オレだけなんか世界観が違う (ろくす)
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本編
一人ヨルムンガンドとはオレのこと
生まれは日本、だったはずだが、医師として紛争地帯に向かう両親について行ったらキャンプにテロリストが現れた。
現地の子供たちと一緒に半ば洗脳されながら育って気がつけば少年兵に。
人を殺すことが当たり前になった頃に助けられたのは実に14歳のころ。
日本人ということが判明して、日本に連れて行かれるも人生の殆どを紛争地帯で生きた俺にはあまりにも似合わない世界で。
銃がないと眠れない俺はどんどん衰弱していって、やはり狼の子供は人の世界で生きられないのかと思われた、そんなときボーダーという存在を知った。
そして、前世を思い出してカサついた口を動かした。
「……オレだけ世界観ちがくね?」
やはり、馴染んだ重さは良い。
重さを調整してもらった銃型のトリガーに思わずニヤけてしまう。
「やっぱこれだよなぁ~」
周りからちょっと距離を置かれている気がするが気にしてはならない。
今のオレのメンタルはスーパーアーマー状態だ。
念願のボーダーに入れたのだから。
ボーダーに入るというのは当初は大反対された。
だが、ワールドトリガーという漫画の大ファンだったオレが、死にかけの俺を押しのけて行動したことにより生きる気力を取り戻した。
日本語すらぼんやりとして反応しなかったのに、突然流暢に喋り出してボーダーについて聞きまくるオレはちょっとおかしい位だったと思う。
でも、嬉しくて嬉しくて仕方なかったのだ。
やる気の無かった勉強もガンバって、手放さなかった銃と同じくらいの重さの鉄の塊も夜以外は部屋の隅に置いた。
偶然ながらもトリオンに恵まれたオレは、適性試験にパスした。
生の活力に溢れたオレは、ついに三門市に来た。
流石にボーダーに入っても監視は付くし、定期的にレポートも出さなくてはならないし健康診断という名のカウンセリングも無くならない。
劇的に変わりすぎて多重人格も疑われていたから、診察は気を抜けない。
どう考えても世界観違う一人ヨルムンガンドみたいなオレが、なんでボーダーに入れたのかというと、大人の事情も絡んでくる。
現在保護者の居ないオレの立ち位置は宙ぶらりんだ。
政府は日本人の子供がテロリストの兵として人を殺していたなんて公表するわけもいかないので、まだ公的にオレは存在しないものになっている。
てかキャンプにテロリスト来た時点で両親と一緒に死んだことになってるし。
死んでる扱いは狼の子供としてマスコミから追いかけられるような生活にならなくてすむので、オレも助かるから文句はない。
そんな存在しない人間の置き場に困っていた政府は、ボーダー本部から侵入禁止区域の間から一歩も出ない、という約束でボーダーに入隊させてくれた。
銃がなくてすっかり滅入っていた俺も、ワートリファンのオレも大喜び。
ついでに政府も一安心。
winwinである。
とまあ俺とオレ、と区別してみるもはっきりと分かたれていたのは思い出した直後のみで、気がつけば混じり合い一つになっていった。
銃に固執する俺も、ボーダーに固執するオレもおんなじだ。
まだまだC級だけど、B級になればより自分に適したトリガーにカスタマイズできる。
相棒を取り戻すためにも、原作を体感するためにも頑張らなくてはならない。
今がどの時期か正確には解らないが、オリエンテーションで生嵐山隊を見れたので原作付近に違いない。
テンション爆上げで手を振ったら振り返してくれた。
嵐山さんかっけー。
惚れ惚れするような説明を聞いていくうちにポイントの説明が始まった。
多めのトリオン含めても初期ポイントは1000だった。
ランク戦で上げていかないといつまでもC級のままだろう。
そしてお約束の対ネイバー戦闘訓練が始まった。
これで小さいとか言ってたけどバムスターのでかさにびっくりした。
遊真みたいに1秒切ってどや顔したかったが、とうてい無理だった。
3バカ以下の1分30秒でがっくりした。
けど、その後生緑川を見れたので全て良しとした。
どうやらオレに転生オリ主の才能は無いらしい。
隠密行動と探知追跡は昔取った杵柄で上位に付けた、と思う。
訓練が終わったらポイントは1062ポイント。
果てしなく微妙である。
同期の輝ける星、緑川君は他の訓練でもバリバリ活躍。
ランク戦の部屋に入ったのを確認すると即行でオレも入った。
ミーハーと言われようとも知らん。
速やかに養分になって、ついでに握手してもらって満足だ。
ちょっと引いてた気もするけど、実に充実したボーダーライフである。
新しい相棒を試すためにも、その後もランク戦を続けた。
随分勝手が違うため戸惑うことも多かったが、銃というものにそれなりに親しんできたからか勝ち越すことができた。
もっと続けたかったがあまり入り浸っているとカウンセリングにぶち込まれる可能性があるので程々にして引き上げた。
程々にしないといけない。
でも、できるなら大規模侵攻の時はB級で居たいので頑張る。
とりあえず対人戦をしなければいいだろうと仮想訓練室に入った。
目指せ一秒切り。
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バムスター強くね??
すっかり読み専になってました。
キャラはまだまだろくにでてきません。
バムスター強くね??
一週間たった時点でのオレの現状である。
いや、だって人間と違って銃ぶっぱなしただけでは死なないんだよ??
体積が大きいから、銃型トリガーでの一撃もパチンコみたいなものだし。
銃型トリガーは弧月やスコーピオンと違って線での攻撃ができないから、どこかを狙って集中攻撃をするしかない。
が、オレはぶっちゃけ精密射撃なんてできない。
同じ場所なんて意図して狙うものではなく、とにかく当てて、相手を弱らせるための射撃しかしてこなかったからだ。
という訳で、今のオレのバムスター攻略法はとにかく撃ちまくって蜂の巣にするしかない。
まことにトリオンの無駄である。
威力の高い合成弾を使えれば解決するかもしれないが、まだC級の新人である。
なんとかして精密射撃を覚える手段はないかと頭を悩ませているのが現状だった。
みんな一体どうやってバムスター倒してるんだよ……。
期待のエース緑川くんに聞こうにもスコーピオンだしな。
というかもうB級上がっちゃったし。
同期には微妙に遠巻きにされてるし、質問しようにも相手がいない。
いや、友達がいない言い訳をすると向こうでの生活が長くて日に焼けて微妙に外人っぽく見えるせいなのだ。
ワートリはオレの覚えている限り色黒キャラなんて居なかったから、現代に一人だけヤマンバギャルが居るみたいな浮き方をしている。
外見のせいなのでオレがコミュ障な訳ではない。ほんとに。
木虎とか最初は銃型トリガーだったんだよな?
それで10秒切ってたんなら是非とも指導いただきたいが名も無きモブであるオレは木虎に会う機会などない。サイン欲しい。
「うーむ」
そうだ、大人に聞いてみるか。
オレの事情を知っていて、わざわざ重さだけでも相棒と同じにしてくれたエンジニアのおじさんに聞いてみた。
以下、抜粋。
「君はどうにもトリガーを現実の銃とイコールで考えている節がある。重さを君の言う通りに増やしてしまったのは失敗だったと心底思うよ」
「いいかね、トリガーは現実の銃とは全く違うものだ」
「精密射撃が出来ないなどと言っていたね。しかしトリガー自体のアシストで、練習すればするほど精密射撃が出来るようになるはずなのになぜ無駄に照準をばら蒔くのか」
「君はトリガーの利点を全て潰すような使い方をしているのだよ」
「いいかね、トリガーは銃ではない。ネイバーを倒すための武器なのだ」
「ネイバーを相手にするためにはまず、君自身の意識の変革が必要になるんだ」
「そんな調子じゃまたカウンセリング呼ばれてしまうぞ」
この間ため息をつかれること計13回。
けちょんけちょんである。
でも、正論だった。
そうだった、ここはヨルムンガンドの世界ではなかった。
よく分からない不思議パワーであるトリオンを使って戦う近未来SF系の世界だったのだ。
バムスターの全身に100発打ち込むよりも、10発同じ場所を攻撃して倒す方が効率がいい。
練習すれば精密射撃もできるようになる不思議な武器を持っているのだ、わざわざ狙いをばらまく必要なんてない。
オレは本当に頭が固かったんだと実感した。
「オレが持っているこのトリガーは、銃じゃない。ネイバーを倒して、みんなを守るためのものなんだ」
キリッ。
決まった。
見られてるかもわからない監視カメラにむかってアピール。
そして意識を入れ換えたオレは、訓練に励んだ。
バムスターを10秒で倒せるようになった。
ついでに対人戦も頑張った。
ろくに話す友達も居ないからってちょっと調子のりすぎていた。
勝てるのが嬉しくて対人しまくって気が付いたらB級の昇格ポイントがたまっていた。
オレは偉い人に呼び出された……。
カウンセリングコース一直線だった……。
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勘違いものかなにかなのかこれ
感想貰うと本当に嬉しいんですが返信とかした方が良いのか悩みます。
何も面白いこと言えないし。
とりあえず、感想とか評価とかありがとうございます。
偉い人に呼び出されたオレ。
カウンセリングを覚悟して扉を開けたら、何だか方向性が違ったらしい。
そうだよね、B級になったらチーム組めるよね。
オレの扱い困るよね知ってた。
公 認 ボ ッ チ キ タ
真っ白な部屋のなか、原作キャラとの出会いの可能性が霞のように消えていくのが見えた気がした。
だってコミュ障だからランク戦とか以外で誰かとまともに話せる気がしない。
いや、戦ったからって話せるとは限らないけど。
「……はい」
悲しい。
露骨に凹んでみせたら、原作では見てない良い人そうなおじさんが慌ててフォローしてくれた。
「もちろん永遠に禁止という訳ではない。君がB級でチームに加われる実力をつけたと判断したらこちらからチームを紹介する」
「どれくらいやったら実力がついたってことになるんですか」
食い気味にそう聞いたら、少し困ったような顔になるおじさん。
いい人そうだから困らせる罪悪感が……。
「どうやら君は最近ランク戦に偏っているようだから、ネイバーの討伐数で判断しよう。防衛任務はもちろん個人ではなくどこかのチームに都度都度参加して行う」
「防衛任務やっていいんですか!」
じゃ、なくて!やっぱカウンセリング一歩手前だったじゃないんですかー!
これめっちゃ心配されてたやつだ。
銃握ってハイになっちまったんじゃないか心配されてたに違いない。
最近ランク戦ばかりやっててすみません……。
でも、気になる言葉があったので更に質問する。
「どこかのチームと?」
「まずは個人技ではなくチームでの戦いと言うものをしっかり身につけるんだ」
「はい、わかりました」
原作キャラとの出会いの可能性キタ!
敵として戦うよりも、一緒に戦う方が仲良くなれそうだし良いんじゃないか!?
生駒旋空見たい!防衛任務なら他の支部の人も来るかもしれないから生小南先輩とかも見れるのでは?!
いや、レイジさんが見たい!
天羽氏とかは防衛任務とかやってなさそうだけど、B級のメンバーとなら会えるかもしれない。
基地から出られない為、ランク戦とバムスタータイムアタック以外には過去のランク戦の映像を見るくらいしか娯楽がないので最近のから遡っているオレに死角はない。
話したことないけどB級以上の人は作中でモブ扱いの人ですら顔と名前を一致させられる。
上位陣はトリガーの構成も言える。
くくく……ボーダーオタクとはオレのことだ。
あんまりニヤニヤしていたら不審に思われたらしい。
「やけに嬉しそうだな」
「はい、嬉しいです」
「チームを組むことを禁止した側が言うのもなんだが、不満はないのかい?」
「いいえ。チームを組めないのは残念ですが、色んな人と一緒に戦えるのが嬉しくて」
「……そうか」
目指せ、原作キャラサイン帳コンプリート。
ちなみに今のところ埋まっているのは鬼怒田さんとごり押しした緑川くんだけである。
「辛い境遇の君に、更に孤独を強いるような決定だと思っていたが、そう言ってくれると喜ばしいことだ」
「……オレ、別に辛い境遇とか、思ってないんですけどね」
なんだか勘違いをされているような気がする。
勘違いものか何かなのかこれ。
だって、今生きているだけで儲けもんなのだ。
同時期に洗脳されてた子供とかがボロボロ死んでいく中生き残れたし、今は平和な日本にいるし、暖かい湯船に浸かることができる。
ボーダーに来たいという願いも叶えてもらえた。
飼い殺しか孤児院か悲劇の少年(笑)のどれかだと思っていたので、今が幸せすぎて夢みたいだ。
オレがどれだけワートリのファンだったか語りだしたら一日終わるのは間違いないぞ。
「ボーダー来れてよかったと思っています。ここの人はみんな優しいし、ご飯が美味しい。トリガーがあると安心するし、オレにもなんか出来るんじゃないかって気になる」
と、ここまで言ってから更に勘違いされそうなことを言ったことに気付いた。
あ、やばい、え○えっちけーで感動系のドキュメンタリーとかにされそうなこと言った今。
案の定、おじさんは目頭を押さえていかにも健気で純真な少年(笑)を見るような目でオレを見てる。
や、やめてくれー!オレの良心が……。
これもう何言っても健気(笑)な方向に勘違いされるパターンだ。
勘違いものは本人が気付かないから成立するんだよ!
勘違いされてることに気付いてるのに訂正できないと良心と羞恥心が苛まれる……。
「え、えっともうなにもないなら戻ります!」
もはやここまで来たら三十六計逃げるに限る。
失礼は承知だが、オレはニホンノブンカに疎いので仕方ない。
ゆっくりとドアが閉じきった時、ほっと息を吐いた。
思ったよりもずっと良い子だった。
暗い過去があるのに、それを全く感じさせず、誰かと協力して戦えることに喜ぶような子。
そんな子でも警戒をしなくてはならないのが組織というものだった。
大人になってからというもの、どうしてもこういった事が起きる。
「せめて、このサイドエフェクトさえ無ければな……」
前もって渡されていた資料に書かれたサイドエフェクトは、純真な少年に対して気を緩めるなと戒めるように存在した。
【対人戦闘】
そのサイドエフェクトは本来、ネイバーと戦う上では全く必要のないものだった。
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小さくて高性能なクールガイ
嬉しくて遅筆なのに頑張ってます。
サイドエフェクトについては後程。
ついに、ついにやって来たぞ防衛任務!
前もって伝えられていた同伴させてもらうチームはなんとあの風間隊!
ボーダーからの信頼の厚い、小さくて高性能なクールガイ風間隊長が率いる個性的なメンバー。
特別扱い最高!危険視上等!全ては風間さんと菊地原さんと歌川さんのサインのために!
風間さんの初登場はワートリ初期で、遊真のブラックトリガーを奪いに来た時、申し訳ないが当時のオレは実力派エリートの噛ませとしか見ていなかった。
その後25戦してトリオンに縛りのない状態とはいえ、修にスラスターオンされた姿からやはり噛ませかと思われたが、全てを覆した大規模侵攻でのあの戦いである。
チームとしての強さ、司令塔としての強さ、冷静な指揮に今まで噛ませかと思って申し訳ありませんと土下座ものだった。
そしてそんな風間さんのチームの大黒柱菊地原さん!
聴覚強化という一見地味なサイドエフェクトながら、風間さんの戦術のもと輝く姿。
実は聴覚よりも優れているのではないかと個人的に思う観察眼も合わさって、菊地原さんという人がただサイドエフェクトだけの男ではないことを証明している。
でも、風間隊は二人だけではダメなのだ。
歌川さんが居なくては!
どこか私情を挟まず淡々とした人のように見える風間さんと、聴覚で知ってしまった不信感からか毒舌が目立つ菊地原さんをA級に押し上げたのは歌川さんに違いない。
本誌で目立つシーンはあまりないが、まずそもそも菊地原さんと付き合える人が貴重で、かつ風間隊としての実力も兼ね備えているとなるといかにすごい人か解るだろう。
そんな3人が合わさったことにより、A級3位の風間隊はあるのだ!
テンションが可笑しいのは仕方ないな!
同伴チームを教えてもらった三日前からエア風間隊と戦うトレーニングを重ね、いかに自然にサインを貰うかばかり考えていた。
「回り込んで……素早く!」
市街地の塀から飛び出してカメレオンを解くと狙いを合わせ引き金を引く。
周囲を警戒していた矢代くん(本誌未登場。オレと同じくチームにまだ入っていない)は慌ててこちらを振り返るが、時既に遅し。
ほぼ同時に連続して着弾したオレの弾が、苦し紛れの片手でのシールドを撃ち抜いてトリオン器官を破壊した。
……どうにかこんな感じでサインを貰えないだろうか。
相手がベイルアウトしていくのを見ながらそう思った。
なーんて、思っていたよたしかに。
でも現実は非情である。
「あ、今日はよろしくお願いします!」
どもらなかったオレを誉めてくれ……。
集合場所に30分前についてそわそわしていたら、実際に風間隊の皆さんが来たときにはもう緊張マックスで、エア風間隊の皆さんと繰り返したウィットに富んだ小粋な挨拶ができなかった。
「風間だ。今日はよろしく頼む」
「歌川だ。初めての防衛任務みたいだけどそんな緊張するなよ」
「……菊地原です」
サインなんて頼める空気じゃないよ!
でも歌川さんありがとうございます。
先日貰ったばかりのB級用のトリガーを握りしめる手が痛い。
わずかばかりの沈黙に勇気を出して、サインを頼もうとした瞬間門が開いた。
なんでこうタイミング悪いんだよー!
「まずは俺たちの動きを見ていろ」
「はい!風間さん!」
言われなくてもよろこんで見させていただきます!
現れたネイバーはバムスター(真)。
やはり本物は訓練で戦うものより大きく、威圧感が強い。
本来風間さん達なら個人でも容易く撃破できる敵だが、オレに見せるためにわざわざ3人で攻撃をしに行った。
「自分の仲間の位置を常に把握しろ。個人ではなく、チームで戦うということを忘れるな」
「はい!」
「焦って攻撃をする必要はない。無駄な隙を生むだけだ。お前がダメなら仲間に任せることも必要だ」
風間さんがそう言った瞬間、菊地原さんがバムスターの後ろに回り込んだ。
背後はバムスターの形からして、一番隙の多い箇所だ。
風間さんと歌川さんがバムスターの注意を引いているうちに、菊地原さんはスコーピオンを勢いよく振り下ろした。
お手本のような連携だった。
初心者のオレのために、まず一番大切なことを教えてくれた風間さんは流石の貫禄である。
「お疲れさまです、皆さんホントに息がピッタリで凄かったです!」
「……別にこれくらい普通にできて当然」
「はい!菊地原さんサインください!」
「えっ」
「風間さんと歌川さんも是非お願いします!」
「……今の聞いてた?」
「はい!」
「戦闘中だ、終わってからにしろ」
「あっ、そうだった。浮かれてすみません」
チーム戦の初歩にテンション上がりすぎなオレに冷静な指摘をしてくれた菊地原さん。
流石です!菊地原さん!とか思ってたら欲望が溢れて語尾についてた。
あまりに脈絡がないからか、一瞬引かれたのが解ったけど勢いで風間さんと歌川さんにもお願いしたが、気を引き締める風間さんの言葉に慌ててサイン帳をひっこめた。
撃破されても死なないからって気を抜きすぎていた。
「次は菊地原の立ち位置をやってもらう。自分の役割は解るか」
「仲間が引き付けてくれている間に背後から攻撃、ですね」
「そうだ。奇襲役は仲間の作ったチャンスを無駄にしないように冷静に行動する必要がある」
「頑張ります」
囮は命懸けだからな。
起動して相棒の姿そっくりになった銃型トリガーを握りしめる。
「来たぞ」
再度現れたバムスターに散開する。
今度は正面に風間さんと菊地原さん、両サイドにオレと歌川さんの立ち位置だ。
バムスターが菊地原さんに向かって巨大な口を向けた瞬間、オレと反対側の歌川さんがスコーピオンで牽制した。
回り込んで………素早く!
アステロイドで中心辺りの繋ぎ目を狙う。
連続して放たれた弾は、ほぼ同じ場所に降り注ぎ厚い装甲を突破した。
ランク戦の時ほどうまく出来なかったが、バムスターが振り返るほどの余裕は与えなかった。
実戦は緊張する……。
「オッケーこの調子で行こうぜ」
「よくやった。次からはメンバーのポジションを交換していくぞ」
「はい!」
オレ、今憧れの人たちと一緒に戦ってるんだなぁ。
みっともないとこ見せないように頑張らなくては!
