この世界では存外超能力がありふれています (水代)
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『僕』

 

 

 ――――――――少し昔の話をしよう。

 

 

 

 眠い。

 

 一年前もきっと僕はそんなことを考えていたはずだ。

 まるっきり成長していない、否、今となってはむしろ我慢を止めた分、劣化しているような気分すら覚えるが。

 

 高校生と言う年頃なら誰だって一度はあるのではないだろうか。

 

 日曜日に徹夜で遊んでしまい、月曜日が辛い、なんて経験。

 

 まあ僕は一度どころかほぼ毎週そんな感じなのだが。

 

 眠かった。とかく眠かった。

 

 瞼を開こうと懸命に努力をするが、けれどそれは夢の中の話。

 脳はそのまま至福の二度寝を始めようと意識を暗転させていき。

 

 pipipipipipipipipipipipipi

 

 けたたましい目覚ましの音が自室中に鳴り響く。

 再び浮上した意識。けれど強烈な眠気に体は動かない。

 

 うっすらと瞼を開けば、太陽はすでに空高く浮き上がってきており、窓のカーテンの隙間から差し込んできた陽光が僕の視界を眩く照らす。

 あー、だとか、うーだとか。ゾンビのようなうめき声を上げながら、もぞもぞと布団の中で蠢く。

 体をひっくり返し、うつ伏せになる。そのままもぞもぞと這いずるように体を動かしながら手を伸ばし。

 

 かつん、と目覚まし時計に指先が当たり、けれどそのままの勢いで目覚まし時計が倒れる。

 

 けたたましい電子音に頭を痛めながら、手を伸ばし…………けれどそこで力尽きる。

 あと一歩の距離。それが縮まらない永遠の距離にも思えた。

 

 面倒くさい、気怠い。

 

 今から布団から抜け出して、目覚まし時計を止めて、着替えて学校に。そう考えれば考えるほど、相反する思いが沸きだし、心の重みとなって僕を布団に縫いとめる。

 

 ぼんやりとした目で未だに鳴りやまない目覚まし時計を見る。

 

 ちっく、たっく、と時計の針は正確に時間を刻んでいく。

 

 …………まればいいのに。

 

 このまま。

 

 “時間が止まればいいのに”

 

 そう願った瞬間。

 

 けたたましい電子音が鳴りやむ。

 

 微睡に堕ちようとする意識を縫いとめるものが無くなった瞬間、一気に沸き出た睡魔に襲われ……………………。

 

 

 目を覚ます。

 霞がかった意識の中で、ふと眠る直前のことを思い出して…………。

 がばり、と布団から勢い良く起き上がる。

 

 完全に遅刻だ!!

 

 二度寝してしまった事実に背筋が凍る。

 

 今何時だ!?

 

 そんな疑問に目覚まし時計を見やり。

 

 瞬間。

 

 pipipipipipipipipipipipipi

 

 けたたましい電子音が()()鳴りだす。

 

 ……………………?

 

 時間を見る。目覚まし時計の針は先ほど二度寝する直前と同じ時刻を差していた。

 

 

 * * *

 

 

 あまりにもくだらないのだが。

 まあ切欠と呼ばれるものがあるのならば、きっとソレだったのだろう。

 超能力、そうとでも呼ぶべき不思議な力を僕が手に入れたのは。

 

 超能力…………人によっては魔法とか呼び方は色々あるのだが。

 

 とにかく、普通じゃあり得ないような不可思議な能力の総称として僕は使っている。

 本来の意味での超能力は意外と枠が狭いので当てはまらないが、この呼び方を気に入っている超能力者は存外多い。

 

 そう、この世界には超能力者と呼ばれる超能力を扱う存在が多くいる。

 

 僕自身、超能力に目覚めるまでそんなもの空想の産物でしかないと思っていたが。

 どうやらこの世界では存外超能力がありふれているようだった。

 

 まあつまりここから先に語られる話は、そんな僕たち超能力者のなんてことはないありふれた日常の一ページだ。

 

 異能バトルだとか、非日常への入門だとか。そんなものは一切無い。

 

 なんてことはない。結局この世界は動かしているのは超能力なんて怪しげで胡散臭いものでは無い、ただの人間である、それだけの話なのだから。

 

 ただ普通の人よりちょっと便利な力を手に入れた僕たちの詰まらなくて退屈な日常の一幕。

 

 楽しんでいただけるなら、幸いだ。

 

 

 * * *

 

 

 昔から相も変わらずけたたましい目覚まし時計の音で目を覚ます。

 布団からにゅっと手を伸ばし、目覚ましを止める。

 寝ぼけた眼で時間をみやれば、午前八時。もうあと一時間もしない内に学校が始まる。

 今から起きてすぐに登校すれば間に合うと言った程度の時間。

 

「……………………あと三時間」

 

 三時間も二度寝していたら完全に遅刻なのだが、気にせずに時計の隣に置いた()()()()()()()()()()()()()()()

 そしてそのままスタートボタンを押して。

 

 S T O P

 

「…………おやすみなさい」

 

 意識は再び眠りについた。

 

 

 目を覚ました時、タイマーの残り時間が15分となっていた。

「ふ…………ああ…………ほわあ…………」

 二度、三度と欠伸を漏らしながら、布団から起き上がる。

 時計を見やる、午前八時。今日も一日が始まる。

 

 布団を片づけ、机の上に投げられた教科書類を鞄に詰めていく。

 服を制服へと着替えると、部屋を出て一階へと降りる。

 ぼさぼさに跳ねた髪を適当に整えながら、コップ片手に薬缶を傾けて…………。

「あ、出ないんだった」

 百八十度回転させようと中身の零れない薬缶とコップを元の場所に戻し、冷蔵庫からビニールに包装された百円くらいで売ってそうなパンとジュースのペットボトルを鞄に放り込む。

 玄関で靴を履き替え、そうして玄関の扉へと手をかけて。

 

 R E S T A R T

 

 pipipipipi

 

 タイマーが鳴り響き、世界に音が戻ってくる。

 

「いってきます」

 

 扉を開くと朝日が燦然と輝いていた。

 

 時刻は八時ちょうど。

 

 今から登校すれば余裕で間に合いそうだった。

 

 

 

 




