東方月兎騙 (水代)
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第一話 ウサギ生まれる

 

 

 感覚が繋がる。

 五感が生まれる。

 全身の神経が繋がったような錯覚すら覚え。

 閉じられたマブタを開く。

 

 瞬間、自身はそこに生まれた。

 

「おぎゃあ…………なーんて」

 戯言を呟き、口元を歪ませる。

 開かれた視界から差し込む光の眩さに数度瞬きし、すぐに順応した瞳が視界に入る光量を抑え、ようやく視界がクリアになる。

「は…………?」

 そこは一面の荒野だった。

 ぺんぺん草一本生えない不毛の大地とでも言うべきか。

 でこぼことした岩場、暗い空、瞬く星々。

 そして空の彼方。遠く遠くに見える青い星。

「なるほど…………()か」

 知識でなく、本能が理解した。

 

 そして、それを理解した瞬間。

 

「がぁぁぁぁ!! ああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 焼け付くような痛みが自身の両目を襲う。

 咄嗟に両手で目を抑え、その場で蹲る。

 

 イタイイタイイタイイタイイタイ。

 

 どうにもならない目の奥の痛みに、脳が焼き切れそうな思いすらする。

 このまま目玉を刳り抜いてしまえたら楽だろうに…………そんな馬鹿な思考が一瞬脳裏を過ぎり。

 十数秒ほどで痛みが治まる。

 恐る恐ると目をゆっくりと開き…………驚嘆する。

 

 歪んでいる。

 

 世界が、視界が、目に見える全てが。

 

 輪郭が歪んでいる。色は滲み、あらゆるものの境界線が混じる。

 

「っ!!」

 

 咄嗟に目を閉じる。

 黒に包まれる視界に、けれど先ほどの光景が見えないためほっとしてしまう。

 何だ今のは!? そんな内心の呟き。

 動揺する心中を鎮めようとするが、あまりもおかしな光景に胸の動悸は治まらない。

 もう一度心を静めようと深く息を吸い、吐く。

 何度か繰り返す内、少しだが冷静さが戻ってくる。

 そんな時、ふと脳裏に浮かぶものがある。

 

 狂気を操る程度の能力。

 

 張り付いたように脳裏から離れないその言葉を心中で反芻し…………理解する。

 今度は本能などと言う生易しいものではない。

 心が、頭が、体が…………魂が知っている。

 それが自身の存在だと、自身の全てが叫んでいる。

 気づいてしまえば、あまりにも当たり前にそれは自身の中に馴染み、解けていく。

 

 目を開く。

 

 視界は…………正常だった。

 

「………………これで良い」

 一つ呟き、空を見上げる。

 さきほどとはまるで別物の空。

 けれど全く同じ空。

 なるほど、これは興味深い。

「ああ…………ところで」

 さきほどから実はずっと疑問だったのだが。

 

「私は誰だ?」

 

 

 

 

 (わたし)は誰だ?

 

 何を持って (わたし)とする?

 

 (わたし)oneself(わたし)であることの証明とは何だろうか?

 

 我思うゆえに我あり…………素直に受け取るならば私が(わたし)であると認識していることこそがoneself(わたし)であることの証明になるのだろうか?

 

 などと言っても、偉大なる哲学者様の残した言葉の意味は全く違うのだが。

 

「なんて…………戯言かな」

 全く持って。言い訳のしようも無いくらいに。

 

 端的に言うなら。

 

 私には前世の記憶と言うものがある。

 その前世の私を唯一の私とするのか?

 けれど前世、と言い切ったように。以前の私が私であると言う意識は薄い。

 だというのに前世の私を今の私とする、とはおかしな話ではないか。

 だが完全に無関係であるか? と聞かれるとまた話は違う。

 今の私は、以前の私の影響を多分に受けた人格(パーソナリティ)を形成している。

 だとするなら、前世など関係ない、と割り切るのもまた何か違う。

 

 そう、例えるなら、前世の私を見て今の私が育った…………そんな感じだろうか?

 

 だとするなら、私とは一体どこにあるのだろうか?

 

「うーん、なんて哲学」

 

 フィロソフィーと言う言葉の響きが良い。

 なんだかちょっぴり頭が良くなった気分。

 

 と言うことで。

 

「私は私と言うことで決定」

 

 一体何がどうなってそうなったのか。

 さてはて、自分でも分からないのだから考える必要も無い。

 顔にかかる髪をはらりと手で払い、不毛な月の大地を歩く。

 歩いた…………はずだった。

 一歩踏み出し、ふと気づく。

 

「私って一体何?」

 

 

 

 前世の私は人間だった気がする。

 特筆すべき人生でもなかったので割愛。けど私の人生はオンリーワン。えっへん。

 私以外が私の人生を歩むことはできないのだから、私の人生がオンリーワンであることは明白である。

 明白って言葉が格好良い。あとオンリーワンって言葉を使うとなんだか特別度指数が上がる気がする。

 いいよね、特別度指数。でも特別度指数って何さ?

 まあそんな思いつきワードは置いといて…………でもなんだか素敵なのでメモメモ。

 

 話を戻すけど(かんわきゅうだい)

 

 前世の私は人間。でも今の私は人間ではないみたい。

 そもそもなんで月にいるんだろう?

 え? なんで人間じゃないって分かるかって?

 

 勘。

 

 いやいや、嘘々。

 

 簡単だよ、とっても簡単。

 

 だって、頭から兎の耳が垂れてるから。

 

 そうそう、兎さん。ロップイヤー。可愛いよねロップイヤー。ところでロップイヤーってどんな姿してるの? いやいや、可愛いってのはつまりあれだよ、ロップイヤーって言葉からして可愛いよね、って話であって、私は見たこと無いよ。それと普通の耳もあるよ、ちゃんと。

 

 そんなどうでもいいことは置いておいて(かんわきゅうだい)

 

 あと兎ちゃん尻尾ある。兎さーん。

 もこもこだけどちょっと短い。っていうか、なんで上手い具合にスカートに尻尾出すところがあるんだろう?

 ていうか、何故に私はブレザー?

 

 ぐるぐる。思考中の擬音語。

 

 ぐるぐるぐるぐる。昔グル○ルって漫画あったよね。ガン○ンで。

 

 ぴこーん。電球点いた。いや、思いついた……じゃなかった、思い出した? 理解した?

 まあ何でもいいや。

 

 玉兎。私はそう呼ばれるものらしい。不思議と思い出せた。

 玉兎って言うのは、なんと。月の兎らしい。

 本当にいたんだね、月に兎って。

 餅ついたりするのかな?

 まあどうでもいいけど。

 つまり私は兎さん。

 

「にゃー」

 

 それは猫さん。

 兎ってどんな鳴き声なんだろう?

 

 その時、ふと何かが聞こえる。

 

「……………………ん?」

 

…………ァ。

……………………ェ。

 

 声。そう、声だ。

 

 ………………♪

 ………………ッ!!

 

 楽しそうな声と、怒るような声。

 それが、近づいてくる。

 

 さて…………どうしようか?

 

 少し考え。

 

「~~~♪」

 

 鼻歌交じりに歩き出す。

 

 そうして彼女たちに出会うのは…………その後の話。

 

 

 




内容がカオスな理由? 作者が徹夜だからに決まってる。


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第二話 ウサギ働く

 知らなかったが、玉兎と言うのは月においては一番下の奴隷らしい。

 というか月に人が移住していることすら知らなかった。

 月の民と自称する彼らは大昔に地上から月に移り住んだ一族のことらしい。

 らしい、と言うのは所詮伝聞でしかないから。

 まあ、当時のロケットとか未だに残ってるし、本当なのかもしれない。

 

 まあそんなことはさておき(かんわきゅうだい)

 

 今回やけにまともじゃないかって?

 いや、前回は生まれたてでちょっと能力が暴走してただけです。

 一応普段の私は常識人(自称)ですので。

 

 それは置いといて(かんわきゅうだい)

 

 あの時聞いた声の主。それが月の民のリーダーだと言うのだからおかしな偶然だ。

 生まれたばかりの玉兎である私はその二人組に発見され、同じ玉兎の仲間たちのところに連れて行かれた。

 なんでそんなことになっているのか、玉兎は生まれた時から月の民の奴隷であることが決定されているらしい。

 と言うわけで今日も私は労働に勤しむ。

 

「無理無理無理無理ーーーーー!!!

「ほら、急ぎなさいレイセン」

「待ちなさいレイセン、お姉様!!」

 

 そう、これは労働だ。

 例え桃泥棒の姉を背負って、その妹から逃げると言う任務であろうと。

 

「追いつかれたらひどい目に合うわよ、頑張って逃げなさい」

「豊姫様が私を巻き込むからでしょうがああああああああああ」

「火之迦具土神の炎よ!!」

 

 と言うか、全ての仕事の中で一番危険な仕事だ。

 何せその妹様が全力でこちらを殺しに来ているのだから。

 

「いやああああああああああああ、神殺しの炎なんて人に向けていいもんじゃありませんよおおおおおおおお!!!」

「ほら、レイセン、ファイト」

「死ななければ問題ありません」

 

 きりっ、とか言いそうな決め顔で言っても騙されませんよ。全然問題あるに決まってます。

 このままでは確実に死ぬ。と、なると………………。

 

「依姫様。ごめんなさい!」

 

 ばっ、と振り返る。怒りの形相で追いかけてくる少女、依姫様を見て顔を引きつらせるが、すぐに気を取り直し。

 

 自身の瞳で依姫様を見つめる。

 

 発動、狂気を操る程度の能力。

 

 依姫様の視覚を錯覚させる。

 

「っ、これは…………レイセンか。だが甘い!」

 

 と言っても、依姫様相手にこんな誤魔化しがいつまでも通用するとは思っていない。

 だから。

 

「豊姫様、今です」

「了解よ」

「く、逃がしません…………賽の神の誘いあれ!」

 

 すぐさま依姫様が視覚を正常に戻すが、その時には。

 

「は、はあ~…………間一髪ですね」

「ふふふ、助かったわレイセン。それじゃあね」

 

 綿月の屋敷へと転移した豊姫様は、こうして依姫様からの難を逃れるのであった。

 

 そう…………()()()は。

 

 私? 私ですか………………。

 

「だからいつもいつも貴女は!!! そうやって貴女が甘やかすからお姉様が付け上がるのです!!」

 

 後からこうして依姫様に怒られるんですけどね。私だけ。わ、た、し、だ、け!!!

 いや、分かりきってたんだけどね。

 だいたい互いに顔見知りなんだから逃げ切ったところで後で呼び出されるのは必然で。

 そもそも月の民たちのリーダーである綿月姉妹の呼び出しを無視するなんてことは私にはできないわけで。

 

「ペットなら飼い主の躾をですね!!」

 

 いや、依姫様、それ普通逆でしょ…………と言ったら説教が倍増するので言わない。

 そうペット。ペットだ。それが今の私の立場。

 あの日あの時あの場所で、出会った二人はさきほども出た綿月豊姫様と綿月依姫様の姉妹。

 そして何が気に入ったのか、豊姫様はその場で私をペットにする、などと言い出し。

 さきも言ったが、玉兎はこの月の中では奴隷扱い、当然拒否権は無い。

 こうして私は晴れてペットとなりましたとさ。

 

 

 

 ああ、ところで。一つだけ訂正をいれておくなら。

 玉兎はたしかに月において奴隷のような存在だ。

 だがそれは拒否権が無いと言うだけであって、別に悲惨な目にあっているわけではない。

 と言うか寧ろほとんど何も言われることは無い。基本的に月の民は誰も玉兎を充てにしていないので、玉兎に対して命令する、と言うこと自体が稀だ。

 なのでほとんどの玉兎は毎日お気楽に過ごしている。生来の気質からして能天気なのもあるのかもしれない。と言っても今の私はそんな玉兎の一員だが。

 

 

 ただそんな玉兎たちの中でも都市防衛隊に組分けされたものたちだけは違う。

 彼らはその名の通り、都市の防衛のため常に訓練を欠かさない、玉兎たちの中でもエリートなのだ。

 

「そこおおおおおお!!! サボってないで、訓練しなさい!!! そっち、逃げ出そうとしても無駄ですよ、貴女はさらに訓練追加です!!! そこの、隠れて談笑しない。そちらの、何を昼寝しているのですか!! 貴女も訓練追加です!!」

 

 エリート…………のはず?

 まあ所詮玉兎は玉兎、と言うことで。

 そしてその都市防衛隊を率いるのが何を隠そう綿月依姫様だ。

 

「レイセン、調子はどうですか?」

 

 銃を構え、狙いをつけている私を見て、依姫様がそう声をかけて来る。

 レイセン、とは私の名前だ。

 豊姫様が私をペットにした時に名前の無かった私にくれた名前だ。

 特に異論も無いし、他に代案があるわけでもないのでそれをそのまま使わせてもらっている。

 

「いえ、特に問題はありません」

 

 私がそう言うと、私の前方にある射撃の的を見て、頷く。

 

「なるほど、たしかに問題はなさそうですね。その調子でやりなさい…………それと、貴女は折角能力持ちなのだから、そちらの訓練も怠らないように」

「了解です」

 

 依姫様は軍人気質と言うか、緩んだ感じが嫌いな一本気の通った方なので、こうした私の前世で言う軍隊式のやり方を施行している。

 ただお気楽思考の玉兎には壊滅的に合わないそのやり方のせいで、依姫様は玉兎に恐れられている。

 本人的には至って真面目にしているだけなのだから、何ともすれ違っていると思う。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いと言うが、依姫様の訓練中の厳しい態度のせいで、依姫様自身も厳格な人だと思われ、玉兎たちに敬遠されている。

 私は豊姫様と一緒にいる時の依姫様を知っているので、人並みに優しい方だと言うのは知っているのだが。

 

「なんともしがたい問題ですね」

 

 まさしくマイナススパイラル。

 何か切欠でも無い限り現状の改善は難しいだろうな、と考え。

 

「ま、何とかなるでしょ」

 

 そんな楽天的な思考に、私も玉兎だな、と思った。

 

 

 

 

 



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第三話 ウサギ大海を知る

ね、眠い…………。

こ、この小説で、では…………せ、設定の、ど、どく、独自解釈や、お、おりじ、オリジナル設定などを、ふ、ふ、ふく、含みま、す。


 

 狂気を操る程度の能力。

 それが私の持つ私だけの力だ。

 字面こそアレではあるけれど、その実かなり応用性のある便利な能力だったりする。

 その能力は突き詰めると『波を操る』ことに収束する。

 波…………海の波だけでは無い、もっと抽象的な意味で、だ。

 一番最初に出来たのは、人の波を操ること。

 人の精神には波がある。

 

 波長を長くすれば、即ち暢気となり、何事にもやる気なくし動かなくなる。

 波長を短くすれば、即ち狂気となり、情緒不安定で感情的になり、人と話が出来なくなる。

 その高低差を大きくすれば起伏の激しい性格になる。

 その高低差を小さくすれば何事にも動じなくなる。

 

 そうして人の精神を操ることに慣れたころに出来るようになったのが、世界の波を操ること。

 この世界は全て波で出来ている。

 

 光は波で出来ている。

 音は波で出来ている。

 温度は波で出来ている。

 

 その他、この世界のありとあらゆるものは波で出来ている。

 私をそれを操ることができる。

 

 光を操り、物を見えなくしたり。

 音を操り、何も聞こえなくしたり。

 温度を操り、燃えているものを凍らせることも凍ったものを燃やすこともできる。

 

 まあ…………だからと言って。

 

「…………どうしました? 来ないのですか?」

 

 依姫様(このひと)には勝てる気がしないのだけれど。

 

 

 

 どうしてかは知らないけれど、依姫様とガチンコバトルさせられている罠。

 例のごとく私には拒否権は無い件。

 だってペットだし…………自分で言ってて泣きたくなる。

 依姫様曰く『どれほど強くなったか、私が計ってあげましょう』とのことだが、正直余計なお世話だとしか言えない。

 とは言ってももう始まっているので、今さらどうこう言っても仕方ないのだが。

 本当なら適当にやってお終い…………と行きたいところなのだが、最初に依姫様が『本気でやってないと判断した時は本気を出さざるを得なくしてあげます』と恐ろしい宣言をしてくれたので、死に物狂いでやる必要がある。

 考えろ…………どうすればこの戦いを生き抜ける?

 

「来ないのでしたら…………」

 

 必死に思考する私を嘲笑うように依姫様が腰の剣に手をかけ…………。

 

「こちらから行きましょう…………安心しなさい、神霊は使いませんから」

 

 たった一歩で私の懐までの距離を詰めた。

 カチャ…………剣が抜かれる音。

 スゥゥゥ…………その刀身が鞘から抜き放たれ。

 チン…………短い音と共に、()()()()()()が薙がれた。

「?!」

 手ごたえの無さに驚く依姫様へ向け、ピストルの形を作った指を向け。

「っ!」

 指先から銃弾が射出される。

 ほとんど零距離発射のそれを、けれど依姫様は人間じゃないよこんなの、と言いたくなるような反射神経でそれを避ける。

 まあそれは予想はしていたのでそれまで()()()()()弾丸全てを解放する。

 途端、私の背後に現われる幾千の弾丸に、依姫様がわずかに眉をしかめる。

 

「撃て」

 

 言葉と共に放たれた幾千の弾丸が依姫様へと向かい…………。

 と、同時に自身の能力を全開で発動させる。

(くるう)

 直後、幾千の弾丸の姿が、()()

「ふむ」

 自身へと飛来する無数の、それも歪んでしまって撃ち落すのも難しそうなそれを見て、けれど依姫様がそれだけ呟き。

 

「天宇受売命よ」

 

 その一言で、()()()()()が依姫様を避けて行った。

 

 …………………………ん?

 

「って、依姫様、戦う前に神霊を降ろさないって言ったじゃないですか?!」

「思ってたよりもやりますねレイセン、想像以上の成長です」

「無視?!」

 ていうか、気のせいだろうか、先ほどから依姫様の背後に何かオーラ的なものが見えるのは。

「その成長振りに免じて、私の本気を見せましょう」

 あれ? 何か地雷踏んだ? もしかして前言撤回させられたこと苛ついてましたか…………?

「なに、たったの一度だけですから…………まあそれで立っていた者もいませんが」

 

 私の人生オワタ。

 

「さあ…………行きま「私のペットになにしようとしてるのよ、依姫」…………お姉様」

「お姉様じゃないでしょ。私のペットなんだから、あんまり無茶させないでよ、ほら行くわよ、レイセン」

 やばい、人生で初めて豊姫様に感謝したかもしれない。

「あ、はい、豊姫様」

 感涙を流していると、豊姫様に呼ばれたので慌てて駆け寄る。ついでに依姫様に一礼するのを忘れない。

 

 

 

「全く、依姫も相変わらずねえ…………あまり気を悪くしないでね、レイセン。あれで依姫、貴女に期待しているのだから」

 豊姫様の住居、綿月家に連れてこられた私は、椅子に座っている豊姫様に頼まれて、お茶を淹れる。

 コップに入れたお茶を豊姫様に差し出し、先の言葉の意味を問い返す。

「期待、ですか?」

 首を傾げる私に、豊姫様が頷く。

「依姫が言ってたけど『レイセンは才能もある上に、他の玉兎と違い真面目に訓練するので伸びも段違いに速いですね、能力もありますし、もっと訓練を積めばまともな戦力として数えることができるかもしれませんね』ってね」

 告げられた言葉に目を丸くする。

 普段通りの鬼教官だった依姫様が、まさか裏ではそんな風に褒めてくれているとは思わなかった。

「と言うか、前々から疑問だったんですが、都市防衛隊って相手がいるんですか? 私たちの仕事って何なんですか?」

 都市防衛隊、と名乗るからには、都市を防衛するのが仕事だ。

 そして、防衛と言うからには敵の存在が不可欠だ。

 だが平穏甚だしい月の都でその敵と言うものを一度も見たことが無いのだが。

 だとするなら都市防衛隊の存在意義とは何だろうか。

 私のそんな疑問に手元の扇子をピシャリと閉じ、口を開く豊姫様。

「以前地上の妖怪が月の都に大挙して押し寄せてきたことがあったわね…………後はまあたまに迷い込んでくる漂流者の相手とかかしら?」

「地上?」

「あれよ、あれ」

 そう言って指差す先は遠くの空に見える青い星…………地球だ。

「たしか月の民の方々は地上からやってこられたとか」

「ええ、遠い遠い昔には私たちもあそこにいたわ。けれど地上は穢れに汚染されてしまった…………だから私たちは穢れの無い月に来たのよ」

「穢れ…………」

 たしか穢れは寿命のようなものだったっけ? 何か違ったような…………?

