魔法科高校の攘夷志士 (カイバーマン。)
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交換留学編
第一訓 卒業&入学


坂田銀時は万事屋銀ちゃんという何でも屋を営んでいる。

金さえ払えば何でもやる商売だ。

 

今日もまた一人の依頼人がやってきた。

こういう商売だと依頼人もそれほど多くないので、珍しくやって来た客には大層喜ぶもの。

だがその久しぶりのお客相手に銀時はしかめっ面。

銀髪の天然パーマと死んだ魚の様な目という特徴的な顔が心底うんざりしたような顔を浮かべていた。

何故ならその依頼人は子供の頃から知り合いの見知った幼馴染の男であった。

 

「……おいヅラ、お前もう一度自分の名前言ってみろ」

 

店兼自宅のスペースにあるソファに大股開いて深々と座りながら、銀時は向かいに座る依頼人に尋ねると

 

「ヅラじゃない……!」

 

散々同じ事聞かれた事に苛立ちを募らせながら依頼人はソファから立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「私の名前は七草真由美(さえぐさまゆみ)です! もう何度も言っているでしょう! いい加減にしてください万事屋さん! いい加減私も怒っちゃうんですからね! ぶはぁ!!!」

「ごめんもうこっちがキレてる」

 

長髪ロンゲの男、銀時がよく知る攘夷志士・であるあの桂小太郎が頬を膨らましてこちらにウインクした時点で

銀時はソファの上から綺麗に彼の顔面へ飛び蹴りをかますのであった。

顔面に足跡つけて床に倒れ転げまわる彼をゴミを見るような目で見下ろしながら銀時は立ち上がった。

 

「おいヅラ、こっちは今金もねぇし糖分も摂れねぇしイライラしてんだよ……テメェもふざけた電波キャラに付き合ってるヒマねぇんだよ、頼むから消えてくれ一生」

「ひ、酷いです! 女の子の顔を蹴るなんて!」

 

蹴られた頬を押さえながら桂は涙目で上半を起こしてこっちを睨んで来る。

 

「あなたが言いたい事はわかりますよ! 確かに見た目は今男ですけど! 中身は女の子なんです!」

「えーなにこの人、何今更そんなとんでもないカミングアウトしてんの? さすがにそれは銀さんも困惑するよ、生まれつきそうだったの? それ他の人にもちゃんと言った? 辰馬とか高杉にもちゃんと相談した?」

「そういう事じゃありません!」

 

後頭部をボリボリ掻きながら対応に困っている様子の銀時に桂はいらぬ勘違いだと首を横に振る。

 

「確かにこの体は桂小太郎という人の身体なんですが! 心は七草真由美という国立魔法大学付属第一高校三年生なんです!!」

「へー国立大学付属第一高校の生徒さんなんだ、奇遇だね俺はそっから隣駅のホグワーツ通ってんだよ。電車の中で会ったらよろしく」

「信じて下さい万事屋さん!」

 

小指で鼻をほじりながら聞いた事も適当に流し始めた銀時の足にしがみつく桂。

 

「あなたこの体の持ち主と親しかったんですよね! だからこの人の為に助けて下さい! 主に私を!」

「だぁぁぁぁぁひっつくんじゃねぇ!! もう頼むから帰ってくれよ! 辰馬と高杉にはお前がもう魔法学校通う事になった事は言っておくから! アイツ等の電話番号知らねぇけど!」

 

諦めようとせずに必死に助けを求める桂の頭を銀時は何度もゲシゲシと踏みつけていると

 

「おはようございまーす、あれ?」

 

銀時の下で万事屋として働いている志村新八がやってきた。

戸を開けてリビングに入ると、彼の目の前で桂が銀時の足にしがみついているのがすぐ目に入る。

 

「桂さん来てたんですか? ていうかなんで銀さんの足にしがみついてんですか? なんか気持ち悪いですよ」

「お、お願いそこの眼鏡さん! 万事屋さんにちゃんと私の話を聞いくれるようお願いして! 私決しておかしくなってるわけじゃないのよ!」

「……なんか喋り方もえらい気持ち悪くなってませんか? 女の人みたいですよ」

 

銀時に何度も踏まれ続けながらめげずにこちらに向かって叫んでいる桂に新八は頬を引きつる

 

「……銀さん話聞いてあげたらどうですか? もしくは病院に連れてった方が」

「あん?」

「ぐほぉッ!」

「あ、今完全にトドメ刺した……」

 

小首を傾げながら銀時はしつこい桂に腹立って遂に足に力を思いきり込めて踏み下ろす。

ピクピクと震えつつそのまま鼻血を流しながら白目を剥いてガクッと倒れた桂

 

「どうしたんですかね今日の桂さん、朝から変なの食べたんですかね」

「コイツならあり得るな、ったく朝からはた迷惑もいい所だ」

 

グリグリと桂の頭の上で足首回して踏みつけながら銀時が舌打ちしているともう一人の万事屋メンバーが瞼をこすりながら起きてきた。

 

「うるさいアルな……さっきからドンドンなに踏みつけてるんだヨ……」

「ああ神楽ちゃんもおはよう」

 

寝癖がまだ残ってる状態でパジャマのまんまの少女、神楽が、いかにも起きたばかりで機嫌悪そうにやって来ると新八が挨拶。そして銀時は

 

「おい神楽、お前コイツ踏んでみろ、お前が本気で踏めばコイツの頭もちっとはマシになるかもしれねぇし」

「踏みつけてたのヅラの頭だったアルか……元々まともなじゃないからいくら踏んづけてもアホのままネ、時間の無駄ヨ」

 

めんどくさそうに神楽が言い放っていると、銀時踏まれて倒れていた桂がなんとか目を覚まして神楽の方に這い上がり。

 

「……あの、私と同じ女の子ならわかってくれるわよね……私の話聞いてくれないかしら……?」

「うおぉぉぉぉぉぉ! マジ気持ち悪いアル!!」

「だばんぷ!!」

「ちょっと神楽ちゃんこれ以上桂さん蹴らないで上げて!!」

 

宇宙最強の傭兵部族の一つ、夜兎の血を持つ神楽がこちらに向かって女みたいな口調で助けを呼ぶ桂に、眠気も吹っ飛び衝動的に蹴りを入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

ここはかつて侍の国と呼ばれた江戸。

時の流れと共に刀は廃れ宇宙人が街を往来し

古きモノは消え去る度に新しきモノが生まれていく時代。

 

そしてそんな世の中でも侍として行き侍として死ぬ覚悟を持った一人の男がいた。

 

攘夷志士・桂小太郎

 

侍と宇宙人、通称天人が長きに渡る激闘を繰り広げた攘夷戦争を生き抜き。

戦に敗れてもなお、日夜数多の追手を振り切りながら天人の排除と幕府打倒、日本の夜明けを目指す一人の侍なのだ。

 

そして

 

「本名は七草真由美、国立魔法大学付属第一高等学校の生徒で三年A組です。身長は前に測った時は155cm、体重は言えません。自慢ではありませんが生徒会で生徒会長を務めていて、最近の目標は九校戦を優勝出来る様に導ければと思っています、それと一科生と二科生の対立の改善性も目指してます」

「……」

 

今銀時達万屋三人組の前にいるその桂が、まるで面接官に自己PRしてるかのように丁寧に自分の事を話している。

銀時はいつも通りの死んだ目を浮かべ、新八は無表情で彼の書いた事をメモにし、着替えた神楽は小指で鼻をほじりながらどうでもよさそうに聞いていた。

 

「……銀さん、この人本当に桂さんなんなんですかね……言ってる事はいつもと同じで全く分かりませんけど本来の桂さんの感じとは別人というか……」

「なに律儀にコイツの話メモにしてんだよぱっつぁん、紙の無駄だから止めとけって。オメーがあまりにも言うモンだからコイツの話に付き合ってやってるけど、俺から言わせりゃあいつものヅラだよヅラ」

「ヅラじゃありません真由美です」

「ったく新八もまだまだヅラの事分かってないアルな、コイツは事ある事に私達に構って欲しいが為に何度も回りくどい事を仕掛けてきた真正の構ってちゃんネ。これ以上ヅラのペースに乗せられたらダメアル、適当に受け流してさっさと家から追い出すヨロシ」

「だからヅラじゃなくて真由美です」

 

真ん中に座る新八は話に積極的だが銀時と神楽の方は完全に信じていない様子。

そんな空気を引き裂くように桂でありながら七草真由美と名乗り始めている彼が両者を挟んでいるテーブルを力強く両手で叩く。

 

「もういい加減信じてくださぁぁぁぁぁい!! もう一カ月も前からこの身体なんです! 4月24日に”達也君”に誕生日のお祝いメールでもしてあげようかなとか考えてたらいつの間にかこのサラッサラヘアーの男の姿になるわ見た事のない場所にいるわ、傍には変な化け物いるわでもうここで生活するのも毎日キツくて大変で……!」

 

今度はテーブルに顔をうずめながら涙声で叫ぶ桂。すると彼の懐から携帯が鳴り始め。

 

「あ、すみません、きっと桂さんの部下です」

 

桂は一旦泣くのを止めてそれを手にとって耳に当てると

 

「もしもし生徒会長です。え? 通販で頼んでおいた整髪料が届いた? あ~ごめん発送日今日にしてたんだった、お金立て替えてくれてありがとすぐ返すから。あと一つ頼みあるんだけど、今週のアメトーークちゃんと録れてるか確認しといてくれる? なんか野球で時間ズレたらしくてさ。ああもうそれはエリザベスさんがやってくれてるって? 了解しましたーじゃあ試験が終わったら頼まれた卵と牛乳買ってすぐ帰りまーす」

「生徒会長さんメチャクチャ生活に順応してるじゃん! メチャクチャ江戸の生活に溶け込んでるじゃん! 桂さんの部下とメチャクチャコミュニケーション出来てるじゃん!」

 

今まで泣きながら生活するのも大変と言っておきながら前以上に部下と親しそうに会話している桂を見て思わず新八がツッコミを入れると、彼は携帯を懐に戻してまたダン!とテーブルを叩いて

 

「とにかく私は一刻も早く元の場所に帰りたいんです!」

「一刻も早く帰りたい癖になんで通販で整髪剤買ってんだよ!? 明らか余裕だよね!? アメトーーク録画しておくぐらい余裕でここの生活に慣れちゃってますよね!」

 

再びテーブルに顔をうずめながら泣き出す器用な桂。

そんな彼に新八が叫ぶ中、銀時はやれやれと首を横に振り

 

「ほれ見ろ新八、またいつものヅラの茶番だよ。もうこれ以上付き合う義理もねぇだろ、俺はもう出掛けるぞ、コンビニにジャンプ買いに行ってくる」

「え! 待ってくださいよ銀さん! こんな状態の桂さんここに置いたまま一人だけ逃げないで下さいよ!」

「そうですよ万事屋さん! 私はエリザベスさんの紹介であなたの所に来たんです! もしかしたら私の助けになってくれるかもしれないって!」

 

一人ソファから立ち上がり、トンズラかまそうとする銀時を桂が呼び止める。

 

「私と桂さんの身体が入れ替わった原因を突き止めて下さい! こうして私が桂小太郎となっているのなら! きっと桂さんも七草真由美という私の身体に入り込んでるのかも! あの人と親しい筈のあなたならすぐにでも助けたいと思いますよね!」

「いや全然、むしろいないほうが疲れる原因が一つ減って嬉しいわ。だからさっさと失せろ疲れるから」

「だから私は桂さんじゃないですってば!」

 

こんなに話してもまだ信じてくれない、こんな酷い人が世の中にいるのかと桂は苛立ちを募らせながらソファから立ち上がると銀時に指を突き付ける。

 

「桂さんもきっと困ってる筈なのにあなたは! それでもあなたは桂さんのお友達なんですか! 達也君だったらきっと助けてくれるのに! 私が困ってたらきっと助けになってくれますよ!」

「いや達也君もこんなロン毛のおっさん助けるのはさすがに嫌がると思うけど」

「あなたに達也君の何がわかるんですか!」

「お前こそ達也君にいらぬ幻想を抱いてんじゃねぇ、達也君がお前だけのヒーローだと思ったら大間違いなんだよ。達也君はみんなのヒーローなんだよ」

「いや銀さん、アンタは達也君の事何も知らないですよね……」

 

桂に向かって真っ向から反論しながらも実は誰の事を言っているのかよくわかっていない銀時に新八がボソッとツッコむ。

そして銀時は歩き出すと玄関へと向かう戸を開けながらけだるそうに舌打ち。

 

「ったくよ「体の入れ替わり」なんてもうとっくにやっただろうがよ、前にやったネタもう一度掘り起こしてんじゃねぇよ」

「ネタじゃなくて本当に入れ替わってるんです!」

「あーはいはいわかったわかった、じゃあ俺もどこぞの小娘と入れ替わる事があったら信じてやるから」

「万事屋さんまで入れ替わったら意味ないじゃないですか!」

 

信じる気力も起きないようで銀時がさっさとコンビニへ向かう為に玄関でブーツを履き始めているのを、桂が後ろからついて行きながら叫び始める。

 

「1ヵ月暮らしてる内に徐々にわかりました! ”この世界”と元々”私がいた世界”は全くの”別物”なんだと! だから万事屋さんもどこぞの誰かと入れ替わったらもしかしたら私達の世界に行くって事ですよ! そうならない為にこの問題を解決しないと!」

「入れ替わりの次は異世界かよ……設定盛りすぎだろ、それちゃんとキチンとまとめられる様に計算してんの? 後先考えずに設定を盛り始めると収拾つかなくなるからな」

「設定とかじゃなくて私は本気で言ってるんです! 最初から!」

「うるせぇなもういいから異世界にでも何処にでも帰れよバカ。それに仮に異世界に渡れるんだとしたら」

 

ブーツを履き終えてトントンと踵を揃えると、銀時はガララと玄関の戸を開けて最後に振り返る。

 

「俺だったら旅行気分でその世界を満喫してやらぁ」

 

それだけ言い残すと銀時は家を出て階段を下りて行ってしまった。

残された桂が玄関でため息突いてガックリしていると新八と神楽が背後からやってくる。

 

「大丈夫ですか桂さん、いや生徒会長さんでいいんでしたっけ?」

「ヅラ、今回いつも以上に粘ってるネ、もしかして本気で困ってるアルか?」

「いやだから私はヅラじゃなくて真由美……」

 

せめて二人にはわかってもらえるようにと振り返ろうとする桂、しかしまた袖の下にしまった携帯が鳴り出したので再び即それを手に取ってパカッと開くと。

 

「あ、来週の攘夷志士定例会議の時間変更のお知らせメールだ」

「攘夷志士の会議出てんの生徒会長さん!?」

「当然でしょ、私はね、桂さんの身体を借りてる責任として桂さんの職務を全うしなければならないと思ってるの。攘夷志士として戦う事も覚悟の上よ」

 

当たり前の様に言いながら口元に笑みを浮かべる桂だがどこか黒い……

 

「そう、いずれは倒幕に成功し江戸にはびこる天人を残らず駆逐し、将軍の首を取って新たな政権を奪取する事こそ我等の悲願がようやく達成するのよ……」

「オイィィィィィィ!! なんかもう思考が完全に攘夷志士になってるよ! つい最近まで高校生だった女の子が将軍の首狙う事になんの躊躇も抱かなくなってるよ!!」

 

彼の笑みにどことなくドス黒い感じを覚えていた新八がすぐにツッコむ中、隣に立ってる神楽は起きたばかりなのでまだ眠いのか大きな欠伸を一つ。

 

「新八の言う通り私もどこかおかしいと思うネ、今日のヅラはいつもよりしつこ過ぎるし、こうして一緒にいると少しメスの匂いもするアル。銀ちゃんに話聞いてもらった方がいいかもしれないヨ」

「そうだね、正直僕もまだ半信半疑なんだけど桂さんが作った茶番にしては妙に凝り過ぎてる所あるし。銀さんがコンビニから帰ってきたら改めて桂さんの件を話してみようか」

 

ようやく神楽の方もまともに話聞いてくれる態度になってくれたのか前向きに検討しようと言いだす。

新八もそれに頷き銀時が帰ってきたらもう一度相談しようと決めた。

 

「それじゃあ桂さん、じゃないや真由美さん? 銀さん戻って来るまで少しここで待ってててもらえますか?」

「ああすみませんが、私もうそろそろ戻らないといけないんです」

 

ぎこちない感じで桂にリビングで待ってくれるよう新八は促すが、彼は申し訳なさそうに頭を下げるとすぐに上げ

 

「レンタルビデオの会員になる為に、自動車学校で短期間コースで普通免許の教習を受けている所なんです、今日は本免の実技試験だからなるべく早く行って事前に勉強しておきたいので、かもしれない運転って難しいんですよホント?」

「アンタ本当に元の世界に戻る気あんの!?」

 

遂には自動車の教習所にまで通っているらしい桂を前にいよいよ新八は本当に彼がどうして欲しいのか疑問に思うのであった。

 

「とにかく桂さんの事は僕等で話しとこうか……」

「うん、アホらしいしやる気起きないけど入れ替わりが本当なら私達も心配ネ」

「僕等までそんなのに巻き込まれたらたまったもんじゃないからね」

 

どこか他人事では済まされない、もしかしたら大変な事になるのではないという嫌な予感もするが

 

とにかく今は銀時の帰りを待とう

 

「まあこうして待ってればどうせすぐ戻って来るだろうけど」

「もしかしたらヅラみたいに女の子になって帰って来るかもしれないアルなー」

「妙なフラグ立たせようとしないでよ神楽ちゃん、桂さんだけでもキツイのに銀さんまでそうなったら地獄絵図だよ完璧」

 

そんな事を言いながら新八が笑っていると、ふと銀時用の事務机の背後にある窓に目をやる。

 

今日は天気が悪く一日中どんよりした雲が流れてゴロゴロと嫌な音を放っている、今にも雨や雷が降りそうだ。

彼はちゃんと傘を持って行ったのか?と新八がついさっき買い物に行った銀時の事を呑気に考えていると

 

空間を引き裂くんじゃないかと思う程とてつもなく眩しい光と強い音と共に雷が窓の外で落ちた。

 

「うわ凄い雷!」

「雷ぐらいでビビるんじゃありません、それでも江戸っ子ですか」

「さすがに近くで雷が落ちれば驚くって! 江戸っ子にそこまでハードル求めないでよ! ていうかアンタ江戸っ子でもなんでもないでしょ! それにしても今落ちた方向」

 

新八はあまりにも近距離で落ちたその雷に固まったまま

 

「ちょうど銀さんがいつも行ってるコンビニのある方向だったような……」

 

ふと嫌な予感を覚えるがまさかなと思い窓から目を逸らすのであった。

 

一方外では大騒ぎになっていた。

 

 

 

 

 

原付スクーターに乗っていた銀髪の天然パーマの男の頭上に、突如ジャストなタイミングで激しい音を出しながら雷が落ちて来たと。

 

そしてその雷に打たれた男が

 

何故か無傷の状態で道の真ん中で倒れていると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「あら起きたみたいね~」

 

目が覚めてムクリと起きると、そこは病室……と言う割にはこじんまりとした部屋だった。

寝ていたベッドの上で上半身を起こすも意識はまだ覚醒しておらずボーっとした感じで周りを見渡すと、ふと横に白衣を来た綺麗な女性がイスに座っていた

 

「たまたま私が通りかかった時にあなたのお友達が騒いでるのを見かけてね、倒れていたあなたを私がここまで連れてきたのよ」

「……」

 

友達というのは新八か神楽か、はたまたおかしくなった桂の事を言っているのだろうか? 

どうにも頭が上手く回らない、今わかる事と言えばここが病院のような場所で目の前に座る女性がえらく美人だという事ぐらいだ。

 

「……」

「んーまだ意識がぼんやりしてるみたいね、確かにあなた随分前に色々あったらしいしね……倒れちゃったのも精神的な事だったのかしら」

 

彼女の言ってる事が理解できない、というより目線を完全に彼女の白衣の奥にある隠しきれていない胸の谷間に集中しているので耳にも入れていない。

 

「さっきから私の顔よりやや下を凝視してるけどどうかした?」

「……」

 

マズイ、このままでは間違いなくセクハラ扱いされる。すぐに目線を上にあげて彼女の顔を見上げた。

 

「……ちょっといいかしら~?」

 

女性は何かを探る様な視線でこちらを見つめて来る。本格的にマズイ、さすがに食い入るように人の胸を見るのはダメだったか。しかし見られたくなかったら隠せよと内心悪態を突いていると、女性はこちらにジッと顔を近づけてきた。

 

「……念のために聞くけど自分の名前はわかるわよね?」

「……」

いきなり唐突な事を聞かれた、どうやら自分がずっと意識が定まらずボーっとしていたおかげで記憶の方になんらかの問題があるのではと思われたらしい。実際はただ胸見てただけなのだが……

 

やれやれ胸見てたのがバレた訳じゃねぇのかと後頭部を掻きながら安堵した後、さっさと彼女の質問に答えようとやっと口を開いた。

 

「坂田銀時、かぶき町で万事屋やってます」

「……」

 

名を名乗るが女性がこちらを不審な様子で見る態度が変わらない、むしろ前より増してる気がする。

女性は一度後ろに振り返ると机に置かれてある1枚の紙をこちらに手渡してきた。

 

「これ良く読んで」

「あ?」

 

いきなり渡された紙を首を傾げながら手に持ってみる。

それは一人の人物の名と生年月日、家族構成や経歴が記載されてある書類だった。しかしどっから見ても訳が分からない経歴だ、見知らぬ学校や名称ばかりで住所を見ても江戸のどの辺りなのかさえもわからない。物凄く遠い所に住んでいるのだろうか

右上にはその経歴の持ち主らしい少女の写真が貼ってあった。天然パーマの自分が思わずイラッと来るほどのサラサラヘアーの持ち主であり顔は綺麗にまとまっているが年齢を見るとまだまだ子供だった。

 

「どう、わかった?」

「いや何が? 俺はこんなガキ知らねぇよ、つうかこんなモン赤の他人の俺に見せていいの?」

「はぁ~、体の何処にも異常は見当たらないのにどうして……」

 

記載書を見て感想を言うと、彼女はどっと深いため息をついてまた奥に引っ込む。

どういうこっちゃ?っと思っているとすぐに彼女は戻って来た。

 

「コレで自分の顔よく見て」

「手鏡? なにもしかして俺事故って顔変形しちゃったの? 天然パーマが爆発しちゃったの? これ以上爆発しちゃったらもう洒落にならないんだけど?」

「いいから、落ち着いてよく見てみなさい」

「おいおい勘弁してくれよ、整形しなきゃいけない程顔面崩壊してるとかマジに洒落にならな……」

 

少々キツ目の口調で言われたので、ビビりながらも受け取った手鏡で自分の顔を覗いてみると。

 

 

 

 

そこには先程のサラサラヘアーの黒髪の綺麗な美少女がこちらと真正面から向かい合って映っていた。

目は少々死にかけているが先程の少女と同じだという事に気づくと持った手鏡を動かしながら色々な角度で覗いた後。恐る恐る自分の右手で自分の頬を引っ張って見ると鏡に映る彼女も頬を引っ張った。

それは自分の顔が正に今この鏡にうつってるその顔だという証明だった。

 

「……あのすみません、顔面崩壊どころか顔面超綺麗に整理整頓されてるんですけど……余計なモン置く必要が無いぐらい綺麗に整ってるんですけど……ていうかもうこれ整形どころかショッカー本部で改造手術受けたんじゃ……」

 

鏡から一旦目を離してふと自分の身体を見ると明らかに本来の自分の身体ではなかった。

身体が縮んでるとかそんなレベルじゃない、肌の色も透き通るように白く肌触りも良さそうな両足が布団の下から覗いている。

鏡を持ってる自分の手も見てみる、やはりこちらも色白く細くはあるがとても綺麗だった。

 

おかしい、何かがおかしい。そう思いながら咄嗟にベッドから出ようとするがそれを見守っていた彼女に止められる。

 

「待ちなさい、どこへ行くの」

「……いやちょっと厠にションベン行ってくるわ」

「……女の子でそういう事をサラッと言うのはある意味カッコいいかもしれないけど、あなたには似合わないわ、それにさっきから言葉遣いが乱暴になってるし」

「女の子?」

 

不思議にそうにこちらを見ながらガッチリ自分の左腕を掴んで離さない女性。

そして彼女が放った言葉でつい反射的に立ち上がりかけていた自分の身体を見下ろすと胸があったりして体つきと顔からして女の子だという事にやっと気付く。

 

つまり気が付いたら女の子になってたと……。

 

「しかしこうして私が観察してもどこにも異常が見当たらないなんて変ね……」

「……あのすみません」

「え?」

 

自分の声が恐怖で震えているのを感じながら、恐る恐る彼女に尋ねた。

 

「俺の名前って知ってます?」

司波深雪(しばみゆき)でしょ、当たり前じゃない」

「……」

 

自分が突然見知らぬ場所にいた。

自分の身体が突然劇的ビフォーアフターされた。

司波深雪……坂田銀時でなくそれが自分の名前だと知った。

 

もうそんな状況になってる時点で

 

彼の心はもう限界だった。

 

「ギャァァァァァァァ!!」

「こら、暴れちゃダメでしょ~」

 

”保健室”で目覚めてから初めて思いきり大きな声を出す少女、深雪を保険医の女性教師である安宿怜美(あすかさとみ)が冷静に取り押さえた。

 

(いやだぁぁぁぁぁぁ!! コレって思いきりヅラが言ってた事とおんなじじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!! すみません真由美さん! 散々踏みつけておいて言うのもアレですけどマジですみませんでした!  俺は人の言う事を信じないクズな人間です!! もうこれからは心改めて生きて行きます! だから助けてぇぇぇぇぇ!!)

「もーそんなに暴れたら余計に力入れますよ」

(ていうかこの女さっきから超強ぇぇぇぇぇ!!)

 

そんなに力を入れられてない筈なのに安宿先生に関節を上手い具合に曲げさせられ、一瞬で全く身動きが取れなくなる深雪。

ベッドの上でジタバタと暴れる事さえ出来ずに拘束されてしまう。

 

(く、苦しぃぃぃぃぃぃ!! 殺される!! このままだと銀さんこの身体で殺されるぅぅぅぅぅぅ!!!)

「頼もう」

「あら」

「!」

 

首を向けてはいけない方向に回されながら深雪が命の危機すら感じ始めていると。

保健室に一人の女子生徒がドアを開けて入ってきた。

 

学校の制服に乗っ取ったその服装はブレザーは裾が短くボレロのような上着、スカートというよりワンピース、ブレザーの下にキャミソールタイプのレースを着用しているという個性的な制服であった。

 

ふんわりとした黒髪をなびかせ、小柄ながらどこか気品のある顔つきのしたその女子生徒は現在進行形で深雪を落としにかかっている安宿先生と

 

「大事な生徒会の一人が倒れたと聞いたのでな、心配に思ったので様子を見にきたのだが見る限りどうもあまり状態は良くないらしいな、どことなく顔色が青い」

(いや青くなってるのこの女のせいだから! 冷静に見てねぇで助けろよ殺すぞ!!)

「私でも原因がわからないのよ。記憶の方もおかしくなってるみたいで」

「ふむ、兄上殿がいなくなって一か月だったか。元々兄想いのよく出来た妹だと聞いていたがそこまで精神に異常を来していたとは」

(なにこの状況で普通に会話してんのコイツ等! お前等の方がよっぽど異常だよこのサイコパス共!!)

 

ごく自然に会話し始めた。そんな状況のせいかそろそろ深雪があの世へ飛びだとうかという所で。

 

「おっと危ない、もうちょっとで落とす所だったわ~」

「ふぐ!」

 

安宿先生がパッと手を放してようやく解放する。ベッドの上にうつ伏せで倒れた深雪は首を押さえながらなんとか半身を起こす。

 

「ハァハァ……! 危うく見知らぬ場所で見知らぬ体で三途の川渡り切る所だったぜ……!」

「大丈夫か深雪殿、息も荒いし今日は会議に参加せずまっすぐ家へ帰った方がいいのでは?」

「テメェ今の状況見てよくそんな涼しげな顔で言えんなコラァ!!」

 

おしとやかな外見なのに武士みたいな言葉を使う少女に深雪は指を突きつけながらベッドの上に片膝付いて立ち上がった。

すると先程自分を殺しかけた安宿先生が耳元で

 

「ちょっと生徒会長さん相手にその口の利き方はマズいわよ」

「生徒会長さん? コイツが?」

 

生徒会長……そういえば桂が言ってたような……自分は魔法なんちゃら学校で生徒会長やってるとかなんとか……

 

「あのーもしかして……」

「ん? どうした深雪殿?」

 

恐る恐る手を上げて頬を引きつらせながら深雪は彼女に一つ尋ねてみた。

 

「失礼ですがあなたのお名前は……七草真由美ですか?」

「真由美じゃない」

 

彼女の質問を一蹴すると少女は腕を組み静かにこちらに向かって顔を上げ

 

「桂だ!」

「やっぱおめぇかよぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「どぃふッ!!」

 

ベッドの上から飛び上がって彼女の顔面に雄叫び上げながら飛び蹴りをかます深雪。

 

これはかつて国を護る為に攘夷志士として戦った者達が、見知らぬ世界を不慣れな体で駆け回りながらとんでもない珍道中に巻き込まれた長いようで短いお話である。

 



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第二訓 会議&兄妹

かつて「超能力」と呼ばれていた先天的に備わっていた能力が「魔法」という名前で認知され、強力な魔法師は国の力と見なされるようになった。20年続いた第三次世界大戦が終結してから35年が経つ西暦2095年

 

そこには容姿端麗という言葉ではとりも足りない程の顔つきをした少女が一人悩みを抱えていた。

 

少女の名は司波深雪。名族である「四葉」一族の跡取り候補だというのを世に隠し、兄に護られながら共に歩みたい為、そして想いを寄せる兄と共に家柄を捨てて平和に暮らしたいという希望を胸に秘めて国立魔法大学付属第一高校に入学したのだ。

それから一体どれ程の時間が経っただろうか、深雪は

 

「見渡せば見渡す程わけわかんねぇけどここ……なにが旅行気分で世界を満喫してやるだよ、こちとら右も左も上も下もどこに行けばいいのかさえ知らねぇよ……」

 

放課後ゆえに誰もいない教室で椅子に座り天井を眺めながらただひたすら嘆いていた。服装は病院服でなく既に渡された制服に着替え終えている。

彼女の悩み、というより彼女の中にいる男、坂田銀時が悩みを抱えているというべきか……

 

「まさかお前もこっちの世界に来てしまうとはな」

 

机に脚乗せてブツブツ言っている深雪の向かいでは2年先輩の生徒会長、七草真由美が腕を組んで立っていた。そして彼女の中にいるのも深雪の中の人同じ世界の住人、桂小太郎。

 

「しかし俺と共の学び舎で出会えるとは幸運だ。あのまま俺が引き取らなければ安宿殿にずっと拘束されていた事だろう」

「オメーに会った時点で俺はもう不幸のどん底だよ」

 

机に脚を乗せたまま深雪は片目を釣り上げて真由美を睨み付けた。

 

「オメーの身体になってる七草真由美って奴が今日ウチの店に来たんだよ、最初はテメェがいつものバカやってるのかと思いきや……人の話はちゃんと真面目に聞いておくべきだったぜ」

「ほう、やはり俺の身体はこの身体の持ち主の魂が入り込んだのか」

 

深雪の話にわかってたかのように真由美は頷く。

 

「やはりこれは入れ替わりという言葉が正しいな、俺と真由美殿が入れ替わった様にお前と深雪殿も入れ替わったのだろう。入れ替わる前、お前は何をしていた」

「あー? コンビニでシャンプ買う為にスクーター飛ばしてたら突然頭の上から光が降って来てそれ以降の記憶がねぇや。気が付いたらこの有様よ」

 

そう言って深雪は自分の髪を指でクルクル巻き付ける。

 

「念願のサラサラヘアーになれた代価に、玉と棒を持ってかれた」

「女の子が玉とか棒とか言うな、はしたない」

「いや女の子じゃねぇし、つかお前の方は入れ替わる前どうだったんだよ」

「俺は隠れ蓑としていた寺の上にある林の裏で」

 

真由美に注意されても知った事かという感じで深雪は尋ね返す。

彼女は表情を変えずに平然と

 

「ウンコをしていた時に頭上から雷の様な物が落ちた感覚があった」

「オメェの方がずっとはしたねぇじゃねぇか!!」

 

あっさりと答える真由美に深雪は指を突き付けながら叫ぶ。

 

「つうかその時に入れ替わったって事はお前の身体に入った奴とんでもねぇタイミングで入れ替わった事になるぞ! 気が付いたらケツにウンコ付いた状態とかお前女子高生になんちゅうハードプレイやらせてくれてんのぉ!?」

「志士というものは過酷な環境の中でいつかいかなる時でも用を足せる心構えを持たなければならない、真由美殿も俺の事を参考にし、きっと立派な攘夷志士になってくれるであろう」

「この期に及んでテメーの身体渡して攘夷志士にさせるとかどんな仕打ち!? つーかアイツどんだけひでぇ状況で俺達の世界に来たんだよ! もっと優しくしとけばよかった!」

 

冒頭で散々酷い目に遭わせて申し訳ないという気持ちに駆られる深雪は両手に頭を乗せたまま叫んでいると、真由美の懐から携帯の着信音が鳴りだし彼女はそれをすぐに手に取る。

 

「む、そろそろ時間か。行くぞ銀時」

「はぁ!? どこにだよ!」

「決まっている、生徒会の会議だ」

「生徒会の会議!?」

 

さも当たり前の様にそう言いだす真由美を深雪は信じられないという目で凝視する。

 

「オメー自分の状況分かってんのか!? こっちはわけのわからねぇ世界に放り込まれてんだぞ! こんな状況下で呑気にガキ共のお喋り会なんかやってられる訳ねぇだろうが!!」

「ガキ共のお喋り会ではない、生徒会による定例会議だ言葉が過ぎるぞ銀時。お前の今扱ってる体の本来の持ち主である深雪殿も書記として生徒会に加わっていた。最近はとある事を理由に休みがちだったがこれもいい機会だ、参加していけ」

 

子供の戯れ場みたいな風に言われた事がちょっと癪に障ったのか、真由美の言い方には少々棘が入っていたが「それに」と言葉を付け足して

 

「この世界の情勢を少しでも頭に刻んでおくべきだ。郷に入れば郷に従え、抗う事も大事だが時に周りの流れに身を任せて知識を得る事も大事だ、特にこの世界に来たばかりのお前なら尚更だ」

「ヅラのクセにまともな事言いやがって……つっても何にも知らねぇ俺がんなもんに参加しても何も喋れねぇぞ」

「案ずるな、今回は俺の紹介で病み上がりの為に今回は見学という事にしておいてやる」

 

まだ腑に落ちない様子でしかめっ面を浮かべて来る深雪に真由美はフッと笑った。

 

「お前は黙って見ておけ、俺はお前より一月ほど早くこの世界に来ているのだぞ。この世界を知る先輩として、学校の先輩としてお前に俺の戦い、生徒会長の実力と言うのを見せつけてやろう」

「……」

 

一点の恐れもなく自信満々な態度でそう言い切る真由美を、深雪は信じていいのかどうか不安に思うが、ここで彼女と別れて単独行動で迂闊に動くのも愚策だ。

 

「しゃあねぇな……暇つぶしに見てやるよ」

 

机の上に足を乗せるのを止めて深雪はゆっくりと立ち上がる。

 

「生徒会長さんの戦いって奴を可愛い後輩に見せてくれ」

 

 

 

 

 

 

それから数分後、深雪は真由美に案内されて会議に使うという生徒会室に来ていた。

 

「時は来た!! これから数か月後に行われる九校戦! 我々はいずれ来るこの決戦を前に!! 皆が一丸となって戦えるようにしなければならんのだ!!!」

 

会議参加者を見渡せる奥側に立ち、生徒会長の七草真由美は片手を上げて声高々に叫ぶ。

 

「戦はまだ先なのに今から準備を行うだと? そんなナメ腐った考えをしている愚か者は今すぐこの場から立ち去れ! もしくはこの俺が直々にたた斬ってやるわ!!」

 

いつの間にか頭に「日本の夜明け」と書かれていた謎のハチマキを巻き付け、更にはどこから持ってきたのか鞘に収まった日本刀を手に持っている。隙あらばすぐにでも抜こうとする仕草をするので気が抜けない。

 

「戦とは万全の準備をして初めて成り立つモノ! 士気を高め万全の人員を構成し兵糧の確保!! 武器の手入れも怠るな! 刀に錆でも付けたら武士として失格と思え!!」

 

魔法師を主に育成する魔法学校で武士としての心構えとはなんたるかと力説しながら真由美は鬼のような形相で周りを見渡す。

 

「という事で諸君! まずは各々の武芸をより高みへと飛躍させる為に!! 俺は遂に念願のコレを手に入れてきた!! 数多のライバル校からのスパイの視線を掻い潜り、我々の悲願を達成させるには決してなくてはならない存在!! それが!!!」

 

懐からある物を取り出してそれを思いきり目の前に机に叩きつけて周りに見せた。

 

「UNOだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「UNOだぁじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「げぶふッ!!!」

 

さも当然に目の前に置かれた数十枚のカードの束が入った色鮮やかな箱に向かって盛大に叫ぶ真由美を。

ずっと見学として外から見ていた深雪が遂にキレて右ストレートでぶん殴った。

真由美はそのまま回転しながら後ろの壁にぶっ飛ばされる。

 

「何が俺の戦いを見せてやるだ! 結局テメェがUNOやりてぇだけじゃねぇか!! つうかこんなもんどこに売ってたんだよ!!」

「学校近くのトンキで買ってきた……」

「答えなくていいわ! あーめんどくせぇ! 何が郷に入れば郷に従えだ!! 結局いつものテメェじゃねぇか!! くだらねぇ俺はもう出て行く!!」

 

付き合ってられないと深雪が床に向かってペッと唾を吐き捨てると生徒会室から出て行こうとする。しかし

 

「待て待て待て! お前に行かれたら困るんだ司波!」

 

出て行こうとする美雪の方を後ろからガシっと掴むのは黒髪ショートの女性にしては少々背が高く女性に慕われそうな麗人タイプの女子高生。生徒会の一人でなく風紀委員長の渡辺摩利(わたなべまり)だ。

 

「お前がつい最近まで込み入った事情で生徒会に顔を出せなかったおかげで真由美の様子がどんどんエスカレートしてたんだ! 頼むからここにいていつものやってくれ!」

「すみませんいつものと言われてもわかんないっす、自分もうあのバカ先輩と付き合えないので」

 

やんわりと断り帰ろうとするが摩利は深雪の肩から手を離さない

 

「あの前の予算決議の時に暴走に走ろうする度に真由美に向かって! 道に捨てられた犬のフンを見るような蔑んだ目で睨んでくれ! そうすれば!」

 

『す、すみません……真面目に予算案について話し合います……』

 

「とかなんとか言いながらえらく落ち込んで会議がスムーズに!!」

「アイツ女子高生に睨まれただけでそんなヘコんでたの! バカの癖にメンタル弱ッ!」

 

自分の体本来の持ち主とそんな事があったのかと驚いていると、倒れていた真由美がムクリと起き上がり

 

「あの普段おしとやかで清楚で礼儀正しい少女が突然自分をゴミクズを見るような目で見つめてくるのだぞ……く! 思い出しただけでも震えが……!」

「そこで一生震えてろゴミクズ」

 

トラウマになってるのか小刻みに震え出す真由美を見下ろしながら深雪が正しくその蔑んだ目をしていると

 

「大丈夫ですか会長」

「ああ、大事無い……すまぬリンちゃん殿……」

 

真由美の手をとって立ち上がらせたのは常に冷静沈着な態度で表情を崩さない、生徒会会計担当、市原鈴音(いちはらすずね)だ。

 

「では会長、今回の議題は九校戦を勝ち抜く為に皆でUNOをやろうという取り決めを行うということで」 

「うむ、さすがはリンちゃん殿だ、俺の考えをそこまで的確に見抜くとは」

「会長のアホさ加減は大体読めてきましたので」

 

鈴音に考えを当てられ満足げに頷いていると、摩利が指を鈴音に突き付け。

 

「おい! そうやってお前が甘やかしてるからつけ上がって変な事ばかりやらかそうとしてるんだぞ! 少しは振り回されてる立場の身にもなれ! 本来生徒会の会議に加わる必要のない風紀委員の私が何で毎回自主参加してると思ってるんだ! お前がブレーキ役として成りたたないからだぞ!」

「別に参加してくれとこちらから頼んだ覚えはありませんが、生徒会は今の所問題なく動いてますし。私と会長のツートップでやっていけますよ」

「ツートップというか今実質仕事出来るのはお前だけだろ! 真由美はおかしくなったし“書記の中条”は急に学校に来なくなったし! それに!」

 

鈴音に突き付けた指を動かして窓辺の方に

 

「副会長の服部は真由美がおかしくなってからずっと窓から空を延々と眺めてるだけだし!!」

「今日も空が綺麗だ……」

「アレが彼の仕事ですから」

「どんな仕事だ!」

「雲の向こうに天空の城が見えないかああして監視してるんです」

「ラピュタ観終わったばかりの小学生か!!」

 

さっきかずっと窓から外を遠い目で眺めているのは生徒会副会長の服部刑部少丞範蔵(はっとりぎょうぶしょうじょうはんぞう)。腕の立つ優秀な人材なのだが真由美が変貌した事がショックだったのか、今ではすっかりあの立ち位置で定着している。

 

「ほら見ろ! 書記の中条は欠席で同じく書記で達也君がいなくなって精神が折れかけている司波! 雲に夢中の副会長服部! そして挙句の果てには侍みたいな喋り方になってるアホの生徒会長真由美! どっからどう見ても成り立ってないだろこんな生徒会!!」

「ではこれから週に一回体育会で皆でUNO大会を行うという事で決定で」

「はい」

「聞けよ人の話!!」

 

人の警告を聞かずに淡々と会議を二人だけで進めていた真由美と鈴音を摩利が怒鳴るが、真由美はフッと笑い

 

「案ずるな摩利殿、ちゃんとUNOだけでなく九校戦への策をいくつも考えている」

 

得意げにそう言って真由美はポケットからゴトっとソフトボールぐらいの大きさの球形の機械をテーブルの上に置いた。

 

「リンちゃん殿に手配して作ってもらった、まずは大会当日にこれを各校の代表皆に配る」

「……なんだコレ、新しいCADか?」

「まだまだだな摩利殿」

 

不審に思いながら摩利が手にとって眺めていると真由美はやれやれと首を横に振り

 

「そいつは起動時間を設定すれば半径30mを跡形もなく吹き飛ばす爆弾だ、コイツで受け取った者を全て肉片と化し、我々は無傷で天下一となれる算段が整うのだ」

「いやそれただのテロリスト!!」

 

手に持ってるのが爆弾だと知って慌ててテーブルに置き戻すと摩利はまた鈴音を指差して

 

「ていうかこんな物を作ることを頼まれた時点で断るだろ普通!!」

「誰も犠牲を出したくないという会長の心意気を取り組んだ結果です」

「犠牲出まくりだろ! 各校血まみれだぞ! なんでただの各校の対抗試合でそんな血生臭い惨劇を繰り広げなきゃならないんだ!」

 

全く悪気がない様子で淡々と話す鈴音にツッコミを入れた後摩利はすぐに振り返り

 

「おい司波! 何か言ってやれ!!」

 

現場復帰したばかりの深雪に何とか言ってもらおうと思ったのだが振り返った先にはいなかった。すると窓の方へ視点を動かすと

 

「おいあそこの雲の中にあるの、あれひょっとしてラピュタじゃね?」

「いやーただの飛行艇ですよきっと……」

「なに普通に服部と一緒にラピュタ探してるんだ! 龍の巣とか絶対見つからないから! そんなん無いから!!」

「バカヤロー男はいくつになってもラピュタを追い続けるモンなんだよ」

「お前女だろ!」

 

いつの間にか服部と仲良く窓の外から雲を見上げていた深雪。

どうもこの状況に飽きて来ていたらしい。

 

「なんか司波までおかしくなってるような……く! 一体私達の学校で何が!」

「ということでまずは最も我らの脅威となる可能性のある第三高校にコイツを宅配便に変装して渡し……」

「お前も爆破テロやる算段でどんどん進めるな!!」

 

徐々に混乱しつつあるが摩利はとにかく真由美の暴走を上手く止めることに専念する事にした。

 

「そういう卑劣な手段を使わずとも実力で勝てばいいだろ!」

「卑劣な手段も実力の内だ、戦に正々堂々もへったくれもあるか。しかしそんなに嫌だというなら」

 

真由美は再び懐から何かを取り出しテーブルに置く。

 

「爆弾の代わりに摩利殿の手作り弁当を渡すことにしよう、これで敵が死ぬ事は恐らくあるまい、恐らく」

「人の弁当を爆発物と同等に扱うな! ていうかカバン探しても見当たらないと思ってたらお前が盗ってたのか!!」

 

昼食時間に食いそびれた自分の手作り弁当を凶器扱いされてはさすがにキレる。そんな摩利の目の前でその弁当を箸で一口食べる真由美。

 

「味はほどほどのマズさでな、凄いマズイ訳でもないのだが食べ続けると何かこうイラっと来るのだ、コレを配れば敵もイライラで士気が駄々下がりだ」

「何人が作ったモンを勝手に盗って勝手に食って勝手にダメ出ししてんだお前は!!」

「どうだリンちゃん殿」

「絶妙なバランスのマズさです、これで敵もイライラで総崩れでしょう」

「敵の前にこっちがイライラしてるんだが!」

 

人の弁当を食べ始める真由美と鈴音に摩利が苛立ちを募らせながら窓辺の方に振り返り

 

「ラピュタ観測班! お前達生徒会ならこの二人の行いをすぐに止めろ!」

「いやいやマジで美味くねぇなコレ、どういう作り方すればこんな微妙なおにぎり作れるんだよ」

「パズーがシータに作った朝食が無性に食べたくなりますよコレじゃあ……」

「いつの間に私の作ったおにぎり食ってんだお前等! もういいさっさとラピュタ観測班に戻れ! 一生雲でも見てろ!!」

 

窓辺に立って手におにぎり持ったまま口をモグモグさせている服部と深雪に叫んだ後、完全に疲れ切った様子で摩利は首を横に振る。

 

「まさか生徒会がこんな事になるなんて……それもこれも達也君がいなくなってからだ……司波、まだ兄の行方は見つかってないんだろう」

「兄?」

 

兄の事を聞かれておにぎりを食い終えた深雪はピクリと反応した。

さっきまでとは一転して摩利の表情に陰りが見え始める。

 

「一ヶ月前、達也君の誕生日だとか言ってたな。その日から完全に行方不明だとは聞かされていたが、まさかあの達也君が何かの事件に巻き込まれて大変な事になっていなければいいのだが、いや妹の前で言うことではなかったな、すまない……」

「……」

 

そういえば保険医の先生や真由美もそんな事を言っていたような気がした。

自分には兄がいて今現在行方不明になっていると……

 

摩利の話を聞いてふと兄の行方不明という点が気になり無言になる深雪であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後、結局会議はグダグダのまま終わり、生徒は各々帰り。

残った真由美と深雪は学校の屋上に来て夕日の見える空を眺めていた。

 

「銀時、どうして俺達がこんな体で異世界に来たのか、お前はどう思う」

「んな事聞かれてもわかんねぇよ、ただ今日一つだけわかった事と言えば」

 

落下防止の鉄柵に背を預ける真由美に尋ねられると、その場にしゃがみ込んで小指で耳をほじっていた深雪がけだるそうに

 

「突然いなくなった司波深雪の兄が怪しいって事だけだ」

「……俺がこの世界に来た時は深雪殿の兄上殿は既にいなくなっていた。話を聞く限り将来有望の中々の逸材だと期待していたとは摩利殿から聞かされていたが」

「どんな奴だろうが関係ねぇさ、大事なのはそいつが今どこで何をしているのかって事だ」

 

小指の先にフッと息を吹きかけると深雪は立ち上がる。

 

「見つけ出して事の次第によっちゃぶん殴ってやる」

「どうやら当面の目標は決まったみたいだな」

 

この世界に送り込まれた謎を解くために司馬達也を見つけ出す。

見据える様に前方を睨みながら拳を強く握る深雪の隣で真由美は静かに腕を組む。

 

「俺も生徒会で忙しいので中々時間は割けんが兄上殿の捜索には協力しよう」

「いやもういいだろ生徒会なんて、俺達には関係ねぇだろ」

「そうも言ってられん、この体、七草真由美として俺は生徒会長の義務を全うせねばならん」

「なった結果があのバカ丸出しの演説かよ、いいから生徒会なんてほっといても大丈夫だって、所詮学校の委員会だろ?」

「いや、それは絶対に出来ん」

 

真由美はキッパリと断言する。

 

「例えここが俺達にとってなんの関係もない世界だとしても、俺は真由美殿が護り続けたあの生徒会を代わりに護るという義務を果たさねばならない」

「相変わらずバカの癖にクソ真面目な性格してんなお前、入れ替わった体の持ち主とか俺は考えもしねぇや。まあいい俺は俺のやりたいようにやらせてもらうぜ」

「フ、そう言ってもやる事はいなくなった兄上殿を探す事であろう。それはそれで」

 

真由美は歩き出しこちらに背を向けながら口を開く。

 

「お前もまた深雪殿の代わりにやっているようにも見えるが?」

 

皮肉交じりにそういうと麻由美は僅かに微笑みながら屋上を後にした。

残された深雪は苦々しい表情でケッと呟き

 

「勝手に勘違いしてろバカ会長」

 

 

 

 

 

 

屋上から降りてやっと深雪は学校を後にした。外はすっかり夕暮れ、広大な校庭では部活動に励んでいる生徒もちらほらいる。

そんな中、深雪は一人途方に暮れていた。

 

「……どこに帰ればいいんだよ」

 

ポケットに両手を突っ込んだままジト目でそう呟く深雪。

そう、今彼女はどこに行けば自宅があるのかさえわかっていなかった。

 

「ったくヅラの奴か保険医の暴力教師に聞いておけばよかったぜ……」

「……深雪?」

「あん?」

 

ブツブツ言いながら適当に歩いていると背後から呼ばれた声にとっさに振り返る。

本来の自分の名前でないのにすっかり深雪という名前が自分の事を指していると自然にそう考えることに自覚しつつあるようだ。

 

「もう大丈夫なの? 安宿先生はちょっと挙動がおかしくなってたけど七草生徒会長に連れてかれたって言ってたけど」

(誰だこいつ、司波深雪の友達か?)

 

こちらに向かって心配そうに顔色を伺ってくるのは深雪と同じ一科生でクラスメイトの光井ほのかだった。深雪と彼女は友人関係なのだが今の深雪はそんな事知らないので小首を傾げるだけ。

 

「あ、あの突然倒れたから私心配だったんだ、保健室連れて行こうとしたら偶然安宿先生が深雪を担いで連れてってくれて……」

(あーコイツがあの先公が言ってた友人って奴か)

 

深雪の外見がどことなく変わっている事を感じながらどこかオドオドした態度で接してくるほのかを観察しながらようやく深雪は理解した。安宿先生が言っていた倒れた深雪を見て騒いでいた友人とは彼女の事だったのであろう。

 

「気にすんな、ちょっと腹を下して痛ぇからぶっ倒れただけだよ、全部出したらスッキリした」

「腹を下したから全部出してスッキリ!? え、それって……ていうか喋り方もおかしいし顔もどこかしまりがないというか……」

「イメチェンだ、他人との間に壁を作らず気楽に親しくなれるよう工夫してたらこうなった」

「そ、そうなんだ……なんか前よりずいぶんと砕けてる感じになったね」

 

適当なこと言って誤魔化す深雪をほのかは驚きつつも疑ってない様子で信じてしまう。

 

「でもいきなりイメチェンなんて、やっぱりお兄さんがいなくなって深雪もどうしていいのかわからないみたいだね……」

「ああいいっていいって、あんな兄貴、正直いなくなってせいせいしてるから」

「ええ!? あんなに親しかったお兄さんなのに!?」

「実は俺達仮面兄妹だったんだよ、学校では仲良い振りして家では口も利かねぇし目も合わせないから、顔でも合わせたらしょっちゅうツバ吹き合ってたし」

「そうだったんだ、あんなに仲良さそうに見えてたのに……」

 

心配させまいとしてるのか、勝手に知りもしない兄妹を捏造してでっち上げる深雪。

衝撃の事実に血の気が引いているほのかに彼女は話を続ける。

 

「今時兄妹なんてそんなモンだって、けどまああんなクソ兄貴でもいなくなるとそれはそれで困るんでね、仕方ねぇから探してやろうと思ってんだよ。勘違いすんなよな、別に喧嘩相手がいなくなって寂しいとか思ってないんだからね、いなくなられるとこっちが迷惑するから探してあげるんだから」

「ここにきてまさかのツンデレ!?」

 

散々言っておいてまさかの最後はデレ、今まで見せない表情をする彼女にほのかは困惑しながらも、とりあえず兄である達也を探す事を続けるという深雪に安堵する。

 

「良かった深雪がただのツンデレで、そうだよね、生徒会や授業も受けないでたった一人でお兄さんがどこにいるか必死で探し回ってたもんね……きっとそれで無理がたたって……」

「ったくよ、どこほっつき歩いてのかね、あのバカ兄貴は。見つけたら教えてくれや、ぶん殴りに行くから」

「そこは感動の再会で抱きしめ合うじゃダメなの!?」

「んな気持ち悪い事できる訳ねぇだろ……いつ!」

 

司波兄妹にどんな幻想抱いてんだこの小娘はと思いながら深雪がツッコんでいると突然横からこめかみに向かって何かを投げられたような衝撃が。思わず頭を下げると傍には丁度投げやすそうな石ころが転がっていた。

 

「これ投げられたのか? クソ! どこのどいつだコノヤロー!! 出てきやがれぶっ殺してやる!!」

「み、深雪そんな口調で大きい声出さないで、部活やってるみんながこの世の出来事ではないというモノと直面したかのような表情でこっち見てるから……」

「チッ! ん?」

 

物騒な事を平気で叫ぶ深雪を必死にほのかが止めると、彼女は舌打ちしてとりあえず大人しくなる。そしてふと投げられた石に何かが巻きつけられている事に気づきヒョイッと手に取った。

 

手に持ってみるとその石には小さく丸められた紙束が紐で括り付けられていた。

もしかしたら石を投げてきた者はコレを渡すために投げつけてきたのだろうか……

 

まだこめかみがズキズキする中、深雪は紐に括り付けられたその小さく丸められた紙束を手に取って開いてみた。

 

「……なんだコレ、住所か?」

 

そこに書かれていたのはある場所を特定している住所だった。この辺の地理にはてんで疎い深雪だが、これだけ詳しく書かれてば後は人に聞いていけば容易に辿り着けるであろう。

 

「しかし一体どこの……ん?」

 

一体誰がどういう目的でこんなものを投げつけてきたのか皆目検討つかないでいると、ふと紙束の裏面何か書かれていることに気づく。そこに書かれていたのは……

 

「“坂田銀時”さんへ、司波深雪の住む住所です」

「!」

 

その名が目に入った瞬間、すぐに深雪は辺りを必死に見渡してみる。

しかし傍には不安そうに見つめるほのかしかいない。

 

「どうかした深雪!?」

「いや、ちょっとな……」

「その石に括り付けられていた紙束に、何か書いてあったの?」

「ただのイタズラだ、見つけてとっ捕まえようとしたんだが逃げられちまったみたいだな」

 

そう誤魔化すと深雪はその紙束をポケットに仕舞う。

 

(……ヅラがこんな回りくどい事する必要ねぇし)

 

自分の正体を知る何者からのメッセージ。

まだ痛む箇所を手で押さえながら深雪は日が落ちかけている空を見上げる。

 

「一体どこの誰だ……まあいい」

 

ポツリと呟くも返事は返ってこない、しかし考えていても仕方ない。

深雪は足を前に出して進み始める。

 

「ご親切にどうも」

「え?」

 

いきなり礼を言って歩き始める深雪にほのかは不思議そうに見つめるがすぐに慌てて後を追う。

 

その礼が果たして本人に届いたのか、もしくはもう既にその人物は傍にいなかったのかは、他の誰も深雪さえも知る由はなかったのであった。

 



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第三訓 追跡&宿敵

日が昇り外が明るくなった頃、深雪は自宅にて朝食のトーストを食べながら死んだ目でテレビを見ていた。

 

『世界会議にて各国の代表達が暴れ回り多くの負傷者を出したこの事件、なぜこんな事が起こったのかは不明ですが世界会議が開く前の講堂に突如巨大な落雷が降ったとの情報が……』

「んだよ結野アナの天気予報とかやってねぇの?」

 

テレビに向かってブツブツ文句を垂れながら深雪はトーストを口に加えたまま制服のカーディガンを上から羽織る。

 

「あーあ、朝から結野アナの顔が見えないとか最悪だよこの世界、さっさと結野アナのいる世界に戻りてぇよ」

 

トースト口に加えたまま器用に喋りながら深雪は制服を着替え終えると座っていたソファの上から立ち上がる。

 

「しかし随分とまあ、いい家に住んでるわホント」

 

深雪が、というより深雪の中にいる男がこの家に初めて来たのは昨日の事であった。

何者かは不明だがここの住所が書かれた紙を手渡され、深雪は疑いもせずにこの家で一晩明かした。

見慣れない家具も多いし長居する気はないし、何より他人の家に勝手に上がりこんで泊まってる気分なので心中複雑な気持ちで辺りを見渡す。

 

「兄貴と二人暮らしで良かったよ、親でもいりゃあ余計面倒な事態になってたからな」

 

そんな事言いながら深雪がガチャっと自宅から出るドアを開ける。

そして外に出ると、ふとドアの傍にある物が立てかけてあるのを発見した。

 

「……」

 

深雪はただそれをジト目で見下ろす。

 

それは柄の部分に『洞爺湖』と彫られた木刀。

まだ坂田銀時であった時に使っていた愛刀と酷似していたモノであった。

「……ったく」

 

立てかけられたその木刀を深雪は手にとって見る。

さすがにいつも握ってる愛刀とは重さも肌触りも若干違う。どうやらこの世界で出来る限り自分の木刀を再現したつもりらしいがやはりあの愛刀に比べるとどこか違うのがよくわかる。

 

深雪はそれを家の前で適当に振ってみた後、肩に掛けて

 

「姿も見せずにコソコソとこんなモン贈りやがって……一体俺にどうしろってんだよ」

 

未だ見せないその正体に悪態を突きながら、深雪はそのまま情報収集の為に学校へと向かうのであった。

 

そして校門でその木刀を即風紀委員に取り上げられたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

「なに? 姿を見せぬ協力者だと?」

 

学校が始まってから数時間後、深雪は真由美と二人で食堂で昼食をとっていた。

他の人の目もある生徒会室ではなく、二人だけで話をする為に深雪が彼女を連れてきたのである。

 

「司波深雪の住所教えたり俺が使ってた木刀に出来るだけ似せたようなモンが家のドアに立てかけられていたりよ、そっちは昨日出会った風紀委員の女に奪われたけど。オメーはそんなの無かったのかよ」

 

深雪が今食べてるのはどんぶりサイズのご飯の上に宇治金時を乗せた炭水化物に炭水化物をトッピングさせたとんでもない化け物。

周りの生徒がそれを見て気分悪そうにしているのも知らずに深雪は食べながら向かいでそばを食べている真由美に尋ねる。

 

「俺の所には来てない、こうしてお前に言われて初めて知った」

「オメー嫌われてんじゃねぇの?」

「嫌われてないたまたまだ、たまたま。そういう人が嫌がる事を平然と言うな」

 

不機嫌そうにそう言いながら真由美はズルルっとそばを吸い込むように食べる。

 

「しかしお前の名を知っている所から察してその者は俺達と同じようにこちらの世界に来た人物と捉えるべきだろうな、心当たりはあるか銀時」

「検討もつかねぇな、コソコソと姿を隠して協力してくれる奴なんて、コソコソ隠れるストーカーなら候補が二人ほどいるけど、ゴリラとメス豚とか」

「うーむ、出来れば深雪殿の兄上殿を探す事にどうにか助力してもらえないだろうか……」

 

二人で口に物入れてクチャクチャ音を立てながら会話していると、二人のいるテーブルにふと一人の女子生徒が近づいてきた。

 

「生徒会室に来ないと思ったら二人してなに話してるんだ」

「おお、摩利殿」

「その殿って付けるのはいい加減止めてもらえないか……?」

 

やってきたのは昨日の生徒会の会議をなんとかまともにしようと一人で頑張っていた渡辺摩利。ちなみに今日の朝、深雪から木刀を取り上げたのも彼女である。

 

「しかし真由美のそばはともかく……司波が食べてるのは一体なんなんだ? 見てるだけで胸焼け起こしそうだ」

「決まってんだろ、宇治銀時丼だよ。欲しいって言ってもあげないからなー、ほれほれー」

「金を貰ってでも絶対にそんなの食いたくないし見せつけるように食べるな、羨ましくもなんともない、それより真由美」

「む?」

 

こちらにドヤ顔を浮かべながら宇治銀時丼などという奇怪な物を見せびらかすように食べる深雪を一蹴した後、摩利は真由美のほうに振り返る。

 

「中条が学校に来なくなってもう一週間になる、自宅に電話したが帰ってこずにフラフラ出歩いているらしい、警察に相談して捜索隊でも出してるが見つからないんだと」

「なんだと! あーちゃん殿が!?」

「もしかしたら行方不明になってる達也君と関連性があるかもな、今すぐ早急に調べて……」

「そんな悠長な事を言っている場合ではない!」

 

摩利の報告を聞いて真由美はダンっと力強くテーブルを叩きながら立ち上がる。

 

「大事な仲間である生徒会の一人が家にも帰らず外を出歩いているなど我ら生徒会にとって緊急事態だ!! あーちゃん殿は非行に走るような人間ではなかった! きっと彼女なりの理由があって我々の前に姿を現さないのだ!!」

「だからその理由を調べるんだろう」

「調べるだけで解決など出来ん! 我々生徒会が一丸となってあーちゃん殿の捜索を行い必ず見つけ出す! そうだろ銀……深雪殿!!」

 

うっかりいい間違えしそうになるがすぐに訂正して彼女の名を叫ぶ真由美。

だが深雪は宇治銀時丼を食べながらめんどくさそうに

 

「俺パス、飯食い終わったらこのまま学校サボって兄貴探しに行くから」

「貴様それでも侍かぁ!!」

「いや真由美、深雪は侍じゃないから」

 

あっけらかんとした感じで断る深雪に真由美がブチ切れるとすぐに摩利が彼女の肩を掴んで抑える。

 

「我々の仲間を一刻も早く救わなければいけないのだ! 同じ生徒会であり書記であるあーちゃん殿を見捨てるというのか!」

「いや俺そいつの事知らねぇし、誰だかしらねぇ相手をいきなり探せって方がおかしいだろ」

「薄情者め!! もう貴様など知らん! 例え俺一人でも探し見つけてやる!!」

「お、おい真由美!」

 

冷たく言い放つ深雪に真由美は怒り心頭で摩利の手を振り払ってどっか行ってしまう。

それを慌てて追おうとする摩利に深雪は

 

「ほっとけよ、生徒会のゴタゴタに風紀委員長様が首突っ込む事もあるめぇよ」

「……」

 

宇治銀時丼を食べ終えて彼女にそう言うと深雪はゆっくりと立ち上がる。

 

「それより俺の木刀返してくれない? あれ貰ったばかりだからロクに試し振りもしてねぇんだわ」

「……ほう」

 

さっさと返せとこちらに手を出す深雪をしばし眺めた後、摩利はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「生憎だが校内に無許可でなんらかの理由も無しに凶器に扱えるものを持ってくるのは重罪だ、だがもしなんのお咎めもなしに返して欲しいのであれば、それ相応の事をやってもらおうか」

「……は?」

 

よからぬ事を企んでいる顔だ。深雪は彼女にそんな事を思うと同時に嫌な予感を覚えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、この辺でこんな制服着た子見なかった?」

 

深雪は今、電車で1時間ぐらいかかる距離の所までやって来ていた。

エリートコース確定である第一高校の制服を着ている深雪がいるのは少々場違いな場所であり、治安もあまりよろしくない所であった。

 

噂ではマフィアや密売人などが巣窟としている程ブラックな繁華街らしいのだが

 

「ったく本当にこの辺にいるのかよ、なあ」

 

さっきから地道に聞き込み始めてから数十分、深雪はふと背後に立っている彼女の方に振り返った。

 

「授業サボって学校抜けだした不良風紀委員長殿」

「それはそっちもだろ不良生徒会書記殿」

 

皮肉に皮肉で返すと、摩利は深雪の方に近づく。

 

「中条がこの辺で見かけたという情報が風紀委員のデスクにあってな、一体誰がそんな事をしたのか知らないが、とにかくガセではないと願いつつ探してみる他ないだろう」

「ったくよぉ、こちとら兄貴探さないといけねぇってのに、どうして他の奴も探さなきゃならねぇんだよ」

「言っておくがしっかり契約したんだ、忘れたとは言わせないぞ」

「わーってるよ」

 

念を押して忠告してくる摩利に深雪がけだるそうに返事すると、腰に着けた革製のベルトに洞爺湖と彫られた木刀を差しているのが見えた。

 

「ったく人の私物奪っといてそれ返す代わりに手伝えとか、飛んだ性悪風紀委員長だぜ」

「そうか? あのタイミングで木刀を返せとか言う辺り、むしろ条件を提示して自分をアゴで使ってみろと私を試してるみたいだったぞ」

「……」

 

僅かに口元に意地悪そうに笑みを浮かべるのを深雪は無言で目を逸らしてバツの悪そうな顔を浮かべる。

 

「あんなバカ生徒会長の事なんかほっとけよ、最近イメチェンしてすっかり変わり果てちまったんだろ。さすがに愛想尽きるだろあんなんじゃ」

「お前が言うのか……? いやまあ確かに宇宙人に洗脳されたんじゃないかと思うぐらい性格が変わってしまったが」

 

小指で鼻をほじりながらけだるそうに尋ねて来る深雪に摩利はため息を突く。

 

「仲間の事を想い、仲間の為に怒り、仲間の為に助けようとする。どんなに性格が変わろうともそこだけは変わる事が無いアイツを、私は見捨てる事が出来ないだけだ」

「不器用な奴だねぇ」

 

摩利目掛けて小指を親指で弾きながら深雪は短く呟く。

 

「そんな性格じゃ野郎共より女にモテちまうタイプだろ、それじゃあ結婚できねぇよ、俺の知り合いにも似たような女共がいるし」

「いやこう見えて私には婚約者が……てか今ハナクソ飛ばしてきただろ、わかってたんだぞこっちは」

 

さり気なく汚いモンを飛ばしてきた事に気づいていた摩利は深雪の頭を軽く叩いていると曲がり角を曲がった所で数十人の人だかりが出来ているのを発見した。

 

「何事だ、行ってみるぞ司波」

「ええー、どうせ酔っ払い同士の喧嘩見てる野次馬だろー?」

 

あまり乗り気でない深雪を連れて摩利はすぐに現場に急行すると

その人だかりの中心には見知った顔が

 

「あーちゃん殿ぉ! ここにいるのはわかっている今すぐに出てこぉぉぉぉい!!!」

 

群衆の真ん中に立っている少女、七草真由美が手に持った拡声器を使ったまま声高々に叫んでいた。ただでさえ大きく叫んでいるのに拡声器のおかげで更にうるさい。

 

「大人しく投降して生徒会に戻って来ればいいだけの話!!! 素直に罪を認めるだけでみんな笑顔になれるんだ!!!」

 

周りの人だかりから「うるせぇぞクソアマ!」とか「近所迷惑なんだよ!!」だの「とっとと帰れ!!」と馬事雑言を投げられ空き缶やら紙くずも投げられる中、真由美はそれら全てを無視してそれらの罵声以上の声で叫んでいた。

 

「実家のおふくろさんも泣いてるぞ!! そんな親不孝をしたまま一生暗い堀で人生終えていいのかぁぁぁぁぁぁぁ!!! だから!! だから!!!」

 

少々涙声で擦れそうになるも真由美はスゥーと深呼吸して肺に息を溜めると喉の奥から今まで以上に大きな声で

 

 

 

 

 

「潔く腹を切って侍として死のうではないかぁぁぁぁぁ!! 安心しろ!! 介錯なら生徒会長であるこの俺が責任を持って!!! ぶべらッ!!」

「「なんでだよ!!!」」

 

最終的に切腹しろと叫ぶ真由美を群衆をかき分けてきた深雪と摩利が同時に飛び蹴りを顔面にかましながら叫んだ。

 

顔面に思いきり足で踏みつけられながら真由美は地面に大の字で倒れる。

 

「なんで仲間助けに来た奴が仲間殺しに来てんだよ!! どっちがやりてぇんだよお前!!!」

「何か後ろめたい事があるのなら、いっそ腹を切らせて見事な散り様にしてやろうと……」

「そんな救い方あるか!! お前が一生堀の中に入りたいのか!!!」

 

倒れながらも呻き声を漏らす真由美に深雪と摩利がツッコミを入れていると、真由美の傍にいた同じ生徒会の鈴音がすぐに彼女の手を取って起こす。

 

「大丈夫ですか会長」

「大事ない……すまんリンちゃん殿」

「おいコラ! そのバカ甘やかすんじゃねぇ鉄仮面娘!」

「傍にいるお前が止めてやらないとその内マジで大変な事やらかすぞそいつは!!」

 

深雪と摩利に同時に糾弾されながらも鈴音が涼しげな顔で

 

「そんな事よりもどうしてお二人がこんな所に、私達は中条さんらしき人をこちらで見かけたという情報を頼りに来たのですが」

「私達も中条をここで見かけたという情報があって来たんだ、やはり生徒会の方にも情報を渡していたのか、一体誰なんだ……」

「おお! 来てくれたのか銀……深雪殿! 俺は信じていたぞ!! ハッハッハ!!」

 

生徒会と風紀委員両方に情報を提供したという人物の存在に摩利が不審に思っている中、真由美の方は深雪に気づいて嬉しそうに歩み寄る。

 

「さすがは俺の友だ! 我らが手を結べば鬼に金棒! 共にあーちゃん殿をお助けに行くぞ!」

「いや俺仕方なく来ただけだから、つうかこっちに顔近付けんな気持ち悪ぃ」

 

今は女同士だが中身は男なので深雪は気色悪そうに真由美の顔を手で掴んで引き離す。

 

「それより服部君どうしたんだよ、まだ生徒会室の窓辺に立たせて雲眺めさせてるのか」

「お前ハンゾー君をなんだと思っているのだ、あーちゃん殿とハンゾー君は同学年であり長きに渡りお互いを高め合っているライバル同士、彼女の危機にハンゾーくんが動かない訳なかろう」

「じゃあお前等と一緒に」

「ああ、俺達と共にちゃんとここへ来ている。ほら、あそこで流れる雲を眺めている者がいるであろう」

 

そう言って真由美は近くに建ってある3階建ての雑居ビルの屋上を指差し

 

「アレがハンゾーくんだ」

「結局やってる事一緒じゃねぇか!!」

「生徒会長、どこの雲の中にも中条もラピュタも見当たりません……」

「諦めるなハンゾーくん! ネバーギブアップの精神だ! 諦めたらそこで試合終了だぞ!!」

「いや雲の中にいる訳ねぇだろうが! 試合すら始まってねぇよ! 始まる前に終了してるよお前等の頭が!!」

 

こちらに顔を下ろさず常に遠い目で空を眺めながら呟く生徒会副会長の服部に真由美が下から叫んでいる所を深雪が思いきり頭をぶっ叩いた。

 

「テメェ生徒会長だからってあんま服部君イジメんじゃねーぞ、あのツラよく見てみろ、どうみてもラピュタより魔女宅派だろうが、天空の城より空飛ぶ魔女っ子さん探させろやボケ」

「貴様にハンゾーくんの何がわかる、ハンゾーくんは間違いなくラピュタ派だ間違いない。あの年頃はパズーの生き方に憧れるものであろう」

「わかってねぇなお前。ああいう年頃だからこそウルスラさんみたいな大人の色気にコロッといっちまうんだよ。ウルスラさんのたまに見える胸の谷間でムラムラしちゃう年頃なんだよ服部君は」

「貴様こそわかっていないではないか、ああいう年頃はお色気より生き様に魅せられるものなのだ。ドーラ一家のコメディ溢れながらも決死の思いで戦いに赴くあのシーンで胸を熱くしない少年などいやしない」

「なんでお前等が服部の好きなジブリ映画がどれなのかって揉めているんだ!! どうでもいいだろうそんな事! なに二人して服部の事で熱くなってるんだ!!」

 

服部がどんなジブリ映画が好きかについて白熱した討論を交わす深雪と真由美に摩利はツッコンだ後ジト目で鈴音の方へ振り返り

 

「おいもうコイツ等ほっといてお前と私で探すぞ、これ以上コントに付き合ってたら学校サボってまで来た意味が無い」

「いえ私は会長のお傍に」

「甘やかすお前が傍にいては真由美も独り立ち出来ないだろう、ここは真由美の為にしばし距離を取るのも一つの心遣いだと思うぞ」

「やれやれ素直に私と二人っきりでいたいからと言えばいいのに、回りくどい人ですねホント、いいんですか? あなたには結婚を前提にお付き合いしてる方がいるのに」

「ホント生徒会には誰一人まともな奴がいないな、もう廃止にすればいいんじゃないかな……」

 

こちらを軽蔑の眼差しで見つめて来る鈴音に摩利がサラッと本音を言いながら彼女の腕を引っ張って半ば強引に連れて行く。

 

「鈴音は連れて行くぞバカコンビ、せいぜい服部と一緒に雲でも眺めて遊んでいろ」

「おい待てぇ! 俺の片腕であるリンちゃん殿を奪うとはどういうつもりだ摩利殿! さては裏路地に連れ込んでチョメチョメと!!」

「人聞きの悪い事言うな! 誰がするかそんな事!」

「アイツ絶対そっち系だと思ってたわー、なんか一緒にいる時も私の事チョーイヤらしい目で見てたしー。あんなのと付き合うのもう止めましょよ真由美ー」

「なんでコギャルみたいな喋り方!? 余計腹立つから止めろ!!」

 

こちらに向かって叫ぶ真由美の耳元に根も葉もない事を若い娘風に言う深雪に怒鳴りながら摩利は鈴音を連れてさっさと行ってしまった。

 

残されたバカコンビこと深雪と真由美はジッと顔を合わせる。

 

「で、どうすんだよ」

「どうするもこうするも二人であーちゃん殿を探すしかあるまい。ハンゾーくんは上空担当、俺達は陸を攻めるぞ」

「いや俺は服部君と同じ担当でいいわ、つうことでお前一人で陸を攻めろ」

「貴様如きがハンゾーくんと同じ担当になるなど笑わせるな、ハンゾーくんはいずれあーちゃん殿と共に肩を並べて我等の学校の重鎮となる存在だと俺は考えているのだ、貴様が傍にいてはハンゾーくんの邪魔になるだけだ」

「お前服部君を軽んじてるのか重んじてるのかどっちなんだよ!」

 

自分の提案をフンと鼻を鳴らして一蹴する真由美に深雪がツッコんだ後、彼女は「あ」とマヌケな声を漏らし

 

「そういや俺お前等が探してる奴のツラ知らねぇや、写真とか持ってねぇの」

「全くしょうがない奴だ、なら俺が一週間前に生徒会で撮った写真が携帯にあるから見て覚えろ」

「なんで異世界で写真撮ってんだよお前、帰る気あんのか本当に……」

 

見知らぬ世界で見知らぬ人達と写真を撮るとかどういう神経してるんだと思いながら、深雪は真由美が取り出した携帯の画面に映った写真を覗く。

 

「この一番左端で緊張したように縮こまっている気弱そうな女の子があーちゃん殿だ」

「ちっさ、こんな物騒な所を出入りするようなガキには見えねぇぞ」

「だからこそ心配なのだ」

「腹掻っ捌こうとしたクセに何言ってんだお前」

 

初めて見た深雪はその中学生にも見えるような小動物っぽいタイプの女の子に目を細める。

隣で見事に直角に立っている長身の鈴音のおかげで、端に立っている中条あずさは余計小さく見えた。

そしてふと深雪は真由美が手に持っている携帯写真の真ん中に映っている女子生徒に気づいた。

 

「司波深雪……」

「そういえばコレを撮ったのはお前が彼女と入れ替わる一週間前ほどの事であったな」

「なるほどね、コイツが正真正銘のこの身体の持ち主か、冴えねぇツラだな」

「兄上殿がいなくなって随分と経っている、さすがに顔つきもしおらしくなるだろ」

 

写真の真ん中に映るのはこの身体の本当の持ち主である司波深雪本人であった。

一度保健室で写真を見せられた事があったがその写真よりも彼女はどこか覇気がないように見えた。

彼女の顔をジーッと観察した後「あれ?」とふと何かに気づいた。

 

「そういやお前どこに映ってんの?」

「何を言っているよく見ろ、深雪殿の足元だ」

「は? なんで足元を……」

 

言われるがまま彼女は司波深雪の足元に目をやると

 

思いきり彼女に右足で踏みつけられている真由美がいた。

 

「って踏まれてんじゃねぇか! 何!? 何があったのお前!?」

「いや俺が深雪殿に写真を撮ろうとせがんでいたらいつの間にかこんな状態に」

「これ絶対お前があまりにもしつこいからムカついてたんだろ! いいのコレ! 深雪さん生徒会長に下剋上しちゃってるよ!!」

「他の者とは仲良くやれていたのだが、どうも深雪殿だけは俺の前に壁を作っていたな。踏まれたり氷漬けにされそうになったり散々だった、全く年頃の娘はわからん」

「いやお前みたいな不審者相手ならこんぐらいの態度が普通だろ……」

 

自分が桂の身体に乗り移った真由美を踏みつけてた様に、真由美の身体に乗り移った桂もまた司波深雪に踏まれていたらしい。

変な偶然もあるモンだと思いながら真由美の携帯を返す深雪。

 

「まあいいや、こんなガキなんざどうでもいいし、ただ互いの体借りてるだけの関係だし」

「それはそれで凄い関係だと思うのだが……とにかく深雪殿の事よりもまずはあーちゃん殿を探すぞ」

「わーってるよ、けどこんだけちっちぇガキがこんな広くて治安の悪い街の一体どこに……」

 

とにかく中条あずさを探す事を開始する深雪と真由美だがまずどこから探していけばいいのかわからない、ただでさえこの世界の地理には疎いというのに……

 

すると深雪がしかめっ面でキョロキョロと辺りを見渡していると

 

「ん?」

「どうした銀時」

 

ふと靴の踵に固いものがコツンと当たる感覚が

すぐ様深雪が振り返ると足元には

 

「石ころ……しかもまた……」

 

踵に当たったのがこれだと瞬時に理解しながら深雪はそれを手に取るとまたもや……。

 

「小さく丸めた紙束が付いてやがる……おいヅラ、俺の背後から石転がしてきた来た奴見たか」

「いやお前と同じ方向を見ていたから気付けなかった、まさかそれはお前が言っていた……」

「ああ、今度は頭に投げられなくて良かったぜ」

 

わかってるかのように深雪は石に巻きつけられた紙束を手に取って開いてみると。

 

「「ここの住所にお二方で行ってみてください、彼女はそこにいます」だとよ」

「あからさまな罠にも感じるが。銀時、コレが我等に協力している姿なき存在の者だとしたら」

「恐らくコイツを書いた奴は俺達の行動や目的までも全て把握してやがる、どこのどいつかは知らねぇが只者じゃねぇのは確かだ」

「乗ってみるのか、銀時」

「敷かれたレールの上を歩くってのは気に食わねぇが、こんな面倒事さっさと終わらせてぇしな」

 

深雪が紙を裏返すとやはり『銀時さんへ』と書かれていた。彼女はまたそれをポケットにしまい込み、書かれていた住所の方へ歩き出す。

 

「上等だ、どこで見ているか知らねぇがテメェの思惑通り動いてやるよ」

 

その先に何が出ようが知った事かという感じで、深雪は真由美と共に進んで行くのであった。

 

 

 

 

 

 

進み出してからしばらくして、二人はやっと書かれていた住所の場所に辿り着いた。

 

「ここは……」

「どうやら空き家らしいな」

 

街の中心から少しズレた場所にあったみずぼらしい空き家。

ひどくオンボロでとても人が住めるような場所には見えないがもし本当にここにいるのであれば

 

「よし、中に入るぞ銀時」

「待てヅラ」

「って! 何をする!」

 

今すぐにでも入ろうとする真由美の肩を掴んで、深雪は傍にあったゴミ箱の影に潜む様にしゃがみ込む。

 

「お客さんだ」

「なに?」

 

ゴミ箱の裏に隠れながら二人が顔を覗かせていると、空き家の前に数人の人だかりが

それも皆黒いスーツを着て、拳銃やら刃物やらを手に所持した屈強な男共ばかりである。

 

「アレは……」

「カタギじゃねぇのは確かだ、みんなでお家に集まって仲良くパーティする柄でもねぇ」

「あの様な者がどうしてあーちゃん殿がいるかもしれない空き家の前に……」

 

ますます彼女の事が心配になって来ると、突如屈強な男達の一人がその空き家のドアを乱暴に蹴破る。

 

「なに! 行くぞ銀時!」

「やれやれ……異世界でこれ以上面倒事なんかごめんこうむると思ってたのに」

 

ゾロゾロと中へと入っていく男達を見て、深雪と真由美は同時に物陰から現れた。

 

「銀時! 今の俺達の身体じゃ満足に戦えん事を忘れるな!」

「わーってるよ、その為にあの風紀委員長様から取り返してきたんだ」

 

ダッと駆けながら深雪は腰のベルトに差す洞爺湖と彫られた木刀を抜く。

 

「こんな細っこい身体でも使い方と工夫によっちゃなんとかなるんだよ」

 

そう言いながら家の前に辿り着くと、既にあのスーツ姿の男達が全員入り込んだドアから入っていく。

 

「でもさすがにあの数全員相手だとキツいかもな……ガキ連れてすぐ逃げるぐらいなら出来るが。ヅラ、テメェは家の前見張ってろ」

「バカを言うな、お前だけに行かせるか。それに俺には”秘策”がある」

「?」

 

どう見ても丸腰にしか見えない真由美に一体どんな秘策があるのかと尋ねたい所だがそんな場合ではない。

深雪を木刀を肩に担いだまま彼女に背後を任せて中に突っ込んだ。

 

「ああ? どういう事だ? あんな数の野郎共が入ってったのに妙に静か……ん?」

 

上の方から聞こえたのはバタン!という何かが倒れた音であろう、深雪はすぐに2階へと上がる階段を駆け昇っていく。

 

「な!」

 

2階に辿り着いた深雪が見たものは、とても信じられない光景であった。

 

 

先程この家に上がり込んでいたスーツ姿の男達が全員苦悶の表情を浮かべ倒れていたのだ。

僅かに息をしている所から察するに死んではいないみたいだが……

 

辺りを警戒するように木刀を構えながら深雪は奥へと進んで行く。

 

「……これだけの数を一瞬で仕留めるたぁ、やった奴は複数か、それともたった一人の化け物か」

 

倒れている確認しつつ、一体奥には何がいるのかと徐々に足取りを遅くしてしっかり前を見据えながら歩いていく。

すると一番奥の部屋の一室でドゴォ!っと鈍い音が

 

「……ったく、何度ぶちのめされれば気が済むんだオメェ等」

 

奥の部屋から聞こえる声に耳を傾けながら深雪は抜き足でその部屋の方に歩み寄って行く。

 

「オメェ等がどういう目的で俺を追うのかしらねぇが、なら俺は目の前に転がって来た石ころを蹴飛ばすだけだ」

 

バレぬ様に注意を払いながら深雪はそっとその部屋の中を覗く為にゆっくりと顔を出すと……

 

「だがもしこんな胸糞悪い身体になった原因がテメェ等にあるんなら、俺はすぐにでもテメェ等の組織乗り込んで皆殺しにしてやるよ……」

 

(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??)