キャラ紹介

『僕』

まあいわゆる普通に勉強が嫌いで、普通にゲームが好きで、ちょっと熱中して徹夜しちゃう、普通の高校生。
能力は“時間停止”。なんかかなりすごい能力のように見えるけど、睡眠確保ぐらいにしか使われてない。携帯型のタイマーを使って意識的に能力のオンオフを作っている。


次回>>『彼女』


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『彼女』

 

 

 学校物創作あるある①学園を支配してる生徒会。

 学校物創作あるある②鉄腕シェフのいる学食。

 学校物創作あるある③学園のアイドル。

 学校物創作あるある④実態が不透明な部活。

 学校物創作あるある⑤一般生徒に開放された屋上。

 学校物創作あるある⑥覗き穴のある更衣室。

 学校物創作あるある⑦理事長の子息子女。

 学校物創作あるある⑧昼休み人が押しかけ売り切れ続出する購買のパン。

 

 以下延々と続く。

 

 

 酷く唐突ではあるが。

 僕以外の超能力者を紹介したいと思う。

 

 僕のクラスメートの女の子。上品な雰囲気で、一部ではお嬢様と呼ばれている彼女だが、実際にけっこう資産家の娘らしい。

 二年生で初めて同じクラスになったのだが、最初の印象としては綺麗な子だな、とだけ。

 まあ基本的に僕は二次元に傾倒しているわけではないが、現実の女子にそれほど幻想抱いているわけではないので(主に家族のせいで)周囲が彼女を持て囃していようとそれほど気にはならなかった。

 

 彼女を初めて深く知ったのは僕が超能力と言う存在を知ってからである。

 

 初めて彼女の言動に違和感を覚える。

 それは些細な物。日常における会話の一つ一つ、行動の一つ一つに拭いきれない違和感を覚える。

 

 余り引き伸ばすことに意味が無い故に、あらかじめ言っておいてしまおうと思う。

 

 精神干渉、それが彼女の超能力だ。

 

 と言っても、本人曰くそれほど強烈なものでは無く、軽い暗示程度。

 簡単に言えば彼女のあらゆる言動を好意的に見なされる、と言ったものだ。

 僕が覚えていた些細な違和感の正体とはつまりそれ。

 彼女が言動の中で犯した些細なミス、それが無意識で修正されていたのだろうが、超能力の発現を切欠としてそれを意識的に感じ取るようになっていたのだ。

 

 まあここまで言えば察しの良い人なら気づくかもしれない。

 

 つまり本当の彼女とは。

 

「…………面倒くさーい! もう何なのあの先生、一々こっち確認しないと喋れないの? バカなの? 死ぬの?」

 

 屋上でぐでーと体を投げ出しながら散々に先ほどまで授業をしていた教師を罵倒するのが現在この学校一のアイドルと噂されている彼女である。

 

 聞いた話によると。

 

 元々彼女の家は資産家でも何でもないただの一般家庭だったらしい。それが父親がたまたま企業で一当てして、一気に資産家の仲間入り、そして唐突に一般人からお嬢様へジョブチェンジした彼女にはそれ相応の振る舞いが求められたらしい。

 中学の時はそれなりに有名なお嬢様学校に通っていたらしいが、高校を機にこちらに一人引っ越してきたらしい。

 自由な生活っていいよねえ、とは彼女の言である。

 

 もうすぐ四月も終わり、これから夏へと移行していくシーズンではある。

 とは言え、屋上は吹き曝しになっており、あちこちから風が吹き付けてきており、それなりに冷える。

「クラスに戻らないの?」

「んー? ああ、キミかあ。もうちょっと待って、今お嬢様ぱわーじゅーてんしてるから」

 今でこそお嬢様である彼女だが、元はただのパンピー。悲しきから、三つ子の魂百まで。一度染みついたパンピー根性はそうそう簡単には覆らないのである まる

 お嬢様パワーとはつまり、彼女がこの学校でお嬢様然と振る舞うために必要な“えねるぎー”なのだ…………らしい。

 一度その正体を知られてからは、彼女もう僕の前では取り繕うことすらしなくなったからか、割と気怠げで面倒そうなその表情を見せるようになったのだが、ぶっちゃけた話、僕からすればいつものお嬢様然とした彼女より今のほうが付き合いやすいのも事実である。

「それよりキミ、パニパニはもうクリアしたの?」

「ああ、あれ? 昨日徹夜でやってきたよ、ほら」

 学生服のポケットから携帯ゲーム機を取りだし、電源を入れて画面を表示する。

 

 曰くのパニパニ、パニッシュメントパニックとは、今流行りのアクションゲームだ。

 主人公は聖職者で、グールやゾンビ、バンパイアに溢れかえった街中を探索していく。

 カソリック調の神父服を来た神父が何故か大剣片手にばったばったと亡者をなぎ倒して行ったり、弓矢を手にバンパイアにスナイピングでヘッドショット決めたり、でかいハンマーかついでグールを叩きつぶしたりと、割となんでもありなゲームだ。正直このゲームの主人公は聖職者と言う名の別の何かであると言うのがもっぱらのネットでの評判である…………小型とは言え四輪車片手で引きずって挙句投げつけるような聖職者はたしかに聖職者と言う名の別の何かだった。しかもあれシステム的には武器扱いになってるし。

 最大四人まで協力プレイもできるのだがそこまでいくとこの主人公の言う教会とは世界征服でもする気なのではないだろうかとすら思えてくるレベルで蹂躙ゲーとなる。

 

 発売前からグラフィックや操作性能で評判も上々で、僕はアクションゲーもそこそこ好きだったので買っていたのだが、彼女相当にやりこんでいたらしい。

 

「お、一通りクリアしてるね。じゃあ裏ダンジョン一緒に行こうよ」

 

 すっとスカートのポケットから同じゲーム機を取りだすあたり、やはり彼女にはお嬢様は似合わないと思う。

 

 まあそれはそれでも良いのかもしれない。

 

「裏ダンジョン…………この街ホント、どうなってるんだか」

「あはは、まあアクションゲームにそんな細かい設定求めても仕方ないよ」

「フリーアクションだからけっこう移動範囲は広いけどね、まあ中々に作りこんであるとは思ったかな。設定ぶっ飛んでるけど」

「それは私も思ったよ」

 