張り切って戦って、戦闘が終わったらまずは一番嫌がりそうな菊地原さんからと用意していたサイン張とペンを差し出す。
「お願いします!」
ごり押した。
コミュ障とは人と喋れない人のことを指す言葉ではなく、話が通じなくて空気が読めないやつのことも言う。
後に、菊地原さんはそう語ったそうだ。
意外にもあっさりと書いてくれた風間さんと、「なんか照れるな」と良いながら書いてくれた歌川さん(字が綺麗)と、ごり押して書いてもらった菊地原さんのサインは感涙ものである。
風間隊のメンバーのサインをコンプリートしてるのなんて世界でオレだけではないだろうか。
でも菊地原さんからは露骨に距離をとられているのは自業自得なので、できれば挽回したい。
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普通だからこそ、異常
気の効いたことは言えませんので月並みな表現になりますが、とてもうれしいのです。
「君に特別任務を任せる」
「複雑な生い立ちの子でね、彼本人は至って普通の少年なんだが警戒を怠ることはできない」
「彼がトリガーを手にした後、おかしな行動に出ないか念のため様子を見てくれ」
そう言って渡された資料に書いてあるのは、現代日本において異質としか言い様のない経歴だった。
少年兵、孤児、対人間でしか発動が確認されないサイドエフェクトと経歴から推察される命のやり取りをしていたであろう経験。
ボーダーにも孤児なら居るが、人間と戦う事が目的ではないこの組織において対象はあまりに浮いている。
資料の限りだと、そういった過去を匂わせるのは眠るときのみで、普段は至って普通の少年という異常さがまたおかしいのだ。
日本で暮らしていた期間を考えると、あまりに普通すぎる。
普通だからこそ、異常。
ボーダーに対して異様な興味を持ち、一日のほとんどを仮想戦闘室や個人ランク戦に費やし、それ以外はランク戦の記録を見ている。
強くなることに貪欲な姿勢と、本人の経歴に警戒せざるを得ない。
詳しい資料は風間のみに公開されたもので、隊のメンバーにはあくまで監視の必要があることだけを伝えるように言われた。
無いとは思うが、彼の経歴が漏れると厄介なことになるので箝口令を敷かせてもらう、とのことだった。
接触の切っ掛けとして与えられた防衛任務で様子を見る必要がある。
「あ、今日はよろしくお願いします!」
資料の通り、普通だった。
途中、妙なテンションでサインをねだってきたがまだ普通の範囲だと思われる。
微妙に監視対象に肩入れしているようにも見えた責任者に、チームを組ませてやれないので、代わりにチーム戦というものを教えてやってくれとも言われていた。
そのため監視ついでに初歩の初歩からやっていったが、飲み込みが早い。
というよりは経験があるのだろう。
姿を隠しての射撃や、乱戦での立ち回りや危機からの離脱は手慣れたものだった。
対人間でしか発動しないサイドエフェクトは、ネイバーに対しては発動しないようだがB級昇格直後にしては悪くない動きをしている。
押しの強さに菊地原は若干苦手そうだったが、楽しそうに歌川と会話する様子からして性格にも大きな問題はないようだ。
本当にごく普通のB級隊員だった。
この分では、防衛任務中に何か有ることはないだろう。
そう判断してからは監視の目を緩めて、いつも通りの防衛任務を行った。
「今日はありがとうございました!」
「初の防衛任務、お疲れ様」
「……やっと終わった」
「よかったらこの後打ち上げでも行くか?」
面倒見がいい歌川からしたら、目を輝かせながらついてくるのは満更でもなかったのかもしれない。
先輩風を吹かせて誘っていた。
「あー……すっごく!本当にすっごく!行きたいんですけど、オレまだB級昇格の手続きとか残ってて……」
「なら仕方ないな、菊地原この前言ってた店行くぞー」
「えー……」
本当に残念がっているのが伝わってくる姿に仕方ないと割りきったのか、歌川は菊地原に絡みに行った。
そういえば行動制限がかかっていたか。
ボーダー本部から立ち入り禁止区域までが行動範囲とか。
浮かれてはいるが立場は弁えているようだ。
初対面でサインをねだってきたり、言葉の端々から感じるファンっぷりから誘いを断ったことが意外だったのか、菊地原の目線がチラリと向けられていた。
当の本人はサイン帳を見てニヤニヤしていたのですぐに反らされたが。
初の接触ということもあり報告があるので後から合流することを告げ、歌川と菊地原と別れた。
報告の為、前もって決められていた部屋に入室すると責任者は既に先に来ていたようだった。
「君から見てどうだったかね」
「至って普通、という認識です。防衛任務中もおかしなそぶりは無く、市外から来たボーダー隊員のような高揚感はありましたがネイバーに対しても強い感情は無さそうでした」
「そうか……念のため、引き続き無理のない範囲で監視を頼む」
「はい」
ほっとしたような顔をしていた。
今後の防衛任務のスケジュールを聞き帰路についた。
途中、ランク戦の対戦室を覗いてみると先程別れたばかりの顔がB級昇格手続きとやらをしているのが見えた。
そんな調子ではボロが出るのが早いことを注意しておくかと様子を見ていると、防衛任務との違いが明確に現れる。
明らかに動きが違うのだ。
相手の後ろに回り込むのにかかるスピードも、対戦相手に接近されたときの回避も何もかも。
これが対人戦闘のサイドエフェクトかと納得すると同時に上層部の危機感も理解した。
対戦相手の顔面にアステロイドの雨を打ち込んで勝利したのを確認した後、対戦室から出てくるのを待つ。
「げっ」
「以降B級の昇格手続きとやらをするときはもっとタイミングに気を付けろ」
「すっ、すみません!この事はどうか内密に……!打ち上げが嫌だったとかじゃないんです!本当に!!」
地に頭をすり付ける勢いで謝罪してくる。
事情を知らない第三者ではなくて幸運だったなと思う。
「勘違いされるような言動は避けた方が良い」
「はい!本当にすみませんでした!」
このままだと土下座をする勢いだったので一言だけ言って離れた。
あと、口止め料として断腸の思いだろうと鬼怒田さんのサインを渡そうとするのはやめた方が良いだろう。
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オレだって、自分の怪しさに気付いていない訳ではないのだ。
多くの方に見ていただけている実感に、私一人で書いているものではないのだと切実に感じております。
あと、大した変化ではありませんが、風間隊のサインを貰うシーンに修正が入っています。
読まなくても問題ないです。
今日は一日、大人しく勉強をしようと思う。
いやー、ボーダーに来てから浮かれすぎてて勉強とかを全くしていなかったことを思い出すのに凄く時間がかかった。
いつも面倒見てくれてるおじさんに、「そういえば勉強の調子はどうだい?」って聞かれて真っ青になったからね。
ボーダーに来る許可を貰うために必死で勉強して、読み書きは年相応レベルになった、ということにしたので勉強用のテキストを貰っていたんだった。
学習用の映像つきで。
いきなり高度な内容はできないだろうと判断されてるから、簡単な算数と国語しかないけど。
あと、精神的なケアが目的なのか絵日記。
仮にも15歳に絵日記。
絵日記とか、小学校の夏休みの最終日に一日で仕上げるものだったから毎日書く習慣なんて欠片もなかった。
算数は掛け算割り算レベルだからすぐに終わるけど、国語が難題だ。
こういう時に、解ってはいたけど、やっぱオレっておかしくなったんだなーと実感する。
こう、どうでもいい登場人物の心を想像して書くっていう作業が思ったより苦痛だった。
いや、待てよ……この登場人物をボーダーのみんなに当てはめたらどうだ?
手袋を買いに行く、子狐な千佳ちゃん……。
修に助けて貰って恩を返しに来る木虎……あっこれツンデレなやかましい鶴だからだめだ。
今は昔、竹取りの修といふものありけり……って、とりあえずいい人そうな役を修にするのやめようぜ。
しかしいける、いけるぞ!
オレの中の妄想力が火を吹くぜ!!
まぁ最近ランク戦とかばっかりで、心配されていただろうから今日は大人しくする意味を込めて一日勉強三昧でいこう。
オレだって、自分の怪しさに気付いていない訳ではないのだ。
無闇に心配かけて、ここを追い出されないように普通になるぞー!
×月○日
ボーダーに来れた。
ボーダーの存在を知ってから、ずっと来たいと思っていたのでとてもうれしい。
ご飯も美味しい。
(ご飯らしき絵)
◇月△日
トリガーを貰った。
重くしてくれたおじさんありがとう
トリオン体は身体がとても軽かった。
ずっとこうならいいのにと思った。
テレビで見た、嵐山さんを見た。
手をふったら、ふりかえしてくれた。
(宇宙人にしか見えない何かが片手をあげている絵)
×月×日
バムスター強い
(恐らくバムスターと思われる絵)
☆月○日
緑川くんにサインをもらった。
緑川くんはすごく強い。
近付かれて何もできないうちに負けてしまう。
すごい人なのでサインをもらった。
これからすごい人のサインを集めようと思った。
(緑川のサインを真似したとおぼしき字)
△月○日
鬼怒田さんはすごい。
ボーダーのすごいものはだいたい鬼怒田さんが作ったらしい。
トリガーを作ってくれてありがとうとお礼をいった。
(鬼怒田さんのサインを真似したとおぼしき字)
■月△日
ランク戦のこつが解ってきた気がした。
優しいおじさんのアドバイスのおかげだ。
(かなり崩れた筆記体のサインらしきものを真似した線がのたくっている)
△月◎日
B級に昇格した
トリガーのこうせいとか、ずっと考えてた。
チームを組んで戦うのもやってみたい。
(トリガーらしき絵)
▼月×日
風間さん菊地原さん歌川さん凄かった。
息がピッタリだった。
あんなチームを組んでみたい。
(風間隊のサインらしき字)
○月□日
今日は二宮さん、犬飼さん、辻さんと一緒に防衛任務をした。
二宮さんにはサインをもらえなかった
ポケットから一度も手を出してなかった
隊服がかっこよかった
(二宮隊の隊服らしき絵と犬飼、辻のサインらしき字)
くくく……課題をクリアすると同時に、無害さとチーム組みたい願望、そして二宮隊の隊服のオサレさをアピールする策士っぷりである。
解ってはいたが絵心はない。
一応、戦争体験をした子供の描いた絵みたいにならないように気を付けたつもりだ。
文字もあまり流暢だと怪しいだろうから適度に下手くそに書いたし、完璧だな。
国語と算数の課題はあまり一度にやると不審に思われるだろうからそこそこやって止めておいた。
さて、やることが無くなったぞ。
「暇……」
ボーダーに来る前から趣味らしい趣味がなかったからな。
強いていうならトリガーを使った戦闘か、ボーダー観察が趣味だ。
今の相棒はオレが手入れをする必要はないし、本当にすることがない。
スマホ欲しいなー。
パソコンでも可。
ジャンプでもいい。
まぁそんなもの持たせてもらえるわけないんですけどねー。
使えるはずがないし。
一人○×ゲームとか虚しすぎだよ……。
暇すぎてこないだ会った二宮隊の皆さんを思い出すくらいしかすることがない。
二宮さんマジやばかったなぁ。
スーツ似合いすぎ。
ポケットインかっこよすぎ。
サインねだったとき見事にシカトされたので、結局犬飼さんと辻さんの分しか貰えなかった。
犬飼さんは相棒と似たタイプの銃型トリガーだったからつい話が弾んだ。
ワートリでは飄々とした食えないキャラだったから、ちょっと苦手なタイプかと思ってたけどそんなことなかった。
防衛任務終わった後バムスター滑り台で遊んで、お互い3秒で飽きた。
辻さんは凄いクールだった。
神(作者)が言っていた、女性に弱いところを見てみたかったが男しかいなかったので見れなかったのが残念だ。
サインは今まで貰ったサインの中で一番サインっぽかった。
実は練習とかしてたのかと疑ってしまった。
最初は風間隊で、次が二宮隊とはまぁ、警戒されてるなぁという感想しかわかないが。
サイン集めにはちょうど良い。
A級の隊員なんて、なかなかサインもらえないだろうし。
ワートリキャラサインコンプリートで難易度が高そうな人はまだまだ居るが、次はある意味で一番難易度の高そうな太刀川隊との防衛任務だ。
気合いを入れてやらないとな。
ボーダー観察はオレの生き甲斐だ。
ここに来れて、ホントによかったなー!
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A級一位パネェ
「お前と唯我はあっちな。こっちはオレで、そっちは出水担当で」
「ええーっ!?」
「唯我のお守り頼むぞー新人!」
「こ、個人戦はボクの得意分野では……」
「大丈夫大丈夫、風間さんから聞いたけど、そこの新人くんお前よりは全然強いらしいから」
「なんかあったら呼べよー。間に合えば助けてやるから」
「ぜ、絶対ですよ!」
「うわぁ……」
漫画でよく見たデフォルメ顔のA級一位パネェ。
言うだけ言って本当に立ち去っていった。
取り残された唯我さんにおそるおそる声をかける。
「あ、あのー……」
「っ!」
オレがいることを思い出したのか、まだ青ざめているがキリッとした顔を作ると声高々に自己紹介をしてくれた。
「ボクはA級一位の太刀川隊のガンナー唯我尊だ。平たく言うと、君の先輩に当たる。敬意をもって唯我先輩と呼ぶように」
「はい、唯我先輩」
「素直だな……よし、行くぞ!」
「はい、後でサイン下さい!」
「さ、サイン!?君はもしやボクのファンなのか!?」
「はい!」
「フッフッフ……そんなに欲しいなら仕方ない。サインの一つ二つ書いてやろうじゃないか!!」
驚きのチョロさである。
なんというか、こうまで完璧に裏がないとわかると安心する。
太刀川隊の愛されキャラなだけあるな。
いや、でも本当に良いキャラしてると思うよ唯我先輩。
太刀川隊の扱いとか考えると、根性のないボンボンならとっくにやめてそうなのにやめる気がないとか。
お金持ちなのにわざわざ自らボーダーに来る辺り、もしかしたら正義感も強いのではないだろうか。
ランク戦では取りやすいポイント扱いされているだろうに、それでも折れないメンタルは純粋に尊敬する。
いつか本誌で大活躍をする日が……来るかもしれない。
でも、流石に指揮1の人の指示を聞くのは怖いし、読み切りの中のそっくりさんのこともあるので誘導しながら戦おうと思う。
あそこまで低いグラフだと、逆に細かい値を覚えちゃうよねっていう。
なんて考えていたらゲートが開く前兆が見えた。
「あっ、来ましたね」
「ここは先輩のボクが華麗に……」
「撃ちまーす」
「……」
バムスターが二体同時に現れたので、近い方にいるバムスターに向けて攻撃した。
トリガーのアシストのおかげできっちりとバムスターの口の中を撃ち抜けた。
防衛任務3回目となると、流石に大きさにもなれる。
こちらがガンナー2人のため、風間さん達と練習したような囮戦法は必要がないし、負ける要素はないなぁ。
油断をしないように気を引き締めていかなくては。
まぁ距離を保ちながら一方的に攻撃ができるのでモールモッドが3体以上とか、余程の事がない限り危機に陥ることはないだろう。
太刀川さんも出水さんも何だかんだ唯我先輩を放っておくような人ではないだろうし。
「よ、よし!残り一体だ!」
心なしかオレの半歩後ろにいる唯我先輩が言ったけど、動く様子はない。
これもオレがやる系?
まぁ問題ないけど。
ネイバーの討伐数でチームを考えてくれるって言ってたしね!
あれ、むしろ効率が良いのでは??
「どんどんいきましょー!」
「あ、あぁ……」
結論、うまかったです。
また唯我先輩と一緒に防衛任務したいなー。
途中、モールモッドが3体出てきたので2体をオレ、一体を唯我先輩がさばいたがなんとかお互い無傷である。
太刀川さんと出水さんの名前を呼んで半泣きになってる唯我先輩を横目に戦っていたので、申し訳ないが吹き出しそうになった。
ギャグキャラは癒しである。
「お疲れー自力でトリオン兵倒したか唯我?」
「失礼な!ちゃんとボクもモールモッドを一人で倒しましたよ!」
「へー、全部任せっきりじゃなかったのか」
出水さんに弄られている唯我さんと、いつものことのように流している太刀川さん。
サインをねだるには、今しかない!
「唯我先輩!太刀川さん!出水さん!よかったらなんですけど、サイン下さい!」
「そういえば約束をしていたな。心の広い先輩のボクに感謝するんだな!」
「あ、新人くん意外とそーゆータイプ?唯我のサインとかマジでか」
「彼はボクのファンなんですよ!」
「芸人としての?」
「違います!!」
この調子ならサインを貰えそうだ。
最初に唯我さんと約束をしていてよかった。
サイン帳とペンを準備していると、ずっと黙っていた太刀川さんが口を開いた。
「ランク戦でお前がオレに一撃でも入れたらやるよ」
……………へっ?
「あっ、自分のファンじゃないからってランク戦で憂さ晴らしをするつもりですね!そうはさせませんよ!ボクのファンはボクが守る!」
「はいはい調子のんなー。しかし、太刀川さんがそんなこと言うなんて珍しいな」
「ぐちゃぐちゃ言われたこと色々考えるの面倒になった。戦ってみれば解るだろ」
こんな展開、流石に想定してなかったなー……。
てか、太刀川さんのサイン貰えないのが確定したんだけど泣いても良いだろうか。
本誌で今一つ強そうに見えないとか思っててすみません。
大規模侵攻ではラービットとイルガーを破壊するシーンのが印象強くて、ハイレインやヴィザみたいな強キャラ感があまりなくて……。
でも過去の対戦ログからしてオレなんかが一撃入れるなんて地球が太陽を100回回っても無理なんだよ!
超強かったしかっこよかった!
ボーダー来てから評価が上がった人の筆頭は太刀川さんなんだよ!サイン欲しいです!
「じゃ、戻るぞ」
「はい……」
結論から言うと、太刀川さんのサインは貰えなかった……。
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オレのサイドエフェクトに万歳
色々と思いこみの上で書いているせいでミスだらけで申し訳ありません。
提示された戦闘ログを確認し、思わず声が漏れた。
「どういうことだ……?」
「やっぱおかしいんですね」
戦闘ログを持ってきた太刀川も訝しげだった。
彼との防衛任務前に太刀川には大まかな事情は伝えていたが、まさかどの程度の驚異なのか確認するためとはいえ直接ランク戦をするとは思わなかった。
しかし、その(恐らく考えるのが面倒だという思考により行われた)ランク戦が驚きの結果を出している。
太刀川と対戦するその時、彼のサイドエフェクトは発動していなかった。
連続して出されたログの出水戦、唯我戦でも共に発動していない。
彼の、【対人戦闘】と名付けられたサイドエフェクトの効果を根底から覆す結果が出ていた。
「噂の【対人戦闘】がどれ程のものかと思えば、トリオン兵狩ってる時と大差なかったんでログ持ってきたんですけど」
「普段は発動しているときは明らかに身体能力の向上が見える。こんなこと初めてだ。……いや、初めてなのか?」
もしやと思い、彼がボーダーに入ってからの全ランク戦を確認する。
すると、僅かながら同じようにサイドエフェクトが発動していないランク戦の記録があった。
サイドエフェクトの存在について今まで本人には告げていかったが、これはもう直接確認をする必要がある。
立場の難しい彼のためにも、ボーダーのためにも明らかにしなくてはならない。
太刀川を帰すと備え付けの内線で彼の部屋に繋がる番号を打ち込んだ。
鬼怒田さんに呼び出されて、何事かと思えばなんとオレにもサイドエフェクトがあったらしい。
思わずはしゃいでしまい、どんなサイドエフェクトなのか食い気味に聞いてみたら非常に微妙な顔をされた。
不穏な気配である。
「……我々にも正確な内容が解らないのだ」
「えっ、何でですか?」
「今まで君のサイドエフェクトは、戦闘時のみ発動する身体強化系のサイドエフェクトだと思われていた。しかし、どうにも一部の隊員に対して発動していないようでな。そこで君に彼らに何か共通項があるか直接聞きたかったんだ」
「一部の隊員……?」
そういって示された名前は、太刀川、出水、唯我、緑川、黒江、歌川、辻、犬飼……見事に原作キャラですありがとうございます。
オレの主観では共通項がありまくりである。
だがそんなこと鬼怒田さんに言えるはずもない……。
「えーと……ちょっと解りません」
「ふむ、君の方も心当たりはないか」
「はい、すみません」
オレのサイドエフェクトって、原作キャラ以外にしか発動してないんだよな?
そういうのって何て言うサイドエフェクトになるのだろうか。
モブキラーとか?
……対モブでしか発動しないとかマジかよ……。
もし誰にでも発動するなら太刀川さんのサインが貰える可能性がミリ単位でも上がったかもしれないのに……。
今まで原作キャラと対戦するときは、必ずと言って良いほど大きな実力差があったから動きが良いとか悪いとか考えたことがないんだよな……。
なんて考えていたら、少し鬼怒田さんの表情が強ばった。
「君に辛い記憶を思い出させるのは心苦しいのだが…………サイドエフェクトがある前提で記憶を遡っても、今まで同様の事象は無かっただろうか」
あぁ、優しいなぁ。
そうだよなぁ、奥さんとお子さんのために離婚しちゃうような人だもんな。
オレなんかにも思いやりをもってくれている、本当に優しい人だ。
ワートリのキャラって、一見誤解されそうな人も本当にいい人だらけなんだよなぁ。
「別にオレは全然気にしてないのでそんな申し訳なさそうな顔しないで下さいよ。……でも、正直今まで意識していたことがなかったのでパッと思い浮かぶことはないですね……」
「そうか……急に呼び出してすまなかったな。もう戻って良いぞ」
気にしないで良いと言ったけど、鬼怒田さんは気にしているようだった。
最後に何か不便はないかと聞かれたが、特に無いので満足していることだけ伝えて部屋に戻った。
……しかし、もしかしての話であるが、オレが今まで生きてこれたのはこのサイドエフェクトのおかげかもしれないのか。
そう思うと、何だか嬉しくなってくる。
オレも案外生きようとしていたのかー。
人生どうなるか解らないから結構刹那主義だったと思ってたんだけどな。
結果、なんだかんだで生きてたおかげでボーダー来れたし原作で見れなかったファン垂涎モノのシーンも沢山見れた。
これはもしや、オレのサイドエフェクトに万歳?