 

目を思いきり見開いて深雪は心の中で思いきり叫ぶ。

 

あの写真で見た小動物の様な気配を持ち、オドオドしてそうな小さな少女である中条あずさが

 

自分よりずっと背の高くガタイもいい男の首根っこを鷲掴みにしたまま、口を大きく横に開いて楽しそうにどす黒い笑みを浮かべているではないか。

 

(どういう事これぇぇぇぇぇ!? もしかしてこれ全部あの子がやったの!? あの強そうな野郎共を全員!? ていうか全然見た目違うし! ホント何があったんだあのガキ!! 夏休み前と夏休み後の女子は丸っきり別人になるとは聞くけどさ!)

「口が利けねぇのかテメェ等? おら」

「ぐふっ! 我等を倒してもいずれ本隊が……」

「なんだ喋れるじゃねぇか……」

(いや別人過ぎるだろ! あんな事言いながらオッサンの頭床に叩きつけるとか夏休みどころか学校生活の三年間ずっと少年院で過ごしてましたぐらいの化けっぷりじゃねぇか!!)

 

最後の一人である男を顔面から床に思いきり叩きつけるその姿を見て深雪が震えながら動けないでいると、中条あずさは制服の裏から何かを取り出しながら

 

「そこに隠れてる奴も、俺の首狙いに来た奴か」

「!」

 

バレていた、こちらを振り向かずともまだ笑みを浮かべている彼女を前に深雪はビビりながらもそーっと姿を現して部屋に入って来る。

 

「お、お邪魔しまーす……あのー覚えてます? 前に生徒会で一緒だった司波深雪ってモンですけど、ちょっとお話いいですかー……?」

「知らねぇよテメェみてぇなガキなんざ、消えろ」

(いやお前もガキだろ!)

 

頬を引きつりつつなんとか一歩前に出る深雪に中条あずさは傍にあったイスに座って観察するように目を細める。

そして制服から取り出していたある物を口に咥え

 

「俺に取り入ろうとしてんなら諦めなここじゃあ俺にとって全てが敵だ。目の前にある物は全て叩き潰す、今こうしてマヌケ面しているテメェもな」

(キセル!? この子キセルなんか吸っちゃってるよ!? 絵面的にすげぇヤバい事になってるんだけど!?)

 

彼女が平然と加えているキセルを凝視しながら深雪が固まっていると、中条あずさはスゥーと口から煙を吐き

 

 

 

 

 

 

 

「”俺はただ全て壊すだけだ”」

「……え?」

 

その言葉なんかどっかで聞いたような、すると深雪は今までの彼女の変貌っぷりや口調を思い出しふと”ある男”が頭を突然余切った。

 

(い、いやまさか……まさかそんな事ある訳……いやいやアイツに限ってそれはないって……だってもしそうだったらアイツも俺達と同じ……)

 

深雪はふと試しに彼女を”ある男”と重ねる様に見つめると……

 

(ひょっとして……)

 

 

 

 

 

「この世界を、俺を”こんな体にした”腐り切ったこの世界をな……!」

(高杉くぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!?)

 

血走った目をしながら歪な笑みを浮かべ完全に怒り狂っている様子で中条あずさはキセルを持った手を震わせる。

 

彼女の中にいるのは高杉晋助。

かつては銀時と桂と同じ学び舎で一人の師の下で稽古や学を学び

二人と共に攘夷戦争に参加し鬼兵隊と言う組織の隊長として大活躍した人物。

その後は袂を分かって銀時と桂とは敵対する事になったのだが

 

よもやこんな事で宿命の再会を果たしてしまうとは……

 

歪な物語は更に酷く歪み始めるのであった。

 

 

 

 



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第四訓 衝突&魔法

よもやこんな所でこんなタイミングで、こんな身体になってしまっている所で彼と出会ってしまうとは……

 

高杉晋助

坂田銀時と桂小太郎にとっては因縁深い相手であり

自ら隊長として率いた鬼兵隊を導いて攘夷戦争の末期を潜り抜けた歴戦の猛者の一人。

そして今もなお攘夷志士として幕府の裏から暗躍し国家どころか世界さえも滅ぼそうと企む超危険人物。

 

その高杉が今目の前で……

 

「なに目ん玉見開いて固まってやがる、斬ってくれって事か?」

(ほんわかロリ系のJKになってるぅぅぅぅぅ!? 見た目と声のギャップの差が凄まじいんだけどぉぉぉぉぉ!?)

 

自分も清楚系おしとやかJKになっている事を自覚していない銀時こと司波深雪は、安っぽい椅子に座って優雅にキセルを吸う高杉こと中条あずさに驚きを隠せないでいた。

 

「いやいやこれは絶対無いって……だってあのロクにボケもしないお前がこんな文字通り身体を張った大ボケかますなんて信じられないよ、嘘だと言ってよホント」

「……あん?」

 

高杉君と言われて片目を吊り上げてこちらを睨むあずさに深雪はハハハと乾いた笑い声を上げて。

 

「お前そんなキャラじゃなかった筈だろ。いずれは銀さんと決着つけるライバルキャラだろ、こんな所でなにそんなロリ系のガキになってこっちの世界もぶっ壊そうとしてんの?」

「……お前」

「絶対そんな柄じゃないからねお前、いつもの厨二病全開モードはいいけどその見た目じゃ怖さもクソもねぇから、背伸びしたガキが必死になって覚えたばかりのヤンキーキャラ演じてるようにしか見えないから」

「……」

 

彼女の話を聞きながらあずさは椅子からユラリと立ち上がると深雪の方へ鋭い眼光を向けながら近づいていく。

 

「そのいちいち人の感情を逆撫でするムカつく喋り方……まさかテメェ、“アイツ”か」

 

深雪のほうへ近づく途中で倒したばかりの男達が手に持っていた刀を拝借し、あずさはそれを肩に掛けながら彼女を睨みつける。

 

「よりにもよってこんな時に互いに一番会いたくねぇ奴にでくわすとはな、テメェもそう思うだろ……」

 

そこで言葉を区切ると突如、あずさは床を蹴って一気に深雪との距離を詰めて右手に持った刀を彼女めがけて振り上げた。

 

「銀時ィィィィィィ!!!」

「高杉ィィィィィィ!!!」

 

互いの本当の名を叫びながら飛び掛ったあずさは刀を振り下ろし深雪は用意していた木刀を頭上に掲げて正面から受け切り激しい衝突音が鳴り響く。

 

「しばらく見ねぇ内に随分と小綺麗なツラになったじゃねぇか銀時、前のバカ面の面影は残ってるみてぇだがな!」

「そっちこそしばらく見ねぇ内に随分と背が縮んでんじゃねぇか! ただでさえ低かった背が更に低くなった上に童顔になるとかオメェどんだけ俺を笑わせたいんだよ!!」

 

互いに得物で相手の得物を弾き合いながらあずさと深雪は皮肉を言い合う。

そして木刀と刀を交差させ激しい鍔迫り合いをしながら深雪はあずさの方へ顔を上げ

 

「まさかテメェまでこっちの世界に来てやがってたとはな高杉……その見た目から察するにお前もここに来たのは不本意だって事か」

「だからどうした」

「黒幕がテメェじゃない事がわかっただけでも安心したぜ!」

 

鍔迫り合いの中、叫びながらあずさの足を自らの足で水平に払う深雪。

体勢をが崩れたあずさはその場で転びそうになりながらもなお目の前にいる敵を見据えて

 

「チッ!」

 

瞬時に右手から左手に刀を移し換え、そのまま右手で床に着くと、その右手を軸にして左手に持った刀に力をこめて横薙ぎに払う。

 

「くッ!」

 

転びかけながらも刀を振りかざしてきたあずさに深雪は一瞬面食らってしまい木刀で防ぐがタイミングが遅く後ろに弾かれてしまう。

 

「身体の使い方がなっちゃいねぇな、テメェこの世界に来てロクに戦ってもねぇだろ」

「悪いが誰かさんと違って人から借りたモンを手荒に扱う様な真似したくねぇんでね……」

「へ、どの口がほざいてやがる」

 

小さくなってより身軽になった身体を利用してあずさはすぐに両足で地面に着いて立ち上がった。

 

「本来の身体じゃここまで差は開かなかった、恨むんならロクに動けねぇその身体の持ち主を恨むんだな」

「テメェこそ何ほざいてやがる、終わってねぇのになに勝ったと勘違いしてんだコノヤロー。言っておくが今の俺はテメェより……」

 

こちらに刀を構えるあずさに深雪はカッと目を見開いて飛びかかり

 

「おっぱいデケェんだぞコラァァァァァ!!!」

 

木刀を両手に持って豪快に振り下ろす、しかしそれをあずさは読んでたかのように

 

「関係ねぇだろ」

「!」

 

小さな身体を少しだけズラして深雪の一撃を数センチの隙間しかない程の僅かな差で難なく避けてしまう。そして左手に持った刀を回転させて柄の方を前にすると

 

「うぐッ!」

 

その柄で思い切り深雪の腹を突き刺すかのように突きを入れた。

刃の方でなくてもその威力と衝撃は深雪に苦悶の表情を浮かばせながら後ろに吹っ飛ばすには十分だった。

 

「ちょ! ちょっとタンマ!」

 

地面に倒れた深雪は突かれた箇所を抑えながら半身を起こすも

 

「テメェの負けだ銀時、互いに本当の身体じゃねぇから特別に勝敗記録には加えねぇが」

 

スッと今度は柄でなく刃の方を目と鼻の先に突きつけるあずさ。

汗ばんだ表情で深雪が顔を上げるとこちらに刀を突きつけたままニヤリと笑う彼女の姿が

 

「テメェをたたっ斬る事に変わりはねぇ」

 

そう言ってあずさは右手に戻した刀をこちらに向けて垂直に振り上げる。

 

「その身体で死んじまったら、あの世で先生に笑われるかもな」

「いやホントマジで笑われそうだから止めてくんない……」

 

勝利を悟って笑みを浮かべながらこちらに刀を振り下ろそうとしているあずさに深雪が奥歯を噛み締め、木刀を掴んでいる力の入らない手にありったけの力を注ぎ込もうとした

 

しかしその時

 

「!」

 

突如全く予想だにしなかった現象が起きた。

深雪が力をこめようとした右手を中心に冷たい感覚が走る

思わず彼女は自分の右手の方へ振り向くと、ピキピキと音を立てて床を薄い氷が張られ始めていたのだ。

 

(コイツは……!)

 

周りに立ちこみ始める冷気、自分でも驚いている深雪を前にあずさは刀を構えるのを止めてすぐに後ろに跳んで下がる。

 

「思わぬ奥の手を使ってくるじゃねぇか……」

 

本能的に深雪が放っている冷気に何か危険な匂いを感じたのであろう。

 

「どこで覚えたそんなモン、それともハナッからそのガキの身体に内蔵されていたものか」

「いや俺も知らねぇんだけど……だがコイツはまさか」

 

辺りを自分の意思関係なく徐々に凍らせ始めていくこの冷気に深雪自身が混乱していると

背後からスッと人影が現れ部屋の中に入ってきた。

 

「それが“魔法”というこの世界に存在する非化学現象の一つだ」

「ヅラ!」

「!」

 

突如やってきたのはヅラこと桂小太郎、の魂を宿している七草真由美だった。

ずっと姿を見せないで潜んでいたのかこのタイミングで遂に現れ深雪も、そしてあずさでさえ目を見開く。

 

「銀時、深雪殿は元々の才能に加え非常に高い魔法干渉力がある、使おうともせずとも咄嗟の事でに回りに冷気を放つ程にな」

「お前なんでそんなに詳しく……」

「俺もしょっちゅう被害に遭ってた」

「あ、やっぱ。そうだと思ってたわ」

「今お前が起こしている冷却魔法はお前が命の危機に晒され、本能的に身体が自動的に暴走を引き起こしたのであろう。今はそれだけ頭に入れていろ」

 

冷静に分析しながら真由美は深雪の方へは振り向かずにただまっすぐに目の前にいるあずさを見据える。

 

「久しぶりだなあーちゃん殿、いや高杉」

「クックック、おいおいまさかテメェまでこっち来てやがったのかよヅラ……」

「ヅラじゃない桂だ」

 

現れた真由美がかつての男の面影と完全に一致し嘲笑うかのようにあずさは口元を歪ませた。

 

「かつて同じ学び舎で育った俺達三人が揃いも揃ってこんな姿になっているとはな」

「きっと先生が聞けば腹を抱えて笑うであろうな、だがこれしきの事など些細な事だ」

 

そう言って真由美はスッと腕を掲げて数メートル先に立っているあずさに突き付ける。

 

「高杉、それは俺がこの世界で出来た仲間の身体だ。その身体を粗末にするのであれば俺は絶対に貴様を許さん」

「許さなくて結構、丸腰の状態で俺をどうするつもりだ」

「知れたこと、この世界で出来た仲間を」

 

突きつけた腕を少しも動かさずに静かに答え

 

「この世界の“力”で救う」

 

真由美がそう言い放つと同時に、彼女の腕にはめられたブレスレットが僅かに光る。

そして

 

「!」

 

突如足元に何かをぶつけられた痛みを覚えてあずさフラッとよろめく、そしてその隙を突いて

 

バシュ!っと音を立ててよろめき倒れようとしている彼女の後頭部に氷の小さな塊が命中した。

まるで組み立てられたスイッチ式の装置が真由美が持つブレスレットが起動となって動いたかのように。

 

声も出さずにただ無表情であずさは

 

(……霜の弾丸……?)

 

自分の足首と後頭部に着弾した物が床に落ちてシューと音と共に冷気を放っているのを確認した後バタリとうつ伏せで倒れた。

 

動かなくなった彼女を確認すると、真由美は腕を静かに下ろす。

 

「魔弾の射手……あーちゃん殿の身体ゆえになるべく手荒な真似はしたくなかったが、あの高杉が相手となるとこうするしかなかった」

 

倒れたあずさを気遣いながら真由美は彼女の手を取って背中に背負って立ち上がると、呆然としながらこっちを眺めて座っている深雪の方へ振り返る。

 

「帰るぞ銀時」

「ハハ……」

 

目の前で初めてみた魔法、ましてや自分と同じ世界の住人である筈の者が当たり前の様にそれを行ったのを目撃して。

 

深雪はただ頬を引きつらして苦笑するしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

あずさを背負った真由美と共に、深雪は空き家を後にした。家に残っているあずさにやられた男達の事は生きている事を確認しただけでそのまま放置する事に

 

「それで、お前は俺に聞きたい事があるのではないのか」

「……まず一つ教えろ」

 

街中を歩きながら真由美はずっとこちらに死んだ目を向けている深雪に話しかけると、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「魔法って存在がこの世界にあるのはテメェの身体になってる生徒会長様からは聞いていた、けど一体何なんだその魔法って、レベルアップして呪文覚えてMP消費すれば使えるモンじゃねぇのか」

「魔法そのものを説明するとなると相当長くなるぞ、とてもリンちゃん殿達と合流するまでの間で話しきれることではない、だから省略して必要な事だけを教えておく」

 

彼女の問いに真由美はあずさを背負ったまま静かに答え始めた。

 

「まずこの世界の魔法とは現実世界の事象を改変する技術の事だ、そして現実世界の『事象に付随する情報体』これは“エイドス”と呼ばれている。魔法を扱う魔法師はお前が考えてるような手から炎を出して燃やすなどという事ではなく、構成した「魔法式」で「エイドス」に干渉し、一時的に現実世界の情報を書き換えるのだ」

「……」

 

無言で聞いている深雪に真由美は説明を続ける。

つまり現実に手から炎を創り出すのではなく、魔法式を使って現実世界そのもの情報を一時的な改竄を行い、そこから初めて炎が指定した座標に精製されるという事だ。

 

「この世界で魔法を使うのはCADという魔法を発動するための機動式を記憶させた魔法の発動を簡略し高速化させるデバイスを持つことが主流だ」

 

そう言って真由美は深雪に背を向けてあずさを背負ったまま右腕にはめられたブレスレットを見せる。恐らくそれがCADなのであろう。

 

「CADに体内のサイオンを送り込み起動式を展開させると起動式は使用者の体内に取り込まれ、魔法師の内部世界で魔法式を組み立て現実世界へ投射させる、これがこの世界で魔法を扱う為の一連の流れだ、わかったか銀時」

 

簡単な説明を終えて真由美が深雪の方へ振り返ると

 

「ZZZZ……」

「おい貴様ぁ! なに器用に歩きながら寝ておるのだぁ!」

 

目をつぶって鼻からちょうちん膨らまし、開いた口からよだれをたらしながらもも歩くのは止めないという奇妙な寝方をしている深雪に真由美が一喝する。

 

すると深雪はパチッと目を覚まし

 

「ああ悪ぃ悪ぃ、つい寝ちまった、でなんだっけ? 遊び人が賢者になるにはまずレベル20になってダーマの神殿行って転職すればいいって所まで覚えてんだけど」

「俺がいつドラクエⅢの話をしていたぁ!? さては人に説明させて起きながらずっと寝ていたのだな!」

 

瞼をこすった後、口元にたれているよだれを袖で拭きながら深雪はけだるそうに

 

「だってお前の話つまんねぇだもん、何クソ真面目に説明してるんだよ」

「この世界では常識の知識だぞ! こんな事で退屈になって寝ていてはこの先この世界で生き残れんぞ貴様!」

「いや生き残るつもりねぇから、俺さっさと帰りてぇし」

 

怒っている真由美に深雪は首をコキコキ鳴らしながらめんどくさそうに返事する。

 

「つうかお前よくそんなこの世界の事覚えたな、それで魔法も使えるようになったのか」

「1ヶ月いれば学ぶ時間や知識も増える、自分なりになんとか物にしようとずっとだ修練を行っていたのだ、魔法専門科の学校でロクに魔法も使えない生徒会長などでは真由美殿が築き上げた地位に傷を付けてしまうのでな」

「お前バカの癖にそういう所だけはホント優等生キャラだよな」

 

自分の意思関係無くいきなり飛ばされた世界で、その世界の知識を覚え技術を学ぶ。

そういうなんでもかんでも吸収しようとするスポンジの様な部分がこの者にはあったのだと思い出し、深雪は呆れたようにため息を突く。

 

「俺はごめんだね、そんなめんどくせぇ事。こんなガキの地位が没落しようが全然構わねぇし、なんなら底辺にまで突き落としてやろうかと思ってるよ、俺の身体奪いやがって」

「お前は本当に大人気ないな……深雪殿の身体で魔法を会得すれば先程お前が無意識に暴走させた冷気魔法を操る事だって出来るのだぞ」

「かめはめ波撃てるんなら全力で練習すっけどヒャダルコ撃つ為に修行するとかアホらしいわ」

 

真由美の提案を一蹴すると深雪は「そういえば」と思い出したかのように彼女の方へ顔を上げる。

 

「お前が高杉にやった魔法もお前が覚えたモンなの?」

「いやあの魔法は元々真由美殿が会得していた魔法を再現しようとしてるに過ぎない紛い物だ、彼女の実家の七草家は有名な一門らしいからな、彼女自身相当優秀な魔法師だったおかげで俺自身相当助けられている、それでもやはり本来の彼女の実力には遠く及ばんだろうがな」

「要するにセレブの娘の身体をまさぐりながら色々発射してるって訳か」

「その言い方は止めろ」

 

誤解されそうな要約の仕方に真由美が深雪に短く呟きながら歩いていると……

 

「まさかお前が先に見つけるとはな真由美……」

 

二人の前方の曲がり角から腕を組みながら現れたのは風紀委員長の渡辺摩利。

 

「鈴音がお前から見つけたと連絡があったと聞いた時はてっきりその辺のホームレスを適当に見繕って連れてくるのかと予想していたのだが」

「ほう、その手もあったか」

「なに感心したように頷いているんだ。もしそんな真似したら絶交だからな」

 

なるほどと言った感じで縦に頷く真由美にすかさず摩利がツッコミを入れた後、ふと腹を抑えている深雪に気づく。

 

「どうした司波、腹でも痛いのか」

「そこのチビ助に腹を刀の柄で突かれたんだよ」

「……すまない言ってる意味がわからないのだが」

「摩利殿、落ち着いて聞いてほしい」

 

真由美が背負っているあずさを指差していきなりとんでもない事を言う深雪に摩利が思考を一瞬停止させると代わりに真由美が答えた。

 

「実は今のあーちゃん殿は目の前にある物はなんでも壊し尽くそうとする哀しいモンスターとなってしまったのだ」

「言ってる意味がますますわからなくなったんだが!?」

「だが俺が責任を持って彼女をかつての姿を取り戻してみせる、それまで俺に彼女を預からせてくれ」

「まあ元々生徒会の人間だから生徒会長の真由美に渡すのが適任だからいいんじゃないか……」

 

深々と頭を下げる彼女に摩利は頬を掻きながら彼女の頼みを承諾する。

 

「それはそうとしてまだ鈴音の奴は来ていないのか?」

「どういう事だそれは、二人であーちゃん殿の捜索をしていたのであろう?」

「いやそれが私が見てない隙にいつの間にかどっか行ってしまってな……」

「まさか摩利殿から逃げ出したのか? さては嫌がる彼女を無理矢理路地裏に連れてチョメチョメしようと……」

「だから違うわ!」

 

どうやら鈴音は摩利を置いてどこかへ行ってしまっていたようだ。

しかし摩利が真由美に変な誤解を受けている所でフラッと

 

「ご無事でしたか会長」

「おお、噂をすればリンちゃん殿、大丈夫か摩利殿にチョメチョメされていないか?」

「してないって言ってるだろ! どうして私をそんなふしだらな女にさせたいんだお前は!!」

「ご心配なく、襲われそうになった所を上手く逃げ切ってやりました。私の貞操は無事です」

「お前も嘘を吐くな! 誰がお前なんか襲うか!! 別の意味で襲ってやろうか!!」

 

親指を立てて真由美に生還の意を伝える鈴音に摩利が中指を立てていると

 

「おい生徒会長さんよ」

 

けだるそうに深雪が真由美を呼ぶ。

 

「学校戻る前にそのチビ助なんとかしねぇとマズイんじゃねぇか? また暴れられたら面倒だぞ」

「わかっている、すまぬが二人共」

 

彼女に頷くと真由美は今にも取っ組み合いを始めそうな鈴音と摩利に話しかける。

 

「俺と深雪殿はあーちゃん殿を説得するためにしばしここにいる事にする。二人には悪いのでこのまままっすぐ帰ってくれ」

「別に説得するなら学校に戻ってからでいいんじゃないか?」

「何いってんだオメー、こいつこのまま学校にでも連れ帰ってみろ。世界ぶっ壊したい病が発症して学校爆発するぞ」

「本当に何があったんだ中条!?」

 

深雪が余計な事を言うのでますますあずさの事が心配になる摩利、だがそんな彼女の肩を後ろから鈴音が掴み

 

「では会長もああ言っておられるので私達は帰りましょう」

「いやこのままこの二人に任せるのもな……」

「あなたの事ですから気絶している中条さんをチョメろうとしかねないので」

「チョメろうって何だ!? 変に略すな!」

 

変な理由で自分を連れ帰ろうとする鈴音にツッコミながらも「うーん……」とまだ腑に落ちてない様子だが摩利は大人しく従う事に。

そして去り際に鈴音は真由美と深雪の方へ振り返り

 

「では生徒会長に深雪さん、彼女をよろしくお願いします」

 

相も変わらず無表情でそういうと摩利と共に最寄の駅場へと行ってしまった。

 

深雪とあずさを背負った真由美はしばらく無言で彼女達を見つめた後。

 

「もう俺の背中から下りてもいいぞ、高杉」

「……そいつは良かった」

 

振り返らずに真由美がそう呟くと背負っていたあずさが顔を上げる。

 

「これ以上テメェ等のままごと見せられてたら頭おかしくなっちまう所だった」

「ままごとではない、あの者達とは世界は違えど俺達の仲間だ」

 

嘘偽りなく正直に答える真由美を鼻で笑いながら彼女の背中から降りるあずさ。

 

「かつては攘夷志士として名を馳せたあの桂小太郎が小娘共を仲間とのたまうとは滑稽なもんだ」

「何が言いたい」

「ヅラ、オメェ銀時と同じでしばらく見ねぇ内に随分と腑抜けちまったみてぇだな」

 

制服のポケットに両手を突っ込みながらあずさは真由美に笑みを浮かべる。

 

「刀一本で国を護ろうとしていた侍が、今では異世界の力にすがってでも生きているなんざ笑い話もいいとこだ」

「テメェだって自分のツラを鏡で見てみろよ、もっと笑えるから」

「あ?」

 

真由美の前に遮る様に立ち、小指で耳をほじりながら深雪があずさの真正面に現れた。

 

「チビが更にチビになって今どんな気分だ? どうせ姿を消したのも学校でチビチビ言われると思ったから逃げ出したんだろ。イジめられるの怖かったんだろ低杉くんは」

「テメェまた俺にやられてぇのか?」

「やってみろよ、お前なんか銀さんのマヒャドで返り討ちにしてやんよ」

「上等だ、今のテメェなんざ得物が無くても勝てんだからな」

「止めろお前等、言っておくが傍から見ると女子二人がメンチ切りあってるだけで全く迫力無いぞ」

 

中身は凶悪な侍だが見た目は小動物と清楚美人なのでどうも緊張感の無い口論にしか見えなかった。真由美はそんな二人の前に立って話を始める。

 

「高杉、今の貴様に俺がどう見られていようが俺は気にせん。いくらでも俺で笑ってればいい」

「ブフゥ! よく見たらヅラ! お前も俺より小っちぇな! 俺より2個上なのにどうしてそんな低いんですか先輩!」

「お前が笑うな銀時!!」

 

よく見たら真由美も小柄だったので思わず口元を押さえながら含み笑いする深雪にキレた後、コホンッと真由美は咳払いした。

 

「俺が言いたいのは高杉、いくら俺を笑い者にしようがこの現状は何も変わらないという事だ。こんな姿になってしまっては貴様も満足に動けまい、ここは一時休戦として我等と同盟を結ぼうではないか」

「やれやれ、腑抜けた上に頭までおかしくなっちまったのか? 誰と誰が手を結ぶって?」

「共にあちらの世界に戻る為の同盟だ、向こうに帰ればいくらでも相手にしてやる。だが今の状態でやり合うのはお前も不本意であろう」

 

不本意だろと聞かれてあずさは罰の悪そうに無言で目をそらした。確かに彼女も今の状態では満足に戦えない事を知っていた。

 

「……その為にテメェ等と手ぇ結べってか、冗談じゃねぇ」

「そうだよねー、チビ杉くんは一人でフラフラとチンピラ狩りしてる方が性にあってるもんねー、俺達が元の世界に帰ってもお前だけそうして一生この世界でチビのまま生きる事になってもいいんだよねー。あ、向こうの世界でもチビだったんだっけ」

「テメェは黙ってろ」

 

後ろから小馬鹿にしながら笑っている深雪にイラつきながらあずさはフンと鼻を鳴らす。

 

「テメェ等と同盟なんざ結ぶつもりはねぇ」

「高杉」

「……だがこんな身体からさっさと開放されてぇのも確かだ」

 

こちらに背を向けながらあずさは懐からキセルを取り出しながら静かに呟く。

 

「同盟はしねぇしテメェ等に力貸すつもりもねぇ、だから俺に何かしらの要求を求めるんだったらそれなりの対価を用意しろ。それぐらいの関係ならやっても構わねぇ」

「まあ仕方あるまいな……俺もそれで呑むとしよう」

 

元々対等な同盟など彼と結べる筈がないと予期していた真由美も承知したと頷いた。

 

「では最初の要求だ、明日から学校に来い」

「ふざけてんのか?」

「ふざけてなどいない、俺達と共にいれば情報収集も手っ取り早いであろう、それに」

 

真由美はそこで言葉を区切りあずさの背中を見据える。

 

「あーちゃん殿をこれ以上不登校にさせるのは生徒会長である俺が許さん」

「……思った以上にくだらねぇ理由だな」

 

フゥーっと煙を吐きながら嘲笑を浮かべるあずさ、すると彼女の背中に向かって真由美は彼女の肩に手を置き

 

「それとその身体で煙を吸うのを止めろ、あーちゃん殿の身体に悪影響を与えたらどうする」

「知るかそんな事」

「未成年が煙を吸う事にどれだけの悪影響を及ぼすのか知らんのか! おい銀時! お前からも言ってやれ!」

 

止める気のないあずさに真由美はイラつきながら深雪の方へ振り返って叫ぶと。

深雪は「ったく」と呟き二人の傍に歩み寄る。

 

「もういいから帰ろうぜコイツも見つかった事だしよ、俺はもう腹も減ってイライラしてんだよ」

「……お前はお前で相変わらずマイペースな奴だな……」

 

このタイミングで「腹減った帰らせろ」と言う深雪に真由美は呆れながらため息を突く。

 

「仕方ない、そろそろ日も落ちてくる。帰るとするか」

 

そう言って真由美は歩き出しながらふと夕焼けの空を眺めながらふと「ん?」とある事に気づく。

 

「高杉、貴様に俺の大事な仲間の一人を紹介しよう」

「そんなもん必要ねぇよ、俺はテメェの仲間なんざ興味ねぇ」

「そう言えるのも今の内だ、あそこのビルの屋上で夕焼けを眺めている者がいるであろう」

 

興味なさそうなあずさに真由美は3階建てのビルの屋上を指差す。

 

 

 

 

 

 

「あれがハンゾーくんだ」

「って服部君まだいたんかいィィィィィィ!!!」

 

彼女が指差す方向を見て深雪は疲れもぶっ飛び思い切り叫んだ。

生徒会副会長の服部は数時間前から微動だにせずただ遠い目で空を眺めるのであった。

 

「夕焼けが綺麗だ……ん?」

 

しかしただの夕焼けの空にキラリと輝く物体が遠くに見えた。最初は飛行機かなんかだと思ったが大きさがデカすぎる。まるで巨大な建造物が浮いているかの様な……

そしてその飛行物体はすぐに雲の中へと消えていく……

 

 

 

「……?」

 

思わず目を見開く彼だがその巨大な空中建造物はもうその場に二度と現れる事は無かったのであった。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

教えて深雪先生

 

制服の上に白衣を着た司波深雪。

口にキャンディー棒を咥えたままけだるそうに彼女は教壇に立っていた。

 

「はいどうも深雪先生でーす、今回はメールで何かと同じ質問が連続で来たのでこの場を借りてお答えしようと思いまーす」

 

「えー複数の読者からの質問、『桂になってる会長と銀さんになった深雪って授業とかちゃんと受けてるんですか、昼休みは何してるんですか?』」

 

「えっとですね、会長の方は真面目に授業受けてますけどほとんどわかんないので大抵は目を開けて寝てます。だから昼休みとか利用して図書館とかで地道に勉強してたり鈴音からレクチャー受けてたりしてます、なんで異世界人のお前がそんな事勉強する必要があるんだよって感じですよねホント」

 

「ちなみに深雪さんはそんな無駄な事に時間も労力も費やしません、3話目で初めてこの世界の授業ってモンを受けましたが、授業中は寝て鋭気を養ってました、それとたまにサボって屋上で寝てました。昼休みはなんか周りにいかにもモテなさそうなガキ共が集まってきたので全員はっ倒して会長と飯食いに行きました」

 

「いやー無駄な事に時間を費やしてるどこぞのクソ真面目会長と違って授業中でさえ睡眠時間にしてしっかり借りた体をケアするなんてホント銀さんって優しいですね」

 

 

 

 

 

「え? 授業態度の評価がだだ下がり? 何それ? そんなの知らねぇけど?」

 

 



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第五訓 休息&波乱

昼食時間の生徒会室、生徒会長である七草真由美は目を瞑ったまま腕を組み満足げに頷いていた。

 

「いやはや一度はどうなるかと思っていたがこうしてあーちゃん殿も無事に登校するようになった、これで生徒会も元通り、準備は万全だ」

 

そう言って真由美は目をかっと見開き口を大きく開けて

 

「これで来たるべき決戦である九校戦に全力で取り組めるというものだ! 首を洗って待っていろ他校の者共! 屈強なる精鋭揃いを連れて貴様らを血祭りにしてやるわ! フハハハハハハッ!!!」

「……」

「あれ? どうした摩利殿」

 

一緒に昼食を取るために座っていた風紀委員長の渡辺摩利が縮こまった様子で黙っていることに真由美は不審そうに見つめる。

 

「ここは「お前は九校戦を殺人現場にでもさせる気か!」とかツッコミを入れる所だと思うのだが」

「……いや」

 

不満げな様子の真由美の方へは振り向かず、摩利は恐る恐る左側の席へチラッと目を向けた。

 

「もっとツッコミたい相手が隣にいるんだが……」

 

摩利がそう言った先には、見た目は小リスの様な小動物っぽい小柄の女の子であるのにテーブルに足を置いて退屈そうに目を瞑りながらも

 

「……」

 

無言の威圧感をヒシヒシぶつけてくる中条あずさの姿があった。

 

「真由美、私に納得のいく説明をしてくれ、中条に何があった……」

「ふむ」

 

明らかに今までと別人だと思うぐらいすっかり変貌してしまっているあずさを見ながら摩利が言うと、真由美はしばしアゴに手を当て考え……

 

「高校デビューだ」

「どんだけ遅い高校デビューだ! コイツもう2年だぞ!!」

 

彼女の一言にやっと摩利が立ち上がってツッコミを入れてくれた。

 

「中条が戻って来て数日経つが学校中でもう大騒ぎなんだぞ! 生徒会書記のロリっ娘が暴走族の総長になって戻ってきたとかそんな噂まで出てるし!!」

「そうか、すぐに暴走族の総長じゃなく怪しい黒服の集団を片っ端から叩き潰してただけだと俺が全校集会で説明しよう」

「なお学校中がパニックになるわ! ていうかそんな事をしでかしてたのか中条!」

 

聞く必要があるけど正直聞きたくなかった中条がやってた事に、摩利が頭を抱えていると彼女の右側のほうに座っていた市原鈴音が

 

「いいじゃないですかそれぐらいの事、兎にも角にも彼女が無事に帰ってきた事を祝いましょう」

「無事じゃないだろ! 小動物がバハムートになって戻ってきたんだぞ!!」

「次期生徒会長候補としての貫禄が出始めているんですよきっと」

「出過ぎなんだよ! 国家一つを掌握しかねないボスキャラの貫禄になってるじゃないか!!」

 

左で目を瞑っているあずさを指さしながら摩利が叫んでいるのを適当に流しながら。

 

「それより」

 

鈴音は片目を真由美のほうへチラリと向けた。

 

「司波さんは今日こちらには来ないのですか?」

「ん? そういえば姿を見せんな、まあアイツの事だ。どこぞで飲み歩いて道端で寝っ転がっているやもしれんな」

「どこのおっさんだ……」

「もしくはパチンコで玉を出せなくて金も無くなり、仕方ないから自分のタマを売りにでも出そうかと考えている所ではないのか」

「だからどこのおっさんだ! ていうか司波はタマ無いだろ!」

「女の子がタマとか言うな、はしたないぞ摩利殿」

「いやお前にだけは言われたくない!! そもそも最近のお前はだな!」

 

ジッとこちらを非難の目で見つめる真由美にテーブルを叩いて徹底抗議する構えを取った摩利。

 

そんな光景を片目だけ細めで明けて眺めていた中条あずさはまた目を瞑り

 

 

 

 

 

「くだらねぇ……」

 

 

 

 

 

 

一方その頃、真由美達が昼食をとっている中、司波深雪は食堂にて昼食を取っていた。

 

「だからさー、兄貴なんてウザったいだけなんだよ。思春期真っ只中から余計めんどくせぇしベッドの下にエロ本やらエロDVDやら散乱してるし、カピカピのティッシュが大量にゴミ箱に入ってるし」

「へ、へーそうなんだ……お兄さんにもそんな意外な一面が、カピカピのティッシュってなんだろう……」

「……興味深い」

 

授業後、クラスメイトに半ば強引に食堂へと連れてかれた深雪は昼食がてら暇つぶしと称してまた兄である司波達也の事をデタラメに喋っていた。

彼女の話を向かいの席で聞いているのは彼女をここに連れてきた張本人である同じクラスの光井ほのか、そして彼女の親友の寡黙そうな少女、北山雫(きたやましずく)

 

「というより深雪が食べているそれも興味深い」

「私もずっとそう思ってた、深雪、それって一体何……」

「なにって宇治銀時丼に決まってんだろうがよ」

 

どんぶりご飯に宇治金時を山盛りでトッピングした異様な食べ物を凝視する二人に深雪は箸で食いながら答える。

 

「あげねぇぞ」

「いや別に食べたくないから……」

「……少し残念」

「え!?」

「はー、ホントどこ行ったんだろうねぇウチの兄上殿は」

 

あげないと言われていつもの無表情が残念そうにボソッと呟く雫にほのかが軽く驚いてる中、深雪はため息混じりに。

 

「死んでるかもな」

「い、いやそれはないよ! だってあのお兄さんだし!」

「ほのかの言う通りそれはないと思う……あなたのお兄さんならきっと帰ってくる」

「どうだろうねぇ、人間どんなに立派になろうが死ぬ時は案外コロッと逝っちまうモンだし」

 

どんぶりの中のご飯と宇治金時を箸で混ぜ合わせながら深雪は死んだ魚の目で呟く。

 

「つうかお前等随分と兄貴買ってるみたいだけどさ、そんなに凄かったっけ?」

「結構凄いと思うけど、入学式の時とか……それに深雪が一番お兄さんのこと凄いって言ってるよね?」

「そうだっけ?」

「隙あらばお兄さんを褒め称えてた、周りが引く程」

「ふーん」

 

ほのかと雫の話を聞いて他人事の様な反応をする深雪。

 

「確かに部屋のゴミ箱に入ってるカピカピのティッシュが凄まじく異臭を放ってて凄いといった覚えはあるけど」

「私そんな事聞いた覚えないよ!? カピカピのティッシュってなんなの!? 変な臭いするの!?」

「今の俺はすっかり愛想尽かしてるから、こんだけ放置プレイされれば百年の恋も冷めるってもんだろ?」

「そうなんだ、深雪はお兄さんにずっとほったらかしにされてると思って怒ってるんだね……」

「怒ってんじゃねぇ、ただ無性にぶん殴りてぇだけだ」

「深雪、それ怒ってるから」

 

心配そうに見つめてくるほのかに拳を掲げてはっきりと答える深雪に雫が横槍を入れた。

 

「いつも深雪を大切にしてそうなあのお兄さんの事だから、帰ってこないのはそれなりの事情があるのかもしれない」 

「どんな事情? 借金を理由に傷もんの人に金玉取られてるとか?」

「お、女の子がそういう事言っちゃダメだよ深雪!」

「玉じゃなくて棒の方かも」

「雫ぅぅぅぅぅぅ!?」

 

深雪に便乗するかのようにサラリと卑猥なことを言う雫にほのかが目を見開いて叫んでいると深雪は自分の髪を指でクルクル巻きながらフっと鼻で笑う。

 

「この俺の下ネタに的確な下ネタ返しをするとは中々やるじゃねぇか小娘」

「この程度であなたに褒められても嬉しくない、私はまだ本気を見せていない」

「上等だ、十数年に渡る連載で長きに渡り鍛え上げられた俺の下ネタトークで格の違いを見せ付けてやる」

「絶対に負けない」

「いやいや待って二人共! 昼食を食べている食堂でどんな戦い繰り広げようとしてるの!? 時間帯と場所考えて!」

 

互いに火花を散らせながら下ネタ談義に花を咲かせようとしている深雪と雫にすかさずツッコミを入れるほのか。

 

「元々私が深雪をここに連れて来たのはお兄さんの事で落ち込んでるかもしれないから元気付けてあげようと思っていたのに……」

「だから俺は全然ヘコんでねぇって前に言っただろ? むしろいなくて清々してんだよこっちは」

「いいの! もう強がりは止めて! 私は深雪の事はちゃんとわかってるから!」

「は? いやだから……」

 

こちらに手を突き出して力強く頷くほのかに深雪が何か言おうとするが……

 

「私達に心配かけまいとそうやって意地張るような真似しなくいいの! 本当は一刻も早くお兄さんに会いたいんでしょ!」

「……おいなんだこのガキ。さっきから俺と兄貴の事をズケズケと」

「ほのかは思い込みが激しいからね」

 

勝手に話を進めていくほのかに思わず雫に尋ねる深雪。だがほのかの話はまだ終わっていない。

 

「深雪! お兄さんを殴る事が深雪なりの愛情表現なら私は責めはしない! だけどそれなら私が深雪より先にお兄さんを全力で殴るから! 深雪一人に重荷は背負わせないから!」

「なんでそうなるんだよ!?」

「いや私がお兄さんを殴る、ほのかにその咎を負わせはしない」

「お前まで何言ってるの!? 人の兄貴ぶん殴ろうとしてしてんじゃねぇよ! アイツをぶん殴るのは俺だけだ!!」

 

三人で拳を掲げて誰が司波達也をぶん殴るかでギャーギャー揉めていると

 

「あのーすみません、深雪さん?」

「ああ!?」

 

不意に誰かに話しかけられて深雪は乱暴な声を上げながらそちらに振り向くと

申し訳なさそうにしながら立っているメガネを掛けた少女がいた。

深雪、ほのか、雫の一科生でなく二科生、1年E組の柴田美月(しばたみづき)、司波達也のクラスメイトであり深雪とも友人なのだが、今の深雪が知る由無い。

 

「さっきから達也さんの事を殴るとかなんだの言ってましたけど、あの、冗談ですよね?」

「(誰だこのメガネ……)いや本気で殴るつもりだけど」

「私が先に殴る!」

「ほのかよりも先に私が殴る」

「だーかーらー! 俺が一番最初に言ったんだから俺が先にあの野郎ぶん殴るんだよ!!」

「きゃ!」

 

まだ言うかとほのかと雫に向かって突然席から立ち上がる深雪に思わずびっくりしてその場で飛び退いて足を滑らして床に尻もち付いてしまう美月、その拍子に掛けていた眼鏡も床に落とす。

 

「いたた……」

「おい、大丈夫か? ほら眼鏡」

「平気ですちょっと驚いただけですから、ありがとうございます」

 

自分が立ち上がったことで転んでしまったのかとさすがに傍若無人の深雪もしゃがみ込んで彼女の眼鏡を拾い、美月はそんな彼女に礼を言いながら眼鏡を受け取ろうとすると、突然ピタッと止まった。

 

「……」

 

何故か口をぽかんと開けながら眼鏡も掛けてない状態でこちらを見つめてくる美月に深雪は目を細める。

 

「え、何?」

「あ、い、いえ……」

 

話しかけられて我に返ったのか美月は慌てて眼鏡を受け取ってすぐに掛ける。

 

「すみませんもう大丈夫です、それでは……」

「なんか俺に用があったから話しかけに来たんじゃねぇの?」

「い、いえただお兄さんの事で話そうと思ったんですけどちょっと気分が……またの機会にしますね……」

 

慣れていないのか下手な誤魔化し方をすると美月はおぼつかない足取りでそそくさと深雪の前から立ち去ってしまった。

 

「……」

 

彼女の背中を追いながら深雪は黙り込んで見つめる。

美月の怪しい挙動がどうしても気になったのだ。

 

「どうしたの?」

「いや、なんでもねぇ」

 

無表情である場所に向かって視線を送っている深雪に雫が尋ねると

彼女はすぐに二人の方へ振り返って

 

「じゃあ誰が最初にクソ兄貴ぶん殴るかは競争という事で」

「わかった!」

「了解」

 

三人で司波達也ぶん殴り争奪戦を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方ここは体育館の倉庫。

昼食時間にも関わらずそこには数人の生徒が隠れるようにたむろっていた。

部屋の中は薄暗く、窓から指す日光の光で僅かに誰がいるか確認できるぐらいの明るさしかない。

まるで企み事をしている事を他の生徒達に勘付かれないように

 

「柴田さんからメールが来た、やっぱり“あの人”の読み通り“彼女”もそうみたいだね」

「はは、やっぱりそうだったか。つうかお前等いつの間に連等先交換してたんだ?」

「い、いや! “あの人”が強引に柴田さんに僕と連絡先交換しろって言い出したから!」

「ん? なんで慌てるんだそこで?」

 

目の下に泣きホクロが付いている細身の男子生徒が携帯片手に慌てふためく姿を、キョトンとした様子で眺めるのは黒髪でありながらどことなく白人の様な出で立ちをしているガタイのいい男子生徒。

そして彼の背後にもう一人

 

「やはりか、これで三人は確定だな……」

 

三人目の男子生徒が静かに頷く、そして手に持った刀ほどの大きさの得物の様な物を強く握り

 

「そろそろ俺達も動く必要があるようだ」

「抜け駆けは無しですよ先輩、三人相手ならこっちも三人だ」

「え、僕も入ってるの!?」

「ああ、“あの人”にはしっかり言っておいたぜ」

「勝手に進めないでよ……」

 

何やら何者かに“仕掛ける”つもりらしい。どんな方法だか知らないが彼等はその為に集まっていたようだ。

 

ガタイのいい男子に先輩と呼ばれた男は鋭い眼光で隠れる為に閉めていた倉庫のドアを両手で勢いよく開けた

 

「さあ、見せてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

「侍の力というやつを……!」

 

 

 



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第六訓 乱闘&正体

桐原武明(きりはらたけあき)

一昨年の中等部剣道大会男子部の関東1位。2年生の中では第一高校トップの実力者と目されている一科生、海軍所属の軍人の息子

強さの信奉者で、強いか弱いかが人を判断する第一基準となっているため、一科生、二科生に対するこだわりがあまりなく、弱いものには一科生であっても興味を抱かず、強いものなら二科生であっても敬意を払っている。

そんな侍の様な強い信念を持っている彼なのだが

 

「桐原先輩が負けたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

剣道部が使ってる道場にて、剣道着を着ていた桐原武明はダラリと口を開けたまま白目を剥いて大の字で倒れていた。

あの桐原が負けるなんて、他の部員達が目を見開いて驚きながら彼を負かした相手を見る。

 

彼の向かいに立っていたのは、剣道着でなく普通の制服を着た小柄の少女。右手に持った竹刀を肩に掛けながらフゥーと息を吐きながら顔を上げた後、ゆっくりと倒れた桐原の方へ振り返り

 

「チャンバラごっこはもう終めぇか……」

「「「中条先輩超怖ぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」

 

1年組が悲鳴を上げる程彼女の眼光は禍々しさを持っていた。

生徒会書記でありながら2年組トップとまで噂されている桐原と魔法無しというルールであっさりと打ち勝ってしまったのは中条あずさ。

自分よりずっと背の高い男性をひれ伏し、嘲笑を浮かべながら見下ろす。後にその姿を見た者達によって『小さき猛獣、熊をも食らう』という伝説として語り継がれる事となった。

 

「おい起きろ、喧嘩吹っかけたのはそっちだろうが」

「うう……」

 

倒れている桐原に竹刀を突き付けながら冷たく見下ろすあずさ。

すると桐原は意識を取り戻したのか呻き声を漏らし

 

「参ったな、まさかここまで手酷くやられるとは……」

「どういうつもりで俺に喧嘩を売った。トドメ刺されたくなかったら正直に吐け」

「……」

 

本気で竹刀一本で殺しにかかりそうな気迫を感じながら、思わず桐原はフッと笑ってしまった。

 

「”力試し”だ、それ以外の理由はない」

「そいつはテメー自身の力を試そうと思ったのか、それとも」

 

あずさの右手に持つ竹刀からミシミシと音が鳴りだす。

 

「テメェ如きが俺の力量を測ろうとしたとでも言うのか……」

「……どうだろうな」

 

彼女が放っているのは正に本物の殺気。数多の戦と修羅場を潜り抜けた者が持てるといわれている圧倒的な威圧感。

あまりの迫力に桐原は圧倒されながらも額から汗をしたらせながらなんとか答える。

 

「俺はちゃんと理由を言ったぞ中条、生徒会として厳罰を与えるなり風紀委員を呼ぶなり勝手にやってくれ」

「……」

 

こちらから逃げずに視線を向き合わせる桐原に、今彼女はどんな事を考えているのかは彼女自身にしかわからないであろう。

 

「……フン」

 

しばらくしてあずさは手に持った竹刀を捨ててこちらに背を向けて無言で行ってしまった。

残された桐原は深く深呼吸するとゆっくりと半身を起こす。

 

「マジで死ぬかと思ったアレが”本物”か……こんなに汗かいたのは壬生の手作り弁当食った時以来だ」

「桐原先輩大丈夫ですか!?」

「ああ、俺はちょっと席外す。お前等、俺が中条にボコボコにされた事絶対バラすなよ」

「はい! 絶対に言いません!」

 

もう一度言う。桐原VS中条。後にその姿を見た者達によって『小さき鬼兵、2年のエースをチャンバラ扱い』という伝説として”学校中で”語り継がれる事となった。

そうなる事も知らずに桐原はよろめきつつも立ち上がると道場から外に出て、懐から携帯を取り出して耳に当てる。

 

「どうも”アンタ”の言う通り手も足も出なかったよ、やはり実力は相当なモンだった……いや後悔はしていない」

 

携帯を耳に当てたまま桐原は満足げに笑う。

 

 

 

 

 

「なにせ本物の侍とやり合えたんだ、一生モンの宝だろ」

 

 

 

 

 

 

 

生徒会長の七草真由美は学校の廊下を風紀委員長の渡辺摩利と共に歩いていた。

 

「なに? あーちゃん殿が剣道部のエースを一方的に打ち負かしただと?」

「もう学校中で噂になってるぞ、つい数分前の出来事らしいのに剣道部員のもう一年生達でツイッターにアップしまくっている、しかもやられた桐原の写真付きで」

「……道場破りなどとっくの昔に卒業したであろうに、まるで成長せんなあの男は……」

「なにブツブツ言ってるんだ?」

 

アゴに手を当てしかめっ面で何か呟いている真由美に摩利はジト目を向けながら話を続ける。

 

「今回は桐原の方が喧嘩を一方的に吹っかけたらしいから中条は不問という事にしておくが、これ以上騒ぎをそこら中で起こしてたらその内退学どころじゃ済まされないぞ」

「案ずるな、あーちゃん殿もそこまで愚かではない、下手に動いて目立つような真似はせんだろ……ん?」

「どうした急に立ち止まって?」

 

突如足をピタリと止めた真由美に摩利が振り向くと彼女は

 

「……すまんが摩利殿、先に行っててくれまいか、ちと用事が出来た」

「どうした急に、なんだ用事って」

 

怪しむ顔で尋ねて来る摩利に真由美は真顔のまま鋭い眼光を光らし

 

「ウンコだ」

「っておい! 七草家のお嬢様がなに飛んでもない事口走ってるんだ!!」

「ということで代表会議は先にやっててくれ、相当長丁場になりそうだからな、正直流れないかもしれんがそん時はよろしく頼む」

「なにを頼まれた私!? どうしろっていうんだ! 自分で産んだ作品は自分で何とかしろ!!」

 

そんな頼み誰が聞くかと摩理は即却下してさっさと一人で行ってしまった。残された真由美は摩利の背中が見えなくなるまで見送った後、目を瞑って静かに腕を組み

 

「隠れていないで出てきたらどうだ」

「……」

 

真由美が呟くと彼女の背後にある廊下の曲がり角から一人の男子生徒がスッと現れる。

1年E組の二科生、古式魔法の名門・吉田家の次男、吉田幹比古(よしだみきひこ)だ。

 

「バレてたみたいですね」

「偵察の仕方が粗末過ぎるぞ少年、物陰に隠れる事だけが尾行とは言わん、対象を追いかける時は、まず悟られぬように周りと同化しろ」

「ご指導ありがとうございます」

 

彼が現れると真由美もゆっくりと彼の方へ振り返った。そして幹比古の顔をまじまじと見つめながら

 

「ふむ……貴殿の様な真面目そうな者に追われる理由は無いのだが……さては告白だな」

「いや全然違います……」

「生憎だが今の俺は愛だの恋だのに付き合ってる暇はない、悪いが余所へ当たってくれ」

「だから違いますって!」

「俺に振られたからといって挫けるなよ、まだ若いのだからこれからゆっくりと愛を育める相手を見つけ……」

「ちょっとぉ! 人の話聞いてます七草生徒会長!? もしくは耳壊れましたか!?」

 

勝手に勘違いして勝手に話を進めていく真由美に叫びながら幹比古はガックリと肩を落とす。

 

「こういう話を聞かない所とか”あの人”そっくりだ……あっちの人って基本こういう人の話聞かない人ばかりなのかな……」

「まあまあそう肩を落とすな、なんなら俺の知り合いを紹介してやろう。俺の友である渡辺摩利殿と言ってな……」

「……その人、僕の幼馴染の兄の婚約者なんですけど……」

「婚約者がどうした! だからこそ燃えるであろう! だからこそNTRしたいだろう!」

「ご友人相手になに仕向けようしてるんですか! ていうかホントそういう目的で来た訳じゃないですから!!」

 

勝手に暴走しながらサラッと性癖をバラす彼女へ幹比古はツッコミながら話を続けた。

 

「……あなたに頼みがあるんです」

「頼み」

「その頼みを聞いてもらう為に少し場所を変えて欲しいんです、あまり人気の無い場所に」

「ふむ……」

 

場所を移して頼み事を聞いてほしい。こちらに軽く頭を下げてお願いしてきた彼に真由美は小首を傾げ

 

 

 

 

 

「やはり告白ではないのか? だから俺ではなく摩利殿を寝取って……」

「だから違いますって!」

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、司波深雪はというと学校裏でいつも通りに死んだ魚の様な目で退屈そうにしてしゃがみ込んでいた

 

「ったくよぉ、なんで俺が授業なんて受けなきゃいけねぇんだよかったりぃ」

「だからといってサボるのはマズイよ深雪、早く教室戻らないと」

「授業は大事、そろそろ学力試験だからなおの事」

「ケ、試験だけが人生だと思うなよ小娘、社会に出たらそれこそ毎日が試験だぞ」

 

授業が始まる数分前であるのにも関わらずヤンキー座りしたまま一向に動かないでいる深雪。

親友の光井ほのかと北山雫の言葉にも全く耳を貸さずにブツブツと言いながらそっぽを向く。

 

「いいよ俺は、昨日書かされた卒業後の進路アンケートに「万事屋です」って書いておいたし」

「万事屋!?」

「意外、深雪は成績優秀だからてっきり大学に行くのかと思ってた」

「どんだけ頭良かろうが悪かろうが辿り着く先は皆土の下だろ? だったらその前に好きな事して好きな風に生きていきたいんだよ俺は」

 

けだるそうにそう言いながら深雪はやっとスクッと立ち上がった。

 

「という事で次の授業はフケるわ俺、先公に俺の事聞かれたら「下痢気味らしくて今トイレで呻き声上げながらひり出してます」とか適当な事言っておいて」

「いやそんな理由でいいの深雪!? そんな事言ったらクラスどころか学校中から浮くよ!!」

「わかった、一語一句違わず正確に言っておく」

「雫ぅぅぅぅぅ!?」

 

彼女の提案に困惑するほのかをよそになんの躊躇もなく雫は頷くと、すぐにほのかを連れて教室に向かって歩き出す。

 

 

「ちなみに言うのは私だけでなくほのか」

「なんで私!? いやだよ友達がトイレに閉じこもってますとか言うの!」

 

去り際にそんな会話をして行きながら雫とほのかは行ってしまった。

残された深雪は眠そうに口を開けて欠伸した後。

 

 

 

 

 

 

「テメェもさっさと授業行って来い」

「いや、俺も次の授業はサボる事にしてんだ」

 

前方にある茂みからガサガサと音が聞こえると、中からガタイの良い男子生徒が飄々とした態度で現れた。

幹比古と同じく1年E組の生徒、西城(さいじょう) レオンハルト、通称レオ。

制服の裏からでもその屈強な肉体は容易に想像できる。

 

「しかしこうも変わるもんなんだな……達也が見たらさすがにアイツも驚くんじゃねぇか?」

「おいなんだ人の体ジロジロ見やがって? こんないたいけな美少女の前で盛ってんじゃねぇぞ、風紀委員呼んでやろうかコラ」

「……自分で美少女って言うのかよ」

 

現れていきなりまじまじと見つめてくるレオに深雪は片目を吊り上げてヤンキー口調で難癖つけてると彼は苦笑しながら後頭部に手を置き

 

「いや実はアンタに試してみたい事があってさ」

「あん?」

「自分の実力がどこまで届くのか……」

 

するとレオは深雪に飛び掛るような体勢をとって……

 

「アンタと戦って知りてぇんだよ!」

「!」

 

屈強な体で地面を踏み一気に蹴って飛んできた彼に深雪は一瞬驚いたように目を見開くが

 

「なんだコイツ……」

 

彼女は周りにバレぬように制服の裏に隠して背中に差して置いた「洞爺湖」と彫られた木刀をすぐに抜いて構える。

 

「誰だか知らねぇが、生徒会に喧嘩売って……」

 

突っ込んできたレオに深雪は木刀で横薙ぎの構えで持ち

 

「タダで済むと思うなよ!」

 

一閃。

 

しかし

 

「なに!」

「あー悪い悪い、説明してなかった、俺は普通の人より体が頑丈に出来てんだよ」

 

深雪が両手に持った木刀はレオをふっ飛ばすどころか彼の腹の上で振り抜けずにピタリと止まった。

その理由は木刀をカタカタ震わせながら全身の力を振り絞っている深雪が一番良くわかっていた。

 

(なんつう硬さだ……まるでぶ厚い鉄の壁相手にしてるみてぇだ……!)