 楽しそうにゲームを起動する今の彼女のほうが、正直教室で見慣れている彼女より、よっぽど生き生きとしているのだから。

 

 だから、それでいいのかもしれない。

 

 

 




キャラ紹介

『彼女』

お嬢様の皮をかぶった庶民。学園物創作物あるあるの一つ、学園のアイドル。現実に存在するとは…………と思わせて、実は超能力のお蔭。
と言ってもそれほど大した能力でも無いので、根本的には彼女自身の努力の成果とも言えるのかもしれない。
本性はややダウナー。因みに主人公とはゲーム好き仲間。幼馴染がいる。


次回>>『アタシさん』


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『アタシさん』

久々にぽんこつスレ最初から読み直しで時間がどんどんキンクリされていく不思議(


 

 学校の屋上に不良がたむろしているなんて、まさかまさかそんなの漫画の世界だけの話だ、なんて割と僕も思っていた時期がありました。

 

「でよー、アタシとしちゃ、それもありかと思ったんだがな」

 

 目の前で火の着いた煙草咥えながら、壁際に座り込んで僕に語り掛けてくる一部の隙も無いほどに染め上げたブロンドの髪を揺らすクラスメートの少女の話をしようと思う。

 

 『アタシさん』、僕は単に目の前の少女のことを内心でそう呼んでいる。

 別に一人称がアタシだからと言う安直な理由ではない。そこにはそれはそれは壮大な理由があるのだ…………多分。

 

 アタシさんはいわゆる不良だ。グレている。この学校でも珍しい存在である。別にこの学校は有数の進学校と言うわけではないが、近隣で最も偏差値の高い学校であり、そこに入学している、と言うことはアタシさんの学力も一般的に考えて中々の物であると言うことは察せられる。

 と言うか聞いた話によると、実家はとんでもない名家らしく、学園のアイドルと呼ばれる『彼女』とは違い、正真正銘本物のお嬢様らしい。そのお嬢様がどうしてこんなちょっと偏差値が高いだけの普通の学校で不良やってるのか本気で疑問だったのだが、どうにも中学までは割と普通のお嬢様だったらしい。ただ中学二年生と言う世界で一番頭の悪くなる多感な時期に色々悪い影響を受けてしまい、グレてしまったらしい。

 因みにアタシさん、先ほども言った学園一のアイドルと呼ばれる『彼女』とはなんと驚くことに幼馴染らしい。彼女の“お嬢様演技”は元を正せば昔のアタシさんの真似らしい…………想像するだけで寒気が走ったので考えないことにする。

 

 そんなアタシさんと僕の出会いは、やはり『彼女』との出会いを切欠としている。

 そして意外な事実、アタシさん意外にも…………いや元お嬢様だったなら別に意外でも無いのかもしれないのだが…………可愛い物好きであり、ぽっけの中からモンスター、略してぽっけモンとか好きな人らしい。その辺でけっこう趣味があった。やはりこの年代ならゲームとかみんな好きだよなあ、なんて思いながら自宅に帰ってからも時折無線通信で対戦とかしたりする程度の仲だ。正直、アタシさんは趣味パ過ぎて戦績はほぼ一方的なのだが。

 

 不良と言う単語にはどうしても怖い、と言う印象が付き纏うものではあるのだが、アタシさんはけっこう人当たりの良い不良だ。良い不良って言う言葉が最早意味が分からない感があるが、それは置いておく。

 とにかく、理不尽なことは言わないし、沸点もそれほど低くない。不良、と言うか、不良ぶってるだけの少女、と言った感じで僕としては嫌いにはなれないタイプである。

 

「んで? 買うの?」

 ふう、と煙草を吹かしながらアタシさんが主語も無く尋ねる。

「何のこと?」

「いやいや、何言ってんのさ、夏に出るって言う新作だよ、アタシとしても対戦相手がいなくなると楽しくないからね」

「レーティングバトルでもすればいいんじゃないの?」

「ああいうのはガチパ揃えた人ばっかだしねえ、アタシみたいな趣味パは正直敷居が高いんだよ」

 そんなものなのかな、と思いつつも、本人がそう言うのならそうなのだろう。相変わらず不良ぶってる割りに微妙に小心者だ。

 

 ふう、と一本、吸い終わった煙草をぴん、と指で弾く。

 

 すると煙草が空中でふらりと一回転し…………()()()()()()()()()()()()()

 

 そして煙草の先端、火の着いていた部分がくしゃり、と宙で潰れて、そのままアタシさんが手に持っていた携帯灰皿の中へと一人手にふわりふわりと落ちてすぽりと入ると、灰皿の蓋が触れてもいないのに閉まる。

 

「相変わらず便利そうだね、その()()()は」

「いや、アンタが言う? それを」

 アタシさんの言葉に、僕は苦笑で返す。

 

 

 一般的な意味での超能力は意外と狭い範囲に定められている。

 その種類は大別して二つに分けられる。

 

 知覚、情報に関するESP。

 そして物体、物質に関するPKだ。

 両方を総称してPSIと呼んだりもするのだが。

 

 アタシさんは純粋な意味で超能力者である。

 

 ある意味『彼女』の超能力もESPに近いが、厳密には精神を操作する超能力と言うものは定義にないため、一般的な意味での超能力とは別物扱いになるのだろう、僕の時間停止など猶更だ。

 

 そんな中、アタシさんは正真正銘、一般的超能力の定義に当てはめてみても間違いなく超能力者と呼べる。

 

 分類はもう分かるだろう、念動(テレキネシス)、もしくはサイコキネシスとでも呼べば良いだろうか。

 

 分かりやすく言えば、触れることなく物体を移動させる能力だ。

 

 割とポピュラーなまさに超能力らしい超能力だが、僕が知ってる限りこれを使えるのはアタシさんだけである。

 触れることも無く遠くの物体を動かせるなんて便利な能力だと思うのだが、アタシさん曰く“便利なようで不便な能力”らしい。

 まず第一に、距離は視界内ならどこでも、ただし遠くなるほど…………正確には肉眼で見づらくなるほど精度も落ちていくらしい。因みにアタシさんの視力検査の結果はCだ。普段はコンタクトらしいが、偶に眼鏡をかけているのを見る。なんでも生まれつき視力が弱いらしい、と言っても近づければはっきりと見えるし、精々一メートルくらい離れるとぼんやりとしだす程度らしいのだが、眼鏡をかけたりした時には使えない、本当に肉眼で物を見ている時だけ発動する能力らしいので、視力が弱いのは痒いところに手が届かないようで不便らしい。