そうそう、原作といえば、こないだの入隊式では修らしきメガネも居たし、今のうちに沢山ランク戦して鍛えておかなくては。
大規模侵攻までにはA級並み……とは言わないが、アフト勢に瞬殺されないくらいにはなりたい。
それまでにサインも出来るだけ集めておきたいな。
太刀川さんのサイン欲しすぎるので、今度ボーダー内部で見かけたらもう一回お願いしてみよう。
遠征がいつからなのか解らないから早めに行動するぞ。
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偶然のターニングポイント
感想、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。
皆さん鋭くてドキドキする反面、書き手冥利につきます。
三雲修は新人ボーダー隊員である。
まだボーダー本部に来た回数も数えるほどで、ボーダー内にそこまで仲の良い友人は居ない。
つまるところ、現在絶体絶命のピンチである。
「…………迷った」
どこを見渡しても同じような白い床に白い壁だった。
初めて食堂に行って食事をし、そのボリュームと味に満足し、いざ戻ろうと一歩踏み出したところでまず間違っていたらしい。
似たような内装が続くためか、間違いに気づくのが致命的に遅くなってしまった。
段々と人気がなくなり、かつ明確に見覚えがない景色が現れ始めたときは流石に焦った。
誰かに道を聞こうにも、近くに誰も居ない場所に来てしまったようで声をかけることすらできない。
ここは左手の法則を信じて帰るしか……!と覚悟を決めた瞬間、真横のドアが開いた。
どう見ても新人が来てはいけないエリアにいる自覚があるので、上層部の人であろうと素直に謝って道を教えてもらおうとした。
「すみません!迷いました!」
「へ……?」
間の抜けた声に勢いよく下げた頭を上げると、意外にも同じ年頃の少年が立っていた。
「オレの部屋の前で何してんの、お……メガネくん」
困ったように笑う人は笑顔は、状況がつかめていないからだろうか少しひきつっていた。
C級の白い隊服ではないことからB級以上と思われる。
目につくものといえば、これからランク戦でもしようと思っていたのか、右腕に起動済みの銃型トリガーを抱えている事くらいだろうか。
よく日に焼けた肌と口端からのぞく八重歯からか、どこか人懐っこそうな印象を受けた。
以前ランク戦の対戦室で見かけた、ピリピリして怖そうな隊員と比べたら大分親しみやすい。
状況を説明すれば道を教えて貰えるかもしれない、そう思って素直に説明した。
笑われた。
「いくら迷ったって、食堂からここまで来るとか大冒険しすぎだよメガネくん」
「道案内までさせてしまって本当に申し訳ありません……」
「いーよいーよ。気にしないで。オレボーダー内部のことなら割りと詳しいから」
道を教えてもらおうと思っていたが、直接案内をしてくれるとのことで感謝の念が尽きない。
案内途中、また迷わないようにからかい混じりに目印になる場所を教えながら連れてきてくれた。
ふと、お互い自己紹介もせずに来ていることに気づいた。
「そう言えば、名前も言ってませんでしたね。三雲修です」
「三雲修ねー。おっけー覚えたよ」
「えっと、貴方の名前は……」
「オレ?……うーん…………先輩と呼ぶように!」
「えっ!?」
「後輩とか居ないから、先輩呼びされてみたかったんだよね。先輩って呼ばないと無視するからよろしく!」
「えっ!?えっ!?」
どや顔で言い切られ、思わず突っ込みたくなったが、「ほら、名前自由に決められるゲームって先輩とか君とか代名詞で呼ばれるから名前プラス先輩って邪道な気がしちゃうんだよねー」と更に意味の解らない事を言われ、あきらめた。
自分から言い出したことに関してはまともに話を聞いてくれないタイプの人だと早々に悟った。
意外と順応性の高い修はあっさりと諦めると疑問を口にした。
「先輩はボーダーに来てから長いんですか?」
「いや?半年くらいかな」
「半年でこんなにボーダーについて詳しくなれるんですね」
「個人差はあると思うよ。オレはほら、ボーダーオタクだから」
「ボーダーオタク?」
以前、そう自称するクラスメイトが居たが、同じようなものだろうか。
公開されているボーダー隊員の名前を覚えているクラスメイトのことを引き合いに質問する。
「B級以上は全員、C級はそこそこ知ってるよ。今はボーダーの人のサイン集めてるんだ」
「へぇ、凄いんですね」
「メガネくんもB級になったらサイン貰いに行くからよろしく」
「はは、現状僕の実力だとB級なんて夢のまた夢なんですけどね」
「人生何があるか解らないから、意外とあっさりB級になったりするかもよ」
「そんなまさか」
などと話している内に、見覚えのある風景が目につき始めた。
現在地からならもう自力で戻ることができそうだった。
「ここまでで大丈夫です。道を教えてくださりありがとうございました」
「どういたしましてー。もうボーダー内で迷子にならないように気を付けてな」
「ほ、本当にすみませんでした」
「オレのサイン帳の為にB級昇格目指して頑張ってな。経験の為にも最初はランク戦と仮想戦闘室での訓練あるのみだぜ」
感謝の言葉を述べながら頭を下げると、不快にならない程度のからかいが飛んでくる。
恥ずかしさから思わずもう一度頭を下げると、トリガーを抱えていない方の手をひらひらと振りながら、どこか気の抜ける応援をしてくれた。
妙な理由で名前を教えようとしない変な人だが、悪い人ではないのは解る。
道案内の傍ら、戦闘のコツを教えてくれたり、食堂のオススメのメニューを教えてくれたりと面倒見もいい人だった。
のんびりとランク戦の対戦ルームに向かう後ろ姿を見ながら、また見かけたら声をかけようかと思った。
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先輩の楽しいランク戦講座
いつもとてもはげみになっております。
そろそろあらすじを書きかえないとまずいと思うのですが、なんと書けば良いのか解らず……。
前話に引き続き、修視点です。
謎の先輩からのアドバイス通り、ランク戦や仮想訓練をしたが負けっぱなしで中々残念な結果だった。
始める前より減ったポイントに落ち込みながらも、一人反省会をしている。
「悪いとこばっかり出てくるな……」
もっと早く攻撃できれば、もっと警戒して不意打ちに対応できれば、遠距離からの攻撃に対して即座に離脱または接近ができれば……全てたらればの話ではあるが今の自分には足りないものばかりだ。
足りないことを自覚したのなら、落ち込んでばかりではなくどうやって補うかを考えなければと思えど、戦いというものに親しんできていない修には具体的な案が浮かばなかった。
「他の人の対戦を見て、参考にしよう」
できれば同じレイガスト使いの人が良い。
対戦ルームを覗いていくと、アドバイスをくれた先輩が戦っていた。
相手は弧月使いのようだ。
先輩は銃手で、ポイントは……3980。
B級になるには4000ポイント必要なはずなので、負け越している、またはメインのトリガーではないのだろう。
弧月使いの男性が斬撃を放つ。
先輩は、斬撃をやり過ごす傍ら体勢を低くすると片手を地面についた。
弧月使いの男性と、先輩の間に地面から壁がせりあがり一時的にではあるが分断された。
お互いの姿が完全に見えなくなった瞬間、弧月使いの男性は透明な足場を出して壁を乗り越えようとするが既に先輩の姿が消えた後だった。
姿が消えると同時に壁も消えたことから、遠距離からの銃撃を警戒してか壁を乗り越えるのではなく一時的な待避を選択した。
しかし読まれていたようだ。
後退したその場所にまさに先輩が身を隠しているとは思いもしなかったのだろう。
この時修は知り得なかった事だが、カメレオン起動中にそんなに早く移動できないだろうという相手の慢心もあった。
弧月使いが着地した瞬間姿を表した先輩の銃口はしっかりと定まっており、無防備な真横から銃弾の雨が降り注いだ。
不意を突かれた弧月使いの男性はそのままベイルアウトした。
もしや謎の先輩、思ったより強いのではないだろうか。
「先輩!」
「……あれ、修くんじゃん」
色々と聞きたいことがあったので、対戦ルームから出てくるところに声をかけた。
トリガーを片手にこちらに歩いてくる姿からは先ほどの戦闘の余波は感じられない。
「急にどーしたの?」
「実は、先輩にお願いがありまして……」
「オレに?」
「戦闘のアドバイスを頂けないでしょうか!」
「えっ……オレの?」
「早くB級に上がって、トリオン兵を倒せるようになりたいんです。その為に、ランク戦で勝てるようになりたくて」
「オレで良いなら、大丈夫だけど……修くん銃手?」
「あっ……」
しまった、という顔になる修に思わず苦笑い。
修にとって、現在ボーダーの中でB級に所属する知り合いは先輩しか居なかったため、思わずお願いしてしまった。
「ポジション関係ない基本のことで良いなら」
「お願いします!」
助け船を貰った修は迷わず飛び付いた。
千佳を守るには弱いままではいられないという思いが修を突き動かしていた。
とりあえず場所を移そうという話になって、食堂にやってきた。
昼時ではないのでいつもよりは疎らな空き具合に話をするにはちょうど良さそうだった。
改めて話すのが照れ臭いのか、先輩はわざとらしくコホンと咳をすると心なしか上ずった声で話始めた。
「あくまで個人的に思ってることだけどな、戦いの鉄則は絶対に正面から戦わないこと、だと思ってる」
「正面から戦わない……?」
「……例えばさ、自分と全く同じ戦闘能力の相手と戦って勝たなくてはならないときどうする?」
「それは……、相手のペースを崩したりするとかですかね」
「それもある。他にも不意を突くとか、そもそも戦わないとか戦闘に持ち込ませないとかの選択肢もあるけど、とにかく自分を相手より有利にする必要がある」
「自分を、相手より有利に……」
繰り返す修を見ると軽く頷きながら続きを話す。
「正面から戦うっていうのは、そういった選択肢をガクッと減らすものだと思ってる。特にC級同士の時とかな」
「……」
「別に卑怯でも良いんだ。勝たなきゃいけないときに勝てなくて後がなくなるよりも、どんな手を使ってでも勝って、生き残らなくちゃならない時があるかもしれない……って、普通はないけどさ」
真剣な顔で話している姿に、思わず緊張感から喉をならした。
最後は一転して明るくなるが、その何故か妙に実感のこもった言葉に笑うことはできなかった。
今は修にとって、どんな手を使ってでも生き残らなくてはならない時が来るなんて思えないが、ネイバーと戦うボーダーという組織に身を置く限り無いとは言えない。
「あー、なんか変な空気になっちゃった……とりあえず、C級で手っ取り早く勝つには相手の顔面を狙うと良いよ」
「……へ?」
「ほら、C級って、死なないって解ってても怖いと思って反射的に目をつむったりするんだよね。そこを狙ってスパッと!相手の嫌がることは率先してやってなんぼだから!」
「………………」
意外とクズ系な人なのかもしれない。
少なくとも笑顔で語る内容ではない。
片手を動かして何かを切りつけるような仕草をする先輩の人間性を疑った。
戦闘の心得が少しついたが、先輩への信頼感と好感度が若干下がった瞬間だった。
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世界が動き出した日
定期的に書くという作業が苦手な私が投げ出さないでいられるのも皆様のおかげです。
注意
今回修が原作っぽくない修です。
主人公に対して適切な扱いをしているだけなので、原作キャラに対しては原作通りの対応が基本です。
ボーダーに来て、ランク戦をしていたら先輩を見かけたので近況報告をしながらジュースを飲んでいた。
「なんか、結局先輩にお世話になってばかりですね……」
「修くんの成長見てるの楽しいからへーきへーき。何だかんだ、もうちょいでB級昇格とか凄い成長だよほんと」
「先輩のアドバイスのおかげです。…………最近同期からちょっと距離を取られてる気もしますけど……」
「すまない、修くん。言い忘れていたがオレの戦い方は友達が出来にくいという副作用があってだな……」
シリアスな空気を醸し出しながら言うと、修に心底憐れみの念を込めた眼差しを向けられた。
「だから先輩いつもボッチなんですね……」
「お、オレは孤高の一匹狼みたいなものだから……」
「孤高と一匹狼を合わせると頭痛が痛いみたいなニュアンスになりますよね」
「後輩がなんか冷たい!」
まずは顔面への攻撃で少しポイントを稼ぎ、その後また伸び悩んだ後、レイガイストなら開幕全力で四肢(出来れば手)を切り落とせというアドバイスを貰い市街地のフィールドでトリオンを使わない身の隠し方を教わり、更に少し経つとフィールドを生かした奇襲方法を教わった。
余裕があれば素手でもいいから目を狙えとか、一撃強めに入れたら最悪トリオン漏れで勝つまで逃げろとか、本当に正面から戦うということを回避しようとするアドバイスも貰った。
一体修はどこを目指しているのか。
教わっている戦術が、画一的で装甲の硬いトリオン兵に対してあまり有効ではない個人プレーばかりということにはまだ気付いていない。
「なんか修くん変わったなー。最初はなんか初々しいというか、潔癖っぽいとこあったのに」
「残念ながら朱に交われば……ということですかね」
「そういうとこだよ修くん!」
修自身、かなり馴れ馴れしい事を言っているなと思わなくもないが、どこかずれたとこのある先輩に対して内心ツッコミを入れていたら思わず声に出していたのだ。
馴れ馴れしい事を言ってしまったと青ざめる修に対して先輩も先輩で、更に真面目にボケてくるものだからついノッてしまい今に至る。
しかし先輩がボッチなのは本当である。
普段ランク戦の対戦ルームで見かけるときも厳しい目付きでトリガーを抱いて一人反省会をしているか、他の人の対戦を見ているだけで修以外の誰かと話している姿を見たことがない。
そんなボッチな先輩からアドバイスを貰っていたら、ボーダー内部の人に呼び出された時は何事かと青くなった。
保護者の目線から先輩がボッチ気味であることを気にしていたらしく、仲良くしてくれてありがとうととまで言われた事により杞憂だとはっきりしたが。
先輩が日に焼けているせいか、あまり似ていない親子だと思ったが、わざわざ修を呼び出したなんて知られると絶対に嫌われるから言わないでくれと言ってきたその人は本当に先輩のことが大切なんだなと伝わってきた。
先輩のお父さんとはその後もちょくちょく先輩について話すことがある。
「優しい後輩を持って幸せだなー……」
「優しい後輩から、先輩に感謝の品があります」
「えっなになに?!」
遠くを見る目で棒読みで誉めてきた先輩に対して、修は奥の手を切った。
現金なもので、あっさりとこちらを向く先輩はちょろい。
感謝の品、とは本当のことだ。
B級昇格まであと一歩のとこまで引き上げてくれた先輩に対しては本当に感謝している。
以前小腹がすいた時のために持ってきていた駄菓子に先輩が大興奮していたのを覚えていた修は、あまり重くならない感謝の証として某有名駄菓子のお徳用パックを持ってきていた。
修はコンポタ派なのでもちろんコンポタである。
「これ、いつもお世話になってるお礼です」
「う、うわぁー!う○い棒だ!凄い!一杯ある!」
「持ってきといて何ですが先輩本当にこういうの大好きなんですね」
「いや、だっておやつとか全然無かったんだよ!嗜好品とか酒とタバコとチョコレートはあったけどう○い棒とか無かったし!すげー!」
紙袋から取り出して先輩に渡すと、正に目の色が変わる反応を見せてくれた。
手の中のものをまじまじと見た瞬間、さっと頬が高揚からか赤くなって、小さな子供のような思わず此方も笑顔がこぼれ落ちるような笑みを形作った。
興奮しながらポロリと漏らしたボロに酒とタバコ……?と思ったが、テンションが上がりまくりの先輩に周りに大人しかいない環境で育ったのかなと無理やり自分を納得させる。
前から希にこぼす不穏な発言や人間相手に戦いなれているであろう戦術指南を受けていたので、先輩に元ヤン疑惑があったがほぼ確信してしまった。
元ヤンにしてはイイ人なんだけどなぁとしみじみと思う。
「いやほんとまじでありがとう!後輩神!」
「340円でそんなに喜ばれると何故か罪悪感が……」
「憧れだったんだよこういうの!」
「持ってきて良かったです」
「むしろオレがお礼したい」
「それ無限ループ」
どうしてもお礼がしたいと言い張る先輩に、一体何を言えばいいのだろう。
この調子では、自分が満足するまでテコでも動かないだろう。
そんな中ふと、思い付いた。
「じゃあ先輩の名前教えて下さい」
そんな日常から少しして、修のクラスに少し変わった転校生がやってきた。
念のためですが、主人公のお父さん()はボーダー内部の責任者のかたです。
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どうやら原作が始まったらしい
なんど頂いてもとても助かります。
今回は勘違いものっぽい話になってます。
また原作初期は主人公は関われない(関わらない)為どんどん飛ばしていきます。
どうやら原作が始まったらしい。
こないだ本部に来ていた修くんと少し話をしたが、まだC級なのにトリガーを使ってしまったと言っていた。
トリオン兵倒した?と聞いたら、微妙そうな顔になって倒したと言っていたから、倒せなかったんだろうなぁ。
まぁただでさえ出力の低いC級トリガーと修くんのトリオンじゃ、どんなに頑張っても本体の装甲を剥がせないだろうなぁとは思っていたが。
けど、3バカ(元祖)に絡まれたあとの筈なのに殴られた跡もなかったから、そっちは頑張ったのだろう。
こないだ訓練室でレイガスト弾き飛ばした後、拾いに行くと思ったら顔面を殴られてびびったわ。
修くんはいつの間にあんなアグレッシブな子になったのだろうか……。
今日あったボーダー総出でのラッド狩りは、危険区域内のとこだけ手伝った。
ラッドってどう考えてもヤバイよなぁ。
ラッドがばらまかれて、ラッドが開いたゲートからまたラッドがばらまかれたりしたら絶対やばい。
地雷は人が埋めなきゃ増えないけど、ラッドは勝手に自立して移動するっていうのが悪質だ。
というか、原作が始まってしまったということはもう大規模侵攻までにチームがほぼ組めないということになる。
どこかの隊に入っていれば、大規模侵攻の際に基地の外に出れるかもしれないのに一人だったらほぼ無理だ。
いや、でも結構ピンチだったしワンチャンあるのでは……?
「うーん悩ましい」
なんて考えていたら、イケボな全体通信が入った。
『反応はすべて消えた。ラッドはこれで最後のはずだ』
『みんなよくやってくれた。お疲れさん』
ラッドの残骸が詰められたゴミ袋が山積する公園に修達は居た。
あちこちで隊員達が帰りの準備を始めるなか、遊真が思わずといった様子で呟く。
「しかしホントにまにあうとは。やっぱ数の力は偉大だな」
「何言ってんだ。まにあったのはおまえとレプリカ先生のおかげだよ。おまえがボーダー隊員じゃないのが残念だ。表彰もののお手柄だぞ」
「ほう。じゃあその手柄、オサムにつけてよ。そのうち返してもらうから」
「え」
まさか自分に話が来るとは思っていなかった修は完全に固まる。
そんな修をよそに話は進んでいく。
「あーそれいいかもな。メガネくんの手柄にすればクビ取り消しは間違いない。B級昇進は……自力でできそうだけどまぁついでに貰っても損じゃないだろ」
「ま、まってください!ぼくほとんど何もしてないですよ!?」
「いいじゃんもらっとけとよ。オレの手柄がナシになっちゃうじゃん」
「このままクビになったら、守りたい子も守れないし、師匠に顔向けできなくなっちゃうぞ」
「っ……!」
修の脳裏に、一人で隠れる千佳の姿がよぎる。
他人を巻き込むことを恐れ、自らを危険に晒してでも誰かに迷惑をかけまいと振る舞う幼なじみ。
彼女を助けるには弱いままではダメだ。
千佳は弱い修には、頼ってくれない。
あとついでに先輩。
思わず言葉につまる修をじっと見つめる遊真。
「……なぁ。その師匠っていうのがオサムに戦い方教えたのか?」
「あ、あぁそうだ。戦い慣れてない人はまずは顔面を狙えとか、更に余裕があれば目を狙えとか、トリオン切れでも良いから勝てば官軍とかちょっとアレな感じだけど」
「ふーん」
修に戦い方を教えたやつが、少し気になった。
遊真に絡んできたバカどもと修が喧嘩したとき、温厚そうな修が欠片も躊躇わずに相手の顔面を殴ったことに遊真は心底驚いた。
他にも足払い、フェイント、相手の攻撃に対する回避、地面に落ちている石まで利用するその戦い方は全て実戦慣れした動きだった。
ボーダーとは人間と戦う組織ではないと聞いていたのに、何故修はこうも人間と戦いなれているのかと疑問だったが、どうやら原因はその師匠とやらにあるのではないかと漠然と思った。
「なぁオサム」
「なんだ?」
「その師匠って、ネイバー?」
「えっ!?」
そんなはず無いと言いたげな顔になる修だが、遊真は割りと本気で聞いていた。
バカどもに絡まれているときバムスターが出てきたが、トリガーの出力が足らず倒せないと判断するや否や、修は自ら囮となりボーダー組織付近まで誘導しようとした。
遊真は修とはまだ短い付き合いだがその性格はなんとなく解る。
愚直に真っ直ぐに、誰かの為に簡単に自らの命さえもかけてしまえるタイプだとたった一日の付き合いで解った。
そんな修が、自らを囮にしているとはいえ、近くにまだバカどもがいるのにバムスターを倒そうとせず、どこか消極的とも取れる行動をしたのは違和感があった。
格上相手に徹底的に正面戦闘を避け、適度な距離を持ち散発的な攻撃を繰り返す姿はまるで訓練されたゲリラ兵か何かのようだった。
どこかちぐはぐな修に、誰かの思想が見え隠れしている。
目的のためなら手段を選ばない、そんな誰かが。
「先輩は確かにちょっと頭おかしいなこの人って思うこともあるけど……でも、……」
口では否定しようと材料を探す修も、気付いてしまった。
どこか浮世離れしたところのある先輩は、少し遊真に似ている、と。
普段ランク戦の部屋で話しかけられるまで誰とも話そうとせず佇む姿や、何処にでもある駄菓子を初めて見るようにはしゃぐ姿。
仮想戦闘室での苛烈が過ぎるとすら思う訓練に、ネイバーよりも対人の方が経験豊富なのを窺わせる動きに指導。
ごくまれに見せる、非情とも言える価値観。
今まで考えたことはなかったが、まさかと思ってしまう材料はいくつもあった。
と、そこまで考えたところで修は気づいた。
「……正直思ったより否定できる要素のが少ない。でも、別にネイバーでも問題なかった」
「お、おう」
「先輩は先輩だ。ネイバーだからって今まで教わってきた時間や関係がなかったことになる訳じゃない。」
それは、そのまま目の前の遊真にも当てはまることだ。
「自分の目で見たことが正しいと、ぼくは信じてる」
実力派エリート「………」(まだいる)
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実力派エリートの危惧
そしていつもながら感想評価誤字脱字報告ありがとうございます。
今回は難産でした。
お待たせして申し訳ありません。
また、前半をちょっと加筆修正しました。
風刃を手放した帰り、迅はランク戦の対戦ルームに向かった。
案の定、彼はいつものように起動したトリガーを抱え込むように抱いたまま、床に座り込んで対戦ログを見ている。
そういうところが異質だと思われる原因なのだが、本人に自覚症状は無いのだろう。
声をかけるつもりは無かった。
良い結果にはならないことはサイドエフェクトを使わなくても解っている。
彼との出会いは、彼がボーダーにやって来た初日だった。
「はじめまして!これからよろしくお願いします!ボーダーにずっと憧れてたのでとても嬉しいです!」
ボーダーの隊員として紹介された迅も、前もって話を聞いておかなくては彼の過去を連想することなんて欠片もできないような、ごくごく普通な様子で挨拶された。
その態度にはどこにも生々しい戦争の痕跡などなく、近所を歩いていてもおかしくないと思わせるのが逆に不自然だった。
彼と顔を会わせた瞬間見えた無数の未来と傷痕から、彼が見た目通りの人間ではないことは直ぐにわかったが。
彼をどうすれば良いのか、思わず悩みたくなるその未来にその場は受け入れた。
ボーダーとしては、迅に会わせることは扱いに困る彼を受け入れて良いのか判断するための第一の関門だったのだろう。
迅は特にリアクションをしなかったからか、厳しい行動制限があるものの彼はボーダーに受け入れられた。
迅としては早期に会っておいて良かったとは思う。
しかし、彼自身はそうではなかっただろう。
普通に振る舞いながらもどこか緊張しているその姿は、迅のサイドエフェクトを知った上で何かやろうとしている人間によく見られる態度だった。
その”やろうとしていること“が予知のサイドエフェクトではっきりと知ることができないのもまた不自然だった。
彼は、迅が会ったこともない誰かが関わる未来で、何かをしようとしている。
迅ですらまだ不確定な未来を、明確に確信した上で何かをしようとするなど不自然きわまりなかった。
外部から来たばかりの人間が何故迅のサイドエフェクトを知っていて、かつ迅すら知り得ない何かを確信しているのか謎は尽きない。
そんな彼は、迅と遭遇することをいつだって警戒している。
顔を会わせれば満面の笑顔で挨拶をされるが、裏腹にその目は逃げる理由を探している。
迅からサイドエフェクトで見たものについて聞かれたくないのだろうか、少し話そうとした時も迅の言葉を遮り挨拶だけして足早に立ち去られた。
初対面の際は第三者の目があったからこそ意図して不自然なくらいに天真爛漫に振る舞おうとしていたが、迅に対しては取り繕うことすらしないその態度が際立つというものだ。
迅のサイドエフェクトは未来は見えても過去は見えないので、何故彼がそんな行動に出るのか理由を知ることはできない。
だが、未来は見ることができる。
大規模侵攻までにもう時間がなかった。
このまま彼をボーダーに置いていいのか、決断しなくてはならない。
人の命がかかった選択は、いつだって重いものだった。
「烏丸先輩……じつは、ぼく銃手になりたいと思ってるんですが……」
急な修の申し出に、訝しげな目になる烏丸。
今までレイガストで戦ってきて、自力でB昇格直前まで持ってきたのに何故今さら変更しようとするのか、真意を知りたかった。
「銃手……?銃手は自分のトリオンを弾丸にして飛ばすから攻撃手より消費が激しい。普通はトリオンに余裕があるやつがなるもんだぞ」
「それは……そうなんですが……」
「……前教わってた師匠の影響か?」
実力を把握するために仮想戦闘室で戦った後、本人の口から語られた師匠の存在が頭をよぎった。
修をこんな風にしてしまった存在に、正直あまり良い印象は無かった。
そんな烏丸の空気を何となく感じているのだろう。
説得するために、言葉を選びながらゆっくりと口を開いた。
「先輩の影響が無いかっていうと嘘になります。でも、今回の理由は違うんです」
「……何が理由なんだ?」
「ぼくが、弱いからです」
「いや、弱くはないだろう」
確かに正道から外れたところはあるが、決して弱くはないと思う。
トリオン能力の差が出やすいところでは確かに力不足を感じるが、一対一で戦ったときも搦め手を駆使して全力で倒そうとして来る頭脳と身体に刻み込まれた動きは悪くはなかった。
「でも、その程度なんです。ぼくは何度戦っても空閑みたいに小南先輩に勝てないと思います。」
「それは……」
「基本的に勝てない相手とは戦うな、が先輩の教えてくれた鉄則でした。でも、それじゃあダメなんです」
「……」
「これからは遠征のために勝てない相手とも戦わなくてはならないのに、今のままではダメだと思ったんです」
「……それで、考えた結果が銃手か」
「はい」
勝てない相手と戦う為には仲間との連携が必要だと思った。
けど、先輩に教えて貰った戦い方では、どうやっても空閑と千佳と力を合わせて戦うビジョンが浮かんでこなかった。
誰かの助けなんて有るはずがないことを前提として戦う為の方法は学んできたが、誰かを助け、助けられる戦い方は知らなかった。
力を合わせて戦うにはどうすれば良いのかについて全く考えたことがなかったことに気付いたのだ。
今まででの戦い方を捨ててでも、やるべき事があるのではないかと考えた結果がポジション変更だった。
自分だけで倒すのではなく、協力して倒す。
全て最初からスタートすることになるとしても必要なことだと思った。
「……ちょっと待ってろ。メニューを組み直す」
「はい!ありがとうございます!」
修は一歩、踏み出すことができた。
ワートリ二次の原作知識ありのオリ主の鬼門迅ニキをうまくかけずに修正しましたが、まだ解りづらかったら申し訳ありません。
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ワートリ一巻表紙の彼
描写不足が目立つ小説ですが、とりあえず完走を目的に進んでいきます。
前回の話はちょっと修正をしたので気になるかたはどうぞ。
チームを組むのを諦めたので、ランク戦三昧だ。
新しいトリガーのポイントもようやく6000を越えて大規模侵攻までにはマスタークラスになれるかもしれない、といったところ。
最近のランク戦は、モブキラーが発動しないと解っている人達と、原作ではっきりと名前や顔が出てこなかった人ーーつまりモブキラーが発動する人ーーとを意識して戦っている。
モブキラーの発動はあまり実感できなかった。
まぁボーダーに来る前から発動していたらしいので、基本的に発動しない状況に陥ることが無かったからだと思う。
どちらかというと、原作キャラと戦うときの動きの悪さが気になった。
どうやらオレはモブキラー発動状態が基準となっているせいで、原作キャラ相手にすると想定よりも遅い動きのせいで避けきれずに被弾したり、何時もより勘が働かなくなってしまうようだ。
この癖はかなり致命的だ。
大規模侵攻ではエネドラ達原作キャラとの戦闘があるかもしれないのに、認識のずれによってあっさりと倒されてしまっては意味がない。
現在そのような認識のズレを無くすために、できる限り原作キャラ優先でランク戦をしていた。
主にお願いするのは風間隊の皆さんと緑川くんだ。
約束とかしてる訳ではなくて、リアルタイムで変動するポイントを把握した上でピンポイントで挑んでるだけなんだけど。
風間隊の皆さんは遠征もあり忙しいのであまり戦えない為、最近は他の隊の人達にもランク戦してもらっている。
もちろん原作キャラ相手にはランク戦をする前にサイン帳にサインをお願いしてから戦っている。
徐々に埋まってきたサイン帳に非常に満足だ。
太刀川さんと二宮さんのサインも欲しいけど、どちらも厳しいのが残念。
修くんはなんか……仮想戦闘室で対戦しすぎてサインとか今さら言い出せないんだよな。
B級になったら貰うって言ってたし、そろそろ貰いたいけど。
なんて、考えていたら対戦の申し込みが。
アステロイドの4053点か。
…………………まさか修くん?