「女の力じゃ全力で振っても俺は痛くも痒くもねぇよ……まさかこれで終わりじゃねぇよな?」

 

腹に一撃食らっている筈なのに全く効いていない様子でレオはこちらに向かって拳を掲げ

 

「安心しろよ! 殺すなんて真似はしねぇから!」

「!」

 

、自分より高い身長から振り下ろされる拳を深雪は咄嗟に木刀を引っ込めて彼の脇をすり抜けるように地面を前転して転がって回避する。

その瞬間、レオの放たれた拳は地面に直撃してその部分を激しく抉った。

 

「テンメェ何が殺すような事はしねぇだ! そんなの食らったら深雪さんの柔い肌がボロボロになるじゃねぇか!! 全校の男子生徒敵に回してぇのかコラァ!」

「おーそうか、これぐらい簡単に避けれるもんだと思っていたんだが?」

「あん?」

 

挑発的な物言いしながら不適に笑って振り返ってきたレオに深雪はピクリと反応する。

 

「おっかしいな、あの司波達也の妹ともあろう人がこれぐらいの事でビビっちまうなんて」

「は? ビビってねぇし、テメェのヒョロヒョロの拳程度でビビるとかマジあり得ないんですけど? そんなの百発来ても避け切れるし」

「そうかいだったら遠慮なく……」

 

必死になって強がっている姿勢を見せる深雪にレオは再び右手を振りかぶって

 

「百発どころか千発かましてやるぜ!!」

「チッ……」

 

一気に振り抜いてきた。深雪はその拳から放たれる余波を感じながら、今度はレオの下を掻い潜るように前転

 

「何度避けようがアンタの木刀じゃ俺は倒せねぇよ!」

「そうかい、だったら……」

 

レオの股の下を掻い潜りながら深雪はある場所に目をキランと輝かせて右手に持った木刀を構え

 

「テメェじゃなくてのテメェの息子をぶっ倒す」

「え?」

 

彼の股の真下で転がった体勢で深雪は木刀を突き上げるようにして彼の……

 

「安心しろよ、使えないような事にはしねぇから」

「ハァァァァァァァァァン!!!」

 

逞しい下半身にぶら下っている股間目掛けて思い切り木刀を突き入れた。

どれ程の頑丈な肉体を持ってしても唯一鍛えていなかったその場所を突かれてレオは断末魔の叫びを上げながら。

 

「き、汚ねぇだろそれはさすがに……」

「いやーまあ確かに汚ねぇわな、股間は男にとってケツと同じぐらい汚ねぇ所だから」

「そういう意味で言ったんじゃねぇよ……」

 

自分の頭上でレオは両手で股間を押さえながら前のめりにズシンと倒れるのを確認した後、深雪はヒョイッと半身を起こしてすぐに立ち上がった。

 

「どうだ参ったかコラ」

「……すげぇ納得したくねぇがアンタの戦い方はなんとなくわかった、俺の負けだ……はう!」

 

まだ痛む股間を片手で押さえながらよろよろと半腰の状態で立ち上がるレオ。その顔からしてとてつもない痛みに襲われているのが手に取るようにわかる。

 

「さすが“あの人”のかつての同胞だった人だ……全く抜け目のねぇ戦い方をするぜ」

「は? あの人? 誰の事言ってんだ?」

「俺、いや俺達はあんた等の実力がどれ程のモンか試しに挑んだんだよ。ちゃんとあの人に話を通してな」

 

誰の事だかわからない様子の深雪にレオはフッと笑う。

 

「さすが攘夷戦争って奴で『白夜叉』という仇名で活躍していた侍は一味違ったわ」

「おま!!」

「なに驚いてるんだ、アンタの事だろ、“坂田銀時さん”」

「俺の名前を!」

 

突然レオが放った言葉に深雪は驚きを隠せないでいた。

攘夷戦争、白夜叉、そして自分の本来の名である坂田銀時。これ等を異世界の者でわかる者がいたなんて……

 

動揺を見せながら目を見開いている深雪に更にレオは話を続ける。

 

「俺達はアンタ等を知っている、白夜叉・坂田銀時、狂乱の貴公子・桂小太郎、鬼兵隊総督・高杉晋助。あの人から耳が痛くなるほど聞かされたよ、どんな人達だったか今はどんな事をしているのか、そしてかつて共に国を護る為に戦った同胞だという事もな」

「……そいつがお前に俺達のこと教えたのか、俺達の世界を知らねぇお前達に」

「そりゃまあ最初はやっぱり半信半疑だったが、達也があっさり信じるモンだから俺達もつい流されてな」

「達也? 司波深雪の兄貴か? やっぱそいつが何か関係あるのか?」

「ああ、そして俺達とあの人は達也の居所を知っている」

「なに!?」

 

あっさりとしながら深雪がずっと探していた兄である達也の行方を知っていると言うレオ。

深雪はすぐにでも彼の居場所を突き止めようと、レオの方へ一歩踏み出したその時。

 

「なに、もう終わってたの? さすがにもうちょっと粘ると思ってたんだけど?」

 

不意に前方から一人の少女がザッザっと足音を立てながらやってきた。

こちらは特に隠れもせずに堂々と深雪の前に現れた。

これまた幹比古やレオと同じクラスの二科生、「剣の魔法師」の二つ名を持つ百家本流の一つ「千葉家」の次女であり、赤髪ポニテが特徴的な女の子、千葉エリカだ。

 

「アンタもまだまだね、まあこれでよくわかったでしょ、この三人の実力って奴を」

「ああ、痛い程わかったぜ、う! マジで痛ぇ……潰れてないよなコレ?」

「いや待て待て、なんだいきなり現れて、全然話が読めねぇんだけど」

 

股間を押さえながら痛がっているレオをエリカがたしなめているのを深雪が混乱しながらツッコむと、エリカがおもむろに彼女のほうへ振り返り

 

「つうかしばらく見ない内に可愛らしい顔になったわねー、まあアタシも負けてないけど」

「は? いやだから誰?」

「あり? 気付かない? じゃあこれで……」

 

自分の事を知った風に話しかけてくるエリカに深雪が口をへの字にしてしかめっ面を浮かべていると、彼女は制服の裏から黒いレンズのスポーツ用サングラスを取り出して目に掛ける。

 

「ほれ」

「……は? いやだからお前なんか知らねぇって」

「あり~?」

 

得意げにグラサンを掛けるエリカを深雪が一蹴すると、傍にいたレオがバツの悪そうな顔で

 

「つうかその喋り方だから気付かないんじゃないかアンタに?」

「あ、そうだった、アハハハハ」

 

彼に指摘されてエリカはゲラゲラ笑いながらうっかりしてたと後頭部を掻きながら

 

「すまんすまん! 女の体だからだとつい女の口調で遊んでおった事に忘れとったわ!! いやーわしとした事が生まれついて肌にまで染みちょる土佐弁を忘れるとは! アハハハハハハ!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!! もしかしてお前!!」

 

今までの口調から一転していきなり土佐訛りのきつい喋り方でバカみたいにデカイ声で笑っている彼女を見て深雪は速攻で気付いて指を突きつけて

 

 

 

 

 

 

 

「坂本辰馬ぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「おおようやく気付いちょったか銀時、そうじゃわしこそ快援隊の艦長」

 

エリカは自分を親指で指差すとニヤリと笑い

 

「坂本辰馬とはわしの事じゃアハハハ! アハハハハハハ!!」

「よりにもよってオメェみたいなバカまで出てくんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」

「うづほぉ!!」

 

名乗りをあげる前に深雪のドロップキックがエリカの顔面に直撃した。

坂本辰馬、かつては銀時・桂・高杉と共に並んで攘夷戦争を生き抜いてきた攘夷志士の一人であり今は宇宙をまたにかけて快援隊という組織を率いて貿易を行っている商人である。

 

そして彼との出会いにより物語は急に動き始めていく

 

 

 

 

 

 

 

某日未明 場所は見渡す限りに無限広がる大宇宙。坂本辰馬がまだ千葉エリカでなかった時の話。

 

坂本辰馬は自ら作り上げた組織、快援隊を率いて宇宙を航海していた。

長きに渡る航海にも船乗員にもすっかり慣れっこの様子で艦内を首尾よく動き、とある目的の為に動いていた。

 

「オロロロロロロロロロ!!」

「何時になったらお前は船酔いが直るんじゃ」

 

ある一人を除いては。

そしてその一人が他でもないこの組織のトップ、坂本辰馬である。

艦内の隅っこで両手に持ったビニール袋に顔を突っ込んで吐瀉物を吐き散らしているのを見かけた彼の右腕である女性、陸奥がいつも通りの彼に呆れたように言葉を投げかける。

 

「もうじき目的地じゃというのに艦長がこげな所でゲェ吐き散らしとったら緊張感台無しじゃき、はよ船頭に行くぞ」

「ま、待ってくれ陸奥、すまんがビニール袋もう一つ頼めんかの……そろそろ溢れ……ドボロシャァァァァ!!!」

「……どんだけ胃の中モン吐き出すつもりじゃ」

 

タップンタップンとビニール袋の中から音を出しながら顔色悪い状態で顔を上げる坂本。

そしておぼつかない足取りをしながらも懸命に陸奥の後を追って歩く。

 

「それにしても今回はちっとばかり長くなってしもうたの……おかげで艦内の金太郎袋がほとんど無くなってしもうた……」

「それ全部使ったのおまんじゃろうが、もう艦内の船務員の間では金太郎袋でなく坂本袋と改名済みじゃ」

「なに!? わしの許可なく勝手にわしの名前を金太郎袋に使っておるじゃと! さすがにそげな事許せん! こうなったら艦内全員に名前の撤回! ドボロロロロロロロ!!! すみません坂本袋一枚!」

「はい坂本袋」

 

吐くか怒るかどっちかにしろと内心思いながら懐からビニール袋を彼に差し出す陸奥。

坂本は新しいビニール袋を両手に抱えたままようやく船頭室に着いた。

 

「おいおまん等ぁ! 首尾よく動いてるかぁ!」

「「「「「お帰りなさい坂本袋!!!」」」」」

「もはやわしの存在自体ゲロ袋ぉ!?」

 

陸奥と共にやってきた坂本が船員達に向かって檄を飛ばすが返ってきたのはもはや悪口に近い仇名だった。

少々テンション下がりながらも坂本は船頭から見える星のきらめく大宇宙を見上げる。

 

「ここら辺のエリアには次元の裂け目が観測されとるきん、危うく入ったら一瞬でお陀仏ぜよ」

「なにを今更、元よりその覚悟でここまで来たんじゃろう」

 

次元の裂け目とは次元空間の間に作られた溝のような物で、触れればたちまち吸い込まれていつの間にか未発見の場所にまで飛ばされてしまい右も左もわからないまま宇宙を彷徨うという、大変危険なポイントの事を表している。宇宙を航海するものは本来決して歩み寄ってはいけない地区なのだが、坂本達は果敢にもそこに向かって突っ込んでいく。何故なら

 

「理由はどうあれ“アイツ等”の母星を破壊したのはわし等じゃしちと気になってはいたんじゃ、ここ最近の奴等の動きを聞いてからどうも胸騒ぎがしての」

「金にならん事で船動かすのは勘弁してほしいんじゃが、だが確かに連中の動きが気になる、もしかしたらまた地球を侵略に……」

「アハハハハ! そん時はそん時でまたわしの交渉術であいつ等の侵略を食い止めてみせるきん」

「連中の言い分を勝手に解釈して交渉を行ったせいで奴等を地球にけしかけさせたのは一体どこぞのバカだったかの」

 

豪快に笑ってみせる坂本をジト目で見つめながら陸奥が皮肉っていると、乗務員の一人が突然

 

「艦長! 目的地のあるポイント先に! 謎の巨大な物体が!!」

「なに!?」

「映像出します!」

 

慌てたように叫ぶ乗務員に反応してすかさず坂本と陸奥は前方に振り向くと瞬時にモニターから映像が映し出される。

 

そこに現れたのは巨大な……

 

「な、なんじゃと……! 陸奥、コイツはもしや!?」

「バカな! コイツはわし等で完全に破壊した筈!!」

 

モニターに移された“ある物”、かつて宇宙の塵となり消え去ったはずの存在が今目の前で再び現れた事に二人が驚愕していると……乗務員は更に慌てた様子で

 

「巨大な物体がこちらに向かって攻撃体勢に!」

「やはり気付かれちょったか! 全艦隊に告ぐ! 超逃げてぇぇぇぇ!!!」

 

どうやら相手は既にこちらを敵とみなしたらしい。巨大な物体がこちらに向かって動いたのを確認すると坂本はすぐに皆に伝令。

 

しかし

 

「雷の様な衝撃波がこちらに向かって急接近!! あまりにも早すぎて回避できません!!」

「なに!?」

 

乗務員の叫び声に坂本が前方に向かって振り向いた瞬間。

 

「へ!?」

 

艦隊の壁を透き通って、黄色い閃光がまっすぐに坂本を捉えて直撃した。

 

「坂本! く! 物質通過性の光線じゃと……! 何をしとる救護班の用意を!」

 

目の前で雷に射抜かれそのままフラッと後ろに倒れた坂本にいち早く陸奥が歩み寄って抱き抱えながら回りの乗務員に通達。

 

「全艦隊撤退じゃ!! 一刻も早くこのエリアから脱出するぞ!!」

 

艦長が倒れた今、副艦長である陸奥が実質的に艦長の権限を得て坂本の意思を受け継いで撤退命令を飛ばすとまた坂本の生死を確かめるために彼の方へ振り返るが

 

「……無傷じゃと?」

 

これまた奇妙な事であった。先ほど雷の様な物に射抜かれたにも関わらず坂本の体には何処も損傷がない、しかしこれはこれで陸奥を更に不安にさせた。

 

「連中の目的は一体……」

 

幸いにも“彼等”が追撃することは無かった、まるで最初から艦長である坂本だけが目的だったかのように

不安に思う陸奥と他の乗務員を乗せて、快援丸は電光石火の速さでその場から撤退するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして今、雷の様な光線に射抜かれた坂本辰馬はというと

 

「……とまぁわしがその雷の様なものを食らったのが最後の記憶で、次に目覚めたら中々ええスタイルのボンキュボンの嬢ちゃんになってたんじゃ! アハハハハ!!!」

「笑い事で済ませられるかぁ!!」

 

いつの間にか異世界に渡り女子高生の千葉エリカの体に宿って復活していたのであった。

そして同じ境遇を得て司波深雪の体になってる坂田銀時は事の経緯を聞いて彼女の胸倉を掴み上げる。

 

「テメェいつからこっちの世界に来てんだよ!」

「んーいつじゃったかの~、なあヒデキ?」

「いや俺はレオだって」

 

自分がいつ来たのか確認するためにチラリと横に立っている西条レオンハルトに尋ねるエリカ。

 

「少なくとも俺が初めて会った時からもう坂本さんだったな、入学式だから4月か」

「そうじゃそうじゃ! 確かわしが気がついた時には講堂で入学式やっててみんなが見ちょる所で深雪ちゃんが新入生代表で答辞しちょってたんじゃ!!」

「オイィィィィィ!! どんだけ早い時期から異世界渡ってんだよ! 入学式から来てたとかそれもうモノホンよりお前の方が学校生活満喫してんじゃねぇか!!」

「いやいやあん時はわしも驚いたわ、なにせ目が覚めたら宇宙から学校の中! しかも体が女になってたから思わず混乱して……」

 

 

 

『アハハハハハ!! なんじゃこれ! どういう事じゃ一体! アハハハハハハハ!!』

『あの……私の答辞になにかおかしな点でもありましたか?』

『ハハハハハ!! 知らん知らん!! 訳わからなくて笑ってるだけじゃからアハハハハ!!』

 

 

 

「大爆笑して教壇で答辞言ってた深雪ちゃん困惑させてしもうたきに、あん時は講堂の中シーンとしてたの」

「そらそうだろ、あん時は俺もヤバイ奴と一緒に入学しちまったと思ったぜ」

「どこが混乱してんの!? 至って普通の何時も通りのバカなお前じゃん! 俺が最初にこっち来た時なんかすげぇパニックになったんだからな!!」

 

レオと話しながら初めてここに来た時を思い出していたエリカに深雪がツッコむ中、彼女は話を続ける。

 

「でもそっから本当に大変だったんじゃぞ、右も左もわからんきに、でもわしが入れ替わる前にこの体の持ち主と知り合いになっとった美月ちゃんがすぐ異変に気付いてくれとったんじゃ」

「美月?」

「ウチの二科生の生徒だよ」

 

坂本の存在にいち早く気付いたというその人物に深雪が眉をひそめると、エリカの代わりにレオが答える。

 

「特殊な目をしててな。言うなれば人が常時出してるオーラみたいなのを見分けることが出来るんだとよ、坂本さんに入れ替わった途端そのオーラが丸っきりに別人に変化していたとかですぐに坂本さんの正体を見抜けたらしい」

「なんだその写輪眼みてぇな能力、だったらそいつなら俺やヅラの事も簡単に……」

 

美月の能力を小耳をほじりながら聞いていた深雪はピタっと止まる。

 

「そういや飯食ってるときに妙な奴が……」

「それが柴田美月な、一応アンタ等が坂本さんと同じ異世界から来たのか見てもらって来たんだよ」

「通りでなんか怪しいと思ったんだあのメガネ、おっぱいデカかったし」

「いやおっぱい関係ねぇだろ!」

 

昼食の時に食堂で出会った少女を思い出して深雪が顔をしかめているとレオがツッコミを入れた。

 

「とにかくその目のおかげで千葉エリカっていう生徒が坂本辰馬っていう別の人間と中身がすり替わってる事がわかったんだとよ、後は達也が坂本さんの話をまともに聞いていたおかげで俺達も信じるようになった」

「ああ? 兄貴が?」

「ああ、俺達と同じクラスで2科生の司波達也」

 

どうやらエリカの中にいた坂本は失踪前の達也と面識があったらしい。レオはその辺を含めて深雪に説明してあげた。

 

「「信じられない話だがこの人の言動に嘘が含まれてない」って判断でアイツは坂本さんの話を真面目に聞いて一緒にこの事態を考察していたんだ」

「アハハハ! ほとんど達也に任せっきりじゃったがの!」

「そっから俺達も加わるようになって、坂本さんのいう異世界って奴をみんなで調べるようになったんだよな」

「ああ、思えば短い間じゃったがこの世界に来てからおまん等と色んな事ば体験しきてたのう」

 

腕を組んでエリカはしみじみと思い出す。

 

「入学早々同じ新入生に絡まれたり、学校にテロリストがやってきたり、深海に眠られた謎の文明の後が残った建造物を見つけたり、また学校にテロリストがやってきたり、山の頂にいる山賊の群れと戦ったり、またまた学校にテロリストがやってきたり、とある国のお姫様を暗殺者から護ったり、あれ? 今週来ないのかなと思ってたらやっぱり学校にテロリストがやってきたり……ほんに色々あったのう! アハハハハ!!」

「いや本当に短い間に色々起こりすぎ! なんか所々そっちの原作にないエピソード挟んでるし!! つうかテロリストに襲われすぎだろ! 最終的にもう恒例行事みたいになってるじゃねぇか!!」

 

彼女の体験した奇想天外なエピソードに深雪は指を突きつけながらツッコミを入れた。

 

「つうかそんな事やってる間にヅラや高杉とか俺にどうして隠れて動き回ってたんだよ!」

「ああ、それにはちゃんと理由があるばい、別に仲間外れにしてた訳じゃないぜよ」

「そういう事気にして言ったんじゃねぇよ!」

 

ヘラヘラしながら後頭部に手を置きながら軽く謝るエリカに深雪がキレている中、彼女は話を続けた。

 

「実はつい1ヶ月ぐらい前に達也の奴にちと問題があっての、ちょうどヅラが生徒会長さんと入れ替わった時期ぐらいじゃったか」

「それって兄貴の奴が失踪したっていう……」

「ああ、といってもそれは“達也で無く別の存在”じゃ」

「!」

 

サラリととんでもない事を言いのけるエリカに深雪は目を見開く。

 

「別の存在、そいつはつまり!?」

「ヅラが生徒会長さんと入れ替わったように、それと同じタイミングで“あるお方”が達也と入れ替わったんじゃ」

「マジかよ、お前等そんな事まで……」

「おまん等にわし等は近づけんかった理由はの、迂闊にこちらがまとまって動けば悟られる可能性もあると思ったからなんじゃ」

 

そう言ってエリカは空を指差す。

 

「宇宙からの」

「よりによってそんな所からかよ……俺たちを入れ替えた黒幕はそっから高みの見物してるってわけか……一体誰なんだそいつは」

「そいつはお前もよく知ってる筈じゃて」

「は?」

 

グラサンの下から目を覗かせ、真顔でエリカは深雪に真に迫る。

 

「そいつ等の名は」

 

 

 

 

 

 

 

エリカが敵の名前を深雪達に告げていたその頃の事である。

深雪達がいる世界とは別の世界、つまりかつて銀時達がいた世界では彼等がいなくともかぶき町はいつも通りの毎日を送っていた。

 

その町の中にある何でも屋、万事屋銀ちゃんだけは覗いて。

 

「おはようございまーす」

 

家の戸を開けて志村新八は挨拶をしながらリビングに入ると。

 

「あら、おはようございます新八さん」

 

白米、味噌汁、鮭漬けという日本人なら一般的な朝食が乗ったお盆を両手で持って、空色の着流しを着た銀髪天然パーマの男、坂田銀時がこれまた似合わぬ純白のエプロンを付けた状態で柔な微笑みを浮かべながら彼の方に振り返った。

 

「ちょうど新八さん用のご朝食も作り終えた所です、何分まだこの身体に不慣れで少々不恰好な出来になっておりますがお口に合うのでしたら是非」

「ユッキー! おかわり!」

「フフフ、そんなに食べては新八さんの分も無くなってしまいますよ神楽さん」

「……」

 

新八の分の朝食も作ってくれていた銀時に、神楽がソファに座ったまま勢いよく彼に空になった茶碗を差し出している。

自分の妹の様に優しく言いながら注意している銀時を眺めながら新八はどこか遠い目をしたまま

 

「……ありがたく頂きます、”深雪さん”」

 

そう、やはり七草真由美が桂小太郎と入れ替わった様に

司波深雪もまた坂田銀時の身体と入れ替わってしまっているのだ。

しかもその入れ替わりから既に数日の時が流れているのである。

 

 

 

 

 

 

銀時の手料理を食べ終えると新八はソファに座った状態で

 

「桂さんに続きまさか銀さんまでこんな事になるなんて……」

 

向かいに座っている司波深雪の魂が入り込んだ坂田銀時の方に顔を上げた。

 

「深雪さん大丈夫ですか? そんな万年金欠のモジャモジャ頭のおっさんの身体になっちゃって」

「ええまあ、正直最初は不安で寝る事もままならなかったのですが、皆様のご助力のおかげでなんとかこの身体にも慣れてきたところです、見知らぬ私をこんなにも温かく迎え入れてくれてありがとうございます」

 

数日前、コンビに向かう途中で道端で倒れていた銀時。目を覚ました彼は既に新八達の知る坂田銀時ではなかった、それでも桂の件があったのでこの事態をすぐに受け止めて新八と神楽はなんとか彼をフォローしていたのだ。

それら含めて感謝するかのように頭を下げる銀時だが、新八はその姿に唖然とした表情を浮かべている。

 

「ヤバいよ神楽ちゃん、こんな丁寧な物腰をしながら頭を下げて来る銀さんとかやっぱ不気味過ぎるよ……」

「私はもう慣れたアル、ていうかもう無理矢理この状況に適応しないと頭おかしくなるネ」

 

表情にはどこか怯えがある新八とは対照的に、彼の隣に座っていた神楽はどしっとした構えで銀時にジト目を向ける。

 

「一体なんなんアルかこの状況、ヅラに続いて銀ちゃんまで、おまけにあのモジャモジャ艦長も向こう行っちゃったみたいだし」

「そうだ、深雪さんは向こうの世界で入れ替わった坂本さんと一緒に行動していたんですよね」

 

新八がそう言うと向かいに座る銀時が静かに縦に頷く。

 

「はい、千葉エリカという私と同じ学年の女子生徒と入れ替わったとか。よくお兄様はあの方とお話になられてました、この世界の事や技術や文化の違い。そしてこの状況を作りだしたのが誰なのかと探しておいでだったのです」

「よくもまああの人の話を真に受けたなその人……。そしてそのお兄さんの方もこちらの世界のどこかで誰かと入れ替わったと……」

「……あれは1ヵ月程前のお兄様の誕生日でした、私室で異世界について調べていたお兄様が突如あんな事に……」

 

何よりも大切な兄の存在が別人と入れ替わる、その事は彼女にとってあまりにも残酷な仕打ちだった。

 

「学校側にはお兄様は行方不明となっておりますが、実際はお兄様と入れ替わったその方があまりにも特殊な方だったらしく、坂本さんがその方の存在の動向を周りに悟られぬように隠蔽したのです」

「特殊な方? 坂本さんがそこまで存在を隠そうとした人物って一体……」

 

新八が兄である司波達也がどんな人物と入れ替わったのか思考を巡らせていると、神楽は銀時に向かって

 

「じゃあお前の兄貴はこっちの世界に来てるって事アルな、なんなら私達が探すの手伝ってやるヨ」

「それが私もその方の事を詳しく坂本さんから聞けなかったんです、その時の私は突然お兄様がいなくなられて気が動転していたので一体どんな方だったのかさえ……」

「誰なのかわからないんだったらまずは江戸を片っ端からそれらしい奴を探す事から始めればいいアル」

「え?」

 

諦めかけていた銀時に神楽はあっさりと答えて私に任せろと言った感じで自分の胸を叩く。

 

「私達は万事屋、妹ほったらかしにてどっか行ったバカ兄貴をとっ捕まえる事なんざ昼飯前ネ、依頼料の朝飯は既にもうお前に貰ったしな」

 

そう言って神楽は自分の腹を軽く摩る。

 

「私もバカ兄貴にほったらかしにされた妹だからお前の気持ちはよくわかるんだヨ、だからすぐに会わせてやるから安心するヨロシ」

「神楽さん……」

 

素性も知れぬ相手に対してこうまで協力してくれるという事に銀時は胸を熱くさせ、自信満々に頷く神楽に思わずソファから立ち上がって身を乗り出し

 

「この様な迷惑を掛けて更には行方も知れぬお兄様を探してくれるなんて! 感激の極みです!! 本当にありがとうございます!!」

「ぬおぉー! 銀ちゃんの身体で抱きつくんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!」

「ちょっとぉぉぉぉぉ!! なんかヤバい絵面になってんだけどぉ!? 離れて二人共! アグネス動くから! アグネスが待ってましたと言わんばかりにドア蹴破って入って来るから!!」

 

つい嬉しかったのか神楽の首に両腕を回し勢いよく彼女を抱きしめる銀時。

思わぬ出来事に神楽は目を血走らせて激しく抵抗する中、新八が慌てて二人に叫んでいると。

するとそんな時に

 

「なんじゃ、お楽しみの最中じゃったか?」

「え? ってええ!? あなたは!」

 

騒いでいたので気付かなかった、いつの間にか家の戸からリビングへとやってきた一人の女性の登場に新八は目を見開く。

 

「陸奥さん!? どうしたんですか急に!?」

「アグネスじゃなくて悪かったの、ちょっとおまん等の所のモジャモジャに頼みがあったから寄ったんじゃ」

 

頭に被った三度笠を取って現れたのは坂本辰馬の右腕とも称される快援隊の副艦長、陸奥。

突然現れた彼女に新八が困惑の色を浮かべる中、陸奥はずかずかと部屋の中へと入って来て

 

「にしてもそこの天パとチャイナ娘はしばらく見ん内に随分と……これではおまんも肩身の狭い思いをしているんじゃろうて」

「待ってぇ! 違いますからこれは! うまく説明できませんけど今の銀さんは銀さんじゃないんです! 信じれないと思いますけど精神が異世界の女の子と入れ替わっていて!」

「……ああ」

 

こちらを見ながら哀れみの視線を送って来る陸奥に新八がすぐに否定して訳を説明しようとすると、彼の話の途中で何か悟ったのか陸奥は神楽に抱きついている銀時の後頭部をガシッと掴むと。

 

「なるほど、どうやらこちらの大将も既に連中にやられたという訳か」

「あだだだだだ! 割れます! 頭割れますから!! いきなり乱暴な事しないで下さい!!」

「これぐらいの事で喚くんじゃなか、ウチの世界じゃこれぐらいの事常識ぜよ」

「づッ!」

 

涼しい顔で銀時の頭を鷲掴みにしたままグイッと上に掲げる陸奥。

いきなりの事に銀時は悲鳴の様な声で叫んで混乱していると、彼女はすぐにパッと手を放して彼を乱暴に落とす。

 

「てことはちと面倒な事になってきたの、敵の攻撃はそろそろ始まる頃合いじゃというのに」

「どういうことですか陸奥さん! もしかして陸奥さんの所も銀さんみたいに!」

「ああコレと同じ事になっちょる、使えんバカが更に使えんバカになっちょるきに、じゃからこっちの大将に協力を仰ごうとしたんじゃ」

 

サラッと酷い事を言いながら陸奥は腕を組みながら新八の方へ振り返る。

 

「奴等がまた動き出したからもう一度手を貸せと」

「奴等……!?」

「この入れ替わり騒動の発端は、全ておまん等がかつて戦った事のある、とある種族がやらかした事じゃ」

「とある種族……それが銀さん達を入れ替えたっていうんですか、一体そいつ等は……」

 

この騒動を引き起こした真犯人の正体を恐る恐る問い詰める新八に。

陸奥は一度一呼吸整えるとゆっくりと

 

「その種族は今二つに分かれた、一つは今もなお自分達の母星を探し続ける者達、もう一つは失った母星を再び復活させ、更なる過ちを行おうとする者達」

 

 

 

 

 

 

 

「蓮蓬」

 

 

 

 

 

 

「かつてわし等が地球を護る為に戦った幻の傭兵部族が最悪な形で蘇った、今度はわし等の世界だけでなく別の世界までも手中に収めんとな」

 



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第七訓 情報&陰謀

桂小太郎こと七草真由美は、吉田幹比古と共に学校の屋上へときていた。

幹比古の狙いはもちろん桐原やレオと同じく侍としての桂小太郎の力量を見定めることであったのだが……

 

「随分と魔法を上手く操れるんですね……名のある侍だと聞いていたのでてっきり刀使ってくると思いましたよ」

「まあな、戦いとは刀のみにあらず、ありとあらゆる物を巧みに操ってこそ侍の本領だ」

 

幹比古の周りには何十発もの氷の弾丸の破片が冷気を放ちながら消えていく。

立ち尽くした彼の数メートル先の前方に立っていた真由美は冷静な表情を浮かべながら

 

「今なら俺が独自に編み出した必殺技「尻波絶対凍風《ケツカチブリザード》」を披露してやってもよいのだぞ」

「……なんですかそれ」

「尻から冷凍光線を放つのだ」

「……なんで尻からなんですか?」

「知らん、色々試したらなんか出た」

 

人の体でなんちゅう魔法を体得しているのだと幹比古が心の中でツッコンでいると真由美はまだ話を終えていない様子で

 

「これはまだ生徒会の仲間にも教えていない秘術でな、お主が俺の力試しをしたいのであれば是非この必殺技もぬしに見てもらおうと……」

「いやいいです、もう大体わかったんで」

「いいのか、凄いぞ俺の尻波絶対凍風は」

「いや本当にいいんで……」

「後で見たくなっても知らないぞ、本当に凄いぞ俺の尻波絶対凍風は」

「どんだけ見せたいんですか! 尻波絶対凍風!!」

 

拒否してもめげずに見せてやろうと何度も提案してくる真由美に幹比古は遂に心の中でなく口に出してツッコミを入れた。

 

「あなたの力はもう十分見ました、七草生徒会長、いえ桂小太郎さん」

「やれやれ、坂本の奴がこちらの世界に来ているとぬしから聞いた時は驚いたが、まさか俺達から隠れながら異世界の者達を中心とした隊を編成していたとは」

「エリカ……坂本さんが手当たり次第に色んな人を誘って作り上げた全然まとまりのない隊ですけどね」

「ああ、あいつは昔からそういう奴だったよ。味方はおろか敵にまで馴れ馴れしく話しかけ、いつの間にか船一隻には収まらないほどの仲間を作っている本当におかしな奴だ」

 

幹比古が真由美に行ったのは力量を測るだけではない、坂本辰馬がこの世界で千葉エリカの体の中にいて独自に動いていたことも教えていたのだ。

そして坂本達が隠れて行動していたのは敵であるあの種族に勘付かれない為だった事も。

この入れ替わり現象を引き起こした元凶が「蓮蓬」の仕業だという事も

それ等を聞いていた真由美は頭の中で上手く整理しながらジッと彼を見据える。

 

「その坂本が俺達に隠れて動かなければならない程、相手の脅威は恐ろしい物なのか」

「はい、こうして僕等が急いであなた達とコンタクトを取ったのも、最悪の事態が始まる事に一刻の猶予もないからなんです」

「最悪の事態? この入れ替わりが一体何を引き起こすというのだ?」

「二つの世界の滅亡です」

「!!」

 

冷静に言う幹比古にあの真由美が一瞬言葉を失うほどの衝撃を受けていると彼は話を続けた。

 

「そして今、現在進行形でこの星は滅亡の一途を辿っているんですよ」

「……詳しく説明してもらおうか幹比古殿」

「ええ、その為に僕が来たんです」

 

いきなり世界の滅亡だの言われてはさすがに頭の処理が追いつかない。

幹比古は残り少ない時間の中で出来る限りの事を彼に話すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃の事であった。

彼らのいる地球からずっと遠くに離れた宇宙で。

 

機械で造られた強大な星のような球形の物体が彷徨っていた。

その大きさは計り知れず、どれ程の規模かもパッと見ではとてもじゃないがわからない。

 

そしてその星の表面にはアヒルのような口ばしをした変な生き物の顔が貼り付けられてるかのように作られていた。

それはこの星に住む者があの幻の傭兵部族、蓮蓬だというのを明確に表す象徴の一つである。

 

そして強大な力と兵力を持ったその星のある一角の大部屋に、番傘を背中に背負った一人の若者が立っていた。

 

「やれやれ、しばらく見ない内にまた随分と急成長したね。俺ら夜兎とは違う形で他の星から恐れられていた種族だとは聞いていたけど、まさか地球の侍達にやられてから僅かの期間で前以上の星を創り出すなんて」

「おい、いくら同盟結ぶ相手だからって、連中の機密事項のある場所になにお散歩感覚で入ってきてんだすっとこどっこい」

 

若者と同じく巨大な番傘を手に持った無精ひげの生やした一人の男が背後からけだるそうに声をかける。宇宙最強の傭兵部族、夜兎にして宇宙海賊春雨の第七師団副団長の阿伏兎だ。

そしてそんな彼に話しかけられた男は口元に微笑を浮かべながらゆっくり振り返る。

 

「あららどうしてここにいるのがわかったの?」

「近づくなって言われた場所に近づくのがお前さんだろ」

 

阿伏兎と同じく夜兎であり春雨の第七師団団長、神威。

宇宙最強のエイリアンハンターの海星坊主を父に持ち、そして神楽の兄でもある。

 

「そういう阿伏兎だって入ってきてるじゃん、いいの? 受けた仕事はきっちりやるのがモットーとか言ってなかったっけ?」

「だから連中の秘密の場所にノコノコ出向いてる侵入者を母艦に連れ戻そうとしてんじゃねぇか、これも俺の仕事だ」

「ふーん、じゃあちょいと仕事休んで、“コイツ”の事教えてくれないかな」

 

そう言って神威は自分の背後を親指で指差す。

 

彼の背後には直径10メートル近くの黒光りの複雑そうな構造した巨大装置。微弱な電流を中で走らせている透明なパイプが何百本とくっ付いており、顔を上げれば微かに見える装置の頭には発射台のような物まで設置されている。見れば見るほど禍々しい機械であった。

 

「コイツって、『異空間転心装置』の事か? コイツの事なら前の春雨の会議で説明されてただろうが」

「俺が会議なんかちゃんと聞いてると思う?」

「ああそうだな、なにせ仲間の話もロクに聞かずに勝手に動くはた迷惑な団長だったわ。会議に出された議題なんて耳にすら入ってねぇだろうな、だから俺が代わりに聞いているんだったぜ」

 

やれやれと首を横に振りながら呆れると阿伏兎は目の前にある装置を眺めながら神威に話を始めた。

 

「異空間転心装置は簡単に言えば人と人の体を入れ替える転送装置だ。頭上に付いてる発射台から雷の様な物を打ち上げて対象に当てる、すると装置に事前に登録していた者と当たった者の体が入れ替わっちまうんだ」

「ふーん、てっきり核搭載二足歩行型戦車かなと思ったのに」

「回りくどいやり方をしながら敵の気づかぬ内に星を占領しちまう事に関してはスペシャリストの傭兵部族、蓮蓬が作った代物だ、俺達みたいな武力で押し切るタイプと違うんだよ」

 

発射台が付いてるのに体を入れ替えるだけの装置だと聞いて、少々がっかりした様子で頬をポリポリと掻く神威に目を細めながら阿伏兎は話を続ける。

 

「それにコイツばっかりさすがに夜兎の俺達でさえ食らっちまったら一巻の終わりだ。なにせコイツは食らった相手を宇宙の辺境どころか異世界とかいう未知なる次元にまで飛ばしちまう、さすがにアンタでも見知らぬ世界に飛ばされて見知らぬ身体にされたらひとたまりもないだろ?」

「へー」

 

わかりやすい阿伏兎の説明に神威は感心する様に頷く。

 

「つまりコイツを使えば俺もハルケギニアやバリアン世界に飛ばされるって訳だ」

「それどこの世界?」

「ユグドラシルや学園都市でもいいかな」

「だからどこの世界の事言ってんの?」

 

唐突に聞いた事の無い世界の名前を並べだす神威に阿伏兎が困惑した様子で見つめる。

 

「ったく、そんなお気楽に考えてんじゃねぇよ、コイツはそんじゃそこらの並大抵の兵器じゃねぇんだ。だから春雨は即座に動いて連中を敵に回さないためにこうして俺達が出向いてんじゃねぇか」

「そんなにヤバイなら今ここで破壊しておく?」

「こんな星のど真ん中でやってみろ、連中に気づかれたらさすがに俺達でも生きて帰れまいよ」

 

相変わらず単純な手をすぐ実行しようとする神威に阿伏兎は釘を刺す。

 

「春雨は連中と戦争おっ始める気はねぇ、連中にやりたいようにやらせて隙を見せたら奴等が手に入れたモンごと横から掻っ攫うのが狙いなんだよ」

「あまり乗り気がしないなぁ、たかが異世界に飛ばすだけの装置に腰引かす海賊ってどうなの?」

「それだけだったらとっくの昔に俺達が奪ってやってるよ」

 

基本力で相手をねじ伏せて殺す戦い方がお好きな神威。しかし彼の推測よりもこの装置の恐ろしさはとても計り知れぬ者であった。

 

「コイツを地球のお偉い方に狙いを定めて、蓮蓬の連中がそいつ等と入れ替わったらどうなる? 政治も占領も奴等の思うまま、地球の連中は誰が蓮蓬と入れ替わってるのかもわからずてんてこ舞いよ。気が付けばあっという間に地球人はいなくなり連中だけの星となる」

「あーそういう事?」

「既にコイツは実験で地球の連中数人を異世界に送り飛ばすことに成功した。そしてもう連中は異世界に仲間を送る事に成功している、つまりそういう事だ」

 

はぁ~とため息をつくと阿伏兎は異空間転心装置を見上げる。

 

「もうすぐ二つの星が消えんだよ」

 

 

 

 

 

そしてその頃、かつて坂田銀時のいた世界の江戸では。

 

「ち、地球が滅ぶって……本当ですか?」

「ああ、こっちの地球とあっちの地球、二つのタマが蓮蓬の手によって簡単にぐしゃりじゃ」

「下半身が冷える言い方止めてくんない?」

 

向かいに座る陸奥の話を聞いて新八は身震いしながら彼女の方へ顔を上げる。

 

「どうして蓮蓬が……坂本さんの交渉のおかげで地球侵略は諦めた筈ですよね?」

「蓮蓬は二つに分かれた、一つは無限に広がる宇宙の中を彷徨い母星を探す者達。もう一つは宇宙に散らばりバラバラになったかつての母星を繋ぎ合わせ再び」

 

問いかける新八に陸奥は一旦言葉を区切って顎に手を当てる。

 

「母星として最も適した星、地球侵略を再開しようとする者」

 

坂本が上手く彼等と交渉し、銀時と桂もまた黒幕である米堕卿の本体とも呼べる蓮蓬の母星を制御するシステム「SAGI」を破壊する事に貢献した。それにより蓮蓬達は地球を侵略する事を止め、母なる星をもう一度見つける為に長い旅に出た筈だが……

 

「種族が皆同じ考えになるとは限らん、あん時わし等が破壊したのはその蓮蓬の住んどったかつての母星じゃ。それがどげなひどかとこでも、捨てようとしても捨てきれぬモンもおるんじゃ」

 

全ての事が綺麗に済むわけではない。蓮蓬の一部は未だ地球侵略を諦めず再び牙を剥いたのだ、とんでもなく恐ろしい兵器を用いて

 

「ただの入れ替わり装置じゃない……自分達の種族と人類の身体を入れ替えて星を手に入れる、ある意味核兵器よりも恐ろしいモンじゃないですか、一体どうやってそんな物を」

「かつて蓮蓬の母星の核となっておったシステムSAGI」

「!」

「蓮蓬は、バラバラになったかつての母星だけでなくそのシステム「SAGI」その物さえ復活させたんじゃ、既に奴等は上手くこの世界に潜り込み、技術や兵器を吸収していった」

 

かつて地球に牙を向いた真の黒幕であるSAGI。それが復活し、更にはこちらの世界の技術までも既に手中におさめたと知って新八は驚愕する。

そして

 

「てことはこのタチの悪い入れ替わり現象も……」

「なんらかの器を試す為に恨んでるわし等で試し撃ちでもしたんじゃろ」

 

困惑している新八に陸奥は人差し指を立てる。

 

「わし等の世界で言うなら幕府のお偉い方と体入れ替えて内部から壊滅させていくとかも可能じゃきん、つまり本当の目的はそっちじゃ、あのモジャモジャコンビはただの実験台として選ばれただけに過ぎん、自分等で試すのはまだ危険だとでも思うたんじゃろうな」

 

仮説を立ててそう結論付ける陸奥に対し、新八でなく彼の隣に座っていた神楽が腹を立てる。

 

「なにアルかそれ! テメーで作った兵器ぐらいテメーで責任とれヨ! なに人に向けてとんでもないモンぶっ放してるんだコノヤロー」

「全くです」

 

事件の全貌と黒幕を知ってさらに神楽の隣に座って話を聞いていた司波深雪の魂が宿った坂田銀時は静かに頷く。

 

「星を奪うなどという非道な行いをする為にそんな装置を作るなど許しがたい行為です! 私をこんな体にした事、いずれ絶対にしかるべき報いを……!」

「深雪さん顔怖いです」

「ヅラの奴はどうでもいいけどユッキーと銀ちゃんを元通りにしないと! 私が直々に出向いてぶっ壊してやるアル!!」

「……ヅラ?」

 

神楽の口から出てきたヅラという言葉に陸奥は眉間にしわを寄せる。

 

「まさかあのウザったい長髪も入れ替わっちょるんか、過去に名をはせた攘夷志士3人がこうも容易く敵に振り回されるとは情けなか」

「いやいや陸奥さん、今回ばかりは仕方ないですって」

 

上司やその友に対してでも厳しい評価を下す陸奥に新八がまあまあと呟いていると。

おもむろに神楽は銀時の方へ振り返る

 

「そういえばユッキーはまだ入れ替わったヅラに会ってないアルな」

「確かにそうですが……七草会長が桂さんと入れ替わってる事はあっちの世界でも知っていました」

「ええ! 向こうの世界で桂さんと会ってたんですか!?」

「はい、坂本さんが教えてくれました、ただ存在を公にしてはいけないので私からは彼の正体について何も追求しませんでした、まあでも……」

 

銀時が桂の事を知っていたのは初耳だった新八達、しかし驚く彼等に銀時は目を瞑って

 

「私の記憶から抹消したいので出来る限り彼の存在は忘れようとしていたんです」

「そこまで嫌ってたの!?」

「私は本物の千葉エリカさんには会ってないので坂本さんが彼女と入れ替わってもある程度は受け入れられました、ですが皆に慕われ誰からも尊敬され、私も生徒会でよく話した仲である七草会長の姿であんな真似を……生理的に無理です」

「桂さんホントあっちの世界でも何やらかしたの!?」

 

はっきりと拒絶の意志を伝える銀時を見てあの男は異世界で何をやらかしたのかドンドン不安になっていく新八。他人事と言っても自分達の世界の住人があちらの世界で迷惑掛けてるともなると同じ世界の住人として少々責任を感じてしまう。

 

「まあ一番私が嫌悪しているのは私の身体と入れ替わった坂田銀時という男ですが」

「いやいやそれはしょうがなくないすか!? 銀さんもきっと望んで深雪さんの身体奪った訳じゃありませんし!」

「不可抗力だとしてもお兄様しか見てはいけない司波深雪の身体を上から下まで見る事が出来てしまう時点で私が今最も憎むべき相手です」

「大体予想は出来てたけどこの人結構ブラコンだな……やっぱ生徒会長と一緒で向こうの世界の人もなんかズレてるよやっぱ」

「ズレ過ぎて歪な形になっちょるわし等の世界よりはマシじゃき」

 

真顔で兄以外の人に裸を見られたくないと宣言する銀時に新八が若干引いてる中、腕時計をチラリと見ながら陸奥は冷静に答える。

 

「それよりもう時間じゃ、こうなったらもうおまん等に任せるしかない。わしの後についてこい」

「え? 一体どういう事ですか?」

「決まってるじゃろ」

「いや決まってるって一体何が……」

 

いきなりおもむろに立ち上がってついてこいとリビングから出て行こうとする陸奥を困惑しながら呼び止める新八、すると彼女は踵を返して相も変わらずの無表情で

 

「星二つが滅ぶ危機じゃぞ、ならそれを止める為に行く場所は一つじゃけ」

 

そう言って陸奥は天井を指差し

 

「宇宙行って蓮蓬の野望と入れ替わり装置を叩き潰す」

「えぇぇぇ!? 銀さんや坂本さんもいないこの状況でですか!」

 

彼女の提案にさすがに新八も口を大きく開けて驚く。銀時達が不在の今二つの星を征服せんとしている星一つを止めるなど考えてもいなかったのだ。

 

「安心するぜよ、いないならその分代わりに入った連中をコキ使って働かせてやればなんとかなるじゃろ、最悪弾避けに使っておっさんの身体ごと死んでもらうきん」

「アンタ異世界の人達になんでそんな容赦ないの!? もしかして坂本さんと入れ替わった人と気が合わなかった!?」

「別に気が合う合わないは関係なか、ギャーギャー喚いてばかりじゃからうんざりしちょるだけじゃ。機会があれば宇宙のど真ん中ほおり投げようと思っとる」

「坂本さんのボディ事宇宙に射出する気ですか!?」

「入れ替わり騒動が終わった後じゃき」

「全ての事が無事に済んでから宇宙に捨てんの!? どんだけ嫌いなんですか!」

 

隠しもせずに堂々と異世界人一人の抹殺を企む陸奥に新八はツッコミを入れながら話を続ける。

 

「ていうかやっぱ僕等だけじゃ戦力不足もいい所ですよ、やっぱり銀さん達がいないと」

「だからそこは異世界の連中共で補えばええと言うとるじゃろ。心配せんでもよか」

 

銀時達の不在のおかげでやはり決心の付かない新八に陸奥は不安や心配など微塵も感じてない様子ではっきりとした声で返事した。

 

「実は入れ替わり騒動のおかげで中々骨のある奴がこの世界に来ちょる、ここに来る前にわしはその者と情報を交換し合ってきた」

「え?」

「奴の手を借りて空間の狭間に陣構えしている蓮蓬をわし等で叩く」

「い、一体誰なんですか?」

 

陸奥がここまで自信満々に推す異世界の人間とは誰の事なのであろうか……。

問い詰める新八の背後で神妙な面持ちで銀時も陸奥を見つめる。

 

すると陸奥はゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「司波達也、異世界の人間でありながらわし等と結託し二つの世界を救おうとしちょる男じゃ」

 

 

 

 



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第八訓 集合&登場

司波深雪が千葉エリカと出会ってから数時間後の事であった。

学校は終わり放課後、エリカは既に他生徒はいなくなっている自分のクラスの1年E組の教室でお腹を抱えてしゃがみ込んでいた……

 

「……」

「銀時から聞いた……テメェどうして今まで隠れてやがった」

 

そんな彼女をドスの利いた声で呟く少女、中条あずさが静かに見下ろす。

彼女に睨まれながらもエリカは顔を上げずに口元を押さえながらしゃがみ込んでいる。

 

「さっさとツラ上げてこっち見ろ」

「……いやだって」

 

彼女にそう言われてエリカは遂に両膝を震わせながら立ち上がると、口元を押さえたままグラサン越しにあずさの顔を見て

 

「まさかあの高杉がこんな可愛らしいお嬢ちゃんになってたら誰だってブフゥ!! 笑ってしまうわ!! アハハハハハハ!!!」

「……」

 

遂に堪えきれずにエリカは口元から手を放してゲラゲラと大きな笑い声を上げた。

掛けたグラサンの下から涙が出て来るほど笑っている彼女を前にあずさはただジッと立っていると。

 

「おいおい笑ってやるなよ辰馬君よ」

 

あずさの背後からエリカを注意する声が

彼女達と一緒にこの教室に来ていた司波深雪である

 

しかし彼女もエリカに注意しながらも必死に涙目で笑いを堪えている。

 

「高杉君だって俺等と同じ被害者なんだよ。ちょっと前まではこの腐った世界をぶっ壊す~だの中二病クサイ事言ってたのに目が覚めたらモノホンの中二みたいな体の女の子に……ぶふぅ!! 笑っちゃいけねぇってホント……ダメだ腹痛ぇ! ギャハハハハ!!」

「……テメェ等も人の事言える体してんのか」

 

遂にエリカ同様腹を押さえながら笑い出す深雪。そんな彼女を坂本に対する以上に殺意を放ってあずさが睨んでいると今度は彼女の横から

 

「おい銀時、坂本、その辺にしておけ」

 

彼女達3人と同じく、教室に来ていた七草真由美が二人を静かに諭す。

 

だが彼女であってもさすがにここまで笑いが広がっていると我慢できないのかプルプルと身体を震わせ口元を押さえながら

 

「高杉の今の身体はあーちゃん殿の身体だ、高杉を笑うという事はあーちゃん殿の体型を馬鹿にしているのと同義。彼女を笑うのは生徒会長であるこの俺が絶対に許さ……ぶッ!」

「テメェ等まとめて首飛ばされてぇのか……?」

 

人3人程殺せそうな手頃な凶器が無いかとあずさがふと考えていると、タイミングよく教室に複数の生徒が入ってきた。

 

「お、お邪魔します……」

「え、なんで皆さん笑ってるんですか……?」

 

最初に人のオーラを感じ取れるという特殊な目を持っている柴田美月が遠慮がちに入って来て、続いて彼女の後から教室で笑っている3人を見て困惑した表情で窺っている吉田幹比古。

 

「おーおーやっぱり坂本さんの旧友だわな、揃いも揃ってにぎやかな人達だぜホント」

「楽しげに眺めるのは結構だが、俺は見た目が司波の妹や七草会長なおかげで全然笑えん……特に手酷い目に遭わされた中条と入れ替わった侍相手にはな」

 

続いて反対方向のドアからやって来たのは西条レオンハルト、そして彼と共にやって来た一つ上の先輩桐原武明が複雑な表情が入って来る。

 

「アハハハハ!! ようしおまん等来たか! じゃあ早速始めるとするか!」

 

新しく4人が入ると教室の一番後ろ側で坂本はパンパンと両手で叩いて全員にこちらを向くように合図する。

危うく衝突しかけていた深雪、真由美、あずさも彼女の方へ振り返った。

 

「まずはわしから自己紹介、わしは千葉エリカっちゅうお嬢ちゃんの身体を借りとる坂本辰馬というもんじゃき、ここの滞在期間は入学式の日じゃったから4人の中で一番長い。好きなモンは船で宇宙ば駆ける事とキャバクラすまいるのおりょうちゃん、夢はデッカく宇宙一の商人じゃ、応援よろしく。アハハハハ!」

「いやアンタの事は俺達とっくに知ってるから今更自己紹介しなくていいって、むしろ千葉エリカの方を知りたいぐらいだわ、ハハハ」

 

得意げにグラサンをクイっと上げながらヘラヘラ名乗るエリカにレオが苦笑しながらツッコミを入れていると、彼等の傍に立っていた真由美がスッと軽く手を上げ

 

「俺は七草真由美殿と入れ替わってしまった桂小太郎という日本の夜明けを目指す侍だ。滞在期間は一ヵ月、好きな物はそばだ。夢は生徒会長して皆の模範となれるような人間になる事、そして最終的にはニ科生も一科生も関係なく皆平等に教育を受けられる方針で学校を革命する事が俺の目標だ、皆、生徒会長であるこの俺を信じて後について来てくれ」

「いやあの桂さん、夢の部分から完全にこっち側に浸食してるんですけど……どう考えても生徒会長としての志になってるんですけど……」

 

言ってる事は立派なのであるが桂と言うより真由美の夢に近いのではないだろうか……。

ボソッとツッコミを幹比古が彼女に入れていた時、今度は教壇のすぐ前の机に足を伸ばして座っていた深雪がけだるそうに小指で鼻をほじりながら

 

「あーこの娘っ子と入れ替わった坂田銀時でーす、万事屋っていう何でも屋やってまーす。ここに拉致られたのは数日前、好きなモンは甘い物、ジャンプ、結野アナ。夢はあ~……なんだろ? ああ、今指突っ込んでる鼻の奥にあるでっかいハナクソ取ることでいいや」

「み、深雪の姿でそんな事しないでください!!」

「うるせぇ今こいつの体は完全に銀さんの支配下にある。俺が何しようが俺の勝手だ、あ、取れた」

 

少々ビクつきながらも深雪に対して果敢にも注意する美月だが深雪はそんな事お構いなしに鼻に突っ込んでいた指を引っこ抜き、ぶっきらぼうに小指を親指で弾く。

 

「誰にだってハナクソの一つや二つ鼻の中に溜め込んでるモンなんなんだよ。司波深雪だってきっとお前等に隠れて鼻に指突っ込んでるよ、誰だってそうなの、みんなみんなハナクソ溜めて生きていくモンなの」

「ならせめて人前でやらないで下さい! 深雪自身が人前で堂々とそんな事してると誤解を受けるじゃないですか!!」

「いいんだよ堂々としてて、主人公を引き立てる為におしとやかに一歩下がるヒロインの時代はもう終わったんだよ。今は主人公を押し退けて人前で恥じらいも無くゲロ吐き散らせるヒロインの時代だ」

「そんな時代一生来ません! ああ今度は耳に指を!」

 

具体的な例えを言いながら鼻の次は耳に小指を突っ込もうとする深雪を美月がついに身を乗り出して止めようとしている中、彼女達の前方にある机の上に胡坐を掻いて座り込んでいる中条はというと懐から取り出したキセルを口に咥えながらフゥーと教室内に煙を撒き散らす。

 

「……こんなくだらねぇ事続けるんだったら俺はもう帰るぞ」

「す、すまない高杉さん、中条の体で校内で堂々とキセル咥えて煙を吐き出すの止めてくれないか……もしバレたら中条が退学に……」

 

退屈そうにしながら堂々と教室内で喫煙しているあずさを桐原が恐る恐る止めようとするが彼女はギロリと彼を睨み付けて

 

「俺がガキに気をかけて身なりを整える様な奴に見えんのか? それと俺に気安く話しかけんじゃねぇ」

「……坂本さんこの人本当に俺達の味方になってくれるのか? 俺はもう完全に自分の心が折れた音が聞こえたぞ」

「アハハハハ! 心配せんでもよか! 高杉はシャイボーイじゃからの! 昔皆で遊郭ば行ったときもコイツ指名した女の前でただ目を血走らせながら酒飲んでるだけで! 最終的にその女に「クソつまらない男だった」とか散々な感想を言われ……!」

 

ヘラヘラ笑いながら大昔の話を掘り返して語りだすエリカの頬をヒュっと何かが掠めてそのまま彼女の背後にある壁にヒビを入れて突き刺さる。

刺さった物は先程どこぞの誰かが口に咥えていたキセル……

 

「悪い、やっぱまだこの体に慣れてねぇみたいだ……本物の体なら今頃テメェの喉を突き刺してたっぷり煙吸わせてやったのによ……」

 

その誰かことあずさは坂本をまっすぐに睨み付けながら静かに言葉を告げる。

それに対しエリカはポリポリと頭を掻きながらふと隣にいるレオの方へ振り向いて

 

「わし、なんか悪い事言った?」

「……アンタよく今まで生きてこられたな、そこん所は本当に凄ぇよ」

 

悪びれもせず真顔で自分を指差すエリカにレオは呆れを通り越して尊敬すら感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

数分後、入れ替わり組の自己紹介が終わり(一人を除く)、とりあえず皆が話を聞く態勢になるとエリカがアハハハハ!と笑いながら話を始めた。

 

「じゃあわし等の事は話し終えたからそろそろ「蓮蓬対策・二つの玉を護ろう計画」を説明するぜよ!」

 

大々的に計画名を発表するエリカに深雪はふと頭を下げて自分の体を見つめる。

 

「タマを護るつってもタマどころか棒さえもうねぇんだけど?」

「いやいやそっちのタマじゃなか銀時、地球の事じゃ地球」

「んだよまぎらわしい」

 

エリカの説明で初めてわかったように深雪はしかめっ面で顔を上げた。

 

「それじゃあ計画名は「蓮蓬対策・二つのタマを取り返そう計画」にしろよ」

「そうじゃなぁ、考えてみればワシら4人ともタマ無くしてしもうたきに……よくよく考えればこれが一番の問題じゃ、わしはまだ使い足りんかったというのに……」

 

心底どうでもいい事を呟きながらエリカは意を決したかのように顔を上げて

 

「よしじゃあ計画名は変更して「わし等の金タマ取り戻せ計画」で!」

「坂本さんもうどうでもいいんでさっさと話を続けてください……」

 

最終的に下らない計画名になったところで幹比古がボソッと口を挟みやっと話が始まった。

 

「皆には話したが蓮蓬とわし等はかつて一度は和解したものの、それを良く思わんと思っていた連中が一斉に立ち上がり今回の入れ替わり騒動を起こした。この騒動を終わらせるにはまず蓮蓬のいる宇宙ば行って連中の星に向かう。そんでそこにあるであろう入れ替わり装置を破壊することじゃ、連中は前いた所と変わっていないのであればきっと次元と次元の狭間におる筈じゃき、つまりわし等の世界とこっちの世界の丁度真ん中に奴等は拠点を築いとるっちゅう事になる」

「坂本さん、質問いいか」

 

事の経緯と今後の目的を説明するエリカに挙手して尋ねたのは桐原。

 

「宇宙に行って奴らの野望を阻止するのはわかったが、宇宙船が飛びかうアンタ達の世界と違って俺達の世界にはそんな技術簡単には手に入らない。星を探すどころか宇宙に飛び立つ事さえ難しい状況だ、その辺はちゃんとしっかり考えているのか」

「無論心配せんでよか、船の事でこのわしがなんにも考えておらんわけないじゃろうが」

 

こちらの世界には天人はいない、ゆえに宇宙船などという存在すらなく、宇宙飛行士でもない彼等が宇宙へ飛び立ち敵の星を探す事が出来るのであろうか。

桐原の的を射た質問にエリカは笑いながら返す。

 

「この世界に宇宙船の技術が無いので作ればいいだけじゃ。船の事ならわしの頭に事細かく叩き込んでおるきに、ある程度の船ならこちらの技術で補って作れるじゃろうて」

「と言っても宇宙に飛び立つほどの大きな船を浮かせる技術となると未だ解明されてない飛行魔法や伝記に残されている古式魔法を使わないと無理な筈だ」

「情報漏れば起こさん為におまん等には言っておらんかったが、実は“あの男”がこの世界にあるとある古い伝説を探し回って見つけたそうじゃ、この世界に眠る空飛ぶ船を」

「なに! あの方が!」

 

グラサンの下からニヤリと目を笑わせてエリカが問題ない風に言うと桐原は驚く。

 

「あの男はとある組織に協力してもらってるみたいで完成も間近じゃと言うとった、飛行テストも終了済みじゃからほんにもうすぐじゃ」

「なんてことだ……しかし確かにあの方ならそんな事も造作も無いはずだと思えてしまう」

「わしも一度出向いて覗いて見てみたが、空飛ぶ船というより空飛ぶ要塞じゃったわ。つまりわしの予想以上の出来になっちょる」

「……わかった船の件は俺も納得だ、あの方がやってくれているのであればもう何も心配する必要は無いみたいだな」

 

坂本の説明にすんなりと受け入れて一息突く桐原。

彼等がここまで強く信頼するほどの人物一体あの男とはどの様な人物なのであろうか……

 

すると今度は真由美がスッと手を上げ

 

「坂本、先程の話の中で気になった事があるので一つ教えてくれまいか」

「おおヅラ、お前が聞きたいのはあの男の事か、しかしこれをヅラや高杉の前で言うのはちと問題があってじゃな……」

「いやそっちじゃなくて」

「え?」

 

エリカもある程度彼女が何を聞きたいのか読んでいたのだがどうやら違うらしい。

 

「先程から桐原殿の声がどうも銀時と似てる様な気がしてさっきからずっと気になっていたのだ」

「そっちぃ!?」

 

こちらに向かって首を傾げる真由美に思わず叫ぶエリカ。すると真由美は桐原の方へ振り向き

 

「いや本当に似ていてな、ああ今の銀時でなく本当の身体の方の銀時だ」

「いや似てると言われても困るんだが……」

「銀時、お前も感じるであろう?」

「あ~? 俺こんな変な声だったか? お前の記憶違いだろヅラ」

「へ、変な声!? なぜだか知らんが今無性に腹が立ったぞ!」

「いやいや絶対似てるだろコレ、叫び方もクリソツだ。高杉もそう思うだろ」

「声聞いてるだけで何か苛立ちがおさまらねぇと思ったらそういう事か」

「声だけで苛立ってた!? ちょっと待ってくれ高杉さん! そんな理由でさっきから俺に対して敵意をむき出しにしてたのか!?」

 

気になりすぎな真由美に聞かれて深雪とあずさから散々な事を言われる桐原。

するとエリカも「ああ~」と便乗して手をポンと叩いてレオの方へ振り返り

 

「言われてみれば確かに似とるの~、のうヒデキ」

「いや俺は坂田銀時さんの声知らねぇし、ていうかヒデキじゃねぇって何度も言ってるだろ、誰だよヒデキって……」

 

どんな名前の覚え方すればそんな風に間違えられるのかとレオはうんざりした様子で返事していると、幹比古がまたしても身を乗り出し

 

「坂本さんまたグダグダになってます……蓮蓬の事忘れてませんか?」

「あり? そないな話じゃったか、すまんすまん、なにせこうしてわし等4人揃う事はほんに久しぶりじゃきん!! ついはしゃいでしもうた、アハハハハ!!」

「僕らの世界がヤバイ事になってるのに同窓会気分ではしゃがないで下さい……」

 

子供の頃から知っている彼女がグラサン掛けながら口を大きく開けてゲラゲラ笑う姿を複雑に眺めながらツッコミを入れる幹比古。するとやっと彼のおかげでエリカは話を再開する。

 

「うん、そういう事で直にあの男が船持ってきてわし等を宇宙に連れて行ってくれる。けども宇宙は危険でいっぱいじゃ、その上蓮蓬っちゅうデッカイモンを相手に立ち向かわねばならん、向こうから見ればわし等は母星を破壊した憎き相手じゃきん、容赦はせんじゃろ。そして何よりわし等の戦力はこの教室の中でも容易に納まるのに対し奴等はこうしてる間にもどんどん数ば増えちょる、星一個じゃ収まりきらん程にな」

 

蓮蓬の母星のシステムを担うSAGIが生きているとしたら蓮蓬の兵力はほぼ無限に増え続けるであろう。そもそも彼等は全てSAGIから生まれた存在なのだ。そのSAGIを殺した相手となれば本気で牙をむいて襲い掛かってくるに違いない。

 

「そこで銀時、ヅラ、高杉。最後にお前等に言っておくぜよ」

 

かつての戦友達に向かってエリカは腕を組みながら見つめる。三人も彼の方へ顔を上げた。

 

「はっきり言って今のおまん等の状態では戦争時代を生き抜いてきた力の半分も出せん筈じゃきん。その程度の力であの蓮蓬を打ち倒すなど無理もいい所、死にに行くようなもんじゃ、わしは友を失うのはごめんじゃ、だから」

 

 

 

 

 

「死ぬ時は皆一緒じゃ、つまりこうしてわし等4人仲良くあの世に行く事になるきん、それが嫌なら必死に奴等との戦いに足掻いてみせぃ。本来の実力が出そうが出せまいが、それを言い訳にしたまま死んだら、わしはすぐ後を追って一発ぶん殴って叩き起こしに行くからの」

 

グラサン越しに目を覗かせながらエリカはフッと彼女達に笑いかけると、しばし黙り込んでいた深雪達は一斉に立ち上がる。

 

「テメェ等との心中なんざ御免こうむるぜ、それにもしこの身体で死んじまったら司波深雪に俺の万事屋奪われちまう。そいつを阻止する為なら星の一つや二つ落とす事なんざ造作もねぇよ」

「例えどんな身体になろうが俺にはやらねばならぬ事がある。幕府を打倒し天人を国から追い出し、新たな国を作り上げ新しい日本の夜明けを迎える。それまで俺は死ぬわけにはいかんのだ、貴様等のようなやかましい連中と一緒に死ぬなら尚更だ」

「発破かけたつもりだろうが坂本、俺はテメェが何を言おうが俺は何も変わらずテメーのやりたい事をやるだけだ。宇宙に実った腐った果実を叩き落す、それだけだ」

 

姿変わっても三人に迷い無し。各々決意を固めている様子の彼女達を見ながら美月はそっとエリカに耳打ち。

 

「あの、皆さんやる気みたいですけど大丈夫なんですか? てっきり私は坂本さんは三人を止めるのかと……」

「アハハハ! そないな真似したらわしがあの三人に殺されるぜよ!」

 

深雪達の身体を気遣って心配している美月にエリカは笑って答える。

 

「わし等は歩く方向はてんでバラバラでもその歩みを止める事は無い、ただひたすら真っ直ぐ自分の信じた道を突き進む。そして今バラバラに歩いていたわし等の道が久しぶりに繋がりおった」

 

エリカはニッと彼女に笑いかけながら振り返る。

 

「こうなってはもう誰も止める事は出来ん、わし等四人が揃えば隕石だろうが星ごと降ってこようが迷わず突っ込んでしまう後ろ振り向かずただまっすぐに、そういう不器用な奴なんじゃ、わし等侍っちゅうモンは」

「侍……」

 

彼女の言う侍という物の強さを、この場にいる四人を眺めながら美月は僅かだがその意味を理解するのであった。

 

しかしそんな事も束の間

 

「お、おい坂本さん窓を見ろ!」

「ってなんじゃあ急に!」

 

ふと窓を見ていたレオは目を見開いて慌ててエリカを呼ぶ。彼女もまたすぐに窓の方に振り向くとその光景は

 

「街中に”あの雷”が落ちてきちょる!」

「なに!」

 

それは天変地異の前触れかの様な現実離れした景色が広がっていた。

 

ここから数十キロ程離れた街中に向かって上空から尋常じゃない数の雷がまるで雨の様に降り注いでいるのだ。

驚くエリカの後に急いで真由美も振り向く。

 

「あ、あれは俺達が入れ替わった時に見た奴と同じ光! 奴等もうこの世界に攻撃を!」

「いえ連中はもう大分前から攻撃を仕掛けていましたよ」

 

真由美の背後から幹比古が同じように眺めながら冷静に伝える。

 

「数日前から各国の代表を務める事も有る様な人物達を中心的に暴動事件が多発する様になりました。彼等はもうその時からこの世界を我が物にせんと動いているみたいです」

「なんだと! それじゃあ俺達の世界も!」

「同じ様にやられてるだろうさ、全く気に入らねぇ。大方数日前に俺の事を散々追いかけて襲い掛かった来た連中も奴等だったって事か」

 

この星が襲われているという事は自分達の世界も……危機感を抱く真由美にあずさは心底面白くなさそうな顔で答えた。

 

「こんな世界なんざどうだっていいが。先生が生きたあの世界を壊せるのは俺だけだ、他の奴にやらせはしねぇ」

「はん、テメェ等らしい理由だな。アイツを倒すのは俺だけだってか? ベジータ気取りかよテメェ」

 

彼女の呟きに今度は深雪が答えながらいつの間にか手に持っていた木刀を肩に掛けながら街中に降り注ぐ雷の雨を遠い目で眺める。

あの雷に撃たれた者は蓮蓬と体を入れ替えられて傀儡と化すのであろう。入れ替え先は恐らく収容施設か奴隷にでもして母星に閉じ込めてるのかもしれない……

 

「こんな事が俺達の世界でも始まってるなら江戸も大混乱だろうよ、おい辰馬。さっさと宇宙でもグランドラインでも何処へでも行くからさっさと船出せ。時間ねぇぞ」

「い、いやちょっと待ってくれ銀時! 確かに緊急事態じゃが船を出そうにもあの男が来てくれなきゃ何も始まらんのじゃ!」

「ああ!? さっきから誰だそのあの男ってのは! いい加減名前ぐらい言えやコラァ!!」

 

未だ名前すら明かさないその正体不明の謎の男に徐々に深雪がイライラしていると……

 

 

 

 

 

「すまない、待たせてしまったな」

 

あの男は突然現れた。

 

 

二科生の制服をなびかせ男は静かに教室の前に立って現れた。

長身の黒髪の男性、どちらかというと2枚目の方の顔立ちが無表情でこちらを見据えている。

 

突然現れた謎の男に深雪は「は?」と顔をしかませているとエリカは彼を見て「おお!」と嬉しそうに駆け寄り

 

「ええタイミングで来てくれはりました! 星が攻められてどうすればいいのかと思っていたところですたい! よう間に合うてくれましたなぁ! アハハハハハ!!」

「うむ、本当はもっと早く為すべき事を成し遂げるべきであったが思ったより時間がかかってしまった。おぬし等には不安な思いをさせて申し訳ない」

「いやいやわし等はあんたが戻ってくるのをずっと信じておりましたのでちっとも不安じゃありませんでしたわ!」

 

敬語を交えて男に向かって気さくに話しかけるエリカ。

しかし誰だか知らない深雪は歩み寄って

 

「おい辰馬、誰だこいつ」

「何言うとるんじゃお前の兄貴じゃろ、アハハハハ!」

「は? 俺に兄貴なんか……ああ俺じゃなくて司波深雪の兄貴か、へーコイツが……って兄貴ィィィィィィィィ!?」

 

ずっと探していた男が突然向こうから現れたことに深雪は驚愕する。

そう、彼こそ深雪の兄である司波達也。二科生ながら生徒会や風紀委員に一目置かれている程の実力を持つ謎の一年生魔法師。

そして目の前にいるこの男を前に深雪が呆然と立ち尽くしているとエリカは更に言葉を付け足す。

 

「でも今達也の体の中にいる人間は別の人間じゃき」

「そういや兄貴も入れ替わったとか言ってたな……じゃあお前らの言うあの男だのあのお方だのって言うのはコイツと入れ替わった相手か?」

「そうじゃ、入れ替わってもなお達也に代わってわし等をサポートしてくれた方なんじゃ」

 

エリカは得意げにそう言うと達也に向かって後頭部に手を置きながらお辞儀をして

 

「すみませぇん、コイツ入れ替わったばかりの新人でまだあなた様の事知らないようなんですわ。ここらでちょっと自己紹介してくれませんかね?」

「うむ」

「何がうむだよ、偉そうに。おい辰馬、お前もヘコヘコしてんじゃねぇよみっともねぇ」

 

なにバカ丁寧に頭を下げているのだとエリカと目の前の男に若干イラ付き始める深雪に。

 

達也はまっすぐ背筋を伸ばしたまま教室にいる者全員を見渡すように顔を向けて

 

 

「余は司波達也殿と入れ替わってしまい一月程この世界に住んでおる者、好きな物は民達の笑顔と気の触れた友人達。そして夢は上の者も下の者も関係なく手を取り合い、誰もが笑って暮らせる国を作る事。余の名は」

 

 

 

 

 

 

 

「代々連なる徳川家十四代目征夷大将軍、徳川茂茂である」

 

 

 

 

 

よく耳に入る透き通った声で達也は堂々と言った。

深雪はその名を聞いた途端石になったかのように固まり、しばらくして突然ガクガクと肩を大きく震わせると

 

(将軍かよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)

 

とんでもない真実に心の中で叫び遂に肩だけでなく全身を震わせる深雪。

しかしそんな彼女の背後で真由美とあずさは

 

「将軍だと……よもやこの世界で幕府打倒の好機を得るとは」

「クックック、まさか将軍自らアホ面引っさげて目の前に現れるとはな……」

「待てぇお前等! こんな時に攘夷志士の血を滾らせてるんじゃねぇ!!」

 

二人から僅かに感じる殺気にいち早く気づくと深雪は慌てて振り返る。

 

「テメェ等そんな体になってもまだ国家転覆を考えれんの!? よく考えてみろ今の将軍様の体は将軍じゃなくてお兄様なんだよ! お兄様傷付けたら殺すぞゴラァ!!」

「兄を護ろうとする妹にしては随分とガラ悪いな……」

 

真由美とあずさに向かってケンカ腰でメンチ切ってる深雪を眺めながら傍にいた桐原がボソッと呟いてる中、

 

司波達也の体を借りてる徳川茂茂はそんな二人に怯えも見せずにそっと自ら歩み寄る。

 

「お主達のことは辰馬から聞いておる。桂、高杉、確かに我等は共に幾度も刃を交えた敵同士だ」

「「……」」

「しかし今回だけは共に手を取り合って協力してほしい。今の余の体は達也殿の体、自分のせいでこの体が傷ついてしまうのは自分の身を切り刻まれるより痛まれる」

 

怖気もせずにそう言うと達也は口元を僅かに動かしてフッと笑い

 

「おぬし等と戦う時はお互い元の身体でやり合おう。その時が来たらいくらでも余の首を狙いに来るがいい。だから今はその目的のために共通の敵と戦い……」

 

スッと手を差し出し敵である二人に敵意は無いというアピールで握手を求めてきた達也。しかしそんな彼の背後からドドドドド!と何やら騒がしい足音が聞こえたかと思いきや……

 

 

 

 

 

「おらぁぁぁぁぁぁ!! 食らえクソ兄貴ぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

いきなり現れた深雪の友人、光井ほのかが達也の後頭部目掛けて飛びかかり、ロングスカートにも関わらず豪快な蹴りをお見舞いしたのだ。

突然の出来事と衝撃に達也は声すら上げれずに深雪達の目の前で前のめりに倒れる。

 

「深雪! 私深雪の代わりにお兄さん殴っといたよ!」

「い、いや殴るっつうか蹴ってなかった……? ていうかなんでウチの兄貴に蹴り入れたの?」

「え?だって前に深雪が言ってた筈だよ、誰が最初にお兄さんを殴るか勝負だって」

「いやそれお兄さんじゃなくて将軍ッ!!」

 

飛び蹴りかました後達也の背中に綺麗に着地して親指立ててこちらにバッチリ決めポーズをとるほのかにほほを引きつらせながらツッコんでいる中、いつの間にかほのかと一緒にいた北山雫が倒れている達也の下半身に向かって両手の指を合わせ

 

「そんな蹴りじゃまだ甘い、深雪が溜めた想いはきっとその程度じゃない筈。だからこうすれば、えい」

「ちょっとぉぉぉぉぉ!! 何将軍のケツにカンチョー決めてんだクソガキィ!!」

 

達也の臀部に勢いよくカンチョーをしながらも表情に変化のない雫に慌てて深雪が近づこうとするが

 

「負けるかぁぁぁぁぁぁ!!」

「お前も更に追撃かまそうとすんじゃねぇ! おいお前等も見てねぇでこのバカ二人止めろ! 特に将軍のケツに無表情でカンチョー連射してる奴!」

 

今度は達也の頭を思い切り踏みつけようとするほのかを慌てて深雪は後ろから腕を回して彼女を止める、そしてすぐにずっと一部始終を見ていた他の生徒達も慌てて彼女と一緒に止めに入る。

 

「おい北山! なんでか知らないけど司波にカンチョーするの止め……! アッー!」

「桐原先輩のケツが刺されたぁぁぁ!!」

「見境なし!? 柴田さん今の北山さんに近づいちゃ駄目だ!」

「あれ、雫とほのかもあちらの世界の人と入れ替わってる訳じゃないんですよね!?」

 

桐原、レオ、幹比古、美月の坂本陣営の先鋭達が混乱しあってる中。

 

「高杉」

 

真由美は冷静にそんな光景を眺めた後、目の前で白目をむいて倒れている達也を見下ろす。

 

「俺達が手を出さずとも倒幕してしまったぞ」

 

幕府の象徴である将軍を倒したのは桂でも高杉でもなく

 

相手が将軍である事さえ知らない無垢な女子高生であった。

 

 

 

 

かくして彼等は向かう。

 

自分達の世界、否、二つの世界を救う為に

 

 



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第九訓 同盟&再会

深雪達がとんでもない人物と会っていた数十分前。銀時達のいる世界でもまた事態は急変していた。

 

「深雪さぁぁぁぁぁん!! まさかこんな所で会えるとはでぶるふぁ!!」

「ちょっとぉ深雪さん! なんでいきなり会長さん殴ったの!!」

「すみませんいきなりロンゲの男性に抱きつかれそうになったのでつい反射的に」

 

場所は見渡しの広い江戸の公園。

中身は司波深雪、身体は坂田銀時という状態で、これまた中身は七草真由美で身体は桂小太郎という状態の彼がいきなり涙を流しながら両手を広げて抱きついてきそうだったので反射的に拳でカウンターを決めてしまう。

銀時の隣にいた志村新八が叫んでる中、いきなり顔面に一発入れられると予想していなかった桂は流れる鼻血を手で押さえながらヨロヨロと立ち上がる。

 

「先程新八さんから色々聞いて急いで駆けつけてきました……まさか深雪さんも私と同じこっちの世界に来てしまっていたなんて……」

「すみません七草会長、本来なら坂本さんと出会った時点でこの世界について話しておくべきだったのですが。迂闊に情報漏れを起こすと敵方にバレる可能性があるからとお兄様に口止めされていたので」

「全く達也君は……私にまで秘密にすることないじゃないですか」

 

鼻血を手で拭き取りながら桂が嘆いていると、銀時の傍にいた志村新八がふと気になった疑問を桂に。

 

「そういえば会長さん、さっきなんで真撰組の屯所周りをウロウロしていたんですか? 桂さんは国家転覆を企む攘夷志士として指名手配されるほどのお尋ね者なんですから幕府の息のかかった相手の場所に近づくのは危険なんですよ」

「それもわかってるんですけどちょっと用がありまして、幕府の犬共に天誅を下す為にエリザベスさんと一緒に時限爆弾の設置を」

「コイツ遂に身も心も攘夷志士に成り果てたよ!!」

 

後頭部を掻きながら平然と答える桂。

真撰組とは幕府直属の泣く子も黙る警察組織である、そこを爆破しようと企んでいた彼に新八は再び叫ぶ。

 

「なに真撰組相手にノリノリで攘夷決めこんでるんですか!! 自分が異世界の人間だって自覚あんの!?」

「運転免許の実技試験を落とされた腹いせに……けど後悔はしてません!」

「胸張って言ってんじゃねぇよ犯罪者! 腹いせにも程があるんだよ!」

 

一点の曇りのない目でそう言い切る桂を怒鳴りつけながら新八はバッと銀時のほうへ振り返る。

 

「ちょっと深雪さん何か言ってくださいよ、この人深雪さんのいた学校で生徒会長やってた人なんですよね」

「ええ、誰からも慕われ人望のある素敵な方でした」

 

才色兼備という言葉でさえ足らないほど名門七草家の者として素晴らしい実績も人望も持っていた七草真由美。一科生も二科生も関係なく平等に接し、兄である達也の事も何かと配慮してくれていたので自分も好感を持っていたのだが。

 

「まさかここまで変貌するなんて、一体どうしたんですか七草会長」

「深雪さん私わかったんです、七草家という立場から異世界の侍となって一ヶ月、七草真由美だった私は今までいろんな物の重荷を背負い自由という物を知らずに生きていた事を」

 

心配しながら尋ねてきた銀時に桂はフッと笑いながら答える。

 

「こうして生徒会長という立場と七草家としての振る舞いも忘れた今、私は本当の意味で自由となれたのだと深く実感したのです。そう今の私は……」

 

腰に差した刀を抜いて高々と掲げると

 

「この国の幕府の象徴である将軍を討ち取り幕府その物を滅ぼして新しき時代を作り! 天人共を1匹残らず駆逐し新なる日本の夜明けを目指す革命家となったのです!」

「いやそれ生徒会長からテロリストにジョブチェンジしただけだろ! なに桂さんみたいな事言ってんの! 入れ替わると思考も感化されちゃうの!?」

 

刀を天に向けながら叫び完全に立派な攘夷志士思考になった桂。

すると彼は銀時の方へ歩み寄り

 