 第二に、動かせる物体の重さだが、感覚的には自分の両手で支えている感じらしい。なので自分実際に持てる重さ以上は持てない、と言う制限がある。だったら最初から自分で持てばいいだけなので、便利なのか不便なのか困る、と言うのがアタシさんの言。

 因みにもっぱら、教師から煙草を隠すのに使っているらしい。

 何と言う超能力の無駄遣い…………まあ二度寝のためだけに時間止めてる僕が言えることではない、本当に。

 

「それはそうと、いっちょやる?」

 にぃ、と笑って取りだしたるは携帯ゲーム機、この幼馴染組、当たり前のように学校に携帯ゲーム機持ってきてるけど、どうなってるんだろう。なんてまあ。

「いっちょやろっか」

 僕も持ってきてるんですけどね(笑)

 

 

 このあとガチパでめっちゃフルボッコにした。

 




キャラ紹介


『アタシさん』

不良ぶってるけど、別に本人不良になりたいわけではなく、単純に反抗期アピールで髪染めてるだけの実は不良じゃない不良風な少女。実家の両親は素直で可愛く優しい愛娘の突然の反抗に泣いて崩れ落ちた。因みに現在は親子で停戦中。
念動力とか言うくっそメジャーな超能力持ち。もう説明とかいらんだろ、ってレベルだが実際使えるかと言われると授業中に落っことした消しゴム拾うのに便利なくらいの能力。
何気に主人公って一番チートくさいよな、って思うけどあいつ二度寝の時か、遅刻しそうな時くらいしか使わんから、まあ全員五十歩百歩だよなあ、としか言えない。
グレても昔からの趣味は変わらず可愛い物好き。任天堂に怒られそうな名前のゲームとか熱中してる。


何故か一番紹介が長くなった属性てんこ盛りの少女。


次回>>『眼鏡さん』


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『眼鏡さん』

 

 

 

 週末金曜日の放課後。

 学校からの帰路、ふとひゅう、と言う風を切る音が聞こえたので見上げてみれば。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、眼鏡さん」

 空を駆ける男のいつも呼び方を口にした時、偶然にも眼鏡さんの視線をこちらを向き、視線と視線がぶつかり合う。

 少しだけ驚いたように目を丸くして、やがて柔和な笑みを浮かべると、ゆっくりと、透明な階段でも降りてくるかのような動きで降下してくる。

「やあ、今帰りかい?」

 僕の目の前に降り立った眼鏡さんが、いつもの仕草で眼鏡をきらりと光らせながら尋ねる。相変わらずのイケメンである。学生時代さぞモテただろうことは容易に予測できる。

「ええ、まあ…………眼鏡さんこそ、今日は飛んで帰ってるんですね」

 飛んで帰る、なんてそれほどに急いでいると言う場合に使われる比喩ではあるのだが、眼鏡さんの場合、文字通りの意味で“飛んで帰る”ことができる。

 

 実際には、空を直接浮遊しているのではなく、空中に足場を作る、と言った感じの能力らしいのだが、一直線に返れることもあるのだが、踏みしめているのは空気でなく空間、そこに反発は無く、足への負担も無い。故に、地上を走るよりも大分速度が出るらしく、鈍くさい軽トラ追い抜いてやったよ、とは以前の眼鏡さんの弁だったので、少なくとも時速六十キロ以上の速度は出るらしい。

 

「まあのんびり空の散歩と洒落込みたい時もあるさ…………いつもいつも全力疾走してるわけじゃないよ? あれは疲れるからね」

 

 いくら足への負担は無い、と言っても全力で体を動かしているのには間違いは無いので、あまり長時間走っているとすぐに息切れしてしまうらしい。

 

「出張先とかもこの能力で行ければ安上がりなんだけどね」

 

 残念ながら新幹線などを使うような長距離を走るほど人間止めたスタミナは持っていない、とは本人の弁。

 空の旅とはなかなかに快適そうに見えるが、風に揺られたり、雨に降られたり、時折鳥に襲われたり、中々辛い現実があるようだ。

 

 まあそれを差し引いても素晴らしい景色があるがね、とは本人の弁。

 

「けど不思議ですよね、そんなに高いところを飛んでるわけでも無いのに、どうしてみんな気づかないんだろう?」

 実際僕が気づいたのは、朝遅刻しそうな時に時間を止めて登校していたら、空中で静止している眼鏡さんをたまたま目撃してしまったから、と言うだけの理由である。

 そんな僕の言葉に眼鏡さんが意外そうな顔で見つめてくる。

「おや、知らなかったのかい?」

 何を? と目をぱちくりさせながら呟く僕に、眼鏡さんが告げる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………え?」

 呟く僕に、眼鏡さんがはっとなって何か納得したように頷く。

「ああ、そう言えばキミの能力は…………そうだね、そもそも同じ超能力者ですら気づけないのだから、知らないのも無理は無いか」

 疑問符を浮かべる僕に、眼鏡さんが説明する。

 

「人は誰しも常識と言うものを持っている。これが意外と強固でね。自身の目で見た事、聞いた事ですら、それが自身の常識とかけ離れているとその事実を認めようとしないのだよ。例えば私が空を飛んでいるところを目撃した人間と言うのは実は少なくは無い。けれど誰もそれを理解はしない。だって()()()()()()()()()()だなんてこと()()()()()()()()()()だからだ、だから大抵の人間は見間違いか、そもそも無意識的に見なかったことにして、認識を歪めようとはしない。だから超能力は同じ超能力者にしか認識できない。理由はまあ分かるね? 超能力者は超能力の存在を理解している、認識している、だからこそ今更別の超能力を見ても、それで自身の常識が崩れることは無い」

 

 そう言えば。

 

 僕自身、自身が超能力者になってから“彼女”の超能力に気づいた。眼鏡さんが超能力を得たのは何年も前の話らしいが、それまで空を飛ぶ人間の存在なんて気づきもしなかった。

 

 何よりも。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なるほど…………そう言われれば納得できる部分も多いですね」