とりあえず了承を押す。
転送先の市街地で即座にカメレオン起動し、姿を隠したまま移動し相手を探す。
相手は待ち伏せのつもりか、バッグワームを発動させた上で背の高い建物の間に駆け込んでいった。
こちらにはまだ気付いていないようなのでラッキーと思い、とりあえず射程ギリギリまで近づこうと狭い道を一歩踏み出そうとした瞬間、何かを踏んだ。
小さな衝撃とともにほんの少し足からトリオンが漏れる。
音を聴いたのか、こちらを振り返った顔は見覚えの有る……修くんだった。
いくらなんでもオレ迂闊すぎ!あとさっきの完全にオレ対策じゃん!!
足元に超細分化したアステロイドを停滞させておいて突撃銃型トリガーの射程ギリギリに配置するとかピンポイントすぎ!
何度も仮想戦闘室で戦ったからトリガー構成も基本の動きもバレてるからオレがまずカメレオンで姿を消して接近するのも知った上でやってるよ!
修くんはレイガストを起動し、盾にしながらこちらに向かってくる。
銃手にはとにかく接近して腕を切り落とせって言ってるからね解ってるよ!
修くんはオレの足元から僅かに漏れるトリオンを目印に細い通路を縦に割るようにアステロイドで攻撃してくる。
オレに当てるためというよりも、カメレオンを解除させるためのものだろう。
もはやカメレオンの意味は無くなったので解除すると、エスクードをオレと修くんの間と、修くんの後ろ側に挟むように出した。
それによりオレと修くんはエスクードで挟まれて一時的な膠着状態になった。
乗り越えようとした瞬間にお互いに蜂の巣にされることが解ってるし、軌道がある程自由のきく射手だとしても避けられる可能性が高いのでトリオンが少ない修くんが無駄うちをしてくるとは思えない。
勝負はオレと修くんの間のエスクードを解除した瞬間だ。
今の修くんなら解除した瞬間絶対全力で攻撃してくる。
原作修くんだったらシールドとレイガストで防御する可能性もあったけど、今の修くんなら絶対攻撃してくると確信を持って言える。
なので、オレは全部のエスクードを消す、と同時に新たなエスクードを三つ出した。
二つは消したエスクードと同じ場所に。
もう一つは修くんの頭上に。
正面のエスクードにアステロイドがえげつない音をたてて当たるのを聞きながら、直ぐに動けない修くんに向かって追撃をする。
「ごめんね!」
擬似的に箱のようになったエスクードの内部にさらにエスクードを出した。
「いやー!B級昇格おめでとう修くん!」
「あ、ありがとうございます。先輩」
昇格直後にほんとごめん。
非常に申し訳ない。
情けない先輩なので話をそらさせてもらう……。
「いやー、しかし流石修くんだ。前々からただ者じゃないと思っていたけどここ最近の怒濤の展開は半端じゃないね!」
どんどん微妙そうな顔になっていく修くんが面白い。
「学校を襲ってきたネイバーを華麗に倒して、更には最近話題のイレギュラーゲート問題を解決。更に更に、あの玉狛支部に栄転!ほんのちょっととはいえ先輩として優しく指導したオレも鼻が高いよ!」
「調子のんないでください先輩。あと、どこら辺が優しかったのかぼくにも解るように説明してください」
「えっ、ほら対銃手必勝戦術とか教えてあげたじゃん」
「先輩には通用しない必勝戦術ですよねそれ。ぼくのこと何回蜂の巣にしたと思ってるんですか」
「……10回くらい?」
「一桁減らすのはサバ読みすぎです」
なんか気がついたら逆に弄られてるんだけど。
ふっ……逞しくなったな……修くんよ。
なんて、師弟(仮)のじゃれあいをしていたら、修くんの横の彼を見落としていた。
そう!ワートリ一巻表紙の彼を!見落としてすみません大ファンです!
う、うわ目があったしぬ。
「こいつがオサムの師匠なのか」
「こんな人だけど流石に初対面でこいつは可哀想だよ。こちら、ぼくのこと動く的か何かと勘違いしてる疑惑があった先輩」
「どーも。先輩です」
「……ふーん。ドーモ空閑遊真です」
つらい、まじむりしぬ。
ファン度は上から遊真>風間さん>太刀川さんなオレからしたら既に昇天寸前である。
風間さんの時は前もって準備期間があったからまだ良かったけどこんな不意討ち無理……。
遊真のサイドエフェクトのこともあるので下手なことは言えないし。
「こないだオサムが対戦した相手が、オサムがあんたの弟子だって知った途端嫌そうな顔したから気になったんだ」
「えっ、誰それ」
「緑川。知ってる?」
「あー……緑川くん。嫌われてるのか、オレ……」
そんな嫌そうな顔されるようなこと、したかなぁ?
そりゃあちょっとポイントで判断しやすいから何度も挑んだりしたような気もするけどさ……。
勝ち負けで言えば、オレが緑川くんに勝ったことなんて奇襲とか奇策とかが成功して運が絡んだときだけなのに。
「あんたの目が嫌なんじゃない?」
「えっオレの目付きキモい?」
「……キモいわけじゃないんですけど、ちょっと……」
「修くんまで!?」
「よーすけ先輩も同じ事言ってたな」
「…………この話、もうやめようぜ。へこむ……」
ショックすぎる。
嫌われるとか以前に目付きがヤバイとか純粋にショックなんだが。
普通になりたいのに。
話を切り替えたくて、修くんのトリガーについて突っ込んだ。
「そんなことより修くん。さっきのアステロイドなにあれ!超ピンポイントメタじゃん!前は使ってなかったのに!油断して普通に罠にはまったし!」
「無理矢理話を切り替えた……。えっと今までで何度も蜂の巣にしてくれた先輩にやり返したいという気持ちもありましたが、本来の目的は今後のためです」
「今後のために?」
「ぼく、チームを組んだんです」
「そっか……ボッチ卒業おめでとう!」
「はいはいありがとうございます。先輩もボッチ卒業めざして頑張ってくださいね……じゃなくて、」
原作で流れは知ってるけど、先輩は知らないからな。
嘘にならないように話を聞いておかないと、今後絶対ボロが出る。
遊真の視線が怖いが、気にしないふりで乗り切る。
「ちょっと目標が出来たので、B級昇格手前までレイガストを鍛えてくれた先輩には申し訳ないんですが仲間のために戦えるように、アステロイドをメインにしました。空閑はその仲間(隊員)です」
「青い春して頑張ってるな。先輩も草葉の影から応援してるよ!」
原作で本当に遠征チームに選ばれるかは見てないから何とも言えないけど、修くんならきっと目標達成できると思う。
オレも負けないように頑張らないとな。
その後も、なんとか嘘にならないように会話を乗り切れた、……と思う。
しかし緑川くんと戦ったってことはもう風間さんとも戦っちゃったんだろー……見たかった!
風間さんのカメレオン戦闘直接見たこと無いんだよね。
トリオン兵程度には使わないし、ランク戦は動画ばっかだし。
修くんは原作通りだったのかも気になる……。
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疑惑の先輩
少し時間が空いてしまいました。
もうすぐ大規模侵攻に移行するので、そこからはあらすじをしっかり書き直そうと思います。
今日も3バカからポイントを貰った後、対戦ルームから遊真が出ると見覚えの有る後ろ姿があった。
これといって目立つわけではないが、いつも定位置のように同じ場所に座っているのを知っているので覚えてしまった。
オサムも居ないし、無視してもよかったが少し気になることがあったので近寄って声をかけてみる。
「あんた、いつもここにいるね」
「あぁ、修くんのチームメイトの」
「なんでいつもここにいるの」
「うーん……。他にすること無いし、落ち着くから?」
「ふーん」
ぼんやりとこちらを振り返ったその顔は至って普通のものだった。
先日オサムが力試しに挑んだときのような目はしていない。
なぜいつも対戦ルームに居るのかと素朴な疑問を口にしてみると、少し悩んだ後に言われた言葉に嘘はない。
どうせならといっそ全て聞いてしまおうと、ラッド捕獲作戦のあとオサムにも聞いた質問を繰り返した。
「あんたってネイバー?」
「……へ?」
一体何を言われたか、まるで理解できないという顔だ。
この時点で遊真はサイドエフェクト抜きに先輩とやらがネイバーではないことを半ば確信した。
念のため本人の口から聞こうと思ったので話は切り上げなかったが。
「こっちの人間にしてはおかしな所が多いから」
「いやいやいや!オレネイバーじゃないよ!」
「……ふーん」
「生返事!えってかオレどこら辺がネイバーっぽい?外見おかしい!?顔やばい!?」
ネイバーについてどんなイメージを持っているのか知らないが、自分の顔や耳を確かめるように触っている様子からしてネイバーには外見的特徴があると思いこんでいるようだ。
確かに外見的特徴がある国もあるが、それは後天的なものが多く、先天的にはこちらとあちらの住人に大きな違いはないのだが……。
ネイバーじゃない、という言葉には一切嘘がなかったことからネイバーではないのは確実となった。
「外見じゃなくて、価値観がなんだか日本人っぽくないと思ったただけ」
「……あー、それはそうかも。オレちょっと前まで海外にいたから」
「海外?」
「そうそう、海外。帰国子女ってやつよ。バイリンガルだぜー!」
何故かオーバーリアクションかつ偉そうに胸を張る姿に、帰国子女とはそんな偉いものだったろうかと思う。
確かにクラスメイト達は遊真が海外から来たと嘘をついた際もなにやら凄いだのなんだの言っていたが。
日本人にとって、海外に行くことは凄いことらしい。
「海外って、命のやり取りでもするの?」
遊真の言葉に先輩とやらは、スッと目を細めた。
出会った当初からの不自然なまでの明るい態度はそのままだが、僅かに警戒が伝わってくる。
「うーん。どういう意味かな?」
こういう笑顔で隠そうとするタイプには直球が一番効くのだと経験則で知っていた遊真は、ようやく相手の本音が聞けそうだと思う。
「あんたの目的が知りたい」
オサムの師匠でなければ怪しかろうと見逃していた。
でも、この男はオサムの師匠として、比較的近い位置にいる。
迅さんが見逃しているということは大きな危害を加えないのかもしれないが、警戒心は持っておいても損はない。
目的、という言葉に困ったような顔になる先輩とやら。
「目的っていったってなぁ」
「オサムを利用する気か」
「……修くん?」
オサムという言葉に、先ほどまでの緊張が霧散した。
真剣な話の途中に急に天気について聞かれたような、まるで思いもよらないことを聞かれたといった様子だ。
「あっ、なに?修くんにオレがなんかしないか警戒してたの?なーんだそんなことないから!神に誓ってもいいよ!そもそも修くんと会った事自体偶然だから!」
と、すっかりいつも通りの調子に戻ってしまった。
しかし、遊真としては最低限の目標を達したのだから良しとする。
ひとまず本気でオサムに対して悪意や害意はないのが確認できたのだ。
後は遊真が口出しすることではないだろう。
「色々ブシツケに聞いて悪かったな」
「いやー、修くんと順調に友情を育んでるみたいで先輩は安心したよ!オレが言う必要無いだろうけど、これからも修くんをよろしくな!」
「先輩もな」
「ははっもうオレの指導なんか修くんには要らないと思うけどな」
すっかり当初の調子で笑う先輩とやらに、散々勝手に詮索した謝罪といってはなんだが、一つだけアドバイスをしようと思った。
「あんた、ずっと起動したトリガー持ってるのやめた方がいいよ。要らぬ疑いをかけられても仕方ないから」
「……えっまじ?」
「マジマジ」
「そっかー……すっかり意識してなかったわ。指摘ありがとうな」
遊真の言葉にトリガーを消した先輩とやらは、どこか収まりが悪そうだった。
しきりに腕を組んだり回したりと落ち着かない様子だ。
あんな風に、武器がないと安心できないヤツは向こうで何度か見た事がある。
平和な所で暮らしていた人間には理解できない感覚かもしれないが、彼らにとって武器がないということは丸裸で銃口を向けられているのと同じくらい恐ろしいものなのだ。
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目指せ!死者0人!
今回から大きく原作改変が入ります。
また、独自解釈もがっつり入りますので多少の矛盾はスルーできないときつい内容になっていきます。
無理だと思われた場合はお逃げください。
そろそろ大規模侵攻が始まる。
とりあえず、大規模侵攻に備えてランク戦をがっつりやり、原作の内容を思い出してイメージトレーニングをした。
まずオレは大規模侵攻が始まった時、通信室に居ることが第一目標になる。
なぜ通信室かというと、エネドラが本部に侵入してきて最初に暴れたのが通信室だからだ。
幸いオレの部屋から比較的近いので、前から何度か中が見たいとオレの担当のおじさんに言って入れて貰ったこともある。
機密に触れるからと渋っていたけど、そこで通信室の仕事に興味がある素振りを見せたら、戦闘以外に興味を出したのが初めてだとかなんとかで喜ばれ、オレのセキュリティレベルを許可さえあれば入室できるようにしてくれた。
当日も外に出してもらえないなら、邪魔しないから入れてくれとごねてみてスタンバイしておくのが一番だろう。
エネドラが来たら、原作では菊地原さんの発言に通信室の人が何人か殺されたとあったので肉盾として頑張り、死者0を目指す。
もちろん肉盾になった後もベイルアウトしない、が最低限のラインだ。
仮想戦闘室さえ入れれば、多少ガタが来ていてもベイルアウトの危険はほぼない。
そこから諏訪隊と同じように銃を乱射し弱点を探す。
オレのトリガーは合成弾しかでないように改造してもらっているので、スタアメーカーを着けなくても当たれば弱点を撃ち抜ける可能性が高いので当たればラッキーだ。
当たらなくても生来いよミスターブラックトリガーを聞いてから忍田本部長のヤンチャを目撃かーらの、菊地原さん歌川さんの連携でフィニッシュ!だ。
エネドラさえ倒せばオレの貢献度も最低限のラインに行くのではないだろうか。
まぁそう簡単にはイメージ通りには行かない可能性が高いのが辛いところだ。
オレがエネドラ相手に速攻やられないで仮想戦闘室まで誘導出来るかが一番の難所だろう。
気体にまで姿を変えられるとかずるすぎだよホント。
まぁ弱点があるせいで、全身変えられないのが幸いと言えば幸いだけど。
あと心配なことがあるとしたら、修くんの事くらいか。
オレと関わったせいで、原作から変わりそうなんだよなぁ。
格上には基本的に挑むなってめっちゃ言ったし、千佳ちゃんが居れば無理はしないで逃げてくれるとは思うが……。
ヒュースのマーカー対策に頭で考えるより先にシールドを出せるように何度も訓練した(蜂の巣にした)から、うまく行けばミラとハイレインからの攻撃が弱まるかもしれない。
間違っても勝てない相手に挑んでいったりしないでくれよ~~。
「……想像してたら心配になってきた」
アフトクラトルの目的が雛鳥なのは何故かはっきりしていないのも地味に怖い。
神にはなれないような雛鳥を目当てに国の勢力をあちこちに出すのは何故なのか……。
わからないことだらけだが、とりあえず今は目の前の目標に向かって突き進むしかないな!
目指せ!死者0人!
ボーダーの屋上に一人迅は居た。
現在空は清々しい晴れ模様で、これから大災害が起きる可能性があるなんて欠片も感じさせないものだった。
遊真からもたらされた情報とサイドエフェクトからすると、ネイバーによる侵攻が始まる可能性があるのは今日からだった。
今日から10日間、それさえ過ぎれば一先ずの難は乗り切れる。
迅は今日までにもいくつもの未来を選択してきた。
師匠の事、三雲修のこと、空閑遊真のこと、風刃のこと、そして彼のことも。
彼をボーダーに残すか否かは今回大きなターニングポイントになった。
そこで大きく二つに未来が分岐する為、どちらの未来の方がより良いのかを比べなくてはならなかった。
ある程度先まで確定した未来の見える彼の居ない未来か、先の未来が揺れ動いているが人的被害を最低限に押さえられる彼の居る未来か。
この迅は、悩んだ末彼の居る未来を選択した。
その時点で大規模侵攻に関してはあまり心配をしていなかった。
ボーダーの実力と、隊員達の努力により被害はかなり押さえられる。
問題はその後の事である。
そう、未来について悩んでいた迅だったが、空が急に曇ってきたことにより思考が中断された。
「うお、早いな」
ボーダー基地周辺のあちこちで乱立するゲートに大規模侵攻の開始を悟った。
迅は、自分の仕事をしに行かなくてはならない。
未来の為、仲間の為に、実力派エリートは立ち上がった。
「間違えるなよ、三雲くん……」
今回のターニングポイントである、後輩の未来に祈った。
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オレはオレの仕事をしなくては
こちらとしても、ここからが山場なので気合いを入れて書いていきます。
ここ最近の分の絵日記(笑)をまとめて書いたあと、だらだらと算数のドリルをやっていたら、大きな衝撃がボーダーを揺らした。
「うおっ……!び、びっくりしたー」
今の揺れはイルガーの自爆か……。
ということはそろそろ通信室に向かった方が良いな。
今頃外では太刀川さんが無双してるんだろうな……見たかった。
オレの部屋は外の騒ぎが全く伝わってこないので、さっきのイルガーの自爆みたいに大きな揺れとかがないとこちらからアクションを起こせないのがつらい。
トリオン体に換装して、反射で出したトリガーを仕舞おうか悩んだが、流石にさっきの揺れで非常事態だと誰でもわかるのでそのままでいいだろう。
サイン帳よーし、トリガーよーし、忘れ物はないな?