「という事で深雪さん、私と一緒に将軍の首を取りにいかないかしら。あなたの力があれば国家転覆も夢じゃないわ、共に剣を取りこの国に新しい時代を築きましょう」

「いや私早く元の世界に戻りたいしさっさと自分の身体取り戻したいのでお断りします」

「なにこの勧誘の仕方、滅茶苦茶見覚えあるんですけど……思い切り桂さんがいつも銀さんに言ってる事なんですけど……」

 

中身は違うのに毎度お馴染みのシーンを見せ付けられて新八が困惑の色を浮かべていると

 

「ふむ、やはり陸奥殿の言うとおり白夜叉と狂乱の貴公子も入れ替わったという訳でござるか」

「え? あ! あなたは!」

 

こちらを観察するように独り言を呟いてる声に反応して新八が振り向くとそこに立っていたのは両耳にヘッドフォンを付けて背中に三味線を掛けたサングラスの男。

 

「た、高杉さんの所の!」

「河上万斉でござる、ぬしは白夜叉の傍にひっついていた小僧か」

 

河上万斉、鬼兵隊という高杉が作り上げた組織の一員だ。高杉を始め鬼兵隊とは銀時達万事屋にとっては因縁深い相手である。

 

「どうしてここに! まさか今の銀さんと桂さんなら容易に殺せると思って!」

「落ち着け、そんな事するのであれば拙者自ら出向かなくても事足りるはず、安心せい小僧、今の拙者達は貴殿達と刃を交えるつもりはないでござる」

「え……?」

 

戦う意思はないと冷静に諭してくる万斉に構えようとしていた新八は呆気に取られる。

更に万斉は

 

「今日来たのは貴殿達と一時的な同盟を結ぶ為に、鬼兵隊代表として拙者自ら使者としてやってきたのだ」

「ど、同盟!? 鬼兵隊が僕らと手を結ぶって! 一体どういう事ですか!? 話が全然読めてこないんですけど!」

「それはわしから説明するぜよ」

「陸奥さん!」

 

いきなり因縁深い相手に同盟だと言われても新八は混乱するばかり。すると用事から戻ってきた陸奥がフラっと彼等の元に現れた。

 

「実は今回の入れ替わり騒動、鬼兵隊の総督、高杉晋助も被害に遭うたらしい」

「ええぇぇぇぇぇ! 高杉さんも!? ってちょっと待ってください! てことは高杉さんもあんな風に!? あの高杉さんが!? あの高杉さんがぁぁぁぁぁぁ!?」

「……」

 

慌てて銀時と桂のほうへ指差す新八に、基本めったに表情を崩さない万斉が突如顔からダラダラだと汗を流し始め

 

「……あの程度ではござらん」

「えぇぇぇぇぇぇ! マジですか!? いやホントマジなんですか!?」

「マジじゃ、ついさっきわしも同盟協定を結ぶがてらに高杉を見てきたが」

 

銀時達以上に変貌してると聞いて新八が物凄く興味を持ち始めていると陸奥は静かに頷き

 

「久しぶりに腹を抱えて大笑いしてしもうた」

「ポーカーフェイスの陸奥さんが腹抱えて爆笑するレベル!? ヤバい! 超見たい! 万斉さん僕にも見せてください!!」

 

滅多に表情を崩すことはないあの陸奥が人目も気にせず笑ってしまうとは一体今の高杉はどうなっているのだろうか、俄然興味が沸いてきた新八、だが彼に向かって万斉はいきなり両膝と両手を地面を着き

 

「それだけは勘弁して欲しいのでござる、どうか他の者にも晋助については決して触れぬようにしてくれとぬしから言っといてくれ……」

「土下座したぁぁぁぁぁぁ!! どんだけ秘密にしたいんですか! なんか興味よりも見たらどうなるんだっていう恐怖が込み上げて来たんですけど!」

 

彼から見れば若輩の小僧である新八に対し深々と土下座までする万斉、そんな姿を見て新八はこの世にはどんなに興味を持って見てはいけない物があるのだと実感した。

だが今度は先程の話を傍で聞いていた桂と銀時が近寄り

 

「あのー万斉さんでしたっけ? そちらでも私達と同じ入れ替わりがあったとか? 一体誰がこちらの世界にやってきたんですか?」

「貴殿等になら話してもよかろう……晋助と入れ替わったのは中条あずさ殿でござる」

「あーちゃんが!? そんなあの子もこっち来てたなんて!」

「私が元の世界にいた時にいきなり学校休み始めたんですけど、中条さんそんな理由があったんですね」

 

土下座をするのを止めて立ち上がりながら万斉が言った名前にいち早く反応する桂と納得する銀時。すると桂は万斉に歩み寄り

 

「今すぐあーちゃんと会わせて下さい!」

「な、ならん! それだけは絶対に駄目でござる! 安心せい! 今は拙者の仲間であるまた子が不自由なく世話してやってる筈なので貴殿等が心配してるような真似はしておらん!」

「そういうの関係なく私は同じ攘夷志士として共に幕府打倒を目指そうとあーちゃんに頼みたいんです!!」

「それこそ絶対に無理な話! 今の晋助を世に出すことは出来ぬ! 国を革命する前に自分が革命されているのだぞ! ホント勘弁して欲しいのでござる! いやホントマジで!!」

 

断っても詰め寄ってくる桂に万斉が必死になっている姿に新八は虚ろな目を向け

 

「鬼兵隊のナンバー2があんなにうろたえて隠そうとしてる……」

「まあ確かにウチの艦長もあんな風になったら船の倉庫に縛り付けて隠そうとするの」

「そこまで!?」

 

ポロッと漏らした言葉に反射的に振り返ってきた新八に陸奥はため息交じりに。

 

「まあ今の艦長も出来るなら隠しておきたい所なんじゃがの、出来るのであればまだまともそうなおまん等の所のモジャモジャと交換したい所じゃきん」

「そ、そうなんですか……あれ? あそこにいるのって……」

 

陸奥が愚痴をこぼしていると新八はふと彼女の背後から何者かが近づいてくるのが見えた。

モジャモジャ頭でサングラスを掛けた男……どっかで見た覚えのある姿に新八が見つめていると男は陸奥の隣に立ち

 

「どうも……この身体と入れ替わった千葉エリカです……」

「なんか暗ぇぇぇぇぇぇぇ!! こんな暗い坂本さん見た事無いんですけど!? グラサン越しの目が完全に死んでるんですけど!」

 

現れたのは坂本辰馬の身体を借りている千葉エリカ、滞在期間は七草真由美よりも長く、2カ月以上身体を借りてるせいか心身共に疲れ切っている様子。

こんなに生気が感じられない坂本を見たのは初めてだ。

しばらくして坂本はグッタリと項垂れて

 

「……しょうがないじゃないの、記念すべき高校生活1日目でいきなりモジャモジャ頭のおっさんになっちゃったのよ……期待と楽しさを胸に向かった高校生活は一瞬にして暗い宇宙での生活に……毎日無愛想な女にど突かれたりあたしの人生最悪よ……」

 

どうにもかなり参ってる様子、さすがに新八も何を言っていいのかわからず頬を引きつらせるばかり。

 

「この人大丈夫なんですか陸奥さん……」

「大丈夫じゃなか、こげな役立たず押し付けられてわし等の士気もだだ下がりじゃ」

 

坂本の目の前で堂々と役立たず呼ばわりしながら陸奥はため息を突く。

 

「商売の方はなんとかわし一人でやっていけるがさすがにあの男がいないと色々難しい所もある、わし等の商いは金の縁より人の縁じゃ、あの男の交渉でないと首を縦に振ろうとせんモンもんおるしの」

 

そう言いながら陸奥は坂本に横目を向けて

 

「なのにコイツは交渉どころか船の床磨く事さえまともに出来ん。一応見習いとして船の技術叩き込んでおるがてんで駄目、どうせ入れ替わるのならせめてもっと骨の良い奴をよこして欲しかったわい」

「アンタに何がわかるのよぉ!」

 

散々言われた事に遂にむかっ腹が立ったのか坂本は突然勢いよく陸奥の胸倉を掴み上げる。

 

「あたしは魔法師として今まで育ってきたの! 交渉とか床掃除は専門外なの! わかる!?」

「そげな事知るか、その辺に捨て置かずに食わしてやってるだけありがたいと思わんか」

「あーそうよね! 坂本さんの身体だもんね! アンタの大切な坂本さんの身体だもんね! それじゃあ捨てる真似出来ないわよね~!」

「……」

 

坂本の言い方が癪に障ったのか僅かに額に青筋を立てて顔をしかめる陸奥。

すると更に坂本は悪ノリして。

 

「アンタってばアタシが坂本さんと入れ替わった時は数日ぐらいテンションずっと低かったもんね~! な~んか意地張ってそういうの隠してたけどあたしにはバレバレだから! 無理に無表情キャラやってないで素直になりなさいよこのヘタレ! ぶへら!!!」

 

胸倉掴んだ状態でニヤニヤ笑いかけて来る坂本に遂に限界が来たのか、無言で彼の股間を蹴り上げる陸奥。

女の時には味わえなかったその衝撃と痛みに耐え切れず、坂本はバタリと後ろ向きに倒れた。

 

「わかるか、わしがコイツの事心底ムカついてるのを。コイツはこういうくだらん事を周りに言い触らすラブコメ脳で、根も葉もないしょーもない種をそこら中に撒き散らす奴なんじゃ」

「おごぉ!」

「陸奥さんわかりましたから! だからそれ以上股間蹴らないで上げて下さい!」

 

倒れた坂本に追い打ちをかけるように股間に何度も足を振り下ろす陸奥に新八が悲痛な声で叫んで止めさせる。

すると股間を蹴るのを止めてくれた陸奥は坂本の頭を掴み上げてズルズルと引きずり

 

「ほれ、他の者共に挨拶ぐらいせんか、3人の内2人はおまんと同じ入れ替わり組じゃぞ。同じ世界出身なら仲良くやれ」

 

銀時・桂・万斉の所へ引きずると陸奥は無理矢理坂本を立たせて彼等に紹介する。

 

「おまん等、コイツは坂本辰馬という男の身体借りちょる……おい、おまんの名前ってなんじゃ沢尻とかなんとかじゃったっけ?」

「何度も言ってんでしょ! あたしの名前は千葉エリカよ!」

 

さほど短い間の仲でもないのに名前さえ覚えていない様子の陸奥にキレる坂本。

すると桂は千葉エリカと聞いて「おお」と手をポンと当てて

 

「ブランシュ事件の時に達也君と一緒に戦ってた千葉さんね、凄かったらしいわねあの時は、達也くん達とブランシュの潜伏場所に行って大暴れしたとか」

「ブランシュ事件って何!? 達也君って誰!? アタシそんなの知らないんだけど!?」

「え? じゃあ達也くん達と一緒に休日に海行った時に、深海に太古の昔に存在した古代文明を見つけたとかなんとか西城くん達と騒いでなかった?」

「それこそますますわからん! つうかそもそもアンタ誰!?」

 

いきなり自分の事を知った感じで話しかけて来るのかと思えば経験した事のない話ばかり始める桂に慌てて坂本は指を突き付ける。

すると銀時が桂に耳打ちして

 

「七草会長、彼女は入学式当日に坂本さんと入れ替わった方です。ブランシュ事件の時や古代文明を見つけた話は全て坂本さんと入れ替わった後の事ですので」

「ええそうなの!? じゃあ私が今まで千葉さんだと思ってた人は異世界の人だったのね」

「そうです、私達が本来の彼女と直接顔を合わせるのは初めてです、合わせられてませんけど」

 

見た目は銀時・桂・坂本なので坂本視点からだと誰が誰だかわからない様子。

すると桂は改めて坂本に頭を下げて

 

「初めまして生徒会長の七草真由美です、一緒に攘夷志士になって国家転覆目指しませんか?」

「攘夷志士!? ドサクサに変な勧誘しないでよ! アンタ本当に生徒会長!?」

「私は司波深雪です、初めまして千葉さん」

「ああどうも初めまして……エリカでいいよ」

 

互いに名を名乗って自己紹介している三人。そんな彼等を見ていた万斉は「ふむ」と頷き

 

「晋助含み、攘夷戦争時代四天王と呼ばれたあの四人が異世界に飛ばされるとは、実験に使われたにしては少々偶然では片付けられないでござるな」

「恐らく蓮蓬の行った実験にはもう一つの狙いがあったんじゃろう、わし等地球の戦力の低下、優れたリーダーの損失による被害」

 

彼の疑問に陸奥が冷静に分析しながら答える。

坂田銀時、桂小太郎、坂本辰馬とは過去に戦った経験があるので無論、蓮蓬にとっては憎き敵、入れ替わりの実験に使われたのも容易にわかる。そして高杉晋助は国はおろか宇宙海賊春雨にまで喧嘩を売り宇宙中でその名も知られている。蓮蓬の得意な情報収集術でその高杉がかつて銀時達と共に戦っているのが知られたら尚更だ。

 

「実際あの四人を失ってしまってわし等の戦力も大幅に下がっちょる、快援隊と鬼兵隊、桂一派に万事屋、皆をまとめられる四人のリーダーが欠けたこの状況で星一個潰すには厳しい戦力よ」

「状況は絶望的という事か……」

 

勝てる保証はおろか戦いになるかどうかすらも怪しい。

現状を理解しながら万斉が思わず嘆いていると

 

「おーい戻ってきたアルよ~」

「……来たか」

 

数メートル先から傘を差してこちらに手を振ってやってきたのは万事屋一派の一人、神楽。

彼女が戻ってきたことを確認すると陸奥はすぐに彼女のほうへ振り返った。

 

「ちゃんと連れてきおったか」

「うん、そよちゃんに頼んで会ってきたネ、用事済ませたらすぐ来るって」

「そうか、ならあの男が来たらそろそろ出発じゃな」

「え? 一体誰を待っているんですか?」

 

神楽の話を聞いて出発準備を始めようとする陸奥にふと新八が尋ねると彼女は

 

「5人目の入れ替わり組じゃ、前にも話した司波達也じゃ」

「ええ! 深雪さんのお兄さんが来るんですか! ぐえ!」

「お兄様が!」

 

その名を聞いて驚く新八の頭を押しのけて身を乗り出してきたのは銀時。

血相を変えた様子で陸奥に顔を近づける。

 

「あなたに何度尋ねても何処にいるのかさえ教えてくれなかったあのお兄様が!?」

「だからここに来ると言うとるじゃろうが、そのツラでお兄様連呼するな。気色悪か」

 

こちらに顔近づけて確認を取る銀時にジト目ではっきりと答える陸奥。

 

「正直"今の"あの男を連れて行くのはわしは反対じゃったんじゃがしつこくての、終いには権力使ってわし等の船ば取り上げるとか言って来たから仕方なく連れて行くんじゃ」

「ああ、この日をどんなに待ち侘びたことでしょう……」

「良かったですね深雪さん、でも銀さんの体で腰くねらせないで下さい……」

 

抱きしめるかのように両腕を組んだ状態で腰をクネクネさせながら恍惚とした表情を浮かべる銀時を心底気持ち悪いと思いながら新八が呟く。

 

「でもどうして今まで会わせてあげられなかったんですか? 陸奥さんと情報を交換し合ってたってのは前に聞きましたけどそれ以外の事を尋ねても何も言わずに帰っちゃいましたし」

「あの男から口止めされてたんじゃ、迂闊に自分の情報を漏らす事はマズイと。ただでさえヤバイモンと入れ替わってしもうてるからの」

「高杉さん以上にヤバイ人なんているんですか……」

「いや高杉と比べるとどっちもどっちじゃの、神楽に聞いてみるといい」

 

達也に会ってきてここに来るよう誘ったのは神楽だ。

新八はすぐに彼女の方へ振り返った。

 

「神楽ちゃんどうだったの、達也さん?」

「驚いたアル、新八もきっとビックリして目ん玉が眼鏡のレンズぶち壊して飛び出てきちゃうぐらい驚く筈ヨ。すぐ来るって言ってたから待ってるヨロシ」

「いやそんな古典的なギャグ漫画じゃあるまいし……」

 

神楽が言うには大層凄い人らしいが、高杉の件があるのでまさかそこまで驚かないだろうと苦笑する新八。

 

するとそこへ

 

 

 

 

 

「悪い、待たせてしまったようだな」

 

その男はやってきた。

 

声のした方向を振り向いて新八は目を大きく見開く。そして目玉が飛び出てきてもおかしくない程絶句した表情を浮かべた。

 

溢れ出る高貴な佇まいとその顔立ち、頭にしっかり結われた髷。江戸に生きる者で知らぬものなどいる筈もないあの人物……

 

「少々時間をかけてしまったかな」

「しょしょしょしょ将軍んんんんんんんん!!?? どどどどどうしてここにィィィィィィ!?」

 

紛れもない徳川家十四代目征夷大将軍、徳川茂茂その人であった。

思わず腰を抜かしてしまいそうになる程驚いて声も震えている新八に、将軍茂茂はフッと笑い。

 

「残念ながら俺は将軍などという器になれるような大層な人間ではない」

「え? いや何を言って……あァァァァァァ!! まさかあなたは!」

「陸奥さんから話は聞いていたようだな」

 

誰なのか検討ついた新八、すると茂茂は正面を見据えるかのような視線で

 

「俺の名前は司波達也(しばたつや)一ヶ月前に将軍茂茂と入れ替わってこの世界にやってきた国立魔法大学付属第一高校の一年の二科生だ」

「そ、そんな!? まさか深雪さんのお兄さんが入れ替わった相手が僕らの国のトップである将軍様だったなんて!?」

 

将軍といえば幕府の中の頂点に君臨するお方。そんな人物とまさか入れ替わっていたとは

全く想像だにしなかった展開に驚愕する新八に陸奥が背後から声をかけた。

 

「蓮蓬は地球から優れたリーダーを消す為に入れ替え実験を行った、ならばわし等の国の頂を狙うのも当然といえば当然じゃ」

「た、確かにそうですけど……ていうか陸奥さん、アンタ将軍になってる達也さんと情報交換してたんですか?」

「向こうから来たんじゃ、坂本からわしの事を聞いておったらしくての」

「ああ、俺は坂本さんから向こうの世界で随分と話を聞いていたからな」

 

彼と知り合った経緯を話す陸奥の所へ茂茂が歩み寄る。

 

「アンタの事はよく聞いていた、あの人がいつも「頭も切れるし腕も立つ副艦長」と評価していたアンタなら、俺も信用してこちら側の情報を提供したんだ」

「異世界から来たとのたまう男の話を鵜呑みにするたぁ随分お人好しじゃの」

「お人好しじゃない、俺は人が嘘をついてるかどうか見極めるのが得意なだけだ」

 

そう言って茂茂は千葉エリカとして異世界でゲラゲラ笑っていた坂本辰馬を思い出す。

 

「あの人は嘘をつけないというより嘘をつかないタイプだ。そんな相手だからこそ俺はあの人のいう異世界の存在を信じた」

「残念ながらあの男は宇宙海賊よりタチの悪い詐欺師じゃ、嘘をつかん性格というのは正解じゃが、迂闊に奴を信じ込むのは不正解ぜよ、いつの間にか足元すくわれて身ぐるみ剥がされ全部奪われるぞ」

 

フンと鼻を鳴らしながら陸奥が茂茂にそう言ってやると彼女達の所に銀時が駆け寄ってくる。

 

「お兄様! 私です! お兄様の妹の司波深雪です! 今はこんなモジャモジャ頭の男になってしまいましたが私は!」

「大丈夫だよ深雪」

 

すっかり変わり果ててしまった自分の事を気づいてくれるのかと不安な気持ちで一杯な銀時が必死に訴えると優しく微笑む茂茂

 

「例えお前がどんな姿に変わろうが俺は一目で妹の事はわかるさ、そしてどんな姿でも俺にとってお前はこの世で一番大切なモノさ」

「お兄様……!」

「あの二人供! 感動的な再会やってる所悪いんですけど自分の姿思い出してください!傍から見たらおっさんとおっさんですからね!」

 

おっさん二人で背景に大量の花を置いて見詰め合ってる姿にさすがに新八が叫んでツッコミを入れていると……

 

「将軍の首……!」

 

突如茂茂の背後から刀を抜いて飛び掛る人影、その正体は

 

「この七草真由美が!! 頂戴いたすゥゥゥゥゥ!!!」

「ってお前は何やってんだ!! その人将軍じゃねぇから!! 深雪さんのお兄さんだから!!!」

 

刀を抜いて茂茂の首めがけて振り下ろしてきた桂、攘夷志士の彼にとって将軍とは絶対に討つべき存在なのだ。

すると慌てて叫ぶ新八を尻目に、茂茂は振り向かないまま筈かに上体を逸らして

 

「なに!」

「避けたぁ! 会長の一撃を僅かに身体を動かしただけで避けたぁ!!」

「やれやれ、第一高校の生徒会長が何やっておいでなんですか?」

 

刀は虚しく空を切り空振りに終わった事に驚く桂と新八。

しかし対照的に茂茂は全く動じずに振り返ると微笑を浮かべ

 

「さあ、俺達のいる世界に帰りますよ、七草会長、俺と深雪と一緒に」

「あ、あなたもしかして達也君!? ウソ! まさかこっちの世界に来ていたなんて!」

「それと俺の背中を取りに行くなら殺気を隠さないと無理ですから」

「そんな……私、私……!」

 

斬りかかった相手があの司波達也だと知ってショックで刀を掴んだまま地面に両手を突く桂、と思いきや

 

「っと見せかけて天誅ゥゥゥゥゥゥ!!!」

「達也さんそいつはもうアンタの知る会長じゃないです! ただの過激派攘夷志士です!!」

 

手に持った刀を振り上げて雄叫びを上げながら再度首を狙いに行く桂。卑怯な戦略に新八が叫ぶ中茂茂と桂の間に一人の男が手に木刀を持って立ち塞がる。

 

「お兄様を殺しにかかるとはどういつもりですか七草会長」

 

洞爺湖と彫られた木刀で桂の一撃を防いだのは銀時、向かい合って刀ごと突き飛ばすと銀時は鋭い目つきで桂を睨む。

 

「おふざけにも程があるのではないですか」

「く! お前ともあろうものが幕府の犬に成り下がったかぁ銀時!!」

「深雪です、全くこっちの世界で何を覚えたのか知りませんが正気に戻って現実を見てください」

「いやだって目の前に将軍いたらそら斬るのが現実であって……」

「攘夷志士でなく生徒会長ですよあなたは」

 

兄に斬りかかられた事で少々ご立腹の様子の銀時。桂が渋々刀を鞘に納めていると

 

「神楽ちゃ~ん! 兄上様~! お見送りに来ました~!」

「!」

 

突然着物を着た可愛らしい少女が手を振ってこちらに向かって嬉しそうにやってきた。

しかも茂茂に向かってしっかりと兄上様と呼んだ事に銀時はいち早く反応して目を見開く。

将軍茂茂の妹君であり神楽の親友のそよ姫だ。

 

「そよ姫、城外は危険だから出てはいけないとあれ程言っただろう」

「え~でも“NEW兄上様”とこれっきりになってしまうのですからせめてお別れの挨拶を」

「やれやれ、将軍の妹という自覚を少しは持ってほしいな」

 

呆れながらもフッと笑いながらそよ姫の頭を撫でる茂茂。

それを見た瞬間銀時の頭の中でプツンと何かが切れる音がした。

 

「お兄様ァァァァァァ!! その馴れ馴れしくお兄様に接してきやがった小娘は一体何者なんですかコノヤロー!!」

「深雪さん落ち着いて! なんか銀さんの口調と交じってますよ!」

 

目を血走らせて木刀を肩に掛けながら茂茂に叫ぶ銀時。

後ろから新八がツッコンではいるが彼の耳には届いていない。

すると茂茂はそよ姫の頭に手を置いたまま

 

「紹介しよう深雪、俺と入れ替わった将軍の妹のそよ姫だ。俺が入れ替わったばかりの時は彼女とお付きのじいやに色々と助けてもらったんだ、いわばこの世界での俺の恩人だ」

「も~NEW兄上様ったらそんなに褒めないで下さいませ~。私はただNEW兄上様にお役に立てるならと色々教えてあげただけなんですから~」

「おい小娘! なに私のお兄様に顔赤らめて照れてんだゴラァ! 脳天かち割ってもっと顔面真っ赤に染め上げるぞクソガキ!!」

「何言ってんですか深雪さん! 相手は将軍の妹ですよ!」

 

桂同様見た目はおろか中身まで浸食されているんじゃないかというぐらい荒れ狂う銀時を後ろから新八が羽交い絞めにして必死に止めていると。

 

「コラ姫様! はしたないですぞ! こんな所まで出歩いてはいけませぬ!」

「あら爺やもNEW兄上様とお別れを?」

 

かなりのお年頃の男性がゼェゼェと荒い息を吐きながらそよ姫の所へ駆け寄ってきた。

先代の頃から長らく幕府に仕え今はそよ姫のお世話役をしている六転舞蔵だ。

どうやら城外に出たそよ姫を追ってここまで駆けて来たらしい。

 

「達也殿にこれ以上迷惑を掛けてはいけませぬ! 別れを惜しむ気持ちはわかりますが再び茂茂様と会う為にはいたしかたない事なのでございます!」

「もーそれぐらい私もわかってます! そりゃあNEW兄上様も素敵な方でしたが本当の兄上様にだって早く会いたいと思っておりますが最後の挨拶ぐらいさせて下さい!」

「全く姫様は……」

 

困り果てたように舞蔵は首を横に振った後、茂茂様の方へ顔を上げた。

 

「達也殿、その身体はこの舞蔵にとっても姫様にとっても、そして何よりこの国にとってなくてはならない存在でございまする。どうか無事に茂茂様の下へその身体を返して来て下さいませ」

「ええ、手筈通り将軍の影武者を用意して場をしのいでおいて下さい。全ての事が済むのに時をかけるつもりはないですから安心して待っていてくれればいいので」

 

舞蔵に心配かけぬ為にそう言う茂茂、だが舞蔵は彼の背後に立っている桂と万斉の姿を見て目を光らせる。

 

「ご油断なされるな達也殿、あそこの連中はかつて我々が何度も手を焼いた連中です、事を上手く運ぶにはそう簡単にはいきますまい……くれぐれも背中から刺されぬようお気を付けて下され」

「ご忠告ありがとうございます、舞蔵さん。彼等なら心配しないで下さい、自分はそう簡単に寝首を掻かれるつもりはないので」

 

彼が心配するの無理はない、桂一派と鬼兵隊は幕府にとって脅威と呼ぶに相応しい連中だ。

舞蔵の言葉を茂茂はしっかりと記憶しておくと、そよ姫がプンスカ怒った様子で

 

「もー! どうして私より先に爺やがNEW兄上様とお別れの挨拶をしているの!」

「そよ姫、これは別れの挨拶でなく人生の先輩からのアドバイスをしてもらっただけだ」

 

先を越された様子でご機嫌斜めになっているそよ姫に茂茂は慣れた手つきでなだめる。

 

「そよ姫、君が淹れたあのぬるい茶をもう飲めなくなるのは少し寂しいが、俺にも将軍と同じく大事な妹がいるんでな、その妹と一緒に一刻も早く元の世界に帰らなければいけないんだ」

「私も寂しいですが私にも大事な兄上様がおります、だからお二人がご無事にそれぞれの居場所に戻れるようにお城で願っていますね」

「ああ、さよならだこの世界の俺のもう一人の妹」

「お気を付けて、別の世界の私のもう一人の兄上様」

 

最後にそよ姫の頭に手を乗せて彼女と別れを済ませると茂茂は銀時と新八の下へ戻ってきた。

 

 

「さあ行こうか」

「行こうかじゃねぇよ! なにさっきのやり取り!? なんで爺やさんとそよ姫様の好感度カンストしてんだよ!!」

「色々あってな、将軍としての務めをなんとかやっていたら認めてもらえたんだ、そよ姫とは「将軍妹誘拐編」で舞蔵さんとは「初代将軍復活編」を機にな」

「そんな長編シリーズウチでやった覚えねぇんだけど!? なに人が見てない所で将軍様の身体でスペクタクルな大冒険繰り広げてんの!?」

 

スピンオフが作れそうな将軍茂茂の華麗なる活躍を聞いて新八が思い切りツッコミを入れる中、銀時はほれぼれする様に茂茂の顔を見つめ

 

「さすがはお兄様です! 入れ替わり現象に巻き込まれたのにも関わらず瞬く間に幕府の方々から強い信頼を得るとは! あの世間知らずの小娘に好かれていたのはいけ好かないですけど!」

「いやさすがつうか末恐ろしいよ! 将軍の身体使いこなしてる時点で尋常じゃないヤバさだよ!!」

 

彼を褒め称えている銀時にも新八が叫んでいると何も知らない様子で神楽が戻ってきた。

 

「そよちゃんにしばらく宇宙旅行行ってくると言ってきたネ」

「じゃあ神楽ちゃんも戻ってきたことですし行きますか」

「ああ、いつでも構わない、行こう深雪」

「ええ、お兄様となら何処へでも」

「だから絵面キツイから見つめ合わないでください……」

 

隙あらば二人の世界に入ろうとする茂茂と銀時に新八が死んだ目でツッコンでいると上空から突如轟音が鳴り響く。

 

見上げると空には数台の宇宙船が到着していた。坂本辰馬が率いていた艦隊、快臨丸や鬼兵隊の船があった。

するとまず万斉が歩き出し

 

「拙者は鬼兵隊の方の船に乗っていくでござる、よもや討ち滅ぼす相手である将軍と共に戦を仕掛けることになるとは……晋助が聞いたらどんな反応するであろうな」

 

 

続いて陸奥が坂本の尻に蹴りを入れながら

 

「出発の時間ぜよ、おら行け沢尻」

「千葉エリカだっつってんでしょ!」

 

一人と二人が別々の船の方へ向かったところで万事屋一行と将軍茂茂も出発する。

 

「では僕らも陸奥さんの所の船に乗りましょうか」

「銀ちゃん達を助けにいくアル!」

「そうですね、早く私の身体をこのモジャモジャヘアーの男から取り返さないと」

 

新八、神楽に続いて銀時も二人の後を追おうとすると。

すると彼等の後ろにいた茂茂はふと桂が部下達と何か会話しているのに気付いた。

 

「ええ! エリザベスさんがいない!? ついちょっと前まで私と一緒にいたわよ!」

「それが連絡してもまったく通じず何処へ行ったのやら……とにかく今はここにいる者だけで行きましょう」

「イヤですあの人を置いてはいけません! あの人は見知らぬ世界で一人ぼっちになってしまった私に初めて手を差し伸べて助けてくれた恩人なのです! 共に来てくれないのならせめて別れの挨拶を済ませないと!」

「いけません会長殿! まもなく出航です!」

 

部下達に無理やり連行されて船へと連れてかれる桂、それでもなお「エリザベスさ~ん! どこ~!」と必死に連呼している彼を眺めながら茂茂は顎に手を当てる。

 

「この世界で世話になった恩人に別れの挨拶か、確かに全てが終わったらもう俺達がここに来ることは無いからな……」

「どうかなさいましたかお兄様?」

「いや、なんでもない」

 

銀時に尋ねられると茂茂はフッと笑って歩き出す。

 

 

 

 

 

 

「さあ行こう、俺達の身体と俺達の世界を取り戻しに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……」」」

 

不穏な影と共に

 

 



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第十訓 旅出&結成

銀時達が蓮蓬のいる星へ向かう為に地球から出発する数十分前。深雪達のいる世界でもまたとんでもない事態が起こっていた。

 

その異変を最初に知ったのはなんとも意外な人物であった。

 

「今日の空はよく雷が落ちてくるな……」

「おい服部! なにまたのん気に空なんて眺めてるんだ!! こんな時でもラピュタ探しか!!」

 

生徒会室で一人遠い目で空を眺めていた服部の元へドアを蹴破るように勢いよく入ってきたのは渡辺摩利。

遠くの方で街中を襲っている様に降り注がれている謎の落雷に危機を感じてすぐ様生徒会長である七草真由美を呼ぶ為にここへ来たのだった。

 

「真由美はいないのか!? 服部以外の生徒会も見当たらないし一体何処へ行ったんだ!」

「……」

 

真由美達が1年E組の教室にいる事を知らない摩利が生徒会室内で叫んでいても服部は相変わらず魂が抜けてるかのように天を仰ぐだけ。

しかし

 

「あれ? え?」

 

気のせいだろうか、降り注がれる落雷を避けていくように大きな雲が動いてる様に見えた服部。

目を凝らしてもう一度そちらに目を細めると

 

雲というより巨大な建造物が動いているように見えた。あんな物を前にも一度空で見たことがあるような……

 

「あれって……」

 

しかも今度はその上空に浮かぶ巨大物体は雲の中に隠れず徐々にこちらに向かって迫ってくるように見えた。

次第にはっきりとわかってきたシルエット、服部はもう空ではなくその物体をジッと凝視する。

 

「いやまさか、え……」

 

空中に浮かぶ巨大な建造物、その言葉が頭を巡り、もしかしたら……と服部がある物を連想している中、グングンと凄い勢いでこちらに向かって飛んでくる物体が遂にはっきりと見える程に近づいてきた。

 

その建造物は街とも城とも要塞とも呼べる見た目をしていた。

 

まるでその物体を支えて浮かしているかのように巨大な球形状の様な物が底に内蔵されており。

城壁のような壁には所々に何百年も育って来たかの様な巨大な苔が付着し、その壁の上にはかつて人が住んでいた事を証明するかのように白い家の様なものが一つの街の様に並んでいる、そしてその街を護るかのように巨大に生い茂った大木が街の上に立っていた。

 

そう、これはまるであの……

 

「ラピュタァァァァァァァァァ!!!!!」

「うおぉ! どうしたいきなり叫んで! って!」

 

最近ずっと寡黙でボソボソ声しか出していなかった筈の服部が目を血走らせて口を大きく叫ぶ。

その叫び声に近くにいた摩利がビックリして窓の方へ振り返ると

 

「ギャァァァァァァァ!! なななななななななななななんだアレェェェェェェェェェェ!!!!」

「ラピュタァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

「おい服部!! お前一体何処へ行く!?」

 

思わず声が超振動起こすほどパニックになる摩利を尻目に服部は雄叫びを上げながら生徒会室から全速力で出て行く。

残された摩利もすぐに彼の後を追いかける。

 

「数日前からの各国代表による暴動事件や有力な権力者達の間で起こっている暴走。そして街に降り注がれる雷に今度は天空の城の出現……! 一体この世界に何が起こっているって言うんだ!!」

 

数々の疑問が頭に浮かんでくる中で摩利はとある友人が傍にいない事を悔やむ。

 

「あの破天荒でバカな生徒会長ならこの事態、どう切り抜けようとする……!」

 

言ってる事は滅茶苦茶でやる事成す事も予想を遥か斜め上にロケットで飛ぶ様な人物。

それでも摩利は知っている、彼女はどんな状況になろうと自分を曲げずに貫き通そうとする強い信念を持っている事を。

 

七草真由美、彼女ならこの混乱した状況を打破するのか。

今は傍にいない彼女を思いながら、摩利は何かに向かっている様な服部に追い付こうと急いで駆けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、七草真由美はというと司波深雪と共に学校の屋上へと来て頭上を見上げていた。

 

「これはもはや船というより城なのではないのだろうか」

「いや城とか船とかそれ以前に……」

 

真上の上空で丁度止まった巨大物体を見上げながらのん気に呟く真由美を尻目に深雪は頬をヒクヒク動かしながら

 

「まんまラピュタじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!! こんなモンどっから用意しやがった! ジブリスタジオか!?」

 

金曜ロードショーで何度も観た物が現実に目の前で現れたことに深雪が驚愕をあらわにしていると「アハハハハ!」と千葉エリカが上機嫌でやってきた。

 

「コイツは以前わしが達也達と一緒に海の中で見つけた古代文明の建造物じゃ。前に将軍様にその事を話した事があったんじゃが、まさかそいつがこげな力を持っとったとはの~!」

「将軍様なんちゅうモン目覚めさせちまってんだ! おいヤベェよ! こんな所でモタモタしてるとゴリアテ来ちゃうよ! 早くロボット兵で迎撃しないと!」

 

深雪が慌てた様子で上空のモノを指差しているとその建造物の下にある球体の底に2メートル程の穴が開き、その穴からエレベーターを使ってるかのようにゆっくりと下降しながら降りてくる男が現れた。

将軍徳川茂茂こと司波達也。

 

「うむ、皆の者待たせたな今しがた最終工程を済ませてきた」

「何当たり前のように浮きながらゆっくり降りて来てんのこの将軍様!?」

「太古の昔に眠らされた秘宝に刻まれた古式魔法にのっとり宇宙船に改造してみた、さらに次空間を干渉し蓮蓬のいる狭間に辿り着く為のデバイスも装着しているので迷う必要はないだろう」

「将軍様異世界の知識どんだけ吸収したんだよ! こんなモンを一人で宇宙船に改造するとかハイスペックにも程があるよ!?」

 

 

もはやどこからツッコめばいいのか分からないほど将軍の恐るべき手腕に深雪が叫んでいると達也はフッと笑い。

 

「余はほとんど何もしていない。これ等を全てやってくれたのはこの世界の者達だ。この世界の命運を託し、我等がきっと成し遂げてくれると信じて」

「いや将軍様、あなたこんな見知らぬ世界でラピュタ一つ動かせる連中なんかとどうやって繋がりを……」

「十師族という数多の一族の中で一際特別な名門の一族達がいてな」

 

十師族とは4年ごとに行う「師族会議」で改選される。「その時代に強力な魔法師を数多く輩出している」という順に選ばれた10の一族を指す物であり。

いわば日本で最強の魔法師集団。表立った権力を放棄する代わりに、国家の裏で不可侵に等しい権力を手にしているのだ。

そして達也は

 

「その一族皆の力を借りてこの宇宙船を造り上げてみた」

「将軍様よその世界でなにやってんの!?」

「見ず知らずな余の話を彼等に聞いてもらうのに時間がかかった、四葉からの協力は得られなかったが。たかが十の一族との交渉事に一ヵ月もかかってしまいすまなかった」

「いやよくわかんねぇけどそれ滅茶苦茶難しい事だと思いますよ将軍! 一ヵ月でそいつ等全員まとめ上げるって尋常じゃないぐらいとんでもねぇ事だと思うんですが!? 原作でも未だそんな事やってのけてないと思いますが!?」

 

こちらに非礼を詫びる達也だが彼が行った事は常人では、ましてやこの世界の事をほとんど知らぬ異世界の者が成し遂げられるものではない。

それをなんとなくで察した深雪が声高々に彼にツッコミを入れていると、隣にいた真由美が腕を組みながら納得したように頷く。

 

「ほう、俺の実家である「七草家」が最近騒がしいと思っていたが、よもや将軍自らスポンサーになってくれなどという交渉が行われていたのか」

「いやお前の実家じゃねぇから」

「だがそれしきの事で俺が認めると思ったか、この桂小太郎。その程度の功績で貴様の首を飛ばせるこの好機を見逃す様な真似はせぬ」

 

そう言って真由美はどこから調達したのか黒い鞘に納められた刀の柄に右手を置く。

 

「知りたい事はわかったし空へと飛び立つ準備も出来た。ご苦労だったな将軍、褒美として一足早く天へと昇らせてやろう」

「おいヅラ! テメェいい加減に!」

 

そう言ってニヤリと笑ったまま真由美が達也目掛けて刀を引き抜こうとするのを深雪が止めようとしたその時

 

「今すぐその刀から手を放してくれないかしら? 七草さん、いや桂小太郎」

 

真由美の後頭部すぐ後ろにチャキッという音と共に真っ黒な拳銃の銃口が彼女に向けられていた。

その銃を右手に持つのは深雪達でさえ気づかずに忽然と現れた黒髪ポニーテールの20代ぐらいの女性。

独立魔装大隊所属・少尉、藤林響子だ。

 

「我等が茂茂将軍に刃を向けるという事は国防陸軍一〇一旅団を敵に回すという事、まさかこの世界の軍隊一つとまともにやり合おうだなんてだいそれた事考えてないわよね?」

「オイィィィィィ!! 誰だこの綺麗なネェちゃん!! いつの間に出てきた!?」

「なんだとぉ!! 将軍貴様! まさか十師族だけでなく軍事組織まで手中におさめていたのか!?」

 

自分の後頭部に銃口を突き付けながら物騒な事を言う彼女に驚いて思わず叫ぶ真由美。

すると達也は冷静に頷き

 

「余の身体の持ち主である司馬達也という男は独立魔装大隊の隊長であられる風間玄信(かざまはるのぶ)殿とは旧知の仲であったらしい。それが発端となり彼等とも友好的な関係を築くことに成功した」

「茂茂将軍に仇なす者全てに死を、国防陸軍一〇一旅団に新たに作られた鉄の掟です」

「友好的っつうか完全にあなたの忠実なる部下になってるんですが将軍!? ウチの世界どころかこっちの世界でも将軍!?」

 

魔法装備を主兵装とした軍事組織、国防陸軍一〇一旅団。どうやら達也は十師族だけに及ばず彼等にも声を掛けて協力を求めていたらしい。

 

その事実を聞いて真由美がまだ柄に手を置いている刀をガタガタと震わせた後ゆっくりと手を放し

 

「フハハハハハ! いやですねぇこんなのただの冗談ですってば! さあ将軍殿! 我等攘夷志士と共に手を取り合ってこの世界を救いに行きましょう!!」

「無かったことにしやがったコイツ!」

 

その手で達也の手を取って固く握手しながら高笑いする真由美。

さすがにこの場で軍隊を相手にするなど出来ないと考えたらしい。

無理矢理なかったことにしようとする彼女に深雪が呆れていると軍の一人である響子はあっさりと拳銃を懐に仕舞うと達也に敬礼。

 

「茂茂将軍様、風間少佐からの指令で私が将軍の護衛役兼古式魔法の操作役として共に宇宙へ行く事となりました、将軍様の身は私が命をかけて全力でお守りします。将軍の命を狙う怪しい輩がおりましたらすぐに私が始末するので」

「ハッハッハ! なぁに心配はいらん! 我等が将ちゃんの命を狙う下賤な愚か者などこの桂小太郎がたた斬ってやるわ!!」

「おいネェちゃん、そいつ撃っていいぞ」

 

急に心変わりして将軍の命は自分が護るなどのたまう桂をジト目で見ながら深雪が響子に言うと、彼女は

 

「出航前は特に危険です、ですので将軍様の命を狙う可能性が少しでもありそうな者には……」

「ん?」

 

真由美はふとある事に気づく、何やら視界にチカチカと赤い光が見えるような……

 

「数キロ範囲からすぐにでも狙撃魔法を放てる者をここら一帯に配備していますので彼等に狙撃してもらいます」

「おいヅラ、お前顔面赤い斑点だらけになってんぞ、性病か」

「性病ではない! 狙撃手が俺を徹底的にマークしているのだ!!」

 

自分を指差す深雪に追及されて真由美はやっと気付いた。

チカチカと見える赤い光の正体が遠くから狙っている将軍護衛役の狙撃手のレーザーポインターだと

 

「俺は違うぞ! 俺は決して将軍を亡き者にしようだなんて考えは持っていない! 高杉だ! 高杉の方を狙え!! アイツは絶対将軍を亡き者にしようと企んでいるぞ!」

「どの口がほざいてやがる、おいネェちゃん、さっさと発砲許可取ってコイツ撃ち殺せ」

「ちなみにあなたもよ」

「あ?」

 

かつての友であるのに容赦なく撃ち殺せと響子に言う深雪。

しかし響子の方はスッと彼女に胸の所を指を向けて

 

「少しでも変な真似したら心臓撃ち抜かせてもらうわ」

「だぁぁぁぁぁ!! なんで俺にも赤い斑点1個付いてんだぁ!!」

 

自分の左胸に向けてレーザーポインターを当てられている事に初めて気づくと深雪は目を見開いて慌て始める。

 

「先程から将軍様に対するツッコミの仕方が馴れ馴れしいのよね」

「ツッコミの仕方の問題!? いやおたく等は知らないだろうけど俺達の世界じゃこんぐらいのツッコミが普通なの! ツッコミに身分は関係ないの! ツッコむ方もツッコまれる方も皆平等なの!」

 

腕を組んで怪しむ響子に深雪が必死になって抗議しているとそれを見ていたエリカが面白そうに笑い

 

「アハハハハ! ヅラと銀時は初めて会うきに、軍の連中に警戒されているんじゃ! その点わしは将軍様と入れ替わる前の達也と軍の船に一度遊びに行った事があるんで連中とはとっくの昔に仲良しぜよ!!」

 

そう言うエリカに深雪が振り返ると

 

彼女の身体至る部分が赤い斑点で埋め尽くされていた。

 

「ってお前に至っては全身真っ赤に光らせてんじゃねぇか! 何が仲良しだ完全に抹殺対象になってるじゃねぇか!!」

「あっれぇぇぇぇぇ!? 響子ちゃんこれどういう事ぉ!? わし将軍殿になんも良からぬ事考えてないんじゃが!?」

「ああ、大丈夫よ、あなたの場合は将軍様の事は関係ないから。あなたの場合一度達也君と軍の船を見学してきた時に軍の最高機密兵器に盛大に吐瀉物ぶっかけたおかげで壊した時から暗殺リストに載ってるだけよ」

「なんじゃそげな事で狙われとったんか、全くわしのこの華麗なスタイルを観察したいんなら直接顔合わせればいいだけの事じゃろうに。軍のモンは皆恥ずかしがり屋じゃのう、アハハハハ!!」

「ポジティブ貫き通すにも限度があるだろ! 全身穴だらけになる寸前で平然と笑ってる場合か!!」

 

全身くまなく狙撃手に狙われた状態で腰に手を当てヘラヘラ笑っているエリカに深雪がツッコミを入れていると

 

「ラピュタァァァァァァァ!!!!」

「ん? おい、服部君がすげぇ顔でこっち走ってきてるぞ」

「なに! ハンゾーくんが!」

 

屋上まで一気に駆けてきたらしい服部がいきなり現れた。上空に浮かぶ巨大宇宙船の後を追ってここまで来たらしい。

必死の形相でこちらに向かって走ってくる彼に真由美はバッと両手を広げて

 

「さては俺と別れる事を悟って連れ戻しに来たのだな! だが残念ながら俺は行かねばならんのだ! 確かに俺もおぬし達生徒会と別れるのはツラい! しかし別れを惜しんでばかりではお互いに前に進めぬぞ! ここは俺と熱い抱擁を交わして踏ん切りをつけ……どぅふ!」

「ラピュタァァァァァァァァ!!!!」

 

こちらに向かって走ってくる服部を熱いハグで受け止めようとする真由美だが、天空の城にしか視界に映らない服部は飛び上がって彼女の顔面を踏みつけるとそのまま更に勢いをつけて飛び上がり

 

そのままフワフワ~っと球形の底にある達也が使っていた自動浮遊エレベーターに乗って中へと入ってしまった。

 

「おい服部君ラピュタに乗り込んだぞ! 念願の夢が叶ったかのように一瞬幸せそうな笑み浮かべてたぞ!」

「フ、どうだ銀時これでわかったであろう。ハンゾーくんは魔女宅派ではない、ラピュタ派だ。やはり俺の読みは外れていなかった」

「いやどうでもいいわそんな事!」

 

顔面を踏まれたのにめげずにこちらに勝利宣言する真由美に深雪が叫んでいると、生徒会室からずっと服部を追っていた摩利がこちらに向かって走ってきた。

 

「ゼェゼェ! あれ服部のやつ何処入った! って真由美に司波! お前等今までどこに……ってこれはさっき見た天空の城じゃないか! 一体何がどうなっているんだ!!」

「うむ、出て来て早々ナイスリアクションだ摩利殿」

 

荒い息を吐きながら目の前で立ち止まって状況の整理が追いついていない彼女に真由美は無表情で両手をまた広げ

 

「さあ俺と熱い抱擁を交わしキッチリ別れよう!」

「なにいきなり気持ち悪い事言ってんだお前! いつお前と私がそんな関係になった!」

 

なぜに抱きしめて来ようとするのか意味がわからない様子の摩利はすぐ様深雪の方へ振り返り

 

「司波! 頼むからこの状況を説明してくれ!」

「あ~ちょっと俺達ラピュタで宇宙へ行ってこの世界を侵略しようとしている悪の軍団叩き潰してくるからみたいな?」

「みたいなってなんだ! そんなわけのわからない説明で納得できるか!」

 

小首を傾げながら何とか説明してみる深雪だが摩利はイマイチピンと来ていない様子。すると深雪に代わって達也が前に出て

 

「ならばここは余が説明するとしよう」

「っておい! 行方不明になっていた司馬君までどうしてここに!」

「いや待たれよ将軍、俺と摩利殿は生徒会長と風紀委員長として共にこの学び舎を支えてきた同志だ。説明なら俺からする」

「将軍!?」

 

いきなり現れた達也にも驚きだが更に将軍とまで呼ばれてることにもはやリアクションが追いついていない摩利に真由美が歩み寄る。

 

「摩利殿、今まで隠していてすまなかった。実は俺は本物の真由美殿ではない、ここにいる深雪殿も、そして達也殿も体は同じだが全く異なる世界からやってきた者達なのだ」

「……よくわからないがつまりお前は真由美ではなく全く別の所から来た人間というわけか?」

「そうだ、そして俺達の本物の体には本物の真由美殿の魂が入っている、つまり俺達は全く別の世界に住みながら体が入れ替わってしまった者達なのだ」

「……」

 

突拍子もない真由美のない話にかろうじてついていきながら摩利は無言で彼女の話を聞く。

 

「そしてこの現象を打破するため、俺達はこの現象を引き起こした元凶を叩く為に奴等のいる宇宙へと行かねばならない。死ぬかもしれん戦だが案ずるな、おぬしの大事な友はこの”桂小太郎”が全力で救って見せる」

「……どうやらいつもみたいにふざけてる訳じゃないようだな」

 

いつもと様子が違う真由美に神妙な面持ちで彼女の話を聞いた後、摩利は静かに頷く。

 

「ならばその戦、私にも手伝わせてくれ」

「な! 馬鹿なことを言うな摩利殿! こんな危険な事におぬしを付き合わせるなど俺は!」

「正直まだ半信半疑だが、困ってる友人を助けるのに理由なんて必要ないだろ、真由美も、そしてお前も私は助けたい」

「!」

 

七草真由美だけでなく桂小太郎も救ってみせると言われて目を見開く真由美に摩利は微かに微笑む。

 

「短い付き合いだがもうお前も私にとっては友人の一人だよ、桂小太郎殿。無茶苦茶な事ばかり言っていたがもう一人の生徒会長として一生懸命にやっていたお前を責めるつもりなど毛頭ないしむしろ少々楽しかったと思えたぐらいだ、私も共に戦わせてくれ、桂」

「……」

 

凛とした強い眼差しでそう言われて真由美はただその目を黙って見つめていると脇から深雪が後頭部を掻き毟りながら

 

「ヅラ、ここまで言われちまったらもう俺達がとやかく言うのも無粋ってもんじゃねぇのか」

「そうだな……友の頼みであれば全力で応えるのが侍というものだ」

 

深雪にそう言われて真由美はフッと微笑んだ後摩利の同行を許した。そして頭上に浮かぶ天空の城へ顔を上げると

 

「ところでラピュタに乗り込んでしまったハンゾーくんはどうすればいいのだろうか」

「いいだろ一緒に連れてってやれば、服部君はラピュタを見つけるのが夢だったんだ。乗せてやるのが筋ってモンだろ」

「うむ、ハンゾーくんなら致し方ないな」

「お前私には反対しようとしたクセになんで服部に対してはそんな甘い判定で許可してるんだ!! ていうか服部もうコレに乗り込んでいるのか!?」

 

服部に対しては何かと甘い二人に摩利が早速ツッコミを入れていると、エリカが後ろから手を叩いて

 

「アハハハハ! まさかわしの所の次兄の婚約者ば連れて行く事になるたぁ思わんかったわ! こりゃあますます本腰入れて奴等止めにいかなきゃの!」

「ってまさか千葉お前まで! ってなんでスポーツサングラスなんて掛けてるんだ……?」

「ああそいつ俺達と同じ入れ替わり組みだから」

 

グラサン掛けてるエリカに摩利が怪訝な様子を浮かべていると深雪がけだるそうに事情を話す。

 

「あ、ちなみに俺は坂田銀時だから、万事屋やってまーす」

「わしは坂本辰馬ぜよ! 宇宙をまたにかけた貿易商人じゃ!」

「なるほど、そして達也君は」

「徳川家第十四代征夷大将軍、徳川茂茂である」

「……お前達の世界は一体どんな世界なんだ」

 

深雪、エリカ、達也の本名と素性を聞いて頬を引きつらせると摩利はふとある少女を思い出した。

 

「……もしかして中条もか?」

「ああ高杉の事? アイツはいいよそっちにあげる、俺達の世界に戻ってきても長編やらシリアスやらでめんどくせぇしよ」

「出来るかそんな事! 中条がずっとあのままなんて耐え切れるか!」

「大丈夫だってあんなチビ、どうせ年がら年中頭の中厨二なだけなんだから。この腐った世界をぶっ壊すー的なことしか言えない可哀想な子なだけだから……」

 

ヘラヘラ笑いながら深雪が人がいない所で勝手な事を言っていたその時。

 

「誰が可哀想な子だ、可哀想なのはテメェの頭だろ」

「ギャァァァァァァ!!!」

 

深雪の後頭部に刀の鋭い先端が突き刺さる。

悲鳴を上げ、後頭部から血を噴出しながら彼女が振り返るとそこには血が滴り落ちる刀を持った中条あずさの姿が

 

「適当に得物取ってきた、馬鹿な事言ってねぇでさっさと行くぞ」

「テンメェ深雪さんの頭になに刀刺して涼しい顔してんだコラァ! お兄様コイツ撃ち殺してください!」

「いや待ってくれ、少しこの者と話しておきたい事があるんだ」

 

血を流しながらあずさを指差して深雪が叫んでいると達也があずさの前に出る。

 

「高杉晋助、そなたとは桂と同様いずれは己の首を賭けて戦うべき相手。しかし此度の戦だけは手を取り合って共に戦ってほしい、共に新しき世を護る為に」

「そうかい、じゃあ俺の返事はコイツだ」

 

そう言ってあずさは手に持った刀をサッと素早く横薙ぎに振るい達也の首筋にピタリと当てた。

その瞬間、離れた場所から狙撃している魔法師から一斉にレーザーポインターを向けられる。

将軍護衛役の響子もすぐに拳銃を取り出して真由美の時と同様あずさに銃口を突きつけた。

 

「攘夷志士というのはどれも血気盛んね、刀を下ろしなさい」

「くだらねぇ駆け引きだ……俺を殺せるなら殺してみろ、だが」

 

全方位から狙われてる状況の中あずさは口元を歪ませる。

 

「その前にお前等の護りたい将軍様の首が飛ぶぜ」

「……」

「高杉、このような事にうつつを抜かしてる間も、今こちらの世界だけでなく我等の世界が宇宙からの敵によって少しずつ蝕まれている」

 

あずさに首筋に刀を突き付けられてもなお達也は全く動じず冷静に彼女に話しかけ始めた。

 

「天人を害悪とみなし排除しようとするおぬしが、この様な所で無駄死にする気ではあるまい」

「……命乞いか」

「そう、命乞いだ」

 

こちらを睨み上げるあずさに達也は目を逸らさずにしっかりとした口調で正直に答える。

 

「余はまだこんな所で死ねぬ、ましてやこの身は達也殿の体。そう安々とこの首を渡すわけにはいかぬのだ、そしてそなたの体もそなた自身の体ではないであろう、そなたもまだこんな所では死んではならん、互いに死する時は我々の世界で我々の身体で相見えよう」

「……とことん甘い野郎だ」

 

自分だけでなくこちらの身も案じてると知ったあずさは面白くなさそうにフンと鼻を鳴らすと刀を達也の首筋からサッと引いた。

 

「その首しばらく残しておいてやる、将軍の首は将軍の時に刎ねらねぇとなんの価値もねぇからな」

「ああ、いつでもかかってくるがいい」

「将軍様よろしいので?」

「うむ、彼等と共に戦わねば星一つ墜とす真似など出来やしない」

 

刀を鞘に納めてこちらに背を向けるあずさ。どうやらやる気が失せたらしい。

警戒しながら話しかけてきた響子に達也ははっきりと返事する。

 

「ところで余が異国で見つけた”あの者”は?」

「それが坂田銀時という男がいると聞くと顔を真っ青にして、彼等が来る前に宇宙船に乗り込んで引き篭もってるみたいです」

「そうか、同じ”入れ替わり組”であるから仲良くできると思ったのだが、やはり上手くはいかんな」

「「将軍様の事は御守りするが野郎にこのツラ見せるなら腹切ったほうがマシだ」とも言ってました」

「わかった、出来るなら恥など捨てて共に侍として戦って欲しいのだがな、来たるべき決戦に備えてもらうとしよう」

 

響子からとある人物の様子を聞いた達也はため息をしつつもいずれ彼等が戦うときが来たら剣を取ってくれるだろうと期待するのであった。

 

「では将軍様、私達も船に」

「うむ、では参ろうか」

 

促されて達也は彼女と共に船(?)へと向かっていった。そして真由美もまた摩利の方へ振り返り。

 

「俺達も行くぞ、真由美殿を救いに」

「ああ」

「……ところでリンちゃん殿はどうした?」

「いや私は知らないぞ、アイツの事だからもうお前の所に来てると思っていたんだが?」

「なに! 俺は見ていないぞ! 駄目だ! リンちゃん殿に俺は随分と助けられてきたのだ! せめて礼と別れの挨拶を!」

「なに言ってんだもう時間ないだろう、礼なら私が帰ってきた時に伝えておいてやる」

 

まだ市原鈴音と別れの挨拶をしていないと戻ろうとする真由美を摩利が無理矢理連れて行って乗船し、あずさも続いて歩き始める。

 

「……」

「待ってくれ高杉さん」

 

しかしその足がピタリと止まり後ろへとゆっくり振り返るあずさ、その視線の先にいたのは。

かつて完膚なきまでに叩きのめした桐原の姿が

 

「すまない坂本さん、準備が遅れた。俺もこの戦に参加させてくれ」

「なんじゃおまん! まさかわし等と一緒に宇宙行くつもりかぁ!?」

「ああ、俺にはまだあの男にどうしても見せなきゃいけないモンがある」

 

驚くエリカを尻目に桐原は手に持った横長のアタッシュケースをあずさに見せるように上げる。

 

「俺の戦いをアンタはチャンバラごっこだと称したな。それをこの戦いで撤回させる為に俺は来た」

「……そいつはおもちゃかなんかか、悪いがテメェの相手なんざもうごめんだ。ガキの遊びにこれ以上付き合うつもりはもうねぇよ」

「そう言ってるのも今の内だ、俺は絶対に認めさせてやる。この世界の剣を」

「……今度は俺の目見てもビビッてねぇようだな」

 

真っ向から対峙しあずさの鋭い眼光に対して決意が感じ取られる強い眼差しで対抗する桐原。

しばらくしてあずさはプイッと彼に背を向けると

 

「俺はテメェ等の世界の剣なんざどうだっていい、それでも何かを認めて貰いてぇなら勝手にしろ。テメェが死のうが俺には全く関係ねぇしな」

「そうさせてもらうさ、アンタはただ歩いていればいい、その背中を俺が追う。それだけだ」

 

言葉を交えながら二人は船へと乗船してあっという間に行ってしまった。

 

「後はわしとおまんだけになってしまったのぉ銀時」

「別に俺はいつでもラピュタに乗ろうと思えば乗るつもりだよ、ただちょっとオメェに聞きてぇ事があってよ」

「なんじゃ急に?」

 

二人になった状態で深雪はエリカに一つずっと秘めていた疑問を投げかけた。

 

「俺に司波深雪の住所教えたり木刀よこしたり高杉の居場所教えてくれたのは、全部オメェの仕業か?」

「……なんじゃそりゃ? わしはそんな事やった覚えもないし仲間にやらせた覚えもないぞ?」

「じゃあ将軍か?」

「将軍様はおまんが来るまでずっとあっちこっち飛び回ってたんじゃ、そんな真似する暇ないぜよ」

「……じゃあ一体何処のどいつが……」

 

いまだ正体すら判明できぬ協力者、ひょっとしたらエリカか達也かもしれないと思っていたのだがどうやら的が外れたらしい。

一体誰なのだと深雪がアゴに手を当て考えていると

 

「坂本さん!」

「おお、おまん等やっと来おったか! わしゃはてっきり別れの挨拶もせずに来ないんじゃないかと心配しとったんじゃぞ!!」

 

ふと前方からエリカに向かってやってくる三人が。

エリカが入学式からずっと学校生活を楽しんでいた西城・レオンハルトと吉田幹比古、柴田美月だ。

 

「クラスメイトが遥か彼方の宇宙に飛んでいくっていうのに見送りすっぽかす程落ちぶれてねぇよ、まあ俺は見送りに来た訳じゃねぇけどな」

 

そう言ってレオは得意げに長旅に使うような荷物袋を持ち上げる。

 

「俺は桐原さんと違って大層な目的がある訳じゃないが、達也やアンタの力になる為に一緒に連れてってもらうぜ」

「アハハハハ! なんじゃそういう事か! 構わん構わん! それじゃあわしとお前で達也の奴を助けにいこか!」

「おうよ!」

「二人共そこはエリカの事も助けるって言ってあげてよ……」

「でも私も入学式で一度会ったきりだから本物の千葉さんの事たまに忘れちゃうんだよね……」

「柴田さん!?」

 

二人仲良く肩を合わせて互いの首に手を回すエリカとレオ、そして申し訳なさそうな美月に幹比古が思わず叫ぶ。

 

「申し訳ないですけど僕と柴田さんはここに残る事にします、今の僕じゃ坂本さんの足を引っ張る事になるので……」

「すみません私も……戦いには自信なくて」

「そげな事で謝らんでもよか、こっちもついて来いなんて無理強いするつもり毛頭ないんじゃ。来たいモンだけ来て、残るモンはここで自分が為すべきモンを探しとったらええ」

 

そう言ってエリカは二人の肩にガシっと手を置く。

 

「いずれ事が済んだら本物の坂本辰馬としてまたこの世界にやってくるきん、そん時に皆で盛大にパーッと打ち上げやろうと思ってるけ、じゃからそん時の為に皆で盛り上がれるような店探しといてくれ」

「え、坂本さん一体どうやってまたこっちの世界に来るんですか!?」

「アハハハハ! 細かい事は気にすんな! わしにかかれば異世界の一つや二つ楽々乗り込めるもんじゃき! 何なら終わったらすぐこっち来てもええの!」

「相変わらず無茶苦茶だな……まあそんなあなただからこそ、僕も一緒にいて楽しかったですよ正直」

 

いつもと変わらずヘラヘラ笑いながらとんでもない事を言ってのける相手に肩をバンバン叩かれながら幹比古もまた微かに笑う。

そして美月の方はエリカの方でなく深雪の方へ

 

「あの、銀時さんでいいんですよね? 深雪さんの事、よろしくお願いします」

「ああ? 心配しなくてもちゃんとボディーチェンジしてくるって。俺だってこんな身体じゃパチンコもいけねぇしコンビニでエロ本も読めねぇんだ」

 

こちらに頭を下げてきた美月に深雪はいつもの調子でけだるそうに答える。

 

「頼まれなくともこちとら勝手にやるってぇの。だから心配すんな、テメェのダチぐらい取り返して来てやんよ」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ俺もう行くから」

「あ、待ってください!」

 

肩を鳴らしながら船へと向かう深雪を美月があわてて呼び止める。

 

「ほのかさんと雫さんには何も言わなくていいんですか?」

「お前等と辰馬と違って、俺とあいつ等はたかが数日たまに一緒にいた程度の仲だ。別れを惜しむ程の間柄じゃねぇよ」

 

光井ほのかと北山雫の名が出るとは思ってなかった深雪、しかし美月の問いかけに彼女はその必要はないと断言しながら振り返ると

 

「いや丁度今ここに来たんですけど」

「すみません遅れました! あの! 宇宙食合わなかったらどうしようと思って近くの食料の調達を!」

「狙いは銀河系一のカブト」

「っておい! いつの間に現れたんだよ! しかもついてくる気まんまんじゃねぇか!!」

 

美月の隣についさっき来たかのように荒い息を吐きながら両手に大量のハンバーガーやらポテトやらが入っている紙袋を持った光井ほのかと。

なぜかむぎわら帽子を被って虫取り網を手に持ち、虫かごを肩に掛けた北山雫が涼しげな様子で立っていた。

 

「まずなんで食料調達にマックをチョイスしてんだよ! そんなモン時間経ったらパサパサになっちゃうだろうが! せめて缶詰とか長持ちするモン買ってこいよ!!」

「すみません私一度缶詰指で空けようとしたら切っちゃった事あるんです、それっきり缶詰系はダメで」

「知らねぇよ! お前のクソしょうもない過去なんて! パサパサのハンバーガー食って喉カサカサになってろ!!」

 

平然と答えるほのかに叫んだ後、続いて深雪は雫を指差す。

 

「お前に関しては意味わからねぇよ! どうして虫取る気まんまんの格好なんだよ! これから宇宙行くって聞いてなかった!? 宇宙でカブト獲れると思ってんの!?」

「宇宙でカブト虫取りに行くなんてなかなか出来る事じゃないよ」

「バカ丸出しなお前の考え自体がなかなか出来る事じゃないよ!!」

 

もはや戦いに赴くというより裏山でピクニックする感覚の二人に深雪は顔を手で押さえながらハァ~とため息を突く。

 

「勘弁しろよ、お前俺の正体なんざもうとっくにそこのメガネ娘にでも聞いただろう? だったらこれ以上俺に付き合う義理もねぇだろうが、俺はお前等の友人の深雪じゃなくて万事屋銀さんなんだよ」

「でも私達だって深雪やお兄さんを助けたいって思いは一緒だよ!!」

「いや俺はアイツ等よりもさっさと自分の身体取り戻したいだけなんだけど」

「いいのもう強がり止めて! 私は銀さんの事ちゃんとわかってるから!」

「はぁ? 何が?」

 

丁重にお断りしてさっさと追い払おうと思っていた深雪だがいきなりほのかがズイッと手の平を突き出して

 

「私達に心配かけまいとそうやって意地張るような真似しなくいいの! 本当は一刻も早くお兄さんに会いたいんでしょ!」

「なんで俺がお兄さんに会いたがってる事になってんだよ!」

「ほのかは思い込みが激しいから」

「思い込み激し過ぎて俺が変な性癖持ってるみたいになってんだろうが!!」

「最近私とほのかもそういう男と男の世界があるって事をクラスメイトから聞いた事あるよ」

「おいそのクラスメイト俺の前に連れて来い! 屋上から筋肉バスターかけてやる!!」

 

何やらこの少女の頭の中ではとんでもない勘違いが生まれてしまっているらしい。

焦りながら深雪は必死に否定し始めるがそんな事ほのかはお構いなしに話を進める。

 

「今までのツンデレな態度が深雪でなく銀さんであったなら……つまりそれはそういう事だってわかってるから。なら私達も深雪を助ける為に、銀さんはお兄さんを助ける為に共に行こう!」

「わかってない全然銀さんの事わかってない! アレはただ単に適当に言ってただけだから!!」

 

まさか適当な事を言い過ぎた事がここで仇になってしまうとは……

激しく後悔している深雪に雫がポンと肩に手を置き

 

「ほのかの思い込みはいつもの事だから気にせず行かないとこの先やっていけないよ」

「この先ってマジでお前等ついてくる気なの……?」

「深雪を助けたいってのもあるけど」

 

雫はふと疲れた様子の深雪の顔をジッと見つめる。

 

「あなたがどんな人間なのか個人的に興味あるから」

「……ただの侍だよ俺は」

 

どんな理由だと内心ツッコミを入れながら深雪はため息を吐いてクルリと踵を返して彼女達に背を向ける。

 

「もういいやめんどくせぇ、ついてくるなら勝手にしろよ。その辺で死んでも知らねぇからな」

「うん!」

「了解」

「よし」

 

二人が了承すると深雪は腕を組みながら頭上を見上げ、巨大な宇宙船をゆっくりと見上げる。

 

「新生万事屋異世界ver結成だ」

 

そう言って深雪は背中に差してあった木刀を一気に引き抜き肩に掛け歩き始めた

 

「最初の依頼は二つの世界を救う、ま、ひよっ子のお前等には手頃な依頼だな」

「そうだね」

「そうなの!?」

 

今ここに二つの世界が大きく動き出す。

 

 

 

 

 




これにて物語は一段落、舞台は地球から宇宙へと移動します。
二つの地球からそれぞれ飛び出し、そして遂に入れ替わった面子との初対面が待っている事でしょう。
ストーリーもいよいよ中盤、一体どんな事が起きるのやら、どんな人物が出て来るのやら、どんな人物と入れ替わっているのやらお楽しみに

それとマズい事に作者はちょっと前から病気になってしまったので、キリのいいこのタイミングでしばらくお休みさせて頂こうと思います。2週間以内には帰って来ると思いますがそれまでしばらくお待ちください。それでは

PS もう片方の銀魂クロスSSはとりあえず週一ペースで連載します


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合同修学旅行編
第十一訓 交戦&合流


遠い星、遥か彼方の銀河系で

 

世界の命運を託された宇宙船、快臨丸が数多の船を連れて地球を出てそろそろ一週間が経った頃。

船はいよいよ世界を掌握せんと企む種族「蓮蓬」の母星までもう少しという所まで来ていた。

 

「目標地点到達時間まで残り30分です」

「とりあえずここまでは順調じゃな、引き続き頼むぞおまん等」

 

カミソリ副官こと快援隊の副艦長、陸奥。船頭室で予定通りの航路を進んでいるのか逐一確認しながら目的地へと進んで行く。

 

「蓮蓬のいる場所はわし等の宇宙と異世界の宇宙の狭間。わし等は前にも一度行った時はすぐに艦長を失い為す総べなく逃げる事しか出来んかった。次はこうはいかんぜよ、蓮蓬の連中にリベンジマッチじゃ、心してかかれ」

「「「はい陸奥艦長!!!」」」

 

もはや坂本辰馬不在の今完全に船の艦長となってしまっている陸奥からの言葉に応えて力強く返事する船乗員達。そして彼女は踵を返して船頭室を後にして廊下に出る。

 

「大した人望だな、さすがは坂本さんが右腕と称した人物だ」

 

陸奥が廊下に出るとそこには一人の男が壁にもたれて待っていた。

幕府の現将軍、徳川茂茂。そして中身は魔法科高校一年の司波達也。

こちらに向かって話しかける彼に陸奥は表情を変えずに淡々とした口調で

 

「あくまで奴の代わりにまとめているだけじゃ、ところで連中の方はどうじゃ、まだ騒いじょるのか?」

「相変わらずだな、不慣れな体の上に長旅のあまり退屈しているせいもあって皆どこか落ち着きがないみたいだ」

「ならその長旅ももうすぐ終わりじゃと伝えておくか」

 

茂茂と共に廊下を歩きながら陸奥は彼等のいる待機室へと向かう。

 

「宇宙に行く事など異世界の連中にはあまり経験のない事じゃきん、こげな場所で何日も船乗っとったらストレスも溜まるじゃろうて、おまんは平気そうだがの」

「同じ場所に何日も籠る経験は何度もあるからな、これぐらいの事なんてことない」

「他の連中もそれぐらいの根性持ってればいいんじゃが」

 

そう言いながら陸奥は待機室のドアの前へ行くと、丁度曲がり角から万事屋の志村新八がこちらに向かって歩いて来た。

 

「あ、お疲れ様です陸奥さんと将軍……じゃなかった達也さん、何かありましたか?」

「悪い知らせじゃのうて良い知らせじゃから安心せい、他のモンも中にいるか?」

「ええ、多分いますよ。僕はちょっとトイレ行ってただけなんで」

 

そう言いながら新八と陸奥がドアの前に立つと自動的に開いた。

 

「おまん等良い知らせじゃ、目標地点まどあともう少しで到達じゃきん、長い旅もこれで終わりじゃ」

 

そう言いながら陸奥が中に入ると坂田銀時・桂小太郎・坂本辰馬・そして神楽が神妙な面持ちで椅子に座り円形のテーブルの上にあるボードの様な物を見つめていた。すると

 

「やったわ私が大女優に転職よ!! フハハハハ!! これで一気に大金持ちになってますますあなた達との差が広がりそうね!」

「ああ? 何言ってんのよテロリスト生徒会長、女優がなんだっていうのこちとら超一流お笑い芸人なんだから。女優なんて所詮一時代の流行りとして目立てるけどすぐに枯れちゃうんだからね」

「そんなモンお笑い芸人も一緒アル! 売れっ子漫画家になった私に比べればお前等なんて敵じゃねぇんだヨ!! こちとら一本ヒット作れば後は印税でずっと暮らしていけるんだからな!! 休みねぇし座りっぱなしでケツが痔になるけどな!!」

 

いきなり桂が口を開けて笑い声を上げると坂本と神楽がそれに対して嫌な顔をしながら反論。そしてその中で銀時がただ一人無表情で。

 

「すみませんこの人生すごろくおかしくありません? なんで身内と結婚できないんですか? なんで私とお兄様結婚できないんですか?」

「んな事出来る訳ないでしょーが! 一人だけ無職金無しだからってイチャモンつけてんじゃないわよ!!」

「いや無職な事は関係ないですから別に気にしてませんから、こんなモンただのゲームなんで。たかがゲームで本気になってるあなたと一緒にしないで下さいニセ坂本さん」

「誰がニセ坂本よ! 千葉エリカつってんでしょこの白髪頭! ゲームでも現実でも無職みたいなモンのクセに!! こちとら現実でも艦長よ!」

「陸奥さんに無能呼ばわりされてるクセになに艦長気取ってるんですか。言っときますけどあなたみたいなモジャモジャすぐに秒殺出来るんですからね」

「アンタもモジャモジャだろうが! 上等よやってみなさいよプー太郎風情が!!」

 

いがみ合いから殴り合いに発展するんじゃないかというぐらい睨み合ってる銀時と坂本。

そんな彼等に陸奥は無表情で近づくと後ろから坂本と銀時の頭を掴んで

 

「なに仲良く人生すごろくなんぞやっておるんじゃおまん等」

「「うべご!!」」

 

力任せに思いきりテーブルに置かれた人生すごろくに叩きつけた。

 

「戦いの前に緊張してるのかと思いきや、アホな事やっとらんでもう直目的地に着くぞと言うちょるんじゃ、さっさと踏み込むv準備せい」

「大丈夫か深雪」

「この身体は頑丈なのでなんとか……それにこの方々の世界はツッコミが激しいとわかっておりますので……」

 