 

 まあ、それは置いといて(かんわきゅうだい)

 

「地上…………かあ」

 そんな私の独り言に豊姫様が首を傾げる。

「地上がどうかしたのかしら?」

「いや…………どんなところだろう、って」

 私がそう答えると、少し眼を見開き。

「さあ…………穢れの溜まり切った不浄の地のことなんて知らないわ」

 突如そう言い捨て、急ぎ足で部屋を出た豊姫様。

 突然のことに私はしばらくの間、眼を丸くし…………。

 

「地上…………か」

 

 前世の自身が住んでいたであろう地に思いを巡らせた。

 

 

 

 



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第四話 ウサギ怯える

 

 

 ざわ…………ざわ…………

 

 何だか騒がしい。それが私が綿月の屋敷に来て最初の感想だった。

 と言っても普段の綿月の屋敷の様子をほとんど知らないので、もしかするとこれが日常なのかもしれないが。

 月のリーダーである綿月姉妹(王は月夜見様だが、実際の治世を取り仕切るのは綿月姉妹なのでリーダー)である、当然のごとく月の都市の中に屋敷の一や二つ持っている。

 ただ、豊姫様も依姫様も同じ家で二人だけで住んでいるので普段は屋敷は使われていない。

 そんな屋敷を使う時、それがだいたい三種類に分けられる。

 一つが自宅ではできない仕事をする時、一つが人を招く時、一つが緊急時一族が集まる時だ。

 と言っても緊急事態と言うものに私は遭遇したことが無いので、当然そういう用途で使われているのも見たことは無い。

 と、なると今日はどちらだろうか?

 私を呼ぶ、と言うことは仕事はもう終わっている? となると誰かを招いた後?

 それにしては何だか皆慌しい気が…………。

 

「…………おや、レイセン。こんな時にどうかしたのですか?」

 

 聞き覚えのある声に振り返ると、依姫様がとある一室から出てきたところだった。

「依姫様…………豊姫様に呼ばれてきたんですが、今日何かあったんですか?」

 そう尋ねると、依姫様が…………珍しく困ったよな表情をして答える。

「そう、ですね…………あった、と言うか、これからある、が正しい表現ですね」

「これから? まだこれからお客さんが来るなら私は帰ったほうが良いですか?」

 豊姫様に気に入られ、ペットとして扱われようと、私が玉兎であることは確かであり、どれだけそうは見えなくともこの月で玉兎が奴隷階級であることには間違いない。

 わざわざ綿月の屋敷にやってくるほどの人…………そんな人が来るのに私がいたのではマズイのではないだろうか、と思って言ったのだが、依姫様は数秒沈黙し、ふと私を手招きする。

 歩み寄ると、依姫様は私を今自身が出てきた一室に通す。中はどうやら和室のようだ。薄暗いが私の眼ならはっきりと見える。

 と、よく見ると廊下側の扉の反対側にも戸があり、どうやら向こう側は大きな座敷になっているようだった。

「えっと…………? ここで何かあるんですか?」

 状況が飲み込めず、そう尋ねると、依姫様が「しぃ」と人差し指を口元に当てこちらを見てくる。

 一体どうしたと言うのか…………しばらくの沈黙が続き、私がもう一度尋ねようとしたその時。

 

「命月様がいらっしゃいました」

 

 声が聞こえた。多分屋敷の使用人の人の声。

 それが、隣の部屋から。

 そうして。

 

「そうですか…………ここに通してください」

 

 聞いたことのある声がそれに続く。

 そう私はこの声にとても聞き覚えがある、と言うか自身の飼い主を間違えるはずも無い。

「豊姫様の声…………?」

 思わず依姫様のほうを向くと、障子に遮られた向こうを見たまま動かない。

 そうして気づく…………その眼差しの険しさに。

 豊姫様が座敷にいて、その隣の小さな和室に依姫様が隠れている。

 そう考えるとより状況が分からない。

 何故依姫様は豊姫様の隣にいないのか?

 仮にも綿月の人間で、月の軍隊のトップだ。豊姫様と一緒に客人に会ってもなんらおかしくない。

 だと言うのに、その依姫様がこうして隠れながら聞き耳を立てている理由。

 

 とまあ考えてみても情報が少なすぎて推察することもできない。

 とりあえずその客人とやらが来るのを待つしか無いだろう。

 

「失礼します」

 

 と、その時聞こえた聞き覚えの無い男性の声。

 その声を聞いた瞬間、依姫様の視線が一層きつくなる。

 なるほど、この人がお客さんか、と思いつつ聞き耳に集中する。

 

 

『…………………………お久しぶりで御座います。豊姫様』

『ええ。そうね…………それで? 今さら何か用かしら? “山幸彦”様?』

 

 山幸彦? 聞いたことの無い名前だが…………隣の依姫様を見て、いいから黙っていろ、と言うニュアンスの視線をもらったので大人しく口を閉ざす。

 

『火遠と…………呼んでは下さらないのですね』

『はあ…………今さら私とあなたの間にそのような親しげに呼ぶような関係性でもあるのですか?』

『………………………………いえ、失言でした』

『そうね、それで用件は? これが二度目よ? 言わずもがな、三度目はありませんよ?』

 

 この人は…………本当に豊姫様なのだろうか?

 そんな疑問が脳裏を過ぎる。

 私の知る綿月豊姫様と言えば、もっと明るく元気で、それでいて思慮深く、けれどどこか子供っぽく、いつだって楽しそうに笑っておられる方だ。

 だが今聞こえるこの声の主はどうだろうか、相手を人ではなく…………そう、まるで虫と会話しているような、冷徹なんて言葉では表せない、そうまるで相手を見ていない。眼中に無い、などと言う言葉があるが、それを突き詰めたような…………そんな声色だった。

 好きに対極は無関心だと言うが………………一体この相手は豊姫様に何をしてここまで行き着いてしまったのだろうか。

 自分に向けられた言葉でも無いのに、自分に向けられた声でも無いのに。

 冷や汗が止まらない。

 背筋が凍りつく。

 体の震えは収まらず、歯がカチカチと音を立てる。

 

『兄上様…………命月火照がまた行動を起そうとしています』

『……………………』

 

 その言葉で、座敷の温度が三度は下がった…………そう錯覚するくらい冷ややかな殺気が豊姫様が溢れていた。

 殺気など言葉にしてみれば簡単だが、抽象的過ぎて言葉では分からないし、けれども実際に体感するのは非常に難しい。

 まず相手が感じ取れるほどの感情を発露する機会が無い。それも殺意となると今の平穏な月では有り得ないと言っても良い。

 私自身、訓練中に依姫様が放ったものを数度感じただけだが…………これはその比ではない。

 文字通りの桁違い。

 今すぐ逃げ出したい…………もしこれが自身に向けられたものだとしたなら、とっくに気を失っているだろう、それほどまでに強烈な殺意。

 

『……………………それで?』

『………………え……は?』

『それで…………あなたは私にそれだけを伝えに来たのかしら?』

 

 障子戸に遮られて向こうの様子は見えない…………だが、きっと相手の顔は蒼白になっているのだろうと簡単に予測できる。

 特に命月火照と言う名前が出てきた瞬間、依姫様の表情が一変し、けれど必死に隣に気配が漏れないように気を使い…………それでもビンビンと感じる威圧感。きっとそれを素直に曝け出している隣の部屋はもっと大変なことになっていることは想像に難くない。

 

『…………単刀直入に言います。兄上様を止める際に、綿月のお力を借りたい』

『…………………………………………』

『…………身内の恥故本来は私たちだけで、と言いたいところですが、事は月の都全体に及びます。故にこうして、恥を忍んで参りました』

『…………恥を忍んで、ねえ………………』

 

 くすくす…………豊姫様の笑い声。

 いつもと同じ声のはずなのに。

 どうして今日はこうも…………背筋が寒くなるのか。

 きっとこの時障子の向こう側が見えていたら一つ訂正が入るだろう。

 これは笑い声などでは決して無い。

 

 嗤い声。

 

 相手を貶めるための…………相手を嘲笑う声。

 

 嘲笑だ。

 

『ねえ』

 

 自業自得って言葉は知ってるかしら?

 

 重苦しい沈黙が…………座敷を包んだ。

 

 

 




命月と言う名前は割りと適当につけましたが「火遠」と「火照」はちゃんと神話から付いてます。けど調べないでくださいね? ネタバレでしか無いですし。


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第五話 ウサギ仕掛ける

 

 

 

 この前、月は平和だと言ったな。

 

 アレは嘘だ。

 

「「「うわあああああああああああ」」」

 現在の状況を一言で説明すると。

 

 絶 賛 ク ー デ タ ー 中 で す !

 

 飛び交う銃弾、弾ける血飛沫、響き渡る悲鳴。

 どこの紛争地帯だ、と言わんばかりの戦争状態。

 と言うか月でこんな穢れの生まれそうなことしても良いのか、と疑問に思うのだが、豊姫様たちが是としているのなら良いのだろう。そもそも私の預かり知るところではない。

「って、うわ!!!」

 今銃弾が眼の前を掠めて行った?!

 よく見れば敵がこちらを見つけて銃を構えている。

「っく………………撃てっ!!」

 兵士を指差し、叫ぶ。

 同時に周囲の空間に無数の銃弾が出現し、指差した方向へ…………兵士の下へと殺到する。

 兵士を無数の銃弾が貫…………かない。

「危なかった…………ちょっと油断したわね」

 この弾は私の能力で光を操っているから銃弾に見えているだけで、実際は衝撃波で形成された空気の塊りだ。

 だから人の体を突き破るような力は無い…………とは言ってもあれだけの数だ、実際に銃弾が着弾したような痛みに襲われているだろうが。

 空気を衝撃波で加圧して圧縮、衝撃波で空気の塊を多い銃弾を形成し自身の周囲に展開しておく。

 そうしてタイミングが来たら、空気弾の表面の光の屈折を操り、銃弾であるかのように見せかける。

 発射する時は撃鉄の代わりに後ろから衝撃波を送ってやれば秒速百二十メートルの魔弾の完成。

 突然出現する無数の弾丸の絡繰はつまりこうだ。さらに、光を操らなければ、見えない弾丸に早代わりする。

 

 だがこんなこと、普通できない。

 と言うか私の能力が無ければ思いつきもしないのではないだろうか?

 そもそも本物の銃があるのに、どうしてこういう回りくどいことをするのか…………。

 答えは簡単。

 

 怖がらせるためだ。

 

 …………別にふざけているわけではない。

 私が豊姫様から与えられた命令はソレなのだから。

 

 

 

「と、言うわけで…………レイセン、あなたにお願いするわ」

「…………はい?」

 数時間前の底冷えするような笑みが嘘のような、いつも通りの楽天的な笑み。

 けれどまだどこか背後に黒いオーラのようなものが見えるのはきっと私の気のせいだと信じたい。

「やーねえ。聞いてなかったのかしら? 私たち側から戦争に参加する兵をあなたにお願いすると言っているのよ、レイセン」

「………………………………戦争、ですか?」

 と言うか、結局客人が帰ってから今こうして豊姫様に呼ばれるまで一度も豊姫様と会ってなかったのだが、この人は私たちが隣の部屋にいたことを知っているのだろうか?

 いや、私をあの時間に呼んだ、と言うことは聞かせるために呼んだのでは…………?

 けれどあれは依姫様が勝手にやったことかもしれないし…………。

 とまあそれは置いておいて、今は先の発言に関して考えよう。

「戦争とは?」

 私の疑問に豊姫様が答える。

「…………バカがバカしたせいでバカな事態になっているのよ」

 聞いた瞬間後悔した…………今のは地雷だった。

 一瞬で部屋の温度が下がった気がする。

「そ、そうですか…………と、とりあえず、軍で訓練も受けていますし、行けと言われれば行かないわけにもいきませんが…………私の他には誰が?」

 正直同僚の玉兎たちが使い物になるとも思えないし、もしかすると依姫様もいらっしゃるのだろうか?

 そんな私の疑問に、豊姫様が不思議そうな顔をして。

「あなた一人よ」

 あっさりと、そう答えた……………………って、え?

「…………聞き間違えたんでしょうか? もう一度言ってもらえますか?」

「だから、私たちが出す戦力はあなた一人よ」

「そんなバナナ?!」

 いけない、動揺し過ぎて思わず前世紀のギャグが…………。

 そんな私の動揺を見て笑いながら、豊姫様が続ける。

「アレらのために一々こちらの力を貸していたのではこの先切りがありません…………だからこそレイセン」

 

 相手の駒全て恐怖に染めてきなさい。

 

「三度目は無いわ…………それを彼らに教えてきてあげなさい、レイセン」

 

 

 以上、回想終了。

 

 うん、最後の辺りの豊姫様は怖かった。

 と言うか、この話が本格的に地雷だったらしい。

「…………でもだからって一人は無いと思うんですけどねえ、豊姫様」

 愚痴を零しながら狙撃銃の引き金を引く。鎮圧用ゴム弾だが、狙撃銃の火力で頭部に直撃すれば人が吹き飛ぶ。

 死にこそはしていないが、一撃で意識を刈り取る程度のことはできる。

 だが今ので狙撃の方向が割れたので、移動。道中に出合った敵を空気弾で撃ち抜き別の場所で狙撃。

 

 

「依姫様は出ないのですか?」

「あら、軍務のトップに出ろだなんて、中々大胆な発言ね、レイセン」

「え、いや、そういう意味では」

「ふふ…………冗談よ。ただ依姫は別の仕事があるのよ。大事な、ね」

 だからお願いレイセン。

「頼めるのはあなたしかいないの」

「………………了解です」

 

 

 あれはずるいと思う。

 あんな風に頼られては断れないではないか。

 別に月の民がどうなろうと知ったことではないが、豊姫様はどういう形であれ私を保護し、これまで育ててきてくれた恩人だ。その恩人にあんな風に頼まれれば、やるしかないではないか。

「さて…………行きますか」

 狙撃銃に次弾を装填し終えると、私は駆け出した。

 

 

 ところで、だが。

 

 恐怖とは一体どういうものに感じるのだろう。

 

 自身の命を脅かす危機? それもあるだろう。

 最早どうしようも無い状況? それもあるだろう。

 

 だが一番の恐怖は未知だ。

 

 生物の最も本能的な恐怖。

 

 それが、()()()()()()()()

 

 それを擬似的に再現するために。

 

 今回は突然現われる銃弾に、見えない弾丸。そして狙撃と言う、徹底的に視覚を騙すことにした。

 

 さらに人数が多ければ集団で幻覚をかけたりして混乱を助長してやる。

 

 後はもうこの辺り一体に方向感覚を狂わすように波長を飛ばしてやれば完璧だ。

 

「さあ…………狂いなさい」

 

 方向が分からず道に迷い、次第に視界におかしなものが見え始め、見えない場所から次々と仲間が倒されていく。

 

 その混乱が、その狂気が。

 

 恐怖を育てるのだから。

 

 ()()()()()()も無く…………ね。

 

「それにしても…………けっこうえげつないなあ、豊姫様」

 

 

 

 

「ああ、それとね、レイセン」

「はい。何でしょうか?」

「敵味方の区別はつけなくてもいいわ、その代わり殺しちゃダメよ?」

「…………は?」

「ついでだから彼らにも教えて上げなさい。恐怖と言うものを…………」

 

 私たちの恐ろしさと言うものを、ね。

 

 

 




クーデターの詳しい状況は次ですかね。
ていうかそろそろ月編は終わって地上編に移行するかも。

因みに味方と言うのは前回出てきた山幸彦の兵たちです。
敵と言うのは火照の兵。
まあ分かりますよね。


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第六話 ウサギ地上を夢見る

 

 

 

 負傷者三十八名、死者零名のクーデターは半日で終わった。

 戦場に立った兵士たち全員の心に深い傷を残して。

「あははははは、よくやったわ」

 レイセンです。戦場でヒャッハーし過ぎて、軽く自己嫌悪中のレイセンです。

 豊姫様のテンションが朝から最高潮です。

「火照のあの顔見たかしら。真っ青な顔してぶるぶる震えてるの、依姫も見てくれば良かったのに」

 あくどい笑みを浮かべ、私の肩を叩く豊姫様を半眼で見る。

 命月火照。それが首謀者の名前だ。ソレは知っている。それは分かっている。

「結局、何がどうなっているのか…………説明してもらえませんか?」

 月は平穏だ。平穏だった…………だったはずだ。

 なのにどうして突然こんなことになったのか…………一介の玉兎でしかない私には分からないことだらけだった。

 どうして命月火照はこんなことをしたのか。どうして命月様は豊姫様を頼ったのか、そして。

 どうして豊姫様はあんな命令をしたのか。

 

『ああ、それとね、レイセン』

『敵味方の区別はつけなくてもいいわ、その代わり殺しちゃダメよ?』

『ついでだから彼らにも教えて上げなさい。恐怖と言うものを…………私たちの恐ろしさと言うものを、ね』

 

 今回のクーデターで実際に鎮圧に動いたのは、不思議なことに命月様の手駒…………後は豊姫様の駒たる私だけだ。

 月の軍は一切動いていない。都市防衛隊も依姫様も。無いわけではない。豊姫様が私を動かしたように、命月様が自身の部隊を持つように、都市の上層部なら大抵自分だけの手駒と言うものを持っている。

 だから命月様も、わざわざ豊姫様のところに来る必要も無かったはずなのだ。ああいう態度を取られることが分かっているような様子だったが、それならもっと友好的な人たちが他にもいるはずだろう。

 仮にもし、他の人たちの部隊が鎮圧に加わっていたら…………豊姫様を同じ命令を下しただろうか?

 

 分からない。分からない。だから聞く。だから尋ねる。

 

 そうして。

 

「豊姫様と命月様たちの間に何があったのか…………それを尋ねてもよろしいでしょうか?」

 

 ここ最近で最大の地雷を、問いかけた。

 

 

 

 

 屋敷を出て考える。

 質問に対する答えは無かった。ただ先の戦いの報告を聞いたら、今日は帰って良いと言われた。

 多分答えない、と言うことが答えなのだろうと察し、一つ頭を下げてそのまま帰ってきた。

 所詮は他人。そこまで話す義理も豊姫様には無いだろう。実際に戦場に出されたわけだが、都市防衛隊の一員である以上、クーデターなどと言う有事に動いて当然だろうし。

 まあそこまでは良かった。そこまでは…………。

 その去り際、豊姫様一言私に投げかける。

 

『あなたに一つ、褒美を上げるわ。あなたの望むことを何でも言ってみなさい』

 

 それが私を悩ませる。

 何でも…………と言う選択肢の広さに悩む。

 ぶっちゃけて言って、望むことならある。

 だが、それは例えば先の問いの答えだとかそういう、物欲的なものではなく、人と人との問題だ。

 それを望むというのはちょっと無いのではないだろうか?

 そういう人の優しさに付け込んで、人の秘密を知ろうとするのはちょっとダメじゃ無いだろうか。

 本来なら無報酬でも良いはずのものに、豊姫様の好意で与えられた褒美、それを使って豊姫様に仇を返すようなことはできない。

 前にも言ったが、私は基本的にあの人が好きだし、恩人なのだから、余計に…………である。

 話を戻すが、今一番聞きたいことが聞けない以上、何か別のものを望むのだが。

「なーんにも無いなあ」

 他が満たされすぎて望むことが無い。

 月の技術があれば、大抵の願いは叶う。しかも割りと技術が普及していて、玉兎でも使えるので特に困ったことが無いのだ。

「何かあるかなあ…………」

 頭を捻り、考えてみる。

 ふと、その時、視界に映る宙。

 そこに見えるのは遠く映る、青い星。

 

「……………………ふむ」

 

 

 

 

 

「…………はぁ?」

 私の目の前で豊姫様が素っ頓狂な声を上げる。

 その隣の依姫様も珍しいものでも見るような目でこちらを見てくる。

 

『地上に行ってみたい』

 

 それが私が豊姫様に願ったこと。

 郷愁だろうか…………ふと宙を見上げ、地球を見つけた時、得も知れぬ胸のざわめき。

 それが懐かしさなのか、それとも未練なのか…………正直良く分からない。

 だから行ってみようと思った。

 だから言ってみようと思った。

 そうした結果が、これだ。

 

「地上…………ねえ。穢れに満ちたあの地の何が良いのやら」

 呆れたような声で豊姫様がそう呟く。

「地上へ、となると月の使者でしょうか…………お姉様」

 ふと、依姫様が豊姫様に目配せする。

 それを見た豊姫様も一つ頷き。

「そうね…………ちょうど良いわ。レイセンにやってもらいましょうか」

「…………はい?」

 藪蛇だった? と思った私は悪くないと思う。

「ねえ…………レイセン」

 取り合えずは。

 

「ちょっと地上まで行って来てくれないかしら?」

 

 本願は叶ったが、嫌な予感は拭えそうには無かった。

 

 

 

 

 余談。

「あ、そうだわ。良い珈琲豆をもらったのよ、あなたも飲んでいきなさいな」

「豊姫様。わざわざ珈琲を淹れてもらってあれなんですが、何故にラベルに塩と書かれた粉をぱらぱらと入れているのでしょうか?」

「何を言っているのよレイセン、これは月の超科学が生み出した調味料、その名も珈琲専用の塩よ」

「珈琲専用の…………塩? ていうか甘いんですけど、これ砂糖ですよね」

「塩よ」

「いや、でも」

「珈琲専用の()よ」

「……………………塩ですか」

「ええ、塩よ」

「そうですか」

 

 

 

 

 

「聞いたか?」

 円卓に座る男の一人が唐突にそう切り出す。

「何をだ?」

 男の対面に座る別の男がそう尋ねると、男が答える。

「海幸彦の話だ」

 ああ、と納得したように男が頷き。

「聞いたさ」

「全く…………愚かな男だ。今ことを起せば綿月に握りつぶされるだけだと言うのが分からんのか」

 小馬鹿にしたような男の口調に、けれど対面の男は首を振る。

「やつも弟に良いように使われて我慢ならなかったんだろう。それは、俺たちも同じじゃないのか?」

「…………然り、然り。月夜見に支配され、綿月の小娘共に命令されることを良しとしないのが我らだ。確かにその気持ちも分からなくも無い」

「ところで、聞いたか?」

 話の流れを断ち切って、円卓に座る男が再度切り出す。

「何をだ?」

 男の対面に座る別の男がそう尋ねると、男が答える。

「先の戦いを一人で鎮圧したと言う玉兎の話だ」

 男の答えに、対面に座る男が、ああ、と納得したように頷き。

「聞いたぞ、聞いたぞ。クーデターに参加した兵士の全てが再起不能にされたとか言うあれだな」

 然り、と男が答える。

「また綿月らしいな」

「然り、然り。綿月だ。忌々しい!」

 ギリギリ、と歯を軋らせ男が声を荒げる。

「落ち着け…………と、そう言えば、その玉兎が月の使者になったらしい」

「何?」

「もうすぐ地上に行くと言っていたぞ」

「あの穢れの地に?」

「ああ…………ところで、だ。噂ではもうすぐ月で大きな戦が起きるらしいぞ」

 対面に座る男がニヤリ、と口元を歪める。

 それに気づいた男も同様に、嗤う。

「何を企んだ?」

「企むなど、失礼な…………ただそうだな。兎どもはどいつも自分勝手で()()だ。例え噂を信じてしまっても、そしてその結果…………そう、地上へ逃亡したとしても、仕方ないと思わんか?」

 その言葉に男が嗤う。

「然り! 然り! 然り! それは仕方ないなあ。なあに、良くあることではないか。全く持って仕方の無い…………だが、逃げ出した兎に帰ってこれる場所など無い」

「そうだな…………全く、これだから兎は使えんのだ」

 然り、と男が呟き。

 

「…………綿月には泥を被ってもらおうか」

 

 そうして、男が嗤った。

 

 

 




ところで…………最後に出てきたオッサンたち誰?


