんだかんだ言って、レキも比企谷のことが心配なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそったれ、死ねええぇええぇええ!!!!」

 

 

今度は犯人の方に目を移す。もうこいつは比企谷を殺すことしか考えてない。もう数秒したらこいつは確実に撃つ、その前に止めないと。

 

レキの援護がない。くそっ、俺はベレッタを構えて援護しようと試みるが、間に合うか・・・・・。不知火はまだ人質を解放中だ。

 

比企谷がどうなっているか見ようとするために、比企谷の方に目を戻したが・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

比企谷から目を離したのは時間にして1秒ぐらいだろう。

 

だけど、

 

 

 

 

いない、比企谷がいない。

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

・・・ひ、比企谷が消えた・・・・・・?

 

それは比喩とかではなく、全く視認出来ない。

 

もしかして外に出たとか?

 

いや、違う。足音はそんなに多く聞こえなかった。

 

・・・どうなっているんだ?

 

 

 

 

 

 

 

犯人や不知火や比企谷妹、当然俺も戸惑っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐわぁ!!」

 

 

ドサッ

 

 

 

ガチャ

 

 

急に誰かが叫んだと同時に、倒れる音がした。それと何かがおちる音も。

 

音の発生源を見ると、犯人が倒れていて、ファイブセブンが落ちている。そして、その後ろには、スタンバトンを持った比企谷がいた。

 

「制圧完了・・・」

 

比企谷がそう呟いた。

 

 

戻った、比企谷が元に完全に戻っている。

 

はあ~、良かった。これで一件落着だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー八幡sideー

 

 

犯人の確保が終わって、今は連行されている。あいつらはしばらく警察でお世話になるな。

 

連行される時、俺を見て、スゴい怯えていた。実際俺は記憶飛んでいたから、よくわからん。でも、人を殺しそうになったことは覚えている。なんつーか、ゴメン・・・。

 

 

 

 

 

今俺は何をしているかだって?

 

「遠山、不知火、レキ、小町。本当にすいませんでした!!!」

 

絶賛土下座中です。

 

 

 

あ?武藤?知らん。

 

レキがいるけど、どうやら俺らを手伝いに来て、俺がさんざん迷惑かけたらしい。

 

 

 

 

「まあ、全員無事で何よりだよ」

 

「こっちこそ何も出来なくてごめんね」

 

「大丈夫です、八幡さん。私も間に合って、あなたが無事で良かったです」

 

「本当に怖かったんだよ!!・・・次から止めてよね、小町心配するから。・・・・・・お兄ちゃんが小町のせいで犯罪者にならなくて安心だよ。そうそう、また、家に帰ってきてね、お母さんたちに報告するから、たっぷり怒られてね」

 

「お、おい。俺は!何もないのか!?」

 

上から、遠山、不知火、レキ、小町、・・・ついでに武藤。

 

 

 

 

「八幡さん、謝るより言うべきことがあると思います。」

 

「そーだよ!お兄ちゃん!みんなに言うことは?」

 

謝罪より言うことって・・・

ああ、俺がほとんど言ったことのない言葉か・・・・・・

 

 

「えーと、あ、ありがとな・・・・・・」

 

は、恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、この事件は幕を閉じた。

 

 

 

あと、もうすぐで人を殺しそうになった、取り返しのつかない所だった。

 

そこで俺は助けて貰った。

俺は今まで自分の事は1人でやっていたが、武偵は違う。こんな俺を助けてくれる物好きがいる。

 

だったら、俺も誰かを助けてあげれるように、もうあのどす黒い感情に染まらないように、力を正しく使えるように・・・。

 

 

 

 

武偵憲章1条

仲間を信じ、仲間を助けよ

 

か、最初聞いた時は思いっきり鼻で笑ったけど、武偵では必要な事なんだな。

 

1人の力なんて、たかが知れているから。だから、これからは仲間が必要ってことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、明日はどうせ先生たちの説教が待っている。早めに寝るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーキンジsideー

 

 

俺はベッドに寝転びながら、考えていた。

 

・・・比企谷が消えた現象についてだ。まあ、厳密には消えたではなく、見えなくなったが近いと思うが。

 

とある考えが1つ浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

それは殺気のある、つまり存在感のある比企谷を見慣れてしまったことだ。

 

元々比企谷は存在感はないほうだ。だが、俺たちはそれが比企谷の普通だからそれに慣れていた。まあ、たまにというより、結構見失うけど。

 

しかし、あの時の殺気を出しまくっていた。だから、比企谷はあそこで誰よりも存在感があった。全員があいつを見ていた。

 

そして、レキや比企谷妹の助けであいつは元に戻った。いつもの存在感のない比企谷に。

 

比企谷が元に戻った瞬間は犯人が叫んだから、全員そっちを見ていたと思う。そこで俺はもう一度比企谷を見ようとした。

 

だけど、さっきまで、存在感のある比企谷を見ていたから、いつもの比企谷を見ようとしても見つからなかった。

 

 

 

犯人は銃を構えるのに意識が向いていて、あいつがいつ移動したのがわからなかったとかだろ。それともう1つ、あの時のファイブセブンを使って上手いこと相手の視線を誘導したのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回俺は何も出来なかった。比企谷を止めることも、犯人の確保も。

 

それが悔しい。とてつもなく悔しい。

 

今度こそ、今度こそは、守れるくらい強く。

 

 

 

 

俺はそう思いながら、眠りについた。

 

 

 

 

 




これで一学期は終わりです。

ここで皆さんに質問です。
夏休み、二学期から俺ガイルのキャラクターを出そうと思います。設定とかは作者が考えるのでどのキャラクターを出したいかご意見のほどお願いします。
5人以内にするつもりです。




活動報告に意見よろしくです。
夏休み編が終わるまで受け付けます


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1年 夏休み
第20話


先日アキバに行ってきました。
もう、すごいの一言です。最高でした。

そこでエアガンのショップを見たのですが、予想以上に大きかったです
ベレッタ、デザートイーグル、ガバメント等々見ました。迫力がすごい
残念ながら、ファイブセブンは無かったです


さて、今は夏休みだぜ

 

夏休みとは宿題さえ終われば、だらだら出来る最高の長期休暇だ

 

そう、今までだったら

 

しかし、武偵はそうはいかない・・・

 

なぜなら、1ヶ月以上もサボってしまえば、銃の腕が落ちる、体力無くなる等とデメリットがあまりにも多いからだ

 

だから、不本意、不本意だが定期的に訓練をしなければならない。少しでも怠れば、2学期に苦労するのは目に見えている。そうなれば、蘭豹に殴る、蹴る、撃つというオシオキフルコースが待っている

 

 

 

それが本来の武偵(強襲科)の場合だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、俺は違う

 

 

 

 

 

午前10時

 

「さあ、補修の時間や、小僧」

 

「まあまあ、蘭豹先生・・・。というより、君は比企谷君を連れてきたわけだしもう帰っていいですよ」

 

「そうでしたね、わかりました。校長先生。では私はこれで。」 

 

「はい」

 

と、目の前で繰り広げられる光景をぼんやり眺める。

 

 

 

 

敢えて言おう

 

どうしてこうなった?

 

 

 

 

いやまあ、理由は簡単なんだけど

 

 

 

この前の事件で俺が色々やらかして、終業式の日に蘭豹からの3時間続いた説教(暴力あり)が終わったあと、夏休みの2週間俺だけ特別補修すると言い出したのだ

 

しかも、補修講師が校長らしい。蘭豹ではなくなぜにこの人選なのか

 

 

 

 

 

 

「さて、比企谷君、君にはこの2週間で私の元で君自身の武器を伸ばしてもらいます。それには、私が適任というわけです」

 

俺の・・・武器?

 

俺の武器はコンバットナイフとファイブセブンとスタンバトン何ですけどそれは・・・・・・

 

 

 

「恐らく君が今考えているのは君が持っている銃剣の類いでしょう」

 

「アッハイ。・・・違うのですか?」

 

えっ、違うの?俺の武器ってそれだろ

 

「違いますよ。比企谷君。君の最大の武器は、優れた隠密、特にその存在感の無さです」

 

そう言って校長は微笑む

 

・・・誉めてるの、それ?

 

 

 

 

 

 

唐突だが、ここで、我が校の校長の話をしよう

 

 

 

緑松武尊(みどりまつ たける)

 

東京武偵高校の校長

 

通称「見える透明人間」

 

日本人の平均的な顔立ち、身長をしている。その他にも何もかもが平均的。そのことにより、逆に相手に全く覚えられないとい特徴を持つ 

 

だから、気をつけていても、気づいたときには既に遅い状況になるらしい

 

普段は優しいが本気になると殺気や気配すらも消えて、そこにいることを判別することさえも困難になるという。教師陣すら恐れる東京武偵校で最も危険な人物だと

 

と、校長室に連れていかれる前に蘭豹に忠告された

 

何そのチート野郎。あの蘭豹ですら恐れるのかよ、どれだけヤバイのか。入学式の時は少しバカにしたけど、マジて凄い人物と改めて認識した

 

 

 

 

 

 

その話題は一旦終了 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、この校長が言うからには、俺のその力とやらは本物なのだろう

 

で、問題は・・・

 

「実際問題どうするんですか?それって、ぶっちゃけ先生の才能ってことですよね?俺が真似しようとしても出来ないですよ」

 

 

そう言うと、校長は微笑んで、

 

「才能・・・ですか。確かにこの世界では才能と呼べるものですね。ですが、考えてみてください。もし私やあなたが元の安全な世界にいたとしたら、さぞかし苦労することでしょう」

 

それは・・・・・・・・・確かにそうだが・・・

 

校長は話を続ける

 

「しかし、ここでは君は必ず役に立ちます。そして、蘭豹先生からこの前の話を聞きました。次はあなたの大切な者たちを守れるように私の技術を教えれるだけ教えましょう」

 

「お、お願いします」

 

こうして、2週間の補修が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後4時

 

「はい、明日も同じ時間から開始ですよ。お疲れ様です」

 

「ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

つ、疲れた~。まさか休憩が30分だけとは。かなり鬼畜だわ、この校長先生

 

にしても、実演で校長がマジで消えた時は驚いた。なんつーか、カメレオンみたいに風景に溶け込んだ感じだった

 

自分の存在感を圧倒的殺気で薄れさせることが重要と習った。そして、その殺気でさえ風景に紛れ込ませると・・・

 

今回の目標はあの時の殺気を通常時でも、どんな状況でも放てることだ。そして、自分の力でコントロールすること。それをこの2週間で叩き込むらしい

 

正直に言おう。キツイです、かなりキツイです

 

しかも射撃訓練や他の訓練もある程度こなさないといけない

 

ああー、早く休みたい・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分ほど射撃訓練して今日は帰ることにした。時間はもう5時に近い。家に帰ったら課題もしなければ・・・・・・。やることが多いよーー、嫌だよーーーー!

 

俺は夕日に向かって、そう叫ぼうとしたが・・・

 

なんか周りから可哀想に見えてしまいそうだから止めることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は体を伸ばしながら

 

「よし、帰るか・・・」

 

そう呟いた。しばらくして後ろから

 

「八幡さん、少しよろしいですか?」

 

俺の名前が聞こえた

 

 

 

 

 

少し立ち止まる。この声、そしてこのデジャヴな感じは・・・

 

「・・・・・・レキか。何か用か?」

 

振り返ると予想通りレキがいた。その表情は・・・・・・わかるわけないんだよなぁ

 

「はい。この後八幡さんは暇でしょうか?」

 

「俺は疲れたので、このまま部屋に帰って、課題を片付けなければいけないので超忙しいです」

 

間髪入れずに答えた、一息で

 

「なら、大丈夫ですね」

 

あれ~、話聞いたのかな?俺忙しいって言ったんだけど・・・

 

まあ、どうせ長くて数十分ぐらいだろ。その位ならいいかな?・・・・・・いや、良くないな、うん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どこに行くんだ?」

 

少し話を聞くことにした

 

「私のドラグノフの部品の買い換えたいのですが、色々と重いので、付いてきてください」

 

えーっと、要するにただの荷物持ちってわけですね、わかります

 

「ちなみに断るって言ったら・・・」

 

「あなたは私に借りがあると思います」 

 

「借り?」

 

「はい。この前私はあなたと小町さんを助けました。だから手伝ってください」

 

そうだな。・・・そう言われると何も言い返せない

 

「わかったよ。付いていきますよ、お嬢様」

 

もう諦めてレキに付いていくことにした

 

「では改めてお願いします、八幡さん」

 

無表情で答えるレキ。ほんの少し位表情変えてくれませんかねぇ・・・

 

俺はそう思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、レキが数mm単位、わずかに微笑んだのをその時の俺が気付くことなんてなかった

 

 

 

 

 

 

 




中途半端で切ってすいません

ところで、活動報告を見たのですが、もう決定したので設定を作ろうと思います。
ありがとうございました


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設定集

設定つくってみました


設定集

 

 

 

戸塚彩加

 

救護科  Cランク

 

 

持ち武器 女子でも持ちやすいとされてるブローニング・ハイパワー  フォールティングナイフ(中型)

 

 

高校から入学。

 

休み時間は殆ど保健室にいて、怪我をした生徒たちを治療し、癒してくれる。

 

土日は予定がないかぎり、武偵病院でバイト兼勉強をしている。そこで単位を稼いでいる。

 

なお、大半の生徒が女子と勘違いしている模様。

 

先生が初めて戸塚を見たときはCVRに入れようとしたが男と知って断念。だったらと転装生(チェンジ)所謂女装をさせようと試みたが、こちらも断念。

 

八幡とは蘭豹に投げ飛ばされたあの日に知り合った。仲は良好。

 

八幡と同じクラス。

 

 

 

 

 

材木座義輝

 

装備科  Bランク

 

持ち武器 有名なベレッタM92 小太刀(刃渡り35cm)

 

中等部から入学していた。

 

 

平賀文とは何かと気があって、かなり仲がいい。

 

値段も控えめで装備のメンテナンスに関してはかなりの腕でそこそこ有名。

 

性格はアレだが、固定客はそれなりに多い。

 

しかし、たまに武器に自分のサインが彫ってある。

 

本人曰く宣伝のためだとか・・・。

 

ちなみにサインは<剣豪将軍>とかっこよく書いている。

 

そして、頼んでない物を勝手に制作して問題起こして怒られる。

 

 

 

 

八幡が細かくメンテナンスしたいときは基本材木座に頼んでいる。

 

関係性と性格は原作と殆ど同じ。

 

八幡とは別のクラスだが、口コミで材木座のことを知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川崎沙希

 

尋問科  Dランク

 

持ち武器 小型のグロック19 ジャックナイフ

 

 

高校から入学。

 

原作と一緒でトゲトゲしているが、そこまで嫌われてない。辛辣な言葉で相手を責め立てる姿が怖いけど、一部からは尊敬されている。

 

ぶっちゃけ実力で言えば、Bはあるが、本人は今はこれでいいと言っている。

 

授業後の差し入れは先輩教師問わず人気。

 

 

八幡とはまだ関わってない。絡むか今のところ不明。

 

八幡とは同じクラス。

 

 

 

 

一色いろは  中等部3年

 

 

強襲科兼CVR兼尋問科  Dランク

 

持ち武器 思いつかなかったので、峰不二子と同じFNブローニングM1910 フォールティングナイフ(小型)

 

中学2年間はCVRでハニートラップの技術を学び、尋問科で心理学を中心に学んでいた。

 

これからはその2つの技術を用いて、中学3年から強襲科で頑張る予定。

 

ぶっちゃけそこそこ器用。CVRと尋問科の技術は6割近い技術を吸収した。

 

ころころ学科を変えるからランクはそこまで高くない。

 

  

八幡とはまだ会ってない。でもいずれ絡める予定。もしかしたら八幡が2年生になるまで絡むかわからない。絡むかどうかは作者や読者次第。

 

 

 

 

 

 

 

鶴見留美  中等部2年(八幡、2年生になりました。から3年)

 

探偵科  Eランク

 

持ち武器 コンパクトで軽量なKAHR PM9 ブーツナイフ(何か気になったらググってね)

 

 

 

 

入学したてで、まだランクはそこまで。

 

体が柔らかく、蹴り技、小柄な体型を活かした奇襲が得意

 

拳銃はたいして撃ったことはない。主に体術を磨いている。探偵科だが、自由履修でよく強襲科を選択している。

 

探偵科では特に落ちこぼれというわけではない。むしろ頭が良いので、あまり強襲科には行かずにマトモに育って欲しいと教師は願っている。

 

八幡とはまだ会っていない。

 

絡めたいが、ハーレムは作者の力では書けない。そもそもハチレキにしたいからどんな感じに絡めるかわからないのが現状である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いろはすとルミルミは付属中学ではなく、インターンとして高校に通ってる。他にも同年代が複数いる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その他

 

平塚静

 

強襲科特別教師

 

持ち武器 拳!! メリケンサック!!

 

昔は蘭豹と5時間殴りあって決着はつかなかった伝説の人。その事もあり、今は一緒に飲む仲である

 

合コンで少しキレて力5割で厚さ6cmの机を叩いたら半分割れた。これが武偵高に広がり極力この人の前では恋愛の話をしてはいけないのが暗黙の了解

 

ある程度の動きが読める八幡でさえ、この人のパンチを避けれる確率は3割あるかないか

 

ちなみに武偵ではない。元格闘家。熊を素手で倒したことがある。近接格闘だけで言えば武偵高でかなう人はいない

 

性格はよくあるアンチ作品ほど屑ではない。恋愛話さえしなかったらいい人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしょうか?疑問、おかしな点あればご指摘ください

平塚先生はこれを見て出してもいいか意見お願いします


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第21話

これからテスト勉強があるのでどのくらいの頻度で投稿できるかわかりません

すいません


 

時間は今4:30俺はレキと武偵高の購買部に来ている

 

 

 

武偵高の購買部には色んな装備が売っている。拳銃や刀剣はもちろん、超能力者用の手錠等々・・・・・・

 

ん?超能力者か・・・。超能力者とはその名前の通り超能力者だ。炎や氷等を操る超能力と思ってくれて構わない

 

さらっと言っているが、俺は実際星伽さんが炎を何もないところから出したのを見たからな

 

ここでは超能力を扱う場所をSSRと呼ぶ。星伽さんに許可を貰って遠山と見学に行ったかとがあるが、一言言うと呪われそうで怖かった

 

 

 

 

 

 

レキがライフルの部品を確認している中俺はナイフや拳銃の手入れ道具を見ていた。いつもは装備科のやつに見て貰っているが、自分で手入れ出来て損はないからな

 

 

5分ほど辺りを物色していると

 

「買い終わりました。八幡さん」

 

レキが買った荷物を俺に渡してくる。それを受け取って

 

「おお、わかった。これで終わりか?」

 

「すいませんがまだです。平賀さんに銃弾の仕入れを頼んでいるので、付き合ってもらっていいですか?」

 

平賀さんか・・・。あの人に最初メンテナンス頼もうとしたけど、値段が高すぎたから止めた

 

「校内に今いるのか?」

 

「はい、先ほど確認したところまだ校内にいるとのことです」

 

レキの後に続きながらスマホのメール画面を開く。そして、あるやつに連絡を取る。・・・どうやらあいつも校内にいるのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わりここは装備科。

 

俺たちは平賀さんの元に行く。いつ見てもここは男心をくすぐる物ばかりだ

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・何やら機械の山に頭から突っ込んでいる小学生がいる。これが平賀さんである

 

俺らの足音に気付いたのか山から抜け出してこっちを見てくる

 

「おおー、待ってたのだ。レキさん、これ、頼まれた銃弾70発なのだ」

 

あれ?俺ってば気付かれてない?レキには気付いているから俺も気付いているよね?

 

脳内でそんなやりとりをしつつ、レキが金を出して銃弾を受け取るのを見ながら

 

「平賀さん、材木座いるか?」

 

「やあ、比企谷君!材木座君なら隅っこでバーナーとかを扱っているようなので待ってくれなのだ」

 

この平賀さんと俺がいつもメンテナンスを依頼している材木座とはかなり仲が良い。材木座は中二病だけどな・・・・・・

 

平賀さんは不思議な顔でキョロキョロしながら

 

「ところで、レキさんと比企谷君はどうして一緒にいるのだ?もしかして出来てるのか?」

 

ふっ、予想通りの質問だな

 

「違う。俺がいいように使われているだけだ」

 

完璧な回答をするがなんかレキがジト目で見てくるのだが、なぜに?  

 

「これは面白いネタになるのだ。早速、情報科に・・・」

 

「おいこら、止めろよ」

 

俺の平穏なぼっちタイムが脅かされる。それだけは阻止せねば

 

「冗談なのだー」

 

本当だろうな・・・・・・

 

「第一、比企谷君を知ってる人って少ないのだー」

 

悲しい、スゴい悲しい。

 

「・・・じゃあ、ちょっと材木座のとこに行くわ」

 

逃げるように去りながら材木座の所に行く

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、材木座」

 

バーナーから手を離し、汗を拭き取る材木座に声をかける

 

「むむっ、八幡ではないか!して、連絡はあったが何か用であるか?」

 

「ああ、この前のメンテの料金を払いにきた」

 

この材木座、メンテの料金は安いし、なかなかの腕で固定客が多い。さすが中等部からやってるだけある

 

「にしても、材木座。お前その料金で大丈夫なのか?」

 

普通に頼んだ時の2割ぐらいの料金しか受け取らない

 

「八幡よ、そしたら我の客が減ってしまうだろ」

 

り、理由が悲しい・・・・・・

 

 

「そしたら、平賀殿には負けてしまうではないか。それに客は結構多いのでな。お主が気にすることではない」 

 

自慢気に言う材木座

 

だったら、たまに改造するのを止めろよ。平賀さんも改造して問題起こすんだし・・・。いいライバル?いや、似た者同士だな

 

「ん?あれはレキ殿ではないか。ほほう、あれがSランク武偵。くっ、平賀殿にあれほどの客がいるとは・・・。確か遠山殿も平賀殿に頼んでいると・・・・・・」

 

目に見えて落ち込むな、お前

 

「大丈夫だって、お前はサインを彫らなかったり、変に改造しなかったら信用されてんだからさ」

 

「八幡・・・・・・」 

 

涙目で見てくる材木座

 

「ま、それがあるから客足伸び悩んでんだけどな」

 

後ろにガーンって見える位びっくりする材木座

まじ、っべーわ、こいついじるの楽しいな

 

「じゃ、俺はこれで」

 

「うむ、ではまた!!」

 

相変わらず、声でけーよ

 

 

 

 

 

 

 

「八幡さん、終わりましたか?」

 

「ああ、終わった。じゃあ、行くか」

 

「はい」

 

「またねなのだ、比企谷君にレキさん」

 

俺たちは平賀さんに会釈して去る。この時

 

「八幡!!まさかお主レキ殿と一緒にいるではないか!!!この!リア充!!裏切り者ーーー!!!!」

 

と、聞こえた。・・・まあ、気にしない気にしない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は歩きながら

 

「なあ、レキ。どこまで運べばいいんだ?」

 

尋ねた。もう女子寮に近い。このままだと嫌な予感が・・・

 

「私の部屋まで運んでください」

 

はい、的中しました

 

「運んだら、すぐ退散するからな」

 

せめてもの抵抗を試みる

 

「はい、ありがとうございます」

 

・・・・・・あっさり俺の抵抗が成功したな

 

 

 

 

 

 

 

こっそり女子寮に入って、レキの部屋に今日の荷物を置いて、すぐさま去る

 

武偵になって女子と関わる機会は増えたけど(ほとんどレキ)、さすがに女子の部屋は慣れるとは思えない

 

「じゃあ、俺はこれで。またなレキ」

 

「今日はありがとうございました。ではまた」

 

軽く挨拶を交わし、俺は今度こそ帰る

 

レキの部屋って想像以上になにもなかった。家具もなかった。あれでよく退屈しないもんだな

 

 

 

 

 

寮に帰り、遠山と星伽さんがリビングでイチャイチャしていたから、気配を最大限消して部屋に戻る。俺も成長したな。ここまで悟らせないとは

 

そのまま2時間ほど課題を済ました

 

リビングから星伽さんの声がしなくなった。少しリビングを覗くと遠山がぐったりしている。一体何があった?

 

 

 

 

時間はもう9時に近い。遠山も今回は星伽さんからの晩飯を食ってなさそうだから簡単に料理するか。冷蔵庫に材料は・・・。卵とほんの少しの野菜たち・・・・・・だけだった。ご飯はちゃんと炊いている。チャーハンにするか

 

チャーハンを作った後、遠山を起こして晩飯を食べた。その後はシャワー浴びてそのまま寝た

 

今日の感想を1つ、疲れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーレキsideー

 

ここ最近、私は八幡さんといるときが多い

 

コンビニであの人、八幡さんと出会って、風が警戒しろと言った

 

その理由がわからず、八幡さんを何度か尋ねた

 

八幡さんは雑な対応をしながらも私と接してくれた。他の人達はあまり話しかけてこなかったが、八幡さんは違った

 

そこが、嬉しいと思った

 

 

 

・・・嬉しいとは感情の1つだ

 

前までの私は風が感情を好まないから、感情を持たなかった

 

でも、最近は少しだけ感情を持ち始めた

 

だが、そのせいで風から声が少し届かなくなった。もし、感情をもっと持ってしまったら、完全に聞こえなくなるかもしれない

 

八幡さんなら、今の私にどう言うのか・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




材木座の口調が難しいです

なんか急展開でごめんなさい

早くアリアの新刊を読みたいです


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第22話

アリアの新刊読みました。いやーおもしろくなってきましたね

最近駄文になってきましたが、よろしくお願いいたします


あの日から2週間が過ぎ、俺の補習は終わりを告げた。

 

 

 

校長から

 

 

 

「これで私は私の技術をこの2週間で教えました。君は3割ほど吸収出来ました。そこに君自身の素質を合わせれば以前より戦えるでしょう。ですが、決して感情に身を任せてはいけません」

 

強く言う。

 

「・・・だから、たとえ熱くなっても、キレかけても、ほんの一瞬冷静になりなさい。そして、自分がここにいる意味を思い出しなさい。・・・・・・私からは以上です」

 

最後に笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は部屋に帰り、考えた。

 

武偵の意味を。

 

そういえば、遠山が前に言っていたな。

 

「力には責任が伴う。力を正しく使う、力無き人を守る為に戦う重い、重い責任が」

 

武偵には力がある。

 

普通の人は銃を使えない、ナイフを上手に扱えない。しかし、武偵は違う。

 

例えば、医者もそうだろう。病気から助ける力が医者にはある。

 

何が言いたいのかと言うと、何かをするためにはその専門的な知識が必要なわけだ。

 

俺は武偵だ。決して人を殺すために銃を持ってるわけではない。でも、あの時は人を殺しかけた。その事実は変わらない。ならば、その出来事も俺の力にする。そのために校長から色々教わった。

 

だから、次は人を助けるために銃を握る。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・いや、俺のキャラってこんな感じだっけ?いつも働きたくないって言ってたよな。なんでこんな前向きになってんの?

 

こ、これが親父から受け継いだ社畜の運命か・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく経ち、俺は遠山と昼に外出していた。理由は冷蔵庫が空っぽだったから、どうせなら外で食べるかとなった。遠山が金欠だから俺の奢りでだ。まあ、この前迷惑かけた詫びってことにした。

 

遠山とぶらぶら歩いていたら、ラーメン屋を見つけた。

 

「あそこにするか?」

 

「そうだな」

 

・・・・・・会話が短い。ぼっちとネクラだったらこれが当然なんだけどな。

 

 

 

 

ラーメン屋の扉を開けて、俺らはカウンター席につく。

 

「ん?おぉ、比企谷と遠山か」

 

聞き覚えがある声がする。左を向くと

 

「あ、平塚先生。こんにちは」

 

そこには武偵高の特別教師の平塚先生がいた。この人、あの蘭豹と近接格闘で引き分けたすごい人だ。性格も蘭豹に似ている。年は・・・・・・うん、言わないでおこう。

 

「お前らも昼飯か?」

 

「はい」

 

「なら、一緒にどうだ?」

 

遠山を見たら、なんか微妙な顔をするが

 

「はい、こちらこそ」

 

遠山が返事をしたから俺も一緒に食べることにする。

 

 

 

ラーメンを食べている時に

 

「そういえば、平塚先生。質問いいですか?」

 

遠山が平塚先生に話しかける。

 

「いいぞ、質問とはなんだ遠山」

 

「蘭豹先生と引き分けたって噂で聞いたんですけど、実際どんな風に引き分けたんですか?」

 

お、それは俺も気になる。

 

「あぁ、あれか・・・・・・懐かしいな。あいつとずっと殴りあってる最中に私の婚活の時間が近づいてな、無理言って、中止にしてもらったんだよ」

 

り、理由がとてつもなくしょうもない。別にキャンセルしたっていいだろ。 

 

その間にも遠山が

 

「ちなみに、それが無かったらどっちが勝ちました?」

 

「ふっ、それはもちろん私だ。・・・と言いたいが、あのまま続ければどうなったかはわからないな」

 

「ありがとうございます。ところで婚活ってなんですか?」

 

おいおい、遠山、そんなことも知らないのか。コイツ、女性関連事はほとんど知識ないって言ってたが、どうもマジっぽいな。

 

「婚活とは結婚活動の略だ。色んな人がパーティーで結婚相手を見つけるみたいなイベントだ」

 

「はぁ・・・、それで結果は?」

 

あ、バカ。そんなこと聞いたら

 

「ほぉ~、遠山~。お前今からアサルト行くか?ボコボコにするぞ」

 

遠山は知らなかったな。平塚先生の前でそういう話をすると、とてつもなく怒る事を。

 

「はいっ、すっ、すいません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、さようなら」

 

「さようなら」

 

「おお、じゃあな。2人とも」

 

 

平塚先生と別れたあと

 

「俺ちょっと本屋行ってくる」

 

「わかった」

 

そう言って遠山と離れた。

 

 

 

 

本屋に着き、新刊コーナーの確認をする。

 

見ること5分、俺はふと横を見る。そこには薄い青色の髪でポニーテールの武偵がいた。

 

ん?なんで武偵ってわかるか?それは今は私服だが、クラスで見たことがあるからだよ。えーと、確か名前は川・・・・・・・・・・・・。うん、わかんねぇわ。武偵はまず情報戦から始まる、というわけで、一応後で名前調べとこ。

 

その川ナントカさんはどうやら料理や裁縫やらといった本を手に持っている。武偵で家庭的なやついるんだなぁ。

あ、でも星伽さんはそういうの得意そうだな。たまに星伽さんの飯食べるけど、かなり美味しいし。それに比べてレキは・・・・・・、生活力ゼロだよなぁ。

 

俺は本を何冊か買って、そのまま部屋に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

以上、俺のとある夏休みの1日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?俺のプライベートなんて需要ない?

わかってるわ、そんなこと!

 




夏休みはあと1.2話で終わらせる予定です

にしても、リサ可愛い(///∇///)


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第23話

遅くなりました。やったよ、課題テスト英語平均超えたよ

今回で夏休み最後です




・・・・・・今日は夏休み最終日。

 

一言言わせてもらうが、

 

「2ヶ月、足ーりなーい」

 

俺は床をゴロゴロする。

 

ガチャとドアが開いた音がした。そこには遠山がまるで、残念な人を見るような目で、

 

「比企谷、何やってるんだ?」

 

と、尋ねてきた。

 

「そんなの決まってるだろ。現実逃避だよ。はぁ~、夏休み短いー」

 

「文句言うな。・・・俺だってそりゃ嫌だよ。でも、諦めろ」

 

そうため息をつく。すると、急に思い出したように、

 

「あ、そうだ、比企谷。そういえばさっきお前の携帯震えてたぞ」

 

はっ、どうせ広告とかだろ。良くて小町からだな。

 

「あーうん。わかったー」

 

俺は気の抜けた返事をする。

 

 

夏休み最終日。特に何もなかった。訓練、課題、だらだらの繰り返し。

 

誕生日は誰にも教えてない。だから、当日は小町から一言メッセージが来ただけ。

 

 

 

 

 

 

どうでもいい話は置いといて、自分の部屋に入り、携帯を確認する。そこには不在着信が1件あった。

 

 

 

 

レキ

 

 

 

 

 

 

うっわー、嫌な予感がメッチャするんですけど。レキが用事ってなんだ、何かレキの部屋に忘れ物したか?いや、それでも報告が遅いよな~。

 

とりあえず連絡してみるか。

 

 

 

 

『もしもし』

 

「あー俺だ。比企谷だ。どうかしたか?」

 

『八幡さん。すいませんが、今日の夕方から予定空いていますか?」

 

え、なに。デートのお誘い?

 

「大丈夫だが・・・」

 

『ありがとうございます。でしたら、4時に狙撃科の屋上に来てください。お願いします』

 

すいません、嘘です。

 

『八幡さん?』

 

「あ、ああ。わかった。またな」

 

そう言って電話を切る。

 

レキの声ってマ○のア○ジンの声に似ているよね。あ、中の人が・・・・・・ゲフンゲフン。

 

 

 

 

しかしまぁ、レキと2人きりか。最近その機会が増えているけど、もう慣れた。

 

しかしまあ、レキって客観的に見ても可愛いと思う。こう言うとなんだけど、俺の好みだ。どこかの金髪ぶりっ子みたいにうるさくないしな。物静かなところが・・・・・・

 

 

 

 

って俺は何を考えている。煩悩退散、煩悩退散。心頭滅却。

 

 

 

・・・・・・よし、落ち着いた。念のために装備を整えておくか、前に殺られそうな時あったし。備えしといて損はない。

 

えーっと、ファイブセブン良し、スタンバトン良し、コンバットナイフ良し、SS190弾良し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天気は快晴。雲は見当たらない。3時30分俺は少し早めに狙撃科の屋上に着いた。

 

理由としては、その方がなにかと対処しやすいからだ。アウェーで襲われるのとホームでじっくり構えるのではかなり差がでる。

 

しかし、

 

 

 

 

「ーー私は1発の銃弾」

 

レキの声がする。

 

「銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えないーーー」

 

・・・いつもの口癖か?

 

「ーーーただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

もうレキがいた。レキは壁にもたれかかっていながら、空を見て、そう呟いた。

 

 

ドラグノフを分解してトランクに容れていた。戦闘の心配はなさそうだな。

 

 

 

 

今回は特に気配は消さずに堂々と歩いた。それでも大概の人は気付かないが、そこはSランク、すぐに気付いた。カルテットと同じようにいかない、まあ、状況が全然違うからな。

 

「早いな、いつからいたんだ?」

 

レキに話す。

 

「今日は1日ここにいました」

 

「そうか、なら悪かったな。待たせてしまって」

 

「大丈夫です。頼んだのは私ですから」

 

そう言って、俺はレキの横に座る。

 

「それで、話って?」

 

聞くが、レキは黙っている。レキを見てみると、いつもの無表情だけど、どこか迷ってる感じがする。

 

「ま、気が向いたら話せよ。待っとくから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく経ち、ようやくレキが

 

「八幡さんは感情を何だと思いますか?」

 

感情?

 

笑うとか嬉しい、悲しいとかの感情か。

 

「感情か、自分の気持ちを表現するとか、そんな感じかな」

 

人は7割表情でコミュニケーションを取ると言われている。そのための感情とかかな。

 

「私はわからない。風は感情を好みませんから」

 

・・・

 

「でも、最近になって私は『楽しい』や『嬉しい』と思い始めました。八幡さんと別れた後、次はいつ会えるかと思っていました。そうしてくれたのは八幡さんです」 

 

・・・・・・

 

「しかし、そのせいで、少しずつ、風の声が聞こえなくなってきました。今はもうほとんど聞こえません」

 

・・・・・・・・・

 

「だから、風ってなんだ、そんなに大切なのか?」

 

そう言うとレキはまた黙る。

 

 

 

 

しばらくして、

 

「風は私の全てです。風はずっと私といました」

 

そう・・・答えた。

 

どうもその風とやらにレキは依存している感じがするな。

 

 

 

 

依存は危険なんだ。

いざというときに自分では判断がつかず、何も出来なくなる。

依存していると、自分というものを失う。

人間は自立して、成長する。それが無かったら、停滞だ。停滞は何も生まないし、始まらない。

非常に危険な代物なんだ、依存ってものは。

 

 

 

自然と口が開く。

 

「レキ、さっきのセリフを聞いた。お前がよく言ってるセリフだ。1発の銃弾・・・・・・・・・だと・・・。ふざけるな」  

 

俺にしては珍しく声に怒気が含まれている。

 

「レキ、お前は1人の人間だ。銃弾なんかじゃない。意思ある人間だ。自分をそんな風に言うのは許さない。確かに今は感情をわからないかもしれない。

・・・でもな、それはレキがまだ赤ん坊だからだ。そして、ほんの少しお前は感情を理解し始めた。成長したんだ。だったら、そこから始めればいい」

 

俺は低い声で、レキを見て語る。こんなの俺、ぼっちの俺らしくない、そんなのわかってる。

 

でも、でも・・・・・・、

 

・・・なんとなくだけど、ほっとけないだろ。・・・・・・その理由は俺には上手く話せない。

 

「わからなかったら、色んな奴に聞けばいい。武偵高(ここ)は物好きが多い。きっと答える奴だっている。・・・それが別に俺でもかまわない」

 

また俺らしくないこと言ってる。

 

てゆーか、言ってて恥ずかしいな、このセリフ。俺のキャラどこいった?

これは黒歴史確定だな。

 

 

そう言うと、また沈黙が訪れる。なんか気まずい。反応はなし?してくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は」

 

レキが話し出す。

 

「私にはわかりません。だから、これから迷惑をかけると思います」

 

「俺は常に誰かに迷惑かけてるぞ」

 

「私は、いつも風の言うことを聞いて行動していました」

 

「俺も色んな人に流されて流されまくってここにいる」

 

「風の声が聞こえなくなって、とても不安です」

 

「それでいいじゃねーか。不安も感情の1つだぞ」

 

そうレキと言葉のキャッチボール?を交わす。

 

 

また訪れる沈黙。しかし、今はこれが心地いい。

 

 

 

 

 

 

もう夕暮れだ。それまで俺らは並んでボーッと座っていた。

 

「俺は帰るぞ」

 

そう言って、俺は立つ。

 

「今日はありがとうございました。八幡さん、これからもお願いします」

 

レキを見ると、

 

確かにほんの少し、レキは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻った後、1時間ベッドで悶えたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 




急展開でなんかすいません。
早い気がしますが、すいません(2回目)

感想、評価待ってます!


って、色んな人言ってますが、増えるんですかね…?


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1年 2学期
第24話


眠い、ひたすら眠い。
たまに歩きながら眠ることができます。駅についたら、どうやったそこまで来たか、わからなくなる時があります。

すいません、どうでもいいですね


「では、私からの話は以上とします。これで始業式は終わりです。解散してください」

 

 

 

 

校長の言葉で生徒が体育館からゾロゾロと出ていく。もう今日は授業はない。しかし、ここからが本番だ。上級生や同級生が話してたのを耳にした。

 

どうやらここ、武偵高では2学期の始業式は「水投げ」と呼ばれる日らしい。

 

水投げとは校長が通っていた学校でその日だけ水をかけあう日のことだ。武偵高ではそれを徒手空拳で行う。はい、意味わからん。

 

ま、俺は影薄いし、関係ないだろ。

 

そんなことを思いながら、荷物をまとめて校門に向かうために歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

歩いている時、

 

ん?これは・・・人の気配?

 

俺の後ろ、誰かが近づいているな、結構のスピードで。急いでるのか。道を邪魔したら悪いし横にずれるか。

 

そう思い、左に少し大きめに移動した。

 

その直後、俺の首の位置にそこそこ鋭い飛び蹴りをした少女がいた。

 

 

 

・・・おお、俺狙われたよ、奇襲されたよ。少し嬉しいと思う俺ガイル。

 

 

 

その少女は長い黒髪でどこか大人びた印象がある。背が低いし、中等部のやつか?いや、どっかで見たことあるような・・・?

 

 

飛び蹴りをはずした後、すぐに方向転換をし、俺に向かって脛を蹴る。それを危なげなく、バックステップしてかわした。いい動きだけど、それじゃ当たらんな。

 

そのまま色んな箇所を蹴ってくるが、俺には当たらない。リーチが違う。俺に比べて身長は2、30cmは低い。それにそこそこ速いが、蘭豹のほうがもっと速い。

 

もしやられようものなら蘭豹のオシオキフルコースが待っている。それだけは避けないといけない。下級生に負けたら、それこそ馬鹿にされるしな。馬鹿にされる相手いないけど。

 

 

 

少女の攻撃と俺の回避が続くこと2分。

 

少女は息が切れてきたし、いい加減飽きたので、

 

「もう終わっていいか、このままじゃお前は俺に攻撃与えられないよ」

 

皮肉を交ぜながら伝える。

 

「うるさい。まだ、やる」

 

そう呟き、まだ蹴ってくる。けど、最初の時みたいな切れのあるスピードはない。最初の奇襲の動きは良かったんだけどな~。

 

もう早く帰りたいし、終わらせるか。

 

 

 

少女が、右足で俺の胸辺りを狙って蹴ってくるから、左手で足首を掴む。そのまま右足で、残ってる左足を払ってこけさせた。

 

少女がしりもちを着いたのを確認して、

 

「おい、お前、もうこれで終わりでいいか?」

 

そう言うと、俺を睨みながら、

 

「・・・・・・わかった。あと、留美」

 

「は?」

 

「だから、鶴見留美」

 

ああ、名前か。

 

ん?・・・・・・ああ、思い出した。確かこの名前って探偵科のくせにしょっちゅう強襲科に出入りしているやつか。

 

履修は自由だからいいんだが、この『死ね死ね団』にわざわざ来なくていいのにな。

 

「わかったよ。鶴見」

 

「だから、留美」

 

「あっそ。じゃ、俺帰るわ」

 

面倒そうだから、無視で。

 

立ち去ろうとしたが、俺の前に立ち、俺を見上げて、

 

「名前・・・何?」

 

質問してくる。どうやら帰らせてくれないようだ。

 

「比企谷八幡だ」

 

今度こそ・・・退散を。

 

「なら、八幡。このあと暇?」

 

無理ですか、そうですか。

 

「先輩には敬語を使え。それに俺はこのあと用事があるんだよ」

 

「用事ってなに?」

 

「・・・それは・・・その・・・・・・色々だよ」

 

鶴見はこっちをジーっと見てくる。よしって感じでうなずいて、

 

「なら大丈夫だよね。話したいことあるから一緒に来て」

 

え、ちょっと待って。やだ、強引。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、武偵高の生徒がよくいるお台場、そこのサイゼに俺と鶴見留実はいる。

 

早く帰るためにさっさと話済ませるか。

 

「で、話ってなに?」

 

そう話を切り出してみる。

 

「今回、攻撃全然当たらなかった。どこがダメだった?」

 

そんなことならこんなところまで来なくていいじゃん。

 

でも、話はそれだけじゃなさそうだな。

 

「まず、最初の奇襲は良かったが、足音をもっと抑えろ。気配もだ。そこで勘づかれたら、奇襲なんて成功しない。手練れなら余計にだ。今日は銃を使えないけど、銃の腕はどうだ?」

 

鶴見は真面目に話を聞いてる。

 

「あんまり撃ったことはない。これからは少し練習する。・・・他には?」

 

「他には、えーっと、・・・そうだな、奇襲を外したあとの攻撃が単調。わかりやすい。蹴り技が得意なことはいいが、それだけだといずれ読まれて負ける」

 

あ、ドリア来た。食べながら、鶴見に話す。

 

「それにリーチ差を考えろ、もっと自分の形に持ち込め。途中から苦し紛れになっていた」

 

この値段でこの味はいいよな。ミラ○風ドリアって。

 

鶴見はスパゲティーを食べながら、俺に聞いてくる。

 

「なら、どんな風に訓練すればいい?」

 

「いや、そもそもの話、お前探偵科だろ?そっちに専念しろよ」

 

「そうだけど・・・・・・」

 

そのまま鶴見は語る。

 

「いざというときの、私の武器を増やしたいって思って・・・・・・」

 

へー、なんかいい心がけだな。まあ、探偵科でも全く戦わないってわけでもないしな。

 

「今日の水投げでまだ実力が足りないってわかった。だから、私をアミカにして」

 

・・・・・・・・・アミカ?確か・・・師匠と弟子みたいな制度だよな。

 

俺が?

 

「なんで俺だ?そもそもの話、なんで今日俺を狙った?」

 

疑問の部分を聞いてみる。

 

「それは、1学期。八幡が蘭豹先生と戦ってるのを見て、すごいなって思った」

 

・・・投げ飛ばされた時か。

 

「お、おう。でも、あの時は蘭豹はぶっちゃけ余裕をかなり残してる状態でやってたよ。力半分ってところか?」

 

あの人が全力だったら、さすがにあそこまでもたない。最初は遊び、最後のほうはイライラしていた感じだったな。

 

「それでもすごい。いつも独りなのに強い。だから、アミカにして」

 

ナチュラルにけなされた。

 

「武偵は独りじゃ中々やっていけないぞ。まあ、最近気付いたんだけど」

 

最後のほうは声を小さくしながら呟いた。

 

「つーか、もう残り半年だぞ。今さらいいのか?」

 

そうなのだ。アミカは進級するごとにリセットされる。最大1年間だ。

 

「かまわない。いい?」

 

少し考えていると、

 

 

 

 

「やっほー、ハチハチ。こんなとこで何してるの?」

 

「理子お姉さま。急に走ってどうしたのですか?」

 

・・・なんか来た。

 

振り向くと、そこには峰理子と誰かがいた。ん?誰かに似ているな。ああ、島莓だ。あいつに似てる。

 

つーか、どっちも似たような格好だな。改造制服でフリフリを付けたロリータ?ってやつだな。見てて目が痛い。

 

「なんか用?」

 

「いやー、知り合い見かけたら声かけるのは普通じゃん。で、その子誰なの?」

 

「・・・そんな普通、友達いない俺は知らん。あと、こいつは、いきなりアミカ申請してきたやつだよ」

 

「だから、留美だって・・・」

 

鶴見が呟くが、今は無視。

 

「そう言うなって、ハチハチ~。で、受けるの?」

 

「それを決めようとしたときにお前が来たんだろ」

 

不機嫌オーラを出しとく

 

「あ、そうなの。ふーん。私はもう行くね。じゃあね~。行こっか、麒麟。レキュに言おっかな、くふふ」

 

最後のほうは聞こえなかったが、別に大丈夫・・・だよな。

 

「はいですの~」

 

 

 

 

 

 

急に来て急に去る。なんなのあいつら?暇なの?

 

「なんか・・・スゴイ人たちだね」

 

完全に空気だった鶴見がため息をつきながら言う。

 

「だな」

 

俺もため息をつく。さすがはリア充、まるで台風みたいだ。

 

「八幡、話戻すけど、アミカにしてくれる?」

 

そうだったな、その話が中断されたんだったな。主に峰のせいで。

 

アミカにするかどうか。

 

正直な話面倒だ。

 

それに鶴見ってパッと見可愛い。・・・ろ、ロリコンってわけじゃない。レキは慣れたが、他の女子となると。

 

でも、話を聞くと鶴見のそれなりの意志を感じる。それを無下にするのは・・・・・・。

 

「いいよ」

 

鶴見は顔が喜ぶが・・・・・・・・・。

 

「ただし、強襲科じゃなく、きちんと探偵科をメインにしろよ。1番安全なんだし。週1か2だけにしろよ」

 

「暇なときは稽古つけてやるから」

 

鶴見はうなずき、俺を見て言う。

 

「ありがとう、八幡」

 

て、照れくさい、こういうのは。レキの時もそうだが。

 

「あと、留美って呼んで」

 

え、えーー。女子を名前呼びは小町以外したことない。レキは別。だって名字本人も知らないし。

 

「わかった。ルミルミ」

 

お、このアダ名いいな。

 

「ルミルミ言うなー」

 

却下された。いいじゃん、このアダ名。

 

 

 

 

 

俺に妹、アミカができました。

 

 

 

 

小町じゃないよ、もちろん。小町を裏切ってないよ。

 

 

 

 

 




無理矢理感がスゴイです。

了承してください。そして、かなり駄文ですいません。

アミカは1年間だけど、この作品では年度毎に交代ってことにします。

あと、LiSAさんのAxxxiSかっこいいです


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第25話

すいません。少し体調を崩したり、部活が忙しかったりしてました。



ここは強襲科で今使っている体育館だ。

 

強襲科の生徒はここで今回はCQCの訓練をしている。銃を撃つなら射撃場。刀剣の練習はまた別の訓練場。

 

 

 

 

 

今日は体育館で鶴見留美、もといルミルミとCQCの訓練をしている。

 

この子は先日俺のアミカ、簡単に言うと弟子だ。・・・・・・妄想とかでは決してないから。ちゃんと承認してもらった。

 

ルミルミの攻撃を捌きながら、

 

「もっと重心を安定させろ。蹴り技を使うなら、バランスは崩すな。次の動作を速く」

 

「わかった」

 

そうアドバイスして、少しずつ攻撃に安定感というものが生まれた。中々の成長スピードだ。

 

それでも、

 

パシッ

 

「きゃっ」

 

 

まだまだだ。

 

ルミルミはトスンっとしりもちを着く。

 

 

 

俺は少し反応が遅れながらもルミルミが高く上げた蹴りを叩いた。

 

なぜっ遅れたって?

太ももがバッチリ見えて一瞬ドキッとしましたからです。 

 

 

ゴホン!話を戻そう。しかし、体勢が崩れても上手な武偵なら、もっとスムーズに立て直せる。

 

 

 

ルミルミの手を握り、立たせて言う。

 

「これは反復練習でしかないが、なるべく予備動作を少なくしろ。予備動作を読まれると相手は何するのか大体わかる」  

 

起き上がったルミルミは、アキレス腱を伸ばしながら、

 

「うん、わかった。あとさ・・・八幡」

 

ため口で話す。敬語を使ってくれよ。武偵高では下に舐められないようにそこら辺りはしっかりしないといけないんだよ。  

 

でも、ルミルミに「センパイ」とかって言われても今さら違和感あるだけだ。憧れるけど・・・・・・。

 

「なんだ?」

 

「心でさ、ルミルミって呼んでないよね?」

 

エスパーかよ。さっきからずっとルミルミって呼んでるよ。いいじゃん可愛いし。

 

「その顔は思ってるって顔。ちゃんと留美って呼んで」

 

そう俺を見上げてくる。くっ、可愛い、この生物。

 

「わかったよ、留美。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ルミルミ」

 

最後ボソッと付け足すが、幸いにも気づいてない。やっぱり名前呼びは恥ずかしい。

 

 

 

 

キーンコーン・・・

 

チャイムが聞こえた。蘭豹が、

 

「今日はここまでや!さっさと散れ!!」

 

おー怖い怖い。

 

「じゃ、俺はこれで」

 

「バイバイ、八幡」

 

俺とルミル・・・留美、2人は同時に挨拶をする。

 

 

 

 

 

学校が終わり、帰宅するかと足を向けた時、俺は立ち止まった。

 

・・・・・・めっちゃ視線を感じる。

 

視線の先を見てみると、そこには校門からこちらを見ているレキがいた。それはもうジーっと見ている。レキの気配は駄々漏れだ。

 

め、珍しい、なぜそんなに見る。

 

 

レキとは夏休みの最終日に黒歴史を製造してから会ってない。ぶっちゃけ恥ずかしいからあんまり会いたくなかった。

 

と、言うわけで、俺の行動は当然の如く無視。少し目が合ったけど、1秒にも満たしてない、なんとか誤魔化せる。

 

人混みに紛れて校門から出た。出たのはいいが、レキが3m間隔で付いてくる。

 

遠回りをしながら、速く歩いても撒けない。

 

 

3分経って、諦めたのでレキに話しかける。

 

「なあ、なんか用なのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

しかし、ジーっとした目で、反応はなし。うんともすんとも言わない。

 

「とりあえず、どっかで話す?」

 

ここから動きたい。返答してくれよ、そんなに見つめないで!

 

 

コクッ

 

ようやく、うなずいてくれた。

 

 

 

 

 

 

移動して、俺たちの部屋のダイニングに座っている。

 

女子を当たり前のように入れているが、今さら感がすごいんだよ。ようするに緊張しない。

 

「で、何?」

 

「八幡さんは、先日アミカをとったそうですね。理子さんから聞きました。それは可愛い女の子と言ってました」

 

そう言いながら、脛を蹴ってくる。

 

痛い、痛い。え、なんか悪いことした。

 

「そうだけど・・・・・・、急になんだよ」

 

「今日も一緒にいたようで・・・」

 

脛を蹴られる。

 

「は、はい」

 

無表情だと怖い。何を考えているか余計にわからない。

 

「そうですか、私とは会うのは久しぶりでしたね」

 

「は、はい」

 

「感情を教えてくれるという話は嘘ですか?」

 

 

 

・・・・・・いや、まあね?恥ずかしいじゃん。一時のテンションに任せてあんなこと言ったら。

 

「嘘ではないですよ。決してそんなことないですから」

 

アカン、だんだん敬語になってくる。

 

「本当ですか?」

 

「もちろんです」

 

レキは俺の目を見て、

 

「確かにそうですね。今日もまた八幡さんに感情を教えてもらえましたし」

 

呟く。そして、微かに微笑む。

 

 

 

そうなの!?えーと・・・何をだ?

 

「何を?」

 

「教えません」

 

即答である。気になるじゃないか。

 

だが、口が少し動く。何かしゃべったようだが、読唇術を習ってない俺にはわからなかった。

 

それに・・・・・・レキの顔が心なしか赤くなってる。

 

 

 

 

 

 

 

数分はこのままだった。

 

この均衡を破ったのは、俺の携帯のバイブ音。内容は材木座からのメンテナンスの終了のお知らせ。

 

 

チャンスと言わんばかりに、告げてみる。

 

「き、今日はもう帰ったら。俺も用事できたし・・・」

 

「そうですか・・・。わかりました。では、また」

 

レキは残念そうな顔をした。いや、した気がするってレベルだけど。

 

しかし、なぜかその顔が印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後半かなり急です。
かなり雑になりました、すいません。

少しずつ予定が入り、更新ペースが落ちます。すいません。

謝ってばかりですね。


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第26話

すいません
大分遅くなりました。

この二学期なんですが、一学期はやりたいことをかなり詰めたのですが、二学期は一学期より短くなるかもです。


「ガキ共!!2週間後は文化祭や。一般の人たちもおる。だから、弾の残骸や危ないもんは全部地下の倉庫にしまえ!!少しでも残っていたらぶん殴るからな!!!」

 

蘭豹の怒声で俺たち強襲科1年の生徒は動き始めた。

 

 

 

ここ武偵高では秋に文化祭が行われる。いや、ほとんどの学校は春か秋だよな。その点ではあまり珍しくないな。

 

そして、文化祭では一般の人も入場する。そこで、拳銃の弾がそこらじゅうに散乱してみろ。かなりのイメージダウンになる。こういうところで如何に武偵の印象を良くするかが重要である。

 

それでそういう雑用の部分は1年の担当になる。正に奴隷の1年と言われるだけある。

 

 

 

 

 

俺は特にクラスも強襲科も当日、当番には当たっていない。

 

だってクラスは喫茶店、強襲科は何やら物品発売するらしい。それには少しのやる気のあるやつがやればいい。俺はやらん。 

 

 

 

しかし、強襲科の準備は手伝わないといけない。だから、最低限だけやって、あとは任せる。

 

 

 

ある程度ゴミを拾って、蘭豹が俺の方を見てないうちに、そそくさ出よう。いざ出ようとするとドアの近くに遠山がいた。

 

「おい、比企谷。勝手に抜けて大丈夫か?」

 

 

「遠山か。大丈夫だ、問題ない」

 

「それ、けっこう有名なフラグだろ・・・・・・。まあ別に蘭豹に言うつもりはないが」

 

「そうか、じゃあな」

 

遠山と少しの会話をし、強襲科の建物から出る。

 

 

さて、どこに行こうかな?

 

クラスの方は手伝う気はない。なら適当に任務受けるか、ここ最近、全然任務受けてないから、金が減ってきたんだよなぁ。

 

よし、簡単なやつを受けてこづかいにしよう。そうと決まれば、見に行こう。

 

 

 

 

どれにしようかな、手頃なやつはあるかな。

 

うーん・・・・・・、お、これは・・・・・・

 

 

 

○○株式会社の50周年パーティー会場の警備

 

推奨ランク C以上

 

報酬 50000円

 

1人でも可

 

 

 

 

これにしよう!

 

警備なら楽そうだし、1人でもいい。

 

早速先生のところに行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティー会場にて、

 

「君が来てくれた武偵だね」

 

代表者が来てくれて、俺に話しかける。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「仕事を説明するね。と言っても、会場の入口で警備してくれるだけでいいだよね。警備の担当が風邪をひいてね、急遽武偵に頼むことにしたんだよ」

 

なんだ、そんなことか。

 

「わかりました」

 

「では、よろしくね」

 

「あ、そうそう、あまり銃はださないでね」

 

「了解です」

 

ですよね~。

 

 

 

 

 

 

 

警備中、トイレに行くとかタバコ吸いにいくとかで会場から出た人をチェックするだけで、仕事は滞りなく終わった。特にハプニングがあったわけでもない。

 

 

 

「今日はありがとう。これ、報酬だよ」

 

「ありがとうございます」

 

「あと、今日のパーティーで余った料理を少しおすそわけしたいけど、いるかい?」

 

・・・・・欲しいが、毒とか大丈夫だよな。こういう式典でもらうぶんにはいいはずだ。やくざのメシとは違うし。

 

「はい」

 

「じゃあ、これを」

 

そう袋をもらった。中には豪華そうな料理が入っている。美味しそう。

 

「うん、今日は助かったよ」

 

 

 

 

 

 

寮に戻ると、遠山が帰っていた。まあ、時間も10時過ぎてるし、そりゃいるわな。

 

「比企谷ー、お前今日メシ当番だろ。なんか作ってくれ」

 

グータラしながら遠山が言う。

 

「今日依頼先でメシもらったからそれでいいか?」

 

「おう」  

 

 

 

「「おいしっ」」

 

口を揃えて言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺は教室でいつも通り机で寝ていた。

 

が、教室は普段よりも騒がしかった。

 

どうやら文化祭が近いのに、人手が足りなくて、朝に係決めをしていると。

 

率先としているのは峰理子だ。逆に何もしてないのは俺とレキぐらいだ。遠山ですら無理矢理参加させられている。

 

皆さんがんばりますねー。

 

レキが隣の席に座り、

 

「八幡さんは参加しないのですか?」

 

「レキよ、俺はお前と同じ答えを持ってると思う」

 

「そうですか」

 

自分から聞いてるのに、反応薄いなー。

 

でも、自分から話しかけてくるのは前のレキではあんまり考えられないことだったなぁ。

 

 

 

 

 

 

放課後、俺は保健室にいる。

 

理由は蘭豹とCQCしていたからだ。

 

それだけなら普通だ。が、合コンで失敗したらしいのだ、蘭豹が。それで、いつにも増して機嫌が悪い。あとはもうお分かりだろう。殴られ10mほど転がった。  

 

くっそ痛いし、頭ぐわんぐわんする。加減を知ってくれ!

 

 

 

 

まあ、そんな感じで今保健室のベッドで寝ている。

 

さて、ここからが本番だ。今日は蘭豹に感謝しないとな。

なぜなら、今保健室には戸塚しかいないからだ。

 

「大丈夫?八幡」

 

「あ、ああ。大丈夫だぞ」

 

癒される。もう、最高・・・・・・。

 

「全く、蘭豹先生はもう少し気をつけてほしいよね」

 

そう言いながら、俺に包帯を巻いてくれる。

 

なんで、なんで戸塚は女ではないのだろうか。戸塚をCVRに入れたかった教師どもの気持ちが良くわかる。

絶対あのスナイパーよりも女っぽいのだが・・・・・・。

 

 

 

ブルッ

 

 

 

なんか寒気がした。あれれー、おかしいな?もしかして・・・・・・?

えーっと、と、とりあえず、ごめんなさい。

 

 

 

「顔色悪いよ、八幡。ちゃんと休んでてね。じゃあ、僕は先生のところ行ってくるよ」

 

そう言って笑顔で出ていった

 

やっぱり可愛い。

 

 

 

 

 

ピリリッ

 

うおっ、電話か。びっくりした。

 

「はい、もしもし」

 

『八幡さん、レキです』

 

「何か用か?」

 

『いえ、なぜか嫌な予感がしました、そこで気になり、八幡さんに連絡をとりました』

 

こ、こっわー。なにその勘は。恐ろしい。

 

「・・・・・・多分気のせいだ。特に問題はない」

 

そう平常心で伝える。

 

『すいません、ご迷惑をおかけしました』

 

そう言い、通信が終わる。

 

 

 

 

レキ、お前の勘は怖すぎる。

 

そう思い、ベッドに寝転んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戸塚を上手く書けない。

あとレキがちょっとしたストーカーみたいになったw


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第27話

学校の代休が重なって、木曜から日曜まで休みでしたが、部活で全部潰れました。

休みが欲しい!


さあ、やって来ました我らが武偵高文化祭当日です!

 

・・・・・・って、テンションでやっていけるわけないんだよなぁ。眠いし。

 

だってよ、祭といったら、リア充がただただ騒ぐだけの行事なんだよ、特にここはバカばっかりだし。

 

 

 

・・・・・・とはいえ、普通校とはどんな感じに違うのか気になるのも事実。今日はひきこもらないで、外に出るとしよう。

 

 

 

 

時刻は8:30、校門前にいる。あと30分ほどで文化祭が始まる。

 

俺としたことがソワソワしている。なにせ準備を全くやってないから、何があるかわからない。

 

周りを見渡すと、生徒や外部の人たちに中学生がいる。中学生は受験しようとしているのかな?止めとけ、後悔するぞ。普通に生きてきたのに普通じゃなくなる。

 

等とどうでもいいことを思い浮かべながら、始まるまで音楽を聞いて、ボーッとしている。

 

 

 

 

「あ、八幡」

 

 

 

誰かが俺を呼んだ。声の方を向くとそこには俺のアミカのルミルミ「留美!」留美がいた。 

 

なんでルミルミって呼んだのバレたんですかねぇ。

 

「よお、お前も1人か?」

 

「八幡には言われたくない」

 

「だよな」

 

そこに関しては全面的に同意する。

 

「ちゃんと私はクラスの出し物に協力するから1人じゃない」

 

「へぇー、ちなみに何するんだ?」

 

「エアガンで射的。景品はそこそこ豪華」

 

お、おい。それでいいのか。武偵のイメージとかそこんところ。

 

「それ大丈夫なのか?」

 

「うん。別に人が死ぬ威力はないよ。当たりどころによるけど・・・」

 

最後の方ボソッと言ったが聞こえたからな。本当に大丈夫かよ。

 

「じゃ、私行ってくるね。暇だったら来てね」

 

「おう。覗くだけ覗いてみるわ」

 

留美は走って教室に向かった。

 

 

 

なんか、自分のクラスの喫茶店も不安になってきた。

 

星伽さんとか不知火とかいるし何とかなるよな、・・・・・・若干微妙なやついるけど。誰とは言わない、金髪ブリッ子とは決して言わない。

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、キンちゃん。とうとう本番だよ、頑張ろうね」

 

「だから白雪、キンちゃんは止めてくれ」

 

あ、遠山と星伽さんが近づいてきた。なんとなくだけど、物陰に隠れよう。

 

「にしても、比企谷さんやレキさんは何も参加しなかったけど良かったのかな?」

 

「比企谷にも聞いたけどよ、俺がいたところで何も変わらないだろって言ってたよ。レキも同じだろ」

 

「そうかな・・・・・・」

 

な、なんか罪悪感がっ。

 

そんなこと言わないでよ、星伽さん、俺のほんの少しの良心が痛むから。

 

「てゆーか、できるなら俺も参加したくなかった」

 

遠山が呟く。・・・・・・でしょうね。

 

 

 

そのまま2人は去っていった。

 

 

 

 

 

 

「今日はみんながんばろー!」

 

こ、この声は。

 

峰理子だ。他にはクラスの女子数名といる。

 

「そうだ、理子ちゃん」

 

「どしたの~?」

 

「レキさんに彼氏できたの知ってる?」

 

レキに・・・・・・彼氏?

 

「ほほう?」

 

「あー!それ知ってる!あれでしょ?夏休みの最終日に狙撃科の屋上で2人きりだったんでしょ?」

 

俺やないかーい。マジかよ見られてたのかよ。

 

「それは誰なの~?」

 

「それがね、理子ちゃん、レキさんはわかったけど、彼氏の方は名前わからなかったんだよね」

 

おお、さすが俺。多分同じクラスのやつにまだ覚えられてないとは。

 

それに対し、峰理子は、

 

「ふ~~ん」

 

と、含みのある言い方で答える。

 

「ま、いっか。そろそろ時間だし急ぐよ」

 

峰理子が声をかけて、他の女子も後に続いた。

 

 

 

 

そんなこんなしんている内に、文化祭が始まるという連絡が入った。

 

 

 

 

 

よし、さっそく混む前に留美のクラスに行ってみるか。

 

 

ガラガラとドアを開けると、男子が数人並んでいる。中学生かな?やっぱりこういうのが気になる年頃なんだね。

 

「あ、八幡来たんだ」

 

留美が俺に気づき、話しかけてくる。

 

「まぁな。行く場所決めてなかったし、あまり並ばなくて済みそうっぽいから」

 

景品が気になり、見てみる。

 

・・・・・・使い終わった銃弾とかがかっこよく、そして可愛くデコレーションされている。

 

エアガンの弾は軽いし、いいんだろうけど、的小さいよな。当たるのかね?

 

「かっけー」「欲しいな」と、客は喜んでいる。需要はあるみたいだ。俺らからしたらただのゴミだけど。

 

他の景品はっと・・・・・・ってそれだけかよ!バリエーションはかなり豊富だが、何が豪華だよ。

 

と、脳内で突っ込みをしていると、

 

「どうする?八幡もやってみる?」

 

留美が尋ねてくる。

 

「いや、俺はいいよ」

 

ここはなんとなく断っておくか。

 

「そう?わかった。またね八幡」

 

「またな」

 

 

 

 

さて、次はどこに行こうかと宛もなくぶらぶらしていると、土産が売ってある場所に来た。

 

商品の中に留美のクラスの景品と同じような銃弾を加工したストラップがある。

 

「お前ら似た発想すぎだろ・・・・・・」

 

つい呟いてしまう。 

 

 

 

アホの考えはどうして似たり寄ったりなのか?もっと違った考えはないのか・・・。俺はアホではない。テストでは数学が足を引っ張って学年2位だ。星伽さんには勝てない。

 

 

 

閑話休題

 

 

ところで、留美のクラスでは射的と相まって客を呼んでたけど、買う人いるのか?

 

あとで寄ってみよう。

 

 

 

歩いていると、わたがし、かき氷、焼きそば、焼き鳥、等といった屋台がある。

 

なんか・・・・・・思ったより普通だ。

 

でも、こいつらは武偵、金を自分で調達したやつもいるのだろう。けっこう設備が整っている。

 

 

 

適当に屋台で昼飯を済ましてまた歩くことにした。意外にもおいしかったです。

 

 

 

とある場所が目に映った。

 

ここは・・・・・・文化祭ポスターのコンテスト会場みたいだ。今日と明日の投票数で決めるらしい。

 

へー、みんな上手だな。俺は絵を全くと言っていいほど描いてない。絵とは無縁な人生だ。だから、こういう機会は新鮮だ。

 

色んな絵を見ながらキョロキョロしていると、恐らく個人的に1番上手な絵を見つけた。

 

それは写真のような絵だ。パッと見では本当に写真と見間違える。

 

どうやらこれは応募数が足りなく、美術をとっている生徒の絵のようだ。

 

この時の絵のテーマは「そら」。青空や夕暮れ、夜の星空、この3つを編集したようにとてつもなく上手に絡めている。

 

・・・・・・・・・さっきから上手しか言ってねぇな。

 

 

誰が描いたのだろうかと気になり、名前を確認する。そこには「レキ」という名札がある。

 

ってお前かよ!

 

こいつすげえ!狙撃の腕はプロ超えで、絵もプロ級。スペック高いな。

 

せっかくだしレキに投票しておくか。

 

 

 

 

他には、「毎年恒例!ホラーハウス 死体安置所のなかまたち」と書かれた看板を見た。

 

あまりにも不謹慎だろ。ここには普通に死体安置所があるのに。というより、毎年恒例って・・・・・・どうなのよ。

 

入ってみようと思ったけど、1人だと俺がかわいそうなので止めることにした。

 

別に怖いってわけではない。本当だ。

 

 

 

 

等と見て回っているとアナウンスが入った。文化祭1日目終了。という内容だ。

 

 

俺、今日、留美としかまともに話してない。

 

 

 

 

 




二日目、レキと一緒に行動しているところを書きたいけど、レキが文化祭を回るところを想像できない。

あと、変装食堂は実際は知りませんけど、二年生だけということで。


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第28話

やったよ、
UA100000突破!
お気に入りあともうすぐで1000です!!
これからも
よろしくお願いします(*´∀`)


文化祭2日目

 

 

俺は昨日、独りでけっこう廻った。プログラムもほとんど変わらない。そのせいか2日目は部屋から出る気力をなくした。

 

朝7時、ベッドでごろごろしていると扉越しから、

 

「比企谷ー、今日はいいのか?」

 

遠山が俺を呼んでいる。律儀だな、遠山も。

 

「今日は外に出ないーー」

 

気だるそうに伝える。遠山は「わかった」と返事して、文化祭に行った。

 

 

二度寝しよう。なんだか良い感じの微睡みだ。このまま夢の世界にレッツゴー。

 

はぁ~~、気持ちいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・・・・」

 

そのまま寝て、起きたら11時だ。おお、けっこう寝たな。

 

どうして二度寝はこんなにも最高なのだろうか。

ちょっとした背徳感だろうか?それとも、単純に人間の睡眠欲が強すぎるからか・・・・・・・・・

 

くだらないことを考えていると、

 

グ~~と腹が鳴った。

 

半日何も食べてないし、腹へったな。冷蔵庫何かあるかな。

 

ご飯は昨日の冷や飯が残っていて、レンジでチンして、余った卵で目玉焼きを作って、食べた。

 

 

 

 

さて、これから何をしようか。外には出たくない。とはいっても、眠気は完全になくなったから寝る気にもなれない。

 

何かやることは・・・・・・

 

そう思い、辺りを見渡す。俺の目には愛銃のファイブセブンが映った。

 

そうだ、最近してなかったし、暇潰しに銃の簡単な整備でもしてみよう。軽く分解してゴミでも取るか。

 

整備の仕方が書いている本を開き、、用具を出して整備を始める。

 

砲身を念入りにっと・・・・・・

 

 

 

30分経ち、あらかた終わった。

 

用具を片付けて、ファイブセブンもホルスターにしまい、ソファーに座った。

 

 

 

ピンポーン

 

あれ?インターホンが鳴った。こんな時間に誰だ?

 

ドアを開けたら、ただの宅配の人だった。そういやマッ缶を頼んでたな。

判子を押して、二箱受け取った。千葉にいたら、わざわざネットで買わないのにな。

 

マッ缶を適当に置いて、メンテナンスが終わった後のテーブルを見る。

 

少し汚れているな。

 

と、思って、クローゼットに閉まっている雑巾を取り出そうとした時、

 

 

ピンポーン

 

 

また、インターホンが鳴った。何か不備でもあったのか?判子はちゃんと押したしな・・・・・・

 

ガチャリとドアを開けた。

 

そこには、

 

 

ーーーードラグノフが入ってるであろうケースを肩に背負っている、水色の髪をした少女、レキがいた。

 

 

「こんにちは、八幡さん」

 

「あっ、ああ」

 

詰まった返事しかできずに、俺は戸惑う。

 

「どうしたんだ?いきなり訪れて」

 

「この前ここに来た時に、美術で使っている筆を落としたと思います。時間が空いたので探しにきました」

 

「この前ってもう2週間以上前だろ?なんで今さら?」

 

「それは・・・・・・・・・さっき気づいたからです」

 

珍しくレキが言い淀む。それに、なんだか多少焦った顔になっている。

 

「まあ、いいけど。どの辺りで落とした?」

 

「恐らくリビング辺りかと。カバンから落ちたと思います」

 

それもそうか。レキは俺や遠山の部屋はもちろん、空き部屋にも入ってないからな。

 

「わかった。探してみるから、そこらで待っとけ」

 

そうレキに告げ、ソファーに座るのを見て、捜索を開始する。

 

 

捜索すること数分。特に筆らしきものは見てないな。テレビの裏には・・・・・・ない。カーテンの裏にもない。

 

というより、無くしたら買えばいいのにな。もしかして新品とか?だとしたらもったいない。

 

ベランダにも転がってない。他には・・・・・・そういや、ソファーの下はまだ見てない。

 

「レキ、ソファーの下見るからどいてくれ」

 

そう言うと、そのまま立って俺の近くに寄ってくる。

 

えーっと・・・・・・あ、あった。筆が何本かケースに入ってある。あれだな。

それを取り出しレキに見せる。

 

「これで合ってるか?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

お礼を言いながらうなずく。

 

「これからどうする?もう帰る?」

 

レキは目的を達成したし、ここに長居する理由もないだろう。そう思い、さらっとレキに帰宅を提案する。 

 

「いえ、今女子寮はちょっとした火事が起き、うるさいです。それに比べ、男子寮は静かです」

 

「つまり?」

 

「騒ぎが収まるまでしばらくここにいます」

 

疑問形じゃない。あ、もう決定事項なのね。俺に拒否権はないんですね、わかります。

 

 

 

「八幡さん、私に何かお礼をさせてください」

 

再びソファーに座ったレキが急に言ってきた。

 

お礼?レキが?

 

なんか、成長したな。あのレキからそんな言葉が出てくるなんて。

 

 

 

「いや、別に大したことでもないだろ、筆見つけただけだし」

 

「それではなく、今まで、全部です」

 

「全部?」

 

「はい、風から言われて、あなたを見て、感情をまだ少しですけど、教えてもらいました。その、お礼です」

 

「なんてゆーか、いきなりだな」

 

嬉しいけど、やっぱりいきなりすぎだと思う。

 

「そうですか?」

 

それに、さっきから、レキが俺の顔を正面から覗く形になっている。くっそ、可愛いじゃねぇかよ。

 

「言っておくが、間接的に俺が関わっただけで、俺がしたわけじゃない、レキが勝手にそう感じるようになっただけだ」

 

誤魔化すように答える。

 

「小町さんが言ってた、捻デレとはこれですね」

 

えっ、小町、それ広めてたの?その頭悪そうな造語。

 

「私には、どうお礼をすればいいのかわかりません。だから、調べてきました」

 

そう言って、俺の元に迫ってくる。

 

ちょ、ちょっと待って。何々?何するの?え、お前そんなキャラだっけ?

 

下がっても、ついてくるので後退りながら廊下まで行く。

 

そして、玄関まで下がってしまった。

 

「じっとしてください。すぐ終わります」

 

ドサッ

 

俺はレキに押し倒されてしまう。そして、顔が互いに近づく。

 

と同時に揃って玄関を向く。理由としては足音が近づいたからだ。この足音、多分女だな。誰だ?

 

 

ガチャ

 

ドアが開く。やっべ、鍵閉めてなかった。

 

「およ?開いてる・・・?」

 

おそるおそる入ってきたのは、小町だ。

 

「お兄ちゃん、遊びにき・・・た・・・・・・よ・・・・・・・・・」

 

 

\(^o^)/オワタ

 

 

 




中途半端ですけど、ここで一旦切ります。

あかん、レキのキャラが崩壊してきた。


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第29話

テスト週間に入ります、やったね!…じゃねぇよ。

更新ペースは落ちます。


「お兄ちゃん、遊びにき・・・た・・・・・・よ・・・・・・・・・」

 

小町は徐々に言葉を失う。俺たちの体勢を見て、顔を蒼白とさせている。

 

「お兄ちゃん、いや、ゴミいちゃん、今なら警察間に合うよ?」

 

まるで、汚いゴミを見るような目で、そう告げる。

 

止めろ!武偵が犯罪を犯すと、武偵三倍刑といって一般人の三倍の刑罰を食らうんだ。

 

「小町、君から見たら俺、押し倒されているよね?」

 

説得を試みる。

 

「そうだね。まー、お兄ちゃんが女性を襲うなんてしないよね、チキンだし。チキンだし」

 

こらっ、失礼でしょ。兄にそんなこと言うのは。

 

「小町さん、大丈夫です。私からしたくてしたので八幡さんは悪くないです」

 

と、ここで火に油を加えるのはレキ。しかし、以前小町と会った時よりも無表情ではない。

 

「お、お兄ちゃん、レキさんに何を仕込んだの?前と印象大分違うんだけど」

 

それに目ざとく気づき、驚く。

 

「とりあえず、移動していい?」

 

 

 

 

 

全員リビングにある椅子に腰をかける。

 

「ところで小町、なんでここにいるんだ?」

 

「えーっとねー、武偵高の文化祭に興味あったから遊びにきたの。それでどうせならお兄ちゃん探そっかなーって歩いていたら、遠山さんを見つたの」

 

「ほうほう」

 

「お兄ちゃんいますか?って聞いてみてら、部屋で休んでいるって言うから、部屋の場所を教えてもらって乗り込んだってわけです」

 

なるほどなるほど。ただ単に文化祭に来ただけなのか。

 

「寮監は?」

 

「兄に会いに来ましたって言ったら通してくれたよ」

 

そうか。ならいい。

 

「ところでなんで今日は文化祭に行かないの?」

 

「1日でもうほとんど回ったから」 

 

「へー、そうなんだ。ちなみに独りぼっちで?」

 

「俺を誰だと思ってる。当たり前だろ」

 

胸を張って答える。

 

「そこ堂々と言うところじゃないでしょ・・・」

 

頭を抑え、悩む動作をする。すると小町は何か思い出したように顔を上げ、

 

「レキさん、こうして会うのは久しぶりですねー」

 

突然話をすり替え、笑顔でレキに声をかける。

 

「そうですね、会うのはお久しぶりです」

 

キョロキョロ2人を見る。その視線に気づいたであろうレキが俺の疑問に答える。

 

「あれから小町さんとは連絡先を交換して、何度かやりとりをしています」

 

その言葉に驚く。

 

「えっ、そうなの?」

 

「はい」

 

いつの間に、そんなことを。小町、すごいな。

 

「とはいっても、他愛のない雑談だけどね」

 

小町がそう言うけど、レキ、雑談できるの?できないよね?そうだよね?

 

 

 

「それで、お兄ちゃん、今日はもう文化祭行かないの?」

 

小町が立って、尋ねてくる。

 

「ああ、さっきも言ったが、昨日で充分だしな」

 

「なーんだ。それでは小町はまた文化祭に行ってきます」  

 

敬礼をする小町、可愛い、異論は認めん。

 

そう思っていると、ガシッと足を蹴られた。蹴られた方を向くとレキがなにやら不満そうな顔をしていた。

 

「痛いんですけど」

 

ぼやいてみるが、レキの反応はなし。

 

「んーー?はっ!おーー!ほうほう」

 

小町は小町で何か納得している。しかも大声で。その顔はイラッとするな。

 

「もう小町行くね、じゃあねお兄ちゃん」

 

「ああ」

 

「レキさん、頑張ってくださいね」

 

頑張る?何をだ?

 

「はい」

 

レキはそれが何かわかっているようだ。俺はわからない。まあ、女子同士の秘密ということにして詮索はしないでおこう。

 

 

 

 

小町も部屋から出て、今は俺とレキの2人だ。そして、なんか気まずい。理由は言わずもかな。

 

「レキ」

 

「はい」

 

「女子寮の様子はどうだ?」

 

「確認します」

 

そう言い、窓から女子寮がある方向を見る。レキは俺の方を見て、

 

「恐らく大丈夫でしょう」

 

良かった良かった、これでレキから解放される。

 

「ですが、まだ人だかりがあります。もうしばらくここにいることにします」

 

えぇ、マジで?お前は気まずくないのかよ・・・・・・・・・

 

「こんなとこいて楽しいか?」

 

思わず口からこぼれ落ちる。少しやっちまったという感じはした。しかし、レキは間髪入れず、

 

「はい」

 

と、答える。

 

 

 

ーー少し驚いた。レキが楽しいって思ったことにだ。

 

その返答に恐らく俺の顔は赤くなっているだろう。なにせこんな真っ正面から言われることは少ないから。

 

 

「そうか」

 

俺はぽつりと呟く。それに対し、レキは、こくり、とうなずく。

 

 

 

 

いつまでこの状態が続いただろうか。気づけばもう夕方、文化祭も終わりである。生徒がちらほら見える。

 

それまで俺とレキはずっと無言のままボーッとしていた。それが特別不快ではない。

 

 

 

そこでふと思う。

 

俺はレキをどう思っているのか、と。

 

俺とレキの関係をどう表せればいいのか上手く言えない。最初はカルテットでの敵、しばらく一緒に暮らしたことのある人、そして、俺を、俺なんかを助けてくれた恩人。

 

そこで、俺は再度俺に問いかける。このことに関して、レキをどう思っているのか?

 

レキは可愛いと思う。客観的に見ても。

 

もし、レキが他の男と一緒にいたらどう感じる?

 

 

そんなの答えは決まっている。ーーそいつからレキを奪いそうになる。

 

ってことは、俺はレキを好きなのか?・・・・・・いや、俺には好きという感情を理解できない。 

 

だから、わからない。

 

 

 

 

そんな考えを頭の中で巡らせていると、

 

「八幡さん、私はもう帰ります。ありがとうございました」

 

レキが俺の隣にきて、軽くおじぎをする。

 

「あ、ああ。じゃあな」

 

「はい、また」

 

玄関までついていき、レキを見送った。

 

 

 

1年の文化祭は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 




Twitterを今さらながら始めました。フォローもし良ければお願いします。


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第30話

テストがあるので、更新遅れます。すいません。


「ハッハッ」

 

俺は今東京都、杉並区をちょっとした観光をかねてランニングしている。もちろん全装備着けてだ。この重さには慣れないといけないしな。

 

もう秋も真っ只中。しかし、ところどころ木は枯れてる。赤い葉もあるけどな。

 

文化祭が終わってから1週間経った。今日は日曜日。

 

レキとは、あまり話してない。挨拶程度だ。なんとなく気まずい。やはり向こうもそれを感じてるのか、話しがたい雰囲気だ。

 

 

 

 

 

「ふーー」

 

息を整えて、時間を確認する。

 

もうかれこれ1時間は走ってる。そろそろ休憩するか。

 

コンビニがあったので、そこに寄る。適当に飲み物とエネルギーゼリーを買い、近くの公園のベンチに座る。

 

 

 

 

 

「ふー」

 

さて、ある程度休んだし再開するかと立ち上がった。アキレス腱を伸ばし、軽くストレッチをする。

 

 

公園を出て、少しキョロキョロすると、知り合いを見つけた。

 

武偵高のセーラー服を着て、長めの黒髪、大人しそうな雰囲気の少女、俺のアミカ、ーー鶴見留美だ。

 

こっそり近づき、後ろに立って、声をかける。

 

「よぉ、留美」

 

「うっひゃあ!え、・・・・・・八幡?」

 

なんだよ、うっひゃあ!って。

 

留美は俺に気づくとさっきのが恥ずかしいのか脛を蹴ってくる。それを避ける。

 

「この、ボケ、バカ、八幡」

 

めっちゃ顔赤いな。

 

「おいまて、八幡は悪口じゃねぇぞ」

 

「このっ、うるさい」

 

 

 

 

 

ひとしきり終わった、留美が息切れしているからな。

 

「で、ハァハァ、なんでいるの?」

 

「観光兼ランニング」

 

「そう」

 

興味なさそうにしている。お前が聞いてきたんだろ。

 

「お前は?」

 

「私、普段は寮に住んでるけど、実家はここなの」

 

へー、そうなんだ。

 

 

 

 

 

 

また同じ公園に立ち寄り、2人ともベンチに座る。

 

「そういえばさ、留美はなんで武偵になろうとしたの?」

 

ふと問いかける。具体的には聞いたことなかったからな。こんな野蛮な場所にきた理由がイマイチわからなかった。

 

「それはーーーー」

 

言葉がつまる。

 

「すまん、無理しなくていい。失言だ。忘れてくれ」

 

少しプライベートにつっこみすぎた。

 

「ううん」

 

留美は首を振り、

 

「大丈夫、そんなに大したことじゃないから」

 

語りだす。

 

「私ね、6年ぐらいからいじめられてたの。なんだか、よくある風潮でね、いじめる人を交代交代にするの。それで私の番がきたの」

 

思わず息が詰まる。

 

「私は態度が生意気とかで卒業まで続いたの。中学でもいじめてた人たちと一緒は嫌だった。逃げたかった。そこで、調べてたら武偵を知ったの」

 

「あの時は親にも迷惑かけたし、自分も強くなりたかった。だから、武偵を目指した」

 

空を見上げ、留美は語り終える。表情は暗い。それに釣られ俺も空を見上げる。

 

 

 

 

「すまなかったな」

 

「いいよ」

 

「今は平気なのか?」

 

「うん、ルームメイトも優しいし」

 

「ーーそうか」

 

申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが混ざっている。でも、嬉しい気持ちの方が大きい。

 

「八幡は?」

 

「俺?」

 

「どうして武偵になったの?」

 

「俺は、ーー成り行きだな」

 

「そう」

 

「でも、俺もずっといじめられてたよ」

 

そう告げる。

 

「へー」

 

が、すごい棒読みが返ってきた。

 

「おい、興味なさげだな」

 

「実際ないし」

 

バッサリ言うな、こいつは。

 

「別に八幡は八幡。それは変わらないもん。過去がどうあれ今八幡がいるからそれでいい」

 

「そうか」

 

そのセリフに少し恥ずかしい反面、ジーンってきた。

 

「そう」

 

 

 

 

 

自販機で買ったココアをチビチビ飲んでいる。留美はコンポタ。

 

すると、   

 

 

 

ウーウー!ウーウー!

 

 

 

急にうるさく、重なり合い、鳴り響くサイレン。2台のパトカーが走ってる。しかも面倒な事にこの近くで鳴り止んだ。

 

まさか、もしかして・・・・・・

 

「警察?」

 

留美が呟く。

 

「恐らく」

 

うなずき、

 

「パトカーが見えた。しかも周りがやたらうるさい。ご近所問題かと思ったが違うみたいだ」

 

「行ってみる?」

 

「一応」

 

缶を捨て、俺と留美は駆ける。 

 

 

 

 

 

 

 

パトカーが止まった場所は、小学校みたいだ。野次馬をのけて警察のところに行く。

 

「武偵だ。何があった?」

 

それに気づき、警察の一部は苦い顔をする。おい、武偵が嫌いなのはわかるが、あからさまに出すなよ。

 

「そこの小さいのも武偵か?」

 

太った腹をした刑事か警部は親指で留美に指を指す。

 

「ああ、だから?」 

 

「はあー、こんなガキも銃使うたぁ、世も末だな」

 

イラッとした。留美自身が決めたことにケチつけるな。

 

「いいから、どういう状況だ?」

 

自分でもかなり荒い声を出したのがわかる。その言葉にビビるやつもいる。

キュッとブレザーを留美が掴む。心配させたらダメだ。

 

「警部、僕が話します。それがですね」

 

俺らの間に割り込み、若い刑事?が話を進める。

 

「さっきまで、銀行強盗を追跡していたのですが、その途中に交差点で事故が起き、我々は遠回りすることになりました」

 

「で、もたついている間に立て籠られた、と」

 

俺の補足に、刑事?はうなずく。俺の当たる事件って立て籠りが多いな。主に作者の技量が・・・・・・っとそれ以上はいけない。

 

「お恥ずかしいことですが・・・・・・」

 

「人数はこれだけか?」

 

見渡すと、数は7。銃を所持しているのは、3といったところだ。

 

「ええ、その事故が起きたのが、警察の特殊部隊の車輌なので、到着にはまだしばらくかかるかと」

 

つくづく運が悪い。まさかそうとは思わなかった。思わず口を噛み締める。

 

「そもそも日曜のこんな時間に人がいるのか?」

 

これには、太った警部が答える。

 

「それがな、昨日音楽会があっての。今日は6年の一部と教師数名が体育館の片付けをしているらしい」

 

マジかよ・・・・・・。チラッと留美を見ると、留美の顔が暗い。

 

「八幡、ここ、私が通ってた小学校」

 

俺に聞こえるように少し怯え呟く。そうか、だからさっきから静かなわけだ。だったら、なおさら、

 

「俺がやる」

 

しかないだろう。警部の目を見る。時間が惜しい。ぐずぐずしている暇はない。

 

「いいのか?」

 

警部は確かめる。それは野次馬がいきなり事件を解決すると言ってるからか。信用はなかなかできないだろう。

 

 

 

「俺は武偵だ。武偵の任務はーー無法者を狩ること」

 

 

 

もう1度警部の目を見る。ふっと笑い、諦めたように言う。

 

「はあー、わかった、任せるわ」

 

その一言で周りがざわめく。警部は「やかましい」と言ってそれを抑えている。

 

「感謝します。それで、人数と武装は?」

 

その言葉に若い刑事?は、手帳をめくる。

 

「はい、数は7。全員ベレッタを所持。防弾装備はなし。そして、人質は、約50です」

 

くそっ、人質50か、多いな。でも、7ならどうにかなるか?

 

俺がファイブセブンを出し、SS190 弾を籠める。準備している時に、

 

 

「私もやる」

 

 

声が俺の鼓膜に響いた。留美が、留美の意志を俺に伝える。けど、

 

「お前は、強襲やったことあるのか?探偵科だろ」

 

「確かにないけど、でも、助けたい」

 

1人バックアップがいるだけで、楽になるのは事実だ。

しかし、それは強襲の経験のある奴の話だ。留美は探偵科、一番安全とされている学科だ。当然留美はいくら銃の練習をしてようともその経験がない。

 

けれど、留美の目は確固たる意志を感じれる。

 

しばし迷いーー

 

「わかった。行こうか」

 

「うん」

 

「ただ、無理はするな。危ないと感じたらすぐ退避だ」

 

「っ、でもーー」

 

「お前が死んだら、俺が9条を違反してしまうからな」

 

要約、留美に死なれるのが嫌。・・・・・・それを察してか、

 

「ハハッ、素直じゃないね」

 

「だろ?」

 

互いに小さく笑う。

 

 

 

俺たちは移動しながら、

 

「そういや、アミカ同士が任務にあたる時、作戦コードをつけれるみたいだな」

 

「じゃあ、つける?」

 

「だな、小学校救出大作戦とか?」

 

「却下」

 

即答である。ですよね、自分でも今のはないと感じた。

 

「だったら、そうだな。クレインは?」

 

「ーー鶴?」

 

「そう」

 

何かが気に食わないのか留美はムスッとし、

 

「八幡はいないの?」

 

「俺?・・・・・・エイトとかか?うまいこと合わないなー」

 

留美は考えている顔つきで提案してくる。

 

「いいじゃん。エイトクレインズ」

 

それで、いいのか?留美がいいなら俺もいいけど。

 

 

 

俺たちの目付きはさっきと打って変わり、真剣になる。しかし、笑みは絶やさない。

 

「それじゃ、作戦コード『エイトクレインズ』開始だ」

 

「うん」

 

 

 

ーーーーこうして、俺こと比企谷八幡、そして俺のアミカ、鶴見留美の初の合同任務が始動した。

 

 

 

 

 

 




感想、評価お待ちしています。

この前LiSAさんにお会いでき、とても!とても!感動しました。


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第31話

やっとテストから開放されたーー!

お待たせしやした!


今、俺と留美は小学生たちが閉じ込められている体育館の裏にいる。立て籠りの犯人の数は7。さあ、どうするか。

 

体育館の壁に耳をあて、中の様子を聞く。

 

これは蘭豹に聴覚鍛えろと言われ、鍛えてみた。耳は劇的に良くなるわけではない。が、聞き分けを今まで以上にできるようにした。

 

……ふむ、どうやら、まだケガをしている人はいないみたいだ。

それと、犯人は今現在、足を絶たれている。確かに途中で見つけた車はパンクしていた。だから立て籠ったのか。それを警察に用意しろと掛け合っている。

 

体育館の構造はよくある、ステージの裏に扉が左右に2つだ。そこから入れる。

 

そして、声の発声源からして、犯人のほとんどはステージ側にいるだろう。だから裏から浸入しよう。

 

 

俺は留美に小声で話す。

 

「まず俺が左から強襲する。少し経ったら、お前は右からだ。なるべく意識はこっちに向けさせる。――だからコレを使え」

 

そう言い、スタンバトンを留美に渡す。

 

「使い方、わかるな?」

 

「うん」

 

「それで、最低1人、できれば2人意識を奪え。あとはその流れで一気に片付ける」

 

「わ、わかった」

 

「犯人は全員銃を所持している。が、もしかしたら、何丁かはモデルガンかもしれない。警察も詳しくはわからなかったそうだ」

 

そこで、一旦言葉を切り、留美の反応を見る。

 

顔からは汗が流れている。返事もはっきりしていなかった。緊張しているのだろう。 

 

 

誰だってそうだ。でも、それはなんの言い訳にはならない。……それを俺は身をもって知っている。

 

 

「まあ、落ち着け。お前の目標は相手の武装を無力化すること。あとは俺がやる」  

 

「……う、うん」

 

「まず、狙うのは?」

 

「手。銃を叩き落とす」

 

「優先することは?」 

 

「人質の安全の確保」

 

それがわかってたら、上出来だ。

 

「人質が多い。俺らは銃はなるべく使わない」

 

留美はうなずく。軽く頭を撫でながら、

 

「心配するな、これが終わったら何か飯食おうぜ」

 

俺を見て、何かを感じとったのか、目を閉じて深呼吸をする。もう大丈夫だな。

 

「――――行くぞ」

 

 

 

 

 

俺は扉をゆっくりと開ける。反対側では留美も同じ行動をとっている。足音をたてずに中に浸入は成功した。

 

中は、ステージに上がるための階段。フロアに入るための金属の扉。この扉は人1人分通れるくらいには開いてある。

 

中の様子を武偵手帳にある鏡を使って覗く。

……予想通り犯人は全員ステージ側にいる。何やら騒ぎ立てている。おおかた逃走用の車を用意をまだできてないのだろう。

 

留美にはスタンバトンを渡したから、俺は制服の内ポケットから小型のスタンガンを取り出す。

 

 

俺はふと、夏休み前の、事件を思い出す。あの、1歩遅れたら、取り返しのつかなかった、あの事件を。

 

――大丈夫。もうあの時と同じ失敗はしない。

 

 

ダッ!俺は扉から出て、近くにいた犯人の1人の首にスタンガンを当てる。そのまま、

 

ビリッ。

 

電気を流し込む。このスタンガンもスタンバトンも材木座に頼み、出力を上げてもらってる。よほどのことが無い限り、1発で気絶させれるように。

 

ドサッと1人倒れた。

 

「なんだ、サツか!?」「ちっ、くそが」

 

などと喚くが、それを気に介せず、すぐに別の奴にスタンガンを首に当てる。俺が電気を流すと同時に、留美が反対側から突入してくる。 

 

犯人たちは全員俺の方に向いている。上手く虚をつくことができ、背後から留美はスタンバトンを使い、1人から意識を奪う。俺も2人目を気絶させる。

 

――残り4。

 

「何がどうなってんだ!!」「知るか!」

 

うるせぇな。次に行こうと思った時、1人がチャキ、と俺の頭に拳銃が向ける。……冷静だな。恐らくリーダーかそれに近い者辺りだろう。かなり肩幅が広い。そしてゴツい。

 

「失せろや!」

 

「八幡!」

 

留美が俺を呼びながら、流麗な動作で他の奴の拳銃を蹴り上げ、弾き、スタンバトンの電気を首に流す。ーー残り3。

 

俺の元に駆けようとするが、もう2人が留美の前に立ち塞がる。間に合わないだろうな。

 

そこで、俺は夏休みに学んだ技を使う。

 

 

――――殺気を全開に放出。

 

 

留美を含む、全員が怯む。

 

「なっ、どこっ」

 

リーダー格は声を荒げる。それもそうだろう。今、俺を視認できてないのだろうから。

 

俺は校長みたいにずっと姿ぼやかすことはまだできない。最大で3秒だ。

 

俺はリーダー格の横を走り抜け、留美の前にいる奴の元に行く。ちょうど戸惑い、あたふたしている。そいつの頭に掌底を叩き込む。そいつは怯み、足下がぐらつく。

 

――そこで俺のステルスは消えた。すぐに俺に視線が集まる。

 

それを気にせず、留美とアイコンタクトを取る。

察してか、俺が掌底をした奴の手を蹴り銃を弾いたところで、スタンバトンを浴びせる。ダウン。

 

もう1人はリーダー格の元に行く。

 

残り2。

 

「くそっ!」「ちくしょう!ガキ共撃つぞ!」

 

2人共拳銃を小学生たちに向ける。てことはどっちも実銃か。

 

「させねぇよ」

 

走りながら、リーダー格にスタンガンを投げる。狙いは拳銃の銃身にだ。なぜなら、そこは金属だから。金属は電気を通す。

 

「がっ!」

 

手、痺れたよな。リーダー格が拳銃を落とす。その隙を逃さず、留美の跳び蹴りがみぞおちをえぐる。

 

留美は着地した瞬間に隣にいたもう1人に屈みながら足を払う。

 

――留美、ナイス。

 

と思い、パシッとスタンバトンを取る。

 

それは留美が蹴る前に宙に投げたスタンバトンだ。俺は一気に距離を詰める。

 

そして、スタンバトンの電気を最後の奴の首に流す。

 

「ぐぁ!」

 

呻き、倒れる。

 

留美は、KAHR PM 9。スカートの中から抜き、俺は腰のホルスターからファイブセブンを抜く。

それをまだ意識のある、が、痺れてから5秒だ。体勢は整えられなかったな。リーダー格に向けて構える。

 

「武偵だ」

 

「――抵抗は止めなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犯人は全員残らず警察に引き渡し、事件は解決した。結果としては、中に重傷者はおらず、被害はゼロと言ってもいいだろう。

 

正直な話、俺1人だったら、ここまでスムーズにできるかわからなかった。留美の強襲は初めてと思えない出来だった。

 

俺とアイコンタクトし、自分がどう動けばいいのかすぐに判断を下し、動けた。最後のスタンバトンを渡す時なんか、良い判断だ。

 

うーむ、探偵科とはもったいない。もし強襲科なら、かなりの成績を叩き出すに違いない。

 

 

 

「鶴見さん、久しぶりね」

 

「はい、お久しぶりです」

 

そんな声が聞こえ、そっちに目をやる。若い女性の先生と留美が話している。

 

「本当ありがとね、助かったわ」

 

「いえ、仕事ですから…」

 

「それでもよ」

 

楽しく話してそうだな。

 

俺は警察の報告も兼ねてこの場から去ることにする。なんとなくここは留美1人にしたかった。

 

警察に報告も終えて、校門で留美を待っている。あの太い警部にも誉められた。

ーー武偵もやるなぁ。みたいな感じに。

なんか連絡先も交換したよ。……報酬たんまりもらうからな。あと、マスコミは警察でどうにかするらしい。

 

 

 

校門で待つこと数分。タッタッと足音が聞こえる。この軽い足音は。

 

「八幡!」

 

もちろん留美。笑顔でこっちにきた。良いことでもあったのかな。聞きはしないが。

 

「これからどうする?1回武偵高に戻らなきゃいけないが」

 

どうせ、蘭豹やらのありがたい説教とか待ってる。いや、怒られないよな、今回は。

 

「その前に、何が奢ってよ」

 

そういやそんなこと言ったな。今財布には4000円。足りるだろ。

 

「いいぜ、どこ行く?」

 

「えーっとねー………」

 

 

 

 

 

 

 

 

余談たが、留美がお高いカフェに入り、金の大半が消えた。まあスイーツ美味しかったけど……。

そのせいで、交通機関が途中までしか使えずに、かなり歩いた。

 

 

 

 

 

 




おかしな点があれば質問してください。こっちも確認しましたが、自信がないです。


あと、ここで八幡の装備紹介です。

まず、ベルトの右側にファイブセブンを納めるホルスター。
ベルトの後ろにコンバットナイフ。柄は右側。
制服の内ポケット(右側)にはスタンガン。ファイブセブン20発のマガジン×2。
制服の内ポケット(左側)にはマガジン×3。
左袖を改造してポケットを作り、その中にスタンバトンを入れています。
スタンバトンの長さ25cm。

デスッ!


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第32話

すいません、かなり間が空きました。
ひさびさに仮面ライダーの動画を見て、独りで盛り上がってました。やっぱり、ブレイドは本当良かった!


天気は快晴。雲が少なく、日差しが眩しい。

 

もう11月も半ばなり、そこらにある木が段々と枯れている。地面には落ち葉があり、そこを歩くとザクッザクッと音がする。

まあ俺は自転車なんだけどね!

 

 

留美と一緒にやった。エイトクレインズ………言ってて恥ずかしいな。とりあえず事件は終わり、蘭豹に報告した。するとなんて言ったと思う?誉めもせず、

 

「あいつ、強襲科にほしいなぁ。育ててみたいわ。なんで探偵科なんや……」

 

とぼやいていた。それに、

 

「あいつの親が、武偵を目指すのはいいけど、安全なとこにしなさい。って言ったらしいですよ」

 

と丁寧に答えたのに、うるさい!って言われて投げられたよ。ひどくない?ひどいよね?

 

それを遠山に愚痴ったら、よくあることだって済まされたよ。本当、ここって恐いよ。

 

この前ハロウィンではみんな仮装していたが、そんなの家に引きこもれば関係なしだ。もし文句言われたら、ゾンビってことにしたし。

 

 

 

話は変わるが、武偵高はかなりいい加減な学校だ。

何がって言うと全てと答えたくなるぐらい。だからと言って、学校なので、単位がないと進級できない。

 

俺はもう進級分はそろえてあるが、授業はこれでもマジメに受けている。学年2位だからな。ちなみに、1位は星伽さんである。

それに今のうちに単位取っとけば、あとあと楽できるし。

 

 

他の生徒の横を走り抜け、しばらくすると、校門まで残り100mくらい。

 

もうここからは生徒の数が多くなり自転車で行くのは厳しくなってきた。そこで降りて自転車を押して歩くことにする。

 

歩いていると、ちょうど隣に肩に物騒な物を担ぎ、無表情でいて、それでも可愛い、水色の髪をした少女、レキがいた。

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

レキは、文化祭の時など俺は気まずい思いをしたが、忘れたようにいつも通り振る舞っている。

いや、普段から何を考えているかわかったもんじゃないが。

 

 

そのまま俺たちは並んで歩いていると、周りがやたらうるさい。……うるさいのは普通だが、視線がこっちに集中している。

 

視線の方をこっそり見てみると、女子の集団が俺らに指を向け、キャーキャー騒ぎたてている。

 

――めんどくせーな。ゴシップとか好きなの?そういうお年頃?

 

恐らく俺の目はさらに加速して腐っているだろう。

 

軽やかな足音が俺のところに近づく。戸塚だ。

 

「あ、おはよう、八幡」

 

「おはよう!戸塚!今日もいい天気だな!」

 

おっと、つい戸塚が可愛すぎて大きな声を出してしまった。

 

「イテッ」

 

つま先に刺激が走る。……どうやらレキが踏んだようだ。なぜだ?

 

「なんだよ?」

 

「…………………」

 

無視ですか、そうですか。しかし、レキの表情は心なしか怒っている感じだ。

 

戸塚は交互にそんな俺とレキを見て首をかしげる。

 

「ねえねえ、八幡」

 

「なんだ?」

 

「もしかしてさ、レキさんと付き合ってるの?」

 

俺が、レキと、付き合ってる?

 

「どうしてだ?」

 

「よく八幡、レキさんと一緒にいるよね。レキさんってね、誰かと付き合ってるって情報科の人が言ってたけど、誰かはわからなかったんだ」

 

「それで?」

 

「それが八幡かなぁと思って。夏休みの最終日レキさんと狙撃棟でずっといたのって八幡?」

 

「あ、ああ……」

 

そんな話、文化祭で聞いたな。

 

レキをチラッと見下げる。反応は特になし。

 

「なあ、レキ」

 

「はい」

 

「どうなんだ?」

 

「わかりません」

 

だよな。

 

「うーん、そっかぁ。ゴメンね急に」

 

「気にすんな」

 

「じゃあ、僕はもう行くね」

 

用事でもあるのか、戸塚は走っていった。

 

そのまま無言で並んで歩き、俺は駐車場に自転車を置きに行く。何も言わずに、俺たちは別れ、教室で合流する。教室では未だに席替えをしていない。蘭豹が、面倒だと。だから、まだ隣の席。

 

 

「八幡さん」

 

イスに座り、授業が始まるまで寝ようとしたところでレキに話しかけられる。

 

「どした?」

 

「放課後時間ありますか?」

 

放課後、か。

 

「今日少し用事あるんだが」

 

これは断るための言い訳ではなく、本当のことだ。

 

「その言い方だと、その用事は早く終わりますね」

 

「だな」

 

「なら、待ちますので、放課後お願いします」

 

珍しいな。レキがここまで主張するとはな。これも感情を知りたいという良い傾向か。

 

「わかったよ」

 

 

 

 

 

お昼、食堂にて。

 

あまり使用する機会がないけど、今日は飯を用意したかったが、あいにく冷蔵庫が空だった。

 

食堂に入ると、まだ昼休憩が始まって5分しか経ってないのに席はほとんど埋まっている。

 

しかも空いてる席が何人かのグループとかの横だ。そんなところに入れるほど俺の精神は図太くない。

 

とゆーことで、パンを何個か買って、外で食べよう。

 

列に並んで順番待ちをしていると、

 

「八幡だ」

 

「ん?よぉ留美」

 

アミカの留美がいた。後ろには友達と思われる人が数人いる。

………お昼一緒に食べる奴いるんだ。

と謎の敗北感がする。

 

「そうだ。八幡あのね、私この前の期末で武偵ランク考査があったんだけど、探偵科Dランクになったの」

 

声は穏やか、しかし表情は嬉しそうだ。

 

「おおー、良かったじゃねーか」

 

素直にそう思う。なんだか自分の弟子が成長するって嬉しいな。

 

「前の事件のおかげで、評価が高くなったの」

 

………なるほど。俺の時もそうだったな。とはいえ、探偵科も強襲科と同じ試験なのか気になるな。

 

「留美ちゃーん。行こー」

 

ふむ、どうやら留美の友達が呼んでる。

 

「う、うん。じゃ、またね」

 

「おお」

 

俺に手を振ってから友達の所に戻る。留美は時々顔を赤くしていたが、まあ、関係ないだろう。

 

そうこうしている内にパンを3個ほど買った。食堂から出て、校舎裏のいい感じの場所に座って、モソモソとパンを食べる。

 

この街は良い風が吹くなー。

 

………このネタわかる人いるかな?ところどころいじってるし、わからないな。

 

 

 

 

 

ーーーー放課後。

 

蘭豹の雑なアイサツが終わると色んな生徒が「どこ行く?」だの「このまま訓練しよーぜ」だのうるさいこった。

 

そんな中俺は装備科のとある生徒に用事があり、そいつのいる教室に行こうとした。

 

「八幡さん。私もご一緒してよろしいですか?」

 

教室から出る寸前、レキが話しかけてきた。振り向くと、荷物を片付け終えたらしい。

 

「…………なんで?」

 

俺は面倒な顔をする。いや、俺の用事が終わったら待ち合わせだ。わざわざついてきても、ね。

 

「あとで合流するなら、最初からしとこうかと」

 

「そうか。まあいいぞ」

 

はぁ~~とため息をつきながら同意した。

 

「ありがとうございます。………

あとイヤそうな顔、あまりしないでください」

 

レキはムスッとすねた表情になる。おお、あのレキがここまで主張してくるとは(本日2回目)。八幡、感動するよ。

 

そう思い、ジーっとレキを見つめてた。

ーー数秒後、レキは顔を赤らめてうつむいた。うつむきながら、チラッ、チラッと俺を見てくる。なにそれ可愛い。

 

「じゃ、その行くか」

 

「はい」

 

そいつのいるクラスを覗いた。が、もう姿はなかった。荷物もないとなると、部屋に帰ったか、装備科の所に向かったのか………。

 

今どこにいるのか連絡してみた。返信は装備科の棟にいると。移動の早いこと。

 

俺が歩くと、その後ろにレキがついてくる形だ。周りから見られている気もするが、気にしない。どうせ俺ではなくレキを見ているのだから。

 

 

 

 

装備科の棟に着き、目的の人物がいるかどうか確認しながら入る。

 

進んでいると、工具や部品が大量に積んである山の横に小さい山がある。

 

――って違う。あれ材木座だ。何やら作業中だ。俺からしたら専門的すぎて何やってるかさっぱり。

 

 

 

「材木座」

 

しばらくして、手に持っていた工具を地面に置くのを見てから声をかける。

 

「おお!八幡!して、何用か?この前メンテは済ませたであろう」

 

「いや頼みがあるんだが」

 

「ふむ、お主が我に頼みとな。ま、盟友とも言える我らからしたら当然か」

 

「………平賀さんに頼むぞ」

 

「ごめんごめん八幡!平賀さんに頼むのはご勘弁を!」

 

涙目になり、俺の体にすがりついてくる。う、うっとうしい。

 

「うるせぇ!」

 

「ギャフン!!」

 

つい、そのふくよかな腹を蹴ってしまった。勢いよく転がるなー。

 

 

 

 

「それで、頼みとは?」

 

仕切り直し、互いに地面に座る。

 

「これなんだが………」

 

そう言いながら、腰のホルスターから武偵になってからの俺の愛銃のファイブセブンを材木座に渡す。

 

「むむっ。何か不調があったのか?」

 

「いや、そうじゃなくて。……これにフルオート機能をつけてくれないか?」  

 

「ふむ、なるほどなるほど」

 

「この銃ってP90のサイドアームだろ。P90はサブマシンガン。それみたいに一気にばらまきたいんだよ」

 

「確かに、FN社の製品であるP90は全く同じ銃弾をお主のFN. FiveーseveNでも使える。本来その目的で製造されたからな」

 

「イケるか?」

 

材木座はあぐらの姿勢でしばし悩むと、

 

「心配するな。完璧に仕上げてみせようではないか」

 

膝をパン!と叩き、意気込む。

 

「頼むぜ」

 

「任せるがいい。時間は……そうだな、できたら連絡するが、目安は4日ほどだ。それで八幡」

 

「なんだ?何か問題か?」

 

「いや、まあ、問題といったら問題であろうが、………なぜレキ殿がここにいるのだ?」

 

そう俺の右横を見る。そこには、正座をしたレキがいるのだ。

 

「気にすんな」

 

「まさか、お主………リア充になったのか?」

 

あ、これめんどくさいやつだ。

 

「それじゃ、よろしく」

 

「ち、ち、ちくしょーめー!!」

 

材木座が叫ぶと同時に俺とレキはここから退出した。声でかいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 




今日はハロウィンだけど、あっさり流しましたw


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第33話

遅れて申し訳ない!

東京の話を書こうとすると、関西民族の作者には時間がかかるのです。


あの後、材木座から逃げて、電車を乗り、俺とレキはお台場に来ていた。俺たちいつもここだな。

 

時刻はもう5時。でも、学生が多い。その中には武偵高の奴らもちらほらと見える。それは男子や女子だけのグループだったり、男女混合のグループだったりする。

 

お台場は武偵高からしたら、割りと近く、羽を伸ばせるスポットなのだ。色々な店が揃っているし、便利である。

 

 

レキとは1回か行ったことある。あの時はその、成り行きみたいな感じだったな。いきなり部屋に押しかけてきて大変だったな。

 

 

「八幡さん、行きますよ」

 

ーー感傷に浸っていると、レキが俺の横から顔を覗き込み、そう告げる。

 

「わかった」

 

俺が返事すると同時に歩き出す。レキの歩幅は俺より小さく、それに合わせてのんびり歩く。

 

お台場にいるといっても、今は有明駅のホームを出たところだ。そこからそこそこ距離がある。

 

 

歩きながら、

 

「レキは何買うんだ?」

 

「防弾のインナーの数が少ないので補充しようかと」

 

なるほど。そういや俺もそれは必要だな。予備として多く買っても損はない。

 

「防弾のインナーとかシャツ買うか………」

 

残金を確認する。材木座に直接払うと思っていたから、けっこう持ってきた。6万か。これだけあれば足りるだろ。

 

「レキ、金は?」

 

「問題ありません」

 

だよな。Sランクのレキにその心配は杞憂だな。

 

「八幡さん」

 

「何だ?」

 

「ご飯はどうしますか?」

 

「そうだな…………。時間もアレだしここで食べることにする。レキはカロリーメイト?」

 

「いえ、八幡さんがここで食べるならそれに合わせます」

 

「そうか」

 

 

と、こんな感じに会話を続けていたら、お台場ダイバーシティ東京に着いた。いつ見てもでかいな。

 

 

 

俺たちはそこの5階にあるユニクロに入る。ここはけっこう安く、しかもそこそこ丈夫である。レキも特に反対などせず(するかどうか怪しいが)についてきた。 

 

 

 

一旦、レキとは別行動をとる。

 

 

 

ただ今、服を物色中。

 

中学では服など基本親任せだったので、あまりこういう機会がなかった。因みに、服は全部ユニクロでした。家庭に易しい俺。

 

実際見てみると、安い。………いや安いんだろうけど、他の店と比べてないからどのくらい安いのかわからない。

 

と、歩いていたら、男性用の防弾シャツのコーナーに来た。

 

 

なんでも、武偵という制度が日本でも導入された辺りから、こんな一般の店でも防弾製品が売られてきた、…らしい。

今の世の中、手に入れようと思えば簡単に銃を手に入れれる。ーー本当、物騒だな。

 

 

そんな事を思いながら、防弾のインナーやシャツの縫い目をチェックする。ここが荒かったら、いざというとき危ない。しかし見る限り問題ない。

 

ーーーーまぁ、周り見てみると、やはりと言うべきか。防弾のシャツやインナーの種類は少ない。

普通の服みたいなバリエーションがない。あるのは黒、白、灰色。

 

売っていても需要はないのか。………確かに色んな人がホイホイと買っていたら怖いけど。

 

 

俺はカゴに防弾製のMサイズの長袖のインナー、白地のカッターシャツを3着ずつ入れた。

 

防弾製品ということで、普通の服より値段は高めだが、それでも2万あれば事足りる。

 

 

先に会計を済ませることをレキに連絡しようとして、少し探すことにする。

 

探すこと数十秒。何やら試着室がうるさい。トラブルかと思い駆け寄ってみる。

 

ーーそこには、薄い桃色のワンピース。その上に水色のジャケットを着ているレキがいた。

 

………何やってんの?

 

ぽかーんとしていると俺に気づいた女性の店員が近寄ってくる。

 

「あなたこの子の彼氏?」

 

「違います」

 

「あら、そうなの………。でも、この子の連れよね?」

 

「そうですね。つか、なんでこんな状況になったんですか?」

 

「いやー、最初は防弾製品の場所を聞いてきたんだけど。……あ、制服で武偵ってわかったわ。でもねー、私服持ってないらしいのよ。素材が最高なんだし着せ替えしたかったのよ」

 

「そうですか」

 

確かにレキはお人形みたいな顔立ちだ。客観的に見ても可愛い部類に入るだろう。

 

ってあれ?私服ないんだ。

 

「で、どう?可愛いよね?」

 

「まぁ…、可愛いと思いますよ」

 

恥ずかしい。女子にここまで面と向かって言ったのは小町しかいねぇ。しかもその時の反応が「うっわ、本当にお兄ちゃん?」と引かれた。解せない。

 

しかし、その言葉にレキは顔を少し伏せ、赤らめる。なにそれ可愛い。可愛いけど、怒っている?

 

 

「すいませーん!」

 

と他の客が店員を呼んでいるので、ここにいた店員が向かう。俺たちを残して………。

 

 

 

レキは何も言わず、俺も何も言えず、そこに微妙な空気が流れる。

 

ーー息苦しい。なんか空気重い。やっぱりキモいよな。俺がそんなこと言うなんて。

 

「あ、俺もう、会計…する…から」

 

当初の予定を思いだし、レキに伝える。所々詰まりながら。

無言でうなずいたのを確認してからその場から離脱。

 

 

 

 

会計を済ませて、店の外でレキを待つ。

 

にしても、今日の俺、大丈夫か?いつもなら、女子に可愛いなどと思うことはあれど、直接言うことなんてないのに。

 

あー、恥ずかしいなー。

 

 

待つこと数分。

 

「お待たせしました」

 

武偵高の制服のレキが俺の隣に立つ。あのあと着替えたらしい。

レキは紙袋を手にぶら下げている。俺よりその量は多い。 

レキならそんなに買わないと思っていたが。

 

「持つぞ」

 

手を差し出し、レキの荷物を持とうとする。

 

いくら日常で4kgあるドラグノフを所持しているとはいえ女の子。ここは男の俺が持つのが道理だろう。

 

「結構です」

 

ーーが、お断り。

 

俺に荷物を頑固として渡そうとしないレキ。

 

「なんでだよ」

 

「………………」

 

来ましたー。ダンマリ。こいつ都合の良いの時だけ無視しやがって。俺も人のこと言えないけどさ。

 

チラッと紙袋の中身を覗いた。どうやらさっきのワンピースとジャケットを買っていたのか。

だったら重いだろうし余計に俺が持つのに。

 

ま、本人が結構と言うなら、これ以上は言わないけど。

 

 

 

 

 

 

 

時間は6時を過ぎた。もう夕方の雰囲気が消え、見上げると空は黒く、暗い。

 

俺とレキはクアアイナというハンバーガーショップにやって来た。

ここはウマイらしい(作者談)。またお台場に行く機会があるなら、是非食べてみてくれ。

 

 

店の中は平日とはいえかなりの人だかりだ。ほとんど席は埋まっている。

 

「レキ、外でいいか?」

 

「はい」

 

レキの了承を得た所で、カウンターに並び、注文する。

 

「奢るけど、何か食べたいのあるか?」

 

「八幡さんと一緒で」

 

「了解。……えーっとベーコンバーガー2つ」

 

 

 

ハンバーガーを受け取り、どこか食べれる場所を探しに移動を開始する。

 

少し歩くと、自由の女神の横にベンチを発見した。寒いからか人はいない。

 

俺がベンチに座ってから、レキも俺の隣に座る。

 

「ほらよ」

 

レキの分のハンバーガーを渡す。

 

「ありがとうございます」

 

食べている最中、ふと前を見る。

 

そこは夜の海だ。かなり暗い。ザザーっと波の音は聞こえるが、水はほとんど見えない。しかし、一部月に照らされ、そこだけ輝いている。それがどこか神秘的だ。

 

 

 

しばらく経ち、お互い食べ終わった。ゴミを回収して近くのゴミ箱に捨てる。そのまま、もう1度同じ場所に座る。

 

1分かそれとも10分か。俺たちは座ったまま何もせずに、ただただボーッとしていた。時おり寒いと感じたが、たがらといって何もするわけでもなかった。

 

 

不意に、

 

「八幡さん」

 

俺を呼ぶ声がした。言わずもがな、レキだ。

 

「なんだ?」

 

「今日はありがとうございました」

 

「別に気にすんな」

 

「そうですか」

 

「ああ」

 

 

さっきまで海の方を見ていたが、今度はこっちを向きながら、

 

「八幡さん」

 

俺を呼ぶ。どことなくマジメな声色だ。

 

「なんだ?」  

 

レキを横目で見ながら、さっきと同じトーンで答える。

 

「私はあなたを知りません」

 

「………俺もお前のこと知らないよ」

 

そう返す。

 

 

誰だって、人のことを全部なんて知らない。自分を理解できるのはいつだって自分自身だけだ。

……もし、誰かのことを理解しているって奴がいるなら、そいつは傲慢だ。100%わかるわけがない。そんなのはただのまやかしだ。所詮、知った気になっているだけだ。理解とは呼べない。

 

だからーー

 

 

「私はあなたのことを知りたいです」

 

 

 

ーーーーだから、知ろうとする。知りたいと思う。そう願う。知りたいという努力をする。

 

 

 

「あなたは私にいつもと変わらず接してくれました。他の人は必要以上に私と話そうとしませんでした。今までそれが普通でした」

 

「だから、夏休みの最後。あなたが私に投げ掛けてくれた言葉が嬉しかったーーと思います。私を銃弾ではなく、1人の人として見てくれたこと」

 

 

「……レキ」

 

話を聞き終えて、俺が言うことはこれだろう。

 

「もう1度言う。お前は銃弾なんかじゃない。絶対にだ。

今お前は何かを感じ、それを表現した。そんなの機械にはできない。

できたのはお前が人間だからだ」 

 

俺は思ったことを包み隠さず、レキに全て伝えた。

 

 

 

 

 

「ーーありがとうございます」

 

少しだけ、でも確実にレキは笑った。月に照らされた中で。

それは俺が見た中で一番綺麗な笑顔だった。

 

 

 

 

「これからは比企谷八幡という人を私に教えてください」

 

「だったら、俺にもレキという人を教えてくれよ」  

 

「はい」

 

 

 

こうして、レキとはどこか通じ合ったように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから1ヶ月以上経ったある日。

 

 

 

「あれ、ここどこだ………?」

 

俺はいつも通り目が覚めた。

 

しかし、俺の部屋の天井ではない。どこか別の場所だ。

 

どうしてこうなった?ここはどこだ?

 

俺が寝ていたベッドの横に丸窓がある。

そこからなら、何かわかるかもしれない。

 

そう思い窓を覗くと、

 

 

「えっ、魚……?」  

 

窓から映る景色は魚がそこらじゅうにいて泳いでいる姿だった。

 

どうやら映像ではなさそうだ。

 

「もしかして………、ここ、海中?」

 

1人でつぶやいていると、部屋の扉がカチャっと開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ジャンヌ~~。ハチハチ起きたみたいだよ」

 

「ふむ、彼が理子の言っていた少年か」

 

 

 

 

 

 

 




さぁ!八幡はどこにいるでしょうか?
原作読んでいる人にはわかるはずです。


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第34話

このお話は前回の
1ヶ月の間の一部のお話です。

これで2学期は終了します。


あの日、レキと別れてから、数日経った。

 

学校で、俺とレキはいつもと同じように接していた。武藤情報から、レキは狙撃科で人気が高い。

 

別に付き合ってるわけではない。面と向かって「好き」とは言ってないからな。

 

だけど、どこからかあの日レキと一緒に誰かといたと狙撃科で噂になっている。さすが俺と言ったところか、それが比企谷八幡とはバレてない。………陰薄すぎだろ。

 

まあ、狙撃は怖いので、学校ではひっそりと過ごしている。それ以外では、電話のやり取りが多い。たまに出かけたりしている。

 

 

 

 

 

 

材木座から、ファイブセブンをフルオート付きに改造してもらい、撃ってみた。

 

マシンガンと違って、撃ち続けたら、次第に照準がぶれる。そこは慣れればいいだけだ。

 

 

にしても、材木座の腕は頼りになる。正に完璧と言ってもいい。フルオートとセミオートとの切り換えもしやすい。

 

こちらとしては高めの値段でも良かったのだが、

 

「我にはこれで充分である」

 

とかで、控えめな値段だ。申し訳ないとも思ったが、そこが材木座のいいところだ。固定客が多いのも納得できる。

 

 

 

 

 

 

そして、クリスマスイブ。俺は前々から任務を予定に入れていた。レキも同様。

 

今回は千葉で、お金持ちの主催するパーティの会場警備だ。

 

……え?この前も似たようなのやったって?バッカ野郎。金もそこそこ稼げるし、楽だし、俺の好みなんだよ。そこまで大きな被害があるわけでもないしな。

 

結果としては、酔っぱらいの大柄な男が暴れたけど、腹を殴って、退場させた。周りにケガはなし。

 

ここで誰かケガでもさせてみたら、評価が落ちる。あと、理不尽な暴力。なので迅速にすることを心がけている。

 

それ以外では基本出入口のチェック。

 

無事に滞りなく終えた。

 

にしても、パーティのかなり規模がでかかったな。大変そうだな。参加するならともかく、主催とは。

 

ま、俺には関係ないけど。

 

 

 

 

報酬を受け取り、俺は懐かしの京葉線に乗り、東京駅で寮に帰るため、また乗り換える。

 

何度か乗り換え、午後10時に学園島に着いた。ブラブラと歩いていたら、

 

 

「こんばんは」

 

 

「……暗闇に紛れて登場するな。ビックリするだろうが」

 

十字路からスッとレキが現れた。ぶっちゃけ、めちゃくちゃ驚いた。

 

 

 

まずコイツは俺も自信あるが、それ以上に足音を消す。

 

俺は一時的に陰の薄さを活かして姿を眩ますことができる。

 

この前の留美との事件で、そこそこ使えることがわかった。それでも元が薄いから、見つからない時も多々あるけど。

 

が、レキの場合俺の完全に上位互換だ。レキが自分で消えようと思ったら、もう探せない。

 

近接戦なら、まだ勝てるが、少しでも距離が空くと不利になる。カルテットでは、他に意識を散らせたからなんとかなったが。

 

 

「お前も任務終わったか?」

 

「はい」

 

「お疲れ様」

 

「ありがとうございます」

 

「八幡さんもお疲れ様です」

 

「ありがと」

 

 

 

そんな感じにのんびり歩いていたら、急にレキが立ち止まる。俺も釣られて止まる。

 

「どうした?」

 

レキは上空を見上げ、目を閉じる。………しばらくすると、目を開け、俺を見る。

 

「ーーーー風」

 

そうポツリと言うと………、

 

 

 

「八幡さん。あなたは風に近い者と遭遇します」

 

 

 

ーーそれは確実に当たるみたいな予言だった。

 

風というと、レキがずっと信じてきた何か……だよな。その正体はわからない。

 

「一体風ってなんなんだ?」

 

レキに問うが、俺の呟きに反応することはなかった。

 

 

 

 

 

 

ーーこの日、遠山キンジにとって、人生が変わる事件が起きていたとは誰も予想できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。クリスマス当日。

 

リビングからガタッと大きな音がした。その音のおかげで、バッチリ目が覚めた。

 

何かと思い、リビングに行くと。

 

 

ーーそこには、テレビを見つめ、呆然としている遠山がいた。

 

 

とてもじゃないけど、声をかけれる様子ではなかった。

 

何があったのかテレビを見る。

 

 

『もう一度繰り返します。12月24日、浦賀沖で海難事故が起こりました。』

 

『アンベリール号が沈没し、乗客1名が行方不明となりました。その乗客は武偵で名を、遠山金一と言います。今現在、捜索を続けていますが、もう間もなくすれば、打ち切られるとのことです』

 

 

遠山金一?……遠山?も、もしかして?

 

「ま、さか、に、兄さんが………」

 

遠山がうめく。今まで見たことないくらい顔が青い。信じられないという顔。

 

やはり遠山の親類、それも兄ときたか。

 

 

『警察によりますと、どうやら乗客全員を避難させたあと、遠山金一武偵も避難しようとしたところ間に合わなかったそうです』

 

 

 

 

 

しかもこの事件。乗客からの訴訟を恐れたクルージング会社の責任者が「事故を未然に防げなかった無能」と言う。それに焚きつけられた一部の乗客も同意する。

 

ネットで、週刊誌で、さまざまな罵詈雑言が遠山金一に飛びかっている。そして、その悪意の飛び火は親族にも……だ。

 

 

遠山はクリスマス当日。部屋に引きこもったらまま外に出ようとしなかった。

 

俺は何もする気が起きず、ただただクリスマスで彩られた街をあてもなく、ブラブラとうろついていた。

 

 

 

1日経ち、昼になり、メシにしようかと、台所に行くと、

 

「比企谷」

 

部屋からリビングに遠山が出てきた。

 

「よお」

 

ここで、間違っても「大丈夫か?」なんて声をかけてはいけない。絶対無理をしている。

だから、ここはいつもと同じ態度で接する。

 

「メシ用意するぞ」

 

「あ、ああ。……ありがと」

 

ソーセージと玉ねぎを炒めたおかずと炊いたばっかの白米を俺たちは向かい合わせで食べる。

 

「比企谷」

 

「なんだ?」

 

「俺、武偵辞めるよ」

 

「……そうか」

 

 

 

特別驚きはしなかった。

 

亡くなったのは遠山の兄。恐らくだが遠山は兄に憧れて武偵を目指したのだろう。

 

名前を検索してみたら、かなりの大物とわかった。この背中を追いかけていたのか………。

 

その兄が今世間で叩かれている。……人を助けたにも関わらず。

それは責任を取らないといけない奴のスケープゴートとして。

 

遠山はーーそれを許せないと、俺は思う。

 

 

 

「何も言わないんだな」

 

意外そうな顔だ。

 

「まあな。自分の道は自分で決めるべきだ。それに人の人生に口出せるほど俺は偉くない」

 

レキの時は夏休みに思いっきり口出したけど。

あれは、まぁ………、ノーカンで。

 

 

「カn、……兄さんは俺の目標なんだ。あの人みたいに正しく強くありたかった」

 

遠山が語り出した。

 

にしても、なぜ最初で言葉が詰まったのか?

カ……?兄の名前は金一だろ。 

わからん。

 

「遠山家では代々、正義の味方をやってきた。詳しくは言えないが、遠山家の遺伝子の力で、何百年も戦ってきた」

 

なるほど……。遺伝子。それが遠山の力の源か。たまに見るもう1人の遠山の。

 

 

「兄さんは、なぜ人を助けて、死んだ?なぜスケープゴートにさせられた?」

 

「答えは武偵をやっていたからだ。武偵なんて、戦って、戦って、傷付き、死体にまで石を投げられる、ろくでもない、損な役回りじゃないか」

 

 

一拍置いて、

 

「だから、武偵を辞める。これからは普通に生きる」

 

 

 

ーーその言葉に俺は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあった翌日。12月27日。

 

ネットを見てみると、遠山金一の批判がひどい。

物事の本質を見ようとしないくせに、こういう時だけしゃしゃりでるような奴ばかりだ。アンチ武偵の奴らも多い。

 

これ以上見ると、もっと胸糞悪くなるのでネットを閉じた。

 

 

ベッドに寝転び、大晦日や正月は家に帰るか考えていた。

 

ーー少しずつ家に顔を出しているしなあ。どうしようか?一応は行くべきかな。あーでも小町に会いたいな。

 

 

 

ここでふと時間を確認する。

 

もう夕方。ここにいるのもなんだし、どこか出かけるか。何だかんだでかなりイライラしているし、少しは落ち着こう。

 

フル装備+防弾制服で電車に乗り、学園島から出て、東京駅に着いた。行き先は適当に決めるとして、電車に乗り直す。

 

 

 

1回澁谷駅で降りて、ホームに出ようとする。切符を財布から取り出していると、

 

 

 

ーーゾクッ!

 

 

 

寒気がした。

 

………いや、まあ冬で寒いんだけど。

そんな感じではなく、俺を狙った明確な殺気に感じた。一言で言うならば、恐ろしい、かな。

 

後ろを向き、確認する。…が、何も見えない。俺の目に映る光景はごくごく普通の人たちが歩いているだけだ。

 

……気のせいか?過剰になりすぎだ。ただでさえ今イラついいるからな

 

 

 

 

クリスマスが終わり、街はもう年末や正月ムードだ。みなさん切り換え早いな。

 

………つーか、人多すぎだろ。まさかここまでとは。にしてもカップルが多い。リア充滅びろ。

 

ダメだ。人多すぎで気分悪くなってきた。どこかで休もう。

いいところにカフェがある。リア充が来そうにない渋いカフェだ。ここにしよう。

 

「いらっしゃいませー」

 

仕切ってるのは、おじいさんとその孫かな。

 

見渡すとほとんど人がいない。いるのは老夫婦だけ。いい感じだ。

席につき、メニューを見る。おすすめのサンドイッチとコーヒーを頼む。

 

しばらくしてサンドイッチとコーヒーが来た。

 

コーヒーは苦いけど、甘党の俺でも飲める。サンドイッチもできたてでおいしい。

 

 

…………?

 

コーヒーの味に少し首を傾げる。何か、苦味のほかに別の味が入ってるような………。

 

気にしてもしかたない。そこまで気にならないし。 

 

 

ここで30分ほどのんびりして、お金を払い、カフェから出る。 

 

相変わらず人が多い。遠回りになるが、人気のない道を通るか。

 

 

 

辺りもすっかり暗くなった。その中俺は独りで歩いている。

 

 

ーーこれからどうするか。将来、俺はどうなるのか。どうなりたいのか。

 

今回の事件で、今まで成り行きで武偵をしていた俺に突きつけられた課題だ。

 

遠山が武偵を辞めると言ってから、流されていた俺は真剣に考えてみる。

 

このまま武偵を続けるか。それとも、大学に進学してどこか企業に就職するか。どちらにしても大学には進んどかないと………………

 

 

 

「うっ」

 

突然目眩がし、膝がガクンとなる。

 

 

………………あれ?

 

 

ヤバいぞ。ヤバいヤバいヤバい。

 

頭がボンヤリする。

 

体がフラフラする。

 

眠気がスゴい。

 

思考が追い付かない。

 

何があった?急にどうした?

 

 

「ハァ、ハァ」

 

塀に寄りかかり、必死に頭を動かす。俺の今日の行動を振り返る。

 

 

 

まさか、あれか………。

 

あの時感じたコーヒーの味の違和感。

 

睡眠薬か。しかも、すぐに眠くならなかったから、恐らく遅効性、それとも俺に効くのが遅かったのか。それだけならまだしも効き目が強力だ。

 

「クッソが……」

 

 

そういや駅で殺気がした。もしかしたら、そいつか。

俺はバカか。気のせいじゃなかったじゃないか。ちゃんと確認しろよ。

 

 

そもそも誰だ。誰が、なんの為に、俺を狙う?

 

恨まれるようなことしたか?警察や武偵は恨まれてなんぼだと蘭豹が言っていたが、心当たりが無さすぎる。

 

夏休み前の奴らか?いや、まだあいつらは外に出れない。

留美との事件もまだ釈放されてない。

 

考えれば考えるほどわからない。

 

 

 

ドサッ。

 

 

壁に寄りかかり、ギリギリ立っていた俺はとうとう限界が来たらしく、その場に尻餅を着く。

 

取り敢えず誰かに連絡を……。

 

ポケットに入っている携帯を取り出そうとすると、

 

 

 

「チッ」

 

人の気配がする。この状況で人が来るとは………。絶対味方でなはないことは確かだ。

 

意識がギリギリの状態でファイブセブンに手を伸ばし、そっちを向こうとするが、

 

 

ーービリっ。

 

 

 

 

そこで、俺の意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんかいつも以上に長くなった。

何か間違っていたら、訂正のお知らせお願いします。


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1年 冬休み&3学期&春休み
第35話


青春ブタ野郎、全巻読みました。ちょー感動しました。涙ボロボロ流しました。


俺が目覚めて、何があったか、ここがどこなのか、わからない。

 

思い出せ。確か………そうだ!睡眠薬にヤられて気絶させられたんだ。クッソ、どのくらい経った?

 

携帯は?俺の装備は?………服装は制服たが、他の荷物が見当たらない。内ポケットに仕込んであるスタンガンもだ。

 

 

 

 

 

 

「やっほーハチハチ~。やっと起きたね」

 

部屋の外から、銀髪の女子と一緒に入ってくる金髪の女子の名は峰理子。

 

 

ーー峰理子。俺と同じクラスの女子。金髪、ロリ、巨乳、ぶりっ子。それらが特徴のクラスのやかましい奴。………………そして、仮面を被り、何かを一生懸命隠している。自分を演じている、どこか悲しい奴。と、思っている。

 

 

 

 

「峰理子。ここはどこだ?俺の装備は?睡眠薬仕込んだのはお前か?」

 

「もぉ~~。質問多すぎぃ。少しは落ち着きなよ」

 

笑いながら、俺の言葉をヒラリと受け流す。……クラスと峰理子とどこか違うような。

 

「……俺は至って冷静だ。その上で質問している」  

 

この言葉はブラフだ。内心焦っているが、冷静さをなんとか保つ。

 

ベッドから降りて防弾製の靴を履く。そこでこっそり靴の感触を確かめる。…………アレはあるな。俺の装備は根こそぎ盗られたが、これはバレてない。

 

「ま、1つずつ答えてあげるよ。まず、ハチハチの装備は私が預かってるよ。特に細工なんかはしてないね。する時間なかったし」

 

峰理子が横目で隣にいる銀髪に促すと、そいつが持ってある袋を俺に見せてくる。中には携帯を含め、財布、ファイブセブン等、全部ある。

 

「あ、携帯はGPS辿られると厄介だから電源落としているよ」

 

それは薄々感じていたから、そこまで期待していない。

 

それと理峰子の言葉を聞く限りそこまで時間は経ってない。しかし、具体的にはわからない。

 

 

「で、ハチハチの考えで正解だよ。睡眠薬を仕込んだのは、私」

 

そう答える。そして、峰理子は少し呼吸し、

 

「いらっしゃいませ」 

 

ーーーーあの時の店員と同じ声で言ってきた。

 

 

「なっ!」

 

……マジか、驚いた。これは……変声術か。それもかなりの熟練度。これなら誰でも騙せるだろう。

 

「くふふっ。驚いた?ちなみに私、変装もできるからね。ハチハチじゃあ見破れないよ」

 

それはっ……事実だ。実際問題、あの時は気にも止めていなかった。まさか、あの店員が峰理子とは。

 

「あの店員殺してないよな」

 

靴紐を結んでるフリをして、峰理子に表情を見せないように問いかける。

 

「それは大丈夫だよ。店長の声で、今日は休めって言ったからね」

 

それと、と付け加えながら、

 

「ハチハチを尾行して澁谷ってわかった時点で、ハチハチの動きを読んだんだよねぇ。ま、かなりタッチの差で間に合ったけど」

 

恐れ入るよ。その周到さには。

 

「あ、最後の質問だね」

 

何気無く、クラスのテンションと同じで言うが、

 

ダッ!

 

「ーーその必要はない」

 

俺は靴に仕込んであるカッターナイフを取り出し、ほんの2m先にいる峰理子の所まで駆ける。そして、首筋にカッターナイフを当てる。

 

「ここがどこなんてどうでもいい。元の場所に帰せ」

 

峰理子を殺意のある目で睨む。

 

ここが海中というのはわかった。もしここでこいつを殺しても、そうはバレない。

 

しかし、お仲間のピンチだというのに隣にいる銀髪は動かない。大丈夫だと言わんばかりに。

 

 

 

 

ーーゾクッ。

 

一瞬体が震えた。

 

「いいね。その目、いいよ、スゴくいいよ、最高だよ」

 

ニヤァと獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

 

ーーこれだ。あの時感じた殺気と同じ気配。 

 

こんなの武偵高では誰も見たことがない。要するに、これが、峰理子のもう1つの顔。

 

「確かにハチハチは今私が手足を動かせばすぐに首を斬れる体勢。ーーでもね」

 

ドッ!

 

「がはっ」

 

腹に衝撃が走り、床を数m転がった。うずくまり腹を抑える。

 

急に腹を殴られた。だが、峰理子は手足すら全く動かしていない。

 

なら、何で、俺を、殴った?

 

 

 

 

俺は峰理子の方を向く。

 

そこで俺は信じられない、恐ろしい物を見た。

 

ーーーー峰理子のツインテールがゆらゆらと動いている。まるで、メデューサのように。

 

それは髪の毛1本1本自由自在に操れるらしい。なぜなら、髪の毛の先には握り拳みたいに固く握られているから。

 

それで俺を殴ったのか。かなりの威力だ。これは………、

 

「超能力(ステルス)か……」

 

「正解。よく知ってるね。これは私の力だよ」

 

 

 

今の状況はかなり最悪だ。

 

武器は隠し持っていたカッターナイフを含め、全て俺の手元にない。

向こうは、まず峰理子は両手に、ワルサーP99を取り出す。隣の銀髪は長い剣を構える。

 

 

ーーここから導き出される結論は、俺に勝ち目はないということだ。偶然なんてものもない。100%俺が負ける。

 

 

 

俺は深くため息をつき、両手を挙げる。

 

「降参だ。もう抵抗しない」

 

この言葉に嘘偽りはない。

それを察したのか、峰理子はワルサーP99をしまい、銀髪も剣を納める。

 

「よしっ、じゃあここの説明だね。まずイ・ウーへようこそ」

 

いつもの調子で俺に話しかける。イ・ウー…………?ここの名前か?

 

 

 

「理子、ここは私が説明する。お前は下がれ」

 

峰理子が話そうとした途端、隣にいた銀髪が出てくる。

 

「………いいよ~。じゃあ、私外にいるね」

 

峰理子が部屋から出るのを確認すると、そいつは俺に向き直る。

 

「どうして峰理子を下がらせた?」

 

ただ単に素朴な疑問なので問いかける。

 

「いや、理子の前では聞きにくいこともあるだろう。

あ、言い忘れていた。私から名乗らないとな。私の名前はジャンヌ・ダルク」

 

「………は?」

 

 

 

その名前を俺は知っている。別に目の前のコイツと知り合いというわけではない。むしろ、初対面だ。

 

なぜ知っているかというと………。つーか、ほとんどこの名前に聞き覚えがあるのではないか?

 

 

「それって、フランスの………」

 

「そうだ。私はその30世だ」

 

「でも、火炙りで処刑されたんじゃ」

 

俺の記憶が正しければ、そうなってたはずだ。しかし、目の前のジャンヌさんは、

 

「それは影武者だ」

 

と、平然に答える。そんなの初耳だぜ。おい、教科書、もっと正しく書けよ。

 

 

「む、話が逸れたな。ここはイ・ウーという組織だ。漢字で書くと、そちらの偉人で例えると井伊直弼の2文字目の伊、ウーはアルファベットのUだ」

 

伊・U。それがここの組織名か。あと漢字の説明微妙。

 

だが、わかったぞ。伊は昔日本の潜水艦に使われていた暗号名。Uはドイツか。

 

 

「ここは超人たちが互いに教え合う場だ。全員が先生であり生徒でもある。……そうだな。例えば私も理子には及ばないが、変声術を使える。理子に教わったものだ」

 

それを聞いても、未だに現実味がない話だ。超人?教え合う?……ダメだ、頭が追い付かない。

 

「今までそんなの聞いたことないぞ」

 

やけくそ気味にぼやく。

 

「それもそうだろう。ここは特撮や作り話とかである秘密結社というものだな。戦闘集団なんて言葉がしっくりくるな。目的は己の鍛練など自由だが、世界を征服しようとする者もいる」

 

世界征服だと?そんなバカみたいな話信じれるか?

 

「また私はフランス人だが、ある程度日本語ができるのは、ここの公用語が日本語とドイツ語だからだ」

 

………気にしてなかったが、確かに日本語が流暢だ。

 

「ちょっと待て。公用語ってここは国……ではないよな。そもそもなんで生き残れたんだ?どっかの国がここに攻撃しようと思わなかったのか?」

 

そんな恐ろしいとこなんて、すぐに潰そうとか考えないのか。

 

「簡単なことだ。ここイ・ウーはボストーク号という潜水艦だ。そして核武装もしている。いかなる軍事国家でも易々と手出しはできないのだ」

 

嘘………だろ。え、ここに核があるの?

 

「ここまでで質問はあるか?」

 

 

俺はベッドに腰深く座り、頭を抱える。

 

纏めると、ここはイ・ウー。潜水艦ボストーク号。

超人どもが互いに教え合う場。話を聞く限り、基本は自主性ってところか。まぁ、中には世界征服を企む者もいるけど……。

そして、ここには核があり、軍事国家も迂闊に手が出せない。

 

末恐ろしい話だ。まだ混乱している。でも、これは夢ではない。現実だ。

 

 

 

「そんなのどうでも良い、って良くないけど。なんで俺はここにいるんだ?」

 

真っ先にこのことを聞かないと。じゃなきゃ納得なんてできない。

 

「む…忘れていた。済まない」

 

そう言い、頭を軽く下げる。

ジャンヌさん、もしかして天然?

 

「比企谷八幡……八幡でいいか?」

 

さらっと名前で呼ぼうとするなんて、適応力高いな。

 

「あ、ああ」

 

「私はジャンヌでいいぞ」

 

「……わかった。で?」

 

「うむ。それでだな、一言で言えば勧誘だ。荒々しくあったが」

 

勧誘?睡眠薬仕込んで誘拐したのを勧誘と呼べるのか?

 

俺はポカーンと口を開けていると、

 

「これは理子が勝手にしたことだ。私なら、直接勧誘に行くがな」

 

そんなの知らないです。

 

「そこでだ。八幡にはここに自ら来た意思がない。上に掛け合ったところ、3ヶ月の短期留学という形になった。1年の3学期の終了間近には帰れるだろう。もちろん安全の保証はする」

 

その話を聞いて少しホッとした。良かった帰れるんだ。

 

 

 

「そして、ここからは忠告だ」

 

ジャンヌの纏う空気が変わる。それはさっきの真面目そうな雰囲気ではなく、もっと真剣になる。

 

「例え戻っても、ここでのことを話してはいけない。もし話したならば、その人の戸籍、銀行の利用履歴等、生きていた証は全て消去される。八幡も生きれるかわからない」

 

…………は?そんなことが可能なのか。と普通なら思うだろう。

でも、ここには、それを実行する力はあると思う。

 

「わ、わかった」

 

ここはうなずく。

 

 

 

 

 

「留学記念だ。受け取れ」

 

武器を返してもらい、不備がないか確認していると、ジャンヌが何か俺に渡してきた。

 

それは黒のロングコートだ。それにブーツも。しかも軽い。

 

「これらは中々高い防弾、防刃、性能を誇っている。詫びとして貰っといてくれ」

 

「お、ありがと」

 

素直に受け取る。別にこのくらいなら良いよな。

 

「あ、そうだ。質問いいか?」

 

……少し気になることがある。

 

「いいぞ」

 

「さっき上っていたけど、ここにはリーダみたいな人がいるんだよな?」

 

「いる。みんなは教授と呼んでいる」

 

予想通りだ。カリスマでもあるのか、そうでもなきゃ、全員好き勝手にやって、世界は大変なことになる。

 

「1番上なら、そいつは全員の能力とか使えるのか?」

 

話を聞いて、出た答えはこれしかないと思った。互いに教え合うなら、その完成形がいるのが筋だろ。

 

「正解だ。賢いな。…それが誰かなのは、八幡が会えばいい」

 

返ってきた答えはどこか曖昧だった。肯定してきたが、それ以上は教えないってことか。

 

まあ、今は考えない。ジャンヌの目を見て、

 

 

 

「次が本題だ。ーーなんで峰理子はここにいる?何か目的でもあるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これからテスト期間に入ります。……チッ

更新ペースは落ちますm(__ _)m


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第36話

テストいや!もういや!

おかしな点があればご指摘ください。ぶっちゃけ深夜のテンションで書いてますからね。

そういえば前にフォロワーさんにDMで訂正のやりとりをしたのですが、なんだか、新鮮でした。


「次が本題だ。ーーなんで峰理子はここにいる?何か目的でもあるのか?」

 

 

 

ここはイ・ウー。超人どもが互いに育成しあう場所。例え軍事国家でも手が出せないほどの大きな力を持っている。

 

俺は峰理子に勧誘(誘拐)され、ここイ・ウーで短期留学することになった。

 

下手に動けば、俺の周りの人たちにも危害が及ぶ。ので、ここは大人しく言うことを聞く。ちゃんと帰してくれると言うしな。…………全面的に信用しているわけではないが。

 

 

 

 

俺は今、ジャンヌと会話をしている。俺は部屋のベッド、ジャンヌはそこらにある椅子に座っている。

 

主な内容はここの目的や注意点などだ。聞いてて理解が追い付かないが、もう理解するのを諦める。こういうものだと、割り切ることにする。

 

 

 

 

そして、俺の最初のセリフに戻る。 

 

「どうしてそんなことを聞く?」

 

ジャンヌは意外そうに話す。口調は穏やかだ。

 

「そうだな。クラスとあいつと大分違うからな。あと、どこか切羽詰まってる感じがするから……かな。まあ、ただの興味だ」

 

峰理子は仮面を被っいることを除けば、ごくごく一般の女子高生だ。………一般かどうかは微妙だが。

その峰理子がどうしてこんなところにいるのかがわからない。

 

ジャンヌは、名前の通りジャンヌ・ダルクの子孫らしい。そこを考慮すれば、無理矢理だが理由をつけることができる。

 

「なるほど。なら私からも聞こう。あいつの本名を知っているか?」

 

「………峰理子、じゃないのか?」 

 

いきなりの質問で戸惑ったが、そう答える。

 

「それでは不正解だ。正しくはーー峰理子リュパン4世だ」

 

ーーリュパン。それは、その名前は世紀の大怪盗。誰でも聞いたことはあるはず。そのくらい有名だ

 

峰理子が、その子孫……か。驚いたが、もう驚くのも慣れた。話を続けてもらうぞ。

 

「それはわかった。けど、理由にはなってないだろ」

 

「うむ。それもそうだ。なら、繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)は知っているか?」

 

「いや知らん」

 

「簡単に説明すると犬の悪質ブリーダーが、人気の犬種を増やしたい。だから、檻に押し込め虐待するというやつだ」

 

それはニュースとかで聞いたことはある。しかし、なんでそれが今出てくる?

 

ーーまさか、

 

「察しはついた顔だな。理子は幼い頃から監禁されて育った」

 

「……っ。だけど、リュパンって言ったら名家?とかではないのか?」

 

そんな話は聞いたことあるのだが、ジャンヌは首を振る。

 

「リュパンの家は理子の両親の死後、没落したのだ。それで親戚と名乗る者に騙されフランスからルーマニアに移り監禁された。長い……間な」

 

「………」

 

「理子が未だに小柄なのは、その頃ロクな食べ物を口にしてなかったからで………」

 

「あいつがファッションに対してああまでなるのは恐らくボロ布しか着させてもらえなかったからか?」  

ふと、武偵高での峰理子の姿を思い出す。ロリータ服を好んで着ていたのはそういうことか。

 

「ほう…。頭の回転が早いな」

 

「ボッチは思考速度には自信があるんでね」

 

フフっとジャンヌは笑い、そぐその顔は引き締まる。

 

「そういうことにしておこう。で、理子を監禁してきた相手はここ、イ・ウーで今はナンバー3。もしかしたら、もうナンバー2かもしれない」

 

「名前は?」

 

「ーーブラド。無限罪のブラドだ」

 

イ・ウーでの1番が全員の能力を使える超人だとすれば、それに次ぐ戦闘能力か。

 

「なるほど………」

 

いや、全くなるほどじゃない。あいつが、あの峰理子が、リュパンの子孫で、監禁されてきた。

 

 

 

 

なら、今のこの状況は?あいつは解放されたのか?それともまだ捕まっているのか?でも、あいつは武偵高にいる。

 

「なら、なんで理子は今、ここにいるのか、という顔だな。八幡」

 

その言葉に俺の意識はハッとなる。

 

「理子は1度ブラドから逃げ出している」 

 

怪盗の一族の力、か。

 

「しかし、ブラドは理子に異様なまでに執着心を抱いている。逃げ出した理子を追ってイ・ウーに現れた。理子はブラドと決闘し、敗北した。そしてブラドは理子の成長が著しかったことに免じてーーーーある約束をした」 

 

「それは?」

 

「理子が初代リュパンを超える存在まで成長し、それを証明できたなら、もう手出しはしない」

 

 

初代リュパンを超える………。

 

ーーそれをどうやって証明するつもりなのだ?

初代リュパンが盗めなかった物を盗む?それとも、倒せなかった誰かを倒す?

 

俺が考えつくのはそのくらいだ。

 

 

「八幡の問いの答えはーー理子自身の自由のためだ」

 

自由か。口にするのは簡単だが、峰理子がそれを手にするのは容易ではないな。

 

そして、それが峰理子のもう1つの仮面…ね。

 

 

 

「あ、そもそもブラドってどんな奴?」

 

あの峰理子を支配できるほどの強さを持つとは、気になる。

 

「………八幡はイ・ウーにいるわけだし、大丈夫か。そうだな。……どう表現すればいいのかわからないのだが、鬼……かな」

 

ーー鬼?

 

それってモモタロス?響鬼?阿修羅丸?真昼?白虎丸?鬼籍王?

 

後半、ほとんどセラフじゃねーか………。なんだよ、「俺、参上」でもするのか?

 

 

「言われてもピンとこないのだが」

 

「ふむ。なら、これでどうだ。姿形はキングコングに似ている」

 

「…………」

 

うそーん。怖いよ、そんなの実在するのかよ。あと怖い。蘭豹だって真っ青だ。

 

俺は頭を抑えて、ジャンヌに言う。

 

「とりあえず、もう話切ってもいいか?正直もうついていけない」

 

「……むっ。連れてきたばっかでいきなりすまない。少し休んでてくれ」

 

ジャンヌはそう言い残すと部屋から出ていった。

 

 

誰もいなくなった部屋で、俺は小さく呟く。

 

「そんな奴が簡単に口約束を守るのか?」

 

ーーと。

 

 

 

 

ベッドで寝転んでも落ち着かない。色々ありすぎたしな。

 

と、いうことで、イ・ウーを見て回るか。俺だって武偵だ。自分で少しは調べるか。

 

ドアを開けて廊下に出る。しばらく歩く。そして、広大なホールに足を踏み入れる。

 

そこで、1つ思った。

 

「ここ、本当に潜水艦?」

 

そこには高い高い天井から、キレイな天然石の床を巨大なシャンデリアが照らしている。

 

そしてまた、その床には………。

 

ティラノやステゴにトリケラといった恐竜の化石…というより骨格標本がある。

壁には、名前はわからない奴が多いが、恐らく希少価値の高い動物の剥製が並んでいる。

 

ここでちょっと何かくすねたら、良い資金になりそうだな。隙を見て盗んでみるか。

 

 

あまりのスゴさに放心状態になっていると、俺の横から、

 

「ハチハチ。夜ご飯だよ」

 

峰理子の声がする。

 

予想通りそこには金髪ツインテールの峰理子がいる。……でも、本物か?ジャンヌも変装できると言っていたし、色んな奴が使えると思ったほうがいい。

 

「くふふっ。私は本物だよ。あまりここでは変装する人なんていないよ」

 

まぁ、この身長を真似するのは難しいだろう。さすがに身長が伸び縮みなんてしないよな。もしするなら、俺も身長ほしいな。

 

「あ、少しいいか」

 

「なに?」

 

「俺の家族に正月帰るって言ったんだが、どうすればいい?」

 

ここだけはキチンとしないと。下手に動かれたら危なすぎる。

 

「それなら大丈夫だよ。ちゃんと電波が傍受されないようにハチハチの声で伝えたよ。しばらく用事で帰れないってね」

 

平然と言うが、家族を簡単に騙すなよ。

 

「もちろん、武偵高にもね」

 

「あっそ」

 

気がかりなのは、やっぱりレキと遠山だな。あいつら大丈夫か?

 

「じゃ、食堂に移動しよっか」  

 

「お、おお」

 

手を引っ張られ、峰理子についていく。場所覚えないと。

 

 

 

 

「ハチハチはさ~~」

 

食堂に向かっている途中にて。

 

「なんだ?」

 

「……聞いたの?」

 

それだけ言ってくる。もちろん省略されている部分はわかる。

 

「なんのことだ?」

 

だけど、敢えてとぼける。

 

「わかってるくせに。……私のことだよ」 

 

「ジャンヌから大方聞いた」 

 

峰理子の顔は少し歪む。やはりいい気はしないな。そりゃそうだ。あんな過去を持っているのだから。あまり他人に知られたくないはずだ。

 

「どう、思った?」

 

うつむいたまま、小さい声だ。

 

「別にどうとでも。なんだ?助けてほしいのか?俺が助けたところでたかがしれてるぞ」

 

「あはは~。そうだね。さすがにこれ以上ハチハチを巻き込めないよ」

 

いや、巻き込む以前に俺をイ・ウーに招いたのお前だろ。

 

………あ、そうだ。

 

「そういや、聞くの忘れていたが、なんで俺をここに招いた、ではなく拐った?」

 

「そんなの簡単だよ~~。もちろんハチハチのその気配の操り方を私に教えてほしいから、だよ」   

   

ぶりっ子風にあざとい声を出す。

 

ああ、それか。イ・ウーに見初められるとは中々良いらしいな。でもーー、

 

「でも、前にも言ったが、これは俺だからできるものであって、人に教えるのは…厳しいと思うぞ」

 

素直に思ったことを言う。

視線誘導を使わないと、俺だってまだ完璧に操れているわけではない。その点ではまだまだ未熟だ。   

 

あの時みたいに全開で殺気を放出するのならまだしも。

 

 

そう考えていると、ーー突然、

 

 

 

「それじゃ意味ねぇんだよ!!」

 

 

 

峰理子は叫ぶ。廊下中に響き渡るくらい大きな声で。

 

「あっ、……ごめん。ハチハチ」

 

ハッとなり、峰理子は俺に視線を合わせずに、下を向きながら謝る。

 

「大丈夫だ」

 

 

と、俺が言ったところで食堂に着く。

 

よくわからないレリーフが彫ってある扉を開けて、中に入る。

 

食堂は、目算縦15m、横3mほどの大きさだ。そこにもう料理が置いてある。

 

座っているのはジャンヌ、その向かいに日本人形みたいな黒髪の女性。

 

 

 

 

そして、一番奥に座っているのは、上半身だけでもわかる痩せた体。左手には古いパイプを持っている。なぜか歳は20ほどに見える。

 

この姿、あの写真に似ている。………いや、似ているなんてレベルじゃない。ホログラフィーでもない。この雰囲気、圧倒的な存在感からしてわかる。

 

 

ーーーー本物。

 

まさか、これが。この人が。

 

 

「やあ、比企谷八幡君。私のイ・ウーへようこそ。そうだね。まず自己紹介を始める前に、私が誰なのか推理してごらん」

 

 

伝説の探偵。武偵の始まり。

 

 

「シャーロック・ホームズ」

 

 

 

 

 

 

 

 




シャーロックって声は池田秀一さんが似合いそうw 



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第37話

テスト終わったぜーーーー!!!!!!

アリアを読んでて思うこと
「レキが好きだけど、やっぱりキンジとアリアにくっついてほしい」と思ってしまう。もどかしい。

あと、ジャンヌ等が使う、ステルスは「超能力」表記。
八幡が使う、消えるやつを「ステルス」と表記します。


「まずは腰をかけたまえ」

 

食堂にて、そう俺に声をかけるのは史上最高の探偵のシャーロック・ホームズ。そして、イ・ウーのリーダー。ジャンヌ曰く、ここでは教授と呼ばれている。

 

座りながら、考える。

 

どうしてここに、あのシャーロック・ホームズがいる。確か150年以上前に亡くなったはず。しかし、どう見ても20代に見え……

 

「八幡、早く食べろ。せっかくのご飯が冷める」

 

ジャンヌの声で俺の思考は中断される。そこで、改めて並んでいるご飯を見る。

 

……ご飯は、かなり豪華だ。スゲェ、大トロがこんなにある。脂が乗ってうまそうなだ。他にも刺身がたくさんだ。他にも味噌汁や天ぷら等々。

 

メニューは全部日本食。俺が日本人だからか。歓迎の意を込めているのか?だったら、良いのだが、問題は……。

 

「……毒とか大丈夫か?」

 

こんな敵地で出される飯はよく毒が仕込まれている。やくざの飯が良い例だ。

………ジャンヌが命は保証すると言ってたが、やっぱり不安だ。

 

すると、

 

「あら、私が作った料理にケチつけるのかしら?」

 

今度は、日本人形みたいな黒髪ストレートの女性が不満の声を挙げる。

 

美人な人だけど、無表情。レキほどとはいかないが………。

レキはそれが普通だからね、むしろあいつが峰理子みたいに笑ってたら病気だからね。

 

 

「夾竹桃、お前は毒使いだろ。八幡が不審がるのが当然だ」

 

ジャンヌさん、今何て言った?

 

……毒使い?この人が?大人しそうな顔しているのに…?

嘘だろ。食いたくねぇ。

 

「大丈夫よ。みんなだって食べてるもの。あなたも食べなさい」

 

そう言いながら、そいつは味噌汁を飲む。お椀をテーブルに置き、

 

「紹介が遅れたわ。私は夾竹桃。あなたは比企谷八幡ね」

 

「ああ」

 

確か、夾竹桃って花の名前だよな。毒を持っている花だよな。その名前は自分で付けたのか?だとしたら、縁起悪すぎだ。そんな洒落じみた名前いらない。

 

「比企谷って呼びにくいから私も八幡って呼ぶわ。よろしく」

 

みなさん、別に比企谷って呼びにくくないだろ。そんなに名前で呼ぶな、キョドってしまうぞ、俺が。

 

夾竹桃は席を立ち、俺に握手を求める。俺は手を出そうとしたが、峰理子に手を叩かれる。

 

「なんだ」

 

まだ俺の近くにいた峰理子に声をかける。

 

「ハチハチ~~。夾竹桃は爪に毒を塗っているんだよ。不用意に握手しちゃダメだぞ」

 

………マジですか。

 

俺は改めて手を引っ込める。そんな様子を見た夾竹桃はつまらなそうに席に戻った。

 

 

 

俺は向き直ると、目の前に座っている奴が、

 

「さて、さきほど君は私の名前を言ったが、ここで今一度名乗ろう。私がシャーロック・ホームズだ」

 

堂々と名乗る。

 

ーーこれはやっぱり本物だ。それがわかる。

 

何よりもここにいるだけで、威圧感がスゴい。

 

「よろしく。八幡君」

 

シャーロック・ホームズは……長いからシャーロックでいいか。

 

シャーロックはニコニコしながらそう言う。

 

それよりも何でここの人は俺を名前で呼ぶんですかねぇ……。

  

対して俺は言葉を出さずに、こくんと、うなずく。

 

「ハハッ。とりあえずは、ご飯を頂こうか」

 

と言うとご飯を食べだすので、俺も内心ドキドキしながら、大トロを1枚口に運ぶ。

 

………おいしい。普通においしい。

 

毒は今のところ大丈夫。遅効性だったら危ないが。夾竹桃の良心を信じることにする。

 

「どう?私のご飯は」

 

「おいしい」

 

「なら良いわ」

 

夾竹桃と話すのが怖い。不気味。なので、素っ気なく返す。別に向こうも気にしてないみたいだし。

 

「さっすが夾竹桃だね~」

 

「………」

 

「ちょ、無視しないでよ」

 

「………」

 

峰理子には冷たい。まあ、端から見れば仲は良い。

 

 

あれから数十分ほど経って、ここにいる全員がご飯を食べ終えた。

 

俺は立って、腰を捻り、アキレス腱を伸ばすなど、軽めのストレッチをする。

 

そこを見計らったように、シャーロックは俺に近づき、

 

「どうだい?食後の運動も兼ねて、少し戦わないかい?」

 

そんなことを聞いてくる。

 

「あ、遠慮しときます」

 

「即答……」

 

それを聞いてた夾竹桃は引いている。

 

「なぜ?」

 

「食後はダラダラしたいので」

 

「うわぁ……」

 

今度は峰理子が引いている。

 

シャーロックは少し考えた素振りをして、

 

「ふむ。そうか。ならこれはどうだ?私が推理して君の好物を用意している。……確か、MAXコーヒーだったかな?私と戦えば、勝ち負け関係なしにそれを50本ほど譲ろう。1本飲んでみたが、あれは甘すぎてね」

 

「わかりました」

 

「変わり身早いな」

 

ジャンヌは素直に驚いている。

 

仕方ないことだ。MAXコーヒーが懸かっているのならそれは仕方ないんだ。

 

「しかし、あれは些か甘すぎではないか」

 

「わかってないですね。人生なんて苦いことばっかり。コーヒーくらい甘いのが丁度いいんですよ」

 

「そういうものか」

 

「です」

 

 

 

やるとは決めたが。………勝てる気がしない。偉人の戦うのか。ならば、

 

「ハンデください」

 

このくらいは構わないだろう。シャーロックから見たら、俺はヒヨっ子当然。多少はね?

 

「わかった。なら、私の武器はこのステッキだけにしよう。ルールは2分耐えれば君の勝ち」

 

クルクル回しながら、そう告げる。

 

これならなんとかなるか……。

 

「ちなみに君は何を使ってもいい」

 

「わかりました」

 

「では移動しよう」

 

 

 

移動した先は体育館みたいに広いホールだ。床は大理石。固いな。

 

装備の確認。

 

ファイブセブン。残弾は籠めてあるのも含めて80。

ナイフ。

スタンバトン。

スタンガンは向こうに置きっぱなしでない。

防弾制服。

 

こんなもんか。ジャンヌから貰ったコートはまだ着ていない。色々試さないと話にならないしな。とりあえずは動きなれてる制服でやる。

 

 

時間は2分。シャーロックはステッキだけ。ステッキの長さは目算80cm。俺の間合いは15m。

 

なら間合いに入らないほうがいい。銃で牽制しながら下がるか。

 

しかし、そのくらいシャーロックなら余裕でわかる。どうにかして間合いを詰めてくる。

 

……まあ、その時になったらその時の俺に任せるか。

 

 

「じゃあ、始めようか」

 

シャーロックとの距離は7m。

 

「お願いします」

 

左手にナイフ。右手にはファイブセブン。

 

ホールの観客席からは、峰理子、ジャンヌ、夾竹桃が座っている。そこからジャンヌが、

 

「私が時間を図る」

 

「任せたよ、ジャンヌ君」

 

そして、ゴーンとどこからか鐘が鳴る。それが始まりの合図。

 

始まった。伝説の探偵との勝負。

 

 

 

 

 

 

 

パンパンパン。

 

手始めにファイブセブンをセミオートにして3発シャーロックの手元を狙い撃つ。

 

ーーーーが、なぜか全部キレイに逸れていった。

 

「は?」

 

俺の驚きを気にせず、シャーロックはゆっくりと歩を進める。 

 

下がりながら、フルオートに切り換えて10発、シャーロックの体全体を撃つ。5発くらいメッチャ外れたけど。

 

 

そして、

 

 

 

 

撃った弾が俺に返ってくる。

 

 

ーーえ? 

 

 

そう気付いたのは嫌な予感がして、撃った直後に大きく横に移動してからだ。その時、何かに吹き飛ばされた感覚があった。そのせいで、大きく斜め後方に下がる。

 

……ゆっくり後ろを見たら、ホールの壁や床に10発穴が空いてある。

 

「シャーロック!そのステッキだけじゃないのか?」

 

思わず文句を垂れる。それでもシャーロックとの距離は飛ばされたおかげで8m以上はある。

 

「八幡君。これは超能力だ。私は武器と言った。そこに超能力は含まれていない。そのくらい君も推理したまえ」

 

「いや、超能力も立派な武器だろ!」

 

「いやいや。武器は武器。超能力は超能力。別物だよ」

 

「武器の意味は狩猟や戦闘目的の他に人間や動物がもつ社会競争で有効な長所や生き残りの手段も武器と呼ぶんだよ。よって超能力も立派な武器だ!」

 

イラついたから、もうシャーロックには敬語は使わねぇ。

 

シャーロックはゆっくり歩きながら、

 

「……わかった。今から超能力と使わないことにしよう」

 

よし、使わないって言ったな。

 

すぐさまセミオートに切り換え、2発手元を狙う。

 

けど、お見通しかと言いたいのか、ステッキであっさりと弾く。

 

………初速、秒速650mの弾を簡単に弾いた。人間業かよ。

 

今度は足を狙って2発撃つが、それも弾かれる。

 

ステッキは細い。貫通力を高めたSS190弾ではあれを壊せない。もうちょっと幅があれば………。

 

残り3発をシャーロックの足元に撃ち、ナイフを上に投げて、すぐに内ポケットからマガジンを取り出し、リロードしようとする。

 

しかし、そんな隙を逃すわけがない。足止めは成功したと思ったが、そんなのは、あってないようなものらしい。

 

 

一瞬で間合いが詰めてくる。残り3m。

 

「うおっ!」

 

思わず驚き、空のマガジンをシャーロックの顔めがけて投げる。それを人差し指と中指で挟むのを見ながら、俺は少し下がる。

 

ーーガチンとマガジンの入れ換えに成功した。今のシャーロックとの距離は1m。

 

上に投げたナイフを取ろうと手を伸ばしたが、時すでに遅し。

 

俺がリロード完了と同時にステッキで、俺からしたら前に、シャーロックからしたら後ろに大きく飛ばしていた。……あれはもう取りに行けない。

 

そして、俺とシャーロックの距離は近すぎる。下がれない。

 

ーーーーだったら、

 

シャーロックが俺に1歩、歩み寄った瞬間、俺は踏み込み、体を屈め、銃口をシャーロックの腹に付ける。

 

 

 

「この距離なら、それで防げないな!」

 

 

 

フルオートにし、全弾撃ち込もうとした。どうせ命の危機なら、超能力で守ると判断したから。

 

これで勝てるのは思わないが、確実にダメージはどこかに入るだろう。

 

 

 

 

と、思った俺の考えは簡単に破れた。

 

 

……………あれ?

 

今、俺の目に映る光景は、天上に添えられているシャンデリアが光っている、だ。

 

つまり、俺は背中を地面に付けて倒れている。

 

視線を動かすと、俺の顔の横にシャーロックが立っているのが見えた。

 

ーーーーそして、

 

シャーロックはガツンと俺の顔の横の床にステッキを叩きつける。

 

ソーッと顔を向けると、叩きつけた部分には1cmほどの穴がある。 

 

 

こ、こぇーーー。

 

 

その力で俺が叩きつけられていたら、どうなっていただろうか?想像するだけで冷や汗が流れる。

 

「勝負ありだね」

 

「………だな」

 

こうして、比企谷八幡とシャーロック・ホームズの戦いは終わった。

 

これだけ見たら、俺は少しは良いように戦えたかに見える。が、シャーロックは全くもって本気を出していなかった。戦ったからわかる。

 

 

 

 

「ジャンヌ君。時間はどのくらいだったかね?」

 

俺が立ち上がると、シャーロックはジャンヌの方を向き、そう言った。

 

「52秒です」

 

「ありがとう。……ふむ、私の推理通りだな」

 

わざと俺に聞こえるように「推理通り」と言う。

 

 

 

ダメだこりゃ。実力の差がありすぎる。

 

俺のステルスを使おうとしたが、そんな隙なんてなかった。そもそもシャーロックに効くかもわからない。それすらも試せなかった。

他にもリロードの時間が長かった。制服の内ポケットではなく、1つはすぐに取り出せる場所に置くべきだった。

あとはフルオートで撃った時はやはり狙いがバラバラだ。5発くらいは変な方向に飛んでいったし。………もし、きちんと撃てていたら、弾が返ってきて避けきれなかったな。

 

何が言いたいかと言うと、俺の完敗、シャーロックの圧勝。

 

 

「ふふっ。八幡君はまだ何か技を使いたがっていたね?」

 

俺が起き上がると同時に、シャーロックが話しかける。

 

「そーだよ。あんたに効くかどうか試そうとしたのに」 

 

「それを使われたら、君を倒すまでの時間の推理が狂うから使わせなかった」

 

「そーですか」 

 

結局倒されるのは同じなんだな。

 

「それと、私がどんな超能力を使ったかわかるか?」

 

……あれか。銃弾が逸れたり、返ってきたやつか。

 

磁力?違うな。それなら、磁力を帯びてないからくっつくはずだ。………待てよ。あの時何かに吹き飛ばされた。あれは何だ?

 

「重力?」

 

「違うよ」

 

すぐに否定された。マジか。いい線行ったと思ったのに。

 

「答えは『風』だ。最初は私を中心に竜巻をお越し、逸れさせた。次は一瞬、銃弾を押し返せるほどの突風を起こした。君も飛ばされただろう?」

 

あー、それでか。あまりにも一瞬だったから、その発想はなかったなー。にしても、銃弾を飛ばせるほどの強風を起こせるのか…………。

 

「なあ、シャーロック」

 

「ん?何かな?」

 

「イ・ウーって教え合う場所だよな。だったら、それを俺に教えてくれ」

 

これが使えるようになれば、かなり有利に戦いを進めることができる。

 

「良いだろう。せっかくここに来たんだ。何か覚えて貰わないと、来た甲斐がなくなる」

 

お、好意的な反応だ。

 

「しかし、私に教わるより、適任な人がいる。あとで紹介しよう。合流できるまで、あと数日はかかる。それまでゆっくりしてくれ」

 

シャーロックより適任?そんな人がいるのか。……誰だ?

 

シャーロックはイ・ウー全ての力をコピーした完成形。ならば、コピー元がいるのか。そいつの方が教えるのが上手なのか、単に面倒なだけか。できれば、前者で頼む。

 

「あと、なんで俺は倒れたんだ?」

 

「君は聞くだけではなく、少しは推理をしてみたらどうだ?」

 

「気づいたら倒れてたんだよ。わかるか」

 

ヤケクソ気味にぼやく。

 

「教えよう。君が私に銃を向け、くっついた時、足をかけたんだよ。君は前傾姿勢だったから簡単に倒れたまで、というわけだ」

 

それだけ……。マジで?足をかけられたことに気づきもしなかった。どんだけ速かったんだよ。

 

 

 

「では、今日は寝たまえ」

 

そう言い残し、シャーロックは去っていった。

 

 

 

あの部屋はジャンヌから使っていいと言われたから、戻るか。寝よう。今日は色々ありすぎた。

 

秘密結社イ・ウーに短期入学。

ジャンヌ・ダルクの子孫に会う。

峰理子の過去を知る。

危うく毒を貰うことになる。

伝説の探偵、シャーロック・ホームズに会う。

シャーロック・ホームズと戦う。

そして、コテンパンにされる。

 

………なにこれ?1日でこんなこと起こる?もう、疲れた。しばらく動きたくない。たった1日で何日も動いた気分。

 

「どうして、こうなった?」

 

シャーロックと戦ったいる時や終わったあとはテンション上がっていたが、振り返ると、ハードすぎだわ。

 

 

 

廊下を歩き、部屋が見えてきた。ドアノブに触った。よし、ここを捻れば寝れる。

 

そう思った矢先に、

 

 

 

「君が比企谷八幡ね」

 

 

 

女性の声が聞こえた。

 

振り向くと、そこには絶世の美女とも呼ぶべき人がいた。誰かに似ているような?

 

「どちら様?」

 

「私はカナ。そうね~、こう言えばいいかしら。アンベリール号で行方不明になった武偵よ」

 

 

 

 

………………………………はぁ?

 

 

 

 

アンベリール号で行方不明になった武偵?それって遠山の兄だろう?遠山金一。

 

でも、この人はどっからどう見ても女性だ。口調も体型も女性の物だ。

 

そういえば………。遠山が時々兄を呼ぶとき「カ…兄さん」と言って詰まってたな。それと、「兄?姉?」みたいなことも聞いた。

 

 

えーっと、つまり?どゆこと?男?女?あれ?どうなってんの?

 

 

頭がオーバーヒート。思考停止。意味わからん。

 

 

「カナ!」  

 

と、救いの声がした。ジャンヌだ。  

「あら、ジャンヌ」

 

「八幡は今日ここに来たばかりで疲れている。教授とも戦ったしな。話はまたあとでで構わないか?」

 

「そう。わかったわ。ごめんなさいね、急に押し掛けて」

 

「あ、はい」

 

カナと呼ばれる女性はそのまま歩き、姿が見えなくなったころ。

 

「八幡」

 

「なんだ?」

 

「お前が聞きたいなら教えるぞ」

 

何を、とは言ってないが、聞かなくてもわかっている。

 

「どうする?今聞くか?」

 

しばし、悩み、

 

「聞かせてくれ」

 

そう結論を出す。

 

体は疲れているが、気になる。遠山のことについて。なんで遠山の兄?がここにいるか。

 

ジャンヌはうなずき、

 

「とりあえず、部屋に入ろう」

 

と、促す。

 

部屋に入り、峰理子のことを聞いた時と同じ位置にそれぞれ座る。

 

ジャンヌは咳払いをし、こう言う。

 

 

「ーーサヴァン症候群を知っているか?」

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すいません。前々回と似たような終わりになりました。

感想を貰うと、作者はニヤニヤして、やる気が上がります。更新ペースが上がるかどうかは別問題。pixivでワートリとのクロスも書いているからね。


地味にライダーネタを入れる作者であったw





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第38話

作者は剣道を部活でしているのですが、この季節になると、足は冷たいを通り越して痛い、最悪の場合は感覚が無くなります。




おかしいな。

 

ここ最近比企谷を見かけない。あいつどこか出掛けるって言ってたけ?

 

いつもの比企谷なら、外に出るのはタルいとか言って休日は基本引きこもっている。しかし、俺が部屋に籠っている間に姿を消した。

 

大晦日から実家に帰るとは言っていたが。まだ29日だ。

 

「教務部にでも聞くか」

 

携帯を取り出し、武偵高に連絡する。

 

『はーい、もしもーし。ここは武偵高教務部、蘭豹や。誰や』

 

不機嫌そうな蘭豹の声が聞こえる。

 

「遠山キンジです」

 

『ん、遠山かー。お前どうした。というより大丈夫か?』

 

「はい。少しは落ち着きました」

 

もちろん、まだ心の整理はついていない。でも、あの時よりかは冷静だ。

 

『ほぉー。それで、何か用事かー」

 

「あ、その、比企谷について何か知りませんか?ここ最近見かけないんですが」

 

『あーー、比企谷。あいつなぁ。それならこの前に3月の中旬ぐらいに戻るって連絡あったわ。まあ、あいつは成績ええし、出席日数も足りてるし大丈夫や』

 

「それで、どことは言ってましたか?」

 

『……うーん。それは言ってなかったな』

 

「ありがとうございます」

 

『おお』

 

蘭豹は電話を切る。

 

武偵高には連絡しているのか。

 

比企谷はどこかにいるのか。にしても、比企谷の荷物はそのまんまだしな。外泊なら自分の荷物は持っていくよな。

 

他に知っていそうなのは……。あ、レキなら知っているかもな。よく比企谷と一緒にいるし。

 

レキに電話をかける。

 

『はい』 

 

繋がった。

 

「俺だ、遠山だ」

 

『キンジさんですか。何か用事ですか?』

 

いつもの抑揚のない声だ。

 

「比企谷のことなんだが。どこにいるか知っているか?」

 

『私も知りません。八幡さんに連絡しても、音信不通でした。どこにいるのかわかりません』

 

いきなりレキの声が低くなった。……ちょっと怖い。

 

『ですが、風と関係のある者にあっていると思います。そう、風が言っているのです』

 

…………出たな。レキがよく口にする風。このことは深く聞かないことにする。

 

「情報ありがとな、レキ」

 

『はい、キンジさんもお元気で』

 

俺が通話を終了しようとした時に、

 

『次会ったら……覚g』

 

おっと、何か余計な言葉が聞こえた。

 

………まあ、うん。比企谷、頑張れ。死ぬなよ。

 

 

どうせ、いつか、働きたくないとか言って、ひょっこり帰ってくるよな。比企谷だし。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

サヴァン症候群

 

知的障害や発達障害などのある者のうち、ごく特定の分野に限って優れた能力を発揮する者の症状を指す。

 

wiki参照。

 

 

 

 

俺は遠山のことを知ろうと、ジャンヌに尋ねた。そしたら、サヴァン症候群を知っているか、聞かれた。

 

「ああ。聞いたことはあるが」

 

「うむ。それならば、話は早い。遠山の一族は代々、サヴァン症候群の遺伝子を受け継いでいるのだ」

 

ジャンヌがそう話を切り出したから、予想はついてた。だから、特別驚きはしない。

 

「どんなだ?」

 

「その、言いにくいとだが」

 

と、前置きしてから、

 

「性的興奮すると、思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上するのだ」

 

と、顔を赤らめながら述べた。

 

な、なるほどー、そうなのかーー。遠山すごいなーーーー。………ってなるか!

 

30倍になると具体的にどうなる?

ジャンヌが言うには……、

思考力は頭が良くなるのか?それとも記憶力?

判断力の場合は、頭と体とのタイムラグがなくなる?

反射神経は、勝手に体が動くのか?

 

あまり、生物の授業は受けたことは、ないんだよな。俺の頭ではこれが精一杯だ。

 

 

「ヒステリア・サヴァン・シンドローム。略称はHSSだ。そして、カナ曰く、遠山キンジの場合、女性優先の思考になり、女性の前ではかなりギザ?な行動をとるそうだ」

 

ジャンヌはそう付け足す。あと、ギザじゃなくて、キザだからな。それだとピラミッドのある場所になるから。

 

まあ、だいたいわかった。……ゴメン、ウソです。

 

もし、それが本当なら、嫌すぎるな。なんだよ。要するに強くなるけど、女性の前でカッコつけるナルシストになるんだろ。絶対嫌だわ。確実に黒歴史を創造するんだろ。

 

しかも、それになるには、ほとんどの確率で女性の前ってことになる。

 

なんとなく、遠山が女は嫌いだって言ってたのを思い出した。その理由、わかったよ、何となくはな。

 

 

 

「結局、あれは遠山の兄なの?それとも姉なの?」

 

遠山のことは少し知れたが、本題はこれだ。

 

「カナは性別上は男だ」

 

あれが、ねー。あの絶世の美女が男ね。世の中の女性涙目だぞ。もちろん俺も。いや、……戸塚タイプとするなら納得できる。

 

遠山兄が男なら、また疑問ができる。

 

「遠山兄は、なんで女装するんだ?まさか、そういう趣味?」

 

ジャンヌは首を横に振り、 

 

「HSSは、基本は、その、…性的興奮をキーとして発動するが、人それぞれ、また別のキーがある」

 

言いにくそうに、顔を赤らめるジャンヌが可愛かったりする。

 

でも、マジメな話だから、表情には出さない。いわゆるポーカーフェイスを心がける。

 

「カナは自ら女装して、HSSを発動する。その時は自分が、完璧に女性になりきっているので、自分が男とはわからないらしい」

 

イマイチわかりにくい。

 

えーっと、遠山兄が自ら絶世の美女に化けることによって、そのHSSを発動できる。

 

………何それ、HSSって何でもありなの?

 

しかも、化けるだけならまだしも、男ってわからない。自分が女になる。……………ピンと来ないな。いや、来る方が異常だよな。

 

まあ、深く考えず、そういうことだと理解しておく。

 

「それはわかった。で、なんでここにいる?俺みたいに勧誘でもされたのか?」

 

「正解だ」

 

合ってるんかい。

 

「では、話を変えるぞ。武偵殺しを知っているか?」

 

あれか。乗り物に、減速すると爆発するぞ爆弾を仕掛けて武偵を殺す。でも、あれって……………

 

「逮捕されてなかったか?」

 

「捕まったのは真犯人ではない。……真犯人が誰かは言わないでおくが、そいつがカナを勧誘したのだ」

 

てことは、その武偵殺しはイ・ウーのメンバーだな。誰だ?ってその前に、

 

「そのカナって強いんだろ?そんなホイホイついていったのか?」

 

「カナはイ・ウーでやることがあると、その勧誘を承諾したまでだ」

 

何か、俺の何かが、キレそうになった。

 

遠山兄は遠山の現状を知っているのか。

 

兄という目標を失い、精神はやられ、武偵を嫌いになった。それだけならまだしも、遠山もネットや週刊誌で非難されている。

 

それを気にせず、なんでここにいる。下がいるなら、責任持てよ。常に目標でいられるようにしろよ。………小町の目標になっているかはよくわからないけど。

 

 

「八幡。いいか」

 

ジャンヌに肩を叩かれる。

 

「……ああ」

 

「お前が何を思っているのかは大体想像はつく。私もネットとかを見たからな」

 

「……すまないが、もう眠い。寝かせてくれ」

 

もうあまり考えたくないので、わざと大きなアクビをして、話を中断する。

 

「わかった。今日はもう疲れただろう。ゆっくり休め」

 

ジャンヌがドアに手をかけたところで、背を向けたまま、

 

「おやすみ」

 

と言う。

 

「ああ、おやすみ」

 

今日は疲れた。色々ありすぎた。眠気がヤヴァイ。………………ああ。この微睡み最高…………。あと、ジャンヌが、オカンみたい………。

 

そのまま、俺はベッドに倒れ込んで、意識を手放した。

 

 

 

 

 

…………目を覚ました。

 

まだ海中らしく、時間がわからない。……ってあれ?時間は何を基準にしているんだ?というより、今はどこにイ・ウーはいるんだ?

 

時間の感覚がおかしくなりそう。

 

部屋にある洗面所で顔を洗う。そして、制服のブレザーを脱ぎ、昨日もらった黒のコートを着る。

 

おお、軽い。しかも動きやすい。

 

体を伸ばしたり試すと抵抗なく動く。

 

あとは防弾の性能を調べないと。でも、編み目を見る限り、大丈夫そうだけどな。

 

 

 

 

部屋から出ると、どこに行けばいいのかわからず、とりあえず食堂に行くことにする。

 

 

 

食堂に着いた。

    

食堂の中に入ると、そこには遠山兄、カナがいた。他に人は見当たらない。

 

「話、しましょうか」

 

高い声で、俺に話しかけてくる。

 

 

 

俺は無言でカナの正面に座る。食事を俺の方に引き寄せる。

 

「1つ聞いていいか」

 

スープを飲みながら、尋ねる。

 

「いいわよ」

 

こいつ、本当に男なのか………。

 

「あんたがここにいる理由は聞かない。……が、今の遠山の状況を知っているのか?」

 

「想像はつくわ」

 

しれっと答える。

 

「もちろんキンジには悪いと思ってるわ。でも、私もやることがあるの。それにあの子にも成長してほしいしね」

 

成長……?

 

「今の遠山を見て、同じことが言えるか?あいつは目標のあんたを失い、しかもそのせいであいつまで世間から非難されているんだぞ」

 

思いの丈をぶつける。

 

「そう。……でも、あの子なら大丈夫よ。私の弟だもの。それに私よりもあの子は強い。だから、大丈夫よ」

 

なんだか、やけに自信のある言葉だな。俺を納得させるような響きだ。

 

……そう言うならこれ以上は言わない。言えない。人様の家庭だからな。

 

しかし、これだけは言おう。

 

「でも……、ちゃんと見届けろよ」

 

これは上である者の義務だ。

 

「もちろん」

 

誰でも見とれるような笑顔で答えた。

 

「あ、それと、お願いだから、あなたが戻っても私の無事は言わないでね」

 

「いつかは知るだろ」

 

「それでもよ」

 

仕方ない、ここは従うか。あ、そうだ。

 

「じゃあ、条件いいか?」

 

「あら、何?」

 

「俺でもできそうな技を教えてくれ」

 

そう言うと、カナは少し目を開く。

 

ここに来たからには色々学ばさせてもらう。じゃなきゃ、誘拐された意味がない。

 

「いいけど……。どんな技がいいかしら?」

 

ふむ。

 

………シャーロックと戦ってからの俺の課題。それは、近接格闘だな。シャーロックに近寄られてから、何もできなかった。あそこで少しぐらい動けたら何かは変わったかもしれない。

 

「体術だな」

 

カナはうなずき、

 

「そうね。なら私の技を1つ教えるわ。……その前にご飯食べちゃいましょう」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、何やら格闘場みたいなとこにいる。

 

「教えてもいいけど、これ武偵法9条も破る技だから、使用する際には注意してね」

 

………さらっととんでもないこと言ったぞ。要するに殺人技かよ。

 

「わかった」

 

「じゃ、見せるわ」

 

カナは近くにあるマネキンを目標に見据える。このマネキンはできる限り人間の感覚に近いことになっている。

 

そして、

 

「羅刹」

 

そう呟くと、

 

 

ーーーーズドオォォン!!

 

 

ノーモーションで右手をマネキンの左胸に掌底をぶち当てる。

 

それを確認できたのは、カナが殴った後の体勢でだ。手の開き具合から何となく掌底だ。

 

マネキンはかなり吹っ飛んだ。

 

 

 

「………なにこれ?普通の掌底?」

 

俺の言葉に首を振るカナ。

 

「違うわ。これは相手の心臓のある中央、中心にかけて掌底を放つのよ。震動によって、心臓震盪、という致死的不整脈を意図的に起こす技よ」

 

簡単に纏めると、相手の心肺を強制的に止める技……か。確かにこれは9条破りだ。

 

……マネキンを見ると、胸の中央、中心がへこんでいる。5cmほど。

 

とんでもない威力だ。恐ろしい速さでもある。

 

おまけに、絶対これ横隔膜とかもヤバいだろ。

 

かなり、器用な、必殺技。

 

ーー必ず殺す技。

 

 

 

 

「これは武偵が持っていたらダメだろ」

 

思わず、そう言葉が漏れる。

 

「あら、そんなことないわ。だって人と戦うとは限らないじゃない」

 

さらっと言いますが、何と戦うんですか?崔?ゴリラ?象?

 

ーーーーあ、そういえば、ジャンヌがブラドを鬼って言ってたな。………人以外と戦うことあるのかな。

 

 

 

「質問いいか?」

 

「いいわよ」

 

「カナにはHSSがある。神経を強化できるからこその威力だろ。………俺はどうやって威力を底上げする?」

 

素直な疑問だ。

 

「教授が言ってたわよ。風を習う予定でしょ。どこまで使えるかは知らないけど。だったら、それで上手に使って上げなさい」

 

なるほど。上手いこと使えばイケる。何せ弾丸を弾き飛ばせるほどの風を起こせる。…………言われたように、俺がどこまで使えるか知らんけど。

 

 

 

 

 

「あ、八幡」

 

不意に呼ばれると、カナの手元が光った。と、同時にパァンと鳴り響く銃声と俺の腹に衝撃が走る。

 

「ぐぁっ……!」

 

急な痛みに腹を抑える。

 

 

 

ーーが、武偵高のブレザーに比べたらそこまで痛くない。至近距離なのに。例えるなら、蘭豹の本気の一撃から時速20kmのスクーターにぶつかった位まで減った。……………減ってるんだよ?

 

スゴい。ここまで衝撃を分散してくれるとは。イ・ウー恐るべし。まあ、でも、分散したかわりに体全体痛いけど。

 

あと、回転弾倉、リボルバーの拳銃のシルエットが見えた。この距離、俺の目があったから見えた。

 

 

あのマズルフラッシュは何だ?銃声からして、けっこう古い。

 

「今の見えたかしら?」

 

「うっすらとな」

 

カナは驚いた顔をする。

 

「へぇ…。じゃあ、原理は理解できたのかしらね」

 

大方の予想はつく。

 

「ーー早撃ち、だろ?」

 

それもとてつもなく正確の、恐ろしいスピード。HSSはここまでできるのか。

 

「そうよ。…見せた、から」

 

そう言い残し、カナは去っていく。

 

その言葉の真意は、

 

「見せたから、あとは自分で真似でもしなさい」

 

ってところか。

 

 

試してみるが、全然できません。

 

自動拳銃より回転弾倉の方が早撃ちには向いている。…………うん、ムリ。止めよ。

 

とりあえずはシャーロック待ちだな。

 

 

 

 

 

 

 

あれから4日ほど経った。

 

俺はノーモーションであの動きを再現しようと練習した。こればかりは一朝一夕ではできない。

 

他には、俺はナイフ、ジャンヌは大型の剣で模擬戦した。結果は俺の全敗。1回だけ惜しいとこまでいったけど。

 

あと、ここは教え合う場所というわけで、ジャンヌに意識の逸らし方を軽く教えたりした。

 

あ、あれ?俺、ここに来てから1回も勝ってない。………………みんなおかしいからね。

 

 

 

そうして、俺に超能力を教えてくれる師匠とやらのご対面。

 

イ・ウーの看板に上がると、そこには留美と同じくらいの身長の少女がいた。それとシャーロックも。

 

この子じゃないよね?

 

と、シャーロック目配せするが、シャーロックはうなずくだけ。

 

 

 

マジですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか、カナとの話し合いがあっさり終わった。
うーん、これでいいかな?

あと教えてほしいことがあります。
皆さんは、暗記科目……主に世界史Bなのですが、どのように暗記しますか?
よろしければぜひ。


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第39話

メリークルシミマス






今、俺こと比企谷八幡はイ・ウーのとある部屋の一室にて小学生、よくて中学生くらいの女子といる。

 

 

「自己紹介始める?」

 

その女子はブロッコリーのサラダを食べていると、急にそんなことを言ってくる。

 

「お、おお」

 

「じゃあ、私から。私はセーラ・フッド」

 

セーラと名乗った少女は銀髪碧眼。身長は女子中学生といったところか。武偵高のセーラー服ではなく、どこかの学校のセーラー服だ。そして、これはソフト帽かな?それを被っている。

 

 

「俺は比企谷八幡だ。……どう呼べばいい?」

 

「セーラで。私は八幡って呼ぶ。ヒキガヤ?は言いにくい」

 

何でだよ。そんなに呼びにくいか?………はっ、もしかしてシャーロックの入れ知恵?……そんなわけないか。

 

「それで、話は聞いてる。八幡は、超能力のことをどのくらい知ってる?」 

 

ブロッコリーを咀嚼しながら聞いてくる。食べるか話すかどっちかにしなさい。 

 

 

「全く知らん」

 

即答する。

 

そしたら、セーラは深く深くため息をつく。めんどくさそうだな、おい。

 

「わかった。基礎的なことを教える」

 

「お願いします」 

 

なんで俺は敬語を使ってるのか?

 

「まず、超能力は属性は70以上ある。相性の良い悪いのが激しい。

あとは日によって力を発揮できるか変わる。天気みたいにね」

 

なるほど。よくあるゲームみたいな5属性とかではない。雨が降るみたいに使える頻度は変化するということか。

 

「そして、超能力にはその強さに応じてG(グレード)で表記される。例えばイ・ウーでかなり強い人ならG25とかね。ちなみにジャンヌはG6~8」

 

要するにその数字が高いほど強い超能力が使えるというわけか。

 

「でも、高ければ高いほど有利でもない」

 

「というと?」

 

「超能力は自分の精神力を使う。Gが高いと早く精神力を消費する。長時間の戦闘は向かない」

 

ふむ。ゲームとかでいうなら、一撃で消費するMPが多いということか。精神力の上限はセーラの話を聞く限りそこまで差はないかな?

 

「へぇー。あ、セーラはどのくらい?」

 

「教えない」

 

そうですか………。

 

 

 

「ここから本題だね」

 

セーラはブロッコリーを食べ終える。そしたら、俺の方を見る。やだ、恥ずかしい。

 

じっくり見ること数秒。うなずくと、

 

「八幡は使えるよ」

 

お、嬉しい話だ。ただどのくらい使えるのか。

 

「ありがと。セーラは風速は最大どのくらい?参考程度に教えてくれ」

 

「私?私は風速50m以上」

 

しれっと言うが、確か台風で大体風速15m/sからだよな。いや、強すぎるだろ。

 

突然セーラが、

 

「ただ」

 

「ただ?」

 

「八幡はそこまで扱えないよ。多分だけど、Gは高くない」

 

………まあ、そんなには期待してないけど。でもセーラが言うけど、実際はどんなもんだ?

 

「銃弾の対処はできる?」

 

「それはやってみないとわからない」

 

うーん。だよなー。

 

「じゃあ、早速行くよ」

 

セーラは立って、移動を開始する。俺もそれについていく。

 

「てゆーか、教えてくれるんだな」

 

「教授の頼みだから」 

 

わかったことがある。セーラ、ふてぶてしい。生意気。まるで俺のアミカみたい。

 

 

 

…………ってあれ?今さらだけど、もう年越しているな。ウソだろ。ああ、小町に会いたい。なんで今年一発目に会う奴らがこんな超人なんですか?

 

思えば、この1年濃い時間を送ったな。

武偵になって、

初めて銃を持って、

蘭豹に投げ飛ばされて、

レキに殺されそうになったり、

夏休み最終日に黒歴史作ったり、

留美と強盗犯を捕まえて、

レキと夜のお台場。

 

…………極めつけのイ・ウーに誘拐される。

 

こうして振り返ると波乱の1年だったな。でも、この1年の方が、波乱になりそうな気がする。

 

 

 

俺とセーラは廊下を歩いている。歩きながら、セーラは俺の顔を無言でジーっと見ている。

 

……何か顔に付いているか?つーか、そんなジロジロ見ないで。恥ずかしい。……これさっきも思ったな。

 

「何か付いているのか?」

 

さすがに耐えきれなくなった俺が尋ねる。

 

「………別に。八幡はいつ死ぬのかなって……すぐには死ななさそうだけど」

 

何か1人でしゃべって、勝手に自己完結させている。いや、その前に死ぬってなんだ?縁起の悪いこと言うなよ。

 

暇だし、ここは情報収集でもするか。

 

「そういえば、ここイ・ウーは、シャーロックやジャンヌ、峰理子と……シャーロックは違うな…まぁいい。誰かの子孫が多いけど、セーラもそうだったりするのか?」

 

ただの世間話だと思ったらしいセーラはうなずくと、

 

「ロビン・フッド」

 

そう答えた。

 

これまた聞いたことのある名前だな。確か、弓の名手であることが有名だ。あとは義賊みたいな感じか?

 

何だか、俺の知り合いが恐ろしいことになってきた。

 

「だったらセーラの主武器も弓?」

 

「さあ?」

 

曖昧な返事をしやがって。でも、声色からしてその可能性はある。これで1つ情報が増えた。セーラの武器は恐らく長距離だな。

 

「私から質問」

 

今度はセーラか。

 

「何だ?」

 

「日本の野菜はおいしい?」

 

そんなことか。ブロッコリー食べてたし、菜食主義者なのか。

 

「そりゃ上手いものは上手い。特に取れたては格別だな。そのまま生で食うこともできる。きゅうりとかトウモロコシとかな」

 

よくある小学校や中学校で行く社会科見学であまり人のいなかった農家を選択したことがある。

その時に食べさせてもらった野菜は美味しかった。

 

「…………そう」 

 

声は穏やかだが、どこか俺に対し、羨ましさが交ざっている。そんなに野菜が好きなのか?わからん。

 

 

 

で、そのまま歩くと、シャーロックと戦ったホールまで来た。

 

「じゃあ、練習始めようか」

 

その瞬間、セーラを中心に風が巻き起こった。…………スカートめくれてパンツ、チラッと見えましたよー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー1週間後。

 

「私はこれから仕事あるからこれで終わり。あとはわからなかったら、連絡して。教えるから」  

 

そう言って、師匠であるセーラは去っていった。どうやら今、イ・ウーはヨーロッパ辺りに停泊しているみたいだ。

 

 

えっ?修行過程を飛ばした理由?

 

そんなもん、作者が超能力の修行の仕方を知らないのがイケないんだよ。本編にはホンの少ししかなかったし……………え、これ何の話?作者って何?本編って何?

 

 

……まあ、この話は置いとこう。

 

 

 

 

 

 

練習風景の一部抜粋。

 

 

 

 

セーラやジャンヌが言うには、俺のGは3。操れる範囲は最高半径4mである。ショボいぞ俺。でも、長く超能力使えるらしいそれはそれでいいか。

 

ちなみに風速はまだわからない。が、20m/secはないらしい。でも、上手にいけば、台風並の風速は起こせるらしい。

 

そして、風を完璧に操れるようになると、空気をクッションにして、跳べるとのことだ。

空中機動が可能になる。これは、極めればすごい便利だ。

 

しかし、俺はそこまで辿り着けるか怪しい。今の俺は俺を中心に威力の小さい竜巻を起こせるレベルだ。  

 

「超能力を使うには、イメージが肝。自分の周りを自分の体の一部と思い扱う」

 

と、セーラは言っていた。それだけのイメージ力が必要になる。……恐ろしい。

 

俺だってイメージは得意だ。厨二病を患っていた時期もあった。妄想じゃないよ。あくまでイメージだからな。そこのところ、勘違いするなよ。………言ってて悲しいな。

 

これ特に練習風景じゃないな。説明じゃん。

 

 

 

 

 

また、休憩中では。

 

「一部の超能力者は超能力を使うために、色々あるけど、原動力がある。ーー能力を使うと、体から何か消費する。そして、その消費したものを摂りたくなる。私はブロッコリー。……八幡はどう?今何が食べたい?」

 

「俺は………飲み物だけど、MAXコーヒーかな?」

 

「……ああ。あの甘ったるいもの。あれはコーヒーとは呼べないと思う」

 

「バッカ野郎。人生苦いことばかり、コーヒーくらい甘くていいんだよ」

 

「あれはコーヒーじゃない。原材料名を見ると、最初に加糖練乳が来てる。コーヒー入り練乳と考えるべき」

 

「それは、そうだが………」

 

「私の勝ち」

 

と、どや顔をしてくる。可愛いと思うが、ウザい。つーか、何の勝負だよ。意味不明だ。

 

「話を戻すけど、八幡の場合はそのMAXコーヒー。糖分かカフェインかはわからないけど、それを常備しておくこと」

 

セーラがブロッコリーばかり食べてることは意味があったのか。

 

「わかった」

 

俺と同時にセーラは立ち上がると、

 

「じゃあ、練習再開しようか」

 

「ふべっ!」

 

その瞬間、突風に吹き飛ばされ、壁にすごい勢いで激突した。

 

受け身はできたが………痛い。

 

 

 

 

 

 

セーラに教わって1週間で使えるようになった。………しかし、使えるといっても半径は10cm、風の威力は空のビニール袋が転がるレベルだ。

 

こんなのでは到底太刀打ちできない。セーラには鼻で笑われた。腹立つけど、言い返せない俺がいる。

 

 

そして、セーラはやはり弓を主武器としている。実際見せてもらったが、500m離れて的の中心に、それも連続で寸分違わず当てていた。

風を操って矢の向きも変えれると言っていたし、これはレキを越えてるだろ。

 

 

 

 

まあ、セーラがいなくなったけど、超能力に関してはジャンヌも使えると聞いたし、他に峰理子がいる。そいつらに聞けばいいか。ジャンヌなら親切に教えてくれそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

セーラがいなくなってから、さらに2週間過ぎた。

 

俺はセーラに言われた通りに超能力の練習をしていた。時折ジャンヌに教わり、順調?に進んだ。

 

今となっては空のビニール袋を空中に浮かすことができる。………………これでも成長したんだよ?

 

他には、カナに見せてもらった「羅刹」という技をノーモーションで繰り出せるように練習中だ。

俺の超能力がどこまで伸びるかはっきりしていない状態なので、自分でもできる限りのことはやる。

 

もちろん、それは1日の少しだけだ。せいぜい3時間。あとは惰眠を貪っている。

 

 

 

イ・ウーに来てもやることは対して変わってない。

 

 

 

 

 

しかし、俺には気になることがある。

 

それはーー峰理子についてだ。

 

ジャンヌから峰理子の過去を聞いた。それはもう壮絶な過去を。俺の過去も相当だと思った。けど、比べ物にならない。

何を以て、今日まで過ごしたのか。それを知りたい。そして、これからどうするのかを。

 

………………どうして、そんなことを感じたのかはわからない。理由を説明できない。

 

でも、あの時の言葉。

 

 

 

「それじゃ意味ねぇんだよ!!」

 

 

 

それまでは俺がどうかしよう、という考えには至らなかった。でも、あの叫びを聞いてから、何か、俺の考えが変わった。

 

特に助けたいというわけではない。俺なんかが、助けになるとは到底思えない。そんな簡単に救えるとは、峰理子の心が解放されるとは思えない。

 

決して、それは恋心ではない。

 

 

それでも………俺は知りたい。

 

 

そして、知って、峰理子と俺の初めての……になりたい。

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまり話したくない毒使いに毒を吐かれながら夜飯を食べて、もう寝ようと部屋に戻ろうとする。

 

食堂を出て、廊下を歩いていると、曲がり角で俺を待っていたらしい人物がいた。

 

「ハチハチ。時間いい?」

 

どこか暗い表情をした峰理子だ。

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メリークルシミマス





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第40話

恐らくこれが今年最後の投稿となります。

アリア新刊の感想。
カツェが、あのカツェが可愛く見えた。あと、アリア出番少ない。



「あっ……。そういえば、お前のせいで冬アニメ全く録れてないんだが」 

 

「くふふっ。私は全部録画しているから見せようか?武偵同士だし、もちろん有料だよ」  

 

「そこは無料にしろ。人を拐っといて何生意気なこと言ってるんだよ……」

 

俺の部屋にある冷蔵庫から……もう寝るのでMAXコーヒーは止めといてお茶を飲む。ついでにベッドに座っている峰理子にも渡す。

 

「ありがとね。……ハチハチが素直にお茶を出すなんて、睡眠薬とかないよね?」 

 

「俺がそれをしたところでどんなメリットがある?」

 

「そりゃもちろん。寝かせた私を………ベッドで、とか?」

 

「あーはいはいそーですねー」

 

適当に流したが、……一瞬想像してしまった。ベッドではだけながら寝転ぶ峰理子を。

 

落ち着く為にもう1回お茶を飲む。

 

「何よ。つまんなーい」

 

ぶつくさ文句を垂れている……が、武偵高の峰理子とはあまりにも離れている、その仮面は。

 

峰理子を特に知らなかったあの頃は、あいつを見ても明るいぶりっ子でクラスの中心。それと、どこか演技をしている。と言うのが主な感想だった。

誰かがその様子に気づくとは思えないくらい、その演技は上手だった。

 

しかし、今の峰理子は誰でも、例え第3者から見ても、その仮面を見破れる。そのくらい……脆い。

 

その理由は本人しかわからない。

 

 

 

 

俺としては見てて痛々しい。

 

ーーだから、

 

「お前は何が言いたい」

 

そう告げる。

 

その一言で峰理子の明るい感情が消えた。そして、まるで別人みたいに怒りや悲しみの表情をする。……もう1つの峰理子の姿。

 

「ーーハチハチはさ」

 

まるで独り言くらいの声量だ。

 

「私の名前、知ってる?」

 

「……峰、理子」

 

「知ってるよね?」

 

「ーーリュパン4世のことか」

 

俺が低い声で呟く。

 

ピクッと峰理子は体を震わす。リュパン4世という言葉にかなり過剰に反応している。

 

「そうだよ。私は4世だよ」

 

「…………4世の何が悪いんだ?」

 

どうやらリュパンよりも4世の方に反応している。でも、それの何が悪い?

 

ーー途端。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「4世4世4世4世4世!!私はDNAか!!ただの遺伝子か!!数字かよ!!5世を産む為の道具か!!」

 

叫ぶ。この部屋は一応防音。だが、廊下に響き渡りそうなほどの大声で叫ぶ。

 

俺は、いつもは決して見せない、見たことのない峰理子のその顔に思わず息を詰まらせる。その、峰理子の涙に。

 

「誰もお母様がつけてくれたキュートな名前を呼ばない。使用人どもも!どいつもこいつも4世4世4世。ふざけんじゃねぇ!!」

 

その叫びは俺ではない、誰かに向けられている。

 

「だから、勝つんだよ!私は!」

 

叫び終えると、ハァハァと息を整える。

 

「その、勝つってのは誰にだ?」

 

俺は問いかける。

 

自分にか?ブラドにか?それとも、別の誰かか?

 

「それは………ブラド。いや、吸血鬼だよ」

 

あ、鬼って言ってたけど吸血鬼なのかブラドは。

 

「それで私は自由になるんだ」

 

一言一言噛み締めるように言う。

 

 

自由。

 

意味は「他のものから拘束・支配を受けないで、自己自身の本性に従うこと」だ。

 

これだけ見ると武偵高のこいつはほぼ自由に見えるけどな。でも、そうじゃない。心のどこかに過去の呪縛がある。切れることのない鎖。だから、どこか1歩踏み切れない。

 

 

 

「1つ聞くぞ」

 

「…………何?」

 

「お前の過去を俺は聞いた」

 

「だから何だ?」

 

「そこまでお前に固執してきたブラドって奴。そんな簡単にお前を手放すと思うか?」

 

「…………ッ」

 

峰理子は顔を曇らせる。

 

もちろん、その可能性を今までに何回も考えているだろう。だけど、

 

「わかってる。けど、それにすがるしか…ないんだよ」

 

峰理子はこの結論しかないんだ。他に選択肢がない。例え口約束だとしても、可能性が低くとも、それが欺瞞だらけでも、賭けるしかない。己の自由の為に。

 

 

 

「じゃあ、別の質問」

 

峰理子にお茶を注ぎ、渡す。

 

「その、武偵高は楽しいか?」

 

もし、その仮面で自分を偽り続ければ、自分を演じ続けていたら、気がおかしくなっても不思議ではない。

 

家で、部屋で、どこか独りになれる場所で、仮面は外すものだ。俺?俺はぼっちだから仮面を被る必要はない。 

 

しかし、俺は知らない。武偵高の峰理子を、今の峰理子を。

 

 

「もちろん、楽しいよ。色んな可愛い服を着て、みんなとおしゃべりして、今まで経験したことのなかったことをたくさんした」

 

本当に楽しそうな表情で話すが、

 

「……でもっ、どこかでブラドのことが頭をよぎる。怖いんだよ。楽しいけど、けど」

 

言葉の続きは、多分全力で楽しめない、か?そうなのか?見た限りは楽しんでそうだが。

 

お茶を一気に飲むと、ボスンとベッドに倒れ込む。

 

「誰かに頼ろうとはしなかったのか?」

 

俺はまた別の質問を投げ掛ける。

 

「ダメなんだよ。ブラドは強い。圧倒的すぎるほど。イ・ウーでも教授並みに強い」

 

マジか。そんな化け物なのか。

 

「しかもあいつは無敵なんだ。誰にも勝てない」

 

苦々しく告げる。

 

「だから、独りでやる…………。巻き込めない」 

 

寝返り、俺からは顔が見えない。表情はわからない。だけど、肩が震えている。

 

これだけは、言おう。

 

 

 

「ーーーーそれは、本音か?」

 

峰理子は今まで独りで戦ってきた。誰も頼ることをできなかった。そういう意味では俺より孤独だ。俺には家族、小町がいた。

 

……でも、峰理子には何もいない。

 

頼ることを知らない。したことのないことだから。表面上取り繕っても、峰理子は脆い、儚い少女であることに変わりはない。 

 

 

 

 

その時、聞こえた。

 

「そんな…の、いや、嫌だよ……。助けてほしい………よ」

 

これが、峰理子の本音。

 

 

 

 

今度は仰向けになり、大粒の涙を流す。それを抑えるように腕で擦る。

 

でも、止まらない。いや、止めないでいい。思う存分泣け。それができるのは、お前が人間だからだ。

 

 

泣いたままの峰理子に話しかける。

 

「俺は武偵だ。依頼されたら何でもやる」

 

スゥーと息を吐き、空気を吸うと、

 

「それは、依頼か?」

 

近くまで歩き、俺は言う。

 

峰理子はのっそり起き上がると、グスンと鼻をすする。

 

「うん。……依頼。お願い、助けて、私を」

 

「ーーそうか、わかった。この先ブラドとお前が戦う時が来たら、俺も絶対駆けつける。お前を死なせない。…………依頼、承った」

 

「うん、うん。……ありがと」

 

目元は赤い。それでも、可愛い笑顔だ。 

 

 

 

しばらくして、

 

「あ、それで報酬を今、もらっていいか?」

 

「えっ?」

 

俺の急な話題転換に目を丸くする。

 

「何、ハチハチ?もしかして私の体?」

 

顔を赤らめながら体に抱きつく動作をする。 

 

「違うわ。報酬は………」 

 

…………これをセリフにするのは恥ずかしいな。

 

 

 

 

「俺と、その……友達になってくれないか?」

 

 

 

「………えっ?」

 

その言葉にまたもや目を丸くする。

 

「いきなり、どうして?」

 

「いや……俺、友達いないんだよ。欲しいなぁって。それにお前とならなれそうかなと思って」

 

そうなんだよ。いないんだよ。俺に友達。

 

「キー君は?」  

 

「ルームメイト」 

 

「ルミルミちゃんは?」

 

「アミカ。……てか、お前もアダ名それかよ」

 

「……………じゃあ、レキュは?」

 

「あいつは、わからない。けど、友達ではないな」

 

「くふふっ。もしかして、好きなの?」

 

「さぁ?俺もわからん」

 

これは正直な意見だ。

 

「えーっと、クラスでは……。あっ、ホントにハチハチ友達いないんだ」

 

残念そうな目で見てくる。

 

「そんな憐れみの視線を向けるな」

 

アハハっと楽しそうに笑うと、

 

「しょうがないな。……私と友達になろっか」

 

そう言った。

 

そして、峰理子は両手で頭に角を作ると、

 

「でも、お前じゃなくて、理子って呼んでね。じゃなきゃ、プンプンガオーだぞ」

 

それもそうか。友達って名前で呼び合うもの…だよな。いたことないから知らないが。

 

あと、何それ?まあ、いいか。

 

「ああ。よろしく。……理子」

 

「こっちもね。ハチハチ……ううん、八幡」  

 

俺が手を差し出し、理子はベッドから立ち上がり、俺の手を掴む。

 

 

ーーーーお互い、笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、俺と理子は友達になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 




この話、前から書きたかった話です。多分かなり初期から。


では、よいお年を!

今日もいい日だっ。ばいちっ。


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第41話

もうさ、エリートバーバリアンとホグライダー滅べよ。

あ、デレステのアーニャ、可愛いよね?




イ・ウー短期留学が始まり、日本ではもう2月半ば。

 

あと、1ヶ月で帰れる。

 

やった。これであの超人達からおさらばできる。…………まあ、武偵高にも超人いるんだけどね。

 

何かあったっていったら、カツェという魔女に会ったくらいだな。

 

ちなみに魔女はジャンヌも魔女の部類に入るらしい。

 

しかも、そのカツェはナチスに属しているらしい。……あのはた迷惑な組織復活してたのかよ。

 

俺とカツェの相性は最悪だった。もうあいつはただのガキ。生意気。何だよ眼帯って。中二病かよ……って突っ込みたいけど俺も真っ黒のコート着ているから人のこと言えなかったりするんだけどな。

 

 

他には………理子に意識を逸らすコツを教えてたり……してました。コイツ飲み込みが早い。俺や校長とはいかないが、殺気の抑え方は大分学んだらしい。

 

才能あるねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大分できるようになってきた。八幡の超能力はこれでほとんど完成。あとは精度を上げる練習をする」

 

1ヶ月ぶりにセーラに会い、ジャンヌや理子から超能力のコツを教えてもらい、最高で、半径4m、風速17.6m/s使えるようになった。

 

使えるようになったのはいいが、まだ安定して使えない。なんか他に、意識を持っていかれ集中できないことが多々ある。

 

集中には自信があったけど、勉強に集中する…みたいな感じではなく、中々難しい。

 

「セーラは上手く使う為にどうしてた?」

 

「私の場合、思いっきり使う時には、技名を口に出す。超能力はどれだけ早くイメージを固めるかが肝になる。その為にあらかじめ決めとく」

 

な、なるほど。その考えはなかった。

 

「なんなら、今八幡の技名決めようか」

 

「えっ、ちょっと待って」  

 

「はい5……4」

 

「いや待ってって」

 

「3……2」

 

「えーっと………じゃあ、……烈風で」

 

パッと思い付いたのがこれだった。

 

「ふーん。わかった。なら、八幡はそれを口に出すか、心の中で思って早くイメージを固める。できれば口に出す方がいい」

 

うーん。あまり口には出したくないな。恥ずかしいし。……でも、そうも言ってられない。多少の恥ずかしさは我慢するか。

 

「はい。……あ、ちなみにセーラはどんか技名?」

 

「教えない」 

 

セーラは自分のことをあんまり教えてくれないんだよな。少しくらいいいのに。

 

 

 

 

 

腹が空いたので、食堂に行き、適当に作ろうとする。

 

材料は、野菜多いし、野菜炒めにでもするか。ブロッコリーと玉ねぎ、それと……あ、豚肉ある。これも使おう。

 

「ねぇ、私にも食べさせて」

 

一緒に着いてきたセーラが席に座り、飯を要求してくる。

 

「仕方ない」

 

まあ、別にいいか。多めに作りそうだったし。せいぜい3人くらいの分量かな?

 

「ねぇねぇ。理子にも食べさせてー」

 

「八幡、私にも頼めるか?」

 

バン!と勢いよくドアが開く。理子とジャンヌが入ってきた。そして、図々しくこいつらも飯の要求をする。

 

よくて3人分しかないのに、俺が食べれなくなるだろ。………ダメ、絶対。

 

断ろうと口にしようとする。

 

「すまんが、材料がそんなにな……」

 

「ハチハチ~。もし断るなら、東京にもどってからあらぬことをレキュに言うからね」

 

お前、……理子よ、それが友達に向かって言う言葉か。ふざけるな。俺も飯食べたいんだよ。

 

………とはいえ、レキュ…レキに言われても特に問題ないんじゃね?

なら大丈夫。理子の飯はなしにしよう、そうしよう。

 

「ちょっと無理かなー」

 

素直にそう口にする。

 

「八幡、気にするな。理子には私の分を渡す」

 

諫めるようにジャンヌが言う。ホント、ジャンヌはオカン、マジオカン。

 

「えーー!つまんなーい」

 

「理子は作ってもらう立場だ。文句言うな」

 

「ぶーぶー」

 

まるで悪ガキを嗜めるオカンだ。

 

 

 

 

 

「いただきます」

 

「やっふー」

 

「すまないな、八幡。では、いただきます」

 

上から、セーラ、理子、ジャンヌ。

 

俺も続けて食べ始める。元々3人分でギリギリの量だったからかなり少ない。これでも一応は男子高校生。それなりの量は必要だ。……まあ、あとでMAXコーヒーでも飲んでおくか。

 

「八幡」

 

「なんだ?」

 

無表情で野菜炒めをモグモグ咀嚼しているセーラ。

 

「おいしい。また作って」

 

少しだけ、ほんの少し笑う。

 

「お、おお」

 

良かった。まあ、セーラには好評みたいで。

 

「ずるいー。理子にも作ってーー」

 

こいつはうるさい。はっきりわかんだね。

 

「気が向いたら」

 

「それ絶対しない言い回しでしょ!」

 

……チッ。理子にはバレるか。

 

あ、もちろん師匠であるセーラには恩も含め作ります。 

 

「自分で作れ」

 

「えーー、面倒。ハチハチ作って?」

 

上目遣いであざといポーズをする理子。

 

「あざとい」

 

「何よそれー。あと、ハチハチ、セーラには作るって言ってなかった?」

 

「そりゃまあ、師匠だしな。そのくらい」

 

「じゃあ友達の私にも」

 

「あの毒野郎にでも作ってもらえ」

 

と、こんな感じですごいムダな応酬を繰り広げていた。その間のセーラとジャンヌは……………、

 

 

「ところでセーラ」

 

「何ジャンヌ?」

 

「八幡はどのくらい使えるようになったのだ?」

 

「……本人に聞けば?」

 

「いや、まだ八幡は超能力に疎い。詳しいセーラに聞いた方が得策だ」

 

「…………そう。八幡はもちろん私に比べたら弱い。多分まだ鎌鼬も出せないし、空気のクッションも作れない。Gが低いから長時間使えるのがメリットかな。……でも、八幡はすぐ集中が乱れる。私やジャンヌみたいにまだ安定しない」

 

「ふふっ。手厳しいな。気に入ったのか、八幡を?」

 

「………………別に」

 

この会話は俺の耳に全く入ってなかった。

 

 

 

 

 

飯も食べ終わり、一旦解散となった。みんながそれぞれどこかに行くなか、俺は食器を洗っていた。……あいつら、洗ってくれよ。

 

食器を乾燥機にかけて、俺は1人訓練場に来た。そこにある人型のサンドバッグが目当てだ。

 

軽くストレッチをし、サンドバッグの目の前に立つ。

 

そして、集中。追い風を吹かせるイメージだ。

 

ーー数秒後。

 

「羅刹」

 

 

ズドン!!

 

 

と、サンドバッグが壁に激突する音がする。……ただサンドバッグが転がっただけだ。カナのような威力はない。追い風の威力も小さく、タイミングがてんでバラバラだ。

 

カナが羅刹を打ったら、サンドバッグはかなり凹んだ。俺は全然凹んでない。

 

うーん。難しい技を2つ一緒にやるのはタイミングがシビアだな。まだ満足に超能力も使えないし、先に超能力の練習をするか。

 

早く自在に超能力を操りたいな。……………言ってることが普通の男子高校生ではなくなってきたな。

 

 

 

サンドバッグを立たせて、俺は3mの間をとる。

 

目を閉じ、すぐに開ける。

 

「烈風」  

 

そう口に出し、俺の周りが風に包まれる。サンドバッグはぐるぐる俺の周りを回っている。

 

風速7m……9 ……13……15。

 

徐々に風速を上げる。この間、6秒。

 

そして、一瞬で風を止める。サンドバッグはそのまま前方に飛んでいった。ドスンと音をたてる。

 

「これだけなら何とかなるんだけどなぁ…………」

 

 

今度は…………。

 

一瞬だけ追い風を起こすイメージ。

 

「ーー烈風」

 

ブワッと突風が起こる。風速は10m。

 

「はぶっ!」

 

俺はそれに合わせて跳躍したが、タイミングは合わずに転けてしまう。数秒寝転んで、立ち上がる。

 

 

 

俺が今、挑戦しようとしているのはいわゆる「合わせ技」だ。

 

合わせ技はその名の通り複数の技を合わせることだ。

 

前提として、まず合わせる技を完璧にできないといけない。例えできたとしても、複数の技が合わなかったら1つの技より格段に威力は落ちる。かなりリスキーなものだ。

 

ソースは火の丸相撲。あれ面白いよね。

 

 

俺はまず1つ技ができない。当面の目標は1つの技の精度を上げる。

 

羅刹よりも烈風を先に仕上げるか。

 

「はぁーー。先は長いな」

 

 

 

 

あのあと何回か追い風の烈風を練習した。上手くできた試しないけど。

 

それで、まあ、疲れた。さっき色々食べたけど、腹が減ってきた。………そうだ、MAXコーヒー飲もう。いや、なんでそうなる?………だがしかし、MAXコーヒーは俺の血肉ともいえるもの。

 

 

 

「あら八幡」

 

「…………カナ」

 

もう1回食堂に行こうと廊下を歩いていたら、全く気配を出さずに横から声をかけられた。遠山の兄であり姉であるカナだ。

 

意味がわからなかったらアリアのwikiを見よう。

 

 

「何か用?」

 

「いえ、見かけたから声をかけただけよ。ところで羅刹は上手に進んでるかしら?」

 

「いやさっぱり。風と合わせるのが難しい。そもそも羅刹も上手くできないのに」

 

「………そう。まあ、努力あるのみよ。集中するのは得意なのよね?」

 

「さあ?」

 

「そこは自信を持ちなさい。……あ、用事1ついい?」

 

…………カナが俺に用事とは珍しい。

 

「何だ?」

 

「日本に戻ったらキンジに女装させてくれる?」

 

「………………………はあ?」

 

急に何を言い出すかと思えば…………はあ?

 

「キンジにね女装させるととても似合うと思うの。……見たいと思わない?」

 

「全く思いません」

 

いつもはタメ口で話していたが、この時だけは敬語になる。仕方ないよね?いきなりルームメイトを女装させるって……バカなの?

 

「もちろんあなたは武偵。私も武偵。依頼という形で。報酬は………MAXコーヒー1年分用意するわ」

 

「やっ……」

 

危ない。いつもみたいに即答するところだった。

 

考えろ。例え何でもやる武偵だからといっても仕事を選ぶことはできる。何が悲しくてこんな仕事をしないといけない。報酬は魅力的だが、ここは断ることにするか。

 

「断ります」

 

「あら、残念」

 

と、本当にそう思ってるのか疑問に思うほどあっけらかんとしている表情で答える。

 

「じゃあね」

 

「あ、ああ……」

 

嵐みたいな人だな、ホント。

 

 

 

食堂に着いた。

 

扉を開ける。……………と、コーヒーを優雅に飲んでいるシャーロックがいた。何やらタブレットを片手に。

 

「やぁ。八幡君」

 

「どうもー」

 

確か冷蔵庫の端の方にMAXコーヒーを冷やしてたはず………っと、あったあった。

 

カシュとプルタブが開く。そして、俺の喉を潤す。やはり美味しい。イ・ウーのみなさんには不評だけど。

 

飲みながらチラッとシャーロックを見る。

 

真剣そうな顔つきでタブレットの画面を見ては、何かを書き足している。……と思ったら、今度はスクロールしている。

 

こっからは中々見えない。

 

「何だ、面白い動画でもあるのか?」

 

「八幡君。君は理解しているのかな?私は1秒動画を視聴しただけで先の展開を推理してしまうのだよ」

 

「あ、そーですか」

 

心底どうでもいい愚痴を聞かされた。

 

「最近君の私に対する扱いが酷くないかな?」

 

「さぁ?」

 

心底どうでもいいな。

 

「それで、君はこれに興味があるのかな?……いや、君はこれに興味がある。こうした表現で用いる言葉は……俺のサイドエフェクトがそう言っている…かな?」

 

タブレットをヒラヒラさせるシャーロック。

 

あとそのセリフ止めろ。それを言うならせめて青色のジャージを着ておけ。

 

 

「そりゃ、あんたがそんな熱心に見ているからな。自然と興味も湧く」

 

「そうか。私はもうここを出ていく。好きにこれを閲覧してもいい。その代わりと言っては何だがこのカップを洗っといてくれないか」

 

机にタブレットを置いて、流し台でカップをざっと洗う。……いや、そのまま洗えよ。と思ったのも束の間。いなくなったよ、シャーロック。

 

ハァー、仕方ない、洗うか。

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻り、早速タブレットを見る。パスはかかっていない。誰でも閲覧可能らしい。

 

………ファイルは1つだけ?

 

 

『緋色の研究』

 

 

……か。何だそれ?

 

 

えーっと、

 

『この地球には色金と呼ばれる金属がある。

色金には意思がある。自立した意思が……』

 

はいちょっと待て。

 

何だよ意思があるって。金属に意思?………えっ金属がしゃべるの?

 

嘘だと言ってよ、バーニィ!

 

……続きを読もう。

 

『色金は三種類存在する。緋緋色金、璃璃色金、瑠瑠色金。

この中の緋緋色金を取り上げる。

緋緋色金はその名の通り緋色である』

 

だから緋色の研究なのか。

 

比企谷八幡、ここでオーバーヒートしそうです。……超能力と考えれば理解…できるはず。

 

 

……ここで話を変えるが、俺のMAXコーヒーは自分の借りてる部屋と食堂に置いてある。

 

何が言いたいかと言うと……MAXコーヒーを飲みたい。さっき飲んだのに一気にMAXコーヒーの成分を消費したみたいだ。

 

 

 

ふぅー、続きを読むか。

 

 

『緋緋神。それは緋緋色金に宿る意志』

 

『人間の情熱、恋心と闘争心に魅入られている』

 

『その意志は「一にして全、全にして一」である』

 

『色金は実体は無く、人間に憑依することで活動する』

 

 

 

……全然頭に入らない。

 

えーっと、要するに、あれだろ、良太郎にモモタロスが憑依するってことだろ。……そう考えれば理解できる。

 

まあ、最後まで読むか。

 

 

 

『緋弾のアリア』

 

 

 

 

アリア……独唱?

 

 

『緋弾のアリアとは、超々能力者(ハイパーステルス)。通常の超能力を遥かに凌ぐ、世界を変える力を持つ』

 

 

 

……

 

………

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

じっくり40分ほど読み込んだ。

 

纏めると

 

色金には、緋緋色金、璃璃色金、瑠瑠色金がある。

 

色金はそれぞれ独立した意思があり、緋緋色金は……緋緋神は人間の恋心と闘争心に魅入られている。……あとの2つは知らん。

 

人間の体に緋緋色金が埋め込まれることよって、緋緋神がその人間の意思を乗っ取ろうとする。

 

しかし、それを退けることができたなら、超々能力者として緋緋色金の力を自在に使えるようになる。

 

緋緋色金………現在では銃弾に加工して、呼び名は緋弾となった。緋弾を継承させるには3つの条件がある。

1つは情熱的でプライドが高く子供っぽい性格であること。

1つは心理的に成長すること。

1つは能力を覚醒させるまで最低でも3年緋弾と共にあり続けること。

 

 

そして、1番の問題はこれだ。 

 

『緋弾のアリア』

 

シャーロックの推理では今年中にそのアリアが現れるらしい。しかもそのアリアにもう緋弾を埋め込んで3年経っている。

 

そして、超々能力者になれる素質、性格を持っている。

 

 

………他にも色々書いてあるけど、特筆すべき点はそこかな?

 

 

 

あ、あともう1つあった。

 

 

星伽さん……あんた何者だよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、お願い」

 

「こちらこそだな」

 

「どっちも頑張れー」

 

今、俺はジャンヌと模擬戦をするところだ。

 

ルールは、俺がナイフ、ジャンヌは大型の剣。手に持つ武器はそれだけ、あとは自由。

 

観客に理子がいるけど。

 

 

「じゃあー、始めっ」

 

理子の合図でどっちも動き出した。

 

始めの距離は5m。その距離を埋めるために俺は一気に走り出す。

 

相手が長い武器、棍棒や斧、槍に、そしてジャンヌの剣などと戦う場合は、相手の間合いの内側にどうにかして入るのがコツだ。それも先手必勝で。モタモタしているとすぐにヤられる。

 

何回もジャンヌと模擬戦をして、向こうも俺の戦法はわかっている。だから、それよりも速く。

 

ブゥン!とジャンヌが勢いよく剣を上段から振り下ろす。当たったら死にそうな勢いだ。

 

ーーでもな、武偵高で鍛えた目がある。

 

ガリガリッと金属同士がぶつかる音がする。

 

俺は走ると同時に重心をやや右方向に向けて走った。ジャンヌは真っ直ぐ来ると思い、そのまま振り下ろした。それに対し、ナイフの刃でジャンヌの大剣を返す。

 

この戦法は何度かジャンヌとの対戦で使用した。けっこうパターン変えたが。

 

返した勢いで前に倒れ込み…………ジャンヌの下半身に近づく。そのままナイフを持ってる左手で大剣のグリップを狙う。

 

ジャンヌは俺が倒れ込んだ瞬間後ろに跳び、その流れで剣道での引き面を放つ。

 

上からの攻撃の方が強力であり、下から放った俺の攻撃はジャンヌの攻撃とぶつかり、押し負ける。

 

ナイフが大きく弾き飛ばされる。

 

「くっ!」

 

だが、これは使っていい武器はナイフ、ジャンヌは大剣なだけあって、別にこのまま戦っても問題ない。

 

ジャンヌが着地した所を狙い、俺も跳ぶ。ジャンヌはほんの一瞬動けない。

 

ガシッ。

 

ジャンヌの手首を掴めた。

 

………ジャンヌの肌、冷たい、スベスベ。

 

って、そうじゃない。

 

俺はまだ体勢はほとんど屈んでる状態。だから、ジャンヌの手首引っ張り起き上がる。それと一緒にジャンヌの足を払う。

 

ーーーーが、それを察知してかジャンヌは俺の掴んでない手で大剣を床に突き刺し、足払いに耐える。

 

「きゃっ!」

 

「うお!」

 

かと思いきや、無理に耐えたせいか足を滑らせ、ジャンヌは思いっきり俺の方に倒れてくる。

 

ドスン!

 

「ひゃ!」

 

ジャンヌが高い声で叫ぶ。

 

 

 

…………………状況を説明する。俺は地面に背中をついて倒れている。その上にジャンヌが乗っかっている。はい説明終わり。

 

 

「うおっほー、これはまさかのリトさん!?」

 

「うわっ!目が!」

 

「いってー」 

 

理子、ジャンヌ、俺がそれぞれ反応する。

 

あ、そんなに俺の目って酷い?最近言われなかったから………ね?傷付く。

 

「す、すまない八幡」

 

「気にすんな」 

 

ジャンヌが少し離れたところで思う。

 

それにしても、

 

「こいつはこいつで可愛いな」

 

ボソッと呟く。

 

「か、可愛い!?」

 

ジャンヌが顔を赤らめる。

 

あ、聞こえてたのね。恥ずかしい。

 

「あ、ハチハチー、ジャンヌだけじゃなくて、私にも可愛いって言ってよー!」

 

「……うるせぇ………」

 

「か、可愛い……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書きたいこと詰めまくった………。


何かおかしな描写、わかりにくい描写があれば教えて下さい。


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第42話

………遅れた言い訳としては、課題テストがあったんですよ。

あとお知らせです。
月曜から作者は修学旅行に行きます。それが海外で投稿できる状態かわかりません。しかも帰ってくるのが金曜日。できたら投稿したいと思いますが、マジでわかりません。




「羅刹」

 

俺はそう呟くと同時に、追い風を風速15mほど起こし、サンドバッグに掌底を放つ。

 

 

ズドオォォン!

 

 

と、訓練場全体に音が鳴り響く。サンドバッグはその勢いでかなり飛んでいく。そのまま転がり壁に激突する。 

 

……一瞬だけなら、烈風を最大近くまで使えるようになってきた。だけど、持続して使うなら数秒かかる。

 

 

 

さて、吹っ飛んだサンドバッグを見に行くか。

 

「お……」

 

カナほどいかないが、それなりの威力になってきた。本家ほどの威力を出そうと思えば、もっと羅刹と烈風のタイミングをシビアにしないといけない。

一先ずは羅刹はこれで完成ってところだな。

 

…………………カナに見せてもらったあの早撃ちは全くもってできないけどな。ハハッ。あんなのできるわけねーだろ。人間辞めてる人間が。

 

 

 

俺は訓練場をあとにする。

 

フゥー、もうここに来ることはないかもな。だって明日で帰れるから、日本に。……………やったぜ。

 

今、イ・ウーは日本のどこかに向かっていてるらしい。どこかは知らないけど、九州とかは止めてくれよ。

 

できれば帰るまで色々行きたいし関西辺りだと嬉しいけどな。シャーロック俺の考え推理してくれ。お前ならできる。

 

 

「八幡」

 

俺の部屋に戻ろうとした時、廊下でてっきりもういなくなったと思ったセーラに声をかけられた。

 

「よぉ」

 

俺は少し声が弾んでいる。そこに目ざとく気付くセーラ。不機嫌そうだ。

 

「嬉しそうだね」

 

「そりゃ明日帰れるからな。長かった……」

 

ホントに長かった。ぶっちゃけ今までの人生より濃いんじゃね?ってくらい。

 

「そう。……でも、まだまだ八幡の超能力は私からしたら不完全。まだ八幡は風しか起こせない。空気のクッションとかを作って一時的に飛ぶこともできる」

 

手厳しいことで。そりゃセーラからしたら俺なんて赤子レベルだろうよ。

それより、空、飛べるんだ。そこに驚いたわ。

 

「だから、私が、まだ教えることがある……と思う」

 

セーラはメモを俺に渡してくる。

それを確認すると、数字が羅列している。……これは携帯の番号か?

 

「八幡も」

 

あ、俺の携帯番号もか。

 

紙に携帯番号を書き、セーラに渡す。

 

「ほらよ」

 

それを受け取ると、セーラが着ている制服の内ポケットにしまう。

 

「また連絡するからね。………私の弟子」

 

少し微笑み、去っていった。年相応の笑顔で。

それは綺麗で、可愛い笑顔だ。

 

セーラが見えなくなったころに俺は呟く。

 

「お願いするよ。……師匠」 

 

 

 

 

 

 

 

ーー翌日。

 

俺は起きると飯を食い、荷物を持ち、イ・ウーの甲板に上がる。

 

そこにはシャーロック、理子、ジャンヌがいる。セーラは寝てるのか?それなら見送りくらいしてくれよ。………まあ、どこかに行ったんだろうが。

 

ジャンヌは何かを用意している。理子はそれを見ながら応援している。

 

 

ふと思った。

けっこうイ・ウーで人?とすれ違ったけどまともに話したのはここにいる奴らとセーラとカナだけだな。あ、毒使いもいたような……。

 

あとなんだか、ぱっと見、ザ・エジプト!って感じの女性がいたけど、あれ誰なんだろう?しかも、カナと一緒に。仲睦まじく。

 

 

 

ジャンヌを待っている間、

 

「さあ、もう君とはお別れだね」

 

隣にいるシャーロックがキセルを片手に言う。

 

「どうせいつか会うだろ。そんな推理とかしてるんじゃねーの?」

 

「ははっ。果たしてそれはどうかな?どうなるかは、君のルームメイト次第だね」

 

中々食えない奴だな、相変わらず。シャーロックの表情から読み取ろうとしても、一切崩さない。こんなのわかるわけないな。

 

ちょっと待て。……ルームメイト?遠山のことか。いきなり何で遠山が出てくるんだ?

…………………今は考えるのは止そう。

 

 

 

そういえば、この数ヶ月思い返すと、

 

「俺そこそこ面倒な目にあったな…………」

 

俺は、雲が少ない空を見上げる。その次に元凶の理子を見る。それしかないだろ。理子は飽きたのか寝転んでいる。

 

………ここに来て、良かったこともあったけど。だから、後悔はしない。でも面倒だった。

あれ?矛盾してね?

 

 

独り言のつもりだったが、シャーロックはそれを聞き、反応する。

 

「君がそうなったのは私の責任だ。ーーだが私は謝らない」

 

…………おい、なんでそのセリフ知ってるんだよ?ビックリだよ、まさかそれを言うとは。

 

 

……………ん?ジャンヌがさっきからこっちを見てる。

 

 

 

ーーナズェミテルンディス!

 

 

 

はい、すいません。ふざけました。

 

 

 

 

 

 

冗談は置いといて、どうやら日本まで行くための船の準備をしてくれたらしい。

 

「この…船は2人乗りだ。私が運転する。八幡は休んどいてくれ」

 

なんだか、なんだろ?潜水艦?ボート?よくわからん乗り物だ。

 

「あ、お願いするわ」 

 

そこでふと気が付く。

 

「理子」

 

近くにいた理子の方を見る。

 

「なーに?」

 

「お前は戻らないのか?」

 

「私?私はまだここにいるよ」

 

理子がそう言うなら別にいいか。深くは聞かないでおこう。

 

 

「じゃあ、ハチハチ。また学校で」

 

「さらばだ。八幡君」

 

理子とシャーロックの言葉に俺はうなずき1つで返す。 

 

 

船……船って呼ぶか。船に乗り込む。そこそこ狭いな。元々は船とかではなさそうだけど。

 

「窮屈だが、辛抱してくれ」

 

「大丈夫」

 

多少は俺の荷物で圧迫されるけど、そこまでキツくはない。

 

「到着にかかる時間はおおよそ3時間ほどだ」 

 

「わかった。どこに着く予定だ?」

 

「……あ、忘れた。………でっ、でも問題ない。これは自動運転だ。私がいるのはこれをイ・ウーに戻すためだ。運転なら八幡でもできる」

 

ジャンヌは早口で誤魔化す。さすがの天然さん。あっさり騙されそうな感じで将来心配になりそう。

 

てゆーか、ホント………どこに着くの?

 

 

 

 

 

 

海水から少しだけ浮かび、俺とジャンヌは地面に足を着ける。俺たちは一緒に背中を伸ばす。かなり狭かったから、伸ばすと気持ちいい。

 

ジャンヌは着くまで寝ていたが、俺はとてもじゃないけど、寝れる気はしなかった。

理由わかるよね?ジャンヌという美人の隣で寝れるわけないだろ。メッチャドキドキしたわ。メンタルゴリゴリ削れた。

女子が男子と隣の状態でぐっすり寝ないこと。わかった?

 

 

 

「フゥー。……さて、これで私ともお別れだな」

 

「……だな」

 

どこかの港に下ろされた。金はある程度は貰ったから帰れるとは思うけど、残しておきたい。

 

そして、ジャンヌの方に向き直る。

 

「送ってくれてありがとな。それと色々とな」

 

ジャンヌがいなかったら、生き残れたかわからない。理子や遠山のことも教えてくれたし。こいつには感謝しかないな。

 

「気にするな。八幡……元気でな」

 

「おお。ジャンヌこそ。………またな」

 

ここは再開の意味を込めて、またな、と言っておく。

さよならって言うより、またな、の方が何となく会えそうな気がする。

 

「あぁ。また」

 

 

ーー微かに笑い、俺たちは別れた。これで、俺のイ・ウー短期留学は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

ジャンヌが去ったあと、とりあえずここがどこか調べるために久しぶりに携帯を機動させた。日付は3月9日。

 

「…………現在地は神戸、ポートアイランド。へー、そうなんだ。………神戸!?てことは兵庫県!?」 

 

おお、マジで関西辺りだよ、ドンピシャだよ。

 

周りを見渡すと、ポートライナーと呼ばれる電車みたいなものが走っている。

………正式名称は、自動案内軌条式旅客輸送システム。なんじゃそりゃ?

 

東京に戻るには、そこから三宮まで行ってから、移動して、新神戸駅にある新幹線に乗る。というプランで帰ろう。

 

 

ブゥーブゥー。

 

今まで電源を落としていたから、一気に通知がきた。

 

ほとんどが不在着信だ。

 

材木座29

遠山8

比企谷家10

 

「……はぁ…。材木座よ」

 

まずは家に連絡するか。

 

……

………

 

『もしもし?お兄ちゃん?」

 

あ、小町か。

 

「おう。久しぶりだな」 

 

『お兄ちゃん!?全くーー。いきなり正月帰れなくなったって言うし、連絡できないし、ビックリしたよ。それより、ちゃんと生きてる?』

 

「生きてるわ。死んでたら連絡できない。外国に行ってて、向こうで連絡とかするために新しく契約するのが面倒だったんだよ。

まあ、心配かけてゴメンな。……あ、今の八幡的にポイント高い」

 

予め用意していた言い訳で誤魔化す。

 

『はいはいそーですねー。……また帰ってきてね。待ってるから』

 

「わかったよ。ありがと」

 

『じゃあ、もう切るね』

 

通話は終了した。声を聞く限り小町も元気そうで良かった。

 

 

遠山と材木座には用意した言い訳をメールにして送った。

 

材木座からすぐに返事が何通もきたが、全部無視した。あいつ、暇すぎだろ。まだ送ってから1分くらいしか経ってないのに。あいつ、暇すぎだろ(2回目)。

遠山はお疲れという内容が返ってきた。

 

 

 

 

ここは埋め立て地らしく、本土に戻るためポートライナーに乗った。目的地は三宮。

 

……思い出したが、ここってメビウスの映画で出てきたよなー。ウルトラマンのレジェンドたちが出てきてかなりテンション上がった記憶がある。ソースは作者。

 

 

 

 

三宮で降りる。どうやらすぐ近くに映画館があるらしい。

……ビルの最上階辺りか。今はまだ正午にもなってない。どうせだし、何か見るか。

 

 

 

 

「フゥー……」

 

アニメは日本の文化やで!

 

話は変わるが、もうすぐSA○の映画が始まるな。主題歌はLiSA さん。LiSAさんが歌う。それだけで生きていける。

 

………あれ?これ誰の言葉だ?俺の言葉か?何だこの告知みたいなもの。わかったぞ。あれだ、これ作者の言葉だ。

 

 

 

 

 

それから色々観て周り、三宮からバスに乗る。行き先は新神戸駅。

  

……久々に人が多い場所に来たわ。最近マシになったと思ったけど人混みでは気分が悪くなる。

 

駅に着く。そこでチケットを買う。ここから東京まで意外に高い。2万はかかってないけど。

 

今は……3時か。チケットに書いてある出発までまだしばらくあるな。

 

 

お土産は………美味しそうなケーキでも買うか。もちろん俺が食べる用だよ?……うーん、一応遠山にも買っとくか。

新幹線で食べると変な奴だと思われるから戻ってから食べるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京駅に着いた。……新幹線内は特に面白みなかったから全カットで。

隣にいるのが戸塚だったらなと考えていただけだし。

 

そして、寄り道しながら、何本か電車を乗り継ぎ、帰ってきました。学園島。

 

明日からまた学校かーー。あのアホ生徒とアホ教師に揉まれるのかーー。いや、よくよく考えたら武偵高で関わりあるのごく少数だわ。なら問題ない。

 

時間はもう6時。この時間はもう暗いな。さっさと帰ろうそうしよう。

 

荷物を背負い、お土産を片手に、俺はせっせと歩く。 

 

「あーー。疲れたーー」 

 

などと、のんびり歩いている。

 

が、その途中。ちょうど俺の足が街灯に差し掛かった時。

 

 

 

 

 

ーーガキン!ガキン!

 

急に、俺の足のすぐ先のアスファルトが削れた。

 

その傷は十字型。長さはどちらもおおよそ10cmに見える。

……違う。これは絶対にぴったり10cmだ。その確信が俺にはある。

 

 

 

奴だ。………奴が来る。

 

 

 

俺は冷や汗を流す。

 

 

来るの……か?

 

 

 

ーーあの、狙撃手が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて、八幡inイ・ウー編は終わりとします。予定よりけっこう長くなったなー。



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第43話


    キミが僕だけ見てる証拠


    今すぐこの手に ちょうだい







レキだ。恐らく…っていうか絶対レキだ。

 

 

俺はすぐさま通話アプリを開く。

 

……………そこで気付いた。

 

特に気にしてなかったが、知らない番号がたくさん不在着信として入っている。

もしかして、これ、レキだったのか。

 

ああっ!今はいい!

 

レキに連絡を。

 

……

………

…………

……………

 

出ねぇし!

寸とも言わない。音沙汰なしだ。

 

ちなみに俺がレキに連絡取ろうとしている間に十字型の傷が俺の四方にできた。

 

狙撃地点も想像つかない。しかも、今は夜。かなり暗い。

 

つまり…………何が言いたいかと言うと………。 

 

 

「怖っ!」

 

 

これは狙撃手において悪手だが、とりあえず逃げようそうしよう。じゃなきゃ死ぬ。……まあ、この時点でレキは俺を殺せるんだけどね!

 

武偵法の縛りを信じるしかないな。

 

 

どこに逃げる?部屋まではあと1km程度。……ダメだ、時間がかかる。

 

うん、とにかく逃げ回るか。

 

 

 

 

 

俺は走る。細道だと跳弾が危ない。だから大通りを走っている。そんなのレキには関係ないと思うが。

 

その間にもレキに連絡をかけ続ける。

 

 

 

……………あ、思い出した。

 

そういえば、理子に連絡したのか後日詳しく聞いたら、

 

「ハチハチの家族とねー、武偵高には連絡したよーー。可愛い妹ちゃんと蘭豹先生が出て、2人ともわかったって応えてくれたよーー」

 

と、アイスを食べていながら、言っていた。

 

 

 

 

 

「あっ……」

 

つまりだ、知人には全くもって知らせてなかったということか。なんで気が付かなかった、俺……。

 

あ、なるほど。それは怒るわけだな。

………わかるよ、俺だっていきなり小町が音信不通になったら心配するし。だったら、あまり怒らなかった小町はさすがと言うべきか、可愛いできた妹だな。

 

でもね、普通狙撃する?多少心配してくれるのは嬉しいよ?でもね、普通殺しにかかる?人に銃弾向ける?

 

…………………ここに普通の人なんていないんだな。

 

と、今さらながら実感する、俺こと比企谷八幡であった。

 

と、考えている間に俺が走ろうとしたルートに銃弾の傷痕がアスファルトにつく。

 

「くっ!」

 

それを見ると、反射的に俺はルートを変える。この動作を何回か繰り返す。

 

 

 

 

 

しかし、それさえもレキは読んでいた。俺の行動を操っていた。

 

「うわー。マジでかーー」

 

俺は気を付けていたが、細道に追い込まれる。しかも逃げた先は、行き止まりっていうね。

 

………………………

 

「お願いレキ出て!お願い!」

 

 

 

――死にたくない!死にたくなああい!………俺は、幸せになりたかった、だけなのに………。

 

 

 

思考停止で俺は何度もかけ直す。

 

途中、攻撃が止んだことがあったけど、あれはレキが狙撃地点を変えて移動していた。

今、俺がいるのは一本道。幅は1m。戻るためには10mは走らないといけない。逃げようとしたら、レキの射程に自ら入ることになるはずだ。

 

頼む頼む繋がれ、たの『八幡さん、王手です』む……。あ、切れた。

 

 

完全にレキの声だったな。そして、今、あいつは何て言った?

 

 

 

 

――――王手。

 

つまり、まだ詰んでない。

 

もしそうなら、詰みとかチェックメイトって言うはずた。

 

まだ、逃げ道はあるのか。

 

そこで思い付く。生き延びる案を。

 

 

「戦わなければ生き残れない。……ってか」

 

 

 

あまり嫌だが、こうなったら、行くぞ!最後の足掻き!

 

 

精神を集中させる。

 

周りの壁が少しずつ削れていく。

 

もっと速く………もっと。

 

烈風を使う。

 

俺を中心に最大出力の風を起こす。俺の最大出力は台風並みだ。ドヤッ!

 

上手くいけば、銃弾くらい逸らすことができるはず!

 

 

――ガキッガキッ!

 

レキの銃弾が烈風に乗って壁と床を擦る。よしっ上手いこと逸らせた。

 

 

しかし、次の瞬間――――

 

 

 

 

ピシッと俺の頬に銃弾がかすった。

 

「ちっ……。クソッ」

 

…………風の動きを見抜いて、もう対応してきたか。

 

対応されたら対応する。それを怠った方が負ける。それが――戦いだ。

 

 

風の強弱をつける、風向きを変える。レキに詠ませないようにランダムでだ。

他に色んな方向に突風が起こったり、俺を中心に風を起こさせたり。

 

俺ができるのは、まだこれが限度だ。

 

セーラみたいに自由に操れない。セーラなら風で銃弾をコントロールして、弓矢で狙い打ちできるのにな。

あそこまでくればマジチート。

 

 

「くっ!」

 

今度は肩に銃弾が当たる。一瞬止まった所を狙い撃ちされた。

鈍い音がする。………痛い!

 

だけど、アーマーピアスじゃなくて助かった。もしそれだったら、今は制服を着ているが、簡単に殺られている。

 

精神を集中し直す。その間にも弾が飛んでくる。それを俺はギリギリで逸らしながら避ける。

 

「がっ!」

 

今度は太ももを撃たれる。

 

こ、攻撃的すぎるだ、ろ………。

 

 

 

 

この見た目は地味だが、精神を削る戦いは5分続いた。

 

終わりを告げる合図は、途中攻撃が止んだらと思ったら、スマホが鳴り、

 

『すいません。弾が切れました。終わりにしていいですか?』

 

と、直々に連絡してきた。

 

ぶっちゃけると、長かった………。内心1時間戦った気分である。

 

かなり上からの発言だな。

 

いや、逆に考えろ。そこまでレキの猛攻から耐えたんだ。俺は、Sランク相手にだ。

 

にしても、超能力をこんな連続で使うのがここまでキツいとは。………平然と使うセーラやジャンヌたちは化け物かよ。

 

 

レキはすぐに通話を切り、メールを寄越してきた。どうやら、とあるビルの屋上に来いと言っている。

 

荷物を背負い直し、そこに独り歩く俺。

 

俺の損傷は左肩に3発、右太ももに4発、頬に1発。しかも、寸分違わずに。

俺が風で逸らせたと思ったら、それすら利用して攻撃してきた。まだ、烈風は初動が大きく、わかりやすいのか。

 

 

血が流れる頬を指で擦り、肩を抑えながら、フラフラと足下が安定しない状態で歩く。

 

「ハァ……ハァハァ……。あーもう痛いわ」

 

これ、引き分けたように見えるが、俺は全くレキにダメージを与えられてない。それにレキは超能力を使う前の俺を、殺れるチャンスが何回もあった。

 

まあ、要するに、

 

「完敗だ」

 

強襲科と狙撃科、ここまで相性が悪いとは。強襲科って諜報科とも相性悪いし……大丈夫か?

まあ、俺には握られて困る情報なんて存在しないけど………言ってて悲しいな。

 

 

 

 

20分かかり、やっとの思いでビルの屋上に着いた。

 

「やっと………着、いた」

 

屋上の入り口を開けて、足を踏み入れる。

 

空には、満月が浮かび、星が瞬いている。

 

そして、横を向く。

 

 

 

――――そこにはドラグノフを抱え、夜空を見上げるレキがいた。

 

屋上には電気はなく、月明かりだけがレキを照らしていた。表情がなく、相変わらず何を考えているか読み取れない奴だが………、

 

「綺麗、だな」

 

気付いていたのだろうが、俺の言葉を聞いてから、こっちを向き始めた。多少頬を赤く染めて。

 

「八幡さん」

 

ドラグノフを床に置き、レキは立つ。

 

「お久しぶりです」

 

「そうだな。できれば出会い頭に撃ってほしくないんだが」

 

皮肉を込めて、俺はレキとは対照に腰を下ろす。

 

「そうですか」

 

レキも腰を下ろす。

 

 

「質問、よろしいですか?」

 

「言いたくなかったら言わないからな」

 

「わかりました。では」

 

 

 

「八幡さんはどこに行っていたのですか?」

 

…………いきなり核心に触れてきたか。

 

「黙秘権を行使する」

 

ジャンヌから話すなと言われた。その人の生きた証拠がなくなるから。

 

「わかりました。なら質問を変えます」

 

そう言うと、レキはまた立ち、俺の目の前に移動する。俺を見下ろす。

 

「――――風と近い者に会っていたのですか?」

 

風か。レキがよく口にするワード。

 

 

「風って何だ?それって――」

 

もしかしたら、と頭によぎるキーワードがある。できれば、それだと思いたくない。でも、その可能性が限りなく高い。今現在、俺にもレキにも共通する、と思う――――その言葉は、

 

 

 

 

「――色金、か?」

 

もう1回俺も立つ。レキの顔を正面から見つめる。

 

「はい」

 

俺は、緋色の研究から、シャーロックが緋緋色金持ちだということを知ってる。そして、その緋緋色金を継ぐ者が武偵高に現れることも。

 

「ということは、八幡さん。あなたはイ・ウーにいたのですね」

 

「知っているのか」  

 

「はい」

 

本当にわからない。レキ、お前は何なんだ。今までどんな人生を送ってきた?色金も、イ・ウーも知っている。

…………………怖い。

 

 

 

「ん?待てよ」

 

緋緋色金の継承者の性格とレキの性格は違いすぎる。よってレキに近いのは緋緋色金ではない。

 

「レキの、風って、どの色金だ?」

 

 

 

 

しかし、レキの返答は、

 

「教えません」

 

返ってきた答えは、否定だった。

 

「どうして?」

 

「まだあなたが知るには早いと思います。何れ知る機会が訪れます。その時でも遅くないです」  

 

完璧な否定の言葉だ。俺を巻き込みたくないのだろう。レキの言葉から、そんなニュアンスが伝わる。

 

 

 

 

 

――――でも、それじゃあ、ダメなんだ。それだと、ダメだ、嫌だ。レキが良くても、俺が良くない。

 

だったら、言おう。

 

「それでは遅い。俺は今、お前の――レキのことを知りたい」

 

「なぜです?」

 

レキは首を傾げる。無表情ではなく、本当にわからないという疑問の表情が読み取れる。

 

 

 

 

怖いんだよ。俺は臆病だから。

 

「知らないというのは怖い、とてつもなく怖い。

だから、俺は知って安心したい。その人のことを知っておきたい。安らぎを得たい。

……だからこそ、俺は………。

これは俺のエゴで、独善的な願いや欲望で、自分勝手な我儘だということは俺が!……1番、理解している」

 

レキは黙って聞いている。

 

「……俺は……………」

 

 

どうして、俺はここまでレキのことを知りたいと思う?普段の、今までの俺なら怖かったら、無視をしてきた。関わらず生きてきた。でも、レキにはどうして?

恩人だから?……違う。

パートナーと思うから?……違う。

俺を構ってくれたから?……これも違う。

俺と仲良くしてくれたから?……違う違う。

 

理子の時感じた――友情、友達になりたいともどこか違う。

 

多分、俺の答えは………もっと別のとこにある。

 

 

 

 

 

「俺は、レキが、好き………」

 

「………っ!」

 

口から零れ落ちる。レキが息を吸う音がする。

 

思わず、自然と、零れ落ちるということは、これが俺の――本音――なんだな。

 

 

「俺はレキ、お前のことが好きだ。だから、お台場で言ったように、レキのことが知りたい。教えてくれ。……俺に」

 

レキを見つめ、俺は言う。

 

対するレキは、顔を赤くし、うつむく。

 

俺はしばし経つ。

 

「私は」

 

顔は赤いまま、上げる。

 

「私には、わかりません」

 

淡々と告げる。

 

「まだ、私には好き、という感情がわかりません」

 

しかし、初めて会話した時と違う。

 

「だから、教えてください。これから私と一緒にいてください」

 

 

もう離したくない。

 

俺の側にいてほしい。

 

俺を見てほしい。

 

俺を知ってほしい。

 

だから、俺の答えは――――当然、

 

 

 

俺とレキは、互いに1歩近付く。

 

「もちろんだ。レキ」

 

「お願いしますね。八幡さん」

 

 

そこで、俺とレキは夜空に浮かぶ満月を見上げる。

 

「月が綺麗ですね」

 

「ああ、月が、綺麗だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、聞いてください。教えます。私、レキを――――」

 

 

 

 

――――璃璃色金。

 

その色金がレキの一族の色金。

 

レキの一族はウルス族。レキを含め47人しか残っていない。チンギス・ハンと源義経が同一人物でその末裔。

 

璃璃色金は「無」を好む。レキは「璃巫女」として育てられた。だからレキは無感情だった。

 

でも、今は璃璃色金がほとんど憑いてない状態らしい。

 

 

それらの説明を30分ほど、レキの隣で座りながら受けた。 

 

正直な話、頭が追い付かない。でも、イ・ウーの経験のおかげである程度の耐性はついていたので、何とかなった。

 

 

「それで、レキ。お前は、色金関係で何かしないといけないことはあるのか?」

 

「はい」

 

俺の言葉にレキはうなずく。

 

「それは何だ?俺も協力する」

 

俺は聞くと、  

 

「すいません。また今度でいいですか?」

 

「……えっ?」

 

返ってきた言葉はまさかの持ち越しだった。

 

「………眠いです」

 

そう言われてから、時計を確認する。もう夜中の2時だ。確かに眠い。特に俺の場合、痛みもある。

 

「すまんな。色々と」

 

「構いません。……………では、お休みなさい」

 

言い終えると、レキは俺に体を傾け、頭を俺の肩に預ける。

 

「れ、レキさーん?」

 

「スゥー、スゥー………」

 

あらやだこの子、もう寝てらっしゃる。

 

 

まあ、いいか。

 

 

 

俺もレキに体を預け、ぐっすり寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――翌日。武偵高、5時限目。

 

久しぶりに登校(遅刻)した俺は、強襲科の体育館の端っこで柔軟をしていた。

 

そこで、ふと見た。

 

 

とある少女が、男子女子問わず無双している姿を。

 

 

 

ピンク色の髪、ツインテール。赤い瞳。………あとチビ。

 

 

 

こんな奴今までいたっけ?にしても、何か引っかかる容姿だな。

 

 

不知火に近付き、話しかける。

 

「なあ、不知火。あいつ誰だ?」

 

俺はその少女を指を向ける。

 

「ん?ああ、比企谷君。彼女は3学期に転校してきたSランクだよ。あ、ちなみに同い年だからね」

 

Sランク………マジか。あのチビが?見るからに沸点低そうなのが?

 

「名前は?」

 

「名前は……神崎アリアだよ。いやー恐ろしいよねー」

 

へーー。神崎アリアか。

 

 

………………へ?

 

 

 

アリア?

 

まさか……あの容姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――緋弾のアリア?

 

 

 

 

  

 

 

 




グアムから俺!参上!

いやー前回の感想数半端なかったでw
まさかあそこまで来るとは予想外でした。

LiSAっ子祭、当選したぜイエーイ!


感想、評価待ってます!

あ、誤字などわかりにくい箇所があれば教えてくださいな


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第44話

グアムから帰ると風邪をひく。ツラい。




………本当にあいつが緋弾のアリアかは今は置いとこう。いつかはわかる時が来る。

 

 

そうだな。まずは情報だな。

 

「なあ、不知火。Sってことは……神崎ってそんなに強いのか?」

 

「そりゃもう。神崎さんが転校してきてから色んな分野で倒せた人はまだいないよ」

 

あんなチビがねー?さすがホームズの遺伝子というべきか。シャーロックもチートみたいな強さだもんな。一応は納得。

 

「お前は神崎と戦ったのか?」

 

「僕は戦ってないよ。いやー、想像するだけで末恐ろしい」

 

のらりくらりと言うが、実際戦ったらどうなるのか………。

 

 

 

 

 

 

……………ん?そういえば、遠山が見当たらない。それもそうか。ここには来てないだろうな。

 

 

 

 

 

 

「うわああ!」「ほぎゃあ!」「ぶへらっ!」

 

そうこうしている内に神崎が戦っていた3人を吹っ飛ばした。

 

その身体からどこにそんな力があるの?吹っ飛ばされた奴らはそこそこの体格だよ?

 

神崎はスカートをパンパン叩きながら、こっちを見てくる。

 

あ、ヤベ。普段なら気付かれないが、今は隣に不知火がいる。こいつのイケメンオーラで俺のステルスの効果が低くなった。

 

こっちに近付いてきた。俺と神崎、互いの距離はおよそ1m。

 

こうして見ると………本当に小さいな。150cmもないな。貧乳だし。あ、それはレキもか。

 

 

 

 

 

 

神崎が口を開く。

 

「あんた見ない顔ね」

 

…………スゲェ、アニメ声。

 

「事情があって3学期は休んでたんだよ」

 

ジーっと俺を見上げる。

 

「そう。にしても、あんた目が腐ってるわね。病気?」

 

「うるさい。お前は高1なのか?随分小さいけど」

 

「うっ、うるさい!どうせ万年142cmだよーだ!」

 

赤面しながら叫ぶ神崎。憐れむ目で見る俺。

 

うわっ。マジで150cmないのか。可哀想に。

 

そして、話していてわかったが、緋色の研究の通りな性格だな。

……まあ、チビの理由としては緋緋色金の不老不死のせいだけど。

 

「ところで、あんた名前は?」

 

「比企谷八幡。そして、俺と関わるな」

 

「わかったわ。八幡って呼ぶから。私は神崎…アリア。アリアって呼びなさい」

 

そう言いながらも俺から離れない。

 

おい、会話のキャッチボールしようぜ?

 

「何がわかっただよ…………」

 

「あ、そうだわ。八幡。せっかくだし私と戦いなさい。ルールは……そうね、銃とナイフなしでのCQCで」

 

「人の話聞いてる?」

 

何がせっかくだよ。意味わからんぞ。

 

人の話はちゃんと聞きましょうって親から習わなかった?ホームズ家の…貴族さん。

 

「はい!ちゃっちゃと動く!」

 

本当、聞いてますー?

 

 

 

 

 

ほとんどの生徒が端に固まり、中央には俺と神崎がいる。かなり注目されている。

不知火はニコニコ俺を見ているし。殴るぞ。

 

「面白いやないかー!やれやれ!」

 

缶を片手に酒臭い蘭豹から激励?の言葉を貰う。

授業中に酒飲むな。それでも教師か?

 

「いいじゃないか。初対面の者同士が拳をぶつけ合う。熱い展開ではないか」

 

シュッシュッ、とシャドーボクシングをする平塚先生。

あんたはもうちょい大人になれ。いつまで少年の気持ちでいるつもりか?いい加減年を考えてくれ。

 

「比企谷?」

 

「はいっ!すいません」

 

先生の笑顔…………怖い。なんで考えたことがわかった?

エスパー持ちなの?

それとも自分がお年だということを自覚しているの?

 

「比企谷。何なら今ここで私とやるか?」

 

「いえ滅相もありません」

 

絶対戦いたくねーよ。誰が好き好んで熊を素手で倒せる人とやらなきゃいけないんだよ。

 

 

 

 

「それじゃ始めるわよ」

 

神崎が手をグッパグッパする。

 

意識を切り替えよう。今俺がすることは如何にダメージを最小限に抑える、そして、目立たずに戦うかどうかだ。

 

………よしっ。避けに徹しよう。

 

「始め!」

 

蘭豹の怒声と共に神崎が動き出した。

 

 

ビュンと空を切る音がする。

 

右足のローキックが俺のみぞおちを捉えるように打ち出される。

 

「ちっ」

 

俺は体を捻りながら、その右足首を右手で掴む。

 

それを瞬時に確認すると、神崎は左足も俺の右手に絡めようとする。

 

神崎が繰り出した技は空中版の腕ひしぎというのが後でわかった。

 

 

俺は直感で、

 

 

――ヤバイ!関節を極めにっ!

 

 

そう判断する。

 

俺は神崎の両足が右腕に絡み付いた瞬間――ブワッと俺の目の前に長いツインテールの片っ方が来た。それを左手で引っ張る。

 

「いだっ!いだだ!くっ……この」

 

涙目で神崎は両足を外し、着地する。

 

「痛いじゃないのよ!この私の髪を引っ張るだなんて」

 

「いや、お前武偵だろ。そんなので文句言うなよ」

 

ひどい八つ当たりを見た。

 

「それより、神崎って組み技主体なのか?」

 

右手をスナップする俺。

 

ふー。ちゃんと動くな。そこまで痛みもない。

あぶねーな。もうすぐで右腕使い物にならないところだった。

 

「アリアでいいわよ。……私はバリツ!何でもありよ!」

 

バリツ?ああ、シャーロックの格闘技か。

 

 

 

「ふぅーー」

 

「はぁーー」

 

俺と神崎は同時に呼吸を整える。

 

「行くわよ!」

 

今度はノーモーションからのドロップキックを放ってくる。

 

「くっ!」

 

両腕をクロスし、ブロックする。

ドゴッ!と鈍い音がする。ギリギリ衝撃を受け流せた。

 

とはいえ、とんでもない威力だ。4mほど後方に下がる。

 

その体格でここまでの威力が出るのかよ。確かにこいつは規格外だ。

 

「いってーー」

 

 

 

今さらだが、俺……レキから受けたキズ、まだ治ってないんだよね。いくら午前中休んでたとしても、肩や足痛い。

 

でも、それは実践では言い訳にはならない。……本当に嫌な世界だな、武偵ってのは。

 

 

「やるわね。…なら」

 

神崎が俺に向かってダッシュしてきた。

 

「――っ!?」

 

すると、俺の視界から神埼が消える。その直前、ダッ!と何かを蹴る音がした。

 

「こっちよ!」

 

後ろから声が聞こえたと思ったら、スゴい勢いで地面を転がる俺。

 

「がっ!」

 

背中が痛い。どのくらい痛いというと、拳銃で撃たれた時と同じくらいの痛みだ。

 

跳躍して、俺の真上を飛び越えたのか………。デタラメだな。

 

目立たずに戦おうとしたが、こいつに1発お返ししないと気が済まない。

 

――ああ、俺も武偵の世界に染まってきたな。

 

 

俺はゆっくり立ち上がる。

 

神崎は俺を待ってくれていたのか。優しいのか怖いのかよくわからん。

 

……マジで痛いな。

 

と、背中を擦る。

 

「あんた、この程度なの?」

 

「うるせーな。SランクがBランクを圧倒するのは当然っちゃ当然だろ」

 

俺は息を吐く。

 

軽く殺気を出す。

 

 

 

 

 

「…………安心しろ。ここからは俺も真面目にやる」

 

その言葉を聞き、神崎の目付きはさっきまでとは違い、さらに真剣になる。そして、1歩後ずさる。

 

周りの観客も俺の雰囲気が変わったことを感じたのか、今までやかましかったが、蘭豹含め黙る。

 

………別に神崎に勝とうだなんて思ってないからな。

 

 

 

2人同時に走り出す。

 

先手は神崎アリア。

 

神崎のパンチが俺の胸を狙う。

 

胸にぶつかる寸前の神崎の手を左手で掴み、引っ張る。こっちに引き寄せる。

 

その勢いで、神崎の顎にめがけて掌底を放つ。

 

羅刹ではないが、そこそこの威力を誇る掌底を。

 

今、俺にできる精一杯のカウンター。

 

「ちっ!」

 

顔を傾け、すれすれで避ける。……………俺の手を見ながらだ。

 

2人の距離は1mもない。

 

神崎には俺の手しか映ってないはず。だから、下から攻撃を仕掛ける。

 

ならば、カウンターのカウンターを。

 

膝で思いっきり神崎の腹を蹴る。俺が手を掴んでる間、連続で蹴る。   

 

5発蹴ったあと、神崎の手を離し、反撃を食らわないように下がる。

 

だが、神崎は痛みなんて気にしないと言わんばかりに突っ込んでくる。

 

 

 

が、ここで、

 

 

――――キーンコーン………!

 

 

 

終わりを告げるチャイムが鳴る。

 

 

それを聞くと、俺も神崎もピタッと動きを止める。

 

「……八幡。さっきの言葉取り消すわ。中々強いじゃない。でも、言っとくけど、あれが私の本気じゃないからね!」

 

何その負け惜しみみたいな言葉。つーか、俺の方が攻撃食らったんだけどな。総合的だと俺の負けだろ。

 

「私が本気出したら、あんたなんて一瞬で倒しちゃうからね」

 

まだ言うか…………。

 

今回は拳銃、刀剣なしで戦った。全部ありなら、どうなっていたか、わからない……というより、絶対勝てないぞ俺は。

 

 

――双剣双銃のアリア。

 

後々調べたら、この年にて、2つ名を持っている。そんな化け物に勝てるわけねー。

 

 

「やあ、比企谷君。お疲れ様」

 

体育館から出ると、不知火がいた。

 

「あいつ強すぎない?」

 

「いやいや、あの神崎さんに5発も攻撃を与えれた比企谷君もスゴいよ」

 

「あっそ……」

 

「そういえば、明日。武偵ランク考査だけど…………。大丈夫?」

 

 

 

 

 

 

マジで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――翌日の放課後。

 

結果は現状維持。変わらずランクはBでした。

 

これでも頑張ったんだよ?

いくらアホの学校とはいえ、全然勉強してなかったから、テストボロボロだった。まぁ、何とか実技で取り戻せた。

 

遠山は来なかったから、Eランクになった。

 

別に何にも言わない。遠山が決めた道だし。

 

 

 

 

 

放課後の帰り道。俺はレキと歩いていた。

 

レキは変わらずランクの変動なし。

 

「なあ、レキ」

 

「何ですか?」

 

「神崎アリアって知ってるか?」

 

「………知っています。アリアさんがどうしました?」

 

うっわ、機嫌悪そうな声だな。

 

「その神崎アリアなんだが。緋色の研究に書いてあった性格、容姿、現れる時期、全部当てはまるんだが。…………あいつが、緋緋色金、緋弾の継承者だと思うか?」  

 

「そうですよ」

 

あっさり肯定してきたな。

 

「前に言っていた色金関連でしなければならないことって、神崎と関係あるのか?」

 

「はい。緋緋色金は人の恋心と闘争心に魅入られている。私は緋緋神の出現を防ぐ役割があります」

 

「ようするに……神崎に戦いと恋をさせないってことか?」

 

うなずくレキ。

 

「はい。ですが、戦いの方は恐らく問題はありません。武偵法9条を破るほどの戦いでなければ大丈夫のはずです」

 

人を殺さない限りは安心か。

 

「じゃあ、問題は……恋心か?」

 

「はい」

 

「まだ、神崎は恋をしてないよな?」

 

「はい」

 

「なら……いっか」

 

いや、全く良くないけど。問題が先送りされただけだけど。

 

「八幡さん」

 

「何だ?」

 

「昨日、超能力を使いましたよね?」

 

「ああ……」

 

俺の命を守る為にな!

 

「使ったこと、今までありませんでしたよね?」

 

「だな」

 

「教わったのですか?」

 

「ああ」

 

そこで周りの気温が下がった……ように感じた。

 

「誰から教わったのですか?」 

 

レキの目が据わる。

 

「そりゃお前………知っての通りイ・ウーで習ったんだよ」

 

さらにレキの目から光がなくなる。

 

………こえーよ。嘘を言ったらダメ?

 

「誰、からですか?」

 

誰を強調して言う。

 

「だ、誰だっていいだろ。俺の師匠から教わった」

 

昨日、レキから撃たれていた時より冷や汗が流れる。

 

何この浮気を問い詰められている感。

 

「その師匠のお名前は?」

 

これは逃げられんパターンだ。

 

「セーラ・フッド」

 

「女性ですか?」

 

「……………はい、そうです」

 

「そうですか。その人は美人ですか?」

 

「客観的に見れば可愛いと思います、はい」

 

「主観的には?」

 

「……………黙秘k」

 

「八幡さん?」

 

こえーよ。ホントこえーよ。

 

「はい、可愛いです」

 

答えると、レキがスカートから携帯を取り出す。

 

少し、操作すると、俺に見せてくる。

 

「これを見てください」

 

画面を除き込む。

 

そこには…………

 

俺とセーラが2人で歩いている写真。

倒れている俺の上にジャンヌが覆い被さっている写真。

いつ撮られたかわからない俺と理子のツーショット写真。

その他もろもろ………………。

 

「……………ソースは誰だ?」

 

「理子さんです」

 

――――オレァクサムヲムッコロス!!

 

いや、あいつマジふざけんなよ!!

 

つーか、イ・ウーの面子の写真、何レキに見せてんだよ!

……ということはウルス族とイ・ウーはどこか繋がりがあるということか。

 

「八幡さん」

 

その声はいつもと同じくらいのトーン。だが、それが怖い。

 

「私と八幡さんで、お話……しましょうか?」

 

レキの剣幕が今までで1番くらいの迫力でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Catch the Moment のPV見ました?かっこよすぎないですか?


あ、活動報告を見てください。


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第45話

Mステ見たかった………


「何でいるの?」

 

「…………」

 

 

 

 

俺は船橋市にあるララポートに来ていた。

 

1年の3学期も終わり、もう春休み。

 

最初の方に単位を取りまくったこともあり、無事に2年進級となった。そもそも、あともうちょっとで卒業分の単位貯まるんだけどな。

 

 

 

 

そこで、部屋でゴロゴロしていた俺だが、暇だし、そうだ!千葉に行こう!と思った。

 

最近愛しの千葉に行く機会がなかったしな。ぶらつきながらMAXコーヒーを飲める。…………いいじゃん。

 

武偵高の制服は着ずに、俺はジーンズに黒のパーカーという、何の捻りもない服装である。………念の為にファイブセブンを持参。

 

電車を乗り継ぎ、やって来たのはいいんだ。

 

今回は独り旅のつもりだった。久しぶりに独りでぶらぶらしたかった。

 

したかった。……のだが、入り口にポツンと立っている人物。

 

言わなくてもわかるだろう…………レキだ。

 

 

 

 

 

「何でいるの?」

 

「…………」

 

無反応。なんだ、ただの屍か。

 

「ハァー。……じゃあな」

 

返事もないし、俺に用事はないのだろう。さっさと去るに限る。

えーっと、さて、先ずはどこに行こうかなーー………………、

 

「……放せよ」

 

後ろを向かず言う。

 

少し歩いたら襟を掴まれた。

 

「……………」

 

「何か言って?」

 

無言のまま襟を掴むのは勘弁してください。

 

周り見て。色んな人がこっちを訝しむ視線で見てくるから。

ただでさえ、レキの髪の色とか、俺の目のせいで目立つんだから。………あとレキ可愛いし。

 

これ、どうすれば正解なの?

 

「レキさーん」 

 

「…………」

 

「ねえ、レキさーん?」

 

「………………」  

 

返事がない。かと思いきや、襟から手を放し、俺の手を握ってくる。

 

「ちょ」  

 

そのままツカツカと歩く。抵抗せずについていくことにする。

 

――何を考えているのか?

 

やはりレキは表情をあまり出さないからわからん。逆に理子みたいに笑ったらそれはそれで怖いが。

 

 

 

 

 

無言のままお互い座る。いつものサイゼである。時間もあと1時間でお昼頃。……人も少なく丁度いい。

 

あと、お互い無言だったせいで店員オドオドしていたよ?少しは気を使おうよ?俺も黙ってたけど。

 

ちなみにレキの服装は、この前買った桃色のワンピースに、水色のジャケット。……と、まあ、一言で表すと可愛い。

 

レキはメニューに指を指して、注文を済ます。俺はドリアを頼む。

 

「八幡さん」

 

待っている間、やっと口を開く。

 

「何だ?」

 

「今からデートしましょう」

 

「……………………」

 

今度は俺が黙る番みたいだ。

 

しばし、間が空く。

 

「デートってあれか。date。日付のことか」

 

「違います」

 

「じゃあ、あれだろ?デートって書いて伊達って読むんだろ?戦うお医者さん」

 

リアルタイムで見ていて、「後藤さんが変身するんだろ?」って思ってたら、「誰やこのおっさん!」と突っ込んだ覚えがある。

 

だって、映画では後藤さんが変身してたんだよ?伊達さんより早く。あ、信長除いて。

 

伊達さん渋くてかっこいいよね。 

 

…………あ、今はレッツゲーム!か。戦うお医者さんは。

あれも面白い。だが、1つ聞きたい。HPゲージの概念どこに行った?

吹っ飛ばされる度にガシャットが抜けているよね?

 

 

等と、頭で今はどうでもいい妄想を繰り広げる。いや、現実逃避だなこれは。

 

「八幡さんの言っている意味がわかりません」

 

うーん、やっぱり知らないかー。面白いんだけどなー。

 

1つのドラマとしても好きだったなー。最後の変身にはマジで泣いた。

 

好きなのにほとんど見ない奴らにバカにされた時ほどムカついたことはない。………○石、お前は許さん。

 

あ、録画していたHDDぶっ壊れて最終回のデータ消えたなーー。

 

………その話は関係ないな。

 

 

話を戻すか。

 

「それで、レキの言うデートとは?」

 

もう答えはわかりきってるんだけどね?

 

「私の言うデートとは、男性と女性で時間を定めてどこか外へ出掛けることです」

 

「ちょっと待とうか。その理屈だと俺ら時間合わせてなくね?」

 

「では、今からこの場で待ち合わせ、ということでいかがでしょう?」

 

ちょーー屁理屈だな。

 

「八幡さん」

 

「何だ?」

 

「私のこと、好きなんですよね?」

 

……………その話、蒸し返さないで。かなり部屋で悶えて、調子の良くない遠山に心配されたんだから。

 

でも、俺の返事は、

 

「はい…………好きです」

 

小声でボソッと呟く。

 

――は、恥ずかしい!!

 

「でしたら、私のお願い聞いてくれますか?」

 

顔を赤くして、首を軽く傾げ、尋ねるレキ。

 

それは反則やで、レキさん。誰でもオーケーしてしまう破壊力はあると自覚しましょう。

 

まぁ、仕方ない。独りで廻るのは、また別の機会にするか。

 

「飯食ったら、どこか行こうか」

 

「はい」

 

 

 

レキはハヤシライス。俺はドリアを食べている。

 

「そういや、レキ。何で俺の場所がわかった?」

 

これを聞きたくてなぜか遠回りをした。

 

「八幡さんの場所なら、わかりますよ?」

 

「お、おぉ……」

 

何を当然な、みたいな表情するなよ。怖いよ。

 

あ、それと未来予知できるの?俺限定で?

……普通の男なら嬉しいだろうが、相手はレキだ。素直に怖い。

 

 

「八幡さん」

 

レキが、スッとスプーンを差し出す。

そこにはハヤシライスの一部が乗っている。

 

「あーん、です」

 

不意にそんなことを言ってくる。

 

「………は?」

 

いやホント不意に。

 

「だから、あーん、です」

 

「どうして急に?」

 

「調べたところ、デートではこうする……と」

 

「へ、へー」

 

「では、あーん、です」

 

こういうのって、ファミレスじゃなくて、もっとオッサレーな店でやるもんじゃないの?

 

でも断れないこの雰囲気。断ったら何が起こるか、俺にはわかんない。

 

「おう。……あーん」

 

「どうです?」

 

「ふ、普通に美味いぞ」

 

何回も食べてる味だし。

 

レキはそのまま俺が口を付けたスプーンで食べるのを再開する。

 

「……………」

 

もう気にしない。無心だ、無心。

 

 

 

 

少し会話があるだけで、俺たちの飯の時間は終わった。

 

会計する時、同じ店員さんに一言お辞儀して去った。さっきはすいません。

 

「八幡さん」

 

レキが俺に手を差し出してくる。俺はチョキを出す。

 

「八幡さん?」

 

「いや、何?」

 

声色変えるな。お願いだから。

 

「手を繋ぎましょう」

 

「それも調べたと?」

 

「はい」

 

俺は学習した。これは断れないと。

 

「はいよ」

 

レキと手を繋ぐ。

 

肌寒いこの季節、人の体温がほんのり暖かい。

 

「「……………」」

 

俺もレキも少し顔を赤らめ、また無言になる。

 

 

 

 

「さあ、どこ行く?」

 

3分くらいで再起動した俺はレキに言う。

 

「八幡さんに任せます」

 

レキから誘っといてこれか。

 

……いや、これがレキの普通だ。レキが綿密に計画を立ててきたら、俺は病院に連れて行くぞ。

 

「ゲーセン行くか」

 

「ゲーセン、ですか?」

 

「ゲームセンターの略。色んなタイプのゲームがある」

 

歩きながら色々と説明した。

 

 

そして、ゲーセンに着いた。

 

さて、レキにもできそうなゲームは。

 

「これ、やるか」

 

向かった先はUFOキャッチャー。

 

「ルールは……」

 

「理解しました。他の人の動きを見ました。あのアームで景品を取ればいいのですね?」

 

さすがの理解力。

 

「そうだ。ほい、金」

 

とりあえず100円を渡す。適当にぬいぐるみが景品のUFOキャッチャーに並ぶ。

 

スゴい複雑な場所にあるから1回では無理だろう。こういうのは何回かやって、ずらしながら取るもんだ。

 

と、思っている間に、

 

「こうですか?」

 

もうレキは、熊のぬいぐるみを抱えていた。

 

「スゲェな」

 

1発で取れたのか……。Sランクの力はこんなゲーセンでも発揮されるの?俺なんか平均して7回はかかるのに。

 

「それ、どうする?」 

 

部屋に置くにしても、こいつの部屋は何もない。レキの銃、ドラグノフの整備道具ぐらいしかない。

ぬいぐるみだと、埃が舞い散る。それだと整備の邪魔になるのではないか?

 

「持っておいて下さい」

 

それは妥当な判断だと思う。でも、俺の都合を考えてほしい。

男が女の子が持ってそうな、ぬいぐるみを持っていたら恥ずかしいんだよ。

 

「まあ、他に選択肢ないわな」

 

数回UFOキャッチャーした。俺が1個取るとレキは8個取っていた。

 

ゲーセン歴は俺が長いのに………悔しい。

 

レキに勝てそうなゲームは………。シューティングゲームは止めよう。遊びで銃を握りたくないし、射撃で勝てる気がしない。どんな銃でも撃てそうな感じがする。

 

「…………お、これなら」

 

俺が目を付けたのは、パンチ力を競うゲーム……じゃなくて、レースゲーム。

 

ゲーム自体はやったことはないけど、車を乗ったことはある。武偵高でな。それにレキは初心者だろう。

 

UFOキャッチャーでは悔しい思いしたし、勝ちに行くぜ。……何この大人気なさ。

 

「レキ、あれやるか?」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

結果は3回勝負して、俺が2回勝って、1回負けた。

 

「…………なぜだ。全勝するつもりだったのに」

 

どちらも初心者。でも俺には運転の経験がある。このアドバンテージで、なぜ全勝できない。しかも、最後はかなりの差で負けた。

 

このレースゲームはよくあるアイテムで妨害できたりするゲーム。つまり、マ○カだ。DSではやったことあるから勝てると思ったのに……。

 

そういえば、レキが出したアイテムは、ほとんど加速系だった。

 

「まさか、乱数調整を?」

 

さすがに目押しはこのゲームはできない。できたら俺がやる。

 

もう、この子チートすぎない?