歩み寄って安否を伺う茂茂に銀時は鼻を押さえながら顔を上げる。

 

「ところでお兄様、もうすぐ着くという事はいよいよ……」

「ああ、いよいよ首謀者を叩く時が来たようだ、コレで俺達も元の世界に……」

 

茂茂が銀時に優しく言いかけたその時

 

突如快臨丸が何かにぶつかったかのように激しい音を立ててグラリと傾いた。

 

「な、なによコレ! うげ!」

「これは……おまん等はここで待機しておけ」

 

突然の衝撃に椅子から転げ落ちる坂本を無視して陸奥は待機室から出て一気に廊下を駆ける、それにすぐ様追いつく茂茂。

 

「どうやら問題発生みたいだな副艦長」

「おまんも待機しちょれ、あまりにも事が順調すぎて不気味だと思っちょったわ……」

「俺に出来る事は」

「宇宙でのトラブルはわし等の仕事ぜよ、まだおまん等が動く時ではなか」

 

つまり余計な事はするなという事、遠回しにそう言うと陸奥は一目散に船頭室へと戻ってきた。

 

「状況はどうじゃ!」

「陸奥さんヤバい! 敵は蓮蓬だけじゃなかった!」

「!」

 

船頭室前方に付いている画像モニターを見て陸奥は目を見開く。

モニター一面にとある艦隊が一面に広がりこちらに向かって来るではないか。

 

「春雨……!」

 

宇宙をまたにかけて数多の悪行を行って来た銀河系一の宇宙海賊「春雨」

その船と思わしき船団を前に陸奥は奥歯を噛みしめる。

 

「奴等まさか蓮蓬と同盟を!」

「マズいのか」

「あれほどの数を前にしてよう涼しげな顔でそげな事言えるの……鬼兵隊に連絡じゃ! わし等と奴等で連携して叩くぞ!!」

 

さほど大したこと無さそうに眺めている茂茂に呆れながら陸奥は急いで伝令を飛ばす。

しかしその瞬間、再び快臨丸は大きく揺れ始める。

 

「これしきの攻撃なら想定の内じゃ! 怯むな! 打ち負かして突き進め!!」

 

負けじとこちらからも攻撃開始の合図を出す陸奥、だがそんな彼女の肩に茂茂は静かに後ろからポンと手を置く。

 

「ここで俺達が迂闊に前に出て敵の中に入りこんだら思うツボだ。艦隊全てを後退しつつ迎撃に入りながら周り込め、そうすれば集中砲火は防げられる」

「素人が口を挟むな、これはわし等の戦じゃ!」

「悪いが今のアンタにこの船にいる深雪達の命を任せられない、今のアンタは焦り過ぎている」

「なんじゃと!」

 

横からいきなり助言してくる茂茂に陸奥はすぐ様振り返って睨み付ける。

だが茂茂は冷静に彼女を見下ろしながら

 

「世界の命運を託された事、この連合艦隊をたった一人でまとめあげなきゃいけないというプレッシャーに加え、ずっと奪われていた大切なモノを取り返したいという思いが強すぎて落ち着いた判断が出来なくなっている」

「……」

「頭冷やして状況を見極めろ、カミソリ副官。坂本辰馬の右腕がこれぐらいの事で焦ってたらあの人に笑われるぞ」

「……ごちゃごちゃとわかった口叩くんじゃなか……」

 

確かに背負いすぎていたのかもしれない……

基本的に表情が変化しない陸奥が珍しく苦々しい表情を浮かべながら舌打ちすると茂茂から顔を背けて前に振り返る。

 

「総員! 後退しながら敵の懐に回れ!! 奴等の横っ腹に風穴開けちゃるんじゃ!!」

「「「はい!!!」」」

 

先程とは違う茂茂の案に乗っ取った命令を飛ばした後、陸奥はいつもの無表情に戻った。

 

「確かにここん所冷静さが欠けておったのかもしれん、長旅で憔悴していたのはアイツ等でなくわしの方じゃったという訳か、みっともない姿見せて悪かったの」

「いや俺も差し出がましい事をズケズケと言って悪かった。俺は俺で妹の事になると冷静さを失う事があるからな」

「妹の事でわれを失うか、じゃがわしは決してあのバカの事で我を失ってた訳じゃなか、そこん所はよく覚えちょれ」

「フ、了解した副艦長殿」

 

念を込めて注意深くそう言う陸奥に茂茂が思わず軽く笑ってしまっていると

 

「大変だ陸奥さん! 背後から正体不明の巨大な宇宙船がこちらに急接近で近づいてきている!! これじゃあ後退も出来ない!」

「挟み撃ちか……! こうまで来るとわし等でもつかどうか……」

 

 

後ろからも追撃が来てると聞いて驚く陸奥、これはさすがにマズイかと撤退命令も考えていたその時。

 

「ど、どういうことだこれは!」

「後方から迫りくる巨大宇宙船! 次々と我々を阻んでいた春雨の艦隊を蹴散らしていきます!!」

「6、7……ものの数十秒で10船を撃墜!!」

「なに!?」

 

陸奥は前方のモニターを見て驚いた。前にあった敵艦隊が次々と藍色の光線によって切断され破壊されていく。

そしてその敵艦を襲っている正体を彼女ははっきりと視界に捉えた。

 

「……なんじゃあの顔面にモザイクかかっちょるラピュタのロボット兵みたいなモンは」

 

体の所々に苔の付いた古い構造のからくり、3メートルほどの。モザイクのかかった顔から再び藍色の光線を放って瞬く間に敵艦を殲滅させていく。

 

「巨大宇宙船から物凄い数で放たれている模様です!」

「ロボット兵は我々には攻撃してこない様子! もしや援軍!?」

「スタジオジブリに援軍を求めた覚えはなか、油断するな」

 

どうやら自分達の代わりに敵艦を減らしてくれているようだがまだ素性も知れない者に対して迂闊に信用しては命取りになる。険しい表情で陸奥が迫り来る宇宙船とコンタクトを取ろうと模索していたその時、茂茂はただジッとモニターに移るロボット兵を見つめる。

 

「間違いない、アレは前に俺達が坂本さんと一緒に海の底で見つけた古代都市と共に眠らされていた幻の自立式半有機体兵器だ」

「坂本と見つけた? てことはアレはおまん等の世界のモンじゃというのか?」

「遥か昔に圧倒的な科学技術とそれらを設計した魔法師達によって創り上げられた古代都市、巨大な権力と力に溺れ贅の限りを尽くしてあっという間に滅びその文明は海の底に沈んでいった。そしてその技術が今目の前で蘇っているという事は……」

「陸奥さん! 巨大宇宙船の映像出ます! 現在我々の艦隊の頭上に動いている模様!!」

 

茂茂の話を聞いていた時船乗員が叫ぶ声が聞こえた。

すぐに陸奥がそのモニターを見るとそこには

 

その宇宙船は街とも城とも要塞とも呼べる見た目をしていた。

 

まるでその物体を支えて浮かしているかのように巨大な球形状の様な物が底に内蔵されており。

城壁のような壁には所々に何百年も育って来たかの様な巨大な苔が付着し、その壁の上にはかつて人が住んでいた事を証明するかのように白い家の様なものが一つの街の様に並んでいる、そしてその街を護るかのように巨大に生い茂った大木が街の上に立っていた。

そしてそれ等全てを包み込むように宇宙船等でよく使われるドーム状の半透明クリアシールドがその巨大な宇宙船の上半分を覆っていた。

 

そう、これはまさに

 

「まんまラピュタじゃろうがぁ! おまん等の世界どうなっとんのじゃあ!!」

「そちらの世界よりはまだまともだと思うが」

 

あの天空に浮かぶ伝説の古代都市が大気圏を突き抜けて宇宙に来てるのも驚きだがそんな物が存在している彼等の世界に声を荒げてツッコむ陸奥と涼しい表情で返す茂茂。

そんな事をしていると後ろからドタドタと足音を立てて廊下を突っ切ってこちらに向かってくる気配が

 

「陸奥さん上の窓眺めてたらとんでもないモン見えたんですけどぉ! 大丈夫なんですかアレ! 色々と!」

「あれ絶対ラピュタアル!! 私達の為にムスカ大佐が助けに来てくれたんだヨ!!」

 

新八と神楽が船頭室のドアから入ってきて慌てて叫んでいるとするとなだれ込むように桂と坂本もやって来て

 

「すみません写メを!! 早くあのラピュタをバックに私を撮ってください!! ロボット兵も一緒でプリーズ!!」

「ちょっとアレどういう事よ、あたしあんなのが出てくるなんて聞いてないんだけど!? 艦長のあたしに意見も通さずにあんなモン用意してるなんてふざけんじゃないわよ暴力女!!」

「黙ってろおまん等! 珍しばモン見かけただけで興奮して騒ぎ立てる修学旅行中の中学生か!!」

 

耳元でギャーギャー喚きだす桂と坂本に陸奥が怒鳴り声を上げているとシレッとした表情で銀時がスタスタと船頭室にやってきた。

 

「深雪、お前は七草会長達と一緒に騒がないのか」

「いいえ私は城は城でも「ハウルの動く城」派なのであそこまで喜びはしません、ラピュタは好きですけど」

「そうか俺も「もののけ姫」派だからあそこまで興奮できないな、ラピュタは好きだが」

「おまん等の好きな作品などどうでもええわ、ジブリ兄妹」

 

二人で勝手にジブリの話してる銀時と茂茂に桂と坂本を押さえつけながら陸奥がジト目でツッコミを入れていると

 

「ラピュタ突然の下降! こちらとみるみる距離を縮めていきます!!」

「このままだと接触して衝突する可能性が!! 回避間に合いません!」

「チッ、敵なのか味方なのか一体どっちなんじゃ……快臨丸の乗組員に告ぐ! 今すぐ衝撃に備えろ!」

 

スピーカーを通して乗組員に陸奥が急いで伝令を飛ばしていると再び乗組員の一人が騒ぎ立てる。

 

「ラピュタ! 快臨丸との接触寸前の所で停止! どうやら我々の船と接続を試みてる模様!!」

「衝突ではなくわし等の船に乗り込むつもりか……連中の目的は何じゃ、とりあえずこちらも武装準備を」

 

船同士をドッキングして互いにコンタクトを取るという真似は宇宙船を扱うもの同士としてはごくありふれた動きだ。

しかし敵か味方かもわからない輩をそう簡単に迎え入れるのはあまりにも浅はかな考えである。だがあのロボット兵によって快臨丸は春雨の集中砲火から救われたといっても過言ではない。

 

とにかくこちらも隙を見せずに連中とコンタクトを取ってみようと陸奥が動き出そうとしたその時。

 

「!」

 

快臨丸の前方からかつて見たあの雷のような光が……

 

「あの光は坂本とこの馬鹿の体を入れ替えた……! 遂に来おったか蓮蓬!」

「ぐわぁ!!」

 

蓮蓬の母性に設置された入れ替わり装置こと「異空間転心装置」から放たれた光線は瞬く間に船乗員の一人を貫く。座ったままガクっと首を垂れるが彼の体にはなんの損傷もない、しかしほんの間を置いて彼はムクリと起き上がり

 

「……母星を奪った憎き地球人に復讐を……」

「うわー! 大変だ陸奥さん! 敵が俺達の体に入り込んで船の内部に!! うわぁ!」

 

 

白目を剥いてブツブツと呟きながらこちらに手を伸ばしてくる彼にもう一人の船乗員がパニックに。しかしその彼もまた前方から船の壁を通過して飛んでくる光線を受けてしまう。

 

「一発だけでなく連射も出来るんか、このままじゃあ……! おい千葉!」

「だから千葉エリカだって……! え? 今ちゃんと呼んだ?」

 

入れ替わりの光線が次々と飛んでくる中、陸奥は隣にいた坂本の名を呼ぶ。

 

「この船の舵を任せた、連中の攻撃を上手く避けろ。船乗員がやられたら迂闊に自動操縦も出来んばい。ここに手動用の舵があるから、コイツを使え」

「はぁ!? んなの出来るわけないでしょう!」

「おまんが坂本と入れ替わってる間船の技術叩き込んでおったのもこういう時の為じゃ。わしは乗組員と入れ替わった連中を対処する、頼んだだぜよ艦長、この船の命はぬしにかかっておる」

「だぁぁぁぁぁぁ!! 命任せるとかそげな事言われたら無下に断れんじゃなか! 覚えとれよ陸奥!!」

「おい方言移っちょるぞ」

 

手動で操作する為の舵を取りつい土佐弁で叫びながら坂本が快臨丸の舵を掴んで操作し始める。

その間陸奥は船頭室にいる乗組員と入れ替わった蓮蓬達に向かって飛びかかり

 

「無断で船乗り込んではいけませんなお客さん」

 

白目を剥いた乗組員の一人に踵落しを決めながら着地。しかしいつの間にかこの場にいる乗組員は全て

 

「蓮蓬の為に……」

「我々の故郷を……」

「奪った地球人に同じ思いを……!」

「チ、全員やられおったか……」

 

すでに船頭室にいる者は自分達以外既に蓮蓬達によって支配されていることに気付き舌打ちする。

連中は一気に陸奥めがけて襲い掛かってきた、しかし

 

「助太刀しよう」

「!」

 

突如隣に茂茂がフラリと現れたと思った瞬間、前方の蓮蓬と入れ替わった乗組員の胸倉を掴み上げて一気に背負い投げる。

 

「船での戦いはアンタに任せる、だが船の中での戦いなら話は別だ」

「……将軍の体でなんちゅう真似しとるんじゃ」

「そうですお兄様」

 

幕府において最も大事な体を乱暴に扱う茂茂に陸奥が呆れていると、彼女の隣を突っ切って今度は銀時が手に持った『洞爺湖』と彫られた木刀で船乗員の一人をはっ倒す。

 

「私みたいな粗末で貧乏臭い体と違ってお兄様の体は将軍です。無闇に暴れ回ったりしないで下さい」

「そうはいかない、例えどんな体でもお前は俺の妹だ、それに襲い掛かる火の粉をかき消すのがガーディアンとして、一人の兄としての俺の役目だ」

「体だとか役目だとかどうでもいいアル!」

 

銀時と会話している茂茂の背後に迫り来る船乗員を後ろから神楽が踏みつけて床に沈める。

 

「とにかくコイツ等全員大人しくさせるネ! 間違っても殺すんじゃねーぞ!」

「そんな真似はしませんよ」

 

二人に向かって激を飛ばす神楽の背後で桂が刀で乗組員達を峰打ちで倒していく。

 

「例え入れ替わっていても体はこの船の者達、過剰な損傷は与えてはなりません。彼等もまた私達をここまで連れて来てくれた恩人なのですから」

「……」

 

生徒会長らしいキビキビとした態度で桂がそう言っているのを陸奥は無言で眺めた後すぐに前方へ振り返る。

 

「戦も商人も一人じゃ出来ん……どうやらまだわしはそげな事忘れとったみたいじゃ……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「!」

「新八!!」

 

つい感傷に耽ってしまい油断していた。艦内で響き渡る悲鳴、声の主である新八が数人の乗組員達が壁に追いやって徐々に追い詰めていくのが見えた。

神楽が慌てて駆け寄ろうとするが他の乗組員に阻まれる。

 

「ちょっとマズいんじゃないのアレ! 誰でもいいからあの眼鏡助けなさいよー!」

 

舵取り役として動くに動けない坂本が叫んでいると

 

彼の背後からコツコツと足音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「その依頼、新生万事屋が承った」

「え?」

 

後ろから聞こえたのは少女の様な声。坂本が振り向くと同時にその声の持ち主は二つの人影を連れて横をすり抜ける。

 

(くそ! こんな所でモタついてる場合じゃないのに! 僕等は! 僕等は銀さんを助けに行かなきゃならないんだ!!)

 

5人がかりで襲い掛かられながらも新八は諦めずに木刀を構えなんとか耐えていたその時。

 

「ってうおわぁ!」

 

突然目の前で大きな爆発でも起こったかのように一瞬でぶっ飛ばされていく乗組員達。

その衝撃で思わず後ろに倒れて尻もち付いてしまう新八の前に3人の少女がこちらに背を向けて立っていた。

そして真ん中の少女が右手に持っているものは

 

「洞爺湖」と掘られた木刀

 

(あの木刀は……!)

「この船の乗組員はほとんど壊滅、皆敵に体を奪われている。いっそ船ごと破壊した方がいいかも」

「いやいやそれは駄目だって雫! 坂本さんから船傷つけないようにしてくれって頼まれたでしょ!」

「大丈夫、ほのかが「うっかり自爆ボタン押してしまいました、テヘペロ♪」といって舌を出してコツンと自分の頭を叩けば許してもらえる」

「それどこ情報!? てかさり気なく私に責任押し付けようとしてるよね!?」

「ったくうるせぇんだよテメェ等、耳元でギャーギャー喚くんじゃねぇ。こちとら長旅で疲れてる上に四六時中バカ共に付き合わされてたからイライラしてんだよ」

(このいかにもけだるさ全開の喋り方は!)

 

 

 

両サイドにいる少女達に木刀を肩に掛けた少女がけだるそうに言いながらゆっくりと新八の方へ振り返る。

 

「おい新八、俺が入れ替わったときに買い損ねたジャンプ、ちゃんと買ってきてるよな?」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? もしかして銀さぁぁぁぁぁぁん!?」

 

姿変われど変わらぬ魂

 

二つの世界が強大な敵を前に今交差する。

 

 

 

 

 



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第十二訓 共闘&相性

 

敵に襲われ内部から崩壊しつつある船の中。

世界の壁と壁の狭間で。

その少女は現れた。

司波深雪

又の名を坂田銀時

 

「銀さん!? え、ちょ! 本当に銀さんなんですか!?」

「ったりめぇだろ、しっかし驚いたな、まさかテメェ等も向こうの世界からこっち来てたとは」

「ええ陸奥さん達と一緒に僕らも蓮蓬を止めるために……」

 

快臨丸の船頭室にして間一髪のところで助けられた新八はまじまじと深雪を凝視する。

助けようと思っていた相手が平然と現れ、平然と少女の体になっていたのだから

 

「てかマジで銀さんなんですか!? ウソでしょだってこんな!」

「しつけぇな、どんだけ疑り深いんだよお前」

 

未だに信じられない様子の新八に深雪はうんざりしているとすぐ様二人の下へ神楽がやってきた。

 

「マジでか! お前本当に銀ちゃんアルか!?」

「なんでどいつもこいつも疑ってくるんだよ、そんなに信用されてなかった俺?」

「嘘つけヨ銀ちゃんがこんなサラサラヘアーになってるなんて有り得ないネ! たとえ体を入れ替わってもその体の毛根を捻じ曲げて天パにするのが銀ちゃんアル!」

「お前らの俺を認識する為の判断基準って天然パーマだけなの? てか俺どんだけ天パに呪われてんだよ」

 

駆け寄ってきて早々こちらに指を突き付けて偽者呼ばわりしてくる神楽。

どうやら深雪の長くて美しい綺麗な黒髪が怪しいと思ったらしい。

 

「お前等さぁ、せっかく銀さんが戻ってきたのにその態度なに? 向こうの世界の奴等はもっと優しく俺を迎え入れてくれたよ、少しは見習えバカ共。特にお前だよ新八」

「え!?」

「さっきからなんで俺を直視しねぇんだよ、感動の再会なのに目ぐらい合わせろよ」

「い、い、いやだって……」

 

二人を説教口調でたしなめながら深雪は新八の方へ振り向く。

彼がずっと自分のことを見ようとせずに視線を泳がせている事に気付いていたのだ。

すると新八は意を決したかのように彼女の方へ初めて顔を合わせて指を突き付け

 

「銀さんなのに滅茶苦茶美人になってんじゃないすか!! こんな可愛い子を年頃の僕がそう簡単に直視できるわけないでしょ!!」

「は?」

「気付いてないんですか銀さん! はっきり言ってその見た目は世界的なトップモデルが裸足で逃げ出すレベルです! 神に愛されたのか悪魔と取引したのか! 努力で手に届く次元ではない美しさっていうんですかコレ! ヤバイ! 異世界の女の子ヤバイ! 生身の人間でなく青少年の願望が具現化した立体映像と言われた方が納得できるヤバさだよコレ!!」

「いやヤバイのはお前の頭」

 

思春期真っ盛りで異性に対して興味津々なお年頃である新八にとって深雪の美貌は暴力的な衝撃だったらしい。

顔を赤面させた状態で頭に両手を置きながら悶絶している彼をジト目でツッコミを入れた後、深雪は神楽の方へ振り返る。

 

「おい神楽、どうだ俺の体、新八が言うほど綺麗か?」

「別にそんなんでもないアル、65点ぐらいヨ。どこにでもいそうな平凡な小娘ネ」

「いや65点はねぇだろ、75点ぐらいは狙えるだろ」

「ガキの頃から高望みしても無駄アル、女は年をとってからが本当の勝負、ガキの頃に回りの猿共にキャーキャー言われて天狗になってたらおしまいヨ。大人になって社会に出たら自分がその辺の女と変わらないレベルだって気付くもんなのさ、女の魅力が成長するのはそっからネ」

「お前いくつだよ」

 

わかってる様な口ぶりで嘲笑を浮かべながらアドバイスしてきた神楽に、ちょっとイラっとしながらまた新八のほうへ振り返り

 

「じゃあもういいや、そんなんじゃまともに戦えそうにもねぇし。一回乳揉ませてやるからちょっくらトイレに篭って一人でゴフッ!」

「私の体でなにやらそうとしてんですかあなた」

 

自分の胸を強調しながら新八の方へ歩み寄ろうとする深雪の後頭部に木刀が炸裂。

振り下ろしたのはもちろん

 

「人の体で勝手なことしないで下さい、まさかこんな下品な男が私の体に入り込んでいたなんて」

「いってぇな誰だゴラァ! ってアァァァァァァァ!! 俺ェェェェェェェェ!!」

「今更気付いたんですかあなた」

 

現れたのは本当の司波深雪の魂が入り込んでいる坂田銀時。

自分と入れ替わった人物と初めて遭遇した深雪は呆れた様子でこちらを見下ろしてくる銀時の股ぐらにすかさず手を伸ばし

 

「俺の大事な体! そして何より一番大事なモンを返せぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「どぅはぁぁぁぁぁぁ!! もげる! そんな強く掴んじゃもげru!!」

「銀さぁぁぁぁぁぁん! 可憐な美少女の姿でナニ掴んでるんだぁ!!!」

 

銀時の股の間にぶら下がってるモンを力強く握り締める深雪、思わず我に返ってツッコミを入れる新八をよそに。

今度は負けじと銀時が深雪の胸に手を伸ばし

 

「あなたこそ私の大事な体を返しなさい!!」

「ギャァァァァァ!! もげる! おっぱいもげる!! 痛い痛いマジでもげるから止めて!!」

「アンタもおっさんの体でなんてモン掴んでんだァァァァァァ!!!」

 

やり返すように深雪の胸を思い切り鷲掴みにする銀時。

その痛みで悶絶しそうになりながらも深雪は銀時の股間から手を決して離そうとしない。

 

「ちょっとこれ絵面的にヤバイ事になってんですけどぉ!! おっさんと女の子がメンチ切りあいながら胸と股間掴み合ってんだけどぉ!!!」

「面白い光景、学校のみんなにいいお土産ができた」

「おい! カシャッって音がしたぞ! 誰だ今こんな痴態を写メ撮った奴は!!」

 

後ろから携帯カメラのシャッター音が聞こえたのですかさず新八が振り返ると。

そこには涼しげな表情で携帯片手に持った北山雫。

 

「って誰だお前ェェェェェェ!!」

「安心していい私はあなた達の味方であり深雪の友達の北山雫、この写真は地球に帰ったらクラスメイト全員に一斉送信するつもり」

「明らかに友達がやることじゃねぇだろうがそれ! ぜってぇ悪どい事企んでんだろ!! ていうかアンタよく見たら僕が銀さんに助けられた時にいた二人の内の一人じゃねぇか!!」

「そう、もう一人の私の友達のほのかは」

 

感情のこもってない口調で話す少女の存在に始めて気付く新八。

そして雫はふと反対側を指差して

 

「あそこでチャイナ娘に襲われている」

「オラァァァァァァ!! 蓮蓬なんてなんぼのモンじゃぁぁぁぁぁい!!」

「ぐふ! ごふ!」

「ちょっと神楽ちゃぁぁぁぁぁん!! 何やってんのぉ!!!」

 

マウントポジションを取って雫と共に助っ人としてやってきた光井ほのかを両手の拳で交互に殴りまくっている神楽に慌てて新八が駆け寄る。

 

「それ味方だから!! 銀さんが連れてきたらしい向こうの世界の人達だから!」

「え? 蓮蓬の手先じゃないアルか?」

「全然違ぇよ! なにマウントとって顔面殴りまくってんだよ!」

「いやだって、コイツも蓮蓬と入れ替わった奴等と同じように白目剥いてるネ」

「白目剥かせたのはおめぇだろうが!!」

 

白目を剥いてグッタリしているほのかの胸倉を掴み上げて見せる神楽。

新八が声高々に叫んでいる中、フラリと一人の男がやってきた。

 

「どうやら俺達の世界にいた連中も同じ考えだったようだな、しかも俺の学校の生徒まで連れてくるとはたいした人望だ」

「将軍様! じゃなかった達也さん大変です! あなたの妹がウチの所のダメ侍と乳繰り合ってます!!」

 

やってきたのは司波達也の魂を持った徳川茂茂。

彼がやってきたとわかると新八は慌てて銀時と深雪を指差す。

既に掴み合いを止めて今度は殴り合いに発展している。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「こうして見る限りどうやら深雪の体は無事みたいだな」

「無事じゃねぇよ現在進行形で深雪さん自身が自分の体傷つけてるよ!! 新手の自傷行為やってるよあいつ等!」

 

敵を放っておいて自分達だけで戦いを始める二人を眺めながら茂茂はアゴに手を当てる

 

(それにしても深雪があんなにも感情を周りに隠さずに晒すとは、どうやら異世界という環境変化に良くも悪くも深雪なりに順応していたという訳か……ふ、成長したな深雪)

「冷静に頭の中で分析してないではよ止めにいけやバカ兄貴!!」

 

見た目は天下の将軍であるにも関わらず容赦のないツッコミを新八が入れていると。

未だ蓮蓬と成り果てた仲間達と戦っていた陸奥が彼等に向かって叫ぶ。

 

「おまん等、感動の再会は後にするぜよ! 今はとにかくこいつ等を……!」

「蓮蓬に光を……!」

「!」

 

不意をつかれて背後から乗組員に襲われる陸奥。しかし

 

彼女に襲い掛かる寸での所で乗組員は全身に電流が走ったかのように痺れさせてバタリと倒れた。

 

「心配せんでもよか、軽く痺れさせて動けなくなる程度の電流弾じゃ、それでもやっぱ仲間相手に撃つのはキツイのぉ、陸奥」

「!」

 

船頭室で舵握ってる坂本の隣に現れたのは深雪たちと同じ制服を着た赤髪の少女、千葉エリカ。

得意げに手に持った電子銃をクルクル回しながらグラサン越しに陸奥に笑いかける。

 

「わしが留守の間も立派にこの船護っておったようじゃの、さすがはウチのカミソリ副官殿じゃきん」

「もしやおまんは!」

「そう、わしこそがこの快援隊の艦長!!」

 

彼女の正体に気付いた陸奥が言いかけるのを遮って堂々と彼女が名乗ろうとしたその時。

 

「坂本辰……!」

「返せ私の体ァァァァァァァ!!!」

「まぁぁぁぁぁぁ!!」

 

カッコ良く名乗ろうとした所ですかさず隣に立っていた坂本が彼女に蹴りを入れた。

腰をおさえながらエリカはすぐに立ち上がる。

 

「なにするんじゃ人がせっかくビシッと決めようとしていた所で……あれ? おまんよく見るとわしによう似てるのぉ」

「今更気付いてんじゃないわよ! アンタと入れ替わって高校デビュー逃した千葉エリカよ!!」

「おおそうか! わしはおまんの代わりに充実した高校ライフを楽しんだ坂本辰馬じゃ! アハハハハハ!!」

「この野郎人の顔でヘラヘラ笑いながらあたしの大事な青春を奪い去りやがった事になんの罪悪感もないっていうの!!」

 

笑いながら自己紹介するエリカの胸倉を早速掴み上げる坂本。

 

「こちとらどんだけ辛くて苦しい艦長ライフ送ってたと思ってんのよ!!」

「おいおい揺らすなぁ! 船の中でそげな揺らされるとわし……」

 

頭をグラングランさせながら坂本に止めてくれとお願いしてる途中でエリカは突如顔を青くさせて苦しそうな表情で

 

「オボロゲシャァァァァァァァ!!!」

「ギャァァァァァァァ!! あたしの体でなんてモン吐いてんのよぉぉぉぉぉ!! ってヤバ! この酸っぱい匂い嗅いだらあたしまで……」

 

突如頭を垂れて床一面に吐瀉物を吐き散らすエリカに坂本が飛び退くがその匂いを嗅いで彼も思わず。

 

「オロロロロロロロ!!!」

「ドボロロロロロロ!!!」

「二人揃ってなに汚いモンを船に撒き散らしてんじゃゲロまみれ艦長コンビ」

 

舵を操作する大事な所で胃の中のモン全てを吐き出しているエリカと坂本に陸奥が呆れたように呟いている間に、彼女の横でドゴォ!と何かを殴りつけたような音が

 

「うし、これで大分減ったな」

「誰だか知らんがわし等の仲間を必要以上に傷付けるな、もし事が済んでもそやつ等が眠ったままではわし等は元の世界に帰れんばい」

「手加減の仕方ぐらい十分承知だ、何より坂本さんの仲間相手だからな」

 

いつの間にか隣に現れた男に対して陸奥は全く動じずに注意する。ここまで来たら驚く事さえめんどくさいのであろう。

いきなり彼女の前に出てきたのはエリカが連れてきた西城レオンハルト

 

「俺は西城レオンハルト、レオでいい」

「ここば船の副艦長やっとる陸奥じゃき、よろしくなヒデキ」

「……なんであんた等そんな頑なに俺の名前間違えるの? いつも思うんだけどどうしてヒデキ?」

 

エリカはともかく彼女まで同じ間違いをしてくるのでレオは自分自身の名前に疑問を持ち始めながらも周囲の対処を怠らない。

 

「こっちはもうそろそろおしまいだ、後は俺に任せて坂本さんと会って来たらどうだ副艦長さんよ」

「必要ない、奴がまだ変わらずバカなまんまだというのを知れて十分じゃ、情報交換はコレが終わった後でも構わん」

「いや情報交換とかじゃなくて色々と……」

「おまんがなにを勘違いしてるのか知らんが」

 

飛び掛ってきた乗組員を陸奥は無表情で蹴り上げて天井に叩き付ける。

 

「仲間がこげな真似されてる状況の中で、わし等ほったらかしにして異世界で遊び呆けてたあのバカ艦長の相手するなんてうんざりじゃ。船を奪い返したらあのバカの股間を完膚なきまでに潰してやるぜよ」

「男と女ってホントわかんねぇな、ていうか潰れるも何も今の坂本さん付いてねぇんだけど……それと仲間に容赦なさ過ぎだろアンタ!」

「心配ない、この程度の事で死ぬほどわし等の仲間は弱くなか」

 

レオと共に乗組員を次々と倒していきながら陸奥は暴れ回る。もう彼女には迷いも焦りもなかった。

 

そして次々と敵が減っていく中でドアから遅れて一人の少女が現れる。

 

「とう!」

 

生徒会長七草真由美は華麗にジャンプして着地すると最後に残った乗組員を目掛けて突っ込む。

 

「ほぉ……」

 

そしてそれと全く同じタイミングで動いたのは桂小太郎。彼女と乗組員を間にして交差すると、乗組員が糸が切れた人形のようにバタリと倒れた。

桂と真由美は背を向けたまま静かに語りかける。

 

「ベクトルの方向を逆転させるダブルバウンドを使い相手の力を殺しかつ無力化するとは。そして何よりその美しいフワッフワヘアー余程の人物とお見受けします」

「そちらこそ交差する直前の一瞬で居合いの構えから峰打ちとは恐れ入った、そして何よりその見事なサラッサラヘアー、余程の強者と見た」

「さては」

「さては」

 

同時に呟くと二人はバッと一緒に互いの顔へ振り返る。

 

「文武両道才色兼備、誰もが憧れる超絶可愛い生徒会長七草真由美だなぁ!!」

「日の本の明日を担う我らが救世主、誰もが憧れる攘夷志士桂小太郎だなぁ!!」

 

同じように指を指し合いながら叫ぶと二人は両手を広げて

 

「な~んちゃって会いたかったわ真由美ボディ!!」

「フハハハハハ! ようやく出会えたな桂ボディ!!」

 

互いの体を強く抱きしめ合いながら己の体を確認しあう二人。そして

 

「敵に襲われてる時になに抱き合って互いの体との再会を喜び合ってんだダブルバカ!!」

 

二人の頭上に思い切り両手で手刀を振り下ろす渡辺摩利。

 

「自分の置かれてる状況理解しろ! 全く久しぶりに会えたと思ったら何やってんだ真由美!!」

「あら摩利じゃない、久しぶり、元気してた?」

「1ヶ月以上会えなかった親友を前にリアクション薄過ぎるだろ!」

「ところであなた攘夷志士にならない? 今なら簡単な手続きでサクッと資格が取れるキャンペーン実施中なんだけど、大丈夫最初はみんな警戒するけど入ってみればきっと攘夷志士の素晴らしさを理解できるから、明日にでも幕府を撃ち滅ぼしたいという衝動に駆られる筈だわ」

「おまけに変な宗教勧誘みたいなこと言い出したぞコイツ!」

 

久しぶりに出会えたというのにどっかで聞いた事のあるような悪質な勧誘をやってくる桂に摩利が軽く引いてる中、真由美は桂の姿にうんうんと感心するように頷く。

 

「長く別れていた友との再会の祝いをする前に言葉巧みに攘夷志士とさせる為の誘いを行うとは、さすが真由美殿桂ボディを見事に使いこなしている。もう俺が何も言わずとも君はもう立派な攘夷志士の一員だ」

「なにが立派な攘夷志士だ! 勝手に真由美をお前等の仲間にするな!!」

「ちなみに真由美殿程ではないが俺も俺なりに生徒会長として自分なりに仕事をしてきたつもりだ。例えば先週の校内新聞の為に取材された時俺は「魔法師がいるのになぜ攘夷志士はいないのか」という内容で1時間ほど語り尽くしたからな」

「なんかおかしな事が一面書かれてると校内で噂になってたがあれお前が原因か!」

「常に生徒会長としてみんなの注目を浴び一目置かれる存在として一科生も二科生も関係なく人を攘夷の世界へ導いていく、あなたも立派に真由美ボディを使いこなしていたようね桂さん。あなたはもう私が何も言わなくても立派な生徒会長よ」

「いや生徒会長関係ないから!!」

 

的外れな意見を言い合いながら初対面であるにも関わらず意気投合している桂と真由美を摩利がツッコミを入れてる中、新八はぼんやりとした視線を彼女達に向けていた。

 

「見てごらん神楽ちゃん、向こうの入れ替わり組は気持ち悪い程仲良くやっていけてるみたいだよ」

「世間知らずのバカお嬢様と電波バカが入れ替わった時点で奇跡だったアルな、バカ同士仲良くやっていけてるみたいネ」

「坂本さん達はどうなのかな」

「バカとバカがゲロ吐いてるアル、まずは互いの腹の底を曝け出してから仲良くなっていくスタイルから始めたみたいヨ」

「いや言葉の意味と少し違くね? それじゃあ……」

 

神楽の評価を聞きながら新八はそっと後ろに振り返る。

 

「ウチの入れ替わり組はどうなのかな、さっきからずっと喧嘩してんだけど」

「てめぇの体のせいでこちとら飲み屋もいけねぇしパチンコも行けなかったんだぞゴラァ!」

「あなたの体のせいでこっちも変なオカマの人に店連れてかれそうになったりスナックのママさんに家賃よこせって胸倉掴まれて怖い思いしたんですからね!!」

「おいまさか払ってねぇだろうな! 払ってたらマジぶっ殺すよ! マヒャド撃つよ!」

「元より払う金が無かったんですよ誰かがロクに稼いでなかったから!!」

「……」

 

掴み合いも殴り合いも止めて今度はメンチ切りながら罵り合いをおっ始めていた銀時と深雪を無言で眺めた後神楽はボソッと

 

「ほっとけばいいアル」

「そうだね……あの二人に地球を任せるのは絶対にしない事にしようか」

「そうでもないと思うが」

「え?」

 

もうコイツ等はどうでもいいかと二人がすっかり諦めムードに入っている中、茂茂はまだ銀時と深雪の口論を眺めていた。

 

「あの銀さんという男はあんなにも喧嘩早い人なのか」

「ええそうですよ、99%自分が悪くても残りの1%を使いきって無理矢理押し通そうとする人なんですから」

「なるほど、実はさっきから深雪の身体の中に入った男がどんな人間なのか観察しているんだが、恐ろしいぐらいに良い所が一つも見当たらないんだ」

「はっきりと言わないでくれません!? こっちまで悲しくなるんで!」

「深雪ともこれ以上ない程相性最悪だ」

「ええ、滅茶苦茶相性最悪ですよ」

 

分析しながら頷いてみせる茂茂に、新八は銀時と深雪をジト目で見つめながら肯定していると。

 

「おや、そこにいるのは将軍……という事はもしや貴殿が達也殿か? それに新八君もリーダーも」

「ああ桂さんお久しぶりで……ってこっちまでよく見りゃ滅茶苦茶綺麗なんですけど……うぐ!」

「まだ言ってるアルか新八、見た目が良くても中身はあのヅラだぞ、いい加減目ぇ覚ませヨ」

「初めまして、司波達也です。あなたが江戸で世間を騒がせている凶悪な攘夷志士、桂小太郎ですね」

「フフフ、将軍の身となっていたらそんな風に聞いているのも当たり前か」

 

今初めて気づいたのかこちらに向かって歩いて来た真由美。

彼女が現れて新八がまたドギマギしていると神楽が脇腹に肘で手痛い一発を入れる。

彼女の正体を既に知っていた茂茂が挨拶すると真由美もまた不敵に笑って見せる。

 

「だが状況が状況だ、ここは一度将軍と手を取ってみるのも悪くないなと思ってな。世界そのものが崩壊しようとしているのだ、倒幕だの国家転覆など言ってる場合ではないからな」

「そうだな、お互いに全力を尽くそう」

 

そう言って茂茂自ら手を差し伸べると真由美は少し小難しそうな表情を浮かべ

 

「そういえば貴殿にしか頼めない事があってだな、今すぐ手に入れなければいけないものがあるのだ、それをなんとか渡してもらえないだろうか」

「俺にしか頼めない事……それは一体どんな物で」

「それは……」

 

何かに勘付いたかのような様子でわざととぼけた様子で尋ねて来る茂茂に真由美はフッと笑った後

 

「将軍の首だァァァァァァァ!!!」

「天誅ゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

それが合図だったかのように茂茂目掛けて襲い掛かる真由美と彼女の近くにいた桂が刀を引き抜き襲い掛かって来た。

 

「ごめんなさい達也くん! やっぱり将軍見てると体が動いちゃうの、てへ♪」

「世界が壊れようが我等攘夷志士悲願の将軍討伐を怠る俺ではないわぁ! 食らえ魔弾の……!」

 

舌を出しながらコツンと自分の頭を叩く桂と共に真由美は叫びながら右手を茂茂目指してかざそうとする。

 

だがそこへ

 

「将軍の身体に」

「お兄様に」

「「え?」」

 

飛び掛かろうとする直前で真由美と桂は足が掴まれた感触。掴んだ人物は

 

先程喧嘩していた筈の深雪が桂を、銀時が真由美の足を掴んでいた

 

「「なにしとんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

「「だふるッ!!」」

 

同時に叫びながら二人をそのまま床に叩き落とす深雪と銀時。

 

「ふむ、案外ああいう正反対な性格の方が戦いにおいていい動きする事があるものなんだな」

「アンタ命狙われたのになんで冷静でいられるの!?」

「気付いてたからな、魂胆が見え見えだった、二人が桂さんと七草会長を止めなくても俺一人でなんとかしたさ」

「アンタ何者なんですか……」

 

やはり真由美の企み事などお見通しだったらしい。余裕の表情を浮かべる茂茂に新八が驚いて言葉も出ないでいる中、深雪と銀時は桂と真由美の足を掴んだまま目を合わせた後。

 

「ふん!」

「ペッ!」

 

銀時はプイっと顔を背け、深雪に至っては床に向かって唾を吐きながら顔を逸らす。

 

かくして入れ替わり組は各々様々な反応をしながらゆっくりと目的地へと向かうのであった。

 

 



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第十三訓 秘部&恥部

世界の狭間にて春雨と蓮蓬の攻撃により乗組員のほとんどを敵に奪われてしまい大きな被害に遭った快臨丸。

しかしそこに現れたのが別の世界からやってきた巨大宇宙船、というより天空の城であった。

突如やってきた助っ人達によって無事に快臨丸を奪取することに成功するのであった。

 

「まさかあなたまでこんな所に来ていたとは」

「久しぶり達也君、将軍様の体になっても相変わらずみたいね」

 

彼等が今いるのは快臨丸でなく接続している天空の城の内部、かつて使われていたと思われる武器庫のような場所であった。その部分だけでも船自体の大きさが大きさなのでやはりスペースは快臨丸の待機室とは比較できないほど広大であった。

そこで徳川茂茂が早速出会ったのは、本物の将軍の護衛役兼この船の管理責任を請け負っている藤林響子であった。茂茂の中にいる司波達也にとっては少なからず縁のある人物であった。

 

「そちらの船の中は片付いた? ウチの方から何人か出向いたと思うけど」

「おかげで早く片付きました、蓮蓬と入れ替わった乗組員は全員拘束して無力化させています」

「そう、けどあまり無茶なことはしないでね、なにせ達也君の体は今将軍様なんだから」

「十分承知していますよ、この体じゃ魔法も使えない。幸い筋力の方は将軍でありながら中々に鍛えられているので動きに支障はないです」

 

冷静に自分の体について説明する茂茂、魔法が一切使えないというのはネックだが体の操作に関してはなんら問題ないらしい。

 

「ところでそちらの世界、俺達の世界での話を教えてくれませんか」

「そうね、こんな状況だから手短に話すけどいいかしら」

「構いません」

「それじゃあまず」

 

自分達がいない世界が今どうなっているのか今の内に聞いておこうと思っていた茂茂。

現在進行形で敵の魔の手が迫ってる状況でもあるので響子は簡単に教えてあげた。

 

「軍に将軍様の意に反する者には切腹という教えが生まれたわ」

「……すみません何言ってるのかわかりません」

「つまり私達にとって将軍様とは神にも等しい存在なのよ」

「ますます言ってる事がわかりません」

 

真面目な表情でとんでもないことを言ってのける響子にさすがに茂茂に理解出来なかった。

 

「よくわからないんで俺から質問いいですか」

「なに、将軍様の事なら何でも聞いて頂戴」

「いや将軍の事ではなく、もうしばらく将軍から数百キロ程離れて下さい」

 

茂茂はふとチラリと横目をやる。

 

「……あそこで立っている人物は俺達の味方ですか?」

「ああ、あの人ね」

 

部屋の奥に立っているのは頭からすっぽりマントを纏った人物。

顔はローブを被っている為見えないが小柄で細身。

茂茂と響子が来る前に薄暗い武器庫の中にずっと潜む様にいたのだ。

 

「大丈夫よ、いざという時は動いてくれるって言ってたから。向こうの世界の人で達也君達と同じ入れ替わり組よ」

「どうして皆と合流せずにこんな所に」

「それが会うのが気恥ずかしいんだって」

「そんな理由で、腕の方はどうなんですか?」

 

口元に手を当てて面白そうに笑う響子に理由を聞いて少々不安そうな態度を見せながら尋ねる茂茂の所に

 

「!」

 

ダッ!とマントを羽織ったその人物が動いたと思ったら杏子の背後に一瞬で現れ

 

目にも止まらぬ速さで右手に持った刀を響子の首筋近くに後ろからピタリと置いた。

 

「……」

「……ちょっと将軍様の身体に手を出せないからって私で試さないでくれない?」

「なるほど、腕は確かな様だ。動きに対して全く反応出来なかった」

 

どうやら茂茂に自分の実力を見せる為にその者が立ち回ってくれたらしい。

将軍の身体であったとはいえその動きを追う事が出来なかった茂茂は背後にいる小柄な人物にしかめっ面を浮かべている響子をよそにその人物をジッと眺めていた。

顔はローブで覆われて見えない長く赤い髪と……

 

(仮面……?)

 

金色に輝く二つの目と顔の上半分を覆った仮面。

分厚い服の上からでも分かる均整の取れた肢体。

マントの下に見えた制服は黒紫色

 

(あの制服は……)

 

 

 

 

 

 

 

茂茂が響子から話を聞いている頃。新八と神楽は別の部屋であたりを見渡していた。

 

「いやいやウソでしょ……これまんまアレだよ、まんま天空の城だよ……」

「間違いないネ! ここ軍の連中がムスカ大佐に落とされた所アル! すげぇ私達遂にラピュタデビューだぜキャッホーイ!!」

「神楽ちゃん落ち着いて、つうかラピュタを宇宙船に改造するとか罰当たりもいいところだよ」

 

どっかで見たような光景の数々に神楽がはしゃいでいる中、新八が一人申し訳なさそうにしていると後ろから一人の少女、司波深雪が近づいてくる。

 

「おい、こんな事で騒いだりビビってんじゃねぇよコノヤロー」

「あ、銀さん」

「そういうリアクションはもう向こうの世界で俺達が十分にやってるから今更いいんだよそういうの」

「てことは銀さん達も騒いだりビビッたりしてたって事ですね……」

 

けだるそうにしながらやってきた深雪に新八はボソッと呟くと改めて彼女を見て

 

「にしてもやっぱその見た目だと違和感バリバリですよ、目が若干死んでたりけだるそうにしている所が銀さんっぽいですけど」

「こっちだって違和感バリバリだよ、こちとら上から下まで何もかもが変わってんだからな。おまけに未成年だから深夜に飲み屋行ったら追い出されるし」

「当たり前ですよ、それに女の子の体で夜中出掛けるとか危ないじゃないですか、何考えてんですかアンタ」

「道場再興の為とか言って夜中男共に無理やり酒たらふく飲ませて金ふんだくる女よりは危なくねぇよ」

「そういう危ないじゃねぇよ! てかそれ姉上の事言ってるだろ!」

 

悪びれもせずに平然と答える深雪に新八がツッコミを入れていると神楽も寄ってきた。

 

「おい銀ちゃん向こうの世界どうだったアルか? ラピュタがあるなんてきっとすごい所だったんだロ?」

「ああ? 別にたいしたことねぇよ、強いて言うなら定春にいつも食わせてたドッグフードが俺達の世界より若干安かった事ぐらいだな」

「マジでか、これはもう私達万事屋も異世界に移住するしかないアルな」

「そうだな、ババァの家賃の催促もうんざりしてた頃だし、夜逃げしてあっちで店構えるのもアリだな、定春のエサ代も安くなるし」

「ペットのエサの為に異世界飛び越えるなんて聞いた事ねぇよ! 行くんならあんた等だけで行ってください!!」

 

安直な考えで異世界に永住しようか考え始める深雪と神楽。しかしすぐに深雪は小指を鼻に突っ込みながらヘラヘラと

 

「冗談に決まってんだろ、結野アナのいねぇ世界なんざに誰が住むかよ」

「ちょっとぉ! なに深雪さんの姿で鼻に指突っ込んでだアンタァ!!」

「誰の姿だろうが俺の勝手だ、俺は俺の自由にやらせてもらうぜ。あれなんかデジャヴ?」

 

鼻に指を突っ込んだまま深雪は前にこんなやり取りあったようなとか考えていると

 

「私の姿でそんな醜態をみんなの前で晒さないでくださいこの恥知らず」

「ギャァァァァァァ!!! これもデジャブゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

背後から近づいてきた本来彼女の体の持ち主が宿っている坂田銀時が容赦なく日本刀でブスリと彼女の後頭部を突き刺す。

前にもこんな仕打ち受けたようなと思いながら深雪は流血する頭部を押さえながら後ろに振り返った。

 

「テンメェ自分の体になにしてんだゴラァ!! ていうかどこで見つけたそんな刀!」

「七草会長から拝借したまでです、ほのかと雫に聞きましたけどあなた人の体で随分と楽しくやっておられたようですね」

「ああ?ガキの体に俺が欲情する訳ねぇだろうが」

「そういう意味で言ったんじゃありません、もしそうであったならこの程度じゃ済みませんから」

 

こちらを凄い威圧で睨み付けて来る銀時に深雪がしかめっ面を浮かべていると、先ほど銀時と話し込んでいたらしい光井ほのかと北山雫がやってきた。

 

「なんか深雪の後頭部に日本刀がぶっ刺さる音がしたけど何かあったの?」

「何で音だけでそこまで状況読み取れるの……?」

「別にユッキーと銀ちゃんが喧嘩してるだけアル、大したことじゃないネ」

「そしてこの人はさっき私を散々殴ってきたのにどうして平然と話しかけてこれるの……?」

 

相変わらず不思議な感性を持つ雫と何食わぬ顔で状況を説明してくる神楽にほのかが顔を引きつらせている中、深雪は顔をしかめたまま銀時のほうへ顔を上げる。

 

「つうかお前こそ銀さんの体になにかよからぬことしてねぇだろうな、風呂ちゃんと入ってたよな」

「目隠ししながらちゃんと入りました、あなたこそどうなんですか」

「当たり前だろ目隠しせずに堂々と入ってたよ。テメェの裸なんざもう見飽きたわ」

 

両手を腰に当てながらハッキリと宣言した深雪に銀時はスッと持っていた日本刀を掲げる。

 

「殺します」

「いやちょっと待てェェェェェェ!! 刀振り上げんな! アレだアレ! シャンプーの量減ってたからちゃんと買い込んでおいたから! それでチャラでいいだろ!!」

「バラバラに刻みます」

「いやいやテメェだってどうせ銀さんのあられのない姿を拝んでんだろうが! お互い裸見せ合ってんだからこれで完璧プラマイゼロだろ! むしろシャンプー買ってやった俺の方がマイナスだからね!」

「ふん!」

「ギャァァァァァ!! 自分殺し!!」

 

慌てて弁明してなんとか刀をおさめてもらおうとする深雪だが残念ながら銀時の持った刀は勢いよく彼女に振り下ろされる。

それを間一髪で避けながら必死の形相で逃げる深雪。

 

「あの状況におかれて置きながら凄まじい勢いで言い訳出来るなんて……」

「なかなか出来ることじゃないよ」

「何言ってんすかアンタ……」

 

呟くほのかの隣でうんうんと頷いている雫に新八がジト目でツッコミを入れている中、ギャーギャー喚いていた深雪は銀時に壁に追いやられていた。

 

「おい待て! ここで俺殺したらお前帰る体無くなっちゃうよ! 一生銀さんとして生きていく事になるよ!!」

「問題ありません、性転換した後整形を繰り返してオリジナルの体と瓜二つの容姿にします」

「無理に決まってんだろそんな事! ルパンの変装じゃあるめぇし!」

「ということでさよなら私の元体」

「いやぁぁぁぁぁぁ!! 助けてお兄様あなたの妹がご乱心です!」

 

ジリジリと歩み寄りながら刀を構える銀時に深雪が咄嗟に兄に助けを求めていると

 

「二人とも冷静になるのだ、仲間同士で争う事ほど無意味なことはない」

「「!」」

 

いつの間にか銀時と深雪の間に入って止めに入ってきた人物に二人は目を見開く。

その人物は

 

「そのような行い、この現征夷大将軍、徳川茂茂が黙って見過ごすわけにはいかん」

 

天下の将軍様、徳川茂茂こと司波達也、体が変わっていてもなおその体からは後光が差して見える。

 

「お兄様……! ではなく将軍様! アレ?」

「将軍様ァァァァァァ!! 助けてくれてありがとうございますホント! アレ?」

 

現れた達也に銀時と深雪が様々な反応する中二人はある事に気づいてピタッと止まる。

なぜなら今の達也の状態は

 

「ってなんで服着てないんだよ将軍!!! なんでパンツも穿かずに生まれたままの姿になられておいでなのですか!!」

「イヤァァァァァァァァ!! お兄様の恥部が大衆の面前で堂々とお見せにならないで下さい!」

 

そこには裸一貫で堂々たる立ち姿で股間にモザイクをかけた達也がそこにいた。

悲鳴を上げる二人に対して達也は無表情のまま

 

「うむ、すまない。実は先ほどつい着ている物全てを洗濯機に入れて湯に浸かっていてな、皆が帰ってきたのに将である余が迎えねばという思いと裸のまま会いにいくのはどうかと悩んでいたのだが。思い切ってここは前者を選んでみた」

「なんでそこで前者選んだ! 他人の体をこんな面前で晒す事が将軍どころか人としてどうなの!? それが許されるなら将軍皆全裸だよ! つうか俺達がやり合ってる時になんで呑気に風呂入ってんの!?」

 

全裸になっても将軍としての責務を果たそうとしていた達也に深雪がツッコミを入れていると新八も慌てて駆け寄る。

 

「ちょっと何やってんですか! 女の子達がいる所でなんて格好でいるんですか! てかアンタ誰!」

「新八、これ将軍」

「えぇぇぇぇぇ!! 申し訳ありません将軍! 我々には遠慮なくどうぞ恥部を曝け出していて下さい!!」

「いやそれもダメだろ」

 

駆け寄って来てそうそう相手が天下の将軍だと聞いてビビッて滑りながら土下座する新八。

 

 

「おいどうすんだよ新八、将軍また全裸になっちゃったよ。何で毎度毎度全裸になるんだよ、別にこちとら期待してねぇんだよ。どんだけこっちは将軍の股の足軽拝んでると思ってんだよ、もう見飽きてるよこっちは」

「あ、待ってください銀さん! 将軍のアレ足軽じゃありませんよ!」

 

深雪が小声で非難しているなか、新八は立ち上がりながら達也のある場所を指差す。

 

「足軽どころか名のある武将クラス並にご立派になられてます! 島左近です! 島左近がぶら下がっています!!」

「オイィィィィィ!! やべぇよお兄様島左近だったよ! 将軍様の足軽なんて軽く消し飛ばせる猛将隠し持ってたよ! あれじゃあ比べられて将軍様も立つ瀬が、アレ?」

 

前より大き目のモザイク使ってる部分を指差して叫んでいた新八と深雪だが、二人はある事に気づいた。

表情に変化はないが心なしか達也が自信ありげに立っている様な気が……

 

「銀さん、将軍様ちょっと嬉しそうですよ、足軽から島左近になった事を僕等にツッコまれて待ってましたと言わんばかりに両手に腰を当てて堂々と見せ付けてきました」

「いやちょっと将軍それアンタのじゃないですから、お兄様のモンですから。どんだけ自慢げに見せびらかしてもアンタのチンコは足軽だという事に変わりないですから」

 

フンッ!と鼻から息を出しながら少々自慢げな様子の達也に深雪がジト目でツッコミながらチラリと隣にいた銀時に話しかける。

 

「おい妹、お前からも言ってやれよ、自分の兄貴の全裸公開されてんだぞ。島左近丸見えだぞ」

「お兄様の姿であのような痴態を行うとは」

 

銀時は腕を組みながら裸の達也を見つめる。

 

「いかに将軍であろうとあのような真似は許しません、罰としてお兄様の体でいる間ずっとあのままにしておきましょう」

 

ドクドクと鼻血を出しながら

 

「いやその鼻血はどういうことだコラァ!! 何兄貴の全裸見て興奮してん変態妹!!」

 

ポタポタと床に鼻血を落とす銀時に深雪がキレながら彼の裾を掴む

 

 

「それだとまるで銀さんがお兄様の体に興奮してるような絵面になるだろうが! 今すぐその鼻から出てるもん止めろ!!」

「止められません! この想いだけは永遠に!」

「知らねぇよそんな事! 想いじゃなくてさっさと鼻血止めろつってんだよ!」

 

決死な表情でそういい切る銀時の腰に深雪がローキックをかましていると、ほのかがタタタッと駆けよって来る。

 

「銀さん!」

「おお丁度良かった、コイツちょっとどうにかしてくれ」

 

やってきたほのかに彼の介抱を求めるがほのかは突如深雪の目を手で隠し

 

「刺激が強すぎると思うからお兄さんの裸見ちゃダメ」

「いや俺じゃなくてそっちぃ!!」

(銀さん……深雪をよそにやって自分だけお兄さんの裸を独占しようとするなんて……)

「おい今物凄いとち狂った事頭の中で考えてんだろ!! ぜってぇまだ勘違いしてるよコイツ!!」

 

地球から飛びだってからずっと誤解したままでいるほのかであった。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、深雪達のいる宇宙船と下で繋がっている快臨丸では。

無人になった船頭室で陸奥と千葉エリカがモニターを眺めていた。

 

「あれから蓮蓬軍からの攻撃は無し、どういう事じゃ一体?」

「膨大な力を使うには膨大なモンを代償にしなければならん、この世の生業は等価交換。わし等を入れ替えた装置もよほど動かすのに手間のかかるっちゅうもんじゃった話じゃけ」

 

敵艦の姿も見えず蓮蓬からの攻撃も無い。どうやら異空間転心装置は長時間による連射はそれ相応の時間を費やしてチャージしなければならない様だ。

 

「しっかしまさかおまん等もこっち来ておったとはのぉ陸奥、そんなにわしに会いたかったんか? アハハハハハ!!」

「艦長としての責任をほっぽり出してるバカをさっさと連れ戻そうと思っただけじゃ、おまんがいなくても快援隊はわし一人でどうとでもなるが、長くいなくなられるとさすがに仲間の士気に影響が出るきん。全くこういうトラブルは一回限りに……」

 

ヘラヘラ笑っているエリカに陸奥は淡々とした口調で注意をしていると彼女の後頭部にポンと丸まった紙くずが当たった。

 

「……なんじゃ」

「何やってんのよそこはツンじゃなくてデレでしょうが!!」

 

不機嫌そうに陸奥が振り向くとそこには物陰に隠れてこっちを見ていた坂本辰馬が

 

「もうちょっと自分に素直になりなさいよ! ほら抱きしめろ! 私の体だからって遠慮しないで抱きしめろ! そんな勇気もないなら今まであたしに散々な無礼な振る舞いをしていたことを謝れこのヘタレが!!」

「やれやれ残党がここにまだ残っておったか、どれ大人しくさせて拘束させるか」

「え!? いやちょっとあたし蓮蓬じゃないんですけど! ちょ、ま! ギャァァァァァァァ!!!」

 

顔を覗かせながらわけのわからない事を叫んでいる坂本の所へ陸奥は何食わぬ表情でこぶしを鳴らしながら近づいていく。しばらくしてその場から断末魔の叫びが

 

「……うるせぇな、敵陣の中にいるって事に自覚ねぇのかアイツ等」

「その敵に襲われてる最中に宇宙船で優雅にキセル咥えてた人は誰だったかな……」

 

窓辺に立って宇宙を眺めていた中条あずさに共に行動をしている桐原がボソッと呟くと彼女はフンと鼻を鳴らして

 

「俺はアイツ等と組んだ覚えはねぇ、身内同士の争いになんで俺が参加しなきゃならねぇんだ。それにテメェも行かなかっただろうが」

「アンタに認めてもらいたいんだからアンタに見てもらわなきゃ困るんだ」

「ハナっから誰もテメェなんざ見てねぇよ」

 

宇宙の中でスクラップと化している春雨の船達を眺めた後あずさはニヤリと笑いながら彼の方へ振り返る。

 

「誰かに見てもらいてぇならテメーの力で示して見せつけてみろってこった。もっともテメェのお遊び剣道なんざ見る気起きやしねぇが」

「なに! また俺の剣を愚弄するのかアンタは!」

「待て待て、こげな時に仲間同士でなに喧嘩しようとしてんじゃ」

 

あずさの挑発気味な誘いに逆上する突っかかりそうになる桐原の肩に手を置いて止めるエリカ。

 

「その鬱憤はこれから向かう星の連中相手に晴らせばええじゃろ」

「すまない……どうもこの男を相手にすると……」

「アハハハハ! 高杉は人見知りじゃけぇゆっくり仲良くなればよか!」

 

そう言うとエリカは桐原の肩から手を放して真正面のモニターを見据えた。

 

「さて」

 

 

 

 

 

 

「今度こそ奴さんの心開けるといいんじゃがの」

 

目的地はすぐそこまで来ている。

 

いよいよ蓮蓬との対決の時間が迫って来ていた。

 

二つの世界の命運は彼等に任せられる。

 

 

 

 



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第十四訓 戦狂&叫喚

「真正面から敵の星に突っ込む?」

「そうじゃ」

 

天空の城、ラピュタ宇宙船にて

 

目的地到着まで残り数分といった所で陸奥が放った最初の作戦に首を傾げたのは茂茂であった。

 

「あまりに無謀すぎやしないか」

「普通に突っ込めばの、じゃからまずはこの船を囮に使って敵を引き寄せる。そしてその隙にコイツと分離した快臨丸を先導に他の船もろとも乗り込むという算段じゃ」

「なるほど、この船なら確かに時間稼ぎにはもってこいだな」

 

数も少ない兵力で数十倍の駒を持つ敵を相手と戦うには相手の意表を突く戦法がセオリー。

今回は正面突破でありながらラピュタを用いて敵をかく乱させる作戦を選んだのだ

 

「前に連中と戦った時は「地球を売る」という名目で奴等の星に忍び込んだ。だが今ではもうそれは無理の話、こうなったら直接殴りこんで勢いのままに連中ば叩き潰す、前衛を駆逐させた後は複数の小隊で内部に潜り込み入れ替わり装置、星の核であるSAGIの二つを破壊すればええ」

「その二つを破壊するだけじゃまだ敵は諦めないと思うんだが」

「ウチのバカ艦長はもう一度連中と交渉したいと言っておった」

 

彼の疑問に陸奥は眉間にしわを寄せながらもはっきりと答える。

 

「一度は成功したものの結局はその場しのぎにしかならんかった、じゃからもう一度ば連中と腹の底さらけ出し合って心開かせたいんじゃとな。つまりこの戦争を終わらすには奴が連中を説き伏せれるかどうかで変わるといっても過言ではなか」

「出来る保障もないのに、随分とあんた達は博打が好きみたいだな」

「ここまでいったら信じるしかないじゃろ、坂本辰馬という男を」

 

まだ自分でも安心しきってない様子でアゴに手を置く陸奥。

 

「正攻法も奇策も通じん相手には、一か八かの大勝負で賭けに出るしかないんじゃからの。後は仲間を、二つの世界からの混ざりに混ざったあのアホ共を信じ抜く事だけじゃきん」

「信じぬく、か……俺にはそっちの方が難しいな」

 

そう言って茂茂は部屋の隅にいるとある二人組の方へ振り返る

 

「出会ったばかりの人間をおいそれと簡単に信用出来るほど俺は楽観主義じゃないんでね」

「フッフッフ、味方に対して疑心暗鬼になっていては終わりだぞ達也殿。俺達に一体なんの不満があるというのだ」

 

こちらに振り返ってきた茂茂に不適に笑い返すのは七草真由美。そして彼女はカッと目を見開き

 

「ならばまずは蓮蓬よりも先に我々と腹を割って話し合おうではないか達也殿! だからこの縄を解けぇ!!」

「残念だわ達也君! 同じ学び舎の私にまでこんな真似するなんて本当に悲しいわ! あなたはこんな冷酷な事を平然と出来るなんて一体あなたの中で何が変わったというの!」

「七草会長、俺は何も変わってません、変わったのは攘夷思想にすっかり影響されてしまったあなたの方です」

 

少し前に将軍暗殺未遂を行った実行犯ということで、丁度いい柱に縄で縛り付けにされている真由美と桂に茂茂はクールに答えた。

 

「とりあえず二人は星に着くまで拘束させてもらいますから、後は他の仲間達からの意見によってどうするか決めさせてもらいます」

「俺がいない状態でこの戦いに勝機を見出せると思ってるのか達也殿! 俺がいないとアレだぞ! ただでさえ微妙な人気のこの作品が遂に底に落ちることになるぞ!!」

「この作品の存在意義が私達がいるから成り立ってると言っても過言ではないのよ!!」

「言っておきますがこの作品はあなた達がいようがいまいがずっと微妙なままです」

「そういうことを正直に言うのは止めろ! 別の意味で悲しくなるではないか!!」

 

二人の精一杯な弁明もあっさりと受け流しながら茂茂は陸奥のほうへ振り返る。

 

「この二人の事はアンタ達に任せる、それでいいか」

「そうじゃな、最悪このアホ二人は終わるまでずっとここに置いとけばいいしの」

「もしそうなったら七草会長もそちらの世界に連れて行ってあげてくれ、攘夷志士となった会長ならそれで本望だろうしな」

「ウチはもう満員じゃ、これ以上おかしな奴等連れ込もうとうするんじゃなか」

「ウチもお断りだ。今の会長が学校に復帰したら何やらかすか考えただけでも不安になるんだ」

「あーどっちの世界にも見捨てられた可哀想な私!!」

 

目の前で互いに自分を押し付けあっている茂茂と陸奥になんだか無性に泣きたくなる桂であった。

 

「もういっそ蓮蓬と一緒に母星探しに行こうかしら!!」

「諦めるな真由美殿! こうして周りから存在を疎まれることは攘夷志士としての宿命だ! だが彼等もいずれはわかってくれる、そういつかは!!」

 

ガックリと頭を垂れる彼に向かって真由美は元気付けようと檄を飛ばす。

 

「いつかは自らの非を詫びて首を差し出してくれるに違いない!! そうであろう達也殿!」

「そうよね達也君! か弱き民衆を救う為に私達と戦ってくれるわよね! 大丈夫よ達也君は何もしなくていいから! ただ首を切られてくれればそれで幕府も抹殺できる筈だから!!」

 

こんな状況になっても未だしつこく将軍の首を狙おうとしている桂と真由美。

 

茂茂と陸奥は二人に何も言わずただ無言でその場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

そして時を同じくしてここは彼らの目的地である蓮蓬の母星。

彼等もまた大きな戦が始まると予期して着々と準備を始めていた。

それには当然、同盟を結んでいる春雨の連中も混ざっていた。

 

「いやはやまさか異世界同士でタッグ組んでやってくるとはねぇ……しかも春雨・蓮蓬の奇襲を難なく跳ね除けるたぁ中々骨のある連中じゃないの」

 

宇宙一面が見える巨大な窓を見上げながら呟くのは春雨第七師団副団長の阿伏兎、そしてその隣で退屈そうに壁に背中を掛けているのは

 

「良かったな団長、暇潰し程度にはなるんじゃねぇか」

「うーんどうかな」

 

春雨第七師団団長の神威。しかしいつもと違いどことなく不満げな様子である。

 

「やってきたのはここの連中に体を入れ替えられた奴等ばっかなんでしょ、出来るなら俺は本調子の状態の奴等と戦いたいんだよね」

「これだから戦闘バカは、向こうが本気出せねぇなら仕方ねぇだろ。俺達の役目はただ地球からやってきた勇敢なる勇者様ご一行を倒す事だけだ。よもや連中に本気ださせて貰うために異空間転心装置を破壊しようとか考えてねぇだろうな」

「アレ、バレちゃった?」

「ほらコレだよ、少しはその自己中心なおつむをどうにかしてくれねぇかな」

 

図星突かれたのか笑顔で振り返ってきた神威に阿伏兎は頭を手で押さえながらため息を突く。

もし彼がそんなことをやらかしてしまったら今度は蓮蓬と春雨の全面戦争に発展してしまうのだ。

 

「頼むからバカな事やらかそうとか思うんじゃねぇぞこのすっとこどっこい」

「いやー敵の中にあの晋助やあのお侍さん(銀時)もいるって聞いちゃうとね。そりゃあ戦いたくなるでしょ普通。それに」

「それに?」

「異世界の地球の連中とも戦ってみたいんだよね俺」

 

隠す気もなく堂々とこんな場所で言いながら神威はニッコリ微笑む。

 

「そっちの世界には残念ながら侍はとっくに絶滅してるみたいだけど、魔法使いとかいう面白いモンを使って戦う連中がいるんでしょ」

「大抵のことはすぐ忘れるくせにそういうのはホントよく覚えてるな……いい脳みそしてるぜ全く」

「やっぱアレかな、魔法使いって事は三角帽子被ったバァさんなのかな。箒に跨って飛び回りながら「イッヒッヒッヒ」って笑って手に持った魔法の杖で色んなモンバンバン出してくるのかな」

「そんなのいたら逆に斬新過ぎてサイン貰いに行くわ俺」

 

神威の口からそんなえらく古いタイプの魔法使いを例に出してくるとは予想してなかったので、さすがに阿伏兎もフッと笑ってしまった。

 

「そういうんじゃなくてもっと近代的な魔法使いなんだとよ。お前さんが考えてるようなアナログ派じゃなくて連中はデジタル派だってこった。どういう戦い方をするのかは知らねぇがもしかしたら夜兎の俺達よりずっと強かったりしてな」

「へー俺達より強いか。そうだったら燃えるね、むしろそれぐらいじゃないと俺が困る」

 

相手の力量まではわからないがもしかしたら夜兎をも越える戦闘能力を持っているかもしれない。

しかしそれもまた神威にとっては待ち望んだ展開の一つという訳だ。

 

「俺は強い奴にしか興味ないからね、そう簡単に殺されちゃったら拍子抜けだ。だから魔法使いの連中とも本気でやりあいたいんだよ俺は。あーやっぱりあの装置ぶっ壊しちゃおうかな」

「おい、冗談でもそういう事をこんな所で言うんじゃねぇよ、もし誰かにバレでもしたら……」

 

お構いなしに声を大きめにして物騒なことを言う神威に阿伏兎は焦って注意をしていると

 

「!」

 

背後からザッザッと足音を立ててやってくる気配、その音に敏感に反応してすぐに阿伏兎が後ろに振り返ると

 

アヒルだかペンギンだからおばQだかわからない奇妙な被り物、言葉を使うことさえ許されずプラカードのみで意思疎通を図る種族、蓮蓬がズラリとその場に並んでいたのだ。

そしてその中から一人の人物がシュコーと音を鳴らしながら一番前に出る。

 

その者は真っ黒なマントと兜を着け、蓮蓬の長らしい風貌を漂わせる人物であった。

 

「こいつは驚いた……まさかあの米堕卿がこんな所で現れるとは……」

「誰それ?」

「この星を支配する蓮蓬を統括している総帥だよ!! それぐらい覚えとけすっとこどっこい!!」

 

敵の陣営には興味あるくせに味方の事に関したら名前さえ覚えれない始末。無邪気に小首を傾げてみせる神威にさすがに阿伏兎も声を荒げてツッコんでいると米堕卿と呼ばれた人物は懐から一枚のプラカードを取り出した。

 

『先ほど我々の秘蔵の兵器を破壊すると言っていたのは真か?』

「い、いやいや米堕卿! ただのジョークですよジョーク! 俺達春雨がよもや同盟相手のアンタ等の兵器を本気で破壊しようだなんて思っちゃいませんって!!」

「そうだよ、俺は侍や魔法使いと本気で戦いたい。だからあの装置邪魔だから壊していい?」

「団長ォォォォォォォ!!」

 

必死にごまかそうと米堕卿に近づく阿伏兎をよそに正直に平然と言ってしまう神威。こんな連中の星でそんな事を言えば春雨と蓮蓬の戦争も避けられない。この世の終わりだという表情で叫ぶ阿伏兎だが、米堕卿は全く動じずに

 

『やれるものならいつでもやってみるがいい』

「え?」

『元より貴様等海賊と同盟を結んだ事はただの戯れに過ぎん』

 

彼が取り出したプラカードを読みながら阿伏兎はつい慌てるのを止めた。

神威も面白そうに笑っている。

 

『地球二つを手に入れる事など我々だけで十分に事足りる』

「でも一度負けたんでしょ、地球のお侍さんに」

『失態はもう二度と起こさぬ』

 

安い挑発も利かない様子で米堕卿は淡々とプラカードを取り出していく。

 

『その為に我々はあの装置を作り上げた。優秀なるリーダーを失えば星は滅んだのも同然、既に我々の攻撃は二つの地球に尋常な被害をもたらしている』

「だからその装置が俺にとって不満なんだよ。俺は本気でやり合いたいんだ」

『それで貴様等が我々に対して戦争を仕掛けるというのなら容赦しない』

「ふーん、それじゃあ」

「いや待てバカ団長!!」

 

いいなら遠慮なくといった感じで動こうとした神威の肩に手を置いて止めたのは阿伏兎。

 

「アンタの勝負事に俺等まで巻き込もうとしてんじゃねぇよ、すまなかった米堕卿。ウチのバカ団長はどうも敵さんにお気に入りがいたもんでな、そいつ等とガチでやり合えねぇと聞いてご不満みたいだ。コイツには俺から口うるさく説教しておくからここは穏便に、という事で」

『貴様等と事を交えようが交えまいが我々にはなんのメリットもデメリットもない』

 

歴戦の猛者である夜兎が二人であろうとこの星から抜け出すのは至難の業。速やかに事をおさめようとする彼に米堕卿はクルリと背を向けながらプラカードを取り出す。

 

『我々はいずれこの世の覇者となるであろう、その時のために我々に媚びへつらうか、それとも今から牙をむいてくるかは勝手にするがいい』

「……」

 

そういい残すと米堕卿はシュコーと音を鳴らしながら複数の蓮蓬達を連れて去っていくのであった。

 

「……ありゃ完全に俺達なんか眼中にねぇって感じだな」

「ムカついた?」

「少しな」

「なら殺る?」

「殺らねぇよ、ん?」

 

まだ諦めてない様子の神威にウンザリする様に阿伏兎が振り返ると、彼の背後にある窓を見てある物に気づいた。

 

「遂にきたか、異世界地球同盟軍」

「お、やっと来たの?」

「ああ、しかしあの見てくれは映像で見たとおり……」

 

敵艦が複数の船を連れてやってくるのを目撃すると神威もまたそちらのほうへ振り向く。

するとすぐに「おお!」と嬉しそうに声を上げて

 