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第七話 ウサギ地上に立つ

一応現在、1940年くらいを予定してます。


 

 

「いってらっしゃい」

 聞こえたそんな言葉に返事をする間も無く。

 一瞬にして視界が一転する。

 気づけばどこなの森の中。

 

 山と海を繋ぐ程度の能力。

 

 それが私の飼い主、綿月豊姫様の力。

 簡単に言えば()()()移動させる能力だ。

 まあそれだけの単純な能力でも無いのだが、そこは割愛しておく。

 つい先ほどまで月にいたはずなのだが、私の周囲の空間ごとこの地上と()()()()()、つまりそういうことなのだろう。

 

「で…………ここ、どこ?」

 周囲を見渡すが草木しか見えない。

 とりあえずは適当に行って見るしかないか…………そう思い、光を操る。

 自身にやってくる光を捻じ曲げ、周囲へと拡散させる。

 当然視覚には何も映らなくなるが、同時に周囲から私の姿も見えない。

 あらゆるものは物体に反射した光を目が知覚することでその姿を見ることができる。

 故に光の届かないものはそもそも見えないし、光を透過するものも同様だ。霊体などがその例だろう。

 自然の光を透過する故に、通常の視覚ではその姿を捉えることはできない。

 

 まあそれはさておき(かんわきゅうだい)

 

 私には光が届いていない。それを視覚が見えなくなったことで確認する。

 恐らく今、私のいる辺りは、周囲の景色が見えているはずだろう。

 周囲の緑に溶け込み、ぱっと見た程度では違和感も覚えない…………とは思う。

「さて、じゃあ行きましょうか」

 独りごち、地を蹴る。

 ふわり、と私の体が浮かび上がった。

 

 

 前世の私には想像もできなかったことではあるが。

 この世界では人が生身で空を飛ぶことができるらしい。

 まして人外ならば尚更である。

 世界の理から外れた存在であるが故に、世界の理に縛られない。

 と言うのが豊姫様の弁だが、正直私には良く分からない。

 お腹が空けば腹は鳴るし、りんごを放り投げれば地面に落ちる。

 一体私たちのどの辺りが理から外れているのか甚だ疑問ではあるのだが、まあそんなこと私が考えても特に意味も無い。

 私は学者でも無ければ、神様でもない。所詮はただのウサギなのだから。

 

 

 益体も無いことを考えながら空を飛んでいると、ふと森の抜けた眼下に見えたのは湖。

「うーん、適当に飛んでみたけど、これは…………」

 もしかしてどこかのド田舎にでも来たのだろうか?

「面倒だけどやらないとダメね」

 呟き、目を大きく開ける。

 相変わらず光の届かない視界は何も見えない…………だが。

 

 普通じゃ無いものは当たり前のように知覚できる。

 

 それが私がさきほどから視界が使えないにも関わらず平気な理由。

 私の眼には光は映っていない……………………だが波が映る。

 波…………そう、波だ。

 

 世界は波で出来ている。

 

 これは月であろうが、地球であろうが同じことだ。

 この宇宙軸である限り、どこに行っても波で構成されている。

 あらゆる存在には固有の波がある。存在の波とでも言うそれを知覚できる以上、視覚が欠けていても寧ろそれ以上の物が見えている。

 理論的にはこの世界の全ての把握できるだろうこの瞳だが、けれど一定以上の範囲を見てしまうと私の頭がパンクしそうなので止めておく。

「よし…………行って」

 一つ呟き、波を放つ。

 やってることはソナーだ。放った波で周囲の状況を探る。

 ただこれはかなり面倒な作業だ。

 何せ入ってくるのは大きさや形と言ったものばかりで、それが何なのかは自分で推察しないといけない。

 しかも次々と入ってくる情報に、初めてやった時は処理が追いつかず知恵熱を出して倒れたこともあった。

 さらに言うならここは自然溢れる地上だ。月の荒野と同レベルでは語れない。

 だから索敵範囲を絞って、慎重に行なう。

 

 イメージは波紋。

 広がる波が寄せては返す。

 波は返ってくる度に大きく、力強くなり。

 

「見つけた」

 やや遠くのほうに人らしき反応。

 と、同時に街らしき建物の群れの反応。

 規模から考えて、街だろう。

 取りあえず現在地の確認から始めるべきだろう…………私は今どこにいるのか、それすらも分からないのだから…………ソナーどこに行ったって? 何か目印があるならともかく、能力で調べようと思ったら規模の大きさに、結果が出るより早く私の脳が焼き切れると思う。

 

 

 

 

 

 

 月には王がいる。

 名を月夜見と言い、月の都の間違いなく頂点に立つ存在だ。

 だが、月夜見は基本的に君臨すれども統治はしない。

 完全なる放任主義、そう言えば聞こえはいいのかもしれないが、誰も納めない国など性質が悪すぎる。

 だから代わりに選ばれたのが綿月家を含む、いくつかの家柄。

 そうした家柄の人間だけで作られた政治のための集団がある。これが都市を治める政治家の集団だ。

 そうした政治家たちが時折集まって治世について話会うことがある。

 これもまた、そんな月のひと時である。

 

 

 ビシリ、と空気が凍る。

 その席だけ空間が歪んでいるのではないかと錯覚するほどの圧力。

 そこに座っているのは二人の少女…………否、姿形はともかくその雰囲気は大人の女性のそれであるが故に、二人の女性と形容するべきであろうか。

 閉じた扇を口元に充て、歪み、吊りあがった口元を隠そうともしない綿月豊姫と、鬼神でも宿しているのではないかと思ってしまうほどの怒気を見せる綿月依姫の二人である。

 その場にいる大半の人間が恐怖するほどの威圧感を伴った二人だが、反対側に座る数人の男たちだけはそれを楽しそうににやけた笑みで見ていた。

「…………もう一度言ってもらえますか?」

 威圧感のある笑みを携えたまま、豊姫がそう言うと、男たちの一人が鷹揚に頷く。

「ではもう一度報告させてもらいましょう……………………月の兎が一匹、地上へと逃げ出しました。調べたところ、その兎と言うのが豊姫様のペットにされていた兎だったようですね」

「……………………へぇ」

 冷たい声音…………だが、その奥に潜む激情を、場にいる誰もが感じ取っている。

「普通の玉兎なら良くあること、と放っておくのですが、さすがに綿月様たちのペットの逃げ出したとなると、体外的に話されると問題になることも多く知っているかと思います、そこで、その兎を消すために勝手ながら一部隊送らせていただきました」

 そう言い終わった瞬間、ドガンッ、と机が音を立てて…………()()()

 

「ふざけるなっ」

 

 震える拳を握り締めそう言うのは、今にも男を射殺さんと言わんばかりの眼光をした依姫。

 机が砕けると言う状況に…………綿月依姫がそこまで怒っていると言う状況に、周囲にいた他の人間の大半が恐慌状態に陥る。

「ふざけているのはさて…………どちらでしょうね?」

「……………………どういう意味かしら?」

 怒りに答えも返せない依姫の代わりに、豊姫が答えると、男が大げさに腕を広げ。

「部下に確認させましたが、兎が月の羽衣を使った形跡はありませんでした。月の羽衣は地上と月を行き来するための真っ当な手段として唯一の方法です…………だがこれを使った形跡が無い、となると、逃げ出した玉兎はどうやって地上へ行ったのでしょうか?」

 月の羽衣を使っていないのならば、後はもう一つしかこの月には無い。

 月と地上を結べる能力を持った人間が連れて行く…………もうこれ以外の方法は無いだろう。

 そしてその数少ない能力を持っている人間の一人が…………その飼い主。

「逆に聞きますが…………綿月様方、まさかとは思いますが、兎が逃げ出すのに手を貸したりはしていませんよね?」

 瞬間、依姫が切れて腰の刀に手をかけ…………豊姫に止められる。

「お姉様!!!?」

「依姫、場所を弁えなさい」

「しかしっ!!!」

「依姫!!!」

「っ?! ………………失礼しました」

 依姫が頭を下げ、無傷だった椅子に座る。

「しかし、随分と不思議ですわね」

 周囲に気まずい沈黙が流れる中、豊姫が一人語りだす。

「レイセンが…………玉兎があなたの言う脱走をしたとして、今日起きたばかりのことをどうしてそれだけ詳しく、断定したように言えるのかしら?」

「自分が不利になったと見えるや否や、こちらを批判してきましたか、まあ良いでしょう。簡単な話です。私は前々からあの兎が逃げ出すんじゃないかと思ってしまいてね、監視をつけていたのですよ」

 月の兎は身勝手で臆病ですから。そう言う男に、依姫の怒りがまた湧き出しそうになる…………だが抑える。

「それでいいわ…………ここで暴れたら、本当にレイセンが帰ってこれなくなるわよ」

 姉のその一言で、浮かした腰をまた沈める。

「………………やれやれね、どうしてこんなことになっているのかしら」

 男の歪んだ口元に、一抹のイラつきを感じながら…………独り呟いた。

 

 




ところで読者の方々にアンケート。

今後の展開が三つあります。

1、幻想郷に辿りつくまでのレイセンの旅の様子を書いた物語。
(ただし、1900年代と言うことで原作キャラの大半は幻想入りして、基本的にオリキャラ多数になります)

2、キングクリムゾン! そのときふしぎなことがおこった! レイセンは無事に幻想郷にたどり着いたようだ。
(もう道中すっ飛ばして幻想郷入りします、波乱が無いのでほのぼのした話になりそうな気がする)

3、自由の国アメリカ陰謀編
(月の話と絡めて、アメリカを舞台にオリ展開書いていきます。書かない場合、散々伏線張った月の話はさらっと流れる。まあ過去編として後々書くというのもありだけど。多分そんなに長くならない。精々5,6話くらい?)



読んでみたいってのあったら感想に下さい。
ぶっちゃけ、作者的にはどれにするか迷ってるので。


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第八話 ウサギ決意する

ストック? 書き溜め? 何を言っている。

これが水代の実力だ。




と言うのは冗談で、良い作業用BGMを見つけたので、本日二話目の投稿。


 

 

 

 

 つぅ…………と、私の頬を赤い滴が流れ落ちて行く。

 全身に感じる倦怠感。

 手に残る生々しい感触。

 平気だ、私は、大丈夫…………いくら口に出してみても、体の震えは止まらない。

 眼前に映る視界…………世界が赤かった。

 

 赤い。赤い。赤い。

 

 それでいて黒い…………血の色。

「っぁ…………!!!」

 こみあげる吐き気。

 胃の中身を全て吐き出す。

 それでも止まらず、何度も何度も、吐き出した中に混じる胃液のせいで、口の中が酸っぱい。

 錆付いた心が軋みを上げる。

 凍りついた心が限界を叫ぶ。

 

 それでも。

 

「っ!!!」

 撃つ。

 

 撃つ。撃つ。撃つ。撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。

 

 さもなければ、私が殺される。

 それが分かってしまうから。

 

 撃って、撃って、撃って。

 飛び散る肉片が顔にべとりと付着する。

 狂ったように叫ぶ。気が触れたように顔を掻き毟る。

 だがそれでも、撃つのは止めない。

 もう動かないソレ。

 原型すら留めていないソレら。

 けれど心の底にこびりついた恐怖がまだ錯覚させる。

 

 ソレらが私に銃を向けてくるその姿を、幻視する。

 

「ァァァァァァァァァァァ!!」

 

 撃つ。気力が果てるまで。

 

 撃つ。意識が朦朧としても。

 

 撃つ。自身の中が空っぽになっても。

 

 そうして…………意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 目が覚める。

 朦朧とする意識。

 ふと体を起してみれば、そこはどこかの森の中。

 眩しい…………朝だろうか、と寝ぼけた頭で考える。

 昨日はたしかに街にいたはずなのに、どうしてまた森の中に?

 というか何でこんなところに寝ているのだろうか、私は?

「昨日何してたっ…………っけ?」

 

 瞬間、思い出す。

 

 あやふやだった記憶を。

 

 覚醒する。

 

 同時に全身から力が抜け落ちる。

 

 震えだす体。

 

 ああ、思い出した。

 

 そうだ思い出した。

 

 私は、私は昨日。

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ………………………………。

 

 ………………………………………………。

 

 ………………………………………………………………。

 

 

 

 地上から見た月が満月になると、月と地上との間に繋がりができる。

 その時だけは、地上から月へ連絡を取ることができる。

 今日が満月だったのは…………偶然と言って良いのか、それとも。

『………………そう』

 月の民を殺した。そう告げた私に、豊姫様が返した一言は素っ気無いものだった。

 叫ぶだけは叫び、出すものも全部出した。それでも体の震えが収まった時には、すでに夜だった。

「……………………言い訳はしません。どんな罰も受けます」

 と言っても、奴隷階級の玉兎が月の民を殺したのだ…………どう考えても死刑だろう。だが月で殺せば穢れが溢れるので、地上にいる内に()()()()人を送って殺す。この辺りだろうか。

『一応聞くけれど、殺さずに止めることはできなかったのかしら?』

 機器から聞こえる豊姫様の言葉に、少し考える。だが答えは変わらない。

「言い訳に聞こえるかもしれませんが、不可能でした。何か薬を使っていたようで、どう見てもまともな精神状態には見えませんでした」

 私の能力が効かないほどに…………あれは多分、精神を壊されていた。その上でたった一つの命令だけを上書きされていたのだろう。

 

 即ち、私を殺せ、と。

 

「お聞きしておきたいのですが、一体何故彼らは私を殺そうとしたのでしょうか?」

『…………………………そうね、それを話しておかなければならないわね』

 意外にも、あっさりと豊姫様は話してくれた。

 だが、それ以上に意外だったのは、豊姫様の第一声。

 

『ごめんなさい、レイセン』

 

 それが謝罪だったこと。

 どういういことなのか…………意味が分からない。

『あなたは私たちのとばっちりを受けたのよ』

 とばっちり…………?

『ことここに至っては仕方ないわ…………本当はあまり知ってほしくなかったのだけれど』

 そう前置きして豊姫様が言ったこと、けれどその内容にどこか納得してしまった自分がいる。

 要約すれば、月も一枚岩ではないということだ。

 現在の月の実質的なリーダーは綿月姉妹様方だが、綿月姉妹様方を快く思わないものもいる。

 そう言った人たちから見た私は、綿月姉妹様方の駒の一つに見えるらしい。

 どう考えても邪魔だが、今まで捨て置かれたのは、私を排除するリスクのほうが高いから。

 だが先のクーデターの件で私の危険性と言ったものが上がった、リスクを覚悟で排除したほうが良いと思われたらしい。

 そんな時にちょうど私が地上へ行きたいなどと言い出し…………結果、私は月から逃げ出した、と月の民たちからそう思われているらしい。

 そして綿月様のペットと言うことは、知ってはいけないことも知っているのではないか、などとこじつけの理由で私を殺そうとする部隊が送られてきた…………豊姫様の話を要約するとそういうことらしい。

『あなたには何の罪も無いことは分かってる。私たちのせいで…………』

 物悲しそうな豊姫様の声。それを聞いた瞬間、自然と口が言葉を紡ぐ。

「楽しかったですよ。豊姫様に拾われてからの日々」

 毎日毎日、豊姫様の突飛な行動に付き合わされたり、依姫様に追い回されたり。

 ハチャメチャと言うならまさにソレだ。

「だからそんな顔しないでください。私は、感謝してます、豊姫様に拾っていただいて」

 顔なんて見えない。けれど簡単に想像は付く。そんな素振り滅多に見せないけれど、二人とも身内に対して誰よりも情の深い方たちだから…………自分たちのせい、なんて言ってる時点でどんな顔してるかなんて想像がつくし…………そんな顔して欲しくない。

「これからどうなるかは分かりませんが…………自分たちのせいだなんて、責めないでください」

 それと。

 

「今まで、ありがとうございました」

 

『…………っ』

 機器の向こうで、豊姫様が息を飲む音が聞こえる。

 ぐっ、と何かを堪えるような、そんな雰囲気が伝わってくる。

 そうしてしばしの沈黙が続き。

 

『…………レイセン』

 

「はい」

 

『最後の命令よ』

 

 すっ、と豊姫様が軽く息を吸い込み。

 

『地上で生きなさい…………終わりが来るその時まで、生を諦めることを決して許さないわ』

 

 だから。

 

『生きて…………必ずまた迎えに行くから』

 

「……………………」

 

 正直言えば、意外だった。

 

 ここまで言ってくれるなんて。

 

 自分など、豊姫様の長い人生の一時の気まぐれに過ぎないだろうと思っていたから。

 

 けれど、ここまで言ってもらえたのだ…………私も、決意しなければならない。

 

「…………待ってます、いつまででも、待ってますので」

 

 そう答えると、機器越しにくすり、と豊姫様が笑う声が聞こえる。

 

『ええ、待ってなさい。それまでは…………あの方のところに逃げればいいわ』

 

「あの方?」

 

 それはもしや、いつか聞いた。

 

『いつか話した、あの方よ…………だいたいの目星は付いてるわ』

 

 この世界で最も賢しきお方…………その名は。

 

『八意様…………あの方は今、始まりの地にいるわ」

 

 




ほとんど説明回。
それと急展開だと思った人。
ホントはアメリカ編か放浪編書きながら途中で出そうと思ってたら、幻想郷直行意見が多かったから、端折った。
アメリカルートは消えていった。儚月抄辺りでまた盛り返すかなあ?






どうでもいいけど、感動的シーンてのが書けないなあ。
やはり自分で見てて薄っぺらく感じる。
どうすればよいのだろうか……。


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第九話 ウサギ幻想を知る

 

 

 

 国産みの神イザナギとイザナミ。

 両神が作り出した月の民たちにとっての始まりの地…………つまり、日本。

 で、私が最初にいたのはアメリカ。最初に見た湖、五大湖か何かだったのだろうか。

 ここで問題なのは、私の勘違い…………と言うか、思慮が足りていなかった部分。

 私の生前……と言うと今が死んでいるみたいなので、前世と言うが、その頃は平成三十数年代。

 人類が月面に基地を作るとかそんな話をしていたころの話だ。

 よくよく考えれば、転生…………憑依か? なんてしている時点で、まともな状況なわけが無いのだが、あまりにも平穏過ぎてその考えに至らなかった。

 

 つまりまあ…………街に入って初めて気づいたが。

 

 現在、終戦前。日本とアメリカが戦争していたりする。

 

 当然と言えば当然の話だが。

 

 この状況でアメリカから直接日本に行けるまともな方法が存在しておらず。

 

 飛んでいくにも、さすがに太平洋横断する気にもなれず。

 

「さて…………どうしよう?」

 

 欧州方面はドイツが周辺国に攻め込まれているせいで、こっちもまともな交通機関が麻痺している。

 後、蛇の道は蛇と言うべきか、偶然出会った妖怪から聞いた話によると、欧州は吸血鬼勢力が未だ残っていて、どうにも危険らしい。

「あれ? これ詰んでない?」

 終戦まで待つべきだろうか? こんな状況じゃ、日本に行けるようになるまで何年かかるか分からない上に、その間にまた次の部隊が月から来た場合、対処に困る。

 また薬物で精神を破壊されて来られたら殺すしかないし、それをするとまた私の立場が悪くなる。

 いや、もうすでに決定的にマズイのだが、それでも豊姫様はこの状況でも諦めずどうにかする、と言ってくれたのだから、私がこれ以上マズイ事態にするのは避けたい。

 

「幻想郷?」

「ケケケ…………ソーサ、イバショノナクナッタヨーカイタチノサイゴノイバショッテワケサ、ケケケケ」

 居場所の無くなった妖怪たちの最後の居場所…………?