気持ち的なもので軽く準備運動をしていたら、館内放送が入った。
『一般職員はシェルター室に退避してください』
オレは一般職員じゃないので関係なし。
この放送が来たということは、もう一発すぐに来るはず。
とりあえず床に固定されてるベッドでも掴んで対ショック体勢を取る。
正直オレは地震とか慣れてないし、爆音と衝撃は爆撃っぽくてビビる。
いや、イルガーってそういうトリオン兵だけどさ。
机の上にあったドリルが床に落ちるほどの衝撃をやり過ごすと立ち上がった。
今度こそ大丈夫……なはず。
オレの部屋備え付けの通信端末で、オレの面倒を見てくれてるおじさんに連絡する。
長めのコールの後に出たおじさんは緊急事態だからかいつもより焦ったような口調だった。
オレはまず開口一番で本題に入った。
「さっきの衝撃は何なんですか!」
『あ、あぁすまないそういえば君のところには緊急放送しか流れないんだったな。申し訳ないが今説明している暇はないんだ』
「敵襲ですか!?オレも戦います!」
そのまま部屋に居てくれ、またはシェルターに避難してくれと言われて切られそうだったので無茶な流れだと承知の上で遮って話す。
出してくれるとは思っていないが、これで最低限の説明はしてもらえるはず。
『すまない、今回は本当に緊急事態なんだ。今三門市はネイバーからの大規模の侵攻を受けている。そのせいでどこも手一杯で、君の事を見れるオペレーターも居ないんだ。申し出はありがたいんだが君に出てもらうわけには行かない』
「そんな……せめて、通信室に行かせて貰えませんか?友人の状況だけでも知りたいんです。絶対に邪魔はしませんから!」
『……そうだね、友達が心配な気持ちはわかるよ。……絶対に仕事の邪魔をしてはいけないよ』
「ありがとうございます!」
修くんのことを利用するみたいで少し罪悪感がある。
心配なのは本当なんだが……。
念のため部屋を出る前にぐるっと見渡すが、いつも通り特になにもない部屋だった。
強いて言うなら修くんに貰ったうま○棒の袋くらいしかない引きこもり感マシマシで虚しくなった。
部屋から出たらすぐに通信室に向かう。
更新してもらったセキュリティのおかげで通信室に入れたが、中はそりゃ当然だけど仕事の真っ最中だった。
モニターには各隊の状況とか、トリオン兵の位置とかのマップやら支部との通信やらでてんやわんやでオレの事なんか気にしてられないだろう。
邪魔にならないよう、最近ちょっと構って貰っていたお兄さんの横に立たせて貰った。
お兄さんは邪魔はしないでくれよと一言でOKしてくれた、というより本当に余裕が無いのだろう。
都合のいいことにお兄さんは各隊のオペレーターへの連携役だったのか、モニタには三門市全体のマップが表示されている。
あちこちに表示される赤いマークが消えていくスピードに隊員の活躍がわかる。
それでも、あまりにも膨大な量だった。
原作を知ってはいたが、普通のトリオン兵との戦いなんてあまり描写されてなかったので、B級隊員達がどれだけ頑張っていたか目に見えてわかる。
彼らは自分達の暮らす町を守ろうと必死なんだろうな。
なんて思っている中も、通信室のあちらこちらで新型の解析や被害状況の確認が行われている。
修くん達の戦いの裏にはこんな風に沢山の人が自分の役目を果たしていたんだな。
マップの中のどの点が修くんと千佳ちゃんかは解らないが、オレに出来ることは修くんの無事を祈りつつエネドラを待つくらいである。
転生系のようにオレつえーとかしてみたい人生だったが夢はあくまで夢である。
てか、修くんに会わせて貰ってないから千佳ちゃんの顔知らないんだが……。
普通ね、ただの先輩に幼なじみ(女の子)しかもスナイパーなんて普通紹介しないけどさ……原作ヒロインの顔すら知らないとはファンとしてがっかりである。
ロリコンでも童貞でもないがやっぱり可愛い女の子を見たいという思いは普通だよね!
「人型ネイバーが出現しました!」
モニタに大映りになるアフトクラトル勢に、あと少しだと覚悟を決める。
オレはオレの仕事をしなくては。
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その斜めカットイケテるってマジで思ってる?
最近更新ペースが落ちてきていますが、しっかり完結させますのでよろしくお願いします。
ランバネインと混合チームの戦いは原作通りに終了した。
オレあの超カッコいい混合チームメンバーのサインほとんど持ってるんだぜ信じられる??
通信室の皆さんが全員の会話を繋いだり全員の位置を表示したりと活躍するなかオレは野次馬丸出しで見てしまった。
こ、これから挽回するから……。
なんて思っていたら、通信室に警報が鳴り響いた。
ついにエネドラが来るようだ。
『侵入警報!侵入警報!基地内部に未識別のトリオン反応!通気孔から侵入されたようです!』
確かエネドラは壁を破壊して来るはず。
もう原作知識の出し惜しみは無しで全力でいくぞ。
不自然だろうと、前もって体勢を整えて待つ。
『人型です!人型ネイバー侵入!』
ほぼ同時にオレの真横の壁が破壊された。
「エスクード!!」
声に出す必要は無いのは解っているが、気合いを入れるのとオレの存在に気づいて貰うためにあえて声を出した。
ちょっと恥ずかしい。
とりあえず瓦礫から通信室の人たちを守るように出したので瓦礫で押し潰された人はいないようだ。
「早く逃げてください!こいつとはオレがやります!」
「す、すまない!総員退避だ!」
正直近くに居られると守りきれない可能性が上がるので早く逃げてもらいたい。
オレの声に反応したのか、日頃の訓練の賜物か、護身用のトリガーを発動して直ぐに逃げ始めてくれた。
オレは逃げる人に向かって真っ直ぐ伸びるトゲのような液体を遮るようにエスクードを出すと同時に、足元から迫ってきた攻撃を避けた。
「チッ……うぜぇなぁ……雑魚が雑魚を壊す邪魔しやがって」
原作そのまま、生エネドラである。
うぜぇとか言いながらもその目はオレを壊す楽しみに輝いているようだった。
本来のエネドラが一体どんな奴だったのか、読者は知り得ないがファッションセンスからして元からDQNだったのではないだろうか。
エスクードを出して邪魔をしたのが目の前で銃を構えているオレだと解ってか、エネドラの敵意がオレに向いた。
明らかに格上すぎて、正直今すぐ逃げ出してしまいたいがそれではダメだ。
少しでもオレに意識を向けさせた状態で時間を稼がないといけないのだから挑発でもと思ったが、日本語での気の効いた挑発なんてパッと出てこない。
「あんた、その斜めカットがイケテるってマジで思ってる?」
「あ゛ぁ?!猿の癖して一丁前に人間様に意見するなクソがぁっ!」
「っ!」
意外とデリケートな話題だったのだろうか。
ついさっきまでオレが居た場所が槍状のブレードで瞬時に真っ黒に染まる。
今のは絶対に攻撃が来ると解っていたからこそ避けられたようなものだ。
攻撃スピードが洒落にならないので正直冷や汗が止まらない。
さて、いつまでもこの部屋に留まっているのは下策にも程があるので威嚇として銃弾をばらまいてからオレも出口に向かう。
当然エネドラも解っているので、オレの先回りをするように四方八方からニードルが襲いかかる。
「雑魚は雑魚らしく壊れろ!」
「うるせぇ斜めカット!売れないV系バンドかよ!」
あえて出口に誘導するような動きは明らかに罠だろう。
出口の直前で右側から来た攻撃を避けると同時に、エネドラの攻撃によって脆くなった壁をトリガーで撃ち抜くと殆ど弾丸と共に崩れる壁に向かって飛び込んだ。
結果的に通信室を一番破壊したのはオレな気がするが緊急事態なので許してほしい。
「雑魚の癖してちょこまかすんな!」
振り向く余裕があれば逃げろが鉄則である。
エネドラと楽しくお喋りなんて論外だ。
さっきの一撃で右耳辺りが削り取られたような感覚があるが、痛覚のほぼないトリオン体様々である。
しかしやはり原作キャラであるエネドラとの戦いではサイドエフェクトが発動していないようで、いつもより身体が重く、鈍く感じる。
今まで避けれたのが奇跡でしかない。
ボコボコと泡立つ音が聞こえた気がしたので殆ど勘で左に跳んだら頭の真横を泥が通過していった。
「あっぶねぇ!」
「ミデンの猿は避けることしか出来ねぇのか!」
「黙れ××××野郎!」
早くこの細い通路を抜けたい。
一直線なここではろくに反撃も回避も出来ないのだ。
今はまだエネドラがオレをいたぶるつもりがあるから生きているだけで、本来はとっくに殺されていてもおかしくない相手なのだ。
研究者の避難を勧告する放送を聞きながら、仮想戦闘室を目指す。
オレの目標の為にもまだ余裕ぶっこいててくれ……!
頭のなかに叩き込んだボーダーの地図ではゴールはもうすぐそこだった。
通路を抜けた瞬間、無駄なのは解っているがエスクードで通路をふさいだ。
正面からの攻撃の選択肢を無くせるだけでも良いという一心だったが、逆効果だったかもしれない。
「猿の浅知恵なんざ効かねぇよ」
足元や左右を警戒しすぎたせいで、頭上の変化に気付くのが少し遅れてしまった。
「!!」
ギリギリで体を捻ったことにより何とかトリオン器官直撃は免れたが、左腕を結構持っていかれてしまった。
オレは村上さんではないので片腕を失ったら純粋にパワーダウンなのでつらい。
今まで頭上からの攻撃が無かったことから、無意識に思考から除外してしまったようだ。
目眩ましにもならないと解っているが、足元の腕を蹴りあげてエネドラに飛ばすと踵を返した。
「そろそろ壊れろ」
その言葉が示すのはすなわち遊びの終わりであり、オレのタイムリミットでもある。
オレの腕をはたき落としたエネドラがその右手をこちらに向けたその時、もうだめかと思いながらも最後の足掻きで銃を構えた。
しかし、オレが引き金を引くよりも先に射撃音と共に複数の銃弾が当たりエネドラの顔が泥に戻った。
こ、これはまさか……!
「新型の次はブラックトリガーかよ!復帰早々クソめんどくせーのが来やがったな!」
「新しい雑魚が湧いてきたか」
「そこのオメーもよく粘った!あと少し踏ん張れ!」
「す、諏訪さんかっけーっす!!!」
視線は諏訪さんに向けているエネドラだが、新しい獲物が見つかったからか、ついでとばかりにオレに止めを刺しに来た。
諏訪さんの攻撃により一拍遅れたおかげでなんとか避けられたが。
諏訪さんまじありがとう。
そのあとは諏訪さん達の援護射撃のおかげで何とかベイルアウトせずに仮想戦闘室に逃げ込むことができた。
「来いよ、ミスターブラックトリガー。お望み通り遊んでやるぜ」
諏訪さんの最強にカッコいい台詞来たー!!!
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原作崩壊
今回原作をなぞるだけの話になりそうなので大分カットしています。
場面が解らない方はコミックス8、9巻を参照してください。
コミックスを持っていない方は絶対に損はないので買ってください。
部屋に入った瞬間、聞き覚えのない女性の声が頭のなかに響いた。
『これから貴方をサポートさせてもらうわ。オペレーターの三上よ』
『うわっ、お、お願いします!』
オペレーター勢とは全く関わり無かったから一瞬誰だか解らなかった。
頭のなかに直接声が届くっていうのは何だか新鮮だ。
なんて思っていたら横にいる諏訪さんから声が届いた。
『スライム野郎の弱点がどっかにあるはずだからしらみ潰しに攻撃するぞ!』
『はい!』
原作から単純に一人増えているのだから、早期にエネドラの弱点を見つけられるかもしれないが、それは悪手にしかならない。
あまり早くこちらの狙いを気付かれると、忍田本部長が到着する前に仮想戦闘モードを解除されてしまう可能性がある。
なので、オレはできるだけ弱点の無さそうな部位……顔面辺りを集中して狙うことにした。
それによってか、少したったあと原作通り諏訪さんが撃った時硬質的な音がした。
「おっ、今の手応え……ひょっとして当たりか」
『硬質化したトリオン反応!カバーされた部位を見つけました!反応をマークします!』
「はっはぁ!弱点見つけたぜ!」
「あーあー……なるほど、そう言うことか」
弱点に向けて更に攻撃をしようとした瞬間、エネドラの身体のあちこちから弾にぶつかる音がした。
これほんとずるいよなー……忍田本部長が来てくれなかったら詰んでたじゃん。
「くっくっく……猿が知恵絞っているのを見るのは楽しいなぁ。……死ぬまでそのレベルでキーキー言ってろ!」
「……!」
『仮想戦闘モード終了』
解ってはいたが、体内からブレードが生える感覚はなかなか不愉快なものだった。
仮想戦闘モードが終わったことにより、左腕もなくなり右手だけになった。
ピンチになった、と普通は思うだろうが、後はやんちゃ小僧(33歳)さんの登場を待つだけの簡単なお仕事だ。
「旋空弧月」
忍田本部長ー!サインしてくれー!!
その後、途中までは概ね原作通りに進んだと思う。
オレ自身はプルプルスライムエネドラくんの邪魔をしつつ、弱点をオレが撃つことがないように顔面を壊し続けたくらいだ。
後は風上をとってどや顔してるエネドラの攻撃を意識して位置取りをしたくらいか。
シールドを切っているので忍田本部長みたいに体内を守れないので必死である。
最終的に囮を使って風間隊の逆襲でフィニッシュ。
問題はその後だ。
オレは、原作知識がある。
だからこそ、エネドラのトリオン体が破壊されたときに現れるミラを予想して近くでスタンバイしていたくらいだ。
なのに、ミラは現れなかった。
「……どうします、こいつ。散々暴れて基地内を滅茶苦茶にしてくれましたけど」
「捕縛しろ。捕虜として扱う。相手は生身だ、無茶はするな。だが気を抜くなよ」
「了解」
原作なら、菊地原さんの発言があった辺りにミラが現れたはず。
しかし、エネドラの腕の発信器は反応しないし、ゲートが開く予兆はない。
エネドラも疑問に思ってか、腕の発信器を確認したが変化はなかった。
一体何が起きているのか。
しかし、ミラが来ないならこちらも対応を変える必要があるだろう。
「とりあえず、トリガーは取り上げた方が良いと思います」
「そうだな」
「じゃ、とりまーす」
と、進言しながらエネドラに近付くと、黒トリガーを取ろうとした。
「近寄るなっ!」
生身なのに左腕を無意識に庇いながらも本気で抵抗しようと身構えるエネドラ。
そのあまりにも必死な様子に、こいつにとってはこの黒トリガーこそがオレにとっての銃のような物なのだろうなと思った。
でも、そんな危ないものは日本で持ち続けることが許されないんだよなぁ。
「トリガーオフ」
エネドラも生身だし、片腕だとやりづらいのでトリガーをオフにした。
正面から近付いて、左手を取ると見せかけて右手のブレスレットを引きちぎる。
足元に落として踏み砕くと気を取られて隙ができた左腕からボルボロスを奪った。
「っ、てめぇ!ミデンの猿がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「トリガーお願いしまーす」
エネドラからボルボロスを取り上げると、発信器を壊された怒りかボルボロスを奪われた怒りか解らないが、生身のまま掴みかかってきたので、とりあえず近くに居た菊地原さんにパスした。
ついさっき、ボルボロスを使っているときはあんなに強かったエネドラが、初心者丸出しのテレフォンパンチをしてくるのが滑稽だった。
こんなやつにわざわざトリガーオンする必要もない。
殴りかかってくる腕を掴むとこちらに引き寄せる。
踏ん張れなかったエネドラが上体から倒れかかってくるので、そのまま無防備な腹に勢いよく折り畳んだ膝をねじ込んだ。
「がっ……!」
鳩尾の良いところに入ったのか、エネドラは腹を抱えて呻いてる。
あんなに、あんなに強かったエネドラも、トリオン体じゃないとこんなに弱いのか。
痛みにのたうち回る姿に、何というか勝手なのは解っているのだが、少し幻滅した。
痛みを感じているということはまだ意識もあるし、これ以上抵抗されると嫌だからエネドラの側頭部へ蹴りをいれた。
あっさりと黙ったエネドラに、ポロリと本音がこぼれ落ちた。
「……なんだ、
この瞬間、
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やっと目標が叶いそうだ
前回更新後の反響が思ったより大きく大変喜んでしまいました。
更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
修側の描写に悩み、悩み、結局全カットするまでの葛藤期間でした。
エネドラの頭をサッカーボールみたいに蹴っ飛ばしといて何だけどちょっと引かれた気がする。
とりあえず、背中に突き刺さる視線が痛いのでトリオン体に換装した。
流石に銃は出さない。
「トリガーオン」
足元のエネドラを右手で持ち上げる。
片手でもトリオン体の方が色々と楽だろうと判断した。
背中の辺りの服を掴んで持ち上げたから服が引っ張られて腹チラしているがエネドラの腹チラとか誰得なんだ。
なんて、関係ないことを考えていたら一番近くに居た菊地原さんが非難の眼差しでこちらを見ていた。
原作とでは生身のエネドラをどうします?とか言っていたのは通信室の死者があってこそで、本来はそういう弱者をいたぶるようなタイプじゃないんだろうなぁ。
「ちょっと、生身の相手にやりすぎじゃない」
「すみません菊地原さん!トリオン体の感覚でついやり過ぎてしまいました」
「片手だと辛いだろうから持つよ」
「歌川さんありがとうございます」
歌川さんにエネドラを受け渡すと若干距離をとられた。
いや、流石にもう追撃はしないよ……。
しかし、当初の想定とは違って生きたエネドラとボルボロスが手に入ったわけだが、これはこれでありではないだろうか。
通信室の死者0人だけでボーダーに置いて貰えるとは思っていなかったが、連れ去られるであろうC級と交換できる可能性が高いブラックトリガーが手に入ることも迅さんの未来視にも見えていたのかもしれない。
これはもしかしたら、アフトクラトルに遠征する理由が殆どなくなったのではないか。
なんて思考していると忍田本部長がこちらを見ていることに気付いた。
「君は、確か……」
「あ、忍田本部長お久しぶりです」
「人伝に様子は聞いていたが、元気そうで何よりだ。ただ、」
「入隊以来ですね。さっきの弧月捌きマジしびれました!サムライみたいでほんとかっこよかったです!サインお願いしても良いですか!?」
忍田本部長のサインが貰えるかもしれないラストチャンスなんだ、是非とも欲しい!