「だろ? まあこれが絶対かと言われると誰かが研究しているわけでも無し、確定的なことは言えないのだが、私の経験則からすると、恐らくそういう事なのだろうと思っているよ」

 

 歩きながらそんな話をしていると、ふと眼鏡さんが視線と足を止める。

 

「…………どうしました?」

 視線の先へ、目を向けると一件のラーメン屋。

「美味しそうな匂いですねえ、お腹空いてきました」

「ふむ」

 ちょうど客が出てきて扉が開かれた中からはじゅーじゅーと中華鍋で炒め物をする音、とんとんとん、と野菜を刻む音が聞こえ、食欲をそそり、鼻孔をくすぐる何とも良い香りが漂ってくる。正直、学校帰りと言うのもあって小腹も空いていたので、無意識的にごくり、と唾を飲んでいた。

 

「…………ふむ、どうだい? 一緒に食事でも?」

 

 気づけば眼鏡さんが一歩、足を踏み出し、ラーメン屋へと向かう途中、こちらへと振り向きそう尋ねる。

 

「えーっと…………ちょっと待ってくださいね」

 ポケットから財布を取りだし、中身を確認する。

「…………う、あんまり無いなあ」

 男子高校生の財布の中身などスカスカなものである、そんな自身に眼鏡さんがくすりと笑い。

「なあに、一人分くらい奢ってあげるさ、さ、行こう」

 キラリと光るイケメンスマイルをこちらに投げかけながら店の中へと入っていく。

「マジっすか、ゴチです!!」

 そしてタダ飯と言う事実に軽くテンションを上げながらその後をついていく。

 

 そして。

 

 ズ、ズズズズズ…………

 

 入り口すぐ傍のカウンター席に座り、傍らに解きかけのナンバープレースを置いた、豪快にラーメンを啜る老年の男を見つけ、男もまたラーメンを咀嚼しながら振り返って。

 

「「「あ」」」

 

 三つの声が重なった。

 

 

 




キャラ紹介

『眼鏡さん』

空を飛ぶ程度の能力。眼鏡かけたイケメンさん。学生時代はきっとモテてた。
趣味は空中遊泳。あとは空の散歩(どっちも同じ)。
能力は空中を自在に飛ぶ、と言うよりは宙に踏み出した空間を足場にできる、と言う感じ。
まあその辺は感覚的なので多分本人も分かってない。


次回>>『社長さん』


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『社長さん』

 

 

「やあ、キミたちも食べに来たのかい」

 カッターシャツを押し上げ存在を主張するでぷっとしたお腹を張りながら、にこやかに笑う老年の男の人を見て、隣の眼鏡さんが目を丸くして呟く。

 

「社長」

「社長さん、お久しぶりです」

 

 眼鏡さんの隣でぺこり、と頭を下げて挨拶。

 呼び名の通り、眼鏡さんの勤務する会社の社長さんだ。

「やあ、キミも久しぶりだね…………こっちに来て一緒に食べようじゃないか」

 気さくに話しかけ、自身の隣の空席二つを指さす社長さんの誘いに頷き、眼鏡さん共々座る。

「どうだい、最近は」

 ある程度歳を取った人間の鉄板みたいな台詞を投げかけてくる社長さんに、笑っていつも通り、と返す。

「学生の日常なんて学校行って家に帰るくらいで、そんなに変わりなんて無いですよ」

「いやいや、学生時代の日常と言う物は、大人になってみると一日一日がとても大事で掛け替えの無い物だと思えるものだよ」

 はっはっは、と笑いながらサイドメニューで頼んでいたらしい餃子を一つ箸で摘まんで口の中に放る。

「うむ、美味い…………キミもどうだね?」

「あ、ゴチです」

 眼鏡さんにもラーメン奢ってもらえるし、今日は良い日かもしれない、なんて小市民根性出しながら。

 席を付き、メニューを眼鏡さんと眺めながら、これにしようかな、と決める。

「注文お願いします」

 二人であれにしようこれにしよう、これは高い、良いじゃないか、と言いあいながらメニューを決め、眼鏡さんが店員を呼んで注文をする。

「それで、お前さん」

 注文が終わり、店員が去って行ったタイミングで社長さんが眼鏡さんの肩に手を回す。

「最近中々業績上げているらしいじゃないか」

「あ、はい…………社長の薫陶のお蔭で」

「はっはっは、中々殊勝なことを言うな。だが分かるだろ、組織の至上とは結局、利益だ。そして利益など電卓一つあれば上げられる」

 

 “電卓一つあれば利益など簡単に上げられる”

 

 社長さんの座右の銘であり、実際四十代の時に突然電卓と万札一枚から企業を志し、今や地域で最大規模の中規模会社だ。そして未だに会社は成長を続けており、十年後には日本有数の会社にしてみせる、とは社長さんの言。

 そして社長さんがそこまで言える理由は…………まあ今までの流れからして分かるとは思うが。

 

 目の前の社長さんもまた、超能力者の一人。

 

 演算能力。それが社長さんの超能力の正体だ。

 

 計算が出来ることを超能力、などと言うのはおかしいようにも思えるが、社長さんのそれは常人の想像をいともたやすく超えた何かだ。

 スーパーコンピューター三台分以上の演算能力、と自身で謳っているほどであり。

 実際その力でぐんぐんと会社を成長させているのだから、その力は確かなものである。

 

 自身の知る超能力者の中で、数少ない超能力を社会で使っている人でもある。

 

 社長さんを除けば彼女か…………それとも、ツナギの人くらいだろうか。

 

「はふっはふっ」

 今現在目の前でチャーシューを頬張りながら、まだ熱の残る麺を懸命になって食べている男は、そう言う凄い人なのだが。

「まあボクには関係ないか」

「ん? 何か言ったかね?」

「ああ、いやいや、飴食べます?」

「おお、後でいただくとしよう」

 ボクにとっては何も関係ない。ただの知り合いの超能力者の一人と言うだけである。

 

 超能力者とは社会の異端だ。

 

 と言っても、別に排斥されるようなことも無いが。

 それでも眼鏡さんが超能力は超能力者にしか気づけない、と言っていた意味も何となく分かる。

 超能力者の常識と言うのは、一般の人間のそれとは異なる。

 けれど生まれついての超能力者ならともかく、ある日突然超能力者となった人間にとって、それ以前の一般人だった時の常識と言う物があり、そして超能力者としての常識もある。