「妖怪に居場所が無くなっているっていうのは?」

「ドイツモコイツモ、ニンゲンガカガクヲツイキュウシテゲンソウヲコワスセイデ、ヨウカイハドンドンセカイニイバショヲナクシテイルノサ」

 科学を追及して幻想を壊す…………それの意味は分かる気がする。

 平成三十数年の世界、世の中の不可思議の大半が科学によって究明されていた。僅か十数年の時間で人類は地球上から不可思議を次々と駆逐していった。

 つまりその駆逐された不可思議に生きるのがこの世界の妖怪。

「セカイカラカクリサレタバショデナ、セカイカラワスレサラレタソンザイガソコニヤッテクルッテハナシダゼ」

 世界から隔離された場所…………それって…………。

「マア、グレムリンノオレニハカンケイナイガナ、ケケケ」

「ん、ありがとう。これ、いつもの」

「オウ、アリガトヨ、ウサギノネーチャン、ケケケ」

 楽しそうに人を嗤って、羽の生えた小人のようなソレは、不快な声を荒げながら去っていく。

 その手にしっかりと握り締めたチューインガムを一つ口に入れると、そのまま空へと飛び去っていく。

 

 名をグレムリンと言う。

 半分妖怪化した妖精のような存在で、ここ欧州大半とここアメリカ大陸を主に生息域にしているらしい。

 そのせいか、空軍の戦闘機に張り付いてガソリンを飲んだり、機体に悪戯したり、パイロットを驚かしたりして良く戦闘機を事故らせている迷惑な存在だが、その生息域の広さと噂好きの性格のお陰で、幅広い地域の情報を持っている。

 この数日で得た妖怪とか神様の方面の貴重な情報源だ。

 チューインガムと言う戦時中にはちょっと貴重な嗜好品が好物なのが難点だが、それに見合った以上の情報はくれていると思う。

 

 で、一番気になったのが、ゲンソウキョウと言う場所だ。

 漢字にすれば幻想郷だろうか?

 忘れ去られた妖怪たちが最後にやってくる場所。

 外界と隔離された独自の世界。

 それが日本にあると言うのだ。

 もし彼の御方がいるとするなら、一番可能性が高いだろう。

 

 まずはその幻想郷へ行く方法を探そう。

 

「…………で? どうやっていけばいいの?」

 

 グレムリンについでに聞いておけば良かった…………などと思っても後の祭り。

 

 と、その時。

 

 ふっ、と一瞬、気が遠くなったかと思うと。

 

「…………………………え?」

 

 景色が一変していた。

 

 

 

 

「…………え? いきなり何? ここどこ?」

 っさきまで街にいたはずなのに、どうして私はいきなり森の中にいるのか。

 と言うか気づいたら森の中にいること多いなあ、と心中で呟く。

 と、ふと視界の中に違和感を覚える。

 何かがおかしい…………そしてすぐに気づく。

「木の種類が全然違う…………」

 アメリカ原産の木々とは全く違う、けれどどこかで見た覚えのある木々。

「っていうかこれ松?」

 松の木、それにクヌギも生えている。こっちはブナだろうか。

 足元には笠のついたままのドングリがたくさん落ちている。

 どこかで見た覚えのある、と言うか。

「もしかして…………日本?」

 いや、日本以外の森を見たことなんてほとんど無いから分からないのだが、そう言えば直前までと気温も違うし、天気もなんだか曇っている。

 さっきまでの街とはかなり離れた場所であることは間違い無い。

 この梅雨前のようなじめじめとした空気、曇った空。

 生前の日本の気候のそれに良く似ている。

「…………この不可思議現象。もしかして、ここが幻想郷?」

 幻想が辿りつく最後の場所、となるとこんな不可思議によって飛ばされた地なんてそれ以外思いつかない。

 

 だがそうなると疑問が起こる。

 

 何故私はここにいる? どうやって私はここに来た?

 

 ……………………。

 

 ……………………………………。

 

 ……………………………………………………。

 

「って、分かるか!!」

 

 情報が少なすぎる。

 こんな状況で見知らぬ土地で単独で行軍など考えただけで頭が痛い。

 だが、そうも言ってられない、それにここは隔離されている、つまり月から発見されにくい。

 だったら、目的の人物がいるかいないかはともかく、ここに拠点を張るべきだろう。

 だとするなら、もっと情報がいる。特にここは妖怪の巣窟らしいから。

 人も住んでいるらしいが、一体どうやって妖怪に襲われずに済んでいるのだろうか?

 まだ月からこちらにやってきて数日だが、妖怪に襲われる人と言うのをすでに三人以上知っている。

 まして何十年、何百年と言う間妖怪の脅威に晒され続けて良く今まで生きてこれたものだと感心する。

「…………まずは人のいるところを探してみましょうか」

 妖怪よりかはまだ話が通じるだろう。能力で耳を隠し、さらに見えたとしても違和感を覚えないように錯覚させれば普通に人間にしか見えないだろうし。

 

 そうして森から飛び立ち、適当な方角にぶらぶらと飛ぶ。

 大きい山があったが、妖気が漂っていたので、危険と判断。さらに探索を続けると、遠くのほうに神社らしきものも見つけたが、同じくらい遠くに人の住む村らしきものも発見。

 さて、どちらに行くべきか、と考え…………神社に言って神様にでも会ったら嫌なので、村のほうへと向かう。

 それから村から見えないところで、降り立ち能力で普通に人間に似せて村へと近づく。

 入り口に武器を持った人間たちがいるが…………さてはて、どうなることやら。

 

 

「通っていいぞ」

 滅茶苦茶あっさり通れました。

 そんな簡単に通して良いのか? とも思ったのだが。

「あんた外来人だろ、その格好見れば分かるよ、ここにそんな珍しい服は無いからな」

 と言ってあっさりと納得していた。

「外来人?」

 と、聞き覚えの無い単語だったので聞き返すと、男が頷いて答える。

「外の世界から来た人間のことだよ、あんたもその口だろ?」

「それ以前にここはどこ?」

 だいたいの検討は付いていたし、ほぼ確信も持っているが、話の流れとして聞いておく。

「ここは幻想郷だよ。結界によって外の世界から隔離された秘境さ」

 やはりここが幻想郷…………そしてさらに気になる単語が出てくる、結界と今言ったが。

「結界、って何?」

「俺も良く知らんが、幻想郷と外とを隔てる結界が張られているんだって話だぜ?」

 これ以上詳しくは稗田様にでも聞いてくれ、とのこと。

 その稗田様はどこにいるのか? と聞くと、里で一番大きな屋敷にいる、と返す。

 簡単な礼だけ告げると、稗田様のところに行くなら失礼の無いようにな、との言葉に苦笑いして返した。

 

「大分情報が集まってきたけど…………後は稗田様、とやらのところで聞くとしますか」

 

 やや賑やかな人里の往来を、そんなことを呟きながら歩いていった。

 

 




展開が急? そうでも無い。
レイセンはすでに幻想の存在でしか無いんだから、いつ幻と実体の境界に引き寄せられてもおかしくは無かったですよ。
で、そんな時に自分から幻想郷に「行きたい」と思ったことがトリガーになって…………とかそんな感じでご都合で。

グレムリンしゃんはオリ。まあモブだし許せ。


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第十話 ウサギ兎に会う

おひさです。最後に投稿してからもう二週間くらいになるんですかねえ。
実は別の二次創作が頭から離れなくて、でも新連載するにももう連載いっぱいだし。なので書き溜めということで書いてました。ちなみに原作は問題児。
あとメガテンとかメガテンとかメガテンとかやってました、ネトゲで。
今イベントやってて強い悪魔と戦えるので行ったら一回ガチでやって二時間以上かかるキチガイ仕様だった。


 

 

 

 稗田様とやらのお屋敷は里で一番大きかったのですぐに分かった。

 尋ねてみると割りとあっさり通された…………書庫に。

 聞くに、肝心の稗田様とやらは居ないらしい。

 稗田様の血縁はいるらしいが、稗田様と呼ばれるのは阿礼乙女と言う初代稗田阿礼の転生体だけらしい。

 意味が分からない? 大丈夫、私も正直分からない。

 と言うか、そこまで興味が無い。

 私が今置かれている現状を理解するのに、稗田家の事情は関係が無い。

 要するに、説明してくれる人間がいないから、書庫で自分で調べてくれ、と言うことなのだろう。

 

 後で知ることになるが、この稗田家は里で最も多くの史料が残された場所であり、あっさり通された私は運が良かったのだろう。

 やはり最初に人に化けた(化けたと言うか認識を誤魔化しただけだが)のは正解だったのだろう。

 

 まあそれはともかく。

 稗田家にあった史料で、幻想郷と言う世界の成り立ちはだいたい理解した。

 それと同時に確信を持つ。

 

 ここにあのお方はいらっしゃる。

 

 結界によって外から隔離された世界。

 この箱庭の世界は月からですら観測されない安全圏だ。

 どんなバカでもここを選ぶ。

 どれほど賢しい者でもここ以外は選ばない。

 と言うか、選べない。

 この国に…………日本に居る限り、ここ以外ではどうやっても見つかる。

 にも拘らず、豊姫様はこの国に居ると言い、にも関わらず…………例え綿月家が積極的で無かったにしろ、月の民たちはあの方たちを見つけることができていない。

 何故? 知らないからだ。月の民たちは。この箱庭の存在を。

 

 だが気になることがある。

 

 この箱庭の中は安全だ。

 来たばかりの私ですらそれが分かる。

 なのに、里で聞いた限りではあのお方たちの存在は誰にも知られていない。

 豊姫様たちの話を聞く限りでは、普通に過ごしているだけで十分話題になりそうな方々だというのに。

 どういうことか? 考えてみる。

 例えば、この箱庭にいない可能性。

 だがそれは無いだろう、と先ほど却下したばかり。

 だとするなら、箱庭にいるにも関わらず、他者との関わりを避ける理由は何だろうか?

 例えば、里の人間たちに顔を見せられない事情がある、とか。

 だが、里の人間たちに聞いた限りでは顔も知らない名前を知らない相手だ。一体どんな事情があればそんなことになる?

 例えば、何らかの事情で家から出られない、とか?

 これは案外あるかもしれない、この魔窟のような箱庭でなら何が起こっても不思議ではない。

 だとするなら、今からそこに向かわなければならない私は何らかの準備をしなければならない。

 けれど、問題はそれがどこか、だ。

 稗田の家で見た史料を読む限りでは、そんなところはどこにも………………。

 

「あ、あった」

 

 思わず声に出してしまう。

 そう、あった。思い出した。

 一つだけそれっぽいものが。

 

 

 迷いの竹林。

 

 

 一度入れば同じ景色に方向感覚を失い、迷って出られなくなった上に妖怪の餌となる危険地帯。

 隠れるにはうってつけ、さらに入ったら迷って出れない。

 先の考えのどちらにも当てはまる。可能性としては正直かなり高い。

 と言うか、稗田家の史料を信じるなら、この竹林かあとは魔法の森と呼ばれる場所以外候補が見当たらない。

 だが魔法の森は危険な胞子が飛び交う、常人には住みづらい場所と書かれていた。

 と言うかあまり人の住むようなところではないようだ。

 だからこそ、と言う考えもあるが、確率は低いように思える。

 単純に大きさの問題だが、竹林のほうが遥かに規模が大きい。だから確率的には竹林ではないだろうか。

 と言っても、これらの推測は全部、稗田家の史料が正しければ、と言う前提でかつ、記入漏れ、つまり史料に無かった場所が無ければ、と言う前提が付く。

 だが他の情報も無いし、聞いた話では里で一番情報があるのは稗田家らしい。

 つまり里でこれ以上の情報が出てきそうに無いのだから、今ある情報で推測を立てる。

 

「…………行って見るしかないわね」

 

 まあ、ああだこうだと論じているより実際行って見たほうが早い。

 迷いの竹林などと言っているが、それは普通に歩けばであって、飛べば迷うことも無い。

 最悪能力を使えば人里の方向くらいわかるし、方角を間違えることも無いだろう。

 数秒思考し、問題なさそうだと結論付けると、里から離れたところまで歩き、そこから飛んだ。

 

 

 

 

 竹、竹、竹、竹。

 左右どこを見渡しても竹だらけ。

 なるほど、これを視覚頼りに歩けば、それは迷いもするだろうと思わず納得してしまう壮大な竹林。

 そしてその竹林の中。

 私は穴に落ちていた。

「あ、ありのまま今起こったことを」

 話す必要も無くそのまま。穴に落ちた。

「痛いわね…………誰よ、こんなところに穴なんて掘ったの」

 しかも丁寧に隠されているところを見ると、わざとだ。

 けれど、こんな竹林の奥に落とし穴?

 もしかして動物用の罠か、とも思ったがそれにしては浅い。

 そんなことを考えていると。

 

「おや、何かかかったと思ったら、珍しい(オナカマ)がいるじゃない」

 

 穴の上から声が振ってくる。

 顔を上げると一人の少女がそこにいた。

 何故こんなところに? とそう思うよりも先に視線を釘付けにしたのは少女の頭頂部。

 そこに自身と同じ、兎の耳があった。

 

「月兎…………いや、そんな感じじゃない…………でも」

 

 戸惑う。何故地上に自身と同じ耳……否、同じと言うには彼女の耳は短いのだが……を持つ存在がいるのか。

 玉兎ではない。雰囲気が完全に地上のそれだ。月の住人特有の雰囲気が微塵も無い。

 だからこそ戸惑うのだが、そんな私の様子を見た少女が首を傾げ。

「いつまでそこにいるつもり?」

 そう言われ、ハッとなって穴から出る。落ちた時に打ったお尻がちょっと痛い。

 穴から出て、改めて少女を見る。

 うん、服装も耳も玉兎のソレじゃない。だとすると、地上の妖怪兎、と言ったところだろうか?

 少なくとも私の知っている地上にこんな兎はいなかった。

「あんた誰?」

「…………レイセン」

「そ、あたしは因幡てゐ。この竹林の主さ」

 私の素っ気無い答えを気にした様子も無く少女……てゐは快活に言う。

「あなたは…………妖怪なの?」

 そんな私の疑問に対し、けれどてゐは首を傾げ。

「当たり前じゃん。レイセンは違うの? あたしらの仲間(ドウゾク)でしょ?」

 そう返され、一瞬答えに詰まる。それから数秒考え、答えを返す。

「私は…………月の兎よ」

「月……………………もしかして姫たちの仲間?」

 姫、と言う言葉。そして月と言う言葉に対して使ったと言う事実。

 つまりそこから導き出される答えは。

「ここにいるのね? 月の姫君様…………輝夜様が」

 それと…………地上で最も賢しき方、八意××様も。

 

 そんな私の問いに。

 

 てゐが…………頷いた。

 

 




結局なんで投稿が遅れたかと言うと、稗田の屋敷に行ってから先の展開がまるで浮かばなかったんですよねえ。
で、いい加減進めないと、と思って今日久々に兎開いて書き始め。
「もう稗田の屋敷の話いいか。どうせ40年代はまだ阿求いねえし」
ってことでさくさく飛ばし、いい加減話進めたいから竹林に飛ばしたら、なんとか話が進みました。

いよいよ、いよいよ次話で永遠亭に辿り着くと思います。
ここまで長かったと言わざるを得ない。

因みに永琳の名前ですけど、レイセンは月の兎なので、正しい発音で呼べる、と言う設定にしてます。実際はどうか知らんけど。
あとてゐの口調は原作に台詞が無いので、 儚月抄とウドン月抄を参考にしました。
ウドン月抄楽しいからついつい読みふけってこんな時間だけどwww


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第十一話 ウサギ賢者たちと出会う

毎日毎日小説チェックして、ネトゲやって、ニコニコで動画チェックして、おもしろそうな小説探して……ってやってたら執筆する時間なんて全然なかった。


 

 

 

「いや、あり得ないでしょ」

「てへっ…………ふぎゃっ?!」

 可愛く舌を出すてゐにゴツン、と拳骨を落とす。それほど力を込めたつもりは無かったが、痛かったらしく、涙目になってこちらを見てくる。

「何おどけてるの! ていうか、本気であり得ないでしょ!! なんで自分で掘った落とし穴にかかってるのよ!」

 現在の状態を一言で言うなら。

 穴の中…………だ。

 

 永遠亭と呼ばれる迷いの竹林の奥地にある建物。それがあの方たちが住んでいるところらしい。

 てゐは妖怪兎たちのリーダーのような存在で、妖怪兎たちに知恵をつける代わりに他の人間を竹林に近づけない、と言う約束をあの方たちをしているらしい。

「だったらどうして私を?」

「あんたは(ドウゾク)でしょ? 人間じゃないから大丈夫」

 そう言う問題でも無いと思うが…………まあ好都合なので良しとする。

 

 と、まあそんな感じで竹林の中を案内してもらっていたのだが。

 この竹林、至る所にてゐの掘ったらしい落とし穴があるらしく、私がかかったのもその一つらしい。

「全く…………こんなところに落とし穴掘ったの誰よ?! 迷惑ね」

「あ、それ私」

「………………………………」

 思わず一発殴ってしまった私は悪く無いと思う。

「案内してもらってるくせに殴るとはいい度胸じゃないか」

「私は被害者でしょ! 一発ぐらい殴らせなさいよ!」

 一触即発。その時。

 ズボッ、と音がし…………。

「へっ?」

「あっ」

 と言うわけで冒頭に戻る。

 

 それなりに深い穴ではあったが、そもそも飛べる私たちにあまり関係無く、難なく穴から出る。

「っというか、最初から飛べば良かったんじゃないの?」

「レイセンが引っかかるかなって…………てへっ」

 思わず関節技かけた私は悪く無いと思う。

「ふーざーけーるーなー!!!」

「タップタップ!!」

 

 閑話休題(ひぎ ちゃばん)

 

「いやあ、道中は強敵でしたねえ」

「そうね、九割方てゐのせいだと言う事実に私の怒りは天元突破しそうよ」

 てゐの掘った落とし穴に私が落ちたり。

 てゐの掘った落とし穴にてゐが落ちたり。

 てゐの掘った落とし穴にてゐが落ちたり。

 てゐの掘った落とし穴にてゐが落ちたり。

「何で私より掘った本人が良く落ちてるのよ」

「まさに墓穴を掘る(どやぁ)」

「誰が上手いこと言えと」

 で、一旦話が途切れ。

「ここが永遠亭?」

 私の問いにてゐが頷く。

 私たちの目の前にあるのは、武家屋敷とでも言うような和風のお屋敷。

 とは言っても門は無いようだが、庭も整えられ、木造建築に縁側に障子に引き戸と和風を片っ端から詰め込んだらこうなりました、と言った感じの建物。

 ただ、月で見たことのあるような窓の造りがあり、よく見れば他にもところどころではあるが、月の文化が混じったその姿に、なるほどこれはたしかに月の民が設計したのだ、と思わされる。

 じっと建物の外観を見ている私にてゐが首を傾げながら声をかけてくる。

「そんなとこでじっとして、中に入らないの?」

 その一言で本来の目的を思い出し、はっとなる。

「は、入るわよ」

 慌てててゐのところへ行き、玄関の扉へ手をかけたところで。

 

『あら…………どうしたのかしら? もう降参?』

『そ、そんなわけ無いじゃない…………はぁ、はぁ。ちょ、ちょっと激しかったから、はぁ、はぁ、息切れしただけよ』

『ふふ…………そう、まだ話す余裕があるのね、なら次はもっと激しくイきましょうか』

『ちょ、これ以上激しくなんて無理よ、壊れるわ?!』

『大丈夫よ、すぐに具合が良くなってくるから…………ふふ、そう、すぐに、ね』

 

「………………………………」

「………………………………」

 扉を開こうとした手がピタリと止まる。

 ついでに隣のてゐもピタリと止まる。

「ねえ、てゐ。あなたここの住人なんでしょ? 部外者の私が勝手に入るわけにもいかないから先に入ってくれない?」

「何言ってるの、レイセン。あの人たちに用事があるのはそっちなんでしょ? だったらレイセンが入りなよ」

 二人が入り口で騒いでいる間にも中での会話は続き…………。

 

『ねえ、もう止めない? これ以上は…………』

『あら、もう弱音? さっき降参しないって言ったばかりなのに』

『こ、これ以上は…………ほら外に人もいるし、ね?』 

『何言ってるのよ…………外の二人なんてどうでもいいでしょ』

 

「「って気づいてたのなら止めてよ?!」」

 思わず普段の口調も忘れて二人が同時にツッコミ、スパン、と玄関の戸を開く。

 中にいたのは長い黒髪の…………美人なんて言葉では表せないほどの、例えるならAPP18くらいの女性。

 もう一人は銀髪の赤と青で彩られた奇抜な服装の女性。

 そして銀髪の女性が黒髪の女性を押し倒し、その手に握った注射器らしきものを黒髪の女性に向け、黒髪の女性がそれを全力で止めようとしている図。

「え…………と…………? てゐ? この方たちが?」

「そうだよレイセン、あんたが探してた…………」

「…………って、あんたたち見てないで助けなさいよ!!!」

 直後に響く黒髪の女性の声を他所に、私は現実の無常さに天を仰いだ。

 

 

 

「私、レイセンと言います。失礼ながら貴方様がたが八意様と輝夜様でありますでしょうか?」

 平伏の姿勢で尋ねる私に、何事も無かったかのように平然とした顔で佇まいを直した銀髪の女性が頷く。

「ええ、私が八意××。まあこちらでは永琳と名乗っているのでそう呼びなさい。それから」

 ちらり、と隣に座る黒髪の女性を見やると、一つ頷き口を開く。

「私が蓬莱山輝夜よ。私たちを知っていると言うことは、あなた、月の兎かしら?」

「はい、月より逃げてきました」

 本当は嵌められたのだが、そこは別に重要ではないのでこれで通しておく。どうせ玉兎なんて身勝手なやつばかりと言うのが月の民の基本的な見識だ。突っ込まれることは無いだろう。

「逃げてきた?」

「はい、近々戦争が始まると言う噂に怯え月より地上へと逃げて参りました…………少なくとも月ではそう言われています」

 怪訝な表情の八意様、どうでもよさそうな輝夜様。二人の視線に晒されたまま十数秒の沈黙。

 やがて沈黙を破ったのは八意様だった。

「…………まあ良いでしょう。それで? 玉兎が私たちに何の用かしら? 月から指名手配されてる私たちを手柄に月へ戻りたいとでも言うのかしら?」

「いえ、違います。用件は二つです。一つ目は言伝です」

「伝言? 誰からかしら?」

 

「…………綿月豊姫様からでございます」

 

 瞬間、八意様の表情が、たしかに一瞬変わった。

 

 

 

 

「はい、月より逃げてきました」

 そう言う目の前で平伏する少女の言に納得する。

 少し突飛ではあるが、玉兎と言うのは身勝手な生き物だ。

 月から逃げ出すと言うのは少々度を越した部分もあるが、あり得なくも無い。

「逃げてきた?」

 だが。

「はい、近々戦争が始まると言う噂に怯え月より地上へと逃げて参りました…………()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どういうこと? 口に出しかけた言葉を飲み込み、考えてみる。

 月ではそう言われている、と言うことは真相は違う、と言うことだろうか?