 

「最初はボロボロだったよな?一体どうして?」

 

俺の呟きにレキは反応する。

 

「最初は操作があまりわかりませんでした。2戦目になり、ある程度理解しました。今回、全て同じコースだったので、最後に加速を使い、常に最短距離を走りました」

 

なるほど。………何で加速系のアイテムばっか出たのかが謎だが。レキのluckか。納得いかない。

それに3回目で、常に最短を走れるテクニックよ。

 

 

 

 

 

 

その後、色々遊んだ。

対戦系のゲームは止めたけど。……プリクラ?何それ美味しいの? 

レキはデートについて調べたと言っていたが、プリクラは知らなかったようだな。

 

俺が疲れたから、休憩しようと持ち出し、どこか休める場所を探している。

 

そこで、見つけたのは、アイスの31だ。

 

「並んでるなぁ………」

 

もう世間では春休みに突入している。学生や家族連れが多い。まあ、混んでる。

 

「レキ、食うか?」

 

レキは、こくっ。と頷く。

 

こいつは狙撃手、待つのには慣れているか。

 

待つこと7分。レキはミント、俺はバニラを買い、近くにあったベンチに腰かける。

 

「甘い……」

 

ちょっと肌寒い時期に食べるアイスも美味しい。

 

レキはレキで、食べる間隔が0に等しい位の速度で食べている。頭キーンとかならないのか?

 

その時――――俺に影が覆い被さる。

 

 

 

「あれ?比企谷じゃん」

 

甲高い声が、俺の鼓膜に響く。

 

この声、よく聞いたことがある。

 

ゆっくり、気だるそうに顔を上げる。

 

「久しぶりだな、折本」

 

 

折本かおり。

俺の中学の同級生。

俺の早とちり、勘違いで告白した相手。

翌日には笑い者にされてた。昔でも、今でも構いやしないが。

 

 

「うっわ。チョーなついじゃん!比企谷高校どこなの?えっ、それよりこの子誰なの?比企谷の彼女?」

 

「八幡さん。この人は?」

 

折本はうるさいし、レキは怖いし。

 

ちなみに、折本、俺、レキの順番で座っている。息苦しい。

 

「まず、レキ。こいつは折本かおり。中学での同級生」

 

「よろしくね。えーっと……レキさん。あ、そうそう。私、比企谷に告白されたことあるよー」

 

「「………………」」

 

おい、穏便に済ませようと思っている矢先に爆弾ぶちこむな!

 

「……そうなんですか」

 

低い声出すな。殺気を仕舞え。

 

「振られた!俺、振られたから」

 

弁明する俺。レキの殺気は収まる。

 

「ねぇ、比企谷。レキさんってもしかして、彼女?」

 

くっ、今度はそっちか。

 

「返事待ち」

 

まだ正確には、返事をもらってないし。

 

「てことは、告白したの!?」

 

折本は驚いた表情をする。

 

「……あぁ。俺はレキが好きだ…………」

 

もうやだ……死にたい。今日で2回目だよ………。語尾の方、声出てないし。

 

「へーー。そうなんだ」

 

意外そうな声な折本。

 

「折本は今日1人なのか?」

 

「えっ。……う、うん。今日は1人で買い物」

 

こうなったら、話の話題を無理矢理逸らすぞ。

 

「それで、比企谷さ。高校どこなの?どこに転校したか知らないだよねー」

 

………武偵なんて世間から評判悪い。中学生や高校生が簡単に銃を持てる職業。

うーん、武偵と言っても大丈夫か?折本に。まぁ、いっか。言いふらすことはできなさそうだし、中学の知り合いほとんどいないから。

 

「俺の高校は、レキと同じ――――――」

 

俺の言葉が途切れる。なぜなら、

 

 

 

「ひったくりよーー!!」

 

 

そう叫ぶ声が聞こえた。

 

金持ちそうなおばさんのバッグを持ち、ガキ大将の大人バージョンみたいな男がナイフを片手にこっちに走ってきた。 

 

「レキ、折本連れて離れろ」

 

「わかりました。折本さん、こっちです」

 

レキはすぐに行動に移す。

 

「ちょっ。比企谷?」

 

「ああ、そうだ、折本。さっきの質問に答える。俺は……俺たちは―――武偵だ」

 

ひったくりの方に向く。

 

「ど、どけーー!」

 

ナイフを刺すように、真っ直ぐ突っ込んでくる。

 

「バカが」

 

互いの戦力の差を見抜けないとは。

 

ナイフは俺の胸を狙っている。このままだと綺麗に刺さるだろう。

 

しかし、刺さる直前に俺は、

 

「フッ!」

 

カウンターの回し蹴りをひったくり犯の頬に叩き込んだ。

………こっそり烈風で威力をブーストして。

 

「うがあっ!」

 

ひったくり犯は横に吹っ飛ぶ。

 

うーむ。ここで人指し指を空に掲げたいところだ。

 

「あ、ノビてる」

 

……弱っ。

 

 

 

 

 

 

 

その後、ひったくり犯を警察に引き渡し、諸々手続きをしてもう夕方。

 

俺とレキ、折本は駅の改札前にいる。

 

「比企谷。スゴいね。中学の時とは全然違う。スゴいウケる」

 

「ウケねーよ」  

 

「……それと、ゴメンね」

 

「えっ、何が?」

 

「告白された翌日。その、笑い者にして」

 

「気にすんな」

 

あれは俺の勘違いが起こした行動だ。ただ俺がアホだっただけだ。折本は悪くない。

あれがなくても、俺の立ち位置は良くはならなかった。多少酷くなっただけ。

 

「そう………」

 

「八幡さん、笑い者にされたんですか?」

 

折本が呟くと同時にレキが尋ねる。

 

「まあな」

 

「…………」

 

アレ?それだけ?他に感想ないの?無反応は困る…………。あ、レキの基本は無反応でしたね。

 

駅の近くのバス停にバスが来た。

 

「あ……、じゃあ、私これで」

 

折本がバスの方に向かう。

 

俺は息を吸い込む。

 

「折本、またな」

 

「折本さん。また、お会いしましょう」

 

レキと挨拶が被る。

 

「う、うん。比企谷にレキさん、またね」

 

俺とレキの挨拶に戸惑ったのか、少し詰まったが、折本も返事をしてくれた。

 

折本を見送り、体はかなりの疲労感を覚える。

 

「俺らも帰るか」

 

「はい」

 

ぬいぐるみの袋を両手で持ち直す。レキ、取りすぎだって。10個も俺の部屋に飾るの?大きさほとんど20cm以上だよ?

 

「ところで八幡さん」

 

「何だ?」

 

「八幡さんの中学の頃の写真はありますか?」

 

俺の黒歴史の写真を見たいと申すか?

 

「残念だったな。集合写真以外ない!」

 

ここに小町がいたら、「そこは胸を張るところじゃないでしょ………」と突っ込みが入るセリフを言う。

 

「そうですか」

 

そこはレキ。この一言で済ます。

 

「なら、八幡さんのお宅にお邪魔して、アルバムでも見ましょうか。小町さんに頼んだら引き受けてくれるでしょう」

 

「絶対止めろよ」

 

小町ならやりかねんから。つーか、それ以前にレキが俺んち入ってきたら、両親の反応が恐ろしいから。

 

「冗談です」

 

「冗談に聞こえねーよ」

 

 

 

「では、行きましょうか」

 

レキが俺から2つある袋の内1つを取る。そして、手を差し出してくる。

 

つまり、あれか。

 

「手、繋ぐか」 

 

「はい」

 

心なしか、レキの声はいつもより弾んでるように聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




砂糖回を書きたかったのに……何か折本登場したw


明日は大阪のLiSAっ子祭。とても楽しみです。

神戸のライブも当たってウハウハ。………勉強はちゃんとしますよ。


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第46話

剣king formの真骨頂発売早くしてほしい


春休み、3月末。

 

「ヨシッ。終わりや。帰ってええで」

 

「お疲れ様、比企谷君」

 

「ありがとうございましたー」

 

俺、比企谷八幡は蘭豹と高天原先生に挨拶を済ます。補習、終わりました。

 

単位は揃っているが、3学期丸々休んだせいで、課題がたくさん溜まっていた。どれもこれも簡単な問題ばかりだったが、いかんせん量が多い。

 

他にも、強襲科の実技等全部やり終えて、時間はもう夕方に差し掛かっていた。

 

「くっそ。せっかくの春休みなのに………」

 

 

 

 

ふと、校門のところで立ち止まる。

このまま部屋に帰ろうかと思ったが、

 

「そういえば、これボロボロだな」

 

腰の裏側にある鞘から、コンバットナイフを取り出し、空に掲げる。

 

イ・ウーで、ジャンヌとかなり模擬戦をして、刃がもう欠けていてる。研いでも持たないだろう。

 

つーか、何回も研いだんだけど、ジャンヌの剣の切れ味良すぎるんだよ。

 

1年間使用して、そろそろこいつも買い換え時だ。

 

「そうだ」

 

どうせ、あいつは装備科籠っているはずだ。何かを弄ることしかしないしな。

 

あいつに相談してみよう。良い商品が揃っているかも。予算は……5万か。何とかなるはず。

 

 

そして、やって来ました装備科の工房。

 

工房の隅っこに目的の人物がいた。

 

「材木座」

 

「おお!八幡。久しいな」

 

「だな」

 

メール寄越してきたけど、基本は無視してたしなー。

平賀さんに売り上げ勝てないとか、リア充滅びろとか、どうでもいい話だったし。真面目な話には付き合ったが。

 

「急に訪れて何か用か?」

 

「じゃなきゃ、こんな機械臭いところ来ねーよ」

 

「それは辛辣な。………で、用とは?」

 

「ああ、そうだ」

 

俺はナイフを見せる。  

 

「むむっ。大分刃こぼれで痛んでおるな。これは使い物にはならないでだろう」

 

材木座は即座に鑑定する。

 

だよなー。さすが材木座、わかってる。

 

「それでた。このくらいのサイズで、お勧めなナイフあるか?」

 

「それならば、こっちからも質問しよう。八幡は斬る、それとも刺す。どちらを重視したい?」

 

それは……大して考えてなかったな。

 

「どっちかと言うと、斬る、だな」

 

そっちの方が実用性高いと思うし。

 

「なら、銀紙1号はどうだろうか?」

 

「銀紙1号?」

 

「この鋼材は、カーボン系の高炭素鋼にクロームを含有させた新しい鋼材だ。しかも、ステンレス系刃物鋼では、サビにくく切れ味も安定しているのである」

 

どや顔で説明しているが、何言ってるかさっぱりわからん…………。だけど、使いやすそうだな。それはわかる。

 

「お前のお勧めだし、それにしてみる。あ、価格はどのくらいだ?」

 

「なるべく品質は良い物を仕入れたいのでな…………。そうだな、2万は用意しといてくれ。3日後には連絡する」

 

2万か、許容範囲だ。

 

「助かる」

 

「気にするな!我と八幡の仲であろう!」

 

「そんな仲になったつもりはない」

 

「なぬっ!?」

 

「…………まあ、頼りにしているぜ」

 

「任せろ!我の名を懸けるぞ!」

 

説得力が高い言葉だな。それだけは信用できるのが、装備科の材木座だ。

逆に平賀さんは色々と怖いんだよなぁ。どんな不備があるかとビクビクするし、と、遠山が言っていた。

 

 

 

後、10日ほどで2年が始まる。それまでに適当に任務受けて、こづかい稼ぎでもするか。

 

教務科の掲示板を見る。

 

「これにするか」

 

 

武器の密輸の調査。

 

東京湾のコンテナが集まっている場所に拳銃等の武器が密輸されているらしい。

1回、警察は調べて、見つからなかった。警察は確かではない情報に、そこまで手が回せない。 

だから、武偵に調べてほしい。

 

という内容。

 

報酬額は15万。

推奨ランクはB以上。

人数は自由とする。

合計で5.2単位

 

日付は始業式の1日前。

 

…………これは独りでやるか。報酬独り占めできるしね!

 

 

 

 

 

「あ、八幡」

 

今度はお前か、留美。

 

教務科から出たところで、留美と出くわした。

 

「今までどこ行ってたの?」

 

ムッとした表情で言い寄ってくる。

 

「ちょっと海外にな」

 

嘘は言ってない。実際は海だけだけど。

 

「……もうアミカ終わったんだけど………」

 

「それは………ま、ごめんな」

 

「申し込んだ時期が遅れていたから、別に」

 

「そういえば、もう同じ人とはアミカになれないけど、次もアミカ取るのか?」

 

留美は横に首を振る。

 

「ううん。私のアミカは八幡だけ。取るつもりはない」

 

何か、嬉しい………。

 

「だから、これからも色々教えてね?」

 

「暇ならな」

 

「それは心配ない。八幡はいつも暇」

 

「おい、俺、武偵だからな?いつも暇とは言ってられないからな?」

 

「じゃあねー」

 

言いたいことを言い終わると、留美はそそくさと帰っていった。

 

「話聞けよ………」

 

留美、お前は変わらないな。ふてぶてしい態度といい。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

16000円で、銀紙1号のナイフを買い、迎えた始業式前日。任務の日。

 

そういえば、レキは俺が依頼を教務科に行った日に一旦故郷に帰るって言ってたな。モンゴルだっけか。………そこに色金があるんだな。

 

 

 

 

俺は、一応全武装して、午前9時、東京湾に来た。この格好で電車乗るのスッゲー恥ずかしかった。

だって、黒のコートにス黒のズボンの格好だよ?どこのコスプレなのか……。制服にしとけば良かった………。

 

係員や職員とかに説明を受けて、そこらにあるコンテナを調べることになった。………その数150!

 

どうやら、噂がある場所はその辺りとのことだ。 

 

150も1人で調べるの?バカなの?

 

誰か連れてこれば良かった。ん?一体誰をだ?………………あ、いないわ。

 

 

 

「お願いしますね」

 

職員からの説明が終わり、コンテナのマスターキーを貰う。

 

「うっす。……中にある物は確認して大丈夫なんすよね?」

 

「はい、勿論です。私たちは仕事がありますので、これで」

 

ここにいる人たちは去っていった。

 

まあ、見つからなくても、報酬は貰えるし、気楽にするか。

 

 

 

 

 

――――3時間後。

 

「疲れた………」

 

今、現場から支給された弁当を食べている。

 

コンテナに入っては出てを繰り返し、中にある物全部調べて、終わったら、もう昼だ。

 

にしても、全然なかったな。火薬の匂いも拳銃の部品らしき物もさっぱりだった。

 

 

――わざわざ拳銃を密輸しなくても、普通に拳銃とか日本で買えるんだけどな。

 

 

………自分で思ったけど、今の俺は中学の俺からしたら想像もしなかっただろうな。

当たり前のように銃を扱う俺は。

 

それと、日本に武偵という制度が導入されてから、銃刀法違反の取り締まりがさらに厳しくなった。

なぜなら、このようなケースが増えてしまうから。今まで以上に。と、習った。

 

「だったら、やるしかないか」

 

気だるげに呟く。

 

俺は弁当を食べ終え、作業を再開する。

 

「とは言うものの、どこにあるのか?」

 

 

 

――そもそもの話、どこからその情報が流れた?

 

そのことを尋ねたら、ある人がコンテナの隅に落ちてあった1つのベレッタを見つけたことが事の発端。

でも、それ以上は見つからず、それから1ヶ月後、別のコンテナに銃弾が数発転がっていた。未使用の銃弾が。

そこで、警察ではなく、今回は何でも屋の武偵に頼もうという話になった。

 

 

 

 

一応は頼まれた範囲は全て調べた。もしかして、もう運ばれた後か?それとも、まだ探してない場所があるのか?もしくは、全く別の範囲にあるのか?

 

「1日で探すのキツいな……………」

 

もし、全部探すとなったら、あまりにも範囲が広すぎる。

 

 

 

 

とりあえず辺りを歩き回る。

 

コンテナの間の狭い通路もだ。

 

「アリとか出てこないよな………」

 

初めて見た時は強烈な印象を与えた、あのトラウマ。

顔面にブシャー!!

 

 

 

歩いている途中、俺は足を止める。そして、足下を見る。

 

「………ん?」

 

これは………マンホールだ。よく街中で見かけるごく普通のマンホール。

 

………まだ、下水道辺りは見てなかったな。

 

近くにいた作業員に声をかけて、マンホールをどかし、入る。

 

中は、電灯が点々と薄暗い場所を照らしている。そして、少し温かい。通信ケーブルとかがある下水道なのか?

両端に2mほどのコンクリートの足場がある。真ん中に水が幅4mくらいで流れている。その足場にはパイプもある。

 

 

 

耳を澄ましても…………水の音や機械音しかしないか。誰かの話し声は聞こえない。

 

コンクリートの足場を歩き回り、見渡す限りの非常口等、扉の中は調べ終えた。これといって収穫なし。

 

「ないなー」

 

俺が囁くと、中は軽く響く。

 

 

地上に戻ろうかと、元のマンホールの場所に行こうとする。

 

――その時、

 

カラーン―――チャリチャリ―――………………

 

何かが……これは金属?

………金属が落ちた音が響き渡った。そして、俺の耳に届いた。

 

音源まで、遠くない気がする。つーか、すぐそこだ。

だが、ここは1度来た場所だ。特に何もない。

 

「ならここかな?」

 

小声で呟く。

 

俺は、近くある非常口の扉をもう一度開ける。

 

ガチャと音をたてて、中に入る。

 

先ず、目に入るのは地上へと続く階段。階段の裏には何もなし。

そして、上の方に、人1人通れそうな排気口。通路沿いにある。高さはおおよそ3m上にある。

 

俺は、そこでよくゲームでありそうな展開を思い付いた。

 

―――そうだ。この中入るか。

 

俺は、何故この考えが出なかったのか。…………単にそこまで頭が働かなかっただけだな。

 

一旦、地上に戻り、脚立を貸してもらい、再びマンホールの中に入る。

 

元の場所に戻り、早速脚立を立てる。

 

 

排気口の格子は、ナイフで引っかけると、ガチャッと音がして、すぐに外せた。

 

スマホを取り出し、簡易ライトを点ける。中を照らしてみると、どこに繋がっているのか、分からない。が、風がそこそこの勢いで流れていることが分かる。それと5mほどで曲がり角がある。

 

 

広さは充分にあり、武装している状態でも四つん這いなら入れる。

 

俺は、匍匐前進しながら、ライトを頼りに進む。

 

拳銃やナイフ、スタンバトンが邪魔だな。上手く進まない。それに、なるべく音をたてずに進む為、速度はかなり落ちる。

帰ったら、練習しとくか。

 

5mほど進むと、曲がり角があるので、素直に曲がる。そのまま匍匐前進を続けること3m。出口に辿り着いた。

 

格子から、部屋を覗き込む。

 

明かりは点いてある。

高さは入った所からあまり変わらない。

人の姿は確認できない。声もしないし、今はいないだろう。

広さは………縦6m。横は8mぐらいか?

木箱が置いてある。蓋をしてあり、中身は分からない。数はえーっと………30かな?

積んである木箱もある。

そして、その近くには銃弾が数発、落ちてある。恐らくこれが、俺が聞いた銃弾だ。

 

よくよく考えると、よく聞こえたな。こうして見ると、そこそこ距離あったのに。………まあ、結構ここって響くしな。

俺のいた通路の位置から、ここまで3mほど…………聞こえても不思議ではないよな。

 

 

また、ナイフで弄り、格子を外す。格子は中に置いたまま、飛び降りる。

 

木箱の蓋は簡単に開いた。 

 

「うっわ………」

 

そこにあるのはロケランだ。

 

MGL-140

M107A1

RPG-7

RPG-22

AT-4

種類はこれだけ。しかし、数はロケランで合計9個。

 

他の木箱を開けると…………、

 

「マジかよ………」

 

思わずため息つきそうになるり

 

なぜなら、対物ライフルまでもあるから。

 

バレットM82

PGM ヘカートII

シモノフPTRS1941

 

この3個だけだった。さすがに対物ライフルは規制が厳しいのか………。

 

残りは、拳銃多数とそれ用の弾。

 

 

敢えて言おう。――バカじゃねーの?

 

こんだけ集めてテロでも起こす気か?つーか先ず、よく集めれたな。逆に関心するわ。

 

 

 

 

「………ん?」

 

そう言えば、ここはどこに繋がっているのか?地下だから、どこかに階段でもあるのか?

 

この部屋を探索しようとした時、コツコツと足音が複数聞こえた。

 

音源は排気口の真反対側。

 

とっさに、木箱の裏に隠れる。

 

ウィーンと何もないと思った壁から、扉が開く。

 

なるほど、ここからは分からなかったが、あそこが自動ドアになっていたのか。

 

「結構重いな、これ」

 

「ここまで集めるのに時間掛かりましたねー」

 

「まあ、コイツがここを提供してくれたから、スムーズにできたんだ」

 

「これ、ばらまくと、かなりの金になりそうだな」

 

「あ、アハハ………。そ、そうですねー」

 

犯人と思われる奴らが入ってきた。

 

木箱と木箱の間から覗く。

 

武藤並の体格。――A

俺より小柄な奴。――B

その2人中間ぐらいの体格。――C

俺と同じくらいの体格。――D

 

それぞれ、こう呼ぼう。 

 

そこは別にどうでもいい。見た感じプロはいなさそうだ。大方ゴロツキが徒党を組んだんだろう。

 

………で、問題はコイツと呼ばれてたと思われる男。

 

どこからどう見ても、サラリーマン風の男にしか見えない。これはEと呼ぼうか。

 

 

 

 

 

 

――よし、取り敢えず制圧するか。でも拳銃は誤射したら、こんなロケラン、対物ライフルがある場所だ。爆発とか危ないし、止めよう。

 

右手にナイフ、左手にスタンバトンを持つ。

 

「あれ?排気口壊れているんすかね?」

 

Bが排気口の異変に気づき、その辺りの木箱の陰に隠れている俺の方に近づいてくる。

 

その距離1m切ったところで、木箱の陰から飛び出し、スタンバトンを首に当てて、電気を流す。

 

「ガッ!」

 

Bはすぐに倒れた。

 

「何だ!お前!」

 

Aが叫び、トカレフを向けてくる。

それに続き、CとDもベレッタを向けてくる。

 

Eは目を見開き、キョロキョロし、後ろに下がる。

 

俺との距離は4m。

 

4mとは、俺の超能力――烈風の範囲内。

 

俺は、殺気を最大限放ち、ゆっくり、ゆっくりと歩を進める。

 

 

「近づくな!」

 

「クソッ!」

 

「死ね!」

 

 

 

――――パァン!パァン!パァン!

 

 

銃声が、この狭い空間にて鳴り響く。

 

しかし、A、C、Dが俺に向けて発砲する直前、烈風を使い、下から上に掬い上げるような突風を起こした。

 

一瞬だったから、そこまで風力はなく、手から拳銃を落とすまではいかなかった。

 

それでも、拳銃を逸らすことはでき、3つの銃弾が抉ったのは、天井だ。

 

俺は、3人の目の前に立つ。その距離は30cm。

 

「大人しく、投降しろ」

 

殺気を解かずに、ナイフとスタンバトンを向けて言う。

 

「う、うるせぇ!」

 

Cが、顔目掛け、殴ってくる。

 

俺は冷静に、ナイフの先端をCの眉間に付ける。

 

「――っ」

 

そこで、ピタッと動きを止める。

 

ナイフは少しだけ刺さり、そこから血が流れる。

 

「もう一度言おう。大人しく投降しろ」

 

と、言っても、

 

――ジャキ!

 

と、AとDは俺から距離を取り、拳銃を構え直す。

 

 

……………言うこと聞いてくれよ。動きたくないんだよ。

 

半ば呆れる俺。

 

 

取り敢えず、右手に持ってるナイフを右側にいるAに向けて、左手に持ってるスタンバトンをDに目掛けて、同時に投げる。

 

と一緒に右足を蹴り上げCの股関を蹴る。

 

「ふぐお!」

 

奇妙な声を上げて崩れ落ちるC。

 

投げたナイフは、狙った場所から少し外れる。

肩を刺すつもりだったが、Aの二の腕を斬る。その勢いのまま、壁にぶつかり、落ちる。

 

スタンバトンはDの拳銃に当たり、電気が流れる。ただでさえ電力を上げているスタンバトンだ。それに耐えきれず、拳銃から手を離す。

 

その隙を逃さず、できるだけ体重を乗せた俺のパンチは、Dのみぞおちを捉える。

 

「ぐわっ!」

 

転がり、頭をぶつけて気絶するD。

 

Aの方を向くと、二の腕を抑えながら、膝から地面に倒れる。

 

………そこそこ深く刺さったな。

 

痛そうにしていたので、仕方なしにAの服の袖をちぎり、無理矢理止血する。

 

そこで、気づく。

 

 

 

 

Eが……グロック17を手に持ち、

 

「く、来るなー!」

 

涙目で訴えてくる。

 

「なぁ………何でこんな事した?」

 

構えや照準はバラバラ、戦意もなさそう。仮に撃っても当たらない。

だから、ナイフとスタンバトンを拾い直しながら問い掛ける。

 

「う、うるさい!こ、コイツらに脅されて、今まで散々手伝いをしてきた。言うこと聞かないと、俺を殺してから、妻と息子を殺すって」

 

「………誰かに相談しなかったのか?」

 

「GPSが四六時中仕込まれて、行動を監視されてたんだよ!下手に動けば、すぐにでも殺す……って」

 

「期間はどのくらいだ?」

 

「もう、1ヶ月は経っている」

 

 

後に話を聞いたが、ここは変電所。その地下にほとんど誰も知らない一室だそうだ。

Eはそこ一帯の管理を任されていて、そこを偶然見掛けたコイツらに漬け込まれた。

 

 

腰を抜かしながらも、俺に拳銃を向けることを止めない。

 

「なぁ、お前から見たら、俺はどう映っている?」

 

「それは、あ、悪だ。も、もうすぐで解放してくれたのに。それを邪魔して!平穏に戻れたのに!俺は、罪を犯したことなんかバレずに!……お前なんか悪だ!」

 

――――ハハッ。そうか、悪、ときたか………………。

 

「だけど、世間一般からだと、お前が悪だ。……例え脅されていても、法を犯した――無法者だ」

 

「うるさい黙れ!」

 

「武偵の仕事は無法者を狩ること。事情があろうと、お前みたいな無法者を」 

 

「アダッ」

 

撃つ気はないのか、簡単に近づけた。手首を捻り、拳銃を奪う。  

 

 

 

グロック17をEの目の前に持っていき、見せる。

 

「お前はこれで人を傷付けたか?」

 

「してない。……俺がしたのは、ここの手引きだけだ。これは渡されただけだ。怖くて撃てない」

 

もう逃げ場はないと悟ったのか、色々と諦めた様子で、素直に口を割ってくれるな。

 

……………だが、特に聞けることはないな。聞こうとも思わない。

 

後は、警察の仕事だな。

 

「取り敢えず、銃刀法違反で全員逮捕だ。…………少しでも早く罪を償うことだな、無法者」

 

「このっ!悪め!」

 

「………………………」

 

そいつの恨めしそうな視線を、少なくても、すぐには忘れることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、ここで全世界の人々に問おう。

 

――――悪、とは何だ?

 

法に背くこと?常識の枠から外れること?

 

もちろんそれも含まれるだろう。しかし、身近なとこにも悪はある。

 

 

例えばの話をしよう。

 

オモチャ売り場に、子供が2人いたとする。

その子供たちが欲しいオモチャは残り1つ。それを寸での差で片方が取れたら、もう片方はどう思う?

 

「欲しい欲しい!」

 

と、喚き、極端な話そいつを悪と認識するだろう。

 

 

 

他には…………身近ではないが、ウルトラマンの話をしようか。

 

仮に、街を破壊することをここでは悪と定めることにする。

 

怪獣が街を破壊する。その怪獣をウルトラマンが倒す。

 

――だが、よくよく考えてみてくれ。

 

ウルトラマンも街を破壊してるじゃん。

 

怪獣を倒す度に、着地する度に、走る度に、吹っ飛ばされる度に。

道路割れたり、綺麗にビルが爆破したりしているよね?

 

ならば、その場合、ウルトラマンも悪と呼べるのではないだろうか?

 

もちろん、人々を救っていることには変わりはないが。

 

物の見方を変えるだけで、そんな考えを持つことが出来る。

 

――戦争だってそうだ。

自分が正義で、何をしようが、されようが、その相手が悪。その逆もまた然り。

 

…………これも極端な例だがな。あ、ウルトラマン好きですよ?

 

 

 

 

 

だから、この世の中に、絶対的な悪なんて存在しないのかもしれない。

 

でも、誰もが、戦う理由がある。

 

警察、武偵、軍人。戦う職業はもちろんのこと、公務員や会社員だって日々、何かと戦っている。

 

生活や家族の為に。理由は様々。

 

 

それが犯罪者や無法者だろうとだ。

 

正当防衛、金、一時の快楽。

 

これらだって当然、戦う理由になる。

 

被害者にとっては、迷惑極まりないが。

 

それに、だからと言って、何でも許されるわけではない。いざとなれば、止めないといけないこともある。

 

 

 

ならば、今度は俺自身に問おう。

 

俺の戦う理由とら何だ?

 

もちろん、答えは決まっている。

 

 

――――――俺の為だ。

 

俺が死なない為。

俺が後悔しない為。

俺の欲望の為。

 

…………ここまで来ると笑えるなぁ。

 

どこまでも自分の為。とんだエゴイストだ。

 

でも、それでも、俺の戦う理由の中に、少しは、少しだけ…………………、

 

 

 

「こんばんは、八幡さん」

 

「よぉ。……レキ」 

 

 

 

 

――――自分の好きな人、1人だけの友達、守りたい誰か。

 

――これらが、もし、俺の戦う理由に含まれているのなら――――

 

 

 

 

 

「お疲れ様です」

 

……ここで、俺の思考は中断される。

 

無意識に歩いていたが、もう学園島にいるわ。

 

……もう、空は暗い。三日月と半月の中間くらいの月が浮かんでいる。

 

時間を確認すると、20:30。

 

「今帰りか?」

 

「はい。故郷に帰り、気持ちを整理してきました」  

 

レキを見ると、キャリーバッグとドラグノフのケースを持っている。

 

キャリーバッグをレキから奪い、運ぶことにする。

 

「そうか。明日から2年だもんな」 

 

「はい」

 

「…………色々面倒な年になりそうだな」

 

ポツリと呟く。

 

「そうでしょうか?」

 

「いや、知らんけど」

 

「そうですか」

 

そのままブラブラとお互いの目的地まで歩いていたが、

 

「八幡さん」

 

唐突に俺を呼んでくるレキ。レキが発した一言は、

 

「勝手に死なないでください」

 

「……急にどうした?」

 

「いえ。今言っておこうと思いまして」 

 

一呼吸置き、レキは話を続ける。

 

「あなたが死ぬ時は、私があなたを殺す時です」

 

「……………」

 

思わず黙る俺。

 

「どうしてその発想に至ったのか説明求む」

 

「…………」

 

俺殺されるの?まぁ何だ。冗談として受け取っておこう。

 

「ハァー。……レキ。俺を殺すのはいつだ?」

 

「それは知りません」

 

「おい」

 

「だから、その時まで一緒にいてくださいね?」

 

そんなの答えは決まっている。

 

「当たり前だ」

 

何だかレキを見るのが恥ずかしくなるな。

 

 

 

 

 

俺の戦う理由は、俺自身の為。それは変わらない。

 

だけど、今の俺なら、こんな俺でも、誰かの為に戦えるかもしれないな。

 

 

等と、珍しく前向きに考えるようになってきたな。

 

………これも武偵の影響なのか。それとも、隣にいる少女の影響なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そして、遠山キンジと神崎アリア。

 

この2人が運命的な出会いを果たすまで――12時間を切っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで、1年終わり!

原作に入るわけですが、話の都合上、キンジの位置により、八幡の行動も違ってくるわけです。
オリジナルの話も入ってくるかもしれません。

まあ、気長に待ってくださいな。


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2年 1学期 
八幡、2年生になりました。


3/12 私の好きな実況者が亡くなりました。非常に残念です。
そして、人の命はこんなにも呆気ないと思い知りました。 
命は儚い。だからこそ、生きている間に自分のするべき事やしたい事をやりきろうと思いました。


心より、ご冥福をお祈りいたします。マリカー実況大好きでした。




ピリリリリリ…………

 

 

「んーー」

 

時計のアラームで目を覚ます。

 

時間は7:15。  

 

「ふぁーー。眠っ」

 

…………起きるか。

 

制服に着替えながら、部屋から出て、台所に行く。

 

 

今日から2年かーー…………。嫌だなー、ダルいなー、面倒だなー。

 

等と、億劫な気持ちになる。

 

これが一般校なら勉強とかが理由に入るだろう。

 

しかし、武偵高は違う。

俺、比企谷八幡が所属している強襲科は、「明日なき学科」という別名がある。つまり、殉職するかもしれない。

 

…………なんで高校で死なないといけないんだよ。

   

 

 

 

昨日炊いたご飯余ってたよなー。適当に目玉焼きでも作るか。

 

と、フライパンを取り出した所で、

 

――ピン、ポーン。

 

慎ましいインターホンのチャイム音が鳴った。

 

それだけで、察したであろう遠山は、部屋から急いで出て、玄関に向かう。

 

しばらくして――――、

 

 

「おはようございます。比企谷さん」

 

入ってきたのは、星伽白雪。

 

遠山の幼馴染みで、大和撫子みたいな美人。

 

そして、色金を祀る星伽神社の巫女。

 

ちなみに、このことを遠山はまだ知らない。

遠山も少なからず、話に関わっているはずなんだがな。シャーロックが言うには。

 

 

「あ、お……おはよう」

 

若干キョドりながら、挨拶を返す。

 

「あ、比企谷さんの分も朝ごはん作ってきたの。良かったら、キンちゃんと一緒にどうぞ」

 

「白雪。キンちゃんは止めてくれ」

 

「あ、ゴメンね、キンちゃん。あっ、えっと、その、えっと……………。比企谷さん、ご飯食べます?」

 

「あ、うん。頂きます」

 

星伽さん……さらっとキンちゃん呼びのこと誤魔化したな。

 

 

 

あ、星伽さんのお弁当美味しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

遠山より先に部屋から出て、学校に向かう。

 

遠山は、星伽さんとイチャイチャして見送った後にPCとか見ていたからな。………リア充滅びろ。

 

つーか、基本、俺たち別行動だしな。学校とかでは、そこまで話さないし。 

 

決して仲が悪いとかではなく、ぼっちとネクラが話して何になる……という話だ。

 

 

 

 

俺の登校時は、歩く時もあれば、バスを使う時もある。

気分とその時の時間を見て、決める場合が多い。

 

今日は余裕があるので歩くことにする。大体35分ほど歩くと着く。

 

 

適当に音楽を聞く。

 

そうしている内に、学校に近づいてきた。

 

もう校内ネットでクラスは発表されている。2ーBだった。

レキは2ーC。

理子、遠山、武藤、不知火は2ーA。

俺の知り合いでクラスが一緒だったのは、星伽さん、戸塚、材木座だ。

 

……………こうして考えると、俺って知り合い少なすぎじゃね?まぁ、1人1人が個性的すぎるけど。

 

 

別にいいや。始業式始まるまで寝よう。

 

そう思いながら、俺は教室に足を向ける。

 

 

 

そして、始業式をダラダラ過ごし、教室に戻る。椅子に座った途端――

 

ブゥーブゥー。

 

携帯からバイブ音がした。武偵高の校内ネットからだ。

 

メールの内容は、どうやら生徒がチャリジャックされたので、気を付けるようにとのお達しだった。

 

今どきチャリジャックねぇ…………。えらく小さいな。やるなら、もっとスケールでかくしようぜ。

 

この思考、俺はテロリストか。……違うそうじゃない。

 

 

 

 

 

「八幡、おはよう。今年も同じクラスだね」

 

席が隣の戸塚が、笑顔で俺に語りかけてくる。

 

………あぁ、可愛い。俺の腐った目も浄化……はされないな。

 

「おはよう、戸塚。今年もよろしくな」

 

「うん!どんどん治療してあげるね」

 

「武偵としては、出来るだけ避けたいもんだけどな」

 

「アハハ。それもそうだね。でも、怪我したら、いつでもおいで」

 

「その時は頼むわ」

 

「うん。任せて」

 

はい、天使。 

 

 

 

しばらく話していると、

 

「はっちまーん!」

 

突如響く叫び声。

 

戸塚との談笑を妨げる輩はどこのどいつだ。殺すぞ。……まあ、察してるけど。

 

声がした方向に顔を向けると、

 

「無視するでないぞ」

 

やけに胸を張った材木座がいた。

 

「それで、戸塚。戸塚も救護科だから戦闘の必要はあまりないわけだが、少しは銃を撃つ練習をした方がいいと思うが」

 

「えっ!?……えーっと、それもそうだけど、やっぱり慣れないかな」

 

戸塚は、一瞬材木座を見て、戸惑った様子だったが、話を続けてくれる。

 

「その気持ちは分かる。俺も最初はそうだったからな」

 

「それに僕、救護科なのに人を傷付けるのは抵抗あるよ」

 

「ちょ!八幡?戸塚殿?」

 

「別に人を撃つ必要はないぞ。例えば、地面を撃って足止めとか、色々やり用はある」

 

「……なるほど」

 

「あのー、聞こえてますか?八幡さん」

 

「だから、護身のために少しは練習したらどうだ?」

 

「うん。そうしてみるよ」

 

「はっちまーーーん!!」

 

「…………人の耳元で叫ぶな、材木座」

 

耳がキーンってするぞ。

 

「だって、我を無視するし」

 

その体型でいじけても可愛くないぞ。

 

「で、何?」

 

「いや、今回は同じクラスではないか。だから、挨拶にと」

 

「……よろしくな。あ、今年も、メンテとか依頼するからな」

 

「任せろ!戸塚殿もよろしく頼むぞ」

 

「こちらこそ」

 

俺と戸塚と材木座でたまに遊ぶから、仲は良好である。

 

 

 

 

「はいはーい。さっさと始めて、さっさと終わらせるぞー」

 

出席簿を手に持ち、教室に入ってきたのは、尋問科の教師――綴だ。読み方は「つづり」だ。

 

 

綴が、今回俺たちの担任だ。 

 

この綴って奴、常に煙草を吸っていて、ラリってるような特徴しかない。

だが、尋問のスペシャリスト。こいつの尋問受けて口を割らなかった者はいない…………。ここの教師の人選どうなってるのやら。

 

 

綴が、めんどくさそうに話を進めている時――――、

 

バァン!バァン!

 

銃声が2発鳴り響いた。隣のクラスから。

 

「この音……ガバメントか。それも同時だから、2丁。てことは神崎かー。早々に何やってるんだよ」

 

綴が気だるそうに呟く。

 

………スゲェ。この一瞬で、誰か当てた。それも武装もピッタリと。

 

確か、不知火が言ってたけど、綴は全生徒の武装や記録等が頭に入っているらしい……と。どうやら、その話本当みたいだ。

 

 

銃声が聞こえた後、校舎全体に響くような声で、

 

「風穴!!」

 

と、神崎が叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、というか今日は午前で終わり。帰る人もいれば、訓練をする人もいる。俺は前者だ。

 

だって昨日働いたから、単に疲れた。

 

「あ、比企谷君」

 

廊下を歩いていた所で、イケメン不知火に見つかった。

 

何で俺なんかに関わるんですかねぇ…………。

 

「よう」

 

「今帰り?」

 

「おう」

 

「良かったら、一緒に帰らない?」

 

「えっ。あ、うん」

 

「じゃあ、行こうか」

 

俺の受け答え簡素すぎない?

 

 

 

校門を出て、バスを待っている。

 

「そう言えば、今朝遠山君がチャリジャックに合ったって知っているかい?」

 

「それマジ?」

 

あのメール遠山だったのか。…………不幸だな。

 

「うん。どうやらサドルの下に爆弾仕掛けられたんだ」

 

そんなこともあるのか。

 

「で、遠山はどうやって助かったの?」

 

「それがね、神崎さんが助けたんだってさ。それもどうやら、爆弾を仕掛けた犯人を神崎さんが追っていてね」

 

「へー。ちなみにそれ誰なんだ?」

 

そこでバスが来た。ちょうど席2つ空いていたので、隣同士で座る。

 

話を続ける。

 

「――武偵殺し――知っている?」

 

「……ああ」

 

確かイ・ウーの面子の誰かだよな。ジャンヌが言っていた。

 

「この前捕まったのは模倣犯で、また復活したんだってねー」

 

「それは知ってる」

 

「そうなんだ。あ、そうそう。それでね、その時に神崎さんが遠山君と何かあったんじゃないかって教室で問われて、銃を乱射したんだよ」

 

……………あれ、その時の銃声か。

 

「お騒がせな奴だな」

 

「アハハ。全くだよ」

 

 

 

――――ん?

 

神崎が武偵殺しを追っている。武偵殺しはイ・ウーの面子だ。

つまり、あいつはイ・ウーという組織を追っているのか?それとも武偵殺し個人?

 

さすがに考えすぎか?

 

でも、イ・ウーの親玉は神崎のひい祖父さん。

 

それに――緋弾のアリア。

 

神崎には、確実にあいつが関わっている。

 

………………やはり、仕組まれているのか?全て。あいつに。あの探偵に。

 

 

 

「比企谷君。僕はここで降りるね」

 

互いに無言でいた。急に声を掛けられ、意識がハッとなる。

 

「俺も降りるわ」

 

不知火は駅前で降りた。俺も本屋に寄ろうと思い、降りることにした。

 

「じゃあね。比企谷君」 

 

「またな。不知火」

 

 

 

 

さて、本屋に行こうとする時、突然――バン!と、背中に衝撃が走った。

 

ぶっちゃけ後ろに誰かいるのは分かっていたけど、俺には関係ないと思っていた。

 

振り向くと、そこには、

 

「ひっさりぶりー!ハチハチー!」

 

制服姿の理子がいた。

 

「……久しぶり」

 

「テンション低くない?大丈夫?」

 

「いつもこんな感じだろ」

 

と言いつつ、テンション低いのは、地味に背中が痛いからであったりする。

 

「あ、それもそうか」 

 

それで納得するなよ。……少しは、否定してほしかった。

 

「何か用事か?」

 

「ううん。通りかかっただけだよ」 

 

「……そうかい」

 

そこで、今さら気付く。

 

「つーか、あそこから帰ってきてたんだな」

 

「まぁね。新学期からは顔出さないと怪しまれるし、積みアニメ消化しないといけないしねー」

 

「へー」

 

「うっわ。興味なさそうな声だねー」

 

「あ、それより俺にも見せてくれ。あそこにいたせいで冬アニメ見逃したんだが」

 

「どうしよっかな~~?」

 

「無理にとは言わないから。見終わったら貸してくれ」

 

「ありゃ、その反応は意外。今すぐ寄越せー、とは言わないんだね」

 

目を丸くする理子。

 

「そりゃもちろん。元々はお前の物なんだからな。俺にそれを言う権利はない」

 

「いやいや。私が連れていったのが原因だから言う権利はあると思うけどなー」

 

「…………知るか」

 

「相変わらず捻くれてるね。捻デレってやつかな?」

 

その造語、小町も作ってたな。頭が似た者同士ということか。

 

 

 

 

 

理子とダラダラ話し、本屋に寄るなど、部屋に帰る頃には、夕方に差し掛かっていた。

 

「ただいまー」

 

遠山がいると思い、部屋に入る。

 

――あれ?女子の靴がある。誰だろう?星伽さんかな?

 

少し長い廊下を歩き、リビングのドアを開ける。

 

と、そこに、ピンクの髪が見えた。

 

 

 

そして、

 

「――キンジ。あんた、あたしのドレイになりなさい!」

 

そんなアニメ声が聞こえた。

 

 

 

 

 

俺は直ぐ様部屋から出て、近くのコンビニに避難した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、ハーメルンで俺ガイルのアンチ、クロス、HACHIMANについての意見を含んでいる作品を読んで、正直かなり自信を無くしました。

確かにオリ主で良くね?とも思います。
八幡っぽさを出しているかと言われれば微妙……と言うより、出てないかもしれません。

この作品は色々と気を付けているつもりなんですが、やっぱり続ける自信を無くします。
でも、失踪はしません。書いてて楽しいですから。




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動き出してく、未来を止められない

前回、アホなこと言って、非常に申し訳ないです。ドゲザァ
それと、3/17にランキング10位に入りました!いつか入ったらいいなぁと思ってたんで、嬉しいです。イマイチランキングの仕組みが分かりませんが。


「比企谷。何で逃げた?」

 

若干項垂れている遠山が俺に尋ねてくる。

 

 

――状況を説明しよう。

 

神崎が、俺と遠山の部屋にいた。……それはいい。

だけど、神崎のドレイになりなさい!発言により、俺はコンビニに避難した。

 

時間潰しにコンビニで雑誌を立ち読みしていると、遠山が入ってきた。そして、俺に文句を言ってきた。

 

以上、説明終わり。

 

 

「あ、気付いてた?」

 

「ああ。ドアの音がしたからな」

 

デスヨネー。

 

「つーか、誰だって逃げるだろ。何?お前らそんな関係なの?」

 

「断じて違う!」

 

「じゃあ、あの状況何なの?」

 

「いや……。実はな――――――」

 

 

遠山の話によると、今朝起こったチャリジャックで、俺には伏せてはいるが、神崎の前でHSSを使った。

そのせいで、神崎は遠山には詳しく言ってないらしいが、武偵殺し逮捕の為にパーティ誘われた、と。 

 

 

何と言うべきか…………、

 

「お疲れ様」

 

「おい!投げやりだな!」

 

「いやだって、俺関係ないじゃん」

 

「いや!関係ある。このままじゃ、俺らの部屋はアリアに侵略されるぞ」

 

「というと?」

 

「俺がアリアのパーティに入らない限り、ここに泊まるって言い出した。着替えも持ってきている」

 

なるほど……。それは困る。確かに困るが、今の俺には選択肢がある。それは――――

 

「だったら、俺外泊するわ」

 

そう、逃げの一手である。

 

「えっ、どこに?」

 

「どこだろうな?……あ、荷物まとめるから一旦帰るわ」

 

「…………お願いだから助けてくれよ、比企谷」

 

遠山は俺の肩を掴み、頭を下げる。

 

「ま、頑張れ」

 

手を振りほどき、遠山から距離を取る。

 

 

お前がパーティに入れば、一瞬で解決する話だが、それが出来ないんだよな。

 

遠山は武偵に呆れて、武偵を止めるつもりでいる。強襲科なんて、なおさらだ。

対する神崎は、遠山のHSSに見惚れて、武偵殺しの逮捕に協力してくれ、と頼んでいる。

 

――正しく水と油。今の2人の道は交わることはない。平行線の話。

 

俺の予想では、最終的に遠山が折れると思う。

だって相手は神崎だぜ?しつこそうなあいつに諦めるように促すなんてムリムリ。

 

 

「あ、そうそう。俺の部屋には入れるなよ」

 

パソコンとか壊されたら迷惑だしな。

 

返事を待たずにコンビニから去る。

 

 

ふぅー。さっさと荷物取りに行くか。

 

遠山は……ももまんを買っている。パシリなの?本格的にドレイになっちゃったの?…………可哀想に。

 

 

部屋に戻る道すがら、携帯である奴に連絡する。

 

『もしもし。レキです』

 

いつもと同じ抑揚のない声が俺の耳に届く。

 

「あ、レキ。ちょっと頼みたいことがあるんだが」

 

電話の相手はレキだ。

 

『何でしょうか?』

 

「あなた様の部屋に泊めてくださいお願いします」

 

土下座しそうな勢いで頼む俺。

 

『なぜでしょうか?』

 

「今現在、俺と遠山の部屋が侵略されつつある。避難する為に」

 

『侵略、ですか?誰から?』

 

「神崎アリア」

 

『分かりました。扉の鍵を開けておきます』

 

早っ。返答早っ。俺が答えてからほとんどラグがなかったぞ。

 

「ありがとな」

 

『八幡さん。私の部屋には毛布の類いがありませんので、必要ならば持参してください』  

 

そういえば、1回行ったことあったけど、何もなかったな。

 

「了解」

 

 

 

部屋のドアを開けると………水の音がする。

 

神崎は入浴中か。人様の風呂に無断で入ってるのは本来殴るべき案件だが、今はよしとしよう。

 

荷物をカバンにまとめて、さっさと退出だ。

 

 

 

 

最大限気配と足音を消して、女子寮にやって来た。

 

これが入るのが不知火(イケメン)や戸塚(説明不要)ならコソコソする必要はない。

 

だけど、そこに目が絶妙に腐っている奴が入ってきたら、不法侵入、覗き、その他色々で警察のお世話になる。

それと、武偵が犯罪をしてしまうと、一般人の3倍の処罰を食らう。

 

何が言いたいかと言うと、誰かに見付かったら、ヤヴァイ。

 

 

耳を澄ませ、足音が聞こえないことを確認し、レキの部屋に着く。

 

ゆっくりドアを開ける。

 

 

 

……………暗いな。

 

先ず、俺はそう思った。

 

廊下は明かりは点いていなく、時間も時間だから暗い。でも、レキがいるであろう場所から光が漏れている。

少し覗いてみると、それは寝室?ベッドが見当たらないから分からないな。まあ、寝室にしよう。

 

「レキー。いるかー?」

 

そう言いながら、寝室に入る。

 

「はい」

 

そこには、恐らく風呂上がりっぽいレキがいた。

無表情なのにやけに色っぽい。

 

「すまんな。押し掛けて」

 

ドサッと荷物を下ろす。

 

「大丈夫です」

 

レキは自分の体が乾いているのを確認してからドラグノフと整備道具を取り出す。

 

今からメンテするのか。一旦離れるか。

 

「シャワー借りていいか?」

 

「はい」

 

 

レキに許可を貰い、シャワーを浴びることにする。

 

シャワールームから、何か良い匂いがする。女子特有の匂いなのか?……………無心でいこう。

 

シャワーを浴び終えた俺は、簡素な格好に着替える。

 

廊下から寝室をそーっと覗く。ふむ。どうやらレキはまだ整備の途中。

 

邪魔したら悪いし、終わるまで廊下に腰掛けていた。

 

 

携帯を弄っていると、

 

「入って大丈夫ですよ」 

 

中からレキの声がした。

 

「ところで、どこかに空き部屋とかあるか?」

 

「どうしてですか?」 

 

「どうしても何も………。わざわざ同じ部屋で寝るわけにはいかんだろ」 

 

俺の理性が持つか微妙なラインだしね。

 

「私は構いませんが?」 

 

無表情で首を傾げるレキ……可愛い。って今は違う。

 

「レキが大丈夫でも、俺が気にする」

 

「ここの家主は私です。私の指示に従ってもらいます」

 

ぐぅ…………。そう言われると、反論ができない。俺は押し掛けている身だから。

 

「八幡さん。ここで寝てください」

 

試しにここで断ってみると…………、

 

①ドラグノフから銃弾がこんばんは。

②ドラグノフに付いている銃剣がこんばんは。

 

………あれ?選択肢なくね?

 

どう足掻いても、五体満足ではいられない体になりそうだ。

 

「分かりましたよ」

 

と言ってもなぁ………。

 

キョロキョロ見渡しても、マジで何もない。いつもどんな風に寝ているのか疑問に思う。地べたに寝転んでいるわけではなさそうだしな。

 

カバンから、よく飛行機とかで貰えるような毛布を取り出し、厚着して寝る準備を整える。

 

「私はもう寝ますので」

 

まだ9時に差し掛かった頃。俺のいつもの就寝時刻までそこそこ時間は残っている。

 

レキはドラグノフを抱えて体操座りで寝始めた。

 

寒くないのかと、不思議に感じる。こいつは本当に機械みたいだ。

 

――感情を出せるようになっても、そう簡単には人の本質は変わらないもんだな。

 

 

 

それから俺は携帯で時間を潰した。そうこうしている内に眠くなってきたので、そろそろ寝ることにした。

 

毛布を手に持ち、自分に掛けようと…………、

 

「……………」

 

したが、体操座りで寝ているレキにソッと掛けておいた。

 

「………………寒いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「眠い」

 

「八幡、大丈夫か?」

 

「うるさい」

 

「ひどくね!?」

 

「だから、うるさい」

 

「……むぅ。お主を心配しているというのに」

 

「材木座に心配されるなら、戸塚に心配されたい」

 

「そこは同感するがな」

 

「いや、すんのかよ」

 

 

あまり深く眠れなかった俺は、朝早く起きた。

途中コンビニに寄り朝飯を食べた。その後、ゆっくり歩いて学校に向かった。

 

あ、レキにはお礼ちゃんと言ったからな!

 

そのまま校門に入ったら、学校に寝泊まりしていた材木座と出会った。

 

 

「そういや、材木座。今日から授業だっけか?」

 

「うむ。そうだな。この学校に課題テストとかは存在しないのでな。通常通り、午前に座学、午後は実習である」

 

「ありがと。…………って、あ、教科書忘れた」

 

急いで出たから着替えと装備の類いしか持ってなかった。

 

「八幡。それはマズイのでは?」

 

「まあいいや。寝る」

 

「見付かったら、余裕で体罰してくるぞ。ここの教師たちは」

 

「俺は今まで昼寝を1度もバレたことない」

 

「それはそれでスゴいな」

 

「だろ?」

 

 

 

 

 

 

――――午後。

 

強襲科の体育館の隅っこで、独り柔軟している俺――――の隣で、茶髪の女の子と金髪の長身の女子がいる。

 

その2人は何やら、誰かを待っているようだ。その人物とは――――

 

「待たせたわね。あかり」

 

「こんにちは!アリア先輩」

 

「こんにちは。先輩」

 

「ライカもね」

 

神崎アリア!!それは、俺らからしたらただの侵略者!!

 

つーか、こいつらと関係あるのか?

 

「じゃあ先ずは……ってあら?八幡じゃない」

 

「チィ!」

 

バレないように去ろうとしたが、一瞬速く神崎が気付いた。

 

「じゃあな」

 

「何よ失礼ね。いきなり別れの挨拶なんて」 

 

お前とは話したくないんだよ。察しろ。お願いだから察して。と、切に願う。

 

「あの~、アリア先輩。この方は?」

 

小さい方が尋ねると同時に、長身の方が、

 

「あ!もしかして!」

 

俺を見て叫ぶ。

 

「え?ライカ知っているの?」

 

「あぁ。入試が終わってから、強襲科に何度か見学に行ったことあったんだ。そこで、アリア先輩が男女問わずに無双している中、この人が先輩に膝蹴りを5、6発入れてたんだよ」

 

「えぇ!?本当に!?ライカ、どっちがが勝ったの?」

 

「……確か、チャイムが鳴ったから引き分けだったな」

 

あーうんアレね。野次馬の中にこの長身いたんだ。知らなかった。

 

「大丈夫。結構コテンパンにやられたから」

 

「そうよ!あのまま続けたら、あたしが勝ったんだからね!」

 

俺の言葉に直ぐに反応して神崎も付け足す。

 

負けず嫌いめ…………。

 

神崎はコホンと咳払いをして、

 

「とりあえず、あんたら、自己紹介しなさい」

 

俺たちに自己紹介を促してくる。

 

小さい方は素直に言うことを聞く。

 

「はい!私は間宮あかりです。強襲科でEランクです。あと、アリア先輩のアミカです」

 

「火野ライカ。強襲科でBです」

 

「比企谷八幡。強襲科でBだ」

 

…………この小さいのが神崎のアミカか。世界って分からないな。

 

それに火野ライカ、あからさまに嫌そうな顔しているな。腐った目がダメなのか?それとも単に俺のこと嫌いなのか?

嫌われることに関しては俺に勝る者なしってか?喧しい。

 

「え?ライカと同じランクなんですか?」

 

間宮は興味津々に聞いてくるな。

 

「あんた。ランクAはあると思ったけど、案外低いのね」

 

神崎も驚いた顔をしている。

 

「3学期丸々休んだからな。筆記で落とした」

 

「へー。確かにいなかったわね」

 

間宮と火野が話している間に、神崎は何に思い付いたように、

 

「そうだわ。あんたたち、勝負してみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった……………」

 

八幡は今の状況に思わずため息が漏れる。

 

なぜなら、八幡対あかり&ライカの模擬戦が始まろうとするからだ。

しかも、あかりとライカには近接武器はありだが、八幡は武器なしというハンデまである。

 

八幡からしたら面倒過ぎることだ。

 

 

 

「先輩!準備はいいですか?」

 

ライカが八幡に呼び掛ける。

 

「ライカ乗り気なの?男嫌いじゃなかったっけ?」

 

ライカは男嫌いで有名。そのことに疑問を持つあかり。

 

「んー……。まぁ、そうだけど。格上とやり合える機会を逃すわけにはいかねーじゃん」

 

「格上……?そんな風には見えないけど」

 

あかりから見ると、八幡はよく分からない存在だ。

 

アリアは、噂もあり、実際見たこともあるから、強いということが直に分かる。

しかし、ライカが八幡とアリアとの戦いを伝えても、見たことがない。本当にアリアを苦しめたのかが分からない。

 

「バカだな、あかり。自分の実力を隠せるのは格上の証拠だ」

 

「そ、そうだね」

 

その言葉に納得しながら、あかりは気持ちを切り換える。

 

八幡は、自然体のまま立つ。あかりはコンバットナイフを、ライカはタクティカルナイフを構える。

 

「じゃあ……始め!」

 

アリアの号令で模擬戦が始まった。

 

 

 

先に動いたのは八幡。普通に、まるで考えがないかのように歩く。

 

「「――っ!」」

 

八幡の意図が読み取れず、膠着する2人。

 

だが、八幡は歩みを止めない。

 

お互いの距離が5m切った所で、あかりが反射的に八幡を止めに行く。

 

「あかり!?……くそっ!」

 

あかりが前から行ったから、ライカは挟む為に八幡の後ろに回る。

 

「やー!」

 

跳躍したあかりは、ナイフを八幡のみぞおちに狙いを定めて刺しに掛かる。

 

八幡は、1歩後ろに下がる。そのまま右足を軸に回転し、あかりの真後ろにつく。

あかりが着地してから1拍置く。そして、あかりの背中を軽く押す。

 

「ひゃっ!」

 

「ちょ!」

 

八幡の後ろにいたライカとあかりは綺麗にゴツンとぶつかる。

 

ナイフを後ろから今にも刺そうとしたライカはあかりを傷つけない為に、ぶつかった瞬間咄嗟に放る。

あかりもぶつかった衝撃でナイフを落とす。

 

 

 

――――この先輩。後ろに目でもあるのか?タイミングよすぎるだろ!

 

起き上がり、ライカは心の中で毒づく。

 

今の動き、八幡はライカとの距離を合わせる為に、ライカが攻撃を仕掛けて回避できない時にあかりを押した。……わざと1拍置いて。

 

 

 

八幡は、あかりたちに背を向けたまま、

 

――――これは……イケるな。

 

自分の感覚を確かめる。

 

八幡の持っている超能力は風を操る。つまり周囲の気流を操れる。

 

その副作用なのか八幡は知らないが、八幡中心に半径4mなら――どこに、何があるか、どんな形か、それが人なら、どんな動きをしているが分かるようになってきた。

自分に近いほど、その精度は増す。

 

最初はそんな事はなかったが、徐々に慣れていく毎に、それがハッキリ分かるようになった。

 

でも、そんなに万能ではない。

 

超能力は日により、まるで雨が降るみたいに使える頻度が変わる。

そのせいで感度はその日で差がある。だから、安定はしない。

 

――――少しずつ慣らさないとな。まだ上手いこと使えない。いきなり使うと酔いそうだ。

 

そう思いながら振り返る。

 

 

 

ライカが起き上がる。それに続き、あかりも起き上がる。

 

「あかり。攻撃をずっと仕掛けろ。フォローする」

 

自分のナイフを拾ったあかりは、目を見開き驚く。けど、実績でいえばライカはあかりより上。

 

「分かった」

 

それだけ言って、八幡に突っ込む。

 

ナイフで八幡の体の各所を狙う。胸、膝、腹、腕、等々を連続で攻撃する。八幡は攻撃を避ける、いなす、を繰り返し、全て捌いている。

 

 

 

――――……何だ、これ………?

 

その最中、八幡はあかりに対して、疑問を持つようになる。

 

あかりの動きは、まだまだ未熟。目線も、重心もバラバラ、速さもまだない。次の動きはかなり読みやすい部類に入る。

 

でも、一瞬、ほんの一瞬、あかりから殺気が完全に消えた。周りには決して分からない程度で。

 

そのせいで、八幡の対応が遅れた。

 

あかりが八幡の足を横薙ぎに振ろうとする。

いつもなら最小限の動きで留めている八幡だが、恐怖を感じて、一旦大きく距離を取ろうと、後ろに跳躍する。

 

 

 

ライカはナイフを取りに行き、隙を窺っている。

 

――――ここだ!

 

八幡があかりの攻撃を避ける為に大きく後ろに跳ぶと同時に、ライカは、着地するであろう地点に向かってナイフを投げる。

 

「――!チッ」

 

自分の右側から飛来してくるナイフを、八幡は右手で受ける。角度をずらし、ダメージを少なくする。

 

八幡は分かっている。

ライカの本命は、投げナイフじゃない。ナイフを投げた本人が自分に向かい、走ってきていることが。

 

八幡は着地と同時に、踵から地面に付く。倒れ込むように勢いに身を任せて、さらに後ろに跳ぼうとする。

 

「きゃっ!」

 

オマケに、八幡に追い討ちとばかりに近付いてきたあかりの手も引っ張る。

 

 

――――くっそ。またか!

 

このままだと、またライカはあかりにぶつかることになる。

 

同じことを繰り返すハメになる。

 

それはどうにか避けまいと、ライカは急ブレーキをかける。あかりがこけた隣で止まることに成功する。 

 

ライカは、次どうするか考えたところで、

 

「はーい!そこまでー!」

 

アリアの合図により、3分にも満たない模擬戦は終了した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

「お疲れ様。あかり、ライカ。それと八幡もね」

 

「はいっ!」

 

「うっす」

 

「………あ、うん」

 

本当疲れた。体力的には全然だけど、色々試したから精神的に疲れた。

 

「あかり、ライカ。八幡はどうだった?」

 

「強いんですけど、何だか、分からなかったです。私たちに本格的に攻撃してこなかったし」

 

と、間宮。

 

「確かにね。八幡、何でしなかったの?」

 

「見てただろ?ちょっと押したり引っ張るだけで、勝手に自滅しそうだったじゃないか」

 

「「うぅ……」」

 

間宮と火野は同時にへこむ。息ピッタリだな。

 

「ふふっ。それもそうね。八幡、この子たちに先輩として、アドバイスしなさい」

 

「………へいへい。えーっと、先ずは多対1の時の基本だが、味方の位置は常に把握するように。今回は拳銃なしだけど、誤射とか危ないから」

 

「はい……」

 

間宮がしょんぼりしながら返事をする。

 

「逆説的に独りで戦うことが最強ってことに………」

 

「ならないわよ」

 

「デスヨネー」

 

神崎が横やり入れながらも、俺は話を続ける。

 

「…………あとは間宮。目線がバレバレなのはともかく、重心バラバラなのはダメだ。重心が安定すると、次の動作に繋げやすい」

 

間宮はうなずく。

 

ちゃんと人の話聞いてくれて嬉しいよ。俺の周りなんか聞かない輩が多いから。神崎に留美や理子にレキとか。

 

「そうだな……。何だっけアレ?えーっと、そうそう、アレだ、平均台。平均台で、最終目標として、側転とロンダートをできるようになれば?」

 

単純な格闘戦だったら、留美の方が動きは良い。

 

「平均台で、ですか?」

 

冷や汗をかいているのが分かりやすい。

 

「あぁ。神崎は当然できるよな?」

 

「もちろんよ」

 

首肯して答える。ちなみに俺も7割の確率でできるからな。

 

「あ、ちゃんとマット敷けよ。危ないから」

 

「は、はい。やってみます」

 

「比企谷先輩。私は?」

 

火野ライカ……ね。

 

「そんなに直接戦ってないからな…………」

 

何を言うかね………。

 

「お前は間宮よりは強いし、自分の役割を見付けて、それを果たせるようにしたらどうだ?」

 

「……なるほど。ありがとうございます」

 

 

 

 

「ゴメン。あたし用事あるからもう行くわ」

 

神崎は、何やら急いでいる様子で去っていった。

 

「また明日です~」

 

「さようなら」

 

間宮と火野のセットは神崎と別れを済ます。

 

 

 

「ライカぁ!ちょっと来い!」

 

蘭豹に呼ばれた火野はこの場からいなくなった。

ここにいるのは俺と間宮。

 

………都合いい。話聞こうか。

 

「間宮」

 

「はい?」

 

俺たちは、共にストレッチをしている。

 

「誰もいないから聞くけど………。お前、何か隠している?」

 

「えっ。どうしてですか?」

 

顔がひきつる。分かりやすすぎだって。

 

「一瞬、完璧に殺気を消しただろ?あれは見事だ。あんな芸当そう簡単にできないと思う」

 

「…………さすがですね」

 

「そりゃどうも。言っとくけど詳しくは聞かんよ」

 

「そうですか」

 

意外そうな表情だが、普通そうじゃないの?

 

「個人のプライバシーまで深く突っ込むのは趣味じゃない。そこまでしてお前に関わりたくないし」

 

「アハハ。辛辣ですね」

 

「そうか?」

 

うーん。俺からしたら、あんまり思わないな。誰だって余計な詮索はしてほしくないだろ。………レキと理子は除くぞ。

 

「まぁ、今は練習だから隠せるけど、本番何かを見せない為に隠そうとしたら、躊躇ったら、死ぬ。……と、教本とかに書いてた」

 

「そうです、よね」

 

落ち込む具合が半端ないな。

 

「自分の守りたい、守るべきモノは色々あると思うけど………。そこを見失うなよ」

 

一応、立場上俺は先輩。励ましとくか。

 

「はい。今日はありがとうございました」

 

「どういたしまして」

 

さて、射撃場にでも行くか。

 

 

 

 

 

 

 

予想通り、遠山が折れた。

 

どんな事件でも1回だけ神崎と手伝う。という条件で神崎は納得して部屋から去った。

いつもと同じ静かな部屋に戻った。

 

 

 

 

 

――次の日。

 

その日の午後、遠山が強襲科に帰ってきて、かなり話題になった。さすが元Sランク。

 

それと、隣にいた神崎が恋人みたいでリア充爆発しろと呪った。

どうやら近くにいる間宮も同じことを思っているだろう。

 

遠山、お前には星伽さんがいるだろ。

 

うん?俺はリア充じゃないかって?ご想像にお任せします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そして、その翌日の夕方。

もう夜に差し掛かろうとする時間帯。

 

俺は、ある人の病室にいた。

 

決して見舞いなんかではない。呼ばれたからいるだけだ。

 

 

 

「――――で、話って何だ?神崎」

 

そいつは、頭に包帯を巻いてベッドに横たわっている。

 

そして、なぜか目元を腫らしている――神崎アリアに、俺は問う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後半、駆け足気味になってすいません。

それでは、皆さん、これから私は現実(勉強)に戻ります。また会う日まで。ばいちっ。


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3人の苦悩

誰だよ、現実に戻るとか言った奴は……
風邪をひいて、暇なので投稿します。

アリア二期をやらないのも乾巧って奴の仕業なんだ。……………………本当さぁ、やれよ、やってくれよ二期。






今朝、バスジャックが起きた。

 

武偵殺しの仕業だ。

 

事件を解決するために、Sランクの神崎アリアとレキ、Eランクの遠山キンジが救出に挑んだ。

 

天候は雨。

 

武偵殺しは、ジャックする時、何か乗り物にマシンガンと、ジャックされている乗り物に、「速度を落とすと爆発する爆弾」を取り付けて遠隔操作をする場合が多い。もちろん例外もあるけど………。

 

つまり、今回や前回のチャリジャックは、その場に武偵殺し本人はいない。

 

 

今回のバスジャックの隣で走っていたのは、オープンカーだ。

座席には、マシンガンがある。無人で撃てるような作りになっている。

 

バスの運転手は、オープンカーからの攻撃で、負傷し、バスの中にいた武藤が代わりに運転をした。

 

遠山は中に突入し、神崎はバスの車体の下にある爆弾を取り外すよう試す。

 

 

――――場所はレインボーブリッジに移る。

 

遠山は、運転している武藤に自身の装備であるヘルメットを渡し、バスの屋根に上がる。

神崎もオープンカーの突撃によりヘルメットを失っていた。

 

遠山は神崎とバスの屋根で合流する。

 

そこで、神崎はバスの目の前にあるオープンカーにあるマシンガンが、遠山を狙っていることに気付く。

 

咄嗟に遠山を庇い、神崎は頭を撃たれた。

 

今までレキは、ビルばかりで援護射撃が出来なかった。それと狙撃する為の足場――ヘリコプターも到着してなかった。

 

が、レインボーブリッジという開けた場所に移ったレキが、マシンガンと爆弾を狙撃で壊した。

 

死人は0に収まった。ケガ人は複数。

 

……………これが、バスジャックの概要である。

 

後に武藤とレキに聞いた。

 

 

 

 

 

ちなみに、俺は、この頃ちょうど夢の中にいた。

 

目覚めた時には、もう昼を回っていた。

 

だから、まぁ……学校をサボった。

 

ついでに気になったから、何日か前から、ある程度神崎の情報について調べていた。それと武偵殺しの情報も。そして、今日大体調べ終えた。

 

分かったことは、神崎の大まかなプロフィール。

それと、神崎の母親が現在捕まっていること。

 

これは直接は分からなかったが、推測で分かった。

神崎は、母親を助ける為に――ある組織、イ・ウーを追っていること。

 

……………その為にずっと独りで戦ってきたのか。

誰にも頼ることなく、独りで、か。 

 

武偵殺しは、今まで、起こした事件は、バイクジャック、カージャック海難事故に見せかけカナを拐ったシージャック、遠山のチャリジャックに今回のバスジャック。順番はこうだ。

 

シージャックを除く全てを――神崎アリアが解決している。

 

 

そして、夕方。

 

タイミング良く、神崎から連絡があり、聞きたいことがあるから病院に来なさい、と言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケガ、大丈夫か?」

 

いくら見舞いではないとはいえ、手ぶらだったら、無作法だろうと思い、クッキーを持っていった。

 

「問題ないわ。………ただ、頭の傷跡は治らないらしいけどね」

 

デコを指しながら説明する。

 

「そこの包帯か?まだ出血しているのか?」

 

「もう止まっているわ。隠しているのよ。さっきね、これをバカキンジに見られたからよ」

 

…………そういえば、ロビーで遠山を見かけたな。声を掛けずらい雰囲気だったからほっといたが。

 

「まぁ、無事なのは何よりだ」

 

俺は何気なくそう言うが、やはり神崎は浮かない顔だ。

 

キズが残るのは女子であり、武偵である彼女には辛いことなのだろう。と、勝手に想像してみる。

 

よし、ここは話題を変えよう。

えーっと、何が話す内容は……………、

 

 

「確か、神崎の母親は今、捕まっているんだっけ?」

 

 

…………唐突に口から出た言葉がこれだった。

 

相手はケガ人だぞ。もう少し選べるテーマないのかよ、俺。雑談力低すぎだろ、不謹慎すぎだろ……。

 

「八幡、あんた…………。調べたのね。いきなり何よ。どこまで知っているの?」

 

警戒心を高めているっぽい神崎が、俺に向かって睨んでくる。

 

自分で撒いた種だ。俺が話を止めるのは不自然だな。何を思われるか分からない。

 

「………詳しくは分からなかったけど、どんな状況なんだ?」

 

俺が、神崎について知っていること――色金とかシャーロック、それとイ・ウーとか――を悟られないように、何食わぬ顔で尋ねる。

 

「………ハァーー。別にいいわ。教えてあげる。あんたもキンジと同じルームメイトだし。部屋追い出したりと迷惑かけたからね」

 

神崎は、疑ってるようにしばらく俺を見つめていたが、どうやら警戒心を解いたみたいだ。

 

――――助かった。確かコイツはかなり勘が鋭いはずだ。何とか誤魔化せて良かった。中々のポーカーフェイスだと自画自賛したい。

 

神崎は窓をボンヤリ眺める。

 

「122年」

 

「……は?」

 

「武偵殺しが、ママに罪を擦り付けた!そのせいで懲役122年。他にも、色んな奴らがママに!――ママは牢屋の中よ」

 

「は、はぁ?」

 

「ママは……ほとんど無期懲役に近い刑が課せられている……。もうすぐでママの最高裁が始まる。だから、あたしには時間がないの。その為に武偵殺しと………その奥にある奴らを何としてでも逮捕する」

 

窓から映った神崎の表情は、悲しそうで、怒っている、焦っている、それらが混ざっているようだった。

 

「………………そ、そうだったのか」

 

俺は唖然とする。

 

………まさか、そんな深刻な状況だったとは。思いもしなかった。

 

神崎の母親が無実というのは、警察も分かっているはずだ。じゃなきゃ、そんなアホみたいな懲役課さない。もっとマトモな年数にするだろう。

それでも、無期懲役にしたい。ということは、警察……いや、国家か。国家は神崎の母親を監視したいということか?

 

神崎の母親は何をした?

何をしたら、そこまで酷い状況になる?

国家は何を恐れている?

 

まさか、シャーロックでも知らないことを、知っているのか?

 

いや、あいつが言っていたが、シャーロックは、条理予知――推理で未来を予測することが出来るらしい。だったら、神崎の母親のことも――――――

 

………………ダメだ。今、考えても仕方ない。何も思い浮かばないし、そもそも証拠がない。それに、いずれ分かる時が来るだろう。

 

 

この話を終わろうと次の話に切り出そうとしたいが、何を話すか?……いや、聞きたいことがあった。

 

「あ、神崎。俺の部屋には入ってないよな?何か壊したりしてないよな?」

 

神崎が帰ってから色々確認したけど、念の為にこれだけは聞いておかないと。

 

「それは大丈夫よ。キンジに釘を刺されたからね。心配しないで。それより、八幡。あたしが泊まってる間、どこに行ってたの?」

 

神崎も話題を変えようと、その話に乗ってくる。

 

「最初は実家に帰ろうとしたけど、面倒だったし、レキの部屋に泊まった」

 

素っ気なく答える俺。

 

「ええっ!?……レキと?その、一緒の部屋で?」

 

心底驚いている顔だな。そういうお前も遠山と一緒に泊まっただろ。

 

「えっ。……そうだけど?」

 

「八幡って、その、レキと付き合ってるの?」

 

神崎は目を輝かせ、興味津々そうに聞いてくる。やっぱり女子ってゴシップとか好きなのか。

 

「世間一般で言う、付き合ってる、というのがどんな状況を指すのか俺やレキには分からないからな。答えようがない。ほら、俺たち普通じゃないし」

 

無理矢理、答えを誤魔化す。

 

「アハハッ。確かにあんたたちは特殊って感じがするわね」

 

「特殊で何が悪い。英語ではspecialだぞ。優れてるっぽいだろ」

 

それに、ここの住人たちは全員特殊だと思うがな。

 

「そう言われればそうね。日本語って、そう言うニュアンスが難しいのよね」

 

 

少しの間、俺と神崎は世間話をして、この空気が和んだように感じた。

 

その時、ここに来た目的を思い出した。

 

「あっ。…………話大分逸れたな。本題にいくか。――――で、話って何だ?神崎」

 

「…………そうね」

 

俺の一言で、神崎の表情は暗くなる。 

 

神崎はうつむきながら、

 

「ねぇ、八幡」

 

まるで独り言のように話し始める。

 

「ん?何だ?」

 

「キンジが武偵を辞めたがっている理由、知っている?」

 

「……急にどうした?」

 

話の意図が掴めず、思わず困惑する。

 

「さっきね、キンジがここに来たのよ。それで、少し口論になったの」

 

「ふーん。どんな?」

 

「キンジが、武偵を辞めたがっていることを、あたしのことに比べたら、どうでもいい、大したことない!って、あたしが言ったら、………キンジがスゴい怒った顔をして出ていったの」

 

あぁ。そういうことか。……なるほど。それは怒るな。

 

「ケンカ別れをしたわけか。……教えるよ」

 

さっき、色々とこっちも教えてもらったし。

 

「あ、ありがと」

 

「遠山にはな、目標としている人物がいたんだ。名前は遠山金一。遠山キンジの兄だ」

 

「えっ………。いたって?」

 

「…………この前のクリスマスイブ。浦賀沖にて海難事故が起きた。まぁ、幸いにも、遠山金一を除く全員が無事だった」

 

その俺の台詞で、神崎は息を呑む。

 

「キンジのお兄ちゃんはどうなったの?」

 

「行方不明だ」

 

本当は今もバッチリ生きているんだけど……。これはそう簡単には言えないことだ。

 

「そうなの…………」

 

「それでな、海難事故の責任者は全て遠山金一のせいにした。世間やマスコミからのバッシングを恐れて。遠山金一は何も悪くないのに、むしろ人を助けた。だが、周りから――無能の武偵だというレッテルを貼られた」

 

本当…………この事件は胸くそが悪すぎる。

 

何も見もしないで、知ろうとしないで、物事の本質を見抜けない。そんな流されているような奴らが、俺たち武偵を否定する資格なんてない。

 

………話、続けるか。

 

「それだけならまだマシだ。だが、その悪意は遠山金一の親族である者にも被害に合わせた」

 

「えっ……。それって、もしかしてキンジ?」

 

「あぁ、その通り。このことにより、遠山キンジは武偵そのモノを嫌った。………これが遠山が武偵を辞めたがっている理由だ」

 

「そんなことが………。ありがとね」

 

今の神崎は自分の行動を振り返っているような、考え込んでる顔付きだ。

 

「神崎、1つ言っておく」

 

神崎が顔を上げたのを見てから、

 

「世界が、お前中心に動いていると思ったらダメだ。人、1人1人、それぞれの物語がある。自分の普通を他人に押し付けるな。

お前にとってどうでも良くても、その人からしたら、大切な事だってある。それを理解しないと、いつまで経っても、お前は…………『独唱曲(アリア)』のままだ」

 

その、大きな赤色の目を見開き、俺を見つめて――数秒。俺から目を逸らし、

 

「忠告、感謝するわ。今日はありがと」

 

それだけ、答えた。

 

 

――――せめて、俺の言葉で、少しでも、神崎アリアに影響を与えていたら、この言葉の価値はあるのだろう。

 

柄にもなく、ふと、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院から出たら、もう暗くなり始めていた。

 

腹減ったな。部屋にまだ材料あったよな。野菜も肉も。あ、米を炊いてなかったような。遠山に頼むか……?さすがに米を炊くくらいできるよな、アイツでも。

 

そんなことを考えながら、歩いていた。特に人通りが少ない道に差し掛かった頃、

 

――――ザリ、ザリ、ザリザリ!大人を少年にすーる。ザリ、ザリ――――

 

俺の携帯から着信音がした。

 

………この着信音に対する突っ込みをする奴は邪魔なんだよ。

 

まぁ、冗談はここまでにして、誰かと思い、画面を覗く。

ん?あぁ、あの人か。久しぶり……でもないな。

 

「もしもし」

 

『八幡。元気?』

 

「まあな。それなりに。そっちはどうだ?……セーラ」

 

相手は俺の超能力の師匠、セーラ・フッドだ。イ・ウーの一員のな。

 

狙撃に関しては、イ・ウーで一番ではないだろうか?もしかしたら、あのレキより上かもな。

 

『こっちも元気』

 

「それより、いきなりどうした?」

 

『別に。連絡するって言ったでしょ?』

 

「そうだったな」

 

『暇だし雑談でもしようかなって思ったけど。今日は教えることがあってね』

 

「教えること?」

 

『うん』

 

「何だ?」

 

『もう八幡のいる場所に、ジャンヌと夾竹桃がいる。いつかは分からないけど、夾竹桃は間宮あかりと戦う予定らしいよ』

 

「――っ。何だって、それは本当かい!?」

 

『本当。ついでに言うと、理子は武偵殺しって呼ばれているよ』

 

「はぁ?」 

 

いきなりぶっ込んでくるなー。それとネタをさらっと入れたが、やっぱり反応してくれなかった。

 

 

えーっと、夾竹桃が間宮と戦闘している?なぜ?何があった?

……………あの毒使いなんて考えても分からんな。一先ず後回しだ。

 

それとジャンヌか。あいつの目的は?

ジャンヌのことだから恐らく誰かをイ・ウーに勧誘しにだな?

巷で騒がれている、超能力者を拐っている『魔剣(デュランダル)』とはジャンヌのことか?

………だが、これも、今はいい。

 

 

 

それより、理子。お前が武偵殺し、か。……薄々そんな気はしていたんだがな。

 

根拠としては、薄いかもしれんが、

 

先ず初めに、ジャンヌからカナのことを教えてもらった時だ。

個人名は伏せたが、武偵殺しのことを言っていた。その時の口ぶりは、俺も武偵殺しのことを知っているような口ぶりだった。

 

次に、理子へのブラドの課題。「伝説の怪盗――初代リュパンを越えろ」それをどう証明する?

俺なら、初代リュパンが倒せなかった人を倒す。もしくは、盗めなかった物を盗む。

そこで、現れたのが神崎アリア。あいつは、シャーロック・ホームズの子孫だ。ならば、神崎アリアの万全な状態に勝てば、その証明になるのではないか?

 

そして、最後に、調べて分かったことだが……神崎アリアは武偵殺しを今まで追っていた。

武偵殺しが関わっているほとんどの事件に首を突っ込んだ。それと、先程の話。

 

それで、確信を持てた。

武偵殺しは神崎アリアを狙っている。あいつの出ることが可能なタイミングで、毎回事件を起こしていた。何回も、執拗に。

 

 

 

『八幡?大丈夫?』

 

俺を心配してくれる声が聞こえる。

 

「……あぁ。大丈夫だ」

 

『ならいいけど。それで八幡はどうする?武偵として、武偵殺しを逮捕するの?』

 

「……………」

 

唐突に突き付けられたこの問に、俺は言葉を紡ぎ出せない。

 

 

さっき、神崎の悩みを聞いた。

 

母親を助けたい。その思いを今まで持って、戦って来た。ただひたすらに。もう制限時間は迫っている。

 

 

そして――理子。

 

理子の過去を俺は知っている。一言では表せない、理子の過去を。

 

 

 

――――俺は、どちらに味方するべきだ?

 

本来なら、神崎に味方し、理子を捕まえるべきだ。それが仕事だ。犯罪者を狩る武偵ならそうする。

 

だけど、理子の苦悩が、過去が、覚悟が…………その思いを濁らせる。

 

峰理子の過去は悲惨だ。言いようがないくらい悲惨な人生を送ってきた。

 

だから、理子を助けたい。

 

それは、あの時から変わらない。

 

 

だったら、俺はどうすればいい?

何が最適だ?

どの選択肢を選べばいい?

正解はどれだ?

 

 

峰理子は犯罪者だ。そりゃあ、イ・ウーに在籍しているんだしな。あそこにいる奴らほとんどが犯罪者だ。

 

しかし、今捕まえようにも、証拠がない。セーラの言うことは正しい。だろうが、明確な証拠がない。

 

誤認逮捕は、俺としても危ない。しくじったら、俺が捕まる。ゲームオーバーだ。それは避けなければならない。

 

 

軽く深呼吸をする。

 

「なぁ、セーラ」

 

『何?』

 

「理子と話してくるわ」  

 

『そう。いってらっしゃい』

 

「いってきます。………ありがとな」

 

『大丈夫。気にしないで』

 

こうして、セーラとの通話は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 




メインヒロインでてこないこの始末!

一応いつかは、活動報告で生存報告はするつもりなので。




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俺とお前と

お久し振りです。NowHuntです。本当は7月辺りに投稿しようかと思っていたのですが、八幡の武偵生活一周年(まだ一周年ではない)に合わせたくて投稿しまs……………俺のことなんて覚えてない?ですよね…………

ハァ……どうせ俺なんか………


   チェーンジキックホッパー



「ううっ、寒っ」

 

雲が少なく、夜空からは半月が綺麗に見える。

 

時刻は大体2:00だ。深夜のな。4月の冷え込みは中々に寒い。体が冷える。

 

地味に長時間外で座っているのはキツい。しかも、コンクリの上だと余計に寒い。体を動かせばいい話だが、結局面倒だから動かさない。この悪循環よ。

 

俺がどこにいるのかというと……………。

――男女の寮から2km圏内に位置する廃ビルの屋上だ。周りに家やビルはあまり広がってなく、頑張れば肉眼で寮をどちらも見れる。そこそこ見通しはいい。けど、暗い。

 

俺はそこに独りで腰掛けている。

 

この廃ビルは今現在、誰も使ってないようだ。所々中には穴が空いてたり、何かの機材が並んでいたりはしているが。

ちなみに、窓は全て抜けており風が良く通る。屋上に行くまで寒いのなんの。

 

今度は、なぜ俺がここにいるのかというと………言わなくてもいい?正直面倒です。……あ、言わなきゃダメですかそうですか。

 

まぁ、あれだ。女子と夜中にコソコソ話すんだよ。言わせんなよ恥ずかしい。

…………何そのリア充感。爆発しろ。木っ端微塵になれ。砕け散ろ。

 

 

それに、さらっと言うけど、中学の時の俺と比べると想像も付かないだろうな。

折本に告白して、振られ、瞬く間にナルガヤと呼ばれ。それにごみぃちゃんとか呼ばれて。

………いや、待て、最後は違う。小町だわ、ごみぃちゃんって呼んでたのは。何だよ、ごみぃちゃんって。兄は決してゴミではありません!…………あ、どうでもいいですかそうですか。

 

 

えっ?誰とこんな夜中に話すかって?

 

そいつはな――――

 

「やっほー。ハチハチ。待たせてゴメンね~」

 

「呼んだのは俺だ。気にすんな。寒いけど」

 

――――峰理子。そうだな。何で言うか………。俺の………友達だよ。

 

 

 

 

 

「悪いな、こんな時間に呼びつけて」

 

本当はもう少し早くにしたかったのだが、色々と準備があったからな。

 

理子は、改造したヒラヒラしたロリータ制服を揺らしながら、

 

「大丈夫だよ。ちょうど深夜アニメ消化してたからねーー。少しウトウトしかけてたから目を覚ますのにちょうど良かったよ」

 

俺の心配とは裏腹に呑気に答える。

 

「早速だが、本題に入っていいか?」

 

俺が立ち上がるのを見ると、理子がなぜだか、自分の体を抱きしめるようにして、詰め寄ってくる。それにプラス顔を赤く染めて。

 

「もう始めるの?くふふっ。ハチハチも中々やり手ですなー」

 

「お前は何を想像している?」

 

「ナニって………。この時間、男女2人。そこから導き出される結論はもちろん、えっちぃことでしょ?」

 

「アホか」

 

下がりながら、つい理子の足下にファイブセブン2発銃弾をぶち込む。入射角のせいか2発ともコンクリから弾かれた。

 

「うひゃっ!危ないよ~ハチハチ。いきなり銃を撃たない!分かった?」

 

「いやお前が言うか?職業爆弾魔が」

 

 

――――その一言で、理子の顔つきが一瞬変わった。俺は何回か見たことのある。

獲物を狩るような目、いつもは見せない獰猛な笑み………もう1人の理子か。

 

が、すぐにいつものの理子に戻る。

 

 

「へぇ…………。ハチハチ――知ってたんだね~」

 

「教えてくれたからな」

 

「誰だろ?うーん。ジャンヌじゃあないねー、夾竹桃でもない。ハチハチはあそこでも知り合い少ないしねーー。……ってことは、もしかしてセーラかな?」

 

ちっ、ものの数秒で当てたぞ。あと、さらっと馬鹿にされたのは気のせいか?

 

「さぁな?」

 

ここで認めるのは何か癪なので悟られぬよう、何食わぬ顔で返答する。

 

「………さすがのポーカーフェイスだね。でーもっ、逮捕したくても、証拠はあるのかな?もしなかったら、ハチハチがアウトだぞー。誤認逮捕でガメオベラだ~」

 

余裕満々の表情で理子はクルクル回る。

 

理子は、自分が武偵殺しとは認めている。が、それだけでは逮捕に至るには不十分。俺がそれを理解していることを理子は理解している。

だから、俺は踏み込めない。そう判断した上での行動だろう。やっぱりそうくるよな。さすがに頭が回る。

 

確かにセーラからは言葉だけで、明確な証拠を言われたわけではない。でも、セーラの言葉はきっと正しい。そこは疑っていない。

 

武偵殺しは易々と自分に繋がる痕跡を残していない。

しかし、可能性はある。もし武偵殺しに次があるなら…………いや、きっとある。かなり少ない賭けだがな。それまで時間を適当に稼がないと。

 

 

 

――――その表情、崩してやる。

 

 

 

「確かに俺はある人から聞いただけで理子が武偵殺しという証拠を持ってない」

 

「うんうん。そりゃそうだろうね」

 

「だが、お前が武偵殺しではないという証明はできるか?」

 

「……………どういうことかな?」

 

ヨシッ。一瞬だけ表情が変わったぞ。

 

「武偵殺しは神崎アリアを狙っている。そして、その神崎アリアは……明日だったな。その日に飛行機でイギリスに帰還する予定だ」

 

これは夕方神崎と雑談しているときに聞いたことだ。

 

「クリスマスイブのシージャックの時みたいに神崎アリアと武偵殺しは恐らく直接決着を着けるだろうな」

 

「…………何が言いたいのかな?ハチハチ」

 

警戒心を高めた目で俺を睨んでくる。

 

「別に……。ただ、俺が武偵殺しなら――その機会を逃さない。何せ鴨がネギを背負ってくるようなもんだからな」

 

周りから、徐々に、狡猾に、卑屈に、俺らしく、攻め続けろ。

 

「ふぅーん。そ、れ、で?私に何をさせようと言うのかなぁ~?」

 

「明日1日中俺と付き合え」

 

と、率直に考えたことを間髪入れずに言った。その瞬間――――

 

「ふぇっ!?」

 

理子はやけに驚いた声を出す。何をそんた驚く?……………あ、

 

「………付き合えって言ったけど、ゲームとか色々しようって意味だからな」

 

「な、何で急に?」

 

「いや…………。もしこれで、ハイジャックが起こったら俺の勘違いってことになる。その時は謝る。だが、もし起こらなかっ」

 

ここで俺の言葉がピタッと止まる。なぜなら、ズボンからバイブ音がしたから。

 

 

――――この時間に来るってことは……やっと来たか。どうだ?成功したか?俺は賭けに勝てたか?

 

 

「ん?ハチハチ、どしたの?」

 

不自然に言葉を止めた俺に対して、すっとんきょうな声を上げる理子。それを無視して携帯を取り出す。

 

画面を覗くと………予想通りある奴からのメールだ。きちんと頼んだ物の写真がある。

 

正直な話、本当にあるかどうか望み薄だったが――賭けに勝ったぞ、理子。

 

「悪いな。今の話なしで。えーっと。…………げ、玄関から2番目の部屋の……し、下着が入っているタンスの奥と」

 

「――――っ!」

 

メールに書いてある文面を読み上げていると理子の息を吸い込む音が聞こえた。

 

これは……ビンゴか。

 

「それとリビングのテーブルの下の隠し棚。――分かるよな?理子」 

 

「……クソッ」

 

理子は苦い顔で思いっきり毒づく。可愛い女の子がそんな顔すんなよ。

 

「そこにあるのはC4がそこそことUZIが5丁。武偵殺しが使ってた物と恐らく同等だろうな」

 

C4とはプラスチック爆弾のこと。UZIは今まで武偵殺しが犯行に使用したマシンガンだ。

ハイジャックにはマシンガンは必要ないかと思ったが、念のためと言うべきか、やはり残してたっぽいな。

 

しかも、絶対分からないような位置に閉まってあった。あいつじゃないと見つけられないような位置に。

 

「もう頼んで押収してもらっている。後はこれを提出するだけか。…………あぁ、まだあったわ」

 

屋上の各地に置いてある盗聴機を3個回収する。 

一応ここには月明かりしか差してないが、見つかったら不味いからわざわざコンクリと似たような薄暗い灰色に塗った、俺が。

 

「…………もしかして……盗聴機?えっ?えっ?そこまでするの?普通する?」

 

さっきまでの苦い顔はどこに行ったのかと思うくらい呆気に取られている表情な理子。俺の行動が予想外すぎたのか。

 

それに、めっちゃポカーンとしている。この表情は中々レアだな。

 

「もちろん、そこまでするわ。誰を相手にするのか分かっているのか?――だからこそ、用意は周到に、だ」

 

「それは嬉しい評価だけど。……うん?ちょっと待って?じゃあ、私の部屋に入ったの誰?」

 

「誰だろうな?」

 

「………………そっかぁ。レキュか。ヤられた」

 

いや、結論まで辿り着くの早すぎです。その通りだけどさぁ。こちらとしてはもう少し悩んでほしい。

 

理子の部屋の鍵は装備科の材木座の後輩の奴に頼んだ。けっこう安く合鍵を作ってくれた。

 

「この廃ビルの位置。………そうか。レキュの射程範囲か。まさか……ここまでとは。流石だね、ハチハチ」

 

「そりゃどうも」

 

やっぱり気づいたか。だが、これで理子は俺に攻撃しにくくなった。この暗闇の中から狙撃が飛んでくる。これは大きなプレッシャーになる。

 

……………俺は狙わないよな?誤射は止めろよ、レキさん。

 

ちなみに、レキにこれを頼むのにかなり苦労しました。俺の必殺土下座が火を吹いたぜ。

色々と条件付けられたけど。まぁ、そこは武偵同士のやり取りってことで。

 

盗聴機で録音したデータは俺のパソコンに送られている。ここでの音声は確保した。

それと爆弾とマシンガン。それらはレキが俺の部屋に置いてくれる予定だ。部屋の鍵は渡した。遠山には少し悪いがな。

 

さぁ、証拠は揃ったぞ。揃ったけど………、

 

………うーん………だけどなぁ、

 

「この場合……お前を逮捕しなきゃないけないのかぁ?」

 

「………今度は何?どういう意味なの?ハチハチ」

 

「いやぁ……武偵としては捕まえるべきなんだけどな。イマイチやりにくいってか、お前の過去を知らなかったら直ぐにでも捕まえるつもりなんだけど…………。情けないが、理子の邪魔をしたくないって思ったりするんだよな」

 

「見逃してくれるの?」

 

まだ警戒心を高めている目付きだ。

 

「お前はこれからどうするつもりだ?」

 

腰のホルスターに手を伸ばしながら、これだけは問う。

 

「さっき言った通りハイジャックするつもりだよ」

 

あ、俺の推理が当たってたか。これまた意外。

 

…………さて、どうする?比企谷八幡。

 

これで理子がハイジャックで人を殺したとしたら、間接的に俺は武偵法9条を違反したことにならないか?だが、黙っていたら、知ってる人など当然いないから、おとがめなしになるだろう。

 

それに、相手はあの神崎アリアだ。いや、もしかしたらもう1人……………。

そうなれば、何とかできるかもしれない。死人を出さずに解決する可能性もある。

 

 

 

でも、これは推測の域だ。本当にそうなるとは限らない。実際、そうならない方が確率としては高い気がする。しかし、あの遺伝子の持ち主が………………。

 

とにもかくにも、これは峰理子の戦いだ。関係ない外野が手を出すのは野暮ってもんだろ。

 

「俺は――――ここは手を引く」

 

理子は大きく目を開き、ゆっくり呼吸してから、

 

「八幡、お前は…………やっぱり優しいね」

 

前半の口調はもう1人の理子、でも最後にはいつもの理子だ。

 

「だが、お前がハイジャックで人を殺したら、すぐにでも警察に放り込むぞ。…………それと、俺は優しくなんかねーよ」

 

効くかは分からないが、一応脅しをかけとく。証拠は全て揃っているからな。

 

「くふふっ。なら、そうならないようアリアとキー君だけ狙わないとねー」

 

………あぁ、理子も分かっているんだな。自分が戦うとなったら、アリアと遠山のコンビと対峙することを。

つーか、そうなるように色々仕組んだよな?チャリジャックやバスジャックとかで。

 

「言っとくがお前に関する証拠は返さないぞ。……今回回収した物に限ってな」

 

「いいよいいよ。そんなのすぐに用意できるしね」

 

その口振りはどうやら本当のようだ。部屋にだけでなく予備はどこかにあるのだろう。

 

 

 

 

盗聴機の費用は高いし、非常に疲れたし、もうこの怪盗を相手にするのはゴメンだな。

 

「それじゃ私帰るねー。あ、部屋には戻らないからそこのところよろしく。そうそう、もう……今日だね、今日は学校サボるつもりだから」

 

要するにハイジャックの準備を進めるのか。どうぞご勝手に。

 

「バイバイキーン」

 

それだけ言い残し、金髪ぶりっ子はこの暗い廃ビルの屋上から去った。

喧しいのがいなくなり、再び静寂の空間に戻る。

 

 

 

空気が冷えるなか考える。『本当にこれで正しいのか?』と。

 

世間一般、倫理的に、武偵として見れば、俺の行動は批判される物に相当するだろう。なぜならば、目の前に犯罪者がいて、そいつを見逃すどころか、武偵殺しの共犯紛いなことをしたのだから。

武偵高の先生たちには殴られ、蹴られ、撃たれ、斬られ、刺され、拷問され、轢かれ、最後には牢屋にぶち込まれるほどのことを、俺はした。

 

――――だけど、この状況を選択したことに関しては、不思議と『後悔』という2文字の感情は涌き出てこない。

 

本当に、不思議だ。

 

「はぁ…………疲れた。やっぱり働きたくないな。専業主夫になりたい。でも武偵として働かないと………。あ、これダメだわ。社畜脳に染まってきてるなぁ俺も。まあいいや。帰って寝るか」

 

小さくぼやきながら、レキにこの事は内密にするようにメールで伝え、廃ビルから降りることにした。

 

この一夜にも満たない出来事は、俺と理子と……あと、レキの秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――こうして、俺と理子との静かな戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

  

 

 

 

 

武偵高1- Aの教室で。

 

午前の授業が終わり、お昼の時間となった。

 

クラスの一員である間宮あかりは友達である佐々木志乃と火野ライカと弁当を取り出し、一緒に食べようとしていた。

 

ちなみに、志乃は昨日の夾竹桃との戦闘で怪我を負い、各所に包帯を巻いている。

普通なら数日は療養しないといけない怪我だ。それでも、あかりから片時も離れたくないということから無理矢理学校に来た。

 

 

 

*夾竹桃とあかりたちの戦闘が知りたい方は、小説やアニメへGO!

 

 

 

そこであかりは後ろの方で唸っている声に気づく。

 

「うん?どうしたのー?いろはちゃーん」

 

彼女の名前は一色いろは。……容姿は言わずもがな。

中等部から在籍しており、1、2年でCVR、所謂ハニートラップを学び、3年で尋問科にも在籍していた。この高等部からはあかり達と同じ強襲科だ。

 

「あ、あかりちゃん。それがねー蘭豹先生に、お前は色んな所におって、けっこう中途半端やからここらでアミカでも作れ………って言われたんだよー。誰かおすすめの先輩いる?」

 

「へー。ちなみに、どっちがいいんだ?男子か?女子か?」

 

話に割って入ってきたのは、ライカだ。

 

「んー。別にこだわりないんだけど…………」

 

「あ、ライカ。だったら、あの人は?比企谷先輩」

 

「ん?あぁ。あの人か………。確か去年もアミカが中等部にいたって聞いたし、強いし、いいんじゃないか?」

 

「あかりさん。誰ですの?比企谷さんとは」

 

初めてのその名前を聞く志乃があかりに尋ねる。 

 

「確かに志乃ちゃんあの時探偵科に行ってたから知らないよねー。えーっとね、見た目を一言で言ったら、目が腐ってる?先輩かな」

 

「「腐ってる?」」

 

いろはと志乃の声が被る。

 

「アハハ。まぁ、そうだけどよ………」

 

苦笑するライカ。

 

「あのライカがそう言うってことはそんなに強いの?」

 

「そうだよ。私とライカと模擬戦をしたんだけどね。ほとんど私達を攻撃せずに勝ったんだよ」

 

いろはの問いにはあかりが答える。

 

「それはスゴいですね………。ところであかりさん。その比企谷さんって男性ですか?」

 

「うん」

 

八幡が男という情報にホッとため息をつく志乃。

あかりはこう……女子に好かれやすい子だからか、別にあかりの先輩が男子でもそうは不思議ではないから大丈夫。と、考えている。

 

「午後から実習始まるし、一緒に行ってみよーぜ。何だかんだ話聞いてくれるかもよ」

 

「そうだよいろはちゃん。私も行くからさ」

 

「あ、あかりさん。私もいいですか?」

 

「もちろんだよ志乃ちゃん」

 

ライカの提案にここにいるメンバーが乗る。

 

「よ、よろしくね~」

 

いろはは今まで実習に参加した時にそんな人がいたのかどうか思考を巡らせるが、特に思い当たらない。

 

 

 

 

いろはも交じり、みんなでお昼ご飯を食べながら談笑していると、

 

「ところでさ、あかりと一色って声似てるよなー」

 

不意にそんなことを呟くライカ。

 

「言われてみたらそうですよね」

 

志乃も同意する。そこで何か思い付いたようにいろはは、

 

「そりゃだって中の人が!むごっ、ふぉっと!ふぁふぁりふぁん!」

 

いろはがメタ発言しようとした寸でのところであかりがいろはの口を抑える。

 

「………それ以上は、ね?」

 

その時のあかりの笑顔は中々怖かったらしい。

 

他には、

 

「ライカお姉ーさま!!」

 

「き、麒麟!ちょ、待てって!ぐへっ」

 

ライカのアミカの麒麟がライカに体当たりをかましてきたりと、この1年生の昼は楽しく、うるさく過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「うーん…………」

 

「どうしたの?八幡」

 

「いや、それがな………って、そもそもなんでここにいるの?ルミルミ」

 

「ルミルミ言うなー」

 

 

 

午後の実習が始まり、射撃場でファイブセブンを左手で撃つ練習をした。

 

距離15m、半径15cmの円の的を撃ったが、命中率が半分を余裕で切った。

これが右手なら9割は越せるんだが……………。

 

今まで利き手以外では練習してこなかったからな。これから徐々に練習しよう。

 

 

射撃の練習も終わり、ファイブセブンを材木座に預けて体育館に行こうかとしたら、いつの間にかこの度中等部3年になった俺の元アミカの鶴見留美がいた。

 

誰かいるのかは超能力で嫌でも分かっていたけど、こいつとは思わなかった。個別の認識はしにくいな、これは。身長で判断するしかないか。

 

「で、結局どうしたの?」  

 

「そうだなー」

 

どう言おうか迷っていると………、 

――――これは、後ろに誰かいるな………。

 

と、気配を感じる。振り向きそこにいたのは、

 

「や、比企谷君」

 

後ろから爽やかイケメンこと不知火が肩を叩いてきた。

 

「よぉ」

 

「で、この子は、比企谷君の元アミカの鶴見留美ちゃんでいいのかな?」

 

「誰?」

 

ぶっきらぼうに不知火を見上げ尋ねる留美。

 

「アホ。俺ならまだしも先輩には面倒でも敬語使っとけ。怒られんのはお前だぞ。あと俺も」

 

頭を軽く殴って説教する。

 

「はーい」

 

「僕は不知火亮。よろしくね」

 

「鶴見留美。よろしくお願いしまーす」

 

留美は後半スゴい棒読みで自己紹介をした。

 

「それでさっき比企谷君唸ってたけど、どうかしたの?」

 

「いや………」

 

理子のこととファイブセブンの命中率のことを考えていたけど、それをこの場で話すのは可笑しいよな。

そもそ理子のことは秘密のことだし。わざわざ俺の命中率とか不利になる情報も渡したくない。

 

だったら少し誤魔化すか。

 

「なぁ、不知火にルミルミ」

 

「何?」

 

「だからルミルミ言うなー」

 

「へいへい。それでさ、俺ってどんな風に見える?」

 

「腐ってる」

 

「おいこら。そういう意味じゃねーよ」

 

速答しやがって。

 

なんだよ、腐ってるって目だけではないってことは、俺は常にゾンビなのか?腐ってるって物理的に?

………いや、例えだよな?そうだよな? 

 

せめてグールにしろ、カッコ良さそうだから。作者グールの知識ゼロだけど。

 

不知火も何とも言えない微妙な表情しているし………。本当に留美は生意気だな。そこが留美らしいんだが。

 

「じゃあ、どんな意味なの?」

 

「そうだな……。今の俺って強そう?弱そう?どんな感じに映っている?あ、戦力的な意味で」

 

改めて問うと、不知火も留美も少し考え込んで、

 

「そうだね、パット見だとあまり分からないよね。弱そうにも見えるし……。だからこそ、少し不気味にも思える」

 

「私と一緒に戦った時は、少し不気味だなぁって思ったけど、今は色々弱そうに見える」

 

そこで不知火は思い出したように、

 

「あ、そういえば。あの時の比企谷君は物凄く怖かったね」

 

「あの時?」

 

「ほら、1年の夏休み始まる前のアレ、だよ」

 

ケラケラ笑いながら不知火は言うが…………、あまり思い出したくないな、恥ずかしいから。もう、完全に黒歴史ですね。

 

「あー、アレか」

 

小町が撃たれたと思ってぶちギレた時。あんまりその時のこと覚えてないんだよな。完全、完璧、パーフェクトに理性外れたしな。あんな経験そうはない。

 

「あの時は比企谷君かなり怖かったよ。恐怖で動けない経験は初めてだったからね」

 

「へぇー。八幡そんなことあったんだ」

 

珍しく留美が感心の声を上げる。

 

「まあな」

 

「それで、比企谷君は校長先生に色々教わったんだっけ?」

 

「ああ」

 

「………あれ?ねぇ八幡。校長ってどんな人だっけ?全然印象にない」

 

留美はうーん、と頭を抱え悩んでいるが、

 

「それが普通の反応だ」

 

あの人は身長、体重、声、顔、全てにおいて平均的でマトモに認識することが難しい。

何度か会ってる俺でも声を掛けられないと分からない。

 

「僕もどんな顔とか覚えてないよ」

 

おお、不知火でさえ覚えてないのか。

 

東京武偵高校、ひいてはあのシャーロックにも勝てそうだ。いや、あいつなら推理で動きが読めそうだな。……が、奇襲に関しては恐らく最強ではないか。あの学園島を傾けたことのある蘭豹ですら恐れるほどだ。……………なんでこの人が教師をやってるのか不思議に感じる今日この頃。

 

「俺が教わったのは殺気の出し方と抑え方だ。ここ最近あまりつかってないけどな。つーか使う機会がない」

 

何だかこの話を続けるのは怖い気がするので、無理矢理俺は話を戻す。

 

「じゃあ、比企谷君はもう使いこなせるの?その、殺気ってやつを」

 

珍しく不知火が興味ありげに聞いてくる。いつもならナアナアで済ますのに…………。

 

ここは安易に情報を握らせるべきではないか?

 

「ある程度なら、な」

 

俺は完璧には教えないことにする。

 

俺の出せる殺気を10段階に分けるなら、理性を保てるのは、最大で7か8ぐらいだ。それ以上出すと、徐々に理性を失いそうになる。独りでいるときに何度か試した。

だけど、並の相手なら4割程度でならほんの一瞬だけ圧せる。留美と解決した立て籠り事件もそのくらいだったからな。

 

 

 

 

そうこうしている内に強襲科の体育館に着いた。不知火と留美と俺か。今さらだが、珍しいメンバーだな。

 

――――さーて、今日は何をするかな。留美にでも稽古をつけるか。いやだったら、独りでシャドーでもするか?

 

と、考えていると、目の前から、

 

 

 

「すいませーん。比企谷先輩」

 

「この人が……あかりさんとは…………大丈夫そうですね」

 

「先輩。ご無沙汰でーす」

 

「ひっ!お姉さま。あの人!顔が!顔が怖いです」

 

「…………へぇ。これが比企谷先輩、か」

 

……………何だか間宮と火野の他にわらわらやってきた。あとさらっと貶されたのは気のせいか?いや、気のせいじゃないな。絶対貶された。あとで殴る。

 

「あ、麒麟ちゃん」

 

留美がポツリと呟く。

どうやらその内の1人、俺を貶した金髪の小さい方とは留美と知り合いっぽいな。

 

こいつを殴ったりでもしたら……警察に捕まりそうだが。

 

「あ、留美ちゃーん。はーいですの~」

 

………あ、思い出した。あいつって確か理子と一緒にいた奴だ。

留美とアミカ契約の話を進めた時に理子と遭遇した。車輌科の島莓と似ている奴。島莓の妹か?

 

「留美、知り合いか?」

 

「うん。中3からのルームメイト」 

 

そうなのか。…………留美と合わなさそうだけど大丈夫なのか?でもまぁ、留美の言葉は特に普通だし苦手意識はないのだろう。

 

 

 

それより、こんな人数がこの俺に用だと?…………えっ、マジで?

 

――――これまた面倒なことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――オマケ――――

 

 

 

時刻は夜の7時。

 

俺はレキの部屋にいた。

 

「いやホントお願いします!」

 

レキの部屋の玄関にて絶賛土下座タイム突入であります。

 

俺の目の前で、武偵高の制服のレキが見下ろしてくる。………ドラグノフを肩にぶら下げて。いつもの無表情だけどプレッシャーが半端ない。

 

…………あとスカートの中を覗かないようにしていますよ?その角度で立たないでほしいですレキさん。色々見えちゃいそうだから。

 

 

 

なぜこうなっているのかと言うと…………。

理子の部屋に入って何か武偵殺しに繋がりそうな物を入手してほしいと頼んでいる真っ最中だからだ。

 

「ほら、レキ。もう理子の部屋の鍵は用意したから」

 

さっきかは頼んでるのにいっこうに反応してくれない。と、思ったら、

 

「なぜですか?経緯を聞かせてください」

 

そういや、いきなり頼んでろくに説明してなかったな。

 

「…………………俺の師匠のセーラ。知ってるだろ?」

 

「はい」

 

「そいつから理子が武偵殺しって聞いたんだけどさ、いかんせん証拠がない」 

 

「はい」

 

「それで、確かめるために俺が理子を呼び出すからレキに理子の部屋で武偵殺しに繋がる物があるかどうか探索してほしいなー、って」

 

「事情は理解しました。それで八幡さんは理子さんをどうするのですか?」

 

「それは…………決めてない」

 

沈黙が数秒続き、

 

「分かりました。そこは八幡さんに任せますが、質問があります」

 

「何だ?」

 

「これを頼みではなく、武偵同士の依頼ということにしてください」

 

…………レキに依頼する。つまりはSランクに依頼する。ってことは報酬が高くつきそうだな。色々と準備したせいで財布が今は悲しいことになってるんですけどそれは。

 

「そんなに金ないぞ。だから、出世払いでお願いします」

 

再度地面に頭を付ける。が、レキの口から発せられる言葉は、

 

「報酬はお金ではありません」

 

俺の予想とは大分違い、驚き顔を上げる。

 

「えっ。じゃあ……」

 

俺が何を言おうか迷っていると、正座している俺にレキは目線を合わせるように屈み(互いの距離は10cm)、

 

「では、私のお願いを3つ聞くのはどうしでしょう?」

 

俺の目を真っ直ぐ見つめて、そう言い切った。

 

それなら……まぁイケる。金はあまりかかりそうにない。だけど、

 

「俺の叶えられる範囲でな」

 

「はい、分かりました。考えておきます」

 

 

 

 

 

 

立ち上がったレキは、一瞬笑っていたように見えたが…………、直ぐにどことなく真剣見を帯びた表情になる。

 

いつもの無表情とは違う、俺の今まで見たことのない表情。

 

――――一体全体何を頼むつもりですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本編とAAとの時系列が可笑しいかも知れませんが、まぁ、そこは目を瞑ってくださいな

追記
留美の学年を変更しました。
2017 7/5一部修正しました。


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Travel in the sky

8月に投稿すると言っておきながら7月に投稿するスタイル
前回色々と訂正してくれた方々アザっす!自分で書いてて、忘れるってどうなのよ…………。しかも読者の方が詳しいって……………。





「おい、間宮」

 

「あ、はい。何でしょう?先輩」

 

「いや、こんなゾロゾロ来て……。何か用か?」

 

「あ、用があるのは私じゃないんですけど………」

 

「あ、あるんだ。本当に………」

 

 そこで間宮が見た方向を目線で追いかける。

 

 

 

 ――そこには、間宮と同じような茶髪。肩にギり掛からないほどの髪。身長は一般的な女子とあまり変わらない。 

 

 容姿は客観的に見ると、可愛い部類に入るだろう。………だが、問題はそこじゃない!

 

 

 

「うっわぁ……理子と似たような感じがするな…………」  

 

 幸いにも誰にも俺の呟きは聞こえなかったみたいだ。けっこう近くにいる間宮にも聞こえてないみたいだし。

 

 俺とそいつの目が一瞬合うと、そいつは首を傾げた。……その動作何回も練習してるだろ!と叫びたいほどあざとい。

 

 そいつは俺に近づき、俺を見上げながら、

 

「私、一色いろはっていいま~s」「あざとい、やり直し」「えっ。…………ちょ、何ですかぁ、それ!」

 

 スゴい甘ったるく、あざとい声を出してきたので思わず反射で訂正を要求してしまう。

 すいませんね。あざといのは理子で腹一杯です。いやもう本当にね。小町も十分あざといしね。……いや、あれは小悪魔的な感じか?

 

 小悪魔…………LDP!あ、はい今は関係ないですね。

 

「私はあざとくないでーす」

 

「…………」

 

 こう、いかにも私怒ってます!アピールが、違和感なく自然と出してくる。普通の奴らなら騙せそうだな。正直レベルが高い技術だと思うわ。

 

 女子ってスゲぇ、と、改めて実感する。

 

 あと、間宮と声が似ているような………このネタ前回もやったような…………。あれ?そうだっけ?うん分からん。

 

「俺は比企谷八幡だ。それで……一色っていったか?何か用なのか?」

 

「はい!」

 

 俺と接点なんかなさそうなのに…………、珍しい奴もいるんだな。うーん。何だ?今まで見たことないしなー。特に思い当たる節がない。

 

「えーっとぉ、単刀直入に言いますとぉ、私をアミカにしてください」

 

「八幡を?」

 

 真っ先に反応したのは元アミカの留美だ。

 

「どした?留美よ。本来は俺が反応するべきなんだが」

 

「いや、別に。………物好きもいるんだなぁ、と思っただけ」

 

「その物好きにお前も入ってることに突っ込んでいいか?」

 

「それは置いといて。一色さん、何で八幡なの?」

 

 頼まれた俺を差し置いて留美が話を続けるとか……俺の立場はどこに行ったのか?

 

 ちなみに、不知火は話の輪から外れて、外から見守ってる形になっている。

 

 間宮は何か苦笑い。 

 黒髪ストレートの美人さんはずっと間宮を見つめている。 …………はっ!これは、もしかして百合?

 火野も島麒麟とくっついている。火野はまんざらでもない顔をしている。

 

 …………間宮のグループ大丈夫か?百合思考の奴らしかいないの?そうだ、このグループを特殊性癖軍団と名付けよう。

 

 そうこうしている内に話は進む。

 

「実は~、先生から誰かアミカ取れって言われたから、あかりちゃん誰かにお奨め聞いてみたら、そこの先輩を奨められたんだよね」

 

「ふーん。で、どうするの?八幡」

 

「急に振られてもなぁ…………。俺、お前のこと全く知らんわけだし」

 

「基本皆そんな感じじゃない?」

 

 留美がぼやく。が、それより、留美よ、あんた今関係ないよね?俺と一色の問題だよね?

 

 ………………よしっ。

 

「間宮ー。こいつ連れてけー」 

 

「あ、はい。分かりました」

 

「えっ。ちょ八幡」

 

 留美の背中を押して、特殊性癖軍団に押し付ける。どうなったかは知らん。強く生きろ。

 

 もう一度俺は一色の方に向き直る。

 

「ん?そういや、さっき教師にアミカ取れって言われたって言ってたけど………何でだ?問題でも起こしたのか?」

 

「いやいやいや、そんなわけないじゃないですか~~!!」

 

 怒った風に声を出すと、コホン、と咳払いして話を続ける。

 

「私、中等部では2年間CVRにいて、最後の1年間は尋問科にいたんですよ~~。それで、色々な所に所属していたからお前は中途半端や!って言われたからなんですよ」

 

 ……………………何そのハイスペック。そんなにできるもんなの?普通って1つの専門科ですら極めるのは大変だというのに。

 器用なのか、それとも才能なのか…………。

 

「と言っても、吸収できた技術は精々6割程度なんですけどね」

 

 いやいやそれでもスゴいだろ。

 

「それなら高校からでもそのどっちかは続けようとは思わなかったのか?」

 

「そうですね。確かにそうは思いましたけど、もしもの為に自分でも戦えるようになりたくてですねー。自由履修でいつでもできるわけですし、ここらで強襲科にでも移ろうかと」

 

 ほー。一色にはそこそこ立派な目的があるのか。俺なんか勝手に親父が決めて、今まで流れるように過ごしてきたんだが。そこは留美とも似てるな。

 

「別に俺はアミカ取ってもいいが、けっこう放任主義だからな」

 

「あ、私もそれでいいですよ。…………でも、先輩って本当に強いんですかぁ?」

 

「知らん」

 

 突然の問いかけに俺は即答する。

 

「はぁ?」

 

 おい、女の子が出してたらダメな野太い声を出すな。色々怖いから。

 

「いや、自分が強いとか自惚れたことなんてない。むしろ弱いぞ、俺は」

 

「は、はぁ……」

 

 イ・ウーの連中に勝てたことなんて少ないしな。それよりあいつらが強すぎるだけ。シャーロックさんマジチート。

 

「それじゃ、軽く戦ってみるか?」

 

「えっ?」

 

 驚いた声を上げる一色だが、いきなりそんなこと言われたら誰だって驚くだろうな。まず俺は言われることすらないけ………いや、シャーロックに言われたことあったわ。

 

「まぁ、互いの実力を確認するって意味で」

 

「は、はぁ………。別にそれならいいですけど」

 

「ルールは………そうだな、5分間で俺に触れたら勝利ってのはどうだ?武器は互いになし。もちろん鬼ごっこみたいに俺は逃げ回らない」

 

「…………バカにしているんですか?」

 

「さぁな?」

 

 これは互いの実力を確かめるだの何だの言ったが、ぶっちゃけ俺の練習だ。

 これだけ不利な条件で俺はどこまで動けるだろうか………それを見極めるために。

 

「別に結果がどうであれアミカを断るつもりはないから安心しろ。気楽に、な」

 

「だったら~~、私が勝ったら何かご褒美くださいよ」 

 

 この子………図々しいね!今日会ったばかりなのに!ほんと理子に似てるよ、その性格。

 

「アミカじゃダメか?」

 

「それは先輩がしてくれるって言ったから、また別のご褒美を」

 

 ほとんど初対面の相手にここまで言えるとはコミュ力半端ねーな。ある意味尊敬できるわ。

 そこに痺れ…………はしないし、憧れもしない。俺と違う人種、生きる世界が違うから。俺は俺の道を行くだけだ。

 

 …………って、なーにカッコつけてんだか。後でベッドでジタバタしたいのか?

 

「いやー。それは無理だわ。だったら頭ナデナデとかは?」

 

「それは流石に引きます。先輩キモいです。というより、何ですか私に一目惚れとかそういうアピールですか。いきなりは無理ですごめんなさい」

 

 一色が一息で言い終わると同時に周りから微妙な視線が飛んでくる。

 

「…………ん?」

 

 その中にいる留美が携帯を取りだしどこかに連絡をとってると思えば、俺の携帯が急に震え出す。

 

 ……………………お相手はレキからだ。

 

 中身は『後でお話があります』か。

 

 うんうん、なるほど。要するに留美がチクったのか。つーか、いつの間に連絡先交換していたんだ?そこに驚きを隠せない。

 

 話脱線したな。まぁ、何が言いたいかというと、俺、死んだな。余生でも楽しもうか。………冷静だなぁ、俺。もう慣れたのかね。

 

 

 

 冗談はここまでにして、再び視線を一色に向ける。

 

「さて、そろそろ始めるか?」

 

 軽く首をゴキゴキと鳴らしながら一色に問いかける。

 

「あ、はい」

 

 一色は間宮たちに自分の装備を渡して、アキレス腱を伸ばしている。

 

「じゃあ、行きますよ」

 

「分かった。留美ー、時間」 

 

「分かった」

 

 携帯を操作し、留美は俺たちを見据えて、

 

「――始めっ!」

 

 と、言った瞬間、一色が一直線にかなりの速度で突っ込んでくる。

 速効で勝負を決めると思い、咄嗟に横に避けようとする。俺が右に跳んだ。その時、

 

 一色は、俺が元にいた位置の50cm前で綺麗にピタッと止まる。急停止。

 

 これは――――フェイント!

 

 そう判断した俺は、先に右足を地面に付ける。と、すぐに右足でもう1回跳ぶ。

 かなり変装的な形になる。左足を付けずに跳んだからな。

 

 多少フラついて、元の体勢に戻る。が、一色は追ってこなかった。止まったところで俺を見ていた。

 

 ……………なるほどな、この一連の行動は俺の動きを見るためか。

 

 恐らく尋問科にいた経験だろう。相手の動きをを監察することが習慣になっているのか。

 

 強襲科よりも尋問科は相手を見る必要があると聞いたことがある。

 些細な仕草や表情から、的確に嫌な所を突いて、相手から確実に情報を取らないといけないから、だったっけか?

 まぁ、それを言うなら探偵科の方が相手を監察しないといけないらしいんだがな。

 

 

 例え中等部だろうと、油断はしない。さっきのは予想外の行動だったが、次は気を付けるぞ。

 

 俺は攻撃を避ける時の――――肩の力を抜き、手をダランとし、腰を曲げて姿勢を低く、そして、重心を自由に変えれる――体勢になる。

 

 この体勢では中々攻撃できないから、普段はしないが避けるだけならこれが一番しっくりくる。

 

 一色はゆっくり、慎重に俺に歩み寄ってくる。対して、俺はその場から動かず一色を待つ。 

 

「フッ!」 

 

 俺との距離が1m切ったところで、軽く跳躍しながらの俺の顔面にに向けてストレートの蹴りを放ってくる。

 右足を思いっきり伸ばしているのにも関わらず、体は、左足1本で綺麗にバランスを取っている。

 

 ……………俺が言いたいのはそこではい。今、俺たちは互いに制服で戦っている。制服、女子の制服はスカートだ。

 

 要するに、一色がストレートのキックをするもんだから、スカートが捲れてチラッと中が見えそうになりました。もちろん計算した動きなんだろうな。

 

「うおっと!」

 

 反応が遅れながら、回避には成功した。

 

 また距離をとった俺は、一色の顔を見る。……………はぁ、予想通り一色はしてやったりって表情だ。周りの奴らは、間宮以外は今の一色の行動に気づいている。

 

 不知火と火野は微妙な顔だし、島(妹)は火野を見ながら笑ってるし、佐々木(名前を教えてもらった)は顔を赤らめ間宮を見てるし、留美に至ってはメッチャジト目だし。

 ……………唯一間宮は、恐らく一色に対し、おぉーって顔になってる。今の一連の動作に気づかないとは………鈍いな。

 

 そういや、一色はCVRにもいたと言っていたな。ハニートラップ――所謂、色仕掛け――を究める場所だ。

 そういうのも心がけてるっていうことか。厄介だが、動きは単調で読みやすい。無心でいこう。後が怖いし。留美が色々報告したら困る。

 

「まだまだ行きますよ~~」

 

 一色が普通の男なら惚れるような甘ったるい声を出して、また距離を詰めてくる。

 

「ナメんな」

 

 俺はそれだけ呟く。

 

 

 

 

 それから、一色の攻撃が絶え間なく続くが、問題なく全て避ける。間合いは50cmぐらいを保ったまま。

 

 殴打も蹴りも、全て避ける。たまに色気を見せた攻撃も交ぜてくるが、最初は焦ったが、何回も使われるとこちらとしてはもう慣れた。

 

 これ以上キョドると後が怖いもんね!レキからの冷たい目が待っているだろう。

 

「………ハァハァ……。――っ!」

 

 そして、一色からは焦りの表情が見える。

 ジャブ以下の威力で体に当てればいいのに、何で当たらない?とでも言いたげな表情だ。

 

 

「よっと」

 

 体の中心部を狙ったパンチを右足を軸にしてクルッと回転する。

 

「ハァ……ハァ………」

 

 

 一色の方が武偵経験が長かろうと、戦闘経験は俺の方が長いんだよ。目線、重心、呼吸――これらが全て今から攻撃するぞ、というサインになる。

 

 呼吸と聞いてしっくりこない人もいるだろうから、説明する。

 息を吸う、息を吐く。まぁ、これらは日常の動作だな。 

 だけど、勝負の世界になると違う。

 息を吐ききったら、そこが隙になる。剣道で言うところの――息が尽きた所だ。そこが人が安心できる時だが、最も警戒しなければならない時でもある。

 剣道では、息を吸うとこれから動くという合図ともなる。

 

 

(作者が剣道部だったから、どうしてもその例えを出してしまうのです。許してね?)

 

 

 話が逸れたが、これらのサインを出し続けると負けてしまうから、強襲科はそれらを隠そうとする。その為の訓練を積む。

 

 しかし、一色にはそれがない。これは前に戦った間宮にも当てはまる。日が浅いから仕方ないと思うが。

 例えば蘭豹みたいな馬鹿力があればごり押せる。でも、そんなの当然俺たちにはない。だから攻撃を決めるために、極力動きを読ませずに、残りの切り札を切る。そこで勝利を手に入れる。

 

 長々と語っていたが、つまり何が言いたいかと言うと………………、

 

 

 ピィ――――――――、と留美の携帯からタイマーの音がする。

 

「…………ふぅ………。俺の勝ちだな」

 

「…………ハァ……ハァ……。つ、疲れたぁー」

 

 息切れを起こして倒れ込む一色の前で俺は不敵に笑う。………この一部分だけ切り取ると、犯罪臭がスゴいです。

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数分経ち、互いに休憩をとっている。

 

 不知火と話していると、横から一色が、

 

「てゆーか、先輩。私に勝った時の表情が非常に気持ち悪かったです。あれですか、ゾンビなんですか?」

 

間宮の隣で足を広げストレッチしながら失礼なことを言ってくる。

 それと伸ばし方があざとい。いい感じに汗が太ももについてテカってるから。なんかエロいから。

 

「んなわけあるか」

 

 それ、前に留美にも言われたな。

 あれか「私の夢は不滅だァ――!!」って叫べばいいの?新比企谷八幡!って名乗ればいいの?土管から勢いよく飛び出ればいいの?そんなに俺ってデンジャラスなの?

 

 ちなみにゲームはコンテニューしてでもクリアする派です。ノーコンとかムリムリ。

 

「ところで、せんぱ~~い。アミカ……正確にはまだですけど、私にアドバイス下さい」

 

 俺のアホみたいな妄想が中断させられる。

 社長!あんたのツイート好きだぞ!「来週はゴルフ中継だ」最高に面白かったぞ。爆笑バイクもな。

 

 で、一色へのアドバイスねー。

 

「まずアレだな、体力つけろ」

 

「ですよね~~」

 

 フイっと目線を逸らす一色。

 

「それと、目先の目標としては、重心や目線をなるべく相手に悟られないようにすることだな。それができたら、呼吸のタイミングをずらすとかだな」

 

「呼吸ですか?」

 

 いきなり呼吸とか言われても分からんもんか…………。

 

「あぁ。呼吸ってのは接近していると、どのタイミングで動くかよく分かるんだよ。特に突発的に動こうとしたらな。大概の人間は息を吸いながら、攻撃しようとしたら上手くいかない。………例外はいるかもしれないけど」

 

 それを聞いてた特殊性癖軍団及び留美は実際に動いて確かめている。不知火はニコニコしながら話を聞いてる。

 

 走る時だって多分だけど息を吐いた方が1歩大きく踏み出せる。ハンマー投げの選手も投げる瞬間に大声を出すと聞いたことがある。剣道(またかよ)でも声を出しながら竹刀を振るう。

 

「それでな、息を吸うと一瞬硬直する場合もある。俺はそれらを見ながら相手の動きを予測した………って感じだ」

 

「なるほど………。伊達に強襲科で1年生き残っただけありますね」

 

「上からすぎない?」

 

「そこは気にしてはダメですよ」

 

「いや、普通に気にするわ」

 

「細かいですよぉ~~」  

 

 

 残り時間何をやろうかと思っていたら、トントンと誰かが俺の肩を叩く。

 

「比企谷先輩、少しお話いいですか?」

 

 間宮か。…………何だろ?

 

「分かった」

 

 間宮と一緒に体育館の隅に移動する。佐々木が睨んできたけど、気のせい気のせい。

 

「で、話って?」

 

 佐々木の視線が怖いので、なるべく合わせないよう間宮に尋ねる。

 

「えーっと……先ずは……ありがとうございました」

 

 間宮は綺麗にお辞儀する。

 

「お、えっ、ちょっと……?何がだ?」

 

 困惑するわ。いきなり頭下げられるとか………ドキドキします。

 

「1つ目は……去年の今頃の事件。覚えてますか?お台場での立て籠りの………」

 

「まあ、一応は」

 

 恐らく俺が初めて解決した事件。

 小町に何か頼まれて台場に行ったが、そこで………俺は初めて人を撃った事件。

 

「急に何でその話が?」

 

「いえ、その……あの時の人質私なんです」

 

「えっ?」

 

 …………そういえば、確かに茶髪の女子ってのは覚えていたが。

 

「それで先輩にここで初めて会った時にもしかしてと思いまして。少し調べたんですが、やっぱりそうだったんです」

 

「…………そうか」

 

 笑顔で話してくる間宮に対して、俺は短く答える。

 

 あの時は、顔までは心の整理が追い付かなくて覚えてなかったが……間宮だったのか。

 

「だから、改めて助けてくれてありがとうございました」

 

「ま、あそこで見捨てたら寝覚めが悪くなるし、妹に失望されたくないからな」

 

「アハハっ。………相変わらず捻くれてますね」

 

 互いに少し微笑む。間宮は明るい笑顔、俺は卑屈っぽい笑みを。

 あの時と似たような台詞を言い合う。 

 

「それと2つ目です。この前のアドバイスありがとうございました」

 

「アドバイス?」

 

「自分の守りたい、守るべき物は見失うな……ですよ」

 

 そんなことも言ったような。

 

「何かあったのか?」

 

「はい。夾竹桃っていう人と昔の因縁があって戦って…………」

 

 ……………知ってる名前が出てきたんですがそれは。イ・ウーの面子の毒女。それとこれはジャンヌに聞いたんだが、俺とジャンヌは同年代。そして夾竹桃は、俺らより年上、つまりオバs……………この先は怖いので言いません。

 

「あの毒女とね…………、勝ったのか」

 

「ご存じで?」

 

「ちょっとした知り合い程度の仲だ。特にこれといって親しくない」

 

「そうなんですか。あ、何とか勝てました。仲間の協力もあって」

 

「大したもんだな」

 

 実際そう思う。例えどうあれ夾竹桃はイ・ウーの1人だ。そいつを捕まえるとは。

 因縁とか言ってたし、間宮の出生は特殊なのだろうか?あの殺気の消し方も……………。あれだな、遠山や神崎、理子みたいにどっかの偉人とかだったりな。

 

「それで、あそこにいる志乃ちゃんが………夾竹桃の使っていたガトリングで撃たれた時に我を忘れて相討ちでもいいから殺す!……って頭によぎったんです」

 

 怖っ!女子ってみんなそうなの?…………と思っても俺は人のこと言えないんだよなぁ。その経験俺もあるし。

 

「その時、アリア先輩が言ってくれた『死んでいい実戦はない』と比企谷先輩のさっきの台詞を思い出せました。それで冷静になれて…………私の技を使って逮捕できました」

 

「そうか…………お疲れ様」

 

 それだけ伝えて、俺は間宮から離れた。俺を殺しそうな勢いの佐々木に会釈しながら。

 

 ――――少し嬉しかったのは内緒だ。

 

 

 

 

 そんなこんなで、残り時間を留美の相手をしたり、不知火とナイフの訓練したりと過ぎていき、放課後には教務科に行き、一色とのアミカ申請をした。

 

 蘭豹は何かニヤケ顔だった。俺が小悪魔みたいな後輩をアミカにしたからか?腹が立つ……が、あまりにも怖くてスルーした。地雷踏むのはゴメンだ。象と相撲する奴の相手はゴメンだね。

 

 平塚先生は涙を流していた。 ………誰か貰ってあげて!じゃないと、また熊さんが犠牲になるよ!この人はイライラが溜まると山に行き、熊をワンパンで仕留め、いい笑顔で帰ってくるらしい。…………恐ろしいわ。

 

 

 

 

 

 

 にしても、材木座。今日の昼にメンテ頼んで放課後には完了するって早すぎじゃね?いつも通り問題なんてなかったし。

 あいつ、安く色々引き受けてくれるから顧客案外多いのにな…………。感謝だな。

 

「八幡さん」

 

 …………少しでも現実逃避をしたい。もうしばらくボーッとしていいですか?

 

「八幡さん」

 

 ダメですか…………。と、隣にいるレキをチラッと見る。

 

 今現在、下校中です。校門で待っていたレキと。

 

「おう。どした?」

 

「何か話でもしましょうか」

 

「……………………おう」

 

「その間はなんですか?」

 

「別に………。明日は雨かなーって」

 

「予報ではそうらしいですよ」

 

 うん、知っている。かなりの大雨だとテレビで言ってたから。

 

「それで八幡さん、話なのですが」

 

「は、はい」

 

 ダメか。話を逸らせなかった。

 

「先程アミカをとったそうですね」

 

 情報伝わるの早いな。くそっ、留美か、ルミルミなのか。

 

「留美さんに教えてもらいました」

 

 留美でした………。

 

「というより、いつから連絡取り合ってたんだ?」

 

「連絡先を交換したのはこの前の始業式です」

 

「意外だな、なんか」

 

「そうでしょうか?」

 

「いや、小町の時もそうなんだが、留美とかの連絡を継続するイメージがない……みたいな?」

 

「小町さんとは月に何回かはメールでやり取りはしています。留美さんとは今日が初めてです。それで………八幡さん」

 

 あ、これ墓穴掘ったかも。だってレキの纏ってる空気が変わったもん。例えるなら、絶対零度みたいな?

 

 

 

 

 

 

 それからは、もう大変でした。

 俺が何を言っても聞いてもらえず、今日一色としたこと(ここだけ聞くと卑猥)をほとんど留美から報告を受けてたらしく、目線が痛かったです。

 

「そこで八幡さん」

 

 5分くらい続いたが、やっと話が終わるともう僚の近くまで来ていた。

 

「なんでしょうか………?」

 

 今の気分はあれだ、浮気とかの隠し事がバレた気分。

 親父はこんな経験とかしていたのだろうか。今度聞いてみよう。参考にできる部分があれば参考にする。

 

「報酬を1つ使っていいですか?」

 

 ………報酬?あぁ、あれか。理子の部屋に侵入してもらった時の3つの願い事……でしたっけ?

 

 別に無茶苦茶な内容ではないだほうと思っているがな。

 

「どんなだ?」

 

「これです」

 

 と、言うとレキはカバンから『ある物』を俺に見せてきた。

 

 それを見た俺は思わず絶句する。予想の斜め下を行き過ぎた。

 

 『ある物』を凝視しながら尋ねる。

 

「………マジか?」

 

「はい」

 

 即答である。滅茶苦茶無茶苦茶でした。……自分でも何言ってるか分からなぇ。

 

 しかし、レキの目は無表情だが、真剣。武偵は依頼は守らなきゃいけないし。武偵憲章にもあるし、仕方ない。ワガママに付き合おうじゃねーか。

 

 ――――なぁ、お姫さん。

 

「分かったよ。しかしまぁ――『あれ』を明日で用意できるか?」

 

「大丈夫ですよ。私がある程度やっておきましたから。正確には小町さんに頼んでご家族に手伝ってもらいましたが」

 

 おい、いつの間に俺の家族使ってんだよ……………。もう両親に誤魔化すの厳しいな。小町がバラしてるかも。

 

「じゃあ、明日行ってくるわ」

 

「お願いしますね」

 

 正面に移った微かに微笑んだレキは俺の目を見て頼んでくる。さすがにいきなりすぎとか理解はしてんだろうな。

 

「おう」

 

 軽く返事し、レキの頭を流れで撫でる。

 

 ………………。

 ……………………。

 …………………………えっ?撫でる?誰が?誰を。

 

 俺が、レキを撫でてる?

 

「お、おぅ……」

 

 本当に撫でてました。

 

 自分でも驚きだわ。まさかこんな行動に出るとは。手を繋ぐことはたまにあるけども、撫でたことは地味になかったので……ね。

 

 何このピュアなカップル。しかも自分でカップルとか言ってるし………。

 

「……………」

 

 レキは無反応かと思いきや、うつむいていて、表情が見えない。でも、耳はほんのり赤く染まっていることから照れてることが何となく分かる。

 そんな初々しい反応しないでよ。普通に俺も困っちゃう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――翌日。

 

 午前中はモノレールに乗り、学園島から出て、台場や他の場所で用意するものをあらかた買ってきた。

 

 にしても、その日は予報通りの大雨だ。道行く人は全員傘を挿して、必死に雨から身を守っている。そういう俺も同じなんだがな。

 

 午後から登校した俺は、体育館の誰も気づかれないような隅の方に移動し、柔軟などを小一時間やった。

 

 放課後までの残り時間は射撃場に行った。そこに一色がいたので、射撃の指導をした。中々上手だったな。

 俺も左手で撃ってみたが、そこまで命中率は上がらない。やっぱ慣れだな。ちなみに左手メインで右手で支えながら撃ったら多少はマシになる。ホンマに多少レベル。関西弁なのはご愛嬌。

 

 余談だが、強襲科の訓練場に入るときって皆が「死ね」「死ね」だの言いまくるわけだが、俺言ったことも言われたこともありません。

 

 まともに話す強襲科の相手って不知火だけだったからな。不知火に「死ね」って言うのは何か違うわけだし。

 

 射撃レーンでも基本は隅っこで練習してる。だから、今日一色に教えた時は周りの視線が痛かった。あれだよ?同級生にも「あいつ誰?」って言われるレベルだからね?

 

 おかしいな。蘭豹や神崎と戦った時はそれなりに目立っていたと思ったのだが…………。

 

 

 

 放課後は戸塚と一緒に材木座に拳銃のメンテの仕方など詳しく教えてもらった。

 いやもう途中から専門的すぎて何言ってるか分からなくなってきた。知らねーよ、銃の細かい部品まで。何だよ、ファイアリングピンって。戸塚もポカンとなってたし。可愛い。

 

 

 

 

 そして、帰ろうと大雨が降っているので傘を挿しながら校門辺りまで歩くと…………、

 

 ――――ザリ!ザリ!ザリザリ…………――――

 

 ああ、着信変えるの忘れてた。そろそろ着信音変えるか。で、電話の相手は武藤か。

 

「もしもし」

 

『比企谷!今すぐ2―Aに来てくれ!』 

 

「……武藤か。何があった?」 

 

 大声で喚く武藤。こいつが大声を出すのは珍しいことではないが、何やらいつもと違う感じがする。

 

 ………もしかすると……、

 

『ハイジャックだ!神崎が巻き込まれた、なぜかキンジもいる!手伝ってくれ!』

 

 ………………理子…………。

 

「分かった、すぐ行く」

 

『悪い』

 

 

 

 

 

 

 そして、着いたわけだが、そこには生徒が複数、中心には不知火と武藤。武藤はどこかに連絡しているのか?てゆーか、みんな焦りすぎだろ……………。そこまでヒドイのか?

 

「不知火」

 

「比企谷君。来たんだね」

 

「状況は?」

 

「現在、ジェット機のエンジンがミサイル攻撃で壊され、神崎さんと遠山君が操作している。パイロットは負傷しているらしい…………」

 

「お、おぉ………」

 

「クソッ!キンジ!?おい!………切れたか…………チクショウ!お、来たか!比企谷」

 

 武藤が無線機から手を放すと、俺を手招きしている。

 

「ヤバいんだよ。この状況」

 

「不知火から聞いたが他にもあるのか?」

 

「ああ。あのジェット機が今着陸できそうな空港は羽田だけだ。だが、防衛省が着陸するなら……恐らくだが撃ち落とすってな」

 

 それは………予想以上にヤバいな。十中八九、本土の犠牲者を少なくさせるためだろうな。だが、それでは乗客が危ない。こっちは武偵法の縛りもあるんだよ。

 

「遠山は?」

 

「一旦通信が途切れた。今通信科の中空知がどうにかしてる。けど、時間がない……せめてキンジがどうするか知れれば……。比企谷、お前なら分かるか?」

 

「ちょっと考えさせてくれ」

 

 それだけ言い、目を瞑る。

 

 

 

 

 

 ――――雑音はシャットアウトして。

 

 

 

 

 

 

 さぁ、状況を整理しよう。

 

 ハイジャック。したのは武偵殺しの理子。だが、遠山たちに飛行機の操作を許しているということは逃走しているな。負けたのか?

 まぁ、近くにイ・ウーでもあるかもしれないから拾ってもらったのか………。って、そうだとしたら、エンジンの損傷……多分イ・ウーからのお土産ミサイルだな。

 

 理子を退けたということは、遠山はHSSの可能性が高い。そうでなければ、普通に死ぬ。遠山は知らない理子の超能力の奇襲もあるからな。神崎でなったのか………。そこは考えるのは止めとこう。

 

 つまり、女を守るためにイカれた考えを実行するかもしれない。いや、する。それが遠山キンジのHSSだ。

 

 

 

 俺は手に持っていたマッ缶を飲む。あぁ、いい感じの甘さが頭に染み渡る。

 

 さて、あいつの――遠山キンジの立場で考えろ。頭を回せ。同じ思考になれ。

 

 羽田は防衛省のせいで無理。ならば、別の場所。だが、東京本土では着陸できそうな場所はない。

 なら、東京本土以外………近くにあるのは埋立地やメガフロート。それらはここ東京武偵高校、しいては学園島も当てはまる。

 

「………ん?」

 

 何か……閃きそうだ。

 

「なぁ武藤、着陸するのに距離はおおよそ?」

 

 武藤はレキからの通信を受け取ると、

 

「今の風だと、ざっと計算して2050以上はいる」

 

 窓を除くと、ビュービュー、ザァーザァーと、雨と風の音がうるさい。まるで嵐だ。

 

 そうなると残る選択肢は………………、

 

「武藤、お前の力で何でもいいからライトを……空き地島にかき集めてくれ。あそこなら対角線に突っ込めばいけるはずだ」

 

 ――――空き地島。それはレインボーブリッジを挟んだ北側に位置している人工浮島、メガフロートだ。あそこには何もない。建物すらない。せいぜい風車があるくらい。

 

「空き地島だと!?………なるほど。だが、ダメだ。地面が雨で濡れてる。さっきは2050とか言ったが、本来止まるのにもっと距離が必要だ!あそこではどうしても足りない、危険すぎるだろ、不可能だ!」

 

 …………そうか、この天気だと滑走路の地面の状況も考慮に入れないといけないのか。

 

 ――――でも、大丈夫だ。

 

「今のあいつはイカれた考えしか持たない。あいつならきっとそうするしどうにかするからよ。…………急げ」

 

 胸ぐらを掴みながら、軽く殺気を放出する。

 

 こいつ誰だよ感がスゴいな、俺よ。

 

「――――ッ。……ああ、もう分かった!無許可で取り出すから責任は空の2人に任せるぞ。あとでキンジ共々轢いてやる!」  

 

「あっ、ちょ!」

 

 1歩下がると、武藤は頭をガシガシと掻きむしり、俺を押す。それからクラスにいる奴らを連れていった。不知火もついていき、教室に残ったのは――俺独り。

 

 ………マジですか。

 

「そこで置いていくのかよ。今の完全に俺も手伝う流れだよな………………」

 

 あ、もしこれで遠山が違う選択肢を選んだらヤバいよな。まだ通信繋がらねーのか?

 

 さっきまで武藤が持っていた携帯を手にすると、いきなり震えた。あ、もしかして、

 

「もしもーし」

 

『その声………比企谷か!?』

 

 やっぱり遠山だ。ふー、良かった、繋がったのか。

 

「………ハロー、ワールド。グッドモーニング、チバ。お空の旅はどんな気分だ?」

 

『ハハッ。1人なら最悪だが、隣にアリアがいるとね…………最高だよ。あとその台詞何だ?』

 

『ハァ!?何言ってんのよ、バカキンジ!』

 

 元気そうな神崎の声も聞こえるな。お熱いことで。

 

「お元気そうでなによりだ。ところで遠山、《その》状態のお前なら多分この解決法思い付いてんじゃねーの?あとさっきの台詞は適当だ」

 

『…………どういうことだ?比企谷、何を知ってる?』

 

 あ、言ってしまったな。隠し通すのは難しいし、いずれは言わなきゃいけないしな。カナのこともあるし。

 今の……とかにしとけば良かったかな?もう、いいけど。時既にお寿司、ではなく、遅しってやつだ。

 

「その話はまた今度にしよーぜ。ある程度は話すからよ。……………タブンネ」

 

『時間がないしな………分かった。多分じゃなくてちゃんと話せよ』

 

 あ、これで話しないといけないのか。うーん、カナの話をされたら誤魔化すか。

 

「で、だ。今からせーのでどこに着陸するか言おーぜ」

 

『あぁ』

 

「じゃあ……せーの」

 

「『空き地島』」

 

 見事に2人の声が重なる。やっぱりイカれた考えをお持ちで。互いにな。

 

「つーことで、迷わず行け。武偵憲章一条がどーのこーのだ」

 

『……そうか、なるほど。もう武藤を手回しでもしたのか。流石に仕事が早いな』

 

 流石に察するの早いな。

 

「そーゆーことだ。あとは当たって砕けろ」

 

『八幡、あんたね……砕けちゃ意味ないでしょ!』

 

 冗談を言ったら神崎にお小言貰った。解せぬ。

 

「じゃ、一旦通信切るわ。またな」

 

『またな、比企谷。話忘れないでくれよ』

 

「へいへい」

 

『また後でよ!八幡!』

 

「うーい」

 

 ここで、遠山たちと通信は切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時間は経ち、ハイジャックから2日後。

 

 遠山と神崎は無事に乗客を守ることに成功した。

 理子がどうなったかは知らないが、まあ生きてるだろう。というより生きてる。だってハイジャックの翌日にメール来たもん。

 

 まあ、遠山との会話とかそこら辺りの話は次にでも話そうか。今、重要すべきなのはそこではない。

 

 …………本当にそこではないんだよ。今の状況、泣きたくなるから。

 

 

 

 

 

「行きますよ。八幡さん」

 

「仰せのままに。お姫様」

 

 俺とレキは互いのキャリーバッグを引きながらある場所を歩く。俺はイ・ウーから貰ったコートを。レキは武偵高の制服を。

 

「あっつ……」

 

 そこでは大勢の人が日本語だの中国語だの色んな言語を話している。だが、ほとんど聞き取れない。要するに俺からしたら外人さんが多い。何言ってるかさっぱりだわ。

 

 だって俺、日本語と少しの英語しか喋れないからな。

 

 

 あ、そうそう、ここの座標は調べると――――北緯47度50分35秒 東経106度45分59秒 / 北緯47.84306度 東経106.76639度………に位置する……らしいです、はい。

 

 言われても分からんから、参考にすると、日本の標準時子午線は明石で、東経135度。つまり、俺は今、日本から西にいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 纏めると、ここの場所の名前はというと…………『チンギスハーン国際空港』だ。

 

 俺が今、立っているこの国は我が愛しの日本ではなく、レキの故郷――――――――モンゴルだ。

 

 

「ハァ…………どうしてこうなった。パート……どんぐらいだっけ?帰りたーい、特に暖かい部屋なんて待ってないけど。待ってるのは硝煙の世界だけど」

 

 ブツブツぼやきながら、俺とレキは空港を歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足です!レキとの会話の件での「ある物」は飛行機のチケット。「あれ」はパスポートです。



この話を持ちまして、しばらくは投稿は停止します…………。もしかしたら、年末に出すかも……いや、ないな。
感想とかはいつでもどうぞ。きちんと反応しますから!むしろ高評価と感想下さい!!

――――目指せ関西大学!!

では皆さん、ばいちっ!



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予感

どうも、本初子午線と標準時子午線を間違えた受験生です。このことをハーメルンに投稿している友達に言ったら笑われました。
訂正してくれた方ありがとうございます。
久しぶりの投稿です。どうぞよろしくお願いします。


 金髪スーパーぶりっ子ガール、4代目リュパンこと峰理子!――またの名を武偵殺しが起こしたハイジャックの事件は死者は出ることなく無事に終結した。

 

 ………初っぱなからどんなテンションだ、俺。気持ち悪いわ。

 

 あれだ、久々に書くから多少のことは許してくれ。この作品は未だにどんな感じで書いてたか掴めないんだよ。……この作品って言っちゃったよ。

 

 

 

 話を元に戻して、ハイジャックの事後報告とかは後でしてもらうことにする。後始末は武藤たちに任せた。そもそも特に聞きたいこともないし別にいいか。

 ぶっちゃけると、かなり疲れたから早く寝たい。いつも通りだな。

 

 遠山はいつ帰ってくるか分からないし、取り調べやら色々あるかもしれないから最悪朝帰りかもしれないな。それまでに誤魔化すために何を言うかある程度考えとかないと。

 

 そう思いながらベッドに入る。

 

 ………気持ちいいわー。よし、このまま寝ようか。

 

「寝ちゃダメだろ」

 

 と、独りでボケと突っ込みをする。

 

「………自分でも何やってるか分かんねぇな」

 

 まぁ、いいや。その時になったらその時の俺に任せよう。明日は明日の風が吹くとも言うし……使い方違うな。

 国語学年1位が聞いて呆れるぞ。国語と社会だけは星伽さんに勝ててる事実。数学は敵わないし、英語はいつもギリ負けてる。恋する乙女は強し。

 

 それにしても………、

 

「モンゴル、か」

 

 レキから渡された飛行機のチケットを見た時は驚いた。まさかこのまま海外デビューしちゃうのか。

 

 日本にずっと引き籠りたいのにな。世間はグローバルとか何とか言っているけど、生憎俺は生粋のドメスティックなもんで。何なら学校にも行きたくないレベル。それはただの引きこもり。

 

 てゆーか、小町ちゃん。お兄ちゃんに黙って勝手にパスポート作らないでよ。ビックリしたよ。役所行ったら、もうほとんどできてたんだから。写真渡したらほとんど完成したよ?

 

 その事について文句ついでに電話したら、

 

「お兄ちゃん、大丈夫だよ。レキさんの存在はまだお母さんたちには知られてないから。ちゃんと紹介するんだよ!」

 

 って感じに言われた。違うぞ、小町。お兄ちゃんと話が絶妙に食い違ってる。

 それと脳内でサムズアップをした小町が目に浮かんだ。可愛し和む。

 

 

 また話脱線したな。

 

 それで、日本は外国と比べるとまだ治安はマシだし、水道設備は整ってるし、出来れば海外行きたくなかった。でもなー、2学期になったらどうせ修学旅行で海外に行くらしいしな…………。アジア辺りだったかな。

 

 ま、海外の手続きとかの予行演習だと考えたら、まだいいか?

 

「それにあそこには」

 

 

 

 ――――色金があるらしい。

 

 

 

 色金。このワードで調べてみても、大した情報はネットでは公開されてない。だが、所謂「裏の世界」では、割りとポピュラーな存在。それと国家もその存在を把握しているとのこと。

 

 あの推理能力を持つシャーロックでも色金の全容は分からない。1つはっきりと分かるのは、色金の力を際限なく自由に使えることが出来たならば、世界の力のバランスが大いに崩れること。

 

 そして、その力を手にするのに最も近い奴が俺の同級生でもある――神崎アリアなわけだ。

 

 あれ?こうして考えれば色金関係者武偵高に多くないか?

 

 神崎アリア。

 星伽白雪。

 レキ。

 

 一応はイ・ウー関係者だし理子もか?いや、理子は違うな、多分。

 他には遠山はまだ微妙なとこだし……こんなところか。

 

「普通に多いな」

 

 寝転び天井を見上げながらぼやく。

 

 とはいえ、星伽さんがどのように色金に関わっているのかはまだ正確には理解してない。『緋色の研究』に書いてあったのは、代々緋緋色金に仕えている一家、とのことだ。それだけで、具体的なことはさっぱりだ。

 

 こんな面倒事に自分から巻き込まれるつもりは毛頭ない……と、イ・ウーから戻った時は思っていたが、レキも色金関係者ともなると話は変わってくる。

 

 俺がやれることなんてあるのかどうかすら怪しい。もしかしたら何も出来ないことすらある。けどまぁ、やれることはやってみようか。具体的に何をするのか今現在分からないけど。

 

 珍しく前向きになっているが、これが全てのあいつの推理通りだったら気に食わない。

 

「だったら、あいつの予想の斜め下を行きまくるか」

 

 そもそもの話、なんでわざわざモンゴルに行く?レキの目的は何だ?

 

 確かウルスって種族は全員女って聞いた。それとレキの家族だよな。あれか、家族にご挨拶的なあれか。……バカみたいな考えは止めよう。

 

 なら、逆に考えよう。レキの考えを俺は当てたことはあるか?

 

「………ないな」

 

 どうせ分かる時が来る。だったら、それまであいつの隣にいればいいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう」

 

「ん?比企谷か。おはよう」

 

「お疲れだな」

 

「まあな」

 

 ――翌朝。一応は学校はあるけど、どっちもサボることにした。遠山に関しては独断だけど。

 

 起きると遠山がソファで死んでた。まるでそれはゾンビのように唸っていて……ゾンビは俺か。俺の専売特許だな。そこは譲らないぞ。

 

 疲れてるだろうからと朝飯は俺が作ろうと適当に料理していると、ゆっくり起き上がってきた。

 

「いただきます」

 

 声に覇気がない遠山と、

 

「おう」

 

 やる気のない声の俺。

 

 互いに無言のまま朝飯を食べていると、

 

「なあ、比企谷」

 

「何だ?」

 

「その、飛行機での話の続きを」

 

 気まずそうに遠山が話を始める。

 

 そういえば話する予定だったな。すっかり忘れてた。あ、冗談です。

 

「ああ、分かってる。で、どこから聞きたい?」

 

「そうだな。俺の体質の……どこまで知ってる?」

 

「HSSの概要だけだな。あとは知らん」

 

「そうか。なら、誰から聞いた?」

 

「…………驚かないんだな」

 

「そりゃ比企谷だしな」

 

 納得したように言う遠山だが……何だか納得いかないな。

 

 俺だから何だ?コソコソ調べるのが俺らしいってか?何それ悲しい。自分で自分を傷付けるのは止めよう。ただただ虚しいだけだ。

 

「それで、誰からだ?」

 

 眠気からは覚めた様子で尋ねてくる。

 

「俺は武偵だぜ?………と、いつもなら秘匿するが、一応教えとく」

 

 さて、どこまで話すか………。

 

 理子と戦ったってことは少しはイ・ウーについて知ってるはずだ。教えてくれたのはジャンヌ。そして、今ジャンヌはここに来ているらしい。前情報は渡しとくか?

 

 いやいや、別に遠山がジャンヌと戦うわけでもない。もし、そうならとんだ巻き込まれ体質だ。ここは嘘ついとくか。

 

「………武偵殺しこと理子から」

 

 迷った末の答えは――理子に押し付ける!正に外道!

 

「えっ?比企谷………武偵殺しの正体知っていたのか?」

 

「まぁな」

 

 色々と悟られないために飯を頬張りながら何食わぬ顔で平然とする。

 

「理子から聞いたなら…………その、俺の兄がどうなってるか知ってるか?」

 

 とうとう来たか。来てほしくなかった質問。なかなか面倒。

 

 遠山はカナが生存しているかどうかは知らない……はずだ。が、お調子者の理子ならカナが生きている~とか言っててもおかしくない。

 

 だったら、俺が言うべきは――――嘘だ。

 

「知らん。ちなみにさっきは武偵殺しの理子とか言ったが、実際は武偵の理子に依頼しただけだからな」

 

 そして、またさらっと嘘をつく俺。

 

「そうなのか。……すまない。忘れてくれ」

 

「あぁ」

 

 これで全部話したらどうなるだろうか?遠山の気は晴れるだろうか?

 

 答えは――否だ。

 

 余計遠山に負担をかけさせ、イ・ウーとの戦いに巻き込まんでしまう。俺まで巻き込まれたくはないし。

 

 いずれ知る時は来るだろう。だが、話すべきは今じゃない。

 

「その話でお前が女子が苦手な理由は何となく察したわ」

 

「ああ。中学の時はクラスの女子に利用されまくって」

 

「それはそれは。ご愁傷さま」

 

 その時の事を思い出したのか遠山は顔が暗くなった。変な汗まで掻いているようだ。

 

 あれだな、恐らくは遠山の黒歴史だろう。キザな行動を取ってしまうらしいしな。

 

「それで比企谷。頼むから他の奴らには言わないでくれないか?」

 

「その点は大丈夫だ。特に言う相手もいないから」

 

 胸を張って答える。

 

 それにレキと理子は知っているわけだし。というよりあなたの姉?兄?のせいでイ・ウーの面子には知れ渡っているから今さらなぁ………。

 

「助かる。でも、もうちょい人との繋がり作ったらどうだ?」

 

「おう。ごちそうさま。そこは、まぁ……気にすんな」

 

「そうか」

 

 と、ホッとする表情の遠山。

 

「あ、そうそう。明日からしばらくここにいないから」

 

「ん?どこかに行くのか?」

 

「そんなところ。荷物は整理しておくけど、神崎とかが来たらまた説明しといてくれ」

 

「………あぁ、分かった」

 

 遠山は一瞬言い淀んだが、すぐに元に戻って返事をする。

 

「じゃ、ちょっと出掛けるわ」

 

「昼メシはどうする?」

 

「適当に食っといてくれ」

 

 それだけ言い残し、モンゴルに持ってく暇潰しのための本でも買おうと本屋に向かう。

 

 本屋で物色していると、理子からメールが来た。《司法取引めんどくさーい!!》みたいな内容で。

 

 ハイジャックの翌日なのに連絡寄越すの早い。これを俺が誰かに伝えたらどうするつもりだ?考えなくても伝える相手はいませんでした。ありがとうございます。

 

 ……ハァ、そこまで分かってて送ってきたなら尚更、質が悪いぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 以上、遠山との会話でした。

 

 長い!編集仕事しろ。お前(作者)は何のために存在するんだ。

 

 そういえば、材木座に頼んでるブツどうなってるかな?あいつは任せろとか言ってたが。あれができればけっこう戦闘が楽になるんだよな。慣れはもちろん必要だが。

 

 そう考えながらボーッと空港を歩いてたら売店が目に入った。 

 

 入国の手続きはレキに手伝ってもらいながら何とか完了した。初めてでかなり手間取った。スゴいややこしい。ますます国内に留まりたくなった。書類が多すぎるんだよな。

 

 さて、何か買おうか。せっかくの海外だしなー。何かモンゴル産の物でも買いたいな。

 あれ、今俺日本円しかない。……ヤバ。肝心なこと忘れてた。

 

「レキさんレキさん」

 

「何でしょうか?」

 

「帰り、いつ?」

 

「まだチケットを取っていませんよ」

 

 えぇ…………。いささか行き当たりばったりすぎやしませんか?

 

「大丈夫だろうな?」

 

「心配いりません。私はアドシアードまでには帰ろうと思いますから」

 

「あぁ。確かにもうそんな時期か」

 

 去年はこれといって何もやってないな。今年もそうなるかも。もういっそ参加するのもダルい。

 そうだ、サボろう。そうしよう。単位は揃ってるし殴られるだけで痛い目みないしね!実に矛盾した言葉だな。

 

「それとウルスの所までどのように行くつもりだ?金まだ日本円しか持ってないんだが。モンゴル通貨がない」

 

 さすがに1日2日で金をすぐには用意できなかった。確か空港でなら替えることはできるんだよな?そんな話を聞いたことあるんだが……、

 

「八幡さん。私はSランクです」

 

 意訳します。すると、「金なら任せろ」か。そりゃSランクなら俺ら一般庶民が想像つかないほどの大金持ってても全く不思議じゃない。

 

 ………でも、

 

「まるでヒモみたいだな」

 

 俺は自嘲気味に笑う。

 

 武偵になって働いているが、今でも専業主夫は諦めてない。まだ完全には諦めてない。大事なことなので(ry

 確かに養ってはもらいたい。でも、施しを受けるつもりはない。レキなら余計に。俺の変なプライドが邪魔をする。

 

 頭の中でそんなやり取りを続けていると、

 

「そう言いますが、行きのチケットは私持ちです。今さらですね。それと私の我儘ですから、気にしないでください」

 

「………ははっ」

 

「八幡さん?」

 

「何でもない。気にすんな」

 

 レキの、その言葉に思わず笑ってしまった。

 

 あのレキが『我儘』と言った。

 

 我儘とは、感情だ。自分を表現するための。厄介な感情だ。周りを考慮せずに自分勝手に振る舞うつもりか。

 

「なら、お言葉に甘えるぞ」  

 

「どうぞ甘えてください」

 

 …………理性をどこかに追いやって甘えたい。という思考が頭によぎる。その位今の言葉は強烈だった。少しあなたは可愛いという事実を認識してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――キングクリムゾン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「広っ」

 

 着いたぜ、ウルスの集落に(倒置法)。

 といっても、あと1、2km歩かないといけないらしいが。

 

 そういえば、久しぶりにキングクリムゾン使ったな。

 

 移動過程は作者が分からないので、カットさせてもらった。モンゴルとか分かるわけねーじゃん。

 

 想像を絶する程の方向音痴発揮する作者なのに。普段の行動範囲が決まってるから、違う場所に移動しようとしたら一瞬で迷うんだよ。

 

 それにバスとタクシー乗って歩いただけだからな。レキが俺の分の料金払っている時の運転手の目線が痛かった。日本ならともかく海外だと、レキに任せきりなのは仕方ないのだ。そう、仕方ない。 

 

 気を取り直して周りを見渡すと、それはもう地平線に広がる草原だ。よーく見ると1、2km先に何かポツンと建っているような気もする。うっすらとな。

 そして、その集落の近くにそこそこ大きい湖もある。いやー、ここまで広いと草加生えるわ。CSM高すぎるんだよな。オーズ予約したぞ。

 

 ウルスに着いたら何をするのかまだ聞いてなかったので、そろそろ今回の目的をレキに話しかけようとした。が、その時、

 

 

 

 ――――ビュン!

 

 

 

 と、何かが俺とレキの間を物凄い速さで横切った。ついでに頬が少し切れた。

 

「…………え?」

 

 頬から流れた血を拭い、振り向く。地面の様子を確認すると、地面に対して斜めに刺さってる矢があった。

 

「八幡さん、ウルスからです」

 

「いやいやいやいや、なんでだよ………」

 

 冷静なレキの返答に思わず文句を垂れる。下手すりゃ、顔面グサリだぞ。綺麗な草原の一部に血がドバドバ流れることになるぞ。

 

 一応それらしく文句は言うが、悲しいことに常時戦闘集団の中で揉まれた俺は………あ、蘭豹ぐらいにしか揉まれてないわ。まぁ、武偵高にいると嫌でも戦闘態勢に入る。

 

 ほとんど反射的にナイフを取り出す。

 

 烈風で上手いこと逸らしながら当たりそうな矢をナイフで叩くか。

 

「お前は攻撃準備しないのか?」

 

 俺の横でボーッと突っ立ってるレキに問いかける。

 

「………………」

 

 しかし、その目線は矢に向いている。

 

 何かあるのかと思い、見てみると、矢尻に紙が結ばれてる。これは……所謂、矢文ってやつか?初めて見るけど何か、古風だな。まあ、インターネット繋がってなさそうな場所だもんな。

 

 それに付け加えて、集落が見える辺りからここってかなりの距離があるんたが…………。

 しかも矢文で矢の重心も狂ってるはずなのに。セーラには劣るけど、かなりの腕前だな。

 

 …………ちょっと待て。冷静に考えよう。

 

 一瞬変に納得しかけが、矢ってそもそもこんなに飛ぶの?せいぜい500m位だと記憶している。あ、風を自由に扱うセーラは例外で。ここにも超人がいるのか。…………レキもウルスだし、それもそうか。

 

 俺は少しの納得と驚きが混ざった感情になる。

 

 矢が飛んできてから、ある程度経つ。どうやら最初の攻撃からもう来ないようだ。つまり、目的はこの矢文になるのか。

 

 うっわ恥ずかしい。独りでテンション上げちゃったよ。誰もいない場所で悶えよう。

 

 そう決心し、矢を引っこ抜く。念のため周りを警戒しながら破かないようにそっと手紙を広げる。

 

 して、その内容は………、

 

「レキ、頼む」

 

 ダメだこりゃ、と、すぐさまレキに渡す。多分モンゴル語であろう文字が並んでいる。日本語も英語も見当たらない。話を纏めると、これっぽっちも読めない。

 

「はい」

 

 手紙を受け取り10秒程でレキは、

 

「要約するとこのまま来い、だそうです」

 

「さいで……」

 

 何だかスゴい恐ろしいんですけど。蘭豹が不機嫌の時の教務部並みに行きたくない。

 

 遠山と行った時は平塚先生と合コンに失敗して、荒れに荒れてた。壁は凹んでたり、穴が空いてたり、悲惨な状況だった。後日校長に減給喰らったらしいけど。 

 

 それが男性に相手されない理由だと何故分からない。ちなみにその時は巻き添えは嫌だったので、遠山と一目散に逃げた。

 

 話を戻して、俺は歓迎されてるのか、身ぐるみ剥がされるのか……想像付かない。まぁ、歓迎はされてねーな。 

 

「そういや、ウルスでのレキの立場ってどんな感じだ?璃璃色金から外れたとか言ってたが」

 

 ナイフを納刀し、ふと思い付いたことを言う。

 

「外されはしましたが、それでも風と繋がっているのは私含め数人です。それに付け加え、私もまだ少しだけ風と繋がっている状態です」

 

「えっ、そうなのか?」

 

「はい。ただ干渉してこなくなっただけです。恐らくですが、私を通じて私が見ている景色を見ることは可能でしょう」

 

「お、おう………。それより、お前けっこう喋るな」

 

 レキの饒舌ぶりに思わずかなり場違いな事を口に出してしまう。俺より喋ってるぞ。

 

「そうですか?」

 

「そうですね」

 

「「………………」」

 

 そして、何故か、沈黙が訪れる。

 

 ………本当、何でだよ。お互い話繋げるの下手か。はい、下手です。コミュ症ですいません。

 

 くだらない自問自答してから1分。荷物を互いに拾い直して、

 

「では、行きましょうか」

 

「………おう」

 

 レキは俺に近寄り、手は繋ぎこそしないが、離れてもピッタリ引っ付きそうな雰囲気なので、そのまま歩くことにする。このお互い黙ってても不快ではない雰囲気は嫌いじゃない。

 

 でだ、レキはウルスの元に行こうと言うが、全くもって行きたくない。できればこのまま振り返ってゴーホームしたい気分だ。帰りのチケットないけどな。早く頂戴!

 

 

 

 

 

 

 

 

 レキの歩幅に合わせてのーんびり歩くと、ようやくはっきりと集落が見えてきた。

 

 どうやら有名な移動式の家――ゲルではなく、普通に木造の家がある。というより、モンゴルって言ったらゲルのイメージが強いだけだ。

 

 そのことからウルスは移住はしない民族だと推測できる。色金があるとすれば、簡単に移動なんてできないのか………。

 

 その前に色金の大きさはどのくらいだろうか?気になるな。後で聞いておくか。

 

 それで、家の数は目視で大体15ちょい確認できる。確かレキ含めてウルスは47人だっけか?あれ?48?………うん、覚えてないわ。

 

 そして、ざっと見渡すと、電線はない。携帯は予想通りの圏外。多分電話くらいは使えるのかな。

 

「八幡さん。ここはWi-Fiが通ってるので安心してください。後程設定すれば使えます」

 

「その一言予想外すぎるんだけど」

 

 まさかのWi-Fi完備でした。……デジタル化進んでますね。それにしても、どこから電気引っ張って来てるんですかね?どこにも変電所的な建物見当たらないんですけど。

 

 そうこうしていると、その15人がこちらに寄ってくる。全員が銀髪。髪の長さはそれぞれ違う。

 

 レキと同じような水色じゃないんだ。

 

 そして、その手には弓や狙撃銃がある。弓が10人、狙撃銃が5人。

 距離が10m切ると、全員武器を構え始める。俺に向けて。

 

 …………何故だぁ??

 

「………レキ」

 

 考えられることはただ1つ。

 

「何でしょう?」

 

「あの手紙に書いてたこと全部教えてくれ」

 

「八幡さんの実力を確かめたいので連れてきなさい、です」

 

「………全ッ然、要約してないじゃん!!!」

 

 俺、渾身の突っ込み!

 

 どこがだよ!どこをどう要約したら『来い』だけになるんだよ。肝心な部分抜けすぎじゃねーか!

 

 あまりの大声のせいで、あのレキやウルスの人たちもビクッとする。

 

 やべぇな。キャラ崩壊がすさまじい。

 

 ――しかも10mって短すぎだろ。余裕で死ぬぞコラ。いや、まだ俺の射程範囲内だから有り難い。烈風は距離詰めないと届かないけど。

 

 レキは俺の左側に数メートル程離れ、ドラグノフの銃弾を取り出している。その様子をウルスの人も俺も見ている。

 

 その銃弾をコイントスの要領でピンと弾く。

 

 ………あ、これって、もしかしてしなくても始まりの合図か。

 

 銃弾が空中に舞っている間に俺はナイフを取り出し、すぐに走れるよう体を屈める。

 

 ファイブセブンは撃つ暇がなさそうなので閉まっておく。右手にナイフを持つ。

 

 ―――作戦はとにかく突撃!

 

 ウルスの人たちは矢をつがえ、狙撃銃を構え直す。

 陣形は弓矢の人たちが前に、その1、2m程後ろに狙撃銃を構えている人たち。

 

 ―――あの中で何となくリーダーらしき人物は狙撃銃グループの真ん中。銀髪の長髪の美人さん。雰囲気が他の人たちと違う。まずはそこに辿り着かねば。

 

 弾いた銃弾は頂点に達し、重力に従い落下する。 

 

 草原地帯だからか銃弾は落ちてもコンクリート程の音はしない。俺は視界の片隅で落ちた銃弾を捉える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃弾が落ちた。その瞬間――――

 

「烈風」

 

 ウルスの矢が10本、俺の体全体に飛んでくる。互いの矢がぶつからない角度で。

 

 対する俺は、烈風で台風程の風を起こす。その風を使い、飛んでくる矢を、レキに当たらないように左から右に受け流す。

 

 矢の受け流しが完了すると同時に走り出す。

 

「烈風……!」

 

 最大威力の烈風で追い風を起こし、その風の勢いに乗るように跳ぶ。体勢を崩さないためにバランスを取りながら。

 

 ひとっ跳びで5、6mぐらいの距離を詰める。が、着地し、ブレーキをかけてる間、残りの5人が狙撃銃で俺に狙いをつけている。

 

 どうやら弓矢の人たちは俺から離れているらしい。矢を放ったらすぐに移動したのか。この判断の早さは間宮たちにも見習わせたいな。

 

 俺と狙撃手たちとの距離はさっき跳んだ距離とブレーキした距離を合わせて残り―――ギリギリ4m。これなら届く。この範囲は、

 

「俺の間合いだ」

 

 向こうが引き金をひくと同時に春休み最後の時に使った下から掬い上げる風を起こす。あの時はできなかった最大出力で。

 

 それと同時に狙撃手たちが引き金を引く。

 

 パァァァン!と甲高い銃声が重なり合い、鳴り響く。

 

 上を向いている銃口から放たれた銃弾は屈んでる俺には1発も当たらない。

 

 急な突風に対して驚いたのか狙撃手たちの陣形が一瞬崩れる。

 

 ――その隙を逃したら俺の敗け。

 

 ならば、相手の予想してない形で不意を付く。

 

「飛翔」

 

 屈んだ状態で跳躍する。その途中、空中に空気のクッションを作る。そのクッションは爆弾みたいに弾ける―――セーラに教えてもらった擬似的に空を飛ぶ方法。

 

 正直連続で使おうとしてもまだ安定しない。かなりの集中力が必要だ。最高で3回連続。2回はそれなりに安定している。でも、1回跳ぶだけならイケる。

 

 名前は適当。やっぱり名前を言うだけですぐにイメージできる。

 

 70cm程の高さで、1m程の前にを跳躍する。それから空気のクッションを思いっきり踏んづける。

 

 すると、ボォォン!と、クッションが弾け、そこからまた加速し、跳ぶ。

 

 さっきより斜めに跳んだ俺はリーダー(仮)の頭上を越える。

 

 跳躍の軌道が予想外だったのか、狙撃手たちは反応できてない。

 

 跳んだ勢いを殺すために烈風で向かい風を起こし、落下しながらリーダー(仮)の肩を掴む。

 

 着地した瞬間、体勢を整えながらナイフの刃をリーダー(仮)の首筋に当てる。

 

 ………なんか、レキと似たようなミントっぽい香りがする。ぼ、煩悩退散!

 

 ウルスの人たちはその様子を確認すると、全員武器の構えを解く。

 

 

 

「合格です」

 

 狙撃銃を降ろしたリーダー(仮)がいきなり話し始める。

 

 それより気になることが……、

 

「日本語?」

 

 がっつり、日本にいても通用するくらいの流暢な日本語だった。

 

「私たち、ウルスの祖先をご存じですか?」

 

 俺もナイフを首筋から放す。そのまま納刀する。

 

 そう言えば、前にレキが言ってたな。

 

「えーっと、確か、源……何だっけ?」

 

「源義経です、八幡さん」

 

「あ、そうそう。だから日本語も喋れるのか」

 

 いつの間にか俺の荷物も持ちながら近づいてきたレキに補足説明してもらいながら納得する。荷物は受け取った。

 

 というより、レキも日本語話せるし不思議な事ではない。

 

「で、合格って何のことだ?」

 

「その前に自己紹介をしましょう。比企谷八幡さん」

 

 ………うん、それはいいんだけど、この場に残ってるのリーダー(仮)を含めて3人しかいないんだけど?他の人たち消えるの速くない?

 

 それとやっぱりレキに似てるな。主に会話のキャッチボールをしてくれない所が。

 

「私はボルテです」

 

 今までリーダー(仮)と呼んでいた人物は肩にかかるぐらいの銀髪、レキとは違う蒼い瞳をしている。

 身長は俺より、少し低い168cmくらいだ。服装はウルス共有なのか、全員同じでデールと呼ばれる民族衣装。調べた。

 

「アランです」

 

 次に、だいたい155cmの銀髪の女の子。スゴい無表情。

 

「私はダグバです」

 

 身長は160cmかな。これまた銀髪だ。

 

 それより、否定する気は全くないけど、ダグバってある界隈からしてら恐い名前だな。そして、これまた無表情。笑顔でいられるとそれはそれで恐いけど。

 

 それにこの3人、揃いも揃って日本語上手だな。

 

「改めて、俺は比企谷八幡だ」

 

 ――さて、レキのご実家に突入だー!

 

 みたいにテンション上げれたらいいけどなぁ。無理に決まってるだろ。絶対面倒じゃん。ハァ………。

 

 ウルスの家に向けて歩き始めたその時―――

 

「―――っ」

 

 辺り一帯にかなり強い風が吹き荒れる。

 

 俺を含めた5人はそれぞれ服や髪を抑えている。

 

 道中、そこそこ風は吹いてたけど、ここまで強い風は起こってなかった。俺が起こした風を除いて。

 

「………………」

 

「どうしました?八幡さん」

 

「………いや、何でもない」

 

「何かあったら頼ってくださいね」

 

「ああ。その時は頼む」

 

 と、レキとは会話する。が、これから何が起きるか全く予想がつかない。……本当、不安でしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだ後期残ってるんで、また更新開くかも……(;・ω・)
次はWかアクセル・ワールドになるかな?


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一歩目

なんとか三月中に投稿できた!
この話から初めてルビ打ってみたのでどこかおかしかったら修正します。


「飲み物です。どうぞ」

 

「あ、どうも………」

 

 ダグバさんから頂いた水を飲みながら全体を見渡す。そのままダグバさんは台所に消えていった。

 

 俺の左隣にはレキ。机を挟んだ正面にはボルテさん。ボルテさんの隣、つまりレキの正面にアランさん。

 

 ボルテさんに案内されて入った家の中はペンションみたいな家具やインテリアが設置されていた。

 

 何の話をするのか分からずに流れるようにここまで来た。結局、あの時言っていた合格とは何のことだ?

 

「レキにある程度聞いているとお伺いしていますが、まずは私たちウルスのお話をします」

 

 そうボルテさんが切り出す。

 

「先程言った通り、私たちの祖先は源義経です。モンゴルではチンギス・ハンと伝えられています」

 

 確か、降りた空港の名前はチンギスハーン国際空港だったな。やっぱり有名なんだな。

 

 それにチンギス・ハンなら俺だって知っている。中学でざっくりと習った。武偵高では、まだ世界史はそこまでやっていないから詳しくは知らないが。

 

「レキから聞いた時も疑問だったが、本当に同一人物なのか?そういう話は何となく聞き覚えがあるけど眉唾物だと思っている」

 

「……作り話にしたんですよ。星伽が」

 

「星伽が……?」

 

「はい。その前に――色金をご存じですか?聞き覚えがないなら構いませんが」

 

 まぁ、この質問は来るだろうとは思っていた。

 

「知っている。一時期イ・ウーにいたことがあるからな」

 

「あそこにですか。それは少々驚きました……」

 

 ボルテさんとアランさんは目を見開く。レキ以外のウルスの人たちの表情が動くの初めて見たぞ。

 

 つーか今さらだが、そんな簡単に色金の名前出していいのかよ………。

 

「私たちウルスもあそこに少し関わりがありました。5年前にイ・ウーの党首が直々に色金についての交渉に来たのです」

 

「へぇ。シャーロックが、直接か……」

 

 もしかしなくても、緋色の研究を進めるためか。その割りには緋色の研究に璃璃色金はほとんど書いてなかったな。確か……名前だけしかなかったな。

 

「あのシャーロックもご存じで。それはかなり珍しい人ですね」

 

「そこは気にするな。自分でも重々思っている。……それで、星伽とウルスの関係って何だ?」

 

「そうでしたね。では、話します。かつて源義経は日本の津軽からここ、モンゴルに渡りました。その時に手伝いをしてくれたのが星伽です」

 

「モンゴルに渡るための手引きか………」

 

 そこは理解したが、正直、だから何か問題あるのか?ってくらいしか思い付かない。

 歴史的にはかなりの発見なのだろうが、一般庶民からしたら事の重大さがピンとこない。

 

「それって大きな問題になるのか?」

 

 口に出して聞いてみることにした。

 

「ただ、人を送るだけなら特に問題にはならないでしょう。しかし、1つ問題があったのです。モンゴルに着いた源義経――チンギス・ハンが色金を所持していたことです」

 

 やはり、色金ってそんなに価値のある代物なのか……。世界を変える力があるというしな。

 

「そして、ウルスと星伽は色金に関する情報を交換していました。その後、そちらで言う江戸時代にその事がバレてしまい、星伽が作り話にしてくれと頼んだ……とのことです」

 

 …………なるほどな。大体分かった。実際そこまで分かってないです。

 

 レキから話を聞いた時も表面上理解しただけで本質を理解しようとはしなかった。というより、できなかった。レキの言葉が抽象的すぎて。

 

「その話とさっき言った合格についてどう繋がるんだ?」

 

 その言葉を発すると、ボルテさんはレキをチラッと見る。………レキに関係している話なのか?

 

「今現在、ウルス全体の人数は47人。その全員が女性です」

 

「……全員?」

 

 それは初耳だ。って、えっ、それよりいきなりすぎない?何の話なの?

 

「はい。ウルスは閉鎖的な民族です。同族の血が濃くなりすぎると遺伝子に支障をきたすことがあります。そのせいで女性しか生まれなくなりました」

 

 その話はテレビとかで聞いたことがあるな。だから日本や色々な国では血縁者同士の結婚は法律で認められてないんだよな。もちろん、倫理的な問題もあると思うが。

 

「だから私たちは強い男性の血が欲しかった。そこでウルスの姫であるレキに風――璃璃色金の指示で探させたのです。日本にした理由はまた別の問題があるのですが」

 

 うん?………ちょっと待て。今、何か聞き捨てならないことが聞こえたぞ。

 

「レキが……姫?確か、璃巫女ってのは知ってるけど。その、こいつが?」

 

 親指でレキに指を向けると、それに不満なのか肘で脇腹を小突いてくる。

 

「そうですよ、八幡さん」

 

「漢字では(つぼみ)に姫でレキと読みます」 

 

 レキとボルテさん、2人同時に同意する。

 

 蕾姫で、レキか。

 

 いや、マジか。姫ってイメージ全く湧かないぞ………。たまに俺が勝手にお姫様呼びすることがあったが、まさか当たっているとはな。

 

「別にレキが姫だからといってレキはレキだしな」

 

 俺にとってそこは永遠に変わらない。 

 

 

 

 ………あ、そうだ。せっかくの機会だ。

 

「その前に璃璃色金について可能な限り教えてくれ。レキには無を好む程度しか教えてもらってない」

 

 その先を聞く前にもっと情報を聞き出しておかないと。

 

「…………本来、あまり口に出すべきではないですが、そこまで知っているのなら別に構いません。といっても、ほぼその通りですよ」

 

 あまり表情が動かない人だが、嫌そうな顔だな。

 

「へー。そうなのか」

 

「それでは、星伽の史書から璃璃色金について抜粋します。『璃璃色金は穏やかにして、その力、無なり。人の心を厭い、人心が災厄をもたらすとし、ウルスを威迫す。璃璃色金に敬服せしウルスは、代々の姫に己の心を封じさせ、璃璃色金への心贄(ここにえ)とした』ですね。………比企谷八幡、あなたならこの意味が分かるのでしょう?」

 

「ああ……」

 

 姫として育てられた……つまり、自分の感情を、心を育てられずに今まで育てられたということになるのか。風の命令に従う存在として。

 

 確かに俺と知り合った時のレキは感情をさっぱり分かってなかった。多分今もまだ一般人並の感情は持ち合わせていない。少しずつ感情を出せるようになってもだ。さっき、空港でレキは我儘を出したけど。

 

「そこにいるレキは璃巫女として育った。そして、先程私が言った通り、レキは強い男性をウルスとして迎えるために日本に行った」

 

 話を切り、水を飲む。コップを置くと、話の続きを始める。

 

「生まれてきてからある時までレキは璃巫女の役割を順調にこなしていました。……ですが、あまりにもイレギュラーな事態が発生しました」

 

「イレギュラーか。一体何がだ?」

 

「あなたですよ。比企谷八幡」

 

 …………おっと、予想外の飛び火がきたぞ。

 

「私は風と繋がれないから分かりませんが、レキが言うには、一番最初あなたを見かけたある日に『警戒しろ』という指示があったそうです」

 

 一番最初というと、そうそう、あれだ。コンビニで見かけた時になるのか。

 あの時レキは俺を認識していたのか。てっきり街中ですれ違う程度の認識だと思っていた。

 

 思い返してみれば、カルテットの後にレキは部屋に無理矢理泊まりに来たことがあった。あの時レキは、風の指示で俺の事を知りたい、的なことを言っていたな。だから来たんだ。

 

「俺って強いうちに入るのか?」

 

 ポツリと疑問を漏らす。戦力だったらHSSの遠山や神崎とか武偵高にたくさんいるぞ。

 

「風が警戒しろと言ったのですから、何かしら普通とは違う強さがあなたにあるのでしょう」

 

 そう面と向かって言われると照れるな。あまり真正面から褒められるのに慣れていない。

 

「……………」

 

 レキさん、分かったから、その冷たい目で俺を見るのを止めてくれませんか?

 

 そんな様子を気にせずにボルテさんは口を開く。

 

「あなたと触れ合った日々はかなり根強く、レキに感情を芽生えさせた。しかし、風は無を好む。それを良くとしない風はレキを璃巫女から外し、別の者を璃巫女にした」

 

 まだ、昔のレキみたいな奴がいるのか。そいつはレキに対してどう思っているのか。

 

 ――突然、俺の思考を遮るように、

 

「ボルテさん、その説明では少し語弊があります」

 

 と、割って入るのはレキ。

 

「確かに今は璃巫女は外れていますが、風はいつでも私と繋がることができます。つまり、保留の状態です」

 

 ふむ。ここに来る前もそんな事言ってたな。緋色の研究では色金は人の躰や心を乗っ取れるらしい。レキを乗っ取れるかどうかは分からないが、その可能性はまだあると考えた方がいいな。

 

 だけど、話を聞く限り、璃璃色金が乗っ取る事は無さそうだな。無を好むなら自分から動かなさそう。

 

「分かりました。補足説明感謝します。当初より話が逸れましたがらこれでようやく最初の説明に移れます」

 

「俺の合格とやらについて一体何がってことか?」

 

「はい。……3月下旬、レキはここに帰ってきました」

 

 えーっと、3月下旬というと、俺がグータラしていたり、コンテナを歩き廻っていたりしてた春休みの時期だな。

 

「それまで風と繋がることができる――他の璃巫女の役割を持っているウルスは知っていたのですが、それ以外の私たちは知りませんでした。……レキが感情を持ち始め、少しずつ風から外れている事に」

 

 今まで以上に真剣な表情になるボルテさん。

 

「そして、帰ってきたレキが自分に起きたことを全て話しました。題名を付けるなら、比企谷八幡と過ごした日々、と言うべきですかね」

 

「……その内容は省いてくれ」

 

 多分俺が悶え死ぬ。

 

 ボルテさんは頷きながら、

 

「話終わってからしばらく黙っていましたが、最後にレキは自分の意思である事を言い切りました」

 

「その内容は?」

 

「『ウルスから独立したい。これからは自分自身で物事を決める』と」

 

 ……………そうか。

 

 もう、そこまで成長したのか。さっきの『一般人並の感情は持ち合わせてい』という発言は撤回しないとな。

 

「ボルテさんはどのように返事を?」

 

「とりあえず比企谷八幡を連れてきなさい、とその場では答えましたね」

 

 なるほど。

 

「で、今に至るわけか」

 

「そういう事になりますね」

 

 大分、話の流れが見えてきた。

 

「つまり、その合格ってのは俺がレキといても大丈夫かどうかって感じになるのか」

 

「まぁ、大雑把に言えばそうなります」

 

 冗談抜きで娘さんを僕に下さい状態だな。状況は特殊すぎると思うが。

 

「それに、あの程度で死ぬような人間はいりませんので」

 

 あの程度って………。矢放ったり、狙撃銃を至近距離で撃ったりしたら普通は死ぬぞ?

 

 俺がイ・ウーに行ってなかったからどうなってたか。ありがとう、セーラ、シャーロック、理子、ジャンヌ。

 

「銃を撃つ刹那に銃口をずらした技術やその後、瞬時に私を人質にした手際は見事なものでした。実際弓矢を対処した時に撃てば当たると思っていました。まだまだ私も未熟です」

 

 淡々と言うボルテさんに続いて、

 

「あの急な空中での方向転換は驚きました。どういう理屈で動いたのですか?……いや、そもそもどうすれば矢の一斉射撃を防いだのか。放った瞬間矢の軌道が変わった。何故?そういえば、矢が逸れた時に比企谷さんとレキさんの服や髪がなびいた。草原もあの部分だけ揺れた。推測するなら……風?ならば、風をどのように応用すればあの方向転換ができる?あの瞬間は特に風は周囲に起こってなかった――――」

 

 アランさんが喋ったと思ったが、いきなりブツブツブツブツ唸り始めた。俺の超能力の分析か?これはこれで怖い。

 

「アランは何かに夢中になったら没頭する癖があるので」

 

 注釈を入れるレキ。ウルスとは言えど、こんな一面を持った人もいるんだな。意外。

 

 それで、今のレキは無表情。色々お前の話をしてたんだし、何か……恥ずかしがるとかないんかね。

 

「だから私は合格と言いました。レキ、これからは自由にしなさい」

 

 ボルテさんは僅かながらの笑顔を浮かべ、レキの独立を認めた。

 

「ありがとうございます」

 

「ですが、先程あなたは『まだ風と繋がることはできる状態』と言った。いくら璃璃色金が感情を持つ人間を嫌うといっても、あなたに乗り移れるということ。気を付けなさい」

 

「はい」

 

「最後に1つだけ。あなたの故郷はここなのだからいつでも帰ってきなさいよ」

 

「………はい」

 

 レキは、ほんの少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

 

 ボルテさんは俺を見つめ、

 

「比企谷八幡。あなたもレキを頼みます」

 

「もちろん、そのつもりだ」

 

 対する俺は迷いなく、応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後好きなだけ滞在して大丈夫と言われ、ウルスの人たちは空いてる部屋をわざわざセッティングしてくれている。

 

 俺も手伝おうとしたけど断られ、その場にいるのも何だか申し訳なく適当に歩いていたら、湖を見付けた。レキはどっかに消えた。

 

 暇だからそこらの石を拾って水切りをして遊んでいたが、それも飽きて、今、手持ちぶさたな状態に陥る。

 

 

 

 

 

 時刻はまだ3時頃。日射しも強く、水面が日光を反射していて眩しい。

 

「……何だ、あれ?」

 

 そんな湖ボーッとを眺めていると、綺麗な水の中にうっすらと何かが沈んでいるのが見える。

 

 場所は、湖全体の中心部辺り。

 

 ――気になるな。行ってみよう。どうやって………お、あそこにボートが。

 

 視線の先には木製のボートが何隻かある。

 

 停泊してあるボートを勝手に借りて漕ぎ、近づき下を覗く。そこにはかなり大きい岩らしき物がある。

 

「おぉ……」

 

 直径は10mはあるな。高さはだいたい2から3m程。その周りは海藻で覆われ……ここ湖だし海藻はないな。藻で覆われている。

 形は円形、ではなく、どちらかといえば円錐形に近い。麦わら帽子の上部がなだらかに広がっている感じ。

 

 水中からじゃ本当分かりにくいな。高さなんか屈折しまくっているからかなり適当だ。

 

「実際こうして見ると……でかいな」

 

 直径10mもある岩なんてこの目で見たことない。実際見てみると、上手く言葉にできないけどスゴいもんだな。語彙力がヤベーイ。

 

 にしても、ざっと見渡したけど、湖の他の所にはこんな岩はないな。ここだけにしかない。珍しい物もあるもんだな。日本でもここまで大きい石や岩は俺が知っている中ではないな。

 

 これは何だろう?地形が削れてこうなった訳ではないだろう。だとしたらあまりにも不自然すぎる。

 この岩はおおよそ湖の中心にある。今、岩の真上にいるからそれがだいたい分かる。

 

 

 ………そういえば、ふと思い出した。

 

 小学生の頃図書室で<地球の秘密>や<恐竜の秘密>みたいな本を読んだことがあったんだ。そこに書いてあった内容で、

 〔地球に隕石が墜落し、その衝撃でクレーターができた。そのせいで恐竜が滅んだ。その後、永い間大雨が降り続けた。そして、そのクレーターに水が溜まり、湖になったことがあった。〕

 というエピソードが印象的だったな。

 

 そのエピソードにこの状況はスゴく当てはまりそうだよな。仮説として、この岩は隕石だった可能性がワンチャン………あるのかなぁ。

 

 いや、まぁ、湖が出来る方法なんて色々とあるけど。例えば火山のせいだったり、断層のせいだったり、いっそのこと人工だったりと数は多い。

 

 だから、隕石とは言い切れない。……けど、それっぽいよなぁ。

 

 ここで考えても仕方ない。レキかボルテさんたちに質問してみよう。もしかするとこの湖に関しての言い伝えがあるかもしれない。

 

 さて、長居して注意されるのも不味いしそろそろ戻ろ「――くい」……う………か。

 

「…………は?」

 

 な、何か、聞こえた。誰かの声か……?

 

 周りには誰もいない。携帯もキャリーケースに入れてある。これは空耳か?

 

 

 

 

 

 

 

「――――醜い」

 

 

 

 

 

 

 

 …………いや、違う。間違いない。今度ははっきりと聞こえた。空耳ではない。

 

 聞こえたというより、俺の頭の中に響いてきた方が近い。

 

 レキではない。ボルテさんでもアランさんでもダグバさんでもない。今まで聞いたことない声。

 

 透き通った、とても綺麗。それでいて、どこか恐怖を覚える……そんな声。

 

 醜いとは俺のことなのか?何に対してだ。

 

「お前は、誰だ……?」

 

 俺は呟くが、反応する人は当然ながらいない。

 

 

 

 

 とりあえずボートを元の場所に戻した。ボートを借りたことは後でボルテさん辺りに一応報告しておこう。

 

 あれが何だったのか気になるが、聞こうにもまだ準備で忙しそうだった。そして、レキは未だに見当たらない。どこ行ったんだよ、あいつ。

 

 次はどこを歩こうか。といっても、ここには草原と湖も森くらいしかない。消去法だと森になるなぁ。

 

 暇潰しにはなるか。せっかく外国に来たんだ。どこかで役に立つかもしれない。色々な知識でも蓄えようか。

 

 〔千の備えの内、一使えれば上等〕というような台詞がある漫画であったわけだしな。損はないはずだ。

 

 森に入る。そこは針葉樹の森だ。 

 中学で、シベリア辺りの森は針葉樹がほとんどだと習った。名称はタイガだったか。

 レキにもざっくりとウルスの位置を教えてもらってある。モンゴルとロシア国境付近らしい。ふむ、一致するな。

 

 さてと、しばらく歩くかー。

 

 ちょっと好奇心にそそられ、迷わないよう注意しながら森を探索する。こういう探索はなんか、こう……男の子心をくすぐられる感じがする。楽しい。

 

 

 

 5分程ほっつき歩いていると後ろの方から、ザッ!と草を掻き分ける音がする。その直後、

 

「……ガルルルルッッ!」

 

 普段聞き慣れない唸り声がする。

 

 振り向くと、犬が1匹いる。体長は80cmか。けっこう大型の犬だな。……いや、普通の犬は大きくて60cmだ。

 

 この大きさに鋭い目つきと鋭利な歯。どれも犬にはない特徴だ。これは――狼か。

 

 マジか。野生の狼なんて初めて見たぞ。モンゴルにいるんだ。

 

 狼は絶賛威嚇中。

 

 適当に拳銃撃ってビビって逃げてくれたらいいけど、下手に音出して狼の数が増えるのは避けたい。それ以前に匂いですでにバレてそう。

 

「うおっ!」

 

 突然、狼が一直線に突進してきた。俺を敵としたか。

 

 回避はしたが、予想以上に速い。蘭豹には劣るがな。………とはいえ、グズグズはしていられないぞ、これは。

 

 殺そうと思えば、こっちには拳銃があるから簡単に殺せる。でも、狼って絶滅種だっけか。できれば殺すのはナシの方向で。

 

「さーて、どうするか……」

 

 少しずつ、後ろに下がる。狼と3m距離を取る。

 

 俺としてはスタンガンで気絶させるのが手っ取り早い。………あればの話だけどなぁ。

 あれは日本に置いてきた。拳銃とナイフあればいいかなって。それにスタンガンの調子悪かったから材木座に修理を頼んでいる。

 

 このまま俺が逃げるか。ウルスの人たちなら追い返す方法を知ってると思うからどうにかなるかも。

 

 それとも向こうが逃げてくれるか。……それはなさそうだ。だってメッチャ俺を親の敵みたいな目で見てくるぞ。

 

「……っと」

 

 どのような選択をするかと考えているとまた狼が突進してくる。今度は余裕を持ち、それに合わせて烈風で突進を受け流す。さっきの矢よりは断然簡単だ。

 

 狼は空中で突進の軌道を変えられたのに対応できずに幹に頭からぶつける。

 

「ちっ」

 

 そのまま逃げてくれれば嬉しいが、そうはしてくれず、頭をブルブルっと振っては俺に体制を整えて向き直る。

 

 ――――埒が明かない。空に1発撃つか。

 

「……あ?」

 

 と、思ったら、狼が急にプルプル震え始め、ペタンと地に伏せた。その前に狼に何かが擦ったぞ。

 

 あぁ、うん、察したわ。お前か。………来るなら来るで早くしてほしかった。

 

「なあ、コイツに何したんだ」

 

 俺の後ろから狙撃したレキに尋ねる。

 

「脊椎と胸椎の中間、その上部を銃弾で掠めました」

 

 足音もせずに横に立つレキはそう説明する。その手には消音機付きのドラグノフを持っている。

 

 消音機があると命中精度は人によって差はあれど下がるもんだけど……。関係ないように誤差なく狙撃するから、相変わらずその腕は末恐ろしい。

 

 それとどこを撃ったのかさっぱり分からん。人間でいうとどの辺りだよ。

 

「そこを圧迫すると、脊椎神経が麻痺し、首から下が動かない。ですが、5分程すればまた動けるようになるでしょう」

 

 それでも、人間離れした業だというのは分かる。

 

「流石だな」

 

 俺が褒めるといきなり手を引っ張る。

 

「この森から出ますよ」

 

「この狼、そのままにしてて大丈夫なのか?」

 

「ウルスには勝てないと狼たちは理解していますから、基本的に集落に近づきません」

 

 要するに、何回もウルスの集落を襲っても撃退されて森に逃げているってことか。

 

「なんにせよ、助かったわ」

 

「こちらも狼を殺そうとせずにやり過ごそうとしてくれて、ありがとうございます」

 

「やっぱり、絶滅種なのか?」

 

「はい。昔からウルスや他の民族が多くを狩猟してしまったので数が徐々に減っているのです。今は共通認識で余程の事がない限り殺さないように、とされています」

 

「へー……」

 

 そういう地域は存在するんだな。日本も狼はいないし、他にも絶滅危惧種はいる。生態系を壊さないようにこれから少しずつ気を配ろう。

 

 

 森を出て、元の草原地帯に戻った。

 

 後ろを振り返っても狼の姿は見えない。大丈夫だな、言ってた通り追ってきてない。あれでもけっこう怖かった。

 

「それはそうと、さっきまでに何してたんだ?」

 

 気になっていた。あんな狼がいる所にいたわけだ。危険だろう。一段落したし、聞いてみる。

 

「………森で、心を落ち着かせていました」

 

「それは、もうウルスから独立するからか?」

 

「……はい。自分の意思で物事を決めるのはこんなに怖いのですね。これで正しいのか、間違っているのか、まるで判断がつきません」

 

 レキの視線は夕方のオレンジ色の空に向けられている。

 

「そういうもんだろ。誰だってそう思う。俺だって親父に勧められて武偵になった。そこからは自分で考えて行動している。けど、もっと上手く出来なんじゃないか、本当にこれで良かったのか………」

 

 春休みの事件。あの男に言った言葉はあれで良かったのか、俺をまだ恨んでいるのか。他にマトモな選択肢があったかもしれない。

 

「そうやって考え始めたら終わりがない。自分の人生に後悔がないなんて奴はこの世にいない。……だから、後悔しないように、自分の出来る最善を探して、自分のしたい事を迷惑がかからない程度にすれば良い。で、後悔や反省はその後好きなだけする」

 

 俺の人生は後悔だらけだ。あの時あんな行動しなかったら恥ずかしい黒歴史なんて生まれなかったのに。とか、ああしとけばイジメは受けなかったのに。数えると多すぎる。そして、心の傷を抉ってしまう。

 

 でも、それがあるから今の俺がある。武偵になって、レキと出会えた今の俺が。

 

 

「自分の最善、自分のしたい事………」

 

 レキはどこか、噛み締めるように呟く。

 

「八幡さん」

 

「どうした?」

 

「私のしたい事、していいですか?」

 

「おう、どうぞお好き――!?」

 

 俺の方を向き、背伸びをしたと思ったら、俺の視界はレキの綺麗な顔が映る。レキの両手は俺の両肩に当てている。

 

 そして……唇に感触がある。

 

 

 

 ――――俺は、レキと………キスをしている。

 

 

 

 

 きっかり30秒でキスは終わった。

 

「えっ、ちょっ………え?」

 

「これが今、私のしたい事です」

 

 俺が混乱している中、それだけ言い残し、レキは足早に去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




また長くなってしまったな………

関大はダメでしたけど、普通に大学楽しみです(*´∀`)


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何の為に

おひさしぶりです。遅れました。
大学が大変だったり、中々展開思いつかなったり、別のシリーズを書いてたり、と色々ありました。

オリジナルな設定とか色々不都合な点があると思いますが、目を瞑っていただければ幸いです。



 あれから1週間が経ち、ウルスでの生活は続いた。

 

 

 朝起きて、朝飯を食べ、宿泊費として掃除を手伝う。最初は断られた、そのくらいしないと俺が落ち着かなかった。

 

 それが終われば、部屋で柔軟を30分ほどして、持ってきた銃弾450発を使いきらないように撃つ。撃つ感触を忘れないために。

 

 その時ボルテさんやダグバさんに遠距離射撃のコツを教えてもらった。

 

 とりあえず分かったことは1km先の風を読むとかは無理ってことだ。ほら、俺、人間だから。といっても、色々なアドバイスは参考になった。

 

 

 

 後は軽く運動したり、持ってきた本を読んだり、レキと話したりと、のんびり過ごした。

 

 ………まあ、レキとはちゃんと話せてるよ?キスされたことを口に出そうとしたら、露骨に話逸らされたけどね?あいつにそんなトークスキルがあったとは。

 

 

 

 話は変わるが、あと4日ほどしたら武偵国際競技――アドシアードだ。

 

 今さら武偵のイメージを良くしようとしたところでなぁ。

 

 犯罪スレスレもやる何でも屋は世間で評判最悪だ。子供に銃を持たせるなんて!……みたいな感じで。

 

 確かに否定する奴の気持ちは分かるけどよ。例えば留美みたいな子が平気で銃を扱える世の中ってのは正直疑問が生じるし。

 

 でも、クリスマス辺りのカナの事件、あれはさすがに腹が立った。カナがいなきゃ死んでるのにあいつらときたら、責任逃れようと、終始偉そうだった。遠山にも被害及ぼすし。

 

 ………あれ?これ訴えたら金むしり取れるんじゃね?俺も遠山と同じ部屋に住んでるからマスコミ煩かったし、かなり迷惑だった。裁判起こして小遣い稼ぎに行くか!……と言いつつも、面倒だからやらないけど。

 

 まぁ、今は武偵高を休んでるから、アドシアードで何か仕事を割り振られているとは思えない。サボっても問題なし。

 

 たまに俺が休んでることすら気づかれない。通知表の欠席の欄に記録されて数が合わなかった時は驚くと同時にショックを受けた。悲しい。

 

 そもそも担任の綴は割りと放任主義という名のめんどくさがりなので俺が休んでるのなんて気にも留めてないだろう。

 

 そういや、レキは狙撃系の競技に出るって言ってたな。あいつどうするんだろ?

 

 

 

 

 

「………ふぅ」

 

 額から流れる汗を袖で拭う。

 

 今、俺は昼飯を食って運動がてら走って湖に来た。

 

 謎の声がした日から毎日湖に寄っているけど、あの声はもう聞こえない。

 

 ――あれは何だったんだろう?

 

 そう思い、レキに尋ねたことがある。

 

 そして返答はまさかの、

 

『それは風かもしれません』

 

 だった。

 

 俺が見たあの大きい岩は、レキ曰く、風――璃璃色金らしい。

 

 その時は思わず「うそーん……」とかいう俺のキャラに似合わない発言をしてしまったくらいだ。不覚!

 

 いやだって、普通に驚くわ。

 

 シャーロックも色々と言ってたし、なんか珍しい物だから厳重に保管されてると思いきや、あんな湖に沈んでるもんな。

 

 パッと見ではあれが金属なんて分かりっこないけどよ。ただの岩だろ、あれ。

 

 ――それにあれが本当に璃璃色金だったら、尚更おかしい気がする。

 

 璃璃色金はレキもボルテさんも言った通り、無を好む……らしい。対する俺は煩悩ありまくりの普通の人間だ。

 

 そこに矛盾が生じる。璃璃色金は感情を持つ者を嫌うから今までのレキに付いてたのは納得がいく。だが、俺に話しかける理由はないだろ。

 

 それともあれか、暇潰しに話しかけてきたのか?………うん、そういうことにしておくか。

 

 で、レキに詳しく色金のことを聞こうと思ったが、ボルテさんが話したこと以上は知らないとのこと。後は神崎が持っている色金の出現を止めることくらい。

 

 やっぱり、一番何か知ってそうなのは星伽さんかな………。まあ、別に今はいいか。

 

 さて、休憩はもういいな。そろそろランニング再開するか。

 

 俺は水を飲み終えると、さっきの思考を振り払い、また走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。俺は借りてる部屋とベッドに腰かけている。床にはレキが体育座りの状態でいる。  

 

 ちなみにレキが泊まっている部屋は俺とは別。

 

「おい、レキ。椅子あるんだし座れば?」

 

「構いません」

 

「そうですか……」

 

 経験上、これ以上言っても聞かないことは分かっている。話題変えるか。

 

「お前、アドシアードどうするんだ?そろそろだろ」

 

「明日には帰るつもりです」

 

 晩飯食った後、チラッとレキが荷造りしてたのを見た気がした。

 

「なあ、俺のチケットもあるよな?」

 

「………………」

 

「何故黙る」

 

 嫌な予感しかしねーぞ。止めてくれよ、本当に。

 

「ウルスからの頼みであと1週間から2週間ほど滞在してほしいそうです。私はアドシアードがあるので日本に戻りますからご一緒できません」

 

 レキは淡々と口を開く。

 

「それマジ?」

 

「マジです」

 

 嫌な予感的中。思わずため息をつきそうになる。アウェイに独りだと居心地悪いな。

 

 しかし、理由が見当たらない。

 

 もしかしたら、レキがいなくなった途端にウルスの皆さんに殺されるのか。

 

 嗚呼、短い人生だった。最期にもう一度小町に会いたかったなぁ………。

 

「八幡さん?」

 

 レキの声で俺の下らない考えは終わり、意識はレキに向けられる。

 

「………おう、大丈夫だ。それで、俺だけ残るって何でだ?」

 

「知りません」

 

「でしょうね」

 

 レキが理由を知っていたら、先に言ってくれるって知ってる。

 

「まぁ、レキが帰ってからボルテさんにでも聞くわ」

 

「はい。お気を付けて」

 

「そっちもな」

 

 思い出したけど、今日本にジャンヌいるんだよな。誰をあの傍迷惑な組織に勧誘しているのか。遠山の周りの人ならいくらジャンヌでも勝つの難しいだろうな。

 

 あ、毒女こと夾竹桃もか。間宮たち大丈夫か?……向こうには神崎がいるしどうとでもなるか。さすがに夾竹桃では神崎に勝てないだろ。

 

「八幡さん」

 

「どうした?」

 

「私がいない間にやましいことはしないでくださいね?」

 

「………する度胸ねーよ」

 

 いきなり何を言われたかと思うと………。あとレキのプレッシャー半端ないです。その目止めて。何かに目覚めそう。

 

 したら、レキに何されるか分からな。俺の命は確実になくなるだろう。

 

 つーか、そもそも………

 

「レキがいるのにする理由がないな」

 

 思ったことを率直に述べる。

 

「………………」

 

 が、レキは無反応………ではないな。少し顔が赤い。

 

「おい、レキ」

 

「おやすみなさい」

 

「あ、おい待――」 

 

「おやすみなさい」

 

 かと思いきや、一目散に部屋から出ていった。

 

 ねぇ、照れてるの?そうだよね?怒ってないよね??

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、翌日。

 

 レキを途中まで見送った。その後、ボルテさんを呼び出してリビングに座る。

 

 ボーッとしているとようやくボルテさんがこっちに来た。

 

「お待たせしました」

 

「それで、レキから聞いたんですが……話とは?」

 

「………璃璃と交信したそうですね」

 

 あぁ、それか。

 

「一方的に少し言われただけです。何か問題が?」

 

「あなたは超能力(ステルス)が使えるんですよね?」

 

「ちょっとだけですけどね」

 

「なら……不味い」

 

「どういう意味ですか?」

 

「レキや他の璃巫女は基本的に超能力は使えません。ですから、もし躰を乗っ取られてもあまり害はないでしょう」

 

 超能力を使えない人間はどこまで頑張っても使えない。だから、圧倒的な超能力を使える色金の神でもそういう人間を乗っ取っても、ぶっちゃけ意味ないんだろう。

 

「でも、俺は使える」

 

「ええ」

 

「といっても、璃璃色金の性格的にこれ以上俺に干渉してくるか?」

 

「ゼロとは言い切れません」

 

「対策なんてできないでしょ。そもそも俺の近くに璃璃色金がなかったら済む話だろ」

 

「それはそうですけど……」

 

 何か言いにくそうにしているボルテさん。

 

「何かあるんですか?」

 

「いきなり璃璃色金があなたに話しかけたこと自体が問題なのです。レキを含む璃巫女たちは璃璃色金と交信するために長い時間を消費しました」

 

「………つまり?」

 

「色金の影響は凄まじい。例えその身にしていなくても、あなたの身に何か起こるかもしれません」

 

「そう言い切れる理由はないだろ」

 

「理由はありません。でも、可能性はあります。なぜなら、あなたの側にはレキがいるから。長年、璃璃色金と寄り添ってきたあの子がいる。もし、璃璃色金がレキを通してあなに何かできるなら、あなたにも被害が及ぶ」

 

「だったら、俺にどうしろと?」

 

 少し怒気を籠めた声を出す。それに臆せずボルテさんは淡々と告げる。

 

「あなたには璃璃色金を持ってほしいのです。ほんの一欠片でもいい」

 

 ………どうしてそうなった。

 

「一応、理由聞いてもいいっすか?」

 

「簡単です。あなたには超々能力者(ハイパーステルス)になってもらいます」

 

 いきなり出てきた単語に思わずビックリする。

 

 

 ――――超々能力者(ハイパーステルス)

 

 

 それは自由自在に色金の能力を使える存在。本気を出せば、その力は国1つにも該当するほど。

 

 そんな存在に俺が?

 

「冗談よせよ」

 

「もちろん、断ってもいいです。強制力は私にはありません。ですが、選択肢の1つに入れてほしい」

 

「まずそうなる理由を教えてほしいな」

 

「あなたは璃璃色金とかなり相性が良い。恐らく、今までの誰よりも。理由は分かりませんが、出会ってすぐに璃璃色金から話しかけられることなんてまずなかった」

 

 らしいな。緋緋色金も適合するのに何年もかかるらしいし。ますますなんで俺に話しかけてきたのかが分からん。

 

「何も璃璃色金の力を自由に使えとは言いません。乗っ取られない程度には耐性を付けてほしい」

 

「簡単に言うなよ………」

 

 まだ完全な超々能力者はいないだぞ。俺の知らないところでいるかもしれないけどな。

 

「方法はあるのか?」

 

「星伽に頼んでください。そこは専門外なので」

 

「ここまで来て人任せかよ!!」

 

 またキャラに似合わない突っ込みをしてしまったぜ。反省反省。

 

「まあ、星伽が色金に一番詳しいというのもあるので………。それと、歴史上、緋緋色金が一番人間を乗っ取って神になっているのもあります」

 

 気まずそうにポツリとそれだけ漏らす。あ、自分で話を振っておいてちょっと無責任な自覚はあるんだね。

 

「それで、この話をお受けしますか?」

 

「………考えさせてくれ」

 

「分かりました」

 

 それを聞くと俺は席を外す。

 

 

 

 別にこれしか選択肢がないわけでもない。

 

 これまで通りレキと暮らしても何も変わらないかもしれない。

 

 この話は杞憂に終わるかもしれない。

 

 ………………だから、わざわざ自分から危険な賭けに乗らなくてもいいんだ。

 

 

 

 

  帰国ギリギリまで考えていた。この判断は正しいか間違っているのか。

 

 しかし、2週間後に俺はこの返事を受けることになる。

 

 力が欲しいから。

 

 ジャンヌからあるメッセージが届いたことによって決断する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『理子がブラドと接触するかもしれない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりに5000文字切ったかも

次も更新されたらよろしくお願いします。疑問点、不可解な点あればご指摘ください。丸っと訂正するかも………


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足りないからこそ

UA370000突破
PV1500000突破
お気に入り2300突破
ありがとうございます!嬉しいかぎりです!!


「おい!ジャンヌ、どういうことだ?」

 

 つい声が大きくなる。

 

 ウルスの人たちから借りてる部屋で国際電話を用いてジャンヌに話しかける。日本に来たとはセーラが言っていたが、恐らく今はフランスにでもいるだろう。

 

『………む?それより、八幡。お前今どこにいる?国際電話になっているぞ』

 

「ちょっとした海外旅行だ」

 

『ほう。海外旅行か。通りで武偵高でお前が見当たらないわけだ』

 

 ん??

 

「お前、日本にいるのか?」

 

『そうだ。司法取引も済んで武偵高に通っている』

 

 ……司法取引?どういうことだ?

 

 ジャンヌの話を簡単に纏めると、どうやら星伽さんをあの傍迷惑な組織に勧誘しようとしたところで、遠山と神崎コンビにやられたとのこと。

 

 で、今はパリからの留学生になっていると。情報科らしい。

 

 何て言うか…………、

 

「お疲れ様」

 

『………あぁ。あれは本当に可笑しいぞ』

 

 声が疲れてたな。

 

 そりゃ、あの2人を相手にしたらそうなるわな。つーか、可笑しいって…………。あの2人のコンビの動きを直接見たことはないけど、それは恐ろしいのだろうな。

 

「それで、理子に何があった?……ブラドって」

 

 ジャンヌは咳払いをする。

 

『もしかしたらの可能性だ。そうだな……。少し昔の話になる。理子には母親から貰った宝物というものがある』

 

 んん?いきなり何の話だ?

 

『理子はかなりそれを大切にしていた。しかし、それをブラドに奪われてな。最近、神奈川のブラドが保有している屋敷に保管されているとの情報が入った』

 

 あー……なるほど。そういうことか。

 

「理子はそれを取り返しに」

 

『その通り。遠山と神崎がブラドの屋敷に潜入して理子が指示している。理子はブラドに顔がバレているから2人に依頼したとのことだ』

 

 まーた、あいつらか。理子にジャンヌ、挙げ句の果てにブラドか。イ・ウーに愛されているなぁ…………。このままシャーロックとも会うんじゃねーか。

 

 さすがに依頼ともなれば、遠山も神崎もそれなりの報酬を理子に要求しているだろう。

 

 多分神崎は母親の裁判についてだが……遠山は何だろうか?思い付かないな。

 

 それと、ジャンヌからの話で気になることが1つ。

 

「ブラドがそんなピンポイントな場所にいるのか?」

 

『だから言ったぞ、あくまで可能性の話だと。………ただ、理子からお前への依頼を知っていたからな。伝えておこうと思ったまでだ』

 

 俺からはそのことをジャンヌには言ってなかったから伝えたのは理子か。

 

「理子たちの潜入の期限はあとどのくらいだ?」

 

『1週間はいるらしい』

 

 ………1週間か。

 

 うーん、それなら、材木座に頼んでるモノも何とかなるか……な?あとで確認しないと。

 

「分かった。ありがとう。それまでに帰る」

 

『気にするな。日本に帰ってきたらブラドの情報を教える。連絡してくれ』

 

「助かる」

 

『では、またな』

 

 

 

 

 

 

 

 ジャンヌとの通話が終わる。俺はそのままベッドに倒れ込む。

 

 右手にある物を天井に掲げる。

 

 電気を反射して蒼く光る――――璃璃色金。

 

 それを加工して直径1cmほどにした球体。

 

 さて、これを貰ったはいいけど………本当に超々能力者になれるのか怪しい。

 

 緋色の研究に書いていたが、本来は色金を使うのにかなり厳しい条件が必要らしい。

 

 そんなポンポンなれたら世の中超々能力者で溢れ返るぞ。例え俺に璃璃の適性があったとしても。

 

 もちろん、そうならないことに限りはないのが……いかんせん、今の俺には足りないものが多い。

 

 遠山がカルテットで見せた(俺は後で映像で見ただけだが)あんなふざけた射撃能力なんてない。

 

 神崎みたいな神がかっている身体能力や戦闘力もない。

 

 隠密は一度だね、レキを欺くことができた。だから、それなりには得意だが、本気を出したレキほど気配を消すのに長けていない。

 

 セーラほど風を繊細に、そして豪快に操れない。

 

 ………全てが他の奴らより圧倒的に劣っている。

 

 俺ができるといえば、相手がどう動くのか何となく読めるだけ、かな。しかも割りと外れる。そりゃ、上の奴ほど自分の動きを読ませてくれないからな。

 

 あとはあいつらの下位互換。………それが俺。

 

 それ自体はどうでもいい。今さらの話だ。

 

 だからこそ、それを補うために俺にも何かないと、この先――もしブラドと戦うとなっても勝てるか分からない。最悪死ぬ。

 

 そうならない為に最大限の準備しないといけない。

 

 

 

 

 

  

 

「………よしっ」

 

 寝る前に材木座にメールする。

 

 

『急で悪いが、依頼の件、あと7日ほどでできるか?』

 

 

 5分ほどして返事が届いた。

 

 

『頼まれたブツの1つは完成している。が、あと1つはまだ完成までいってない。試作段階である。平賀さんにも手伝ってもらっているが残り日程がそれだけだと難しいのが現状である』

 

『報酬は多めに出す。何とかあと7日までには完成させてほしい』

 

 

 今回はかなり無茶な注文してるから報酬も材木座にしたら高めなんだよな。

 

 残金いくらまであったっけ?確か150万か?………イ・ウーからお詫びでいつの間にか残金が増えていた。俺宛の封筒見たときはビビった。

 

 最初に依頼した金額が80万。追加となると………やべぇな。……足りなさそう。これは誰かに借金するしかないか。

 

 と思っていたら、

 

 

『報酬は前もって設定した額しか受け取らないのが我だ!それがポリシー!!』

 

 

 なにこれカッコいい。

 

 

『でも、平賀さんなら要求しそうだよな』

 

『そこは心配ない。元々彼女は今回お主が依頼したブツに対して興味を持っただけ。いわゆるボランティアだ』

 

 

 武偵がタダ働きか。それは教師に怒られそうなことだな。………お、材木座から追加でメールきた。

 

 

『それに彼女の報酬はお主が依頼したブツの技術を我から盗むという、我からしたらなかなか厄介なことだ。だがしかぁーし!それは我の問題であり、お主が気にするようなことではない!!それに我も彼女から盗める技術は盗んだ。win-winの関係だ』

 

 

 本当にこいつが装備科で良かった。メッチャ助かる。

 

 

『さすが材木座だな。ありがとう』

 

『むむっ!お主が礼とは!?珍しいこともある。また休日にでもラーメン巡りでもいこうではないか』

 

『おう、楽しみだな』

 

『普段ひねくれてるお主がここまで素直だとなかなか奇妙である。では、さらばだ!』

 

 

 ふー……この件はどうにかなった。借金せずに済んだよ。材木座には感謝しかない。最後の文面には少しイラッとしました。俺が素直ってそんなに変か?

 

 ボルテさんは6日後日本に帰れるチケットを取ってもらった。

 

 何から何までありがとうございます。こちとら海外なんて初めてなんですぅ。

 

 

 

 それまで璃璃色金をずっと持っていたが、あの時みたいに声なんて聞こえてこない。

 

 やはりあれは偶然で済まそうか。色金には頼らない。

 

 つーか、何も動けないこの時間が歯がゆい。レキも理子も心配だ。遠山と神崎は死んでも死ななさそう。特に遠山。

 

 ジャンヌから逐一報告は聞いているが、それでも心配だ。俺より強いからその心配は杞憂に終わるかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 そして、レキがいないから少し気まずかった時間が過ぎ、空港にて。

 

 見送りに来てくれたボルテさんと話をする。

 

 他の人たちはいない。けっきょく、マトモに話せたのはこの人だけだったなぁ………。

 

「比企谷さん」

 

「何すか?」

 

「璃璃のことで、星伽以外の人たちには隠してください」

 

「……そこまで分かる人がいるとは思わないですけど」

 

 いたらいたで問題だろう。どんだけ知られてるねんって話になる。

 

「万が一です。それを求めてあなたがどこからか命を狙われることになるかもしれませんから。もしくは拐われるか」

 

 ………裏の世界は怖いね。そんなの嫌だわ。平穏に生きたい。

 

 

 

「とりあえず、今までお世話になりました」

 

 帰りの飛行機のアナウンスがかかったところで、ボルテさんに挨拶する。

 

「いえ、気にしないでください」

 

 淡々と返すボルテさん。あまりこの人表情動かなかったな。つーか、ウルス全員。

 

「それじゃ、これで」

 

「八幡さん、最後にいいですか?」

 

 引き留められたが、何となく言いたいことは分かる。

 

「………レキのことですか?」

 

「はい。あの子のこと、これからよろしくお願いします」

 

 璃巫女として育てたことに何か思うことがあるのだろう。

 

「もちろん、そのつもりです」

 

 俺はそれだけ答えて、ボルテさん――ウルスとは別れた。

 

 ………さらば、初めてのモンゴル。また来ることはあるのか。もしあるのなら、次はのんびり観光でもしたいもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、やっと帰ってきたぜ、日本に。

 

 ……ああ、そこらから日本語が聞こえる。漢字も平仮名も片仮名もある。安心する。

 

 海外に行って何が怖いって言語が通じないことだよな。あとは文化や習慣の違いとか。

 

 空港から離れて駅に向かい歩きながら、

 

「とりあえずは………」

 

 するべきことは現状確認だな。

 

 まずはジャンヌと合流しよう。その次に材木座とだな。直接話したい。

 

 ………あー、しまった。携帯の充電切れてるじゃん。モバイルバッテリーもないし。どっかで充電できるとこ探さないと。

 

 その前に一旦部屋に戻るか。遠山は屋敷に泊まり掛けらしいし、今は多分いないだろう。

 

 そうと決まればさっさと帰ろう。弾薬も補給しときたい。荷物も邪魔だ。

 

 と、電車を乗り継いで久しぶりに我が部屋に帰ってきたが…………。

 

「………なんでこんなに壊れてるねん」

 

 床はところどころヒビがある。壁には弾痕が。リビングの家具をボロボロだし、食器は割れてる。

 

 そのわりには、新しい家具が置かれていて、新しい食器が隅っこに積まれている。

 

 どういう状況やねん、これ………。

 

 原因は神崎か?いや、神崎だけならこうならないはず。だってこの前神崎を泊めた時は何事もなかった。

 

 ちなみに幸いにも俺の部屋無事でした。

 

 

 

 

 

 

 

 




これを読んでるみんな、「大地に咲く旋律」を聞くんだ。あれは素晴らしいぞ



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君にできるなにか

 日本に帰ってきた翌日の夕方。

 

 久しぶりの武偵高の廊下を歩く。目指すは音楽室。

 

 ジャンヌはこの時間を指定してきたから帰ってすぐ寝た。起きたのは昼が過ぎてから。そのせいでスマホは20%しか充電してない。

 

 音楽室に近づくとピアノの演奏が聞こえる。音楽は疎いから曲名は知らないけど……上手だ。

 

 扉を開ける。そこには優雅にピアノを弾いている――ジャンヌの姿がある。

 

 俺が入ってきたのを確認すると武偵高のセーラー服姿のジャンヌは演奏を止める。その姿違和感ないな。

 

「ピアノ、上手だな」

 

「ありがとう。私の趣味みたいなものだ」

 

「へー……。ちなみにさっき弾いてたのって何て曲名なんだ?」

 

「『火刑台上のジャンヌ・ダルク』という曲だ」

 

 自慢気に語るジャンヌ。………なにそれ、自虐ネタ?

 

 ジャンヌは立つと、

 

「こうして直接会うのは久しぶりだな」

 

「あぁ。つっても、3ヶ月くらいか?」

 

「そのくらいだな。………それで八幡、聞きたいことがあるのだろ?」

 

 唐突に、纏っている雰囲気が変わる。

 

「そうだな。ブラドのことを。……ただ、その前にジャンヌ」

 

「何か?」

 

「いや……今までもそうだが、なんでそんな簡単にブラドの情報を教えようとしてくれるんだ?」

 

 ずっと疑問に感じてたこと。

 

「ブラドと我が一族は仇敵なのだ。勝手にいなくなってくれるのなら、それにこしたことはない」

 

 それと、と口加え、

 

「……私も理子には自由になってほしいからな」

 

 目を伏せて、悲しそうに言った。

 

「俺としてはありがたい。それはそれとして、情報を漏らしたらお前が危ないんじゃないか?」

 

「お前に心配されるほど私は弱くなぞ」

 

 知ってる。

 

「イ・ウーでは最弱なのだがな」

 

 ………マジかよ。本当に大丈夫か?

 

「今はこの話は置いておこう。………まず、ブラドは吸血鬼だ」

 

「らしいな」

 

「そして、あいつは死なない」

 

「…………」

 

「例えどんな攻撃をしても効かない。一瞬で回復する」

 

「魔臓だっけか?」

 

 そういう器官があるから回復できるとか。

 

「ふむ。そういえば、八幡がイ・ウーにいる間に話したことがあったな」

 

 一応は俺が超能力を教わっている間に聞いたことがある。

 

「4ヵ所を同時攻撃しないと死なないんだろ」

 

「その通りだ」

 

 それだけなら狙撃手を配置すれば良いだろう……とか思ったが厄介なことに、

 

「それで、魔臓の位置は分かったのか?」

 

 魔臓の位置が分かってない。いくら狙撃ができたとしても、的がはっきりしてないと意味がない。

 

 だから、今回の本題がこれだ。前回話を聞いたときは知らなかった。

 

「あれから色々と調べた。3ヶ所までは分かったぞ。魔臓には『目』の模様が描いてあるらしい。実際に私は見たことないが」

 

 なるほど。

 

「左右の肩と右のわき腹にある」

 

「あと1つは………」

 

「それは不明だ。どこかに隠してあるのか、もしくはその1つは目の模様がないのか、今のところ分からない」

 

 でも、シャーロックは知っている。だから、ブラドを従えることができた。

 

 ――――つまり、絶対に分かる位置にはある。

 

「情報はこんな所だな。それと八幡」

 

「……どうした?」

 

「最後に忠告だ」

 

 忠告、ね。

 

「絶対に独りで戦うなよ。最低でも3人、できれば神崎アリアをパーティーに入れろ」

 

「あいつが双剣双銃だからか?」

 

「あぁ。お前は銃を両手で扱えないだろう?」

 

「そうだな」

 

 左手で撃つ練習はしているが、両手では撃ったことない。そもそも1丁しか銃持ってない。

 

「忠告、了解した。確かにその通りだよな。4ヵ所同時攻撃しないといけない奴に独りは無謀、か」

 

 無謀だけど、そこは知恵を使えば………。まぁ、協力して倒す方がいいに決まっている。

 

「色々とありがとな」

 

「気にするな」

 

「礼はまたいつかする」

 

「……なら、私の趣味に付き合ってもらおうか」

 

「ピアノ弾けないぞ」

 

「それではなく、また別の趣味だ。男目線からも聞きたいのでな」

 

「よく分からんが、そういことなら」

 

「決まりだな」

 

 その時見せたジャンヌの笑顔は年相応に可愛らしいものだった。

 

 

 

 

 

 

 ちょっとばかし腹ごしらえをして、装備科の建物に入る。

 

 材木座に言われた場所までのーんびり歩く。……しっかし、いつも油臭いな、ここは。

 

 よく分からない機械とかは心踊るけど、得体の知れないものが多すぎる。お、あそこはけっこうな人たちが集まって何か制作しているな。何あれ?ロボット?

 

 などと、思っていると、目的地に着く。そこで材木座と平賀さんが何やら話し合っている。頃合い見て声かけるか。

 

 5分程、2人のよく分からない話に耳を傾けている。すると、材木座はようやくこっちに気づいた。

 

「おお!八幡、どうしたのだ?そんな所で」

 

「話落ち着くの待ってただけ」

 

「比企谷君、こんにちわなのだ!」

 

「平賀さん、どうも」

 

「今回は材木座君の依頼にお邪魔させてもらわせてありがとう!」

 

 元気良いな。

 

「こちらこそ。普通に助かる」

 

「むむっ、その言い方だと我に不満があるようだな」

 

「そんなことねーよ。………それで、どうだ?」

 

 尋ねると、材木座は何か持っている。俺に差し出してくるのは一見するとデリンジャーだ。

 

 しかし、実際は、

 

「おー……これが」

 

 材木座に依頼した1つ。小型のワイヤー銃。

 

「うむ。では、これの説明を行うぞ。まず、射程は最大15m。本体の位置にある安全装置のレバーを変えると2種類のモードを使える」

 

 8m先にある鉄棒に向けて材木座は発射する。直径1cmくらいのワイヤーが高速で打ち出される。

 

 そのワイヤーの先端には爪みたいなのがあり、クルクル回ってガチッと固定される。材木座がデリンジャーを引っ張ってもビクともしない。

 

「1回引き金を引くとこのように発射される。もう1度引くと……」

 

 まるで掃除機のコードみたいに巻き戻る。

 

「では、モードを変えてみる」

 

 また発射して、ワイヤーを同じく鉄棒に固定する。そのまま引き金を引くと、今度は材木座の体がけっこうな勢いで鉄棒に引き寄せられる。

 

「と、ワイヤーを回収する時、ワイヤーが元の場所に戻ってくるのと体ごと引き寄せられる2種類がある」

 

 なるほど。

 

「ワイヤーの強度はどのくらいだ?」

 

「ふふっ……」

 

 なんか、材木座、スゴいにやけている。隣にいる平賀さんも似たような表情だ。

 

「八幡よ、今回使用したこのワイヤー………何でできていると思う?」

 

 急な質問だな。

 

「制服とかに使われている防弾繊維か?」

 

「「スパイダー!!」」

 

 口を揃えて叫ぶ2人。

 

 スパイダー………蜘蛛?

 

「それなりに有名な話だがお主は知らないのか?」

 

「蜘蛛の糸を鉛筆並の太さに束ねるとジェット機をも止められるくらい強い糸になるのだ!」

 

 あー、少し聞いたことあるような。

 

 しかも、このワイヤー銃に使われているのは鉛筆より少し太い糸だな。

 

「そんな糸を………」

 

「理論上、400トン以上は余裕では耐えることができる」

 

 材木座は自信満々に語る。

 

「スゲーな」

 

「しかし、問題があってな。銃本体もかなり丈夫に造ったが、さすがにそこまでは耐えれない。ジェット機と綱引きはできんぞ。それに加えて、それほどの衝撃が加わればお主の握力も持たない」

 

 それもそうか。

 

「だから、例えば……空中でブランコ状態になったならば、すぐさまそこから離脱しないとキツいであろうな」

 

 そうなったら、烈風使ってどうにかするか。握力もこれ以上に鍛えないと。

 

 次に平賀さんが、

 

「比企谷君。ワイヤーの先端部分には鍵爪があるんだ。さっき材木座君がやったみたいに棒に巻き付ける他に、淵とかにも引っ掻けることができるのだ!あ、そうそう、射出された時はかなりの勢いがあるからガラス程度ならぶち抜けるよ」

 

 へー…………聞けば聞くほど性能良いな。

 

「それと、お主が頼んだ銃弾。20発――ファイブセブンのマガジン1つ分は完成したぞ」

 

「おお、ありがとう」

 

「絶対に人には使ってはダメだぞ。これは……ほんの少しカスっても人が簡単に死ぬ威力だ」

 

 真面目な雰囲気な材木座からマガジンを受け取る。

 

「心配すんな。人には使わないからよ武偵法は守る」

 

 この銃弾はブラド用だ。効果があるかは分からないけどな。

 

「もしこの銃弾が実用化すれば、新たな武偵弾として登録されても可笑しくないレベルなのだ!」

 

 不安そうな材木座とは対称に平賀さんは興奮した様子で言う。

 

「実用すれば、特許権は材木座だな」

 

 冗談混じりに返す。

 

「創るのに中々苦労したから私にも分け前欲しいのだ」

 

「ふっ!我が金持ちになったら考えてやろうではないか!!」

 

 仲良いね、君たち。

 

 その後、金を材木座に渡して、預けてたスタンバトンを教化してもらってたり、色々と武器を借りたり、買ったりしてから装備科から去った。

 

 金一気に減ったな。また任務受けないと。

 

 

 

 

 

 

 

 もう日が落ちかかっている頃。

 

 部屋に戻り、イ・ウーから貰ったコートに武器を動きが邪魔にならない程度に装備する。

 

 左の内ポケットに、マガジン×3。

 右の内ポケットには材木座から貰ったマガジンとその他色々。

 左袖に作ったポケットにはスタンバトン。

 ベルトの裏側にはナイフ。右にはファイブセブン。左にはワイヤー銃。他に材木座から借りた物も詰め込む。

 

 ………それと、ネックレスになっている璃璃色金を首にかける。

 

 これで充分かな。ジャンヌに屋敷の場所教えて貰ったし、もう終わった時間帯だろうな。様子でも見に行こうか。

 

 そう考えた俺は武藤に連絡して、バイクを借りた。VTRとかいうバイク。

 

 確かアギトが乗ってたバイクだよな。走行中に変身しようとした所で、氷川さんにスピード違反でキャンセルした場面は笑った。

 

 1年の時に武藤と遠山とバイクは私有地で散々乗ったからな。そりゃスゴい上手ってわけではないが、高速で走れるくらいには運転できる。免許は取ってないけど、武偵免許見せればどうとでもなる……はず。

 

 と、いうわけで、バイクに乗り、屋敷のある横浜まで向かう。

 

 しばらく走って横浜に入ったところで、携帯が震えたのでコンビニで一旦止まる。

 

「ジャンヌか。どうした?」

 

『理子たちがブラドと接触した』

 

 …………は?

 

「どこでだ!!」

 

 つーか、いたんかい!

 

『横浜ランドマークタワーの屋上だ』

 

「すぐに行く!」

 

 ………あれ?なんでジャンヌは位置が分かったんだろう?今はいいか。

 

  

 

 スピード違反なんか知らずにバイクを走らせて横浜ランドマークタワーに着いた。

 

 勝手に入ってエレベーターに駆け込み、屋上を目指す。

 

 最上階に着いたエレベーターから降りて、走って、屋上の扉を開けようとした瞬間――

 

 

 

 

 ビャアアアアアアウヴァイイイイイイイイイイイ――――――――ッ!!!!!

 

 

 

 

 俺の耳に入ったそれは………恐らくナニカの咆哮か。

 

 まだ扉を完全に開けきってないこの場所ですら圧される。

 

「くっ!」

 

 思わず扉を閉めてしまう。それでも、衝撃がここまで届く。

 

 ティガレが実際にいたら、こんな感覚なんだろうか、みたいな場違いなことを思う。

 

 とりあえず、どうなっているか確認しないと!………理子、無事でいてくれ!!

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 ――――――――

 

 ――――

 

 

 

 

 

 

 ――――や、ヤバい!ヒステリア・モードが解かれた!?

 

 ブラドの咆哮がキンジ、アリア、理子を襲う。

 

 その破格な咆哮の大きさにキンジのHSS――ヒステリア・モードは萎えてしまった。

 

 つまり、キンジは今この瞬間、アリアを含む超人ではなく、ごくごく普通の人間に戻ってしまった。

 

 ――――ど、どうすればいい!?俺は何をすれば………?

 

 ヒステリア・モードなら判断つく状況だが、無理矢理元に戻ってしまったという普段は経験したことのない関係上、焦りに焦りまくる。

 

 その間にも、ブラドは屋上にある電灯の着いてある鉄の柱をもぎ取り、キンジに止めを指そうとする。

 

「キンジ、危ない!!」

 

 アリアが呼び掛けるも、咄嗟のことで反応ができないキンジ。

 

「えっ」

 

 ブラドが柱を振りかぶった時に、

 

「うん?」

 

 低い声で唸る。

 

 キンジやブラドが下を向くと、コロコロ………と、黒い何かが転がっている。

 

 それが何かを瞬時に判断したのは強襲科に所属していたキンジと現強襲科のアリア。遅れて理子。

 

 この3人は一気に目を伏せる。

 

 そして、

 

 ピカァァァ――――!!

 

 と、辺り一面が輝き、白く染まる。

 

 武偵弾である閃光弾よりも単純な光は強く、武偵弾には劣るがコンパクトな手榴弾型の閃光弾。

 

 ブラドはその光を直接見てしまう。

 

 ブラドは暗い場所に慣れている。そして、今、辺りは暗かった。そこに入る突然の光。

 

 柱を落とし、手で目を押さえながら後退する。

 

 これを投げた人は誰なのか確認しようと見渡すキンジ達の耳に……カツン、カツン、と足音が聞こえる。発生源を見る。

 

 そこには――――

 

 

 

 

 

「ここかぁ………祭の場所はぁ………?」

 

 

 

 

 

 

「ひ、比企谷?」

 

「えっ、八幡!?あんた何でここにいるのよ!!」

 

「ハチハチ………よりにもよって、なーんでその台詞を選んだの?」

 

 いるとは思わなかった男がいた。八幡は3人に近づく。

 

「神崎の質問に答えると、ちょっとした依頼でやって来た」

 

「……ありがとね」

 

 その言葉の意味を察した理子は嬉しそうに微笑む。

 

「おう」

 

「で、ハチハチは浅倉好きなの?」

 

「どっちかって言うと手塚派だな」

 

「ならなんでその台詞を?」

 

「気分」

 

 するとアリアが、

 

「あんた達何の話をしてるのよ?」

 

「仮面ライダー」

 

 八幡が呟く。アリアはよく分からない様子だ。

 

「ねぇ、ハチハチ。知らなさそうだし、アリアに龍騎勧めてみようか?」

 

「あれが初っぱなはキツいだろ……」

 

「じゃあ、電王?」

 

「ストーリーが初見では難しいわ」

 

「あー……確かに私でもハナさん関連で理解するのに大分時間かかったよー。だったら、話自体は分かりやすいし、面白いしオーズにしようか?」

 

「オーズは名作だけど……主人公の闇が深い。見るなら、2番目くらいに勧めたいな」

 

「アマゾンズ!」

 

「それ初見に勧めるのは一番アカン奴!!………いや、めっちゃ面白かったけど。つーか、脚本が小林靖子さんばっかじゃねーか」

 

「あ、分かった?」

 

「そりゃ分かるわ」

 

「そ、それより、比企谷。お前こいつのこと知ってるのか?」

 

 と、話している内に、キンジが話しかける。そこで八幡は今のキンジがヒステリア・モードではないことに気づく。

 

 とりあえず八幡が答えようとした時、

 

「………ッ!」

 

「うっ!!」

 

 八幡が息を呑み、キンジは呻き声を上げる。

 

 視界がある程度回復したブラドが八幡とキンジを狙い、腕を振り下ろし、叩きつけようとしていた。

 

 すぐさま八幡はキンジの腹を蹴って水泳のターンみたいにその場から回避する。キンジは蹴られて吹っ飛び、近くにいたアリアにぶつかる。

 

「ふみゃ!」

 

 ぶつかった衝撃でアリアの可愛らしい声が響く。

 

 ――――ドスンッッ!!

 

 激しい音がする。その衝撃で床はひび割れていた。

 

 キンジを蹴って転がった八幡は立ち上がり、ブラドに向き直る。

 

「そこのガキ……お前は誰だ?」

 

「俺の中のっ………ゴメン何でもない。それと別に教える義理はないと思うけど……なぁ、ブラドさんよ」

 

 その言葉にニヤッと笑うブラド。

 

「ほぅ……俺の名前を知ってるのかぁ」

 

「少しだけイ・ウーにいたことあるからな」

 

「「えっ!!」」

 

 予想外の一言にキンジとアリアが驚く。

 

 その間に八幡はブラドを観察する。

 

 ――――あった、白い紋様。……これが魔臓か。

 

 左右の肩、右のわき腹に目の形をした模様がブラドにある。それらを同時に攻撃すれば倒せるらしい。

 

 しかし、

 

 ――――これじゃ、もう1つが分からないな。

 

 ジャンヌの言う通り体にある魔臓は3つしかない。残り1つは見つからない。

 

「なぁ、神崎、理子」

 

 ブラドはまだ完全には視界が回復してないから深追いはしてこない。ブラドから距離を取りながら、八幡は呼び掛ける。

 

「どしたの?」

 

「八幡、あんたねぇ……!」

 

 顔を赤く染めたアリアが文句を言おうとする。

 

「いやー、まさか蹴った先に神崎がいるとは思わなかったから」

 

 棒読みも棒読み。実を言うと、狙えたらいいなくらいの気持ちでキンジを蹴った。

 

 そこで八幡はチラッとキンジの方を見てみる。そこにはさっきと雰囲気がまるで違うキンジが立っていた。

 

 八幡がキンジを蹴った時にアリアとぶつかった拍子にヒステリア・モードになったみたいだ。何があっかは……神のみぞ知る。

 

「比企谷、狙ったのか?」

 

 ヒステリア・モードの発動条件を知っている八幡に小声で尋ねる。

 

「だから、偶然だってば」

 

「で、何の用よ」

 

 アリアに急かされる。

 

「ちょっと遠山と話したいから時間稼いでくれない?」

 

「そんなこと?別に構わないわよ」

 

 アリアは大胆不敵に、

 

「ホームズと手を組むのは癪だけどね」

 

 理子は不敵に笑う。

 

「お前ら残弾は?」

 

「ないわ」

 

「同じくないよ」

 

「俺はそこそこ残っている」

 

 しかし、アリアと理子は互いにマバタキ信号で理子は「1」、アリアは「1」「1」と送る。ブラドに知られないためにわざわざマバタキ信号で答えた。

 

 アリアは両方の銃に、理子はどこかに1発ずつ持っている。ブラドに止めを指すための弾。八幡はそれを理解する。

 

「しばらくこれを使え」

 

 ベレッタM92を2丁をアリアと理子に手渡す。

 

「マガジンは1つだけ。あ、これ装備科の材木座に借りたから……そうだな、()()にでも返しといてくれ」

 

「………明日、か」

 

 理子が感慨深そうに呟く。

 

「これ貸すわ」

 

 その様子を満足げに見たアリアは自分の刀を1本理子に投げる。

 

 それを受け取った理子は、

 

「ねぇ、みんな。………私の名前を呼んで」

 

 ゆっくりと、か細い声で呟く。

 

「はぁ?理子、あんた、とうとう頭おかしくなったの?」

 

 と、アリア。

 

「理子は理子。それはこれからも絶対に変わらないよ」

 

 と、キンジ。

 

「それよりも理子よ、残りのアニメ早く見せてくれない?」

 

 と、八幡。

 

 全員、何気ない口調で『理子』と呼んだ。 

 

「そうだ。私は……峰理子だ!!」

 

 吹っ切れた様子で叫ぶ。

 

「やるぞ、アリア」

 

「足引っ張らないでよ、理子」

 

 そして、かつて宿敵同士だったホームズとリュパンが背中合わせで立っている姿がそこにある。

 

「頼んだ」

 

 それだけ言い残して、八幡とキンジは下がる。

 

 

 まず八幡が、

 

「ブラドの情報を共有したい」

 

「比企谷、それはいいが、後でお前がイ・ウーにいたってこと教えろよ」

 

「構わない。つっても、言えること少ないけどな。で、ブラドに魔臓って組織が4つあってそこを同時に攻撃しないといけない。俺が知ってるのはそこまでだ」

 

「俺も似たようなものだ。もしかしてジャンヌから聞いたのか?」

 

「まぁな。魔臓3つは分かるんだが、残り1つってどこにあるか分かるか?」

 

 八幡の質問にキンジは、

 

「予想は付くが、確証がない」

 

「………それはどこだ?」

 

「舌だ」

 

「舌?」

 

「口に攻撃したら、不自然に庇う動作が多かったから……恐らくだが舌か他の口の組織のどこかだろう」

 

「なるほどな」

 

 筋は通っている、と考える。

 

「でも、間違っていたらアウトだな。警戒されて狙うのが難しくなる」

 

「だから、確証が欲しい」

 

 フー………、と深呼吸する八幡。

 

「それなら、俺の役目だな。顔付近を攻撃してみるから、分かったら、1発適当に撃ってくれ。そしたら、頃合い見てここから飛び降りるから。それを合図にお前らが仕留めてくれ」

 

 キンジはその一言に目を丸くする。

 

「飛び降りるって……死ぬ気か?」

 

「そのくらいなら大丈夫」

 

 ケロッと答える八幡に、その言葉に嘘はないだろうとキンジは判断する。

 

「よし、それでやってみよう」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 さてと、ブラドに攻撃するとは言ったはいいが、どうしようか。

 

 ブラドに近づいてみたはいいが、神崎と理子がいい感じにヒット&アウェイで攻撃している。

 

 入る隙間がねぇ………。

 

 遠山は……後ろでタイミングを窺っているか。

 

 とりあえず攻撃手段は決めた。上手く成功するかはさておき。何とか隙を………。

 

 お?どっちもどうやら俺が渡したベレッタの弾が切れたみたいだ。

 

「下がれ!」

 

 それを機に、俺が叫ぶと、2人は散らばる。

 

 そこで、俺はコートから手榴弾を取り出す。閃光弾とかじゃなくて、ただの爆弾だ。授業の演習では使ったことあるけど、実戦は初めてだ。

 

 ピンを抜いて、すぐにブラドの顔を狙って投げる。神崎が後退しながらも上手く気を引いてくれてたから、すんなり当たった。

 

 ドゴォォン!!

 

 見事にタイミング良く爆発し、ブラドはその衝撃からか後ずさる。

 

 ………あ、HSSの遠山でもこの暗さとこの爆風だったら、舌に魔臓があるか確認するの難しいな。

 

 そう思ってたら、

 

 ――パァン!!

 

 遠山がブラドの目に発砲する。

 

 確認できたのか。ということは、遠山の予想通り舌に残りの魔臓があったってことになる。

 

 次は……どのタイミングで飛び降りようか。できれば、ブラドの意表を突くタイミングがいい。

 

「ガキが……死ね!!」

 

 ――って、ヤバッ!!

 

「うっ」

 

 一瞬でこっちの方に来たブラドの裏拳をモロに喰らってしまう。

 

 咄嗟に裏拳と同じ方向に跳躍はしたが、威力と勢いは殺しきれず吹っ飛ぶ。それはもうメッチャ吹っ飛ぶ。

 

 そして、当然着地できずにビルの屋上から落ちてしまう。

 

 

 ………わぉ。

 

 

 景色が遠ざかる。でも、思考はクリアだ。

 

 ランドマークタワーとの距離は大体5、6mか。

 

 いやー、烈風使えてよかった。使えなかったら、確実に死んでたわ。

 

 下から風を起こした烈風で落下を少しでも和らげ、ワイヤー銃をランドマークタワーの壁――ガラスに向けて発射する。

 

 落下しながら+初めてで狙うのは難しかったが、何とかガラスを破って突き刺さり、ワイヤーの先はどこかの淵に引っ掛かる。

 

 おお、ちゃんと固定されている。

 

「ちょ、うおっ!」

 

 安心したのも束の間、固定した部分を支点にターザンみたいな感じでビルに一気に近づく。

 

 このままじゃ結構な勢いでぶつかる。が、そこまで固くないガラスのお陰か、その勢いを乗せたターザンキックでパリィィンとガラスは割れた。

 

 割った瞬間に、引き金を引き、固定したワイヤーを解除する。俺はそのまま転がる。

 

「いって………」

 

 そういや、落ちてる最中に雷鳴が聞こえたせいで銃声は聞こえなかった。けど、どうせあいつらならどうにかしているだろ。

 

 

 

 ブラドの攻撃のダメージも残ってたし、しばらくボーッとしている。

 

 そしたら、遠山からメールがきた。

 

『ブラドは倒せたからなー。先に帰っておく』

 

 へー………流石。つーか、軽っ。

 

 どんな感じで倒れてるんだろう。あとでブラドの様子を見に行くか。

 

『了解。俺はのんびり帰るわ』

   

 それだけ返す。と、ここで充電が切れる。ジャンヌとも電話したかな。仕方ない。

 

 あ、この割れたガラスどうしよう。ワイヤー引っ掻けた上階の分と、今ここのフロアの分と………うん、知らない!ここの関係者には悪いけど。

 

 

 

 それから5分経ち、エレベーターに乗り直し、最上階に着く。

 

 屋上の扉を開く。

 

 念のため足音を立てずに気配を消しながらブラドを探してみる。

 

「お」

 

 すぐに見つかった。

 

 うわっ、鉄柱の下敷きになってるよ。いたそー……って………は?

 

「…………え?」

 

 思わず声が漏れる。

 

 ちょっと待て。何か……違和感がする。

 

 あいつ、動いてないか?手に何か持ってる。あれはもしかして……注射器?

 

 それをブラド自身に射した。

 

 すると、何やら赤い煙をたてて、

 

 

 

 

 

 

「くっそが……」

 

 ブラドが軽々しく鉄柱退かして立ち上がった。

 

 

 

 

 

 …………マジかよ。

 

「あ?さっき吹っ飛ばしたガキか」

 

 ブラドが動いた時に隠れようとしたけど、遅くて見つかった。

 

「………お前、今、何をした?」

 

 どうにか平静を保つためにゆっくりと俺は目の前に立つ。 

 

「特性の薬打ったんだよ。体のあらゆる細胞を一時的に増幅させて活性化させるやつをな。そこから無理矢理魔臓を回復させたってわけ。ま、試作品だから1個しかないけどよ」

 

 うっわ、マジだ。魔臓戻ってるよ。

 

「ああ!思い出しただけでもイライラしてくる!!4世ごときがっ!所詮は繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)のくせに!!」

 

 …………これは聞き逃せないぞ。

 

 

 

「訂正しろ。理子を4世と呼ぶな」

 

 

 

 自分でも驚くくらい低い声が出る。殺気が溢れる。

 

「バカか。あんな出来損ない、名前で呼ぶ価値ねーよ」

 

「うるせぇ………自分の価値は自分で決めるもんなんだよ。それでこそ意味がある」

 

 ………頭に血が昇る。ここまでキレたことはないな。

 

 ダメだ、冷静になれ。まずは遠山に連絡を。あ、電源切れてるじゃん。

 

「まずはガキ、お前を殺す。その後にでも4世を檻に戻すとするか。ハハッ、4世の未来は俺のモノだからよ……逃げれるわけないよなぁ」

 

 イチイチ、本当に癪に触る野郎だな。

 

「もし理子の未来がお前のモノなら、俺が奪い返してやる。………そう簡単に奪えると思うな」

 

「できるのかぁ?たかが人間が」

 

 ブラドは俺の言葉なんか意に介してないような口調だ。

 

 でも、俺は武偵だ。そして、武偵には武偵憲章とかいう物がある。その中から今回は2つ、当てはまる。

 

 

 武偵憲章2条:依頼人との約束は絶対に守れ。

 

 武偵憲章8条:任務は、その裏の裏まで完遂すべし。

 

 理子の依頼はブラドが現れた時には絶対に駆けつける、だった。 

 

 だから、俺はここに来た。ブラドを倒さないのは理子と一緒にいた遠山たちだ。

 

 だが、こいつは復活しやがった。これが武偵憲章の『裏』ってところか。

 

 俺は来ただけで何もしてない。

 

 だったら、約束は守らないといけないな。今度は俺の番だ。

 

 もう理子の前にこの姿を見せてはいけない。理子がこれから心の底から笑って、生活できるように。

 

 ――――ここで、ブラドを倒す………いや、殺す。

 

 

 

「任務を開始する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この展開、書き始めてからずっと書きたかったんですよ。色々思うことあるかもしれませんが、許してくださいm(__)m




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You are not alone.

遅れてすいません!
私生活が忙しかったのと、なかなか文章を書けずに、書いては消して、書いては消しての繰り返しでかなり時間がかかりました。

色々とガバガバですが、どうかご勘弁を………




 唐突だが、俺は今まで生きてきた中で――死というモノを感じたことは一切なかった。

 

 中学までイジメとかはあったが、さすがにアレは自殺するほどのモノではなかった。

 

 そして、俺は武偵高に入学した。

 

 武偵になっての初めての事件。お台場で立て籠りがあった時、初めて人に向けて銃を撃った。…………スゴい怖かった。が、あそこで俺が死ぬとはこれっぽっちも思っていなかった。  

 

 蘭豹と模擬戦をした日。あれはもうマジでメチャクチャ痛かったが、あれくらいでは死なない。蘭豹もかーなーり、手加減してくれてたし。

 

 夏休み前、小町が傷つけられたと思って理性が外れたあの事件。あの時は遠山曰くけっこう危なかったらしいが、まぁ別にレキもいたから大丈夫だっただろう。いや、他人任せか。

 

 留美と一緒に解決した事件でも、あれくらいは俺1人でも何とかなったと思う。もちろん、留美がいたことでかなり動きやすかったのは事実だ。あいつ今何してるかねぇ……。また連絡するか。

 

 イ・ウーに連れ去られた時も、あれは理子が無理矢理拐ったお陰か、シャーロックも命は保証すると言ってくれた。だから、死にはしないだろうとか適当に考えていた。

 

 春休みの事件。あの結末が良かったのかはさておき、あの程度では俺は死なない。何せ、あいつら銃の扱いはド素人だったからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――だが、

 

 

 

 

 

 

 

 俺は今現在、あまりにも身近に――死を感じている。  

 

 武偵として本来は想像してはいけないことだが、無理矢理にでも想像させられるほどの圧力。ブラドからそれが恐ろしいくらい伝わってくる。

 

 汗が溢れる。

 

 鳥肌がたつ。

 

 息が荒くなる。

 

 今まで全く感じたことのない、普通に生きてたら感じることのない、圧倒的な……純粋な恐怖。

 

 怖い。恐い。嫌だ。できるならここから逃げ出したい。

 

 それでも、ここにいる以上言い訳はできないし、してはならない。

 

 俺が殺らなきゃいけないから。

 

 ………初めての俺の友の、俺への依頼だから。俺ができる最善を選択するために神経を尖らせ、集中する。

 

 幸いにも、ブラドの動きは読みやすい部類に入ると思う。防御は魔臓に任せて、戦ってきたからだろう。予備動作は分かりやすい。加えて体術はぶっちゃけ間宮にも劣る。

 

 しかし、それを余裕で補えるくらいパワーとスピードがブラドにはある。単純なスピードなら蘭豹よりも速い。多分パワーも上だろう。

 

 それだけならマシだが、魔臓の無限回復もある。チートクラスだな。纏めると、

 

 

 ――――正真正銘の化け物。

 

 

 ってことだ。

 

 遠山たちと合流した時の1回目の攻撃は閃光弾のお陰で鈍ってたからかギリギリ反応できた。でも、2回目はできなかった。あまりにも速かった。攻撃が当たった瞬間に飛んでも威力と勢いは殺しきれなかった。

 

 反応が遅れたら、一瞬でも気が抜けたら、俺は…………。

 

 この考えは止めよう。とりあえず、状況の再確認。

 

 ここは屋上だ。けっこう広い。普通にしてたら落ちないだろうが、さっき俺は殴られて落ちた。

 

 で、これから起こりうる最悪の状況は俺がすぐに殺されること。

 

 そうなったら、いざという時、理子が逃げる時間が無くなる。せめてそれは避けたい。

 

 俺の希望は遠山と神崎がここに戻ってくることだが……こういう期待は動きを鈍らせる。だから、もうそんな甘いことは考えない。  

  

「……あ」

 

 そういや、思いっきりジャンヌの忠告を無視してるな、俺。………悪い。

 

 

  

 

 

 

「なぁガキ、お前は楽しませてくれるのか?」

 

 復活したブラドはつまらなさそうに欠伸をしながら俺を見下してくる。

 

「………知るか」  

 

「そうかい。ま、期待はしてないがな。まずは俺から行くぜ」

 

 そう言い終えると、ブラドの重心が前に傾いているのが分かる。

 

 これは……突っ込んで来るな。

 

 どう動くか予測してその場で踏み切り、できるだけ前に高く跳躍する。風のクッション――飛翔も使ってさらにもっと跳ぶ。

 

 同時にブラドの太い拳が地面に突き刺さる。ブラドは俺ごと潰すように地面を殴ったみたいだ。

 

 ブラドの右腕に着地すると、そのまま斜めの状態の腕の上を駆ける。肩まで登り腰の後ろからナイフを取り出し、ブラドの右目を思いっきり刺す。

 

 …………どうだ?

 

 常に刺している状態だと回復できないだろ。片目の視力だけでも奪うぞ。

 

「……うっ!」

 

 そう思っていたら、刺した状態の俺を簡単につまみ上げ、思いっきり投げられた。

 

「がっ……!」

 

 運が良いのか悪いのか、ぶん投げられた俺は屋上の入り口の壁に激突する。

 

 烈風を使って勢いを軽減した上での受け身はできた。けど、当然のように全部を軽減はできずにダメージは残る。

 

 俺は倒れそうな体を持ち上げ、壁に寄りかかりながら立っている。

 

 壁とぶつかった背中が痛い。受け身した時の両手も痛い。手足が痺れる。イ・ウーから貰った衝撃吸収の性能が高いコートでこのダメージか。

 

「………」

 

 加えて口の中から血の味がする。吐き出そ。

 

 ん? さっき刺したナイフが手もとにない。えっ……ちょっ…………どこだ?

 

「おい、マジか」

 

 見渡したら、ブラドがナイフを目から抜き、ポキッと指2本で折っていた。赤い煙をたてて目は一瞬で修復される。

 

 ………何だよ、そのバカみたいな力。

 

「チッ」

 

 これで武器が1つ無くなったか。

 

 次は何を試すべきなのか考える。

 

 これは当然として警戒しているように口を堅くガードしている。そう簡単には当たらないな。

 

 とりあえずファイブセブンを右手に持ち、セミオートに設定する。

 

 独りでどれだけ魔臓に弾撃てるか………。

 

 ――――さぁ、実験を始めよか。

 

 いや、理系科目ダメダメですけどね?アホの武偵高で平均がやっとのレベルですから。理系さえなかったら星伽さんに勝てるのに。現実は厳しい。

 

 

 ………その話は置いておき、ここで疑問が浮かぶ。ブラドの奴、俺がフラフラなのにすぐに追撃してこない。

 

 何故だと思い、考えてみた。かなりあやふやだが、1つ案が浮かんだ。

 

 ブラドの奴、多分だが単純にさっき刺した目の傷は一瞬で回復しても、視力はすぐに戻らなかった……みたいな感じだろう。

 

 やはりそこは無限回復を持つ化け物でも人間と変わらないか。何にせよ助かった。

 

 そうと決まったらジッとはしてられない。俺だって万全じゃないが、こっちから仕掛けないと。 

 

 

 ――――パァン! パァン! パァン! パァン!

 

 

 すぐに魔臓がある4ヵ所を狙って撃つ。………けどまぁ、無理だわな。これで殺せたら苦労しねーわ。

 

 右わき腹→右肩→左肩→口の順番で撃ったが、左肩を撃った時点でもう右わき腹は赤い煙をたてて回復してた。

 

 撃ってから2秒も経ってないんだけど。で、口というより舌はきっちり腕で守られた。………魔臓の回復力は伊達じゃないな。

 

 マジでサモンライド並のクソゲーだな。シャーロックはどうやって抑えてたんだよ。

 

 とりあえずは口を狙える機会をどうにかして作らないと。

 

 だが、その方法は?舌の魔臓さえ残しておけば、いくら他の3つがやられても回復できるからそこは堅くガードを張っている。

 

 閃光弾はない。あれ意外に高いんだよ。手榴弾は1つ残っている。

 

「………っと」

 

 そうこうしている内に、ブラドがまた突撃してくる。それに対し、俺は銃で積極的に目を撃って牽制する。一応距離はそれなりに取っている。

 

 あれ、案外目は当たる。それなら都合がいい。

 

 牽制を続けながら考える。

 

 シャーロックはイ・ウーにいる奴らの能力全てを使える。だったらそれを使ってブラドを抑えてたはず。……どれを使ってだ?

 

 と言うが、俺はそこまでイ・ウーの面子を知っているわけではない。俺が使える能力はセーラから教わった風だけだが、どう考えても風じゃ無理がある。俺はそもそも補助的役割で使っているわけだし。

 

 もしくはシャーロック自身の技術で抑えたとも考えられる。いくらでも案は出る。答えが分からない以上もうこの考えは打ち切ろう。

 

 

 

 距離が開けたところで、またブラドがこっちに向かって突進してくる。

 

 応戦しないと。また目を撃つか。……って、あれ? 引き金が引けない? 

 

「………あ、ヤバ」

 

 無駄に悶々と考えていたせいで、弾切れに気付くのが遅れた。

 

 時既に遅し。

 

 

 ――――バキッ!!

 

 

 と、何かが砕けた音がする。

 

「うっ……!」

 

 弾切れのせいで反応が遅れた俺を見逃すわけがなく、ブラドの裏拳を腹にモロに喰らう。蘭豹に投げられた時より遥かに吹っ飛ぶ。人間ってこんなに浮くものか。

 

 ――――って、ヤバいヤバい! 落ちる!!

 

「くっそ! ……烈風!」

 

 烈風を最大限使ってビルから落ちないように転がりながら体勢を整える。転げた先、ビルの淵にぶつかって止まる。

 

「いって!」

 

 殴られた時のあまりの痛みに腹を抑える。口内の出血も激しい。

 

 このわりかし高性能のコートでも衝撃をまたもや吸収しきれなかったか。

 

 この痛み……もしかして肋骨にヒビ入ってるかも。

 

 ヤベーな。ここまでダメージを喰らったのは初めてだ。普段からこれほどの痛みには慣れてないから、スゲーキツい。

 

 あー……もういいや。ここは仕方ない。強襲科で使ったら先生や生徒に笑われるが、そんなの言ってる場合じゃない。死ぬ選択肢はナシだ。鎮痛剤を使う。

 

 そのための隙を………これだな。

 

 ブラドがこっちを向いた瞬間に残り1つの手榴弾を投げる。

 

 ドゴォォン!!! と、何とか上手く投げれて、今度はブラドの顔手前で爆発する。

 

 煙で見えないうちに鎮痛剤のラッツォを心臓近くに思いきって刺す。

 

 

 ――ドクンッ! ドクンッ!

 

「ハァ……ハァ………」

 

 すると、経験したことのない刺激が体中に走る。そういや、これって興奮剤でもあったな。確かにそんな感じはする。

 

 お陰で、多少なりと痛みは和らいだ。ま、骨は多分ヒビ入ってるままですけどね。でも、これでまだ動ける。この流れでリロードも済ませよう。

 

 口内、両腕、体からの出血は激しいが、それはどうしようもない。我慢するしかない。

 

 追撃が来なかったことに安堵しながら、リロードを終えて、また距離を取る。

 

 助かったが、さっきは視力が完全に回復していなかったからっぽいが、今回は何故追撃をしてこないのか疑問に思い、ブラドを見ると、

 

「…………うっわぁ」

 

 馬鹿にするようにニヤニヤと笑っている。めっちゃ嘗められてるな。

 

「どうしたぁ? カッコつけて息巻いてたクセにこの程度か?」

 

 と、言っている間にも1発口に向けて撃つが、腕でガードされた。

 

「おいコラ、いちいち俺を見下すな」

 

 ゆっくり、ゆっくりブラドに近づくように歩く。

 

「それは無理な話だな」

 

「だったら………お前を見下してやるよ」

 

「ハハッ。それこそ無理だろ」

 

「どうだか。さっきは理子たちにボコボコにされたのにか?」

 

 嘲笑する俺。

 

 恐らく触れられたくない部分を煽った瞬間、

 

「………あ゛?」

 

「―――ッ!」

 

 ブラドの表情が怒りに変わる。とてつもないプレッシャーが押し寄せてくる。

 

 が、狙い通り怒らせた。

 

 同時にブラドと接近していた俺は真上にファイブセブンを投げる。

 

 急な出来事だったからか、それに釣られてブラドの視線は俺から逸れる。

 

 そして、完全に気配を――殺気を消す。

 

 一気に距離をゼロに縮め、

 

「羅刹」

 

 烈風で勢いを乗せ、人体で言うと心臓のある中央、中心にかけて掌底放つ。

 

 本来この技は人間に使うと、震動によって、心臓震盪という致死的不整脈を意図的に起こす技だ。つまり、心臓を無理矢理停止させる。 

  

「チッ」

 

 しかし、不発だ。

 

 ブラドの野郎、すぐに動きやがった。とりあえず落ちてきたファイブセブンをキャッチして股の下を潜ってブラドから離れる。

 

 やはり人間とは体の構造が違うか。一瞬だけは動きが止まったっぽかったけど………上手くはいかない。

 

「………あ?」

 

 何だ、あれ?ブラドが空気を吸って仰け反ってる。肺が膨らんでるのか?

 

 これ……もしかして!

 

 咄嗟にファイブセブンをホルスターに戻し、耳を塞ぐ。

 

 またあのここに入る前に体感したあの咆哮が鳴り響くかと思えば、そうはならずに俺は――――

 

 

 

 

 

 

 

 倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 ブラドが遥か遠くに見える。 

 

 

 ………………何が、起こった?

 

 

 これは後で知ったことだが、ブラドは咆哮をした振りをして俺が耳を塞いだ隙にぶん殴ったらしい。

 

 その時の俺は、右足が折れていて、全身から血が溢れ流れていたそうだ。

 

 しかし、これほどの怪我を負っていても、意識は別の所にあった。

 

 

 ――――まだ、不思議と少しは動ける。

 

 

 アドレナリンが放出されているのか、そこまで痛みは感じない。ラッツォのお陰もあるかもしれないな。

 

「っと……」

 

 ギリギリ手は動く。とはいえ、足は折れてるから立てないわけだが俺の倒れている場所はまたあの扉の壁のとこ。そこに寄りかかる。

 

「ハッ! あんだけ大口叩いて……無様だな」

 

 血まみれで、ボロボロな俺を見て、そう告げるブラド。もう既に勝ちを確信したような喋り口調。

 

 ブラドにバレないよう背中で隠しながらマガジンを入れ換える。

 

「遠山のガキもそうだがお前もバカだよな。4世の為に命懸けるなんてよ」

 

「4世と呼ぶなと言ったぞ。それに、俺とお前では理子の命の価値は違う」

 

 間髪入れずに答える。

 

「あいつなんか優秀なリュパンの血を継げなかった失敗作。そこに価値なんてないぞ」

 

 そうだ、もっと話せ。油断してくれ。

 

「血で全て決まったら、世の中の奴ら何もできないだろ」

 

 もう少しで終わる。

 

「そりゃそうさ。あんな雑魚共生きてるだけ無駄さ」

 

 ………よし、交換できた。

 

「本当にそうか? あのシャーロックだって、別に親や親族の血が特別優秀だったわけでもないのにな。シャーロックに勝てない、理子たちにも勝てない……負け犬よ」

 

 そう言い切った瞬間、ブラドが口を開く。怒声を浴びせようとしたのだろう。

 

 

 

 ――――パァン!!! パァン!!!

 

 

 

 それに合わせ、舌に描いてある魔臓の紋様をある弾で撃つ。

 

 その弾が魔臓を抉ったと同時に、

 

 

 ――――パン!!

 

 

 と、銃声に似ているくぐもった音がする。その音が数回鳴り響く。すると、舌にある魔臓が、跡形もなく吹っ飛ぶ。

 

 受けた傷の回復は……まだしていない。

 

「な、何が、何が起こった!!?!?!か、回復しねぇ!!!」

 

 ブラドは慌てている。これはまるで、断末魔。つーか、舌ないのに器用に喋るな。

 

 俺は残りの魔臓に数発ずつ撃つ。マガジンにある弾は使いきった。

 

 またくぐもった音がし、ブラドの動きは停止する。

 

 …………どうやら成功、か。明らかに魔臓の回復が遅れていた。

 

 

 俺が使った弾はある特撮で出てきた『神経断裂弾』という代物。それをちょーっと強力にしたモノを材木座と平賀さんが再現した。材木座曰く、神経断裂弾+武偵弾の炸裂弾を合わせたみたいな弾。

 

 これは標的に命中すると体内に留まり、装填された火薬が連鎖的に炸裂し、神経組織を破壊する。

 

 魔臓と言えども『臓』の漢字があるからには他の組織へと繋ぐ神経がある。そこに何かしらのロジックで体を治しているのだろう。

 

 つまり、回復するには必ず遅れが生じる。実際見て感じたが、銃弾程度の小さな穴なら、傷と神経が繋がっているからすぐに治る。でも、回復するための神経さえ破壊すれば、その根元を絶ちきれば、その遅れは大きくなる。

 

 ………というのが、俺の仮説だ。

 

 無限回復を持つ魔臓も万能ではない。加えて、ブラドは人間の技術を、進化を侮った。

 

 何でもない。ただ、それだけの話。

 

 もし、最初にこれを舌以外の場所に撃っていたとしても、途中で気づかれて口をガードされたら、確実に詰んでいた。最後の切り札を浪費するだけだった。

 

 

 そして、ドスンッッ!! と、とうとうブラドの巨体は膝をつき倒れる。

 

 それでも、まだ死んでない。魔臓を撃ち抜かれて弱体化し、吸血鬼としての弱点諸々が復活した。

 

 ………今なら殺せる。

 

 地に伏せ、俺を見上げながらブラドは喚く。

 

「俺が、俺の魔臓が!何故、こんなガキに!お前は何なんだ!?」

 

「ただの………人間だ」

 

 満身創痍の俺は、それだけ答える。

 

 止めを指すために通常弾に入れ換える。壁に寄りかかりながら左足を軸に立ち上がり、頭を狙い、撃つ。

 

 

 

 

 

 

 ――――パァン!! 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 今まで何回も聞いてきたその銃声が、やけに鮮明に聞こえた。 

 

 その後、数発撃ち込む。ブラドは…………死んだのか?分からん。

 

「うおっ………」

 

 あー、ヤベぇ。足下ふらつく。頭クラクラする。ダメだ、血流しすぎた。 

 

 ここからどうするか。これっぽっちも考えてねぇ。スマホは電源切れてるし、身動き取れない。そもそもブラドの攻撃の衝撃で潰れた。これだと助け呼べないじゃん。

 

 まぁ、相討ちなら、損はしてないよな。誰かー、俺に気付いてくれー。

 

 どうするか悩んでいる突如、 

 

 

 

 

 ――――バギッ!

 

  

 

 

 

 ………まるで何かが、砕けるような異質な音がする。今の音、何だ?

 

 その発生源に目を向けると、

 

「パ、パトラの奴……俺が死ぬ時に、こんな呪いを残してるとは…………糞がッ!!」

 

 ブラドがその場で苦しみ、もがいている。

 

 って、まだ生きてたのかよ。タフすぎるわ。頭に銃弾数発ぶち込んだのに。

 

 ……それより、パトラだと?

 

 確かその名前は、イ・ウーのNo.2だったような。あの如何にもエジプトって感じの格好をしていた女。今、ブラドと何の関係がある?呪いって何だ?

 

 考えている間にもその異質な音は続く。

 

「あの女! ふざけんな!! ア゛ア゛アア゛ア゛アア゛アアアァァァ……!!!」

 

 ブラドは散々喚き散らしていたが、叫び終えると、今度こそ動かなくなる。

 

「何だよ、これ………」

 

 が、俺が驚いたのはそこではない。

 

 動かなくなったと思ったら……まるで操り人形みたいに、生気はなく、腕は下がっていて、その場に立ち上がる。

 

 何も言わない。もしかして、パトラが操っていたりするのだろうか?どうなっている?

 

 クッソが! 逃げたいのに、こっちはもう動く気力ないんだけど。俺の人生ちょーっとハードモードじゃない?バランス狂ってるよ?

 

 ちょ、こっち来る。来んなよ。お願いマジで来ないで。

 

 

 

 

 

「――ハチハチ!!」

 

 ただただ突進してきたブラドに為すすべなく殺られると思ったが、誰かが助けてくれた。

 

 …………その誰かとは、

 

「ハァ……助かった。おい、理子、お前どうしてここに?」

 

 いつもの武偵高ロリータ服の理子が血相変えて戻ってきていた。

 

「説明は後! ………ねぇ、あれってブラドなの?」

 

 察しがいいことで。

 

「ブラドを殺そうとしたら、急に苦しみだして、パトラの呪いがどうとか言ってた。で、今は人形みたいな感じ」

 

「パトラか! ……とりあえず一旦退くよ」

 

 突進して、少し倒れていたブラドはユラユラと揺れながら俺たちを見る。標的に定めているのか。

 

「ハチハチ、まだ超能力は使える?」

 

「全開で1秒は」

 

「飛び降りるから指示したら使って」

 

「分かっ……――危ない!」

 

「ちょ!」

 

 理子を思いきり押す。

 

 理子に肩を貸してもらっていたら、ブラドは……いや、パトラか?パトラは理子に狙いを変えていた。ついでに俺も纏めて始末するように。 

 

 俺を助けることに気を取られていたから理子は気付くのが遅れた。これでは2人とも攻撃を喰らうと思った。

 

 だから、理子は助かってほしいという俺のエゴ。

 

 

 

 

 そして、攻撃をマトモに喰らった俺は――空高く、舞い上がっていた。

 

「理子、逃げろ!!」

 

 叫ぶ。

 

 俺みたいな足手まといがいては理子が死んでしまう。

 

 次に着地。

 

 ――五接地転回法。

 

 地面に転がりながらすねの外側、尻、背中、肩の順に着地する高所からの受け身に向いている技術。1年の頃から訓練させられてきた。

 

「ガッ!」

 

 しかし、最後でミスった。肩の着地地点がズレた。

 

 完全には受け身できなかった。しかも、最後の烈風まで使っての受け身で、超能力はもう使えない。

 

 そもそも、これでとうとう体も動かない。アドレナリンも切れてきた。……今まで蓄積されたダメージが体を襲う。

 

「アアッ………!!」

 

 あまりの痛みに悶え苦しむ。 

 

 ブラド(パトラ)は俺の方に来るが、理子がいつの間にか俺から盗っていたファイブセブンでブラドを攻撃しているが、そのせいでブラドはターゲットを理子に変更している。

 

「こっちだ!」

 

 引き付けようとしてくれてる理子の声が聞こえる。

 

 止めろ。理子、バカか……早く逃げろ。頼むから逃げてくれよ。このままじゃ、お前が死ぬぞ。………俺はいいから!

 

 俺はどうせ死ぬから………。

 

 ――――その時、

 

 

 

『あなたが死ぬ時は、私があなたを殺す時です』

 

『だから、その時まで一緒にいてくださいね?』

 

 

 

 いつの日か、レキに言われた言葉を思い出す。

 

 ………レキ。ゴメン、本当にゴメン。その約束、守れそうにない。

 

 せめて、もう1回、話したかった。

 

 ――――ヤバい……意識、が………………。

 

 

 

「八幡!!!」

 

 理子の声も届かない。

 

 

 

 

  

 

 

 

 そして――――俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、高評価お願いします
貰えると、かなりやる気出ます、はい。


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Opposite World

『………醜い』

 

「おいコラ、いきなり人をディスって………お前誰だよ?」

 

『………醜い』

 

「ドラクエの村人かよ。何が醜いんだよ」

 

『あなたの持つ感情は……とても醜い』

 

「……あーうん、なるほどね。いや、俺はまだマシだと思うな。世の中もっと醜い奴なんてそこら中にいるぞ」

 

『ですが、今、あの化け物の方が遥かに醜い』

 

「ちょっと会話してくれない? 微妙にすれ違っているんだけど。化け物というと、ブラド、いやパトラか? ……って、あ、お前もしかして………」

 

『醜い感情は嫌いです。私は無を好む』

 

「…………あぁ、そうらしいな。今までそう聞いてきた」

 

『あそこに瑠瑠がいる』

 

「話聞いてる? 前後が全く繋がってないぞ」

 

『なので――――――――』

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

――――――――

 

――――――

 

――――

 

―――

 

 

 

 

 

 理子はキンジとアリアと八幡と協力して、1度ブラドを倒した。

 

 そこから、アリアは理子を捕まえようとしたが、制服を改造したパラグライダーを用いてアリアから逃走することに成功した。

 

 その後、人のいない場所に着陸して、横浜駅前にこっそり移動した。

 

 そこで八幡を待つつもりだった。すぐに来るものだと思っていた。しかし、一向に来ず、連絡しても反応が音沙汰ない。

 

 その前、キンジにはメールで返していたのに………。と、理子は不安に感じた。

 

 嫌な予感がした。

 

 理子は、八幡の何でも面倒と思う性格からすぐに帰ってくるかと考えた。いや、別の手段でこっちに来たからわざわざ駅を利用しないかもしれない。……実際そうなのだが。

 

 八幡のもう1つの性格を考えると、当たって欲しくない考えが頭をよぎった。

 

 以前、八幡をイ・ウーに拐うにあたって身辺調査をしたことがある。その時、理子の知らない八幡を知った。

 

 どうやら八幡は、自己犠牲を自己犠牲と思わずに何かを実行したことがあったらしい。その時の方法は周りのヘイトを自身に集めるとのこと。

 

「もしかしたら…………」

 

 理子は焦った。

 

 

 ――――八幡はブラド関連の何かに巻き込まれて独りで戦っているのではないか……?

 

 

 と。

 

「ヤバい………」

 

 走った。ひたすら走った。間に合うか分からない。手遅れかもしれない。それでも、走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今――――

 

 

 

 

 

「八幡!!!」

 

 理子はパトラが操っているのか、ただ暴れているだけなのかは分からないが、パトラが施した呪いによって復活したブラドが八幡を空高く突き飛ばした。

 

 理子が到着した時には既にダメージはかなり蓄積されていた。もう限界に達したのだろう。八幡は受け身を取ろうとするが、そこで意識を失い、その場で倒れた。

 

「クッソ…………。私だって手持ちの武器少ないんだよ」

 

 今、理子が手に持っているのは八幡のファイブセブン。材木座から借りているベレッタもあるにはあるが弾がない。ファイブセブンの残弾は10発。

 

 随分と心許ない装備だ。

 

 そして、ブラドはゆっくり、ゆっくりと理子の方を向く。もう八幡には用なんてないかのように………。

 

「………ッ!」

 

 ブラドが何も考えなしのように一直線に突っ込んでくる。紙一重で理子は転がりながら回避する。

 

 それからブラドが距離を詰めれば理子が離れる。それを繰り返し、八幡をどうするか考える。

 

 八幡とはかなり離れており、理子は現状生きてるかどうかも分からない。

 

「アリアたちがいれば…………」  

 もうキンジとアリアは電車を使い、とっくに東京に戻っている最中。

 

 それを八幡を待っている間に理子は見送った。もし今から連絡ができたとしても、さすがにその頃には手遅れだろう。

 

 単純な直線上の動きのお陰で避けるのは、今のところ何とかなっている。

 

 が、向こうは理子とは違い、疲労なんか感じさせない、とても速い動きを繰り返している。

 

 

 

 

「ハァ………ハァ…………」

 

 そんな状況下だと、徐々に体力が無くなり始めるのは、当然理子だ。

 

 神経を張り巡らせ、常に向こうの動きを見て感じて、先読みをする。それらを行い、攻撃を避ける。

 

 ただ、それだけのことを繰り返すのがこうも大変とは思いもしなかった。

 

「八幡は普段、私たちにこれをしているのか…………」

 

 アリアと飛行機で撃ち合った時は動きは読まずに、ただただスピードで勝ろうと撃っていたし、不意討ちの超能力もあった。しかし、今は状況が違う。

 

 これが自分より弱い相手ならある程度は楽だろうが、今は自分よりスピードもパワーも断然上だ。一手、間違えれば取り返しの付かないことになる。

 

 その緊張感をずっと保っていると、気がおかしくなりそうだ。

 

 速く撤退したいのに、ブラドの攻撃を避けていると、余計に八幡からは遠ざかる。

 

 何回か撃ってみるが、この状態でも無限回復は持っているのか、傷はすぐに塞いだ。

 

 無限回復はあるのに、ブラドの意識は別の所にあるのか………。そう理子は不思議に思っていた。

 

 またブラドから距離を取った瞬間、ブラドは大きく息を吸い、胸を反らし始める。

 

「あぁ…………ヤバい!」

 

 この動作はキンジのヒステリア・モードを解くほどの威力を持つ咆哮だと理子は瞬時に悟る。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――ア゛アア゛アアアア゛アァアァァァア゛アアァァ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 その声は先ほど、キンジたちや八幡にしたのとは思えないほど、まるで機械みたいな、とてつもない甲高い咆哮が辺りに響きわたる。

 

 そして、それは先ほどの咆哮とは比べ物にならない威力。

 

「うっ……!」

 

 必死に耳を抑え、歯を喰いしばり、目を閉じ、ギリギリの状態で耐える。

 

 しばらくして、その攻撃は終わった。

 

 理子は何をされるか分からないから、すぐにその場から離れようとした。が、目眩を起こし、聴力は正常に戻っておらず、おまけに足に力が入らない。

 

 今の状態では逃げることすらできない。頭の中では『動け!』と命令している。そうしたいのに、体が全く追い付いてこない。

 

 それから30秒経ち、その時間で理子はある程度動けるようになっている。しかし、その間は動けなかったのにブラドから追撃は全く来なかった。

 

「何でだ?」

 

 不思議に思い、視線の先を注視すると、そこには――――蒼い炎に包まれているブラドがいた。

 

「…………………は?」

 

 自分の目を疑う。

 

 理子が真に驚いたのは、燃えているブラドなんかではない。その奥にあるはずのない光景が映し出されているのだ。

 

 さっき倒れていたはずの八幡が………立っている。

 

 しかも、さっきまで全身傷だらけで、血まみれだったのに、そんな様子は見当たらない。 

 

「ど、どういうことだ……?」

 

 

 

 

 

 そうこうしている間に、蒼い炎をなんとか振り切ったブラドが狙いを八幡に変え、普通の人間なら反応できないような速度で突っ込む。 

 

「危ない!!」

 

 と、理子は叫ぶ。 

 

 その突如――――八幡の周りに、1辺が3cmほどの黒い立方体が10個以上出現する。それらは空中を漂うように浮かんでいる。

 

 その立方体が、八幡に向かって突っ込んできたブラドに触れると………その部分だけが抉り取られる。

 

 その部分は覗き穴の働きができるくらいには綺麗に穴が空いている。

 

 ドシャアァァ――――!! と、黒い立方体が抉った部分は足が多く、そのせいでバランスを崩し、ブラドは突進の軌道を変えながら倒れる。

 

 それだけなら、別段不思議ではない。ブラドにはどんな傷でも治せる無限回復があるから。

 

 しかし、

 

「回復してない?」

 

 回復するはずのブラドの傷は全く回復しない。

 

 それもそのはずだろう。

 

 抉り取った部分は認識できないだけで、黒い立方体の中に存在するから。存在するから、傷は当然治らない。

 

 そんな一瞬の攻防の中、理子は問いかける。

 

「………お前、誰だ?」

 

 八幡の使える超能力はセーラから教わった風だけのはず。なのに、理子が見たことのない超能力を今、使ってみせた。

 

 理子は考えた。

 

 ――――これは本当に八幡なのか……?