 そして両方を持ち得るからこそ、自身が異端であることを無意識的にか、意識的にか、理解してしまうのだ。

 

 だからこそ、超能力者は超能力者を求める。

 

 人は独りでは生きていけないと言うが。

 

 超能力者だって、仲間が欲しい、自分が自分でいられる場所が欲しい。

 自分を認めてくれる人が欲しい、自分を隠さなくていい場所が欲しい。

 

 だからこそ、超能力者同士と言うのは自然と仲が良くなる。

 

 あれだけ他人を排斥するアタシさんがボクと彼女とは未だに話しているように。

 

 今や地域で最も大きな組織となった会社の社長さんがボクや下っ端のはずの眼鏡さんとこうして仲良くしているように。

 

 結局のところ、超能力者も人と変わりは無い。

 それでも超能力者は一般人とは確かに違う存在だ。

 

 そんな矛盾がボクたちの中にはいつだってあるのだから。

 

「それはそれとしてラーメンうめー」

「うむ、ここのはいいね…………偶に無性に食べたくなってこうして来てしまう」

「はあ…………五臓六腑に染みわたる」

「おいおい、若いもんがそんなオッサン臭いこと言ってどうする。若者はもっと心まで若くないといかんぞ?」

 

 まあそんな難しいこと、本気で考えてる人ここにはいないだろうけど、ボクを含めて。

 結局のところ、超能力者がつるむ理由なんて、気が合うから、に過ぎない。

 超能力と言う共通点のお蔭なのだろうか。

 ボクが高校生、眼鏡さんがまだ二十代の社会人、社長さんはすでに五十、六十の初老の男性だが、それでもボクたちは気が合うのだ。

 美味しいものは美味しいし、苦労なんてものは社会だけでなく学校でもある。

 

 褒め合ったり、愚痴りあったり。

 

 そんな人として極当たりまえの人付き合いをボクたちはしているに過ぎない。

 

「並べて世はことも無し、ってね」

 

 なんてどこかで聞いたような台詞を呟きつつも。

 

 内心の台詞は、あーラーメンうめー、であった。

 

 




キャラ紹介

『社長さん』

超演算能力。ただの演算能力なら誰でもあるので、明確な違いとして超を付け足すと凄そうに見える。スパコン三台分の演算能力と言っているが、実際それがどれくらい凄いのか誰も分からない。だってスパコンとか見た事もないし。
ちょっと珍しいが能力に代償が必要。正確には頭脳をフル回転させる能力であって、頭脳自体を強化してるわけでもないので、能力を使うと相応に疲労し、糖分が欲しくなる。
そんなこんなでせっせと糖分摂取しながら会社のために能力使いまくってたら見事に太ったでっぷりとしたお腹が特徴…………あれ、ビール腹じゃないんだぜ。尚頭が馬鹿になると言う理由で酒は飲まないし、煙草もしない人。
趣味はナンバープレース。昔は能力の練習のためにやっていたが、今は能力を使わず頭の体操程度のつもりでやっている。

次回>>『ギンさん』


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『ギンさん』

 

『最近腹がもたれていけねえや』

「銀さんも大変だねえ」

『昔はオレも肉っ気が大好きだったんだが…………この歳になるともうなあ』

 

 犬である。

 

 何が、と言われれば今目の前にいる彼のことだ。

 

『飼い主の嬢ちゃんは未だに俺が肉大好きだと思ってるからなあ、いや、愛されてるのは分かるんだぜ? ヒトサマの世界じゃ肉ってのは決して安いもんじゃねえのに、それでもせっせと毎日オレっちのために用意してくれてるんだ、そりゃあ、ありがたい、とも思うし、愛されてて嬉しい、と思う、でもなあ…………』

 

 はあ、とため息一つ。

 

『オレも歳なんだよ…………もう若くねえんだ、肉もいい加減食い飽きたし、そろそろ普通のドッグフードとか食いてえなあ』

「贅沢な悩みだねえ」

 

 言語能力、と言うのか…………むしろ意思伝達能力。

 まあいわゆるテレパシー。それが目の前のお犬様の超能力だ。

 

 …………ん? 犬が超能力者ってどういうことかって?

 

 別に超能力は人間に限定されたことではない、と言うことだ。

 そも超能力とボクたちが呼んでいるのは通常の物理的法則をぶっ飛んで無視したような()()()()()()の総称であって、それが人間に限定されているなんて言ったことも無い。

 まあ自身も初めて会った時は割と驚きもしたが、今となってはそう言うものとして考えている。

 

「ドッグフードねー…………買ってこようか?」

『お、本当か?! って、言いたいところだが遠慮しとくわ』

「あらら、どうして?」

『嬢ちゃんがなあ…………食べ残したりしたら大騒ぎするんだわ』

「あー」

 

 思わずその光景が想像できてしまい、納得の声を上げる。

 このお犬様…………銀さんの飼い主の少女(小学生)の銀さんに対する溺愛振りを見ていると、確かにそう言った些細な変化でもすぐに気づいて騒ぎ出しそうな気がする。

 子供が生まれたなら犬を飼いなさい、と言う言葉…………どこかの国の慣用句、いや、ことわざだったかな? と言うものがあるらしいが、まさにそれだ。

 

『イギリスだ、イギリス…………イギリスのことわざだよ』

 呆れたような声を自身の心に直接叩き込みながら銀さんが続ける。

 

 子供が生まれたら犬を飼いなさい

 子供が赤ん坊の時、

 子供の良き守り手となるでしよう。

 子供が幼少期の時、

 子供の良き遊び相手となるでしょう。

 子供が少年期の時、

 子供の良き理解者となるでしょう。

 そして子供が青年になった時、

 自らの死をもって子供に命の尊さを教えるでしょう。

 

『嬢ちゃんもそろそろ少女って歳だしな、俺のお役目も少なくって来たぜ…………っへ』

「お役目ご苦労様です、後は最後の一つだけですね」

 相変わらず博識な犬である。下手すると自身よりも知識量が豊富かもしれないと言う謎過ぎる犬である。

『死なねえよ、まだ死なねえから、オレっちまだまだ生きるから』

「いや、でも銀さんが生まれたのあの子が生まれたのとほとんど同じ時期でしょ? てことは十年は経ってるじゃないの?」

『十年かそこらで犬が死ぬか!』

「いや、十年あれば普通死ぬんじゃないかなあ」

 生憎自身は犬を飼ったことが無いが、それでも犬の寿命は十年かそこらだったはずだが。

『オレは嬢ちゃんが嫁に行くまで生き続けるに決まってるだろうが!』

「いやいや、あと何年生きるつもりだよ、もう妖怪だよそれ」

『超能力なんざ持ってんだ、今更妖怪くらいで何を言ってやがる』

「…………なるほど」

 妙に納得した。

 

 まあ確かに超能力なんて()()()()()と言われるものが存在しているのだから、妖怪だって存在するのかもしれな…………い…………?