「コイツは凄い、天空の城が大気圏を越えて遂に宇宙の城になっちゃったよ」

「見てくれも凄いが備え付けた武装も凄ぇぞ。なにせものの数分で春雨の艦隊を10台仕留めた要塞だからな」

「ふーん、俺もアレ乗ってみたいなぁ」

「まあ男なら誰もがそう思うモンだろうさ、おっとこうしちゃいらねぇ、俺等は奥行って本陣の護衛を勤めなきゃな。装置の方の護衛はアンタに任せられねぇから俺がやる。お前さんは米堕卿のいる部屋に辿り着くための通路にでも座ってろぃ」

 

慌しく動き始める阿伏兎をよそに神威は敵艦隊を見つめながら不敵に笑った。

 

「そうだ、俺が壊しちゃダメなら、連中に壊させてあげればいいのか」

「あ? なんか言ったか団長?」

「ううん別に」

 

目を見開きながら神威が一つの企みを思いついてる事も知らずに、阿伏兎はさっさと異空間転心装置のある部屋へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場所は再び戻りラピュタ宇宙船。

 

「ここに来たのは二度目じゃな」

「そうじゃのう、あの頃はよもやこんなええ体付きのお嬢ちゃんになるとは思いもしなんかった」

「わしもまさかウチの役立たずがさらに役立たずになるとは思わなかったぜよ」

「セクハラとクレームのダブルパンチで責めてくんの止めてくんない?」

 

快臨丸のモニターに映っているのはかつて見た蓮蓬の母星。

そう、坂本辰馬はコレを見た瞬間、異空間転心装置に撃たれて異世界へ送り込まれてしまっていたのだ。

その事を思い出していたエリカと陸奥に、後ろから彼らのおかげでとばっちりを食らう羽目になった千葉エリカの魂を持つ坂本が腕を組みながら舌打ちする。

 

「アンタ等がヘマしなけりゃこんな事にならなかったのよ! アンタ等のせいであたしのバラ色ライフは一瞬にして灰色ライフに急転直下だコンチクショウ!!!」

「まあそう言うなって、ここで坂本さん達責めても何も変わりやしねぇよ」

 

グラサンの下から涙を流しながら訴えかけている坂本を後ろから西城・レオンハルトが呆れた様子で引き止めた。

 

「それにあんなバカデカいのを坂本さん達で止めるなんざ無理な話だろうが、少しは坂本さんの事も考えてやれよ」

「うるせぇぇぇぇぇぇ!! 坂本坂本ってアイツの事考えてる暇あったらあたしの事も考えろボケェ!! こちとらもう元の生活に戻れても全然学校の授業に追いつける自信ないのよ! あたしの人生はもう終わりよ! アハハハハハハ!!!」

「うわ……凄い荒みっぷりだなコイツ……」

 

額に青筋浮かべてブチ切れた様子で振り返ってくるも今度は泣きながら大笑いを始める坂本に、レオはドン引きしながら目を細める。

 

「仕方ねぇな、元に戻ったら勉強教えてやるって、ちなみにウチの学校もうすぐ期末試験だからな」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!? 学校の授業一つも受けてないあたしが期末試験なんか出来ると思ってんの!? ああもう終わりよ! 例え元の体に戻れても一生実家に引きこもってやるわギャハハハハハハ!!」

「こりゃ戻ってもカウンセリングが必要みたいだな、完璧重症だわ……」

 

半ばヤケクソ気味に笑っている坂本の姿をジト目でレオが眺めてると彼の下へ茂茂が唐突にやってきた。

 

「レオ」

「ってうおぉぉビックリした! えーと達也だよな」

「ああ、でも今は天下の将軍様だ」

 

ずっとドタバタしていたのでこうしてサシで顔合わせるのは久しぶりだった。

驚くレオに茂茂は口元にわずかに笑みを作る。

 

「俺の前で少しでも無作法な事をしたら首を刎ねてもらうぞ」

「向こうの世界じゃマジで実現出来るらしいからな。冗談キツイぜ全く……」

 

後頭部を掻きながら少々ビビッているレオに茂茂は話を続ける。

 

「ところで本物の将軍である茂茂公はどこに?」

「ん? いや見てねぇな、多分銀さん達と一緒じゃねぇか? てことはまだラピュタにいるかも」

「そうか、改めて挨拶しておきたいと思ったんだが、何せ俺は紛い物でありながら将軍に扮して向こうの世界で色々と勝手な真似を行っていたからな」

 

そう言いながらふと茂茂は周りを見渡しながらフッと笑う。

 

「正直今一番将軍に首を刎ねられるべき相手は俺だ、今のうちにゴマすって置かないと後々マズい目に遭わされるかもしれない」

「いやいや大丈夫だって、俺達はあの将軍さんとちょっとの間行動していたが、あそこまで人間出来てる人は中々いねぇよ。そう簡単にお前の首を刎ねろととか命じねぇって」

 

冗談で言ったつもりであろう茂茂にレオが笑っていると船頭室のドアを開けて一人の男が入ってきた。

 

「む、その体はもしや、そなたが余と入れ替わった司波達也か」

「お、ほら達也、噂をすれば向こうからわれ等が将軍様が……え?」

 

やってきた男の声を聞いてレオはすぐに茂茂の魂を持つ達也だと気づいて後ろに振り返るとすぐに表情をギョッとさせ

 

「なんで将軍様全裸になってんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「会いたかったぞ、余と入れ替わった者がいかなる人物なのかこの目で見ておきたかったのだ」

「そしてなんで全裸のまま何事もないように話しかけれるんだこの人!」

 

一体何があったのかレオが知る由もない、実は込み入った事情で現在達也は着る服がないのである。つまりちょっと前からずっとすっぽんぽんのまま艦内を歩き回っていたということである。

 

「ちょっと将軍さん! もうすぐ決戦という時にさすがに全裸じゃマズイですって! ていうかなんで全裸なんですか! なんでそんな誇らしげなんですか!」

「落ち着けレオ、将軍の御前だぞ」

「いやだって……って!!」

 

茂茂のほうへ振り返ってレオはまたもや驚愕する。

 

「何でお前まで全裸になってんだぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺が目を離した一瞬でオールパージしたの!?」

 

そこには豪華な着物に隠れた中々良い肉体を見せ付けるように全裸になっている茂茂の姿が

 

達也よりずっと小さなモザイクを股間につけて平然と立っている。

 

(これはきっと将軍が俺を試しているに違いない、裸でいるという事は「何も隠さず真正面から俺を見ろ」というメッセージ、ならば俺もそれに応えて同じ様にし返して見せればいいだけの話)

「おい達也! なんか知らねぇけどこれだけはわかる! お前絶対勘違いしてるから!」

 

どうやら達也が全裸で登場したことにより計算高い性格が裏目に出て思い切りど天然なミスをしてしまっている事に本人は気づいていないみたいだ。

そんな茂茂にレオがツッコミを入れる中、達也は「ほう」と全裸になった彼を見つめながら

 

(これはきっと達也殿が余を試しているのだな、裸になったという事は「このまま全裸で敵陣に突っ込む事こそ敵を撹乱する作戦だ」というメッセージ、ならば余もそれに応えてこのまま敵陣へと突っ込み共に戦おう)

「おいこっちはこっちで絶対勘違いしてるぞ! 何だよコレ! 何で全裸の男同士でずっと見つめ合ってんだよ! つうかそれに挟まれてる俺が一番なんなんだよ!!」

 

両者勘違いしたまま全裸のまま無言で見つめ合っているというおかしな雰囲気にレオが両手を頭に抱えて悩み苦しんでいると。

ダダダッと駆け足でこっちに向かって走ってくる少女が一人

 

「将ぐぅぅぅぅぅぅぅん!!! 股間にモザイクかけたまま船の中歩き回るんじゃねぇって言ったでしょうがぁぁぁぁぁ!!!」

 

全速力で艦内の廊下を走ってやってきたのは坂田銀時こと司波深雪。どうやら勝手に歩き回っていた達也を追いかけて来てたらしい。

 

「ってオイ! なんでこっちの将軍まで全裸になってんだ聞いてねぇぞ! なんで全裸のまま無言で見つめ合ってんだよ!! なんで足軽と猛将がお見合いしてんだよ!!!」

「そんなモン俺が聞きてぇよ! どうすればいいんだこの空間! 何をすれば正解なんだ!」

「いやもうどっからどう見ても人として不正解だから手の施しようがねぇよこれじゃあ! クソ! アイツはまだか!」

 

まさか全裸の人物がもう一人増えるとは考えもしていなかった様子の深雪。

レオと一緒に慌てふためいていると再び廊下を走る足音が

司波深雪こと坂田銀時である。

 

 

「持ってきました! 制服はまだですが下着の方は乾いてます!」

「下着だけかよ! ああもういい! それだけでいいからとにかく将軍に履いてもらうんだ!」

 

紙袋におさめられた下着を持ってきた銀時に深雪がすぐに命令するが彼はハッとした表情でとまり

 

「お兄様!? お兄様までなぜにそんな全裸に!?」

「いやそっちは知らねぇけどとにかく将軍にパンツ履かせろ!」

「ど、どっちの将軍に!?」

「お兄様将軍のほうに決まってんだろ! 将軍お兄様は後回しだ!」

「ダメです体は将軍様でも中身は私のお兄様なんです! お兄様の裸を回りの目に見られるなど私には耐えられません!」

「いやそれなら見た目がお兄様の方も結果的にお兄様の裸を回りに見せ付けているということになって……ああもうどっちがどっちだかわかんなくなってきた!! なんで決戦を前にこんなくだらねぇ事で頭悩ませてんの俺!!」

 

将軍二人を前にすっかりパニックになりながらも深雪は銀時の手に持つ紙袋をぶん取る。

 

「とにかくコイツは元々将軍お兄様の方なんだからこっちの方に履かせるべきだ!」

 

そう叫んで深雪は紙袋から下着を取り出した。

ある部分がもっさりした純白の白ブリーフを

 

 

「ブリーフじゃねぇか! なんで異世界渡ってももっさりブリーフなんだよウチの将軍!! お兄様の気持ちも考えろ!」

「将軍家は例え時空を超えようともっさりブリーフ派だ」

「知らねぇよ! そんなに貫き通すモンなら全裸にならないでくださいませんか!」

 

胸を張って誇り高くそう答える達也にブリーフを投げつける深雪。

 

「ったくウチの殿様にも困ったもんだぜ……しかしこれで股間のモザイクは消せるな」

「い、いや待ってください!」

「あん?」

 

とりあえず一安心してホッとする深雪をよそに銀時が取り乱したように叫んだ。

 

「ブリーフ履いてもお兄様の”アレ”ははみ出たままです!」

「将ぐぅぅぅぅぅん! なんでサイズ合わせなかったぁぁぁぁぁ!! いつも足軽サイズのブリーフしか履かなかったからわからなかったの!?」

 

達也が履いたブリーフの上からちょこんとモザイクがかかっている。

これはつまりサイズが合っていないということ。しかし達也はそれを見下ろすとすぐに顔を上げてフンッ!と誇らしげに鼻から息を吹き出す。

 

「もしかして将軍にとってはあれがベストなのでは……」

「どんだけ足軽から名将になった事が嬉しいんだよ! そんなに島左近になった事が誇らしいんですか! だから言ったでしょうが! それはアンタじゃなくてお兄様の島左近なんだよ!」

 

例え人のモンであろうと自分の身に付いているという事が嬉しいのであろうか……。

一向に隠そうとしない達也に深雪は徐々にイラッと来る。

 

「仕方ねぇこうなったらあの島左近をも超えるモン見せつけて将軍の自信を奪うしかねぇ、おいそこのデカブツ、パンツ脱げ」

「なんで!?」

「どうせ図体もデカいからそっちの方もそれなりにいいモン持ってんだろ。さっさと脱げ、殺すぞ」

「パンツ脱がねぇと殺すぞなんて初めて言われたぞ俺!」

 

仏頂面で自分の下半身を指差しながらドスの低い声で命令してきた深雪に思わず固まるレオ、だがすぐに首を横に振って

 

「無理だって俺のはせいぜい詰所頭レベルだって! いやよくわかんねぇけど!」

「詰所頭だぁ? テメェ何しにこの船に乗ったんだよ?」

「少なくとも他人にナニを見せに来た訳じゃねぇのは確かだが!?」

「ったく仕方ねぇな、どうやらここは俺の加藤清正を見せつけてやるしかねぇみたいだ」

 

レオがダメだと言うので仕方ないとため息交じりに深雪は銀時の方へ振り返った。

 

「おいクソガキ、俺の自慢の清正を出しやがれ」

「いやそれとんでもねぇセクハラ発言だぞ!」

「いい加減本気で殺しにかかりますよあなた」

 

見た目は銀時でも中身はただの女の子であるのに無茶苦茶な要求をしてきた深雪。

驚くレオを尻目に彼女は銀時の腰の帯を掴む。

 

「四の五の言わずにチンコ出せつってんだろうが! 将軍の自信を奪うにはこれしかねぇんだよ!!」

「いやですあなたの身体とはいえ人前で恥部を晒す様な恥知らずではありませんから私!!」

「オメーそれ言ったらお兄様どうなっちまうんだ! 将軍の身体でさっきから粗末なモンブラブラさせてんだぞ! テメェも一肌脱げ!」

「イヤァァァァァァァ!!!」

 

ズボンを脱がされぬ様必死に抵抗する銀時に深雪が容赦なく帯を引っ張って襲い掛かっていると

 

横からカシャ!という軽快な音が飛んできた。

思わず銀時と深雪はピタッと固まりそちらの方へ振り向くと

 

「いいもん撮らせてもらった」

「おいクソガキィィィィィィ!! なんてモン撮ってんだコラァ!」

 

携帯片手にバッチリカメラで撮っていた北山雫がいつもの無表情でそこにいた。

 

「学校のみんなに画像添付して送ろう、あ、圏外だ」

「ちょっと雫! そんなの出回ったら私もう学校に戻れないじゃないですか!」

「よこせその携帯!」

 

さすがに宇宙の彼方のここでは圏外だ、ちょっとガッカリした様子の雫に銀時と深雪が携帯を奪おうと駆け寄ろうとしたその時。

 

艦内がズシン!と大きく揺れ始めた!

 

「いて! なんだこの揺れ……」

「なにかにぶつかったんですか?」

「たった今敵と交戦中」

「「はぁ!?」」

 

揺れる艦内で尻もち突きながら混乱している深雪と壁にもたれている銀時に雫は冷静に状況を伝えた。

 

船頭室では陸奥とエリカが前方モニターを眺めながら

 

「いよいよ来たか第二陣、春雨の艦隊がまたウヨウヨと、こっから厳しくなるぜよ」

「アハハハハ! 元よりこうなる事は想定済みじゃろうが! 行くぞおまん等!」

 

再び春雨の宇宙船がゾロゾロと蓮蓬の星から出撃してくる。

あっという間にモニター一面が敵の船で埋まるもエリカは笑い飛ばしながら指を突き付ける。

 

「目標は蓮蓬の星! 全艦隊に告ぐ! 超突っ込めぇぇぇぇ!!!」

 

宇宙を賭けた大勝負が今始まる。

 

 

 

 

 

「……ところでなんでわし等の後ろであの二人は裸で腕を組んだまま無言で立っておるんじゃ?」

 

 

 



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第十五訓 到着&出発

それは正に強大なる動く要塞であった。

春雨の海賊達は驚愕する

アレが自分達の船よりもずっと大きいというだけではない。

あの地球人がこの様な恐ろしい力を兼ね備えていた事に絶望していたのだ。

 

「こちらの損害率60%! 徐々に増えていきます! 被害甚大!!」

「おのれぇ地球の猿共め! まさかあんな兵器を持っていたとは!!」

 

春雨の団員達が船の中で既に半ばパニック状態になってる中、隊長格の天人は一人映像モニターを見つめながら奥歯かを噛み締める。

今そこに映っているのは次々と仲間達をハエを叩き潰すかの如く殲滅していく。

 

「おのれ天空の城ラピュタめぇ!!」

 

所詮は古い文明を掘り起こしたに過ぎないと最初は甘く見ていた、しかしこの歴然の力の差を見せ付けられれば自分の早合点があまりにも愚かであったと実感するであろう。

 

「隊長! 全ての艦隊に対してラピュタから通信が!」

「な、なに! まさか降伏しろとでものたまうつもりか!?」

 

敵から通信が来るとは予想だにしなかった。

何を狙っているのかと天人が思案を巡らせていると目の前のモニターが通信画面に変わる。

これだけの味方を倒してきた猛者だ、一体どれ程の風貌をしているのだろう……

 

しかしブンッと目の前の画面に現れたのは意外にもどこか地味な顔立ちをした若い少年であった。

 

「……おい、なんだこの見るからにモブっぽい奴は、通信先間違えたんじゃないか?」

「いやそんな筈ないんすけど……」

『僕の名はモブではない』

「「!!」」

 

画面先で少年はこちらに向かって言葉を投げかけるとスッと眼鏡を取り出してそれを掛け

 

「僕、いや私の名は服部・範蔵・ウル・ラピュタ。古の歴史に消えていった一族の末裔にして王の血を引くものだ」

「オイィィィィィィ!! なんかとんでもない事言い出したぞ! 自分の事をムスカ大佐みたいに名乗りだしたぞ!!」

 

こちらに向かって邪悪な笑みを浮かべ名を名乗る少年に驚く一同。しかし画面に映る服部という少年は更に話を続ける。

 

『言葉を慎みたまえ。君達はラピュタ王の前にいるのだ、無礼を働く君達にこれから王国の復活を祝って諸君にラピュタの真の力を見せてやろう』

「真の力だと……! バカなあのロボット兵よりも恐ろしい物を搭載しているというのか……!」

『見せてあげよう!ラピュタの雷を!!』

 

服部は声高々にそう言うと自分の目の前置かれている黒い石で造られたラピュタの操作機の様な物の上をゆっくりと指でなぞり始める。

すると黒い石が突如光りだしたと思いきや……

 

自分達の頭上にあるラピュタの底にある球形状の底がこちらに向かってカッと光った次の瞬間には巨大な雷が

 

「……え?」

 

隊長の意識はそこで途絶えた。

雷はあっという間に彼らの乗る船を飲み込み、そして周りの船も木の葉のように吹き飛んでいく。まさにとてつもない威力だ、あまりの破壊力に春雨の部隊は言葉を失う。

 

『旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火だよ。ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているがね。この圧倒的強さを前に、いずれ全宇宙はラピュタの元にひれ伏すことになるだろう』

 

まだ残っている春雨の艦隊達に向かって服部はそう宣言すると、今度はラピュタ内部からワラワラとロボット兵を戦場に投入させる。

 

「こ、今度はまたあのロボット兵を出してくるだと!」

「そんな! 五隻沈められてやっと一つ落とせるあの兵器がさっき以上に!!」

『ハッハッハッハ! 素晴らしい!最高のショーだとは思わんかね!?』

「ダメだこんな奴敵に回しても無駄死にするだけだ! 早く撤退を……ぐわぁ!!」

 

両手を広げて感極まって喜びの声を上げている服部を前に春雨の団員達が抱いた物は彼に対する恐怖。

圧倒的力の差を前にもはや無様に逃げるしか道はないと思い急いで撤退命令を出そうとするが

 

「ぐわぁ!! す、既にわが船にもロボット兵が!」

『ハッハッハッハッハ! どこへ行こうというのかね!?』

 

しかしそれすらも許さない服部、誰一人討ち漏らす気はないという気迫で巧みにロボットの軍隊を操り蹴散らしていく。

 

そして通信先の春雨の舞台から聞こえる阿鼻叫喚の嵐を前に、服部は腕を高く掲げて勝利を喜ぶのではなくラピュタの力そのものの強さと恐ろしさに歓喜するのであった。

 

『ハッハァ!見ろぉ!!人がゴミのようだ!!!』

 

服部・範蔵・ウル・ラピュタの快進撃はまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

その頃、服部がラピュタで暴れまわっている隙に快臨丸が率いた地球連合軍はというと

 

「作戦通りじゃ、全艦上手く入り込めたの」

 

蓮蓬達が使う船の出入り口に難なく侵入出来ていた。彼等は遂に主犯である蓮蓬の母星に辿り着いたのである。

 

「ラピュタが思った以上に暴れ回ってくれてるおかげで春雨も蓮蓬もアレに釘付けじゃきん、あの少年思った以上にようやってくれたわい」

「いや……」

 

快臨丸の船頭室にて感心したように褒めているのはこの船の副官である陸奥。

しかしその隣には全く附に落ちない様子で肩を震わせている志村新八の姿が

 

「やり過ぎだろうがぁぁぁぁ!! なにあのエセムスカ大佐!? 人がゴミのようだって笑ってましたよ!!」

「落ち着けヨ新八、ラピュタ動かしていいって言われたら誰だってみんなムスカ大佐になるって決まってるネ、いいなー私もあそこでフハハハハハって笑いたかったアル」

「まさかあの人ずっと出番無かったけどもしかしてずっとラピュタ操縦してたの!? あんな危険人物に僕等助けてもらっていたのかよ!」

 

羨ましそうにモニターにまだ映っているラピュタを見つめながら神楽が呟いている中、新八は頭を抱えて叫びだす。

彼の言う通り、ラピュタの操作は向こうの世界からずっと服部が操作をしていた。

なぜ彼がそんな大任を任されていたのかというと、彼がラピュタの奥深くにあるコントロールルームから絶対にこの場から動かんという姿勢で陣取っていたからだ。

その為、「じゃあもうそこまでやりたいならやらせてあげようか」とその場にいたメンバー一同の適当な判断で服部がラピュタの操作を任されていたのだ。

 

しかしその適当な判断がまさかここまでの成果を発揮するとは

ラピュタを宇宙船に改造にした一人である藤林響子も少々驚いていた。

 

「驚いたわね、アレを操作するには古式魔法の類を用いてるし扱いが凄く難しいから私が操作しようと思ってたのに、もしかしたら本当にラピュタの一族の末裔なのかしら彼?」

「ラピュタの末裔なんていねぇよ! 僕らの世界もあんた等の世界にもいねぇからそんなの! いるのはジブリの世界だけだから!」

 

もしかしたらと思ってしまうほどの操作テクを見せ付けられて響子が服部を高く評価してる中すかさず新八がツッコミを入れる。

 

「あれ? ていうかアンタ誰ですか?」

「私? 私は向こうの世界で軍人をやっている藤林響子よ、今は将軍様の護衛を勤めているわ」

 

知らない相手でもツッコミを怠らない新八に対し響子はやんわりと微笑む。

 

「よろしく若いお侍さん」

(うわ、さっきから思ってたけどこの人笑うとますます綺麗だな、こんな人が軍の人だなんて信じられないよ……)

 

ただの挨拶なのに新八が顔を赤らめて動揺していると、そんな彼の下に一人の少女が近づき

 

「いづ!」

「決戦前に鼻の下伸ばしてんじゃねぇよぱっつぁん」

「ぎ、銀さん!」

 

後ろから思い切り新八の背中に張り手を入れる。すぐに新八が振り返るとそこにいたのはけだるそうに首をかしげいてる司波深雪。

 

「ったくいい加減向こうの世界の女に慣れろよ、もう人目でわかるんだよ、童貞オーラ放ち過ぎだ」

「童貞オーラってなんだよ!! そ、そんなモン放った覚えねーし!!」

「じゃあ立った方?」

「立ってもねぇよ! いい加減そっちもその顔で卑猥なこと言うの止めて下さいよ!」

 

見た目は可愛らしい美少女なのに中身がおっさんなおかげで違和感バリバリの深雪に新八がツッコんでいると快臨丸が速度を遅めてゆっくり止まり始めた。

 

「よし上手く内部に潜り込めた、待たせたのおまん等、久しぶりの外出ぜよ」

「遂に来ましたね銀さん……」

「ああ、これでようやくこの体ともお別れ出来らぁ」

 

陸奥がそう言うと新八は深雪に向かって頷き彼女もまたフンと鼻を鳴らし腰に差した木刀に手を置く。

 

「最初で最後の修学旅行だ、観光スポットで羽目外しすぎて浮かれんじゃねぇぞ」

「はい!」

「へー若いのに勇ましいわね」

「へ!?」

 

ゆっくりと歩き出す彼女に新八は強く返事するとすぐに後に続こうとするが、そんな彼の顔すぐ近くにヒョコッと響子が顔を覗かせてきた。

 

「私は将軍様の護衛任されてるから一緒には行けないから応援しているわ、頑張ってね」

「は、はいぃぃぃぃぃ!!」

 

二人の顔の距離は僅かちょっとの隙間しかない。そんな状態でウインクして激励してくれた響子に新八はダラダラと汗を掻きながら裏返った声で返事するとすぐに深雪の後を追おう。

 

「銀さん待ってください!」

「遅ぇぞ新八、おめぇ一体なに……って」

 

後ろから呼び止められて深雪は死んだ魚のような目で振り返るとそこにいた新八を見て目を丸くさせる。

 

なぜか頭を腰の近くまで深く下げたまま半腰の状態という変な歩き方をしながら顔に汗をしたらせやってきたのだ。

 

「さ、さあ僕等で世界を救いにいきましょうッ!!」

「やっぱ立ってんじゃねぇかお前!!」

「おごぉ!!!」

 

すぐに新八が今何かを隠しているのかを察知した深雪は即彼の股間に向かって蹴りを入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

深雪達は久しぶりに船から外に出た。

そこは出入りしてきた船の待機室のような場所。

幸い、春雨の船は既に全部出撃してるみたいで自分達の船しか見当たらなかった。

 

「それじゃあ潜入作戦の内容を今から説明するぜよ」

 

戦いに赴く者達がこの場にいる事を確認すると、彼等の前で陸奥が指揮を取り始めた。

 

「まずはおまん等で小隊を編成し捜索班とここの防衛班に分ける。捜索班は入れ替わり装置の破壊を最優先にしつつ出来ればSAGIの破壊もやっておく事、防衛班はわしと一緒にここに陣取って船を護る、わしらにとって船は要じゃき、事が済んでも帰る船が無かったらそれでおしまいじゃからの」

「そんじゃあわしは防衛班じゃの」

 

陸奥の説明を聞いていち早く手を上げて立候補したのは快臨丸の持ち主である千葉エリカ。

 

「この船はわしにとって大事なモンじゃ、それに直にここに蓮蓬の連中ば押し寄せてくるじゃろうからわしのもう一つの目的も果たせるええ機会じゃけんの」

「前衛に出れないのは勿体無い気もするが、坂本さんが守備側に入るなら俺もそうするぜ。“こっちの坂本さんの方”も心配だしな」

「あたしだって本来の体なら無双してやるわよ、けどこの体じゃ古傷のせいで剣が握れないの。ということで船だけでなくあたしの事も護りなさい」

「すげぇ上から目線な頼み方だな……コイツとは元の世界に戻っても仲良くやっていける自信がねぇや」

 

エリカに続いて彼女を慕う西城レオンハルトとまともな戦力にならない坂本辰馬が防衛班に。

そして今度は深雪が小指で耳をほじりながら眠そうに欠伸をしながら

 

「じゃあ俺は捜索班で、理由? さっさとこんな体からおさらばしたいからに決まってんだろうが」

「じゃあ私もこの人と一緒の捜索班」

「ええ! 雫も!?」

 

深雪が捜索班に立候補すると続いて北山雫も手を上げた。明らかに危険度が防衛班より高いのにあっさりと決めてしまう彼女に親友である光井ほのかが驚きの声を上げる。

 

「いやそりゃ深雪達や世界を救いたいってのは私も同じ気持ちだけど、ここは慎重に考えたほうが……」

「そんな事言って迷ってると中学生の頃の班決めみたいに取り残されるよほのか」

「この土壇場で人のトラウマほじらないでよ! じゃあ私も二人と同じ捜索班で!」

 

なにか触れてほしくない部分を刺激されたのかムキになったほのかはほとんど勢いで深雪達の班に加わった。

 

「んじゃあ俺はこのガキ二人と新生万事屋チームとしてやっていくわ、お前等はプロト版万事屋として頑張ってくれ」

 

そう言って深雪が手を上げた相手は神楽、しかし彼女はジト目でどこか軽蔑の混じった表情で

 

「新生万事屋とか銀ちゃんいつの間にそんなモン作ってたアルか、もしかしてロリコンだったアルか? もう私に近づくんじゃねーぞ」

「人聞きの悪いこと言うな、誰がテメェ等ガキ共に発情するか、新八じゃあるめーし」

「アンタこそ人聞きの悪いこと言わないで下さいよ! 僕がいつ彼女達に発情したっていうんですか!」

「おっ立ててる奴に言われたくねーよ」

「コレは違いますから! 命を賭けた決戦を前に体が勝手に興奮してるだけですってば!」

「いいよもうそんな言い訳しなくて、どうせあの女にちょっと甘い事言われてコロッとやられたんだろ。童貞のお前にはちょっと刺激が強すぎたな」

 

神楽の隣にいたのはまだ半腰状態の新八。そんな彼を呆れた様子で深雪が見つめていると彼女の頭にゴツンと硬い拳が振り下ろされる。

 

「人の体でおっ立ててるとか童貞とか言わないで下さい」

「イダッ!」

 

彼女の頭を殴ったのは他でもない坂田銀時だった。深雪はすかさず後ろに振り向くと冷たく見下ろす彼に対抗するように睨み上げる。

 

「テメェ随分と人の体で好き勝手やってくれるじゃねぇか、言っとくが全部終わったらこれ100倍にして返すからな、覚えとけボケナス」

「それはこっちの台詞です、ほのかや雫も巻き込んで勝手な振る舞いの数々。全てが終わったら1000倍にして返すのでお忘れなく」

「だったら俺は10000倍にしてカウンター決めてやるよ」

「なら私は100000倍で」

「それなら俺は1000000倍だ」

「では10000000倍で」

「100000000倍」

「1000000000倍」

「……」

「……」

 

子供の喧嘩みたいな不毛な張り合いを続けていた深雪と銀時だが両者にらみ合ったまま遂に

 

「だーもうめんどくせぇ! 事が済むまでなんか待ってられっか! ここでシメてやらぁ!!」

「望む所です恥知らずが!! 魔法も満足に扱えないでしょうあなたなど腕力だけで捻じ伏せれますから!」

「上等だ俺の力もまともに扱えねぇガキのクセに! 見せてやらぁ俺の斬魂刀を! 霜天に坐せ氷輪丸!」

 

遂に互いに実力行使に出てまたもや掴み合いを始める深雪と銀時。

出会ってからずっとこの調子の二人、人目も気にせずギャーギャー喚きながら喧嘩していると

ズイッと司波達也こと徳川茂茂が(ちゃんと着物を着てる)二人の間に割って入る。

 

「戦いを前に無駄な体力を使うんじゃない」

「「お兄様!!」」

「いやなんで銀さんもお兄様呼びなんですか?」

 

銀時と一緒に同じ呼称を使う深雪に静かに新八がツッコむ中、茂茂は銀時の肩に手をポンと置く。

 

「出来るなら兄としてお前には安全な場所にいて欲しいと思うんだが。すぐにでも元の姿に戻りたいと本気で思っているお前を諦めさせる言葉は今の俺には思いつかない。無事に生きて俺の下へ戻ってきてくれ、深雪」

「は、はい! すぐにでも元の姿に戻ってお兄様の下へ帰ります!」

「近い近いおたくら顔近い! 俺の体で将軍と見つめ合いながら顔赤らめてんじゃねぇ! 気持ち悪ぃんだよマジで!」

 

傍らに自分がいるにも関わらず互いの目を覗き込むぐらいに顔を近づけあっている茂茂と銀時に深雪が腕にさぶいぼを作りながら叫んでいると、それをちょっと離れた所から見ていたほのかがボソリと

 

「嫉妬……!」

「宇宙にぶん投げられてぇのかクソガキ!」

 

変な勘違いをしている様子のほのかに深雪がすかさず近寄ろうとすると、突然茂茂にガシッと肩を強く掴まれる。

 

「というわけで深雪の体は俺が護ろう、よろしくな銀さん」

「ってふざけんなぁ! 将軍の体を前線に出せる訳ねぇだろうがボケェ!!」

 

どうやら自分達と同じ捜索班に加わろうとしている茂茂

そんな彼の手を払いのけながら深雪は指を突きつける。

 

「テメェは将軍と一緒に船の中で待機だ! 少しは自分の体がとんでもない御方のモンだという事を自覚しくれませんかねぇお兄様!」

「そうは言ってもこちらとしても妹の体で好き勝手に暴れ回ってもらうのは心配なんだ」

「テメェの都合なんざ知るか! 人間皆命の価値は平等だと思ってんじゃねぇぞ! 将軍の体に傷でも付けたらこの場にいる俺達全員の首が飛ぶんだよ!」

 

前線に加わろうとする茂茂に説教しながら深雪が乱暴に突き放していると

 

それをほのかはジッと見つめると首を横に振り

 

「一緒にいたいけどそれはお兄さんに危険が及ぶ可能性がある、だからここは自分の気持ちを押し殺してでも護ってあげたい、そういう事なんだね銀さん」

「お前はいい加減その腐った脳みそどうにかしろ!」

 

そっと目を拭いながら呟いてる彼女にいち早く感づいた深雪が拳を振り上げ怒鳴り声を上げた後、再び茂茂の方へ振り返る。

 

「お前さんが妹の事護りてぇって気持ちはわかったよ、けど今のテメェはそう身勝手に動かせる体じゃねぇんだ」

「……そうだな」

「だから少しだけ待ってろ、入れ替わり装置破壊したらお前も晴れて元の体だ、テメェがどれほど強いのかどうか知らねぇし相手がどれ程手強いかもわからねぇがそん時にいくらでも妹護ってやれや」

 

そう言って深雪はクルリと踵を返して歩き始める。

 

「それまでは俺がお前の妹の体護ってやるよお兄様」

 

最後にそう言うと彼女はほのかと雫を連れて言ってしまった。

 

「……なんとなくはわかっていたが、やはりただの乱暴者ではないらしいな」

「騙されちゃいけませんよ、付き合いの長い僕等が判断するにきっと滅茶苦茶深雪さんの体酷使しますからあのちゃらんぽらん」

「デリケートな女の子の体を徹底的に弄ぶ魂胆ネ、私もアイツの元で散々コキ使われてるからわかるアル」

 

静かに頷く茂茂の後ろから新八と神楽もまた前に出て好き勝手言いながら前に出た。

 

「だからせめて深雪さん自身の方は達也さんの代わりに僕らが護らせて頂きますから」

「報酬はプロト版万事屋に振り込んで置けヨ、新生万事屋には一文も渡さなくていいからな」

 

それだけ言い残して二人は行ってしまう、そしてそれを追うように銀時も動き出し

 

「では行ってきますお兄様」

「……ああ」

 

僅かに笑いかけながらそう言うと銀時は新八と神楽の方へと駆け足で向かって行った。

残された茂茂もまたそんな彼の後姿を眺めながら真顔に戻り

 

 

 

 

(さて、体よく任せたフリをしたがどうやって周りからバレずに上手く抜け出そうか……)

 

残念ながら彼は三人を信頼していなかった。

 

「司波深雪を護れる者は自分を置いて他にいない」という信念がある。

例えこの場にいる者全員を敵に回そうと、それだけは絶対に譲れないのだ。

 

 

 

 

茂茂が企んでる頃、司波達也の方はというと響子に快臨丸の待機室へと案内させられていた。

 

「将軍様はこちらで待機してて下さい、後で達也君の方も連れてきますので」

「……やはり余が戦場に出ては駄目か」

「ええそりゃ当然ですよ」

 

末恐ろしい事をボソッと呟く達也に響子はバッサリと斬る。

 

「春雨、蓮蓬だけでなく私達の仲間にも将軍様のお命を狙う輩もいるとか。背中から刺される可能性もありますので将軍様にはこちらで隠れてもらいます」

「総大将が迂闊に前線に出てはいかぬ事は余もわかっておる、しかしこんな時だからこそ余も彼等と共に戦地へ赴きたかった」

 

イスに座りながら名残惜しそうに達也は呟く。

 

「攘夷志士も将軍も異世界というのも関係なく、ただ一つの人間として共に手を取り合って戦ってみたいと」

「勇敢なのはいい事ですがここは自分の身を護る事だけに徹しておいてください」

 

将軍としては立派な志かもしれないがそのような真似を許す訳にはいかない。

響子はビシッと言ってあげると厳重に注意する。

 

「ドアの前で見張ってますからね」

「仕方ないな、余は将軍らしく本陣であるここで良い知らせが来る事を待っている事にしよう」

「わかってくれて何よりです、それでは私は達也君を呼んできますね。用があったらドアの前にいる私に声を掛けて下さい」

「うむ」

 

達也が返事すると詢子はこちらに会釈してゆっくりと部屋を後にした。

残された達也は一人窓から見える蓮蓬の母星の内部を眺めていると。

その窓からヌッと一人の少女が顔を出してきた。

そして窓を音を出さずにゆっくりと開けると彼女は中へと入ってきた。

 

「将軍を密室の部屋に一人にしたままにするとはあの軍人もまだまだだな」

 

その少女は桂小太郎にして七草真由美、今最も将軍に近寄らせてはいけない人物であった。

彼女が現れても達也は全く動じることなく

 

「貴殿は縄で縛られ拘束されていたと聞いていたのだが」

「この桂小太郎、縄抜けの技など当の昔に熟知しておる」

 

そう言って真由美は窓辺に背を向けて腕を組みながら不敵に微笑んだ。

 

「案ずるな、別にこの場で貴殿を殺そうとは思っておらん、少しばかり面白い話を持ってきたのだ」

「ほう、退屈しのぎにはいいかもしれんな、してどのような話だ」

「将軍殿」

 

興味深そうに笑みを浮かべ返してきた達也に真由美はクイッと親指で窓の方を指差した。

 

 

 

 

 

「たまには互いの立場を忘れて俺達と一緒に少し観光巡りでもしてみぬか?」

 

 

 

 



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第十六訓 潜入&遭遇

ほとんどの者が捜索班と護衛班に分けられている頃、中条あずさは一人鬼兵隊の船の前へと来ていた。

 

「久しぶりだな、万斉」

 

口にキセルを咥えながらあずさが話しかけた相手は

鬼兵隊のナンバー2こと河上万斉。

 

「しばらく見ない内に随分と縮んだでござるな晋助」

「それもこれもここにいる天人共のおかげだ、奴等にはこれからたっぷり礼をしねぇと」

「その体でか?」

「手足千切れようが装置を壊せば全て元通りさ。こんな体がどうなろうが知ったこっちゃねぇ」

 

見てくれがここまで小さな少女になっている事に万斉は違和感を覚えつつも彼女から放たれる一定のリズムがすぐにその違和感を払拭させた。

 

(異世界超えようが体がすり替えられようがやはり変わらぬな、ぬしの狂気に満ちたこの音楽は)

「他の連中も大事ねぇか」

「大ありに決まっているであろう、組織の頭が消えればどんなに強大な軍も崩れ落ちていくというもの。完全に崩れ去る前におぬしとこうして会えて間一髪でござる」

「その程度なら俺にとっては大事ねぇって言うんだよ」

 

万斉からの報告を聞くとトントンとキセルの灰を落としながらあずさはまた口に咥え戻す。

 

「俺の体はどうなってる」

「う、うむ……やはり聞きたいであろうな」

「どうした、急に歯切れ悪くなったぞ」

「い、いやなんでもないでござる……」

 

煙を吹かしながらこちらをジロリと見つめてくるあずさに万斉は突然しどろもどろになりながらやなわりと誤魔化す。聞いた内容がマズかったのであろうか。

 

「……おぬしがその体に入ったようにおぬしの体もまた入れ替わった者の魂が入り込んでおる。名前は確か中条あずさ殿と言っていた」

「名前なんざどうでもいい、そいつは今この船にいるのか」

「無論誰にも見られぬようひっそりと隠れてもらっているが……」

「会わせろ」

「え?」

「ツラ拝ませろって言ってんだよ」

 

最後に残った灰を落としきってキセルを懐に仕舞いながらあずさが静かに呟く。

 

「自分の体見る事になにも問題あるめぇだろ」

「……確かにそうでござるが、おぬしを会わすのは少々彼女には刺激が強すぎる気が……」

「何で向こうの方を心配してんだよ、ガキがどうなろうが知ったこっちゃねぇって言ってんだろ」

「……わかった、では一つだけ約束して欲しいでござる」

 

会わせたくなさそうな反応をする万斉にあずさが少々イラついていると、彼は提案するかのようにピッと人差し指を立てて

 

「絶対に泣かしちゃダメでござるよ」

「……」

 

彼の言葉にあずさは思わず固まってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして一方その頃、捜索班として連蓬の母星内部に潜入していた司波深雪は、気味が悪いほど順調に中へと進んでいた。

 

「妙だな、前にここ来た時は化け物がわんさかいたって言うのに全然見当たらねぇぞ」

 

注意しながら曲がり角からこっそり顔を出す深雪だが、どこへ進んでも一向に蓮蓬の姿は見えない。

 

「ったく不気味だぜ、得体の知れねぇ奴等だから見えねぇと逆に不安だわ」

「蓮蓬ってどんな生物なの」

「アヒルだかペンギンだかオバQだかよくわからないモン被った化け物だよ」

 

物陰からを顔を出している深雪の下から一緒に顔を出すのは北山雫

 

「たまにおっさんみたいな生足が見えっからまあ中身はただのおっさんだろうな。つまりおっさん型の宇宙人だ」

「いやおっさん型の宇宙人って何? 私たちそんなおっさん達に星奪われそうになってるの?」

 

更にその下から顔を出すのは光井ほのか

 

「とにかくその蓮蓬が見つからないって事は安全に進めていいんじゃないかな?」

「バカヤロー、ここまであからさまにいねぇと明らかに怪しいだろ。どっかに罠が設置されてるに決まってんだろうが」

「そ、そうだった、ごめん安易な考えしちゃって」

 

誰もいない事を確認しつつ物陰から出ながら経験豊富の風格を醸し出す深雪に、考え方が少々浅はかだったとほのかが謝る。すると深雪はすっと前方の一見なんの変哲もない廊下を指差して

 

「ということでお前、この廊下ちょっと一人で歩いていってくんない? 奥まで行って何もなかったら合図してくれ、その後俺等も行くから」

「あからさまに私を囮に使う気だこの人!」

「囮じゃねぇよ、捨て駒だ」

「なお悪いよ!!」

 

自分が罠にかからない為に早速ほのかを利用としようとする深雪。しかしほのかはそれを激しく拒否。

下手すれば死ぬトラップでもあるかもしれないのにそんな事を簡単に了承する筈もなかった。

 

「私絶対無理だからね!」

「いやいやお前なら出来るって、お前もそう思うだろ?」

 

深雪に聞かれて隣にいた雫がコクンと頷く。

 

「中々出来ることじゃないよ」

「そりゃそうだよ誰だって捨て駒扱いされたくないんだから!」

「つべこべ言わずに突っ込んで来い」

「いだ!」

 

嫌がるほのかのお尻に軽く膝蹴りを入れて強引に行かせようとする深雪。

 

「遺族の方々にはお前が勇敢に戦い散っていったって事は伝えておくからさ」

「私はほのかという大切な友人がいた事を忘れない」

「既に死ぬ前提!? 勇敢に戦ったってこんなの仲間に利用されてるだけじゃん! それともう雫とは絶交するから!」

 

まったく感情のこもってない台詞を吐いてくる深雪と雫に半ギレの様子でツッコミを入れると、ほのかは勢いのまま廊下を歩き始める。

 

「じゃあもういいよ私が行けばいいんでしょ! 罠にビビッてる臆病者はそこでずっと立ってればいいんだから!!」

「チョロイなアイツ」

「そこがほのかの良い所」

 

二人の方に振り返って叫びながらほのかはどんどん廊下を進んでいく。

そして遂に廊下の一番奥にあるドアの前まで辿り着いたのだ。

ひとまず何事も無かった事に彼女は安堵するとクルリと振り返って遠くに立っている深雪と雫に向かって

 

「ほら罠なんか無かったよ! さっさと進もうよこのチキン共! この私に続けぇ!」

「ノリノリだなアイツ」

「自信がついて何より」

 

すっかりオラオラな調子でほのかが叫んでいるのを眺めながら深雪と雫は呟きながら廊下を歩き始めた。するとほのかの背後にあったドアがゆっくりと開き

 

アヒルだかペンギンだかオバQだかよくわからない生物が生気の無い目で現れたのだ。

蓮蓬、深雪達が今最も倒さねばならない相手である。

しかしそんな生物が背後にいる事に気づかずにほのかはまだこちらに向かって指を突きつけながら

 

「ほらさっさとこっち来る!! 私が通った場所歩けばいいんだから二人は楽でいいでしょ! 全くこのヘタレコンビが!!」

「終わったなアイツ」

「バイバイほのか」

 

徐々に調子付いて来ているほのかの背後にいる生物を眺めながら、深雪は彼女の命が潰えるのを確信し、雫はヒラヒラと手を振り彼女との最期の別れ。

 

「あれ? なんで雫手振ってるの? しかも銀さんの方は私というより私の後ろ見ている様な……」

 

二人の反応に違和感を覚えたほのかは恐る恐る後ろへ振り返ると

 

「ギャァァァァァァァ!! 化け物ォォォォォォォ!!!」

 

耳をつんざく様な叫び声と同時に彼女は目の前に現れた巨体の生物に向かって反射的に距離を詰めて

 

「せいッ!!」

「近距離からあの威力、やるな小娘」

「そういえば前にほのか、よく行く美容室で有名なボクシング漫画読んでた」

 

体を利き腕と反対側に大きく屈め、伸び上がるのと同時に生物に向かってフックを叩きつける。

 

『ガゼルパンチ』・フックとアッパーの中間の軌道を描く一撃で、インファイター型のプロボクサーも必殺技として愛用している者がいる程その威力は当たればキツイ。

女子高生がそんな物騒な技をつい反射的に出してしまった事に深雪が感心している中、ほのかの一撃を食らった蓮蓬はグラリと体を揺らしてその場に尻もちを着く。

すると突然蓮蓬はこちらに向かって短い手を突き出し

 

「ま! 待ってくれ!」

「?」

 

口は開いていないものの、今間違いなく蓮蓬が叫んでいた。それに対し不審に思ったのはかつて彼等と戦った経験のある深雪。

 

「妙だな、蓮蓬ってのは確か会話する事さえ許されないって掟がある筈だぞ……おい小娘! そいつへの追撃は止めろ!」

「はい! 立ち上がってファイティングポーズ取ったら一気に勝負仕掛けます!」

「ボクシングしてんじゃねぇんだよ! 立っても殴るな!」

 

 

スポーツマンシップに乗っ取ってダウンしてる相手への追撃はしないと拳を構えながら誓うほのかにツッコミながら深雪はすぐに尻もち着いてる蓮蓬の方へ駆け寄ると

 

「あれ? その制服……」

 

ふとその生物が何かを着ているのがわかった。

それは深雪達の学校の男子の制服の様な……

 

「おいお前、蓮蓬の一人だな。ちょっと聞きてぇ事があんだが……」

「し、司波さん!? どうしてここに!?」

「……は?」

「それにこっちもよく見たら光井! あっちにいるのは北山か!」

「いやいや待て待て、なんで俺等の事知ってんだよ」

 

 

予想だにしない事がおきた。この生物は会話出来るどころからどうやら自分達の事も知っているらしい。

不審に思う深雪に向かってその生物は生気のない目をしたまま顔を上げると

 

「僕だ司波さん! 国立魔法大学第一高等学校で君と同じ1年A組の!」

「あ? ウチのクラスにお前みたいな化け物いなかったよ」

「違うこれは僕の本当の体じゃない! 数日前に突然頭上から落ちてきた雷に打たれて!」

「雷って……まさか」

 

思い当たる節があり深雪は眉をひそめると彼は必死そうな声で

 

「本当の僕は君と同じ一科生! 森崎家の森崎駿だ!」

「も、森崎だと!?」

 

彼の名乗った言葉を聴いて深雪は大きく目を見開いて驚く、そして一瞬でまた死んだ魚の様な目に戻り

 

「って誰?」

「あれぇぇぇぇぇ!? 司波さんどういうことそれ!?」

「お前知ってる?」

「ゴールキーパー」

「それキャプテン翼の森崎だろ! すっとぼけるな北山!」

 

どうやら名前を知ってもイマイチピンときていない様子の深雪、おまけに雫の方まで覚えていない始末。何しろ見た目が蓮蓬なのだ、それなりの印象がないとさすがに名前だけではわからない。

するとほのかがジト目で二人に向かって

 

「いやいたよ森崎君、私達と同じクラスに。雫も覚えてるでしょ入学式の時とか色々あったし」

「式の途中で我慢できずに漏らした人?」

「それどこの森崎君だよ! 僕がいつそんな事した!!」

「あー俺なにか思い出したかも知れねぇわ」

 

全く思い出せない様子の雫をよそに深雪はポンと手を立ててわかった様子。

 

「授業中チラチラいやらしい目つきでこっち見てた奴だろ、クラスの女子共の噂になってたぞ、「エロ崎の奴がまた司波さんをチラ見してる」って」

「そそそそそそんな噂が女子の中であったんですか司波さん!? ご、誤解しないでください僕は別にそんなやましいつもりはなく同じブルームとして司波さんと仲良くなりたいと思っていただけで!」

「なんだエロ崎か、私も思い出した」

「おいもしかしてエロ崎で覚えてたのか北山!」

 

深雪のようにポンと手を叩いて思い出した様子の雫にエロ崎、もとい森崎が怒りに震えながら叫んでいると、深雪は自分の頭に指を突きつけながら「なるほどねぇ」とわかったかのような反応

 

 

「大方入れ替わり装置で体を奪われちまったんだろうなエロ崎も、そういや連中の目的は俺達地球人と体を入れ替えて星を奪い取るって魂胆だったからな」

「ええ! そういえば私達が出発するときに街中に雷が落ちてたけどもしかして!」

「あの時からもう1週間近くたってやがる、あれからずっと連中が攻撃を始めていたという事は……」

 

嫌な予感を覚えるほのかに深雪は確信したように頷いた。

 

「お前等の地球が本格的にマズイ事になってるみたいだな、最悪の事態を想定すると既に奴等の支配下におさまってるのかもしれねぇ」

「そんな! せっかくここまで来たのに!」

「落ち着いてほのか」

 

自分の故郷が既に蓮蓬に奪われてしまったかもしれないと動転するほのかの肩に雫が手を置いてなだめる。

 

「陸奥さんが言ってた、ここにある装置をどうにかすれば入れ替わった人達は元に戻る筈だって。私達がそれをやればまたいつもの日常に戻れる」

「雫……」

「そういうこった」

 

雫に続いて深雪も肩を回しながら口を開いた。

 

「気楽に行こうぜ。どうせこの星ぶっ壊せば何もかも元通りになるんだからよ、なぁにこちとら一度はこの星ぶっ壊してんだ、楽勝だよ楽勝」

「そうだね、私達が落ち込んでるヒマなんてないよね」

「星一個破壊して星二個救うだけ、簡単なお仕事」

 

傍から聞けばそんな事とても簡単そうには見えないのだが……

しかし深雪と雫に元気付けられてほのかも腹をくくった。

 

「よし行こう! 私達の未来の為に!」

「おー」

「調子乗りすぎて主役の美味しい所奪うんじゃねぇぞテメェ等」

 

この戦いに勝つという決意を更に確固たるものとし、三人は更に奥へと進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

「って待てぇぇぇぇぇぇぇ!! 僕のこと忘れるなぁ!」

 

いつの間にか忘れ去られていた事に気づき蓮蓬の姿になった森崎は三人の背中に大きく叫んだ。

 

「どうして司波さん達がここにいるのか知らないがまさか僕等を助けに来てくれたのか!」

「え、誰お前?」

「さっき言いましたよね司波さん! どうしてそんな一瞬にして僕の存在を記憶から抹消できるんですか! 僕の事その程度にしか考えていないんですか!?」

「エロ崎」

「ああなんだエロ崎か」

「森崎です! いい加減にしろ北山! 司波さんが間違えて僕の名を覚えちゃったじゃないか!」

 

雫に対して怒っているみたいだが見た目が見た目なのでどうも感情が読みにくい森崎。

 

「僕の話を聞いてくれ司波さん! いや三人共!」

「おやおやエロ崎の分際で3人相手にナンパか? 言っとくが深雪さんはそんじゃそこらの安い店には行かねぇぞ、全品1枚100円の回転寿司じゃねぇ1枚500円の寿司が混ざってる回転寿司だ」

「ハードルあんま上がってないですよそれ!」

 

庶民的レベルの要求に森崎がツッコミを入れていると深雪は髪を掻き毟りながら話しを続ける。

 

「あーでも悪いけど俺等急いでるんだわ、回転寿司はまた今度にしてくれ、んじゃ」

「いや待ってください司波さん! 司波さん達に見せたいものがあるんです!」

「ああ?」

「それは……」

 

慌てて呼び止めると森崎は一瞬間を置いて

 

 

 

 

 

 

 

「……僕達地球人がこんな体のまま収監されている労働施設です」

 

 

 

 

 

 

一方その頃、坂田銀時達は彼女達とは別のルートから内部に潜入していた。

 

「早く進みましょう、お兄様が動けない今私が頑張らないと」

「そうは言っても深雪さん、どんな罠が待ち受けてるかもわからないのに迂闊に奥へ進むのは危険ですよ、ひとまず銀さん達と合流して一緒に行った方が安全ですって」

「私はあの男の事は嫌いです、ゆえに一緒に行動したくありません」

「はぁ……」

 

ズンズンと奥へと行ってしまう銀時に、ともに行動している志村新八は何度も同じ忠告をしているのだが彼はまったく聞く耳を持たなかった。後ろからついて行きながらため息を突く彼に神楽が隣を歩きながら口を開く。

 

「もう言っても無駄アル、ユッキーはおしとやかに見えて結構頑固モンネ、私達が何を言おうとこのまま一直線に突き進むことしか考えてないんだヨ」

「ただ単に銀さんの事毛嫌いしてるだけであそこまで頑なに拒否するなんて、そうとう洗わないと落ちない頑固さだよ、あれ?」

 

あまりに洗い落とせないその頑固さに新八が疲れた様子でまたため息を突いていると、ふと前を歩いていた銀時がピタリと止まった

 

「どうしたんですか深雪さん」

「……隠れて」

「え?」

 

張り詰めた表情でそう言うと銀時は突然物陰にサッと隠れる、新八も続いて一緒に身を潜める。

すると廊下の曲がり角からペタンペタンと新八がどこかで聞き覚えるのある足音が

 

そしてその足音の持ち主がぬっと廊下を歩いているのが見えた。何故か黒髪のカツラを頭に乗せてはいるが桂小太郎のペットであるエリザベスと酷似しているあの生物は間違いない

 

「蓮蓬……!」

「アレの後をついていけば何か手掛かりを見つけられるかもしれません」

「なるほど、こっから尾行して上手く連中の情報を収集すれば……」

 

こちらに気付かずに通り過ぎて行こうとする蓮蓬の後を上手く尾行すればいずれ何処かの場所に辿り着けるであろう。闇雲に探すよりそちらの方がずっと効率的だ。

名案だと新八が銀時に感心したように頷いているが、彼らはミスを犯した。

 

隠れて尾行する事を神楽に言い忘れていた事

 

「ホワチャァァァァァァ!!!」

「って神楽ちゃぁぁぁぁぁん!!」

 

物陰に潜んでいた銀時と新八の目の前で、既に神楽は動き出しており、蓮蓬の横顔に飛び蹴りを思い切りかましてしまっていたのだ。

いきなり現れしかも豪快な蹴りをモロに受けた蓮蓬はなんの反応も見せずにガクンと倒れる。

 

「なにのっけから倒しちゃってんの! 尾行してここの情報を手に入れようとしてたのに!!」

「ああ? そんなまどろっこしい事しなくてシメ上げて吐かせればいいんだヨ」

「シメ上げるどころかもうシメ終わってんじゃねぇか! さっき鈍い音が聞こえたよ、大丈夫なのそれ!!」

 

小指で鼻をほじりながらめんどくさそうに答える神楽にツッコミながら新八は倒れている蓮蓬の下へ駆け寄る。すると

 

「う、うう……」

「良かったまだ生きてる……あれ? 言葉を持たない蓮蓬が呻き声……?」

「その声もしかして……新八君かい?」

「!」

 

予想だにしない事がおきた。目の前で倒れている蓮蓬が突如喋り出し、しかも自分の事を知ってるみたいだった。

 

「えぇぇー!? なんで蓮蓬が僕の事を!?」

「ち、違うよ新八君! 僕は蓮蓬じゃない! 奴等に体を奪われたんだ!!」

「体を奪われたって……もしかして!」

「あ! 万事屋の旦那!」

 

必死な様子で訴えかけてきた蓮蓬の様子に嘘偽りはないように見えた。

新八がそんな彼を見開いた目で見ていると、蓮蓬は新八だけでなく銀時の存在にも気付いて顔を上げた。

 

「良かった旦那がいれば心強いや! お願いです早くウチの局長達の目を覚まさせてやって……どぅふ!!」

 

何やら助けを求める様子でガバッと近づいてきた彼に向かって銀時は無言で持っていた木刀を脳天に振り下ろした。

 

「ちょっとぉ深雪さん! 何思い切り木刀頭に叩き落としてんの!!」

「いや襲い掛かってきたからつい」

「助けを求めてたんだよ! アンタ自分に近づいてくる者全部敵かなんかだと思ってんですか!」

 

新八が怒鳴りつけるも反省する様子もなく後頭部を掻き毟っている銀時。

 

「私も前はこんな風ではなかったんですが、どうも最近誰かにしがみつかれそうになると手が勝手に動くというか」

「なんすかそれ、それじゃあまるでさっちゃんさんを返り討ちにしてる銀さんみたい……え?」

 

殺し屋にして銀時のストーカーである猿飛あやめはいつも銀時に飛びかかっては散々な目に遭わされていた。先ほどと同じような感じで

そしてそれに対して全く反省のない彼の態度を見て新八はふと気付くがすぐに首を横に振る。

 

(いやまさかそんな筈ないかただの気のせいだよきっと、でも会長さんの事もあるし……いやいや)

 

頭の中に一つの仮説が生まれたがすぐに新八はそれを気のせいだと称してうやむやにする。

あくまでただの思い込みであってそれが真実だと証明する確かな証拠もない。

 

(不確かな事をこの場で言って深雪さんを不安にさせちゃダメだ、ここは一旦様子を見よう)

「だ、旦那! 俺ですよ俺! 敵じゃないですってば!」

 

新八が脳内に生まれた仮説を無理やり封印させている中、倒れていた蓮蓬が再びヨロヨロと顔を上げた。

 

「山崎です! 真撰組の密偵としてアンタ等万事屋と何度も顔を合わせていたあの山崎退です!」

「や、山崎さん!? ええそれってマジですか!?」

 

山崎と名乗った蓮蓬に向かって新八は先ほどの疑問もすぐに吹っ飛んでしまった。

彼の名を新八はよく知っていた。万事屋とは何度も衝突したり共闘したりした腐れ縁の警察組織。

あの真撰組の地味なりに優れた偵察能力を持つ山崎退の事だ。

 

「どうしたんですか山崎さん! もしかして蓮蓬と体を入れ替えられたんですか!?」

「ああその通りだよ、でもそこまで知ってるって事は連中の企み事も知ってるみたいだね……」

「はい、全部わかってます、僕等地球人と入れ替わって星を丸ごと奪おうとしてる事も」

「……」

「でも大丈夫ですよ山崎さん! 僕等で力を合わせればこれぐらいなんて事ないですから!!」

 

蓮蓬となってしまった山崎を元気付けようとガッツポーズをとる新八だが、山崎の方はそれを聞いても無言で立ち上がった。

 

「新八君、悪いけどそれが全部じゃない、連中の計画はそれだけじゃないんだ」

「……え?」

「俺もここ最近になってわかった事だ、それを今から見せてあげるよ」

 

そういって山崎はこちらに背を向けてついてこいという合図。

 

 

 

 

 

 

 

 

「連中の真の恐ろしさって奴を」

 

 

 

 

 

 

 



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第十七訓 反乱&謀反

 

『今日開店したホストクラブ行ってみる?』

『えー今日だったの? 行く行く超行くー!』

『髪伸びたからそろそろイメチェンしてみようかなー』

『髪の毛三本しか生えてないのにどうイメチェンするの?』

『お前俺のはじめの一歩全巻そろそろ返せや!』

『あれ100巻以上あるから持ち運べねぇんだよ!』

 

その空間は蓮蓬の星の中を6割は有するであろうとてつもない広さであった。

かつての薄暗い雰囲気とは違い上には明るく照らす太陽の様な光が差し、住宅施設の様な物が立ち並んで住民たちの生活を安全確保している。

そんな中を見渡す限りに謎の生物エリザベスそっくりな生き物がわんさかとひしめき合い、顔を合わせてプラカードで談笑しながら歩いていた。

 

「……どういうことですか山崎さん」

「見ての通り之が俺たち蓮蓬と入れ替わった連中達さ」

 

そんな光景をこっそり隠れながら眺めているのは志村新八、そしてそれに答えるのは先程出会った蓮蓬に体を奪われた真撰組の密偵、山崎退

 

「最近じゃどんどん増えてもう一つの都市と化して来ているんだ」

「いやまあ確かにこの大きさだと江戸ぐらいはありそうですが、なんでみんな普通にあんな体でまったりと日常ライフ満喫してんですか?」

「あれが入れ替わった連中の末路なのさ」

 

新八が見る限り体を奪われた連中はみな楽しげな様子で歩いており誰も自分の体が入れ替わってしまっていることに絶望さえしていなかった。

心の底からこの生活に満足してるかのように生きている住民達に新八は恐怖さえ覚えていると山崎が話を続ける。

 

「入れ替わった人間は気づかない内に徐々に精神を蝕まれ、最終的にはあんな風に蓮蓬の体として生きて行くことになんの疑問も持たないようになるんだ」

「え!?」

「自分が元人間だというのはしっかり認知してはいるんだけど、それでもこの体として、蓮蓬として生きる事に抵抗感も見せずに順応していくんだ。そしてやがてはこの星の支配者の傀儡と成り果て完全なる蓮蓬に生まれ変わる」

「地球に送られた蓮蓬の方はどうなるんですか?」

「僕等と違って何も変化しないよ、蓮蓬の心を持ったまま国を滅ぼす。つまり奴等にはなんのデメリットもないんだ」

 

ここにいる者全てがかつての人間の心を持ち合わせていながら蓮蓬として生きる事になんの抵抗もないだと? 信じられない事実に新八が目を見開くと山崎は静かに答えた。

 

「『人類蓮蓬化計画』、これが奴等の本当の狙いだったんだ」

「恐ろしいってレベルじゃ済みませんよそれ……そんな情報一体どこから手に入れてきたんですか」

「こんな体でも俺は真撰組の密偵だよ、情報収集ぐらいお手のもんさ」

 

そう言って山崎はグッと短い腕を上げる。

 

「でもまさかやっと情報を伝えれる相手を見つけられて良かったよ新八君。もうここにいる者のほとんどが蓮蓬として生きる事になんの躊躇もない、僕等人類を助けれるのは自分の体を持っている君達だけなんだ」

「でもなんで山崎さんはまだ自分を保ったままでいられるんですか?」

「精神の変化は個人差があるみたいでね」

 

自分の世界の人達が蓮蓬と化し、そして蓮蓬と入れ替わった彼等もまたいずれは蓮蓬の傀儡となる。どうやら事態は思ったよりも深刻のようだ。

 

「変化の兆しが見えるのに数日かかる者もいれば、1時間足らずで変化してしまう者もいるんだ。俺は幸運な事にその変化の進行が遅い方らしい」

「不幸中の幸いってやつですね、おかげで僕等も衝撃的な事実を教えてもらえましたし」

「でも俺もいずれはああなるのさ」

 

そう言って山崎は隠れながら街中を楽しげに歩いている連中を見つめる。

 

「だから俺が正気を保ったままこの事実を誰かに伝えたかったんだ。奴等は俺達に剣を抜く暇さえ与えず無血で星という名の城を奪おうとしている事をね」

「山崎さん……あ!」

「ん? どうしたの?」

 

入れ替わると精神が蝕まれいずれは抵抗感も失う……その現象と似たようなものをつい最近感じた事を新八は思い出した。

 

「なんてことだ、やっぱり深雪さんが徐々に銀さんみたいになってきてるのはこうなる事の予兆だったんだ……!」

「え! まさか旦那も入れ替わってるっていうの!?」

「ええ、と言っても山崎さん達と違って銀さんは実験台として異世界の人間と体を入れ替えられたんですけど」

「異世界か、俺達もここに来てからその存在をはじめて知ったよ。異世界の人間と体を入れ替えるか、まさかそんな事もやっていたなんて……」

 

驚く山崎に新八は説明を続ける。

 

「出会ったばかりは見た目は銀さんでもおしとやかで優しい性格だったんですけど、徐々に銀さんみたいに粗暴になってきたりたまに死んだ魚のような目になっていたりと違和感を覚えるようになってました。桂さんと入れ替わった会長さんも最初は……いやあの人は最初からなんかおかしかったっけ、個人差によってやっぱ変化に順応するのが早かったのかな」

「旦那どころか桂まで!? なんてこったもしそうだとしたら俺達の様になるのも時間の問題だよ!」

 

時間が経つに連れ本来の体の持ち主である坂田銀時に似てきた深雪。もしかしたらと新八が頭の中に秘めていた仮説はそこで初めて事実だという事に気付いたのだ。

入れ替わった人間同士、その体に適応していき性格までも変わってしまう。山崎の言う通りだと最終的には……

 

「このまま進行するとやがては旦那と入れ替わったその人物も旦那の様になってしまう、頭の中では違うとわかっていても坂田銀時として生きて行くことになんの抵抗感も失せてしまうんだ」

「そういや銀さんの方も達也さんの事をお兄様って普通に呼んでいた……アレが変化の予兆だとするとこのままだと銀さんは逆に深雪さんっぽくなってしまう!」

 

遂に山崎の言う蓮蓬の本当の恐ろしさの正体について突き止めた新八、両手で頭を抱えるとあまりの恐ろしさに絶句の表情を浮かべる。

 

「そうなったらもうどっちを銀さんと呼ぶべきか深雪さんと呼ぶべきかわかんなくなるよ! ただでさえめんどくせぇ連中なのにこれ以上めんどくさくなったら! 早く二人の体を元に戻さないと!」

「あれ? ところで新八君、その旦那と体が入れ替わった人は今どこに?」

「え?」

 

この事実を早く伝えないという所でふと新八は山崎に尋ねられた。

新八は周りをキョロキョロと見渡すがそこには自分と山崎以外誰もいない。

 

「ええ!? 勝手にどこいったんだあの人! 神楽ちゃんまでいないし!」

「なんてこった生身の体のままこの辺をウロつくのは危険だ! 本物の蓮蓬に見られでもしたら間違いなく捕まる! 侵入者なんだろ君達は!」

「急いで探さないと!」

「待って新八君! そのままの状態で探すのは自殺行為だ!」

 

慌てて二人を探しに行こうとする新八の肩を強く掴んで止める山崎。

 

「街中にいる可能性もある、ここは変装して周りに悟られぬ様にコッソリ探そう」

「ああそうか! 前に僕等が蓮蓬に乗り込んだ時も蓮蓬に変装して潜り込んだんだ! いや僕は吹き出物だったけど……」

 

かつてここに来た時も蓮蓬の格好になって内部から探っていく作戦を行っていた。

その時はあんまりな扱いを受けていたので新八にとってはぶっちゃけ思い出したくもない事なのだがそんな事言ってる場合ではない。

 

「てことは僕も蓮蓬に変装すればいいですね、いやー前は銀さん達のおかげで散々な姿にされたから最悪だったんですけど、今回はさすがに完璧に変装出来ますよね」

「それが今ちょうど持ち合わせがなくてね」

「え?」

 

嬉しそうにそう言う新八に対し、山崎がひょいと両手に抱えたのは

 

「白ペンキと黒マジックしか無いからこれでうまく変装してくれない?」

「……」

 

どこかで見た事のある二つの道具を見て、新八の目は一瞬にして虚ろになった。

 

 

 

 

 

 

数分後、新八は山崎と一緒に堂々と街中を歩いていた。周りの連中は彼が現れてもなんの警戒もせずに通り過ぎていく。つまり新八の変装は完璧だと言うことだ。

 

全身をくまなく真っ白にコーティングし、真っ白なブリーフだけを履き、メガネには二つの黒い点をマジックで書かれている。これだとどっからどう見ても蓮蓬と瓜二つ……

 

「なわけあるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

街の中心で新八は大きく叫ぶ。

 

 

「なんで誰も僕のこと怪しまないんだよ! また吹き出物としか認識されてないの!? 仮に吹き出物だとしてもなんで吹き出物単体で街中を歩いている事を受け入れてるんだコイツ等!!」

「新八君落ち着いて、そんなに叫ぶとバレるから」

「バレねぇよ! さっきからこうして歩いているのに誰も僕の事を怪しまないし! いっその事こいつ等はっ倒していきましょうか!?」

 

ブリーフ一丁で歩いてるのに誰も気付かない、というより存在そのものを認識していないのではないかというぐらいのスルーっぷりに間抜けな格好で新八がキレているのを山崎がなだめる。

 

「バレてないなら幸いだよ、さあ旦那達を探そう」

「わかりましたよ……しかし一体どこにいるんですかねあの二人……」

 

新八は辺りをうかがうがそれらしい人影は見当たらない、なにせ施設の中とは思えない広大な場所だ。何万、何十万人の人達が住んでいるこのスペースで一体どこから探せばいいのやら……。

そう思っているとふとこんな場所にとある店がある事に気付いた。

 

「パチンコ屋まであるんですかここ……ホント一体何の目的でこんなモンまで作ったんですか連中は」

「多分ここにいる連中が要望して建ててもらったんだと思うよ、そうやって望むものを与えて自分達は何も危害を与えるつもりはないとアピールしているんだ」

「だからって宇宙まで来てパチンコするような奴が一体どこに……」

 

呆れた様子で目の前に現れたパチンコ店に新八が顔をしかめながらふと店の中を覗いて見ると

 

「……山崎さん見つけました」

「え、何を?」

「宇宙まで来てパチンコ打ってるバカです」

 

死んだ目をした新八の視線の先には

 

 

 

 

 

 

 

新八が店内を覗いていると、周りの蓮蓬達がジャラジャラ音を出しながら白熱している中で、一人だけ銀髪天然パーマの頭をした蓮蓬がそこにいた。パチンコ台の前に座って死んだ魚のような目で画面を見ている。

 

「あ、連チャン来た、ヤベェですね当たり台確定ですわこれは」

「ユッキー箱持ってきたヨー、どうアルか酢こんぶと取り替えれるぐらいまで玉出たアルか?」

「大丈夫ですよ神楽さん、酢こんぶどころか毎日卵かけご飯食い放題ですよこんだけ出れば」

 

天パの蓮蓬の傍にチャイナ風のぼんぼんを頭に二つ付けた蓮蓬が玉を入れる為の箱を持ってやってきた。

 

「いやこれマジでヤベーですよ止まらねーですよ。もう終わらないんじゃすかこれ? ラオウまた昇天しちゃうんじゃないですかコレ?」

「ユッキーもうそろそろ行った方がいいかもしれないネ、きっと新八の事だから私達の事探してる筈アル」

「もうちょっとだけ待ってもらえません? 数時間ぐらい。もうこれ完全に幸運の女神が舞い降りてるんで絶対、もうコレ逃したら次は無いってぐらいフィーバーしてるんで。おおまたラオウやっつけましたよ! うっしゃぁぁぁぁぁぁ!!! もうこれ閉店までやるしかねぇぇぇぇぇ!!!」

 

再び連チャンが始まったのか思わず席から立ち上がって天に向かってガッツポーズを掲げるテンパの蓮蓬。しかし

 

「やるしかねぇじゃねぇぇぇぇぇぇッ!!!」

「はやみんッ!!」

 

そんな彼の頭上に店の中に入ってきた新八が思い切り踵落しを決める。

 

「なに世界の危機に敵の船でパチンコ打ってんだアンタぁ!! 完全に目的どころか自分さえ見失ってるよこの人!!」

「あれ? なんで白塗りブリーフになってんですか新八さん? よくそんな恥ずかしい格好でいられますね」

「うるせぇ! 今のお前の方がずっと恥晒してるよ!!」

 

頭押さえながら黄色いクチバシの中から顔を覗かせたのは坂田銀時。どうやら新八同様変装して上手く潜り込んでいたらしい。そして彼と一緒にいたぼんぼん付けたこの蓮蓬も。

 

「神楽ちゃん勝手に深雪さん連れ回さないでよ、この人実は思ったよりヤバイ事になってんだからね! 頭の方が!」

「神楽じゃねぇよ、グラザベスだヨ、私の吹き出物の分際で指図すんなコラァ」

「誰が吹き出物だ!」

 

グラザベスこと神楽に向かって新八が叫んでいると、一緒に店に入ってきた山崎が遠回しに銀時を観察する。

 

「どうやら思った以上に侵食してるみたいだね、ここまでいくといずれ旦那になるのもそう遠くは無い」

「どうすればいいんですか山崎さん! 早く対処しないと達也さんこれ見たら失神しますよ!」

「大丈夫だよ、まだ打つ手はある」

 

安心させるようにそう言って山崎はパニック状態の新八を落ち着かせる。

 

「新八君、俺達蓮蓬と入れ替わってしまった連中は三つの階層に分かれて隔離されている。上の階は完全に蓮蓬となってしまったもののいる階層、下の階はまだ自分でいられる者が収容されている場所、そしてここは三つの中の丁度真ん中、蓮蓬という体に徐々に適合されてきた人達がいる階層なんだ」

「え?じゃあまだ蓮蓬に染まりきってない山崎さんは何故ここに?」

「俺はスパイとしてここに送り込まれてきたんだ。情報を探ろうとしてたら偶然君達に会ったって訳」

 

周りに聞こえぬよう声を小さくしながら山崎は話を続けた。

 

「俺が本来いるべき場所はこの下、未だ自分の事を保っていられる者のいる階層だ」

「てことはこの下に山崎さんのように自分でいられる人達が集められてるんですね」

「ここよりずっと酷い環境だけどね、けどそこには新八君の味方になってくれる人達がいる」

「それって!」

「そう、俺達は蓮蓬の体になってもこの侍の魂だけは連中に消させない」

 

そう言って山崎はドンと自分の胸を力強く叩く。

 

「エレベーターに乗って下の階に行こう、そこには共に蓮蓬を打ち倒そうと虎視眈々と計画している反乱軍がいるんだ、無論そこには俺達真撰組もいる」

「反乱軍……!」

 

思わぬ所で見つけた頼もしい味方達。

 

体を奪われても心と誇りは譲らない

 