 

 しかし、八幡からの返答は来ない。

 

 とりあえず、気付かれないように、巻き込まれないように離れようと理子はゆっくりと移動する。

 

 その間に、バランスを崩しながらも立ち上がったブラドはまたもや八幡に向けて一直線に突進をしてくる。

 

 その時、

 

 

『散れ。醜き怪物よ』

 

 

 ――――透き通るような美しく、綺麗な女性の声がした。

 

 瞬間、ブラドの動きが止まった。視線は動かせるようだが、体はピクリとも動かない。

 

 まさに今、八幡に向かって飛びかかろうとした状態で、完全に停止した。空中に浮いている。

 

 そして――――

 

 

 ――――バギバギバギッッ!!

 

 

 何かが砕け散るような音がする。

 

 ………その音の正体はブラドの体や関節があらゆる方向に無理矢理曲げられる音だった。

 

 ――――ドスンッ!!

 

 そのような破壊音がしばらく続く。それらが止んだとすぐに、空中にいたブラドは支えを失ったように地面に叩き落とされる。

 

 と、同時にさっきまで立っていた八幡も意識を失い、倒れる。

 

「ちょ……! 八幡!!」

 

 腰を抜かし、呆然と様子を見てた理子が慌てて八幡に駆け寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

―――――――

 

――――――

 

――――

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。

 

 まだボーッとしている。そんな意識のなか、五感を集中させる。

 

 目に見えるのは白い天井。匂うのは薬品の特有の匂い。そして、俺に繋がっている輸血パック。それに布団の感触もある。

 

 ここは…………あれだ。

 

「病院だ」

 

「あ、八幡。起きた?」

 

 視界の隅に白衣を着ている戸塚がいる。

 

「よう、戸塚。これどういう状況?」

 

 おぉ、わりかし冷静に返せた。

 

 俺の覚えている最後の記憶は、パトラがどうやらしたブラドに吹っ飛ばされたとこで終わっている。いや、誰かと会話したような…………? しかし、そこからいきなり病室まで飛ぶとは。

 

「えーっとね、3日前の夜に突然レキさんから出動要請がかかってきて、横浜からヘリでここまで運んできたんだよ」

 

 戸塚は簡潔に説明してくれたが………レキかぁ。あいつどこかで見ていたのか。

 

 ちなみに今は昼頃らしい。

 

 怒っているかな………怖いよぉ………。

 

 というより、あれから3日も経ってるの!?

 

「そのレキはどこ?」

 

「授業。最初は看病するって言ってたけど、先生が止めたんだ」

 

 なるほど。それは良かった。

 

 …………って違う違うだろ!

 

 今はそこじゃない。理子のこと聞かないと。俺の意識がなくなったあとどうなったんだよ。無事なのか?

 

「なぁ、戸塚。………理子はどこにいる?」

 

「峰さん? 峰さんも学校に行ってるよ」

 

 良かった。無事か……。肩の荷が下りたような気分だ。

 

「怪我とかは?」

 

「ちょっとかすり傷はあったけど、安心して。大きな怪我はないから」

 

 えーっと……あれ? それならまた新た疑問が浮かぶ。じゃあ、ブラドはどうなった?

 

 どうにかして追い払ったのか?

 

 …………誰が?

 

 って、ブラドのことを戸塚に聞くわけにもいかないしな。歯がゆい。

 

「それより、八幡が運ばれたときの容態なんだけど、なんだか不思議だったんだよね」

 

「不思議?」

 

「八幡の体の血液が圧倒的に足りない状態だったのに、何故か体には傷が1つもなかったんだよ。何でだろう?」

 

 そう言われて改めて体を見る。……確かにベッドに寝てはいるけど、治療された痕跡はない。

 

 俺、ブラドにボコボコにされたんだかな。

 

「まぁ、あれだ。よく分からん」

 

「何それ。変な回答だね」 

 

「自分でもそう思っている」

 

 だって、本当に覚えてないからな。

 

「それじゃ、僕、先生に報告しに行くから」

 

「色々ありがと」

 

「気にしない。これが僕の仕事だからね。……あ、八幡の荷物とかそこに置いてあるから」

 

 お、ファイブセブンやら色々揃っている。ナイフ折れたし、また材木座に頼まないとな。

 

「にしても、八幡ってネックレスとか付けるんだね。初めて知ったよ。じゃあね。それと、きちんと安静にしておくこと」

 

 忠告を俺にしたあと戸塚は病室から出ていった。可愛いな。戸塚のナース姿とか見てみたい。

 

 ところで、ネックレスって何だ? 俺そんなの持ってたっけな………?

 

「…………あっ」

 

 そうだ。思い出した!

 

 どのタイミングかはさっぱり分からないが、なんか璃璃色金みたいな奴と話したような記憶があるぞ。会話の内容とか見た目は覚えたないけど。それっぽい感じだった。

 

 でも、それっきりで、そこからどうなったのかは記憶にない。ブラドは生きてるのか、死んでるのかも知らない。

 

 でもまぁ、とりあえず理子は生きてるし、それで良しとしよう。

 

 つーか、俺がこうして生きているから、ブラドは死んでるか、行動不能だとは思うんだがなぁ。

 

 

 その後、救護科の先生にどこか異常はないか検診を受けた。体の隅々まで検査された。結果は特に異常なしだと。

 

 ブラドと戦っているときに骨とか確実に折れたはずなのに………俺の体どうなってんだ?

 

 昼頃には夕方は終わった。正直、かなり手持ちぶさただ。本はない。スマホの充電は切れている。ゲーム機ももちろんない。

 

「……………暇だ」

 

 ベッドで横たわりながら呟く。

 

 暇潰しに銃のメンテをちょっとだけしようとしたら、先生に止められるし。

 

 一応は病人だから寝なさいって言われても、3日通して寝てたから全く眠くない。

 

 やることがない。せめてテレビとかあればなー。何ならラジオでも構わない。それか俺に充電器をくれ。

 

 個室だから話し相手もいない。そもそも誰かと相部屋でも上手く話せる自信なんてこれっぽちもないけどな!

 

 金は……やった。嬉しいことに少しあるな。売店で何か雑誌でも買いにいくか。

 

 エレベーターを降りて1階の売店でジャンプ売ってたから買った。これで暇潰しになる。後は遠山にどうにかして連絡して色々持ってきてもらおうかな。

 

「うーん……」

 

 ベッドに寝転びながら読むのもなんか飽きた。ロビーにあるソファで読もうか。

 

 お、呪術面白いな。

 

 そんな感じでしばらく読んでいると、自動扉の開閉音が聞こえた。誰か入ってきたのかな。

 

 その人物はどうやら俺の傍まで来る。目線を上げる。

 

 そこにいたのは……ヘッドホンを首に引っ提げ、ショートカットで水色の髪をした無表情の少女。

 

「…………」

 

「…………」

 

 互いに無言で睨み合う。

 

 話が進まない。これは俺から声をかけるべきなのか。め、めんどくせぇ。お前も何か喋ってくれよ。

 

「とりあえず移動するか。……レキ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




毎度遅れてスミマセン。

基本自分がss書くときってスマホのメモ帳に書いてそれをはっつけていつも投稿しているのですが、4月に機種変をしまして……今のスマホだとめちゃめちゃ書きにくいんですよ。

だから前のスマホを使って書いているのですが、ふだん前のスマホは持ち歩かないので、どうしても書くのが遅れてしまうのです。たぶん、これからも投稿ペースは落ちます。申し訳ないです。できるかぎり頑張ります。

よろしければ感想、高評価よろしくお願いします。


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その後にて

やべぇよ
滅茶苦茶早く投稿できたよ……




 俺がお世話になっている病室に戻る。

 

 この間、俺とレキは無言を貫いている。正直気まずいです。

 

 感情が少しは表に出るようになってきたとはいえ、未だに何を考えているのか分からないのがレキだ。

 

「八幡さん」

 

 俺がベッドに、レキが備え付けの椅子に座ったと同時に、レキは口を開く。

 

「どうした?」

 

「もうすぐで星伽さんがこちらに来ます」

 

「星伽さんが? どうして?」

 

 いきなり意外な人の名前。

 

「後程説明します」

 

 ……そうかい。

 

「そういや、レキ。お前どこで見ていた?」

 

 何を、とは言わない。

 

「1kmほど離れていたビルからです」

 

「マジか………。ヘリ呼んでくれてありがと。つか、手は出さなかったのな」

 

「はい。これは八幡さんの依頼でしたので、私の出番はないかと」

 

「俺死にかけたんだけど?」

 

「八幡さんは死なないから大丈夫です」

 

 ………いや、何だそれ。人は死ぬ。必ず死ぬよ?

 

「てことは、俺が気を失った後のことを知っているのか? ブラドとかどうなった?」

 

「結論から言いますと、ブラドは死にました」

 

「……そうか」

 

「ブラドを殺したのは八幡さんに乗り移った風です。私にはそれが分かりました」

 

 ……………まぁ、薄々そんな感じはしてたから特別驚きはしない。

 

 あれが璃璃神って、前々から璃璃と繋がっていたレキだから分かったのか。

 

「そして、八幡さんが搬送された後、政府の人たちがブラドを確認しにきました。その時のブラドは関節があらゆる方向に曲がっており、ぐしゃぐしゃになっていました」

 

 ぐしゃぐしゃって…………他に言い方はないのかよ。

 

「調べた結果、ブラドの生命活動は停止していました」

 

「よくそこまで知っているな」

 

「私にも色々と繋がりを持っていますので」

 

 そりゃそうか。俺と知り合う前からずっとそういう世界で生きてきたからな。

 

 …………あ。

 

「俺が璃璃に乗っ取られたから星伽さんを呼んだってこと?」

 

「はい。今回のことについて相談しようかと。八幡さんに起こったことや私自身についても事前に話しておきました」

 

 なるほど。ご苦労様です。

 

「そういえば、八幡さんの分の手続きは私がやっておきました」

 

「手続き?」

 

「政府の方々から今回のことを内密にするようにとのことです」

 

「それは分かったけど、なぜにお前が?」

 

「分かりません。政府の方々は私なら問題ないかと言っていましたが」

 

 えぇー………。レキが信用されてるってことでファイナルアンサー?

 

「口止め料としてそこそこの金額を頂きましたがどうしますか?」

 

 そんな金いらんわ。

 

「適当に募金でもしといてくれ」

 

「はい」

 

 そうこう話している内に、コンコン。と、控え目なノックが聞こえた。

 

 お、もう来たのか。

 

「どうぞ」

 

「比企谷さん、こんにちは。調子はどうですか?」

 

「特に問題なしです」

 

 制服姿の星伽さんが入ってきた。そのままレキとは別の椅子に座る。

 

「それで、レキから聞いているんだっけ?」

 

「うん。……それにしても、レキさんから聞いたけど、驚いたよ。まさか比企谷さんがあのイ・ウーにいたり、璃璃色金を持っているだなんて」

 

「全部成り行きだけどな」

 

 ていうか、星伽さんはイ・ウーについて知っていたんだな。あまり驚きの表情は見えない。いや、緋色の研究に星伽の名前があったから何となくは予想してたけど。

 

 俺は目でチラッとレキを見る。それを察したらしく、レキが動く。

 

「星伽さん、どうぞ」

 

「これが璃璃色金………」

 

 レキが手渡した璃璃のネックレスを星伽さんはじっくりと観察している。

 

「でも、どうして乗っ取られたの? 星伽の文献には璃璃色金は基本争いを好まない性格って書いてあったよ」

 

 璃璃色金を持ったまま星伽さんが疑問を投げかける。そりゃそう思うよな。

 

 そこで、俺はぼんやりと思い出してきた璃璃との会話の内容を星伽さんに話す。

 

 俺の話を聞き終えると、しばらく腕を組み考えている。レキも静かにしている。元々こいつは静かな方だな。

 

「醜い、かぁ。私では璃璃色金の考えることは分からないね。璃巫女のレキさんはどう考えている?」

 

 少し間が空き、

 

「風は無を好みます。恐らくですが、ブラドは八幡さんによって1度倒されました。その直後に何者かによって復活しました。誰かの操り人形みたいに。その状態のブラドが醜いと思ったのかと」

 

 お前………めっちゃ喋るな。

 

「なるほど。あ、比企谷さんは緋緋色金のことはどのくらい……」 

 

「まー……ある程度は」  

 

「なら、知っていると思うけど、緋緋色金は争いを好むから危険視されているの。でも、璃璃色金はそうじゃない。だから、今は放っておいても問題はないかな」

 

「言われてみれば確かに……」

 

 緋緋色金は争いが絶えない世界にしようとするんだっけか?

 

「最悪、そのネックレスを身に付けないようにすれば、乗っ取りに関してはどうにかなると思うの」

 

 ぶっちゃけそうだよな。

 

「ねぇ、比企谷さんは璃璃色金を使ってどうしたいの?」

 

「どう、とは?」

 

 急な問いかけに思わず言葉が詰まる。

 

「乗っ取られた問題を解決しようと思えば、さっき言った通りできると思う。100%とは言えないけれど。だからこそ、この先は比企谷さん自身が決めないといけないの」

 

 俺自身が……か。

 

「俺は……超々能力者(ハイパーステルス)になりたい」

 

 現状、俺は弱い。俺には足りない物が多すぎる。力が手に入るなら、力が欲しい。その意思はモンゴルで璃璃色金を受け取った時から変わっていない。

 

 レキの力になりたい。

 

「だったら、常に持ってたほうがいいかな。本来、超々能力者になるには長い時間が必要になるの」

 

「あぁ……そうだったな」

 

 そんなこと緋色の研究に書いてた。確か、性格も合わないとなれないはず。緋緋神はまんま神崎みたいな性格で、璃璃神はレキみたいな感じ。

 

 ………あれ? よくよく考えてみたら、俺、なれるのか? 

 

「なぁ、星伽さん。超々能力者になるには、その色金と性格が合わないといけない……みたいな話だったはずが、俺、多分璃璃神と相性最悪だと思うんだが、本当になれるのか?」

 

 醜い醜いとか言われたわけだし。

 

「うーん……普通はそうなんだけど、比企谷さんは例外かな?」

 

「例外って?」

 

「ほら、理由は分からないけど、もう比企谷さんは色金の力を使っているから………。しかも異常な早さで」

 

「そんなに早いのか?」

 

「緋緋色金の場合、色金が体に馴染むまで4年はかかるらしいですよ。私は生まれた時からずっと風といましたから今でも繋がることはできます」

 

 と、レキが補足する。

 

「マジでか」

 

 うへー……そんなにかかるのか。レキの話はウルスから聞いていたけど、かなりの時間が必要なんだ。

 

 ………うん?

 

「ゴメン、急にだけどさ、俺の体がほとんど治ってたのって璃璃神が治したのか?」

 

 ずっと気になってた。

 

「多分そうじゃないかな? 超能力には治癒能力もあるんだ。もちろん、私も使えるよ」 

 

「ほー」

 

 戸塚の話を踏まえると、体の傷を治したはいいけど、怪我した分の血は元に戻らなかったっていう解釈でいいのか。

 

「これでアリアのおでこの傷も治したからね!」

 

 そう言って胸を張る星伽さん……エロいです。あ、ごめんなさいレキさんそんなに睨まないでください死んでしまいます。でもね、仕方ないよね? だって男の性だもん。

 

「これで比企谷さんの璃璃色金に対する方針は決まったね」

 

「色々とありがとう」

 

「気にしないで。………あ、1つ質問に答えてもらっていい?」

 

「お、おう」

 

 唐突だな。

 

「比企谷さんとレキさんはアリアの体の中のこと知っているの?」

 

「貧乳」

 

「八幡さん?」

 

「ごめんなさい」

 

 冗談はダメですか。

 

「貧乳は価値です。ステータスです」

 

 レキ、お前何言ってるの?

 

「あれだろ? 体の中に緋緋色金があるんだろ?」

 

 む、星伽さんの表情が暗くなる。

 

「やっぱり知っているんだ。それに関して、比企谷さんたちは何かアリアにするつもり?」

 

「緋緋神が出てくるのを阻止ってところだよな?」

 

「はい。星伽さんもですか?」

 

「私も似たような感じ。それでね、アリアの緋緋色金は色金の力を抑えるためのカバーみたいなのがあるの」

 

 それは初めて知った。

 

「それがある限りは緋緋神はアリアを完璧に乗っ取ることはできない。それにまだアリアの緋緋色金は覚醒してない。だから、しばらくは手は出さないでほしい……んだけど」

 

 恐る恐る頼む星伽さん。家のこととかあるんだろうか?

 

「まぁ、緋緋神が現れないならそれでいいし」

 

「分かりました。星伽さんの意見を尊重します」

 

「良かったぁ……」

 

 星伽さんが安堵していると、足音が複数聞こえる。徐々に音は大きくなっている。俺の周りの病室は現在誰も入院していない。てことは、ここに来るのか?

 

「とりあえず話は一旦ここで終わりだね」

 

「そうだな」

 

「また何かあれば連絡します」

 

 星伽さん、俺、レキとそれぞれ言ったと同時に、

 

「比企谷……起きたのか!!」

 

「八幡!」

 

 うるさっ。

 

 ガラガラ! と勢いよくドアを開けて入ってきたのは遠山と神崎。おい、せめてノックしろやコラ。

 

「よう。遠山、それに神崎も。元気か?」

 

「私たちは元気よ。八幡……ホントごめんなさい! まさかあの後ああなるなんて」

 

「比企谷、本当にすまない」

 

 珍しく神崎も頭を下げている。

 

「気にすんな。あれはさすがに俺も予想してなかった」

 

 この言葉に嘘はない。気まぐれで戻ったら、なんかああなってたもん。

 

「あ、遠山。明日でいいから充電器とか持ってきて」

 

「それはいいけど、いつ頃退院なんだ?」

 

「4日後」

 

「ふーん。けっこうするのね。案外平気そうに見えるわ」

 

 と、神崎。あ、デコの傷ないじゃん。良かったね。

 

「俺はお前みたいな元気の塊ではないからな」

 

「何よそれ。褒めてるの?」

 

「さぁ?」

 

「あ、そうそう、理子とあたしが借りた銃、ちゃんと返したわよ」

 

「分かった」

 

 これで延滞料金取られる心配はなくなった。

 

「って、あれ? 白雪来てたんだ」

 

「は、はい。私のクラスは早く終わったから」

 

「俺は掃除があったんだよ」

 

「あたしは色々と手続きが……あぁまだ残ってるし面倒だわ」

 

 と、なんかわちゃわちゃ騒がしくなってきたところに、

 

 

 

 

「やっほー、お兄ちゃーん! 元気ー?」

 

 さらに騒がしくなりそうな妹までやってきた。思わず頭を抱える。

 

「小町……お前何しに来た?」

 

 半ば呆れながら質問する。

 

「そりゃもちろんお見舞いですよ」

 

「ちょっと言い方変えるわ。どうやって来た? ここ危ないぞ?」

 

 銃弾がポンポン飛んでくる危険地帯だぞ? だから本州から隔離されているんだぞ? 一般人がポケーッとのんびり歩いたら命なくなるからな。文化祭の時は色んな人が来るから比較的マシだが。

 

「えーっとね、それは――――」

 

「ハチハチ、私が連れてきたんだよ!!」

 

 颯爽登場峰理子。

 

「お前かい」

 

 元気そうで何より。

 

「お台場に用事があったから出掛けてたら、小町ちゃんに道聞かれてね。そしたら、ハチハチの見舞いに行くではありませんか!」

 

「武偵高の制服着ていたから訪ねたの。で、案内してもらったのです!」

 

 小町と理子……初めてあったとは思えないくらい仲良いね。

 

「小町さん、こんにちは」

 

「レキさん! 直接会うのは久しぶりですね! っと、遠山さんも久しぶりです!!」

 

「………比企谷妹、相変わらず元気そうだな」

 

 そういや、遠山と小町が会ったのって1年の文化祭が最後だったよな。

 

 その時は俺がどこにいるか聞いたらしいが、小町お前、遠山にそのテンションで話しかけたのか……。

 

「その子、あんたの妹さん?」

 

「おう」

 

 すると、神崎は自己紹介を始める。

 

「あたしは神崎アリア。よろしくね」

 

 続いて星伽さんも。

 

「私は星伽白雪です」

 

「ふぉ――!! めっちゃ美人さん! ……失礼、比企谷小町と言います。お好きに呼んでくださいな」

 

 自己紹介を終えると、小町はこっちに近づき、

 

「お兄ちゃん、この人たちと本当に知り合いなの? レベル高すぎない?」

 

「同級生だ」

 

 いくら美人だろうと武偵は、俺含め基本的に性格に難ありだ。過度な期待はしないでくれ。

 

「というより、お兄ちゃん何やらかしたの?」

 

「ある依頼でちょっと無理しただけ」

 

「うへー……。武偵って大変だね」

 

「その通りすぎて泣ける」

 

「そうそう、入院費や治療費はお母さんたちが出すって言ってたよ」

 

「あ、マジで? それはありがたい」

 

「まー、お兄ちゃんがいくら武偵でもまだ未成年だもん。そのくらいは当然だー……とのこと」

 

 何だかんだでいい親だ。たまには顔見せに帰るか。

 

「お兄ちゃんは安静にしといてね。その間に私はお兄ちゃんの恥ずかしエピソードを皆に話しとくから」

 

 何だその不穏なワード。

 

「ハチハチの? スゴい面白そう」

 

 おい理子よ。

 

「小町さん、私も興味あります。教えてください」

 

 レキ……お前まで。

 

「あ、なら俺も」

 

「あたしも!」

 

「せっかくですし、私も」

 

 

「よしっ! 外出て話そっか。ハチハチはきちんと寝ておくんだよ」

 

「では八幡さん。さようなら」

 

「じゃあねー、お兄ちゃん。また来るよー」

 

「充電器は明日持ってくるから」

 

「ま、またね、比企谷さん」

 

「さっさと復帰して私にボコられなさいよ! その前に話を楽しんでくるわ」

 

 ……………それでは皆さんご一緒に。

 

「お前ら待てコラアアアァァァ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時はスマホの充電はなく気付かなかったが、理子からメールで一言『ありがとう』と、送られていた。

 

 

       

 

 

 

 

 

 



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ガンダムで一番好きなキャラはプルです(ロリコンではない)

……なんやこのサブタイ。

前半はあくまで自分の意見や考えです。




 まだ入院中。

 

 俺はベッドの上で寝転んでいる。

 

 体がなまっているから動きたいのだが、戸塚からあまり動くなと言われている。

 

 軽いストレッチくらいならオーケーだった。助かる。でも、そのくらいしかすることない。

 

 絶対体力落ちたよ。だって1週間はロクに動いてないんだぜ? あー……もう面倒。

 

 

 そして、今、俺は――――

 

「やっぱりニュータイプ最強はカミーユでじゃない?」

 

「どうだろ。カミーユは強いけど、精神が不安定だったからな。精神面を含めたら、個人的にはアムロとジュドー」

 

 

 なぜか理子とガンダム談義をしている。

 

 

「アムロの場合、強くないとあんなドライに撃てないよね」

 

 自分の親しい人たちが死んだとき以外、ほとんど無関心で人殺してたからな。

 

 カミーユは怒ってたり、呆れてたりしてたけど。

 

 バナージは初めて人殺したとき、かなり落ち込んでた。あの後のマリーダさんの励まし? の言葉良いよね。

 

「ジュドーか~。ニュータイプ最強論で、あんまりジュドーって候補にあがらないね」

 

「まぁ……だよな。一瞬だけなら、かなりの力だと思うけど」

 

「ガス欠寸前のZZを動かしたのはスゴかった。あぁ……愛しき私のプルちゃん」

 

「あれは……悲しい。プルもプルツーも生きててほしかった……」

 

 最期の『私よ、死ねぇ!!』は感動モンです。

 

「あれ? プルツーは生きてたよね?」

 

「最終回でジュドーを助けたときに力尽きてなかったっけ? まぁ、色々所説あるけど」

 

 俺個人の願いとしてはあの後ジュドーと暮らしてほしかった。

 

 話を戻しまして。

 

「アムロはニュータイプとして、色々とヤバかったよな。シャアも地球連邦もアムロを危険視したし」

 

 結果、ほぼ監禁。 

 

「それでも私はカミーユを推す。公式でもニュータイプとしてはカミーユがずば抜けているって言われているよ」

 

「感受性だと確かにカミーユがスゴい感はある。最後に潰れたけど、俺はあれで良いと思うわ」

 

 Zの映画は好きじゃない。

 

「そう? 私は報われないって感じがしたな」

 

「俺は逆。だって、カミーユの精神は最終回に近付くにつれてボロボロだったわけだろ。流れで戦争に参加したら、いきなり親を目の前で殺され、フォウも殺されて、エマさんも亡くなったし……」

 

「ねぇ、カツは?」

 

「あいつは知らん」

 

 どうでもいいわ。ぶっちゃけサラもどうでもいい。

 

「だから、ZZでカミーユは戦争から開放されたみたいに楽しそうにしてたし、良かったと思うわ」

 

 ZZの最終回、2人で海岸を走ってるシーンは感慨深かった。それとZZでプルやジュドーに指示を出したシーン好き。

 

「他にはらシロッコも強かったね。射撃性能高かった」

 

 ………スイカバー。

 

「そう考えるとハマーンもか。ハイメガキャノン砲を防いだし。でも、カミーユと似て精神はそこまで安定してなかったな」

 

 ジュドーとのラストバトルは会話も含めてかなり好き。

 

「あ、バナージはどうだろ?」

 

 ……バナージか。

 

「よく分からんのが率直な感想。あの強さはユニコーンありきじゃね? あ、でも、バナージはサイコフィールド発生させてたし、最後なんてレーザー防いで、腕の一振りでモビルスーツを行動不能にしてたし………」

 

 多分、バナージじゃなかったら、ユニコーンはあそこまで性能を発揮していなかったとも思う。

 

 ユニコーンは謎が多い。

 

「そもそもサイコフレーム自体がよく分かってないもんねぇ」

 

「発光のメカニズムも明言されてないしな」

 

 まぁ、見てるときの感想はカッコいいばかりだったけどね!

 

 例えば、エピ7のユニコーンのシールドが動いてたのってどういう仕組み? ファンネルみたいに推進装置あるわけでもないのに。サイコミュであそこまで動かせるもんなの? 不思議。

 

 結論、サイコフレームってスゴい。

 

「今度やるナラティブでは、どうなるのかな?」

 

 ナラティブか。フェネクス楽しみ。ミネバは出るけど、バナージは出るのか? バナージは好きなキャラだから、チラッとでいいから出てほしい。Xのときの弧門君みたいに。……あれ正確には弧門君じゃないか。

 

 お台場で、バンシィとフェネクスが戦った特別映像はヤバかった。ドーム状で、見上げるとあの激しい戦闘……もうヤバかった(作者談)。

 

「ねぇ、ハチハチ。この話の終着点って人それぞれにならない?」

 

 との理子の呟きに、

 

「……………だな」

 

 納得する。

 

 成長速度で言えば断然シーブックだろうし、発想の豊かさならウッソになる。あ、個人の意見です。

 

 シャアも強いけど、ウジウジしすぎ。それがなければアムロに勝てたと思う。百式でハマーンとシロッコを凌いだのはスゴいか。コロニーレーザー守りきったし。

 

 ………ファーストのゲルググ辺りはお荷物状態だったような。

 

 

 

 

「ハチハチはガンダムシリーズどのくらい見てるの?」

 

 話が一段落し、少し休憩する。そこに理子の一言。

 

「ファースト、Z、ZZ、逆シャア、UC、F91、Vガン、Gレコ、Gガン、AGE」

 

 ぶっちゃけ見たは見たが、覚えてないのも多い。Vガンとか。

 

「あれ? SEEDは?」

 

「見る機会を逃した。一応はガンダム無双でストーリーは何となく知ってる程度だな。キラがかなり強いとか」

 

「確かに強いよ。種死は途中で主人公交替してたからね………」

 

 モビルスーツはカッコ良くて好き。ガンダム無双で使ってて楽しい。フリーダムの高火力ブッパとか。

 

「OOも見てないんだ」

 

「そうだな。これもSEEDと理由は同じ」

 

「また見なよ~。それで、ガンダムシリーズでお気に入りのシーンとかある?」

 

 お気に入りか。今まで見た中で言うと………。

 

「ユニコーンでキャプテンとバナージの砂漠渡りだな。あの会話はマジで好きだわ」

 

 あのシーンは地球の現状を物語っている……気がします。あれだけでも見る価値はある。

 

「それと逆シャアの最後のアムロとシャアの会話だな。俺はどっちかって言うと、戦闘そのものよりもその中の会話の方が好きだったりする」

 

「あー……分かるよ。それぞれ全く違う生い立ちや背景だからこそ起こる価値観の違いとか見てて面白いよね」

 

「そうだよなー。で、理子はお気に入りとかある?」

 

「私はハチハチが見たシリーズで1つ挙げるなら……AGEの最終回で『君の中の英雄』が流れたとこだね。AGEは色々言われているけど、私は好きなシリーズだよ」

 

「俺も」

 

 あのシーン良いよね。アセムとゼハートの決着も良かった。何よりAGE-FXカッコ良い。……俺さっきからカッコ良いしか言ってねーな。

 

「そういやファーストのサイドストーリーは見た?」

 

「そこそこ見た。まぁ、ポケットの中の戦争で泣いたわ」

 

 小町と一緒にボロボロ泣いた。あれこそ『戦争』だよな………。

 

「そりゃ泣くよね」

 

 ウンウンと頷く理子。

 

 最後のビデオテープがまた涙腺を攻撃するんだ………。

 

「ガンダムシリーズ……特にファーストとかって単純な善悪ってないよな」

 

「言われてみれば………。ジオンからしたら、連邦は自分らを宇宙の端に追いやった存在だし、連邦からしたら、ジオンはコロニー落としをした厄介な存在だもんね」

 

「そうそう。俺なら、独立を目指すジオンを主役にしそうだわ」

 

 だって、理子の言った通り、ジオンは連邦に追いやられているんだぜ? そこを主役を連邦にしたからこその面白さだと思うわけだ。

 

「悲しいけど、これって戦争なのよね」

 

 理子が満足げに呟く。

 

 この言葉が、ガンダムシリーズを表している言葉だよな。

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

―――――――

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

―――

 

 

 

 

 そんな感じで、俺の入院生活は過ぎていった。

 

 入院中は理子がよく見舞いに来てくれて話し相手になってくれた。というより、理子が一方的に話題を振ってきた。

 

 他に、留美や一色、間宮たちも顔を覗きに来てくれた。優しい後輩で嬉しいよ。

 

 ……ん? レキか? あいつは授業サボってずっと病室にいたぞ。理子とガンダム談義している時も隅っこで座っていた。

 

 それで退院し、久しぶりに武偵高に復帰する。

 

 ブラドから受けた傷は跡形もなかった。これは神様に感謝しました。

 

 入院中にメールで確認したが、どうやら材木座はアメリカのロスアラモスという都市に留学に行っているとか。

 

 何でもそこは世界中の優秀な技術者や科学者が集まる都市らしい。今回はほぼ見学らしいが、呼ばれるとは恐ろしいな。

 

 あいつにナイフを見繕ってもらおうと思っていたが、それなら仕方ない。購買に売っているコンバットナイフを購入した。

 

 授業は進んでいるが、まぁ、普通に追い付ける範囲内。同じクラスの星伽さんにノートのコピーを見せてもらったからどうにかなる。ありがたい。

 

 そして、午後の強襲科の実習。

 

 ろくに運動していなかったから、体は鈍っている。ストレッチ、体幹トレーニング、走り込み、等と体を動かすメニューを主にした。

 

「先輩。久しぶりに相手してくださいよー」

 

 そう言うのは俺のアミカの一色。

 

 校庭を走ろうとしたら、自分

も走ります! と付いてきた。

 

 俺らは3kmほど走り、体育館の入り口で休んでいる。

 

 そこそこハイペースで走ったが、少し遅れていたもののきっちり走りきった。なかなかの体力だ。3kmしか走ってないのは体力的な問題。やっぱり落ちたな。

 

「俺もリハビリがてら頼む」

 

 ………おい、こっち向いてくれよ。

 

 一色が体育館の方を向いているかと思えば、

 

「………先輩。なんだか、やけに体育館騒がしくないですか?」

 

 騒がしいのはいつもだが……確かにどこか別種の騒がしさだ。

 

「ちょっと様子見に行きましょう」

 

「おう」

 

 人混みを掻き分け騒ぎの中心地に行き着く。

 

 ――――うっわぁ……お前かよ。

 

「わぁ……美人」

 

 俺の思いと裏腹に、そう誰かが呟く声が聞こえた。

 

 そこにいたのは、やけに怒った表情の神崎と長い髪を三つ編みにした美少女……じゃない。あいつ男だわ。今は女っぽいか。

 

 名前はカナ。遠山の兄であり姉である人物。意味不明だって? うん、知ってる。

 

 その2人は今にも一触即発な雰囲気。それを諫める存在の蘭豹は酒を飲み煽っている。おいコラ教師。

 

 なんでカナがここにいる……? と、少し考えた。ま、予想はつく。

 

 大方、神崎が緋緋色金に乗っ取られる――緋緋神になる前に拘束、あるいは殺しにきたってところだろ。

 

 イ・ウーにいたのは色金を調べるためだったんだろうな、と、推測する。

 

 神崎はカナのことを知ってるかはどうかは俺には分からないが、遠山をダシにして勝負にこじつけたのだろう。

 

 問題なのは、これを仲裁できそうなのは遠山か俺ということ。遠山は探偵科だから当然ここにはいない。

 

 消去法で俺になる。

 

 Sランクの神崎でもカナに勝つのは厳しいはず。何より、カナと戦わせてはいけない。

 

 星伽さんとの約束もある。神崎をここで死なせるわけにはいかない。

 

 そう決まれば……ファイブセブンを握る。

 

 最近、撃ってなかったからな。少し不安になりつつ、8m先のカナの足元に狙いを定めて撃つ。

 

 あ、別にこの距離くらいなら大丈夫か。

 

「せ、先輩、何してるんですか!?」

 

 慌てた様子で一色が叫ぶ。

 

「悪いな、一色。相手は明日するから」

 

 それだけ言い残し、ギャラリーに見られながら神崎たちの方へと歩く。

 

 ……周りの視線が痛い。目立ちたくないよぉ。人間、不必要に目立つのは誰だって嫌なんです。

 

 腹いせにいつか神崎にわさびチューブ丸々1本飲ましてやる。やだ、護衛対象にこんな仕打ちを考えるって、俺ってば心狭ーい。

 

 神崎がどうなっているのか分からないような感じで唖然としている中、カナに近付く。

 

「はぁ……久しぶりだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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七夕に向けて

この投稿スピードに戦慄している

ビルドの最終回良かったー! 
できれば、ラビットドラゴンのCGはちゃんとしてほしかった。でも、最後に紅のスピーディージャンパーが聞けたのは嬉しかったし、ラビットドラゴンのジャストマッチでーす! が個人的に好き

そして、あらすじ紹介がああなっていたとは……!
それでさ、ラビットフルボトルとドラゴンフルボトルが変化した時ってハザードレベル7じゃん。7×7=49 
ビルドの話数になってるじゃん? 最高じゃねーか!

…………テンション高くなりすぎました。



「はぁ……久しぶりだな」 

 

「えぇ」

 

 カナは何食わぬ顔で答える。

 

 って、一触即発というより、戦っている途中じゃねーか。神崎が劣勢か。傷が多い。けっこうヤられてるな。

 

 俺は神崎を庇うように立つ。

 

「八幡…………」

 

「カナ、お前何しに来た?」

 

「あなたには分かるんじゃない?」

 

「……まぁな」

 

 どうやら神崎を殺そうとする俺の予想は当たっているっぽいか。

 

 …………何故今、神崎を狙う? 確かに緋緋神になるのは厄介だが、星伽さんはしばらくは緋緋神にはならないと言っていたぞ。

 

 お前仮にも武偵だろ? ……分からないな。

 

「なら、私をどうするのかしら?」

 

「どうもしねぇよ。ただ、今は見逃してくれない?」

 

「お断りよ」

 

 でしょうね。そんなのここに来た時点で分かってることだ。

 

「そこを何とか………」

 

「私は武偵よ。依頼という形なら考えなくはないわ」

 

「例えば?」

 

「そうね……」

 

 口パクで『あの子の女装写真は?』と聞いてくる。

 

「嫌に決まってるだろ」

 

 人の尊厳が失われる。それはアウトだ。いくら何でも屋の武偵とはいえ、拒否する権利はある。

 

 お前、いつまでそれ引っ張るんだよ。

 

「えー……いいじゃない。絶対似合うと思うのよね」

 

「全然良くねーよ」

 

 逆にそれでどうしてオーケー貰えるかと思ったのか知りたい。

 

「だったら、この子の代わりに私と戦ってみる? 勝ったら言うこと聞いてあげるわ」

 

「断る」

 

 即答。

 

 お前と戦うなんざ、命いくつあっても足りねぇよ。

 

「そう言わずに――――」

 

 妖艶に、不気味に笑ったと思えば――その一瞬、カナの手が動く。

 

 マズルフラッシュと同時に銃声が鳴り響く。当然、銃は見えない。いつ撃ったのかも分からない。

 

 しかし、俺はその直前に突風を下から上に掬い上げるように繰り出す。

 

「……っ!」

 

 そして、カナから放たれた弾丸は俺の左肩を擦った。烈風で銃口を調製しつつ、体を捻ったから当たり所は悪くない。ほんの少し痛みがするだけだ。

 

 ギャラリーが「まただ!」「いつ撃ったんだ?」「全然見えなかったぞ」「何だよ、あれ……銃撃なのか?」「さっき神崎にも使っていたな!」等と驚いている。安心してくれ、俺も見えないから。

 

「よく避けたわね」

 

「偶然だ」

 

 今の攻撃は簡単に言えば、ただの銃を抜き、撃っただけ。それをHSSの状態で神経を最大限に使い、撃つ。ただ、それだけで、マジで何されたか分からないレベルまで速くなる。

 

 俺は前に似たような距離で受けたことがある。タイミングは何となく覚えていた。だから、ギリギリで防げたわけで、あんなの初見だったら、余裕で死ぬ。

 

 つーか、いきなり撃ってくるなよ。人の話聞けや。

 

 しかしまぁ、カナの銃の種類何だろ? 銃声的に多分、古い型か。まだ俺は銃声でその銃を当てれるほど詳しくないからな。授業で色々と聞かされたけど、如何せん数が多すぎるんだよ。

 

 分かればある程度対処法が練れるかもしれないんだけどな。

 

「今の……ピースメーカー」

 

 神崎は呟く。

 

 ピースメーカー。名称はコルトSAAだったな。19世紀前半に開発された、遠山曰く博物館にも置いてあるような銃。

 

「あら、よく気付いたわね」

 

「そのマズルフラッシュと銃声で分かったわ。そんな骨董品みたいな古銃だから、イマイチ思い出すのに時間がかかったけど」

 

 確かにピースメーカーは今時珍しい回転弾倉式の銃。最近は自動式拳銃を使うのが主流だ。俺もそうだし。

 

「これもこれで素晴らしい銃よ。もっと試してみる?」

 

「上等よ……!」

 

 2人の会話を聞き流す。その間、俺は――無性に苛立っていた。

 

 こちとら対話で穏便に済ませようとしたのによぉ…………。一方的に攻撃されて、やり返さないのは武偵として可笑しいよな?

 

 よし、決めた。

 

 

 ――――せめて1発、こいつを殴る!

 

 

 俺の前に出てまたカナと戦おうとした神崎を力一杯引っ張り、烈風を使う。地面を蹴りだし、加速する。風の勢いを乗せた掌底を頭に繰り出す。

 

「えっ、八幡!?」

 

 神崎は叫ぶが、無視。

 

 カナは手のひらで俺の手首に触れ、力を加える。それだけで攻撃のベクトルは見事に逸らされ、体勢が崩れる。

 

 ――――しかし、初撃が防がれるのは当然と言えば当然。そんなの織り込み済みだ。最初から綺麗に攻撃が決まれば苦労しない。問題は次にどう繋げるか。

 

 左に体勢が崩れた俺は、左足を軸に烈風の勢いを殺さずに回転しつつ、その流れで腰のところにあるナイフを逆手持ちで抜刀する。右足が浮いてて若干バランス悪いけど、回転しながら腹をめがけて斬りつける。

 

 結果は、チッ……と、ナイフの切っ先がカナが着ている武偵高のセーラー服に掠っただけ。ダメージを与えることは至らず。

 

 右足で急ブレーキをかけながら、今度はかなりの近距離(目算1.5mくらい)で、ナイフをカナの顔面に投げつける。完全に武偵法を破りに(殺しに)かかってる攻撃。

 

「……クソが」

 

 ――――ナイフの刃を指で挟んで止めてやがる。白刃取りかよ。

 

 これは予想外。普通に避けるもんだと思っていた。全然体勢崩れてないじゃん。でも、幸いにもナイフをキャッチしたせいで視界は制限されているはず。

 

 俺はそのまま股間を狙って足を振り上げる。人間、誰であろうと急所をやられたら直ぐには動けない。

 

 それに対し、カナは足を折りたたみつつ、バク宙をして避ける。

 

 対応が速すぎんだろ! それなら、着地隙だ。ファイブセブンを抜き、降りる場所を予測して1発撃つ。

 

 ――――が、

 

 キンッ! と、甲高い音をたてて優雅に着地するカナ。

 

 俺のナイフを手に握っている、無傷、加えて体育館の床に新たな傷が2つできていることから考えて…………お前、銃弾斬ったのか!? 

 

 ただでさえ、ファイブセブンの銃弾はそこらの銃より細い銃弾だぞ! ふざけんな、このチーターが! 

 

 そう思いきり叫びたいが、そうも言ってられずに着地した瞬間に烈風を使ったドロップキックを繰り出す。

 

 ――――烈風を使うのに一瞬だけ突風を起こすなら、発声しなくても充分出せるようになってきた。

 

 そのドロップキックをカナは片手で防ぐ。少しだけ後ずさる。

 

 ……どんな形であれ、とりあえず1発は攻撃を入れれた。カナも一旦戦闘は終わりみたいな雰囲気を醸し出している。

 

「さすが、ブラドを殺っただけのことはあるわね」

 

 ナイフを投げ、俺の足元に刺してから感心したように言う。俺はナイフを抜き取り、納刀する。

 

「……何で知ってる?」

 

「見たからよ」

 

「あの場にいたのか?」

 

「違うわ。後で映像を買ったのよ」

 

「……あそこに監視カメラはなかったぞ」

 

「そうね」

 

「どこからだ?」

 

 すると、カナは人差し指を真っ直ぐ上にたてる。

 

 上……空? そこから撮れる物体

と言えば…………マジ?

 

「衛星、か?」

 

「正解」

 

 まさか、そんな所から撮られているとは。

 

「でも、最終的に殺したのは俺じゃない」

 

「1度復活したブラドを殺す寸前まで追いつめたのはあなたよ。あそこまであのブラドを追いつめた人間は教授を除きそういない。しかも、ただの人間のあなたが」

 

「……そうかい」

 

「その映像は、世界中の金持ちやいわゆる裏の人たちが見ているわ。皆大盛り上がりよ。これからのあなたの動向が注目されてるわ」

 

 嫌だ……。多分、遠山も見られてたのか。人間止めてる度で言えば、遠山の方だろ。

 

「お陰であなたに二つ名が付いたのよ。もう既にその名前が定着しているの」

 

「は?」

 

 何だそれ。恥ずかしいわ。

 

「良いじゃない。一部の優秀な武偵には二つ名で呼ばれるもの。しかもいきなりなんて中々ないのよ」

 

「……ちなみに、何て名前だ?」

 

「それは教えません」

 

「何でだよ」

 

 気になるじゃねーか。後、この会話他の奴らに聞こえてないよな……? 周りを見ると、内容は聞こえないが、かなりざわついているので大丈夫か。少し離れている神崎にしか聞こえてないか。

 

「ところで、あなたはどうして私を攻撃してきたの?」

 

「イライラしたから、殴りたかった。つか、カナが戦えって言ってきただろうが」 

 

「そうなのだけれど、素直にそうしてきたから意外だっただけ。それで……まだやるのかしら?」

 

 意外か。それは分かる。

 

「サンドバックになってくれるなら是非ともそうしてほしいがな」

 

「それはお断りするわ。さっきはあなたの攻撃を避けるしかなかったから、今度は私も攻撃するかもしれな……って、あら?」

 

 体育館の入り口に目を向ける。  

 

「……主役のご登場か」

 

「アリア!!」

 

 そこには、息を切らした遠山が走ってきた。おいおい、誰がこのことチクった? 

 

「あ、キンジ。お~い」

 

 ニコニコした笑顔で手を振るカナに対して、遠山は何が何だかと焦った表情。そして、少し離れたとこに神崎もいる。で、カナの近くに俺。これは……あれだな、カオス。

 

 …………帰ろうかな。

 

「どういうことだ? どうして比企谷とカナが戦ったんだ?」

 

 そうなるよね。

 

「ちょっとお邪魔しただけよ」

 

「確かに、マジで邪魔だな」

 

 思わず本音を洩らす。

 

「八幡?」

 

「すみません」

 

 威圧感がスゴいです。お前はレキか。

 

「キンジ、こいつ誰なの? あんたとどんな関係なの!?」

 

 こっちに来た神崎が遠山に問いかける。

 

「それは…………」

 

 言葉が詰まる。まぁ、どう説明すればいいのか分からないよな。

 

 そうこうしていると、俺の肩が叩かれる。当然の如く、相手はカナ。

 

「どうした?」

 

「私はこれで失礼するわ。キンジ、八幡、後で会いましょ。じゃあね~」

 

 欠伸しながら、そう呑気に言い残したカナは強襲科の生徒を掻き分け、帰っていった。

 

「ちょ、カナ!」

 

「説明してよ! あいつは何なの? ねぇ、キンジ!」

 

 …………………え、これ、どないするの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、騒ぎになる前に気配を消して体育館から俺は逃げた。

 

 まぁ、その途中で酔っ払った蘭豹に絡まれた。やるやんけー、みたいな感じで背中を叩かれたけど、めっちゃ痛かった。骨にヒビ入るわ。

 

 たかが30秒程度しか戦ってないが、疲れたわ。肉体より精神がキツかった。

 

 そして、放課後。

 

 部屋に帰る前に、何故このタイミングで神崎を狙うのか詳しく話を聞きたかったから、レキにも頼んでカナを探してた。

 

 その途中――大体3、40分くらい経った頃に神崎にメールで相談したいことがあると呼び出された。

 

 隣にいるレキが、

 

「どうかしましたか?」

 

「神崎から呼び出された」

 

「どんな内容ですか?」

 

「さぁ? 何か相談したいって」

 

「行くのですか?」

 

 どうしようか。

 

「今はアイツをさっさと見つけたいんだがな」

 

「もしかしたら、あの後でカナさんと接触していたかもしれません」

 

「なるほど」 

 

 言われてみれば確かに。

 

「行ってみるべきか……」

 

「私は引き続き探しましょうか?」

 

「いや、今日はいいよ。悪いな、付き合わせて」

 

「問題ありません」

 

「今度何か奢るわ」

 

「それでしたら、また報酬を1つ使うことにします」

 

 あぁ。そういや、あの依頼のやつ、まだ2つ残っていたな。

 

「分かった」

 

 待ち合わせ場所まで道が一緒だったから、のんびり喋りながら向かった。

 

 

 

 待ち合わせ場所――神崎の部屋に着いた。鍵は開けていたらしく、リビングまで歩く。

 

 つーか、部屋めっちゃ広いんですけど! さっすが貴族様。1人で住むにはあまりにもでかいぞ。1度でいいからこんな豪華な部屋に住んでみたい。

 

 で、神崎が見えたけど……デジャヴ。泣き顔でソファに倒れ込んでる。見舞いの時もこんな感じだったな。いかにも不機嫌オーラだ。

 

「座って」

 

 テンション、低っ。

 

 向かいのソファに座る。

 

「今度は何だ?」

 

「ううっ……キンジがぁ…………」

 

 いきなり泣き出す貴族様。え、何?

 

 しばらく落ち着くのを待ってから話を聞く。

 

 あの後、遠山の部屋に行くと、カナがリビングにおり、遠山と口論になった。そこでパートナーを解消させられたーだの、昔の恋人の元に行くのだの、多いに荒れている。

 

 おい、カナそこにいたのかよ! 

 

 それで、そのー…………。

 

「1つ、いいか」

 

「何よ」

 

 う、うーん…………これを言っていいのか。まぁ、誤魔化しながら話すか。

 

「あのな、カナは遠山の親戚だぞ」

 

 すると、神崎はスゴい速さで飛び起き、目を丸くする。

 

「は、はあ!?」

 

 うるさっ。あ、嘘は言ってないぞ。

 

「それ本当?」

 

「おう。追加で言うなら、アイツは遠山の憧れの武偵でもある」

 

 一応これで間違ってないよな?

 

「あ、あああぁぁぁぁ…………」

 

 ソファのマットレスに顔をうずめてからのうめき声。と思えば、また飛び起きる。

 

「だからキンジはあんな態度を。……って、あ! ねぇ、どうしよ、八幡!」

 

「何がだ」  

 

「今度キンジと祭りに行くんだけど!」

 

「デート? そんなの俺に聞くな。思わずリア充爆発しろと呪いをかけたくなる」

 

「何それ! それにデートじゃない!! 警備よ、け、い、び!」

 

「なーにが警備だよ。男女2人で祭りに行くとかデートだろ」

 

「違うの! これは仕事の一環なのよ!」

 

 件のメールを見せてもらった。

 

 

 

『親愛なるアリアへ。カジノ警備の練習がてら、二人っきりで七夕祭りに行かないか? (中略) かわいい浴衣着てこいよ?』

 

 

 

 ……この文面、武藤がふざけて送ったメールだよな。

 

「で、何が問題だ?」

 

 メールはスルーしとく。

 

「あたし一方的にキンジに怒ったままじゃない。このまま祭りだと、その……気まずいのよ」

 

「一方的ではないと思うけどな。話聞く限り、遠山も口数少なかった訳だし」

 

「……どうしよう。ねぇねぇ、どうすれば仲直りできる?」

 

「それこそ知るか」

 

 元ぼっちに聞かないでくれ。

 

「頼れるの八幡しかいないのよぉ!!」

 

 泣き顔ですがるなよ、Sランク…………。

 

「祭りまでに話すのも良し。祭り当日に仲直りするのも良し。好きなの選べ」

 

 これしか選択肢ないだろ。

 

「で、でもでも、キンジ、本当に祭りに来るのかな?」

 

 不安そうな声。

 

「遠山だってお前ときちんと話したいだろうしな。仲直りの機会は逃さないだろ」 

 

「でも! ……うぅ。でも…………」

 

「でもでも煩せぇ。コンパスの尖ってるとこで刺しまくるぞ」

 

「他に武器ないの!?」

 

「そうやって突っ込みできるなら大丈夫だろ」

 

 神崎の突っ込みとは珍しい。コイツの場合、突っ込み(物理)だからな。遠山が言うには。

 

「じゃ、俺帰るぞ」

 

「え、えぇ。迷惑かけてごめんね」

 

「気にするな。カナにヤられた傷さっさと治せよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神崎の部屋から出てから、遠山に連絡する。

 

『比企谷か。どうした?』

 

「カナはどこだ?」

 

『それより、どこでカナを知った?』

 

「イ・ウーでだ」

 

 遠山には入院中、イ・ウーにいたことはざっくり話した。もちろん、シャーロックやカナについては黙った。といっても、前にジャンヌが遠山に話したことと被ってたらしいが。

 

『そうか。そうだよな。……カナがいるのは台場のホテルだ。しばらく寝てる』

 

「寝てる?」

 

『カナのあれがヒステリア・モードってのは知ってるか?』

 

「あぁ。お前の兄貴だよな」

 

『そう。それを使うと、スゴい眠くなるんだよ』

 

 へー。

 

『1回カナになると、10日間は連続でなるんだ。その反動で1日はがっつり寝るんだ』

 

「マジか……」

 

 まぁ、まだ時間はある。カナがこんなに急ぐのはけっこう重大な理由があるはず。

 

 

 

 部屋に戻ると、遠山が1学期の単位が足りないらしく、緊急任務でカジノの警備を受けるらしい。神崎も言ってたな。

 

 その任務だが、4人以上必要。俺に手伝ってほしいらしい。面子は神崎と星伽さん。

 

 その日は暇だし、小遣い稼ぎにちょうどいいから、引き受けた。ついでにレキを誘ったらオーケーだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メインヒロインの出番が少なすぎでは……?
話の展開的に難しいんだけどね。



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来年も。そのまた次も一緒に

えー、少し言われたんですが、ここの八幡がオリ主化しているのでは?という意見を貰いました。

まぁ……そのー…………確かに否定はできません。

こんな銃を当たり前に使う日常を一年も経験すれば、さすがに価値観も変わるから仕方ないことかなー……と自分は考えています。

自分だって頑張って寄せたいのですが、渡航先生に比べると、自分の語彙力は貧相すぎて難しいのです……。

これからも精進いたします。



 ついにやってきた七夕当日。遠山と神崎はまだ仲直りできてない模様。休み時間にクラス覗いても、かなり距離を取ってて、しかも2人は話したいことを考えると、ちょっと笑える。

 

 で、俺はお台場のあるホテルの一室に呼び出された。

 

 目の前にいる人物は遠山金一。カナではなく、遠山の兄の方……自分で何言ってるか分からんが、この人と話すのは実際初めてだ。

 

 連絡先を知っている理子に頼んで、話したいとお願いしてみた。あれから1週間近く経ったが。

 

 完全武装でここにいる。もしもの時は逃げれるように。

 

「それで、本題に入ろうか」

 

「はい。……ええっと、何てお呼びすれば?」

 

「金一で構わん」

 

「では、金一さんで」

 

 ここで遠山からアドバイスを貰っている。金一さんの状態でカナと呼んではいけない。万が一呼んでしまったら、弾が飛んでくるわ、ぶん殴られるわと、酷い目に合うとのお達しだ。

 

 どうやら、カナの時は金一さんの記憶はないが、金一さんはカナの時の記憶があるらしく、とても恥ずかしいらしい。これは遠山のHSSでも当てはまるな。

 

「それでは……何故、このタイミングで神崎を狙ったのですか? 確かに緋緋神になるのは危険ですが、星伽さんは神崎の色金にはカバーみたいなのがあるから完全に乗っ取られないだろう、と言っていました」

 

「そうくると思っていたよ」

 

 金一さんはまず始めに、と前置きをし、

 

「君の言ったそのカバーとやらは殻金(からがね)と呼ばれる」

 

「カラガネ……?」

 

 馴染みのない言葉だ。

 

「なるほど。ではそこから話すとしようか。八幡は緋色の研究を読んだのだろう?」

 

「まぁ……読みました。けど、よく分からない単語とかもありましたね」

 

 星伽さんみたいな専門家じゃねーしな。俺なりに解釈はしたが、理解できなかった部分の方が多い。

 

「色金と人は、繋がることができるのは知っているよな?」

 

「はい」

 

「その繋がりには2種類あってな。『法結び』――所謂、超能力の力を供給する繋がり。もう1つは『心結(ここむす)び』――これは感情の繋がり。質量の多い色金は法も心も過剰に人と繋がる。神崎アリアには驚くほど多くの色金が体に埋められている」

 

「そんなに、ですか?」

 

「あぁ。史上希にみるくらいだ。話を戻す。特に『心結び』。つまり、色金が人の心と繋がりすぎると、人は心が色金と混ざり、しまいには取り憑かれる……乗っ取られてしまう」

 

 この話に当てはまると……俺はどうなる? 俺の心と璃璃神はあの時、繋がったのか? 

 

「大昔に色金関連で緋緋神が発生するという事件が起きた。そして、その事件を反省するように殻金ができた」

 

 それは知らなかった。過去に緋緋神が現れたのは知っていたが、その経緯で殻金が造られたのか。

 

「殻金の効果を簡単に言えば『法結び』だけを結ばせ、『心結び』絶縁することができる代物だ」

 

 おお、スゴいな。そんな便利な物なんだ。

 

「そして、その殻があれば、3年ほどで『法結び』が結ばれ、『心結び』は完全に絶たれる。ちなみに、神崎アリアの体の中に色金がある状態から、まだ3年は経っていない」

 

 金一さんはコーヒーを一旦飲む。

 

「これが殻金の話だ。しかし、今現在、俺が神崎アリアを狙う理由とその話は関係ない」

 

「そうなんですか? 神崎が乗っ取られそうになるからという理由で狙ってない……?」

 

「違う。簡潔に言うと、シャーロックがもうすぐ死ぬのだ」 

 

「………………は?」

 

 それは今までの俺の思考を止めるくらい衝撃的な言葉だった。

 

 アイツが……死ぬ? 何かの病気か、それともどこか治せない怪我をしたのか。

 

「原因は?」

 

「寿命だよ」

 

 なるほど。言われてみれば、納得がいく。確かに不自然に若かったが、そろそろ限界ってことか。色々と無茶をしてきたのだろう。

 

 その流れで神崎を狙うとなると……もしかして――――

 

「シャーロックは神崎をイ・ウーの後継ぎにでも考えてるのか……?」

 

「正解だ」

 

 うっわぁ……マジか。ていうか、あの無法者たちが素直に神崎の言うことを聞くとは思えな…………そうか、だからこその緋緋色金。あれを使って束ねようとアイツは考えているのか。

 

 ということは………。

 

「あなたはイ・ウーを内部分裂させるのが目的ってことすか?」

 

「あぁ」

 

 随分とまぁ、でかい話だな。よくあんな組織を潰そうと思うよ。つーか、その流れだと……。

 

「その過程で神崎を殺す……のか…………」

 

 自然と声が低くなる。怒っている証拠だ。落ち着け。

 

「そのつもりだ。同士討ち(フォーリング・アウト)を誘うためにな」

 

 同士討ち(フォーリング・アウト)。それは巨大な犯罪組織と戦う時、内部分裂させ、敵同士を戦わせ、捕まえやすくする手法。ミスれば大概こっちが死ぬ。

 

「イ・ウーの派閥の主戦派(イグナテイス)は分かるな?」

 

「イ・ウーで蓄えた力を使って世界侵略をしようとする頭イカれてる奴ら」

 

「…………言い方がアレだが、その通りだ。それに対し、純粋に己の力を高めようと精進する者たちを――研鑽派(ダイオ)と呼ぶ。研鑽派は主戦派を良しとしない。だから、もうすぐ死ぬシャーロックの代わりとなる存在を探そうとして――――」

 

「神崎を見つけた」

 

 しかも、シャーロックが神崎に頼めば、その役目を絶対と言っていいほど受けてしまうのがネックだ。

 

 神崎は貴族の家で、除け者扱いされて上手くいってなかったらしい。そこにシャーロックが現れれば……面倒な展開だな。神崎の母親を助けるだなんて言われれば尚更だ。

 

「そこで、俺が導きだし、辿り着いた可能性は2つ。その1つはシャーロックの死と同時期に神崎アリアを抹殺。そうすれば、リーダーを決めるのに空白の期間ができる。もう1つはシャーロックの暗殺だ。それができれば、神崎アリアをイ・ウーに連れていかれる前に逮捕が可能になる」

 

 薄々分かっていたが、この人……本気かよ。

 

「……武偵が、人を殺すのか?」

 

「そう威嚇するな。まだ決めた訳ではない」

 

「は?」

 

「まだ俺は第二の可能性……シャーロックの暗殺に懸けている。もっとも、それにはキンジが必要だがな。アイツの成長具合を確かめてから決める。……そこでだ、八幡。お前はどうするんだ? 今なら、俺を止められるかもしれんぞ」

 

 その言葉で我に返り、ふと考える。

 

 

 ――――何故、俺はそこまでして神崎を死なせたくないのかを。

 

 

 果たして何故だろう?

 

 レキに言われたから? いや、違うな。レキの言い方だと、最悪、神崎を殺してでも緋緋神の出現を阻止するだろう。

 

 それなら、星伽さんに頼まれたから? 確かにそれもあるかもしれないが、多分それだけじゃないはずだ。

 

 最初、不本意で俺は武偵になった。

 

 俺はそこで生活するうちに、人の生死に触れるようになった。銃を使う、刃物を使う。それらは簡単に人を殺せる道具。武偵はそれらを自由に使う代わりに、殺人を禁ずる武偵法9条がある。

 

 でも、それには別の理由もあると思う。何て言うか……人を殺すという選択肢が常にあると、いつか命の価値が薄れていく気がする。もし、大事な人が死んでも、それに対して無関心になってしまうかもしれない。感情がこれっぽっちも動かないかもしれない。

 

 俺にとって、それがとても恐ろしい。

 

 しかし、人はいつか必ず死ぬ。それは自然の摂理だ。だからこそ、俺は自分の納得のいくように死にたい。

 

 そして、神崎がそんなことで死ぬのは…………俺の中では性に合わない。どこまでいっても、俺のエゴだな。

 

  

 

 俺が神崎を死なせたくないのは改めて分かった。だが、今の状況はどうだ? 

 

 ここでイ・ウーを潰せなかったら、もっと多くの人が死ぬかもしれない。それを見過ごすのか? 俺には関係ないだろって言い聞かせるのか? それは断る。だったら、そのためにも金一さんは必要だ。

 

 それならば、

 

「その時に決めます」

 

 金一さんが確かめた結果、神崎が死なないならそれで良し。もし殺そうとするなら、どうにかして止める。

 

 それに――――

 

「あんたを止めるのは、神崎のパートナーだろうしな」

 

 きっと、神崎を殺すと決めた時に、その場には遠山がいるはずだ。それだったら、そこは俺の出る幕じゃない。

 

 というよりね、今のこの状況で遠山の兄をどうこうできるとはとても思えない。

 

 

 

 その後、適当に少し話して、俺はその場を後にした。すぐに台場から七夕祭りの場所に移動する。駅前の広場に……いたいた。

 

「八幡さん」

 

「悪い、待たせた」

 

「気にしません」

 

 いつもの武偵高の制服姿のレキ。ドラグノフは分解してケースにしまって肩に背負ってる。まぁ、俺も武装した制服姿だけど。

 

「にしても、珍しいな。お前から祭りに行きたいって誘ってくるとは」

 

 もし言われなかったら、俺から誘ってみようかとは考えてた。

 

「一度は体験したいと思いました。八幡さんは祭りのご経験は?」

 

「あまり大きな祭りは行かないな。人混み苦手だし。自治体や神社の小さな祭りぐらいかな」

 

 大きい規模の祭りは移動するのがやっとなんだよな。特に欲しいものがないし。基本的に、小さな祭りで晩飯の調達に家族に駆り出されるっていうね。俺と親父で頑張りましたよ。

 

「迷惑ですか?」

 

「いや全く。むしろレキと祭り行けるのは嬉しい」

 

 女子と2人で祭りとか願ってもないです。

 

「そうですか……」

 

 うつむきながら、ちょっと照れてるレキ。可愛い。

 

「ま、いい機会だし楽しむか。でも、俺らは武偵だから何かトラブルがあればそっち優先でいくぞ」 

 

「了解です」

 

 そんなこんなで屋台のある方へと歩く。

 

 スーパーボール掬い、くじ、食べ物系、型抜き、色々な屋台がある。俺も見たことのない屋台も沢山だ。冷やしきゅうりとか初めて見た。……え、おでん? この夏におでん? 買う人いるのか?

 

 途中レキの足が止まる。どうやらある方向を見ているようだ。

 

「ん?」

 

 レキと同じとこを見る。あ、うん。なるほどなるほど。あれは的屋か。

 

「あれは何でしょう?」

 

「的屋と言ってな。店側が用意したおもちゃの銃で景品を狙って落としたり、倒したりしたらそれを貰えるんだよ。大抵は重石とかがあってなかなか落ちないもんなんだがな」

 

 近寄ってみると、うわっ、プレ4あるじゃん。でも、あんなの絶対落とせないだろうな。簡単に落とせたら、的屋はめちゃくちゃ損だし。

 

「八幡さん」

 

 …………うん? レキの雰囲気変わったぞ。これは仕事で一緒になる時に発するオーラ。

 

「あれ、やってみてもいいでしょうか?」

 

 あ、スイッチ入った。

 

「金はやるから全部取ってこい。応援するぞ」

 

 とは言ってみたが、ぶっちゃけ実銃じゃないからさすがに全部は無理だろ…………みたいな気持ちで送り出した。

 

 はい、結果は――――

 

「全部取りました」

 

「「うそーん……」」

 

 俺と的屋の店主の声が重なる。

 

 マジで全部取っちゃったよ。ごめんね、店主。レキが思いの外チートだったんで。

 

 ええっと、景品はプレ4、プレ4のソフト数種、3DSのソフト数種か。気前いいな。取られないように色々細工してたっぽいが、レキには通用しなかったか。…………南無。

 

 他に、アニメや動物のストラップやぬいぐるみが沢山に豚の貯金箱……豚の貯金箱!? まぁいいや。後はフルボトルが数種か。これは意外。フルボトルは嬉しいな。

 

 つっても、ストラップとかは要らないな。俺の知らないやつだし。

 

「景品いるの?」

 

「いりません」

 

 即答するなよ。店主膝をついて項垂れてるから……。これは来年『レキ禁止』みたいな看板あってもおかしくないな。

 

「プレ4とかは?」

 

「あげます」

 

「せっかくだし、レキも遊んでみようぜ」

 

 レキの正確なプレイ見てみたい。FPSとか凄そう。キルレどんぐらいいくだろうか……。

 

「でしたら残しておきます。荷物は八幡さんが持っておいてください」

 

「了解。ストラップとかは?」

 

「いりませ……ん。あれは?」

 

「どうしたって、アイツらか」

 

 少し離れた場所に間宮、火野、佐々木、島のいつもの4人組と一色と留美がいる。だけじゃないな。知らない奴が増えてる。黒髪のツインテールの女子。

 

 皆して祭り楽しんでるな。

 

「留美さんたちにあげてもいいでしょうか?」

 

「いいと思うぞ」

 

 そう言うと、レキは留美たちに近づく。

 

「こんばんは、留美さん」

 

「あ、レキ先輩。どうも。……八幡も」

 

「えっ! レキ先輩と比企谷先輩! ご無沙汰してます」

 

 留美と間宮は対照的だな。

 

「せんぱ~い、こんばんはー」

 

 わたあめを食べながら挨拶する一色。まぁ、一色とは授業で会ってるからわりと適当でも問題ない。逆に懇切丁寧だと困惑する。

 

 等と、適当に火野たちとも話す。相変わらず佐々木と島は俺を睨んでくる。怖い。

 

「ところで、レキ先輩。どうしましたか?」

 

「これあげます」

 

「うわっ……。こんなに沢山も」

 

 留美が驚く。

 

「これ、何なんすか?」

 

「レキが的屋で景品全部取ってな。全部はいらないなーって言っていたら、丁度お前らがいたてな。いらない分は譲るかってなった」

 

 火野の疑問に答える。

 

「あのー……。どちら様でしょうか?」

 

 と、ツインテールの子が俺に話しかけてくる。

 

「比企谷八幡。強襲科(アサルト)だ」

 

「あ、あなたが。お話は伺っております。私は架橋生(アクロス)の乾桜と言います。よろしくお願いします」

 

 一体俺の何を話されているのでしょうか?

 

「よろしく。……なぁ、間宮。架橋生って何だ?」

 

「えーっとですね、警察で研修を受ける武偵高生のことです」

 

 そんな制度もあるのか。なんかチラッと授業でやった気はするな。不勉強でごめん。

 

「ところで、比企谷先輩ってこの前謎の美人武偵と揉めてた人ですか?」

 

 ん? ……あ、カナのことか。

 

「そうなるな」

 

「美人?」

 

 レキが反応する。

 

「カナのこと」

 

「なるほど」

 

 火野が手を挙げ、

 

「私もあかりと遠目で見てましたよ。先輩あの人に一撃入れてましたよね」

 

「まー……あれは不意討ちだからな。真正面から戦ったら、それこそ神崎以上にボコられるわ」

 

 これは紛れもない事実。

 

「よく分かりませんでしたけど、何だかスゴかったです」

 

 と、乾。

 

「そりゃどうも」

 

 コイツらは超能力は知らない感じか。いやまぁ、あんな一瞬で超能力と分かったらそれはそれでスゴいけど。

 

 俺らが話してるその隣では、

 

「では、ありがたく貰います。レキ先輩、ありがとうございます」

 

「はい」

 

 留美とレキ……お互い表情動かないな。

 

「先輩、また手合わせお願いできますか?」

 

「いいぞ。……気が向いたら」

 

「約束ですよ!」

 

 火野が話しかけると、島のヘイトが溜まっている気がして……怖いです。

 

「あ、私も私も!」

 

「その内にな」

 

 間宮……あんまり近づかないで。佐々木の瞳孔が開いているよ。大丈夫、君らのパートナー盗らないから安心して。

 

「あんまり羽目外しまくるなよ」

 

 と、忠告してから一色たちと別れる。またのんびり歩く。

 

 次にスーパーボール掬いでレキと勝負した。1回でどれくらい取れるか。結果は引き分け。互いに全部取った。しかし、かかった時間は圧倒的にレキが早かった。あんな素早くポイを動かせるのかよ……。人間業じゃないぞ、あれ。

 

 興味本意で型抜きをやらせてみると、まぁ高得点ポンポン出すし、ヨーヨー釣りもめっちゃできてし………。

 

 本当にコイツスゲーな。と、思いながらレキをじっと見つめる。

 

「…………」

 

「どうかしましたか?」

 

「ん。何でもない」

 

 来年は祭り荒らしとして畏れられるんじゃなかろうか……と真剣に思う。よし、来年も一緒に行こう。

 

 ………………来年はここにいられるかどうかなんて、全然分からないけどな。

 

 

 

 屋台の飯をそれなりに買って、祭りの外れにある公園のベンチに座る。すっかり夜になり暗くなる。

 

 いやー、トラブルとかはなくて良かった。こういう時のトラブルって大概面倒なものばかり。特に酔っ払いが厄介。酷い時は話通じなくて無理矢理黙らせないといけない。そうすると、次はそのせいで周りが煩くなるからなー。

 

 イベントの警備は強襲科にとってあまり人気のない任務で、それならと俺がよく受けるから、大変さが分かるんだよ。

 

 俺は焼きそば、レキはたこ焼きを食べながら、

 

「今日はどうだった?」

 

「楽しかった……と思います」

 

「それは何より」

 

「八幡さんは?」

 

「めちゃくちゃ楽しかった」

 

 何せ、初めて女子と2人で祭りに行ったからな!

 

「小町さんとは行かないのですか?」

 

「さらっと思考読まないでくれる?」

 

「顔に出ていました」

 

 くっ、俺のポーカーフェイスが崩れたか。裏を返せばそれだけ楽しみにしてたってことだな。 

 

「それで?」

 

「行くとしたら家族でだからな。そもそも妹はカウントしないわ」

 

「なるほど。そういうものですか」

 

「そういうものです」

 

 飯も食べ終わり、ゴミをまとめて近くにあるゴミ箱に捨てる。またベンチに座る。

 

 夜空を見上げながらボーッとしていると、

 

「八幡さん」

 

「ん?」

 

「来年も祭りに行きましょう。2人で」

 

「……あぁ、そうだな。2人で行こうか」

 

「約束ですよ」

 

 さっきは来年があるかどうか分からないとか思ったけど……レキとの約束は守らないとな。

 

「もちろん、約束だ」

 

「えぇ。もし破ったら……覚悟しといてください」

 

「破らねーよ」

 

「それならいいです。……八幡さん」

 

「……っと」

 

 レキが唐突に俺の肩に頭を預ける。 

 

「疲れたか?」

 

「はい。しばらくこのままでいいですか?」

 

「おう」

 

「ありがとうございます」

 

 夜風が吹き、肌寒くなる。レキはさらに体を俺に寄せる。

 

 顔が近い。けっこう恥ずかしいな。

 

「なぁ、レキ」

 

「何でしょうか?」

 

「また祭りに行くためにさ、まずはカジノの警備、頑張ろうぜ」

 

 頭を撫で、そう言葉にする。

 

「…………はい」

 

 レキは頬を緩ませ、精一杯の笑顔を至近距離で見せてくれる。初めて出会った時には考えられない笑顔で。

 

 これからもずっと、2人で祭りに行こう。それだけじゃない。もっと色々な場所で俺たちの足跡を残そう。

 

 きっと……いや、違うな。絶対、楽しいから。頑張って、楽しくするから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この裏でアリアとキンジは仲直りを無事完了し、良い感じのムードになりましたとさ。めでたし、めでたし



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2年 夏休み
カジノにて


 あれからレキと女子寮の前で別れ、部屋の近くまで戻ってきた。

 

 今日は色々あったな。ところで、神崎は遠山と仲直りはできたのか。あの後も相談はけっこうされたし気になるところではある。

 

 まぁ、明日にしよう。とりあえず帰ってシャワーでも浴びたい。

 

 そんなことを考えながら扉を開けると……めっちゃ硝煙の匂いが漂ってる。リビングか。遠山がミスって発砲したのか? いや、アイツに限ってそんなミスはしないしな。

 

 足音を殺してリビングに入る。そこに広がっていた光景は――

 

「は?」

 

 ――――M60マシンガンを手にした星伽さんと物陰に隠れているバニーガール衣装の神崎。床や窓ガラス、テーブルにソファーなどに穴が空いてある、いつもとは変わり果てたリビング。

 

 …………マジすか。予想以上に酷いぞ。泣いていいですか?

 

 神崎は俺に気づいたが、星伽さんはまだ気づいてない。レキから貰った景品を壊さないために星伽さんから離して置く。

 

 瞳孔開いているぞ、星伽さん。どう考えても大和撫子がしていい顔じゃないぞ。その「うふふ…………」って笑い声怖いぞ。さすがヤンデレ。略してさすヤン。

 

 神崎が目で止めてくれと必死で訴えてくるんだけど。ま、止めますか。

 

「星伽さん」

 

「えっ……きゃあ! あ、ひ、比企谷さん!?」

 

 気配を消して星伽さんの背後に立ってから声をかけると、スゴい驚かれた。もうこれは慣れた。そして、遠山とは別の家主が現れたからか、まぁ慌てていらっしゃること。

 

「まず正座」

 

「…………はい」

 

 それだけで星伽さんはM60をゴトンと足元に置き、素直に正座する。

 

「何か言うことは?」

 

「ごめんなさい」

 

 あら、綺麗な土下座。

 

「はぁ……。こうなった状況は予想できるけどさ。どうせ遠山と神崎がイチャコラしてたんだろうよ。で、それを見た星伽さんがキレたって感じか」

 

 全く、これだからリア充は…………ヤレヤレだ。

 

「い、イチャコラだなんてしてないわよ!」

 

「うるさい」

 

 顔を赤くして叫ぶ神崎だが、それなら、何故バニーガールの衣装を着てるの? 何なの? そういうプレイなの? そういうのは俺らがいない場所でしてくれ。気まずい。

 

 帰ったらいるのが巫女装束とバニーガールってなかなかないぞ。

 

 それに神崎、スゴい言いたいんだけど、その胸絶対盛ってるだろ! そうでなきゃ、お前の胸でバニーガールなんて着れないもんな。

 

 ……ちょっと落ち着こう。

 

「別にキレるのはいいよ。そこは好きにしてくれたら。でもさ、キレてM60とか化け物乱射する奴……普通いる?」

 

「ごめんなさい!」

 

「これが住んでるのが遠山だけだったら問題な……いやいや、ありまくるわ。でも、一応俺も住んでるわけだし、そこを少しは考えてほしいな」

 

「……はい」

 

 さすがに悪いと思っているのか素直だな。まぁ、我を見失うなんてことはよくある。俺も昔それで迷惑かけたからな……気持ちは分かる。

 

「とりあえず壊した家具や壁にガラスは弁償してください」

 

「……はい」

 

「次こんなことあったらマジで出禁にするから。あ、当然だが、神崎もだからな!」

 

「はい」

 

「わ、分かったわよ」

 

 蘭豹の体罰コースお見舞するぞ。はい、他力本願。

 

 そもそも女子が男子寮入ってるだけでアウトなんですけどそれは……。その規則はかなり緩いけど。あ、それを言ったら、俺もレキの部屋行くことあるし、どっこいどっこいだな。

 

「それにな、あんまりガツガツいくよりも、適度に距離保ってくれる奴の方が遠山に好かれると思うぞ」

 

 ボソッと呟く。

 

「「……ッ!!」」

 

 その言葉に2人がとても『それマジ!?』みたいな驚いた表情をする。うーん、HSSがあるから、アイツの好みはどうしてもそうなるんだよな。

 

「そ、そうなのね。次から気を付けるわ」

 

 自分の行動を思い返したのかそう言う神崎。

 

「それは初耳です。さっそくキンちゃんに――アイタッ!」

 

 思わず叩く。なんでまた特攻かけようとした。焦りすぎだって。一旦冷静になろう。

 

「今行ったら、多分逆効果になるぞ」

 

「そ、そうですね。正妻は正義。泥棒猫なんかには負けない。大丈夫大丈夫」

 

 何その怖い呪文。

 

「まず、星伽さんは掃除。神崎はさっさと着替える。あと遠山どこ?」

 

 めっちゃ今さらだな。

 

「自分から海に落ちていったわよ。確かにかなり危険だったからね。あたしも危なかったわ。あ、この空き部屋借りるね」

 

 ……え? 自分から落ちたの? その前に頑張って星伽さん止めてよ。全くもー。プリン奢ってもらお。

 

 

 

 

 その後、

 

「なんかアリアと白雪が最近よそよそしいんだけど、何か知らないか?」

 

「…………さぁ? 別にいいんじゃね?」

 

「まぁ、そうだな」

 

 みたいなやり取りがあった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

―――――――

 

――――――

 

―――――

 

 

 

 やってきました夏休み。

 

 学期末にあった武偵ランク考査はそれなりに頑張ったが、結果はBと変わりなかった。今回はAを狙ったが壁は高い。……悔しい。

 

 学科試験で落としたんだよな。前回もそうだった。覚えること多すぎだって。いくらここがバカの武偵高でも、この試験は国家資格だから、まぁ難しいこと。実技はそれなりにできたんがな。

 

 次、頑張ろう。

 

 色金の問題だが、あれから一向に代わり映えしない。衛星からの映像をわざわざ買ってどんな感じかを確認した。

 

 ――――あの黒い立方体や蒼い炎とか何が起こったのかさっぱり分かんねー……。 

 

 セーラが言うには、超能力はイメージが大切。しかし、あの黒い立方体の仕組みが分からないし、イメージのしようがないな。

 

 俺の体を使ったから、何かきっかけがあれば、俺の意識のまま使える可能性がある。それに、璃璃神ともまた話せるかも。

 

 本題に入ろう。

 

 俺は今、遠山が単位不足なために受けた緊急任務――カジノ警備が今日あり、台場に来ている。

 

 日本でカジノが合法化されてから2年。その第1号のカジノが台場にある『ピラミディオン台場』だ。

 

「うおっ……」

 

 その名に違わず、巨大なピラミッド型で全面ガラス張りだ。太陽光を反射してめっさ眩しい。金使ってるなー。

 

 このカジノは、数年前に『どこかの国から漂着した巨大なピラミッド型の投棄物』に都知事がインスピレーションを受けてデザインしたとか。ネット情報。

 

 この任務を受けるにあたって、客の気分を害さないために変装してくれとの希望。

 

 女子(神崎、星伽さん、レキ)はウェイトレスやディーラーか裏方に。遠山は青年IT社長の格好。俺はどこかの成金息子の設定……らしい。

 

 この前の神崎のバニーガール姿はカジノ側から送られてきて、試しに着てみたとのこと。そこを星伽さんに見られ……ああなった。大丈夫、ちゃんと直してくれたから。

 

 向こうから送られた服を着てみると、クッソ高そうなスーツ(防弾仕様)。金が贅沢に使われているブレスレット。これまた高そうな靴と男性用の香水。香水とか使う機会ないぞ。

 

 そんな俺にそぐわない格好で自動ドアを潜り抜けると、噴水のあるエントランスホールだ。レーザー光線で噴水は彩られている。エアコンが効いてて気持ちいい。

 

「おぉ……」

 

 エントランスホールの内装を見て、感嘆の声を漏らす。

 

 初めて来たけど……スゲーな。

 

 なんか水路みたいなプールからバニーガールのウェイトレスが水上バイクで行き来してるよ。えっ、もしかしてここに勤める人水上バイク乗れないとダメなの?

 

 そんな疑問を抱きながらカウンターへと向かう。

 

 そこで予め用意された作り物の札束をカラフルなたくさんのチップに交換してもらった。

 

 今回、怪しまれないためにもこれらを自由に使っていいと言われている。太っ腹すぎて最高だわ。

 

 カジノのルールなんてほとんど知らないけど、その場の雰囲気で楽しむか。いくら貰ったといえど、素人の俺が勝てるとは全く思えない。ちょっとしたゲーム感覚。

 

 にしても……バニーガールが水上バイク乗ってる光景って珍しい。おー、そのまま客に注文をとっている。

 

 辺りを見渡していると、遠山がいた。あ、神崎に軽く叩かれた。……遠山も他の人たちのバニーガール見ていたからか? 別に鼻を伸ばしてたわけじゃないと思うがな。南無三。

 

 さて、適当に見回りながらやってみたいゲームでも探すとするか。

 

 ルールならどれも何となくは分かるけど、配当って言うんだっけ? それが全く分からない。カジノや賭け事なんて触れることのない人生だから仕方ないか。その場のノリに合わせよう。

 

 …………うん? なんか人だかりができてる場所あるな。バニーガールさんが撮影は止めろ的なこと言ってる。トラブルか? これは確かめにいかなきゃ。

 

 近づくとそこにいたのは……半泣きのバニーガールの星伽さんが他のバニーガールさんに救出されていた。

 

 状況は理解した。うん、星伽さんのスタイル+バニーガールの衣装はその……エロいもんね。そりゃ人集まるわ。遠山が向かってるのが見えたし、ここは退散。適材適所。俺が言っても星伽さんは確実に喜ばないのは分かりきってるからな。

 

「さてと、どうするか……」

 

 神崎はともかく、星伽さんはダウン。遠山は星伽さんのフォローでしばらくかかるか。

 

 単位を落とした遠山の評価のためにも少しは真面目に働くか。俺の報酬もかかってることだし。

 

 つーか、レキは真面目に働いてますかね?

 

 レキを探すついでに俺はカジノの独特な空気を周りを堪能しながら、カジノの2階にある――特等ルーレット・フロアに向かった。

 

 この特等フロアの最低掛け金はなんと100万円。

 

 ……狂ってるよね。どこからそんな金がホイホイ出てくるんだよ。めっちゃ知りたいわ。その錬金術俺にも教えてくれ。

 

 で、そんな金持ちしか行けないのがこのフロア。ここは特別なパスがないと賭けに参加できない。見物にも別途料金がかかる。今回、俺はそのパスを借りてるから、係員にお辞儀しながら入る。

 

 そんなフロアだから、まぁ……客はそこまでいないだろうと思っていたが、一角にかなりの人が集まっている。

 

 何か大勝負でもあるのか気になり、動物の剥製やらが複数飾ってある豪華なフロアに近づく。 

 

「…………」

 

 そこには金ボタンのチョッキを来た小柄なディーラーがいた。ていうか、レキだ。

 

 神崎たちはバニーガールだったが、コイツは普通にズボン。レキもそこまで胸ないから見栄を張る神崎とは違……睨まないで。なんでそんなに察知いいんだよ。武偵しか分からないレベルで殺気放たないで。

 

 レキがついているルーレット台にはプレイヤー――どこかの青年が賭けに興じている。

 

「この僕が1時間も経たない内に3500万も負けるなんてね……」

 

 ……………………でしょうね!!

 

 と、力強く叫びたい。

 

 レキから勝とうなんざ何かしらの小細工しないと絶対無理だと思う。

 

「君は運命を司る女神かもしれないね」

 

 女神? ……うーん、女神か。璃巫女だから女神とは言いにくいな。どちらかと言うと、殺し屋に近い存在だぞ。実際、昔はそうしてたらしいし。つーか、レキを口説くな殴るぞ。

 

 後からここに来ていた遠山に聞いたことだが、この青年はマジもんのIT社長で、しょっちゅうタレントとスキャンダルになる有名人。だから、こんなにも人が集まっているわけだ。そういや、俺もテレビで見たことあったわ。

 

 この青年社長様は残り3500万を黒に賭けると興奮気味に叫ぶ。そんなにあるなら、もっと別のことで活かせよ……。というより、まず冷静になれよ。

 

「黒ですね。では、この手球が黒に落ちれば配当は2倍です。よろしいですか」

 

 レキは平常運転の無表情。

 

 しかし、いきなり俺の逆鱗に触れる一言をコイツは言い放つ。

 

「ああ。だが、配当金は要らない。勝ったら――君を貰う」

 

 …………と。

 

 コイツ殺したろか? そう思う前に、俺も俺で――――

 

 

 

「――――あ゛?」

 

 

 

 レキを除くこの場にいる全員が怯む勢いで殺気を放っていたと、後ろから様子を見ていた遠山が言っていた。

 

 ビビった青年社長様が、

 

「何だ、君は!?」

 

「それは俺の台詞だよ。勝手に俺の女に手ぇ出してんじゃねーぞ」

 

 威嚇をしつつ、レキの前に立つ。レキは青年社長様を避けるように俺の後ろに隠れる。

 

 一連の動作でギャラリーも盛り上がっている。俺が奪い返すような構図がか? それとも社長様を応援してるのか?

 

「な、なら、僕が勝てば、彼女は貰うぞ!」

 

「…………何言ってるんだよ」

 

 支離滅裂な発言に呆れて、ここらで俺も冷静になれた。さっきまで感情をコントロールできてなかった。やはりレキみたいに、常時感情を動かさずにいるのはムズいな。

 

 反省だ。校長先生に教わったことを思い出せ。感情は常に一定にコントロールできて、初めて俺の殺気が活きる。

 

 閑話休題。

 

 とはいえ、ここで勝負しないと、目の前のコイツは何しでかすか分かったもんじゃない。暴れられたら困る。一旦、この社長様を落ち着かせるためにも乗ってやるか。

 

 レキに目配せすると、頷きが返ってくる。

 

「いいぞ。お前が黒なら俺は赤にするからな」

 

 イマイチどのくらい賭ければ分からないので、コイツと同じ35枚にする。ここは対等に。

 

 さらっと俺も同じ枚数を出したことで、ギャラリーはさらに騒がしくなる。借り物でゴメンね。なんか、申し訳ない気持ちが募る。

 

「思い上がるなよ、ガキが」

 

 目に見えて怒っているな。おぉ、怖い怖い。蘭豹の1/1000くらい怖い。あれは異常。

 

 さて、赤にするのはいいが、賭ける番号は……八幡の8でいいか。適当、適当。

 

 ディーラー――レキが元の立ち位置に戻り、

 

「これでいいですね。2人目が勝てば配当は36倍です。もう変更はなしですが、よろしいですか」

 

「ああ!」

 

「おう」

 

「……それでは時間です」

 

 遂に、手球が勢いよくルーレットに放り込まれる。一瞬の躊躇いもなかったぞ。

 

 球は機械みたいに綺麗に転がる。

 

 多くの人が行方を見守るなか、球はクルクルと縁を滑り、やがて――――カツンッ、カツンッ、カツカツンッ。と、数字が書いてある仕切り板の上を跳ね始める。

 

 社長様は身を乗り出しながら固唾を飲み込み、緊張している。対する俺は、緊張している……フリをする。

 

 球のスピードもやがて落ちてくる。

 

 カツンッ、カラカラ……カラカラ…………コロンッ。

 

 そのような音をたてて、球は止まった。その場所は――――赤の8番。

 

 うおおおっ!! と、ギャラリーが歓声が大きくなる。その様子とは対照的にレキは淡々と進め、

 

「はいどうぞ」

 

 チップを全部俺の方に渡す。

 

 これいくらになるの? つーか、あれやな、換金は最初からしないつもりだから貰っても意味ないな。ぶっちゃけ少しは欲しいけどなぁ!

 

 社長様は項垂れている。トランプではあるまいし、どう足掻いてもルーレットでイカサマできないと悟ってるんだろう。

 

 ――――ただ、このディーラーが狙ったところに落とせることを除けばの話だがな。

 

「…………」

 

「どうしましたか?」

 

「いや、何でもない」

 

 こんな感じで内心偉そうにしているが、本当に狙えるんだ……。正直半信半疑だったんですけどぉ! お前絶対この職業向いてるぞ。それで俺を養ってくれ、はい冗談です。

 

「ははは……7000万の負けか。さすがに痛いよ。でも、こんなに金を落としてやったんだ。可憐なディーラーさん。せめて君の名前だけでも教えてくれないか?」

 

 おいコラ、ぶっ飛ばすぞ。世の中何でも金で買えるわけないだ……ろ。

 

「……?」

 

 ――――何か、いる。

 

 センサー――超能力の副作用の俺が勝手に名付けたもの――に違和感がする。

 

 そう察するや否や、まだ喚いてる往生際の悪い社長様を無視して、拳銃を抜きすぐに戦闘体勢に入る。

 

「お集まりの皆さんも、お帰りください。良くない風が吹き込んでいます」

 

 レキはギャラリーに語りかける。俺の拳銃を見て、ギャラリーは慌ててその場から逃げていく。

 

 その直前に、並べられた動物の剥製の間からギャラリーを掻き分け――ザッ! と、勢いよく、ある獣がその何かに飛びつく。

 

 名はハイマキ。レキの飼っている狼だ。どうやらコイツは元々ブラドの部下だったが、レキが手なずけた。俺も何度か会ったことある。気に入られてるのかは微妙。ちなみに、バイク並に重い。

 

 で、その何かとは…………人間サイズの化け物、かな。

 

 見た目は、全身真っ黒、上半身裸で腰には茶色の短い布を巻いている。頭部は、なんか犬みたいだ。しかも短い斧も装備している。

 

 って、マジか! 今ハイマキは首を噛みついている。突進の勢いでコイツを地面に倒したが、何もなかったかのように、そのまま起き上がった。

 

 

 その動作はまるで――操り人形みたいだ。

 

 

「……ッ!」

 

 それに対し、猛烈な既視感。あの時のブラドと似ている。

 

 ブラドはパトラとか言ってた。もしかして、そのパトラなのか?

 

 アイツはイ・ウーでも屈指の超能力を使うらしい。もしこの首謀者がパトラとして、目的は? どこにいる?

 

「比企谷!」

 

 そうこう思考を巡らせていたら、遠山もベレッタを構え参戦する。

 

「よう」

 

「あれは何だ?」

 

「俺が知りたい」

 

 ハイマキに当たらないよう、人形の足を撃ってみたが、貫通しただけでダメージを与えれた感じはしない。遠山のベレッタも同様。

 

 この人形は砂でできているのか。撃ったときにそれが分かった。

 

「……マジか」

 

 そして、面倒なことにその人形がノソノソと10数体現れる。

 

「レキ、弾はどのくらいある?」

 

 ドラグノフを組み立てているレキに話す。

 

「10発です」

 

「なるべく温存して」

 

「了解」

 

 指示を受け、レキはドラグノフを銃剣する。

 

 星伽さんに教えてもらったことだが、こういうのはどこか近くで操っている奴がいる。ソイツを仕留めるためにもレキの狙撃が必要。

 

 さーて、どうやって倒す?

 

 これは……広範囲に渡って攻撃は有効か? それだと、俺のファイブセブンは相性悪い。この前の神経断裂弾はもうない。さすがにナイフも厳しいな。短いし。

 

 あれ使ってみるか。実戦は初めてだが。

 

「遠山といると、よく事件に巻き込まれる気がする」

 

「そういう文句はアリアに言ってくれ」

 

「善処する」

 

「確約しろ」

 

「あんたら、聞こえてるわよ!!」

 

「キンちゃん、お待たせしました」

 

 神崎はガバを乱射し、星伽さんは刀を携えやって来た。

 

 全員揃ってきたところで――

 

「戦闘開始だ」

 

 

 

 

 

 

 




更新ペースが上がるかどうかは別として、感想の数とやる気は比例する。だから、感想欲しいな(強欲) 

感想したことない人もどうぞお気楽に。ただ、的外れな批判はご遠慮願います。

誤字の訂正いつもありがとうございます。他にも、疑問点、誤字・脱字などありましたら、報告よろしくお願いします。


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連携……?

 少しだけ、過去の話をしよう。

 

 ブラドと戦ったあの日のこと。

 

 まず最初にナイフが折られてしまった。それから銃で中距離を保ちながら戦った。

 

 しかし、思考を働かせながらだったから、途中弾切れに気付かずにまんまと攻撃を喰らってしまった。

 

 あれは武偵がやってはいけないミス。

 

 その反省を活かし、退院してからナイフより射程のある武器を探していた。もちろん、これからもナイフは使うが。

 

 そこで、神崎が使っていた刀を考えた。けど、実際使ってみると、扱うのがとても難しい。正しい方向に、正しい力で振らないとならない武器。それにミスると、すぐ折れるらしいし、すぐ錆びるから手入れも大変。……俺に刀は正直合わないな。

 

 そこで武偵高の購買でブラブラしていると、ふと見付けた武器がある。それは棒だ。ただの棒。長さは180cmほど。鉄でできている。

 

 棒本体にこれといった特徴はなく、強いて言えば、持ち運びがしやすいように分割で持ち運びができるくらいだ。

 

 別に、封印エネルギーが籠められていたり、「俺は最強だー!」みたいなことを言ったり、釣竿になったり、先端が燃えたり、鉄のようにしなったり、ベイブレードできたりしないからな! 今言ったライダー全部分かれば最高だぞ。

 

 そういやリボルケインってあれ剣じゃくて杖らしいな。あ、サイクロン・メタルは頑張れば再現できるんじゃね?

 

 それはさておき、神崎や不知火、後輩の間宮や火野に一色に手伝ってもらいながら練習した。

 

 2、3週間ほど練習し、それなりには扱えるようにはなってきた。完全に我流だがな。案外、しっくりくる。

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 

 

 そして今、人形が近付いてきてる間に分割していた棒を組み立てる。

 

 今回はカジノ側からの衣装だったから、直接装備はできないから、ショルダーバッグに分割していた棒を取り出す。時間稼ぎにとショルダーバッグを人形に投げつける。

 

 同時に、

 

「皆、気を付けて! この敵の中身に触れると呪われちゃう!」

 

 後ろから星伽さんからの忠告。SSRの専門用語みたいなことを叫んでいる。

 

 ……中身って何だ? あの人形の中に核的な何かがあるのか。

 

伍法緋焔札(ゴホウノヒホムラフダ)――」

 

 星伽さんは、バニーガールの衣装のシッポに手を突っ込み、そこから何枚かの紙切れを撒く。

 

 すると、星伽さんの前方で横一列に滞空し、バッ! と一斉に燃え上がる。

 

 火球になったそれらは、退路を防ぐようにカーブを描き、人形に襲いかかる。

 

 ――――バシュウウウゥゥッッ!!!

 

 紙切れというよりお札が人形にぶつかり、火炎放射みたいに勢いよく炎を浴びせた。

 

 ……えっ、何あれカッコいい。これが噂の星伽さんの超能力か。炎って王道でいいよな。アリババ好きよ。

 

 と思いつつ、組み立て完了させ、棒を構える。

 

 さて、どのくらいダメージ入ったかな? あー……ダメだ。

 

「星伽さん、あれは恐らく火に強いです」

 

 レキの言う通り、それらの炎は人形には効いてない。燃えていてもなお歩いている。

 

 超能力は属性が70以上あって複雑だからな。星伽さんの炎ではあの人形には効果がないのか……。

 

 あ、俺のバッグ燃えた。安物だしいっか。

 

「って、おい」

 

 さっきまで燃えていた人形1体が俺の方に迫り、短い斧を大振りしてくる。

 

 棒で人形の腕を斜めに叩き斧の軌道をズラしながら回避する。そして、羅刹を撃つみたいに烈風で加速して胴体を突く。

 

 魔法が効かないなら、物理攻撃だよな!

 

 吹っ飛ぶには吹っ飛んだが、すぐに立て直し、またこっちに突進してくる。

 

 うーん、さて、どうするか。効いてるかピンとこない。物理攻撃にも耐性あるのか。が、もう1発突くか。

 

 そう決めたその時。

 

 ――――バスバスバスバスバスッ!!

 

 ガバの銃声が鳴り響く。後方確認すると、神崎はギャラリーを飛び越え、連射しながらこっちに来る。

 

 どうやら神崎は避難誘導してたから戦闘に参加するのが遅れたっぽいな。

 

 神崎が放った弾丸の何発かは人形に命中し、その衝撃で人形の身がよじれる。俺はその隙に棒で殴りにかかる。

 

「うらっ!」

 

 3発ほど思いっきり殴り、人形がさらに後ずさり怯んだ瞬間――神崎が、走っている勢いで遠山の肩を借りつつジャンプし、正しく渾身! って感じの飛び蹴りを喰らわせる。

 

 人形は攻撃をマトモに喰らい、踏ん張れずにかなり吹っ飛ぶ。いやいや、お前の蹴りどんだけ威力あるねん…………。

 

 それらを喰らってもなお、立ち上がった人形だが、耐久力が尽きたのか、手足を脱力させ、砂になる。黒い砂――砂鉄かな。

 

 ん? その砂鉄の中から黒い黄金虫みたいなのが出てきて飛んでいる。何じゃありゃ。

 

「アリア、あの虫撃って!」

 

「……っ! えぇ」

 

 星伽さんの指示で神崎はガバで黄金虫を仕留める。おぉ、速い。

 

 残りの人形たちは、様子を見てる段階か? まだ動きが鈍く時間がありそうだから、一旦全員で集まる。

 

「あの虫がさっき言った中身ってことでいい?」

 

「うん」

 

 神崎の問いかけに首肯する星伽さん。

 

「……なぁ、白雪。あれは何なんだ?」

 

「日本ではヒトガタ、式神、土偶、ハニワと呼ばれている超能力で動く操り人形のことだよ」

 

「欧米では、ゴレム、ブードゥーって言われてるわね。というより、キンジ、分かんないで戦ってたの?」

 

 神崎の補則。

 

「悪かったな」

 

「ちなみに、俺もよく分かってなかった」

 

 ある程度は知っていたど、名称とか詳しくないからな。仕方ない、仕方ない。

 

「八幡、アンタもねぇ……」

 

「お叱りは後で受ける。……で、今からどうする?」

 

 ざっと見渡す。人形――ゴレムと呼ぶか。で、天井にゴレムが7体。床にいるのが5体。距離はまだそこそこある。あの1体だけ先攻させてたのか。

 

「そんなの自分から出向くに決まっているじゃない!」 

 

 おい、本当にそれでいくのか。そりゃそうか。セオリー無視大好きな神崎だもんな。

 

「なら、神崎は自由に戦闘。レキは少し下がって狙撃。遠山はレキの護衛を頼む。俺と星伽さんで神崎の援護。虫が出てきたら、それ優先で倒すぞ」

 

「おい比企谷、俺が護衛なのか?」

 

「普段なら問題ないけど、レキとゴレムの距離が近いからな」

 

 確かに神崎に合わせるのは遠山が慣れているだろうが、如何せん場所が狭くてこっちの人数が多いからな。連携がそもそも難しい。

 

「その役目、比企谷じゃなくていいのか?」

 

「俺ももうちょい動きたい」

 

 ついでに、実戦で棒をもっと使ってみたい。

 

「はぁ……分かったよ」

 

 若干呆れながらも了承してくれた。ワガママ言ってゴメンな。

 

「オーケー。決まりね。じゃ、行ってくるわ」

 

 2丁の拳銃を持ったまま、跳躍。シャンデリアに掴まり、ヨイショ、ヨイショとよじ登る。

 

「レキ!」

 

 神崎の呼びかけにレキはシャンデリアを支えている金具を狙撃で片方壊す。そこから回って回って撃って撃って暴れている。

 

 ………おぉ、スゴいスゴい。もう天井のは神崎に任せるか。

 

「星伽さん、俺らは地上のゴレムを」

 

「うん。でも、私の超能力は不利だよ……」 

 

「だったら、その刀でアイツら斬れない?」

 

「そのくらいなら…………」

 

「何体か1つに纏めるからそこで斬ってくれ」

 

「うん」

 

 俺が前衛、星伽さんが後衛で飛び出す。

 

 素早い動きのゴレムを4体、多少なりとバラけているが、突いたり、殴ったりしながら、位置を調整する。

 

 時間は少しかかったが、何とか1カ所に纏める。

 

「烈風――!」

 

 ゴレムが纏まっている場所を中心に竜巻っぽい風を起こし拘束する。

 

「星伽さん」

 

星伽(ほとぎ)候天流(そうてんりゅう)――」

 

 大きく息を吸い込み。

 

緋緋星伽神(ヒヒホトギガミ)斬環(ザンカン)――!!」

 

 という声に続けて、抜刀する。俺が烈風を解除するのと同時に、ゴレムの横を瞬時に駆けぬけ――緋色の光を放ちながら一閃。見事にゴレム4体の胴体を斬った。

 

 しかし、その衝撃で星伽さんの刀が折れた。マジか。

 

「もう! イロカネアヤメじゃないから……」

 

 何やら星伽さんもそのことに文句を垂れ流している。へー、普段の刀じゃないんだ。手入れの途中とか?

 

 それよりも、中身の虫だ。崩れ落ちた砂鉄の中から飛んできた虫を、星伽さんに当てないように俺のナイフ、レキの狙撃、で片付ける。

 

 そこで、気付く。

 

「……チッ!」

 

 ヤバい。地上の1体がレキたちの方に走っている。止めなきゃ。

 

 と思いきや――――ガシャアァァン! と、神崎が乗っていたシャンデリアの片方の金具をレキの狙撃で壊し、ゴレムの真上に落とした。

 

 これは……虫ごと潰されたな。気にしてなかったけど、天井のゴレムを全部撃ち落としている。…………うわぁ、神崎強い。さすがはSランク。

 

 落ちてきたゴレムをレキが狙撃し、近くにいるのは遠山が膝を撃って倒している。

 

 さっき遠山の射撃はあんまり効いてなかったが、神崎が落として弱まっているところで撃ったのか、個体差があるのか。虫もきちんと処理している。

 

 残り5体。ここで、その内の2体が窓ガラスを突き破り、逃走を始める。

 

 戦力分散か、客狙いか、それともゴレムを操っている奴への誘導か? どちらせよ、放っておけない。

 

 ここは俺が追うか……と考えたが。

 

「コラ、待ちなさい! せっかく客を逃がしたのにこれじゃ危ないわね。キンジ、追いかけるわよ」

 

「分かった。スマン、後は頼む!」

 

 遠山と神崎はその2体を追い、この場から離脱した。

 

 まぁ、あの2人なら大丈夫か。ジャンヌ曰く化け物コンビらしいしな。

 

「頼まれたからには、さっさと残り倒そうか」

 

「そうですね」

 

「えぇ」

 

「星伽さんは頼りないかもしれんが、とりあえずナイフ渡すわ。レキ、お前は遠山たちの援護……を…………」

 

 そう指示を飛ばしていると――

 

「えっ、これは……?」

 

 星伽さんが呟く。

 

 

 

 ――――床に散らばっていた砂鉄が1カ所に集まり、3体のゴレムも砂鉄に戻る。そこから、全部の砂鉄が集合し…………1体の全長約4m強のゴレムに姿が変わる。

 

 

 

「「「……………」」」

 

 3人、絶句。いや、レキは元から静かだから分からないな。

 

 いや、デケぇよ。

 

 そのゴレムは天井にぶつかるギリギリの大きさ。よくゲームで出てくるゴーレムみたいな風貌をしているんですけど。コイツはもうゴーレムって呼ぶか。

 

 では、一言だけ言わせてくれ。

 

「戦隊もんのお約束か!!」

 

 俺の突っ込みもむなしく、ゴーレムは俺めがけてそのデカい拳を振り下ろしてくる。

 

 それを何とか避け、ゴーレムの拳は勢い余って床を殴る。床がめっちゃ抉れてる。コイツ……もしかしたらブラド並のパワーだな。

 

 その隙にレキが銃剣で刺し、星伽さんが炎で攻撃するが、それらには何のアクションも見せずに――また俺を殴ってくる。

 

「くっ!」

 

 回避の直後で体勢が整わず、棒で攻撃を受け流そうとするが、耐えきれずに吹っ飛ばされる。

 

「――は?」

 

 俺が思った以上に力があり、一気に端まで10m近く転がる。

 

「あぁ、クッソが。いってーな……」

 

 ………棒で衝撃吸収してなかったらヤバかったな。それに何とか首は守れた。ところで、俺の人生難易度高すぎない? 調整ミスってるよ?

 

 ヤバい、棒はどこかに落として手元にない。

 

「八幡さん!」

 

「比企谷さん!」

 

 レキが頭部を撃つが、やっぱりレキには反応を見せてくれない。星伽さんに腕を掴まれ、コイツからは離れることに成功する。

 

「ハァ、助かった」

 

「そこはお互い様だよ」

 

 こっわ。星伽さんに感謝。

 

 …………で、このゴーレムが、俺しか狙ってないことが嫌でも分かる。……本当に嫌だな。

 

 とりあえず、やることは決まったかな。

 

「レキ、遠山たちの援護を。星伽さんはレキの護衛をお願い」

 

「八幡さんは?」

 

「逃げる」

 

 それだけ言い残し、このお高い金持ち御用達のフロアの門めがけて走る。

 

 ああダメだ。ダメージ残ってるから全力で走れない。……これは中の人並に遅いぞ(高校生のとき50m8秒後半のレベル)。

 

 案の定、ゴーレムも追いかけてくる。

 

 どこ行こうか迷ったけど、1階のフロアに海と繋がった水路がある。あれは噴水と繋がっているはずだ。砂鉄でも砂は砂だし、水かければどうにかなる…………と願いたい!!

 

 2階のフロアから1階のフロアまでの階段まで少し距離がある。そこまで全力で走る。

 

 センサーのおかげで後ろ確認しなくても位置は分かる。狭い廊下だとそこデカいゴーレムの体躯ではキツいだろ。攻撃はない……よね?

 

 そう思ったのも束の間、後ろにいるから具体的にな分からないけど、ゴーレムの何かが変わった。

 

 ――――ゾクッ。

 

 突如背筋に寒気が走り、咄嗟にしゃがむ。

 

 すると。

 

 

 ガリガリガリガリッッ!!!

 

 

 横の壁の両側が削れる。削れているっていうか、抉れている。……ちょうど俺の首の位置の。

 

 チラッと見てみると、ゴーレムの腕を部分が鋭利な刃物みたいに変化している。刃物みたいな腕は、さっきと違い短い。それを横に振ったのか。

 

 オマケに廊下に収まるサイズに変わっている。自在に大きさを変えれるのか。材料砂鉄だもんな。そうだよな。もしかして……レールガン?

 

 狭い廊下という俺のアドバンテージが一瞬で消え去った。

 

 これはあれだ。

 

 

 ……………ムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリ。

 

 

「烈風!」

 

 最大の風力――あれから力も上昇し。およそ22m/sでゴーレムを飛ばそうとする。………が、少し後退するだけだ。足をスパイク状にして支えているのが見える。

 

 あぁ、クソ! せめて手榴弾があれば……。無い物ねだりしても仕方ない。とりあえず水路まで目指そう。

 

 もう1回走ろうと思ったその時。

 

『なるほど、セーラほどの力はないようぢゃ。その程度では、妾の人形を飛ばせるわけないの』

 

 …………んん?

 

 どこから若いけど古めかい話し方の女性の声が聞こえ、思わず足を止める。

 

 廊下にあるスピーカー……とかではないな。だったら、その俺と同じタイミングで止まったゴーレムからか? 

 

「えーっと、どちら様でしょう?」

 

 一応、ゴーレムに話しかける。

 

『パトラぢゃ。この名前を覚えておくがいい』

 

 その名前、確か。

 

「イ・ウーのエジプト女か」

 

 ジャンヌ曰く、世界最高の超能力使い。イ・ウーの元No.2。実力はあのブラドよりも上らしい。そして、主戦派。世界征服を目論んでるとか。

 

 にしても、この名前最近聞いたような……? あっ、そうだ。

 

「ブラドに何かしたパトラって奴が、もしかしてお前か? 呪いって言ってたような……」

 

『そうぢゃ、そうぢゃ。……なるほど、お主がブラドを追い詰めておったな』

 

「そりゃどうも」

 

『呪いについてだな? せっかくだ、教えてあげよう。今、妾は気分が良い。ブラドにかけた呪いはの2つある。アイツには……そうだな、簡単に言うと、お主が倒したのは、アイツの真の姿ではないのぢゃよ』

 

「あの獣みたいな姿のことか?」

 

『うむ。お主が倒した姿が第2態。所謂、鬼ぢゃな。しかし、第3態という真の姿があの一族にはあるのぢゃ。それが実に厄介でなぁ。それを封印した呪いと、ブラドが死ぬときに目の前の生きてる物体を破壊するという呪いをかけたのぢゃ』

 

 ほう。つまり、あれよりもう1段階上があったのか。呪いをかけてくれてありがとう、パトラ。でも、もう1つのせいで俺死にかけたからな? それは絶許。

 

 それと気になることを言ったな。あの一族? まだブラドには仲間がいるのか? 一族って言うには、家族とかか。

 

 つーか、それより。

 

「やけに饒舌だな。いいのか? そんなこと俺に教えて」

 

『知ったところで、今のお主程度では何も変わらんだろう』

 

「あ、そうですか」

 

 それもそうだな。呪いとか言われても俺が使えるわけないし、関係ないか。

 

『ほう、お主が首に提げているものが璃璃色金だな?』

 

「まぁ、そうですけど」

 

『いいのぉ。欲しいな』

 

 ……なんか機嫌よさそうだし、もう少し聞いてみよう。

 

「なぁ、パトラさん。それはそうと、さっきからどうして俺を狙うんだ?」

 

 答えてくれるか?

 

『それこそ簡単な話、少し考えれば分かること。お主が色金を持っているから。それに加え、色金の力を使ったからであろう。比企谷八幡……いや、予測不能(イレギュラー)

 

「…………何それ?」

 

 聞き慣れない単語がでたぞ。

 

『お主の裏で呼ばれているアダ名ぢゃ』

 

 それマジ?

 

『無敗を誇ったブラドを誰が殺せるだろうか。皆そう思っていた。ぢゃが、今まで無名どころではない――いきなりぽっと出のお主がブラドを殺したではないか。しかも世にも珍しい色金の力を使って。誰も予想なんてしていなかった。故に予測不能』

 

 パトラは長々と語ってくれたが…………はっきり言って恥ずかしい。カナが言ってたアダ名ってのはそれか。

 

 誰だよ、そんな痛い名前付けた奴は。恥ずかしい。ソイツも絶許だ。もし分かったら全身全霊の羅刹をお見舞いしてやるからな。覚悟しとけよ。

 

 というよりさ、ブラド殺したのって俺ではなくて璃璃神の方なんだよなぁ。おまけに材木座が創ってくれた銃弾なかったら到底ムリだったし。それを俺の力とか言われても……あんまり納得いかねぇな。

 

 端から見ればそんな細かいとこまで分からないもんだと、勝手に想像してみる。

 

 まぁ、そんな名前知ってる奴らなんてごく一部だけだろうし気にしない方針でいくか。

 

「それは分かった。でも、あれだな、今の俺のやることは変わらない」

 

『ほう……それは?』

 

「んなもん、逃げるに決まってるだろ」

 

 背を向け全速力で再びダッシュ!! まだまだ回復してなくて遅いけどな。

 

『あ、コラ! 全く、カッコつけおって』

 

 パトラがどこにいるか分からない以上、遠山たちにさっさと見付けてもらうのを願うしかないか。早くしてください、頼みます。……多分近くにいるよね? いなかったら詰みます。マサラタウンにさよならバイバイしちゃうぞ。

 

 

 それから走った。必死に走った。横腹痛いわ。それより、全身痛いわ。まださっきのダメージ残ってるんだよ。

 

 廊下を駆け抜け、階段を降りてる最中に気付いたが……やけにゴーレムの動きが単調になってきている。

 

「…………?」

 

 さっきまで形を変えたり、ゴーレムの大きさを変えたりと色々していた。が、途中から4mくらいの巨体に戻り、通りにくそうにただただ直線で俺を追いかけているだけになっている。

 

 たまに攻撃してくるが、まだギリギリ何とかなるレベル。おまけに直線的で避けやすさすらある。

 

 さっきまでそんなことなかったぞ。可笑しいな、パトラも話しかけてこない。

 

 …………何かあったか?

 

 そう思いつつも一気に跳び、階段を降りた。受け身を取りつつ転がりながら距離を取る。

 

「チッ!」

 

 が、ヤバい。

 

 俺が飛び降りたと同時に、ゴーレムは同じく一気に階段を飛び降り、そのまま真っ直ぐ突っ込んできた。

 

 厄介なことに廊下を抜けてスピードが増した。その勢いで殴ろうとしている。相変わらず動き自体単調だが、スピードは変わらずメチャクチャ速い。

 

 今から回避は……ムリだ、間に合わない!

 

 さっきは衝撃を受け止めてくれた棒もない。あんなの喰らったら余裕で死ぬぞ。

 

 どうする――――!?

 

 

 

「……ッ!」

 

 

 

 その限りない一瞬、俺は周りがスローになった感覚に陥る。初めての感覚。

 

 …………まるで、走馬灯を見ているみたいだ。

 

 走馬灯。自分が死にそうになる時に見られるというアレか。

 

 自分が死ぬ直前に人が走馬灯を見る理由の1つに、今まで生きた経験や記憶の中から“死”を回避する方法を探すらしい。そう言われている。

 

 ――――思考が、加速する。

 

 パワーでは絶対に勝てない。それはさっきの攻撃で理解している。ならば、力なき者はどうする? どうすればいい? 

 

 

  

 俺の答えは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………これ、弁償かな」

 

 ロビーにある綺麗な噴水が壊れ、粉々になった。なぜなら、ゴーレムが勢いよく突っ込んだからだ。

 

 結論から言えば、ゴーレムを投げた。豪快にぶん投げた。

 

 別にただ力任せに投げたわけではないぞ。ゴーレムが殴ってきた勢いを利用して、力に抗わず、受け流すように投げただけ。

 

 あの一瞬、頭に思いついたのは去年に蘭豹の戦った記憶。俺は、どうやって……手を抜いていたとしても、あの化け物と渡り合えたか。

 

 自分からは手を出さずに何とか動きを予測して攻撃をいなし続けた。これを利用しようとした。

 

 で、投げた先は運悪くロビーにある噴水だった。

 

 けっこう丈夫そうに見えるけど、ゴーレムの勢いがありすぎたのか……まぁ綺麗に壊れたこと。弁償したくねぇ。

 

 幸いにも、客やカジノの店員は避難していて、人的被害はなかった。

 

 さてと、ゴーレムはどうなった?

 

 パトラのゴレムは一定の衝撃を与えれば、耐久値がなくなって崩れることが分かった。俺のファイブセブンではあまりその衝撃を与えられなかったのだろうな。貫通特化だしよ。

 

 だから、水でもぶっかけて攻撃を通りやすくしたかった。まぁ、これでゴーレムが壊れりゃ万々歳だがな。

 

「はぁ……めんど」

 

 が、立ち上がってきた。それでも、ところどころ欠けて崩れてきてはいる。

 

 ダメージはちゃんと入ってる。もう一押しか。これでノーダメだったらさすがに匙投げてたわ。

 

 うーん。つっても、武器がねぇな。棒は2階で落としたし、ナイフは星伽さんに渡したし。……仕方ない、素手でいくか。

 

 もう後手に回るのは終わりだ。今度は俺から仕掛ける。

 

「ふー……」

 

 大きく呼吸をして気分を落ち着かせる。その場をゆっくりと歩き、距離を詰める。走るほど体力やら回復してないしな。

 

 ゴーレムの射程距離に近づいたところで向こうもまた殴りかかってくる……が、もうコイツのスピードにも慣れた。それに加え、コイツは手負いだ。さっきより遅い。

 

 烈風を使いながら冷静に攻撃を避けて、懐に潜り込む。

 

「――――羅刹」

 

 烈風を全開。その追い風に乗る。衝撃を一点に集中させるように放った打撃はゴーレムの腹部に命中する。

 

 パラパラ…………と、ゴーレムは完全に崩れ落ちた。砂鉄が舞うわ舞うわ。鬱陶しい。中の虫たちも生気を失ったように動いていない。

 

 羅刹といっても、これは何てことのない普通の打撃だけど。本来の羅刹人の心臓を無理矢理止める技だしな。むしろ羅刹を使う機会がないまである。そりゃ殺人技なんかそんなポンポン使えないわ。

 

 ……今回は俺の勝利かな? ヒヤッとする場面はけっこうあったが、どうにかなって良かった。わりと死にかけたもしたが。毎回こんなのばっかりだなぁ。

 

 そう安心したのも束の間。

 

『キンイチ……妾を使ったな? 好いてもおらぬクセして』

 

 砂鉄の中からそんなパトラの声が聞こえた。パトラとゴーレムはまだ繋がっていたのか? よく分からん仕組みだな。

 

 というより……マジか。パトラの近くに金一さんいるのか? どうして? つーか、パトラどこだ? 神崎と遠山はどうなっている? 

 

 分からないことだらけだ。疑問が止まらない。

 

 とにかく、こうしちゃいられない。とりあえずは遠山たちのもとに向かうか。

 

「ったく、次から次へと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




えー……だいぶ期間が空きました
正直言って、リアルが大変なんです。何か資格が欲しくて、便利と聞く簿記の資格を取ろう!と、思い勉強中です。最初の方はまだ分かるけど、決算がムズい



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終わりとは何かが始まる合図


やはりLiSAさんのライブは素晴らしい
大坂、楽しかった。まさか一階席の10列目未満という良い席で見れるとは思いもしなかったです(*´∀`)




「八幡さん」

 

 ゴーレムも無事倒した? ので、外に出ようとしたら、レキに呼び止められる。星伽さんも一緒だ。

 

「遠山たちは?」

 

「そのことですが」

 

「アリアが……あのパトラに狙撃されたの。それで海に落ちて」

 

 星伽さんの補足に驚く。

 

「マジか……」

 

 アイツ、狙撃までできたのか。だから、途中で狙撃に神経使ったからゴーレムの動きが単調になったのか。

 

 ん? 何か違和感が……?

 

 パトラって、さっき色金を欲しいって俺に言ったよな。それにしては、俺の璃璃色金には執着してなかった。

 

 ――――つまり、本当の目的は俺の色金ではなく……神崎の体の中にある色金ってことなのか?

 

「……判断ミスった」

 

 背筋が寒くなる。

 

 最初からパトラは俺なんかどうでもよくて、神崎狙いだった。俺の色金は奪えたらいいな程度だったに違いない。

 

 それを差し引いても疑問が残る。確かに俺の体は一度色金の使った。だから、パトラは俺狙いでゴーレムを差し向けたはずだと考えた。戦闘力化け物の神崎よりも俺の方が絶好のカモだと思う。

 

 俺と神崎の色金の違いは何だ?

 

 もしかして………いや、違う。根本的な話がズレている。

 

 あの日の台場で、神崎がイ・ウーの次期リーダーになるかもしれないから、狙っている奴が多いと金一さん言ってた。

 

 特に世界征服とか簡単に目論む主戦派がヤバいって話なのに。パトラはその筆頭。

 

 クッソが! 神崎を前線に突っ込ませたらいけなかった。敵がパトラって時点ですぐに気付けよ。自分のことで頭一杯になりすぎていた。

 

「比企谷さん、今は外に」

 

 星伽さんの呼び掛けで思考を打ち止めにする。

 

 そうだ、今は遠山たちの援護を。金一さんが味方かも分からない。最悪……敵だ。そうだと余計に神崎の命が危ない。

 

「そうだな」

 

 外に出てしばらく走り、遠山たちがいる場所に向かう。日射しが強いな。お、ようやく見えてきた。目算100mほど離れている。けっこう遠いな。

 

「何あれ」

 

 で、そこには……予想外の物体が海に浮かんでいた。

 

 船には船なんだが、明らか現代の船ではない。異形な船。金銀で飾られた船体は細長い。L字に湾曲した船首と船尾は天に向かって伸びている。

 

 しかも、船に宝石がたくさん飾ってある。スゴい豪華だ。それ以外の特徴は甲板には船室があるくらいか。売るぞ。

 

 その船首にいるのおかっぱ頭の女がパトラ。イ・ウーでも見覚えがある。やけにカナと一緒にいた。

 

 黄金の冠被ってるし。他にも体に色々と黄金の飾りがある。

 

 しかし、注目するべきはそこじゃない。金一さんとパトラが睨み合っている。何言ってるか聞こえないな。

 

「……金一さん?」

 

 冷や汗を流す星伽さん。見据えている人物はパトラではなく、金一さんなのか? そうか、遠山と星伽さんは幼馴染みらしいし、兄の方も知ってて当然。

 

 この雰囲気……間違いない。今の金一さんはHSSだ。初めて会ったあの日とは纏ってるオーラが全然違う。かなり離れているのに気圧されそうな圧倒的なプレッシャーを放っている。星伽さんはHSSを知らない様子だが。

 

 遠山は……いた。水上バイクに乗り忙しなく動いている。神崎は無事なのか? 何がどうなっている?

 

「レキ、残弾は?」

 

「ありません」

 

「そうか」

 

 それなら仕方ない。元々こうなるなんて誰も想像ついてないもんな。レキなら大概のことはすぐに片付けられるし。今回が異常なだけ。

 

 正直、金一さんは怖いけど、やるしかないよな。

 

「じゃ、ちょっと行ってくるわ」

 

「えっ、行くって!?」

 

 星伽さんの声を無視して海岸へと駆ける。そして、ギリギリのところで――ジャンプ!

 

「飛翔」

 

 風のクッションで数回海の上を跳ぶ。目指すは遠山たちのいる方へ。

 

 こうやってただ移動するだけならある程度はできるようになっていた。戦闘時と組み合わせるのはまだ上手くいかない。

 

 あー……ダメだ。さっきまで超能力使いすぎて正直片道分しか跳べないな。帰りは頑張って泳ごう。

 

 っと、10m切ったところでパトラも俺に気付いたか。金一さんはとっくに気付いてたが。

 

 状況はよく分からないが、俺ら側がピンチってのはよく理解できる。だったら――予測不能(イレギュラー)らしく少しでも場を掻き回してやる。

 

「ほう、お主も来たか」

 

「八幡?」

 

「比企谷!?」

 

 空中にいる俺に対して、三者それぞれ反応を見せる。パトラは興味深そうに。金一さんは何故か怒りの表情が見える。遠山は単に驚いている。遠山って俺の超能力(ステルス)知ってたっけ? まぁ、いいや。

 

 パトラのよく分からない船まで跳び、空中でファイブセブンをフルオートに切り替え一応パトラの足狙いでマガジンの半分バラまく。

 

 空中+安定しない姿勢で撃ったから全然当たらないわ。それでも何発かはパトラの足に当たりそうだったけど、明らかおかしい場所に着弾する。……何かしらの超能力を使ったのか全部逸らされたな。   

 

 その流れで船首に着地。真正面にパトラ、横には金一さん。2人の睨みやらがめっちゃ怖い。

 

「先ほどはお世話になりました。パトラさん」 

 

 それを表情に出さずに嫌みったらしく言う。……強気でいけ。

 

「あのゴレムを倒したか。まぁ、途中から操作が面倒になったから、自動にしたからのぉ。そのくらい当然か」

 

 わりと危なかったけどな?

 

「八幡。何しに来た?」

 

 ………こっわ。遠くからでもオーラがヤバかったのに、近くにいると改めて威圧感半端ない。やっぱり怒ってる? 

 

「金一さんこそ、第二の可能性はどうしたんです?」

 

 シャーロックの暗殺は諦めたのか?

 

「アイツらの実力がこの程度ではな」

 

 否定的。てことは、神崎の命が危ない。金一さんも敵になるのか。いや、どちらにせよ今も神崎の命は危ないな。さっさとパトラをどうにかしないと。

 

「それより、質問に答えろ」

 

「何しにって……そりゃパトラを追い返すためですよ」

 

「お前にできるわけないだろう」

 

 そう真正面から否定されるとは……。それが今の実力だと突きつけられる。

 

「キンイチの言う通りぢゃ。お主が妾を追い返す? 笑わせてくれるの。あまり勝手なことを言うのなら……殺すぞ?」

 

「……ッ!」

 

 そのプレッシャーに一瞬気圧される。これがイ・ウーのNo.2か。

 

「無用な殺しはするな、パトラ」

 

 金一さんはパトラに向き直る。

 

「その教授の言葉を守らないと、お前はイ・ウーを退学したままだぞ。あそこに戻りたいのだろ? だったら――」

 

 その言葉をパトラは遮り叫ぶ。

 

「妾は殺したいときに殺す! ぢゃないと面白うない!」

 

「何度も言わせるな。そうワガママだから教授に退学を言い渡されたということを分かれ。……しかし、ピラミッドのあるここでお前と戦うのは賢明ではない」

 

「妾もそのお前とは戦いたくない。勝てるは勝てるが、妾も無傷では済まないぢゃろうからな。今は大事な時期……むぅ、八幡。何をする?」

 

 話してる途中に1発肩に向けて撃った。また変に逸れて当たらなかったか。弾は海の彼方へと飛んでいった。

 

 …………なぁ、パトラ。何て言った? 殺したい時に、殺す?

 

「その発言にイラついてな。……ぶっ飛ばす」

 

 内心怒っていても冷静を装い話す。感情をコントロールしろ。体力も少しは回復はしてきた。

 

「あんなゴレム程度に苦戦していた程度の力しかないのに。出来もしないことをペラペラとよう喋るのぅ」

 

 愉快そうに笑う。

 

「いっそのこと、ここでお主も殺そうか? 生け贄には充分だろう。そうぢゃ、そうぢゃ。それとも、レキを拐おうか。あれは良い。一生、妾の手元に置くとしよう」

 

 その言葉に、過剰に反応してしまう。

 

 ――言ってはいけないラインを……踏み越えたぞ。

 

「覚悟はいいか?」

 

「何のぢゃ?」

 

「お前がぶっ飛ばされる覚悟をな」

 

 

 ――――殺気、全開。

 

 

 金一さんのHSSみたいな場を支配するような圧とは違う…………これからお前を殺す。そう宣言するように睨む。

 

 1年の夏休み前と同じ……いや、それ以上の殺気を放つ。だが、あの時とは違う。

 

 その状態で、ゆっくり歩を進める。

 

「ふむ、中々の殺気ぢゃな。ま、その程度では妾は……ッ!?」

 

 そして、その殺気を――完全に消す。

 

 同時に、手に持っていたファイブセブンを真上に投げる。それに釣られ、一瞬、パトラの視線は俺から逸れた。

 

 パトラの言葉が途切れた頃には、俺は懐に迫っていた。姿勢を低くし、腹に狙いを定める。

 

 今まで、何回も繰り返してきたこの動き。

 

「ほう」

 

 金一さんの呟きを他所に、力を一点に集中させるように殴る。

 

 ――――が、しかし。

 

「……は?」

 

 確かに当たる直前、見えない何かに俺の拳は遮られた。鉄みたいな堅い物体を殴ったようではなく、これ以上手を伸ばしても何も触れることができない……そんな感覚。

 

「ふふっ。今のは中々肝を冷やしたぞ。実に鍛練された、素晴らしい攻撃であった。ちゃが、妾には届かない」

 

 パトラは俺を見下ろす。まるで俺ごときでに敵うはずもないと言わんばかりの笑みを浮かべてくる。

 

「ほれ、妾に寄るな」

 

 その一言だけで、訳分からない力で俺は吹っ飛ばされる。

 

「くっ……」

 

 決して大きくはない船から落ちるのだけは堪えた。

 

 何だよ、その力は………。今出来る最大限の動きをしたのに、アイツは全く底を見せない。

 

 どうする? 今の俺に他の選択肢はあるのか? 早くしないと撃たれた神崎がヤバい。遠山も水上バイクで必死に探しているけど、まだ見つけれてない。

 

「八幡にしては、よくやった方だ」

 

 金一さんに声をかけられる。

 

「パトラの近くにピラミッド型の物体があると、無限に超能力を使える。それが世界最強の魔女と呼ばれる所以だ」

 

 …………おい、それこそマジか。要するに、俺の手持ちがナイフだとしたら、パトラは戦車やロケラン何でもありってことかよ。マジでチートじゃねーか。

 

「その通り。しかしまぁ、妾は苛ついた。お主も妾の元へ連れていこう。気難しい璃璃の力を引き出せたのは何故か、じっくり調べたいのでな」

 

 初めて手に入れた玩具を試すように無邪気な表情を見せる。

 

「お断りするに決まってるだろ」

 

 パトラに吹っ飛ばされた時に回収しておいたファイブセブンを構え、威嚇する。

 

「これほど力の差を見せたのにのぉ」

 

 例え俺が弱かろうと、それだけは断る。俺は死ねない。レキが言うには、俺の死因はもう決まっているんでな。その約束を守る為にも……生きたい。

 

 そう決意した時だった。

 

「何?」

 

「これは……!」

 

「……ッ!」

 

 首にかけている璃璃色金が輝いたのは――――

 

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

―――

 

 

「ここは……?」

 

 見渡す限り、真っ白。この空間の境界線は見当たらない。どこまでも広がっている。

 

 この風景、既視感がある……。

 

「あ」

 

 あれと同じだ。ブラドに追い込まれて、璃璃神に乗り移られたあの時と。

 

 確かあの時も俺は璃璃神と話はした。かなり一方的で、俺と会話のキャッチボールはしてくれなかったけど。それ話した内に入るか? ……入らないな。

 

 にしても、不思議だ。……あの時と違って別に意識飛んだりしてないからな。俺の体どうなっている?

 

 色々気になることはあるけど、まずはこっちからだな。

 

 俺がいるのは真っ白の空間。だが、1箇所だけ別の色がある。俺の目の前だけ蒼く輝いている。

 

「この前はどうもお世話になりました」

 

 そこに向かって話しかける。相手は……まぁ、璃璃神だろうな。もし違っていたらそれはそれで怖い。

 

 神様にどう話せばいいのか。この前は色々タメ口使ったけど……。

 

『…………』

 

 が、反応なし。

 

「あのー、すいませーん」

 

『…………』

 

 ダメだこりゃ。反応ねぇ。つーか、どんな姿してるのか。俺の視点だと、モヤモヤが光っているだけだぞ。

 

「何もないなら帰らせてくれません?」

 

 あれ? これどうやったら戻れるの?

 

 頬を引っ張ったり、叩いたりしてもダメだ。手元には武器なんてない。俺の着ている服はカジノから渡された格好じゃなくて、武偵高の制服だし……どうなってる?

 

 そう悪戦苦闘していると、

 

『ねぇ』 

 

 ようやく向こうから話しかけてくれた。

 

 綺麗な声色だ。どことなく、声の雰囲気はウルスの人たち……特にレキに似ている。湖での声と同じ。

 

『お願い』

 

「何ですか?」

 

 最後に、璃璃神が残した一言は――――

 

 

『あの子たちを守って…………』

 

 

 ――――だけだった。

 

 

 

 

 

 

 ……………あの子、()()

  

 

 

 

 

 

――――――――

 

―――――――

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 

 金一とパトラは見た。

 

 突然、八幡の首にかけている璃璃色金が輝きだしたと思ったら、八幡が目を閉じたのを。

 

 そして、1秒後。八幡が目を開けると、色金の輝きは収まり、今度は八幡の右目が蒼く、蒼く輝いている光景を。

 

 その輝きは段々と増していく。

 

 瞬時にパトラは悟った。次に何の攻撃が来るのか。金一は確信はなかったが、次に何が起こるのか予想はできた。

 

 金一は八幡の真後ろに退避する。対するパトラも八幡の視線から逃げようとするが――その直前にその輝きは最高潮に達する。

 

 次の瞬間。

 

「うっ……!」

 

 パトラの左足が撃ち抜かれ、転がりながらうずくまる。超々能力者の力の1つ――――レーザービームによって。

 

「パトラ!!」

 

 咄嗟の出来事で、思わず金一は叫び、駆け寄る。

 

「なに、大丈夫ぢゃ」

 

 傷は細い。傷の直径はほんの数mm程度。それだけでは怪我は酷くならないだろうが、貫通している。その分、出血が激しい。

 

「レーザービームとは……。全く、痛いのぉ」

 

 とはいえ、星伽白雪と同じような治癒能力を持っているパトラは痛みに耐えながらも怪我を治す。

 

 誤算だった。

 

 レーザービームが飛んでくると悟り、逃げられないと分かった。だから、防ぐための超能力を使おうとした瞬間、文字通りの光速で撃たれた。

 

「これが……超々能力者(ハイパーステルス)

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 その時のキンジは八幡がパトラたちの気を引いている間に、アリアを助けようと水上バイクで探していた。

 

 キンジの不注意で狙撃され、気絶している上にアリアは泳げない……いわゆるカナヅチだ。捜索はかなり難しかった。

 

 その途中、いきなり船上が不意に輝きだし、不思議に感じてそちらに目を向けた。

 

 そこで、八幡がパトラに向けてレーザービームを撃った光景を見た。

 

「何だ、あれ……」

 

 パトラを追ってるときにアリアとイチャイチャした時になったHSSだったからこそ、ギリギリで視認できた。けれど、理解ができない。頭の回転が追い付かない。

 

 ――――比企谷が超能力? それも、あんなのアリか!?

 

 さっきまでゴレムを操り、狙撃をしてみせ、キンジたちを苦しめたパトラに一瞬でダメージを与えてみせた。 

 

 あまりの光景に驚き、自然と体が止まった。  

 

 

 

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 ………………使った。

 

 訳も分からず、璃璃色金の力を使った。自分でもどうやって使ったのかまだ分からない。何をしたのかもまだはっきりとしていない。

 

 それでも、俺が、俺の状態で使った。

 

 そして、あのパトラがダメージを負っている。まだ回復しきれてない。だったら、追撃を!

 

 そう足を踏み出そうとしたら――

 

「あれっ……」

 

 足に力が入らない。そのまま崩れ落ちるように倒れる。

 

 ――――ヤバい……意識が…………。

 

 目眩が起こる。息が荒くなる。頭が痛い。

 

「あと、少し…………」

 

 また気絶オチかよ。

 

 クッソ…………。

 

 

 

 

 

――――――――

 

―――――――

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 

「ここは……」

 

 目を覚ますと、見慣れた天井。毎朝見ている天井。つまりは俺の部屋だ。

 

「起きましたか」

 

「……らしいな」

 

 すぐそばにはレキがいる。

 

「体は大丈夫ですか?」

 

「あぁ、特に問題は……って、おい、マジかよ」

  

 時計を見ると2時だ。それも昼の。

 

「何日経った?」

 

「だいたい1日です」

 

 ということは、まだ24時間は経ってないか。

 

「……あれからどうなった?」

 

「はい――――――」

 

 

 

 レキの話を纏めると、俺が気絶したあと、パトラは神崎と一緒に逃げた。どうやら別のゴレムが神崎を回収してたとのこと。

 

 パトラは俺のことを危険視して置いていった。

 

 それから、神崎を助けに行く遠山と神崎を殺すべきという金一さんが戦った。めちゃくちゃレベルの高い兄弟ケンカだったらしい。そりゃ、どっちもHSSを持ってるもんな。

 

 その結果、遠山が勝ったはいいものの、アイツも気絶して、朝の7時に目を覚ます。

 

 そしてどうやら、神崎が撃たれた時の銃弾にはパトラの呪いが籠められており、撃たれてから24時間は生きているらしい。

 

 遠山が起きてからすぐに神崎を助けだそうと、武藤や不知火、ジャンヌの協力を経て星伽さんと共に助けに向かったとのこと。

 

 星伽さんの占い(百発百中の腕前)で調べたところ、神崎は太平洋にいる。

 

 そこで、アイツらはなんかスゴい乗り物に乗ってるらしい。高性能な魚雷を改造して、人が乗れるようにした乗り物だとか。

 

 で、今は目的地へと向かっている最中。

 

 

 

 ……………………………俺、役立たずだなぁ。

 

 結局、神崎を助けることもできずに、加勢にも行けない。ここで祈るしかできない立場なわけだ。

 

 神崎を助けるための時間は稼ぎはしたけど、見事に最悪の結果に終わった。

 

 どうすればよかった? 

 

 神崎を前線に突っ込まれなければ。レキに狙撃をさせるためにも銃弾を用意しとけば。超能力を使う頻度を抑えれば。ゴレームを早く倒せれば。パトラを無視して強引にでも神崎を助けれれば。もっと早く璃璃神の力を使えれば…………俺にできたのか? あれ以上、俺に何ができた? 

 

 俺に、俺に、俺に――――

 

「八幡さん」

 

 レキの言葉でその思考を止める。

 

「確かに私もアリアさんは心配です。ですが、助けに行けない私たちはただ待つことしかできません。それに、あなたは最善を尽くしました」

 

「だといいけどな」

 

 後は、信じよう。色々と無茶をやってきた遠山だ。あのパトラ相手でもきっとどうなかなる。

 

「それを言うならば、私こそもっと弾丸を持っていくべきでした」

 

「いや、あんな事態になるなんて誰も思ってないんだから――」

 

「それと同じです。あの場にいた私たちはあなたを責めたりしません」

 

「……ありがと」

 

 少しは、気が楽になったかもしれない。頼んだぞ、遠山。

 

 つーか、そもそもの話。

 

「何で俺は気絶したんだ?」

 

 ブラドの時は怪我が酷かったけど、今回はそこまでだしな。特に大きなダメージは負ってない。ゴーレムに殴られたのは痛かったけど、致命傷というわけでもなかった。

 

「星伽さんは超能力を使いすぎたのではないかと言っていました」

 

 あぁ、言われてみれば……。あのよく解らん超能力使うまでにさっきまで烈風やら使いまくってたからな。あの超能力でその時使える分の限界が来たのか。

 

 感覚としては、俺が普段使える上限がマックス10として、パトラと対峙した時には残り1くらいだった。多分だが璃璃神の力なら1回でかなりの力を使うんだろうな。オーバーしすぎたってことか。

 

 超能力(ステルス)を使うために摂取しなきゃならない物がある。人によって違うが、俺はMAXコーヒー。全回復するにはMAXコーヒーかなり飲まないとな。

 

 500ml飲んで試しに烈風を使ってみるが……ダメだな。使えない。今日はできない日か。

 

 他に気になることが。

 

「……あの時どんな超能力使ったんだ? レキ分かる?」

 

「パトラはレーザービームと言ってました。一瞬の出来事だったので、私には視認できませんでしたが」

 

 え、何それ? 俺そんなの使ったのか…………。これまた予想外過ぎるわ。 

 

 後で衛生から高い金をかけて今回の映像を取り寄せようかと考えてると、ここでレキが。

 

「ところで、八幡さん」

 

「どうした?」

 

「今日何か仕事があると言ってませんでしたか?」

 

「えっ」

 

 ……………あ。

 

「ヤバっ」

 

 そうだよ。遠山が単位補うためにカジノの任務受けたけど、その前に小遣い稼ぎで適当に護衛の仕事受けたんだ。

 

 別に連日だけどどっちも楽だろうしいっか、みたいなノリで受けたな。あー……色々ありすぎて完全に忘れてたわ。

 

 えーっと、今が2時。確か4時には打ち合わせしたいって言われてたな。場所は久々の千葉だ。

 

「準備しないと。ファイブセブンは……」

 

「それでしたら、材木座さんがいなかったので私がメンテナンスしておきました。ナイフは星伽さんから預り、棒? も回収しておきました」

 

 さすが優秀だわ。惚れちゃいそう。とっくに惚れてるけどな。

 

 まだ材木座はアメリカのロス……なんちゃらから帰ってきてないのか。

 

 もちろん遠山たちがどうなったのか気になるけど、こっちはこっちで仕事はしないと。

 

 武偵高の制服に着替え、ファイブセブンと予備のマガジン、棒にナイフを装備する。

 

 よし、行くか。

 

 

 

 で、千葉に向かっているその道中。

 

「なぁ、今回は俺だけだぞ?」

 

 勝手に付いてきたレキに言う。分解されてるであろうドラグノフがあるトランクを肩に背負ってる。準備はオッケーですかそうですか。

 

「今日の私の目的地がここなだけです」   

 

 そう屁理屈を言っても……。

 

「依頼内容と違うことにされてもな。最悪追い返されるかもしれないぞ?」

 

「構いません」

 

「てか、何で来たの?」

 

「監視です」

 

「誰を?」

 

「八幡さんです」

 

「なぜに?」

 

「昨日、風の力を使ったので。念のためです」

 

 あぁ、なるほどね。レキからしたらそこは気になるのか。

 

 確かに今、璃璃神はどうなってるんだろ。璃璃色金を貰ってから寝るときや風呂入るとき以外は身に付けてるけど音沙汰ない。それに今使おうとしても、そもそも烈風すら使えないからな。

 

「それと他の女性に浮気しないか」

 

 キリッとしたレキの視線に。

 

「残念ながらそんな度胸はないし、する必要性が見当たらない」

 

「……っ。そ、そうですか」

 

 そう答える。そして、互いに目を逸らす。  

 

 …………俺も言ってて恥ずかしいな。完全に自爆だ。

 

「もししたら、狙撃します」

 

 反撃気味にレキが告げる。

 

「肝に命じとく」

 

 周りからしたら物騒そうな会話をしながらのんびり歩く。途中寄り道しながら時間調整しながら歩いた。だいたい10分前に着くように。

 

 今回は政治家のパーティの護衛。依頼者はここの県知事だとか。

 

 っと、もうすぐで待ち合わせの場所だ。どんな人が来るんだっけな。メールを確認すると、うん? 政治家の娘が来るのか。

 

 それっぽい人物を探す。

 

「あれか?」

 

 目的の人物を見つける。スーツをバッシリ着ているから多分あれだろう。見つけたはいいけど、何て言うか。

 

「美人ですね」

 

「……あぁ」

 

 他よりか捻くれてると自覚してる俺でも素直にそう思う。

 

 整っている容姿に真っ直ぐな黒髪。スタイルも良い。非の打ち所がない。

 

「ではどうぞ」

 

「どうぞって何だよ」

 

「あの方に話しかけないのですか?」

 

 ……え? あれに話しかけるの? 俺が? ちょっと無理があらへん? 難易度高いんですけど。

 

 まぁ、四の五の言ってられないからな。覚悟を決めて近づく。

 

「すいません」

 

 俺が声をかけると、こっちに気づく。癖で足音と気配消してたから驚かせた。

 

「こんにちは。依頼した武偵の方ですね?」

 

「…………」

 

 ――――直感で、この人を警戒してしてしまう。

 

 男ならそれだけで惚れてしまいそうな笑顔で返答した。

 

 ……ただそれだけなのに、何かが恐ろしい。そんな気がする。うーん、デジャヴを感じるんだよな。いつだっけ。けっこう前の出来事だったような気が……。

 

 とりあえず自己紹介をば。

 

「はい。比企谷八幡です」

 

「雪ノ下陽乃です。本日はよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キンジたちの激闘が読みたいならば、原作買おう!
一応要約する予定ですが、詳しくは書けないと思うので……

ちなみに、今回でてきたレーザービームは本編にも当然あります。気になります? よし、原作買おう!(2回目)

というより、またダラダラ書いて無駄に長くなってしまった。もうちょい短くできねーかな。今回で9000字ちょい。6000字くらいで抑えたい。

あ、宜しければ、感想等よろしくお願いします。


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知らない

簿記3級合格しました。次は2級……めっちゃムズい





 今回の依頼、報酬やたら良かったから受けたけど、事前に調べてみたら県知事は建設会社の社長も兼ねてるらしいし、金持ちなんだろうなぁ。

  

 などと思っていると、肩をトントンと叩かれ、

 

「あ、敬語外して大丈夫?」

 

「そこはお好きに」

 

「いやー、今回はありがと。ちょっと色々とごたついててね。依頼受けてくれて助かったよ」

 

 バツが悪そうにはにかむ雪ノ下さんに対し、

 

「色々とは?」

 

「お父さん……県知事直属のSPは3人いるんだけど、1人は前々から大事な友人の結婚式に出席しなくちゃいけなくて、もう1人はちょうど夏風邪拗らせちゃってね。人数足りないから私たちのSPを借りることになって、人数が足らなくなったの」

 

「それで武偵に」

 

「正式なSP雇うと金かかるし、1度限りなら武偵の方が安上がりだからね」

 

 にしては、報酬奮発してくれましたね。申し訳ないどころか嬉しいまでもある。

 

 って、あれ?

 

「今、私たちって言いました?」

 

 護衛ってこの人だけじゃないの? メールは政治家の娘の護衛って書いてあったけど。

 

「あぁ、ゴメン。私と妹の護衛が今回の依頼内容なの」

 

 もうちょい詳しく教えてくれよ。

 

「……俺だけでか」

 

「大丈夫。パーティの間は基本一緒にいるから」

 

「分かりました」

 

 護衛対象2人か。うーん、面倒だが、そのくらいどうにかなるか。 

 

「…………」

 

 にしても、この人の動作1つ1つが美しい。あ、客観的にね。まるで完璧に近い。だからこそ、得体が分からなく、恐ろしい。この感覚……やっぱデジャヴなんだよな。

 

「比企谷君。とろこで、あの子は連れ? 見たところ武偵高校の制服着てるけど」

 

 ちょっと離れた位置にいるレキを指す。

 

「あぁ、勝手に付いてきたんですけど、ご同行は可能ですかね? レキ!」

 

 ボーッとしていたレキを呼ぶと、俺らの方に歩く。

 

「レキと言います」

 

 抑揚のない声で自己紹介をする。

 

「雪ノ下陽乃です。こちらこそよろしくお願いします。付いてくるとなると追加の報酬を……失礼ですが、ランクは?」

 

「Sです」

 

 さらりと答える。

 

「……え、ええっ!?」

 

 雪ノ下さん……そら驚くわな。

 

「Sって、世界で数十人しかいないあの!? ちょっと待って。Sランクに支払うほど予算ないのに」

 

 まぁ、本来はランクによって報酬が違うからな。そりゃBランクとSランクでは、当然雇うための値段はかなりかけ離れているわけで。

 

「でしたら、俺の分から払っていただいても」

 

「ダメダメ! せっかくSランクと繋がりが持てるの機会なのよ! これを逃すわけにもいかないの。こうなったら、お父さんに頼んでみるか」

 

 そういう見方もあるのか。

 

「…………」

 

 しばらく悩んでいる雪ノ下さんを観察する。

 

 この人、何度見ても立ち振舞いが完璧だ。レキ登場で多少驚くことはあっても、完全に笑顔が崩れることはない。完璧すぎてどこか気持ち悪いまである。

 

 やっと分かってきた。今も付きまとうこのデジャヴは……友だちになる前の理子に近い。

 

 ――――仮面だ。

 

 本性を隠すための仮面。それは普通誰もが持っているものだ。目上の人、友達、家族、人によって見せる仮面は違う。それに、仮面の中身……本性は誰にも見せないようにする。それでも、大概の人はどこかでボロが出る。

 

 しかし、あの頃の理子の仮面は非常に分厚かった。表面上は明るく振る舞っていたけど、その奥は見せなかった。絶対に隙……自分の弱味は見せない、そんな意思を感じた。どんな人にも見せる仮面は同じ。この感覚は、それと同じだ。

 

「こっちで話つけたから、同行オッケーだよ。とりあえず比企谷君とレキちゃん、移動しようか」

 

「はい」

 

 別にだからといって、俺に不利益があるわけでもない。ただ、警戒はしておこう。

 

 

 

 

 

 5分ほど移動してどでかいビルに着いた。フロントでは雪ノ下さんが何やら手続きをしているのでレキと待っている。

 

 係員と話し終えた雪ノ下さんが、

 

「私の妹……雪乃ちゃんって言うんだけど。今から紹介するね。それと今日の段取り説明するから」

 

「分かりました」

 

 と、レキ。

 

「はい」

 

 俺も返事をして、雪ノ下さんの後に続き歩いてる最中。

 

「なぁ、レキ」

 

「何ですか?」

 

「狙撃手が護衛の任務ってこなせるの?」

 

「どうにかします。ですが、今日の私は基本的に八幡さんのバックアップに専念します」

 

「俺の依頼だもんな。了解」

 

 正直レキがいたら心強いのでありがたい。もちろん、全面的には俺がやるけど。

 

 とはいえ、レキはかなり際どい行動を取るからな。俺がイ・ウーから帰ってきた時とか。

 

「人は殺すなよ?」

 

「……はい」

 

「なぜ返答に間があった?」

 

「…………さぁ」

 

「さぁ、じゃない」

 

 俺に何かあったらヤバそう。確信した。

 

「はいはーい、もうすぐ着くからそういう物騒な話は止めてねー」

 

「ごめんなさい」

 

 二階まで歩き、どこかの部屋の扉を開けた雪ノ下さんに謝りながら後に続く。

 

 扉の先には、パイプ椅子がざっと数えて26脚と長机が長方形の形に置かれている。よくある会議室みたいな部屋だ。その部屋の端に佇む人が1人。

 

「雪乃ちゃーん、おまたせ」

 

「……姉さん、遅いわよ」

 

 呆れた様子で話している人が雪ノ下雪乃か。

 

 雪ノ下さんとは違い、妹は黒く長いストレートヘア。大人びた顔立ちで、こちらもかなりの美人。スタイルもいいが、胸の戦闘力は……神崎と同レベルか。明るく振る舞っている雪ノ下さんとは真逆の印象。

 

「ごめーん、ちょっとごたついててね」

 

 すると、雪ノ下(妹)は俺らの方を向き、

 

「今日来る武偵は1人だけのはずだったけれど……そのせいかしら?」

 

「さっすが雪乃ちゃん」

 

「……鬱陶しい」

 

 おう、実の姉に鬱陶しいって……。気持ちは分からんでもないけど。わざわざ聞こえる声で言うのね。

 

 その言葉をまるで面白がっている様子で無視した雪ノ下さんは……それは無視したって言えるのか?

 

「この後私お父さんに呼ばれてるから抜けるね。私が呼びに戻るまで仲でも深めとくんだよ」

 

 それだけ言い残し、雪ノ下さんは消え去った。雪ノ下(妹)は黒いドレス着ているのに対し、雪ノ下さんはまだスーツ姿だし、着替える必要もあるのか……? よく分からんがパーティとかは正装ってやつをしないとならないらしいからな。

 

 それは置いとき、自己紹介しないと。

 

「今回依頼を受けた武偵の比企谷八幡です。よろしくお願いします」

 

 年はそこまで離れてないとは思うが、一応敬語で。雇われてる身だからな。

 

「レキです」

 

「雪ノ下雪乃よ。よろしくね。突っ立ってないで座ってちょうだい」

 

 雪ノ下(妹)が指している真正面の席に腰を降ろす。

 

「貴方たち、年はおいくつ?」

 

「今年で17です」

 

「同じく17です」

 

 レキに続いて答えたけど……あれ? レキの誕生日いつ??

 

「あら、そうなの。なら私と同い年ね。敬語はいらないわ」

 

 へー、同い年だったか。大人びた雰囲気からして少し上かなと考えてたけど。その動作、振る舞い、どこぞのピンクの貴族様も少しは見習って。

 

「それなら遠慮なく」

 

「私はこの口調なのでお気になさらず」

 

 レキはそうだわな。1度くらい砕けた口調を聞いてはみたい。……アカン、想像付かない。やっぱそのままでいてくれ。でも君付けで呼ばれてみたい欲望はある。

 

「えぇ、よろしくね。…………それで、武偵の貴方たちに少し質問していいかしら? ただの世間話と思ってもらえれば構わないわ」

 

「質問? まぁいいが」

 

 ……いきなりだな。

 

 雪ノ下(地の文でそう呼ぶことにした……地の文って言っちゃったよ)は眉を潜める。 

 

「貴方たちが武偵ということは、普段から銃を使うのよね?」

 

「そうだな。現に俺らは今も持っているぞ」

 

「貴方より年下の子もそうなの?」

 

「基本的には。校則だしな。そりゃあまり銃を使わない……つーより、戦闘をしない武偵もいるわけだが」

 

 銃を使わないだけで平気でヤバいことする奴らはいる。おい、尋問科共に言ってるぞ。お前ら怖すぎなんだよ。拷問とかマジ無理。

 

 すると、雪ノ下は怪訝そうな顔付きになり、

 

「そんな日常が武偵にとっては普通なの?」

 

 そう聞いてきた。

 

「一般人には理解はできない感覚かもしれんが、それが武偵の日常だ」

 

「日常……ね。ニュースを見てよく疑問に思うの。私より年下や同年代の人たちが銃を平気で扱う世の中に。何故そんな若くから命を張れるのか……それが分からないわ。1度、武偵に会ったら聞いてみたかった」

 

「何故……か」

 

 少し考え込む。

 

「……嫌な気持ちにさせたらごめんなさい」

 

「そんなことはない」

 

 …………俺だって不思議に思うことはある。

 

 例えば、留美や間宮は見た目からして、どこにでもいそうな女の子だ。とてもじゃないが、毎日のように銃をぶっ放しているとは到底思えない。隣にいるレキだって外見はごく普通の女の子だろう……うん……ヤダ、断言できない。

 

 武偵にとってそれは普通だが、一般人からしたら武偵は異質。世間では武偵を恨むような奴ら、一方的に嫌悪する奴らは当然いる。

 

 こう考えているってことは俺も相当武偵に染まってるな。1年以上も銃に触れてたらそうなるか。

 

「もちろん、精神的に銃を撃てない人は少なからずいる。そういう奴らは武偵って言っても裏方に回ることが多い。適材適所だ」

 

 通信科には当てはまる人けっこう多いはず。

 

「そういう人たちはどうして武偵を続けるのかしら?」

 

「んー……人によって理由は当然違うから何とも言えないな。これは俺の予想だが、やっぱ金が必要って奴は一定数いるだろうな」

 

「お金?」

 

「そう、金。何らかの事情で金が必要な奴もいると思う。武偵は仕事によるが、俺らくらいの年だとかなり稼げる職業だから。あ、でも、単純に趣味で武偵してる奴もいるにはいるな」

 

 武藤や平賀さんに材木座とかあれもう完全に趣味だろって思う部分がある。それが続ける理由になるのなら、それもそれで素晴らしいことだ。

 

「比企谷君とレキさんは、何故武偵の道に進んだの?」

 

「俺は親に薦められたから。けど、それなりに過ごすうちに、続ける理由は見出だせたと思う」

 

 それが何かは……恥ずかしいからあまり言いたくはない。

 

 そして、俺らの視線はレキに向く。

 

「私は生きるために武偵になりました」

 

 レキはそう簡潔に答える。

 

「生きるため……?」

 

「はい。言い換えれば、初めから選択肢はなかったとも言えます」

 

 選択肢……生まれた環境を思い返すと、そうだよな。武偵高の中の誰よりも特殊な環境でレキは育っただろう。武偵になるのは必然だったのだろう。

 

 そこで、俺は尋ねる。

 

「レキはさ、後悔はしてないのか?」

 

「してないです」

 

 きっぱりと断言する。……愚問だったかな。 

 

「ところで、雪ノ下は武偵が嫌いなのか?」

 

 話を変えて、気になったことを聞く。

 

 表情や仕草を観察した感じそこまでの嫌悪感はなさそうに見えるけど。

 

「……嫌い、という感情はその物事についてある程度知っているからこそ芽生える感情よ。私は武偵をよく知らない。だから、簡単に好き嫌いとは言えないわね」

 

「なるほど」

 

 何も知らないと好き嫌いは言えない……か。

 

「ニュースを見ていれば武偵がこの世の中に必要というのは分かるわ。……規制が緩くなって、今や誰もが銃を持つことができるのだから」

 

「正式に所持するにはちゃんとした手続きは必要だが……確かにハードルは下がっているよな」

 

 銃を持つからこそ、武偵が武偵であるために殺人を禁じる武偵法9条がある。

 

「それでも、貴方やもっと若い子が銃を持つのは何だか気が引けるわね」

 

「それは何でだ?」

 

「普段から人の命を奪える力を持っていると、命の価値が曖昧にならない? 貴方の意見を聞かせてくれないかしら」

 

 曖昧、か。

 

「俺はそうは思わないな。普段から銃とかを持っているからこそ、命について触れる機会が多い。だから、命を大切にしないといけない。命に対して敏感にならないといけない。俺はそう考えてる。それにな――」

 

「それに?」

 

「環境は特殊だけど、武偵高のアホ共だって学生らしい毎日を送っているぞ。帰りに買い食いしたり、休日には遊びに行ったりな。そこは年相応だ」

 

 この前だって祭は充分楽しんだし、他の奴らも楽しんでた。だから、勝手な決め付けは良くない。会話の中身は物騒なのはこの際置いておきます。

 

「……やっぱり知らないと分からないものね」

 

 そう呟いた雪ノ下は腑に落ちた表情を見せる。こんなんで、自分の答えを見付けたのだろうか?

 

「今の俺から言えるのは、どんな道へと進んだとしても、それは当人の問題であって、外野がとやかく口に出していいことじゃない、ってことかな」

 

 もちろん、そういう考えは大切だ。でも、その人にはその人の事情がある。……俺は武偵になった経緯は誇れたもんじゃないがな。

 

「……ありがとう。参考になったわ」

 

「こちらこそ」

 

 俺こそ、俺自身について改めて見直すいい機会になった。そうだ。これも言っておこう。

 

「最後に1ついいか?」

 

「えぇ」

 

「今回は武偵についてだが、これは趣味や性格……色々当てはまるかもな」

 

 そう前置きする。

 

「その何かに対して、無理に理解しなくていい。別に世界中の全員に認めててほしいわけじゃない。ただ――否定はしないでほしい。否定されて傷付く人はいるし、いきなり頭ごなしに否定する奴なんてその時点で人間として終わってる」

 

 頭に浮かぶのは金一さんの事件。あれのせいで遠山は武偵を止めようと決めた。

 

 俺もあの時金一さんを非難してきた奴ら――特にあの船の責任者はクソだと思っている。今まで散々頼って、いざ自分に不利益が降りかかろうとしたら責任転嫁。そこからは世間からの批判のオンパレード。

 

 身内……遠山にも被害が及んだ。実に胸糞悪い事件だった。

 

 きちんとその物事について理解を深めた上で否定するならまだしも、何も知らない、知ろうともしないのに否定するなんてただの屑だ。

 

「理解、否定…………確かにその通りね。肝に命じとくわ」

 

 その一言で、この話は終わった。

 

 

 

 

 

 数分後、扉が勢いよく開く。

 

「お待たせ!」

 

 雪ノ下さん、再登場。

 

 さっきのスーツ姿とは打って変わって、胸を強調するような大胆な紅いドレスを身にまとっている。化粧もしており、より美人に見える。

 

 真っ先にそこに視線が行くのは勘弁してくれ。レキ、そんなに睨まないで……いや、どっちかって言うと雪ノ下を見てた俺より雪ノ下さんを睨んでるような。レキもそういうの羨ましかったりするわけ?

 

「どう? 比企谷君、私可愛いでしょ?」

 

「それ自分で言うのか……。客観的に見ればそう見えなくもないですね」

 

「もう、素直じゃないんだから~。ねー、雪乃ちゃん?」

 

「チッ」

 

 雪ノ下、自分の胸と見比べて舌打ち……不憫な子。てか、女子って怖い。 

 

「雪乃ちゃん、比企谷君たちとは友だちになれた?」

 

「姉さん、うるさい」

 

「えー。でも、雪乃ちゃん友だちいないじゃん。家絡みの付き合いの隼人とは違うって言うし……」

 

「私だって友達くらいいるわ」

 

「この前会った……由比ヶ浜ちゃんだっけ? あの子いい子よね~」

 

 何だか言い合いが始まりそうだから話を変えよう。

 

「雪ノ下さん、格好って制服のままでいいんですか?」

 

 声をかけると、こっちに向き直り、

 

「うん。武偵高校の制服はわりと有名だからね。私たちの側にいると、寄ってくる馬鹿な人たちは多分だけど減るだろうし」

 

 カジノでは客に警戒させないために一般の客と同じ格好をしたけど、今回は逆に防止目的で制服を着るのか。俺もこっちの方が慣れてるからありがたい。そういや、今まで受けてきたパーティの警護も大概は制服のままだったな。

 

「きちんと許可取ったからレキちゃんもオッケーよ!」

 

「ありがとうございます」

 

「で、段取りなんだけど、今回は立食パーティの形式。私たちは基本一緒に行動する。それと、特にスピーチとか目立つ行動はしないから」

 

「そうね。どうでもいい偉そうな人からどうでもいい話を聞くだけの簡単なお仕事よ」

 

 雪ノ下めっちゃ辛辣。しかし、雪ノ下さんも微妙な笑顔で否定しないことから内心そう思っているのだろうか。

 

「お父さんに確認したところ、何か怪しいことした人や危害を加えそうとした人には問答無用で取り抑えていいとのこと」

 

 そこはいつも通りだな。

 

「でも、銃はできる限り使わないでほしいって。銃声だけで混乱する人は出てくるだろうからさ」

 

 まぁ、それもそうか。そこは従うか。いざとなったら撃つけど。しかし、そうなるとレキの立ち位置は……。

 

「雪ノ下陽乃さん」

 

「レキちゃん、どうしたの? 気軽に陽乃って呼んでくれてもいいけど」

 

「では陽乃さん。どこか人が来なくて高い場所はありますか?」

 

「うーん……会場の2階部分には放送のための機材が置いてる場所はあるにはあるけど、かなり狭いよ?」

 

「問題ありません。私はそこで護衛します」 

 

「よく分からないけど、了解したわ。後でそこの鍵渡しとくよ」

 

「はい」

 

 雪ノ下さんは手をパン! と叩き、

 

「じゃ、後1時間で始まるからよろしくね」

 

「はい」

 

 レキが返事する。

 

「分かりました。こちらこそよろしくお願いします」

 

「比企谷君、言葉かたーい。もっと崩してもいいんだよ?」

 

「仮にも依頼主にタメ口だと後でアホ共の巣窟の教師からお小言を貰いますので」

 

 またの名を体罰フルコース。結果として瀕死する。または三途の川を渡る場合もある。

 

「でも、雪乃ちゃんにはタメ口だったよね?」

 

 え、あれ聞いてたの?

 

「同い年ですし、それに雪ノ下は護衛対象なので」

 

「それ言ったら依頼主はお父さんじゃない。私も護衛対象!」

 

「では、依頼主代理にタメ口使うわけなはいかないですから」

 

「……ハァ。君、なかなか強情だね。かなり捻くれてるよ」

 

「よく言われます」

 

 こう話してて、一瞬でも素顔を見せない人は怖いな。雪ノ下の方はあまり仮面なんてモノは感じなかった。雪ノ下さんに対しての冷たさや俺らと話したときの表情はどちらも素だったぽい。だから、ある程度タメ口で話せたわけで。

 

 …………これ以上話すと俺がボロを出しそうだ。まぁ……うん、とりあえずはお仕事頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




陽乃さんのキャラ分からんぞ。これでいいのか。




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仮面と弓

 パーティーが始まった。

 

「すっげ……」

 

 思わず呟く。

 

 さすが主催者が建築会社の社長といったところか、会場はかなり広い。数多くのテーブルが並べられており、そこに料理が置かれている。様々な人が少しずつ料理を取り、談笑している。

 

 会場にいる人たちを観察する。テレビで見たことのある政治家がちらほらいるな。政治に関してはそこまで詳しくないから名前は知らないが。

 

 他の人たちの顔はあまり見たことはない。会話の内容を聞くに千葉にあるどこぞの会社の社長やらお偉いさんやらその他諸々らしいが。

 

 雪ノ下さんの父親は多くの人に囲まれている。周りにはけっこうゴツい護衛が複数いる。遠目からでも分かるくらいかなり鍛えているな。純粋な力では勝つのは難しそ……なんで戦うような前提で物事考えている。俺はアホか。

 

 さて、俺の仕事はすぐ前にいる雪ノ下姉妹の護衛なわけだが、この2人が並んで歩いているとものすごい目立つ。

 

「…………」

 

 周りからこの2人についての話が聞こえる。やれ美しいだの、やれ跡継ぎにだの……俺でも分かるくらい下卑た視線が突き刺さる。さらっとした雪ノ下の舌打ちが聞こえないのか。

 

「比企谷君、しばらくの間よろしくね」

 

「……はい」

 

 さらに外面を分厚くした笑顔の雪ノ下さんに返答する。そりゃ、こんなの続けてたら仮面も分厚くなるよ。

 

 今回のパーティーは会場に入る前に手荷物や身体検査をしているからある程度の危険物は俺とレキ以外は持ち込んでいない。しかし、油断は禁物。

 

 というより、雪ノ下さんの父親……県知事を調べてみたが、特に恨みは買っていないはずだ。マスコミの受け答えも良く、建設業も順風満帆。政治家なんて恨まれてなんぼの職業と聞いていたが、表立った悪評はない。

 

 流石にここの人の考えていることまで分からないが、会話の中に陰口は含まれていないはず。いや、こういうパーティーで主催者の悪口言うのは流石にどうかしてるか。

 

 だが、もしどこかで個人の恨みを買っていたら娘にしわ寄せが来る可能性もある。しっかりと注意しないと。今まで受けてきた護衛の仕事は全体の会場の警備やら入り口の警備ばかりで漠然とした感じだったからな。

 

「武偵って便利な人ね」

 

 唐突に雪ノ下が俺らに聞こえる範囲で声を出す。

 

「確かにそうだね。スッゴい楽だよ」

 

 同意する雪ノ下さんに俺は疑問の視線を寄せる。

 

「いつもなら私たちすぐにああいう人に囲まれて、どうでもいい話をされるんだけど、今回はそうでもないの」

 

「武偵が近くにいるだけでこうも違うのね。あちらからしたら、武偵は犯罪スレスレのことを平気でするという認識が多いの。前々からよく頭の固い老人が言ってたわ。もちろん、そういう偏見を持ってない人もいるけれど」

 

 あぁ、そうか。この姉妹が目立つってことは自然と俺も視界に入るのか。この制服が武偵高ってことも知ってるからこそ近付きたくないと。だったら、このまま気配は消さないでおこう。その方が都合がいい。

 

 てか、どんだけ武偵嫌われているんだよ。武偵がいなかったら治安荒れまくりだっつーの。確かに犯罪スレスレをしていること自体は否定できないけど……。俺だって借金取りみたいなことはやったことありますしね。

 

「陽乃さん、こんばんは」

 

「あら、木下さん。今日はわざわざ来てくれてありがとね」

 

 そうこうしていると、スーツ姿で20代後半くらいの男性が雪ノ下さんたちに近づく。俺はすぐにでも動けるように半歩雪ノ下さんに寄る。

 

 男の人の方が明らか年上に見えるが、なぜに雪ノ下さんはあの口調なんだ? 大丈夫? 怒られたりしない?

 

「この前のレポート拝見しました」

 

「それはどうも」

 

「是非とも――――」

 

 この先はよく分からない会話が続いてたから聞き流す。俺には関係なさすぎる話だ。しかし、警戒はしている。何か下手な動きをしたら、すぐに抑えられるように。

 

 …………その男の人、根が真面目なのか、恋心なのか熱心に口説いてるように見えるけど、雪ノ下さんは表情を崩さずに対応している。仮面の笑顔で話しているから向こうは勘違いしてそう。女子って怖い。中学の俺だったら流れで告白して死ぬだろうな。

 

「はぁ……」

 

 そんな姉を見てどう思ったのかのか雪ノ下はこめかみを抑えながらため息をつく。

 

 雪ノ下さんは八方美人のイメージがあるが、雪ノ下は無表情で淡々と話を進めそう。……勝手なイメージだよ? だから話に律儀に付き合う雪ノ下さんに呆れたのか。いや、もしかしたら男の人に何か……同情? 可哀想? みたいなことを思ったのかもしれない。

 

「大変参考になりました。またお願いします」

 

「えぇ。…………比企谷君」

 

「はい」

 

 っと、もう話終わったのか。護衛再開。

 

 

 

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 

 

 あれから2時間経つが……しかしまぁ、順調に進んでいるな。今ステージにあがってスピーチしている県知事の方もトラブルはないみたいだ。

 

 やっぱり武偵である俺が面倒なのか雪ノ下姉妹の方にはあまり人が来ない。雪ノ下曰くいつもならかなりの人は寄ってくるが、まだ10人程度しか来てない。これは珍しいとのこと。

 

 インカムで接続しているレキにも聞いてみたが、これといって銃火器を持っている特有の動きをしている人物はいないとのこと。素人なら余計に分かりやすいから敢えて聞かない。

 

 むしろ、最初の方に来た男の人以下の年代がそれこそほとんどいない。体を鍛えてない年寄りでは銃を扱うのは厳しそうだしな。

 

 というより…………料理が旨そう。

 

 雇われてる身だから並べられているいかにも美味しそうな食事にはありつけない。始まる前に少し腹ごしらえはしたけど……やっぱりああいうの食いてぇな。

 

 前に受けた依頼では余り物は貰えたことはあったからそれに賭けてみよう。基本的にこういう場の料理は冷めてても旨いからな。

 

 スピーチも終わり、会場にいる人たちが拍手するのを見届ける。もう残り時間は少ない。ちらほらだが、県知事に挨拶を済ませ帰ってる人もいる。

 

「パーティーっていつもこんな感じですか?」

 

 雪ノ下さんに小声で話しかける。

 

「まぁね。そりゃ毎回何かしらハプニング起きてたら開催されないわ」

 

「そうね。もし頻繁に起きてたら私は参加しないわ」

 

 ……デスヨネー。

 

「それにお父さんの信用にも関わるからね。念入りにお金と時間をかけてパーティーの運営をしているのよ」

 

「なるほど」

 

「だから、こうして武偵を雇ったりと色々しているの。ま、今回は特殊なケースだけど」

 

「その割りに、よくBランクを指定しましたね。もうちょい高いランクでも良かったと思いますが」

 

「こういう依頼にはこのランク……みたいな相場ってものがあるから、おいそれと雇えないのよね」

 

「そう考えるとレキさんが来たのは少し驚いたわね。さっき聞きそびれたのだけれど、比企谷君とレキさんはどういう関係なのかしら?」

 

「パートナー……かな」

 

 一言で表すのならこの言葉が一番しっくりくる。

 

 と、ここで雪ノ下さんが急に止まり、俺たちの方に向き直る。

 

「はいはい、お喋りはここで終わりにしよっか。雪乃ちゃん、最後の挨拶周りがあるわよ。……比企谷君もよろしく」

 

「……ッ」

 

 雪ノ下さんが一瞬見せた視線に息が詰まる。

 

 スゴく冷たい目。俺を一瞥するような目。……何だ、その目は。俺の何を見たい?

 

「行くわよ」

 

「了解です」

 

「はぁ…………。面倒ったらありゃしないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 

 

「お疲れ――!!」

 

「…………」

 

「お疲れ様です」

 

「えっと……まぁ、お疲れ様です」

 

 雪ノ下さんの音頭に雪ノ下は無言、レキはいつも通りの反応、俺はキョドりながら反応した。

 

「ちょっと皆、ノリ悪くない?」

 

「比企谷君にレキさん、無視していいわよ」

 

「相変わらず辛辣~。せっかく比企谷君が頑張ってくれたのに」

 

「あれくらいどうってことはないですけど」

 

 最後の挨拶周りの時、県知事に人が集まり、ごった返しになっているのに乗じて40代くらいの男がナイフを持っているのがうっすらと見えた。レキにその男がどこにいるのか正確な指示を貰い、股間を蹴って黙らせた。男相手だとこれが一番手っ取り早い。

 

 若干騒ぎにはなったが、事後処理は県知事の方に任せた。後は知らん。素性もぶっちゃけどうでもいい。

 

 それだけでわりとあっけなく終わった。

 

 今は余った飯――お肉やら刺身やら色々の詰め合わせを分けてもらい、しばらく食べている。レキもカロリーメイトではなく、俺と同じものを食べている。一部は暖めてもらった。普通に美味しい。語彙力死んでる。まぁね? けっこう神経尖らせてたから疲れたんだよ。

 

 飯を食べてる途中。

 

「比企谷君。ちょっと質問いい?」

 

「いきなりどうしたんです?」

 

 雪ノ下さんのいきなりの発言。……そういや、さっきからずっと見られてたな。どうしたんだ? 腹減ってたから無視してたが。

 

「今回はトラブル少なかったけど……君さ、強いの?」

 

 あくまで興味本意そうな口調。

 

 とりあえず答えるためにも今食べてる物飲み込まないと。あ、このお肉美味しい。

 

「さぁ? それなりじゃないですか?」

 

「曖昧な回答だなー」

 

「少なくとも、あの場にいる人たちに襲われても勝てる自信はあります」

 

 県知事のSPは真正面からは厳しそうなだけで、いくらでもやりようはある。あの場って言ってもレキは除くぞ。レキ含めるなら俺は死ぬ。

 

「なるほど。決して慢心してるわけではなさそうだね」

 

「事実ですから」

 

「ねぇねぇ、比企谷君。物は相談なんだけどさ、私の専属の武偵にならない?」

 

「いきなりどうしたんです?」

 

「……姉さん」

 

 雪ノ下は諌めるが、

 

「ごめん、お父さんには黙っててね? ……さて、比企谷君。私ね、君に興味があったの。それこそ出会った時から」

 

 聞く耳持たずか?

 

「興味ですか」

 

「だって、私の外面を見抜いてるでしょ? 『この人は危ない』みたいな感じで。多分かなり最初の方に。だから、私と話すときは一歩引いてたよね?」

 

「……よく分かりましたね」

 

 平静を装って答えてみるけど、何この人……こっわ。

 

「伊達に長年政治家の娘やってないわよ。人の表情読むなんてずっとしてきた。だからこそ、驚いた。君の態度は今までの男共とは違う。初対面の男にバレるのは初めて」

 

 …………マジか。ここまで見透かされてると思わなかった。いくら人間観察が得意とはいえ、俺よりも長い間そうしてきた人には敵わないな。ああも表情に出さないのか。

 

 いや、少しだけ違和感あったな。パーティーの最後の辺りに。

 

 にしても、この見透かされ具合……雪ノ下さんと話しているとどこかシャーロックと似たような感じがする。

 

「雪ノ下さんの言動は完璧すぎましたので。雪ノ下を除けば、俺と話す態度、他の人と話す態度がほとんど同じでしたから」

 

 もちろん、人に応じて敬語を使ったりとしていたが、本質は変わっていなかった。

 

「なまじ完璧なのも問題かー。あ、そうそう。それとね、レキちゃんがパートナーってのも疑問なの」

 

 俺とレキ……つまり。

 

「SランクとBランクがパートナーってとこが……?」

 

「うん。パーティーのときも言ったけど、世間の認識だとそのこと自体が不思議で仕方ないんだよ」

 

「へー」

 

 無愛想にその言葉を流す。

 

 でもまぁ、確かに俺からしてもSランク武偵ってのは特別だな。何かしらの尖った才能ある人しかなれない。憧れはする……が、俺はなりたいとは思わない。周りのSランク――遠山、神崎、レキ――と比較しても勝てる部分がない。……今の遠山はEランクだけどな。

 

「もちろん、きちんと雇うからには年俸としてかなり出すつもりよ。……といっても、まだ私は大学生の身だからどのくらい出せるかはまだ分からないんだけど」

 

「まだ俺学生ですよ? 卒業しないと武偵免許継続できませんし」

 

 そこで雪ノ下さんは、うーんと唸り、

 

「そういうことなら気長に待つよ。もし進路先や就職先に悩むなら私に連絡して。歓迎するよ」

 

「何でまた俺に……」

 

 仮面を被っているのがバレていたら普通は嫌がると思うんだが。

 

 しかし、雪ノ下さんはゾクッとするような笑顔で。

 

「君と話すの面白いからね」

 

 と、答えた。

 

「姉さん、珍しく彼のこと気に入ってるのね。……比企谷君、ご愁傷さま」

 

「そんな哀れむ視線で俺を見るな」

 

 え、何? この人に気に入られたらどうなるの? 死ぬの?

 

「陽乃さん、そこまででお願いします」

 

 俺にだけ分かるレベルの殺気を放ってるレキ。これ怒ってるか?

 

 それを知ってか知らずか。

 

「ごめん、からかいすぎたね。でも、もし比企谷君を雇うならレキちゃんも正式に雇うつもりだから」

 

「そんな未来は永遠に来ないことを祈ります」

 

 だって、雪ノ下さん怖いじゃん。

 

「冷たいなー。あ、また依頼していい?」

 

「そこはお好きに。俺が受けるとは限らないですが」

 

 一応の予防線。

 

「ふふっ、楽しみにしてるね」

 

 そう面白そうに笑い、一区切りついたのか今度は少し真面目なトーンで。

 

「改めて、比企谷君にレキちゃん。今日はお疲れ様でした。スゴい助かったよ」

 

「仕事ですからこのくらいは当然です」

 

「うん、ありがとね。で、報酬は後で口座に振り込んどくね。今回はイレギュラーな依頼だったけど、機会があれば頼りにさせてもらうよ」

 

 次に雪ノ下が。

 

「私からも言うわね。2人とも、今日はお疲れ様でした。またどこかで」

 

 その言葉で締め括られ、今回の依頼は終わった。

 

 

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 

 

 

 

 そして――――

 

 ある日の夏休み。療室のリビングにて、とある問題が発生した。

 

「八幡さん。飲み物ありますか?」

 

「……冷蔵庫に麦茶がある」

 

「分かりました。頂きます」

 

 お茶を手に取りソファーにちょこんと座るのはよく部屋に遊びにくるレキ。

 

 これはよくある光景だ。同居人の遠山がいるにしろいないにしろ、我が物顔で座っている。まぁ、我が物顔といっても、表情はあまり動かないんだけど。

 

 ちなみに、遠山は今はサッカーしてるから部屋にはいない。

 

 …………問題はコイツだ。

 

「八幡、ブロッコリーはないの?」

 

「今は旬じゃねぇから高いんだよ。そんなピンポイントで用意してないわ」

 

「ふーん」

 

 と、俺お手製の野菜炒めを食べている人物は、俺の知っている限りで一番の弓使いで俺の何を超能力の師匠、銀髪碧眼の美少女――セーラだ。

 

 レキとセーラ、目は合うけど、まだ一言も直接喋ってない。目が合う度に俺がビクビクする。

 

 冗談抜きでどうしてこうなったんだ…………わりとマジで誰か助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿遅れてごめんなさい。バイトやら勉強やらが忙しかったり、何よりもFGOが面白いので…………

それはそうと、パーティーはなんか呆気なく終わってしまったなー。他にも色々と思い付く展開はありましたが、如何せん長くなりそうでしたので。雪ノ下姉妹とはまた絡ませてみたいです。

遅れましたが、あけましておめでとうございます。
「今日もいい日だ」と言えるような日が続くと良いなと願っております。


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世の中ごり押しして良い場面と悪い場面がある

鹿乃さんの「さよなら、アダムとイヴ」めっちゃいいから聞いて
アルバムのrye買って 





 これから話す内容は雪ノ下姉妹の依頼から数日後の出来事だ。

 

 遠山と星伽さんはあの後、カナと合流し、神崎を救出した。そして、パトラを倒したかと思えば今度はイ・ウーの船艦と共にシャーロックが現れた。多分俺が控え室で雪ノ下と話していた時間帯だな。……この温度差よ。

 

 で、何やかんやありまして遠山と神崎のコンビはシャーロックに勝って撤退させたとさ。…………アイツら改めてヤバいな。どうやってあのシャーロックに勝てたんだろうか。イ・ウー艦内の出来事だったから分からない。

 

 俺は星伽さんの話と衛星から見た映像しか知らないからあまり詳しく語れないんだよ。とりあえず遠山と金一さんとシャーロックの撃ち合いが魔物すぎてヤバかったとだけ言っておこう。あれは普通に引く。

 

 えーっと、何? 遠山が放った銃弾をシャーロックが撃ち返して、その撃ち返された銃弾をまた遠山が撃ち返す? ………………ごめん、自分でも何言ってるか理解できない。銃でベイブレードするんじゃねぇ。

 

 まぁ、いいや。そんな人外の戦いがあったという認識でいてくれたらいい。

 

 そして、遠山が入院中のある日、俺はレキの部屋のリビング(殺風景)にいる。互いに床に直に座る。

 

 今回の議題は。

 

「なぁ、レキ」

 

「はい」

 

「…………神崎、色金の力使ったな」

 

「ですね」

 

 これだ。

 

 遠山がパトラから神崎を救った直後に、神崎……というより緋緋神? が指からビームを出してパトラの船に供えられていたピラミッドの上部を綺麗さっぱり消した。字面にするとやっぱり何言ってるか分からないな。それとイ・ウー艦内でもそのビームを出したらしい。

 

 星伽さんの話では、緋緋色金の力を抑えるカバー――殻金があるから完全には緋緋神に乗っ取られないようだが、それでも早めに対策しないと。

 

「どうする? いくら殻金があってもこのままじゃ緋緋神出てくる可能性は僅かにだがあると思うぞ」

 

「何故アリアさんは緋緋色金の力を使えたのでしょうか? 使う直前までアリアさんは気絶してたのですよね?」

 

「そうだな。……というより、その時の状況を詳しく知ってるのは何より遠山なんだが、話す気なさそうなんだよな。金一さんも知らないって言ってたし」

 

 話したくないことは無理して聞くつもりなんてないからな。ただ、手詰まりなだけ。

 

「でしたら考え方を変えましょう」

 

「考え方?」

 

「緋緋色金……緋緋神は恋と戦いを好む。それらを奪えば緋緋神が出てくることはないでしょう」

 

「あー、そうだったな。それが現実的だな。確か戦いの方は武偵法9条を破るような戦いが必要だったよな?」

 

「はい。ですが、アリアさんのことを考えると、そのくらいの戦闘はまずないかと」

 

 腐ってもSランク。武偵法は守る奴だ。となると残りは必然…………。

 

「恋、か」

 

「アリアさんが恋心を自覚すればするほど、ブレーキが効かなくなり、緋緋神に乗っ取られる確率が高まります」

 

 まーた面倒だな。

 

「神崎が恋してるとなると遠山か。どうする? 神崎を監禁させるとか?」

 

 パッと思い付いたことを言ったが、ナチュラルに屑発言だな。

 

「悪い、撤回する」

 

「監禁は手っ取り早いとは思いますが、倫理的にも、法律的にもダメでしょう。特に私たち武偵には。キンジさんとアリアさんを仲違いさせるか、接近しないように監視するか……どうします?」

 

「前者かな。後者は無理がある。それか直接、神崎たちに互いに近寄るな……みたいなこと言うか」

 

「誰がです?」

 

「そりゃ俺が。ヒール役なら任せろ」

 

「自分を犠牲にするやり方……私は嫌ですよ」

 

 きっぱりと否定される。

 

「…………ゴメン」

 

 そんな悲しそうな目をされるとは……考え改めないと。これは俺だけの問題じゃないんだ。

 

「だから、私もやります。そのヒール役を」

 

 はっきりとそう宣言するレキに驚く。俺がやろうとしたことは、人として限りなく最低なことだぞ。

 

「……いいのか?」

 

「もちろんです」

 

「ありがとう」

 

「いえ、気にしないでください。2人でやりましょう」

 

「あぁ。とりあえずどうするかは後々決めよう。俺はそろそろ用事が……」

 

「用事ですか?」

 

「つっても、材木座の帰国祝いにカラオケで遊ぶだけだが」

 

「そうでしたか。では、お気を付けて」

 

「おう」

 

 その後、5時間ぶっ通しで俺と材木座で特撮ソング歌った。楽しかったけど、翌日喉ガラガラだった。調子乗りすぎた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

――――――

 

――――

 

―――

 

 

 

 

 それからかなりの日数が経ち、夏休みももう終盤に差し掛かっている。

 

 短すぎない? もう2ヶ月長くても誰も文句ないぞ。……まぁ、グチグチ言っても仕方ない。現実見よう。

 

 ちなみに、それまでの間適当に任務を受け、空いてる時間に訓練、宿題を済ました。たまに材木座と戸塚と遊んだり、理子とゲームしたり。そこはあまり去年と変わってない。

 

 …………途中何故かレキと実家に帰ったけど、あれは中々にキツかった。時が来れば語るとしよう。いや、語りたくねぇわ。

 

 今はエアコンを効かした部屋で、ソファーと一体化し、めちゃくちゃだらけている。

 

「あぁ……最高」

 

 断言しよう。人類最大の発明はエアコンと。エアコンガンガン効かせて布団にくるまるの気持ちいい。……電気代ヤバくなるし、さすがに控えよ。

 

「静かだ」

 

 遠山はこの前のカジノの警備の仕事が微妙に完遂できてなく、単位が足りないのでサッカーで単位取りに行くだとか。正直よく分からん。そんなんで単位取れるのか。本当に武偵って何でもやるんだな。

 

 レキも理子に拐われ、遠山チームでサッカーすると。俺も遠山に誘われはしたけど、その時は蘭豹にボコボコにされた後で疲れてたから断ったな。俺も付いてきゃ良かったか。

 

 まぁ、いいや。試合は昼過ぎには終わるけど、適当に飯食ってくるって言ってたから、遠山は帰ってくるのはだいたい夕方だし、アイツの飯は作らなくていいよな。てか、まだ9時だじゃん。もうしばらく寝よう。

 

 ……にしても、遠山の人生波乱万丈だな。まさかアホの武偵高で単位落としかけてるとは。

 

 

 

 

 

 

「んんっ……ねむっ…………」

 

 目が覚めると、正午を回っていた。

 

 昼か。まだ寝たいけど、腹減ったな。…………野菜やら肉やら残ってるし炒めて飯食うか。……ダメだ、動くのめんどい。怠惰ですねぇ。

 

 よりにもよってカップ麺は尽きている。出前頼もうにも今からじゃ時間かかる。ああもう、誰か飯作って。

 

 最終手段発動。コンビニで適当に済ますか。でも動きたくない。暑いし外出たくない。アミカの一色にお使い頼むか。……なんか1人でくだらんやり取り繰り広げてるな。

 

 よし、サッと行ってサッと帰ろう。

 

 ――ピンポーン。

 

 家着から着替えようとしたところで、インターホンが鳴る。誰だろ? 星伽さんか? 他には……特に宅配くる用事はなかったはずだが。

 

 外の様子をカメラで確認する。

 

「…………あ?」

 

 誰もいない。イタズラか? 今時そんな益にもならんことをする奴いるのか。暇なことで。……って、待て。なんか視界の端に黒色の帽子がちょっと見える。なんだか見覚えある帽子だな。そして、若干見える銀髪。……もしかして。

 

 どことなく億劫な気持ちでドアを開ける。

 

「八幡、久しぶり」

 

 開けた先には予想通りセーラがいた。

 

「おう。連絡なしでいきなりどうした?」

 

 しかし、その程度でイチイチ驚いてはいられない。目が覚めたらイ・ウーだった時や出会い頭にレキに狙撃された時より遥かにマシだ。変な耐性付いたな……。

 

「上がっていい?」

 

「まぁ、いいが」

 

 散らかってないはず。

 

「訳はちゃんと話すから。飛行機疲れたの」

 

 セーラはキャリーケースを引きながらリビングのソファーにちょこんと座る。

 

「で、今日はどうした? 日本で仕事か?」

 

 麦茶を入れながら訊ねる。

 

「それもあるけど、しばらく日本に用事があって」

 

 セーラのことだから、色々と忙しいんだろうな。てか、キャリーケースって。

 

「宿は?」

 

「予約してるにはしてるけど、向こうの手違いで1日ズレてて今日泊まるとこないの。探すのも面倒だし」

 

「要するに?」

 

「1泊させて」

 

「この部屋、俺の他に別の同居人いるぞ」

 

「そこはバレないように」

 

「無理あるだろ」

 

 いきなり押しかけてこの師匠は全く…………。淡々と話す仕草に可愛さの欠片もねぇ。語尾にハートくらい付けてもいいんだぞ。ちょっと部屋探すくらいしてくれませんかねぇ。

 

「っていうか、俺、セーラにこの部屋の場所教えたっけ?」

 

「理子に聞いた」

 

「人の個人情報をベラベラと……。だったら理子の部屋に泊まれよ。もしくはジャンヌ」

 

「えー、なんか嫌」

 

「そんな理由でこっち来られても困るわ」

 

「一応ジャンヌに頼んでみたけど、ジャンヌと一緒に暮らしてる人、スゴい人見知りみたいで断られた」

 

 へー。人見知りか。誰だろ? いや、武偵は俺含め人見知りの性格難ありだらけだわ……。

 

「それに、理子とはあまり気が合わない」 

 

「分からんでもないけど」

 

 基本大人しい性格のセーラと基本騒がしい性格の理子では確かに大変そうだよな。その辺り、理子は上手いことコントロールしてくれるとは思うけど、無理強いはさせたくない。

 

「そこらの民間宿は?」

 

「きちんとした高いホテルじゃないとヤダ」

 

 ……ワガママだな、全く。

 

「さて、どうするか」

 

 遠山がどっか――武藤辺りの部屋に今日だけでも泊まってくれればそれがいいんだが、俺の都合押し付けるわけにはいかない。かといって、俺が誰かの部屋に泊まったらそれはそれで問題だよな。……とりあえず後回しにしよう。

 

「八幡」

 

「何だ」

 

「お腹すいた」

 

「おう、金渡すからコンビニで適当に買ってきてくれ。あ、俺の分も」 

 

「何か作って」

 

「押し掛けておいて図々しすぎないか?」

 

「師匠命令」

 

「こんなどうでもいい場面で師匠権限使うなよ」

 

 とは言うものの、強く断れない。一応客人だし……いや、やっぱり客人にしては態度でかいな。元々は作るつもりだったんだ。こうなったらついでだ、セーラの分も作るか。

 

「ハァ……」

 

「作ってくれるの?」

 

「仕方なしだぞ」

 

「ん、大人しくしておく」

 

 台所に移動して野菜と豚肉を切って簡単に炒め、味付けをする。スパゲッティーでもあれば大分腹が膨れるんだが、ないので昨日の晩飯の残りの冷や飯を温め、出来上がったのをテーブルに置く。

 

 まさかセーラに飯を作るとはこれぽっちも思ってなかったからかなり適当。

 

「ありがと。いただきます」

 

 セーラが食べ始めたのを見て、俺も食べ始める。

 

 それから数分。俺たち2人が黙々と食べている途中にまた。

 

 ――ピンポーン。

 

 と、インターホンが鳴る。

 

 ……またか。今度は誰だ。多分俺ではないよな。遠山が何か宅配予約してたっけ。そんなこと言ってないはずだが。

 

 セーラに黙るようジェスチャーし、足音たてずにカメラを確認する。

 

「…………」

  

 普通にレキでした。ボーッと立っている。もうサッカー終わったのか。お早いお帰りで。

 

 うーん、今セーラがリビングに居座っている状況は面倒だな。前に理子から送られたメールでセーラのこと知られてるし……。別にやましいことは何もないぞ? ただ、ややこしくはなりそうなだけ。

 

 幸いにもカーテンは閉まっているから外から見られることはない。ていうか、わざわざ開けるの怠かった。

 

 よし、居留守使おう。反応なかったら流石に引き返すだろう。その間にセーラをどうにかするか。

 

 座って、食事再開……しようとした瞬間。

 

 

 

 ――――ドガアァァン!!

 

 

 

「……ねぇ、八幡」

 

「何も言うな…………何も」

 

 玄関から爆発音がしました、はい。それはそれは見事な爆発音でした。廊下から煙漂ってる……。ほらぁ、若干セーラも引いてるよ

 

 2人揃ってゆっくりと廊下まで様子を見に行く。

 

 煙が晴れていくにつれて、その姿が明確になっていく――こんな言い方してるけど、犯人は分かりきっているがな――で、そこには……ドラグノフを構えたレキが立っていた。

 

「わぁ……」

 

 セーラのひきつった声が聞こえる。

 

 少し髪の毛に隠れた目がニュータイプを見つけたユニコーンガンダム並にユラリユラリと光っているよ。あらやだこの子怖い。

 

 あ、ドアひしゃげてる。そりゃそうか。これ先生どもに怒られたりしないかな。わりとこの部屋ドンパチ起きてる頻度高いし、他の部屋の奴らが報告しないことを祈るしかない。

 

「……ちなみにレキさん、その爆弾はどこから? お前持ってないよな」

 

 と、動揺のあまり始めに聞くには場違いな質問をしてしまう。

 

「理子さんからです」

 

「あの爆弾魔が!」

 

 狙撃手に持たせたらダメだろ!!

 

「……で、なんでいきなり玄関爆破した?」

 

「これも理子さんに、もしかしたら八幡さんの部屋にセーラさんがいるかもしれないと情報を得まして」

 

 理子め……アイツの部屋の洗剤の中身全部お酢に変えてやる。

 

「八幡さんが居留守使わなかったら爆破しないですみましたよ」

 

「居留守云々は置いといて、そもそもの話、部屋いるの俺だけの可能性もあるわけだろ。例えばまだ俺が寝てたり……何? 盗聴でもしてるの?」

 

「そんなのしなくても、その程度の距離なら音で分かります。集中すればセーラさん……若い女性の呼吸音くらい聞こえます」

 

 ちょっと待って待って怖い怖い怖い怖い怖い。

 

 チラッとセーラを見る。セーラは首を勢いよくフルフルと横に振っている。あ、うん。流石にそんな細かい音の聞き分けセーラもできないよね。レキ、才能を無駄に使ってない? もっと別の場面で活かしてよ。

 

 

 

――――――

 

 

 

 あ、ここから前回の続きになります。随分長くかかりましたね。  

 

 わりと衝撃的な出来事があった割りにはセーラ普通に好物のブロッコリー要求してきたな。切り替え早いね。見習いたいわ。こっちはまだビクビクしてるんだが。まぁ、俺も飯は食べてるんだけど。

 

「なぁ、レキ。あのドア直してくれ……」

 

「あと30分もすれば平賀さんが直しに来てくれます。料金は私持ちです」

 

「そんなに手際いいのになぜ爆破したのか」 

 

「サプラーイズというやつです。理子さんに教わりました」

 

 レキになかなか似合わない言葉だな。

 

「多分だけど、かなり趣旨間違ってるぞ、それ。普通にパーティーの登場の時とか想定しているはずだろ」

 

「ですが、貰った爆弾はC4でしたよ?」

 

 ……アイツのゲーム機の設定言語アラビア語に変えてやる。

 

「もういいや。これ以上言及するのなんか怖いわ」

 

「分かりました。では、話を変えます。なぜセーラさんがここに?」

 

 レキの視線がセーラに移る。

 

「日本に用事で来て、八幡の部屋に遊びにきたの。それで、色々と事情があって1泊だけさせてほしいと頼んだ」

 

 あ、それ言っちゃうのね。

 

「ですが、ここには遠山さんも住んでるので難しいのでは?」

 

「俺もそう言ってとりあえず先送りにしたんだが、まだどうするか決めてない。……てか、2人は初対面だよな?」

 

 少し気になる。

 

「はい。私は八幡さんから写真を見せていただいたことがあるので名前と顔だけは知っています。話すのは初めてです」

 

 と、レキ。

 

「噂は聞いてるけど、実際に会うのは初めて。改めて、名前はセーラ。よろしく」

 

 と、セーラ。

 

「レキと言います。よろしくお願いします」

 

 自己紹介が済んだところで。

 

「八幡、おかわり」

 

「へいへい」

 

 空になった皿を受け取ってあまりをよそる。

 

「レキは食べるか?」

 

「大丈夫です」

 

「分かった」

 

 ソファーに座り直す。

 

「で、セーラ。けっきょくお前どうすんの? ここ東京だけど、神奈川とか千葉とか探せばどこかあるだろ」

 

「今からじゃ厳しくない? それに日本って電車が多くてよく分からない」

 

 日本というより、関東だな。

 

 確かに俺だって、たまに路線間違えるな。乗り慣れてる路線ならまだしも、関東の路線多すぎるんだよなぁ。

 

「それはそうだが……それしかないだろ」

 

「でしたら、セーラさん。私の部屋に泊まりませんか?」

 

 予想外の提案に俺もセーラも少し戸惑う。まさかレキがそう言うとは。

 

「いいの?」

 

「はい」

 

「じゃ、一晩よろしく」

 

「いいんかい」

 

 初対面でいきなり部屋に泊まるってスゴいな。俺は無理。人見知り発揮するし、何よりソイツに対して警戒しちゃう。

 

「でも、1つ頼みいい?」

 

「どうぞ」

 

「八幡も一緒の部屋で寝ること」

 

「構いません」

 

「俺が構うわ」

 

 突然何言い出すんだよ。 

 

「何かあったら嫌だし、万が一のストッパーとして八幡も参加すること」

 

「ご遠慮ねが…………分かった、やるって」

 

 断ろうとしたが、セーラの超能力でコップが綺麗に斬られた。そういや、セーラの風は鎌鼬も作れるからな。人体切断できるレベルの。飲み物入ってなくてよかった。

 

 流石にレキに対して警戒心はあるか。そりゃこの子、いきなりドア爆破して入ってきちゃうお茶目な人ですから……。

 

「あ、レキの部屋ベッドとかないから雑魚寝だぞ」

 

「え」

 

 セーラの驚く声。

 

 セーラって声のテンションは常に一定だけど、わりと顔に出るから可愛い。

 

「マジで何もないからな。タオルケットとか持ってきてる?」

 

「ない」

 

「なら、俺の貸すわ」

 

「ありがと」

 

 すると、レキに肩を叩かれる。

 

「私の分はありますか?」

 

「え、いつも使ってるっけ?」

 

「今日は使いたいです」

 

「つっても、俺タオルケット2枚しか持ってないんだけどな……」

 

 1週間毎に取り替えてるから2枚で充分だしな。後は冬用の布団しかない。

 

「ま、別に1日くらい大丈夫か」

 

 夏に適当に寝ても風邪は引かん。

 

「ん? 八幡はレキの部屋に入ったことあるの?」

 

 唐突なセーラの疑問に答える。

 

「何度かな」

 

「一緒に隣で寝たこともありますね」

 

「床硬かったな…………」

 

 というより、そこ、余計なこと言わない。あと微妙に勝ち誇った顔もしない。

 

「へー…………」

 

 セーラの機嫌損ねたら、最悪俺の首飛ぶぞ。そうなったらリアルアンパンマンになるだろうな。

 

「では、平賀さんの修理を待ってから移動しましょうか」

 

 …………あ、ドア壊れてたじゃん。忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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narrative

 あの後平賀さんが来て、ドアを修理してくれた。その時、「どうせなら、セキュリティのためにがっつり電気とか流しちゃう?」とか聞かれたので丁重に断った。普通でいいです……普通で。

 

 それでセーラの荷物とか諸々運んで、今はレキの部屋にいるわけだが――

 

「――まだ昼過ぎじゃねぇか。何すんの?」

 

 ただいまの時刻は3時。せいぜい夕方だろう。

 

「確かに移動するの早かった。もう少し八幡の部屋でゆっくりしたかった」

 

「んー……それだと遠山と鉢合わせするかもしれないからな。とりあえずセーラだけレキの部屋に送ればよかった。てか、俺の出番夜だろ? まだ部屋にいるわ」

 

 と、背中を向けると、後ろからチャキ……という音と弦を引く音がする。センサーを使わなくてもドラグノフとセーラの弓で狙われていることが嫌でも分かる。

 

「後1歩でも動いたらどうなるか分かる?」

 

「さっきまで命だったモノが辺り一面に転がる」

 

「正解」

 

 千翼ルォォ!! 逃げろォォ!!!

 

「……帰ってもいいだろ。夜には戻るから」

 

「仕事じゃないのにほぼ初対面の人と2人きりだと気まずい」

 

 気持ちは分かるが、それレキが隣にいる状況で言うことか?

 

「で、レキはなぜドラグノフを構える?」

 

 特に理由ある?

 

「何となくです」

 

「もっと明確な理由が欲しかった……」

 

 せめてセーラと同じ理由でいいから。

 

 選択肢がなくなったので、ここに留まることにした。そこで気になることがあり、ちょっと移動する。

 

「どうしたの?」

 

 セーラに聞かれる。

 

「ここの台所どんな感じかなーって」

 

 レキの食事事情を知る者からして台所はチェックしないといけないだろつ。ざっと見渡す。

 

 炊飯器に冷蔵庫。包丁に神崎(まな板)、他にも調味料やボウルに鍋とかわりと問題ないレベルで揃っている。電子レンジとかはないけどな。

 

 冷蔵庫の中身はスッカスカだ。水とカロリーメイト。後は……ココナッツオイルとクリームチーズ? 何に使うのか分からない。というより、肉も野菜もないな。マジかよ………。カロリーメイトは腐らせないために冷やしてるのか。

 

 まともな食料は米とカロリーメイトしかない。予想はしてたけど、あまりにも少なくて軽く驚いた。

 

「レキって料理するの?」

 

「しないこともないです」

 

「ちなみにどんな感じの料理を?」

 

「ライスケーキです」

 

 ケーキだと? レキ、そういうデザートも食べるのか。それは知らなかった。

 

「今冷蔵庫に冷やしてあります」

 

 あ、本当だ。奥に何か包装されてる物がある。食べかけとかのカロリーメイトかと思ってたがどうやら違うみたいだ。

 

「これです」

 

 冷蔵庫から取り出したそのライスケーキとやらを見る。何て言うか……パッと見、ただのカロリーメイト。イメージとかけ離れている。

 

「これが?」

 

「ライスケーキです」

 

「へぇ。……なぁ、作り方は?」

 

「お鍋にご飯と水、砂糖に好みのフレーバーを入れて水気が飛ぶまで20分ほど煮ます」

 

 ご飯と砂糖……いきなり炭水化物の塊だな。その組み合わせって合うの?

 

「次にココナッツオイルとクリームチーズをよく混ぜます」

 

 へぇ、そこでその2つ使うんだ。

 

「氷水で冷やしてから冷蔵庫で更に冷やせば完成です。後は食べやすい大きさにカットして包むだけです」

 

 ケーキって言うわりにはけっこう簡単にできるんだな。聞いてるかぎりは難しくなさそう。

 

「武偵が食べる飯としては優秀だな」

 

「はい。カロリーメイト同様片手で食べやすい携帯食として優秀です」

 

 実際、少量でもかなり高カロリーだろう。任務中、片手間に食べやすそうなのも良い。

 

 ……ただ、女の子が作った料理として、可愛い感じはしないかな。

 

「食べてみていいか?」

 

「どうぞ」

 

 1つ貰い口に放り込む。ココナッツオイルにクリームチーズとか砂糖にご飯とか合うのかと思ったけど、ビックリする味ではない。問題なく食べれる。

 

「どうでしょう?」

 

「ん、普通に美味い」

 

「ありがとうございます」

 

 僅かに微笑むレキに釣られて俺も笑う。

 

 さて、台所はある程度使えると分かったり、レキの意外な一面が見れたりしたところで。

 

「今日の晩飯何にするかね……」

 

 一旦買い物には行かないと。冷蔵庫何もないし。それくらいなら許してもらえるよな……な?

 

「じゃ、とりあえず買い物行ってくるわ」

 

「そのことですが、八幡さん」

 

「どした?」

 

「外へ食べに行きませんか?」

 

「外?」

 

「はい。もし今日買った食材が余っても私は食べないと思うので」

 

「それならそれで俺が持って帰るが、確かにせっかくだしな。セーラはそれでいいか?」

 

「八幡の奢りなら」

 

「この中だと、俺が一番金ねぇぞ。そんな俺にたかるのか」

 

 普段から高額で雇わないといけないセーラとSランクのレキと比べるとか止めて。

 

「私、女の子」

 

「俺は男女平等主義なんだよ」

 

「えー」

 

「……上限700円な」

 

 俺チョロすぎ。

 

「わーい」

 

「もうちょっと嬉しそうに言ってくれない?」

 

 

 

 

 はい、というわけであれからのんびりしてたら6時になり、俺らは武偵御用達――いつものお台場に来たわけだが…………。

 

「うへぇ……人多い」

 

 夏休み終盤なこともあって、わんさか人がいる。しかも暑い。もう6時だぞ。

 

「日本って暑い」

 

「分かる」 

 

 セーラの意見に同意しつつ、小走りで屋内に入る。涼しい。やっぱりエアコンはいいな。文明の利器。

 

「レキやセーラは食べたいもん、何か希望あるか?」

 

「特にありません」

 

「うーん……ここに何があるの?」

 

「ある程度はあると思うぞ。それにフードコートがあるからいざとなれば、変わった料理以外なら何でもあるだろうな」

 

「ふーん。オススメは?」

 

「ラーメン」

 

 俺、即答。

 

「八幡さんはかなりのラーメン好きです。材木座さんや遠山さん、それに平塚先生ともよく食べ歩きしてますよね」

 

「主に先生がな……けっこう紹介してくれるし。気になるじゃん。アイツらもラーメン好きだからな」

 

 そして、婚活に対しての愚痴をしてくる。俺らは苦笑いで話を合わせるしかない。機嫌がただでさえ悪い上に更に悪くすると、大概俺が殴られる。たまに遠山と材木座も犠牲に遭う。早く相手見つけて!!

 

「私ラーメン食べたことない。美味しいの?」

 

「そりゃもちろん美味いけど……そこは人の好みだから断言はできないな」

 

 油っこいとかにんにくが無理とかそういう人はいるにはいる。

 

「なら私も挑戦してみようかな」

 

「レキもそれでいいか?」

 

「はい」

 

 俺は2人を案内し、他と比べて特に味が尖ってないであろうせたが屋へと入る。

 

 全員、無難に醤油ラーメンを注文して待ってる間、レキが唐突に口を開く。

 

「そういえば八幡さん」

 

「何だ?」

 

「前にも私とお台場に来ましたね」

 

「前? あぁ……あの時か」

 

 あったあった。俺がイ・ウーに拉致られる前のことだな。あの時も色々と見て回ったものだ。それ以降からあまりにも怒涛の人生送ったからな……俺よく生きてるな。何回か死にかけたけど。

 

「へー、そんなこともあったんだ」

 

「まぁな」

 

 なお、しばらく経った後(イ・ウーから帰ってきた時)に狙撃された模様。

 

「あの頃は感情がまだはっきりと分かっていませんでしたが、楽しかったと思います」

 

「それは何より」

 

「八幡嬉しそう」

 

「え、そう?」

 

「うん、にやけてる。気持ち悪いよ」

 

「最後の一言いる? 俺だって傷付くよ?」

 

 この場でみっともなく泣くぞコラ。

 

「客観的な意見。他の客から見えない位置で良かったね。評判がた落ち」

 

「落ちる評判は元からないから安心しろ」

 

「胸を張って言わないでください」

 

 はい、ごめんなさい。

 

 レキに釘を刺され、思わず黙ってしまう。自分で言ってても悲しい。

 

 と、そうこうしていると、ラーメンが届く。うん、美味しそう。

 

「「いただきます」」

 

 2人が口を揃え食べ始めてから俺も言う。

 

「いただきます。……そういや、セーラは箸使えるのか?」

 

「大丈夫。練習した。……あつっ」

 

 ぎこちないにしろ、普通に食べているのでどうにかなるだろう。流石にラーメン店にフォークはないだろうしな。

 

「……え」

 

 セーラがレキを見て声を出す。

 

 そうセーラと話している間にもレキはいつもの1本ずつ吸う食べ方でどんどん食べている。綺麗な姿勢でかなりのハイペースなので、初見では驚くだろうな。俺も驚いた。

 

 そして、食べている最中にふと気になったことが。世間話ついでに問いかける。

 

「なぁ、セーラ」

 

「何?」

 

「日本での用事って何だ?」

 

「内緒……ただ、八幡とレキさんも関係あるかもね」

 

「何だそれ」

 

「時が来れば分かるよ」

 

 はぐらかされるな。

 

「私は何か分かりました」

 

 もう食べ終わったレキが告げる。 

「マジで?」

 

「はい。ですが、八幡さんの場合まだ可能性の段階ですので」

 

「分かった分かった。詳しくは聞かねぇよ」

 

 2人の口調からしてなんかヤバい雰囲気しかない話ってのは理解した。あぁ……嫌な予感しかない。

 

「ところで八幡」

 

「今度は何だ?」

 

「色金の力使えてる?」

 

「…………ぼちぼち」

 

 あ、知ってたのね。まぁ、金一さんが衛星で確認してる時点で情報が漏れてることくらい予想はできた。でもさ、

 

「あんまこういう場所で話す話題じゃないだろ」

 

 小声で話す。ラーメン店はけっこううるさいから周りには聞こえないとは思うが。

 

「それもそうだね。残り食べるよ」

 

「そうしてくれ」

 

 ……色金なぁ。一応はパトラの事件から色金の超能力を使おうとしている。まずはレーザービームを目標に練習しているが、あの時みたいに上手くいかない。何かきっかけが必要なのか。

 

 超能力はコツさえ掴めば、そこからは吸収するように使える。問題はそのコツ。あの時俺はなぜ使えたのだろうか? 色金――璃璃神が話しかけたからだろうか? まだ分からない。   

 

 俺が初めて超能力――烈風を使うために最初にしたことはイメトレなんだが、烈風に関してはセーラが手本見せてくれたこともあってか時間はかなりかかったが、こうしててきるようになった。

 

 だけど、レーザーってどうイメージすればいいのか……。衛星の映像は上からしか見えないからよく分からないし。1回だけできそうなことがあったけど……失敗した。

 

 しかし、あれから変化したこともある。単純に言うと、俺の超能力の上限が上がった。烈風を長く使えるようになっただけで、烈風の最大威力、範囲は変わらない。それでも、俺からしたらかなりの変化だ。

 

 もちろん、日によって使える頻度は違うから烈風だけをアテにするわけにもいかないわけだが。

 

 …………っと、ラーメン伸びてしまう。早く食べよう。

 

 

 

 

「ふー……なかなか多かった」

 

 全員ラーメンを食べ終わり、今はベンチに座っている。

 

「美味しかったか?」

 

「うん」

 

 セーラは満足そうに頷く。

 

「ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさま」

 

「おう。……それで、今から何か買い物とかあるか? まだ7時ちょいだし時間あるぞ」

 

 2人はしばらく考えてる様子をとり、

 

「特にないかな」

 

「私もです。八幡さんは?」

 

 ……MAXコーヒーは東京にはないし、基本宅配頼んでるからな。

 

「ないな」

 

「なら帰る?」

 

「明日の朝飯は……どうにかなるか」

 

 まだ冷蔵庫にいくらか肉やら野菜やらあるな。

 

「よし、帰るか」

 

 

 

 帰りに1/1ガンダムを見てから帰った。暗いときの発光はやはり素晴らしい。

 

 汚職やらで一時期問題になったけど、あれ年代的にファーストの方が展示されてる時だからな! 悪いのはA・Eじゃなくて、いつもの隠蔽大好きな連邦だからな!! ユニコーンへの風評被害は止めてもらおうか。

 

 あ、NT面白かったな。予想以上にサイコフレームがヤバい代物だったし、バナージカッコ良すぎな。バナージはグリプス時のアムロみたいに監禁はされてないのな。バナージの今の立ち位置はよく分からんな。

 

 NTガンダムの武装で今さら有線かって思ったけど、有線だからこそのあの出力なのだろう。他には、ゾルタン様の3分の宇宙世紀の動画のやつが面白かった。ロングランヒットしちゃうんだな、これがぁ!! それとフェネクスのカッコ良さよ。なかなかにチート性能だったな。……私、生まれ変わったら専業主夫になりたい。

 

 最後に、劇場で聞くLiSAさんのnarrativeが何より最高でした。

 

 

 …………なんかすいません。

 

 

 

 

 

 

 

 帰った頃にはもう8時を回っており、夏といえどかなり暗い。

 

 特に何もない部屋でくつろぎながら、俺らは順番にシャワーを浴びてく。レキ、セーラとシャワーを終え、タオルを借りて俺もシャワーを浴びる。

 

 レキは奥の寝室で日課……というより習慣のドラグノフやらの点検をしている。

 

「ほら、魚肉ソーセージだぞ」

 

 その間、俺はハイマキにエサを与えて戯れている。セーラは隣でボーッとしている。

 

 コイツに気に入られてるのかよく分からんな。エサを見せたら素直にこっち来るけど、それがないと、俺が触れても吠えも唸りもせずただジッとしている。

 

 ……犬(狼)にはどう接すればいいのか詳しくないからな。比企谷家が飼ってるのは猫だし。

 

「八幡」

 

「ん?」

 

「その子って犬じゃないよね?」 

 

「狼だな。あれだ、ブラドの部下だった奴。レキが手懐けた」

 

「手懐けたってスゴい」

 

「それな。レキが飼い主だからかけっこう強いぞ。甲冑着てるコイツを使って跳弾させて狙撃することもできるらしいしな」

 

「へー……」

 

 けっきょく、それはレキがスゴいのでは? という話だが、撃たれても全く動じないハイマキの精神もなかなかのもんだからな。

 

 自分で言ってて思ったけど、レキはそろそろ英霊として呼ばれてもおかしくはなさそう。クラスはアーチャーだな。神崎と星伽さんは絶対バーサーカー。人の話聞かないところとか、近接戦闘能力が化け物レベルのところとか。理子は……アサシンかな。変装技術が優れてるとこや逃げるのが得意なとこが何となくのイメージだがアサシンっぽい。

 

 なんてどうでもいいことを考えてると、レキがこちらの部屋に入ってくる。

 

「私の寝室で3人寝るのは少し狭いかもしれないので、今日はここで寝ましょうか」

 

「何で一緒の部屋で寝る前提? 俺だけ別の部屋でお前ら寝室行けよ」

 

 寝室といってもベッドないけど。

 

「家主命令です」

 

 加えてセーラが。

 

「それに一緒に寝ないと八幡がいる意味ない」

 

「あ、そっか。俺ストッパー的役割だったな」

 

 普通に忘れてた。

 

 と、セーラがごそごそと荷物から何か取り出す……ってそれ。

 

「俺の枕じゃん」

 

「一晩借りるね。せめて枕はほしい」

 

 セーラは俺の部屋から持ってきた敷き布団に寝転がりタオルケットにくるまる。

 

「お休み」

 

 飛行機の時差で疲れたのか、わりとすぐに寝息が聞こえる。こうして見ると、年相応の女の子だな。セーラまつ毛長っ。

 

 ……てか、その敷き布団、神崎から逃げるようにレキの部屋に泊まった後に買ったやつ。次レキの部屋に泊まる時に使おうと思ってた。こうなるなら、レキの部屋に敷き布団くらい常備させときゃ良かった、と少し後悔している。

 

「レキはもう寝るのか?」

 

「はい。ドラグノフの整備も済んだのでそろそろ就寝しようかと」

 

 と、レキはドラグノフをケースに閉まっている。

 

「あれ? お前ドラグノフ抱えて寝るのが基本スタイルだろ?」

 

 これは璃璃神に従っていた頃から変わりなく続けていることだ。もう生活の一部になっているのだろう。

 

「いつもならそうですが、今日違います」

 

 俺が貸したもう1枚のタオルケットを俺に向ける。

 

「一緒に寝ましょう」

 

 ……………………………うん?

 

「えーっと……どゆこと?」

 

 脳の処理がちょっと追い付かない。

 

「何か掛けないと寒いでしょう」 

 

「今は夏なんですがそれは」

 

 1日適当に寝たくらいでは風邪引くくらい体弱くないぞ。1年のころ強襲科で山に放り投げられて野宿したこともある。あれはとにかく虫が鬱陶しかった。

 

 レキは俺の顔を覗き込む。

 

「嫌です「そんなことはない」……か? ……そうですか」 

 

 俺の食い付き具合に若干引いてる。なんかごめん。

 

「では、寝ましょうか」

 

「おう」

 

 俺とレキは体育座りで一緒のタオルケットにくるまる。レキは普段この体勢で寝てるわけだが、俺は絶対途中で起きそう。ま、いっか。その時はその時だ。

 

 眠くなるまで、ボーッとしている。そこでチラッとレキを見る。レキも目は瞑っているが、さすがにまだ寝てない。ハイマキはゆっくり動きレキの隣で寝転ぶ。

 

「なぁ、レキ」

 

「何ですか?」

 

「そういや、サッカーどうなったの?」

 

 サッカーど素人の武偵対かなり強いサッカーチームとの対決だったらしい。

 

「一応勝ちはしましたが、最後にどうやらオフサイドをしていたらしいです。後になって分かりました」

 

「オフサイドかー。俺も理屈は分かるが、イマイチピンとこないルールなんだよな」

 

 別にそのくらい良くね? って思う。 

 

「それだと遠山の単位どうなるんだ? 無効?」

 

 無効だと流石にヤバいぞ。

 

「そこは知りません。恐らくですが、その依頼の単位の7割か8割くらいを取得という形になるかと」

 

「あー……そんな感じね」

 

 大丈夫か、遠山の奴。何かあったら手伝おう。カジノの事件は俺の不手際で迷惑かけたし。

 

「話は変わるが、この夏休みでウルスには帰ったのか?」

 

「はい。八幡さんが風の力を使ったから相談したいというのもありましたが、何より私が帰りたかったので」

 

 帰りたかった、か。……そう思えるようで良かった。

 

「それで、ボルテさんたち元気だったか?」

 

「はい。……八幡さん、報告いいですか?」

 

「ん? いいぞ」

 

「この前のカジノでのことを相談したのですが、恐らくあの時風の力を使えたわけは、徐々に風が八幡さんの体に馴染んできているからだろう……と」

 

「馴染むって、俺はブラドの時……あれは乗っ取られただけだが璃璃の力を1回使ってたぞ。なんかそれはおかしくないか?」

 

「ボルテさんが言うには、その頃は半分ほど馴染んでおり、もう今は8割以上は馴染んでいるかと。……あの後体に変化はありますか?」 

 

「まぁ……一応は」

 

 超能力の上限増えたな。長時間使えるようになった。

 

「それが証拠です。八幡さんは風と繋がるスピードが早すぎます」

 

 レキは生まれてから一緒にいて、神崎は緋緋色金を撃ち込まれてから4年か。俺はまだ良くて3ヶ月。確かに早い。

 

 レキは俺の瞳をジッと見つめて宣言する。

 

「だから、時が来れば、貴方はいずれ――超々能力者(ハイパーステルス)になるでしょう。ウルスからは以上です」 

 

「…………そうか。わざわざありがとな」

 

「はい。ただ、私は心配です」

 

「何が?」 

 

「セーラさんが知っていたようにもう八幡さんが超々能力者になる可能性があることが知られています」

 

「そりゃあ……衛星の映像買えば分かるよな。俺が戦ったときなんて特に曇ってはなかったから。屋内でもなかったしな」

 

「だからこそ、世界でまだ3人もいない超々能力者である貴重な人材として狙われることがあると思います」

 

「俺をか……」

 

 物好きもいるもんだな。

 

「――予測不能(イレギュラー)。もうこの名前が浸透していますから」

 

「マジで? そんなに?」

 

 レキも知ってたのか?

 

「はい」

 

「うーっわ……」

 

 頭を抱える。ブラドに続いてパトラとも戦ったからか。

 

「武偵の二つ名は名誉なことですよ?」

 

「いや、ただ単に恥ずかしいわ。小学生かっての。……大丈夫大丈夫。まだ神崎みたいに正式な二つ名ってわけじゃない。大丈夫だ、大丈夫…………」

 

 自分に言い聞かせるように呟く。  

 

 思考を切り替える。

 

「で、その狙われるかもしれないって話だが……何とかなるだろ」

 

「そうでしょうか」

 

「俺はレキのパートナーだ。これからも。だから何とかなる。ないかもしれんが、もし誰かに……それこそどっかの組織とかに引き抜かれてしまいそうな時はレキも連れてくよ。一緒にだ」

 

 その言葉を聞き、レキは目を丸くさせて。

 

「フフッ……ですね。私も八幡さんと一緒がいいです」

 

 口元を緩ませて、そう笑う。

 

「スッキリしました。では、そろそろ寝ましょう」

 

「おう。お休み」

 

「お休みなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もうすぐLiSAさんのライブ!!楽しみ!!!!!



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夏休み終盤にて

最近UBWとHFを見ました。大変面白かったです。キャスターと先生のコンビが好きでした。カニファンと衛宮さんちの今日のごはんは偉大。こっちが本編がいいじゃん。


 まだ微妙にはっきりとしていない意識の中で眩しいと感じる。

 

「んー…………」

 

 目が覚める。カーテン越しからでも外はもう明るく、朝になったことが分かる。

 

 さて、そろそろ起き上がらないと……ん? あれ? 起き上がる? いやいや、俺座って寝たはずだ。なぜ起き上がらないといけないのか……って。

  

「おはようございます、八幡さん」

 

「お、おう。おはよう」

 

 視界にレキの顔が映る。天井もチラッと見える。てか、レキの顔めっちゃ近い。そして、顔から何か柔らかい感触が伝わってくる。それに加えてほんのりと暖かさもある。

 

 ようやく意識がある程度はっきりしてきた。これはあれか……。

 

「膝枕か」

 

 男子がわりと夢見るシチュエーションの1つ。

 

「はい」

 

「俺、寝相悪かったか?」

 

「いいえ」

 

「なら、どうして俺はレキに膝枕を?」

 

「…………何故でしょう。不思議なこともあるものですね」

 

 スッと目を逸らすレキ。あ、うん、察した。つまりは無理矢理かよ。いや別に損はこれっぽっちもしてないし、寧ろ嬉しいんだけど、そっちは動き制限されたりと大変だろうに……。

 

 上体を起こしつつ周りを見渡す。

 

「セーラは?」

 

「顔を洗っています」

 

「そうか」  

 

「あ、起きたの?」

 

 まだ眠そうなセーラがリビングに戻ってきた。  

 

「おう」

 

「おはよう」

 

「おはよう」

 

「ハァ…………」

 

 すると、突然セーラが若干げんなりした様子でため息を吐く。

 

「え、どうした?」

 

「どうしたも何も、目が覚めたら八幡が膝枕されてるんだよ? それもレキは少し微笑んでて……朝から甘ったるい空間見せつけないでほしい。今もくっついてるし」 

 

「それは……すまん」

 

 俺が昔告白を断られクラスに言いふらされた時とはまた違う気まずさがある。

 

「そういうのは私がいないとこでやって」

 

「だとさ、レキ」   

 

 必殺責任転嫁。

 

「善処します」

 

「確約して」

 

 善処するとか中々信用できない言葉だぞ……ってこの前、俺が遠山にそう言った覚えがあるような。

 

「2人に言ってるんだよ」

 

「はい、ごめんなさい」

 

「……ごめんなさい」

 

 言葉にそこまで感情が込められてないのにスゴい迫力だ。思わず謝ってしまう。そんな俺に釣られてレキも頭を下げる。

 

「八幡たちは付き合ってるの?」

 

「さぁ、よく分からん」

 

「私もです」

 

 その言葉にセーラは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「えぇ……どういうことなの? 私から見れば、ただただのろけてる恋人同士なんだけど」 

 

「俺ら、世間には疎いからその辺りの認識が分かりません!」

 

「少しは自覚しなよ」

 

「はい」

 

 ぐうの音も出ない。

 

「まぁいいや。後で膝枕の写真理子たちに送ろ」  

 

 ちょっと無視できないことを言ったぞ。

 

「待て待て……えっ、何それ?」 

 

「いえーい」

 

 フフンッ、と自慢げに携帯の写真を見せびらかしてくる。レキが俺の頭を撫でてる写真。うわっ、マジで撮られてる。てか、レキも黙認するなよ! お前ならそのくらい気づけるだろ! あ、よく見たらレキカメラ目線じゃないか!

 

「それ寄越せ――って、うおっ」

 

 携帯を奪おうとセーラに飛びかかった瞬間――いきなり地面に叩きつけられる。

 

 どうやらセーラは風が俺を押し潰すくらいの威力が起こした。うつ伏せの状態から全く動けねぇ。変な角度で膝をぶつけて地味に痛い。

 

「あまいあまーい」

 

 ギリギリ動く頭でセーラを見上げると……めっちゃドヤ顔で見下げてくる。あぁ! ムカつく!

 

「くっそが……」

 

 烈風を使おうにもセーラの力が強すぎて集中できない。根本的にセーラの超能力の方が俺より圧倒的に力が強いわけだから、使えたとしても到底太刀打ちできないだろう。銃は今手元にないし。 

 

 おい、床がミシミシと軋んでるぞ。お前、どんだけ強くしてんだよ。

 

 ……レキはいつの間にか廊下まで逃げてる。めっちゃこっち覗いてるんですけど。そんなとこで危機察知能力発揮するな。せめて助けて。

 

「レキにはこの写真あげて買収してるから」

 

 そんな事実は聞きたくなかった。まぁ、武偵だもんな、買収するなんてよくあることだ。そんなの武偵にとっては定石だ。そこに文句は言えない。……でも、お前の部屋そろそろヤバいよ? ていうか、逆にそれそんなに欲しいのか?

 

「はい終わり」

 

 それから数秒経ち、セーラのその一言で解放される。

 

「ハァ……あぁ、いって……」

 

 体をそれこそ巨大な生物にずっと踏み潰されてるような感じだった。改めて、セーラの力の強さの一旦を垣間見た。やろと思えば鎌鼬で俺の首を斬ることもできるわけだし。俺もそろそろ鎌鼬の修得をするべきか……でも、セーラ並の力ないと土台無理だしなぁ。

 

 もうセーラとは戦いたくないわ。てか、イ・ウーの面子とは関わりたくない。マジで疲れた……なんでこんなどうでもいい場面で死にかけないといけないんだ。

 

「もうこれで奪わないよね?」  

 

「…………おう」

 

 なんかもうしんどい。朝っぱらからすることじゃないな。

 

「ま、さすがにデータは消しとくよ。想像権? とかで日本で騒ぎ起こすのは嫌だし」

 

「肖像権な。想像してどうすんだよ」

 

 と、俺の目の前でデータを削除するセーラに一安心する。……あのさ、消してくれるなら完全にこのやり取り無駄だっただろうが。何? そんなに苛めたい? そういうお年頃? サディストなの?

 

「八幡は朝ごはんどうするの?」

 

 セーラはさっきまであったことをもう気にしてないような口ぶりで質問する。

 

「俺はもう家で適当に済ませようと思ったが」

 

「えー、私の分は?」

 

「ホテルにチェックインするついでに食いに行けば? どっかカフェとかあるだろ。さすがに同居人いる状態の部屋に案内はできん。絶対面倒だからな」

 

 遠山に説明するのに、お前が潰したイ・ウーのメンバーの1人です! とか言えるわけないだろ。神崎やらが押し寄せてくるに決まってる。

 

 そして、時間を確認したらもう9時を過ぎている。このくらいなら寄り道してホテルに着く頃にはチェックインできる時間帯だろう。

 

 ……にしても、昨日は遠山がいない時に訪ねてきたのは幸運だったな。ドアが爆破されたから差し引き0だが。

 

「ま、それもそうだね。あまりレキにも迷惑かけられないし」

 

 荷物をテキパキ纏めだしたセーラに対して、俺はこう口走ってしまう。

 

「風でここの床思いっきり軋ませたりしたのはノーカンなのか……」  

「――斬るよ?」

 

「すまん」

 

 師匠には頭が上がらない。

 

「じゃ、お世話になった」

 

 キャリーケースを引いたセーラを玄関まで見送る。

 

「道分かるか?」

 

「うん」

 

「ここは物騒だし気を付けろよ」

 

 どこから流れ弾が飛んでくることがしばしばある。

 

「大丈夫」

 

「セーラさん、お元気で」

 

「うん。レキも泊めてくれてありがと。それと八幡」

 

 黒い帽子を被り、靴を履いたセーラはまるで忠告するように――

 

「また近いうちに会うかもしれないけど――それまで死なないでね」

 

 それだけ言い残して去っていった。

 

 

 

 

 それからセーラが寝るのに使った布団はお願いしてレキの空き部屋に置かせてもらうことにした。さすがにまた運ぶのはめんどい。

 

 タオルケットを畳んで袋に入れて一旦俺の部屋に戻ることにする。

 

「いきなり泊まって悪かったな」

 

「大丈夫です。私は楽しかったですので」

 

「そっか」  

 

「ところで、八幡さん。忘れてませんよね?」

 

「……あぁ。また昼にでも」

 

「はい」

 

 帰宅途中、そろそろ神崎の色金関連について何か手を打たないと考える。

 

 さぁて、どうするかね。先に遠山に色金のこと教えて神崎をどうにかしてもらうか。それとも遠山には黙って神崎の方をどうにかするか。いっそのこと両方か……どれがいいのか分かんないな。

 

 最終的には神崎が遠山から離れてくれれば――というより、必要以上に関与しないでくれれば緋緋神の出現は抑えれると思う。絶対とは言えないが。

 

 以前の風に従ってた頃のレキなら、手っ取り早く神崎を殺すか遠山を監禁ぐらいはしてそうだが……それはアウトすぎるだろう。一応俺も似たようなことを考えたけど。

 

 少しずつレキと相談して、最終的な判断は俺に任すって言ってくれたが、俺がこんなに優柔不断だったら意味ないな。下手すれば、遠山や神崎と親しい人も死ぬかもしれないし、関係のない大勢の人が死ぬかもしれない。それだけの力が色金にはある……らしい。イマイチ実感ねぇけど。

 

 レキには夏休みが終わるまでには一度アクションを起こしてみようと言われた。それは俺も賛成だ。あまり先伸ばしにはできない問題だからな。

 

 ――ただ、人の恋路を邪魔するのは気が進まない。

 

「どうにかしないとなー」

 

 と、呟いてるうちにもう部屋に着いた。

 

「……そんなに唸ってどうした?」

 

 帰ってきて早々、ソファーで腕を組んで悩んでる様子の遠山に言う。

 

「おう、比企谷。案外帰ってくるの早かったな。……いや、その、昨日のサッカーの試合で勝ったはいいんだが、オフサイドやらが後で分かって、単位全部貰えなかったんだよ。それで、進級に必要な単位が足りない」

 

 あー、レキが言ってたな

 

「残りは?」 

 

「0,1だ」

 

 まーた微妙な数字。そのくらいなら何とかなるかもしれんが、問題は今日が8/30ということ。

 

「教師どもに頭下げたら何かお情けの依頼貰えるかもしれんぞ?」

 

「もうしてきた」

 

「お早いことで。内容は?」

 

「探偵科の棟の掃除」

 

「あれ全部をか? けっこう広いだろ。1人じゃキツくねぇか?」

 

 大学の講義棟くらいの広さはあるぞ。武偵高はやけに土地あるからな。ある意味一種の訓練施設だし。

 

「だから困ってんだよ。武藤も不知火も用事あるから断られて。神崎たちにも頼んでみたが、返事来なくて……なぁ比企谷、明日時間あるか?」

 

「まぁ、大丈夫だ。手伝える。途中で抜けるかもしれんが」

 

「聞いといてなんだが、ホントにいいのか? 夏休み最後の日なのに。お前のことだから盛大にだらけたいんじゃないのか?」

 

 ……それは否定できない。

 

「カジノに関しちゃ俺の不手際があったわけだし、そのくらいなら特に問題ない」

 

「マジで助かる。また何か奢るよ」

 

「別に気にすんなって。何時からだ?」

 

「9時から」

 

「分かった。とりあえず話はまた後で。腹減った。朝飯にするわ」 

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、朝飯を食べ終え俺は学校に行く。

 

「よう、待たせたか?」

 

「大丈夫」

 

「私たちも今来たとこですし」

 

 留美と一色と待ち合わせをしていた。場所は火薬が香る体育館だが。ロマンもへったくれもない。壁や床のところどころ凹んでるし。

 

 目的はただの訓練。この夏休み、週2回程度で訓練に付き合っている。一色は俺のアミカ……弟子であり、留美も前の弟子だ。まぁ、そういう理由もあるが、もちろん俺の練習にもなる。というか、コイツらがいなかったら、俺の訓練に付き合ってくれる奴がそこまでいないまでもある。

 

「じゃ、今日は何する? 何か希望あるか?」

 

 軽く準備運動しながら尋ねる。

 

「どうしましょうかね。最近、武器なしの徒手空拳ばかりですし」

 

 と、一色。次に留美が。

 

「後は銃で的撃ってるだけだし……そうだ、アル=カタは?」

 

 アル=カタとは、ナイフや銃による演舞……主にアドシアードの言葉だが、こういう場面ではナイフや銃を使った近接格闘として使われる。

 

 武偵同士の戦いになると基本的に銃は打撃武器になる。頭狙えなかったり、防弾服を着てたりと銃は一撃必殺の武器には成り得ないわけだ。もちろん撃たれたら車に轢かれた並の衝撃があるが、もう武偵高――特に強襲科の奴らは大概慣れてる。

 

「んー……アル=カタねぇ」

 

「苦手なの?」

 

 意外そうに聞いてくる留美に対して。

 

「まぁ、ぶっちゃけな。授業で最低限習ったが、使う機会がほとんどなかったからな。俺の当たる事件で銃を持つ同士と戦うってのが少なかったし、銃を持ってたとしてもほとんどが素人だったから。……ほら、留美と前に解決した事件もそうだろ?」

 

 あの立て籠り事件。

 

「確かに」

 

 うんうん、と納得する留美。

 

 その場を制圧するためのスピード勝負となると、アル=カタとかする暇ない。あれは基本は武偵同士の戦闘なわけだし。

 

「でも、やっといて損はないですよね」

 

「そうなんだよな。選択肢が多いに越したことはないし」

 

 一色の意見には同意。

 

「じゃあ、それすっか」

 

 それから学校の購買部に売ってあったゴム弾をある程度買って、実弾のマガジンと交換する。しかしまぁ、ゴム弾って言ってもこれで撃たれてもそれなりに痛いんだよなぁ。

 

「まずは私からいいですか?」

 

 一色が意気揚々と手を挙げる。

 

「おう。……つーか、なんかやる気だな」

 

「先輩が苦手って言ってたのでアル=カタなら勝てるかもしれないので、そう思うとやる気出てきました!」

 

「そうかい。ただ、そう簡単に後輩に負けるわけにはいかないな」 

 

 んー……どう攻めるかね。一色も強襲科になってから早数ヵ月。地道に実力をつけている。烈風を使えば、体勢を崩しながら攻撃できるかもだが、密着状態だと俺も巻き込むかもしれない。

 

 いや、そもそもの話、自分の重要な情報は秘匿しないと。武偵やってると、些細なことでも情報が洩れる可能性があるからな。できる限り手札は伏せとくのに越したことはない。…………衛星からがっつり見られてる映像が存在するのはこの際置いておく。

 

 俺は右手にファイブセブン、左手は素手で腰を落としながら構える。ナイフを持つと両手が制限されるから動きにくい。神崎みたいな両利きだったら話は別なんだがな。てか、ガバメントを両手で扱えるアイツが化け物なんだよなぁ。

 

 一色も俺と似たような感じ。銃を片手に構えている。アイツの持ち銃はFNブローニングM1910だ。小型の銃。地味に俺のファイブセブンと同じFN社である。弾のサイズが分からないからな……最大で7発か8発のどちらか。

 

「よし、行くぞ」

 

「はい!」

 

 一色が返事をしたその瞬間、足下に一発撃つ。ゴム弾だから跳ねるけど、離れた留美にも当たらないような位置を狙って。

 

 それにほんの少し怯んだ隙に一気に近付き、ヤクザキックの要領で思いきり蹴る。……が、一色は蹴りの勢いを利用して後ろに跳びつつ――パァン! と、俺の腹に弾を放つ。

 

「……ッ」

 

 跳んだとこの着地を狙おうとしたが、撃たれた衝撃で後ずさってそれは失敗。ていうか、容赦なく当ててきたな。俺だって少しは遠慮してるのに。

 

 今度は一色がダッシュで間合いを詰めてきた。打撃や蹴りを避けながら一色が銃を俺の肩辺りに向けて構えたところで、銃を持ってる手首を掴む。それから軽く捻り安易に撃てないようにする。例え撃てたとしても狙い通りには撃てまい。    

 

「きゃっ!」

 

 そのまま手首を掴んでる状態で俺の方に引っ張り――

 

「フッ!」

 

 ファイブセブンを上に放り、体勢が崩れながら俺に近付いた一色の顎に向けて掌底をぶちかます。

 

「あっ……!」

 

 引っ張った勢いが足された掌底で、一色は頭をガクンと揺らし倒れていく――――が

 

「うおっ……危なっ」

 

「ちっ」

 

 この子、生意気にも倒れながら股間を蹴ってきやがった。咄嗟に手を放してギリギリかわしたけど。下がりながらファイブセブンもキャッチてきた。あとマジもんの舌打ちは止めなさい。

 

「ハァ~……つまんない先輩ですね。そこは私の蹴りがクリティカルヒットするとこですよ」

 

 ぶーぶーと文句言う一色。

 

「そんな芸人魂発揮したくないわ。……で、続けるか? そこそこいいの入ったと思うが」

 

 人間、顎って弱い。思いきり殴られたらかなり頭グラグラするしな。

 

「まだまだ大丈夫です」 

 

「ならいいが、無理はするなよ」

 

「はい」

 

 戦闘再開。

 

 お互い50cmほどの距離。お返しにと今度は俺が一色の腹に向けて撃つ。しかし、一色の裏拳によって俺の手首を殴られ、射線を逸らされる。弾は場違いな方向に飛ぶが、イチイチ気にしてられない。このくらい当たり前だし。

 

 次に一色が撃とうとするが、ブローニングの銃身を掴み、それを阻止。俺も撃つけど、一色も負けじと避ける。……このような展開がしばらく続く。

 

 途中、一色の呼吸が乱れ、一気に息を吸い込んだ時に、俺はタイミングを見計らって銃のグリップで殴り、その衝撃でブローニングを吹っ飛ばす。と思ったら一色はすぐに腰にあるナイフを逆手持ちで抜刀。

 

 ――――逆手持ちか。

 

 逆手持ちは、基本下から斜めへの攻撃が多く、振るわれる攻撃は死角からの攻めで、視界で捉えることはなかなか難しい。達人のレベルになれば反応なんてできない。だから、扱えるには難易度がかなり高いと個人的に思う。上から斬りつける方が力入るしな。

 

 そんな意識があったから不意を突かれた。

 

 ただ、今回に限っては――

 

「ふぅ……練習が必要だな」

 

 まだ逆手持ちに慣れてない一色が相手。センサーで大体の位置は分かる上に、まだまだスピードも正確さも足りない。おまけに下から振るう攻撃は力が乗りにくい。

 

 なので、対処もまぁ、何とか間に合った。防弾、防刃の性能がある制服で直接受けた。これ間に合わなかったら首危なかったかもな。武偵法の縛りでそこまでヤバいことはしないだろうが。

 

 それから、俺はグリップでナイフの刃を上から叩く。若干、前のめりに攻撃した一色は前に倒れかけるが、必死に踏ん張る。だけど、それは俺にとってはただの隙でしかない。

 

「おりゃ」

 

「ふべっ!」

 

 がら空きの背中を軽く殴ると、そのまま呻き声と共に顔から倒れた。ちょっと痛そう。

 

「俺の勝ちだな」

 

「ちぇー、途中惜しかったとこもあったのに。先輩ひどーい」

 

 頭を抑えて涙をウルウルさせながら立ち上がる一色。あざとい。

 

「これ勝負だから……。まぁ、確かに、股間蹴られかけたりしたところはびっくりはしたがな」

 

「あそこ、私からしたらなかなか上手く攻撃できたと思うんですけどね」

 

「いやいや、その前に攻撃喰らったろ。そこで意識飛んだら終わりじゃねぇか」

 

「一応は後ろにちょっと跳んで衝撃軽減はしましたよ。先輩に手を握られてたから効果はそこまででしたけど。……まだ微妙に頭少し痛いですし」

 

「冷やしとくか?」

 

「そうしまーす。留美ちゃん、氷ちょうだい」

 

「この時期だと溶ける。はい、冷えピタ。その前に汗拭く」

 

「どうもー」

 

 なんか留美が一色の汗を拭いてる様子を見ると……留美がオカンで、一色が子どもみたいだ。

 

 

 

 あの後、何回か一色と留美とアル=カタの練習をし、2人の反省点を色々と教えたりとしていた。ある程度済んでから時間を確認する。

 

「もう昼過ぎか。お前ら、これからどうする?」

 

「午後からはあかりちゃん達と訓練です」

 

 間宮……あやねるコンビの1人か。あの特殊性癖軍団のトップ。本人は自覚なさそう。特に佐々木が怖い。何回か間宮と訓練したことあるけど、その度に睨んでくる。アイツ確か探偵科なのによく強襲科にいるから余計に。

 

「元気なことで。留美は?」

 

「実習が2時からある」

 

「なら今日は終わりだな。お疲れ様」

 

「八幡はこれからどうするの?」

 

「適当にだらけて過ごす」

 

 今日は他にやることあるんだけど。まぁ、どうせすぐに済むことだと思うから。

 

「ふーん」

 

「何?」

 

「や、別に。八幡らしいなって」

 

「そこでもっと訓練に励むって言わない辺り先輩ですよね」 

 

「ほぼ毎日必要最低限は動いてるからいいんだよ。休める時には休む。ただただ疲れるだけの訓練なんて意味ないからな。重要なのはいかに短時間で効率良くこなせるかだ」

 

「無駄に説得力ありますね……」

 

 呆れ顔の一色に頷きながら同意した留美は付け加える。

 

「でも、八幡。効率的って言うけど、筋トレは長時間して筋肉を疲弊させて筋繊維千切れないと強くならないらしい」

 

「それもそうだが、俺はあまり必要以上に筋肉つけないようにしてるからな。下手に筋肉つけると動き狂うことあるし。体重は一定にしている」

  

 って何? 留美はムキムキにでもなりたいの?

 

「へー」

 

「留美から聞いたわりには無関心な受け答えだな」 

 

「先輩も似たような感じですよ」

 

「え、マジ?」

 

「そうです。私が近況報告……と言ってもあかりちゃん達と何をしたー、みたいな内容が多いですけど、その時の先輩の返事けっこう棒読みですよ」

 

 確かに休憩の合間よく話してくれるけど。

 

「そこまでか? ちゃんと話は聞いてるが」

 

「それは分かってるんですけどねー。無愛想って言うか何て言うか……」

 

「そんなに女子との会話に慣れてない?」

 

「そうそう、留美ちゃん。そんな感じ!」

 

 …………痛いとこ突かれたような。つか、さっきから失礼だな。

 

「レキ先輩とはそこまで会話必要なさそうだもんね」

 

「いや、普通に話すぞ?」

 

「そう言えば、レキ先輩と泊まったって本当ですか? 女子寮から先輩っぽい姿をうっすらと見たという目撃情報がありますけど」

 

 留美の問いを無難に受け流したと思ったら次は一色か。……って、見られてた。布団とか運んだからやっぱ目立ったかぁ。

 

「気にするな。それよりもお前ら、まだ予定あるんだろ。さっさと飯休憩でもしろ。時間なくなるぞ」

 

「うっ、もうこんな時間。今日は見逃してあげます。また後日聞きに行きますからね!」

 

「ご遠慮願います」

 

「大丈夫、一色さん。私が直接レキ先輩に聞くから」

 

「さっすが!」 

 

「止めろ!」

 

 そうだ、留美の奴……レキのメル友みたいな感じだった。

 

「八幡、じゃーねー」

 

「さようなら~」

 

 で、そのまま逃げられた。こういう時の逃げ足は速いんだから。普段からそのスピードを発揮してくれ。

 

 まぁ、うん、大丈夫だよな? さすがのレキもそこまで話さないだろう。……別に話さないよな? 不安になってきた。

 

 とりあえずレキには後で口止めするよう言っておくとして、今は昼飯にしよう。学食に行くか。

 

 

 

 そして、昼飯を食べ終えて人いないのを確認して廊下に移動する。そろそろ神崎に1度連絡するか。メールの方が良さそうだが、できるだけ返事早めに欲しいし電話にしよう。

 

「神崎か?」

 

『あら、八幡。あなたから掛けてくるなんて珍しいわね』

 

 繋がった。いつものアニメ声だ。

 

「おう、いきなり悪いな。ちょっと話あって。今大丈夫か?」

 

『えぇ。何かしら?』

 

「えーっとだな、お前の体に埋まってる物について話したいことが」

 

 その台詞に驚いたのか神崎の息を吸い込む音が聞こえた。

 

『…………アンタ、知っているのね?』

 

 さっきまでの明るい口調から警戒しているような口調に変わった。いや、実際警戒しているのだろう。

 

「まぁな」

 

『そう言えば……この前八幡、あそこに居たことがあるって言ってたわね』

 

 あそこ……イ・ウーね。あぁ、そういやブラドの時に言ったな。

 

「そういうこと。で、話の続きをしたいが……電話越しも何だし、どこかで会えるか?」

 

『……今からアタシの部屋に来てちょうだい』

 

 あの超ゴージャスな部屋か。

 

「分かった」

 

 通話を切る。目的地は決まった。さて、これが吉と出るか凶と出るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なかなか話進まないなぁ。原作に追いつく日は果たして来るのだろうか…………

ところで、話は全く関係ないのですが、皆さんはアニメや漫画の実写化はどう思いますか?
自分は映画がどんな出来であろうと、その原作に興味を持ってくれたらオッケーな人種ですし。嫌なら見ないし。
なんかようつべやTwitterで実写化反対! って無駄に騒ぐ人が多い方が正直鬱陶しい。そうやって騒ぐ人のせいで余計に2次元の選択を狭めてる気がします。そもそもの話、これをアニメ化する!? ってのもあります。もっと別の需要があるでしょ。ほら、緋弾のアリア2期とか。アニメで動くリサが見たい。

あ、3月辺りに緋弾のアリアファンブックが発売されますよ。新作のドラマCDありますよ!


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無力な君が持つエゴ

「よう。ほら、手土産」

 

 神崎の部屋に着いた俺は神崎の好物らしい桃まんを3個渡す。普通のあんまんとはどう違うのだろうか。イマイチ分からない。

 

「あら、気が利くわね」

 

「無理言ったのは俺だしな」  

 

 高価なソファーに座り、神崎が淹れてくれた紅茶を飲む。……おぉ、あまり紅茶を飲まない俺でも分かるくらい美味い。さすが貴族様。

 

 というより、桃まんに紅茶ってどうよ? 俺のチョイスミスったかなー。無難にクッキーとかで良かったか。まぁ、喜んでるし、大丈夫だよな。

 

「ま、それもそうね。で、何を聞かせてくれるの? 色々知ってるみたいだけれど」

 

「多分だが、このまま知らないっていうのも不味い気がしてな。緋緋色金のことの性質を教えに来たわけだ」

 

「八幡……いくらイ・ウーにいたとはいえ、なんでそこまで知っているのよ?」

 

「いやまぁ、シャーロックが緋緋色金の研究データを直接見せてくれたからだよ」

 

 スゴい今さらだがそんなポンポンと一般人に見せていい内容ではないだろ、あれ。マジで何考えてんだよ。

 

「そ、そうなんだ……」

 

 なんか若干引かれてるような気がする。解せぬ。

 

「でだ、シャーロックの奴がどこまで教えたのか知らないが……なぁ神崎、お前遠山のこと好きだろ?」

 

 俺が脈絡もなくそう言った瞬間――

 

「わっきゃあ!!」

 

 顔を赤く染め、変な奇声を発し……そのままガバメントを2丁取り出す。って、おい!

 

「待て待て!」

 

 慌てて手首を取り抑える。ふぅ……危ないな。てか、こっわ! 神崎の沸点分かりにくい。こりゃ遠山も苦労するわ。

 

「い、いきなり何言い出すのよ! あ、アタシがキンジのことを!? バカなこと言ってんじゃないわよ!!」

 

「はいはい、ツンデレ乙」

 

 ここまで完璧なツンデレの反応が見れるとは。つか、ツンデレって今日日聞かねぇな。最近のヒロインの流行りの性格って何だろ。うーん……ヤンデレ? あ、これは作者の好みか。最近そこまでアニメ見てないしな。基本的に原作買ってるやつがアニメになったら見るけど、あまりそれ以外のアニメは見ないな。1クールに2、3本くらい。

 

 そうこうしていると、神崎は咳払いをしながら尋ねる。

 

「仮に、仮によ!? アタシがキンジをす、好きで何があるのよ!?」

 

 まだ動揺している。多分だが、俺も似たような状況に陥ると多少なりと同じ反応になりそうだから致し方なしか。

 

 そして、俺は神崎の質問に答える。

 

「何があるっつーと、これは最悪の可能性だが――その遠山が死ぬ。他にも大勢の人が死ぬ。もしかしたら俺も」

 

 俺はそう告げた。

 

「…………は? 何それ」

 

 いきなりの言葉に絶句する神崎を嗜めるように話を続ける。

 

「あまり勘違いするなよ。さっきも言ったがあくまでこれは最悪の場合だ。そうならない可能性の方がずっと高い」

 

 殻金がきちんと起動すれば自由に緋緋神の力が使えるらしいしな。確か緋弾が埋め込まれてから……時期的にはもうすぐか。

 

「まだよく分からないのだれけど、詳しく説明してくれるかしら?」

 

 神崎は少し落ち着いている。

 

「まず色金には意思があるのは知ってるか?」

 

「それは……何となく。体が乗っ取られたこともあったから」

 

 そういやそうらしい。俺はその辺りは知らないんだよな。

 

「で、意思があるってことは性格も様々なわけだ。お前の色金――緋緋色金は戦いと恋、この2つの感情特にを好んでいる」

 

「戦いと恋…………」

 

「緋緋色金はそれを欲する。お前がそれらを自覚すればするほど、余計にその欲望は高まる。その為にお前の意識を完全に奪いに来るかもしれない」

 

「もし完全に乗っ取られたらどうなるの?」

 

「……昔は戦争レベルで暴れまわったらしいが、今と昔では環境が違うからな。どうなるかまでは正直分からん。ただ、色金の力はかなり強いからかなり甚大な被害は出るかもな」

 

 レーザービームとかいきなり撃たれたら何もできずに死ぬだろう。他にも、俺が乗っ取られた時に璃璃神が使ったあの黒い立方体やブラドをメキメキと潰した力もある。……そんな物を俺と神崎は持ってるわけだ。特に神崎は俺みたいに取り外しはできない。

 

「だから、キンジも八幡も死ぬかもってことね」

 

 色金の力の一反を垣間見た神崎はそう納得する。

 

「それで、そうならないためにアタシはどうすればいいの? ……何もせずに引きこもれって?」

 

「まさか。いくら俺でもそこまで言うつもりはない」

 

 ぶっちゃけそれが一番現実味があるわけだが。そんなことを強要できるはずがない。

 

「つっても、お前ならここまで言えばもう分かるだろ」

 

「…………まぁね」

 

 ――――つまり、遠山キンジとの接触を避ける。それだけのこと。

 

「でも、ちょっと待って。それはこ、恋の話よね。もう1つの戦いの感情に関してはどうなのよ?」

 

「あれはお前が人を殺すような戦闘にならないかぎり問題ない」

 

「なるほどね。確かにそっちは大丈夫そう。……あれ? アンタさっきそうならない可能性の方が高いって言ってたわよね。どういう意味?」

 

「お前の緋緋色金――緋弾は特殊な細工がしてあるらしい。それが色金の力を自由に使える役割を担っているとか」

 

「……なんかスゴいわね」

 

「だよな。まぁ、そういうのがあるからそんなに悲観的にはならなくていいと思う」

 

 そもそもの話、神崎の心臓近くにある殻金を奪えるわけないんだからな。

 

「ただまぁ、頭の片隅にそうなる可能性があるって認識をしとけばいい」

 

「分かったわ。ところで、よくもまぁ、そんなに知ってるわね」

 

「シャーロックの研究データにもそれなりに書いてあったからな、それに。それと金一さんにも教わった」 

 

「へぇ。……そういえば、話は変わるけれど、八幡も色金持ってるらしいわね」

 

 唐突だな。まぁ、不思議なことでもないか。なんか不名誉なアダ名つけられてるから知る機会はあるだろう。

 

「……まぁな」

 

「別にそれについてどうこう言うってわけではないわ。ただ……そうね、八幡の持ってる色金はアタシと同じ種類なの?」

 

「いや、違う。色金は3種類確認されてる。お前の持つのは緋緋色金。俺のは璃璃色金だ」

 

「ふぅん。その2つはどこか違いがあるのかしら?」

 

「性格が大分違うな。これはイメージたが、緋緋色金はかなり陽気な感じ。璃璃色金はなんつーか……1年くらい前のレキみたいな感じだな」

 

 多分間違いはないはず。

 

「何となく理解したわ。他に……色金の力についての違いはあるの?」

 

「それはよく分からん」

 

 緋緋色金もレーザービームとか使えるのかは俺は知らない。

 

「てか、いきなりどうした?」

 

「ちょっとした興味よ。なんで八幡がそこまで協力してくれるのかって疑問に思っただけ。八幡とアタシが持ってる色金が同じ種類なら情報がほしいのかなって」

 

「…………」

 

 何気なしに吐いたその言葉に俺はパトラと戦ったときの記憶が蘇る。

 

 

 

 ――――あの子たちを守って…………。

 

 

 

 あの時、璃璃神はそう言った。それから何度か俺は考えた。璃璃神の指すあの子たちは誰なのだろうか。

 

 基本的に無感情の璃璃神だが、あの言葉だけはどこか優しげな口調だった。あれは……まるで親しい存在、それこそ家族に向けられた言葉のように思う。緋緋神と璃璃神の関係は知らないが、これは俺の想像だがきっと家族なのだろう。

 

 それに俺は過去に2回も璃璃神に命を助けられた。返しきれない恩がある。だから、俺は璃璃神の頼みを叶えなければならない。それが璃璃神の家族ならば尚更だ。

 

「別に俺のためだから気にすんな」

 

 これは俺自身のためにやってること。きっかけはレキがしたいことだったから手伝おうと思った。そして、時間が経つにつれ、ただそれだけではなくなった。

 

「ふーん。だったら、また何かあったら相談させてもらうわ」

 

「ま、内容によるがな」

 

 俺はできるだけ朗らかな口調でそう答えた。

 

 

 

 

 その後、2学期にある修学旅行やチーム編成について軽く世間話してから神崎の部屋を後にした。

 

 女子寮から離れたところでレキに連絡する。

 

『もしもし、八幡さん』

 

 いつもと同じ声が聞こえる。

 

「レキ、さっき神崎と話してきたが――――」

 

 ざっと、さっきの会話の内容を伝える。

 

『分かりました。わざわざありがとうございます。ところで、このことをキンジさんには伝えますか?』

 

「んー……遠山はイ・ウーや色金のことをあまり知りたがってないからな。特に伝えなくてもいい気はするが…………」

 

 それでも、遠山キンジがイ・ウーを破壊した当事者という事実は消えない。これはいつかきっと遠山にも降りかかってくる問題だ。その時に話すべきか、今のうちに情報を共有しておくべきか。どれが最善だろうか。

 

『最終的にその判断は八幡さんに任せます』

 

「……了解。ちなみに、レキならどうする? 参考がてら聞かせてくれ」

 

『私なら……そうですね、キンジさんに説明せずに戦いの場から遠ざけます』

 

「あー、なるほど」

 

 確かに遠山は武偵を辞めると言っている。ならば、それも1つの手段か。

 

『そういえば八幡さん、体の調子はどうですか?』

 

「ん? あぁ、前に言ったやつ以外なら特に問題なし」

 

 璃璃神が体に馴染んできているって言われても実感ないのが現実だ。少しずつ変化があるのは確かだが。

 

『でしたら良いのですが……』

 

「大丈夫だって」

 

 心配そうなレキの声に対して安心させるように普段と変わりない声で答える。

 

『本当ですか? 無理していませんか?』

 

「マジで大丈夫。何かあったらきちんと報告するから」

 

『……はい。約束ですよ。では私はこれで』

 

 レキはそう言い残し通話は終了した。

 

 ったく、心配性だな。セーラと別れてからまだ1日そこらだぞ。そんなすぐに変化したら苦労しない。それに加えて、俺は神崎と違いストッパーがあるんだから。

 

「ハァ…………」

 

 だけど、思わずため息が漏れる。

 

 俺が弱いからこうして心配されてるのだろうと、どうしてもそう思ってしまう俺がいる。きっとレキはそんなこと思っていないだろう。ただ純粋に心配してくれてるだけだ。分かってる。それは分かってる。

 

 けど、あぁ……こんな考えをしてしまう、こんな考えしかできない自分が嫌いになりそうだ。

 

 レキと俺とは明確な力の差がある。余程距離を詰めないと俺はレキに勝てないだろう。中途半端な距離で戦ったら俺は確実に負ける。それはレキが昔から戦いの環境に身を置いていたのだから当然のことだ。当たり前のことだが、何せ経験値がまるで違う。

 

 それでも、嫌になる。俺とレキは対等ではないという事実に。そんなに心配しないでほしい。頼りにしてほしい。…………何もない俺だけど。

 

 ――――だからこそ、俺も早いこと璃璃色金の力を使いこなさないとならない。もうこれ以上、誰かに……レキに迷惑かけたくないから。

 

「…………暑いな」

 

 俺のその呟きは誰にも聞かれることなく、夏の青空に消えていった。

 

 そして、翌日。俺は遠山の依頼である掃除を手伝い、後はいつも通り過ごした。途中、神崎も応援に来てたな。遠山とは色金のことを話したばかりだったせいか、また別の要因があるのかは分からないが、どことなくぎこちない様子だった。

 

 こうして、何かと大変だった2年の夏休みは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、無性にオリジナル小説を書きたくなってきた。今まで書いたことないわけだし。投稿するならやっぱりなろうがいいのだろうか。いやまぁ、設定まだ固まってないんだけど


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2年 2学期
水投げの日


さらりと何事もなく投稿するスタイル


 夏休みも明け――しかし、まだまだ陽射しは強く、汗が止まらない暑さが続くなか、2学期が始まった。

 

 普通の学校ならば、やれ体育祭だのやれ文化祭だの……文化祭は1学期になる学校も多い気がするが、やたら様々な行事が目白押しな学期である。途中にやたらバカ騒ぎをするハロウィンや終盤にはカップルがウザったいほど沸くクリスマスも控えている。多分だが、学生が最も好きな期間ではなかろうか。

 

 武偵高も例外ではなく、体育祭だの文化祭だのあるにはある。もうすぐ京都への修学旅行もあるくらいだ。しかし、そこには必ずと言っていいほど硝煙の香りが漂っている。そして誰かが血を流す。

 

 ――――何が言いたいかって? んなもん、決まってる。

 

「学校行きたくねぇ…………」

「グチグチ言ってないでさっさと行くぞ」

 

 始業式の朝。玄関で靴を履いた途端に登校するのが億劫になる。そんな俺の後ろで遠山のめんどくさそうな声がする。

 

 てか、夏休み終わるの早くない? 毎年言ってる気がするけど。

 

 ……まぁ、でも、ずっと休みが続くと、それはそれで怖いがな。多少なりと学校や仕事があるからこそ、こういう休みの期間がありがたいのであって。それがなくなればただのニートだからな。ニートの生産性のなさは勝てる気がしない。

 

 それでも、やっぱり。

 

「小生、学校行きたくないでござる」

「……急に何だそのキャラは」

「いやだってさ、普通の始業式ならともかく、2学期の始業式とかあれあるじゃん。水投げ」

「あるな」

「面倒だろ?」

「面倒だな」

「よし休む」

「いいから行けよ」

「アダッ」

 

 遠山に背中を蹴られドアにぶつかる寸前に開ける。……あぁ、外に出ちゃった。

 

「っていうか、比企谷さ。お前夏休み中も訓練やらで学校行ってただろ。何を今さら」

「……義務的なのと自主的なのではモチベーションがかなり違うんだよな」

「言わんとすることは分かる」

 

 極端な例だが、親や教師から「勉強しろ」と言われるのと、自分から「よしっ、勉強するぞ」というのでは、やはりそれなりのやる気の差があるわけだ。

 

「まぁ、確かに水投げはダルいな」

「マジでそれな。あ、遠山は去年どんな感じだった? まだSの頃だろ」

「中等部の後輩、同級生問わずわんさか来たよ」

「それはそれはお気の毒に」

「そういう比企谷は?」

「俺は元アミカが仕掛けてきただけだな」

「鶴見だっけか」

「そうそう」

 

 さっきから話題に挙がっている水投げとは、武偵高のわけわからん風潮で、2学期の始業式の日は徒手空拳で誰でも問わず仕掛けてもオッケーな日である。しかも、校内だけじゃなくてもオッケー。…………マジで意味不明だよな。

 

「終わったらさっさと帰るに限るな」

「全くだ」

「……そういや、珍しく朝から神崎いないな」

 

 不自然にならないように神崎の話題を出す。アイツ、しょっちゅう外で待ち構えていることが多い。

 

「アリアな。……昨日の掃除で比企谷途中で帰っただろ?」

「おお」 

 

 あれは……うん、なかなかにキツかった。ホイホイ安請け合いするんじゃなかったって思うくらい。

 

「その後にアリアが手伝ってくれたんだ」

「ふーん。多少は楽だったろ」

「まぁな。ただ、なんかアリア俺を避けてる気がしてな。俺が話しかけても8割くらい無視されたし。その割りには掃除きちんとやってくれたから」

「ほぉ……」

 

 ――――避けてる、ってことは、神崎なりに色金について向き合っているということだろう。特に恋愛の感情について。神崎のせいで今目の前にいる遠山を殺す可能性がある……ということに、どう考えているのかは不明だが、神崎なりに距離感を測っているのだろう。

 

 果たして、それがどう転ぶかは……まだ誰にも分からないが。

 

「俺何かしたっけな……」

「心当たりは?」

「特にない」

「なら別にほっとけば? お前に実害あるわけでもないし」

「それもそうか。アリアに殴られるよりマシだ」

 

 神崎も神崎だが、その思考に行き着く遠山も大概だと思うけどな。

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、八幡!」

「あ、八幡。おはよー」

「2人ともおはよう。お前ら早いな」

 

 教室に着いたらもう材木座と戸塚がいた。教室はエアコンが効いてて快適だ。外暑いんだよ。

 

「あっつ……」

 

 道中で買ったペットボトルのお茶を1/3くらい飲む。これなら家から持ってきたら良かった。節約にもなったし。午前だけだからと慢心した。

 

「うむ、我は昨日学校で色々作ってたら寝落ちしてしまってな。気付いたら朝だった。コンクリートで寝るとぶっちゃけ体痛い」

「アホか、体壊すぞ。きちんと部屋に戻れ」

「ぐうの音も出ない正論である」

「てか、部屋でできないのか? 道具とかあるんだろ」

「そうなのだが、やはり学校の方が設備が良いのでな」

 

 なるほどね。

 

「僕は、朝の保健室の当番だったからね」

「朝からお疲れなことで」

「ううん。よくあることだから慣れたよ」

 

 はい天使。その微笑む姿はマジで天使。

 

 と、戸塚がそういえば……と口に出し、

 

「今日ってあれだよね、水投げ」

「うむ。そうだな。まぁ、我らにはあまり関係のない話だが」

 

 まだ話題に出たな。

 

「確かにお前ら基本的に戦闘関係ないしな。ただ、誰だろうと関係なしに殴ってくるぞ。一応心構えはしとけ。特に材木座。お前は殴り心地がよさそうな体つきだからな」

「お主……自分でも薄々そうだろうなと思っていたことを」

「…………っていうか、なんで材木座そんなに太ってんだよ。装備科の作業とかけっこうカロリー使うだろ」

「その分のカロリーを摂取しているだけの話だが?」

「威張るな。なに当然のように話してんだ」

「しかし、我から食事を取り上げると生きる楽しみが……」

「うーん……だったら少しずつ控えたらいいんじゃないかな? 体に悪いよ」

「おぉ……救護科らしい発言だ」

「救護科だからね」

 

 と、急に話の流れをぶった切るように――

 

「八幡、聞け!」

「…………何をだ? あ、もしかして健康診断の結果ヤバかったか?」

「違う! いやまぁ、それもそれで問題あるのだが……とにかく聞け」

「おいコラ逃げるな」

「大丈夫だよ、八幡。僕たちで健康診断の悪かった生徒たちの生活を見直すから」

 

 材木座……ドンマイ。

 

「で、何がだ?」

「我の夏休みの予定知っていたか?」

「ん? 学校に引き込もっ…………あぁ、確か外国に行ってたっけ? アメリカのどっかの」

「それである! 短期だがアメリカのロスアラモスへと留学に行っていたのだ」

 

 それそれ。

 

「どんな感じだったの?」

「見るもの全てが最先端でできていて……何もかもが新鮮であった」

「へー……そこでは何を作ってたの? ロスアラモスってアメリカで一番兵器……みたいなの作ってるんだよね?」

「我はビーム・サーベルも目標に取り組んでいたのだが」

「いやいや、そんなの作れるのか? アニメのもんだろ」

 

 いきなりの発言に驚く。そのロスアラモスってヤバい思考の奴らが集まるのか?

 

 あ、俺はユニコーンが大気圏近くでビーム・トンファーでデプリをぶった斬るシーンが好きです。

 

「結論から言うとできなかった。ビームとなると、あれは光だからな。ガンダムみたいに剣の形に留めるには無理があった。鏡を使って射程距離を決める……も考えたが、熱で融けるのでな」

「そもそものビームはどうするんだ?」

「そのくらいどうとでもなるぞ。それで実用レベルで物体が斬れるかどうかともかくとして」

「マジか」

 

 …………こいつ、スゴいな。努力の方向が常人より遥かにズレている。

 

「なんにせよ、留学お疲れ」

「労いの言葉感謝する。……それでだな、向こうで色々と造ったものを八幡に試して欲しいのだ。我は戦闘経験が皆無だからな。実際の使い心地などを知りたい」

「それは別に構わないが……ものによるぞ。さすがに殺傷能力が高いのとかは遠慮したい」

「そういうのもあるにはあるが」

「あるのかよ」

「また暇なときに装備科に寄ってくるがいい」

「おう」

 

 ぶっきらぼうに返すが、コイツが趣味全開で造った武器とかは正直楽しみである。俺と材木座の趣味けっこう共通しているから尚更だ。

 

「……ふと思ったが、八幡。お主はチームはどうするのだ?」

「チーム……そういや2学期の話だったな」

 

 武偵高における『チーム登録』は確か9月下旬ぐらいにある。

 

「そういう材木座は?」

「我は装備科の仲間数人でチームを組んだぞ。卒業までにハロでも造ろうかと話になっている」

「ハロって……あれモビルスーツ造るよりも難しいって言われてるぞ」

 

 随分と大きく出たな。

 

「てか、装備科で平賀さん以外に友だちいたんだな。俺、平賀さんとしか話してるとこしか見たことないんだが」

「お主のタイミング的にはそうなるかもしれんが、さすがに我にも友だちはいるぞ。平賀さんとは別チームだが。次は……戸塚殿のチームはどうなっている?」

「僕も材木座君と似たような感じで、救護科の何人かとチーム組んだよ。医療系のチームだね。主に病院内で活動する予定」

 

 あぁ、なるほど。一口に救護科といっても、現地に行くか拠点に残るかで分かれるのか。

 

「八幡は、やっぱりレキさん?」

「……まだきちんと話したことはないけど、そうなると思う」

 

 むしろ、チーム組めるような人選がレキくらいなもんだ。不知火もまた別で組むと言っていたし。

 

 ただ――

 

「前衛1人と狙撃手1人のチームってバランス的にはどうなんだ……?」

「レキ殿が誤射することはないであろう? 特に問題はないと思うが」

「そうだよね。レキさんって、狙撃科のSランクでしょ? スゴいよね」

 

 全くもってその通りだ。

 

「ということは、八幡のチームは強襲系になるのか?」

「レキさんとなら捜査系も似合いそうだね」

「マジで何も決めてないからな。……どっちかって言うと、やっぱ強襲の方かな」

 

 捜査はぶっちゃけ苦手の部類。

 

「お主はBランクのわりには強い部類に入るからな!」

「余計なお世話だ」

「まぁまぁ。まずは『修学旅行Ⅰ』だよね。今回は京都だっけか?」

「その通り。我は訪れことないからなかなかに楽しみな行事だ!」

 

 武偵高の2年では2回の修学旅行がある。というが、1回目は修学旅行というとは名目的なもんだ。実際はさっき話に挙がったチームの最終調整みたいな役割がある。

 

 で、そのチームは国際武偵連盟にも登録される。通常、武偵はそのチームで活動し、もし仮に進路が別々になろうとも、チームの協力関係は枠組みを超えて最優先していい……とのこと。

 

 つまり、武偵にとって、かなり重要なのだ。

 

 その点、完全に俺のせいだが神崎と遠山はどうなるのか。仲違いってわけじゃないけど、もしかしたらそれに近い状態かもだからな。

 

 ――と、しばらく色々話していると、朝のチャイムが鳴る。

 

「そろそろ体育館に移動しないと」

「だな。行くか」

 

 

 

 

 そして、適当に始業式の話を聞き流した後、講堂前の道路では、C組の女子たちがマーチングバンドを始めていた。

 

 何となくボーッと眺める。

 

 羽根つきの帽子とマーチ衣装で飾り立てられた、バンドの女子たちは。

 

 ――――ひら、ひら。くるくる。

 

 と、バトン代わりのアサルトライフルやライフル、ショットガンを回しつつ、短いプリーツスカートをひらめきながら、通行止めの車道で2列横隊のパレードをしている。

 

 武偵高ではこのように警察署や自衛隊のように音楽やダンスの催しを公開している。まぁ、世間のイメージが悪すぎる武偵を少しでも良くしようと……な。

 

 5月のアドシアードでは神崎や星伽さんがチアをやっていたらしい。俺はその頃ロシアいたから見てないけどな。所詮、焼け石に水だとは思うが。実際、この光景世紀末すぎないか?

 

 歩道には、近隣の住民や一部のマスコミが見物している。中には、望遠レンズなどで撮っている奴もいる。高そうなカメラだ。あ、カメラは基本高いか。

 

 ……まぁ、なんだ。主に男どもに言いたい。見た目は可愛いかもしれないが、本性はヤバい奴らばかりだぞ。こんな顔して、バズーカやマシンガンをブッ放すぞ。時には笑いながら。危険人物ばかりだ。てか、手に持ってる物をしっかり見てくれ。

 

 ――――特に、ドラグノフを器用にクルクルと回す無表情な女。ロボットのアダ名を持つ。またの名をレキ。

 

「…………」

 

 こっち睨むなよ。悪かったから。

 

 うん、あの衣装のレキも可愛いんだけどなぁ。その手に持っているものが物騒すぎるんだよ。

 

 撃たれた経験はかなりあるから、ドラグノフにはそれなりに恐怖はまだある。それ以上に助けてもらったこともあるし、そう一概には言えないけど。……あれ? やっぱり撃たれた回数の方が多くない? 可笑しくない?

 

 まあいい。今日はすぐ帰る予定だから手ぶらで来た。あ、最低限の武器は持っている。校則だからな。どうせ教室には戻らないでいいんだ。材木座たちも用事あるとかなんとかで帰りは別。

 

 水投げなんてゴメンだ。さっさとトンズラするに限る。

 

「…………あ」

 

 そう思っていたのだが、教室に今朝買ったお茶が置きっぱなしだ。まだ2/3は残ってるよな。んー……置いて帰るのももったいない。多分明日になったら暑さで中身やられているかも。もう口付けてるし。

 

「はぁ……仕方ない」

 

 苦渋の決断だ。一旦戻るか。めんどくせぇ。

 

 

 

 教室に戻り、ペットボトルを手に気配を消しながらそそくさと早歩きで校門へと目指す。

 

 校門へと続く道は珍しく人通りが少ない。何人かチラホラ見える程度。みんな水投げに興じているのだろうか。

 

 全く、そうだとしたらよくやるよ。さすがアホの武偵高。全員が脳筋すぎる。って、遠山もいないな。もう帰ってるのか……今日の昼飯当番どっちだっ――――

 

 

 

「――――――――ッ」

 

 

 

 ――――咄嗟にしゃがむ。何かに襲われた。副作用が何かを感じ取った。誰かいた。通りすぎた人ではなく、明確に俺を狙った誰かが。

 

「きひっ! 意外にも勘はいいネ」

 

 目線を上げると、俺の目の前に――――少女がいた。

 

「…………」

 

 黒髪で長髪のツインテール。身長も相まって、神崎の髪色を変えたみたいな少女。服装は武偵高の制服ではなく、どこか中国風の……なんつーか、キョンシーみたいな格好だ。

 

 誰だ、こいつ。見たこともないし、会ったこともない……かも。…………あれ? なんか見覚えある気がするような……?

 

 誰だっけか……。

 

「戦ってみたかったヨ――イレギュラー」

「…………はぁ」

 

 その一言で何となく察した。はいはい、そっち側の人間ですね。

 

「多分人違いです。そういうのいいんで、さよなら」

 

 関わりたくないから適当に反応して校門に向かって歩く。

 

「逃げるナ!」

「……チッ」

 

 が、そうは問屋が下ろさず、背中から跳び蹴りされそうになったから横にステップしつつ避ける。

 

「おい、そこのチビ。人違いだって言ってるだろ」

「人違いじゃないネ。お前、比企谷八幡。予測不能、イレギュラー。そのゾンビみたいな顔でスグ分かる」

 

 いきなりゾンビ面とは失礼だな。武偵になるよりかはマシな顔つきになったと思うのだが。俺だってそれなりの戦い乗り越えてきたわけだし。

 

 にしても、コイツ、やたら足取りフラフラしているな。この臭い……アルコール……酒か? なんか酒瓶ぶらさげてるし。

 

「ブラドを倒し、パトラの攻撃を凌いだ強敵。セーラと同じ風の使い手。色金を所持しているはずネ。なんにセヨ、超能力ナシでも厄介」

 

 ふむ、そう認識されてるとは……嬉しさもあり、とても恥ずかくもある。

 

「そいつはどうも。せめて、そこのチビも名乗ってくれ。名前知らない奴とはどうもやりにくい」

「ココいうネ」

「じゃ改めて、比企谷八幡だ……なんだ、その、帰っていい? チビの相手するの嫌なんだが。腹減ったし。てか、チビが酒飲むな。でっかくなれねぇぞ」

「帰るナ! さっきからチビとは失礼! これでもココ、14歳ヨ!」

 

 と、ココは一通り怒ってから、千鳥足で倒れるようにフラ……っと側転をしてきて――――いきなりワンアクションで飛びかかってきた。 

 

「…………ッ」

 

 後ろに飛び退き、距離を取ろうとするが、何度下がっても、距離を離せない。……酔ってるからか動きが読みにくい。

 

 ――――掴まれたらヤバい気がする。

 

「烈風――!」

 

 ココの真横から強風を起こす。いくら風の情報があっても、そこは人間。強風にはすくには反応できず、ココは軽く転がりながら俺から離れる。

 

 コイツ、攻めたときより、俺から離れたときの方が動き速い気が…………烈風使ったから追い風になったからだよな。……なんだ、この違和感。

 

 こうも真正面襲われていると逃げるという選択肢はかなり難易度が上がる。飛翔で飛んで逃げようと思えばできるかもしれんが、後々面倒になりそうだ。もしかすると部屋に突撃……なんて展開もあるかもしれない。早いうちに厄介な芽は摘まないと。

 

 別に倒さなくていい。ある程度相手すれば、向こうの興味も少しは薄まるだろう。あるいは、手を抜いてわざと負けるか……いや、これはダメだな。多分だが、ココはイ・ウーの面子。最悪死ぬぞ。

 

「まだ続けるか?」

「モチロン。武偵高校、今日は徒手空拳の日ネ。イレギュラーの力、確かめたいヨ」

「俺も用事あるし、そんなには付き合えないぞ」

「構わナイ。どうせ、スグ……殺すヨ」

 

 その一言が合図になり、またワンアクションで距離を詰めてくる。

 

 俺はまた烈風で受け流そうとしたが、寸前で踏み留まる。熟練相手が同じ手にひっかかるとは思えない。やり方を変える必要がある。

 

 なら――――

 

「フッ……!」

「なっ……」

 

 側転していたところ、着地の瞬間を狙い屈みながらココの足を払い、バランスを崩す。

 

 すかさず追撃。ココの驚いたところ、ヤクザキックの要領で腹を狙った蹴りを繰り出す。すると、さっき驚きの表情を見せたココは打って変わってニヤッと笑い――

 

「甘いネ」

 

 正直当たったと思ったが、ココは片足で踏み切り、バク宙して避けた。…………マジかよ。かなりの身体能力じゃないか。神崎並か? こりゃ。

 

「…………」

「――――」

 

 と、なぜかココは俺から距離を取りこちらを睨む。

 

「イレギュラー、やっぱり避けるの上手いネ。本気出しても、攻撃当てるノ大変カモ」

「そりゃどうも」

 

 …………あぁ、なるほど。さっきの違和感の正体が分かった。コイツ、口では殺すとか言うが、実際俺に攻撃する気が薄い。

 

 攻めてはいるけど、すぐに俺の攻撃も避けれる位置にいる。

 

 俺は基本近接戦だったら、カウンター気味の戦法が得意だ。相手の出方を見てから動くのが性に合っている。烈風もカウンター狙いで使っている。

 

 しかし、ココはそれを知っているようだ。やっぱりって言うからには。俺をイレギュラーと呼んだから、恐らくある程度俺の映像を分析でもしたのだろう。

 

 さっきまでは俺がどのくらい動けるかどうかだったのか、確認目的で攻めてきた……と思う。動きは一般人に比べれば速かったが、すぐに退却できるように一歩引いてただろう。……で、確認の結果、自ら動くのは不利と感じたのか。

 

 俺に攻撃するときと避けるときの動きが全く違う。避けるときの方が遥かに速い。

 

 俺だって、ココの攻撃はこれ以上速くなっても多少なら捌ける自信がある。今まで化物相手してきたからな。が、ココの身のこなしではそう簡単には俺の攻撃も当たらない。

 

 とはいえ、俺が痺れを切らして隙を作るわけにはいかない。ココも簡単には俺に攻撃が当たらないと思っているはず……はずだよね。

 

 ぶっちゃけ体躯の違いはあれど、ブラドより動きは遅い。しかし、攻め気が薄いとはいえ、動きは読みにくいのも事実。

 

 ココもこれからどうするのか考えているのだろうか……膠着状態に陥る。

 

 その間に。

 

「ココって、イ・ウーの面子だよな?」

「? そうヨ。もうナイけど」

 

 急に話しかけても律儀に返してくれた。

 

「わざわざ何しにきたんだよ。まさかこうやって武偵と戦うためとか?」

「それは理由の一部に過ぎない。私にも色々用事あるネ」

「…………イ・ウーを破壊した遠山たちを殺るためか?」

「惜しい」

 

 惜しいって……遠山たち危ないな。と、思っていたが、ココは、

 

「もう遠山キンジとは戦ったネ。期待ハズレ。アレじゃ何回も殺せたヨ」

 

 ――――何食わぬ顔で、淡々と事実であろう言葉を述べた。

 

「…………戦ったのか」

 

 ココの言い方から察するに、遠山は死んではない。ただ、コテンパンにやられたってところか。

 

「ホント、期待しすぎた」

 

 心底つまらなさそうに呟く。

 

 まぁ、生きてるんなら別にいいや。ほっとこ。

 

「俺も期待外れって感じか? なら帰っていいよな」

「お前は面白いネ。もっと遊んデ? 今度はホントに――殺す気でやるから」

「イケるのか? さっき本気出してもとか言ってただろうが。俺だってそう簡単に負けるつもりもないぞ」

 

 まぁ、負けるつもりはないと言うが、勝てる気もない。俺の場合、負けはしないけど、勝ちもしないパターンの方が多いからな。悲しいことに。

 

「相手、強い方ガ、戦いの甲斐……あるネ」

「それもそうか」

 

 その言葉を合図となり、また戦いは再開した。

 

 ――――ココが動きを読みにくい動作で攻め立てるが、俺は俺で避けたり防いだりと攻撃を捌きつつ、その途中、負けじと反撃を試みる。

 

「ちっ」

 

 …………けれど、相手も甘くない。向こうも持ち前のしなやかさでこちらの攻撃を回避する。

 

 恐らくコイツの組み技はヤバい。ただの勘だが、最初の攻防で何となくそれが分かった。なので、俺は組まれないように引き気味で戦っている。

 

 

 

 

 ――――お互いこれといった攻撃が当たらない状況が続く。

 

「やっぱり、強いヨ、イレギュラー。かなり本気で攻めてるのに、決まらない」

「……それはお互い様だ」

 

 戦ってる間にも、こうやって、ココは余裕を見せつつこちらに話しかける。

 

 ……にしても、なかなか状況が動かない。

 

 これで、ココも俺も得意な武器が使えればまた展開はかなり変わるだろう。ココの得意な武器は分からないが。もしかしたら、徒手空拳が一番得意かもしれないな。武偵高でもここまで動ける人は少ないと思う。……まぁ、俺が極端に戦った人数が少ないだけなんだけどね! 断言はできない哀しみ。

 

「…………」

 

 そういえば、さっきココは遠山を襲ったって言ってたな。

 

 んー……さすがにアイツもいきなりだったから、普通の状態で戦ったはず。ココは勝ったと言うが、遠山もHSSなら多分負けなかっただろう。それにココも最初みたいに不意打ちで来たのかもな。

 

 ――――っと、危ない、ココの蹴りが掠った。意識を逸らすな。集中!

 

 ココは、またワンアクションで距離を詰めてきながら、俺の腕を足で絡めとろうとする。

 

「うらっ……!」

 

 対する俺は回転しながら避けつつ――その流れで勢いをつけた裏拳を放つ。

 

 俺の攻撃をわざとらしく受けたココは、裏拳の威力に身を任せ、飛び退く。

 

 …………はぁ、ダメだ。また威力減衰されたな。俺も相手の攻撃をわざと受けて、その勢いを利用しながらのカウンターとかはよくやってるが、実際にやられる立場だと鬱陶しいことこの上ない。

 

 さてと、距離が空いたからには、これまた仕切り直しか。次はどうくる……?

 

 ――――そう思っていたのだが。

 

「げ……」

 

 ココは唐突に携帯を見るや否や、短く文句を盛らし、

 

「悪いネ。ここに無理して来たから、もう時間がヤバいヨ」 

「え? ……うわっ」

 

 俺も確認する。始業式が終わってからもう30分は経っていた。途中教室に戻ったりしたから、ココと戦った時間は…………だいたい20分くらいか?