という思いを全面に出して捲し立ててサイン帳を差し出そうとしたが、見当たらない。
「あれ……?」
開発室のおじさんに無理を言ってトリオン体に換装しても持てるようにしてもらったサイン帳が、無い。
「サイン帳……!何処に落としてきたんだ!?」
一番可能性が高い場所は……通信室だろう。
「ちょっと落とし物探しに行きます!!」
「神崎くん!後で話がある!」
忍田本部長が何か叫んでいるのを聞き流しながら、仮想戦闘室を飛び出した。
内ポケットにあるサイン帳が走ると身体に当たって少し存在を主張してくる。
部屋を飛び出した勢いのまま、修くんが来るであろう入り口に向かって全速力で走った。
エネドラが倒された時点で時間が殆ど無い筈だ。
「間に合ってくれよ……!」
オレは内側からドアを開けた。
ドアの真横のコントロールパネルには解析中であろうちびレプリカが居る。
『なっ……!』
「レプリカ先生であってる?」
『君は一体……』
「修くんの先輩って言えば解るかな?修くん達は今どうなってるんだ?」
『……今通信を繋ぐ』
内側から開けられるとは思っていなかったのか、驚いた様子のレプリカ。
嘘をついてここまで来た時点でもはや怪しまれるとかそんな次元ではない為、“先輩”なら知るはずもない事も気にしない。
ミラがこちらに来なかった事から、修くん達の様子が心配だったのだが通信越しの第一声から元気なのはよく伝わってきた。
『ワケわからないですよ先輩!今!ぼくが!基地内に千佳を届けるために決死の覚悟を決めようとしていたのに全部パァですよ!』
『お、修くん落ち着いて……』
「うわー」
今聞こえた女の子の声は千佳ちゃんだろうか。
千佳ちゃんキューブ化してないんかい。
色々と想定外だが、二人とも無事でよかった。
しかし覚悟を決めるってどんな覚悟を決めるつもりだったのか……。
「先輩から提案があってさ」
『提案……?』
修くん達が到着する前で良かった。
オレは心置きなく提案ができる。
「迅さんから聞いたんだけど、レプリカ先生はネイバーの船にハッキングして追い返す事が出来るんだよね?」
『あぁ。しかしそのためには船内に直接入る必要がある。子機では間違いなくハッキングする前に破壊されてしまうだろう』
「だったら、オレが守るよ」
『先輩!?』
迅さん適当なこと言ってごめんなさい。
あまりモタモタしていては邪魔をされてしまうだろう。
ちびレプリカを右手で持つと、返事も聞かずに基地のすぐそばのゲートに飛び込んだ。
『待て!それでは君が危険に……!』
『何やってるんですか先輩ー!!』
「大丈夫、大丈夫」
まぁ、船内に侵入した瞬間に真横にゲートが開いたのは当然だろうが。
解っていれば対処は容易いので、レプリカを放り出すと直ぐに銃型トリガーを出してゲートに向かって射撃した。
チラリと見えたミラに着弾したかは解らないが、直ぐに追撃が来ない辺りいい線いっている可能性もある。
操作盤らしきものにちびレプリカが到着したのを見てミッションコンプリートだ。
レプリカのハッキングは本当に早く、触手を伸ばして触れたか触れなかったかでボーダー基地前と繋がるゲートに異変が現れた。
『今から3分後に出発するように設定した』
「おっけー」
『長居は無用だ。外に出て身を隠した方がいい』
原作ほど切羽詰まってないからか、緊急発進まで1分ではなく3分になっていた。
まぁ誤差の範囲内だろう。
銃を消して右手を空けると、こちらに早く外に出るように促してくるちびレプリカを掴んで、船外に放り出した。
「サンキューレプリカ先生」
『!!!』
やっと、目標が叶いそうだ。
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行くな
どれもとても助かっております。
ネイバー達から千佳を連れて逃げる際。先輩に教わったトリオンを使わない隠れ方が役に立った。
大量の黒いラービットを産み出したことによりトリオンを殆ど使いきった千佳と、トリオン量が平均を下回る修にとって価千金の知識だった。
先ほど先輩がレプリカの通信越しに言っていた無茶苦茶な方法とはいえ、なんとかネイバー達を追い払うことに成功するだろう。
これで全て丸く収まる、そう思った瞬間のことだった。
『サンキュー、レプリカ先生』
「!!!」
何時ものように軽い調子の先輩の声。
しかし、レプリカの言葉からしてその様な状況ではないことは直ぐにわかった。
「まさか……そのままアフトクラトルに向かうつもりか!!」
「!?」
『別にアフトクラトルでなくても良かったんだけどなー。とりあえず、日本でなければ』
アフトクラトルへ向かうとはどういうことなのか。
そしてその問いに対して否定するでもなくいつもの調子で答える先輩。
状況が理解できない修は、思わず声を上げた。
「どうなってるんだレプリカ!!」
「……君の言う先輩は緊急発進の準備が始まっても遠征挺に乗ったままだ。恐らくこのままアフトクラトルへ向かうつもりなのだと思う」
「っ!一体何考えてるんですか、先輩!」
訳がわからなかった。
先輩が何を考えているのかまるで解らなかった。
緊急発進まで3分とレプリカが言ったのを修も覚えている。
あまりに時間が無かった。
『あー、修くん。元気でな!先輩のことなんか画面外のモブみたいに忘れて幸せになるんだぞ、ってなんか変だな。うーん。とりあえず無いとは思うけど、間違っても先輩を助けようとか余計なこと思ってアフトクラトル来ちゃダメだからな!』
この人は何を言っているのか。
まるで別れの挨拶だ。
いや、実際そのつもりなのだろう。
通信越しの先輩は至っていつも通りの調子なのに、とっくにその意思は固まっていた。
『あと何かあったかな……』
薄情だ。
ほんの一言二言で続きが出てこなくなるような先輩はあまりにも、薄情だ。
修の感情が爆発するのも当然のことだった。
「……先輩のアホ!大馬鹿者!別れの挨拶すら対面でできないとか相変わらずボッチ拗らせてますね!!」
『うおっ』
「大体なんですかその適当すぎる挨拶!ぼくのこと散々射撃の的にしてきたくせに自分はどっか行こうとするとか!同じだけ蜂の巣にしてやろうと思ってたのに勝手なんですよ!」
可哀想に、状況に着いていけていないであろう横にいる千佳があわあわと口を開いては閉じてを繰り返しているのが見える。
けど、一度飛び出した言葉は止まらなかった。
「中途半端はやめてくださいよ!まだ先輩にすら勝てない後輩を置いてどっか行くとか信じられません。職務怠慢です。大体ネイバーフッドになんか何しに行くつもりなんですか!観光したいならハワイでもグアムでも行けば良いじゃないですか!」
『色々と滅茶苦茶だぁ……いやしかし、修くんも意外と先輩のこと慕ってくれてたんだ。先輩も嬉しいよ、多分』
焦りと混乱で言葉が上手く纏まらない。
とりあえずなんとかして、このアホな先輩を引き留めなくてはいけないと思うのに混乱した修は気のきいたこと一つ言えない自分に苛立った。
「あと1分だ」
『ここはあれかな……?原作リスペクトしてあの台詞で締めるべきかな?』
冷静なレプリカのカウントに、間抜けな先輩の声。
刻一刻と近付く修の脳裏に、ふと過去のやり取りが思い浮かんだ。
「じゃあ先輩の名前教えて下さい」
そう言った修に対して、うまい○のコンポタ味を抱えた先輩は少し困ったような顔になった。
先程までの興奮した様子から一転して大人しくなってしまった先輩に、聞いては不味いことだったのかと不安に思う。
「名前って……うーん」
「ダメ、でしたか」
「いや、別にいいよ。ただ、世を忍ぶ仮の名前とソウルネームがあるからどっちを言うべきかと」
「なんですかそれ……」
思わず呆れが声に出る。
あはは、と乾いた笑い声を上げた先輩は続けた。
「世を忍ぶ方は仮の名前だから呼ばれてもとっさに反応できないし、ソウルネームは少年兵として人生の半分を生きた俺の名前っていう設定だから戸籍とは違うんだよね」
「先輩頭おかしいんですか……?」
「まじまじと言った!?あはは、まぁ確かに可笑しいけどさ」
「じゃあ、面倒なんでどっちも教えて下さい」
この欲張りさんめー、なんてうざい絡み方をしてくる先輩に若干後悔した。
一応両方教えてもらったが、世を忍ぶ仮の(略)では本当に反応してくれないし、ソウルネームで呼ぶには恥ずかし過ぎたので結局ずっと呼び方は先輩のままだった。
そんな、他愛の無いやり取りをふと思い出した。
時間がない。
「あと30秒」
『ランク戦頑張ってな!先輩も草葉の影から応援してるよ!』
解らない。
「20秒」
『チームメイトとも仲良くやるんだぞ』
でも、修の気持ちは一つだった。
「10秒」
『じゃあ』
「行くな!ロウ!」
「0」
カウントと共に黒い稲妻が走り、遠征挺は出発した。
ちなみに原作リスペクト()とはレプリカが遠征挺の中から言った台詞の事です。
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こんな世界に居たくなかった
当初の展開から方向が大きく変化したと思われるかもしれない内容になってきましたがここまで読んでくださりありがとうございます。
もう少しお付き合いお願いします。
オレはバカだ。
ようやく日本から出ていけると思って心底安心していたのに、そこまで情を移したつもりもない後輩の言葉一つで発進直前の遠征挺から飛び出してしまった。
入れ違いになるように飛び込んできたミラ達の攻撃を避けるためなんて欠片も言い訳にならない。
そもそもアレクトールの攻撃によってキューブ化したって、わざわざ日本に捨てに行く事なんてほぼ無いだろうから避ける必要なんて無かった。
こんな世界から逃げ出せる唯一のチャンスを、自ら棒に振ってしまった。
オレはどうしようもないバカだ。
……でも、嬉しかったんだ。
もう二度と誰にも呼ばれないと思っていた名前を呼んでもらえたのが、自分でも訳がわからないくらい嬉しかったんだ。
「いくらなんでも単純すぎだろ……」
『……先輩?』
オレが飛び出してきた事に驚いたのか、沈黙したままだったレプリカはまだ通信を繋いでいたようだ。
まだ、オレがここに居るという事に気付いた修くんの呆然とした声が聞こえた。
あー本当にカッコ悪い。
二度と会わないつもりで結構ノリノリで別れの挨拶とかしちゃったのに……。
「あ、あはは……流石に恥ずかしくて会わせる顔無いわ」
『……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?』
あまりにも気まずいので、修くんが来るまえにボーダーに戻ろう。
レプリカ先生の向こう側から聞いたこともない修くんの罵倒のオンパレードが聞こえてくる。
いやしかし、オレの後輩は原作の“三雲修”のイメージからは本当に解離しているなぁ。
原作ではこう、もっと冷静でこんなに子供っぽく無かったような気がするんだけど。
初めて聞くような独創性に富んだ罵倒を無視してトリガーオフすると、一部始終を見ていたであろう菊地原さんと歌川さんにトリガーを投げて渡した上で両手を上げて分かりやすく武装解除をアピールする。
つい先ほどオレの取った行動は間違いなく問題行動で、実行しなかったとはいえ敵の遠征挺に潜り込んでいたのはボーダーとしても到底許すことは出来ないだろう。
事後処理やら何やら事が終わったら、きっとボーダーから放り出されるのだろうなとぼんやりと受け入れた。
うん、ほんと色々と今まで楽しかったよ。
何だかんだもう思い残すことはないかなぁ。
なんて思いつつも初めて生身で顔を会わせた二人の視線を強く感じながらも無言を貫いた。
全くこれだから生身は嫌なんだ。
銃で撃たれたらすぐに死ぬし、何より異物でしかない自分を強く認識させられる。
本部からの通信を聞いた迅はほっと一息ついた。
アフトクラトルからの捕虜となった青年は何事かと訝しげな目線でこちらをちらりと見たがあえて口に出すような事はなかった。
「どうやら三雲くんは間違えなかったみたいだな」
これから分岐するいくつかの未来に存在する、“先輩”の姿に後輩の言葉が届いたことを確信した。
もし、三雲くんがもう一つの名前を呼んでいたら彼はそのまま出発し、殆どの未来では二度と会うことはなかっただろう。
後輩の頑張りのお陰で事態の後始末は残すところ最後の一つだ。
一人、全てが終わった後死んでしまうなんてあまりに後味が悪い。
「いい加減、目を覚ましてもらわなくちゃな……」
彼にとって、どれだけそれが残酷なことなのか解った上で、やらねばならない事がある。
とりあえず、捕虜となった青年を送り届けると証拠の確保のために彼の部屋に行った。
隠していたものを吐き出してもらうためには物理的な証拠が必要になる。
人格というものが殆ど感じられないがらんどうな部屋のなか、本部が攻撃された時の衝撃で床に落ちたと思われるノートを拾った。
この部屋に人間が居たという痕跡は駄菓子の袋を除くとこのノートしかなかった。
あちこちで市販されている教育用の子供向けの日記帳は、あくまで糸で閉じたノートでしかなく持ち主のプライバシーを守るための鍵などついていない。
他人のプライバシーを覗き見ることをここにはいない本人に謝罪しながらつい最近書かれたであろうページを捲ると、やはりと言うべきか彼の“遺書”が出てきた。
前ページまでのスペースを埋めていた稚拙で幼い表現からうってかわって、最低でも中高生程度の教育を感じる几帳面な文字。
イラストの欄が空欄になったそのページは、低年齢向けに幅の広い行を二分割して書かれており、つい1年や2年勉強したからといって書けるものではないのは直ぐに解る。
その日記帳には、誰にも話さなかった彼の心情の一部が淡々と、しかし赤裸々に綴られていた。
「こんな世界に居たくなかった」
そんな言葉で始まる遺書は、ボーダーで多くの人に見せていた明るく気さくな彼の姿からは直ぐに結び付かないような、重苦しいものだった。
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嘘
諦めずに書いていられるのも皆様のお陰です。
お待たせして申し訳ありません。
難産のあまりバッドエンドにしか行かない先輩を軌道修正するのが大変でした……。
大規模侵攻が完了した後もただ終わった訳ではなく、後始末がある。
会見の方は今回の大規模侵攻による被害が極めて少なく、交渉により連れ去られた極少数のC級隊員も取り返すことができる可能性が高いことからそこまで大きなバッシングは無かった。
C級隊員とのトレード材料になりそうなものは何なのかという質問もあったが、ネイバーを捕獲したことは伏せブラックトリガーについてのみ公開された。
対外的な問題が片付いた後残す問題は、彼のしようとしたネイバーフッドに向けての単独渡航に関する問題のみとなった。
彼の行動に対する尋問は大規模侵攻が終わり、対外的な会見の完了した後に行われた。
拘束はされてはいないとはいえ、窓のある個室に閉じ込められてトリオン体に換装した相手に尋問される状況でも彼は至っていつも通りの調子で話していた。
「遺書?大袈裟だなー」
「確かに上手く行った後余計なことがないようにちょっと大袈裟には書きましたけどね」
「無いとは思いますけど、助けようとか思われたら大変じゃないですか」
「あ、別に誰かの入れ知恵とかじゃないですよ。文字が上手いって、そりゃ自由にしてもらうために沢山勉強しましたから。1日14時間くらい丸一年以上勉強し続けたんですよ」
「動機?うーん、オレ自身まだ日本に存在することになってない筈なんで。だからボーダーにできる限り迷惑をかけないでやるなら今しかないかなって」
「今回恩を仇で返そうとしてしまいましたが、ボーダーには本当に感謝してるんですよ」
「ここの事を知らなければとっくに死んでたくらいには人生詰んでましたから」
笑顔さえ溢れるごく普通の世間話のような態度で語られる言葉はしかし嘘ではなかった。
笑うと顔の傷跡が引きつるが、まだ愛嬌の内に収まると言えなくもない。
「嘘はついてない」
「……そうか」
サイドエフェクトを見込まれて呼び出された遊真はネイバーの尋問に続いてチームメイトの“先輩”の尋問も手伝っていた。
尋問に当たって大まかな先輩の事情を聞いた遊真は個人の意見を出すことなく、嘘をついているか判定することに徹していた。
しかし、修の先輩の言葉は嘘ではなくても本心ではないと遊真は気付いていた。
「迅さん」
「お?なんだ?」
ネイバーの尋問では居なかった迅に声をかける遊真。
「迅さんのサイドエフェクトで“先輩”のやろうとしてること解らなかったの?」
「いや、殆ど解っていたよ」
「じゃあ、あえて泳がせたってこと?」
「……彼のいる未来が一番被害が少なかったんだ」
あえて泳がせていたことは否定しない迅。
その選択に遊真が何かを言うつもりはなかった。
いつだって最善になるように努力している人だということは既に何となくとはいえ解っていたからだ。
そんな時、個室の音を拾っているスピーカーから新しい質問が聞こえた。
「こんな世界に居たくなかったって、どういう意味なんだ」
その言葉を聞いて、初めて困ったような顔になる先輩。
先輩の余裕がわずかに崩れたことが外からでも解った。
「変なこと書くんじゃなかったな……うーん、ノーコメントとかダメですかね?」
拝むようなポーズを取りながらも無理は承知の上で聞いているのは、原作ファンのメタ的な視点からしたら嘘をついたらばれるという確信があったからだった。
ここまで全ての質問に協力的だった先輩から初めて異なるリアクションを引き出せたことから受け入れられる事はまず無い提案であったが。
「……えーと、言葉にするのは難しくてですね。思春期の子供にありがちなやつというか何というか」
軽く腕を組み上体を反らす。
目線はやや斜め下に向いて、深く考え込んでいるようだった。
暫しの沈黙のあと、漸く相手と向き合った先輩は、感情を感じさせない静かな声で呟いた。
「オレ、頭がおかしいんです」
相手の反応も待たずに吐き出される言葉は、淡々としたものであるからこそ逆に感情的にもとれる。
「俺の経歴というか過去はご存じですよね?で、俺は何だかんだ前いたところに適応して成長したわけです」
「まぁなんというか、やれと言われたからって言葉にできないような残酷な仕打ちだって沢山してきました。それを当然だと思ってましたから」
「でもそれって、日本じゃいけないことなんですよね。俺のやって来たことって悪いことなんですよね?」
「オレ、今は平均的な日本人くらいの倫理観とか価値観とか持っているつもりですよ。けど、同時に俺はなにもおかしな事をしたつもりは無いんです」
「俺がおかしい日本じゃなくて、俺がおかしくない所に行きたかった。……って言葉にするとまるっきり子供の考えっすね恥ずかしい」
“先輩”はそこまで口にすると身体から力を抜いて、机にもたれ掛かった。
そうして肘をついたまま、まるで天気について語るような気軽さで言った。
「でも、人間を殺したり傷付けたりすることってそんな悪いことなんですかね」
そう言った彼の言葉に、初めて遊真が反応した。
「嘘をついた」
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オレは間違っている
大変長らくお待たせしました。
その上原作キャラのげの字も無い話で申し訳ありません。
追記
序盤の流れを大幅に変えました。
先輩が畜生でくずになっただけで後半の流れは変わっていません。
ずっとお茶を濁してやり過ごしてしまったと後悔していたので変更しました。
尋問役のおじさんのリアクションから嘘と判定されたのだと解った。
嘘になるはずがないと信じて言ったのに、嘘判定されたという事に驚愕した。
オレはここに来てからもずっと目的のためだけに生きて、何も変わっていないつもりだった。
だからこそボーダーに来た当初のオレだったら絶対に嘘判定されない言葉を選んで話したつもりだった。
「あっ、すみません言い間違えました。正確にはどうでもいい人間、でした」
正直これ以上オレがボーダーに居ても迷惑しかかけないことは解っていた。
だからこそ、遊真のサイドエフェクトに引っ掛かって変に追及されることがないように嘘でないことだけを話したつもりだし、頭がおかしいオレを病院なりなんなり、ボーダーの外に移されるようにしたつもりだった。
けど、こじれるかもしれない。
尋問役のおじさんはオレがボーダーに来てからいつも良くしてくれた人で、オレの事を良い子かなにかと勘違いしている節があったから、しっかりと見限って貰おうと思い隠してきた本音を言ったつもりだったんだ。
ワートリの大ファンなのは変わらないし、今だって一方的な好意を持っている。
けど、どんなに大切な人だって殺せたし、殺せるつもりだったんだ。
どうでもいい人間なら、という言葉が嘘になっていないようだからまだ軌道修正はできる。
嘘にならないように、早く追い出してくれるような残虐で理解のできないどうしようもないところを見せなくては。
「流石に前いたところの仲間は殺せないですね。オレが一から面倒見てちゃんと人間を殺せるように教育したやつも居るし、依存させていざというときの肉盾になるように育てたやつも居ましたから」
全部本当の事だ。
この年まで生きてこれたのは、俺の代わりに敵を殺したやつと俺の代わりに死んだやつが沢山いるからこそだ。
それが悪いことだなんて思わなかったし、誰もそう言わなかったから、なんて免罪符にならない。
オレが居なければ一生罪悪感なんて抱かなかっただろう。
流石に今の畜生発言は受け入れられなかったのか、眉間にシワがよっている。
「……やはり君はもう昔の君ではないんだな」
いやぁ今日までお世話になりましたー。
「人の命の大切さを知ったんだね」
は?
思わず口がポカンと開いたと思う。
自分の間抜け面は見えないのでよしとする、というか今信じがたいことを言われてて理解ができてない。
この流れでなんでそうなるの??
遊真のサイドエフェクトで嘘か分かるんだよね??
大口を開けたオレの事を気にせず話し続けるおじさん。
「前からその片鱗はあったのに、君の事を過去だけに注目して変に特別扱いしてきてしまった。環境のギャップに苦しむ君の事を解ってやれなくてすまなかった」
「……い、いやいやいや、何言ってんですか」
「誰も理解者が居なかった君が日本の常識によって少年兵の頃の行いを、自分を否定されるような気持ちになってしまうのも仕方ない」
「いや、だから待ってくださいって」
「こんな世界にいたくなかったという感情が君をネイバーフッドへの渡航へと駆り立てたのか」
「だから……」
「でも、ボーダーを出ても君に明るい未来があるとは思えない。むしろより大きなギャップに苦しむようになる可能性が高い……やはりここは上層部に直訴しなくては……」
「だから、話を聞けよ!」
何なんだこのおっさんは!
勝手に好意的に解釈して勝手に盛り上がって……気持ち悪い!
今までも勘違いモノかな?って思うくらい好意的に解釈して来てたけどここまで来るともはや妄想以外の何物でもない。
「ようやく、本気の顔になったね」
尋問役のおじさんは、嫌悪感から感情的に怒鳴り付けたオレを見て、にっこりと笑った。
一瞬で頭が冷えた。
どんなに煽られても乗せられてはいけないとあれだけ注意していたというのに。
「っ、……すみません、感情的になって」
「君は……自分を追い出すことに随分と必死だね」
「……」
反応してはダメだ。
これ以上この人の言葉に答えてはダメだと本能的に察した。
オレがボーダーでまともに話したことがあるのは修くんを除けばこの人のみ。
何か気付かない内にぼろを出しているかもしれない。
そんなオレの警戒をよそに、おじさんは穏やかな口調と笑顔を崩さずに続ける。
「誰かに罰せられることを望んでいるのかな」
「…………」
「ずっと気になっていたんだ。君はボーダーの人を好きだと言う割りに深く関わろうとしない事が」
「…………」
「三雲くんに会うまではサインだけ貰ったらすぐに距離をとって、誰に対しても一歩も踏み込もうとしなかったね」
目を合わせるのが気まずくて、ほんの少し目を逸らしたらもう向き合うことは出来なくなった。
床に埋め込まれた机の足を見ながら早く終わることを祈りひたすら待つ。
黙ってさえいれば全て終わるのだと確信しているのだから耐える。
「君の過去を誰よりも気にしているのは君だ」
「……」
「ここから出ていきたい理由は?自分が許せなかった?それともボーダーで何か嫌なことがあったのかい?けど、言葉にしてくれないと、誰もわからないよ」
「……」
「一つだけ聞かせてくれ。ボーダーが嫌いで、ここに居たくないから出ていきたいのかい?」
そこまで言うと、じっとこちらを見ているようだった。
視線をそらしたままやり過ごそうとするが、ちりちりと感じる本気の空気に、呼吸がままならないほどの緊張があった。
この人はオレが黙っている限りテコでも動かないのだろうと、そう感じさせる空気があった。
それでも暫く沈黙を続けたが、先におれたのはオレだった。
「…………ボーダーは、好きです。……ずっと憧れてたんで。実際いい人がいっぱいいて、ここだったら銃がなくても眠れるんじゃないかって思うくらいには居たいと思います」
「では、なぜ?」
「でも、……オレは間違ってる!」
頭がおかしくなりそうだった。
実際、もうおかしくなっているのだが。
二種類ある常識が、間違っていると言い、同時に正しいと言う。
人殺しと糾弾するオレと、生きる為にはなんてこと無い事だと言う俺。
どちらも
こんな平和な所に居るから五月蝿いのだと、そう思って平和じゃない所へ行こうとしたのに失敗してしまった。
頭の騒音を押さえつけるように右手で頭を抱えた。
みっともない。恥ずかしい。ヒステリーそのもので、まるで子供だった。
修くんや原作キャラの前では必死に取り繕っていたけれど、所詮こんなものなのだ。
「間違ったって別にいいじゃないか」
あっさりと、言われた。
「何を間違ったのか、具体的なことは解らないけど、それを理由にボーダーを出ていく必要はないと思うな。君は子供なんだ」
「何いって……」
「こんな世界に居たくなかった、って君は言っていたけど、こんな世界が君の世界なんだ。ここで生きるしか無いだろう」
「ここが、オレの世界……?」
ずっと異物感だけあった。
オレの居るべき場所はここではないと思っていた。
けど、そんなこと無かったのだろうか。
オレのことなんて殆ど知らないおじさんなんかの言葉にこうまでも反応してしまうのは、オレが欲しかった言葉だったからかもしれない。
「だって、友達ができたんだろう」
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おれのサイドエフェクトがそう言っている
ようやくですが後始末完了となります。
友達。
そんな簡単なものだったのか。
オレはそんな簡単なものに揺らいで、躊躇って、失敗したのか。
「バカみたいだなぁ……オレ」
でも、ほんの少し嬉しい。
机の上についた両肘で項垂れる頭を支えた。
『感動の場面に申し訳ないが』
硬質的な、鉄でできた壁を思わせる冷たく硬い声が聞こえた。
スピーカーから聞こえたということは、部屋の外の人が言ったのは間違いない。
うつむいていた頭を持ち上げ机から視線を上げると、監視用のマジックミラーが解除されていた。
ただの透明なガラスになった窓から見えたのはいつの間に来ていたのか、城戸司令だった。
『どんな事情があろうと決定は覆らない。いくら彼が特異な存在とはいえ今回の行動は重大な違反になる。例え政府から反発があろうと例外は許されない』
いつもの無表情ではっきりと、死刑宣告のような言葉が振り下ろされる。
実際、ちょっと前のオレなら満面の笑みで喜んで頷いて外に出た後に速やかに自殺していたただろう。
けど、今は解っていたこととはいえ少し、辛い。
全部自業自得なのは百も承知なのだが、なかなか儘ならないものである。
しかしこの結末は当然のことといえば当然で、些細なこととはいえずっと脅してきた迅さんにも、せっかく友達になってくれた修くんにも悪いからオレは覚悟を決めなくてはならない。
ごく普通の、当たり前の日本人として生きていく覚悟を。
完全に諦めているオレとは違い、おじさんは納得がいかないようだった。
もしかしてさっき気持ち悪いって言った言葉挑発するためじゃなくて本心だったのか……?
それはそれで怖いんだけど。
反論しようと椅子から立ち上がった性善説の塊みたいなおじさんが口を開く前に、意外な人が割って入ってきた。
『先日奪取した、ネイバーのブラックトリガーの情報、欲しくありませんか?』
実力派エリートこと、迅さんが。
ぼんち揚片手に、漫画でよく見た不敵な笑みを浮かべながら言った。
『……どういうつもりだ、迅』
城戸司令の目付きがすっと鋭くなった。
これはきっと遊真をボーダーに入れる話をしていたときと同じような緊張感なのだろう。
ガラス越し、スピーカー越しですらぴりりと肌に感じる程の緊張感の中、それを物ともしない様子の迅さんは続けた。
『実はボーダーにたった一人だけ、あれを起動できる隊員が居るんですよ』
『まさか、』
『ええ、そのまさかです』
………………………え。
なんなんだ、この展開……。
目の前で繰り広げられる展開についていけない。
つい先ほどまでは、これからはどんなに辛くても外で普通の日本人らしく生きなくてはいけないと迅さんにも修くんにも申し訳ないと覚悟を決めていたのに、どういうことだ……?