地球人の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、山崎と同じく蓮蓬と化した森崎駿に案内させられて司波深雪達はエレベーターの前へと来ていた。

 

「これに乗ればすぐです、司波さん」

「あちこち歩かせやがって、それにしてもなんでこんな蓮蓬の連中は見当たらねぇんだ」

「今はほとんどが地球に出払っているとかで、米堕卿の護衛をしている隊ぐらいしかいないんですよ」

「米堕卿ねぇ……ありゃ完全に殺った筈なんだけどな、しぶてぇ野郎だ全く」

 

エレベーター前で森崎がそんな会話をしているとチンと音を鳴らしてエレベーターのドアが開いた。

森崎の大きな体でも十分に入り、三人も後を追って中へと入った。

 

「米堕卿とかいうのがこの星で一番偉い人なの?」

「偉いっつうか星そのものだな」

 

ふと隣から尋ねてきた光井ほのかに深雪は簡単に説明する。

 

「米堕卿っつうのも実際はこの星の中枢システムのSAGIって奴の傀儡なんだよ」

「この星そのものと相手しなきゃならないんだ……」

「前もやっつけたし今回もなんとかなるだろ」

 

安直にそう答えているとほのかとは反対方向に立っていた北山雫はふとエレベーターの目的地がどこか見上げる。

 

「上の階に行ってる?」

「……」

 

顔を上げたままぼそっと尋ねる雫の声が聞こえなかったのか森崎は無言。しばらくして再びチンと音を鳴らしてドアが開いた。

 

「……着きました、僕等と同じく入れ替わった人達が収監されている施設です」

「おいおい、随分と薄暗い場所だな」

「なんか気味悪いね……」

 

森崎をエレベーターに残して深雪を先頭に三人はその施設とやらに入ってみる。

 

「チッ、ホント暗くて前が見えやしねぇ、おい、このまま奥行けばいいのかエロ崎」

「……」

「?」

 

後ろにいる森崎が尋ねても無言だったので深雪が振り返ろうとしたその時。

 

突如電源のスイッチが入ったかのように彼女達のいる場所が明るくなった、そして視界が晴れて見えたものは

 

「コレは!」

「変なのがいっぱい」

「どういうこと……!」

 

数十人はいるであろう武装した蓮蓬がいつの間にか自分達を取り囲んでいる光景だった。

皆銃口をこちらに突き付け、いつでも打てる構えを取っていた。

 

「……おいエロ崎、コイツはいったい何の真似だ」

「……」

 

振り返って深雪がドスの低い声で尋ねると、エレベーターから出てきた森崎は無言のまま懐から

 

 

『残念だったな反逆者よ』

 

取り出したのは会話を用いない蓮蓬が常備しているプラカード。

 

『我々は蓮蓬として生きる事を選んだ者達だ、ここに貴様等の戯言を聞くような愚か者はおらん』

「蓮蓬として生きる……?」

「……なんだか様子がおかしい」

 

先程までの様子とは打って変わった態度を取る森崎に深雪と雫が異変を感じていると。

 

「銀さん! 雫!」

 

前方を見ていたほのかが慌てて指を差す、二人はすぐにそちらのほうへ振り返ると。

 

取り囲んでいる蓮蓬の連中が空けていた隙間に、シュコーという音を鳴らしながら一人の真っ黒な蓮蓬が入ってきた。

真っ黒な体とマントと兜、それを見て深雪はハッとした表情で目を見開く。

 

「米堕卿……!」

「あ、あれが米堕卿!?」

 

現れたのは先程ほのかに話していたかつての支配者、米堕卿であった。

何の前触れもなしに突然現れた事に深雪とほのかが驚いていると、米堕卿もまた他の蓮蓬と同じくプラカードを取り出す。

 

『よく来たな、愚かな地球人共よ』

 

言葉を用いないが彼から発せられる威圧感は凄まじかった。

 

『せっかくの客人だ、盛大に歓迎してやろう。だがその前に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『降参か、死か、この場で選ぶがいい』

 

最悪な二者択一が深雪達に迫られる

 



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第十八訓 猿人&人猿

蓮蓬になってしまった山崎に連れられて、志村新八、神楽、そして刻々と深刻な精神浸食に犯されている坂田銀時は施設の内部にあったエレベーターを使って下の階へ辿り着いた。

 

薄暗くジメジメとした、まるで刑務所の中にでもいる様な嫌な雰囲気に新八は表情を曇らせる。

 

「華やかな上の階層と比べてこっちは随分と空気が重いですね……所々に牢屋があるしなんて酷い環境なんだ」

「蓮蓬と入れ替わった人間が最初に移送されるのはここなんだ」

 

石造りの床を歩きながら辺りを見渡している新八に隣から山崎が説明する。

 

「新八君の言う通りここの環境は酷いものさ、異世界の者同士が同じ牢屋に何人もぶち込まれているんだけど、彼等は生まれも環境も違うから価値観の相違が生まれてる。おまけにこんな酷い事態に巻き込まれて精神的にも参っているしね、そう言った事で罵り合いや喧嘩で絶えないんだ」

 

突然こんな場所に送られた上に自分達の世界とは異なる価値観。そこから亀裂を生み自分達の身体ではない事をいい事に殴り合いに発展する事もしばしばあるようだ。

山崎の説明を聞いて新八は不安そうな顔を浮かべる。

 

「本当にここに反乱軍なんているんですか? 確か異世界の者同士が手を合わせて結成したんですよね?」

「心配しなくてもいいよ、価値観の相違に機敏な者もいれば、それとは真逆の考えの連中だっている。ウチの局長を始めそういった連中も少なくないよ」

「近藤さんですか、確かにあの人はそういうの気にしなさそうですね、人の床下に潜んでストーカーする人間にまともな価値観があるとは思えないですし」

「うん、その件に関してはごめん……」

 

近藤勲、真撰組の皆に慕われる局長にして新八の姉、お妙のストーカーも行っている三十路手前のダメなおっさん。

彼もまた反乱軍の一人だと聞いて新八は皮肉を混ぜながらなるほどと頷くと山崎は謝りながら頷き返した。

 

「とにかくこの先を歩けば反乱軍の本拠地はすぐだ、蓮蓬達の目に入らない為に隠れ家を作ってるんだ。そこに行って新八君も一緒に僕等の作戦会議に参加しよう」

「そうですね、僕等も味方が大勢いてくれれば大助かりですよ。実はこっちも銀さんや他のみんなも本来の身体じゃないから凄い戦力が落ちてまして……」

「旦那か、確かに旦那のあの滅茶苦茶な強さがあれば心強いんだけど……今の旦那じゃ」

 

そう言いながら山崎はチラリと背後を振り返る。

そこには神楽と一緒に呑気に会話している銀時の姿が

 

「こんなにジメジメして薄暗いとその辺にキノコでも生えてそうですね」

「マジでか、私丁度お腹減ってた所だったアル」

「んなの食ったら間違いなく腹壊しますよ、決戦前にお腹ピーピーの状態でまともに戦えると思ってんですかコノヤロー」

 

徐々に銀時と化して来ている様子の司波深雪を見て。

山崎と新八はますます不安を募らせていった。

 

「早くしないと深雪さん本当に銀さんになっちゃいますよ……」

「そうだね、俺達反乱軍もそろそろ精神がマズイ状況にある。急いで決起してこの騒動に終止符を打たないと」

 

山崎も他人事ではない、彼もまた蓮蓬と体を入れ替えた身、いつ精神が浸食されて蓮蓬という身体を受け入れてしまってもおかしくないのだ。つまり体の中にいつ起爆するかわからない時限爆弾が設置されている様なもの、事態はそう長くする事は出来ない。

 

(山崎さんや深雪さんの為に、早く入れ替わり装置を破壊しないと……)

「こっちだ新八君」

 

頭の中で一層強く決意している新八の前で山崎は立ち止まると、しゃがみ込んで短い両腕を伸ばして石造りの床を持ち上げる。

すると簡単に床の一部分がパカッと開き、蓮蓬一人分が容易に入れる大穴がそこにはあった。

 

「俺が最初に梯子で降りるから、続いて3人共降りてくれ」

「地下の下にまた地下があるなんて、本当に隠れ家みたいですね」

「なんだかますます陰気臭くなりそうアルな」

「体にキノコでも生えそうですね、私あまり気が進まないんでここで待ってていいですか?」

「ぶっ飛ばしますよ、アンタ自分がヤバい状況だというの自覚あるんですか? このままだとダメなおっさんになっちゃうんですよ」

 

けだるそうに耳を指でほじりながら面倒臭そうにしている銀時を軽く叱りながら新八達三人は山崎に続いて更に地下へと続く暗い穴を梯子を使って下っていくのであった。

 

 

 

 

 

梯子を下りた先にあった光景を見て新八は驚愕した。

 

「な、なんじゃこりゃあ!!」

「おお! エリザベスが一杯いるネ!!」

 

 

円形に作られた古代の闘技場の様な空間。

周囲を取り囲む様に照明器具が設置されていてその内側にある観客席の様な所には大量の蓮蓬が座ってワーワーと騒いでいた。

これにはけだるさ全開だった銀時も思わず呆気に取られてしまう

 

「これみんな反乱軍ですか? 私の世界と新八さん達の世界の人達が混ざった……」

「ざっと300人ぐらいかな。ここまで集めるのに苦労したよ」

 

驚いている銀時に対して彼等より先に降りていた山崎が答えた。

 

「ウチの局長を筆頭に結成してね、心を支配されてかけているこの現状を打破する為に立ち上がった選りすぐりの先鋭達だよ」

「あなたの所の局長という御方はそんなに凄い方なんですか?」

「凄いというより無茶苦茶な人って言った方が正しいかな」

 

近藤の事を知らない銀時に山崎は簡単に答えると話を続ける。

 

「人の悪い所は見ずに良い所だけを見る様な人だから騙されやすい所もあるんだよ。まあ騙されても気にしない図太い性格な人でもあるんだけどね。そういう面白味のあるお人だから色んな人に慕われるのかも」

「そうなんですか神楽さん」

「騙されんじゃねぇぞユッキー、あんなのただのストーカーゴリラだからな。気にしない性格って事はどんな後ろ指差される行いをしようがお構いなしに相手に粘着してストーカーを繰り返す最低なゴリラだという事アル」

「いやストーカーの部分だけを掘り下げないで上げて! 他の部分も見てあげてよ!!」

 

せっかく持ち上げたのにそれを一瞬で蹴り崩す評価を下す神楽に山崎が必死に叫んでいると突然周りが一層騒ぎ始めた。

 

「うわ! 山崎さん随分凄い熱気ですねコレ! 僕等の事も気付いていないみたいだし何やってんですか彼等!」

「ああ、時間的にもうそんな頃か。あそこを見ればわかるよ俺達の局長がやってくるから」

「近藤さんが?」

 

山崎が差した方向は丁度円の中心、丁度観客席にいる自分達が見下せる戦いの舞台になりそうな場所であった。

新八が周りで騒いでいる蓮蓬達を尻目にその中心をジッと眺めていると人影がすっと現れた。

 

「そう、例えどんな体になろうと局長は局長のままなんだ」

 

現れた人影に対して山崎は強く頷く。

 

 

 

 

 

「例え見た目が完全にゴリラになろうと」

「ウオォォォォォォ!! やっぱりバナナは地球産が最高だァァァァ!!!」

「ってなんでゴリラになってんだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

黒い毛皮に覆われ完全にゴリラと化した近藤勲がそこにいた。

 

「なんで蓮蓬じゃなくてゴリラになってんだあのゴリラ!」

「いやそれが蓮蓬の奴等、自分達の前にゴリラで入れ替えの実験したらしくて……」

「なんでそこでゴリラチョイスしたんだよ!」

 

どうやら蓮蓬達は異世界の人間同士を入れ替えるだけではなく、念入りに実験しようと人間と動物の身体を入れ替える実験も行っていたらしい。

 

「それで近藤さんが選ばれるとかどんな奇跡だよ! いやそんな奇跡いらねぇよ!!」

「ゴリラがゴリラになっても何も変わらないアル」

 

ゴリラと化した近藤が胸を叩いて威嚇している様を目撃しながら新八と神楽が各々感想を呟いていると、そんな近藤の向かいにまたもや一つの人影が

 

「大丈夫だよ新八君、ゴリラになっても局長は局長だ、それに局長には頼もしい相棒もついている」

「相棒?」

「そう、あそこにいる……」

 

山崎が再び近藤のいる場所へ振り向き

 

十文字克人(じゅうもんじかつと)という異世界から来た頼もしいゴリラさ」

「近藤、今度こそお前のベルトと地球産バナナを頂くぞ」

「ってこっちもゴリラじゃねぇかァァァァァァ!!!」

 

これまた近藤よりもやや大きめのゴリラが胸を張って現れた。

十文字克人、新八達は知らないであろうが魔法科第一高等学校で七草真由美、渡辺摩利と並ぶ凄腕の魔法師だ。そんな彼もまたどうやら蓮蓬の魔の手から逃れられなかったらしい。

 

「しかもベルトを頂くとか言ってますよ! 一体この状況で何やってんですか!」

「局長が防衛するか十文字君がベルトを奪取して新チャンピオンになるか、どちらが天を掴めるか一世一代の大勝負を決めるタイトルマッチが今始まるんだよ」

「地球がヤベェ事になってるのに何やってんだあのゴリラ共!! バナナとベルトの前にテメーの体取り返せや!!」

 

二頭のゴリラがすっかり自分達が人間だというのを忘れてるかの様に戦ってるのを眺めながら新八がツッコミを入れていると、銀時もまた十文字の名を聞いてすぐに気づく。

 

「十文字先輩もこっちに……? あら? でも見た目そんな変わってないですね、私達の世界でも大体あんな外見してましたよ」

「ウチの世界のゴリラも一緒ネ、やっぱ一つの世界にゴリラ1匹は常識アルな」

「なに一家に一台みたいなノリで常識にしようとしてんの! ゴリラじゃねぇからあの二人!!」

 

自分の先輩がとんでもない姿になっている事にさえ驚く様子も見せなくなってしまった銀時。それに神楽も相槌を打っている中、新八は疲れ果てた様子でため息を突く。

 

「こんな反乱軍と手を組んで大丈夫なのか……」

 

そんな風に嘆いている間にも、沸き立つ観衆の中で二頭のゴリラはウホウホ言いながら暴れ回っているのであった。

 

 

 

 

 

一方その頃、坂本辰馬、もとい千葉エリカ率いる船の護衛班でもまたひと騒動起きていた。

 

「将軍様と達也の奴が姿を消した?」

「……おまけに拘束していた桂小太郎と真由美も消えたわ」

 

快臨丸の整備を陸奥とチェックしていたエリカの下に将軍護衛役の藤林響子が切羽詰まった表情で駆け込んで来た。

将軍二人と攘夷志士二人が忽然と消えた、これ等をまとめると結論は一つ……

 

「みんなで連れションにでも行っておるんじゃなか? 全くヅラの奴、そげならわしも誘ってくれれば良かったのに」

「撃ち殺すわよ! 完全に攫われたに決まってるじゃないの!」

 

見当違いな結論を言いながらヘラヘラ笑うエリカに響子は冗談でなく本気で彼を殺してやろうと脳裏に殺意が芽生えた。

 

「将軍様は正義感の高い御方、達也君は深雪さんの事を護る為に動きたかった筈。きっと桂小太郎は二人にうまい事たぶらかしてここの内部に連れ込んだのよ、隙あらば暗殺する為に……!」

「響子ちゃんは疑り深いのぉ、ヅラの奴だってさすがにこげな状況で将軍の首狙う余裕がない事ぐらいわかっておるじゃろ」

「坂本、おまんはあの長髪男と旧知の仲じゃからって甘か判断し過ぎじゃ」

 

明確な推理をする響子にそんな訳ないと笑い飛ばす甘い彼女に、隣にいた陸奥が口を挟む。

 

「こちらで至急手が空いてるモンを内部に送り込ませて追わせよう。こげな時に将軍の命まで危険に晒した上に蓮蓬の相手までするとなるとさすがに状況が厳しくなるぜよ」

「ええ、私もすぐに将軍様と達也君を探しに行くわ。それとこちらからももう一人……」

 

アホな艦長と違い事を重く感じた陸奥はすぐ様響子の要望に応えて誰かを送る事をする。

そして響子もまたある人物を将軍探しに協力させる事に

 

「……どうやら異世界の人間なんざに将軍様の御守りは荷が重すぎたみてぇだな」

「!」

 

その人物は既に彼女の横に立っていた。

マントと顔を半分隠す仮面をつけ、長い赤髪をなびかせ颯爽と現れると、すぐに蓮蓬の巣窟へ単独で駆けて行く。

 

「将軍様の身は俺が護る」

「待って! 迂闊に単独で行っては危険よ!」

 

一人勝手に行ってしまい、響子は叫んで呼び止めようとするもあっという間に行ってしまった。

 

「話の聞かない人だと思ってたけどまさかここまで……」

「今の者は誰じゃ、一見女の様に見えたが」

「体は女ですが中身は違うわ、坂本さん達と同じ入れ替わり組よ。某国の組織にいた所を将軍様が見つけてここまで連れてきたの」

 

陸奥の問いかけに響子は短絡的に答えると動き出した。

 

「私も武器を整え次第すぐに出るわ、こちらの護衛はあなた方に」

「ああ、手薄になるのはちと難ありじゃが将軍の救出が最優先じゃ。すぐに連れて来きてくれ」

「ええ」

 

母艦に戻って万が一の為に戦いの準備に赴く響子を見送ると、陸奥は顔をしかめる。

 

「全く地球の将軍様にも異世界のあの達也とかいう男にも困ったもんじゃき、こげな時に勝手な真似をしおって」

「アハハハハ! 心配せんでも達也なら大丈夫じゃきん!」

 

機嫌悪そうに文句を言う陸奥にエリカは相変わらず楽観的。

 

「実は達也がここでジッとできずに飛び出してしまうのもわかっておったんじゃ、アイツは妹想いの男じゃしの、今頃妹の所へすっ飛んで行ったんだじゃろうて」

「その程度の理由で飛び出したいうんか?」

「普通の人間にとってはその程度なのかもしれませんがの、達也にとっては」

 

 

 

 

 

「例え世界中を敵に回そうが護りたいモンなんじゃ」

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、その妹である司波深雪の身体は何処にあるのかというと

 

「だぁぁぁぁぁぁ逃げろ! 死ぬ気で逃げろォォォォォォ!!」

 

かつての級友森崎に騙されて上の階層に来てしまい、完全に蓮蓬と化してしまった元地球人達に追われている真っ最中であった。光井ほのか、北川雫と共に全速力で逃げながら、施設の内部を走り回る。

 

「ヤバかった! 囲まれた時はもう終わりかと思ったが!」

「ほのかの閃光魔法で目くらまししてくれたおかげで助かった」

「いや私の出来る限りの事をやったまでで……ていうかまだ助かってないし」

 

米堕卿率いる蓮蓬軍に囲まれてあわや蜂の巣にされかけていたその時。

機転を利かせたほのかが閃光魔法を用いて連中をかく乱させる事に成功したのだ。

そのおかげで群衆をかき分けてなんとかその場で殺されるという結末は免れたものの、未だ安心できる状況ではなかった。

 

「わ、私もう疲れて足が……ごめん二人共先に……」

 

段々疲れて逃げるのも諦めかけて弱気になっているほのかを見て、深雪と雫はすぐに振り返り

 

「自分を囮にして逃げろってさ、健気な奴だね全く。アイツの死を無駄にしちゃいけねぇな」

「ほのかは犠牲になったのだ、犠牲の犠牲に」

「そこはお前一人置いていけるかって展開じゃないのぉぉぉぉ!?」

 

捨て駒としてその場に置いて逃げようとする二人に物凄い勢いで追いつくほのか。

 

「薄情者! それでも友達なの!」

「肩掴むんじゃねぇ! テメェと俺はただのビジネス関係上の付き合いしかねぇよ! 友達!? 笑わせんな! たかが数日同じ学び舎にいた程度で銀さんと友達にになれるなんざ甘ぇんだよ!」

「ほのか、真の仲間ならそこで手を放して他者を護る為に犠牲になるべき」

「うるせぇみんな道連れじゃあ! 一人で死ぬのは絶対にイヤ!! 死ぬんならみんなで死のう!!」

 

死を決意した者の力とは思えない程二人の肩に指を食い込ませて引き留めるほのか。

こうなっては埒が明かないと深雪は「チッ!」と舌打ちをすると後ろに振り返り

 

「こうなったらいくら逃げても無駄だ! 俺達三人でアイツ等ぶっ飛ばすぞ!」

 

覚悟を決めて踵を返す深雪をスルーして、一人雫はサッと横を通り過ぎ

 

「じゃあ私は一人逃げるんで後よろしく」

「三人つっただろうが! お前本当に自由だな! ウチの世界でも中々いないよ!?」

 

頑なに逃げようとする雫を呼び止めて深雪は腰に差した木刀を抜く。

 

「この身体でどこまでやれるかわからねぇが一か八かだ、新生万事屋突撃だぁ!!」

「お、おー!!」

「アイアイサー」

 

突っ込んで来る蓮蓬の集団に対し三人は正面から迎撃する態勢に入った。

 

しかしそこで

 

『ぐわぁぁぁぁ!!』

 

と書かれたプラカードを持った蓮蓬の連中が突如隊列の後ろの方から盛大にぶっ飛んで行く。

 

「え?」

 

木刀を構えていた深雪が思わず呆気に取られていると次から次へとぶっ飛ばされていく蓮蓬達。

突然の背後からの奇襲に蓮蓬達は為す術なく宙を舞い、その勢いは止まる気配が無い。

 

しばらくして連中の群集を押しのけて二人の男がバッと彼女達の前に躍り出た。

 

「あら、こっちは銀さん達の方だったのね」

「出来れば深雪と合流して貰いたかったんだがな」

「お、お前等!」

 

現れたのは反乱の可能性ありと捕まっていた筈の七草真由美の魂を持った桂小太郎と、船の中で待機しておかなければならない人物である……

 

「どうやら深雪の身体で無茶しようとしていたみたいだが、俺の目が届く内はそんな真似は悪いが見過ごせない」

 

高貴なお姿で日本刀を携えて、徳川茂茂が颯爽とやって来たのだ。体は将軍ということは中身は……

 

「妹を護るのはガーディアンとしての俺の役目だからな」

「お兄様かよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

妹の身体を護るために

将軍の身体で敵陣に堂々と司波達也ここに降臨

 

 

 



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第十九訓 決起&援軍

「どうやら上手く撒けた様だ、しかし蓮蓬と入れ替わった地球人の末路があんな事になるとはな」

 

ここは蓮蓬の母星の上層階、徳川茂茂は桂小太郎と共に無事に司波深雪達を連れて敵から一時的に逃れる事に成功した。

 

「三人共、ケガはないか」

「いや俺達より……」

 

倉庫らしき薄暗い部屋に隠れると、安否の確認を取る茂茂に対し深雪はジト目を向けながら

 

「テメーの身体の方を心配しろ! 何こんな連中の巣窟に入り込んでだコノヤロー! 言ったよね俺! 将軍の身体傷付けない為にも隠れてろって! 俺がお前の代わりに妹の身体護ってやっからって言ったよね俺!?」

「悪いが深雪を護れるのは俺だけだ、アンタ等に任せる事は出来ない」

「任せる任せない以前にテメーの身体が誰なのかぐらいキチンと把握しておけハゲ!」

「ハゲじゃない、マゲだ」

 

茂茂より背が低い深雪は顔を見上げながら彼に向かって抗議するも茂茂の方は終始無表情。

全く聞く耳持たない様子の彼に彼女はギリギリと歯ぎしりしながら

 

(なんてこった……コイツまさかここまで妹に対して固執してたなんて……なんなんだよコイツ、どんだけシスコンなんよ。司波深雪もヤバいと思ってたけどコイツもヤベぇじゃねぇか、けど何故だ……)

 

内心ドン引きしていた深雪だったが徐々に体に思いもよらぬ変化が

 

(なんでコイツに颯爽と助けられてきてから体の中が妙に火照っててんの!?)

「やだ、顔赤いわよ銀さん」

「どうしたの?」

「あ、赤くなんてなってねーよ!」

「いや誰がどう見ても真っ赤なんだけど」

 

何故か無性に体温が上がっている事に深雪自身訳が分からない様子。

そんな彼女に桂と雫がキョトンとした様子で尋ねるが深雪は必死に否定するがどう見ても熱く火照っている。

 

「ちくしょうどうなってんだコレ……コイツが来たら色々とマズイってわかってるのに、何故かお兄様が来てくれて無性に嬉しいと思えて来ちまうこの感情はなんだ……!」

「銀さん、それはきっと恋だよ」

「お前いつの間に俺の背後に!?」

 

小声でボソボソと独り言を呟いていた深雪にそっと後ろから近付いて助言してきたのは光井ほのか、彼女は何故かこちらにグッと親指を立てて

 

「深雪がいない今がチャンスだよ」

「コイツだけ蓮蓬の所に置き去りにしとけば良かった、もしくはこの場で抹殺したい」

 

腹の立つドヤ顔を浮かべるほのかに深雪はイラッと来ながらそう呟くと、再び茂茂の方へ向き直る。

 

「おいお兄様、お前がいたら迷惑なんだよ。送ってやるからさっさと船に戻れ」

「ん? ここからどうやって引き返すというんだ、ここは上層部だ、連中が隠し持ってる物もあるかもしれないのに」

「じゃあそれは俺等でぶっ壊しておくから、ここで身を潜めて隠れててくれませんかね?」

「慣れないその身体でどう戦うというんだ、こっから出てもまた連中から追われ続けるだけだぞ」

「うっせーないいから隠れろって! 深雪さんはお兄様の身体が心配……は!」

 

将軍の身体ではなくその中にある司波達也の方の身を案じているような感情が芽生え始めていた事に気づき、突如深雪は部屋の壁の方に移動して腰を後ろに反らすと

 

「消えろ俺の中の司波深雪! 消えろ俺の中のこの感情! カムバック坂田銀時!!」

「銀さん本当にどうしたの?」

「自分の気持ちに気づいて銀さん!」

「お前頼むから黙れ300円上げるから!」

 

余計な感情を消し去るかのように壁に向かって何度も頭を突きつける深雪。

しかし不思議に思ってる桂と拳をグッと固めて謎のエールを送るほのかをよそに、茂茂がそっと背後から近づいて彼女を羽交い絞めにする。

 

「深雪の身体を傷つけないでくれと言っただろう、それにそんな音を立ててると奴等に気づかれるぞ」

「うるさいバカ兄貴! セクハラしないで下さい変態! 訴えますよ!」

「深雪じゃなくて別の人になってるような気がする」

 

茂茂に体を触らせてとち狂ったように叫びながらもがく深雪に雫が珍しくツッコミを入れていると、何やら深雪の様子に勘付いたのか茂茂は彼女から手を離してアゴに手を当てて観察する。

 

「どうやら入れ替わった地球人が本当の蓮蓬と同じ思想に染まった様に。深雪と入れ替わった彼も精神の変化が起きているらしい」

「ええ、そんな! てことは私も!?」

 

冷静に状況を判断して見事な分析能力で原因を弾きだした茂茂。

そんな彼の言葉を聞いて桂は真っ青な表情で頭を両手で押さえて

 

「てことは私もいずれ桂さんの様に国家転覆を狙う恐れ多いかつ崇高な志を持った素晴らしき攘夷志士に成り果ててしまうというの!?」

「安心して下さい、七草会長はもうとっくに引き返せない所まで堕ちてます。もはや俺の知る会長は死にました」

 

静かにツッコミを桂に言った後、茂茂は考える。

 

「七草会長といい精神の変化にはそれぞれ個人差があるようだな」

「じゃあお兄さんは大丈夫なんですか?」

「俺はまだ大丈夫の様だ、強いて言うなら向こうの世界に置いて来た将軍の妹の事が少々心配になっているぐらいだな」

 

心配するほのかに茂茂は優しく答える。確かに彼自身も自覚していなかったが微量な変化があった事に気付いた。どうやらこの入れ替わり現象、一筋縄ではいかないらしい。

 

「しかしこのままだと身体に精神を乗っ取られ完全に徳川茂茂になってしまうかもしれない。そちらもな」

「誰がテメェの妹になんざ成り果てるか! 俺は坂田銀時だ! 誰の色にも染まらねぇ!!」

 

話を振られ、ムキになった様子で答えながら深雪は茂茂にチッと舌打ちする。

 

「時間がねぇって事ならここで不毛な争い続けている訳にはいかねぇ、仕方ねぇから俺についてくる事を許可してやるよお兄様」

「元よりそのつもりだ、それより入れ替わり装置が何処にあるのか当てがあるのか」

「あ? ねぇよそんなの」

 

手に持った木刀で自分の肩をトントンと叩きながら深雪はニヤリと笑う。

 

「こちとら何事もその場その場の土壇場勝負よ、場所がわからねぇなら敵に聞けばいいんだよ」

 

そう言いながら深雪はふと一つ気になった事があった。

 

「そういやお前、どうやって坂本達を出し抜いてここまで来たんだ」

「ああ、桂さんと七草会長が上手く手引きしてくれたおかげだ」

「ヅラとコイツが?」

 

ここまで来れた経緯を茂茂から聞いて深雪は口をへの字にして桂の方へ振り向く。

 

「てことはコイツ等100%何か企んでやがるな」

「フハハハハ! 何を言うんですか銀さん! このような非常事態となれば攘夷志士も将軍も関係ありません! 仲良く手を取り合って奴等に天誅を食らわせましょう!!」

「おいお兄様、コイツには絶対隙見せるなコイツ喋り方まで段々ヅラになってきてるから。もう完全に攘夷志士だから寝首掻かれるぞ、なんなら今の内に殺した方がいいんじゃねぇか?」

「わかってる、アンタ達の世界から出発する時点で七草会長はもう俺の知ってる人ではないとしっかり理解しているからな」

 

高笑いをしながら豪語する桂だが深雪と茂茂は全く信用していない様子。

 

かくして多少の不安要素はあるものの、深雪達一行は将軍と裏切り要員を連れて上層部の探索を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

その頃、本物の将軍である方の司波達也はというと、本物の攘夷志士である方の七草真由美と共に中層部の奥へと進んで行っていた。

 

「見ろ桂、この辺には敵らしき者達が見当たらない。奥へ進むべきだろうか」

「案ずるな将軍、きっと蓮蓬の者達はランチタイムなのであろう。さあこの隙に奥へと進んで装置を破壊しに行こうではないか」

「うむ」

 

蓮蓬軍の姿が無い今を好機と捉えて真由美は達也をどんどん奥へと進ませ自分も後に続く。

 

「達也殿が妹を護る為に向かっていった、ならば我々も我々の目的を果たさねばならぬ、こちらの世界も負けじと向こうの者達に遅れを取ってはいかぬからな」

「さすがは俺達の国の将軍だ。その勇気を賞賛してこの桂小太郎、地獄の果てまでついて行ってやろう」

 

調子の良い事を言いながら達也をさらに人気の少ない方向へ誘導させていく真由美。背後か彼の後をついて行く彼女の表情には不敵な笑みが

 

(クックック、愚かなり将軍。達也殿はともかく貴様であれば容易に討ち取れる事ぐらい既に我々攘夷志士は見切っている、達也殿を真由美殿の協力で分断させたのも狙いの一つよ。誰もいないこの階層で事故死を装って葬ってくれるわ……)

 

彼女の狙いは地球を飛び立つ前からずっと実行しようとしていた将軍の暗殺。やはりまだ諦めていなかった様子で彼等を上手く口車に乗せて(少なくとも本人達はそう思っている)、皆がいない所で将軍を謀殺しようと企んでいたのだ。

 

「背中が隙だらけだぞ将軍……覚悟!」

 

こちらに背を向け進んでいく達也に向かって、手首にはめたCADが正常なのを確認して魔法式を展開しようとする真由美、だが

 

「くおらぁ! 何やらかそうとしてんだ貴様ァァァァァァ!!!」

「どぉふぅ!!!」

 

背後からの突然の奇襲。真由美の後頭部に飛び蹴りをかまして彼女を前のめりに床に激突させた。

それは陸奥から要請を受けて将軍と攘夷志士の追跡を行っていた

 

「今将軍に向かって何をぶっ放そうとした桂ァ!!」

「あれ? どうしたのだ摩利殿、こんな危険区域まで来ては危ないではないか」

「そんな危険地区に狡猾に将軍をノコノコ連れて行ったのはどこのどいつだ!!」

 

後頭部を押さえながら上体を起こしてこちらに振り返って来た真由美に叫んだのは蹴りを入れた張本人である渡辺摩利だった。

どうやら船に桂と真由美がいない事を知ってすっ飛んで来たらしい。

ゼェゼェと荒い息を吐いている所から察するに相当走って来たのだと思われる。

 

「なんなんだろうなお前は……むしろそこまでして空気を読まずに将軍の命を狙おうとする所を逆に褒めてやりたい気分だよ」

「ハッハッハ、俺が何か良からぬ事でも企んでる様に見えるか摩利殿。俺はいつだって世界の為に一生懸命働いてるだけだぞ」

「世界の為とか都合の良い事言って……もうとっくにネタは上がってるんだからいい加減認めろ。それとお前の身柄は事が解決するまで船の倉庫に閉じ込める事が決定したぞ」

 

しらばっくれて上手く逃げようとする真由美だが摩利はあからさまに怪しい彼女を見逃さない、そして彼女が半ば拉致してこんな所まで連れ込んだ達也の方へ振り向き

 

「無事ですか将軍!」

「うむ」

 

やってきた彼女に達也が短く返事するとか摩利はとりあえずホッと胸を撫で下ろす。

 

「それなら結構ですがご自分の身をご理解して下さいよ。今頃貴方のお付きのボディガードも必死に探しているでしょうし。この様な所にまで迂闊に出歩いてはいけない方なんですよ貴方は」

「その事に関しては本当に済まないと思っている、そなた等の目を掻い潜ってこの様な真似をした事は後に全身全霊を持って詫びようと思っていた。だがそれでも理解してほしい、ただの置き物としてでなく余は一人の将として自らこの戦に参加したかったのだ」

 

彼女に対して深々と首を垂れると、達也は決意の込められた目で顔を上げた。

 

「この身体となってから様々な場所を旅した故にであろうか、二つの世界が共に手を取り合って挑むこの戦いを黙って見ている事などやはり出来ぬ。目の前で仲間達が死ぬかもしれない戦地に赴いている中でのうのうと生き延びようとなど、その様な重荷を背負う程の覚悟は持ち合わせておらぬ」

「……いずれそういう時が来る可能性があるんです、貴方はそういう身分に置かれている御方なんですから」

「余の首を狙いに来る者は決して少なくないからな、この先いつか桂か高杉か、死闘を繰り広げる大戦が待ってるやもしれぬ」

 

自分の行いがどれだけ愚かなのはわかっていた。大将首自らこの様な場所にまで出ているなど愚策もいい所だ、だがそれでも”司波達也の身体”だというのが影響しているのか。

今の将軍、徳川茂茂は妙に頑固になっている事が摩利にも見て取れた。

 

「だがその前に、この戦いにだけは参加させて欲しい、願わくば一人の将としてこの戦の終末を見届けたい」

「将軍様……」

 

もはや言っても聞かぬ様子、摩利はどうすればいいのかと困惑した様子で神妙な面持ちでいると

 

背後からコツコツと足音が聞こえて来た。

 

「どうも~」

「!」

 

不意に聞こえた呑気な声に彼女と真由美はバッと反応して達也の盾になるように身を翻す。

そこに立っていたのは

 

「初めまして異世界の人達~、ようこそ悪の巣窟へ~」

 

わざとらしく丁寧に彼等に向かって自己紹介したのは

 

「俺は宇宙海賊春雨の第七師団団長の神威」

 

 

宇宙海賊の幹部にして神楽の兄である神威であった。

 

「ああ大丈夫そんな警戒しなくていいから、俺はね、今からアンタ等を始末しようとか全然考えてないから、むしろ……」

 

そして笑顔を浮かべながら彼は早速警戒している様子の3人を見渡すと静かに歩み寄り始める

 

だが

 

「!!」

 

神威が彼女達に歩み寄ろうとしたその瞬間。

 

突如彼の首筋目掛けて鋭い刃がどこからともなく飛び出して伸びてきた。

 

「うおっと」

 

自分に向かって振るわれたのは一本の刀、そう認識したと同時に神威は上体を逸らしてギリギリ回避してバックステップ。

 

「やれやれ、まだやりあうつもりはなかったのに」

 

呑気にそう呟きながら神威はヒラリと真由美達から距離を取った。

彼と彼女達の間に突如現れた人物と対峙する様に。

 

それは赤い髪とマントをなびかせ、右手には日本刀を握る仮面をつけた人物。

鋭い眼光を仮面の奥から光らせ、将軍である達也を護らんが為に現れたその者を見て、摩利は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「……お前は、私達の味方か?」

「……勘違いすんな、俺はテメーの職務を全うする為に来ただけだ、俺はただの……」

 

神威に対して刀を突き付けたまま、こちらに振り向かずぶっきらぼうに仮面の人物は答える。

声からしてまだ若い少女の様にも聞こえる。少なくとも摩利達とはさほど年の離れて無さそうな感じ、しかしその喋り方はまるで数多の戦いを生き抜いてきた猛者の様に冷たく、力強い響きがあった。

そして彼女達に背を向け、仮面の少女はしっかりと目の前の脅威を見据えながら

 

「通りすがりのお巡りさんだ」

 

そう短く呟くと床を蹴って神威目掛けて飛び掛かるのであった。

 

 

 

 

 

達也達と謎の仮面少女が宇宙海賊の幹部と鉢合わせしてる一方では。

地下層にいた新八達は思わぬ助っ人である近藤勲率いる反乱軍と会合をしていた。

 

「そうか、まさか新八君達が俺達の為にこんな所まで来てくれていたなんて。あれ? てことはお妙さんもここに!?」

「来てないですよ」

「セーフ!!! 良かった! こんな身体になっちまった事を見られるのかとヒヤヒヤしたぜ!」

「いやビフォーもアフターもそんな変わってないですから心配しなくていいですよ」

 

上機嫌な様子でウホウホと叫ぶゴリラを前に新八は冷たくツッコミを入れる。

この目の前で毛深いゴリラこそその近藤勲その人だ。他の人と違い彼は何故かゴリラと体が入れ替わってる状態に

 

そして腰にチャンピオンベルトを巻いたもう一頭のゴリラがスッと腕を組みながら現れる。

近藤と同じくゴリラ被害者の一人である十文字克人だ。

「お妙というのは、近藤。お前が生涯愛し続けると誓った妻の事か?」

「おいクソゴリラァァァ! アンタ異世界の人になにウソ八百教えてんだコラ! いつウチの姉上がテメェの所に嫁いだぁ!!」

 

ゴリラなのに腕を組みながら落ち着いた風格と知的な雰囲気を醸し出す十文字。しかし近藤から下らぬ嘘を教え込まれていたらしい。

 

「なんだ貴様ぁ! まさか俺のベルトだけでなくお妙さんまで奪うつもりか! ベルトは奪われてもそれだけは絶対に許さん! もし奪い取るというのならもう一度俺と戦え!!」

「ハナっから姉上誰の者でもねぇよ!!」

「思い違いだ、俺はベルトを賭けて死に物狂いで戦えた強敵であるお前の強さの根源とやらを知っておきたいと思っただけだ」

 

ムキになって胸を叩いて威嚇する近藤に対し十文字は微動だにせずに口だけを動かす。

 

「それにしてもベルトよりも女が大事か。どうやらお前はまだまだ俺に対し本気を出していなかったようだな。ならば俺は俺の道を究めて再び相見えようか」

「さっきからこっちのゴリラやたらと喋り方カッコいいんですけど、ウチのゴリラと全然違うよ、声もイケメンだし……」

「心外だぞ新八君! ゴリラにカッコいいなんていらないんだ! 自然体でいる事こそゴリラなんだ! 俺なんかもう的確に人の顔面にウンコ投げる事だって出来るぐらいゴリラなんだぞ!!」

「ゴリラになれた代わりに人間としての尊厳を失いかけてるんだよアンタは、もう一生そのままゴリラとして生きていて下さい」

 

ゴリラの身体の影響で精神が浸食されている事に気づいていない様子の近藤に新八がツッコミを入れている中、十文字は新八達と同行していた坂田銀時の方へ振り返る。

 

「そちらの話は大体は聞かせてもらった。このしまりのない顔つきの男の中に俺の知る司波深雪の魂が宿っているのだな」

「そうです、私が司波深雪です」

「……司波が志村けんみたいな喋り方したのは気のせいか、言い方が変なおじさんと瓜二つだったぞ」

「気のせいじゃないネイケメンゴリラ」

 

入れ替わっているというのが本当なら銀時の中にいるのは自分が知っているあの司波深雪の筈。だが出会ってのっけからいきなりボケをかましてきた彼に対して十文字が少々困惑していると、銀時の隣にいた神楽が説明してあげる。

 

「ユッキーは今段々銀ちゃん化してきてるアル、このままだとどんどん深刻化して来て、終いには人前で堂々と鼻の穴に指突っ込んでハナクソほじり出す最低なおっさんに成り果てるんだヨ」

「恐ろしい事態だ、司馬達也がこの現状を見たらさすがに動揺は隠せないだろうな」

「何言ってんですか私のお兄様がこの程度の事で動揺する訳ないじゃないですか、寝言は寝て言えやこのゴリラ、壁にウンコ投げてろ」

「……本当に恐ろしい事態だ」

 

けだるそうにこっちを睨み付けながら彼女であれば絶対に言わないであろう台詞をなんの躊躇もなくぶつけて来る事に、十文字はますます心配になって来た。

 

「どうやら一刻も早くこちらも動かねばならん様だな、近藤」

「ああ、二つの世界の為、そして何よりお妙さんの為に俺達の身体を取り戻さねば」

 

十文字に促されて近藤は頷くと、毛深く太い腕を掲げて声高々に

 

「行くぞ野郎共ぉ! 今こそ俺達反乱軍が奴等に一泡吹かせてやろうじゃねぇかぁ!!!」

「「「「「おー!!!!!」」」」」

 

周りにいる蓮蓬達に向かって決起の合図を放つと皆一斉に立ち上がり、この時を待っていたと言わんばかりに咆哮を上げる。

 

正面衝突による戦いは近い。

 

 

 

 

 

と思いきや

 

「「え?」」

 

突然ゴリラ二人の頭上の天井がピシリとヒビが走ったと思いきや

 

激しい音を立てて一気に崩れ落ちてきたではないか

 

「「ぐおはぁぁぁぁ!!!」」

「ギャァァァァァ!! 今から戦いが始まるってタイミングで速攻大将格二人潰されたァァァァァ!!!」

 

ピンポイントに近藤と十文字目掛けて落ちた天井の瓦礫。

あまりにも突然の出来事にあっという間に潰されてしまった二人に驚いて飛び退く新八。

 

しかし新八は更に驚く事になる。

 

いきなり崩れ、落ちて来たその瓦礫の山の上にスタッと突如ある人物が落ちて来た。

 

「あり~? なんかきな臭いと思ったら化け物共がわんさかといるじゃねぇか、なんでテメーの巣窟なのにこんな所でコソコソと隠れてやがったんでぃ?」

「ってあれぇぇぇぇぇぇぇ!? あ、あなたは!!」

 

その者は自分達の世界にある江戸で見慣れた黒い制服を着た若き青年。

内面の腹黒さとは対照的に甘いフェイス

栗色の髪、仏頂面、腰には自慢の刀を差したその人物の名は

 

「お、お、お、沖田さぁぁぁぁぁぁぁん!?」

「あ、こりゃ旦那達じゃねぇですか。奇遇ですねこんな所で会うなんて」

 

現れたのは何を隠そう新八達の世界で泣く子も黙る警察組織、真撰組として活躍していた一番隊隊長・沖田総悟であった。

 

こんな辺境の宇宙でいきなり現れた事に新八が声を上げておったまげてる中でも、相変わらずすました顔で新八達万事屋に挨拶。

 

「つっても俺等はおたくらが乗ってた船にコッソリ入り込んでた口なんですが、そうですよね土方さん」

「フン、テメェ等バカ共の行動はお見通しだ」

「そ、その声はまさか!」

 

そして今度は彼の背後からまたしても意外な人物が……

Vの字ラインの前髪をなびかせ、沖田の背後からゆっくりと現れたその人物。

真撰組の頭脳・鬼の副長と呼ばれ敵だけでなく味方からも恐れられる……

 

「この鬼の副長である土方十四郎がおいそれと見逃すと思ったら大間違いだぜ」

「だぜ!?」

 

真撰組のナンバー2、土方十四郎ここに推参?

 

 



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第二十訓 秘密&判明

前回のあらすじ

ゴリラ2匹が潰れて代わりにドSのお巡りさん・沖田総悟が土方十四郎と共に銀時達の前に現れた。

突然の出来事と突然の出会いと突然の悲劇に銀時達を代表して志村新八が驚きつつやっと口を開く。

 

「真撰組が僕らの目を掻い潜ってコッソリ同行していたなんて……事前に言っておいてくださいよ」

「サツの俺等が攘夷浪士共と手を組んで戦うって訳にはいかねぇんでね」

「将軍と攘夷志士が手を組んでるんだから今更じゃないですかね……」

「ま、潜入捜査みたいなもんだから。俺等の事は気にせずおたく等はおたく等だけでこの危機的状況をなんとか打破する手筈でも整えているんだな」

「いや今さっきアンタのせいで危機的状況に陥っているんですけど……」

 

勝手な事を言う沖田だが新八はふと彼の足元に目をやる。

彼が先程足を置いている瓦礫の下には、彼の上司である近藤勲と異世界組の十文字克人が……

 

「それに来てくれたんなら僕等にも力貸してくださいよ、今こっちは滅茶苦茶ヤバい事になってんですから。特にウチの万事屋のリーダーが大変な事に……」

 

新八がふと背後にいる銀時の方へと目配せすると沖田は目を細めて彼を観察する。

 

「おおよその事はこっちも把握しているぜぃ、どうやらここにいる旦那は異世界とかいう所の小娘の魂が入り込んでいて、旦那の方はその小娘の体乗っ取ったとか、体の中から操るたぁさすがは旦那、俺も真似出来ねぇ調教テクニックだ」

「何ジロジロ見てんですかコノヤロー、初対面でいきなり人のツラ見ながらなにブツブツ呟いてんですかコラ セクハラで訴えますよ? そして勝ちますよ?」

「あり? もしかして旦那元に戻ってる?」

「沖田さん違います……なんといいますか、どうやら体の入れ替わりが長引くと魂に影響を及ぼすらしいんです……」

 

こちらを見て来る沖田に銀時はガン付けながらけだるそうな声を上げる。

いよいよ本格的にヤバくなってきている気がする、新八は徐々に本物の銀時の様な感じになっている司波深雪に危機感を覚えながら沖田の方に再度首を戻した。

 

「という事でウチのリーダーもこんなんなっちゃったんで協力してもらえませんか? 他にも異世界組と僕等の世界の面子が集まっているんですが、大概ポンコツ揃いで」

「確かに今の旦那じゃまともな戦力になりそうにねぇしな、どうしやす土方さん?」

 

そう言って沖田は背後に立っていた上司である副長・土方十四郎に言葉を投げかける。

真撰組の頭脳とも称される彼ならばこの状況下でも最良の手を下せる筈。

すると土方はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らすと

 

「そこの銀髪は見てるとムカムカするから斬った方がいいんだぜ」

「そうですかぃ、んじゃ今の旦那は足手まといにしかならないという事でここで死んでもらうという事で」

「なんでだよ! ってあれ? ちょっと待ってください、何か土方さんおかしくないですか?」

 

アッサリとした土方の判断に沖田がすぐに了承したかと思えばすぐ様身を乗り上げる新八。

 

「喋り方に違和感があるというかなんというか……」

「おいメガネ、この土方さんに対して歯向かうつもりかだぜ」

「そうだよ、ほら土方さんも言ってんだろ、副長命令だから仕方ねぇんだよ」

「いやいやいや! やっぱさっきからなんかおかしくありませんか!?」

 

叫びながら新八は沖田の後ろに立っている土方に指を突き付ける。

 

「さっきから語尾に「だぜ」とか付けたり変だとは思ってたんですけど! なんかいつもの土方さんらしくないんですけど! アンタ本当に土方さんなんですか!?」

「何言ってんだ俺は正真正銘土方君なんだぜ、そうだよな沖田君」

 

自分を親指で指さしながらドヤ顔でそう言い切る土方に沖田も無表情でコクンと頷く。

 

「そうですぜ土方君、アンタは唯一無二の土方君でさぁ。うわこれ完璧に土方君だわ、手のつけようのない完全な土方君だわ、誰が何と言おうとパーフェクト土方君だわ」

「な? 部下が言っているのだから確固たる証拠だぜ、これでわかったのぜ?」

「のぜ!? そんな無理矢理語尾付けなくても! 土方さんのキャラ絶対把握できてないでしょ! ぜってぇコレ土方さんじゃないよ!」

 

疑惑は徐々に確信に変わりつつある、新八はこのあからさまに偽物っぽい土方に一気に詰め寄った。

 

「明らか誰かと入れ替わってるよ絶対! きっと会長や深雪さんと同じ入れ替わり組だって! 誰なんですか一体!?」

「俺は誰とも入れ替わってないんだぜ」

「そうそう土方さんは誰とも入れ替わっちゃいねぇよ、付き合いの長い俺が言うんだから間違いねぇって」

「いや沖田さんアンタ絶対わかってるでしょ! なんなんすかアンタ! ひょっとして遊んでる!? 」

 

あくまでシラを切る土方(?)とそれに対してすっとぼけてる様子の沖田。

この二人どうも怪しい……新八が怪訝そうな表情を浮かべていると沖田の足元にあった瓦礫の下から小さく物音がしたと思うと

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!! ゴリラナメんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

下敷きにされていた2頭の内のゴリラ(恐らく近藤勲の方)が勢いよく飛び出てきた。

伊達に真撰組として長く修羅場を潜り抜けてきた猛者だけあってあっという間に復活し、すぐに周りを見渡して沖田と土方を見つける。

 

「おおトシ! 総悟! もしやお前達俺を探す為にわざわざこんな所まで来てくれたのか! さすがはお前達だ! 真撰組バンザーイ!!」

 

長く別れていた同志との再会に喜ぶ近藤。たとえこんな身体になっていてもなお自分の下に駆けつけてくれた事に感激して涙を流す。

 

しかし沖田と土方は冷めた表情で顔を合わせ

 

「土方さん、なんですこの馴れ馴れしい人語を話す不思議ゴリラは?」

「この真撰組副長である土方君に対してふざけたゴリラだぜ、斬っちまうんだぜ」

「へーい」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!! 待て待て待て!! 俺だよ俺!! お前達の大将の近藤勲だよ!!」

 

冷静に自分に対して刀を抜こうとする沖田に、慌てて両手を突きだして必死に自分の名前を名乗る近藤ゴリラ。

 

「もうなんだよ~姿形が変わっても俺の事ぐらいわかるだろ~同じ釜の飯を食った仲じゃねぇかよ~。冗談きついぜ全く~大将にいきなり斬りかかろうとするなんて~」

「何言ってんでィ俺達真撰組の大将はいつだってたった一人だ、ここにおられる方こそ俺達の大将だぜ。そうですよね」

「……え?」

 

おもむろに沖田が後ろに振り返るとそこからヌッと現れたのは彼等と同じく真撰組の制服を着た黒くて毛深い……

 

ゴリラ

 

「ウホ」

「ほら見ろ、ここにいる人こそ正真正銘本物の近藤さんでさぁ」

「いやそれゴリラじゃねぇかァァァァァァァ!! なんでぇ!? なんで俺の身体完全にゴリラになってんのぉ!?」

 

姿形全く今の自分と変わらぬ姿をしているゴリラがそこにいた。自分と入れ替わったのがゴリラだというのは大体見当ついていた、しかし自分の元の姿は変わらぬと思っていたのだが……

 

「新八君どういう事コレぇ!? 俺の元の身体完全にゴリラになってるよ!? パーフェクトゴリラだよ!? 入れ替わるのは魂だけじゃないの!? もう俺の元の体どこにもなくなったの!? どう足掻いてもゴリラなの!?」

「僕だってわかりませんよ! もしかしたら入れ替わりの影響で近藤さんの体がゴリラの魂に浸食されて何かしらの変化が起きたとか!」

「イヤだぁぁぁぁぁぁぁ!! このままだと入れ替わってもゴリラのままじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!! つーかどうしてアイツ等俺の身体の変化に気付いてねぇんだよ! 総悟! トシ! 俺が本物の近藤勲なんだ! 信じてくれ!」

「んー確かにこっちのゴリラも近藤さんっぽいような……」

「こっちのゴリラって事は完全にそっちもゴリラだと認識してんじゃねぇか!! 遊んでる!? もしかして総悟君遊んでるこの状況で!?」

 

どうやら近藤とゴリラの入れ替わりには何かしらのイレギュラーが発生してしまったらしい。これには新八も理解できないし、恐らくこの現象について詳しく知っているであろう蓮蓬の連中もわからないかもしれない。

両者完全にゴリラの体に成り果ててしまい深く悲しむ近藤であるが、とにかく自分が本物の近藤勲であることだけでも証明しようと沖田に向かって涙目になりながら叫ぶ。すると沖田は小首を傾げてジト目を彼に向けながら

 

 

「まいったねぇどっちが本物の近藤さんか見分けつけねぇから本当なのかどうかわからねぇや、近藤さん元から見見た目ゴリラと瓜二つですし」

「ウホ」  

「ああすいやせん近藤さん、近藤さんは立派な人間です、俺が保証します」

「いやそっちモノホンのゴリラだからね! 近藤さんこっち!! てか意思疎通出来んの!?」

 

毛深き野生の獣人の屈強な肩に手を置いて微笑む沖田に後ろから近藤が必死に叫んでいると彼の隣からヌッと大きな人影、否、ゴリラの影が勢いよく飛び出す。

 

「近藤、どうやらそちらでは大変な事が起こっている様だな、俺で良ければ力を貸すぞ」

「おお俺の事を近藤勲と認めてくれる数少ない人がここに!」

「人じゃなくゴリラですけどね……」

 

近藤と同じぐらい屈強で毛深いゴリラになってしまっている十文字克人。

喜ぶ近藤を尻目に新八がボソッとツッコんでる中、沖田は首を傾げて十文字を眺める

 

「うわ、またゴリラ出てきましたぜ、参ったなこれじゃあどれが近藤さんかわかりやしねぇや」

 

そう言って沖田はポリポリと後頭部を掻きながら自分の隣にいるゴリラと目の前にいる二匹のゴリラを見比べた後、軽くため息を突き

 

「もう全員近藤さんでいいか、めんどくせぇし」

「いやそれはダメだろ!」

「だってゴリラなんて大体近藤さんみたいなモンだろ」

「沖田さん真面目にやってくださいよいい加減に!!」

 

考えるのも面倒臭くなったのか、ゴリラ=近藤勲という安易な結論を導き出す沖田にすかさずツッコミを入れる新八。

 

「さっきからふざけ過ぎですよ! 土方さんもああだし近藤さんもゴリラになってるんだからアンタも本当は気付いてるんでしょ!!」

「何言ってんでぃ俺はいつだって大真面目だ、なあ土方さんに近藤さん」

「そうだぜ、沖田はいつも真面目にやっているんだぜぃ、組織を裏切ろうとするクズ共とは大違いなんだぜ」

「ウホホホ、ウホホ、ウホッホッホ」

「ほら」

「そいつらの意見なんか信用できるかァァァァァァ!! つーかゴリラ何言ってるのかわかんねぇよ!!」

 

頑なに言動のおかしい土方とゴリラを信じ続けている様子の沖田。

そして遂に新八が声を荒げて怒鳴り声を上げていると……

 

「おい! また何か落ちて来たぞ!」

「え?」

 

反乱軍の一人が大きな声を上げて頭上を指差す。新八も思わず釣られて顔を上げた。

見ると先程沖田達が開けた穴から、あちこちにぶつかって派手な音を鳴らしながら勢いよく落ちて来る小さな物体が

 

そして

 

その物体はドンガラガッシャーンとやかましい音を最後に鳴らすと新八達の近くに落ちて来たのである。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 今度は何事ぉぉぉぉぉぉ!?」

 

次から次へと起こる急展開に新八はうろたえながら落ちて来た物をすぐに見下ろす。

するとすぐに目をハッとさせて驚きの表情を浮かべた。

 

「親方! 空からパツ金ツインテの女の子が!!」

 

先程落ちて来た新八の眼前に横たわる者の正体は金髪ツインテールの小さな少女であった。

そしておもむろに銀時も彼等の下へと駆け寄ると口を大きく開けて叫んでいる

 

 

「一度言ってみたっかったんですよねコレ」

「いやアンタもいい加減焦ろよアンタは! その自由な言動からしてもう本格的に銀さんに浸食仕切ってるんだぞ! このままだとS級美少女から天パのオッサンに染まり切って一生冴えないダメ人間のまま生きていく事になるんですよ!」

「心配ねぇですよぱっつぁん、大丈夫ですよ私達にはお兄様がいますし。パチンコでもしながら気長に待ってればその内元に戻りますって。あ、さっきの店に戻っていいですか私?」

「駄目だコイツ、もうこのまま堕ちることろまで堕ちるしかない……」

 

目が完全に死にかけ、言動も性格も変わり果てていく銀時を見て新八が絶望のさ中にいると、二人の声を聞いて意識を取り戻したのか、倒れていた女の子がピクリと動く。

 

落下の衝撃のおかげかぐったりとした様子はあるが、しばらくすると半目の状態でよろよろと上半身を起こす。

 

「いつつ……あのニヤケ野郎ふざけやがってなんつー馬鹿力だ……こんな所まで叩き落としやがって……」

 

金髪の少女は頭を押さえつつ舌打ちすると、次に自分の顔をペタペタと触り始める。

 

「変装術が解けやがったか……しかしそれ以外の損傷はさほど無い所を見るとあの野郎殺す気は無かったようだな……」

 

ブツブツと何やら意味深な言葉を呟きながら少女は膝に手を置いてゆっくりと立ち上がろうとする。

するとふと顔を見上げた先に立っていたある人物と目が合った。

 

そこに立っていたのは先程から彼女の顔を覗き込もうとしていた土方十四郎であった。

 

「……」

「……」

 

二人は互いの顔をジッと見合わせながら時が止まったかのように数秒固まる。

 

そして

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

何故かはわからないが全く同じタイミング、同じ波長で素っ頓狂な声を上げて二人が驚き出したのだ。

 

最初に動いたのは金髪の少女の方、彼女はすぐに土方に向かって指を突き付けるとテンパった様子で

 

「お、お、お前ぇぇぇぇぇぇっぇ!! もしかしてお、俺の……!!」

 

あまりにも衝撃的な出来事に遭遇したのか上手く言葉が出てない様子で何かを言おうとしている少女。

しかしそんなうろたえている様子の少女を前に、土方はすぐにビシッと指を突き返して

 

「みんなコイツは蓮舫が差し向けてきたスパイだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!? テメェ何ふざけた事言ってんだゴラァ!!!」

「沖田君すぐに殺っちゃうんだぜ! アレだよアレえーと……そう切腹だ! 副長命令で切腹なんだぜ!!」

「チッ誰がスパイだ……俺は今はこんな身体になっちまったが正真正銘真撰組の……」

 

とち狂ったかのように慌てた様子でスパイ呼ばわりしてくる土方に少女は一瞬たじろぎながらも弁明しようとする、だが……

 

 

土方の命令を聞いて沖田はニヤリと笑うと腰に差す刀を抜いてすかさず彼女に突き付けたのだ

 

「おい女、さっさと白装束着替えな、介錯は俺がしてやる」

「おい待て俺は敵の間者でもなんでもねぇ!! テメェ一体どういう真似……」

 

刀を突き付けられて血相を変える少女に沖田は徐々に腹黒そうな笑みを口元に広げながら歩み寄ると

 

「はい介錯ぅ!!」

「いやまだこっち白装束着てないんだけどぉ!?」

 

何のためらいもなく勢いよく刀を振り下ろしてきたではないか、上体を逸らして間一髪ギリギリのタイミングで避けて立ち上がる

 

「あ、あっぶねぇ! テメェいきなり斬りかかるとか何考えてんだ! 人の話を聞け! 俺だ俺! お前の上司の……」

「え、なんだって?」

「どわぁ! 聞き返しながら殺しに来たよコイツ!!」

「え、なんだって?」

「ラブコメの主人公かお前は!」

「キムチでもいい?」

「それヒロインの方!」

 

少女の必死な説得を聞こえない振りをしながら何度も刀を振り回してくる沖田に少女はまたもや寸前で回避しながら

、彼に踵を返して走り出し、逃げ出そうとする。

 

「あの野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!! 元に戻ったら逆に俺が介錯してやる!」

 

とても見た目可憐な女の子とは思えない形相と物騒な台詞を吐きながら逃げ出す金髪ツインテ少女、しかし走ってる途中でふとある人物が視界に映る。

 

「ん?」

 

そう、少女の目に映ったのは……

 

「ウホホウホホホホホ!」

「え、マジで!? バナナって実の中心を指で押すと綺麗にに3つに割れんの!?」

「ウッホホ~」

「ほう、このゴリラ意外にも博識……いずれ我々ゴリラのホープの存在となるやもしれん」

 

三匹のゴリラが意気投合しながらバナナ談議に花を咲かせている真っ最中であった。

その光景を見た少女は静かに目を逸らして前に向き直り

 

「……こりゃいよいよ完全に疲れてるな、近藤さんが三人に見えるとか異常だわ」

 

疑問を浮かべながらも少女は一人梯子を勢いよく駆け昇って逃げ出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、徳川茂茂&桂小太郎と合流していた司波深雪一行は思ったより進行が定まらず困難を極めていた。

 

「あり? もしかしてどんどん下っていってねぇか?」

「多分そう、今の場所は多分上層部より中層部の方に近い」

「なんか色んな所グルグル回ってるせいかどっち行ってるかもわかんなくなるね……」

 

先頭を歩く深雪の後をついて回りながら北山雫、光井ほのかが今置かれてる状況を説明する。

どうにも場所が広大な為に迷ってしまったらしく、目的地である入れ替わり装置のある部屋を見つける以前の問題であった。

 

「マジかよ、そういや前ここ来た時より随分とデカくなってるみたいだなここ、こりゃあ地図みたいなモンがねぇと永遠に彷徨う事に……」

 

思ったように物事が進まない事にアゴに手を当て苦々しい表情を深雪が浮かべている、だがふと気になったのか、脇に立っていた茂茂の方をチラリと横目をやる、すると

 

「ねぇ~ん達也君、ちょっとこのまま二人でデートでもしてみな~い? ちょっと薄暗くて人一人忽然と消えても問題ないような所とか行ってみたいと思わな~い?」

 

妙に色っぽい口調で将軍茂茂に攻め寄る攘夷志士桂小太郎がいつの間にか傍にいた。

しかし茂茂は相変わらず何の感情も籠ってない表情で淡々とした口調で受け流す。

 

「すみません会長、今現在この身体の状態でそのような行いは恐らくどちらも得が無いと思いますよ、主に俺の方が。長髪のおっさんとデートするとか完全に罰ゲームですし」

「フッフッフ、将軍様の体になっても相変わらずいけずなのね貴方は……でも大丈夫、年上の私が手取り足取り『首取り』教えてあげるほぉぉぉぉぉ!!!」

「なにお兄様を誘惑してんじゃこのクソアマァァァァァァ!!!」

 

桂が言い終える前に深雪の飛び蹴りが彼の顔面に炸裂。モロに受けた桂はそのまま地面を削るように滑っていく。

 

「ちょっと目ぇ離した隙にいけしゃあしゃあとお兄様に近づきやがって、テメェは列の一番後ろにいろって言っただろうが。もしくはついて来んじゃねぇ、その辺で野垂れ死んでろ」

「うう、そこまで私と達也君の接触に過剰にならなくてもいいじゃないの……」

「テロリストに成り果てた野郎を将軍の傍に置ける訳ねぇだろ、身の程を知れコノヤロー」

 

地面に倒れたまま顔面を押さえてる桂に向かって深雪がしかめっ面を浮かべながら睨み付けていると。

茂茂の方へほのかが心配そうに歩み寄る。

 

「あの、お兄さん大丈夫でしたか? 会長さんに言い寄られてましたけど……」

「ああ心配ないよ、七草会長も少しばかり……いやかなりおかしくなってるしな、早い所入れ替わり騒動を解決しなければな」

「そうですね、早く無事に終わらせてみんなで元の体で故郷の地球に帰れると……」

「お兄様をたぶらかそうとしてんじゃねぇクソビッチがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「おっふぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

茂茂とほんわかムードで会話をしていただけのほのかに突然深雪の無慈悲なる暴力が襲う。

彼女の飛び蹴りがほのかの腹にクリーンヒットし、そのまま後ろにぶっ飛ばされた。

 

「この野郎油断も隙もありゃしねぇ! どいつもこいつもお兄様に近づこうとしやがって! お兄様どうしますコイツ等! お兄様誘惑罪を犯した罪で敵をおびき寄せる為の生贄にしてやりましょうかね!?」

「いや銀さん、会長はともかくほのかは別に俺に何かしようとする理由は見当たらないぞ」

「へ、銀さん?」

 

頭に血が上っているのか激昂した様子で桂とほのかに指を突き付けて叫んでいる深雪に向かって茂茂が冷静に諭す。

すると深雪は口をへの字にしたまま彼の方へ振り返り

 

「銀さんって……誰?」

「……」

「……あ」

 

ジッと静かにこちらを見つめる茂茂の反応を見て、深雪はやっと気付いた。

 

「銀さん俺だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! あっぶねぇ自分の事完全に見失いかけてたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「いや完全に見失ってたぞ、ともあれ気付いてくれたようで何よりだが」

「何やってんだ俺! 消えろ俺の中のブラコン妹! 戻って来い小栗旬!」

「いや小栗旬じゃないだろアンタ」

「ついでに山田優と8000億もお願いします!!」

「落ち着け、山田優も8000億もアンタには一生縁がないモンだ、全て小栗旬のモンだ」

 

頭を押さえて必死に自分の何かと格闘している様子の深雪に対して至って冷静なツッコミをいれる茂茂、そして腕を組みながらしばらく彼女を観察する

 

 

「どうやら会長と同じく銀さんもそろそろヤバい様だな」

「この人は私達の世界にいた頃はまだ自分を保っていられたけど」

 

静かに深雪の精神が浸食している状況を把握している茂茂の傍にヒョコッと雫が近づいた。

 

「お兄さんと会ってから徐々に変わっていっている、今ではもうすっかりブラコン暴力系妹キャラに」

「本来変わるのであれば俺の知る深雪になると思うんだが……今の状態はそうだと言えるのであろうか。なんか完全に別キャラになっている様な」

「多少過激になっているのは銀さんの部分がまだ残ってる証拠」

「そうか、俺の知る限り最悪の化学反応だな、状況が状況なら今すぐこの現実から目を背けたい」

「私は正直面白いけど」

「よしてくれ、とにかく一刻も早く元に戻さねば」

 

深雪のブラコン気味な愛情表現が銀時本来の性格と合致した上でのこの始末。

事がどんどん深刻になっている事に茂茂は徐々に気付き始めていると、ふと廊下の曲がり角からフラフラとした足取りで人影がゆっくりとやって来る事を察知した。

 

「……やれやれこんな状態で新手か」

 

そう言って茂茂は腰に差す刀に手を置き、人影が姿を現すのを待っていると……

 

「ん?」

「私達と同じ人間? でも誰?」

「ゼェゼェ……! 総悟の野郎絶対ぶっ殺す……だが最も殺さなきゃいけねぇ奴はあの野郎だ……!」

 

茂茂と雫の前に現れたのは金髪ツインテの見た事のない女の子であった。年もさほど変わらないであろう少女がいきなり現れた事に茂茂は思わず面を食らうがすぐに勘付く。

 

(気配や放ってる殺気からして恐らく”あの人物”だな、偽装魔法を敷いて俺達に素顔を隠していたのか、抜け目のない奴だ)

 

彼女の立ち振る舞いを見て茂茂はある人物だとすぐに合致していると金髪少女の方が彼等に気付いて顔を上げた。

 

「ああ? んだよ将軍もどきか……てことは本物の将軍も近くにいる……ってうおわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

一瞬安堵したのも束の間、少女は何故かまだ項垂れている深雪の存在に気づくと素っ頓狂な声を上げて飛び上がった。

その叫び声に気付いて深雪も「あ?」としかめっ面で顔を上げる。

 

「は? 誰だお前? なんで見た事ねぇツラの小娘がこんな所にいやがんだ」

「へ!? あ、俺……いや私はその……」

 

突然敵地で見た事もない少女がいきなり現れた事で物凄く怪しんでいる視線を向けて来る深雪からすぐに目を逸らして冷や汗を流す少女。

すると茂茂がおもむろに口を開き始めた。

 

「実は彼女は響子さんが連れてきた潜入に特化した密偵なんだ、銀さん達には悪いが彼女の存在が敵方にバレるとマズいんで彼女の存在は今までずっと極秘扱いしていたんだ」

「密偵? この金髪ツインテの小娘が?」

(ナイスフォローだ将軍もどき! 生意気そうな野郎だとしか思ってなかったが少しは空気読めるみてぇだな……!)

 

正体を言わず平然としたまま彼女の素性をスラスラとでっち上げてくれた茂茂に少女が心の中で賞賛する。

しかし深雪の方は未だ怪しむ様に少女をジーッと見つめる。

 

「コイツがねぇ……おいガキ、名前なんつーんだ」

「(テメェこそガキだろうが!)……わ、私の名前は”アンジェリーナ=クドウ=シールズ”です、はい、愛称はえー……リーナだっけ? なんかそう呼ばれてます……」

「ふーん……」

 

リーナと名乗る金髪ツインテ少女に深雪はますます眉間にしわを寄せると小首を傾げ。

 

 

「まあ夫婦そろってスパイ映画出てたしそういう密偵活動もお手のモンって事かね、ブラピとは最近どう?」

「そりゃアンジェリーナジョリーだろうが! アンジェリーナしか合ってねぇのにどうすれば間違えんだよ! ていうかもう別れてるからあの二人!」

「ほーん、そのくどくて長いツッコミ……どうもウチの世界の匂いがしますなぁ」

(うそぉぉぉぉぉぉぉぉ!! ツッコミだけで速攻バレかけてる!)

 

どうやらちょっくらカマかけてやろうと深雪が上手く引っ掛けに来たらしい、ニヤリと笑う彼女を見てまんまと乗せられてついツッコミを入れてしまったと気付いたリーナが内心動揺していると、雫がすぐに深雪の下へ歩み寄る。

 

「この人があなたの世界の人間かもしれないとどうしてすぐに疑ったの?」

「なんつーかこう初めて会った気がしないんだよなコイツ……しかもなんか嫌々ツラ合わせる事がしょっちゅううあったような……」

「じゃあ銀さんと同じ入れ替わり組って事?」

「だろうな、誰だろうなコイツ……おいお前、本当の名前言ってみろ」

(ヤバい! このままだとあっという間にバレる!)

 

こうまであっさりバレるとは予想してなかったのか、リーナは目を細めながら睨んで来る深雪から必死に目を逸らして着ているマントの下をゴソゴソと探り始める。

 

(なんとか疑惑の種を取り払わねばマズイ……! まさか俺がこんなガキになってるなんてコイツにバレたら一生何言われるかわかったもんじゃねぇ!! よし! ここは普通にどこにでもいる女の子アピールをしてやり過ごそう!)

 

そう思いリーナは懐からある物を取り出しながら必死に作り笑いを浮かべながら深雪の方へ振り返る。

 

「や、やだなぁ私は極々真っ当な人生を謳歌して真っ当にスパイ活動してるだけの超ノーマルな女の子なんですけどー! なんか変に疑り深くてマジ引くー! チョベリバーって感じーみたいなー!」

「チョベリバとかそんな死語使ってるノーマルな女の子なんざいねぇよもう」

「マジウザいんですけどー! は~いもう喉渇いちゃったんでーしばらく話しかけないでくださーい!」

 

物凄く下手くそでバレバレな演技をしながら無理矢理にでも突破口を開こうと模索しながらリーナが取り出した物とは……

 

 

 

 

マヨネーズ

 

 

 

 

 

「やっぱひと運動した後はマヨネーズよねー!」

 

そう言いながら腰に手を当てたままもう片方の手でマヨネーズを得意げに掲げると、そのまま口に付けて直で飲み始める。

 

ズズッー!っと生々しい音を奏でながらなんのためらいもなく飲んでいく光景を目の当たりにした雫は思わず「うわ……」と呟き目を逸らし、後ろで眺めていた茂茂もゆっくりと顔を背ける。

しかしその光景から目を逸らさず、深雪はただ一人無言で直視していた。

 

「お嬢さん……何やってんの君?」

「あ? マヨネーズでの栄養補給は乙女のたしなみだろーが、女の子、つか人類皆マヨネーズ大好きだろ普通」

「お前……」

 

 

 

 

 

 

「土方君だろ」

 

リーナの手元にあった空のマヨネーズ容器が地面に落ちる空しい音が静かに響いた。

 

 

 

 

 

 




投稿が遅れてしまい大変申し訳ございませんでした。
どうにも仕事に集中しないといけない期間がありましたので長らく執筆活動を出来ないでいました。
ようやく山場を超えられたのでこれからは資料を調べ直しながら他作品諸々なるべく早く投稿できるよう頑張ろうと思います。

それではまたすぐに会える日を願って

追記
現在の入れ替わり組(攘夷勢のみ)の状態をわかりやすく記しておきます

七草真由美 性格も完全に染まりつつあり危険な状態 
桂小太郎 少々規律に対して真面目になったり他の所も彼女の影響を受けてきているがまだ軽め 
司波深雪 たまに自分という存在を忘れてしまう事がある、超危険
坂田銀時 深雪と同じ状態、超危険
千葉エリカ 船乗るとたまに吐く、たまに土佐弁が出る、それ以外は自分の事を保ってられているので軽度の状態 
坂本辰馬 全く染まっていない、完全に自己を保っており全く心配はない状態 
高杉晋助 染まっていない様に見えるが、今までの態度を振り返るとほんの若干だが大人しくなっているのが見受けられる(生徒会室で大人しく席に座ったり人の話を素直に聞いたり)
中条あずさ ???