 

 今気づくと、通行人全然いねぇな……と感じたけど、いつの間にか人気のない校舎裏まで移動してた。場所とか気にも留めてなかった…………。

 

 つまるところ、俺は今回めちゃくちゃ逃げ腰で立ち回っていたということだ。いくらカウンター戦法が得意だからといって、これはアホすぎる。

 

 やっぱり、徒手空拳だけってのは苦手だと再認識する。武器持ってた方が動きやすい。

 

「てことは、決着は持ち越しか?」

「次があるなら……そうかもネ。その時はお互い、本気デ」

「わりと本気だったんだけどな」

「そう? お前、武器使ってないヨ。それに、最初は超能力使ってたけど、後半全く使わずじまい」

 

 まぁ、ココの言う通り、最後の方は超能力使ってなかったな。使いすぎたら、攻略されそうな気がしたし、こんなとこで手の内完全に晒すわけにもいかないし。

 

「つーか、次はあるのか?」

「望めばあるかもヨ?」

「じゃあ、俺は望まない」

「…………釣れないネ」

 

 とだけ言い残し、ココはゆっくりと去っていった。俺は特に追いかけず、とりあえず校門前に戻る。……なんか、疲れた。

 

「あ」

 

 校門前に戻ったが、そこには中身はまだ少しあるが、見事なまでに潰れたペットボトルが転がっていた。…………多分、最初奇襲された時かな? いつかは分からないけど、どっかのタイミングで防御に使ったような……。

 

「…………はぁ」

 

 俺、何のために校舎戻ったんだよ。こんなことなら、さっさと帰れば良かった。ココとエンカウントすることもなかったのに……。 

 

 ――――正しく、骨折り損のくたびれ儲けってやつか。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に帰る道中。色々と考えながら歩く。

 

 ――――ココ。恐らく中国かそこら辺りの女。俺よりも年下の齢14。かなり脅威の格闘センスの持ち主。

 

 さすが元イ・ウーのメンバー。口では俺に負けるかもしれないとか言いながらも常に余裕を見せていた。

 

 あのレベルだと、かなり幼い頃から訓練してきたのだろうな。単純に訓練した期間で比較するなら、俺はココには到底及ばない。……が、それはぶっちゃけ、誰にも言えることだ。俺なんて高校からだからな。精々1年。そりゃ当たり前だわ。

 

 後で理子かジャンヌ辺りに情報教えてもらいたい。タダとはならないだろうが。一応見覚えは……ありそうでないからな。

 

「ん?」

 

 あれ、いつの間にか遠山から連絡来てた。内容は……アイツ、昼飯は外食するのか。だったら、俺も外で食おうかな。財布には4000円程入っている。

 

「……とはいえ」

 

 今から台場行く気力はない。体力はあるが、精神的に疲れた。眠い。体が重い。ベッドに飛び込みたい。……もういいや、コンビニで適当に済ませよう。

 

 

 

 

 

 ……………………起きた。ていうか寝てたか。昼飯食った記憶はあるが、途中からないな。ソファーで寝落ちするのは体が痛い。

 

「お、比企谷、起きたか」

「おう」

 

 冷蔵庫近くでお茶飲んでると遠山がリビングに来た。なんだ、帰ってたんだ。……って、もう5時じゃねぇか。かなり寝てたな。

 

 そういえば、遠山もココと戦ったよな。一応は情報を共用しておくべきなのか――

 

「比企谷」

 

 と、呼び止められた。

 

「……どうした?」

「お前に客人だ」

「マジか。どこ?」

「……すぐ横」

「え? ……うわっ。いたんだ」

「うわっ、とは随分な挨拶ですね」

 

 ――――真横には真顔のレキがいた。

 

 気配消さないで?

 

「……いきなり立たれたら心臓に悪いわ」

「私に気付かないとはまだまだですね」

「逆に本気でレキが隠れたら見つけれる奴なんてほとんどいないからな」

 

 探せる奴なんて……いるのか? 誰だろ、んー……特に思い付かない。つーか、隠密が本業の狙撃手に近接しか能がない俺が勝てるわけなかろう。

 

「そこは同意。あ、俺席外そうか?」

「大丈夫です。聞かれても問題ありませんから」

「そういや何か用事? 聞かれてもってことは、話でもあるのか?」

 

 改めてソファーに座る俺とレキ。

 

「チーム編成についてのことで」

「あー、それか。結局どうする?」

「私たちで組もうかと」

「そうなるよな。俺もそのつもりだし。あ、そうだ、遠山は? やっぱ神崎とかか」

 

 ――そう言ったが、神崎に色金のあれこれ伝えたの俺じゃん。……素直に遠山と組むのかな。

 

「なぜか今、神崎に避けられてな。放課後話しかける機会があったけど、ちょっと口論になって……検討中」

 

 若干落ち込みながら話す遠山。案の定でした。ごめんなさい。

 

「まぁ……頑張れ。どうしてもあれだったら、武藤たちのとこに混ざればいい」

「だよなー」

「それに、お前どうせ止めるんだろ? そんな真剣に悩まなくても」

「そうなんですか?」

 

 と、レキが食いつく。そうか、初耳だったのか。

 

「今年中には止める予定だな。理由は……あまり聞かないでくれ」

「分かりました。……そういえば、八幡さん」

「どうした?」

「お昼頃、私たちのチアを見てましたよね」

「気付いてたか」

「はい」

 

 まぁ、途中思いっきり睨まれたからね、是非もないね。

 

「どうでした?」

「一番の感想は物騒だなぁ……と。やっぱ一般高と武偵高はこういうところで色々とかけ離れているよな。常識というか何て言うか」

「だよな。ここってイチイチ危険すぎなんだよ」

 

 遠山も同意してくれた。

 

「わざわざドラグノフ振り回さなくても……な?」

「そう言われましても学校からの通達なので。私が聞きたいのはそういうことではありません」

 

 珍しく不満げにこちらを見つめる、というより『殺すぞ』という視線で睨み付けるレキ。……末恐ろしい。今、ドラグノフが分解されてて良かった。下手すりゃ銃口向けられてたかも。

 

「格好自体は可愛かったぞ。また見てみたい」

 

 これは普通に本心。普段は見れない姿だったからな。ただ、内心かなりの恐怖を感じましたが。

 

 どんな格好か知りたい人は原作6巻を買おう。ていうか、原作全巻買おう。

 

「……ありがとうございます」

 

 この回答で満足いったのか、これ以上は追求しないようだ。無表情と見せかけて、少し口元が緩んでいるのを俺は見逃さないぞ。可愛い。

 

 横目でしばらくその表情を眺めていると。

 

「何でしょうか?」

 

 今度こそ無表情に戻り、キリッと咎めるように俺を見る。

 

「いや、何でもない。なぁレキ、それでだな――――」

 

 その後、チーム編成や修学旅行についてなど話しつつ色々と雑談しながら始業式の夕方を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




随分とまあお久しぶりです
何だかんだで忙しかったりと存在忘れてたりしてました。また気が向き次第投稿します

なろうでオリジナル小説書きました。お暇があれば読んでください。そして評価ください
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いざ、京都へ!

あまりハーメルン最近見てなかったけど、RTA流行ってるの?ていうか、小説でRTAってどゆこと??


「八幡さん、そろそろ着きます」

「……あ、もう?」

「はい」

「さすが新幹線速いな」

 

 うっすらと新幹線のアナウンスが聞こえる。どうやら寝落ちしていて隣にいるレキに起こされたようだ。……ていうかレキ近っ。もうちょい離れてもいいのよ? せっかくの窓際なんだから外の景色見てていいんだよ。

 

 まあ、なんで俺らが新幹線にいるかというと――――遂に修学旅行・Ⅰが始まったのだ。行き先は京都。これは表向きは一般の学生の修学旅行と変わりはないが、武偵にとってかなり重要な行事だ。詳しくは前回の話参照。それか原作6巻『絶対半径2051』の64ページにもっと詳しく書いてある。原作読め。

 

 と、それは置いておいて――――

 

「…………」

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない」

「キンジさんのことですか」

「バレてるんかい。まあ、そうだよ」

 

 レキの勘の良さはホント侮れない。さすが一流の狙撃手なだけある。

 

「――――」

 

 で、俺は横目で遠山をチラッと確認する。一応は星伽さんといるみたいだけど……チーム編成どうなることやら。始業式終わってたからまた神崎とトラブルあったみたいだからな。遠山は今年で武偵を辞めるはずだからそこまで関係ないがないとはいえ、辞めるまでかなり前途多難だろう。……まあ、その原因に俺という部分があるから多少は気になる。

 神崎が遠山を避けている理由が理由なだけになかなか話しにくいのが現状だ。遠山のことを好きで遠山を殺すかもしれないとか……そんな気軽に誰に相談できる話でもないしな。避けしまう気持ちも分かる。俺からも伝えることなんてできないことだ。

 

「………………」

 

 ごめん、ちょっと待って。さっきから気になったんだけど。寝る前は眠くて確証なかったんだけど、やっぱいるじゃねぇか。なんで誰も突っ込まないの? 俺が可笑しいのか? この風景絶対異常だよな?

 

「レキ」

「はい、何でしょう」

「……いや、どうしてハイマキいるの?」

 

 レキの愛犬(本当は狼)がレキの座席の下で大人しく寝ていた。

 新幹線に狼だぞ? ちょっとみんな大丈夫? この学校ボケしかいないのか。いや、武偵高の奴らほぼほぼバカなんだけどね。

しかし、これだと漫才成り立たないぞ。突っ込みの有り難さを思い知るがいい。特に隣にいるレキなんて自然にボケるからな。

 

「世話が必要だからです」

 

 そんなキリッとした表情で言わなくても。

 

「別に数日放し飼いでもコイツなら問題ないだろ」

 

 うっ、ハイマキなら睨まれた。寝てないんかい。また魚肉ソーセージあげるから許して。ね?

 とは言っても、レキ仕込みの育成を受けているし、そこいらの武偵犬や警察犬よりかはよっぽど優秀だ。犬じゃなくて狼なんだが。猟友会辺りにも撃たれないようにあのレキがきっちり教育されてる。それだけでもう強い。

 

「ハイマキも普段から頑張ってるので、気分転換も必要でしょう」

「それは否定しないけど……先生から許可貰ってんのか?」

「もちろんです」

「てことは、動物オーケーの宿泊施設探さないと」

 

 武偵高の先生は基本適当だから修学旅行のパンフレットには泊まる場所とか全く書いてない。1日目は京都で神社や寺を3箇所回ってレポート、2日目と3日目は大阪か神戸の都市部で自由行動としか書いてない。

 適当さここに極まれり。これ教育委員会見たら怒られそうだよな。借りにも学校だし。

 だから当然、宿泊施設は自分たちで決めるしかない。だから本来は事前に予定とか決めておく必要がある。見学するルートは決めたけど、どこに泊まるかだけまだ決めていなかった。単純に安く済ませようと色々な宿を探していたら、いつの間にか前日になっていただけという。

 

「八幡さん」

「今度は何?」

「今日は金閣寺、仁和寺、龍安寺を回る予定ですよね?」

「ああ。調べたらそれなりに近い場所らしいし。あ、でも午前には清水寺行きたいな。午後にその3つ行くつもりだけど、どうかした?」

「比叡山の近くに動物を連れて大丈夫な宿がありました。宿もそこまで高くありません。金閣寺辺りからバスかタクシーを使うことになりますが、昨日のうちに予約しました」

 

 比叡山というと、北東の方だったかな。

 

「分かった。ありがと」

「いえ。お気になさらず」

 

 そうこうしていると京都駅に止まった。

 俺らは荷物まとめてホームまで降りた。……ヤベぇ、通り過ぎる人たちがハイマキを見ている。そうだよな、一般人ならそういう反応だよね。良かった、俺は普通だと再認識できた。

 

「お前らー、ここで解散な。死ぬなよー」

 

 と、蘭豹の雑な挨拶で武偵高の奴らは散り散りになった。

あ、もう終わりか。本当に適当だな。教育委員会にチクったら面白そうだ。まあ、その後蘭豹に殴られるのは確かだが。……絶対やりたくないな。

 えーっと、京都駅から清水寺まではバスを使うと。バス停は……あっちの方か。

 

「レキ、行くぞ」

「はい」

 

 バスを乗って清水寺まで移動と。

 着いた。さすが観光地。人多いな。外国人の人もけっこういるな。清水寺やっぱり有名なんだな。

 レキとハイマキは……いるな。ペットってどこまで連れて大丈夫なんだろ。入り口くらいまでは行けるか。というより、バスって良かったっけ? ……知らないな。

 

「…………」

「…………」

 

 互いに無言でレキの歩幅に合わせつつ長い階段を登る。

 仲悪いわけではないから。これが俺らのニュートラル。俺とレキがそこいらの人たちみたいにペチャクチャ喋る姿を想像しろというのが無理な話だ。1人は元ぼっちで1人はロボットのあだ名を冠するからな。居心地は寧ろ心地良い方だ。

 

 受付で2人分のチケットを買う。その横に『武偵高の人たちは武器をこちらで預かる』との張り紙があった。

さすがに神社や寺に武器を持ち込むことはできないよな。

 

「レキ、武器預けろってさ」

「分かりました」

 

 分解されたドラグノフが入ってるトランクを渡す。俺は俺でナイフと銃を纏めたケース渡す。今日は武器を預かる機会が多いと予め分かっているからいつでも渡せるように纏めてある。

 

「本当にそれだけだよな?」

「はい」

 

 なら良いんだが。レキならどこかに隠し持ってそうだ。……って、あ。俺の靴……仕込み刃があるんだった。イ・ウーで理子に使った代物。全然通用しなかったけど。

 あるの完全に忘れてた。…………まあ、バレないし大丈夫か。俺が存在忘れてたくらいの武器だし。

 

「ハイマキ、ここでお留守番です。私たちが戻るまで大人しくしておくのですよ」

 

 と、ハイマキは受付のすぐ近くでお座りの姿勢で静かにしている。

 周りがチラチラとハイマキを見ているが、ハイマキはハイマキで気にしてない様子。図太い精神してるよな、コイツ。さすがはレキのペット。

 

「じゃ、行くか。ハイマキのことお願いします」

 

 受付の人にそれだけ挨拶をして清水寺に入る。

 

「おぉ……」

 

 スゴい。これが噂の清水の舞台か。けっこう高いな。思った以上だ。遠くまで京都の景色を見渡せる。かなり綺麗な光景だ。

そういや、ここから飛び降りた人もいたそうな。

 しかし、実際のところ、飛び降りても死者数は少なかったらしい。確かにこの程度の高さなら受け身は取れるな。普通の人も骨が折れるだけで済むだろう。もちろん、打ちどころによれば死ぬこともあると思う。

 

「あ」

 

 そうだ。あれ買ったんだ。

 

「八幡さん? ……それはカメラですか?」

 

 カバンから取り出したのはデジカメ。

 ちょっと奮発して7万ほどのを購入した。一眼レフにしようとしたけど、荷物嵩張るからな。荷物は最低限にしたいし、今回みたいな遠出ならデジカメかなって。

 

「そう。せっかく観光するんだから記録に残さないと。レポート書けって言われてるし尚更な」

 

 ちょっと下がってレキをレンズに収める。

 

「八幡さん?」

「動くなよー。ハイ、チーズ……と」

 

 うん、綺麗に撮れてる。

 

「武偵はあまりこういった記録を残さない方がいいのですが」

 

 ああ、人によっては体の傷跡や立ち方で癖を見抜かれるからな。俺はもう衛星で戦闘しているところを撮られまくったから特に気にも留めなかったが、レキは狙撃手だ。隠密が真骨頂。余計に気になるのだろう。

 

「いいんだよ。誰に見せるわけでもない、これは俺らの写真だからな。気にするな。……うん、レキは美人だし画になる」

「…………そうですか」

 

 返答に間があった。微かに微笑んでるのが分かった。

 口ではああ言うが、実際はきっと嬉しいのだろう。

 しかし、その直後、レキはキリッとした表情で俺を睨む。

 

「でずか、八幡さん。1つ苦言が」

「えー、何さ」

「私たちの写真ならそこに八幡さんが写ってないのは不公平では?」

「俺は写真写り悪いから、撮る方がいいんだよ」

「……カメラ借ります」

「あっ、おい」

 

 俺の言い訳を聞かずに問答無用でカメラ取られた。

 

「申し訳ありません。撮ってもらってよろしいでしょうか?」

 

 同じく観光しているであろう女子大学生のグループにレキが声をかけた。

 

「あ、いいですよー」

 

 そう気前よく女子大学生のうちの1人が俺のカメラを受け取る。

 

「八幡さん、並びますよ」

「全く……」

「撮りますよ。ハイ、チーズ!」

 

 パシャッとフラッシュが光った。

 俺の隣にはレキ。めっちゃ近くに寄っている。てか、手を組んでいる。女子特有の匂いがしてスゴい照れる。恥ずかしい。多分視線外れてる。カメラ目線じゃない。

 

「どうぞ。撮れてますか?」

「大丈夫です。ありがとうございました」

「あ、ありがとうございました」

 

 慌てて俺も女子大学生の人にお礼を言う。

 

「八幡さん、視線逸れてますよ」

「恥ずかしかったんだよ、察してくれ」

「では、観光を続けましょう」

 

 おっと、切り替え早いですね。それと、そろそろカメラ返してくれません? 大事そうに抱えないで。取り返しにくくなるから! 高かったから!

 




前回に比べて早く投稿できました(前回が放置しすぎただけ)


それと前回宣伝した私のオリジナル小説読んでくださった方が多くてとても嬉しかったです!!

かなりの勢いでブックマークやPVが増えてベッドで飛び跳ねたい気分でした。二段ベッドの上なのでやりませんでしたがw
まだ読んでないという人も読んでください。面白いかどうかは人にもよると思いますが、わりと真面目に書いてます。暇な時間などあればぜひ

なろうで書いてます↓
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京都観光

いざ書こうとすると、展開を確認するために原作読むんだけど、面白くて一気に読んじゃって全く進まない悪循環

と言うが、この修学旅行・Ⅰ編はちょっと原作からズレるかも。結末はあまり変えないようにしたいけど、過程はそれなりに変わるかもしれないのでご了承ください




 その後、清水寺をのんびり時間をかけて観光してからバスで金閣寺まで移動する。

 カメラはなんとか返してもらいました。

 にしても、清水寺ってあの舞台の下の方まで歩けるんだな。知らなかった。あの滝みたいな場所も涼しくてなかなか良い。

 

 バスを降りてからまずは金閣寺へと足を進めようとしたが、その前に時計を確認する。

 時刻は11:30を過ぎたころ。この時間ならちょっと早いが……。いやまあ、正午はもうすぐだし、ちょうどいいと言えば、ちょうどいいのか。

 

「先に飯にするか?」

「そうですね。ここにはどうやら食事できる場所が多いですし、一先ずここで食べましょうか」

「そうするか。レキは何か食べたいものとかあるか?」

「特には。しかし、やはりと言うべきか和食のお店が多いですね」

「確かにな。さすが京都ってところか。洋食とかもチラホラあるみたいだけど……。せっかく京都に来たんだし、和食にするか」

「はい」

「レキは好き嫌いないよな?」

「ありません。大丈夫です」

 

 悪いが、ハイマキにはまたお留守番してもらって。

 和食といっても、蕎麦の店や定食、はたまたフレンチと和食が融合した店もある。レパートリーに富んでいるからどれにするか迷うな。

 

「じゃあ蕎麦でも食べるか」

 

 ラーメンもそうだが、俺麺類好きだな。京都では有名らしいニシン蕎麦とやらを食べよう。

 

 

 昼ごはんを食べてから30分ほど経ち、とりあえず金閣寺に移動する。

 え? 昼ごはんの話? 美味しかったです。あんなデカデカと魚が乗ってる蕎麦は食べたことがなかった。

 あとはまあ、何もなかったな。俺もレキも食事中は黙って食べてたし、レキが麺を1本ずつ絶え間なく食べるのは何度も見たし……特に語ることがない。

 

昼飯食べてからちょっとばかし歩き、やって来ました金閣寺。

 

「……これは」

 

 おお、本当に金色だ。めちゃくちゃ金色だ。

 これはもう一色どころじゃなくて百式だ。ビームコーティングした寺だ。まだだ、まだ終わらんよ。……自分で何言ってるか分かんなくなってきた。いや、伝わる人にはきっと伝わる。金色だったら、百式とアカツキで好み分かれそう。俺はSEEDをまだきちんと見たことないから詳しくないけど。最近ならフェネクスもあるか。

 

 池の水面に鏡のように映っているのもいいな。スゴい綺麗だ。確かいつかに燃えてこれ再建したやつだっけか。いや、にしてもスゴいな。

 金閣寺って足利何とかさんの寺だよな。よくこんなの建てようと思ったよ。おい、日本史専攻でこれは馬鹿すぎないか。いや、作者は世界史専攻だったからこの程度の知識しかない。もうちょい勉強しろよ。

 確か銀閣寺も最初は銀色立ったけ? 燃えてから普通になったんだっけ? 記憶があやふやだ……。

 

 写真も撮りつつグルリと周ろう。何か新しく高い買い物をすると、しばらくはそれを使いたいがために敢えて予定を組んでしまう。

 

「レキもレポートあるんだし、しっかり見とけよ」

「はい」

 

 レポートで思い出したが、そういえば……レキの成績ってどんなもんだろ。定期テストだったら、大体は星伽さんが1位で俺が2位。あまりレキの順位は見たことないな。

 武偵に関しての成績ならレキに適う箇所は少ないけど。勝てる部分なら、せいぜい……近接くらいか? 中距離ならどうだ? いや、射撃で勝てる気しないわ。そもそものランクが圧倒的に違う。

 

 と、金閣寺を時間をかけて見て回り、移動してから仁和寺を1時間くらいかけてじっくり見学した。……作者が行ったことないから全カットだが。

 

 そして、次の目的地である龍安寺へ。

 事前に調べたところ、やはり枯山水の庭園は是非とも見てみたい。

 

 入場料がかかるみたいなので、またもやハイマキと武器を預ける。

 清水寺や金閣寺とかでもそうだったが、メジャーな場所は他の武偵高校の奴らも多かった。

 しかし、入場して歩いているが、今のところ龍安寺はあまりいないな。ちらほらは確認できるけど。ここも有名だとは思うがな。まあ、俺たちが来る前に訪れている奴らもいるだほう。

 

 と、枯山水のとこまで来た。

 

「ここは……風が気持ちいいですね」

「だな」

 

 枯山水の見える庭園に座れる場所がある。そこに2人で座っているとポツリとレキが呟いた。

 

 確かに暑くもなく寒くもなく、涼し気な風が吹いている。縁側に座っているだけで実に落ち着いた気分にもなれる。とても心地良い場所だ。……枯山水も綺麗だな。小石の模様も石の散らばり具合も見ていて飽きない。

 

「八幡さん」 

「どうした?」

「チームについてですが、名前どうしましょう?」

「あー……全く思い付かないな」

「私もです」

 

 チームは一応は強襲でいくと決めたが、あとはまあ、それっきりだ。

 

「また何かそれっぽく調べとくよ」

「お願いします」

 

 短い会話が終わるとまたボーッとした時間を過ごす。

 

「八幡さん」

「……どうした?」

「これからの予定は?」

「もう今日の予定は終わったし、もう宿に行こうかなって。道案内頼めるか?」

「はい。バスかタクシーどちらにしますか?」

「値段で行ったらバスの方が安いよな」

「はい。てすが、調べてみたところ、ここからだとかなり時間がかかるそうです。京都駅を経由するルートが多数検出されました」

「それは……面倒そうだな。タクシー使う? 高いだろうけど、金なら普通に稼いでるし」

 

 日々の装備のメンテナンス代や家賃に電気代やらでそれなりにかかるけど、それ以上は稼いでいる。雪ノ下家のパーティーの警護やそれこそカジノでの仕事などで充分。それに加えて……こう言うのはヒモみたいだが、レキは俺以上に稼いでいるだろう。何かあったらレキに頼ったら…………んんっ、いや、やっぱりヒモみたいで嫌だ。

 

「そうですね」

「まあ、もうちょいボーッとしとこうぜ」

 

 混み始めたらどくが、それまではもう少しここにいてもバチは当たらないだろう。

 

「分かりました」

 

 そして、10分くらい枯山水の前でただただボーッとしてから移動する。まだ見てない場所をゆっくり歩いて全部見終わると、もう3時になっていた。

 そろそろ宿に行くか。荷物とハイマキを回収して国道でタクシーを待つ。適当なタイミングでタクシーを掴まえて、レキが指定した場所まで運転してもらう。

 

 タクシーの運転手のおっちゃんと色々と会話しつつ景色を眺めること1時間くらいか? 目的地に着いた。

 

 比叡山の森の方にある鄙びたいい雰囲気の民宿がある。おっちゃんに料金払ってから降りる。

 周り何もないな。あ、ちょっと待て。どうやらここまで走っている小型バスはあるんだ。あー、でも、京都駅へと行くやつか。だったらタクシーでよかったな。

 

「…………」

 

 で、ポツンと建っている民宿『はちのこ』はレトロな外観をしている。俺はこういうの好きだな。もちろんセーラが泊まるようなホテルももちろん好みだが、和風な感じも嫌いじゃない。

 

 そういや、遠山がどうなったのか気になり道中メールしたが、星伽神社の京都にある分社で泊まるらしい。何かそれ、スゴいよな。

 遠山と星伽さんから訊いたことあるが、青森にある本社がバカでかいらしいが、分社も軽く要塞らしい。一度覗いてみたいな。好奇心が唆られる。

 

 それは置いておいて、レキとハイマキと一緒にはちのこの玄関へと入る。

 予約したのはレキだし、ここは任せよう。

 

「あらあら、いらっしゃい。よくここまで来ましたねぇ」

 

 ガラガラと玄関を開けると、中から若い女将さんが出てきた。意外と若いな。年齢は分からんし、訊くつもりもないけどね。

 というより、ものすごいラスボスみたいなこと言ったな、この女将さん。いやまあ、かなり山奥なことを示唆しているのは分かるんだけど。

 

「先日2名で予約をしたレキと言います」

「はぁい。レキ様ですね。一部屋予約承ってま〜す。うふふ」

 

 …………うん? 

 この女将さん何て言った? 一部屋? 

 

「レキ」

「二部屋だと余分にお金を使うことになりますが、一部屋たと互いにお金も節約できますし、一部屋で充分かと」

 

 ……めっちゃ早口。まだ何も言ってねぇよ。

 

 俺は知っている。ここまできたらレキは強情な性格しているから変更はできないだろうなと。なるば甘んじて受け入れよう。そもそも、何回かレキの部屋で寝泊まりしたことあるし、今さらと言えば今さらなんだが。

 

 ……そうだ、特に意識をすることはない。気にするとこない。経験あるだろ。大丈夫だ、落ち着け。

 

「ではこちらにどうぞ」

 

 部屋に案内される。The和風といった部屋だ。いや、にしてもこの部屋広すぎないか? 5人くらいなら余裕で寝れる広さがある。これ2人でか? 正確にはハイマキいるが。

 

「この部屋でいいんですか? 2人にしてはやけに広いんですけど」

「いいのいいの。ちょっとしたサービスですよぉ」

 

 そう言うなら、女将さんさんの厚意はありがたく受け取ろう。それに損はしないし、むしろ得だ。こんなに広い部屋で泊まる機会はなかなかない。

 と、女将さんは思い出したように「あ、そうだ」と口にして。

 

「レキさんと比企谷さんは、夕食いつ頃にされますか?」

「そうですね……じゃあ、6時くらいで。レキもそれでいいか?」

「はい。問題ありません」

 

 今は4時過ぎ。夕食はそのくらいが丁度いいだろう。俺と遠山のときは6時だったり8時だったりとけっこうバラバラだったりする。

 

「了解しました。温泉は23時までいつでもご利用可能です。備え付けのシャンプーやリンスなどもありますので」

「分かりました。ありがとうございます」

「今日はお客様以外の利用客はごさいませんので……お好きにどうぞ」

「……はぁ」

 

 この女将さん、おせっかいなノリが好きなのか、手を頬に当ててウフフ……といった感じにとても楽しそうだ。

 

「では、失礼しますね。何かあればフロントまでどうぞ」

 

 女将さんが退室してから荷物を降ろし、ジャージ(防弾製)に着替える。

 

「…………」

「…………」

 

 レキとは何回か一緒に寝泊まりしたことはある。……したことはあるが、あの部屋は必要最低限な物しか置いていなく、どことなく無機質なように感じてしまうことがある。ただ、レキの部屋とこの部屋は雰囲気が圧倒的に違う。

だからか、変に意識をしてしまう。ムダに緊張する。レキは……いつもの無表情だからどんな感情なのか読み取れない。

 

「レキは着替えなくていいのか?」

「室内で着る服で、今回は制服しか持ってきていません」

 

 制服はちょっと違う気がする。

 

「いや、けっこう前に私服買ったじゃん。それも着ようぜ」

「しかし、あれは外出用では? 室内で着るものではないと判断しました」

「それもそうだな。制服は部屋着じゃないと思うけども」

 

 こうなったら、レキの部屋着も買っておくんだった。レキってばいつも制服で寝ているもんな。何着所持しているんだろ。というより、スカート履きながら寝ていると皺になりそう。俺は何の心配をしているんだ……。

 別にどうせ教師は監視とかするわけないから、私服着ようが問題ないと思うぞ。しかし、普通の服を着ると、防弾性能やらが頭の片隅でチラチラと気になり始めることもある。武偵の性だろうか。それともこういうの俺だけかな。

 

「レキは風呂いつ入る?」

「食後にしようかと」

「そうか。今から何かする?」

「特に何も。強いて挙げるなら武器の手入れでも」

「だなぁ。俺もそのくらいしかすることないなぁ」

 

 とはいうが、工具は東京に置いているので簡単な分解やクリーニング程度しかできない。普通に忘れてしまった。数日くらいならこれで充分だからまだマシか。

 

「……」

 

 黙々と互いの武器の手入れをする俺とレキ。……これは果たして旅行先の正しい男女の姿なのか甚だ疑問である。もっとこう……何かないのか。っていうか、意識しているの俺だけみたいですね。とても恥ずかしくなってくる。ちょっくら罪悪感で居たたまれなくなるのでふて寝したい。

 

 あ、もう終わった。簡単な整備しかしてないからそりゃすぐ終わるわな。

 

 うん……暇だ。夕食もうちょい早く頼めばよかったか。

 

「八幡さん」

「ん?」

「……その、暇ですね」

「ドラグノフの整備終わった?」

「はい。それで、暇ですので、何かお話でも……」

「おう。しようしよう」

「では、そうですね。明日の予定はどう考えてますか?」

 

 レキから何か雑談をしてくるとは珍しいこともあるもんだ。

 

「明日は神戸を見て廻りたいな。ここから京都駅まで移動してJRで三宮まで1本で行けるし」

「神戸ですか。どこか行きたい場所でも?」

「ああ。好きなゲームやアニメの聖地だからな。色々と見てみたい」

「八幡さんの部屋にあるパソコンのゲームですか、それは? 確か金髪の女性が大きくパッケージにいましたね。八幡さんの見ているアニメにも同様の女性がいたと記憶しています」

「……俺、部屋にレキを入れたことあったっけ?」

 

 いつもリビングで話してたような。遠山がいるときもセーラが来たときも、特に部屋に入れたことはなかったはず。

 

「八幡さんの部屋くらいならいつでも入れますよ?」

 

 何を当然なみたいな顔しないでください。首を傾げないで。ちょっと怖いです。普通に怖いです。めちゃくちゃ怖いです。

 

 ……そりゃレキなんて気配を好きなように消せる奴ならできるんだろうけど。そのスキル俺対しに使わないで。是非とももっと別の場面で有効活用してほしい。

 

「そ、そうか……」

 

 普通に話していたはずなのに、レキの返答に思わず言葉を詰まらせる。

 

 あ、神戸が聖地のゲームやアニメは知っている人なら何となく察せると思う。最終章早く公開されてほしいよね。公開時期がせっかくの桜が咲く季節だったのに。桜を見に行けるはずだったんだけどなぁ。まあ、しょうがないって言えばしょうがないけど。このご時世的に。

 というより、今さらだけどなんで神戸が聖地なんだろう? 原作者とかの出身地だったりするのかな。未だに分からない。

 

 

 

 そうのんびり話していると時刻は6時になっていた。女将さんが運んできてくれた食事は和風料理が中心で、中でも海鮮系の料理がとても美味しかったです。天ぷらも美味しかった。旅館の料理って普段食べるよりも特別感があってより美味しく感じる。

 

 で、驚いたのがレキの食事の順番だ。バランスや口直しなど考えずに左から右へ、皿を1つずつ食べたら次への繰り返しだった。白米を食べ、天ぷら、海鮮やらと続き最後に漬物を食べるという。……もうちょい色々あるでしょと突っ込みたくなった。味噌汁は一気に飲み干すし、熱くないの?

 

 ちょっと唖然としつつも特に問題なく夕食も食べ終わり、皿を下げてもらってから5分くらいが経つ。俺は風呂の準備のために着替えをまとめる。

 

「じゃ、俺先に風呂行ってくるわ」

「私も行きます」

「そう? なら一緒に行くか」

「はい」

 

 レキもタオルやら持ったのを確かめてから移動を開始する。

 

「…………」

 

 で、浴場に来たはいいが……その、男湯と女湯の区別ないんですけど。……マジで?

 

 つまりこの旅館の風呂は混浴と? 確かにこの旅館は特別大きな旅館でもない。民宿だからそんなに規模は必要ないのかもしれない。あまり客が混まないかもしれないから、そこまでして2つに区切る必要もないのだろう。複数の男女の客がいれば、時間別で使用すればいいのかもしれない。経営には詳しくないので、分からないけど。

 

「だからって……」

 

 最初に言ってほしかったな……。今日は普通に暑かったから風呂には入りたい。さっぱりと汗を流したい。

 

「よし、5分で入るからそこで待っといて」

 

 さっさと入ってさっさとレキに順番変わろう。それが一番手っ取り早い。レキには悪いが、少しばかし待機してもらおう。

 

 ほう、ここは入浴中に洗濯してくれるサービスもあるのか。明日の朝に渡してくれると。よしよし、カゴに着替え入れておこう。

 

 タオルを持って扉を開ける。

 

 お、いかにも温泉という感じの場所だ。岩やスノコとか植えられている竹とかとても温泉っぽい。いや、温泉なんだけど。

 と、独りでくたらない問答をしつつかけ湯をしてから、ゆっくりと温泉に浸かる。

 

「ああ……気持ちいい」

 

 めちゃくちゃ熱いわけでもなく、俺好みの温度の温泉だ。ちょっとのぼせたら半身浴に切り替えて外の空気で体冷やせばいいし、このくらいならずっと入っておけそうだ。日も落ちかけていて、夜風が涼しい。

 

 飯も美味かったし、温泉もいい。また京都に行く機会があればここで泊まろう。というより、明日からどこに泊まろう。神戸で宿探すか? それともまたではなく明日も泊まるか? 神戸で観光してからとんぼ返りで京都に戻る? どうしようか迷うな。……行きあたりばったりすぎじゃないか。

 

 まあ、何だかんだで1日歩いていたから、けっこう疲れが溜まっている。慣れない土地だったこともあるし、ここはゆっくりと休むか……じゃないわ。レキに早くあがるから待っておいてと言ってあるじゃないか。さっと体を洗うか。

 

 と、立ち上がったろうとした瞬間――――

 

 ガラガラ……。と扉の開く音が聞こえた。音の方向へと目を向ける。

 

 女将さんか? ……違うな。俺が入る前に確か厨房にいたはず。特別な用事がない限りわざわざ来ないだろう。あったとしても、事前に済ませているはずだ。

 

 つまり残る人物はただ1人。

 

 ヒタヒタと湿っているスノコを踏む足音が聞こえる。湯気で隠れていた人物が少しずつ見えるようになる。水色の髪に、猫みたいな薄い黄色の瞳。全然焼けてない白くて綺麗な肌……。

 

 間違いない。ラスボスの……降臨です。

 

 

 

 

 

 




たまにこの作品をちょっと読み返してみると、昔の文章とても下手だなと(今が上手とは言っていない)

そういや、この作品に関して書き方をちょくちょく変えているけど、どれが読みやすかったりするのか。今は「」同士はくっつけて、地の文は何となくでくっつけたり、行間空けたりしているけど。前まではけっこう行間空けてたいて、果たしてどちらが読みやすいのか

あ、ちょっと質問あるので活動報告見てください(4/22のやつ)
感想で答えると規約違反とかになるのでお気をつけて

感想もどしどしくださいな


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そういえばこれで何話目だっけか?

FGOが忙しかったり、オンライン授業が大変だったり、レポート多かったり、モンハンワールド始めたり、なろうで書いてたり、なかなか展開思いつかなかったり、全体的にやる気が起きなかったり、色々とあり遅れました

一言だけ言いたいのですが、フリクエのドロップ率どうにかしてくれない???


「……レキ?」

「はい」

「え、なんでいるの?」

 

 落ち着け。まずは現状確認。武偵たる者冷静に。

 ここは温泉。俺は温泉に浸かっている。体を洗おうとしたときに何か音がしたから確認するとそこにはレキがいた。……オーケー、ここまでは理解できた。ちょっと理解できないけど、そこはムリヤリにだ。

 幸いなことに距離もまだある。そして、湯気が濃いのでまだレキの姿を完全に見てはいない。具体例に言うと、女の子的に大事な場所。

 

「……俺待っててって言ったよな?」

「私の返事を聞かずに行ったので、私も独自の判断で動きました」

 

 ものすごい屁理屈……!

 確かにレキの返答聞かなかった俺にも問題あるけど。……それでも普通突撃する? そういや、前にC4突撃したこともあったな。イ・ウーから帰ってきたときは狙撃されたし……そういえば、レキってばしょっちゅうゴリ押しするよな。思い返せばそういう場面が多い。

 

「それで一応俺がいるのに入ろうと?」

「はい。ダメでしょうか?」

「いや、その、ダメってわけじゃ……」

「では失礼します」

 

 俺がテンパっている間に一瞬でポチャリと湯に浸かるレキ。……行動が素早い! 早すぎる。ていうか、温泉でも足音立てずに歩こうと思えば歩けるのか。本当にコイツ色々とスゴいな。何かと規格外すぎる。

 さっきはわざと足音立てたみたいだな。それが普通なんだろうけど。今は足音を消すのを意識したのか。

 

「……レキ」

「はい」

「……近くない?」

 

 それはそうと、俺の横にピタッと座っている。これはもう体温が直に伝わってくる距離感だ。つかもう伝わっているよ。人肌感じているよ。

 

「気のせいです」

「いやでも」

「気のせいです」

 

 かなり喰い気味で俺の言葉を潰してきた。宿に入る前もこんなんだったよな。

 やだ、この子大胆……! って、ふざけてる場合じゃねぇぞ。

 

「――――ッ」

 

 これどうするのが正解だ? 今はとりあえずレキの方は見てないけど……見たい。何だこれ……何だこれ! 見ていいの? ああでも……くっそ、据え膳すぎるだろ。俺だって環境はおかしいが、年齢的にはまだまだ高校生。そりゃ興味ある年頃だぞ。

 

 ちょっと視線を左に動かせばレキがいる。でも、まだそれは早いっていうかこの作品をR18にするわけにはいかないっていうかそもそも作者にその展開を書けるような語彙力や力量がないっていうか……後半の理由がおかしい気がするが、判断に困って動けない。

 

視線は上を向きレキを視界に入れないようにしている。

 

「八幡さん」

「どうした?」

「暖かいですね」

「……そうですね」

 

 受け答えするのにも緊張する。普段ならこんなこと少ないのに。ないとは言わない。緊張するときは緊張する。いくら1年ちょっとで人付き合い慣れたといっても元が元だからな。

 

「…………」

 

 …………レキには悪いけど、心の準備できてなさすぎてここから逃げ出したい気持ちでいっぱいなんです。素っ気ない受け答えで悪いのは分かってます。だからそんなに睨まないで。

 

「八幡さん」

「今度は何でしょうか」

「なぜこちらを向かないのですか?」

「理由分かるよね?」

「分かりません」

 

 考える素振りなく即答された。

 

「……そうですか」

「ですので、私の眼を見てお答えください」

「ぐへっ」

 

 レキの両手で顔掴まれて勢いよく首グリってされた。地味に痛いし、変な声出た……。小町ならヒキガエルの声とか言いそうだ。つーか、言葉の前後が繋がってないと思う。

 

 そして、視線の先にはレキの瞳。……近い近い、これ5cmくらいしか離れてないかもしれない。レキの顔しか見えないのはまだ助かる。というより、まだ頭の回転が追いついていない。これ以上はオーバーヒートです。

 

「……とりあえず手を放してくれません?」

「お断りします」

「なんでさ」

「恐らくですが、今手を放すと元の向きに戻りそうだからです」

 

 何も言えねぇ。

 

「それでレキ」

「何でしょう」

「ここからどうするの……?」

「どうしましょうか?」

 

 おい。

 

「おい」

 

 口でも言っちゃった。

 

「私にはそういう知識がありませんので。以前に風からは自然と事が進むと習っていたので」

 

 ウルスの性教育をもうちょっとしっかりお願いしたい。コウノトリレベルたぞ。コウノトリでキャベツが運ぶのか。……ごめん、自分で言っててわけ分からなくなった。そのネタぶっちゃけ詳しくないです。伝わる人には伝わるかもしれないけど、その一コマしか見たことないんで。何の作品かも知らないんで。富樫先生の作品というくらいしか。

 

「なるほど。だったらマジで手放してくれない? 首攣りそうなんだけど」

 

 こういうときの力加減知らないのかこのままだとなかなか痛い。

 

「……分かりました」

 

 渋々解放された。

 

「とりあえず体やら洗ってくるわ」

「私も同行します」

「はいはい」

 

 ん? ちょっと気まずくて逃げようとしたのにあっさりと付いてこられたぞ。

 

って、あれ、レキいつの間にかタオル持ってるんだ。いや、テンパって俺が気付いていなかっただけだな。それなら一先ずは一安心か。

 前にかけて体を隠してくれているので、当面は大丈夫か。大丈夫って何だ、俺のキャパオーバーに対してか。……思考が纏まらない。もう充分キャパオーバーしている気がする。

 

「…………」

 

 と、体や頭を洗いながらチラッと、本当にチラッと横目で同じく洗っているレキを見たけど、色々と洗い方が雑な気がする。いや、女性が普段どんな感じか知らないし、知っていても実家にあるシャンプーやリンスがどんなもんかくらいだが、レキに至ってはリンスすら使ってないように見える。

 

 というより、レキはどうしてこう……平然と洗えるのだろうか。俺めっちゃドキドキだぞ。親に悪いテスト結果を見せるときや親に『話がある』と呼び出されたときくらいのドキドキを味わっている。つまり、色々心臓に悪い。理性が……つらい。

 いや、レキも多分その辺り分かっているはずだ。実際そのつもりのセリフがちらほらと見受けられた。だからって手を出すわけにもいかないよな、うん。いくら自立している武偵とはいえ高校生。責任問題になる。

 

それは充分に理解している。だけどもう……。

 

「ああああああぁぁあぁぁあ……!」

「……どうしました?」

「…………何でもない」

 

 心の整理が追いつかず奇声をあげてしまった。さながらブラドのように。……いや、あれほど酷くないな。

 

 

 

 ――――と、悶々と過ごした温泉でした。

 

 体は休めたけど、心は休まらない時間だった。

 

 ……え? 温泉の描写が中途半端? ……すまない、(作者の)限界だ。もうこれ以上は……書いたらまた消してのいたちごっこなんだよ。これ以上書くとなったら話が一向に進まないし、ここらで打ち止めとしよう。

 

 総評としてレキが可愛かった。これに尽きる。

 

「……」

 

 温泉から上がり、自販機でジュースを買い喉を潤す。

 売店で何かお菓子でも買おうとしたが、ぶっちゃけ買っても絶対食わないよな。旅行先で夜ふかしして、わざわざ多くのお菓子を買ったとしても絶対寝落ちする自信がある。多分慣れない土地で思った以上に体が疲れてるからだと思うが。そんなテンションに身を任せてはいけない。

 

 さて、もうこれ以上はトラブルはないかとフラグを着実に建てつつ部屋に戻ったら……。

 

「……マジか」

「みたいですね」

 

 またもやトラブル発生。俺らが温泉にいる間に布団を敷いてくれたんだろうが、女将さん……布団が一組しかありません。

 

 一難去ってまた一難というやつか。レキを一難と捉えるのはどうかと思うが、今までの言動から分かるように……あれ? よくよく思い返してみれば、レキの言動理解できたことの方が少ないぞ。

 

 幸いなことに布団がそこそこのサイズだから2人で並べばまあ、寝れないこともない。なぜか大きめの布団1つに枕2つあることだし。

 

 しかし、温泉で耐えきったのに、次にこれだともう耐えきれる気がしない。理性崩壊。エヴァのタイトルにありそう。

 新劇場版のおかげで今日の日はさようならがトラウマ。破で流れた予告とQの内容違いすぎて劇場で見に行ったときわけが分からなかったな。っていうか、最初に巨神兵の特撮が流れて、事前情報とか確かめないで見たからものすっごい怖かった覚えがある。ところで、エヴァってあれ世界線ごとにループしてるのかな。だったらカヲル君の反応にも納得いくというか。……どうでもいいな。

 

「レキ、お前今日はどう寝るんだ?」

 

 話を戻して、レキに問う。

 

「布団で寝ようかと」

「制服で?」

「はい」

「普段座って寝ているのに?」

「……はい」

 

 あ、視線逸らされた。

 こうなったら折衷案をば。

 

「だったらレキは布団で寝てくれ。俺が備え付けのソファーで寝るから。窓側にいくつかあ――――」

「ダメです」

「せめて最後まで言わせて?」

「ダメです」

 

 けっきょく押し切られる形で一緒に寝ることになった。

 

 といっても、今は俺らがまだ寝る時間でもないので適当に時間を潰している最中だ。

 俺はゲームしたり、レキはドラグノフの整備をしたり……ってさっき終わったって言ってなかったっけ? まあ、いいや。風呂上がってから整備するルーティンとかあるかもしれない。

 

 そこから何故かレキが持ってきたトランプでポーカーをした。

2人だけだと、ババ抜きも7並べも面白くないし。人数少ないと持ってる手札分かってしまうからな。ダウトとかもっての外だ。あとはできるとしたら……ブラックジャックとかか? しかし、俺は大して詳しくんだよな。確かカードの数字を足して21にすればいいんだっけか。

 

「……無理だろこれ」

「そうですか?」

「そうですよ」

 

 で、ポーカーになったわけだが……予想通りというか、レキが強すぎる。7並べとかと違って、ポーカーは運が絡む競技だし、それなりにはイケるかなと思った。いや、7並べも運絡むか。トランプで完全に運とか関係ない競技とかないな。

 実際俺も何回かは勝てたりするんだが、どうやらレキは俺がシャッフルしているときの一瞬で、どのカードがどこにいったかを見抜いてそれピンポイントで引くから……そうなったらもう勝てない。

 

 やっぱレキはどんな競技でも強い。前のカジノでもルーレットでもなかなかにヤバい特技を発揮していたもんな。狙った場所に球を投げれるとか、参加者はたまったものじゃないだろうか。経営側からしてら利益は上がるのか? 

 

「ストレートです」

「……2ペア」

 

 あー、ダメだ。

 

「フラッシュです」

「……3カード」

 

 けっこういい役だと思うんだけど。

 

「どうだ、フルハウス」

「4カードです」

「えぇ……」

 

 勝てないんだよなぁ。

 フルハウスとかそんなに出ない役なのに。

 

 ――――そして、終わるころには。

 

「勝率3割ってところか」

「お疲れ様です」

「次どうする?」

「もうそろそろよろしいかと」

「だな。寝るか」

 

 まあ、ポーカーつってもお遊びで何も賭けてないからな。失うものなどない。元よりない。あ、嘘です。ゲームとパソコンのデータ消さないで。多分1週間は凹みます。

 

 で、時間も夜の10時といい時間帯だ。いつもなら寝るには早いが、修学旅行だしな。やけに疲労が溜まって眠気がそこそこある。

 

 ん? 寝る?

 

「…………あー」

 

 ……そうだった。布団一組しかないんだった。思いっきり忘れてた。というより、現実逃避してた。

 

「では」

 

 それだけ言うと、そそくさと俺の横を通り抜けてレキは布団に入る。いやちょっと待て。何事もなく布団に入るな。少しは恥じらいを持ってくれ。あなた仮にも女の子でしょう? と前に会った雪ノ下の口調が移る。って、けっきょく制服のまま寝るのか、コイツ……。大丈夫? シワにならない? 帰ったらクリーニングかけなさいよ。

 

「……寝るか」

 

 とはいえ、もう四の五の言ってられない。正直眠い。

 もう寝転んでいる。電気を消してレキにぶつからないよう、ゆっくりと布団に入る。

 

 ……ああ、ほんのりと暖かい。温泉のときとは違う暖かさ。何度か感じたことがある暖かさだ。これがそうか……人の暖かさというものか。ふっ、久しぶりに味わったな。今の異世界にいる冷徹な勇者が魔王を倒したけど死に際でヒロインに看取られるときの台詞みたい。

 

「八幡さん?」

「……何でもない」

 

 …………色々と誤魔化したいけど、あれだ、めっっっちゃ距離が近い。

 すぐ横を向けばレキの顔が見える。部屋は暗闇に包まれている。少しだけ月の明かりが部屋を照らしているが、それでも充分に暗い。それでも分かる。レキがすぐそばにいる。それだけで心臓がバクバクする。

 しかし、さっきから言っているように眠いのも確かだ。とりあえずは。

 

「おやすみ、レキ」

「はい。おやすみなさい」

 

 微かに、虫の鳴き声が耳に届く夜だった。

 





そういえばHF公開しないと、セイバーの簡易礼装実装されなくない?エウエウとステンノ様のモーション改修も
といっても、春に公開してほしい気持ちはあるから来年にズラしてほしいなぁ。いやでも、早く劇場で見たいなぁ
それとプリズマ☆イリヤの新作映画嬉しい

あ、活動報告のやつまだまだ受け付け募集です。



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レアルタのラスエピ含めてFateルートが至高

サブタイ含めて何だ今回の話……




「……おはよう」

「おはようございます」

 

 眩しい朝日でそれまでうつらうつらとしていた目が覚める。この表現何回も使った気がする。やっぱ語彙力ねぇな。

 

 って、それは置いておいて……起きたら目の前にレキがいるのある意味で心臓に悪い。正直寝ぼけて視界や意識がはっきりしてなかったからめちゃくちゃ驚いてしまった。失礼だとは思います、はい。でもね、仕方ないんだよ。今までそういう経験少ないんだから。

 まあ、その動揺はレキには隠せたとは思います。はい。さっきからはいしか言ってない。

 

 布団はそのままでいいと女将さんから昨日のうちに言われたのでそのままに。互いに荷物をまとめてから着替える。いやまあ、俺は洗面所で着替えて、レキとは別にだが。それはもちろんですよ? 

 それて朝飯は広間で振る舞うとのこと。確か8時からで、今は7時30分か。まだもうちょい余裕はあるな。

 

「あ、レキ。その服……」

「はい。昨日も話しましたね。今日はこれで行こうかと」

 

 レキが着ている服は、俺がイ・ウーに捕まる前にお台場で買った服だ。昨日もちょっと話題に出たが、今日着るとは。薄い桃色のワンピースに水色のジャケット。久しぶりに見たけど、うん、普通に可愛いな。素直にそう思う。口に出せるかどうかは別として。

 

 顔を洗って荷物の整理を終えると、いい時間になっていたので広間に移動することにした。

 

「なあ、レキ。今日の宿って決めてる?」

「まだです。初日しか予定決めていませんでしたので」

「だよなぁ。もういっそのこと今日もここで1泊するか? ペット可だし」

「そうですね。神戸からはやや遠い気がしますが」

「あー、でも、快速? とか乗ったら1時間程度で着くってよ」

「でしたらいいかもしれません。相談してみましょう」

 

 と、会話してたら広間に着いた。ハイマキはきちんと俺とレキの横にいる。

 もうそこには朝飯を用意してくれている女将さんがいた。

 

「あら〜。2人ともおはようさんです」

「おはようございます」

「昨日は楽しめましたか?」

「……ノーコメントで」

「それはまた残念です」

 

 いやあのね、普通に恥ずかしい。特にやましいことはなかったけども。つーか、ここの女将さんこんなんで大丈夫なの? お節介かきたい年頃?

 

「それはそうと、女将さん。今日も泊まっていいですかね?」

「それはそれは……。今日のご予定は?」

「あー、神戸をブラブラと観光しようかと考えているんですけど、ペット可のホテルや旅館探すの大変で」

「なるほど。でしたら構いませんよ」

「お願いします。また何かあったら連絡しますんで」

「は〜い。ささ、朝ご飯食べてちょうだいな」

 

 ――――と、朝飯を食べてから荷物をまとめ、俺らは京都駅からJRを使い神戸へ移動した。

 

 

 降りた駅は三宮。神戸来たんだしそこは神戸駅じゃないのかって? 実は神戸駅と三宮ってそれなりに離れてるんだよな。といっても、元町挟んでるくらいだからそんなには距離ないかもだが。せいぜい一駅程度。歩けば普通に行ける。

 ちなみに新神戸駅と神戸駅はめちゃくちゃ離れてる。新がついてるついてないだけの違いだろと勘違いしたら確実に面倒くさいのは事実だろう。何だかんだで神戸の中心は三宮という気がする。

 

 神戸駅はumieやメリケンパークとかがあるしショッピング目的なら三宮よりかは神戸駅の方がいいかなと個人的に思う。もちろん三宮にも色々あるけど、umieはショッピングモールだからな。モール内なら三宮と違い、めちゃくちゃ移動しなくて済む。

 でも、三宮にはアニメイトやらしんばんとかイエローサブマリンオタク系のショップが揃ってるし、やっぱ観光するなら三宮かな。umieとか別に普通のモールだしな。このくらいなら関東にそこら中あるだろう。イエローサブマリンに関しては真骨彫を予約するときに世話になってます。

 

 

 そもそもumieで遊ぶとして、何かこれとって目新しいとこがあるのかと言われたら疑問に残る。ショッピングも映画? まあ、それを言われたら、神戸に観光に来た人は何をするのか正直分からない。神戸の観光名所とかいったら……あれか、有馬温泉にでも行く? それとも神戸牛でも食べる? 俺食べたことないよ? 

 ……神戸に観光に来る人の真意がマジで分からない。ぶっちゃけ神戸で観光するくらいなら梅田とかの方が色々と揃ってそうだけど。よく外人の人たちも見かけるけど、マジで分からんなぁ。ちなみにどうでもいい情報だが三宮にサイゼは4店舗ある。

 

 

 

 …………なんてホントどうでもいい話をしつつこれからの予定を考える。にしても、神戸の愚痴やら長いな。まあ、今回はFateの聖地がいくつかあるから神戸選んだだけだが。

 

「…………ふう」

 

 ――――と、一息ついて、まず午前中に北野の方に行って異人館も見ることにするか。

 えーっと、JRの三宮にいるから、だいたい15分程度か。ふむふむ、遠坂邸のモデルはどうやら「風見鶏の館」って場所か。って、北野通りという場所に冬木教会への道や間桐邸への道もあるんだ。あ、間桐邸のモデルとなっている「うろこの館」もあるんだ。

 

 北野通りのの坂を探しつつ遠回りしながら異人館に向かうとしよう。行き当たりばったりだな……。

 

「レキ、ちょっと歩くけど大丈夫か?」

「はい」

 

 レキは素直に返事してくれるけど、なんか俺の趣味に付き合わせて申し訳ない。

 そんなことを思いつつゆっくりと歩く。

 

 しばらく歩くと、冬木教会への坂に着いた。

 

「おお」

「……普通の坂に見えますが」

 

 ちょっと感動していると、レキに突っ込まれた。まあ、そうなるよね。

 

「ここもそのゲームに使われているのでしょうか?」

「そうそう」

「なぜ神戸なのでしょうか?」

「……さあ?」

「知らないのですね」

「こればかりはさっぱり」

 

 原作者たちの出身地神戸じゃないらしいし、こればかしはマジで謎だよな。

 

 写真を撮ってからまた移動して、間桐邸へと続く坂道の写真も撮る。

 そんな寄り道をしつつ、神戸の街を堪能しながらのんびり歩くこと20分。異人館――風見鶏の館へと到着。

 

「……おお」

 

 やっべぇ。マジで遠坂邸じゃん。うわー、スッゲー。遠坂邸だったらhollowで士郎が掃除に行って警備に四苦八苦するエピソードが好きだな。そのあと勢揃いで掃除へリベンジする話も。

 写真を撮りながら一周グルッと周る。にしても、晴れてて良かった。

 

 外観に堪能しつつ入場料を払って風見鶏の館に入る。

 

「うおっ……」

 

 するといきなりあの階段だ。

 あれあれ、Zeroで綺礼が降りてきた階段だ。子ども頃の凛と綺礼が言い合ってていた場所だ。そして色々と見て廻っていると……え? まさかの中田さんのサインまで……!? マジかよ。スゴいな、ここ。中田さんが階段から降りてきている写真もある。是非ともいっぱい写真撮ろう。Fate関連の物も多くある。

 

 30分くらいゆっくりと見学してからここを退出する。次はすぐそこにあるうろこの館だ。 

 

 お、外観はホントに間桐邸じゃないか。ここならあれだな、慎二が桜を怖がるエピソードが印象に残ってる。ジャポニカ暗殺帳。まさかあそこで黒桜が現れるとは……。ゲームをプレイしているときは思いもしなかった。杉山さんの悲鳴いいよね。

 っと、入場料を払って中に入る。しばらく見学していると……あれ? ここどっかで見覚えが……?

 

「あ」 

 

 そうだ! ここ遠坂凛の部屋だ! え? いやいや、そのまますぎないか? さすがに広さはあっちの方が広く感じるけど、インテリアとか家具とかマジでそのままじゃないか。お、アーチャーが召喚時に座ってたあのソファーもある。いやまあ、部屋は崩れてないけど。

 間桐邸の中に凛の部屋か。……これは予想外だった。調べれば分かるんだがな。マジのノープランだ。

 にしても、こう見ると、遠坂家の優雅たれって感じの部屋だな。全てがオシャレだ。

 

 こうマジマジ眺めると、UBWの0話を思い出す。誰かアーチャーのコスプレして座ってたくれないかな。さすがにそれはダメたけども。帰ったらアニメやゲームの画像と今撮った写真見比べてみよ。

 

「楽しそうですね」

「おう。……ああ、悪いな、俺の趣味に付き合わせて」

 

 隣にいるレキに声をかけられた。ハイマキも外で待機していることだしな。

 すると、レキは首を横にフルフルと振る。

 

「大丈夫です。私のワガママをよく訊いてもらっているので、このくらいは全然。それに、私も初めて見る光景なので、少し楽しい……と思います」

 

 断言しない辺りがレキらしいというか。

 

「それなら良かった。美術館も併設されてるみたいだし、そっちも行こうか」

「はい」

 

 ――――そうして、美術館も見終わり、もう昼頃だったので近くにあったカフェでランチを取った。

 

 俺からしたらちょっとばかし高いお値段だったが、まあ普通このくらいだよな。神戸まで来てさすがに普段からお世話になっているサイゼに行くのもなんだし……。神戸で美味しい食事というと? 神戸牛? ……それはあまりにも高そうだ。 他は元町辺りの中華街とかスイーツとか有名だったな。そこまで調べてないし、詳しくは知らないがな。

 

 

 そうして、少しの間聖地巡礼は休憩して神戸の街並みをもっと歩くことにした。ハイマキもいるからな。いちいちお留守番では可哀想だ。

 北野にセンター街など色々な場所を歩いて今は東遊園地で休憩中。

 

 遊園地っていうわりには何もないと思ったけど、どうやら震災の慰霊碑がある場所なんだ。なるほど。そう考えると、神戸って冬木と同じように災害があった都市なんだな。現実とフィクションを比べるのがおかしいとは思うが、そういう共通点もあるのか。そもそも災害のベクトルそのものが違うからな。

 

 時間は……何だかんだでもう3時くらいか。センター街歩いたとき元町もグルグルと歩いたしな。

 にしても、この辺りは人多いな。一応は平日だし、まだ学校も終わってない辺りの時間帯だとは思うが。見かけるのはスーツを着た社会人にご老人や主婦、あとは大学生か。さすがに高校生や中学生の年代は見かけない。この時間に外にいる社会人はどういう仕事なのだろうか。営業の帰り? それとももう仕事終わりなの? なんという優良企業か。

 その多くの人はセンター街や国際通り、多分JRやサンチカの方に歩いている。

 

「…………」

 

 で、その通行人からやたら見られている気がする。いや、実際見られてるんだけどね。ここではあまり見かけない制服だろうし、隣にいる何を考えているか分からないレキが美人だからな。確か大阪には付属の武偵高があったようななかった気が……。

 レキに関しては、適当に気配消したりするのは自由自在だから別に気にする必要はないかもしれない。

 

「グルルッ……」

 

 そして何よりコイツだよ。東遊園地の草原で呑気に寝ているハイマキをちょっとばかし呆れつつ眺める。

 ハイマキは犬にしてはかなり大型だからな。寝ていてもその大きさはかなり目立つ。普通に見れば、柴犬やゴールデンレトリバーの犬よりもかなり大きい。……まあ、コイツは犬じゃなくて狼だ。図体が大きいのは当たり前だろう。ハイマキを武偵高に登録している項目だと武偵犬になっているが、それを知っているのはごくわずかだろう。

 

「八幡さん」

「……ああ」

 

 レキの言う通りそれだけではない。残念ながら明らかまた別の視線が交ざっているな、これ。多分北野を観光していた辺りから。視線の種類は分からないが、敵意ではなさそうだ。

 まあ、いいや。どこから見ているのかは不明だが、こんなに人がいる状況で仕掛けてこないだろう。

 

「別に放っておいても今は大丈夫だろうな」

「そうですね。今のところ特に敵意は感じません」

 

 レキも同じ結論だ。

 だよな。殺し以外に何か別の目的があるのだろうな。うーん、こんな非日常な事態にもけっこう慣れたな。

 

「よし、移動するか」

「はい。行きますよ、ハイマキ」

 

 一旦はその視線の主を放っておき、今度の目的地のためポートライナーへ足を進める。

 ポートライナーを乗り、俺らは中公園駅へ移動する。にしても、この時間だと神戸空港や北埠頭に行く人は少ないけど、三宮へ戻る人はめちゃくちゃ多い。これが5時だともっと多くなるだろうな。

 

 そして、中公園駅に着く。目的地への道は調べてないからさっぱりだけども、正直目立つから適当に歩いても辿り着ける。ポートターミナル駅からも行けるみたいだが、せっかくなんでポートアイランドを歩いてみたい。

 

 ……あれ? そういえば、俺前にここに来たことあるような……? あ、あれだ。ジャンヌがイ・ウーから日本に送ってくれた場所だ。まだ数カ月前の出来事だが、随分と懐かしい。ていうか、その数カ月の間にイ・ウーが潰れているんだな……。色々起きすぎじゃないですかね。

 

 そんなことを思いながら歩くこと10分。無事目的地へ着いた。場所はポートアイランド北公園。公園って名前があるわりには別に遊具とかは何もない。ベンチとちょっとした噴水があるくらいだ。

 なぜそんな場所に俺が行きたいかと言うと――――

 

「やっぱスゴいな……」

「大きい橋ですね」

 

 そこには、ポートライナーでも通った神戸大橋があるからだ。まあ、知ってる人は知ってると思うけど、この橋はFateの冬木大橋でモデルとなった橋だ。

 

 ……マジでそのままだ。橋を歩ける場所があるが、そこもマジでそのまま。マンホールの位置すら同じだ。というより、大きいな。橋の真下にも行けるのか。間近で見るとより迫力が伝わる。

 この橋だったら、大概の人はやっぱりZeroでのアーチャーvsライダーが思い浮かぶだろうか。あそこいいよね。Zeroは主にセイバーの扱いについて賛否別れる作品だと思うが、あのシーン嫌いな人は恐らくいないと勝手に予想している。

 

 ただやっぱり俺からしたら、stay nightでの「私の鞘だったのですね」のシーンが一良かったな。あそこめちゃくちゃ感動した。何だかんだでFateルートが一番好きだな。

 俺はアニメ(ユーフォの)からゲームに入った人間なので、UBWもHFもあらかた話の内容は知っていたが、Fateルートだけは全くの手付かずでプレイしたから感動も一際大きいものだった。

 

 あとはあれか、hollowで美綴と遊んでたシーンが印象に残ってる。個人的にサブキャラなら三枝さんが一番好きだが。アサシンとのんびりしてほしいよね。えみごでも似たようなシーンがあるし、えみごがまたアニメ化してくれたたら、実質hollowアニメ化になのでは? ライダーどの買い物回もそうだが、hollowであった場面を拾ってくれているのが嬉しい。

 

 聖地巡礼か。あまりしたことないが、こうやっていざしてみると、楽しいもんだな。アニメや映画で見た風景を実際に自分の目で見るというのは、テンションがかなり上がる。

 

「…………」

 

 それにしても……ここ人全然いないな。

 

 そりゃここには遊ぶ場所とかないし、当然と言えば当然なのだろうか。ここにわざわざ来るのは、俺みたいなかなりの物好きになるのかな。噴水もあるし潮風も気持ちいいし、神戸大橋もあるし、いい場所とは思うのだが。ここから神戸の景色も眺めることができる。夜になればさぞ素早くことだろう。うんうん。

 というか、思えばポートアイランドって全然人歩いてないよな。ここまで歩いてきたのに、大学生くらいしか見かけてないぞ。マンションやビルは多いのに、通行人ほぼいないって……。

 

「ハァ……」

 

 だからまあ、都合がいいといえばそうなるな。

 さっきからずっと俺らを尾けている奴だっていることだし。ああ、面倒くせぇ。

 

「おい、そろそろ出てこい。ここならいいだろ」

 

 橋の真下にちょっと移動して呼びかける。

 気配をわざと隠してないから分かりやすいんだよ。もうちょっと気配隠してくれたら俺も純粋に観光を楽しめたんだが。もちろん楽しんだぞ? ただ、意識の片隅にコイツがチラホラあるのは鬱陶しかった。

 

 で、ここまでして修学旅行を邪魔したのは誰だ。武偵高生の奴らではないのは分かるが。それ以外となると……。

 

「くふふ。やはりバレていたネ」

 

 面白がっている、それはとても愉快そうな声が訊こえる。

 

 ようやく視界に映る。俺やレキより小さい身長。黒髪のツインテール。和服か中華の格好なのか俺には分からないその服。

 そして何より、水投げの日に散々訊いたこの口調。

 

 ……お前だったのか。

 今日ずっと尾きてきた人物は、元イ・ウーの面子である――――

 

「――――ココか」

 




Fate関連で一番好きな曲はkaleidoscopeです
最後にstarlogに繋がるのがマジでもう最高すぎる

…………何なんだ、今回の話





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HF公開日が改めて公開されたけど、本音を言うなら春に観たくてとても複雑な気分

UA500000、お気に入り3100件超え、改めてありがとうございます!失踪していた間もちょくちょく伸びてたり嬉しい限りです

それはそうと、前回の話は若干不評っぽかったんで今後は控えます(多分)
まあ、本筋進めないといけないしね?



「しばらくぶりネ」

「……だな」

 

 神戸に来てから俺らを尾けていたココはゆっくり歩いて近付いてくる。

 やっぱシルエットは神崎そっくりだ。ツインテールで140くらいの身長ってほぼ神崎たよね。

 

「八幡さん、この人が?」

「ああ。前に話した元イ・ウーの面子だ」

 

 俺の横にいるレキは瞬時にトランクから分解したドラグノフを取り出し組み立てている。俺も念のためファイブセブンを手にしている。といっても、ココからは今まで戦ってきた奴らの特有の敵意は感じない。ココも素手だからな。

 そういや、レキとは初対面だったか。遠山や神崎とは面識あるみたいだが。……アイツら大丈夫かねぇ。けっこうゴタゴタしていたな。後で遠山に連絡するか。

 

「それで? 人気のない場所に移動したが、何か用あるのか?」

「モチロン。じゃなきゃ、こんなトコわざわざ行かないネ」

 

 ココの体格からしたら少し大きい服の袖を掴み、いわゆる萌袖をしながら何がおかしいのかクスクスと笑う。

 こら、そういう言い方だと神戸市民怒るでしょ! 全く失礼な奴だな。確かに神戸に不満少しはある。もうちょいポートライナー大きくしろとか交通費が全体的に高いとか……まあ色々だ。だから年々神戸市の人口下がってるし、川崎に人口抜かれるし、神戸にある企業が減っていくんだぞと言いたい。しかしだ、仮にも20年以上暮らしている場所だ。俺ではない誰かの話だが。いやもうホント、そろそろ新神戸トンネルの値段下げてほしいんですけど。あと神鉄も。北神急行が市営地下鉄に変わったんだからさ。

 

「今日はイレギュラーたちと話がしたいだけ。返答しだいだが、戦う予定はナイヨ」

「へー……」

 

 それ多分だけど、ココにとって不利益なこと言ったら戦う流れだよね? 分かるよ。それ母親が怒らないから言ってみ、とか言ってけっきょく数時間怒られる子供の図式だ。何度も経験ある。親の沸点どこにあるのかマジで分からないし、理不尽なことで怒られることなんてしょっちゅうだ。周りから見ても、俺が怒られてるの理不尽って言ってるのになんで通じないんだろう。親が怒ってるときってマジで論理的に説明しても俺が悪者にされるよな。

 

 と、愚痴は置いておいて、話か……、正直予想がつかないな。そもそも会うの2度目だからな。あれか、前戦ったときに怪我したから賠償しろとか? いや、お互い全然怪我してないわ。多少疲れただけだわ。

 

「一言で言うなら、勧誘ネ」

「――――あ、そういうのはお断りしているんで。新聞も取らない主義なんで」

「……せめて話を聞くネ!」

 

 な、何!? 俺の勧誘撃退方法が失敗しただと……。これで数多の新聞会社を撃退してきたのに。というより、常日頃から銃弾が縦断する武偵高の近辺でよく勧誘するよ。下手すれば普通に死ぬぞ。…………え? ギャグがつまらない? 知ってる。でも思い付いてしまったんだ。許してください。

 

「イレギュラー、そして蕾姫。お前ラを藍幇へと勧誘するタメに交渉ニ来たヨ」

「らん……なに? お前パン屋でも経営してるの?」

「違ウ!」

 

 ツインテールをフリフリさせながら叫ぶココ。

 この子めっちゃ気持ちよく突っ込んでくれる。ボケるの楽しい。ボケ甲斐がある。こんな感じで突っ込んでくれる奴が少ないからな。どちらかと言うと、普段は俺がツッコミ役だもんな。

 

 まあ、それは置いておいて。その「蘭幇」というのは初耳なんだが。ココの所属している組織か何かだろうというのは何となく分かる。大々的に勧誘って言うくらいだしな。イ・ウーにも所属していたし、相当めんど……ヤバい組織かもな。

 

「で、蘭幇って?」

「蘭幇はイレギュラーたちに馴染みのアル言葉だとヤクザになるネ。上海にアルし、構成員は100万人にも及ぶし、規模は日本の小さいノト比べモノにならナイがネ」

 

 ヤクザか……ヤクザはちょっと……。いくら武偵がアングラーで社会から見ればどうしようもない底辺な存在でもそっちの方に進むつもりはない。

 しかも上海というと――――中国か。ろくに海外に行ったことはないが、中国はちょっとばかし怖いイメージがある。なんか治安が悪そうな。……いや、武偵高のが治安の悪さで言ったらトップに入るかもしれない。神崎が機嫌損ねたときとかアホみたいにガバの銃弾飛びまくるからな……。ああ怖い怖い。

 

 ……って、100万って人多くね? ヤクザってそんなにいないだろ。というよりいたら困るだろ。そんなにいるなら絶対警察とか機能してなさそうだが。

 

「あー、普通に断る」

「もうちょい話聞くヨ」

「だからいいって」

 

 と、一応静止しているが、そんなこと関係せずにココは話を進める。

 

「イレギュラー。あのブラドを生身で倒す戦闘力。まだ完全ではなさそうだが、意識を保ちナガラ色金を操る存在。どこも欲しがっているヨ」

 

 なんかパトラも似たようなこと言ってたな。恥ずかしいんでマジで止めて。

 

「そして、ウルスの姫である蕾姫。キリングレンジ2051を誇る狙撃手。素晴らしい人材ネ」

 

 正確にはもうレキはウルスから抜けているが……さすがに分からないよな。あんなモンゴルの辺境な場所に暮らしていたら。というより、ドラグノフを使ったレキの射程もバレてるのか。情報だだ漏れだな。

 

「これから超能力はあまり使えない時代が到来するケド、色金を使えるイレギュラーは例外でありとても魅力ネ。モチロン、生身でも強いレキも」

 

 超能力が使えない時代? ……そういうば、前にジャンヌに教わったな。超能力を使うには色金の粒子が絡んでくるのだと。そのり多いほど超能力が使いにくくなる。これからはそういう事態が頻繁すると言っていた。例外って言っていたのは気になるが、今は放っておこう。

 

「どう? 来る気あるか?」

「これっぽっちもない」

「強情な奴ヨ……。蘭幇に来たら色々与えるネ」

「……与えるっつーと、やっぱ金か」

 

 お金で釣ろうだなんてそうはいかないぞ。でも、5000兆円(非課税)あげるとか言われたらめちゃくちゃ心揺れるよな……。だって5000兆円(非課税)だぞ? 誰だってほしいに決まっている。まあ、ヤクザの勧誘ってことは恐らく傭兵みたいな扱いだろう。それは絶対嫌だ。タダより怖いものはないということだな。

 

「それだけじゃない。金も女も自由自在。好きなだけ望むがままに与えるネ」

「…………」

「レキ、ドラグノフを俺から離せ。銃口を俺の頭にくっつけるな」

「――――」

 

 ココが喋ってから俺にドラグノフを突きつけるまでの行動があまりにも素早い。ココのセリフから俺を狙うまで1秒もなかったぞ。良ければ、その銃口あっちのロリっ娘に向けてくれない?

 

「次はないです」

「今回に限っては俺悪くないよな? 悪いのあっちだろうが」

 

 一応嗜める。

 

「えぇ……」

 

 ほらぁ、ココも若干引いてますよ。

 と、引きつった顔をしていたココは咳払いをしてまた話を切り出す。

 

「悪くナイ条件だも思うガ……蘭幇に入るつもりはあるカ?」

「何度でも言うがねぇよ。ヤクザに関わるつもりなんてこれっぽっちも持ち合わせていない。下手に人殺せば9条違反で俺の首が飛ぶ」

「日本のヤクザとは規模が全然違うが、まあいいネ」

「もう終わりでいい? 俺これからここの橋渡りたいんだけど」

 

 だって冬木大橋だぞ? せっかく来たんだし一旦渡って色々思い出したい。セイバーと士郎が橋でイチャイチャしたシーンとかさ。

 

「ま、断られるとは思ってたヨ」

「じゃあ、帰っていいか?」

「断られたら断られたで強制的に連れてくダケヨ!」

 

 ですよねー。

 正直そんな気しかしてなかったよ。ちくしょうめが! うわっ、ココの奴突っ込んできやがった。

 

「レキ、下がれ」

「はい」

 

 近接戦になるか。とりあえずファイブセブンをしまって、3分割されてる棍棒を組み立てる。

 ココは……手ぶらか。あのときは水投げの慣習のせいでお互い素手だったが、元より素手がココの基本スタイルか? リーチ差を活かして懐には入られないようにしないと。

 

「来い!」

 

 ……? 何かココが叫んだ? まだ何かって……あれは猟犬か!? それも続々と。見えるだけで5匹。人間の気配はしないと思ったら、動物仕込んでやがったのか。

 そして、その内の1匹。何か運んでる。どでかい得物。猟犬はそれをここに渡した。あれは剣? 中国風の? 授業で見た覚えが……。

 

「――ッ! 青龍偃月刀か!」

 

 縮めて青龍刀。それはざっくり言うと大きい中国の刀。

 長い柄の先に湾曲した刃を取り付けたものであるが、刃は幅広で大きくなっており、柄の長さは刃の大きさに対してやや短めになっている。突く、斬る目的ではなく、その刀身の重さで相手を叩き潰す――――いわゆる戦斧に近い武器。モンハンで言うところの大剣辺りに近いか? まあ、それはいい。

 

 普通に重すぎるから実戦じゃまず使われない代物だが、ココは鉈のように軽々と扱っている。演武などに使われるモノを実戦で使おうという段階で、コイツがかなりの化物だと分かる。マトモに受ければ棍棒なんてボッキリ折れる。どうにか受け流しつつ攻撃をしかけないと。さすが中国のヤクザか。イ・ウーにもいたもんな。

 というより、ココの周りに集まっている猟犬も問題だ。コイツら、かなり訓練されている。レキは接近戦が苦手だ。せいぜい銃剣で刺すくらい。当然、神崎とかと違ってスペシャリストではない。援護も猟犬が近付いてきたら難しいだろう。

 

「ハイマキ」

「ガルル……」

「お前のご主人任せたぞ」

 

 臨戦態勢に入っている狼のハイマキに猟犬どもは任すことにする。

 

 俺はココだ。レキの近くには行かせない。

 

「あのときの続きといこうか」

「望むところネ! きひっ!」

 

 俺は俺で、残りの距離を一気に駆ける。猟犬たちもバラけ戦闘開始だ。

 さすがに青龍刀と戦うのは初めてだ。セオリーなんて分からない。だが、相手の射程内で戦うのは危険だ。体が一瞬でイカれる。いつも通りのカウンター戦法で進めるか。

 

「……ッ!」

 

 前みたいにまるで酔っ払いの足取りだ。動きが読みにくい。青龍刀も合わさってなおさら。だが、反応はできる。右から左から、上から下から……自在に攻めてくるのに対し、俺は刃部分に当たらないように棍棒で攻撃を逸らす。姿勢が崩れたことろを狙って、攻撃を叩き込もうとするが――――

 

「甘いネ」

「……そう簡単にはいかないか」

 

 体が柔らかいというか、何て言うか……本当に綺麗に避けるな。青龍刀を支えにして飛んだり跳ねたりと。自分の体を操るセンスがずば抜けている。これは神崎や理子にも言えることだな。アイツらと同レベルだと改めて確認する。

 

 猟犬はこっち来ないけど……レキたちの方はどうなってる? 攻撃を受け流しながらチラッと見るが、大丈夫そうだな。お互い牽制している状態だ。ここまで来たらいざとなったらレキが撃つだろうから、多分今は心配いらない。

 

「――――」

「…………」

 

 俺たちの方は何度か打ち合いを続けるが、互いに決定打には至らず。

 ココはまだ余力のあるように思える。俺も超能力使ってないのでそこはお互い様だ。ただ……武器の性能からしてこれが続くとなると俺が不利。今は受け流せているからいいものの、少しでも真正面から攻撃を貰えば多分折れる。

 

「やっぱり、イレギュラーは後手が上手ネ」

「どうも」

「じゃあ、もっとスピードを上げるヨ。付いてこれるか?」

「お前の方こそ、付いてきやがれ――!」

 

 思わず反射的にこう返したけど、このネタ絶対ココには伝わらないよなぁ。

 

 っと、そんなこと考えている場合じゃない。マジでスピード上がったぞ。あんな重いモン振り回してまだ上がるのか。

 

 縦に振り下ろしてくる攻撃を避け、そこからの斬り上げも距離を取りながら避ける。俺が狙っている攻撃が来るまでひたすら躱す。

 

 そして、その時が来た。

 

 ココはかなりのスピードで真横からの薙ぎ払いをしてくる。それも大振り。かなり速い。だが、何度も視た。これなら合わせられる。

 

「オラッ!」

「なっ――!?」

 

 薙ぎ払いに合わせて――――青龍刀の刀身の下から棍棒で思いきり力任せに叩く。

 

 カキンッ! そう甲高い音が響いたと思ったら、青龍刀の軌道は大きく逸れる。真横の軌道から斜め上にズレる。普通なら何ともないが、ココの使用している青龍刀は重さが武器。重心が少しだけズレると、それは大きなズレになる。これがただ振り下ろしているだけならそんなに変わりはないかもしれないが、今回に限っては違う。

 さすがのココもこれには対応できず、今まで以上に体勢が崩れる。

 

「クッ……」

 

 すぐさま立て直そうとするが、そんな隙など俺は見逃さない。すぐさま棍棒で追撃を――ではなく、足元を掬うように烈風を起こす。

 

「うひやぁ!」

 

 などと可愛らしい声を上げたココはすってんころり。勢いよく倒れましたとさ。ただでさえ体勢が崩れていたんだ。そこに急に突風が起これば耐えれるわけがない。しかも足元ピンポイント。

 

 ココが倒れた瞬間、青龍刀の柄を蹴って遠くへやる。とりあえずどうにかなったか。と思ったが、すぐに否定する。ココは格闘も得意だから油断ならない相手だ。棍棒をココの顔の横に押し付ける。前にシャーロックが俺にやったように……いや、あそこまで酷くはないな。あのとき硬そうな大理石の床凹んでたし。

 

「どうする? 続けるか?」

 

 見下ろしながら問いかける。

 

「投降したらどうなるネ?」

「そりゃあ。いきなり襲われたわけだし、警察にとりあえず渡すことになるな。そもそもお前イ・ウーの面子だろ。なおさらだ」

「ウーン、それは困るヨ」

「ならさっさと退散すれば良かっただろうが」

 

 そう話している間、猟犬がこちらに狙いを変えてきたが、烈風で近寄らせない。

 

「…………それにしても、セーラの力。やっぱり強いネ」

「それ俺褒めてる?」

「まあネ」

 

 そうこうしていると、タァン、タアンと銃声が鳴り響く。俺が吹っ飛ばした猟犬をレキが撃ち、何匹かは無力化させている。殺さずに気絶させているだけだ。

 …………相変わらずスゴいな。不利な状況を一瞬で有利に変えてしまう。しかし、銃声が鳴るのは避けたかった。一応は人が住んでいるのだから。消音器を付けさせるべきだったか。俺も含めて。でもあれ付けると命中率下がるから嫌いだな。

 

「――――」

 

 そして、このまま無力化できるかと思ったら――

 

「……そう上手くはいかないよな」

 

 そう呟くと同時に、橋の影から誰かがこちらに向けて何発か撃ってきた……! 

 

 マジか。けっこう近くにいたな。全然気付かなかった。背丈も容姿も分からないが、コイツ気配消すのかなり上手だな。というより、まだ人仕込んでいたのかよ。随分と用意周到だな。

 今やられたのは俺の下にいるココを巻き込まないように威嚇射撃。俺もココも怪我はない。だが、このままいたら多分撃たれるな。そういう警告の意味を込めた射撃だ。俺とレキの格好普通に私服で防弾性ではないから、ぶっちゃけ撃たれたくない。

 

 仕方ないからココから離れてレキの方まで移動する。猟犬もココの元へ戻っている。にしても、この銃声なんだっけな。あれか、UZIか。多分? よく分からん。でもその辺りだと思う。

 

「レキ、大丈夫か?」

「はい」

「ハイマキもか?」

「グルッ……」

 

 ハイマキも大丈夫そうだ。猟犬相手によくレキを守った。あとで魚肉ソーセージをたっぷりやろう。

 

「レキ、さっきの奴撃てるか?」

「可能ですが、恐らく私が撃った瞬間に撃ち合いになるでしょう。今は手を出さない方がいいかと思います」

「まあ、撃ち合いになったらこっちが負けるな」

 

 拳銃のファイブセブン、狙撃銃のドラグノフがこちらの武器。対するUZIは短機関銃。めちゃくちゃ分が悪い。いくら俺のファイブセブンが改造してフルオートで撃てるとしても、厳しい戦いになる。しかも向こうは隠れており、こちらは近くに遮蔽物がない。筒抜けの状態。その時点で不利だ。

 

「あちらもこれ以上は戦う予定はないようです」

 

 ココも猟犬と一緒にUZIを撃った奴の元へ退却している。

 

「またネ。イレギュラー、また会いに行くヨ」

「ご遠慮ください。俺はもういいです」

 

 俺とココ。互いに致命傷は負ってないし、実のところまだまだ戦える状態だ。あのままでもココは反撃しようと思えばできただろう。しかし、ココもこれ以上続けてももうメリットはないと思ったのか。最初は俺らを勧誘しに来たが、下手するとココが警察にぶち込まれたかもしれないからな。今日はここらで幕引きといったところか。

 

「…………」

 

 ココたちが去ってから数分が経つ。

 もう完全にいないことを確認してから騒ぎになる前に俺らもここを離れることにした。

 

 

 




サブタイに関しては俺の率直な気持ちです。もちろん公開が決まり嬉しいけど、やっぱ桜の咲く季節に見たかったよねぇ!!!と複雑な気持ちに襲われている今日この頃

宣伝です。なろうで書いてます。わりと真面目に書いてるので時間があればぜひお願いします!!
https://ncode.syosetu.com/n2569fu/


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終わりと新たな事件

ここの感想欄に好意的な感想には必ずbadつけている人いるけど、あれマジで謎。合わなかったら読むの止めればいいのに。というよりめっちゃ律儀。ここまでくればもう俺のファンじゃね?





「……比企谷」

「お、遠山か」

 

 ココの襲撃があった翌日の京都駅にて。

 修学旅行も終わり、新幹線に乗りいつもの危なかっしい日常へと帰る予定だ。正直嫌だけどね。叶うならば、安全な日常を過ごし……昨日ココに襲われたし、そういうのはもう無理があるか。イ・ウーの残党に狙われてるもんな……。嫌になってきた。

などと軽い絶望に打ちひしがれながらレキと京都駅を歩いてる。

 

ホームには観光客や社会人、学生などで多くの人で賑わい、それはそれはとても騒がしい中、売店前で遠山と星伽さんと合流した。前もって連絡してなかったが、どうやら帰りの新幹線の時間は同じらしい。

 

「ところで楽しかったか? 始まる前なんかごたついたらしいが」

「まあ、それなりには。途中でトラブルあったけどな」

「遠山もか。俺も同じだ。星伽さんは?」

「私も楽しかったです。キンちゃんと色々周れてその、夜も……はぁ」

 

 星伽さんは手を頬に当ててとても嬉しそうにしている。……それは何よりです。何があったのかは訊く気は起きないが。敢えて突っ込むのは野暮というものだろう。

 

「レキさんはどうでした?」

「はい、私も楽しかったです」

「レキさんたちはどこに行ったのですか?」

「最初に――」

「…………」

 

 レキの即答。そこから星伽さんと会話を続けている。

 対して、珍しそうに遠山はレキをまじまじと見つめながら目を丸くしている。どうしたんだ。そんなに驚くようなことあるか?

 

「どうした?」

「いや……レキがそういうこと言うんだなと。楽しかったとか」

「ああそういう、最近はわりと言うぞ」

「そうなのか……。強襲科で組んだときは、なんつーか……」

「ああ、あの頃はな……ひたすら無表情だったな」

「そうそう」

 

 そこに関しては遠山に同意。任務中だから当たり前かもしれないが、それにしては無表情だったな。

 

「そういや、土産とかどうした? まだ買ってないんだけど」

 

 遠山たちに訊く。

 

「ちょっとした菓子は買った。実家に寄ったときにでも渡そうかなって」

「そういや、遠山って実家どこだっけ?」

「巣鴨」

「都内か」

「私は実家が青森なので、買ってないです。京都にも分社があるので、あまり買う必要性がないと言いますか」

「なるほど。星伽さんはそうだったな。んー、俺も買っておこうかな。京都って言うと……八ツ橋?」

「そこらが無難だよな。俺もそうした」

「あんまり知らないんだけど、硬いのやら柔らかいのやらなかったっけ?」

「比企谷さんが言っているのは、八ツ橋と生八ツ橋ですね。いわゆる、柔らかい八ツ橋が生八ツ橋です。最近はかなり種類も豊富になっていますね。家族へのお土産ならこちらがオススメかと」

 

 と、星伽さんに説明を受けながら生八ツ橋を何セットか購入。家族用と自分の夜食用にと。

 

「あ、ハチハチにキー君!」

「理子、あんたいきなり走らないでよ。……あら、八幡に……き、キンジもいたのね」

 

 そのまた道中で理子と神崎と遭遇。うーん、やっぱ神崎と遠山の距離感が微妙だ。

 2人とも荷物は……あれ? 案外少ない。珍しいな、理子なら性格的に沢山買いそうだと思ったが。

 

「理子ちゃん荷物少ないね。お土産とか買わなかったの? それにアリアも」

「買いすぎちゃったから宅配頼んだんだよねぇ」

「理子と同じく私もよ。ま、そんなにショッピングの時間取れなかったんだけど」

「ああ、確かに……」

 

 ああ、宅配か。それなら特に問題ないのか。それと、神崎たちも何か別の用事あったみたいだな。俺の知る由もないことだろうが、神崎は特にお疲れのようで。

 

「みんな一緒の時間だよね? そろそろ移動しようか」

 

 しばらく固まって話していたが、理子の音頭でホームまで動くことに。

 

「俺はさ、京都とかは充分楽しんだし、さっさと帰ろうと思ったからだけど、お前らはどうしてだ? また昼だし、もうちょい観光とかできそうだが」

 

 新幹線を待っている間に何となく気になったことを問いかける。

 

「あたしのお母さんの裁判の打ち合わせがあるからよ。キンジも白雪も理子もね」

 

 神崎の母親。そういえば、イ・ウーに懲役100年超えの罪を擦り付けられていたな。あのはた迷惑な組織も1ヶ月ほど前に瓦解したから、冤罪を晴らすために本腰を入れるというわけか。色金の秘密握ってたくらいでそんなに牢屋にぶち込まれることなのだろうか。首にかけてる漓漓を覗くが、とてもそういう風には思えない。

 

「理子はまあ、アイツらの一員だったから分かるとして、遠山や星伽さんも裁判に関係あるのか?」

 

 理子はそもそも武偵殺しだったからな。

 

「実質俺とアリアであそこを壊したわけだし、白雪は――」

「私は金一さんとキンちゃんと協力してパトラを捕まえましたから」

「なるほど。……それだと、ブラドやらと戦った俺には何かないのか?」

「八幡、あんた別に逮捕してないでしょ。勢い余って殺しただけじゃない」

「待て。それは俺じゃない」

 

 やったのは色金の方だ。

 

「同じことよ。ていうか、その前に殺ってたでしょ。あのよく分からない弾丸使って」

 

 ……言われてみれば。パトラ曰くあれで実質死んでたらしいし。

 

「それに白雪は直接乗り込んではいないけど、間接的にイ・ウーを破壊する手伝いはしたからね。その辺りが関係してるのよ」

「ああ、そういう」

 

 納得。何か協力できないかと思ったが、特にはいらないみたいだ。もし俺が必要とされるときがきたらそのときはきちんと協力しよう。無関係ではないことだ。それに神崎の話も訊いたことがあって、それなりには心情も理解している……つもりだからな。

 断言できない辺りが実に俺らしい。周りの人の考えなんて全て理解できるなんて烏滸がましいもいいところだ。そんな甘ったれた思考が通用するとはとてもじゃないが、思うことなどできない。自分で物事を考えるとどうしても主観が入る。そのような状態で客観的に相手を視ることはできもしないだろう。

 

 それでも、分かろうとする気持ちは決して無駄ではないと思うがな。なんでこんなこと考えるかと言うと、神崎と遠山が未だにギクシャクしている。原因はやはり俺にあるしどうにかしてやりたいが、当人たちの問題だからな。立ち位置も俺とレキ、それに星伽さんを挟んでいてかなり離れている。目を合わせないようにしているし……困ったもんだな。

 

「ハチハチ〜」

「…………どうした?」

 

 俺の長ったらしい無駄な思考は理子の声で中断された。

 

「これ持って」

「何だこの袋……うわっ…………」

 

 中には20個を超えるイチゴ牛乳のパックが。MAXコーヒーが好きな甘党の俺でもこれは無理。気持ち悪っ、糖尿病になりそう。つーか、吐きそう。

 

「これ飲むのか?」

「うん、乗っている間は暇だしねー」

「……何もこんなに飲まなくても。腹壊すぞ」

「いいのいいの。私のお腹はそんなことでは壊れない!」

「お前がいいなら、別にもう止めないけど」

 

 せめて味変えればいいのに。

 

 と、新幹線が京都駅に来たので全員乗り込む。運がいいのか全員同じ車内。不知火と武藤、それに材木座もいた。戸塚がいないのはとても……とても残念だ。

 

「八幡、お主も修学旅行は楽しめたか?」

 

 新幹線が動き出してから30分ほどが経つ。少しの間うつらうつらしていると、通路を挟んで隣にいる材木座が話しかけてきた。

 

 まだ暑いのに茶色のコートを着飾る姿には感心するよ。いくらそのコートの裏地に色々工具を仕込んでいるとはいえ。今は新幹線内でエアコン効いているがな。

 

「まあ、それなりに。材木座はお土産に木刀を買うタイプだと勝手に思ったが、買わなかったんだな」

「うむ。実のところかなりの悩みどころであった。やはり修学旅行と言えば木刀。これは外せない。そういう固定観念もあり、無論欲しかったが、持って帰る手間や我のごちゃっとした部屋に置くスペースを鑑みると……残念ながら断念した」

「持って帰る手間か……それなら郵送したらいいのに」

「はっ……!? その手がったか! ……しかし、八幡。木刀を配達員に頼むのは恥ずかしくないか?」

「……確かに。恥ずかしすぎる」

「であろう? もし洞爺湖の木刀であれば迷いなく購入していた」

 

 洞爺湖って北海道の湖だよな? なんでまた……ああ、銀さんか。あれわざわざ買う人いるのかな。

 

「とりあえず我は眠いので東京まで寝ることにする。着いたら起こしてくれ」

 

 材木座はさっきまで使っていたであろうアイマスクを装着した。なんで常備しているんだ。

 

「……これ、ハイマキ殿。我の足は肉ではないぞ」

 

 しばらくしていると、寝ようとしている材木座の足にかぶりつくハイマキが現れた。美味しそうな肉かと思っているのか。材木座は太っている体型たし、否定はしないが。

 

「おいハイマキ、大人しくしとけ。ソイツは見た目からして栄養ありそうだが、かなりバッチいぞ」

「それは酷くないか!?」

「反論できるか?」

「勿論、できないがな!」

「言っといてなんだが、自信満々に言うなよ」

 

 と、俺たちが言い合っていると――

 

「ハイマキ、止めなさい。――――汚いですよ」

「ぐふっ!!」

 

 レキの一言により材木座は致命傷を負った。傷は深いぞ! がっかりしろ!

 

「…………」

 

 それはさて置いて、俺は一応冗談で言っているし、ニュアンスからして材木座もそれを分かっていただろう。ぶっちゃけ、この程度ならいつも行っている会話だ。

 

 しかし…………なまじレキは滅多に嘘をつかない上に基本無表情。それが余計に材木座の心を抉った。いくらレキが美少女とはいえ、もしくは美少女だからこその言葉の破壊力。豪速球ストレートど真ん中すぎる。ど真ん中っていうかデッドボール? うーん、これはエゲツない。

 たまに作業の息抜きで材木座が持ってくるラノベの原稿を俺が批評しているときよりもダメージを負っている。しばらくは再起不能かな。……南無、材木座。葬式代500円くらいなら出してやる。

 

 そっとしておこう。ごめん、材木座。あとでラーメン奢る。黙祷。

 

「レキ、言い方ちょっとは考えろ」

 

 さすがに注意しておこう。

 

「言い方、ですか……?」

 

 あらやだこの子分かってない。めっちゃキョトンとしているよ。最も苦手そうな分野だもんね! 是非もないよね! 

 

「普通に止めなさいだけで良かったと思うぞ。汚いはいらなかっただろ」

「そうですか」

「狙撃するときに相手の心理は華麗に読めるくせに、日常生活だとどうしてそこまでポンコツになるのか」

「失礼ですね」

「これが失礼って分かるなら、もうちょい言葉選ぼうな? な?」

「どうして八幡さん以外のことを考えないといけないのですか?」

 

 呆気なく言い放つレキ。それが当然であるかのように。

これはどう反応すればいいのやら……。嬉しい言葉ではあるけど、状況が状況だけに素直に喜べない。材木座に追加ダメージ入ったし。「我も彼女欲しい……」と泣いている材木座は一旦放っておこう。

 

「まあ、なんだ、その辺りはゆっくり学んでいこう。そうしよう」

「お前それ自分に言い聞かせてねぇか?」

「……武藤か」

 

 割って入ってきたのは車輌科の武藤。立っているってことはトイレでも行っていたのか。にしても、相も変わらずゴツい体だな。材木座とは別の意味で暑苦しい奴だ。

 

「話一応訊いていたが、あれは材木座だとしばらく立ち直れねぇな。俺でも無理だ。……想像しただけで泣きそうになるぜ」

「全くだ……」

「レキも1年のときに比べりゃ、多少は人間関係良くなってたと思ったが、まだま……って、ん?」

 

 姿勢を崩しつつ不自然に言葉を切る武藤。何かおかしなところでもあったか? いや、おかしなところしかない気はするが。

 

「おい比企谷。やけに新幹線速くないか?」

「え? ……こんなもんじゃないか」

 

 あまり乗ったことないか分からないけど。ずっと速いからそこまで気にして……? おいおい、これはどういうことだ?

 

「何だぁ? トラブルか? 名古屋を通過したぞ」

 

 武藤が俺の疑問を口にした。

 

『――――お客様に、お知らせいたします』

 

 アナウンスが流れ始める。

 

『当列車は名古屋に到着する予定でしだが、不慮の事故により停車いたしません』

 

 アナウンスのタイミングがあまりにも不自然であり、何より不穏なアナウンス。

 そのアナウンスと共にどんどん速くなる新幹線。

 

「…………」

 

 これは……どうしてだろうか。とても嫌な予感がする。

 そして、その予感は見事に的中する。

 

 それは世にも珍しい――――新幹線ジャックの始まりだった。

 




実は洞爺湖の木刀持ってます!特に意識してなくて改めて思い返せばめちゃくちゃ自虐ネタになってた

最近給付金でノートpc買いまして、APEXっていうゲーム始めたんだけど、開始1分ですぐにやられる。まあ、まだルール完全に理解してない俺が悪いんだけど、何もかもが分からない。FPSって難しい。今までロック機能のあるゲームばかりやっていたから当たり前かな


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焦る車内で――――

 ――――どんどんと速くなる新幹線。

 名古屋駅を通過したときにはもう時速140kmを超えていた。

 

 乗客が騒ぎになる。名古屋に降りたい人やいきなりのトラブルに不安がる人が騒ぎ立てる。無理もないことだ。多くの人に大事な予定などがあるのだろう。ただそこまで騒ぎになると、あまり気にしてない人も不安になる。

 そして、騒ぎというのはすぐに伝染する。しかも、乗客の中に一際騒がしいおっさんがいて、そのせいであっという間にパニック状態。おまけに車内アナウンスが不審な物があればお知らせくださいって言ったら、そのうるさい奴は「爆弾でもあるのか!」と騒ぐわ騒ぐ。で、爆弾とか言ったもんだから周りの不安をさらに助長するはめになる。

 

 ……不味いな。少しの間静観していたが、ここには妊婦さんもいる。この騒ぎのなかどうにか星伽さんが献身に支えているが、これが続けば母体に響いてしまう。どうにか客を落ち着かせないといけない。

 

 武偵たちはこういあのに慣れているから平静だが、一般人はそうもいかない。俺だってもし武偵になっていなければ、絶対に同様の反応をしていた。

 

「うおっ……」

 

 そうこうしていると、またもや加速。……しかし、何だろうか。どことなく違和感がする。

 確かに新幹線はどんどんと速くなっているが、自然にスピードを上げているのではなく、どちらかと言うと少しずつ、段階的に加速しているこの感じ……何か妙だな。上手く言えないが、何とか耐えたがやむを得ずまた加速したように思える。

 

 何て言うかな……何だか既視感が……。いや、俺にそういう経験はないが、こんな雰囲気の話を誰かに訊いたことがあるような。

 

 何だろうかと思い出そうとしていると、遠山が無理に降りようとしている乗客を止めに行った。ヤバい、俺もとりあえず止めに行かないと。せめてあのおっさんだけでも。

 

 そして、その時――――

 

『乗客の皆さまに、お伝えしやがります』

 

 不意にアナウンスが流れた。思わず足が止まる。

 

『この列車は、どこにも停まりません。東京まで、ノンストップで、参りやがります。アハハ、アハハハハハ』

 

 それは人の声でなく、機械音声。ボーカロイドか。好きな曲はSPiCaです……って今言うことじゃないか。

 

『列車は、3分おきに10キロずつ、加速しないといけません。さもないと、ドカーン! 大爆発! しやがります。アハハ、アハハハハハ――――!』

 

 ……ここで爆発オチなんてサイテー! と盛大にボケたいところだが、そうもいかない。うーん、マジか。今どきこんなことやる奴いるのか。

 そうそう、思い出した。この手口、武偵殺しの事件にそっくりだ。乗り物に爆弾取り付けて、その速度を下回ると爆発。乗り物に降りて逃げようとする相手には周りにセグウェイなどに取り付けた銃で仕留める。さらば、セグウェイ。君のことは忘れない。実物見たことないが。

 

 どこかのタイミングで犯人が運転手を脅迫したのだろう。道理で名古屋を通過したわけだ。この事件は名付けるなら――――新幹線ジャックといったところか。俺はジャックに遭うのは初めてだが、ぶっちゃけここには経験者もそれなりにいる。

実際、遠山と神崎はその被害に遭ったことがあるし――――何よりかつての犯人が鎮座している。

 

「……理子」

 

 遠山が客をムリヤリ止めてから、不知火と武藤が話し合っているのを横目で見つつ、詳しい話を訊くために武偵殺しである理子に問いかける。

 どうやらアイツらはタイムリミットについて話し合っているみたいだ。……このまま速度を上げていけば80分で東京に着いてしまうらしい。最も、新幹線がどれだけ速度を出せるか知らないが。

 

「そうね、あんたの手口とそっくりだわ。武偵殺しさん?」

 

 理子の隣にいた神崎が昔を思い出すかのようにそれを口にする。

 

「やられた……!」

 

 理子は悔しそうに鋭い目付きでそう呟く。

 そういえば、遠山や神崎が被害に遭った爆弾は一定の速度以下で走ってしまうと爆発してしまう類のモノだった。しかし、今回は違う。――――加速し続けないと爆発する。何ともまあ、めちゃくちゃ性格の悪い奴が考えそうな代物だ。誰だよ、こんな爆弾開発した奴は。

 

「ツァオ・ツァオ……もう動いたのか。くっそ、あの守銭奴ッ……!」

「ツァオ・ツァオ? 誰よそれ」

「アイツは、子どものくせに悪魔じみた発想力を持った、イ・ウーの天才メカニック。莫大な金で魚雷やICBMを乗り物に改造したり……」

「へぇ、あのふざけた改造はソイツがやってたのね」

 

 ICBMを乗り物って……話には訊いていたが、なんかもう次元が違う話だな。なんでそういう発想に辿り着くのか甚だ疑問だ。

 

「キンジたちに仕掛けた『減速爆弾(ノン・ストップ)』とはまた別物。あれは私がツァオ・ツァオに教わったモノだ。しかも今回はその改良版――『加速爆弾(ハリー・アップ)』……!」

「ふんふん、なるほどね。理子、要はアンタの爆弾講師ってこと? ならアンタが起爆装置を解除しなさいよ。そのくらいできるわよね? 今キ……んんっ、そ、そう、不知火たちがここにいる武偵集めて探しているわけだし」

 

 神崎……遠山の名前すら呼ぶの躊躇うって。こんな事態なのに。

 

「ダメだ。あたしは動けない。この座席が感圧スイッチになっている。迂闊だった、気付かなかった。今あたしが立つと、どこかに仕掛けられた爆弾が――」

「ドカーンってわけか……」

「なっ……」

 

 俺は頭を抱え、神崎は絶句する。話を聞いていた遠山たちも目を見開いている。

 減速は許されない、そして、強制加速。止めに人間スイッチ。唯一希望のある理子を用いて。これは……参ったな。わりと犯人の用意周到さに驚く。ツァオ・ツァオとは何者なんだろうか。メカニックっていうくらいだから、材木座みたいな感じか?

 

「比企谷!」

「……遠山か。どうした?」

 

 遠山に手招きされたので、近付く。

 

「今回の犯人が分かった。ココって人物を知っているか? アリアみたいな見た目の中国系の人物だ。ソイツはイ・ウーの面子なんだが」

 

 相手はメカニックかと思っていたから、遠山の口から出た名前は意外な人物だった。

 

「……ココ? 知っているが、アイツが? 理子は犯人のことをツァオ・ツァオって呼んでいるぞ」

「ツァオ・ツァオ? それは……多分読み方が違うだけだ。理子はアリア……ホームズのことをオルメスって呼んでたことがある。理子だからフランス語辺りか? その違いだろう」

「ああ、そういう……」

「俺は水投げの日と一昨日、アイツに襲われた。星伽神社の分社に戻る最中の出来事だ。命からがら逃げてきた。あのボーカロイド音声にも心当たりがある」

「俺も水投げの日と昨日、襲われた……というより勧誘を受けた。昨日に関しては、途中で引いてくれたが、あれは引き分けよりの負けって感じだったな」

 

 銃撃戦になっていたら多分だけど殺られていた。烈風で弾丸を幾らか逸らせても火力の差がありすぎたからな。相手がサブマシンガンなら尚更。

 

「なるほど、比企谷もだったか。お互い似たような立場だな。……それで、気になることがあるんだが、ココの戦闘スタイルはどんな感じだった?」

「青龍偃月刀を使った戦法とあとはあれだ、格闘戦が上手だった」

「だよな。青龍刀は初耳だが、概ね俺も似たような感じだ。下手すりゃ正直死んでたレベルの使い手だった。……というか、完敗した。その、奇襲だったが、ヒステリア・モードを使っても負けた。……ただな、少し引っかかることがあるんだよ」

「それは?」

「アリアがココに一度負けてるんだ。それも銃撃戦、アル=カタで」

 

 ……はあ? 何だそれ。

 

「銃撃戦? いや、さすがにおかしくないか? 近接も遠山レベルで、しかも神崎以上の銃の使い手? そんな完璧超人シャーロック以外にいてたまるか。俺らより年下だぞ? 何かカラクリあるだろ」

「同意見だ。比企谷はどう考える?」

 

 近接はHSSのある遠山以上。そして、銃撃戦もSランクである神崎以上。片方を極めるだけでも、相当な年月を要する。俺だってそれなりにできるが、所詮はそれなりのレベル。あの2人の技術には遠く及ばない。ココの年で近・中距離が完璧とかそんな奴なんてまずいない。それにあのとき、俺らはココを追い詰めたときにあくまで威嚇目的だが銃撃を受けた。

 ……予想で確証はない。ただ、恐らくだが、ココは――――2人以上いる。状況証拠から考えると、どうしてもそうなる。

 

「ドッペルゲンガー。影武者。もしくは双子か姉妹」

「……そうなるよな」

「キンジ、八幡! ちょっと来い」

 

 2人してその結論に辿り着くと、今度は理子に呼ばれた。それにしても、さっきから理子の口調が荒すぎるんだけど。遠山の言い方を借りると裏理子ってやつだ。

 

「アリアも訊け。いいか? 『減速爆弾』や『加速爆弾』は無線でスタートさせる。大抵だが、もう手出しできないような場所に仕掛けるからな。だが、無線ってやつは確実性に乏しい。予期せぬトラブルが偶発することがある。特に新幹線みたいに高速で無線機が山盛りに積んである移動体ではな。そうアイツに習った。そういうときは退路を確保した上で乗り込め……ってな。アイツはターゲットたち――恐らくお前ら3人、いや、アイツの性格上レキも欲しがるはずだ。合わせて4人ってところか。つまり、あたしらが乗っているのを確かめてから爆弾を仕掛けた」

「要するに……」

「ここにいるぞ、敵が……!」

 

 理子の忠告と共に――――車両の先頭の方から乗客が大勢逃げてきた。何かに怯えているような悲鳴を上げつつ。俺らがいるのは先頭の16号車。武偵ではない一般人は全員15号車へと逃げ込む。

 そして、ガガンッ! と人払いのためか威嚇するためか16号車の扉を派手に壊す奴がいた。

 

「……ココか」

 

 清の民族衣装を身に纏い、青龍偃月刀を構えているツインテールの神崎似の可愛らしい女の子がやって来た。それはそれは愉快そうに笑いながら。

 

「你好。2人とも、しばらくぶりネ。これで立直(リーチ)ネ」

 

 ……不味い。ココの近く、16号車中央の座席には妊婦さんがいる。その子供も避難できてない。星伽さんが彼女を守っているけど、ココとの距離が近すぎる。あれではあまりにも危険すぎる。

 

「理子、確認したいが、仕掛けられてる爆弾は1箇所だけか?」

「恐らく。あたしらが乗るのを確認してから、そんな何箇所も仕掛ける時間なんてなかったはずだ。今回は新幹線、手動だからな。どデカいのが一発どこかにある。多分後方じゃない。前の車両の方。もしかしたら運転席の近くかもしれない。どこかは検討つかないが、間違ってないと思う。後方だったら、最初から後方の車両を切り離せば済む話だ。ダメージを与えるなら先頭の方が都合がいい。確実に何人か持って逝ける」

「……なるほど、分かった。作戦を立てたい。神崎、時間を稼いでくれ。何ならアイツを制圧」

「言われなくても――!」

 

 そう言った瞬間、神崎がニ刀を両手に飛び出した。

 

「白雪、彼女たちをセーブして!」

「――――うん」

 

 狭い通路を駈けながら、星伽さんが屈むと同時に神崎は星伽さんの肩を借りそのまま勢いを殺すことなく跳躍! 相変わらずエゲツない身体能力だ。そして、後ろに回り込みつつココに攻撃を仕掛けている。俺も神崎と戦ったとき似たような攻撃にやられたことがあったな。

 

 その隙に星伽さんと妊婦さんと子供はこちらに避難完了した。

 

 今持っている情報でどう動くのが最善だ? 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ――――

 

「星伽さん、そのまま15号車まで行って乗客の護衛を。できれば医者を探して妊婦さんの様子を診させてあげてくれ。もし見付けたら16号車と15号車の間を護ってほしい」

 

 もし俺らが突破されても星伽さんが最終防衛してくれる。星伽さんは近付いても離れてもかなり強い。

 

「う、うん。比企谷さん、分かったよ」

「ちょっと待て、八幡」

「材木座か。どうした?」

「先ほど連絡が取れたが、戸塚殿もここにいる。後方、1車両に」

「……そうなのか? マジか、助かった。戸塚を15号車に呼んでくれ」

 

 てっきりいないかと思っていた。確か後ろの車両は自由席だったか? そこに何とか乗れたのか。何にせよ、救護科がいるのはありがたい。妊婦さんの体調も悪そうだし、戸塚に診てもらえる。

 

「星伽さん」

「はい、戸塚君と合流します」

「頼んだ。……不知火は他の武偵を集めて各車両の護衛に当たらせてほしい。配置はもちろん任せる。その間に爆弾の解除方法を外の奴ら……警察とかと連絡を取って模索してほしい。爆弾の特性とかは……まだ分からないが、俺のインカムをお前にずっと繋げておく。常に訊いておいてくれ」

「うん、了解した。皆も気を付けて」

 

 不知火は星伽さんと一緒にここから下がっていった。俺らの他にも武偵があと3人いたらしいから、ソイツらとなら大丈夫だ。不知火も当然かなり強い。もしココの他に複数仲間がいても対処してくれるだろう。完全にぶん任せで申し訳ないが、不知火は対テロ訓練の経験が豊富だ。

 これはただの勘だが、新幹線の他にココの仲間はそんなにいないとは思う。いたとしても多すぎたら撤退が大変になる。

 

「レキ、お前も後ろに下がれ。できれば後方から狙撃を頼みたいが……それはさすがに無理あるか」

 

 先ほどからドラグノフを構えて、ジッとしているレキに話しかける。

 表情は無表情だが、不満そうな雰囲気は伝わる。

 

「ならここに残ります」

「スナイパーがこんなに近くてどうするんだ。言い方はアレだが、広い空間ならいざ知らず、新幹線の車内は狭い。連携の邪魔になる可能性がある。それに加えて、理子が言うには、ココはこの暴走した新幹線から脱出する手段がある。……そうだな、例えばヘリや小型戦闘機とかか? 分からないが、それを見付けたら無力化してくれ。人を殺さない程度に。ここにいるメンバーでそれが可能なのはレキだけだ」

「……分かりました」

 

 渋々と言ったところか。何とかレキも下がってくれた。

 適当に言い訳重ねたが、これはただただレキに死んでほしくないだけの俺のエゴだ。多分、レキも分かっている。その上で動いてくれた。……ありがとう。

 

「ハイマキ、またレキのこと任せたぞ」

「グルッ……」

 

 ハイマキもレキに付いていった。昨日と同じ役回りですまないな。

 

「八幡、我は!?」

「……おいおい材木座、決まっているだろ? お前は装備科だ。なら仕事は1つ。ここで爆弾の解除を手伝ってくれ。そういうのは理子が得意だが、今は残念ながら動けない」

「うむ……。しかし、まだ見付かっていないのであろう? 我にできるか……」

「確かに見付けてないが。理子の話からして恐らく16号車から運転席にかけてのどこかだ。頼んだ」

「仕方あるまい。任せたまえ」

 

 作戦会議も残りわずかといったところで――

 

「アリア! 避けろ!」

 

 理子の焦りを含んだ大声が響き渡る。

 

 ――――何だ? と、すぐさま振り向く。どうやらココは香水の容器のようなものを取り出している。神崎はお構いなしに斬りかかるが。それに対し、一緒に戦っていた遠山は何か嫌な予感がしたのか踏みとどまる。

 それをシュッ――と霧吹きみたいな音がして、小さなシャボン玉が神崎めがけて飛んでいる。何だこれ? シャボン玉が攻撃手段? 

 

「それは爆泡(バオバオ)! 気体爆弾だ! シャボン玉が弾けて酸素と混ざると爆発するぞッ!!」

「――――!?」

 

 寸前、神崎は足を止めてバックステップ。と一緒に。

 

 ――――バチィッッッッッ!!

 

 神崎の眼前で弾けたシャボン玉から、激しい衝撃と閃光が上がる。俺も思わずその眩しさに目を閉じてしまう。

 

「キャアァァァ――!」

 

 その勢いで前方のシートはいくつかなぎ倒され――――神崎と遠山は大きく吹っ飛ぶ。神崎の悲鳴も負けず劣らず甲高い。

 

「神崎! 遠山!」

「……大丈夫だ。アリアも」

 

 神崎は理子の忠告と自身の野生みたいな勘のおかげか被害も最小限に済んだようだ。遠山がしっかり受け止めている。ダメージは少ない。

 

「どうネ? 爆泡珠(バオバオチュウ)。見えない爆弾の恐ろしさは? 痛感したアル?」

「…………ッ」

 

 たったシャボン玉の大きさでこの威力……。マジかよ。あんなの頭に喰らったら……神崎じゃなきゃ死んでいたぞ。しかも、シャボン玉つっても、遠目からだとほぼほぼ見えない。あれはココから離した場所で爆発させるためにシャボン玉にしているにすぎないだろう。

 見えている攻撃ならどうにかなるかもしれない。しかし、見えない爆弾――――爆泡珠を使えば完全な不意打ちが可能になる。例えば、スーツケースに仕込んで開けたら爆発。いや、シャボン玉程度の大きさでいいならもっと小型化で好きな相手を爆破できる。

 

 なんつーう、恐ろしい代物造ってんだ、コイツは! 頭おかしすぎだろ!

 それだけじゃない。ココはさらなる衝撃発言を繰り出す。

 

「今日はこれを1m³用意したヨ」

 

 ……1m³!? …………いちりっぽうめーとる!?

 

「……………………ッ!!」

 

 その驚きの数字に全員が絶句する。

 

「は、ハァ!? ツァオ・ツァオ! お前何言ってんだ!」

「理子、ツァオ・ツァオ言うナ。それ教授も使っていたが、欧州の言い方ネ。ココと呼ぶがよろしい」

「いやいやいや、そんなのどうでもいい。今さら偽名なんてな。それより1m³だぁ!? そんなの爆発したら」

 

 文字通りの百万倍の威力になる。冗談抜きで新幹線が木っ端微塵になるぞ……!

 




今回の新幹線ジャックの話を書いてて、スマホの辞書に載ってない漢字がわりと存在してそこがもう大変。中国語とかその辺りか特に
そして、今回出てきた立直(リーチ)って言葉が麻雀用語だと初めて知りました。最近だけど雀魂ってアプリで麻雀始めたりして。ちょくちょくロンやツモができるようになり、何回か1位も取れるようになってきて楽しくなってきた

それはそうと、珍しいくらいにはけっこう早く投稿できたね。読んでくれて感謝


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戦闘に向けて

 とてつもない爆弾の威力。もし本当に爆発すれば、先頭から真ん中にかけての車両はまず無くなる。後方の車両は何とか爆破に耐えれてたとしても、衝撃で絶対脱線する。乗客も、俺らも絶対無事では済まない。

 

「とりあえず、キンチ、アリア、お前らは蘭幇へ連れて行くネ」

 

 ココは両手を前に、さながらキョンシーみたいに付き出している。何だ? これは……袖の中に武器を仕込んでいるのか。

ヌンチャク? ……違う。あれは小型ロケットか。おまけに2本。ここで気体爆弾関係なく車両ごと吹っ飛ばすつもりか?

 

「――――双火筒縛禁(シャンホートンフージン)!」

 

 2本のロケットをワイヤーで繋いだ。ヌンチャクのように。そして、鋭い噴射音と共に倒れている神崎たちの元へと一気に飛ぶ。

 思わず身構えたが、どうやら違うようだ。

 飛んだロケットのワイヤーは神崎の体にぶつかると、神崎を軸にぐりんぐりんと曲がり始める。それはもうデタラメに。そうこうしていると、2本のロケットは遠山と神崎を見事にぐるぐる巻きにした。めっちゃピッタリくっ付いている。これだと身動き取れないな。

 

「うゆっ!?」 

「うっ……おっ……!」

 

 神崎は逃げるためにどうにかして立とうとするが、ぐるぐる巻にされてはいくら神崎とは言えど、ここまでぐるぐる巻きにされては上手にバランスが取れずにすぐさま倒れる。一緒にぐるぐる巻にされている遠山もそれにつられてダメージを負う。

 

 何と言うか……コントかな? 今どきこんなダチョウ倶楽部みたいな光景なかなか見ないぞ。

 しかもさっき神崎が倒れたせいで2人の足首までワイヤーが絡まっている。あらまぁ……。余計に動けなくなってしまったな。

 

「…………」

「…………」

 

 俺と材木座はその流れを静観していたが、どう反応すればいいんだろう。

 一応、戦力になる神崎たちが縛られてピンチっていうのは分かるんだが、いかんせん絵面が……。間抜……じゃなくて面白い。

 

「実にレアな光景であるな。今どき見ようと思っても無理があると思うぞ」

「ちょっと材木座、あなたねぇ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 救けなさいよぉ……」

「ちょ、アリア、近いって」

「それはあたしの台詞よ! バカキンジ! ひゃあ! あたしの体に触らないでよ」

「無茶言うな!」

 

 2人の言い合いが始まるが。

 

「どうする?」

「我、戦闘は専門外であるぞ。助けるなら八幡しかいないわけだが。じゃ、我はこれで。気体爆弾。先ほどのココ殿の話で、爆弾の場所はおおよその検討がついた。見つけ次第、連絡するので。……任せた!」

「逃げるな!」

「ふははははは! さらばだ!」

 

 材木座は16号車と15号車の間、ちょうどトイレや洗面所がある場所へ消えた。華麗に逃げられた。

 

 遠山たちは……どうするかね。正直助けるにもココの邪魔入るだろうし、言い方は最低だが、これで遠山がHSSにでもなってくれれば俺にとってはプラスになるので。うん、放っておこう。隙があれば頑張って助ける方針で。

 

「小気味良いほど奇麗に絡まったアル。このまま蘭幇に連れて行くことにするヨ」

「ココ! 前にその髪型止めろって言ったわよね! 被ってんのよ!」

「聞いた覚えないネ。蘭幇も主戦派も、仮想アリアの女の子をほしがるヨ。この髪型は稼ぎになる」

「あんた、イ・ウーの残党だったのね……!」

「ハン! 所詮はビジネスのためにあそこにいたに過ぎないネ! ココは初めから蘭幇の一員ヨ」

 

 神崎にココ……声が大きい。本当にコイツら女子か?

 どうしよ、ここからどう動こう。ファイブセブンは……なしだな。車内狭いし、跳弾が危険だ。下手すれば俺やアイツらに跳ね返ってくる。だったら、近接戦闘しかないが、慣性の法則があるとはいえ、こんなに速い空間で戦えるかな。

 

 そんな俺を横にして、神崎とココの言い合いは続く。

 

「緋弾のアリア。そもそもの話、お前が何もかも悪いネ。お前が緋緋を喜ばせた。緋緋を調子付かせるから、璃璃も怒っている。100年ぶりにヨ。怒って、見えない粒子をばら撒いて世界中の超能力、皆、不安定ネ」

 

 ああ、確かにそんなこと橋辺りで言っていたような。そんなに不安定か? 俺はそこまで感じたことないが。日によって違うからかな? 

 そうだな、超能力の使える頻度などを天気に例えると、超能力を使う場合、晴れの日なら問題なく使えるが、雨や曇だと精度や威力が落ちたり、そもそも使えないことがある。ココの言い分からしてその雨の日が続くという感じか。

 

 ていうか、璃璃怒っているのか? 首に下げている色金は反応ないけど。

 

「これから、超能力、役立たずになる。そうなると、銃使いの価値が増すネ。キンチは超能力を使わないが、高い戦闘力を秘めいている。良い駒、みんな欲しかっている逸材」

 

 おお、遠山有名人だな。そうだろうな、銃弾を銃弾で撃ち返すような特技持った奴なんてそうそういないだろうし。

 

「アリアも貰うネ。緋緋色金、高く売れるヨ。ウルスのレキも逃さない。――――もちろん、八幡、お前もヨ」

「……お前まだ諦めてなかったのか」

「勿論。それにブラドを殺した弾丸を造ったあのデブもいいメカニック。アイツも欲しいネ。ココと協力すればもっと素晴らしい兵器を造れるヨ」

 

 材木座をデブと言ってやるな。あれでも戸塚の体調管理のおかげでかなり痩せてきているんだぞ。というより、神経断裂弾の製作者が材木座(と平賀さん)ってバレてるのか。材木座は確かに良い兵装を造るが、人を殺す兵器を造るのはかなり渋る奴だぞ。神経断裂弾のときも俺がかなり頼み込んで造ってもらったわけだし。

 

「いいねいいね、蘭幇大好き! 蘭幇万歳! 蘭幇城は超マジいいとこだよ。アリア。蘭幇に行こ! 本場の桃まん食べ放題だよ!」

「本場……! 桃っ…………い、行かないわよ! こら理子、何速攻で寝返ってんのよ!」

 

 神崎、お前かなり葛藤していたな? 

 

「俺もアリアと同感だ。お前の一味になんてなってたまるか。これでも俺は武偵だからな」

 

 こうやって遠山は精一杯カッコつけてるが、もしテロリストになったら、もう終わりだ。何がって、世界のどこにいようとも武偵高校のOGOBや鬼教官に捕まって酷いことされちゃうから。まあ、最終的には死刑だな。うん、それは俺も嫌だわ。

 

「それに俺は普通の生活を送るんだ。お前らみたいな組織に関わってたまるか」

「存在が普通じゃないキンチが何言ってるネ」

 

 ああ、それは納得。シャーロックに勝てる時点でもう人間辞めてるっていう。って、そうこうしている場合じゃない。今の新幹線の時速は……180km。そろそろ運転手もグロッキー状態。なんかおかしくなって泣きながら歌っているし……。

 

「武藤、お前新幹線運転できるか?」

 

 さっきら俺らの後ろで待機していた武藤に問いかける。ヒソヒソ声で。

 

「車輌科なら1年でもできるぜ。確かにもうあの運転手も限界だろうな。……ただ、俺じゃあのちびっ子を突破して運転席まで行くの厳しいぞ。よしんば行けたとしても、攻撃貰って怪我でもすれば3分おきに10km上げるなんて繊細な運転ができねぇ」

「お前が無傷で突破が条件か……って、ん?」

 

 ココが遠山たちを引っ張っている。

 

「もうこんな時間。もうすぐデートの待ち合わせネ。準備する必要があるヨ」

「どこに連れてく気よ! ココ、止めなさい」

「どこって中国だろ。俺パスポート持ってないんだけど」

 

 遠山はなんでこんなに呑気なんだろ……。

 

「八幡」

「材木座か。どうだ、見付かったか?」

「いや、16号車後方にはなかった。恐らく運転席の真後ろ、トイレや洗面所など密閉されてる空間に件の気体爆弾を詰め込んだのだろう。恐らくだが、ギチギチに密封して酸素に触れないようにしているはずだ」

「なるほど……ッ!」

「うおっ」

「これは……なかなか揺れるな。武藤殿」

「ああ、マジでこれは運転変わらねぇとな。分かっちゃいるが」

 

 うわっ、また加速した。思わずバランスを崩した。めちゃくちゃ舌噛みそうになった。

 

「ふぎゃあ!」

 

 加速に耐えきれず、ココが神崎たちを引っ張っているワイヤーを手放すとすってんころりと転がり落ちる。少し思案したような顔付きのココだったが、それは意外にも一旦退いた。デートの準備って言っていたし、何か信号で合図でも出しに行ったのかもしれない。どこに消えたかは……多分車両の上かな。

 ココの姿からして単独で離脱するということはない。ココは神崎程度の身長だから、人間2人背負ってとかは無理がある。仲間が何かに乗ってこちらに合流しようするのだろう。遠山たちを連れて乗り込むつもりなのか。面倒だな。

 

 とはいうが、ここで神崎たちを残して救出されるとは考えなかったのか? ここまで事を進めてきた人物が……。理子は確かに身動き取れないが、一応俺もいるんだけどな。

 

「八幡、ちょっとこれ切りなさい!」

「悪い、比企谷頼む」

「はいはい」

 

 ココがいなくなったのを機に雁字搦めになっている遠山たちを救出しようとワイヤーを切りにかかるが……。

 …………うん。

 

「あ、これ無理」

「諦めないでよ!」

 

 だって、仮にも小型ロケットの推力にも耐えれるようなワイヤーだぞ。そりゃ固いわけよ。全然刃が通らない。俺のナイフではかなり厳しい。無理にすれば遠山たちを切ってしまう可能性がある。無茶はできない。俺が斬られない自信があっからココは一旦この場から離れたわけか。なるほどなるほど。

 ワイヤーも複雑に絡み合っているし……1から解くのも時間がかかる。ここで時間を浪費するわけにもいかない。

 

「そんなこと言われてもな。俺のナイフじゃ無理だわ」

「そこを頑張ってよ! ちょ、だからキンジ近い近い」

 

 ……さっき新幹線が揺れたときにまた体勢がズレて、遠山たちは顔を向き合わせている。これもう少し顔動かせばキスできる距離だ。神崎はそろそろ限界に近い。顔がかなり赤くなり茹でだこ状態だ。

 

「ここで時間使うのもな。ということで、自力でファイト。……あ、武藤」

「おう、変わってくるぜ」

「今さらだが、後ろ爆弾だぞ? 爆発したら真っ先にお前が死ぬが――それででもいいのか?」

「だからって普通逃げねぇだろ。それに新幹線運転してみたかったんだよなぁ」

「……武藤。悪い、頼んだ!」

「おうよ。つか、キンジはさっさとそこから脱出しろよ。じゃなきゃ轢くぞ」

 

 それだけ言い残し運転席へと向かう武藤を見送る。

 

「八幡! 爆弾を見付けたぞ! 予想通りである」

 

 武藤がいなくなると同時に材木座の声が聞こえる。

 運転席の真後ろの洗面室。確かに覗いたら速度を感知する装置があるし、扉の隙間や換気扇などは空気が入らないようにガチガチに固められている。シリコン剤か何かだろう。これは……完全にビンゴだな。

 

「不知火」

『聞いているよ。外にも伝える』

「頼む。それでだが、これからは材木座と連絡取り合ってくれ」

『分かったよ。材木座君、爆弾の細かい情報を教えてほしい』

「了解である。先ず――――」

 

 ここは材木座に任せよう。こういうのに向いていない俺は邪魔だ。俺はココを追うとするか。その前に遠山たちの様子を見に行こうか。と思ったら――――

 

 

「しゃす$お! たらっ&と#! ぷぇ! $うま&うま%!」

 

 

 ……意味不明で、全く何を言っているか分からない甲高い奇声が聞こえた。何これ超音波? 神崎はとうとう人間を止めたのか……。色金に憑かれるている神崎に対して、ちょっと縁起でもないから今の言葉は撤回で。

 

「八幡……今の悲鳴」

「遠山がやらかしたんだろ」

『……うん、けっこう離れているはずなのに神崎さんの悲鳴こっちまで聞こえたよ』

「ほほう、不知火殿もか」

「ホント、何やってんだか。じゃあ、2人とも頼む」

 

 それたけ伝える。材木座と不知火の返事を聞いてから移動する。

 神崎の悲鳴に内心呆れながら車内に戻ると、そこにはワイヤーが解けており一先ずは無事である遠山と神崎がいた。

 

「ううっ……」

 

神崎は顔を赤くしつつ蹲っている。とにかく恥ずかしそうだ。「神様、許して……」などとボヤいているが、何となくは想像つく。要するに、絡まりながらイチャイチャしていたのだろうな。TPOを弁えなさい。

 

「比企谷、話は聞いていた。爆弾はあったみたいだな」

 

 そして、問題の遠山。雰囲気が一変している。実に頼もしいHSSの状態だ。

 

「まあな。ただ、正直ここから解除はかなりキツいと思う。今は材木座と不知火が解除方法を模索しているが」

「やはりそうか。ココが仕掛けたのは気体爆弾だからな。解除は手間取るか。だったら俺たちがするべきことは」

「犯人の確保」

「だな」

 

 元強襲科なだけあって、そこの意見はやはり一致する。

 

「キンジ、八幡、行くわよ。さっさとあたしの真似しているココなんかブッ飛ばすわ!」

「神崎、ちょっと待て」

 

 意気揚々と突っ込みそうな神崎に静止をかける。

 

「……何よ」

「お前も15号車へ行け。戦線から離脱しろ」

「はぁ? なんでよ。ここまで来たらぶん殴らないと気が済まないわ。なによ、八幡はあたしが勝てないって言うの?」

「そうじゃくて、母親の裁判あるんだろ。そこでお前が死んだら今までの戦いの何もかもがパーになる。それは一番避けるべき事態だ」

「……そんなの、どこにいても同じじゃない」

「アリア、比企谷の言う通りだ。ここは引いてほしい。かなえさんを救うためにもアリアは裁判に備えてくれ。こんな馬鹿騒ぎに付き合うことはない。……大丈夫だ、俺たちに任せろ」

 

 神崎の説得は遠山に任せよう。適材適所だ。

 

「……武藤、聞こえるか?」

『おう、どうした?』

「16号車と15号車って切り離せるか?」

『本来ならをできるんだが、あのちびっ子がそのシステムを破壊しちまってな。ここからでは無理だな』

「どうやったら切り離しができる?」

『そりゃムリヤリ物理的に離せばイケるはずだろ』

「……マジか。そ、それでもし切り離しができたとして、後方の車両はどうなる?」

『あっちでも運転できるように切り替えた。泣いてた運転手がどうにかしてくれるぞ』

「さすがだな」

『……つーか、切り離すって、俺居残り確定かよ』

「地獄への片道切符だ。そういうの、唆るだろ?」

『はっ! 確かにな! さっきも言ったが、新幹線を運転するのは夢だっんだよ。それが叶って嬉しいぜ、まったくよぉ。……で、切り離す手段はどうすんだ?』

「そこだよな。ちょっと待ってくれ」

 

 車輌科の優等生である武藤のおかけでで切り離しさえできれば何とかなることが分かった。しかし、直接切り離すのはかなり難しい。まあ、そんなに簡単にできたらそれこそ事故に繋がる。普通素人では簡単にてきない設計なんだろう。詳しくないので分からないけど。

 そんな俺だからこそ、ぶっちゃけると爆弾を使ってムリヤリ離す方法しかパッと思い付かない。だが、グレネードもC4も今回は所持していない。そりゃ、京都の神社や寺で誤爆とか洒落にならないからな……。

 俺の烈風を使った鎌鼬……はそこまでの威力がない。セーラならできたかもしれないが、俺にはそこまでの練度がない。前よりかは出力かなり上がっているけど、まだまだ足りない。

 

「残るは切断方法か。どうする……」

 

 それさえクリアできれば被害を最小限にできる。

 

「切断って15号車と16号車をか?」

 

 ……16号車にいるのは理子と材木座を除けば遠山だけだ。神崎は見当たらない。

 

「……神崎の説得は終わったのか」

「何とか納得してくれたよ。それで、どうなんだ?」

 

 武藤と話をしている最中、遠山が神埼に向けて歯が浮き立つようなとても甘い言葉を並べていたのをちょっとだけ聞いた。…………HSSって改めてある種の思考回路がぶっ飛んでいるな。俺はあんなの言えない。恥ずかしすぎて死ぬ。聞いててこっちが恥ずかしかったぞ。

 

「ああ。武藤と話し合ったが、武藤側から切り離すのは無理みたいだ。だから物理的に切り離せばどうにかなるんだが、如何せん方法困っていてな。被害を最小限にするためにもココと戦う前に切り離しておきたい」

「切り離しに関しては同意見だ。このままだったらアリアたちを逃した意味が薄くなる」

「だよな……。どうすればいい?」

「それなら白雪がいるだろ」

「星伽さん?」

「白雪の超能力なら切断できる。というより、そのために白雪をあそこに配置したんじゃないのか?」

 

 確かにかなり耐久力のあるゴレムをカジノで斬っていたけど。

 

「いやまさか。俺が突破されたときの最終防衛ラインのために星伽さんをあそこにいてほしいってお願いしただけだ。それで、できるなら星伽さんに頼まないとな。遠山、よろしく」

「分かった。……ココは上にいるよな」

「だろうな」

「上で戦う準備をしておいてくれ。俺もする」

「了解」

 

 不安定な足場で戦う場合に備えて、武偵はチタン製の鈎爪を携帯している。普段はベルトのバックルなどに秘匿されている特別な金具の形状をカチャカチャと変えて靴に取り付ける。

 

 その間、遠山が星伽さんに向けて切り離しを頼んでている。……ただ、その頼み方がなんつーか、洗脳みたい。その手法なんだが、優しい甘い声で星伽さんの名前を何回も繰り返している。傍から聞いていると、ぶっちゃけ催眠ボイスみたいだ。さっきの神埼の説得よりもある意味ヤバい。

 

 手法はどうあれ、星伽さんが切り離してくれるなら願ったり叶ったり。

 

 ――――さあ、ようやく本番だ。さっさと事件を解決して布団に倒れ込むぞ。

 




ようやく本番
多分そこまで長くはならない



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舞台急転

「そういや、どこから上に行ける?」

「あっちだ。ココが通った場所を使おう」

 

 装備を整え終えた遠山に訊ねて、いざ戦いに行こうとしたところ。

 

「お前ら、早急に頼むぞ。さっさとココをぶちのめしてくれ」

 

 まだ口調が荒い理子がそう告げてきた。というより、いたんだ。すっかり忘れていた。そうだよな、理子が動いた時点でゲームオーバーだ。

 

「そりゃタイムリミットあるし、もちろん急ぎはするが、理子がそう言うのは珍しいな」

「あたしにも色々あるんだよ……!」

「色々? …………あっ」

 

 歯ぎしりしながらそう言っている理子。

 少し気になって理子の座席を除くと、そこには山ほど積まれたいちごミルクの空箱があった。この短時間でどれだけ飲んでいるんだ……。そして、何より特筆すべきことがある。息は若干荒いこと、額には冷や汗が流れていること、おまけに足元をモゾモゾとさせていることだ。 

 ここまでくれば理子が何に急いでいる理由は嫌でも分かる。まあ、つまるところ……お花を摘みに行きたいんですね、理子さんや。だから乗る前に言ったのに……。あんなに飲むから。

 

「理子」

「何だ?」

「……その、何だ、ペットボトル……渡そうか?」

「八幡お前マジで殺すぞ?」

「ごめんなさい」

 

 怖かった。それはもうめちゃくちゃ怖かった。

 武偵殺し時代の理子より遥かに怖かったぞ。冗談抜きで人殺しそうな目付きだ。すいませんデリカシー足りてませんでした反省してます。

 

「……比企谷、ふざけてないで行くぞ」

「キンジ! こっちは真剣なんだよ! ホントに頼むからな!」

 

 理子の怒声か忠告か分からない言葉を背にしつつ、車両の屋上へ行くために梯子を登る。

 

「星伽さんが斬ってくれるタイミングはいつごろなんだ?」

「とりあえずは俺らが上に立ってからだな。指示は俺が出す」

「了解。それで、上に出たらどう攻める?」

「ココ単独なら比企谷が前衛でいいだろうが、そこがまだ分からないからな。俺の方が比企谷より銃の扱い得意だから、俺が援護って形でもいい気はするが」

「あんな曲芸普通できる奴いないからな」

 

 相手の銃弾を撃って弾き返すとか、相手の銃口に向けて完璧に発射するとか。

 俺はごくごく普通の人間なので。遠山みたいに人間辞めてるわけではない。

 

「ココの脱出手段も気になる。できるなら比企谷がココを制圧してほしい」

「神崎でも退けた相手をか……。そういや、レキに一応脱出手段の無力化頼んでるけど、星伽さんが車両ごと切り離したら、いくらレキでも無理あるか」

「2キロなんてすぐに離れるだろうしな」

 

 遠山に同意見。レキにお願いしたときは車両の切り離しまで頭になかった。正確にはあったけど、レキを戦線から逃がすことしか考えていなかった。

 

「しかしまあ、脱出方法もそうだが、上に仲間いそうだよな」

「さっき比企谷はドッペルゲンガーやら姉妹やら言ったが、それは間違っていないと思う。ただ、ここにいるかどうかは正直判別つかないよな。俺もいる方に7割くらい賭けたいが」

「神崎との会話を聞いた感じ、姿形が似ているだろうから、恐らく姉妹だよな。それか双子? でも、いるかどうかは別の話になるし」

 

 髪型変えろ云々話しているときだ。あのココは神崎とは初対面みたいな反応をしていたが、神崎はココに負けている。他にも近接や遠距離の完成度の違いからも読み取れるが。

 

「考えても仕方ない。開けるぞ。状況が不明だ。臨機応変に行くぞ」

「おう」

 

 先に遠山が登り、俺も後に続く。

 

「…………ッ!」

 

 どうにか屋上まで這い出たはいいものの、今まで感じたことのない風圧で吹き飛ばされそうになる。何より風がうるさい。

 新幹線はとっくに時速200kmを突破している。そんなところに立つのだ。気流も風圧もかなりの激しさだ。こんなの経験したことない。

 

 しかし、絶対に立てないというわけでもない。スパイクを引っ掛けて立ち上がる。

 

 ココはどこだ。……いた、あそこか。16号車後方。そこにあるパンタグラフ――車両上の架線から車両に電力を供給する金具――の手前に何か設置している。光が点滅しているってことは何かしらの信号といった辺りか。てことは、仲間への合図? 

 まだ気付かれてないはず。気付かれる前に奇襲を仕掛け――ようとしたところで超能力の副作用であるセンサーが働く。

 

「――――!」

 

 後ろに誰かいる――――

 即座に遠山と一緒に振り返りざまに放ったファイブセブンとベレッタの銃弾は――ギンッ! ギギギンッ――! と甲高い音を立てつつ逸らされた。背後にいたココの青龍偃月刀によって。

 

「炮娘! 金次、八幡来了!」

「――猛妹! 抓住!」

 

 やっべ、中国語分からないし、さっきの銃声で後方のココに気付かれた。

 やはり仲間いたのか、これはぶっちゃけ面倒だな。単独なら幾分マシだったろうに。

 

 向こうのココはUZIを構えている。その隙に俺らは中央まで下がるが。それにしても……UZI? あ、昨日俺とレキを撃ってきたのコイツだったか。隠れてて分からなかったな。よくよく考えれば、あのとき姿を確認できれば、ココのカラクリも見抜けたかもな。いやうん、あの状況では無理があったが。

 えーっと、炮娘と猛妹が名前だよな。炮娘が銃の方で猛妹が近接。……で合っているよな? 何にせよ、ココという存在2人で1人といったところか。ふむ、そう言われるとこれはもう完全にWだな。足りない部分を補うという意味でも。

 

「ココ、ココ――おしおきの時間だ」

 

 遠山はキザっぽい台詞と共にもう1つ銃を抜く。遠山が2丁も? 普段見ないスタイルだ。珍しいこともあるな。

 というより、2丁目の銃、ベレッタじゃなくて……デザート・イーグルじゃないか。拳銃の中でもかなりの大型。反動も俺のファイブセブンやベレッタとは比べ物にならない。しかも、この新幹線の上でか。……遠山、お前やっぱり充分かなりイカれてるよ。その判断、恐れ入る。

 

「キンチ、お前……HSS、なってるカ。どうやったネ」

「アリア使たか、ココに似ているアリアを使たのか」

 

 2人ともその事実に驚きのあまり顔を赤くする。HSSの発動状況知っていたんだ。イ・ウーにいたからそれもそうか。金一さんもいるだろうし情報とか手に入れようと思えばいくらでも入手できるだろう。

 なるほど、自分たちが遠山の性的対象に入っているかもしれないという事実に驚愕したのか、それとも危機を感じたのか……。とりあえず無駄に警戒しているわけだ。

 

「ふふっ」

「笑うな」

「せやかて工藤」

 

 ごめん、普通に面白い。

 遠山の悩みの種をこうやって笑うのはどうかと思うが、面白いものは面白い。俺の目付きがまるでゾンビだの腐っているだの揶揄されるとき、客観的に見るとそう映るのか。

 

「き、気を付けるネ、猛妹。いろいろと気を付けるネ」

「是、炮娘。何にせよ……HSSは無傷で捕らえること、ムリある」

 

 2人とも強い殺気を放ってくるが……あれ? 俺眼中になし? ちょっとショック。

 

「さあ、来い。――――と、その前に。白雪、頼んだ」

『はい! キンちゃん、比企谷さん、それに皆さん、ご武運を――!』

 

 突如――――炮娘のいる後方から綺麗な緋色の光が放たれる。車両の中央にいる俺でもはっきり見えるくらいはに目視できる鮮やかな輝きだ。

 そう感じた瞬間には15号車から1号車は減速を始めた。

 

「うおっ」

 

 ……マジか。本当に斬ったよ。新幹線だぞ。鉄の塊ぶった斬るとかいくらなんでも星伽さんスゴすぎないか? こんな芸当できる奴なんて俺の周りにそうそういない。寧ろいたら困るレベル。そりゃイ・ウーも一時期ジャンヌを送ってまで欲しがる人材なわけだ。

 

「キャッ……」

 

 と、ココのどちらかが言ったのか不明な可愛らしい悲鳴と。

 

「お見事」

 

 遠山の称賛の言葉が重なる。

 

 何にせよ、これでかなり気持ち的に楽になった。爆発しても人死には俺らだけで済む。周辺の被害は東京まで行ったらヤバいだろうが、その辺りの対策は不知火たちが向こうと連携しているはずだを最小限に抑えてくれるはずだ。

 

 さて、ここからは戦力になるのは俺と遠山のみ。武藤は運転中だし、材木座は爆弾の解除方法を模索中。理子は身動き取れない。つまり、俺らが殺られればそれこそゲームオーバー。背水の陣。

 この感覚……何度か味わったことがあるが、今となっては不思議ととてつもなく気分がアガる。だいぶこの世界に染まっているな。

 

「猛妹、レキに逃げられたヨ」

「やはり星伽は凄いネ。まさか新幹線斬るとは。でも、炮娘、安心する。イレギュラーがいればレキは従うネ」

「キンチも大事。キンチいればアリアも付いてくる」

 

 水投げや昨日とは違い、完全にマジモード。殺気がガンガン伝わってくる。今から来るのはココの本気。

 今度は俺もココたちの視界に入っているようだ。眼中になかった方が良かったな……。奇襲やら自由に動けただろうな。

 

「比企谷は猛妹の相手を」

「だな。UZIの処理は任せたぞ」

「ああ。お互い死なないようにな」

 

 俺と遠山の背中合わせ。もしかして俺らだけで戦うってのはこれが初めてじゃないか。何回か遠山と組んで戦うことはあっても、俺と遠山だけという状況はなかった気が……。借金取りの仕事は2人でやったことあったな。

 

『お前ら、あと10秒で加速する。落っこちるなよ』

 

 武藤からのインカムでの忠告。

 

「なあ、少し疑問だが……相方が神崎じゃないのは不服か?」

「もちろん女性の前でカッコつけたいとは思うよ。ただ、兄さんと組んだときも思ったが、存外、こういうのも悪くないな。それに、アリアにはここで死んでほしくないからね」

「おいおい、それって俺は別に死んでもいいってことかよ」

「まさか。比企谷がこんなとこで死ぬわけないだろ。お前が背中にいるってだけで信頼できるさ」

「……そっか。なら――期待に応えないとな」

 

 雑談を交わしつつ猛妹を視界に入れる。もうそれ以外の情報はいらない。目の前の相手を制圧する。この風の中長い武器がどれだけ使えるかは知らないが、棍棒を組み立て構えて迎え入れる。

 対する猛妹は、青龍偃月刀を構え、こちらに向けて一直線で駆けてくる。

 

「……ッ」

 

 速い。時速250kmの勢いを一身に浴びて突っ込んできている。文字通り一瞬で距離が詰められた。

 猛妹は俺の足目掛けて青龍刀を振るってくる。全身のバネを使った薙ぎ払い攻撃。俺はタイミングを見計らって棍棒を軸にしつつ跳躍。さながら操虫棍のように。……別にふざけてるわけじゃないからな。

 

「――――ッ」

 

 ……マジか。ちょっと跳ねたくらいなのにけっこう後ろに飛ばされる。思いの外バランスが取れない。空中に長めにいたらなかなか厳しい。早めに着地しないといけない。

 ワイヤー銃を新幹線に向けて撃ち、フックが固定したのを確認してからワイヤーの巻き取り機能を用いてすぐさま着地。……今のジャンプからのクラッチクローの動きに似ていない? 似ていない? ……そうですか。どうせなら急襲突きでも使ってみたかったな。あんな人間離れした動きできるわけないけど。飛翔使えばワンチャン……? いやまあ、3rdから9割太刀しか使ったことない人間なので、他の武器種のことどうも言えないから仕方ない。

 

 着地した俺はスパイクで足元をきっちり固定させてしっかり立つ。さすがに無闇に跳び上がらない方がいいな。いくら烈風で新幹線の風圧を軽減できるとはいえ、危険なことには変わりない。落ちるわけにもいかないからな。

 

 ていうか、棍棒だと風圧で小回り利かない。やはりこの車上で長い武器を使うのがムリあるな。現に猛妹も青龍刀を新幹線に突き立てふっ飛ばされないように背もたれにしている。

そして、猛妹が次に取り出して武器は――

 

戦扇(バトルファン)……」

 

 大きな扇。真紅と金で着色された扇。よくある竹などでなく金属製。

 というより、戦扇と戦うの初めてなんだが……。どうやって戦えばいいんだ。セオリーが分からない。授業では主に打撃武器として用いることが多いと習ったが、その気になれば斬り刻むこともできる。ココが用意している武器だ。確証はないが、武偵高の購買部で買った棍棒くらい斬れる威力をしているはずた。

しかし、全長は60cmほど。それほど射程はない。一応の救いだな。

 

「…………」

「――――」

 

 まだ猛妹との距離は充分ある。この距離を保てば恐らくイケる。だか、それは難しい。新幹線の進行方向に猛妹はいる。さっきみたいに追い風に乗れば一気に詰められる。だからといってまた空中に逃げるわけにもいかない。どう攻める……?

 

 そうこう模索していると、またもや猛妹が突っ込んでくる。戦扇を広げ縦横無尽に斬りかかる。くっそ、思いの外速い。前回みたいに動きながら回避するのができないから余計にキツい。しかも俺が烈風を使う気配を見せれば、すぐに下がって距離を取る動きを見せてくる。

 

 攻撃後の隙にカウンターを決めようと思っているが、重量のあった青龍刀とは違い、戦扇はかなり軽い。その分、隙も少ない。……思っている以上にジリ貧だな。

 反撃せずに受け流すだけに徹している。しかし、そんなの猛妹からしたら攻撃し放題だ。今は烈風を警戒しているからか深く踏み込んでこないが、反撃がないって分かっているなら怖くない。当たり前だ。むしろ烈風がなかったらもっと攻撃が激しかっただろう。

 

「くっ……」

 

 一応は反撃ついでに突いているが、こんなに風が強いと全然勢いが足りない。簡単に捌かれる。

 

 ……このままでは埒が明かない。これが続けば俺が殺られるだけ。

 こうなったら――――

 

「なっ……!?」

 

 猛妹の驚く声が聞こえる。それもそうだろう。猛妹の攻撃に合わせて棍棒をわざと手放したのだから。棍棒はそのまま線路へカランコロン……と音をたてつつ落ちていく。もう今後、あれは拾えないだろう。

 俺が棍棒を手放したせいでほんの一瞬、猛妹の動きが崩れる。この新幹線の上ではほんの一瞬は大きな隙になる。猛妹は烈風を警戒していて見逃してくれたが、俺はそれを逃すわけにもいかない。このチャンスで決める――!

 

 袖の下に仕込んであるスタンバトンを取り出して、鉄である戦扇に思いきり電気を流す。

 

「チッ!」

 

 すぐさまそれを察知した猛妹は俺と同様に戦扇を投げ捨てる。最小限にダメージを抑えたが、それもまた隙だ。ガラ空きの図体に今度こそ攻撃を当ててやる。

 

「うっら――ッ!」

 

 出来る限りの勢いをつけた正拳突き。落ちない範囲で烈風で加速もつけた、殺さないようにと制圧するための今できる最大の攻撃。ガラ空きの腹目掛けて狙いを定める。

 

「――――っ!」

 

 手応えあり。そのまま追撃……を? ……あれ? 

 

「ようやく掴まえたネ」

 

 くっそが。猛妹、ダメージ覚悟でわざと攻撃貰って俺の腕をがっちり捕えやがった。

 後の先か。そのままオチるかもしれなかったのに、なんつーう胆力。というより、猛妹めちゃくちゃ馬鹿力だ。引き剥がせねぇ! 神崎程度の図体のくせして馬力も神崎並かよ。

 

「八幡、イレギュラー。本当にお前のこと欲しくなったヨ」

「何回も言ってるだろ。お断りだっての……!」

 

 残った左手でナイフを抜刀し、猛妹の腕を斬りにかかる。

 

「おっと、危ないネ」

 

 それを見るや否やすぐに手を離し……何かを取り出した。あれは――香水瓶! てことは来るぞ、気体爆弾が!

 

 猛妹は間髪入れずにシュッシュと香水瓶を使う。を俺の目の前には5つのシャボン玉。不味い。すぐにしゃがんで烈風でシャボン玉を上に飛ばす。軽いシャボン玉はすぐに飛んでいくが、その直前に全部破裂した。

 

 ――――烈風!!

 

 爆破は咄嗟の最大出力の烈風で抑えることができた。しかし、爆破の瞬間の閃光までは防げなかった。あまりの眩しさに思わず目を閉じる。ダメだ、眩しいって言うより目が痛い。下手すりゃ失明だ。神崎みたいにはできないか。

 

 目を閉じている間にもセンサーが反応する。すぐ近くに猛妹がいる。追撃を仕掛けに来るか。視覚がヤバい今、密接されたら精度の高い迎撃はできない。なら近付かせない。

 この技は本番ではまだ試したことないけど。

 

「全方位――」

 

 練習でできたことは本番でもできる。だからこそこの一撃を――!

 

「――――鎌鼬!」

 

 俺の周り全部に向けて全力の烈風を用いた攻撃――鎌鼬を繰り出す。後ろにいる遠山には当たらずに、すぐそこにいる猛妹には当たるように。

 

 星伽さんみたいに新幹線をぶった斬るような威力はないが、それでも人くらい斬ろうと思えば斬れる威力だ。しかし、さすがは猛妹。奇襲で出したのにきっちり避けてきた。

 

 本当は声なしで出せる状態が望ましい。ただ、そこまでの練度がない。烈風や飛翔は何度も使って慣れているが、鎌鼬に関しては声に出さないと完璧に超能力のイメージを掴めない。

まあ、今はそれでいい。下手にやったら人殺しかねない一撃だ。武偵が羅刹含めてそういう技を頻繁に使うわけにもいかない。

 

「……ふぅ」

 

 何とか視力も回復してきた。まだ若干チカチカはするな。

 にしても、マジでギリギリだな。多分あのまま追撃貰っていたらそれこそ殺られていただろう。猛妹は武器はない素手。絞め技の類でも恐らく貰っていた。そこまで喰らったら烈風を使う集中力すら保てなかったな。危ない、間一髪だ。

 

「惜しいネ。今ので終わらせようと思ったヨ」

「そうかい。残念だったな」

 

 そう会話していても新幹線はスピードを緩めずにどんどん進む。カーブの先にトンネルが見えてきた。トンネル入ったら戦闘とか言ってられないな。それまでにどうするか。

 

『スピードまた上がるぞ! 気を付けろよ!』

「……っと」

 

 武藤の忠告と共にまた新幹線の速度が上がる。これで……今は何キロだ? 覚えてないな。――と、俺と猛妹は睨み合っている状況だから、今速度が上がってもそこまでの影響はなかった。

 

 しかし、俺の後方はそうはいかなかった。

 炮娘が放ったUZIの弾丸を遠山はベレッタとDEの2丁で捌いていた。炮娘は猛妹に絶対当たらないように弾丸を撃っている。遠山がどう捌いても織り込み済みのように。だが、先程スピードが上がった衝撃でそれがズレた。

 

 遠山は銃弾逸しという、銃弾と銃弾で撃って、軌道を逸している。ブラドのときは理子の銃弾がブラドの魔臓に当たるように自身の銃弾を当てて軌道修正を行った。イ・ウーでシャーロックと撃ち合ったときは、シャーロックの銃弾を跳ね返して、その跳ね返ってきた銃弾をまた新しく撃って逸した。文面で書くと頭おかしいな……。

 

 そして、今回もそうやって俺らに銃弾が当たらないようにしながら撃ち合いを続けていた。が、スピードが上がった衝撃でその遠山の計算がズレた。炮娘は遠山を撃ち、遠山は自分が喰らわないように撃って逸した。

 …………問題はその逸した後の軌道だ。さっきの衝撃で少しUZIの銃弾を掠めた程度で終わってしまった。大きく逸らせなかった。その銃弾は遠山の頬ギリギリを横切り――――その後ろにいる猛妹へと飛んでいったのだ。

 

「…………ッ!!」

 

 猛妹の直感が優れているのか、その銃弾は何とか当たらずに済んだ。

 が、避けるために猛妹は大きく回避行動を行った。それはもう新幹線の屋上をゴロゴロと転がった。

 

 しかし、それがイケなかった。今までならそれでもすぐに体勢を立て直せたかもしれない。だが、スピードが上がった瞬間にそれを行うと、また新しく加速した新幹線のスピードに耐えきれず、猛妹はその場で踏ん張りきれなかった。

 

 つまりここまで長々と語って何が起きたかと言うと――――猛妹は新幹線から落っこちたのだ。この速度の新幹線から落ちた。絶対死ぬ。あんなの助からない。

 

「――――クッソが!」

 

 そして、俺も後を追うように――――新幹線から飛び降りた。

 




そろそろこのペースは落ちる
あ、活動報告の募集のやつまだ募集中です(2020/7/20現在)

ReoNaさんのLotusを全人類に聞いてほしい。いい曲です。それとTill the Endも。ReoNaさんを推すのだ


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愚者の選択

前回ルビを振り忘れたけど、猛妹(めいめい)、炮娘(ぱおにゃん)です


 ココ2人との戦闘中、その片割れである猛妹が新幹線から落ちた。

 見事に車外へと放り出される。もう今の時速がどれくらいか忘れたけど、多分200後半のはず。そんなめちゃくちゃなスピードだ。もしそんな速度で放り出されたらまず助からない。確実に命を落とすだろう。万が一、なんて可能性もない。

 

 猛妹は死ぬ。絶対に。あの一瞬で俺の頭がそれを理解した。

 

 ――――理解したはずなのに、気付けば俺も飛び出していた。

 

 ほぼ無意識。何も考えてない。どこからどう見てもただの自殺行為。自分への保身なんて全くと言っていいほど考慮してない。恐るべき愚行な行為。こんなことで自ら死にに行くなんて本当に馬鹿げている。武偵高校に入る前の俺が見たら失笑していただろう。

 俺がマトモだったらゴチャゴチャと考え、思考はこれっぽっちも纏まらない。しかし、武偵になってこのふざけた環境に染まり続けたおかげで俺が充分イカれているのか、不思議と頭はクリアだった。

 

 ――――この躰が成すべきことを実行する。

 

 猛妹は不本意な形で新幹線から落ちたが、俺は自らそれを選んだ。つまり、俺の方が落ちている速度は猛妹に比べるとまだギリギリ速い。おまけに飛び出す瞬間、烈風で加速をつけた。そして、猛妹の落下速度を少しでも緩めるために先ほどとは反対の向きで烈風を。

 璃璃の力はまだ使えない。だが、普通の人はおいそれと使えない色金の力に触れたからか俺の超能力の基礎的な力は向上していた。セーラから教わったときと比べて烈風の射程範囲は変わらず半径4mだが、倍近くの威力の風を操れるようになった。

俺は最大限加速して、猛妹は最大限減速した。だからこそ、猛妹の手を掴めた。

 

「……ッ!」

 

 手を掴んだ瞬間――――風のクッションである飛翔を爆発させて出来る限り上へ飛び上がる。

 

 いつもみたいに飛翔で作ったクッションを足でしっかり踏んでから爆発させてるのではなく、前のめりというそれはもうめちゃくちゃな体勢だ。バランスなんて到底取れたもんじゃない。言葉も発する余裕がないほどギリギリを行っている。

 だからか俺は上へと飛んだつもりだったが、実際のところその軌道はものすごい斜めだった。

 

「――――ッ!!!」

 

 飛翔の軌道をミスったせいで線路との距離があまりにもスレスレ。これ以上飛翔で向きを変えるのは無理。そう判断した俺は猛妹を力任せで抱きかかえ、全力の烈風で精一杯の減速を試みる。

 

「うっ……おお――――!!」

 

 ある程度の減速には成功したが、勢い全部を殺しきれるわけもなく無様な形で線路に着地。幸いにも両足から着地できた。飛翔のおかげで体勢がほんの少しだけ整えることができたからか。

 で、両足から着地したはいいものの、それだけでブレーキはかけられずにめちゃくちゃ転がる。

 

「がっ……」

 

 線路上を転がる。そして、予想以上の痛みが全身を走る。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 恐らく着地してから20mは転がったであろう。勢いもようやく収まった。

 足は……イッてない。多分動く。かなりの衝撃を与えてしまったが、骨は折れてない。かなり痛いが、せいぜい酷くてヒビがあるかどうか。肩、頭、背中、腕、寝転びながらダメージの確認をする。……当たり前だが、全身めちゃくちゃ痛い。とはいえ、別に致命傷ってわけじゃない。頭も背中も守った。大丈夫、死にはしない。

 

 この間実に3秒。たった3秒だが、どの3秒よりも長く感じた。一部始終スローモーションみたいに感じた。こんな感覚、今まで味わったことなかったかもな。カジノで感じたとき以上だった。いわゆる走馬灯ってやつか。いや、特には過去の記憶から色々探ったわけじゃないし、ぶっちゃけ何も考えていなかった。

 

 ……にしても、よく生きてるな。今回に限ってはマジで死んでたかもな。いや、普通死ぬわ。もう1回やれとか言われてもお断りだ。どれだけ金積まれても絶対断る。あまりにも運良すぎるな。いやもうホント、馬鹿なことをしたものだ。

 

「…………」

 

 ……さて、それはそうと、寝転んでいる俺の上でガクガクと小刻みに震えている猛妹をどうするか。

 

「どうして……」

「あ?」

「……どうして私を助けたネ? 八幡、お前は私の敵のはずヨ。なのにどうして」

 

 全身を震えさせ、泣くのを必死で堪えている猛妹からの一言。

 

 何回も見せてきた大胆不敵な仕草からは程遠い。それほど怖かったのだろう。誰だって、死ぬのは怖い。当たり前の感情だ。極端な話、自殺を試みる人だってその直前にはそう思うはずだ。誰であろうと標準装備の感情だ。それが欠落している人はどこか大切な部分がぶっ壊れている。

 猛妹――ココは今までその殺す側の人間だった。しかし、殺される側に立ったからこそ、死への恐怖を今学んだ。死があまりにも近くにいた。その感覚をしかと味わったはずだ。

 

「日本の武偵は絶対に人を殺すなっていう9条縛りがあるんだよ。もしあのままお前がミンチになったら新幹線にいた武偵全員が責任負わないといけない。俺と遠山は確実に首が飛ぶ。日本の武偵舐めんな」

「……嘘。そんなの嘘ネ。単なるこじつけヨ。それが本当でも、それだけであんなにあっさり命を捨てるような行為できるわけない」

 

 随分と決め付けるな。実際、その通りだけど。こんなの今適当にでっち上げただけの理由だ。

 

「……そうだな。確かに嘘だわ。ホントのこと言うと、何にも考えてない」

「…………」

「信じられないって顔だな」

 

 心底からの驚愕と『何言ってんだコイツ……』みたいな感情が入り混じっている表情。まるで、俺を異常者みたいだと視線が語っている。視線は実に雄弁だ。

 

「逆に訊くが、そんなに理由って大事か?」

「…………え?」

「例えお前が敵だろうと、誰であろうと、死にたくないって奴を救うのはそこまでおかしいか? わさわざ人を救うのに大仰な理由なんていらないだろ。それに、あれあれがこうだから救けないと――なんて考えてたらあっという間にゲームオーバーだ。つーか、もしそんな思考速度が俺にあったとして、ムリヤリ理由付けできても、こんな低スペックな躰だとすぐには動かないぞ。その間にお前はパーだ」

「…………」

 

 強いて挙げるなら、新幹線から落ちた瞬間の、猛妹の……泣きそうな表情を見たからかな。

 

 え? 俺はブラドを殺しただって? いやいや殺したの璃璃だし……。そこまで追い込んだのは俺だろって? まあ、うん、そうだな。否定はしない。紛れもない事実だし、俺がその選択をしたのだから。

 だが――――あそこまで人間の心を無くしている奴は人間じゃない。いくら姿形を真似ようとも、あれはただの化け物だ。

 

 そう自分に言い聞かせていると。

 

「謝謝…………」

「ん?」

 

 とても小さな声が耳に届く。ほとんど抱き合っているに近いこの体勢でも聞き逃しそうな小さな声。

 

「八幡、本当にありがとう……ありがとう。ありがとう……」

「……どういたしまして」

 

 もう涙は堪えきれずひたすらボロボロと大粒の涙を流す猛妹を……あやすように背中を撫でる。

 

 ――――それからだいたい5分後、涙を収めた猛妹と改めて今後の話をする。

 

「とりあえず、ココ」

「猛妹と呼ぶネ。その方がイイ。そうして。お願い」

「……猛妹、投降しろ。もう反抗するなよ。こんなこと仕出かしたんだ。ちゃんと罪は償え」

「うんっ。八幡の言うとおりにする」

 

 即答である。ギュギューっと力いっぱい俺を抱きしめての返事。先程まで殺し合いをしていたとは思えないほど打って変わっての反応でちょっとビビる。

あらやだ、猛妹ったらめちゃくちゃ従順になった。

 

「素直だな。なんでノリノリなのかは置いといて……ちょっとここからのいてくれない?」

 

 まだ俺が寝転んでその上に猛妹がいる状況。泣き止んだし、そろそろ動いてほしいんだが。全身痛いし、少しばかし重い。体に響く。

 

「いやネ」

「おい……」

「八幡、温かい。スゴい心地よい。しばらくここにいるヨ。離れるなんて絶対いや」

 

 ……ダメだ、動く気配がない。ムリに引っ剥がすのも何だかする気になれない。さっきまでの状況が状況だからな。新幹線落ちてから全然時間経過してないし。

 ただ……うん、あまりにも近い近い近い。戦闘中はこれっぽっちも気にならなかったけど、今となっては女子特有の甘い匂いや雰囲気やらが伝わってくる。止めろ、顔をうずめるな、俺の匂いを嗅ぐな!

 

「で、投降するって事実をお仲間に伝えてほしいが……猛妹、通信機は?」

「落としたネ。今の一連の流れで。多分壊れてる」

「だよな。できれば直接猛妹の口から連絡した方が早いんだがな……困った」

 

 新幹線はトンネルを抜けて遥か彼方。瞬間移動でもできないと、とてもじゃないが追いつけない。

 俺のインカムから遠山へ向けて発信する。届くかな……。

 

『……や! …………比企谷!!』

「……遠山」

 

 どうにか繋がったか。ひとまずホッとする。俺の携帯は壊れるのが嫌で新幹線の車内にあるカバンに詰め込んでいたからな。……新幹線が爆発したらそれどころではなかったが。

 5分はもう経っているし、かなり離れているはずだが、思いの外性能いいな、このインカム。新幹線にいた通信科の武偵に貸してもらったブツだ。後で複数個買っておこう。

 

『無事なのか!?』

「おう、何とかな。俺も猛妹も。五体満足だぞ」

『……そうか。良かった……。ホントに驚いたぞ。いきなり比企谷も飛び込むなんて』

「悪い、心配かけた。まあ、俺もかなり無茶したと思ってる。それでだが、猛妹は投降した。抵抗はしない。だから、残りも投降しろってお仲間に伝えてほしいんだが」

『ああ。それなんだが――――』

 

 遠山の説明によると、トンネルを抜けた先には報道陣のヘリが複数飛んでいた。その中に紛れ込んで、3人目のココが乗っていたヘリがあったとのこと。これがココたちの脱出手段だったというわけか。というより、コイツら三つ子なんだ。ちなみにライフル担いでいて狙撃担当とのこと。

 しかし、3人目のココはまだこちらの状況を掴んでおらず、遠山を狙撃するためにヘリから顔を出した瞬間――――16号車に潜んでいたレキがココを撃ち抜いた。ハイマキやウルスで遭遇した狼を気絶に追い込んだ狙撃技術をココにも発揮して、一瞬で気絶させ無力化した。ココのヘリもレキの狙撃で無力化したらしい。うーん、この子強い。

 

「…………」

 

 ひとまず言わせてくれ。

 

 ……俺が何のために新幹線を切り離したと思っているんだ……! 正確には星伽さんだが、そうじゃなくて! お前がそこにいたら意味ないだろうに……! 助かったのは事実だが、俺の苦労を無駄にしないでほしい。いや、俺の無力化してほしいっていう頼みを完璧に実行したレキを褒めるべきなんだよな。こういうところで強情なんだから。

 

 で、近くに警察も待機しており、無事狙撃手のココは捕えられたらしい。狙撃手のココはそれで解決したとして、もう1人……銃使いの炮娘に関しては、猛妹が落ちたショックで放心状態に陥り、簡単に捕えたとのこと。

 これで全員確保だな。なら今からすることは……。

 

「猛妹、遠山が炮娘にインカム渡すから声聞かせてやれ」

 

 と、それだけ言って猛妹にインカムを渡す。抵抗しないならこのくらい大丈夫だ。そっちの方がより素直に従ってくれるだろうという打算もあるが、何より猛妹も自身の無事くらい普通に伝えたいだろう。

 そこからは中国語でどんな内容かは分からなかったが、どうやら安否を無事に伝えられただろうな。インカムから嬉しくて泣き叫んでいる声が聞こえる。

 

 と、何ともまあ、俺に関しては締まらない形になったが、事件は無事解決大勝利……って、爆弾! 気体爆弾残ってるじゃねぇか! ココたちが投降しても爆弾止めないとじゃん。

 

「遠山! 爆弾は!?」

『平賀さんが材木座たちと協力して真空ボンベに気体爆弾詰め込んだよ。大丈夫、爆発はしていない。むしろ喜んで平賀さんが持って帰って行った。材木座は独り占めするなと悔しがってたな』

 

 さすが平賀さん、それに材木座。なんであの状況でいがみ合えるんだか。やっぱあの2人も武偵だよな。

 

 それから遠山から事の顛末をぼんやり寝転びながら聞く。武藤が運転して、もう東京まで無事に着いているらしい。理子も材木座も武藤も遠山も全員怪我なし。コイツら随分と丈夫だな。

 今回の新幹線ジャック。死者は敵含めてゼロ、被害も最低限。犯人も確保。後で星伽さんと戸塚に聞いたが、妊婦さんも無事だったらしい。結果としてはかなり上々だろう。

 

「はぁ……」

 

 にしても、こうやってアングラーな奴らと戦うとき毎度毎度最後の方には倒れてる気がするな。気のせいだと思いたいが、実際問題その通りだからカッコつかねぇなぁ。戦線離脱ってパターン多すぎじゃないか。役に立てたのか甚だ疑問である。

 

「……って」

 

 あれ? 俺いつまでこうしてたらいいの?

 

「遠山ー。あれ? 遠山ー?」

「もう電池切れたヨ」

「マジ?」

「私と炮娘、話しすぎたネ。途中で切れた。……ごめんね?」

「いや別にいいけどさ……え? これどうすんの?」

 

 途中で爆弾について猛妹からインカムひったくって、遠山から事の顛末聞いてからまた猛妹に渡したが、マジでか。

これどうすればいいの? 新幹線の線路でずっと寝ていろと? 今は新幹線全便止まっているだろうけど、いずれ再開するよね。このまま線路にいたら危なくない? 

 通信手段ないし、正直全身痛くてあまり動かないんだけど。アドレナリン切れてより痛み伝わるし、今の行動思い返して冷や汗ダラダラだし……なんかもう、全然動く気になれない。

 

「ふふんっ。私はこのままでいいネ。ずっと八幡といるの最高ヨっ」

「俺が良くない」

「八幡、酷いネ……。オヨヨ……」

 

 あ、そこで拗ねる? なに、ドラマとかでよくある面倒な彼女なの? てか、今日日オヨヨとか言っている奴なかなか希少種ですよ。

 

「はいはい、俺が悪かった」

「分かればよろしい。それで、八幡。お前蘭幇に来る気ない?」

「まだそれ言うの? お前の負けでその話はお終いだろ」

「今までは蘭幇の利益で考えてたケド、本気で八幡のこと欲しくなったネ。武偵でいるの勿体無いヨ。こっちの方が八幡にはより合っている。もちろんレキも一緒にヨ」

「だからいくら武偵がヤクザ紛いでも、わざわざ本場もんのヤクザになるつもりないって」

「八幡なら天下取れるのに」

「そんなもん取りたくねぇな」

 

 勘弁してくれ。そんなことしたら確実に教師どもに殺される。

 蘭豹は合コンの憂さ晴らしで街破壊するし、平塚先生――正確には武偵高の教師ではないけど。特別講師的な扱いで別の学校で国語の教師をしているらしい――は合コンの憂さ晴らしで山にいる害獣駆除するし……この人ら合コンの憂さ晴らししかしてねぇな。

 どれだけ婚活失敗しているんだか。まあ、成功する要素があまりにも低いけど。頑張ってね! 応援してるから。平塚先生ならまだ可能性あるよ、一応は高校教師だし! 蘭豹は……武偵高の教師っていうキャリアの時点で相当危ないな。

 

 と、心の中で応援を送っていると、ココがまたとんでもないことを口に出す。

 

「では言い方変えるヨ」

「言い方?」

「コホンっ。……は、八幡の女になっていい?」

「…………え?」

 

 頬を紅潮させ、今まで全く見たことないような女の子の顔になる猛妹。

 そんないわゆる恋する乙女みたいな年相応の顔を見た俺は……正直困惑する。演技などではない。これでも人の観察は手慣れた方だ。だからこそ、理解できる。猛妹の眼が本気だと言うことが。

 

 こうも真正面から好意をぶつけられるのに慣れてない俺の思考は珍しくフリーズする。どう反応すればいいのかが分からない。そのような俺を余所に猛妹は話を進める。

 

「そうネ……フム、八幡にはレキがいるから立場上私は側室、愛人と言ったところになるネ。大丈夫、問題ナシ! 全然気にしないヨ」

「話を聞け犯罪者。勝手に進めるな、そもそもお前は何を言っている」

「? 要するに八幡に惚れたってことヨ」

 

 臆面もなくよくもまあはっきりと言いますね。

 とりあえずこれだけ言わせてくれ。

 

「いやうん、お前チョロすぎない?」

「自分の命も顧みず、命懸けで必死で手を伸ばして……私を助けてくれた人に惚れるなというのが無理な話ではないかナ?」

「そういうもん?」

「そういうものヨ。平たく言えば八幡は私の王子様ネ」

 

 俺そんなキャラじゃないよな……。王子様って……よくてせいぜい城の警備兵だろ。

 

「つか、お前どうせしばらくシャバの空気吸えねぇだろ。大人しく牢屋で縮こまってろ犯罪者」

「そんなの金積んですぐに八幡に会いに行くヨ。……ま、出るのに最低1ヶ月はかかるケド」

「おーい、反省しろよー?」

「反省はしてるヨ。ただそれ以上に八幡に会えたことが嬉しいネ。新幹線ジャックして良かったネ」

「お前本当に反省しているか? してないよな? 反省の色が見てないなら、裁判になったときお前が不利になるようにするからな」

「お前じゃない、猛妹」

「なに留美みたいなこと言ってんだ……」

「留美? ……誰その女」

「あ? ただの弟子たけど」

「まだレキや理子の他に八幡の周りに女いたのか……あと何人いるネ……くっ、私の立場が……」

「立場って……」

 

 理子……そういや、トイレに間に合ったのかな。けっこう早めに解決できたとは思うけど。

 

「つか、マジで一旦のいてくれ。同じ姿勢でいるのそろそろキツいんだが」

「いやっ!」

「駄々をこねるな」

「いーやっ!」

 

 と、俺に乗っかっている猛妹とダラダラと喋りながら今回の新幹線ジャックは無事解決した。言い方はあれだが、猛妹を人質にしている以上残りの仲間も暴れ出す展開はないはずだろう。これでようやく一件落着ってやつだ。

 

「〜〜〜♪」

 

 ただ、俺の上で機嫌のいい猛妹を見て思う。

 しかしまあ、何だこの結末は……。

 




……なんでこうなっだんだろう?書いてて不思議だった……

しばらくわりと投稿頻度高かったけど、これからは落ち着きます
感想お待ちしています(*´∀`)


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おまけもおまけ

 あの後、遠山が警察を呼んでくれたらしく、警察のヘリが俺らが寝転んでいるトンネル前まで来た。猛妹と一緒にヘリに乗せてもらい、なんとか東京駅まで行くことができた。ヘリの中には医者もいて移動中に軽く応急処置をしてくれて感謝感激雨あられ……古いな。

 なんにせよ、戻ったら病院行かないとな。戸塚たちは新横浜で降りたらしいが、戸塚に診てもらえるかなぁ。

 

 医者は俺を治療しながら、あの速度の新幹線から落下してこの程度で済んでいるのは色々とおかしいと苦笑しつつ呆れられた。自分でもそう思います。もし俺が烈風が使えなかったら、どうしていたんだろう。ワイヤー銃を使ってどうにか……無理があるか。

 

「…………はぁ」

「〜〜〜〜♪」

 

 で。移動中の猛妹は俺にピターッとくっついている。手錠かけられているのにこの有様よ……。ヘリ内にいる警察の視線とかどこ吹く風だし。警察官も猛妹の様子を見て若干引いている。「この女の子が本当に新幹線ジャックを引き起こしたのか……?」といった奇妙な視線だ。

 ……いやもうホント、ごめんなさい。自分でも何がどうなってこうなったのか分からないんです。

 

 内心で警察に頭を下げつつ数十分。無事東京駅に着いた。残りのココも東京駅でまとめられているからそこで猛妹と合流して改めて警察に連れて行くとのこと。さっさと裁かれてくれ。

 もし爆発したときのためにしばらく封鎖されていてまだ現場検証やらあり身動きが取れずに遠山たちもここにいる。

 

「はちまーん。すぐ会いに行くヨー!」

「来なくていいから……」

 

 最後までうるさかった猛妹を見送る。警察に引っ張られて尚、この胆力……。この様子だといつの日かホントに突撃してきそうだな。というか、改めて見たけど、コイツらマジで三つ子なんだ。そっくりすぎないか。双子や三つ子ってそんなに似るものなのか。

 

 さてと、とりあえず遠山と合流しようか。材木座もいるはずだ。アイツらはどこ……か…………な…………。

 

 

 

「…………」

「――――」

 

 

 

 途端に背筋があまりにも寒くなり……それと同時にとても嫌な予感がした。正直確かめたくもないがそうもいかず、俺はゆっくり振り返ると――――そこには俺をひたすら睨んでいるレキと理子がいた。

 

 …………何も、俺は、見てない。

 

 そう自分に言い聞かせて改めて遠山たちを探しに行く。あれは幻覚だ。疲れからそう写ってしまっただけだ。俺は何も見てない。いいな? そうだ、荷物回収しておかないと。せっかくお土産買ったわけだし。そういや、この新幹線を後半から運転した武藤にもお疲れの意味を込めて何か奢るか。武藤も頑張ったことだし(死亡フラグ)。

 

「ハチハチ〜??」

 

 しかしまあ、そうは問屋が下ろしてくれない。頭の中でフリージアが流れてくる。

 

 再度振り返り、視線の先を確認する。

 

 普段の明るい仕草など誰からも好かれるはずの可愛らしい――俺から見ればあざといんだが――動作など微塵も見せない。本来なら仕草だけでなく、全てが可愛らしいのだが。一色と似たような雰囲気なんてまるでない冷たい視線が俺を射抜く。

 ……怖い。笑顔なのに目が笑ってないってああいう感じなんだな。初体験です。理子、怖い。

 

「……おう、トイレ間に合ったか?」

「今それどうでもいいよね?」

「どうでもよくはないだろ。お前が人としての尊厳を守れたかどうかは気になるところだ」

「そう? まあ、無事だったよ。それだけは伝えておくね」

「……それは良かった。これに懲りたらガブ飲みは控えろよ? じゃ、ちょっと遠山たちのとこ行ってくるわ」

 

 よしっ、無事切り抜けられたな。レキはともかく理子の表情がこれっぽっちも動かなかったことは置いといて。

 

「――――ちょっと待てって」

 

 全然無事じゃなかった。この低い声色、いわゆる裏理子の声だ。ふぇぇ……怖いよぉ……。

 

「……何でしょうか。疲れたので休みたいのですが」

 

 理子の剣幕に圧されて思わず敬語になってしまう。

 

「さっきまでココと随分とお楽しみだったみたいだね? ねぇー、ハチハチ?」

「な、何のことだ……?」

「実はね、私ね中国語もできるんだよ。ま、簡単なレベルくらいで、めちゃくちゃできるわけてはないけど」

「……それで?」

「だから、ココとの会話も何となく分かったんだよ。ほら、キーくんがココにインカム渡したときの」

 

 猛妹の無事を炮娘に伝えたときか……。

 俺は中国語分からないから何言っているかさっぱりだったが……。

 

「あのときのココ……えーっと、猛妹だっけか? あの娘がね、ハチハチのことカッコいいだの、蘭幇にほしいだの、かなり褒めちぎって挙げ句の果てには結婚したいだの抜かしたんだよね」

「へー……そうなんだ……」

 

 猛妹……そんなこと言っていたんだ……。やっぱお前チョロすぎだろ。

 

「はい、ここでレキュから一言」

「ギルティです」

「止めろ、ドラグノフ構えるな!」

 

 これがドラマなどの一般人ならせいぜい殴られる程度で済むかもしれないが、武偵はそうも言っていられない。マジで撃たれる。下手すりゃ死ぬ。額撃ち抜かれて死ぬ。余裕で死ぬ。実際そういう経験あるもんで! ……嫌な経験だな。

 

 なまじ実績のあるレキを放っておくわけにもいかず、急いでレキに近付いてドラグノフを取り上げようとするが、理子に邪魔させられ、綺麗にすってんころり。いって……何された? あれか、後ろから足払われたのか。今は絶賛仰向けの体勢だ。

 

 烈風使おうにも猛妹助けるときに全開で使いすぎてもうカラッ欠。MAXコーヒー補充したい。正直烈風ないとコイツらを振り払えない。力ずくで振り払えても体勢崩せないだろうから、けっきょくは逃げきれずそこでゲームオーバーだ。

 

「――――言い訳はありますか?」

 

 なんて現実逃避も虚しく、ジャキッ――とドラグノフを額に突き付けられる。

 

「…………」

 

 ……レキは俺にドラグノフを突き付けるために俺の体を跨いでているんだが……その、見えてますよ。……スカートの中身が。白いのが……ね? ちょっとは自分の周りに気を遣ってほしいんですけど。理子も場所的に見えそうなんだが……見てないけど! お前ら頼むから恥じらいを持ってくれ。

 これ以上見ないように理性と戦いながら目線をズラしつつ答える。

 

「あの場で助けなかったら俺ら全員連帯責任でパーだぞ。9条を全力で守った俺を讃えろ」

「そんな体勢で言われてもね……説得力皆無だよ、ハチハチ」

「確かにそこは褒める部分でしょう。しかし、何故あんな一瞬で好感度を完ストさせたのですか?」

 

 あれ、レキ今何て言った? レキにしては随分不釣り合いな言葉のように感じたが。

 

「……お前、いつそんな言葉を覚えた?」

「理子さんに最近ゲームを貸してもらいました」

「もっぱら乙女ゲーやギャルゲーだね」

「今はどうでもいいです。で、何故あんな一瞬で攻略したのですか?」

 

 レキがゲーム用語を使うこの違和感。というより、理子もなんでジャンルがそれなんだよ。レキならFPSかTPSの2択だろう……!

 

「俺もしたくてしたわけじゃないとだけ言っておく」

「いや〜、意識しないであの速度で攻略するとかハチハチはギャルゲー主人公なの?」

「俺がそんな器に見えるか? 俺だぞ?」

「それはどうでしょう〜。くふふっ。でもりこりん妬いちゃうなぁ。ハチハチの周りにまーた女の子増えて」

「いや待て。俺は悪くない、社会が悪い。というより、今回に限っては猛妹が悪い。そもそも新幹線ジャック起こしたのココだよな?」

「確かにハチハチは悪くなのかもしれない。でも、特別良くもないよね。まさかココの1人をメロメロしちゃうんだから〜。これは留美ちゃんにも報告しとかないとな〜」

「お前留美とも関わりあったのか……」

 

 誰か助けて! この子たち話通じない! 

 

 そうだ、材木座。アイツ今どこだ? ……ダメだ、こっちを野次馬よろしく覗いているだけだ。マバタキ信号でヘルプを送るが……材木座はとてもいい笑顔でサムズアップするだけ。あとであのふくよかな腹を殴ってやる。おまけに武藤は豪快に笑ってるし、本気に頼りにしたい遠山は同情する目でこちらを見ている。

 

 うーん。

 これはあれだ、コイツらに助け求めるの無理そう!

 

「あの娘可愛いよね! ゴスロリ似合いそう! 着せ替えっこしてみたい!」

「あー、分かる。留美も押せばなんだかんだ乗り気になるかもしれないし。最終的にゴリ押せばいけそうだな」

「ほうほう。それは有益な情報を耳にした。また頼んでみようかな? あー、でも、私ロリータ系は持っててもゴスの衣装は少ないんだよねぇ。私も着てみようかな」

「いいんじゃないか」

 

 よし、このまま話逸らそう。

 

「理子さん、話が逸れてます」

 

 上手くいきませんかそうですか。

 

「おっと、危うくハチハチに騙されるところだったよ。それで、ハチハチの罰はどうする?」

「なにそれ確定なの?」

「そうですね。……では、1つ痛い目に遭ってもらいましょうか」

「あ、確定なんだ……」

 

 こうなったが最後、俺は酷い目に遭わされるのだろう。同人誌みたいに! ……あれ、普通性別的に立場逆じゃね?

 

 それはそうと、早く頭からドラグノフどかしてくれな――

 

「理子さん」

「アイアイサー」

「――え、ちょっ、まっ。ぐふっ……」

 

 いきなり理子の馬鹿力によって上半身だけ起こされ、なぜか持っている理子の手錠によって手を固定させられた。しかも背中側に。あっという間だ。抵抗する時間なんて存在しなかった。レキの一言で動く理子の察しの良さ。何と手際が良いのだろうか……。嬉しくねぇ。

 

 ていうか俺何されるの? まさかの逮捕? ただでさえ武偵って低学歴なんだからそこに逮捕歴が加わるとかもう人生終わりってレベルなんだが。

 

「……で、何する気だ?」

「――――くすぐります」

「は?」

 

 ちょっと何言ってるかわかんない。

 

「八幡さんがもう烈風を使えないであろうことは分かります。使えるなら最初から抵抗していますよね。……抵抗したところで無意味ですが」

「ひぃ…………」

 

 ふぇぇ……この子怖いよぉ……。

 

「お、図星だね! ハチハチはこういうとき分かりやすすぎるよ。普段は無表情のくせして。もうちょっと不利な場面でのポーカーフェイス練習しなよ」

「というわけで、八幡さんに逃げ場はありません。徹底的にくすぐります。……さすがに撃つのはどうかなと思うので」

 

 何その最後にちょっと付け足した気まずそうなセリフは。本当に何回も俺目掛けて撃ってきた人のセリフですか?

 

「や、やめろ! 手錠を外せ!」

 

 マジでダメだこれ。ヤバい。本気だ。このままだとヤバい。語彙力終わってるくらいの危機感。

 

 レキの眼がそれを物語っている。日頃はどこを見ているか不明瞭な目をしているくせにこういうときだけ生き生きとしているな。珍しくレキの眼から感情が読み取れる。その中身が楽しみと言っているぞ。それはまるで楽しみにしていたゲームを発売日買ったときのウキウキ感のようだ。それはそうと転売ヤーは○ね。

 

「お前ら俺から離れろ! マジで勘弁して。こ、こら。理子も近寄るな……!」

「抵抗すると無駄死にをするだけだって、なんで分からないんだ!」

「そのセリフ、今とシチュエーション違いすぎだろ!」 

 

 やけに熱が籠もった理子の叫びに突っ込む。

 あれ同情から来ているセリフでしょうが。あ、元ネタ知らない人は調べてね。

 

「ふふふ……。抵抗はムダですよ。ほーれほれ」

「安心してください、すぐに終わります。……30分後くらいには」

「どこがだ!」

 

 こんなに声を荒げる事態に発展するとは。命の危機というか、貞操の危機というか。とりあえずマジで止めてくれ!

 怖がる俺を見て理子はニヤニヤしながら。

 

「くふふっ。ハチハチ、まだ、抵抗するのなら――」

「できれば早急にここからいなくなりたいんですが」

 

 必死の抵抗。それを見てほくそ笑む理子。

 お前は愉悦部か。なに、人の不幸は蜜の味なの? つか、さっきからZネタ多くない? 正直劇場版のラストは好きじゃない俺がいる。だってあれだとZZに繋がらないじゃん。ジュドーがニュータイプに目覚めることなさそうだし。

 

 しかしまあ、さっきからモゾモゾと動いているけど、状況が一向によくならない。最後の力振り絞って烈風使おうとしたけど、全く反応しない。初めての感覚だ。確かにガス欠だけど何かがおかしい。

 ……違うぞ。手錠に原因があるな。これ、対超能力者用の特別な手錠だ。簡単に言うなら海楼石。これつけられていると、例えあのパトラてさえ超能力が使えない代物なんだよな。

 

 なるほどなるほど、これはどう足掻こうと詰みというわけですか。

 半ば諦めかけて現実を受け入れようとするが……。

 

「では八幡さん、お覚悟を」

「くっふふ……これはこれは超楽しそうてすねぇ」

 

 2人が喜々とした表情でこちらに忍び寄ってくるのを見て、改めてどうしてこうなったのか自身を呪う。いや、やっぱり俺ではないよな。こうなる状況をつくった社会が悪い。

 

「や、止めろ――――――――!!」

 

 俺の叫びは届かず、そして慈悲はなかった。

 




FGO5周年、いきなりのサプライズでめちゃくちゃ驚きましたね



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風が吹いて、次へと進む

 レキと理子に酷い目に遭わされた新幹線ジャックから数日。

あのあと、武偵病院で精密検査を受け、骨に異常はないことが発覚した。しかし、外傷やら全体的なダメージが大きすぎるとのことで自宅療養をしろと戸塚から言われた。実際、暴走した新幹線から飛び降りたわけだし、その程度で済んでいるのがましみたいなもんだが。

 

 事件後の手続き――まあ、調書とかは満身創痍の俺を除いたレキや遠山たちが俺の分までやってくれた。満身創痍になったのはレキたちのせいでもあるからものすごいコレジャナイ感がするがな……。

 新幹線を斬ったり色々とブッ飛んだことをしたから怒られると思ったが、その辺りはココ逮捕の功績と差し引きしてチャラとのこと。世間的には事件を解決した功労者たちらしい。

 事件が起こったわりにはすんなりと物事進むと感じたが。

 

「遠山君、比企谷君。司法取引のお話が来る前に言っておくけど、自分たちが狙われたことは内緒よ。とーっても偉い人たちに怒られちゃうからね」

 

 と、探偵科教諭である高天原ゆとり先生からのお達し。遠山曰く、イギリスの貴族である神崎が事件に巻き込まれたから、日英関係のためにも大々的に公言しない方がいいとのこと。そこは神崎さまさまだな。

 

 で、遠山と俺とでのんびり連休を謳歌していた。たまに星伽さんや理子が部屋に突撃し、喧嘩をして銃撃戦になりかけたこともあって休めたかどうかで言えば、微妙だな。レキの部屋にでも待避しておけば良かった。まあ、休みの間にレキの部屋に行って、たんまり買った魚肉ソーセージをハイマキに与えたりはしていた。

 

 

「そういえば比企谷。お前とレキってチーム組むよな?」

「そのつもりだな」

「今さらだが、俺らと合流しないか?」

 

 9月下旬のある午前中、互いにリビングでダラダラしながらの会話。

 

「それまたどうしてだ?」

「いや、俺らのチームがさ、アリア、理子、白雪……そして俺とかなり近接よりだから遠距離に強いレキやわりとオールラウンダーな比企谷がいれば心強いなーって」

「と言ってもな……まあ、あれだ、別々のチームでも俺と遠山じゃどうせ似たような問題にぶち当たる可能性あるし、そのとき合同で事当たればいいんじゃないか? 俺の場合、連携得意じゃないから下手に大人数だとキツいんだよな」

「そうか? 新幹線でのお前の指揮なかなかのものだったぞ」

「お褒めのお言葉どうも」

「なら無理強いはなしだな。アリアもそのつもりで登録しているし。俺らは明日登録に行くつもりだが、比企谷たちはいつ行くんだ?」

「あー、午後にでも行くぞ。登録は済んだが、まだ写真撮ってないんでな」

「そうか。帰りに何かおやつ買ってきてくれ」

「覚えてたらな」

 

 昼飯を適当に平らげ、武偵高に向かう途中、レキと合流した。

 

「おう、じゃ行くか」

「はい。ところで八幡さん、ココ姉妹がどうなったかご存知ですか?」

 

出会い頭にそれか。

 

「正直知りたくねぇな。どうせ理子やジャンヌみたいに司法取引ですぐ出てくるんだろうけどよ。もう関わりたくないね」

「ですが気に入られてませんでしたか?」

 

 その鋭い視線止めて。前のくすぐり思い出すから。

 

「猛妹か……。ま、どうせ連絡手段ないし、出たところでの話だ。命狙われた相手と仲良くなんてな……れ…………」

 

 なれないと言おうとしたが、そういやレキにも命狙われたことあったなと思い出した。イ・ウーから帰ってくるなりドラグノフでめちゃくちゃ撃たれたり。ていうか、あれだ、理子にもイ・ウーに連れ去られたとき一触即発の空気にもなったし。

 ……何なんだろう、この感覚。命狙われた相手と仲良くなるジンクスでもあるのか? 遠山じゃあるまいし……。

 

 で、ちゃっちゃか移動して強襲科の屋上に到着。

 

「お前ら遅いぞ」

「5分前ですよね?」

 

 斬馬刀を引っ提げている蘭豹に突っ込みを入れる。

 

「やかましい! さっさと済まさんかァ!」

 

 おいコラ蘭豹! ストップしやがれ! ポニーテール揺らしながら斬馬刀振り回さないで! 普通に死ぬから! それと猛妹の青龍刀思い出すからその武器はマジで止めて!!

 

 そして、しばらく経ったころ、蘭豹も落ち着き、ようやく武偵のチーム編成の写真を撮ることになった。この先生のキレどころがホントに不明だ……。

 

 本来、武偵という存在は簡単に情報を漏らさないために写真に身を写さないものだ。写っている立ち姿でその人の癖を見抜かれてしまうからな。どんな武器を持っているか、どこに怪我を負っているか、その他諸々……。写真は雄弁、嫌な世界だ。

 京都でレキと写真を撮ったが、あれは武偵として褒められた行為ではない。まあ、あの場の雰囲気に流されたってことで……。どういう経緯で漏出するか分かったものじゃないし、レキはそもそもが狙撃手だからな。極力姿は見せないものだ。

 俺自身、遠山がイ・ウーでシャーロックにマッハの拳をぶつけたときにできたみたいな大きな怪我は負ってないから(今さらだけどマッハの拳って頭おかしくない?)、パッと見は変な癖に気付かれないかもしれんが、猛妹を助けたときに右足を若干まだ痛めている。普通に生活する分には問題ないが、もしかしたらバレるかもしれないので、それを見られるわけにもいかない。

 

 ということで、横を向いてレンズから右半身を隠すように立つ。レキもそれに合わせて背中合わせで立つ。

 

 互いにレンズは見ないで、別々の方向をひたすら見つめる。

 

「おう、じゃあそろそろ撮るぞ。――――チーム名『サリフ』。これで登録や!」

 

 俺らのチーム名であるサリフ――――これはモンゴル語で風を意味するらしい。レキはかつて璃璃のことを風と呼んでいたし、風を得意とする狙撃技術もあるし、俺も風の超能力を使うし、まあ、これらの大ざっぱな理由から俺らに合っていると思ったわけだ。

 一言で言いやすいもんな。

 

「改めて、これからよろしく……レキ」

「はい。勝手に死ぬのは許しませんよ?」

「了解した」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 遠山たちも無事チームの登録が終わり、驚くほど平穏な日々が続いた。

 鈍った体を叩き直すために一色や留美の相手をしたり、材木座と武装の相談をしたり、それこそ適当に授業受けたり、色金を扱えるよう特訓したり――――わりとマジで何もなかった。

 

 で、ある日の放課後。

 特に用事もないので材木座と戸塚と帰ろうとしたときのこと。

 

「ん?」

「どうかした?」

「いや、下駄箱の中に何か……手紙?」

 

 戸塚の質問に答えつつ下駄箱を確かめると、手紙があった。

 純白の封筒に入っており、赤い蝋のようなもので封されている。なんかお金持ちみたいな手紙だ。

 

「もしやお主……それはラブレターか!? レキ殿という存在がありながら!? こうなったらレキ殿にチクってやる!!」

「ラブレターって最近聞かないな。そもそも、ここで女子の知り合い少ないからな? ていうか止めろよ、絶対あとで撃たれる」

「それで、誰からなの? 僕らの知っている人かな?」

 

 差出人は――――Janne Da Arc。

 ジャンヌか。

 

「ふむ、ジャンヌ殿と言えば、1学期に転校してきた情報科の人だな。大層美人で、まるで史実のジャンヌのように思えるぞ。最近は聖女としての威厳はどこへやら、完全に姉を名乗る不審者であるが」

 

 史実のっていうか、実際のところ子孫なんだけどな。

 聖女改めて不審者の姉ビームは置いておいて。

 

「八幡ってジャンヌさんと知り合いなの?」

「まあ、一応知り合いって言えば知り合いか。……仕事を一度依頼したことあってな」

 

 少しばかし嘘を混ぜながらの返答。別に間違ってはないからこれで大丈夫。

 

「なるほどなるほど。まあ、我らには関係ないことだ。しかし、随分と綺麗な手紙であるな。映画ではこのようなものをしばしば見かけるが、実物を見るのは初めてだぞ」

「同じく。ていうか、今時手紙って……。メールとかあるのに」

「んー、どうなんだろうね。例えばだけどメールじゃ駄目で、手紙ならではっていうのがあるじゃん。年賀状とかクーポンが同封されてたりとか結婚式の招待状とか……ほら、もしかしてどこかパーティーの招待状じゃない?」

 

 ……戸塚の意見も一理ある。というか、けっこう納得した。そういう考えもあるか。

 

「とはいえ、あまり首を突っ込みすぎるのも良くない。一先ずレキ殿に報告して後々の結果を楽しみにするとしよう」

「お前マジで止めろよ?」

 

 

 で、2人と別れて、部屋に戻り手紙の中身を確かめる。……まだ遠山は帰ってないか。

 

「……って、フランス語読めないんですけど」

 

 手紙はめちゃくちゃ綺麗なフランス語で書かれている。さすがジャンヌ。ですが読めません。辛うじて分かるとことほ言えば……数字? 日時? あ、これ戸塚の言う通り招待状なのか。

あ、文末に日本語が……『裏に日本語を書いてある。そちらを読め。』か。最初から日本語にしてほしいです。

 

 裏には――

 

『比企谷八幡殿

10月1日 夜0時

空き地島南端 曲がり風車よ下にて待つ。武装の上、一人で来るように

ジャンヌ・ダルクより』

 

 指している時刻は今夜の時間じゃないか。というより、何これ?

 やっぱり文面からして招待状か。でもビルとかじゃないのか。いや、そもそも何の招待されているんだ。それも分からないし、どうして空き地島なんだ。あんな何もない、パーティーには向かないような場所に。

 

 え、これ行くか? めんどくせぇ。でも行かなかったら行かなかったで文句言われそうだよな。それにあれだ、嫌な予感しかしないんですけど。絶対厄介ごとに巻き込まれるよな、いつもの感覚で言えば。だって、武装しろって書いてあるんだぞ? 戦闘になるかもしれないからってことだろ。十中八九そうだよな……。

 

 

 ――夜。どうやって移動しようか考えたが材木座の知り合いの車輌科の奴に小型ボートを借りて学園島から空き地島へと移動した。超能力使おうとはしたが、もし戦闘になったら、対応できるように控えようと思ったからな。

 イ・ウーで貰った黒色のロングコートを着て、スタンバトン、ナイフ数本、銃にマガジン、それなりに仕込んでここに来た。夜ということもあり黒色だったら視認性も悪くなって存在感を消すこともやりやすい。動きが鈍らない程度の重さにした。

 

「…………」

 

 錆びた梯子を渡り、人工浮島に降り立つ。今夜の空き地島は霧がかなり濃い。その中をちゃっちゃと歩く。……あ、遠山がハイジャックのときに折った風車あるじゃん。この頃からブッ飛んだことやってるなぁ、アイツは。

 

「比企谷」

「……お前も呼ばれてたか」

 

 その遠山がここにいた。ああ、確かに似たようなボートが近くにおいてあったな。あれ遠山のか。その隣にはジャンヌもいる。ジャンヌは甲冑を着込んでおり、なかなかの重武装だ。

 

「八幡さん」

 

 上から声をかけられた。動いていない風車のプロペラにレキが佇んでいる。ドラグノフを抱えていて、レキもレキで警戒感をかなり高めている。

 

「じゃ、遠山。俺はそこらブラブラしとくわ」

「……お前、よくこんな状況で」

 

 呆れる遠山を置いておいて、少しぶらつく。まあ、レキの近くにいくだけだが。

 時間を確認する。0時まで残り2分――といったところで、一斉に明かりが点く。

 

「――――っ」

 

 けっこう強力なライトだな。めっちゃ眩しい。思わず目を細めてしまう明るさだ。

 

 そして――――薄々分かっていたことだが、かなり厄介な奴らがここにいる。それもブラドやカナ、パトラにシャーロックといった異形の存在ばかりの奴らだ。うーん、コスプレイベントみたい。ていうか、俺から離れているが……カナとパトラ一緒にいるな。多分金一さんではない。あ、あの黒の大きい帽子……セーラもいるのか。

 

 ……いや、知っている奴ら除いてもコイツら何者だよ。ていうか数いすぎだろ。ただでさえ超人のような雰囲気を漂わせている奴らが50近くはいるぞ。

 

「――――先日はうちのココ姉妹がとんだ迷惑をおかけしました」

 

 そう現状確認していると、唐突に後ろから声をかけられた。……背後とられていたか。周りに気を取られすぎていたな。

 後ろを振り向いていたのは色鮮やかな中国の民族衣装を身に纏った中年。丸メガネをかけ、笑顔が顔に張り付いた不気味な奴だ。

 

「ココってことは藍幇の上役か」

「はい、諸葛と言います。以後、お見知りおきを」

「そうするかどうか決めるには、先ずあのバカ姉妹の手綱くらい握っておけ」

「その件は大変申し訳ありませんでした。――ところで、比企谷八幡さん。1つ提案があるのですが、どうでしょうか?」

「猛妹ならそっちで大人しくさせておいてくれ。藍幇にも入らない」

「……おや、見抜かれていましたか」

「俺に押し付けようとかするなよ。いやもうホント、マジで」

「残念です。しかし、あれを止めるのはいささか骨が折れるというものですよ」

 

 と、非常にイヤーなことを言い残して諸葛とやらは去っていった。

 …………お願いだから猛妹をこっちに寄越さないでね。しばらく関わりたくないから。猛妹のせいで俺酷い目に遭ったのだから……レキと理子が…………うっ、思い出したくねぇ。

 

 と、独りでダメージを負っていると、目の前にまた誰か現れた。現れたっていうか、地面から生えてきたんだけどね。地面じゃなくて影か? やだよー、化け物ばかりだよー。

 で、俺を信じられないといった眼で見てくるのは金髪ツインテのゴスロリ衣装を着こなしている女。ていうか、翼もあるのに突っ込み入れていい?

 

「お前がイレギュラー?」

「……どちら様?」

「まさかお前みたいな奴にお父様が殺されたとは……信じがたいわね」

 

 お父様か。思い当たる節なんてないんだが。にしても、この雰囲気に違和感というか既視感が…………え、まさか?

 

「…………もしかして、ブラドの?」

「あら、気付くのが早かったわね」

「え? アイツ結婚してたの? アイツが? あんな人を人とも思わなかった奴が? モテたの? 奥さんいたの? それなんて冗談?」

 

 今世紀最大の驚き。

 あれがモテるとか世の中間違っていない? いやまあ、擬態していた姿はイケメン教師だったが、それでもあの性根だぞ。

 

「お前殺されたいの?」

「ああ、悪い。めちゃくちゃに驚いただけだ。悪気はない」

「悪気しかないでしょう。……ま、今は殺すのは止めておくわ。イレギュラーが私の敵かはっきりしない間はね」

 

 これまた諸葛のように不穏なことを言い残してから、また地面に――影に消えていった。

 敵かどうかはっきりしない間――つまりブラドの娘の言葉の意味を考えると、ここにいるキテレツ大集団の中から敵味方に別れて戦争でもするのか? まさか、冗談だろ。

 

「……ん?」

 

 ジャンヌがここにいる奴らを見渡し、凛とした声で語りだす。この会合の司会者なのか。

 

「では始めようか。各地の機関・結社・組織の大使たちよ。宣戦会議(バンディーレ)――――イ・ウー崩壊後、求めるものを巡り、戦い、奪い合う我々の世が――――次へ進むために(Go For The Next )

 

 今から何が始まる?

 戦い?

 誰が?

 誰と?

 俺も?

 この超人たち相手と?

 何故?

 何を目的に?

 

「――――……くそっ」

 

 ――――と、あまりにも様々な疑問が頭を巡る。どこで人生の選択肢をミスったのか不明だが、どうやらこんな奴らのフィールドに無作為に足を突っ込んだ俺は……ここからどうも逃げられないみたいだ。

 

 




チーム名募集ありがとうございました。丸々パクらせてもらいました。
候補に花の名前とかあってひまわりにしようかなと考えたりしていました。ひまわりの花言葉って「あなただけを見つめて」といった内容で花ではかなり大好きなので

そしてまたもや期間が空いてしまいました。まあ、リアルがそれなりに忙しかったりしたので。インターンやら学校関連やら免許やら……。なんにせよ、無事オートマの免許も取れて満足です
次もできるたけ早く書きたいですが、そろそろ学校も始まるのでどうなることやら……


毎度のことながら宣伝です。なろうでオリジナル小説チマチマ書いてます。よろしければブクマや評価など是非。あ、もちろんこの作品もブクマ登録や評価待ってます!

https://ncode.syosetu.com/n2569fu/




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宣戦会議

「――――宣戦会議(バンディーレ)に集いし組織・機関・結社の大使達よ」

 

 俺の逸る気持ちなどお構い無しに甲冑を着込んでいるジャンヌは淡々と語りかける。

 

「まずはイ・ウー研鑽派残党(ダイオ・ノマド)のジャンヌ・ダルクが、敬意を持って奉迎する」

 

 しかし、その声はどこか緊張感を漂わせている。張り詰めた空気がこちらにも伝わってくる。

 

 ジャンヌの宣言を聞きながら改めて周りを見渡すが――まず前提として誰が味方かはっきりしない。

 遠山は……敵にはならない。そういう奴だ。ジャンヌは多分俺か遠山に気を遣ってくれているから味方の線はある。カナは分からん。完全に敵になることはないと思いたいが、パトラといるとなるとかなり曖昧になる。セーラは――恐らく敵になる可能性が高い。根拠のないただの勘だが、そう感じてしまう雰囲気だ。こちらに目を合わせようともしないし。で、レキは……君は味方だよね?

 

「初顔の者もいるので、序言しておこう。かつてな我々は諸国の闇に自分達を秘しつつ、各々の武術・知略を伝承し――求める物を巡り、奪い合ってきた。イ・ウーの隆盛と共にその争いは休止されたが……イ・ウーの崩壊と共に、今また、砲火を開こうとしている」

 

 そうこう悩んでいる間にも話は進む。

 なるほど、イ・ウーが出来上がる前にも超人は水面下でずっと争いあっていたのか。てことは、この集まり――人選はさすがに何年の単位で変わっているだろうが、一度や二度の話ではないってことになる。

 

 その後、修道女っぽいメーヤとやらと眼帯娘――カツェが言い争い……ていうか、若干戦闘が始まった。そこにブラドの娘であるヒルダも加わり、ちとうるさかったが、なんとか落ち着いたところでジャンヌがまた口を開く。あの修道女……メーヤの武器が大剣を吊り下げていたことに思いきり突っ込みたかったのは置いておく。

 

「――私も、できれば戦いたくはない」

 

 いつの間にかレキがドラグノフを構えているのを確認しつつ俺も戦闘態勢を整える。

 ジャンヌの口上はまだ続く。

 

「しかし、いつかこの時が来る事は分かりきっていた。シャーロックの薨去と共にイ・ウーが崩壊し、我々が再び乱戦に陥ることはな。だからこの『宣戦会議』の開催も、彼の存命中から取り決めされていた。大使たちよ。我々は戦いを避けられない。我々は――そういう風にできているのだ」

 

 ああ、そういえばイ・ウーはミサイルが搭載されている原潜だったな。つまり――イ・ウーは誰から見ようと危険な、いわゆるジョーカーのような存在ってことになる。それがあったから戦いを止めていたわけで、イ・ウーが今度はなくなったからまた戦おうというわけか。

 ……傍迷惑な話だ。一般人を巻き込むなと声を大にして言いたい。

 

「では、古の作法に則り、まず三つの協定を復唱する。86年前の宣戦会議ではフランス語だったそうだが、今回は私が日本語に翻訳したことを容赦頂きたい。

 第一項。 いつ何時、誰が誰に挑戦する事も許される。戦いは決闘に準ずるものとするが、不意打ち、闇討ち、密偵、奇術の使用、侮辱も許される。

 第二項。 際限無き殺戮を避けるため、決闘に値せぬ雑兵の戦用を禁ずる。これは第一項より優先される」

 

 要するに何でもありの戦いだけど、数がバカ多い総力戦はなしというルールね。……無駄がないのはいいことと思うけど、第一項が形を成してなくない? 本当にいいの? ルールガバガバ過ぎだろ。ちょっとシャーロックに文句言ってやろうか……ってもう死んでるのか。

 

「そして、第三項。戦いは主に『師団(ディーン)』と『眷属(グレナダ)』の双方の連盟に分かれて行う。この往古の盟名は、歴代の烈士たちを敬う故、永代、改めぬものとする。

 それぞれの組織がどちからの連盟に属するかはこの場での宣言によって定めるが、黙秘・無所属も許される。宣言後の鞍替えは禁じないが、誇り高き各位によりそれに応じた扱いをされる事を心得よ。

 続けて連盟の宣言を募るが……まず、私たちイ・ウー研鑽派残党は『師団』となる事を宣言させてもらう。バチカンの聖女・メーヤは『師団』。魔女連隊のカツェ=グラッセ、それと竜悴公姫(ドラキユリア)・ヒルダは『眷属』。よもや鞍替えは無いな?」

 

 ルールを語ったジャンヌはバカでかい剣を振り回していた聖女メーヤ、眼帯娘のカツェ、吸血鬼のヒルダ――さっきまで暴れていた奴らに問いかける。

 ルールはまあ何となく分かった。2つのチームに分かれて戦うってことだろ。単純明快。……ということは、これ無所属だったら戦いに参加しなくていいということになるのだろうか。うーん、それなら有難いが、この雰囲気を見るにそう簡単には事は進まない可能性の方が高いな。

 

 と、俺がそう考えている横で――

 

「ああ……神様。再び剣を取る私をお赦し下さい――はい。バチカンは元よりこの汚らわしい眷属共を伐つ『師団』。殲滅師団(レギオ・ディーン)の始祖です」

「ああ。アタシも当然『眷属』だ。メーヤと仲間なんてなれるもんかよ」

「聞くまでもないでしょうジャンヌ。私は生まれながら闇の眷属――『眷属』よ。玉藻、あなたもそうでしょう?」

 

 三者三様、ジャンヌの問いを肯定する。

 って、ヒルダが言った言葉……玉藻? みこーん?

 

 ヒルダの視線の先――遠山の隣にいる人物…………和服を着ている狐? の少女?

 ブラドみたいな妖怪……の類いだろうか。あれは妖怪というよりかはただの化け物か。

 

「すまんのうヒルダ。儂は今回、『師団』じゃ。未だ仄聞のみじゃが、今日の星伽はキリスト教会と盟約があるそうじゃからの。パトラ、お主もこっちゃ来い」

 

 この狐少女、どうやら星伽さんとも関係があるらしい。そして、ヒルダやパトラと知り合いらしい。何者なんだか。ロリババァというのは理解した。それはもう完全に。……現実でまさかロリババァを拝める日が来るとは……感動ものだな。

 で、パトラの反応はと言うと――

 

「タマモ。かつて先祖が教わった諸々の事、妾は感謝しておるのぅ。イ・ウー研鑽派の優等生どもには私怨がある。今回、イ・ウー主戦派(イグナテイス)は『眷属』じゃ」

 

 主戦派。そこにはセーラも含まれている。てことはセーラも眷属。

 そして、パトラの隣にいた死神のような大鎌を携えているカナは無所属を宣言した。それを聞いたパトラはとても残念がって、カナがそんなパトラをあやしているが……いつの間にそういう関係になったんだ? それにカナって女であり男でありとても訳の分からない人間だと思うのだが――世の中の男女関係は進んでいるなぁ。

 

 その後、リバティー・メイソンなる組織も無所属を、LOOと呼ばれたロボットは黙秘を、ハビと名乗った少女(本人より数倍は大きい斧を持ち上げている)は眷属を宣言した。いや、あのハビとやら2本のツノがうっすらと確認できた。鬼……なのか? もしかしてハビとやらもロリババァなのか?

 

 なんか意味不明な奴らばかりでぶっちゃけ関わりたくねぇな、そう思っていたら――――

 

「八幡、お前ら『サリフ』はどこを選ぶつもりだ?」

 

 ジャンヌが問いかけてきた。……いきなりでびっくりした。

 ん? ジャンヌの奴、俺こと比企谷八幡ではなくサリフ――俺を単体ではなくチーム名で呼んだことは、つまるところ俺の選択はレキの選択となる。このイカれた世界にどう踏みいるか……俺が選ぶのか。

 

「そもそも俺らなんで呼ばれたんだ? ごくごく平和な一般人だろうが」

「お前は一時期イ・ウーにいただろう。それに理子、ブラド、パトラ、ココたちと関わり、もはや比企谷八幡という人物はこの場とは無関係……という言い訳では済まされない立ち位置にある」

 

 やっばりそうなるのか。気付かない内に随分嫌な立ち位置になってしまったようだ。

 

「例えば無所属を選んだら別にこの戦いに参加しなくていいって認識でいいか?」

「――いや、そうはならない。師団も眷属もお前とレキを欲しがらなければ不参加になるだろうが、誰かがサリフをこちらの陣営に引き込みたく、交渉、または襲撃を受ける可能性は十二分にある。もし負ければ従わざるを得ない」

 

 まあ、そうなるか。ひたすらに面倒だ。

 

 ――――さて、どうする? 師団か眷属か無所属か。どれが危険だ? てかどれも危険か。師団はジャンヌなど慣れ親しんだ面子がいる。流れ的には多分遠山たちも師団になる。だって、眷属なんてパトラやヒルダといった明らか敵ですよ! みたいな絵面しかない。というより、ジャンヌの説明だと、別に無所属でも俺らを狙う奴がいないとある程度平和に過ごせるか。

 

「……レキ、無所属でいいか?」

「はい。八幡さんの選択なら」

 

 一応はサリフのリーダーは俺になっている。だからこの2人の最終的な決定権は俺にある。じゃんけんで負けたからリーダーになったに過ぎないが。今まで似たようなことしてきたからいいかと納得はしている。

 

「じゃあ、俺らは無所属で」

 

 ――――ただ、無所属だからと言って何もしないわけでもない。周りに火の粉が降りかかるようなら遠慮なく介入させてもらう。ハイジャックやカジノ、新幹線ジャックのときみたいにな。これでも俺は武偵だ。

 本音を言うならココにいる犯罪者どもを捕まえれたらいいが、それは無理。不可能に近い。そもそもイ・ウーにただいただけで罪に問われるのかどうか俺は知らない。だから、誰を捕まえればいいのか判断つかない。

 

「それと、私個人はウルスともう関係を切りましたが、この場に置いて代理を任されました。ウルスは『師団』に付きます。――ですが、私自身は比企谷八幡と同じチームですので無所属となります」

 

 今度はレキがそう宣言する。ウルスも参加するのか。……確かにここにはウルスの人たちはいない。

 

「了解した。――遠山、お前たち『バスカービル』はどちらに付くのだ?」

 

 バスカービル。遠山たちのチーム名だ。名前の由来は確かどこかの地名だったような。

 遠山は遠山でいきなりの状況でめちゃめちゃに焦っていたが、流れからしてやはり『師団』になった。まあ、ヒルダがグチグチ言っただけだがな。俺にも飛び火したし……。

 

 で、今度は諸葛――藍幇が眷属に入ると宣言した。

 ……危ねぇ。下手すりゃ猛妹と同じチームになるとこだった。いやまあ、そんなすぐにここには参加できないはずだが。留置場の中だし。コイツらとは色々と恨み買ってそうだし因縁つけられそうだな。お願いだから音沙汰なしにしてくれ。

 

「――――」

 

 最後に残ったGⅢと呼ばれた男は「ここには強い奴なんていねぇ、くそつまんねぇ、帰る(意訳)」と言い残して文字通り消えていった。文字通りっていうのは、ホントに透明人間になったかのように姿を消した。正体は分からないが、超能力というより――何かを被ったように見えたからもしかして科学か? まあ、俺らと同じ無所属になった。

 にしてもアイツ、終始怒ってたな。カルシウム足りてないんじゃない? それに、あのGⅢとやら――なんか雰囲気に既視感あるんだよな。誰かに似ているような。……蘭豹? 常にイライラしているし。

 

「――下賤な男。吠えつく子犬のようだわ。殺す気も失せる」

 

 と、ヒルダからため息交じりのコメント。辛口ですね。

 

 ん? 待てよ? これで全員の宣言が終わったということは――――

 

「でも、これで全員済んだみたいね。そうよね、ジャンヌ?」

「……その通りだ。最後に、この闘争は……宣戦会議の地域名を元に名付ける習慣に従い、『極東戦役(Far East Warfare )』――――FEWと呼ぶと定める。各位の参加に感謝と、武運の祈りを……」

「じゃあ、いいのね?」

 

 少し焦りを見せていたジャンヌの説明を聞き終えたヒルダは矢継ぎ早にジャンヌの言葉を遮る。

 ほら、やっぱり! ここで始める気だ!

 

「遠山!」

 

 不穏な空気を流すヒルダに嫌な予感がしたので、急いで遠山に呼びかける。

 ここにいる――特に眷属の奴らはイ・ウーを破壊した遠山にかなりの恨みを持っているみたいだ。この中で一番に狙われるのは遠山になる。

 

「ボートのとこに行くぞ!」

「あ、ああ……」

 

 遠山は何が何だか分からないといった表情だ。無理もない。今までこの化け物らと渡り合った遠山と今の遠山は完全に別人。ヒルダが動き出す前になんとか逃げ切らない……と…………?

 

「――――?」

 

 全員どこを見ている? 玉藻も、ハビも――――一体どこを? 学園島?

 

 俺もそこに注視する。すると、ドルルルル……と何かが聞こえる。エンジン音。モーターボート? 俺や遠山が乗っていたと同種の。

 誰か……来る?

 

 ここまでよじ登ってきた人物は。

 

「SSRに網を張らせといて正解だったわ! あたしの目の届くところに出てくるとはね。その勇気だけは認めてあげるッ! そこにいるんでしょ!? パトラ! ヒルダ! イ・ウーの残党、セットで逮捕よ!」

 

 神崎いいいいい!!!! お前なんで今ここに来るんだよ!!!! 間が悪すぎだろうが!!!!

 

 いきなりの神崎の登場に膝をつきたくなるが、そんなのお構いなしに神崎は2丁のガバで錆びている風車を撃ってロボット? のLOOを押し潰す。えっ、何アイツ……やっぱりスゴい。戦闘センスずば抜けているな。

 

 それを合図にメーヤとカツェもまた争いを始める。メーヤが大剣を振り回し、カツェは水の……超能力? を用いて応戦する。と思ったらカナが2人の間に割って入り、大鎌も使って2人にしりもちをつかせる。……え、カナもスゴい。

 カナは2人に撤退を促し、自身もこの濃い霧の奥へと消えていく。……ん? けっこうな奴らがもう撤退しているぞ。

 

「…………ッ」

 

 ヤバいヤバいヤバい。忘れていた。俺はイ・ウーに少しの間いたから知っている。パトラやヒルダのいる主戦派は色金の記述がある緋色の研究を盗んでいることがあった。データでは残しており、俺はそれを見たが、元本はどうやら盗まれていたみたいだ。

 で、盗まれたからには色金のアレコレを知っている。ただでさえ神崎は恨みを買っている。なら主戦派はどうしたい? 神崎を緋緋神へ? 緋緋神にするにはどうする? つまり――――殻金?

 

 最悪の想像を巡らせていると、あることに気付いた。くそっ、ヒルダはどこへ行った? 遠山に呼びかけなからこっそりとセンサーで反応できる距離まで近付いていたのに。いつの間にか消えている。

 何秒ヒルダを見失った? 30秒? これは不味いぞ。アイツさっき影づたいに行動していた。てことはどこにいるのかすぐに判別つかない。神崎までの距離――――およそ150m。猛ダッシュだ、間に合え……!

 

「――――ッ!!」

 

 神崎の背後にヒルダが現れた。クッソが! こうなったら――――

 

「烈風!」

 

 烈風で最大限の追い風を起こし、その勢いに乗る。急げ急げ急げ急げ。

 

 そして、かなりのスピードで近付いてくる俺に気付いたヒルダは多少の焦りは見せつつも微笑みながら神崎の首を軽く噛むと――――ぼんやりと、神崎の体が紅く輝き始める。紅……より緋色。これは絶対ヤバい。

 

 どう救助する? ろくに準備ができてない今吸血鬼であるヒルダを倒すことは不可能。なら――――

 

「なっ――!?」

「うっ――――ら!!」

 

 レキがヒルダの顔面を狙撃したその瞬間、神崎をヒルダから強奪!

 神崎を思い切りひったくり、俺は飛翔で学園島まで飛び上がろうとする。ヒルダには烈風をお見舞いし、かなりの距離まで吹っ飛ばす。頭を狙撃されたからすぐには俺の烈風に対処できなかったようだ。最高だ、レキ。完璧なタイミングでのナイス援護! 愛してる!!

 

 飛べ、飛べ。できるだけ速く、高く。そして、逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。ていうか神崎軽っ。なんでこの軽さであんなにパワー出るんだよ。

 

 ……とりあえず空中へ逃走は成功したか? 後ろからは攻撃はないな…………ん? なんか神崎から緋色の球体が出て、いくつかの形に分かれて……不味い、これが殻金か!?

 

「くそっ!」

 

 それらが四方八方に飛び散ろうとするので、咄嗟にそれらを掴むが――――ああもう、やらかした。7つのうち4つしか掴めなかった。

 残りどこへ飛んだ? 残りは空き地島へ向かったが……ダメだ、どこまで行ったか確認できない。殻金を掴んでからその一瞬で飛びすぎたな。あんな小さい物がとごまで行ったか分からない。できれば遠山たちと同じ師団の奴らが確保してくれていればそれがベストなんだが。

 

「…………」

 

 空中にいる間に、どうやら神崎の光が収まりつつ元に戻ったか。お、もう学園島が見えてきた。これでも多分平均で時速60kmは出ていたからな。

 飛翔は風のクッションを作り、それを爆発させる勢いで飛ぶ技だ。だから爆発した瞬間が一番速さが出る。簡単に言うなら美遊の飛び方やワートリのグラスホッパーや『弾』印に近い感じだ。

 ちなみに神崎を担がなかったら、俺1人で時速80kmは出したことある。……まあ、その後バランスが取れずに落っこちたので、普段はそんなにスピードは出さないようにしているが、今回に限っては緊急だった。思いの外上手くいったな。アドレナリンめちゃくちゃ出ていただろうからか、これ平常時にやれとか言われたら無理だな。

 

 とりあえず学園島にある高いビルの屋上に降り立つ。で、神崎をゆっくり降ろすが……。

 

「どうするかな……」

 

 神崎は意識がないだけで無事。俺の手元にある殻金は5枚。あるにはあるが、これを元通りにする技術は俺にはない。あの玉藻とやらはできそうな雰囲気を漂わせているが、俺は無所属。味方になってくれるかどうか……。遠山にさっさと神崎含めて渡すか。

 

「あっ」

 

 1人いるじゃん。色金のエキスパート。

 急いで連絡しよう。出るかな……勝手なイメージだが10時には寝てそうな性格だが。

 

「……比企谷さん…………?」

 

 星伽さん出てくれた……。助かった……。眠そうな声ですね、ごめんなさい。

 

「あー、もしもし。ちょっと時間いいか?」

「はい。こんな夜中に……どうかしましたか?」

「えー、あー、単刀直入に言いますと、その、神崎の殻金が外された。俺の手元にあるのは4枚だ。残り3枚は不明」

「………………えぇ!?」

 

 さっきまでの眠そうな声とは一転、俺の言葉で覚醒したのかとても驚愕している。

 

「あ、もしかして戦役が関係を?」

「あれ、星伽さん知っていたんだ。なら話が早い。とりあえず俺らの部屋に今から行けるか?」

「わ、分かりました。と、と、とっ、ところで、キンちゃんはどうしてます?」

「あー、どうだろ。ちょっと待ってて。遠山に連絡する」

「はい。折り返し残り連絡待ってます」

 

 星伽さんの通話を終了して遠山へとかける。

 

「比企谷!? アリアは!?」

「皆まで言うなら。最初に言っておくが神崎は無事だ。ただまあ……ややこしいことになってな。お前今どこだ?」

 

 2号ライダーのセリフてんこ盛りだ。2号ライダーなら俺はゼロノスと橘さん……ダメだ、剣の2号ライダー設定はややこしすぎる! 公式は橘さんにしているが、この辺りは特撮オタクの見解が別々になることが多いので触れないことにしよう。

 

「もうアイツらはいなくなったから、玉藻とメーヤ、レキと一緒にいる」

「ジャンヌは?」

「眷属の奴らを追っていったよ」

「一旦ソイツら連れて部屋に集合で。あ、あと玉藻とやらに殻金を4枚あると伝えてくれ」

 

 で、言いたいことだけ言ってからもっかい星伽さんに通話する。

 

「星伽さん?」

「は、はい。どうでした?」

「遠山は無事だ。そこは安心してくれ。……星伽さん。玉藻、メーヤこの2人のこと知っているか?」

「玉藻様が!? メーヤさん……は知りませんが、玉藻様ならご存知です」

「おう、なら、えっと、さっきも言ったように一旦部屋に来てくれないか?」

「分かりました。ところでキンちゃんがいたということは……バスカービルはどこに所属を?」

「師団だ。玉藻もな」

「では比企谷さんも?」

「俺とレキは無所属だ。まあ、成り行きで神崎助けたから師団よりになったのか?」

 

 それは置いといて、俺はただただ神崎を緋緋神にはさせないように動いているだけだが。

 

「事情は把握しました。今から行きますっ!」

「いきなり悪いな……」

「いえ、こうなることは占いで分かっていたので。殻金が外されるのは予想外でしたが……。キンちゃん待っててねえええええぇぇぇぇぇ!!!」

 

 と、通話を切ろうとしたら星伽さんの大声が聞こえたので何も聞かなかったことにした。

 

 よし、また神崎担ぐか。ゆっくり安全運転で飛ぼう。

 

 

「比企谷!」

 

 3分で寮まで着いた。やっぱ空はいいね。障害物とか何もない。明かりが空にない分、ちょっと夜の移動は大変だが、そこ街を見ながら飛べばいい話だ。……それはそれとして、ああ、超能力使い果たしたぁ……! 疲れた!

 で、寮の前の道路にはちょうど遠山ご一行様がいた。狐少女の玉藻とシスターっぽいメーヤ。で、レキも静かにしている。

 

「お互い無事で何より。……ほい、神崎受け取れ」

「あ、ああ。助かった」

 

 神崎を遠山に手渡して……玉藻とメーヤの方へ向く。

 

「初めまして。比企谷八幡だ」

「バチカンのメーヤです。この度は本当に助かりました」

「玉藻じゃ。たしかイレギュラーとも言ったかの。ヒルダもごねておったわ。イレギュラーが毎度毎度邪魔をするなど。しかしまあ、今回は助かったのぉ」

「それで、残りの殻金は?」

「お主がそこまで知っているのに驚きだが……残念ながら眷属の手に渡ってしまった」

 

 目を伏して申し訳なさそうに告げる玉藻。

 ……面倒なことになったな。

 

「とりあえず、これ渡しとく。お前なら殻金どうにかできるんだよな?」

「ふむ、可能じゃ。感謝するぞ、イレギュラーの。これでまだ最悪にはならないか……」

 

 これで一先ずはどうにかなるか?

 

「遠山」

「どうした?」

「しばらくしたらここに星伽さんも来る。なんか諸々の事情は知ってたみたいだ。あとは任せた」

「白雪が?」

「おお、星伽の娘も来るのか! お主なかなか手際がいいの。……どうじゃ、無所属と言っていたが、師団に入る気はないかの?」

「それは断る。あんな化け物ともう戦いたくないんでね。今回に限っては成り行きだ。というわけで、俺がこれからの師団の作戦会議に参加するのもどうかと思うんで……悪いがレキ、今夜泊めてくれ」

「分かりました」

 

 ――――と、ようやく、かなり騒がしかった夜は終わりを告げた。さっさと寝よう!

 

 

 

 

 

 




基本原作から外れたくないけど、原作と同じような道筋辿るならそれもう原作でよくない?ってなるし、原作の台詞引用しているときとかこれ面白いのかってなるし、どうすればいいのか分からなくなる



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変装食堂に向けて

 宣戦会議も終えて、俺がレキの部屋に泊まっている間に色々あったらしい。俺は無所属だし、アンフェアになるからあまり聞かないようにしたが、玉藻が神崎にちゃんと殻金を元に戻したことだけは聞いた。

 本来ならあと1年ほどすれば、神崎は色金との繋がりを消して自由に色金の力を使えるくらいには馴染めるらしいが、今回の騒動で殻金が外れてしまったからな。このまま放っておいたら、徐々に神崎の体を緋緋神は乗っ取ってしまうだろう。で、残りの殻金を持っている奴らが、パトラとヒルダとハビとのこと。

 

 目下の課題はヒルダ。ブラドや今回のことで相当の恨みを買っちゃったみたいなのでいつか報復を受けるかもしれない。というか、FEW関係なしにいずれ戦わなくてはいけない相手だ。

 神崎の殻金の一件もそうだが、それだけではなく一番の理由は――――理子の依頼だ。

 理子を吸血鬼から救うという依頼はブラドを倒して終わりだと勝手に決め付けていたが、今回ブラドの娘が現れた。なら武偵憲章に基づいてその依頼を完璧に遂行しないといけない。

 

 武偵高校のある学園島にはヒルダやハビといった魔性の類の奴らが入れない結界を張っているみたいなので、直接攻めては来ない。ここに来たとしても全力では戦えないそうだ。多分どこかのタイミングで理子と接触を図る可能性がある。

 

 理子を守りきる――――ヒルダを倒すためには準備が必要だ。どこにいるのか分からないが、それは置いといて……。

 ブラドに使った神経断裂弾は情報が漏れているだろうから、あまり効果は薄い。まあ、あれは吸血鬼の回復の要である魔臓を撃たないと意味ないし、ヒルダの魔臓がどこかなんて分からない。一応用意しておくが、それだけでは圧倒的に足りない。

 なら他に何かダメージを与えるために情報を収集しないとなんだが、誰にだ? ヒルダに詳しい奴とかいるのか。……ジャンヌは午前中探してみたが見当たらない。携帯も繋がらなかった。アイツなら何か教えてくれると思ったのに。そもそもが情報科だし。

 

「なあ、材木座」

「いきなりここに現れて……どうしたのだ?」

「例えばさ、吸血鬼や魔女、怪物に妖怪とかがいたとして、銃弾で倒せると思うか?」

「…………急にどうしたのだ?」

「何となくだよ。ゲームとかしてて思っただけ。もし現実にいたらどうするかなーって」

 

 装備科の材木座のスペースに座り込み、それとなく雑談を始める。

 材木座は呆れながらも話に乗ってくれる。

 

「ふむ……銃を見切られるのならばどうしようもないが、当たれば勝てるのではないか? いくら人とは構造が違くても、急所はどこかに存在するであろう。拳銃は生身の人間が扱える最強の武器だと思っているが」

「じゃあ、撃ったそばから回復する相手ならどうする?」

「たまにいるな。そういう厄介なパターンのボス。弱点が複数あるときに片方だけではなく、同時に仕止めないと復活するボスなど……ああいうのはなかなかに鬱陶しいものである」

「そうそう。そういう場合、材木座が1人で戦うとなったらどう攻略する?」

「我1人でか? 仲間がいれば同時攻撃が手っ取り早いと思うが、ふぅむ……我ならデバフをかけまくるな。回復機能が低下するまで弱らせて攻撃を通しやすくするとか……。あとはボス全体を覆うくらいの攻撃であるか? 全部を一気に破壊してしまえば回復も何もないであろう。さすがにそこまでの攻略策が用意されてあるとは限らないが」

「なるほどなー。……全体攻撃、デバフ……」

「ギリシャ神話の怪物メドゥーサに対してペルセウスが鏡を用いて攻略したなど、その相手の嫌がりそうな弱点を突ければ弱体化して銃でも倒せるのではないだろうか」

 

 キビシスの鏡か。……ヒルダ、吸血鬼が嫌がりそうな物って何だ? 吸血鬼と言えば日光? アイツ真夜中でも日傘指していたから多分光は苦手なんじゃないかな。アイツの趣味かもしれないが。あとは全体攻撃か……例えば炎? ヒルダに油撒いてそこから燃やす? 効くかもしれないけど、そんな隙があるのかどうか。

 

「……それで、何作っているんだ?」

 

 俺と雑談しながらもせっせと材木座は何か作成していた。

 

「うむ、前お主にワイヤー銃を作ったであろう?」

「ああ、あれな。色々助かってるよ」

「そのワイヤーを用いて何か近接武器を作成できないか試していてな。例えば、これ。ワイヤーの先端にナイフをくっつけて鞭みたいに震える中距離ナイフを開発したのだ。射程はおよそ5m。長すぎると、扱いが難しくてな」

「へぇ……。あまり使い心地はどうなんだ?」

 

 発送は面白い。近接武器だと足りない射程を伸ばせるのか。ただ俺は鞭は使ったことないな。要領が分かりにくい。

 

「お主のワイヤー銃と同じくスイッチでワイヤーを巻き取る機能があるのだが、攻撃に合わせてタイミング良く戻さなかったら自傷する恐れがあるのでな。鞭といってもゴムみたいにしなる素材ではなく、紐みたいに分厚いわけでもなく、基本糸なので思いの外実用性には乏しい。太くするにはコストがかかりすぎてな……。それに加えて、振っている最中にナイフの軌道がブレることも多々ある。これは失敗作だ」

 

 失敗作なのか。素人の俺からしたらいい感じにできているとは思うが。

 鞭の達人なら使える代物だと感じるが……。

 

「じゃあ、これは?」

 

 パッと見は何てことのなさそうなナイフを手に取る。特徴としてはそのナイフは金属でできていないことだ。かなり軽い。ただのプラスチックにしてはなんか丈夫だな。特殊なプラスチックだろうか?

 

「それか。簡単に言うなら、ヒートホークである。ナイフの刃の周りに何か覆っているであろう?」

「確かに」

「スイッチを入れると、その部分が熱くなり最大300℃は熱することができる。柄に熱を与えないなめに断熱性の高いプラスチックを使用しているが……これも実用性には乏しい」

「話聞く限り良さそうじゃないか」

「最大の問題点は稼働時間が1分とあまりにも短いことである。さすがに1分経ったらただのプラスチックの塊になるのでは戦闘には使えないであろう?」

「それは短すぎだな」

 

 そのくらいの熱量ならわりと何でも斬れそうだが、その稼働時間では無理があるな。

 

「ロスアラモスにはこれよりももっと素晴らしい最先端の科学があるのだが、今の我ではこの程度が限界である。というより、もしよしんば改良できたとしてもこれは簡単に人を殺せる。武偵が持つのにこんな武器ではダメだ。殺さずにもっと制圧しやすい武器でないと」

「……だな。手元狂ったら危なすぎる」

 

 ロスアラモスというと、材木座が夏休みに留学に行っていた場所だな。なにやはそこは科学がかなり進んでおり、兵器開発が盛んだとか。1人の男としてかなり憧れるというか、テンションが上がりそうな場所だが、あまり近寄りたくないな。人体実験してそうという勝手な偏見。

 

「この銃弾は?」

 

 見たところ俺の銃であるファイブセブンに使われている5.7x28mm弾だが。これ金属でできてなくない? 触ったところさっきのプラスチックみたいだが、こんなの撃ったら的に届く前に壊れそうだ。

 

「我特性の武偵弾だ」

 

 武偵弾――プロ武偵などに渡される特別な弾薬だな。数はかなりある。用途に合わせて使われることが多いな。閃光弾や炸裂弾とか色々。前に作ってもらった神経断裂弾だってある種の武偵弾だろう。

 

「その弾の中には極小の鉄球がおよそ50詰められている。そして、これを撃つと、15mほどの距離で弾け飛び散る――散弾のようなものだ。いやまあ、武偵弾には飛散弾があるのだが、自分でも作成したくなったと言うか……。なに、攻撃のバリエーションが増えるのは困ることでもないであろう?」

「で、サイズがこれってことは俺に?」

「うむ! お主は我のテストプレイヤーだからな。一応ベレッタでも撃ってみたが、やはり実戦の感想が欲しいのでな。……というわけで、3発渡しておく。もし使ったら簡単でいいのでレポートにしてメールを送っておいてくれ」

「了解」

「ちなみに如何せん試作品なので不発の可能性もあることを忘れないでほしい」

「……了解」

 

 一抹の不安が残る説明だったが、貰えるものは貰っておこう。武偵弾とか普通に買えば100万は超えるし。

 

「他には何か銃弾ある?」

「神経断裂弾なら5発あるぞ。これは作っていて楽しいな。……殺傷能力が高すぎるのが問題だが。あとは……これだな」

 

 さっきの強化プラスチックに何か入っているな。この形……銃弾というより、先が尖っている。注射みたいな。

 

「この弾自体に殺傷能力はない。撃たれても……まあ、チクッとするというかファイブセブンで撃っているからけっこう痛いだろうが、人に当たっても死ぬことはない。そして、この弾の中には筋弛緩剤が入っておる。当たれば体に注入される構造になっている。命中すればかなり動きを鈍らせることができるだろう」

「それまたスゴいな」

 

 素直にそう思う。

 材木座普通に武偵として有能なんだよな。平賀さんと並んで装備科で有名なだけはある。

 

「ただこの弾の有効射程は10mしかない。それを超えると弾の耐久性にいささか問題あるのでな……。さっきの散弾みたいに恐らく破裂する。強化プラスチックだけでなく、他にも色々と補強してあるが、そのラインが注入部分の限界でな。あとは武偵相手にはあまり効果が薄いであろう。基本防弾コートで体を隠しているからこんな弾当たっても筋弛緩剤が注入されるかどうか五分五分……ではなく、ほぼ不可能だろう」

「あー、確かにわざわざ肌晒す奴とかいないよな。武偵高の夏服とかそういう問題もあるから期間めっちゃ短いし。……女子相手なら基本アイツらスカートだし足狙えばいけるか? 例えば神崎とか」

「アリア殿なら普通に避けそうであるが」

「だな。あれに弾当てるとかけっこう無理難題だ」

 

 俺らの神崎の認識どうなっているんだか。

 それこそ化け物レベルかもしれない。実際問題、間違ってはいない。いやだって、戦闘能力だけで言えば神崎って普通に化け物じゃん。

 

「そういや、俺が依頼したやつできてるのか? なんか色々作ってるみたいだが」

「無論。ちょっと待っておれ。……あったあった。ほれ、これだ。名前はヴァイス。英語で悪という意味だな」

「いや、一応武偵ってどちらかと言えば正義よりじゃない?」

「こんな犯罪スレスレを平気でやる奴らに何を言うか」

 

 手渡されたのは棍棒だ。前の新幹線ジャックでなくしたからな。まあ、自分から手放しただけなんですけどね。回収しようと思えばできたかもしれんが、多分勢い余って線路の向こう側まで投げた気がするんだよな。

 で、これを機に案外棍棒スタイルが向いていると分かったので材木座に依頼したわけだ。

 

 長さは2m。これは3つに分割できる――ここまでは前と同じ。違う点と言えば、前回のが鉄だったのに対して、これはチタン合金のa型というものらしい。俺が『軽くて丈夫な金属がいい』と要望を出した。そして、造ってくれたのがこれ。前回のは中身が空洞だったが、今回はきちんと詰まっていて、重量もしっかりしている――――のに軽い。不思議な感覚だ。

 

「おお……」

 

 少しはがし振り回してもあまり重さを感じない。うん、いいなこれ。

 

 あとは落とさないように、持ちやすいようにグリップも付けてもらった。グリップは真ん中に付いている。これを組み換えることもできるのでリーチを変えること可能。色は夜戦に備えて黒に塗装。だからヴァイスなのか? 黒くしたことで……うん、逆に俺も棍棒のリーチが分からなくなりそうだが、そこは慣れるしかない。まあ、今回は前回より長く設定したしな。単純な重さもそうだが、重心も変わるから練習しつつ追々だな。

 

 詳しくないけど、どうやらチタンは加工しにくい素材らしいが、わりと無理言ってお願いしたので値段がめっさ高い。7万か……。今度は下手に投げないようにしよう。前回5000だったし、値段かなりつり上がったな。

 

「ありがとな。……うん、いい感じだ」

「八幡、お主なかなか似合っているな。先ほど振り回していたが、思いの外板に付いているぞ」

「そうか?」

「うむ。あれだな、あまり棍棒を使う人が少ないからか」

「けっこういいんだよな、棍棒って。制圧能力高くて。人間相手ならあまり武装してない股関節殴りやすいし。素人がめちゃくちゃに振り回すだけでもなかなか怖いし、オススメだぞ」

「股間とは容赦ないな……」

「武偵はやられる方が悪いんだよ」

「やはり悪ではないか」

「うっ……」

 

 実際制圧するときに長い武器あると便利なんですよね。近付かなくて済むので。

 と、材木座とダラダラ話しているけど、そろそろ昼休み終わってしまう。午後からは文化祭に向けて面倒なやつがある。

 

「戻るか。午後から変装食堂(リストランテ・マスケ)のやつあるだろ」

「あれか。武偵なら潜入捜査技術を一般人にアピールしろとか言われ、適当にこなすともれなく体罰が飛んでくるあれか。コスプレは好きだが、ここのは命懸けがすぎるのだ……」

 

 材木座の言った通り、俺ら2年が担当する食堂ではコスプレしてやらないといけない。そして、そのコスプレの役になりきらないと死ぬ可能性がある。簡単にまとめるならコスプレ喫茶といった感じ。

 

「無難やつがいいよな」

「全くだ」

「確か外れ枠で女装があったよな……戸塚引いてくれないかなぁ」

「恐らくそれクラス全員が思っていることであるぞ」

 

 欲望ダダ漏れなことを言いながら体育館に移動。

 

 蘭豹が発砲したり、綴はタバコを吸ってむせたり……ホントこの教師嫌だわ。

 チーム同士で待機と言われたので、材木座とは一旦別れてレキと合流。俺の何個か後ろにはバスカービルも控えている。前には戸塚のチームと材木座のチームがいる。アイツら何引くのかな。

 

 しばらく順番を待ちながらレキとボーッとしている。

 

「おや、八幡殿。ささっ、引いてくだされ引き直しは一度のみとなっているでござるよ」

 

 くじ引きの箱を持っているのは遠山の弟子の風魔だ。その呼び方、若干材木座と被るからややこしいんですよね。

 風魔とは遠山と同室の流れで何回か稽古をつけたことあるが、わりと真面目に忍術使って驚いたことが多々ある。変わり身の術って……。車に轢かれても無傷って君も人間止めてない?

 

「あ、レキ殿。女子の箱はこちらでござる」

 

 と、レキが引いたのは……魔法使い。……魔法使い? あ、速攻でくじ捨てた。ここにいる全員がコメントしにくかったから構わないですよ、ええ。

 次に引いたやつが確定になるが果たして――化学研究所職員。まあ、いいんじゃないか。

 

 俺の栄えある1枚目は…………エヴァパイロット。はいはい捨てるわ。なんだ、プラグスーツ着ろってか? マジのコスプレじゃないか。誰だこんなの入れたやつは。後で俺の新生棍棒のヴァイスで滅多打ちに叩いてやる。

 緊張の2枚目。これで確定だ。ましなの来い。これで女装とかきたら拳銃自殺する。教師に殺されるよりかはそちらの方が潔い。俺の女装なんて需要ないでしょうが。戸塚よ、引いたよね? 全校生徒が戸塚の女装を見たいと心より願っている。世界中が君を待っている。闇を照らせ光の戦士よ。

 もう体育館にいないから何引いたか分からないんだよな。

 

 …………なんだ、何が来た? チラッと覗く。…………探偵。

 

「……探偵?」

 

 くじの内容を疑いたくなるように思わず反芻する。

 いや、あのですね、武偵って武装探偵なんですけど。一応は探偵も本職なんですけど。いやね、探偵らしいことなんてしたことないですけどね? 基本物理で語る職業ですよ、武偵というものは。ていうか、これ入れた奴本格的にエヴァよりバカだろ。コスプレの意味ないじゃん。

 

「ふむ、八幡殿は探偵であるか。似合いそうであるな」

 

 うんうんとにこやかに頷く風魔。似合うも何も本職なんだってば。遠山も風魔のとこおバカさんって言っていたけど、天然かな。俺の周りに天然多いね。レキとかレキとかレキとか。

 

「蘭豹先生、これ別にこのままでもいいですかね?」

 

 企画倒れな感じがして強襲科教諭の蘭豹に話しかける。この人にはよく稽古に付き合ってもらっています。組む相手がいなくて最終的には先生と組むぼっち特有のあれなんですがね。毎回毎回死にかけてますよ。

 

「……これ入れた奴誰なんだよ、おい」

 

 と、これにはさすがに俺と同じように困った様子の蘭豹。だって既にコスプレしているからな。あ、こんな微妙な態度を見せるのはとてもレアですよ。

 

「まあ、テレビドラマとかにいる探偵でもコスプレしとけ。古畑とか湯川先生とか」

「いや、湯川先生は探偵と違いますよね? あれ本職物理学者だったような」

 

 夜は焼き肉ッショー! フッフー!

 

「せやなぁ。あたしは燃えるが好きだな」

「俺は落下るですね。特別編の。あれ面白かったです」

「それかー。分かるわー」

 

 俺と蘭豹で始まるガリレオ談義。あれもう多分10年以上前だよな。……時間の流れが早くて吐きそう。

 

「っと、後がつっかえているからお前らはこれで帰れ」

「分かりました。失礼します」

 

 挨拶してから俺とレキは体育館を去る。

 なんか蘭豹と話題が共通したのが幾ばくかの驚きがある。

 

体育館の外には材木座と戸塚がいた。

 

「あ、はちまーん! レキさんも!」

 

 戸塚の元気な呼びかけ……癒されるわぁ。武偵高の清涼剤だな。

 

「おつかれー。八幡何だった?」

「探偵」

「た、探偵……」

「お主……チョイスが微妙であるな」

 

 戸塚と材木座も表情が引きつっている。やはりこのチョイスおかしいだろ。蘭豹すらもおかしいと思うくらいだからな。

 

「材木座は?」

「我は珈琲店の店主である」

「なんつーか、似合いそうだな」

 

 喫茶店でエプロンかけて焙煎してそう。

 

「戸塚は?」

 

 訊ねてみたが……なんか気まずそうに視線外された。あまり自信なさそうに。

 

「お、女将さん……だよ」

 

 頬を赤くして恥ずかしそうに戸塚は告げる。

 

「それ、女装じゃなくて?」

「風魔さんが間違えて女子の箱を渡したみたいで……。僕男子の制服着ているんだけどなぁ。最初の1枚目がバレーボール選手で気付かなくて……。先生が引き直し認めてくれなくて。確認不足だ! てね」

「おお、そりゃドンマイ……」

 

 と、残念そうに言葉をかけるが、言葉の裏腹にテンションは上がっている。

 風魔、あの天然を発揮してくれてナイスだ。女将か。前に京都で会った女将さんみたいに和服を着るのだろう。見てみたいな。

 

「まあ、和服着る機会なんてそうそうないだろ。……女もんってのがあれだが別にいいんじゃねぇの」

「男子と女子の和服ってどう違うのかなぁ」

「……どうだろ、帯とかか? 腰の高さが違うような気がする」

「あとは仕立ても違いがあったような気がするぞ」

 

 和服ってレンタル代高そうだな。

 

「ていうか演じないといけないんだよな。材木座どうするの?」

「衣装も用意しつつしばらく色んな喫茶店に通うとする。戸塚殿は?」

「どうしよ……。星伽さん詳しそうだから教わりに行こうかな。そういえばレキさんは?」

「化学研究所職員です」

「それまた雰囲気ありそうであるな」

「うんうんっ。実際にいても違和感なさそうだね」

「それ褒めてるの?」

 

 なんて談笑しつつこの日は解散となった。

 

 

 

 

 

「死ね! 死ね! 死ね死ね死ねみんな死ね! 見たヤツみんな死ねば、無かったことになるんたわ! むぎいー!」

 

 直後に神崎のアニメ声が武偵高全体に響き渡ったとさ。

何を引いたのかあとで遠山に訊いたら、小学生だと。お似合いすぎて草生える。

 

 毎度のことながら安定のオチだな、アイツは。ついでに星伽さんも。

 

 

 

 

 

 

 




あらやだ、投稿するときとしないときの差が激しすぎるぞ?


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その選択は、きっと正しくないと分かっていても。

多分前回と振れ幅が大きいと思う





 変装食堂の衣装決めが終わって数日。

 

 特にこれといって何もなかった。何がと言うと、学園島に結界があるから眷属の奴らが攻めてくることはなかった。……いや、別に俺無所属だから狙われるとかあまりないんだが。それでも、眷属の奴らに標的にされてそうなのは事実だ。

 

 というわけで、放課後にて特訓期間だ。

 ここ数日SSRに籠っている。

 

 今日はSSRである星伽さんに超能力のことなど色々教わりながら学んでいる。セーラの説明はわりとアバウトだったが、星伽さんはわりと論理的――超能力に論理的とか置いておいて――分かりやすく、実のところ色金の力を少しずつ扱えるようになってきた。

 璃璃に話しかけてもマジでこれっぽっちも反応ないからな。勝手に俺の意識奪って暴れたくせして俺が求めたらだんまり。困ったもんだ。まるで昔のレキ――――ロボット・レキを見せられているようだ。

 

 そして、ヒルダのこと――いわゆる化け物や魔性の類、吸血鬼諸々についても教わってもらった。アイツはどうやら銀を使った代物に弱い。銀だけで殺せるかどうかと言われたら微妙だし、決め手にはならないかもしれない。しかし、弱体化は叶う。銀を使えば、恐らく魔臓の回復が遅れるだろう。そうすれば、あとはどうにかできる可能性がある。

 だから、星伽さんに頼んで純銀の5.7x28mm弾を購入。20発のマガジンを2つ、純銀がコーティングされている刀を1つ。……刀か。苦手なんだよな。刃渡りが長いモノを扱ったことは授業でしかなくて、蘭豹にめちゃくちゃダメ出しされたな。

 

 ただ――――これは予想だ。というより、ブラドがそうだったという経験、根拠からの予測だ。アイツは基本的にゴリ押し戦法だった。アイツの魔臓の回復力があるからこそできる戦い方。だからだ、だからブラドは近接戦闘が下手。動きはかなり読みやすい部類だった。しかし、他を寄せ付けないほどに強い。魔臓があるだけでブラドは強すぎる。

 それはきっと――――ヒルダも同じだ。多分魔臓頼りの戦闘になる。近接戦闘になったら俺に勝ち目がある。

 

 しかしまあ……。

 

「それだけじゃないんだよなぁ……」

「そうですね。ヒルダは『紫電の魔女』と呼ばれています。電気を操る魔女ですね。私は経験がないですが、彼女は電気を放ち、相手を帯電させるそうです。比企谷さんもよくスタンバトンを使うから分かると思いますが、電気をぶつけられたらしばらくは動けない、または気絶するでしょう」

 

 教師モードの星伽さんの授業。どうやら変装食堂でのくじは教師だったらしく、ここでも練習していると。

 

「じゃあ、それをどうやったら防げる?」

「どうでしょうね……。確か自分で電気を放てるそうですが、発電、自身の中の電池が足りなくなったら、どこからか補給する必要があるとのことです。私は力が足りなくなったら基本そこまですが、ヒルダは私や比企谷さんと違って他から補給できるので、補給さえできれば超能力をすぐに何度でも使えると思います」

 

 それは……ズルいな。俺だって烈風を使いすぎたら、正直全身が重くなって怠くなる。別に戦闘する分には問題ないんだが、超能力を空の状態で使おうとしたら全身が重くなる……みたいな感覚。俺の超能力の源であるMAXコーヒーを飲んでもすぐには使えない。空っぽになったらしばらくはそれまでだ。

 

「その補給って何だろうか。モバイルバッテリー?」

「近いと思いますが……。そこまては詳しくないですね。最悪、理子ちゃんに聞けば分かると思」

「――――それはダメだ。アイツには知られたくない。知られたら意味ないんだ。理子は近くにヒルダがいることを知らない。だから終わらせるんだ。理子が心から幸せに暮らせるように……俺がやらないと意味がない」

 

 これはただの俺のワガママ。理子の依頼の継続を理子が関与しない形で終わらせる。勝手に独りで戦って、勝手に独りで傷付いて、勝手に独りで終わらせても、理子は納得しないかもしれない。それでも、やるんだ。依頼の取りこぼしがあったら誰にもバレないように片付ける。1人の武偵として。

 何も知らなくていい、知ってほしくない。アイツに曇っている顔は似合わない。女の子は笑顔が一番だ。その笑顔をもう一度俺が守る。ヒルダを見て、理子は絶対いい気はしない。心のどこか深い傷の瘡蓋を剥がしてしまう。……誰がそんなの許すか。理子は自由にならなければいけない。

 

 もう二度と理子を四世とは呼ばせない。

 

「――――」

 

 ……なんて唯我独尊、なんて醜いエゴイズムだろうか。だか、それでいい。

 

「だから、黙っておいてくれ。……悪いな。もしバレても責められないようなこれは俺の依頼ってことにしてくれたらいい。俺と星伽さんは共犯じゃない。まあ、報酬は……後で考える。何か希望があったら教えてくれたら、その、助かる」

「……分かりました。無理はしないでくださいね」

「俺が無理をすると思うか? 基本出不精の、口を開けば専業主夫になりたいって言っている俺だぞ?」

 

 伏し目がちに小さい声で忠告される。笑顔なのが余計に……。わざとふざけた口調で答えるが……嫌でも心配されているのが分かる。

 

 遠山じゃなくて、俺も心配されるくらいにはこの人と関係を築けていると自惚れていいのだろうか。ならば、こんな俺に帰りを待つ人が少しでもいるのだと――――どこまでも自惚れよう。

 そうやって、馬鹿みたいに自惚れることができるなら――――――――俺はきっと死なない。

 

 

 

「…………はぁ」

 

 その後、しばらく星伽さんと話してからSSR棟を離れることにした。ここは黒魔術とかあって恐ろしいな。あまり近寄りたくないな。どこか呪われそうだ。

 

「…………」

 

 帰路に着く途中、歩きながら思考を巡らせる。

  

 不安はある。

 

 情報は仕入れた。

 準備もした。

 体調も回復した。

 鈍った体を叩き起こした。

 ブラドと戦ったときより万全以上だ。

 

 ――――それでも、足りない気がしてならない。本当に勝機はあるのか。どこか足りない。当たり前だ。本当にこれで全部か? 俺は相手を完全に理解できたか? それは否だ。相手を全て知ることはできない。できたら何も苦労などしない。俺だって俺の全てを理解できているとは限らない。しかし、俺に見えない部分は、きっと誰かが視ている。

 

 だからこそだ。誰だって、自分を全て理解できない。俺もヒルダも。だからこそ、ヒルダの見えていない部分はきっと俺が戦えば見付けることができる。だが、所詮それはその人の表面しか見ていない、ただの分かった振りだ。ならば、俺は分かった振りを押し通して――――俺は勝つ。

 

 

 

「おお、お帰り」

「ただいま」

 

 部屋に戻ってら遠山がいた。先に帰ってたか。って、どこかに出かけるみたいだな。

 

「俺今日、武藤たちと飯食いに行くんだが、お前も来るか?」

「お前……ここから出る気か?」

「学園島の中でだよ。さすがに俺も状況くらい分かっている。眷属の奴らに狙われたくないからな。どうする?」

「いや、俺はいいよ。家でダラダラしておく」

「分かった。そろそろ行くから」

「……おう、早く帰れよ。寝坊しても起こさないぞ」

「はいはい」

 

 苦笑したまま遠山は部屋から出ていった。時刻は夕方の6時。戦うなら夜がいい。

 

 武装するか。残念ながらヴァイス……ニュー棍棒は今日はお預けだな。ぶっつけ本番ではまだ使いこなせない上に、今回は他にも武器が多い。ヴァイスも含めるなら重量オーバーだ。スタンバトンもいらないな。ヒルダには効果が薄いだろう。

 

「…………」

 

 さてここで問題です。俺はヒルダの居場所を知りません。だとすると、俺はどうやってヒルダをおびき寄せるでしょうか?

 答えは簡単。ただそこにいるだけでいい。ああいう人間じゃない奴らには誰がどこにいるか感知できる力がある。玉藻もできた。ならヒルダもできる。それに、俺はアイツの恨みを沢山買っているんでな。

 

 ヒルダは今ここには入れない。ゲームで例えると恐らくかなりのデバフがかかってしまう。いわゆるアウェーすぎる空間だ。あんな傲慢な性格の奴はそんなところで動かない。

 だから、俺が囮になるしかない。俺が自らアウェーに飛び込んだら、ヒルダはそれに反応する。アイツはそれを受け入れる。復讐するまたとない機会を逃さないはずだ。ほんの少ししか話していないが、アイツはそういう存在だろう。

 

 腹八分目で抑え、MAXコーヒーをたくさん飲み、ベッドでジッと時が流れるのを待つ。

 

 1時間、2時間……3時間……4時間…………5時間。

 

「――――……行くか」

 

 誰に伝えるでもなく、俺の呟きは触れられることなく消える。

 

 どこに行くのかだが、戦うにはおあつらえ向きの場所があるんでな。バイクに股がり発進させる。

 深夜は車が少なく、走りやすい。スピードを出しすぎないように走る。そうやってしばらくしたら目的地に着いた。

 

「……まだ折れてやがるな」

 

 綺麗に折れ曲がった電柱を見て、思わず呟く。

 

 ここは横浜ランドマークタワーの屋上――――ブラドが死んだ場所だ。

 

 わざわざ直すの面倒なのか、直すための費用がないのか数ヵ月前に戦った跡が残っている。随分とまあ、懐かしいな。ここで俺は死にかけて、でも勝って……それでも負けてしまった複雑な場所だ。色金がいなかったらあのまま俺の命は散っていただろう。

もうそんな奇跡には頼らない。今度こそ実力で俺は帰る。

 

「……それに加えて」

 

 ヒルダと戦うにはここほどピッタリな場所はないだろう。

 俺にとっては父娘共々屠る場所。ヒルダにとっては自身の復讐を果たせる場所。良いロケーションだ。風情は……あるかどうかは神のみぞ知るって感じだが、俺は良いと思うな。

 

 こういうの、最高に気分が上がる。……新幹線のときも感じたが、大分この世界に染まってきたな。去年の、中学の頃の俺と今の武偵の俺――――本当に同一人物か? 疑いたくなってしまう。

 

「――――」

 

 10分ほどその場に立ち、屋上から街をひたすら眺める。人の行き来はもう深夜もいいとこ、日も変わる時間帯だ。当然少ない。それに誰が誰だとか判断つかないくらい高い場所に俺はいる。

 

 そして――――そのときがやって来る。

 

「――――ッ」

 

 ジジジッ……と電灯が不自然に点滅する。

 

 同時に――――ここに誰かがいる。センサーには反応がない。でも、分かる。何度か経験してきた異質な空気。それが肌に直に刺さる。

 

 そう思ったら、近くの電柱の影が蠢く。それは影そのモノがただただ生きているかのように。

 

「待っていたぞ、ヒルダ」

 

 電柱を見上げる。

 

「イレギュラー、まさかのこのこと無様に現れるとはね。驚きだわ。その浅はかな偉そうな台詞、私こそが言うべきではなくて?」

 

 宣戦会議と同じゴスロリをモチーフとしたドレスを身に纏い、俺をゴミのように、虫けらかの如く見下ろすヒルダが佇んでいた。

 

「まさか。そんな訳ないだろ。何せ、俺の方が超偉いからな。お前程度よりか遥かに」

 

 鼻で笑う。

 

 見下されながらも内心俺も見下す。見下されるのには慣れてるが、ここは俺も盛大に見下すとするよ。見上げている形だが。だって、俺の方が断然偉いからな。人を見下すことしかできない奴なんかよりかは……圧倒的にな。

 

「減らず口を。後悔しないようにしなさいな」

 

 同じく鼻で笑われる。

 

「安心しとけ、そんなくっっっだらないことする時間があるくらいなら、わいわい楽しくゲームするから。…………1人だけど」

「何その悲しい台詞は。友達くらい作りなさいな」

「ゲームは1人の方がそりゃ圧倒的に効率良いからな。自分のペースで進められるし。俺は一生ソロプレイヤーだ」

「へぇ……。そうかそうか。イレギュラー、それはつまり――――この場に置いても?」

「察しが良くて助かるよ」

 

 刀を抜き、銃を抜く。

 対するヒルダはフリフリッとした傘を肩にかけつつ微笑を浮かべたまま。

 

「一族を貶めた輩を赦すつもりなど私にはなくてよ。お父様の仇――――獲らせてもらうわ」

 

 ただただ俺に横柄な、傲慢な態度を見せ、俺を低い存在としか思っていなく俺程度そこいらの蟻にしか視てないだろう。ハッ、お前は象のつもりか?

 

 その悪魔の如き笑顔――――完璧に崩してやるよ。

 

「残業……開始だ」

 

 

 

 





え、これいいの? ワトソンまだ出てきてないんだけど!?
まあ、なるようになれ精神です。次回戦闘シーンなのでまた期間が空くと思われます。大学の授業も始まりましたので



それはそうと、自分にはわりと昔から疑問があります。あ、とてもどうでもいい話なのでスルーして大丈夫です。
で、その疑問なんですが、戸塚やアストルフォ、渚といった男の娘キャラ(公式)っているじゃないですか。どうして総じてcvが女性声優なのでしょうか。
そろそろcv杉田智和さんや子安武人さん、内田雄馬さんといった男の娘キャラがいてもいいと思うんです。だって、性別は男なんですから。ねえ?
以上、わりとマジでどうでもいい疑問でした。一度言ってみたかっただけですのでお気になさらず。


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それでも、この結末は俺の――――

 今からどう動く……? 一筋縄ではいかない相手だからな。

 

「っと……」

 

 そういや天気は悪いなぁ。台風は来てないが、一時荒れそうな天気だな。予報で雷も鳴るとかなんとか。いや、それは東京の天気で横浜がどうかは知らないけど。別にそこまで差はないか。あ、台風はあと1週間くらいで来るはずだな。

 

 天気は別にいいか。よし、俺からまず先制攻撃を仕掛けるとして……とりあえず一旦刀は閉まおうか。よし、コートの内側から手榴弾を取り出す。で、距離を取りつつピンを抜き、牽制目的でヒルダの目の前1mで爆発するように投げる。

 

 ドゴオォォン――! と景気良く爆発するが、煙が晴れていなくても分かる。そりゃあからさまな攻撃だし簡単に避けるよな。むしろこの程度直撃したら武偵高では生きていけない。

 っと、姿が見えないな。これはお得意の影に逃げたか。辺りは暗くてどこにいるのか分かりにくいが、明かりがある場所は限られている。そこを注視すれば見分けられるはず。

 

「チッ……」

 

 不味い、電柱からこっちの影に移ってくる。もうかなり距離を詰められた。ヒルダが攻撃するならその手段は――――電気。

 

「くっ――!」

 

 飛翔で数m飛び上がる。と同時に、バリィィッッ! と床が光る。思いきり電気流れたな。

 当たり前だが、電気を目視できる分、俺のスタンバトン(違法改造)よりかなり高い出力だ。危ない危ない。それなりに電気の対策はしてきたとは言え、これはなるべく喰らいたくないな。

 範囲はヒルダを中心におおよそ6m半。その間合いを保てば喰らうことはないか?

 

 影からヒルダが出てくるので、空中からファイブセブンをフルオートにしてマガジン分全弾発射。それこそ頭や心臓といった急所へ。普通の人間なら死ぬくらい弾丸を浴びせた。空中のせいで多少照準がブレたとしても、20発中16発くらいは全身に当たったが…………。

 

「ったく、面倒だな……」

 

 分かっていたが、魔臓のせいですぐに傷は塞がった。久しぶりに魔臓の効果を目にしたよ。ホントこれ嫌になってくるな。アイツにボコボコにされたトラウマが鮮明に蘇る。うわ、もう完治している。傷の治りが早すぎるぞ。

 改めて確認した。やはり吸血鬼相手に通常の弾丸だと効果ないよな。人間相手ならこれでもう武偵法9条なんてとっくに破ってるのに。

 

 それはそうと、ヒルダの着ているドレスにも何ヵ所か撃ったせいで、それなりに破けてしまっている。見てくれは美人だからかぶっちゃけかなり目に悪い。目に毒だ。あ、その高そうなドレス破いちゃってごめんね?

 

「……っ!」

 

 見付けた。ドレスが破けたところから魔臓が確認できる。左右の太ももに2箇所。魔臓を4箇所撃ち抜けばヒルダを倒せる。残り2つはどこにある?

 

 まあ、見付けたところで同時に撃つとか無理なんだよな。神経断裂弾は警戒されているだろうし、そう簡単には撃てない。というより、そもそも残り2箇所が分からないと神経断裂弾は撃てないんだよな。あれは魔臓周りの神経を完全に破壊して回復を少しの間に送らせるものだ。単発で撃っても正直微妙だ。ハァ……困った困った。

 

 ヒルダは着地した俺の目を見て話しかけてくる。優雅な態度で。会話を始めるのか?

 

「まさかお父様がこんなちっぽけな存在に殺られるとは思ってもいなかったわ」

「まあ、俺でも驚きだな。あ、あれ厳密に言うと、最終的に殺したの俺じゃないからな」

「ふぅん。と言っても、お父様がパトラの呪いで暴走する段階まで追い詰めたのは貴方でしょう? ところでお父様の敗因は分かるかしら?」

「あ? んなのただ慢心しただけだろ」

「……そうね。そうなるわね。でも、仕方ないんじゃない? 慢心もしたくなるわ。だって、イレギュラーじゃ私に勝てないからね」

「お前も慢心か? 親子揃って救いようがねぇな。これで俺が勝ったら揃いも揃って恥掻きまくりだぞ」

「吠えるわね。お前から忌まわしい銀の匂いがするということは、それなりに準備してきたんだろうけれど……残念。お父様と違って私は万全だから――お前に負ける道理はないわ。ほら、何か気付くことはないかしら?」

「…………ッ」

 

 ここでヒルダに言われて気付く。マジかよ、これはヤバい。 

 

 ――――俺の体が全く動かない。

 

 何だこれ何だこれ……!?

 口は動くが、体がさっぱり言うことをも聞かない。超能力(ステルス)? 超能力にしても一体何だ?

 これは金縛り? それとも催眠術? それらをひっくるめて恐らく呪いの類か。多分だけど、さっきの状況を鑑みると、発動条件はヒルダと目を合わせることか。クッソ、しくじった。俺の警戒不足だ。電気だけではなかったのか。

 

「ほほほっ、随分とノロマね。今さら気付くなんて……あなたこそ救いようがなくて? どうやってお前を殺そうかしら。ああっ、その私を睨み付ける姿……フィー・ブッコロス」

 

 ゆっくりと、歩を進めこちらに近付いてくるヒルダ。対する俺は動けない体たらく。

 確かに俺はノロマだな。異変に気付くのにかなり時間がかかった。遅すぎなくらいだ。誰が相手でもこれは圧倒的な隙だ。普通ならここで俺は死ぬ。しかし、頭は動く。考えることはできる。

 

 そして、今まで何度も使ってきたこの感覚は――――失っていない。

 

「おい、ヒルダ。まさか忘れたのか?」

「あら、何を?」

「俺がお前と同じ魔女――――『颱風(かぜ)の魔女』と同じ力を使えることに」

 

 颱風の魔女、セーラ。ロビン・フッドを先祖に持つ少女。俺の超能力の師匠にあたる人物である。彼女は超能力で風を自在に操り、その風で矢を目標まで飛ばす。単純な腕の高さもあり、なんと弓矢の射程はレキに匹敵するほどの腕の持ち主。というより、セーラの射程は限界がない。また風を用いて空を飛んだり、嵐さえも起こすことができる魔女。

 彼女には及ばないが、その力の一端を俺は使える。これは普段は武偵法を守るために抑えているが、回復能力の高いヒルダには遠慮なく使える!

 

「――――鎌鼬!」

 

 俺は風の斬撃をヒルダの顔面に喰らわせる。顔面の中でも――眼に向けて。

 

「きゃっ……!」

 

 諸に当たった。鎌鼬は不可視の斬撃。人程度なら簡単に斬れる威力だ。あ、星伽さんみたいに新幹線を斬るのは無理ですよ? おまけに今は夜。完璧に避けるのはそれこそ難しい。猛妹のときと違って、牽制目的ではなく明確な意思を持っての攻撃だ。

 

 ……よし、動ける。ヒルダの視線からどうにか外れたから体の自由は元に戻った。

 

 それはそうと、どう動く? ヒルダが金縛り関係の能力を持っているとなると、目を開くのは危険だ。ただ、敵を見ずに倒せるとは思えない。俺には回りの位置を測れるセンサーがあるにはあるが、センサーの範囲の半径は4m。加えて、ヒルダの電撃攻撃は6m半。もしかしたらもっと射程のある攻撃が可能な場合があるかもしれない。完全に分が悪い。

 目を瞑って戦おうかと考えたが、それは俺が不利になるだけ。もうちょいヒルダの電撃の範囲が狭ければそれでいこうと思ったんだけどな。ていうか、対策はしているにしても電撃喰らっても動けなくなるよな。加えて魔臓。改めて確認すると、かなりの高スペックな奴だな。

 

 だったら――――

 

「これだな」

 

 改めて純銀がコーティングされている刀を抜く。ファイブセブンのマガジンも純銀製の銃弾に変更する。対ヒルダ用の武装。俺がこれらを持っているのはバレていたが、嫌悪感を示していたことからやはりこれは有効な手段なのだろう。

 一剣一銃。苦手なスタイルだが、ここまで来たらやるしかない。

 

 そして、ヒルダと目を合わせないように立ち回る必要がある。はい、現状確認は終わり。ヒルダも鎌鼬で付けた傷が治っている。攻撃再開だ。

 

 距離が空いているので、走りながら詰めつつその間に牽制で鎌鼬を連発する。眼と足を中心に狙って。ただ走りながらだと集中が散漫になり威力はお粗末だ。さっきほど深く斬れない。ちょっと切り傷をつける程度の威力になる。

 そんなのヒルダにとっては文字通りのかすり傷。いや、かすり傷にすらならないだろう。しかし、それで充分。その間に催眠術と電撃を防ぐことはできたから。

 

 近距離でファイブセブンで3発セミオートで銀弾を放つ。撃ったら飛翔でヒルダの頭上まで飛び上がり刀を振り下ろす。ヒルダの背中に生えている翼の付け根に向かって。

 

 銀の銃弾――法化銀弾(ホーリー)はヒルダの肩、胸、腕に命中する。

 

「アアッ――――!」

 

 ヒルダの甲高い悲鳴と共に、撃ったそばから不自然な程大きく痕が広がっていく。酸で溶かされたかのように。なるほど、銀を喰らうとそういう感じになるのか。確かにこれは弱点だな。

 刀の方は狙いから逸れて右翼の半分くらいしか斬れていない。ただこちらと斬った痕がボロボロ崩れる。そう簡単には回復しないみたいだ。

 

「やっぱ銀が苦手みたいだな。どんどん行くぞ」

「イレギュラー……!」

 

 ヒルダは振り向きざまに影から槍――三叉槍を取り出す。その槍を真上にいる俺に向かって突き出してくるが。

 

「遅い!」

 

 近接戦闘に慣れていなさすぎだ。やはりヒルダは魔臓に頼りきりの戦闘しかしてこなかったのだろう。

 俺はヒルダの持ち手を蹴りつつ飛翔で今度もヒルダの真後ろへ飛ぶ。真上を通り過ぎる瞬間に1発銀弾を撃つ。着地後すぐに刀で右翼の付け根から斬る――――というよりひたすら力任せに千切る。

 その流れで背中を蹴飛ばしながら、ファイブセブンをフルオートにしてマガジンに残っている銀弾全弾ぶち込む。……残り銀弾20発。すぐさまマガジンを交換する。

 

「キャアアア――――!!」

 

 対するヒルダにはダメージ大。ヒルダの体のいたる所に穴が空き、その穴の回復は格段に遅い。見るからに弱っている。

 

 イケる。かなり効いているな。ヒルダは確実に弱体化している。このまま進めば勝てるかもしれない。しかし、問題は最終的にどう仕留めるかだ。時間をかけすぎたらいずれ回復してしまう。銀弾の残りも少ない。やはり魔臓をどうにかしないといけないのか。

 …………いや、恐らくそれは無理だ。ヒルダは両腿の魔臓を隠そうともしない。ブラドは魔臓を隠そうとしたが、アイツは微塵もその動作を見せない。堂々としすぎている。予想だが、魔臓の位置に対してブラフを張っているな。ここまで見せないとなると、魔臓の本当の位置はヒルダも知らないのかもしれない。

 

「――――」

 

 もし俺の予想が本当だとしたら、魔臓なんて正確に狙えるわけがない。外れていることを祈るけど、そもそも残りがまだ見付からないんだよ。

 

 とりあえず追撃をするために距離を詰めるが。

 

「イレギュラー……貴様アアッ!!」

 

 何だ? ヒルダが何かを作成している……電気の球? それも野球ボールほどの大きさからバレーボールほどの大きさに変化している。

 

「喰らいなさい」

「チッ!」

 

 見た目はボロボロになりながらもヒルダはその電気の球を俺に投げつける。咄嗟に横へ回避するが、完全には避けきれず右足に被弾する。

 

「くっ……」

 

 気を付けていたのにヒルダの電撃を喰らってしまった。

 

 これ思っている以上に痺れるぞ。なかなかにヤバい。動きがかなり制限される。ヒルダの電撃の対策として、今はイ・ウーから貰った黒コートの中にインナーをゴム製にして着込んでいる。少しくらいならマシになるかと考えたが、ぶっちゃけあまり効果ないな。いやまあ、帯電状態で気絶するよりまだ動けるだけマシか。

 

「小癪にも避けたわね……」

「まあな。お前もボロボロだろうが。……そうだ、お前って腕や足斬られれば治るのか」

 

 ヒルダも回復のための時間がほしいからか、俺の時間稼ぎの会話に乗ってくる。

 

「さあね。試したことないのだれけど」

「じゃあ……首を飛ばせば死ぬのか?」

 

 別にこの刀では斬れないんだけどね。漫画やアニメでよく首が飛ぶ(物理)のシーンがあるけど、それを実際に再現するのはかなり難しい。人間の首というのは骨がかなり密接している部分でもある。だから少しでも角度が狂えば刃は首の骨に引っ掛かり、綺麗に首を飛ばすなんてできっこない。そう考えれば昔打ち首やら介錯やらあったらしいが、あれ綺麗に斬れる人間ってのはスゴいな。

 

 あ、鎌鼬ならワンチャン斬れるか。でも、使用回数も少ないしさすがに厳しいかな。ただ今はできるだけ超能力の使用は抑えないといけない。とりあえずは飛翔だけに留めないとな。

 

「……そうね。首を斬られるなんて事態はまず起きないけれど、死ぬことはないんじゃない? 斬られてもすぐくっ付くでしょうねぇ」

「期待外れの回答どうも……」

 

 まだ足は微妙に動かない。もうちょい稼がないと。

 

「それにしても……大したものね。私にここまでのダメージを負わせるとは」

「大したこと? よくもまあ、そんなボロボロの姿で……。全然そんなことないな。だって、お前強くないじゃん。お前めちゃくちゃ弱いし、お前と比べるなら神崎たちの方が断然強いな」

「減らず口を何度も喚くわね。――――4世の方が従順で可愛らしいわよ」

「……アイツをその名前で呼ぶんじゃねぇよ」

 

 その言葉に腹が立つ。アイツの名前は峰理子だ。4世などという名前ではない。それを聞くだけでどこか苛立たしさを覚える。

間抜けか。俺が煽られてどうする。怒るな。落ち着け。感情を制御しろ。俺は過去にどす黒い感情に支配され、間違いを犯しそうになったことがある。何回も同じ轍を踏むわけにはいかない。

 まだこの世界に飛び込んでそこまでの時間は経ってないが、それでも俺は1人の武偵だ。ならば平静を保て。

 

 

 ――――そして、目の前の敵に勝って証明しろ。俺は武偵だと。

 

 

 俺の足も少しは回復したのでもう一度ヒルダを斬りにかかる。まだヒルダは銀が効いているのか回復しきれてない。本当にゆっくりとしたスピードだ。

 ヒルダはまたさっきと同じ電気の球を繰り出そうとするが、そこから斬るのを中止して一旦距離を取る。下がりながら1発銀弾を魔臓のある左腿に撃ち、ヒルダの集中を乱しバランスが崩れたのを見てからまた頭上を飛ぶ。

 

「う……らっ!」

 

 空中で姿勢を制御して、烈風を用いてできる限り勢いをつけたかかと落としをヒルダの脳天へ直撃させる。どんな外傷は一瞬で治せても衝撃は残ったままだろう。

 

 今度はかかと落としをしてからすぐにヒルダの目の前に立ち、刀を上に放り投げ構えを取る。

 狙うは人間の横隔膜に当たる位置。心臓を無理やり掌底で止めてしまう殺人技――――羅刹を喰らわせる。

 

 だがあれは殺人技。人に使えば効果がある。吸血鬼と人間では内蔵の位置も当然違う。だから心臓を止めることなどできない。ただ今のヒルダは散々銀の攻撃をしたおかげで弱っている。だからこその追撃だ。少しでもアイツに恐怖を与えてやるよ。

 

 ――――俺には勝てないと、そう思わせる。

 

 落ちてきた刀を手に取りひたすら斬りつける。

 

 超能力を使うには少しでも集中する時間が必要だ。あの公式チートみたいなシャーロックだって使うのにほんの一瞬の溜めは存在するんだ。

 そして、ヒルダの超能力は強力すぎる。あの電撃をマトモに喰らえば俺なんて一瞬でダウンだな。そんなの普通に考えれば無理ゲーすぎる。だからこそ、使わせてはいけない。弱点である銀の刀で斬りつけることによって、ヒルダの集中力をどうにか削ぎ、できるだけ超能力を使わせないようにする。必殺技は使わせないに限るな。

 

 ……手足くらい斬ろうかと思ったが、俺の技術では手足をスパッと斬ることはできない。今まで刀とか使ってこなかったからな。せいぜい切り傷を深くつくれる程度の腕前しかない。しかし、ゴリ押しが効く部分もある。

 

「アアアッ――――!!」

 

 ヒルダの左翼を斬りながらムリヤリ引きちぎる。

 近接戦闘が苦手であり、ここまで弱らせたヒルダの動きはとても直線的で読みやすい。今の状態なら一色や留美ですら捌けるだろう。

 攻撃の手は止めない。もっともっと追いつめる。

 

「おら、どうした? 羽根がないコウモリはただのネズミみたいだな! 地を這う薄汚いネズミ風情だ!」

「こんの……っ!」

 

 ヒルダの腹を蹴り、バックステップしながら巻き込まれないように残1発の手榴弾を顔に投げつけると、またもや綺麗に爆発する。着弾と同時に銀弾を爆煙で見えないが、ヒルダの目に当たる部分を予想付けて撃つ。

 …………ダメだな。一応は当たったけど、目には当たってない。恐らく頬辺りを掠っただけだ。ミスったな。わざわざ貴重な弾を無駄にしてしまった。どうせなら足を狙えば良かったな。

 

 手榴弾はもうなし。銀弾は残り10数発。今回持ってきた他の武装は煙幕や閃光を複数と妨害ばかり。刀はあるが、ダメージを与えるには心許なくなってきたな。

 

 まあいい。次は煙幕だ。煙幕の入っている筒を投げつけ辺りを煙で満たす。特に有害な物質はなく、視界が遮られる程度のものだ。幸いにも今は無風だから丁度いい。若干天気も弱まっている。俺も烈風は使わずにセンサーでヒルダの位置を図る。

できれば刀で刺したいところだけど、感電の可能性があるから斬る程度で抑えている。

 攻撃が来ないようにヒット&アウェイで離れて攻撃している。近付けば刀で斬り、離れれば弾を撃ち、煙幕を巻いてからそれらの行動を繰り返している。煙が張れればまた煙筒を投げ姿をくらます。足音と気配を消しながらまた何度も攻撃をする。

 

「――――」

 

 風が強くなり煙幕も張れ、煙筒も銀弾も使い果たしたら――――最後の仕上げだ。

 

 油の入っているビンを投げつけ、普通の銃弾でビンを割り、ヒルダにの体全体に油をかける。

 

「この匂い……油?」

 

 服も体も何もかもがボロボロのヒルダが満身創痍の状態でそう呟くと同時にライターをヒルダに放り投げる。

 

「……燃えろ」

 

 ……こんなにも斬って撃って一般人なら余裕で10回は死んでそうな攻撃を与えたのにどうしてまだ生きているんだ。吸血鬼の生命力はマジで化け物だな……。正直こっちも今まで動きまくってかなりしんどいんだぞ。

 

 で、ライターはヒルダにぶつかり――――ゴオォォォォッ!! と油を纏っているヒルダは盛大に燃え上がった。材木座と話しつつ思い付いたこの戦法……通じるかどうか。これでミスったらわりとそろそろ万策尽きるんだがな。

 ここまで弱らせたからには魔臓の回復も遅れると考え、ここで一気に燃やし尽くせば倒せるかもしれないと思った。どこにあるか分からない魔臓もこの炎で同時に全て燃やせたら俺の勝ちだ。

 

 頼むからこれで決まってく…………れ…………ん? なんだ? この違和感……?

 

「…………ッ!?」

 

 さっきまで銀の攻撃で悲鳴を頻繁にあげていたヒルダは黙っている? まさかそんな簡単に死んだわけではあるまい。どういうことだ?

 

「――――ッ」

 

 全身が燃えており、表情は分からないが確実にこちらを笑い歩きながら――――ヒルダは落ちている三叉槍を拾い上げる。今さらそれで抵抗するつもりなのか?

 

「まさか私がここまで追いつめられるとはね。本当に驚き。そうね、貴方にはそれに免じて特別な私を見せてあげる」

 

 三叉槍を天に掲げ避雷針にした彼女は――――

 

 ガガァ――――――――ンッッッッ!!