 十数秒の沈黙。その間刻々と思考を巡らせ続け、いくつかの仮定を立てる。

「…………まあ良いでしょう。それで? 玉兎が私たちに何の用かしら? 月から指名手配されてる私たちを手柄に月へ戻りたいとでも言うのかしら?」

 確率的にはそれが一番ありそうではあったが。

「いえ、違います。用件は二つです。一つ目は言伝です」

 あっさりと否定され、兎が用件を告げる。

「伝言? 誰からかしら?」

 そして。

 

「…………綿月豊姫様からでございます」

 

 その口から出てきた名前に、一瞬息を飲んだ。

 

 

 




儚月抄読んだら、やっぱ玉兎はみんな八意××様、って発音できるみたいだった。

ていうか、たかが3000字ぽっちなんで五日もかかるんだよ、って思ってる方もいるかもしれんが。
それは違う。書き始めたのは一時間半前だ。一時間半前に書き始めるまでずっとゲームしてただけだ。
俺は書くのが遅いんじゃない、書き始めるのが遅いだけなんだ。


って何の言い訳にもなってないなこれ…………。


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第十二話 ウサギ姫と戯れる

一時間半であれかよじゃあもっと時間かけたらどうなるんだ?
と言われた。

A.文字数が増えました。


 

 

 綿月豊姫。

 現在の月のリーダー格の一人。

 私の………………元主人。

 そして。

 八意××様の弟子。

 

「…………あの娘が何と?」

 少しだけ強張った表情で、八意様がそう尋ね、私は豊姫様に言われたことをそのまま復唱する。

「『燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや。大海は智を知れど、銀盤は俯瞰するのみ』…………と」

 私の言葉に八意様が、そう、と呟き。

「随分と皮肉っているわね、何か嫌なことでもあったのかしら?」

「それと…………『兎は私が投げた銀鏡(しろみ)にして絆の証』とも」

 正直、私には何を言っているのか良く分からないことばかりなのだが、どうやら八意様には分かったらしい。

「それを本当にあの娘が言ったのね?」

「えっと、はい。豊姫様の言葉通りに」

 こくこくと頷く私に、八意様がなるほど、と納得したような表情になり。

「だいたいの事情は分かったわ…………それで、もう一つの用件と言うのを聞かせてもらいましょうか、まあだいたい予想は付くけれど」

 なんで今ので分かるのだろう、と思ったがさきほどまで感じていた警戒心が消えていることから、本当に事情察したのだと思う…………なんなのだろうこの廃スペック師弟。

 まあそれは置いておき。

「私をしばらくここに置いていただけないでしょうか?」

 数秒の沈黙。それから八意様が口を開き。

「良いでしょう。ただし、置くからには働いてもらいましょう。姫もよろしいですか?」

 隣で退屈そうにしていた輝夜様に話を振ると、輝夜様が頷き。

「ええ、貴女がそう決めたのなら良いわ。よろしく、イナバ」

「えっと、一応名前はレイセンなのですが」

「けれど貴女はすでに月の兎では無いわ、本当に貴女がここにいたいと言うのなら、その名は変えなさい」

 名は体を表す、と言う言葉が在るとおり、今の私がレイセンである限り、私は月の兎で、豊姫様のペットであり続ける…………用は心構えの問題だ。

「分かりました」

「貴女にとってその名が大事なのは分かる。だからイナバ、それを捨てろとは言わないわ。代わりに私から貴女に因幡の名前を上げる……………………永琳、貴女も一つ名を送ってあげなさい」

「そうですね…………では、優曇華院の名を上げましょう」

 優曇華は月にしかない花だ。その名を付けるということは…………やはりこの方は私の事情をだいたい察しているのだろう。

 後レイセンと言うのも変えたほうが良いだろう。豊姫様に貰った名だから音はそのままにするが。

「では……………………そうですね、(すず)(ひと)で鈴仙と名乗らせていただきます」

 そう言って輝夜様を見ると、頷いていたのでこれで良いのだろう。

 しかしそうなると私の名前はイナバ優曇華院鈴仙?

 どこの中二病患者だろうか…………多少不自然だが鈴仙優曇華院イナバ。まだこちらのほうが無難か。

 

「ところで何故イナバ?」

「兎だから」

 そんな理由ですか…………。

 

 閑話休題(まあ、それはさておき)

 

「ところでイナバ、早速なのだけれど」

「はい?」

「何か面白いことしなさい」

「無茶振り来た?!」

 なんという…………最早その言葉自体が芸人殺しと言ってもいい。

「ウドンゲ、それよりも先に仕事を覚えてもらうわよ」

「え、あ、はい…………ってそれ私のことですか?」

「優曇華院だからウドンゲ、優曇華院なんて言い難いじゃない」

 だったらなんで名づけたし…………というか鈴仙って呼べば良いだけの話…………。

「そんなことより鈴仙、ちょっと私たちと付き合ってよ、仲間(ドウゾク)でしょ?」

「え、でも他の」

「いいからいいから」

 手を引っ張るな、てゐ。

 

「何言ってるのよ、イナバは今から私と遊ぶのよ」

「その前に仕事を一通り覚えてもらわないと困ります」

「同じ仲間である私たちと一緒に行くんだよ」

 

 わいわい、がやがやと話し合うのは良いのだが、私の意志とは関係ないところで進めないで欲しい。

 そんなことを思っている間に。

 

「「「じゃーんけーん…………ポン」」」

 

 どうやら初勤務の相手は決まったらしい。

 

 

「と言うわけで私と遊ぶわよ!」

 どうやら勝ったのは輝夜様らしい。

 輝夜様の私室らしい部屋に通された私は、やることがあるとどこかに行ってしまった八意様と兎たちどどこかに走っていったてゐがいなくなったので、現在輝夜様と二人だけだ。

「それで、何をするんですか?」

「まあそれは半分冗談なんだけれどね」

「冗談だったって…………じゃあ何するんですか?」

「そうね……………………貴女の人生でも語ってちょうだい」

「へ?」

 いきなりと言えばいきなりな提案に、素っ頓狂な声が出たのを自覚する。

「ふふ、別に人生と言っても特段難しいことを言えと言っているわけじゃないわ。貴女がこれまでどんな暮らしをしてきたのか。そこで何を思って何を感じたのか、ほんの些細な日常の一コマでいいの、それを私に教えてちょうだい」

「えっと、何故そんなことを?」

「あら? 新しく共に暮らす家族のことを知りたいと思うのは普通ではないかしら?」

 やばい、ちょっとカッコイイ。思わずそう思ってしまう。

 さきほどまで八意様に押し倒されていた人とは思えないほどの…………そう、カリスマとでも言うべきか。

 これが月の姫君と呼ばれた人か…………ふとした瞬間、そう思って。

 自然と私の口は開かれていた。

 

「目が覚めた時、月の荒れ果てた地面が見えました」

 

 月の民たちが住むのは月の裏側とでも言うべき場所だ。

 だが、その広大な土地に比べ、月の民の数は非常に少なかった。

 実際問題、月の裏側には月の民の都市が大きく広がってはいるが、全体から見れば95%以上は人の手の付けられていない未開発の地で埋め尽くされている。

 そんな未開発の地の荒野で…………私は生まれた。

 

「私は月から生まれた玉兎です。なので親も親類もいません」

 

 玉兎の生まれ方は二種類ある。

 通常の生命のように、有性生殖するケース。要するに親から生まれる場合だ。

 そしてもう一つが妖怪のように自然発生するケース。月の魔力が溜まりきった場所で時折生まれるレアなケースだ。

 違いを上げるなら、前者は生まれた時は赤子だが、後者は最初からある程度成長している。

 そして月の都市にいる玉兎の99%以上が前者で、私は後者だった。

 

「ここがどこで、私は誰なのか…………ソレを教えてくれたのは私の眼でした」

 

 自然発生した玉兎の瞳は他の玉兎よりも紅が深い。

 それは月の魔力を宿しているせいだと言われている。

 そのせいか、その瞳に一度吸い込まれてしまえば並大抵の者では月の魔力にあてられ、狂う。

 そして月の魔力を宿しているせいか、月との間に相互の繋がりがある。

 例えるなら親子の絆とでも言うべきものだろうか?

 

「そうして自己の確立を図っていたその時会ったのが…………綿月姉妹様方でした」

 

 出会う。

 出会って…………拾われる。

 それから始まるのは。

 幸せな物語。

 そして。

 

 そして。

 

 

 

 

 思考する。

 意識が思考の海へと落ちていく。

「『燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや。大海は智を知れど、銀盤は俯瞰するのみ』…………と」

 燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや…………小人物には大人物の大きな志や考えがわからないという例えだ。つまり、綿月は何故こんなことになったのかは知らないが、八意様には何か考えがあってのことだろう。と言うこと。

 それはまだ私のことを信頼している、と言うことだろうか?

 大海とは即ち海神の血筋である綿月家のこと。

 智は思兼神の血族の八意……つまり自身のこと。

 大海は智を知れど…………つまり綿月は自身の居場所をすでに見つけている。あるいは検討が付いている、と言ったところか。

 銀盤はそのまま月に置き換え。

 俯瞰する、つまり見下ろしている。それはまだこちらを見つけていない、探している途中だということだろう。

 銀盤は俯瞰するのみ…………つまり月は未だ自身たちを見つけておらず探し回っている。

 

 つまり綿月はすでに私たちを見つけているが、月は見つけていない。

 それはつまり綿月は月の上層部へそのことを知らせていない。

 その前の文の『何か考えがあってのことだろう』と言う意味合いと併せて考えると、綿月はこちらの味方…………とは言わないが、少なくとも敵になるつもりはない。

 

 そして読み解き方を変えるともう一つ意味がある。

 燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや…………先生(自身)にはきっと深い考えがあったに違いないのに、小人物(月の上層部の人間)にはそれが分からないのだ。

 大海は智を知れど、銀盤は俯瞰するのみ…………私たち(綿月)はすでに先生(私)を見つけていると言うのに、月の人間にはまだ分からないのだ。

 さらに前後の文章をつなげると、一つの意図が読み取れる。

 

 先生を見つけることもできない小人物にどうして先生の深い考えが読み取れると言うのだ。

 

 要するに、綿月から月の上層部へ向けた盛大な皮肉である。

 

 引き攣りそうになる表情を抑え、そう、と呟く。

 それから。

「随分と皮肉っているわね、何か嫌なことでもあったのかしら?」

 少しだけ噴出しそうになる表情を抑えて話しているのだが、この玉兎は気づいていないようだった。

「それと…………『兎は私が投げた銀鏡(しろみ)にして絆の証』とも」

 そして、それを聞いて思わず目の前の玉兎を見てしまう。

 

 銀鏡…………と言うのは月に例えるが、今回は違う。

 その前に『私が投げた』と言う言葉が付いているのなら別の意味になる。

 

 昔々、迩迩芸命と言う男がいた。

 迩迩芸命は佐久夜姫と言う少女を妻に娶った。

 この求婚の際、妻の姉である石長姫も共に娶るはずだった。

 だがこの石長姫はあまり容姿が良くなく、迩迩芸命は石長姫を親元に帰してしまった。

 この時に境遇を嘆いた石長姫が自身の姿を映す鏡を放り投げると大木の枝にかかり、陽の光、月の光を浴びて白く輝いた。

 

 そんな話がある。

 この話に出てくる鏡は白く輝くことから『白見(しろみ)』と呼ばれ、転じて『銀鏡(しろみ)』と呼ばれた。

 私が投げた銀鏡…………私とは豊姫のことだろう。投げた、とはつまりこちらに寄越した。銀鏡はつまり、陽の光、月の光を浴びて輝くモノ。

 その後に付く絆の証…………要するに自身と綿月を繋ぐモノ。と言うことだろう。

 

 兎は私が投げた銀鏡(しろみ)にして絆の証…………とは、綿月家と自身の連絡手段であり、月の民がやってきた時などのための警報装置の代わり、と言ったところだろう。

 たしかに玉兎には、玉兎同士の特殊な情報網がある。大概はデタラメな噂話だが、それを意図的に流し、レイセンがそれを聞けば、一方的ではあるが情報を取得できる。

 正直言って、月の状況が何も分からない現状で、かなりありがたい、と言っても良い。

 

 だからこそ。

 

「私をしばらくここに置いていただけないでしょうか?」

 

 その問いにも頷いたのだ。

 

 しかし不思議でもある。

 何故玉兎がわざわざ綿月家からの言伝など持っているのか。

 自称月から逃げてきた兎が何故そんなもの持っているのか、あの兎は正直隠す気は無いようだが、本当のことを言うつもりはあるのやら…………。

 ついでに言うなら、豊姫のほうも謎がある。わざわざこの玉兎のことを言伝で伝えるのはまるでこの玉兎が特別のようではないだろうか?

 

「いえ、でもそうなら辻褄は合うわね」

 

 特別なのかもしれない。

 少なくとも、豊姫にとっては。

 

「…………今度聞いてみましょうか」

 

 輝夜と何かしているらしいが、今はまだ忙しい身だ、今度時間を取ってその辺りを聞いてみよう。

 

 幸い…………と言うべきか。時間だけなら掃いて捨てるほどあるのだから。

 

 

 

 

 




二日連続投稿。
実は昨日飲んだ、味の変な牛乳のせいで、朝からゲリと嘔吐が…………。
今は薬で抑えられているので大丈夫……だとは思う。
で、暇いので執筆。三時間もかかった。主に伝言の内容考えるだけで30分くらいかけた。


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第十三話 ウサギ不死を知る

今回、東方屈指のイケメンさんが登場します。


 

 

 永遠亭にやってきて一週間ほどが経つ。

 この一週間の私の状況を言うと、輝夜様の相手をしたり、八意様に習いながら永遠亭の家事を手伝ったり、てゐと一緒に落とし穴に落ちたり。

 最後のは正直ノーサンキューなのだが、巻き込まれるのだから仕方ない。

 永遠亭は名前の通り、時間が永遠に続くのでは無いかと思えるほどゆったりと日々が過ぎていく。

 ここに来るまでの数日間、色々ありすぎただけにこうした平穏な日々がささくれ立った心を癒してくれる。

 …………まあ、その日までは。

 

「…………よう、輝夜はいるか?」

 

 一週間が過ぎ、ようやく永遠亭での生活に慣れ始めたその頃。

 

 その人来た。

 

 

 

 来客者のいない永遠亭の玄関を無心に箒で掃く。

 幸い、と言うべきか。突風などは竹林が受けてくれるので、掃いたゴミがどこかに飛ぶ、と言う心配は無い。

 この後あれをやり、これをやり、と後の行動を自身の中で考えていた…………その時。

 

 さくっ、さくっ

 

 草を踏みしめるような足音。と、同時に疑問。

 今日はてゐも含めて全員永遠亭にいる。てゐの仲間の兎たちではあんな音は出ない。

 …………と、なると。一体この足音の主は誰だ?

 こんな竹林の奥地まで人間が来るはずが無いし。どうやっても来る途中に迷って妖怪に食われる。

 もしくは妖怪? なら飛んでくるだろうし。

 それに軍にいた頃の経験から分かる…………これは人の足音だ。

 だとするなら…………一体誰だ?

 

 警戒心を(あらわ)に足音の方向を見つめる。

 やがて見つめた方向から人が現れ…………。

 

「初めて見る顔だな、お前」

 

 その人は現れた。

 

「まあ、いいか…………それよりも」

 

 ニィ、と口元を歪め。

 

「…………よう、輝夜はいるか?」

 

 そう言って、赤い瞳で私を見つめた。

 

 

 

「どなたでしょうか…………?」

 会話をする、と言うことは問答無用と言うわけでもないようだ。

 さらにピンポイントで輝夜様の名前を出した、と言うことは永遠亭のことを知っている?