『本当に、彼に適性があるというのか』
『ええ。おれのサイドエフェクトがそう言っている』
オレがこの場に関係ない存在だったのなら、名台詞キター!と諸手を上げて喜んでいただろうがそうはいかない。
城戸司令が彼、と言いながら見たのは見間違っていなければオレのことだと思う。
いやだって、まさか、こんなことって、無いだろ……。
お、オリ主最強展開キター……?
「いっ、いやいやいや……」
まるで意味がわからん。
ダメ元で迅さんの後ろに見えた遊真に向かって口パクで助けてと言ってみた。
が ん ば れ 、とめっちゃどうでも良さそうな顔で言われた。
オレには解る、あれは心底どうでもいいって思ってる絶対に!
薄情!薄情だよ遊真くん!
無視されなかっただけ良いかもしれないけど!遊真の横に居るレプリカにファンとしては感涙ものですが!軽く流された先輩はとても悲しいです!
なんて、現実逃避していたらいつの間にか城戸司令と迅さんの話は終わっていたらしい。
もし起動できても逃げ出そうとしないこと、悪用しないこと、攻撃しないことを誓い遊真に言質を取らせた後、本当にボルボロスを持ってきた。
エネドラにとって、アイデンティティとすら言えるであろうボルボロスをオレが起動できるなんて本当にあり得るのだろうか。
目の前に置かれた目玉をモチーフにした、ちょっと気持ち悪いトリガーをじっと見る。
スライムみたいであまり触りたくはない、何て言うのは言い訳で本当にこれに触っていいのかと悩んでいた。
他人の大切なものを蹂躙するようなそんな気分になる。
城戸司令や迅さんの視線を感じる。
あまり待たせては悪いから覚悟を決めて手を伸ばした。
正直一番疑っているのはオレだった。
それでも、やるしかない。
「……トリガー、オン」
身体が換装される時独特の感覚。
ゆっくりと目を開けば足元にアフトクラトルセンスな黒い服が見えていたが、それでも恐る恐る、頬を触ってみる。
つるりとした肌は、生身でないことを語っていた。
思ったよりもあっさりと起動できてしまったトリガーにオレの今後が決まった。
ちなみにオリ主最強展開やるつもりはないです。
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三雲修は、
大変お待たせしました。
面倒くさい先輩回です。
三雲修は、実は先輩が少しおかしいのを知っている。
B級以上の隊員の名前が公開されているサイトに先輩の名前はなかったし、いつ何時にランク戦の対戦ルームに行っても先輩は居た。
修より早く帰ることは無かった、というかどこかに帰るという行為をしているのを見たこともないし学校の話をされた事もない。
最近はやらなくなったが、食事中ですら起動済のトリガーは正直やめて欲しいし、仮想戦闘室で修相手に銃を構えたときはいつもの笑顔は鳴りを潜めて人間以下の存在を見るような目で見てくるのも知っている。
少なくとも、何かしら普通ではないのだなと察してしまう程度の付き合いがある。
しかし、いくらなんでも単独でネイバーフッドに行こうとしていた事に関しては修も一言どころか一時間ほど物申したいところがある。
けど、先輩が少しおかしいことがどうしたというのだろう。
修にとって、先輩とはずっとそういう人だった。
そうと解った上で今までがあるのだ。
「先輩、どうしたのかな……」
大規模侵攻後、先輩が姿を見せなくなって早数日。
先日の問題行動でもしや除隊されてしまったのだろうかと不安に思う。
色々おかしな先輩であっても、修にとっては関わりのある人だった。
実は意外と排他的で利己的で自己中心的な所があろうと、修に戦いのいろはを教えてくれたのは先輩だし、才能がないのかと落ち込む修を不器用かつ斜め上ながら慰めてくれたりもした。
とりあえず、修としてはこのまま永遠の別れとなるのは不本意な状況である。
「とりあえず、一発殴ったら話を聞こう」
そう決めていた。
その為、今日この瞬間先輩の顔面に修のストレートパンチが綺麗に決まっているのも当然のことだった。
一発決めてから気付いたが、今日の先輩はどうやら生身のようだった。
始めて見た素顔はトリオン体とは少し異なるところがあった。
まず目についたのは顔にある傷痕だった。
頬から耳にかけてくっきり残った痕は既に塞がって古傷になっているとはいえ痛々しいもので、そこから更に少し視線をずらすとやや歪な耳が目に入る。
明確な欠損に、当時の痛みを想像した修は何かを言おうとして、しかし踏みとどまる。
「先日のあれやそれに随分と言いたいことはありますがこれで許して上げます」
「……よ、容赦ないストレートでした」
「先輩の教育の賜物ですね!」
「全く嬉しくないよ!」
修の拳を受け赤くなっている頬を押さえながらいつものようにリアクションをした先輩に安心した。
「……ていうか、オレが言うのもなんだけど色々と気になることあるんじゃない?」
「こうしてボーダーに居るっていうことは、上層部に何かしらの許しは貰ったんですよね?だったらさっきの一発でぼくからの個人的なものは終わりです」
「そんなあっさり!って、いうかさ、ほら、他にも傷とか色々あるじゃん?」
どうやら先輩は嫌なことは先に終わらせるタイプらしい。
何かを覚悟したような顔で言われたので、修は大袈裟に返した。
「えっ今さら元ヤンアピールですか?!ずっと前から知ってましたけど?」
「何それ!も、元ヤン!?」
「先輩が未成年なのにお酒のんでたって知ってるんですからね」
「い、いや確かに飲んでたけどさ!」
「色々若さにかまけてやらかしてきたであろう先輩に今さら何を驚けと……。ソウルネーム(笑)つけちゃうくらい拗らせてた事知ってるんですよ、ロウ先輩(笑)」
「拗らせてた言うなし!」
修にノリ突っ込みながらも、やや下がった眉と僅かに持ち上がった口角に先輩が安堵したのを感じた。
全くもって面倒くさい人である。
正直、以前はどんな経緯があれば先輩のような盛りまくりの人間が出来上がるのかまるで想像はつかなかったが、遊真という友人を得てから何となく解ってきた気がする。
先輩は遊真に平均的な日本人の価値観を入れて混ぜたような人、というのが現在の認識だ。
実際どの程度当たっているのかは解らないが、修という存在が先輩にとって普通の後輩であって欲しいと望まれているのは理解している。
その為先輩の知ってほしくないであろう面には踏み込まない。
「で、今日は珍しく換装してないですけどここに居るということはボーダー首になったとかじゃないですよね?」
「あー、うん。ただ、前のトリガーは没収されました……」
「トリガーない先輩とか……」
「やめて!」
先輩が自身のトリガーを異様に大切にしていたのを知っている修からしたら、中々の衝撃だった。
また、トリガーの所持を禁止されたのにボーダーに所属し続ける不自然さに突っ込んでいいのかやや考えてから口火を切る。
「先輩、ボーダーでもニートになったんですね……」
「でもって何!?ち、違うし!」
「今のご職業は?」
「け、研究のお手伝いを少々……」
「じゃあ、本当に隊員じゃなくなったんですね」
先輩にデスクワークなんて出来るのかと一瞬考えてしまったが、口には出さなかった。
「そ、そうなんだよね。だからもう今までみたいに特訓とか出来なくなったんだ」
少し、落ち込んだような笑顔だった。
だからさよならだ、とか続きそうなトーンにきっともう修と関わることはないとかなんとか悲観的な事を考えているのが手に取るように解った。
全く手のかかる先輩である。
「だとしても、勝ち逃げは許しませんよ」
「でも、」
「別にランク戦じゃなくてもいいんです。トランプでもゲームでも、何でも。とりあえず今まで先輩に負かされた数以上に先輩を倒します」
普通に遊びましょうなんて言っても余計なことを考えてしまうのは解っている。
友達と遊ぶのに理由なんて要らないのに、それが解らない先輩の為に理由をつけてあげるのだ。
三雲修は、先輩が思っている以上に先輩について知っている。
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一件落着?
ここまでこれたのも皆様の支えがあってこそです。
首を吊って死んでいた。
舌を噛みきって死んでいた。
飛び降りて死んでいた。
食器で自身を貫いて死んでいた。
割れたガラスを飲み込んで死んでいた。
生命活動を拒否し点滴に繋がれながら死んでいた。
頭を勢いよく叩きつけて死んでいた。
意図的な低体温で死んでいた。
風呂の中でわざと溺れて死んでいた。
送迎の車のハンドルを奪い事故を起こして死んでいた。
回りの人間を殺せるだけ殺して死んでいた。
×××××で死んでいた。
他にも沢山、本当に沢山死んでいた。
一人の人間の死を、これほどに見せられたのは初めてだった。
先輩、と呼ばれる彼をボーダーから途中で追い出した未来の可能性はどれも凄惨な死が溢れていた。
可能性の数のわりに明確に見えるその死は、どれも実現する可能性が高いのだと伝えていた。
もちろん、ボーダーから追い出す選択をしなかった理由はそれだけではない。
彼をボーダーに在籍させたままの未来は、もう一つの未来と比べて不確定事項が多かったが、それでも大規模侵攻の被害が大幅に減らされることが確約されていたからだ。
今回の大規模侵攻の被害はC級隊員の行方不明者4名に死者0名。
もう一つの未来とは大きくことなる結果になった。
最も、行方不明者の大幅な減少は彼本人よりも三雲くんに寄るところが大きい。
三雲くんが人型ネイバーから千佳ちゃんを守りきったことにより、レプリカ先生に千佳ちゃんの莫大なトリオンを受け渡すことに成功。
大量生産された黒いラービットがトリオン兵駆除にラービット撃破とキューブの回収、更には人型ネイバー撃退に大きく貢献した。
この未来になる分岐は、三雲くんに先輩からの過激な指導と戦闘指南が必要になる。
大規模侵攻当日のトリオン兵より三雲くんが先輩に撃たれた回数の方が多いくらいに過激な指導があってこそで、それだけの時間とやる気があるのは先輩しか居なかった。
死者の方は先輩の未来予知のような動きによって0人になった。
彼の大規模侵攻での不可解な行動は、迅のようなサイドエフェクトがあるようにも思えるがそうではないことは解っている。
無駄にトラウマを増やすだけだと理解しているので本人に問い詰めることは絶対にしないが、彼の予知のような行動はいつの間にか迅が教えたことになっていたので少し思うところがある。
またしばらくの間肉が食べられなくなるのは勘弁して欲しいが、これからの未来に影響が出かねない彼の存在は中々やっかいでもあった。
これからの未来について考えながら移動していると、迅のサイドエフェクトが直近の未来を写し出した。
まだ少し熱を持っている頬を押さえながら対戦ルームを後にした。
腰の入った無駄のないナイスパンチだ、これなら確かにそこらのチンピラは歯が立たない。
…………めっちゃ痛い。
さて、一番気になっていた修くん達の現状を聞けたので、次は迅さんに謝罪しにいこうと思う。
オレは今まで迅さんには多大な迷惑をかけてきた……。
アフトクラトルに無断渡航しようとした時に迅さんの名前を勝手に使ったり、ボーダーを追い出されないように些細な嫌がらせをしたり……。
本当に申し訳ないことをした。
迅さんがどこにいるかは解らないが、時間はいくらでもあるので地道に足を使った。
人気の少ない廊下を歩いていると、目的の人物の背中が見えた。
「迅さん!……本当にご迷惑おかけしました!」
迅さんの姿を見つけた瞬間、思いっきり頭を下げた。
サイドエフェクトで予知していたのか、迅さんはそこまで驚いてはいなかったがこれも誠意ということで続ける。
「迅さんには多分沢山助けてもらったのに、迷惑ばかりかけて恩を仇で返すような真似してすみませんでした」
「いいって、いいって、とりあえず頭あげてよ。なんだかおれが後輩を苛めてるように見えるだろ」
言われるがままに頭をあげると、頬の腫れが目についたのか少し目を細める迅さん。
「医務室に行った方がいいんじゃない?」
「いえ……ケジメってやつなので。迅さんも修くん方式がいいなら、」
「生身なんだし、あまり無理はしないでくれよ。はい、これで許した」
某宗教の偉い人みたいに殴られてない方の頬を向けてみたら、頭に軽くチョップされて許してもらってしまった。
こんなの全然罰にならないのに、迅さんの懐が広すぎて心配になる。
「でもまぁ、自殺方法にあんなにバリエーションがある事にはビックリしたよ。一時期肉食べられなかったし、変なトラウマ出来たし。……間違ってもハサミ持っておれの前に立たないでね」
「本当に、本当にすみません……!」
最後の一言が本題だろう。
原因のオレは一度上げた頭を下げるしかない。
オレの些細な嫌がらせは意外と効果があったらしい。
しかしハサミって、別の未来のオレは一体何をやらかしたのか非常に気になるが迅さんの口から言わせるには酷だろう。
ペコペコ下げる頭を再度上げさせた後、しっかりとオレの目を見て迅さんは言った。
「もう、自殺なんてするなよ」
「……はい。ここで生きる覚悟、決めました」
「そっか、」
良かったな。
声に出されることはなかったけど、そう呟いたような気がした。
なんだかちょっとしんみりした後に、ふと思い出したように迅さんが言った。
「ぼんち揚食う?」
貰った。
ついでにサインも貰った。
ボーダー来て、本当に良かった……。
これにて一件落着?
ということで、中途半端ですがここで完です。
この作品のタイトルとテーマについては回収しきったのでここからは蛇足になります。
ここからの展開についてはがっつり書こうとするとアフトクラトルの侵攻目的がはっきりしない今、書くに書けないので番外編の更新となります。
原作者さんの体調回復を祈ります。
これ以上のあとがきは活動報告に書きます。
遅筆で情景描写の足りない作品にここまでついてきて下さりありがとうございました。
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番外編
千佳ちゃんと先輩
ひとまず完結済みから連載中に戻しました。
いつも感想評価ありがとうございます。
今日も完全防備の仮想戦闘室(エネドラの反省からか、オレの行いの悪さからか内側から開けられない)にて様々なテストをしていた。
一通り注文通り操作をした後解析を待つだけだと暇だから、トリガーを使う以外にも細々とした作業を手伝っているのでもう名実ともにオレは無職ではないと言えるのではないだろうか。
今も雑用だが使用した機材の片付けをしている。
両手に段ボールを抱えたまま食堂の前を通過しようとしたら、ふと気がついた。
「やぁやぁ元気かな修くんと空閑くん!」
「ロウ先輩」
「先輩先輩」
「先輩先輩とは新しい……って何か取り込み中だった?」
入り口前から見慣れた後ろ姿が見えたものでつい声をかけてしまったが、こちらを振り向いた二人の間から見えた驚いた様子の千佳ちゃんにタイミングが悪かっただろうかと思わずその場で足踏みする。
何やら真剣な顔をして話していた所に行ってしまったようで、申し訳ないことをした。
ピークタイムから時間が空いて人がまばらな食堂は奥の方で雑談しているC級以外には人影はない。
真剣な話ならオレがいない方が良いだろう。
元気そうな顔も見れたし、空気を読んで立ち去ろうとしたが修くんに引き留められた。
「先輩って今無職だからランク戦出てませんし、永遠のボッチなので突然チーム組んだりしませんよね」
「息を吸うようにディスられた!てか無職じゃなくて研究員(仮)だから!……けどまぁ確かに今ランク戦の参加資格無いしやってないよ」
「じゃあ、丁度良かった」
一体何なんだ?
あとそろそろ手が痺れてきたので荷物を置いても良いでしょうか。
足元に段ボールを置いた上で三人が座っていたテーブルにお邪魔する。
修くんの用件はというと、仲間(千佳ちゃん)が人を撃てないことについてだった。
これからの戦法について相談していた中、偶然修くんの師匠であるオレが通りかかったから意見を聞こうということらしい。
頼りになる先輩だからね!仕方ないな!
「なーんだ、そういうことね。先輩に任せてくれたら一時間でどんな人間でも撃ち殺せるようにしてあげるよ~」
なんて、絶対に拒否されるのが解っているので言えるジョークである。
「「ダメだ!!」」
「あはは~だよね~~」
案の定ダブルサウンドで速攻で拒否された。
空閑くんまで本気で止めてる辺り人望を感じるね。
ここでハッピーアイスクリーム、って言って通じる人居るだろうか。
なーんて呑気にしていたら、思いもよらないところから声が上がった。
「お、お願いしますっ!」
「えっ!?」
「千佳っ!?」
声を上げたのはもちろん千佳ちゃんである。
顔色は真っ青で拳を強く握りこんでいるけど手の震えが隠しきれていない。
そんなに怖いのに、そんなに恐れているのにぽっと出の見ず知らずの他人に頼りたくなるほどに思い詰めていたのか。
修くんと空閑くんも驚いた様子で千佳ちゃんを見つめている。
「い、いや、自分で言い出しておいて何だけどさ、やめた方がいいよ」
「が、頑張りますから……!」
「君は、向いてないよ」
「っ…………!」
……発端はオレなのできっちり責任は取ろう。
オレの軽はずみな発言が本気で悩んでいる子のことをそんなつもりではなかったとはいえ茶化してより追い込んでしまった。
「あのさ、頑張るとか頑張らないとか、そんな話じゃなくてさ……。確かにオレは君をすぐに人間が撃てる子にすることができるけど、はっきり言ってトラウマになるだろうし性格に悪影響出るよ。で、オレが変えた君は一体どうなるんだ?」
「どう……なるって、」
「修くんや空閑くんが人間を撃ち殺せる君のことを見て人間が撃てるようになって良かった!これでランク戦での戦力がアップしたぞやったね!なんて言う人間だと思う?」
そんなはずないことはとっくに解っているはずだ。
オレが本来呼ばれたのは撃てない千佳ちゃんを撃てないまま活躍させる作戦を考えるためなのだから。
「二人はそんなこと言わないのは解ってます……!でもっ、足手まといにはなりたくないんです!!」
「足手まとい、ね。それって具体的にどういうところ?」
「私が人を撃てれば、スナイパーとして相手チームの人の行動を制限できることが増えます。今はまだ良いけど、撃てないスナイパーだってバレたら誰も気を付けなくなっちゃいます……」
「うん、そうだね。だったら逆に人が撃てないスナイパーだってこと利用すればいいじゃん」
原作だってそうだった。
王子との戦いのとき千佳ちゃんは人を撃てないからと油断したところを足元に地形を変えるほどのハウンドを打ち込んだ事が結果的に点に繋がった。
もし、この悩みを持っているのが千佳ちゃんじゃなかったらもっと大きな問題になっていたかもしれない。
でも、千佳ちゃんはその莫大なトリオンから放たれる当たらない攻撃だけで十分な戦力的存在価値がある。
「人を撃てないということはそれだけ油断を誘うことだ。その油断につけ込んで戦うのは立派な作戦だし、もし油断をされなくなったらそれはもう人を撃てるただのスナイパーと比べても劣っていない」
と、とつとつと語ってブレス。
今はごく少数の人数の限られたチーム戦だから意識してないだろうけど大人数での戦いになったら地形への攻撃の方が圧倒的に恐ろしい。
「君はその莫大なトリオンでだって普通のスナイパーには到底できない仕事が出来るのに、ただのスナイパーになろうとするなんて勿体無いよ」
原作で千佳ちゃんがただのスナイパーだったらダメだったシーンなんていくらでもある。
「君の良さは普通の兵士(スナイパー)なんかの枠には収まらない。確かに撃てた方が役に立つシーンはあるかもしれないけど無理に変わろうとしないでいい、君は君のままで良いんだ。100点取ろうと無理しないでいい。変わるのは今のまま出来ることを全部やってからにしようよ」
ここまで言えば流石にもう人間の殺しかたを教えて欲しいなんて言わないだろう。
と、返事がないことに気付いてオレより大分低いところにある顔を覗き込むと……な、泣いていた。
日本に来て初めて女の子を(しかも後輩の大切な子)を泣かせてしまった。
「あっ、ごめっ、そっその偉そうなこと言ってすみませんでした!」
「……いえ、ありがとう、ございます」
オレがテンパってることに気付いたのか、こぼれ落ちる涙をハンカチで拭いながら無理やり笑顔を作る千佳ちゃん。
恐らく自分が泣かせた年下に気を使われました……。
「ちょっと、焦っていたみたいです」
「そっ、そうかなっ!?」
「はい。これからはまず今出来ることをやってからにします」
そう言って笑った千佳ちゃんは何やら吹っ切れたような様子だった。
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先輩シャバに出る前編
ハーメルンの素晴らしき機能と報告者様には本当に頭が上がりません。
今回全部かくといつ出せるか解らないのでとりあえず前編だけです。
また、「オレは間違っている」の序盤を大きく書き換えました。
その後は同じですが、先輩がよりくずになってます。
今日はボルボロスではなく新しいトリガーのテストをしていた。
一定範囲から出ると強制的にベイルアウトさせられ、本人の意思ではトリガーオフができず、当然戦闘力はない特殊なトリガー。
対象を無力化、拘束することに特化しており、倒した人型ネイバーに対して殺すと言う回答のないここだからこその発想で作られたものだ。
テスターとしては、トリガーオンされると本人から最も遠く使いづらい体型に換装する機能もつけたらどうかと提案してみた。
トリオン体であれば怪我なんてしないんだからとことん無力化しちゃえばいいじゃん、という発想である。
今のところの問題らしい問題は、トリオン体の作成から維持まで本人のトリオンを使えないので異常に作成コストが高いことぐらいだろうか。
「お疲れー」
「お疲れです寺島さん」
ガラス越しにゆるーい感じで手を振ってくれた人は寺島さんである。
オレの身の上とか問題行動とか一通り知っているはずなのだが、全く感じない。
今握りしめている待機状態のトリガーでも生身の人間なら簡単に殺せる程度の戦闘能力はあるって言ったはずなんだけど欠片も意識されてない。
今だって、仮想戦闘室から出たオレの目の届くところに重要書類が無造作に置いてあるし、最近仮想戦闘室の外からかけるロックをかけていない。
流石にボルボロスを使っているときは管理の手順なのかロックがかかるが、久々に相棒を使わせてもらった時や、今みたいな新トリガーの開発ではロックをかけていないことがほとんどだ。
理由を聞いたら、「別に何もしないだろ」とあっさり言われてしまい、疑い疑われることになれたオレの常識の外に居るのだと諦めたのは記憶に新しい。
「ほんと、ロックかけてないことバレたら始末書とかなんじゃないですか?」
「んー」
「興味ないからって、鬼怒田さんに怒られたって知りませんからね」
寺島さんのデスクに使用していたトリガーを置く。
あまり寺島さんの立場が悪くなるようなのは嫌だ。
今だって研究とか言いながら、別に自分じゃなくても出来るような仕事を任せてなんだかんだ自由にさせてくれてるし、安眠用のモデルガン(形だけ)作ってくれたの知ってるんだ。
「別に、神崎が何かするはずないってのはもうテストしたから」
「へっ?」
いつの間に!?