 

 激しい雷を呼び寄せる。

 

「うっ……」

 

 あまりの眩しさに咄嗟に目を瞑り、再び目を開けると。

 

「……傷が、治っている?」

 

 翼も生え、傷は跡形もなく修復されている。

 銀の攻撃を喰らって、全身を燃やされていたのに、どうして回復している?

 

「生まれて3度目だわ。第3態(テルツア)になるのは」

 

 ヒルダは心地よさそうに嗤う。……こちらを見下しながら嗤う。

 彼女の全身を覆う電光は青白く、激しく、もし触れてしまったら瞬時に焼かれ焦がされるだろう。俺がボロボロにした服はもうほぼ残っていない。恐らく耐電仕様の下着とハイヒール、蜘蛛の巣柄のタイツは残っている。彼女がくくっていたリボンは燃えて無くなり――――長い巻き毛の金髪は強風で暴れている。

 

「お父様はパトラに呪われ、第3態になる機会もない間に、お前程度に殺された。私は体が醜く膨れる第2態(セコンデイ)は嫌いだから、それを飛ばして第3態にならせてもらったわ。さぁ――――一緒に遊びましょ?」

 

 ブラドのあの獣のような姿よりもう1つ上の姿があったのか。そういや、パトラもそんなこと言っていたような覚えがあるような……ないような。

 

 帯電しているヒルダは槍や体のあちこちからバチバチと蒼いイナズマを踊らせる。

 三叉槍を振り回し、周りにあった電柱を力任せに折る。……おいおい、なんて馬鹿力なんだ。この姿は筋力も上がるのか。適当に振り回してもこの威力……近付くは厳しいな。ていうか、今帯電しているヒルダに近接戦闘を仕掛けるのは無理だな。こっちがやられる。

 

「くっそ……」

 

 やらかした。どうやら姿を変えてムリヤリ回復したらしい。炎だけでは表面にしかダメージを与えることしかできやかったってことか。マジでしくじった。ここまで追いつめたのにな。

 

「この姿は帯電能力と魔臓による無限回復力を以て為す、私たち一族の奇跡。ここまで私を痛め付けたお前をゆっくりと……ゆっくりと殺そうとしたけど、ごめんなさいね? 今お前に触れると一瞬で焦がしてしまうからできないの。それにお前、もう忌まわしき銀弾はないのでしょ? あとはその刀だけ。それで私に勝てるわけない。命乞いでもしてみたら私の気が変わるかもしれないわよ」

 

 ヒルダの言う通りもう銀の武器は刀しかない。銀も今のコイツに通じるか怪しいところだ。万事休すってところか。このままいくと為す術もなくヒルダに殺されるだろう。命乞いしたところでこんな性格の奴が俺を見逃すとは思えない。このままいけば俺は死ぬ。

 

 ――――俺が普通の人間なら。

 

「ヒルダ、魔女の……お前への対策がこれだけかと思ったか?」

「あらあら、まだ何かあるというの?」

「まあな、ありがたく思えよ。とっておきがあるぜ。できれば最後まで隠しておきたいが……ここまで来たら仕方ない」

 

 それだけ言うと――――俺の周辺には一辺30cmほどの大きさである立方体が10個突如として現れる。それは深い深い黒色。まるで何にも染まることのない影かのように真っ黒な物体。

 

「……ッ。それはまさか――」

 

 神崎の殻金を外したヒルダはこれを知っているらしく、その顔には先ほどの余裕の笑みと違い驚愕の色を見せる。

 

「それは……色金の力!?」

「ご名答。名前は何だっけな……そうそう、次次元六面(テトラデイメンシオ)だったか。星伽さんに教えてもらったな」

 

 かつて璃璃がブラドに対し使用した色金の力の一種。

 その特性はこの黒い立方体が削った箇所はなくならない。――つまり次次元六面の中にある物体は存在し続ける。

 例えばこの立方体に向けて銃弾を放ったとしよう。銃弾はこの立方体に吸い込まれるが、その中では銃弾は動いているままだ。そして、その中にある銃弾を外に出し攻撃することもできる。

 

 使えるようになったのは最近だがな。実のところレーザービームも使えるが……あれは燃費が悪すぎる。1回使ってしまったらもうその日は超能力を使えない。実際問題、カジノでレーザービームを使ったときは気絶したしな。今の俺では到底使える代物ではないのが現状だ。そもそも直径数mmの攻撃では魔臓の持つヒルダには効果薄いしな。

 

「まさか色金の力をもう使えるとはね。あなたを切り刻んで研究でもしたいわ」

「曲がりなりにも俺の体が使ったからな。コツを掴むのにけっこうな時間を要したが、だいぶ慣れてきた」

 

 ブラドのときも、パトラのときも、俺の意識がどうであれ使ったのは俺の体。その感覚をどうやら覚えていたらしく、星伽さんとの特訓で使い方も分かってきたところだ。今使えるのはこれとレーザービームだけですがね。

 

「ま、確かに驚きはしたけど、まだ完全に使えるわけではないでしょ? なら私が勝つんじゃないかしらねぇ」

 

 その言葉と共に俺に向けて雷を一直線に放ってくるが――――次次元六面の影がそれを飲み込む。

 

「ふぅん。直線上の攻撃は分が悪いと……なら」

「……ッ」

 

 また嫌な予感がしたので飛翔で斜め上に飛び上がる。

 

 最初と同じ……いや、それ以上の電撃が地面を走る。前までと比べて威力が違いすぎている。末恐ろしい……。これ喰らったら気絶どころか普通に死ぬな。ヒルダの焦がす発言に嘘偽りはないってところか。

 

 空中でファイブセブンを撃つが……まあ、一瞬で治るよな。八幡知ってた。この状態のヒルダに神経断裂弾撃っても似たような感じになるだろう。ブラドのときとはわけが違うってわけか。

 

 とりあえず高く飛んでいるからヒルダは範囲の広い電撃を使うことはせずに直線上に電撃を放っているが、次次元六面でそれらは吸い込む。

 

 ……これ動かすの大変だな。頭を並列に動かさないと。銃を撃つときにそちらに意識がいきすぎて動かせなかったら意味がない。ちゃんと動かさないと。しかも10個。

 これは実戦で使うのは……うん、なかなかにムズい。アムロやシャア、ハマーン様といったファンネルを使っていた奴らスゴすぎないか? この頭めちゃくちゃ動かす作業を平然としていたのね。えっぐ。逆シャアのファンネル戦すこ。

 

「さてと……」

 

 空中にいながら少し考える。……飛翔しながらなので若干めんどいがな。

 

 ここからどう動くべきだが……そうだな、あの日ブラドにやったように次次元六面でヒルダの体を削るか。確かあれを映像で見たが、どうやら削っても存在しているから魔臓による回復はしなかったはず。

 …………いちいち次次元六面って呼ぶの長いな。贅沢な名だね。よしっ、今日からお前は影だよ。……ごめん、千と千尋の神隠しマトモに見たことないんだわ。だからパロも適当。いやね、3歳くらいのときにちょっとは見たんだけど、よく分からない豚のところが怖くてトラウマです。ええ、かなり歳を取った今でも未だに見れないんですよ。恥ずかしながら。

 

 っと、そんなくっそどうでもいい話はあとにして、5個は俺を守るために周囲に留まらせておくか。残りの5個を用いて――――ヒルダを襲撃する。

 

「くっ……」

 

 ヒルダは後退しながら電撃で影らを追撃するが、影たちはそれらを全部飲み込む。

 

 もちろん影にも許容量というのもあるから永遠に飲み込めるわけではない。だから俺の周りに漂わせている影から排出する。別にすぐに影の上限が来ると言えば否だが、まあ、出せるときに出そうか。ていうか俺も把握しきてれいない。

 

 俺は高く飛んでヒルダの電撃の射程範囲外にとりあえず飛ぶが……アイツ飛べないよな? 小さい翼も持っているのに飛んでいる姿は見たことない。ヒルダの奴は影(この影は次次元六面ではなく普通の影です)を媒介にして移動できるはず。今はしないのか? 多分影の中にいればさすかに影(こっちは次次元六面のこと。……ややこしい!)では狙えないが――――なぜ影(もう言うのが面倒だ)に逃げない? 俺でも思い付くのにな。

 

 理由は分からない。分からない。ならば、ただただ分からない振りをしておこう。

 

 しかし、逃げないなら都合がいい。――――お前の体を容赦なく削ってやるよ。

 

「おい、みすぼらしく影の中に逃げないのか?」

「……チッ。この姿になってまで逃げれるわけないでしょう」

 

 空中から問いかけるが……要するに逃げない理由ってのは貴族のプライドってやつか。

 

 実に下らないと吐き捨てたいところだが、思っている以上にヒルダの体を削れない。影で削ろうとしているのに大部分がヒルダの纏っている電気に吸われてしまう。

 あれは電気の鎧にもなるってわけだな。厄介だ。さすがは吸血鬼。長年生きてきた……あれ、ブラドは長生きって聞くけど、ヒルダの歳はどうなんだ? まあ、見た目からして……17から20? 別に今はいいか。

 

「どんどん行くぞ」

 

 余計な思考は置いといて、影たちは襲いかかりヒルダを追いつめにかかる。

 

「――――」

 

 その間、空中で影を動かしながらヒルダの倒し方について改めて考える。

 

 1つは単純明快。魔臓を全て撃ち抜く。ブラドには神経断裂弾を使って擬似的にこれは成功した。しかし、これは難しい。ヒルダの魔臓の位置は不明だし、そもそもヒルダ自身知らない可能性がある。

 2つ目は全体攻撃を仕掛ける。何かヒルダ全身を覆う攻撃ができれば全ての魔臓を不能にできるかもしれない。

 

 効果がありそうなのは後者。だから、俺はヒルダに銀を用いて徹底的に弱らせ、炎の全体攻撃を行った。しかし、それは失敗に終わった。ヒルダの隠していたもう1つの姿のせいで一気に回復されたからな。

 それはそれとして、このアプローチ自体は間違ってはいないと思う。有効な手段だが、炎は失敗。ならば、次のアプローチを試すまで。

 ヒルダには俺の本命が影による削りだと思わせる。もちろん、成功してくれたら嬉しいが、実戦でここまで影を使うのは初めてだ。ぶっちゃけなかなか上手くいかない。影を操るのは難しすぎる。ヒルダの動きを完璧に捉えることはできない。

 

「頼むぜ、材木座……」

 

 それだけ呟き、地面に降りる。

 

 確か15mだったな。距離を取りつつマガジンを交換。少しでもヒルダの動きを止めるべく、影5つで足を集中攻撃をする。

 

「こんのっ……!」

 

 どうにかあの厄介な電気の鎧を掻い潜り、ヒルダの左腿――――魔臓の1つを呑み込んだ。影は全てこちらに戻る。ヒルダの近くに寄らせるわけにもいかない。

 

「回復……しないですって!?」

 

 ヒルダの逃げ場はもうない。これ以上下がればビルから落ちるだけ。落ちれば影に退避することも恐らく敵わない。そして、ヒルダは自身の傷が回復しないことに驚いている。アイツは次次元六面の特性を知っていたが、知ると実際に体験するでは話がまるで違う。

 

 

 この隙に――――撃つ。もう終わりにしよう。

 

 

 ――――パァン! パァン! パァン!

 

 いつものファイブセブンとは違う銃声。ちょっと空中に気持ちよく響かない銃声だ。あの弾の材質のせいか。

 

 それらはヒルダの頭、体、足を狙い目標を撃ち抜くべく真っ直ぐ飛ぶ――――その直前に弾ける。

 

 材木座お手製の武偵弾である散弾。まさかファイブセブンで散弾を再現するとはな。材木座は不発の可能性を示唆していたが、3発どれも成功だ。50×3の極小の鉄球がヒルダの全身目掛けて覆い被さる。

 材質の関係上いつものような亜音速には届かないが、それでも避けることのできない勢いの充分ある鉄球がヒルダを撃ち抜く。

 

 ヒルダからの超能力攻撃が来ない隙、影に逃げないこの瞬間、そしてこの距離。

 

 この全てが揃ったタイミングこそ――――必中不可避!

 

「ダメ押しだ!」

 

 材木座から貰った神経断裂弾を間髪入れず全て撃つ。ほんの少しでも回復を遅らせてやる。

 

 銀でヒルダを攻撃していたときに使おうとはしたが、ヒルダはあのボロボロの状態でも超能力を使用してきた。だったらもっと確実なタイミングを作るために色金の力を使用した。と、一応の言い訳だ。これでも考えているんですよ? ええ、本当に。

 

 これで魔臓がどこにあろうか残り3つお構いなしに撃てたはずだ。その証拠に――

 

「キャアアアアアアアッ――――!」

 

 今まで一番甲高い悲鳴を上げ、さっきと似たような炎がヒルダを包んでいるから。ヒルダが操っていた高圧電流……これによってな。そして、魔臓による無限回復が途切れているからこの炎に対処する術がない。

 

「違う……違うのよ、これは……これは、悪夢……こんな奴に。どうして……この私が…………アアッ!」

 

 ヒルダは燃えながら右往左往している。自分でもどうなっているか分かっていない状態だ。

 

 …………敗因か。そりゃ、俺を舐めてくれた……いや、違うな。俺はヒルダのある程度の情報を知っていた。第3態とか知らないことはあったが、それでも情報は集めた。だから対策がそれなりに打てた。

 逆にヒルダは俺のことを知らなさすぎた。少しは衛星とかから情報を集めていたようだが、それ以外のことは見ようともしなかった。

 そのせいでヒルダは俺の行動に対して何度も対応が後手後手になった。差があるならそれだけだ。純粋な実力ならヒルダの方が断然上。俺はそれを埋めるべく必死に動いた。何が言いたいかって言うと……まあ、なんだ、情報って大事だなって話。材木座の散弾だってなかったらなかったでショットガンでも担ぐ予定だったし。

 

 まとめると、現代最強の武器は情報ってことだ。

 

「……ヒルダ」

 

 もう手のつけようもないくらい燃え、踞っているヒルダに近付き語りかける。

 

「もう抵抗はしないと約束できるならお前を助けてやる。お前だって死にたくはないだろ。……どうだ?」

「分かった! もうイレギュラーにも4せ……理子にも手を出さない。最後の吸血鬼として約束する! 抵抗しない……だから助けて! ……早く助けて!」

「分かった」

 

 俺としてもこれ以上武偵法を破るのは不味いしな。ただでさえブラドに対してグレーなところに踏み込んでいる。

 

 で、俺は影を1つ呼び出してそれをヒルダの足に近付ける。

 ヒルダの腿の欠けている部分には本来存在しているはずの魔臓の1つがある。そして、それは色金の力である影の中にある。それをヒルダの体に戻しさえすれば――――

 

「ああ…………火が…………」

 

 成功した。ヒルダの無限回復は復活し、無事に火は消えるっていう寸法…………ダメだ、服も下着もほとんど焼けている、その、めっちゃ裸なんですけど。夜だから全部は見えないけど、電灯がヒルダを照らして……えっと、目のやり場に困るな。

 

 と、とりあえず、超能力者用の手錠をヒルダに嵌める。これでコイツは超能力が使えない。魔臓はコイツの臓器だから問題ないだろうが、超能力さえ封じ込めば、ヒルダに攻撃の手段はない。

 

「ヒルダ、お前を逮捕する。……っと、これかけとく。銀の匂いがするだろうがムチャ言うなよ」

 

 行きに比べてかなり軽くなった黒コートをヒルダにかける。

 

「あ……ありがと」

 

 なんか殊勝な態度になったヒルダの反応にちょっと困るが……あとは。

 

「……レキ」

『はい。警察を呼んでおきます』

 

 携帯で1km向こうのビルに待機していたレキに連絡する。

 俺が死んだときのためにレキだけは待機させておいた。まあ、レキなら俺が死ぬ前に介入するだろう。俺がいくら手を出すなと言ってもレキは納得しない奴だからな。

 

『ご無事で何よりです……八幡さん』

「おう。話は戻ってからゆっくり話すからあとは頼む」

『了解しました』

 

 それとレキには事後処理を頼んでおいた。俺よりかはずっと裏の世界にいるレキの方が融通の利く場合があるからな。警察にも俺が連絡するよりかは説明しやすい。ていうか、今俺には全部説明できる気力は残っていない。

 

 ……事後処理はレキに任せて、ふと今までのことを思い返す。

 

「――――――――」

 

 俺はかつてブラドと戦った。勝つには勝ったが、ブラドを瀕死に追いつめたところでパトラの呪いで暴走したブラドには成す術なくやられた。色金がいなかったら死んでいただろう。

 

「――――――――」

 

 次にパトラ。カジノでは神崎が拐われそうになり救出しようとパトラの目の前に立ち、攻撃を仕掛けたが、砂礫の魔女であるパトラには届かなかった。そこから俺は訳も分からず色金のレーザービームを使い、力を使い果たした俺は気絶した。

 

「――――――――」

 

 そして、ココ姉妹。戦ったのは猛妹だけだがな。アイツとはそれなりに互角に戦えたと思う。ただ途中で新幹線から猛妹が落ちそうになり、死にかけた猛妹を俺は助けた。

 つまり遠山たちが戦っている最中に俺は戦線離脱をしただけだ。そのあと、爆弾は平賀さんたちが解除したし、敵の狙撃手はレキが狙撃して確保した。俺が猛妹に勝って、新幹線ジャックを解決したとはとてもじゃないが言えない。

 

「――――――――」

 

 しかし、今回。ヒルダとの戦闘。もちろん戦闘に入るまで多くの人の手助けはあった。でも、やっと……やっと!

 

「ふふっ……」

 

 俺1人で勝つことができた! 俺1人でヒルダを無力化して、逮捕することができた! 大きな怪我もない、気絶して離脱することもない!

 

 この戦闘においての課題は当然ある。それでも……それでも!

 

「……やったぞ」

 

 

 

 ――――俺の完全勝利!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




だからまだワトソンがいないっていうね。どう辻褄合わせるんでしょうか……?まあ、それは未来の自分に託します。多分いい感じにするでしょう(願望)

というかこれ恐らく過去最長の長さだね。14450文字ですって。長くてすみません。途中で区切ろうとするとそれはそれで中途半端になりそうだったもんで……

それはそうと……ヒルダ、あなた強すぎですよ。色々頭捻りましたよ。どう勝とうか。なるべく原作と被らないようにしようとか……色々考えた結果、やっぱり散弾が最適解でした




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事後処理って面倒だねって話

「……あ? お前どうしてここにいるんだよ」

 

 ヒルダを逮捕し、警察に送ったあとレキと一緒に事後処理を終えると、時刻はもう夜中の3時を回っていた。そこから遠山が寝ているだろうし、音をたてて戻るのはどうかと思ったのでレキの部屋を借りて泥のように眠った。

 その翌朝。というよりもう10時。とっくに授業の始まっている時間帯。レキの部屋のリビングには制服姿のジャンヌがいた。あ、正直疲労が半端ないので今日はさすがに休む。

 

「どうもこうもないだろう。八幡、まさかここまで状況をややこしくするとは」

 

 察しました。ヒルダのことか。

 

「…………あー、もしかしてもう情報いった?」

「ああ。思いもしなかったぞ。ヒルダをこんなすぐに逮捕するとはな……はぁ、頭痛い」

「バファリンでも飲む?」

「誰のせいだと思っている?」

 

 はいごめんなさい。

 

「いやでもさ、俺FEWに関しては無所属だし別に良くね? 俺が師団なら未だしも無所属なんだから拗れることないだろ。つーか、そもそも武偵なんだから、イ・ウーにいた奴を捕まえてもこれといって問題ないと思うが」

「その安易な行動は余計に眷属の恨みを買うだけだぞ。ここにいることから八幡が師団寄りだと思われることもある。狙われないよう気を付けることだ。……まあ、これはある種の忠告だ。それとは別として、私個人の意見を言うと感謝しているがな」

「感謝?」

「これでヒルダもブラドもいない。理子も自由になれたわけだ。それに実のところヒルダの超能力のせいで全身の健がやられていてな。正直体に力が入らない。今、お前に襲われたらたら抵抗できないだろう」

「……要するにジャンヌの恨みを晴らしたからと」

「そういうわけだ」

 

 同じイ・ウーでも仲悪いとかあるんだな。それもそうか。同じ空間にいる=仲が良いという方程式は成り立たない。というよりもし成り立つのであれば俺はこんなに拗らせていない。

 

 あと、襲われるとかそういう発言止めてね? ジャンヌの隣にいるレキの眼が怖いから。

 

「ああ、そういやこれ」

「……殻金か」

 

 ジャンヌに殻金の1つを手渡す。ヒルダを警察に渡す前に回収したものだ。

 これで神崎の緋緋神阻止に少しは近付けたかな。

 

「玉藻に渡しといてくれよ」

「承った。後日渡しておこう。さて、私もそろそろ部屋に戻るか」

「色々お疲れ。って、学校には行かないのか?」

「さっき言っただろう。体のダメージがまだ回復していない。療養中だ。八幡も似たようなものだろう」

「そりゃな。もう二度とヒルダと戦いたくないね」

 

 ならなぜ制服を着る。私服で大丈夫じゃないか? あ、制服は防弾製だもんな。

 

「同感だ。……そういえばヒルダのことだが」

「殺してはないぞ?」

「知っている。しかし、実のところかなり危険な状態だと知っているか?」

 

 危険? 隣にいるレキに目配せする。

 

「はい。あのあと警察に渡しましたが、すぐに病院に搬送されました。外傷は八幡さんのおかげでありませんが、かなりの貧血状態です。そして、彼女の血液型は珍しいものらしく他の病院から取り寄せるのにかなり時間がかかるそうですね。最低でも数週間はかかるかと」

 

 レキの補足説明が入る。

 

「貧血か……。確かにアイツけっこう流血してたし。いやでも、回復しているんならレバーとかでも食えば大丈夫なんじゃないか?」

「流血があまりにも多かったのだ。お前が銀の武器で散々痛め付けたらしいからな、それに一度は魔臓が全て殺られたのだろう? そのときに相当ダメージを負ったとのことだ。体内に極上の鉄球が何個も埋まっていたこともある。いくら臓器が治ってもそれら含めて全身を動かすエネルギーがなければ意味がない。宝の持ち腐れだ。かなり衰弱している」

 

 まあ、俺がヒルダを逮捕したときけっこう衰弱していたとは思うが。

 

「……てことは死ぬのか。それなら以て数日ってところだな」

「案外ドライだな、八幡は。もっと焦るかと思っていたぞ」

「これが知り合い、親しい知人なら多少なりと焦りはすると思うが、アイツが今までやってきたことを考えれば……1人の女の子の人生を散々縛ってきたんだ。所詮は自業自得、因果応報だろう」

 

 別に俺は聖人君子などではない。ただの人間だ。俺が捕まえた相手が俺の手の届かない範囲でどうなろうが、俺にはどうにもできない。武偵法がどう適用されるかが気になるところだがな。ヒルダは吸血鬼で人間じゃないからセーフか。そうしよう。

 

「しかしだ、理子とヒルダ……吸血鬼一族の血液型が一致しているのは八幡も知らなかっただろう」

「マジか?」

 

 いやでもよくよく考えれば、確かにそうでもなければ吸血鬼たちが理子に固執する理由は少ないな。ざっくり言うと、ブラドは人間の細胞でより強くなるための研究を進めていたらしい。それなら、ちょっと採決するなりすれば終わる問題だ。理子を長年縛る必要もなかっただろう。

 

 ん?

 あれ?

 

「……………………ちょっと待て。嫌な予感がするぞ」

「今頃、武偵病院の医者が理子へ説明をしているだろう。ヒルダを救うために献血をしてほしいと。恐らく今は遠山や神崎アリアといる時間帯だな。文化祭の準備があるはずだ。加えて状況説明のためにヒルダの詳細な経緯も語られるだろうな。誰がいつ捕まえた等々」

「…………バレた?」

「それはもうこっぴどく……な」

 

 ジャンヌは優雅な笑みを浮かべるが、俺にはその様子を確認する余裕はない。

 

 あ、あ、あああああ……バレた。バレてしまった。よりにもよって理子に。一番隠しておきたかった相手に。しかも早すぎる。ていうか遠山たちがいるってことは星伽さんもその場にいる可能性が高い。理子たちには内緒と頼んでおいたが、もうヒルダが捕まったあとだからバラされても文句は言えない。

 

「俺しばらく引きこもるわ。レキ、俺を養ってくれ」

「断ります。今回に限っては私も納得していませんので」

「え……」

「八幡さんが1人で戦いたい気持ちは理解できます。しかし、そのせいで死ぬのを許容できるかどうかは別問題です。それに新幹線でのこともあります。私を逃がそうとしましたね。……私も八幡さんと同じチームなのですから静観しているだけなのは嫌です。もし理子さんがここに訪れたら容赦なく招きます」

 

 あ、めちゃくちゃ怒ってる。声は変わらず抑揚がないが、ところどころ怒気が強い。表情もどこかしらキツい。

 レキの言うことはごもっともです。反論のしようがありません。以後気を付けます。

 

「悪いな」

「はい、八幡さんが悪いです」

「ふふっ、レキよ、もっと言ってやれ」

 

 ジャンヌが珍しく面白がっている。

 

「ま、八幡にお灸を据えるのも程々にな。それでは私はこれで去るとしよう」

 

 そうハリウッド女優のような所作で華麗にここから退出した。ホント、ジャンヌは動作1つ1つが画になるな。カッコいい。なんだろう、どこか平塚先生のような感じがする。男勝りというか何と言うか……無駄に同姓にモテそうなこの感覚。

 

 それは置いといて、その、うん。

 

「とりあえず腹減ったな」

「ではこれを」

 

 手渡されたのはカロリーメイト。レキの部屋にはこれしかないよな。あとはお手製ライスケーキか。まあ、これしかないのは知っていたしカロリーメイトを2つ頂く。味は悪くないし栄養はあるし、むしろ最近のカロリーメイトはわりと美味しいんだけど。

 

「ごちそうさん。ただ、もうちょいなんか肉やらの惣菜食べたいから一旦コンビニ行くわ。MAXコーヒーも補充したいし。レキはどうする?」

「私はここにいます。まだ片付けなければいけない用事があるので」

「分かった。じゃ、またあとで」

 

 そうレキに言い残してコンビニへ。何か土産でも買おうかと思ったが、レキの好み分からないんだよな。……多分渡せば余程の物じゃない限り食べるかもだが。

 

「……」

 

 菓子パンとナナチキを数個購入して公園のベンチでのんびり食べる。

 

 あー、そういや変装食堂の衣装どうするかまだ決めてないな。俺の演じる職業は探偵か。これまた難しいな。シャーロックの衣装でも真似るか。いや、探偵ってわりとスーツ姿の奴が多い印象がある。スーツに黒色のソフト帽でも被れば立派な探偵だ。なんならそのまま変身できそうでもある。おやっさんに「半人前には帽子はまだ早い」とか言われてみたいなぁ。

 

 変装食堂の方針は決まった。防弾製のスーツでも購入しておくか。翔太郎的にはスーツよりベストの方が衣装も多かったと思うが、スーツの方が護衛とかの仕事でも使えそうだし需要はある。あ、早く戸塚の女将姿を拝みたい。

 

 ――――と、しばらくボケーッとしているとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。

 

「…………」

 

 フリフリと改造している武偵高の制服を見事に着こなし、小柄な体躯に金髪ツインテール、紅い瞳をした少女。

 

「……よう、理子」

「やっほ~、ハチハチ」

 

 とても笑顔の可愛い峰理子がここにやって来た。

 

「授業はどうした?」

「抜けてきたよ。ここ最近は文化祭の準備だけだし、休んでも問題ないからね」

 

 よっこせいと俺の隣に座る理子。なぜ居場所が分かったのか……あ、レキが教えたのかな。

 

「…………全部、聞いたよ。アイツに献血もした」

「そうか。なら助かるか。アイツはもうお前に手を出さないし、もし出そうものならショットガン担いで今度こそ仕留めるから安心しろ。……良かったな、これで正真正銘お前は晴れて自由の身だ。ここから離れて好きなことしていいんだぞ。可愛いものたくさん買ったり、どこか行きたい場所へ旅行するなり。あ、もちろん人様に迷惑かけない程度だぞ」

「………………なんで、戦ったの?」

 

 あー、気まずい。そんな泣きそうな声しないでくれ。

 

「お前の依頼だ。武偵憲章その8。任務は、その裏の裏まで完遂すべし。ブラドを倒したらその次にヒルダが現れた。だから今度も倒した。……それだけだ。まあ、もう二度とやりたくねぇな。しばらくはのんびりした――――」

「――――死ぬかもしれなかったんだぞ!! 私の……そんな……そんな口約束の依頼を守ったばかりに!! ……八幡はリスクリターンの管理くらいできるだろ。明らか危ない勝負だろ。損なことはしない主義のはずだろ。それで死んだら元も子もねぇだろ……。そんな依頼捨てちまっても誰も文句言わねぇだろ…………」

 

 俺の時間稼ぎのくだらない言葉を遮り、俺の胸ぐらを掴む。そして、目に精一杯の涙を溜めて彼女は叫ぶ。それはひたすらに悲痛な叫び。

 

「……確かに勝算の薄い勝負だったかもしれないな。今回は勝ったが、それは単なる結果論だ。負ける可能性だって当然あった。巻き込まれたならいざ知らず、俺は自ら勝ち目のない勝負を挑むのは性に合わない。……ただ、何だ、初めての友達には心の底から笑ってほしいだけだ。理由はそれだけだ」

「八幡はたったそれだけの理由で命懸けれるのかよ……」

「もちろん、友達のためなら命くらい懸けれる。それに言っておくが、命は懸けても捨てるつもりは更々ないからな。そこを勘違いしてもらっては困るぞ。……さて、バレてしまっては言い訳するつもりはない。ただ……お前から聞きたい言葉があるな。依頼の報酬として言ってほしいなぁ」

 

 わざとらしく語尾を強調して理子に促す。

 

「……助けてくれてありがと。ハチハチっ」

「どういたしまして」

 

 互いに顔を見合わせて笑う。

 やっぱり理子にはその笑顔が似合う。それだけでも戦った価値がある。

 

「献血したんだろ。今日くらい無理はするなよ。ゆっくりしておけ。またな」

「うんっ。またね、ハチハチ」

 

 俺はそれだけ言い残し公園から離れる。

 これ以上ここにいたら、あとであまりの恥ずかしさによりベッドの上で悶え苦しむことになる。要約すると、とんでもないことを口にしそうになる。

 

「これからたくさん生きるんだ。何をやりたいかゆっくり考えろよ」

 

 理子に聞こえるか聞こえないくらいの声量で呟く。

 

 今の理子にはゆっくりする時間が必要だろう。何をしたいか、何ができるか――それを決めるのは吸血鬼どもではない。峰理子だ。

 ま、アイツならきっとなるようになるだろ。そこんところは人任せ。アフターケアが下手すぎる。いくら武偵になってから人付き合いをある程度してきたとはいえ、元ぼっちにそういうのは無理がある。アフターケアはHSSの遠山か同姓の方が向いているだろう。

 

「ふあぁ~……」

 

 ねっむ。さて、俺も何をしようかな……一旦は帰ってもうちょい寝るか。その前にスーツ注文しておこうかね。

 

 

「――――君が比企谷八幡かな?」

 

 

 ……めんどくせぇ。公園から尾行していたな。後ろに誰かいるのは分かっていたが、わざわざ気配大きく出しやがって。構ってほしいオーラ出すなやクソッタレ。

 

 後ろには武偵高の制服を着た男子……にしてはやたら中性的な顔だな。茶髪で短い。この顔立ちは恐らくヨーロッパの人か。アメリカ寄りの顔立ちではなさそうだ。というよりコイツの背丈と声――――見覚えがある。

 

「リバティー・メイソンか」

 

 宣戦会議で聞いたことのある声。見たことのある背丈。あの日はマスクをしていて顔が見えなかったな。なかなかイケメンじゃないか。実際、リバティー・メイソンがどういう組織かは知らない。が、十中八九めんどくさい組織だろう。

 

「話すのは初めてだが、よく覚えていたね。宣戦会議以来かな」

「その制服ってことはこっちに越してきたのか。まず名乗れ。お前をどう呼べばいいのか分からないと、俺としてはなかなか話しにくい。さもなくばチビ助と呼ぶことにする」

「分かった。さすがにその呼び名は避けたい。僕はエル・ワトソン。とりあえずよろしくと言っておこうかな」

「改めて比企谷八幡だ。えーっと……どっちで呼べばいい?」

 

 外国人って名字どっちが先だっけ? 後半?

 

「では、ワトソンと」

「ならワトソン。悪いが、今は疲れている。用事ならまたあとにしてくれ」

 

 ――――ワトソン。その名前この世界にいるなら恐らくは誰でも知っている。ホームズの相棒の名前だ。実に厄介そうな予感だ。

 

「そう時間は取らないさ。ヒルダのことだ」

「……またか。今日はそればかりだな。お前の獲物だったか? そりゃ悪いことをした」

「いやいや、それは不粋というものだ。早い者勝ちという言葉があるように、そこを僕は責めるつもりは毛頭ない。しかしながら、問題は君が無所属だということだ。対し僕らは無所属だったが、先日眷属へ所属した」

「つまりは報復か。それこそ論外だな。無所属関係なしに俺は武偵だ。ならず者を取っ捕まえても何も悪くない。それを許さないとバカみたいに騒ぎ立てるなら、社会ではなくお前らが悪い」

「なかなか言うね……」

 

 早く帰らせてくれ……。せめて今日くらいは休みたい。

 

「僕らリバティー・メイソンは君を襲う予定はない。映像は天気の悪さにより確認できなかったが、あのヒルダを倒したんだ。しかも君1人と聞き及んでいる。腕の立つ狙撃手と一緒に戦うとなるとこちらの損害の方が大きいだろう。だからこれは報復ではない。――――勧誘だよ。チームサリフを眷属にしたいと言っている組織がある。僕はそれを伝えにきただけだ。いわゆる中間管理職ってやつかな」

 

 随分と高評価だな。ていうか、ダメだ、嫌な予感がしてきた……。

 

「あー……その組織って…………」

「藍幇だ」

 

 あー……やだなぁ……。あれとはマジで関わりたくねぇ。

 

「……その顔を見るに君の藍幇への評価がよく伝わるよ」

「そういうことだ。俺らはぶっちゃけFEWとは極力関わりたくない。今回は自ら振りかけった火の粉を払っただけだ」

「ならまた君へ火の粉が振りかけるかもね。もしかしたら大変な火傷をするかも」

「いやもうホント、マジで止めてくれ……」

「伝えることは伝えた。それで? 比企谷八幡の返答は?」

「クソ喰らえって突き返せ」

「了解した。僕も僕でやることがあるので、これで失礼する。呼び止めてすまなかったね」

 

 そう言ったワトソンは学校方面へ歩いていった。何て言うか、ワトソンから不自然なほど男物の香水付けていたな。珍しく奴もいるもんだ。

 

 それはそうと……ああ、マジで引きこもりたい。

 

 

 

 

 

 




最近寝る前はネトフリでアニメ三昧です
ヴァイオレットや幼女戦記にオーバーロードと見ました。ヴァイオレットに関しては映画も見てきました。終始泣きましたね。やはり京アニの偉大さを改めて確認しましたね
次はどのアニメを見ようか検討中です




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文化祭初日

途中本人は至って大真面目であり、真剣であり、本気ですが、端から見ればただただふざけている箇所があります。予め謝っておきます。ごめんなさい。


「うっわぁ……」

 

 やってきました文化祭当日。その1日目。俺ら2年が担当している変装食堂はそれはそれは大盛況。店員である武偵や客が行ったり来たりひっきりなしに動いている。

 

 ワトソン襲撃から1週間ほど経った。どうやら遠山とトラブルがあったっていうか、ワトソンから遠山に仕掛けたみたいだがな。事の顛末は知らないし、俺には関係ないので無関係を貫こうと思う。

 そして、ワトソンのあの忠告から藍幇が接触してくるかもしれないと一応は周囲を警戒していたが、特に何も起こらない。まだココ姉妹はシャバの空気吸えてないだろうし、さすがに時期尚早か。

 

 警戒は怠らないこととして、今は変装食堂を頑張らないといけない。2年生は各々変装しながら働いている。俺も探偵らしく? スーツとニット帽を身に付けている。

 レキは白衣をまとって隅でボーッとしているし、星伽さんは先生らしく子供たちを引率している。理子は……見当たらないな。目立つかと思ったがな。神崎は小学生の格好をしているんだ。前には出たくないだろう。ああ、アイツら午後のシフトか。遠山は……あ、蘭豹に首根っこ掴まれて厨房に放り投げられた。

 

 とはいえ、俺も探偵らしい振る舞いをしないと教師からの評価が減るのだが、どのように動けばいいのか想像がつかない。なぜなら、武偵とは武装探偵――探偵なのだ。俺は一応探偵でもある。普段からは考えられないことだが。

 これはつまるところ、別にここでもいつも通りでいいのではないか。もしこれで振る舞いがなってないと怒られるものなら、こちらも屁理屈で対抗しよう。

 

「材木座ー、キリマンジャロ1つ。ブレンドが2つ!」

「うむ、任された!」

 

 どっかの生徒がコーヒーのバリスタを使っている材木座に声をかけている。材木座はコーヒーの店主らしく渋い色のエプロンをかけコーヒーを作っている。……ここ最近喫茶店に通っていたらしく、コーヒーを淹れる所作を少し学んだ材木座のその姿は無駄に似合っている。

 

「いらっしゃいませー。何名様でしょうか? あ、3名様ですねっ。お待たせしました。こちらご案内します」

 

 戸塚は綺麗な着物を着こなし、笑顔で見事にウェルカム作業をこなしている。いやもうめちゃくちゃ似合う。もう愛でたいくらいには。慣れていない着物ということで動きが若干ぎこちないが、そこもある意味可愛さに繋がっているだろう。途中案内されていた男たちが戸塚の姿に顔を赤らめていたが……残念戸塚は男だ! 

 やはり戸塚が男なのはおかしい。この世界は間違っている。言ってはなんだが、武偵高の男勝りな女よりかはよっぽど女らしい。ここにいる女は見た目可愛らしいが、平気で銃乱発する、バズーカぶっぱなすわ、ライフルで俺のことを撃ってくるわ……最後のが誰かは言及は避けます。

 よし、こうなったらちょっと戸塚の性別が違う異聞帯つくってくる。誰か空想樹ちょうだい。

 

「…………」

 

 そんなことを考えていた俺は気配を消しながら客が食べ終えた皿をひたすら下げている。これが一番楽な作業だ。これだけで変装食堂乗り切ってやる。サボってはない。ただ楽な仕事を選んでいるだけだ。客がいつの間にか皿がないことに驚いている。

 

 ……不味い、蘭豹が近くに来た。足音を立てないで気配をもっと消しつつアイツの死角に入る。

 これは……セーフだ。こんなもろサボっているところを見られたら殺されるな。ふふっ、校長に教えられた気配の消し方も様になってきた。将来はレキくらいマスターをしたいものだ。

 

「比企谷君……」

 

 あ、俺が隠れてたの不知火だったか。

 

「不知火か。助かったぞ」

「まったく、ちゃんと働きなよ」

「何を言う、めちゃくちゃ動いているだろ」

 

 皿を下げるのだって重要な仕事なんだぞ。途中で食べ終えた皿を下げていると、会計終わってから次のテーブルをセットするまでの時間を大幅に短縮できるのである。正直忙しいときにこれをしないと、どこかでレジやサーバーで詰まってフロアの作業はパンクする。そして、パンクしたら、ただただやる気をなくしてその後の仕事が雑になる。ソースは飲食店でバイトしているここの作者。

 

「確かに否定はしないけどさ」

「接客業苦手なんだよ」

「だったらキッチン行けばいいじゃないか」

「キッチンにいる奴が知らない相手だったら気まずくて詰む」

 

 ――――こんな調子で乗り切った変装食堂も午前うちに終わり、午後は特にすることもなかったので部屋でボーッと色々していたら1日目が終わった。

 

 部屋に戻ったら神崎がシャワー使っていたのはけっこう驚いた。ここお前の部屋じゃないんだよな。しかもそのあと遠山とイチャつくもんだから居心地悪いのなんの。

 ……やはりリア充は俺の敵だ。いや、確かにリア充は敵だが、あの2人は例外だ。遠山と神崎は外から見ている分にはかなり面白いペアだからな。ぶっちゃけ見ていて飽きない。神崎たちが暴れて部屋が破壊されるのは勘弁だけど。

 

 それはそうと、ツンデレっていいよね。俺は二乃推しでした。二乃推しだけど、正直五月が勝つと思っていた。まさか四葉とはな。だって、1巻の表紙にデカデカと載っていたしな。漫画であれラノベであれ、ラブコメって大概1巻にいるヒロインが勝つよね? 違う?

 ツンデレもいいが、やっぱヤンデレも善きかな。あ、ツンデレの中でもあまりに過度なというか理不尽すぎる暴力ヒロインはNGの方向で。それを言ったらここにいる奴らほぼほぼ暴力の権化の塊みたいなもんだが。ヤンデレは……最近オーバーロード見たんだが、ラナー様が良かったかな。あのぶっ壊れている感じが好みだ。あとはナーベラルが可愛かった。多分オーバーロードの中ではナーベラルが一番好みだ。

 

 

 

 そしてアニメのことを考えながら迎えた2日目。珍しく今日は約束があるので、目的の人物を出向くため駅へと移動する。待つこと15分。

 

「お兄ちゃん、お待たせ!」

「おう、待ってたぞー、小町」

 

 去年はいきなり突撃してきた妹の小町だが、今年はちゃんと案内すると約束を取り付けた。それも今回は小町だけでなく……あれ?

 

「親父たちは?」

「あー、それがね、お父さん風邪引いたの。お母さんはお父さんの看病で今日は来れないの」

「マジか」

 

 親父とお袋も一緒に案内する予定だったが、風邪か。親父が一度武偵高に行ってみたいと言っていたから比較的平和な文化祭の日にしたんだよな。普段は常時銃弾飛び交っているような場所だし、一般人はぶっちゃけ危険だろう。

 まあ、残念だな。入院したとき金払ってもらったし、感謝の意味も込めて多少は気合い入れて案内しようとプランを組んだが。小町だけなら何回かここに来ているし、文化祭見て回るだけでいいか。

 

「親父大丈夫か?」

「うん。熱出ただけだしね。お父さん、今日のことわりと楽しみにしていたんだよ」

「それで風邪引くって、遠足前の幼稚園児みたいだな。……ま、家族揃って案内するのはまた後日か」

 

 体調崩すのはどうしようもない。

 

「じゃあ行くか」

「久しぶりの文化祭だね。お兄ちゃんは何かするの?」

「いや、俺の仕事は昨日で終わり。今日はずっと暇だぞ」

「ほぉー、何したの?」

「……コスプレ喫茶?」

 

 変装食堂ってこの解釈でいいよな。やたら本気で演じないと教師からダメ出しを食らうがな。逆に言えば、ここでちゃんと演じれば評価が上がり単位も融通が利くようになるとのお達しだった。

 ……強襲科なんて変装は専門ではないのだからけっこう大変だった。いや、俺は特に演じたとは言えない上に、何なら教師に1回も見向きされなかったので評価すらされなかっただろう。まぁ、強襲科はともかく、探偵科やCVRは仕事柄変装する機会は多いかもしれないな。

 

「おおっ! ちなみにお兄ちゃんどんなコスプレ?」

「探偵。スーツにニット帽被ったぞ。なんならガイアメモリ中に仕込んでたまである。さすがにドライバーは持ってなかったな。あれ1.5じゃないと基本ベルトも繋がってるし」

 

 CSMの話です。

 

「……数えきれないくらいの罪を背負ったお兄ちゃんがその格好? ハーフボイルドもいいとこだね」

「薄々そう思っていたから止めろ」

「はーい。あ、ところでレキさんはいる?」

「さぁな。特に呼んでないしアイツも用事あるんじゃないか?」

「連絡してみてよ。久々に会いたーい」

「後でな。とりあえず文化祭始まってから連絡してみるわ」

 

 校門前まで移動した。開始まであと5分くらいか。

 

 9時から文化祭は始まるから、一般客や予定のない武偵はここに集まっている。確か材木座や戸塚は今日もどっかで働くって言っていたな。戸塚は救護室の当番で材木座は……なんか仲間と屋台するんだっけか。時間合うなら覗いてみよう。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん、あそこにいるの」

「遠山と神崎だな。今は放っておこ――あっ」

 

 もうアイツらに突撃しやがった。

 

 鱗滝さんばりに判断が早い。ここぞとばかりに鬼滅ネタ。ちなみに俺はジャンプを8年ほど定義購読しているので、鬼滅は社会現象になる前からわりと好きでしたよと謎のマウントをとってみる。付け加えると肋骨さんからワニ先生のことわりと好きだった。そして、紅蓮華を生で4回聴いたことがある。自慢です、はい。

 

 LiSAさんのオススメのアニソンはAxxxiSです。この曲はLiSAさんのファンがライブで歌ってほしい曲は何か投票した中で、堂々たる1位の曲だからな。とても人気のある曲だ。しかし、クオリディアはなぁ、シナリオと音楽は好きなんだが、いかんせん作画があれだったからあまり話題にはならなかったな。オープニングもエンディングも担当した人たちはかなり豪華な面々ですので、興味があれば調べてみてほしい。

 個人的な意見を申しますと、LiSAさんの1番好きな曲はnow and futureと1/fですね。1番と言っておきながら2曲紹介するのはどうなんだ……。まぁ、時間があるなら聴いてほしい曲だ。使ってないからこれっぽっちも知らないけど、最近ってサブスク? というのがあるから知らない曲を聴くハードルも下がっていると思うので。

 そして、LiSAさんはロックヒロインと呼ばれながらも様々なジャンルを幅広く歌えるのがまた魅力的だ。ロックは当然として、ポップな曲もキュートな曲もそれはもう最高ですよ。その中でも個人的に特にオススメしたいのがバラードである。どんな高音でも自在に操る音域を持ち、こちらに直接訴えてくるような歌声がたまらなく最高なんです。最近だと鬼滅映画の主題歌である炎もバラードだな。他の有名どころだとシルシやunlastingもだな。どちらもいいぞ。eNで聴いたBelieve in ourselvesは泣いたなぁ。愛錠も良い曲。YouTubeにあるから是非。

 

 

 正直なところまだまだ紹介したいことが多いが、推しの布教活動はここまでにして……長くなってごめんなさい。いや、マジで。ふざけまくりました以後控えます。それと遠山たち、せっかくのデート前に妹がすまない。本題を危うく忘れるところだった。

 

「遠山さん、アリアさん! お久しぶりですね。おはようございます!」

「ん? 確か比企谷の妹……」

「小町ちゃんだっけ? おはよう、久しぶりね。元気だった?」

「はい!」

「あら、小町ちゃんだけ? 八幡は?」

「あー、もう。小町お前な……。お前ら悪い。いきなり小町が」

 

 やっと追い付いた。こういうときの小町のスピードは無駄に素早い。

 

「大丈夫よ、小町ちゃん可愛いもの。今日は家族水入らずってところ?」

「まぁ、そんな感じだ」

「レキとは一緒にいないの? せっかくの文化祭なのに」

「今日は小町を案内する予定だったから、特に約束とかはしてない。あとで時間が合えば合流しようかなって。それにレキが何するか知らないしな」

「ふぅーん。あ、そういえば八幡! あんたヒルダと戦ったらしいじゃない」

「おいコラ神崎。小町いるんだからその話また後日でな」

 

 小町を必死に遠ざけなから神崎を嗜める。

 そういう世界の話を一般人の前でするのは止めてくれ。うちの小町は大事な箱入り娘なんだから。そんな血生臭い、硝煙の香りしかしない世界に巻き込みたくないんだよ。

 

「……それもそうね。その代わり、あとでちゃんと話なさいよ!」

「というか、遠山にはあらかた説明したから訊くなら遠山にしてくれ」

「おい比企谷、こっちに押し付けてるな」

「いやでもお前の方が色々融通利くだろ。俺よりかはまぁ、立場的によ」

「そうだけどさ……」

 

 と、ちょうどここで文化祭が始まり、校門が開いたので遠山たちとは一旦別れることになった。

 

 そういえば俺がヒルダを逮捕したけど、無所属でも武偵である俺がやったこともあり、眷属の恨みは俺を通して同じ武偵の遠山たち――バスカービルに向かったりするのだろうか。ちょうど師団なので都合が良かったりするのかな。……もしそうならごめんなさい。そして藍幇は俺に関わらないでくださいお願いします何でもはしませんので。

 

 俺が心の中でバスカービルの面々に謝っていると、小町は不思議そうにこっちを覗き訪ねてくる。

 

「お兄ちゃん、アリアさんと何話してたの?」

「仕事の話」

「……ああうん、詳しくは訊かないでおくよ」

「そうしてくれ」

「でも、小町も武偵に興味あるなぁ」

 

 ……おっと?

 この子は急に何を言い出しますのん?

 

「悪いことは言わない。止めておけ、俺の可愛い小町はこんな場所にいてほしくない」

「ナチュラルにシスコン発揮しないで」

「まぁ、本音は置いておいて――――」

「あ、本音なんだ……」

「武偵はオススメしないっていうか、マジで止めてくれ。武偵という職業も相当あれだが、ここにいると思考がアホになってしまうぞ」

「お兄ちゃん含めて?」

「俺含めて」

 

 いやもうホント、色々とイカれたくなかったら武偵に踏み込まないでよ。職種にもよるけど一般人の小町には向かな――そう考えると、留美も一色もパッと見はごくごく女の子だよな。一色なんか特に。キャピキャピッとしたJKだしな。ん? 小町が銃を持っている姿……妄想してみたが、めっちゃ良いな。あらゆる角度から写真を撮りたい。

 

「親父たち説得できたら止めないけどな」

「うへー、それは難しそう」

 

 一般的な親からしたらそりゃ可愛い子どもに危険な場所に突っ込ませるわけにはいかないだろう。その理屈だと俺は可愛くない子どもということになる。俺が可愛いとか思ったこと微塵もないが、いくばくか複雑な気持ちになる。親父め……。とはいえ、武偵になって後悔はしてないし、むしろ感謝はしている。

 

「そういや何か朝飯食ったか?」

「んー、ちょっとパン食べただけであまりちゃんとは食べてない。お祭りだしここでいっぱい食べようかなって」

「じゃあ、適当に屋台で食べるか。俺もそこまで食ってないし」

「いいねっ」

 

 屋台が多い場所まで移動してと……色々あるな。

 

「何食べたい?」

「焼きそば!」

「おう。えーっと、あった。あそこだな」

 

 文化祭は始まったばかりなので昼時でもない。だから当然人はあまりいなく、ちらほら並んでいるといった様子だ。焼きそばには少し人がいるけど、めちゃくちゃ並ぶというわけでもない。すぐに買える。

 

「焼きそば2つ」

「うむ、了解した! ……と、これはこれは八幡であるか」

 

 材木座か。お前どこにでもいるな。ここが今日お前がいる屋台か。それと装備科の武藤並にゴツい奴が1人。焼きそばやってたんだ。2人とも体型が大きいから鉄板で焼きそばを作っている姿は無駄に似合う。特に材木座。もう1人はよく知らないが、材木座はホントそこのところ無駄に多芸だな。

 

「お兄ちゃんの友達?」

「俺が世話になってるメカニックの材木座。コイツは妹な」

「そうであったか! これは妹君。いつもお世話になっておる」

「ご丁寧にどうも。兄が迷惑かけてすみません」

「俺がかけてる前提か」

「だってお兄ちゃんでしょ?」

「否定できないのが辛いところ」

「それでいいのか八幡よ……」

 

 妹に言い返せない俺を見て材木座は少し顔がひきつっている。

 実際無理言って色々と注文受けてもらっている立場ですので。

 

 その後、材木座たちに金を払って近くのベンチで焼きそばを食べる。出来立てということもあって普通に美味しい。うーん、何でもわりとそつなくこなすし、やっぱアイツ無駄にスペック高いよな。日常生活で発揮される部分がかなり少ないだけで。

 

「あ、レキさんいるかな?」

「連絡してみる」

 

 食べ終わったので焼きそばのゴミを片付けて……と。

 

『もしもし』

「あ、レキ。今どこにいる? 小町が文化祭に来ていてお前に会いたいってよ」

『今はいろはさんと留実さんといますが、分かりました。合流します』

 

 え、アイツらと? いや、留実はメル友らしいから何となく理解できる。留実と一色もよく俺繋がりで一緒にいることがあるのでまだ分かる。レキと一色の組み合わせが想像つかない。どういう流れだ? 2人の共通点としては俺か留実といったところか。どんな会話してんだ。あれか、俺の悪口か。他に話題がなさそうだな。やだ泣きそう……。

 

「あー、別に無理しなくていいぞ。わざわざ途中で抜けるのもあれだろ、迷惑だろ」

『どうやらお二方も合流したいそうなので、どこかで落ち合いましょう』

「それなら、まぁ分かった」

『どこにしますか?』

「レキたち今どこだ?」

『武偵高内のカフェです』

「ならそこにするか。俺らがそこに行くわ。またあとで。……さて小町。ちゃっちゃと動くぞ」

 

 焼きそばを食べ終えた小町はナフキンで口を拭いてから。

 

「おー!」

 

 と、元気よく声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 




1話だけにしようと思っていたが、このままだと長くなりそうなので分割します。1話におさまる予定だったのになぁ……途中でふざけまくっているからだぞと言いたい。基本深夜テンションで書いてますので
LiSAさんについて何か訊きたいことがあればぜひ。オススメの曲とか紹介しますよ。あとふざけまくってごめんなさい


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そして、舞台は移ろいでいく。

「お待たせ」

「先輩おっそーい。なにノロノロしてるんですか?」

「八幡、遅い。待っている間にケーキ2個も食べた。太ったら八幡のせい」

「いや、なんでだよ」

 

 レキたちのいるカフェに着いたや否や弟子たちからの厳しい一言。

 

「あ、レキさーん。お久しぶりです!」

「はい、夏休み以来ですね」

 

 夏休み……実は俺が実家に帰省しているタイミングを見計らって突撃してきたことがある。そのことについては…………うっ、思い出したくねぇ。いずれ語るときがくれば語るとしよう。多分永遠に来ない。一言で言うなら一瞬で外堀埋められた。これだけで察してほしい。

 

「この人が先輩の妹さん?」

「はい、小町と言います。いつも兄がお世話になっております。えーっと……」

「一色いろはでーす。アミカといういわゆる……先輩の弟子的なことやってます。よろしくね……んーんっと、お米ちゃん?」

「何ですかそれ。小町には小町って名前があるんですけどー!」

 

 出会って数秒で言い合いを始めるとは……やはり一色はコミュ力高いな。

 

「それで……こっちの子は? この子とつるんでるとお兄ちゃん捕まりそうだけど」

「鶴見留実。八幡の弟子1号。よろしく、小町さん」

 

 留実ってば簡素すぎる自己紹介ですね。一色とは対照的だ。

 俺はコーヒー、小町は紅茶を頼みゆっくりとしている。……留実と一色テーブルには皿が数枚置かれている。どうやら2人して相当ケーキを食べたらしい。対するレキはカップが1つだけ。コイツはコイツでいつも通りだ。

 

「そういやお前らで何話してたの? ガールズトークで華咲かせるような面子じゃねぇだろ。一色は分かるが、特にそこの無表情組の2人」

「うわっ、先輩失礼ですね」

「でも八幡の言う通りじゃない? この中で明るい性格なのいろはさんだけだし。普通の高校通ってたら普通に高校生活送ってそう。あ、でも、女子からの反感はかなり買いそう」

「留実ちゃん手厳しい。……ですが、そうですね、私もそう思います。ほら、私こんな性格じゃないですかー」

「お前それ自分で認めるのか……」

「何ともまぁ、一癖ありそうな面々ですな」

 

 俺の突っ込みのあとに3人の様子を見た小町はそうしみじみと呟く。一癖どころか二癖は余裕である。武偵なら逆に一般人の方が浮くというか珍しい部類だからな。全員どこかしら思考回路がイカれている。

 

「で、何話してたんだ?」

「別に普通ですよ。先輩がそんな気になるような内容じゃないですってば。どんな銃がオススメとか、最近どんな任務受けたとか、どこのムカつくバカをを撃ったとか。それとレキさんには狙撃手と戦うときのコツとか教わってましたね」

「正直近接の私たちがレキさんみたいな狙撃手と真正面から戦うってなったらほぼほぼ負けるんだけどね。射程の差があまりにもあるすぎるし」

 

 一色と留実が順番に答える。

 分かる。めちゃくちゃ分かる。チーム戦なら他の人員利用して狙撃手の死角に入るとか対応できる可能性はなきにしもあらずだが、個人で戦うなら余程のことがないと勝機がないんだよな。不意打ち狙撃で普通にKOだからな……。ワートリのようにはいかないもんだ。あれもあれで狙撃マトモに喰らえばベイルアウトするけども。

 

「基本は退避一択だよねぇ。レキさんとは絶対戦いたくないですよぉ」

「同意。あとは世間話して……八幡の話題?」

 

 と、ここで小町の表情を覗くと――――

 

「う、うわぁ……。普通の会話が物騒だよ、お兄ちゃん」

「だから言ったろ。ここはアホ共の巣窟だと」

 

 若干引いている表情だった。いや、若干どころではない。それはもう俺が誰も家にいないかと思って特撮ソングを熱唱していたところを見られたときと同じくらいめちゃくちゃ引いている。

 良かった、小町はある意味平常だった。これで平然としていたら多分この世界で生きる才能あるぞ。

 

「確かに小町さんには刺激の強い話ですね。しばらくは控えましょう」

 

 レキの一言により、その話題は避ける方向になった。さすが空気の読める(物理)女だ。

 

「それで、お兄ちゃんの話ってどんな話ですか? 陰口?」

「第一候補がまずそれか。あのな、お前本人の前で堂々言うなよ。年甲斐なく泣くだろうが」

「先輩ダサっ」

「八幡キモい」

「お前ら何なの? さては俺の敵か? 陰口なくても充分酷いな。次の稽古滅多打ちにしてやるから覚悟しておけよ」

 

 烈風での鎌鼬、まだ実戦で使ったことのないレーザービーム、全てを呑み込む影での一斉攻撃――お前らはどれがお好みだ。俺のオススメは鎌鼬だな。なんだかんだで使い慣れている。

 

「まぁまぁそんなことは置いといて、実際どうなんです?」

 

 俺がキモいだのがどうしでもいいとか悲しいこと言うなよ小町。いや、よくよく考えればどうでもいいな。それよりかは小町とレキと戸塚を愛でる方が何倍もいいだろう。

 

「と言いましても……これといって先輩が話題に挙がっても特別なとこは話してないですよ。先輩の普段をどうのこうの褒めるところもあれば、そうでもないところもあるといった感じですかね」

「……なんつーか、普通だな」

「だからそう言った」

「留実ちゃんは何も言ってませんけどね? あたかも自分の功績かのように言うの止めてくれません?」

「器が小さい」

「な、なにをー!? 留実ちゃん生意気。先輩、ちゃんと教育してくださいよ。こういうの教師に見られたら指導対象ですよ。留実ちゃんボコボコにされますよ」

「これに関しては一色の言う通りだぞ」

「善処する」

「それ意味ようにとっては行けたら行くと同義だからな?」

 

 俺もたまに使う表現なのはこの際置いておく。ぶっちゃけかなり便利な表現です。そして、俺が善処すると言ったら大概確約しろと返されるのがオチだ。

 

「ま、まぁ、他には先輩とレキさんのイチャイチャ話でも聞けるかなと思いましたが、レキさんあまり話てくれませんし」

 

 そうなのか……とレキの方を見るが、プイッと視線を逸らされた。お前にも羞恥といった感情が芽生えてきたのか。それは嬉しいことだな。うん。いっぱしの人間になってきた――――こういう反応するのなら、それはきっと成長してきた証だろう。

 

「ところで先輩。先輩はこのあとどこ廻る予定ですか?」

「そうだな……とりあえずは小町が行きたい場所優先だな」

「うわっ、さすがのシスコンですね」

「お兄ちゃんこんなとこで止めてよ。恥ずかしい」

「これ俺が悪い流れ? 別にこれといって俺が行きたい場所ないからなんだが。昨日ブラブラしたところ去年と似たような感じだし」

「だったらあかりちゃんたちのとこに行きませんか?」

「やだ」

「即答ですかっ!?」

 

 一色の突っ込みを無視しつつ俺はそっぽを向く。

 

 だってあんな特殊性癖軍団に純粋無垢な我が可愛い小町を放り投げるわけにはいかないし……。変な性癖拗らせてしまう。それが悪いとは言わない。人の趣味嗜好に対し口を出すことは決して許されない行為だ。もちろんそれは他人に迷惑をかけないことが前提の話だが。

 しかしながら、俺にはあれに小町を放り込む勇気はない。そもそも武偵の集団に一般人を入れること自体があれだよな……無理あるよな。今回小町をレキたちと話をさせてみて思ったが、価値観の齟齬がどうしても生まれてしまう。それは教育上よろしくない。

 

「誰のことなの?」

「一色と留実の同級生」

「えー、面白そうじゃん。会ってみたいよー」

「……アイツらはマジで止めとけ」

 

 そういや最近俺も会ってないな。別にアイツらのアミカじゃないから当たり前か。

 

「まぁ、先輩はそう言うと思いましたよ……」

「八幡だからね」

 

 やっぱり弟子たちが辛辣。そして、さっきからレキが静かだ。大人しくコーヒーを飲んでいる。いやまぁ、別にめちゃくちゃ喋る性格でもないし当たり前か。

 

 その後しばらく話してから俺と小町はあの3人から離れた。一色と留実は特殊性癖軍団へ行くとのこと。レキはドラグノフの銃弾やメンテナンスをするため装備科へ赴くらしい。基本は自分でメンテナンスしているけど、パーツを買ったりはすると言っていた。

 

「次どこに行くんだ?」

「えーっとねぇ……お土産は最後に買うとして、なにかアトラクションに行きたいなぁ。お化け屋敷もあるみたいだね」

 

 お化け屋敷? まぁ、ここには死体留置場あるからめっちゃ縁起悪いんだけどね? 毎年死者それなりに出るからな……。俺も綱渡りで生きていますよ、えぇ。

 

「行ってみるか?」

「うんっ!」

 

 実際に行ったお化け屋敷はかなりの出来だった。さすが武偵の作ったものだ。小町途中からブルブル泣いていたしな。俺もけっこうビックリしました。今まで化け物たちとやりやってきたけど、また別の恐ろしさがあった。

 

「怖かったぁ……」

「全くだな……。アイツら本格的にやりすぎなんだよ。加減知ろっての」

 

 お化け屋敷を見終えた俺らはベンチでぐったり倒れている。

 

「もう昼か。もうちょい廻るか? 飯にするか?」

 

 レキたちとは飲んだだけだし。この言い方だと酒みたいだが、実際紅茶やコーヒーだけだ。

 

「ご飯食べたーい」

「……だな。屋台のとこもっかい行くか」

 

 

 飯を食ってからは色々と見て廻った。迷路だったり、劇だったり、変装食堂にお邪魔したりと。

 

「今日はありがとね」

 

 夕方になり文化祭も終わり、小町を自宅まで送る。新しい家になってからはあまり入ったことがないから馴染みがない。もしかしたら家にいる期間よりイ・ウーにいた期間の方が長いかもしれない。

 

「つーか、このまま顔出そうか? ここまで来たんだしよ」

「別に大丈夫じゃない? お父さん風邪だし変に気を遣っちゃうんじゃないかな」

「そういうもんか。ま、またの機会にしておくわ。カマクラにもよろしくな」

「了解であります! またねーお兄ちゃん!」

「おう」

 

 

 小町と別れてから数時間が経った頃。

 

 文化祭打ち上げタイムが始まった。文化祭が終わると、武偵高ではチームで集まり武偵鍋と呼ばれる闇鍋をやる習慣がある。なんでこんな馬鹿げた習慣があるのか疑問なのはさておき、去年はチームとかなかったから参加してないが、今年はちゃんと組んだからな。ただ、俺たちだけだと人数が少ないのでバスカービルと混ぜてもらうことになった。

 この鍋はそれぞれ食材を持ち寄ることになっている。しかし、そこには当たりや外れが存在する。遠山と星伽さんと理子は当たり担当。俺とレキと神崎が外れ担当だ。で、外れの人は鍋に入れないであろう食材を持っていくのが習わしだ。俺もこの日のために色々と選びましたよ。

 

「遅いわよ、2人とも」

 

 バスカービルの面々はもう既に鍋を煮込んでいた。

 

「じゃあ俺らも入れるか」

「はい」

 

 ちなみにこの鍋、中を見ることなく具を取り出せる安心仕様である。

 

「ベースは何なんだ?」

「今日は味噌なんですけど……」

 

 星伽さんが気まずそうに答えるが、どうにも歯切れが悪い。目線の先には理子がいる。

 

「お前当たり担当だろうが。まさか変な食材入れたのか?」

「えー、鍋では普通に使うやつだよ。ねー?」

「そ、それはそうですが……」

「あ、そうそう。今回私が調味料担当するね? ということで、たーかーのーつーめー!」

 

 うわ、理子のやつ鷹の爪バカみたいに投入しやがった。じゃあ俺は辛さのバランス調整しないとな。

 

「てれててっててーん。まっくすこーひー」

 

 俺も理子に倣いネコ型ロボットの声マネでペットボトルのMAXコーヒーをドボドボ投入。

 

「いやいや比企谷何いれてんだ!」

「ひえっ……」

「おおー、いいねハチハチ!」

「八幡あんた何入れてんのよ!」

「……」

 

 怒る遠山、泣きそうになる星伽さん、ノリノリな理子、こちらも怒る神崎、無反応なレキとそれぞれ反応を残す。だって俺外れ担当だし?

 

「比企谷さん私にもう外れ食材渡してましたよね?」

「それだけだとつまんないだろ」

「ハチハチの言う通り! てことで私もこれ追加で!」

 

 星伽さんの追及を受け流し理子が入れたのは――おお、今度はパルスイートか。あの人工甘味料。めちゃくちゃ甘いやつ。だったら俺も負けるわけにはいかないな。

 よし、負けじとタバスコを瓶全部入れてやる。

 

「キャアアアァ――――!」

 

 星伽さんの悲鳴が聞こえる。珍しく神崎も涙目になっている。完全に俺と理子で遊んでいる状態だ。

 

「ああそうだ。シュールストレミングもこの日のためにわざわざ取り寄せたんだけど――――」

「白雪! もういいだろ。食べるぞ!」

「白雪早くしなさい!」

「はっ、はい!」

 

 あ、さすがにダメですか。遠山と神崎に先越された。いやさすがにここで開ける勇気は俺にはないけどね? 少しでも匂い漏れないようにめちゃくちゃ密閉しているし。

 ただあれだ、たまには俺も悪ふざけしたいんだよ。遠山たちがいる以上突っ込み役に回らなくていいし。ボケるのって楽しい。

 

「……うわっ、気持ち悪い匂いだな」

 

 率直な感想もらすと神崎が俺に指を指して告げる。

 

「半分くらいは八幡のせいだからね! あんたなにMAXコーヒー鍋に入れてんのよ。味噌の匂いなんてこれっぽっちもしないじゃない! ていうか他にも変な匂いが……」

 

 それについては心当たりしかないがノーコメントで。

 

「神崎だって外れ担当だろ。同罪だってば」

「八幡よりかはマシよ!」

「で、神崎は何入れたの? ていうか誰から食う?」

「では公平にじゃんけんしましょう」

 

 レキの提案でそうなるけど……レキくらいなら手の動きから読み取れそうだな。全然公平じゃないだろ。そして、じゃんけんした結果最初に負けたのは遠山。ちなみにレキはトップ。ほら見ろこの子ったらすぐそういうことする。

 

 骨くらいなら拾ってやる。ガンバー遠山ー。

 

「うわっ……」

 

 遠山が拾い上げたのは……桃まん? これは十中八九神崎だな。うん。溶けた餡が鍋で大変なことになっている。そして桃まんの上にははんぺんみたいなのがくっ付いている。なにこれ? 外れみたいだからあとは消去法で多分レキなんだろうが……。

 

「散る桜、残った桜も、散る桜……っ!」

 

 なにその辞世の句は。

 

 おお、根性で食べきった……。遠山めっちゃぐったりしている。

 

「で、あれ何だったんだ?」

「チーズ味のカロリーメイト…………。ぶよぶよしてて気持ち悪い……」

「うっわぁ……」

「次比企谷だぞ。お前も地獄を見ろ」

 

 遠山に続いて俺も掬い上げる。頼むから俺が入れたやつは当たりませんように……って何このドス黒い粒々の物体は……。

 

「これもレキか?」

「はい。狙撃科で栽培しているブルーベリーです」

「お前何て言うもんを……」

「さあさあハチハチのスゴいところ見せてくれー!」

 

 理子が煽りに煽る。お前も痛い目見ろと半ば遠山と同じことを思いながら頑張って口に放り込み、ブラックコーヒーでムリヤリ流し込む。

 

「うっぷ……」

 

 おえっ、まっっっっっっっっっっっっず。

 

 特にこの出汁。鷹の爪とタバスコの辛さとMAXコーヒーとパルスイートの甘さが絶妙に吐き気を誘う。この人生で一番不味い食事だ。誰だよこんな不味いもん作ったのは……。半分以上は俺だけども! 因果応報とは正にこのことか。俺たちは闇鍋の才能があるぞ。

 

「次はあたしね……」

 

 神崎が拾い上げた物体は――――

 

「キャアァァッ! ……何この匂い!? この鍋の大元の匂いじゃない!? これ八幡ね!」

「くさやだな。これでも冷凍したやつだから生よりかなりマシだぞ」

 

 くさやは日本の伝統的な食材。世界で一番臭い食べ物ランキングしたら多分3位くらいはとれるポテンシャルがある。1位は当然シュールストレミング。あれは臭すぎて機内持ち込み禁止とか言われるレベルだ。

 

 なんにせよ、くさやが俺に当たらなくて良かったと心底安堵する。

 

「お前はなんでそう頑なに臭い食材押し付けようと思うんだ……」

 

 遠山の呆れた突っ込み。

 

「なぁ、シュールストレミングってマジで持ってきたのか?」

「まぁな。当然としてかなり密閉しているけど。匂いは漏れない。安心しろ」

「あれ室内で開けたらもうその部屋一生使えないって言われるレベルだからな」

「そうだ。今度イ・ウーに行く機会あったらシュールストレミング複数置いてテロ仕掛けてやるか」

「それ絶対シャーロックに死ぬほど怒られるやつだぞ。いやもう、アイツ死んでるけどさ……」

「だな」

 

 一種のテロ対策というか制圧方法を思い付いたが、これは多分俺も被害に遭うやつだ。封印しよう。けっこう高かったんだがなぁ。

 

「ハァ……ハァ……。八幡あとでぜーったい! ぶっ飛ばすからね……」

 

 そうこうしていると、神崎はくさやを息絶え絶えで食べきった。

 星伽さんさ両手を合わして神に祈るように。

 

「お願いしますお願いします……」

 

 次に星伽さんが当てたのは当たり食材の肉とキムチ。このキムチ一応は当たり食材らしいが、持ってきたの理子か。確かにキムチ鍋とかあるけど、これほぼ外れだろう。鍋のベースがあれだが、食材がマトモだからかまだダメージは少ないみたいだ。

 

「次は私ですね」

 

 レキは赤唐辛子の群れを掬ってしまったが、フライドポテトみたいに平然とパクパク食べた。えぇ……。お前の味覚どうなってんだ……。その腹の中ブラックホールじゃねぇよな?

 

「大丈夫なのか?」

 

 それを見かねた遠山が思わず声をかける。

 

「はい」

 

 レキは簡素にそう返すだけ。

 

「レキ、お前無理してない? ホントに大丈夫か?」

「問題ないです。むしろ八幡さんの方が顔色悪いですが」

「ああうん。未だにダメージ残ってる」

 

 ブラックコーヒーの味でもかき消せないこの圧倒的不味さ。正直すまんかった。

 

「じゃあ、次はわったしー! おお、これは白滝だね」

 

 いや白滝だけど、この出汁のせいでえっぐい色しているなぁ!

 

「うへー、ハチハチのくさやのせいで美味しくなぁーい」

「……反省はしている」

 

 そのあとは星伽さんがあの鍋の中身を捨てて、普通の鍋パを楽しみました。……ふざけまくってごめんな? 特に恐らく一番被害が大きかった神崎さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時は文化祭から3日経ったある日のこと。

 

 

「東京から転校してきた比企谷八幡と言います。よろしくお願いします」

 

 ――――俺は武偵高の制服ではなく、別の妙に新しい制服を身にまとい、転校生としてある高校の教室にいた。

 

 そこは千葉県内の公立高校で有数の偏差値を誇る進学校。

 また、もし俺が中学卒業時千葉から引っ越しをせず武偵にならなかった未来があるのなら、成績からしてそこに通うはずだったであろう高校。

 

 その高校の名前は――――千葉県立総武高等学校。

 

 

 

 

 

 

 

 




ウルトラマンZが面白すぎて、今ウルトラマンがマイブーム。ULTRAMANも見た。早く続き見たいぜ。ていうかウルトラマンもうちょいネトフリで配信してほしいなぁ。ニュージェネ作品見れてない作品の方が今のことろ多いので
アマプラも見れる作品けっこう限定されてるし。YouTubeの公式配信でのんびり追いかけるか

多分シナリオやら含めて一番好きなウルトラマンはZ。四次元狂想曲とかマジで感動した。今回の最後の勇者も
単純なビジュアルならメビウス・インフィニティかな


対して仮面ライダーは……その、ゼロワンに関しては呪詛しかないし、セイバーもぶっちゃけ今のところ面白いとは言えない状態。この2作品に突っ込み入れたらキリがない

懐古厨にはなりたくないけど……なんだかなぁ。脚本もうちょいどうにかならんのか



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総武高校編① 始まりはいつも突然

「……潜入捜査?」

 

 文化祭の翌日、俺は職員室の隣にある部屋にいた。生徒指導室みたいな場所だ。テーブルとソファーが置かれているだけ。微妙にフローリングやら綺麗なんだけど、これ教師か生徒が壊したから色々と直されたのだろうなと安易に想像がつく。まぁ、ここ武偵高ですし? そこで指導とか絶対殴られるよな。

 俺の隣にはレキ、目の前には蘭豹。怒られるかと思ったが、どうやら別の話題らしい。怒られる理由なんてないから当然だな。心当たりがあるとすれば昨日のことだけど、シュールストレミングも開けてないし。

 

「おう。お前らに直接依頼があったんよ」

「というか、潜入って言われても……メンツが強襲科と狙撃科って。いや、狙撃科なら未だしも強襲科って潜入捜査向かないでしょ。そういうの普通探偵科か尋問科の仕事ですよね?」

「そりゃそう思ったけども、潜入する場所が場所やからな。あと先方の希望やし」

 

 そんな戦闘バリバリ起こるような特殊な場所なのか?

 

「えーっと、今回の場所ってどこですか?」

「総武高校って学校やな。たしか……千葉にあるとこ。比企谷知っとるか? お前、前まで千葉に住んでたよな?」

「まぁ……はい。知っています。わりと近所でしたし」

 

 その学校は俺が武偵にならなかったら進学してたかもしれない学校だ。親父が台場に引っ越す&武偵になれって言われなかったらそこに受かれば行っていただろう。受かればの話どが。

 

 ていうか、いきなり呼び出されたと思ったら仕事の話か。ハァ……やだなぁ、面倒だなぁ。でも教務科からの仕事ないがしろにすると評価だだ下がりだからやるしかないんだよな。――と嫌々ながらその仕事を受けることになるのだろう。

 そもそもなぜ俺らが……先方って言っていたのでそこ繋がりなのだろうかと疑問に残る。

 

「で、仕事内容は?」

「どうにも違法の武器やヤクの密輸があの学校通して行われいるっぽいみたいや。そんで、捜索して犯人の根城見付けて取っ捕まえるまでがセットやな まぁ、途中まで警察が捜査してたけど、場所が場所やからこれ以上の進展が望めないっぽいらしくてな。犯人もシッポろくに出さないみたいやから。――――で、学生の武偵に調査してほしいとのことや」

 

 ……密輸か。その響きなんだか懐かしいな。春休みの最後の日に密輸の調査受けたことがある。あの事件の顛末は良いものとは言えなかったな。犯人のサラリーマンは元気かね。どうせ留置場にいると思うけど。さすがに数ヶ月では出てこれないだろう。

 というか学校を通しての密輸ね。これまた厄介そうな事件だな。どうやって学校を通して密輸するのだろうか。ベタな考えだけど、体育倉庫に隠してたりするのか。

 

「密輸ですか。それまた……面ど……大変そうですね」

「お前今面倒って言おうとしたやろ?」

「いえ滅相もない。ハハッ、そんなわけないでしょう」

「いえ、確かに八幡さんは面倒と言おうとしました」

 

 おいコラレキ! そういうこと先生に教えちゃいけません!

 

 蘭豹はため息をつきながら俺は話を続行する。

 

「というより学校通して……ってどういうことです? 武器とか体育倉庫に隠してあるとか?」

 

 さっき考えた案を蘭豹に話してみる。

 

「そこらはまだ調べきれてないと。ま、そこも含めて調べろっちゅーことやな。ヤクザが関わってるとかなんとかも言われてるわ」

「はぁ……学校を調査ってそれこそ探偵科の出番じゃないですか? どう考えても強襲科向きの事件じゃないでしょう」

「あのなぁ比企谷お前……ちょっとは考えてみろ。今回の仕事現場は総武高校やで? お前あそこの特徴言ってみろ」

「そうっすね、校舎が公立のわりにはけっこう綺麗で、あとは県内有数の進学校といったところでしょ――――あっ」

 

 自分で言っていて途中ではたと気付く。頭ごなしに言うのもなんだけど、ここにいる奴らバカばかりじゃん……。進学校に行ったら速攻でボロが出るな。ねぇねぇ、ここの偏差値知っているか? 学力だけならめちゃくちゃ低いぞ。それはもうびっくりするくらい。

 

「あーんなくっそ賢いとこにうちのアホ共放り込めるわけないやろ。もろ武偵ですって紹介してるもんや」

「ですね。否定はしません。むしろ肯定します」

「その点、お前は星伽に次いで成績ええしどうにかなるやろ。レキもそこらは上手いことこなせるんちゃうん?」

 

 ボケーッと適当にボヤく蘭豹。おい、朝から酒飲むなよ。うっ、酒くせぇ。

 

「それで、依頼者誰なんです? 俺らを直接指定するとか……学校の校長とか?」

「いや、ちゃうちゃう。千葉県知事やで」

 

 県知事……って県知事!?

 いきなり予想外のこと言われて面食らった。

 

 依頼主はまさかの人選だった。何と言うかけっこうな大物だな。意外も意外。正直なところかなり驚いた。どうしてそんなお偉いさんが直々に俺ら武偵に依頼を――――あれ、そういえば今の知事って確か過去に関わった記憶がある。

 

「依頼主……雪ノ下って名前でした?」

「おー、そうそうそんな名前やった。なんか前依頼で関わったことあるって?」

「はい。夏休みに1回」

 

 正確には雪ノ下姉妹の2人で知事にはほとんど会ってはいない。事件の終わりに軽く挨拶したくらいだ。

 

「それでコイツらに依頼かぁ。なるほどなぁ。一応は納得したわ。ほい、これ依頼要項」

 

 蘭豹から書類を受け取る。面倒くさそうに俺は書類を読む。実際面倒なもんで。

 さて、今回の依頼内容はどんなもんだ。もうちょい詳しく読むか。……読み進めているうちにおかしな文面を見付ける。

 

「転校してから最低2週間は調査するなと? 普通の学生として過ごすように」

「……まぁ、今回の犯人がかなり慎重な奴っぽくて。転校していきなり武偵感出したらそりゃ犯人は警戒してまうやろ」

「うわーっ、けっこうダルそうですね」

「私に直接文句言うなや」

「なら、転校履歴どうなるんです? 調べれば前に武偵高にいたこと分かりますよね? そこまでその犯人が調べると思いませんが」

「あー、そこは一旦お前とレキは退学することになっとる」

 

 これまた寝耳に水なことを言われ、思わず目が点となる。

 うん? 今蘭豹なんて言った? 退学? えっ?

 

「ど、どういうことです?」

「転校じゃなくて、退学ってことにすれば前いた学校明かさなくていい決まりやねんな。ここ止める奴も大概退学して転入って流れになっとる。今回も怪しまれんためにそうするからな」

 

 何それ面倒な規則だな。 てことは任務とは言え、このアホアホ高校で退学することになるのか……。それはどこか癪に触るな。

 

「…………ま、それは置いといて、要項はこれに書いてる通り。分からんことあったら、そこの連絡先に連絡するように。昼過ぎまでには荷物まとめとけよ。夕方には向こう行って打ち合わせあるからな。レキもやで」

「はい」

「そういや、荷物まとめてって、こっから通うんじゃないんですか?」

「ああ、それは書いてなかったな。総武高校から徒歩10分くらいのアパート? がお前らの拠点や。アパートつってもそんなに古くないからな。かなり新築って聞いてたぞ。つか、東京から千葉まで最低2週間もせこせこ通うつもりかぁ?」

「……言われればそうですね」

 

 そうか。俺だけになるけど、また千葉に帰ることになったのか。ここと比べれば千葉に住んでる時間の方が圧倒的に長いが、ここで過ごした時間はとても濃密な1年だったな。多分それはこれからも変わらないだろう。

 

「……犯人の目星はついてないか」

 

 資料を読み終えて思わずため息をつく。学校に関しての手がかりがあまりにもなさすぎて完全に丸投げレベル。学校で捜査せずに取引現場直接抑えた方が早いんじゃねーのこれ? いや、現場分かってないと無理だから捜査は必須だろう。蘭豹も何かしらの組織が動いていると言っていた。

 これまた大変な事件になりそうだ。

 

「じゃ、頼むでー」

 

 と、蘭豹はヒラヒラを俺らに手を振りめんどくさそうに見送る。いや、もう生徒がいないならって堂々酒飲むなよ……。

 

「では八幡さん。夕方までに荷物をまとめて移動しましょう」

「おう」

 

 指導室を出たところでレキと会話を交わし、一旦別れることにする。

 部屋に帰りながら何を持っていくか考える。荷物全部持っていくわけにはいかないな。着替えと装備とメンテ関係の工具と……あとはゲームや本やら持っていくか。完全に旅行や遊びに行く感覚だ。

 

 

 部屋に戻り、荷物をかたす。そうこうしていると、昼になってきたので遠山が俺の部屋に入ってくる。

 

「比企谷ー、お前昼どうする? 俺は外で食べ……っていうかさっきから何してんだ」

「あー、任務でしばらく離れる。多分1ヶ月くらい」

「任務?」

「今日蘭豹から話があってな。別に隠すもんではないけど、一応は内緒にしておく」

「じゃあ、俺もこれ以上訊かないでおく」

「そうしてくれ」

 

 と、何てことのない会話を繰り広げ、俺も休憩を挟む。あ、レキから連絡。……アイツもう片付け終わったのか。早いな。さすが元々の荷物が少ないだけある。

 対する俺は色々余計な物が多い。人間、暇を潰す物がなくても死にはしないが、暇すぎたら心が死ぬ。こんな任務ですらそうなんだ。長時間同じ場所に留まり続ける忍耐力も集中力もない。俺は狙撃手には到底なれないな。

 

 昼休憩挟んで作業を再開する。確か2時に寮の前に業者のトラックが着く手筈だ。それまでにさっさと済ませよう。引っ越し先のアパートには適当な家具を揃えているらしい。だから家具を運ばなくていいのは楽だ。そこは依頼主の知事様々だ。権力バンザイ権力大好き。

 

「遠山、じゃ行ってくるわ。あらかた片付けたけど、部屋壊されないように頼むわ。死ぬなよ」

 

 昼飯から帰ってきていた遠山に挨拶を済ます。

 

「おう。アリアには気を張っとくよ。あと不吉なこと言うな」

「そういやFEWどうなってる?」

「特に音沙汰なし。比企谷がヒルダ取っ捕まえてくれてくれて助かるよ。殻金も返ってきたし」

「ふーん。まぁ、どうせトラブル気質の遠山だ。そろそろ痛い目見るんじゃねぇの?」

「だから不吉なこと言うなよ……」

 

 

 そして、引っ越し業者を見送り夕方。俺とレキは電車を使い千葉へ移動した。したはいいが――――

 

「一部屋だけかよ……」

「ご存知なかったのですか?」

 

 案内された場所はアパートというより6階ほどの小さめのマンションだった。どうやら蘭豹の言う通りらしく、新築で住人はほぼいない。というより、俺らが初めての住人とのことだ。変に気を遣ってくれたのかあまりここでは派手なことはできない。防弾製の造りではないことだしな。まぁ、誰もいないという建物だ――秘匿製という意味ではありがたい。

 

「お前知っていたのか?」

「はい。要項にも書いておりました」

「見逃してた……」

「あまり私たち武偵に当てる予算がないのでしょう」

「こちとらSランク様のレキがいるんだぞ。もっと報酬出せよ」

 

 権力の塊みたいな奴が俺のパートナーですよ。

 

「ですから、私たちへの報酬に予算が回され、ここは一部屋しか借りれなかったとか」

「何そのマッチポンプ。それ俺らのせいじゃん」

「ですが、情報共有という点に置いて、多く部屋を使うのは返って都合が悪いかと思います」

「そこには同感だ。とりあえず適当に荷物整理して総武高校に行くぞ。明日からの打ち合わせだ」

「はい。ではリーダー、今回の指揮はお願いしますね」

「じゃんけんに勝っておけば……!」

 

 あのときの運のなさが悔やまれる。まぁ、今は片付けだ。手短に済ませよう。

 

 

 とても綺麗な部屋を行ったり来たりしつつ、新築の匂いがする部屋で片付けの最中、俺はレキに話しかける。

 これマジで下手に硝煙の匂いつけたら弁償だろうか。貯金はそれなりにあるとはいえ、さすがに気を付けよう。……あ、冷蔵庫空だ。あとで買い足しておこう。スーパーどこだっけか。

 

「そういや多分ドラグノフ学校に持ち込むなって言われるだろ。どうするつもりだ?」

「もし突入することがあればドラグノフを使いますが、普段の学校では軍での使用例があるスリングショットを持参するつもりです」

「スリングショット? あぁ、パチンコか」

「はい。弾は鉄球を見繕っています」

「準備万端ってところだな」

「八幡さんは?」

「俺はレキほど装備でかくないしカバンとかに銃仕込んでおく予定だ。二重底のカバン用意したし、そこに銃隠せるだろ。制服に帯銃するわけにはいかないしな」

「なるほど。そうでしたか」

 

 適当に会話をこなしているとそれなりに時間が経っていた。そろそろ打ち合わせの時間が近付いている。

 ちょっと片付いたところなので支給された総武高校の制服に袖を通す。

 

「――――」

 

 ほう。ブレザーか。これは武偵高も同じだが、如何せん防弾製ではないのは心許ない。制服の見た目気にするより、機能性を重視してしまうのは武偵の性かな。それを言ったら私服はごくごく普通の服なのだが。

 

「八幡さん、行きましょうか」

「おう。……似合ってるな」

 

 別の部屋から制服に着替えたレキが出てきた。

 ……なんだろう、武偵高女子の制服はセーラー服だからかブレザーというのは新鮮だ。

 

「ありがとうございます。八幡さんは……あまり変わりませんね」

「それは俺も思う」

「ですが、似合ってますよ」

「ありがと。……じゃあ、行くか」

 

 10分程度歩いて総武高校に着いた。武偵高に比べて随分綺麗な校舎だな。どこか羨ましいのはなぜだろう。いや、理由は明白。あそこいつもどこかしら壊れてるもん……。

 

 放課後なので部活をしている生徒や下校する人たちとすれ違いながら目的地である校長室まで歩く。扉を開けると、中には……2人いる。老人とスーツ姿の若い男。1人が校長で……1人が警察官かな。

 

「お待たせしました。武偵の比企谷八幡です」

「レキと言います」

「遠いとこまでお疲れ様です。総武高校校長の本郷と言います。ささっ、座って座って」

「ありがとうございます。えーっと……」

「千葉県警の坂田と言います。今日は1人だけですが、我々で今回の事件のバックアップを行います。以後、よろしくお願いしますね」

 

 本郷さんはどこにでもいるといった感じの老人で、坂田さんは好青年といった雰囲気の警察官だ。坂田さんの年は20代後半から30前半といったところか。第一印象もさることながら随分若いな。

 ふむ。それはそれとして、もう1人ここにいるべき人が見当たらない。

 

「よろしくお願いします。……ところで、依頼主の」

「あぁ、申し訳ございません。知事のことですね。今回の事件、あくまで知事は君たちを推薦したというだけで、捜査に関しての諸々のことは我々警察に任されています。それにお忙しい方ですから」

「なるほど、そうですね」

 

 ……言われてみればわざわざこんなとこに知事本人が来るわけないか。

 大方、警察にいい武偵はいないか相談されて俺たちに白羽の矢がたったといったところだろう。

 

「では改めて打ち合わせに入らせていただきます。オホン……事の発端は1ヶ月のことです。千葉市内のある廃ビルにおいて、武器の密輸が行われているとの通報がありました。現場にあったのは国が認知していない武器ばかりです。武偵のお二人ならご存知でしょうが、いくら一般人が手軽に銃を持てる世の中とは言え、正式に許可された銃しか携帯してはいけない決まりになっていますから」

 

 俺とレキは頷く。

 それはそうだな。坂田さんの言う通りだ。誰彼構わず銃を持てるわけではない。もし持てたら世紀末な世の中になっていたと安易に想像がつく。

 

「現場にあった銃の種類とか分かります?」

「グロッグ17やベレッタF92などが主ですね。種類はこれといって特徴がありませんが、数は30を越えていました。取り締まれなかった分もありますから実際の数はもっと多いでしょう」

「それはそれは……」

 

 坂田さんから訊かされた違法武器の数に思わず辟易する。

 非合法の銃を片っ端からそんなに集めて……マジで面倒だな。テロでも起こす気か?

 

「そのとき捕まえた者たちは複数いますが、どれも金で雇われただけのゴロツキでした。残念ながら、その段階では首謀者まで突き止めることはできませんでした。ただ、そのゴロツキの情報では似たような取引がいくつかの現場で行われているらしく、警察は捜査を本格的に乗り出すことになりました。そして、調べている内に分かったことがありまして……」

「その候補の1つがここだということですか」

「――はい。先週末にも1つ現場を抑えましたが、そこでは武器の密輸の他に麻薬や大麻が売られている痕跡がありました。現場で押収できたものは少なかったのですが、どうにか入手元を辿っていると、ここ総武高校に行き当たりました。それが一昨日の話です」

「というと……やはりここにブツがあると?」

 

 あるとしたらどこに? 昔に見学したこともあったが、ここの学校は相当広い。全部調べ回っていたら骨が折れる。

 

「現時点では不明です。単純に取引現場に使用されているのか、ここにいる誰かが手引きをしてブツを隠しているのか、それとも大元の犯人がいるのか……」

「それを俺たちが調べるってわけですか」

「お恥ずかしい話、ここの捜査を全部任せてしまう形になりますが、そうなりますね。警察が堂々と捜査に入ると、もし事件に関わりがある人がいるのなら……警戒されてシッポを出さないでしょう。ですから、武偵にお願いして中から調査してほしいのです」

「それは分かりましたが……そうですね、ここに監視カメラとかってあります?」

 

 ここで校長先生に話を振るが、首を横に振りながら答える。

 

「職員室と科学の実習室には置いてありますが、そこだけですねぇ。申し訳ない」

「映像は警察も確認しましたが、これといって怪しい点はありませんでした」

「でしょうねぇ。今すぐに監視カメラ増やすってわけにもいかないですし。もろ犯人探してますよって言っているようなもんですしね」

「比企谷さんの仰る通りです」

 

 ……と、話が逸れたな。

 

「で、その入手ルートってここだけですか?」

「いいえ。もちろん、他にも候補地はあります。そこは警察で探れる場所なので我々が調べています」

 

 こう、何と言うか……蘭豹の説明ホント適当だな……。坂田さんの説明とても分かりやい。どうしてか涙出そう。マトモな人……なんて素晴らしいのか。

 別に蘭豹の説明が嘘っぱちとか言うつもりはない。適当だとは思うが。蘭豹から渡された資料と坂田さんから今言われたことはだいたい同じだ。しかし、俺らが知らない情報を懇切丁寧に教えてくれるその態度に感激する。武偵高にとても欲しい人材だ。

 

「事件の説明はこれで終りです。次に本郷さんから」

「はい。私からはこの学校に通うにあたっての注意点をいくつか伝えておきたくて。前もって連絡は行っていますが、詳しく言わせていただきます」

「お願いします」

 

 校長先生は軽く咳払いをして話を始める。

 

「まず明日から2週間は普通に学校生活を送ってもらいます。これは警察の方々と話して決めたことですね。犯人がいるのなら警戒されないためと生徒たちの安全のためにです。校内を歩き回る程度なら大丈夫ですが、細かい場所まで探すとなると、生徒も教師も不審がることでしょう。何卒、よろしくお願いしますね」

「そこのところは重々承知しております」

 

 その辺りの心配をするのは校長として、ひいては教師としてはごくごく普通のことだろう。俺たちは雇われている側だ。当然依頼主や協力者の意向を無視した行為はできない。

 

「他に要望はありますか? 資料には先ほど言われたことくらいしか明記されてませんでしたが」

「あとは貴方たちの武器のことですね。比企谷さんは拳銃をお持ちだそうで」

「はい。必要なら見せますが」

「いえ、大丈夫ですよ。武偵として武器は必要不可欠でしょう。もちろん普段も持ってくれて構いません。ただ、生徒の前ではむやみやたらと見せないように心がけていただきたい」

「分かりました。レキはライフルを基本使いますが、普段は使わないそうなので安心してください」

「はい」

 

 マガジンはどうしようか。カバンに隠そうと思えば隠せるか。しかし、リロードしたくなるほど戦闘するかと言えば微妙なところか。……というか、レキ喋らねぇな。マジで静かすぎる。

 

「他はあります?」

「そうですね……事の顛末はどうあれ、やはり生徒に被害は出してほしくはないですかねぇ」

「そのくらいなら全然、というより当たり前のことです」

 

 まぁ、武偵法もあるんだ。当然心得ている。できる限り人的被害はゼロにしたい。

 

「もし武偵とバレたら俺らクビですか?」

「確かにバレるのは望ましくないです。せいぜい1人2人なら口止めもできますがね。しかし、もし大多数にバレた場合、即刻事件の解決に乗り出してもらいたいと考えています」

 

 潜入捜査の決まり事を坂田さんへ訊くと、そう返答された。

 

 というより、もし犯人がいるとしても武器やヤクの密輸を取り扱っているのだ。恐らく相当でかい組織だろう。こういうのは通常個人ではなかなか行えない行為だ。ゴロツキ雇ったという話もあることたしな。

 これ俺らだけでホントにどうにかなるのか? 知事には悪いが、分不相応じゃありませんかねぇ。不安になってきたな……。

 

「では、今日はこのくらいにしておきましょう」

 

 坂田さんは荷物をまとめ、校長先生も「そうしましょう」頷いている。そうだな、時間もいい頃合いだ。潮時だな。

 

「改めて、明日からよろしくお願いします、比企谷さん、レキさん。ああそうそう、明日朝に職員室に来て下さいね。そこから各教室に案内しますから」

「はい」

「分かりました。失礼しました」

 

 最後に校長先生に挨拶してから総武高校を後にする。坂田さんはまだ残ると言っていた。事後処理のような……いや、それを言うなら事前処理か。仕事が残っているのだろう。はぁ、やはり社会人にはなりたくないな。社会人でもないのに明日から懸命に働くのは置いておいてだ。毎日スーツ着て出勤というのはどうも億劫になる。

 

「八幡さん」

 

 下校中、最初と最後の挨拶以外沈黙を貫いていたレキが口を開く。

 

「どうした?」

「夕御飯はどのようにされます?」

「お前いつも食べる量決めているんだろ? 1日2日ならともかくしばらくだぞ。それ崩すのか」

「普段ならそうですが、怪しまれないよう学校生活を送る予定ですので、そこは隠そうかと思います。お昼もお弁当を食べようと考えています」

「それは晩飯もか?」

「はい」

「それ誰が作るんだ?」

「八幡さんです」

「あ、俺なんだ……」

「私はライスケーキしか作れませんので。さすがにそれだと怪しまれる可能性があります」

「毎回外食ってのも費用かさむしな。仕方ない、スーパー寄るか」

「はい。今日は早めに寝ましょうね」

「おう……ん?」

 

 あれ、これまで何回かレキの部屋に泊まったし修学旅行もあったから深く考えていなかったけど、これレキとしばらく同棲するということ? 下手すれば1ヶ月以上、最低2週間? 今さら同棲の実感が沸いてきた。なんか緊張してきたような……。

 

 

 

 

 

 

 

 




八幡や一部原作キャラのいない総武高校ですが、謎の力によってトラブルはあれど上手いこと回っている設定です



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総武高校編② あるはずだった邂逅

短く納めようとしたのに……どうしてこう長くなるのだろうか…………(10000文字越え)




「おっ、比企谷にレキ、待っていたぞ」

「……平塚先生、なんでいるんです?」

 

 翌朝、総武高校の制服を着て職員室に訪れた俺とレキ。いくつか注意事項を受け、隣の生徒指導室に教科書があるからと言われ、入ったら白衣を身にまとっていた平塚先生がいた。

 先生はたまに強襲科で俺らのコーチをしている。単純な格闘センスなら蘭豹とタメを張る実力者だ。俺も何度か相手したことがある。こういう手合いはいかに攻撃を避けれるかに限る。そして、俺と遠山はたまに先生とラーメン巡りをしたことがあるくらい仲はいい。

 

「私の仕事先がここなだけだ」

「……あぁ、そういや教師が本職って言ってましたね」

「そういうことだ。ちなみにお前たち2年のが学年主任でもある。これでも国語担当だからな。まぁ、とりあえず座りたまえ」

 

 そのような人がなぜここにと疑問に感じたが、先生の回答で解消された。

 先生に促され、ソファーに腰をかける。先生の本題が教科書関連とは思えないが、せっかくなのでこれから授業を受けるレベルを知りたいと思い、教科書をパラパラめくる……これが進学校か。かなりレベルが高い。特に数学とか呪文にしか見えない。

 

「お前たちがここに来た経緯は蘭豹から聞いている。私にも立場があるからおおっぴらには協力できないが、ある程度融通利かすことならどうにかなる。ただ、悪目立ちはするなよ? 校長からも言われてるだろ?」

「はい。まぁ、そうですね」

 

 教師に味方がいるのはありがたい。

 

「あぁ、あと、授業中は居眠りするなよ? 私の鉄拳制裁を見舞うことになるからな」

「一般人には手加減してますよね?」

 

 この人の本気なら、熊程度軽く絶命させるくらい訳ない強さだからな。俺も何度か喰らったことが……ううっ、恐ろしい。

 

「当たり前だ。私が本気を出すのは蘭豹だけだ――おっ?」

 

 不意に指導室の扉がノックされた。控えめなノックだ。

 

「失礼します。平塚先生はここにいるとお聞きし…………あら?」

 

 入ってきたのは綺麗な黒髪を肩よりも長く伸ばしている、安易な言葉で現すなら美人と言える女子だった。そして、俺たちは見覚えのある人物でもある。

 その人物は俺たちを見付けると眼をパチクリとさせる。大げさに表情を出さないらしいが、どうやら驚いているみたいだ。

 

「雪ノ下……?」

「貴方たちは、比企谷君にレキさん」

「お久しぶりです」

「えぇ、レキさんもお久しぶりね」

 

 一度夏休みのときに依頼で関わったことのある人だった。雪ノ下家のご令嬢、知事の娘であり雪ノ下陽乃の妹。

 

「雪ノ下、とりあえず扉は閉めろ」

「あ、はい。先生、これ昨日忘れた分の宿題です」

「うむ、受け取った。しかし、雪ノ下が忘れるとは珍しいな」

「ちゃんと宿題は解いたのですけど、鞄に入れるのを忘れてまして……と、そうではなく、比企谷君とレキさん、どうしてここに? 貴方たち武偵のはずでしょう? わざわざここに来るなんて何かあったのかしら?」

 

 懐疑的な視線を俺たちに向ける。平和な一般な学校に社会不適合者がいるのだ。その疑問は当然だろう。

 

「ん、何だ、お前ら知り合いなのか」

「まぁ、そうっすね、一度依頼で」

 

 面倒な事態になり頭を抱えそうになる。

 

 ややこしいことになったもんだな。

 まさか俺たちのことを知っている奴がこの高校にいるとは思いもしなかった。しかもそれが雪ノ下雪乃という人物。いや、知事や警察が指定した学校だから、俺たちと同年代の雪ノ下雪乃がいる可能性は十二分にあった。想像がそこまで及ばなかったな。さて、雪ノ下をどう口止めするべきか。

 

「それで、どうしているのかしら?」

「あー、武偵高は退学になったから転入してきた」

 

 嘘はついていない。実際、あそこに俺たちの籍はもうない。悲しいことに。

 

「退学? 貴方たちが? …………そう、えぇ、分かったわ。そういうことにしておくわ。これ以上は追及しない。貴方たちはただの転校生、武偵とは関係ない。そういうことね?」

「おう」

 

 察してくれたようで助かる。下手に口止めしなくて良かった。さすがに知事の娘に実力行使は避けるべきだろう。

 

「そうだ、レキと雪ノ下はクラス一緒だから仲良くしてやれよ」

「そうなんですか?」

 

 雪ノ下が先生に聞き返す。

 

「うむ、レキは一応は見た目外国人だし、帰国子女扱いというわけで国際関係のJ組だ。あ、比企谷はF組だ」

 

 それはさっき職員室で教えてもらった。転校というのは初めてだ。ぶっちゃけかなり緊張している。事件の現場に突入するのは何度も経験してきたが、大勢がいる目の前で自己紹介するという行為は経験がなさすぎる。あれだろ、不特定多数の視線が一気に俺に集まるんだろう? うん、ムリ。

 ちなみにレキは見た目外国人ではなく外国人だ。閉鎖的な民族だからモンゴルの血しか混ざっていないだろう。

 

「では同じクラスとして、改めてよろしくね、レキさん」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 雪ノ下が挨拶をして去ってからふと時間を確認する。そろそろ1時間目が始まるころだ。やはりそれなりに緊張してきた。

 

「じゃあ、お前らの担任が職員室にいるからソイツらに付いてってくれ。……あぁそれとな、お前らの事情を知ってるのは校長と私だ。他の教師は知らないことを覚えておいてくれ。さっきも言ったが、多少は融通は利かすし、助けもするが、私個人という立場上、無理な場合もあるからな」

「分かりました」

「まぁ、最初のうちはあそこでは味わえない普通の学生生活でも楽しんでくれ」

 

 平塚先生の言うことも一理あると思い、頷く。

 どうせ2週間は大人しく過ごさないといけない。ならラノベやアニメで見たような学生生活を送るとしよう。現実の学校では創作物のように明るい楽しい学校生活を送れないかと思うのは置いておいてだ。普通の高校は屋上なんて行けないし、生徒会も華やかといったわけではない。リアルなんて所詮はそんなもんだ。変に期待しない方がいい。

 

 ……そう考えると、武偵高はやはりどこか頭イカれている学校だなと再確認する。

 

 

 

 

「東京から転校してきた比企谷八幡と言います。よろしくお願いします」

 

 教室に移動してからクラス全員のいる前で自己紹介をする。簡素かつ無難。

 

 自己紹介を終えて数秒間、ざっと教室を見渡す。ごくごく普通の教室。そこにいる生徒たちは地毛だろうと思える黒髪の他に金髪や茶髪といった染めている髪の人もいれば、金髪縦ロールのようなかなり自由な髪型の人もいる。偏差値の高い学校はわりと校則が緩く、髪を自由に染めるのも許される学校もあると聞くが、ここもそうなのだろうかと思う。

 

「中途半端な時期での転校だが、仲良くしてやってくれ」

 

 若い男性の担任からの一言。名前は七条先生だったか。確か数学担当らしい。

 

「初っぱな俺の授業だし、せっかくだ。しばらく質問タイムを設ける。いいか、比企谷」

「あぁはい。大丈夫です」

「じゃあ誰かいないかー? いるなら最初に名前教えてやれよ」

 

 1時間目から数学か……。しかも進学校レベル。アホアホ武偵高の授業と比べて相当難易度高いだろう。嫌だな。億劫になる。この質問タイムでかなり引き伸ばしてやる。適当に受け流したらどうにかなるだろうしな。

 ……レキは上手くやっているかな。心配になってくる。しかし、雪ノ下という知り合いがいるから孤立無援にはならないと思いたい。

 

「はいはーい。じゃ俺からいい? 戸部ってもんなんだけど、ヒキガヤ君趣味は?」

 

 ヘアバンドを付けた茶髪の男子生徒。失礼だが、いかにもチャラそうというかノリが軽そうな印象だ。

 

「読書とか。ジャンル問わず漫画でも小説でもわりと何でも読む。あとは……スポーツはこれといってしてないけど、適当に体動かしたりするのは好きだな」

 

 性格的にはインドア思考の強い俺だが、職業柄体は鈍らないようによく動かす。走ったり組み手したり鍛えたりそこは様々だ。

 

「じゃあ次私! えっと、由比ヶ浜結衣って言います。比企谷君……うーん、そうだ、ヒッキー!」

「ちょっと待て。何だそのあだ名は。俺は引きこもりじゃないぞ」

 

 思わずお団子頭の明るい茶髪の女子にツッコミを入れる。名前は由比ヶ浜といったか。いきなり初対面でヒッキー呼ばわりは酷くない? まぁ、雰囲気インドアだし実際引きこもるの好きだから否定はできないけど。寧ろ肯定する。引きこもり……素晴らしい響きだな。

 

「えー、ヒッキーって良くない?」

「比企谷君、結衣はクラスのみんなにわりと微妙なあだ名付けるから気にしない方がいいよ」

「隼人君ひどっ!?」

 

 そこで割って入ったのは金髪イケメンといった男子生徒。由比ヶ浜が呼んだ隼人というのは恐らく名前だろう。名字は何かは分からない。まぁ、観察したところクラスの中心のような人物というのが見てとれる。すぐに名字は判明するだろうな。

 

「あっ! それで質問なんだけど、ヒッキーの特技ってなに?」

 

ヒッキー呼びはそのままなのね。

 

 ふむ。特技か。俺は武偵だ。当然一般人とは到底違う世界にいるから、一般人が想像のつかない特技? はある。例えば銃を使える。ナイフや棍棒もそれなりに扱える。他にも超能力を用いれる。セーラから教わった風の力と色金の力。色金に関しては、レーザービームとあのわけ分からん影の2つの力を使える。

 しかし、それらを紹介するのは憚れる。理由はもちろん俺が武偵と隠すためだ。こんなところで不必要に目立つつもりはない。この学校にいるであろう犯人に俺が武偵と教えたくない。そして、そもそも武偵は情報を極力秘匿するものだ。自分の力を見せびらかす奴は三流もいいところ。

 

 どう答えるべきかきっかり5秒迷ってから口を開く。

 

「これといってない」

 

 人間観察とか武偵になってから体が柔らかくなって足かなり上がるとかを言おうとしたが、どれも微妙な返答だろう。……そういえば、遠山はバタフライナイフの開閉が得意だったな。俺も何度か見せてもらったことがあるが、あれめちゃくちゃカッコいいよな。こう、片手でクルクルしてカチャカチャするやつ。擬音ばかりですまない。一度借りて真似しようとしたが、手を切りそうになって俺には無理だなと思いました、はい。

 

「ほぇー、そうなんだー。体が動かすの好きって言ってたけど運動は得意?」

 

由比ヶ浜から続いて質問。

 

「球技はそこまで。個人競技ならそれなりじゃないか?」

 

 

 

 

 あれから5分ほど質問責めに遭ってから授業が始まる。とりあえず武偵とはバレずき済んだ。というより、この程度でボロ出す奴は武偵に向いてない。

 レキは大丈夫だろうか。何かやらかしてないかやはり心配になってくる。しかし、レキは俺よりこの業界にいるんだ。当然潜入なども経験しているだろう。デリカシーがないとか不安な点はあれど、その心配は無用か。

 

 …………それよりも目下の課題はこれだ。

 

「ムッズ……」

 

 さっそく始まった授業の数学がわけ分からねぇ……。武偵高で俺は成績はかなり上位にあるが、理数に関しては平均レベルだ。国語などの他の教科で底上げしている。そして平均と言ってもそれはアホアホ武偵高の話だ。いきなりこの進学校レベルは辛い。七条先生が何を言っているかマジで分からない。これもうほぼ呪文だろ。

 

 

「ねぇねぇヒッキー、大丈夫?」

 

 授業が終わり、休憩時間になったところで、お団子頭の……由比ヶ浜がこちらに来て話しかけてくる。わざわざ授業終わりに俺のとこに来るとはこの子ったらなかなか優しいね。

 

「まぁ、うん。えっと」

 

 さっきは自己紹介繋がりで質問に答えただけだからどうにかなったが、いきなり近くで話しかけられたらとてもドキドキする。こんなところでコミュ症発揮しなくてもいいだろ。

 

「随分大変そうだったね」

 

 由比ヶ浜の後ろから来たのは由比ヶ浜にツッコミを入れてた金髪イケメン。……名前は何だっけ。

 

「あっ、ごめん。自己紹介まだだったね。葉山隼人。よろしくね、比企谷君」

「おう」

 

 葉山ね。覚えた。俺が葉山の名前を分からず詰まったところですぐに自己紹介をするとは相当空気の読める奴なんだろう。まぁ、空気の読める奴ってそれだけでかなり苦労する人物なんだがな。周りの均衡を保とうと変に気を遣ったりするから大変なんだよな。損な役回りだ。

 

「それで、ここの授業は難しかったかい?」

「前いたとこがまぁ、頭悪いとこでな。いきなりこのレベルはキツい」

「ははっ、確かにそうかもしれないね。総武高は腐っても進学校だから、ギャップはあるかもね」

「そのわりにはお前含めて髪型自由な奴多いよな」

 

 ふと疑問に感じたことを口にする。

 

「校則それなりに緩いからね。さすがに問題行動起こしたらアレだけど」

「そりゃそうか」

「だからここっていいんだよ。制服可愛いし、あたしも髪ちょっとは染めてるしね」

 

 葉山の言う通りだ。多少校則が緩くてもそれで問題行動起こしたらもっと厳しくなるだろう。その辺りはここの生徒も分かっているか。変に厳しくなって不自由な生活は送りたくないだろう。

由比ヶ浜の言った制服可愛いについては同感。レキの制服姿とても良かったな。

 

 さて、次の授業も頑張るか。

 

 

 

 

 ――――授業が終わり放課後。

 

 昼は1人で弁当を食べて適当に過ごし座学も適当に受けてどうにか初日は送れた。

 これからどう動こうか迷うな。最低2週間は学生として過ごすようにとお達しだ。下手に捜査には踏み出せない。だから、一先ず校舎を彷徨こうかと考える。転校初日に学校を歩き回るのは不自然じゃないだろう。

 

 レキと話し合い、部活などは個人の自由としている。入りたかったり誘われたら無理に断る必要はないと。普通の学生らしく過ごすのだ。そのくらい大丈夫だ。放課後に多少時間取られても問題はない。もしかしたら、美術部とかに入るかもな。レキは絵がかなり上手だ。この前の文化祭でも何か賞を貰っていたのは記憶に新しい。

 

「ヒッキー!」

 

 机から立ったところで、また由比ヶ浜に声をかけられた。俺に絡んでくるとはなかなか物好きな奴だ。ある意味感心する。

 

「どうした?」

「今日の放課後時間ある?」

「あるにはあるが……」

「じゃあさ! 案内したいとこがあるんだけどいい?」

「どこに?」

「あたしの入ってる部活!」

 

 そう半ば強引に由比ヶ浜に引っ張られ特別棟とやらの4階にある端の教室に連れられた。けっこう教室から遠いな。こんなとこもあるのか。生徒数もかなり多いこともあって、これは捜査が大変だな。

 それはともかく……女子って暖かいんだな。普段は頭おかしい奴らばかりだからそんなこと感じることなんてない。暖かいっつーか、撃たれて撃たれて感じるのは硝煙の匂いだけだ。

 

「ゆきのん、やっはろー」

「…………ん?」

 

 やっはろー? それはもしかすると挨拶なのか? やっほーとハローを組み合わせた? 今時の女子高生ってそんなもんなの?

 

「だから由比ヶ浜さん、その挨拶どうにかならないも……あら、依頼人かしら? って、比企谷君?」

 

 教室にいたのは朝に会った雪ノ下だ。あぁなるほど、雪ノ下雪乃の名字か名前かどこから取ったかは知らないけど、だからゆきのんか。ホントに色んな奴にあだ名付けるんだ。思い返せば、理子もわりとあだ名を付けるな。親しくなるための第一歩みたいたところがあるのだろうか。

 

「比企谷君?」

「あれ、ゆきのんヒッキーのこと知ってるの?」

「えぇ。朝職員室の方で会ってね」

「ほぇーそうなんだ。ゆきのん何かしたの?」

「宿題忘れただけよ」

 

 えーっと……俺どうすればいいの?

 それと雪ノ下、誤魔化しありがとう。情報はどこから漏れるか分からないからな。

 

「とりあえず比企谷君、座って」

「あぁ、うん。失礼します」

 

 雪ノ下に促されて長机の扉に近いとこに座る。

 

「ところで、何か用かしら?」

「いや、由比ヶ浜に連れられただけだ。用っつーか、ここ部活だよな? 何部なんだ?」

「由比ヶ浜さん貴女ね……」

「いやー、えへへ。ヒッキー学校初日だから色々案内したいなーって」

 

 それは普通に助かる。まだ分かってないことが多いからな。

 

「それで最初にここへってわけね」

「まぁ、なんだ、それはいいとして。で、ここ何部なんだ?」

「そうね……では比企谷君。せっかくだしゲームといきましょうか」

「ゲーム?」

 

 この人いきなり何言ってますのん? ゆきのんだけに。面白くねぇな。

 

「ただの暇潰しよ。ここに来たからには時間はあるのでしょう?」

「まぁな」

「由比ヶ浜さんはここが何部か教えてないのよね?」

「うん。そうだよー」

「なら、余興に付き合いなさい。コホン……比企谷君、問題です。ここは何部でしょうか?」

 

 自信ありげにそこまでない胸を張る雪ノ下。

 

 ふむ、ヒントはなしか。訊いても多分ヒントはくれない。暇潰しなんだ、ということは、この部屋に何か手がかりはあるのだろう。雪ノ下の言う通り、今はぶっちゃけかなり暇だ。良いだろう、面白い。暇潰しくらいには付き合おう。これでも武偵だからたまには推理しよう。

 

 

 

 

「――――」

 

 まずこの部屋を見渡す。何があるのか改めてじっくりと。

 

 ここは恐らくだが普段は使われていない教室だろう。教室の後ろには使われていない机や椅子が山ほど積まれている。ここにある机や椅子はそこから取っているかもな。チョークは少しだけある。ホワイトボードとペンが複数個端に置かれている。

 

 次に俺たちを囲んでいる長机だ。雪ノ下たちが使っている机には椅子が俺を使っているのを含めて4つ。机の上には紅茶用のティーポット、雪ノ下が持ってきたかもしれない紅茶用のカップも4つ。あとはノートパソコンがある。

 俺以外の2人の様子もヒントになるはずだ。由比ヶ浜は携帯を弄りながら事の顛末を見守っている。さっき携帯が鳴っていたし、メールでも返しているのか。用事が終わったら俺の方をマジマジ見てくる。……ちょっとやりにくい。で、雪ノ下は俺らが来る前まで読んでいた文庫本を閉じて俺を観察している様子だ。これまたやりにくい。品定めでもされている気分だ。

 

 他にこれといって特徴は……言うなればこの部屋の場所か。この特別棟に入ってからは誰ともすれ違わなかった。そこまで人気のない位置にある。これもある種のヒントか。で、雪ノ下と由比ヶ浜が交わした言葉も思い出す。

 

「――――」

 

 情報をまとめ終えたら、次に行うのは取捨選択だな。

 

「まずパッと思い付くのが文学関係の部活。例えば、読書して感想文を書いて賞を取ったり、文集みたいなのを書いたりといったところか。しかし、これはないだろう。勝手な第一印象の決めつけで悪いが、由比ヶ浜はそういうのは苦手そうだ。細々とした頭を使う作業がな」

「それはヒッキーの言う通りだね!」

 

 なぜかエヘンと、誇らしげに雪ノ下とは比べられるのも憚れるくらいたゆんたゆんな胸を張る。おお、揺れる揺れる。まるでメロンみたいだ。それに対して苦虫を潰した顔になる雪ノ下。

 ……なんだか神崎と星伽さんを見ている気分だ。髪の色とか真逆だけど。ガバを乱射しないだけこちらの方が断然ありがたい。

 

「それに加えて、ここがもし文学関係の部活だとすると、あまりにも本が少なすぎるからな。まぁ、違うと見て間違いないだろう」

 

 由比ヶ浜は本を持ってないし、雪ノ下が持っている1冊だけで文学部とかはさすがに名乗らないよな。

 

「で、この部屋で疑問に感じたことがある。そこに置いてあるカップだ。確認だが、この部活はお前ら2人だけでいいんだよな?」

「そうね。私たちだけよ」

 

 雪ノ下の首肯に続く。

 

「だとしたら、カップ4つというのは明らか多いだろう。予備を含めても1人2つ使うというのは、放課後の短い部活時間を考慮すると、やはりどうも過多のように思う。なら何に使うか。まぁ、十中八九、ここを訪れた客人にだな。ということは、ここは客人をもてなす部活でもある。

 それと、雪ノ下は俺のとこを最初に依頼人と言った。何かしらの依頼のある部活とは何だ? そう考えたとき、1つ思い付いたのはボランティア関係の部活。しかし、これも線は薄い。ボランティアならわざわざ紅茶まで出して話を長く聞く必要はないだろう。ボランティアなら課外で活動する場合もある。それならもうちょい近い教室の方が都合がいい」

 

 一拍置いて再開する。

 

「次に不自然だと思ったのが、さっきも言ったがこの教室の位置。ここに来るまで、誰ともすれ違わなかった。そのくらいこの校舎は無人なのだろう。無人な場所にある教室を使うってことは、これも単純な考えだが、人に聞かれたくない話でもすると考えられる。人がいないってのはそれだけで秘匿性は高い」

 

 1つ1つ可能性をしらみ潰しにしていくと答えは自ずと見えてくる。即興で考えたから正解かどうかは置いておいて。まぁ、俺の推理が特別外れてるとは思えないんだがな。

 

「これらを踏まえて……そうだな、人に聞かれたくない話をするってことで、この部活は大方お悩み相談をする部活と言ったところか」

 

 長々と語り、俺は推理を披露し終える。

 

 

 

 2人の反応はと言うと、雪ノ下は目を少しだけ大きく開いて驚いたような顔つきで、由比ヶ浜は目を輝かせ、とてもオーバーかのように驚いた表情を見せている。

 

「ヒッキースゴい! なんか探偵みたい!」

 

 これでも探偵だからね! 推理なんてしたことほとんどないがな。せいぜい理子を武偵殺しと解き明かしたくらいか? 探偵だって本職なのにマジで推理する機会ないという。

 

「――――」

 

 それはそうと……ちょっと不味かったか? 雪ノ下は俺のことを武偵と知ってるが、変に武偵らしさを出すわけにはいかない。反省だな。さすがに由比ヶ浜が今の流れで武偵とバレることはないが、俺が探偵みたい――という噂を流されては動きにくくなる。こういうのは控えよう。

 

「えぇ、そうね。非常に論理的な説明だったわね」

「それで、俺の推理は合っているのか?」

「ほぼほぼ比企谷君の正解よ。――――改めて紹介するわ。ここは奉仕部」

「奉仕部?」

 

 聞かない名前だな。

 

「お悩み相談という点は合っているわ。ただ私たちが直接解決するのではない。そうね、魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えると言ったところかしら」

「要するに自立を促すって辺りか」

「そんなところね」

 

 へぇー、ただ悩みを聞いて解決するわけではないのか。随分と高尚な考えをお持ちで。俺ら武偵とは考え方が違うな。武偵は依頼を受けたら手段はどうあれ依頼を解決するんだがな。犯罪スレスレも平気でしますよ、えぇ。

 

「例えばどんな依頼があったんだ?」

「最近で言うと、修学旅行ね」

「あたしたち京都に行ったんだ!」

 

 お、それは奇遇だな。俺も京都へ行ったぞ。

 

「そういえばさ、京都って言えば、前に新幹線ジャックが起きたよね。あたしたちが行った後で助かったよ。もし被ってたりしてたらホント大変だったと思うなぁ」

「そんな事件もあったわね。私も覚えているわ。事件も生中継されてなかなか大きい事件だったね」

 

 そうだな、マジで大変だったよ。そこで俺は……うっ、黒歴史を掘り起こしたくない。

 

「ヒッキーは新幹線ジャック知ってる?」

「ニュースになったからな。多少は知ってる」

 

 俺はまるで何も知りませんという表情ですっとぼける。

 多少どころか当事者だったんだけどな! そこでは色々と酷い目に遭わされましたよ……。

 

「新幹線ジャックは置いといて、修学旅行で何があったんだ?」

「えーっとね、戸部っち……あ、自己紹介のときヒッキーに質問した最初の人がね、クラスの好きな人に修学旅行の間に告白したいって依頼してきたんだよ」

 

 あのヘアバンドしたチャラそうな奴か。

 

「告白ね。それお前らに相談してどうなるの? さっき雪ノ下が言っていた理念で行くなら、どこで告白するとか良い感じの場所を探して提案したりするのか?」

「概ねその通りよ。もちろんその戸部君やそのグループの人も場所を探して互いに案を出しあうといった形になったわ。……ただ」

「ただ?」

「それだけなら良かったのだけれどね……。ややこしいことにその戸部君の意中の相手がこっちに来て戸部君の告白を阻止してほしいと言われたのよ」

 

 …………話を聞いているだけで面倒そうだな。

 

「それまたどうしてだ?」

「戸部君とその意中の相手は同じグループ単位で活動しているらしくてね」

「やっぱ同じグループ同士で告白したされたになると、その後の関係性が壊れるからねぇ。楽しく過ごしてたグループがいきなりギスギスになったりするんだよ。これでオッケーなら問題ないかもだけど、断った断られたになると気まずさまっしぐらだからね」

 

 由比ヶ浜の補足に納得する。

 

「で、どうなったんだ?」

「最終的には同じグループ内の人間がそれとなく意中の相手は付き合うつもりはないといった内容を戸部君に伝えて解決にはなったのだけれど。……あら、そうじゃなくて、本人が付き合うつもりはないと言ったのを戸部君が又聞きしたのかしら?」

「そうそう、男子女子で別れてご飯食べている間に優美子が姫菜にそう言わせたんだよ。それをちょっと離れた戸部っちが聞いて思い直したって感じだね。優美子に頼んだり、隼人君にあの状況を作ってもらったりなかなか大変だったなぁ」

 

 人間関係はホントに面倒だなと再認識させられた。俺も俺で遠山と神崎に関してもけっこう四苦八苦した覚えがある。

 

「でも、それって単純に問題先送りしただけだよな? この先また戸部が告白する可能性はあるように思えるが。戸部の恋心が続いていればの話だが、クラス替えとかタイミング選べばまた告白されそうだな。クラス変わったらさすがに同じメンバーってわけにもいかないしバラバラになるだろうし、人間関係リセットされるときとかに。それこそ卒業とか狙えば」

「姫菜もそのときはちゃんと答えるって言ってたよ。返答は……断ると思うけどね。姫菜、戸部っちのこと多分好きじゃないしね。嫌いってわけじゃなさそうだけど、あくまでそれは友達だからみたいな?」

 

 由比ヶ浜さん辛辣ゥ。

 

「そうなのよね、今回は問題の先送りになっただけなのよね。戸部君だけの依頼なら、私たちのできることは告白場所の提案くらいで済みそうだったのだけれど。……はぁ、なかなか大変だったわ」

 

 雪ノ下の大きなため息。こんなギスギスした依頼、武偵でもあまりない。それを2人で解決なんだからそりゃ大変だわな。税理士の人も遺産相続はしたくないって言っている人多いらしいし。

 

「あ! そうそう、ヒッキー学校案内まだでしょ?」

「お、おう。職員室くらいしか分かってないな」

「奉仕部として、今からヒッキーを案内してくるね! ゆきのんは行く?」

「遠慮しとくわ。私はしばらくここにいるから、好きに行ってちょうだい。今抱えている問題もあるからね」

「あー、生徒会選挙か。あたしは力になれそうにないからね」

「そんなことないわ。必要ならちゃんと貴女に助けを求めるから。……ということで、比企谷君は任せるわ。由比ヶ浜さん、やるからにはこの先もう比企谷君が迷わないで学校生活送れるようにちゃんと案内するのよ」

「任せて! じゃ、行こうかヒッキー」

「頼むわ」

 

 

 

 と、転校初日は奉仕部の面々と関わりを持って、終了することになった。由比ヶ浜の案内である程度は学校の構造も掴めた。犯人や証拠は見付からなかったが、進展はあったということにしておこう。

 

 さてと、事件解決はどうすればいいのか考えておかないとな。どう捜査するかある程度方針は固めておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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総武高校編③ 閑話―初日を終えて―

 転校初日も終わり、帰りに晩飯の買い物してから帰宅する。綺麗なマンションに帰るという行為がどうも違和感が拭えない。建物のどこかに穴が空いていた方が心安らぐとか終わってんなぁ。

 建物どころか部屋中が銃痕だらけだったこともあるんですよ。どこかの巫女さんがM60とかいう化け物ぶっ放したり、どこかの狙撃手が扉をC4でぶっ壊したり……。

 

「お帰りなさい」

 

 あ、後者の女……じゃなくてレキが出迎えてくれた。なぜか武偵高の制服だ。そういや、それ私服だったな。昨日も坂田さんたちと話し終えたあともそうだったし、レキ用のスウェット注文しておくか。常にスカートだと心臓に悪い。主に俺の理性の。

 

「ただいま」

「荷物冷蔵庫に入れておきます」

「おう、冷凍はないから全部冷蔵庫でいいから。野菜もそっちに突っ込んどいて。どうせすぐ使うし」

「はい。先にシャワー浴びておいてください」

「おう」

 

 ……レキのこのセリフ、なんかエロい。

 

 と、シャワーを浴び終え、晩飯を作る。

 

 確かにレキより料理はできるが、そんなできるわけでもない。実家にいるときは両親は共働きで料理する機会はあったが、小町が進んでやってくれた。遠山との寮生活では基本交代で作っていたけど、手が凝っている料理を作るわけでもない。基本火が通れば食えるスタイルだ。

 遠山も遠山で似たようなもんだ。たまに前者の女……星伽さんが弁当を作ってくれたのはありがたく頂戴しております。

 

「レシピさえあればどうにか形になると思うんだけどなぁ」

 

 ぼやきながら野菜と肉を炒める。手の凝ったもん食いたいならわざわざ作らずとも外食の方が案外安くつくからなぁ。金かかるって言ってもこれでもそれなりに稼ぎはある。さすがに毎日はキツいが、たまになら大丈夫だ。

 

「できたぞー。運ぶの手伝って」

「分かりました」

 

 ちゃちゃっと作ってレキと食卓を囲む。

 

「レキの方はクラスどうだった?」

「クラスの方々は女性ばかりでしたが、好意的に話しかけてくれる方もいて問題なく過ごせたと思います。それと美術部の方に誘われたので明日体験入部という形で見学へ行きます」

「いいじゃねーか。コンクールとかあるならいいとこまでイケるんじゃないか?」

「そうでしょうか?」

「絵上手だしな。素直にスゴいと思うわ」

「そ、そうですか」

 

 若干顔を赤らめたレキは咳払いをしながら話題を少しずらす。

 

「八幡さんはどうでした?」

「俺もそこまでレキとは変わらないな。クラスの中心人物みたいな奴らが間を取ってくれて可もなく不可もなくってところだ」

「なるほど。ところで、しばらくどう捜査を進めますか?」

「校長からもお願いされてるし、表立って捜査はしない。まぁ、学校で怪しい場所にアタリ付ける程度か」

「分かりました。……それで、どこか怪しい場所というのはどこだと思いますか? 私はまだ学校全域確認できていませんので」

「今のところさっぱり。同じクラスの奴に学校案内はしてもらったが、どうもピンとこない。特別棟ってわりと無人な校舎があったが、あれ一つ一つ調べるのは手がかかりそうだしな」

 

 奉仕部へ行くのに3階にある渡り廊下を使ったから、特別棟の1階や2階は何があるのか分からない。由比ヶ浜もそこは重点的に案内せず、空き教室が多いと言っていた。

 

 というよりそもそもの話だ。

 

「昨日坂田さんや蘭豹と話したが、今回の俺たちの捜査について事件の結末はざっと分類しておよそ3つある」

「3つですか」

 

 レキは分かっているかもしれないが、一旦口にする。

 

「まず1つ目、取引現場は別だが、銃やヤクそのものが学校に保管されている。2つ目、学校が大元の取引現場に使われている。そして3つ目、総武高校で起きている事件を指示している大元の犯人がここにいる。他にもこの候補のうちどれかを組み合わせたりと考えられるが、だいたいはこの3つになる。……まぁ、外部にいる犯人がここの誰かを脅してるとか細かい可能性を言い出したらキリがないが。ただこれは3つ目とくっ付けて考えることはできるか」

「私もそう思います。八幡さんの言う組み合わせも充分考えられるでしょう。例えばですが、候補1と候補2が取引現場として繋がっていたり、候補1と候補3が合わさっていたり、可能性で言えばありと言えるでしょうね」

「だな。で、この場合において犯人を絞るとなると、学校に怪しまれることなく手引きできる人物――――教師か生徒、学校にいる事務員などだろう。つまり、学校内で活動しても違和感のない人物。ちなみにこれは外部の犯人に脅されている場合含めての話だ。……もしくは全く学校とは関係のない人物が学校のマスターキーとかを持っている場合か」

「しかし、後者の線は薄いのでは? わざわざバレる可能性のある学校に忍び込んで取引するメリットはないように感じます」

 

 ……それもそうだな。学校の周りも住宅街だし、それなら人の寄り付かない場所を選ぶか。

 

「つーか、取引つったって、誰と誰がしているんだ? 今回俺らが追っている犯人のグループが武器を売っている側なのか買っている側なのかも分からないんじゃ、推理のやりようがない」

 

 愚痴をこぼすと、何かを思い出したかのようにもう晩飯を食べ終わったレキが封筒を持ってくる。

 

「そういえば、これを。警察からです」

「ちょっと待って。もうちょいで食べれるから」

 

 急いで食べてから封筒を開く。下校時間はバラバラだったし、レキの方が早く帰っていたから、俺が帰ってくる頃にはもう受け取っていたのだろう。

 

「あれ、レキ、開けてないのか? 別に見て大丈夫なのに」

「私より八幡さんが見る方が効果的でしょう」

「そうかぁ? お前の方が武偵歴長いだろ」

「確かに私は八幡さんよりこの世界に長くいます。戦闘経験でも私が上かもしれません」

 

 しれませんじゃなくて上だよ、Sランク様。

 

「ですが、推理の方はしたことがほとんどないです。長年の戦闘経験などから生まれる勘や経験則はありますが、それは些か論理的ではありません。推理という観点では私の知る限り、八幡さんは優れていると思います」

「そう? レキが言うほど、そんな推理したことないけど」

 

 そんな会話をしながら封筒の中身を取り出す。まぁ資料だよな。何か進展があったらしい。とりあえず読むか。

 

 ――――――――

 ――――――

 ――――

 ――

 

 ゴロツキからどうにか色々情報引っ張り出したり、別の現場からも情報が分かったらしい。

 

 まず昨日話していたゴロツキを雇ったのはヤクザの『石動組』とのこと。

 

 ……訊いたことないな。鏡高組なら東京にいるヤクザとして知ってはいる。最近どうも組長が死んでからゴタゴタしているらしい。しかし、このヤクザはどうも記憶にない組織だ。

 資料によると――かつて千葉から神奈川にかけてシマを持っていたが、こちらも5年前に組長が病死したのを皮切りにかなり弱体化して、全盛期に比べれば随分小さくなったらしい。

 

 ここ数年でめっきり名前を訊かなくなりもう潰れたものだと警察も思っていたみたいだ。

 

「そうじゃなくてひっそりと水面下で活動してるってわけか……」

 

 で、どうやら今回は石動組が武器やヤクを購入しているとのこと。つまり、武器商人はまた別にいるわけだ。俺たちが捜査するのは石動組の方。ヤクザなら組員の情報は豊富にありそうな気がするが、長らく活動してやないなら警察も把握しきれてないのだろう。資料に書かれているのは新しい組長と幹部数人程度だ。

 

 ……武器商人はまだ判明してないらしいので警察に任すとしよう。なんか言いようもないほどの嫌な予感がするし。

 

 レキにも資料を見せて改めて考える。

 

「この資料を見て私は候補1の線はなくなったと思います。今回の犯人が武器を売っている側なら、もしかしたら学校に隠し持っているかもしれませんが……買っている側なら、危険を侵して学校に保管するメリットはないでしょう」

「同感だ。ヤクザの本拠地があるなら、そっちに隠せばいいし他にもバレないような場所はそこら中にあるだろう。そうなると候補2だが……そもそも学校を取引現場にするメリットって何だ?」

 

 適当に思い付くのが広いという点。しかし、広いだけで言うなら、別に学校に拘る必要はない。確かに校庭や体育館とか面積はあるが、別にヤクザならもっと広い場所くらい抑えられるだろう。いくら弱まっていると言ってもだ。

 秘匿性……もないな。むしろ学校とか秘匿もクソもない。これが山の上に建っている学校や山に囲まれている学校ならともかくだ。街中にある学校では情報が漏洩するリスクが高いように思える。

 他……他は…………生徒を人質に使える? いや、人質とかもしもの手段だ。人質とる=警察や武偵に追いつめられている、だ。この考えもなんか微妙だ。

 

 ダメだ、頭がこんがらがってきた。

 

「はぁ……」

 

 一旦MAXコーヒーを飲んで落ち着く。こういうときは頭に糖分入れるのに限る。

 

 坂田さんは昨日、銃やヤクの入手元を探っていると総武高校に行き着いたと言っていた。あくまで候補地の1つだが。入手元ということは、やはり総武高校に犯人がいるということだ。じゃないと学校を経由するのが無理だろう。というより、学校を経由させる必要はない。

 

 だから……えーっと…………?

 

 どれだけ悩んでも、結局のところ行き着く先はヤクザが学校を使うメリットは何かになる。

 

「別にまだいいか。始まったばかりだし」

 

 どれだけ考えてもまだ証拠も足りないし、学校をろくに捜査していない。その状態で全部推理しろというのが土台無理な話だ。こちとらシャーロックじゃないんだよ。

 そう自分に言い聞かせ台所に移動して食器をささっと洗うことにしよう。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「八幡さん、おはようございます」

「……おはよう」

 

 翌朝、レキに起こされた。起きると目の前にはレキの顔。……色々と心臓に悪いです。

 寝坊したのか? 転校早々それは不味いと思い、時間を確認すると目覚まし30分前だ。まだまだ朝じゃないか……。寝かせてくれ。目覚まし鳴る前に起きるのが大嫌いなんだ俺は。とても勿体ない気がしてならない。誰かこの気持ちを理解してくれ。

 と、まだぼんやりしている寝起きの頭で文句を言いつつ目をこする。

 

 というか、寝室それぞれ別の部屋だよな。プライベートな空間はほしいだろうと、ベッドは別々に置いてあったので、それぞれで寝ることにした。レキは銃の整備など1人でするので余計に必要だ。

 だからといってお互い部屋に入るなというわけでもないが、それでも朝起こしてくるのはなぜか疑問に残る。

 

「どうした?」

「いえ、何となく起こしただけです」

 

 理由ないんかい。

 

「……ならもうちょい寝かせて」

「ダメです」

「ああ、布団引き剥がさないで!」

 

 鬼! 悪魔! ちっひ! 布団返して! 小町にはやられたことあるけど、親にすらやられたことない行為なのに!

 

「朝食を作ってください」

「食パンあるんだし適当に焼きなって」

「それだけだと栄養効率が悪い気がします」

「毎回カロリーメイト食べてる奴が何を言っている」

 

 仕方なく起きた。ううっ、朝は冷える。

 

 ……慣れない環境だからか思いの外疲れが溜まっているな。いや、ずっと住んでいた土地なんだがな。あまり調子が出ない。東京と神奈川には武偵高があるけど、千葉にはないはずなので、気軽に銃の訓練ができる場所もない。どうしても腕は鈍ってしまうだろうな。

 ベッドから降りつつそんなことを思った。

 

 

「そういやさ」

 

 食パンを焼きサラダを適当に作り、朝食を取っている最中に世間話というか疑問を口に出す。

 

「はい」

「お前、名字どうしたの?」

 

 食パンを齧りつつ訊ねる。

 武偵高はアホだから名字なくても突っ込まれないから別にいいとして、一般人がいる学校はそうもいかない。名前だけでは不自然だろう。

 

「最初は比企谷と名乗ろうとしましたが、さすがに迷惑がかかるので止めました」

「英断だな。妹は小町だけで充分すぎる」

「さらっとシスコン発揮しましたね。そういう意味ではないのですが……やはり、その……」

 

 これまた珍しいくらい頬を染めてモゾモゾ話すレキ。

 何となくレキの意図を察知できたが、この予想が当たっていると、ただただ羞恥心に襲われるのは明白なので、こちらも頬が紅くなるような感覚に襲われながらもそっぽを向いてレキの返答を待つ。

 

「ま、まぁ……それは置いといて、続けて?」

「……分かりました。そこで八幡さんがやっていたゲームから三枝としました。しかし、皆さんレキと呼んでいますのであまり変わりはありません」

 

 三枝? 何のゲームだ? イマイチ心当たりがない。何のゲームだろうか。レキは勝手に俺の部屋に入ってわりと俺の私物を漁る傾向にあるので選択肢が多い。それに加えて理子からもゲームを借りているらしい。とはいうが、今回は俺の私物からだろう。レキもそう言っていることだ。

 マイナーなキャラだろうかと頭を捻り記憶を探ろうとする。三枝とは個人的だがあまり聞かない名字だ。そこからなら想像つきそうなものだと思――――あぁ、分かった。あれか、思い出した。あのおしとやかなサブキャラだな。アサシンとの組み合わせ良いよね尊いよね。

 あの組み合わせ大好きだ。

 

 と、答えが分かりスッキリしたので、糖分補給のためにMAXコーヒーに口をつける。

 

「八幡さんは今日はどうする予定ですか?」

「これといって決めてねぇな。昨日はクラスメイトが学校案内してくれたが、特に今日は約束取り付けてないし。時間あれば図書室でも行こうかね。あまり本持ってきてないからな。暇潰しにはちょうどいい」

 

 それに多少は勉強しないとマジでここの授業に追い付けない。国語系列はや暗記科目はどうにかなるが、理数や英語がかなり大変だ。英語だって暗記科目だろうが、覚える範囲が総武高校は広すぎる。

 よく中学の俺はここを受験しようと思ったな。今では考えられない選択肢だ。アホな環境に長い間身を置くと、どうしても自分の中のできるレベルが下がり、更に自分がアホアホになってしまうのだと実感した昨日の授業だった。

 

「私は体験入部があるので、終わり次第連絡しますね」

「おう」

 

 そうして、新たな日常が少しずつ過ぎようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オンラインレオナインエピソードゼロ……最高でしたね
これは土曜日が楽しみだ。LiSAさん初めてのオンラインライブ、というか自分も初めてのオンラインライブ!



それとギャラクシーファイトが面白すぎてヤバい。坂本監督は神か?ファンが何を見たいのか理解しすぎている。
いやまさかレジェンドがもう一度見れるとは思いもしなかった……。そして、タルタロスさん初陣でレジェンド相手は可哀想でしたね。スペースコロナが見れたのも嬉しかったし、レジェンドから解除したらルナになるとか細かい描写も好き
レジェンドって別にコスモスとジャスティスが融合した姿ではないらしいから(宇宙のどこかにいるレジェンドを召喚している解釈がある)、レジェンドとサーガの揃い踏みが見れるかな?って思ったけど……うん、今回ダイナの出演なかったね。ちょっと残念。でもノアならワンチャンある?(早口)

続きがマジで楽しみ。次回は用事でリアタイで見れないのは悲しい……



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総武高校編④ ある日の放課後

ウルトラマンZホントに面白かった!!なんかもう色々語りたいけど、抑えとく。……終わってしまってウルトラ悲しいです
終わってすぐメモリアルエディション予約した






 転校してから時が流れるのは早く、もう3日が経った。

 クラスでは話しかけられたら答えるスタンスを保ち、目立つわけでもなく影が薄すぎるでもない立ち位置をどうにか維持している。物事を円滑に進めるためには人間関係のいざこざは起こしたくない以上、気を遣っているところだ。

 

 まぁ、体育でやらかしそうになったけど。

 陸上を今やっているのだが、走り高跳びで背面跳びをせずに平然と150cmのバーを飛び越すところだった。今まで鍛えているのに加えて飛翔で飛んでいる分、単純な跳躍力はかなり上がったらしい。飛翔で飛ぶためにも無駄にピョンピョン跳ねてることが多くてな。正直自分でも引くところだったな、あれ……。

 それ以外では武偵らしさを出さないように気を付けている。しかし、あの体育はマジで失敗しそうだった。飛ぶ直前でこれはヤバいと勘づいてどうにか歩幅が合いませんでしたという装いで失敗したから目立ちはしなかったと思いたい。

 で、改めて試してみると、背面跳びがとても難しいな。わりとマジで歩幅が合わない。そして、背面跳びしているときは士郎の気分を味わったな。確かに跳べないのはなんか悔しい。

 

 そして本題である捜査の方は……進展はない。きちんと調べていないから当たり前といえば当たり前だろう。それとなく探ってはいるが、今の俺はごくごく一般の学校生活を送っているからな。ざっと調べたところ、銃やヤクを隠しているような場所はない。怪しい人物もいない。教師に絞って観察しているが、第一印象が怪しいと思われる人物はいない。

 

 これといって取引の痕跡もない。数回だけだが、深夜の日が変わる時間帯に学校を見張ってはみたけど、怪しい人影もなかった。これも効果なし。正直、取引現場があるなら直接抑えた方が早いと思うのだが、こうも音沙汰ないとは上手くいかないな。やはり候補2は外れなのか迷うところだ。

 

 すぐ解決するとは思ってはいないが、こうも進展なしだとはなかなか堪える。というより、普通にしんどい。まだ3日程度で何を抜かしてるって話だが、長期任務は初めてなのでな。違う環境というのはなかなか大変である。

授業中も放課後も神経使っているからな。加えてここの難しい授業だ。いやもうホントしんどい。授業中くらいは気を抜こうかと思う。

 

 2週間経ってからが本番だな。それまでにある程度は進めたい気持ちはあるが。

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

「ねぇヒッキー」

「どした?」

 

 転校してきて4日目の放課後、美術部に入部したレキを待つために図書室へ行こうとしたところで、由比ヶ浜は俺に元気良く声をかける。

 あれから奉仕部へ少しお邪魔をしている。今抱えている問題の生徒会選挙について相談に乗りつつ適当に雑談をしている。主に由比ヶ浜が。多分由比ヶ浜がいなかったら静かな時が流れるだけだろう。

 

「今日もいいかな?」

「別にいいぞ。何か進展あったか?」

 

 そう自分で言いつつこちらも特に進展なく少し微妙な気持ちになる。自分でダメージを負うのどうにかしてほしい。特攻隊かな?

 

「うーん、正直何とも……」

 

 由比ヶ浜が肩を竦めて落ち込む様子を見せる。

 

 

 奉仕部が現在抱えている問題の生徒会選挙についてだ。

 

 簡単に言うと生徒会長への候補者がいない。最終的な期限はあと1週間しかないのに困ったと現生徒会会長の城廻めぐりさんが奉仕部へ相談を持ち込んだ。過去に何回か生徒会と奉仕部は関わりがあり、雪ノ下も快くその依頼を引き受けたが、どうも解決の糸口が見付からず難航しているらしい。

 

「今生徒会に所属している下級生はどうなんだ? 副会長とか」

 

 俺はその話を聞いてからごくごく当たり前の疑問を口にしたが、雪ノ下はこめかみに指を当てて盛大にため息をていてから。

 

「どうもあそこは受動的な人間が多いそうなのよ。ちゃんと働きはするけれど、偉い人の指示待ちの姿勢を見せるばかりとのこと。自ら率先と動きはしない。だから、城廻先輩も困っているの」

「指示待ちに苦労するのはどこも同じだな」

「全くよ……」

 

 武偵は自ら動かないとやっていけない、生きていけない職業だがな。ある意味自営業みたいなもんだし。依頼を進んで受けなければ単位は落とすし稼ぎもない。

 

 

 ――――先日訪れたことを思い出しながら特別棟4階の奉仕部部室へ行き着く。

 

「ゆきのん、やっはろー」

「こんにちは、由比ヶ浜さん。……あら、比企谷君も。こんにちは」

「おう、また邪魔するわ」

 

 雪ノ下に挨拶してから扉に近い位置の椅子へ腰をかける。

 

「由比ヶ浜も言っていたが、あまり上手くはいってないみたいだな」

 

 ノートに何かを書いてはため息を吐いてはを繰り返す雪ノ下を見て、そう指摘する。

 

「そうね。城廻先輩も色んな人に声をかけているのだれけど、誰も生徒会に入りたがらないみたいよ。会長ではなく書記とかならともかくとして。私たちも会長になりそうな人を調べてはいるけれど、ぶっちゃけると手詰まりね」

「能動的な人材はどこも貴重ってことだな。――そう言う雪ノ下はどうなんだ?」

「こういうことをしていて何だけれど、私もやるつもりはないわ」

 

 はっきりと否定を口にした雪ノ下に驚く。

 

 きちんと話したことは少ないが、何回か話している印象から会長に向いてそうだと思う。県知事の娘という看板もあることだし。

 そういや、うちの会長は星伽さんだっけか。あの人シリアスなところはシリアスな雰囲気を貫けるけど、日常生活は基本抜けているよな。跳び箱三段跳べない人だったような……あれ完全におみこし状態ではないか? うちの生徒会長大丈夫?

 

「それまたどうして?」

「私自身、胸を張って上に立てる人間じゃないからよ。私は優秀だから恐らく仕事は問題なくこなせると思うわ。けれど、会長に向いているとは思えないの」

 

 張る胸はないだろというツッコミ待ちかと思ったが、これ言ったら俺死ぬな。なぜかその確信がある。

 

「というと? なんか矛盾してないか?」

「要するに優秀すぎるってことよ。突出した人間がいると、同じグループにいる人間は得てしてその人を頼ったり妬んだり……つまり不協和音が生まれるの。私はそれに気付けたとしても、それを自分の力で解消できるとは言えない。結果、独りになって、全部私だけでやろうとして、挙げ句の果てには過労となり倒れる。これが一連のセットよ」

 

 雪ノ下は明後日の方向を向いて複雑そうに告げる。その口調には一種の不機嫌な様子が含まれているのが分かる。

 話した内容がやけに具体的だな――そう感じると、俺の疑問を察知したのか由比ヶ浜が俺に近付き耳打ちしてくる。雪ノ下は気付いているが、由比ヶ浜を止めるでもなく静観している。

 

「ゆきのんはね、文化祭のとき実行委員の副委員長になったんだけど、委員長がその……ゆきのんの言葉を借りるとゆきのんが優秀だから、私はこんなのやらなくていいや、全部ゆきのんがやってくれるってゆきのんに全部仕事押し付けちゃって……ゆきのんもそれを止めなくて……働きすぎちゃって体調崩したことがあるの」

「……なるほど、実際に体験したことがあるのか。つか、言い方アレだがその委員長だいぶクズは人物に思えるな。自分から委員長になったんだろ? なのに仕事するどころか足引っ張るとか」

「えーっと……まぁ、うん、否定はできないかな……。ゆきのんが休んだ日にも来なくてかなり批判されたし、本番でも色々やらかしたし。一時期不登校にもなっていたし」

 

 基本優しさ(それと男子の希望)の塊の由比ヶ浜がそこまで言うとは……恐るべし委員長さん! いやマジで星伽さんや理子並にデカいんですけど。近付かれるとマジで緊張する。

 

 俺の邪な感情は置いておいて、今由比ヶ浜が気になることを言ったな。

 

「ん? 不登校?」

「やー、そのー、委員長やってた子が文化祭終わってからも色々責められて……ってわけじゃないけど、直接苛められたわけでもないけど、本人が周りの視線に耐えきれなくて不登校になったんだよ。あ、もう戻ってるよ。みんな、あまり関わろうとはしないけどね」

「ほーん」

 

 不登校になったのは多少は同情する余地はあるように思えるが、原因が原因なだけに自業自得、因果応報といったところだろう。それが嫌なら委員長としての仕事を全うに果たせばよかっただろう。……ダメだ、変装食堂サボりまくった俺が言ってもまるで説得力がない。いや、仕事はちゃんとしたからね? 皿下げるだけをひたすらだが。

 

 と、俺と由比ヶ浜がひとしきり話し終えたのを見計らい、雪ノ下は話を続ける。

 

「それに、私は人に頼るのが苦手なの。かなりの部類に入るわ。なまじ今まで独りでこなせていたから、頼ることができなくて、さらに自分の限界が見抜けなかった」

「まぁ、今までの話で何となくは察したが」

「姉さんがいるけれど私も立場上、もしかしたらいつかは人の上に立つ機会があるかもしれない。……でもね、今の私は人の感情に疎いの。だからこそ、ここ……奉仕部でそれを勉強しているというのもあるのよ」

 

 感情に疎いか。セイバーかな?

 

「あと会長になりたくない最大の理由として……私はこの部活が好きだから。生徒会になったら部活と両立できるか分からない。他の人たちが断る理由と一緒かしらね」

「ゆ、ゆきの~ん!」

「ちょ、由比ヶ浜さん……近いわ……」

 

 照れながら告白したら由比ヶ浜は感極まり、それはそれはとても嬉しそうに抱きつく。あれか、百合百合しているな。武偵高ではあまり見ない光景……あ、間宮たち特殊性癖軍団がいたわ。あそこは男子禁制な雰囲気がヤバい。間宮と火野に話しかけようとしたら佐々木と島にものすっごい勢いで睨まれ、最悪撃たれる。ご禁制です!

 

 

 ――――2人のイチャイチャが落ち着いてからまた話し合うことに。

 

「ちなみに由比ヶ浜が生徒会長には……」

「ちょーっとムリじゃないかなぁ。アハハ……」

「由比ヶ浜さんが会長だとそれもう完全なおみこし状態じゃないかしら」

 

 星伽さん的な? いや、あの人が仕事しているの全然見たことないから言えないな。

 それに由比ヶ浜が生徒会入ったら、雪ノ下の願望からして本末転倒だろう。

 

 そこでふと思い付いた。

 

「葉山はどうだ? アイツなら人望ありそうだし」

 

 クラスの中心人物である葉山。どうやら雪ノ下とも関わりのあるそれなりに名前の家らしく、父親が確か弁護士だったか。そういや、パーティー会場に父親がいたような。リストで見たぞ。

 加えて、葉山本人も周りを見ながら動いている。態度は一貫して優しい。そしてイケメン。優良物件じゃないか。俺も何回か接しているが、まぁ良い奴だと思う。

 

「城廻先輩もお願いしてたんだけどね、隼人君サッカー部の部長だから断ったよ。本人的にはやっぱ部活に集中したいって。今サッカー部イイ感じだからね」

「まぁ、無理強いはダメだな。こうなると雪ノ下が頭を抱えるのも分かる。前途多難だな」

「ホントにね。どうしたものかしら……」

 

 俺も雪ノ下に頂いた紅茶を飲みながら考えを巡らす。

 

 部活をしている奴にとっては忙しいからできないという理由が大きく占めているだろう。帰宅部はめんどくさいか。いや、めんどくさいはどちらにも当てはまるだろうよ。俺だってそう思うもん。

 

 そういえば――――

 

「総武高って部活している奴ら多いのか?」

「普通に多いよー。あ、でも帰宅部の人もちらほらいるかな。あたしの友達もそうだし」

「進学校だから2年から塾通いをしている人たちもいるけれど、3年を除けば部活をしている生徒の方が多いわね。はっきりとした数字は分からないけれど8:2くらいかしらね?」

 

 由比ヶ浜が「他に帰宅部誰かいたっけな……」と思案顔で唸りつつ探っているのを横目に俺はここで1つ案を出す。

 

「部活とかが理由で生徒会ムリって言うなら、マネージャー辺りに狙い目をつけるのはどうだ?」

「マネージャー?」

 

 雪ノ下が聞き返す。

 

「あぁ。部活の事情は大して詳しくないが、別にマネージャーって実際にスポーツしている奴らとは違って、多少は暇な時間あるんだろ? さすがに部活中は常駐しなきゃいけないわけじゃないはずだ。そういうところを狙えば、説得しやすいんじゃないか? それならあまり部活が大きい理由にはならない」

「でも、ヒッキー。マネージャーする人たちって大抵その部活にいる異性狙いなんだよ。うちでは例えば隼人君とか。生徒会に時間取られて、せっかくのアピールチャンス減るのは避けたいってあたしは思うけどなぁ」

 

 由比ヶ浜の意見に酷く納得する俺がいる。

 いや、全員がそうだとは思いたくないが。純粋に応援したい、支えたいという真摯な気持ちでマネージャーをしている人たちだっているかもしれないじゃないか。全員が下心だけではないはずと信じたい。

 

「由比ヶ浜さんの言うことも一理あるわね。そういう感情だけで動いている人たちの主張を変えるのはかなり厳しい……いえ、不可能に近いかもしれないわ」

 

 やけに断言しますね……。それもソースはゆきのんですか? お前の過去かなり闇深そうだな。

 

 話を戻して、ただ適当にマネージャーにしようと言ったわけではない。もちろんそれ相応の理由は考えてある。

 

「それは恐らくただお願いしているからだろ? ならやり方を変えればいい」

「やり方?」

「生徒会長をやるに当たってのメリットを提示するんだ」

 

 やりたくないなら反対にやりたいと思わせればいい。太陽と北風理論だ。

 

「生徒会長やるメリットって? うーん、何だろう。内申点上がるとか?」

 

 由比ヶ浜はコテンと首を傾ける。

 

「そういう点も俺からしたら魅力的だとは思うが、もうちょい俗世的な案でいこう。まず部活をサボれる口実を作れる。――――そうだな、さっきも由比ヶ浜が言っていたように、もし仮に好きな奴が部活にいるとして、ソイツ目的で入ったマネージャーがいるとしよう」

「うんうん、そのパターン多いよね」

「しかし、目当ての人物以外の奴らは恋愛面の観点からいくとマネージャーにとっては有象無象、もしくは虫けらレベルまで鬱陶しいと思うかもしれない。……あくまで極論な?」

「ありそうなのが困るわね……」

 

 由比ヶ浜と雪ノ下がちょくちょく相づちを挟んでくる。

 

「もし目当ての人物が部活を休んでいたら、その日はなかなかに地獄だろう。嫌いな奴とかが部活にいたらなおさらだ。そのとき『生徒会があるから休みまーす』とか言って逃げればどうだろうか」

「あー……」

 

 変な苦笑いを浮かべる由比ヶ浜を見ながら話を続ける。

 

「それが嘘かどうかなんて部活の奴らには分からないし、誰も無断でサボっているだろと責めはしないはずだ。嫌なことから逃げることができ、尚且つ適度にサボることができる。案外、サボれる口実があるってのは心の余裕にも繋がる。どうだ? 魅力的だろ?」

「そう言われると、確かに……。もしヒッキーの案でいくならサッカー部が狙い目だね。あそこ女子マネージャー多いし。あ、ヒッキーまずって言ったよね。まだあるの?」

 

 あるぞ、と答えてから軽く咳払いをする。

 

「あとは忙しいときに目当ての人物に『生徒会のお仕事手伝ってくださーい』といった風に甘えることもできる。上手くいけば2人きりになれる機会もぐんと増えるだろう。他の恋敵とは一線を画す存在になれるかもしれない」

「なかなかそれっぽいこと言うわね、貴方……。よくそんなひねくれた観点を思い付くわ。素直に感心すると言えばいいかしら」

 

 雪ノ下には褒められているのか微妙なことを言われる。

 何度か接しているうちに分かったが、雪ノ下は意識的なのか無意識なのか言葉に毒が含まれていることがある。

 

「ほっとけ。……で、最後のメリットに生徒会長のネームバリューだ。さっき由比ヶ浜が言ったような内申点とかそういうのじゃなくて、頭悪い感じに言うと、『生徒会長を頑張ってる私』という存在を創ることができる」

「えーっと、部活だけじゃなくて別の場所からアピールできるってこと?」

「まぁ、そんなところだ。自分の持っている称号を上手に使いこなせれば、何事も有利に運べる。さっきの手伝ってみたいなやつもそうだし、部活でないところでも自分の存在を存分に売り込めることができると思う。だから、マネージャーに生徒会長をやってくれと頼むんじゃなくて、その気にさせればいい」

 

 2人ともどこか感心した表情を見せているが、残念ながらこの案には1つダメな部分が存在する。

 

「比企谷君の案、参考になったわ。確かにその方法だと説得できるかもしれないわ。……けれど、生徒会長を心からやりたいという人が生徒会長になるのではない。比企谷君の案だと下心のある人間を生徒会長にする。つまり……城廻先輩にはこれを伝えにくいわね。あの人は純粋に生徒会長をやりたいという人を探しているのだから」

 

 雪ノ下の言う通りだ。要するに、生徒会のやる気があるかと言われたら、そこはノーに入ってしまう。本人が生徒会にも活力を見いだしてくれるのならば問題はないが、俺の案で煽ててそれは難しいだろう。

 さっき由比ヶ浜が言ってた文化祭の委員長のように生徒会全体の足を引っ張る可能性だってある。

 

 まぁ、俺はまだ会ったことのない城廻先輩には申し訳ないが、もしひたすら純粋にやる気に満ち溢れている人物が学校にいるならとっくのとうに立候補しているだろうよ。

 ぶっちゃけた話、現生徒会メンバーの誰かが生徒会長になってくれれば早く終わることだ。もし下心だけの奴が生徒会長になったとしても、生徒会にはいたいけど生徒会長にはなりたくないとか甘ったれたことを言っている奴らがソイツに文句を付けるなんて土台ムリだ。

 

「一度この案で進めましょう。時間が惜しいわ。実行するなら私たちでやらないといけないわね。城廻先輩には頼めないことだし――――由比ヶ浜さん、協力してくれる?」

「もちろん! まずはえーっと……マネージャーのリストアップだね。サッカー部に絞ると……」

 

 ここからはもう俺は部外者。奉仕部2人の仕事だろう。

 

「じゃあ、俺はここで。また何かあったら呼んでくれ」

「あっうん! ありがとね、ヒッキー! また明日!」

「今日はありがとう。参考になったわ」

 

 

 

 2人に挨拶してから退室する。

 ……廊下は寒いな。秋に近付くにあたり、余計にそう感じるようになる。

 

「ふぅ……」

 

 レキはまだ美術部にいるだろうから、時間を潰すために特別棟を見て回るか。そのあとに図書室にでも行こう。何回か確認しているけど、これといって手がかりは見付かっていない。ただもしかしたら今日は何か見付かるかもしれないという希望的観測にかけて歩く。

 

「ん?」

 

 歩いている最中、着信音が鳴る。誰だ、坂田さん辺りかな。そう予想したが、大いに外れた。遠山だ。

 

「もしもし」

『比企谷……助けてくれ』

「あ? 何かあったか?」

『俺に妹ができたんだ』

「そうか。妹は全てに通ずる存在であり、妹は森羅万象と呼ぶべき概念だ。全力で崇め奉るように」

 

 それだけ言ってから通話を切った。

 

「……」

 

 遠山もイタ電とかするような奴だったとは意外だ。妹がトラブルの種になるわけがない。っ

 ていうかアイツって妹いたんだ。兄……というより姉? がいるのは知っているが、妹というのは初耳だ。

 

 隠し子がいたのか。いやいや、遠山の話を聞く限り、遠山の父親はかなりの人徳者だったように思う。それにもう遠山の両親は故人だ。隠し子ではないかもしれない。だとすると……何?

 

「……もしもし」

 

 また遠山からかかってきた。

 

『ワケわからんこと言ってから切るな!』

「さよかい。で、何をどう助けろと? 家庭のいざこざを俺が解決できるとは到底思えないぞ。弁護士紹介しようか?」

 

 弁護士知らんけど。葉山の父親くらいか。その人とも面識はないから知っているとは言えないな。

 

『いや俺だって分からないんだ。勝手に俺の妹を名乗る奴が現れて。あ、弁護士はいい。金がない』

 

 妹を名乗る不審者。それは初めて聞いた。姉を名乗る不審者は次元を1つ減らした場所だとそこいら中にいる。お姉ちゃんビーム。弟になりたい。現実にはいてたまるか。

 

「もしかしてFEWと関係あったりする?」

『あるんだよ。ソイツは無所属だが、アリアたちを襲撃して――――』

 

 遠山の話をまとめると、神崎たちを襲いかなりの被害を出した自称遠山の妹のジーフォース。彼女はジーサード一味の一員であり、しかもFEWでは無所属。師団戦力アップのためにジーサード一味を取り入ようとした。その方法は自称遠山の妹を懐柔すればいいらしい。ざっくりまとめるとこうなる。

 

 ……意味が分からん。

 

「それ俺に言ってどうする。俺も無所属だぞ。お前らに肩入れするのは立場的に危ういんだが。ただでさえヒルダでアレなのによ」

『妹と言ったら比企谷かなと』

「その判断は褒めよう」

『比企谷の妹に関するとキャラが変わるの何なんだ……。それで、アドバイスとかない? 妹と接するにあたって注意点とか』

「前提として妹の言うことには逆らわないように。家庭バランスが崩壊する」

 

 哀れな親父……。

 

『そこからなのか!?』

「これはあくまで前提だ。あとは褒めることを忘れるな。機嫌が悪くなったら、家庭バランスが崩壊する」

『そればっかりだな!』

 

 哀れな親父……。

 

「つーか、その妹はお前に対してどんな態度なんだ?」

『あー……それなんだが……』

 

 その部分は聞いていなかったので訊ねる。遠山の言いにくそうな態度で察した。もうラブラブなんですね。さては光源氏だなオメー。あそこまでドロドロはしてないが、いずれそうなりそう。

 

「ならいいじゃないか。えーっと、何だっけ? 男から仕掛けるハニートラップ……そうそう、ロメオ。ロメオすればいいじゃないか。そうすることで簡単に戦力ゲットだぜ!」

『言い方! さすがにまだろくに素性が不明瞭なのにそれは憚れる』

 

 本人の意思完全に無視しているし、モラル的にも最善と言えない手段だ。

 

「まぁ、お前そもそも女子が体質的にムリだもんな。知ってる。だから迷ってるんだろ?」

『それもある。が、それ以上にアリアたちが復讐にやる気満々なんだよ』

「そりゃ武偵だしな。ごくごく当然の帰結としてそうするわな。やられたら倍返しするよな」

 

 それが武偵。

 

『だから俺が妹……ジーフォースを懐柔しようとすると、アリアたちが敵になる』

「正しくデッドロックだな。ウケる」

『お前な……』

 

 人間関係のいざこざに介入するのは雪ノ下たちが修学旅行でも実演したこともあり、ホントに難しい内容だ。下手に触れたら刺される事態にまで発展する可能性を秘めている面倒なものだ。

 だから俺はこうしてお茶を濁すことしかできない。決して関わりたくないわけではないんだ。そうなんですよ。

 

 話をほんの少しずらそう。

 

「そういや仮にお前と血が繋がっているとして、その妹はHSS使えるのか?」

『……あっ』

「なに?」

『その発想はなかった』

「おいおい」

 

 というが、そんな簡単に検証とかできないだろう。遠山も気付かないのに無理はない。

 

「解決方法は正直分からんが、遠山がどっちかの味方をするしかないぞ。自称妹か神崎たちか。どっち付かずの対応するともれなくお前は死に至る。痴情の縺れは怖いね」

 

 痴情の縺れの恐ろしさは「かーなしみのー」で有名のアニメで証明されている。同情するわ。これに関しては俺も幾度か経験があるからな。誰かに撃たれたり撃たれたり爆破されたり撃たれたりくすぐられたり。

 

『はぁ……とりあえず参考になった』

 

 随分大きいため息をついたな。本当に参考になったかは甚だ疑問ではある。

 

「おう。まぁなんだ、死ぬなよ」

『……あぁ。比企谷も任務頑張れ』

 

 言葉では言い表せてないほど気が落ちている遠山キンジに合掌!

 

「まぁなんだ」

 

 やっぱ無所属で良かったなと心底思う放課後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




私生活わりと忙しいんで投稿ペース落ちます!



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総武高校編⑤ そろそろサブタイ思い付かない

今年の4月に再開してもう早く2020年も終わりですね
色々とお疲れさまです。



 転校した週も早くも終わり、土曜日に入る。

 

 最初も最初で進展なんてろくになかったが、始まったばかりだ。前向きにいこうと切り替える。ということで、午前中から久しぶりの千葉をグルグル回ることにした。

 土地勘をある程度は戻したいし、レキにも見知らぬ土地に慣れてほしい。いざというときに迷ったりすると任務に支障が出てしまうからな。それと石動組の本拠地近くも彷徨こうかと思う。確か千葉市と船橋の境目辺りだったような。

 

「では行きましょうか」

 

 というわけで隣にはレキがいますよと。

 

「おう」

 

 互いに私服。俺は語るべきもない格好だ。主観だが、特別イケてるわけでもなくダサくもなく服。レキはだいぶ前に俺が買った薄い桃色のワンピースに水色のジャケットを着ている。これしか私服がない。途中でやっぱ買おうか。

 

 千葉駅近辺を歩いている最中、のんびり話す。

 

「そういえば、前にも八幡さんと千葉へと出かけたことがありましたね」

「確かにあったな。春休みだったか。つか、アレお前が付いてきただけだよな?」

「黙秘します」

「答え言ってんじゃねーか。にしても懐かしいな。もう半年前か」

「はい。この半年で随分と事件がありましたね」

「だな。理子から始まり、ウルスへ行って、ブラドにカジノでの一件。修学旅行で新幹線ジャック、戻ってきたらFEWとヒルダ。……列挙すると、マジで濃い半年だな」

 

 化け物と遭遇する頻度高すぎでは?

 俺は一般人のはずなのにどうしてこうなったのだろうか……甚だ疑問である。心当たりがなさすぎる。何度も死にかけて、よくもまぁ五体無事でここにいるもんだ。思っている以上に頑丈な自分に驚く。

 

「これからはいのちだいじにで進もう」

「いえ、ガンガン行きましょう」

 

 断固として断る!

 

「まぁいいや。どこ行く? 石動組近くは午後調べてみるとして」

「といっても、私はあまり詳しくないのですが。前は船橋にあるららぽーとへ行きましたが、他はさっぱりです」

「それもそうか。午前は千葉駅周辺グルグル歩くか」

「はい」

 

 千葉駅周辺を適当に歩く。その途中、ペリエ千葉での服屋に入って店員に話しかける。正直ユニクロ以外服屋に詳しくないので適当に入ったが、ここどこだ? ローズなんちゃらってとこらしい。なるようになれ。

 

「すいません、コイツに合う服見繕ってください」

 

 レディースの店らしく男性は全然いないので若干居心地の悪さを感じながらも、若い大学生くらいの女性店員にレキを差し出す。こういうセンスは全くないので得意な人に任せる。

 

 適材適所……なんて素晴らしい言葉なんだろうか。みんな得手不得手があるの当然なんだから、ちゃんと分業をすべきなんだと俺は思う。苦手なままではいずれダメなのは分かるが、だからといってムリヤリ押し付けるのは良くないよね!

 

「はーい。わっ、お人形さんみたいですねぇ」

 

 正社員かアルバイトかは分からない店員は楽しそうにニコニコと笑顔で応対してくれる。さすが接客業の人だ。日々様々な客と接している人たちは、俺らみたいな無愛想な奴にも常に笑顔で面構えが違う。作り笑顔などではなくなかなかに自然な笑顔だ。こういうところは今後、俺も磨かないといけないな。

 

 そう内心考えていると。

 

「予算はどれくらいにしますか?」

「そうですね……」

 

 財布の中身を確認する。

 

「3万以内でお願いします」

「はぁい。季節はどうします? 冬物にしますか?」

「あー、春や秋辺りに着れるもので」

「分かりました。……彼氏さんが彼女さんの服選んでるんですか?」

 

 物色している間にも世間話は止めないらしく、どんどん話しかけてくる。ちょっとつらい。レキは黙ってついてきてるし。

 

「これの持ってる服、ぶっちゃけ私服含めて制服しかないくらい無頓着なんで」

「えっ、そうなんですか。珍しいですねぇ。ちなみに、今着ているのも?」

「あぁはい、だいぶ前に俺が買いました」

 

 あれまだ1年も経ってないのに、もう4年くらい経っていそうなだな。随分と懐かしい。

 

「……」

 

 そして、チラッとかかっている服の値札を見たが、どれも1つで1万近い値段のものが多い。恐ろしい! 世の中の女性は服1つを買うのにここまでお金をかけるのか。これ1万使ってユニクロで買おうと思えば、かなりの数揃えることできるぞ。もちろん、何にお金を使うなんて人それぞれであり、そこにケチをつけるとかは当然できはしないが、これを日常的に使うのは憚られるな……。

 

「なるほどなるほど。良いですね。さて、この辺りに……あ、せっかくなのでブーツも試してみますか、お客様?」

「それ予算的に大丈夫ですかね。つか、商魂逞しいですね」

「商売ですので。とは言いますが、私も色々と彼女さんをコーディネートしてみたいと言いますか。とりあえず色々見てみますね」

 

 確かにレキが履いているのは武偵高でも使っているごくごく普通の革製のシューズだけど。うーん、こんなさらっと稼ごうとするとは、プロとは恐ろしいものだと再確認する。というより、レキも喋って? なんで全部俺に任せてるの? そろそろ俺1人で間繋ぐのキツい。コミュ力のない人間の性だ。

 

 地味に予算に関しての部分を答えない店員の後をついていく。この人ホントに商売逞しいと思う。気付いたら大量の品を買わされそうな予感に陥り、財布の中身大丈夫かと不安になる。一応は多めに5万は入れているが……。いざとなったらレキに頼ろう。情けない気がするが、そもそもこれレキのためなんだよなぁ。というよりレキの財布って見たことないなぁ。

 

 

 一抹の不安に襲われながらも、レキのファッションショーは行われた。俺ら以外のあまり客はいなく、いつの間にか他の店員数名も参加していた。店員たちがあれやこれやとレキを着せ替えして楽しんでいる。そんな中、レキは黙って着て脱いでをひたすら繰り返す。

 

 まぁ、見た目美人だから余程のものじゃない限り、変な感じにはならないのだが、この店にはなかなかいいものが揃っている……と思う。断言はできない。だって人間だもの。はちまん。

 

「おぉー、これどうです?」

「いいっすね……」

 

 試着室から現れたレキは、若干ベージュに近い白スカートを膝下まで履いており、クリーム色のトップを着ている。その上には膝辺りまで長さのあるブルーのコートを羽織っている。で、茶色のブーツをちゃっかり履いている。

 

「八幡さん、似合ってますか?」

「おう、似合ってるぞー」

 

 レキはスカートを摘まんでクルクルと回る。どこで覚えたのか知りたいくらいの可愛らしい仕草だ。

 今まで色々と試着したレキだが、個人的にはこの服が一番似合うと感じた。あまり派手な色より、このような落ち着いた雰囲気の方がレキには合っていると勝手に思う。

 

「あのコート……冬場のじゃないんですか?」

「んー、生地は薄いので涼しいときにも問題ないと思います」

「なるほど。……それで、値段の方は?」

「全部合わせると48000です!」

「たっっっか!」

 

 思わず叫ぶ。

 え、なに、こんなに高いの? 一瞬で財布消し飛ぶぞ。

 

「ブーツ除けば4万には抑えられますよっ!」

「いやそれでも予算オーバー……まぁいいや。これセットで買います」

 

 後で金卸そう。

 

「お買い上げありがとうございます!」

 

 レキは今試着している服のタグを切ってもらい、今日はこの格好で行くと言っていた。店の近くで配送サービスもやっているらしく、さっきまで着ている服を送るためにか、ついでに他にも着ていた服をいくつか購入した。なんか、チラッとレジで黒いカードが見えたんですがそれは。

 

「では行きましょうか」

「おう」

 

 店を出た俺とレキは案内図を見てどこへ行こうか確認している。

 

「ん?」

「どうしました?」

「あぁ、いや……」

 

 隣に立っているレキにどこか違和感を覚えた。それが何なのか探っていると。

 

「そういうことか」

「……何でしょうか?」

 

 違和感の正体に気付いて1人で納得する俺をレキは見逃してくれずに問い詰めてくる。

 

「いや、お前のブーツだよ」

「ブーツ?」

「いつもよりちょっと厚底だろ。それで目線がいつもより高いなって思っただけ」

「なるほど。確かにいつもの感覚と違い、歩きにくいです」

「おう、まるで小鹿だぞ」

 

 若干だがぎこちない歩き方だ。

 小鹿と言った俺をレキはギロッと一瞥してからコホンと咳払いをする。

 

「これがオシャレというものですか。もし敵が現れたら対応できません」

「お前今武器持ってないだろ。俺が戦うって」

 

 ファイブセブンはお留守番だが、棍棒のヴァイスは持ってきている。折り畳める武器は便利だな。仮にもヤクザの本拠地の近くへ行くんだ。少しは装備するってば。

 まぁ、戦闘にならないことを願いたい。別に今日は喧嘩売りに行くわけじゃないし、本気で危なくなれば、レキ抱えて飛ぶがな。

 

「今何時?」

「11:30です」

「もうちょいで昼か。移動するぞ」

「どこへ?」

「石動組の本拠地が見える場所まで」

 

 

 千葉駅から電車で移動して幕張に着いた。

 

 ここは個人的にはわりと好きな場所だ。特撮の聖地が多いことから何度か足を運んだことがある。と、それは関係なく、石動組の本拠地の住居を詳しく調べてみたら、幕張から歩くのが手っ取り早い。

 とはいえ、近づきすぎると怪しまれるので、当然警戒して離れはする。そこで見つけたのが本拠地から500mほど離れたビルにあるレストランだ。高層ビルの中間よりちょっと上辺りに位置しており、監視もできる位置にある。今回はそこで食べることにする。

 

 しかしまぁ、ヤクザが近くいる場所とか治安悪そうな気がするのは気のせいだろうか。別に近くに武偵事務所もあるし、そもそもかなり規模が小さいヤクザだしで大丈夫なのだろうが、それでも危ないだろう。ただまぁ、幕張という場所は色々と盛んな土地でもあるから人の行き来もそれなりにある。さすがにこんな場所で目立つような事件は起こさないか。

 

 レストランに入り、窓際のカウンター席にレキと並んで座る。店員にメニューを告げてから、景色を眺める。

 

「あれ、見えるか? あの武家屋敷っぽい日本家屋」

「はい」

「あれが石動組の本拠地だ」

 

 小声でレキと話す。ここからじゃ、他と建物と相まって少ししか見えない。

 いくら規模が小さいヤクザとはいえ、本拠地はさすがに大きい。坂田さんが送ってきてくれた資料によると、およそ500坪は越えるらしい。今は縮小しているが、昔から活動しているヤクザの家は大きいなぁ。

 

 で、石動組には35歳ほどの組長と6人の幹部とさらにその下……みたいな感じで構成されている。ここ数年は表だった事件は起こしていなく、現在の活動内容の詳細な部分は分かっていない。しかし、武器を集めていることから、何か抗争を引き起こすのではないかと懸念されている。

 さっさと乗り込んで全員しょっぴけばいいのにと思うけど、証拠がないのではそれも難しい。だから、俺たちが捜査しているわけで。

 

「それでだ、何か見えるか? ここで双眼鏡とか使うわけにもいかないし、眼が良いレキに見てほしいんだが」

「……そうは言いますが、これといって動きはありません。車の出入りは元より、人の出入りもありません」

「まぁ、休日だしヤクザだって休みたいか。そもそも今昼だしな。来る時間間違えたか」

 

 こればかりはミスったな。何時間もここで張り込みするわけにもいかない。確かもうちょい上いけば展望台みたいなのがあったが、そこで何時間もいるのも怪しまれるだろう。展望台で何時間もいる男女二人組ってそれどうなのよ。それに上にいけばいくほど、俺役立たずになるからな。

 

 その後、調査を中断してから互いにハンバーグを食べてる最中。

 

「美味しいですね」

「だな。……お前、美味しいって思う感情あるのか」

「失礼ですね」

「いやなに、いつもカロリーメイトばかり食ってるしな。お前味覚あんの?」

「ありますよ」

「マジで?」

「人間ですから。五感はあります」

「それもそうか」

「さっきから失礼ですね」

「すまん」

「大丈夫です」

 

 何なんだこの会話。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 特に成果なく過ごした休日を過ごし、また月曜日がやって来た。

 

 あれからちょっとは粘ってみたが、何もなかったという。ただ出かけただけの結果となった。まぁ、たまには気を抜くのもいいかと思おう。学校にいるときは変に気を遣うしな。

 

 朝、レキは美術部に行くと早く出ていき、俺は1人であくびをしながらのんびりと登校する。

 

 さて、ここから2週目か。とりあえずこの週まで大人しくしておく必要がある。とはいえ、少しは捜査を進めないといざというときに困る。なので、先週と同じく見回り程度はしておこう。

そう決めて、始業10分前に教室に着く。着いたからには教室に入るのたが――――

 

「…………ん?」

 

 やたら視線を感じる。まだ揃っていないクラスにいる奴らの8割ほどの視線が俺に集まっている。ひそひそ話は中学のころよくされていたが、あれとはどこか違う雰囲気だ。侮蔑……というより、これはどちらかと言うと好奇心の類か。

 

 先週のうちに気付かないうちに何かしたのだろうか? 不味いな、これでは任務に支障が出てしまう。先週まで特に目立ったつもりはないが……。

 いや、転校生だから多少は目立つかもしれない。それでも、クラス全員からの興味は次第に薄れていたのは確かだ。話しかけてくれたのは、由比ヶ浜と葉山辺りのいわゆるクラスの中心人物といった人たち。最初を除けば今までこんなにも注目を浴びることはなかったと思うが。

 

「ヒキタニくーん」

 

 ヘアバンドをつけた茶髪の戸部がノリノリで声をかけてきた。

 

「どうした?」

「同じ転校生のレキさんとデートしてたってホント?」

 

 …………そういうことかと全てが合点といった。思わず頭を抱えそうになる。

 

 あー、これ見られていたのか。別に俺たちどちらも気配は消してないし、レキはぶっちゃけ目立つ。普段見られない水色の髪色も加えてまぁ、端的に言って美人だからな。そうか、そうだよな。こういう人たちってゴシップ好きだもんな。俺だって知り合いのそういう話は多少の興味はある。

 遠山は別として。あれの周りはただただ地獄なだけだ。端から見てもだ。

 

「千葉駅で君ら見たって話あるじゃん? 2人とも一緒に転校してきたことあったし? 付き合ってるのかなって?」

「……興味あるの?」

「そりゃあもう! 同じ時期に転校してきたってだけで噂されてたのにデート現場目撃したらねぇ?」

「俺は興味ないね」

「えー、そこを何とかー」

 

 うーん、戸部さんチャラいと思ったら全然下がらないんですね。

 

「――――」

 

 ここまで来て1つ思い当たることがある。

 もしかして雪ノ下がいるクラスでもレキは同じ目に遇っているのか? ということだ。レキは誤魔化すということが選択肢にあるようには思えない。絶対、そのままありのまま告げる。最悪の事態として、レキが同棲(笑)を言うことだが、そこは任務として秘匿にしてくれると信じたい。レキだってプロだ。そこは割り切っている……はずだ。しかし、それ以外ならレキは物事を隠そうともしない。だとしたら、ここで適当に俺が誤魔化しても……いずれ訪れる結果は同じということになる。

 

 俺にクラスのほぼ全員が視線を向けるなかどう言うのが効果的か考え、きっかり3秒。

 

「お前らの想像に任せる。多分、そんな変わらない」

 

 それだけ言って席についた。

 その後、クラスが騒がしく担任の七条先生がHRで「お前らうるさい!」と怒るまで続いていた。

 

 

 

 ――――放課後、HRを終えると七条先生が。

 

「比企谷、ちょっといいか?」

「何です?」

「ノート運ぶの手伝ってほしいんだが、大丈夫か?」

「いいですよ」

 

 まぁ、先生は俺が部活に入っていないって知ってるもんな。そりゃ声かけるか。

 

「そういや先生は何か部活の顧問とかしてんですか?」

 

 職員室から教室に向けて歩いているときに何となく雑談を振ってみる。情報収集……みたいな。探偵科じゃないから、こういう手順がよく分からない。

 

「ん? 俺は調理部だな」

「へー、なんか意外ですね。どこで活動してるんですか?」

「特別棟の2階だよ。あそこに家庭科の実習室あるからな」

「そうなんすか。……俺、ここ来てから学校案内されましたけど、特に活動している様子ありませんでしたね」

「そりゃあそうだろ。あの部活、週に多くて2回活動するかしないかくらいだもんな。部活だから予算あってその中でやりくりしてるからよ。そもそも4人しかいねぇし。そういや、案内されたって言ってたな。どうだ? 友人できたか?」

「まぁ、話する程度には」

「ハハッ、今朝もお前の話題で盛り上がってたもんなぁ」

「……ですね。疲れました。ああも注目されると」

「何だかんだでうちの奴らも非日常を求めてるからなぁ。そういや、誰が案内してくれたんだ?」

「由比ヶ浜です。部活の活動とやらで案内してくれました」

「あぁ、たしか由比ヶ浜の部活は……何だっけか。お悩み相談的なのだったっけ。平塚先生が面倒見てるとこの」

「そうですね」

 

 なんて雑談をしながら、せっせとノートを運ぶ。別に全然重くないけど。

 

「おーおー、疲れた疲れた。助かったわ、比企谷。これ1人で運ぶのキツいしな」

「いえ、このくらいなら平気ですよ。では失礼します。さようなら」

「おー、気を付けて帰れよー」

 

 先生に挨拶して、退室する。

 

「ふう……」

 

 夜に近付く時間帯になり、どこか冷える廊下の中で先生と話しているときに感じたことをまとめる。

 

 まず先生と接触したところ、これといって怪しい部分はなかった。銃を日常的に使っている者の特有な匂いはしなかった。体つきや筋肉、もっと言うなら手の筋肉、どれを取っても銃は触れたことのないように思える。

 これだけで決めつけるなら、先生は今回の事件とは無関係だろう。もっとも、脅されていたり、戦闘員でないのなら話は別だが。細かい可能性言い出したらキリがないな。少なくとも、戦うとなったら普通に勝てる相手だ。そこは確かだろう。

 

 しかし――――家庭科の実習室か。チラッと覗いただけで中に何があるかどうかは知らない。もしかしたら、取引された銃やヤクが……いや、ないな。前にレキと結論付けた。ここに取引されているブツは断定できないがないと。

 

「あー……」

 

 それだったら、まずここにいる教師陣と石動組が関わりあるかどうか調べる方が手っ取り早くないか? 俺1人ではキツいから坂田さん辺りに協力してもらって、過去の経歴やら洗ってもらうとか。また頼んでみるか。

 

 大丈夫だ、まだ焦るような時ではない。まだ余裕はある。大丈夫だ。…………そう思っていると期日がいつの間にか近付いているんだよなぁ、と心底思う。例えば夏休みの宿題とか。

 

 なんか時間中途半端だし、駅前の本屋でも寄るか。ついでに何か軽食でも。

 

 

 レキに連絡してから駅前に向かう。ここの本屋は東京に引っ越すまでよく利用していたくらい広く品物が充実している。時間潰しにもちょうどいい。

 

 半ばルンルンと高揚しつつ歩き、しばらくしていたら目的地が近付いてきた。駅前だからサラリーマンの帰宅時や主婦の買い物などの人混みが凄まじいが、まぁセンサーもあるしぶつかりはしないだろう。目の前は今誰もいないし、そもそもセンサーあるし近くならどこに何があるのか分か――――

 

 

「失礼、ちょっといいかな?」

 

 

 る……し…………な…………――って、えっ、は? 誰だコイツ、気さくに話しかけてきたぞ。目の前にいきなり現れた? さっきまではいなかった。センサーに反応しないくらい一瞬で? 何者だ、何が目的だ?

 

「――――っ」

 

 いきなりの事態に頭が混乱するが、この声には聞き覚えがある。いつだったか――それは今年の3学期。俺がある場所へと拐われたとき。

 それにその格好、古びた黒いスーツを着こなし、ステッキをクルクルと回している。そして、顔。いや、眼。その全てを見通す眼をした人物。そんなの俺が知る限り、1人しかいない。

 

 世界最高峰の探偵。どうしてここにいる、お前死んだはずだろ、何しに来た、ちょっと迷惑なんで帰ってくれない? ――――と、この場にいるにおいて、わりとマジで疑問しかないが、ソイツの人物の名は――――

 

 

「……シャーロック・ホームズ」

「やぁ、久しぶりだね。一緒にティーブレイクでもどうだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話を書くにあたって、初めてインスタで色んな服屋のアカウント見ました。ファッションについて何も知らなかったのでこういう話を書くのはとても苦労します。……とても、苦労するんです

そして、どうして最後にこの人出してしまったんだろうね?


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総武高校編⑥ 話し相手がコロコロ変わると、相手に合わせて口調を変えるの面倒だから結局のところ敬語が安定する

わりと真面目な話、就活あるので投稿ペース安定しません
申し訳ないです。はぁ、誰か雇って……





 

 シャーロックと遭遇して、なぜかスタバへ行き色々買ってからベンチへ座る。

 

「――――」

 

 1人はアホアホ高校生とわけ分からないおっさんである世界最高峰の名探偵。こんな俺らが座っている並び……何なんだこれは。どういう組み合わせなんだ。端から見れば怪しいなんてもんじゃないな。

 

 どうしてシャーロックがここにいるのか考えを巡らせる。まず前提として、シャーロックは遠山たちと戦ったあとに亡くなったはずだ。しかし、現在俺の目の前にいるからその前提は無意味となる。そもそも死んでいなかったか生き返ったか――――どちらでも充分あり得ると思わせるくらいの人物だ。

 ならば、改めて今度はなぜここにいるか、だ。……宣戦布告? 俺を殺すため? 後者は違うか。俺を殺したいなら気付かないうちにさっさと殺せば済む話だ。前者もまぁ、薄いだろうな。なぜってわざわざ俺にそんなことする必要がない。遠山への言伝てなら何となくは理解できるけど、多分もうちょい生きてると隠したいはずだろう。

 

 とすると、また別の用事があるということになる……のか?

 

「さてと」

 

 俺の考えが纏まらない間にもシャーロックがそう言い始める。

 

「お前、生きてたのか」

 

 それより先に俺が切り出すことにする。

 

「遠山から死んだと聞いていたが。色金ないと生きてられない体じゃなかったらしい話じゃねーか」

「別に長生きする方法が色金ではないだけさ。他にも方法はある。僕は今までその方法を試してもらっていたということだ」

「あっそ。変に体弄って化け物になったら教えてくれよ。今度は俺が逮捕しに行くからな。……つか、お前何しに来た?」

「ふむ。簡潔に言うと、挨拶だね」

 

 ん?

 

「…………挨拶? 死から復活した記念として知人に声をかけてんのか」

「お、見事な推理だ」

 

 

バカなの?

 

「バカなの?」

 

声に出して言ってしまった。

 

「それは心外だね。と言うが、もちろん挨拶というのは一応は建前だよ」

「建前ね。……はぁ、何か俺に用あんのか。さっさと本題言え。正直お前と話すのは苦手だ」

 

 全て見透かされている感が強くてかなり神経を使う。

 

「そう面と向かって言われるのは少し傷付くが……まぁいいだろう。私は少し前にイ・ウーを取り戻した」

「……っ」

 

 おいおいマジか、コイツ相当イカれてるな。いきなりすぎて思わず何て言えばいいのか分からないだろ。

 イ・ウー。それは原潜だ。あれは確か遠山たちが壊滅させたあと日本に引き渡され今は広島の呉にあるはずだが……。それを盗んだ? ならば窃盗罪で逮捕しなくちゃいけないか。武偵法に基づくと犯罪者を前にすると事前に動かなくてはならない。そもそもコイツは犯罪者だろ。

 

「――――」

 

 撃つかどうか俺に迷いが生まれる。銃はある。ナイフも一応持っている。超能力もある。万全とは言い難いが、戦おうと思えば戦える。しかし、ここで戦闘を仕掛けるべきか迷ってしまう。周りには大勢の人がいる。シャーロックが人質を取ることはないだろうが、それても巻き込まれる危険性がある。そして、単純に戦力が不足している。万全ではない上に相手はシャーロックだ。俺だけで勝てる相手ではないのは明白だろう。

 

「また盗んだのか……。それはリュパンの役目だろうに」

 

 ただやはり動かないわけにはいかない。スタバで奢ってもらったので財布を取り出す振りをして、カバンにある銃を取り出そうとするが――――

 

「おっと、それは止してもらおうか」

 

 ちょ、まっ……痛い痛い痛い。

 当然手を掴まれたと思ったら、激痛が手から全身へと走る。力任せではなく、一つ一つの指の関節を極めているなこれ。下手に抵抗すれば折れる。クソが、これでは動くに動けない。ていうか、マジで痛いんですけど!

 

「――――離せよ。じゃないと、お前撃てないっての。それに男と手を繋ぐ趣味ないんだが?」

「君が武偵だからそうするのは分かる。だが、今は止してくれ」

 

 離してもらった。いやもうホントに痛いわ。

 それにしても関節技か。こうも極められるとマジで痛いもんだなと再確認する。簡単に動きを封じることができるし、相手の戦意も喪失させやすい。俺もこれから覚えないと。関節技は苦手だから今後の課題だな。

 

「……はぁ、疲れた。で、あれ盗んで何? やっぱ宣戦布告か?」

「まさか。こちらもこちらで進めるべき事柄が山程ある。そこでだ、僕に協力してくれないかい? 有り体に言えば勧誘だ」

「断る」

「釣れないね。もう少し話を訊いてくれ。何も今すぐというわけではない。まだ伏せておくが、いずれ大きな事件が起きる。そのときに力を貸してほしい」

「また世界征服でもするつもりか」

「いや、違う。また時が来れば話をするとも。ただ――――世界征服とまでは行かなくても、世界を大きく変える出来事が起こり得る。もしかしたら、世界征服の方がマシかもしれないがね」

 

 世界征服よりも酷いことが……?

 シャーロックの一言に思わず固唾を飲み込む。そんなことが起こるとは到底信じられないが、シャーロックが言うからには恐らく眉唾物ではないのが如実に伝わってくる。

 

「お前が未来予知に近い推理をできるのは知っている。……それでどうして俺だ? 俺程度の奴なんてそこらにいるだろ。それこそイ・ウーには」

「ふむ、君は君をかなり過小評価しているようだね。今そっち方面では君の価値はかなり上がっているよ」

「さいで。それはありがたい限りですよ。……そもそも俺が必要なのは俺が色金の力を多少なりと使えるからだろ?」

「それもある。色金の力を使える人材は稀有なのでね。もちろん、他にも理由はいくつかあるが、色金含めてなかなかに君は魅力的だ。君はこの先必要になる……とでも言っておこうか」

 

 ここまではっきり言われると少し照れ臭い気持ちにもなる。落ち着け、コイツは犯罪者だ。

 

「…………はぁ、シャーロック。言っておくが俺は武偵だ。武偵は頼まれたら基本何でもやる。まぁ、報酬次第だが。あと法律に抵触する行為は断りたいな。だからまぁ、何だ、いつか正式に依頼してくれ。そのときに考える」

「ふむ、これが捻デレとやらか」

「ちょっと待て。なんでお前がその造語知ってる」

「ノーコメントとしよう。それはさて置いて、了解した。まだ私もはっきりと何が起こるか断言できないのでね。事の次第が明確になり次第またお願い行くとしよう」

 

 さて置くな。あれか、小町か。それとも理子辺りが広めたのか。ホント止めて……。

 

「……というか遠山がいるだろ。そっちにも頼めよ。なんなら俺から言ってやろうか?」

「キンジ君は私が頼まなくてもいずれまた出会うことになるだろうね。……推理しなくとも分かるさ」

 

 さいで。いやはやしかし、コイツと話すのはしんどいな。

 

「そういや俺、今ある事件の調査してるんだよ。ちぃとばかし行き詰まっててな。せっかくだし推理してくれねぇか?」

「いや、断ろう」

「そうかい。ったく、即答かよ」

「私が解いてしまっては面白くないだろう? それに君が操作している事件は現場を抑えないといけないものと見た。私が推理してもあまり意味が薄いだろう」

「あっそ。…………ん? 悪い、また話が変わるけど、お前生きてたらFEWしている意味なくないか? あれお前が死んだから起きたのであって、お前が生きてたらあんな戦争やる必要ないよな?」

 

 善良な一般市民を巻き込んでおいて本人はこんなとこでのんびりとスタバの飲み物を啜っている。

 

「まぁね。だからここで君と密会したことは黙っておいてくれよ」

「分かったよ。どうせ俺は今回のFEWでは無所属だ。知ったこっちゃねぇな」

「そうしてくれると助かる」

 

 どうやら飲み終えたシャーロックは近場のゴミ箱に容器を放り込んでから立ち上がる。近くにある時計塔を確認したかと思えば咳払いをする。

 

「ふむ、私はここで失礼するとしよう。時間を取らせてしまって悪かったね」

「気にするな。どうせ暇だったんだ。時間潰せて良かったよ」

「ではまた。いつか会おう、八幡君」

 

 とだけ言い残してシャーロックは去っていった。

 

 

「…………疲れた」

 

 シャーロックがいなくなったベンチで残された俺は思考を巡らせる。

 

 世界征服より酷いこと……か。シャーロックが言った内容について考える。が、情報がなさすぎてろくに考えは纏まらないな。まぁいい。1つずつ順を追って整理してみよう。

 

 世界征服を俺個人の考えで解釈するなら――――世界征服が単純なプロセスなら、1つの勢力が世界に向けて何か武力を行使するということになるだろう。実際問題、イ・ウーがそうしようとしていたように。せいぜい一団体VS世界になるかもしれない。

 それよりも酷いことになると――――パッと考え付くものとしてはやはり戦争になる。全世界で戦争でもするのか? 世界大戦が起きることをシャーロックは危惧しているのかもしれないな。確かに世界征服よりかは戦争の方が断然酷い事柄になるとは思うが。

 

「……まぁ」

 

 さっきも思ったが、如何せん情報がなさすぎだ。シャーロックもまだ正確なことを分かっていないと言っていたように、現段階で結論を出すのは無理あるな。

 

「……腹減ったな」

 

 そう誰に聞かせるまでもなくポツリと呟く。もちろん反応する人はいない。

 さっきまで甘ったるい飲み物を飲んでいたのに何か甘いものを食べたい気持ちになる。シャーロックと話すのにカロリー使ったからか。確か駅近くにドーナツ屋があったはずだ。いくつか買ってから帰ろう。レキの好みは分からないけど、まぁ何でも食べるだろうな。

 

 ちょっと移動してから、ドーナツが並んでいるショーウィンドウを物色する。

 

 あれもいいな、これもいいな。でもこれ全部買ったらさすがに多いな――――そんなことを考えつつ横に移動しようとしたら、隣にいる人とぶつかりそうになった。どうやら隣にいる人も俺と同じで物色していたらしい。周りへの注意が疎かになっていた。センサーも使っていないし、どうも武偵高でないと気が抜けるな。

 

「あ、ごめんなさい」

「いえ、こちらこ……あれ、アンタ確か転校生?」

 

 先に謝ると、冷たい返答が返ってくる。……あれ? 返答が返ってくるって日本語おかしくない? 大丈夫? 頭痛が痛いみたいな感じになってないか。いやいや、今はいいか。

 

 隣にいたのは総武高校の制服を着た女生徒。少し明るめの茶髪に鋭い表情をしている。見覚えがある。同じクラスの……名前は…………何だっけ。あー、ダメだ、まだ全員覚えきれていない。

 しかし、何となくの印象は覚えている。クラスでは溶け込めていないのかわりと1人でいることが多い奴だったはずだ。見た目からして第一印象が陽キャって感じだが、その実ぼっちということに違和感を覚えたことがある。まぁ、クラス外で友だちいる可能性はもちろんあるが。

 

「そうだな。名前は比企谷だ。えーっと、そっちの名前は……」

 

 不味い、いやホントマジでまだ全員覚えていないぞ。申し訳ないくらいだ。ホントに名前が出てこない。見覚えは確かにあるし、雰囲気は分かるけど名前が出てこない。えー……。

 

「…………相模」

 

 とだけぶっきらぼうに答える。相模か。よし覚えた。

 

「まぁ、よろしく」

 

 俺も俺でぶっきらぼうにそう返す。ここで陽キャみたいに元気よく返す俺とか解釈違いなもんで。

 

 それにしても相模か。どこかで聞き覚えのある名前だ。

 どこだっけか――――と、しばらく記憶の中を探っているとようやく思い出した。あれだ、由比ヶ浜が言っていた文化祭の委員長の名前だ。あの自業自得で不登校になった奴か。由比ヶ浜もソイツの様子を詳しく知っていたようだったから、今隣にいる奴で間違いないだろう。

 

「ねぇ、比企谷」

「どした?」

 

 相模について考えていたのに加えて、ドーナツを何にしようか迷っていたので再度声をかけられ少し驚いた。

 

「アンタ、知ってるの?」

「何を? あ、クーポンとかはないぞ。なにせ久しぶりに来たからな」

「そんなわけじゃないじゃん……! 別に知らないならいい」

 

 相模が言いたいのは恐らく文化祭のことだろうが、ここは適当にとぼければ問題ない。これが探偵科や尋問科の奴らならこの程度の嘘を見抜けるだろうが、ここには一般人しかいない。そう簡単にバレない。

 

「じゃ、また学校で」

「……話しかけるつもりないから。アンタも話しかけないでよ」

 

 ドーナツをいくつか買ったあと別れを告げると、なかなか辛口な言葉が返ってきた。……言い方アレだが、俺もそのつもりだから構わない。逆に俺がわざわざクラスメイトがいる中、率先と話しかけると思うのかと突っ込みを入れたいまである。俺そんなキャラに見える? ねぇ?

 

 相模はどこか見た目通りというか、随分と刺々しい性格だったな。短い会話でもそれが充分伝わった。これが一般的なJKという存在なのだろうか。種類は全くの別物だが、雪ノ下も口調がキツい性格だもんな。ここ1年ほどで一般的な感覚がけっこう抜けているが、一般人ってこんなもんか。

 と言っても、この性格は不登校になったせいという可能性も否めない。前までは由比ヶ浜並に明るい奴だったのかもしれないな。それともアレか、俺がキモいとか感じたからか。初めての会話でそこまで印象与えるとかそれはかなりショックなんだが。いやいや、さすがにそれはない。……ないと言い切れない悲しみ。

 

 さてと、ネガティブな感情は置いておいて、そろそろ帰るか。坂田さんからの定期連絡の書類が来ているかもしれない。帰って確認して飯食って寝よう。

 

 

 

 

 

 

「八幡さん、お風呂上がりました」

「おーっす。じゃ、ご飯にするか」

 

 夜、晩飯を2人で食べる。今日はシチュー。適当に煮込めばいいから案外楽な料理だ。

 

「もう1週間経ったが、これといって進展ないわな」

「はい。しかし、2週間は大人しくしろとの通達なので仕方ないかと思います」

「だよな。坂田さんたち警察の方もこの週で動きはなかったって言ってたし」

「とりあえず今週までは学校生活でも楽しみましょう」

「だな」

 

 こうも進展がないと捜査のやりようがない。まぁ、レキの言う通り大人しくするか。

 

「…………」

「八幡さん?」

「ん、何でもない」

 

 シャーロックのことをレキに言おうとしたが、別に言わなくても構わないだろう。遠山たちと違ってあまり関わりないはずだし。たしかウルス関連でシャーロックが出向いたらしいが、その辺りの詳細はそこまで知らない。

 

「ところで八幡さん、最近の八幡さんの生活習慣は目に余るものがあると思います」

「急にどうした」

「夜食は毎日取りますし、寝る時間も遅いです。不摂生です。体に良くありません」

「いつもこんなもんだが」

「ですが、私の部屋に泊まるときはそうでもないですよね」

「そりゃあ、レキの部屋何もないし。寝ることしかすることないだろ」

 

 俺が布団持ち込まなかったら、それこそせいぜいタンスがある程度だぞ。

 というより、何の脈絡もない話の仕方だな。もしかして世間話みたいな感じか。俺もレキもコミュ力ある方ではないから、自然とこうなるのも仕方ない……のか?

 

「その、睡眠以外にもやることはあると思いますが……」

「武器の整備? つっても俺、基本は材木座に任せてるし、簡単なクリーニングしかできないからな。レキみたいにガチガチに整備できないし。俺のファイブセブン改造しているから余計にな」

 

 普段なら簡単な分解程度で大丈夫だが、月1くらいの頻度で材木座に見て貰わないといけない。

 

「そういうことではなく……まぁいいです」

「なに拗ねてんの」

「拗ねてません」

 

 珍しくそっぽ向いてツーンとした表情を見せる。こういうときはホントに表情豊かになったなと常々思う。こう……何か怒らせてしまったのは承知しているんだけど、何だろう……思いの外可愛くてどうして怒らせたのかそんな理由とか正直どうでも良くなっている。

 

「それで、話を戻しますが、しばらく夜食は禁止です。夜9時以降の食事は禁止です」

「ちょっと待って。俺の楽しみ奪わないでくれない?」

 

 深夜に食べる炭水化物の背徳感がたまらなく好きなのに。マジで勘弁してくれ。

 

「ちなみに私が寝たあとで食べても無駄ですよ。どんな音でこの程度の広さだと普通に聞こえますのてすぐに分かります。ただでさえ、普段の生活と違って運動する時間が減っているので、八幡さんの体調管理は私がします」

「ということは夕食もレキが作るってこと?」

「ライスケーキでよろしいですか?」

「はいはい。俺が作りますよっと。……お前ももうちょい料理覚えてもいいと思うぞ。料理は基本科学だからな。細かい作業が得意なレキなら充分できるだろ」

「……それは私の料理を食べたいということですか?」

「そりゃまぁ、女子の手料理とか憧れるよな」

 

 俺だって男だ。そういうのには人並みな憧れがある。女子の手料理とか可愛いメイドとかそんな感じのやつな。多分嫌いな人いないんじゃないか。

 

「分かりました。また後日挑戦してみます」

「お、おう……。無理すんなよ?」

「はい。それとMAXコーヒーも夜9時以降飲むの禁止ですよ。あれ確か500キロカロリーはありますよね」

「抜け目ねぇな……」

 

 

 

 

 

 




年末から年始にかけて進撃の巨人一気見しました。面白くて漫画全巻買っちゃった。残り一巻でどう収集つけるのか予想がつかないですね。個人的にはアニとミカサが好き


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総武高校編⑦ 歯車は少しずつ動く

 依頼されてからから早くも2週間が過ぎた。そして、今は月曜日。ここからは本格的捜査することになる。

 シャーロックや相模と会ってからは、これといって特に何も起こらず、ごくごく平和な時間が流れた。……平和っていいなぁ。授業中に銃声しないし、爆発音もしない。誰かが喧嘩する光景もない。とても穏やかな2週間だった。

 

 何も起こらなかったということから分かるように捜査の進展はぶっちゃけ何もなかった。本格的に捜査してないとはいえ、こうも手がかりがないと少しばかし凹むな。放課後に学校を回ったけど、怪しい部分なんてバッと見はなかったし。ごくごく普通の高校といったところだ。といっても、教室の隅々まで調べていないからまだ希望はあると信じよう。

 これからどうやって進めるか迷う。平塚先生か校長先生かにマスターキーを借りることはできる手筈なので、それ使って捜査するか。レキは美術部に入ってるから放課後の捜査をするのはキツいはずだ。まぁ、アイツなら部活をしている間でも何か掴んでくれるだろう。狙撃手ってのはそういう生き物だ。

 

 今日から本腰入れて捜査するが、如何せん学生という立場上動ける時間は限られている。休み時間か放課後だけだ。下手に授業中に動いて犯人に警戒されるようでは意味がない。……ていうか犯人いるのだろうか。まだ全然絞りきれてないんだよなぁ。

 

 そもそもの話、この事件の終着点が分からない。学校に武器が隠されている可能性はかなり低いはずだ。それも今回追っている石動組は武器やヤクを購入している側だ。販売している側がどんな存在なのか不明だから何とも言えないが、この学校を通してどのように取引が行われているのかがどうも分からない。

 

 やはりどこかに武器が隠されている……はないな。それはレキとも話し合った。

 

 だとすると、ここを取引の現場に使用している……これはメリットが浮かばないので没にした。改めて考えてみたが、どうもハッキリしない。秘匿性はかなり低いように思えるしな。だって、学校だもん。

 誰かはどこかにいるかもしれないし! 中学生時代、放課後の誰もいない廊下でアニソン口ずさんでいたら、階段の踊り場に女子たちが喋ってて歌っているのを聞かれてしまった悲しみをを思い出す。あのときの冷たい視線はトラウマですね。しかもそのとき口ずさんだ曲がロウきゅーぶのOPだったから余計にな……。

 

 中の人の実話を交ぜた話はさて置き、ホントにどうすればいいのか迷う。ぶっちゃけこういうのは俺もレキも専門外だからな……。

 

「おい、比企谷。ボーッとするな」

 

 そんなことを考えていると、平塚先生に頭を叩かれた。

 あ、そっか。今は古文の授業中でしたね。

 

「……すんません」

「まぁ、前いたとことは授業内容違うだろうが、ここに来たからには真面目に受けろ」

「うっす」

「よし。じゃあ、ここの助動詞の意味を――――」

 

 危ない。本気でビビった。もしここが武偵高だったら、平塚先生のげんこつが飛ぶところだった……。

 

 

 

「ヒッキー、大丈夫? 具合悪いの?」

「いや、問題ない。難しくて呆けてただけだ」

「それもそれでどうかと思うけど」

 

 授業が終わり、休み時間のときに由比ヶ浜がやって来て話しかけてきた。

 

「そういや、あれからどうなったんだ?」

 

 生徒会選挙の立候補者に関する顛末をまだ聞いていないことを思い出した。別に俺奉仕部の人間ではないひ、聞いていないっていうか聞かなくても良いんだけどね? ただ、何て言うか……気になるじゃん。

 

「あー、それね。サッカー部の女マネが立候補することになったよ。元々興味はあったらしいんだけど、やっぱ両立っていうか、隼人君にいいとこ見せたかったらしくて。そこからはヒッキーの案を使ってやる気にさせたって感じかな」

「その女子特有の恋愛感情ってホントに存在したんだな」

「ヒッキーが色々言ったじゃん……!」

「あんなの口八丁で言っただけというか妄想レベルだぞ……。まぁ、上手くいったんなら良かったな。一件落着といった感じか」

「うんうん。ヒッキーもありがとね」

 

 うわっ、この子の笑顔超眩しい……っ!

 こんな純粋な笑顔、武偵高で拝むことなんて滅多にないぞ。俺の知り合いで唯一してくれそうなのは星伽さんだが、あの人笑顔の裏にドス黒い感情秘めてそうだしな……。待てよ、戸塚がいる。そうだ、俺には戸塚がいる。文化祭女将の姿で数々の客を虜にした戸塚は最強なんだなって。

 

「あ、そうそう。ヒッキー今日の放課後って暇かな?」

 

 おっと、唐突だな。もうそろそろ次の授業始まりそうだが、この話まだ続くの。このっていうか別の話か。

 

「暇と言えばそうだし、暇じゃないと言えばそうなる」

「つまり……どゆこと?」

「要するに由比ヶ浜の要件次第だ」

「ゆきのんとお疲れさま会をファミレスでしようかなって思うんだけど、ヒッキーもどうかな? ゆきのんも一応は誘っておいてって言われてるし」

 

 その一応って社交辞令? 社交辞令と受け取らずに意気揚々と参加したら、かなりの割合で空気が悪くなるんだが……これは大丈夫な一応ですか? 

 

「いいのか。俺、部外者だぞ」

「えー。でも、今回ヒッキーの案がなかったら絶対詰んでたと思うよ。立役者ってやつだよ!」

「そうか。なら、お邪魔するわ」

「オッケー。ゆきのんに伝えておくね」

 

 本格的な捜査初日から出鼻を挫かれたが、情報収集という意味ではいいか。雪ノ下と由比ヶ浜、別なベクトルで学校に詳しそうだから、何か事件に繋がることでも知れたら御の字だ。……そういや、レキに何て伝えようか。といっても、レキは部活だから大丈夫か。

 

「じゃあ、またあとでねー」と由比ヶ浜は元気良く手を振り席に戻り、次の授業が始まるところでまた近くに誰か来る。それはそうと、由比ヶ浜さん、そういうの目立つから止めてくれません?

 

「比企谷君、ちょっといいかな」

「葉山か。どした、授業始まるし手短に頼む」

 

 葉山は俺が転校してからちょくちょく声をかけてくれる。俺から話しかけることは今のところないが、クラスの中心人物といったところでけっこう気にかけてくれる……のか。

 

「ちょっと小耳に挟んでね。今回の生徒会選挙の立候補者集め、比企谷君が一枚噛んだって?」

「つっても、ほとんど成り行きでな。お前のとこのマネージャーその気にさせて悪かったよ」

「そんなこと咎めるつもりはないよ。ホントは僕ができれば良かったんだけどね。城廻先輩の頼み断ったし」

「部長なんだから仕方ないだろ。俺は部活してないから何とも言えんが、忙しそうなんだし、そこでお前を責める奴はいない」

「ありがとね。僕も今回のことは心残りだったから上手くいって良かったよ」

「そういや候補者1人だが、その場合って信任投票か?」

「まぁ、そうなるね。さすがに落ちることはないだろうけど、受かることを祈るよ」

「部活のマネージャーなんだろ。フォローくらいはしてやれよ」

「そのくらいはもちろんするさ」

 

 お、今の俺恋のキューピッドみたいだな。

 

「おっと、もう授業始まるね。じゃあね」

「おう」

 

 …………何回かこのように話すことはある。が、怪しい雰囲気はない。主に事件に関わっているかどうかの観点でだ。コイツの親父さんが弁護士だから少しは観察してみたが、ただの一般人といった領域を抜けない。

 武器を触った特有の匂いもしないし、葉山もシロだな。いや、これ片っ端から決めてくのけっこうキツいなぁ。というより、全員疑いながら会話を進めるのはなかなかにめんどい。だいぶ改善したけど、コミュ症には大変だ。

 

 

 

 

 

 

「あら、やっと来たわね」

「ヒッキー、こっちこっち!」

「あぁ、悪い遅れた。掃除に手間取った」

 

 放課後のサイゼにて。先に座っていた雪ノ下と由比ヶ浜と合流した。

 

 やはりサイゼはド安定。500円あればある程度腹が膨れるほど食える。安さは正義だ。

 最近はキャッシュレス時代なのかとうとうサイゼもクレジット決済や電子マネーを導入している店が増えてきた。正直レジしててクレジットとかにする人体感そこまで多くないけど。ていうかクレジットやら時間かかるから現金にしてほしい。その間に仕事たまるのがもう大変で……。

 

「比企谷君、何頼むの? 今ちょうど決めているところよ」

「単品のドリンクバーで」

 

 ここであまり食えないというか、別にここで間食してもいいんだが、ここで食ったら夜に作る気なくなる。

 

「んー、じゃああたしもそうしよっかな。晩ごはんあるし」

「そうね。なら私もそうするわ」

 

 店員にドリンクバーを頼んで、それぞれ入れてから改めて着席。

 

「では、お疲れさまー! かんぱーいっ!」

 

そして、由比ヶ浜の音頭。

 

「かんぱーい」

「えぇ、乾杯」

 

 俺は棒読みで雪ノ下は抑揚のない声で由比ヶ浜に続く。

 

「2人ともテンションひくっ!? もっと盛り上がろうよー」

「せやかて工藤」

「誰が工藤だ!?」

 

 あれ、由比ヶ浜にはこのネタ通じない?

 

「本格的に動いたのお前らだろ。横から適当に口出ししただけだし、ぶっちゃけ場違い感強い」

「なら、なぜここに来たのかしら……」

「でもでも、ヒッキーも大活躍だったからね」

「そうね。そこはホントに助かったわ。ありがとね。多分比企谷君の意見がなければ詰んでいた可能性が高かったからね」

 

 確かにけっこう追い込まれた状態だったな。もし見付からなかったら現生徒会からムリヤリ選出されていただろう。……別にそれでも良かった気がするのは俺だけか。

 

「なんにせよ、どうにかなって良かったな。これでしばらくはお前らもゆっくりできるだろ」

「そうだねー。修学旅行から今回でマジ疲れたー」

「由比ヶ浜さんに同意だわ。連続して厄介な事柄が舞い込んだのは堪えたわ」

「色々あったんだな。ホントお疲れさん。……そういやさ、最近何か変なこととかある? なんつーか学校全体で。俺が来る前に何があったのか、何となく知りたいなぁ、と」

 

 ……話題変換下手か、俺。学校について訊くにしてももうちょいやり方あるだろ。さすがに怪しまれるだろ、これ。こういうとき口下手だと捜査するときキツいですね。

 

「うーん。変なことと言われてもあまりピンとこないかな。夏休み明けてからは文化祭と修学旅行の話題で持ちきりだったし……。前に言ったけど、さがみんが不登校になったことかな」

「言ってたな。それって具体的にどんな感じだったんだ?」

「えーっとね、さがみんが文化祭でやらかして委員会のみんなに迷惑かけたんだよね。その噂……というより事実? が学校全体に知れ渡って、色んな人から陰口……みたいな感じがあったんだよ」

「なぜか私に同情する声も多かったわね。私も悪かったのだから、相模さんを責めるつもりなんて更々なかったのに、あそこまで同情されるとは正直鬱陶しかったわ」

 

 雪ノ下は冷たい表情でそう吐き捨てる。

 

「直接何か隠したり壊したり、それこそ暴力みたいなイジメはなかったけど、文化祭終わってから1週間以上もずっと避けられて陰口みたいなひそひそ話が続いて、しばらくしたらさがみんが学校に来なくなったんだよね。だいたい1ヶ月くらい」

 

 なるほど。確かに周りから白い目で見られるというのは思いの外ストレスが溜まる。ちょっと聞こえただけでまた自分の悪口かと思い、非常に神経を使う。で、被害妄想が段々膨らんだといったところか。

 自業自得、因果応報とはいえ、そういうのはかなり精神に来るもんだ。つーか、1ヶ月程度で復帰するとか、けっこう心臓強いなアイツ。不登校なんて長引く奴はとことん長引くし、なんなら退学してしまう奴の方が多そうな印象だ。

 

「相模に味方――友だちとかはいなかったのか?」

「いたけど……悪い噂が広がってからさがみんに近寄らなくなったよ。かなり距離置いてたね。隼人君がフォローしようとしてたけど、さすがに広がりすぎててムリがあったんだよねぇ」

「その噂が嘘なら否定しようがあったのだけれど、如何せん事実なのが響いたわね。私や由比ヶ浜さんからも抑えようとしたけど、相模さんに直接何かしらの被害があったわけではないから、それもダメだったわね。他人の陰口は止めようとすればするほど拡散するのだと改めて知ったわ」

 

 周りにマイナスなイメージを持つ人がいれば、さっさと離れて保身を図る。実に人間らしい動きだな。

 この2人や葉山ですらフォローしきれなかったのか。

 

「それで、修学旅行が始まる1週間前くらいに復帰したけど、さがみんに関わろうとする人はいなかったね。もうさすがに陰口する人はいなかったけど」

「まぁ、確かに教室でも1人でいる印象だな」

 

 変に人間関係で悩むくらいなら1人でいた方が圧倒的に楽だが、そんなことを選択できる人間はなかなかいない。俺みたいにとうに割りきっている人間なら未だしも、前までいわゆる陽キャと呼ばれる性格の人にはかなり酷な選択だ。

 人間は基本的に群れる生き物だ。徒党を組まないと安心できない。周りと違うとそれだけで視線に敏感になる。敏感になればなるほど、周りに依存していく。人によって差は千差万別だが、何かに依存する人はとことん依存する。それこそ、もう抜け出せないくらい。それが年頃の女子高生なら尚更だな。

 

「あたしが話しかけてもかなり冷たい反応だからね……」

「由比ヶ浜さんでそれならお手上げよ。人間関係リセットするしか改善方法はなさそうに思えるわ」

 

 独りになれば、自分を守るために殻に籠るんだろうな。ハリネズミみたいにトゲを生やして威嚇して。

 

「あー、そういえば、さがみんが不登校の間にまた変な噂が立ったことがあったね」

「というと、昼に出歩いてるとかそんなのか。不登校ならそんなの大したことじゃないと思うが」

「ちょっと違くてね。……その、あまり大声で言えないけど、体を売ってるとか……そういう話題」

「それは……事実かどうかは知らんが、酷い話だな」

 

 下手すれば名誉毀損だろ。誰だ、そんな噂流したのは。

 といっても、きっかけはちょっとした話題から、色々くっついてそういう話題になったのだろうと容易に想像はつく。

 

「だから余計に孤立しているってわけか」

「そういうことよ。はぁ、下衆な人間は一定数いるものね……」

 

 ということは、ドーナツ屋で相模と会ったときに『知っている?』と訊かれたが、あれはいわゆる援交についてだったのか。確かにそれは知られたくないな。

 

「さがみんの話は置いといて、他に変なことってあるかな?」

「そうね……。これは学校内の話ではないけれど、よくここ近辺でパトカーのサイレンが聞こえるわね。もちろんほとんどは夜中辺りで、授業中に聞こえることは稀にしかないけれど」

「あー、言われてみれば最近多いかな。物騒だよねぇ」

 

 それは坂田さんたち警察が色々動いているんだろう。石動組関連の事件が多発しているらしいし、恐らくはそれだな。

 

「ごめん、ちょっとトイレ行くね」

 

 しばらく思案していると由比ヶ浜が突然立ってトイレへ足を進める。そして、由比ヶ浜がいなくなったのを確認してから、雪ノ下は口を開く、

 

「――――やっぱり、ここで何か起きてるのね」

 

 俺が武偵だと知っている雪ノ下が咎めてくる。

 

「そりゃな。なければわざわざ退学してまでここに来ねぇよ」

「転校する理由がないしそうなるでしょうね。それより貴方、話題転換下手すぎない? さすがに露骨すぎるわよ。由比ヶ浜さんはある意味バ……根が純粋だから怪しまれないだろうけれど」

「今バカって言おうとした?」

「さぁ? こういうのはもう少し自然な感じで話しかけなさい」

「ほっとけ。こういう地道な捜査は専門外なんだよ」

 

 あ、やっぱり不自然ですよね。普通にダメ出しされた。

 

「事件の詳細は明かさないが、まぁ……ここの生徒たちには極力被害を出さないよう尽力するので、色々見逃してくれたら助かる」

「もちろん、そうするわ。今回で借りができたし」

「あれが貸しとは思ってねぇが……別にいいか。だったら、是非とも情報提供に協力してほしいな」

「それは構わないけれど、私や由比ヶ浜さんが知れる情報なんてたかが知れてるわよ」

「正直どんな情報でもほしいんだよな」

 

 と、素直に告げると、雪ノ下は真剣そうな思案顔になる。

 

「そうね……。ここ最近で言うと、由比ヶ浜さんが言ったように相模さんの問題の他には何もないような気がするわね。あとはさっき言ったけど、周りで何かしらの事件が多いかし――――あっ」

「あ、どした?」

「そういえば、どこか治安が悪くなっているように思うわ」

「治安? あぁ、サイレン云々の関係か」

「それもあるけれど、いわゆるヤクザのような人物が千葉駅辺りで闊歩している回数が多い印象ね。さすがに学校周辺にはあまり見かけないけれど」

「あまりってことは、いるにはいるんだな」

「そうね。それでも、トラブルにはなってないわよ」

 

 ……そのわりには俺が来てからの2週間、そんな奴らは見かけないな。学校から部屋に帰るとき、わざと遠回りして帰路についている。巡回みたいな。

 前まで住んでいた家を久しぶりに見たときは懐かしい気持ちに襲われた。っていうか、今親父たちが住んでる家で全然過ごしたことねぇわ。なんなら俺の部屋がないまである。いや別にいいんだけどね? ろくに帰ってないし。

 

 そして、ヤクザみたいな奴は見てすぐに分かるんだがな。警戒……とかはないな。単純に俺のタイミングが悪いだけだろう。少しくらい隙見せてくれてもいいんだけどなぁ。その方が楽になるしね。

 

「お待たせー」

 

 トイレから戻った由比ヶ浜がトスンと席につく。それにしても俺の目の前にいる由比ヶ浜と雪ノ下がいるんだが、コイツら距離近すぎないか? もう肩が触れ合っているぞ。パーソナルスペースがこの2人限定で近いな、ホント……。コイツら付き合ってんのか疑わしくなる。

 

「ねぇねぇ、何話してたの?」

「先ほどと同じ話題よ」

「ふーん。あたしはもう思い付かないなぁ。なんて言うか……ヒッキーが来るまでも来てからも同じ日常ってやつ」

「まぁ、同感ね。奉仕部で色々と私たちの問題はあっても、全体で言うとこれといって何もないわね」

 

 治安は悪くても、怪しいことは起こっていないと。どこか矛盾している気がするが、トラブルがないのならいいことだ。……俺としては起きてくれた方が動きやすいがな。

 

 

 

 そこからは俺の調査は中断して、お疲れ会というわけで他愛もない話が行われた。ほとんど由比ヶ浜が話して俺らが相づちを打つといった形ですけどね。コミュ力低い人間が集まっても会話は生まれない。

 で、時間もある程度経ったので会計して出ていくことに。ドリンクバーで300円は安いな。

 

 今は2人がキャッキャと会話している後ろを歩いている。まるでSPみたいな……あながち間違いではないが、どちらかと言うと子分だなこれは。2人の会話に耳を傾けながらも、周りを観察する。

 何もおかしい点はない。至って平凡な街の風景だ。

 

「…………」

 

 しかし、俺の胸中は複雑だ。

 はぁ、どうしたもんか。前途多難すぎてな。こういう地道な捜査なんて専門外だから進め方にかなり迷う。レキも部活帰りに校舎を見回り不自然な場所はないか探しているが、進展はない。坂田さんも警察を警戒してかここ最近の石動組幹部の動きは大人しいって言ってたし、なかなか捜査も難しい。さっきからそればかり考えているな。

 

 そういや、今は適当に雪ノ下たちの後ろを歩いているが、コイツら家どこだ? 俺はこの方向で合っているけども…………ん?

 

 

「あれ……?」

「えぇ、何か騒がしわね」

 

 

 由比ヶ浜と雪ノ下は不意に足を止める。つられて思わず俺も立ち止まる。どうしたのか不思議に思うが……。よくよく見ると、もうちょい歩いたところに人だかりができている。確かあの位置は予備校辺りだ。他の学生はもちろん、総武高の制服を着た人もちらほら確認できる。最近の高校生は茶髪やら金髪やら進んでるなぁ、とおっさん染みたことを考えながら様子を見る。

 

 それだけなら別に違和感はない――――が、やけに騒がしい。年頃の高校生は騒ぐの好きだねぇ。しかしまぁ、往来では静かにしてほしいもんだ。武偵高の奴らにもそう言いたい気持ちもある。道端でバズーカぶっぱなしてんじゃねぇぞ。

 

「――――ッ――――!」

「――――――ッ!」

 

 これは……野太い声だな。

 

 学生だけの集団にしては違和感がある。大人……それも複数。2人か。

 何かトラブルか。その可能性は高いだろうな。まぁなんにせよ、一先ず確認だ。もしホントにトラブルなら、久しぶりに仕事でもしよう。いや別に今も仕事してるんだけどね?

 

 人混みを避けながら何があるのか確認する。

 

「ねぇ、いい加減離してくれない」

 

 トラブルの渦中には2人の男と1人の女子高生。計3人。

 

 女子高生は男に腕を掴まれ声をあらげている。2人の男はそれなりに鍛えているな。互いに金髪――といっても髪色は微妙に違うが。年は20代前半か。それに加えてこの雰囲気……カタギではないな。高級そうなスーツの懐に不自然な脹らみがある。恐らく拳銃。種類までは分かんないが。

 

 女子高生は青みがかった髪色でポニーテールをしている。細身でわりと長身だ。刺がありそうだが、普通に美人の部類に入るだろう。おまけにコイツも総武高の制服を着ている。

 あー、この人見覚えがある。同じクラスにいたな。名前は例によって覚えてないが、コイツも相模同様1人でいることが多かったはずだ。相模と違うのは別に誰かと喋っているのは普通に見たことある。友だちはいるけど、多くはないタイプと勝手に予想する。

 

「えっ、サキサキじゃん……」

 

 近くに来た由比ヶ浜がそう呟く。

 

「由比ヶ浜、あれクラスメイトだよな」

「うん。サキサキ……川崎沙希だよ」

 

 由比ヶ浜の返答は予想通り。名前も判明した。川なんとかさんか。さて、どうする……? 

 どこからどう見ても何かに巻き込まれているのは確かだ。事件の大きさについては大なり小なりってところで規模は見ただけでは分から……まぁ、いいや。めんどくせぇ。男たちが手を出してるから、とりあえずは助けるか。銃を撃つ可能性も否定はできない。それにあれだ、コイツらどうせカタギじゃないはずだ。独断と偏見だが、雰囲気が明らか一般人じゃない。場所的にも所属は石動組かもしれない。

 

 うしっ、取っ捕まえるか!

 

「そんなこと言うなよ。俺たちお前の母ちゃんに用事あんだよ」

「アンタの母ちゃん俺らに借金してるんだよ、知ってんだろ?」

「どうせ詐欺紛いのことしてるんでしょ。さっきも言ったけど、いい加減にしないと警察呼ぶよ」

 

 とはいえ、最初にまず坂田さんに連絡して……いや、それにしてもギャラリーが多い。雪ノ下はともかく、今から行動するのに由比ヶ浜が邪魔だ。危険に晒される可能性は否定できない。どこか遠くへ避難を……。

 

「由比ヶ浜さん、ここは危ないわ。一旦離れましょう」

 

 雪ノ下か。素晴らしい。行動が早い。俺を武偵と知っているからかこちらが動きやすいように選択を取ってくれた。なら、あとは雪ノ下に任せるか。

 

「で、でもサキサキが……」

「えぇ、分かっているわ。すぐに警察呼ぶわよ」

「ヒッキーは……!?」

「俺は家この方向だからなぁ。どうしようもない」

 

 いやもうホントマジでギャラリー多いなぁ。せめて制服以外……私服なら未だしも良かったんだが。この制服だと相手側に総武高の生徒ってバレるよな。素性知られるのはできれば避けたかったが、仕方ない。これも仕事だ。

 

 ――――さて、やるか。

 

「ちょっ、ヒッキー。危な――えっ……あれ? どこ?」

 

 

 由比ヶ浜の疑問の声をよそに足音、気配を消して渦中の人物たちに近付く。

 

 

 人混みには当たらないように避けながら足を進める。うーん、騒ぎの中心の周りに野次馬がいるが、2mは距離あるな。野次馬精神働いている人が多すぎるのに辟易する。

 そのわりには警察は来ないし、ただ見てるだけの奴らばかりだな。つっても、それも仕方ないってやつだ。人間、高みの見物決めたい奴は当然いるし、気付いた人が行動するというスタンスをとっている奴も多い。後者の場合、気付いた人ばかりが損をするケースが多いが。

 

 ……お、誰にも気付かれずに近付けた。

 

「ちょっとくらいイイじゃん。俺らと遊ぼ――――ふべらっ!」

 

 男2人の背後まで歩き、そのまま止まらずに1人だけ股関節を蹴る。やっぱ最初は急所狙いが一番効率いいよなぁ。不意討ちなら尚更だ。いくら鍛えても股間は鍛えることなんてできないし、簡単に動きを封じることができるし……うん、後を考えると普通に楽。

 

「な、なんだテメェ……ガッ!」

 

 いきなりの出来事に当然反応はできず、男は脂汗を流しつつ股関節を抑え、屈みながらこちらに振り向いた瞬間、位置が低くなった頭に回し蹴りを放つ。

 

 ……お、綺麗に決まった。鼻を捉えたし、かなりのダメージ入っただろう。って、もうノビてる。まぁ、不意討ちで仕留められなかったら、わざわざ不意討ちする必要ないしな。しかし、不意討ちでも受け身は取れるように頑張りなさいな。そのレベルだと武偵高では生き残れないぞ。特に水投げとかはな……うっ、嫌なこと思い出した。

 

 今回の回し蹴りに関しては特に力は入れてないが、人間の鼻に攻撃決めると素人でも充分なダメージを負わすことはできる。ちなみに肘や膝で鼻を攻撃するとより効果的だぞ! ただし余裕で刃傷沙汰になるので注意が必要。 

 

 俺が蹴った相手は川なんとかさんを掴んでたが、俺が股関節を蹴ったときには放してたから、川なんとかさんは無事だ。変に引っ張られずに済んだ。

 もう1人の方もいきなりの出来事に驚いたらしく川なんとかさんの手を放した。一瞬驚愕の表情を見せたが、すぐに切り替え、こちらを睨み威嚇してくる。……やっぱこの手合は慣れているな。

 

「んだテメェ! いきなり何しやがる!?」

「何って……見たまんまのこと。お前らが、悪さするから、俺が、助ける、オッケー?」

「あぁ? んだソレ、正義の味方気取りかァ?」

 

 俺より筋肉質で俺より身長が高い分、睨みも威嚇も迫力がある。ていうか、コイツ相当鍛えているな。何か格闘技でもしているのか。

 

 それで、回答の方だが。

 

「んー……いや、どちからと言うと、正義の味方じゃなくて法の番人ってところかな」

 

 それが仕事なので。

 

「何言ってんだ。意味分かんねぇな。……ケッ、まぁいい。俺の仲間ぶっ飛ばしたテメェにきちんとお礼しねぇとな」

「止めとけ止めとけ。お前が損するだけだぞ」

「アァ!? どういう意味だ!?」

「俺が適当に時間稼ぐだけでいずれ警察来るし……そもそもお前じゃ俺に勝てねぇよ」

「……っ。アァ!? 舐めた口利きやがって――!」

「――――ッ」

 

 男は叫ぶとストレート、右フック、ジャブ……これらの動きをかなり素早く済ませてくる。これはボクシングか。

 

「ふっ!」

「……チッ」

 

 ……いや、キックも流れで繰り出してきた。避けることは容易いけど、ったく、いちいち危ねーな。この動き……キックボクシングかその辺りの類か。けっこう洗練された動きだ。さっきのパンチも良い攻撃だ。

 

 って、大袈裟に避けたのに誰ともぶつからない。どうしてだ?

 

「――――」

 

 ん? あぁ、そういうことか。やけにうるさいと思ったら、コイツが派手に動いたことで周りはより騒ぎになり散り散りになった。なんつーか、こんな反応はあっちでは見られないからどことなく新鮮だ。それは置いといて、周りに人がいなくなりつつある今、変に巻き込まないで済むしこれで俺も存分に戦えるな。

 

 適当にのらりくらりとして警察待つのもいいけど、雪ノ下が連絡したとして最短で5分くらいか? そんなに待つならさっさと仕留めた方が楽だよな。

 

「はっ、口だけか。さっきから逃げてばかりじゃねぇか!」

「1つ教えてやる。その動き、多分キックボクシング辺りだとは思う。鍛えられてるし、そこらの一般人相手なら充分お前が勝てる実力はあるだろう。……が、喧嘩とスポーツは訳が違う。それを学べよ」

「は? ――――ウッ」

 

 男のパンチをしてきた腕を掴み、こちらに引き寄せてから手をチョキの形にして顔に近付ける――――簡単に言うと目潰し。

 

「要するに、何でもアリってことだ」

 

 目潰しする直前で腕を引っ込める。さすがにそこまではやらない。が、怯ませるには充分。そこから股間を蹴ろうとしたが――さっきもやったし、ここは別の方法にしよう。

 まずは顎に掌底を喰らわせる。けっこうイイのが入ったと思ったけど、ボクシングしている奴は多少なりと顎の攻撃には慣れているか。普通に耐えられた。

 

 なら次は肘で鳩尾を殴る。……ん? 肘での攻撃は殴るとは言わないような……。打つが正しいか。

 

「ガッ……。アァ、クソがっ!」

 

 まだ耐えるか。かなりタフだな。やっぱ格闘技している分ある程度の耐性はあるんだろうな。

 

 ――っと、反撃してきた。耐えるだけでなく、まだ反撃できる余力があるのか。素早い右ストレート。しかし、やはりと言うべきか俺の攻撃が効いているからさっきまでよりも格段に遅い。これなら、1年振りのアレがイケるな。

 

「フッ――」

「なっ!?」

 

 

 ――――俺がしたのは男の右腕を支点にした助走なしのロンダートだ。ほんの一瞬なら、この男でも充分なほど支えにできる。男が驚いたときには俺はもう既に男の頭上にいる。男からしたらいきなり視界から消えた風に移るだろう。

 

 

「……ん?」

 

 空中にいる間少し視線を動かしたが、歩道の向こう側に見慣れた人物がいるな。アイツも帰る時間帯か。っと、今はこっちに集中しないと。

 

「おらッ――!」

 

 そして、空中でどうにか体勢を整えつつも男の頭上へ到達した瞬間――――踵落としを喰らわせる。

 

「…………ッ!!」

 

 俺の蹴りは頭頂部を綺麗に捉える。……しかしまぁ、空中で踏ん張りが利かない状態での踵落としだからかまだ仕留めきれていない。

 踵落としは勢いつけた方が断然威力がある。前回、ヒルダにしたときは仮にも踏み込んでから使ったが、今回は何もかも不安定すぎたか。わりとイイ線いったと思ったんだけどなぁ。ロンダートからでは体勢整えるのに神経使ったのもあり、威力はそこまでだった。素人レベルの相手なら倒せてただろうけど、ヤクザ相手にはまだ足りないか。

 

 まぁ、何だ、別にいいか。仕留めきれていないだけでけっこうなダメージ与えたんだし。

 と、そんなことを思いながら男の背後に着地する。

 

「じゃ、これでラスト――――!」

 

 確かにさっきの踵落としで仕留められないのは残念だが、俺の度重なる攻撃でろくに動けていない。つまり、背中がガラ空きだ。男は何が起きたのかさっぱりだし、あと一撃入れれば沈められる。というわけで、俺はガラ空きの背中へ目掛けて思いきり蹴りをかます。

 

 ……おぉ、吹っ飛ぶ吹っ飛ぶ。今度こそ完全にダウンしているのを確認する。もうさすがに立ち上がれないな。

顎に鳩尾や頭頂部、そして背中。格闘技だけでは経験できない場所への攻撃……いや、顎なら格闘技でも狙われるか。まぁ、慣れていない場所への攻撃には対処できなかったということで。

 

「ハァ……ハァ……。て……テメェ……っ」

 

 あ? 最初に不意討ちした奴まだ意識あったのか。起き上がろうとしている。完全にノビたと思ったんだがな。こっちもタフだったということになるな。

 

 ……まぁ、放っておいてもいいか。別に問題はない。何故なら――――

 

「ざ、ザケんじゃね――――ウッ」

 

 

 俺には優秀な狙撃手がいるからな。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です」

 

 俺のいる歩道の反対側にいたレキがこちらに渡ってきて一声かけてくれる。俺がロンダートで空中にいたときにレキがいたのは見えていた。手には軍用のパチンコを所持していたが、カバンにもう閉まっている。

 

 レキはパチンコを用いて、起き上がろうとした男の側頭部に鉄球をプレゼントした。……めっちゃ痛そう。

 

「この人たちは石動組でしょうか」

「かもな。確証はないが、ヤクザ側だとは思う。銃所持しているし、もしかしたら密輸されたものかしれないな。……って、警察呼んでたのか」

 

 パトカーのサイレンが聞こえる。

 

「はい、坂田さんを呼んでおきました。話をつけやすいでしょう。……しかし、どうします? これでは私たちが一般人ではないとバレますが」

「別にお前は援護しないで良かったんだぞ。俺だけなら喧嘩してたで片付けられるのに」

「大丈夫です。私が撃った場面は誰にも見られていません。気配を消していたので」

「とはいえ、今俺に話しかけてるだろ。疑われるぞ」

「それも大丈夫でしょう。私は八幡さんの彼女としてクラスに知れ渡っています。こうして話しかけても問題はありません」

 

 そうだったな。俺が戸部から色々と訊かれた同日、レキもクラスメイトから同じような質問をされた。そのときに無難な回答として、俺を彼氏ということにした。あながち間違ってはいないけど。ぶっちゃけその説明の方が楽なまである。

 

「とりあえず事情聴取は俺だけで大丈夫だ。一先ずは先に帰っててくれ」

「その方がいいでしょうね。八幡さんだけだと周りからは喧嘩に見えるでしょうし、私まで警察に行くと話が拗れる可能性があります」

 

 話が早くて助かる。周りの目を誤魔化すために、レキは一般人でいてくれないとならない。只でさえ俺が堂々とやらかしたんだからな。仕事だから仕方なかったが……そういや、川なんとかさんは無事か。巻き込まれてはいないはずだが。

 

「――――っ」

 

 こちらを唖然とした表情で見ているが、怪我はなさそうだ。まぁ、何が起こったのかさっぱり分からないだろうな。そりゃそうだ。こんな光景に慣れてる人間なんてそうはいないだろ。

 

 ……なんかごめんね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話をもちましてめでたく(?)100話目となります
1話から読んでくださりありがとうございます。途中1年ほど投稿してない期間があってなお、読んでくださり皆様には本当に感謝です

自分もたまーに読み返しますが、文章があまりにも下手だったり試行錯誤感が強かったり、なんだか懐かしい感覚です。いや別に今が文章めちゃくちゃ上手とは全くもって思いませんが……。伝わりやすいなら幸いです

これからも投稿ペースは諸事情ありまして安定するとは言えませんが、よろしくお願いいたします!





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総武高校編⑧ 再開

「……それで、アイツら石動組の奴らなんすかね?」

 

 あれから30分、川なんとかさんを襲った男2人組は現行犯逮捕され、警察に連行された。現場に着ていた坂田さんと一緒に俺も警察に行くことにした。レキは言った通り、先に帰ってもらったが、時間を置いてこちらに来るかもしれないな。

 

 そして、今は坂田さんと待合室で取り調べ待ち中だ。

 

「んー、どうですかね。今回の2人が幹部クラスなら顔は判明しているので、すぐに分かるのですが……」

「まぁ、石動組と関わりがあるにしろないにしろ、アイツらはどう見てもただのゴロツキでしょうね。幹部辺りなら、あんな街中で安易な行動はしないと思います」

「比企谷さんの言う通りですね。石動組全員がこんな行動してくれるのなら、僕らも苦労しません。ここ最近は本当に大人しかったですし」

 

 全くもってその通りだな。

 

「ちなみに、大人しくなったのっていつ頃ですか?」

「比気谷さんとレキさんに依頼する数日前にはかなり頻度は減ってましたね。警察に嗅ぎ付けられると思ったのでしょう」

「なるほど。……そういや、アイツら拳銃持ってましたよね?」

「ええ、どちらもベレッタM92です」

 

 遠山と同じのか。まぁ、遠山のは改造しまくってて純粋なM92ではないが。それを言ったら、俺のファイブセブンも似たようなもんだな。

 

「それって密輸のやつですかね?」

「まだ完全に調べきれてはいませんが、恐らくそうです。銃の固有ナンバーはすぐに調べられるので、国が許可していない銃ならわりとすぐに……おっと失礼」

 

 話の途中にドアがノックされ、坂田さんは立ち上がる。スーツを着た警察官とドアの前で何か話している。わざわざ率先と聞き取りはしないが、事情聴取での経過に変化でもあったのだろうな。少し待つとしよう。

 

 しばしボーッとしていると、坂田さんが戻ってきた。

 

「お待たせしました」

「いえ、大丈夫です。さっきの人は……」

「取り調べをしていた私の上官です」

「てことは、やっぱ何か分かったんですか?」

「経過報告ってだけで、取り調べはまだ終わったわけじゃないですが。まず、アイツらは石動組の下っぱも下っぱです。変に暴力自慢したい若い衆といったところですね」

「そこは予想通りですね」

「はい。最近は私たち警察も動いていたので、大人しくさせてたようですが、我慢が利かず川崎沙希さんを襲ったそうです。言い方はアレですが、ヤクザにしてはかなり頭が弱い部類ですね」

「同感です。それで、最近の動向の目的とかってアイツらから分かりそうですか?」

「まだそこまでは……というより、何かクーデターをするにしても下っぱ程度の面子にはろくに教えてないそうです。どうもその辺りは幹部以上の秘密らしいですね」

 

 そのわりにはゴロツキとかを取引に使っているそうだが、そこからはバレない自信があるってことになる。用意周到というかは大胆不敵が当てはまりそうだな。

 

「それと、やはり銃はこちらが許可したものではないので、密輸したものですね。いつされたものかは判明していませんが、とりあえず押収はしたので、調べる限りはこちらで調べます」

「お願いします。……そういや、さっき言ってた川崎沙希のことですが、どうやら家族ぐるみで石動組に目を付けられているみたいです。できれば保護かなんかを」

「もちろん。それも川崎さんに別室で話を聞いているので分かっています。どうやら川崎さんが言っていた通り、ここ最近で詐欺まがいのことをして借金を負わせているらしく、明日からこちらで対処できます。親御さんももうすぐで来るらしいですので」

 

 川なんとかさん……いやもう川崎って呼ぶけど、川崎も事情聴取ってことで警察に来ている。といっても、当然取り調べなんかではなく、今回巻き込まれた事件についての話を詳しく聞いているだけだ。

 

「それで、比企谷さん。何か学校について分かりましたか?」

「あー、それがさっぱりです。今日から本格的な捜査なので調べようと思ったらこれですし。明日からまた頑張りますよ」

「えぇ、お願いします。マスコミには今回の事件で武偵はいなかったと伝えておきます。一般人が巻き込まれてすぐに警察が来た……という感じで。比企谷さんたちの存在はできる限り隠します」

「あー、どうも。かなり助かります。……まぁ、誰かに見られてそうですが、とりあえずは向こうに知られずに済みますね」

「はい。……すいません、そろそろ事後処理がありますので失礼します」

「お疲れさまです。俺、帰って大丈夫すか?」

「もちろん。今日はありがとうございました」

「いえいえ。仕事ですので、何も問題ないですよ」

 

 正直久しぶりに暴れられて楽しかったまである。合法的に人殴れるっていいよね!

 ……ダメな思考だ。今さらか。

 

 

 

 事件があった翌日。本日は生憎の雨天なり。音がとても喧しく、登校するだけで制服がかなり濡れた。

 

 七条先生から昨日の事件の顛末が話され、今日は念のため部活が禁止となり放課後は速やかに帰るよう言われた。俺が関わったとは教師側には伝わっていないらしく、俺の周りは由比ヶ浜以外穏やかだった。

 どうやら昨日の野次馬の中に由比ヶ浜と川崎以外俺を知っている奴はクラスにいなかったみたいだ。で、その川崎は休みをとっている。まぁ、警察の事後処理辺りに付き合っているのだろうな。

 由比ヶ浜は朝から俺の安否を心配していたが……まぁ、俺が戦ったのは知らないので普通に誤魔化すことはできたな。まさか俺が奴らをボコボコにしたとは思うまい。

 

 そして、体育は雨なので体育館ですることに。

 

 いつも2クラス合同で行われるので、雨天時も自動的に体育館に集まる。が、2クラス合計80人がそれぞれ担当している競技をするのに体育館は手狭だ。

 

 そういうわけで今日の体育ではドッジボールが行われた。ぶっちゃけ休み時間の延長線上のようだ。参加したい人は参加して、それ以外の人は体育館の隅で友だちと喋っている。

 ドッジボールには主に陽キャと思われる男子が集まってクラス戦をしている。俺はわざわざ参加はせず、体育館のステージに座りボーッとしている。なんか由比ヶ浜も交ざってるから本気で話す相手がいない。

 

 合同のクラスがレキと一緒なら適当に2人で喋っていたのに、残念ながら合同ではないのでそれは叶わない。暇だな。今からでも参加するか? したところで俺にボール回ってくるか? ひたすら立ち尽くしているイメージしか湧かないな……。

 

「……」

 

 そういや、総武高の体育館って今日で初めて来たかも。入る機会今までなかったし。わりと綺麗だなぁ。どこにも焦げ跡がない。凹んでる箇所もない。硝煙の臭いもしないし、爆発音も聞こえない。素晴らしすぎか?

 

 この1年ちょっとでかなり毒された自分にある種の嫌気が出てくる……。最初はカルチャーショックが激しかったって言うのに。

 

 

「ん?」

 

 何をするわけでもなくボーッとしていたら、俺の横をボールが過ぎていった。あ、ステージの奥まで行っちゃった。誰かが弾いたのか。

 

「ごめん、ヒキガヤくーん! ボール取ってくんなーい?」

 

 戸部が大声で俺に頼んでくる。ムダに目立つの恥ずかしいんで止めて……。

 

「おーう」

 

 ぶっきらぼうに返事してからステージ奥へのっそり歩く。

 

 ……なーんかやけに音響くな。体育館特有のあのギシギシ音とは鳴らないが、足音がけっこう反響する。まぁ、そんなもんか。一般的な体育館とか久々すぎてな。えーっと、ボールはどこ行った……あ、あった。けっこう奥まで転がったな。わりと奥にある。

 

「戸部、ほい」

 

 ステージからボールを投げ返す。

 

「ありがとねー!」

 

 軽い返事と共に戸部はコートへ戻る。なんか戸部含めたドッジボールをしている奴ら元気だな。

 

 特にドッジボールをするつもりがないし、しばらくステージ奥にいるか。誰もいないし、いい場所だな。……にしては、やっぱここ何か引っかかるな。特段怪しい箇所なんてないけど、あれか、職業病か? まぁ、いずれここも捜査する予定だが……何だかなぁ。

 

「……まぁいいや。また来れば」

 

 

 時はさっさと流れて放課後。今日は強制下校なので生徒は足早に帰っていった。こっそり残っているのは俺とレキだけ。特別棟の屋上前の階段で身を隠していた。2人して足音消して歩いたわ。

 

「どう? 足音聞こえる?」

「少しだけですね。しかし、足音の大きさからして教師です。生徒はいません」

「うしっ。じゃあ、行くか」

「分かりました。ですが、どこへ?」

「気になるところあってな。レキの意見が訊きたい」

 

 昨日、校長先生からマスターキーや予備の鍵を諸々借りたのでどこでも行くことができる。まぁ、さすがに薬品が入っている科学系統の教室の鍵は貰えなかったが。ていうか、校長先生も管理していないらしい。特別な薬品触るのにも免許やらいるみたいだ。

 

「ここは……」

「あれ、初めてだったか?」

 

 で、移動したのは体育館。

 

 やっぱり気になるものは気になる。ということで、レキに視てもらうことにした。

 

「はい」

「今日体育なかったのか。っていうか何選択したんだ?」

「卓球です。玄関近くに専用の卓球場がありますのでそこで行っています」

「へー。……勝てたことあるの?」

「あると思いますか?」

「ないと思います」

「えぇ、一度もないです。ラケットは振りますが、全然当たりません。当たっても変な場所へ飛びます」

 

 レキがスポーツをしているという新鮮な驚きを味わい、つい欲張った質問をしてしまう。

 返ってきた答えは、まるでただの初心者あるあるみたいだった。実際問題、あの軽い球を打つの力加減難しすぎだとは思うわ。スマッシュ打ってみたいけど、初心者には難易度が高い。

 

「それで、何を調べるのですか?」

「あぁ、あっちの奥」

 

 2人しかいない体育館をゆっくり歩く。2人だけだといつも以上にだだっ広く感じるな。体育の授業中は狭く感じたのに。体育館の中からは俺たちの足音以外何も聞こえない。……どうも不思議な感覚だ。

 

「でだ、ここが気になるんだが」

 

 案内したのはさっきも行ったステージ奥。というよりステージ裏だな。

 ステージの横には階段が両脇にあり、下に降りれる造りだ。下がったところにはパイプ椅子がいくつか折り畳んで置かれている。ステージには明るい電灯はなく、影になっていて暗い。

 

「ここのどこが……?」

「んーっとな」

 

 ステージ中央で強く足踏みをする。そして、徐々にレキの方へ移動しつつまた足踏み。ドン! ドン……ドン…………ドンと音が響いていく。

 

「体育館ってこんな響くもん?」

「老朽化が進んでいるなら、ここまで響きそうですが、ここは違います。この体育館は3年ほど前に改修工事がされたそうですね」

「ああ、そうなんだ」

「はい。美術部の方が言っていました」

「ステージ下にパイプ椅子が積まれているにしては大きいなーって」

 

 そう、俺が立っている真下にはパイプ椅子が敷き詰められている。これはどの体育館でも共通しているはずだから不自然さはない。それに小学生や中学生の体育館ではけっこう軋んでいてが、ここはレキの言う通り改修されたのかそんな音はしない。

 

「空洞が多いのか……?」

 

 足音を立てながら歩いて確める。建物というのは中身が詰まっているのと空洞が交互になっている造りが一般的だろう。よく家の壁を叩いてどの辺りが空洞なのか興味本位でやったことがある。

 しかし、ここはその詰まっている部分が足りない……というより、少ないように思える。特に壁てはなく床。これは体育の時間に確かめ、不思議に感じたことだ。

 

「――――八幡さん、こちらに来て下さい」

 

 不意にレキに呼ばれた場所へ移動する。おぉ、もう何か見付けたのか、と期待する。狙撃手は空間把握能力が優れているから、こういうときはホントに助かる。俺だけでは正直なところ、どうにもならない部分が多すぎるからな。

 

「恐らくですが、これが怪しいかと」

「あー……なるほどなるほど」

 

 レキが示した場所を調べると、ずっと引っかかってた俺の疑問は解消された。

 

 あぁ、そういう感じか。そりゃ俺では分かんないわ。納得はしたが、コレどうすっかな。今からどうこう解決できるものではないのは充分な程分かった。つーか、非常に面倒なパターンだ。

 

 この学校そういう使われ方していたんだな。俺が初日レキに話した結末1から3が全部外れた。いや、一部はカスってはいるかな。とはいえ、ここから進めることが一気に増えたな。警察と連携するか……その前にこちらである程度調べはしておかないと。

 

「どうします? このまま行きますか?」

「とりあえず今は装備がな。レキもドラグノフ持ってないし、俺も今は銃しかない。せめて近接武器……ヴァイスがほしい。今すぐってのはけっこう厳しいし……そうだな。明後日の夜、ここに潜入しよう。まだ調べることが残ってるのもあるから。それに夜行くのにも校長先生や平塚先生の許可が必要だろうし」

「分かりました。となると、学校にアレがあるのでしょうか?」

「かもな。つーか、あるにしてもこの広い学校から探し出すのキツくね?」

「でしょうね」

 

 3歩進んで2歩下がる――のをリアルで経験するとはな。ダメだな、地道な調査ってのはかなり苦手だって今回ようやく理解した。次があるなら、そのときは謹んで断ろうと軽く決意する。

 

「一先ず今日は帰るか。買い物しておこう」

「えぇ、そうですね」

「あー、昨日で冷蔵庫空になってたなぁ。色々買い溜めしとくか」

 

 

 

 

 現在はあれから30分ほど経ち、買い物が終わり絶賛帰宅中。もうちょいで着く頃合いだ。雪ノ下建設が建てた物件だからか、スーパーと距離が近いいい立地にある。

 雨は一向に弱まらず、傘をさしつつ荷物を運ぶ。野菜や肉やら弁当用の冷凍食品やらけっこう買い込んだから微妙に重い。

 

「八幡さん、カバン持ちましょうか?」

「あ、いい? なら頼むわ」

 

 軽いっちゃ軽いけど、持ってくれるのはありがたい。

 

「明日はどこを調べますか? 私はまずアレを探す方がいいと思いますが」

「それもだが、手引きした奴が学校内にいるはずだからな。そっちも調べないと」

「別れて捜査します?」

「それはムリ。俺1人じゃ、どうせすぐ限界くる。まぁ、放課後までは各々調べて……そこから合同捜査って感じでいいかな。明日は……先に証拠抑えれば芋づる式に犯人分かるだろうし、やっぱアレ探すか」

「分かりました。それで――――」

「…………あ? 何だ?」

 

 家の目の前に車が止まっている。俺らしかいないマンションだぞ。誰が何の用だ? 薄々予想はできるけどな。そりゃまぁ、俺らに用があるって言うと、かなり限られるし。

 車種は……えーっと、あれ黒色のベンツか? 高級車ってやつだな。維持費大変そう。

 

 そして、車の側には1人の男が立っている。ゴツい体にスキンヘッド、グラサンにスーツ……何だろう、ここまで主張しなくてもいいんじゃない。いや、もしかしたらそっち系ではない可能性も微粒子レベルで存在しているけども。

 

「お前が比企谷か?」

 

 間近で姿を確認して分かった。あー、案の定コイツやっぱり石動組だ。しかも幹部。資料に載っていた。名前は確か……そうそう、木崎なんちゃらって奴だ。石動組の幹部の中では事を荒立てないと言われているらしい。

 

「……そうだが」

「おぉ、お前さんがそうか。良かった良かった。お前が来るまで3人ほどに話しかけて不必要にビビらせちまったからな。予め写真を確認しておくべきだったな」

「ならその見た目どうにかすれば……? せめてグラサン外すとか」

「バカを言うな。ハゲにはグラサンだろ」

「お、おう……」

 

 謎のこだわりがあるようで。

 

「それは置いといてだな。比企谷、お前に用があるんだ。ああ、自己紹介はするでもないな」

「まぁな。多少は知っている。で、用つーと、アレか。昨日のお礼参りってところか。悪かったな、お前らんとこの若い奴ら散々痛めつけて」

「構わん。むしろああいう調子付いた奴を捻ってくれて助かる。もう少し冷静に行動してほしいもんだ。……ったく、ああいうバカの躾には苦労するぜ。こっちの状況分かってんのか」

 

 悪態つく態度を見るにマジで変な騒ぎは起こしたくないんだな。

 

「と、そうじゃなくてだな。お前に用というのは、ある人物に会ってほしいんだ」

「……誰だ?」

「あぁ~。そりゃすまんが、答えられない。つーか、答えることができない。俺にも伏せられている情報だ。実際、俺も会ったことはないし、組の中では組長しか知らない人物だ。幹部にもその人物の性別や年齢すら分かっていない。……ただ、これだけは言える。ソイツは俺らの界隈では相当な大物だということだ」

 

 石動組の組長しか知らない人物。もしかして今回の取引先か?

それにしては幹部も知らないとはある種の不自然さがあるな。一体その人物ってのは誰だぁ?

 

「……それで、今からか?」

「おう。厄介なことに断ったら、その人物がここに乗り込むと言われている。人数は不明だが、もしかしたらかなりの大人数で、という可能性もある。こんな街中で騒ぎを起こすのもどうかと思うから、ぜひ付いてきてほしい。石動組からしてもここで警察とは関わりたくないんでな」

 

 それは面倒だな。というより、けっこう懇切丁寧に教えてくれるな……。別にいいんだけどさ。大丈夫なの?

 

「分かった。アンタらに付いてくよ。ただ、その前に荷物片していいか? 袋の中に冷凍食品あるんだよ。早めに冷凍庫に入れたい。変に溶けたら勿体ないし」

「お、おう。……思いの外、主婦みたいな発言だな」

「ほっとけ。制服濡れて着替えたいし、5分くらいで戻る。あ、隣の奴も連れてっていいよな?」

「大丈夫だ。先方からもその許可は出ている」

 

 

 部屋に戻り、荷物を片付けてから武偵高の防弾服に着替えて装備を簡単に整える。ヴァイスとファイブセブン、レキはドラグノフが入っているトランクを背負い、車に乗り込む。運転手がいたらしく、木崎は助手席、俺らは後部座席。

 

 ……ヤバい、めっちゃ座席フカフサ。めっちゃ気持ちいい。これが高級車ってやつか。おぉ……初めて乗ったぞ。ヤクザはこうやって高いモノを買って周りに金持ちってのをアピールするらしい。この車もその一環なんだろうな。

 

「目的地はどこだ?」

「幕張近くにあるビルだ。道路状況にもよるが、ここから30分はかかるだろう。ゆっくりしていってくれ」

「その場所には誰がいる?」

「お前に会わせたい人物とその関係者と訊いているが……うぅむ、確か組長もそこにはいないはずだ。今日はお前らを送る手筈だけだな」

 

 これ以上は訊いてもムダそうだと判断して大人しくする。にしても、幹部を送迎役にするとは豪勢な扱いだな。

 

 

 ――――30分後。言われた通り、幕張の駅近くにあるビルに着いた。法廷速度を遵守しながら走っていたのはなんかツッコミしたくなったけど。めっちゃ安全運転じゃねぇか。わりと道混んでたし、安全運転になるのも当たり前……になるのかなぁ。

 

 ビルの方は全面ガラス張りだ。外からは中がどんな様子かはさっぱり見えない。そういや、幕張というと、石動組の本拠地が近くだよな。

 

「このビルの8階にある紅玉の間という場所に行ってくれ。受付には話が通っているらしいから、素通りで問題ないはずだ」

 

 車から降りた俺たちに窓から顔を出した木崎はそう告げる。

 

「はいはい。じゃ、送ってくれてありがとさん。……なんか礼言うのは違う気がするな」

「まぁ、ある意味お前らを拐った――とまではいかないが、似たような立ち位置だからな。礼はいらん。なんなら、俺がする方かもしれん。俺はここまでだ。……石動組の幹部である俺が言うのも何だが、充分気を付けろよ」

「……おう」

 

 なぁなぁ、コイツ転職した方が良くない? どうしてヤクザやってるの? 武偵になるなら歓迎するぞ。大丈夫、どっちも似たようなもんだ!

 

「ではこれで失礼する。この後は録り溜めているアニメを消化しなくてはな!」

 

 最後にそう言うだけ言って、木崎は元気よくその場から去っていった。

 ……何だろう、色々楽しそうだな。立場が違うなら、コイツとは仲良くなれた気がする。多分材木座とも話が合うだろう。

 

 

「個性的な人でしたね」

「……だな」

 

 レキからも一言。レキが言うってことは相当だな。

 

「ハァ……行くか」

「はい」

「レキは誰だと思う? 件の人物とやらは」

「そうですね。私は1人心当たりがあります」

「マジ?」

「えぇ。……もし私の想像が正しいなら、いつも以上に警戒した方がいいかもしれません。戦闘にはならないと思いますが」

「了解した」

 

 レキとしては珍しい程、緊迫した雰囲気が伝わる。

 レキには予想がついているのか。マジで誰だろう。一概には断言できないが、レキが知っているということは、俺も知っている可能性はあるよな。とはいえ、レキが警戒を促してくるからにはかなりの手練れだな。俺も気を引き締めないと。

 

 ビルのエントランスに入ると、これまたスーツ姿の若い女性がいた。女性はこちらに近付き、お辞儀をする。

 

「比企谷八幡様、レキ様。ご足労おかけしました。本日はお越しくださり誠にありがとうございます。今から8階、紅玉の間へご案内します」

 

 丁寧な挨拶だ。それに加えて、俺の名前だけでなく、レキの名前も判明しているんだな。こっちの事情はある程度筒抜けっのが分かる。

 

「「…………」」

 

 思わずレキと顔を見合せ、互いにコクリと頷く。

 これは……どうやら付いていった方がよさそうだな。俺らを招待したのが誰か判明していないが、それなりに手の込んだもてなしをしてくれるそうだ。

 

 女性に付いていき、エレベーターに乗り目的の紅玉の間とやらへと到着した。

 

 扉を開け入ると――――そこはとても広い空間だった。紅玉の名の通りか、紅い絨毯にいくつもの高級そうなテーブルが置かれている。椅子はないな。電灯もシャンデリアが吊るされている。周りの装飾品も金が使われているのか、ムダに眩しい。一目見るだけで金がかかっている造りだというのは理解できる。料理は置いていないが、ここは立食パーティーなどに使われる場所なんだろうな。

 

「…………」

 

 しかし、俺とレキを除けば誰もいない。案内してくれた女性もエレベーター降りたら「この先です」とだけ言われてどこかへ消えた。それ以降は俺らだけで歩いた。

 

 手の込んだイタズラかと思ったが、さすがに違うだろうな。わざわざする意味がない。とすると、まだ件の人物は到着してないのかもしれない。……呼んでおいてそれはどうかと思うなぁ。だったら、普通に考えてここにいるよな。まだいないのも、もてなしの内容か疑問に感じる。

 

 一旦は広い部屋の中央に移動する。何かあったときのために対応しやすい位置だ。さて、何が来る――――

 

「八幡さん、足音です。2人」

「どこか――――」

 

 ――コンコン。

 

 俺の言葉は遮られ、レキの忠告と共に控えめなノックの音が聞こえる。俺らしか喋っておらず、その音は充分届いた。音の方向は俺らが入ってきた扉からだ。やっぱり到着が遅れたの?

 

 そんなことを思いつつ振り向くと、ギギッ――とゆっくり扉は開かれる。扉を開けたのは先ほど案内してくれた女性だ。そして、その後ろから誰かが入って……く…………る。

 

 

「……………………は?」

 

 

 俺の前に現れた人物が予想外すぎて思考が固まる。

 

「……チッ」

 

 と同時にレキの小さな舌打ちが聞こえた。反応からして恐らく予想通りなんだろ……って、うん!? えっ、レキさん、今あなたまさか舌打ちしました? あのロボット・レキと言われているくらい表情が動かないことで有名なレキさんが? うん、気持ちは分かるけど!

 

「――――」

 

 俺の前に現れた人物は、花の模様が刺繍されている紅い――とても紅いチャイナドレスを着ている。横には深いスリットがあり、隙間からは引き締まっている太ももが見える造りだ。

 以前会ったときはある人を模してツインテールの髪型だったが、今日はしっかりと髪を1つにくくっていてポニーテールにしている。

 

 うーん、化粧もしていて普通に可愛いのが困る。

 

「――――」

 

 目の前の人物は俺を視界に入れると、とても明るい笑顔になり、こちらに手をブンブン振ってくる。

 

「マジか……」

 

 俺はその姿を見て頭を抱える。

 

 あー……会いたい人物ってお前だったのか。よくよく考えてみれば、ヤクザとの繋がりがある人物で俺と知り合いと言えば、そりゃ選択肢限られるよな! 納得はしたけど、完全に忘れてたわ。いやでも仕方ないじゃん。まだ時期的にシャバ拝めないかと思っていたんだよなぁ。

 

 現実から目を逸らしたくなる。

 

 

 

「はっっっちま――ん! 久しぶりヨ――――!」

 

 

 

 耳がつんざく程の大声を上げながら、器用にチャイナドレスでこちらにスキップしてくる人物は、俺と3度戦ったことがある。水投げの学校、神戸、そして――暴走する新幹線上で。

 そして、問題は最後の新幹線。俺と戦っていた途中、アクシデントが起こり、ソイツは暴走する新幹線から落ちて死ぬはずだった。しかし、俺が飛び降りて命からがらソイツをどうにか救出した。まぁ、余裕で死にかけたが。

 

 その人物の名前は――――

 

 

「――――猛妹(めいめい)……っ!」

 

 

 中国のヤクザである藍幇に所属しているココ姉妹のうちの1人。新幹線ジャックの首謀者がなぜここにいる……! しかもなんかおめかしして!

 

「会いたかったネ!」

「……それ以上八幡さんに近付くと撃ちますよ」

 

 抱きつこうとする猛妹、それを避ける俺、ドラグノフを構えるレキ。

 

「おいレキ、落ち着け」

「八幡さん退いてください。コイツ殺せません」

 

 

 

 

 

 

 

 帰っていいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回投稿してから調子乗ってなんと一万文字もすぐに書けたので投稿しました。なんなら書けたのは二日前という
やっぱりある程度構想決まっていると、スラスラと書きやすいよね。まぁ、大半は書きながら展開考えるガバガバ具合という。次回はどうしようか悩んでるので多分時間かかります


感想あると嬉しみです




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総武高校編⑨ マイナスとマイナスをかけるとプラスになるのは数学だけ

お久しぶりです。まだ就活は続いてますが、内定一社は取れました。少し落ち着いたので投稿します
最近はライズ楽しんでます。マガイマガドの紫玉が全然落ちなくて辛い。逆鱗3つと交換してくれないかなぁ





 レキをどうにか落ち着かせ、用意された椅子に座る俺たちと猛妹。

 さっきのスーツの女性が持ってきた椅子も高級感というか、純金を使ってそうな雰囲気の椅子だ。フカフカしていて普通に気持ちいいのが悔しい。あー、ダメだわ。このまま寝れる。いや、寝ないけど。

 

 それぞれの位置は俺の隣にレキ、テーブルを挟んで真正面に猛妹。ドリンクを持ってきてくれたので口を付けようと……毒とか入ってないよな? 敵地で飲食するのはやはり危険があり、どこか引ける気持ちがあるのでまだ飲まないようにしよう。

 

 さてと、今からどう話を進め……る…………か。

 

「んふふっ~」

「――――ッ」

 

 ……怖い。ひたすらに怖い。針のむしろとは、なるほどこのことかと実感する。

 

 猛妹はとても嬉しそうにニコニコとした笑顔で俺を見つめ、対するレキは珍しく殺気を隠さず、その身から迸る殺意を込めて猛妹を睨んでいる。睨むよりかはガンを飛ばすという表現が似合いそうだ。瞳孔開いてますよ……。ふぇぇ……この場にいる女子が怖いよぉ……。

 

「……レキ、ちょっとはその殺気引っ込めろ。話進まねぇから殺そうとするな。つか、そうそう簡単には、コイツ殺せねぇぞ」

 

 このままじゃ話できないし、宥めようと近付き耳打ちでそう伝える。手にはまだドラグノフを離さず臨戦態勢なの怖すぎなんですが。ここで下手に事件起こすの不味いって分かって? 武偵だけど、今は総武高の生徒なんだから。

 

「殺そうと思えば容易に殺せます。ですが、問題はその中間がないことです。……コイツどうしましょうか」

 

 どっかで聞いたことのあるセリフだなぁ!? なに、お前人類最強なの? あながち間違いじゃなさそうだけど。諫山先生、お疲れ様でした!!

 

「ねぇねぇ八幡、私に訊きたいことあるでしょ?」

 

 そんなレキなど気にしていないのか我関せずと話を切り出す猛妹さんの度胸がスゴい。神経図太いな……。目の前の女子が見えてないんですかねぇ?

 

 とりあえず話をしないと始まらないなと判断し、この上なく面倒くさそうにため息をつき、仕方なしに質問をする。

 

「訊きたいことなんざ色々とあるから、順番ずついくぞ」

「うんっ。時間はたっぷりあるからネ」

「まずそうだな……お前いつまで留置場にいたんだ?」

「んーっと、まだ出てから1ヶ月は経ってないヨ。お金沢山積んだから予定より早く出れたケド」

「他の姉妹は?」

「えーっと、まだのはずヨ。そろそろのはずだけど」

「お前だけ一足先に出てきたってことか」

 

 つまるところ、理子やジャンヌのような司法取引ではなく、ただただ俺にはできない選択肢を使ったんだな。さすが中国最大のヤクザの一員。資金力は文字通り桁違いというわけか。

 

「で、何しにここに来た?」

「モチロン八幡に会うためヨ。それとビジネスで日本に用事があるネ」

「ということは、石動組の取引相手ってのは藍幇か」

「正解」

「よしっ、レキ。手伝え。コイツ逮捕するぞ」

 

 さっさと捕まえて色々吐かせればそれで事件は解決だ。なんて簡潔な結論なんだろうか。

 

 銃を取り出し、レキもドラグノフを構えて立ち上がったところで、猛妹は慌てた様子で手を振る。

 

「ちょ、ちょっ! 八幡もレキも待つネ! 確かに石動組と商売してるケド、私は無関係!」

「あ? ここにいるのが何よりの証拠だろ」

「そうですね。捕まえちゃいましょう。私は逃げられないよう足撃ちますね。八幡さんは棍棒で戦闘不能にしてください。なんなら殺さない程度に撃ってもいいですよ」

 

 おぉ、いつもよりレキが活き活きしている。こんな積極的なレキは初めてかも……いや、わりとこういうパターンは多い気がする。俺がイ・ウーから帰ってきたときとか。今思い返せばレキに殺すつもりがなかったとはいえ、あんなに撃たれてよく生きているな。

 

「私は今回の商談に付いてきただけ。ちょーっとアドバイスしたけど」

「アドバイス?」

「千葉市周辺で取引してってお願いしたネ。実際、東京よりかは断然警察のマークも緩かったし」

 

 確かにそれは事実かもしれないが、猛妹の目の泳がせ方からして絶対にソレだけではないと判断できる。他にも理由あるよなぁ?

 

「理由は本当にソレだけか?」

「も、モチロンこれだけ……ハイ、白状します。そうすれば八幡呼べるかなーって下心はありました」

「正直でよろしい。ていうか、俺呼べる根拠は何だ?」

 

 俺はそこが疑問に思ったので、素直に訊ねる。武偵だけで言うなら、当然フリーの奴がいるはずだ。

 猛妹は「ウーン」と首を傾げてから順序立てて説明する。

 

「あくまで可能性があるって話で、千葉市――特に総武高校周辺で事を荒立てれば、捜査に武偵が派遣される。警察は介入しにくいしネ。依頼するなら、学生の武偵にするはず。総武高校は偏差値が高い。でも、武偵は基本バカが多い。八幡は武偵高校の中ではかなり頭が良い方。それに千葉出身だし、動きやすい八幡が派遣されるかな~と」

「……随分考えてるな」

 

 口では平然とそう言うが、内心微妙に焦っている。わりと俺の情報筒抜けだなぁと。ったく、プライバシーはどこへ行ったのやら。別に隠してはいないが、それでも納得いかない部分がある。

 

「というより、そんな面倒なことしなくても直接来ればいいじゃねぇか。俺とレキと理子と遠山と神崎が総出で出迎えしてやるぞ」

「戦う気しかない面子ヨ……」

 

 思いの外呆れる猛妹に対し、俺は当たり前の反応だと思う。そりゃもう戦闘するしか能がない奴らなんで?

 

「ま、今回はビジネスついでに八幡と会えるかなって考えただけヨ。他に質問はアル?」

「あー……今回のそのビジネスとやらについて詳しく訊きたいが、教えてくれるか? 俺らが捜査してんの知ってるだろ」

「残念。それは教えることできないネ。私が担当しているわけじゃないし、八幡に教えちゃったら、私怒られるネ。……あ、モチロン八幡たちが藍幇に入ってくれるなら全部教えるケド?」

 

 これは予想通りの回答だ。さすがにそこまで甘やかしてはくれないか。最後の文言はあえてスルーする。イチイチ反応してたらキリがなさすぎる。それにしても、懲りないな。何回断ったと思っている。

 

 

 ――――とりあえず一度情報をまとめよう。

 

 石動組は何かクーデターか何かは知らないが、かなり大きいことを仕出かそうと藍幇から違法の武器やヤクを密輸して、購入している。それが何かは一先ず置いておく。俺からしたら、重要な情報とは思えないし、そこは警察が調べる事柄だろう。

 

 で、その事件を警察が調べていくと、総武高校が関わっていると判明した。どう関わっているのかは、その時点では分かっていない。で、警察では高校を詳しく調べることは厳しく、下手に動いたら警戒心を与えてしまうので、武偵に潜入捜査をしてくれと依頼した。そこから、俺とレキ――チーム・サリフが派遣され、調査に挑んだ。

 

 学校内に石動組と関わる人物がいるはずということもあり、最初の2週間は目立った行動はせず、大人しく過ごした。そこから今にかけてある程度の情報は見付けた。まだ完全な証拠とはならないが、事件の概要が見えてきた。それがついさっきの放課後。

 

 …………で、問題は今だ。いきなり藍幇の一員である猛妹が絡んできた。コイツの言うことが正しいなら、猛妹は今回の商売には大して首を突っ込んでいない。しかし、情報を持っているのは事実だろう。まぁ、もし捕まえるにしても何か簡単な罪状がないと、さすがに俺らが不利になる。

 

 まぁ、猛妹が絡んできた理由の大半は不本意ながら俺に会いたいからだろう。……自分で言ってて恥ずかしくなる。あぁもう、顔が紅くなりそうだ。

 

 だから、今のところ結論付けるなら、猛妹の行動にさほど意味はない。俺らに何かプラスになる情報は与えないだろう。何て言うか……ホントに喋りにきただけなんたろうなぁ。口を滑らせてくれる相手でもないし、これ以上は問い詰めても時間のムダになるだけだ。

 

 

「はぁ…………」

 

 ドッと疲れが押し寄せた感じがして、大きいため息をつく。

 

「八幡さん?」

「一旦は戦闘はしない方向で。ここでする意味はない。したところで、俺らにメリットはない。証拠もないから逮捕できねぇしな。その、なんだ、私怨があるなら止めないが」

「……分かりました。八幡さんの指示に従いましょう。別にいつでも殺れますので心配いりません」

 

 何そのキリッとした口調は。

 

「いや、その辺の心配してないけど。まぁ、好きにして」

「あれ、私暗殺されるの?」

「知らね」

 

 投げやりに答えて一旦話を打ち切る。これ以上考えるのは面倒だ。

 ……しかし、それはそれとして腹減ったな。晩飯食う前に拉致られたし。加えて、俺らが話している間にも料理は徐々に運ばれていた。目の前に豪勢な料理あるから手を伸ばしたいが、もし毒……とまではいかなくても筋弛緩剤やらあった場合、危険だしな。レキもさすがに毒物を見極めることはできないだろう。ぶっちゃけ俺も毒についての知識は少ない。

 

「八幡、食べないの?」

「敵地で安易に食うバカはいねぇよ」

「そう? 毒なんて仕込まないヨ。第一私も食べるし。ここのシェフの料理、美味しいのに」

「……帰ったら飯作るし別にいい。またプライベートで食いに行くわ」

 

 正直にぶっちゃけると、腹も減ってるし食べたいけど。ここは我慢しないとな。

 

「ふーん。私も八幡の料理食べてみたいネ。セーラは食べたことあるんでしょ?」

「あー、作ったことはある。つっても、簡単なやつだぞ。こんな豪華なやつと比べられても困るわ。よく知ってるな」

「教えてくれた。同じ眷属だし」

「ほーん。そういやアイツもそうか。主戦派は軒並み眷属だったな」

「藍幇に入るかは別として、眷属に入るつもりはナイ? 無所属でしょ?」

「ない。こちとら周りが師団ばかりだぞ。無所属から眷属になったら真っ先に狙われるっての。普通にムリ。そもそも俺らはあんな奴らと関わりたくない」

 

 だって、眷属になったら遠山と神崎が敵になるんだぞ。あの2人相手とかどう考えてもムリゲーすぎるだろ。シャーロックすら倒す化け物たちだと分かっているのか。それに、毎度の如くヒルダのような強敵と戦ってられない。普通に死ぬ。

 

 とはいえだ、もし遠山と神崎らと戦うなら俺は逃げに徹してレキの射程で戦わないと勝つのは厳しいだろう。あの2人と真正面からぶつかるのはやはりムリがある。逃げに徹してレキのサポートをする方が建設的だ。

 もし俺だけの場合……どう戦う? 遠山がHSSでないなら勝てる可能性はあるが、遠山は遠山で戦闘民族の家系だからな。普通の状態でも意味不明な技を繰り出してくるだろう。そこに神崎が加わるならば、さらに勝ち目は薄くなる。あの2人――特に遠山は超能力に不得手だからそこを起点にすればいいが、神崎も色金の力を完全でないにしろ使える奴だ。それも難しい。近接も中距離もあちらが上。超能力も下手すりゃ厳しい。

 

 …………やっぱムリゲーじゃね? 武器の性能でアイツらを上回るくらいしないと。例えばショットガンとか。点ではなく面での攻撃であれば避けにくい攻撃になる。これならワンチャンどうにかなるかもしれない。いや、それでも勝てるかどうかは分からないし。常識に当てはめて考えるのはよくない。別に敵対することなんてないけど。

 

 と、少し億劫になっている間にも猛妹は話を続ける。

 

「残念。……そういえば、FEWの話続くけど、ヒルダに勝ったってホントなの?」

「それはマジ。初見殺ししまくって俺の完勝。……完勝? まぁ、完勝だよなあれ。次があったら通用しないだろうが。あのときはヒルダも俺のことについて知らなさすぎたしなぁ」

「……それでもスゴいネ。紫電の魔女を1人だけで倒すとか正直エグいヨ。レキはいなかったの?」

「はい、私は離れた場所で待機してました」

「どうして? 八幡と言えど、レキと組んだ方がもっと勝率上がったはずヨ」

「八幡さんのお願いです。1人だけで戦わせてほしいと」

 

 そこはまぁ、男の意地と言いますか。口にするのは恥ずかしいです。

 

「ふーん? 映像確認したいけど、あの日天気悪かったせいでないのが残念ヨ」

 

 そういえば、雷降ったくらいには荒れてたな。あれさえなければ、もうちょい楽に勝ててただろうに。あの姿……下手すりゃ、昔の時代だと無敵に近いと思うぞ。技術が発達した現在だから勝てたのであって、もし素手で戦うとかなったら……恐ろしい。

 

 そんなことを考えていると、隣にいるレキが無表情のまま口を開く。

 

「映像ならありますよ」

「ホント? レキ持ってるの?」

「待機している間、撮っていました。かなり離れていたので画質などは良くありませんが、一応は戦いの一部始終が映っています」

「ちょっと待て。俺初耳なんだが」

 

 マジ?

 

「言ってませんので」

「ねぇレキ、私欲しいネ。譲って」

「非売品です」

「ケチ~」

「というより、今はデータを持っていませんので渡しようがありません」

「えー。じゃあ、ムリヤリ奪うのもできないのネ」

「その前に眉間撃ち抜きますよ」

 

 2人の会話が不穏というより物騒なのでスルーすることにする。

 

「その前にレキを仕留めることくらいできるネ」

「本当にできますか? 私の隣にいる人が見えますよね。その人が適度に抑えてくれます。その間に仕留めることなど容易いです」

「おい、2人の争いに巻き込むな」

 

 あ、ツッコミしちゃった。しかし、ツッコミするのも仕方なかったってやつだ。だって、周りがボケ役しかいないもんで。バランス悪すぎだろ。

 

「ねーねー、八幡はどうやってヒルダに勝つことできたの?」

「銃やら超能力やら色々と使ったが、とりあえずは企業秘密だ。頑張って調べてくれ」

「つまんない答えネ。あ、色金の力使ったってホント?」

「さてな。つっても、別に俺が使えるのは知ってるだろ。ブラドやパトラに使ったんだからよ」

「でも、あれって確か無意識とかのはずヨ。もしヒルダに勝てたなら、意識飛ばさずに使わないと厳しいと思うネ」

 

 実際その通りと思うから何も言い返せないのがどうにも悲しい。ブラドに対しては勝ったのは漓漓だし、パトラに関しては撤退しただけだし、猛妹がそう判断するのは納得できる。

 

「となると……八幡はまだ完全ではないけど、少しは色金の力を自分の意思で使えるといったところ?」

「想像に任せる。お前の言う色金を使うってのがどの程度かは知らないんで、答えようがないってのが回答だ。ていうか、わりと詳しいな?」

「だって、色金使えるの藍幇にいるヨ」

 

 んん?

 

 コイツさらっと今何て言った?

 かなりとんでもない事実を口にしたよな。この言葉が真実なら、あの色金を使える生き物は、俺や神崎だけではなかったということになるのか。

 

「マジで?」

「本当ですか?」

 

 これにはレキも驚いたのか俺と同様に質問する。

 

「うん。これ以上は教えないヨ。知りたかったら藍幇に――」

「入らないから。……この問答何回繰り返すんだ?」

「八幡がイエスって言うまで」

「諦めろ」

「イヤ!」

「武偵がヤクザになれるわけねぇだろ」

「じゃあ武偵辞めればいい。自衛で人が殺し放題ヨ」

「余計にダメでしょうが!」

 

 いくら武偵になった俺がアホとはいえ、そんな倫理観が欠如した行動は取らない。本能よりも理性の方が勝っているはずだ。短絡的な思考は……よくするけど、さすがに犯罪はしない。リスクマネジメントはできている方だ。それを言うと、ヤクザと飯食っている状況がどうかと思うな。いやいや、これは仕事だ。そう自分に納得させることで事なきを得る。得てる?

 

 少し落ち着くために俺が持参していたお茶を飲み、猛妹は食べていた飯が一段落していたらしくナフキンで口を拭いている。そして、改めてこちらをあざとく覗き見してから話を始める。

 

「そういえば、八幡。あの話考えてくれた?」

「ん? どの?」

 

 思いきり話題が変わったの感じつつ、猛妹に返答を求める。

 何故か嫌な予感がする。ここに来てから嫌な予感しかしてないのは置いておこう。1つずつツッコミ入れてると、とにかく面倒だ。また藍幇に入れという話題か。

 

「言ったよネ。あれヨ――愛人にしてって話」

「……ッ」

 

 猛妹の何気ない発言に思わず息が詰まる。恐らく猛妹は別に悪意もなくただ興味本位で訊いていることは明白だ。しかし、俺の胸中は呑気にしている猛妹と違ってそんな穏やかではない。

 おまっ、おまっ……お前!! この場で何てこと言うんだ。ヤバいぞ。これはヤバい。めちゃくちゃヤバい。何がヤバいかって俺の隣にいる人の反応がヤバい。

 

「…………」

 

 ソーッと隣の様子を見る。

 

 

 

「――――――――チッ」

 

 

 

 あ、ダメだこれ。そう直感でそう思ってしまう時点でアウトだ。

 

 けっこうな勢いで舌打ちしているよこの子。しかも軽く瞳孔開いている。これはあれだ、セーラが部屋に来たとき、扉をC4爆破したあの場面よりキレてる。……少し覗いただけでめっっっちゃ苛ついているのが見て取れる。いやもうホント、ひたすら怖い。親に隠してた悪い点数のテストが見付かったあれよりも恐れを感じてしまう。

 あのー、レキさんや。あなた殺気だだ漏れですよ? 狙撃手でそれはどうかと思いますが……。近頃マジで感情豊かになっているねぇ。嬉しいよ……って、現実逃避している場合じゃない。なんなら、この場からリアルに逃避したい。実のところ色金の力に瞬間移動があるらしく、練習している。ほんのちょっとだけなら使えるが、今日は超能力が使えない日だからそれも叶わない悲しみ。

 

「レキ、怖いヨ。そんな殺気出さなくても、もちろんレキが本妻で大丈夫ネ。あくまで私は愛人のスタイルヨ」

「……なるほど、分かりました」

「お、ホント?」

「はい、今から貴女を殺します。痛くはしませんので安心してください」

 

 猛妹の期待の眼差しを裏切り(?)レキの殺気はより一層鋭くなる。無表情なら未だしも、若干笑顔なのが恐ろしい。あ、ドラグノフに手をかけた。

 

「八幡、レキ怖ーい!」

 

 と、猛妹はわざとらしくテーブルから身を乗り出し、俺に抱きつこうとしてきた。

 

「ふみゃ!」

「………………あっ」

「八幡、何するヨ!」

 

 …………ごめん、反射的に投げてしまった。

 座ったまま背負い投げできるとは俺もなかなか器用になったな。なんか可愛らしい奇声を上げて後ろに吹っ飛んだ。まぁ、普通に受け身取ってるけど。チャイナドレスのスリット部分がはだけて心臓に悪い。ドキドキする。

 

 

「――――」

 

 

 いやいや、それよりお前、この状況でよくそんな行動しようと思ったなぁ!?