 さらに言うなら…………その身に纏う穢れ。地上の中にあってより一層濃いそれは。

 

 輝夜様たちと同じ…………。

 

「はあ? 私か、私は藤原妹紅だ」

「………………それで、輝夜様に何のご用件で?」

 瞬間、彼女…………妹紅が笑いだす。

「は、はははは!!! 何の用件だ? 決まってるだろ、ああ、決まってる」

 笑い、嗤い、哂い。

 

 そして獰猛な笑みを浮かべ。

 

「殺し合いさ」

 

 瞬間、腰に差していた銃を抜いた。

 

 

 

 三発の弾丸が妹紅の体を貫く。

 吹き飛ぶ妹紅の体を、噴出す血液を見て、月の兵士を殺した時のことを思い出してとっさに吐きそうになるのを堪える。

 だが…………。

「いきなりだな…………まあそっちがその気なら…………私も遠慮はしないがな」

 声が聞こえ。

 

 周囲が炎に包まれた。

 

「っ!!!」

 火の手が永遠亭にまで伸びようとするの見て。

 咄嗟に能力を発動させる。

 

 炎とはつまるところ、燃焼時の反応で起こる光と熱だ。

 つまり、燃えなければ起こらない。簡単な理屈だ。

 そして燃える、とは熱が絶対的に必要となる。

 温度は波で出来ている…………ならば私はそれを操れば良い。

 

 炎に宿った温度を全力で反転させる。

 瞬間、周囲の炎が消滅し。

「なに?」

 驚いた様子の妹紅に…………銃を構え。

「っ!」

 発砲。

 

 妹紅の腹部を銃弾が貫く。

 

 だが、すぐ様に妹紅が起き上がるのを見…………。

 

「蓬莱の……薬……」

 

 呟いた瞬間、妹紅が口を歪めた。

 

「燃えろ!!」

 言葉に従い、その意に従い、周囲がまた燃え始める。

 さらに高い温度で、さらに強力な力で。

 すぐまた能力を使い…………弾かれる。

 消えない、炎が。

 阻まれる、能力が…………宿る意思に。

 理解する。これまでやってきた物理を超越した…………これが、妖怪たちのいる世界。

 けれど。

 

 それでも。

 

 消せる。

 

 何故なら。

 

 私はこれ以上を知っている。

 

「火之迦具土神様には到底及ばない」

 

 依姫様の炎はもっと凄かった。世界を焼き尽くすばかりの勢いで私に迫ってきた。

 

 これなら…………消せる。

 

「っなに?」

 

 消滅した炎に目を開く妹紅。

 さきほどと同じように銃を構える。

 分かっている、相手は不死だ。

 輝夜様たちと同じ、蓬莱の薬を飲んだ不老不死。

 

 だから。

 

「今日はお帰り願います」

 

 呟き。

 

 空間に生み出し続けていた銃弾()()()()()()を射出する。

 

 ピシャリ、と玄関を閉め。

 

 後には、蜂の巣になった蓬莱人が一人。

 

 

 

 

 むくり、と起き上がる。

 ぺっと口の中に広がる土と血が混ざったものを吐き出す。

 ぽりぽりと頭を掻き、目の前の永遠亭を見るがさきほどの兎はもういない。

「あー…………今日は引き返すか」

 どうにもあの兎のせいで、白けてしまった。

 どう呟いたその時。

「あら? 帰るの?」

 声がした。聞き覚えのある声。

 振り向く、そこに輝夜がいた。

「輝夜」

 私はこいつが憎い…………と言うより、憎かった。

 だが、磨耗した。幾百年の時の中で、磨耗してしまった。

 それでもこいつを殺そうとするのは、こいつが私を殺そうとするのは。

 死の無い私たちが生を実感できる時だから。

「ああ、帰るよ。あの兎に止められちまったしな」

「止められたって、貴女全然本気じゃなかったじゃない」

「…………っち、不死でも無いやつに本気なんて出せるかよ」

 

 生まれ生まれ生まれ、生まれて生の始めに暗く

 死に死に死に、死んで死の終わりに冥し。

 

 だが自身は生が暗いとは思わないし、死が冥いとも思わない。

 死に怯え、けれど死を乗り越えてくる。

 だからこそ、生が輝き、だからこそ死に意味がある。

 何故生と死を繰り返すのか? そんなもの、簡単だ。

 生きているから死があるのだ。

 死が無いモノは生きてはいない。

 だからこそ生の尊さを知る。

 死を捨て去り、生を忘れた自分たちだからこそ、失くしてしまったその価値に気づく。

 失くさなければ分からない、なんて言葉は昔から良くあるが、全く皮肉なものだと思う。

 

「新しい住人か?」

 自身の問いに輝夜が頷く。

「そうよ、私と同じところから、ね」

「…………帰るのか? 月に」

「いいえ…………月から逃げてきたのよ、あの子も」

「…………強いな、あいつ」

 まあそれでも負ける気はしないが。

「そうね…………色々あったみたいだから」

 いつもと違う、どこか優しい表情で、輝夜が呟く。

 先ほど戦った相手を思い出し、頷く。

「生の意味と死の意味を知ってたな、あいつ」

 あの目はそう言う目だ。

 生きることを知っている、だから死ぬことを恐れている。

 そして死ぬことを知っている、だから生きていることに必死だ。

 不思議だ、と思う。

 どうやったらそんなことになるのか。

 自身たちのように不死だとでも言うのか?

 けれどそんなはずは無い。あの兎からそんな気配はしない。

「不思議なやつだな、あいつ」

「…………そうね」

 呟く声は、風と共に竹林へ消えていった。

 

 

 




60年周期の大開花の話書こうかと思ったら、もこたん出し忘れてたことに気づいて、慌てて十三話として書いてた話を十四話にしてこの話書き始めた。
所要時間一時間と十五分ほど。まあまあかな?

やっぱもこたんイケメン。

因みに鈴仙の銃は月から持ってきたもの。銃弾? 能力で作れます。隠し設定ですが。その辺の設定もいつかはするかな? 今いえるのは鈴仙の能力はチートだと言うこと。

さらに因みに。
本気で殺しあったら、多分もこたんが勝つ。
今回スペかにするような技系一つも使わなかった、ていうかもこたんがやったことって炎出すだけだったから勝てたけど、技使って殺しにかかられると多分勝てない。でも今の鈴仙も臆病じゃないだけ原作鈴仙よりは強い。


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第十四話 ウサギ花を見る

久々に書きました。
魔導巧殻ってゲームやってたんですけど、一区切りついたのでまた更新再開です。


 

 

 この永遠亭にやって来てからどれくらいの年月が経っただろうか。

 前世と違いカレンダーなどと言ったものは無く、毎日がゆっくりと流れるこの永遠亭にいると、月日と言う感覚が薄れてくる。

 ただこのあいだ里に行った感じでは恐らく五年前後と言ったところだろうか。

 その間の私の日々を簡単に語ると、ここに来た最初の一週間とあまり変わらない。

 輝夜様…………姫様の遊び相手になったり、八意様から調薬を習い、師匠と呼ぶようになったり、てゐの作った落とし穴にてゐと一緒に落ちててゐに拳骨を落としたり。あと姫様に会いに着ていた不死人、藤原妹紅が姫様と戦ったり。追い返したと言ったら姫様には褒められたが、なんだかんだで退屈そうな表情をしていた。八意様……師匠も黙認して良い、と言うことなので次から通しているのだが、永遠亭の近くで血飛沫が舞うような殺し合いをしないで欲しい。一度永遠亭にまで被害が及んだので掃除するのことになった(私だけが)こともある。

 と、まあ時々血生臭いこともあるが、基本的にはのんびりとしたゆったりとした日々。

 時間は進んでいると言うのに、まるで昔に戻ったかのような穏やかな日々に、けれどそこに豊姫様も依姫様もいないことにふとした瞬間、寂しさを覚える。

 なんだか心まで飼い慣らされてしまったみたいだ…………と思ったが、まさしくその通り過ぎて反論の言葉も出てこない。

 そんな一人問答をしているある日…………それは起こった。

 

 

「師匠、師匠ー!」

 叫び、師匠の仕事部屋をノックする。

「入っていいわよ」

 中から返ってくる返事に、引き戸を開けると、椅子に座る師匠がこちらを向く。

「どうしたのよ、そんなに急いで」

「師匠、外を見てください」

「外?」

 首を傾げながら、師匠が窓辺に行き、窓を開く…………と同時に感嘆の声を漏らす。

「まあ…………」

 

 迷いの竹林の奥地にある永遠亭。当然の話だが周囲は竹林で囲われている。

 竹と言うのはちょっと珍しい特徴のある植物で、その花は六十年から百二十年に一度一斉に開花すると言う習性がある。

 私も前世で一度だけ見たことがあるのだが…………。

 もう察せただろうが。

 竹林全体の竹が一斉に開花していた。

 

「まあ…………風流ねえ」

 呟き、手を叩いて喜ぶのは、姫様。

 隣で師匠もいつもより少しだけ弾んだ様子で竹林に咲き誇った竹の花を見ている。

「これは見事だねぇ」

 てゐが自身の何倍も背が高い竹を見上げながらけらけらと笑う。

 皆楽しそうで何より…………なのだが。

 どうにも私は楽しめなかった。

「どうしたの? 鈴仙」

 そんな私の様子に気づいたのか、てゐが首を傾げながら問うてくる。

「……ん……まあ、ちょっと、ね」

 歯切れの悪い私の返答に不思議そうにしながら暗に続きを促してくる。

「まあ、見え過ぎるのも困りものっていうか」

 なまじ見えてしまうだけどに素直に楽しめない、と言うか。

「何の話?」

 私たちの様子に気づいた姫様と師匠がこちらへやってくる。

「いや、その楽しんでおられるお二人にこんなことは…………」

「どうしたのかしら? うどんげ、言ってみなさい」

 尻すぼみ気味な私の答えに、師匠が私に促す。

「…………はい」

 観念したかのように頷き、答える。

 

「竹の花に宿った霊が見えて…………怖いです」

 

 

 

 竹林中に咲いた花。

 そこに宿っているのは、人の霊魂。

 それもただの霊では無い、亡霊。

 生を渇望し(うつつ)をさ迷う死者の霊。

 それが…………竹林中に蔓延って怨嗟の声を上げる。

 

 イキタイ、イキタイ、と。

 

 それが見えてしまう。

 見ると言うことは見られると言うことだ。

 そうして生者である私に叫ぶ。

 

 イノチヲ、イノチヲ、と。

 

 私の目はその魂の波長を、感情の波を認識してしまう。

 故に聞こえるはずの無い音無き声が聞こえる。

 

 タスケテ、タスケテ、と。

 

 

 理解する。

 理解してしまう。

 何故唐突に竹が開花したのか。

 その理由に。

 その原因を。

 理解してしまう。

 

 霊が。死者が、亡者が、亡霊が。

 生を渇望し、意思無き植物の意思を乗っ取り、懸命に生を得ようと花を開かせている。

 見た目だけなら綺麗な光景だ。花と言う花が一斉に開花しているのだから。

 だが、見えてしまう者にとってそれは地獄のような光景だ。

 亡者が群がり生を渇望する声を聞いてしまう。

 死への足掻きを見てしまう。

 浅ましく、醜く。

 何より、恐ろしい。

 その目がこちらへ向けられるのが。

 自身へと群がってくるのでは無いか、なんて想像が湧き上がってきて。

 恐ろしい。

 一度死を経験しているからこそ。

 前世と言うものを知っているからこそ。

 今の生を実感しているからこそ。

 自分の姿を重ねて、恐怖する。

 

 

「浅ましい死者の群れが生を得ようと足掻いているようにしか見えなくて、怖い。いつかそれが自分たちへと向かってくるんじゃないかと思うと…………怖いです」

 私の答えに、姫様と師匠が顔を合わせ一つ頷く。

「永琳」

「御意」

 短い二人の呟き。

 そして。

 

 リン

 

 鈴が鳴る。

 途端。

 

 ォォォォォォォォォォォォォッ

 

 亡者たちが叫び出す。

 

 リン

 

 そうして再度鳴る鈴の音に。

 

 ァァァァァ…………。

 

 亡者の群れが消え失せていく。

 視線を向けたその先に。

 何時の間に持っていたのか、鈴を持った師匠の姿。

「これでいいわね」

「はい、姫」

「…………え…………あの?」

 戸惑う私に姫様が尋ねる。

「もう見えないかしら?」

「え、あ、はい…………でも、その」

 視線をやる。

 やったことは分かる。

 払ったのだ。竹林全体から、亡霊たちを。

 鈴の音は退魔の波長を持つ。さらに師匠の霊力を上乗せすることで、さ迷う亡霊たちを根こそぎ送る還した。

 やったことは分かる。

 だがそれをすれば。

 ちらり、と竹を見やる。

 咲かす力を無くした竹の花は活力を失い…………枯れていた。

 だから黙っていたのだ。皆楽しみにしているのなら、私一人が黙っていれば済むことだから。

 結局こうなってしまった、と言う私の申し訳なさを見透かしたように、姫様がぽんっ、と私の頭の上に手を置く。

 

「辛いなら辛いと。言いたいことがあるのなら、言いなさい。遠慮なんてしなくていいの、あなたはもう私たちの家族の一員なのだから」

 

「…………………………っ、はい」

 そんな姫様の言葉に。

 一瞬、豊姫様のことを思い出し、涙が出そうになるが、必死に堪える。

「…………すみませんでした」

「全く…………竹の開花なんて生きていればまた見れるでしょ。気にする必要も無いわよ。何年一緒に暮らしてると思ってるのよ」

 師匠がそう言うと同時に同じようにぽんっと頭の上に手を置く。

「まったくだよ、鈴仙は自分を殺しすぎだって。もっと色々言ってもいんだよ? 私みたいにさ」

 ニシシ、と笑うてゐのそれが空気を払拭するための自身への気遣いだと分かって。

 ふふ、と思わず笑みが零れ…………同時に目からも熱い何かが零れる。

 

「はい……………………ありがとうございます」

 

 ふふふ、と笑い。

 心の中で呟く。

 

 豊姫様、依姫様。

 色々大変だけど…………なんとか地上(こっち)でもやっていけそうです。

 こんなこと心の中で言っても届かないかもしれないけれど。

 どうか、豊姫様たちもお元気で。

 

 

 

 

 ………………っ。

「えっ?」

 ふっと顔を上げる。

 周囲をキョロキョロと見渡すが、そこにいるのは妹と自身だけだった。

「どうかしましたかお姉様」

「今何か言った?」

 そんな自身の問いにけれど妹は首を横に振る。

「誰かに話しかけられた気がして」

「誰か………………レイセンでしょうかね」

 妹の口から出た名前に、一瞬固まる、がすぐにふっと笑い。

「そうだと良いわね…………元気にしてるかしら、あの()

「大丈夫でしょう…………あの方のところにいるのですから」

「そうね…………」

 辿り着けている、と言うことは私たちのどちらも疑っていない。

 例え月の力では未だ発見できていなくても、例え告げた場所が私たちの想像でしかない、としても。

 あの娘なら大丈夫。

 そう思えるから…………そう信じているから。

 

「元気でね、レイセン」

 

 一人、どこにいるともしれない家族に向けて…………そう呟いた。

 

 

 

 

 




イイハナシダナー、って言ってもらえるかなあ?
当初、竹の花が咲いた。花見だ花見だ、ワイワイガヤガヤ。
って感じの話しにする予定だったのに、なんでこんな家族ドラマになってんだろ?


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第十五話 ウサギ妖怪退治をする

今回は原作一切関係ないけど、ただちょっと鈴仙どれくらい強いの? っというのを書いてみたかった。
本当はまだ対人戦が一番面白くなるけど、今回はこれで我慢。


 

 

 竹の花が散って、幾度の年が過ぎたか。

 穏やかに過ぎていく永遠亭の日々。

 そんなある日の師匠の第一声。

 

「うどんげって実際どの程度強いのかしら?」

 開口一番。師匠の口から出た言葉に首を傾げる。

「えっと、何の話ですか? それより朝食できましたよ、師匠」

 あら、ありがとう。と頷き、けれど動こうとしない師匠。

 どうしたものか、と思っていると再度師匠が口を開く。

「たしか月では都市防衛隊にいたのよね?」

「え、あ、はい」

「都市防衛は依姫の管轄だったはずだけれど、今でも?」

「はい…………と言っても私がこちらに来るまでは、ですが。依姫様が訓練をつけていました」

「と、なると貴女も?」

「はい、そうですけど…………?」

 思い出すのは、豊姫様を背負って依姫様から逃げる日々。

 あれ? 私の仕事って何だっけ…………?

「と、なるとそれなり強いのかしら?」

「まあ…………そこらの妖怪程度に負けるつもりはありませんけど」

 実際問題、能力を使えば大妖怪とか呼ばれている存在とも渡り合える…………と、思う。

 戦ったことが無いので、分からないが。少なくともこの地上に依姫様より強い存在がいるとも思えない。

 だ……大丈夫……こ、ここは地上。依姫様はいない…………あの神殺しの炎が迫ってくることも無い…………無いはず…………。

「うどんげ? どうかしたのかしら?」

「え、あ……はい。いえ、なんでもありません」

 思い出して思わず震えた私を見て、不思議そうな表情をする師匠。

「えっと、結局は何故そのようなことを?」

 なんだか先ほどから迂遠な話しばかりで、核心が見えないので思い切って聞いてみる。

 

「ええ、そうね…………まあ言ってしまうと、ちょっと妖怪退治をしてきて欲しいのよ」

 

 ピン、と人差し指を立て。

 師匠が、そう言った。

 

 

 なんでも…………近頃、竹林の竹を根元から食い荒らす妖怪がいるらしい。

 さらにはその妖怪、雑食らしく竹林に住む妖怪兎たちにまで襲い掛かってくるそうで、どうにかしてくれ、とてゐを通して兎たちから師匠に要請があったらしい。

 ちょっと補足説明をするなら。

 竹林に住む妖怪兎はそのほとんどがてゐに率いられた群れだ。偶に群れから逸れる兎もいるらしいが、そう言った兎は里に出て畑を荒らして人に狩られたり、別の妖怪に食べられたりするらしい。

 で、本来妖怪兎に知能なんてものはほとんど無く、ほとんど本能だけで生きているらしいのだが、てゐが群れを率いることによって、一定の方向性のようなものを与えることはできるらしい。

 そう言った兎は、人の少ない永遠亭の貴重な労働力であり、故にこそその兎たちの要請を師匠も聞くことにしているらしい。

 と言っても、だいたいがくだらないことで、却下されるらしいが。

 時々こう言った緊急性の高いものもあるらしい。

 師匠が受けた話だが、忙しい師匠に代わり私が言って来い。とまあつまりそう言う話らしい。

 

 

「で、肝心の妖怪の風貌が分からない…………と」

 一体私に何を倒して来いと言うのか。

「黒くて、びょいーんとしてて、ぐわあ、って感じのやつらしいよ?」

「と言うか、なんでてゐまで来るの? 危ないわよ?」

「まあ鈴仙一人行かせるのもなんだし」

「へえ、てゐって戦えるの? そうよね、伊達に長生きして…………」

「逃げ足だけは自慢できるよ」

「戦えないじゃないのよ…………」

 まあ軍事訓練を受けた兎なんて、地上では私くらいのものだろうけれど。

「それじゃ、師匠。行ってきます」

 永遠亭を出る前に師匠に一声かけて行こうとし…………。

「あら、鈴仙、どこに行くの?」

 廊下を歩いてきた姫様が私たちを見つけ、声をかけてくる。

 どうでもいいが、あの竹の花の咲いていた日以来、姫様は私を鈴仙と呼ぶようになった。

 一度理由を尋ねてみたら『家族なのにいつまでも上の名前で呼ぶなんて仰々しいじゃない』とのこと。

 と言うか因幡って苗字だったのか、と言う私の感想は置いておき、鈴仙と言う音は豊姫様に貰った大切な名前なので、そちらで呼んでもらったほうがしっくり来るし、ありがたいと言える。

「姫様、おはようございます。朝食は用意してありますので」

「あら、ありがとう。それよりどこかに行くの?」

「ええ、まあ…………最近竹林に出た妖怪にうちの兎たちも被害を受けているらしいので退治しに」

 なるほど、と姫様が頷く。

「そう、気をつけなさいな。少々の怪我なら永琳が治してくれるから、ちゃんと無事に帰ってきなさい」

「分かりました。それでは、行ってきます」

「行ってきまーす」

 そうして、姫様に見送られ、私とてゐは永遠亭を出た。

 

 

 一口に竹林と言っても、その大きさはかなりのものだ。

 その妖怪は、竹林のどこか、に出没するわけで、それを退治しようと思うなら、この広大な竹林を歩き回る必要がある。

 上から飛んで探すと言う手もあるにはあるが、肝心の妖怪が黒っぽい以外、ほとんどまともな情報が無いのだから、見落とす可能性がある。

 と、なるとやはり歩きしかないのだが…………。

「…………てゐ、言い訳はある?」

「…………てへ、ごめん」

 歩いたら歩いたで、何時の間に量産したのかそこら中に掘られたてゐの落とし穴に落ちる…………しかもてゐごと。

「だからなんであんたは自分の掘った落とし穴の位置も覚えてないのよ!?」

「作りすぎちゃって、どれがどれだか」

「このお馬鹿兎!!」

 全く、こんな時に件の妖怪が出てきたらどうするのか…………なんて考えてしまったのがいけなかったのか。

 

 ギチギチ…………ギチギチギチ…………

 

 何かが、聞こえた。

 

 ギチギチギチ……ギチギチギチギチ……

 

 聞こえる。近い。そう…………ほとんどすぐ傍から。

「てゐ!!!」

 咄嗟に叫び、てゐを掴んで飛ぶ。

 穴から出てきた瞬間、()()()()()()()()()

 空間のずれは、即ち位相のずれ。位置情報のずれだ。

 咄嗟のそれが功を奏したのか。

 私たちのほぼ真横を黒い影が通り過ぎていく。

 ドスン……と重い音が響くと同時、穴から少し離れた地点に着地する。

 振り返るとそこに、根元がぐしゃぐしゃに潰れた竹が数本。それと、そこに横たわる黒いソレ。

「……………………黒くて、びょいーんとしてて」

「ぐわあ…………」

 

 兎曰くの黒くて、びょいーんとしてて、ぐわあ…………な妖怪。

 

 それは。

 

「百足?」

「でっか…………」

 

 体長十メートル以上はあろうかと言う、巨大な百足だった。

 

 

 

 撃つ。弾かれる。

 撃つ。弾かれる。

 撃つ………………。

「埒が明かないわね」

 空気を固めただけのお手軽衝撃弾では妖怪百足の頑強な甲殻に弾かれるだけだ。

「やっぱり実弾じゃないとダメね」

 人差し指をピン、と伸ばし…………目を閉じる。

 想像(イメージ)を作り出す。

 大丈夫…………月にいた頃は毎日触れていた。

 その感触は…………鮮明に思い出せる。

 時間にして一秒にも満たないその間。

 目を開く。

 そこにあったのは、指先に具現した実弾。

 幻想郷に来て覚えた技術の一つ。

 魔力の具現。

 普通、妖怪や妖獣に宿るのは妖力と言うマイナス方向に突っ切った破壊的な力らしいのだが。

 月の兎には魔力が宿る。魔力とは理を打ち崩す力だ。魔法とは理に穴を開け、自身の無理を通す技法だ。

 無理が通れば道理が引っ込むを行うのが魔法と言う技術で、その方法に決まった形は無い。

 故に私のように魔法を習ったわけでも無い一介の兎でも簡単なことはできる。

 もう数百年以上前からこの国にあった技術なのだと、師匠は言っていた。

 私が覚えたのはたった一つ…………即ち、魔力で銃弾を作り出す方法。

 本来なら数十秒と言う時間をかけ、一つのものを具現するのが精一杯らしいが、手馴れたもの、今自身がそれがそこにあるのだと、明確に意識できるのなら今のように一秒にも満たない時間で生成することも可能らしい。