された覚えないんだけど?!
混乱するオレを横目にデータを保存すると、置いてあった重要書類を指差しながら何てことない口調で続けた。
「神崎さ、これ読めるでしょ」
「いや、流石に会話は頑張りましたけど文字の方までは手が回ってないので」
「ってことになってるだろうけど、さっき渡したテスト概要小学生レベルじゃ読めない単語とか使いまくってるから」
う、迂闊……!
オレはすっかりふ抜けていたようだ……!
当然のように渡されたから当然のように始めてしまったが、そういえばいつもより難読漢字とかあった気がする。
「ちなみに前のキャリアは?」
「キャリア?何のことですか?」
「とぼけなくていいから。長期間スマホ使ってたの手の形で解る」
「……リンゴの6Sでした」
「パソコンは?」
「窓10強制アプデで泣きましたよ色々」
「じゃ、後でこれ電子化しといて」
そう言って渡してきたのはテストで気づいたこととかがびっしり注釈された設計図で……この人ほんと警戒心というものが無いな!
政府にバレたら困ったことになるかもしれないから隠してきたのに……「わるいこと」沢山してきた身で何を言うかと言われたらぐうの音も出ないのだが。
「い、いや、いくらなんでもパソコンは不味いですって」
「あっあと鬼怒田さんにも言ってあるから」
「はぁっ!?」
「トリガー試すのはいいけどそれ以外の作業のが多いんだからデスクワーク覚えさせていいですかって。どうせ神崎はここにずっといる可能性高いんだからその方がいいだろって」
「まじかよ……」
今までほんとーに気を使ってきたオレの立場は一体……。
馬鹿で可哀想な子供ぶってた時は心配されまくったせいで行動ガチガチだったのに、本音暴露して問題行動したのに緩くなるとか……。
「あっ、あと当然お守りは要るけど申請すれば外出許可出るから行きたくなったら言って」
「ちょっとついていけないです!!」
「政府のお偉いさんにはカウンセラーの人と口裏合わせてもうほとんど一般的な子と違いありませんって言ってあるらしいから。まぁあくまで建前でボーダー的には前行動制限し過ぎたことも無断渡航未遂の要因だっただろうから要所は押さえつつ緩くしてこうぜって方針になったのもある」
「うわぁ」
「今までの防衛任務の成果もカウントしてあるし給料もあるからちょっとくらい遊んでくれば?」
「……怒濤の展開すぎてちょっと頭働かないっす」
な、なんなんだこのオレにだけ都合のいい展開は……。
ちょっとついていけないんだが……!
伝えるだけ伝えたら、寺島さんは作業に戻ってしまった。
とりあえずショートした頭で注釈を電子化したあと、今日はここまでだから後はこれ読んでてと渡されたボーダーの就業規則に更にビビり、暇になったらようつべでも見ればって寺島さん私物のらしきスマホまで渡されてこれはもうわけわかんねぇなって。
というか言われなくてもエロサイトとか見ないから!
ここまでノーガードで受け入れられてしまうと、逆に困るというかなんというか……。
寺島さんの信頼を裏切ることなど出来ないので大人しく就業規則読んでちょっとだけようつべを見て今日は終わった。
幼き頃のヒーロー、ジャ○キーのベストアクションシーンだけ見た。
先輩主観だと都合の悪いことを隠しまくるので出ていない設定が沢山あります。
ちなみに今回神崎呼びで反応してるのは文脈から読み取れるのと神崎神崎呼ばれて慣れてきたからです。
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先輩シャバに出る後編
真面目に描写しようとしたら終わらなくなったのでかなりスキップしてます。
その結果日常回としても中途半端になってしまいました……。
良いと言われたら、行くしかないでしょ三門市観光!
と、いうことでオレの初聖地巡礼の旅は決まったのであった。
当然監視役兼案内人は居るが、オレ自身現代日本の生活から離れていたので、誰か一緒に来てくれるというのはとても頼もしい。
ついでに持続時間と範囲指定のテストもかねて例の試作トリガーを渡された。
換装したトリオン体には顔の傷が無いので、もしかしたら……オレのうぬぼれでなければ、このトリガーはオレのために急いで作ってくれたのかもしれない。
寺島さん……一生ついていきます!!
研究室の方に向かって敬礼していると、聞き覚えのある声に現実に引き戻された。
「どーも、お守りです」
「あっ、どーも今日はお忙しいなかありがとうございます、って」
例のデフォルメ顔でこちらを見ながら迅さんにもらったであろうぼんち揚片手に立っていたのは原作一巻表紙の彼である。
まじか。
「空閑くんが……?」
「あぁ。先輩先輩が逃げようとしても今度はバッチリ捕まえるぞ」
「いや、頼もしいけど良いの?学生の休日なんて超貴重じゃん」
「ホントは今日、オサムとチカと出掛ける予定だった」
「うわっ、タイミング悪くてすいません……」
いやほんとまじですみません。
玉狛支部の友情を深める機会を邪魔してしまったようだ。
先輩の威厳とかプライドとかは欠片もないので思いっきり頭を下げる。
そうしたら、空閑くんは更なる一撃を投下してきた。
「ので、今日は二人も居る」
「へ?」
それってホントにオレのお守りなんですかね……。
……とりあえず、オレ集団の中でボッチフラグ立ったんじゃねこれ。
「先輩先輩がドウシテモと言うので連れてきた」
「ドウシテモ……」
「うわっ恥ずかしくないんですかロウ先輩」
「こ、こんにちわ」
「優しさが染みる」
ドウシテモ作戦を自分から言い出したとはいえ精神ダメージを負わないと言ってはいない。
辛辣な後輩と強かな後輩に囲まれた先輩は言わば前門のなんとかと後門のなんとかに挟まれた宇宙人なのだ……。
知らない先輩が行きなり来たら普通はドン引き必須なのに挨拶してくれる千佳ちゃんまじで良いこ。
初めてのシャバにテンション上がってたけど、修くんや千佳ちゃんは先輩の黒歴史的な事情は知らないのを失念していた。
空閑くんにお守りしてもらう必要があるなんて言ったらなんで?って言われるに決まっているので言えない。
そのため断腸の思いで提案したドウシテモ作戦だったがすでにライフは0になりそうだ。
でも!!恥をかいても聖地巡礼したかったんだよ!
「先輩、今日は空閑に三門市の案内をするつもりだったんですけど」
「先輩のことは気にせず遊んでくれ」
「一応聞きますけど、どこか行きたいとことか無いんですか」
「いや、本当に良いよ」
「オサム、あれに入ってみたい」
優しい後輩はドン引きしつつもオレの意見を聞いてくれた。
が、しかしオレは三門市の地理に全く詳しくないのでなにも言えないのであった……!
そんなオレのピンチを汲み取ってくれたのか、空閑くんが派手なカラーリングの店舗を指差して行き先を決めてくれた。
店先のクレーンゲームや外からも聞こえる爆音からして、
「ゲーセン?」
懐かしい響きだった。
心はいつまでも少年なオレは大はしゃぎである。
「先輩はしゃぎすぎですよ!!」
「すみません……」
当然叱られる。
本日二度目の謝罪。
後輩に叱られるとか恥ずかしすぎる。
まず入って早々、入り口にあった銃のゲームをやった。
よくあるゾンビゲーで、トリガーの使用感と少し近いからかそこそこうまくいき、3クレジットくらいでラスボスまで行けた。
その後は千佳ちゃんが目を輝かせて見ていたぬいぐるみをみんなで取ってプレゼントした。
後輩達にかっこいいところを見せられた(気がする)のでここまでは良い。
今度はみんなで対戦できるゲームをやろうということになった。
某配管工のレースゲームで遊び、ホッケーをして、無理やり三人をプリクラに連れ込む。
合成された後の原型をとどめていない顔に笑い、ついでに玉狛組だけでも撮らせ四等分することによりオレは合法的に写真を手に入れた。
だいたい目ぼしいものは手を出したあとに格ゲーに興味を示した空閑くんと対戦。
なにやら身体の調子が良かったのか我ながら鬼畜な反射速度でコマンドを入力し完勝。
どや顔のオレに、悔しかったのかもう一回という空閑くん。
勝者の余裕でどや顔でOKしたら突然空閑くんが覚醒。
もはや人間業でないコンボにギャラリーも拍手するレベル。
先輩の威厳()をかけてリトライするも最初のキレはなんだったのか負け続け……もう一回!と引き下がるカッコ悪い先輩は後輩に叱られました。
「空閑も……途中からレプリカの力を借りていただろう」
「バレたか」
「えっ」
「筐体を挟んだ反対側でロウ先輩は見えないからってぼくたちには隠す気が無かっただろ」
「なにそれズルい」
「先輩先輩のどや顔がムカついてつい。ゴメンナサイ」
「オレもレプリカ先生のプレイ見たい!」
「…………そっちなんですね」
聞こえたぞ千佳ちゃんよ!別に使えるものを使って勝つのは悪いことではないのだ!
ただ純粋にオレがレプリカ先生のかっこいいところを見たいだけなのだ!
もう一回!と言おうとしたが修くんの目を見て止めた。
そう、戦場で生き残るには相手をよく観察することが重要だ……今のオレでは修くんに勝てるビジョンがない為これは諦めるのではなく戦略的撤退なのだ……。
「そろそろ出ますよ」
「三人共に腹すいてない?今日付き合ってくれたお礼に先輩が何でも奢っちゃうぞ」
「そんな、悪いです」
「ホントは三人で遊ぶはずだったのに邪魔しちゃったからさ、奢らせて」
千佳ちゃんが遠慮しちゃうのは解っていたので逆に拝み倒す方向に持っていく。
修くんは今さら遠慮なんてしないだろうし、空閑くんも気にしないだろうからね。
近くのファミレスでみんなで軽く食べて、本来の目的だった三門市の案内を再開した。
駅からスタートして各種公共施設を見ていく。
それは施設を使うために教える、というよりも常識を教えていく、知識を実感させる類いのものだった。
空閑くんが学校であまり浮世離れしたことを言わないように、普通の人なら知っていて当然なレベルから教えてあげているのだろう。
ボーダーからほぼ出ないオレも使うことは無いだろうが、空閑くんが馴染めるように一生懸命教える後輩達にほっこりした。
そして最後はスタート地点の駅に戻ってお開きになる。
オレを送り届けないといけない空閑くんと二人、残される。
「あのさ、空閑くん」
「なんだ、先輩先輩」
「後一ヶ所、行きたいところがあるんだけど、いい?」
「どこ?」
「学校、行ってみたいんだ」
そう言ったオレの顔をちらりと見た空閑くんは、あっさりと答えた。
「いいよ」
学校。
結局今回は通うことがなかった場所。
原作で空閑くんと修くんが出会った場所であり、オレはともかく俺からしたらボーダー以上に遠くて、理解できない場所だ。
せっかく来たけど休日だから当然門は閉まっている。
夕焼けに染まる校舎は人気がなくてどこか寒々しい。
ただ何も言わずにじっと見ているオレを気にしてか、空閑くんから提案される。
「入ってみる?」
「いや……って、こらこら門を越えちゃだめだって。空閑くんはともかく部外者の先輩は不審者騒ぎは起こしたくないからやめてくださいお願いします」
「先輩先輩は……変な人だな」
「今さっきまさに門を乗り越えようとしていた子に言われたくないなぁ」
「外から見てるだけで満足なのか」
「そうだよ。…………うん、今日は本当に付き合ってくれてありがとう。そろそろ帰ろうか」
もう門限が近い。
しかし今日は本当に楽しかった。
怒られもしたけどバカみたいに笑ったし、聖地巡礼したし、見たかったものも見れた。
空閑くんの負けず嫌いなとこも見れたし、ゲーセンで取ったお土産のう○い棒お徳用もある。
今、オレはとても幸せだ。
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遊真と先輩
ですがそんなことよりもワートリ連載再開おめでとうございます!!!!
やった!!!!!
放置期間の感想、評価などもありがとうございます。
実は、研究職員(偽)になってから一番付き合いがあるのは空閑くんである。
理由は簡単で、ボルボロスの実戦データを取る時に都合がいい(事情を知っている、サイドエフェクト、オレより全然強い、同じブラックトリガー持ちなどなど)ため、不定期だが玉駒から来てもらって模擬戦をすることが多い。
今日もボルボロスのデータを取って、その特性を転用したトリガーを作れないかと研究者の皆さんは目を血走らせている。
銃型トリガー以外を使うことになれてないオレは試行錯誤しながらやっているがどうしても空閑くんにはボコボコにされる。
せっかくのブラックトリガーが泣いているかもしれない。
『あー、神崎、次は新作のテストよろしく』
「うっす」
ガラスの向こうから届けられる声に、ボルボロスをトリガーオフすると格納場所に置く。
床からつきだしたような円形の入れ物に入れると自然と床に食い込むように下がっていき、代わりに新作のトリガーが出てくる。
「じゃー空閑くん、もう一戦お願いします」
「今度はどんなやつ?」
こういう新作のテストに空閑くんは割りと乗り気だ。
ネイバーフッドには無かった発想で作られるトリガーは興味をそそるらしく、いつも聞いてくる。
まぁ、空閑くんのブラックトリガーの学習機能からして単純に新しい手札が増えるからだろう。
ちなみにレプリカ先生はこちらの戦闘データ解析のためガラスの向こうだ。
今頃オレのあんまりな動きを丸裸にされてるんだろうな……。
「残念ながら、今回はご期待に添えないだろうね」
『今日テストする試作2439号は、君の戦闘スタイルから発想を得たものだ。神崎、起動してくれ』
「了解です。トリガーオン」
「……へぇ」
換装された姿は、無手。
つまり、素手だ。
手袋に鉄板が仕込んであるような膨らみがあることを除けばいたって普通の格好だ。
『ゲームとか漫画で馴染みがある銃や刀と違って素手での格闘は抵抗がある人も多くてね。下手に学習させて戦闘技能を生身で悪用されても困るから今まではお蔵入りさせてたんだけど……』
「適任が出来たから作ったってことか」
「暴力はんたーい」
誰も突っ込んでくれない。
まぁ解ってはいたが。
適任、と言われたがオレ自身の近接格闘への適性はそんなない。
殴ることに抵抗がないこと位で、前いたとこでは素手での取っ組み合いなんて子供同士のじゃれあいか大人からの暴力への抵抗でしか使用することはなかった。
本当は空閑くんに使ってもらう方が良いのだが、玉駒支部の人をそうほいほい呼べるわけではないので代打バッターとしてのオレって感じである。
「じゃ、お手柔らかに」
「ヨロシクオネガイシマス」
拳を打ち付けたあと見よう見まねのファイティングポーズを取るオレと、自然体のままこちらを見る空閑くん。
目標は不意打ちでもいいので一発入れることである。
脳内で燃えよドラゴンのBGMを思い出してテンションを上げる。
『開始』
戦いのゴングが鳴り響く……みたいな。
「まぁ、解ってたけど清々しいほどにボコボコにされたな!」
横で寺島さんが渡したジュースを飲む空閑くんの表情はいたって余裕。
当然の結果って感じだ。
開幕まずオレは思いっきり拳を振りかぶり愚直な右ストレートを一発。
様子見かギリギリまで引き付けてから半歩避けた空閑くんに、それを待っていたとばかりにトリガーの機能を使用。
延びきった腕を引き戻して更に反動を利用した回し蹴りをお見舞いする。
突然の不自然な加速に飛び退いた空閑くんが居た場所をジェットで加速された足がすり抜ける。
なるほどね、と呟いた空閑くんにはもう種はばれてしまったようだった。
「で、どうだった?」
寺島さんコーヒーあざっす!
渡されたコーヒーを受けとると、プルタブに手をかけながら感想をのべる。
「うーん、正直イマイチっすね」
「どこら辺が?」
「拳と足の加速ってシンプルですけど種がばれたらすぐ対応されるし、遠距離に無力じゃないすか。あと反動が結構バカにならないので姿勢制御がキツいです」
「そういうけどなかなか変態染みた動きしてたと思うけどな……対戦相手から見たらどう?」
「まだ実戦では使えないと思う。先輩先輩が最後の方に攻撃を避けるために無理やり反対側に伸ばした腕で身体を動かしたりしてたけど、一対一ならともかく多人数の時はスナイパーの餌でしかないし。けど遠距離型が持ってると緊急回避にも使えるし不意を打てるから調整次第?」
後ろではレプリカ先生がかなりハイレベルな議論をしているが理解できない。
ネイバーフッドにも似たようなトリガーがあったらしく、その時のデータを渡して神のように崇められてる。
研究室は割りとレプリカ教みたいになりかけている。
まぁ確かに近接されると弱い銃型トリガー使いとかには良いと思う。
それにちょっと調整すればガンカタとか出来そうだし浪漫もある。
ただ、今のところは浪漫の域をでないって感じだ。
寺島さんはなるほどね~と言うとそのままデスクに向かっていった。
何か改善案が浮かんだのかもしれない。
こういう時、空閑くんはもう帰っていいよとのこと。
「じゃ、今日もありがとうな」
「別に」
「クール!くっそう次こそは一発入れるからな!!!覚悟しておけよ!」
「勝つんじゃなくて一発でいいのか」
「それは多分まだ無理!」
堂々と胸を張るオレに呆れたような空閑くん。
先輩の威厳などない。
正直、初めて出会った時からすると今みたいな関係になるとは思っていなかった。
オレも空閑くんもお互いに関わろうとはしていなかったし、距離を詰めるきっかけもなかった。
それが今は、一方的にボコられるだけとはいえ一緒にジュースのんで、当たり障りないとはいえ日常会話もしている。
友達と呼ぶには距離があるが、友達の友達としてはなかなかいい関係を築けているのではないだろうか。
先輩の格闘型トリガーの適性は抵抗なしだけじゃなくて、サイドエフェクトのブーストありも含めての話です。
同条件で戦えば普通に有利。
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ガロプラとS級隊員(偽) 前編
後編はそのうち。
感想評価などいつもありがとうございます。
ボルボロスを使用するにあたって、一番困難だったのが群体のように肥大する自己の定義だった。
オレは、どうにも本誌で見ていた時の印象からボルボロスを使用した時の泥は全て本人の身体の一部と認識してしまっている。
そのため全身を泥化させたら本来の自分の身体と違いすぎる状態という認識になり、まともな操作が及ばなくなる。
捕虜となってから完全に口をつぐんでいるエネドラに操作方法なんて聞けないし、どういうイメージで操作していたのか解らない。
一部だけ身体切り離して設置などの使い方をしようにも泥を自己と認識できないオレでは身体(本体)から離れた瞬間にコントロールを失いただのトリオンの塊になってしまう。
そういった大きな欠点を改善するために、オレは自己の定義を改造することにした。
元からオレはそういった定義が人とは少し異なる位置にあったことから、改造自体もそこまで苦ではなかった。
オレと俺の切り分けや、逆に同一視している範囲、オレの一部ではないが一部とまで認識していた銃、オレの指示で動かしていた部下、自由意志で行動させていた仲間、そういった枠組みに、ボルボロスを起動した時の泥も定義付け割り振っていく作業を行う。
まぁ、定義づけが終わって突然動きが変わったことにすぐ仮想空間で対峙していた遊真に見破られ、凄いだろ!と自慢気味に言ったら偉い人にもめちゃくちゃ怒られたし速攻でカウンセリングルームにぶち込まれ新たな黒歴史の1ページとなってしまったが……。
とにかく、オレはオレなりにボルボロスに対して少しずつ理解を深めていった。
目の前でうごうご動かしている泥。
バスケットボール大くらいの泥を更に分割して手の形にしてお互いにじゃんけんをさせたり、また一つにした後に那須さんのログで見た弾道を再現してみようとして失敗したりと、できる限りの精密操作を繰り返す。
先日どこまで身体を増幅させられるのかの限界調査の時よりも繊細なコントロールが必要になるので集中力がいる。
当初はランダムに画像を見せられて、その画像の形に変形させるという方法でやろうとしていたがオレの芸術的センスがほとばしってしまい、成功しているのか失敗しているのかの判定ができないと怒られてから今の方法に落ち着いた。
このバスケットボール大の泥はオレの腕くらいなので、ある程度の精密操作はできる。
じゃんけんさせていた手に箸を持たせれば大豆をつまめるだろうし、折り紙くらいは出来るだろう。
けど、あくまでその程度でしかない。
「うーむ微妙だ……」
オレ本体と直接繋がった泥を操作するときのようにバリエーションに富んだ動きは出来ないし、こうさせたいというはっきりした意志がないと操作もできない。
意識すれば操作できるとはいえ、戦闘中にそんなことするコストとリターンを考えれば愚直な槍型にして射出するエネドラ方式のがよっぽどコスパがいい。
直接繋がった泥は身体を動かすように無意識での操作調整もできるようになってきた事から考えると、腕程度では所詮地雷のような使い方が精々だった。
そろそろこの腕の操作もやめていいだろうかとモニターの向うに視線をやった時、待ち構えていたようにモニタールームから声がかかった。
『神崎、突然のことで悪いが実践だ』
パターンA!使徒です!!……じゃあないけど、そういえばすっかり忘れていたがガロプラからの遠征艇襲撃事件があった。
ただ、どうにも原作と違う点がいくつかあり、その中の最大の相違点がガロプラ組が遠征艇を目指してこないということである。
「迅の予知いわく、敵の狙いはエネドラとボルボロスのようだ」
しかめっ面の鬼怒田さんの言葉に納得する。
そういえば、現在の原作との最大の相違としてミラがエネドラを殺していないことが挙げられる。(後から聞いた話によるとエネドラ侵入当時のボーダー外は黒いラービット大量発生でなかなかの地獄だったらしく、到底エネドラを殺しに来る事が出来る状況じゃなかったらしい)
つまり、アフトクラトル側からすると今回はエネドラの始末ついでに奪われたブラックトリガーを取り返すことが目標になっているということだろう。
今頃ヒュースと陽太郎の友情イベントが起きていることを思えばそっちに行きたくて仕方ないのだが、到底できるはずもなく……。
オレの役目は、基地内の被害をできる限り収めるための敵の誘導としての餌役だった。
「作戦は以上だ。……できるな、神崎」
「了解しました」
「では行ってこい」
「はい!」
今日だけ臨時のS級扱いだ。
アフトクラトルセンスなマントを翻しながら基地内を闊歩するなんて少し変な状況だが、オレはオレのやれることをやって少しでもボーダーのみんなに恩を返したい。
がんばれよーとゆるーく手を降ってる寺島さんにサムズアップすると同じ研究室の人も返してくれた。
ただ、どうにもニヤニヤ笑われてるので戦闘前の高揚感から普段なら絶対やらないような仕草を後でからかわれそうだが……研究者として偉大なる先輩であることには変わりないので後でお昼の時に復讐する事で許そうと思う。
隠しフォルダ見つけてるんだからな後で絶対あの厨ニバリバリの恥ずかしいトリガー妄想みんなの前で晒してやる、となんてことない日常を噛みしめる。
よーし、先輩頑張っちゃうぞー。
このあと太刀川さん達に会えるしね!!!
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