 

 レキの怒りボルテージが上がりまくってるのが分からんのか! 見ろ、レキの眼光! 怒り状態のナルガクルガみたいだぞ!

 

「オッケー、落ち着けレキ。な?」

「では、足だけでも撃たせてください。手早く動脈撃つので」

「違う、そうじゃない」

「せめて眉間だけでも……良いですか?」

「ダメ」

「何故です? ……八幡さん、まさかこの女のことを守ろうと?」

「いや、武偵法の縛りあるだろ」

「その程度私の立場ならどうとでもなります」

「…………」

 

 これは――――もう無理だわ。

 

「……じゃあ、猛妹。そういうことで。今日はこれで失礼しまーす」

 

 これ以上この空間に留まると、誰かの血が流れるのは確定した。それが猛妹かレキかはたまた俺かは分からない。悪化しないうちに、いち早く退散しないといけない。俺の身がぶっちゃけもたない。今でさえ胃が痛いというのに。

 

 レキを羽交い締めしてズルズル引きずる。意外にも抵抗はしない。まぁ、ここまで密着してればさすがに俺の方が分があるしどうとでもなる。

 

「えー、八幡もう帰るの?」

 

 扉まで引きずった辺りで猛妹がそう声をかける。

 

「次からはもうちょい普通に呼べよ。んなことでいちいちヤクザ使うな。向こうも傍迷惑だろうが」

「ブーブー、残念ヨ」

 

 と、猛妹は不服そうに口を尖らせて言うが、半分以上猛妹の発言が原因ということを忘れてはならない。いい? 何か発言するときは考えてから言うもんだよ? 燃料にニトログリセリンを投下したら……うん、そりゃダメだろう。俺でも分かる。

 

「はいはい、またな」

 

 ぶっきらぼうにそれだけ言い残してレキを引きずる……のも疲れたので抱えることにひた。っていうか、これ完全にお姫様抱っこだ。レキはウルスで姫だったし、これは文字通りの意味になるな。なんて下らないことを思いつつもビルから脱出することに成功。

 

 

「あぁー……」

 

 ビルから出るまで息が詰まっていたから、ようやく安堵のため息を吐く。

 

 ……しんどっ。主に精神が。

 

「八幡さん」

「何?」

 

 お姫様抱っこをしているせいでレキが俺を見上げるから顔がとても近い。やっぱ端正な顔立ちだ――と思っている間にも、とりあえずはあの殺気が収まったことに安堵する。

 

「次、また、ということを言いましたが、次の機会はあるのでしょうか?」

 

 ……殺気はないが、そのジト目は止めてほしい。この距離でやられると逃げ場がなさすぎる。どうすればいいの? 教えて、偉い人!

 

「あれは言葉の綾と言うか……」

「分かりました。では次の機会があれば今度こそ仕留めます」

「止めようね? てか、そろそろ降ろすぞ」

「嫌です。このまま運んでください」

「キツいんだけど。特に腕が」

「私は軽いです」

「……このまま駅に行くと周りの視線が」

「互いに気配を消しましょう」

「ムリあるぞ?」

「では訓練も兼ねて」

「いやマジで降ろすぞ」

「…………」

「おい、無言で首に手をかけるな」

「…………」

「ったく、途中までな」

「はいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




しかしまぁ、今回の話3人しかいないのに8500も書いてしまったな。もうちょい短く収めれば、早く投稿できたかもしれないのにねぇ。毎度のことながら配分が下手すぎる


昨日ReoNaさんのライブに行ったんですけど、やっぱ生はマジでいいよね。リアルに1年以上での対面ライブだったからめっちゃ楽しかった。オンラインライブもオンラインならではの楽しさがあるけど、やっぱ個人的には生が最高なんだよなぁ
しかもこの環境なので、全員座って騒がずに聞いたんだけど、ぶっちゃけReoNaさんのライブに関してはこれからもずっと座ってじっくり見たいレベルで良かった。もちろん、ReoNaさんにも騒げる曲はあるけど、それを差し引いても、何だかんだでバラード系の曲のが多いし。また座ってゆっくりとReoNaさんのお歌を聞きたいなぁ……って思うくらい良かった!!

次はLotusも聞きたい!FCライブ当選しますように……!



…………そして、早くLiSAさんにも会いたい





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総武高校編⑩ そろそろ事件解決に動きます

 

 

 猛妹と話をした翌日。あれからは帰ってレキと情報をまとめて、もうそのまま寝た。いやうん、疲れたんだよ。主に精神が。色んな意味であれだけハラハラしたの初めてでは?

 

 そして朝の登校時、早く出たので誰もいない通りを歩き、レキと今日進めることを話し合う。

 

「じゃあ、いつも通り放課後まで見回り程度で操作して――」

「はい、放課後に詳しく調べましょう。平塚先生にマスターキーを借りないとですね」

「あぁ、それならまだ持ったままだ。先生から許可は取ってある。一応は夜中までの滞在許可も校長先生から貰ってあるし、ある程度は遅くまで調べるか。夜はさすがに明かり消されるから厳しいかもだが。それで、あれってどの辺りにあると思う?」

「安易な考えですが、どこかの引き出しでしょうか? もし学校に手引きしている人間が生徒であるなら、生徒がいて不自然ではない場所だとは思いますが。教室や部室などでしょうか」

「……教師だった場合はなかなかにキツいか。あまりスペース取らない物だし、探すのも大変だな。ワンチャンあれを家とかに持って帰ってたら、それこそ捜査が行き詰まるな」

「とはいえ、明日に体育館を詳しく調べる予定ですので、もしかしたらその段階で手引きしている人が判明する可能性はあります。最悪、証拠がなくてもカチコミに行けます」

「まぁ、あった方がやりやすいのは確かだが……」

 

 うーん、このガバガバ感よ。

 

 確かに、ここに手引きしているであろう奴を抑えなくても、現場を抑えれば解決できるかもしれない。しかし、それだとヤクザと繋がっている奴が学校にいるという状態に陥る。さすがにそれは危険すぎるから、どちらにせよ見付けないといけないし、そもそも普通に犯罪だから捕まえる必要がある。

 

「とりあえず今日調べれるところは調べるか。いくら平塚先生や校長から許可貰ってるとは言え、他の教師に知られちゃ不味いし、あくまで怪しまれない程度に慎重にな」

「はい。いざとなったら、気配を消しましょう」

 

 俺とレキからそれくらい可能だ。単純な隠蔽なら俺らのチームは他の武偵のチームよりずば抜けて高いだろう。……といっても、俺よかレキの方が圧倒的にレベルが高いんだけどな。そこは経験の差というか元々の素質だろう。

 

「そういや、一昨日のやつ現場にお前もいたけど、クラスメイトから何か言われたか? ていうか、あの場に雪ノ下の他にいたのか?」

 

 ふと気になって訊ねたのは俺がゴロツキを適当に制圧していたら、レキが援護してくれた件についてだ。

 俺の場合は由比ヶ浜に大丈夫か聞かれたが、レキはどうだっただろうか。変なことを訊かれて、変なことを口走ってはいないだろうか。そういう一抹の不安が過るが、プロのレキはその辺りの分別は弁えている。大丈夫だとは思うが、念のために訊かずにはいられない。

 

「あの場に雪ノ下さんを除いてクラスメイトが2人いたそうです。その2人に安否を訊かれました」

「ん、他にもいたのか。さすが進学校。2年から受験勉強か。気が滅入るわ」

 

 俺も武偵の道に進んでいなかったら、こういうことに通って日々勉強漬けだったのかもしれない。何て言うか、今の俺からしたらその選択肢がなかなか思い浮かばない。

 

「私は何ともないと答えました」

「実際何ともないしな」

「はい。それと八幡さんを褒めてましたよ」

「俺を?」

「えぇ、ヤクザ相手に立ち向かったことなどについてです。かなり興奮した様子で語ってました。彼女らにはどこか新鮮に映ったようですね」

「あー、何となく分かるかも。日常に慣れすぎてたら、非日常に憧れるというか普段とは違う高揚感でも味わえたんだろうな」

 

 といっても、ああいう場面で、そういうキャッキャっとした反応になるが普通なのか。それとも由比ヶ浜みたいに心配してくれるのが稀な反応なのか。野次馬は気が楽でいいね。当事者やそれこそ川崎みたいな被害者からしたら、たまったもんじゃないだろうに。

 

「そういえば、川崎さんはどうなりました?」

「分からん。昨日は学校休んでいたし、坂田さんがどうにかしてるはずだけど」

 

 昨日の今日だから情報が出揃っていないってものある。無事だといいが……。ヤクザは借金取りみたいにどこまでも追いかけるからなぁ。

 

「そういえば、先ほど坂田さんにあれを渡していましたが、いつ調べがつきますか?」

 

 家を出る直前に坂田さんにはわざわざ来てもらい、昨日見付けた手掛かりを渡したところだ。

 

「さあな。容疑者は多いから何とも言えないなぁ」

 

 とだけポツリと呟いた。

 

 

 

 そして、朝の教室へ。今日は早く出たのでほぼ一番乗りかと思ったが、先客がすでに何人かいた。

 

「あ、ヒッキー! おはよー」

「おう。由比ヶ浜早いな」

「今日は早起きだからね!」

「……それと川崎も」

「別に。いつも通りだよ」

 

 教室にいるのは由比ヶ浜と川崎だけか。なんか話してたようだけど、この組み合わせ見たことねぇな。でも、雪ノ下と由比ヶ浜は仲が良いし、若干雪ノ下と雰囲気の似ている川崎と話していても特段不思議な感じはしない。コミュ強こわっ。

 

「ていうか、あんた」

「ん、どした?」

「いや、まだちゃんとお礼言ってなかったから……」

「あぁ、気にすんな」

 

 仕事だし。それを差し引いていも久しぶりに暴れて楽しかったまである。……ごめん、由比ヶ浜の前でそういうこと言うの止めてくれる? 隠してはいないけど、やっぱほら、下手に知られたくないし。……ねぇ?

 

「えっ、何の話なの?」

 

 ほらぁ、食い付いちゃった。

 

「由比ヶ浜知らないの? あそこにいたんでしょ?」

「いたけど……。ヒッキー何かしたの?」

「何かしたというか、そいつがヤクザを殴ったりしてあたしを助けてくれたんだけど」

「…………え、えぇ!?」

 

 ワンテンポ置いて、由比ヶ浜はとても驚いた声を上げる。

 

「そ、それホントなの?」

「あたし、こんなことで面倒な嘘つかないけど。……あんたも何か言ったら?」

「……なんで言うかね」

「いや、お礼は言わないとじゃん」

「ちょっと待って。ヒッキー、嘘じゃないの!?」

 

 めっちゃ肩グワングワンされる。気軽にボディータッチされて正直ドギマギしています。この子、数多の男子を勘違いに追い込んでそう。恐ろしい!

 

「誠に遺憾ながら事実です」

「それ使い方おかしくない?」

 

 と、川崎のツッコミが入りつつ話は続く。やっかましい。

 

「ど、どういうこと!? ……なんでヒッキーがそんな危険なことしたの?」

「いやだって、あそこで動けたの俺しかいないし」

 

 そもそも武偵ですし?

 

 それを差し引いていも、野次馬はがりで自分から解決に身を乗り出す人間なんてかなり稀有な存在だろう。怖いものには手を出したくないくせに、周りが危険な目に遭うのは嬉々とする奴らが多いことだ。他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。俺もこの言葉好きだがな。

 

「ていうか、そんな危ない人たちに勝てたの!?」

 

 そう信じられないという視線を向ける由比ヶ浜。素直だねぇ。実際、そう思うのもムリないっていうか、その通りすぎるが。パッと見、ただの高校生だもんな。え? 日頃から銃撃ってるだって? 今は撃ってないのでセーフ。何がセーフか分からんが。

 

「まぁ、不意討ちだったからな」

「にしちゃ、あんたスゴい動きしていなかった?」

「ほっとけ」

 

 恐らくあのロンダートのことだろうな。

 というか、あの不意討ちで地味に仕留めきれなかったし、やっぱそこはいくら下っぱだろうとヤクザってことか。気絶させるだけなら、スタンバトン使う方が手っ取り早いよなぁ。あのとき持ってなかったし、意味ないけども。

 

「過ぎたこと考えてもどうしようもないし、この話はこれで終わり。……って、そうだった。川崎、あれから大丈夫か?」

「あー、うん。警察が来てくれて色々とやってくれたよ。もうしばらくかかるだろうけど、大丈夫だと思う。今日も警察寄るしね」

「なら良かった」

 

 ……とりあえずは一安心といったところか。

 

 

 

 その後、由比ヶ浜のしつこい追撃をのらりくらりと受け流し、わりと頑張って授業を受け昼休みになった。未だに由比ヶ浜はこちらに怪訝な視線を向けているが、敢えて無視する。こら以上反応するのは危ない。

 

 さて、昼飯だ。昨日の疲れで弁当作る余力はなかったので、購買に行かないといけない。レキと話ながら登校してたからコンビニ寄るの忘れてた。レキはカロリーメイトがあるだろうが、さすがに年頃の男子高校生の腹はそれだけではもたない。

 

「ヒキタニくーん、一緒に飯食わない?」

 

 椅子から立ち上がったところで席が近い戸部が誘ってくれた。そこには葉山と、女子2人……確か三浦と海老名って名前だったな。それと由比ヶ浜もいる。陽キャグループとでも言うべき人が集まっている。

 

「悪い、今日購買なんだ」

「あ、そうなんだ。あそこ早くいかないとマジヤバいよ」

「おう」

 

 ごめん、あのガチガチ陽キャグループに入る勇気はないんだ。別に葉山含めて悪い奴らではないのは分かる。それでも、雰囲気的に入りにくい。特に三浦。あのトゲトゲとした感じはどこかヒルダを連想してしまい、なかなかに苦手だ。勝手に自爆してるだけだがな。

 

 そして、転校して初日以来購買を訪れるが、やはりここは混んでいるなとしみじみ。

 

 人がごった返している。武偵高も大概だが、あそこはかなり敷地が広いから購買の数や面積もその分デカい。

 ただまぁ、普通の公立だとそこまで購買は広くないしここに訪れる生徒は多いしで……面倒だ。この中並ぶのかぁ。マジでコンビニ行けば良かったと軽く後悔する。

 

「……」

 

 列の最後尾に並ぶ。ていうか、購買って何があったっけ。別にパンをいくつか買えれば大丈夫だろう。

 

「…………」

 

 あれ、俺の前にいる奴――アイツだ、相模だ。

 俺は相模の不登校や本人にとって不名誉な噂を知っている。別に口を滑らせることはないが、変に関わったら、色々と面倒なことになりそうだ。向こうから声をかけることはないだろうけど……念のために気配消しておくか。

 

 暇だから相模を観察する。変な意味じゃないよ? ただボーッと前を眺めているだけ。

 

「――――」

 

 頭が左右に小刻みに揺れている。これはあれか、どれだ。不自然に周りをキョロキョロと視線を動かしているみたいだ。やはり不登校の期間についての自分の噂を気にしているのか。それなら、コンビニに行くなりして人混みを避ければいい。……それに加えて、これといって相模を見ている奴らはいないように見える。

 それとも、誰かと待ち合わせしていて探している? これは……違うか。だったら、もうちょい頭を大きく動かすだろう。

 

 名前も知らない他人の視線なんざ気にしなきゃいいのに。まぁ、いいや。

 

 

 

 購買でパンをいくつか買い、食べながら適当に学校を歩く。目的の物を探すために目ぼしい辺りを狙って歩いてみたが、 まぁないよな。

 

 あるとしたら特別棟のどこかかと思ったけど。生徒がいる棟は使われていない教室は存在しない。頻度は多少差は存在するが、どの教室も何かしらのタイミングで使われている。そんなとこにあるとは考えにくいし、何よりもうそこは調べた。

 うーん、教室の外からだと、どうも中が鮮明には見えないよな。マスターキーは昼休み使うわけにもいかない。誰かに見られたら怪しまれるし。

 

 特別棟の4階を歩いていると、見知った人物が教室から出てきた。

 

「……あら、比企谷君」

 

 黒い綺麗な髪を揺らしつつ、少し意外そうな視線を向けた雪ノ下はこちらに声をかけてきた。こんな誰もいない廊下で俺みたいな奴と遭遇したら、驚くよな。

 

「おう。何してんの?」

「昼食よ」

「教室で食わねぇの?」

「……別にいいじゃない」

 

 と、軽く口を尖らせる雪ノ下を見てある程度察した。教室に居場所ないというか、あの空間は苦手なんだろうな。

 

「ところで、あれから大丈夫だったかしら?」

 

 一昨日のことか。昨日は雪ノ下と会っていなかったから、事の顛末を伝えてはいなかったな。

 

「平気だ。ま、あいにく俺は強いんでな」

「川崎さんも?」

「おう。もう学校に来てたよ」

「そう、なら良かったわ。……ところで貴方はこんなところでどうしたの?」

「適当にブラついてるだけだ」

「……貴方も私と何も違わないじゃない」

「失礼な。俺は購買寄ったついでに歩いてるだけだぞ」

 

 自分で言っていて、大差ないことに気付く。

 

「じゃ、しばらく彷徨くんで。じゃあな」

「えぇ」

 

 雪ノ下は校舎の方へ戻り、俺はまだ時間があるので探索を続ける。雪ノ下には俺が何かしらの捜査をしているとバレていそうだが、まぁ特に問題ないだろう。弁えている奴だし、こちらから訊ねない限り下手に首を突っ込んでこない。

 

 

 特別棟の4階から1階にかけて廊下から見える分だけだが、改めて教室を全部見終えた。ていうか、マジでここ人いねぇな。ホントにアレあるのか? それかアレに類ずるモノ。昨日手掛かり見つけた分は朝早くから坂田さんにお願いして渡したばかりだ。

 

 午後の授業を受けている間にそればかり考えてしまい、授業に身が入らない。ここである程度予習しとけば、アホアホ武偵高の授業で大きくアドバンテージを取れる可能性がある。もしかしたら、定期テストの総合で星伽さんを抜けるかも……よしっ、真面目に受けよう。万年2位は返上だ。

 

 

 ――――と、そんな思いで授業を受けてから時間は経ち、現在は放課後。今日は部活中止になってないので、レキは現在美術部の方へ参加している。

 

 雪ノ下たちがいるかと思い、特別棟の奉仕部がある教室……昼休みに雪ノ下と会った場所まで足を運んだが、鍵は空いておらず気配もしない。空室の状態だ。しばらく隠れてみたが、由比ヶ浜も来る様子はなかったから休みにしているのだろう。まぁ、毎日やるような部活でもなさそうだしな。

 

 都合が良いと言えば都合が良い。誰もいない場所をより調べられるのだから。あるとしたら、特別棟のどこかだと予想はしている。中の教室をより詳しく調べようか。……にしても、こんな立派な校舎なのに、なぜ誰も利用しないのか。生徒たちがいる校舎だけで事足りると言うなら、そうなのだろうが、勿体ない気がする。

 

「さてと……」

 

 色々な教室に入り、詳しく調べる。引き出し開けたり、机の下を調べたり……やってることがただの空き巣だ。音を立てないようにしているから尚更な。

 

「ない」

 

 この教室には何もない。

 

「……ない」

 

 ここにも。

 

「チッ……」

 

 ない。

 

「めんどくせぇ……」

 

 これで何回教室に出入りしたのか。1つの教室調べるのにもけっこう時間使うしで微妙に疲労が溜まる。調べる範囲はそこまで多くないのが救いか……。

 

 

 そして、いくつめの教室か忘れた頃――――

 

「……あった」

 

 ようやくお目当ての物を発見できた。まさか本当にこんなところにあるとはな。俺の推理……いや、地道な捜査もバカにできないもんだ。

 それにしても……つ、疲れたー。ひたすら中腰だったし、やけに疲労が溜まる。あー、しんどっ。こんなのするくらいなら、神崎の相手している方がよっぽどマシだ。いやまぁ、どうせ転がされるんだけどね。

 

 さてと、これは回収して、レキと合流してから警察行くとしよう。指紋とかで分かるかなー。そんなことを思いつつ教室に戻ろうと足を踏み出した瞬間――

 

 

 ――――カツン、カツン。

 

「――――ッ」

 

 足音が聞こえる。誰もいない廊下に甲高い音が響く。俺は咄嗟にしゃがみ、廊下から見れない角度の場所に隠れる。……音は立ててないはずだ。鍵もかけているから、その教室に対応している鍵がなければ入れない。大丈夫だ。平塚先生か校長先生以外に見付かったらややこしいことになる。

 

「――――」

 

 音は次第に通り過ぎていく。もう音も小さくなりそれなりに離れているだろう。

 

「……ふぅ」

 

 安堵のため息を吐きつつ、足音を殺して誰だったのか確認をする。……ダメだ、ここからではあまり見えない。しかし、チラッとは見えた。といっても髪の色しか分からなかったな。一瞬すぎて男か女かも微妙だ。この学校、わりと髪の毛染めている人多いから困ったもんだ。

 

 

 

 

 

 ――――そして、レキと合流してから警察に行き、色々と坂田さんに渡した翌日の放課後……というか、部活をしている生徒も下校してほとんど人がいない時間帯で。

 

 色々とすっ飛ばしすぎかもしれないが、特に語るようなことがなかったので……。ほとんど事務連絡だけだったし……。許してヒヤシンス。これたまに聞くことあったが、元ネタ知らない。恐らくかなり昔のもんだろうが。

 

「では八幡さん」

「おう」

 

 武偵高の制服に着替え、銃と棍棒を装備している俺とドラグノフを構えるレキ。今から事件解決に向けて本格的に動き出す。……まぁ、賭け要素がめちゃくちゃ強いんだが、そこはまぁなるようになるだろう。

 

「行くか」

 

 

 先日レキが見付けた体育館――――その地下に続く扉を開ける。

 

 

 で、地下への扉を開けると、階段に銃弾やら他にも色々と転がっていた。数は限りなく少なかったが――まぁ、これで石動組と何も関係ないとは言いにくいだろう。

 ということで、詳しく調べることに。上手く行けば、証拠を抑えられるし、決定的な何かを見つければ、一網打尽にできる可能性だってある。

 

「…………」

 

 地下に続く階段を降りる。歩いている途中に出口への穴があったので蓋を開けてから飛び降りる。……ったく、梯子ないのか。不便だな。

 

 俺もレキも飛び降りたそこには――コンクリートで整備されている用水路があった。

 

「暗いな、灯りはと」

「こちらに」

「ありがと」

 

 レキの肩に設置している電灯を点けてから、俺も懐中電灯を取り出す。

 

「……どっから進む?」

「少々お待ちを……」

 

 と、レキは目を閉じてしばらく黙る。

 

「こちらに行きましょう」

 

 目を開けてから、行く方向に指を指す。

 

「反対側は?」

「風が止まっています。恐らくですが、ほぼ行き止まりです。出口もありません」

「分かった。さて、どれぐらい歩くかね。……これって、石動組の取引現場と学校が繋がっている感じか?」

「可能性としはそれが高いでしょうね」

「あとは単純に石動組の本拠地と学校を繋ぐ通路か」

「警察も用水路までは捜査できてなかったみたいですね」

「……あっ」

「どうしました?」

 

 レキの会話で思い出した。そうだ、警察。昨日坂田さんにもらった物がある。

 

「悪い、忘れてた。地図もらったんだった」

「それは用水路ですか?」

「そう。ついでにいつから総武高がここに繋がっているか調べてもらったが、どうもこれが不明らしい」

「不明、ですか」

「あぁ。この用水路自体はかなり昔に造られたもんだが、多分石動組かそれに関わる組織が工事に関わっていたみたいだ。石動組はかなり歴史のあるヤクザだからな。警備会社や水道の会社に知らされている造りとは少し違うらしい。まぁ、いざという時の逃げ道だな。こういうのが恐らくあといくつかあるっぽい」

「実際、ここは多少灯りはありますが、そこまで明るくありませんね。むしろ暗いです」

 

 俺らは懐中電灯を持ってきているが、それでも足元ははっきりしない。100m間隔に電灯が設置されている程度だ。普通の用水路がどんなもんか分からないが、普段は関係者も常日頃からこんなとろに入らないだろうし、こんなもんか。

 

「それで、もらった地図というのは」

「これ」

 

 レキに明かりを灯しつつ見せる。今日の朝に学校に行く前にもらったものだから、俺も詳しくは見れていない。これのどこかに石動組と関わりのある場所に繋がっているはずだ。

 

「八幡さん、この赤丸は何でしょう?」

「ん、ホントだ。印あるな。えーっと……あー、これあれだ。石動組に関係ある施設と繋がっている場所だわ。……ていうか、この用水路ほぼ一本道だな」

 

 確かに赤丸のある場所は石動組の本拠地やそれに類する場所……取引現場とかに使われた場所だろう。この辺りを探せばいいかもしれない。といっても、実際の隠し道はどこにあるかは定かではないがな。

 

「……レキ、地図は覚えたか?」

「はい」

「んじゃ、地図と見比べて何か違和感あったら教えてくれ。俺も注意しながら歩くけども」

「了解です」

 

 今思ったが、総武高から幕張の方まで歩くのこれキツくね?

そして、改めてレキが有能すぎる。俺の必要性よ……。まぁ、レキは近接ボロボロだし、銃剣ないから俺がそこはカバーするしかないので、まだ必要な場面があるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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総武高校編⑪ 飛ぶ

「……八幡さん。止まってください」

「ん、ここか」

「はい」

「ありがと。……さすがに俺じゃ分かんないな」

 

 あれから歩き始めて2時間経ったか経ってないほど。レキが地図とは違う地形を見付けた。

 

 その部分――天井を注視してみると、俺らが入ってきたときと同じような造りになっている。上に人1人が通れるだけの穴が空いており、そこには梯子も蓋もされてない。パッと見じゃ通気孔のような扱いを受けるだろう。ていうか、薄暗くてまず気付かない。

 おおよそ3mの高さがある。微妙に高いな。俺が身長170前後だから……1mちょっとは飛ばないといけない。飛んだとしても中が空洞だったら――いや、よくよく見れば、穴に入るとうっすらと梯子が見える。さすがに暗すぎると危険だからだろう。

 

 登る前に俺は地図を開く。

 

「現在位置はと……」

 

 地図を確認。あー、幕張駅から数百m離れた辺りか。 一応印付けておこう。警察にいずれ教える必要あるだろうし。スゴい、俺ってばめちゃくちゃ考えて動いている。やるじゃーん。……なんか自分で言ってて悲しくなるな。

 

「どのように登りますか?」

「ワイヤー銃で行こうと思ったが、さすがに鉤爪引っ掛からなそうなんだよな。梯子に引っ掻けるのもしにくそうだし。そもそもが暗いしなおさら。……ちょっと待ってて。あ、ドラグノフ貸して」

「はい」

 

 レキのドラグノフを肩に担いで飛翔で狙いを定めて飛ぶ。

 

 慎重に飛んだ結果、無事梯子を掴むことは成功した。ドラグノフもどこにもぶつけてない。

 

「なぁ、レキ。ロープとかある?」

「いえ」

「さすがにワイヤーじゃ引き上げるの厳しいか。……よっと」

 

 一度降りる。

 

「俺がドラグノフ背負ったまま運ぶのは可能だ」

「私が持ちますけど」

「それでもいいけど、下手に引っかけるのもあれだし、先にレキに登ってもらってそのあと俺が手渡すって形でどうだ?」

「分かりました」

 

 レキは一応は納得した形をとる。まぁ、そらゃ自分の一部なんだから、そう簡単に手放したくないか。

 となると、まずは――

 

「……レキ、俺の上に乗って」

「……そういうご趣味でしょうか」

「違うわ! 背負うから上から飛び移ってくれ。ドラグノフ持っとくから」

「ふふっ。はい、分かりました」

「――っ」

 

 不意に見せたレキの笑みにドキッとしました、はい。あれは卑怯。コイツも冗談言うようになったな。

 

 

 

 そして、無事に上に上がってからGPSを用いて詳しい現在位置を調べる。今俺らがいるのが薄暗い駐車場だ。とはいえ、全然車が停められていないところを見るに普段は使われていない駐車場だろう。かなり暗いし、非常灯くらいしか点いていない。

 

 調べてみたはいいけど。

 

「どこだここ。なに、ビル?」

「……の地下のようですね。商業ビルとのことですが、石動組と関わりのある企業がいくつかあるようです」

「えー、これ片っ端から調べるのか。……だるっ」

「どう進めます。隠密に行きますか?」

「いや、適当に歩こう。誰かそれっぽい奴見付けたら適当に痛めつけりゃいいし」

 

 とりあえず階段を探す。一応小声で会話は続ける。わりと声響くな、ここ。

 

「そういえば、猛妹と会ったビルじゃねーんだな」

「あそこは普段一般の客も使われているホテルだそうで」

「そか。そういやそうだったな。てことは、ただ場所を用意しただけかー」

「そもそも藍幇と現在も取引しているのでしょうか?」

「どうだろうな。そんなピンポイントに乗り込めるとは思わないけど、何かしら証拠残ってればいいな。あ、取引については人がいない倉庫とかで行われているって坂田さんたち言っていたっけ。だからまぁ、必ずしもここと石動組が関係しているかって言えば、微妙な線だがな」

 

 適当に非常階段を登りつつ、誰かいないか探す。調べた限り、このビルは普通に高いレベルの建物だし、さすがに無人ではないと思う。なかなかこのレベルのビルが夜に差し掛かった時間帯で無人になるとは考えにくい。

 

 ネット調べだと、ビルの全体像は載っていない。どこかで探せればいいが。まぁそれは二の次だ。適当に誰か探すかな。

 

「最初にどこへ行きますか?」

「最上階?」

「その心は」

「何となく」

「……はい」

「呆れた?」

「いえ」

「なら行くか。エレベーター使えるかな」

「使えなかったら運んでくださいね」

「それ俺に負担かかりすぎるだろ」

「お姫様抱っこで」

「それ気に入ったの?」

「……」

「おい」

「お願いします?」

「任された」

 

 なんてワガママなんだこのお姫様は。めっちゃ可愛い。死ぬ。

 

 

 

 

 数分が経って最上階へ移動。エレベーターは普通に使えたからお姫様抱っこはなしの方針だった。微妙すぎて分かりにくかったが、少しレキはムスッとしていた。

 まぁそれはいい。ただ、ここまで行くのに誰ともすれ違わなかったのは気になる。あれか、昨今流行りの残業なしが浸透しているのか。残業したらぶっ殺すぞ的なあれか。なんて素晴らしい心がけだ。しかし、今だけはありがたくねぇ……。誰もいないと情報がないんすよね。

 

「誰かいるかな」

 

 エレベーターホールのとこほから耳を澄ます。話し声は……ん?

 

「しますね」

「だな。うっすらとだが。防音設備でも使ってんのか?」

「でしょうね。その上で扉が少し開いているから漏れているのではと」

「男の声……複数」

 

 ここで一旦俺らは黙って目で会話する。『行くぞ』とか『分かりました』とかそんな感じの会話だ。ここまで来たらさすがにおふざけはしない。足音を殺して周りに気を配る。センサーも全快だ。

 

 歩くこと20秒。目的地に着いた。つっても、すぐそこだったんだけどな。昨日、猛妹と会ったようなフロアだ。あそこほど豪華絢爛というわけでもないが、まぁそれなりには高そうなフロアだ。扉が微妙に開いており、そこから中を確認できた。男が複数……4人程度か。あれ、意外にも少なくてびっくり。

 

 パッと見若い青年社長みたいな奴。背が高い目付きが厳つい老人。プロレスラーのような風貌をしたゴツい体格をした奴。なんか……武士みたいな風貌をしている奴。この計4人。

 

「アイツら……」

 

 遠目からで完全に判別できないが、恐らく全員石動組の幹部だ。……昨日会った木崎はいない。幹部全員はいないみたいだ。まぁそれはいいとして――――組長がいる。あの青年社長みたいな奴がそうだ。それに、何かトランクがある。それも数台。正確な数はここらでは分からない。特に食事をしているわけではなさそうだ。

 

 レキと目を合わせ、俺は瞬き信号で『待機』を送る。レキはコクッと頷きドラグノフに手をかける。いつでも撃てるようにと。俺もヴァイスをそれぞれ取り出し組み立てておく。臨戦態勢で中にいる奴らの会話を聞く。

 

 

「藍幇の大使に話はついているか?」

「えぇ、組長。上々ですよ。といっても、私は今回の藍幇の責任者は知らないので間者でのやり取りですが」

「あー、そりゃ悪いな」

「そこは組長の役割だから割り切ってるっての。……で、実際どんな奴なんだ?」

「ん、いやー、そこも黙ってろって言われているからな。信用のためにも話さないでおく。ま、意外な奴とだけ言っておくぜ」

「気になりますな……」

 

 

 …………うん、ドンピシャですねこれは、はい。藍幇との取引現場ではないから、証拠を抑えるのは厳しいだろう。しかし、取り押さえてあとは警察に押し付けよう。とりあえず坂田さんにメール送っておこう。

 

 

「で、銃はどれだけ集まった?」

「途中警察の邪魔があったが、概ね予定通りってところだな。これだけあれば弱った鏡高組を滅ぼすことはできるだろ」

「こっちの人数も少ないのが難点ですけどね」

「木崎の奴と佐倉の爺さんは鏡高組と全面的に抗争するの反対してるからな。あの2人に付いている奴らは連れ出せねーし」

 

 

 鏡高組――それは東京を中心に活動しているヤクザだ。確か近年組長が死んで石動組と似た状況になっているはずだ。ヤクザ同士戦うということになるのか。出入りってやつ?

 

 というより、そもそもどうしてここで話している? 普通に本拠地で話せばいいものを。

 

「ま、あの2人の気持ちも分かるがな。なにせ、これがミスれば逆にこっちが取り込まれるんだからよ。組長として、あの2人を責めるつもりはない。……それで、鏡高組の内部分裂はどうなってる?」

「順調とだけ。少しずつこっちに取り入れているよ」

 

 内部分裂か。なるほど、石動組が今回藍幇と手を組んだのは鏡高組と抗争するためか。確実に勝つために敢えて内部分裂を引き起こしたみたいだ。ということは、向こうにも鏡高組の組長を良くと思わない奴らが多いってことか。

 

 で、さっきの疑問に対してのアンサー出ていたな。つまり、穏健派……のような奴らから反対くらうからこんなとこで話しているって訳だ。

 

 

「おっと――――」

「おい、気を付けろよ。今から決行するんだからよ」

 

 

 ……おいおい、トランクを1台倒したと思えば明らか30は超える銃が出てきたぞ。トランクに詰め込んでいたのか。けっこうなトランクが置いてあるかと思えば。

 

 

「下に組員集まってるよな?」

「はい、抜かりなく」

 

 

 レキと顔を合わせて互いに頷く。警察到着まであと3分ってところだ。証拠もばっちり。

 

「じゃ、そろそろ――」

「――――行かせねーよ。オラッ!」

 

 扉を思い切り蹴破り、割って入る。それどころかバギィィ――――! と、見事なまでに扉は勢い良く吹っ飛んだ。えぇ……。立て付け甘くない?

 

「……ッ!?」

「なんだぁ?」

「ほう……」

「その服装……武偵か」

 

 組長は驚き、プロレスラーみたいな図体の奴はのんびりとこちらへ向き、背が高い目付き悪い老人は達観しており、なんか武士っぽい奴は俺らの服装から武偵と見破ってきた。

 

「どもども、皆さん初めまして。あー、組長さんは俺ら知ってますかね? 昨日の件でお世話になりました」

「ハッ。そうか、テメェが比企谷八幡か。藍幇の人が会いたいって言ってた武偵」

「へぇ、木崎が送迎した奴か。こんなチビッ子がか」

「しかし、えぇ。やりますな、彼……」

 

 ヤクザはすぐこちらの戦力見抜くから嫌いだ。といっても、パッと見じゃ見抜けない戦力が俺やレキにはあるんだがな。そう簡単に見破られてたまるか。

 

「とりあえずそのトランクにはわんさか入っているそれ、押収させてもらうぞ。ついでに取っ捕まえてやる」

「アァ――!?」

「うっせーな。こっちだって長い捜査でぶっちゃけかなり疲れてるんだよ」

「チッ、組長。人数ならこっちが勝ってんだ。こっちが捕まえてやり――――ッ」

 

 あら、プロレスラーみたいな図体の奴倒れた。俺の隣ではレキがさっさとドラグノフぶっぱなしたみたいだ。いつもの相手の神経を麻痺らせる凄腕の狙撃で。……それはともかく。

 

「……っ。あぁ! うるせっ! レキ、隣でいきなり発砲は耳痛てぇわ。つか、隠密任務なら消音器つけろよ。いや、俺もつけてないけどさ」

「あれは命中率が落ちるので嫌いです。それにこれだけ距離が近ければ無意味です。すぐバレます」

「そうだけどさ。あと撃つなら合図送ってほしかった」

「……正直面倒です」

「でしょうね」

 

 なんてマイペースでやり取りを続けながらも烈風で駆け寄り、2mほどある棍棒――ヴァイスを振り回す。棍棒っていいよね、適当に振り回すだけでかなり脅威になる。熟練者でも素人でもだ。

 

「グッ――!」

「アッ」

 

 組長は股間を思い切り下からヴァイスを突き上げ、武士みたいな奴は俺がヴァイスの端を持ちってから遠心力で振り回しアゴを殴った。それだけでノックダウンする。

 どれだけ鍛えてもアゴや股間は鍛えようがないからな。股間は言わずもがな、アゴはクリティカル貰うと脳が揺れる。プロテクターとかあるなら、もちろん話は別だが、わざわざそこにプロテクター付ける奴はまぁいないわな。だからこれが一番手っ取り早い。

 

「……」

 

 で、残り1人もレキがちゃちゃっと気絶させた。うーん、制圧に30秒もかかってない。とりあえず組長は話を聞くから残すとして、残りはスタンバトンでオチさせとこう。あとはロープ……ないからワイヤーでいいだろう。ぐるぐる巻きにしてと。

 

 普段慣れていない股間を殴られた痛みに涙目になっている石動組組長を見下ろす。尋問開始か。全然経験ないから何から始めればいいのやら。坂田さんたちが来るまで適当にするか。

 

「……で、この銃たちはどこから買ったものか?」

 

 せっせとトランクをまとめているレキに指差し、そう訊ねる。

 

「――――」

 

 ま、黙秘するよね。知ってるよ。誰だってそうする。俺だってそうする。いきなり喋る奴は普通にいない。

 

「答えなくていいけど。別に藍幇絡んでるの知ってるし」

「…………なに?」

「だって昨日聞いたし。証拠なかったからどっちも抑えることはできなかったけど、まぁこれだけあれば充分だろ。照合すれば未登録……密輸の銃って分かるだろう。それはいい。さっき鏡高組と抗争って言っていたな?」

「……」

「あれはそのままの意味か?」

 

 目を逸らした。

 

「どっちの事情も概ね把握している。どうやら今日仕掛けると言っていたが、どこでだ? 車ってことはここからそれなりに離れた場所か? どうせ言うことになるんだから、さっさと言った方がいいぞ。言わなかったら……どうしよっか。指の関節変な方向に曲げるか、脱臼させるか」

 

 と、口では言うが、無抵抗な相手を故意に痛め付けるのは趣味じゃない。できれば早く言ってくれた方がこちらとしたは助かる。

 

「下にある程度ヤクザの子分たちがまとまっているって言っていたな? てことは、その中にドライバーいるだろ。さすがにドライバーには目的地教えているよな?」

「……さぁな」

「めんどくせっ。どうせ時間の問題だっての。……で、どうして今日なんだ?」

 

 あまり痛めすぎると自身の痛みで話せなくなりそうだから、どこをやると効率的なのかさっぱり分からない。尋問の授業苦手だったしな。評価かなり低かったので。とりあえずスタンバトンの威力を弱めて電気を流す。

 

「ガ――ッ」

「どう? 話す?」

「はぁ……はぁ……誰が」

「まだ余裕あるのか」

 

 ダメだ、思い付かない。というわけで、もう色々考えるの面倒だから一思いに銃で足撃つかどうか真剣に迷う。まぁ、しないけど。じゃあ――――

 

「動くなよ」

 

 ――――パァン!

 

「――――……ッ」

 

 乾いた銃声。

 別に当ててない。頬を掠めるギリギリを攻めて撃っただけ。弾は床にめり込んでいる。恐らく多少は頬に熱はあるだろうが、ケガはしていない。ただ、自分の命が失くなるかもしれないという恐怖を与えただけだ。

 

 組長さんはとても怯えた目付きで。

 

「し、正気か、お前……」

「えっ、いやいや。俺別に当ててないだろ。それに、ヤクザならこういうのにも慣れっこじゃないの。知らんけど」

 

 関西人、伝家の宝刀『知らんけど』。これを文末に付けるだけで話をなあなあで済ますことができる。てか、てかさ、ヤクザってこういうの良くやってるんじゃないの? 創作物だけの話? それとも自分に向けられるのでは話が違うと? なんと身勝手な。

 

「さっも言ったけど、動くなよ。下手に動けばどうなるか知らないからな。それに俺ら武偵は殺人禁止だからな。当てはしない。でもまぁ、言わない限りずっと続けるけど。恐怖との戦いかな、これは。じゃあ、次発発射す――」

「待て、待ってくれ」

「……オッケー」

 

 随分と呆気ない。俺からしたら時間短縮になったからありがたいので文句は言わない。

 

「鏡高組の組長が死んだのは知っているな?」

「何となくは。お前らも似たようなもんだろ?」

「あぁ……。で、新しく組を継いだ奴がその組長の娘だ」

「ほぉー」

「……当然、そんなの良しとしない奴だっている。まだ年もいってない。いくら血縁関係だろうとな」

「あぁ、なるほど。それで、鏡高組の一部が反乱すると」

「そういうことだ」

 

 確かに年端もいかない奴が継いだら、多少なりと反感は起きるだろう。

 

「それで、お前らがバックアップに付いたと?」

「とは少し違う。俺らは鏡高組の反抗勢力と話をつけて、ソイツらを石動組に勧誘した。その条件に武器と人員の手配を要求された。向こうにもツテはあるが、下手に動きを勘どられたくないってな」

「あー、それでか。話は分かった。それで、どうして今日なんだ?」

「さぁな。どうも向こうが今日反乱を始めるって連絡が来たんだ」

 

 これは……ウソは言ってなさそうだ。この状況でウソつけるほど余裕はなさそうだ。万が一にも撃たれたら――そんな可能性が頭に過るのだろう。冷や汗や視線から間違いではなさそうと判断する。

 

「どこでだ?」

「聞いてどうする?」

「え、乗り込んで制圧するだけだけど? 明らか事件だろ。お前らの様子見るに発砲起きる可能性だってあるし」

「チッ。――――だ」

 

 そう組長が言った途端、ドタバタと警察が乗り込んできた。機動隊が数人と坂田さん、それにあと何人かも。

 

「お疲れ様です」

「比企谷さんもありがとうございます」

「まぁ、タイミングがたまたま噛み合っただけですよ。それでは、コイツらの確保お願いします。そういや、下の方……階数は分からないですけど、まだ何人か固まっているそうで」

「それについてはご安心を。もう取り抑えています。幸いにも、下にいる奴らは武器を持っていなかったので」

「それなら多分、あれですね。……レキ」

 

 レキを呼ぶと、トランクを引きずり中身を確認してもらう。けっこうな数に坂田さんは目を丸くさせるが、すぐに気を直しこちらに向く。

 

「本当にありがとうございます」

「いえホントタイミングが良かっただけですよ。……ここ最近取引がなかったのは恐らく警察を警戒したってのもそうですが、大方揃ったというのが最大の理由でしょうね。あとで報告まとめるんで、失礼します」

「ひ、比企谷さんにレキさんまで、どちらに?」

「厄介事ができたんで片付けに行きます。後お願いします。あ、そこの銃痕俺がやっちゃったので後始末頼みます!」

 

 

 とだけ言い残し、警察に頭を下げつつ退室をする。お仕事、お疲れさんです。内心めちゃくちゃ頭をペコペコしながら人目のつかない廊下の端へ移動する。

 

「ところで、どちらに行くのです?」

「東京の……えっと、遠山の実家近くに飛ぶ。何回か遊びに行ったことあるし、正確な座標はイメージはできる。武偵高よりかはまだそっちのが近い」

「飛ぶ――ということはアレを試すのですか?」

「おう。事前に試しはいるが、千葉から東京の長距離は初めてで自信がちょっとないけど……頑張ります。誰もいないよな?」

「はい」

 

 軽く深呼吸。

 

「――――」

 

 集中。目を閉じて瞑想をする。……集中だ。

 

 キラ、キラキラ――――

 

「…………」

 

 

 俺の周囲には蒼色の小さな光の粒が、2個、4個、8個、16個――――倍々に増えていく。

 

 

「レキ、手を」

「はい」

 

 俺とレキは手を繋ぐ。互いに存在を証明するために。

 

 

 今から俺が行うモノは色金の力の一部――――視界外瞬間移動(イマジナリ・ジャンプ)

 

 

 字の通り、瞬間移動だ。点から点へ移動する超能力。

 ここ最近、ヒルダを捕まえてから驚くほど色金が俺の身体に馴染んでいくのが分かる。まだ全ての力を引き出せているとは思えない。しかし、手に入れてから数ヶ月かかってやっと使えていた今までとは違う間隔で、もっと早く色金の力を使えている。

 

 この瞬間移動は視界内であれば、5秒で発動できるようになった。烈風や飛翔で距離を詰める方が今のところ使い勝手はいい。視界内でも、遠すぎる場所なら瞬間移動の方がいいが、現時点ではそんな状況が少なすぎる。もちろん、これから先もっと短縮する必要があるのは置いておく。

 

 しかし、視界外ともなると、行きたい場所への明確なイメージがないと飛ぶことはできない。例えば、実際行ったことがあるとか、その地の場所の座標を理解しているとか――簡単に言えば、『空を飛ぶ』仕様だ。それに加えて、かなり時間がかかる。だから、現時点ではある程度マーキングした場所へ飛ぶようにしている。ホントにポケモンみたいだ。まだまだ練習段階にあるから、これからもっと使えるようになるかもしれない。

 

 

「行くぞ」

「はい」

 

 

 光の粒が128個、256個、512個――――といったところで。

 

 

「――――……ッ」

 

 視界が変わる。さっきまでいたビルの廊下ではなく、東京の巣鴨へと着いた。ホントに一瞬で。何度も試しているが、この感覚は未だに慣れていない。しかも飛ぶ距離によって超能力の消費も激しくなる。……この程度なら、まだ烈風は使える。大丈夫だ。

 

「ここからどう移動します?」

「飛翔で行く。目的地はここだ。道案内を頼みたい。……覚えたか?」

 

 片道分なら足りる。

 

「大丈夫です」

「夜でも見られないとは限らない。高いとこを全速力で飛ぶ。お望み通り、お姫様抱っこで運んでやるから……しっかり掴まってくれ」

「――ッ。は、はいっ。分かりました」

 

 珍しく語調が揺れたレキをチラッと見ると、薄暗くて分かりにくいが、それでも、レキの頬が紅く照っているのが見て取れる。こんな状況なのに肝が据わっているな、と思わず苦笑しそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、エロゲにハマりつつあることを報告します。どうでもいいかもしれないけど、千恋*万花や9-nine-めっちゃ良かった。まだゆきいろや新章はプレイしてないけどね。9-nine-が終われば、次はリドル・ジョーカーにしようかなと思案中です

……ちょっとここ最近出費増えてて色々ヤヴァイので、8月になるまで抑えるけどね



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総武高校編⑫ 自分より優秀な人物が周りにいると、基本的に任せたい

「八幡さん」

「どした」

「空は快適ですね」

「さよかい」

「私も飛びたいです」

 

 全速力で飛びながら話しかけてくるもんだから集中途切れそうで怖い。神崎助けたときほどのスピードは出てないにしてもだ。それでも、少しでもミスれば地面に激突するかどこかの建物に一直線だから神経使うんだよ。

 

「材木座か平賀さん辺りに何か作ってもらえば? スナイパーが空飛ぶとかそれどうなんって話だけど。目立ちまくりだろ」

「それを言ってはおしまいです」

「お、おう」

 

 最近レキのキャラに付いていけなくなりそうです。

 

「ただ、やはり便利そうです。ビル間の移動や八幡さんの周りにウジ虫が現れた際にもう素早く移動ができます」

 

 ……なんだか風の音がうるさすぎて途中から聞き取れないなぁ。バサバサとうるさい音がするから聞こえないなぁ。いやホント、聞き取れなかったんですよ。ホントだよ? オレ、嘘つかない。

 

「……猛妹いつか殺す」

 

 あーあー! 聞こえなーい!

 

 

 

 

 

 そんなこんなで無事到着。あれをそんなこんなで片付けていいのかは置いといて……置かせて?

 

 場所は西池袋の鏡高組の豪邸。前に幕張で見た石動組の本拠地より幾分大きい。

 

「……ん?」

 

 その角付近、誰かいる。女1人、男が3人ほど。誰だろうかと思い、その付近へ降りる。なるべく目立たないようにゆっくりと。しかし――――

 

「あれ、誰なの?」

 

 女にはバレた。なんか一瞬で。音も気配も消したつもりなんだがな。このまま一旦退避するべきかと迷っていたら、俺らの方へと近付いてきた。あ、暗くて分かりにくかったけど、コイツ武偵高の制服着ている。同級生か下級生だろう。

 

「……って、あなた確かイレギュラーじゃん。なんでこんな大物がここにいるの?」

 

 明るい茶髪のショート系女子に話しかけられる。って、ちょっと待て。そっちの恥ずかしい名前知っているってことはお前アッチの界隈の人だな?

 

 警戒して銃を取り出そうとするが。

 

「違うって。敵じゃないよ。お兄ちゃんの妹」

「お兄ちゃん?」

「うん、遠山キンジの妹、遠山かなめでーす!」

 

 元気良く挨拶する自称・遠山の妹。

 え、なにコイツめっちゃ怪しい。遠山には兄(姉)しかいなかったはずだと記憶しているが。金一さん(カナ)からも他に妹がいると聞いた覚えはない。もしいたら、カナなら絶対と言っていいほど自慢するだろう。って、捜査始めてしばらくしたとき遠山から連絡来たときがあったな。

 

「そういや、この前妹を名乗る不審者が現れたって遠山言ってたな」

「不審者じゃないよー。歴とした妹ですー。ちゃんと血縁関係あるからね!」

「……隠し子的なあれか」

「うーん。まぁ、似たようなものかな」

 

 説明が面倒なのか思案顔になりつつも詳しくは教えてくれなさそうな雰囲気を醸し出す。

 

「詳しくは本人に聞くとするか。んじゃ、改めて比企谷だ。よろしくな、遠山妹」

「……今の、もう一度」

「あ? よろしくな?」

「そのあと」

「……遠山妹?」

「その呼び方……いい。めっちゃいいよ……ハァ」

 

 なんか頬が紅く染まっており、恍惚とした表情になっている。  

 え、なにこの子怖い。顔赤らめているけど、もしかしてこんな野外で興奮しているのか。えぇ……。怖い、ホント怖い。遠山妹、どこか星伽さんと同じ匂いがする。同類なのかそうなのか。遠山の周りには色物ばかり集まっている気がするなぁ。

 

「まぁ、お前が遠山の妹かどうかはいいとして、そもそも何者だ? どうも一般人じゃなさそうだな」

「妹なんだけどなぁ。ま、簡単に言うなら、戦役参加者だよ」

 

 あ、やっぱり?

 そりゃ俺の恥ずかしい二つ名知っているよね。

 

「どこ所属だ」

「ジーサードって分かる?」

「あぁ、あの戦闘狂みたいな奴か」

「間違ってはないけどね……。今は色々あってジーサードからは離れてお兄ちゃんの妹やってます!」

「あっはい。そうですか」

 

 深く関わるのは面倒そうだが、妹に悪い奴はいない。今はその認識でいこう。

 

「ところで、イレギュラーは」

「それで呼ぶな。恥ずかしいだろ」

「はーい。うーんっと、比企谷さんはどうしてここに?」

「それは俺のセリフだが……今調べてる事件流れだな。ここに用がある」

「ほーほー。……あ、私この人たち病院に運ぶから急がないと。またねー」

 

 とだけ言い残し、ダッシュでその場を去っていった。絶対、これ俺と話すの面倒になったよね? 受け答え雑なんだよね。別にいいけど。怪我人いるのは本当みたいだし。

 しかしまぁ、遠山妹が介抱していた奴らは誰だったんだ。ヤクザ? それとも遠山の関係者? あれ、てことはここに遠山いるのか?

 

「悪い、レキ。待たせた」

「大丈夫です。では、突入しましょう」

「だな」

 

 

 

 

 豪邸に突入し、どうやら騒ぎの中心であるホールへ移動する。

 

「うらっ!」

 

 またもや扉を蹴破り突入。……くっ、今回は壊れなかったか。

 

「おっとっと」

 

 中に突入したはいいが、そこにはヤクザと思わしき人物が軽く50は越えている。おぉ、とてもこちらを睨んでくる。というか、いきなり誰? って反応ばかりでフリーズしているに近い。

 

 なにこれめんどくせっ。しかもちゃっかり武装している奴もいる。あれ、だったら石動組必要ないんじゃね? と思ったが、銃を持っているのは一部だけだ。全員が全員ってわけじゃないのな。そのわりにはショットガンやら短機関銃やら持っているんだけど……。

 

「――――」 

 

 にしても、違和感がある。コイツらが所持している銃だ。何と言うか、ついさっきも見たような銃ばかりなんだよなぁ。さすがにショットガンやらはなかったけどなぁ。それでも、だいたいは察しちゃうよなぁ。完全にマッチポンプじゃねーか!

 

「はぁ……」

 

 まぁいいや。とりあえずはコイツらがクーデター起こした反抗勢力ってところだろう。ということは近くに組長の勢力がいるはずだ。ソイツらは一体どこ……に……。

 

「…………何してんの、遠山」

 

 なんか縛られている振りをしている遠山がいる。その近くに着物を着た金髪の女子と明らか一般人の女子がいる。一般人の方は遠山みたいに縛られている。こちらは振りではなくマジ。

 

 遠山妹がいたし、現場にいるとは思っていたが、マジで何しているんだか。

 

 事情分からないな。どうすればいいのやら……。まぁ、ヤクザたちを制圧するのには変わりない。

 

「比企谷!? それにレキまで」

「おい兄貴、コイツら殺していいのか」

 

 あ? なんか誰もいないところから声したんだけど。センサーの範囲外だったから気付かなかったぞ。聞き覚えのある声だけど、誰だろ。そう思っていたら、その場から透明マントみたいなのを剥がした男が出てきた。

 

 とりあえず近寄ってみたら、その人物を見た俺はその風貌に驚く。

 

「遠山じゃねーか。お前いつの間に影分身会得したの?」

 

 格好は派手な特攻服を着ているが、顔とか背丈とか遠山そっくりだ。真っ先に思い付くのが双子とかじゃなくてドッペルゲンガーとか影分身辺りなのどうかと思うけど、遠山だからね仕方ないね。

 

「あー? お、マジか。お前イレギュラーか。なかなかの大物がこんなとこでお出ましじゃねーか!」

「え、誰? 遠山じゃないの?」

「違うに決まっているだろ。ソイツはジーサード。俺の……弟だ」

 

 ジーサード? 遠山妹の言っていた奴が……コイツなのか。宣戦会議のときは仮面をしていて分からなかったな。弟にしては顔似すぎだろ。もうこれ双子レベルじゃん。

 

「つか、弟って……妹に引き続き弟ときたか」

「かなめと会ったのか?」

「まぁな。とりあえずお前はその女子2人下げろよ。明らかジャマだろ」

「ああ」

 

 縛られている振りは止めて外へ女子を逃がす遠山。遠山が逃がすまでにジーサードが金髪女子の着物を脱がす一悶着があったのは何だったんだろう。完全に蚊帳の外でした。

 その間、ようやく俺らが登場してポカンとしていたヤクザが騒ぎ立て始めるが、そんなの気にせず俺はジーサードと会話をする。

 

「で、ジーサードって強いの?」

「兄貴の次に強いぜ」

「納得。そりゃ強いな」

「イレギュラーは超能力が特に強いと聞いたぜ。見せてくれよ」

「ごめん、わりと今ガス欠」

「チェー。つまんねーな」

「しゃーねーだろ。千葉からここまで瞬間移動してきたんだから」

「…………ジョークか?」

 

 普通に会話していたところ、ようやくジーサードの反応が変わった。目が点になったような顔付きだ。俺はとぼけながら答える。

 

「さて、どうだろうな」

「色金使えるんだったな。あながちジョークじゃなさそうだが」

 

 と、こんな会話を続けている間にも俺とジーサードは動きまくってこの場を制圧している最中だ。日常会話をしつつ敵を殴ったり、撃ったりする。なんかこの程度ならおかしいと思わなくなってきた自分に少し嫌気がさす。毒されてるなぁ、俺。

 

「よっと」

 

 3分割しているヴァイスを2つだけくっ付け警棒扱いにしてぶん殴り、ファイブセブンで相手の銃――特にショットガンや短機関銃を中心に無力化している。ジーサードも同様、いや全然同様じゃないな。コイツはなぜか素手でバカスカ殴っている。

 

 ……いや、お前銃持ってるじゃん。それ使えよ。どんだけ原始的なんだよ。

 

「――――ッ」

「あ、当たらねぇ……ウッ」

 

 俺に狙いを定めて撃ってきたヤクザ1人を殴って仕留める。銃弾は冷静にかわして。

 

 向こうから撃たれても拳銃相手ならだいたいは避けれる。基本的に銃弾は直線で飛ぶから、避けれる奴はとことん避ける。銃を使う視線と銃口の向き、相手の筋肉や指の動き、それらを注視すれば予測はできる。

 俺は動体視力はかなり高い方だから、素人相手ならまず当たらない。ヤクザを素人と言っていいのかはさておき。これがマシンガンやショットガン相手ならまず無理です。余裕で死ぬ。

 

 しかし、ジーサードは明らか当たるタイミングで撃たれているのに全然当たってない。気付けば相手が撃った銃弾で相手の銃を壊している。……あぁ、これ銃弾を指で挟んで跳ね返しているのか。……いやごめん、理屈は分かっても実行できるのはおかしくない?

 

「……」

 

 ああそっか。遠山の血縁ということはHSS使えるのか。それなら、ギリギリ納得できる。……できる? やっぱできない。できるわけないだろ。人間止めてね、コイツも。さすが遠山の弟。

 

 そうこうしている間にもレキが後ろから狙撃して何人か気絶させている。時には武装を破壊したりと、頼りになる。ただ、ドラグノフの弾数そこまで多くないし、メインは俺らでしないといけない。

 

 さて、次はどこから攻めるか――そう少し立ち止まったところで、突如として外から、というか空中からどうも聞き慣れた音がする。

 

 

 ――――バリバリバリ――ッ!!

 

 

 うわぁ、ガバの連射音だぁ。空中からの連射でヤクザの武器どんどん破壊している。ということは、つまり空中にいる人物はもう確定した。

 

「バカキンジ! あんたまた余所で女作って!」

 

 予想通り、既に怒り浸透の神崎アリアの登場だ。ていうか、空飛んでるんだけど!? なんで飛べるんだろう。いや、俺も飛べるけども。うーん、不思議だ。超能力じゃなさそうだし、てことは何かしらの兵器を使っているのか。

 

 そもそも無関係の神崎がどうしてここにいるのかと思ったけど、遠山辺りが呼んだのだろう。それか俺の知らない第三者が通報して、神崎が派遣されたか、そのどちらかだろうな。

 

「って、八幡? それにジーサードも!? キンジ、どうなっているの?」

 

 神崎は遅れて戻ってきたHSSになっている遠山に疑問を投げつける。さっきの着物云々でなったのかな。かわいそうだから現場見てないけど。

 

「比企谷はよく分からないけど、ジーサードは味方だよ」

「よく分からないってなんだ」

「いや、実際どうしてここに来たんだ?」

「レキ含め今捜査してた事件繋がりで」

「あらレキもいるじゃない。元気?」

「元気です。アリアさん、こんばんは」

 

 

 うーん、マイペースだなぁ。ここヤクザの本拠地ですよ? とまぁ、ここで、今の戦力の確認をしてみよう。

 

 こちらサイド。遠山(現在HSS)、ジーサード(遠山と同程度の強さに加えて恐らく現在HSS)、神崎(Sランク)、レキ(Sランク)、おまけに俺。この面子に混ざると、めっちゃおまけ感が強くて悲しい。俺いらなくね? 絶対いらないよね。まぁいいや。

 

 対して敵はまともに動ける奴らは40程度。俺とジーサードと神崎が色々撃ったり殴ったりして武装解除している奴らも多数。

 

 これお相手無理ゲーでは?

 

 

「さてっと、さっさと終わらせちゃいましょうか。あたしフロント張るわ」

「俺も前で暴れたいな。兄貴は?」

「お前らが前なら俺は後ろから全体的な援護かな。菊代や萌のことも気になるしね」

「……レキと一緒にサボっていい?」

「いいわけないでしょ! 八幡も働きなさい! 八幡は中衛ね。レキもキンジと一緒で後ろから狙撃で援護」

「了解です」

 

 こんなに面子揃っているなら、別に俺必要ないだろとひしひしと感じる。正直ここまででわりと疲れたから任せたい気持ちが強い。さっきまではジーサードと適当にお喋りしながら戦ってたけど、神崎来たならそれこそアイツらに任せた方が効率的だ。そう、効率的なんだ。別に決して働きたくないわけではなく、俺は全体的な効率や役割分担を考えて物事を言っているわけで――――

 

「行くわよ! って、キンジのベレ盗られてるじゃない! このスカポンタン!」

 

 ああはい、ダメですかそうですか。あとその表現今日日聞かねぇな?

 

 

 

 

 

 はいものの数分で終わり。結果? 聞かなくてもいいでしょ。神崎とジーサードが暴れて出番なかったって。やっぱサボっても良かったと思う。俺なんて2人が制圧した相手を拘束しただけだぞ。マジで帰りてぇわ。

 途中、遠山が保護していた女子2人が戻ってきて一悶着あったが、まぁそれはどうでもいい。遠山が撃たれた銃弾を素手で掴んだ程度で終わったし。……俺は突っ込まないからな!

 

 

 とまぁ、そんなこんなで反抗したヤクザは全員拘束は終えたが、一件落着というわけにはいかない。なぜなら、まだ厄介な問題が残っているからだ。そこに関しては、俺を含めこの場にいる全員が理解している。

 

「いるな」

「あぁ」

 

 遠山とジーサードが屋根の方を見上げ、言うように今回の黒幕――とでも言うべき奴らが残っている。神崎は一般人であろう女子2人を避難させようとする動きだ。

 

「とりあえずレキも神崎についてけ」

「……大丈夫でしょうか?」

「立派な盾が2人もいるからどうにかなる」

「おいこら比企谷」

 

 だって、遠山に攻撃当てても基本効かないし、色々防ぐじゃん。同程度の力を持っているジーサードも同様だ。

 

「ついでに坂田さんに連絡よろしく」

「分かりました」

 

 レキは神崎に付いていき、この場を離脱する。

 

「イレギュラーは上にいる奴ら検討ついてるのか?」

「大方はな。あと比企谷と呼べ」

「へいへい」

「それで、比企谷。コイツら誰なんだ?」

「行けば分かるだろ。つっても、遠山も知ってる連中だろうな」

 

 心底面倒そうにため息を吐く。それはもう三連休後の朝のような憂鬱さだ。今まで休みだったのに、急遽訪れる仕事や学校。そうう日に限って雨が酷く、余計にやる気が削がれるっていうね。憂鬱って読めるけど、書けない。うん、どうでもいいか。

 

 要するに今回上にいる奴らは鏡高組を裏で引いていた奴らだ。鏡高組の事情はそこまで詳しくないが、もうぶっちゃけ察している。どうせアイツらだよ。ぶっちゃけ会うのはめんどくさい。なんならしばらくは顔を見たくないまである。いやホント、疲れるんすよ。相手するのに。

 

「ハァ……」

「おい、どうした。イレ……じゃなかったか。比企谷八幡、そんなデカいため息吐いて」

「ちょっと億劫になったからお前らに任せたい。もう俺は充分働いたんだよ」

「あぁ~……。比企谷の反応からして俺も何となく分かった気がする」

 

 と、話しつつ屋根へと移動する。

 

 よっこいせと屋根へと上がったら、3人ほど俺らを待ち構えている。その中でも2人は見覚えがある。まず1人は――――

 

 

「ココ……?」

 

 遠山は眉を寄せたが、そう、新幹線ジャックを引き起こしたココだ。

 しかし、遠山が訝しむのも分かる。なぜなら、ソイツはメガネをかけているからだ。そんな奴はココにはいなかったはずだ。雰囲気的にも猛妹ではない。残り2人はまだシャバの空気を吸えていないはずだ。それらを考慮すると、今目の前にいるのは。

 

「4人目のココか」

 

 俺がそう結論付けると、遠山は少し驚いた反応を見せる。

 

「まさかの4つ子だったのか」

「ほーん。コイツらが兄貴と戦ったことのある組織ねぇ。藍幇か。その名前は俺でも知ってるくらいデカい組織だな」

 

 ジーサードが悪態をつくと同時にココの隣にいる人物が声を上げる。

 

「再会を心よりお慶び申し上げます。遠山キンジさん、ジーサードさん、比企谷八幡さん」

「俺は会いたくなかったけどな!」

 

 おっといけね、つい本音が。

 

 で、ココの隣にいたのは藍幇のお偉いさん……どこまで偉いのかは知らないが、諸葛だ。丸メガネをかけ、やたら豪勢な刺繍が入った中国の民族衣装を着ている。どの時代のものなのかは俺には判別つかない。

 

「これはこれは……厳しいお言葉を」

「そう思うならなぁ、お前マジで手綱握っとけ。前にも言ったよな?」

 

 あのあと大変だったんだぞ。主にお姫様のご機嫌取りに!

 

「えぇ、その事に関してはこちらの不手際です。しかし、いっそのこと受け入れたらどうです? きっと役に立ちますよ」

「その前に周りが血の海になること確定なんだよなぁ」

 

 俺はそうしみじみと呟く。あの2人は性格やら趣味やら色々含めて、そもそも根本的に合わなさそうだ。水と油のように、同担拒否するオタク同士のように。これ言い得て妙では?

 

「比企谷、何があったんだ……いや、聞かないでおく」

「大丈夫だ、いずれ遠山も同じ道を辿ることになる」

 

 遠山とぼやきながらも諸葛の隣にいる人物を見張る。

 

 ストレートな黒髪を足まで伸ばしてある女子。背丈はセーラよりやや低い。なぜか名古屋武偵女子高の丈が短い制服を着ている。なんていうか、制服というよりある意味水着に近い制服だ。覆っている布面積的に。

 

 そして、常に見開いている紅い瞳には表情がない。レキとは違う……もっと、違うナニカだ。

 

「――――ッ」

 

 この人物から放たれる雰囲気は似ている。ブラドやヒルダといったそういった仮生の類いに。というか、尻尾生えているし、人間ではまずないだろう。しかし、何だ、ヒルダたちともどこか違う。

 

 まず挙げられるのが不明瞭であり無機質な瞳。あれは……既視感がある。こういった雰囲気の相手はどこかと遭遇した記憶がある。誰だ――――そう記憶の海を探っていると。

 

「そこガキンちょが藍幇の代表か。FEWの」

 

 ジーサードがソイツを仕留めようと前に出る。

 

「待て、ジーサード」

「アァ? 止めるなよ比企谷。俺は無所属から師団に移ったんだ。戦う理由ならあるぜ」

「違う、お前死ぬぞ」

「は?」

「あれはそういう存在――――ッ。そうか!」

 

 思い出した。漓漓神! アイツと話したときの雰囲気と似ているんだ。全てを見通すかのごとき眼。あの感覚と一致する。正確に言えばちゃんとした姿を見せてくれたわけではないが。そして、猛妹は色金の力を使える奴が藍幇にいると言っていた。つまり、目の前の人物は――――

 

「……超々能力者(ハイパー・ステルス)。それも、俺よりずっと上の」

 

 下手すればそれだけじゃない。もしかしたら、話に聞いていたあのときの神崎よりも厄介な相手だ。

 

「なっ……!?」

「おいおいマジかよ……」

 

 俺の一言に遠山もジーサードも絶句する。

 

 すると、目の前の少女の周りに金色の粒状の光が現れた。その粒は倍々方式で増えていく。その粒は次第に無数になり、少女の頭上に金色の輪を作り始めた。これは……先ほど瞬間移動を使うときの現象と酷似している。

 

 おいおいおいおい、マジか、色金の力を使うのか。やるんだな、今ここで!?

 

「不味い、猴、鎮まりたまえ!」

 

 ん? 遠山から玉藻の声がしたぞ? 通信機器でも使っているのか?

 

 って今はどうでもいい。そんな疑問は後でだ!

 

「――――ッ!」

 

 金色の輪が完成する直前、咄嗟に屋根にある瓦を足で踏みつける要領で何枚か破壊する。そのときに出た砂ぼこりを烈風でばら蒔く。少女の視界を遮る。予想が正しければ、少女が使おうとしている力はあれだ!

 

「うおっ!」

「ちょ……!」

 

 烈風で土煙を作ったときと同時に俺は最後の力を振り絞り烈風を使い、遠山とジーサードを屋根から落とす。と、同時に紅い光は最高潮に達する。その場が紅く、紅く紅く輝く――――!

 

「ぐっ……!」

「ジーサード!」

 

 屋根から落ちる直前、遠山が力任せに叫ぶ。クッソが、少女から放たれたレーザービームは避けきれなかった。紅い光はジーサードの肩を貫いた。だが、もしあのままだったら、心臓か肺がヤられていた。不幸中の幸いってところか。

 

 

「…………」

 

 視線からしてジーサードが狙われているのは分かっていた。喧嘩売ったのアイツだしな。ただ、俺が狙われなくて良かったと安堵する。俺が狙われていたら正直なところ防ぐ術はなかった。屋根から落としたジーサードは遠山に任せるとして、ここからどう動くべきか。

 

 視界を防ごうと思って作った土煙の量は、どうやらというか、圧倒的に足りなかったみたいだ。ふっつーに易々と狙われた。閃光弾か発煙筒があれば良かったが、今は所持していない。もし次弾を撃たれたら俺は為す術もなく倒れてしまう。

 

 しかし、そうはならないはずだ。

 

 まだ少女の眼は紅く輝いているが、あれはブラフだろう。レーザービームは一度撃ったら、次を撃てるようになるまで最低でも1日かかる代物だ。自分の意思でレーザービームを使えるようになってからその辺りの実験は済ませてある。まぁ、今の俺はどんな状態でも撃ったら、まず気絶するんだけどな。

 もちろん、それが全員に当てはまるとは思えないが、間髪入れずに何回も撃つなんていくら俺より優れている超々能力者だろうとできないはずだ。

 

 それはレーザービームに限った話であって、それ以外の力なら分からない。普通に俺の知らない力を使ってくる可能性だって当然ある話なわけで。

 

「……さて」

 

 今から劇的に何かできることなんてないし、突貫でもするか。あのココは武器を持っていない。猛妹のように近接ができるようにも見えない。恐らく寄れば倒せる。諸葛は得体がしれないが、そこはなるようになれ。まずココを倒してから少女を仕留める。

 

 あまり勝算は薄いように感じたが、軽く自棄になりさっさと行くぞ――――と走り出そうとしたが……あれ、なんかココも諸葛も慌てふためいている。明らか想定外といった表情と仕草だ。何か2人して喚いているが、中国語なので聞き取れない。

 

 え、どしたの。もしかしてさっきの少女の独断専行? それとも制御できてない感じ? えーっと……これはどう動くべきだ。相手の事情は気にせず、今のうちに仕留めるか。それとも、様子を見るべきかと一瞬悩んでいたら、諸葛が動いた。

 

 あ、なんか諸葛が少女の頭に何かをかざしたら少女が気絶した。何したんだ。スタンガンってわけでもなさそうだが。描写を見るに超能力者を抑える道具のような物だろう。

 

「……おい諸葛」

 

 状況確認というか、状況が掴めていないというか、痺れを切らして一旦話しかける。

 

「申し訳ありません、比企谷さん。私たちは一旦下がります。遠山さん、ジーサードさんにも謝罪を言っておいてください」

「テメッ、こら待て!」

 

 あ、ちょっと……えぇ……。マジで撤退したよ。近くに車でもあったんだろうな。エンジンの音がする。逃げの算段はついているってわけか。今から追跡は厳しいか。超能力は正直さっき遠山とジーサードを助けたときで完全に使いきった。神崎なら……車相手では難しいな。

 

「比企谷!」

「悪い、逃がした。ジーサードは大丈夫か?」

「あ、あぁ……大丈夫だ」

「止血できてないんだから喋るな!」

 

 まぁ、こっちは遠山に任せて大丈夫だろう。玉藻もいるし。

 

 俺もその場を離れる。長居はしたくない。そもそもヤクザの抗争が起きたんだ。警察がわらわら来るだろう。大変そうな遠山たちには声をかけないでおく。神崎はどうやら追跡を開始していたが、さっきも思ったし完全には追跡しきれないだろうな。

 

 

 

 これ諸葛たちどこまで下がるんだ。もし中国やらに引き込もったら俺もう手の出しようがないんだが。別に俺は無所属だからそこは良いんだけど……こんなに武器密輸やらしたんだから、そこの後始末はどうするべきか迷うところだ。石動組側は証拠が出てきたが、藍幇側からしたら証拠なんてないし……。

 

 坂田さんたちと相談するか、と悩みつつ駅の方へ歩いていたら路地裏からレキがスッと出てきた。……おぉ、びっくりしたぁ。もうちょい普通に登場して?

 

「八幡さん、体の方は大丈夫ですか?」

「俺は全然。と言いたいが、ぶっちゃけ超能力使いすぎてダルい。めちゃくちゃダルい。……帰るまで面倒だな。電車で寝過ごしたら起こしてくれ」

「はい。明日で全て終わりますか?」

「だといいな」

 

 ――――まだこちらの事件は完全解決してないから、そこの情報も整理しないと。

 

 

 

 

 

 




ホントこいつ投稿ペース安定しないな

しかもまーた長くなったし……


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総武高校編最終話 日常へ

「昨日はお疲れ様でした」

「坂田さんたちこそ」

「はい、お疲れ様でした」

 

 鏡高組襲撃の翌朝、それもかなり早朝。俺とレキは警察に顔を出して事の顛末を聞いている。加えて、取り押さえる前に頼んでいたことも諸々確認のために訪れた。今日か明日で事件を終わらせたい。そろそろ疲れた……いや、武偵高での生活の方が疲れるけど、疲れるベクトルが違うというか。精神的に疲労するというか。

 

「そのあとどうなりました? その……銃痕が……そのー」

 

 威嚇射撃でビルの床を凹ませたの思い出して、思わず肩身が狭くなる。多額の金で弁償とか言われたどうしよう……。

 

「ま、まぁ、そこは石動組のせいと言いますか、上手いこと誤魔化しておきます」

「すんません。何かあれば弁償しますんで」

「いえいえ、大丈夫ですよ。そもそもあのビル、建設されたの20年ほど前なんですけど、石動組の息がかかった建設業者が関わってたみたいで」

「あぁ、やっぱりそうですか。じゃないと、わざわざあんな地下通路……用水路への出口作れませんよね」

「そうです。その業者はもう倒産していますし、管理を任された別会社も似たようなもんですから、だからまぁ、誤魔化しは効きますし、あそこ普段使うような人もいないらしいので」

 

 なら良かった……。一安心した。

 

「そういや、あのビルに何人くらいいたんですか?」

「幹部除けば、26人ですね。数多すぎると移動も大変ですしね。一応全員逮捕したんですが、余罪やら色々まだ調べている最中ですので、全員を追及できるかと言うとまた別の話になります。藍幇の関係者は調べが付いていませんので、さすがに……。ま、まぁ、密輸された銃はかなりあるから、そこをこれから捜査するところです」

「お願いします」

 

 そうなんだよな、藍幇を取り逃がしたせいで完全解決とまではいかない。というより、藍幇側の証拠がなさすぎて、捕まえるなど現段階ではできないのが現実だ。ホントアイツらときたら……クソが。

 

「それで、今回の依頼はほぼほぼ終わりということですね。ありがとうございます」

 

 今回依頼されていたのは総武高が誰に、どのように取引に使われていたかを調査するというのだ。確かにほぼほぼ終了したが、まだ判明していない部分もある。

 

「あー、いえ。まだ最後の仕上げが残っていますから。一件落着には早いです。総武側の人間……手引きした奴が誰なのかはまだハッキリしていませんので」

「あぁ、そのことで、先日頼んだモノの鑑定結果がこちらに」

 

 と、坂田さんはファイルを渡してくれる。中身をレキと一緒にパラパラめくりつつ読み進める。

 

「一応私も目を通しましたが、内情を知っている比企谷さんやレキさんの方が分かるのではと」

「そうっすね。大方予想通りというか」

 

 ここでレキが口を挟む。

 

「はい。しかし、これは……この人を逮捕という形に落ち着いて良いのでしょうか?」

「まぁ相手も相手だからな」

 

 今回石動組の手引きを実行した奴がなにせ生徒だからなぁ……。

 

「つっても、これ罪に問えますかね?」

「そうですね、判断が難しいところですが……恐らく窃盗にはなると思いますし、ヤクザと関わっているので内容にもよりますが、罪にはなるかと。とりあえず、取り抑えたら一報ください。私たちが直接行ってもいいのですが、ここは比企谷さんやレキさんの方がやりやすいのではと」

「分かりました。となると、なるべく騒ぎにならないように放課後狙うか。レキ、どうする、拉致る?」

「普通に呼び出しましょう」

「あまり警察の前で堂々拉致すると言わないでほしいのですが……」

 

 苦笑する坂田さんにすいませんとペコペコ頭を下げる。何分、こちらは犯罪紛いのとこをやることで有名な武偵でして。別段、その選択肢に対して抵抗感とかないのが困る。借金取りとかもやったことあったなぁ。

 

「そういえば、今朝ニュースサイトでチラッと見たんですけど、鏡高組の内容がけっこう内容と違ってましたね。内部抗争はそうですけど、石動組とのことは書かれてませんでしたね」

「情報統制があったみたいです。恐らく、藍幇の圧力が日本にかかってましまったのでは……。逆に、石動組の取り抑えは幹部や組長が含まれていたので、そこはちゃんと記事にしてもらましたけど」

 

 要するに癒着があったと。加えて、貴族である神崎が関わったらイギリスも黙ってないしな。今回は別に何てことはないだろうが。ただ普通に武偵として制圧しただけだしな。今さらだけど、どうして貴族が武偵をやっているんだろう?

 

 それはともかく――――

 

「あー、そういう感じっすかー。やっば藍幇鬱陶し……」

「全面的に同意します」

「お前のそれめっちゃ私怨も含まれているよな?」

「フフッ――――どうでしょうか」

「こっわ」

 

 

 

 なんて世間話をこなしつつ時間も近付いてきたので、俺とレキは警察をあとにした。目指すは学校、もうすぐで始業の時間だ。さすがに遅刻は避けたい。

 

 一応はこの長期の捜査で離れているから、単位を付けやすいようここの成績やらが武偵高に反映される仕組みになっている。まぁ、もう卒業に必要な単位は取り揃えてはいるけど。つーか、総武の授業内容難しくて、ホントに反映されるのか疑わしいまである。まぁ、そこは平塚先生が融通してくれるだろう。

 

 始業ギリギリで学校に着いた俺は誰とも話さずに席につく。クラスは何かといつも以上に騒がしく、何があったのか疑問に思っていると由比ヶ浜たちの声が聞こえた。由比ヶ浜と葉山と縦巻きロール……三浦か。

 

「近くにいるヤクザが捕まったって。チョー怖いんだけど」

「全くだね。何か事件を起こそうとしていたし、しばらくはワイドショーとかもこれで持ちきりかもね」

「でもでも、偉い人たちが捕まったし、危ないことないんじゃない?」

 

 クラスのいくつかのグループの話に耳を澄ませていると、どこも似たような話ばかりだ。

 

 やはり自分の住んでいるところ近辺で起きた事件があると、どうしても気になるし話題にもなるだろうな。その気持ちはよく分かる。ミーハーというか、変な優越感というか、野次馬精神というか、その辺りの感情が芽生えるのだろう。……ただ周りの反応を見るに俺とレキが関わっていることはどのニュースには載ってなさそうだ。少しばかし安心した。

 

 肘をついて改めて教室全体を見渡す。

 

「――――」

 

 ぶっちゃけいつも以上に騒がしい。グループで固まっている人たちの話題は似たようなもんだ。ただ、もうすぐ授業が始まるんだがなぁ。もうちょい静かにしてほしいなぁ。――――と、特に変わりのない、ここ1ヶ月で見てきたクラスの面々を見渡す。

 

「…………ん」

 

 しばらく眺めているとある部分に目がつく。

 

 あ、いた。目的の人物はちゃんと教室にいた。良かった。これで下手に休まれると捜索に時間かかるからそうなるとキツすぎるわ。んじゃ、次の休み時間辺りに適当にルーズリーフを千切って放課後に呼び出しかけるか。周りにバレないように仕掛けないとな。そのくらい余裕だけども。

 

 とはいえ、目的の人物を観察しているが中々に挙動不審だ。石動組と関わりがホントにあるのか話を聞いてみないことには分からないが、もし真実ならいきなりこんなことになって不安に陥るだろう。本音を言うと、どのようにただの学生がヤクザと面識を持つようになるのか甚だ疑問ではある。俺もマフィアとは繋がりみたいなのはあるけど、それは武偵だからの話だ。その辺りも放課後に訊ねてみるか。

 

 まずは――――

 

「さぁ、授業を始めるぞ。ちゃんと復習はやってきたか? もう半年もすれば、すぐに受験期間だ。今のうちに覚えれる範囲は覚えておいて損はない。今日も引き続き源氏物語だ。源氏物語は時系列ごとによって光源氏の立ち位置が違う。その違いを知るためには、それぞれのエピソードのザッとしたあらすじを覚えるのが手っ取り早い。まず紫の上からだが――――」

 

 平塚先生の授業だ。

 

 この先生、熊を素手で殴り殺せる脳筋のくせしてどうして授業は分かりやすいんだろうか。個人的七不思議だ。ちなみにあと6つはこれから考える。この人はホント無駄に男勝りというか、蘭豹と一緒に飲んだくれるから2人して婚期逃すんだよなぁ……。蘭豹はともかく、平塚先生はジャンヌ同様同性にモテそうだ。

 

 まぁ、目的の人物は教室にいるんだ。見失わないように焦らず進めよう。次の休み時間にはレキにも連絡をしておこう。とりあえず今は授業に集中しよう。

 

 

 

「ヒッキー、ちょっといい?」

 

 昼休み、目的の人物の机にはもう呼び出しのための手紙を仕込んでおり、ソイツはまだ教室にいるのでここで見張ろうとしたところで、由比ヶ浜が声をかけてきた。

 

「どうした?」

「一緒にお昼ご飯食べよっ!」

「葉山たちとじゃなくてか?」

「んーっとね、隼人君たちは部活の方で行っちゃったからね。優美子たちは今日学食だって言うから」

「なら学食行けばいいんじゃないか」

 

 わざわざ俺のとこに来なくても。

 

「まぁまぁ。あたし学食騒がしくてあまり好きじゃないんだよね。ゆきのんも今日は教室で食べるらしいし、部室に行くのもできないし」

「ほーん。別にいいけど」

「ホントっ!?」

 

 そういそいそと由比ヶ浜は弁当を取り出し、隣の机をくっ付け広げる。

 

「あれ、ヒッキーパンだけなんだ?」

「まぁな。今朝はわりとバタバタしていて用意してなかったし、別にこれだけで充分」

 

 転校した当初は昼メシを早く食いすぎて周りから多少は浮いていたから、今は食べるスピードも気を付けている。武偵は飯を食っているときは無防備だから、早めに食べる習慣がある。ちゃんとした弁当なら未だしも菓子パンとかなら特に。

 

「そういえば、ヒッキー聞いた? なんか昨日この辺で大きなヤクザが捕まったんだって」

「らしいな」

 

 新幹線ジャック同様、俺らはめちゃくちゃ当事者だけど。

 

「物騒だよねぇ」

「全くだ。もうちょい平和に過ごしたいんだがな」

「だねー。前にサキサキが襲われていたときもそうだし、ちょっと最近治安悪いよね」

 

 サキサキ? あぁ川崎か。あのとき雪ノ下と由比ヶ浜いたもんな。

 

「この辺千葉駅周辺だから、わりかし武偵事務所多いんだけどね。こうも事件続きだと怖いよ。学校近くにも一軒くらい武偵事務所ほしいなぁ」

「そういうもんか」

 

 確かにあまり武偵と遭遇することはない。千葉に武偵高もなかったはずだしな。

 

「ていうか、ヒッキー。前聞きそびれたんだけど、なんでヒッキーがあの怖そうな人たちに勝てたの!? なんかサキサキがめっちゃスゴい動きしてたって言うし!」

「……さてな。偶然だ、偶然」

 

 ここで本業ですからとか言うわけにもいかない。校長先生との約束もあるし、俺ができることと言えば適当に誤魔化すだけだ。

 

「むー、なーんかヒッキー怪しーい」

 

 怪訝そうな眼差しを向けてくる由比ヶ浜。俺の適当な返事に納得してないようだ。

 

「ヒッキー格闘技とかしているわけじゃないんだよね?」

「そうだな」

 

 そりゃ向こうの方だったしな。

 

 俺のなんかただのケンカ闘法だぞ? カウンター主体の我流。見てから隙を付くのが性に合っている。まぁ、ヒルダみたいな攻撃させたら危険な相手にはこちらからずっと攻めるしかないってのもあるが、基本的にはこの戦闘スタイルだ。

 

「直接見たわけじゃないんだけど……ヒッキー何か隠している?」

「んー、つっても秘密なんて誰しも持っているだろ? 女子なんて特に。秘密があるからこそ女は美しいってベルモットも言っていたし。……といっても、前に俺が住んでいたとこが治安悪くてしょっちゅうケンカが起きるから自然とこうなっただけだぞ、俺の場合な」

 

 嘘は言っていない。バレる嘘はつかない主義なもんで。……最近コナン読んでないな。90巻越えた辺りから追っかけてねぇ。

 

「ふーん……」

「早く飯食え。昼休み終わるぞ」

「うわっ、ホントだ」

「そういや、生徒会選挙も無事終わって良かったな」

「そうだねー。大変だったよ」

「会長になんかあったら、お前らも手伝いなよ」

「それはもちろん。あたしとゆきのんはこうやって……祭り上げた? 立場だしね」

「なんでそこで疑問系になるのかね」

 

 ――――こうやって雪ノ下や由比ヶ浜たちと話すのもそろそろ終わりだろうな。

 

 なんてほんの少しだが、名残惜しさに加えて非常に残念に思う気持ちがあった。……少し意外な感情だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――放課後、平塚先生に許可をもらった空き教室――――特別棟の家庭科で使われている実習室にレキといる。レキはスリングショットを、俺はファイブセブンを隠し持って。

 

「来ますかね?」

「ん? まぁ来ると思うぞ。午後に俺の手紙を見付けたときわりと青ざめていたからな。無視したら何されるか分かったもんじゃねーだろ、って思うだろうし」

 

 あれは5時限目だった。先生にバレないよう覗き見していたが、分かりやすいくらい表情が変化していた。息も多少荒くなっていたし、不自然に周りをキョロキョロしていた。先生に注意されていたほどな。

 

 教室で正体をバラすのは騒ぎになりそうだから、一緒に連れていくのも憚れていた。だから、こうして待っている。

 

 さて、いつ来るか…………お。

 

「足音しますね」

「だな」

 

 ――――ガラガラ。

 

 と扉が開く音がする。目的の人物は怯えた表情でこちらに入ってくる。

 

「よう、遅かったな。――――相模」

「………………あんた、転校生と……そっちも転校生……?」

 

 俺が呼び出したのは相模だ。

 

 こちらを不審に思いながらもゆっくりと相模が席に座ったのを確認してからレキは出入口を抑えるために立つ。俺は相模の真正面に座る。

 

「なんで、うちを、呼び出したの……?」

「あれ、理由は書いたろ? 石動組との繋がりについて教えてほしいって」

「……あんたら、何者なの? もしかして、警察……なの?」

「当たらずも遠からず。俺らは武偵だ。ある事件を捜査しにここに来た。ある事件ってのは……お前なら分かるか」

 

 その言葉で相模はバツが悪そうに視線を逸らす。自分のしてきたことが全て判明して逃げ場がない――とでも考えているのかね。

 

 

 改めて、今回、石動組と総武高とで繋がりを持っていた人物は相模南だ。

 

 どういう経緯で関わりを持ったのかは不明だが、相模だと判明した流れとしては――――まずレキと体育館を捜査したとき、あの地下室の入り口……というか、階段辺りだな。そこでここの事務員が使っている帽子だけを見付けた。あと未使用の銃弾が数発転がっていた。

 

 まぁ、銃弾はともかくとして、そこにあるのが帽子だけというはどこか不自然だった。たまに事務員が掃除とかをしているのは見かけたが、あれは帽子もつなぎがセットだった。だから、帽子を落としてどこかにつなぎを隠しているのだろうと思った。

 

 もちろん、石動組の奴らがつなぎごと持ち去った考えもあったが、夜中の監視カメラにはつなぎを着た姿は映っていなかった。

 

 ていうか、あれだ、普通に監視カメラに映ってたんだよなぁ。いやまぁ、つっても顔は隠されていたんで分からなかったし、映った秒数なんて3秒もなかった。そこから特定するのはムリあったな。あんなの根気よく探さないとまず見付かんねーわ。

 

 探してくれたの平塚先生と校長先生だったし。いくら武偵でも生徒が監視カメラ見るのはダメって言われた。

 

 だったら、わざわざつなぎを着る必要はなさそうだけど、夜中だろうと校内で動いても怪しまれないようにだろう。もしかしたら、行きもつなぎを着ていたのだろう。で、予め決めていた場所でつなぎを脱いでそれを相模が回収した感じかな。

 

 そして、俺が先日1人で特別棟を調べていると、ここである物を見付けた。それがもう片方のセットの事務員のつなぎだった。帽子がないことは分かっていたが、別に相模や石動組からしたら、あんなとこ落としたとしたも誰も調べはしないだろうとタカをくくっていたのかもしれない。だから、放っておいたと。

 

 そして、相模は回収したつなぎをこの実習室の普段使われないような引き出しに隠したと。鍵はどうなんだって問題があるけど、元々そこを隠し場所に決めていたなら、石動組側がそこの鍵だけは持っていたのかもしれない。それもあとで調べる必要がある。

 

 恐らく、俺が1人で調べているとき、特別棟に来たのは相模だったんだろう。髪色も明るい茶髪で一致する。実習室の様子を見にきたが、鍵が施錠されていたので入れなかったといった辺りか。

 

 あとはそれらを渡して警察にお任せした。それには石動組の奴らの指紋とは別に女生徒の指紋も検出された。それが誰なのかは……まぁ、警察が頑張って調べて相模と分かったみたいだ。どうやったのかは知りません。そういう専門的なのは俺は詳しくないので。いやー、警察って怖いね。悪さしたらすぐバレるんだから。

 

 

 

「いつ石動組と接触したかは定かではないが……時期的に不登校期間の間か?」

 

 と、話を戻して相模に問いかける。

 

「――――」

 

 分かりやすい。顔に出ている。わりとバレバレだ。

 

「なんで知ってるの?」

「そこはまぁ、捜査したし?」

 

 警察が調べたところ、教師や事務員などと石動組との繋がりは誰もいなかったから、残りの可能性は生徒だろうと思っていた。ただ、さすがに1000人近い人数を洗うのはムリあったからな。そういうのもあって、雪ノ下たちから相模のことを聞いてから何となくは怪しんでいた。一応は怪しい人らをリストアップして警察に渡した。それが見事にヒットしたわけだ。

 

「まぁいいや。話続けるぞ。さっきも言った通り、どういった繋がりがあったのか言え」

「…………」

「だんまり? 言っておくけど、お前のしたこと普通に犯罪だからな? 過程がどうあれヤクザの手伝いしたんだから。どうせこのあと警察にご厄介することになるし、さっさと吐いた方が楽だぞ」

 

 時系列や校内で起きたことは何となく調べはついているが、何がどうなって女子高生がヤクザと関わることになるんだか……それが分からない。

 

 チラッとレキに視線を送ると、レキはこくんと頷く。どうやら校外には坂田さんたちが待機しているようだ。あ、別に俺がレキの心を読んだわけじゃなくて、マバタキ信号で教えてくれただけだぞ。と、誰に言い訳しているのか分からない言い訳をする。

 

 

 しばし待つこと1分。相模はようやく観念したのか喋り始めた。

 

「……うちが不登校になった経緯は知ってる?」

「ざっとはな」

 

 言ってはなんだけど、わりと相模がクズだった話だろ。自業自得、因果応報。――しかし、だからといって誹謗中傷する奴らは色々と終わっている。そういえば、誹謗中傷の中に体を売っている――といった内容があったが、それが恐らく石動組なのだろうか。

 

「最初はただすることもなく出歩いているだけだった。適当にお金を使って、適当に遊んで、たまに家には帰らなかったこともあった。そんなことしてたらすぐお金は尽きた。不登校になったのは自分のせいって分かったから、親に小遣いをせびることなんて……ムリじゃん。そこで、夜出歩いていたら…………」

「あぁ、石動組と会ったわけか」

 

 不良少女とヤクザね。

 

「そのね、適当に歩いているとき、ちょうど取引? かどうかは分からないけど、拳銃をたくさん持っていたところを見てしまったの」

「……場所は?」

「適当に歩いてたらあんまり……ただ、海岸を歩いてたから……多分そこ」

 

 その辺は警察も抑えていた場所かな。

 

「最初は死ぬ……とも思ったし、死ななくても酷い目に遭わされるって思ったわ。でも、うちが総武高の生徒って分かると…………」

「協力しろって持ちかけられた――――ではなく、脅された」

 

 俺がそう言うと、相模はコクリと頷く。

 

「まぁ、ヤクザは追い詰める技術に関しちゃかなりのもんだからな。もし逆らったら、お前の周りまで被害が及ぶ。それこそ身内とか。警察に相談すれば良かったのに。そうすりゃ保護でも何でも願えたろ」

「……できなかったの。うちの周りにはあれから誰かが見張ってたから。さすがに学校の中までは見られなかったけど、それ以外はずっと。不審な行動を取れば……すぐにでもって。スマホにも何か分かんないウイルス……みたいのも仕込まれて」

 

 それでずっと手伝いされたわけか。確かに不運だ。そんな四六時中監視されていては神経が到底もたない。しかし、相模はその状態で少なくとも1ヶ月は過ごした。これは妙な話だな。

 

「とはいえだ、人を恐怖で支配するのには限度がある。人間、追い詰められたら自分でも分からないくらい力を発揮することもある。お前は、やろうと思えば現状を解決できたばずだ。例えば、学校で第三者に警察へ保護を求むとかかな。いくら監視されようが、学校では大丈夫だったんだ。口頭で厳しかったら、筆談するなり方法はあった。……まぁ、お前、俺みたいにボッチみたいだったからそれも厳しいか。ただ厳しいってだけで不可能じゃない」

「…………何が、言いたいの?」

「つまりは飴と鞭だってことだ。どうせそれなりに報酬貰ってたんだろ?」

「…………っ」

 

 またもや沈黙。顔に図星って書いてあるぞ。

 

 そりゃそうだ。こんなの甘い餌を用意しているだろう。じゃなきゃ、こんな普通の女子高生を縛り付けるのは土台ムリだ。何かの拍子で計画が漏れることもある。ヤクザはその辺り周到だ。

 

「し、仕方ないじゃん……そうするしかなかったんだから……。言うかと聞かないとうちだって、親だって危険な目に遭うんだから……」

「でも、お金は美味しく頂きましたってか。……お前の境遇に同情はする。同情はするが、人様に迷惑かけている時点でヤクザとなんら変わりねぇよ」

 

 涙目の相模に俺ははっきりと告げる。

 

「だって……!」

「さっきも言ったが、お前は持てる可能性を試そうとしなかった。確かにヤクザに監視されるのは怖かったろう。俺だってそんなの怖いわ。誰だってそうだ。ただ、お前は助けを求めることをせず、あろうことか目の前の人参に食い付いた。その時点で同じ穴の狢だ」

「だから、仕方ないって言ってるじゃん……! なによ、いきなり現れていきなりうちのことを悪く言って……」

 

 

 ――――相模を見ていると、1年の春休みに俺が解決したあの倉庫での事件を思い出す。

 

 

 アイツも脅させれていだから、仕方なく……そう言った。そして、俺のことを悪と罵った。別にそのことについてどうこう論じるつもりはない。武偵は基本的に悪すれすれのことするし、ぶっちゃけ間違ったことは言っていない。

 

 だからこそだ、これ以上は相模は道を間違えてはいけない。お前のしてきたことは間違い、罪だったとハッキリと伝える必要が俺にはある。――――せめて早く正しいレールに戻してやらないといけないだろう。それが俺の役目だ。

 

「このあと警察に行くぞ。何がどうあれ、自分のやらかした罪は償え。そして、真っ当に……とまではいかなくてもちゃんとに生きろ。人様に迷惑はかけるな。まだお前は20もいってないんだ。……大丈夫、ちゃんとやり直せる」

「――――……うん」

 

 涙目は収まっていないが、相模は頷いてくれた。

 

 納得したかどうかはさて置き、一先ずご同行はしてもらえる。

 

 

 

 と、ちょっと話を変えて気になるところを聞いておこう。

 

「……そういや今、お前の監視はどうなっている?」

「昨日、石動組の偉い人たちがいっぱい捕まったから、うち1人に手を回している余裕はないと思う。珍しく監視はなかった。…………ただ」

「ただ?」

「今日の夜、呼び出されている」

「どこに?」

 

 相模はメモに待ち合わせ場所の名前を書いて俺に渡す。一応、分かっている人数も書いてくれている。お、良い情報だ。確認してから、レキにメモを見せる。坂田さんに連絡してもらう必要がある。

 

「レキ、相模の家族や近辺の保護要請をしといてくれ。――――じゃあ、相模。とりあえずお前の携帯壊していい? あとで機種代弁償すっから」

 

 

 

 

 

 ――――その後、相模を警察に引き渡し、坂田さんたちと一緒に待ち合わせ場所に乗り込んだ。そこには前回、俺たちと会った幹部の木崎ではない1人の幹部がいた。あとは雑魚が10人ほど。木崎は現れなかった。どこで何をしているんだかを

 

 手早く制圧してから、一旦は警察がその場にいた全員の身柄を確保することができた。俺と相模が同じ学校というのは知っていただろうが、まさか相模の正体までバレるとは思っていなかったみたいだ。……はっ、俺らが昨日組長やら取っ捕まえた時点でその可能性を考慮してないとは浅はかだったな。

 

 いや口では偉そうに言うけど、俺1人では普通に相模を見破るのムリでしたね、はい。調子乗りました。

 

 川崎や相模の家族はこれから石動組関係者から報復されないよう、保護すると落ち着いた。石動組は幹部含めて一挙に検挙。残りの幹部である木崎もじきに捕まるとのことだ。

 

 罪に問えるのか余罪はどうなるのか、それらを判断するのは警察や立法の仕事だ。それに加えて、相模の処罰もどうなるかは俺には分からない。

 

 しかし、法の番人である武偵の出番は――――これにて閉幕。

 

 

 

 

「比企谷さん、レキさん。本当にお疲れ様でした」

「学校側からも、深くお礼を……ありがとうございました」

 

 翌日、校長室で坂田さんと校長先生……本郷さんと話している。

 

「いえ、こちらこそ色々とお世話になりました。本郷さんからマスターキーやら監視カメラやらムチャさせてもらいましたし、坂田さんたち警察なんかは特に俺の雑な捜査の穴埋めをしてもらって……」

「私たちの情報統制も助かりました。恐らく、私たちのことを元から知っていた人以外、正体はバレなかったと思います」

 

 思いますってところは、ちょっと怪しい人物がいるってことで。川崎とかな。

 

「もう転校手続きも済んでいるんですよね?」

「えぇ、昨日のうちに東京武偵高の校長と話をつけましたよ」

 

 あの人とですか……あれ、顔思い出せねぇ……なんかよく分かんない爺さんと話したんですか…………そうですか。なんか最後の最後でこの人おっかねぇ。

 

――――――

――――

――

 

「あぁ、そういや、昨日相模の携帯壊したんでその弁償代、今回の給料から抜いといてください」

 

 数分、雑談をながらふとそんな話題を出す。忘れていたぜ。データを残すわけにもいかなかったし、データを丸ごと消去するよりかはぶっ潰した方が手っ取り早かった。

 

「あれは必要経費ってことにしてますんで、気にしなくて大丈夫ですよ」

「マジっすか。いやー、ビルでの銃痕といい助かります」

 

 

 なんて話していると朝のHRが始まる時間帯になる。

 

「では、比企谷さんとレキさん。この度は千葉県警を代表して、私坂田から。改めて本当にありがとうございました。また何かあればよろしくお願いします。……それでは、私は仕事があるのでこれで失礼します」

 

 再度深くお辞儀をしてから坂田さんは退出した。

 

「……ふむ。比企谷さんにレキさん、そろそろ時間ですね。最後に別れの挨拶を生徒たちにお願いしますよ」

 

 もう今日で総武高校の比企谷八幡と三枝レキの出番は終わりだ。……この三枝って名字出番なかったな。みんなしてレキって呼んでいたらしいし。

 

「分かりました。何だかんだで、仲良くなれた人たちはいましたし、別れの挨拶はちゃんと済ませないとですね」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜、あとは葉山たちに川崎…………そして相模。俺からしたらわりと関わった人が多かった。いきなりいなくなるわけにもいかないし、挨拶は大事だ。

 

 やはり、どこか寂しい気持ちはある。何だかんだで、この普通の日常は悪くなかった。放課後、雪ノ下たちと話すのも、クラスの奴らに色恋沙汰でからかわれるのも、俺にとってはある意味新鮮だった。

 

 もしかしたら、俺にはこんな青春もあったのかもしれない。誰かの相談事を聞いて、面倒なことに巻き込まれたり、それこそ人間関係に悩まされたり。そこで様々なスレ違いが起きていたかもしれない。…………血が流れない、そんな俺の日常が。そんな俺らしくないセンチメンタルなことを思ってしまう。考えてしまう。

 

「――――」

 

 ――――しかし、俺の居場所は硝煙が香るあの血生臭い世界だ。俺にとっての普通の日常は日々銃弾が飛び交うあの危険な世界だ。たった1年と半年ほどしかいないのに、それが俺の日常なんだ。平和な日常にこれ以上浸れない。もう戻らないといけない。

 

 校長室の扉に手をかけてレキを見る。

 

 

 

「じゃあ、レキ行くか。最後の挨拶が終わったら――――」

「はい、いつもの日常へ戻りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






これで1年近く……ギリギリ1年にはいってないけど、総武高校編は終わりです。色々とガバがあるのは見逃してね!

投稿遅れました。最近はAWの方を書いてたり、スパロボVを買ったりFGO六章があったり月姫が届いたりと色々と事情があって投稿がかなり遅れてしまいましたね。なんとか8月にできて良かったぁ
次も投稿されたらお願いします

そういえばスパロボVしていて思ったんだけど、ZZ本編でGフォートレスに変形したことあったってけ?



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多分今回は箸休め的な回

「…………おい、お前ら何してんだ? いや、お前らつーか、神崎か」

「なにって、八幡とレキの帰り待っていたんだけど? そろそろ戻るってキンジに連絡したでしょ?」

「まぁ、そうだな。ただお前がいるとは思わなかったよ?」

 

 

 ――――長きに渡る事件も一応は解決し、総武高校をあとにした俺たちは一度それぞれの寮で別れてから、部屋に帰ってきた。

 

 

 で、帰ってきたはいいけど、なぜか我が家でくつろぐかのように神崎がリビングに佇んでいた。テーブルでだらけながら桃まんをリスのように頬張っている。そして、遠山は神崎の相手が疲れたのかソファーで寝転んでいる。おい、家主こら。

 

 つーか神崎、お前桃まんめちゃくちゃ食べてるな。そこいらにゴミが散らかっている。おい、そこのだらけている家主! 注意しなさい!

 

「はむはむ。……あら、レキは一緒じゃないの?」

「レキは荷物置きに部屋まで戻った。用事あんのか。呼び出そうか?」

「お願いしていいかしら。労いも兼ねてお疲れを言いたいのよ。あとちょっと頼みたいこともあるし」

「はいよ」

 

 むっ、そういうことなら無下にはできない。世界でも有数な貴族様なんだから、きっとさぞかし豪勢なもてなしがされることだろう。なんて淡い期待をしてみるが、特にこれといって部屋には特別な雰囲気はない。知ってた。だって、神崎は桃まんしか持ってないのが見て取れるもん。はぁ、少しはがし残念。

 

「つーか、遠山。せめて何か一言ほしいんだけど」

「……いや、これからのことを思うと比企谷とレキには申し訳ないなって」

「あ? 労いだけじゃなくて、なんか話あったりするんか?」

「そうよ、ちょっと八幡に訊きたいことあってね。ま、レキが来てから話すわ」

「だからって、せめてソファーから起き上がってほしかったけどね?」

 

 

 

 

 

 レキが来てから、遠山と神崎に相談を受けた。

 

「そっか、もう修学旅行Ⅱの時期か。それで、香港行くって? そこに猛妹たちがいんのか。……師団のお前らが攻めるのは分かるが、俺らサリフは中立だぞ。立場的にももうちょい別の場所に行きたいんだけど。FEWとは関係ない、平和そうなグアムとか」

「あそこ島国じゃない。日本と何が違うのよ」

「色々違うだろ」

 

 修学旅行Ⅱは簡単に言えば、海外旅行だ。

 

 前回の修学旅行Ⅰは国内だったが、今回は海外での修学旅行。行き先は各々チームで決めるらしい。帰ってきたばかりで頭に入っていなかったが、もうそんな時期だったか。前回に引き続きまーた藍幇か。アイツらと関わりたくない俺の気持ちを察してほしい。

 

 そんな淡い期待は露知らず、神崎は話をズンズカ進める。

 

「それでね、これはキンジの提案なんだけど、私たちは香港で藍幇との決着をつけるつもりよ。ジーサード含めてキンジも因縁つけられたし、新幹線ジャックもあって無視していい相手ではないわ。ちょうどいい機会だからね。ただ問題として、相手……ココの中にはレキ並の腕を持つスナイパーがいるわ。さずのあたしと言えど、スナイパーとは相性が悪いわ。そこで、レキを雇いたいのよ」

 

 そういやいたな。俺は直接戦ったことはないが。俺が猛妹と一緒に新幹線から落下したあとにレキが仕留めたという奴だ。あの頭のどこかを狙撃して神経を麻痺させる高等技術を披露した。あれ俺もできるかと試してみたが、あそこまで精密射撃は俺には無理だった。

 

 とはいえ、レキを雇う、か。うーん。

 

「それ、俺らの立場どうなんだ? ただでさえ、俺ら……いや俺か。俺はヒルダ倒して師団寄りに思われているんだけど、そこでレキを貸したら、それこそ眷属たちから敵認定されると思うぞ」

「だからレキ個人よ。レキは確かに中立だけれど、ウルス全体は師団に加入しているわ。もう抜けたとはいえ、レキ個人は元々ウルスに所属していたんだし、どうにか誤魔化せるんじゃない? それに向こうも傭兵雇ってるって噂だしね」

「ならいいが……まぁ決めるのはレキだしな」

 

 外野がとやかく言うことではないか。と、全員レキの方へ向く。レキは頷いてから。

 

「分かりました。報酬についてはまた後ほど話し合いましょう。相手の狙撃手を抑えればいいのですね。どのような戦いになるかは不明ですが、了解しました。あとついでなのですが、藍幇の中に今のうちに殺っておきたい人もいますが、殺し……仕留めて構いませんか?」

「……ん? えーっと、ほどほどにね? じゃあ、スナイパーの相手は頼むわ。……あぁ、それと八幡」

 

 ……レキ、お前まだ猛妹狙っているのか。神崎も若干引いているし、いい加減諦めたら?

 

 で、神崎か。俺にも訊きたいことがあるって話だな。

 

「あんたにも訊きたいことがあってね。その内容なんだけど、色金……特にレーザーの特性について教えてほしいのよ」

「レーザー……。そういや遠山、ジーサードは大丈夫なのか?」

「まぁな。比企谷のおかげでケガは大して酷くはない。今は大人しく休んでるよ、多分」

 

 なら良かった。傷跡小さくてもレーザーのせいで貫通しているわけだし。

 

「ほら、相手は色金の力を使えるのよ。恐らく藍幇の代表者として出てくるわ。あたしはまだ色金の超能力はそれほど使えないし、特徴とかを実際に使ったことのある八幡に色々訊きたいのよ」

「…………えー」

 

 しばらくの沈黙のあと、俺は思わず不満の声をもらす。

 

「ちょ、なんでそんな声出すのよ!」

 

 明らか不満な俺の態度に神崎は声を大きくし、いかにも怒り新党といった雰囲気を露にする。

 

「いや、神崎。よくよく考えてほしい。武偵は本来、自分の情報は秘匿するもんだぞ。おいそれと明らかにするのはいくら気心知れている相手でもそれはただの自殺行為だろ。そんな間抜けは武偵はいない。将来的にお前が使える可能性があるとしてもだ」

「むっ……。まぁ、それもそうよね。武偵なら手の内隠すのは当然のことだわ。こればかりは責められないわね。うーん、なら八幡。あなた何か欲しいものある?」

「んじゃ、家一件。それかマンション一室。または5000兆円(非課税)」

「あんた限度ってもんがあるでしょ!?」

「冗談だってば」

 

 叫ぶ神崎をなだめる。でも実際、色金の情報はそれくらいの価値があると思ったり思わなかったり――――

 

「ならお疲れの意味も込めて何かお高い飯でも奢ってくれ。フルコース? みたいなの」

「あら、そんなのでいいの。了解。ちょっと予約取っとくわね。特別にキンジも招待してもいいわよ?」

「マジか。さすがアリア様……! 比企谷、ありがとう……!」

 

 神崎の意地悪な笑みに遠山は平謝りしている。なんなんだ、これ。イギリスは飯不味いってことで有名だけど、貴族様が拵えるお店なら充分安心できるだろう。

 

「さ、予約は取れたわ。報酬はそうね、今訊いておきたいし、後払いでいいかしら?」

「まぁな。最初に言っておくが、色金に関して当然俺も分からないことがある。完璧に色金の力を扱えているわけではないしな。だから、俺の分かる範囲で答えるというのを念頭に置いてくれ」

「そりゃね。色金のこと完璧に分かってるのって、ひいお祖父様くらいじゃないかしら」

「シャーロックなぁ……」

 

 この前会ったねぇ。今はどこで何をしているのだか。どうせコソコソと何かデカい事件を起こすのだろうなと予想はできる。頼むから巻き込まないでくれ。

 

「まぁいいわ。さっそく質問始めるわね。キンジも気になったらどんどん質問してよ。……まずはそうね。レーザーの射程距離は?」

「正確に測ったことはないが、視界内ならだいたいは届くぞ。もちろん、離れすぎていたら、狙いにくいし、そもそも威力が減衰して当たらないこともあるだろう。俺の場合はこう……」

 

 腕を伸ばし、親指と人差し指を合わせて△の形を作る。

 

「これで照準を絞る。この△の間にレーザーが通るようにな。俺が狙えるのは最大でせいぜい100m前後だな。それ以上はキツい」

「ふむふむ。じゃあ次に装弾数は?」

「1発。これは多分他の奴でも変わんないんじゃないか。力の消費が大きすぎるから、レーザー撃ってもチャージに俺は1日かかる。もし俺以上に慣れてるとしても早くて半日は必要だと思う」

「その1発を小分けにすることはできるのか?」

 

 と、遠山。

 

「試したことあるけど、俺はできなかった。多分これも他の奴と比べてもそこまで大差ないとは思う。基本的には0か1だな、あれは。まぁ、俺は1発撃ったらだいたい気絶するし、滅多に使わないから、そこまで細かい部分は検証できてないんだよな」

 

 加えて、あれを牽制目的で……威力調節できる代物ではない。

 

「あたしは実物見たことあるわけじゃないけれど、撃つときって目に光が集まるのよね。そのときの発射タイミングとかは?」

「かなり大ざっぱになるけど、輝きが最高潮に達したとき……としか言いようがないな。これも俺の体感だけど、一番輝いたって思った瞬間にはもう発射している」

 

 実際に撃つ瞬間を録画して色々試したことがある。

 

「玉藻はあのレーザーを如意棒って呼んでいたが、威力はどれくらいだ? いくら視界内のものは撃てるとしても、限度はあるんじゃないか? 地球を貫通とかできないだろうし」

「そりゃ、できたらスゴすぎるな。つっても、あのレーザーは基本的に熱だから、さすがにビルとかをいくつも貫通させたら途中で威力は落ちて消えると思う。何か分厚い金属の塊……とかも途中で貫通できずに終わるかな。ただまぁ、人体くらいは簡単に射抜けるぞ。それは遠山も見ているか」

 

 俺の言葉に遠山は頷く。

 

「射抜ける……レーザーの口径はどの程度かしら?」

「これも正確に測ったことはないけど、目の虹彩から出るから――よくて数ミリってところか。そこまで口径でかくねぇし、どれだけ貫通できたとしても、撃ちどころが悪ければたいしたダメージにはならないんじゃないか。脳か心臓、肺とかの臓器、動脈辺りを撃ち抜かないと」

「なるほどね……」

 

 そう神崎は神妙な表情で呟く。

 

 口ではそう言うが、それなりに離れているとしても脳程度なら狙いやすいし、やっぱりかなり強い代物なのではないかと再認識する。さすが色金だな。これでもうちょいコスパ良ければ、もっと頻繁に使え……いや、あんな必殺技、武偵がおいそれと使うわけにないかないか。

 

「使われればほぼ必中というわけね。これはかなり厄介だわ……。となると、発射をキャンセルさせることはできるのかしら?」

「それはかなり簡単だぞ。チャージしているときって目が光っているんだけど、一度でも目を瞑ってしまえば、それでキャンセル扱いになる。レーザーを撃つためにはずっと目を開く必要があるんでな。だからまぁ、ぶっちゃけ猫だましとかすれば普通に防げるぞ。あー、でも、そんくらいの距離詰めていたら普通に殴ればいいか。とはいえ、防ぐだけで、また撃たれたら、そりゃキツいとは思うけど……。キャンセルさせてもレーザーを撃った扱いにはならないから、いつでも撃てる状態には変わりないし」

 

 それを言うと、遠山と神崎は面を食らった表情になる。思いの外、簡単に防げることを知ったらそうなるよな。

 

「なら比企谷。もし……相手にレーザーを使わせなければいけない状態になったら、どうすればいいと思う?」

「必殺技は撃たせないに限ると思うけど……。うーん、そうだな、撃たせる直前に視線を逸らさせるとかか、あとは分厚い盾を用意するとか。撃たれたらあんなの避けようはないから、その程度しか対処方法はないと思うなぁ……どうなんだ。なんか重力レンズって言われる超能力使えるなら、レーザーの軌道を逸らせるらしいんだけど、遠山には関係ないし」

 

 例えば何か目立つ物を投げて一瞬でも相手の目がそっちに行けば……俺がステルス戦法で銃投げるみたいな感じか。いやでも、色金の力を使える相手なら相当手練れのはずだし、そんな見え見えの戦法に引っ掛からないと思うなぁ……。

 

「――――とまぁ、ざっと伝え終えたわけだ。俺から話せるのはこんなんだけど、大丈夫か?」

「えぇ、充分よ。参考になったわ」

 

 

 

 

 神崎から高級な料理をご馳走させてもらったあとの夜、俺はレキの部屋で荷物の整理を手伝っていた。今後の打ち合わせも兼ねてだ。ぶっちゃけレキの荷物なんて少な過ぎて手伝いとかあってないようなもんなんだけどな。

 

「レキは神崎たちに着いていくとして、俺は香港で何しようかな。どうせ別行動だろうし」

「素直に観光でもすればいいのでは?」

「それもいいと思うんだが……」

 

 ただちょっとな……。懸念することが……。

 

「歯切れが悪いですね。どうかしましたか?」

「いやさ、藍幇って中国の中でもかなり有数なマフィアなんだろ。構成されている人数は末端とか含めたら、それこそ100万人越えるらしい。てことは、俺らの動きはどんな形か知らないけど、ある程度は捕捉されるかもしれない」

「そうですね。私単体なら、気配を消せば自由に行動できる可能性はありますが」

「……だから下手に動いたら、藍幇……特に諸葛や猛妹辺りに捕まりそうなんだよな」

 

 俺はレキほど完璧に気配は消せない。一般人程度なら、そこいらでも気配を誤魔化しつつ歩けるけど、マフィア相手だと厳しいだろう。どう気配を消したとはいえ、監視カメラには普通に映るわけだし。香港の監視カメラ事情は知らないけども。

 

「いっそのこと俺は別の国……あぁいや、サリフで動かないとだから俺も香港だよな」

 

 そこは確定している事項だ。

 

「いやでも、よくよく考えれば眷属である藍幇がわざわざ俺に声をかける理由なんてなくないか? 眷属に入れっていう申請も何回も断ってるしな」

 

 うんうん、そうに決まっている。たかだか一般人を全勢力かけてマフィアが襲ってくるとかないに決まっている。そう納得していると、レキはさらりとその希望を打ち砕く一言を放つ。

 

「確かにそうかもしれませんが、実力行使で来たら応戦するしかないですよ。例え八幡さんが中立、無所属でも、もし眷属所属を懸けての勝負に負ければ、眷属に入るしかありませんので。そうなったら、私もそうなりますが。かなめさんやジーサードさんも無所属から師団になったそうです。ヒルダも含めて」

「あ、ヒルダもなんだ」

 

 理子によって命は助けられたのは知っていたけど、どうやらその後師団に移っていたらしい。まぁ、どうせもう会うことはないだろう。

 

「では八幡さん。もしあの女が現れたら一報ください。狙撃します」

「俺の目の前で撃たれるのはちょっと……。かなりショッキングな映像になるんだが。や、そもそも殺すなよ? 武偵法の縛りレキがどうにかできても、俺やバスカービルが関わっている時点でアウトだからな?」

「…………チッ……」

 

 そないあからさまに嫌そうな顔して舌打ちしなくても……。ホント、感情表現豊かになったね……。ある方向においては。果たしてそれは成長と呼べるモノなのだろうか甚だ疑問ではあるが。もう少し歩み寄ってもいいんですよ?

 

 とはいえ、これ以上この話題を広げないように話を戻す。

 

「まぁ、そうだな。それを念頭に置いてのんびり観光するか」

「香港は日本に比べて治安悪いそうなので、気を付けてくださいね。調べてみると、スリなども多発するそうです」

「あ、そうなんだ。なら、荷物は最小限のがいいか」

 

 雑談しつつレキの荷物を片付ける。

 

 ドラグノフ関係は俺が触れない方がいいので、他の荷物となると……衣服辺りか。いや、前に多少買った服があるとはいえ、かなり少ないな。

 

 そんで俺がレキの衣服を片付けているわけだから、その、白色の物体も……普通に触っているんですが、あなた大丈夫なの? なんか何も言ってこないけど、このまま片付けてもいいの? ていうか、どうして俺がレキの部屋の構造やら衣服を片付ける場所も理解しているのだろうか……なにこれ家政夫? これが夢にまで見た専業主夫の仕事か。色気ねぇなぁ、この仕事。

 

「では八幡さん。私は今からドラグノフの整備するので、適当に切り上げて大丈夫ですよ」

「つってももうほぼ終わってるしな。そろそろ帰るか。んじゃ、また明日」

「はい。お休みなさい」

 

 

 ――――で、部屋に戻ったはいいいが。

 

「…………なにこの硝煙の匂い」

 

 日常的に香る火薬交じりの匂い、なんかリビングから漂う煙……そして若干扉が斬れているこの惨状具合。と、同時に神崎と星伽さんの靴が玄関にあるのを見付ける。

 

 遠山の悲鳴が聞こえるのを理解してから考えること数秒。

 

「よしっ、レキの部屋に泊まるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 




ネトゲ嫁の新刊まだですか?




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面倒な事態を避けようと思っていればいるほど、より面倒な事態は訪れるものだ

サブタイトルの対義語『身構えているときには死神は来ないものだ、ハサウェイ』


NT振りの映画館でのガンダムだったけど、面白かったですねーと数ヵ月前の感想を言ってみる
難点があるとすれば、夜戦がちょっと見にくかったかな?と思ったくらい。しかし、一般人目線でのMSの恐ろしさやビーム兵器の熱が飛び散る細かい描写などUCからかなり映像表現が進化しているなと感じた映像作品でした

それはそうと、閃光のハサウェイは逆シャアの続編だし、身内で盛り上がる作品だろうなぁと思っていたら、まるで意味が分からない方向で話題になって「俺は何を見せられているんだ?」となりましたね
いやマジで、閃光のハサウェイでこんなにもガンダムの新規ファンを獲得できるとは誰が予想できただろうか……?







「さてと、そんなこんなで俺らは香港へやってきたわけだが……!」

「誰に話しかけているのですか?」

「気にすんな」

 

 

 人生初海外! 香港到着! いささかテンション上がっているのは置いといてくれ。モンゴル? あれはろくに観光できなかったし、今回が実質初めての海外だ。異論は認める。

 

 道中は諸々カットだ。面倒だからね! いやしかし、人生初めての海外かぁ。藍幇絡みで色々とアレな部分はあるけど、何だかんだでわりと楽しみである。うん? よくよく考えれば、イ・ウーで海外にいたことはあるような……いや、あれは海外ではなく海中か。ワンチャン、どっかのタイミングで領海内にいたかも。どうかな。

 

 飛行機内は俺とレキは隣り合わせで寝ていたらいつの間にか着いていた。

 

 今回の飛行機の旅で思い知ったのは、武偵って飛行機乗るときの手続きがくっそ面倒だったということだ。拳銃の種類やら刀剣類やら銃弾の種類と数やらをかなり細かく記入しなければいけないんだわ。だから、説明しにくい武器――――ワイヤー銃やら材木座お手製武偵弾やらは置いてきた。あれらは説明しにくすぎる。ヴァイス……棍棒は持ち出せたけど。

 

 

「……あれ、今12月なの?」

「今さら!?」

 

 空港に降りて日付を確認すると、もう12月だった。いつの間にこんなに時間が経っていたのかと思わず呟くと、近くにいた神崎がツッコミをする。やっぱりツッコミ役がいると安定するな。何がって俺の精神が。

 

「時間感覚完全に失せていたわ」

「まぁ、比企谷は長い間任務行っていたしな」

「お前も退学して色々あったみたいだけども。そういや、遠山、お前武偵止めるの?」

「いや、もう止めないよ」

「ほーん。まぁ、俺も任務で一般校で生活して分かったけど、武偵が一般人に戻るのはムリだな。何もしないあの時間……あれはあれで精神的にキツい」

 

 遠山と雑談しつつボーッと歩く。

 

「にしても、香港ってわりと暖かいな」

「そうねー。20℃くらいあるんじゃないかしら」

 

 遠山と神崎と会話を横目に訊く。確かに日本に比べて気温は高い。いい感じの気候だ。悪くない。

 

 にしても、神崎は元々がイギリス出身だし、周りを気にせずのんびりしているが、遠山は慣れない海外なのか若干挙動不審だ。ちなみに俺も。ちょっと緊張している。理子はひたすら空港内を走り回っている。コイツは神崎同様これといって心配はいらない。ただ、個人的に一番ヤバいのが――――

 

「た、大変だよキンちゃん、看板が全部中国だよ。周りがみんな外国人だよ」

 

 星伽さんがもうマジでアタフタしている。箱入り娘だもんな、遠山以上に慣れていなさそうだ。ずっとキョロキョロしているし、遠山たちのあとをノロノロと歩いている。気持ちは分かるけど、大丈夫なの、これ? うちの生徒会長だよね?

 

 とはいえ、遠山たちバスカービル+レキはこれから藍幇に向けての会議などがある。無関係である俺がそこに参加するわけにはいかない。その辺りの分別はしっかりと付けないと。これ以上下手に動くともっと目立つだろうし。

 

「んじゃ、俺はここで。お前らしっかりやれよ。何なら藍幇潰してくれて構わねぇぞ。むしろ靴を舐めてまで頼むまである」

 

 空港の出口でちょうど別れそうな雰囲気だったので、俺はそれだけ告げる。

 

「そっか。八幡は別行動よね。オッケー、スリや迷子に気を付けなさいよ」

「またあとでだな。比企谷もある意味藍幇たちに狙われているだろうから、注意しておけよ」

「ハチハチ~、何かあったら連絡してね~。すぐ駆けつけるよっ」

「で、では比企谷さん。お、お気を付けて!」

 

 遠山神崎理子星伽さん――あれま一緒くたにしちゃった――の挨拶を受けてからレキに向き直る。最初にツッコミを入れてから黙ったままだ。いつもの無表情だから何を思っているのか伝わってこないんだけど。え、なに怖い。何か喋って?

 

「なんかないの、お前は。俺に一言」

「特には。…………死なないでくださいね?」

「不穏な一言残すな」

 

 俺は外国人として香港を観光するだけだからな。そんな恐ろしいことは起こらない。はずだ、きっと。メイビー。

 

 

 ――――そして、遠山たちと別れてからどうするか考える。何を隠そうノープランだからな。海外でそれはヤバいと思うが、何にも分からないし、しゃーないしゃーない。

 

 にしても……なんというか、久しぶりのぼっち行動な気がする。ここ最近は隣に誰かいたような。まさか小さいときから常日頃独りだった俺がこのようなことを思うとは……俺のぼっち度がだいぶ下がったな。

 

「……おっ」

 

 とりあえず携帯の電波は繋がったので、ひとまず安心だ。もしものために予備ももう一台用意したが、それも繋がった。これで最悪どうにかなる。予備は安物のガラケーだが、GPSは使えるし、まぁ香港にいる間はどうにかなるだろう。

 

 さてと、携帯の接続を確認してから出口まで来たけど、一旦戻って空港で昼食にしようか、それともさっさと移動してそこで決めようか……後者かな。宿もまだ決めてないので、荷物は多い。宿を決めてから荷物を置いて観光を始めよう。

 

「やっぱ宿くらいはアイツらと同じで良かったかな。どうやって探そうか……」

 

 目下、今のところの不安事項をポツリと呟く。

 

 京都のときもだったが、いささかこの辺り適当すぎだろ、俺……。

 

 やっぱ師団関係なく同じ学校なんだから、遠山たちと別に同じ宿で泊まっても問題ねーよなぁ。多分神崎が用意したホテル辺りだろうから俺も世話になれば良かったか。こちとら頼りになるの香港のガイドブックだけだからな。駆け込みで宿探すのムリあるか……? 最悪適当に路頭で一晩過ごせばいいか。別に死にはしねーし。まぁ、宿が見付からなかったら、レキか理子辺りに連絡するか。どこか良い感じのホテルとか教えてくれるだろ。

 

 と、楽観的なことを考えながら歩く。最初は適当に荷物を持ちつつ歩き回ることにしよう。で、それっぽい宿見付けたら空いてるか訊ねてみるか。毎度のことながら行き当たりばったりだな。

 

 

 

 

 

 遠山たちに遅れて俺もようやく空港から出発し、しばらく街中を歩く。香港って漢字の通り港町なんだなぁ。船多い。日本のように島国みたいだし、フェリーもやたら多そうだ。あまり離れていないからか値段もわりとお手頃価格で島と島を渡れるらしい。海版のバスのような感じか?

 

 加えて……おぉ、ビルも東京並に建っている。ていうか、局所で見れば東京よりもビル群がぎっしり並んでいるかもしれない。路地裏やらも地理感覚のない俺だとかなりややこしそうだし、一度迷ったらGPSないと元の道に戻れなさそうだ。

 

 まぁ、最悪俺は空を飛べるしどうにかなるか? なんか自分で言っていて頭おかしくなるというか……大分俺も人間止めてきたような……。や、うん。人目がつくのはあれだし、できる限り大通りを歩こう。

 

「……そういや、なんかどっかにディ○ニーあるらしいな。香港にも」

 

 興味はあるけど、それだけで1日潰れそうだからまたの機会に。今回はレキは傭兵として動くからおいそれと誘えないのもある。せっかく恋人……的な存在もできたのに独りで行くのは味気ない。それに今行かなくても千葉にもあるからいつでも行けるし! あれ東京じゃなくて千葉にあるからな。ったく、東京の奴らは千葉にあるもんを東京のだと主張しすぎだ。これ以上増えたら訴えるぞ。誰に?

 

 30分ほど歩いていたら、慣れない土地ということもありちょっと疲れたので邪魔にならないよう立ち止まる。水を飲みながら休憩を挟む。

 

「って、今にして思えば、ネットでホテル予約入れとけば良かったな……。ミスった」

 

 今からでも遅くはないか? こんなにビルもあるんだし、ホテルや宿とかもかなりあるだろう。日本だってカプセルホテルとかあるし。当日でも予約取れるところもあるだろう。近場で……できれば日本語、せめて英語が通じるスタッフがいるところで……値段は割高でもこの際構わない。

 

「……ん」

 

 ヒットした。ここから10分ほど歩いたところにいい感じの条件のホテルを見付けた。開業してから100年はあるらしい老舗のようなホテルらしい。スタッフに日本人はいないものの何人かは日本語が話せるらしい。カタコトだろうと俺からしたらありがたい。値段は……高級とまではいかないだろうけど、そこそこする。まぁ、旅行でケチケチ言わないんで。

 

 やっぱ海外って言語の壁があるから苦手なんだよなぁ。英語なら様々な場所で繰り広げられる日常会話――は難しくても最低限の情報のやり取りはできると思う。しかし、中国語となると、ぶっちゃけ挨拶か麻雀の用語くらいしか分からない。立直とかな。ガイドブックはあれど、正直心許ない。

 

 もう来ても大丈夫ということらしいので、チェックインだけして荷物を置いておこう。

 

 地図と睨めっこしつつ目的地のホテルへと足を進める。多少迷ったが、無事到着した。なんか…………めっちゃ高い。めっちゃビルじゃん。うわ、スゴい。ここ全部ホテルなのか……。なんて戦慄しながらロビーへ入る。なんか庶民感漂わせすぎだが、俺ここにいて大丈夫? 場違い感半端なくない?

 

 なんかオドオドしてしまう。うわ、ロビーも綺麗。高級感溢れている。ロビーでキョロキョロしているけど、これ不審者と間違われても仕方ないな。やだ、香港で警察にご厄介になる。日本の武偵法って海外でも適用されるのか怖いんだけど。

 

「あ、えーっと、予約した比企谷ですけど……って違う違う。日本語で話してどうすんだ」

 

 フロントにいる女性の従業員に話しかけるけど、めちゃくちゃ日本語を使ってしまった。くっ、これはなかなかに恥ずかしい。日本語が使える従業員がいるらしいが、この人じゃないかもしれないからまずは中国語で……ガイドブックをと。

 

 そう思ってカバンから取り出そうとしたら。

 

「お待ちしておりました。比企谷八幡様ですね。お部屋はこちらになります」

「…………うん?」

 

 とても流暢な日本語で返された。それこそホントに日本人かと勘違いしてしまうかもしれない。しかし、このスタッフはパッと見は中国系の人だ…………え、あれ? なんだこの違和感……?

 

「申し遅れました。ホームページに記載していた日本語が話せるスタッフは私のことです。他にも数名いますが、私がここのスタッフで一番上手に話せるかと」

「あ、そうでしたか。よろしくお願いします」

 

 思わず頭を下げる。いやもう海外で言葉が通じるとか感動しちゃうわ。しかもこんなに遜色ないレベルで話せるとは思いもしなかった。頼りがいがありすぎ…………あれ? この女性スタッフどこかで見覚えがあるような……?

 

「――――?」

 

 どこだっけ? 俺に外国人の知り合いなんて武偵やイ・ウーのメンバーを除けばいないはずだ。どこかですれ違った? それも日本で? それこそあり得ないというか、そんなの俺が記憶しているはずがない。

 

 人間観察は得意な方だけど、いちいちすれ違った人物を記憶するとかムリだ。むしろ人の顔を覚えるのは苦手まである。インデックスじゃないのだから完全記憶なんて存在しない。

 

「……気のせいか」

 

 誰に伝えるわけでもなく呟く。そう結論付ける。

 

 そして、エレベーターに乗り部屋に案内され、諸々の細かい説明をしてくれてから女性スタッフは綺麗なお辞儀をして退出する。やっぱりどこかで見た覚えあるんだけど……思い出せねぇ。

 

 まぁいいか。既視感があるだけだし、今ここで頭を捻っても思い出せないならどれだけ考えてもムリだ。さて、改めて部屋を確認しよう。

 

 部屋の大きさはそこそこだろうが、内装は至るところが煌びやかであり、ベッドもふかふかで気持ちいい。階層も22階とのことで、景色の眺めも素晴らしい。ていうか、こんな高い場所に泊まれるのか……日本円に換算したら1万円いってないんだが、こんな部屋に泊まっていいのだろうか……。いやーお得だな。

 

「さてっと……」

 

 夜の7時にはホテルで夕食が出るそうなので、それまで何をしようかと思案する。荷物を置いてもっかい街の観光に行くとしよう。

 

 今俺がいる場所は九龍地区というやたら名前がカッコいいとこらしい。香港はざっと分類すると、中国本土側の九龍と南に浮かぶ香港島に分かれているみたいだ。フェリーとかで行き来は可能……あ、トンネルもあるんだな。海中トンネルみたいな感じか? 青函トンネルみたいな。

 

 ここら近辺の観光地も色々とあるみたいたが、まずは腹ごしらえだ。それになんかスポットを調べてみると、どうやら夜にあるイベントとかが多い。だったら、適用に街を見て回るくらいが丁度いいか。何かあった際のために少しでも土地勘を養っておこう。

 

 

 

 

 

 

 ――――それから、数時間が経った。

 

 とりあえず今日泊まるホテルを中心にひたすら歩き回っていると、日も暮れ始め、そろそろ夜になる時間帯になる。暗くなる前に退散しよう。さすがに暗くなったらこちらと機動性が落ちるというもの。もし襲われたりでもしたら、逃走も困難になる。いや、誰に襲われるんだって話だな。

 

 途中それっぽい飯屋に入り、字が読めなかったので麺の漢字がある料理を頼んだらジャージャー麺みたいな料理だった。ラーメンじゃなかった……。中国の漢字と日本の漢字は色々と違いがあって分からない。とはいえ、本場の味はとても美味しかった。四川料理は辛いと知っていたから、避けたがやはり事前に色々と調べておくべきだったか。反省。

 

「ん?」

 

 ホテルに戻ろうと、歩いていたらふと携帯の着信音が鳴る。……神崎か。何か問題が発生したか?

 

「もしもし」

『あ、八幡! 良かった繋がった……あのね、八幡。大変なの!』

 

 切羽詰まった神崎の声。

 

「どうした?」

『キンジに連絡が全然繋がらないの! どうしよう! ていうか、キンジの携帯が闇市で見付かったの! これじゃ連絡取れないし、キンジがどこにいるのか分かんない……』

 

 スリにやられて帰ってこれないのね。

 

「迷子ってことか。携帯盗られたってことは多分財布もだろうな。遠山は確かデカい旅行用のカバンに金の大部分は入れていたはずだから、そこまでのダメージじゃないが……金ないとタクシーにも乗れないか」

 

 我が身にも降りかかりそうな問題だから笑ってはいられない。にしても、このビル群の街でか。方向感覚が分からなくなる田舎よりかはマシと考えるべきか。まぁ、この港町というのが幸いなところだ。

 

「とりあえず一晩程度じゃまず死なない。誰かに襲われてなければの場合だが、この気候だから凍死とかの心配はない。つーか、アイツが襲われて死ぬとは思えん。日も暮れるし、本格的な捜索は明日からのがいい。お前らも俺もここでは土地勘ないんだ。下手すりゃミイラ取りがミイラになるだけだ」

『でも……でも! 八幡飛べるんだよね! 飛んで探せないの!?』

 

 飛ぶ……飛ぶね?

 

「ムチャ言うな。こんなビルだらけの状態で飛んで人1人見付けるとかムリゲーもいいとこだぞ。遠山ならどっかでも上手くやって日銭くらい稼いでくる。そしたらタクシーにでも乗って戻ってくるだろ」

『うぅ……そ、そうだけどぉ…………』

 

 神崎、相当メンタルやられてるな。電話越しでも分かるほど弱っている。今回は特に実質的なリーダーとして気張っていたみたいだがら余計にか。

 

「なんか分かったらまた連絡する。ひとまず神崎、お前は休め。寝て体回復させとけ」

 

 それだけ言ってから通話を切る。

 

 遠山が大変なのは理解した。ただ、神崎に言った通りミイラ取りがミイラになるわけにもいかない。スリには気を付けて帰らないといけない。なるべく人とぶつからないように。今日は超能力使いにくい日だが、センサーを全開にして周りの人の動きに気を配ろう。

 

 

「……っと」

 

 無事帰ってこれた。ホテルの入り口で安堵する。もうあと数分すればもう夜の街に早変わりする。いくら街灯やビルの灯りで動けるとはいえ、今から遠山の捜索は厳しい。遠山が無事に戻れるのを祈るばかりだ。

 

 ホテルのフロントに入る。数時間前に見た通り、かなり豪華絢爛なフロントだ。あまりこのような場所を通る経験はないので、ちょっと気分が高揚しつつエレベーターに乗ろうとしたところ――――

 

「比企谷様、少々よろしいでしょうか?」

 

 先ほど案内してくれた女性スタッフに呼び止められた。

 

「何ですか?」

「あそこのブースに比企谷様に会いたいという人物が座っております。よろしければ移動をお願いします」

 

 そうスタッフに指された場所は高級そうなソファーとテーブルが数組並んでいた一角だ。そこにスタッフの言葉通り誰かが座っているのが確認できる。

 

 一瞬遠山かと考えたけど、すぐに違うと判断する。若干遠目にも関わらず、その人物の背丈は遠山と似ていないのが判別できたからだ。何と表現すればいいのか、どことなく弱々しい雰囲気を見受けられる。これは日々どこかで命の危険に晒されている武偵とは違う一般人の空気だ。

 

 スタッフに感謝の会釈をしてからその人物へと近付く。

 

 

 今いる居場所、自身の交友関係、現在置かれている状況、あの背丈から感じる雰囲気――――様々な要素を考慮した上で推測すると、自ずと俺を待っている人物は誰か見えてくる。

 

「お久しぶり……と言うほど時間は経っていないですね、比企谷さん」

 

 

 民族衣裳ではなくキチッとしたスーツを着こなしている――――諸葛の目の前にドカッと大きな態度を取りつつも座る。面倒、といった空気を隠さないように。

 

「こうも藍幇に捕捉されるのが早いとかやってられねぇわ」

 

 よりにもよって諸葛かとため息をつきたくなる。藍幇のお偉いさんが直々に俺に会いに来てくれるとはな。猛妹じゃなくて良かったと思うべきか判断に困るところだ。まだ話が通じる諸葛で良いんだろうけど、納得はできないな、うん。

 

 …………って、あ。そうだ思い出した。あのホテルの日本語話せる女性スタッフ、あの人あれだわ、前に猛妹と再開したとき日本のホテルにいた俺とレキを案内した人。あぁー、なんかスッキリした。歯の奥につっかえていたものが取れたような感覚。

 

 諸葛と向き合いながら、これからどのような話が展開されるのかを思案降る。……その前に言いたいことがある。

 

 

 

 

 

 ていうかね、この引きそろそろ飽きたんだけど?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿ペースはこれからかなり落ちると思われます。それもね、香港行ったことないからマジで分からない!いやね、今まで書いてきた京都や神戸、東京に千葉は1回は行ったことあるから何となくはフィーリングで分かるんだよね。あくまで最低限のレベルなんだけど

ただ海外に行った経験は修学旅行で数年前にグアムに行ったくらいで……検索履歴が香港関連で埋まるくらい。モンゴルも適当だったしね、仕方ないね





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お祈りの時間

ラブコメであれ何であれ、創作物の女の子が嫉妬するシーンが大好物です。なお、流血はNGで




 ――――互いにフロントから飲み物を貰い、俺はなぜここに来たのか理由が分からない諸葛と話を始める。

 

 まず最初に確認したいことは……これか。といっても重要性が高いわけでもないが。

 

「なんで俺がここにいるって分かったかは……訊く必要ないか」

 

 あの女性スタッフが情報を流したのだろう。藍幇と密接な関係にあるみたいだしな。日本ではあの猛妹の傍にいたんだ。

 

「えぇ、あの方は猛妹……ココ姉妹のお付きの役割もすることがあるので。普段はこうしてホテルで働いていますが。とはいえ、別に藍幇自体規模が大きい組織ですからね。あの方がいなくても比企谷さんを探すのは容易なことです。香港にいて多少時間をかけていいのであれば、藍幇に捕捉できない人物はいませんよ。それこそ警察にまで手は伸びますからね」

 

 そこのところはさすがヤクザと言うべきだな。ただのこじんまりとしたヤクザではなく、世界から見ても非常にデカい組織だ。人探しなどお茶の子さいさいといったところなのだろう。や、お茶の子さいさいって今時しない表現だな。

 

「それで、わざわざここに来るってことは俺に何か話でもあるんだろ。FEWには関わるつもりないから釘刺さなくても大丈夫だぞ。むしろ関わりたくないまである」

 

 このように弁が立つであろう人物と話をするとき、序盤の無害アピールは欠かさない。こちらは貴方たちに危害を加えるつもりはありませんと主張する。そうすることで、相手の警戒心を減らすことはできる上、いざとなったら多少のムチャな要求は通せることがある。あくまであるだけで、向こうが調子に乗ることもあるから……あまり上手くはいかないんだが。

 

 諸葛は諸葛でニコニコと微笑んで俺のことを全く警戒していないとでも言いたげな表情で口を開く。

 

「簡潔に言えばお詫びに来ました」

 

 さぁ、どんな無理難題が飛び出してくる――――と身構えたが、諸葛の口から出た言葉は意外なものだった。

 

「詫び?」

「先日、猛妹や猴がご迷惑をおかけしたのでね」

 

 あぁ、そういうね。中国のヤクザにしては律儀なことだと思う。いや、むしろヤクザだからか?

 

 猛妹は言わずもがな、もう1人の猴――というのはあの色金の力を使った奴のことだ。あのやたら丈が短い武偵高の制服を着ていた仮生の類いのモノ。下手すりゃあの場でジーサードを殺していたかもしれない状況だったな。

 

 ジーサード……か。

 

「――――」

 

 ふとジーサードがレーザーにヤられたときのことを思い出す。

 

 あのときのレーザーでの攻撃、どことなく違和感があった覚えがある。俺も一応は超々能力者に分類されるが、自身の意思である程度色金の力を使うことができる。まぁ、まだまだ使いこなすとは言えないへなちょこのレベルなのだが。

 

 ただ、あの場面、何て言うか……猴がどんな性格なのかは知らないけれど、特定の個人の意思は感じなかったというか、かなり無機質な雰囲気があった。機械かのように、こちらを下として見ているかのような――そんな感覚。まるで神が乗っ取って使ったようだった。俺も何度かされたことがあるから、それが理解できる。

 

 もしかすると、猴は俺や神崎よりももっと違う存在なのかもしれない。超々能力者として格が違う、遥か上の次元にいるナニカ――――神そのもの可能性がある。猴の持つ色金の種類は分からないけど。

 

 

「詫びってことは金銭的なのか。それならありがたく受け取るぞ。税金に引っかからない程度でお願いするわ」

 

 一旦猴のことは考えるのを止めて、諸葛との話を再開する。

 

「もちろんそれも良いのですが、せっかく香港に来てくれたのです。藍幇城……我が本拠地に案内しまょうか」

 

 本拠地? そういや先日理子と話したとき、香港にある藍幇の本拠地の所在地は不明と理子は言っていた。それは本拠地そのものが水上にあり自由に移動可能だからだそうだ。ちょうど武偵高がある人工浮島の簡易版といったところだ。

 

 恐らく行くためには近くまで車とかで近付いてから船で移動する必要があると思う。そのせいで、一般人――特に今回藍幇を狙っているバスカービルからは直接藍幇には接触ができないはず。戦闘機にでも乗って空から探し回れたら話は別だろうが、それこそ、藍幇側から招待されない限りは土台ムリだ。

 

 つまるところ、何だ……。

 

「俺を人質に使おうってか?」

 

 そんな結論しか思い浮かばない。バスカービル――というよりレキに対して俺は有効な人質になり得る。ノコノコと付いていったらはい監禁、なんてやられるかもしれない。しかも本拠地ってことは猛妹や猴やらいるんだろ。うーっわ、行きたくねぇ……。

 

 もうやだぁ……お家帰るぅ……。

 

「まさか。比企谷さんは空を飛べるのでしょう? いざとなれば簡単に逃げられてしまいます。加えて、噂程度ですが、どうやら金斗雲も使えると訊いたことがあります。貴方を1ヶ所に留めることは困難ですからね。そこまで警戒なさらずとも」

 

 金斗雲? それって西遊記の? 何だそりゃ……と考えてみたが、当てはまるとすれば色金の瞬間移動か。金斗雲が移動や逃走関連の力ならレーザーではないだろうし、ジーサードに瞬間移動したと言ったことがある。そこから漏れたのだろう。目敏いことだ。いや、どちらかと言うと耳敏い、と表現するべきか? 地獄耳かな?

 

「ただただ、善意として招待しようと考えているのですよ。確か比企谷さんは修学旅行……つまり勉強として香港に来ているのですよね。外観を記録されるのは避けたいですが、内装であれば記録して報告してくれても構いません」

「ほーん。そりゃありがたいけども。てか、猴はともかくとして猛妹は? 詫びならアイツも来るのが筋ってもんじゃないのか」

「彼女は今軽く謹慎中ですよ。日本では色々とやらかしたのでね。特に比企谷さんとの接触を禁じています」

 

 あ、そうなんだ。謹慎中か。道理でアイツの性格上、空港で接触されてもおかしくはないと思っていたけど、来なかったからな。本拠地で大人しくしてい……あれ? でも、それ俺が本拠地に行ったらその縛り緩くなんねぇ?

 

「それで、どうです? もしかしたら猛妹とも会うかもですが、一度訪れてみては」

「あー……」

 

 諸葛は口ではそう言うが、俺は別に猛妹のことは嫌いではない。毛嫌いしているわけでもない。数度襲われたことはあるけれども、ぶっちゃけ襲われた云々は武偵だから当たり前だ。そこにツッコミを入れるなんて馬鹿馬鹿しい話だ。事件が終われば、勝っても負けてもそこに関しての恨みなどはない。……ホントだよ。

 

 ただ……その、なに、これでも男だ。可愛い女の子に好意を向けられるのは嬉しい部分はある。そりゃもうありまくりだ。けれど、俺のお姫様が……ね? バリバリ敵意向けているんですよ。いやもう敵意っていうか殺意? 

 

 俺が猛妹に肩入れしなくても、猛妹は勝手にこちらへ突っ込んでくる。お国柄なのかは知らないが。そうなると、お姫様は異物を追い出そうとするのか……その辺りのバランスが難しいというか、あとで痛い目に遭うの俺なんだよね。選択肢ミスればヒロインに殺される。え、型月主人公? 何それ嫌だわ……。

 

 まぁ、普段は見れないような物が見れるんだ。貰える物は貰っておこう。

 

「行くだけ行くわ。明日の昼前また来てくれるか?」

「えぇ、もちろん。ありがとうございます」

「あ、このことアイツらには内密にしといた方がいいよな? 一応は立場上敵なわけだし、俺が伝えるのは不公平だよな」

「そうですね、どちらでも大丈夫ですよ。ほら、場所が場所ですので、もし比企谷さんが教えても行ける手段は限られてますからね。場所を伝えても辿り着くのは、慣れていない土地なのが相まって困難かと。それに……」

「それに?」

「……いえ、何でもありません」

 

 不自然に言葉を切った諸葛だが、これ以上追及する気力は湧かなかった。何だかんだで知らないが外国で1人で行動したからか疲れが溜まっている。早く休みたい。もう切り上げよう。そろそろホテルで晩飯の時間だ。これ以上居座られては飯にありつけない。早く帰ってどうぞ。

 

 

 

 

 ――――翌日の昼頃。

 

「うわスッゲぇ……」

 

 諸葛に連れられ、俺は1人で噂の藍幇城にいた。道中、車で香港の西側まで進み、それからクルーザーに乗り停泊できる場所で降りた流れだ。車もクルーザーもひたすら高級な部類だったことにまぁ驚いたね。コイツらどんだけ金持ってんだよ……クルーザーに至っては内装とか高級ホテルに劣らないレベルだったぞ。

 

 ちなみに遠山は午前中に無事神崎たちの元へ帰ってこれたが、神崎とケンカ別れをしたとレキから連絡があった。何でやねん。

 

 改めて藍幇の組織の大きさに驚きながら藍幇城を眺める。

 

 まず初めにホントに洋上にあることに驚いた。よく沈まないもんだと感心する。大きさは……遠山はわりと目算が得意なんだが、俺はそこまでだ。デカいなぁ、としか言えない。せいぜい言えるのが大きさ的に学校の校庭にどデカい城が鎮座しているくらいか。屋根は瓦造りで藍色。ちょいちょい見える中国龍の装飾はビームコーティングをしているかの如く金色。外壁は朱色をメインに様々な色で造られている。あとはビッシリと彫刻があるのだが……あれは四神をモチーフにしているのか。

 

「いやスゴっ。え、何これ……えー」

 

 なんかもうそんな言葉しか出ない。語彙力は死んだ。この先の戦いには付いてこれない。いや、俺何言ってんだか。

 

 それはさておき、豪華絢爛とはこのことか。俺が今まで見てきた建造物で一番豪華じゃないか、これ。

 

「ありがとうございます。お連れしたかいがあると言うものです」

「ぶっちゃけこれ建てるのにいくらしたんだ」

「さぁ、どうでしょうね……?」

 

 少し気になりヤボなことを諸葛に訊いてみたが、実に誤魔化された態度だ。これ以上突っ込むのが余計に怖くなった。

 

 にしてもこの建物、海に浮いているわけだし、波浪やらに弱そうだな。この大きさじゃ素早く移動なんてできないだろう。香港にも位置的に台風とか普通に毎年来るだろうが、どうしてんだろ。なーんか危なそうだ。まぁ、この図体じゃ高速移動はできなさそうだから変に拉致られるってことはなさそうだな。岸まで超能力で飛べる距離。窓もパッと見多いし逃げよう思えば逃げれるだろう。

 

 それだけ判断して案内された入り口に入る。

 

「うぉ……」

 

 玄関にはチャイナ服を着ている大勢の可愛い女の子がお出迎えしてくれた。……さすが中国のヤクザ……スゴい通り越してむしろ怖いまである。いや、どれだけいるんだ……。全員この城の中で生活しているのか……どういう立ち位置なんだろ。

 

「……ん?」

 

 俺をひとしきり見たあと一部女の子たちがコソコソと何やら言い合っている。俺をチラチラ見ながら。え、なに、こんな堂々と陰口言うの? いやもうそれ本人の目の前だし、陰口どころか日向口だろ。

 

 ――――と思ったが、どこか様子が違う。中国語は分からないが、悪口とかで向けられる嫌悪感ある視線というよりかは好奇心に溢れた女子特有の視線を感じる。

 

「なぁ諸葛。俺のこと、この人らになんて説明した?」

「私は大切な客人が来ると言っただけですよ」

「……………………私は?」

 

 その表現、嫌な予感しかしねぇ。

 

「はい。猛妹が比企谷さんのことを何と吹聴していたのかは私の預かり知らぬところですが」

「あぁ、うん」

 

 何となく予想はできる。あることないこと言ったんだろうなぁ。

 

「まぁいいや。それで、猛妹はどの辺りにいるんだ? まだ謹慎中なら近付かないようにしたいけど」

「そうですね…………ん。これはまさか」

 

 と、少し険しい顔になった諸葛は近くにいる人に何か話しかけている。トラブル?

 

「申し訳ありません、比企谷さん。ちょっと急用ができました。しばし席を外します。好きに見学をして構いませんので、ご自由にどうぞ」

「えっ」

 

 そう言い残してから諸葛は慌てた様子で引き返していった。――――俺を残して。

 

「……あの、困るんだけど?」

 

 何が困るって多分この場にいる人たちと言葉通じない。周りにいる女の子たちは中国語ばかりで日本語を話せる人はいなさそうだ。あの、ただでさえ俺がコミュ症だとしても周りが話せないと物理的にどうしようもないんだが? 諸葛ー! せめて俺も連れていってくれー! お前の邪魔はしないし、大人しくしてるからー!

 

 ……なんて心の中で叫びたがったり。あの映画見たときは何て言うか、よく分かんねぇって気持ちが強かったな。あ、そういう結末になるんだ? とかね。どこかスッキリしない終わりだった。って、どうでもいいな。

 

「えー……」

 

 周りにいる女の子たちは俺を遠巻きに見ている。や、やりづれぇ……。マジでどう動けばいいのか判断つかない。ここまで心細いと感じたことは生まれて初めてかもしれない。折本に告白とかで変に目立つことは今まであれど、こういう状況で不安になることはあまりなかったような気がする。断言できないけど。

 

 と、とりあえず諸葛に言われた通り、見学でもするか。もし逃走とかなったときのために中の構造やら把握しておきたいし。その前に荷物置きたいな。どこに置けばいいのやら。

 

「――――」

 

 荷物は応接間であろう目立つ場所に置いてから歩き始める。まぁ、もし盗られても逃げ場ないんだし、すぐ見付けれるだろう。…………うん、頭の中でゴチャゴチャ考えているけれど、至るところから視線めっちゃ感じる。こうなったら話しかけてくれ生殺しすぎる。って話しかけられても答えられないか。

 

 動こうにも女の子たちが多くて階段やら通りにくいな。あの中を断りを入れつつ通るのもしにくい。こんなとこで人見知り拗らせなくてもと思うが、そういう性分なんです。まぁいいや。飛翔で2階に上がろう。昨日に比べれば超能力は普通に使える。

 

「……っと」

 

 飛翔で女の子たちの上を飛び、踊り場に着地。後ろからざわめく声が届く。何を言っているのかは分からないけれど、離れていてもその喧騒は大きいものだと分かる。まぁ、いきなり人が飛ぶのを間近で見たらそうもなるか。正確に言うと、フライってよりかは空中で何回もジャンプしているのが近いんだけども。

 

 2階に上がる。しばらく廊下を歩くと扉が開いていたあ部屋があったので覗く。そこには大理石の床に赤色の絨毯、円柱には黄金の龍の装飾もある。成金かよ。ちょっと奪ってもバレないんじゃないかと邪な考えが浮かぶほど、これでもかと金がかかっている造りだ。

 

 それから廊下、バルコニー、3階とゆっくり見回ることにした。バルコニーは陽射しを防ぐような造りになっていたり、途中に植物園のような場所もあったので見学させてもらったりした。が、中にいる人たちは一般人ばかりだった。さすがにそこいらに戦闘要員はいないか。使用人と思わしき人がとても多いな。確かにデカい建物だし、そのくらい雇う必要あるんだろう。

 

 それはともかく――――

 

「……いや、暇だな」

 

 だいたいの構造は把握したころ、俺はポツリと呟く。することがないというより、できることが少ない。暇を潰すための本は昨日の晩に読み尽くしてしまった。2階のバルコニーにベンチがあるからそこに座って景色を眺めつつボーッと過ごす。

 

「……ん?  ……あっ」

 

 数分、数十分、どのくらいいたのか分からないほどベンチに座っていると、しばらくしてクルーザーがこちらにやってくるのが見えてくる。誰か来たのか、あ、諸葛帰ってきたのかと思い身を乗り出して観察する。んー、確かに諸葛が乗っているのは確認できた。その周りにいる人物たちは――――

 

「お」

 

 誰か分かった瞬間、思わずバルコニーからジャンプしてクルーザーまで一直線に飛び降りる。烈風で減速をかけつつ着地に成功。

 

「レキ、お前もこっち来てたのか」

「はい」

 

 いたのはバスカービル+αの面々だ。普段ならこんなことしないだろうけど、周りが言葉通じない人だらけで不安だったんだ。知っている顔を見付けたら近付いちゃうよね。

 

「うわっ、うっそぉ、八幡じゃない。ホントにレキの言った通りだわ……」

 

 神崎は俺が現れたこととは別の意味で唖然としている。どしたの?

 

「何がだ?」

 

 何のことだか気になり神崎に訊く。

 

「八幡、アンタが藍幇の本拠地にいるかもってレキが言っていたのよね」

 

 あれ、さすがにこの情報を教えるのは不公平だと思って黙っていたけど。

 

「俺、レキに行き先言ってないだろ」

「はい、行き先は訊いていませんでした。ただ、八幡さんに仕込んでいるGPSがどうも洋上を示していたので、恐らくそうなのだろうと話していました」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 

 

 …………………………うん?

 

 

「え、なに、お前今何つった? GPS?」

「そうですよ」

「いつ仕込んだ!? ていうかどこだ!?」

 

 何それ初耳なんだけど!

 

 いきなりの事態で声が荒げてしまう。待って待って。え、マジで? GPS? 俺に今付いているの? そんなのされた覚えないんだけど。てか、俺のプライバシーはどこへ行った。……そう青ざめつつ未だに無表情を保つレキに恐る恐る訊ねる。

 

「……えーっと、俺の携帯からか? それなら納得できるけど」

「違います。場所は言及しませんが、基本的に八幡さん本体からの信号です」

 

 …………怖いよ。ひたすらに怖いよ。

 

「とはいっても、分かるのは場所だけですよ? 盗聴はしていませんので安心を」

「できるかっ!」

 

 思わず叫ぶ。『私は別に悪いことはしてないですよ? 何か問題が?』とでも言いたげな顔は止めろ。

 

「う、うわぁ……ハチハチ、うーん、ドンマイだねこれは。いやー、レキュってばわりと拘束したがる系女子? アハハ、愛されてますなぁー!」

「理子、それは愛されてるって言うのか。いや、比企谷、なんつーか……頑張れ」

 

 理子はめちゃくちゃ笑いながら俺の肩をバンバン叩き、遠山は同情の視線を見せつつ半ば諦めた様子。そして、星伽さんは――――

 

「なるほど……GPS……そんな手もあるのね。覚えておかなきゃ。でも、私にそういうの扱えるかな。レキさんに教えてもらえるかなぁ……それならキンちゃんを…………」

 

 なんてことをブツブツ呟いている。訊かなかったことにしよう。案の定というか、遠山は星伽さんの呟きを訊いてないみたいだし。

 

 あとでじっくりと俺の持ち物調べておかないこと今後が――――

 

「――――ッ」

 

 船内からかすかに足音が耳に届く。その音は徐々に大きくなると同時に嫌な予感が迸る。そして、この俺に対して向けられるこの独特な気配は――――

 

「はっちまーん!」

「出たな猛妹!」

 

 他のココ3人に引き留められながらも猛妹は這い出るように船内から突撃してくる。

 

 さっきは猛妹のことを嫌いではない云々と思ったが、出会ったからには話は別だ。俺が殺られる(主にレキに)前に気絶させる。我が身は大切なのでね。俺はすぐさまヴァイスを組み立て迎撃体勢をとるけど、遠山に肩を掴まれ忠告される。

 

「船で暴れるな! しかもわりと小さい船で! ていうか棍棒は止めろ。こっちが危ない」

「そうよ、アンタらが暴れたら船が壊れるわ」

 

 神崎には言われたくないけど? お前みたいな暴走列車と一緒にするなよ。

 

「猛妹止めるネー。今はイレギュラーと接触は禁止ヨ。また厳罰喰らうヨー!」

「諸葛のネチネチ口撃は嫌ヨー」

 

 ココ姉妹にも必死に止められている。その様子を見つつ諸葛にコイツらどうにかしろといった視線を送る。

 

「…………」

 

 お前はニコニコと見守っているだけかい。

 

 いやまぁ、戦力として恐らく弱いであろう諸葛がこの場に突っ込んだらケガしそうだしな。超能力を使える雰囲気は特にないし、参加する気はなさそうだ。触らぬ神に祟りなしってか。

 

 と、俺の近くでまた別の声が発生する。

 

「――――」

「ちょ、レキュレキュ! 無言でドラグノフ構えないで!」

「レキさん、止めようね!? ね?」

 

 また別の方向ではレキがドラグノフを猛妹に向けているのを理子(わりと焦っている。どうやら防弾服をぶち抜く弾であるアーマー・ピアスを装備していたらしい)と星伽さん(あなた散々俺らの部屋壊してきたよね?)がレキを止めている。

 

 ものスッゴいデジャブ。ついこの間も似たようなことがあった気が……あ、記憶から消したい。でも負の記憶って基本的に消えないんだよね。ふとしたときに思い出して、どうして自分はあのときこうしたのだろうと黒歴史が発掘されて死にたくなる。

 

 つーか、お前らホント、水と油だなぁ!?

 

「やーん、八幡怖ーい」

「ちょ……猛妹、こんなに力あったの!?」

「止まらナイ……」

 

 猛妹は猛妹で姉妹を力ずくで引きずりながらこちらへと進んでいる。

 

 姉妹たちは迷惑を必死に止めているように見えるが、さすが近接戦で遠山に一度勝った化物なだけある。我関せずと言わんがばかりの勢いだ。しかもこの状態で猫なで声を出しながら。喉絞められてるのにどうやって出してんだよ。

 

「…………よしっ」

 

 状況は確認し終えた。

 

 結論として、俺がここにいたら特に何ともなかった爆薬に火を付けるだけだ。これはあれだな、さっさと逃げるに限る。爆弾が爆発したらこの場にいる全員に迷惑がかかるだろう。いきなり飛び降りて現れたのになんだけど、飛翔でバルコニーに帰らせてもらいます。

 

「ハチハチー! コラー、逃げるなー!」

 

 理子の叫び声を背中に俺は空を駆け抜けちゃっちゃと逃げた。

 

 ごめんな、理子。悪いとは思っているけど、俺はできないことはしない主義だ。時間のムダなのに加え、効率が悪い。もうちっぽけな俺にはこの場を収めることなど不可能に近い。ねじれの位置にある存在はどうあっても交わらないのだ。……交わらないよね? 数学の成績は終わっているので自信がない。まぁ、帰国したらジュースでも奢ってやるよ。

 

 つまり……もうなるようになーれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか似たような引きが多いのどうにかしないとな……あまりにもレパートリーがなさすぎる……
感想、評価などお待ちしております(今更感)


9-nine-の主題歌のカラオケ配信始まったからカラオケ行きたい



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明けない夜の真上で

「……」

「……」

「…………」

「……」

「……」

「…………」

 

 この場を支配するのは、ぼっち(死んだ魚の目)と無口(リアル姫様)と中華娘(ロリロリ)の3人。藍幇城の2階にある一室に集まってから3人テーブルにつき、およそ10分は沈黙を貫いている。俺、あれからちゃんと逃げたのにいつの間にか掴まっていた。

 

 ……ただただ静かだ。周りでは怪盗やまな板がこの豪華絢爛な城に来て騒ぎまくっていると言うのに……。いや、ていうかこっち気にする素振りなさすぎだろ。なに、いない者として扱っているの? 空気なの?

 

 そして、この冷徹な空間で誰かが一度喋ろうものなら……いや、そんな勇気はないです。蛮勇ではないので。ひたすらに居心地が悪いというか気まずい。だ、誰か助けて……。理子さん、こっちに来て色々とメチャクチャにして! お前の敢えて空気を読まないスキルで助けてくれ。あ、来る様子ねぇわ。どんだけ騒いでいるんだか。こうなったら、瞬間移動でもするか。うん。集中――――

 

「八幡さん、逃げないでください」

「……はい」

 

 光の粒子を出したところで止められました。ていうか、どうしてこうなったんだ。俺はあれから空飛んで2階に逃げた。かと思いきや藍幇城にいた女の子たちがあれやこれやと俺を押してこう……セッティングされたテーブルに座らされた。そこにレキと猛妹が来てから――――今に至る。

 

「というか、どこへ逃げようとしたのですか?」

「え……あ、行き先設定してなかった。だからまぁ、あれだ、視界内のどっかだろ。日本に帰るわけでもないし」

「それ結局は変わらないと思うね……」

 

 ようやく猛妹も口を開き、俺に突っ込んでくる。

 

「そういえば、八幡の瞬間移動ってどこまで行けるの?」

「……ん」

 

 唐突な猛妹の疑問に答えていいのか迷う。とはいえ、猛妹に関しては別に答えたところで問題ないかと判断する。藍幇にも色金使える奴いるのだから、情報は俺とは比較できないほど持っているだろう。

 

「まだ色々と試している段階だけど、俺1人だけで飛ぶなら多分――日本国内の距離ならどこでも飛べると思う。飛ぶ先の地形やら座標やら具体的な情報が分かってないと、かなり危険だけどな。最悪空中に放り出されたり、ビルとビルに挟まったりする可能性がある。長時間集中していいなら……海外もまぁ場所によるだろうけどイケるかぁ……どうだろ。まだ海外は試してないからな。不法入国とかで掴まるのは避けたいし」

「八幡1人ってことは誰か付いて行くとどうなの?」

「まぁ、誰か1人ならそこまで問題ないだろうな。1回レキと一緒に飛んでみたときは普通に成功したし。どうもこの瞬間移動はどうも飛べる距離と運べる重量は反比例するみたいだな」

「……ハンピレー?」

 

 なに目を丸くしているんだ。猛妹お前さては反比例分かってないな?

 

「要するに身軽だと長く距離飛べて、飛ぶとき重いものと一緒ならそんなに距離飛べないってことだ。例えば……この城を動かそうとするなら、せいぜい10m移動させればいい方じゃないか。いや、どうだろ。そんなに動かせるかな……さすがにこの重量で10mはムリがあるか。ちょっと向き変えれるくらいか」

「へー。猴とはその辺りちょっと違うのかな」

「まぁ、年季が違うだろうしな。俺なんてペーペーもいいとこだぞ」

 

 正直なところ、瞬間移動に関してはまだ検証不足なことは否めない。いやまぁ、瞬間移動だけというよりほぼ全部なんだけど。瞬間移動を使い始めたのってヒルダと戦った数日後辺りだからな。ふと使えるようになっていた感覚だ。それから実験は重ねているんだが、国外とかはおいそれと試せないし、国内でも街中で瞬間移動とかろくに使えたもんじゃない。そんなの秘匿性どこ行ったって話になる。

 

 これから先、もっと色金が身体に馴染んでくれば結果は変わってくるだろう。実際、俺の超能力の力の上限は使い始めたころに比べればかなり上がった。烈風だと使える時間も増えたし、単純な威力も向上している。なんだか徐々に人間止めてるなと感じるが、別に今更感はある。周りが人外ばかりだし。それらに比べれば、俺なんでまだ一般人の範囲内だろ。

 

 と、ようやく話が始まったので仕切り直しに給仕の人に飲み物のお代わりを貰う。

 

 飲み物で思い返したけど――――さっき飛翔で逃げたときみたいにあんまり超能力使うべきではないよな。こんなどうでもいい場面で。いやマジで。

 

 俺の超能力の回復源はMAXコーヒーだ。あれは基本的に千葉に売っているもので海外には当然ない。つまり海外だと補給先がない。カフェインと糖分が必要だからそれっぽいものでも代用はできなくもないが、可能ならMAXコーヒーが飲みたい。好み的な問題で。一応はいくつか持ってきたからどうにかなるか。しかしまぁ、空港での液体の検査くっそ面倒なんだよな。

 

「にしても猛妹さ、なんか日本語上手になってない?」

 

 真面目な話は中断して、ふと気になったことを訊く。

 

「それは私も感じました」

「だよな」

 

 レキも同意する。実際、前に千葉であったときと比べればまだ発音に不自然さはあるものの、前回のようなカタコトといった感じはしない。末尾も普通になっている。

 

 突然の話題転換に猛妹は目を丸くしたけど、すぐに自慢げな顔になる。

 

「ふっふっふっ……これでもちゃんと日本語勉強してるからね。前までも話せたけど、やっぱりもっときちんと喋りたいよ」

「正直、俺は中国語はさっぱりだからな。日本語を話せる奴が増えるのは助かる部分はある。レキは中国語分かるの?」

「多少は。といっても、日常会話は満足にこなせまん。中国で仕事することはあまりなかったので」

 

 そうなんだ。

 

「そういえば、八幡は何があったのか訊かないの?」

「何がって?」

「バスカービルと私たちの……いざこざ?」

「あれをいざこざレベルで済ませれるとは思いませんが」

 

 あ、さっきまでバトッてきたんだ。だからここに招待されたかと合点がいく。遠山たちがここに来たのも諸葛の言うところの詫びなのだろう。そうでもなきゃ、どこにあるのか分からない水上の城にこんな堂々と乗り込ませないか。

 

「別に詳細は興味ない。勝手にやってくれ」

 

 俺は平和に過ごしたいんだ。修学旅行にまできて血生臭いのはもう勘弁したい。何が悲しくて遊びに来てまで血を流さなくちゃいけないんだ。そういうのは京都で終わり。今回はもう俺は戦わない。絶対だ! そういうこと思うといわゆるフラグ的なのが心配になる。

 

 まぁ、そもそもこの修学旅行において、もし敵になる可能性があるとしたら藍幇なんだろうが、俺だけで言うと別に抗争に巻き込まれているわけでもない。というより、今の俺は客人として招かれている立場である。これで戦闘ふっかけられたら、訴えていいレベル。誰に? さぁ……? 知らね。

 

 FEW無所属としては、こういうとき巻き込まれると悩まなくていいから非常に楽だ。願わくば、このまま超人とかとは戦わずにどこにでもあるような普通の武偵事務所の一員にでもなりたい。

 

「あ、八幡。このあと暇だったら手合わせしない?」

「しない」

「ケチ」

 

 あっぶない。戦わないって思ったところでそんなこと言われるとは。

 

「結局、私たち決着つかなかったから一度白黒させたいのに」

「あー。言われてみれば……」

 

 水投げの日での初戦は引き分け。神戸大橋で行われた2戦目は負けよりの引き分け――いや、俺と猛妹の単体の勝負だったら勝ち負けはついていない。というか、俺がほぼ勝ってた。あれは途中で邪魔が入ったからな。そして、新幹線での3戦目は猛妹が新幹線から落ちたせいでこれまた決着はついていない。

 

 確かに見事なまで勝ってねぇな、互いによ。

 

「いやでも、新幹線では炮娘がやらかしてお前が落っこちたんだから、あれはお前らの連携ミスってことで俺らの勝ちだろ」

「違うよ。あれはキンジの銃弾の逸らしが足りなかったからああなったね」

「そもそも先に攻撃したのは炮娘なんだから、過失はお前らにあるだろうよ。逮捕もされたし、俺らの勝ちはどこから見ても明らかだ」

「――――は?」

「――――あ?」

 

 お? 何だ、やるか? 今度こそ完膚なきまでに叩きのめすぞ。

 

「2人とも、落ち着きましょう」

 

 少し緊迫とした雰囲気が流れたのがレキにも伝わったのかすぐ制止にかかった。俺も大人しくするか。

 

「……はーい」

 

 猛妹は素直にレキの言うことに従う。珍しいというか、なかなか起こり得ない光景かもしれない。しかし、猛妹はそうせざるを得ない理由がある。

 

 それも、今猛妹が俺とは話せるのは諸葛が騒ぎを起こさないことを条件に許しているらしい。藍幇は徹底的な縦社会。上の立場に従わないともっと自身が下の立場になるとのこと。バスカービルに喧嘩をふっかけたみたいだが、どうやらそれもある意味では命令違反だったそうだ。だから、レキの言うことにも耳を貸した。

 

 いやー、ヤクザってのは人間関係が面倒だなと他人事のように思う。一々自分の立場が行動の枷になる。その点、武偵は身軽だ。基本的には1人で何でもしないといけないからな。とはいえ、1人で動ける分、責任は全部自分に振りかかるってのはあるが。一長一短かな。そう考えると、武偵のような個人事業主は俺にとって天職なまである。下手にややこしい人間関係に巻き込まれなくて済む確率は低くなる。ないとは言っていない。

 

「そういえば、そろそろ夕食の準備に入るそうよ。何か希望はある? これが駄目とか」

 

 ふいに猛妹から訊かれた。

 

「合わせてくれるのか」

「八幡もレキも客人だからね」

「そうだな……じゃあ、辛くないもので。レキは?」

「私は何でも大丈夫です。出された食事はきちんと頂きます」

「ん、分かったよ。伝えとくね。ちょっと席外すね」

 

 と、猛妹は一旦席から離れる。

 

 それを見計らったのか、今度はやたら上機嫌な理子がこちらにやって来る。おまけに頬がいつも以上に赤い。

 

「やっほー! 話は終わった?」

「……いや、お前何持ってんだ?」

 

 理子の両手には何やらカラフルな飲み物がある。怪しい。

 

「ん? ジュースだよ。カラフルで綺麗だよねー。飲む?」

「……いらねぇ。まだあるし」

「連れないねー。そこはちゃんとノリに乗っかるところだよ? だからハチハチはノリ悪いって言われるんだよー。あ、レキュは?」

 

 ねぇねぇ、そんな華麗にレキに話題転換させてないで。誰に言われてるの? そんな堂々陰口本人に告げる? あれか、留美や一色か。殴るぞ。

 

「では貰います。理子さん、どれか口を付けてますか?」

「付けてないよ。ハチハチたちに渡そうと思ったからねー」

 

 そう言ってレキは理子から飲み物を受け取る。なんか釈然としねぇ……。

 

 理子はそれだけの用事なのな直ぐ様どこかへ消えていった。多分俺らの中で一番楽しんでいるのが理子だな。酔っては理子のあのどこにいても自分の家みたいに振る舞える精神は正直なところ羨ましい。敵の本拠地なの分かってんのか? 

 

 ていうか、レキが受け取った飲み物……ジュースはジュースでも絶対アルコールありそうなんだけど? あの理子の顔からして酔ってるかどうかは別として、アルコール入ってるだろ。いつも以上にハイテンションなんだし。や、あれは素でああいうテンションだから、酔ってはなさそう。てか、レキは酒飲んで大丈夫なのか。そう不安になって覗き見るが、表情は変わらない。

 

 もしかしたら、今までで酒を飲む機会があったんだろうなと安堵する。レキはアングラな世界で生きてきた。いくら日本では未成年だろうと飲むことはあったんだろう。まぁ、別に大丈夫か。

 

「――――」

 

 遠山は城の構造を把握しようと適当に動いているみたいだ。神崎や星伽さんは別室へ行ったし、理子も消えたしで俺とレキは完全に取り残された形になった。

 

 まぁ、しばらくしたら猛妹かここで働いている人たちが飯の用意ができたと呼んでくれるだろうから、それまで静かにしておこう。何気にレキと2人きりだ。香港に行くまでバスカービルとの打ち合わせやらで慌ただしかったから、こうやって大人しく2人でいれる時間は久しぶりだ。

 

「なぁ、レキ」

 

 これといって話しかける話題がないのに声をかける。

 

「…………はい、何でしょう」

「……? 途中遠山が迷子になってトラブルあったみたいだが、観光できたのか?」

 

 レキにしてはやけに反応が遅れたのが気になったが、適当に話題を振ってみる。

 

「は……い。理子さん……と…………」

 

 あ、あれ? レキ寝た? あ、なんか目を閉じてる。まだ酒全然飲んでなくね? せいぜい一口程度しか口にしていないはずだが――――え、酒弱っ。レキはあれか、酔うと寝てしまうタイプなのかと理解した。

 

 とはいえ、寝てしまったか。これから飯があるのだが、それまで寝かせておこう。どうやら戦闘をしてきたらしいし、少しくらい休んでいても問題ないはずだ。普段レキは座って休眠しているが、今はベッドかせめて毛布辺りが必要だ。……誰か部屋の外にいないか――――

 

「……っ」

 

 と、辺りを見渡そうとしたところで、レキの頭が俺の肩にもたれかかる。いきなりのことで、若干緊張してしまう。レキと出会ってから1年以上は経過しているのに、というより、今までわりと濃い面子と接してきたのに、いざというときの女性に対しての耐性のなさに呆れてしまう。

 

 一旦レキを寝かせようかと俺がゆっくり動いたところで、レキが口を開いた。ヤベ、起こしてしたったか。

 

「…………んんっ…………はち……まん……くん…………」

 

 

 ――――わずかな、微かな声が、でも確かにかなり近い距離でいるからこそ、俺の耳に届いた。

 

 

「――――……ッ」

 

 あっぶね。いきなりのことで驚いたので思わず焦りそうになったが、そこはグッと堪えた。俺のどうでもいい感情でレキの睡眠を妨げるわけにもいかない。しかし、何だろうか。普段絶対言わないであろうからこそ萌えるギャップというか……また今度君付けお願いしてみよう。

 

 そう決心し、レキを横にしてから部屋をあとにする。近くにあった毛布をかけて。このまま同じ空間にいたら、なんかもう理性がもちそうもない。そのくらい今の発言は衝撃的だったのは確かだ。退散して頭を冷やそう。

 

 

「ふー……」

 

 バルコニーで夜風に辺りながら持ってきたマッ缶をチビチビ飲む。甘さが脳に沁みる。やっぱり糖分はいい。疲れた頭を癒してくれる。しかし、冷静になればなるほど、さっきの出来事が脳裏に浮かぶ。

 

 あの呼び方にときめいたのは間違いない。いや、この表現古すぎるだろ。でも、こうとしか表現しようがない。

 

 それにしても、レキと1年は一緒にいたが、アイツが敬語を外して話す姿は見たことがない。誰に対しても敬語を崩さない。そう生きてきたから今さら変えろなどと傲慢なことを言うつもりはない。ただ……たまには敬語を外して接してくれてもいいと思ったり思わなかったり……欲望駄々漏れか。

 

「ん?」

 

 そうこう悶々していると、足音が近付いてきた。

 

「おや、ここにいましたか」

「諸葛か。どした?」

 

 レキかと思ったが、まだ起きていないようだ。飲んでからまだそこまで経ってないし酔いも覚めない時間だな。

 

「いえ、そろそろ夕食の用意ができますよと報告を」

「それお前がすんのか?」

「本来なら侍女の役割なのですが……まぁ私も手持ち無沙汰でしてね。少し歩いていたところですよ。それに日本語を話せる人も少ないので……おや、そちらはコーヒーですか?」

 

 諸葛は俺が手に持っていたマッ缶に興味を示した。

 

「そうだな、コーヒー……だよ、うん」

「なぜそこで歯切れが悪いのでしょうね」

 

 コーヒーというかほぼ練乳だし、これ。

 

「そういや、中国ってコーヒー飲むのか? どっちかって言うと、茶のイメージだが」

「けっこう好んで飲む人は多いですよ。中国は甘党の人が多く、最近は甘いコーヒーも流行っておりましてね」

「お、奇遇だな。これも甘いコーヒーなんだよ」

「ほう。どれどれ……」

 

 と、ここで諸葛に軽くマッ缶を見せる。

 

「原材料名で最初に練乳が記されているんですね……これコーヒーなんです?」

「コーヒーだぞ。コーヒー牛乳寄りだとは思うけど。千葉のソウルドリンクだからな。ちなみにこれ1本に角砂糖8個分くらいが入ってる」

「甘過ぎでしょ……」

「人生苦い出来事ばかりなんだから、コーヒーくらい甘くして自分を甘やかすので丁度いいんだよ」

 

 少し引いている諸葛にそう告げる。

 

「なるほど、比企谷さんらしい回答ですね」

 

 なんてくだらないやり取りをしている間にふと気になったことを訊ねる。

 

「そういや、バスカービルとはどうすんだ? 詫びに呼んだってことはこのままで終わりか?」

「バスカービルからは講和案が出ているので、基本的にそれを受諾しようかと。何も藍幇が抱えている問題はFEWだけではないですからね」

「なるほど」

 

 そりゃ規模がデカいヤクザなんだから、それもそうか。

 

「でも、それだとうちの面々も納得しないところがあるのでね。明日、代表者たちで決闘を行うつもりです。加えて、遠山さんの器を確かめる部分もあります。将来、藍幇を引っ張る者として見極めるつもりです」

「ほーん」

 

 遠山、ドンマイ。ヤクザに粉をかけられて可哀想なこと。

 

「もちろん、比企谷さんも藍幇を任せられると考えているのですが」

「絶対イヤ」

「おや、即答とは。猛妹もいますのに。知っていますか? ヤクザやマフィアってしつこいのですよ」

 

 だからといって、地獄への片道切符は御免被る。誰が好き好んで破滅まっしぐらなルートを進まなくちゃいけないんだ。そういうのは主人公適正のある死んでも死ななさそうな奴でいいんだよ。

 

「話を戻しまして――――そして、その決闘には猴が参加します。……いえ、孫ですね。孫がいるからには私たちの勝ちが確定です」

「随分豪語するな。下手に自信満々で発言しておいて、それで完膚なきまでに負けたら恥ずかしいぞ」

 

 ソースは俺。自信満々に言っておいてそれを外したときの羞恥心ときたら死にたくなるレベルだ。

 

「有り得ませんよ。如意棒を防げる人物はいないのですから」

 

 穏やかな笑みだが、その中身には確信の2文字がある。

 

 それだけ、あのレーザー攻撃は凄まじい。

 

「まぁ、確かにな。レーザー防げる奴はもう人間じゃねーし。でも、防ぐことは厳しくても撃たせないことはできるだろ。あんなの目眩ましや目潰し、閃光でも起こせば一発だ」

「普段の戦闘ならそれでいいかもしれませんね。実際、先ほどバスカービルと孫が戦闘したときはレーザーを撃たせまいと様々な手段を要したそうですから。誰の入れ知恵なんでしょうね?」

「さぁ?」

 

 答えは明白だが、すっとぼける。

 

「しかし、今回は決闘です。如意棒を撃たせない決着は双方納得がいかないでしょう。いえ、双方というよりこちら側が、ですが」

「その言い分は卑怯だな。…………まぁ、足元掬われないようにな」

 

 

 

 

 

 ――――翌日の昼過ぎ。もう少し経てば夕方に差し掛かる時間帯。

 

 俺はCBR1000RRというホンダのバイクに跨がり香港の公道を駆けていた。カッコいいのあるねぇ。藍幇から借りたバイクだけど。

 

 今日はバスカービルと藍幇の決闘があるから、部外者がいるのもよろしくないということで、今は俺独りでのんびり観光中だ。途中飯屋に寄ってラーメン食べたりお土産買ったりとゆっくり過ごしている。

 

 もしあのドデカい城が移動しても大丈夫なよう、諸葛に予備の携帯を渡してGPS機能をオンにしている。これで俺がどれだけ離れても、とりあえずは近くの海岸に行くことはできる。あとは回収してもらえばオッケーだ。俺のメインの携帯のGPSも付けてるから、向こうから俺の位置を探るの、何かあった際、迎えに来てもらうことも可能だ。

 

 それにしても、城にいても気まずかったな。朝から遠山たちも藍幇側もどこかピリピリとした緊迫感が伝わってきた。やはりレーザービームを使える猴と戦うとなると、緊張するものだろう。特に今回はレーザーを真正面からどうにかしないといけないらしい。んなのムリゲーすぎだろと使える俺が言うのもなんだけど。重力レンズという珍しい超能力が使える奴なんてそうそういないし。

 

「――――」

 

 そういえば、レキは昨日酔ったときに漏らした言葉は覚えていなかった。あれはもう完全に寝ていたのだろう。やっぱり君呼びはとても良かった。ぜひともまたどこかで呼んでもらいたい。しかし、敬語を崩すレキはどこか解釈違いな部分もある。厄介オタクか俺は。

 

 今日は海岸沿いを中心に走っている。何でも香港は100万ドルの夜景が有名らしい。

 

 日本でも夜景が綺麗なところはあるが、香港は東京以上にビルが密集している。もしかしたら、それはそれはかなり綺麗な光景なのだろう。「まぁ、夜景なんて残業している人たちによって成り立つものだろ」と諸葛に言ったら「夢がないですね……」と苦笑された。

 

 香港は島国だから海岸近くで景色を見ればより綺麗に見えるだろう。知らんけど。

 

 そして、ドライブを楽しんでいることしばし。

 

 完全に日が暮れてきた太陽は沈んだ。今から暗闇がこの場を支配するかと思えば様相は全く変わらず。さすが屈指の都会である香港。100万ドルの夜景の冠は伊達じゃない。昨日も感じだが、ビルが中心となっている都会では明るさは変化がない。至るところに街灯があり、ビルからの光も相まって辺りを照らしている。

 

「……おぉ」

 

 ぶっちゃけ夜景なんて諸葛に言った通り所詮は残業でできているものだと侮っていた。いや、マジでスゴいな。単純な白色の光だけでなく、彩りがあるとはこういうものだと実感するほどだ。純粋に綺麗だとそう感じる。これは人気な観光スポットになるのも理解できる。山ほどカップルがいるのも納得できるレベルだ。

 

 どうせならレキと一緒に来たかったくらいだ。……そろそろか。アイツらの決闘。日が落ちるころに始めると言っていたな。また時間を見計らって連絡してみるか。どちらにせよ、一度クルーザーを用意してもらわないとバイク共々帰れないわけだし。

 

 

「……あれ」

 

 100万ドルの夜景を堪能しながら海岸沿いを走行していると、いつの間にかあまり人がいない港まで来てしまった。ちょっとあれだな、色々と注意力散漫になっていたな。事故は起こさないようにしないと。ヤベ、ここらはけっこう暗い。こっちの方はあまり街灯がないみたいだな。

 

 さっさと引き返すか。と思ったが、思わず港に停泊している船に目を奪われてしまう。

 

 お、色々と止まっているな。漁船、これは個人のクルーザー? あとはデカい客船やタンカーか。タンカーって何に使うんだ。荷物は……暗くて分からないけど乗ってなさそう。けっこう雑多というか種類が別々なんだな。まぁいいや。とりあえず人が多い道に引き返してから連絡を――――

 

「おい、もうちょい別の場所に止められねーのかよ」

「仕方あるまい。こんなもの人目につけるわけないだろう。それにお主がラーメンを食いたいと言わなければもう少し早く帰れたわ」

 

 ……え? 日本語?

 

 今、俺の耳に入った言語は日本語だった。若干、イントネーションが微妙な部分もあったが、確実に日本語だった。おまけに2人いるっぽい。しかもどちらも聞き覚えのある声。1人は記憶を探らないと思い出せなかったけど、もう1人は前にも聞いた。どこで? 夏休みのあるときに――――

 

 エンジンを停止させヘルメットを外す。まだ建物の影にいるから確定ではない。確定ではないが、ほぼ確実だ。

 

「では、一度タンカーに戻って最終準備を進めるとするかの」

「だな。アイツらを驚かせるために超能力の準備もしねぇと――――あ?」

 

 あ、エンジン止めるの遅すぎた。エンジン音で誰かいることが向こうにバレてしまった。

 

 遭遇したからには隠密行動に移したかったが、仕方ない。とりあえず俺の予備の携帯にSOSの連絡を入れよう。頼むから気付いてくれよ。

 

 日常生活のスイッチから戦闘へのスイッチへと意識を切り替えつつ俺は諦めて姿を現す。いつでも戦闘が起きてもいいよう、ファイブセブンを取り出して。

 

「んだよ、そこに誰かいんのか――――って、イレギュラー!?」

「……まさかお主がそこにいるとはな。いや、バスカービルたちがいるのじゃ。不思議ではないか……。カジノでは世話になったの」

 

 水を操るナチス女のカツェ、単純な超能力なら恐らく世界最高峰の女であるパトラ。2人の魔女とご対面だ。宣戦会議でも見かけたが、前にもこの2人には遭遇したことがある。パトラはカジノで、カツェはイ・ウーにいたときに話したことがある。今どきナチス復活を志すイカれた奴だったからソリは合わないどころか互いに嫌っていたけどな。

 

「お前、噂に訊いているぜ。ヒルダブッ倒したんだってな。しかも独りで。よくやるわ。おかげで、アイツが師団に移ってこっちは大打撃喰らったっての」

「知るか。犯罪者捕まえて何が悪い。よし、んじゃお前らも逮捕するか。パトラはカジノでの一件がある。カツェは……なんかしてんだろ。神崎の母親絡みで。つか、イ・ウーにいたんだしよ、あとから罪状わんさか出てくるだろうよ」

 

 にしても、こんなところで面倒なことになったなと辟易する。この2人が揃っていて、お忍びで来ているとかまずあり得ない。絶対と言っていいほど何かをやらかす。

 

 さて、この2人は何をしにきたのか推測をする。ここは香港、藍幇の本拠地がある場所だ。今の藍幇は眷属だ。そして、師団のバスカービルがここに来るという情報は藍幇から渡されていると考える。つまり、状況証拠を並べると普通に藍幇が負けたときのために援軍に来たといったところが妥当だろう。

 

 普通はそう考える。しかし、あのタンカー……全長300mはありそうなほどの大きさ。あれはパトラたちが用意したものらしい。あれで何かを起こす。候補として浮かび上がるのはテロといった突発的なものだ。それか敢えてタンカーを突っ込ませて事故を起こすか。イ・ウーにいたからには理子が得意としたジャックという選択肢も考えられる。

 

 その手段は現状では不明、か。しかし、このタンカーの規模的に香港にも被害が出そうだ。それでは些か不自然な上に不可解だ。だって、それだと藍幇の領地を脅かすことになるのではないか。あれか、仲間割れ? 方針に違いで解散するバンドかよと思考を巡らす。

 

 ただ、別に理由はどうでもいい。何をするのかが重要だ。あのタンカーを使って何をやる?

 

「いや」

 

 結論を出すのはあとでいい。今すべきことはパトラとカツェの制圧。そして、タンカーの押収。優先順位はタンカーの方か。目的も手段も不明。だが、コイツらは何かをやる。武偵として、事件は未然に防がなければいけない。

 

 海外ということで俺の武装は少ない。おまけに観光しかするつもりがなかったので、藍幇城に多少なりといくつかの武装――特に予備マガジンの大部分は置いてきてしまった。単純な戦力で言えば、ヒルダと同等。パトラに関してはヒルダ以上の可能性がある。ただ、近くにピラミッド型の建造物はないから、アイツの超能力もかなり限られるはずだ。しかし、加えてカツェもいる。普通に不利な対面だろう。

 

 しかし、そんなの言い訳にならない。それに別に勝てないわけでもないしな。というより、勝つ必要はない。タンカーさえ無力化すればいいだけだ。目の前の2人に気を取られて手遅れになる前に――――俺は一気に駆ける。まずはタンカーに乗船。そこからタンカーを無力化して、何かしらの動きがあれば、2人を捕縛する。

 

 

 ――――俺は普通に観光していただけなのに、なんでこうなるかな! 残業どころか休日出勤とかしたくないんだが。社畜にどんどん近付いてきているなぁ。

 

 

 昨日の戦いたくないという誓いはどこへ消えたのやら、そう叫びたい気持ちを押し込めて、思いきりジャンプしてタンカーに乗船する。

 

 

 

 

 

 

 




メタ的なことを言うと、本筋に関わらないということは、こういう裏方の場面でしか本筋と関われないのである



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誰か寝ている裏で、誰かはきっと誰かのために働く

 もう壊滅したイ・ウーの中でもリアルに世界征服とか企んでいた頭イカれている集団に属していたパトラとカツェが、修学旅行でのんびりと観光していた俺の前に現れた。今、停泊しているタンカーを用いて何か事件を起こそうとしている。それを未然に防ぐため、俺はそのタンカーに単身乗り込む。いや、休暇くらい普通に休暇を楽しみたいんですけどね。

 

 さて、パトラたちより先にタンカーへ乗り込んだのはいい。チラッとさっきまで俺がいたところを確認する。目を丸くしてこちらに走っているな。アイツらも焦って追いかけてきてすぐに乗船するだろうが、飛翔で一足先に到達できたのはアドバンテージだ。今のうちに船内へ駆け込もう。

 

 そう思ってだだっ広い甲板に着地したが――――既にそこには何か異質なモノが甲板を埋め尽くすほど立っていた。

 

 二足歩行の人型で体長は2mほど。全身が黒く、頭が犬のような印象。これは見覚えがある。カジノでも戦ったことがある、パトラが扱う使い魔であるゴレムだ。襲撃に備えて配備させていたのか。しかし、前回よりかは一回り大きい。

 

「くっそ……」

 

 思わずボヤく。どうやらそう簡単にはいかないらしい。船内までの入り口までざっと50mある。横幅も同じくらいだ。そこにパッと見分かるだけで……50体はゴレムがいる。そして、俺を見るや否や――もしくはパトラの指示でか、全部の人形が俺を一斉に凝視してくる、まるである種のホラー映像だ。

 

 すぐに駆けようとした足が止まる。パトラめ、かなりの数を注ぎ込んでいやがる。ここでは無制限に超能力を使うことはできないが、その辺りの準備は抜かりないか。

 

 このゴレムを倒すにはまず、かなり硬い装甲を破壊して、中にある核を潰す必要がある。前回は俺の初代棍棒では装甲はビクともしなかったからな。なぜか神崎の蹴りで壊れたけど、星伽さんの超能力と剣術の合わせ技でようやく壊すことができた。いや、アイツの蹴りどんな破壊力だよ……。

 

 装甲を破壊する必要はあるにはある。けれど、拳銃で撃ち抜くことは別に可能だ。問題は貫通させてもその部分だけでは大したダメージにはならな――――

 

「くっ……」

 

 後ろから気配がして思わず左に飛び退く。……1体のゴレムが砂鉄でできた腕を剣状にしてきて背後から切り刻んできたか。危ないな。あれの切れ味はかなりヤバい。カジノでは壁をガリガリ削っていた。あれに当たらないようにしなければ――――と思ったら、また同じように複数のゴレムが波状攻撃を仕掛けてくる。

 

「――――……っ」

 

 俺はその波状攻撃に当たらないよう距離を取りながら回避する。

 

 攻撃を避けながら観察してきた結果、どうやらゴレムは5体で1つの小隊として動いているみたいだ。どれだけ数が多くて単騎で強かろうとも連携しなきゃ、所詮は雑魚になってしまう。特に近接の連携はそれだけシビアだ。遠距離攻撃なら離れて火力を集中させるだけでいいが、近接なら1体の動きが邪魔になって、ドミノ倒しのように連携が失敗することなんて多々あることだ。それを踏まえると、このゴレムの動きは実によくできているな。小隊が攻撃し終わったら、次の小隊が攻撃に……ウザったいな。

 

 俺が小隊分の攻撃を避けきったら、次に別の小隊が攻撃を仕掛けてくる。その繰り返しで甲板の奥まで下がらされた。間隔がなさすぎて、俺が攻撃する時間もないほど避けに徹しられた。

 

 その隙にパトラたちは乗船し、船内の奥底まで移動している。せっかく早く乗れたと言うのに、そのアドバンテージは一瞬で覆されたか。やっぱりそう簡単には上手く事が進まないな。こっちを見てほくそ笑んでたカツェは絶対殴るからな!

 

 ――――しかしまぁ、これはどうする? 影を使って一気に進むか? 飛翔で上を飛んでも扉の前はガッチリと守れている。どこかしらでゴレムとは戦わないといけない。もしよしんば最低限の距離で詰めれたとしても、扉前のゴレムに少しでも時間を使えば後ろから別の小隊が襲いにくるだろう。

 

 パトラたちを相手にする前に超能力を使い切ったら戦況は厳しくなる。本来なら、タンカーを無力化さえすればいいが、もう乗船を許してしまい、俺が足止めされている時点でその前提は崩れ去った。戦うのは必至だ。戦力は残しておきたい。

 

 それに加えて今後のことに備えて、超能力の使用は最小限に抑えたい気持ちがある。もしも、そのときが来た際、超能力が使えなかったでは話にならない。

 

 だったら、俺の持っている武器でどうにかするしかないな。ナイフ、棍棒のヴァイス、こっそりと違法改造したスタンバトン。そしてファイブセブン。手持ちの武器はこれか。この中で選ぶなら――――

 

「ファイブセブンだよな」

 

 他にゴレムを破壊できるほどの攻撃力はない。時間をかければヴァイスでもできるだろうが、今は時間が惜しい。速攻で進むしかない。

 

 拳銃はゴレムでも撃ち抜ける武器だ。人類の叡智が造り上げた結晶である拳銃は例えどれだけ超能力で強化している相手でも戦える。人が生身で扱える武器で最強だと思うのが拳銃だ。

 

 ファイブセブンは他の銃よりも貫通に特化してあるSS190弾を扱える拳銃。元々はみんな大好きP90のサブアームだしな、これ。しかし、攻撃範囲はそのため狭い。ファイブセブンが使用する弾丸は5.7×28mm弾。これは遠山が使うベレッタM92Fで扱われる9×19mmパラベラム弾より相当細い。そのような弾丸では、人間相手なら無類の強さを発揮するが、ゴレム相手では不足と言える。アレには痛覚なんてもんは存在しないしな。デカブツ相手だと心許ない。

 

 それでも、俺がナイフやヴァイスではなくファイブセブンを選んだのには理由がある。ある一点に狙いを引き絞り、撃つ。

 

 ――――パァン!

 

 と、聞きなれた乾いた銃声が鳴り響く。放たれた銃弾はゴレムのある箇所を撃ち抜いた。本来なら、どれだけ撃ってもダメージはほとんどないだろう。例えば、DEのよう大型拳銃とかなら、その衝撃でかなり装甲が崩れるかもしれないけど……いや、それでも今回は図体がデカいからな、拳銃では厳しいだろう。

 

 しかし、ある一点――――ゴレムの核を正確に撃ち抜けば話は別だ。

 

「…………」

 

 俺が撃ったゴレムはその核を撃ち抜かれ、元の材料であった砂へと戻り、崩れ落ちる――――のを確認する前に近くにいるゴレムを次々に俺は撃つ。

 

「ふー……」

 

 ホントに核を撃ち抜くことに成功して安堵する。

 

 今の俺にはゴレムの核の位置が分かる。どれだけ装甲で固められていても、どこに在るのかが分かる。前回、カジノではそんなことはなかった。でも、今の俺には確信という形で理解できる。そこに撃てば当たる――――と。

 

 色金を使えるようになったからなのか、そういう超常的な存在に慣れてきたのか、1体1体の核の位置はそれぞれ違うのにも関わらず、その全てが分かる。俺なら撃ち抜ける。

 

「……それにしても。うおっ、あっぶね」

 

 少し油断して左右からの挟み撃ちを喰らいそうになる。後方に転がりそれを回避。

 

 まぁ、ここまでカッコつけてみたけど…………うん、いくら分かったところで数が多い分、俺が圧倒的なまでに後手後手なんだけどね? いやだって、明らかこっちの弾丸の数は先に尽きるだろうし、おまけに船内から追加のゴレムが10体くらい来たし。最短で突っ切ろうにも四方八方からゴレムが邪魔してくるしで、全っ然進めない。

 

 ファイブセブンで迎撃しているが、その場から大きく動けない状態が続いていると。

 

 ――――ズウゥゥン。

 

 と、船全体が少しずつ揺れ始める。

 

「うっそだろ……もうかよ」

 

 いよいよタンカーが動き始めてしまった。もうパトラたちは動かしたのか。早いって。

 

 この進行方向……ヴィクトリア湾方面か? てことは、やっぱり突っ込んで自爆でもかける気か。…………いや、これはタンカーだ。下手すりゃ、この中により燃えやすい燃料とか積んでいたら……それこそ石油とかを。もしそうなら、被害規模は港程度では収まらないのではないか、都市丸ごと燃えるのではないかと、最悪の想像をしてしまう。当たってほしくはない予想だけど、犯人パトラたちだしなぁ、あり得るよなぁ。

 

 まるで夏休み最終日に、とても1日だけでは終わらないやり忘れていた課題に気付いたときのような絶望感。やってもやっても終わらないあの感覚。アキレスと亀かな?

 

「もうやだぁ……お家帰るぅ……」

 

 と、ボヤいても何も事態は進まない。ていうか、このセリフ俺が言っても気持ち悪いだけだね! このセリフは然るべき人が使わなければ。まさかエロゲで泣かされるとは思わなかった。

 

「あぁ~……」

 

 現状、俺はゴレムの妨害により船内へは行けず、パトラたちはタンカーを動かすことに成功した。もう温存とかムリだな。と、俺は重く湿った、訊くだけで相手のやる気を削ぐようなため息を吐いて諦めて空を仰ぐ。

 

 うん、暗い。都会だから星とか全然見えないな。

 

 ここまで事態が悪化すれば、四の五の言ってはいられない。こうなったら影を使って一気に削り取ってやる。その隙に最短で船内に潜り込む。一度船内に入ってしまえば、あの巨体なんて恐れなくていい。そこまで大きくないであろう通路に、そんな多い数のゴレムは不得手だろ。そのあとはもうなるようになれ。その場その場でどうにかするしかない。

 

 なんて半ば自棄になりつつ特攻を仕掛けようと試みる。

 

「ふぅー……」

 

 色金の力である影を使おうとするなら、普段の烈風とは違う集中力が必要になる。そのため、ファイブセブンでゴレム相手に応戦しつつ、集中力を練ろうとした次の瞬間――――

 

 

 ――――ドオオォォン!!

 

 

 と、突如俺の背後から爆音が鳴り響くと同時に、ゴレムの1体が粉々に弾け飛んだ。

 

「――――ッ」

 

 いきなりの爆音に耳を防ぎながらも先ほどの攻撃の威力に戦慄する。

 

 な、何なの今の? 大砲と見間違えるほどの威力だよ。いや、え、えー……つ、強すぎる……あのゴレムの跡形もないんだけど。核を撃ち抜くのではなく、その衝撃で完膚なきまでに破壊した。何なの千佳ちゃんのアイビスなの? あれでは中にある核などどこにあろうと全く関係ない。今の攻撃は全てを粉々に砕け散らせるほどの威力だな。

 

 あのゴレムをあんな粉々に粉砕できるほどの破壊力……一体誰が? そう疑問に思ったが、その疑問はすぐに解消されることになる。それも後ろから――――海の方からエンジン音が聞こえ始めた。

 

「――――!」

 

 何かと思えば、水上機だ。水面上に浮いて滑走が可能な航空機。種類までは分からないが、その機体の中には数人乗っている。俺がいるタンカーに近付いたと思えば、スピードを緩めた水上機の中からザッと飛び降りる人影が…………。

 

「やっほ~、ハチハチ、お待たせっ! りっこりんでーす!」

「八幡、助太刀に来たよ。SOSってこれのことよね。このタンカー……誰が動かしてるの?」

「お待たせして申し訳ありません、八幡さん。援護します」

 

 理子と猛妹、そして、レキがここに来てくれた。この戦場に。船上とかけてみた。ヤベぇ、くそつまんねぇわ。

 

 にしても、わざわざ援軍に来てくれてありがたい限りだ。乗船する前に送った俺のSOSサインを拾ってくれたみたいだな。いやもうホント、マジで助かる。独りではどうにもならなかった場面だ。かなりキツかったからな。

 

「悪い、来てくれて助かった」

 

 レキたちに話ながらゴレムを迎撃する。

 

 水上機の定員があったにしろ、来たのはこの3人だけか?

 

「遠山たちは?」

「キンジさんたちは藍幇の代表と最終決戦をしています。アリアさんも同様です。私たちは決闘が終わったので、即座に援護に来ました。藍幇の残りのメンバーと白雪さんは陽動に備えて別の場所へすぐに出撃できるよう藍幇城で待機しています」

 

 そこらの判断はさすがだな。レキが判断したかどうかは分からないけども。まぁ、みんなで話し合った結果かな。

 

 実際、星伽さんがここに来たらゴレムとは相性が悪いだろうし、かなり苦戦するかもしれない。別に星伽さんをバカにするつもりは全くなくて、超能力の相性って複雑なんだよな。俺みたいに超能力を補助的に使って物理攻撃をするならともかく、超能力の攻撃となると、それはもう色々と複雑すぎる。

 

「あれ、これってパトラの使い魔だよね、八幡。見た目的に」

「あぁ、このタンカーに乗ってるのはパトラとカツェ。今俺らの前に立ちふさがってるのはパトラの使い魔だ。多分タンカーを使って大規模なテロを仕掛けようとしているんだけど、俺には詳細は分からない。何となく予想は立ててみたけど、証拠はない。なぁ、理子なら内容が分かるか?」

 

 簡潔に状況を説明する。最悪の想像は考えられるが、証拠がないとどうにも決め手に欠ける。ここはわりと専門の理子に訊いてみたい。

 

 理子は険しい顔になりながら説明をする。

 

「んー、なるほどなるほど。よりにもよってカツェか……あのクソッタレが。これは相当ヤバいな。多分、タンカーにある原油を導火線にして香港の都市に火を付けるんだろ。言うなれば、言葉に表せないほどの大規模な火災をしようとしている。港にぶつけて原油撒き散らすんだろう。そこに火を付ければドカーンって燃え上がる寸法だ。ハチハチに分かりやすく言うなら、規模で言うなら冬木の火災かそれ以上ってところかな」

 

 予想はだいたい当たっていたな。いや、そんな悪い方向で当たられていても困るんだけど。

 

 それを思い付いて実行に移すのがマジでイカれている。だからこその対抗策はあるにはあるんだけどな。これはどちらかと言えば、カツェではなくパトラに向けてのだ。それが何なのかはパトラとタイマンで戦えるときに使ってみるか。どこまで効果あるのか分かんないけど。

 

「はぁ!? パトラにカツェ……許せないね。私たちの街にそんなの!」

 

 猛妹は理子が言った内容に憤慨している。

 

 それもそうだろう。いきなり自分の育った街を壊そうとする輩に出くわして何の感情も湧かない奴がいたらそれはそれでイカれているだろう。俺だって千葉に被害を加える奴が目の前にいたらボコボコにするからな!

 

 それはともかく……。

 

「ていうか、なんで猛妹まで来たの?」

「ちょっと酷くない!? 数分で水上機手配したの私よ!」

「そりゃありがたいけど……」

 

 だって、お前の所属している組織は今レキと敵対している。つまりは俺とも藍幇は敵対していると言える……かもしれない。そんな見ず知らず……見ず知らずは言いすぎか。そこまで知らない仲じゃないし。でも、何かしらの罠かもしれないのに、よく来てくれたよ。

 

「ふっふっふっ……愛している人からのSOSは見逃さないよ。私の立場なんて関係ないよ。ポイントを稼げるときは稼ぐのができる女よ」

「……お、おぅ……そ、そうですか」

 

 相変わらずのド直球の好意にドギマギする。こんな場面でもそういうことを平然と言える猛妹の胆力はスゴい。そして、俺の反応はダサい。いや、キモすぎだろ……。もうちょいマシな反応できないの? できないの。

 

「というより、ポイントって……その言葉が俺の心象を悪くするとは考えないのか」

「今さらじゃない?」

 

 確かに。

 

「へー……」

「――――」

 

 なんて猛妹と話していると、なんかデジャヴ……。

 

 俺の反応に不本意なのか、理子は目を細めて何やら睨んできてなんか呟いているし、レキに至っては瞳孔が開いている。その視線は是非とも俺や猛妹ではなく、ゴレム当たりに向けてほしいです……。怖い。

 

「まぁいいか。ハチハチにはあとで問い詰めるとして、パトラたちは?」

「船内。先に俺がタンカーに着いたんだけど……あぁもう邪魔だな! こんな感じで妨害喰らって足止め中だ」

 

 冷ややかな視線を止めてくれた理子は話を戻してくれる。その途中でゴレムが襲ってきたから、その体躯を思いきり蹴り飛ばす。

 

「では八幡さんは船内に侵入しようとして遮られているということですね」

「あぁ……まぁ、そういうこと……だな、うん」

「本当は藍幇との決闘が終わり次第、八幡さんと合流して観光をしたかったのですが」

「まぁ、うん……しゃーないよな」

「許せませんね」

 

 レキは何やら嬉しいことを言ってくれているが……俺の意識はそこにいかない。

 

 あの、さっきから気になっていたんだけど、レキが持っているそのライフル…………いつものドラグノフじゃないよね。あの、これどう見ても……バレットM82なんですけど! 対物ライフルじゃん!

 

 さっきゴレムを破壊したのはレキだな。対物ライフルでの攻撃なら納得したわ。

 

 それも対物ライフルってのは、WWⅠ辺りで戦車の中にいる人を狙撃するために開発されたと授業で習ったことがある。うろ覚えだけど。あの戦車を撃ち抜ける、軽車両など相手にならない、そんな威力を有しているのが対物ライフルだ。そんな恐ろしい代物を使うっていうか、持っていたんだ……。全然知らなかった。まぁ、普段から使えるもんじゃないしな。あんなのMAP兵器もいいとこだろ。

 

 それを使えるレキもこと戦闘に関して改めて化物だと実感する。これがSランク武偵の本気か……。

 

 それ、俺に向けて撃とうとしないでね? まず直撃したらその部位が確実に吹き飛ぶ。骨に当たらなければ、どうにか繋がっている状態にはなるかもだけど、1.5km離れた人間を胴体から真っ二つにしたとも噂されるほどエグい武装なんだよな。カスッただけだとしても、その部位は一生使い物にならなくなるくらいの深刻なダメージを負うことになるらしい。基本的にショック死だよ!

 

 何それ怖い!

 

「できれば理子か猛妹か付いてきてほしいけど」

 

 レキのバレットM82はさて置き、味方が増えた現状さっさと突っ込まないといけない。相手は2人だから近接が得意な理子か猛妹とタッグを組めるならありがたいが。

 

「うーん、ゴレムが多いからハチハチ単騎で行くしかないよね。甲板で押し負けるのがある意味不味いし」

 

 あっさり断られた。しかし、理子の意見も納得がいく。それもそうかといったように。

 

 いくらゴレムが船内に入るのが難しくても、あれは砂でできている。いざとなれば姿を変えることもできるだろう。それでパトラたちとゴレムに挟まれたら絶対詰む。

 

「そうね、私たち3人はゴレムの相手ね。八幡に道を作るよ」

「ちょいちょい。私たち3人じゃなくて4人だよ」

 

 ん? 理子、どういうことだ。まだ援軍がいるのか? と思った瞬間、理子の影が突如として蠢き、あまりにも不自然な形になる。それは理子の影の中にもう1人いるかの如く。

 

 これは……見覚えがあるぞ。

 

「……はぁ、仕方ないわね。理子の頼みよ。感謝しなさい、イレギュラー」

「ヒルダ!?」

 

 理子の影から出てきたのはまさかのヒルダ。前に俺が初見の攻撃でボコボコにした相手だ。いや、影に入れるのは知っていたけど、まさか理子の影に潜んでいたとは思いもしなかったからめっちゃ驚いたわ。

 

 え、何だ、お前不法入国したの? おーい、ここに犯罪者がいまーす! って、ここにいる人たちだいたい犯罪者ばかりだった。てへ、八幡うっかり。キモ。

 

 とりあえず挨拶はしておくか。助けてくれるみたいだし。

 

「お前いたんだな。まぁ、お前が味方なら頼もしいわ。よろしく」

「あら、平然としているのね。私を恨んでないのかしら?」

「理子が許しているなら、俺にとやかく言う権利はない。所詮は外野の戯言だ。それに一度戦って勝敗が決したら、わざわざ恨みなんて持ち越さねぇよ。んなの貴重な記憶容量のムダだ。というより、俺は別にお前に恨みはないしな。あのときは理子の依頼でお前を倒しただけだ」

 

 ムカついたことはあったが、別になぁ……それよりも俺はヒルダを殺しかけたわけだし、ヒルダの父親ぶっ殺しているしで恨まれるのは俺の方だと思うんだけどな。ぶっちゃけ恨みとかどうでもいい。

 

「ただし、あれだぞ。次に理子に手を出そうとしたらショットガン2丁担いで諏訪さんスタイルでお前を蜂の巣にするからな」

「……誰なのよ、ソイツ」

「おいおいお前、あの諏訪さんを知らないのか。ボーダーで上司にしたいランキング(俺調べ)第2位の男だぞ。ちなみに1位は東さん」

「だから誰なのよ!?」

 

 そうヒルダとじゃれ合いつつ理子に向き直る。

 

「理子――――お前は大丈夫なんだな?」

「あぁ。私が決めたことだからな。問題ない」

 

 キッパリと理子は頷く。

 

「なら俺はもう何も言わない。ただ、なんかあれば呼べよ。ショットガンやら戦車やら担いで絶対に助けに行くからな」

「……っ。う、うん。そのときはよろしくね、ハチハチっ!」

「ちょっと、そのときなんてないんですけど。心外ね」

 

 目を丸くして少し照れた理子にヒルダが茶々を入れる。あれ、思いの外仲良さそう?

 

 え、なんか意外だ。てっきり互いに遠慮しているというか、日常会話が弾む関係には見えないけど。だって……なぁ? 積み重ねた年月があれだし。

 

「ねぇねぇレキ、八幡って理子に優しくない?」

「同感です。八幡さんは理子さんに優しい上に甘いところもあります」

「私と態度丸っきり違うよ。ぞんざいすぎね」

「それは仕方ない部分はあると思いますよ。今まで私の八幡さんに行動を思い返してください」

「うっ……」

 

 そこの2人、ちょっと静かに。それと女子のマウント合戦怖い。これが噂の『コイツは私が唾付けてるんだから手出すんじゃねーぞ。コラァ!』という何気ない女子特有の会話ですか。よくラブコメとかで見かけるやつ。

 

「――――何はともあれ来てくれたありがと」

「お礼はあとです。パトラたちを捕まえてからにしましょう」

「だな」

 

 と、ようやく戦力も出揃い、各自臨戦態勢に入る。

 

「じゃあ、改めて――――私たちがゴレムを退けるから、その隙にハチハチは突っ切ってね」

「あんな人形、相手にもしたくないけれど……今回は特別よ。イレギュラー、あなた理子に感謝しなさいよね」

「ある程度片付いたら加勢しに行くけど、それまでにパトラたちを倒してね。ボコボコにするんだからね! 私たちの香港を燃やそうとする奴らは!」

 

 理子は超能力で髪を操り双剣双銃に。

 

 ヒルダはその身に電気を纏わせ。

 

 猛妹はその体躯と寸分違わない青龍偃月刀を構え。

 

 

「――――では。お前たち、そこは邪魔だ。八幡さんの道を開けなさい」

 

 

 珍しく言葉が荒々しいレキのバレットM82の狙撃――――いや、砲撃により第2ラウンドの幕は開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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番人

前回の登校日が2021/11/11 1:11だったのめっちゃ驚いたというどうでもいい報告





 レキの砲撃は射線上のゴレムを完璧に砕く。それもあの硬いゴレムを3体はまとめて破壊する。全員、カスりでもしないように大きく離れる。至近距離でのこの威力を直に見ると……こ、怖い……。と非常に戦慄してしまう。

 

 しかし、バレットM82は連続で撃つのに時間は多少かかる。その隙を突かれないよう、前衛組が走る。

 

 理子はワルサーP99を両手で2丁、超能力で操っているツインテールで刀を2本、それらを器用に駆使し、ゴレム数体相手する。相手を寄せ付けない怒涛の連続攻撃で次々と撃破をしている。ゴレムの外郭を破壊した瞬間、現れた核を瞬時に破壊する。

 

 まるで躊躇を見せない。ただ視界内のゴレムを相手する。自分の損傷を気にしない、致命傷以外はまるで気にしていない動き。いつもの理子じゃない。あれは――――俺はあまり見たことのない武偵殺しとしての理子だ。あの神崎を完封しただけはあるくらい凄まじい。ただ、ひたすら目の前の敵を駆逐している。

 

 そんな理子の背後から襲うゴレムはヒルダが迎撃をする。理子は背後を完全にヒルダに任せている。まさか、こんな戦法を理子が選択するとは……この2人の関係性を考えるとあり得ないと言ってもいいくらい、ある意味異常な光景に思える。

 

 ヒルダはゴレムに触れたかと思えば、一瞬閃光が走る。すると、途端にゴレムが崩れる。ゴレムの核は虫だ。その虫を的確に電気で撃ち抜いているみたいだ。俺にはその結果だけ分かる。ヒルダにも、核の位置は把握できているらしい。まぁ、魔女だもんな。俺以上に超能力には慣れていてもおかしくはない。……というより、砂でできているゴレム相手にどうやって電気を通しているかは謎なんだけど。

 

 理子と背中合わせで戦うヒルダは常に余裕を見せている。事実、かなりのゴレムの数が理子とヒルダを襲っているが、ゴレムはまるでヒルダと理子に近付けない。そして、影から取り出した三叉槍を力任せに振り回している。その怪力とヒルダの超能力の電気が合わさり、使い魔程度ののゴレムでは相手にならない。

 

 何あれ怖い。圧倒的な強さを見せている。

 

 …………改めて、どうして俺ヒルダに勝てたんだろう。実に不思議だ。

 

「八幡! お前パトラたちを倒せたとしても、このタンカーを止める手段あんのか!?」

 

 軽く頼もしい味方に引いていると、口調が荒い理子からそう問われる。その口調、俺がトイレを我慢している理子にペットボトルを貸そうかとふざけて訊ねたらマジギレされたから、ちょっとトラウマなんです。

 

「考えはあるが、ぶっちゃけ絶対じゃない。成功すれば被害は最小限に抑えれるかもしれない。ただ、それでも俺の考えだとタンカー自体を止めるには至らないと思う。下手に設備を破壊して手遅れになるのは避けたいし、できれば、船に詳しいエンジニアとかがほしい」

 

 素人が無闇に手を出して最悪のパターンになってしまうのはしたくない。できる限りタンカーの損傷は出したくないのが本音だ。

 

「それなら私の姉妹を援軍に要請を出してる! あと10分もすれば来るよ。理子、制限時間はどのくらい!?」

 

 レキの護衛に回っている猛妹が青龍刀を操り、大型剣をバットみたいにしてゴレムを叩き出している。コイツも改めて馬鹿力だなぁ。なんであの小さい体でそこまでの力が出るのか甚だ不思議だわ。俺、あんな武器使えないぞ。絶対、腰か肩がイカれる。

 

 その猛妹が理子に訊いている。そうか、4人目のココはエンジニア系列の人材なのか。言われてみれば、日本で会ったときに猛妹たちのように戦闘ができる雰囲気は醸し出してなかった。むしろ、単純な戦闘能力はかなり低いと思うレベルだろ。寄れば数秒で倒せると感じたくらいだ。

 

 っと、それより残りはどんくらいだ。確かに制限時間は気になる。

 

「この速度からして……目的地はヴィクトリア湾方面だろ? あー、うーん……30分から40分だと思う! でも、カツェは水を操る。水を操るってことは海流も当然操れる。ただ、ここは海路があまり広くない。そこまで速度を出せないから気にしなくてもいいと思うが、いざとなりゃムリヤリ海流を操作して速度を上げることもできる!」

「ムダに長ったらしいよ、理子。つまり!?」

「モタモタすんなってことだ! 行け、八幡! 香港燃やしたくなけりゃ時間かけすぎんなよ。さっさとアイツら仕留めろよ!」

 

 理子の叫びを合図に一気に駆ける。烈風での加速はしない。超能力の使用は最小限でいく。

 

「了解」

 

 理子とヒルダが作った穴を走る。周りは気にしない。

 

「じゃあ、理子。イレギュラーが入ったらこの扉は死守ってことでいいのかしらね?」

「だね。追加もなさそうだし、片付けたら加勢に行こうか」

 

 そんな言葉が聞こえたと思ったときには俺はタンカーにある居住区への侵入は成功した。理子、ヒルダには口調柔らかいんだなぁ。

 

 

 

「…………」

 

 タンカー後部にある建物の1階に飛び込み、扉を閉める。

 

 内部は簡素なビジネスホテルのような雰囲気が見受けられる。どうせこれ、パトラたちの私物じゃなさそうだし、どこかで奪ってきたもんなんだろうな。本来なら、このタンカーで働く人たちが寝泊まりする居住区のようなもんか。

 

 ゴレムの気配はなし。あの2人はどこにいるか探る。普通に考えているとしたら、数の多いゴレムを操作できる位置になる。カジノでの一件から分かったこととして、あのゴレムはある程度はオート操作は可能みたいだ。しかし、あそこまで複雑な連携をしているということは、パトラはゴレムや俺たちを俯瞰できる位置にいる可能性が高い。

 

 つまり、アイツらのいる方向は上だと推測を立てる。外から見た感じ、ここが1階で、多分5階程度の大きさだ。船には詳しくないが、こんなにデカい船を操縦する場所は、上側がから見下ろす形なのかな。

 

 とりあえず、上に行けば操舵室へ辿り着けるはずだ。そこでまず第一目標として操縦して船を停止させる。……ぶっちゃけパトラたちがそんな手段残している可能性は低いと思うけど、まずは試さないと。まぁ、十中八九ブレーキ系統壊しているだろうがな! 俺がそっち側でも、まずそこは優先して壊すよね。誰だってそうする。ていうか、どれがブレーキとか分かんないんだよなぁ。

 

 とにもかくにも、パトラとカツェをブッ飛ばさないと話は始まらない。

 

 そう考えつつ階段を駆け登る。

 

 

 最上階へ到着し、ファイブセブンを構えたまま気配の強い場所の扉を開け突入する。

 

「……まったく、こんなタイミングでイレギュラーに見付かるとはな。想定外じゃ」

「そうだぜ。本来なら、バスカービルたちの戦闘が終わる頃合いで姿を現すつもりだったのによー。てか、レキや理子はともかくココが協力するとはなぁ。藍幇が負けたら師団になるし、妥当っちゃ妥当か。イレギュラーは無所属だが、師団寄りだしよ」

 

 どうやらピンポイントで操舵室へ辿り着いたみたいだ。そこには悠々自適とパトラとカツェが佇んでいた。

 

 一先ず、この部屋やパトラたちの様子を見るために話を続けよう。

 

「ちなみに、お前らどうしてテロ紛いのこと起こすんだ?」

「んなの訊いてどうすんだよ。タンカージャック起こしている時点でどんな理由話しても、武偵のお前には理解できねーだろ」

「そりゃな。そういう頭イカれている奴らのことなんて理解したくもないな」

 

 そう口では言うが、よくよく考えれば武偵も大概じゃないか? いや、コイツらよりはまだマシだ。犯罪に抵触しないだけ、最低限の倫理観は残っている。と、自問自答して心を落ち着かせる。

 

 とりあえず――――カツェの服の膨らみからして拳銃はあるだろうが、まだ構えていない。いや、この2人の場合必要ない、が正しいか。互いに超能力があるからわざわざ跳弾の危険がある拳銃は撃たないのかもな。

 

「そもそもこのご時世にナチス復活とか馬鹿げたこと抜かす奴らだもんな。お前ら、頭終わってんじゃないのか。もうちょい現代の価値観アップデートしろよ。今と昔じゃ丸っきり状況も違うし、そんなこと言っていると、ただただ頭イタイ奴になるぞ。その眼帯といい、そういう年頃なんだな。数年後には黒歴史になってベッドで悶えることになるだろうな」

 

 どうして俺はあのときあんなことを言ってしまったのか、ふとした瞬間にフラッシュバックしてひたすらに恥ずかしい想いをするだけだ。悲しい。忘れたいのに記憶に残る。

 

「うっせ。どうせイレギュラーには分かんねーよ」

「まぁ、ごくごく普通の感性を持つ俺としても、んなのこれっぽっちも分かりたくもないな。で、バスカービルにちょっかい出す分には別にいいが、一般人巻き込む必要あるのか?」

「んなの楽しいからに決まってるだろうがよぉ! 戦争ってのは楽しくないとな! それに、藍幇がバスカービルに負けて師団になるって情報も入った。裏切り者には制裁だ。だが、藍幇は人数が多い。だから、タンカーで香港ごと燃やそうって寸法よ」

 

 今から行うことに、罪悪感はなく、子供がクリスマスプレゼントを上げるみたいに、目の前のことをただひたすら高揚し、愉快そうに嗤うカツェ。

 

「――――」

 

 

 そんな彼女を見てどうも心底不快な気持ちに陥る。つまり、カツェは一般人を殺すことに対して、何とも思っていないわけだ。むしろ、殺すことは当然、まるで空腹になったから食欲を満たすことと変わらないとでも言いたげでもある。

 

 この香港には多くの人がいる。国籍も人種も年齢も多種多様だ。観光客も、そこに暮らしている人も、敵であった藍幇に所属している人も、本当に多くの人がいる。2日3日程度しか過ごしていない俺でも、東京や千葉に慣れている俺ですら、この香港にいる人の多さには目を見張ったまである。

 

 そんなに多くの人がいる香港で、もし決まればかつてない程の被害になる規模の事件を起こそうとしている。俺は武偵として、それを止めなければならない。しかし、なぜ、と理由を問われるのであれば、解答するのにしばし時間を要する。

 

 人間はいつか死ぬ。それは当たり前であり自然の摂理だ。不老不死なんていない。誰であろうといつかは死ぬ。生物として、そう刻まれている機構だ。しかし、そのいつかを理不尽に奪われてはならない。テロを身勝手に起こし、それに巻き込まれた人たちが何があったのか理解する前に死ぬなんてこと――――あってはならない。

 

 だからこそ、俺は目の前の人物を止める必要がある。そのような理不尽から守るために俺はいる。誰であろうと、生きて最期に「悪くなかった」と思わなければならない。そうでなければ、救われないじゃないか。武偵とは、誰でもそんな当たり前を享受させるために存在する。

 

 前に語った、正義の味方ではなく、武偵が法の番人とはそういうことだ。正義の味方のように見返りを求めず、誰彼構わず助けるわけではない。助ける人間は選ぶのが武偵だ。しかし、武偵が関わるからには、一般人を死なせるわけにはいかない。武偵は、法を、社会を、潤滑に回すための歯車に過ぎない、と俺は思う。

 

 しかし、法を守る番人だからこそ――――その法を乱す奴らは見過ごせない。

 

 

「お前らは別に今からすることにこれといって罪悪感はないわけか。よく分かった。――――つまり、覚悟はできているってことだな」

「あ? 覚悟だぁ?」

「ん? あぁ……まぁあれだ、要するにお前らが死ぬ覚悟だよ」

 

 俺の口調が朝に挨拶をするかのような穏やかな声に聞こえたのか、今話した俺の言葉が非常に流暢だったからか、戸惑いもなくすんなりと発せられたからなのか、カツェは僅かに息を呑む。

 

「――――っ。おいおい、日本の武偵が人殺しを許容するのかよ?」

「バレなきゃ犯罪じゃねぇしな。それに今俺の背後にいる組織は中国最大級のヤクザだぞ。死体を誤魔化すのなんざ、簡単なことだろ。適当に殺して、適当に海にでも沈めれば、どうにかなるわ。目には目を、歯には歯を……理不尽な殺意には――――圧倒的な殺意で応えてやるよ、テロリスト」

 

 

 

 殺気、解放。

 

 

 

「来るぞ、カツェ!」

 

 パトラの警告と共に戦闘が始まる。

 

 今まで感じたことのなかった殺意をカツェに向ける。今からお前を殺すぞ――――と。

 

 その純粋な殺気に驚いたせいかカツェの反応が遅れる。その隙を逃さず、俺はファイブセブンを構える。こんな室内で撃って下手に跳弾を起こすのは避けたいので、実際には撃つつもりはないただのブラフだ。しかし、目前に死が迫るとなると、どうしても身がすくむ。だからこそ、距離を詰めて飛び蹴りをかます。

 

「ガッ――――」

 

 カツェの腹にもろに命中。カツェの呻き声と共に床を転がる。が、烈風を使わなかったから勢いは足りず威力は不十分。普通に耐えられた。まぁ、そうなるよな。なら追撃を。

 

 そう考えもう一度近付き攻撃しようとしたら、カツェはすぐに体勢を整え、水筒? からどうやら水を口に含める。その様子を見て思わず、距離を詰めるのを躊躇う。

 

 水? カツェの超能力は水を使う。それはイ・ウーにいたから少しは知っている。だが、具体的な内容は知らない。今からカツェは何をする? 可能性があるとすれば、回復や回避のためではなく、俺を迎撃するかめに攻撃に転ずることだ。それなら、攻撃手段は? 水をどうする? 攻撃攻撃攻撃――――まさか。

 

「――――……ッ」

 

 嫌な予感がして咄嗟に横に回避する。これはヤバい、避けきれない。

 

「うっ……くそっ!」

 

 カツェは口から水を吹き出し、リアル水鉄砲を撃ち出してきた。しかも散弾みたいに何本も水鉄砲が俺に襲いかかる。その威力はファイブセブンにも劣らず。むしろ、貫通力ならタメ張れるレベルだろう。防弾・防刃制服がいとも簡単に斬れてしまう。腕に微かな痛みが走る。回避が遅れて、二の腕辺りから少し血が流れた。

 

 水はより圧縮すれば鉄すらも斬れるまでできる代物だ。普段は水を掴むことなんてできないのに、例えば高いところから飛び込めば、コンクリートと同じほどの堅さにまで化ける。柔軟性はかなり高い素材だ。

 

 認識が甘かった。あれは喰らうとヤバい。実際、カツェが発射した水鉄砲はタンカーの壁をかなり傷付けている。貫通……とまではいかないが、それでもかなり深く抉っている。

 

 ――――そして、腕に攻撃を喰らってしまったが、問題はそれだけではない。

 

「……チッ」

 

 散弾の如き水鉄砲を避けるのが遅れたせいで、その水鉄砲のうち何本かがファイブセブンの銃身を見事なまでに貫通してしまった。普通に壊れた。えぇ……。

 

 銃身に複数穴が空いているし、修理する方が高くつくだろう。これはあれだ、もうこれは使えないなぁ。悲しい。1年からずっと使ってきたのに、こんなところで……と、残念に思う気持ちが強い。

 

 しかし、このファイブセブンには最後の役目がある。このまま持っていたら危ないだろう。ワンチャン暴発する危険性がある。こんな状況は初めてなので、何がどうなるのか分からないが、さっさと手放した方がいいに決まっているな。というわけで、ただ捨てるのは勿体ないから、カツェに向かって全力投球。

 

「うらっ!」

「ちょ、まっ。うおっ、危ねー! テメッ、投げる奴がいるか!」

「壊したお前が悪い」

 

 一応は狙って投げたけど、当たらないよな。カツェは体勢はもう整っているし、避けようと思えば、まぁ回避はできる。ただ、いきなり投げるとは思わなかったみたいでかなり驚いてはいるな。

 

 ここでファイブセブンを失ったのは影響がデカいが、船内ではあまり使いたくなかったのも事実だ。怪我の功名だなと自分を説得したいところだが……いや、やっぱり惜しい。初めての俺の銃だったが……まさかここでお別れとは考えもしなかった。新しいのを買えばいいのだが、あぁ俺のファイブセブン……未練はタラタラなのが実に情けない。とはいえ、長年使ったものにな愛着が湧くのも事実で――――あぁもう、切り換えて集中しようと頭を振る。

 

 現在、俺とカツェは互いに距離は取っている。カツェに撃たれた腕は少し痛むが、動きに支障はない。この程度は無視できる。

 

 そして、俺の武器はファイブセブンを失ったからどうも近接に偏る。あまり広くない室内でヴァイスを振り回すのは不利なので、ここはナイフ一択。いや、ヴァイスは別に長さ調整すればいいんだけどね。とりあえずはナイフで。

 

「さて……っと!」

 

 一歩踏み込み、不意討ち気味にカツェとの距離を再度詰める。もう距離は離さない。

 

 俺がここまでカツェ相手に近接に拘るのは、そもそも武器が近接寄りってのもあるが、超能力者との戦闘ではある特徴がある。全てがそうだとは思わないが、超能力って遠距離攻撃が多いんだよな。さっきのカツェの攻撃然り、セーラの風を用いた攻撃も然り。もちろん、理子のような髪を操るものもあるのは知っている。しかし、それでもどちらかと言えば、遠距離攻撃に偏っている。

 

 そして、そういう奴らは大概、小さいころから超能力を使えるからずっとそれに頼って戦ってきた。つまり、近距離での戦闘は不得手のパターンが多い。

 

 これはヒルダとの戦闘でも感じたことだ。俺や神崎のように後天的に超能力を使えるようになったパターン、星伽さんのような元々武芸に秀でているパターン、こういう奴らはあくまで超能力を補助的に使ったり近接攻撃と一緒に使ったりしている。そうではない場合、近接戦闘特有の体の運びや呼吸はかなり読みやすい部類に入る。

 

「――――ッ」

 

 カツェとの距離を縮め、ナイフの射程圏内に入った。俺はそのまま大振りでナイフを横に振るう。カツェの首を狙って。もし当たれば、喉笛をかっ斬れる、確実に殺れる位置だ。

 

「ウッ……!」

 

 ナイフの切っ先がカツェの首に触れる寸前、カツェはどうにか後ろへ転がりそれを回避した。

 

「ハァ……ハァ……お、お前……イレギュラー…………マジかよ」

 

 カツェは息を荒くしてこちらを見上げ、睨む。頬を伝う冷や汗が船内のライトによって照らされている。その目からは信じられないとでも言いたげな驚愕さが滲み出ている。

 

 

 ――――先ほどの俺の攻撃、あれは俺が本気でカツェの命を取りに来たと思ったのだろう。

 

 

 なにせ、カツェの反応が1秒でも遅れれば首をザグッと斬っていた。鈍く冷たい鉄の刃が確実に届いていた。俺が人殺しをできない日本の武偵だという事実にも関わらず、殺しにかかった。ようやくカツェは、先ほどの俺の言葉が真実なのだと気付いたかな。命の危機というものをその肌で実感しただろう。

 

「…………」

 

 まぁ、別にこれはカツェ目線の話だけども?

 

 さっきの攻防で俺がカツェを本気で殺すつもりなら、わざわざ斬ろうとせず、首を一思いに刺す場面だったからな。わざと大振りにしたことで、カツェがギリギリ回避するための時間を作った。もしホントに当たりそうでも、斬りはしなかった。

 

 まぁ、さすがに本気で殺すわけではない。この殺気も、ナイフの攻撃も、一応はブラフだ。だが、それを相手に伝えるわけにもいかない。殺気を操り、相手を怯ませる。そうすることで、向こうの判断を鈍らせる。ホントに俺がカツェを殺すかもしれない、という考えを相手に与え、思考の何割かを奪う。これが、俺が使う殺気の目的だ。

 

 まぁ、これがブラフとバレないうちに決着付けるか。

 

「……ッ!?」

 

 今度こそ仕留めるために追撃しようと足を一歩踏み込もうとした瞬間、カツェの行動を見て足が止まる。不味い、またカツェが水筒から水を補給した。またあれが来る――!

 

 次は恐らくもっと広範囲の攻撃が来るはずだ。避けきれるか? この狭い船内で? 

 

「……いや」

 

 避けることが難しいなら、使わさなければいい。そうすぐさま判断した俺は棍棒であるヴァイスの3分割したうちの1つを思い切り投げる。さっきと似たような感じだ。

 

 超能力の使用には大なり小なり集中力がいる。ならば、少しでもそれを奪う。次の組み立てを考えるための時間を稼ぐ。

 

「くっそ、またかよ!」

 

 カツェがヴァイスの投擲を回避して水を吐き出す。そして、息を整えつつ俺に悪態をつく。敵に必殺技は使わせないに限るが、俺には関係ないし? こっちはバンバン使うからな!

 

 というわけで、今以上に殺気を出す――――。相手が落ち着くまで待っていられない。

 

「……うっ」

 

 カツェが俺の殺気に怯み、身構えたところで、ナイフを軽く斜め上へ投げる。別にこれがこのまま落ちても、俺もカツェにも当たらない、その程度の角度。しかし、さっきまでそのナイフによって散々苦しめられてきたカツェにとって、その挙動は正しく予想外だったに違いない。

 

「……え?」

 

 どうして俺がその選択を取ったのか理解できないかのような、カツェの困惑する囁きが俺の鼓膜に届く。

 

 視線は実に雄弁だ。まさかここで俺がナイフを手放すとは思わなかったのだろう。目線はナイフを追って見事なまでに視線は俺から外れる。正確に言えば、俺も視界には写っているだろうが、意識は俺に向いていない。

 

 そして、その瞬間を見計らい、今まで出していた『確実に殺す』という殺気を完全に消す。

 

「……ぇ」

 

 次に、姿勢を低くして足音を立てずに一息でカツェとの距離を詰める。

 

 カツェの視線は上に。俺自身は下へ、カツェの死角に入る。まぁ、ようするにこの一連の流れはナイフと俺を使ったミスディレクションだ。

 

 まずカツェを殺しにかかったナイフを上に放り投げたことによって、どうしてもカツェの視線は上へ向いてしまう。加えて、今まで殺気によって存在感があったが、気配を消したことにより、殺気のあった俺に慣れていたカツェは、今の俺を捉えることはできない。ただ、これはすぐに慣れる。時間にしてわずか数秒。ちょっとでも時間が経過すれば、もう今の殺気を消した俺を見据えることはできるだろう。

 

 ――――しかし、この数秒、カツェは俺の気配は感じ取れない。

 

 今まで殺気を隠さず、大っぴらに立ち回った。存在感は消さずにむしろ出しまくった。それもこれも、この状況を作り出すために。

 

 姿勢は低く踏み込む。何回も繰り返したこの動作。パトラ相手には使ったことがあるから、もう一度使えば効果は薄くなるだろうが、カツェ相手には初めてだ。確実に決まる。

 

 しかし、問題もある。この状態で撃つ技。それはかつて金一さん……いや、カナに教わった殺人技。これは俺でも人を殺せるくらいの威力がある。羅刹という横隔膜を殴ってムリヤリ心臓を止める技だ。んなの武偵が使えるわけがない。だから、敢えて別の場所を狙う。気絶させなくても、しばらく動けなくさせればいい。殺さず、行動不能にするために狙う場所は――――

 

「――――ッ!」

 

 鳩尾を狙い、掌底を放つ。狙いは命中。俺を捉えきれなかったカツェは回避もできずにもろに俺の掌底を喰らうことになる。

 

「ガッ――! ――――……ッ!!」

 

 烈風で勢いをつけていない掌底でも充分な威力を発揮したみたいだ。カツェは呻き声も上げれず、船内の床に膝をつく。蹲りながら、必死に呼吸をしている。

 

 鳩尾を殴れば、しばらくの間は呼吸がしにくくなる。ていうか、全体的に気持ち悪くもなるしな。ソースは実習中に蘭豹に殴られたことがある俺。吐き気はするわ悪寒は広がるわ立てなくなるわでめっちゃ辛かった。マージであれキッツいんだが? まぁ、それをカツェにする俺も俺だけど。

 

 威力を間違えれば死ぬ可能性もあるかもしれない。けど、そこはちゃんと調節した。羅刹よりかは安全な技だ。死にはしないけど、最低でも3分程度は動けない。これは俺の体験からの予想だが、あまり近接攻撃に慣れていなさそうだし、外しはしないかもな。これで超能力を使うための集中力も奪った。

 

「ふー……」

 

 カツェの無力化に成功し、安堵の息が漏れる。

 

 やっぱり純粋な超能力者と戦うときは短期決戦に限るな、とカツェを見下ろした俺はそう常々思う。ヒルダと同様、長引けば長引くだけ何されるか分かったもんじゃない。武偵やそれに準じた能力を持っている人との戦闘は、互いに隙を突いたり作らせたりしながら戦うもんだが、手札が分からない超能力者だとその戦法はあまりにも怖すぎるからな。

 

 実際、あのカツェの水の散弾は危なかったと思い出し冷や汗をかく。タンカーの壁抉っているし、あれ連発されるだけでヤバかっただろうな。ファイブセブンも壊されたし! 女々しいと思われるかもしれないけど、1年も使っていると愛着が沸くのです……。それに加えて、カツェの超能力も他にももっと手札はあったろうな。初見殺しされる可能性もあったから、これが最善に違いない。

 

「……さてと」

 

 俺がカツェと戦っているときに手出しはせず、かといって逃げという行動も取らなかったパトラを今度の目標と定め見据える。パトラは操舵室の端へ移動しており、こちらを眺めていた。カジノでのときのように優雅な笑みを浮かべている。

 

 勝算がどの程度あるか分からないが、やるしかないな。ナイフを構えパトラを視界から外さないよう位置を移動する。

 

 

「――――次」

 

 

 

 

 




めっちゃ長くなった……次回は多分短くなるはず



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日が昇るまで、夜の住人は踊る

 カツェは倒した。次はパトラだ。勝算はかなり薄いが、ここまで来たらやるしかない。そう本腰を入れようとする。しかし、その前に――――

 

「ちなみに、どうして手を出さなかった?」

 

 俺とカツェの戦闘を静観していたパトラに話しかける。

 

 カツェは必死に呼吸をしているからしばらくは放っておいても大丈夫だ。諸事情から今は逮捕できないから、回復したとしたらどうしようもない。だからその前にパトラを制圧すべきなんだがな……。一先ずパトラの考えを聞いてからでも遅くない。これは細い勝ち筋だが、戦わずして退かせることもできるかもしれない。

 

「手を出すも何も、お主があっという間にカツェを倒すから出しようがないわ。下手に巻き込むのも忍びないしの」

「それもそうか」

「ふむ。ところでイレギュラー、カツェを捕まえないのか? こんな小娘だが、逮捕できれば大手柄だぞ?」

「一応は仲間のお前が言っちゃうかそれ……。いやまぁ、神崎のこと考えるとそうしたいのは山々だが、生憎と超能力者を捕まえる道具がないんでな。適当に縛ってもこっちが面倒被るだけだし」

 

 仲間意識があるのだがないのだか判別付きにくい発言だ。あくまでビジネスパートナーといった感じなのだろうか。

 

 にしても、これからは超能力者用の手錠を常備しておくべきか迷う。ここ最近は戦闘する機会はそれなりにあるが、普通は滅多にないし。でもこうして超能力者を制圧できても警察に渡せなかったら意味ないしなぁ。

 

 さて、俺のどうでもいい愚痴はもういい。今からだ。どうにかしてパトラを退かせる。

 

「ところで……パトラ。お前、このままタンカーを香港にぶつけていいのか?」

 

 と、俺が不意に今さらかと言われることを問われ、パトラは怪訝な顔付きになる。

 

「どういう意味じゃ。なぜそのような愚問を訊く」

「いやさ、パトラって金一さんのこと好きだろ?」

「――――んっ!? ゴホゴホ……ゴッホっ!」

 

 うわ、むせた。さすがに話の前後がなさすぎたか。あまり話したことのない相手とは、会話の組み立てが難しい。

 

「い、いいいいいいきなり何を申すか!? わ、わ、妾が――――!? クゥゥ――!」

 

 いや予想外の反応なんだが……。顔真っ赤にして……えぇ、乙女かよ。まさかの反応で俺のやる気も少し削がれる。

 

 ちなみに俺がパトラの恋心を知っているのは遠山からあらかた教えてもらったからなんだよな。カジノで巨大ゴレムに追われた最中、途中から動きが単調になったときがあった。そのとき金一さんはパトラにキスをしてHSSになったそうだ。その数分あとに俺が空を飛んでパトラを強襲した流れだ。

 

「ま、まぁ、それは置いておくとして……金一と今回の事件は何も関係ないじゃろ」

「直接的にはそうだが、間接的に……。あー……そうだな。なぁ、パトラって金一さんと結婚すんの?」

「そっ! それは……追々と……いつかは、したいなぁって……」

 

 コイツ乙女かよ。

 

「もしパトラがいずれ結婚したいとして……今回、お前らが香港の人たちを殺したとすると、最悪金一さんも被害被るだろ」

「……どういう意味じゃ?」

 

 今まで見せたことのない緊迫感のある表情を見せ、こちらを睨んでくる。

 

 おぉ、怖い。

 

「……まず日本の武偵法は知ってはいるだろ。特に人を殺すなって部分は」

「あ、あぁ。承知しておる」

「これは本人に対してではなく、その関係者がやらかした場合も適応されることがある。例えば、その武偵と組んだ一般人が誰かを殺してしまったら、当然その武偵も首が飛ぶ。……いや、こんなシチュエーションなかなか聞かねぇなぁ……。まぁいいや。これは上がどう判断するかによるが、もし日本の有能な武偵の将来の奥さんが大量殺人鬼だったら――――果たしてどうなるか? 分かるか?」

「――――……ッ!」

 

 ここでようやく俺の言いたいことを理解し、パトラの額に汗が流れる。

 

 正直なところ、他人の恋路に首を突っ込むなんて後々面倒になることはしたくないのが本音でもある。神崎たちでぶっちゃけ人間関係にあれこれ口出すの疲れた経験もある。それに気分もあまり良くないしな。しかし、この状況で四の五の言ってられない。

 

 使えるものは利用しまくるぞ。

 

「パトラが今までやらかしてきた部分に関しては分からないが、今回に限っては証人は俺含めて大勢いるからな。もし告発されたらどうなるか……つっても、武偵法がどこまで適応されるかは分からないが――――万が一もある。いくら図太いお前だろうと、金一さんの重荷にはなりたくないだろ?」

「そ、それ……は……」

 

 目線は泳ぎ、語調は徐々に、しかし確実に弱くなっている。俺の伝えた言葉がもし現実に起きてしまったら――――どうなるのか、そのことについてパトラは最悪の連鎖が頭を過っているのかもしれない。

 

 誰だってそうだ。愛する人の足を引っ張るようなことはしたくない。俺だってそうだ。それは誰もが持っている感情のはず。だからこそ、そこを揺さぶられると人は弱くなる。これはずっと独りでいて自分以外を守る必要のない相手であれば、意味は為さない。……そんな奴がいるのかは……どうなんだろうな。分かんない。

 

 とりあえず、そろそろ仕上げといくか。

 

「パトラ、別にお前らを今捕まえる気はない。しかし、これ以上事を大きくしたくなければさっさと退散してくれ。どうせ脱出の用意はしてあるだろ? カツェ連れて早くどっかへ行け。別にタンカーを止めろとかは言わない。そこは俺らの仕事だ。ただ、逃げろって言っているんだ。そうしてくれたら、あとはこっちでどうにかする。ここいらで手を打とうじゃないか」

 

 数秒、思案したあと、パトラは口を開く。

 

「…………悪くない条件であるな。もう妾たちの目的はほぼ達成されておる。ここらが潮時か。いやでも、もしこのテロが成功したら妾は……」

「いいから早くどっか行け。余計に時間食って火の海になるぞ」

 

 …………偉そうな態度で振る舞うが、内心安堵の息を吐きたいほど緊張している。今の俺の実力、しかも超能力を使わない状態で、真正面からパトラに勝つ確率はとんでもなく低いはずだ。ファイブセブンも壊れている。戦力ガタ落ちだ。こんな体たらくで勝てるとは到底思えない。

 

 それを悟られないよう、口八丁で話を進める。

 

「俺はお前たちを取り逃がした、お前らは目的を果たしたから長居せずすぐさま待避した――筋書きはこんくらいでいいだろ。俺も、金一さんには迷惑かけられないしな」

 

 ここで敢えてさらっと金一さんの名前を出すことで、パトラに危機感を持ってもらう。

 

 しばらく沈黙したあとパトラはゆっくり喋る。

 

「…………そうじゃな。お主の提案を飲むとする。しかし、ホントにカツェを連れていっていいのか? 別に捕まえても構わんが」

「さっきも言ったけど、今の俺じゃ完璧に捕縛できないからな。それにこんな海の真上だと恐ろしいし。コイツの意識がはっきりするまでに連れて帰ってくれ」

「ふむ、それならしょうがないの。……おい、しっかり歩け。重いぞ」

「……う……るせぇ……ゲホッ、ゲホッ」

 

 と、まだ意識が朦朧としているカツェの肩を掴み、歩き出す2人を見送る。一応、最後に攻撃されないように警戒をしつつ。特にカツェから反撃される可能性はあるにはある。まぁ、1人ではまだ歩けなさそうな様子を見るに大丈夫だろうけど。

 

 

 パトラ、カツェ、両名を撤退に追い込む。タンカーを制圧。超能力の使用は最低限に済ませる。どうにか成功した、か。よくもまぁ、どうにかなったもんだ。……いや、本番はこれからだ。気を抜くな。

 

 満身創痍のカツェを連れて、パトラたちが操舵室の裏口から下へと降り、どうやら潜水艇らしきもので脱出したのを居住棟の屋上から確認する。そこから下にいるレキたちの様子を見ておこうと思い、上から覗こうとしたその直前。

 

「八幡さん、ご無事で」

 

 真後ろにレキがいた。心臓に悪い登場ばかりだな。その気になれば俺は何回も死んでいておかしくないレベルだぞ。

 

「……びっくりしたぁ。あぁうん、ちょっと掠めたくらいで平気平気」

「パトラたちは?」

「逃げられた。銃も壊されたしな。これ以上はムリだわ」

「……分かりました」

 

 うっ、レキには見逃したこと気付かれるか?

 

「理子たちは?」

「全員無事です。先ほど、ゴレムの軍勢を片付けました」

「さすが」

 

 あれだけの物量を短時間で終わらせるとか、改めてレキたちが味方で良かったと心底思う。

 

 レキたちは仕事をしてくれた。それなら、俺は今からこのタンカーをどうにかしよう。

 

「さてと……」

 

 膝を付き、手のひらを船体に当てる。今からすることはぶっちゃけ試したことない。成功するかどうかかなり不安だが――――みんな、自分の仕事をこなしてくれた。このまま来て失敗に終わるわけにはいかない。気持ちを切り替えろ。

 

 今、タンカーは狭い海路を進んでいる。ブレーキ機能が壊れているから停止させることは、俺みたいな素人ではムリだ。これだけデカい船だとアンカーを引っ掻けるのにも海流を読まないと置けないらしい。もちろんUターンさせることも物理的に不可能だ。ていうか、操舵室の機能がどこまで生きているかも定かではない。

 

 だから、せめてもの時間を稼ぐ。止めることはムリでも、そのくらいなら俺にも……色金の力を使えば可能だ。

 

「……八幡さん、まさか……」

 

 キラ……キラ……――――と、俺の周りに蒼色の粒が何個も一定間隔で増え続け、輝き出したのを見てレキも察したのだろう。俺が今から何をするのかを。実際、何度かレキはこの光景を見ているからな。

 

 蒼い粒が1000を越え――――集中も高まってきた。イメージも固めた。俺を邪魔する奴もいない。そろそろイケる。……やるぞ!

 

 

 瞬間移動――――!

 

 

 

 

 

「…………ハァ……」

 

 眩い閃光が一瞬、辺りを包んだ。その直後、どっと疲れが押し寄せてきた。

 

 ――――ドスンッ……。そう船体が左右に大きく揺れる。

 

「うおっ……危ねっ」

 

 ほんの一瞬だろうと船を浮かしたのだ。そりゃ着水の瞬間はバランスが崩れるか。体に力が入らないせいでバランスが崩れ倒れそうになるのをどうにか堪える。しばらくすると揺れも収まり、俺はこの瞬間移動が成功か失敗の確認をしようとする。

 

「大丈夫ですか?」

 

 と、ふらついた体はレキに支えられる。不意に触られ、思わずドキッとするような……しないような……。レキ特有の香りは未だに慣れないけど。

 

「いや、それより……」

 

 レキを振り払って様子を確認しようと動く。

 

 どうなった? 上手くいったか……あー、これはヤバいな、力が抜ける。そろそろ立つのキツい。けっこう力取られていったな。これだけ大きいモノを動かそうとしたんだ。当然と言えば当然か。まだレキに支えてもらえば良かった。

 

 って、レキはどこへ――――って外をジッと覗いている。

 

「……レキ」

「…………」

「レキ?」

「……スゴいですね。タンカーの前後が反転してます」

 

 珍しくレキが目を少し見開いている。その声色もいつもの抑揚のない声とは違い、動揺していることが分かる。つまり、レキの言葉は真実みたいだ。

 

 成功したか……良かった……と安心したから余計に体に力が入らなくなる。そろそろダメだわ。

 

 

 ――――俺がしたことは至極単純。瞬間移動を用いてムリヤリこのタンカーをUターンさせただけだ。

 

 

 ホントなら適当に広い海に移動できれば良かったが、暗いしさすがに長距離移動させるのはキツい。今の俺ではそこまではできないだろう。この重量だ……せいぜい前後を入れ換えることしかできない。この海路は直前だから下手にぶつかることもないし、もしぶつかっても正面から突撃はしないので、多少はマシだろう。

 

「レキ、悪いがもっかい肩貸してくれ。それと猛妹にあとは任せたって連絡して……く…………」

「ハチハチ! どういうこと!? 光ったと思ったら急に進行方向変わったんだけど!」

「まさか瞬間移動……? もうそこまで色金の力使えるの? やっぱりイレギュラーね。あぁ、恐ろしいわ」

「八幡! 大丈夫!? ケガは!?」

 

 うわ、一気に来た。

 

 レキに肩を貸してもらいつつ、適当に説明する。

 

「ヒルダの言う通り、とりあえず瞬間移動で時間は稼げる。あとは猛妹に任せていいか? さすがにこの重量はキツい……俺は大丈夫だから休みたい……」

「任された! もう数分すれば私の姉妹も来るよ。迎えのクルーザーも諸葛が用意してるね」

「助かる……」

 

 あっ、もうムリ…………――――

 

 

 

 

 ――――そして、目が覚めたら夜は明けていた。藍幇城のベッドでぐっすりと寝ていたみたいだ。

 

 あとで諸葛に教えてもらったが、あれからタンカーは無事止められたらしい。武藤たちも協力してくれたと。何がどうやって止めたのかは素人の俺には訊いても分からなかったので、詳しくは知らない。

 

 いやしかし、自分の限界ギリギリというか、超能力の許容量使いすぎたから意識無くなるのどうにかしないとな。ヤクザ襲撃のときは、まだ少しずつだったから未だしも、今回みたいに一気に消費すれば体が追い付かない。すぐに気絶してしまう。同じ体力でも1時間ほどかけて消費するのと1分程度で一気に消費するのでは体の負担がまるで違う。

 

 これからの課題だな、これは。つっても、許容量をすぐに上げることとかできないんだけど。自身の限界以上のことはしないようにするってところか。

 

「……あー、頭ボーッとする」

「こちらを。冷やしています。補給しておいてください」

 

 ベッドの近くにいたレキがマッ缶を渡してくれる。ありがてぇ……。

 

「あ、八幡起きたの? 体調は?」

 

 レキと一緒にいた猛妹も俺のことを気にかけてくれて、マジマジと覗いてくる。そんな真っ直ぐな視線で見られると気恥ずかしい。浄化しちゃう。や、俺はゾンビか悪霊かっての。

 

「……んー、別に大丈夫かな。完全復活ってわけでもないけど、このくらいなら全然問題ない。何にせよ、お疲れ様」

「八幡こそね。パトラたちを取り逃がしたのは悔しいけど、香港が無事で良かったよ」

 

 憤慨する猛妹を見ていると、正直申し訳ない気持ちが湧いてくる。俺が自ら逃がしたわけだし。

 

「八幡、今日は時間ある?」

「夕方に飛行機だから昼過ぎには空港着いておきたいな。それまでなら大丈夫だ」

「なら、藍幇総出で八幡たちにお礼を言いたいって今みんなが騒いでいるところよ」

「いや、うん。そんな気にしなくてもいいんだが。仕事の範疇だし。あとで手紙でも寄越してくれればそれでいいんだけど」

 

 ヤクザのお礼って何されるの? お礼参りってやつ? なにそれ怖いんだけど。

 

「そう言わない。起きるの」

「ちょ、引っ張るな……」

 

 猛妹に腕を引っ張られ、ベッドから出てしまう。布団がいい感じに温かったから非常に惜しい。もっといたかったよ……。まぁいいや。とりあえず着替え……あれ? 着替え? 武偵高の制服からスウェットになっている。誰が着替えさせたんだ? うん、この先は怖いから考えるのを止めた。

 

「ちなみにアリアさんとキンジさんや理子さんは今、食事を食べていますよ。諸葛さんたちが用意してくれたお礼の料理を。さすがに八幡さんの分は残していると思いますが。昨日の晩から騒いでいます」

「アイツら……」

 

 今回に限っては俺に譲ってもいいだろ。いや別に昨日から気失ってたからいいんだけどね? なんかこう……気分の問題的な?

 

 

 

 ――――それから、藍幇の人たちに丁重にもてなされ、美味しい食事を楽しんだ。昨日の疲れが溜まっていたのか、朝からわりとそれなりの量を食べれた。

 

 給仕する人たちは綺麗な女性ばかりだったので緊張したが……主に両脇を陣取っていたレキと猛妹の態度に。ていうか、やたら肌を見せる服装だったし、あれか、一種のサービスってやつか。心臓に悪いからサービスにならなかったけど! これ俺が1人だったらなぁ……と思ったけど、1人だったら多分下手に喋れなくてそれはそれで詰むだろう。あんな大勢に囲まれたらキョドってキモがられるに違いない。

 

 いくら武偵になってから女性と話す機会が増えたと言っても、さすがに色々とキツいです。

 

 食べている途中、諸葛が近くにやってきて。

 

「この度はありがとうございました」

 

 そう、改めてお礼を言ってくれる。

 

「まぁ、これが仕事なとこあるから、別に気にしなくてもいいんだぞ」

「そういうわけにもいきません。香港を守ってもらったのに、何もお礼なしでは藍幇の名前に傷が付いてしまいます」

「体裁ってやつか」

「そうですね。というわけで、比企谷さんこれを」

 

 諸葛は懐からゴソゴソと何かを取り出し、手渡された。素直に受け取ると、それは封筒だった。中身は……手に持ったこの感じ…………。

 

「金?」

「はい。昨日でどうやら拳銃を失ってしまったとか。これで購入費用の足しにでもしてください。それと、お礼としていわゆる報酬金です。依頼したわけではありませんが、仕事としての対価を我々から支払います」

「えーっと……ありがたく頂戴します」

 

 少し気が引ける気持ちもあるが、無下にするのも心苦しい。それに、ファイブセブンの出費もあるから助かる。しかしまぁ、ヤクザからの金か。心配はないけど、利子とか怖いっていうか、これは偏見か。

 

「もし、何か私たちの助けが必要でしたら、連絡してください。いつでも力を貸しますよ。何なら、猛妹をそちらに渡しましょうか?」

「ちょっと、私をモノ扱い止めてほしいんだけど。でもそうね、それは魅力的ね。着いていっていい? 同室イケる?」

「ダメ。てか、遠山もいるぞ」

「えー。一人部屋借りなよ」

「2人で折半した方が安く付くからしばらくは引っ越ししない予定」

「ふーん。じゃあ、私も武偵になってみようかな」

「そもそもヤクザって武偵になれるのか……?」

 

 これでも一応は国家資格のはずなんだが。いやでも、そこら辺ガバいとこあるしな。

 

「――――」

 

 あ、レキの雰囲気がそろそろヤバくなる。はい、この話題は終わり。閉廷!

 

「……まぁ、あれだ。何かあったら頼りにさせてもらうよ」

「うんっ! 待ってるよ」

 

 少し照れ臭そうに俺がそう言うと、猛妹は満足そうにニヒヒとにっこり笑って頷く。

 

 何にせよ、無事香港を守れて良かった、と素直にそう思う。パトラたちを取り逃がしたあとの問題は……FEW関係だと俺には関係ないか。遠山たちに任せよう。

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて香港終了
はてさて、次からどうしようかなぁ……

よろしければ、感想、高評価お願いします(今さら感あるけど)



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2年 冬休み
日常回


「八幡さん、今日はお仕事ですか?」

「おう、警備の仕事が入っている」

「警備ですか。それは雪ノ下さんのときのような?」

「いや、身辺警護とかじゃなくてイベント会場の警備だな。わりと緩めの」

「なるほど、そうでしたか」

 

 香港から帰って来て新年も過ぎたある日のこと。帰ってからは大きなトラブルもなく、俺たちはごくごく普通に過ごしていた。授業を受けてたまに任務を入れて金を稼いで、そんな生活だ。代わり映えのない、ある意味ここ最近忙しかった俺にとってはありがたい生活だ。

 

 平和すぎて……なんだか懐かしいまでもある。

 

 どうやら遠山はよく分からないけど、新年明けてからヨーロッパ辺りに左遷されたらしい。可哀想に。何をやらかしたのかは知らないが、どうやらジャンヌのチームと一緒にいるみたいだ。お労しや、遠山……。

 

 てなわけで、レキが普通に部屋にいるのはこの際よくあることだから置いておいて、仕事がない間は俺1人で悠々自適とだらけている。適度に訓練して適度に寝ての繰り返しだ。今日は仕事があるけど。

 

 今は支度をしている間、レキとのんびり話しているところだ。

 

「私は特に用事はないので、任務が終わり次第私の部屋に寄ってください」

「それいいけど、どした?」

「私の料理を振るいます」

 

 ……お? その意外な言葉に思わず首を傾げる。

 

 料理って言ったのか? 毎度俺が作るとき以外はカロリーメイトで食事を済ませるあのレキが料理、か。

 

「なに、できるの? あ、前に見せてくれたライスケーキじゃなくて?」

「はい。理子さんや白雪さんに教わりながら少しずつ練習しているので。……しかし、どちらかと言えば、料理よりかはお菓子作りの方が得意ですね。完全にレシピ通りに作ればできるという点があるので。もちろん、どちらも技術が必要ですが」

「まぁ、料理もレシピ通りに作ればいいと思うが、どこかしらでアレンジっていうか、多少雑に作っても大丈夫だもんな。お菓子作りはそうはいかないけど」

 

 レキは銃の手入れや銃弾の選別なんかも、こちらが見てて目が痛くなるくらいのレベルで精密な作業を行っている。一度見学させてもらったことはあるが、正直なところ見ていて目が痛くなるレベルだった。これをほぼ毎日のペースで行っている事実に驚いた。ずっと昔からプロとして活動しているからか、もう職人の域だろ。

 

 そのくらい細かな作業が得意なのだから、確かに多少雑さが効く料理よりもそっちのが得意なのも分かる気がする。

 

 ほー、にしてもレキが作る料理か……エプロン? フライパン振るう? 包丁で野菜を切る……危なっかしい……想像つかないな。しかし、だからこそどんな料理を作るのか興味がある。ライスケーキ作れるから味音痴というわけでもないし、知識も最低限あるだろう。ほれに料理上手の星伽さんが教えてくれるなら安心もできる。

 

「んじゃそれを楽しみに頑張るよ。行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」

 

 

 

 今日の俺の仕事はお台場にあるイベントホールでの警備だ。会場をひたすは歩き回っている。

 

 警備といっても、よくある警備員が人数整理したり案内したりするのではなく、武偵である俺は不審者がいないかのチェックが主な俺の仕事だ。そこは前回の雪ノ下さんのとこと通じる部分はある。

 

 だから会場内を適当に見回っているのも別に遊んでいるわけではない。仕事をしているんだ……仕事、仕事かぁ……。今の現状を思い出し、どこか億劫とした気分になる。なんか休日返上して働いているけど、どうしてこうなったのか常々疑問に感じる。昔の俺はこんなに積極的じゃなかったが。

 

 いや、仕方ないんだよ。海外での費用いくらか学校から出してくれるとはいえ、思いの外金かかったし、諸葛から貰った資金大体はおニューのファイブセブンに当ててしまったし。材木座に頼んでガチガチに改造してもらいました。改造資金がまぁ……それなりにかかったことよ。加えて、年末年始に遊ぶゲームを買い込みまして……他にも本やら色々と出費が重なってしまった。

 

 それでも、いくらか貯金はある。ただ、もっと余裕を持っておきたいのも事実であって……。頑張るか。うん。面倒だけど。……面倒だなぁ。帰ってフカフカの布団に潜りたい。

 

 いくらこういう警備が比較的楽とはいえ、見張るからには多少は神経使う作業だ。人混みはそんなに多くはないが、腐っても東京。人の出入りは微妙にある。まぁ、別にトラブルが頻繁に起きる現場じゃないしな。気を張りつつ楽に行こう。

 

 

 そして、イベントが始まって1時間が経った。今のとこ特に問題なし。めちゃくちゃ楽ってわけでもないが、別段疲れはしてない。立ち作業も慣れているしな。

 

 今回のイベントは海外ブランドの家具の展示会。客層も家族連れや年配の方が多い。中には若い奴らもいるけど、どれも大人しそうなのばかりだ。

 

 しかし、拳銃を持てるハードルが下がりつつある現代、誰がいつどこでトラブルを巻き起こすか分かったもんじゃないのも残念ながら事実なんだよな。武偵制度やらができる前と比べれば断然治安も悪いし。だから、こんなとこでも何か起こる可能性はめちゃくちゃありまくりだ。いやもうホント面倒だな。

 

「…………ん」

 

 そんなことを内心思いつつ歩いていると、ふと見知った――――というか、あまりにも見慣れた人物たちを発見した。どうしているんだ、と疑問に思う。わざわざこんなピンポイントでいなくてもいいだろうに、と頭を抱えたい。

 

 少しばかし億劫なところはあるが、さすがにこの人たちを無視するわけにもいかない。業務中に誰かに話しかけても問題ないとはクライアントから言われている。むしろ、客として振る舞ってくれていいと。だからまぁ、一先ず声かけてみるか。

 

「……お袋、親父、小町まで。おっす」

「んっ!? あら、びっくりしたぁ。八幡じゃない」

「およっ、お兄ちゃんじゃん。やっほー」

「お、八幡かぁ。こんなとこで奇遇だなぁ」

 

 お袋はいきなり現れた俺の姿に驚き、小町は呑気に挨拶を返す。親父も親父でマイペースだな。にしても、仕事の最中に家族と遭遇とか嬉しくないんだが? 何が悲しくて職場で会わないといけないんだよ……。例えるなら、道端を鼻歌交じりに歩いていたら、知り合いと出くわした気まずさがある。

 

「どしたの、お兄ちゃん。お兄ちゃんも何か買うの?」

「いや、俺は仕事」

「うへー、休日にまで仕事か。お疲れさまっ」

「おう。まぁ、武偵ってフリーランスみたいなとこあるからな。サービス業とかもそうだが、休日だろうと仕事は舞い込んでくるんだよな」

 

 ということは、お袋たちは普通に家具を見ているってことか。ビックリした。てっきりレキ辺りから情報を聞いて仕事の様子を見に来たと邪推してしまった。しかしまぁ、何を買うつもりなのか少しは興味ある。

 

「何か新調すんの? 引っ越したときの家具まんま使ってるだろ?」

「んー、ここには家具もあるけど、どっちかって言うと今回は雑貨や小物もあるからねぇ。インテリアとして色々買おっかなって」

「へー。ていうか、今そっちがどんな感じか全然知らねぇわ」

 

 引っ越してから台場の家に帰ったことがあまりにも少なすぎてな……。年末ちょろっと顔は出したが、すぐ帰れる距離だから年越す前に戻っちゃったし。なんなら日帰りです。ていうか、やることなさすぎて1時間で帰ったわ。

 

「近いんだからお前ももうちょい帰ってくればいいだろ」

「いや、親父があまり帰ってくるなとか言ったろ」

「そうだっけか?」

「そうだよ。拳銃持った奴が家の周りウロチョロしたら、小町とかの評判が云々つってたろ。ぶっちゃけわざわざ戻るの面倒なだけなんだが」

 

 と、親父たちと話しつつも警戒は怠らない。これでも超能力の副作用であるセンサー全開で周りを注視している。耳も意識を会場周りに集中しつつ何かあればすぐ動けるようにしている。この程度なら慣れたもんだ。

 

「ということは八幡。お前今あれか。……拳銃とか持っているのか?」

 

 親父が一応周りに配慮して声を小さくしつつそんなとこを訊ねてくる。

 

「そりゃな。持ってはいるぞ」

「お、マジか。見せて見せて」

 

 ……やたら目を輝かせているし。オモチャを買った子供かよ。

 

「ダメだっての。クライアントから銃は極力出すなって言われているんだよ。見せるだけで騒ぎになりやすいから。銃声響くと特にな」

「なーんだ。残念」

「なに、親父。そんなミリタリー好きだっけか? あんまそんなイメージないけど」

「いや? ただ身近にそういうの持っている奴いたら気になるだろ。息子なら余計に」

「分からんでもない」

 

 なんてくだらない話していると。

 

「そうだ、八幡。あんたまたレキさん連れて来なさいよ」

 

 お袋にそんことを言われる。……あ、そういえば夏休みに一度レキが俺んち行きたいつって連れてったことあったな。レキに武偵殺しについて頼んだ貸し借りの流れで。これ覚えている人いる? つーか、もう何年前の話? いや何言ってんだ俺は……。

 

「えー……」

「何その嫌そうな顔は」

「めんどい」

「じゃあ、お兄ちゃんに代わって私がレキさん誘うね。番号知ってるし」

 

 …………好きにして? 別にレキは断らないと思うし。

 

「そうだ、お兄ちゃん。仕事って言っていたけど……ぶっちゃけ、いくら貰えるの?」

 

 小町は小声でそんなことを訊いてくる。

 

「こんなところで教えられるか。まぁ、それなりにだよ。これでもプロだからそれなりには貰っているよ」

 

 今日は比較的小規模なイベントだが、武偵を雇うにも相場ってもんがある。このランクならいくらから……みたいな流れで。

 

「ほへーっ。あのお兄ちゃんが社会人みたいなこと言ってるよ」

「……はぁ、どうしてこうなったんだろうな。また小町の飯食べたい」

「うわ、めっちゃゲンナリしてる……いや、私のご飯なら帰ってきたら作るからね?」

 

 いや、高校生の身分でこんながっつり仕事してたらそうなるのも仕方ないだろ。小町、優しくて好き……。こんなこと言ったらキモッって罵られるだろうけどなぁ。

 

「あ、そうだ。そういえば、八幡。あんたこの前ニュースに出てなかった?」

 

 不意にお袋からの質問に困惑する。ニュース? 時期的に香港での? でもあれ日本では全然報道されてかったはずだが……。香港メディアからはやたら持ち上げられたが、わざわざ調べないと分からないニュースだろう。

 

「ニュース? いや、特に覚えないけど……」

「あら、そうだった? ほら、前に新幹線ジャックあったじゃない。あそこの報道で新幹線の上にいるの八幡っぽいわねーってみんなと話していて訊きそびれてたのよ。あまり画質も良くなかったから何となくでしか分からなかったんだけれどね」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 あぁ、それね? なるほど、合点がいった。あれ見られてたのか……。俺もチラッと報道は見たけど、ヘリコプターから新幹線を撮ってたからアップしてもこれ個人の名前は分かんないだろうと決め付けていたわ。英国貴族の神崎がいたからある程度情報は規制されていたし。

 

「…………え、なに。お兄ちゃん、もしかしてホントなの?」

「おいおい八幡。お前マジかよ。あれやっぱり八幡なのか。そんなこともしてたんだ。スゴいな」

 

 俺の回答が遅れたというか、思いっきり視線逸らしてしまって普通にバレた。これが他人ならいざ知らず、家族となるとどう誤魔化せばいいのやら、そう迷って顔に出てしまった。

 

「いやだって現場にいたんだからしゃーないじゃん。俺らしか解決できる奴らいなかったんだよ。あんなとこもう立ちたくないけどな」

「……うーっわ、予想以上に八幡、あんたかなり危険なことやってるのね。前にも入院しちしね……お願いだからムリはしないでよ」

「俺だってしたくない」

 

 でも仕方ないんだ。仕方ないってやつだ。武偵は現場に居合わせたら動かないといけないんだよ、不本意ながらな……。

 

「にしてもあれだな、こういう事件ともなればそれなりに報酬貰えそうだし、もしかしたら俺より八幡の方が稼いでいるかもな」

「確かに臨時収入はちょいちょいあるけど……安定性で言ったら、毎月ちゃんと給料貰える親父のが圧倒的に稼いでいるからな。こっちとしては仕送りももらってることだし」

 

 所詮、武偵は個人事業だ。安定性で言えばサラリーマンに負ける。

 

 と、ここでお袋が割って入る。

 

「そういえば、進路どうするの? そろそろ2年も終わるし、どうするか考えてはいるんでしょ?」

「あー……ぼんやりと考えているのは、どっかで武偵事務所構えるかフリーランスで動くか……かな。どうするかは全然決めてないけど」

「おいおい、大学とかには進む気はないのか? 学歴とかあった方がいいだろ」

 

 親父に痛いところを突かれる。

 

「そうなんだよなぁ。もし事務所運営するにしても経理とか習った方がいいだろうし。ただなぁ、今からとなると……残り1年ちょっとだろ。ろくな積み重ねがないし、大したとこ行けなさそうなんだよな。知ってるか、うちの偏差値」

「アホなのは知ってる。学力だけなら小町でも余裕で入れるだろ」

「ちょっと、お父さん!? 酷くない!?」

 

 小町が親父の肩を掴んでグワングワン揺らす。……今の小町の成績知らないけど、もしかしてアホの子なの? お袋も何も言わないし。えぇ……マジで大丈夫?

 

 何なら資格系の学校に入るのもアリかと考えていると、ようやく小町から解放された親父が。

 

「ま、少しは考えとけよ。相談とかあればまた帰ってこい。八幡は自分で稼いでいるけど、せめて25くらいまでは親の脛齧っていいんだからよ」

「えー……せめて23くらいまでにしない?」

「お母さん、ツッコミ入れるとこそこなの?」

 

 こうして家族と会話して少し気が楽になった。最近は張りつめた雰囲気が続いていたしな。やっぱりもっと実家に入り浸ろうかな。いやでもあの家、俺の部屋ないし、それに部屋に銃を整備する工具がないと落ち着かなくなってきたからな。……どうしてこうなったのだと悲しくなる。ヤバいな、あともうちょいしたら一般人の世界に帰れなさそうな気がしてならない。

 

 …………そろそろ移動するか。ずっと同じ場所だと警備の意味がない。

 

「んじゃ、俺はこれで。仕事戻るわ」

「お兄ちゃん、またねー!」

 

 

 

 

 

 




続きます


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初めての緊張

 仕事も無事終わり、帰る途中に俺は用事を思い出し武偵高へと足を運んだ。3時にはイベントも終わり、後片付けも手伝ってからの帰宅で今は4時過ぎくらいだ。まだ年明けだから夕方はかなり冷え、無情にも冷たい風が俺を襲う。日も傾き、あと1時間もすれば空はまた暗くなるだろう。

 

 しかし、本気で寒い。体がガタガタ震えそうになるのを堪える。制服だけではどうもこの寒さを凌げない。もうちょい分厚いの羽織れば良かったと今さら後悔をする。防寒のためにグローブでも付けようかと迷いもする。でも、グローブあると銃扱いにくいから基本的には付けたくないのが本音だ。それでも、多少は慣れておくべきか。手がかじかんで撃ち損じる――なんて事態は避けたいしなぁ。

 

 グローブない云々で思い返してみれば、俺って防弾コート持ってないな。防弾性での冬服って制服のジャケットくらいしかない。イ・ウーにいたときに貰ったのはあるけど、あれは制服には合わないし……。それにあの服は勝負服――――意味は違うがあまり人にも見せたくないものだ。

 

今度制服に合う防弾コートでも見繕っておくか。武偵高は冬服の期間の方が長いので損はしないだろう。それに、コートは体を守るのにもちょうどいい。

 

「あっ」

 

と、そんなことを考えていながら歩いていると、視界の端にスカートをフリフリに改造している制服を着た相手を見付ける。あんなの日常生活で着ているのごく僅かだろう。無視したら何か言われそうだし、ていうか無視する間柄でもないから……あ、こっち気付いた。

 

「お、ハチハチ。お疲れー」

「理子、おっす」

 

理子はいつもの調子で俺に話しかける。

 

「仕事帰りだよね?」

「おう」

「どしたの? 帰らないの?」

「や、ちょっと材木座のとこ寄るだけ。理子は?」

「私は後輩ちゃんズの面倒見てただけだよ。ハチハチもたまにはみんなと遊びなよ。いろはちゃんや留美ちゃんはともかく、最近あかりちゃんたちの相手してないでしょー」

 

間宮たち、あの異常性癖軍団か……。別段、アイツらを嫌っているわけではないが。

 

「百合の間に挟まる勇気はねぇな。んな奴はギルティだ、ギルティ」

「いや、何それ……」

 

 呆れ顔の理子。何その顔。めっちゃ文句言いたそうだな。

 

 二次好きなお前なら理解してくれると思うのだが――――もしかして理子はあれか、どちらかと言うと腐ってる方? でも、セーラームーンとかの昔のアニメも好きだったよな。あと、あれだ、間宮や火野とかと絡むのはいいんだが……島の妹や佐々木の視線が怖いんだよ。

 

「そういえば、ライカちゃんって男嫌いなのにわりとハチハチには懐いているよねぇ」

「ライカ……あぁ、火野か。ていうか、火野ってそんなにだっけ?」

 

 あの金髪ポニテのな。タッパある分、女子と比較すればかなり強い部類に入る。というより、強襲科の男も普通に投げているくらい強い。確か親が警察の人だっけか? それは佐々木の方か。

 

「けっこう1年では有名だよ。あかりちゃんもそこに関しては驚いてたよ」

「さよかい。まぁ、あれだろ、コミュ症同士のシンパシーだろ」

「うーん、ライカちゃん、そこまでコミュ症かなぁ。異性に対したらそうなんだけど――――ってそうそう、ハチハチにちょっと文句言いたいんだけど!」

 

 え、また何かやっちゃいました? …………ふざけてみたけど、心当たりがなさすぎる。マジで何?

 

「間宮たちのことじゃなくて?」

「違う! ハチハチが香港になぁなぁな態度とるから、私が迷惑しているんだよ」

「……どゆこと?」

 

 いきなり怒るもんだが、内容が本気で分からない。香港っていうか、藍幇にってことで合っているのか。

 

「要するに、売り込みされているんだよね」

「何を?」

「ココ姉妹をっ。一応はハチハチたちと事件解決したけど、勝負はバスカービルが勝ったからさぁ。キー君も適当な態度だし、こっちに狙いを付けてきたんだよ。しかも猛妹がやたらうるさいし……。あっちもあっちで有用な人材とのパイプ持っておきたいってのは分かるけどさー」

「いいじゃん、そんくらい。アイツら有能だし、いざってときに好きに使えよ。つーか、俺にどうしろと?」

「猛妹引き取って! もー、うるさいのっ! 多分それであっちは満足して静かになるから!」

 

 地団駄を踏む理子に対して、俺も俺で頭を抱えそうになる。

 

 そうか、諸葛め……理子に狙いを絞って俺を巻き込もうとしているのか。そんな押し付けようとしなくても、猛妹なら単独でこちらに来そうな気がしなくもない。いやまぁ、猛妹も立場があるだろうから、さすがにそれはないだろう。

 

 一先ず、俺の回答としては。

 

「ヤクザと関わり持ちたくない!」

「いやぁ、香港であんな大きく立ち回っておいて今さらでしょ……。藍幇からガッポガッポお金をもらっておいて」

 

 それを言われたら弱い。

 

「ところで理子。あれから大丈夫か?」

「ん、何が?」

「いや、ヒルダのこと」

「あぁ、全然平気。なんなら今もすぐそばにいるよ。多分」

「えっ」

 

 そう理子が教えると同時に何か変な予感がした。

 

 ……あ、俺と理子の影が不自然に動いた。それ便利だなぁ。誰かの影に入れば、不法侵入しまくれるんじゃね? って邪推したが、ヒルダは既に香港へ不法入国してたことを思い出した。ズルいなおい。

 

「むしろこの前ショッピングしたからね。それくらいには仲は良好だよ」

「ヒルダと? へ、へぇー……」

 

 若干引きつった声に対して、理子は苦笑いしつつ答える。

 

 そうか、ヒルダが新宿とか原宿を歩いているのか……いや怖いなおい。

 

「まぁ、何だかんだで服とかの趣味は合うからね」

 

 理子がそう言うなら安心していいだろう。

 

 なんか影がピョコピョコ反応しているし、嬉しいのか? 分かんねぇな。意外と義理堅い奴なのかもしれない。今までの所業がどうあれ、理子は命の恩人なのだから。しかし、そこまで追い詰めたのは俺だからその……なんかマッチポンプ感は否めない。

 

 っと、時間だ。そろそろ行かないと。

 

「んじゃ、俺はこれで。またな」

「は~い。ハチハチもお疲れ!」

 

 

 

 その後、材木座のところへ行き、その場にいた戸塚と共に世間話に興じある程度時間が経ったところで俺は自分の部屋――――ではなく、レキの部屋へと直行した。毎度のことながら、レキの部屋は女子寮にあるので、通る度に気配と足音を殺して通っている。完全に不審者です。

 

 通報されないよう願いつつインターホンを押す。どれだけ気配を消してもインターホンを押すと音が鳴るから、この瞬間だけは訪れるたびにビビり散らかす。……早く来てくれ、ていうか、合鍵貰おうかな。なぜか分からないけど、レキは勝手に俺と遠山の部屋の合鍵持っているし。いやなんで?