 私自身、これで作れるのは銃と弾だけだ。と言っても、銃を作るよりは自分の能力で撃つほうがやりやすいので、基本的には作るのは弾だけだが。

 

「これで、どう?!」

 指先に具現した三つの弾丸が放たれ、百足を撃つ…………だが。

 カキン、と音を立て、銃弾がぱらぱらと落ちる。

 肝心の百足は、その甲殻に少々傷をつけているが、表面が少し削れている程度。

 だが傷ついたのは事実であり、その凶暴性をさらに増して襲い掛かってくる。

 蛇行するような動きで地を這い寄ってくる百足に、私は飛び上がって避ける。

 そのまま宙で刹那に弾丸を生成し、放つ。

 私の放った銃弾を気にも止めず、百足がこちらを向き。

 

 ギチギチギチ

 

 不快な音と立てると共に、その口から何かが吐き出される。

「っ!!」

 能力で自身の体を衝撃波で飛ばし、それを避ける。

 避けざまに再度銃弾を生成、放つ。

 自身の甲殻の硬さに自信でも持っているのか、避けようともせず銃弾を受け、何事も無かったかのように飛び上がってくる。

「飛べるの!!?」

 まさかあのフォルムで空を飛べるなどと予想も付かず、一瞬判断が遅れ…………。

「…………あ」

 ギチギチギチ

 目の前に迫った百足。

 その口が大きく開き…………。

 そして、その赤い複眼と目が合い…………。

 

 次の瞬間、百足が力を失い、落ちた。

 

「…………ヒヤッとしたわね」

 目が合った瞬間、相手の目を通して、能力で思いっきり波長を乱してやったのだが、もし通用しなかったらあれで死んでいたかもしれない、と思うと背筋が凍る思いだった。

 下を見下ろすと、五感が上手く機能せずもがく百足の姿。

「でもまあ…………これで終わりね」

 指先に銃弾を生成、そして射撃。

 ズブッ

 放たれた銃弾が、百足の甲殻に弾かれ…………ず、その体に突き刺さる。

 

 ギチギチギチギチギチ

 

 痛みにもだえる百足。

「過信したわね」

 たしかに銃弾に少々撃たれようが、弾いてしまうような硬さの甲殻だったかもしれない。

 だが、この短時間に同じ箇所を何度も撃たれれば、いつかは貫かれるのも道理だ。

 最初の一発で、完全に無傷なら諦めていたが、多少なりとも傷がついていた。

 少なくとも、私の弾丸は百足の装甲を削っていた。

 ならば同じ場所に撃ちつづければ貫けると思っていた。

 だがそれでも拳銃の銃弾程度では百発撃っても弾かれていただろう。

「知ってる? 私って銃器の扱いは一通り習ったけど…………一番得意なのは狙撃なのよ」

 ぽとり、と手の上に落ちてきた弾丸…………先の鋭角になっており、拳銃の銃弾よりも三倍近く長いそれ。

 ライフル弾…………拳銃の銃弾ごときとは比べ物にならないほどの威力を持つそれ。

「油断した? 最初に撃った9mm弾程度じゃその甲殻は貫けないって?」

 一発目の銃弾は見事に弾かれた。それで大丈夫だと思ったから、百足は二発目からは避けるそぶりも無かった。

 私が二発目から全く違う弾丸を使っていたことにも気づかず。

「…………まあ所詮妖怪と言っても、虫じゃその程度よね」

 そもそもこちらの言っていることを理解しているのかすら怪しい。

 痛みすら持ってなさそうな相手にこれ以上時間を割いてやる義理もない。

 

「だから…………」

 

 パチン…………と指を鳴らす、と同時に周囲の()()()()()()()()数百発のライフル弾。

 

「さようなら」

 

 瞬間、それら全てがもだえる百足妖怪へと殺到し………………後には妖怪の死骸だけが残った。

 

「さて、てゐでも探しに行きましょうか…………全く、どこまで逃げたのかしら?」

 

 振り返った竹林の中。

 見渡す限りに広がる竹林(たけばやし)

 穴から出た瞬間、まさしく脱兎のごとく逃げ出してしまった家族を思い。

 

 一つ、ため息を吐いた。

 

 

 




原作鈴仙のいくらでも出てくる銃弾の謎。
分からなかったので、適当に設定つけてみました。
時々出てくる空間に貯めた、ってのは要するに空間の波を弄って一時的にずれた空間に物質を置いておく。で、それを繰り返して元に戻すといつの間にか大量に溜まってる、という仕組み。空間がずれてるだけで位置がずれてるわけじゃないので、走りまわってるうちにちょっとずつ仕込んで、数百、千と溜まったら一気に開放するのがうちの鈴仙のやり方。分からんかったら、全方位から飛んでくるゲートオブバビロンとでも思ってくれれば。理屈は全然違うけど、やってることは似てるし。




ところで…………気力が尽きた。
原作までもうあっぷあっぷで何も書けない。
前も言ったかもしれないけど、やる気が出ないと何も書けない。
実際更新までに一週間近くかけてるけど、これ書き始めたの数時間前。
と、言うわけで。
何かこんな話しやって欲しい、というのがあったら募集。


「 」が「 」する話。とか「 」が「 」したら「 」が「 」になっちゃう話とかそんな感じにリクエストプリーズ。
思いついたら書いてみる。


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第十六話 ウサギ食卓で戦争する 前編

初の複数で一話完結の話。
起承転結の起に当たる部分なので「なにこれ?」って思うかもしれないけど、続きを待って欲しい。


 

 

「この家の最高権力者が誰であるか、一度知らしめる必要があるわね」

「この家を取り仕切っているのが誰か、教えてあげましょう」

「この家で一番働いているのが誰なのか、それを知って後悔しないでくださいね」

「これが誰のお陰で手に入ったのか、それを考えれば答えは決まってるよ」

 

 そこでは誰もが本気だった。

 

「誰も譲る気は無いのね…………?」

「当然です」

「愚問ですね」

「当たり前だよ」

 

 ぎらつかせた視線で互いが互いにけん制し、その一瞬を待つ。

 

「こうなれば」

「実力」

「行使しか」

「ないね」

 

 声を揃え、互いの力を高め…………。

 

 その時は来た。

 

「これは私のものよ!!」

「いいえ、私のものよ!」

「違います、私のです!」

「私のだよ!」

 

 仲の良かった家族を戦乱に貶めた禁断の兵器。

 

 その名を…………すき焼きと言う。

 

「牛肉はいただいたわ!!」

「甘い! 姫の牛肉はいただいたわ」

「だがそれも幻影。ホンモノの牛肉は私の手の中に」

「最後の最後で気を緩めたね、鈴仙! 肉はいただくよ!」

 

 かくして、永遠亭で勃発した一つの戦争。

 そこに至る経緯を記すには、時間を十時間ほど遡る。

 

 

 

「タケノコが食べたいわね」

 と言う朝一番の姫の言葉。

「そう、じゃあうどんげ、てゐ、ちょっと探してきてくれるかしら?」

 と言う師匠振り。

 と言うわけで朝から竹林を歩き回っている私とてゐ。

「まだちょっと早く無い? タケノコってもうちょっと先だと思うんだけど」

 まだ少し雪が残っているくらいだ、タケノコが出るには時期尚早ではないだろうか、そんな自身の疑問にてゐが人差し指をピン、と立てて答える。

「地面に埋まってるタケノコを探すんだよ。そう言うのってえぐみがなくて生でも食べれるくらい美味しいんだよ」

 ふむ、だがその地面に埋まったタケノコをどうやって探すのか。それを尋ねる。

「普通はちょっと土が盛り上がったところを探して、そこを掘ってみるのが一番かな?」

「ふむふむ…………ここかな?」

 ふと足元の土の盛り上がった部分を手で掻き分けてみる。

「わ、本当にあった」

 そこにあったのは、小ぶりながらもたしかにタケノコ。

 しかもてゐが言うには、まだ土の下に埋まっているタケノコは美味しいらしい。

「おー、もう見つけるとか、幸先いいね、鈴仙」

「そうなの? ならてゐのお陰かもね」

 何気に人を幸運にする程度の能力と言う、本人の性格とは真逆のような能力を持っているてゐの周囲にいると、運が舞い込んでくることが時々ある。

 まあてゐ自身が起こすトラブルで差し引きゼロの場合も多いのだが。

「この調子でどんどん探しましょうか」

 と、まあ気合を入れて探し始めておよそ三十分。

「もういいわね」

「だねえ、籠いっぱい取れたしね」

 持ってきた籠一杯に詰まったタケノコを見てほくほく顔で永遠亭へと戻る私とてゐ。

 地中にあるなら、ソナーみたいなことできないかな? と思った私の案により、てゐについていき運よくタケノコのありそうな場所へと行き、そこで私の能力で地表近くを音波は通りが悪かったので、電磁波を使って調べ、タケノコの場所を特定する。非常に感覚的故に説明しにくいが、どこにどんな形のものがあるのか、と言うのがイメージで頭の中に入ってきてそのお陰で簡単にタケノコを掘り当てることができた。

 その結果がこれである。

 

「今夜はタケノコご飯でも作ろうかしら」

「姫なら刺身が好物だよ」

「そうなの?」

 そんな他愛無い話をしながら、永遠亭へと歩いて帰っていた…………その時。

 ザッ、ザッ…………と言う砂を掻くような音。

「何の音?」

「…………さあ?」

 あまり脇道に入るとすぐに迷うので方向と場所をしっかりと注意しながら、ゆっくりと音の発生源へと歩いていく。

 竹ばかりで草むらも無いのは良かったのか悪かったのかは分からないが、そのお陰で音の主がすぐに見えた。

「…………あれって、イノシシ?」

「だねぇ…………」

 多分またてゐが作ったのだろう落とし穴にかかっていたのは一頭の小柄なイノシシ。

 もがけどもがけど穴から出られないようで、穴の中で足掻いている。

「どうする?」

「持って帰る?」

「でも持って帰るにも…………ねえ」

 背中にはタケノコが詰まった籠。小柄とは言えイノシシ。結構な大きさがある。

 抱えて飛ぶには少しばかり重過ぎるだろう。

 そんな風に私たちが罠にかかった獲物の処遇に困っていると。

「あ、あの」

 背後からかけられた声に振り返ると、そこにいたのは気の弱そうな人間の男性。

「誰?」

 率直に尋ねたてゐの疑問に男性がぺこぺこと頭を下げながら答える。

「俺は人里の外れで暮らしてる猟師なんですけど…………そのイノシシ、いただけませんか?」

「どうするてゐ?」

「鈴仙に任せるよ」

 てゐの言葉に少し考え、男性に向かって頷く。

「別に構わないけど、良くここまでこれたわね…………道中に妖怪も出るでしょうに」

「えっと、日中は割りと妖怪も動かないし、猟のために竹林にはちょくちょく入っているので」

 そう、と答えイノシシを形成した弾丸で撃ちぬく。

 頭部を一撃で貫かれたイノシシはその動きを止め、倒れ伏す。

「じゃ、後は好きにしなさい」

「え、あ、ちょ、ちょっと待ってください」

 すでに姿を消したてゐを追って、私も帰ろうとした時、男性に呼び止められる。

「えっと? まだ何か?」

「あ、あのこれ…………大したものでは無いのですが」

 そう言って渡されたのは木彫りの仏像。

 本当に対したものじゃない。だいたい私は無宗教だ。

 ただまあ感謝の気持ち、と言う意味では受け取っておくべきだろうと思い。

「ありがとうございます」

 そう言い残してその場を去った。

 

 

 

「鈴仙、ソレ何?」

「さあ…………ってどこから出てきたのよ、てゐ」

 永遠亭への帰り道。いつの間にか現れたてゐ。

 私は手の中で仏像を弄びながら歩く。

「と言うか、これ女性像?」

 そんなてゐの言葉に私は笑う。

「そんな、だって仏像だよ? 女性なわけ…………」

 けれど良く見るとたしかに胸の辺りに膨らみがあったり、体全体も丸みを帯びていて、女性像に見えなくも無い。

「これ仏像じゃないの?」

「さあ?」

 謎過ぎる像を片手に永遠亭へと戻る。

 像は邪魔だったので、スカートのポケットにでも入れておく。半分頭を出しているがまあ落ちなければ問題ない。

「戻りました…………って師匠?」

「戻ったよー」

 玄関を開けると、そこにいた師匠と目が合う。

 手に手から下げるような籠を持った師匠は、おかえり、と返すと籠を差し出してくる。

「悪いのだけれどうどんげ、ちょっとお使いを頼まれてくれないかしら?」

「あ、はい了解です」

 そうして師匠の言うことをまとめると、里で買い物をしてくればいいらしい。

 お使いのメモと籠を片手に玄関を出て行き、さきほどまで歩いてきた道を逆戻りする。

「えっと、薬の材料みたいね…………だいたいは分かるわね」

 師匠に詰め込まれた知識を思い起こしながら書かれたものを一つ一つ思い浮かべる。

 そうしているうちに竹林を抜け、人里に辿り着く。

「さて…………ついでに夕飯の買い物でもしますか」

 一人ごち、人のごった返した里の通りへと向かった。

 

 




正直眠い。そのせいで、自分が何かいてるのかおぼつかない。
明日修正する可能性も…………。


と言うわけで、リクエスト募集したら送ってくれた人がいたので、書いてたんだけど…………書いてる内に全部混ざって一話になっちゃった。
後二話、中編と後編で完結予定。


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第十七話 ウサギ食卓で戦争する 中編

東方自然癒のEXが更新されてたので、思い出す意味も込めて最初からやってみた。
面白過ぎて東方熱が再発。また兎書きたくなったので書いた。

東方自然癒は超オススメです。
RPGツクールと言うソフトを使ったフリゲーなのですが、クオリティ高過ぎて、金取れるレベル。シナリオが凄く秀逸で、神シナリオだと個人的に思ってる。

ゲームのシステムバランスも絶妙で、レベリングしたパワープレイで押し切れば多少苦戦するけど勝てるけど、それでも何も考えない脳筋プレイに走ったら即座に負けるので力でゴリ押しの難しいけどきちんと戦略を立てれば苦戦程度で済むと言う絶妙すぎるバランスで出来てます。

でも壊れた幻想の難は絶対無理。あれは勝てない。リーフスパーク二連続で全滅する。


 

 

 私がまだ永遠亭に来たばかりの頃の話だ。

 永遠亭には私を含め、月から追われた存在が集まっている。

 だからこそ師匠は当初、永遠亭周辺から出ることを禁じた。何故ならそうしないと師匠の封印により永遠亭が隠されているのが無意味になるからだ。

 だがそこに私が幻想郷が結界によって隔てられている、と言う稗田の屋敷で見た情報を話すと、未だに師匠たちが月に見つかっていないと言う情報と合わせてすぐに答えを導き出す。つまり、結界がある限り月からは見つかりはしない、と言うことだ。

 そうなってからは徐々にだが人里とも交流を取るようになり、私も以前のように変装したりせず堂々と人里に赴くようになった。

 そう言えば以前幻想郷に来たばかりの頃にも感じていた違和感があった。

 どうして永遠亭の存在は知られていないのか?

 答えは意図的に隠していたからだ。どうしてそんなことになったか?

 何故なら師匠たちがこの竹林に住みついたのは幻想郷に結界が張られるよりも以前の話だったからだ。

 それ以来ずっと人目を忍んで生きてきたらしく、そのせいで結界の存在を知らなかったらしい。

 外出が解禁になって一番喜んでいたのが姫様だったのは…………まあ言わずもがなだった。

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 妖怪だらけの幻想郷唯一の安全区域、と言う人里だが明確にどこからどこまでが、と言う区切りはない。

 人里の端のほうは寒村としていて、ぽつりぽつりと間隔が開いて家の立つ心寂しいところだが、逆に中央のほうに行くと商家などが密集し、人の賑わうところとなる。

「そんでどこに行くの? 鈴仙」

 隣で私について来たてゐがそう尋ねるので、一度メモに目を通し、書かれているものが売っている場所を頭の中で人里の地図を思い起こしながら確かめていく。

「まずは酒屋さんかな?」

 殺菌消毒に酒を使うと言うのは医者の常套句だ。前世で言うところの消毒用アルコールと言うやつだろうか。

 なので永遠亭には不必要なほどに多くの酒が常備されている。

 しかも姫様も師匠も私もてゐも人並み程度にしか飲まないので、その大半が飲用でないと言うのが事実だ。

 先も言ったが永遠亭は現在人里とも交流を持っている。

 妹紅さんと言う前例があるので蓬莱人と言う存在は簡単に受け入れられたのだが、問題は私やてゐと言った妖怪兎だ(厳密には私は玉兎だが人間から見れば同じようなもの)。

 と言ってもまあ私はそもそも玉兎なので人間を襲わなければいけない、と言うことも無く。

 てゐはてゐでたまに自分の落とし穴に人間がかかっている程度で満足らしいので被害らしい被害はほとんど無いのが現状だ。

 だからこそ永遠亭は二つの道があった。

 一つは妖怪側として人に恐れられていく道。

 そしてもう一つが人間側として妖怪を恐れながらも退治していく道。

 まあ師匠たちが妖怪を恐れるかは知らないが、少なくとも人間と敵対することも無いので人間側、と言うことになるのだろう。

 そうして人間側に立った永遠亭の面々はだからこそ人の営みで生きると言うしがらみに捕らわれれることとなる。

 そうして始めたのが診療所だ。

 と言っても検査してその場で治療するようなものではなく、検査結果を見て薬を調合して渡す、と言う方式でやっている。最近はその手伝いもしており、お陰で薬についても多少知識が増えてきた。

 と言っても塗り薬や簡単な処置ならその場で行なうこともあり、例えば擦り傷や切り傷などを治療する時に使うのが先も言った酒だ。

 永遠亭が診療所として開業してしばしの時間が経つが、やはり一番良く使うのが酒だった。

 治療に使うだけではなく、器具の殺菌などにも使うので消費量が半端ではない。

 さらにいつの間にか姫がこっそり飲んだりしているのでふと気づくと、あれだけあったお酒がもう無い?! と驚かされることになる。

 とまあそんな消費の激しいお酒だからこそ良く買いにも行っているわけで。

 

「おじさん、いつものください」

 店の戸を開け、暖簾を潜ると中にいる男性に向かってそう声をかける。

「おや、鈴仙ちゃんじゃないか、いつものだね、ちょっと待っててくれよ」

 恰幅の良い酒屋の店主が景気の良い声で返し、すぐに店の奥から抱えるほどの大きさの酒壷を四つほど持ってくる。

「ほい、じゃあいつもの分量だよ」

「ひい、ふう、みい…………確かに」

 数がちゃんとあることを確認し、お金を渡す。

「はい、確かにね。毎度どうも」

 にっかりと笑う店主を背に店を出てすぐにてゐを探すと店の壁に寄りかかり人の流れを見ていたので声をかける。

「次に行こ、てゐ」

 私の声にこちらを振り向きとことこと着いてくるてゐと並んで人通りの多い道を少し歩く。

「あれ? 何も持ってないけど、何か買ったんじゃないの?」

 手ぶらで歩く私の姿に違和感を覚えたのか、てゐが首を傾げ尋ねる。

「お酒は重いから最後に荷車借りて運ぶのよ。先に買っておかないと売り切れちゃうから代金だけ払ってきたけどね」

 なるほど、と納得したように頷くてゐ。予約、とかそう言った概念がまだこの時代、と言うか幻想郷には無いらしい。

 お陰で昼下がりに酒造店に行くと、居酒屋などにその日の分がすでに買われていて売り切れている、などと言うこともちょくちょくある。

「それで鈴仙、次はどこに行くの?」

「霧雨さんって人のやってる道具屋さんのところ」

 実験道具の一部が使えなくなって破棄したのでその代わりを買って来い、と言うことらしい。

 師匠オリジナルの薬、と言うのは珍妙なものが多いので使用した器具がダメになることも多いのだ。

 あらゆる薬を作る程度の能力は裏を返せばどんな危険な薬でも作れてしまうと言うことに他ならない。

 それでも実際に危険な事態が起きていないのは師匠が考えて作っているからなのだろう。

「永琳、良く壊すからねえ…………」

 てゐも簡単に想像がついたのか遠い目をしながらそう言った。

「そう…………そうなのよ」

 多分私も同じような目をしているだろう。

 なるほど、実際師匠の作る薬が被害をもたらした実例は()()()()()()()()()