 

『いいか? オレを年寄り扱いするな!』

 

 この歳になると、と最初に言っていたのは何だったんだろう。

 ところで多分、威嚇のつもりでこちらを睨んでるんだろうけど、銀さんの犬種チワワだから全然怖くない。と言うかむしろ可愛い。

 

「よしよし」

『てやんでぇ! 気安く撫でてんじゃねえぞ! こちとら狼の子孫でぇい!』

 

 テレパシーだとこんな感じだけど、実際に漏れ出る声がくぅーんくぅーん、と切なそうなので愛らしさ倍増である。

「ところで銀さんの祖先狼なの?」

 猟犬ならともかく、チワワとかってそんなイメージ無いけどどうなんだろう、と思い尋ねてみるが。

 

『え…………あ…………う、うーん? い、いや、た、多分? いや、狼、狼だから!』

 

 自信なさげなので恐らく適当言ったと思われる。

『うるせえ! 良いんだよ、狼だよ、犬なんだから、きっと!』

 そんなことを言いつつ目はウルウルしてる銀さんマジラブリー。

 

「ぎーんちゃーん!」

 

 と、そんな時、後ろから投げかけられる声。

 振り返れば、そこに小学生くらいの女の子がいて。

 学校帰りだろうか、ランドセルを背負っている。

 

「ぎんちゃん!」

「キャンキャン!」

『お嬢! 帰ったのか、学校どうだった? 苛められてないか? 帰り道で怪我は?』

「あはは、ぎんちゃんくすぐったいよ」

 少女の姿が見えた瞬間、まっしぐら走っていき少女の頬を舐めるお犬様とくすぐったそうに笑みを浮かべる少女…………尊い。

「あ、そーだ! 今日もお母さんからいっぱいお肉もらってくるからね、待ってて!」

「きゃうーん…………きゃう」

『お嬢そのことなんだがな…………実はオレ、もうお肉は…………』

「元気無くなっちゃった…………お肉が待ち遠しいのかな? 今日は山盛にしてもらうね?」

「きゃん! きゃんきゃん! きゃうーん!!」

『違うのお嬢、お嬢聞いて! お願いだから! 逆だから、減らして!』

「あはは、銀ちゃんはしゃいでる、そんなにお肉が嬉しいんだね、すぐ持ってくるから良い子で待っててね?」

「きゃいーん! きゃうーん!」

『違うんだお嬢、お嬢、おじょおおおおおおおお!!!?』

 

 感動的だあ。思わず涙がホロリ。

 

「ところで銀さん」

『あ? なんだよ』

「ボクって猫派なんだけど、猫って可愛いと思わない?」

『知らねえよ!!!!!』

 

 

 




キャラ紹介

『銀さん』

お犬様。現在十歳くらい。職業自宅警備員兼愛玩動物。飼い主の少女にデレデレの人間換算四十か五十くらいのオッサン。意思伝達能力を持っている。いわゆるテレパシー。ただ超能力のせいかのか、それとも単純に年齢のお蔭か、人並みの思考と理性を持っている。それをひっくるめ、言語能力と言ったほうが正しいんじゃないか、とボクに言われている。
飼い主から与えられる餌が肉一択のせいで、最近胃がもたれてきてるのが悩み。


次回>>『オタちゃん』


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『オタちゃん』

 拳を振るうたびに男の拳は血で染まっていく。

 女の顔面を、なんてこの世界においてそんな生易しい道理は通用しない。

 出会えば殺す、ただ殴り、蹴り、投げ、締め、相手の息の根を止める。

 弱肉強食、勝てば官軍で、負ければ賊軍。

 強き者が富み、弱き者は奪われる。

 

 無法の世界ディートリート。

 

 ボクたちは、この世界で生きている。

 

 

 ――――というのがこのゲームのストーリーというか、世界観みたいなものらしいが、まあ格ゲーにそんな詳細な設定必要ない。

 

「よっし! 必殺技いけええええ!!!」

「甘いし」

「って避けた?!」

「カウンター一閃、これで私の勝ちだし」

「甘いのはお前だあ!」

「なっ、カウンタークロス! カウンターにカウンターを合わせた?!」

 

 がちゃがちゃと今となっては珍しいアーケードコントローラーを鳴らしながら二人並んで白熱する。

 

「でもまだやられてないし」

「追撃! 追撃!」

「だが当たらない、きりっ」

「あ、くっそ、ちょん避けされた、シューティングじゃないんだぞ」

「リーチの把握とか当然だし」

「僕はお前ほど遊んでないんだよ! 一日中引きこもりやがってこのニート!」

「それ言ったら戦争! それ言ったら戦争だし!」

 

 放つ牽制の一撃、だがそれを上手くかわした女が僕の操作する男を掴み。

 

「やばっ」

 

 呟いた瞬間。

 

 S T O P

 

「あ、やば」

 コマンド入力に焦って思わず超能力が発動してしてしまう。

 超能力は物理現象と違って明確な法則、というかルールが存在しない。

 だから発動は任意で、意識一つ…………今の僕のように時には意識の有無すらなく発動することもある。

 だからまあ、いつも意識的に発動する時はストップウォッチを使ってオンオフを作るように心がけているのだが、焦ったり、余裕がなかったりすると無意識で発動することが未だにある。

 

「まあそれはそれとして利用はするけどね」

 

 呟きながらコマンドを入力。この状況で入力したコマンドは文字通り、能力解除をした一瞬の内に読み込まれ。

 

  R E S T A R T

 