 

 そうこう悶々としていると数秒経ち、ガチャッと鍵が開けられたのを確認してから部屋に入る。玄関で靴を脱いだところで、レキの方を見ると――――

 

「お帰りなさい」

 

 エプロン姿のレキに出迎えられた。初めて見る姿に反応が遅れる。え、なにこれ可愛い。

 

 やたらフリフリとしたデザインのエプロンだ。色は白色の無地だが、そこらかしこにリボンが拵えている。メイド服の簡素バージョンと言うべきか。これ理子の趣味だな? ありがとう! あとで何かグッズ買ってあげる! そんなふざけたことを考える。

 

 普段見たことのない姿にちょっと驚くが、ひとまず返事をする。

 

「お、おぉ……ただいま」

 

 めっちゃドモッた。恥ずかしい。

 

「お疲れ様でした。――――では、コホン」

 

 そうレキは咳払いをして改まる。すると、エプロンの裾を掴み、足を交差させ見事な角度で綺麗にお辞儀をする。まるで本職のメイドみたいに。

 

 そして、そのまま表情を動かさず。

 

「ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも私ですか?」

 

 ベタベタなセリフを恥ずかしげもなく口にした。とても流暢ですね。もうちょい頬を赤らめてもいいと思うんだけどな。

 

「――――」

 

 いやまぁ、うん。そのセリフで無表情は逆に怖いんだけど。いくらポーズを整えたところで、目に光が灯ってないとひたすらに恐怖を感じるんだが。……ていうか、うん? なに? どうしたのってか誰の入れ知恵なの? 大方これも理子だろうが……次点で材木座か。

 

 とりあえずオチは読めてそうだから、1つずつ確認するか。

 

「えー……ご飯できてる?」

「いえ、まだ途中です」

「……なら風呂は?」

「シャワーで宜しければ。私は湯船を使いませんので」

 

 うん。

 

「……………………なら、私を選ぶと?」

 

 これまでの回答に不安を抱きながら恐る恐るレキに訊く。

 

「そうですね……では、今から校庭にでも行って決闘しましょうか」

「なるほどけっと……ん? 決闘? ケットウ?」

 

 あ、私を選ぶと戦闘になるんだ? 目を合わせたら戦闘ってポケモンより酷いぞ。なにせ、命懸けだからね仕方ないね。うん、あれだ、なんか予想してたオチと違ったのか残念。理子か材木座、そこはちゃんと教えてあげてよ。肩透かし感が強い。

 

 しかし、そんな動揺は悟られぬようここは冷静に返そう。

 

「いや、遠慮するわ。とりあえず休ませて……てか、シャワー借りていい?」

「どうぞ。……しかし、一度八幡さんとはどちらが強いか決着を着けたいと思っておりました」

 

 快く承諾してくれたと思ったら、突然何を言い出すのか。おっかなびっくりした。……おっかなって表現、今日日聞かないな。……ていうか、やっぱりレキも武偵だよな、好戦的すぎる。

 

 と、とりあえずレキに言われたことを考えるか。俺も興味はある議題なのは間違いない。といっても……。

 

「状況によるだろ。例えば、この距離からならドラグノフがあったところでさすがに俺が勝つんじゃないか。かなり近いし、ていうか手届くし」

「そうでしょうね。銃剣があっても八幡さんに勝つのは難しいでしょう」

「10mくらい離れているなら……か、勝てるか……うーん。地形によるかな?」

 

 何もない平地、それこそ体育館とかだとレキの弾を数発凌げばいいし、そのくらいなら超能力を使えば可能だと……思う。何度かレキの弾は逸らせた実績はあるからな。その間に詰めれるが――――

 

「50m以上離れると、俺はもうムリだろ。ぜーったい勝てねぇわ。瞬間移動できれば可能性あるけど、あれ準備に時間かかるしそんな隙レキ相手だと作れないだろうし……。それこそ、強襲科と狙撃科、相性の問題だよな。どっちが強いかちゃんと比べたいなら、スペック似たようにしないと意味ないんじゃないか」

「そう言われると、そうですね。お互い、得意な分野が違うのですから、前提が崩れますね」

「だろ? チームなんだから苦手な部分は他が補えばどうにかなるって。俺に狙撃なんてムリだしな。ただでさえ、ファイブセブンでも長距離狙うのは苦手なんだし」

 

 俺が撃つ場合、30m越えるとなると、命中率はかなり落ちる。いやもうマジで苦手。ファイブセブンの有効射程は50mなんだけどな。レーザーはただ真っ直ぐ飛ぶから難しく考える必要はない。しかし、拳銃はその日の整備状況、風力、俺の状況、その他諸々絡んでくるから難しい。

 

 その点、レキはさすがだよな。俺にはあんな芸当できない。

 

「てか、こんな話玄関で長々と話すべきじゃないよな。シャワー借りるけど、料理手伝おうか?」

「大丈夫です、ごゆっくりどうぞ」

 

 

 

 シャワーを浴びてから、俺は疲れを癒すためにのんびりと過ごす。といっても、ソファーも椅子もないから硬いんだけど。せめてクッションか何か持ってきた方が良かったな。今は俺が前に持ってきた毛布を畳んでクッション代わりにしている。ていうか、別に今回の仕事そこまで疲れなかったんだよな。ぶっちゃけこの部屋で休む方が疲れそうまである。

 

 料理はあまり慣れてないだろうから何か手伝おうとしたが、見事に断られたからすることがない。台所の様子を見に行こうと廊下を通ったら通ったで、なんかチラッとドラグノフが冷蔵庫に立て掛けてあったし……いや、怖いってば。料理するのに銃はいらないぞ。

 

 それからしばらく経ち、若干不安に陥りつつもレキを待っているとお盆に皿を乗せたレキが料理を持ってきた。

 

「お待たせしました。どうぞ」

「ありがと。……これは、青椒肉絲か?」

 

 皿にはピーマン、多分牛肉、タケノコなどの食材がオイスターソースと絡んでいる料理だ。

 

「はい。最初は炒め物がいいとアドバイスを貰いましたから」

「そんなこと言っていたな。でも、わりと難易度高そうだけどなぁ。お、あとはわかめスープか」

「はい。これはレトルトのものを使いましたが」

 

 青椒肉絲のソースとかもレトルト使わないとかなり手間だと思うが……恐らくソースは自作だうな。匂いからして。

 

「じゃあ、いただきます」

「…………どうぞ」

 

 一口食べる。するとすぐさまレキが顔を覗き込んでくる。早い、早いよ。まだ飲み込んですらないぞ。

 

「ど、どうですか……?」

 

 珍しく緊張の赴きを見せるレキ。やはりと言うべきか、誰かに料理を作って食べてもらうというのは、それがロボットと呼ばれたことのあるレキでも緊張する、その気持ちは同じらしい。

 

 額に汗すら流している。そ、そこまで……? と逆に俺が心配までしてしまうほどだった。

 

「うん、普通に美味いよ。好みの味だわ」

「……そうですか。良かった……」

 

 俺が率直に答えると、レキは胸を撫で下ろす。

 

「えぇ、本当に良かったです」

 

 何気に普段見ることないレキを見た。

 

「やっぱ緊張するもんか?」

「なにぶん料理は初めてですので。八幡さんは?」

「俺は遠山と飯交代制だから、わりかし誰かに作る機会ってのはあるしそこまで緊張しないかな。お前やセーラ含めて適当に有り合わせで作ったことあるからな」

「確かにそうですね」

 

 そんなこんなでレキの晩飯を頂きながらのんびりレキと話していると不意に携帯が鳴る。

 

 この通知音はメールか。普段はあまり来ないからちょっと驚いた。

 

「八幡さんのですか?」

「だな。メールだ」

「誰からですか?」

「さぁ? セールスかただの迷惑メールじゃね。なんかやたらキラキラした文字使ってるし……あ、これ違うわ。由比ヶ浜だわ」

「総武高校のときの?」

 

 間違って消しちゃいそうな名前は止めてくれ。うっかりを発動させてしまいそう。まだ総武高校にいるとき、見事なまでに一度消してしまったことがあり、めちゃめちゃ怒られたことがある。だったらさぁ、もうちょい分かりやすい名前にしてくれねぇ?

 

「だな。……レキは話したことあったっけ?」

「顔は知っていますが、記憶にはありません。それで、その由比ヶ浜さんは何と?」

「いやなに、ただの世間話。たまにこうやってメールくる」

「向こうは一応、武偵とは知らないのですよね?」

「そうだな。雪ノ下は知ってるけどな」

 

 一般人として総武高校にやって来て一般人として去った、という風になっている。相模がどうなったのかは知らないが、下手すればアイツは俺らが武偵と勘づくかもしれない。あれ、俺ら明かしたっけ? ……思い返したら最後のときに言ってたわ。

 

 あっちの生徒で知っているのは雪ノ下と相模だけ。他は知らない。それでいい。あの高校にいた人たちは、あんなことがあったと知る必要は全くない。

 

 まぁ、過ぎた話はどうでもいい。今はレキとの会話だ。

 

「私も八幡さんと同様です」

「ん、何が?」

「たまに雪ノ下さんからもメールが来ます。それと、美術部で交流があった人たちも」

「へー、そうなんだ」

 

 それもそうかと納得できる。特にレキは美術の才能は飛び抜けているからな。向こうからもかなり別れを惜しまれたとかなんとか。

 

「はい。雑談……と呼べるか分かりませんが、近況報告程度に。たまに絵を描いてそれを向こうに送っています。……そういえば先日、雪ノ下さんとも会いましたので」

「あ、それは知らなかったわ。どした、仕事関係?」

「いえ、プライベートです。たまたまこちら近くに来ていたときに声をかけられました」

 

 意外だ。雪ノ下と話した印象だが、あまり対人関係で積極的に深く関わろうとはしなさそうな人物だと思っていたが。仲が良くなった人に対しては別として。

 

「気になりますか?」

「多少は。でも別に探ろうなんてしないからな」

「偶然街で会って話しただけです。また仕事があれば頼らせてもらうと」

 

 それなら、不思議ではないかな。俺も知り合いに街中で話しかけられたら、さすがに反応するし……あ、シャーロックと会ったこと思い出した。やめやめ。

 

「レキを雇うか。そりゃ高くつくな」

「いえ、だから八幡さんを雇うと言っていました」

「……何としてでもランクを上げなければ」

 

 未だにBからランクが上がらないんだよなぁ。ランク上げたらその分受けれる任務も増えるし、難易度が高い任務だとやはり報酬も幅広い。選択肢を増やすためにも上げたいところだ。

 

「私の主観になりますが、八幡さんでしたらAどころかSくらいの実力はあると思いますよ」

「いやー、さすがにそこまでの自信はないな。俺1人で小隊やら中隊と同レベルはムリがあるわ」

「ですが、単独でヒルダを撃破したり、カツェやパトラを撤退させるとは並大抵なことではありません」

「あれは……事前にある程度情報があったり、初見殺しだったりしただけで。がっつり戦ったら勝てるか怪しいんだよな。それに武偵ランクの試験で超能力は使えないし、試験がかなり厳しいんだよ。ほら、俺の動きって超能力を補助で使うこと多いし。それにあれだろ、Sランクの試験めちゃくちゃムズいんだろ」

 

 俺は強襲科の生徒だから、試験で超能力を使うとそれは別分野になってしまう。バレない程度に使うのは大丈夫だと思うが、素の俺で試験に挑む必要がある。超能力や色金は遠山のHSSとは全くの別物だし……ていうか、試験だろうとおいそれと人目のある場所で超能力を見せたくない。

 

 そういう理由で超能力を使わずに試験に挑むと、周りもレベルが高くてまぁ大変だ。なんか本末転倒な気がするけど。

 

「何にせよ、先ほどのメールの相手が猛妹ではなく安心しました」

 

 おうおう、いきなりどうした。

 

「…………お前らホント仲悪いな。つーか、俺、あっちの連絡先知らないぞ。多分理子かセーラを仲介しないと俺からは連絡取れない。いや待て、俺セーラに連絡先教えてたっけ?」

 

 うーん、覚えてないな。

 

「ですが、猛妹からは?」

「あー、どうだろ。知られてる可能性あるけどな。一時期諸葛に携帯預けてたし」

「そう言えばそうでしたね。GPS目的で」

 

 別にそのお陰で助かったわけだし、連絡先知られていても文句は言えない。まぁいいや別に。あっちもあっちで忙しいだろう。変にちょっかいかけてこないはずだ。……だよな?

 

 とまぁ、そんなことを話ながらレキと晩飯の時間を過ごした。初めてのレキが作った晩飯だったからなのかどうかは分からないけど、今までとはどこか違う、不思議と互いにどこか高揚した気持ちで時間を共にした。いつも以上に話題が弾み、非常に楽しい時間だったと思えた。

 

 

 

 余談だが、この数日後遠山が帰ってきたと思ったらメイドを連れてきて帰ってきた。そろそろ本気で引っ越そうか悩んでいる。本気でこの部屋女子が集まる率高くて居場所がねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 




だいぶ遅くなりました
2月は資格の研修やらあり、3月からは引っ越しの準備や金ラブや金ラブGTをしたり遊んだりゲームしたりと色々あって遅くなりましたね。理亜ルートで心抉られました……やっぱ辛いよ


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そうして彼らの日常は変化する

「リサ・アヴェ・デュ・アンクと申します。皆さま方、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 そう流暢な日本語で自己紹介をしてから綺麗な角度で彼女はお辞儀をする。前に見せたメイド服バージョンのレキのお辞儀とはかなり違う。堂の入った、かなり慣れている動きだ。1つ1つの動作が洗練されているので、見ていて自然と目を奪われる。

 

 そう後々感じるのだが、今の俺は顔がめっちゃ呆けている。ほへー、リサさんか。美人だなぁ。まさか遠山が現地メイドを引っ張ってくるとは思いもしなかった。なんてことしか考えていなかったからな。

 

 遠山が1ヶ月以上家を空けてから帰ってきたと思えば、その隣には美人がいた。いやマジでスゴい美人だわ。神崎たちは遠山を驚かそうと隠れていたが、逆に驚かされる結果となった。そして、それは俺も。まさか現地妻を連れてくるとは予想もしなかったことだ。

 

 自己紹介を受けつつ、遠山からざっくりとリサさんかこちらに来た経緯を聞いた。どうやらリサさんはメイド兼狼娘らしい。狼? まぁ、簡単に言うとブラドみたいに人間から獣の姿に変われると。ブラドほど特殊ではないらしい。いやまぁ、ゾオンみたいなことできる時点で特殊だよ? で、なんやかんやあって遠山が引き取ることになった……と。戦利品でくっ付いてきたとか正直意味分からないけども。

 

「…………」

 

 そこに関しては仕方ないと割りきることにした。遠山が意味不明なことなどいつものことである。いや別に、武偵高にヤクザ制圧で見かけた女子2人がいた時点でもう気にしないことにしていたんたが、メイドということは? まさかここに寝泊まりするつもり?

 

 そんな一抹の不安がよぎるので確認する。

 

「ちなみにリサさんはどこで寝泊まりするんだ?」

「まだ部屋とか契約してないから……比企谷には悪いが、しばらくここの予定だ」

 

 女性陣で盛り上がっている横で遠山の申し訳なさそうな声か耳に届く。まぁ、予想的中だ。もう驚きはしない。驚かない。えぇもう分かってたことだからな。

 

 しばらくここにリサさんが泊まるとは言え、別に俺がいても不自然なことではない。元々俺もこの部屋の家主なのだ。リサさんもそこに関して文句は言わないだろう。内心どう思っているかは分からないが、表には出さないはずだ。多分、きっと、メイビー。

 

 遠山やリサさんからしたら俺がここにいても問題ないかもしれない。というか、それが普通だろう。それでも、どうも気が進まない。神崎や星伽さんがここに泊まることはよくある。状況としては今とかなり似ている。そのようなときはレキの部屋に泊まったり、そのまま部屋で大人しく寝たりとどうするのかはぶっちゃけその日によって様々だ。銃声が聞こえたらすぐ逃げるけどな。……ほぼ毎回な気がするのは気のせい。気のせいだ、うん。

 

 しかし、これからのことを考えると、絶対コイツらイチャイチャするんだろうなぁ、という気がしてならない。リサさんたけではない。最近は遠山妹もこの部屋を自由に出入りしている。

 

 実のところ、あれから遠山妹とは妹トークでかなり会話が弾み思ってた以上に仲を深めたが、今はその話は関係ない。2時間くらい語って遠山や神崎からは引かれていたのは記憶に新しい。妹がヒロインのゲームもやたら詳しかったのには驚いた。めっちゃ趣味合う。

 

 話が逸れたが、要するに何が言いたいのか……それは、この部屋に入る女子がもう増えるわ増えるわ。

 

 前まで遠山の弟子の風魔か同じチームの神崎たち、もしくはレキくらいのもんだったが、それはもう過去の話である。なんかもう、やったらめったら増加している。正直に申し上げると、気まずい思いしかしてない。被害妄想が拡大しているだけの可能性もきっとあるが、「うわっ……コイツ邪魔だ」とでも言いたげな視線が飛んでくることもある。気のせいだよね?

 

「……よし」

 

 ここでしばらく住み込みのメイドさんが現れたことでようやく決心ができた。都合がいいので、もうこの部屋から離れよう。といっても、学園島のマンション辺りの部屋を借りるだけだがな。学校近いし。貯金もある程度貯まったので生活資金も大丈夫だ。部屋決めたら武藤に軽トラでも借りるか。

 

 今から不動産に連絡して、そこから契約……あ、今の部屋の解約とかどうなるんだ? 遠山と同室なんだが、その辺りの兼ね合いとか……調べることが多い。そうこう悩んでいると、ふと蒼色の髪が視界に入る。

 

「……ん」

 

 と、ここで1つのアイデア……とはバカらしいが、ある考えが思い付く。

 

「レキ」

 

 リサさんを中心にできているグループの中にポツンと佇んでいるレキに呼びかける。

 

「どうされました?」

「……お前、貯金どんくらいある?」

「? はぁ、貯金ですか。このくらいです」

 

 レキが持っていた携帯から計算された額を見るが……おぅ。

 

「…………スッゲぇ、これマジか」

「はい、マジです」

 

 表示された金額に文字通り俺は目を丸くしてしまう。

 

 予想よりも多かったんですがそれは。こんな桁初めて目にしたんだが。さすがSランクと呼ぶべきか。なんでこんなに平然と答えているんだろうかと甚だ疑問に思う。やはり彼女にとってこの金額は普通なのだろう。

 

「…………」

 

 常識から持っている金額まで違うレキを前に住む世界が違うなと不躾ながら思ってしまうが――――

 

「八幡さん」

 

 ……表情に出ていたのかレキにピシャリと釘を刺される。その一言で少しは落ち着きを取り戻してから話を続ける。

 

「2人でさ、どっか部屋借りね?」

「それはここを出ると?」

「そういうこと。つっても、だいぶ先の話になるけど」

 

 しばしの沈黙のあと、レキは口を開く。

 

「分かりました。では、物件が決まり次第連絡をください。こちらも部屋の解約など進めておきます。家賃諸々は折半と考えていいですよね?」

「そのつもり。そっちのが後腐れないだろ」

 

 本心を申し上げると、レキの財産なら俺の割り分少なめでも問題なさそうと思う。しかし、そういうことがあると関係性が悪化する可能性だってある。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったものだ。

 

「えぇ、そうですね。……八幡さんと暮らす、ですか」

「前の総武高での延長線上みたいになるけど」

「それでも、楽しみです」

 

 ほんの少し笑みを浮かべるレキ。今までて見慣れていたはずだが、思わず見とれてしまった。それくらいこの提案にレキは好意的な感触を持っていてくれて、俺は俺で楽しみにしているということだろう。

 

「ところで八幡さん。先ほど後腐れとは言いましたが、それは誰がどれだけ多く払ったのかで不公平が生まれる、ということですか?」

「ん? まぁ、ざっくりそういうことだな。金のトラブルなんていくらでもあるわけだし。実際、任務でもそういう金の関係の内容とかわりと受けてきたことあるぞ。あぁいうのは怖いよな」

 

 借金取りとかそういうのしていると、ホント金になるとドロドロとした場面に出くわすことが多い。あぁいうのは精神的に疲れる

 

「しかし、いずれ私のお金は八幡さんのお金にもなるわけで……そんに気にしなくてもいいと思いますが」

「いやそんないくら何でもヒモみたいなことは…………うん? あれ、どゆこと?」

 

 レキの言葉の真意を読み取るのに時間がかかり思わず聞き返す。

 

「…………その、言葉通りの意味です」

「…………」

「…………」

 

 俺の間の抜けた問いにレキは頬を赤らめいつもよりも語気が弱くポツリと呟く。そこで俺はようやくその言葉を理解し、様々な者曰く腐った目がより気持ち悪くなっただろう。

 

 そして、しばし、2人の間に流れる静寂に身を置く。

 

 真っ赤になって照れるくらいならわざわざ言わなくてもいいのに……と心のどこかで思ってしまう。だって、こっちまで恥ずかしくなるし! にしても、随分、レキも大胆になったな。レキの自爆覚悟の特攻はめちゃくちゃ効果アリだ。

 

「…………えっと、また決まり次第連絡、ください。私が何かすることはありますか?」

「あー、別に大丈夫、かなぁ。また何かあったら伝えるわ」

 

 いつも以上にたどたどしくなる俺たち。とりあえずお互い平静を保ちつつもしばらく話し、レキとのざっくりした擦り合わせが終わってから俺は外に出る。

 

「どちらへ?」

「一色たちの稽古あるからちょっと学校行ってくるわ」

 

 別に空気に耐え切れず逃げるわけではない。ホントに用事があるのだ。邪推しないでほしい。

 

 

 

 

 

「……ふぅ、このくらいにしておくか。お疲れさん。体冷やすなよ」

「くっ、今日も勝てませんでした……」

「ハァハァ……八幡は後ろに目でも付いてるの?」

 

 部屋を出てから数時間、体育館の一角で一色と留美の稽古が終わった。疲れ果てている2人を横目に俺も一息をつく。

 

 2時間程度だが、動きっぱなしは普通に疲れる。途中休憩を挟んだにしろた。何だかんだで弟子2人も強くなっているからおいそれと気は抜けない。

 

 今日は近接武器での連携を中心に相手をした。俺が総武高へ出向く前はどちらかと言うと、射撃中心で練習を見ていたから、久しぶりにと近接連携とのことになった。

 

「ホント、先輩は視界外でも的確に手を出してきますよね。しかもかなり正確に。どうしてそんなピンポイントでできるんですか?」

「経験則ってところと、俺はわりと相手の動きを読むのは得意だからな。戦闘スタイルが基本的にはカウンタータイプだし。その発展ってところだ」

 

 俺が勝ったとはいえ、2人の実力も確実に伸びている。何度かこちらが危ない場面もあった。油断ならない。師匠として弟子たちには負けたくない気持ちはある。

 

 いくら意識してようが練習と実戦では力の入り方も全然違うものだ。今この場でヒルダなどといった強敵と戦ったときと同じ動きをしろと言われても正直な話ムリだからな。誰しもここ一番の非常に高い集中力は、練習ではなく本番でないと出せないと思う。

 

 そう思っている横で一色が呻く。

 

「そう簡単に動きを読めたら苦労しませんよー」

「つっても、今までわりかし教えてきたろ」

「八幡の言っていた相手の動きの読み方……目線、重心、呼吸だっけ?」

 

 留美の言葉に頷く。

 

「そうだな。まず目線。これは分かりやすい。一番読みやすい部類に入るだろう。相手の視線の先を見ればだいたいの動きは分かる。どこを狙っているかとかな。それを防ぐためにも、剣道で言うところの遠山の目付――――相手を全体的に俯瞰してもどうしても一瞬、これから狙う部分に目線が逸れることなんて俺でもよくある」

 

 汗を拭きながら解説する。一色も留美も互いにクールダウンしつつも俺の話を聞いてくれる。

 

 視線は雄弁。これは何事にもおいてだ。戦闘だと特に顕著である。わざと目線とは違う場所に攻撃しようと思えばある程度はできるだろうが、どんな猛者だろうと攻撃の精度は普段に比べ下がるはずだ。

 

「次に重心か。これもまぁ、わりかし分かりやすいか。相手の重心がどこにあるのか理解できれば動きの予測は立てやすい。近接戦闘だと特にな。素手でも武器アリでも攻撃するのにどうしても踏み込む動作が必要になる。どうしても踏み込みナシの攻撃とか威力全然ないし」

「でも八幡。例えば八幡の棍棒を動かず振り回すだけでも脅威だと思う」

「んなのすぐに離れれば済む話だろ。ボクシングのような狭いリングで戦うわけでもあるまいし。あと力任せの攻撃はわりと捌きやすい。力の差があっても力の流れが読めればどうにかなる」

 

 力任せの攻撃は基本的に直線だ。体も力むのでタイミングは図りやすい。やはり踏み込みがないとショボい攻撃になるだけだと思う。

 

「じゃあ、踏み込まずに強い攻撃を出そうと思えばどうするもんですかね?」

「んー、そうだな……」

 

 一色の問いに少し迷う。それはあまり考えたことがなかった。

 

 何かを投げるのにも武器を振るうのにも殴打や蹴りを行うのにも当然のことながら踏み込みという動作がいる。威力を付けようと思えばなおさら。そのワンテンポがあるから動きが読めるわけだ。それをしないで威力のある攻撃を繰り出すには…………。

 

 軽く思考を巡らせながら俺は言葉を紡ぐ。

 

「……氷の上で戦っていたら、スケートの要領で滑りつつも威力のある攻撃できそうだな」

「いやそのシチュエーション意味不明なんですけど」

「自分で言っていてなんだが、うん、そう思う。他に……落下しながらの攻撃は威力あるんじゃないか。あとはまぁ、元も子もないが、素直に遠距離で攻撃するかだな」

「最終的にはそこに行き着くわけですか」

 

 そこは仕方ない。拳銃撃つのにわざわざ剣道のように踏み込む必要ないし。

 

「最後に呼吸か。これもわりと教えていると思うから……留美、呼吸でどうすれば動きを読めるのか言ってみろ」

「なにそれ……分かったけど。人間、息吸うときはほんの一瞬でも動きが止まるってやつでしょ。逆に息を吐くときや止めているときは動くとか」

「概ねそんな感じだな。それらが読めれば近接戦闘でわりと動けるようになる。これもかなり経験積む必要あるがな」

「じゃあ、なんで後ろの攻撃まで読めるの?」

 

 と、ふと投げ出された留美の疑問に答える。

 

「これも当然ながら経験則なんだが、もうちょい具体的に話すとまずその前に……俺を相手するときの留美と一色の連携はかなり形になっていると思う。まぁ、数が多いからかな」

「あ、ありがとうございます。まさか先輩にいきなり褒められるとは」

 

 実際そう思うから。

 

「で、連携が様になっているからこそ、その連携が読めるってのはあると思うわけだ。近接の連携だと、これも1つの形だが、1人が相手を引き付けて残りが死角から追撃……みたいなことあるだろ」

「今日もそれやった。けど、止められた」

「そうだが。そんでまぁ、死角からってのがミソだ。ちゃんと形になっている連携というのはそういう隙を突くセオリーがある。死角から来るってのが分かっていれば敢えて死角を作るような動きで相手を誘導することも可能だ」

「あー、なるほど。セオリーがあるからこそ、私たちのようなちゃんとしている連携は読みやすいってことですか」

 

 一色は納得の色を見せる。自分でちゃんとしているって言うのはどうかと思うなぁ。慢心、ダメ、絶対。

 

 そして、俺の場合センサーを使えば近くにいる奴の位置くらいすぐに理解できる。しかし、コイツら相手には別段使っていないが。そうでもしないと俺の訓練にもならない。センサー頼りだと他の部分が疎かになりがちだ。

 

「じゃあ、八幡に勝つならどういう感じで攻めれば良かった?」

 

 ……なんて堂々とした質問なんだ。本人に弱点とか訊くとかなかなかないぞ。なんで自分の攻略法を教えないといけないんだ。

 

「それ俺に聞く? 普通に自分で見付けて? いやまぁ、近接に絞ると、死角からの攻めが止められるなら手数か力で押し切るしかなさそうだが」

「力……はムリそうだから手数か。一色先輩との連携の精度をもっと上げるとか。でもスピードも八幡に負けてる気がするし」

「でも留美ちゃん。実戦だったら拳銃も他の武器も使えるし、力押しもできるんじゃない?」

「そっか」

 

 と、2人で相談し始めたので別れを言ってから俺はその場をあとにした。この2人で任務も行っているらしいし、仲いいな。

 

 

 

 

「……ん」

 

 部屋に帰る道すがら、両手に沢山の袋を抱えて重そうに歩く女性に目が移る。その人は数時間前に俺らの部屋にやって来た人物だった。

 

 驚かせるのもなんだと思い、わざと大きめの足音を立てながら近付き話しかける。

 

「リサさん、持とうか?」

「――――! これは比企谷様、よろしいのですか?」

 

 目を開くリサさん。多少驚かれはしたが、反応の仕方から後ろに人がいたのは気付いていたけどそれが俺とは思わなかった……ってところか。大丈夫、俺のハートは傷付いてない。

 

「もちろん。だってそれ遠山の……っていうか色々含めて俺らのだろ? そのくらい持つよ。料理作ってくれるの?」

「はい。比企谷様は何か食べたい料理はありますか?」

「えーっと……まぁ、その、任せる」

 

 ここでリクエストを出そうとも考えたが、リサさんの得意料理とか分からないし、遠山のために作ろうとしているところを俺の要望で邪魔するのも忍びない。 

 

 あとまだ初対面に近いので会話の距離感が掴めないのもある。ここで思いきり俺の食べたい料理を口にして『え、社交辞令のつもりで言ったのに何コイツ……』って思われるのとか避けたいし……。被害妄想が過ぎるって言われればそうなんだがな。如何せん、そういう性分なとこあるので。

 

と、リサさんとの距離感を図り損ねているとリサさんから俺に話しかけてくる。

 

「そういえば比企谷様。先ほど、比企谷様が外出される前のレキさんとの会話が聞こえたのですが……」

「……あぁ、引っ越すって話?」

「はい。それは、そのような話になったのは、いきなり私が来て私がお邪魔……だからでしょうか?」

 

 恐る恐る訊ねてくるリサさん。

 

「私はご主人様のメイドですが、ご主人様と同室の比企谷様が私を気遣い出て行くなどあってはなりません。私の存在でご主人様と同格……という言い方は齟齬があると思われますが、私にとってご主人様同じと同じ立場の方を追い出すとなれば――――」

 

 そう自信なさそうな声で話すリサさん。俺はメイドという職業に詳しくはないが、雰囲気からして何となくは言わんとすることを察した。

 

「まぁ、リサさんの言いたいことは何となく分かったよ。要するに迷惑かけてるかもってことだろ。そんなことないから。引っ越しや関しては、いつかって考えていたからそんな気にしなくて大丈夫。遅いか早いかの違いだと思うから。……だってあの部屋しょっちゅう物壊れるし」

 

 まるで疲れ果てたげんなりとした俺の口調にリサさんは苦笑を浮かべる。何となくリサさんも察したのだろう。

 

 いやホントにね。気付いたら家具が壊れてて新しい家具になっていることなんてそれなりの頻度であるんだよ。幸いにも俺の部屋は今まで無事なんだが……。いやもうアイツらもう少し抑えてくれないかなぁと毎度頭を抱えることになる。

 

 寮の奴らの苦情とか先生の文句とか全部俺が受け答えしているからな。え、なに、遠山はどうしたって? アイツはどこかで気絶していることが多い。南無三。

 

 とまぁ、そんなことはさて置き。

 

「それに引っ越しって言ってもそんなすぐにはできないし、もうしばらくは今の部屋にいるんだから……その、なんだ、仲良くしてくれると助かる」

「はい、こちらこそ。よろしくお願いします、比企谷様」

「あー……その様ってのは止めてほしいかな。遠山ならともかく俺は別にリサさんの主人でも何でもない、ただの同級生なんだから」

「分かりました。今後ともよろしくお願いします、比企谷さん」

 

 一先ずリサさんとの会話を終えて安堵する。これで多少は良好な関係が築ければ助かる。他人から嫌われることは小学生中学生時代の経験から慣れているとはいえ、さすがに近しい間柄から嫌われるのは人間関係上わりと堪えるし。

 

 そんなこんなで俺とリサさんの間に流れる空気は特に問題なく、リサさんも俺のことを毛嫌いしている様子はなさそうに話題を振ってくれる。

 

「それでは、今日の晩ごはんも腕によりをかけて作りますね! ところで、ご主人様の好物などは分かりますか? 和食などはオランダで作る機会なかったので気になりまして」

「和食かぁ。遠山は特別嫌いなものないはずだし作ってくれた料理はちゃんと食う奴だからな。美味ければ何でも喜ぶと思うぞ」

「何でも、が一番困る返答なんですがね……」

「これは男子共通だが、肉があればだいたい嬉しいぞ」

「お肉、ですか。なるほど、参考になります」

 

 リサさんと会話をしつつどことなく感じる既視感。……これあれだ、この感じ、星伽さんと雰囲気が似ていることに気付く。遠山に尽くす姿勢やおしとやかな物言いや装いは外国版星伽さんとでも形容できる。

 

 そういや、さっき遠山たちを出迎えたとき星伽さんは部屋にはいなかった。どこかに出かけているらしい。ある意味同種に近いリサさんを星伽さんが目にしたら一体どのような惨状になるのか……想像したくねぇ。俺の部屋無事か?

 

「何というか、少し意外でした」

 

 と、少し唐突にリサさんはそう告げる。

 

「意外?」

「はい。比企谷さんはあのブラド様やヒルダ様、パトラ様などといった方々を倒しております。その先入観もあってか、もっと恐ろしい方なのかと勝手に思っておりました」

 

 アハハ……と自嘲気味に笑うリサさんに俺は軽く面を喰らう。

 

「確かに肩書だけ見れば大物倒してるしな。多分俺も部外者だったらそんな偏見持っていたかもしれない。誰しもそういう勝手な思い込みは存在する。だから、そこに対して誰だって責められない。……つっても、遠山と同室なんだし、そこまで怖がらなくてもいいんじゃないか」

 

 口ではそう言うが、まぁこちとら武偵だからな。そんな偏見持たれるのもしゃーない。社会不適合者なので? 

 

 いやうん、俺だって中学の頃は武偵に対して良いイメージは持っていなかったし、なんなら今も持っていない。親父なんざ、小町の体裁守るためにあまり家には帰ってくるなと言う始末だ。本人は忘れてたけどな!

 

「そうですね。比企谷さんのことは前々から噂に聞いていましたが、ご主人様と同室と知ったのは日本の空港に降りてからなので、あまりそのようなイメージを払拭する時間がなかったと言いますか」

「なるほど」

 

 いきなり怖い情報を言われると、それに思考が持っていかれるもんだよな。お袋に点数悪いテストを隠してたことがバレたと小町に連絡もらったときなんて、楽しみに買った本のこととかもう頭になかったくらいだ。……あぁいうのは非常に心臓に悪いので止めていただきたい。

 

「まぁ、別にそこまで怖くないだろ。目が濁っているとかそういうのは置いといて。置いといてよ? んでまぁ、普段はそこまで覇気ない人間だと思うしな。自分で言うのもなんだが、俺個人は大して怖がらなくていい。ここらで怖いのは何より――――」

 

 

 ――――ギィン!!

 

 

 唐突に鳴り響く何かが削れる音。チラッと地面を見ると5cmジャストで俺とリサさんの中間地点のアスファルトが綺麗に削れていた。

 

「…………」

「…………」

 

 あまりにも気まずい静寂が流れる。

 

「……あの、これは…………」

 

 冷や汗を掻いたリサさんの引き攣った笑顔。さすがのリサさんもこれには驚いたらしい。こんなの誰だって驚くわ。俺はもう慣れてしまった節はあるが、それでも心臓に悪い。

 

 俺は深呼吸をして改めて呟く。

 

「…………ここらで一番怖いのは、所構わず嫉妬交じりに警告のつもりで恐ろしい狙撃してくる女だ」

 

 

 

 

 

 

 




遅れました
社会人になっての新生活、一人暮らしなど慣れない環境、その他諸々でかなり感覚が空きました。9000文字は書いたので許してください……のんびりこんなのあったなーみたいな感じで待っていてくれたら幸いです




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2年 3学期
自分の為だとしても


 ある日、夢を見た。別に将来がどうのこうのではない、寝るときに見る夢だ。しかし、それを夢と呼ぶのは適切ではないだろう。そもそも俺は寝てない。さっきまで普通に起きていた。

 

 見渡す限り真っ白な世界。自分が地に足を付けているのか、座り込んでいるのか分からなくなるくらい曖昧な世界。突如、そんな世界に俺は呼び出されたのだ。

 

 誰に? とは言わない。幾度か経験がある。無意識に、突然、意識が引っ張られるこの感覚。

 

「……久しぶり、でいいんだよな」

 

 目の前にいるナニカに話しかける。俺の目前にいるのはただの光源。蒼く光っている存在。それは俺の首にかけている――――漓漓色金だ。

 

「……あのー」

 

 相変わらずとでも言えばいいのか、向こうからの反応は皆無だ。意志疎通できているのか怪しいと思うが、何回か話しかけてくるときは俺でも分かる日本語なので、言葉は通じているはず。

 

 とはいえ、こうも無反応だと少しは不安になるだが。こちらに話しかけていたかと思っていたら隣の人だったのに反応してしまった羞恥心か今蘇る……! うっ、止めて止めて今思い出してもあの日の俺を殴りたくなる。

 

「はぅ……」

 

 落ち着け落ち着け。目の前の観察を続けよう。

 

『――――』

 

 ただ、目の前にいる漓漓は幻かの如く朧気な姿を俺に見せ、ひたすら真っ直ぐその視線で俺を観察している。……いや、眼があるのか目の前の幻惑染みた姿では分からない。

 

 それでも、何かを俺に伝えようとしているのか。漓漓が出てくるということは……この先、色金を巻き込む何かが起こるのか。はたまた、世界を震撼させる出来事が発生するのか、現時点では――――まるで不明だ。

 

 しかし、これだけは理解できる。今、こうして漓漓が俺と接触した。これは警告だ。そして、いつかの依頼だ。

 

「…………」

 

 普段の俺なら、おいそれと他人のために動きはしない。下手に人と関わりそのせいで余計な事案に巻き込まれることなんて目に見えているからだ。とはいえ、俺は武偵だ。武偵として事件に関わるのであれば話は別だが。賃金とは別に、目の前で理不尽に奪われていたら、法の番人として動くことは当然ある。

 

 ただ、ぶっちゃけるとニュースとかで名前も知らない誰それが死んだ――――という内容で「悲しい」や「辛い」などといったように心が動くことは少ない。こういう言い方はあれだが、どうでもいいことだ。

 

 本来ならどうでもいい事柄なんだ。しかし、俺は漓漓に恩がある。文字通りの命の恩人だ。恩を返す、というのはコミュニケーションが全然取れない漓漓に通じるのかは分からないけど、せめて少しでも返さないといけない。

 

 漓漓は同じ色金の緋緋を助けてと願っている。どういう意味の助けなのかはさっぱりだ。しかし、緋緋ということは神崎も危険だ。…………まぁ、神崎とは俺が命を懸けるほど貸し借りがあるわけでもない。多分ないよね? ちょっと記憶があやふやだ。

 

 しかし、もう神崎は俺と知り合っている。ただ名前だけ知っている関係ならともかく、それなりの時間を過ごしてきた。ここまて来れば、もう簡単に切り捨てることはできない。ここでもし見捨てたら、一度は俺を乗っ取ったことがある漓漓にどう報復を受けるか分からないし――――何より武偵法の拡大解釈で俺の首が飛ぶかもしれない。

 

 つまるところ、俺の保身のために動くだけだ。

 

 昔に比べて俺のボッチ度はいくらか下がったとしても、そこは揺らぎないのが俺だよな。なんて自嘲気味に笑みをこぼす。

 

 長々と下らないことを考えたが、漓漓に返す言葉は決まっている。漓漓が助けを求めるならば――――

 

「……前に約束したからな。ちゃんと助けるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡さん?」

「ん? ……あぁ」

 

 かなり頭がボーッとしていたところでふと意識が戻る。何だ? 俺は今まで何を――――と、記憶が混濁していたところでようやく思い出す。そうか、さっきまで俺は漓漓と話を……いや、その前には何を?

 

 そうだ、俺は今レキと新しく引っ越した部屋の荷物を片付けていたところだ。

 

 リサさんが来てからざっと2週間が経った。

 

 3学期に入り色々と慌ただしくしながらもようやくいい感じの部屋を見付けたので、無事どうにか契約し、武藤から軽トラ借り、荷物を部屋に運び入れたんだ。業者使うよりかは武偵で済ませた方が安くつくしな。で、片付けをしている最中……そこで漓漓に引っ張られたか。

 

「どうかしました?」

 

 と、心配の声色で訊かれたので思わずレキの様子を見る。

 

 ぶっちゃけ終始無表情なレキから感情を読み取るのは難しいが、もうそこは慣れだ。何となく雰囲気で分かる。俺が一時期ボーッとしていた理由は不明のようだな。まぁ、意識飛んでいたのはどうやらものの数秒程度だし。

 

「お前は何もなかったようだな」

「……風、ですか」

 

 そう俺が聞き返すと、すぐレキは察したようだ。

 

「まぁな。特に何か言ってきたわけじゃないが、この先何か起こるんだろうな。そんな感じの忠告を受けた……って言っていいのか、あれ?」

「不明瞭ですね」

「そりゃ、漓漓ってお前よりかは無口だしな。合っているとは思うんだがな。にしても、もう漓漓はレキには話しかけないのか」

 

 ふとそう漏らす。

 

「生まれてからずっと風といた私ですが、もう私は風から卒業しています。それでも、話しかける可能性はあるでしょうが……色金を直接付けている八幡さんの方が接触しやすいのでは」

「……それは、まぁ確かに」

 

 俺は今、漓漓色金の一部をネックレスにして身に付けている。さすがに寝るときは外しているが、起きているときはほぼずっと首元にある。

 

 最初は紐だったが、なるべく戦闘中に壊れない、外れないように今は金属製のチェーンにしている。まぁ、どこまで効果あるのか分かんないがな。

 

「しかし、風の忠告……何があるのでしょうか」

 

 片付けを一時中断し、レキと話し合う。

 

「それが分かれば苦労しないけどなぁ。パッと考えられるのは、神崎が色金に乗っ取られるってことかな。でも、ぶっちゃけ今のところ可能性は低い。殻金も半分以上は神崎の中にあるからな」

 

 殻金は色金に乗っ取られないようにするためにあるセーフティなもので、加えて色金の力を自由に使えるようにできる代物でもある。

 

 それがあるから、俺みたいに意識や体を乗っ取られることはないとは思いたい。――――しかし、物事に絶対はない。

 

 もし神崎が誰かの命を奪うような戦闘をする場合、乗っ取りを喰らうことはある。なんなら、遠山と関係を進みまくったら、そこで心の隙を突かれることもある。

 

「可能性を言い出したら、ぶっちゃけキリがないが……他に何か可能性があると言うなら…………3種類のどれか色金本体に何かしらの危機が迫っている?」

「……私はその考えの方があると思います。まだ現実的かと。そうなると問題はどの色金になりますが」

 

 まぁ、そうだよな。こうやって漓漓から接触してきたってことは多分ウルスの湖にある漓漓本体ではない。それならもっと直接ヘルプサインがあってもいい。あんなフワフワした内容で自分を助けろ、なんて言わないだろう。

 

「しかしまぁ……」

 

 この先何があるのか気には�なるけど――――

 

「とりあえず、片付け一段落してから話すか。悪いな、中断させて」

「えぇ、そうですね」

 

 こんな荷物バラバラな状態で話しても緊張感ないわな。

 

 

 

 そして、それから30分ほど時間が過ぎ、部屋の様子も多少はマシになってきたところ、時刻はもう12時を回っていた。

 

「んんっ、疲れたぁ……。ちょっと外で飯買ってくる。レキは何か欲しいもんある?」

「私はカロリーメイトがありますので……では、飲み物お願いします」

「分かった」

 

 えーっと、財布は……あれ。

 

「俺の財布どこ?」

「知りませんが」

「カバンに入れてたはずだけど……ヤベぇ、そのカバンが見当たらねぇ」

 

 まだ荷物が片付いていないこの荷物の山からどうにか救わないと。わりとダルいな。

 

「でしたら八幡さん。これをどうぞ」

「ん、ありがと」

 

 レキからカードケースを受け取る。この中にはレキのクレカがあるんだけど……レキの貯金額を知っている俺からすると手汗ヤバいしめっちゃ震えるレベルなんだよ。これ無くしたりでもしたらもうホント怖い。

 

 コイツはコイツでよくさらっと渡せるよね。女の金で買い物……これはヒモポイントが高い! 心が痛いです。

 

「……ちょっと行ってくる」

 

 と、ドアに手をかけた瞬間。

 

 ――――ピンポーン。

 

 そう軽快なリズムでインターホンがいきなり鳴り響く。

 

 突然のことで驚いた。モニターで誰か確認するのも面倒だし、このままドアを開ける。あれか、公共放送の契約云々の奴か。残念、この部屋テレビないんだよな! そんなの無効だ!

 

「はいはいどちら様――――ん、遠山? ……じゃないな」

 

 意気揚々とドアを開けた先には、数時間前に別れを告げた同居人がいた……と思ったけど、どうやら違うみたいだ。

 

 見た目は似ているが、雰囲気や服装諸々が違う。赤を基調としたどこぞの目立ちだかりの金持ちが着てそうなやたらキラキラした衣装を身に纏っている。

 

 遠山の私服はたまに洗濯しているから知っているが、アイツ派手な服は持ってないし。

 

 遠山と似ていて遠山ではない。つまりコイツは。

 

「ジーサードか。久しぶり」

 

 遠山の腹違いの弟である超人、ジーサードということだな。一度同じ現場で出くわしたことがある。

 

「おう、イレギュラー。すまねぇが、今から時間あるか?」

「あるにはある……けど、お前どうやってここ知った?」

「兄貴に訊いただけだ」

 

 ほーん、そっからか。

 

「イレギュラーたちが引っ越ししている最中って兄貴から訊いたし、手土産に色々と持ってきたぞ」

 

 見るとジーサードが持っている袋にはコーラやら普通の水やら他にもカロリー高そうなパンやピザ、ハンバーガーなどのジャンクフードが入っている。

 

 空腹な俺からしたらぶっちゃけありがたい。

 

「お、助かる。とりあえず上がれ。と言っても座れる場所がなぁ……アメリカ人って地べたに座るの大丈夫だっけ?」

「別に構いやしねーよ。郷に入ってはなんちゃらだ」

 

 袋を受け取ってジーサードをリビングに案内する。ジーサードはレキに挨拶してからドスッと床に腰をかける。

 

 段ボールがまだまだ積み重なっていてなんか申し訳ないな。レキも無表情でジーサードを見ていて……いや、なんか焦点合ってない気がする。お前はどこを見ているんだ? ただボーッとしているだけなの?

 

 少し居心地悪そうな雰囲気あるし、前置きはなしの方がいいかな。

 

「まぁ、あれだ。いきなりでなんだが要件言ったらどうだ?」

「……そうだな。じゃあ話すか。数日前に神崎アリアが緋緋神に乗っ取られたのは知っているか?」

「は?」

 

 ジーサードの爆弾発言に一瞬思考が止まる。

 

 おっと? いきなりそうきたか? 漓漓の言っていたことはそのことなのだろうか……?

 

「まぁ、一先ずは無事なんだが……詳しくは兄貴に訊いてくれ。イレギュラーが訊いたら答えてくれるだろ」

「だな。後で訊いとくよ」

「で、そのことと関係あるようでないようなんだけどよ、イレギュラーって色金持ってるだろ? 多分首にかけているのがそうだよな」

「まぁな」

 

 前会ったとき色金の力を使えることは話してある。

 

「――――どこで手に入れたのか訊いていいか?」

 

 真剣な声色のジーサードの頼み。視線も逸らさずジッとこっちを見てくる。

 

 正直神崎のことで頭いっぱいだったんだけどな。一旦思考を切り替えよう。

 

「その質問に答える前に一応こっちからも質問しておく。理由は何だ?」

「俺は、何がなんでも色金が欲しい。俺の目的のために……あの人にもう一度会うために……だから――――」

「それ以上はいいぞ。戦争起こすためとか誰か殺したいからとかそんなこと言うようなら教えるのつもりはなかったが、訳アリみたいだな」

 

 言葉にするのもどこか辛そうだったジーサードの言葉を遮り諌める。

 

 ジーサードの色金を欲する理由はぶっちゃけますと全然分からない。行方不明者でも探しているのかな? さすがに行方不明者を探せる力があるとは思わないけど。なんかよくわかんなかったけどよくわかんなかったねー。

 

「と言っても教えることはできないぞ。なぜなら俺も漓漓がどこにあるのか分かってないからだ」

「えぇ……」

 

 自信満々にそう告げる俺。あ、ジーサード引いてる。うん、多分逆の立場なら俺もそうなる。引っ張っておいてなんだよってなるよね。

 

「モンゴルのどっか……まぁ、ぶっちゃけレキの故郷にあるんだよな。一度行ったには行ったけど、半ば拉致られた形なんで位置情報とかさっぱりだ」

 

 肩をすくめながらチラッと横にいるまるで虚空を眺めているかのごときレキを見つめる。

 

「詳しく訊きたいならレキから情報取ってみるんだな。見ろ、このどこを見ているか分からないレキを。多分この話の内容頭に入っているか分かんないぞ」

「失礼ですね、訊いてますよ」

「ならせめて目の焦点合わせてくれない?」

 

 そんな俺らのやり取りを苦笑しつつもジーサードは首を横に振り。

 

「いや、止めとくぜ。答えてくれそうにもなさそうだしな。ま、こっちは知れたらいいなくらいの気持ちで訊いたからよ。――――本題はここからだ。お前ら、アメリカに来てくれ。もう1つの色金がそこにある」

「……っ」

 

 その発言に思わず息を呑む。

 

 これまたマジかよ。そんなホイホイ見付かるもんなの? 頭痛くなる。

 

「多分だけどアメリカにあるのは緋緋じゃないよな。遠山曰く、お前は神崎にある緋緋色金を狙おうとしたんだから本体の居場所は知らないはずだ。で、当然モンゴルにある漓漓でもない。つまるところ残りは瑠瑠になるか……。アメリカのどこに?」

「ネバダ州だ。一度取りに行ったんだが、これが見事にボロ負けてな。色々あって危うく死にかけたぜ。義手もブッ壊れるしよー」

 

 アッハッハと豪快に笑うジーサード。死にかけて笑うなよ……。お前の感性どうなってんだ。こっちは死にかけるたびにヒーヒー言ってるんだが?

 

「……ん」

 

 ということは、さっきの漓漓の忠告はこのことを指しているのか? それとも神崎が緋緋神に成りかけた点か。どちらにせよ、確認するために一度瑠瑠色金の元へ行ってみるのもアリか。

 

 そう思考を巡らせる。

 

「ま、そんなわけで瑠瑠色金の元へ行くのは相当危険な道になる。五体満足でいられるとは限らねぇ。そんな依頼内容だ。ただもちろん、武偵に依頼するんだから報酬も当然出す。来てくれるか?」

「俺は大丈夫だな。なんなら確かめたいこともあるし。レキもいいか?」

「はい。風の忠告も気になりますので」

 

 レキの了承も得たところで、話を続けよう。

 

「そんでジーサード。俺を頼りにするってことはやっぱ色金の力を使いたいのか?」

「まぁな。イレギュラー、お前瞬間移動できるんだろ? それで俺らを連れていくことは可能か?」

 

 やはりと言うべきかそうなるよな。俺もジーサードの立場ならその力を使いたいとは考える。

 

 自分で使用していて言うのもなんだが、ある意味色金の力――――超々能力はかなりのチートのようなものだもんな。あらゆる常識を嘲笑うかと如く、先人が積み立ててきた努力をあっさりと飛び越える代物。

 

 そんな力を使える人物が身近にいるなら頼りたいのは分かる。

 

「けどなぁ……色々総合すると正直厳しいだろうな。とりあえず俺単独なら可能だ。もちろん、飛びたい場所の正確な情報や座標を頭に叩き込んでの話だけど。つっても、ここからじゃムリだ。せめてアメリカ国内ならだな」

 

 俺が軽くそれだけ伝えると、ジーサードは改めて眼を丸くして呟きつつ、返答する。

 

「……そりゃスゲぇな。でも確かにイレギュラー単独で飛んでもなぁ。まずそこに俺がいねぇと意味ねぇし」

「だな。俺は別に瑠瑠色金を実際に欲しいわけじゃないし。確認したいことがあるだけで。……あとはまぁ、瞬間移動についてまだ別の方法があるんたが、どうやら俺ではなく誰か別の人を瞬間移動させることもできるらしい。ただ今の俺にはそこまでの練度はない」

「じゃあ、イレギュラーと一緒に飛ぶなら?」

「誰かと一緒だと飛べる距離は途端に落ちる。もしお前だけでも連れてくってなったら相当近付かないとムリだな。それこそ……位置分かってないし20から30kmくらいか。あと過剰に力を使うと俺が気絶して役立たずになるんでそこも気を付けたいな」

 

 実際、香港では重量オーバーしすぎて倒れたし。あれは周りに味方しかいなかったから大丈夫だったものの、敵地のド真ん中でそれは普通に困る。

 

「なるほどな。それを当てにするのはかなり危険が伴うと。やっぱ実際に乗り込まないといけねぇか。だがよ、イレギュラー。それを抜きにしてもお前という戦力に期待してるからな。そこは勘違いしてもらっちゃ困るぜ」

「……そりゃどうも」

 

 真っ直ぐ言われると照れるな。

 

 ――――と、飯も食べ終わり一段落着いたところでジーサードは勢いよく立ち上がる。

 

「よし、話もまとまったしそろそろ行くか! お前ら、数泊分の着替え用意しとけ。あと必要なのあったらこっちでどうにかするわ」

「え、もう出発なのか?」

「おう。もう兄貴も準備終わるころだろ」

「いや、えっ、チケットとかどうすんの?」

「あ? んなの俺の自家用機で行くぞ。一応パスポートは持っとけよ」

 

 お、おぉ……。なんかスケールが違うな。めっちゃ戸惑うわ。様々な情報量にスゴい気圧される。ていうか、着替えか。まだ着替えまでは片付けてないというか……この段ボールから引っ張り出さないといけないのか。うわ、めんどっ。

 

 

 

 

 

 

 



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可愛いは正義

「飛行機か……」

「どうした? 高いとこ苦手なのか?」

 

 飛行機の窓からげんなりとした様子で下界を覗く遠山に、俺はそんな訳ないだろと今さらな質問をぶつける。

 

「いや、俺がかつて乗った飛行機は2回ほど墜落したことがあってな」

「えぇ……」

 

 そう思い出したくない様子で語る遠山に俺は軽く冷や汗を流す。

 

 あらあらあ遠山さん、それ言われると空中にいるの普通に怖いんだけど? 不安になるようなこと言わないでくれます? 遠山、お前もう飛行機降りろ。頼むから歩いてアメリカに行ってくれ。

 

 さすがに飛行機墜落したら俺も死ぬんだけ…………いや、別に俺空飛べるし何なら瞬間移動できるから爆発に巻き込まれて即死しない限りは大丈夫じゃん。

 

 自分で頭可笑しいこと言っているのは自覚しています。

 

 まぁ、こちらとしてはジーサード所有の飛行機――――というより軍用機はかなり快適なんだが。何と言うか、非常に静かに進む。個人的には軍用機ってもっと揺れるイメージあったんだけどな。ここまで静かなのかと軽く戦慄する。

 

「というか今さらだけど、比企谷も来たんだな」

「まぁな。俺も瑠瑠色金に興味があるもんで。つってもあれだ、漓漓色金みたいに人知れずあると思ってたわ。まさかアメリカ政府がガチガチに管理しているとは予想外だ」

「政府っていうか空軍基地だけど」

「似たようなもんだろ」

 

 どうやら瑠瑠色金はネバダ州のエリア51の空軍基地にあるらしい。ジーサードの話曰くほぼ本体と思わしきデカい塊が。

 

 で、ジーサードとエリア51との仲はあまり芳しくなく、どうにか強行突破する必要があるとのこと。地域と仲が悪いという感覚はよく理解できないのは置いておく。え、なに? つまりは俺が千葉県に嫌われるとかあるってこと? そんなの天地が引っくり返ろうとあり得ないことなんだが?

 

 話を聞くとジーサードって地域毎に好かれているか嫌われているかのどっちからしい……やはりイマイチ分からない。誰が好きとか嫌いとか決めているんだ?

 

「…………」

 

 俺の今回の目的は瑠瑠色金――――いや、瑠瑠神に会い、漓漓神の警告の内容を確かめることだ。具体的には緋緋神の動向、そして緋神神の救い方を知ることとなる。

 

 漓漓が普通に喋ってくれればアメリカまで飛ぶ必要ないんだけどなぁ! まぁ、それを差し引いても瑠瑠色金には個人的に興味があるし別にいいや。

 

 というが、ジーサードの依頼はあくまでジーサードをネバダ州の瑠瑠がある場所まで送り届けることだ。ぶっちゃけ送り届けるってことは俺も側にいるということだから、別にそこは気にしないでいいか。

 

「そういやジーサード。どこまで行くの? いきなりネバダ州に降りるのか?」

「ん、一度ニューヨークに行くぜ」

「……いや位置関係ほぼ真逆じゃねーか」

 

 完全に東西の端同士でめちゃくちゃ離れていない?

 

「うっせーな。こっちにも用事があんだよ。ジーサード様は人気なもんでな」

 

 それもそうかと納得する。いきなり着いてすぐに奪いに行くなんて慌ただしすぎるだろう。補給や休憩、ジーサード含めたメンバー、それぞれ済ませたい用事もあるだろうし。……命の危険がある任務だから余計にか。

 

 そうそう、ジーサードは別に個人で動いているわけじゃない。普通に仲間が大勢いる。それも老若男女人種問わず、言い方は微妙かもだがかなりバリエーションに富んでいる。

 

 何人かと挨拶したが、全員キャラが濃い。武偵高にいる奴らと遜色ないレベルだ。で、全員に共通しているのがジーサードに忠誠を誓っているところか。

 

 あんなに慕われるのも、ジーサードのカリスマ性が成せる業なのだろう。俺にはそんなのないな。必要性が見当たらないし。

 

 

 

「お、比企谷さんじゃん。やっほー、乗り心地はどう?」

 

 トイレ次いでに機内を彷徨いている俺に遠山妹――――遠山かなめが話しかけてくる。

 

「よう、かなめ。もっと揺れると思ったのにめちゃくちゃ静かだな。スッゴい快適。景色もいいし」

 

 ちなみにわりと仲良くなったので珍しく名前呼びである。ていうか、かなめ本人が遠山が付けてくれたこの名前を大層気になっており、名前呼びを希望しているだけのことだが。

 

「アンガスはもうこれ運転するの1000時間は超えてるしね。そりゃ手慣れたもんだよ」

 

 アンガスさん、あの懇切丁寧な老人だな。

 

 と、そのまま近くにある椅子に腰かけ、俺らは世間話を始める。

 

「そういえば比企谷さん。前に勧められたゲームやったよ。やっぱ金髪妹キャラは最高だね! 私も金髪に染めようかなぁ」

「あ、もうやったのか。わりと昔のゲームだったけど、ハマってくれて良かったわ」

「うんうんっ。こう、何ていうか関係性が兄妹なのも加えて、妹が消えないためにスる背徳感が堪んなかったよ!」

「別にあの時点で相思相愛だったけども、やっぱ兄妹モノはその背徳感というかスリルが堪らないよな。そこにクるものある」

 

 唐突に始まる俺とかなめの妹談義。なお、内容はゲームとはいえエロゲの模様。

 

 ふと冷静になると、どうして俺は年下女子とエロゲ談義しているんだと疑問に感じる。それもこんな上空で……。まぁ、楽しいからいいや! と自分を納得させる。周りに話合う奴あんまりいないしね! 材木座はアニメやラノベがメインだからな。

 

「あと普通にシナリオも良かったね。伏線丁寧に話が広がったし、最後の女神からのゲームでのミスリードはびっくりしたよ。めっちゃハラハラした!」

「だよな。あれ初見だと絶対騙されるだろって思うわ。実際、俺は見事に引っ掛かった。あそこで海岸行く選択肢は思い浮かばねぇ。何にせよ、やっぱエロゲはハッピーエンドが一番だわ」

「心暖まるよねぇ。最後のスチルも素晴らしかったよ……。アフター欲しかったなぁ。昔のゲームだからないんだよね。そこは残念かな。あとあの罵声好き。私もやってみようかな?」

 

 アフター見たいのは超分かる。ていうか、別に最近のゲームでもアフターある方が珍しいまであると思う。もっと色んな会社もFD出してくれていいんだけどなぁ。ゲームじゃなくてもドラマCDや最近だとASMRという選択肢もあるわけだし。

 

 ちなみにこの会話だけで何のゲームか分かった人はスゴいと思う。

 

「でもエロゲでの妹モノって血が繋がってない義理の関係が多いよね。どうしてかな?」

「まぁ、血が繋がっているのだと制作するのが大変なんじゃないか? コンプライアンスがどうのって。つっても多少は実妹モノもあるけどな」

「確かにね。あるにはあるけど……」

「それに実妹だと結婚どうのまでシナリオ持っていくの大変なんじゃないか? アフターをどうするので」

「うーん、それもあるかぁ。その後を描きにくい部分はあるかな」

 

 これが異世界ファンタジーならどうとでもなるとは思うが、現実世界準拠だと親や世間の目やら法律やらが絡んでくるし。

 

 加えてもし実妹との子供ができたとして、血縁関係者同士の子供は何かしらの障害を持ってしまう可能性が高くなることがある。別に何代も世代を重ねるとより高くなるだけで、一代だけならまだセーフかもしれないけど。

 

 まぁ、そんな生々しい話は置いといて、様々な壁を乗り越えてこそ妹モノは楽しいという意見も分かるけどな。つまるところ、結論として可愛いは正義だ。

 

「じゃあさ、比企谷さんの好きな実妹モノ教えて~」

「別にいいけど。……となるとあれか。うん、あれはいい。兄と妹としての関係性も内に秘めている感情との折り合いも好きだ。性格もいい。あのウザ可愛いのは最高だ。何より声も素晴らしい。……ただなぁ、あれを勧めるのかぁ……」

「え、面白くないの?」

「いやめちゃくちゃ面白い、大好きな作品だ。だからこそ勧めにくいというか……わりと鬱要素強い作品だからな。人を選ぶというか」

「あ、そういう系かぁ。なるほどねぇ。比企谷さんは初見の反応を楽しんで愉悦する人ではないのね」

「普段はそうだけど…………あれはかなり心にクるから……いやもうホントにマジで。好きだけど辛い。あとはそれに」

「それに?」

「あれ5作ほどのシリーズがあるから、そもそも前作進めないといけないし、続編も何作かあるからその過程で別のヒロインも攻略する必要があるんだ。妹モノが好きなかなめにとって、他の属性のヒロインも勧めるのはちょっとな」

「なるほどなるほど。でもシリーズ全体通して面白いんでしょ?」

「あぁ。どのヒロインも魅力的だしシナリオも非常に良かった。そこは保証する」

「ならプレイしてみようかなぁ。単純にストーリー気になるし、色んなヒロインを攻略するのも楽しいしね。お兄ちゃんの趣味嗜好を広げるきっかけになる!」

 

 さよかい。

 

 かなめはまず遠山に対してどうなるかを考えるよな。まぁ、そこは何とも言わないけど……ただあれだぞ、性の知識ほぼゼロの遠山に対してどう効果あるのか知らないぞ。だってアイツ結婚指輪という存在すら知らずに、神崎に指輪をプレゼントして左手の薬指に嵌めたことある前科持ちだからな?

 

 あ、この作品は何かわりと分かりやすいだろう。多分、きっと、メイビー。

 

 

 

 

 

 なんてかなめと会話しつつ、体を動かす目的でジーサードと組手をしたりして過ごす。HSSじゃない素の状態でもやっぱりめちゃくちゃ強かったわ。アイツの攻撃捌くのでやっとだった。いや俺も数撃は反撃入れたけどな?

 

 途中アラスカ方面で補給を済ませたらしく、そこからまた時間が経つとマンハッタンにあるケネディ空港へと着陸。

 

 少し戸惑いつつも入国審査を済ませアメリカへ到着した。

 

「けっこう寒いな」

「ですが日本とそう大差はありませんね」

「まぁ、別に制服でも問題ないな」

 

 レキとニューヨークの街並みを眺めながらのんびり話す。ジーサード所有の高級車に乗りつつ、だ。このような車に乗る機会なんてもうなさそうだ。武藤がこれを知りようものなら泣いて乗せてくれと懇願しそうだ。

 

 どうやら改造を施したらしくマッハ0,5ほどのスピードを出せるらしい。果たして本当にそのような機能がいるのか甚だ疑問である。オープンカーのくせしてこんな街中じゃ使わねぇだろ。それに風圧キツいだろうに。

 

「にしても、香港と同じくビル多いな。しかもどのビルも高層マンションくらい高いときている。この密度具合はニューヨークのがスゴい。清潔さは……香港のがまだ綺麗か?」

「はい。……しかし、香港ですか。もしやあの女のことを考えていますか?」

 

 かなり低い声だな、おい……。

 

「そんなことはないけど」

「本当ですか? 私の眼を見ても同じことを言えますか? ……その眼はあの女のことを考えている眼ですね」

「お前がんなこと言わなかったら思い出さなかったよ……」

 

 何その誘導尋問、あまりにも理不尽すぎない?

 

「というか猛妹とは香港から帰ってきたから一度も接触ないからな」

「しかし油断はできません。ふとした瞬間に狙ってくる可能性は充分あります。千葉ではそうでしたので」

「確かにあれは予想外だったな……」

 

 そんなこんなでジーサード所有のビルへと到着した。

 

 ジーサードが、所有している、ビルに。

 

 ワンフロアなどではない。それはもう見事なまでに一棟丸々だ。……もう驚きはしないぞ。既に軍用機を個人で持っている奴がビル丸々一棟持っていたところで俺はもう驚きはしない。呆れはするけどな?

 

 

 

「今から装備の補充や点検、整備を行う。出発は3日後だ」

 

 というジーサードの発言により、しばらく時間ができたので俺はビルの一室で休息を取っている。とりあえず初日は寝まくって時差ボケをなくした。

 

 そして、翌日。俺は装備の点検を行っているところ。

 

「失礼します、比企谷様。少々時間よろしいですか?」

 

 ザ・執事とでも呼ぶべきご老人、アンガスさんが俺が使わせてもらっている部屋へと入室してきた。

 

「あぁ、はい。どうしました?」

「比企谷様の装備についてですが、こちらから支給できる物があればと思いお声がけしました」

「装備ですか。例えばどのような?」

「ジーサード様も付けられておるプロテクターなどですね」

 

 と、案内され実際にそのプロテクターを試着してみる。

 

「おぉ、これは……」

 

見た目は仮面ライダーのアーマーみたいに派手なくせして薄くて軽い。しかもかなり丈夫。余っている両腕の部分しか付けてないが、それだけでも充分伝わる。

 

 拳銃で撃たれても軽く殴られた程度の衝撃しか来ない。

 

「何ていうか、マジでスゴいですね」

「そう言ってくださり恐縮です」

「ただ……俺はコートに色々と武器仕込んでいるのでさすがにプロテクターある上にコート着込むとなるとさすがに動きにくいですね」

 

 と、アンガスさんにイ・ウーから貰ったコートを渡す。

 

 実際、この真っ黒いコートにヴァイスやスタンバトン、予備マガジンを複数、ワイヤー銃など仕込めるだけの武器を装備してある。これだけ装備してもコート事態の重さはそう変わらないし、このコートもイ・ウー製なのでこのプロテクターと負けず劣らず高性能だ。

 

 それにあれだ、一応夜戦を想定して景色に溶け込めるような配色なので、めちゃくちゃ目立つプロテクターを付けると効果が半減する。それはなるべく避けたいまである。まぁ、このコート着て夜戦することの機会なんてかなり少ないまであるがそこは気に留めない方向でお願いします。

 

「ほう、これは……どこから頂戴した一品で?」

「シャーロック、もといイ・ウーからですね」

「なるほど。道理で素晴らしい技術なわけです。単純な技術力ならこのプロテクターと遜色ないレベルで素晴らしい品ですな。もちろん、プロテクターとコートでは素材が違います故、実際に感じる効果も違うと思いますが」

 

 そうアンガスさんが言われる通り、普段使いしている武偵高の制服より数段優れる防弾性を発揮する上に衝撃吸収の性能も半端ない。サイズも膝上まであるので防御性能はかなりあると言っていい。

 

「そうなると、このプロテクターを極力性能は落とさず薄くしてこちらのコートを着れるように仕込みますか?

生憎、腕を覆う程度のサイズしか今はございませんが」

「そうして貰えるとありがたいです」

 

 このプロテクターを付けたところで動きに影響はこれっぽっちもない。おまけに今回ジーサードから依頼したので料金は発生しない。なんて素晴らしいんだろうか……!

 

 とはいえ、今後メンテナンスするとなると俺1人では困るな。材木座か平賀さんに頼れるところは頼むか。一応アンガスさんに手入れ方法はデータで貰ったし。

 

「さてと、では作業に参りますので、何かありしたらまたお声がけください」

 

 それだけ言い残してアンガスさんは去っていった。うむ、渋い。渋い人だ。カッコいい老人という言葉が似合う。あぁいう年の重ね方に憧れるが、俺はあんな人にはなれなさそうという気しかなれない。主に性格からして。

 

 これで俺の防御力は高くなった。まだプロテクターが余っていれば胸辺りにも付けてくれる話にもなったし、手厚いサポートに感謝だ。戦闘がこの先あったとしてもダメージ受けすぎて敗北する、みたいな展開はある程度避けれるだろう。無論、絶対ではないので基本的な方針は変わらず、相手の攻撃に当たらないことだ。

 

 アンガスさんとの話は終わり、ここにいる用事はなくなった。

 

「…………」

 

 それはそれとして。

 

「なぁ、レキ。お前それ気に入ったのか」

「…………」

 

 と、さっきからずっと俺の隣にいたレキに話しかける。

 

「――――」

 

 しかし、声をかけるもその姿は全く見えず。端から見れば、俺は何もいない空間に話しかける残念な奴に映るだろう。が、そこにレキはいる。俺が声をかけてようやく、ジジッ――――と音を立ててからレキの姿が現れる。

 

 普段からレキは気配を消すことができるが、今は物理的に消えていた。

 

 俺の隣で透明になっていたレキもジーサードから貰える装備を試していたところだった。どうやらメタマテリアル・ギリーという、表面にナノマシン級の微細な発光器を塗布し、背景の変化に応じて同じ映画を表示し続けるレインコートを羽織っていた。

 

 理屈を訊いてもさっぱり分からないんだけどね。まぁあれだ、要するに科学で再現した透明マントってやつ。何それスゴい。確かジーサードも宣戦会議で着ていた代物だったと思い出した。

 

 レキがこれを着ると本気で見ただけではどこにいるか分からなくなる。俺には超能力の副作用でもあるセンサーがあるので、近くにいるなら未だしも、離れられるとこれは本気で捕捉できない。ただでさえ、レキは気配を完全に消す術に優れていると言うのにな。

 

「…………」

 

 しかし、なんだ。透明マント。なんて心惹かれるフレーズなのだろうかと心の中で反芻する。男なら一度はその存在に憧れるものだ。それはもう非常に気になる。

 

「なぁなぁレキ。ちょっとそれ俺にも貸して。着てみたい」

「嫌です」

「え、いや、そんなこと言わずに……俺も着てみたいんだけど」

「お断りです。絶対に着せません。これは私が貰った物です」

 

 めっちゃ独占欲発揮させてる……。

 

「そんなこと言わずにさー、俺も気になるんだよ。透明マントとか憧れるじゃん。ちょっとでいいか――――おいコラ、レキお前どこ行った!?」

 

 透明マント着てどっか行きやがった。それはもう一瞬の出来事だった。

 

 ホントにいざ隠れるとなったらレキから一切の足音しねぇんだよな! いいなー、あんなの独占して。俺も着てみたい! ズルいぞレキ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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薄暗い空の下で

 その後、非常に残念ながらレキに透明マントは貸してもらえず、のんびりしていたらニューヨークでのきらびやかな夜を迎える。

 

 俺の住んでいた千葉や東京も大概都会だが、高層ビルが密集しているニューヨークだと窓ガラス風景を眺めただけでもその人工的な輝きに圧倒される。どこを見渡してもビルだらけな風景で一軒家は逆に見当たらない。

 

 そんなことを考えつつ慣れない土地もあり、普段より疲労の溜まっていたから、早めに寝ようとした俺はジーサードに引っ張られパーティー云々で起こされた。

 

「おらっ、さっさと行くぞ。つーか、寝るの早すぎるだろ。健康優良児かテメェは」

「分かったから布団返して……」

 

 いやわりとマジで眠いんだけど……まぁ、6時に寝ようとするのは早すぎるよね。

 

 それにしても、あの透明マント、俺も着てみたかったな。ジーサードに金出していつか買おう。そう心に決めてアンガスさんの操る高級車に腰をかける。

 

 

 10分ほど経ち、目的地へと到着し車から降りる。

 

 そのビルはジーサード所有のビルと何ら遜色のない高層ビルだ。そんなビルの前でビクビクしつつも俺は高級そうな作りのスーツを身に纏っている。

 

 いやこれ相当素材いいスーツだろ。袖通した瞬間素材良すぎて引いた。なんか着ているだけで怖いわ。汚したらいくら取られるんだろ……。

 

「で、かなめ。……え、えーっと、これ何のパーティーなんだ?」

 

 いきなり連れ出されたのでいまいち要領を得てない俺は近くにいたかなめに声をかける。

 

「……っ」

 

 その、かなめの格好がパーティーのためとはいえ肌をやたら魅せるVネックドレスを着ているもんだから、つい緊張してしまう。

 

 そんな俺の様子は露知らず、かなめはいつもと変わらない笑顔で返答してくれる。

 

「サードが言うには、実力や実績、活動内容で基準を満たした武装職のエキスパートの集まりだってさ。Sランク武偵もたくさんいるって。せっかくだし比企谷さんもコネ作っときな?」

「あー、そういうやつね。俺はコネとかいいや。もうSランクは身近にいるし。レキや神崎頼ればどうにかなるだろ多分。神崎とか貴族様だし。それに俺は普通のそこらにいる武偵になるからな。世界を駆けるわけじゃねーし」

「いやいや。普通の武偵はまず色金の力使えないから。その時点でもう普通じゃないよ?」

「……そんなことないだろ」

「うわ、めっちゃ小声」

 

 なんてかなめと雑談しながら改めてパーティー会場へ向かう。

 

 別に俺、ごくごく普通の武偵だよね? そこらにいる遠山みたいに人間止めてないよね? そうに決まっている大丈夫大丈夫。

 

 ……しかしまぁ。

 

 ただの金持ちの道楽と思っていたが、要するに今回のこれは同業者の集まりだったわけか。一応はわざわざ行われるパーティーの内容に納得はする。

 

「…………はぁ」

 

 チラッと遠山と話しているジーサードの顔を見る。特段、深刻な表情は作っておらず遠山との会話を楽しんでいるようだ。お前ら仲良いね。なんか、俺から見るとジーサードが遠山に懐いている様子に見えるな。大型犬?

 

「……やっぱり寒いな」

 

 独りでにそうポツリと呟きを洩らす。

 

 にしても、今回の参加者はジーサードや俺らと同業者か。それもある意味、俺とは比べ物にもならいない格上や別方向のプロばかりときている。

 

 確かにツテという点で見ればこれはまたとない機会だろう。それこそ、俺みたいな一般人だけではなく、ジーサードの部下たちからもすれば非常に貴重な場になると思う。

 

「――――」

 

 しかし、元々予定があったとはいえ、この色金を強奪する数日前のタイミングに行うのは……少しばかし違和感を覚える。もしかしたら、このようなパーティーを定期的に行っている可能性はあるだろうが、わざわざ今するべきことなのか? という疑問がどうしても浮かぶ。

 

 大きな作戦が控えているわけだし、いくら参加者の都合があるとは言え、装備の点検や補充、訓練や作戦の見直し、休養、他にも戦闘機のメンテナンスなどに時間を使った方が有意義に思える。普通に考えれば、パーティーもある意味休養と言えば休養なのだろう。

 

 しかし、あれだな、知らない奴と話す時点で気疲れする俺にとっては休養に入らないまである。

 

 つまり、今回のパーティーには何かしらの裏がある。完全に俺の主観ありきだけどな! まぁ、裏と言っても策謀渦巻くドロドロなもんじゃなくて、もっとこう単純に別の目的があるのだろう。

 

 それは何なのか。もう少し頭を捻ってみよう。

 

「ふあぁ……」

 

 外の寒い空気に充てられ欠伸をしつつ、色々と推測するために、今回のパーティー主催であるジーサードの性格から考えることにする。

 

 アイツは遠山の弟なだけあってかなりお人好しだ。遠山から聞いた話だと、身寄りのない子や障害のある子を集めた学校を運営しているらしい。しかもほとんどの子供からヒーローと慕われている、と遠山談。

 

 それは部下にも言えることだ。かつて遠山と戦ったときは今後自身が死んだときのために敢えて部下に金目のものを渡したとのこと。

 

 口ではぶっきらぼうなことを言いながら、裏では仲間のために身を粉にするというかちょっかいをかけてしまうと言ったところか。なにそれツンデレ? 男のツンデレとか需要あるの? ……いやあるからジーサードはここまで大きい存在になったんだろうな。

 

「はぁ……ったく」

 

 ということは、あれか。遠山の話から推測すると今回の色金強奪作戦でジーサードは死ぬかもしれないと思っている可能性がある。というよりかは本人からして死ぬつもりはないが、可能性の1つには入ってると考えているのだろう。

 

 で、その直前にジーサードと同職のエリートが集まるパーティーを行う。

 

 ――――このパーティーの実質的な目的はジーサードが死んだときの保険、部下が路頭に迷わないため、部下の今後のためにかと結論付ける。

 

「…………」

「比企谷さん、そろそろ行くよ?」

「あぁ」

 

 かなめに促されて足が止まっていた俺はビルに入る。置いてかれそうになった俺の足は若干重い。

 

 別にこの考えが正解とは思わない。ふとした違和感から導きだした推論だ。

 

 当然のことだが、証拠はない。俺が問いかけたところで、アイツがしらばっくれたらそこで終いの荒唐無稽な話だ。しかし、ジーサードならそう考えても可笑しくはない、とも思ってしまう。短い付き合いだが、部下の身代わりくらいにはなりそうだと思ってしまうほどだ。

 

 まぁ、本人は更々死ぬ気なんてないだろうが……それでも。

 

「……尚更」

 

 依頼は達成しないといけないな。俺の目の届くところで勝手に死なれて、依頼を受けた俺が武偵法違反を受けてしまうのはごめん被るし! 何より寝覚めが悪い。

 

 俺の思惑というか下心があるとはいえ、また面倒な依頼を受けてしまったな。

 

 

 

「おぉ……」

 

 場所は変わりパーティー会場へ。

 

 それはともかく、いやこのパーティースゴいな。雪ノ下さんとこのパーティーとは別ベクトルで変わっている。日本とは何もかもが違う。

 

 雪ノ下さんのところもかなり凝っていたとは思うが、さすがジーサードということなのか全てが高級すぎる。装飾品やテーブル諸々の調度品、その全てに金をかけていると一目で分かるくらいだ。ここらは日本人とアメリカ人の違い、なのだろうか。

 

 配膳されている料理も非常に力が入っているように思える。どの料理も美味しそうだ。特に肉料理とか普段はお目にかかれないんだろうな。しかしまぁ、あれだ。

 

「あんまり腹は減ってないんだよなぁ」

「そうなんですか?」

「レキもだろ。カロリー摂取の上限決めているんだし」

 

 パーティー会場の隅で俺とレキは壁にもたれかかり成り行きを見守っている。

 

 こういう機会は貴重なのだろうが、やはり言語の壁のハードルは高い。とりあえず英語なら日常会話程度ならどうにかこなせるが、専門的な会話になるとぶっちゃけ付いていけない。

 

 レキは立場的にも他の人たちと見劣りしないレベルだし、積極的に参加してもいいのだろうが……俺がここにいるからかあまり動こうとはしない。なんか内弁慶でごめんなさい。

 

「それもそうですね。ですが、必要とあらば食べますよ。時と場合に寄ります」

「臨機応変に、だな。千葉では俺の飯食ってたからな」

「えぇ」

 

 と、そんな会話をしつつチラッとレキの服装を見る。

 

 かなめと同様、Vネックの蒼色を基調としたドレスを着込み、首には控えめだが、それでも随分と主張もしているサファイアのネックレスを付けている。蒼い宝石はレキの髪色と似通っており、ベストな組み合わせだ。

 

 レキの綺麗な白い肌も相まって、今のドレス姿のレキは、かなり安易な言葉だが美しいと思える。加えて肌の出ている面積も多いので余計にそう感じる。

 

「あー、そのー、なんだ。その服、似合っているな」

「…………あ、ありがとう、ご……ございます」

 

 なんてぎこちない会話なんだろう。2人とも吃りすぎだろ……。

 

 これが知り合って1年……そろそろ2年になる奴らの会話かな? 互いにコミュ症すぎない? こんなの社会に放り込んでホントに大丈夫なの?

 

「…………」

「――――」

 

 ヤベェ、レキの顔見れねぇ。レキもレキで俺の方に顔向けてないし。

 

 微妙な雰囲気になっていて気まずい思いをしていると、カツン、カツン、とこちらにわざとらしく足音を立て近付いていてくる人がいる。

 

「えーっと……」

 

 なんか黒い仮面付けているんだけど、どちら様? 俺らに用あるの? 多分人間違いですよ。主催はジーサードですよ。そのジーサードなら……あれ? どこ行った? 見当たらないけども。トイレか。

 

「君が、比企谷君でいいんだね?」

 

 レキではなく俺に低い声で語りかけてくる。体型から分かるけど、普通に男だな。ていうか、普通に日本語なんですね。

 

「えぇ。比企谷です」

「こちらはヒノ・バットという。これでも武偵をやっていてね」

 

 あぁ、その名前は授業でチラホラ訊いたことあるくらいわりと有名な武偵の名前だ。まさかのご本人様でしたか。

 

「一度、比企谷君と話してみたいと思っていてね」

 

 朗らかな口調でそう告げるヒノ・バットさん。いや、俺にってどうして? 初対面だし関わりないんだけど。

 

「えーっと?」

「あぁ、私個人ではなく、娘が君に何回か世話になっているそうらしくてね。一応、お礼にと」

 

 娘? 誰のこと?

 

 って、ヒノ・バット……ヒノ……ひの。火――――

 

「もしかして火野の、あいや、えっと」

「そうだよ、私はライカの父親だ」

 

 火野ライカ。俺の1つ下の後輩に当たる女子生徒だ。背が高く男勝りな性格。金髪ポニテで間宮あかり筆頭、異常性癖軍団(俺命名)に所属している奴だ。女子のわりには長身なこともあり、近接戦闘において異常性癖軍団の中ではかなり秀でている。

 

 そんな火野とは確かにたまに稽古を付けることはあるけども。一色や留美、間宮とかとなんか流れで。

 

「たまにライカから君の話を訊くことがあってね。異性嫌いのライカが珍しく比企谷君……異性の話をするのだから少し興味があったんだよ。それもまさか、その噂の人物があの予測不能ときたもんだ。ま、君の活躍をライカは知らないだろうが」

「あー……そっちも知っているんですか」

「むしろそっちの方が有名だよ」

 

 その恥ずかしい2つ名どうにかしてほしいんですけど?

 

「いやまぁ、火野とはたまに稽古を付けているだけなんで。なんていうか、火野とのツレを相手にすることがよくあるんで、その流れというか」

「なるほど。その辺りはライカから訊いた通りか。全く、誰に似たのかあれの異性嫌いは中々でね。娘とこれからも仲良くしてもらえるとこちらとしても嬉しい」

「そのくらいなら全然」

「そうしてくれると助かる。もちろん、適度に痛めてくれたまえ」

 

 笑いながらそんなことを言い残して去ってしまった。

 

 な、何なんだったんだ……なんか心臓に悪かったわ。さすがの有名武偵だけあって圧がそこらにいる奴らよりスゴかった。

 

「八幡さんは、そんなに火野さんと仲が良好なのですか?」

「んな睨むな。怖いわ。……確かにたまに稽古は間宮とかとするけど。それを差し引いても個人間の仲はそこまでじゃないか。スレ違ったら会釈するくらいだぞ」

「そうでしたか。私には詳しくその心境は分かりませんが、娘の近況が単純に気になっていた、くらいの感覚かもしれませんね」

「……だな。もし俺も小町が武偵になったら絶対周りにちょっかいかける自信があるわ。……ちょっと疲れたし外の空気吸ってくる」

 

 とだけ言い残して俺も退散する。このままドロップアウトしたいな!

 

 やけに肩肘張ったわ……。

 

 

 

 

 

 

 

 トイレを済ませ、ついでにエスカレーターを降りて外の空気を浴びようと出たところで足を止める。

 

「ん?」

 

 少し離れたところに遠山とジーサード、それと1人の少年が何やら話し込んでいる。なんだ、迷子の案内か? 

 

「って雰囲気じゃなさそうだな」

 

 遠目からでも分かるくらい不穏な空気感だ。一触即発とでも表現するべきか。とりあえず俺も参加するかな。暇だし。パーティーから逃げたい口実を作りたいわけじゃないよ……?

 

 わざと足音を大きめにして遠山たちに近付く。

 

「おや? 彼は確か……」

「あ?」

「比企谷か」

 

 謎の少年、ジーサード、遠山とそれぞれ適当に反応する。

 

「お前らもサボリ?」

「いやお前な、この重苦しい空気で何言ってんだ」

「そんくらい分かるわ。ボッチの空気を読む能力舐めるなよ。読みすぎてこちらから気配無くすまである……何言わすんだ。あえて茶化してんだわ」

 

 ジーサードとバカみたいなやり取りをしつつ少年に向き直る。マッシュの髪型をしており、身長も俺より一回り小さい。うん、特に心当たりはない。

 

 いやマジで誰?

 

「どちら様? 迷子ってわけじゃないよな」

「初めまして、イレギュラー。僕はNSAに所属しているマッシュというものだ」

 

 おっと、はいはい理解しましたよ。俺の恥ずかしい2つ名を知ってるってことはそっち系の人だな。あと名前わりとそのままだなおい。せめて髪型弄れば?

 

「ご丁寧にどうも。んじゃ俺からも。比企谷八幡だ。できればその2つ名は止めてほしいが、そこはもう別にどうでもいい。諦めてる。で、NSAって? なに、ロケット飛ばすの?」

「それはNASAだよ……。これが日本人のボケというものかい? それとも素かな? 先ほど遠山キンジに説明したので後で訊いてくれ」

 

 知らないんだからボケてもいいだろ。

 

「で、ジーサード。このエリンギ君との関係性は?」

「いやコイツはマッシュな? まぁあれだ、今回のミッションの一番の敵だ」

 

 え? このちんちくりんが?

 

 硝煙の匂いはしないし、手のひらには拳銃やナイフを握っている豆もない。筋肉もあるわけではない。言い方は相応しくないかもだが、第一印象は正しく貧弱なガキだ。1秒あれば制圧できるぞ?

 

 とまぁ、そんくらいのことは遠山も分かっているだろう。それなのに手を出せないということは、別方向で強いってことか。アメリカの政治関係は詳しくないけど、権力がかなりある立場なのだろうと推測できる。

 

「まぁいいや。で、何してんの? 互いに宣戦布告でもしてんの?」

「当たらずも遠からずだね。牽制し合っているところだよ」

 

 やけに律儀に答えてくれるな、このマイタケ君。

 

「――――それにしても、遠山キンジに引き続きまたペテン師の登場か」

「ペテン? 俺マジックできないぞ」

 

 何言ってんだこのなめ茸君は。

 

「ペテンと言わなければ証明できないだろう? 目からレーザーを出したり、何も身に付けず空を飛んだりと。噂によれば瞬間移動も行ったりしているらしいじゃないか」

「いや、そういう世界に通じてるなら超能力くらい訊いたことあるだろ。確かに詐欺紛いかもだが、元々がそういう力なんだよなぁ」

「どうせ、そうやって周囲を騙してSDAランクをこれ以上上げようとしているのだろう?」

「話を訊け。丸刈りにするぞコラ」

 

 それと、何だ。ふと耳に慣れない言葉をしめじ君は口にする。

 

「……SD……Aランク? なにそれ、遠山知ってるの? 」

「ざっくり簡単に言うと、超人ランキング、人間辞めてる奴をざっと決めたランキングだな。俺はアジア圏内で89位だ……」

 

 なにそれ、そんな不名誉なランキングに俺がいるの?

 

 如何せん、そのようなランキングにいるのが不思議だな。俺は至って普通の武偵なんだけど。 

 

「ちなみにナメコ君、俺はアジア圏内で何位だ?」

「確か68位のはずだ。全世界だと……おっと、すまない。まだそこは確認していない。あと僕の名前はマッシュだ」

「いや、ちょっ、待っ……え、えぇ……」

 

 思わず頭を抱えてしまうくらい衝撃的な内容だ。

 

 おいそのランキングに俺載せた奴、頭終わっているんじゃないか? どこの誰だ、鎌鼬で人体斬るぞレーザービーム喰らわすぞ影で体諸々削ってやるぞ!

 

 ていうか、俺がアジア圏内で上から数えて人間辞めてる度が68位って……大げさすぎない? 絶対嘘だろ。過大評価すぎるわ。んな実力ねぇぞ。

 

「比企谷お前、俺よりランキング高いのか! そうかそうか!」

「その嬉しそうな顔止めろ。なにこれ以上ないくらいの笑顔浮かべているんだテメェ。殴るぞコラぁ」

 

 で、何よりシイタケ君より注目すべきなのが、ぶなしめじ君の隣にいる少女型のロボット――――LOOだ。

 

 宣戦会議で一度目にしたことはある。しかし、こんな街中だからだろうか、機械である身体はコートで隠し武装も最低限……というかほぼないだろう。

 

 あれ、会議のときはどこの所属か不明だったが、キクラゲ君の所属だったんだな。てことは、これはFEWと関係あるかと疑問に思うが、あまり関係ないだろう。

 

 なんつーか、あくまで国を巻き込んだ個人の喧嘩という印象だ。

 

 

 

 その後もなんかやたらとえのき君がジーサードに向けてネチネチと罵っていた。次いでに遠山も罵倒していたな。俺はその様子を1歩離れた場所で眺めていた。だって疎外感が強かったし……。

 

 ジーサードの事情とか遠山は知っているみたいだが、俺全く知らないし、わりとマジで無関係だからな。

 

「――――」

 

 で、話が終わるまで暇だったんでヒラタケ君の性格でも俺なりに人間観察で分析していた。……くっ、そろそろキノコ弄りのネタ尽きそうだ。毒キノコまで手を出すか。毒テング茸とか。いや、それはさすがに失礼だな。

 

 まぁ、うん、それは置いといて。

 

 まず初めにコイツは自信家。それもかなりの。詳しくはないが、こんな小さくてもアメリカ国内でもトップクラスの権力者らしい。生まれながらチヤホヤでもされてきたのか、それとも単純に賢いのか、恐らく後者だな。人工天才という単語も聞こえてきたから、余程頭が良いんだろう。

 

 んで、次に、コイツは自然と周りを見下すタイプだ。ぶっちゃけ極度の自己中。自分が偉いから周りが言うことを訊くのは当然だろうと思っている感じ。コイツの利益や出世のためにSDAランク100位圏内の俺や遠山を殺す宣言してたし。

 

 多分そのときの俺は欠伸してた。ぶっちゃけ悲しいことに殺す殺されるにもうビビる俺はいない。不本意ながらもう慣れた。

 

 

 ――――つまりあれだ、総評として世間を知らない捻くれているガキだな。絶対友だちいないだろ。見ているだけで察してしまう。まるで中学の頃の俺を見ているようで胸が痛む。見ていて恥ずかしいっ! 冗談ですはい。

 

 

「…………」

 

 何やら遠山が『エリートは一度ミスると簡単に落ちるところまで落ちるぞ』云々語っている。で、結局言い負かしたのか負かされたのやら……。そして、そこで話が落ち着いたところ、マッシュドポテト君は俺に向き直る。とうとう原型なくなったぞ。キノコ関係ねぇな。

 

「随分とイレギュラーは静かだったね。僕の話に思うところはなかったのかい?」

「全然ないな。今回に限って、俺は所謂傭兵扱いだ。個人の思想とか正直どうでもいいわ。どんな事情があろうと依頼を遂行するだけだ。……つーか、ねむっ。……まぁ、遠山に倣って俺も何か1つアドバイスをしておこう。一応、年上としてな」

「……ほう。この僕にかい?」

 

 気怠そうに言葉を発する俺にちんちくりんは眉をピクッと動かす。不愉快、とでも言いたそうに。そういうところだぞ、と心の中でツッコミを入れつつ口を開く。

 

「誰でもいいから愚痴くらい吐ける相手見付けとけよ。お前のポジションとか地位とかはどうでもいいけど、ずっと独りでいるってのはしんどいぞ。頼れる相手がいないと特に。いや別にお前の交友関係知らねぇし、的外れな意見かもしんねぇけどな」

 

 俺も中学のときイジメを受けた際、全部自分で受け止めていたせいで精神的にしんどい思いをした。結局は周りが、社会が悪いと責任転嫁をして受け流した。それに加え、俺には愛すべき小町がいたからどうにか持ち堪えたが、もし小町がいなければどうなっていたのやら――――今となっては想像がつかない。

 

 自分は優秀だから周りには期待をしない、どうせコイツらは自分の駒でしない、とでも思うのは勝手だ。

 

 しかし、何かあった際に自身の周囲に味方がいないのは非常に恐ろしい。あの白い眼でひたすら覗かれるのは精神がかなりヤられる。ろくな立場のない俺ですらそうだったんだ。それがこのキノコに置き換えたら、その視線の重圧は恐らく俺の比では到底済まないだろう。

 

 だからこそ、武偵になってから心底思う。今までとは違う、俺の周りには頼れる奴らがいて良かったと。

 

 そこにいる遠山も頼りにしている。それに神崎や星伽さんにも色々と世話になっている。下らない愚痴に付き合ってくれる材木座や戸塚や武藤にも感謝している。

 

 もちろん、俺の友達である理子も――――そして、信頼し合えるパートナーのレキも。

 

 俺は武偵になって恵まれた。

 

「もし何かあってお前が独りで潰れたとき、お前を本気で助けようとしてくれる奴はどんだけいるんだろうな――――っと、アドバイスはここまでだ。俺の言葉をお前がどう受け止めようが無視しようが、別段さして興味はない」

 

 目の前のガキんちょは俺をジッと無表情で睨んでいる。本当に不愉快とでも感じているのか、はたまた図星で焦っているのか俺には理解する気はない。ぶっちゃけると眠すぎてそこまで頭が働かない……。

 

「とりあえずあれだ、今度戦場で会ったときは容赦はしないからな。邪魔するなら押し通るぞ。以上! 解散! ふわあぁ……ねーむっ。つか、さむさむっ」

 

 とだけ俺は言い残してジーサードたちの返答は待たずに、うすら寒い、暗いけど明るいニューヨークの空の下から暖かいビルへと引き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Unreasonable

 マッシュルームとの遭遇から一晩経ち、今日はめでたく瑠瑠色金強奪作戦実行の日となった。ちなみに全然、これっぽっちもめでたくはない。どっちだ。

 

 そして、ジーサードの雑なブリーフィング(内容はとりあえず遠山に任せる)が終わり、ジーサードの軍用機アメリカ上空を飛んでいる。いや、わりとマジで雑いなおい。それ作戦でいいの? 遠山にぶん任せたい気持ちは分かるけどね!

 

 前回はネバダ州に入った辺りで撃墜されたらしいが、今回はどうなることやら。ニューヨークからネバダ州までの間はジーサードと敵対していない場所を中心に飛んでいるからまだ安全だろう。

 

「…………」

 

 戦闘行為までしばらくは時間があるし、今回の作戦で気になることがある。今のうちに訊いておこう。

 

「ジーサード、今時間いいか」

 

 義手のメンテナンスを1人でしているジーサードに声をかける。

 

 誰もいないタイミングを見計らう。あまり人には訊かれたくない話題だろうからな……事情を知らない俺はともかく、恐らくコイツにとっては。

 

「……いいぜ」

 

 俺がわざわざ独りで来たことで何となくは察したのだろう。作業を取り止め俺と向き直る。

 

 しかし、俺とは視線を合わせようとしない。不機嫌、というわけではない。どこか気まずさや申し訳なさを覚えているのか、ジーサードはバツの悪そうな表情になる。まだ接した時間は短いが、ジーサードがこのような態度を取るのは珍しい。

 

「しばらくしたら騒がしくなるだろうし、今できれば訊いておきたいんだが――――改めて、お前はどうして色金が欲しいんだ?」

 

 依頼を受ける前にも訊いたことだが、あのときは色金を悪用するかどうかの確認をしたかっただけだ。今は違う。傭兵として雇われている俺だが、今となってはさすがに知りたいという気持ちにもなる。

 

 命を懸けるからこそ、依頼人の事情を少しは把握しておきたい。でなければ命を預けるなんて前提が成り立たない。昨日、個人の思想はどうでもいいとか思いながら矛盾したことを考えている。だが、それはあくまでジーサードとマッシュルームとの因縁の話だ。

 

 当然、ジーサードが話したくないことくらい理解している。それでも、こちらが依頼者の考えを知りたいというのも当然の話だ。そこは食い違わおうとも話し合わなければいけない。そうでもしないと、やはり何も始まらない。

 

 

「…………」

 

 

 話したくないのか、いざ話そうにも言葉が見付からないのか、言葉の詰まるジーサード。視線は泳ぎ、迷いが見て取れる。重苦しい空気がこの部屋を満たしのしかかってくる。

 

 恐らく、個人の触れたくない過去へ無遠慮と踏み込もうのいうのだ。さすがに良い気分とはならない。しばらく視線は泳いでいたが、ようやくその口が開く。

 

「……やっぱ、それくらい話さないとな。何も伝えず命をくれってのは虫が良すぎる。……でも、一応は依頼するときにそれっぽいことは言ったんだぞ。俺は――――ある人を甦らせたいんだ。色金にはそれを可能にする力があるかもしれない」

「色金に、死人を甦らせる力……」

 

 その一言にそれなりの衝撃を受ける。

 

 果たしてそれは真実なのだろうか。そこまで反則めいた力が今俺の胸にある色金にあるのか不思議に感じる。その言葉を否定したいが、可能とも思ってしまう俺もいる。

 

「正確には、過去に干渉する力ってやつだ。事実、緋緋色金ではその実例がある。台場にピラミッドのカジノがあるだろ。ありゃ数年前に『どこかの国から漂着した巨大なピラミッド型の投棄物』に都知事がインスピレーションを受けたやつだ」

「ほーん。あー、そういやあのカジノってそうだったなぁ。……で、その投棄物とやらに緋緋が関係しているのか」

「まぁ、だな。そういうことだ」

 

 そういや緋色の研究にも時間云々って記載していたような覚えがある。

 

 用意周到なジーサードのことだ。本当に関係あるのか前もって調べているんだろう。しかし、そんなことが緋緋にできるなら近しい力を持っている俺にもできるのかと少しばかし不安になる。いや、不安というより恐れに近い。

 

 そこまでにして人の道を外れてしまっていいのかと。少し、身がすくむ。

 

「その力を用いてジーサードの親しい誰か、知人を甦らせたいと。あ、別にその人についてまでは訊こうとはしてないからな」

「あぁ。いや、ちゃんと教える。知人っていうか俺の恩人だ。俺のせいで亡くなってしまってな……」

 

 だから話さなくていいのに。個人の事情についてそこまで深く関わるとどうしても情が湧く。だから、あくまで目的を訊きたいだけなんだがな。そして、それはもう達成されたと言うのに。

 

「それで俺はこの前、神崎アリアを狙った。判明している緋緋色金のある場所は現在、彼女の中しかないからな。つっても、兄貴にコテンパンにされてんでもう諦めたが」

 

 ジーサードはそう笑って飛ばす。ジーサードたちのことは別に遠山から訊いてなかったのだが、そんな経緯があったのかと今さらながら知ることになる。

 

「でだな、兄貴からは色金を使って甦らせようとするのは止めろって言われている。神崎アリアの件は差し引いても、成功する確率なんてねぇし、危険だからつってな。……イレギュラー、お前はどう思う? やっぱり反対か? …………俺は、間違ってるか?」

 

 先ほどとは打って変わり、俺の視線を真っ直ぐと見てそう訊ねてくる。

 

「…………」

 

 ――――こういう場合、俺はどう答えるのが正解なのか。

 

 何かに迷っている相手が、相談相手に『どう思う?』と問いかけた際、相手の望む答えは、同意や共感が欲しいのか、きっぱりと止めろと反対意見が欲しいのか、そのどちらかだ。

 

 何にせよ、背中を押してほしいのだ。そうでもしないと、踏ん切りが付かない。自分では最終的に決められないから誰かの一押しが必要なのだろう。それが肯定であれ否定であれ。

 

 だとすると、俺はジーサードを止めるべきなのか、そう考えるとそれは違う気もする。確かに俺の身の回りの人物に危害が及ぶなら、止めるのも致し方ない。ていうか、当たり前のことだ。

 

 しかし、今は違う。ただ迷っているからこそ、何かに縋りたいだけだろう。だったら、俺の今感じている、考えている言葉を発する方が都合がいい。

 

「例えばさ、推理ドラマとかで復讐は何も生まない、その相手はそんなこと望んでないってよく言われるだろ?」

「……ん? あぁ、まぁ、そういうセリフってのは何回か訊いたことあるな。なんだ、いきなりだな」

「いいから訊け。でだ……ぶっちゃけ、そんなのただの綺麗事だよな。犯人の思考からすると、そんなこと知るかって思うし。別にその相手のためってのもあるけど、何よりこっちがスッキリしたいために復讐しているんだからさ。自分の嫌いな相手がのうのうと生きているのがウザいから殺人犯とかってソイツを殺すんだろう? 極端な話」

 

 武偵としてこの発言はどうなの? ってのは置いておく。

 

「だろうな。こっちの欲求に従ってるだけだろ、あれは」

「それと似たようなもんだ。途中で止めてどうせモヤモヤするくらいなら――――自分の試せる可能性、全部試してから止めればいい。諦めるならそのときだ。そっちの方がまだいっそのこと清々しいだろ。全部できることはやったって自分を説得できるんだから」

 

 そんなの、説得という名の自分を誤魔化し、本音を抑えつける行為に過ぎない。ただの詭弁だ。それでも、これから前を向けるならまだ幾らかはマシだろう。

 

 人間、誰だって納得いかないことはある。理不尽に流されることはある。それをどう折り合いを付けるのか、どうやって受け流すのかは……本人の気質による。

 

 俺は過去の自分の行動がフラッシュバックして羞恥心に襲われることはあれど、武偵になったからか自分の過去はある程度は受け流せるようになってきた。そこはもう割り切っている。

 

 そして、受け流すことが苦手な奴も、ずっと引き摺ってしまう奴もいるのは承知だ。

 

 ジーサードの言う、恩人を死なせたってのがどの程度かは分からない。しかし、そりゃいつでも引き摺るよなと少しは理解する。時間が解決せず、いつまでも呑み込めない部分もあるのだろう。

 

「お前がどう過去と折り合い付けるかは知らないけど、後悔しないためにできることはすればいい。遠山に言われたようにもうスパッと止めるも良し、終わりのないゴールに向かって進むも良し。……ただ、遠山の言う通り、神崎には手を出すなよ。つーか、やるなら人死にというか他人に迷惑かけない程度やれ。それなら誰も文句は言わない」

 

 それを言ったらシイタケと敵対している時点でエリンギ陣営には迷惑をかけてるってことになるが、まぁ、そこはお互い様なのでノーカウントってことでね!

 

「…………そう、だな。そうなるよな」

 

 何かを噛み締めるように呟くジーサード。

 

「とりあえず俺の知りたいことも知れたし、作戦に備えて待機しとくわ」

 

 と、俺が背を向けたところで声が届く。

 

「……ありがとよ」

 

 その言葉に俺は何も答えず手をヒラヒラと振ってから退室する。

 

 

 

 ジーサードとの話も済み、一先ず待機しようと廊下を歩こうとしたのだが……俺に声をかけたそうな奴がいることに気付いた。というより、ジーサードの話している最中、センサーが反応していたので気付いている。

 

「……ツクモ、だったか」

 

 ジーサードの部活であり和服狐耳のロリッ子属性持ちのツクモが俺を待っていた。

 

「今なにか侮辱受けた気がするんですけど」

「気のせいだ」

 

 心読める超能力持ちはジーサードんとこだと別にいるだろ。お前ではない。名前は確かロカだったか。

 

 ちなみに話したことはない。ていうか、ツクモとも初会話な時点で察してくれ。ジーサードの仲間たちとの会話の9割はかなめだ。厳密にはかなめもジーサードから抜けているらしいので、なんなら10割アンガスさんになる。

 

「どした? ジーサードならそこにいるぞ」

「いや、イレギュラーに用があるんですけど」

 

 初対面ではないけどこれが初会話の俺に用事? 妙だな……とどこぞの名探偵ばりに怪しんでみる。そうもキッパリとした表情で言われると変に身構えずに俺も話を訊く体勢になれる。

 

 それとイレギュラーって名前と敬語交ぜるのわりとミスマッチじゃない?

 

「その、さっきの話聞こえてまして」

 

 まぁ、あのとき若干扉開いてたから聞こえてもおかしくはないか。普通に閉め忘れてた。てへっ。

 

「ほーん。で? え? あれ、なんかあんの?」

「いや……その、サード様の話を訊いてくださってありがとうございます。私たちでは踏み込めない事情ですので」

 

 伏し目がちで申し訳なさそうにしているツクモに少々驚く。その態度に疑問というか違和感を持つ。

 

 ジーサードに訊かれないよう離れるため、歩きながら少し詳しく伺うことにする。

 

「ジーサードの部下たちってアイツの目的知らないのか?」

「いえ、みんな知っています。ただ……その……サード様にとって……」

「アンタッチャブル?」

「……えぇ、そうですね。サード様があの人を救いたいというのは存じています。……ですけど、以前まではまるで自ら死にに行く、という雰囲気がありましたので」

「つってもアイツ強いだろ。そう簡単に死なな……まぁでも、お前の話を訊く限り自暴自棄な部分があったのかな」

「はい。……遠山キンジと戦ってからどこか清々しい表情にはなりましたけど、やはりどこか思い詰めた顔をするときが……」

 

 知っているからこそ一歩が踏み込めない。相手を信頼してないのではなく、その逆。大事に想っているから触れないようにしている。ツクモの口振りからするとジーサードの部下全員そうなのだろう。

 

 年上のアンガスさんたちもいるが、あの唯我独尊の雰囲気を醸し出しているジーサードには安易に口出しできないのかもしれない。

 

 つまりあれか。

 

「事情をろくに知らない俺が、適当に引っ掻き回すのがちょうどいいのか。分かるぞ。空気読めない奴の無神経な発言で逆にグループが回るときがあるよな。ぶっちゃけ俺はそういう奴嫌いなんだけどな」

「何もそこまで言ってないのですが……」

 

 若干引き気味の笑みを浮かべるツクモに話題選びを間違えたと認識する。うん、どう考えても話題選びが違うねごめんなさい。

 

「ですので、何と言いますか……サード様の悩みを親身に訊いてくださってありがとうございます」

 

 親身?

 

「親身?」

 

 あ、口にも出しちゃった。いやごめん。どこが?

 

「充分すぎるほど親身でしたよ」

「別に依頼人としてただ俺の知りたいことを訊いただけであって、そんな感謝されることじゃないんだけど」

「それでも、です」

 

 なんてハッキリと言われたらこれ以上突っ込むのもやぶ蛇というものだ。素直にその言葉を受け取ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そして時は流れ。

 

 

「あのさぁ、これどうすんの?」

 

 ネバダ州に入ってしばらくした辺りでジーサードの戦闘機は撃墜されました。まる。

 

 ちなみにアンガスさんの素晴らしい運転で無事負傷者はなく不時着できた。せいぜい擦り傷程度。

 

「……砂漠って初めて来たわ」

 

 ネバダ州はほぼ砂漠地帯。俺らは移動手段はなく砂漠に放り出されたのだ。夜明けなので気温が低いのが幸いか。

 

「とりあえず移動だ。つか周りを見ろ。俺の部下たちはちゃんと動いているじゃねぇか」

「くっそ帰りてぇ……俺独りなら多分帰れるから余計に帰りてぇ……」

「八幡さんだけ瞬間移動しないでください。するなら私も連れていってください」

 

 今までの決意はどこへやら。とてつもないほどの帰宅願望に襲われている。日本までは厳しいかもしれないが、ニューヨークまでなら恐らく行ける……。

 

 たしかにジーサードの部下たちは破壊された戦闘機を自爆させようと動いたり、使える荷物や食糧の選別を行ったりと精力的に動いている。こんなある意味絶望的な状況でも冷静に動けるのは非常にスゴいことだと思う。

 

 冷静でいられることがどんな場面においても重要なことだ。俺はちょいちょい冷静さを欠くことがあるので、その辺りは見習わないとな。

 

「よく動けるなぁ」

「おら、イレギュラーも手伝え」

「ほーい。指示くれ」

 

 その後、どうやら人工物がある方角……つまりは街があるかもしれない場所が判明したのでそこに向けて歩くことに。なんかゴツいロボットっていうかなに? 強化スーツみたいなのがあるから荷物を背負わないでいいのは楽なのが救いか。

 

 砂漠を歩くのはよく漫画で読んでいたが思っている以上に過酷だった。風は乾いているし砂が肌に張り付くし喉はやたら渇くしで体力が奪われる。冬で全体的に気温が低いことが幸いしてどうにか日中歩くことで目的地へ着くことができた。

 

 軽めの烈風で砂を防ごうと考えたがここで超能力は消費したくない。自分の荷物にマックスコーヒーを複数備蓄しているとはいえだ。

 

 特別特筆すべきこともないので砂漠を歩くとこはカットカット。んで、たしかに街には着いた。

 

 

 

「ていうか、街には街だけど」

「廃墟ですね」

 

 ゴーストタウンというやつだ。

 

 まぁ、オアシスもなさそうだし、廃墟になったのも当然か。少し街を見回ったところ劣化具合からして70から80年くらい前には無人化した様子だ。西部劇時代辺りの遺跡、といって良いかもしれない。

 

 つーか、こんなの残ってるもんなんだなと感心する。日本なら雨風でとっくに潰れてそうだ。特に台風とかの気候が日本は多いし。

 

 建物の損傷具合を確認していると一先ず良さそうな建物を見付ける。ふむ、どうやらここはかつてバーだったらしい。マジで西部劇染みている造りだ。リアルにここを使っていたのだろう。

 

 報告するか。近くにいるのは……かなめだ。

 

「かなめ、とりあえずここは使えそうだ。寒さは変わんねぇけどな」

「んー、まぁこれならイケるね。すきま風は余裕で入ってきそうだけど、吹きっさらしよりかはマシかぁ。みんな呼んでくるね」

 

 パタパタと駆けていったかなめを横目にしつつバーに入る。暗くて細部は分からないが、センサーでどこに何があるかは何となく理解できる。とりあえず分かることはあれだ、至るところは砂だらけ……。うんざりしそう。

 

 かなめの言う通り外でずっと吹きっさらしに比べれば幾分楽だろう。文句は言いたいけど、言葉にせず大人しくする。

 

 すぐにジーサードたちも合流し、ここで一泊することになった。レーションも与えられ夕食へ。さすがアメリカ人なのか興味はそれぞれ様々な場所へ向かう。まだ使えそうなピンボールだったり酒だったりと。

 

 こういう状況でポジティブにいられるのは見習うべきなんだろうな。さてと、飯も食べ終わったしどうしようか。明日に備えて就寝しようかと迷う。

 

 しかし、こんな滅多に来れない場所に来たんだ。このまま寝るのもどこか勿体ない。アイツらに見習い俺も行動を起こそう。

 

 バーから離れ適当に目の付いた建物の上へ飛翔で昇る。月明かりで思いの外暗くはない。

 

 超能力を少し使ってしまったが、その程度問題ない。備蓄していたマックスコーヒーの缶を開け屋上に腰をかけチマチマと飲む。

 

 風は多少収まっている。砂漠の荒れた建物の屋上で月明かりの下でマッ缶を飲む。ふっ、これはなかなか風情があるぜ。

 

「…………」

 

 さて、俺が変にカッコ付けてるのはさて置き、真面目に考えよう。恥ずかしいというかただただ虚しいだけだ……。

 

 明日からどうなるのか。どう動くのか。どう戦うのか。課題は多い。

 

 こちらの機動力はほぼない。徒歩でエリア51まで向かうのはムリだろう。ネバダ州って北海道の3倍は広いって話だ。あまりにも現実的ではない。

 

 この辺にもっと大きな街があるなら車とか借りれるんだろうけど、そもそもステルス迷彩施している戦闘機を撃ち落とせる戦力がしめじ側にはあるのに車で特効は厳しすぎるだろ。

 

 となると他の選択肢は……マジでないんだけど? 俺だけなら目的地に行けないことないが、前にもジーサードの話した通りその後はどうするんだって話になる。ていうか、戦闘機がムリなら他に何なら行けるんだろう。

 

「……?」

 

 俺が頭を悩ませても仕方ないと思いボーッとしていると、遠山と誰かの声が聞こえる。詳しい話し声は聞こえないが、ここから何か見知らぬご老人とトラブっているのが見えた。

 

 ほへー、ここに人住んでいたんだ。とまぁ、ボンヤリ思いつつも下に目を向ける。

 

 さすが毎年銃で撃たれて亡くなる人が多いアメリカだ。トラブル気質の遠山と話すだけですぐヤバい雰囲気になっているのがヒシヒシと伝わってくる。なんならそのまま銃の構え合いになりそうな雰囲気だけど、どうにか落ち着きそうだ。まぁ、ジーサードも向かったし放っておいて平気だろう。

 

 遠山とジーサード、そして見知らぬ老人を上から見送り――――俺はしばらくこの枯れた建物の上で留まっていた。

 

 …………マッ缶、甘いなぁ……。

 

 

 

 

 そして、一晩経つと……俺の目の前には信じられないものがあった。

 

「え? なにこれ?」

 

 あのあとジーサードたちとは合流せず別の建物で休んだ俺はレキに見付かり叩き起こされる。それから昨晩遠山と揉めた老人はどうやら味方になったらしく、どうやら目的地があると連れていかれた。

 

 ちなみに老人は元軍人だと。ホント、アメリカだとどこにでも軍人いるよね。

 

 そして、連れられ案内されたのは……車庫だった。その車庫の中には――――なんとびっくり蒸気機関車があった。

 

「うわっ、んだこれ。スゴいな……」

「だなぁ。迫力あるっていうか」

「威圧感あるっていうか……」

 

 あまりの迫力に思わず感嘆の声を洩らす。遠山も同じ反応みたいだ。

 

 実物とか初めて見たわ。ていうか動かせる蒸気機関車とかまだ存在していたんだ。ほへー、うわー、なんだか感激するまである。内心バカになっているなこれ。

 

 ジーサードの戦闘機にもテンション上がったが、今回のはまた別の高揚感がある。メカメカしいのは男の子大好きだからね!

 

 とまぁ、蒸気機関車発覚に伴い、日が明るくなりようやく分かったのだが、この街はどうやら駅みたいだ。遠山に言われて気付いたけども、荒野の先にはレールがめっちゃ敷かれてあるし……。もうちょいセンサーの感度上げれば気付けたやつ……これはちょっとやらかしたな。

 

 老人――――サンダースさんの英語は訛りが強く聞き取れなかったので代わりにレキやジーサードを通して翻訳してもらった。……情けねぇ。

 

 ていうか、遠山は聞き取れてそうなんだけど、お前そんなに英語の成績良かった? 俺より低かった気がするんだけど? 遠山に何があったんだ……。

 

 そして、この蒸気機関車の名前はトランザムと教えてもらった。お? なに、ガンダム好きなの? と厄介なオタクのような思考になるが、たしかあれだよな、トランザムってアメリカ大陸横断って意味だった。他にも色々あったと思うけど。

 

 しかし――――

 

「…………」

「八幡さん、どうかしました?」

「いや……」

 

 少し悩んだ顔をしていると目敏いレキに感付かれる。

 

「喜んでいるジーサードたちに水差すのは気分良くないのは分かる……。ただこれ、機動力は徒歩よりマシ……なんだろうけど、これはこれで厳しいんじゃないかってな」

「相手は戦闘機を落とせる攻撃力があるわけですしね」

「おまけにこっちは電車だからな。動ける幅に限りがある」

 

 基本縦移動の電車だから攻撃を避けるのも難しいだろう。VS人なら負けないが、VS軍事力になるとかなり厳しいとこはある。

 

 さすがにジーサードたちもそれは当然分かっている。とはいえ、それでも彼らは挑むしかないのだろう。自身の目的のために。ならば俺の役割は、何も変わらない。まぁ、なるようになれ。

 

 アンガスさんたちが整備している横で一息つき、遠山に気になっていたことを話しかける。

 

「ところで、この線路はどこまて続いているんだ?」

「執着点の1つにエリア51の中でジーサードに親しい地域がある。どうやらそこまで行ければ、色金に肉薄できるみたいだ」

「そこにジーサードを届けさえすれば俺らの勝ちか」

「だな。多分そうなる。……それでだな、比企谷。お前は本当にいいのか?」

「何が」

「俺らに付いてきて、だ。レキと一緒に守備役としてここに残っても……依頼されたとはいえ、死ぬかもしれない。俺は家族の問題だし、付いていっても問題ないんだが、お前らは依頼さえなければ無関係なんだ」

 

 不安そうに訊ねる遠山に対して俺は少し目を丸くして驚く。そこを心配してくるとは思ってもいなかった。たしかに今回は今までの対戦相手とは文字通り戦力が違うにしてもだ。

 

 遠山が心配してくれるのは1年以上一緒に暮らしてきた身として嬉しさもあるが、これでも武偵だ。武偵憲章もあるし、何より俺個人としてジーサードと同行したい。これは同じチームであるレキにも話して了承を得ている。

 

 だから、ここで俺らが降りる選択肢はない。

 

「大丈夫だって。お前が心配することはない。ジーサードから金は貰ってるし、何より俺も瑠瑠色金に会いたいし、お前がそんな深く考えなくてもいいよ。これは俺らの問題だ。それにぶっちゃけた話、逃げようと思えば俺らは逃げれるし」

「……そうか。そう言ってくれると助かる。最後の一言がなければもっとカッコ良かったんだけどなぁ」

「ほっとけ」

 

 

 

 

 整備も済み、無事古めかしい蒸気機関車は走り始めた。普通に走れば約2時間で到着する計算らしい。距離にしてざっと185km。思いの外ゴールまでの距離があるな。とはいえ、徒歩に比べたら断然楽なのだか……どうなることやら。

 

 遠山が景気付けで警笛を鳴らしているのを遠巻きに見ながら俺とレキは3両ある最後尾の車輌で後ろを警戒するように見張っている。

 

 今ここを走っている場所はネバダ州リンカーン郡西部。政治的に反ジーサードの地域みたいだ。もし向こうに捕捉されてるならすぐにでも異常が分かりそうだが……。

 

「静かだな……」

 

 俺の呟きに様子を見てきたジーサードが反応する。

 

「……だが、アイツはそろそろ俺らを見付けているぜ。衛星を使って監視している。いきなり今まで使われてこなかった汽車が横断を開始したら怪しむのも当然だ。多分あと10分もしないうちに」

「戦闘開始……か」

 

 改めて気を張り詰める。何が来ようともジーサードを終着点へと送り届ける。それが今回の俺の役割。さてと、そうと決まれば最後に装備の確認はもう別にいい――――

 

「あ?」

 

ジーサードが先頭車輌に戻ってから後方にまた目を向けると、何かいる。黒い影が離れて見える。空を飛んでいる。飛行機の類いか?

 

遠山も気付いた。その隣でレキが肉眼で確認する。

 

「――――航空機のようです。全幅は40m強。速度をこの汽車に合わせて3,2kmの距離を合わせて追跡しています」

 

 どうして肉眼でそこまで分かるの? って、話しているとキノコがもう追ってきたか。

 

 その後遠山がすぐにジーサードに確認を取ろうとしていると。

 

 ――――パンパパパンッ!

 

 車体の下から短機関銃のフルオート連射音のようか破裂音が鳴った。え、なに? 地雷でも踏んだ?

 

『今のは大昔に線路上に設置された防水爆竹を汽車が踏んだ音だ。ここから先は保安官も線路を監視できないような無人線区――――つまりは立ち入り禁止の、伝統的無法地帯って意味の注意報さ』

 

 と、インカムからジーサードの解説。なるほど、ここからゴールまでが決戦の場になるのか。いいね、こういう粋なの俺は好きだな。かつて様々な黒歴史を産み出した俺の中二心が擽られる。

 

 互いに無法地帯へと侵入したところ向こうの航空機――――ジーサード曰くX-48E『グローバルシャトル』が加速し蛇行を開始した。

 

 エリンギに備えてそれぞれポジションに付くなか、レキから忠告が飛んでくる。

 

「敵機、何か切り離しを行いました」

『確認したぁ! んだありゃぁ……ってあのシルエット、くっそが。LOOか!』

 

 切り離された何かが翼を付け荒野をとてつもない速度で飛ぶ。その何かにジーサードはすぐに気付く。続いて遠山もほぼ同じタイミングで声を上げた。

 

 少女型のロボット、LOOが翼や装甲をゴテゴテ増設した姿で飛行している。翼はグライダーのように鋭角的。エンジン音がしないことから、切り離しされた位置から動的揚力と何かしらの最先端科学の力で滑空しているだけだ。まぁ、もしかしたらエンジン付いていて空を飛べるかもしれないけど、それは知らない。

 

 あと1分もすればトランザムに追い付いてきて戦闘が始まるだろう。

 

「――――」

 

 そこでふと考える。あのLOOは宣戦会議でもかなりの怪力を見せたことは記憶に新しい。まぁ、機械だもんな。普通の人間では考えられないパワーがあるはずだ。それに向こうの武装も分からない。

 

 そんな奴をこんなボロボロな汽車に近付けていいのか?

 

 仕方ない。ここは俺の仕事か。いや、俺ではない――――俺たちの、かな。

 

「……レキ」

「分かりました」

 

 俺が何も言わずともすぐに察したのか弾薬などをささっとまとめるレキ。

 

 最後尾で守備役として銃を構えているかなめやツクモたちに話しかける。

 

「お前ら、アイツには撃たなくていいぞ。貴重な弾使うな」

「比企谷さん、何をするつもり…………まさかっ!?」

「そのまさか」

「イレギュラー、それはあまりにも危険すぎます!」

「気にすんな。仕事だからな」

 

 適当にかなめたちの文句を流しつつ、インカムで遠山たちに連絡する。

 

「ジーサード、とりあえずあの可愛いロボットは俺らに任せろ。できる限り足止めするわ」

『…………あ? おいイレギュラー、テメェ何言ってやがる。んなの許可できるわ――――』

「つーわけで、チームサリフはここで途中下車だ。あ、遠山」

『……何だ』

「お前がさ、乗る飛行機はよく墜落するって言ってたけど、どうやら俺が乗る電車は最後まで乗れないみたいだ」

 

 そんな軽口だけ残してレキをお姫様抱っこしてから、最後尾の扉を開けて飛び降り、烈風で減速しながら着地する。これはあとでジーサードたちにしこたま怒られる流れだなぁ。ごめんね、言うこと全然聞かなくて?

 

 

 

「よっと……」

 

 レキを降ろすと、あっという間にトランザムはアメリカを駆けるために喧しい走行音を奏でながら姿を消していく。

 

「悪いな、付き合わせて」

「いえ、貴方が決めたのなら――――私は貴方の隣にいるだけです」

 

 レキは凛とした口調で確かにそう告げる。そう言ってくれると俺としては非常に助かる。

 

「それより気付いていますか?」

「ん?」

「チームサリフを結成してから、初めて八幡さんと組んで強敵と戦いますよ」

「……言われてみれば」

 

 はっとその事実に気付く。

 

 チーム結成してから宣戦会議、ヒルダとの戦闘、香港での戦い、色々とあったが、レキと2人で戦うってのはなかった。ヒルダは俺のワガママ通したし、総武高ではろくな戦闘なかったし。

 

「なら、頑張らないとな」

「はい」

 

 そんな会話を挟みつつ俺らは意識を戦闘態勢へと移行させる。レキはトラグノフを構え、俺は飛翔で空を飛びLOOと高さを合わせる。

 

「――――」

 

 あと数秒でLOOと接触する。目下の目標としてはコイツをトランザムに近付けない。ついでに何か追撃があるなら、できる限り足止めするって感じか。

 

 まぁ何にせよ、とりあえず――――

 

「――――墜ちろ」

 

 LOOが俺の射程範囲内に入った瞬間、最大出力の烈風を起こす。

 

 今のコイツは紙飛行機と同じように飛んでいる。全然風が吹かないこの荒野だから飛ばせるのであって途中で強力な風が起きれば、軌道は変わる。俺ならムリヤリ変えれる。

 

 地面に思いきり叩き付けられるLOOだが、すぐさま体勢を整え下がり俺らと距離を取る。

 

「っと」

 

 続いて俺も着地する。50mほど離れた距離で睨み合いが続く。

 

「……ふぅ」

 

 目の前にいる敵は今まで戦ってきた敵とはまるで別物。軍事力そのものみたいな奴だ。路傍にいる2人の人間なんてあってないようなものだろう。おまけに向こうは幾らでも戦力を追加できるかもしれない。

 

 正しく、理不尽と言ってもいい。

 

 そんな理不尽に対抗しなくてはならない。

 

 ならどうする? ちっぽけな存在に何ができる?

 

 別に答えは簡単だ。わざわざ難しいことをする必要はない。

 

 

 

 

「魅せてやるよ。お前では理解できない、お前とは全く別の――――圧倒的な理不尽を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、高評価してくれたら嬉しいです
書きたいとこまでいったら久しぶりに一万文字越えた。次でまだた久しぶりに戦闘シーン書くのでどうなることやら……

今一人暮らししているけど、日に日に金髪ヒロイン(エロゲ)のグッズが増えていくぜ


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Disaster of Irregular

「さぁてと、どう攻めるかな……」

 

 目前に相対するは今までとはまるで別物の敵。機械だ。美少女型ロボットのLOO。青い髪に少女体型、背部やらにはメカメカしい武装が見られる。見た目はぶっちゃけ好み。……ロリコンじゃないぞ?

 

 だからと言って手は抜かない。手を抜ける相手ではない。香港のときのように今後に備えて超能力とかの縛りもなしだ。最初から全力で戦える。後のことは知らない。

 

「…………」

 

 LOOの撃破自体は恐らく超々能力である何でも削り取れってしまう次次元六面――――影を使えば容易だ。しかし、そこまで持っていくのがかなり厳しいだろう。

 

 現段階の俺の練度では、まず影を俺の周辺へ出現させるのに1秒、そこから操り始めるのに1秒かかる。

 

 そして、正確に影を操れる範囲は俺を中心に半径15m。それを越えると正確な座標入力が難しくなる。俺本体の守りも疎かになるしな。理想は俺のセンサーの範囲内で操るのがベストだ。

 

 影の操作速度の最高速が時速80km。しかし、これは複雑な操作をするなら速度は格段に落ちる。このスピードで人間相手なら未だしも機械相手では捉えきれるか分からない。操れる数は最大10個。影の数が少なければ少ないほど操作精度は上がる。

 

 何より――――まぁ情けない話、影を使うのに普段とは別の集中力を使うから1分越える辺りで維持ができなくなる。加えて、レーザーほどではないが、力の消費が早い。ヒルダのときは実質動かした数は少なかったから多少は時間を稼げたが、それでも2分も動かしていない。

 

 この体たらくで単純に影を当てるのは難易度が高い。つまり、そこまでの展開にするためにある程度LOOの機動力を削る必要がある。

 

 だから一先ず影はお預けだ。なんなら防御専用にする方がいいか……?

 

 

 

 ――――と、一度話を戻す。

 

 例えアホみたいにイカれているブラドやヒルダ、パトラとかでさえ一応は生物なんで、色々と攻めようはあったが、今回に限ってはな……大見得切ったはいいんだけど、どうしようか迷う。いやまぁ、吸血鬼共の魔臓はあれ反則級だけどな。

 

 操作するのはシイタケだろうとAIとかの自動操縦だろうと、当たり前だがまず人間とは装甲が違う。一先ずはどの攻撃が効いて効かないのか、ハッキリさせないといけない。銃が効いてくれれば普通に助かる。それに、向こうの武装の種類とかもだな。

 

 距離はおよそ50m。どうにか距離を詰めてとりあえずこちらから先制攻撃を――――ってダメだ。

 

「来ます」

「――――あぁ」

 

 LOOの腕が動く。 さっきから見えていた腕に取り付けられている……あれはミニガン――――M134がこちらを捉える。

 

 どうやら背部に取りつけられていたみたいだ。それらを 腰脇から突き出し構える。

 

「うーっわ」

 

 思わず愚痴に近い呻き声を上げる。引くわー。

 

 M134。それは口径7.62mmの機関銃。性能はあまりにも化物過ぎる。6本の銃身を持つ電動式ガトリングガンだ。毎分2000から4000発(秒間60発)という単銃身機関銃では考えられない発射速度を持つ。うん、バカかな? バカだよ。

 

 なんなら当たれば痛みを感じずに死ぬって言われているからな……。一瞬でミンチである。なにそれ怖い。レキの扱う対物ライフルとはまた別ベクトルの恐ろしさがある。

 

 まず人間1人での運用は不可能だ。なにせ本体の重量だけで20kg近くあるからね。それからバッテリーや大量の弾丸とかもろもろ加えたら……まぁ、どんな奴だろうと扱うのは現実的じゃない。加えて反動とか考えたらな……軍用ヘリに付けられてるパターン多いし。

 

 ロボットならではの運用方法か。唯一の救いは弾丸の予備がないって部分だな。見えている部分の弾丸さえ防げばそれ以上はない。

 

 ない、んだけど。

 

「…………」

 

 とはいえ……あのー……明らか過剰戦力じゃありませんこと? 個人相手に使う代物じゃないぞマジで。俺らに死ねと? あ、向こうは最初から殺す気ですねはい。しかも、弾数あれ数百発はあるよね?

 

 まぁ……今の俺なら多分大丈夫だろうけど。

 

「レキ、俺の後ろに」

「はい」

 

 と、レキが俺の後ろに身を隠した瞬間――――バリバリバリバリバリ!!! と、無数の弾丸が閃光と共にやってくる。それはまるでレーザーや火炎放射のようだ。

 

「――――ッ!」

 

 普通にしてたらまず死ぬ。余裕で死ぬ。こんなの、生身なら受け止められるわけがない。代程の重装備で身を護らないと絶対死ぬ。

 

 

 

 だけどお生憎様――――俺も、自分では言いたくないがどうやら普通とはかけ離れているみたいでな。

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

「…………な、何だと!?」

 

 今、僕は信じられないものを見ている。

 

 ジーサードの追跡を止めるため、単身……ではなく2人だがLOOの足止めを行ったイレギュラーこと比企谷八幡とスナイパーであるレキの相手をしていた。

 

 いくらイレギュラーがSDAランクに入っているとはいえ、所詮は人間だ。軍相手に敵うわけがない。そう思ってLOOに搭載されているM134を掃射した。

 

 何も遮蔽物もなく、通常なら人としての原型を留められないほどミンチにできる武器だ。こんなの防げるわけがない。普通ならそうだ。そのはずなのに――――

 

「どうして無傷なんだ……!?」

 

 目の前の光景が信じられずに独りでに叫ぶ。モニター越しの映像がCGやカメラが壊れていると信じたいほどだ。

 

 無傷、掠り傷すらない。いや、掠り傷が少しでも付くことはない。命中する、それ即ち死んでいると同義だ。ならLOOが外した? いや、あれはM134の反動くらい何なく耐えれる設計はしているし、コンピューターだから計算に狂いはない。

 

「なら……外させた、のか!?」

 

 消去法で考えるとそれしか思い付かない。事実、モニターの映像を解析するとイレギュラーの周りに着弾した跡が何発もある。

 

 一体イレギュラーは何をした――――

 

「そういえば……」

 

 先日イレギュラーと会った際、超能力を使えると言っていた。色金の力も使えるようだが、何より得意なのは――――風の力。

 

「まさか風で銃弾全部逸らしたって言うのか!」

 

 そんなことが可能なのかと悪態を吐きたくなる。たかだか風で銃弾を逸らせるなんて一体いくら風力が必要だと思っている……。その力を目の当たりにすると本当にインチキかと思いたい。何なんだそれは!

 

「――――!」

 

 と、こちらの動きがしばらくなかったからか、動揺が見て取れたのかイレギュラーはスナイパーを置いてこちらへ駆け出す。何もスナイパーには告げずいきなりだ。不味い、完全に気を取られていた。

 

「くっ……」

 

 いきなりの攻防のあり得なさに慌ててしまうが、すぐに次の手を打たなければいけない。こちらにある程度の情報があるとは言え、こういうエキスパートは自身の情報をできる限り伏せるものだ。まだイレギュラーが何をしてくるとは分からない。

 

 LOOを操作して発射し終えたM134をパージして自動手榴弾ランチャーであるMK-47ストライカーを2門構えさせる。と、ちょうどイレギュラーを狙おうとしたその瞬間カメラからイレギュラーの姿が消える。

 

 どこへ? カメラを追うと上にだ……これは……。

 

「飛んだ……?」

 

 先ほど空を滑空していたLOOを叩き落としたときと同じようにいきなり飛び上がる。

 

 イレギュラーが空を飛べることは知っている。まぁ、ただの人間が 何も使わず飛ぶなどどういうことだと問い詰めたいが……今はそんなのはどうでもいい。

 

 なぜ今そのような行動を取ったのか不明だ。空中にいれば避けれると? それは安易な行動だろう。実際自分の体で戦ったことのない僕でも理解できる。それでは逆に身動きが取れなくなるだけ……。

 

 そう判断し、僕は再度イレギュラーへと狙いを変えようとした。その刹那――――ドゴオォォォォン!!! と、MK-47ストライカーがなぜか爆発した。

 

 は、はぁ!?

 

『流石だ』

 

 まさか整備不良かと思ったとき、イレギュラーの呟きが聞こえた。

 

 流石だと? 何が? いや、答えは1つ。ライフルを突き出しているスナイパーが何かしたんだ。まさかドラグノフでこちらの武装を破壊するとは……何をしたのかまだ分析が――――いや、今出た。

 

 …………ドラグノフの銃弾でMK-47ストライカーの銃口を正確に撃ち抜いた? そんな曲芸フィクションだと疑いたくなる。……何なんだ、この2人いくら何でも人間止めすぎていないか?

 

 今度は空中から落下中のイレギュラーが銃を取り出した。あれはFN社のFive-seveNか。P90のサイドアームとして有名な拳銃だ。貫通力のある弾丸を発射できるのが特徴だな。イレギュラーの主武装と記録にはある。

 

 それをLOOに向かって何発かばら蒔いてきた。

 

 先ほどのお返しと言うわけではないが、その程度ならこのLOOは問題なく弾ける。着弾した場所はまばらだ。装甲も駆動部やエンジン部も問題ない。

 

 どうやらあのスナイパーほどの射撃技術はイレギュラーにはないようだ。まぁ、あんな技術持った奴が複数人いてたまるかと思いたい。

 

『……効かないよな』

 

 それはイレギュラーも分かっていたようだ。先ほどの射撃は確認の意味合いが強いのかな。

 

『だったら』

 

 着地の隙を狙うためにLOOを操作しイレギュラーとの距離を詰める。彼が着地したと同時にLOOは肉薄し、彼を殴るためその拳を振りかぶると、イレギュラーの指がLOOと同時にクイッと動いた。

 

 何だ――――と思った瞬間、キンッ! という金属同士がぶつかった耳障りな甲高い音を立て、LOOの腕は少し弾かれ軌道が逸れた。イレギュラーも体を捻っておりLOOの攻撃は当たらず。

 

『鎌鼬も弾くか。固いなこれ……しかも思ってたより速い』

 

 イレギュラーの話す内容は分からないが、推測するにまた何かしらの超能力で迎撃したそうだ。結果として効果は現れなかったが。

 

 しかし、いつまであちらのペースで進められるのは良くない。ということで、攻撃が逸らされたが間髪入れずに機械の力を用いた全力の蹴りを喰らわす。

 

『うおっ』

 

 イレギュラーの胸板に当たる直前、彼は腕をクロスさせ咄嗟に防御体勢を取る。ただの人間相手ならばそれで充分だったろう。だが、相手はLOOだ。それだけでは当然勢いは殺しきれない。持ち前の固さや機動力も相まって威力は相当のものだろう。イレギュラーは蹴りを受けきれず大きく吹っ飛ぶ。

 

 ――――しかし。

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

「八幡さん」

「……大丈夫だ」

 

 クッソ、コイツの蹴り威力ありすぎだろ。20m以上離れてたレキの近くまで吹っ飛ばされたぞ。さすが機械か。単純な蹴りの威力なら神崎より勝っているし、カジノで戦ったパトラの巨大ゴレムのパワーとほぼ同等だ。

 

 最初の動きは鎌鼬で逸らせたが、次の行動が速すぎて烈風での威力軽減も間に合わなかった。アンガスさんか付けてくれた腕のアーマーで受けたから軽傷で済んだが、これ直で喰らったら不味い。どうにか転がりつつも受け身も取れたしな。

 

 ……さてと次に肉薄されてあれを避けきれるか? レキに矛先が向かないように注意しないとな。

 

「アンガスさんに感謝だな」

 

 それだけ呟く。一先ず仕切り直しだ。

 

 また互いに距離を取る。とりあえず向こうの遠距離武器はある程度レキが潰してくれた。まさかグレネードランチャーもあったとはな。

 

 まぁ、まだランドセルのようなものを背負っているけども。あれも何かしらの武器だろう。ただ、すぐに使ってこないところを見ると切り札……とでも言うべきものなのかもしれない。現時点では遠距離武器かどうかの判別もつかないし。

 

 ということは、あれが本当に遠距離武器という前提が加わるが、あれを使われない限り向こうに遠距離の武装は今のところない。勝負を決めるには近付く必要がある。

 

 ……それは互いにな。俺の遠距離武器、ファイブセブンは見事に弾かれたし、この調子ではドラグノフで撃ち抜くのも厳しい。LOOの間接部や人体で脆い部分もちゃんと硬い素材で覆われている。

 

「あれ破壊できるか?」

「駆動部を露出させればあるいは」

 

 だよなぁ。

 

 なんかもう嫌になってくる。なんて理不尽な相手と戦わされているんだ俺らは。

 

 ていうか、どうして今膠着しているんだ? 俺がキノコの立場ならさっさと追撃させるが……。今度は距離が離れているから、烈風を使う隙間はあるだろうし、ある程度は対処してみせるが。

 

 こうして時間を消費してくれるのは遠山たちのことを考えればありがたいが――――ん?

 

「八幡さん」

「あ、あぁ。あれは何だ……」

 

 LOOの遥か後方、X-48E『グローバルシャトル』が俺らを通り過ぎようとするには距離がありすぎる時点で何かを射出するのが見えた。いやまぁ、あのシャトルもどうにかしたいが、そこまで手が回らないので遠山たちに任せた!

 

 で、射出したあれは何だ? というより。

 

「何機だ?」

「目視できる範囲で数20」

 

 いやこれ普通に多いな。子機……ドローンか? …………あ、近付いてきて分かったけど、ドローンの方がマシなくらい厄介だわ。あれは授業の資料で見た覚えがある。MQ-1『プレデター』だ。

 

 なんていうか、目のないイルカみたいな、機首が変な……特徴的なデザインの無人攻撃機。特徴的だからわりと覚えていた。無人機つっても全長がたしか15mほどでそこそこデカいんだけどな。まぁ、無人機だから偵察にも使える、ピンポイントでの爆撃や射撃にも使える便利な代物だ。

 

 そりゃ、あまりLOOも動かさないわ。

 

 …………え、ていうかマジでこれ俺らに使うの? 明らか過剰戦力だろ……。ていうか、別に俺らではなくてトランザムの方を狙っているのか。遠山たちの方へと行かせるのもヤバいよな。20機まるまるはキツいだろう。ある程度数削りたい。

 

 と思ったが。

 

「うわっ……」

 

 20機のうち10機が軌道を変え、俺らに狙いを付けてきた。いや数多いなぁ……。それだけ引き付けているからあっちが楽になるって考えになるからまだいいか。ていうか、向こうの戦法が物量で押し潰すってのがまぁアメリカっぽい考えだこと。

 

「……っと」

 

 あ、X-48E『グローバルシャトル』が俺らを通り過ぎてしまった。あー、ごめん、あれの対処は遠山たちに頑張ってもらおう。そうしよう。今はプレデターたちをどうにかしないと。

 

 プレデターは半分ずつ旋回し角度を付けつつ、バララララッ――――と、マシンガンで撃ってくる。が、覚えてないのか、マイタケよ。さっき俺はM134を防ぎきったぞ。いくら撃とうが、いくら数を増やそうが、烈風の出力なら俺とレキに当たらないよう逸らせる。

 

 と内心ドヤ顔を決めていたら、ふとマシンガンでの射撃が止む。次はどう来る…………いやごめん、ちょっと待って? AGM-114ヘルファイア――――空体地ミサイルは訊いていない!

 

「お前はアホか!」

 

 なんで人間2人沈めるのにそんな代物使うんだと思わず感情任せにらしくないツッコミを入れる。

 

「レキ、俺にできる限りくっ付け」

 

 各機2発、合計で20発が発射されたのを確認してからレキにそう指示する。と、レキはピッと俺の背中にもたれかかり背中合わせになる。

 

「プレデターを対処します。八幡さんはヘルファイアを」

 

 そう言ってからレキの絶対半径(キリング・レンジ)の範囲内で飛んでいるプレデターを片っ端から狙撃し、何機か撃墜している。しかし、セミオートのドラグノフだと全部撃墜させるのに時間がかかるっていうか、撃墜されたのを確認してから散開して射程外に逃れている。

 

 プレデターはレキに任せて俺は俺で仕事をするか。

 

 レキもまるでヘルファイアは気にしていない。下手にレキが狙撃すると爆発し巻き込まれるだけなのに加え――――俺がどうにかしてくれると信頼しているからこその行動だろう。それはある種の脅迫に近いかもしれないがな。

 

 

 ――――ならば、彼女の信頼には応えないといけない。

 

 そうでなければ、彼女と背中を合わせる意味がない。そうする必要性もなくなる。俺がこの立ち位置にいていいと、彼女に俺を必要だと言わせるためにも、何よりそうであると俺自身を納得させるために――――その信頼に応えてみせろ。

 

 

 着弾まであと10秒もない。四方八方から20発のミサイルが迫っている。何もしなければここでお陀仏。だから、まだ試したことないことを今からする。

 

 俺が使える超々能力の影は一辺およそ30cm。ヒルダ戦ではそれを複数出したが、今回に限り、それでは足りないことを察する。

 

 もしヘルファイアの一部だけ削り取ればその時点で爆発してしまうだろうからだ。いくら直径が20cmもないとは言えな。影で防ぐには全部呑み込む必要がある。

 

「来い、影よ」

 

 もう俺たちのすぐ側までヘルファイアが来る。あと3秒あれば俺たちに当たる。――――その寸前、影を出す。

 

 数は7つ。大きさは一辺およそ1m。今まで出したことのない大きさだ。それを俺とレキを護るため周囲に展開する。

 

「くッ……」

 

 今まで展開したことのない大きさと数に集中力が切れそうになる。ただでさえ、影を長時間出現させることは慣れていない上に、サイズをいつもより大きくしている。多分これは30秒も維持できない。

 

 しかし、この状況では30秒もいらない。

 

 ――――巨大な影はヘルファイアを全て呑み込む。地獄の業火の名前は不発に終わる。否、不発ではない。まだ業火そのものは影の中で生きている。そして、その業火は既に俺のモノだ。

 

「お返しだ」

 

 そのまま影からヘルファイアを排出する。特に狙いは付けていないが、プレデターのいる空へと撃ち出す。

 

 シイタケからしたら全くの想定外なのだろう。何機かはいきなりのことで対処できず俺が返したヘルファイアに命中し爆発する。そして、全機の操縦にも焦りが見える。ヘルファイアから免れたプレデター残り――――6機はレキの絶対半径に入ってしまう。

 

 こうなってしまってはもうこの最高峰の狙撃手からは逃れられない。レキは片っ端から捕食者の名を持つ無人攻撃機を撃ち落とす。

 

 

「……ふぅ」

 

 プレデターが沈むのを確認してから影を解除し、緊張感からの解放からか影を出した疲れからか、ほんの少し気が抜けた。その瞬間、それが間違いと気付く。厄介なのがまだいることを思い出した。

 

「不味い――――うッ!」

 

 完全に意識から抜けていたLOOがとてつもないスピードで突っ込んで、迫って来る。しかも、その狙いはレキだ。俺は咄嗟にレキと立ち位置を入れ換える。ヤバい、防御体勢が取れない。

 

 LOOが展開した巨大な3本爪の鉤爪をアーマーを付けた腕と比べては防御の薄い腹に喰らう。

 

 もしここで殴り飛ばされてしまえば、更に追撃で無防備なレキが危ない。そう判断した俺はどうにかレキを抱え踏ん張る。

 

「……ゴホッ……!」

「八幡さんっ!」

 

 結果として、少しばかり後退した俺は衝撃は逃がし切れず全部のダメージを受けてしまう。かなりの力に口から吐血する。

 

 あー、口の中で血の味がする。気持ち悪い……。つーか、めっちゃ痛い……あのコートでも吸収できないってどんだけ強いんだよ。クッソが、かなりのダメージ負ってしまったわ。それも……。

 

「多分肋骨かどっかヒビ入ったか折れたけど、今は大丈夫」

 

 ただ、今この瞬間は平気……とは違うかもしれないが、まだ動ける。あと骨折は経験しているからね。

 

 ヘルファイアを迎撃してからアドレナリンがドバドバで見た目以上の痛みはない。まぁ、もしアドレナリンが切れたらあまりの痛みでのたうち回るけどな! とりあえず痛み止めを打つ前に。

 

「――――動くな」

 

 かつてセーラが俺に使ったように烈風でLOOを抑え付ける。

 

 ……うん、一先ずギシギシと動こうとしているLOOの足止めには成功している。人間より軽いし抑え付けやすいまである。ただ、これ痛み止め打とうとすれば烈風が途切れてしまうな。

 

「悪い、ちょっと打ってくれ」

「分かりました」

 

 レキに注射してもらうことにしました。字面がえっち。

 

 と、痛み止めで少しはマシになった。頭も少しは澄んでクリアになった。逆に痛みのお陰で不思議と心は落ち着き冷静になれている。

 

「…………」

 

 この状態で影を使えれば勝てるが、そうはいかないのが現実。なぜなら、もう影を使う力は残っていないからだ。

 

 何と表現すればいいのか、俺が使える超能力と色金の超々能力を使うMPとでも言えばいいのか。まぁ、単位で表すなら超能力はGなんだが……これは別物に近い。

 

 これは完全に俺の感覚だが、それぞれ別物2本のゲージが存在するのだ。烈風を使えるゲージはかなり長いが、超々能力のゲージは烈風と比べるとかなり短い。だから、レーザーはすぐキャパオーバーするし、瞬間移動でも使いすぎると限界が早く来てしまう。香港ではそれで気絶したからな。

 

 先ほどの影で超々能力のゲージはもう使い果たした。だから、今はもう使えないのだ。ただ、烈風はまた別だ。あれだけ防御に使ってもまだまだ使える。

 

「さてと、決着を付けるか」

 

 キノコ頭に向けてそう口では言うが、ファイブセブンも鎌鼬も効果は表れなかったのは事実だ。しかし、烈風で抑え付けはできているし、最初の軌道をズラすのも成功している。烈風での攻撃は効果があるにはある。

 

 であれば、やり方を変えるだけだ。

 

 

 ――――俺の新技の最大火力を魅せてやる。

 

 

 そう決心した俺はまた新たに集中力を練り始める。

 

 

 ――――烈風で扱ってきた風の操作。

 

 ――――飛翔で用いた風の暴発。

 

 ――――鎌鼬で使う圧縮させた風の斬撃。

 

 

 人差し指と中指で銃の形を作る。

 

 今から行うのは今まで俺がしてきたことの集大成。烈風、飛翔、鎌鼬、今まで使ってきたこれらの技術を全て応用させた1つの技。

 

 指の先に風を圧縮させる。ひたすら、ひたすら、ひたすら、圧縮させる先を1つに収縮させる。

 

 風の操れる範囲はセーラに及ばない。それは紛れもない事実だ。しかし、そんな俺でも威力だけで言えばセーラに劣るが、それに近い威力は出せる。台風やハリケーンの中でも高レベルの風は生み出せる。

 

 つまり、俺の指先に集まっている風は台風やハリケーンそのものだ。災害、天災の1つだ。どれだけ一個体として強かろうとも、軍事力そのものが相手でも天災には敵わない。これはそういう代物だ。

 

 この技は一点に固めた天災そのものを解放する風の弾丸。

 

 

 

「――――災禍」

 

 

 

 放つ瞬間、烈風での拘束を解除する。次の瞬間――――風の弾丸を腹部へと命中し、メキメキッという音を立ててLOOは大きく吹っ飛ぶ。恐らく50mは吹っ飛び転がる。

 

 その硬い装甲は腹部を中心に広く深くヒビ割れている。ヒビ割れた部分からは煙を上げ、明らか大ダメージなのが分かる。

 

「…………」

 

 ……一先ず成功して良かったと安堵する気持ちが大きい。

 

 この技は確かに強力だが、撃つまでに時間がかかる。なんで、相手が動かない間に溜めるしかないし、おまけに反撃されたらそれだけで集中切れるし、うっかり解除してしまったら暴発することになる。それに射程距離も5mと短いしね。

 

 そして、これを使えば烈風のMPの大部分を使うこととなる。連発はできない、文字通りこちらの切り札だ。相変わらずピーキーな性能しているな。使いにくいことこの上ない。

 

「……って」

 

 まだ大破していないLOOは両手両足の鉤爪で自身を固定させる と、背中にランドセルのように装着していた装備が展開させる。それはまるで1つのデカい大砲。ゲームみたいに名付けるならキャノンモードってところか。

 

 コイツ、あそこまで壊れていてもまだ動けるのか。なんて丈夫な奴なんだ。しかし、それも限界に近いはずだ。割れた装甲は徐々に燃え始めている。

 

 ――――これがLOOの最後の一撃だ。

 

 その砲身の中身からバチバチッと電流が走る様子が肉眼でも確認できる。これは今までの兵器とは違う。ジーサードやかなめが扱う超最先端科学の兵器だろう。パッと見の印象はレールガンや陽電子砲のようだ。

 

「…………はぁ」

 

 どうやらそれを俺らに撃ち込むつもりらしい。とはいえ、もう俺にあれを防ぐ力は残っていない。影も出せない、烈風で防ぐのは厳しいだろうし、そもそも防げるほどの風力はもう出せない。俺ではあれはもうどうにもできない。

 

 

 

 だからこそ、俺の出番はここまでだ。そんな大技を放つためのあまりにも大きすぎる隙を――――蕾の姫は見逃さない。

 

 

 

 タァン、タァン……! という銃声が俺の側で聞こえる。そう感じた瞬間にはLOOの砲身がとてつもない音を奏で、爆発する。ドラグノフの弾丸が砲口に入り、着弾すると銃弾そのものが連鎖的に爆発し、その結果砲身も爆発した。

 

 あの爆破の仕方は、武偵弾の炸裂弾だ。最後の最後でレキも魅せてくれたな。普通の銃弾ではあそこまで破壊できるか怪しいと判断したのか、即座に切り替えたみたいだ。

 

 砲身が爆発しだが、それを支えていたまだLOOは原型は留めている。しかし、爆発に耐えきれなかったのか、もう限界なのかうつ伏せの状態で倒れ、もう起き上がる気配はない。

 

 つまり、これは……。

 

「どうにか勝ったな」

「はい。追加で何かしらの戦力をここに持ってくることもないでしょう」

「まぁ、そろそろあっちも到着するだろうし、戦力割くにしてもあっちだわな」

「お疲れ様でした」

 

 LOOの撃破、向こうの追撃もだいぶ削った。充分な戦果だろう。

 

 ……あれ、ヤバい。終わったと思ったらいきなり力が抜けてきた……。と、不意に体に力が入らなくて倒れかけるとレキが肩を貸してくれた。

 

「大丈夫ですか?」

「って言いたいけど、そろそろキツくなってきた……」

 

 アドレナリンが切れてきたなこれ。痛みも相まって立つのがマジでキツい。

 

 レキは俺の様子を見ると砂漠に腰かけ、そのまま俺を寝転ばせてくれる。流れに逆らえず倒れた俺の頭には柔らかい弾力と暖かさが感じ取れる。

 

 ……どうやら成すがまま膝枕をしてくれているみたいだ。気持ちいいと思う感情と恥ずかしい感情がせめぎ合う。

 

「それ、辛いだろ。別にこのまま砂漠で寝転んでもいいぞ」

「いえ、それはできません。また八幡さんに何度も助けてもらいました。これはせめてもののお礼です」

「……お互い様だ。俺だってレキに何度も助けられた」

 

 真正面からの謝辞に思わず視線を逸らすと、レキは両手で俺の頭を掴み、グイッと視線を固定させる。あ、あの地味に勢い強くて痛いんですけど……。

 

「それでも、です。本当に助かりました。ありがとうございます」

 

 しかし、その綺麗な紅い瞳が俺を離さない。真っ直ぐ俺を見て、レキは感謝を述べる。

 

「さすが、八幡さんです。カッコ良かったですよ」

 

 そのふと自然に浮かべた微笑みが、決して脳裏に焼き付いて離れない。

 

「だから、これはそのお礼です」

 

 

 

 

 

 ――――それだけ話したレキはゆっくりと顔を下ろし、俺との距離はゼロになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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後始末はお早めに

「……よう、お前大丈夫か?」

「いや全然? 歩くの辛いんだが? こちとら骨にヒビ入ってんだぞ」

 

 

 あれからどうやらジーサードの指示のお陰で、アメリカ空軍が砂漠のど真ん中で寝転んでいる俺らを迎えに来てくれた。よく見付けてくれたなって思ったけど、線路に近い位置で戦ったから、まだ分かりやすかったかな?

 

 迎えを寄越してくれたのも、無事にジーサード一行が目的地に着いたらしく俺らの迎えに手を回せたらしい。どうにか任務は遂行できたと胸を撫で下ろし安堵する。

 

 迎えの軍用ヘリでレキが通訳で間に入りつつ軍の人は俺に応急手当てをしてくれた。俺の反応的に肋骨は折れてはないみたいだが、ヒビは入っているだろうと。と言っても、これはあくまで俺の反応できちんとした場所で検査したら結果は違うかもしれないとのことらしい。

 

 まぁ、こんくらいは必要経費か。

 

「悪いな」

「このくらいでしたら全然平気です。むしろ助けてもらいましたから」

「それはお互い様だろ」

 

 ――――と、それはそれとして、痛みやらで歩くのキツいので車イスを貸してもらってレキに押してもらいながらジーサードと合流したところです。ちょっとこの状態は恥ずかしいです。

 

 

 話は戻って。

 

「比企谷、無事だったか!」

「お前もな、遠山」

 

 ジーサードの後ろから遠山やかなめがワラワラ現れてくる。何やら全員俺らに文句を言いたげな不満そうな表情を向けている。え、なに、そんな俺ら信用ないか?

 

 あとそんな大勢で急に来られると普通に驚いてしまう。

 

「もう、比企谷さん。いきなりのあれは心臓に悪いよ。いや助かったからこっちが文句言うことじゃないんだけどさー」

 

 かなめの怒ったような困ったような表情である程度察する。

 

「あぁそういう……あれが最適解だったから別にいいだろ。俺らがどうのよりお前らも普通に大変だったろ。まぁ、お互い様ってことで。お疲れさん」

「どうもー。私らはまだトランザムに乗ってたり武装もまだ豊富だったりで大丈夫だったよ。でも、比企谷さんは生身なんだよ? そりゃ心配にもなるよー……」

「言っておくが、俺たちは生身でも普通に強いぞ。と、少し調子に乗って自画自賛してみる」

 

 まぁ、結果としてはわりとボロボロなんだけどね? 遠山たちは軽傷はあれどみんな普通にピンピンしているな……なんだコイツら、頭おかしいんじゃないか? 

 

「比企谷さんが強いのは知っているけどさ。一応言っておくと、マッシュと戦うのは生身が強いとかそんな次元じゃないと思うんだけどなぁ……」

 

 アハハ、と少し引きつった笑みを浮かべるかなめ。それを言われてみればたしかにと思ってしまう部分もある。今回はどうにかなったが、あれと戦うとはつまり軍と戦うのと同義だ。……よく俺ら無事だったな。

 

 ていうか、シャトルに追いかけられて外傷程度で済むお前らもそれはそれで引くわ……。どうやらシャトルは遠山がパンチで粉々にしたらしいし……嘘だろ、お前ら人間か?

 

 頭おかしくない?

 

「で、お前らにどんだけマッシュは戦力割いたんだ?」

 

 ジーサードはそこで割って入ってくる。こっちはこっちで心配そうというか、どちらかと言うと興味本位が勝っているような表情だ。若干なりと目をキラキラと輝かせている。え、子供?

 

 俺は俺で少し上を向いて頭を捻らす。つい数10分前のことだが、順番ずつ思い出して口を開く。

 

「えーっと、まずLOO本体だろ。で、LOOの武装にM134が2丁、MK-47ストライカーも2丁。ストライカーの方はレキが始末して撃たれてないけど。……そうそう、あとなんかレールガン? みたいなのもあったな。あれはレキが防いで不発だから実際どんな威力だったのかは知らない。そんでプレデターがこっちに10機、プレデターにあったのはマシンガンとヘルファイアが20発か。ヘルファイアに関してはあれだ、全部撃たれたわ。マジで死ぬかと思ったな……しんどかった……」

 

 多分死んでいる目でゲンナリしつつもそうやって戦ったときのことを羅列していると…………。

 

「おい、なんだお前ら。その顔失礼だろ」

 

 見事なまでに全員顔が引いている。引いているどころかコイツら全員ドン引きしているぞ。俺らを見る目が人として向けられていいものではない。

 

「いやだってねぇ……?」

「さすがの俺も引くわ。なんでお前ら生きてんだ?」

 

 かなめは視線を逸らして、ジーサードは真顔でそう訊ねてくる。コイツの真顔とか珍しい気がする。

 

「銃弾に関しては烈風で逸らすことはできるし、ミサイルは色金の力でどうにかできた。LOOも超能力で破壊寸前まで持ってけたし。つっても、それでこの様だぞ。歩くの辛い……」

「さらっと言うが、マジでお前らとんでもねぇな……。イレギュラーの名前に偽りなしか」

 

 目を閉じつつ頷きながらもそう感慨深く呟くジーサード。「本気で戦いたくなってきたな」という言葉にはスルーしつつも話を続ける。

 

「つーか、マッシュも人2人殺すのにヘルファイア20発は過剰戦力だろ。んなの普通に戦争や紛争レベルだぞ……。やまぁ、実際、それで死んでないお前らの方が遥かにおかしいがな。悪い、依頼しておいてなんだが、俺アイツに同情するわ」

「おい」

 

 自分でもそういう自覚は少しあるが、お前らもお前らで大概だと思う。

 

 俺にパンチで戦闘機を粉々になんてできないからな?

 

 精々、影を使って呑み込むことしかできないぞ。しかもそれ自体、俺が使っているというだけで、色金の力だ。俺自身の力ではない。

 

「どうせ衛星で映像記録してんだからあとで見ろ。……あーあ、仕方ないけどがっつり記録される範囲で色金の力使っちまった……」

 

 あれは使わないと生き残れないのでそこに後悔はないが、あまり世に広めたくなかったというのはある。そういや、香港では瞬間移動使ったし今さらなところはあるか。

 

 それでも、隠せる部分は隠したいし残念と言わざるを得ない。

 

「そうだな。じゃあ、あれだ、あとで鑑賞会しようぜ。あのイレギュラーがどうやら力をフルに使って戦ったらしいし、少しくらいイレギュラーの全容が分かるかもだぜ。映画並のスクリーン使うか?」

「お、いいね。絶対面白いよ。お兄ちゃんも見る?」

「せっかくだし良いかもな。ぶっちゃけ俺も比企谷の戦闘をがっつり見たことないし、色金の力もかなり使ったみたいだしな。けっこう気になる。上からのアングルしかないのが残念だ。どうせならハリウッド並のカメラワークで見たい」

「お前ら止めろ!」

 

 生まれてこの方褒められ慣れてなく顔が赤くなっているのを自覚しながら本気でやりかねないコイツらに対してツッコミを入れる。いやこれは果たして褒められていると言えるのだろうか、ボブは訝しんだ。

 

 そういえば遠山はアクション洋画好きだったなと記憶を探る。あと別にハリウッドほどのアクションなんてしてないし、何ならそこまで動いてないんだよなぁ。

 

 ……ふむ、何とも引きこもりらしい戦い方だ。動かず勝つ、どこかしらカッコいい響きに憧れるが、それはただただ固定砲台のようなものだと思うし、その真骨頂とも言えるべき存在は確かにいる。今車イスを押してくれている狙撃手なんですよ。

 

 随分と締まらないな……。

 

「でだ、今からどうすんだ? とりあえずジーサードの勝ちなのは分かったが、色金の場所へは行けるのか?」

「それならマッシュが案内してくれる。今はその手続き待ちだ」

 

 遠山の回答に少し目を丸くする。予想外の返答に脳の処理が一瞬追い付かなかった。

 

 あれ、マッシュ? なぜ今この名前が?

 

「えーっと、いきなりのことで全然分かっていないので、1つずつ疑問をぶつけるが……まずマッシュがここにいるのか?」

「あぁ。アイツは元々エリア51で俺らを相手にしていた。さすがにニューヨークからここまでだと、LOOやら操れないしな。距離がありすぎるし」

「ん、たしかに。それもそうか。で、マッシュはなぜ俺らに協力してくれる? さっきまで敵対関係だっただろ。少ししか話してなく偏見ありだが、性格からして簡単に敗けを認めなさそうな奴だぞ。あの手合は」

「まぁ、俺らがここに来れたことで、アイツの権限やらがほとんど失ってな。罪状はよく知らないが、危うく逮捕ってところでジーサードが助けたんだよ。仲間にするって」

「んだそりゃ」

 

 お人好しか。どうして殺そうとしてきた奴を仲間に……とはいえ、ヒルダや猛妹も一度は俺の味方になったことあるし、ダメだ、今の俺では到底人のこと言えないことに気付いた。

 

「それで、仲間になったマッシュが瑠瑠まで案内してくれると?」

「時系列で言えば、そういうことになる。まぁ、手続きとかが終わるまで休んどいてくれ。レキもお疲れ様」

「そうさせてもらうわ」

「はい、ありがとうございます。キンジさんもお疲れ様でした」

 

 と、遠山からの説明も終了し、マッシュの手続きが完了するまでしばしの休憩時間に入った。

 

 レキから予備のMAXコーヒーをもらいチビチビ飲みながらその時間を過ごす。

 

 非常に甘い……脳に染み渡る。さすが原材料名で真っ先に加糖練乳が記載されているコーヒー。普通、そこに含まれている成分や材料やらが記載されるからね。

 

 ……さて、この感じだと超能力が使えるのは補給しても多分明日になるかなぁ。さすがに今日は使いすぎた。

 

「ところで今さらな話、レキはケガとかないか?」

「はい、平気です。あったとしても八幡さんよりかは遥かに軽傷です」

「だな」

 

 こちとら骨にヒビ入って車イス押してもらっているわけだしね。

 

「にしても、今回の戦闘はマジでしんどかったわ」

「そうですか? 八幡さんは今までかなりの強敵と戦ってきましたよね。今回は規模も質も違うとは思いますが」

「何だかんだ超能力者関係との戦闘が多かったからなぁ。あぁいう手合は早期決着を心がけると勝機が見えたりするんだが……」

「純粋な科学が相手だとそうはいかないと」

「そういうことだ。物量も全然違うし。ただ、その点でいうとある意味、そういう相手ということもあって……こっちの超能力が向こうには未知な部分があるから、攻めやすさは少しはあったかな」

 

 少しはな。逆にこっちの科学兵器が通じないのは勘弁して……。

 

「……?」

 

 そう話しつつもチラッと横を見ると、ジーサードたちが何やらタブレット端末を見て騒いでいる。映画を鑑賞しているノリだが……。うるせぇ。

 

 と、レキが俺の視線に気付いたのか。

 

「なるほど。どうやら先ほどの私たちと戦闘の映像をアメリカから購入したらしいです」

「即決かよ。早すぎるわ」

「ちょうど八幡さんがM134を防いだ場面です」

「さよかい」

「ジーサードさんとかなめさん以外の人たちが八幡さんを人外のような視線で見ています」

「へー」

「今度はヘルファイアを防いだ場面です。キンジさん含め、まるで化物のような視線を送ってきています」

「ほーん」

「少し苛ついたので撃っていいですか?」

「お好きにどうぞ」

「では――――武偵弾を使いますか」

「金をドブに捨てるとはまさにこのことか」

 

 もうなるようになーれ。寝よ。

 

 

 

 

 

 

「――――はぁ。何だい、この体たらくは。まったく。ポップコーンでもいるかい?」

 

 というマッシュの一言でしばらく続いた喧騒も落ち着いた。あれから15分ほどサリフの激闘の鑑賞会は続いていたみたいだ。どうして繰り返しで見るんだ。

 

 この光景のせいで頭を抱えたマッシュはまだ会話をしていないこちらへ近付く。ジーサードたちはすぐに動けるように片付けしてるし。

 

「よう、マッシュ。さっきぶり……でいいのか? 戦っていたとはいえ、互いに距離は離れていたわけだし、なんか変な感覚だな」

「そうだね、さっきぶりだ。はぁ……君がここにいることを疑いたくなるよ……」

「世の中、不思議なことはあるもんだぞ。ホント、困ったもんだな。うんうん」

「間違いなくその筆頭が何を言っているのやら……」

 

 なんて軽口を叩き合えるのなら、先ほどの遺恨は水に流そうといったところか。お互いに。

 

「それで、瑠瑠の場所へ案内してもらえるって?」

「そこに関しては問題ない。責任を持って瑠瑠色金の元へ連れていこう。――――もっとも、僕も君たちと同様、実際に見たことはない。一応は初めて行く場所ということになる」

 

 それだけ俺に告げてから再度ジーサードたちに呼びかけ集合をかけた。

 

「――――」

「八幡さん?」

「何でもない。付いていくか」

「はい」

 

 意外だな。かなりの権限を持っているマッシュはまだ行ったことないとは。行きたくなかったのか行く理由がなかったのかは分からないが、なるほど。そのような空間へ踏み込むとなると、俄然興味が湧いてきたと同時に少し恐ろしくもある。

 

 未知というのは心惹かれる部分もある。未知を既知にしたいとでも言うべきか。しかし、それ以上にやはり未知だからこそ、どうしようもない恐怖を感じてしまうな。これは多分様々な経験を積んでも慣れない感覚だ。

 

 

 ――――そして、マッシュの案内の元、俺たちはひたすら地下へと下る。

 

 途中、マッシュしか開けない何層もの隔壁が開いていく様はSFっぽさがある。

 

「おおっ」

 

 目の前の科学が詰まった現象に思わず感嘆の声を上げる。

 

 分厚い鉄の扉が何枚も……たしかにこれは開閉の権限のあるマッシュしか開けれないわけだ。最悪、俺の影を使えば通れるかもしれないが、それを差し引いても分厚すぎる。

 

 本来、色金を隠すならそれくらいしないといけないということが如実に伝わってくる。どれだけ珍しいというか価値のある物質なのだろうか。身近にあるからこそ、不思議だ。

 

 ……湖に沈んでいる漓漓本体はどうなるんだって話になるな。いや、あんなのが色金とは思わないから、ある意味秘匿性があると言えばあるのか……?

 

「これより先が地下5階のF隔壁。僕も初めてだからね。詳細な案内は期待しないでくれ」

 

 随分と緊張めいた面持ちなマッシュのあとへ続く。

 

「厳重だなぁ」

「そらそうだろうが。価値を考えればこれが最低限ってところだろ」

 

 俺の呑気な呟きにジーサードが反応する。

 

 そうして辿り着いた地下7階の大広間――――

 

「なっ……」

 

 遠山たちの驚愕した声が聞こえる。

 

 それもそのはず。

 

 

 目の前に広がった光景は――――黒塗りのクラシックカーの一群だったのだ。

 

 

「……マジか」

 

 たしかにこれは驚く。20台ほどの世界最初期辺りに製造された実に古めかしい車があるだけだ。

 

 あまりにも予想外すぎるこの光景は……どこか素晴らしいとさえ思えるほどだ。いや、これはマジでスゴいな……。

 

「瑠瑠色金はどこだ……?」

「やられだぜ、マッシュ……。瑠瑠色金は誰かが……もうどこかへ避難させてやがったんだ……!」

 

 と、遠山とジーサードは目前の風景に何やら焦っているようだが――――

 

「お前ら何言っているんだ?」

 

 俺は俺でその言葉についての意味が分からず、つい俺はそう口を出してしまう。

 

「比企谷、どういう意味だ……?」

「意味も何も――――」

 

 どうして分からないんだ? 瑠瑠色金の行く先が――――と真っ先に疑問に感じるが……。

 

「なるほど」

 

 と、それもそうかと納得できる部分がある。

 

 遠山たちは色金本体を見たことないんだ。見たことのある俺には分かる。というわけで説明する。

 

「この車の金属部分――――全部が色金だ。俺のネックレスもそうだけど、まさかここまで加工できるとはな」

 

 不思議と確信がある。これがそうだと俺の信用ならない直感が告げている。

 

 色金は名前の示す通りそれぞれ色違いだが、それは加工したときの話だ。多分、かなり研磨しないと色に違いは出ないはず。あと能力を使うときに使用者の周りに浮かぶ色かな?

 

 そして、色金本体の色はただの岩――――この車の色と似ている。まぁ、これは随分前に塗装してそれがわりと剥がれている部分が多かったからこそ分かったのだが。

 

「なっ……!?」

「はぁ――――!?」

 

 俺の意見を後押ししたのはジーサードの仲間で超能力者のロカという女性とツクモだった。超能力の観点からもそうだと分かったらしい。

 

「とはいえ……かなりの量だな。マッシュ、これどうやって持って帰れば……あぁ、別に俺はいらないが」

 

 とマッシュに向き直ろうとした瞬間――――

 

 

「――――……ッ!?」

 

 

 不意に俺の意識が飛びそうになる。違う。俺の意識はそのままだ。その上で俺の意思とは別に口が動き、俺の声ではない女性の声が聞こえる。

 

『――――ルル、そこにいるのですね』

 

 周りの驚愕している声が聞こえる。まるで女装している姿を見られたようだ。くっ、こんな辱しめを受けるなんて……いやこれホント恥ずかしいんだけど。ごめんね?

 

 と、俺……ではなく漓漓の声と同時に上空がうっすらと蒼く光り、裸体の女性が浮上する。霊体とでも表現するべきか。多分触れようとしても触れることは叶わない。

 

 というより、勝手に出て来て勝手に俺の体を使わないでほしいんだが……。とてつもなく変な感覚だぞ。この空気の読めなさはさすがレキと共通するところがある。

 

『お許しください……。あなた方の愛する姿をお借りしたことを。私たちには定まった姿というものがございませんから……』

 

 蒼く光っている女性が語りかける。この瑠瑠の姿が誰なのかは分からないが、恐らくジーサードたちの関係者なのだろう。

 

 そして、また勝手に口が動く。

 

『ルル。私はこの者と漓巫女を通じて物語のあらましを見てきました。もう……止めましょう。ヒヒを……』

『私は……争うときを、殺めるときを、止めるときを恐れていました。たった3つしかない私たちが、また孤独に近付くときを。ですが、もうリリの言う通りなのでしょう』

 

 コイツら何言ってんだ……。

 

 いやまぁ、何となく言いたいことの予想は付くが……。だいぶ前に漓漓から言われたからな。要するに緋緋をどうにかすればいいんだろう。もうちょい分かりやすく直接的な表現をしてほしいものだ。

 

 一拍起き、祈りを済ませたかのように見える瑠瑠は口を再度開く。

 

『どうか止めてください。ヒヒを――――緋緋色金を。私たちの姉を』

 

 まぁ、そういうことになるよな。というか緋緋が姉なんだな。今さら知った。過去に教えてもらったことがあったかもしれないが、ぶっちゃけ覚えていない。

 

 とはいえ、ここまでは大方予想通りといえば予想通りだ。しかし、俺が知りたいのはこの先だ。俺は前に助けてと言われた。だからこそ俺は武偵として、命の恩人として神崎と緋緋を助けなければならない。

 

 そのための方法が知りたい。

 

 

 

「――――」

 

 それから行われた瑠瑠の説明や遠山の質問は色金や緋緋の止め方について。俺の意識は漓漓に乗っ取られたまま。体返して?

 

 そして、話をまとめる。まず色金とは意志を持つ金属。

 

 かなりざっくり言うと色金は霊体が取り憑いた金属だ。あり得ない話だけど、俺が何か物体――――例えば携帯を通じてそこから感じる現象を理解できる、といったところだろう。

 

 それが分割されると、当然憑いていた霊体も分割される。どんな質量だろうと意識の大きさは変わらない。これが『一にして全、全にして一』という意味らしい。だから俺の首にもある漓漓色金も本体と変わらない漓漓の人格が宿っている。

 

 それから色金の在り方。漓漓と瑠瑠の2人は今あるモノを変えたくない。永遠に眠り続けることを望んでいると。つまりは不変だ。

 

 しかし、緋緋は姉とはかなり違う在り方を望んでいる。

  

 緋緋は数千年前に情熱という人間の感情を好んでしまった。それからの緋緋は恋と戦いの感情を昂りに共感することに夢中になった。結果として、過去の大きな戦争へ積極的に関わることになってしまったと。

 

 そして――――

 

『段階的にですが、殺すということです。私は今、姉を殺す決意をしたのです』

 

 瑠瑠がした決断。それは緋緋を止める。しかし、その行為は殺すと同意と瑠瑠は告白した。

 

「ダメだ、殺さない。家族殺しの片棒は担がないぞ」

 

 と、遠山は即座にその結論を否定する。これに関しては俺も同意見だ。家族を失った(生きている)遠山は当然として、家族を殺しかけた俺も良い気持ちはしない。誰だって進んで好きな家族を殺したい奴なんていないはずだ。

 

 それから、遠山が出した代案は武偵なら当然と言うべきか。

 

「逮捕する」

 

 とのことだ。方法は不明だが、生粋の武偵なら遠山はこう言うに決まっている。

 

 ジーサードの仲間たち全員がわりと絶句している途中、空気を崩さないように、それとも瑠瑠の気が変わらないうちに瑠瑠がいる部品を持ち出し、遠山はジーサードたちと共に去っていった。

 

 

 

「……はぁ、やっと解放された」

 

 ふと体の自由が戻り、突如訪れた息苦しさが終わったので一息つく。

 

「大丈夫ですか?」

「肉体的には何にもないから平気だ。変わらず、ヒビあるところは痛いが」

 

 なにせ、地下に行くにあたって普通に今車イスから降りて立っているからな。立っているだけで徐々にダメージを受けている。どうせなら、乗っ取るついでに漓漓が俺のケガを治してくれたらいいのに。

 

 なぜ俺たちがまだここにいるのかというと、レキが事前に10分だけマッシュにここの滞在の許可を取ってくれたからだ。まぁ、俺たちがマッシュに勝てたご褒美というか、追加報酬のようなもんだ。

 

 というわけで、遠山が去ってから漓漓の介入がなくなった俺は改めて瑠瑠と向き合う。

 

「えーっと……俺も俺で瑠瑠に聞きたいことがある」

 

 まだ霊体の姿になっている瑠瑠に俺は話しかける。

 

『はい、私もあなたとは直に会話してみたいと思っていました。リリの力を扱える者。私がいるロザリオを通じてあなたを視ていました』

 

 ロザリオ……たしか理子が持っていたな。あれ? てことは理子も超々能力者なのか? 普段理子は超能力使わないから分からないが。まぁいいや。

 

「俺は何度か漓漓に呼ばれ話したことがある。……あれを会話と呼んでいいかは別として。それでだ、俺は漓漓からは助けを求められた。その内容は多分、緋緋に関してだろう。さっきお前らは緋緋を殺す決意をしたが、別に何も殺したいわけじゃないだろう?」

 

 改めて訊き直す。瑠瑠は気まずそうに目を細めつつ視線を逸らす。

 

『…………えぇ。それはもちろん。なにせ、これでも姉妹ですから。ですが、妹の不始末は姉が責任を持つものです。今までは私たちはヒヒに関与できませんでしたが、今は私たちを扱える方々がいます。であれば、殺します』

「俺が聞きたいのはそこだ。漓漓は助けてと言った。つまり、殺さずどうにかする方法があるはずだ。でなければ最初から殺してって漓漓なら言うはずだ」

 

 俺がどこか引っ掛かっていた部分はそこだ。

 

 実際、助けてではなく守ってとかつてカジノでは言われたから仔細は異なるが、ほぼ同意だろう。というより、守ってと言うなら、それこそ殺す以外の選択肢があるはずだ。そこに矛盾というか――――どうも不明瞭だったのだ。

 

 瑠瑠の言う内容と漓漓の依頼は。

 

「実際、方法はあるのか? 神崎を殺さず、緋緋も殺さない方法は」

 

 かなりムチャな要求なのは当然理解している。しかし、そこだけは誤解にならないうちにハッキリとさせておきたい。

 

『……今の私には思い付きません。逆にあなたの考えを教えてください』

 

 もしあったとしたら、遠山たちの前で話しているだろうから、ここまでは予定調和だ。改めて訊いただけだ。

 

 俺も俺で考えを述べる。

 

「と言ってもな……。まず考えたのが、神崎から色金を物理的に除去する。残念だがこれはムリ。体の奥深くに埋まっているらしいし、取り除いたら神崎が死ぬからな。次……一方的に色金の力を使えるようにして乗っ取りを防ぐための殻金はもう効力を失っているらしいからこれもムリ。あと数が足りないらしいし。…………俺が取り返した分では足りなかったらしい。次、どうにか交渉して俺みたいに色金の力を使わせてもらう。これは乗っ取りに関して何も解決してない。だから、これもダメだ」

 

 色々と思案してきた内容を独り言のように口に出していく。

 

「お前らがどうにかして緋緋の力を失わせようとすると緋緋が死ぬからこれもダメだ。緋緋の本体を探して粉々にしても力は弱まらないし特性から言って意味がない。次……仮に神崎を閉じ込めて緋緋の意欲を失くそうとしても、どうせ反省しないし問題を先送りするだけなので、これもナシ。緋緋の説得もぶっちゃけ効果がなさそうだ。説得でどうにかなるなら、そもそも戦争を起こそうとはしないだろう。そうなると、外的要因ではどうにもできない気がする。つまり、残りは内的要因――――神崎自身がどうにかするって話しかなくなるわけだ」

『……というと?』

「俺には全くできなかったが、色金に体を乗っ取られた際乗っ取り返す……っていうのか? 押し返す感じに近いか? 要するに、神崎アリアの体の所有権の争いに勝つ」

 

 一番無難な考えはこれだよなと口に出しながら考える。

 

 さっきのこと含めて俺は何度か体の所有権を漓漓に奪われている。それで命は助かったこともあり、文句を言える立場ではないが――――奪われるということは奪うこともできると示唆しているのでないだろうかとも思う。

 

「――――」

 

 と口では言うものの、精神的な話になるので俺には到底手段も方法も分からない。

 

『それは……かなり厳しいでしょう。ヒヒが活動していないときは大丈夫でしょうが、奪うとなればヒヒが目覚めているときを狙うということ――――力を貸し与えたならともかく、過去、そのようなことができた人物に心当たりはありません』

「だよな。ただ、奪うまでと行かなくても、対等な力関係を築ければ……いや、それが可能ならそもそも論として体を奪われていないか」

 

 水掛け論に頭が痛くなってくる。

 

 ここまで来て収穫なしは悲しい。俺は瑠瑠と会話できてある意味満足だが、そもそもの目的は神崎を助ける手段を模索すること、そして解答があるならそれを聞くことだ。

 

「なら神崎の体そのものを奪いやすくする? それこそ外的要因で……神崎の体そのものに価値がないということが分かればあるいは?」

 

 それだと貧乳に価値がないと言っているように聞こえるな。これではまるで巨乳こそ正義! とでも言いたい発言だ。いや別に俺はそんなこと微塵と考えていないなぜなら貧乳はステータスだか――――ちょっと待って痛い痛い痛い。

 

「いっ……おいレキ。腹をつつくな。わりとマジで痛いから」

「なぜか今、無性にイラッとしたので。……しかし、それも難しいでしょう。どうやら緋緋色金とアリアさんの相性はかなり良いらしいです。性格を鑑みるに、緋緋色金が自らアリアさんを手放すことはないかと」

 

 かなり不機嫌なレキの意見に同意。高速肘打ちはキツいです。

 

『そうでしょうね。であれば、ここまで話は拗らせていないです。……しかし、あなたの考えを聞けて良かったと思います。ヒヒを殺すという方針は変わっていませんが、この会話は頭の片隅に置いておきます』

 

 一通り話は終えたらしく、張っていた肩肘に力が戻る。緊張していた反動か、堅苦しいため息が出る。

 

「……はぁ。解決策は見付からず、か。あとは遠山に任すか。俺も俺でもうちょい探ってみるよ。ありがとな、瑠瑠」

 

 ここまで来て、という気持ちは強いけど、それも仕方ない。完全な無駄足というわけでもないし、別にいいか。

 

『いえ、こちらこそこのような会話しかできず申し訳ありません。ところで、何かあったときのために私を持っていきますか? そこにある部品ひと欠片でも』

 

 そう問われ少し考える。

 

「いや、別にいいよ。一応、俺たちは漓漓を持っているし、そこに追加して瑠瑠までいたらなんかややこしいだろ」

 

 

 

 

 

 それから、最後にありがとうと瑠瑠は言い残し消えていった。直後、マッシュに時間が来たと忠告を受け地上へ戻る。

 

「比企谷は瑠瑠色金と何話したんだ?」

「ん。実のあることは何も。神崎と緋緋の救出方法について話していた。具体的な策はなかったけど」

「……そうか。ていうか、どうして俺らがいなくなってからにしたんだ?」

「いや俺、漓漓に体乗っ取られてたし、質問できてなかったから。それにまぁ、なんつーか、ジーサードたちはマトモに話せる状況じゃなかったろ。あんな超常現象に慣れていなさそうだし」

「それはそうだな。俺は色々と見慣れていたからな。比企谷は……」

「俺も俺で色金と話した経験……は、うん、あるからな。ていうか、そもそも今の俺は超々能力者の端くれなもんで」

 

 瑠瑠と話した内容は遠山には細かく話さなくてもいいだろう。結論として、明確な解決策は見付からなかったわけだ。今このような話をして余計に話を拗らせるわけにもいかない。

 

「なぁ比企谷。俺は次にイギリスへ行くことにした」

 

 不意に告げられる。その意味を少し考える。

 

「イギリス……。そっか、神崎がイギリスにいるんだっけか?」

「あぁ。アリアもアリアで色金について調べているはずだ。俺の目的はアリアというよりかは、アリアの妹だけど。レキはどうするんだ?」

「私はウルスへ戻ります。どうやら風が呼んでいるので、一度話してみようかと。八幡さんはどうされます……?」

「俺は日本だな。風……漓漓がレキを呼んでいるなら、俺もウルスへはまた行きたくはあるけど。まぁ、これでもケガしているから療養目的で」

 

 と、各々次への目的地について語る。

 

 レキはモンゴルに帰るのか。ていうか、俺は漓漓からアクション受けていないんだよな。なぜに?

 

「気を付けてな。ウルスのみんなによろしく」

「はい」

「遠山もな。気を付けて」

「おう。というか、この3人だと比企谷が一番重傷なんだから、比企谷こそゆっくり休んでくれ」

「……そうだね。そうする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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進めば幾つ?

 アメリカでの激闘からざっと5日が経過した。

 

 俺は遠山とレキと別れたあと帰国し、家に帰ったあと戸塚たちにきちんとした治療を受け、ひたすら自宅療養の名目で引きこもっていた。ちなみに『もう少し体は大事にしようね』とお小言を貰った。

 

 実のところ、本音を言えば星伽さんが傷を治せる超能力を使えるとのことで治療を頼みたかった。しかし、どうやらしばらく不在とのことで残念ながらそこは観念した。

 

 しかしまぁ、特に問題ないし別にいいかと納得はした。どうやら神崎の傷跡は治したらしいが、骨のヒビまで治せるかは不明だったし。

 

 とはいえ、ヒビがあるにしろそこまで酷くはなく軽度だったこともあり、5日である程度は動けるようになった。完治……とまではいかないだろうが、まぁほぼ治ったと言ってもいいだろう。元々そこまで酷くなかったのかもしれない。

 

「……何だろう」

 

 しかし、以前と比較してケガの治りが早くなっている気はするが。別にそのくらい気にしなくていいか。不都合ないし。

 

「とりあえずは……」

 

 鈍った体を叩き起こそうと休日の学校へ出向くとしよう。

 

 何だかんだでまだ絶賛冬の真っ最中だ。空も曇っており日が照っておらずなかなかに凍える。新しく新調した膝まで長さのある灰色の防弾用のコートを制服の上から羽織りのんびり歩く。

 

「――――」

 

 ふと何を思ったのか空を見上げる。

 

 雪が降りそうなくらい空の色は重苦しい。わざわざこういう日に出歩くのは億劫だと思う。晴れているなら寒かろうとまだやる気が出るのだが、天候も良くないとこちらのやる気もなかなかに湧かない。それどころか、嫌な予感さえしてくる。嫌どころか不吉な予感、かもしれない。

 

 そう思ってしまうくらい、冬の暗い空というのはどうも気が滅入ってしまう。

 

 

 

 そうして、学校へ着き校門をくぐる。

 

 誰か俺の個人的な訓練に付き合ってくれる人がいればありがたいと思いつつも、実際のところ俺には知り合いがいなさすぎるから1人でのんびりトレーニングでもするかといったところだ。

 

 わざわざ一色や留美に連絡するのもあれだし、予定も知らないわけだ。武偵ならわりと当たり前に行われる後輩をコキ使うという行為はあまり慣れない。これはもう元来の性格だな。正式に依頼するのならともかく、俺の個人的な用事に付き合わせるのは面倒だ。

 

 まぁ、もし体育館にでもいたら、ムリヤリでも少しくらいアイツらの時間を消費してやるか。

 

「……」

 

 なんで、あまり期待せずに硝煙香る体育館へと入る。

 

 そうか。最悪、蘭豹という手もあるにはあるな。休日の日に学校にいるかは分からないのは置いとくとして。しかしまぁ、リハビリから復帰した初戦にしてはハードル高いな。やっぱり蘭豹は止めだ。逆にまた療養生活に戻ってしまう。

 

 と、歩きながら考える。

 

「……お?」

 

 ……ん、中に入ったけど、なんだかやけに騒がしいな。いや、ここは基本的にいつも騒がしくはあるんだけど、それを差し引いても……。

 

「――――」

 

 なんていうか、外から確認した限り1ヶ所にギャラリーが集中している。

 

 ……これはなんか既視感あるな。たしかカナのときと雰囲気が似ている。あぁ、どうしてか頭が痛くなってくる。

 

 嫌な予感はしつつも、それでも、ミーハーではないが少しは気になるので野次馬精神よろしく確認だけしよう。……と、ギャラリーの外周にいるアイツは。

 

「……よう、不知火」

「比企谷君。こんにちは。久しぶりだね?」

「まぁ、ここ最近色々と用があってな」

 

 強襲科の同級生、相変わらずキラキラしたイケメンの不知火がいた。話す相手もいないので話しかけたけど、特に嫌そうな顔もせず答えてくれる。

 

「これ何の騒ぎ? こっからじゃ見えないんだけど」

「そうだね。今行われているのは何て言えばいいのか……道場破り?」

 

 今どき道場破りとは。今日日聞かない言葉だな。

 

「んだそりゃ」

 

 呆れながら聞き返してしまう。

 

「つい1時間前にね、1人の女の子がここに来たんだよ。武偵高校の制服を着てはいるけど、僕は見たことなかったね。そんな子が来たものだから珍しさで注目されてね。それで誰かが話しかけると、どうやら暇潰しに戦いたいから相手になってくれと」

「たしかに道場破りだな。賭ける看板は特になさそうだけども。あるとすれば己の評判とプライドか」

「まぁね。それでいきなり喧嘩をふっかけられたもので、血の気が多いこの人たちと戦っているというわけさ」

 

 まぁ、道場破りしてきた相手もあれだが、そんなホイホイと勝負を受けるこちら側も相当頭悪いと思う。

 

「それで徒手空拳での組み手だけど今のところ5戦ほどやって連戦連勝らしいよ。お相手さん、小柄だけどどうやらかなり強いみたいだ」

「ほーん。マジで腕に自信があるとは、誰だろうな。神奈川辺りから来た奴なんかね。それとも、教師たちの身内筋か?」

「さぁ? 僕もそこまでは分からないね。どうも遠目から見た感じ、日本の人ではなさそうだけど。それで今戦っている相手は……あ、比企谷君も知っている人だよね。火野さんだよ。でも、ここからだと見にくいね」

「火野、はいはいアイツね」

 

 頭悪いけど腕っぷしだけはあるここの生徒に勝ちを積み重ねれるとは、たしかにかなりスゴい。単純な素手の取っ組み合いなら俺でも負けるくらいのレベルがゴロゴロいるというのに。ぶっちゃけ、隣にいる不知火にも勝てるかどうか怪しいまである。

 

 俺は今まで多くの非常識な相手にそれなりにと勝ってきたわけだが、それは俺が向こうからしたら予想外や情報にない手段を使ってきたからこそ勝てたのであって――――そんなのが関係ない、単純な地力、純粋な力比べの真っ向勝負なら、俺は周りにいるコイツらと比べたら経験値が少ない。

 

例えばそれこそ筋力とか。柔軟性とか。

 

 ……あとは射撃技術か。ぶっちゃけ俺、射撃は上手くないしな。20mまでならそこそこ命中率はあるけど、それを越えると当たらなくなってくる。絶対半径はレキに圧倒的なほど劣る。

 

 とまぁ、そういう基礎的な部分から。

 

 ただ負けないことだけなら、元々の眼の良さも相まって得意だが、訓練で勝つとなると攻め手に欠けるというかやはり経験不足は否めない。

 

 別に本番では、ぶっちゃけ何でもありだから幾らでもやりようはあるけど。こっちには初見殺しの超能力もあるし。

 

 不知火も当然、訓練は真面目に参加しているが底は見せないように動いている。そういう奴はかなり強い。人の過去に興味はないが、かなり経験を積んできているのだなと分かる。敵には回したくないな。

 

「……」

 

 そして、今謎の乱入者と戦っているのは火野ライカ。神崎の弟子である間宮あかりの友だちの1人。俺とも多少は交流はある自称異性は苦手女子。

 

 女子で比較するとかなり長身で俺に近い身長の持ち主。身体能力もかなり高かった。たしかCQC――――軍隊や警察が扱う戦闘術が得意だったはず。

 

 たまに稽古をつけること……っていうか流れで戦うこともそれなりにある。

 

「そういや……」

 

 火野で思い出した。アメリカでは火野の親父さんと会話したな。

 

 本人にそのことを伝えるか少し迷ったが、わざわざ先輩から後輩に父親のことを伝えるのも、いきなり家庭のことを話題に出されたら迷惑だろう。例えば、いきなり材木座が小町の話題を興奮気味に始めたらそのふくよかな腹を目一杯殴る自信しかないまである。

 

「それで、対戦相手は?」

「比企谷君、こっちからなら見えるよ」

 

 と、不知火に案内され人混みがまだ少ない場所へ移動する。

 

 ここからならわりと見えるな。おっと、珍しい。火野が圧されている。というより、受けに回っており得意のCQCを発揮できていない。防戦一方だ。相手は火野と比べかなり小柄みたいだが、体格差があるのにここまで圧すとは……。

 

「やっぱり僕には見覚えないね。あの動きは……何だろう、功夫に近いのかな」

 

 どれどれ、俺も対戦相手をじっくり確認するか。えーっと……。

 

 ……………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 げっ。

 

「悪い不知火。俺帰るわ」

「えっ」

 

 不知火の驚愕した声をよそにそそくさとその場を立ち去る。

 

 道場破りが誰なのかは分かった。どうやらまことに不本意ながら件の人物は俺と知り合いだった。しかし、その人物と会うと話がねじれの位置ほど拗れることは容易に理解できる。

 

 ねじれの位置の場合、拗れるというよりそもそも交わることはないのだが。平行線とも違う。平行線なら万が一、どこかが斜めになれば交わるが、ねじれの位置は何もかも軸そのものが違う。万が一も交わる可能性は皆無だろう。

 

 正直な話、どうしてここにいるか問い詰めたい気持ちはあるが、一時の欲求に従って身を破滅に追い込むほど愚かではない。リスクリターンの管理はできている部類だ。

 

 つまり――――

 

 

 君子危うきに何とやらだ。

 

 

「――――あれ、八幡!?」

 

 わりと離れているのに目敏く俺を発見するか。

 

 くそ、見付かった。走るか!

 

「逃がさないよ!」

 

 との叫び声と同時に何か黒い影が視界に映る。

 

「コイツら……」

 

 ……どうやら体育館の入り口にいつか出会った闘犬が3匹配置されている。他の生徒を押し退け俺の行方を阻むように威嚇している。

 

 この程度、強引に突破することはできるが……。

 

「……はぁ」

 

 如何せん目立ちすぎた。さっきまで火野と戦っていたのに火野やギャラリーも一斉に俺の方へ視線を投げかけている。

 

「比企谷君? 知り合いなのかい?」

「悪いな不知火。これ以上はあまり詮索しないでくれ」

 

 ここで一瞬でも足止めを喰らった時点でどうやら俺はゲームオーバーのようだ。不知火には申し訳ないが、とりあえず不知火と離れて渦中へ近付こうとする。

 

「…………何のつもりだ、猛妹」

 

 睨みながら訊ねる。精一杯の抵抗の視線を浮かべて。まぁ、向こうは俺の心情なんて気にせず、笑顔で手を振っているが。

 

 ――――猛妹。

 

 中国のヤクザ組織である藍幇の一員。何だかんだで俺と因縁のある相手だ。長い髪をポニーテールの要領でくくり武偵高の制服を身に纏っている。

 

 ……はぁ。全く、なんでこんな血生臭い場所にいるんだ。

 

 ため息をつきながらギャラリーの間を通って猛妹に近付く。いつもうるさいアホ共が無言で左右に別れ俺に道を譲ってくれたが、それはまるでモーセの十戒のようだった。

 

「んー、暇だったのはたしかよ? 今回はただの慰安旅行。東京まで観光に来て、そういえば八幡ってここ辺りに住んでたなーって思って来ただけ。ホントは会いに行きたかったけど、そもそも住所知らなかったからね。なんか前とは違って引っ越ししていたみたいだし。……会えないと思ってたけど、まさか八幡から来てくれるとはね。これって運命?」

「俺からすればアンが付くな。間違いなく不運だわ」

 

 千葉のときと違って、完全な偶然と言い張るつもりか。いやまぁ、俺が引きこもっていれば出会わず済んだのも事実なので、それもそうかと猛妹の言い分に納得する。あとで諸葛に苦情送ろうそうしよう。

 

「そんなことを言うなんて……八幡酷い!」

 

 可笑しいな。骨のヒビの痛みはないのに今度は頭が痛くなってきた。

 

「あのー……」

 

 と、完全に置いてけぼりの火野が俺に声をかける。

 

「悪いな火野。中断させてしまって。おら猛妹、続きやれ」

「なんで命令口調なの? それはそれで悪くないけど」

 

 いやなんで頬を赤くするのだ……。

 

「いえ、別に大丈夫なんですが。その、ずっと圧されていたし……。えーっと、猛妹さん? って比企谷先輩の知り合いなんですか?」

「否定したいところだけど。ちなみに中国のデカいヤクザだからあまり関わり持つなよ。なんなら逮捕して牢屋に突っ込め」

「うるさいよ。あとその言い方止めて。知り合い云々に関してはめちゃくちゃ関わりあるよ。胸を張って肯定するところだよ」

「張る胸ないだろ。お前は特に」

「――――あ? やるか?」

 

 お、おう……ごめん。

 

 ふと漏らした俺の言葉に猛妹は過敏に反応する……そのドスが利いた声止めて。少しビビったから。

 

「これも4つ子なのが悪いね。そりゃ4人で栄養分けあったら体も胸も小さくもなるね…………くそぅ」

 

 なんかブツブツ言っているし。

 

「……まぁいいね。それで? 八幡はどうしたの?」

 

 切り換えきれてないのか若干顔が赤いまま俺に疑問を投げかける。

 

「病み上がりでしばらく動いてなかったから軽く運動がてらここに来ただけだ」

「ふーん。じゃあ私とやる?」

「ねぇ話訊いてた? 病み上がりでお前とやる奴いな――――ッ」

 

 言葉を遮るように俺の頭に向かってハイキックを繰り出す猛妹。それどちらかと言うと空手に近い動きだろ。柔軟性スゴいな。

 

 と、そんな場違いなことを思いながら、俺は俺で咄嗟に足首を掴む。

 

「……おい」

 

 俺はある気まずさを感じつつ視線を逸らしながら抗議の声を上げる。

 

「いいじゃん。お互い暇ってことでしょ? ――――それより手、放して。パンツ丸見えなんだけど」

「ならスカート履いてハイキック選択するな」

 

 白ですね。

 

「えっち」

「冤罪だろ」

「その割にはガン見したくせに」

「1秒しか見てない」

「見たじゃん!」

 

 めんどくせぇ……。

 

「よし、八幡のリハビリに付き合うよ。そこのえっと……ライカも手伝って。2人で八幡仕留めるよ!」

「えっ、私も!?」

「えぇ。2人で八幡ボコボコにするよ」

「は、はい……先輩、久しぶりにお願いします!」

「ちょっといきなりお前らはハードル高いんだけど」

 

 と言いつつ即座に腰を落とし構える。言い合いからも臨戦態勢を取っているのはもうこの世界に染まっている証なのか…………。

 

 

 

 

 

 ――――5分後。

 

「……ちょっと八幡。なんで攻撃してこないの」

「というより、よく防げますね」

 

 ひたすら防御に徹していました、はい。

 

 火野と猛妹だと攻撃に高低差があるので捌きにくいったらありゃしない。猛妹の戦闘は変則的、火野の戦闘は正統的、という印象で俺の動きも狂うから大変。

 

 まぁ、今回は互いに武器なしだったのが幸いした。素手なら大分楽だった。それでも、いつも以上にしんどかったけどな!

 

 5分ずっと攻め続け疲れたのに疲労が溜まったのか一息入れるために中断した猛妹は俺に話しかける。それに火野も同意を入れるために動きを止める。

 

「ハァ……くっそ疲れた。こちとら体鈍ってんだよ。捌くのだけで精一杯だわ」

「鈍っててこれですか……やっぱり先輩強いですね」

 

 肩で息をする火野がそう述べてくれる。

 

「八幡、これじゃつまんなーい。もっと本気出してよ」

「現状これが精一杯って言ったろ。お前ら攻撃させてくれる隙間すらなかったっつーの。ていうか、本気出すならそれなりに準備してからやるわ」

 

 あともうちょい人目ない場所なら頑張る。正直なところ、強襲科がいきなり超能力使ったら教師やSSRに何されるか分かったもんじゃない。

 

 それに今日は超能力があまり使えない日だ。ムリなもんはムリ。

 

「それでもスゴいですよ。ハァ、私、これでも何年も訓練してきたのに、自信なくしちゃいそうです……」

 

 男勝りな性格をしている火野が珍しく女子らしい仕草で肩を落とす。

 

「そこに関しては……うん、潜ってきた修羅場の差かな。それはもうどっかの中国ヤクザのせいで大変な思いをしてな。……まぁ、俺は武偵初めてまだ2年経ってないが、こういう純粋な訓練で得られる経験値と、変則的な事態の対応とかはまた別の種類だし」

「……」

 

 そう言いながらチラッと猛妹を睨むがシレッと逸らされた。コイツ……!

 

「あとはあれだ、今回俺は攻めないって決めてたからな。多分攻めようと動いていたら、お前ら相手だとその内どこか隙突かれていたからあまり気にするな」

「は、はい……」

 

 

 

 その後しばらく火野にアドバイス的なのを話してからもう時間とのことで。

 

「今日はありがとうございました。また稽古つけてください」

「ライカ、じゃーねー!」

 

 火野は去っていきギャラリーも各々自身の訓練へと戻る。俺は猛妹に振り向きため息交じりに。

 

「……で、多分話あんだろ。場所変えるか」

「まぁね。話ってほどじゃないけど、世間話、近況報告くらいなら。せっかく会えたことだし」

 

 といっても、猛妹と話すところをあまり他の人には見られたくない。そして、俺たちの部屋の場所を知られるのも可能なら避けたい。

 

 となると、どこか店に入るのも微妙。かといって他に秘匿性のある場所になる。

 

 そういうわけで――――

 

 

「――――で、なんで私の部屋なのかなぁ?」

 

 

 理子の部屋へお邪魔する。

 

「ホーントに邪魔だよ。しかもよりによってまさかの猛妹といるし」

「ジャンヌは留守だったし、お前がちょうどいいかなって。互いに俺らのこと知っている相手だろ」

「いやそうだけど、私も用事ってもんが……ハァ。別にいいや。後回しにできるくらいの内容だし」

「やっほー、理子。よろしくね」

 

 こたつで漫画を読みながらゴロゴロしていたみたいだし、セーフってことにしておいてくれ。

 

「ていうか猛妹はどうしたの? 他のココは?」

「旅行している最中。今私がこうやって別行動で、みんなは新宿に行くって言ってた。あ、でも1人は完全に別行動よ。仕事で」

「まぁ、騒ぎ起こさないならいいけどさぁ。私巻き込まないでよ」

「大丈夫。そんな気はないよ。それに諸葛もいるから安易に問題起こせないね」

「ふーん。アイツがねぇ。あ、ハチハチ、体はもう大丈夫なの?」

「とりあえずは動いても問題なさそう」

「ん? そういえば病み上がりって言ってたね。どしたの、風邪?」

「いや、ちょっとロボットと戦ってケガした」

「なにそれ……」

 

 事実なんだけどな。

 

「って、あー。あれか。さっき武偵高で道場破り云々の噂流れてたけど、これって猛妹のことか」

「そうだな。まさか噂の渦中がこれとはな」

「これとは何よ」

「で、今さらだけど何しに来たの、そこのお二人さんは」

「世間話……かな?」

「あっそ。ていうかレキはどうしたの? これ黙っていていいの、ハチハチ」

「レキは今里帰り。別段報告することでもないが、まぁ雑談がてらまた話しとくよ」

「え、レキいないの。会いたかったのにー」

 

 猛妹ってレキと仲良かった? 会う度レキから暗殺仕掛けているイメージしかないんだけど。果たしてそれは仲が良いと言えるのだろうか、ボブは訝しんだ。…ボブ、グエル、うっ頭が……。

 

「そういや猛妹に訊きたいことあるんだけどさ」

「うん。あ、理子。そのおやつちょうだい」

「はいはい」

「お前らのとこに色金使える奴いるだろ。チビッ子だっけか」

「候のことね。どしたの? まさか……あぁいうのが好みとか?」

「いや、俺その候とやらと会ったことも話したこともないからな? チビとしか情報知らないし。そうじゃなくて、アイツってどこから緋緋色金を持ってきたのかなーって」

「うーん、言っておくけど、あの子、私たちより何倍も長く生きているからそんな細かい記録まで残ってないよ。なに、八幡は緋緋色金の大元がどこにあるのか知りたいの?」

「そういうことだな。んー、これはただの興味本位だけど」

 

 世間話に振る内容ではないと思うが、気になってから訊ねてみた。あと単純にこの3人はそれぞれ色金の関係者だからな。共通の話題でもある。

 

「どしたのハチハチ、緋緋欲しいの?」

「欲しいわけではない。俺もう色金持っているし。……何だかんだあって神崎の色金問題をどうにかしたいと思っていたんだ。まぁ、もう手詰まりというか、できることなさすぎて、あとは遠山に任せるレベルになったけどな」

「ふーん。もし本体の居場所知ったとして、八幡はどうしたいの?」

 

 猛妹の言葉に少し考える。

 

「さぁ? 本体の居場所を知ったところでなぁ、というのはある。本体どうにかしても神崎を守れるわけじゃないし。ここからはもう遠山しか多分解決できないと思う」

「というと? なんでキー君だけなの? ハチハチじゃダメなの?」

「緋緋があぁなった原因に、昔に恋と戦争に魅力を感じたってのがあるらしい。戦争の方は神崎が人を殺すレベルの戦いにならないと乗っ取りはできないらしい。……で、問題は恋。これはもう神崎が遠山にゾッコンレベルだからな。これを解決できるの遠山しかいない」

 

 それに、と付け加えて。

 

「……外的要因でどうにかできるかと思ったが、アメリカに行ってもどうもこれが難しくてな。正直なところ、マジで手詰まりってところだ。まぁなんだ、眠り姫を起こすことができるのは王子様だけだろ」

「……おぉ、ハチハチには似合わないほどロマン溢れるセリフだね」

「喧しい」

 

 自分でもそう思うけどね。

 

「だからまぁ、もうここから先は興味本位なんだよな。色金の出自とかも気になるし、別に誰のためでもなく、ただただ知りたいから調べてるって感じか。暇だし」

「そうは言ってもね八幡。私……ココ姉妹も色金に関してはそこまで詳しくないよ。一応、立ち位置的には傭兵……雇われてはいないけど、そんな感じだから」

 

 と、猛妹は唐突に少しポカンとした表情になって。

 

「ていうか八幡」

「どうした」

「ここにいる私たち以上に色金に詳しいの身近にいるよね」

 

 誰?

 

「ん? 他に知っているのは……レキと神崎に遠山…………あ、星伽さんか。そういや、前に色金について相談持ちかけられたことあるな」

「そうそう。たしかね、星伽は緋緋色金の巫女のような立ち位置らしいよ」

「ほーん。つまり、レキが漓巫女だから、星伽さんは緋巫女ということか?」

「多分この中なら一番詳しいと思うよ。さすがに本体の居場所を知っているかは分からないけどね」

「でも今不在なんだよな。……理子は星伽さんがどこにいるか知ってる?」

「実家じゃないかなぁ? 帰省するって言ってたよ。たしか青森の方」

 

 せんべいをバリバリ食べながら答える理子。

 

 ほう、青森か。距離から考えて普通に行ける距離だ。最近海外行くこと多かったから距離感マヒしているかもしれない。

 

 ……よし。

 

「理子も猛妹もありがと。ちょっと行ってくるわ」

「えっ、行くって青森に? ……ハチハチってそんな自分からアグレッシブに行動する奴だったの?」

 

 さらっと失礼なこと言うなおい。俺もそう思うけど。

 

「普段なら動かないけどな。今回に限っては……漓漓に恩があるから、神崎を救うためのできる限りの可能性は試したいと思うし……さっきも言ったようにあとは興味本位だな」

 

 まぁ、アメリカで俺のできることはもう出尽くしたと思うから遠山任せになるだろう。だから、これはホントにただの興味本位でしかない。奥歯に引っ掛かった何かをただ取りたいだけだ。

 

 それと、ここまで来たら結末も気になるからな。せめて、少しは現場の近くにいよう。……とりあえず星伽さんの実家がどこなのか調べないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、誰に見せるわけでもないラブコメ小説を書いている。まだ一割もいいとこのスローペースだけどね

それはそれとして、早く暖かくなってほしい。ツーリングになかなか行けないの辛い。寒いの大変


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Realize

「ねぇねぇ、八幡」

「どうした?」

「私も八幡に付いていっていい?」

 

 理子の部屋から退出し一度部屋に戻ってから身支度を終え、大きめのボストンバッグと共にモノレールの駅に行くと、まだ理子といたと思っていた猛妹がポツンと1人佇んでいた。どうやら俺を待っていたみたいだ。

 

 駅の中とはいえ、ここはモノレールが走っている。そのせいか、駅の造りは空洞がそれなりにあり、冷たい風は無情にもそこにいる人を襲う。

 

 ぶっちゃけかなり冷える。そんな場所でも目の前の人物はそこにいた。と、そこで猛妹が俺に訊ねたのはどうやら同行の願いらしい。

 

「付いていくということは青森……星伽さんのとこにか?」

「うん。……ダメ?」

 

 非常に甘ったるい猫なで声だ。あまりこういうことの経験がない俺からしたらすぐに肯定してしまいそうだが、ここは冷静になって答える。

 

「……ダメってこともないが、止めといた方がいいと思う」

「えー、どうして?」

 

 どこか不満そうな猛妹に俺は淡々と理由を述べる。

 

「まず初めに、今は冬だ。青森とか絶対に寒い。寒いだけなら未だしも天気予報見たところ、今の青森はかなり雪が酷いらしい」

「……」

 

 今の猛妹は武偵高の制服の上に少し分厚いコートを羽織っている。

 

「猛妹、見たところ冬の装備持ってなさそうだしな。ざっと調べたところ星伽さんの実家……星伽神社は山中にあるそうだ。冬の山は舐めたらいけない。授業で何度か経験させられたが、あれはマジで余裕で死ねるまである。遭難したら確実にヤバい。俺はまぁ、他の奴らに比べて山中行軍は慣れていないし、お前に構う暇すらないかもしれない」

 

 俺は冬の山で危険な目に遇ったら瞬間移動が使えるようになるまでジッとすればいいが、猛妹はそうはいかないだろう。瞬間移動が厳しくても最悪空を飛べば、どこへ行けばいいかおおよその検討は付くだろう。

 

 しかし、俺が猛妹と一緒に飛ぶとしても、それまでにはぐれる可能性が当然付き纏う。

 

 そもそも普通の山ですら、ただ真っ直ぐ歩くこと自体が大変だ。そこに加え、冬という季節が加わるだけで日が落ちるのも早くなる。雪もあればなおさら難易度は格段に上がるだろう。

 

「うっ、たしかに私雪に慣れてないけど。寒いの苦手よ」

 

 悔しそうにこちらを睨む猛妹だが、その視線はこの事実を理解しているのか力がない。

 

 ……仕方ない、ここはあと一押しの言葉も追加するか。

 

「あとあれだ、下手にお前を危険に晒して、諸葛や姉妹たちの恨み買いたくないしな」

「なにそれ。んー、でもまぁ、一応はそれで納得してあげる」

「はいよ」

 

 一先ずこれで付いてくることはなさそうだ。

 

 実際、この先で何があるか分からないかな。冬の山だけなら未だしも、誰かと戦闘になることは……星伽さんに会いに行くだけだし、ないかもしれないが、いざってときもあるから用心するに越したことはない。

 

 …………もしかしたら、色金のことを知ろうとして、星伽さんが立ち塞がる、なんて展開もあるかもしれない。

 

 まぁ、そうなったとしても、猛妹は普通に強いから心配は無用だろう。近接戦闘だけで言えば、神崎やHSSの遠山に匹敵するほどの使い手だ。伊達にあのバカデカい青龍刀を扱っているわけではない。

 

 しかし、最悪は常に想定するべきだ。何かあってからでは遅い。

 

「…………ん」

 

 ……と、待て。

 

 そう考えるということは、俺って別に猛妹のことを少なからず疎ましくは思っていないのか。態度では邪険に扱っていながら、心の奥底では多少なりと好感を持っているのだろうか。

 

 いやたしかに俺は猛妹のことを嫌いではないが……なにそれ、ツンデレ?

 

「八幡?」

「……何でもない」

 

 ちょっと頭痛くなってきたな。男のツンデレとか需要ないだろ……。

 

「じゃあ、私はこれでお暇かな。みんなと合流するよ。また色金について分かったら教えてねー」

「わざわざここに来てくれてあまり相手してやれなくて悪い。……何か分かったらまた連絡するわ。またな」

「またねー」

 

 と、この場から離れる猛妹を見送る。

 

 あれ? 猛妹、駅から去っていったけど、モノレール乗らないみたいだ。あれか、闘犬を数匹連れていたから車とかで来ているのかな。

 

 まぁいい。とりあえず今日は青森まで新幹線で移動。恐らく夕方から夜には到着できる。そのときには暗いだろうから、駅の近くで一泊し、翌日星伽さんを訪れる。この予定で進めよう。

 

 そう決めた俺はちょうど来たモノレールに乗り込む。

 

「……ん」

 

 ここでふと気付く。そういえば、モンゴルへいるであろうレキに行き先を伝えていないと。

 

 一応はレキに目的地の連絡を入れておこう。ウルスの集落だと繋がりはしないだろうが、メールを受け取らずに東京へ戻ったら俺がいないことになる。『色金のことを知りたいから、青森にある星伽神社へ行く』という内容をレキに送る。

 

 レキにメール送信してからまた新たなことに気付いた。猛妹の連絡先知らねぇわ……。意気揚々と教えるって言っておいてこれか……。

 

「……なんかすまん」

 

 という独り言はモノレールの発車音にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――翌日。

 

 新青森駅近くのカプセルホテルで夜を明かした俺は早朝から行動を起こす。目的は弘前市だ。つっても、JRに乗るだけだ。

 

 せっかく初めて来た土地なのだが、観光はせずに行動する。勿体ない気持ちはあるがな。

 

「…………」

 

 電車で移動しつつ今までの情報を整理する。

 

 星伽神社の細かい位置までは調べきれていないが、星伽山があると調べは付いた。グーグル先生では載ってなくて苦労したがな。そこのどこかにゴール……神社があるのだろう。

 

 岩木山近辺のバナナの形をした湖に中腹低い山がある。目的地はざっくりその辺りだ。……分かりにくい!

 

 遠山から訊いたことあるのだが、星伽神社は普通に行こうとするとかなり分かりにくい場所に位置しているらしい。外から歩いてもなかなか発見できない。あえて分かりにくく造られている。

 

 星伽神社はかなり排他的とのこと。遠山はなぜかまでは知らなかったが、今ならその理由も想像できる。

 

 理由の全部ではないかもしれないが、緋緋色金を祀ってきた緋巫女として色金に詳しいからだろう。色金の情報は秘匿する必要がある。あれは悪用されてしまえば、色々とバランスが崩れてしまう代物だ。

 

「……あれ」

 

 ……ん? 自分で考えていて不思議に感じたが、本当に星伽さんは色金を祀っているのか? となると、星伽神社に緋緋色金があるということになる。金一さんのように詳しいだけではない?

 

 猛妹が星伽さんは緋巫女だと言っていた。

 

 レキはウルスで漓巫女をしていた。ウルスの集落にある湖に漓漓色金の本体が沈んでいており、そこから巫女という立ち位置になった。生まれたときから同調……と表現すればいいのか。漓漓の影響をもろに受け、感情というものを全く知らずに育った。

 

 ――――つまり、色金の巫女=巫女の出身地近辺に本体がある。

 

 この考えが成り立つなら、やはり緋緋色金の本体が星伽神社の近くにあるのだろう。ということは、詳しいどころではない。生まれたときから色金が傍に在った。

 

 だからこそ、星伽神社は排他的になったというわけか?

 

「そもそも……」

 

 超能力はおいそれと人に見せるモノでもないが……。

 

「…………」

 

 俺は、今まで色金本体に2回会ってきた。1回目はウルスで、2回目はエリア51で。瑠瑠に関しては、本体を加工された状態ではあったが。瑠瑠本体が最初どこにいたのかはもう知りようがないかもしれないな。

 

 そして、最後。緋緋色金の本体が恐らく俺の行き先にいる。もしかしなくても、全ての色金本体を見てきた人物とは俺だけではないのか?

 

 少し、身震いする。なかなかこんな成り行きで貴重な情報を持っている奴いねぇだろ。

 

「……別に」

 

 緋緋色金を、緋緋神をどうこうするつもりはない。いやもちろん、どうにかできるなら神崎を救いたい気持ちはあるけど……もう俺がどうにかできる段階ではない気がするし。

 

 ただ、色金について俺は知りたいだけだ。どこから来て、どういう歴史を辿って今に至るのか。ここまで関わってきたんだ。何も知らないでは、格好が付かない。漓漓に力を貸してもらっている手前、その力が何なのかは知っておきたい。

 

 ……それに、最低限、漓漓と瑠瑠に義理は返さないといけない。筋を通す必要がある。

 

『間もなく、弘前駅~』

 

 電車のアナウンスが聞こえる。

 

「さてと」

 

 ――――行くか。

 

 

 

 弘前市の電気は曇り。幸い、今のところ雪は降っていない。さっさと移動しよう。

 

 ここから一先ずの目的地である岩木山は10km以上は離れている。

 

 微妙な距離だ。歩くことは可能な距離だが、山中行軍をする予定だ。体力は消費したくない。空を飛ぶにしても……うん、駅前のロータリーは広くて多くの人が行き交っている。こんな場所では使えない。

 

 近くまで走っているバスもなさそうだ。タクシー使うか。

 

 その前に腹ごしらえだな。

 

 

 

 ――――そして、1時間以上経過し、岩木山の麓に到着。

 

 これからはGPSを頼りに移動しよう。一先ず県道沿いに山をぐるっと回ろう。ある程度近付けたら登山開始だ。

 

 さらに5時間は経過して、山中を駆けずり回りようやく目印となる湖を見付けた。途中休憩を挟みつつ。

 

「はぁ、しんどっ……」

 

 慣れない山道を進むのはかなりキツい。真っ直ぐ進もうとしても気付けば逸れている。そのズレを修正しつつ歩くのは非常に神経を使った。

 

 着替えとかの荷物は駅前のロッカーに預けたが、如何せん装備が登山に邪魔だ。普段はあまり感じないが、銃やマガジン、ナイフに棍棒、もろもろ装備して水や食糧や懐中電灯とかの登山セットを背負っているとかなり重い。

 

 登り降りが激しいと、こうも装備の重量が響いてくるとは。……休憩しよう。って、何だかんだでもう夕方だ。遅すぎると向こうも迷惑だろうし、早めに到着したいな。

 

「さすがにこんな山ん中だと人いないな」

 

 今までろくに整備されてない荒れた道を無理やり進んだ。登山道などではない。こんな場所だと人もそうそうすれ違わない。それなら、そろそろ超能力を使ってもいい頃合いだ。

 

 普通に進んでも星伽神社は見付けにくい。なら飛翔で空を飛んで探そう。……その前に栄養補給。

 

 15分ほど休み、GPSで方角に当たりを付け空を飛ぶ。人に見付からないよう最低限の高さで。5分ほど飛んでいると、うっすらと獣道のような山道を見付ける。今での荒れた山道ではない。自然物ではなく人の手が加えられている。

 

「っと」

 

 一先ずその人工的な造りへと降りる。その道の示す先を確認すると、長い石段へと続いている。恐らくこの獣道は神社の参道だろう。たしかにこれは外からでは発見しにくい。

 

 石段を登りきったら神社なのだろう。間違っていても道筋は見えてくる。

 

「……」

 

 等間隔に並んでいる石灯篭を横目に歩く。

 

 ゆっくりと歩いている最中、ひらひらと雪が舞う。どうやら降ってきたみたいだ。山に入る前、予報を確認したところ今日は雪は降らないようだったが……やはり山の天気は移りやすいのか。

 

 とりあえずこの時間帯で良かったと安堵する。絶賛行軍中だったらペースはかなり落ちていた。

 

「……ふぅ」

 

 100段以上はあった石段を登りきると、緋色の鳥居が待ち構えていた。ようやく到着だ。

 

 この鳥居を潜ると、いよいよ色金についての真相が見えてくる。星伽さんが俺の望む答えを言ってくれるかどうかは別問題かもしれないが。

 

 それでも、やっとここまで来た。随分と遠回りをした気がする。

 

 色金について本気で知りたいのなら、最初から星伽さんに訊いておくべきだったかもしれない。ブラド戦で入院している最中、さらっと緋緋について詳しい口ぶりをしていた。

 

 あのときはまさか緋巫女とは思いもしなかったが、よくよく思い返せばそりゃ詳しいよなとしか。

 

 しかし、今までの道筋が完全にムダだったとは思わない。ブラドとヒルダは理子のため倒す必要はあったし、アメリカでも瑠瑠と話せて貴重な経験になったとも思っている。どれくらい遠回りをしても、そこで得た記憶はどれも貴重なモノだ。

 

 アメリカで、瑠瑠は神崎をどうにかする方法は緋緋を殺すしかないと結論付けたが、星伽さんなら別案があるだろうかと疑問に思う。

 

「――――」

 

 俺の考えだと、多分星伽さんは神崎の中にいる緋緋神をどうにかする手段はあるだろう。そりゃ緋緋の巫女なのだし、俺以上に超能力に詳しい。普通にあっても可笑しくはない。しかし、それは現実的ではないとも思う。

 

 なぜなら、殻金を揃えることが最善策とはいえ、他の手段を試そうとしなかったからだ。

 

 殻金……色金の力を従え自在に使えるようにする術はたしかに効果的だ。しかし、それが不完全になってしまったのならば、早々に別手段を試すべきだ。……まぁ、そのころはまだ神崎は乗っ取られていなかったから、わざわざする必要がなかったとも言えるか。

 

 通常なら星伽さんが使えるであろう手段はかなり効果がある可能性がある。しかし、神崎と緋緋の相性はかなり良い。その手段が不発に終わることもあるだろう。

 

 そうなったら、どうすべきなのかな……。やはり殺すしかないのだろうか。当然そうはあってほしくない。遠山はイギリスで上手いことしているのだろうか。

 

 とはいえ、もう俺の出番はないだろう。あとは王子様の成すべきことだ。しかし、色金のことを知るとなると緊張もする。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか。…………はたまた、出るのは神様かもな」

 

 意を決して鳥居を潜る。

 

 

 その瞬間――――俺の首に薙刀が突き付けられる。左右から二刀同時に。

 

 

「はぁ……」

 

 思わずため息をついてしまう。

 

 鳥居のすぐ傍に複数人忍んでいたことは分かっていた。気配の消し方とか素人もいいとこだし。そのためにわざと少し大きめの声出して潜ったんだが……。

 

 ったく、これはとんだご挨拶だな。

 

 薙刀を突き付ける人物を確認する。2人とも俺より何歳か下の少女。長い黒髪に巫女装束を身に纏っている。そして、その奥にも弓を所持している少女が1人。しかし、弓を構えてはいない。あ、離れていった。

 

 この少女たち、どことなく雰囲気が星伽さんに似ている。髪型も星伽さんをリスペクトしているのか前髪を揃って切り揃えている。親類かな?

 

 にしても、なぜか敵意剥き出しだな……。初対面でこのまで嫌われるか。泣いていい?

 

「俺はただ参拝しに来ただけだ。その危ないモノ仕舞ってくれ」

「――――なっ!」

「ウソッ……!?」

 

 面倒ごとというか俺より年下の少女にケガは負わせたくないので、薙刀の柄を鎌鼬で切断する。

 

 驚いた様子を見せる薙刀の2人。これで一先ずお互いケガすることはなさそうだ。問題は奥にいる弓の少女がどこに行ったのか――――

 

「ひ、比企谷さん!?」

 

 神社の奥から弓の少女と目的の人物が駆け足で寄ってきた。

 

「どうも」

 

 同じく巫女装束を着た星伽さんだ。

 

「ど、どうしてここに!?」

「……え、この不審者。白雪お姉さまの知り合いなのですか?」

 

 おい。誰が不審者だ。

 

「私の同級生ですよ、粉雪」

「それは……申し訳ありませんでした」

「こっちも斬って悪かった」

 

 お互い会釈して謝罪。

 

「そ、それで比企谷さん。どうしてここに?」

「星伽さんに訊きたいことがあって。前に遠山から星伽神社のことを教えてもらったからその記憶を頼りに色々と調べつつここまで来た」

「キンちゃんが……。そうですね、一先ず中へどうぞ」

 

 

 

 案内され境内へ。そこから屋内へとお邪魔する。雪が防げるだけありがたい……。マジで寒いわ。

 

「えーっと、この人たちは星伽さんの親類?」

「はい。私の妹たちです」

「それは……手荒な真似してごめんなさい」

「先に刃を向けたのは妹たちですから気にしないでください」

 

 温かいお茶を妹さんたちから貰い、どう切り出せばいいのか困りつつ星伽さんに話を振る。

 

「それで、わざわざここまで来て訊きたいこととは……?」

「あぁ、帰ってくるのを待つのも面倒だったし、ここに来たのは単純に暇だったからそこまで気にしないでいいんだけど。訊きたいのは色金について」

「……やはり、そうでしたか」

 

 気まずそうに目を逸らす星伽さん。どこか勘違いしてそうだから訂正しておこう。

 

「あーいや、別に星伽さんを責めるとかそんなの考えていないから。何ていうか、ここまで色金と関わってきたから、そもそも色金が何なのか知りたいってだけだ。……ホントはそこから神崎をどうにかできればいいのだが、もう俺ができることはなさそうだからな」

「なるほど、分かりました。比企谷さんには色々と迷惑をかけてきましたし、助けられました。私の答えれることなら答えましょう。何が知りたいですか?」

 

 迷惑……部屋をめちゃくちゃにしたことかな?

 

 と、星伽さんが真剣な表情になったわけだし、俺も変に茶化さず知りたいことを質問しよう。

 

「まずそもそもとして、色金ってどういう存在なんだ? 意思を持った金属……いや、意思が宿った金属の方が正しいか? それは分かっているが、そうだな。その出自……アイツらはどこから来たんだ?」

「――――宇宙からです。文字通り、色金は御星様なのです」

「……宇宙、ね」

 

 言い淀むわけでもなく、ただただ平然と述べられるその言葉は、それが真実だと如実に語っている。その言葉を訊いた俺は内心驚きつつも、天井を見上げながら半ば冷静に言葉を返す。

 

 ……宇宙、そこから色金が来訪したのか。

 

「あまり驚かれないのですね」

「いやまぁ、面喰らっていると言えば喰らっているけど、もしかしたらそうだと予想はしていた」

 

 ウルスで漓漓を見てから、少しは考えていた。それは本体の形とその場所。

 

 漓漓本体はウルスにある湖の中心に沈んでいた。

 

 湖の出来方の1つとして、地球に隕石が墜落したというパターンがある。隕石が墜落した衝撃でクレーターができ、そのクレーターに雨などで水が溜まり、湖になることがあるらしい。

 

 そして、漓漓の形は直径10mの円錐形に近い岩である。何と言うか、麦わら帽子のような形だ。これは大気圏で燃え尽きないようにした宇宙船の造りに似ている。

 

 それらの状況証拠から、万が一の可能性として宇宙から飛来したのかと推測したことはあった。その考えを持ってはいたが――――現実的ではないと思っていたのも事実だ。

 

 生憎、宇宙人とか信じたことはなかったからな。異世界から来訪した方がまだ納得できる。

 

「ということは……元々隕石に色金としての意思があったのか? それとも地球に来てからは特に何もないただの隕石だったが、付喪神のように後から意識が芽生えたのか?」

「前者ですね。どういう経緯かは分かりませんが、元々意識があった状態で地球の……ここへ落ちたそうです」

「なるほど。ここってことはやはり緋緋の本体は……この辺にいるのか」

「はい。ここから数kmほど離れている場所に御神体として祀っています」

「ほー」

 

 だからこんな分かりにくい場所に神社が建てられているんだな。

 

 ここは人里から離れすぎていると思う。色金が近くにいるからか。その辺りはウルスと似通っている気がする。モンゴルは元々そういう文化かもしれないが。

 

「他に質問はありますか?」

「えーっと……」

 

 出自が知れただけでも充分な俺はこれ以上何を訊こうか迷っていた。改めて大きさや形、可能なら御神体である緋緋の場所まで案内してもらえるかなと思考を回していたら――――

 

 

「キャ――――!」

 

 

 誰かの悲鳴が耳に届いた。恐らく、部屋の外に待機していた星伽さんの姉妹の誰か。

 

「なんだ……?」

「風雪!?」

 

 俺と星伽さんは話を中断して急いで駆け付ける。星伽さんは隣に置いていた刀を手に。星伽さんの妹がいた場所は鳥居のすぐ傍だった。そこに居たのは――――

 

「神崎……?」

 

 武偵高の制服を着た神崎が立っていた。その数m離れた場所には星伽さんの姉妹3人が後退りつつ警戒している。

 

 神崎? 何をしに――――しかし、何か違う。雰囲気……立ち姿……プレッシャー? 何かが違う。いつもより視線が好戦的? 普段のツンデレっぽい雰囲気が微塵とも感じない。

 

 目の前の人物は神崎でない。あれは……誰だ?

 

「いや、誰だなんて言うまでもないか。――――緋緋、何しに来た」

「…………お前は、ふふっ、そうか。漓漓の力を使うモノか!」

「アリアは……どうしたの」

「むっ、今代の巫女か。なに、もう完全に乗っ取っただけよ。舞でも捧げてみるか? それで離れるほど軟弱ではないぞ」

 

 焦っている星伽さんの問いに緋緋はそう答える。

 

「そんな……」

「戻らない。殻金は間に合わなかった?」

 

 遠山が様々な場所で散らばった殻金を回収していたが……俺が飛び散った分を少しは掴めたが、それでも足りなかったみたいだ。

 

どういう経緯で神崎が乗っ取られて、どうやってここへ来たのかが分からないな。恐らくここまで来れたのは瞬間移動を使ったのだろう。

 

 しかし、目的が不明だ。

 

「でだ、わざわざ神崎を乗っ取ったってのにどうしてここまで来たんだ?」

 

 緋緋との距離を詰めるために少しずつ歩きながら俺も問う。星伽姉妹の間に立つように。

 

「まぁ、あたしはアリアの体を奪ったがな。とはいえ、完全には力が戻っていない。ここにはあたしの力の大元がある。そこで力の充電しに来たんだよ」

 

 神崎の体内にある緋弾は世界最大と言われるほどの緋緋色金があるが、それは本体が星伽にあるのを知らない人たちが言っていたこと。

 

 イマイチ力の充電という解釈は分からないが、飯でも食うようなもんか。

 

「つっても、力の充電には時間がかかる。……なぁ、漓漓の力を使う……何て言ったか。イレギュラーだったか。お前にはちと興味がある。あの無愛想な漓漓が力を貸すとはな。実力も気になる。暇だし、あたしと――――戦おうではないか!」

 

 嬉々とした緋緋の表情。神崎の顔でそれをやられると微妙に腹立つが……。ていうか、その2つ名、緋緋も知っているのか。やるせない気持ちにもなる。

 

「お前と戦う理由がない」

「ないなら作ろう。お前がそうして怠けていると……そこで竦んでいる女共にが死ぬぞ?」

「――――ッ」

 

 チラッと俺の後ろにいる星伽さんの妹たちを覗く。たしかに立ってはいるが、現状腰が抜けている。襲われれば星伽さんがいるとはいえ、厳しいことには変わらないだろう。

 

 人質か。かなり安易な作戦だが、自他問わず殺人禁止のある武偵にとっては非常に有効な手段だ。武偵でなくとも実力者に人質を取られるとキツい。星伽さんが手を引っ張って保護してくれているが、もし本気を出した緋緋相手に護りきれるかどうか……。

 

 神崎の身体能力に、色金としての超能力。どの手段を用いられても強力すぎる。

 

「さぁ、イレギュラーもあたしと一緒に楽しもう。人に最も興奮をもたらすのは恋と戦。あたしは特別お前には恋はしないが――――戦は別だ。ヒリヒリと、焼き付けるほどの戦いを楽しもう」

 

 俺が棍棒であるヴァイスを組み立てると、臨戦態勢に入った俺を見て嬉しいのか口上を捲し立てる。

 

 それとさらっとフラれたな。いや別に神様に好かれたくないけど。それに神崎の体だしな……。

 

「――――」

 

 日が沈む。雪は止んだ。まだ明るかった曇天の空から段々と空に暗闇が広がる。どうやら俺が強敵と戦うとき、暗い暗い夜一緒らしい。

 

 ――――今宵相対するは神。体は人間だが、人間とはまるで別物の存在。

 

 対する俺は神様の力の一端を使えるだけのごくごく普通の人間。果たして勝てるのだろうかか? 

 

 この戦いの結末など不明すぎる。それでも、ここは逃げてはいけない場面ということは嫌というほど理解できる。命を助けてもらった恩を返すために。

 

 

「イレギュラー、お前は妹たちと関わり合うことはあっても、あたしと直にこうして関わるのは初めてだな。日本ではすぐ止められたからな。……あぁ。良い、気分が高まる。対話はしなくていい。そんなものは無意味だ。――――あたしとお前は戦うことでしか分かり合えない!」

「神様と分かり合いたいとか思ったことねぇよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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踊れ踊れ

「――――オラッ!」

 

 緋緋との戦闘、その開戦。

 

 まず動くのは俺だ。先手必勝。戦いで流れを作るにはやはり先手で動くべきだろう。基本的に俺はカウンター主体の戦闘を得意とするが、格上も格上の相手だとそうは言ってられない。自分から動いて自分の形を作れ。

 

 神崎には申し訳ないけど、とりあえず緋緋をボコして戦闘不能に追い込む。どうすれば勝ちかは不明だが、動けなくなったらどうにかなるだろ。

 

 そのため、まず脚だ。脚に狙いを定めてヴァイスを振り回す。それこそ、完全に折る勢いで。

 

「おっと」

 

 しかし、緋緋は軽やかに、そして大きく跳躍しこれを避ける。至近距離からのかなり速いブン回しをそんなあっさりパスするとは末恐ろしい。

 

 ならば誰であろうと確実に生まれる着地隙を狙う。

 

 ――――しかし、当然ながら格上相手だと狙いどおりに進まない。

 

「ッ……」

 

 空中にいながらも神崎の長いツインテールを華麗に操り、緋緋は瞬時にヴァイスを掴み取る。空中でんな器用に……おっとマジか。

 

 手練れはやはり着地隙は見逃してくれないか。俺だって烈風や射撃で誤魔化すし。

 

 追撃をしようと振りかぶるため一瞬力を緩めたところを狙われ――――まぁ、これは偶然だろうが――――緋緋の着地と同時に引っ張られヴァイスを奪われる。

 

 クソッ、意識外のため油断していた。

 

「これは理子の……」

 

 髪を自在に操るサイコキネシス。香港のタンカーで見たことのある。まぁ、俺らの力の大元が緋緋だ。使えて当たり前か。

 

 ……と、少しは呆気に取られたが、そんな思考はしつつも身体は別だ。

 

 ヴァイスを取られたと分かってからノータイムで追撃を図る。棍棒であるヴァイスは武器としては長い。それをムリヤリ奪ったからか緋緋の体勢は地味に良くない。

 

 これなら当たる。そう判断し、一歩大きく踏み込み、その勢いで着地で姿勢の下がった緋緋の頭部へ回し蹴りを放つ。烈風で加速した、頭に当たれば誰であろうとすぐには立ち上がれないレベルの蹴りだ。

 

「むっ……」

 

 緋緋は咄嗟に腕と操った髪を間に挟み、それを防御する。しかし、その程度では完全には防げない。

 

「ふむ、なかなかに痛いな」

 

 防御と同時に後ろへ下がり威力の軽減を図ったみたいだ。独り言か手をプラプラとさせつつそんなことを言う。

 

「まぁ……」

 

 ……これでは決まらないよな、と内心ため息を吐く。

 

 素人相手だと不意討ち気味の棍棒で大抵決まるし、大げさに避けれたとしても追撃でどうとでもなる。けどまぁ、相手は神様。今まで以上に手練れだ。決まってくれれば楽なことこの上ないが、そんな上手くは進まない。

 

 あ、ヴァイスが変な方向へ転がっていった。距離が地味にあるし、あれを取るのは隙を晒すだけだな。

 

 と、立ち上がった緋緋はこちらを見据えつつ口を開く。

 

「しかし、意外だな」

「……何が」

 

 ここで話を? 随分と悠長に話しかけてくる。その余裕な態度に少しばかし苛立ちが募るが……。

 

 とはいえ、都合がいいことには変わりない。俺としては少しでもいいから時間は出来る限りは稼ぎたい。ここは緋緋の動きに警戒しつつ乗るか。

 

「いやなに、しっかりとアリアの体を痛め付けようとしたところかな。情が移って攻撃できないかと思ったぞ。あの蹴り……棍棒もそうだが、あれをマトモに喰らえばタダでは済まないだろ。いくらアリアの体でもな」

「んな生意気なこと言ってられる状況じゃないだろうが。つーか、この程度ならウチのアホたちは毎日しているからな。俺も神崎も同様に……いや改めてアホすぎるだろ……」

 

 死ななければ何やってもいいとか思ってるまであるからな。特に強襲科の教師とか……。教師がそれでどうすんだ。

 

「くくっ、お前もなかなか奇異な人生を送っているそうだな」

「……それほどでも。だからかな。別にお前が神崎を乗っ取ったと言ってもそこまで驚きはしなかったのは。もちろん多少は驚いたが……戦うとなったら誰でも変わらない。なんなら、お前相手に今までの憂さ晴らしがしたいくらいだ」

「その態度、実に好みだ。見くびられないように虚勢を張ろうと、本心から戦いを望もうと……どちらでも良い。そういう好戦的な奴をねじ伏せたいぞ」

 

 ……怖いな。別に虚勢じゃないけどね。ホントだよ?

 

「まぁいい。最悪神崎の骨折ってでも緋緋、お前を止めるよ。神崎がケガしても、お前を追い出したあとにでも星伽さんに治療頼めばいいだけだしな。それに現代医療は素晴らしいぞ」

「ふんっ。アリアの体を傷付けた程度ではあたしは消えないぞ。もうこの体は完全にあたしのモンだからな!」

「なら拷問してもう神崎の体にいるのか嫌になってもらおうかな!」

 

 再度互いに距離を詰めるため走り出す。ヴァイスはないから一先ず素手で。緋緋も同様。

 

 ナイフを使おうと思ったが、リーチはないし、いざってときに細かな動きが難しくなる。緋緋がどれほどの攻撃手段を要しているか分からないし、臨機応変に動きたい。ので、今は向いていないな。

 

「ハハッ!」

 

 緋緋の鋭い蹴りが俺の顎を的確に狙いを定め飛んでくる。

 

「――――ッ!」

 

 体勢を変えつつ急ブレーキからのサイドテップで回避するが、ほんの少しつま先が頬に掠った。……それだけで出血したんだが。さすが神崎の体か。強度が高い。鋭すぎる。

 

 だが、やられたら当然俺もやり返す。少しムリな体勢になっているとはいえ、センサーで緋緋の正確な位置は目を瞑っても分かる。俺は避けた直後すぐに足首を掴む。

 

 このまま足首を引っ張ってバランス崩したところを殴ろうかと行動に移そうとしたが――――

 

「舐めるなよ」

「なっ!?」

 

 緋緋のその一言と共に、まるで逆上がりの要領で地面を蹴り上げ、その勢いで俺の腹を水泳選手のように器用に蹴る。そこから反撃してくるとは思わず、いきなりの衝撃と痛みで緋緋の足首を手放してしまう。

 

 そして、同時に……。

 

 

 ゴォォ――――!! 

 

 

 と、まるで何匹もの獣が一斉に咆哮を重ねたような騒音がした。と思った瞬間――――何か強大な力が押し寄せてくる。まるで終わりのない波のように。

 

「……ッ!」

 

 腹部の痛みに加え、急な力に対応し切れず、ジリジリと後退しそうになる。不味い、踏み留まれない……! クソッ、これは押し戻される……!

 

「……チッ」

 

 そのまま成す術もなく、謎の力を諸に喰らった1秒後、俺は星伽神社の境内にある本殿までかなりの勢いで吹っ飛ばされた。その勢いは完全に殺しきれず障子にぶつかり、扉も壊れ室内まで転がる。

 

「いっつ……」

 

 受け身は取れたが……これがどうしてわりと痛い。空中を数メートルほど飛ぶなんて、超能力を除けばなかなかない体験だ。

 

 痛いだけでケガはなし……と。これはいつも通り。コートのお陰だな。まだまだ動ける。それより、蹴られた腹の方が痛いんだが?

 

 まぁ、ここまで色々と経験を積んできた。そこで得ることができた……なに、特性? として、俺は戦闘している間、余程のモノでなければ痛みを無視できる。痛覚は本来、命の危機を知らせる機能として必要なのであまり褒められたことではないが……。

 

「――――」

 

 しかしまぁ、咄嗟の烈風を放ったが、相殺し切れなかったな。風力が足りないとかそういう話ではなかった。それほどまでに強力だった。

 

 ……うわっ、室内がめちゃくちゃになってしまっているし、障子も破けている。ごめんなさい。

 

「んだその力……」

 

 それはそれとして、初めて喰らった力に自然と文句が垂れる。当然あれは超能力だな。その正体は何だ?

 

 銃弾も逸らせる烈風でも押し返せないとはあの能力は何なのか疑問に思う。思い返してみると、あれはどこか理不尽な……普通とは違う反則めいた力に感じた。純粋な力の塊に押されたような感覚に近い。

 

 ……髪を操ったサイコキネシスの応用? それとも何か斥力の類い?

 

 力の正体は直接緋緋に訊かないと超能力の知識が浅い俺では推測できない。それでも分かることはある。……まぁ、ぶっちゃけあれは防御できないな。それしか理解できないのは悲しいねバナージ。次来たら、範囲外に逃げるしかないか……?

 

 立ち上がりつつそのように結論付けて本殿から離れる。これ以上神社を壊すのは申し訳ない。

 

「…………はぁ」

 

 しかし、緋緋はジッとしているだけで追撃はしてこないな。あの斥力は連発できない? 消費する力が大きいのか? それとも射程外か……単純にそう思わせることが目的なのか……。

 

 真偽は不明だが、撃ってこないのならこちらとしては助かる。その方が圧倒的に都合がいい。とはいえ、緋緋の超能力はあれだけではない。他も警戒しつつ仕掛ける。

 

「行くぞ」

 

 その場から跳躍し、烈風と飛翔で加速して一気に緋緋との距離を詰める。

 

「――――ッ」

「む」

 

 俺のいきなりの行動に少し呆気を取られた反応を見せる緋緋。

 

 超能力者は近接に慣れていない傾向があるが、コイツはあの攻防で分かる限り神崎の体も相まってかなり近接も強い。だから、確実な有利は取れないだろうが、距離がゼロに近ければ近いほど――――超能力を使えば自分を巻き込む恐れがある。

 

 たしかに緋緋の力は強大。だが、必要以上に恐れるな。恐れは体を鈍らせる。どんどん詰めてけ。

 

 距離が近いまま俺は殴打や蹴りの連打を繰り返す。頭部腹部を中心に所々別の場所に狙いを変えて。

 

 緋緋が反撃しそうになったらその箇所を優先的に狙い、初動を封じる。センサーがあるからできる芸当だ。あと持ち前の眼を使った、わりと高確率で当たる相手の動きを予測で。

 

 そのお陰もあり、時折、緋緋の防御をすり抜けて俺の攻撃は命中する。

 

「やるなっ……!」

 

 緋緋は楽しそうに邪悪な笑みを浮かべ、俺の蹴りをクロスさせた腕で受け後ろに下がる。

 

 また数メートルほど距離を取られた。すぐに再度距離を詰め追撃したいが、さすがにさっきのラッシュで呼吸が乱れた。

 

「ふー……」

 

 1秒だけ呼吸を整えて攻撃を再開。同じ攻め方は通じないか? 次はどう攻めようか考え――――腰に納刀しているナイフを逆手で抜き、そのまま緋緋の頭へ狙いを付け投擲する。

 

「ちょまっ!」

 

 けっこうな勢いで飛んでいったナイフにビビったのか、俺がナイフを投げた瞬間、緋緋はギョッとした顔で屈んで避ける。

 

 まぁ、緋緋が避けなかったら普通に危険な攻撃だからね。驚くのは分かる。俺も俺で緋緋が避けるとある意味信頼しているからこそのこの攻撃なわけで。一般人にはしないよ?

 

 もし当たったとしても額か髪が多少切れる程度の高さの攻撃だが……。そんな判断、あの一瞬ではぶっちゃけ俺でもできない。あれは通常、誰だって反射的に避けてしまう攻撃だ。

 

 とはいえ、この攻撃はただの誘導。敢えて命を脅かす攻撃をすることで、どうあっても俺を見据えていた緋緋から、俺を視界から外すための動きだ。

 

「――――」

 

 緋緋が屈んで俯いた瞬間を見逃さず、俺は飛翔を使いつつ思い切り跳躍し、緋緋の真上まで移動する。その勢いを殺さず空中にいる状態で――――かかと落としを繰り出す。

 

「ガッ……!」

 

 追加で烈風を用いて加速したかかと落としは緋緋の頭頂部へクリーンヒット。脳天直撃。緋緋の呻く声が聞こえる。

 

 そのまま着地し、その流れで右腕と右足を引いて半身の構えを取り、殴打の構えを取る。まだダメージが抜けていないだろう緋緋へ羅刹――――殺人技を放とうとしたが、さすがにそれは不味いと判断し……。

 

「――――ッ!」

 

 腹部へ烈風で加速した羅刹に近い渾身の掌底を放つ。

 

 まだ防御も回避もできない緋緋はこの攻撃を諸に受け、大きく吹っ飛び転がりながら後退する。

 

 …………大丈夫、向こうの攻撃手段はかなり理不尽だが、俺の攻撃を受ける体は神崎そのもの。こんな俺の攻撃でも間違いなく通じる。

 

「調子に……乗るなよ!」

 

 甲高い苛ついた一言と共に緋緋の周囲は黒く染まる。

 

 

 そして――――そこから黒い立方体がざっと10個ほど浮かぶ。

 

 

「チッ……」

 

 追撃に走ろうとした脚を止めて、現状を把握する。

 

 あれは……影か。

 

 当然、向こうも使えるよな。

 

 ――――とはいえ、不味いな。あれは攻撃はもちろんとして、防御としても破格の性能。全てを呑み込むモノだ。あれに吸い込まれたらどんな攻撃も通じない。ソースは俺。ヒルダの雷もミサイルも吸い込めた。

 

 突破方法は使える俺も知らない。ならば、せめて短時間だろうが同じ土俵に立てせてもらう。

 

「……お前も出すか」

 

 とりあえず1つ俺も影を出現させる。力は少しでも温存させたいからまず1つで様子見。

 

 緋緋と影を見据えつつ後ろに下がり――――影を発射する。とりあえず緋緋目掛けて。

 

「…………」

 

 緋緋は微動だにせず、俺の影の軌道上に1つ、緋緋の影を差し出す。影同士がぶつかったらどうなるか不明だが……どうなる?

 

 そんな不安を抱くと同時に、互いの影はぶつかり――――バシュ! というどうも形容しがたい変な音が鳴り響き、どちらの影も跡形もなく消失する。

 

「これは……」

 

 ……俺の影の中に何か取り込まれた感覚はない。

 

 もし緋緋が取り込んだなら、まだそこに存在するはずだが、今はその感覚もない。完全に操れないし、反応もない。恐らく向こうも同様か? 

 

 つまり、それぞれ別の使用者の影同士がぶつかると互いに取り込まれずにただただ消えるということになる……のか。

 

 初めてのパターンに遭い、考察すると同時に困惑する。危険だと分かっていても少しの間硬直してしまう。

 

「ほう……」

 

 緋緋もこれは知らなかったのか、意外だったのか少し目を丸くする。と、まだ緋緋の周囲にあった複数の影はその場から消える。

 

「まぁ、使わないか」

 

 この超能力を使っても、同じ力を扱えるモノがいれば無駄になると思ったのだろう。

 

 たしかに、これでは影を使っても決定打にならない。……最も、俺は影を短時間しか使えないが、向こうはそれを知らない。もしかしたら、緋緋も同じかもしれないな。

 

 と、しばらくの間どちらも動かず膠着状態が続いていると、緋緋は攻撃の気配を見せずにゆっくりと歩き、神社にある……置物の岩? に「よっと」と言いながら腰かける。

 

「なぁ、イレギュラー」

 

 頬付きしながらまた神崎の体で優雅に語りかけてくる。似合わねぇな……。

 

「何だよ。続きやらないのか」

「一時中断だ。お前に訊きたいことができてな」

「こっちは別に一時と言わず、このまま終わりでいいが……で?」

 

 警戒は当然しつつ、俺は投げたナイフを拾いに緋緋の方へ歩く。敢えて隙を晒すように歩いているが……攻撃する気配はないな。センサーも反応なし。

 

 えっ、これマジで話するだけなの?

 

「お前はなぜ戦う?」

「……あ?」

「率直な感想を言うと、イレギュラー……お前は相当強い。妹の力をあれだけ使えるのはもちろん、他の超能力や体術も個人のレベルとしてはかなり練り上げられている。なにせ、アリアの体を使ってこれだけ攻撃を喰らうとは思わなかったぞ。……頭も痛いしな。候の体ならもう少しマシだったか……」

 

 随分と褒められるな。あまり嬉しくはないけど。

 

「だから気になった。あたしは楽しいから戦う。では、お前は? それだけ強いお前は何を理由に戦う? そこにいる巫女たちを守るため……などというその場限りの理由ではなくてな。お前の根底にあるモノだ」

 

 そんな言葉を訊きつつナイフを拾って納刀。

 

 ……ホントに攻撃してこないな、と内心呆れながも緋緋の言葉について思考を少し巡らせる。

 

 俺にとって戦うことは生活するため。武偵として生きるための手段に過ぎない。戦わずして稼げる場合はあるが、やはりどこかで戦う選択肢を強いられる。武偵は戦わなくては生き残れない。

 

 しかしまぁ、本音を言えば――――そりゃ当然戦わなくて済むなら戦いたくはない。こちとら神崎みたいに戦闘狂ではないし。痛い思いをするのも怖いと言えば怖い。

 

 では、なぜその都度で俺は戦う? もちろん生活のためだが、もちろんそれだけではない。そのときで理由は様々だが、大抵は戦ったあとの結果が重要だ。

 

 ――――何を得たか、何を守れたか、何を失わずに済んだか。

 

 まだ思考が纏まらないままも口を開く。

 

「……別に、戦いそのものに意味はない。緋緋、お前は戦いを楽しみたいそうだが、戦って何になる? 一時の快楽を得て……それが何だ? んな下らないことに命を懸ける必要なんてどこにもないんだよ。お前はどうせ今もゲーム感覚でいるから、この言葉も響かないんだろうけどな」

「…………」

「戦っている過程なんてクソ喰らえだ。俺が戦う理由は……そうだな、ざっくり言えば――――誰かに感謝されるため、かな。なんかあれだ、元ボッチかと疑う答えだな」

 

 まるでらしくない言葉に自嘲気味に笑ってしまう。

 

 その誰かは依頼主でも、身近にいる人たちでもいい。それこそ、自分で自分を褒めることでも充分だ。

 

 緋緋は俺のどの言葉に苛ついたのか分からないが、眉間に皺を作り、どこか不愉快な表情をしている。

 

「今回で言えば、神崎に恩でも売ったら高い飯にありつけるかもしれねぇしな。だから、緋緋。何度でもお前をボコボコにするぞ」

「面白くない回答だな。――――だが、それはそれだ。

あたしをボコボコにするか。やってみろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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神と人間

 ボコボコにすると再度宣言し、また始まる肉弾戦。

 

 目の前の緋緋の動きに意識を割きつつも、別のことに対しても思考を回す。

 

 

 ――――どうすれば神崎は元に戻るのか。

 

 

 ここに至るまで長らく考え、ぶっちゃけ全く結論が出なかったこの課題について緋緋と戦っている今だからこそ、俺はまた考える。

 

 緋緋は神崎の意識を完全に乗っ取ったと言った。それはもう確かな事実なのだろう。

 

 今まで何回か乗っ取られたことはあったらしいが、そのときは殻金が全部あったり、軽度ならすぐに戻せる対策したものがあったりしたらしい。

 

 しかし、今回はもう時間が経ち過ぎている。

 

 具体的な時間は分からないが、多分今までが数分程度だったのに対し、今回はもう数時間は経っているかもしれない。イギリスで乗っ取ったのかどこでこの状態になったかは今の俺では知る由もないが……。

 

 そこまで馴染んだのならば、もう使ってきた対策案は意味を成さない。――――それこそ、緋緋を殺すことでしか神崎を救う手段はない可能性がある。といっても、当然それはなし。

 

 であれば、前にアメリカで瑠瑠と話したように、やはり今度は神崎が乗っ取り返すしかなさそうな気がするが――――

 

「どうした、考え事か! あたしを前に!」

「――――ッ!」

 

 その緋緋の一言でハッと意識が戻り、反射的に銃を手に取ってしまう。その瞬間、緋緋のハイキックが俺の肩に直撃し、思考が中断してしまう。

 

 鳩尾を狙っていたからどうにか逸らしたと思ったが、勢いは殺せず直撃してしまう。

 

「いっ……!」

 

 かなりの力に思わずかなり後ろへ下がる。いや、痛すぎるんだが? その流れで銃を吹っ飛ばしてしまう。くそ、意識別のことに割きすぎた。銃は取りに行けない……戦力が下がってしまった。

 

 で、蹴りを喰らった直後、また距離が空いてしまい緋緋は手を前に突き出し。

 

「ほーら、吹っ飛べ」

「……ちょっ!」

 

 という言葉と共に、またあの謎の斥力が押し寄せてくる――――と判断した俺はすぐさま飛翔で上へ急いで飛ぶ。

 

 うわ……あっぶね。一度喰らったからか、どうにか予兆を感じれてギリギリ回避できた。肩の痛みで一瞬判断が遅れかけたけども。

 

 …………あ、神社がまた少し壊れた。恐らく本殿辺りの縁側がまた抉れた。相変わらず攻撃力高いな、あの斥力。

 

「ごめん」

 

 それはそれとして、聞こえない声で星伽さんたちに謝る俺。……あとで弁償しないといけないのかなぁ……いくら払えばいいんだろうか……ダメだ、怖くなってきた。

 

 内心別のことに怯えつつ、もう攻撃は終わったと判断してから着地。

 

 とりあえず考えなしにのんびり歩いて緋緋に接近する。

 

 何が来ても対応できるよう警戒はしているが、これからどうしようかなぁ……と、互いの距離が縮まったところで、緋緋は神崎の刀を抜く。そういや神崎も二刀だったなと今さらながら思い出す。

 

「あれ、お前って武器使えるのか」

「あたしがどれくらい生きていると思っているんだ。様々な武器を扱ったことくらいある。孫のときも色々と使っていたわけだしな」

「それもそうか――――じゃあ、とりあえず……動くな」

「……ッ。これは……!」

 

 4m切ったところでLOOにやったような最大出力の烈風での抑え付けを発動する。

 

 まぁ、軽いとはいえ機械のLOOも動けなかった出力だ。人間の体なら身動き取るのも難しいはずだ。緋緋は顔をしかめ、腕を動かそうとするが、それも叶わず膝を付く。刀を手放し、手を地面に付いて耐えている。

 

 常に台風並みの風が襲っているようなもんだならな。生身の人間が動くのはかなり辛いはずだ。

 

「くっ……」

 

 こちらを見上げ睨む緋緋。うん、少しはイイ気分だ。晴れ晴れ愉快気分爽快。

 

 さて……この出力をずっと維持するのはけっこうキツいので長くは続かない。長時間抑えるのはムリに近い。俺の力もいずれ尽きる。だから当然、さっさと次の手を打つ必要がある。

 

 で、とりあえず戦闘不能にはしたいから、銃を使う? いや、下手すれば殺してしまうし、風の檻のせいで多分狙いどおりに飛ばない。そもそも、緋緋の蹴りで吹っ飛ばされてからまだ拾っていない。

 

 それならば――――色金の力を除けば俺の最高火力を喰らわすために、俺は指の先に風を一点にただ圧縮させる。

 

 これを人に撃つのは初めてでどうなるか分からないけど、多分死にはしないだろう。という希望的観測と共に緋緋からの反撃に警戒しつつ集中力を練り上げる。

 

 俺の技でも攻撃力がかなり高い技でも喰らって大人しくしておいてくれ。頼むから。いやもうホントに。そんなカッコ付かない願いを込めて発射準備が完了する。

 

「災禍」

 

 LOOの大部分を破壊まで追い込んだ災害の塊である風の弾丸。

 

「……ッ!」

 

 ――――を緋緋に放った直後に気付く。

 

 緋緋の体の周りにかなりの数の緋色の粒子が、浮かび輝いていることに。これは非常に不味いとすぐに理解するが、もう災禍は止まらない。

 

 

 この現象が起こる超能力は――――瞬間移動!

 

 

 バキバキバキバキ――――ッ! 

 

 と思ったのも束の間、渾身の災禍は緋緋には当たらず飛ぶ前の緋緋の背後にあった木々を数本薙ぎ倒し、派手に折っただけに終わった。

 

「どこ!?」

 

 予想外の事態に面を喰らい、かなり焦る。緋緋の動きを完全に抑え付けた上で放った災禍は必中だと思い油断した。反撃の可能性を考慮していたとしてもだ。何か来る前に災禍を放てると確信していた。

 

 そうだ、コイツここに来た時点で瞬間移動使っていたな。すぐさま影や斥力などで抵抗しなかった時点でこれを選択肢に入れておくべきだった。

 

「あたしはここだぞ、イレギュラー」

 

 緋緋の声がした方向へ振り向く。アイツ……星伽神社の本殿の屋根に立っている。視界内の移動に使ったか。屋根の……わりと端の方に立っているな。

 

「いやしかし、お前の先ほどの攻撃……凄まじいな。正直引くぞ。いくらアリアの体の強度が高いとはいえ、あれを喰らえば最悪死ぬんじゃないか? 逃げて正解だったな」

 

 まぁ、それなりに太い木々薙ぎ倒したし。生身の人間に当てたらどの程度のダメージになるのか甚だ疑問である。

 

 ていうか、けっこう離れたな。直線距離でざっと20mくらいか?

 

「あたしたち姉妹の力を使わずにこれか。人の進歩は侮れない……か」

「これは借り物だから別にそんな誇れたもんじゃないが……それで、ここからどうする? 疲れたし、お茶でもするか?」

「悪いが遠慮する。まだまだ私は戦いを続けたいならな。しかし、お前相手に隙を作るのは一苦労すぎる。だから少々卑怯な手を使わせてもらおう」

 

 と、宣言して緋緋は瞳を紅く紅く光らせる。

 

「ッ……」

 

 あれは如意棒……レーザービーム。視界内のものならほぼ何でも貫ける光の銃弾。

 

 それを俺に……いや、緋緋は俺を視界に入れていない。なぜ? 俺の隙を作ると言っていたのに俺を狙わないとはどういう意味だ? どこを見ている? あらぬ方向に視線を向けているが――――いや、違う。アイツの視線の先、あそこには避難しているはずの星伽さんたちがいる……!?

 

「クソがっ……」

 

 ある程度貫通すれば威力は減衰して消えるとはいえ、木造建築が主流の神社だ。とてもじゃないが、防げるとは思わない。ここからでは誰狙いかも分からない。撃たれたら確実にアウトだ。

 

 俺の隙を作るってこういうことかよ。緋緋が本当に当てるかどうかは不明だ。しかし、だからこそ、不明な以上、武偵である俺はこれをどうにか防がなければならない。

 

 とりあえず、一度でも目を瞑れば発射をキャンセルできる。その間に距離を詰めてどうにかするのが最善だ。しかし、俺の手中には銃がない。災禍も射程外。

 

 しかし、20mほどの距離ならば飛翔で詰めることはできる。ただ、詰めてからすぐにチャージが完了したらそのまま撃たれるだけ。まず対策案を考えてからでないと特攻するだけもいいとこ――――あぁもう、ゴチャゴチャと考える前に行動しろ!

 

「……ッ!」

 

 災禍ほどの威力ではないが、それに近い風の爆弾を作り、爆発させその勢いで飛ぶ。いつもの飛翔とは違う、完全な勢い任せ。姿勢を制御することも、速度に注意することもしない。ひたすら真っ直ぐ、距離を詰めるだけに飛ぶ。

 緋緋の元へ近付いた瞬間、烈風で思い切りブレーキをかけ屋根にある瓦を蹴散らしながら目の前へと着地する。

 

 緋緋の瞳は緋色に輝いている。それはもう最高潮へと達している。俺が次何か行動しようとする前にもう貫かれているかもしれない――――そう脳裏に過る。

 

 俺が緋緋の元へ行けたとしても間に合わない。それは飛ぶ前には分かっていた。仮にも、俺もレーザーを使ったことがある。そのため、直感でそのことは理解していた。

 

 ――――だから、その直前にはもう手は打っている。

 

「っ……!」

 

 俺が着地した瞬間、緋緋は顔を苦痛で歪ませる。と同時に眼を閉じた。つまり、これでレーザービームのチャージはリセットされた。

 

「あの一瞬であたしを切るか……」

 

 つっても、ナイフ投げただけだが。まぁ、かなりのスピードで突っ込んだ状態で狙った箇所にナイフ投げるのはかなり難しかったな。

 

俺が投げたナイフは緋緋の脚へ少し深めに傷を付けた。刺さりはしなかったが……。出血はしているな。傷跡が残るかもだが、そこは必要経費で神崎も許してくれるだろう。

 

「……さてと、いつでもレーザー撃とうとしていいぞ。その度に邪魔してやるよ。今度は見えない斬撃でも喰らわそうか?」

 

 さすがに災禍並の威力で飛んだから、あの刹那で鎌鼬を使うのは厳しかったが……ここまで来たら関係ない。いつでも防げる。

 

「チッ、これでもお前の隙は作れないか。やはり強いな、イレギュラー」

「そりゃどうも」

「しかし……だからこそ惜しいな。それほどの力があれば、もっと戦いを心から楽しめるのに。誰かのため、などと詰まらないことをほざく」

 

 そう文句を付ける緋緋にはぁ~っと大きくため息を吐いてから。うん、ちょっとイラッとくるな。何だそのわざとらしいため息は。

 

「さっきも言ったが、そもそもとして俺は極力戦いたくない。ただ、俺は武偵だからな。嫌々ながらお前みたいな理不尽な悪と戦う必要はある。武偵は社会を円滑に回すために戦う法の番人だ。ここでお前を倒さないと……いずれ関係ない人が多く亡くなるだろ。戦争を起こすつもりならな」

 

 まぁ、どうやって個人が戦争を起こせるのか想像が付かないが……。

 

 俺の言葉にまた緋緋は不愉快そうに顔を歪める。

 

「まぁ、何だ。俺はクソみたいな悪が日常を送っている奴を手にかける前に潰すだけだ。つまり――――お前は邪魔だ」

 

 話し終えると同時にまた風の檻で緋緋を一瞬抑え付ける。それこそ1秒程度。

 

「……チッ!」

 

 少し話したおかげで時間は稼げた。ほんの少しの出来事だが、また動けないことを緋緋は悟る。

 

「…………」

 

 緋緋を戦闘不能に追い込みたいが、神崎の体だ。下手に致命傷を与えるわけにもいかない。それこそ、俺は攻撃手段に殺傷力の高すぎる影やレーザーは使えない。

 

 それでも、普通の攻撃では意味がない。一撃で緋緋の意識を刈り取る必要がある。

 

 だから――――シンプルに渾身の力で殴る。横隔膜辺りを狙って呼吸を封じる羅刹も使わない。ただ殴る。どこでもいいから殴る。

 

 今まで俺は烈風の勢いに乗り普段より威力のある殴打や蹴りを繰り出してきた。今から行うのはより強力にした攻撃。

 

 つまるところ、災禍ほどの威力のある風に乗り殴る。それだけじゃない、ただ風の勢いで加速するわけでもない。殴るときの腕……具体的には肘にも飛翔で使う風の爆弾を使い加速させる。

 

 端から見れば動き自体はただ直線的に見えるだろう。しかし、その速度は誰にも捉えられない。捉えさせない。災禍を纏った殴打。

 

 その名も――――

 

 

「――――風穴」

 

 風の檻を解除した瞬間、緋緋の腹部へと飛んでくる俺の拳。防御も回避間に合わない速度で到達した俺の攻撃は当たる。

 

 触れた時間は僅かだが、俺の拳は緋緋の腹へ思い切りメリッ――――と食い込む。

 

「……ガッ!」

 

 俺の攻撃を受けた緋緋はそれは見事に吹っ飛ぶ。さっき俺が緋緋の斥力を受けたとき以上の速度で屋根を端から端へ転がり回る。その勢いを殺し切れず屋根から落ちたが……そこはさすが神様。ギリギリのところで受け身を取っていたらしい。

 

 しかし――――そこから微動だにしない。腹を抑え踞っている。

 

 これで俺もバランス崩して屋根から落ちたらカッコが付かないし、ゆっくり歩いて緋緋へと近付く。

 

「いっ……」

 

 …………この技ダメだな。初めて使ったが、思っている以上に反動が凄まじい。災禍ほどの衝撃を俺の腕だけが受けたんだ。かなり痛む……下手すればこれ腕の骨どこかやってそうな勢いだ……。

 

 右腕が動きそうもない。全くと言っていいほど力が入らない。ひたすら痛覚だけが伝わってくる。

 

 これでは……もう戦闘が続けば右腕は使えない。俺も俺で手は出し尽くした。まだ戦うなら多分マトモに戦えない。しかし、今それを見せてはいけない。平気だと気丈に振る舞え。

 

 屋根から緋緋を見下ろす。まだちゃんと呼吸が出来なさそうに嘔吐いている。そして、ここまで移動した俺に気付いたらしく、俺を見上げ涙目で睨んでいる。ただその眼に闘志はない。

 

 ここまで痛め付ければ超能力を使うための集中力も練り上げることも出来なさそうだな。そもそも使っているのが神崎の体……まぁ、色々と可笑しいところがあるが、神崎も人間だ。その体がここまでやられたんだ。すぐに回復とまではいかない。

 

 ……さすがに、勝負あったな。

 

「…………星伽さん呼ぶか」

 

 どうにか勝てた。一先ず、その事実に安堵する。もうこれ以上はムリだぞ。

 

とはいえ、まさかただの人間が神様に勝てるとはな。まぁ、意識の違いがあったかもしれないが……。俺は当然命懸けなわけだが、緋緋は別に操っている神崎がヤられても本体はノーダメージだし。

 

とりあえず緋緋はどうにかできたが、神崎を救うには……ここからどうすればいいのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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コレカラ

 色々とあり、どうにか緋緋に勝てたその後……星伽さんを呼びに行く前にスタンバトンで緋緋に電気を流し、一先ず気絶させてから星伽さんと合流した。

 

 星伽さんが持っていた超能力を封じる手錠を付けてからとりあえず縄でグルグル巻きにしてお米様抱っこで星伽神社の本殿に入る。

 

 柱にも括り付けて話し合いがスタート。

 

「あぁ~……」

 

 それはそれとして、疲れからの唸り声が漏れる。

 

 しかしまぁ、今回もマジで疲れた……。戦い終えてしばらく経ったのでアドレナリンが切れ始めた。そこいらがもう痛いし、全身気怠さが襲ってくる。

 

 実際問題、大きく吹っ飛んで本殿ぶち破ったしな。現に今も本殿の一部はボロボロに崩れており、埃やら木屑やらが飛び散っている。そんで吹きっさらしなので寒いなおい。

 

「よく……勝てましたね」

 

 星伽さんはまだ寝ている緋緋に目配せして感慨深そうに呟く。

 

 まるで夢から覚めていない視線を向けている。人間が神に勝ったのだ。いくら前提条件が違うとはいえ、緋緋をよく知っている星伽さんからすればなおさら……か。そして、俺を見る眼はある種、まるで人間とは見てなさそうな気もする。

 

 気持ちは分かるけどな。

 

「意識の違いがあったと思うからどうにかな」

「……意識、ですか?」

「ざっくり言えば命を懸けているか懸けていないその差……って感じかな。あとイラついているときはあっても緋緋は終始遊んでいる印象だった。いや、遊んでいるってより楽しんでいるのが正しいか。……何て言うかな、実際のところそこまで殺意ある攻撃少なかったし」

 

 緋緋が俺を本気で殺そうとすれば、やろうと思えばノーモーションで影を使って俺を殺すことなど容易いはずだ。

 

 それこそ俺の知らない超能力連打でゴリ押しもできたはずだ。実際、あの斥力には初見だと全く対応できなかった。それに、神崎のガバメントも全く使わなかったからなぁ。いやまぁ、万全の俺に銃は効かないけど。

 

 心の奥底では、殺す<楽しむが勝ったんだろう。だからどこか隙はあった。その上、ろくに追撃もしてこなかった甘さもあった。俺を斥力で飛ばした後にガバメント連射されたら多分死んでた。

 

「次戦えばこう上手くはいかない……かもな」

 

 もう戦いたくはないが、もし次があるなら……俺はどうすべきか。こちらも神崎の体を殺す覚悟をすべきなのか、同じ手は通用するとは思えないから……また色々と考え直さないといけないだろう。

 

 それはそれとして――――

 

「これからどうする? 緋緋と神崎を分離させる方法ってある? さっき舞がどうのって言っていたが」

「神楽舞……舞は本来色金に取り憑かれた方を戻す舞と言われていますが、比企谷さんの戦いを見た限り、あの緋緋神の発言は正しいと思われます。あそこまでアリアに定着したとなると……もう……」

 

 伏し目がちに発言する星伽さん。

 

 俺もその意見には同意する。実際に戦ってみて感覚で理解したが、前に何回かされた俺みたいな不完全な乗っ取りとは訳が違う。緋緋の言う通り、今も別に神崎の意識が戻っていない。正常な手段では取り返せないだろう。

 

 まぁ、もうここまで来て外部からの手段を頼りにはしていなかったが、少しは残念な気持ちになる。

 

 となると、次の問題は――――星伽さん本人ではなく星伽神社はどうするのだろうか。

 

「神崎は取り戻せない。緋緋もいずれ意識が戻る。なら星伽さんは……星伽はどうする?」

「そ、それは……」

 

 俺の言葉に対して星伽さんは目が泳ぐ。俺と視線を合わせようとしない。もうこれで何となく察したところはある。しかしながら、とりあえず確認だ。

 

「まず、過去このようなケースはあったのか?」

「はい、ありました」

「そのとき過去の星伽……緋巫女はどう判断した?」

「乗っ取られた人と一緒に……殺した、と記録に残っています」

「だよなぁ」

 

 予想通りの回答に思わず眉間に皺が寄る。

 

 まぁ、そうなるよなといか言いようがない。あぁ、なんかもう嫌になってきた。やはり星伽さんにもこの状態の神崎を救えないのか。薄々察してはいたが、ここまで手詰まりだとはな。

 

 元々俺はこれ以上どうにかできるとは思っていなかった身だ。本来、色金のことが知りたくて、ただの興味本位で星伽神社まで来たわけだ。――――しかし、こうして緋緋と戦った以上、ここから星伽さんに全部任せるのは心苦しい。これで神崎か星伽さんに何かあったら寝覚めが悪すぎるだろ。

 

 また緋緋が暴れ出したときの抑止力としてもまたここにいる必要がある。――――誰か別戦力が来ない限りはな。

 

 とはいえ……星伽神社が殺すしかないと判断を下しても星伽さん本人の意志はまた別だろう。若干涙声の星伽さんに再度声をかける。

 

「なら星伽さんはどうしたい?」

「星伽の使命は果たさないといけない、そんなの分かっていますけれど…………私は……アリアを殺したくないです」

 

 涙声の星伽さんに対して若干気まずくなる。ので、少し話題を逸らそう。

 

「だよな。知っている。……そのわりにはM60ぶっ放していない? あれ神崎や遠山じゃなければ普通に死ぬぞ?」

「そ、それは今関係ないですよねっ!」

 

 そうだね。毎度の如く俺らの部屋がぶっ壊されていたこと以外は関係ないね。……と、茶化して場の空気は幾分か和らげることには成功した。

 

「それを言うなら……比企谷さんだって人のこと言えないですよね。神社の本殿……こんなに破壊して」

「待て。それに関しては緋緋だから。俺じゃない」

「では鳥居近くの松の木々をへし折ったのは?」

「……俺です」

「ほら」

 

 くっ、まさか星伽さんにカウンターを喰らうとは……。何気に失礼な発言だが。いやそれでも、頻度という観点から考えればまだ俺の方がマシなのでは?

 

「というより、あそこまでへし折れるのスゴいですね」

「いや星伽さんもできるだろ。あの新幹線すら斬ったことあるし」

 

 と、互いに軽口を叩きつつ本題に。

 

「解決策は……何だろう、外部から試すのはもう悉くダメってことなら、拷問でもしまくって緋緋が出ていくのを試すしかもう俺は思い付――――ん?」

 

 非常に冷たい深夜の風が吹きっさらしになっている部屋の中に入ってきている……とはまた別の音がする。

 

 ザッと雪を踏む音だ。何かが落ちた音ではない。複数回規則的に耳に届いている。自然発生した音ではない。人為的な音だ。多分足音……? 音からすると男性? 女性の足音ではない。雪の踏む大きさで何となく分かる。ということは星伽さんの姉妹ではない。

 

 音の大きさ的に俺と体格はそんなに変わらない男性……。そして、この閉鎖的な神社である場所を知っている奴と来れば答えは明白だ。

 

 なるほど、誰が来たのか理解した。これは――――ようやく終わりか。

 

「比企谷さん? どうしました?」

「……俺の出番はここまでだな。布団貸してくれない?」

「えっ……あぁはい……」

 

 何事かまだ理解できていない星伽さんをよそに気怠けな態度でクルッと振り替える。

 

 しばらくすると、そこには生傷が付き雪に覆われている……ここに来るまでの過程が気になりすぎる男がいた。たしかイギリスにいたはずなんだけどなぁ……。なんでここにいるの?

 

「キンちゃん!」

「白雪、遅くなった」

 

 あぁ……ダメだな、これで一区切りって自覚すると一気に疲れが押し寄せてきた。

 

 ずっと気が張っていた部分はあるし……何だかんだで超能力がっつり使ったしな。災禍級の超能力を連続で使ったり、影も少し使ったりとだいぶ堪えた……。休む前にマッ缶飲もう。補給は大事だ。

 

 一先ずようやく遅れて来た主役にバトンタッチだ。俺の仕事はここまでだ。なんか毎度こんな感じだなと思いながらも疲労には勝てない正直な体をしている。

 

 遠山の肩を軽く殴って俺は消えるとしよう。

 

「あとは頼んだぞ。俺は寝る。疲れた」

「比企谷……ありがとう。任せてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――翌朝。

 

 といってもまだ4時。冬真っ只中だと日は昇っていない時間帯。青森のような北国だと特に暗い。3時間ほどしか寝れていないが、どうも目が覚めた。

 

 あれから星伽さんの妹に離れを案内してもらいそこで寝た。ただまぁ、変に目が冴えてしまいあまり眠れず起きてしまった。あと暖房ないから寒いしな。いくら布団を被っても寒いのは寒い。

 

「……」

 

 コートを羽織り、MAXコーヒー片手に外へ出る。放置していたが、さすが北国の冬。冷蔵庫並にキンキンに冷えてやがるぜ。くぅ、甘くて冷たい。そんなことをしながら境内を宛もなく歩いている。

 

 緋緋と戦ったあともMAXコーヒーを補給したから超能力も回復はした。このくらいなら瞬間移動は1回は使えるけど……あ、駅に荷物置きっぱなしだ。飛んで帰るにしても荷物回収してからになるなぁ。

 

 こんなかなり寒い場所を歩いていると一瞬で目が覚める。もう眠くない。

 

 ……うん。それはそれとして。

 

「…………」

 

 …………さっきから俺を見ている奴は誰なの? 屋根からなんか視線を感じるが……。

 

「んー。あら、八幡じゃない。暗くてよく分からなかったわ」

「……」

 

 数時間まで散々訊いた声。しかし、確実に違うと分かるこの声色。屋根へ視線を向けると、月明かりではっきりと見えるピンク色のツインテールが揺れている。雰囲気からも見て取れる。

 

 緋緋ではない、あれは神崎だ。間違いない、そう確信できる。

 

 飛翔で飛んで俺も屋根に移動する。

 

「神崎……ようやく戻ったか」

 

 こちらのいかにも気怠けな問いかけに笑顔を見せる神崎。

 

「えぇ、随分と迷惑かけたわね」

「全くだ。かなり大変だったからな」

 

 神崎の隣に腰をかける。雪が止んだけど当然屋根は冷たいな。

 

「で、どうやって戻れた?」

「ざっくり言えば乗っ取り返したのよ。乗っ取るって言うのは命を奪うもんなの。緋緋の命を今度はあたしが握った。……ま、それも八幡、あんたが緋緋を散々痛め付けて弱らせたおかげだけれどね。それと、キンジのおかげよ」

「随分と簡単に言うな……」

 

 あっさりと告げるが、それが出来なかったから今まで苦労してきたわけだろ。あとそれもかなり高度なことだよな。俺は当然出来なかったわけだし。

 

「超能力もだいぶ使えるようになってきたのも、乗っ取り返せた理由かしらね。まぁ、だからってあたしだけではどうにもならなかったのが現実。八幡やキンジが頑張ってくれたからの結果よ。だから、ありがとね」

「どういたしまして」

 

 まぁなんだ、その一言が聞けただけで良しとしよう。

 

「ていうか、乗っ取ったって緋緋は大丈夫なのか?」

「当たり前よ。あたしがそんな簡単に殺すような人だと思う?」

「うん」

「風穴!」

 

 ほら。

 

「別に何てことないわよ。あたしが上にいるからもう直接どうのできないしね。ただ、色金の力の使い方をこれから少しずつ教わる予定よ」

 

 名実共にこれで緋弾のアリアになるわけか。

 

 平然と言うよ。俺も使えるから何様って話だが、こうも周りに色金の力を使える奴が増えるとなると恐ろしいことこの上ない。

 

「そういやこれから緋緋はどうするんだ? まぁ、どうするも何も、本体はあれこれできるもんではないが」

「それなんだけどねー。あのあとあたしと白雪、キンジで本体のとこ行ったのよ。そしたら何やかんやでちょっと地盤が崩れてね」

「おい」

「まぁまぁ、気にしないで。……でね、緋緋本体を取り出せるようになったから故郷まで送ってあげようと思ってね」

 

 ほーん。色金の性質的に本体を動かして何が変わるの変わるの疑問だが故郷にか……うん?