 私が知る限り、一般人に迷惑をかけたこともない。

 

 ただ、同じ部屋で実験を手伝わされている私やてゐは別だ。

 

「「あはは…………はは……」」

 乾いた笑いがこぼれ出る。無意識にその時の情景を思い出そうとする脳が生み出す光景から必至に目を逸らす。

「ま、まあ…………気にはしないでおきましょ」

「そ、そうだね…………はは」

 これ以上考えたらトラウマが再発しそうだった。

 

 

 霧雨道具店は人里の中央付近にある大きな店だった。

「良いわねここ」

 店の中を見て回る。周辺でも特に大きな店舗内は綺麗に整列されており他と比べても特に品数も多く、品質も良い。

 以前に紹介されたので足を運んでみたが、これは中々に当たりだったかもしれない。

「何かお求めですか?」

 そうして並べられた品を一つ一つ見ていると、店の奥からやってくる一人の男性。銀色っぽい白髪と眼鏡越しに見える赤い瞳が特徴的な男性だ。アルビノ、と言うには髪の色素が濃いので恐らくこれが地なのだろう。

「えっと店主さん? この紙に書かれているものを探しているのだけれど」

 そうして男性にメモを見せると、さっと目を通した店員が一つ頷き。

「これらですね、ほぼ全てありますよ、それと僕は店主ではありません、こちらのお店で修行させていただいているものです。霖之助と申します」

 そう言って一礼し、それから店に陳列された商品を一つ、二つと手に取り持って来る。

「これらで間違いないですか?」

 差し出された商品を一つ一つ確かめ、頼んだ品であることを確認すると頷く。

「ではお代は…………これくらいですね」

 算盤で弾いただけの金額を渡すと店員がそれを受け取り確認する。確かにあることを確認する。

 メモに目を通し、一点を除き全ての品が揃ったことに満足気に頷くと店員に尋ねる。

「一つ聞きたいのだけれど、さきほど見せた紙の中で一つだけこの店に無いものがあったと思うのだけれど、どこに行けば売ってるか分かる?」

 そう言うと、店員が少し考え。

「お客様は妖怪…………ですよね?」

 やや視線を上げ私の耳を確認してかそう尋ねてくるので、頷く。

「なら大丈夫でしょうか…………魔法の森、と言うのはご存知で?」

「あの胞子だらけの森ね、そこが何か?」

「ええ…………魔法の森の奥にとある店があるらしいんですよ」

 店員の言葉。だが一瞬何を言っているのか理解できなかった。

 すぐに理解し、けれど訝しげな表情を出した私に店員が少し慌てたように続ける。

「本当です。魔法に関するものを売っている店があるらしいです。そこに行けばお客様の探しているものも見つかりますよ」

「らしい、って確認したわけじゃないの?」

「いえ、僕は直接見たわけではないのですが、妖精たちや他の妖怪の方がそう言ったものを見たと言う話でして」

「一応聞くけどそのお店の名前は?」

 そう尋ねると店員が少し困惑した表情をしながら。

 

「霧雨魔法店、と言うらしいですよ」

 

 

 

「で行かないの?」

「行くわけないでしょ」

 店を出て、てゐと合流する。これで必要なものは買い揃ったし、後は酒を受け取って帰るだけだ。

「しっかし、霧雨魔法店って今寄った道具屋も霧雨でしょ? 何か関係あるの?」

「さあ? でも店員の人はそんなもの知らないって言ってたから無関係じゃないの?」

 てゐとそんな他愛も無い雑談をしながら人通りの多い道を歩いていると。

 ドン、と誰かの肩がぶつかり、思わず数歩たたらを踏む。

「わっと…………す、すみません」

 体勢を立て直して視線をやるとぶつかったのは二十前後の青年だった。

「ああ、いえ。大丈夫ですよ」

 と、体勢を戻すときにころり、とスカートのポケットに入れっぱなしだった仏像が転がり落ちる。

「っと、いけない」

 別に惜しいわけでも無いが、こんなところに仏像を転がしていくのも罰当たりだと仏像を拾い、ふと視線を感じ振り向くと青年が自身の持つ仏像を凝視していた。

「………………そ、それは、まさか、いや、そんな」

「…………どうかしました?」

「…………?」

 隣でてゐも首を傾げている。正直私も首を傾げたい。と言うかもう行っていいのだろうか。

「そ、それじゃあ、失礼しま「ちょ、ちょっと待った!!」…………えっと?」

 立ち去ろうとする私の肩を万力のような握力で握る青年。その目がどこか血走ったように見えるのは気のせいだろうか。

「そそそそそ、その仏像、ちょ、ちょっと見せていただけませんか?」

 正直ドン引きだがここで断ったら面倒なことになりそうなのでスカートから仏像を取り出し再度渡す。

「おおおおお…………この流麗な造詣、表情が分かるほどに丁寧に掘り込まれた顔、艶が見えるほどに研磨された表面…………間違いないこれは?!」

 

 青年の話が止まらないので中略。

 

「これを譲っていただけませんか?!」

「ハイ、ドウゾ」

 ほとんど聞き流していたが、とりあえず譲って欲しいと言う部分だけは伝わったので適当に頷いておく。

「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、これをどうぞ」

 そう言って青年は私の手に無理矢理ソレを握らせて去っていった。

 

 うどんげはやくそうをてにいれた。

 

「…………え、これ何の薬草?」

 てゐが訝しげに手元の薬草を見る。私も同様に視線を落とし見やる。

「これこのまま張るだけでも効能が出るやつね。腰痛とかに効いたと思うわ」

「ところで鈴仙、あれを見て、どう思う?」

「すごく…………おおき、って何言わせるのよ」

 てゐの指差す方向を見ると、道端にうずくまって腰を抑えるお婆さんの姿が…………見ていても何なので、すぐに駆け寄って声をかける。

「大丈夫ですか?」

「え、ええ…………ちょっと腰が痛いだけなんで、少し休めば治るわよ、心配してくれてありがとうね」

 ふと手元の薬草に目を落とし、ちょうど良いか、と思いお婆さんに断りを入れてからその腰に薬草を張ってやる。

 数分もすると薬草が聞いてきたのかお婆さんがよろよろと、だが立ち上がる。

「ありがとうね、助かったわ…………対したものじゃないけど、これお礼にどうぞ」

 そう言ってまた私の手にソレを渡してお婆さんが去っていった。

 

 うどんげはなわをてにいれた。

 

「…………え、この縄どうするの?」

「分かんないけど、こんなところじゃ捨てるに捨てられないね、どうするの? 鈴仙」

「え、ええ? わ、分かんない」

 どうしよう、と手に縄を持って手持ち無沙汰にしていると。

「暴れ牛だー、どいてくれえ」

 遠くから聞こえる声。どうやら暴れ牛がこちらに走ってきているらしい。

 手元に視線を落とす。そこにあるのは縄。

「てゐ…………」

「あいあいさー」

 走ってくる牛を視認する。興奮して真っ直ぐ走る牛、その両側に私とてゐが立ち持った縄を引く。

 ピン、と縄が張り、牛の足が引っかかる。

 人間なら牛の勢いに負けそうかもしれないが、私もてゐも妖怪だ、そうそう負けはしない。

 結果的に足を捕られた牛がすっ転び、私が能力を使って牛の精神の波長を整えてやる。

 落ち着きを取り戻した牛がもう暴れないのを確認して、一息吐く。

 すぐに牛を追ってきた男が追いついてきて、現状を見て驚いた様子で言う。

「お、おお?! あの暴れ牛をどうやって…………いや、それは良い、とにかく怪我は無かったですか?」

 明らかに妖怪な二人組みに向かってこんなことを言ってくるのだから、不思議な感覚である。

「ええ、大丈夫よ…………てゐも大丈夫よね?」

「大丈夫だよ」

 自身たちの答えに男がほっとした様子で息を吐き、すぐにこちらへと話しかけてくる。

「お二人がうちの牛を止めてくださったようですね、本当にありがとうございます…………お礼と言ってはなんですが、うちで取れたものです、どうぞお納めください」

 そうしてずっしりと重みを感じるソレを私に手渡し、男が牛と共に去っていく。

 

 うどんげはぎゅうにくをてにいれた。

 

「…………何だったの? 今日は災難にでも見舞われる日だったの?」

「災難なのかわらしべ長者なのか…………判断が難しいね」

 

 

 ………………。

 

 ………………………………。

 

 ………………………………………………。

 

 

「と、言うことがありまして今晩はすき焼きです。ちょうどタケノコもいっぱいありましたし」

「………………あの数時間のお使いの間に随分とまあ、色々な体験をしたわね、うどんげ」

「ええ、はい…………まあ」

「仕方ないわね、今晩実験しようかと思ってたけど、中止しましょう…………今日はゆっくり休みなさい」

「本当ですか師匠? ありがとうございます…………正直気疲れしてちょっと眠いです」

「夕飯までまだ時間があるわね…………少し寝てなさい」

「了解です…………ではすみませんが、一時間ほど仮眠させてもらいます」

「おやすみ、うどんげ」

「はい、お休みなさい、師匠」

 

 

 

 蛇足だが。

 そして非常にどうでも良い話だが。

 幻想郷で牛肉、と言うのは非常に高価だったりする。

 そもそも外の世界ですら牛肉はまだ高価な時代だ。幻想郷に置いては言わずもがなである。

 幻想郷では牧畜産業と言うのが少なかったりする。様子に動物を飼ったりすることがあまり無いのだ。

 精々飼っていて鶏と言ったところか。私が出会った男性のように牛を飼っている人間などほぼいない、と言っても良い。

 私の前世では当たり前のように食べられていた牛肉だが、幻想郷では豚肉や牛肉は肉類としてはマイナーなのだ。幻想郷では鶏肉や兎肉などが主流であり、豚や牛を食べる風習があまり無い。

 しかも鶏はともかく、兎など野生にいくらでもいるだけに畜産と言うのが全くと言って良いほど増えない。

 結局、どうしても希少品になる牛や豚などは値段も高くなる。と言っても豚と言うのは猪を家畜化したものが始まりであり、猪を普通に狩って食べている幻想郷では豚そのものが存在しないと言っても良い。

 つまり、幻想郷では鍋はあってもすき焼きは無いのだ。

 全く持って勿体無い話だ。

 

 ところで…………あの牛を追っていた男性、何故牛肉など持っていたのだろう?

 牛の畜産をしているのは予想できる、だが逃げ出した牛を追いかけるのに何故牛肉を持っていたのか。

 しかも持ってかえって改めて見たが、中々に新鮮な肉だった。

 さて………………一体何をしていたのやら。

 これ以上の想像はグロテスクなのでやめて置こうと思う。

 

 さて…………全く持って蛇足な話だ。

 

 




後半から面倒になってきて文章が雑になってる気がする。
書いてて自分でも疑問に思ったものを蛇足に書いたけど、本当に蛇足だった。
と言うか本当は最初はわらしべ長者がやりたかったので後半だけあれば良かったんですけど、ついでなのであからさまな伏線一個張ってみました。

因みに今回出てきたのは森近霖之助です。
色々設定探りましたが、1950~60年の間に霧雨の店で修行してるのかな、と言う結論になりました。因みにこの時年齢は30~40くらいを予想してます。
ついでに言うなら、森近霖之助って名前は自分で付けたらしいので、その由来を考えるに、苗字はまだこの時点ではありません。霖之助、が名前です。
まあだから何だといわれればソレまでですが。
どうせこの先五十年くらいは出す予定ないですし。




それと最後に一つ忠告しておきます。

鈴仙を始めとして、軽いジャブで永遠亭の面々も性格改変してきましたが。

この先、本気で色々とキャラとか改変していきますので、こんなの嫌だ、と思ったら素直に閉じたほうが良いと思います。
例えるならあの名作、うそっこおぜうさま、並の改変をどんどん入れていくので、受け入れられない人は素直にブラウザバック推奨です。


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第十八話 ウサギ食卓で戦争する 後編

あけおめです、ってもう遅いか。
メガテンに行き詰ってるので、久々にこっち書きます。

前回のあとがきでも言いましたが、原作改変キャラがいっぱいでます。
嫌な人は素直にブラウザバックしましょう。


 

 

 さて、ここから語るのは後日談である。

 第一回すき焼き鍋バトルの勝者が誰なのかはさておき、すき焼きで大いに食卓の賑わった、その翌日の話。

 

 かーん、かーん、かーん、と金槌を振るう音。

 

「師匠、どんな感じですかー?」

「それくらいでいいわよ、降りてきなさい」

 傍らに置いた工具箱の蓋を閉め、屋根から飛び下りる。

 本来なら師匠の薬の調合を手伝うはずだった今日だったが、何故朝から大工仕事をしているのか。

 簡単に言えば、昨日のすき焼きのせいである。

「テンション上がりすぎて自分の家を壊すって…………勘弁してくださいよ」

「悪かったわよ…………反省してるわ」

 残念ながら私はその時にはすでにノックダウンしていたので見ていたわけではないが、師匠と姫の頂上決戦により、現在永遠亭の居間の屋根はぽっかりと穴が開いている。

「こっちの細々とした穴は塞げますけど、居間の大穴はさすがに本職の人を呼ばないと無理ですよ?」

「そう…………仕方ないわね、ならてゐを遣いに行かせましょう」

「私も一緒に行きましょうか?」

 てゐ一人だと不安だ、と言う本音を暗に示してみるが、師匠が首を振る。

「ウドンゲ、あなたには別のことを頼みたいのよ」

「別のこと、ですか?」

「ええ…………ちょっと買ってきて欲しいものがあるのよ」

 

 * * *

 

 魔法の森。

 森全体のいたるところに茸が生え、中には妖怪茸などと言うわけの分からないものまでいる全体に胞子の舞う森だ。

 魔法の森に舞う胞子は強い幻覚作用を持ち、並の人間が入れば一瞬で頭が狂う超危険地帯だが、妖怪や耐性のある人間にとっては多少視界が悪い程度のものでしかなく、魔法使いと呼ばれる人種にとっては魔力を高める作用を持つらしい。私自身にも魔力と言うものはあるが、あくまで月の魔力であり、この森に漂うのは地上の魔力。同じ魔力でも波長が違うので私にはあまり関係が無い。

 

 そう今現在、私は魔法の森に来ていた。

 

 師匠に頼まれたお使い、だが求めるものが少々特殊で里には無かったのだ。

 里の人間曰く、もしあるとすれば…………。

 

「霧雨魔法店…………ねえ」

 

 霧雨、と言う名前の店は里にもある。里でも大きな道具屋だ。

 だが道具屋の人間曰く、そんな名前の店出した覚えない、とのこと。

 霧雨、なんて珍しい名前の人間がこの狭い幻想郷で他にいると思えないのだが、関係ないらしい、とのことで一体店主は何者なのか、と里でも噂になっていた。

 

 曰く、金髪の女性らしい。

 曰く、魔法使いと言う種族の妖怪らしい。

 曰く、そこには里では見たことも無いような珍しいものがたくさん置いてあるらしい。

 

 今回は最後の噂を頼りに向かうわけだが。

「デマ…………じゃないわね、これは」

 魔法の森を進んでしばらく。

 そこに目的の店…………霧雨魔法店はあった。

 森の中に建つ苔むした古びた家。掲げられた看板には霧雨魔法店の文字。

 珍しい、そう思った。

 幻想郷は土地柄と言うか時代柄と言うべきか基本的に和風建築しかない。永遠亭も和風のお屋敷と言った感じだ。

 だがこの家は、開き戸の扉型の玄関、硝子がはめ込まれた窓、そして二階建てと洋風建築だった。

 今の幻想郷にこんな洋風建築は他に無い。どうやらただの騙り、とも言えなくなってきた。

 扉の前に立ってノックする。

 しばしの沈黙、それから。

 

『誰だ? まあいいや、入れよ』

 

 声が聞こえた。

 どこから? そう思うものの、音の発信源らしきものは見えない。

 やや不信感を抱きながらも、言われたとおり玄関の扉を開け中へと入る。

 そして家の中に並べられたものを見て、やはり違う、と思う。

 テーブル机、チェストボックス、クローゼット…………どう見ても幻想郷には無いはずのものばかり並ぶ洋装。

 

 とんがり帽子に黒と白のエプロンドレス、傍らに立てかけられているのは人一人がまたがれる程度に大きな箒。

 

 五、六十年後の人間が魔女と言うものを想像したらこうなりました、みたいな服装をして椅子に座っている金髪の少女は。

 

「いらっしゃい…………と言っておくぜ。私は霧雨魔法店の店主、霧雨魔理沙だ」

 

 よろしく、そう言って帽子を傾けた。

 

 * * *

 

「また来いよ」

 そう言ってやると、ぺこり、と頭を下げて客が玄関を出て行く。

 と、同時に私は息を吐く。

 人の身を捨てて、些細なことで動揺することは無くなったがそれでも今回ばかりはかなり驚かされた。

「………………まさか、鈴仙が来るなんてな」

 あのブレザー姿に兎耳、見間違えようも無い。だが同時に疑問も残る。

「あいつが永遠亭から出てくるのは()()()()()()のはずだろ?」

 知らない間にもうそんなに時間が経ったのか? 否である、自身の知る限りそんな事実は無い。

「私がここにいることもそうだし、アイツのこともそうだが、ところどころ()()()()()()()()()と違ってきてるな」

 なんて、誰にも分からない独り言。

「…………アイツのところにでもいくか」

 呟き、傍らに立てかけた箒を手に取り、歩き出す。

 箒に跨り…………止める。

「未練、だな…………(コイツ)を使うのは」

 とん、と地を蹴るとふわりと体が浮き上がる。

 風で飛びそうになる帽子を押さえながらそのまま(くう)を飛ぶ。

 同じ魔法の森内だ。そんなに時間はかからない。

「おっと、見えたぜ」

 目的地を見つけ、降下する。帽子と、今度はスカートも抑えながら地に降り立つ。

 そこにあったのは洋館。自身の家とは違い、蔦も苔も無い、まるで今建てられたばかりのような綺麗な館。

 扉をノックし、返事があるよりも先に入る。

 

「邪魔するぜ、()()()

 

「ノックしたのなら返事を待ちなさい、全く」

 

 返って来た声に館の主人がいることを確かめ、相変わらずの不機嫌そうな声に苦笑する。

 とて、とて、とてと可愛らしい足音で自身を出迎えたのは。

 

 年の頃十歳ほどの人形のような少女だった。

 

 喪服にも見える黒いゴシック服、傍らに抱えたぬいぐるみ。

 自身よりもさらに小さいこの少女の名をアリスと言う。

 齢千年以上を生きる魔女であり。

 彼女のことを知る者はみな彼女をこう呼ぶ。

 

 曰く、幻想郷最強の妖怪。

 曰く、幻想郷の頂点。

 

 女王アリス、と。

 

 * * *

 

「師匠、買って来ましたよ?」

「随分遅かったわね」

 包みを解き、買ってきた品を渡すと、師匠が数秒それを眺め頷く。

「里には売ってなかったので、魔法の森まで行ってたんですよ」

「魔法の森? あんなところにどうして?」

 師匠は滅多に永遠亭から出かけないので魔法の森にある店については知らないようだった。

「森の中に店がありまして、里の人がそこでなら売ってるかもしれないって言うので行ってきたんです」

「へえ、あんなところにお店があったのね」

 心底意外、と言った様子だったがまあ無理もないだろう。

 私だって初めて聞いた時は同じ感想だった。

 あんな危険な森の中で店を開いても来る客など限られてしまう。

 それとも、だからこそあの場所なのだろうか?

「なんだか珍しいものがいっぱいありましたよ…………幻想郷でも見たことの無い建物でしたし」

 そんな雑談をしながら師匠と共に廊下を進み。

 

 ズドォォォォオ

 

 爆音。

「またですか…………まだ昼なんですけど」

「また、よ…………全く、どっちも良く飽きないわね」

 窓の外を見れば遠くのほうに炎が見える。

 いつもの二人がいつも通りに喧嘩(命掛けで)しているのだ。

 基本的に夜に始まることが多いのだが、今日は珍しく昼間からやっているらしい。

「あの…………まだ居間直ってないんですけど。これ以上仕事増やされるのは」

 そんな私の泣き言に、けれど師匠は首を振り。

「てゐももう先に戻って始めているから…………あなたも頑張りなさい」

 無情にもそう告げた。

 師匠にそんなことを言われれば逆らえるはずも無く。

 

「はい…………」

 

 そう言って首をうな垂れた。

 

 




ついにロリス出せたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。

原作改変キャラいっぱい。
一人目、霧雨魔理沙。
魔理沙は割りとそのままです。詳しい設定はそのうち出しますが、あんまり変わってません、性格は。

二人目、アリス。
ロリス可愛いよロリスうううううううううううううううううううう。
と言うわけでロリスを幻想郷最強にしてみました。
イメージ的に人形作らずそのまま究極の魔法を追求した原作アリスって感じで。
依姫様とどっちが強いか、と思う程度には最強です。
あと人形は作ってませんが、ぬいぐるみは集めてます。可愛いよロリス、ロリスううううううううう。

因みにまだまだ改変キャラ出てくるので注意。


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