「ってあああああああああああああ?! 一瞬で超難度コンボ決められたしいいいいいい?!」

 二、三秒で十六個のコマンドを順番通りに入力することで発動する凶悪コンボが見事に女へと決まり、女の体力ゲージが一瞬で真っ赤に染まる。

「まだ! まだ行けるし!」

 空中で錐揉みする女キャラが地面へと叩きつけられる、HPは完全に0でこれで決着、そう思った瞬間。

 

 ぱちん、と音が鳴った。

 

 直後、完全に真っ赤に染まっていた女のHPゲージがぎゅいんぎゅいんと緑に塗りつぶされていき。

「って! チートじゃねえか!!!」

()()()()()コマンド入力した人に言われたく無いし!」

 ぎゃーぎゃーわーわーと、騒ぎながらそうして二人して超能力解禁。

 結局、タイムアップになるまで決着はつかず。

 

「…………はあー、疲れた」

「だから、超能力は無しって言ったのに」

「わざとじゃないし」

「でも使ったし」

 

 二人してぐったりとしたままソファに沈み込む。

 僕の膝に頭をのっけて伸びをする少女に、こら、と声を上げる。

 

「寝るなら自分の部屋で寝ろって」

「やだしー、私まだここで遊ぶ」

「自分の部屋でも一日中遊んでるくせに、そんなんだからオタちゃんなんだよ」

 

 オタちゃん。勿論本名じゃない、僕が勝手にそう呼んでるだけ。

 色白、というか色素が完全に抜け落ちた白い肌と赤い瞳。先天性色素欠乏症。アルビノという言い方が一番通りが良いだろうか。

 僕がどちらかというと父親似なのに対して母親に似たのか、()()()とは思えないくらい造形の良い顔をしている。

 まあだからこそ、人目を惹くのだろう、良い意味でも、悪い意味でも。

 とにかく美少女だ。兄の贔屓目を差し引いても、否定しようのない美少女だ。妹だからそれほど萌えないけど。他人が一度目にすれば忘れられなくなるくらいの美少女である。

 そんな美少女がアルビノという特徴を加えて、この日本の学校に通っていれば…………まあわかるだろう。

 

 異端は排斥される。

 

 一般人に超能力が理解されないように、オタちゃんは小学校という和の中で異端だった。

 排斥され、けれど小学生の少女に過ぎなかった妹はそうして逃げ出した。

 父も、母も、僕も、けれどそれで良いと思った。

 辛いなら、苦しいなら、痛いなら、無理に通う必要もない。

 異端であろうとなんであろうと、両親からすれば可愛い娘で、僕からすればたった一人の大切な妹だ。

 だからそれから数年、部屋に籠ったままでも何も言わなかったし、学年が中学になって部屋から出てきた時には迎え入れた。

 学校に行く勇気は…………まだ無いようだが、それでも家の中だけならば普通に出歩くようになったのは、一つの成長だろうと思う。

 

「あにぃ」

「何?」

「おやすみ」

「って、こら、寝るな!」

 

 十四にもなって未だに距離感が小学生並みなのは、人付き合いに慣れてないせいだろうか。

 いい加減、思春期なんだし、僕との距離を取るのかと思えば、全く変わらない距離感にどこかほっとしてしまっている僕も相当なシスコンなのかもしれないが。

 

「ったく…………昨日またネットに潜ってたの?」

「うん、チャットでおしゃべりしたり、生放送見学行ったりしてた、あとね、アニメ再放送ようつべでやってたから見たり、ゲームしたりとか」

「随分とやってるなあ」

 

 ああ、それとあと一つ。

 

()()()()()ってどんな気分?」

「んー? なんていうか…………お風呂に使ってるような、水槽の中を潜るような、変な気分」

 

 妹も超能力者である。

 電子操作系能力、と自称しているが、要するに人型ハッキングプログラムである。

 とは言っても犯罪になるようなことはしてない、というかする勇気も無い、らしいが。

 まあそこは僕も似たようなものだ、時間を止める力があっても、それを悪用するほどの勇気も無い。

 似たもの兄妹と言われればそうかもしれない。

 使用用途ももっぱらベッドで寝ながら『意識だけをネットに潜らせる』とか『ゲームをハッキングしてキャラクターのHPを回復させたり』とかそんなのばっかりだ。

 因みに、だからこそオタちゃんとゲームをする時は互いに超能力禁止にしている。

 こう言ってはなんだが、なんでもあり、となると本当に決着がつかなくなるからだ。

 

「そういえばさ…………オタちゃんって、いつから超能力使えるようになってたの?」

 

 ふとした疑問が頭に過る。僕は高校生になってから、だった。

 だからオタちゃんの()()に気づいたのも、割と最近だ。

 少なくとも、僕が超能力者になった時にはすでにオタちゃんは超能力者だったのだろう。

 じゃあ、一体いつから?

 少なくとも小学生の時にはそんな様子は見受けられなかった。

 数年引きこもっている期間があるので、そこだろうか、と予想しながら妹へと問いかけて。

 

「……………………すう…………すう」

 

 ふと聞こえた寝息に視線を落とすと、妹が僕の膝の上で寝ていた。

 

「…………………………はあ」

 

 だから人の膝の上で寝るなと。

 嘆息一つ、それから。

 

「…………おやすみ、妹ちゃん」

 

 呟いて、その頭をそっと撫でた。

 

 




キャラ紹介

『オタちゃん』

14歳自宅警備員。一日中家どころか部屋に篭って出てこない少女。僕の妹らしい。電子操作系能力者。
電子空間にアクセスし、操作できる。簡単に言うと、人間ハッキングプログラム。兄と同じで平穏大好き人間…………というか軽くビビリなのであまり危険なことはしない…………オンラインゲームの確率操作くらいはしてるが。徹夜明けはテンションが高くなる。この辺よく似た兄妹である。
滅多に見かけないが、一度見たら忘れられないくらい印象的らしいアルビノ系美少女。
因みに、ゲーム中毒と言う共通点があるので兄妹中はこの年頃としては信じられないくらい良い。ただしゲーム中に超能力使ったら互いにキレる。
あと手先が器用で特に機械弄りが得意。さらに自身の超能力を使うことで、他人の超能力を受けない電子機器へと改造もできる。僕の持つタイマーは彼女の作ったもの。


次回>>『キョロちゃん』


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