 

「いや緋緋の故郷って……」

「えぇ、察しの通り宇宙よ! キンジと行ってくるわ。八幡はどう?」

「…………」

 

 宇宙……宇宙ときたか。話がブッ飛んできたな……。寝起きには辛い話だ。どうしてか頭が痛くなってきた。

 

「あー、うん。俺は遠慮するわ」

「あら? 別にいいのに。せっかくの機会よ?」

「行きたくないって言ったら嘘になるけど、今回はパス。わりとノンストップで疲れたからな」

「残念」

 

 と、口惜しげに呟く神崎を見て、ようやく事の終わりなのだと実感できた。

 

 

 ――――これにて神崎アリアを巡る色金騒動は一旦の幕を閉じた。緋緋の力を扱えるようなった緋弾のアリアとして、神崎はこれから色金の力を用いて様々なことを解決するのだろう。

 

ここまで来るのに大変だったんだ。このまま一件落着として終われてほしいが、一件落着ということはまた何回も厄介なことが起こるのかもしれない。なるべく平和に過ごしたい気持ちはある。しかし、それを許してくれないこともあるかもしれない。そのときは……まぁ、今回よりも酷いことはないと信じて頑張るとしよう……。

 

 

「その代わり――――色々と大変だったからな。また飯奢れよ」

「えぇ、もちろん。そのときはキンジもレキも一緒にね」

 

 

 

 

 

 

 あれから遠山とアリアを送って、星伽さんに礼を言ってから、星伽神社をあとにした。ある程度崩壊したのが心残りというか申し訳ないが……。駅前までタクシーで移動してから荷物を回収。

 

 電車や新幹線で帰るのは面倒だったので、全然人がいなかったので、多少光ったところで不自然に思われないだろうと判断し、トイレの個室で瞬間移動を使って帰宅。

 

 おっと、もうリビングに着いた。

 

「いやこれ……便利だな」

 

 思わず独りでツッコミを入れる。

 

 体には疲労が蓄積するけど、目前に広がる光景は俺が普段から暮らしているリビングだ。こんなな一瞬で帰れるとは軽く感動もんだ。下手すれば初めて色金に感謝したいくらいまである。命を救ってもらっている身で何を言っているレベルの発言だが。

 

 ……って、ヤバい土足だ。と、急いで靴を脱いでいると、ガチャっと音がするので、向いてみるとレキがいた。

 

 ドラグノフを、持っているレキがいた。

 

「八幡さんでしたか。物音がしたので何事かと。お帰りなさい」

「おう、ただいま。それはいいけど、どしてドラグノフを?」

「不審者かと思い」

 

 似たようなもんだけど。

 

「レキもウルスから戻っていたんだ。お帰り」

「はい、ただいまです。それで、アリアさんは?」

「結果は上々。何とかなったよ」

「それは良かったです」

 

 荷物を片付けて風呂に入っところで落ち着ける状態になった。

 

「って、なんで神崎云々知っていたんだ?」

 

 互いにソファーに座ってのんびりダラダラしながら話す。俺はおやつを摘まみつつ。

 

「理子さんから星伽さんに話があると青森に行ったと訊きましたので。あとはアリアさんからも連絡ありまして。解決したと」

「そっか」

「それで、八幡さんは緋緋神と戦ったのですか?」

「流れでな。向こうから喧嘩売ってきただけだ」

「ボコボコにしたと訊きましたが」

「いやボコボコて……。一応は勝ったけど、こっちだってわりとヤられたぞ。考えたくないけど、最初から緋緋が俺を殺す気ならどうなっていたか……」

 

 ソファーで話す内容にしては物騒だな。

 

 少し気まずくなったのか何を思ったのかチラッとカレンダーを覗く。

 

「もうそろそろ3月か。2年も終わりだなぁ」

「とても濃い1年でしたね」

「だな。理子の武偵殺しから始まり……色々あった1年だったなぁ……。その前に期末試験どうにかしねぇとな」

「八幡さん、成績はかなり高順位でしたよね?」

「星伽さんに続き万年2位だったが、なんかこの前から3位に落ちたんだよな。星伽さんにも勝った、新しい1位の……望月なんちゃらとやらに聞き覚えがなくてな。ちょっと悔しいけど、数学が伸びねぇからどう足掻いても勝てなさそう」

 

 いやマジで誰なんだ。望月なんちゃらとやらは……。たしか救護科って記述があったが、心当たりはない。また同じ救護科の戸塚から訊いてみるとしよう。

 

 とは言っても、今まで見たことなかったってことは神奈川辺りからの転校生なんだろう。さすがに一般から転校してわざわざアホの巣窟に来るのはないと思うからな。まさか武偵でここまで賢い奴がいるとは。

 

「そういや、レキの成績は? ちゃんと進級できる?」

「問題ありません」

「良かった良かった。つっても、こんなアホアホ学校で留年する奴なんざいるわけないけどな」

 

 いるとしたら、成績云々よりも授業を休みまくっている奴くらいになるか。まぁ、何にせよいるわけないか。

 

「ところで、お前はこの先予定というか何か依頼とかあるのか?」

「現段階では特に依頼はありません」

「そっかぁ。あるなら付いていこうかなとか思ったけど……まぁ、3年になるまでの間はのんびりしたいな」

 

 と、レキは一拍置いて発言する。

 

「3年といえば……八幡さんは卒業後の進路をどうお考えで?」

「これといって考えてないけど。どっかで事務所構えるかフリーランスで動くか……どちらかと言えば後者かな。レキがずっとそのスタイルだし、俺もその方が動きやすいだろ」

「そうですね。私からも後者の方がありがたいです」

 

 今さらながらナチュラルにレキと一緒にいるのが当たり前みたいな会話だったことにある種の戦慄を覚える。いやもう当たり前レベルなんだが……こういうことを話せるとは中学の俺に言っても信じられないだろう。

 

 あの頃の俺はまぁ、色々と荒んでいたからなぁ。周囲に存在を軽んじられて、裏切られて、酷いトラウマを抱えていた。そんでまぁ、人の……特に他人からの好意を信じられなかった。

 

 いや別に今でもそのトラウマが完全に治ったとは思わないけどね? ただ多少はマシになったとも思う。というより、武偵になった以上誰から構わず信じることはご法度だ。常に疑うことから始める必要がある。

 

 とはいえ――――信じられる相棒がいるのは非常に心強い。そう感じられるようになったのは多少は成長したと言えるのだろうか。

 

「八幡さん?」

「……ん、何でもない。とりあえず、進路は追々だな。親からは大学も勧められたけど、そもそも卒業できないと武偵の資格を保持することすら難しいし」

 

 たしか武偵高を退学……中退になると1週間程度で武偵免許が剥奪されるはずだ。総武高のときのような事例は依頼ということもあり特例だからまた別だったが。

 

「いざとなれば免許程度、私がどうにかできますよ」

「なんかおんぶ抱っこされるのは格好が付かない……まぁ、頑張るよ。それにランクは上げたいしな。Aにはなりたい。金はほしいし」

「八幡さんならAとは言わず、Sでも遜色ないレベルだとは思いますよ」

「それは超能力ありきだろ。試験なら超能力は使いたくないからなぁ……。SSRなら未だしも強襲科が超能力使うと目立つし。こんな話前にもしたことあるな」

「超能力がなくても充分な実力ではないですか?」

「んー、超能力なしで遠山や神崎、それこそレキみたいに一芸に秀でている部分があるって言われれば……ないような気がする。」

 

 射撃技術はレキや神崎、遠山には客観的に見ても遠く及ばない。体術はそこそこ自信あるけど、それだけでSになれるとは思わない。

 

 別にそれでもいいかとムリヤリ納得する。

 

「まぁ、武偵は本来実力を極力隠すもんだ。ランクは低かろうが優先度はそっちのが高い。隠せるならそれに越したことはない」

「超能力は情報を知らないと対処しにくいですしね」

「だな」

 

 とはいえ、裏の奴らには映像撮られているんだろうなぁ。今回、緋緋と戦ったときの映像はかなり雲が分厚かったが、撮られたのか分からないな。多分、撮られていないが……いや、よくよく考えればあの戦闘で新しい力を使ったとかそういうのはないな。

 

 それなら構わないか。どうせ今の俺の最大火力の影や災禍はアメリカで記録されているだろうし。

 

 ――――しかしまぁ。

 

「……」

 

 こういう将来に向けた会話をしていると、本当にこの怒涛の1年が終わるのだと実感する。

 

 とてもじゃないが、この1年を越える出来事なんて起きないだろう。そう思えるくらい濃い時間を過ごした。武偵高とかいう魔境の3年になろうが、ここまで面倒な事態には出くわさないだろう。

 

 そう思いたい、そう願うばかりだ。

 

「まぁ、3年になってもよろしくな」

「えぇ。もちろんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか止めどきを失ったけど、多分ダラダラと続けます


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そしてパレードは続く

「ねーむっ……」

「期末試験が終わったのだ。進級はできるだろうし、しばらく休んだらどうだ? お主、ちょくちょく学校にいなかったから、疲労も溜まっているだろう?」

「だよね、よく八幡学校休んでいたよねー。ズル休みじゃないだろうし。ねぇ、どこにいたの?」

「どこって言うと、香港……いやこれは修学旅行だから関係ないか。そのあとはアメリカで砂漠横断したり、青森の山奥を行軍したり……まぁそんな感じだ」

「アメリカと青森を同列に並べるのか……」

「なんか八幡って感じだねー」

「待て戸塚。それはどういう意味だ」

 

 放課後、武偵校内にあるカフェで材木座と戸塚、3人でのんびりお茶をしている最中だ。

 

 何て言えばいいのだろうか、このような穏やかな時間に懐かしさすら感じる。最近、誰かと会話した内容は大概物騒な内容だったこともあり、今まで以上に落ち着く。なんなら死にかけた回数の方が多いまである。いやなんで高校生で死にかけないといけないのだろうか……分からない。

 

「えー、だって八幡いつも危険なところにいない? 新幹線の上とか」

「あの新幹線ジャックお前らもいたろ。俺だけじゃないって」

「そうだけどね。でも僕は星伽さんのおかげで戦線離脱できたから」

「常に前線に立っていたのはお主であろう」

「材木座も前線っちゃ前線だろ。爆弾のすぐ側だったんだから。なんなら一番危険なまであったろ」

「その通りではあるが」

 

 あれは非常にスリリングだった体験だったと今さらながら思い至る。

 

 高速で走る新幹線の上に立つという貴重な経験はもう二度とないだろう。いや全然全く何かもかも貴重じゃない。なんであんなクソみたいなところで戦闘していたんだ俺は。

 

「そういや材木座。武装の定期メンテありがと」

「うむ、いつものことだ。しかし、あの黒のコートに仕込んであったプロテクター、メンテナンス方法が記されていたマニュアルは読んだが、上手くできた自信はないぞ」

「お前がムリなら俺もムリだ。そんなのイチイチ気にしないわ。それなら似た製品を造ってくれよ」

「あのレベルは個人で制作するのムリ筋に近いが……」

 

 アメリカでアンガスさんに貰ったあの腕に仕込んだプロテクター、そんなに性能いいのか。そりゃジーサードが使っている代物だが、材木座にそこまで言わせるとはな。

 

 ほへぇー、あれ性能いいなと漠然に思っていたが、本当にスゴい代物なんだなと材木座の言葉で改めて実感した。どうせなら全身に付けてほしかったなぁ。あれ軽いし。

 

「で、何か追加で欲しい装備はあるのか?」

「んー、今のところは特に……。現状で満足というか、今の装備でしっくりくるから追加は考えてない」

「なるほど、了解した」

「また何かあったら相談するわ」

 

 なんてコーヒーを飲みながらのんびり会話する。

 

 コイツらとこうして何気ない話をするのも久しぶりな気がする。なんだか幾らか気持ちが楽というか、気を張らなくて済むのがいい。最近、物騒な話題が多かったこともあるので余計にそう感じる。

 

「八幡、これから予定は?」

「のんびりしたら軽く訓練して帰る予定だけど、どうした?」

「良ければ、僕にも訓練を付けてほしいなぁって」

「戸塚が? 救護科だろ?」

 

 救護科は基本的に拠点で治療をする……それこそ病院で働く医者やナースと立ち位置とあまり変わらない。衛生科なら現場で働くから自衛目的でそれなりに戦闘訓練を行う必要はある。だから理由は何となく分かる気がするが……。

 

「いやぁね、救護科関係なく、体力付けたいんだよねぇ。今後何があるか分からないし、こう……少しは男っぽくなりたいというか」

 

 恥ずかしそうに伏し目がちにアハハと語る戸塚。

 

「3年にもなるし選択肢を少しでも増やしたいっていうか、やっぱり最低限拳銃とかも使えた方がいいかなーって」

「うむ、気持ちは分かる。我も少しは運動して痩せた方がいいかなと思う」

「なら運動しろ。またそのふくよかな腹をサンドバッグにするぞ」

「ぐうの音も出ない」

 

 戸塚に体調管理をさせられて少しは痩せているのは差し引いてもまだまだ材木座の腹は出ているからなぁ。

 

「ちなみに戸塚は体力とかある方?」

「テニス部に入っているから多少は? そりゃ強襲科みたいな本職に比べればまだまだだと思うけど」

「でもなぁ、見たところ戸塚はかなり細身だ。まず土台をしっかりしないといけない。じゃなきゃムリしてケガするしな。その辺は俺よか教師の方が詳しいから、相談した方がいいと思う。今できるのは簡単な護身術くらいか」

「うんうん」

「それと平行して……銃の訓練とかやってみっか。戸塚の銃ってブローニングだったな?」

 

 FN ブローニング・ハイパワー。

 

 俺が使用しているファイブセブンと同じFN社製の拳銃。正確にはたしか色々と仲介を受けて時間がわりとかかって制作された……はずだった。グリップは細く握りやすい形状となっていて扱いやすい。

 

 様々なところで実用されている、整備性のしやすさなどから完成度の高い傑作に近い拳銃だ。人に寄るだろうが、ファイブセブンより扱いやすい銃だろう。あれは性能尖っているしな。

 

「そうだよ。でも、あんまり撃ったことないんだよね。整備は材木座君に頼んでちょくちょくしているけど」

「なら、今からでも使えそうだな。それなら軽く訓練するか。近接戦闘なら多少体鍛えてからのがいいが、少し撃つだけなら別に大丈夫だろ」

 

 

 

 ――――射撃訓練所に移動。相も変わらず硝煙の匂いがするな。材木座は装備科で用事があると抜けた。

 

 戸塚がブローニングを取り出し弾も入れ準備完了。

 

「じゃあ八幡。お願いします!」

「おう。つっても基礎は教わっていると思うが、まぁ確認の意味を込めて最初からだな。まず足を肩幅程度開く」

「うん」

「右足は半歩後ろ。膝は軽く曲げる。じゃあ構えて」

「う、うん」

「あー、戸塚。肘は伸ばしきらない方がいい。軽く曲げようか。少し前屈みで。そうそう、目標に対して真っ直ぐ向いて」

「こう?」

「そんな感じ。……んー、戸塚は慣れていないだろうし、両手で撃つか。グリップは両手でしっかり握って」

「えーっと、こう?」

「だな。しっかり横から握って」

「……左手は下から包む感じで握らないの? よく映画とかではそう持っているイメージだよ」

「あぁ、カップ&ソーサーって構え方だなそれ。それなぁ、映画やドラマじゃ定番って感じの構え方だけど、実は連射できるタイプの自動拳銃には向いてないんだよ。撃つ度に手の位置ズレやすくて握り直す必要あるし。ピースメーカーとかのシングルアクションなら問題ないがな」

「そうなんだ」

 

 そんなこんなで戸塚の射撃訓練が開始。

 

「っと、あまり右手に力入れすぎないように」

 

「落ち着いて。訓練だからゆっくりでいい。1発ごとに一呼吸置こう」

 

「んー、戸塚。今度は両手を前に突き出す構え方にしようか。さっきの半身とはまた別に……仁王立ちして。もしかしたらそっちのが安定するし合っているかも。アイソサリーズってやつだな」

 

 ――――と、アドバイスしながら射撃訓練を見る。

 

 最初は的には当たらなかったが、後半になるにつれて徐々に命中するようになってきた。的がデカい分、集弾率はマチマチ。それこそ、中心部には全く当たっていない。

 

「うーん、全然当たらないね」

「んなの始めたばかりだろ。当たり前だわ」

 

 まぁ、射撃訓練はもちろん最初の内は命中率を鍛えるために行うものだが、強襲科……それこそ経験のある武偵からするとその日の銃との相性を確かめる目的が主である。

 

 日によって銃は気分を変える。その日の温度や湿度、こちらの体調に整備状況――――諸々によって昨日と同じ感覚で撃つと全く違うことがある。全く同じコンディションで撃てることなんてまずない。どこかその日ごとに違和感を覚えることがある。あれ、昨日となんか違うな……みたいなように。

 

 武偵と銃はアナログな関係であるので、その日の銃との感覚を知るために毎日撃っているわけだ。射撃訓練はある意味で銃との対話なのである。そうしないと本番に武偵は上手く戦えないから。

 

「…………」

 

 俺も隣で軽く撃つ。ホルスターから抜いて早撃ちで撃ってみる。……うん、真ん中に命中した。

 

 動かない的なら20m程度なら問題なく当たる。50m越えると極端に命中率は落ちる。これはどれだけ練習してもなかなか改善は見られない。……まぁ、俺は近接戦闘主体だから、敵がそんなに離れることは少ないので気にしない。

 

 今日のファイブセブンとの相性は……普通か。まぁ、特段悪くなく良くもない。

 

「わぁ、八幡さすが!」

「こんくらいなら強襲科だと当たり前だよ」

 

 

 

 それからしばらく戸塚と練習し、戸塚の救護科での用事が近付いてきたらしく今日は解散と相成った。

 

 もう少し体を動かそうと血生臭い体育館へ移動。一色や留美はそれぞれので用事があるから今日はいない。と、一色と言えば。

 

「そういや一色とのアミカ契約ももうちょいで終わりか……」

 

 学年ごとでアミカは切り替わる。1年のときは留美。2年は一色。この繋がりもそろそろ終わる。とは言うものの、留美には契約が終わっても付き合いで稽古を付けることはあるが、果たして俺とて多少でも寂しい気持ちに……なるか疑問に感じる。

 

 そして、よくよく考えると別にそんなセンチメンタルな気持ちにならないのに気付いた。どうせ一色ならアミカが終わろうと、あの性格なら恐らくところ構わず絡んできそうな印象がある。

 

 3年のアミカをどうするか迷う。別に必ず取る必要はない。それに加えてそもそも下級生に知り合いが少ない。わざわざ俺に声をかける人などいないだろう。俺だぞ?

 

 と、そんなことを考えつつ体育館に入る。柔軟をして体をほどほどに暖める。……さて、何をしようか。

 

「誰か……いねぇな」

 

 パッと見知り合いは見当たらない。強襲科で同学年で知り合いの不知火も、間宮たち異常性癖軍団もいない。神崎は日本にいるか知らない。……こうして考えると、マジで知り合い少ないな。なんなら、強襲科以外の知り合いの方が多い気まである。

 

 独りでできることなんて限られるしなぁ。適当に吊るしてあるサンドバッグと戯れるか。それとも筋トレでもするかな。どうせなら人力サンドバッグという別名材木座でも連れてくれば良かった。

 

 やることないし、どうせならさっきまでやっていた柔軟を重点的にやろうと隅でのんびりしていると。

 

「おい比企谷ァ……!」

 

 なんかいかにも機嫌悪いと丸出しな蘭豹がやって来た。他に絡む奴いるのになぜ俺に……。わざわざ隅にいるのに随分と目敏い。他にもバカやっている生徒多いというのに。

 

「蘭豹……先生。どうしたんすか? その不機嫌さ、また合コンで失敗したんです?」

「喧しい!」

 

 既に立っていた俺に対し、俺がそう言った瞬間にキレたらしくボクサーを1発でノックダウンさせる殴打を放ってきた。勝手に不機嫌ばら蒔いてこっち来たくせに指摘されて怒るなよ、理不尽か。

 

「――――ッ」

 

 が、非常に悲しいことにこれは武偵高からしたら日常、いつものことなのでそれを予測していた俺は蘭豹の腕を取りその勢いのまま、柔道の投げ技である一本背負いをする。

 

 途中で手を放したんで、そのまま遠くへ放りたかったが、蘭豹は空中でクルクルと何回も回転しつつ投げの勢いを殺し着地。え、何その動き。気持ち悪い。

 

「ったく、いきなり教師を投げるバカがあるか」

「いきなり生徒を殴るのもどうかと思いますよ」

「……で、私の何が悪いと思う?」

「あ、やっぱ失敗したんすね」

「おら答えんかい!」

 

 はいはい。で、蘭豹の何が悪いか……そりゃもう全部なのだが。あえて言葉にするため取捨選択すると――――

 

「あくまで客観的や意見として話します。客観的な意見ですよ? まぁ、普通に考えればその粗暴な性格ですよね。どれだけ演技……隠そうと取り繕っても地の性格なんて多少は滲み出るもんですしね。すぐキレるのもどうかと思います。武偵として言うのもなんですが、今時暴力では何も解決しません。むしろ悪印象を植え付けるだけです。あと酒ギャンブルタバコ全部……とまでは言いませんが、多少は控えたらどうです? まぁ、あぁいうのは別にやっている人は多いですが、やはりそれらにマイナスイメージは付き纏うものです。それと長年ここにいる先生が他の業界で働けるか分かりませんが、ぶっちゃけこんな血生臭い世界にいるのも失敗する要因かと。これは自分が妹と会話したときにも感じたことですが、どうも俺らは話す話題が物騒になりがちですしね。程度に差はあれど周りから浮くのは当然と言えば当然です。本気で合コンやら成功させたいならここから足洗って転職考えたらどうですか。他にも――――」

 

 と、ここまで話してようやく思わずペラペラと喋りすぎた気がしなくもない。証拠に周りを見てみると俺らを見ていた生徒全員が血の気が引いているように青ざめている。

 

 蘭豹は短気なことで有名だ。ここまで言ってしまったらかなりの高確率で暴れ回ること必至だが、さて問題の蘭豹は――――意外なことに怒りの表情を浮かべているわけではない。むしろ、そこまで言うのかと言いたげな表情で引きつっている。

 

「お、おう……まさかそこまで言うとは思わんかったわ」

「す、すいません。……別にこれは俺がどうこうではなく、あくまで客観的な意見ですので」

「それはそれとして……クソイラついたから殴らせろ!」

「だからそういうところ――――ッ!」

 

 俺の顔面めがけて鋭いストレートが飛んでくる。顔だけ横に動かしスレスレで回避。大げさに動かなくてもこのくらいならまぁ避けれる。

 

 ……自ら訊いておいて都合が悪くなるといきなり殴って黙らせようとする。そういうところが合コンで成功しない理由なんだろう。とはいえ、冷静に分析すると、ここまで言われたら正直なところ俺もかなりイラッとくるのには間違いない。多分俺も手が出そうではある。

 

「おい避けるんじゃねーよ」

「いや痛い目遭いたくないんで」

「ならそこまで言うなや!」

 

 ……ごもっとも!

 

 そう思いながらも裏拳が飛んでくるのでバックステップで避けてから、軽く踏み込んでからの右足で回し蹴りを放つ。蘭豹の顎を狙う。

 

 しかし、なんか簡単に足を掴まれ止められた。おかしいなぁ、けっこう勢いあるはずなんだけど。

 

 まぁいいや。何かしらで防がれるとは思っていたので、そのまま左足で踏み切り跳躍。蘭豹の腕を極めようとする。対する蘭豹は俺の狙いを察したらしく、すぐさまパッと足を離す。もちろんその動きは見越していたので、倒れながらも横薙ぎで蹴り、足払いを試みる。

 

「いてっ」

 

 蹴りの感触を確かめる前に地面に背が付いた衝撃で少し痛い。で、蹴りが当たった感触はなかったな。なんか縄跳びみたいに跳んで避けられたみたいだ。すぐに立ち上がって距離を取る。

 

 ……追撃がくる雰囲気はない。頭をガシガシ掻いている。

 

「はー、やめやめ。気分萎えたわ」

「なら攻撃しないでくれます?」

「教師に生意気な口利くからやろうが」

「先生がアドバイス云々求めてきたんですよね……」

「ったくよぉ。静のとこ行くか」

 

 そのまま去っていく蘭豹を見てよく理解した。多分また合コンやら婚活やら失敗するだろうなぁ。

 

「……む」

 

 と、不本意ながら目立ってしまった。隅でのんびりするつもりだったが、想定していなかった獣の襲来によって誰も彼もが俺を見ている。ここまで注目が集まっていると気配も消しにくい。

 

 それに加えて恥ずかしい。

 

「帰るか」

 

 腰を上げて退室する。体育館を離れようとしたところで……ある女子と目が合う。

 

「あ、比企谷先輩!」

「間宮か」

 

 間宮あかり。1年の強襲科であり神崎のアミカ。

 

 そして異常性癖軍団を束ねる長。これは勝手に俺が呼んでいるだけだ。いやまぁ、間宮たちのその、なに、性癖は一般人を凌駕しているからね。……間宮はぶっちゃけると、神崎や友だち大好き! ってだけで別に普通だとは思う。しかし、その周りが……ね?

 

「久しぶりですねー」

「だな。元気だったか?」

「はい! あ、そういえばさっきの見てましたよ。よく蘭豹先生にあそこまで言えましたね~……。あんなに言うなんて考えただけで恐ろしいです……!」

「あれは蘭豹が求めてきたことに応えただけだ。俺は悪くない」

「いやそれでも、普通あんなに言いますか?」

「…………」

「あ、無言。やっぱり言い過ぎとは思ったんですね」

「まぁな」

 

 それはそう。

 

「まぁいいんだよ。どうせこのあと平塚先生と飲むだけなんだから」

「それで学校やらが破壊されるのは困りますけど……」

 

 それはそう。あの酔っ払いたちには困ったもんだ。

 

 と、話が一段落したはずだけど間宮は立ち去る様子を見せない。挨拶だけではないのだろうか。

 

「で、間宮。何か用事か? 神崎なら今どこにいるか知らないぞ」

「んー、そうですね。ちょっとお時間大丈夫ですか?」

「問題ない」

 

 そう前置きしてから間宮は話を続ける。

 

「もうすぐ学年変わるじゃないですか」

「留年しない限りはな。お前は平気か?」

「もちろんです! で、進級するってことはアリア先輩とのアミカ制度も終わるわけで……次のアミカをどうしようかと」

「なるほど、それで俺に相談か。つっても、俺もそんなに知り合い多いわけじゃないからな」

「いえ、そうではなく……比企谷先輩にアミカをお願いしたいなと!」

 

 意気揚々とそう宣言する間宮。

 

 なぜ俺に、という驚き以上に間宮の相談内容を外したことが恥ずかしい。たしかにこの話の流れなら俺に申し込むというのがある意味分かりやすいけど、平然と最初から俺という選択肢を入れてなかった。

 

 …………俺かぁ。

 

「どうして俺?」

「先輩強いじゃないですか。教えるのも上手ですし!」

「理子にしろよ……。アイツなら喜んでお前の相手しそうだぞ」

「そんなとこ言わないでくださいよ。いろはちゃんや留美ちゃんからも評判良かったです!」

 

 本当に? 陰口ばかり言われているイメージしかないよ?

 

 どう答えるか迷っていると後ろから気配がした。間宮の表情からして……特段避けなくても大丈夫だ。

 

「なーに、私の話でもしたー?」

 

 背中に衝撃が走る。誰かに後ろから抱き付かれたらしい。それと同時に柔らかい、気持ちいい感触もする。どこか嗅いでいて不快には感じない香水の匂いと一緒に。

 

「間宮がお前のアミカになりたいってよ、理子」

「い、言ってないですよ!」

「お? ホント? 大歓迎だよ~」

 

 ニコニコとして笑顔で俺の提案を受ける理子。そのあざとい笑顔の裏には恐らく神崎にチョッカイかけれるとか思っていそうだ。

 

 …………理子さん、それはそうと早く背中から離れてくれません? さっきから甘ったるい匂いと柔らかい感触がして健全な男子高校性にはちょっと刺激が強すぎるんですけど。

 

 ……あ、ダメだ、めちゃくちゃ気持ちいい。レキにはない感覚だ……。そう一瞬墜ちそうになったが、これではいけないと悟る。

 

「なぁ理子。一旦離れ――――ッ!」

 

 そう言おうとした瞬間、足に鈍い痛みが走る。

 

 どうやらズボンが掠れただけだが、足を撃たれたみたいだ。まず誰から撃たれたのかという疑問が浮かぶだろうが、別に犯人1人しかいないからな……。

 

「……ッ」

 

 その直前カキン――――と甲高い金属音がした。一体何だと音の方向を見たら、10mほど離れた場所にグルル……と唸っているハイマキがいた。しかも甲冑を着込んでいる。

 

「……」

「…………」

「………………」

 

 ……なるほど、これはレキの狙撃だ。いや知っていたけどね! ハイマキが甲冑を着込んでいるということはわざわざ跳弾で狙ったな。というか、こんな下らないことにそこまでスゴい射撃技術使うなよ……勿体ない。

 

「ひぇ、今撃たれませんでしたか? せ、先輩。大丈夫ですか?」

「理子、マジで離れろ。2射がいつ来るか分からん」

「そうした方が良さそうだね~。ホント、レキュは独占欲強いね。くふふ」

「アイツどこいるんだよ……」

 

 最近このパターン多い気がするぞ。練習交じりに撃っているのかマジの忠告なのか本気で分からない。ていうか、理子も理子で理解が早いな。

 

 とりあえず敵に回ると厄介なハイマキを買収するか。

 

「ハイマキ、ほれ」

 

 カバンから魚肉ソーセージを取り出すとハイマキはこちらへ近寄ってくる。魚肉ソーセージを与えつつ、間宮が声をかけてくる。

 

「わー、ワンちゃんだー!」

 

 俺と一緒にハイマキを撫でながら間宮が口を開く。ちなみにハイマキは狼。犬にしては大きすぎるだろう。体躯80cmはある。

 

「ところで……今のってレキ先輩ですよね」

「まぁな」

「なんで撃ってきたんですか?」

「知らね」

「レキュはよくハチハチを撃ってくるよ。嫉妬交じりにこわーい狙撃をね」

 

 本当に怖いことこの上ない。殺ろうと思えばもう俺はこの世にいないだろう。不意討ち、しかも長距離からの狙撃には対応しようがないのである。俺とレキの射程距離の差は絶望である。

 

 どうしてこんな場所で命を脅かされるのだろうかと甚だ疑問に感じる。肩が重い。

 

「なるほど、束縛系ってやつですか。愛されてますね~」

「……そうだね」

 

 間宮の呑気な意見にツッコミ入れるのも疲れる気がする。何て言うか……間宮、お前どこか抜けていると思う。そういう問題なの?

 

「まぁいいや。ハイマキ、お前のご主人どこだ?」

「グルル……ッ」

 

 あ、そっぽ向かれた。忠誠心が高いことで。全く、魚肉ソーセージを食べているその姿は可愛らしいのに生意気なことだ。

 

 ハイマキも食べ終えたところで間宮と理子に話しかける。

 

「さて、とりあえず一旦解散するか。これ以上ここにいたらどんな目に遇うか分からん。……俺が」

「アハハ……そうですね。レキさん、なかなか怖いことあるんですねぇ。って、先輩! まだ返事がまだなんですけど!」

「チッ、さすがに曖昧にできないか」

 

 間宮はわりとチョロいと思っていたのだが、これでは話を流すのに雑すぎたか。

 

 しかし、間宮をアミカにか。別に嫌ではないのだが、単純に面倒だと思う気持ちがあるにはある。こちとらアミカなんてならずに3年になったわけだから余計にそう感じる。……いや待て、とても今さらだが俺って武偵高の先輩に知り合い……いるか?

 

「いない気がする……」

「え、何ですか?」

「いや、うん。何でもない」

 

 ちょっと悲しくなってきた気がする。けどまぁ、別に中学時代も先輩に知り合いいなかったからなぁ……と納得できる。

 

「んじゃまぁ、返答はまた今度ってことで」

「分かりました! そのときになにか試験……みたいなことしますか?」

「さぁ? まぁ、そのときの気分次第」

 

 あとレキの気分次第。

 

「疲れたし帰って寝よ」

「あ、ハチハチ帰るの? 私も付いてこ」

「お二方また今度!」

 

 と、間宮は火野たちと用があるらしく別方向なのでその場で解散した。こちらなぜか付いてくる理子とハイマキ。

 

「で、理子。お前マジで何しに来たの」

「なんか珍しい組み合わせだったからチョッカイかけにきただけだよ。ちょうど私の名前も聞こえたしね」

「あ、ホントに偶然なんだ」

「いや私を何だと思っているのさ」

「泥棒」

「せめて怪盗って言ってよ」

「変わんねぇだろ」

「ただの盗人と比べちゃダメだよ。怪盗は大衆のタメ息とハートを盗むものなんだからね」

「どっかのエロゲで訊いたセリフだな……」

 

 と、2人で歩きながら帰宅したある日の日常だった。……あ、足元に1匹いたね。忘れてないから噛み付こうとしないで? 狼の顎で噛まれたら痛いでは済まないからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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楽しみとは裏腹に

 定期テストも終わり、残すところは終業式だけとなり、平常時と比べればわりと自由な時間が増えたある日の土曜日。

 

 今までの戦闘や移動経費やら出費が嵩むことが多く、放課後などにちょくちょく簡単な任務を入れ小遣い稼ぎをしていたが、この土日は休もうと仕事は入れていない。いやまぁ、わりとジーサードとかの依頼主とかから報酬金はもらってはいたけども。

 

 だからのんびりしようと決め、のんびりと9時頃に起床する。家でだらけるのもいいし、どこか外でブラブラするのもいいなと思いながらリビングへ行く。

 

 と、リビングにはもう制服姿のレキが既にいた。

 

「おはよ」

「はい。おはようこざいます」

「朝飯は?」

「カロリーメイトを摂取しました」

「んじゃ、俺のだけでいいか」

 

 昨日の晩飯の作り置きをレンジで温めて食べる。その最中、さらっと隣に座っていたレキが話しかける。音もなく座らないでほしい。センサーやらで隣にいるのは分かっているのにも関わらず普通に驚くから……。

 

「八幡さんは今日何かご予定はありますか?」

「これといって特には。まぁ適当にブラブラしようかなって。連日仕事続きだったしな」

「了解です……ん?」

 

 ふとレキが視線をズラす。そこには俺の震えている携帯があった。誰かしらから連絡が来たらしい。相手は誰だろうかと手に取る……お前か。

 

「朝っぱらからどうした」

『おはよ、ハチハチ~。今日暇だったりする?』

「まぁ予定はないな」

 

 電話の相手は理子だった。

 

 朝から元気なことだ。正直寝起きにこの声量は辛い部分がある。

 

『ねぇねぇ。突然だけどさ、ハチハチってMAXコーヒーって甘~い飲み物好きだよね?』

「俺のソウルドリンクだな。あれがなくては生活できない」

 

 趣味的な面でも武偵的な面でも必須だ。8割方ただただ大好きなだけだがな。とはいえ、いきなりどうしたのだろうか。もしかして興味ある? え? 1箱くらい送るよ?

 

『だったら知ってる? 千葉のららぽーとにあるMAXコーヒーの自販機』

 

 返ってきた疑問は少し意外な形だった。

 

「あぁ、船橋のやつだな。当然実物を見たことあるけど」

『当然なんだ……。さすがハチハチ。でね、私も見に行きたいから今から行こ!』

「今日?」

『もち! あ、レキュも一緒にね!』

「ていうか、なんで俺らと? 1人で行けば?」

『いやだって……1人で行くのは味気ないでしょ?』

「そうか?」

『スゥ――――ッッッ……ハァ~~~~~~~~~~~~~~』

 

 随分とデカいタメ息。で、随分と溜めたな。

 

『これだからボッチの思考はダメなんだよハチハチ!』

 

 はい。

 

『武偵になったからにはね、人付き合いも重要なわけよ』

「はい」

『ていうか武偵は総じて個人事業なんだから人付き合い避けてちゃダメでしょ』

「はい」

『だからそのボッチ特有の思考はいい加減直すべきだよ』

「はい」

『あと土地勘あんまりないから付いてきて』

「8割くらいそれが本音じゃないの?」

『本音で言うならハチハチたちと遊びたいからだよ?』

「お、おう……」

 

 理子に怒られながらもドストレートな言葉に少し照れる。

 

『と、言うわけで。1時間後に駅前で集合ね~。あ、レキュにはオシャレさせてよ! てかてかハチハチもだよ。制服禁止だからね』

 

 それだけ言い残し理子との通話は終了した。

 

 相変わらず台風みたいな奴だ。別にどこかでブラブラしようと考えていたから、俺は全く構わない。たまに我がホームである千葉に行くのもいいしな。

 

 で、俺の隣にいる奴は……無表情ながらもどこか微妙表情を浮かべている。どう反応すればいいのか分からなさそうな顔だ。

 

「会話内容は聞こえてましたが……」

「まぁそういうわけだ。お前は予定平気か?」

「問題ありません。……しかし、オシャレですか」

「あー、前に総武高での任務のとき色々と買ったろ。それにしたらいいよ」

 

 そう言いつつ立ち上がり準備を始める。

 

「分かりました。では……」

「いやドラグノフのトランク持ち歩かなくていいから。……だからってスリングショットもいいから」

「しかし何かあった際」

「俺が戦うから。せっかくなんだからお前に物騒なモンいらないわ。おいなんだその不満そうな顔は」

 

 紆余曲折ありながらも準備を完了させる。

 

 

 

 

 

 ――――それから時間も経ち。

 

 俺とレキ、そして理子は千葉の船橋にある『ららぽーとTOKYO-BAY』にいた。

 

 ……なぜわざわざ東京の冠する名前が付いているのか小一時間ほど問い質したい気持ちは置いておく。いや別に舞浜はともかくとして船橋わりと有名だろ。どこぞの梨の妖精がいるんだし。舞浜は知っている人でないとどこだよってなりそうだが、船橋は千葉行ったことない人でも何となく分かるだろう。

 

 というか東京にはららぽないの? まぁ、ないんだろうね。というか、そもそも東京にはららぽとか必要なさそうな気もする。台場や新宿、他にも諸々買い物するなら便利な場所もあるしな。

 

「……」

 

 と、不意に横にいる理子を見る。

 

 理子にしては珍しくゴシック&ロリータのファッションで決めている。いつもロリータ系統の服を着ているイメージがある。いつも似たような服を着ているヒルダに影響でもされたのだろうか。そういえば、たまにショッピングに行くとも話していたな。

 

 黒色のドレスを基調に白色の差し色が非常に似合っている。厚めのブーツを履いていおり、俺との身長差が少し縮まっているように思える。元々の金髪との対比もあり映えている。

 

 通り過ぎる度にチラッと理子を見る道行く人々が多いことから、その完成度の高さが理解できる。

 

「どしたの、ハチハチ」

「別に。ただその格好、似合っているなって思っただけだ」

「……えっ、ホントにハチハチ? そんな素直に褒めることするの!?」

「ったく、失礼だな」

「純愛なの?」

 

 大義でもない。

 

「――――」

 

 対するレキは白いシャツの上にライダースジャケットを身に纏っている。下はロングスカート、朱色と黒のチェック柄だ。いわゆるマネキン買いで揃えた一式だが……だからだろうか、外れではないからこそ美人が着たら本当に似合っていると思える。

 

 レキにしては珍しく少し高めのヒールを履いており、やはりこちらも俺との身長差は少なくなっている。しかし、履き慣れていないのが見て分かるほど歩き方がぎこちない部分がある。

 

 そのため時折俺や理子の袖を掴んでいる。まぁ、レキの歩幅に合わせて歩いてはいるが。

 

「私に対して何か言うことはありますか?」

「家でもう褒めたろ。まぁ、あれだ。……可愛いよ」

「それで良しとしましょう」

 

 お前はお前でなぜ上から目線……。

 

 …………しかし、あれだな。タイプの違う美少女が両脇にいるのがどうも慣れない。こちとら黒のシャツの上に黒の薄手のジャケット羽織ってジーンズ履いているだけだぞ。

 

 場違い感半端ねぇなおい。周りの視線をシャットアウトすることで事なきを得る。ダメだ、やはり気になる。つまりは得てない。

 

「でだ、マッ缶自販機いつ行く?」

「とりあえず色々と見て回ってからでいいんじゃない? まぁ、そのついでに寄れれば。たしかにあの自販機も目的だけど、何より今日の目的はハチハチとレキュと遊ぶことだからね!」

「さよかい。なら理子は行きたい場所ある?」

「んー、一先ずはウィンドウショッピングかな。ハチハチ、この辺来たときいつもはどうなの?」

「ボッチ特有の考え方として、予め決めていた予定通りに動く癖がある。本屋に行くなり映画見たりな。予定を立てたルートしか通らないのがほとんどだ。だからいきなりフラッと来て時間を潰すのは苦手な部分はある」

 

 とはいえ、特に目的もなく適当に散歩するのも好きだけど。それはそれで何かしらの目的がないとまず出歩かない部分はある。

 

「要するに?」

「理子に付いていく」

「オッケー! 適当にブラブラ歩いてからどこかでご飯食べよっか」

「分かりました」

「りょーかい」

 

 まず理子が足を運んだのは案の定というか女子らしい選択肢。アパレルショップ関連が集まっているエリアだ。

 

「服でも見るのか?」

「まぁね。ウィンドウショッピングと言ったら最初はこれでしょ」

「定番ってやつだよな。分からんでもない。エロゲとかならまず共通ルートで出かけるってなったら、だいたい服買っているしな。で、下着や水着の試着でちょっとしたハプニングやら起きるイベントCGがある」

 

 七海すこ。いや、これだけじゃ分からないよな。在原七海で検索かけてくれ。くっすー最高。

 

「いや何でもかんでもエロゲ基準はどうかと思うよ」

「ならギャルゲ」

「同じだよ!」

 

 何この会話。自分で言っていてなんだが。

 

「それにレキュを着せ替えしたいしね。荷物になるからいっぱい買うのはなるべく控えたいけど」

「こういうときのレキ、みんな大好きだな」

「私、ですか」

 

 今まで蚊帳の外だったレキが反応する。

 

「服買いに行ったらみんなレキのこと着せ替えしようとするよな」

「そりゃレキュなんてお人形さんみたいな出で立ちだからね。何着せても似合うよ! 私みたいにゴスロリで揃えてみる? それともロリータで攻める?」

 

 レキのゴスロリかロリータか。

 

 …………想像してみてみたが、悪くない。そういう格好を見てみたい気持ちはあるが、レキを彩るならそうではない気持ちが芽生える。

 

「なんでそう特殊な方向に行くんだ。レキならそういうドレス系統ではなく……こう全うに、スキニーとかの身体のライン出るようなやつが似合いそうだろ?」

「おっ、ハチハチ。言い方がなんだかエッチだね」

「喧しい。スキニーくらい誰でも普通に履いているだろ。てか、お前も履くだろ」

「いや私だって履くけどさぁ。まぁね、たしかにスキニーも王道って言えばそうだけど……冒険してみたいじゃん!」

「普段から冒険している奴が何言ってんだか」

 

 だが、気持ちは分かる。そりゃもちろん、レキの特殊な姿を見てみたい。しかし、ぶっちゃけ何着ようが……レキの場合、普段が制服しか着ないのだから特殊になる。こういう格好で出かけるなんて稀だからな。

 

「そういうのはお前の持ち物で着せ替えしてくれよな。理子なら、そういう系統の服色々と持っているだろ。背丈もそこまで差ないしな」

 

 レキと理子の身長差はざっくり3から5cm程度だろう。そのくらいな大きくサイズは変わらないだろう。

 

「たしかに? 私とレキュはそこまで背が離れているわけじゃないよ? でもでも~……ハチハチには分かる? 私とレキュの間には決定的な差があることに!」

 

 何そのウザいテンション。

 

 というより、差とは何なのだろうか。理子が背中を少し反らしてドヤ顔していることに関係あるの? やたら胸を強調している……って。

 

「差って……あぁ、胸?」

「せいっかい! レキュが私の服なんて着たらきっと前がブカブカになるよ!」

「ほーん。やっぱ女性の服ってそういうもんなのか? 別にサイズ同じならそこまで極端に不自由するもんじゃないだ――――いって……」

「…………」

「おいそこの無口。ヒールで踏むな」

「無性にイラッときたので」

「ならまず踏むべきは理子だろ」

「近いの八幡さんですので」

 

 ……たしかに俺の両隣に2人がいる感じだが。

 

「大丈夫だよレキュ。貧乳にはパッドっていう強い味方がいるんだからね! ま、私には必要ないけどっ!」

「煽るな煽るな」

 

 理子が煽る度に俺の足が犠牲になるんだからね。いや痛い痛い。的確に同じ場所を踏まないでくれ。

 

「いやぁ~レキュに勝てる部分がそこくらいだからね。つい勝ち誇りたくなるよ」

「……別にそこだけじゃないだろ。近接なら理子に分がある」

「ハチハチ……バカなの?」

「え?」

 

 え?

 

「そういう話じゃないんだよねぇ。ホントに国語の成績優秀なの? ……まぁいいや。一先ずお店入ろっ」

 

 

 

 

 

 ――――ウィンドウショッピングから2時間は経過した頃、俺を含め疲れたとのことで昼飯を取ることに。

 

 ちなみに服やらは特に買わずに終わった。アクセサリーやらは理子が色々と買ってはいたけど。まぁ、最初から理子も荷物になるからそこまで買わないとは言っていたし。

 

 案の定というか、レキュ……レキは理子のお人形にされたと。あれ着せてー、これ着せてー、の繰り返し。基本無表情のレキが珍しく疲弊を見せていたくらいにはずっと試着を続けたくらいだ。

 

 しかし、あそこまで様々な店を長居したのにこれといって衣服やら買わなかったのはこう……良いのだろうかと甚だ疑問に思う。何か1着くらい買うのが礼儀ではないのか? それとも一般女子高生はそれがニュートラルなの?

 

 別に買わない俺らに対して店員も迷惑そうな表情は向けていなかったが……そこは向こう側もプロだからだろう。ただあとで愚痴られていそうな気はする。と、ネガティブ思考が過ったので、俺は俺でレキと理子に対して小物を買った。

 

 ……これはこれでお店からすると鴨というやつなのもかしれないな。

 

 そんな話は置いておいて、今の俺たちはハンバーガーショップであるクア・アイナのテーブル席に腰をかけている。

 

 各々自分が食べたいハンバーガーを注文する。待っている間ふとレキが言葉を漏らす。

 

「八幡さん」

「ん?」

「このお店……お台場でも行ったことありますよね?」

 

 隣にいるレキにそう言われて少し考える。たまに俺はこの店に寄ることはあるが、レキとお台場で出かけたときとなると……思い出した。

 

「あー、そうだな。行った行った。あのときもクア・アイナだったな」

「お? 何の話?」

「いつの日かレキと台場でブラブラしたときにもこの店に寄ったことあるんだよ。いつだっけな……あー、あれだ。どっかの誰かにイ・ウーに拐われるいくらか前だったな」

 

 随分と懐かしい気がする。もうあれから1年近く経過したことになるのか。いや、たしか3学期丸々あっちにいたからもう1年は余裕で経っている計算になる。

 

 と、俺が若干恨めしげな目線を向けると、目の前にいる理子が得意気にニヤニヤした顔で。

 

「へー。ところで、そのどっかの誰かって誰のこと?」

「さぁ、誰だろうな」

「そうなんだ。私も分かんないなー」

 

 無力な俺を見事に拐った張本人である怪盗が何か言っているのは置いておく。

 

 まぁ、今さらどうこう責めるつもりないから良いけど。不本意ながらもあそこにいた時間は良い経験ってこととして考えるとする。……まぁ、実際あそこで超能力覚えてなかったら絶対死んでいたからな。

 

「――――」

「うん? どしたのハチハチ。そんなジッと見て」

「いや、何でもない」

 

 それに…………これ恥ずかしくて決して口には出さないが、かつて雁字搦めに囚われていた理子がこうして本心から笑っているのだ。心から良かったと思える。

 

 だから、俺はあの出来事を否定してはいけない。

 

 それはそれとして……うん。今さらながら綱渡りの1年間を送ったなと思い至る。1つでも要素が欠けていればホントにお陀仏になっていただろう。

 

「そういえばレキュ」

「何でしょうか」

「今日はドラグノフ持ってきてないの?」

「はい、八幡さんが止めておけと」

「ん~。たしかにいくらトランクに入れても威圧感あるけどねぇ。でも、武偵が武器なしの状態で歩くのはどうなのかなぁ」

「そういうお前はワルサーあるのか?」

「ないよ? せっかくのお出かけに帯銃するのはねぇ」

「おい……ブーメラン」

「デリンジャーはあるからセーフ!」

 

 …………と、店内で話すには少し話している内容が物騒だ。いくら得物を見せていないとはいえ、あまり銃の話を往来ですべきではない。固有名詞で分かる人は分かるかもしれないし。

 

「一先ず飯食ったら自販機でも見に行くか」

 

 そう話すと同時に注文が届いた。

 

 届いてからは物騒な内容ではなく、ごくごく普通の世間話をしながらハンバーガーを食べた。会話の9割理子が話を振って俺らが答えるという形だが。こういうとき率先と話をしてくれる人がいると助かる。ボッチが集まっているだけなら自ずと静寂な空間が完成するだけだ。

 

 30分ほど店内で過ごし、3人揃って食べ終える。店から離れ案内板を見に行く。

 

「そろそろ行くか。えーっと、自販機どこだっけか」

「調べてみたら北館らしいよ」

「じゃあ、ここが南館だから……どっちだ」

「現在地がここならあちらです」

 

 さすが人力コンパス。別に方向音痴のつもりないけど、レキがいるとマジで迷うことない。

 

「よしっ、それなら行こうか~! せっかくだし映えの写真でも撮ろうかな。3人一緒にね!」

「……あれ映えるか?」

「……映える、とは?」

 

 理子の提案に俺とレキは同時に呟く。

 

「映えるっていうのはね~……」

 

 

 

 ――――――――パァン!

 

 

 

「……およ?」

 

 理子が説明しようとした瞬間、どこか乾いた音がモール内を反響する。

 

 それは普段から俺たちが聞いている音。毎日耳にする音。しかし、一般人からしたら実際に聞く機会はほとんどないであろう音。ここで聞くにはあまりに不自然な音。

 

 つまりは銃声。多少反響しているが、発生源はそう遠くはない。

 

「ハァ~……」

 

 周りの客や店員がざわめく中、俺は思わずタメ息が溢れる。

 

「ハチハチ~」

「八幡さん」

 

 理子とレキの視線が俺に集まる。正直面倒と感じる気持ちはあるが、これも仕事だ。

 

「……休日出勤だな。行くぞ」

「了解です」

「ま、何か事故の可能性もあるけどねぇ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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残業は未だしも休日出勤は悪い文明

「ううっ……ごめんね、ゆきのん。こんなことになっちゃって……」

「気にしないでいいわ。これも時の運というやつよ。とりあえず、大人しくしておきましょう」

 

 現在、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣の2人を含むおおよそ20名ほどがららぽーとTOKYO-BAY南館2階にある広場に座っている状態にある。

 

 その理由は数分前にすぐ近くにある銀行から金銭を強盗した6名の者たちが駆け込んできたからだ。その内1人はトカレフTT-33――――拳銃を所持している。他5人もナイフなど武器を携帯しているが、防弾チョッキなどといった防護服は着用していない。

 

 また全員目出し帽を被っており、突発的な犯行ではなくいくらか計画的に行われたであろう強盗だというのが一般人である雪乃や結衣でも何となく分かるだろう。もちろん、その計画の出来などは数ある犯行のうち差はあるが。

 

 雪乃と結衣は休日に2人で遊びに来ていただけだ。

 

 午前からウィンドウショッピングを楽しみ、お昼になり近くのレストランで昼食を取り、これからどうしようかと話していたところに強盗犯がいきなり現れた。拳銃を突き付けられ、そこにいる人たちは人質になった。

 

 当然恐怖のまま逃げ出そうとした人もいたが、犯人は天井に向けて1発発砲し人質を大人しくさせた。そして、人質以外の周りにあるテナントにいる人たち全員を2階から追い出した。人質以外に邪魔がいたら何が起こるか不明なため、逃走しながらも的確な判断を取った。

 

 今回ここを襲った強盗グループ、彼らは今まで数度強盗を成功させてきた。銀行、コンビニ……襲った場所はその時々で違えど警察を悩ませてきたグループだった。被害額は平均して10万円から30万円だが、今回は狙った場所が銀行ということもあり、100万円以上は盗られている。

 

 一度に盗る金額はさほどでもない。この6人はどちらかと言うと愉快犯の側面の方が強い。今回、逃走する際人質を取るほど追い詰められているが、今までは警察から逃走を成功させ、グループの誰1人とて捕まらなかった。

 

 これは千葉県内の話であり、基本的に東京を拠点としている者たちにはあまり馴染みのない話だったかもしれない。

 

 ――――全く、こうも犯罪者が跋扈するようになったとはね。

 

 雪乃は大人しく座りながら強盗犯を一瞥する。

 

 銃の規制が緩くなり、銃を持つハードルが下がった現代、誰もが銃を所持している可能性がある。もちろん、いくら規制が緩くても所持するのに正規の手続きは必要だ。しかし、それを守らない人たちがいるのもまた事実。

 

 それによって治安は以前と比較すると当然悪化する。あまり人がいない地域なら未だしも、都会になると大勢の人が集まりいつ誰が乱射してもおかしくない状況となる。

 

 そういった犯罪を抑止するため都会には……ある意味無法者と大差ない武偵事務所が密接している。

 

 武偵は武偵で世間から犯罪スレスレをよく行う職業として認知されているので、犯罪者も嫌っている相手だ。とはいえ、犯罪者の数は多くいくら武偵がいても事件が起きるときはどうしても起こってしまう。

 

「…………」

 

 ――――いくら気を付けていても、巻き込まれるときはどうしようもないわね。

 

 内心で雪乃はタメ息を吐き、現状どうしようか考える。

 

 携帯を触るなどといった怪しい素振りを見せてしまってはこちらに危険が及ぶだけ。雪乃の隣には結衣もいる。彼女のためリスクは背負えない。やはり事態が好転するまで大人しくしておくしかないだろう。

 

 それにこの状態は既に警察に伝わっている。無理をして行動するにはメリットがない。強盗犯は拳銃も所持しているのだ。

 

「…………」

 

 大人しくするしかない雪乃は強盗犯の配置を眺める。

 

 今、雪乃たちがいるのはテナント内ではない広場に座っている。すぐ近くにはエスカレーターがある。また、広場から東西に進めばそれぞれ100mほど離れた箇所にもエスカレーター、階段が配置されている。

 

 もし助けが来るならその3ヶ所からだろうと予測する。強盗犯6人のうちの2人もすぐ近くのエスカレーターにいる。残り4人は少しずつ距離を取りながら、人質を見渡せる位置に陣取っている。銃を持っている1人……恐らくリーダー格に当たる人物はその4人の中にいる。

 

 もし人質が暴動を起こしても問題なく対処できるであろう人員の配置だと雪乃は理屈ではなく直感でそう結論付ける。これは事件が解決するのにかなり時間がかかるであろうとも考える。

 

 その理由に強盗犯はまだ来ているであろう警察に要求を通していない。警察からの交渉もまだだ。まだ雪乃たちが人質になって10分も経過しかしていないが。

 

 下の喧騒がはっきりと聞こえないのも相まって警察が突入するのにももうしばらく時間はかかるかもしれない。

 

 恐らく、誰もがそう感じていた。早く解決してほしい、人質はそう思う。早くこちらの要求を通し逃走したい、強盗犯はそう思う。

 

 雪乃の隣にいる結衣もそう思っていた。

 

 政治家の娘である雪乃のようにこういう場に慣れていない一般人の結衣はひたすらに怯えていた。実際に雪乃もこういった犯罪に巻き込まれるのは初めてだが、まだ多少は冷静になれる立場だった。

 

「……ううっ」

 

 ――――せっかくゆきのんと出かけていたのに……どうしてこうなっちゃったんだろ……。

 

 恐らく、結衣以外のここにいる人質となった人たちも同じことを考えているだろう。そのくらい、突然のことであっという間のことだった。

 

 しばらくして人質も次第に落ち着き始める。ただ静かにして時が過ぎ去るのを待っている。強盗犯も同様、警察からの連絡を待つため、そしてほぼぶっ通しでここに押し入った疲れを取るため、軽く息を吐く。

 

 強盗犯、人質共に誰も口を開かない。この広場に静寂が訪れたその数秒後――――――――

 

 

「ガッ……!」

「うっ……!」

 

 

 エスカレーター近くにいた強盗犯の2人がなぜか、唐突に呻き声を上げ床に倒れた。

 

「――――」

 

 気絶まではしていないが、その様子を見るにとてもではないが起き上がれる気配ではない。胸を抑え満足に呼吸することすら厳しそうなほど、ダメージを負っている。

 

「なっ……!?」

 

 強盗犯の全員がいきなりの事態に驚きの声を上げる。人質も全員、同じ方向へ向く。

 

 それは突然のこと。その場にいる誰もが全く意識してなかった。何が起きたのか、誰がやったのか、いつ行ったのか、なぜ倒れたのか、その全てが不明だ。

 

「何だ!?」

 

 予測不能の事態に強盗犯のリーダー格が声を荒げる。

 

 しかし、倒れた2人を見てもまるで原因が分からない。直前まで何も音がしなかったのも相まって、誰も何も把握できていない。どれだけ目を凝らしても、その場には何もない、誰もいない。

 

 そう思っていると。

 

「ほっほっ……よっと」

 

 ――――その直後、軽快な声を上げながらエスカレーターから誰かがトテトテと歩きながら登ってくる。

 

「あっ、これはみなさん。どうもどうも~」

「…………」

 

 1人は陽気な笑顔を浮かべ元気に挨拶するゴスロリ姿をした金髪の少女。その後ろにはライダースジャケットを身に包んだ無表情な青色の髪をした少女。

 

 強盗犯が人質を取っている場において、あまりにも不釣り合いな少女たち。

 

「はいちょっと失礼するよ~」

 

 いきなり現れた2人の少女。この2人以外の人たちは、先ほどとは別の種類の何が起きたか分からない不明さに呆気に取られ、ただ2人を見つめている。

 

 そんな様子などいざ知らず、正体不明の2人は動く。

 

 金髪の少女と青髪の少女――――理子とレキは、音もなく動き、前触れもなく倒れた強盗犯へと近付く。そして、慣れた手付きで手錠をかけ拘束する。それはまるで以前、誰かを対象に行ったことがあるかのような非常に慣れた手つきだった。

 

 倒れた強盗犯2人を拘束し終えたところで、ようやく残りの強盗犯たちは現状を把握し。

 

「て、テメェ! 何しやがる!」

 

 手に持っている銃やナイフを一斉に彼女たちへと向け、怒りと共に語気を強める。

 

「ふあぁ~……」

「……」

 

 彼女たちはそのような怒気を向けられても、銃を向けられても平然としている。理子は欠伸をし、レキはどこか目の焦点が合っていなく放心しているように思える。それこそ、普段生活している状態と何も変わらないほどリラックスしているようだ。

 

 一体何が起きているのか人質含め全員が理解できていない中、理子はクスッと小さく微笑む。

 

「全く~……ダメだよ。私たちばかりに注目してちゃねぇ……そんなに私たちばかり見ていたらさぁ」

「最初に言っておきますが、この2人を気絶させたのは私たちではありません」

「――――君たちでは敵いようのない理不尽に殺られるよ」

 

 そして、彼女たちの言葉と共にまた1人倒れる。

 

「ウッ……」

 

 残りの強盗犯の中、そのうち理子たちから見て最後尾にいた1人が小さい呻き声上げる。

 

 その背後には――――

 

「はぁ……休日出勤とかマジで怠い。ていうかレキはともかく、理子……せめてお前は戦えよ。デリンジャーあるだろうが。なんで俺だけに任せているんだ。サボるな」

 

 やる気がなさそうに目を濁らせ、自分だけが働かされる現状に不満があるのか気怠けにそう文句を垂れる少年がいた。

 

「えー、別にハチハチだけで充分でしょ。適材適所ってやつ!」

「他力本願なだけだろ……ていうか、その服でがっつり動きたくないだけだろ」

「あ、バレた? そりゃあ破れたらイヤだもん。お気に入りだし。破れてもハチハチが弁償してくれるないいけどね?」

「ったく……」

「それにハチハチめちゃくちゃ影薄いからねぇ。だからこうやって気付かれず奇襲できたわけじゃん」

「影薄いのは認めるが、敢えて気配消しているだけだからな。まぁ、前と比べて足音消すのも得意になったのもあるけど」

 

 強盗犯が攻め立てている日常とはかけ離れている場所で日常会話のように物騒な内容を話す2人がいる。

 

「…………」

 

 どこにでもいそうなその私服姿の両手にはまるで一般人には似つかわしくない、警棒ほどの長さのスタンガンと同様の機能を持つスタンバトン、もう片方には2mほどの黒色の棍棒を持っていた。

 

 そして、そのスタンバトンはピリッと光を走らせていた。使ったすぐあとなのだろう。つまり、彼の側で倒れている強盗犯はこの武器で気絶させられた。

 

 そう、武器だ。彼が持っている物体、周りの人がそれは武器だと確実に分かる。それを自身に向けられたら確実に傷付くと。

 

 そう理解できるが、目の前の光景は異質だった。その辺の街を歩いていても違和感がない少年が、当然かのように武器を携えているという事実に。

 

 そして、その事実に誰より驚く人物がまた2人。

 

「比企谷君……レキさん……」

「ひ、ヒッキー……?」

 

 人質になっている雪乃と結衣だ。彼女らは彼を知っている。彼女らと彼――――比企谷八幡は一時期だが同じ学校で過ごしていた。長くない期間だったが、それでも助け助けられ、一緒に行動を共にしたことがあった。

 

 不自然な時期にいきなり転校して来て、あっという間に転校して行った。それでも彼のことは印象に残っていた。口では面倒と言いながらも真摯に彼女らの相談に乗ってくれた八幡に。特に結衣は同じクラスだったこともありその印象も強い。

 

 雪乃は八幡とレキの事情を知っていたこともあって、直ぐ様転校しても驚愕はなかった。加えて、八幡たちが転校する以前、雪乃の姉である陽乃との関係で武偵の依頼があり、そこで少し関わりもあった。

 

 しかし、そこでの依頼は護衛が主で目立つトラブルも少なかった。総武高でも彼が武偵として行動する場面に出くわすことはほとんどなかった。

 

 雪乃は知らない。武偵としての八幡を。

 

 結衣も知らない。このような非日常に存在する八幡を。

 

「さぁ……残り3人」

 

 と、雪乃と結衣の様子などいざ知らず、八幡が誰にも聞こえない声量で呟くと同時に軽く踏み込んで棍棒を思い切り振る。

 

 棍棒は2m近くあり、八幡は棍棒の端を持っていた。踏み込みもあり、たった一振りの射程距離は3mは越えている。

 

 いきなり背後に現れた八幡に対して、強盗犯は目前の現状に処理がとても追い付かない。

 

 その刹那、強盗犯の1人は距離が開いていたのにも関わらず八幡が振るった棍棒に反応できず、顎を殴られ何もできずに倒れる。

 

「――――」

 

 気絶まではしていないが、かなりの衝撃にとても立てそうにはない。

 

「次」

 

 先ほど倒れた強盗犯から後方へ1m近く離れている相手に八幡は音を立てずに一気に距離を詰める。

 

「なっ……」

 

 強盗犯の驚きなど意に介せずそのまま棍棒を振るい、手首を狙い叩く。その手首には拳銃が握られており、まず危険を排除する目的だ。気絶させようと殴ったとしても反射的に撃たれる可能性も充分ある。それに加えて……。

 

「いっ……!」

「撃つ気ねぇくせにトリガーに指かけんな」

 

 という理由もある。

 

 殴られた衝撃で拳銃を落としたのを見計らって八幡は強盗犯のリーダー格を仕留めにかかる。

 

「邪魔」

 

 拳銃を叩き落とした初撃で既にある程度距離を詰め、もう八幡と強盗犯の距離は1mを切っている。

 

 そのため長い棍棒をこれ以上振るうには不向きと考え、八幡は相手の懐に潜り込み肘打ちを強盗犯の鳩尾に叩き込む。

 

「――――」

 

 鳩尾を本気で殴られたらしばらく呼吸困難になる。それこそ、嗚咽も続いて平常でいられる人は少ないだろう。素人でも殴ればそうなるのだから熟練者なら尚更。

 

 拳銃を持っていた強盗犯のリーダー格は八幡の肘打ちを諸に喰らい、経験したことない痛みと共に一瞬で気分が悪くなり嘔吐きつつ体に力が入らなくなり膝を付く。

 

 と、膝を付くと同時に八幡の追撃というかダメ押しの蹴りが顔面に直撃する。成す術もなく5mほど吹っ飛び転がる。

 

 そして、八幡は蹴った瞬間にはもう次の動作に移っている。先ほどリーダー格を蹴った足で着地するだけではなく、その足で更に踏み込む。

 

 その踏み込みですぐ近くにいる残り1人の強盗犯の顎を棍棒で殴る。あまり勢いよく殴っていないからか、まだ強盗犯の意識はある。

 

 しかし、八幡が現れてから今まで短時間で他の仲間である強盗犯を制圧した事実に呆然としており、反撃する気配をまるで見せない。そう判別した八幡は追撃を行う。

 

 また、距離を調整させるため棍棒を短く握っていた。つまり、まだ八幡との距離は近い。ということで、八幡は直ぐ様スタンバトンを首に当て電流を流す。

 

「ガッ……」

 

 ビリッ――――生身では防ぎきれない電流を浴び、最後の強盗犯もドスンと力なく倒れる。

 

「…………」

「…………」

 

 3分もかからず強盗犯6人は1人の少年によって制圧された。

 

 人質として離れた場所から八幡たちの動きを見ていた雪乃と結衣、彼女らは彼の動きに圧倒された。素人目で見ても分かるほど洗練されていた。

 

 無駄のない動き。1つの動作が終了したと思えば、隙間なく次の動作に繋がっている。一般人から見るとそれは異常なのだが、目の前にいる彼はそれが当たり前かのように振る舞う。

 

「あれが比企谷君……? スゴいわ……」

「ヒッキー……カッコいい……」

 

 思わず彼女らは感嘆の声を洩らす。今まで知っていた八幡とはかけ離れている姿に。その場にいたのは彼女らの知っている彼ではない。

 

「……ふぅ」

 

 しかし、戦闘が終わればそこにいたのはかつて懐かしい日々を過ごした雰囲気になっている。

 

「……さてと、制圧完了。そうそう。俺ら武偵だからな。これ以上痛い思いしたくなければ抵抗しないでね。面倒だから暴れないでくれたら尚嬉しいまである。あ、理子にレキ、あとよろしく」

「はいはーい。んじゃ、さっさと手錠かけますかー」

「八幡さん、お疲れさまです」

「報酬俺が多めに貰うからな」

「えー、そこは仲良く3等分でしょ」

「ねぇ、誰がどう見ても俺が一番働いたよね。つーか、お前ら俺よりめちゃくちゃ金あんだろ」

「それはそれ!」

「私は別に構いません。いくら貰おうがどうせ変わりませんので」

「うわ金持ち発言。ったく、なんかもう一気に帰りたくなった……。とりあえず人質にケガないか確認か……って、あれ」

 

 ――――と、ここで八幡は人質に目を向け、ようやく雪乃と結衣と目が合い、人質だった群衆の中に2人がいるのだと認知した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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生きてるだけでえらいよ

 強盗犯たちを全員戦闘不能にさせ、警察に引き渡してからしばらく経ち――――

 

「あれだな、今日で改めて分かったことがある。やはり休日出勤はクソだということだ。別に全くこれっぽっちも疲れてはいないが、せっかくの休みという事実が拍車にかかって、非常に気分が削がれた」

 

 砂糖など入っていない苦いコーヒーを目一杯口にして俺はそう結論付ける。

 

 そんな俺に対して、仕事仲間の2人は仕方ないなという目線を俺に向けてくる。

 

「職業柄、良くあることです」

「あんなのハチハチなら仕事にも入らないでしょ~。一山いくらの雑魚じゃん。物足りないならどう? ヒルダと戦う? 今日いないけど」

「絶対嫌だ」

 

 諸々面倒な手続きは警察に任せ、俺の口座だけ教えてさっさとその場をあとにした。事情聴取とかもあの場で改めてすることないのに加えて、俺たちは怪我人も出していない。これだけで充分だろう。あとは警察の仕事だろう。

 

 そして、今いるのは安心安定のサイゼリヤ。学生……いや全人類の味方。リーズナブルな価格というだけで助かる。とはいえ、飯は食べたばかりなのでドリンクバーだけにした。……と、ここにいるのはレキと理子だけではない。

 

「い、いやー……まさかヒッキーがあの武偵だったとはねぇ。ゆきのんは知ってたの?」

「まぁね。一度、依頼で関わったことがあるからね」

 

 あの場で人質の中にいた雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣両名もいる。どうやら偶然ショッピングしていた際に巻き込まれたらしい。お互いに災難だった出来事だ。

 

 今回、人質にケガはなかったので警察が軽く人質になってしまった人たちの個人情報だけ確認して解散になったとのこと。

 

 彼女らは総武高で任務で過ごしているときに世話になった人たちだ。雪ノ下には俺とレキが武偵だということを隠してくれたし、若干だが俺たちの素性を隠すのに協力もしてくれた。由比ヶ浜には転校初期、学校の案内やクラスでの立ち位置など色々と助かった。

 

 まさかそんな2人とここで再会するとは微塵も思っていなかった。

 

「へー、あたしそれは初耳。うちに来る前のこと?」

「そうね。夏休みの話よ」

「じゃあ、ヒッキーがこの前うちに転校したのも」

「ざっくりと知っていたわ。ある事件の捜査、ということよね。転校した理由って」

「まぁな。解決したから別にもう守秘義務はないけど、詳細は伏せておく。総武高に転校したのはそういうことだ。一応、雪ノ下は察していたよな」

「大方はね。具体的な内容は知らなかったけれど」

「だから言えるかっての」

 

 気になるならば今なら教えてもいいのだろうが、どうもそういう気にはなれない。直接雪ノ下たちに被害が遭ったわけではない。だからだろうか、血生臭い話は触れずに一般人には穏やかな日常でも送っていてほしいという気持ちがある。

 

 とはいえ、さっき事件に巻き込まれたからそれもそれで微妙な気分になるのも否めない。その辺りのバランスが難しい。

 

「…………」

 

 そういや、あそこでの石動組に半ば脅された形で協力していた女生徒――――相模の顛末はどうなったのだろうかと少し気になる。まだ学生の身分、調べても細かく情報は残っているとは思えない。千葉県警にでも伺えば分かるだろうが、改めて確認しようとは思わない。

 

 ……雪ノ下たちに訊けば少しは分かるかな。まぁ、もう俺には関係ない出来事だ。彼女が普通に生活を送れるようになれば良いだろうが、あの性格ではそこそこ大変かもしれない。

 

 これから彼女は犯罪を犯してしまった負い目を背負って生活する必要がある。そこに関して俺では理解できない苦労があるだろう。とはいえ、もう俺は彼女の人生に触れない。これ以上考えるだけムダかな。

 

 と、ある意味無責任なことを考えていると雪ノ下がこちらに小声で問いかけてくる。果たして本当に訊いて大丈夫なのか何とも言えない微妙な表情で。

 

「ところで比企谷君、その、野次馬精神で気になるのだけれど……先ほど解決した事件でいくら報酬で貰えるのかしら?」

 

 内容はまさかの小町並の疑問だった。雪ノ下……我が愛しいアホの子代表の妹と同程度の質問をぶつけるとは。まぁ、金の話題なんて誰でも気にはなる。

 

 それはそれとして。

 

「お、おう。雪ノ下……お前いきなりだな」

「……そうね。不躾な質問なのは分かっているわ。ただの興味本位よ」

「あ、あたしもちょっと気になるかな……」

 

 別にこの程度なら教えて大丈夫だろう。というか、まだ払われていないから正確な解答はないのが正解ではある。

 

「まぁ、俺個人には最低3万とは警察に伝えた。こういうのは相場があるからな。俺ら3人まとめて払われるなら……こっちにはSランクの武偵様がいるんでもう少し色が付くだろ。お前ら何もしてないけど」

 

 ぶっちゃけもうちょい貰ってもいいだろうとは思う。

 

 警察が武偵高か武偵庁辺りに連絡して、色々と一悶着あってから報酬が支払われるだろう。

 

「ハチハチ、地味にがめついねぇ」

「うっせ。一応はこれでも人の命救ったんだからな。少しくらいワガママ言っていいだろ。タダ働きなんざ滅びればいい。俺はボランティアという搾取が大嫌いだ。適当に甘い言葉で労働力を使い潰すんじゃねぇ。正当な労働には正当な報酬が支払われるべきだ」

「うわ急に饒舌」

「八幡さん、急に喋りましたね」

 

 クソ、金持ち2人が茶々入れてくるんだけど? どこぞの中国のマフィアやアメリカヒーローの方が金払い良かったよ?

 

「そんなに稼げるのね。さすがプロだわ」

「ヒッキー、スゴーい!」

「その代わり、こっちには武偵法があるから良いことねぇぞ。こんな綱渡りなフリーランスより堅実に働いて稼ぐのが一番賢い」

 

 コーヒーをチビチビ飲みげんなり気味に言葉を漏らす俺。

 

 なんなら遠山のように収支がプラスになることが少ない武偵だって当然存在する。弾薬や任務までの移動費、その他装備の整備費など必要以上に出費が多い職業でもある。そもそも任務を受けなければ稼げない。自営業の悲しい部分よ。

 

 俺はたまたま高収入の依頼や報酬金が続いて多少は貯金できている。それらが無ければ多分俺もギリギリの生活をしていたと思うほどだ。俺もムダに出費多いからなぁ。

 

「ゆきのん、武偵法ってなに?」

「その名の通り武偵に適用される法律よ。国から認可され、拳銃を持てる職種だからこそ、周りが危険にならないようかなり厳しい法律になっているのよね。たしか通常の刑より何倍も重くなる……だったかしら?」

 

 雪ノ下の博識さがここで光る。なるほど、これがユキペディアか。

 

 例え知識としては頭にあっても、訊かれてすぐに相手に伝えるための言葉にできる能力とはまた別物だ。インプットとアウトプットの差だ。こうやってすぐ第三者にアウトプットできるところを見るに地頭が賢いのだろう。

 

「よく知っているな。武偵はざっくり一般人の3倍罪が重くなる。もし一般人が100万円賠償金を支払わなければいけなかったら、武偵は300万円になるな。これはかなり極端な話になるが、武偵がどんな形であれその事件に関与しているなら、一般人や犯人含め誰か死んだ時点でそこにいる武偵は例外なく死刑だ。武偵が複数人その事件に関わっていたら全員もれなく連帯責任だな」

「う、うへ~……。それめちゃくちゃ大変じゃない?」

 

 由比ヶ浜が引きつった顔をする。君はこんな職業に就こうとは思わないでね。

 

「そりゃもうめちゃくちゃ大変だよ。もちろん大変な部分しかないが、こうまでしないと武偵としての存在は成り立たないぞ。ただでさえ今も社会の異物みたいな感じだけど、もしこれで法律すら緩かったら世紀末もいいとこだ。拳銃持って好き勝手やれるんだからな」

 

 普通に犯罪スレスレなことはやっていますけどね。だから武偵は社会から嫌われるんだよ。

 

 しかし、別に武偵全員が前線でがっつり戦うと問われればそれはまた違う話になる。戦闘とは関係ない後方支援の武偵だって存在する。

 

 武偵高には情報科、救護科、尋問科など存在しており、活躍する武偵の種類はわりと多岐に渡る。探偵科のくせして前線にしかいない某遠山とかいう奴もいるけどね。いやまぁ、アイツ元強襲科だもんな。

 

「まぁ、ぶっちゃけ武偵って犯罪者と代わりないときあるし、必要悪ってやつだよね~」

 

 理子が付け足す。正しく毒を以て毒を制す、か。

 

「峰さんも武偵なのよね?」

「そうだよ……雪乃……うーん、ゆきのーん」

「貴女もそう呼ぶのね……。いえ、それにしては…………何て言えばいいかしら」

 

 と、雪ノ下が理子へ向ける視線が何とも奇妙な物体を見ているように感じる。本当にこの人は武偵なのか? そう訝しむとまではいかないかもしれないが、それに似た雰囲気を見せる。

 

 その理由も察しはつく。

 

「おい理子、お前のそのゴスロリ姿、武偵らしくないって言われているぞ」

「ちょっと比企谷君。そ、そこまで言ってないわよ」

「やー、ゆきのんの言いたいことも分かるけどねぇ。これ普通に私服だから」

「でも理子ちゃん……りこりん、スゴい可愛いよ!」

「おっ、ゆいゆいありがと~」

 

 アダ名のセンスがどうも似ている2人だ。いや、センス云々よりほぼ初対面でアダ名を付けようとする度胸があると表現するべきことだろうか。俺もほぼ初対面でヒッキーというアダ名を頂戴したしな。

 

 それ以上に理子と由比ヶ浜は性格が似ている。陽キャ寄りの性格だ。どちらも話すことが上手なのもあり、気が合うのだろう。理子の場合は実際、自身の弱さを隠すための仮面、過去の自分を知られたくないがために敢えて明るく振る舞っていたが…………今ではもうこの明るい理子が普通になっている。昔は見られた不自然さはない。

 

 反面、由比ヶ浜は裏表がないように見える。当然本人が考えていることはあるだろうが、それを差し引きしても人を小馬鹿にするような雰囲気は感じない。要するに人当たりがいいということ。

 

 そんな2人だ。ここに来るまででいつの間にか仲良くなっていた。

 

「ゆきのんやゆいゆいは何か食べないの? 適当に頼もうか?」

「今はあんま食べるつもりになれないかなぁ。あんなことあったあとだし食欲が……」

「私も由比ヶ浜さんに同意ね。今はお腹に入らないわ。飲み物で充分よ。ありがとね、峰さん」

 

 遊んでいたところを犯罪に巻き込まれた。たしかに一般人からだとストレスになる。何だろう、悲しいことにその感覚が俺にはなくなっていた。休日潰されたからある意味ストレスになっているが、種類があまりにも別物過ぎる。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 残された3人は理子や由比ヶ浜とは対照にひたすら無言を貫いてる。訊かれたら必要なことは話すが、自分から積極的に話しかけることは少ない。ボッチとはそういう存在だ。何なら話しかけられてもろくに話さないまである。

 

 俺や雪ノ下は多少は話すことはあってともかく、レキはそもそもマジで無口。そして、この3人は誰かが話していれば、わざわざ割って入る性格でもない。

 

 だからしばらくは2人の会話を静観している。

「その服可愛いね。どこで買ったの?」

「原宿だよ~。私とね、趣味が合う人と一緒に買い物したんだよね」

「へぇ~。いいなー、あんまり東京で買い物しないからやぁ。てゆーか、ゴスロリ趣味ある人、身近にいるんだ。そういうのいいよね。一緒に好きなことできるって」

 

 その趣味合う奴って恐らく過去に理子の命縛っていた奴なんだよな。よくよく思えばここまで関係が良好になるとは、ヒルダも義理堅いというか何と言えばいいか……両者間が良しとしているなら俺から言うことはない。

 

「ゆいゆいも着てみる?」

「うーん、どうしよっかな。そういう変わり種は着たことないから興味あるし」

 

 まぁ、由比ヶ浜なら何を着ても余程変な組み合わせでなければ似合うだろう。俺から見ても容姿に優れている上、理子並にスタイルがいい。そのスタイルは単純にあれが……メロン……が、デカい……。

 

 と、というのもあって、容姿端麗な由比ヶ浜は何でも着こなせるとは思う。容姿端麗という言葉だけで言うなら、雪ノ下にも当てはまるが……雪ノ下にはレキ同様、理子や由比ヶ浜とは圧倒的なまでに――――

 

「――――比企谷君?」

「――――八幡さん?」

 

 …………ほんの一瞬、理子たちに視線ズラしただけだろうが……!

 

 終始ポーカーフェイスを貫いた俺に対して、目敏く反応する2人。君ら察しが良すぎない? ちょっと怖いんだけど?

 

 レキは散々慣れているのもあるがそれとは別に、特に雪ノ下からの視線から発せられる殺意……お前本当に一般人かよと疑ってしまうレベルだ。神崎に向ける星伽さんレベルの殺意を向けないでくれ。

 

「ん? どしたのヒッキー?」

「いや別に。飲み物追加で取ろうかなって」

 

 対する俺は何食わぬ顔でそそくさと適当に言い訳かまして逃げましたとさ。こういうときその場から抜けるのがわりと上手になった気がする。

 

 

 俺が新しいドリンクを追加してからしばらく談笑は続き、一段落の雰囲気を見せたころ。

 

「改めて今日はありがとね」

「そうそう、ホントにありがと~」

 

 そう礼を告げる雪ノ下と由比ヶ浜。助けた直後にも言われたが、随分と律儀な2人だ。

 

「仕事だしな、気にしないでいいよ」

 

 対する俺はコーヒーを飲みながら適当に返す。

 

「たまたま私たちがいただけだからね~。このくらい何てことないよ」

「そうですね。お礼を言われるほどでもありません」

 

 理子の言う通り、2人がいるから助けたのではなく偶然助けた人の中に2人がいただけ。言ってしまえばそれだけのこと。感謝される謂われは……あるかもしれないが、特別改まって言うことでもない。

 

 あれは中学までの俺とは程遠い、今の俺にとっての日常だ。

 

 と、由比ヶ浜はキラキラとした眼差しをこちらに向けてくる。

 

「でもヒッキーホントにスゴかったね。あんな一瞬でバシバシ倒して!」

「……どうも」

「お? ハチハチ照れてる?」

「うっせ」

 

 こうもストレートで褒められると多少は顔赤くなるだろ。誰かを貶めようとは考えてない……裏などない、純粋な言葉だ。

 

「でもまぁ、あんなの雑魚も雑魚だからねぇ。ハチハチならあの程度余裕でしょ。あのレベルなら何人まで倒せる?」

「……向こうの装備によるけど、100人までならどうにかなるだろ。あー、でも人質とかいたら厳しいな。何の縛りもなかったらそのくらいはイケるだろ。知らんけど」

 

 俺が超能力含めて全開で戦えばだが――――普段なら超能力はなるべく隠したいしそこまでは厳しいかもしれない。とはいえ、素人相手なら俺の全部の武器使えばいいとこイケそうな気もしなくもない。

 

 いやしかし、単純に100人相手するとなると体力が果たして足りるかどうかが心配になる。体力はある方だとは思う。それでもレキの狙撃合戦のように長時間の戦闘はあまり行っていない。今まで短期で決めてきたからな。

 

「…………」

 

 と、それは別に雪ノ下たちがいるこの場で考えることではないか。その雪ノ下は軽く引いた顔をしているし。

 

「貴方……さらっととんでもないこと言うわね」

「多少主観が交じっていようともただの事実だ」

「……とはいえ、八幡さんならそのくらいはできるでしょうね」

「レキュの言う通り……まぁそのくらいは大丈夫だよね」

「りこりんもレキちゃんも同意するんだ……」

 

 あ、由比ヶ浜。レキはちゃん付けなんだ。

 

「こうして話すと、生きている世界が違うという感じがするわ。やっぱり武偵って私たちとは違うのね」

「ねー」

「そうかなぁ? レキュみたいな仕事人間は未だしも、あたしとか普通に趣味や感性は一般人寄りだよ?」

 

 ねぇそれ本当に? そもそも武偵置いといてお前怪盗だろ。そんでお前爆弾魔! いやたしかに環境が特殊なだけでそこいらの奴とそう変わらん奴のが多いと思うけど。

 

「価値観やらはあんな世界で生きていたら、そりゃ多少は違うけどな。理子の言うことも一理はあると思う。つーか、そもそも憧れるほどのもんじゃねぇし、憧れても逆に困るぞ。武偵なんて社会のハミダシ者だぞ」

 

 そんな羨望の眼差しを向けられてもひたすらに困惑するしかないのである。

 

「えー。でももしまた事件に巻き込まれたら私たちじゃ何もできないじゃん」

「そうなったら周りを頼ればいいんだよ。俺だってできないことの方が多い。今日は偶然お前らが困っている分野で役に立っただけだからな」

「そうなの? できないって例えばどんなの?」

「まず武偵は総じて頭が悪い。武偵高の偏差値また調べてみたらいいぞ。めちゃくちゃ低いから。頭悪いからそれこそ、俺含め自分の専門分野以外のことはまるでダメな奴らが多い。それに社会不適合者の集まりでもある。マトモにコミュニケーション取れない奴だっている。単純なコミュ力なら由比ヶ浜があのアホの巣窟に入れば多分トップに立てるぞ」

 

 俺がいきなり褒めたからか、そうかなー……と由比ヶ浜照れながら頬を掻いている。

 

 実際、由比ヶ浜のコミュ力はかなり高い。何と言えばいいか、計算していないのにいつの間にか相手と良好な関係を築けるという能力が素晴らしい。多少は計算しているかもしれないが、それを感じさせない言葉使いや態度というか……。

 

 まずいきなり転校してきた眼の腐った奴に臆面もなく話しかける胆力がスゴい。初対面の奴にいきなり学校案内申し出てた行為も、まず俺ならできない。それも見た目目が腐っている奴だぞ。普通に避けたいレベルだ……自分で言っていて悲しくなるなこれ。

 

 武偵高の奴らと比較してみても……遠山は根暗、神崎は態度がわりと上から、星伽さんは初対面の相手にはかなりの頻度でテンパる。レキはマシになったがアレ、理子は計算尽くしたコミュの高さであり由比ヶ浜とはベクトルが違う。一色のあざとさは理子と似た傾向、留美もまぁまぁ人見知り、俺は言うまでもない。

 

 俺の知人ですらこうだ。それにジャンヌの同室である……名前は知らないが通信科の生徒もかなりのコミュ症らしい。それはもう目を合わせて全く話せないレベル。

 

 …………そう考えると俺らなんかもう終わっているな。

 

 とまぁ、話を戻しまして。

 

「だから苦手なことは素直にそれが得意な奴に頼ればいい。色々な奴らがいる=強いんだよ。1人がどれだけ秀でていても所詮限界がある。1人が手を伸ばせる距離なんてたかが知れているしな。武偵がスゴいわけでも偉いわけでもないし、だからと言って別に雪ノ下や由比ヶ浜が必ずしも劣っているわけでもない。それぞれ得意な分野で得意なことを発揮すればいいだけだ」

 

 ――――このような言葉、武偵になる前だったら到底話せなかっただろう。

 

 武偵になったからこそ、自分がいかに劣っているか分かった。自分がいかに能力が足りないかが分かった。自身の不得意なことが今まで以上に目立つようになる。

 

 だからこそ、自分ができないことはできる人に任せる。そこはもう素直に頼る。自分の責任など関係ない。頼れるだけ頼りこちらは楽をする。適材適所、他力本願……なんて素晴らしい言葉の響きだろうか。座右の銘として心に刻みたいほどだ。

 

「おー、ハチハチ……。なんか良いこと言うね。1年のころと大違い」

「喧しい。つーか、武偵がチーム組むのだってそういう意味合いあるしな。俺とレキを見てみろ。得意不得意ハッキリしかしていないだろ」

「いやまぁ、それはそうなんだけどねぇ」

 

 互いの得意とする射程が分かりやすい。近距離特化と遠距離特化のチームだ。レキが敵に寄られたら俺が護る。俺が敵と相対するときはレキが援護する。俺たちはそういう関係だ。

 

 だからまぁ、総武高での地道な捜査に関してはそこそこ苦労したわけで……。あれはなかなかにしんどかったな。すぐ眼に見えて成果が分からないというのは武偵としての仕事においてそこそこ苦手だということが改めて知った。強襲科は攻めてなんぼだしな。

 

 そして俺の言葉を訊いた雪ノ下は頷き口を開く。

 

「なるほどね。要するにみんな社会の歯車だと。今は例え1人で何もできなくとも、巡り巡っていずれどこかで花開く」

「それが数日後か何ヵ月……何年先のこととかは運と当人次第だけどな。――――とまぁ、さっきの話と矛盾するけど、誰かに頼れない状況ってのはもちろんある。そのときのために知恵と力を付けておくってのは別に間違いでもない。とはいえ、こんな職業目指されたも困るがな」

 

 自嘲気味に笑う俺に対し、雪ノ下は少し咎める視線を向ける。

 

「ねぇ、比企谷君…………それでも私は武偵が必要だと思うわ」

 

 その言葉に俺たち武偵側3人は沈黙して続きを待つ。

 

「先ほど峰さんが必要悪と言っていたけれど、今日でよく分かったわ。今の社会、世間の評価はどうあれ武偵は必要な存在なのだと。たしかに武偵を嫌う発言はよく訊く。でも、武偵がいないと様々な犯罪が今まで以上に蔓延する。それこそ今日のような突発的な犯罪だと特に。武偵はある種の抑止力でもあるのね」

「否定はしない。こんだけ銃の規制が緩くなってんだ。取り締まる側もそれなりに無法者にしないと釣り合いが取れない部分はあるわな。でも別に嫌っていても構わねぇぞ。ムリに好意的にもならなくていい。嫌われるだけのことは余裕でしている自覚あるし」

 

 それこそ高校生が銃を持ってこうして街中を歩いている。普通に考えれば異常な光景だ。異端な存在であるからこそ、社会からは異物として扱われる。それを非難するつもりはない。むしろ当然とも言える。

 

 しかし、雪ノ下の言った通り異物だから治安の悪くなる社会を安定させるために武偵はいる。……そう頭では分かっていてもそう真っ直ぐと宣言してくれるのは少し嬉しくもある。

 

「雪ノ下には前言ったかもしれないけど……別に嫌う分には全然構わない。ただ、何もかもを頭ごなしに否定しないではほしいな。それが何であれ、否定したらそれ以上理解しようとしない。心を閉ざして受け入れようとはしなくなる。関係性はそこで終わりだ」

「え、ヒッキー。嫌うのはいいの? なんかおかしくない?」

 

 と、そこで由比ヶ浜の素朴な疑問。俺はどう話そうか少し考えてから口を開く。

 

「嫌うってのある意味その対象について知っていることだからな。無関心だと知ろうとしない。頭ごなしに否定したら同様に頭から切り離そうとする。逆に好きや嫌いが入ると、そりゃ多少はバイアスかかるだろうが、知りたいと思うし知ろうと行動する。だから嫌ってくれる分にはいいんだよ。……まぁ、一度嫌ったら情報をシャットアウトする場合もあるしケースバイケースだな」

 

 例外として第一印象で嫌いになれば、その限りではないだろう。この場合嫌いも無関心も同意義になる。

 

 何せ最初で完全に否定しているのだから。これではどう足掻いても知ろうとはしない。余程その第一印象から好感度が上がる事態でもなければ、評価が変わることはないだろう。

 

「だから何て纏めればいいだろ……あー、そうだな、どんな事柄であれ、ある程度知った上で判断してほしいってことだ」

 

 こんなこと中学までの俺は考えもしなかった。とはいえ、武偵になった当初もそうは思いもしなかった。

 

 こうまで至った経緯は何だろうかと記憶を探る。……思い返せば金一さんの死亡報道という名の失踪だ。

 

 事件の全責任を金一さんに押し付け尚且つ遠山までに責任を追及しようとし、遠山は心身共に潰れたあの出来事。あれを境に何も知らないのに、知ろうともしないのに、ひたすら否定しかしない身勝手な奴らにどうしようもない憤りを覚えた。

 

 あの事件からより一層すぐに否定する行為に腹立つことになった。実際、俺もあれでかなり迷惑被ったしな。

 

「……うん、何となくだけど分かったよ。あたし目先の情報で色々と判断しちゃうとこあるかなぁ」

「SNSとか見てるのそうなりがちだよな。あるある」

 

 何気なしに俺はほーんと相槌を打っていると雪ノ下がこれ見よがしに大きくため息を吐く。

 

「そういう人たちを御するのは本当に苦労するわよね」

「いやわざわざ制御しようとしないでしょ。そういうのは普通に無視安定じゃない?」

「峰さんならそれができるでしょうけど、ムダに突っ掛かってくる輩がいるのも事実よ……。そういうときはさっさと論破するに限るわ」

「ゆきのんもハチハチ並に面白い人生送ってそうだね」

 

 おい、誰の人生が面白いって? 宜しいならば戦争だ。今度模擬戦の相手でもしてもらおうぞコラ。思えば理子には真正面から勝った記憶がない。イ・ウーでは成す術なく転がされたし、新幹線ジャックでは良いようにヤられた。機会があればリベンジを果たしてみよう。

 

 そういう理子の……過去は……………………うん、突っ込んではいけない話題だな。多分場の空気が悪くなること間違いない。レキも……漓漓のことを考えるとやや突っ込みにくい。やだ、コイツらの過去重すぎ?

 

「……まぁなんだ。小難しい話は終わりにするか」

「だね。ヒッキーたちの、そっちの生活とか知りたいなぁ」

「と言っても~……普段はそんなに変わらないんじゃない? 授業がブッ飛んでいるだけで。レキュも別に授業普通に受けてるよね」

「はい」

「まさかレキさん不登校児なの?」

「違います。私は少し環境が特殊だっただけです。しかし、普段は皆さんと相違ありません」

 

 

 ――――その後、全員でのんびり世間話をして、面倒だったが結果的にはここにいて良かったと思える1日は終了した。

 

 武偵としての俺、普通の高校生としての俺、どちらも知っている人たちと同じ時間を過ごせた。そのさりげなく何気ない、貴重なかけがえのない積み重ね。ありかたりな言葉だが、それだけで今までの苦労が報われてきたとも思える。

 

 しかし、俺が武偵である以上これから先きっと厄介な出来事が山ほどあるのだろうと思いを馳せると若干憂鬱にもなる……やっぱり働きたくねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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終わりと始まりは当然に

 かつて任務先の総武高で世話になった雪ノ下と由比ヶ浜と再会した事件から何事もなくしばらく経ち、武偵高は春休みを迎えた。それはつまり2年が終わったことを意味する。

 

 留年してないので次に始まるのは当然最高学年である3年。

 

 武偵高の3年生はある意味プロと同等に扱われる。3年になれば、企業や個人からスカウトされることもある。例えば、武偵事務所に所属している武偵から、警察から依頼されその直属の命令下として働くことがある。

 

 つまり一口にスカウトといっても、卒業後就職という場合ではなく、すぐにその企業か個人に付き任務を遂行することも当然許される。

 

 そのため、任務に出ていることが大半で学校にいないことが多い。たまに俺も3年を見かけたことがあったが、ただの印象としては2年とそこまで雰囲気は変わらなかった。

 

 しかし、その実能ある鷹は爪を隠すと言うべきか、その気配の奥では得体の知れない不気味さが潜んでいた。

 

 とはいえ、学年が変わろうと、学生から時を経てプロとして心構えが成熟しようと、そう簡単に比企谷八幡という人物の根底が何か変わるわけでもない。

 

 そもそも人間は簡単には変われない。好意的だろうと否定的だろうとどんな形であれ変化したとしても、それは所詮表面上なものだ。心の奥底にあるその人の人生観はそう簡単に変化しない。

 

 俺は武偵になった。そこで様々なことを経験し学んできたことはある。銃と共に血生臭い世界を日常とし価値観は過去と比較しもちろん遥かな方向へ変化した。

 

 しかし、そのせいで根本的な性格まで反対になったことはない。正直なところいくら武偵になろうが必要に迫られなければ働きたくはないし、煩わしい人間関係は嫌いだ。

 

 筋が通らないことは徹底的に避ける。何事も疑いにかかる性格は変えられない。多少他人の評価を気にすることはあるが、最終的には他人がどうあれ、自分が本当にしたいのか、またそのことに対し本当にそれでいいのかと自分を許せるのかで物事を判断する。

 

 相棒であるレキも同様。

 

 風から解放されロボット・レキと揶揄されていたころから少しずつ表情や欲が前面に出るようになってきた。それは非常に良いことだ。感情や欲はどんどん表に出すべきだろう。

 

 だからといって、彼女の性格が大きく変化することはない。仕事に対しては俺含め有象無象とは比べられない拘りは捨てない。俺というストッパーがいるもののいざとなれば殺人に躊躇はない。俺が何を言っても納得しなければテコでも動かない頑固な性格。

 

 仕事に関して俺が見てきた中で一番ストイックな人物だろう。

 

 いくら成長し変化しても自分を培ってきた性格は反対にはならない。もし反対になるのであれば、それは今までの自分を完膚なきまで否定しているまである。それが悪いこととは言わない。ただただ難しいことだ。それはきっと一度自分を殺すと同義なのだろう。

 

 簡単にできるとは思えないし、俺は早々したくない。

 

 

 ……なんか話がかなり逸れた気がする。自分語りはここで終わりにして近況に移ろう。

 

 あと何か周りに出来事があるとしたら……あれか。

 

 俺にはあまり関係ないことだったが、神崎の母親が無事釈放され、晴れて自由の身になれた。元々色金の情報を漏らされないよう冤罪で捕まっていたが、遠山と神崎たちの尽力によりその罪も無くなった。

 

 しかし、神崎の母親について特に俺は何もしてやれなかった。結果的というか間接的に神崎の手助けはしてやれただろうが、正直……神崎の母親釈放に対し直接役に立ったかと考えるとそこは微妙と言わざるを得ない。

 

 この前は親子2人で遊びに行ったと学校で会ったときに神崎から笑顔で報告を受けた。色金騒動には非常に大変な思いをしたが、あの神崎の笑顔が見れただけで報われたと思える。

 

 ……やはり俺、他人とはまた別のカテゴリに入った人物に対してチョロいという自覚がある。こちとら何度も死にかけたのになぁ。

 

 

 

 ――――春休みもいくらか過ぎ、今は3月31日。寒くて暗い冬空の中神様と戦った日は懐かしく感じるほど温かくなった。

 

 もうすぐ桜も花開く時期の穏やかな気候の元、俺とレキは老若男女で賑わう東京の一角――――お台場に来ていた。別名武偵の溜まり場とも言う。近いからね。

 

 目的は至極単純、よくアニメやゲームやらで見かれるような甘ったるいデートなどではない。こちとら休みの日に余程の用事がなければ出歩かない2人だ。俺たち出不精を舐めるなよ、いや誰に対して威張っているの?

 

 まぁ、目的は何かって要するにある奴の誕生日プレゼントを買いに出かけたわけで。

 

「何買うか決めた?」

「そうですね、理子さんと言えば衣服関係、もしくはアクセサリーなどの小物でしょうか。しかし、八幡さん。誕生日当日に買うのは如何なものでしょう」

「普段からアピールされてたし、覚えてはいたんだけどな。如何せん俺の腰が重すぎた。それにどうせ夕方会う用事作ったからな。今買えば一緒くたに済ませられるだろ」

 

 単純な話、今日が理子の誕生日ですね。

 

 学校で会って話すときわりと高頻度で誕生日は今日だとよくアピールされたこともあって、去年は渡していなかったので、さすがに渡すか……となった次第。去年はそもそも誕生日を知らなかったしな。

 

 ……去年のこの時期ってまだイ・ウーにいたか? たしか3月に帰って来たと思うが……。まぁいいや。

 

 で、プレゼント渡すから夕方に集合と呼びつけ、サプライズなど微塵も感じさせない言い方で理子の予定を空けた。気の利いた言葉なんていらないレベルのストレート具合だ。下手すりゃデッドボールなまである。

 

 とりあえずアクアシティお台場の雑貨屋を巡りながらのんびり相談し合う。

 

「理子さんは普段自身で身に付けるものを多く所持していますが、何を渡せば良いのでしょうか。私にはそういうセンスがないので」

「アイツの趣味広いからなぁ。ぶっちゃけ分からん」

「では八幡さんは何を?」

「俺は高めのお菓子でも渡そうかなって」

「お菓子……」

 

 本当にそれでいいのかと言いたげなジト目を俺に向けるレキ。言いたいことは分かるが、これでもきちんと理子のことを想って考えたわけだ。

 

「自分の趣味に合わないモノ渡されて、これいらないなって思われるの嫌だろ……その点食べ物なら食べれば形に残らない。外れにはならなさそうだし。理子は多趣味だから余計にな。いやまぁ、現段階で理子のプレゼント選んでいるレキの前で言うことじゃないか。あれだ、俺の性分というかネガティブ思考なもんだからな」

 

 今この場で全部話すべき内容ではなかった。反省。

 

「それは……どうなのでしょうか。それで喜ばれるものですか?」

「理子なら何でも喜びそうなイメージはある。それにあれだ、めちゃくちゃ高いものならいざ知らず、お菓子なら向こうも気を遣わなくて済むんじゃないか。お返し云々的な話で」

 

 別に適当に選ぶわけでもないし、それで許してほしい。

 

「では私もそのような系統で選びましょう。あったら便利ですが、それがなくても特に問題ないようなプレゼントを」

「それだけ訊くとなかなかに難題だな」

 

 いくら時が過ぎようがいくら成長しようが元々の性根がボッチ同士には難易度の高い問いだ。如何せん、知人にプレゼントを送った経験がなさすぎる2人だ。

 

「となると、やはり小物でしょうか。八幡さんはアクセサリーで思い付くモノは?」

「指輪、ネックレス、ブレスレット……?」

 

 俺が答えてもレキは無表情だがどこか微妙そうな表情で。

 

「しかし、理子さんはどれも精通してそうですね」

「でもアクセサリーならその時々の気分で変えるだろうし、数が増えたとしても問題なさそう」

「では普段買うことが厳しそうなモノを?」

「高価なやつとか? 宝石拵えてそうな」

「なるほど。高いプレゼント……それでは八幡さんが先ほど言っていた問題になりませんか?」

「そりゃそうか」

 

 誕生日プレゼントでクソ高いモン貰ったら気後れするというか気を遣いまくる自信しかない。

 

「ちなみにお前何円くらいのやつにしようとしてる?」

「5万円から探していますが」

「普通に高いわ……。金銭感覚狂いすぎだろ。友だちに送るプレゼントの値段設定じゃねぇな……」

 

 平然と告げるレキに対し思わず呆れながらも、やけに重々しい口調でツッコミを入れる。やはりこの相棒は裕福な思考をしている。

 

 金銭感覚がある意味狂っていると今さらながら再確認した。そうなると理子も俺と比べると圧倒的なまで金持ちだけれど、ここは庶民の金銭感覚に合わせてほしい。

 

 お前もお前で『何かおかしいことある?』みたいなキョトンとした視線を向けない。多分俺の感性の方が一般的だ。

 

「せめて1万には抑えてくれ」

「分かりました」

 

 レキを抑えるため口ではそう言うが、正直なところ1万でも高い気はする。とはいえ、学生でありながらお互い稼いでいる身からすると、このくらいならギリギリ許容範囲だろう。多分きっとメイビー。

 

 プレゼント探しは仕切り直し。様々な雑貨屋、服屋などを見て回ること1時間。

 

「八幡さん、これは何でしょう?」

 

 ある雑貨屋で不意に訊ねたレキが指差した商品を確認する。

 

 俺が目を向けた商品はどうやら円柱の形をしている。それはグラスみたいだ。そのグラスに彩りが豊かな何か入っている。これは蝋だろうか。

 

 商品名を読む。これはグラスの中にある蝋に火を点けて匂いを楽しむモノ。

 

「あー、これアロマキャンドルだわ」

「アロマキャンドルとは?」

「ざっくり言うと香りのするロウソクってところ。詳しくないけど、リラックス効果があるとかって話だったかな」

 

 俺が簡単に説明すると、レキは並んでいる数々の商品をまじまじと眺める。

 

「香り……自然由来の香りもあるのですね。ハーブ、樹脂、樹木……これは良さそうですね」

 

 商品説明を読みつつ感想を述べるレキ。随分とアロマキャンドルにおいて高評価だ。珍しいと感じるもレキの育った環境を鑑みると、レキは常に自然に囲まれた場所にいた。

 

 自然に対して並々ならぬ想いがあるのかもしれない。

 

「それにする?」

 

 ざっと見た限り値段んはピンキリだが、充分予算内のモノもある。

 

「はい、これにします。私の好みで選びましたが、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫大丈夫。何ならレキの好み知れた方が理子も喜びそうな気がする」

 

 それにアロマキャンドルもレキの選ぶ題材に合っていると思う。あったら嬉しいが、なくてもこれといって困らない。加えて消費して使えばいつか無くなる。

 

 それにアロマキャンドルが並んでいる棚をレキはじっくりと眺めている。どうやらわりと気に入ったようだ。

 

「せっかくだ、俺もレキに買おうか?」

「それはまた別の機会に。今回は大丈夫です」

 

 俺の何気なしな提案はあっさりと断られた。まぁ、今日は理子のプレゼントを買いに来たわけだから余計かと思ったのかもしれない。

 

 その後、レキはアロマキャンドルを購入し、俺もまた別の店で少し根の張るクッキーやチョコレートの詰め合わせを購入した。

 

 買ったプレゼントをそれぞれカバンに仕舞い、休憩がてら近くにあったレストランで昼食とした。

 

 俺はハンバーグ、レキはオムライスを頼みしばらくゆっくりしている。

 

「…………」

「…………」

 

 注文した料理も届き、互いに無言で黙々と食べる。

 

 食べ終えてから俺は食後の紅茶を飲みつつこれからの予定をどうしようかと考えていると、同じ食後のコーヒーを飲んでいるレキがふと口を開く。

 

「八幡さん、少しやりたいことがあるのですが、宜しいでしょうか」

「やりたいこと? どっか行きたい場所あるのか?」

「いえ、この場でできるゲームです。20の質問を知っていますか?」

 

 淡々とした表情で語るレキに少し面を喰らうも、俺は記憶を探りゲームの内容を話す。

 

「えーっと……はいかいいえで答えて出題者が浮かべているモノを当てるゲームだっけ?」

「はい」

 

 合ってたらしい。けれど、どうもレキらしくない内容だとも失礼ながら感じてしまう。

 

「なんでまた急に」

「先日そういうゲームがあると留美さんに教わりまして。会話に困ったときに重宝すると」

 

 まさかの一番弟子からの提案でした。

 

「別に俺ら沈黙が気まずい関係でもないだろ。何ならそれがデフォルトなとこまである……まぁ、暇潰しにやってみるか」

 

 普段あまり自分の欲を出さないレキがやりたいと言っているのだ。ならば付き合おうではないか。

 

 こういうことを勧めるレキは珍しいことこの上ないし、俺もこういうパッとできる暇潰しのようなゲームは嫌いではない。今までやる人がいなかっただけである。何それ悲しい。ワードウルフとか興味あるのにやる人がいない。

 

「出題者はレキでいい?」

「そのつもりです。もうお題は考えております」

 

 随分とやる気だな。最初からやるつもりだったのかな。

 

「じゃあ、早速始めるか。まず無難に……それは生物ですか?」

「いいえ」

「それは食べ物ですか?」

「いいえ」

「それは飲み物ですか?」

「いいえ」

 

 ……と、初っぱなノーが3連続。出鼻を全部挫かれた。

 

 けれど収穫はある。つまりこの質問で分かることは生物関係ではないということ。これで生物がいいえで飲食物がはいだったら、例を挙げると料理とか有り得そうな気はしたが……。

 

「それは触れられるモノですか?」

「はい。実在するモノです」

 

 何かしらの概念や霊的存在でもないと。概念って言うと大げさだが、言葉とか勉強とかそういったモノではない。

 

「それは常温ですか?」

「……はいでもあり、いいえでもあります」

 

 今度は随分と曖昧な返答だ。つまり、それに関しての温度は状況によって変化する。レキの言い方からして温かくもあり冷たくもある? 普段は冷たいのだろうか?

 

 となると、俺がパッと思い付くのは――――

 

「それは家電ですか?」

「いいえ、違います」

 

 てっきり電子レンジかと思ったがこれも違うと。

 

 他に温かくも冷たくもあるモノと言えば……地面? 砂漠? さすがにあやふや過ぎる。レキがこんなお題にするとは考えにくい。というか砂漠は触れられるけれど、どちらかと言えば概念に近い。

 

 今回はレキがお題を出す。わざわざそんな捻ったお題を出すとは考えにくい。レキが?

 

 と……待て? 今回の出題者は当然俺の隣にいるレキ。つまるところ、レキと関連するお題の可能性があるのではないか。ならばまずはその確認か。

 

「それはレキが触れたことあるモノですか?」

「そうですね……では、はいということで」

 

 ちなみに敬語なのはゲームとしての形式上。こういうのは形から入らないとな。

 

 それは置いておいて……それはレキが触れたことあるモノ。しかし、回答はどちらかと言えばあるのような言い方とも聞こえる。

 

 いや、これは……はいかいいえのどちらかと言うより、回答に対して不十分なお題だった? それとも最初の内はこれで大丈夫かと思っていたが、俺の質問により思った以上にお題の定義が広くて微妙な言い回しになった?

 

 現段階では判断できないな。

 

「さっきので何個目の質問だっけか。えーっと……」

「7です。次で8になります」

「すまんすまん。んー、どうするか……」

 

 それは生物でも飲食物ではないが、温かくもあり冷たくもあるレキが触れたことあるモノ。生物でないが、熱を持っている。それを使うと熱を生まれる? 後天的に熱が発生する?

 

「それは入浴関係のモノですか?」

「いいえ」

 

 風呂やシャワーでもない。

 

「それは俺も触れたことあるモノですか?」

「はい、ということでいいと思います」

 

 ……思います?

 

「それは今日レキが触れたモノですか?」

「いいえ」

 

 これで半分か。ちょっと俺の質問の出し方悪いかな。思い返してみても全然分からない。

 

 俺も触ったことある。レキもあるけど今日は触れていない。

 

「それはレキが毎日触れたことあるモノですか?」

「はい。今日はまだです」

 

 レキが毎日触れるモノ。

 

 日常的な背景で考えてみる。

 

 ……扉、取っ手、皿、コップ……熱関係で言うとこ後者2つ? いや皿もコップも今日これまでの間で普通に触れてる。一瞬服かと思ったが、触れてなかったら単純におかしい。

 

 しかし、それらの回答ではあまりにもレキらしくもない。どうもピンと来ない回答だ。

 

 そして、時折レキはあやふやな回答を見せる。今回初めてゲームをやってみて、いざ言葉にすると幾らかの迷いが生じる……といったところか。

 

 要するに無意識な日常の動作ではなく、毎日レキが意識的に行うこと。

 

 それは何だ? それを思い出すためにレキという人物の特徴を今一度考える。

 

 レキと言えば最高峰の狙撃手。圧倒的なまでの射程距離の持ち主。ざっくり2kmまでなら目標がどこにいようが撃ち抜ける技術を所持している。

 

 その狙撃を行うためには単純なレキの技術は当然のこと、銃やそれに類する物体全てにおいて綿密なメンテナンスを毎日行っている。武偵高での任務のときも引っ越し先の新しい部屋でもその習慣は全く変わらない。

 

 …………なるほど。

 

 ここまで記憶を振り替えってみてようやく予想ができた。

 

「……それは銃ですか?」

「いいえ」

「それは銃弾ですか?」

「はい。お見事です」

 

 あ、やっと当たった……。

 

 温度云々は多分銃弾を撃つ前か後の話だな。撃つ前は冷たいし、撃ったら熱を持つから熱い。

 

「んー……地味に難しかったな」

「どこで分かりましたか?」

「ぶっちゃけ消去法。ていうか、こういうゲームって基本消去法じゃないかな。それからレキの性格とかを考えて……これかなと推測した」

 

 うーん、わりと頭使ったなぁ。せめて半分切りたかった気持ちはある。

 

「そういや途中、回答に迷ったのは何でだ?」

「銃弾……弾薬と一口に言っても種類が豊富だなと出してから思いまして。私の7.62x54mmR弾と八幡さんの5.7×28mm弾では使う銃も用途も違います」

「なるほど、そういうことね」

 

 例えば犬を例題にしたとして、個人が飼っている犬なのか何かの犬種なのか、細かい部分をツッコミ始めたらキリがない。

 

「どうでしたか」

「けっこう面白かったぞ。頭もわりと使ったし」

「それは良かったです」

 

 一段落し残りの紅茶を飲もうとカップを手にしたら、ふと携帯からピコンと通知音が鳴る。

 

 誰からかメールが来たらしい。差出人は……遠山か。

 

「メールですか?」

「遠山からだな。あ、そういう……」

「何か約束でも?」

「いや、俺のシャツが2枚くらい遠山の荷物に交ざってたみたい。それをどうするかって」

「シャツですか?」

「あっちにあるの夏用のシャツだったからな。引っ越ししたの冬だったし衣替えしたとき遠山のと交ざってしまったみたいだ。帰り取りに行くか」

「付いていきましょうか?」

「いや大丈夫。先に帰っておいて」

「分かりました」

 

 と、メールを返信したついでに携帯を眺める。他に何か通知ないかな……。そういや校内ネットでクラスとかの新しい情報は。

 

 ……………………え?

 

 ちょっと待って?

 

「……ん?」

 

 これマジで?

 

「どうしました?」

「いやこれ……見てみろよ」

「…………これは……」

「いやまさかだな……」

 

 そう俺たちはまじまじと液晶画面を見つめる。そこにはあまりにも予想外の内容が記されていた。

 

「まぁ、たまにはゆっくりした方がいいよな」

「今年度は色々とありましたし……それが良さそうですね。死ぬわけではありません」

「人生長いしな。ちょっとくらい余裕あってもいいよな」

 

 と、各々好き勝手に感想を言い合う俺ら。

 

 その内容はいつか語るとしよう。どうせすぐ判明するだろうけれど。

 

 

 

 

 

 ――――そして数時間後。

 

「やっほー。来てくれてありがとね。でも、別に私の部屋じゃなくても良かったよ?」

「わざわざ主賓に出歩かせるのもな」

「先ほどまで出歩いていたので苦ではありません」

 

 夕方になり、約束の時間になったので理子の部屋に移動した。

 

 ソファーに腰かけ、歩いた疲れを少し癒す。

 

「そういえば今さらだけど、私ハチハチの誕生日祝ってないね」

 

 それはそう。だからどうこう言うつもりもない。なんなら誕生日当日何していたか覚えていなまである。

 

 あれ、今年の俺の誕生日……俺何していたっけ? 夏休みはカジノでの事件、セーラ突撃、それ以外特に思い当たる出来事がない。いやマジで何かした覚えがない。

 

「ていうか、そもそも知っているのか? 俺教えたことないけど」

「これでも探偵科だからね。調べはするよ。8/8だよね」

「おう」

 

 どうやら知っていたらしい。と、少し感心した俺をよそに理子は少し残念そうに眉を寄せる。

 

「でもねぇ、レキュの誕生日は分かんなかったよ」

 

 なるほどね。俺の次と来ればコイツになるな。

 

「ぶっちゃけると俺も知らん。というより、レキ自身も知らないんだよな?」

「ここに来るに辺り、適当に設定しましたが、本当の生年月日は私も知りません。正確に言えば、生まれ年は皆さんと同じなのは知っています。月日が分からないだけです」

 

 それもそれでどうなのやら。如何にレキの育ったウルスやらが特殊なのがその一言だけでよく分かる。戸籍とかどうなっているのだろうか些か疑問に感じる。

 

 たしかにあの草原にカレンダーらしきものは見当たらなかったと今さら思い出す。あの人たち日々をどう生きているんだろう?

 

「地味に暗い話題はさて置き、さっさと本題済ますか」

「えぇ、そうしましょう」

 

 俺たちはカバンから各々プレゼントを取り出す。

 

「つーわけで、改めて誕生日おめでとう」

「誕生日おめでとうございます」

 

 買いたてホヤホヤなプレゼントを渡す。

 

「おー、ありがとー!」

 

 理子はサプライズなんて欠片も見られない渡し方でもとびきりの笑顔で受け取ってくれた。

 

 ふむふむと頷きながら理子はプレゼントを物色を始める。

 

「ハチハチはお菓子関係なんだ。うん、ハチハチらしいね。あ、充分嬉しいからね? ってこれ有名店のじゃん。なかなかにお高いやつだねぇ。レキュのは……包装されてるね。これ開けていい?」

「どうぞ」

「これは……おっ、アロマキャンドル?」

「そうです」

「へぇ~……グラスに入っているタイプかぁ。またあとで点けてみるね。私あまり使ったことないから嬉しいよ。ありがと、レキュ 」

 

 再び理子の顔が笑顔で綻び、彼女が心から喜んでいることが見て取れる。

 

「またプレゼントはあとでじっくり堪能させてもらうとして……これからどうする?」

 

 大事そうに閉まってから理子はそう話しかける。

 

「ていうか、ハチハチとレキュは時間ある?」

「あとで遠山んとこまで用事あるけど、別にあれは何時でもいいからな。大丈夫」

「私もです」

「ん? ハチハチ、キーくんに何かあるの?」

「忘れ物していただけ。ついでに取りに行く」

 

 ここは女子寮だ。男子寮は俺らの部屋から比べたらまだ近い。寄るには若干ながら都合がいい。

 

「なら時間多少ずれ込んでも良さそうだね。なら食事にしよっか。このあとあかりちゃんたちが来る予定なんだけど、ちょっと多めに作っちゃったからね。ハチハチもレキュも食べて食べて。温めてくる~」

 

 パタパタと足音を立てキッチンへ行ってしまう理子。うん、理子が主賓なのにわざわざ食事の準備をさせてしまい……果たしてこれで良いのだろうかと一抹の不安を覚える。

 

 ので。

 

「いや俺らがやるから座っててくれ」

「え~、でも~、ハチハチやレキュじゃ食器の位置やら分かんないでしょ」

「……じゃあ手伝うから」

「オッケ~。それじゃあね――――」

 

 

 ――――理子お手製の料理を食べながら雑談タイムが始まる。

 

「そういえばさ、ハチハチはどこかからスカウト来た?」

「あー……スカウトって、3年になったら企業やらから来るあれか?」

「そうそう」

「でも俺らまだギリギリ2年だぞ。明日から正確に3年になるけれど。今はムリじゃないか?」

「あれね、3年になれるって確定していたら別にスカウトしてもオッケーなんだよね」

「そうなんだ」

「とはいえ、うーん……ハチハチの言う通りこんな微妙な時期でスカウトするところもないかな。それこそ何かしらの緊急性な事件がないとスカウトする側もあまりメリットなさそう?」

「そりゃそうだな。つーか、そんな緊急性のある事件ならわざわざここの奴ら誘うより普通にプロに依頼した方がいいよな。っと、プロって言えば……なんか武装検事の推薦の話もあったらしいな。遠山が誘われたって言ってたわ。アイツ断ってたけど」

「わざわざ受ける話でもないように感じます」

 

 なんて将来に関する話を適当に会話する。

 

「そもそもとして俺にスカウト来ないだろ。客観的に見ればそこいらにいるBランクの武偵だぞ」

「しかし、八幡さんはある意味かなり有名ではあります」

「アングラな界隈ではそうだよねぇ。なんかもうイレギュラーの名前浸透しているとこあるし。SDAランクにも載っているもんね」

「ここまで来たらもう否定はしない。ただ、そもそもの話、そんなとこから普通にスカウトはないだろ。まぁなんだ、今のところ誰かの下に付く気はない。任務で誰かと組むときはあっても、それが永続なのはさすがにムリだな」

「八幡さんが誰かに付くなら自然と私もいることになりますから、厳しいでしょう」

「お、おう……さすがの貫禄だね、レキュ。だったら私たちで独立する?」

「近中遠とチームバランスは良さそうですね。しかし、理子さんは既にバスカービルにいるのでは」

「私たちで事務所作ればチームとは関係なしで動けはするよ。これなら、必要なときにアリアたちのとこにもしがらみなく行けるからね」

 グダグダと談笑は続く。

 

「それで3年になるハチハチは何か目標ある? 将来的なのではなく、武偵として能力の向上とかに対して」

「と言われてもな。挙げるなら射撃技術と近接能力の強化とか。特に後者……素手での近接戦闘が課題だな」

「充分すぎるほど強いと思いますが」

「あれは烈風を補助で用いて加速している故の威力だからな。そうじゃなくて単品での強さがほしい。わりと普通に殴っても耐えられるときあるし。鳩尾や股関節とかの急所を率先と狙ってはいるけど、それだけじゃ足りないこともある」

「うーん、単純な威力や出力向上させるならやっぱ筋力付けるとかじゃない? それか打撃の種類を変えるとかはどう?」

「種類?」

「例えば、発勁。あれはざっくり言うと、ただの衝撃じゃなくて身体内部まで響く打撃。力の伝え方が特殊だよ。かなり難しいけどね。体重を全部体を乗せれば、普通の殴打よりもかなり強いよ」

「あー、なんかそれ理屈は遠山から訊いたことあるわ。銃弾が強いのは軽くて速いから。逆に重くて遅い攻撃でも、同様の破壊力を得られるって」

 

 たしかその技の名前は秋水だったな。理屈は訊いても実践できる気はしないのは置いておく。

 

「重心移動を完璧にこなせて、寸分違わぬ力を伝えることができればアホみたいな威力が出るらしいな」

「人間なんて言い換えれば数10キロの水袋だからね。銃弾の何倍重いってもんだよ」

「理子や遠山の言うことは分かるには分かるけれど……単純にそれを身に付けるのに年単位は余裕でかかるだろ。烈風で加速するにも限度がある。めちゃくちゃ勢い付けた反動で腕イカれたことあるから、いつかはその打撃は使いたいな」

 

 少しずつ練習するかと思うが、独学で学べるものなんかな。そういう道場とか教えてくれる人とかあるのかな。まぁ、調べたりしておいおいだな。

 

「最近は少しずつ極め技……組み技とか関節技とかは練習している」

「いいねぇ。極め技って比較的簡単に相手の戦意奪えるから有効だよね。タイマンならかなり使える技術なのは間違いない」

「逆に多対一だと使いにくいときはあるな。その状況なら棍棒で殴った方が手っ取り早く制圧できる」

「極め技……よく材木座さんが犠牲になっていますね」

 

 練習相手に材木座には付き合ってもらっている。オーバーな反応をしてくれるから相手していて面白さがある。

 

「まぁ、今後の目標はまとめると超能力に頼らず戦力強化したいって感じだな。武器もそうだが、何より生身の技術強化って感じかな。やはり何より肉体が強くないと何も活かせない」

 

 それでも頼るときは素直に頼る。超能力は借り物であれもう既に俺の力の1つなのには違いない。出し惜しみはしないが、基本的にはなるべく情報は隠したいので出し惜しみしたいときはある。悩みどころだ。

 

 ――――なんて頭を悩ませたのもあっという間に過ぎ、しばらく世間話は続いてあれから数時間は経過した。

 

「おっと、そろそろあかりちゃんたちが来る時間かな」

「もうそんな時間か。んじゃ、お暇するか」

「そうですね。理子さん、おじゃましました」

「2人ともプレゼントありがとね~」

 

 女子寮を出る。もうあと数時間で4月になるとはいえ夜の風はまだ冷たい。

 

 そんな冷たさに少し耐えてからレキに声をかける。

 

「先帰っていてくれ。行ってくるわ」

「分かりました。お気を付けて」

「気を付けるもなにもすぐそこの距離だけどな。じゃまたあとで」

「えぇ」

 

 俺とレキ、互いに反対方向へと歩く。

 

 ふと後ろを振り向くともうレキは見えなくなった。曲がり角を既に曲がった頃合いなのだろう。そうして5分ほど歩いていると俺の視界には何やら見慣れないモノが映る。

 

「ん?」

 

 何か喧騒――――というよりも喧嘩レベルの揉め事が起きていたらしい。俺は無意識に物陰に隠れ、気配を消す。

 

 グッと目を凝らして向けると、少し目を疑いたくなる光景がそこにはあった。どうやら複数人が1人を追い詰めていると表現すべきだろう。そして、その渦中にいる人物には見覚えしかない。

 

「何してんだあれ」

 

 なぜかは知らない。ただ見て理解できることとして――――なんか遠山に手錠かけられていない?

 

「え、えぇ……」

 

 どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ぬらりくらりと

 信じがたいことが起きている。目を疑いたくなる光景が俺の目前で広がっている。

 

 もう春になる季節、その1日の中で完全に日が傾き出した時間帯、ただただ男子寮に用事がある俺が歩いていると、ふとした曲がり角の先にはなぜか手錠をかけられている遠山がいる。

 

 正確に言うと、手錠がかかっているのは片方だけだ。もう片方の手からは外れている。

 

 なぜ片方だけなのか、普通は両手ではないかと疑問に感じたけれど、そこでふと思い出したことがある。遠山は自分で関節を脱臼させることができると言っていた。訊いたときは人間離れしているなとしか思っていたかった。

 

 これはつまりそういうことだろうと内心焦りながらも冷静に判断する。痛いからあまりしたくないとげんなり気味にぼやいていたなと振り返る。

 

「……」

 

 そして、遠山を囲んでいるのは年齢や所属もバラバラそうな人たち。そう思うのは同級生の不知火がいるのに加えて、明らか俺や遠山より年下のような少年もいるからだ。

 

 さらに謎なのはなぜ不知火がまるで遠山の敵側にいるのだろうか、そこも現時点では不明だ。この集団の正体は何だろう?

 

 離れた場所で観察を続ける。気付かれないよう気配はなるべく消す。呼吸は静かに、足音は立てない、何度も曲がり角から覗かない、一度見た記憶を頼りに観察もとい隠れて推測を行う。

 

 まずリーダー格の大男。パッと見の印象だが、プロレスラーすら可愛く思えるほど威圧感のある筋肉質な男。

 

 その周りには和服を着た丸坊主の巨漢、詰め襟の年下少年、カッチリとスーツを着こなしている細身の男、多分俺らと同年代の黒コートを身に纏っている男、そして不知火。

 

 合計6人。遠目からの印象でしかないが、全員強敵と感じる。そこに取り残されている――――いや、囲まれているのは遠山だ。例えHSSだとしていても突破するのは厳しそうとさえ思える。

 

「……さて」

 

 改めてこの集団の正体の推測を始める。

 

 まず遠山に手錠をかけているということは、十中八九警察やそれに類する機関の者たち。

 

 しかしながら、この集団を警察と簡単には断言できない。それは、ただただ年齢層がバラついているのに加えて、警察とは感じ取れないほど格好が警察らしくない。

 

 何て言うか、リーダー格があまりにもズボラすぎる。

 

 となれば、警察とは違うのだろうかと考える。それもどうもしっくり来ない。というか、警察を騙る偽物ならば遠山は真正面から関わらないだろう。つまり、どうあれあの集団は逮捕権を行使できる警察関係者だ。

 

 まず目の前で起きていることを主観を抜いて第一印象で語るとすれば、遠山が何かしらの罪を犯して現行犯逮捕をした、といったところだろう。

 

 今度は俺の主観ありきになるが、遠山が到底犯罪をするとは思わない。アイツは武偵法を守る。それこそ自分の命を使って守る。

 

 ならなぜ遠山は逮捕されかけている?

 

「……」

 

 現時点ではこれ以上分からない。だったら、近付いて情報を得るとしよう。

 

 しかし、話が拗れて戦闘になったら面倒だなぁ。防弾服でもない私服に加えて、武装は最低限だ。ファイブセブンとナイフにヴァイスしかない。これでどうにかなるだろうか。

 

 鬼が出るか蛇が出るか今後の展開に頭を悩ませつつも俺は気配を隠さず、わざと大きめの足音をたて遠山たちへと歩み寄る。

 

 遠山含め俺の存在にはすぐに気付いた。真っ先に反応したのは遠山と不知火。

 

「比企谷……!?」

「比企谷君、どうして?」

 

 それぞれ驚愕の表情を見せる。それこそ俺がこの場にいる理由が分かってないようだ。遠山は色々頭がこんがらっているかもしれないけど……。

 

「どうしても何も、こちとらただの通り道だ。遠山は俺が先約だけれど、なんかまた面倒なことに巻き込まれてそうだな。さっさと忘れ物取りに行けば良かったわ。……で、どういう状況? 今度はお前何やらかしたんだ?」

「それは……」

 

 遠山は喋るに喋れない様子。もし何かしらの罪を犯したのならば、ハッキリと話せるだろう。つまり、身に覚えのない架空の罪をでっち上げられた――――冤罪を押し付けられたということか?

 

「まぁいいや。こっちに訊いた方が早いか。お前らはどんな容疑で遠山を拘束しているんだ?」

 

リーダー格の大男に話しかける。

 

「ま、別に言っても結果は変わんねぇしな。殺人容疑ってやつだ」

「殺人? 遠山が誰を殺したんだ?」

「さてな」

 

 大男は知らぬ存ぜぬ顔でとぼける。すると、後ろに待機している他の仲間に大男は語りかける。

 

「つーか、比企谷ってあれか。わりと有名な奴だよなぁ。お前は知ってるか、灘」

「イレギュラーだろ。たしか色金の力を使える超能力者。戦績も悪くない。アジア圏内でSDAランクいくつだっけか」

「えーっとですね、68位でしたよ」

「その若さでか……。やるじゃねーの。つか、よく知っているな可鵡韋お前も」

「あまりに過去の経歴がなくて少し気になっていたので」

 

 大男とスーツ男、詰め襟の少年はのんびりと会話する。時間ができた。その間にも俺は思考を巡らせる。

 

 先ほど大男曰く、遠山は殺人を犯したが、その具体的な内容は語らなかった。

 

 何となくだけれど、この辺りでようやく理解した。

 

 これは警察が武偵に対して使う手法『アノマニス・デス』だ。要するにいわゆる別件逮捕。噂程度の話だと思っていたが、まさか実際にやる奴らがいるとは。

 

 武偵は拳銃などの武装や捜査権を持てる代わりに武偵法がある。何かやらかしたら3倍罪が重くなったり、人を殺めたら確実に死刑になる。

 

 普通の別件逮捕なら小さい罪で拘束し、そこから取り調べで本件の罪状を調べるのが通常だ。しかし、アノマニス・デスは最初から殺人容疑をかけることで武偵を法的に動けなくさせる手法だ。冤罪だろうと従わなければ待っているのは死だ。こうなると、武偵はどんな取引さえ首を縦に振るしかない。

 

 しかし、当然ながらアノマニス・デスはかなりリスクを伴う。冤罪吹っ掛けられいるのだから、最終的に訴えられたら仕掛けた側が不利なことに違いない。そこまでする必要は通常ない。

 

 つまり、コイツらは遠山に何か大事な要件がある?

 

「そもそもお前ら誰だよ。本当に警察か? どうも警察らしくない風貌だな。見たとこ年齢もバラバラだしな」

 

 警察という組織とは感じれない。この集団に統一感はまるでない。ただ戦闘力は桁違いに高いとも思える圧が如実に伝わってくるのは事実。

 

 警察に関係する戦闘集団――――と、ここまで自分で話して察しが付いた。

 

「あれか、お前ら公安0課か。たしか行き場のない超人の溜まり場みたいな部署だったよな。あれ、でもあそこ事業仕分け云々で潰れなかったか?」

 

 公安0課。そもそも銃規制が緩くなっている現在、公安の職務は反撃を受けて当然というかそれが日常なまである。その戦闘力は極めて高い。そして、その公安の中でも選りすぐりの猛者が公安0課。

 

 そんな公安0課だが、時代の流れには逆らえない。どれだけ優れていても上の命令は絶対。ややこしい政治関係の話で潰れたとニュースで見た覚えがある。

 

「よく知ってるじゃねーか。今じゃ俺らは東京地検特捜部ってとこだ」

「地検……てことは武装検事とかの部下? うわっ、似合わねー」

「だってよ、言われてるぞ大門。ま、お前のその格好で警察って言われても信じられないな」

「いやはや、恐らく獅童さんのことを言われているのでは。スーツをきちんと着たら印象も変わりますよ」

 

 俺の率直な感想には大門と呼ばれた坊さんと獅童と呼ばれた大男が反応する。

 

 さて、俺が考えることは、ここからどうするべきかという内容。

 

 とりあえず遠山が置かれている状況はある程度理解した。

 

 武偵という法律に常人以上に状態で最悪のカードを切られ動きをかなり制限されている。俺はそこに偶然来ただけだ。別に俺がここで離れても問題はない。まぁ、当然そうするつもりはない。

 

 これがもし知らない相手でも、ここで見ない振りして見逃したら、なんかあれだろ、寝覚めが悪い。こうすれば良かったあれをすれば良かったと後悔がある中の眠りはどこか浅くなる。睡眠は大事だからな。

 

 この場を丸く収める方法はないかと思案する。

 

 となると、やはり考えるべきは獅童とやらがなぜ遠山をアノマニス・デスまで使って拘束しているのかだろう。あまりにもリスクのある行為。

 

 そこまでして遠山に何を求める?

 

 この謎を明かさないと突破口は開けない。

 

「ま、イレギュラー……いや比企谷。ここまでざっと話したが、ここで退散するならお前は無関係で処理するぞ。見逃すし、追跡するつもりもねぇ」

「さすがに知人がなぜか狙われている状態で無視するほど非情でもない。というかそもそもコイツの先約は俺だ。俺が納得するまでここに居座ってやるよ」

 

 遠山から止めとけという視線が刺さってくる。まぁ、見たところわりとボロボロにされてそうだしな。見た感じ、今の遠山は雰囲気からしてHSS。その状態でやられているってところか。それ俺に勝ち目ある?

 

「ほーう、なかなか面白そうじゃねーか。じゃ、社会勉強ってことでちょいと痛い目に遭ってもらうかね」

 

 獅童がゴキゴキと首を鳴らし、こちらへと一歩距離を詰めようとしたところ、詰め襟の少年――――可鵡韋とやらが待ったをかける。

 

「獅童さん、ここは僕がやります」

「おいおい。なんだ、随分やる気だな可鵡韋」

 

 獅童より前に出た可鵡韋は苛立っている顔付きをしている。怒らせることはした覚えはないけれど、果たして今までの行動で何を思わせてしまったのか。さすがに分からない。

 

 遠山の逮捕を邪魔することが可鵡韋に対しての地雷になる可能性がある? 現段階では判別付かない。

 

「………」

 

 そして、表立って表す苛立ちの裏にはどこか生き急いでいる雰囲気さえ感じる。自分がやらなくてはいけない、別にその結果死んでも構わない、そういった良くない眼をしている。

 

「僕の邪魔をする者は犯罪者、有罪です。僕が裁く」

「…………」

 

 その一言を言い終えると、雰囲気が一変する。まるで別人に成り代わったかのよう。それこそ遠山のHSSのようだ。

 

 これは本気で攻撃仕掛けてくるのが如実に伝わってくる。

 

「何をそんなイラついているんだか」

 

 その呟きと同時に可鵡韋は一歩大きく踏み込みこちらへ瞬く間に距離を詰めてくる。

 

 これは神崎並に速い――――! しかし、これでも一応臨戦態勢を取っていたから反応はできる。

 

 可鵡韋は俺に手を突き出し攻撃を行う。その攻撃は殴打ではない、珍しいスタイルである刺突だ。

 

「……っ」

 

 刺突とは手先を敵に突き刺す技。手先を細くすればするほど鋭くなる。その最たる形が指貫手。これはこれでかなり難易度が高い。角度や力の入れ具合、タイミングなどをミスすれば技を出した側が自傷しかねない技術。

 

 それを惜しむことなく出してきたということはそれだけの攻撃力があるということだ。そして、この攻撃手段が可鵡韋のメイン。防弾防刃制服ではない俺に当たればかなりのダメージになること間違いない。下手すれば体に穴が空く可能性すらある。

 

 可鵡韋の初撃は一直線だったため、体を右に捻り攻撃を寸でのところで避ける。センサーがあるからこそできるギリギリの回避。

 

「まだです」

「ヤバっ」

 

 俺が避けた直後、可鵡韋は直ぐ様方向転換し追撃を放ってくる。これはどうも誘導されているなと感じる。どうやら俺の重心やら読んで俺の回避する方向を決めたように思える。随分と器用な奴だ。

 

 もう指が俺の体まで迫っている。この腕が伸びきれば俺はダメージを負う。これは回避が間に合わない。そう判断した俺は敢えて自ら距離を詰める。

 

「なっ……」

 

 まさかの行動だったのだろう、可鵡韋は眼を見開き驚く。その隙に今度こそ大きく後ろに下がり距離を取る。

 

「いっ……」

 

 いや痛いわこれ……。思わず肩を抑える。

 

 十全と発揮されていない状態だったとしても可鵡韋の指貫手に自ら当たりにいったのだ。それ相応の痛みが俺に襲いかかる。恐らく狙いがズレたとはいえ、命中したのは俺の左肩。出血にまでは至らなかったけれど、服に穴が空いたんだが?

 

 先ほどの行動に可鵡韋は驚いていたが、そこはさすが旧公安だ。一瞬で切り換えている。またあの鋭い目付きになる。

 

「では次」

 

 痛みから回復してない中、当然のように休む間なく追撃か来る。さっきの攻防で可鵡韋はこちらの動きを誘導するように攻撃を放ってくるのは理解した。

 

 であれば、俺がすべきはギリギリの回避ではなく、大げさに相手の射程距離から離れる回避。加えて、姿勢は崩されないように気を付ける。

 

しかしながら、頭ではそう分かっていても実際に実行できるわけでもない。雑にでも離れたい俺だけれど、なかなか距離を開けさせてくれない。可鵡韋の指に当たらないよう腕を弾き体を捻り、可鵡韋の攻撃の連続を凌ぐので精一杯だ。

 

防弾服でない俺にとって、この攻防はかなり緊張感がある。

 

「おっ、比企谷、2速の可鵡韋相手にここまでやるとはな。最初の意外当たってないし、なかなかの身のこなしじゃねーの」

 

 途中、茶々を入れている獅童の声が聞こえる。だいたい可鵡韋の連続攻撃が始まって2分といったところ。

 

 獅童の言葉のせいで集中力が切れたりはしないけれど、少し意識が引っ張られる。獅童や他のメンツが戦闘に参加してくる可能性も当然あるからどうしても緊張はする。

 

 その獅童の茶々と同時に今度はなぜか後退する。息が切れたのか。まぁ、2分もろくに一呼吸できず動いていたらキツいだろう。それとも獅童たちとバトンタッチでもするのか。

 

 獅童たちが参戦する。もしそうなったらかなりキツい。いざとなれば影を使う……いや、あれ殺傷力が強すぎるから対人では使いたくないのが本音だ。烈風でやりすごす……?

 

 と、思っていたらどこか怒りの声色を乗せて可鵡韋が口を開く。

 

「比企谷さん、なぜ反撃しないのですか」

「ん?」

「ずっと僕が攻撃しても貴方がやることと言えば防御か回避。ふざけているのですか。いえ、死にたいなら別に構わないのですが」

 

 可鵡韋の言いたいことは理解した。たしかにやろうと思えば俺も反撃はできた。とはいえ、こちらにも事情がある。むやみやたらに攻撃するわけにはいかない。

 

 俺としてはなるべく時間を稼ぎたい。会話に付き合うか。

 

「逆に訊くけど、これ反撃してもいいの? お前ら仮にも警察関係者だろ。これで手を出して公務執行妨害云々で俺にまで縄かかるのは嫌なだけだ。それこそ遠山のアノマニス・デスと違って本物の犯罪になるしな」

 

 第一の理由はこれ。無難にやりすごしたかった。

 

 俺の回答に可鵡韋は納得いかない顔をしている。その後ろでは獅童が爆笑している。

 

「あっはっはっは! やっぱ面白いな比企谷。だが、死にそうになっても同じ言い訳するのか」

「いや死なないから。もし本気で死にかけるならそこの遠山連れて離脱するっての。逃げの一択ならどうにかなる自信はある」

「あー、ソイツは色金を使う。瞬間移動もあるだろう。使用報告もあったはずだ。加えて空も飛べる。こちらが完璧に捉えるのは厳しいだろう」

 

 と、先ほどまで一切喋らなかった黒コートの俺と同年代らしき男が話す。アイツだけ名前が分からない。

 

「だとしてもですよ。命の危機が迫っているのに何もしない。舐めているのも同然です」

「なら別に俺が反撃してもいい? それで罪に問わない? この年で前科が付くのは勘弁したいんだけれど」

 

 まだ17ですよこちとら。

 

「えぇ、手を出しても構いませんよ。そこを責めることはしません。貴方を倒して遠山さんを貰います。僕の目的のために」

「…………」

 

 ――――目的、ね。

 

 それは何なのか。恐らくそれが今回遠山にアノマニス・デスを使った理由になる。その具体的な内容までは知る由もないが、そろそろこの突破方法も見えてきた。

 

 今は可鵡韋を落ち着かせ、俺の動きやすい空気にすること。

 

 可鵡韋が少し後退したとはいえ、互いの距離はおよそ4m。素手同士の者が普通に戦えばどちらかが踏み込まないといけない距離。

 

「なぁ、可鵡韋」

「何ですか」

「そんな近くにいていいのか?」

「近く? どうい――――ッ!」

 しかし、この距離は俺の超能力の射程範囲内。

 

 威力は控えめの不可視の斬撃――――鎌鼬で可鵡韋の頬に短い傷を作る。

 

 薄皮1枚切れた程度の斬撃でしかない。当然これは威嚇射撃に近い攻撃。ぶっちゃけると喰らったとしても全く痛くない。ほんのちょっとピリッと痛覚があるかないか、その程度。

 

 とは言うものの、可鵡韋は理解したであろう。この距離は危険だと。そのため、より大きく後退する。

 

 離れた距離はざっと6mくらいか? これではさすがに鎌鼬は届かない。災禍はそもそも隙が大きすぎるからこんな場所では使えない。

 

「…………」

「――――」

 

 俺と可鵡韋、互いに距離感を測りかねている。可鵡韋はどうにか俺との距離を0にして攻撃を当てたいと考えているだろう。なぜか拳銃は使わないし。騒ぎになることを避けている? でも、もう既にうるさいし……。ポリシーのようなものか? 遠距離武器に頼らない理由はやはり分からない。

 

 俺も俺で迎撃する準備をする。烈風で押し返してもいい、鎌鼬で近寄らせないようにしてもいい。

 

 この生まれた膠着状態、俺としては非常にありがたい。なるべくこの状態を維持したい。

 

「さて」

 

 ――――その攻防の傍ら、俺はずっと他のことに意識を回していた。

 

 この場をどう収めるか。何なら可鵡韋の連続攻撃を捌いている間まで考えていた。だから、反撃できなかったわけだ。考え事している間に不用意に反撃したらその隙を狩られる。緋緋相手にそれは経験済みだ。

 

 時間がほしかったから、あの問いかけにも応じた。この互いに迷っている時間もありがたい。俺からするとゼロから色々と考える必要があるため、時間を稼ぎたい。

 

 で、ここまで時間を使ってようやく見えてきた気がする。

 

「ふぅ、疲れた疲れた……」

 

 俺は一歩下がり、臨戦態勢を解く。すると、俺の態度に対し疑問に感じたのか可鵡韋は少しだけ眼を丸くする。

 

「可鵡韋、というより獅童たちか。改めてなんでお前ら遠山がほしいんだ? もし遠山がお前らに従って協力すれば何かしらの存在と戦うとは思うけれど、戦力ならお前らで充分だろう。少し可鵡韋と戦っただけでそれがよく理解できた」

「…………」

 

 獅童たちは誰一人とて答えない。

 

 しかし俺の言葉は否定されない。これがどうやら正解みたいだ。

 

「でだ、さっきも言ったが、お前らがアノマニス・デスを仕掛けたのは単純に遠山が戦力としてほしい。もしくは遠山に話を通さないで進めるのはどこか不義理があるからだと俺は考えた。どちらかと言えば、前者の割合が大きいだろう」

 

 冤罪で遠山を罪に問う。逮捕して拘束する。当然かなりリスクのある行為。とはいえ、武偵には効果がありまくりな手法だ。どうしてそこまでして遠山に拘るのかとずっと考えたけれど、求めた答えはいかにシンプルだった。

 

 遠山を戦力として使いたい。たしかに遠山はかなり強い。あの理不尽さは直に見たことは少ないが、俺もよく知っている。

 

 そして、遠山にはある種の影響力がある。いつかの敵が今は味方になっていたりと遠山が1人いるだけで何だかんだ助かる場面も多い。旧公安の獅童たちが求める戦力としてなら充分だろう。

 

 拘束してからのどうなるかと言うと、解放してほしかったら司法取引としてこの事件などを手伝え、といった展開が考えられる。まぁ、理子や猛妹のように金を積みまくって釈放なんて貧乏武偵には土台無理だ。

 

 首根っこ掴まれたら言うことを聞かざるを得ない。

 

「遠山に何かを手伝わせる=スカウト。武偵高の3年に対して、プロが引き抜き……というより卒業後の進路としてスカウトしてもいいからな。つまりはお前らもそれに倣ったということだ」

「……そうです。よく少ない情報から分かりましたね。比企谷さんの言う通りです。かなり抵抗されていますが」

 

 可鵡韋は俺の攻撃を警戒しつつそう答える。ここまで来ればもう俺は攻撃しないって……。

 

 まぁ、一先ず話を続けよう。ここを突破する、互いの納得できる終着点を探るとなると、手段はこれしかないか。

 

「しかし、残念なことにお前らの苦労は水の泡に終わる」

「あ? どういうことだ?」

 

 今度は獅童が眉をひそめ反応する。俺の言葉の意図が分かっていないという様子だ。

 

 なんか遠山もまるで何も分かっていない表情だけれど、お前嘘だろ。いやいやまさか……ね?

 

 

「結論から言えば遠山は留年した。4月になってもコイツは2年だ。スカウトなんてできない」

 

 

 そんな俺の一言。真っ先に反応したのは遠山と不知火。

 

「……はっ!?」

「……えっ!?」

 

 2人の驚愕が静かな空間に響く。

 

「いや遠山。お前なんでまだ確認してないんだよ。校内ネットに載ってるだろ。当事者のくせに」

 

 俺とレキが昼に確認したのは遠山とあと1人が留年したという内容だった。まぁ、そういうこともあるある。気にすんな。

 

「ひ、比企谷……君、その、冗談だよな? この場を丸く収めるための冗談なんだよな?」

「…………」

 

 まだ信じきれてない遠山にその画面を見せる。なぜ俺より知るのが後なんだ。

 

「う、嘘だろ…………」

 

 画面をじっくり見た瞬間絶望したかのように両膝を付き項垂れる遠山。可鵡韋の後ろでは不知火もちょうど確認したのか顔が真っ青になっている。

 

「残念ながらそういうわけだ。いかにお前らが強くてもこれって武偵高の自主的な決まりというより、ある意味法律でもあるよな。つまり、さすがにこれではどうしようもない」

 

 不知火に通知の画面を確認した獅童はおもむろに叫ぶ。

 

「おい遠山ふざけんな! お前勉強しろよ!」

 

 ごもっとも。

 

「話はこれで終わりでいい? とりあえず遠山、お前部屋の鍵寄越せ。終わったら郵便受けに入れとくわ」

 

 未だに絶望している遠山の制服から鍵だけ奪い取る。

 

「そんな……」

「まだ言ってんの? っと、可鵡韋。勝負はこれで終わりだな」

 

 気まずい空気が流れている獅童たちの横を通る。その途中、可鵡韋の近くを通り過ぎる直前立ち止まり言葉を交わす。

 

 その雰囲気は既に穏やかであり、つい数分前まで冷たい眼をしていたとは思えないほどだ。

 

「そのようですね。次があれば本気で戦ってください」

「本気って……それ言うならお前も本気出せよ。いや別に戦いたいわけじゃないからね。こちとら戦うのもう勘弁だからね」

「む、僕が本気ではないと?」

「何に固執してたか知らんが、貫手以外の攻撃しなかっただろ。それに狙っていた箇所は全部俺の胴体。それだけ縛っていたら、捌くだけならどうにかなる。拳銃持っているくせに使わなかったしな」

「僕が近距離に拘ったのは比企谷さんの装備ですよ。防弾服ではない私服。武器も少ない。そんな状態で殺すのは本意ではないですからね。加えて、一応は殺人ではなく制圧するのが目的でしたから……こちらの方が手っ取り早いかと。まぁ、なかなか攻撃は当たりませんでしたけど」

「俺が万全だったら本気で殺りに来てたのか。それとも必要以上に痛め付けられたのか……」

「それはどうでしょうね?」

 

 おー、怖い怖い。頭痛くなってくる。今はまだ肩の方が痛い。

 

「なんか好き勝手に引っかき回して悪いがあとは」

「えぇ、こちらが後処理しておきます。そもそも、獅童さんたちが前もって調べていたらこうならずに済んだこと……いえ、これは僕にも当てはまりますね。残業代出るのかなぁ」

「…………」

 

 ――――と、何やら騒がしい遠山や獅童たちをよそに俺はさっさとその場から離れ、忘れ物を回収し部屋に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3年 1学期
放課後のメロディ


 悲しい非常に悲しい遠山の不運な出来事からしはらく経ち春休みは終わりを告げ、武偵高校最高学年である3年が始まった。

 

 3年ともなるとプロと同等に扱われたり、そもそも任務で長期間学校からいなくなったりと下級生に比べて断然忙しい身分になる。過去、当時の3年生をたまに見かけることあったけれど、どの人たちも1年や2年とは違う異質な雰囲気を放っていたのを覚えている。

 

 だからといって、いきなり新学期初日からいない奴はほぼいない。一部……うん、留年になった奴らを除いて。どうやら遠山の他にもう1人の女生徒も留年したらしい。大変だな。

 

「あ、八幡! 今年も同じクラスだね!」

「戸塚、今年もよろしく。材木座は残念だったな」

「隣のクラスになっちゃったねー」

 

 新学期、新しいクラスで既に来ていた戸塚と話をする。

 

 3年で同じクラスになった知り合いはレキ、戸塚、理子、神崎といった面々。2年のとき同じクラスだった材木座とは別のクラス。レキや理子とは1年のとき以来の同じクラスだ。

 

「僕ら3年になって何か変わったのかなぁ。僕なんて1年のときと体つきなんてまるで変わってないよ」

「さぁな。とは言っても、ここまで生き残った実績はあるだろ。知識も経験もそりゃ入学当初とは違うんじゃないか」

「それはそうだねぇ。でも、僕はまだまだだからなぁ。うーん、残り1年でどこまで成長できるだろうね」

「それについては俺もどうだろな。ところで、戸塚は進路どんな感じなんだ?」

「僕? 僕はこのまま武偵病院で働くつもりだよ」

「あ、そうなんだ。救護科ってそういう人たちやっぱ多いのか。衛生科とは違うんだな。あそこに所属している奴らはチーム組んで現場出るってよく訊くけど」

「たしかに救護科はどこかの病院や診療所に勤務するって人は多いらしいよ。僕もそのパターンだからね」

 

 なんて俺たちはダラダラと雑談を続ける。

 

 やはり最高学年になったからか周りの声に耳を澄ましてみても俺や戸塚と似たような話題を上げている生徒は多い。しかし、具体的な中身は一般的な高校生と比べては物騒に違いない。

  

 お茶を一口飲んで話を続ける。

 

「ほーん。戸塚は治療が丁寧だからこちらとしてもいつも助かってるよ。なるべくケガはしたくないけど。……そういや今日って午前までだよな」

「うん、始業式やって終わり。何か予定でも?」

「あるにはある……はず?」

「曖昧だね」

「一応は用事あるっちゃあるんだけどな、向こうの予定知らないし。返事待ち」

「相手、レキさん?」

「違うよ。ていうかレキなら別に用事やら気にする必要ない」

 

 どうせ同じ部屋に住んでいるんだ。多少時間ズレようがどうとでもなる。

 

 そのレキは少し離れた場所で理子と話している。正確には理子が一方的に話を続けている。基本的に無愛想なレキは相槌を打っているだけ。まぁ、いつもの2人だ。

 

「そうだ、戸塚。今日は訓練の続きするか?」

「ごめんね八幡、そうしたいのは山々だけど、午後から救護科で用事があってね」

「分かった。がんばれ」

「うんっ」

 

 弾ける戸塚の笑顔、実にキュート。とつかわいい。素晴らしい、この笑顔は全人類を癒してくれる。可愛――――いてっ。なんかぶつかった、お? 新学期早々イジメか。そういうのはもう慣れているんだなこれが。

 

 何だとやられた方向に顔を向ける。理子め、消しゴム投げてきやがったな。シレッと俺を睨む眼と一緒に。いきなり何すんだおい。まぁいいや、投げ返そう。今度はレキも投げ……ちょ、シャーペンは止めろ!

 

 

 

 

 

 そして始業式は終わり昼になった。各々用事や訓練、帰宅など思い思いに動いている。

 

 俺も午後から用事はあるけれど、約束している時間にはまだ早い。先に昼食を取るとしよう。レキはたしか理子や神崎と一緒に昼食すると言っていた。率先と女性集団に交ざる度胸はないし、なら俺1人か。購買に行って適当に済まそう。

 

 と、購買に向かう最中。

 

「おーい比企谷」

 

 クラスが別の車輌科、武藤に声をかけられた。

 

「よう、どした」

「いや多分購買行くだろうなって思ったからな。どうだ、一緒に行こうぜ」

「おう」

 

 武藤と廊下をのんびり歩く。

 

「俺らはどうにか3年になれたけどよー、キンジは残念だったな。つーか、こんな学力底辺の中の底辺で留年するだなんて驚きだわ。俺でもできたぞ」

 

 やはりふとした話題は留年した遠山になる。

 

「遠山は何だかんだ成績ギリギリだった上、海外飛び回っていたからな。その辺り響いたってところだろ。学生の1年は影響大きいだろうけど、どうせ社会に出たら1年なんてそんな気にすることでもない。少しくらいゆとり持てばいいだろうよ」

「そりゃそうかもだけどな。ま、俺らはアイツの分まで頑張るとするか。成績トップクラスの比企谷は未だしも

、これで俺も留年とかしたら笑えないわ」

「がんばれ。そういや、今遠山ってどこいるんだろうな。あれから特に連絡取ってねぇし。留年した奴ってたしかどこか別の武偵高に転校するんだよな?」

「おう。留年した奴が周りにいるってバレたら下に嘗められるからな。その辺りうちは厳しいしよ。パッと思い付くのは神奈川か名古屋か大阪か……その辺りだろつな。でもよ、どうやらキンジは断られたらしいぜ」

「断られたって何が?」

「だからキンジに来てほしいって武偵高が全くなかったってことだ」

「えぇ、何それマジで……? てか、学校側が拒否できるシステムなの。え、つーか、それどうなんの? 退学?」

 

 アイツそんな危険人物扱いなんだ……うん、あながち間違ってないかも。

 

「国内でダメなら海外だな。キンジも海外に決まったみたいだ。つっても、俺はどこ行くかまでは訊いてないが……」

「海外かぁ。となると、もうアイツここにはいないのかな」

「新学期初日にいきなり転校できるかは知らねぇな。つーか、言語の問題もあるだろうよ。多分今は転校するための準備期間って辺りなんじゃねーのか?」

「なるほどな。……遠山はきっとまだここにいるってことになるのかな。何なら2年と同じ空間に交ざっていそうだ」

「ハハッ、そうかもな。てことはアリアの弟子や妹と机並べて授業受けてるかもしれねぇな」

 

 本当にそうだったら実際に見てみたいという不躾な気持ちが若干芽生える。絶対面白い。

 

 とここでふと思い出したかのように話題が換わる。

 

「そういやよー、比企谷お前知ってるか? 2年にめっちゃ可愛い転入生が来たってよ。かなり噂が広まってるぜ。可愛いってより美人系だったな。絶世の美人だって騒ぎまくっているぜ。どうも外国人って話みたいだ」

「転入生ね。って、外国人? そこは特段珍しくはないか。神崎とかいるし」

「おうよ。オランダ系って噂が出回っているが……写真見てみるか?」

 

 そう意気揚々と言って武藤が見せてくれた画像を見る。

 

「…………」

 

 ストレートな黒髪が肩までかかっているほどロング。アンニュイな雰囲気を帯びており、美人と言われたら肯定はしてしまうだろう。武偵高の白いセーラ服と黒髪は映えている。

 

 端から見れば絶世の美人と、たしかに武偵高のアホたちが騒ぐ理由も分かる気がする。分かるが…………。

 

「……比企谷?」

「いや何でもない。よくもまぁ、あのアホたちは飽きずにうるさいなって思っただけだ」

「そう堅いこと言うなよー」

 

 いやだってこれ遠山が女装した姿なだけだし……。

 

 なんかリサさんが一時期部屋にこの女装姿の写真を張っていた。神崎や理子はこの美人は誰だという反応だったけれど、さすがに1年以上一緒に過ごしてきた俺には分かる。

 

 あれは遠山の女装した姿だったと。

 

 パッと見では遠山と結び付かないかもしれない。しかし、写真をよく観察すると肩幅や顔の輪郭など何となく違和感を覚えた。そして、女装した者が隠しがちな部分があった。それは喉仏。子供のときなら未だしも、高校生くらいの年齢にもなると、男性の方が女性よりはっきりと見えるものだ。写真越しだと気付きにくかったけれど、気になってよく確認したら喉仏が見えた。

 

 リサさんがなぜわざわざ飾っていたのかは検討が付かない。もしかしてそういうプレイだったり、メイドが主人の弱みを握ったり……可能性は色々と考えられる。

 

 まぁ、遠山も遠山でどうしてヨーロッパのどこかで女装していたかは全く知らない。あの辺りの顛末とかろくに訊いてないもんで。

 

 あとでこれ遠山だろと訊ねてみると、非常に焦った様子で黙っていてくれと嘆願されたほどだ。なんなら土下座までされた。

 

 そういうわけで単純に興味がない。興味があったら可笑しいまである。そして、理子たちはなんで気付かないのかも疑問に感じる。なんなら多分レキも分かっていない。どうして?

 

 ……ていうか、なんで遠山もよりにもよって女装にしたの? 他の変装の選択肢なかったの? そもそも変装しないとダメなの? バカなの?

 

 ツッコミどころが多過ぎて頭痛くなってきたな。

 

「あとで探してみようぜ? 一目見てみてぇわー」

「絶対イヤだ」

「んな釣れないこと言うなよー。あ、でもあれな。お前の場合レキが怖いもんな」

「否定はしないけど、別に理由がそれだけなわけじゃないからな?」

 

 お前にもクロメーテルの正体明かしてやろうか。幻想粉々に砕くぞコラ。遠山に絶対と言っていいほど殺されるのを覚悟しないといけないけどね!

 

 

 

 あれから武藤と飯を軽く食べ、約束している場所へ移動する。武偵校内にある海岸沿い……人工浮島で海岸っておかしいな。全くもって岸じゃないし。まぁ、海が近いカフェのテラス席だ。

 

「おっと……」

 

 待ち合わせしている人はもう着いていたらしい。

 

「あ、先輩。こんにちは!」

「悪いな間宮、遅れたか」

「いえいえ、私が早く来すぎただけですから」

 

 ベンチにちょこんと恭しく座っているのは2年になった間宮あかり。

 

 神崎の元アミカ、それと遠山曰くなかなかにエグい殺人術を持った一族の末裔であるらしい。今まで使っていた技術は全て必殺……殺人技ばかりでそれを矯正しているから実力を十全に発揮できてないと神崎も言っていたな。

 

 その片鱗は俺も何となく感じていた。たまに手合わせしたとき不自然に動きが悪くなることがあった。最近ではそういうことも減ってきてはいる。

 

「新学期早々呼び出して悪かったな」

「そんなことないです。そ、それで用事というのはやっぱり……?」

「間宮の予想通り、前に言っていたアミカの件だな。あのときはレキのせいでゴタついたが」

 

 あの嫉妬交じりの狙撃……。

 

 意識外から来られると本気で驚くから止めてほしい。狙撃なんて意識外からするのが当然ではあるんだけど……いやそういうことではなくて。戦闘なんてない日常の風景に狙撃されるのはとても心臓に悪い。

 

「あー、たしかにあれは驚きましたねー」

「随分呑気だな。下手すればお前が撃たれていた可能性……はないな。あぁいうパターンはだいたい俺が撃たれる。慣れはしないけど諦めた」

「それで良いんですかね……」

「周りの人が撃たれるよりかはマシだろ。あれでも殺しはしないだろうし。多分」

 

 リサさんのときはアスファルト削っただけだったな。

 

「話なんか逸れたな。悪い。本題はアミカだな。さてと……」

 

 軽く咳払いして本題について切り出そうとしたら、間宮がやる気に満ちた表情で元気良く話し始める。

 

「では試験ですね! どんな内容ですか? やっぱり強襲科同士戦闘ですかね。どれにします。アル=カタですか?」

 

 早い口調で捲し立てる。神崎のアミカになる際、かなり大変な試験を受けたらしい間宮はどんな無理難題も来いと言いたげな顔付きだ。

 

 若者は偉いねぇ……。やる気が充分過ぎる。いや俺は何様だ。俺だってまだピチピチだろ。この表現がもう古い。

 

 数週間前にアミカの申し出を受けたときも試験云々言っていた覚えがある。神崎のアミカを経験したからその思考回路になるのは全くおかしくはない。しかしながら、その期待を裏切るようで申し訳ないな。

 

「やる気出してるとこなんかあれだけど、試験とかしないぞ。普通にアミカ受けるよ」

「…………へ?」

「別に留美や一色にもそんな大それたことしてないからな。神崎みたいにアミカの申し出がアホみたいに多いことなんてまずないし、やると決めたから堅苦しいことはなしだ」

 

 拍子抜けといった表情に陥る間宮。チラッと見たところしっかりと武装している。色々と戦闘になることを見据えて準備してきたことが伺える。

 

 なんなら留美とか通り魔よろしくいきなり仕掛けてきたからな。生意気すぎだろ弟子1号。

 

「そ、そうですか……」

「今の間宮の実力をある程度知るために戦うのは普通にアリだけど……それで合否を決めることはしない。偉そうに決めれる立場でもないしな。そもそも試験なしで申し出受けるつもりで来たわけだ。電話で適当に済ますのもなんか違うと思うし」

 

 しかし、と付け加えて俺は再度口を開く。

 

「一応俺も3年だしちょくちょく不在になることも増えると思う。間宮が俺と稽古……戦いたい? まぁ、そういうときに対して融通利かないことは多分それなりの頻度であると思う。そのこと含め間宮が大丈夫ならこの話は受ける。間宮、お前はどうだ?」

「全然大丈夫です! よろしくお願いします!」

 

 ビシッとお辞儀する間宮に思わず少し苦笑する。そんな畏まるほどのモンじゃないのにな。

 

 一色や留美と比べて随分真面目で律儀だ。生意気な後輩は嫌いではないけれど、こうして素直な奴を直に接してみるとこれはこれで話しやすい気もある。

 

 

 ――――正式にアミカ契約を結んでからしばらく経ち、間宮とティーブレイクが始まった。

 

 簡単な雑談……正式に師弟関係になったからこそ少しは互いについて知ろうといった感じか。用事は済んだのでさっさと退散しようとした俺に対して間宮から「もう少しお話しましょう!」と言ってきた。このコミュニケーション能力の差よ。

 

「へー、比企谷先輩って修学旅行で香港選んだんですか」

「香港に行きたかったってより、用事ついでに香港行ったって流れだったな。のんびり観光もできて楽しかったよ」

 

 なおタンカージャックがあった模様。

 

「みんなで海外かぁ。アリア先輩にイギリスへと付いていったことありますけど、やっぱり憧れますねぇ」

「他人事じゃないぞ。お前も夏休み終わったら国内で修学旅行終わったと思ったらすぐに海外だからな。チーム編成でゴタゴタする時期でもあるけど……間宮は火野とかと組むのか?」

「その予定です! ライカと志乃ちゃんと桃子さんになるのかな? 後輩にも仲良い人たちいるんだけど、同学年じゃないとダメですもんね」

 

 桃子……? 誰だそれ。……あ、分かったアイツだ。

 

 鈴木桃子。イ・ウーの毒女か。またの名を夾竹桃。たしか間宮と同学年で通っているけど、アイツ24か25くらいの年齢だよな。

 

 あの年増……留年して女装している遠山より神経図太いことしているなおい。

 

「ほーん。一色は間宮たちに交ざるのか?」

「いろはちゃんはまた別の友だちと組むって言っていたような気がします。いろはちゃんとも組みたいんですよー」

「アイツお前ら以外に友だちいたのか……」

「し、失礼ですね」

 

 一色の性格や態度ってわりと女子から嫌われるタイプかと考えていたが、その辺上手いことやっているのだろうか。

 

「まぁ一色のことはいいや。今はもうアミカじゃねぇしな。……アミカね。そういや、神崎の下で1年鍛えられてどうだった?」

「私には足りない部分が多すぎるって痛感することばかりでした。体力や技術、判断力……全てが何て言えばいいのかな……一流って表現すれば伝わりますかね。あとスパルタでした。ことあるごとに銃を連射するんです」

「お前は遠山か」

 

 最後に付け足した一言についてポロッとツッコミを入れる。前半部分で曲がりなりにも尊敬していると伝わってくる文言だったけれど、後半は……うん、いつもの神崎だ。この1年でどれだけリビングが破壊されたのか俺は覚えていない。

 

「ちょっと比企谷先輩、遠山キンジと同じ扱いは止めてください!」

「お前マジで遠山嫌いなんだな……」

 

 呼び捨てって。

 

「あの人は私からアリア先輩を奪う悪い虫です」

「遠山に対しての態度は一貫してそれなんだ。かなめとは仲は良好って訊いたけど」

「かなめちゃんとはとっても仲良しですよ。お互いに『遠山キンジとアリア先輩を近付けない同盟』を組んでますから!」

「お、おう……」

 

 色々とツッコミたいところをグッと堪え我慢する。キリがない。

 

 ここまででより知れたことだが、間宮は随分と神崎のことを慕っている。今までも情報として存じていたけれど、こうして話してみるとそれが直に伝わってくる。

 

「ふと思ったんだけど、間宮ってなんで神崎のアミカになったんだ?」

「と言いますと?」

 

 少し気になる。

 

「お前、実際のところもし本気でやるとなったら普通に強いだろ。基礎的な体力や筋力とかは入りたてだったら劣っていることあるけど、その辺は日々の積み重ねな部分あるし」

 

 ちょっとした疑問を間宮にぶつけると、若干暗い顔になりポツリと話し始める。

 

「私の場合、その本気が問題だったり……」

「あー、技の大半が殺人術ってやつ?」

「先輩は知っているんですね。そうです、元々私が持っていた技術が問題なんですよ……」

「なんかその技術を矯正しようとして、最初は上手くいかなかったって神崎は言っていたな。武偵ランクもそのせいで低かったとか。その辺俺は詳しくないんだけど、適当に手加減すればいいんじゃないか? 殺さない程度に痛め付ければいいだろ」

 

 誰だってそれはやっていることだ。

 

「えーっとですね、普通の技とかならそれで大丈夫なんですよ。でも、私が受け継いだ技術って0か1な部分がほとんどでして」

「0か1……加減できない技ってこと?」

「ですね。その技を使うと決めたら無意識で相手を殺してしまうんです」

 

 さらっと恐ろしいことを言う。俺だって横隔膜をムリヤリ止める羅刹という打撃技であり殺人技があるけど、まぁ、あれはあれで加減はできる技だしなぁ。

 

 果たしてどんな技なのか興味が湧く。

 

「例えばどんなのがある?」

「私の技の1つなんですけど…………今の撃ち方を忘れて昔の撃ち方をすれば標的を見ずに額に右目、左目、喉、心臓の急所を即座に撃つことができます。誰が相手でも射程範囲なら撃てます。この癖があまりにも染み付きすぎて、それ以外の箇所を撃とうとすると全然狙い通り撃てなかったんです。あ、今ではそんなことないですよ!?」

「なるほど、それは武偵が使うべき技ではないな。その系統が多くあったってことか」

 

 よく理解しました。遠山やレキといい、生まれた根っこから戦闘民族がここには多いね。

 

「ですね。まだ間宮の技術を全部身に付けたわけではないのですが、それでも、多分私の持つ技術を全部使えば犯罪者……敵に負けることはないかなって甘い考えを持ったときはあります。でも、それは武偵法を破る行為――――殺人を自分の意思でしてしまうということです。武偵になったからには、それを封印しようって決めました。だから、動けば動くほどズレが酷くなって上手くいかなかったんです」

 

 表情に陰りが見えたと思ったら、パッと明るくなる。

 

「でも、アリア先輩はスゴいんです! 武偵としてどれだけ圧倒していても、決して相手を殺さない、巻き込まれた人も絶対助ける……武偵法を遵守して任務を遂行する姿に憧れました。……って何ですかその顔」

「まさか神崎についてそんな真面目に語るとはな……って思っている顔。俺からすると色んなモン破壊する印象が強すぎてな」

「先輩って遠山キンジと同室でしたね……まぁ、その気持ちは分かりますよ」

 

 その感覚は一致するんだ。

 

「あの、比企谷先輩。前から訊いてみたかったことがあるんですけど、良いですか?」

 

 ――――と、少しふざけた雰囲気から一転、間宮は真っ直ぐ俺の眼を見据える。

 

「おう」

「先輩は高校から武偵になって、2年が経って、きっと価値観みたいなのってかなり変化したと思うんです」

「そりゃ当然の話だ。一般人からこんな血生臭い世界に入り浸っている。俺という人間の……根本的な人間性は変化してないつもりだ。ただ、昔の俺とは比べるまでもなく考え方……ここで生きるための思考回路は丸っと変わった自覚はある」

「多分、比企谷先輩はそこでその、初めて命のやり取りを味わったと思います」

「まぁ……な」

 

 苦い光景が頭に浮かび言葉が濁る。

 

 ふと記憶に過るのは小町の前で人を殺しかけたあの事件。かなり昔の出来事かのように感じる。あの明確な失敗、我を忘れ、周りの人に救われたあの事件――――今でも鮮明に思い出すことができる。

 

「…………それで、その、戦うのが怖いと思わないんですか? 自分が死ぬかもしれないこと、誰かが死ぬかもしれないこと。私は今でこそ武偵として戦うことができていますけれど、入学当初は間宮の技が根底にあったからこそ恐怖でブレーキをかけてしまっていました。人を殺すことが怖かったからです。一般人が戦うのはきっととても怖いことです。だから、生まれた境遇は違っていても、私と比企谷先輩はどこか似ているのかなって思いまして……その辺り、先輩はどう考えているのか訊いてみたいなと」

 

 何て言うか……ただアミカ契約を交わしに来たとは思えないほどベビーでシリアスな話題をぶつけてきたなと少々面を喰らう。

 

 しかし、間宮の言いたいことは分かる。

 

 生まれてから今日までの人生観は俺と間宮では恐らく交わらない。戦闘民族としての間宮、一般人として育った俺、この2つの線はねじれの位置にある。交わることも平行になることもなかった。全く違う場所に存在するからだ。

 

 だからこそ武偵になった俺と間宮は思考がどこか似通っているのだろう。神崎のようにまるでヒーローかのように人を救うことが、息を吸うかのように当然のこととして生きてきた人間とは違う。

 

 戦うことが怖くて、それでも間宮は歩みを止めなかった。俺は……なんか流れでここまで来てしまった感はあるけどね。締まらねぇな。

 

「そもそもの話、間宮は自身の持つ技の忌避から色々と拗らせたみたいだけど、俺だって必殺技……殺人術は持っている。使えば相手は死ぬという技は俺も複数ある。……というか、武偵は拳銃を持っている以上、殺ろうと思えば人を簡単に殺せる。今ここで俺がお前の頭を撃つことができる。逆もまた然り。だが、俺たちはそうしない」

 

 武偵には一般人では持ち得ない力が多かれ少なかれ存在する。問題はその使い方。

 

「きっと1人でも故意であれ不本意であれ、一度でも人を殺せば――――そこに存在する命の価値が曖昧になる。武偵法を守る以前にそれがあるから俺は人を殺したくない。そうなったら、俺は大事な人たちも、守る対象の一般人や敵対する相手、その全ての境界線がきっと保てなくなる。命に対して、なんつーかな……きっとどうでもよくなる。人間としてそれはかなり歪な在り方だ。その状態を人間とは呼べないかもしれない」

 

 当たり前に人を殺してきたことがある連中……それこそレキやジーサードなどはこの考え方に至ることはなさそうに思える。

 

 これは所詮、武偵になる前まで、人間関係とかは置いておいて表面上は平和な日本で暮らしてきた俺の甘い甘い価値観、思考だ。

 

「命の境界線……」

「だから俺は人を殺したくもないし、俺が関わるのであれば武偵法云々とか関係なしに人は死なせたくない。俺が人間という枠に収まるためにな。だからそう考えれば……んー、怖くないって言えば嘘になるときはあるかもしれないけど、その想いがあれば俺はきっと恐怖に苛まれてもどうにかなるだろう」

 

 ま、まぁ? 俺なりに俺なりの想いをまとめることができたかな? こんなんで大丈夫? 間宮の求めた答えに近い? 少し不安だ。

 

 他にも武偵として戦う理由はそれなりにある。ただ怖いかどうかと訊かれれば俺の回答はこうなる。それでも、最初の最初は銃を持つだけでわりと怖かったけどな。初めて銃を所持した任務なんて手に汗握ったもんだ。

 

 これはある程度積み重ねた経験故の回答だ。

 

「先輩の言いたいこと、分かったと思います。人の枠……人であるために戦えるのであれば……私もこれから頑張れそうです。私も、みんなと一緒にいるために」

 

 間宮はどこか噛み締めるように呟く。

 

「参考になったか知らないが、一先ず暗めの話は終わりだ。間宮、これから時間はあるか? せっかくだ、腹ごなしにちょっと軽く動こう。最近お前とは戦ってないしな」

「ですね! この前ライカが先輩と戦ったって言ってましたよ。道場破りに来ていた中国の女の子と組んだって」

「あのときは病み上がりだったからな。大して動けなかったわ」

 

 あー、猛妹が突撃したあのときか。

 

 そういや、あれから猛妹とは連絡は全然取れてないな。一応知りたがっていた色金についての全貌……と言っても軽い内容で、ついでに神崎の顛末についてはいつの間にかアドレス帳に追加されていた諸葛に伝えたが。

 

「じゃ、行くか」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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休日は家に引きこもるのに限る

「八幡さん」

「ん、どした?」

 

 高校最後の学年、最高学年になってからおよそ1ヶ月が経過した。5月に差し掛かる。

 

 この前戸塚とも話したことだけれど、もう1年が経つころには国民の義務である勤労の義務を果たさなければいけない。

 

 納税の義務、教育の義務に比べて勤労の義務は些か時代遅れなのではなかろうかと俺は些か疑問に感じる。

 

 たしかに働かなければ金は増えない。生きることも難しい。しかし、わざわざ毎日汗水垂らして出社しなくてもこの技術が進んだ現代社会、ここまで来れば労働をしなくても引きこもって暮らせるのではないのだろうか――など考えることもある。

 

 しかしながら、当然として現実はそんな甘くない。働かずして生きていく方法は宝くじに株やパチンコ、競馬や競輪など、ほとんどギャンブルに偏ってしまうのが珠に傷だ。そんな奇跡の連続が続くほど俺は運が良くない。

 

 そもそも既に俺は学生でありながら命懸け(文字通り)で働いている立場でもある。正直なとこ今さらかと問いたくなる内容だ。なんなら何度も死にかけたまである。まだ俺17ぞ?

 

 それはそれとして……働きたくないんだよなぁ。5000兆円(非課税)がほしい!

 

 ――――こんなバカげた想いとは裏腹に今は朝飯をレキと食べている最中だ。

 

「少し相談したいことあるのですが……時間を要する話題ですので夜にでもお時間いただけますか?」

「分かった。また晩飯時にでも話してくれるか?」

「えぇ、そうします」

 

 何やら相談事を持ち込まれたが、今さらっと話せるほど軽くないという内容だったので、改めて持ち越しと相成った。

 

 しかしながら、何だかんだここまで一緒にいるのだ。相談内容は何となく推測できる。

 

 レキが改まって言うことだ。大方仕事……依頼関係だろう。何かしら厄介な依頼でも舞い込んできた、もしくは遠出する必要があるからしばらく離れる。そんなところと予想する。

 

 とはいえ、外れている可能性もあるので改めて夜に訊くとしよう。

 

 食後のコーヒーを飲み終えたタイミングでレキは口を開く。

 

 世間話だろうか。レキはこの俺以上に会話のタイミングが上手くない。話題の選出はわりと唐突だ。

 

「そういえば、あかりさんとはどうですか」

 

 内容は間宮あかりについてだった。

 

「どうって」

「アミカ契約して時間が多少は経過しましたが」

 

 確実に意識してないだろうけれど、一瞬平常より低い声を出したレキ。普通にビビったぞおい。本人的には普通に訊いているのだろうけれど……。

 

「どうもこうも、時折稽古付けてるくらいだ。1年のときよりかなり強くなっているな。だいぶ客観的に動けているというか、体の使い方が上手だ。元々持っていた技術を武偵の技術によく落とし込んでいる」

「アリアさんのアミカだったことはあるようですね」

「なぜ上から目線……」

 

 経験からするとお前の方がそりゃ圧倒的に上だけどな。

 

「アレの無茶振りに付き合ってたらそりゃ強くなるだろうよ。最近はなんか間宮の技術の応用でよく武器がスられる。元々人体エグる技らしいけど」

 

 そんな技をさらっと先輩に使わないでね? 自分で言っていて血の気が引く。

 

 フル装備ならあちこちに武器仕込んでいるから1つ盗られたところで大した影響ないってのはある。あ、だからといって銃盗られたら普通にキツいですねはい。

 

「しかし、アミカとは具体的に何をするのでしょうか。私にはいないのですが、稽古を付けることくらいですか?」

「基本的にはそうだな。それと、たまに学校から出る任務で同行はするな。あとはこっちの用事……任務でコキ使ったり。遠山や神崎はよくしていたらしい」

 

 部活の先輩後輩のような間柄だろう。遠山の場合、アミカ期間が終わっていてもよくアゴで使っていたみたいだ。それより、後輩の方が遠山に懐いており色々と手伝っていたとのこと。たしか後輩って忍者だっけ?

 

「しかし、八幡さん。あまり任務に留美さんやいろはさんを同行させていましたか?」

「俺はあんまり……たまにはしたけどな。俺が個人でよく受ける任務って警護関係だからな。そんな人数いらないし」

 

 それに俺の取り分減るからね。なぜアイツらに俺の分け前を渡さなければいけない。

 

「狙撃科はあまりアミカ関係を結ぶ人たちは少ないので、少し気になってました」

「スナイパーなんて個人の拘りが他のとこより強そうだもんな。狙撃技術に関しても感覚重視なとこあるだろ」

「基礎的な技術を教えることは可能ですが、狙う射程距離を伸ばすほど経験を重ねる時間が重要になります。例えば、風の読み方など……そのような感覚は教えて早々身に付けることができるものでもないでしょう」

 

 そりゃそうだろうな。誰だって教わってすぐできるようになったら苦労しない。

 

「今思えば八幡さんは……まだこの世界に入って2年程度ですが、前々から戦ってきた人たちと渡り合えるのはスゴいですね」

「そうかぁ? まぁ、かなり濃い時間過ごしてきたからじゃないか。お陰でどうにかこうして生きているよ」

 

 めちゃくちゃ死にかけているけどな!

 

 

 

 

 

  

 ――――そして、授業は終わり放課後。

 

 レキは何か用事があるとどこかへ行くと言っていた。今日は間宮や一色に対して付き合う予定もない。最近ちょくちょく学校に残っていたしたまには直帰しよう。

 

 材木座にメンテ頼むのはもう少し先だよなー、俺で簡単なメンテするかー、帰ったら録画溜まってたアニメでも見るかー。

 

「……ん」

 

 そんなこれからのことをのんびり考えながら校門を潜るところで、少し離れた場所にふと気になる人物をが目に入る。

 

 その人の服装は武偵高では見かけない真っ白な詰め襟を着ている少年だ。セーラー服でもブレザーでもない。

 通行人の生徒がチラホラとそちらを覗いている。反応はイケメンだの見ない顔だの強そうだの千差万別だ。俺も野次馬精神で少し気になり誰だろうと遠目でそこを注視する。

 

「アイツ……」

 

 離れた場所でも誰かが分かった。

 

 どうやらざっくり1ヶ月前遠山を逮捕しようとした集団である旧0課に所属する――――可鵡韋だった。俺とも戦った、ろくに本気を出していない印象だったのに充分過ぎるほど強かったな。

 

 なんでここにいるんだと疑問に感じる。

 

 まず真っ先に思い付くのは遠山に対して何かしらの用事があることだけど……遠山は留年したのでローマ武偵高校への転入が決定した。今は千葉にあるイタリア語の勉強のために外国語の学校に転校したらしい。

 

 アイツは国際的だな。すぐにどっか海外にいる気がするのは気のせい?

 

 その辺可鵡韋なら知ってそうだけどな。わざわざここに来る必要なくない?

 

 そう思っていたら、可鵡韋がこちらに気付いたのかふと目が合う。

 

 一応は知り合いなので会釈だけして去ろうとする。この知り合いと会ってもこちらは話しかけるつもりはないですよオーラを醸し出してこそぼっちというものだ……。

 

 なんて内心おかしなことを考えていると。

 

「あ、比企谷さん。お久しぶりです」

 

 普通に声をかけられた。え、なに。

 

「……おう」

「何ですかその嫌そうな声」

「うるせぇな。以前に喧嘩吹っ掛けられた相手に話しかけられたら警戒するだろ」

「うーん、そう言われるとこちらの立つ瀬がないと言いますか……でも、比企谷さんの周りにいる人たちも最初は敵対関係だったっていうパターンが多いらしいじゃないですか」

 

 そうか? と疑問に感じ、記憶を遡ってみる。

 

 遠山や武藤、材木座や戸塚はさて置き、レキは……カルテットで戦ったとは言えあれは所詮学内行事だ。そなあともバカスカ撃たれたことはあるけど。

 

 理子は、あれ一応は敵対していたでいいのか分からない。猛妹はうん、あれは敵だ。何なら今も若干立ち位置怪しいまである。主にお姫様のせいで。

 

「まぁ多少はな。で、どうした。遠山はここにいないぞ」

「知っていますよ。実は今、遠山先輩と同じ学校に通っているんで。遠山先輩とはまた別件で用事がありまして……あぁ、あれは解決したと言えば解決したか」

 

 ブツブツ呟くように話してから可鵡韋は一拍置く。

 

 あ、そうなの? 

 

「今回は比企谷さんに用事があるんですよ。簡単に言うとお詫びに来ました。遅くなって申し訳ありませんが」

「詫び? つーと、前のいざこざでの?」

「はい。あのとき僕の攻撃で服を破いてしまいましたからね。全く同じのとは言いませんが、似たような服を探してきました。どうぞ」

 

と、手に持っていた紙袋を渡される。中身を覗くとたしかに似た雰囲気のシャツがある。

 

「ありがと。随分律儀だな。別に俺が突っかかっただけなんだから気にしなくていいのに」

「それはそれ、これはこれです」

 

受け取ったのを確認した可鵡韋は少し表情を変化させる。こちらの様子を伺う雰囲気だ。

 

「つかぬことをお伺いしますが、比企谷さんってこのあと用事ありますか? もしお時間大丈夫でしたら、ちょっと相談したいことがありまして」

 

 そう可鵡韋はどこか恥ずかしそうにおずおずと話す。

 

 戦ったときの印象はどこか大胆不敵といった感じだったけれど、こうも下手に出るとは珍しいように思う。

 

 この短い会話だけど、ごく普通の青年といった印象だ。

 

「このまま帰るだけだから構わないが……あ、秘匿性ある話題か? お前の職業的に」

「仕事の話ではないです。えーっとですね、僕個人の、プライベートの相談なんです」

 

 まだ出会って2回しかない奴に頼み事か。随分と信頼されているのかいないのか。まだ大して可鵡韋のこと知らないんだよなぁ。

 

「じゃあ……どっかカフェにでも行くか。コーヒー辺り大丈夫?」

「えぇ、好きですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まとめると長くなったので、めちゃくちゃ中途半端ですけどここで一旦切ります
アリア新刊を読むたび自分は海外に住めないなと思う


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考えていることを文字に起こすとコレジャナイ感が強い

あくまで個人の意見です


 あれから少し時間は経ち、人工浮島内にあるカフェへ移動する。客はまばら、席は端の方だ。これなら大声で話さない限り迷惑にならないだろう。

 

 俺らは互いにコーヒーを頼み一息つく。

 

「あ、このコーヒー美味しい。何て銘柄でした?」

「ブルーマウンテン。わりと高級な豆だぞ」

「へー、これが噂の。僕飲んだことなかったです」

「値段はわりと高いぞ」

「奢りですか?」

「まさか。きっちり割り勘だ。俺が飲みたかっただけ」

「えー」

「こういうときじゃないと飲む機会あんまないしな。つーか、お前も稼いでるだろ」

 

 雰囲気が落ち着いたところで本題に入る。

 

「それで、相談って? というよりなぜに俺?」

 

 わりとマジで要領を得ない俺はそう訊ねる。俺ら接点なさすぎじゃない? 間柄で言ったら今の時点でヒルダとほぼ同じだよ?

 

「この前遠山先輩と同じ話をしまして……どうやら比企谷さんが適任と言っていたので、お詫びと一緒に話を訊けたらな……と」

「……? よく分からんけど、どんな内容?」

 

 やはり分からない。

 

 すると、可鵡韋はカバンからPCを取り出した。

 

 そしてどこか言葉を躊躇うように、頬を赤らめ視線は逸らしつつポツリと話し始める。

 

「実は僕、趣味で小説を書いているんです。よく出版社の賞に応募しているんですが、全然結果が振るわなくて一次選考も通らず……遠山先輩にも話した……ことがあるんですが、そのとき比企谷�さんもよく小説を読んでいて詳しいとおっしゃっていて、何かアドバイスを貰えたらなぁ……と思ったんです」

 

 それはスゴい。可鵡韋の言葉を訊いた俺は率直にそう感じた。

 

 実際、本って1冊だいたい10万文字前後だろう。それをよく書き上げているってことだから、かなりの労力になる。口振りからして何回も書いてそうだ。仕事で忙しそうな身でよくやるな。

 

 書いては凹んでの繰り返しの材木座とはだいぶ違う。

 

「ほーん。出版社って例えばどこの?」

「それは――――とかです」

 

 可鵡韋が挙げたいくつかの出版社はラノベをメインで出しているところだ。

 

「つーと、可鵡韋はラノベ書きたい感じ?」

「特に拘りがあるわけではないんだすけど、調べてみると話題になりやすいと言いますか、部数も多いものもあるので少し憧れるなと」

「なるほど」

 

 それは少し分かる。

 

 何だかんだ一般文芸よりラノベの方がメディアミックスなどといった展開で見かけることは多い。漫画化、アニメ化、映画化とかな。別に一般文芸がないとは言わないし、普通に数多くあるが、母数の問題かな。

 

「アドバイスね……。別に俺は小説は書いたことないしあくまで読者視点……それこそ俺の主観ありきになるが、それで大丈夫?」

「もちろんです。お願いします」

「んじゃ、とりあえず今できてるとこを読ませてもらうな」

「は、はいっ」

 

 渡されたPCに開かれたファイルの内容を読む。

 

 読み進めてみる……これはまだ本文ではない。まだプロット段階か。もう1つのファイルは遠山の改善案がいくつか記されている。とりあえずはプロットを読む。

 

 

 ジャンルはファンタジー小説。舞台は雪国。

 

 序盤はゴツい主人公が滅びた敵国のゴツい仮面の騎士を追うシーンから始まり、色々と続いているが……。

 

 やたら文章が難解、堅苦しい印象が残る。起承転結はできているが、前述した文章の難解さのせいでどうも読み進めるのが若干キツい。

 

 ――――現段階ではあまり面白くない、というのが今の俺の率直な感想だ。

 

 続いて遠山の改善案は……敵国の騎士を女性にする。なるべく序盤に騎士を捕らえ、雪山で遭難したところでサバイバル展開にする。そこから協力して遭難を乗り越える……と。

 

 

 

 まだ触りの部分だけだが、何となく可鵡韋の抱えている問題が見えてきた。

 

「どうでしたか……?」

 

 どこか緊張している口調の可鵡韋。

 

 何だろう、漫画の持ち込みとかこういう感じなのだろうかとどこか不思議な感じだ。いや俺は編集者気取りか。材木座には似たことしているけれども。にしても、アイツ、武器イジっては小説書いてとよくやるな……。世話になっている俺が言うのもあれだが。

 

「そうだな……改善前のプロットから話すな。本編の面白さ云々は一旦置いといて……。まずあれだ、今の段階だとどうもラノベの需要と供給が合ってないなってのが率直�な感想だ。ラノベの出版社に応募している割りにはラノベになってないって言えばいいな」

「ラノベになってない……?」

「ざっくり言うと読者層に合ってない。まぁ、可鵡韋も知っていると思うけど、ラノベの読者層って大半は俺らみたいな男性がほとんどだ。それもメインの年齢となると10代後半から20代にかけてってところかな」

「はい。そうですね、書店でも僕と同じくらいの年代の人をよく見かけます」

 

 ラノベコーナーにいる可鵡韋を想像すると少し違和感というか……少し様子を外から見てみたさがある。

 

「だろ? だからこそラノベを書かないといけない。で、今のお前の作品にはラノベとして欠けている要素がある。これは大半のラノベに当てはまる要素だ。そこらが足りないと思う」

「ライトノベルに必要な要素……それは何でしょうか? 普通の文庫本とかとは違うんですか?」

「年齢層が離れたりしているからな。読者が求めているベクトルが多少なりと違う」

 

 文庫本とかだと幅広い年代がターゲットになっていることだってある。とはいえ、これも一部の話だろうけれど。

 

 どんな本を出すにしてとある程度年齢層は絞るだろう。

 

「面白いストーリーは大前提な上に話すと、ラノベに必要なのは――――まず最初に、分かりやすく、そしてカッコ良く活躍する主人公だ」

 

 思わず力説する俺。きっと恐らくメイビー間違っていないはずだ。

 

「これはドラマや映画、少年漫画とかどのジャンルにも通ずることだと思うが……やはり物語の中心は主人公だ。その主人公がそうだな――――例えばろくに活躍しない、したとしても活躍内容が地味過ぎる。そんな主人公だと読んでいて面白くないかもしれない」

 

 何だかんだ主人公がどう活躍するのか気になって小説を読むものだ。それがラノベだろうと文庫本だろうと。そこがおざなりになってしまっては意味がない。

 

「それと主人公の好感度もいるな。あ、この好感度は作中キャラではなく読者からのな」

 

 ここもきっと重要だろう。

 

「主人公がウザいキモい、言動がチグハグで意味不明……敢えて作者がそういう風に書いているわけでもなく、自然とそうなってしまったら、どれだけストーリーが良くても俺はその作品を好きになれない。バトルでもラブコメでも、思わず応援したくなる主人公が重要ということだな」

 

 ぶっちゃけアニメ見るときだって主人公がなんか合わないなーと思ったら続き見る気力湧かないしな。どれだけ話が面白くてもなんかなぁとなる……そこは完全に個人の感性だけどな!

 

 と、話を戻しまして。

 

「次に魅力的なヒロインだ。さっきも言ったようにラノベの読者の大半は男性。時間を割いて読むからには可愛い異性……ヒロインを読んで癒されたいし、魅力的なヒロインがいれば作品の華にもなる。ヒロインの性格は作者の好みだから好きにしたらいいし、寧ろがっつり性癖出していこうぜって思う」

 

 流行り云々はもちろんあるし商業作品なら多少は取り入れる必要はあるけれど、せっかく自分で1からキャラクターを考えるならそこはもう自分の癖を全面的に出してほしい。

 

「まぁ、ラノベの第一印象なんて9割表紙に描かれているヒロインなとこあるからな。いわゆるパッケージ買いってやつ。その観点からもヒロインは重要だわな」

 

 俺が長々と語っている内容を可鵡韋は必死といった表情でメモしている。これで大丈夫?

 

「他にも世界観やら設定やら……そもそものジャンルやら色んな要素が絡み合ってはいるけど、ラノベを書くならその辺をちゃんと意識した方がいいかな。人気な作品ほどそうなっていると思うぞ」

 

 逆にヒロインがあまりいない 登場キャラクターがほとんど男のいわゆる硬派なラノベってある? 思い付かない……。ラノベでないなら普通にあるけれど。

 

 可鵡韋はメモも取り終え一呼吸入れると。

 

「なるほど……勉強になります。たしかに表紙に女の子が描いていることがほとんどですね……。そのためにヒロインのキャラ付けや容姿が重要と」

 

 ラノベならヒロインはより力を入れる必要があると……思う。

 

「先ほど面白いストーリーが大前提と言っていましたけど、どうすれば面白いストーリーを書けますかね? 書き進めるほど、どうすれば面白くできるのか分からなくなってきくるんですよー……」

 

 お前もしかして俺のこと編集者だと思っている? そんなの俺も知りたいよ?

 

「んなの読者の受け取り具合にも依るから何とも……それぞれ好みとかあるだろうし、こうすれば面白くなるって断言なんてできないな」

「では……えっと、比企谷�さんが面白いと思うストーリーにはどんな特徴がありますか? あ、特徴と言うよりどんな要素があれば面白いと思えますか?」

 

 お前は俺にどこまで求めているんだ……。

 

 ちょっと考えよう。面白さ、面白さか……。改めて思い返すと言葉にするのは難しい。

 

「良く言われているのは物語としてちゃんと筋が通っているか……軸がしっかりしているかだな」

「そこがブレてしまっては……というやつですね」

 

 ストーリーとしては散らかりそうだな。

 

「……他にはそうだな、さっきのと似通っているだろうし、これこそ個人的な話にしかならないけど、どれだけ物語に説得力を持たせるかってのが重要なんじゃないか」

「説得力?」

「納得できる理由付けと言い換えてもいいかな。例えばラブコメでヒロインが主人公に惚れる展開があるとして……その理由や過程が今まででちゃんと描写できているか、突拍子がないか……みたいなこれならヒロインは主人公に惚れるなって読者が納得できる説得力が欲しい」

 

 いつの間にか好きになっていました――――が本当にいきなりのいつの間にかなのか、それともそのいつの間にかをしっかり書いているのかだとだいぶ印象が変わるだろう。

 

「バトル系統ならどうして敵に勝てたのか……これこれこういう理由があって勝てました、といった内容を自然と書けているのかとか。理由は後付けで良いと思うし、別に明記しなくてもいいだろうけど。ただ、それまでに納得できる描写があるのかどうかだな。何の伏線や描写もなしにいきなり敵に勝ちました負けましたはさすがにつまらない……まぁ、好みの問題だけどな」

 

 別にそれが大丈夫、面白いといった人たちもいるだろう。個人の感性を否定するつもりはもちろんない。

 

「そういう意味合いでの説得力ってことだ。要するにストーリ上の展開が不自然じゃないか……大丈夫、こんなんで伝わっている?」

「もちろんです! 要するに過程をいかに丁寧に書くかってことですね。どれだけ結果が良くても過程がおざなりになっていたら魅力は半減する。……僕としても非常に納得できる意見です!」

 

 お、おぅ。随分目を輝かせているな。

 

「まぁ、面白さなんて個人の感性だ。それこそ人によって違うからこれが正解なわけでもないんだけどな。あくまで一例、俺の意見なの忘れないでくれよ」

「そのくらい分かってますよ。最初に忠告してくれていましたしね。そ、それで! 他には面白さについて何かあります?」

「他なぁ……」

 

 やたら考えすぎて頭痛くなってくる。

 

「まぁ、設定は予めしっかり練っていた方がいいわな。個人的にはライブ感で話進むよりも設定が固めてある方が好きだな。話の前後で設定が矛盾してあったら、なんか……うん、読みにくい」

 

 ワートリレベルで設定がしっかりしてあるとなお好み。いや、あれは普通に最高峰レベルだが。

 

「それに設定が最初からしっかりしているなら、キャラも喋りやすいと思うんだよな。設定がガバガバならさっも言った矛盾も起きやすいけど……そうでないなら、話していても特に違和感なくストーリーが進行するんじゃない?」

「ふむ……」

 

 またもや真剣な表情でメモを取っている。講義かな?

 

「その設定というのは……世界観とかでしょうか」

「だな。世界観とか舞台設定、キャラの年齢や容姿に性格、他のキャラとの関係性、オリジナル用語の意味――――ざっとこんなところか?」

 

 わりと適当に思い付いたことを喋っているだけなので、それが全てではありません。

 

「それと直接な話の内容とは別になるけど、読みやすい文章を目指すってのはどう?」

 

 一拍置いて話を続ける。

 

「今のプロットを読んでも感じたが、お前の文章はどうも堅苦しい印象がある。頭にスッと入らないって言うか、文章を読んで理解するまでいつもよりラグがあるんだよな。せっかく頑張って書いたのに読者に伝わらなかったら意味ないだろ。読みやすい……伝わりやすい文章に変えていかないと」

 

 漫画だろうが小説だろうが読みにくかったら正直詠む意欲すら湧かないからな。

 

「……そう言われましても急に難しいですね……どうすれば?」

「えーっと、まずあれかな、やたら小難しい単語をあまり使わない……例えばムダに画数多い漢字を使って誤用生んだり、意味が分からなかったりする場合がある。別に全く使うなってわけじゃないけど、そんな文章ばかりだと難解になるだけだ。……とはいえ、お前は誤用に関しては特にしてないな」

 

 ただ誤用していない代わりに小難しい単語はかなり使っている。昔の歴史小説かと思うほどに単語がやたら難解だ。

 

「あとは一文を長々と書かない。句読点でちゃんと区切りを付けるとか」

 

 誰でも簡単にできることであり、読みやすさに関しては重要だと思う。

 

「長い文章は目が滑るときがあるし、目を離したら一瞬どこまで読んだか分からなくなるときもある。だから一休みできる区間を作った方がいいんじゃない? 区切りで言うと段落もちゃんと作った方がいいな。……まぁ、それは言われなくてもできているか」

 

 プロットを読みながらブツブツ話す。

 

 このどこまで読んだか分からなくなるのは、国語の文章題を解くときによく陥りがちになるな。時間が決められているから焦るときがある。

 

「あ、文章と言えば、ライトノベルって一人称視点の文章が多いですけど、どっちがいいんですかね? 僕は三人称視点で書いてますけど、傾向的に一人称の方が良いのかなって」

 

 ふむ、地の文についてか。

 

「それこそ作者の好みだろ。別に何を選んでも問題ないって。それぞれメリットあるんだから何使ってもいいだろうよ。強いて言うなら作風やジャンルに合わせりゃいいと思う。……たしかに言われてみれば一人称の方が多い印象だな。全然気にしてなかったわ」

 

 ラノベに限ると個人的には一人称の方が読みやすさはある。なんでだろ? 好みの問題?

 

 可鵡韋と一緒に言葉にしてみるか。

 

「メリットですか。一人称だとそのキャラクターを通じて目の前の光景を描写を詳しく書けるということですか」

「それも当然あるけど、どっちかって言うと心情の方が比重デカいんじゃないかな。そのキャラの視点だから三人称より詳しくそのキャラ……まぁ、だいたい主人公か。主人公が何を考えているか何を思っているのか読者に伝わりやすい……と思う。主人公の考えてることが分かれば、好感度云々とかに繋がるんじゃないか?」

 

 やはり思考が分かったならば、感情移入もできる、共感もできる。そういう意味合いで読みやすいのだろう。

 

「なるほど……。逆に三人称視点のメリット……客観的に情景を書けることになりますかね。主人公だけに囚われない、広範囲でストーリーを描けるような……」

「だなー。いわゆる神視点だから事実を書けるってのは強みだな」

 

 ミステリー小説とかによく使われている印象。逆にミステリーで一人称視点は向いていないと思う。

 

「あとは何だろ、主人公だけじゃない、色んなキャラにスポットを当てやすいとかか。主人公視点だけだと話を広げにくいことはきっとあるだろうし。でも、やりすぎると視点があっちこっちに行って分かりにくくなるかもな」

「たしかに一人称視点だけだと、あくまで主人公の視点ありきでの印象で語ることになりますね」

「一人称でもやろうと思えばやれるぞ。その場合、行間空けて別キャラに視点変更でもすればいいんだけどな」

 

 エロゲで言うところのアナザービュー。

 

「主人公はこのときこう思っていたけど、実際このキャラはこう感じていましたよ……的な感じか。ただ三人称視点ならイチイチそんなことしなくてもいいわな」

 

 三人称でも人の心情やらは書けると思う。

 

 ――――彼は○○を見てこう思っていました。

 

 簡単な例を挙げるとこういう風に。ちなみにこのような文章を三人称一元視点と言うらしい。

 

「比企谷さんはどちらが好みですか?」

「ラノベ読むなら俺は一人称かな。やっぱ主人公に感情移入や共感したいところはある。主人公の思考が分かればそうしやすいし」

 

 あ、何となく分かった。一人称が好みなのはエロゲもだいたい一人称視点で進むからだ。ラノベもエロゲも進める感覚的には同じなんだ。馴染みがあるというか三人称だと違和感あるとでも言えばいいか。

 

 あと個人的一人称の一番良いところは文字数稼げるところだぞ(小声)

 

「でも、お前の作品なら三人称の方が向いてそうだな」

「さっきまでの話を踏まえますと……うーん、僕もそう思いますね。でも、結論を出すのは早いと思いますし、また色々と試してみます」

 

 たしかに何が良いかは現時点で判断できないしな。

 

「それらを踏まえて……遠山の改善案と合わせて可鵡韋の書いた小説を見ていくけど……なんなあれだな、本題に入るまで随分話が長引いたな。悪い」

「いえいえっ、そんなことないです。寧ろ参考になる話ばかりでした!」

 

 本当に? ここまででけっこう文字数使ったよ? 何を言っているんだ俺は。

 

「主人公やヒロインの設定は改めて練るとして、やはり序盤でどんなキャラか分かる見せ場がほしいかな。……でも最初は主人公が雪山を進軍してヒロインと戦う。これだけだと少しやりにくいか」

「最初に分かりやすい、主人公やヒロインの活躍を書いて興味を引いてもらうということですね」

「そうそう。あー、別に絶対じゃないからそこは好きにしたらいいけどな。活躍できるかどうかなんてジャンルに寄るだろうし」

 

 ミステリーだと主人公の活躍はどうしても終盤になるかもしれない。謎を解く展開は恐らく最後の方になりがちたわろう。

 

 バトル系統なら最初に敵を倒すシーンで活躍を描けることはできそうだ。ウィザードやビルドみたいに。

 

「序盤のサバイバル展開でどちらも魅力を書ければいいだろうな」

 

 雪山でのサバイバル――――考えただけで俺はしたくない。

 

「こうして見ると遠山の改善案は普通に良いんだよな」

 

 いくらでも面白くなりそうな要素がある。

 

「女性騎士……ヒロインがいるという、先ほどの話に当てはまりますね」

「それもあるし、雪山でのサバイバル展開ってのが良い。序盤でムリに活躍シーン書けなくても、ここで主人公やヒロインのキャラ作り……積み重ねができそうだしな。上手くやれば主人公の見せ所になるかな? サバイバル知識が豊富な主人公がヒロインを助けてもいい。敵対関係の中互いに協力して大きな障害を乗り越えるのもいい。これらからラブコメ展開にもできそうだ」

 

 無人島に取り残された敵対関係の主人公とヒロインとかも面白そう。と、今は関係ないな。

 

「もしヒロインの出身が滅びた敵国ではなくて、まだ国同士戦っていたら、雪山サバイバルを乗り越えたあとも色々な展開にもできるな」

「……!」

 

 …………なんか可鵡韋がまたもや目を輝かせている。これはいくらか言った方がいいだろうか。パッと思い付いたことは話してみるとしよう。

 

「例えば……久しぶりに再会したと思ったら2人の立場は前の関係……敵対関係に戻っている。しかし、雪山での記憶や経験は忘れられない。芽生えた恋情と戦わなければいけない使命、それらに苦しむ主人公とヒロイン。ロミオとジュリエットのような関係にも……」

 

 完全に俺好みですはい。

 

 ブラック・ブレットの蓮太郎とティナみたいな関係性好きです。最初はお互い敵対関係だと知らなかったけど日常を通じて仲良くなった。しかし、お互い敵だと判明し戦わなければならない展開ならなおさらだ。

 

 あの戦っている相手が蓮太郎と知ったティナの表情がマジで好き。他にも似たようなのなあったら教えてほしいまである。

 

 ここまで話してふと思い当たる。

 

「――――と、悪い。なんか話しすぎたな。これはお前の作品なのに俺が口出ししすぎるのも良くないな」

「いえいえ、充分すぎるほど貴重な話を聞けました。それに作者と編集者が展開について話し合うのはよくあることですよ」

「いや俺編集者じゃないからね……」

 

 勘違いしてない? 本業はバリバリ武偵ぞ?

 

「しかし、比企谷さん本当にスゴいですね。まるで編集者と見間違えるほどですよ」

「普段似たようなことやっているんだよ。お前みたいに小説書いて感想訊かせてくれって言うやつな」

 

 ネットで悪口書かれるのが嫌だからとか言っているが、俺も散々酷評している。その両者にどんな違いがあるのか俺には知らない。

 

「へぇー! 経験があるんですね。道理でアドバイスが的確だと思いましたよ」

「まぁな。アイツもアイツで素直にアドバイス受け止めてくれたらなぁ。……と、こんなもんで大丈夫か? さすがにこれ以上はもう話すことないんだけど」

「はい! ありがとうございました!」

 

 元気よい礼。恭しく頭を下げる可鵡韋。

 

 あの夜戦った相手だとは思えない。没頭できるほどの趣味もある、あんな血生臭い職業を除けばよくいる一般学生と変わりない。

 

「――――」

 

 ……ふと感じる。俺より年下、しかして強者。……なぜ旧0課に所属しているのだろう。どういう経緯があったのだろうか。

 

 まぁ、完全に個人の事情になるから深くは問えない。

 

 若くしてあのような組織にいるからには何か遂行したい目的があるだろうと推測できる。それこそ、それは普通に暮らしていれば絶対に叶わない目的、願いなのだろう。

 

 もしそんな覚悟があればの話になるけど、その目的のために自身の命を懸けている可能性もある。

 

 そんな人がいれば、優しい奴はそんなの止めろと諌めるのかもしれない。

 

 とはいえ、屈強な願望を持っている人をムリヤリ止めたとしても、今後の人生きっと振り払うことができない後悔が付き纏う。ジーサードのときも思ったことだ。やるだけやって諦めがつくまで進めば良い。

 

 しかし、何もせずただ見逃し、もし目の前の彼が亡くなったとしたら、夢見心地があまりにも悪い。この相談事で、俺たちはもう知り合ってしまった。今度はこちらに何もしなかったという後悔が生まれるだろう。

 

 可鵡韋を強く止めるつもりはない。俺には彼の事情を知らない、これ以上深く知るつもりもない。

 

 ただ――――何てことのない、明日また遊ぼうと子供が言い合う程度の、未来の約束をすればいい。

 

「なぁ可鵡韋」

「ん? 何ですか?」

「その小説がいつ完成するのか知らないけど……まぁ、できたら読ませてくれよ。ここまで偉そうにアドバイス……みたいなこともしたし、知らぬ存ぜぬってのもな。感想くらいなら言うから」

 

 一瞬――――ほんの少し顔に曇りが見えたのを俺は見逃さない。しかし、すぐに落ち着いた表情に戻る。

 

「えぇ、そのときは是非」

「おう。……っと、コーヒーなくなったな。追加で注文するわ。お前は?」

「僕はまだ残っていますし、大丈夫です」

 

 ――――これで何が変わるのかは俺には分からない。まぁ、約束をした。それだけで恐らく充分だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ序盤だけど、誰に見せるでもないラブコメ小説を書いている

あくまで個人の意見であり、実際にできているのか分かりません


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客観的に見てみると

 可鵡韋とカフェで話してから家に帰り、晩飯の用意をする。

 

 あれから可鵡韋とは別れたが……この先普通に生きてくれればいいのだがと偉そうなことをふと思う。

 

 それこそ普通――――とは言いにくい世界にいるのはたしかだ。それは俺を含めてのこと。

 

 ただ、当たり前ではない世界だからこそ、何か目的のために死にに行くのではなく、当たり前のように人並みな趣味を持ち、自分のために金を使い、生活してくれれば言うことない――――なんて、俺の随分身勝手な願いなのだが。

 

 しかし、所詮俺たちは1日24時間のうちの、そのほんの少しを共に過ごした程度の関係。これ以上気にするのもどの立場からだとも考える。そういうのは俺ではない、もっと適任がいるだろう。

 

 そもそも可鵡韋の特攻するかもしれないという考えが俺の勘違いの可能性もある。憶測が全く外れている、ムダに分かった気になって考えすぎていたことだって当然ある。そうであることを望みたいな。

 

「……あ」

 

 と、ここまでで色々とあって頭から抜けていたが、レキから話したいことがあるのだったなと今さら思い出す。まぁ、そのレキはまだ帰ってきていない。慌てなくても大丈夫だ。

 

「戻りました」

 

 噂をすれば何とやら。なんて考えていると、レキがガチャリとドアを開け戻ってきた。

 

「すいません、遅くなりました」

「大丈夫」

「シャワーだけ浴びてきます」

「おーう」

 

 レキがシャワーを浴びるときはなるべく近寄ってはならない。

 

 今は俺と生活しているとはいえ、元々から狙撃手として徹底した時間を過ごしてきた。シャワーする際も、埃を立てないよう浴びているし、寝る前の弾丸のチェックは怠らない。

 

 そういう常日頃からの姿勢は見習いたいところがある。あそこまでストイックにはなれないと理解はしているけど。

 

 いくらか経ち、レキが風呂場から上がってきたところで飯にする。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 テレビをBGMにしながら飯を食べる。

 

 雰囲気は悪くない。いつも通りの空気が流れている。話題にしても大丈夫だろう。そろそろ話切り出すか。

 

「そういや、レキ。朝言っていた話って仕事関係?」

「はい、再来週にはイタリアのローマへ行きます」

 

 ローマか。これまた随分遠くで仕事なんだな。Sランクはやはり人気者だなと実感する。

 

「内容は訊いていい? 守秘義務ある?」

「話しても構いませんが。仕事内容は監視ですね」

「鷹の目?」

 

 鷹の目とは特定の人物を離れた場所で観察する武偵用語だ。

 

「いいえ、少し違いますね。監視……もとい狙撃拘禁と言えばいいでしょうか」

 

 まぁ、わざわざ海外で鷹の目は受けないかと今さら思う。

 

 つーか、拘禁か。依頼内容はわりと物騒だな。というが、相手を抑えつけるわけだから借金取りみたいなもんか。まぁ、レキが受ける時点でどうも物騒になることは変わりないなと今さら思い当たる。

 

「ほーん、頑張れよ。行ってらっしゃい」

「八幡さんも行きますよ?」

「なんで?」

 

 なんで?

 

 思わず聞き返す。

 

 なぜレキの仕事に俺も同行する必要あるの? しかも俺が手伝えそうにない分野だ。これが単純な戦闘とかならともかくだ。狙撃ぞ? しかも拘禁という分野。俺いる?

 

 と、無表情なレキが発言する内容は少し意外なものだった。

 

「近々修学旅行Ⅲがありますよね」

 

 それは香港に行った修学旅行Ⅱと同様、3年の前期に行う海外への研修旅行だ。チームの結束を深める云々の謳い文句があったが……あまり詳しくない。

 

 言われてみればたしかにあるにはある。まだ前期が始まったばかりで全く頭になかった。つーか、どんだけ海外に行かせる気だよこの学校は。もういいって。香港やアメリカでコリゴリなんだよ。

 

「あぁ。でもあれって厳密な期間定められてないだろ。前期の間ならいつでも行っていいみたいな……え、まさか……」

 

 自分で話していてまさかの可能性に思い当たるけど。

 

「はい、私たちサリフはイタリアを選択しました」

「決断早くない? ねぇねぇ、一応俺リーダーだよね? いやじゃんけんで決めた程度の関係だけども」

 

 なんでハブられているの? なんで勝手に決めたの?

 

「別に構いませんよね」

 

 なんて自信満々に言うレキ。心なしか堂々言っているように見える。たまに見せるレキのワガママや横暴な部分があったとしたも、普通に許してしまうからな。俺も俺で甘い部分しかない。

 

「はいはい。にしてもイタリアかぁ。俺イタリア語とか喋れないんだけど。ボンジュール?」

「それはフランス語です」

 

 アッハイ。

 

「英語なら未だしも……いやそれは置いといて。俺って別にレキの依頼に関わるわけじゃないよな? 狙撃とか俺できないし」

「はい、基本的に私ともう1人で行う予定となっております」

 

 あ、もう1人もいるのか。誰かと同じ任務を受けていると。内容が狙撃拘禁なだけに物騒だが。

 

 というより、そもそも拘禁される奴って誰なのだろうかと疑問に感じる。しかも拘禁するのはレキだ。

 

 何をすればそんな追われる立場になれるのか分からない。いや、話を聞く限り、レキは逃げないように見張るわけだから、必ずしも犯罪者というわけではない……かもしれない。現段階では想像つかない。

 

 ムリヤリ推理してみる。ざっくりその相手を分類すると、逃げられたら困る相手。依頼先はレキを雇えるほど裕福、富裕層かな。となると……相手は何か不正した会社の重鎮? ライバル会社の監視……いやそれは拘禁とは言えない。何か依頼主に対して借金でも返済でもするの? 取り立てなら俺もしたことあるし。

 

 何か依頼主に負い目がある相手……分析するとこんなところか。

 

「分かったが……で、俺何するの? お前の依頼先に居座るわけにもいかないだろうに。完全に別行動になるんじゃないか」

「依頼先の家はかなりの豪邸らしく、一応八幡さんが宿泊する分には大丈夫だと連絡を受けています」

 

 なるほど、つまりは泊まることはできると。香港では宿泊先に苦労した部分はあるからそこは助かる。

 

「そうなると宿泊費は?」

「私の報酬から天引きです。微々たる分なのでそこはお気になさらず」

 

 宿泊費が浮くのはありがたい。レキの発言からして本当に問題はなさそうな気がする。

 

 しかし、宿泊するのは大丈夫ということは、言外にあること語っていることも伝わる。それ以外にその豪邸とやらに居座るのはあまり良くないと。

 

 そもそもが人様の家だろうしな。知らない奴がずっとウロウロするのもレキに対する心象はきっと良くない。おまけに俺はイタリア語を話せないわけだ。

 

 そうすると、日中は大人しく観光しておいた方が無難かなと思う。イタリア語全く喋れないからガイドブック片手にがんばるしかないか。あとは翻訳アプリやら駆使してな。

 

「出発日は2週間後です。準備の方よろしくお願いします」

「おう」

 

 …………さらっと受け入れていたが、イタリアへ俺も行くこともう決定事項に含まれているんだな。多分修学旅行Ⅲ関連の提出やら終わっているだろうから今さらだろう。

 

 レキなら相手を詰ませてから行動することがよくある。決定権などお前にはないと言わんばかりの勢いだ。できればドア・イン・ザ・フェイスを学んでほしい。俺はそんな交渉できた試しないけど。いや別に行く分には構わないけれどね?

 

 

 

 

 ――――そんな翌日の昼。休日なので家で大人しく休んでいると、ピンポンとインターホンが鳴る。

 

 片手に持っていた漫画をテーブルに置き、ノソノソと玄関まで歩く。何かしら配達を頼んでいたか悩んだが特に思い当たる点はない。そもそも玄関口の相手を確認してから行くべきだけど、面倒だったもんで。

 

「誰だ……」

 

 不機嫌オーラ丸出しで扉を開ける。

 

「こんにちは。元気?」

 

 その先にはピンク髪のツインテールが待ち構えていた。言うまでもなく神崎だ。こうやって直に訪ねてくるとは珍しいこともあったもんだ。呼び出しを受けるイメージしかない。

 

「わざわざどうした?」

「ちょっと相談したいことがあってね。今時間平気?」

「まぁ。相談ってレキに?」

「んー、2人とも両方かな」

 

 と、手土産片手の神崎をリビングまで案内する。

 

「アリアさん、こんにちは」

「あらレキ。お邪魔するわね」

「邪魔するなら帰って」

「嫌よ。まったく、新喜劇じゃないんだから」

 

 え? 新喜劇見るのお前?

 

 ちょっと意外そうな顔をしている俺をよそに、にしても……と神崎は不意に言葉を漏らす。

 

「アンタたちの部屋、家具少ないわねぇ。わりと広いんだし、もっと彩ればいいのに」

「そこはうちの狙撃手様の仕事上、ある程度は必要最低限にしているな。レキの狙撃に対しての拘りは強いし、下手に物増やさないようにしてるわ」

 

 物が多いのは主に俺の部屋だけ。

 

「ふーん、そういうものかしら」

 

 なんなら埃を立てないよう生活するコツも少しずつ掴んできたまである。

 

 今までと違い俺と暮らしている以上、レキもそこまで神経質になっていないときもあるけど、それでも気を遣う場面は多々ある。俺個人の気持ちとして。

 

「神崎、お茶いる? つっても麦茶だけど」

「そうねー、もらうわー。お願いね」

 

 なんて呑気な客人にお茶を渡しつつ。

 

「そういえば八幡。今あなた、あかりのアミカよね。どう、あの子元気にやってる?」

「まぁな。お前の下で鍛えられたんだなって素直に感心するくらいには元気はつらつだな」

 

 俺たちのんびり雑談を始める。

 

 間宮ね。そりゃ今の俺たち、必然と共通の話題だな。

 

 あんな真っ直ぐというか素直な人間、俺の知り合いの中では限りなくゼロに近かった人種だ。あの折れない……いや、譲らないとでも表現すればいいか。あの精神は尊敬できるまである。

 

 不撓不屈のあの精神、俺には到底持てないなと実感する。どう足掻こうが俺の根は引きこもりのインドア派、筋が通らないことはひたすら避けるのが俺。間宮のように誰彼構わず好かれるほどアクティブにはなれない。

 

 あと単純に体力多いなと思う。体力があるからこそあの精神に繋がっているのだろう。いや、それは逆かな。

 

「元気はつらつって今日日聞かない言葉ね……。ま、元気そうなら何よりだわ」

「つーか、別にそっちのアミカ契約終わろうとも間宮と連絡取り続けているんだろ。お前ら仲良いし」

 

 俺に対する留美や一色みたいに交流はあるだろう。いや待て、学年変わってからまだ一色とは連絡取ってない気がする。たまには連絡……いるか? 一色に? 別に改まってしなくてもあれは大丈夫だろ。

 

「そりゃね。この前も一緒にご飯食べたわ。そうそう、八幡は教えるの上手ってあの子褒めてたわよ」

「ありがと。俺はお前みたいな肉体言語派じゃないからな」

「な、なによ!」

「要するに、俺は神崎と違って何でも実戦あるのみって考えじゃないってこと。別に事あるごとに乱射しないしな」

「ぐぬぬ……」

 

 若干悔しそうな表情を浮かべる神崎。そんな顔するなら遠山に1日平均20発撃つの止めときな? 俺も毎度被害遭っていたからな?

 

 俺たち3人で神崎の手土産のクッキーを摘まみながら、レキが話を切り出す。

 

「神崎さん、今日は何の用事でしょうか?」

「ん、そうね。そろそろ話そうかしら。……ま、ただの相談っていうのと、一応八幡とレキも気を付けてって感じの忠告? みたいな話なんだけど」

「ほーん」

「あ、そんな適当な顔をして……。わりと真面目な話だからね?」

 

 相談と忠告か。いまいち要領が見えない。が、とりあえず話を訊くこととしよう。

 

「まず相談から。質問はあとで諸々受け付けるわ。前置きとしていきなりの話になるけれど、イギリスの隠し財産が紛失していたことが判明したの。イギリスには不況や戦争に備えて――――黄金127tをサウサンプトンに保管していたのよ。それが忽然と消えた……調査しているけれど、行方は掴めずにいるの」

 

 神崎が切り出した内容は自国の内政的な話だった。

 

 隠し財産とは。これまた随分と規模が大きい話だ。しかも黄金がそんなに――――思わず一目見てみたいと不躾ながら考えてしまったほどだ。

 

「これはあたしと妹のメヌエットへの、女王陛下の勅命。あの黄金が見付からず財政破綻でもしたらヨーロッパ崩壊になりかねないのよ」

 

 まぁ、イギリスは何だかんだでEUのトップなとこあるからなぁ。何かあったらそりゃ経済はガタつくだろう。

 

(*このころはまだ2020年にはなっていないお話)

 

「隠し財産にでも手を出さないと難局を凌げない。そうなると内情不安にもなるの。そうなったら……これはメヌエットの推理だとEU離脱になる可能性もある」

 

 そういえば神崎の妹であるメヌエットは推理がかなり得意。それこそシャーロックには届かないが、それに近い推理力を持っているらしい。 遠山や神崎が言っていた。

 

 そんな人が言うのだ。そこまで大事になるのかもしれない。

 

「冷戦みたいな核の抑止力じゃなく、融和政策による経済的な抑止力で戦争を防ぐべき。あたしはそう思っている。EUはそのモデルケースとしては最先端でもあるのよ。だからその形態を維持したい、少なくともあたしはそう考えている」

 

 国境を緩めて、通貨を統一する。つまりは国同士の結び付きを強めている。それはたしかに日本含めて他の国では成し得ない形だ。

 

「とまぁ、話の大前提のせいで長くなったのだけれど、まず相談がこれ。八幡たちイタリアに行くのよね? どんな情報でもいいわ。ていうか、イタリアとか関係なしに黄金の行方が分かったら教えてほしいの。その在処の……どんな情報でもいいわ」

「おう。ただまぁ、あんま期待すんなよ。こちとら立場あるお前と違って一般人なんだからな」

 

 思っている以上に相談の内容の規模が大きかった。まさかイギリスの一大事とはな。頭が痛くなりそうだ。

 

 ん? それなら神崎だけでなく、あの人物も絡んできそうだが――――

 

「ちなみに現段階でどこにあるか予想できる?」

 

 何をいきなり言っているんだ神崎は。いやまぁ、これも雑談の範疇だろうが。神崎の表情を見ればそのくらい理解できる。

 

「あー、その前にシャーロックは何か言っていたか。そこまで話がデカいならアイツも口出ししてきそうだが。それにシャーロックには未来予知にも近い推理ができるだろ」

「あら、八幡あなた……あの人が生きていたの知っていたのね」

「前にアイツが直接会いに来たときがあってな」

 

 目を丸くする神崎。千葉で会ったことあったんですよ。そのとき戦争よりもヤバい事件が起きるから手を貸してほしいって言われたことがあった。

 

 もしかしてそれがこれと関係しているのか?

 

「あたしの勘、加えて曾お祖父様とメヌエットの推理では、地球にはどこにもない――――と出ているの……だからなおさら分からなくてね」

 

 え?

 

「どこにも? それは地球上ってこと?」

「そうね」

「なら海中のどこか? ……それならトンチ効かせて地球上ではなく地球の中って言え――――」

「――――なくはないけど、地球にはないって出ているのよ。たしかに全部の海を調べ尽くしたわけじゃないけど、多分見付からない気がするわ」

 

 まぁ、そうだな。もし海中にあるならシャーロックも海にあるとか言いそうな気がする。

 

 地球にはないとすると、真っ先に思い付くのはやはり――――そう思い俺は上をふと見上げる。

 

「んー、なら宇宙?」

「残念ながらそれも違うでしょうね。最近ロケットが打ち上がったって話は聞かないし、実際ロケットって積載量ってそんな多くないのよ。1回の打ち上げで人間と本体の重さ除けば……だいたい輸送可能重量はざっくり4tって言われているかしらね。もちろん、ロケットの種類に寄るけれど……」

「それを約30回以上……さすがに現実的ではないな」

「そうなのよねー」

 

 普通にバレるわな。同様、空中に浮かべているなんて話も土台不可能だ。

 

 それに宇宙に隠したとして盗んだ犯人はどう回収するかってなる。捨てるならともかく、金塊なんて価値あるものは通常盗んだのなら何かしらの形で再利用するものだ。

 

「――――」

 

 宇宙……って言えばふと俺の首にかかっているネックレスを見つめる。具体的にはそこにある金属。

 

「色金の力ならどうだ。特に影……次次元六面なら痕跡を残さず呑み込める」

「あっ、たしかにそれもあるわね。うーん、でも現実問題、色金の力をかなりの範囲で使えるのって八幡にあたし、あとは中国の猴と日本の鬼くらいよ」

 

 鬼? 何だそれって……あー、なんか遠山が前に戦ったって言っていたな。

 

「あとはシャーロックもだが……。でもあれだろ、本来隠されるべき情報なんだから俺らが知らないだけでもっと使える奴がいてもおかしくないだろ。それこそ俺や神崎以上の使い手とか」

「もちろん否定はしないわ。ただ……そもそもとして、そんなピンポイントで使える人が金塊のとこまで行けるかどうか」

 

 俺らは互いに難しい顔付きになる。

 

 言われてみれば当然その考えに思い至る。

 

「それもそうか。もし色金を使える奴がいたとして、まずそこまでのレベルに達しているか、そして立場の問題もある。神崎なら未だしも、一般人の俺が黄金の前まで辿り着けないのと同様――――いや待て、俺らには瞬間移動もあるぞ」

 

 視たこともない場所に行くのは非常に難易度が高いけれど、他の奴らはできてもおかしくないだろう。

 

「それはあたしも考えた。ただ瞬間移動できる練度があったとして、運良くできてもそこから運び出す手段がないわ。金塊127tよ? 人っ子1人でどうすんのよ」

「瞬間移動してからの影…………俺だと確実に力が足りないな。しかもそれだけの重量だろ。万全の俺でもまず影で取れない大きさだ」

 

 考えただけでも不可能に近い。どれだけ力の上限が大きい奴でもあまりにも現実的ではない。

 

 影で呑み込んだ状態なら地球にはないと言えそうと考えたが、これも否定できる案が即座にいくつも出てくる。

 

 もし瞬間移動で黄金の前に現れ、持ち出すとして、その手段は何だろうか。しかもおまけに隠す先は地球に置いてはいけないという。意味が分からない。

 

 瞬間移動は複数人でも飛ぶこと自体は可能だ。しかし、数人程度で持ち出すのも現実的ではない。

 

 やっぱムリある話じゃないこれ?

 

「だったらあれだな、もういっそのこと異世界に隠したとかの方が納得できるわ。色金使える奴が瞬間移動して、何かしらの手段で黄金を異世界にやった――――みたいな」

 

 投げやり気味に答える。もう分からんわ。なんだ地球にはないって。意味不明すぎる。

 

「そうよねー。もうそんな奇想天外な考えしか出てこないわよねー。それかあれね、四次元ポケットとかどう?」

「いいなそれ。四次元なら地球にはないもんな」

 

 神崎も俺と似たようなことをダラダラ告げる。

 

もう互いにふざけ合っている。ぶっちゃけ何も思い付かないしね。

 

 冗談はここまでとして、神崎がお茶を口に含めるとまた雰囲気が一変する。おふざけはここまでとしよう。と、一貫としてレキは静観を貫いている。これは別にいつも通りだから特段何か思うことはない。

 

「……ここまでが相談ね。で、ここからが忠告。今回の金塊の消失も含めて、かなり嫌な予感がするの。下手すればイギリスがEU脱退に追い込まれる事態、それはヨーロッパ崩壊に繋がると示唆される。――――つまりね、融和と共存の流れを、孤立と対立に戻そうとしている力があるのよ。曾お祖父様も手紙でそういう組織の存在を教えてくれた」

 

 ……これまた話が大きくなってきたと心底思う。これはイ・ウーと似た系統の組織なのだろうかと疑問に感じる。というか、それ新しいイ・ウーとかじゃないの。

 

「その組織の名前は『N』と呼ばれている。名前の由来は知らないわ。あくまで俗称か、それとも何かのイニシャルなのかもね」

 

 あ、イ・ウーじゃないのね。……ていうか、シャーロックと千葉で会ったとき、俺に頼みたいとか言ってきたのはこのことか?

 

「ほーん。それでけで言うとイ・ウーと似ているかもな。あれだって世界征服を真面目に目論んでいただろ。シャーロックが制御していたが、パトラ辺りとか特に」

 

 今でこそ金一さんと一緒になって落ち着いたけれど。

 

「まだ全容がはっきりと判明していないけれど、明確に違う部分があるわね。恐らくNはかなり回りくどいことをしている。イ・ウーの過激派は直接事に対して動くけど、Nは今のところ間接的にしか動かない。普通に暮らしていればまずその存在は認知されないでしょうね」

「間接的?」

 

 どういうことか概要が読めない。

 

「……そうね、何て言えばいいかしら。そのNがすることは言ってしまえば至極単純なのよ。Nはまず、世界の自滅を促す。例えば、ドミノ倒しの最初のドミノを軽く押すだけ。それも様々な場所でね。それだけで――――」

「あっという間にドミノは全部倒れる。さっきのイギリスの黄金奪取からのEU脱退するかもしれないという流れを考えると……つまり、様々な場所のドミノが全部倒れれば――――行き着く先は世界の崩壊ってか?」

 

 有り得ないだろと自嘲気味の笑みを浮かべ愚痴のように漏らす。

 

「最初の一歩を押す。それだけで連鎖的に事態は悪化するってことね。倒れ始めたドミノは簡単には止まらない。あとは勝手に流れに身を任せて成すがままってところかしら。……下手すれば今の時代では考えられない規模の戦争が起こるかもね」

「どうなるだろうな。……戦争で済むならまだマシかもしれない」

 

 世界崩壊レベルまで追い込まれた先に、何かまた別の予想外な一手でも放たれればそれこそ再起不能に陥るかもしれない。というより、そこまで追い込まれて戦争できる体力が残っているかどうかも不明だ。

 

「まだまだ敵の内情とか分からないのだけど、それだけの力と規模があるのよねぇ」

 

 要するにNとやらがアクションを起こせば、ゆっくりと事態はマイナス方向に向かって進行するらしい。

 

「――――」

 

 やがてその波紋は広がり、国と国が協力を止め、利害を取り合う時代に逆戻りする。それは現代の考えには到底合わない。それこそ20世紀に近い大戦の時代の思考。人と人が醜く争う前時代に戻る。

 

 それはまるで意図的にタイムスリップするかのような行動。愚かな行為だ。

 

 そのNとやらは何かきっかけを起こすだけで、紛争レベルではない戦争を起こすことができるということになる。それこそ世界各地で。だが、戦争だけでは止まらないかもしれない。前にシャーロックも戦争以上に酷いことが起こる可能性があると話していた。

 

 俺は全く遭遇したことない相手だ。当然目的は不明。これが愉快犯ならまだ笑える。だが、力があるのに表舞台に立とうとしない奴らだ。もっと別の目的があると思うべきだろう。

 

 …………まぁ、世紀末にしようとする奴らだ。絶対笑えないことになるけど。

 

「で? かなりヤバい組織が現れ始めているってのは理解したが、俺には今のところ関係ない気がするけど」

 

 このままで放っておくには危険な組織がいる。とはいえ、今の俺らだけではどうにかできる代物でもない。それもたしかなことだろう。

 

 神崎は忠告と言っていたけど、何に対してだろうか。

 

「あんたはもちろん、あたしもまだ実際に関わったことないからね。ただね八幡。あんたは少しの間だけどイ・ウーにいたことがある。そして、どうやら曾お祖父様とも現在関わりがある。加えて色金の力を扱える稀有な存在――――それが今の貴方、比企谷八幡なの。狙われる理由はこれだけで充分よ」

 

 真剣な表情で改めてそう告げる神崎。

 

 自ら自覚していない事柄だったけど、こうも客観的に自分の情報を羅列されるとと少し面映ゆい気分になる。いやこれ忠告されているから照れる場面でもないな。

 

「別に絶対狙われるってわけじゃないと思う。でも頭には入れておきなさい。事前に情報があるとないとでは違うわ。……レキも同様よ。あなたも故郷には色金がある、色金が干渉する可能性も高い。そして、世界最高峰のスナイパー。用心することね」

「はい」

 

 ようやくレキが口を開く。本当にこの蒼髪の少女は積極的に喋らないなと真面目な話の脇で思ってしまう。

 

 そして、神崎の話も一段落したみたいだ。また茶を一口含み、少し緊迫していた雰囲気は和らぐ。

 

「俺たちに火の粉が振りかかるなら払うまでだ。つっても、まだ会ったこともない敵だ。どんな奴らと戦う……関わるか分かんねぇけどな」

 

 つまるところ俺の結論はこうなる。

 

 襲われたら戦う。依頼があるなら戦う。基本的には今までと変わらないスタンスだ。まぁ、俺は武偵だ。犯罪が目の前で起きるなら防ぐ。守る。武偵として戦う。それだけだ。

 

 神崎曰く、そもそもが今まで姿形も見せない隠れている組織だ。俺が襲われるにしても……果たしてどんな状況になるか不明もいいとこだろう。

 

「私も八幡さんと同意見です。依頼があるなら、戦うとなったら撃ちます」

「あんたたちならそう言うでしょうね。狙われる理由は充分あるけれど……あんたたちが本格的に関わるかは現段階ではもちろん分からないし――――ま、これで話はおしまい。八幡、お茶のお代わりもらえる?」

「おう」

 

 その後、他愛もない世間話をしつつ1時間くらい経ち、そろそろ帰るわと神崎は帰っていった。

 

 ――――神崎と緋緋神の事件が解決してからまだ3か月ほど。神崎の母親が解放され、神崎自身ようやく心身共に落ち着いてゆっくりしたいであろう時期にまた厄介な事例が舞い込んだ。

 

 そして、それは俺たちも巻き込まれる可能性もあると言う。つまり、また俺もあの危険なアングラな世界に舞い戻り、戦いの日々に身を投じることがあるかもしれない。

 

 様々な事件が起こり、解決する。一件落着かと思えば矢継ぎ早に、次から次から頭を抱えたくなるようなことが起こる。本当に武偵は休まらない仕事だなと今さら、本当に今さら感じる。

 

 しかし、そこが俺の踏み込んだ世界。もう後戻りすることもままならないだろう。俺はこういう世界で生きることを知ってしまった。生きている人を知ってしまった。であるならば、ここで俺のために戦うしかない。俺が俺であるため、後悔しないために。隣にいる奴と共に。

 

「まぁ、どうにか生き残るとしようか」

「はい」

「一先ず、イタリア行く準備だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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同じ息を吸って

 あれから何だかんだ時間は流れ、俺たちはイタリアへ着いた。ロ ーマ、フィウミチーノ空港へ。

 

 道中? そんなもんカットだカット。飛行機でひたすら寝て本読んでまた寝てただけの行程になんの面白みもない。たまにレキとも話したが、そもそも俺たちが長話などできるわけもなく、各々好きなように過ごしていた。

 

 今思えば、俺からしたら初めての飛行機での長時間飛行だった。香港は数時間くらいだったので、改めてずっと飛行機にいるのはある意味ストレスが溜まることが分かった。多少クラスは他のとこより数段はいい座席を選んだにしても、長時間はさすがに体は凝る上に疲労も溜まる。

 

 飛行機を降りてから諸々手続きを済ませ、俺とレキはロビーまで続く長い廊下を歩く。

 

 その間、俺は出発前のことを思い出す。それはキャリーケースに入ってる1枚の手紙。ジャンヌに手渡されたイ・ウーの同窓会、その招待状た。

 

「お前は一時期だが、あそこにいたからな。参加権はある。権利というかほぼ強制みたいなものだけど。渡しておいてくれと言われたのだ。どうやらイタリアへ行くのだろう? 息災でな」

 

 と男前な言葉と乙女の微笑みを見せるジャンヌに手紙を渡された。

 

 その表情に頭バグりそうになる。何だろう、ベクトルは全くといって違うけど、平塚先生と似た空気あるんだよなジャンヌって。なんつーか、美人は美人で間違いないのだが、同性から慕われそうな……モテるような……。

 

 男勝りな平塚先生とは少し意味合い違うか。

 

 とまぁ、一応ジャンヌからイタリアで落ち着いてから中身を確認してくれと言われたが、俺は同窓会の名の付くものには全くもって参加したくない。理由は明白、意気揚々と参加して周りから『え、コイツ誰……?』ってなるのがあまりにも目に見えているからだ。言わせんな悲しいだろ。……悲しいだろ!

 

 というか、参加するかもしれないメンツも心配という意味合いもある。

 

 なぜなら主催はシャーロックということだから、イ・ウー出身の可能性が高い。ジャンヌの口振りからしてまず相違ないだろう。つまり、主に俺と敵対したことある奴らがそれなりにいたら――――その、気まずい。

 

 例えばヒルダ。アイツはだいたい理子といるからまだいい。マシな部類だろう。実はあれから多少は打ち解けた。お互いバリバリ殺し合った仲だが、たまに雑談する程度にはわだかまりはない。

 

 パトラはどうだ。……何度か戦ったが、あれはわざわざ俺に恨みを抱くタイプでもなさそうだ。何かあれば金一さんの名前を盾にでもすればいい。

 

 で、問題はカツェ……アイツは正直いたら面倒になるかもしれない。イ・ウーにいたころ少し話したことがあるが、全くソリが合わなかった。そして、香港では戦い俺が勝った。発端が発端だしでお互い様だが、恨まれている可能性もある。

 

 行きたくねぇなぁ……。嫌だなぁ。

 

「お待たせしました、行きましょうか」

 

 と、俺のウダウダした思考はトイレに行っていたレキの一言により遮られた。

 

「えーっと、依頼主とは空港内で待ち合わせだっけか」

「はい、もうロビーにいるとのことです」

「俺も泊めてもらうわけだし、挨拶くらいはしとかないとな」

 

 たった2週間程度で外国語をマスターできるわけもなく、日本語で乗り切ることにした。ムリなもんはムリ。

 

 数分歩き、ロビーまで着くとやはり人はゴミのように多いと某大佐のように感じる。俺のそのゴミの1つなのだが。さすが国際空港といったところ。東京も大概だが、ここもここだ。多種多様な人たちがいる。外国人が多い。いや、ここでは俺が外国人だな。よし落ち着こう。

 

 ここから目的の人物探すのかなり難易度が高いと思いながらキョロキョロ首を動かしつつそう感じていたら。

 

「いました」

 

 隣にいるレキはどうやら直ぐ様見付けたらしい。スゴいなおい。そういやコイツ歴戦のスナイパーだったね。そりゃ、視力いいし色々と目敏いわな。こういう場面では全く敵わない。

 

 人混みに押されないよう歩き、レキが見付けた人物へと近付く。その途中で向こうも俺らに気付いたらしく、こちらへと振り返る。

 

「……」

 

 その人物は神崎や間宮に近い小柄な体型。可愛らしい顔付き、手入れの整ったウェーブのように広がる長い色の濃い金髪。瞳は蒼碧色。青く、それでいて緑がかっている。あまり詳しくないが、色彩に関しては典型的なイタリア人と言えばいいのだろう。

 

 着ている服はスーツに似ているがスーツではない。あれはローマ武偵高校の黒い防弾制服だ。パンフレットで見たことあるし、たしか武偵高でチーム組んだときの写真撮影の際、あの服を着た覚えがある。

 

 つまり、武偵とはいえ一介の高校生がレキに依頼を? レキから聞いている限りかなり金持ちらしいが、一体彼女は何者なのだろうかと素直な疑問が浮かぶ。いや何となくどこか金持ち社長の娘といった予想はできるのだけれど――――その前に目を背けたいことが1つある。

 

「…………」

 

 その、なに? 何か見知ったような奴がいるんだけど。その依頼主の隣に、警護するかのように立っている。

 

「…………」

 

 気のせい気のせい。っと、レキはもう既に依頼主と話をしているか。

 

「八幡」

「…………」

「八幡?」

 

 何度も聞いたことのある声で、俺を呼び掛ける人がいる。うん、気のせいじゃなかった……。

 

 俺は諦めて彼女と顔を合わせる。

 

「そういや同行者がいるってレキが言っていたな。まさかお前だったか、セーラ」

 

 依頼主の隣にいたのは俺の超能力に関しての師匠、イ・ウーにもいた弓使いのセーラだ。

 

「久しぶりに会うのに素っ気ない態度。いや、素っ気ないというより面倒オーラがダダ漏れ」

「ほっとけ」

 

 セーラも大して表情筋動かしてないくせに。

 

「久しぶり」

「おう」

 

 レキが依頼主と話している最中、かつての師弟は挨拶を交わす。

 

「元気にしてた?」

「こうしてここに立てるくらいにはな」

「そう」

「…………」

「…………え?」

 

 と、すっとんきょうな声をセーラは出す。

 

「あ? 何だ?」

「いや八幡は聞かないの? 私に元気かって」

「いや何となく元気がどうかは見りゃ分かるし、元気じゃなかったらここにいないだろ」

「えぇ……そこは社交辞令として、ねぇ? 少しくらい世間話に華を咲かせても」

 

 と言われても。何を話せばいいのだろうか甚だ疑問である。それこそ、物騒な話題にしかならなさそうな気がする。

 

「というより、八幡も来たんだね」

「俺は任務受けてないけどな。学校行事の一貫でついでに付いてきただけだ。それこそレキのおまけ。……で、あの少女がレキとセーラの依頼主でいいんだよな」

「そうだよ。名前は――――ベレッタ・ベレッタ」

「ベレッタ?」

 

 セーラが口にした名前を咄嗟に聞き返してしまう。

 

 俺はレキたちの依頼主を全く知らない。お互い初対面もいいとこだ。しかし、その名前のある部分は知っている。知る人は知る名前だろう。とはいえ、その業界での知名度はかなり高い。それこそ、一般人でもうっすらと聞いたことがあるかもしれない。それほどまでに有名だ。

 

「なぁ、セーラ。彼女ってもしかして……」

「察した通り、ベレッタ社のご令嬢」

 

 これまたかなり大物の登場で内心それなりに驚く。

 

 ――――ベレッタ社。正式名称ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ。

 

 公式記録では1680年から設立された歴史あるイタリアの大手銃器メーカー。実際はもっと前なら活動していたらしいけど。

 

 ベレッタ社は第一次世界大戦、第二次世界大戦にも銃を供給したり、イタリア軍やアメリカの軍隊でも正式採用されたりと実績も数多く、その質もかなり高い。軍、警察、民間、そしてもちろん俺たち武偵も使っている人が多い。

 

 オリンピックでもベレッタ製の銃が競技にも使われていて、好成績を残したと記録で読んだ記憶がある。

 

 とまぁ、武偵高に所属しているなら知らない奴はほぼいない。

 

 俺の身近なところでも遠山や材木座がベレッタM92を使用している。遠山は改造しまくってM92の原型留めていないが。いや、材木座も好きなように改造していたな。

 

 俺はFN社の銃にもう慣れてしまっているため、主武装としてベレッタ系列は選択していない。とはいえ、ベレッタを訓練で何度か撃ったことがある。個人的にはDEやガバメントほどの大型拳銃のような癖もなく、きとんと訓練すれば初心者でも撃ちやすい、扱いやすい印象だった。

 

「そんな人がお前らに狙撃拘禁か……」

 

 そのような人物だからか?

 

「あ、八幡。ベレッタが呼んでる」

 

 と、セーラに声をかけられる。見てみるとたしかにレキがこちらに目配せしている。近付くか。

 

 改めてベレッタ……さんに近寄る。やはり印象は小柄だ。雰囲気もどことなく貴族令嬢の神崎と似通っている。

 

 俺はイタリア語を話せないので、軽く会釈する。彼女も会釈してから俺を観察するかのように一瞥してくる。

 

 果たして、レキの依頼主から俺はどう映るのだろうか。見た目だけで言えばあまり好印象を与えることはなさそうだがな! 何分この目付きの悪さは治らないもんで……。

 

「――――」

「――――」

 

 レキがイタリア語で俺を紹介しているようだ。

 

 うん、何言っているか分かんねぇ……。てか今さらだけどレキはある程度話せるんだな。世界各国で仕事を受けているだけあってハイスペックなんだと仕事振りを眺めるとよく実感できる。

 

「八幡さん」

「……どうされましたか」

「紹介は終わりました。今から彼女の家へ行きます」

「はい」

「……なぜ敬語を?」

「何となく?」

 

 様々な面で到底敵わないなぁと。

 

 

 

 ――――恐らくベレッタさんの従者の運転の元、彼女の屋敷に到着した。

 

 パッと見の印象はさすが金持ちといった印象の豪邸。これでもかと広い。香港でいたことのある猛妹たちの城より広く感じる。あれは船のようなものだったからそこまでの広さはない。それもそうかと言ったところか。

 

 そのうちの一室を貸してもらえしばらく泊まることとなった。荷物を置いて高級そうなソファーに腰かける。

 

「ふぅ……」

「長旅お疲れ」

「いやセーラ、なんでお前もいるの?」

「……何となく。私は私で部屋あるし、ただ付いてきただけ」

 

 要するに言い換えると遊びにきたってことか。

 

「まぁそれはいいけど……」

「私ですか?」

「お前はお前で荷物部屋に置けよ。いやこの部屋じゃなくて」

 

 自分で言っていてもう理解したけど、レキと同じ部屋みたいだ。別に広いんだからもう1部屋くらい用意してくれてもよくね……。

 

「八幡たちって同じ部屋に暮らしているんだよね?」

「つっても寝る場所別々だぞ」

 

 完全に同室扱いはさすがに緊張する。

 

 ここは話題を変えて誤魔化すか。

 

「……そういや、依頼の狙撃拘禁する奴ってどこにいるんだ?」

「まだこちらにはいません」

「あと数日でこっち来るみたい」

「ほーん」

 

 2人から即座に訂正が入る。まだなぜ拘禁されるか知らない噂の奴はいないとのこと。

 

 ということは、まだ正式に依頼は開始してないらしいな。それなのに早く来たってことは事前に打ち合わせとかあるのだろう。なにせレキにとっては知らない土地なわけだ。

 

「八幡はベレッタとは話さないの? 話していていい子だよ」

「アリアさんとどこか似ていますね」

「いや話さないつーか、話せないから。お互い言葉通じねぇ」

「そっか、あんまり英語も通じないしね。簡単な会話ならアプリ通じて大丈夫だろうけど、込み入った話なら難しいかな」

 

 直ぐ様納得するセーラ。

 

「だな。レキやセーラを仲介するしかない。まぁ、俺は基本的に部外者だ。お前らの依頼にも関わるつもりはないから、そんな話す機会もあんまないだろうな」

「でもわりとベレッタは映像で見た八幡に対して興味あるみたいだよ。別に一般人からしたら当たり前だけど、彼女は超能力に馴染みないからね」

 

 さらっと見ないでくれ。

 

 というか、ベレッタ社のご令嬢ともなればそういう映像……言うなればアングラな世界を知っている上に理解あるのだともその発言で分かる。

 

 しかし、自社製品が使われているかもしれないと思えば気になるのも当たり前だろう。俺で例えると要するに小町がもし武偵にでもなったりしたら、そりゃもう気になりまくる。誰かに映像記録依頼するかもしれないし、何なら後ろから気配完全に隠して尾行しまくる自信しかない。

 

 絶対武偵にはなるなよ我が妹よ、兄が犯罪者になるからな……。

 

「それとね、彼女単純に日本が好きみたい。私は詳しくないけどアニメとか、そういうサブカルって言うの? 諸々含めて一度日本に行ってみたいとも言っていた」

「ほーん」

「だから近くに日本人が来て多少は興味あるらしいね。ただ八幡は……」

 

 やけに言葉を濁すセーラ。

 

「なんだ?」

「きっと積極的に関わろうとはしないよね。ベレッタに」

「まぁな。今回の依頼は俺に関係ないし。何か事件に巻き込まれて、俺ががっつり出るならとかなら話は変わるが」

「いやそういう関わり方じゃなくて……まぁいいや。で、セーラも案外人見知り。そこまで仲良くはならなさそうかなと私は予想する。それにさっきも言った言語の問題もあるから」

「となると、あれだな、イタリア語話せる日本人が傍にいたらいいってことだな。それならベレッタさんも日本のことより知れそうってことか。そんな奴いるかな……あー、神崎とか?」

「アリアさんはイギリス生まれ、イギリス育ちです。日本の文化には多少疎いでしょう」

 

 はい。

 

 レキが訂正した通り、神崎は言語を複数操れると聞いたことがあるけど、日本では数年ほどしか暮らしていないから当てはまらないだろう。

 

 他に俺の身近な知り合いだと――――まずパッと理子が思い浮かぶ。アイツがイタリア語話せるのか知らないけど、もしイケるなら誰とでも一先ず仲良くはなれる性格だし話は合いそうだ。サブカル好きならなおさら。昔はどうやら欧州で活動していたらしいから、少しくらいなら話せそうな気がするという俺の勝手な印象だ。

 

 ……何にせよ。

 

「さっきも言った通り、極力お前らの邪魔はしないつもりだから、まぁ大人しくしておくわ。セーラさんが俺に用事を言いつけるなら未だしも、俺からは死人が出そうでない限り介入しないってことで」

 

 と言いつつソファーで寝転ぶ。かなり質の良いソファーに埋もれ、思わず移動の疲労により寝そうになる俺はそう結論付ける。

 

 たまにはゆっくりと羽を伸ばしたい。

 

「分かった。でも、まだ拘禁が始まるわけでもないから、明日くらいはレキもゆっくりできると思う。私は用事あるけど、2人でローマを観光でもしてきたら?」

「そりゃありがたい」

「では明日はそうしましょうか。と言っても、何も決めていませんが」

 

9それはそう。行程は真っ白もいいとこだけど、初めて来た国だ。街中を歩くだけでも個人的には楽しそうだ

 

 

 

 

 ――――そして、更に数日が経った。

 

  ローマに着いた翌日はセーラの助言通り、レキとローマを散策した。観光地として有名らしいナヴォーナ広場をゆっくりと歩いた。

 

ヨーロッパの街並みは日本とは赴きががらっと違い、本当に綺麗だった。いくつかの噴水や遺跡や広場、観光名所として納得できるほどの場所だった。レキと一緒にずっとボーッと過ごしていたくらいには良かった。

 

 まぁ、そのせいでわりと近い距離にあるコロッセオには寄れなかったので、今日は1人で行く予定だ。

 

慣れないバスを乗り、人混みに押されながらゆっくりと歩く。

 

もう既に見えていたけれど、ようやく近辺まで来れた。

 

「…………」

 

 俺はあまり人が通っていない場所に移動しジッとコロッセオを眺める。

 

 高さはざっと50m、円の直径は調べてみると188mくらい。日本では見ない種類の建造物の迫力に圧される。

 

 西暦が始まってから100年も経っていない中、こうも巨大な建造物を作るとは想像が付かない。

 

 どうやらコロッセオの中にも入れるみたいだ。しかし、けっこう料金がかかる上、チケットを購入するための列もそれなりに長い。外観も見れるだけでこちらとしては満足感高いから、勿体ないかもしれないが中には入らなくていいとも思う。

 

 入場料、日本円換算で20000くらいはいくら世界遺産だろうと正直なところ高い……。ならせめて外観は記録に残そう。

 

 そういえばこの建物の意義、使われていた理由はたしかあれだったな……。あまり現代には馴染みがないような、ある意味では馴染み深い気もする。

 

「ん……」

 

 なんてことを頭に浮かべつつ歩きながら写真を撮っていると、通行人とぶつかってしまう。有名な観光地で少し浮かれていて周りへの注意を怠っていた。

 

「っと、すいません。じゃなくて……sorry」

「……あら、日本人?」

 

 不意に聞こえた、聞き慣れた言語が耳に届く。

 

 ぶつかった相手を見ると、たしかに日系の人――――というより日本人の女性だった。

 

 若い。歳は俺よりいくつか上だろう。大学生くらいに見える。

 

 端正な顔立ちに色素の薄い、腰まで伸ばしているストレートロングの髪。色白な肌に澄んだ眼をしている。瞳にはまるで感情は宿ってなく、どこか浮世離れした印象を受ける。

 

 そんなことを勝手に思うが、声色は特にそんなことはなく、レキのように一定な、抑揚のない声ではない。

 

 まとめるとこの女性の容姿はまるで精巧に創られた人形のようなある種別の美しさがある。

 

「あ、はい……」

 

 それはそれとして、返答には普通にどもる俺だった。

 

「私もよ。私こそぶつかってごめんなさいね。貴方は観光中?」

「ですね」

「高校生かしら?」

「一応」

 

 なぜか疑問を次々投げ付けられる。いやもういいよね。離れたら? 異国で会った同じ日本人だからだろうか、なぜか不明だけど、やたら接してくるんだが。

 

「観光中なら少し時間あるよね。ちょっと話に付き合ってもらえる?」

「まぁ……はい」

  

 あ、このまま話続くんだ……。なぜに……。

 

 ふと彼女はコロッセオの方に目をやり口を開く。

 

「貴方はこのコロッセオ……これがどういう目的で使われた建物が知っていて?」

 

 内容は目の前に映る巨大な建造物について。

 

「どういう……って言うと、いわゆる剣闘士が戦った場所ですよね。人と人が戦う見せ物」

 

 …………血生臭い歴史がここにあった。

 

「えぇ。遥か昔、人間同士……時には猛獣とも戦ったそうよ。今となっては珍しく、そして随分と古臭い興行ね。なら次の質問、その剣闘士がどういう人かは知っている?」

「腕試しに志願していた人もいたそうですが……大半は奴隷の身分ですっけ」

「よく知っているわね。その通りね」

 

 イタリアへ行く前に軽く調べたことがある。

 

 創作物でよく奴隷の身分が出てくるが、実際はどんなモノだったのか俺には想像付かない。書籍やネットの情報でしか知り得ない。……こんな世の中だからこそ、少しは興味はある。

 

 すると彼女はまた俺に話しかける。

 

「あ、別に敬語は外して良いわ。敬語だとちょっと虫酸が走る」

「……分かった」

 

 初対面で推定年上にタメ口は気が引けるが、本人が言うなら構いやしないか。

 

「……で、話を戻して。コロッセオの中には何万人もの人が収容できたそうよ。人が戦う……それも奴隷という身分が。言うなればそれだけなのに、なぜこうして大きな存在になったと貴方は思う? 今で似たものに例えると、格闘技の試合とはきっとまた別の扱いよね。ベクトルが全く違うわ…………ここで戦うことは」

 

 それはかなり異常なことだと暗に語る彼女。

 

 たしかに人が戦うだけならここまで豪勢な建物はいらない。地面さえあれば人は殴り合える。それこそ、格闘技のリングは外から見ると大して広くない。

 

 しかし、それでも目の前の建物ができるほど興行として発展したかと言えば――――

 

「要するにコロッセオの見せ物は一般市民にとって娯楽って話だろ」

 

 単純明快、ショーのような存在ってことだろう。

 

「……娯楽ね。否定しないわ。恐らくそういうことになるけれど、どうして人が戦うだけで、多くの人が視ることになるほどの娯楽になるのかしら? こんな建造物ができるほどね」

「どうして……か」

「人間の本能ってやつかしらね」

 

 ……彼女の問いにしばし返答に困る。

 

 世界遺産として現代まで残るほどコロッセオは大きく、そして遥か丈夫に建造された。戦争のような領土や利益を得るための建物ではない。ただ人が戦うためにコロッセオはあった。

 

 娯楽として人が戦う……下手すれば野蛮な殺し合いだ。たしかにある意味異常と言えば異常だろう。現代まで表向き残っていないのがいい証拠だ。

 

 その是非……理由を問われれば、きっと答えは単純で馬鹿馬鹿しいモノかもしれない。

 

「極論だが――――人間、自分より下の存在がいると安堵するからだろ」

 

 少し、乱暴な言い方になるのを自覚した。

 

「……その心は?」

 

 俺はどこか冷たくなった声色の彼女と目を合わせず、コロッセオを見据えつつ語る。

 

「別にこれは今も昔も関係なく、人間の本質は変わらないことだと思う。世の中いくら平等を謳っていても、その平等の奥底で区別は存在する。自分は優れている、アイツは劣っている――――表面上どれだけ取り繕っても、心のどこかでその感情は誰もが大小あれど持っているモノだ。明確な下がいるから、自分はそうなりたくないと思う。自分が上という事実で自尊心を保てる。その下ってのが身分や年齢に容姿、はたまた持っている能力差か、対象が何なのかは人によって違うと思うけど」

 

 平等、公平、誰もがそうでありたいと心から願う。差別なんてない方が断然いい。そんなこと俺だって考えているものだ。ただ、そんな想いとは裏腹に優劣を付けだがるのが人間であり今昔から続く社会というものだ。

 

 それが完全に悪いとは思わない。現状のままでいい、停滞を望めば発展はない。誰か何かに負けたくないという気持ちがあるから、人間は様々な面で進化できる。

 

 とはいえ、その進化のある種の行き着いた先が――――この石造りの建物なのだろう。奴隷制度、身分の格差、これらが顕著に表れてしまっている。とは言うが、もちろん俺は否定から入るつもりなどこれっぽっちもない。これも人としての歴史なのだから。

 

 …………話を戻すか。

 

「まぁ、それは現代でも同じだろ」

「同じねぇ。本当かしら?」

 

 彼女がおどけた口調で聞き返す。

 

「同じだよ。これはあくまで一例だが、ニュースやSNSでバカやった人間を見て、自分はこれよりマシだ。自身の能力が何かしら劣っていると自覚しているけど、これに比べればまだ自分は優れている――――そんな思いを抱くことはきっとあるだろう。そして、そのバカやった人間が……その、なんだ、社会的制裁を受けることを関係ない場所から眺めて、自分はこうはならない、なりたくないと反面教師として受け止めることもあり、人がドン底に落ちていく過程を見て優越感に浸ることもある」

 

 これが決して悪ではないし、別の観点から見れば全うな気持ちでもある。他人の振り見て我が振り直せとも言う。そうやって、全く知らない他人を下に見つつも自身の行いを反省できるなら、少しはプラスになるだろう。

 

「とはいえ、あれだな。人が戦うってのが当時の市民にとって面白いと感じる部分があったという側面も当然あるとは思う。何ならそれが大部分だとも感じる。昔にとってここは、日常では経験できない、非日常を味わえる場所でもあったのだろうな。――――だけど、だからこそ、自分より下の身分が血を流しているという事実が、ある種の息抜きになっていたのかもしれない。どれだけ生活が苦しかろうと、この奴隷たちと比較したらまだ自分たちは恵まれているってな。現代と価値観が違うとはいえ、上と下が存在するからこんな娯楽が生まれるんだろうな」

 

 言いたいことを言い終え、ふぅと一息つく。

 

「…………」

 

 どうして俺は見ず知らずの初対面相手にここまで語ってしまったのだろうかと今さら思い返す。多分どこか1人になったらこのことを思い出して恥ずかしい気分になること間違いない。黒歴史になるだろう。

 

 だが、不思議と今俺の隣にいる彼女には吐露しても問題ないとも思える。どこか、恐ろしい魅力がありそうだと不躾なことを思考してしまう。

 

 そんな彼女は呆れたように話す。

 

「貴方、随分捻くれているわね。物事穿っている見方よねそれは。だいぶねじ曲がった考え」

「うるせぇ。事実でもあるだろ」

 

 思わず吐き捨てるように言う。

 

「たしかに貴方の言ったこと全部否定できない……間違いない部分もきっとあるわ。暴力、迫害、差別、冷遇、これらは人類が積み重ねてきた歴史。もちろん、人がその力を正しく使い、発展してきた歴史もある。きっとそれがほとんどを占めるでしょう。けれど、人の歴史に争いが常に付き纏っている。……私にもね」

 

 彼女の最後の一言だけ少し、感情が乗っていた。そのことに対して疲れたというような印象を受ける、重い声色だ。

 

「まぁな。全体か個人か、人がいるだけ種類は問わず争いがある。その争いを上から見ている奴がいて、嘲笑って……自分が下なんだと痛感して、それが嫌になって、自分があまりにも哀れに感じ、死にたくなるときもある。――――だけど、それこそが人間だ」

「……というと?」

 

 一拍置いて俺はまた口を開く。

 

「そうやって自分では到底拭えない嫌な想いをして潔く死ねるのも、何か希望があって生きようと前に進めるのも、ここに立っている人間としての特権だ」

 

 生きているから選べる。どれだけ蔑まれようと、どれだけ見下そうと、死んでいたら何か選択をすることはできない。当たり前のことだ。

 

「ホント、捻くれているわね貴方……。いや、その考えも正しいことだとは思うわ。そうね。じゃあ、ちょっと話を変えて……もしそれが、人を殺してしまうような輩でも同じことが言えるの?」

「知るか。個人の快楽のために殺していたら擁護できねぇけど、別に全部そんな理由じゃねぇだろ。生きるために仕方なかったって奴は大勢いるだろうし。まぁ、俺は理由がどうあれ俺の目の前……手が届く範囲で人を殺そうとする奴とは相容れないけどな」

「もし私が今までの人生、人を殺していても同じように接することができる?」

 

 随分不思議なことを訊いてくるな。まるで自分は人を殺したことがあると言っているような言い草だが……。

 

「その昔を知らないからな。そこらはどうでもいい」

 

 それを言ったら、レキだってそれこそ昔似たようなこと殺っているしな……。具体的なことは知らないけれど。

 

 ふと彼女の表情を伺うと、なに目を少し丸くさせているのやら……。驚いているの?

 

「ホント……おかしなことを言う人。過去に殺人を犯していたら、普通は許さないだとか関わらないとか言うものじゃない。そういう考え、周りからすればかなりイレギュラーではないかしらね」

「ほっとけ」

 

 気の抜けた声を出す。いちいち深掘りするのも怠いだけだ。

 

「なら、もし私が貴方の目の前で別の誰かを殺そうとしたら?」

「そのときは敵だ」

 

 ここだけは断言できる。素性の知らない相手の過去を知ろうとはしない。しかし、目前で問題起こせば当然戦う。

 

「スパッと言うのね」

「いやそれは当たり前だろ」

「ま、それもそうね。逆の立場なら貴方がそう言うことくらい予想つくわ。いくら貴方がイレギュラーな思考をしていてもね」

 

 ――――と、ここで人混みがより騒がしくなっていることに気付く。

 

 どうやら初対面の相手とだいぶ長い時間話していたらしい。

 

「あら、人が増えてきたわね。付き合ってくれてありがと。いい暇潰しになったわ」

「お互い様だ」

「少し、自分を振り返ることができたと思う。貴方の言う選択……私はこの道を突き進むしかないともう決めたから進むだけ。どれたけ敵を排除することになってもね」

 

 随分と物騒な言葉を使う。まぁ、彼女にも事情があるということだ。別にそこまで興味が湧かないし、深く知ろうとはしない。

 

 話が完全に終わり、静謐な空気がこちらを包み、彼女はここから離れようと俺から視線を外す。

 

「じゃあね――――あっ」

 

 踵を返したところで彼女はこちらへと再度振り返る。

 

「ん?」

「名前、名乗ってなかったわね。伊藤よ」

 

 それだけ言い残し本当に去ろうとする。だが、俺もまだ名乗っていない。改めて名乗ろうとするが。

 

「俺は」

「名乗らなくていいわ。イレギュラー、勝手にそう呼ぶことにするわ。貴方のことは」

 

 今度こそ彼女は振り返ることなく雑踏の中へ完全に消え去った。俺はただそれを眺め、ずっと立ち止まっていた。

 

「……」

 

 初めて話す相手に、ここまで込み入ったことを話すとは思いもしなかった。最初はコロッセオについての話だったのに、話の方向がかなり斜め上まで吹っ飛んだ。

 

 奇妙な時間だった。だが、殺す殺される、生きる死ぬ、こんな物騒な話をしていて不快な気持ちはなかった。不思議な女性だった。

 

 そして、勝手に嫌な渾名で俺のこと覚えられた気がする。いや普通に自己紹介させろ……。それで俺のこと記憶してないでほしいんだが?

 

「はぁ……」

 

 まぁいいや。もう少しコロッセオを見て回るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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造られた創られた神様

「あれ? 遠山?」

 

 あの伊藤と名乗った不思議な女性出会いから時間は過ぎた。

 

 コロッセオを観光し、他の街並みをゆっくりと歩き見て回った俺は夕方になる頃にはベレッタ邸へと俺は帰還していた。

 

 豪邸で働くメイドや執事に会釈をして部屋に戻ろうとすると、廊下で何やらレキとセーラ、そしてベレッタさんと言い合っている――――どうしてここにいるのか分からない遠山と出くわした。

 

 あれ? なんでコイツいるの? そう素直な疑問を抱いた。ここは東京でもなく日本でもなく欧州にあるイタリアぞ? まぁ、遠山ならどこにいてもおかしくはない。何ならそれが平常運転なまである。

 

「あれは……ひ、比企谷!!」

 

 と、俺を見付けたや否やまるでようやく味方に会えたとばかりに目を輝かせた遠山は俺にすり寄る。面倒なことに巻き込まれたであろう遠山の頭を蹴飛ばし、レキへ顔を向ける。

 

「…………とりあえずレキ、説明を」

「はい」

 

 もう何となく予想はつくけど。

 

 ――――数分後、レキから簡潔でいて分かりやすい説明を聞いた。

 

 どうやら今回の狙撃拘禁する相手は遠山とのこと。理由は遠山がベレッタさんに借金をしているから。その借金の内訳は、遠山が借りていた奨学金のせい。

 

 ベレッタさんは遠山の高度な射撃技術に見惚れ、自社のベレッタを愛用していることから月額10万円の奨学金を与えてた。このことについては同室で暮らしていた俺も知っていた。まぁ、ぶっちゃけ羨ましい気持ちはあった。

 

 しかし、いくら金を貰おうと奨学金は奨学金。普通に卒業して少しずつ返済する契約だったが、遠山はあることをやらかした。

 

 そうだね、留年だね。

 

 留年や退学したら、奨学金は即日返還という内容だったらしい。で、遠山は当然そのことを知らなかった。元々ローマ武偵高校に編入することもあり、こうして呼び出した。そして、ベレッタさんが依頼した凄腕スナイパーたちが拘禁しつつ、遠山は借金返済のため泣く泣く働く必要があるとのこと。

 

 ……なるほど。拘禁相手が遠山とは推測できたが、そういう流れだったのかとようやく理解できた。

 

「お前いつもどこかでトラブルしか起こしてないな……」

「くっ、否定できない」

 

 俺の呆れた声に立つ瀬がないのか遠山は項垂れる。

 

「まぁ、問題が金のことだしな。俺にはどうもできねぇわ。もしここで俺が金貸してもいたちごっこなだけだし。……レキたちも別に拘禁するだけだよな。多分死にかけることはないだろ」

「はい」

「ベレッタから一定距離離れたら警告で撃ちはするけど」

 

 おい。セーラがさらっと恐ろしいこと言った気がする。

 

 内容が内容なこともあって、本気で介入する余地がない。それこそ働いて借金返済するだけならそこまで危険な要素もないからな。武偵という職業柄、多少は危険なことはあるがそこは日時茶飯事だし。

 

「遠山、予め言っておくが、一先ず俺は中立だからな。俺を通じてレキの警戒緩めようとか、セーラから何か有利な情報引き出そうとしてもムダだからな」

「……え、比企谷はこの依頼を受けていないのか?」

「あぁ、俺はレキの付き添い。ここには宿泊しているだけの観光客だ」

 

 あとは他にもローマでの用事はあるけど、ここでは関係ないことだろう。もしかすると、遠山には関係することかもしれないが、そこはあとで確認しよう。

 

「まぁそうだな。これで比企谷の手まで借りるのは申し訳ないな」

「身から出た錆だし俺からするとドンマイ、頑張れくらいしか言えないな。明日は我が身と思うよ」

 

 まだ預金残高はかなり余裕はあるが、職業柄いくら金が飛んでも不思議ではない。

 

「つっても、話し相手くらいにはなるけど。俺だって近くに日本語話せる奴いたら心強いし。……ところで、ここに来たのはお前だけか?」

「いや、リサも一緒だが……俺だけベレッタに半ば拉致されてリサは置いてけぼりをくらった」

 

 あらまぁ……。それは少し心配だ。遠山は自由に動けないことだろうし、この場で好き勝手できるのは俺だけだ。

 

「拉致られたのは遠山のせいだが、それでリサさんが割喰うのはな。欧州だから多少は慣れているだろうけど」

「そうだな。俺は自由に動けないし」

「……今好き勝手動けるのは俺か。ちょっと探しに行ってくるわ」

 

 直ぐ様引き返し外へ出ようとするが、レキに諌められる。

 

「しかし、八幡さん。ベレッタさんはリサさんをどうやら毛嫌いしていたそうです。もし連れてきてもここにいれるかどうかは分かりません」

 

 暗に連れてくるな……いや、連れてきてもどうなるか不明といったところか。

 

「リサさんは口が回るからどうにかなるだろ。最悪ここがムリでも近くの宿泊施設とかなら大丈夫じゃないか」

「八幡、足はあるの?」

 

 セーラからの疑問。

 

「いや? バイクも自転車もないからそれこそ足しかない。まぁ、空港からここまで大通り歩けば多分見付かるだろ」

 

 最悪空を飛べば……いや、こんな街中ではさすがに目立つ。それにもうすぐ暗くもなる。飛べば逆に分かりにくい。日本ならリサさんは髪色など目立つが、ここはイタリア。リサさんに似た髪色は多い。

 

 まぁ、最終的にはどうにかなるかと楽観的な気持ちで来た道を引き返す。

 

「じゃ、ちょっと外行ってくる」

 

 あれから1時間ほどでリサさんと合流し、再度ベレッタ邸へと足を運んだ。

 

 案の定、目立った大通りをキョロキョロしながら歩いているリサさんを発見した。声をかけたとき非常に驚かれた。それはもうオバケでも見たかのような……傷付いてないんだからね!

 

 連絡先でも交換しておけば良かっなと今さら思い至ったまである。いや、なんなら遠山から聞いておけば良かったのでは? 段取り悪すぎか?

 

 途中、リサさんを屋敷内に入れるかどうかでベレッタさんと若干揉めていた様子だったが、リサさんが言い包めたらしく、無事滞在できるようだ。

 

「比企谷さん、道案内ありがとうございました」

「大丈夫。単に寝覚め悪くなりそうだっただけだ」

 

 改めてリサさんから礼を言われた俺は適当に言葉を濁す。今日はずっと歩いていたこともあり疲労も溜まっていたからな。早く休みたかった。

 

 そのためリサさんと軽く会話してから、俺は飯を食べてからすぐ寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 ――――遠山が合流してから数週間が経過した。

 

 ローマ武偵高に通い始めた遠山とは余所に俺は個人で動くことが多くなった。

 

 リサさんも遠山と同じく通い、レキやセーラは拘禁するために近場で監視。そして雇い主であるセーラさんも武偵高生のため当然登校する。

 

 総じて俺はかなり暇になった。

 

 最初のうちは観光を素直に楽しんでいたが、毎日出歩くというのも出費がかさむこととなり、俺はレキを仲介に宿泊させてもらっている屋敷の掃除や雑務といったアルバイトをすることにした。内容は掃除に買い出し、料理……まぁ、といっても主は掃除だ。

 

 頻度は週に2、3回程度。正直言語の壁でそこそこ大変だが、仕事の内容自体はそこまで厳しくない。まぁ、所詮は下っ端。重要な仕事など普通に考えて回さない。地味な仕事がほとんどだ。小遣い稼ぎとしては丁度いい。イタリアに来てから少し運動不足を感じていたし、体も動かせて一石二鳥といったところだ。

 

 問題の拘禁中である遠山とは近況報告など適当によく駄弁っている。話している内容も今回の拘禁とは関係ないものばかりだ。日本語で話せるっていいね。

 

 まさか遠山が最近総理を暗殺しようとした相手を止めるため戦っていたとはな。相変わらず人生ベリーハードモードだ。それも遠山の父親の仇で、前に少し話をした可鵡韋の姉が相手らしい。世の中怖いねぇ。

 

 というより、思い返しておいてあれだな。思っていた以上に依頼としての滞在期間が長い。

 

 とっくのとうに修学旅行ⅲとしての期間は終了している。別にレキの依頼を手伝っているわけではないため、武偵の任務に付き添っているからという正当な理由で学校も休めない。だからまぁ、こうしてせっせと働いているとはいえズル休みに近い形だ。

 

 こうしている内に出席日数やらが犠牲になっているが、所詮武偵高の偏差値なんてタカが知れている。試験でどうにか取り戻せることはできるから、そこまで深刻にならなくて大丈夫だろう。

 

「……ふぅ」

 

 午前中の清掃も終わり、一段落すると玄関が少し騒がしくなるのが聞こえた。主人がいないところでの来訪者だろうか?

 

 トラブルなら出張ろうとと思い近付くと、何やら見覚えのあるピンクのツインテールが見える。

 

 遠目から見てもあれが神崎アリアだと分かる。

 

 まぁ、何故を問われたらここにいる理由は思い当たらないが。そして、隣にはリサさんがいる。なんか問い詰められているような……十中八九遠山がどこか問われているのだろうなと安易な推測は成り立つ。

 

「関わらない方がマシだな」

 

 面倒なことに巻き込まれそうになるだろうと予感した俺は小声でそう呟き、気配を隠してその場からそそくさと離れていった。

 

 

 そして、神崎がなぜか訪れた日からまた数日が経ち、5月下旬のある日。なぜとか言う必要はないけど。なお、遠山は案の定というか大変な目に遭った模様。神崎が来る=遠山に対して何か用事があるだからな。ぶっちゃけ一瞬で察していたまである。

 

 それはそれとして、今日は珍しく俺はここローマで予定があった。理由はイ・ウーの同窓会。どうやらローマで開催するとのことで、俺も参加しろとのお達しだ。

 

 面倒なことこの上ないが、シャーロックから直々に呼ばれるとなると無視もできない。断ったらより面倒なことになるのは目に見えている。それこそいつの間にか背後にシャーロックがいる可能性すらある。そういうのはレキで間に合っているし、普通にビビるので止めて欲しさしかない。

 

 ということで、不本意&渋々ながらも参加するしかない。

 

 時間は夕方指定だったけど、遠山たちは午前中から出かけるとのこと。用事を済ませながら徐々に今日参加する面子と合流しながら目的地まで行くらしい。対する俺はギリギリまで現地に行きたくなかったので、昼過ぎに出発し適当に回り道をしつつ単独で向かう予定だ。

 

 目的地はヴィア・デル・コルソにある高級なホテル。コルソ通りと言えば観光地として伝わる人もいるのだろう。俺はここに来るまで初耳だったけどな。

 

 ヴィア・デル・コルソには下見も兼ねて今まで何回か訪れたことはある。初日にジャンヌから渡された招待状を見て場所は知っていたからだ。何ていうか、観光地のくせにやたら細い道が多い印象を受けた。街並みはさすがローマ、充分すぎるほど綺麗だった。日本や香港にニューヨークと比べて高層ビルが少ないからこその綺麗さだな。

 

 そして時間はまだ午前中、出かける遠山とそれの監視に動くレキを見送る最中。

 

 そろそろ出発するというときにレキは俺の近くに近付き、軽めの挨拶をする。

 

「では八幡さん、また後ほどお会いしましょう」

「おう。レキも気を付けてな」

「はい」

 

 会話が終わったと感じたときふとレキが呟く。

 

「……ところで八幡さん、申し訳ありません」

「何が?」

「今回、あまり一緒にいることができず……」

 

 少し、レキにしてはどこか悲しげな声色だ。目線も俺から若干ズラし、他人と比べれば抑揚のない声の中に謝罪が含まれている。

 

 たしかに当初の想定以上に任務の期間は長い。それこそ一緒に行動できたのは最初の数日程度。そこからは基本的にドラグノフ片手に遠山を監視する日々が続いていた。

 

 たしかに俺にもレキといたいという気持ちはある。しかし、それを俺は咎めることなどしない。

 

「それが仕事だろ。俺が遠山の近くにいて遠山の有利になることをしてしまう――――なんてことになったらお前の信用問題に関わる。その方が色々と面倒だろ」

「ですが……やはり八幡さんの近くにいたいとは思います」

 

 今度はキリッとした声ではっきり告げる。

 

「遠山の借金返済がいつ終わるか分かんないけど……まぁ、もし仮に万が一終わったとして」

「仮定を非常に重ねますね」

「いやだって遠山が借金返済できるイメージ沸かないし……」

 

 アイツに失礼なことを言っている自覚あるけど。遠山なんて常に金欠状態だし。

 

「帰りの飛行機まで多少は余裕あるだろうし、またのんびりどこか出かけるか」

「えぇ、楽しみにしています」

 

 レキのたまに見せる微笑。口角をほんの少し上げるだけの笑み。だが、レキが笑ったという事実が嬉しく俺も釣られて笑ってしまう。

 

 何気ない約束を交わす。たったそれだけのことで、お互い頑張ろうと思うことができる。……問題はメインで働いているのはあくまでレキであって、俺はおまけだと言うことだ。締まらねぇな……。

 

 

 

 ――――そして、夕方。俺は同窓会開催の地であるヴィア・デル・コルソまで赴いていた。

 

 以前来た印象と変わらず、メインの道は普通に大きかったと思えば、少しメインから逸れて歩くと狭く曲がりくねった道が多い。道というか路地だなこれは。

 

 どうやら日本で例えるところの商店街のような場所らしい。歩く度に様々な店がところ狭しと並んでいる。

 

 それはそれとして……。

 

「早く着きすぎたな……」

 

 開始1時間前にはもう目的地のホテルまであと少しの距離まで近付いていた。ギリギリまで行きたくないと思いながらもなんだかんだで開始には間に合うように動いていしまう。約束の時間15分前くらいには着いてないと、どこか落ち着かない性格になってしまった。これも武偵の影響かな……。

 

 もうちょい歩き回って時間を潰すか。

 

 さすがにまだ早すぎるため、俺は来た道を引き返し、まだ行ったことのない路地を歩こうと足を進める。路地と言っても、車2車線ほどの幅はあり、人通りも普通にある。なんなら混んでるしな。あくまで観光地や現地の人で賑わう場所だ。よくゲームなどに存在する廃墟の路地裏などではない。

 

 歩道が狭いため、人とぶつからないようセンサーで回避しようにも限度がある。往来がこうも激しいと進むのも時間がかかる。

 

「っと……」

 

 途端に後ろから衝撃が走る。誰かとぶつかったみたいだ。謝ろうと振り向こうとするが、その寸前視界にある光景が横切る。

 

 ――――それは俺の持ち物だった。

 

 黒いコートを着ている髪の長い女性が俺の財布をヒラヒラと手を振り盗んだと見せてくる。

 

「おいっ、テメッ!」

 

 クソっ、こんな白昼から堂々とスってくるのかよ! 海外さすがだな! 油断していたとはいえ、こうも無様にヤラれるものか。しかも見せびらかすとは余計に腹が立つなおい!

 

 俺は怒りのまま咄嗟に追いかける。――――が、財布をスった女はまるで川が流れるかのように自然と、誰ともぶつからず人混みを進んでいく。

 

 明らか盗み慣れているなと思いつつ、見失わないように俺も身を細め走る。

 

「…………」  

 

 差が詰まらないどころか段々距離を離されていくのを肌で感じながらもどうにか喰らいついている。向こうの動きにムダがなさすぎる。こうも人混みが多いというのに。烈風を使うのは最終手段だな。まぁ、風くらいなら急に突風が吹いたで誤魔化しはできるかもしれないが。

 

 追いかけること数分、女は俺の方をチラッと横目で見たかと感じると、まるで誘導するようにあるホテルの自動扉へと入るのが見える。

 

「上等……!」

 

 個室にでも入られると面倒なことになると判断した俺はなるべく早めに捕まえるため、女のあとに続いてホテルのロビーへと入る。

 

 ホテルの名前は確認せずに入ったが、今まで見たことない豪華さのに一瞬目を奪われる。藍幇城も大概豪華だったけど、これまた別種類の豪華絢爛さ。1つ1つの部品、素材、どれもが高級なのが素人目の俺が見ても分かる。

 

 緋色を基調とした絨毯、コリント式の円柱、純金が施されている階段、その広々としたロビー……その中央にスり女がいた。

 

「…………」

 

 ――――だけではない。

 

 女の両隣に3人の女が近寄った。

 

 長身の金髪の女性、と銀髪の幼い女の子が2人。素直に考えると女の仲間になる。そして、不思議とこのホテルで働いているスタッフは見当たらない。この4人と俺しかこの場にはいない。

 

 銀髪の幼い女の子たちは素手だが、金髪の女性はなぜか弓を手にしている。まだ弓は番えていないが……。なるほど、こうして弓を持っているということはあの女の味方であり、俺の敵だということが嫌というほど理解できる。

 

 というか何よりここまで来てようやく分かった。俺の財布をスった女の正体……。

 

「おいいきなり何すんだ、伊藤」

「覚えていたのね、光栄だわイレギュラー」 

 

 思ってもないことを口にするのは数週間前にローマのコロッセオで出会った女性、伊藤だ。あのときと同じような黒のロングコートに身を包んでいる。

 

「そりゃな。で、財布返せ」

「いいわ」

 

 あっさりそう告げた伊藤は財布を俺へと投げる。少し面喰らった俺は意外に思いながらも落とすことなくそのまま財布をキャッチする。

 

「…………」

 

 ここに来た目的は達成したけれど、どうもこのまま退散できる雰囲気ではない。伊藤の正体は不明だが、どうも一般人ではない。下手に動けば、多分普通に殺られるまである。

 

 これは本気で誘い込まれたと言って過言ではないな。頭痛くなってきた……。

 

 とりあえずさっさと殴る? それとも話して情報集める? 

 

 これからどうすべきか悩んでいると後ろからガコンと音がする。――――確認すると、自動ドアのシャッターが降りていた。これでは外の様子を見ることはできない。当然逆からもだな。随分な用意周到さに思わず舌打ちしてしまうくらい苛つく。

 

 大きくため息を吐く。逃げることは諦めて何か話してみるか。

 

「……で? 何がしたい?」

「そうねぇ。簡潔に言うと、殺すわ――――貴方を」

 

 自然と耳に届く殺害予告。あまりにも自然で日常会話かと疑うくらい何気なく発せられた。さらっと言われた言葉に対して何も思うところなどない。

 

「ハァ……だろうな」

「素っ気ない反応」

 

 まるでつまらないとでも言いたげな様子だ。

 

「ここまで手込んでおいて、殺すか誘拐くらいしか選択肢ねぇだろ。だが俺が訊きたいのはそんなことじゃねぇ。何のために俺を殺すかだ。いきなり死ねって言われても納得するわけないしな」

 

 とりあえず少しでも会話を引き伸ばしてみる。携帯を使う隙はないし助けは呼べないだろうが、伊藤たちが何者か正体の推測くらいはしたい。何かしらの犯罪集団と言うのがまず予想できる範囲だが。

 

「一応命じられたってのもあるけれど、私個人としてイレギュラーが邪魔ってのもあるわね。遠山キンジとも近しい存在なわけだし」

「命じられた……ね」

 

 つまり、伊藤自身の意思で俺を殺そうとするわけでもなく、誰かに依頼されたから俺を狙うと。となると次の疑問は誰が依頼したのかだと素直に訊いても答えるわけがない。

 

 となれば戦闘は免れないだろうけど、遠回しな会話をしてどうにか時間を稼ぐしかない。

 

「ていうか遠山と近しいってなんだ。ただの同級生だぞアイツは」

「そうなの? よく一緒の任務にいたって情報あるけど」

「あるにはある。が、たまたま組んだってだけだ」

 

 それこそ一緒に戦ってきた回数は少ない。

 

 ……ダメだ、情報が全然入ってこない。もう少しこちらから話しかけるか。

 

「別に俺が生きていてお前の目的とやらの邪魔することになるか?」

 

 過去の会話を思い出し、言葉を選んで会話を続ける。

 

「可能性はあるわ。遠山キンジはさて置き……なにせ貴方は世界から見ても稀有な存在。数少ない色金を使える者。今後私や教授の障害になるかもしれないしね」

 

 教授? それが今回の依頼主? 誰だ?

 

 恐らく渾名のようなものだろうが、ここまでする奴が安易に情報を漏らすとは考えにくい。該当する人物は思い当たらないし、この教授という渾名からソイツの本名を推測するのは難しいだろう。

 

 加えて当たり前のように俺の情報を知っている。ということはまずアングラな世界に生きている奴だ。俺を殺すと発言しているからそれもそうかと今さらな納得をする。

 

「その可能性の芽を今から摘んでおくのか」

「そういうことかしら。あぁ、でも本当は――――ま、これはいいでしょう」

 

 途中で言葉を濁したが、何を言いたいのやら。

 

「…………」

 

 しかし、改めて伊藤を観察すると、ふと遠山との会話を思い出す。それはシージャックを行った人物が総理暗殺を企てた事件。その主犯の話を。

 

 色素の薄い肌や髪色、着ているコート。隙のない立ち姿……諸々まとめてどこか浮世離れている印象。ある人物を想起させる。

 

「マキリ……?」

 

 不意に漏らした言葉に伊藤は反応を見せる。

 

 マキリ。それがシージャックの主犯の名前と遠山から教えてもらった。俺は当然その事件に関与していない上、伊藤と会ったときはただの観光客同士だった。このような特殊な状況でないと結び付かないわけだ。

 

「私の名前、知っていたのね。遠山キンジから?」

「当たっていたのか。つまり――――」

 

 ここまで話してようやく何となく察した。

 

「お前ら『N』か」

 

 そして伊藤がマキリと分かった以上、芋づる式に分かることもある。

 

 これも遠山から教えてもらったことだが、マキリはある組織に所属していると。微妙に遠山からは言葉を濁らされたけど、神崎から既に忠告を受けていたからな。その正体の名前は既に知識としてはあった。

 

「よく知っているわね」

「たまたまだ」

 

 人伝に聞いただけだし余計にな。自分から情報を集めてNの存在に行き着く……そんなことはまずなかっただろう。

 

「何にせよ、お前らは国際的に色々とやらかしているテロリストたち。つまりは犯罪者。伊藤…………いや、マキリはシージャック起こしたっていう比較的新しい罪もあるわけだ。後ろの女たちは知らんが、一先ず捕まえて警察に引き渡してやるか」

 

 ヴァイスを組み立て如何にも今から戦闘します! という雰囲気を出しつつそう口では言うが……。

 

 やる気出ねぇ……。いやまぁ、やるとなったからには頑張るが、正直単独で勝てる気がしねぇ……。遠山からの情報を元に戦うが、マキリの戦闘力普通に高いった話らしいし。

 

 たしか元公安0課所属だっけ? あのイカれている武装検事とバリバリ戦い合っていたって話だっけ? いやもうムリムリ……。どうしろってんだおいこら。

 

「少し、興味もあったのよ」

 

 俺が臨戦態勢に入ったからか向こうもより一層目付きが変わる。

 

 何がと問いかける前にマキリは矢継ぎ早に口を開く。

 

「様々な強敵を退けた、イレギュラーの実力が……どんなものか……」

 

 そして、マキリが喋る度に、徐々に、マキリの雰囲気が変わる。それは俺や他の人物がただ戦闘するために、スイッチを切り換えるなんて生易しいものではない。

 

 ――――それこそ、感覚的にはHSSになった遠山に近しい雰囲気。完全な別人になったような印象。ほんの前まで話していた伊藤マキリはもういない。

 

「……エンディミラ、貴女たちは離れて待機を……まず、私から、です……。イレギュラー、異常な貴方…………すぐに、壊れては、いけませんよ」

 

 さっきまで多少はあったはずの人間味を完全に失せ、目の光もなくなり、完全な無表情になり、口調も一定であり抑揚のない声。

 

 まるで人形。精巧に造られたような美しさがあると思ってしまう。……いや、美しさというより、ある種の神秘さを内に秘めているかと不躾ながら感じてしまう。

 

「せっかくなので、暗くなるまで……踊って、歌って、遊びましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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