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全校生徒発表会編
第二十一訓 謀略&倒幕


司波達也は七草真由美、渡辺摩利は蓮蓬の基地に潜入中、突然現れた春雨第七師団団長こと神威にその行く手を阻まれてしまう、だがその時、謎の少女が助っ人として神威の足止めに入ってくれたおかげで3人は無事にその場から逃げ切る事に成功した。

 

「追ってはこまいか」

 

とある一室でその場しのぎとして休憩に入りながら達也が辺りを詮索し始めていると、真由美は先程の少女について彼に問いかける。

 

「茂茂殿、あの少女は一体何者だ」

「詳しい事はあの者の意義により言う事は出来ぬが、余達と同じ入れ替わり組だ」

「やはりそうか……あの刀の扱い振り、俺達の世界に通じるものがあった。しかもあの俊敏な動き、かなりの強者と見るべきであろうな」

「だがなんで今まで姿を現さなかったんだ?」

 

少女の抜刀から斬りかかるまでの動作の速さには桂小太郎として攘夷戦争を生き抜いてきた彼女にとっても目を見張るものがあったらしい。

しかしなぜこのタイミングで入れ替わり組であろうあの少女が現れたのか、真由美の隣にいた摩利は疑問に思った。

 

「私達と一緒に行動する事を避ける理由がわからないな」

「うむ、それはだな……む? これは……」

「どうした将軍殿」

 

摩利に説明してあげようとする達也だが話の途中でふとこの部屋にはある物が設置されている事に気付いた。

真由美も彼の視線の先に目を向けて気付く。

 

「これはもしや脱出ポッドか?」

 

人一人、否、蓮蓬が1匹丸々収まるぐらいの大きなカプセルとでも例えるべきか、宇宙船、宇宙戦艦には必ずつけておくべき緊急避難用のポッドの事だ。

万が一にこの施設が破壊されるトラブルが発生した時に、逃げられる様このポッドに潜り込んでそのまま宇宙へと排出される仕組みだ。

 

「ご丁寧にプラカードを収納するスペースまで作られている、さすがは最先端科学を用いる蓮蓬、匠の成せる技だ」

「いやプラカードって? 必要かそれ?」

「劇的ビフォーアフターの匠も「それ付ける意味あんの?」ってモノをバンバンつけたがるであろう、それと一緒だ」

「じゃあやっぱり必要ないって事だろそれ……」

 

早速中身を開けて念入りに調べながら感心している様子の真由美に摩利がツッコミを入れている中、達也は一人ジッとその脱出ポッドを見つめる。

 

「……」

 

そして静かに目を閉じた後、まるで何か一つ腹をくくったかのように再び目を開けて真由美の方へ歩み寄り、摩利には聞こえぬ様に小声で。

 

「桂、少し話がしたい。出来れば二人で」

「ほう、それは構わんが、将軍が攘夷志士に一体どんなご用件だ?」

「その攘夷志士であるぬしにしか頼めぬ事なのだ」

「……興味深いな」

 

本来敵である攘夷志士にしか頼めぬ事とは一体、真由美は面白そうに若干笑って見せると、早速摩利の方へ振り返り

 

「摩利殿、どうやら将軍殿は俺と内緒話したいらしい。少し席を離れてくれぬか?」

「ん? それは構わないが私が聞いてはいけない事なのか?」

「男同士の語り合いにおなごが傍にいては話せぬ事もあるのだ。修学旅行の夜、巡回中の教師の目を掻い潜って声を潜めながら顔を合わせて「お前ってクラスの誰が好き? 俺は花澤」とか男子同士で盛り上がるみたいな感じだ」

「女の私には全く共感できない例えだが……まあ好きにしてくれ、私は窓から外でも見てるから」

「そうしてくれると有難い」

 

女性である摩利にはイマイチピンとこなかったようだが、とにかく男同士で何か喋る事があるのであろうと素直に身を引いてくれることを了承してくれた。

話のわかる彼女に真由美は素直に礼を言うとすぐに達也の方へ振り返り何やらヒソヒソと会話を始める。

 

「……何かしでかさないといいんだが」

 

真由美と達也を二人っきりにする事に若干不安を覚えるも、ふと窓から見える広大な宇宙に思わず摩利も見とれてしまっていた。

 

「こうして落ち着いて眺めてみると本当に宇宙に来たのだなと改めて実感するな」

 

地球を飛び立ってから結構な日をまたいでいるが、こうしてはっきりとここが宇宙なのだと認識したのは初めてかもしれない、それ程彼女の周りはここ最近ドタバタしっぱなしだったのだ。

 

「果ての見えない壮大な広さ、宇宙は日々膨張しその成長速度は凄まじいとも言われているが実際の所どうなんだろうな」

 

思えばこんな光景を目にする事はとても貴重な体験なのかもしれない、彼等のいる世界では宇宙へ行く事など極々ありふれた事なのであろうが、摩利の世界では宇宙を自由に飛び回るなど子供の夢物語だと笑われるレベルだ

 

「地球からは決して見れない星々のはっきりとした形や、見てるだけで吸い込まれそうな真っ黒な空間……恐怖心があるのも否めないが不思議とジッと見てると禍々しくも美しく感じてしまう神秘感も覚える」

 

幻想的な景色というモノは時に人に様々な感情を覚えさせる、安堵、危機、悲観、好奇心、人間が他の動物と違う所と言えばそれは目の前の光景を見て涙を流す事が出来るという事であろうか……

 

「それにあの脱出ポッドに入って発射されている将軍、高貴な育ちの人間の考えはわからないな。あんな事してどうやってこっちに戻ってくるというんだ全く……ハァ~この綺麗な光景、出来ればアイツと一緒に見てみたか……え?」

 

物思いに耽ってすっかり乙女モードに入ってしまっていた摩利がふと改めて窓に広がる宇宙へと視点を向けると

 

 

 

 

 

 

蓮蓬用の脱出ポッドに機上した司馬達也が

 

いつもの無表情で宇宙空間をフヨフヨと漂いながら

 

徐々に小さくなっていくのが見えた。

「って将軍ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!!!」

 

ようやく思考が目の前の現実に追いつく摩利、宇宙の神秘とかそんなの一気にどうでも良くなり悲鳴のような声を上げながら両手を窓に当てて宇宙を漂っている達也を凝視するのであった。

 

「ななななななんで将軍が宇宙空間に発射されているんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! どうするどうするどうする!? 一大事だぞコレは!! あぁどんどん遠くへ行って……一体どうしてこんな事に!!!」

「……フッフッフ、油断するなとは言った筈だぞ将軍」

「!?」

 

みるみる遠くへ行って小さくなってしまう達也、完全にパニック状態になってしまった摩利はアタフタしながらどうすればいいのかと必死に考えていると突如隣には不敵な笑い声を上げる真由美の姿が

 

「これで将軍は死んだも同然、さらばだ長年の宿敵よ……あっけない幕切れではあったが貴様との戦い、中々楽しかったぞ」

「お、お前まさか……」

 

真由美の指の上には脱出ポッドを宇宙空間へ排出する為に設置されている緊急ボタンが

 

その光景を見て摩利は愕然とする、もしや先程彼を宇宙へ放ったのは……

 

 

 

 

「我! 遂に倒幕成功せりぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「コ、コイツ遂にやりやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

勝利の雄叫びを力の限り上げながら片手を掲げてガッツポーズを取る真由美。

 

かくして世界を賭けて雌雄を決する戦いを前にして、自らの総大将を亡き者にするという前代未聞の大事件がこの場で起きてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方場所は変わりここは深雪達のいる中層部。

 

突如現れた少女、アンジェリーナ=クドウ=シールズ、通称リーナ。

その中身は真撰組の鬼の副長こと土方十四郎であった。

 

深雪は腕を組んだままジト目で彼女を上から下へとしげしげと観察する。

見られている方のリーナは冷や汗垂らしながら彼女からの視線から目を逸らすだけ。

 

「マジかよオイ、まさかおたくまでこっち来てたとか、今まで何してたんだよ土方十四郎君?」

「いや何のことですか……自分土方十四郎とかそんな歴史人物パクったような人知らないんで……」

「とぼけんじゃねぇよ、どこの世界だろうがマヨネーズ直飲みする様な奴はお前と慎吾ママだけだろうが」

 

あくまでシラを切る様子のリーナに深雪が更なる追求をしていると、ついちょっと前に彼女に飛び蹴りされたばかりの光井ほのかが復活して彼女の元へ戻って来た。

 

「一体どうしたの、もしかしてこの人銀さんの知り合い? つまり入れ替わり組って事?」

「そうだよチンピラ警察24時だのテロリストより恐ろしいテロリストだのなんだの呼ばれてる、真撰組のナンバー2の土方十四郎君だよ」

「真撰組?」

「それは私が説明してあげるわ」

 

聞き慣れない言葉に眉を顰めるほのかに、同じように復活していた桂が物知り顔で深雪の代わりに説明してあげる。

 

「真撰組というのはか弱き市民から金を巻き上げ、自由を奪うという下劣な悪の組織、幕府の傘下に入ってる事を良い事にやりたい放題に暴れて人々を恐怖のどん底に陥れているクソの様な存在なの、というかクソそのものね、もしくはカス、つまりその中のナンバー2である土方という男はとびっきりのクソカス野郎って事ね」

「おめぇ喧嘩売ってんのかコラァァァァァァ!!!」

「まあ大体合ってるかな」

「合ってねぇよ!」

 

桂のかなり個人的な感情の入った説明の仕方につい反射的に青筋立ててブチ切れるリーナ、そして桂の説明に深く頷く深雪にも睨み付ける。

 

「真撰組ってのは幕府の下で働き日夜市民の為に戦っている正義の警察組織の事だ! 俺はそこの副長に就いてる土方十四郎! 覚えとけクソガキ共!!」

「自己紹介どうも」

「は!」

 

つい余計な誤解を生まぬようほのか達に説明してしまった事でいよいよもって言い逃れる事が出来なくなってしまった。

口元を僅かに広げて小馬鹿にしたかのように笑っている深雪を見てリーナはまんまと乗せられてしまった事に気付いた。

 

「しまった……こんなバカに二度も乗せられちまうなんて……」

「自己紹介良く出来たわね土方カス四郎君」

「やーこれで晴れて俺達と同じ入れ替わり組認定って事だね土方十クソ君」

「黙れクソカス共!!」

 

何故か拍手で迎えてくれる桂と深雪にリーナはいよいよ我慢の限界が来たのか、力任せに深雪の胸倉を掴み上げてメンチを切る。

 

「こっちの事情も知らねぇで好き勝手言いやがって! テメェ等がマヌケ面晒しながら遊び呆けていた間、俺がどんだけ大変だったかわかってんのかコノヤロー!!」

「知らねぇよ、てか何? おたく俺達の事もとっくに知ってたの? だったらさっさと合流すれば良かったじゃねぇか」

「将軍はともかく警察の俺がテメェ等攘夷志士と手なんて組める訳ねぇだろうが! それに何よりテメェに素性バレるのが一番嫌だったんだよ!! こういう事になるの目に見えてたからな!!」

 

キレたリーナが深雪の胸倉を掴んだまま揺さぶっていると、不意に茂茂が彼女の手をパシッと掴む。

 

「もう互いの情報確認は済んだか、ならとっとと行くぞ」

 

これ以上二人の不毛な争いを見ていられなかったのか、茂茂はキリッとした表情でリーナを見下ろす。

 

「俺達にもう時間はない、口を動かす前にまず足を動かすことが賢い選択だと思うぞ、アンジェリーナ=クドウ=シールズ」

「口挟むんじゃねぇぇぇぇ!!!!」

「お兄様ァァァァァァァァ!!!」

 

止めに入った茂茂にまさかまさかの顔面ストレートをお見舞いするリーナ。

直撃を受けてそのままぶっ飛ばされた茂茂を見て深雪は思わず絶叫の声を上げる。

 

「テメェよくもお兄様を! 今すぐ磔獄門にすんぞコラァ!!」

「ゲッ! しまったつい将軍の体を!」

 

つい反射的に恐れ多くも将軍の顔を殴ってしまった事に青ざめるリーナだが深雪はそんな事気にも留めず殴りかかる

 

「そんな事はどうでもいいんだよ! 俺のお兄様を殴ってタダで済むと思ってんのかぁ!」

「そっちぃ!?」

 

将軍じゃなくてお兄様(達也)を優先して一発食らわしてきた深雪に、一種呆気に取られてしまったリーナは避け切れずにその拳を横頬に浴びせられる。

 

「お兄様傷付け罪の罪で今すぐこの場で処刑してやらぁ!! テメェの罪を数えろ流行遅れの金髪ツインテ娘!!」

「調子乗ってんじゃねぇ!」

「うぶぇ!」

 

再度殴りかかって来た深雪にリーナはタイミング合わせてカウンターを彼女に食らわせた後、後方に飛ばされそうになる深雪の胸倉に手を伸ばして再び掴んでまたメンチの切り合いを始める。

 

「テメェこそ座敷童子みたいな見た目のクセに人の外見乏してんじゃねぇぞ!」

「オメェこそツインテール解いたらもうもうほとんど特徴ねぇじゃねぇか! ただのモブキャラじゃねぇか! ただの新八じゃねぇか!!」

「目腐ってるんじゃねぇのかお前! こちとら陽光に煌めく黄金の髪だの! サファイヤより輝く蒼き瞳だの呼ばれて超美人扱いされてんだぞ! テメェみたいな田舎っぺ娘と違うんだよ!! さっさと田舎に帰れ! 牛と年寄りの世話しながら婚活でもしてろ!」

「目が腐ってるのはテメェだろうが こう見えて俺は夜空より深き漆黒の髪だの! 黒真珠より黒く澄んだ瞳だのよくわからねぇ事言われてたんだぞ! てかホントどういう意味なんだ!? 褒められてるって事って良いんだよね!?」

「知るかそんな事! ぶっちゃけ俺もよくわかんねぇんだよ! なんだよサファイヤより輝く瞳って!」

「俺だって知るかぁ! 夜空より深き漆黒の髪とかバカじゃねぇの!」

 

顔を合わせて互いに唾を飛ばし合いながら口喧嘩をおっ始める二人を見ていたほのかは思わず「えぇ……」と困惑気味。異世界組である彼女は知らないであろう、この二人が元の世界では犬猿の仲だったという事を

 

「なんでこんな時に喧嘩始めてんのこの二人……挙句の果てにはお兄さんはっ倒すし」

「頑張って銀さん! 幕府のクソ犬なんかに負けないで!」

「美少女同士の罵り合い、まるでアイドルグループの楽屋みたい」

「この二人は全く止める気ゼロだし……会長に至っては逆に応援してるし……」

 

後ろには深雪とリーナの戦いを観戦して熱を上げる桂と、二人の事を携帯で動画撮りしている北山雫。

なんなんだろう、本当に世界を救う気あるのかコイツ等……ほのかが最初に感じていた不安を徐々に募らせているとリーナと深雪は叫び過ぎたのか疲れた様子で荒い息を吐きながら両肩を落とす。

 

「よしわかった、テメェの言いたい事は十分に分かった……それじゃあそういう事でいいんだな……」

「ああ、男に二言はねぇよ……」

「あ、ようやく終わったのかな」

 

てっきりただ互いに悪口言い合ってるだけかと思いきや何やら話をまとめていたらしい。

これでようやく喧嘩は終わりかとほのかが安心したのも束の間

 

突如二人はダッシュで通路の廊下を走り始めてしまう。

 

「「どっちが本当の美少女か逆ナン対決だァァァァァァァァ!!」」

「なんでそうなるのぉ!?」

 

すっかり本来の目的を忘れて何処へと駆け出して行ってしまう深雪とリーナに慌ててほのかが手を伸ばすが、暴走した二人はあっという間に走り去ってしまう。

 

「言っておくが今の深雪さんマジ敵無しだから!! この清楚な見た目と俺のテクニックを使えばその辺の男なんかイチコロなんだよ!! すっげぇエロい事だって出来るんだよ! 清楚で中身はテクニシャンっていうギャップが男の欲望を弄りたてんだ!」

「ほざけアバズレ!! テメェこそリーナさんの本気見て腰抜かすんじゃねぇぞ! パツ金ツインテ外人という最強属性をフルコンしたハイスペックマシンが動きだしたら数多の男は皆お前なんか見向きもしないんだよ!!」

「うるせぇブス!」

「お前の方がブス!」

 

再び口喧嘩を始めながら二人はあっという間に曲がり角を曲がって消えてしまうのであった。

 

「ああ行っちゃった……大事な事全部ほったらかしにして男漁りに行っちゃったよ……」

「青春ね、私も七草族でなく普通の家の子として生まれればあんな事に興じていたかもしれないわね」

「普通の家の子は世界滅亡を前にして男漁りに行く事なんて無いと思いますよ会長……」

 

しみじみとした表情で二人を見送っていた桂にほのかがボソッとツッコミを入れていると、雫の方は先程リーナに殴られていた茂茂を手を取って起こしていた。

 

「あの土方って人が現れた途端、銀さんが深雪っぽくなくなった気がする」

「そうかもしれないな」

 

何事もなかったかのように茂茂は立ち上がると状況を整理する。

 

「もしかしたら精神の浸食は周りの環境の変化も関係あるのかもしれん、銀さんは司馬深雪の兄である俺の存在が傍にあったおかげで浸食が早まり、逆にあの同じ世界出身の土方という人物が現れた途端浸食率が低下したように見受けられる」

「す、凄い思いきりぶん殴られながらも冷静にそこまで分析していたなんて……」

「さすおにさすおに」

「雫、なんかそれバカにしてるようにしか聞こえないんだけど」

 

常に冷静沈着に物事を1歩2歩見据える様に行動している彼にとってはこの程度朝飯前である。

素直に感心するほのかであるが、雫の方はさっき撮った深雪VSリーナの対戦動画の編集をしながら適当な感じで答えるだけ。

 

「じゃあ会長も私達と一緒にいれば改善の余地あるんですかね」

「いやもう会長はいいだろう、そっとしておこう。七草家には「お宅の娘さんは大気圏突入した時にうっかり外に出ちゃったから消滅しました」とでも誤魔化して向こうの世界に永住してもらおう」

「お兄さん会長に対してだけ冷たすぎない!?」

 

同じ世界の人間と共に行動すれば高まっていた浸食率が下がる可能性がある、その希望は完全に攘夷志士と成り果てた七草真由美にも効果があるのではとほのかは考えたのだが、茂茂は彼女の事に関しては全く諦めている模様。

 

「会長はもう自分の生き方を決めているみたいだからな、俺達がそれを邪魔するのも悪いだろう。会長、体が無事に元に戻ったら第一に何をやりたいですか?」

 

彼がおもむろに尋ねると桂は目をクワッと剥きだし大声で

 

「国家転覆!」

「な?」

「な?じゃないよ! 大丈夫ですよ! 体が元に戻ればいつもの会長に戻ってくれますって! 多分!」

 

諦めた様子の茂茂をほのかが必死に励ましていると、雫がふとある気配を感じた。

 

「……足音がこっちから聞こえてくる」

「え? 銀さん達が一周して戻って来たのかな?」

 

深雪達が行った方向とは違う通路から床を歩く足音が響いてきた。

足音からして恐らく人間ではあると思うのだが、ほのか達がそちらの方を眺めているとすぐにその人物が現れる。

 

「さてさてこの戦いが終わったらまずは新しき時代を作らねばならぬな……全くやる事がいっぱいで休む暇もなさそうだ、フフフ」

「あ、会長! じゃなかった確か桂さん!?」

 

出てきたのはメンバー内の中で桂と同じく危険因子の一人と称されている七草真由美だった。

何やら意味深なセリフを吐きながら現れるとすぐに「ん?」とこちら側に気付く。

 

「奇遇だなこんな所で会えるとは、まさかこちらの方の将軍も先に見つけてしまうとは」

「なにかあったんですか?」

「いや大したことじゃないから、本当大したことじゃないから」

「?」

 

意味深な言葉を呟く真由美にほのかが尋ねようとしても真顔で適当にはぐらかされてしまった。

なんか怪しいと彼女が思っている中、真由美の登場に桂がすぐに歩み寄る。

 

「どうですか桂さん、そちらの首尾は、こっちはもう達也君のガードが固くて大変なんですよー」

「フッフッフ、それはだな……おっとここで言ってしまうのは勿体ない。人目もあるので後程話してあげよう」

「えーなんですかそれー気になっちゃうじゃないですか、早く教えてくださいよー」

「フハハハハ、楽しみは最後に取っておくものだぞ真由美殿」

(改めて見ると長髪ロンゲの男が女口調で女子高生と話してるのは絵面的にキツいな……)

 

桂と真由美がキャッキャウフフと楽しげに会話している光景を内心気味が悪いと思いながら茂茂が見つめていると……

 

先程真由美が来た方角からダッダッダッ!と激しい足音が

 

「か~つらァァァァァァァァァァァ!!!!」

「この声は?」

「チッ、上手く撒いたつもりだったがもう追いついたか、まるで真撰組並みのしつこさだ」

「え?」

 

何処かで聞いた事のある声に桂が反応しているのに対し真由美の方はバツが悪そうに舌打ちしてはいるがどこか楽しげな様子。そして

 

「今回という今回は絶対に許さん!!!」

「ええ! 今度は渡辺先輩!?」

 

勢い良く飛び出してきたのは風紀委員長・三年生、渡辺摩利。何やら物凄い怒っているご様子で、部屋に入るやいなや即座に真由美を見つけると一気に飛び掛かる。

 

「捕まえた!!」

「捕まっちゃった~」

「あら摩利、元気してた? あなた坂本さん達と一緒に船で待機していると思ってたのに」

「この状況下で何のほほんと会話試みようとしているんだお前は……」

 

真由美を背中から羽交い絞めにしてそのまま床に伏せさせると、彼女の上にまたがり完全に拘束する摩利。

いきなりの行動に周りが面を食らう中、桂は一人笑顔で彼女に話しかけた。

 

「摩利どうしたのいきなり、桂さんを捕まえるなんて、まるであのクソカス真撰組共みたいよ? まだ引き返せるわ、私と一緒にやり直しましょう、一緒に革命起こしましょう」

「うっさいまずはテメーの頭を革命しろ! いいから邪魔をするな! 今からこのバカを徹底的に懲らしめてやる!! 死に晒せか~つらァァァァァァ」

「お兄さん、なんか渡辺先輩が般若の如き形相で無茶苦茶怒ってるみたいなんですけど……」

「どうやら何か良からぬことが起きたみたいだな、それもあの桂という男のせいで」

 

ツッコミ気質の彼女が何時にも増して激しい怒りを表している様子にほのかもただ事ではないとすぐに察知する。

そして茂茂もまたそれを理解し、急いで彼女もの下へと歩み寄る。

 

「先輩、一体何事ですか。何かトラブルでも」

「達也君もいたのか……正直君に一番話すのが酷なのだが言わねばならないな、何せ君自身にとって最も一大事な出来事が起きてしまったのだから」

「俺にとって?」

「落ち着いて聞いてくれ達也君……」

 

茂茂に対して少々話し辛そうな顔をするが、意を決したかのように摩利は彼の方へ顔を上げた。

 

 

 

「君の体は今、脱出ポッドによって宇宙へと排出されてしまったんだ」

「……は?」

「無論君の体にいる将軍ごとな……まあ詳しい説明は後にしておくよ、まずは……」

 

茂茂も思わず一瞬言葉を失う程の衝撃的事件。

なんと彼の本来の体である司馬達也の体は中にいる将軍と共にこの無限に広がる大宇宙へ発射されてしまったというのだ。

そしてそれを行ったのは

 

「そいつをやった元凶であるコイツに落とし前付けてもらうのが先だァァァァァァ!!」

「うごぉ!! キャメラクラッチ……!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!! この人が将軍をそんな目に遭わせたのぉ!? いつも将軍倒すとか言ってたけど半分ネタかなんかだと思ってたのに!」

「なかなか出来る事じゃないよ」

「何感心してんの雫!?」

 

常々将軍を亡き者にしようと散々言っていたはものの結局は未遂に終わっていたのでほのか達から見れば結局口だけなんじゃないの?とか安易に考えていたのだが、やはり桂小太郎はそんじゃそこらの小娘では測れない傑物であった。

この世界の危機を前に遂に将軍打倒を成し遂げてしまうという事を”全く空気を読まずに”成し遂げてしまうのだから。

 

「そんな、てことはお兄さんの体は……」

「ああ、俺の身体の捜索は今からだと極めて難しい。何せ膨大に広がる宇宙で人一人探す事は砂漠の中でアリのコンタクトレンズ見つけるより難しいってかいけつゾロリが言ってたしな」

「お兄さんの口からかいけつゾロリが出て来る事も衝撃的だよ……」

 

サラッと児童向けの本の台詞を引用するぐらいの余裕は垣間見える茂茂だが、やはり事は一大事だ。こればっかりは見過ごす事はできない。

 

「とりあえず元凶であるこの男を抹殺する所から始めるとしよう」

「抹殺しちゃうの!?」

「手伝うぞ達也君」

「手伝うの!?」

「撮っていい?」

「撮るの!?」

 

摩利に拘束されている元凶である真由美の首を早速刎ねようと茂茂が腰に差す刀の鞘に手を置く。

雫が携帯で撮ってる中、摩利は彼の方へ真由美の首を差し向けた。

いやいやさすがにヤバいのではとほのかが口を挟もうとしたその時

 

「フッフッフ、手ぬるい、手ぬる過ぎるぞお主たち……」

「何!?」

「これしきの事で俺の首を取れるとでも? 逃げの小太郎と呼ばれ長年幕府の手を掻い潜り生き延びてきた俺を見くびってくれちゃ困る」

 

上から押さえつけられてなお不敵に笑う真由美、今すぐにでも首を刎ねられそうな状況下で笑みを浮かべると、彼女の目は突如カッと開く。

 

「必殺! 尻波絶対凍風《ケツカチブリザード》!!!」

「げ! うおわぁ!!!」

 

真由美が叫んだと同時に突然彼女の下半身から強烈な冷気が爆発したかのように周りに発生したではないか。

彼女の上にまたがっていた摩利は直撃を受けてしまって後ろにぶっ飛び、傍にいた茂茂達も顔を手で覆ってその衝撃波に備える。

 

「氷エレメンツの放出魔法!? てかあの人お尻から魔法撃たなかった!?」

「こんな隠し玉を持っていたとは……」

「いやそれより今お尻から! どんな魔術修業を積めばお尻から魔法が撃てるようになるの!?」

「お尻お尻うるさいよほのか」

 

ナンバーズでもあり強大な血統を有する七草家、その身体を利用した魔法はやはり侮れない。

周り一帯に強烈な冷気がほとばしり目も開けられない、寒さで体が震える中で術を行使した張本人である真由美はドヤ顔で立ち上がった。

 

「どどどどどどうだ俺のひひひ必殺尻波絶対凍風の威力はははははは!」

「撃った本人が一番寒がってるんだけど!?」

 

近距離でぶっ放してしまったので自分にも被害が乗じたのか歯をガチガチ鳴らし震えながらも強がって見せる真由美。

そしてそんな彼女をただ呆然と立ち尽くしながら見つめる者が一人

 

彼女と体を入れ替えた人物、本来の七草真由美である桂小太郎だ。

 

「そ、そんな……桂さんが……」

「ようやく気付きましたか会長」

 

呆然とした目で真由美を見つめる桂に茂茂が冷静に諭す。

 

「あなたが憧れていたこの男はやはり極悪非道の……」

「私達の憎き敵である将軍を亡き者にした上に、私の知らない魔法の行使まで取得していたなんて……あなたは一体何処まで底知れぬ御方なの!?」

「……は?」

 

ショックを受けてたかと思いきや急にテンション上がって歓喜の声を出す桂に茂茂は言葉を失ってしまう。

 

「さすが桂さん! 常々思ってたけどやはりそうだったんだわ! あなたこそ私のヴァンガード! 未来を切り開き新たなる夜明けを生む人類の先導者!!」

「さすヅラさすヅラ」

「さすヅラじゃない桂だ」

 

いつの間にか真由美の傍へ駆け寄り、彼女の両手を取って感動の涙を流す桂。

背後から雫がボソッと言ってる事に真由美は即座に訂正しながら桂にフッと笑う。

 

「真由美殿、そなたも見事な働きであった。正直勘の鋭い達也殿が傍にいたら無事に事を運ぶことが出来なかったかもしれぬしな、こうして達也殿を足止めしてくれていた事には感謝しきれん」

「そんな私なんて……」

「さあこれからが忙しくなるぞ、何せまだ肝心の将軍の体を持つ達也殿が生きているのだからな、手始めに……」

 

賛辞の言葉とまだ倒すべき相手がいるという事を伝えると、真由美は寒い身体を震わせながら桂の両手を取ったままフッと笑い

 

「凍えて動けなくなってしまっている俺をおぶってこの場から逃げ出してくれ」

「は! 御意のままに!!」

「完全に暗黒面に堕ちたよ会長!」

 

言われるがままに桂は動けない真由美をサッと背に背負い、一目散にこの場からダッシュで逃げ始めた。

入れ替わり組の中で最も仲が良いこの二人が、遂に真の意味で本当のコンビになった瞬間である、

 

「……お兄さん」

「大丈夫だほのか、まだ打つ手はある。あの裏切り者二人は後で粛清するとして早く銀さん達と合流しよう」

「いやそうじゃなくて……」

 

颯爽と駆け出して行ってしまう桂とその背中で「バイビー」とこちらに手をかざす真由美を見送りながら、ほのかはボソリと茂茂に呟く

 

 

 

 

 

 

 

「会長、アレもう元に戻れませんねきっと」

「そうだな、いっそ俺達の手で優しく葬ってあげよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十二訓 読者&反応

「今更だけどさ、もうアタシ達って読者に忘れ去られてるわよね」

「いきなりどないしたんじゃ?」

 

ここは蓮蓬の母星に設置されている休艇場。

千葉エリカこと坂本辰馬はふと坂本辰馬こと千葉エリカにボソッと本音を漏らしていた。

 

「捜索組やテロ組の方が目立ちに目立ってアタシ達待機組全く出番無いじゃない、ここらで派手になんかしないとこのままどんどんフェードアウトしていく一方よ、ジェロモニになるわよ」

「アハハハハ! 心配いらん! 今ワシ等がやっている事を読者達が知ればジェロモニどころかロビンマスク級に目立てるぜよ!!」

 

いらぬ心配事だとエリカはゲラゲラ笑いながら

 

「はいドロー2! そしてUNOォォォォォォ!!!」

 

残り二枚となった手札から渾身の切り札を放ち、遂に王手と差し掛かっていた。

 

「さあおんしのターンぜよ! じゃがおんしの手札はまだ三枚も残っちょる! この時点でわしの勝利は決定的って事じゃな!! アハハハハへぶしッ!!」

「コレの何処がロビンマスクだぁ!!」

 

勝利を確信し、盛大に笑い声を上げるエリカの頬に思いきり右ストレートをお見舞いする坂本。

そう、現在二人がやっているのは

 

暇を持て余した二人だけの寂しいタイマンUNO大会。

 

「こんなのやってたらロビンマスクどころかキン骨マン並に完全に空気化するわよ!! 読者が数年に1回思い出すかどうかぐらいのレベルよ!」

「な、何を言う! キン骨マン舐めるなよ! 物語が進んでも随所随所で目立っておったじゃろ! 特に二世からだと息子まで現れる上に中々泣けるエピソードを……!」

「うるせぇキン骨マン! アパッチの雄叫びブチかますぞ!!」

 

殴られた頬をさすりながら弁明しようとするエリカを坂本は立ち上がってすかさす黙らせる。

既に彼は限界のピークに達していた、さすがに他の者が色々と動いているのに対し、自分だけが数時間も同じ相手と延々とUNOやってたら誰だって焦るであろう。

 

「もうウンザリなのよ! なんでアタシ達だけただずっとUNOやってんの!? もう飽きたわよ完全に! 誰かこのUNO地獄からアタシを解放して!!」

「なんじゃUNOに飽きとったんか、それな百人一首でもどうじゃ? わしが読み手でおんしが取り手で」

「それただアンタが言ったのをアタシが探して取るだけの作業じゃないのよ! 何が面白いのねぇ!? それで何が変わるというの!? それでアタシ達は何を得られるの!?」

 

名案を思い付いたかのように手の平をポンと叩くエリカに坂本はブチ切れた様子でサングラス越しから血走った目を剥きだしながら食ってかかっていると

 

「おいおまん等」

 

快臨丸の出入り口から見るからに重そうな荷物を軽々と持ったまま、快援隊の参謀役・陸奥が出てきた。

 

「何をサボっちょる、はよUNOをやっとれ」

「陸奥~、コイツがもうUNO飽きたと言っとるんじゃけど、どげんすればいいかの?」

「ならウチの船の倉庫に遊戯王カードとかいうのがしこたま保管されちょるきに、それで対戦でもしちょればよか」

「ん~わしそのゲームのルールよう知らんぞ、おまんは知っちょるか?」

「だからなんでカードゲームにこだわるのよ! いや知ってるけども! 最新ルールまで把握しているけども!」

 

またもや別のゲームで遊べと提案され、坂本は今度は陸奥の方に額に青筋浮かべたまま歩み寄る。

 

「ていうかそんな事どうでもいいのよ! なんでアタシとコイツだけ仕事せずにUNOやらされ続けなきゃならないのよ! アンタ達は仕事してるのにどうしてアタシだけ!」

「下手に動き回れると邪魔じゃからに決まってるぜよ」

「あぁ!? コイツはともかくアタシがいつ邪魔し……」

 

相変わらずのクールな物言いっぷりにますます激昂する坂本ではあるが急に顔色がみるみる悪くなり

 

「オロロロロロロロロ!!!」

「今まさに思いきり邪魔しておるじゃろうが、おい、このアホがまた吐きよったから掃除しておいてくれ」

 

陸奥の足元に盛大に吐瀉物を吐き散らす坂本。入れ替わりの影響により船酔い性質が移ってしまったのか、このように度々具合が悪くなって吐いてしまう癖が付いてしまった様だ。

そんな彼を他人事のようにエリカが「ほ~」と面白そうに眺めている、

 

「まさかこうして自分が吐いているのを見る事になるとはのぉ、しかしアレじゃの、自分では気付かんかったがこうして見ると吐いてる時でも中々の面構え……ドボロシャァァァァァァァァ!!!」

「はよう掃除してくれ、アホに続いてバカが吐きよった」

 

坂本の放つゲロの臭いのせいでつい自分も気持ち悪くなってその場に一緒になって吐くエリカ。

しかし目の前で二人吐かれても陸奥は顔色一つ変えず清掃員を呼ぶ。

 

するとバケツとモップを両手に抱えた西城・レオンハルトが思いきり嫌そうな顔で彼女達の方へ歩み寄って来た。

 

「やれやれまた吐いたのか、ていうかなんで俺がこの二人のゲロ掃除担当になってるの?」

「艦内の仕事はわし等が行うのが当たり前じゃ、ノコノコとウチの所のバカ艦長についてきおったおまんに割く仕事はなか、だからこのゲロコンビの子守り役として適任させたまでじゃ」

「いや力仕事なら俺結構出来るんだけど……」

 

自分としてはもっと肉体労働などで動きたいと思っているのだが、ふと陸奥が明らかに100キロ以上はありそうな重荷を片手で持ち上げて肩にかけている事にレオは気付く。

 

先程から陸奥は船から重そうな荷物を運んでまた別の船へと持っていく行いを何往復もしている。恐らく船に必要な物資を他の船にも配り、いざとなったら最低限の装備で船を出せるよう準備しているのだろう。

他にも陸奥と同じく物資を運んでいる連中はいるが、皆数人がかりで必死な顔で運んでいるのに対し、一人で運んでいる陸奥は依然涼しい顔を浮かべ汗一つかいていなかった。

 

 

「……やっぱいいや子守り役で」

「しっかり頼むぞ」

 

陸奥は神楽と同じ種族、夜兎。そんじゃそこらの人間とは到底比べ物にならない怪力を持っている。

レオもまた特殊な家で育っているおかげで並の人間とは別格の強さを持ってはいるが、さすがに夜兎の怪力を見せられると自信を失ってしまう。

 

「ったくどっからあんな力が出るんだよあの人、見た目は細っこいのに。何時かは超えてみてぇがまだまだ俺じゃ敵いそうにねぇな……」

「ちょっとゲロ掃除係! コイツのゲロをさっさと掃除……オロロロロロロロ!!」

「ヒデキィ! はよこの娘のゲロを始末してくれぇ! わしはもう限界……オロロロロロロロ!!!」

「だぁー! どっちも喋りながら吐くんじゃねぇ!!!」

 

互いのゲロを交えながら何か言っている坂本とエリカにツッコミを入れながらレオは早速持っていたモップで二人の吐瀉物を片付けだす。

 

「宇宙まで来てやる事がコレかよ……」

「ハァハァ…何言ってんのアンタが傍にいないとアタシが困るのよ」

「え? このタイミングでデレ?」

 

唐突に傍にいて欲しいだのと告白めいた事を言う坂本にレオが軽く驚いていると坂本は真顔で

 

「下には下がいるという事をこの目で確認しておかないとアタシの精神もたないのよもう」

「好意どころか見下す対象としてか見てなかったよコイツ!」

 

突拍子もない告白をサラッとぶっちゃける坂本にレオはすぐさま抗議する。

 

「つーか俺お前より大分マシだぞ! 陸奥さんにボコされてもねぇしおっさんの体にされてもねぇし!」

「いやいやアンタより大分マシだから、実はこれアンタに直接言ってあげようかどうか迷ってたんだけどさ……」

「え?」

「ぬ! まさかおまん! ヒデキにアレを言おうとしとるんじゃなか!?」

 

パーマ頭をグシャグシャと掻きながら何か言おうとする坂本に何故かエリカが慌てて止めに入って来た。

その様子をレオは口をポカンと開けた様子で眺めるだけ

 

「それはイカン! それだけはイカンぜよ!! この世には知ってはいかん真実もあるんじゃ!」

「いつまでもその真実を知らせないというのもある意味残酷じゃないの、今自分がどんな状態に陥っているかという現実に直視させる事もまたコイツの為になるわ」

「え、ちょっと何? なんか怖いんだけど? 俺一体何なの? 何がそんなにヤバいの俺?」

 

急に深刻なムードで話し合っているエリカと坂本を見てレオはますます不安な気持ちになる。

そしておもむろに坂本の方が彼の方へ再び振り返ると

 

 

「そんなに気になるなら教えてあげるわよ、アンタ……」

 

静かに腕を上げて指を突き付けた。

 

「登場人物の中で読者からの反応一番薄いのよ」

「ってヤバいってそういう意味ぃ!?」

「不人気とかいうレベルじゃないわよ、空気よ空気、アタシ自分がどう思われてるのかここの感想欄マメにチェックしてるけどでアンタの名前が最後に出たのだっていつだったか忘れたわ」

「そうなの!? ていうかお前! 世界の危機に直面してるのに! なに自分がどう思われてるか感想欄なんてチェックしてんだよ!!」

 

現在の時点で出てるキャラクターの中でダントツに読者からの反応が無いという事実を突き付けられた西城・レオンハルト。

それを残酷にも本人に言ってしまった坂本に隣にいたエリカが「ハァ~」と重苦しいため息を突く。

 

「実はわしも薄々勘付いておったんじゃ、読者から反応貰うので大事な事と言えばインパクトじゃろ? それがどうもおまんには足らなすぎるというか……」

「漫画家の担当みたいな事言い出したよ! 急にキャラのダメ出し始めてきたよ!」

「せめて何か尖ったモンが無いと印象に残らんきに」

 

さっきは言ってはいけないとか言ってたクセに、エリカもまたレオに対してダメ出しを始め出した。

彼女も内心彼の事をずっと気に掛けていたのであろう。

 

 

「ほら、別に入れ替わり組じゃなくても読者からもよく名前書かれてもらってるキャラもおるじゃろ?」

「そうね、やっぱこの作品ってダントツに入れ替わり組への反応が多いけど、別に入れ替わってないキャラでもそれなりに目立てば誰かしら反応してくれるものね」

「銀時の所の娘っ子二人とか、ヅラの所の風紀委員長とか、服部君とか」

「いや服部さんは色々反則だろ……」

「やっぱ大事なのはインパクトなのよインパクト、ここぞという時に派手なシーンかませば読者も覚える筈なのよ、なのにアンタは……」

 

エリカとの会話を終えた後、坂本は首を横に振る。

 

「全くと言っていい程仕事してない、ホントなんにもやってない。せいぜい周りにツッコミキャラがいなかったら代わりにツッコミキャラになる程度、もはやツッコミのヘルプ要員でしかない」

「ツッコミのヘルプってなんだよ! なんなのそういう扱いだったのずっと俺!」

 

段々と己の扱いの悪さに気付いて来たレオ、そんな彼にエリカが優しく肩に手をかけて

 

「じゃからわしはおまんの存在の薄さを危惧して少しでも読者の印象に残してもらおうとヒデキと呼んでおるんじゃ、西城だからヒデキ、西城ヒデキ」

「かたくなに俺の事ヒデキって呼んでたのってそんな理由!? しかもメチャクチャしょーもないんだけど! すげぇつまんねぇし何も捻りもねぇんだけど!」

「あーやっぱおまんもそう思う? 実は読者からの反応も皆無じゃったから薄々スベッてんだなと気づいておったんじゃが、ここで引いたら負けると思うので今後もヒデキで行こうと思います」

「行かなくていいんだよ! なんでそこ決心した!? もうレオで良いだろそこは!」

 

急にキリっとした表情でこちらに顔を上げながらはっきりと決断する潔いエリカにレオは声高くツッコミを入れた後、遂にガックリと腰を折って自らが置かれている状況に気付く。

 

「知らなかった……俺読者からなんとも思われてなかったのか……」

「この際だからいよいよ言っちゃうけど、今のままじゃアンタいてもいなくてもどうでもいい存在としか認識されないから、空気キャラ以前にキャラではなくただの空気でしかないから」

「そこまで言う!? なら今のままじゃダメなら一体俺はどうしたら……!」

 

励ましどころかトドメの一撃まで叩き込んできた坂本。

もはやどうすればいいのか自分でもわからなくなってしまったレオ

 

しかしそんな風に談笑しているのも束の間

 

突然、一隻の船の中から爆発が起こったのだ。

 

「え! なんか爆発してるけどどういう事!?」

「陸奥! わし等の船の中の一隻がおかしな事になっとるぞ!」

 

さほど大きな爆発ではないものの、何か良からぬ事が起きている可能性がある。

驚いている坂本をよそにエリカがすぐに陸奥の名を叫ぶと、すぐ様本人が荷物をほおり出して彼女の下へ現れる。

 

「アレは蓮蓬に体を支配されたモン達を閉じ込めていた船じゃ、どうやら奴等、意識が戻ったと同時に艦内で暴れ出したか」

 

快援隊は蓮舫の星へ潜入を試みた時に一部の者達が蓮蓬に体を入れ替えられてしまっている。

その者達は皆、一つの船にまとめて閉じ込め、動けぬよう厳重に縛り付けておいていたのだが……」

 

「連中を侮っておった、捕まえていたのは全員じゃなかった、今の今までわし等の仲間のフリをしながら欺いて

おったんか」

 

宇宙で様々な諜報活動を行っていた蓮蓬はやはり一筋縄ではいかなかった。連中はすぐに船の乗っ取りが出来ないと悟ると、入れ替わっていないと欺いて今までずっと快援隊の一員として動いていたのだ。

そしてその数は……

 

 

 

 

 

「快援隊のモンはわし等以外既に蓮舫に体を乗っ取られておる」

「「「!!!」」」

 

自分達が油断し、探索組が出払って守備が手薄になっている所で連中は遂に本腰を入れてきたのだ。

エリカは気付く、さっきまで自分の周りにいた乗組員が全員

 

白目を剥きながらこちらを囲んでいる事を

 

「我等こそが真の蓮舫……」

「我等の産みの親であるSAGIを捨てる事など出来ぬ……」

「親を捨て、何処へ消えたかつての同志など捨て置け……」

「だが我等蓮蓬の中で袂が分かれた原因を作り……」

「言葉でかつての同志達を誑かした坂本辰馬という男だけは……」

「この手で直接葬ると決めていたのだ……」

「今こそ復讐の時……」

 

蓮蓬と化してしまった快援隊の乗組員は皆ブツブツと呻きながらこちらに向かってゆっくりと歩いて来た。

 

「おまん等……!」

 

かつての仲間達が変わり果てた姿を再び目の当たりにしたエリカは奥歯を噛みしめながら彼等を睨み付けると

 

「すんませーん! 坂本辰馬はコイツでーす! アタシ千葉エリカっていう超バリバリのJKなんですけど! あなた方の復讐とかそういうの全く関係ないんで逃がしてもらえます~!?」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!? アンタなに言ってんのよコラァァァァァ!!!」

 

すぐ様隣にいた坂本の肩に手を置いてコイツが坂本だと言い触らすエリカ。妙にぶりっ子みたいな口調で叫ぶ彼女に坂本がキレながら振り返る。

 

「すんませーん! さっきのは噓でーす! コイツが本物の坂本辰馬でーす! アタシはあなた方の入れ替わり装置で体を入れ替えられた哀れなJKであり本物の千葉エリカでーす!」

「ちょっと坂本さん冗談きついわよ、アンタの仲間が今あんな状態になってるのに、なに可愛いJKであるアタシこと千葉エリカちゃんをを売ろうとしてるの? 仲間があんな目に遭ってるのにそれでも艦長? チンコついてんの?」

「お前ぇぇぇぇぇぇぇ!! 人の口調完コピしたからって千葉エリカ面すんじゃないわよ!! つうか本物の可愛いJKはチンコなんて言葉使わないのよ!!」

 

口調を完全に真似しながらこちらに軽蔑の眼差しを向けながら非難するエリカの胸倉を掴みながら坂本は顔を近づける。

 

「この期に及んでシラを切ろうとすんじゃないわよ! 連中の狙いはアンタなんでしょ! だったらアンタが大人しく殺されれば……ってそれだとアタシの体が殺されるって事じゃないの!」

「ああそうか、おまんを売ったらわしの体が殺されるっちゅう訳か! いかんいかんそれはいかんぜよ! すんません今の無し! 本物の坂本辰馬はわしでーす! 殺すんならわしですよー!!」

「何を言うとるんじゃわしが本物の坂本辰馬ぜよ! 可愛いJKの千葉エリカちゃんは大人しくそこで黙っとれ! さあわしを殺せ!! アハハハハハッ!」

「おうい! いつの間にわしの口調完コピ出来るようになっておんのじゃ! 皆さん違うきに! わしが本物の! 本物の坂本辰馬でございまーす!! 坂本辰馬に清き一票をぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

両者もみくちゃになりながら蓮蓬軍相手に自分が坂本辰馬だと叫び始める二人を

 

「いい加減にするぜよ」

「「のばぁ!!」」

 

エリカ、坂本と順番に陸奥は涼しい表情で綺麗な踵落としを二人の頭部にかます。

 

「結局どっちかでも殺されたらおまん等両方死ぬという事じゃろうが、さっさと気付けアホたれ」

「うぐぐ……つまり今のわし等は一心同体っちゅう訳か……」

「アンタに死なれちゃアタシも元の体に戻れないものね……おっさんと運命共にするなんて最悪だわ……」

 

ようやく自分の身に置かれた状況に気付いたエリカと坂本は頭をさすりながら立ち上がる中で、陸奥は周りを見渡しながら基地内部に入る出入り口を見つめる。

 

「大将が死んだら戦は負け、他の連中共にとって大将は将軍か将軍の体を持つ司波達也じゃろうが、わし等快援隊にとっては坂本辰馬が大将、まっことやる気が起きんが、わしはおまん等を護らねばならん、という事で」

「え? ゲフゥ!!」

「ちょっとアンタ! いきなり何を……どふぅ!!」

 

陸奥は突然、二人に向かって思いきり蹴りをかまし、内部に入る為の出入り口の方へと思いきりぶっ飛ばす。

あまりにも豪快に吹っ飛ばされたおかげで慣れない身体である蓮蓬達は目で追う事が出来なかった。

 

「ここはわしがやる、おまん等は先に入っていった連中の所へすぐにこの事を伝えて来い」

 

そう言うと陸奥はすぐ様、仲間の体を支配している蓮蓬達が坂本達を追わぬよう床をダッと踏み出すやいなや

 

「安心するぜよ、殺さぬように加減をするというのは、あのバカ共のおかげで慣れてるきに」

「!」

 

飛ばされた坂本達を追いかけようとする快援隊の一人に拳を叩き込む。

殴られた方はそのまま壁の方にまで飛ばされ、他の快援隊達はどよめき始めた。

 

「わしの仲間の体とそちらの体では価値が違い過ぎる、その売買は不成立じゃお客さん」

「その力は夜兎の……」

「さすがは一度は我々を退けただけはある……」

「だがこれしきの事で……」

 

隊列は乱れつつあるも、蓮舫は長年その名を隠しつつも優れた傭兵部族。

 

「我等が怯むとでも思ったか……」

「全員、船にあるありったけの武装を装備せよ……」

「坂本辰馬を殺す前に……」

「奴への見せしめにこの女を殺せ……」

 

夜兎一人が出てこようが引く気など微塵も無く、一斉に陸奥目掛けて襲い掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

さっきからずっと彼女の近くにいるレオをほったからしにして

 

「あの、俺もいるんだけど……」

 

取り残されたレオが自分を指差し寂しげに自己主張するも陸奥と快援隊達はガン無視で戦い始める。

 

「わし等の船から武器を奪ったか、念には念をと買っておいた武器が仇になるとは笑えん冗談じゃ」

 

それでもなお陸奥は足を動かすのを止めず、一人一人確実に仕留めていく、己の拳と蹴りのみで無力化させていった。

設置型の大型重火器が彼女に照準を定め、派手な銃撃音と共に銃弾が飛んで来ようと彼女は走り回りながらそれを掻い潜っていく。

 

「弾を勝手に使いこんでからに、こりゃあ相当そちらさんに払ってもらわんといかんの」

「うぐ!」

 

銃弾の雨を避けつつ、陸奥は徐々に距離を詰め寄ると最後に一気に飛び込んで、その重火器ごと快援隊を蹴り飛ばした。重火器の先にある銃口はへし折られもう使い物にならなくなり、飛ばされた者もその場で倒れ動かなくなる。

 

倒れた者が死んではいないと一瞥すると、陸奥は休む暇なく駆け出して戦い続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

そしてそんな中でもレオは誰一人にも相手にされていない。

 

「だから俺いるんだけどぉ!? なんでスルーして全員陸奥さんに向かってんの!? 俺は敵としてもみなしてないの!? それとも遂に俺の存在が空気と一体化して誰にも気づかれないの!?」

「ヒデキー!!」

「坂本さん!」

 

戦場と化した場所のど真ん中でポツンと佇むレオに向かって、出入り口付近にまで飛ばされていたエリカが起き上がって彼に向かって叫ぶ。

 

「ここがおまんの正念場じゃぁ!! ここで目立たんと完全に最後まで読者に存在を忘れられたまま消えるぞー!!」

「いやそれよりさっさと逃げろよアンタは!! 誰のために陸奥さんが一人で奴等と戦ってると思ってんの!?」

「ほらほら戦え戦え空気野郎! アタシを護るために「ここは俺に任せて先に行け」とかいい感じの台詞吐いて敵陣突っ込め! そして死んで伝説になれ!!」

「最終的に死ぬのかよ! ていうかお前も逃げてなかったのかよ千葉!!」

 

応援というか半分ヤジに近い感じでこちらに向かって叫び続けるエリカと坂本。

この様な状況でもどうしてあそこまでふざけていられるのかと疑問に思いつつも、レオは彼等にクルリと背を向けた後、グッと親指を突き立てて顔だけ振り向き

 

「……ここは俺に任せて先に行け」

「ヒデキィィィィィィ!!!」

「感激ィィィィィィィ!!!」

「お前等絶対仲良いだろ!!」

 

両手でパチパチ鳴らしながら煽ってるかのようにその場でピョンピョン跳ね上がる息ピッタリのコンビニにツッコミを入れ終えると、もはやヤケクソ気味にレオは陸奥と交戦している敵陣の方へ駆け出す。

 

「だーもうやってやるよ!! 見てろよアホコンビ! 見てろよ読者! これが西城・レオンハルトの一世一代の大活劇だァァァァァァァ!!!」

 

拳を掲げ果敢に突っ込んで行くレオ、その勇姿にエリカと坂本が「おおー!」と叫ぶ。

 

だが突っ込んで行くレオの目の前にタイミング良く

 

「って危なッ!」

 

何処からともなく巨大な箱が派手な金属音を鳴らしながら落ちて来た。

 

「はぁ!? なんだこのバカでかい箱!! 一体どこから……って」

 

頑丈そうに出来た鋼鉄製の巨大な箱、見る限り陸奥達が持ってきた荷物なのかもしれないがどこか異様な雰囲気が漂う代物であった。

 

レオが恐る恐るそれに手を伸ばそうとすると……

 

「ゴアァァァァァァァァァァ!!!」

「ギャァァァァァァァァ!! なんか出てきたァァァァァァ!!!!」

 

先程落ちた衝撃で筈かに箱に隙間が出来たのか、そこからごつくて毛深い両手でこじ開けて何者かが顔を出し咆哮を上げる。

ビックリして後ろに下がるレオの前に現れたのは

 

「ウゴォォォォォォォ!!!」

「ゴリラァ!? なんでこんな所にゴリラが!? しかも何だこの大きさ!? 3メートルは軽くあるぞ!!」

 

顔だけでなくその全身を箱から抜け出し現れたのはなんと巨大なゴリラであった。

唐突に現れたそのゴリラは叫びながら胸を叩きこの場にいる者全員に威嚇しているかのように見える。

しかもこのゴリラ、そのデカさも気になるのだがもう一つ気になる点が

 

「なんでウチの学校の制服着てんのこのゴリラ!?」

「おお! ヒデキよく見て見ぃ! そいつはわし等の学校にいた十文字先輩じゃ!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 十文字先輩こんなんだったっけ!?」

 

パッツンパッツンの状態ではあるがかろうじて着ているあの服は国立魔法大学付属第一高校の制服と瓜二つ。

そして後ろからまだ逃げていないエリカがそのゴリラこそが三年生・十文字克人だと言いレオは戸惑った表情を見せる。

 

「確かにあの人最初見た時ゴリラっぽいとは思ってたけど……これもうモノホンのゴリラじゃねぇか!!」

「こちらに運ばれた物資の中にはわし等が向こうの世界から運んだモンも混ざっちょる。そうか十文字先輩はわし等だけ行かせるのは危ないと思いコッソリ荷物に紛れて隠れておったんか……うう! 陰ながらわし等を助けようと思っておったとは! なんて後輩思いのええ先輩なんじゃ!!」

「アタシもこんな優しい先輩がいる学校で楽しい高校生活を送りたかったのに……うう!」

「いやいやいや! なんで泣いてるのアンタ等!?」

 

二人揃って顔を手で覆いながら泣いてる仕草をしているエリカと坂本にそろそろレオも一々相手するのが面倒臭くなってると、突然、十文字(?)と思われる巨大ゴリラがドラミングを終えると遂に動き出す。

 

「ゴアァァァァァァァァァァ!!!」

「ギャー十文字先輩が暴れ出したぁ!」

 

丸太の如き大きな腕を振りかざし、それを誰に狙いを定める訳でもなく闇雲に振り回すゴリラ。

 

「まさかこのような化け物をまだ隠し持っていたとは……!」

 

床や壁、船や快援隊のメンバーさえも見境なくぶっ飛ばしていくその姿は正に鬼神の如き強さ。

 

蓮舫に乗っ取られた快援隊がその暴れっぷりを見て戦慄を覚えている隙に

 

「よそ見するんじゃなか」

「ぐ!」

 

後ろからやってきた陸奥が手刀を首に当てて一撃昏倒させた。

そして目の前でだだをこねる子供の様に喚きながら暴れているゴリラを彼女は見つめる。

 

「こんなモンが紛れ込んだおったか、全く向こうの世界はどうなっておるんじゃ? ラピュタといいこの巨大ゴリラといい……」

 

分析しようとするが陸奥の思考の回転より先にゴリラは段々と派手に動き回るようになり、あちらこちらを無茶苦茶に破壊していく。快援隊のメンバーもちらほらと多大な被害が生じているみたいだ。

 

「マズイ、このままだとあのゴリラ……操られとるモンの体ごと潰しよるぞ、なんとかして止めねばこの場にいるモン全員殺されるぜよ……」

 

見る限りあのゴリラは既に名の知れた夜兎並の身体能力を誇っている、つまり陸奥でさえ相当手強いと認識するレベルだ。

しかしそんな危険な状態を前にレオは

 

「いやまだ打つ手はありますよ陸奥さん……アレがもし坂本さんの言う通り十文字先輩ならきっと俺達の味方だ、だったらやる事は一つしかねぇ……」

 

強靭な顎で壁を嚙み砕き始める巨大ゴリラと対峙しレオは腹をくくったかのように歯を剥き出す。

 

「全力でぶつかって俺達の力を認めさせるんだ! そうすりゃあきっと先輩も正気に戻ってくれる!」

「全くどこの世界のモンもほんに世話のかかる連中ばかりじゃて……」

 

戦わねば道は開けない、ならばやる事はもう既に決まっている。

既に決心しているレオと同じく陸奥もまた眼前のゴリラを睨み付ける。

 

「行くぞヒデキッ!!!」

「おうよッ!!!」

 

そしてレオと陸奥は真っ向から巨大ゴリラに向かって飛び掛かり戦いを挑むのであった。

 

 

 

 

 

「あーでもよく見たら十文字先輩じゃないような……さすがにもう少し小さかったかもしれんのぉ」

「そらそうでしょ、ゴリラが魔法学校の生徒になれたら世の末よ」

 

よくよく見てみるとやっぱアレ十文字克人じゃないなと気づいたエリカは坂本と共に出入り口の方へ踵を返し

 

「逃げた方がええか」

「アイツ等の骨は後で拾ってあげましょ」

 

謎の巨大ゴリラと戦っているレオと陸奥を残し、すたこらさっさと内部へと潜入するのであった。

 

 

 

 



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第二十三訓 驚愕&衝撃

西城・レオンハルトと陸奥が巨大ゴリラと一戦交えている頃。

 

「かかれぇ! 俺達地球人とゴリラの力を奴等に見せつけれてやるんだぁ!!」

「生まれ育ち、世界は違えど俺達は皆青き星にて生を受けた者達! 協力して敵を駆逐するのだ!」

 

 

それと同じ時間帯に近藤勲・十文字克人率いる反乱軍が助っ人としてやって来た真撰組と共にいよいよ蓮蓬軍と正面から向かい合っていた。

 

ここは下層部、蓮舫と化した地球人達が収容されている場所。地下で淡々と反乱を企てていた者達が遂に決起を始め、その数は少数ではあるものの、地下で見張り役として配置されていた蓮蓬の斥候部隊を倒すには十分であった。

 

『おのれ地球人! 我々の体となってなおまだ抗うか!』

『急いで上層部に報告だ!』

『すでに我等と同化した地球人達も援軍としてこちらに回せ!』

 

蓮蓬の部隊がプラカードを持ち出し急い伝令を飛ばそうとするも、その伝令役の前に華麗に着地する男が一人。

真撰組の鬼の副長として恐れられ、幕府の下で数多の攘夷志士を斬り捨ててきた猛者

 

「伝令役か、ならここを通すわけにはいかねぇな……ここはいわば地獄の窯底、それを管理するのは鬼であるこの……」

 

腰に差した刀を抜いて、静かに構えると、開きっぱなしの男の瞳孔が更にカッと開く。

 

「土方十四郎なんだぜ!! 土方十四郎がいる限り! ここから逃げると思うんじゃないぜ!!」

『ぐはぁ!』

 

刃の方でなく峰の方で伝令役を吹っ飛ばしながら、土方はマヌケな口調で戦っている部下達に激を飛ばす。

 

「お前等! 俺達真撰組の底力を見せつけてやるんだぜぃ! お前等にはこの土方十四郎がついている! 土方十四郎であるこの俺がいる限りこの戦は勝ったも同然! 全員この土方十四郎に続けぇ!!!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

真撰組だけでなく蓮蓬と化している地球人達も彼の雄叫びに応えて一斉に他の蓮蓬軍に襲い掛かっていく。

そんな中でもう一人暴れ回れ回っているのは真撰組一番隊長である沖田総悟。

 

「コイツ等蓮蓬を殺しちゃいけねぇってのが面倒だが、まあテメェ等程度の相手だったら問題ねぇか」

 

土方と同様刀を回して峰討ちの構えを取りつつ、次から次へと敵を減らしていくその姿は正に真撰組の特攻隊長。

剣の腕であれば真撰組随一とさえ称される程の天才剣士、そんな彼を止めるにはまだまだこの程度の数では足りない。

 

下層部での反乱は無事に成功、攻略するのも時間の問題であろう。

しかしこれはまだ序の口、中層部は更なる激戦が行われるであろうと共に、蓮蓬に完全に成り果ててしまった地球人とも戦わなければならない。本当の戦いはここからだ。

 

そんな中で、万事屋メンバーである志村新八は後衛の守備に周りつつ、ずっと前で戦っている土方を怪しむ様に見つめていた。 

 

「……やっぱ絶対変だろアレ……絶対土方さんじゃないって、あそこまで自分の事土方ですって強調されたら逆におかしいって……」

「そうだよね、やっぱ副長もどこかおかしい。もしかしたらさっき落ちて来たお女の子が本物の……」

「あ、山崎さん!」

 

新八が疑惑の目を土方に向けていると、いつの間にか隣にいた蓮蓬の体となった山崎がそれに賛同してくれる。

今現在、妙な事ばかり起きる中で、新八にとって情報収集に長けている山崎の存在はかなり頼りになる存在だ。

 

「どこ行ってたんですか山崎さん! 僕等と一緒に地下へ降りたっきり全然姿見えなくて心配してたんですよ!」

「すまないちょいと野暮用でね……それより旦那はどうしてるの? ていうか深雪さんって人」

「え、深雪さんですか? 深雪さんなら……」

 

何故か彼女の事を訪ねてきた山崎に、新八は蓮舫と反乱軍が群がっている方へと指を指す。

そこには同じ万屋メンバーである神楽と背中合わせの状態で、銀髪天然パーマを揺るがしながら木刀を振り抜く……

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

『げほぉ!』

 

襲い掛かる蓮蓬達を相手にバッタバタと木刀で豪快にぶっ飛ばしていく坂田銀時の姿がそこにあった。

 

「ったく揃いも揃って同じツラばっか出て来やがって……お前等やられ役にかまってる時間ねぇんだよこちとら……」

「ユッキー! 右からまた来たアル!」

 

何やら機嫌悪そうに木刀で肩をトントンさせながら蓮蓬達を睨み付ける銀時、そんな彼に一緒に戦っていた神楽が敵が来たと知らせると彼はすぐに目をカッと開かせ

 

「糖分切れてイライラしてんだよ!」

『うぐ!』

「どうせ出て来るならパフェ持って出て来い! もしくはみたらし団子でも可!」

『どぅへ!!』

 

襲われようが容易に避けつつ、木刀で突きながら強烈なカウンターをかましていく銀時。

とても本来の魂が入っていない身体とは思えない動きだ。

 

(強い……! この異常とも呼べるずば抜けた身体能力! 元の私の体ではこんな動き出来なかった! 魔法は使えずともこんなにもうまく戦えるなんて……!)

 

銀時の中にいる司波深雪は戦いつつ内心驚いていた、本来の体ではない筈なのに、戦えば戦う程体の動かし方が分かっていき、蓮蓬相手には引けを取らない程強くなってしまった。

更にこのまま戦い続ければまだまだ自分は強くなれる、そう確信する程この身体の力は計り知れない。

 

(見てくれはちゃらんぽらん、だが何故こんな男にこの様な力が秘められて、一体この男にどんな過去が……づ!)

「どうしたアルかユッキー! 急に頭抱えて!」

 

ふと坂田銀時という男の過去が気になった瞬間、銀時の頭に強烈な痛みが発生し、思わず頭を抱えて膝を突く。

心配して駆け寄ってくる神楽をよそに銀時が一瞬見えた光景は

 

 

 

人と人ならざる者が混ざり合った血生臭い戦場

 

そして築かれた屍の山

 

どこか見覚えのある男達と共に戦場を駆け

 

屍の山を乗り越え、喉が潰れる程の雄叫びを上げながら

 

異形の姿をした者達を斬り捨てていく

 

 

 

 

 

「は! チィ!」

 

ふと我に返った銀時はすぐにこちらの隙を突いて襲ってきた敵を蹴りで薙ぎ倒す。

 

(今頭の中で妙な映像が……血や死体の匂いまではっきりとわかるぐらいリアルな……今のは一体)

「おいユッキー! ボーっとしてないでさっさとコイツ等ぶっ倒すネ! 今のお前なら銀ちゃんには及ばないけど十分戦るネ!」

「って考えてる暇なんかねぇか、やれやれ少しぐらい私にも休みくれよコノヤロー」

 

ふと物思いにふけりながらも、すぐにここが戦場だという事を思いだし、銀時は木刀を握り直して蓮蓬達に逆に襲い掛かる。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

先程見た光景と同じく、喉が潰れる程の雄叫びをあげながら

 

異形の姿をした者達を斬り捨てていく。

 

(この身体で戦い続ければ更に強くなれる、あの人に護ってもらう必要がないぐらいに、あの人の隣に立つぐらい……いや)

 

目の前にいる最後の一体を強烈な一撃で宙に回せながら銀時は微かにニヤリと笑った。

 

(ずっと護られていただけの私が、逆にお兄様を護れるぐらいに!)

 

 

その想いに危うさを重ねて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ深雪さん滅茶苦茶強くなってる! ていうかもはや動きが完全に銀さんになってるし! 山崎さんアレまずいですよね! 浸食率80%はいってるんじゃないですか!?」

「戦い方や思考まで体にある記憶に影響されてる可能性があるね、もうあのままだと完全なる旦那となるのも近い」

「そんな! だったら蓮蓬を相手にする前に入れ替わり装置の破壊を優先しないと!」

「いやその前に新八君達にはやる事がある」

「え?」

 

一刻も早く二人を元に戻さねばならないのに、それより先にやる事などあるのか?と疑問に思う新八をよそに、山崎は自分の口の中に手を突っ込むとある物を取り出して新八の方へ差し出す。

 

「コイツは俺がずっと入れ替わり現象についての事を調べ尽くしたノート、『ZAKINOTE』だ」

「……なんかどっかで聞いた事のある名前なんですけど、ザキだから余計にアレと同じ類かと匂わせるんですけど」

「これを新八君に託す、そしてある時にこれを開いて欲しいんだ。それがきっと世界を救うチャンスになる」

「ある時って……」

「旦那と司波深雪、そして司波達也が揃った時だよ」

「なんであの三人が会った時……そもそも入れ替わり現象の事なんて僕等山崎さんのおかげで全部知ってるじゃないですか、今更これを読んでも何の意味が……」

 

やたらと黒く、白字で「ZAKINOTE]と書かれた胡散臭さこの上ないノートを託されて新八は眉を顰めるも、山崎は真剣な様子で話を続ける。

 

「俺が新八君に教えたのはあくまで蓮蓬が計画した内容だ、だがそこには蓮蓬達も知らない事も書かれている」

「蓮蓬でさえ知らない事って……山崎さんそんなのどうやって調べたんですか? いくら真撰組の密偵でもさすがにそこまで……」

「まあ偶然の産物って所かな……俺の口からは言えないけど、時期が来れば分かる筈さ」

「……今読んじゃダメなんですか?」

「新八君一人じゃ完全には読めないよ、魔法についての知識を持ってなければ理解できない」

「魔法!? 魔法って深雪さん達の世界にある奴の事ですよね!? 山崎さんがどうしてそんな事!」

「……」

「山崎さん……?」

 

何やら山崎の様子がおかしい、以前は聞いた事はちゃんと答えてくれたが今回はかなり曖昧な感じで全部は答えようとしてくれない。魔法に関するという事について調べたという事は山崎自身が魔法に詳しいという事。

なぜ真撰組の山崎が異世界の魔法の事について精通しているのだろうか……

 

「わかりました、言いたくないのならこの件については僕から問い出す事はもうしません」

「すまない……けれどこれだけは教えておくよ、入れ替わり現象による精神の浸食はマイナス効果だけじゃないんだ」

「……プラスにもなりえる可能性があるという事ですか? もしかしてそれが蓮舫の知らない現象という事なんですか?」

「ああ、でもそれが出来たとしても極めて危険な賭けなんだけどね、大いなる力には大いなる代償が必要となる、もしかしたらやらない方が良いかもしれない……でも俺は信じてるよ」

 

その現象は極めてリスクの高い超常現象とも呼べる存在であるらしい。

一体どんな事が起きるのか……不安に思う新八に対して、山崎は心なしか声のトーンが若干下がったような感じで彼に語りかける様に呟く

 

「”銀時さん”なら、入れ替わり現象において蓮蓬達でさえ知らない未知の領域に達する事が出来るんだと”僕”は信じてます」

「当たり前ですよ、あの人はデタラメだけどやる時はやるんです、それは長年見ていた僕が保証します」

「そう……か、それは……良かったよ……あの人はやっぱり……良い仲間に……恵まれ……る……」

「山崎さん!?」

「……やれやれ、声長変換装置がもう持ちませんね……まあこれ以上人の良いあなたを騙すのも心苦しかったのでよしとしましょう……それでは最後に一言だけあなたに……」

「!」

 

山崎の口から雑な機械音が鳴りだしたと思いきや、彼の声がガラリと変わった事に気付く新八、その声はまるで……

 

女性の様だった。

 

「かつて”僕等と共に戦ってくれた銀時さん”と、”私達の生徒会長”をどうかよろしくお願いします」

「……あなたは一体……うわ!」

 

最後にそれだけ言い残すと、突如新八の前に味方の部隊が一斉に押し寄せてくる。

恐らく新八が喋っていた間に下層部は陥落したのであろう、皆一斉に中層部へと向かう道へと走り出している。

その群衆に紛れ込んでしまった新八は、あっという間に彼……いや彼女かもしれない人物を見失ってしまった。

 

「……一体何だったんだ」

「あ、新八くーん!」

「え? ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

次から次へといろんな出来事が起こり混乱している新八をよそに、突如群衆を掻き分けて彼の下へやって来たのは

 

「久しぶりー、いや実は俺も沖田隊長に連れられてこっち来ちゃってたんだ、密偵としてこの辺調査してんだけど情報全然手に入らなくてさー」

「山崎さん!? しかも生身のままの山崎さん!?」

「え、なに生身のままって?」

 

なんと現れたのはいつも通りの人間の姿をした山崎退であった。

特に何も変化してる様子は無く完全に江戸で会っていた頃の山崎本人だ。

 

「なんで普通にいるんですか山崎さん!? 蓮蓬と体入れ替わったんじゃないんですか!?」

「え? いや俺は奴等に体乗っ取られてないよ、ずっと自分の体のままここまで来たんだから」

「ってことはやっぱり僕等がずっと山崎さんだと思ってた人は別人!?」

「ちょっと待って新八君、さっきからわけからないんだけど」

「僕だってわけわからないんですよさっきから!!」

 

一体なんだというのだ、山崎かと思ってたあの有能な情報提供者は山崎ではなく、山崎だと偽っていた別の人物だったという事がわかったのはいいが、一体全体何故そんな真似したのか見当もつかない。

当の山崎本人は困惑している様子で、新八もまた頭を抱えて叫んでいると

 

「おぃどうした山崎、下層部は完全に落ちたぞ。中層部で奴等がどんな風に待ち構えてるか偵察よろしく」

「あ、沖田隊長、いやなんか新八君の様子がおかしくて」

 

攻略し終えて山崎を探しに来たのか、沖田はいつもの済ました顔で何事もなかったかのようにひょっこり現れた。

それに気付いて山崎も彼の方へ振り向く。

 

「あ、おかしいといえば最近の副長もどこか変だし、それに沖田隊長もなんか違和感覚えるんですよね、局長はいつも通りですけど」

「ん? どこか違和感覚えるってどういう事でぃ」

「いやなんか前もそうだったけど最近やけに極端になったというか……なんていうか微妙に前の沖田隊長とは違うような気がするんですよね……ほら、あの時からですよ」

 

自分が少しおかしい言われて若干不機嫌になってる沖田を前に、山崎は人差し指を立てながら思い出す。

 

 

 

 

 

「俺とパトロール中に沖田隊長が突然謎の落雷を頭から受けた時」

「ああ、あの時か、でも俺あん時の記憶あんまねぇんだよな」

「凄ったですよホント、だって雷直撃したのに無傷でケロッとしてるんですもん、さすがにあの時の沖田隊長は本当にバケモンなんじゃないかと真剣に思っちゃうぐらいビビりましたよ」

「まあ俺ぐらいになれば雷食らったって屁でもねぇって事さ、俺にかかりゃ超電磁砲だって素手で受け取ってそのまま御坂美琴に投げ返してやるよ」

「いや御坂美琴って誰っすか?」

 

ちょっと前に落雷を受けたというのに全くピンピンしている様子の沖田に苦笑する山崎。

 

しかし彼等のやり取りを傍で一部始終聞いていた新八はというと

 

「い、今謎の落雷に当たったって言いませんでしたか……?」

 

冷や汗を垂らしながら怯えてるかのような目を沖田に向け、言葉は尋常じゃない程震えていた。

 

「無傷って事はそれって……つまりそういう事ですよね、銀さんや桂さんと同じアレ……」

「おいコラァ、雷食らったぐらいでなに良い気になってるアルか」

 

もしかしたら今目の前にいる沖田は……しかし本人は自覚が無い、それは一体どういう事だ……。

疑問を浮かべながら彼に尋ねようとする新八だが、突如戦いを終えたばかりの神楽が喧嘩腰で沖田に近づく。

 

「私だってな、ここ来る前に江戸で雷落ちて来たけど全然平気だったネ、自分だけだなんて思ってんじゃねぇゾ、私なんかビリビリの超電磁砲食らってもそれをご飯にかけて余裕で食べきる自信があんだぞコラァ」

「か、神楽ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!? い、今なんて言ったぁ!?」

 

どうだ参ったかという感じでドヤ顔を見せる神楽に対して驚いたのは沖田ではなく新八であった。

完全に思考が追い付いていないこの状況で、更に上乗せするがの如くとんでもない事をぶっちゃける彼女に新八はもうパニック状態に

 

「雷食らったんか!? 銀さんと達と同じ雷食らってたんか!? てことはもしかして銀さんだけじゃなくて神楽ちゃんも!?」

「ん? いや私は銀ちゃんと同じ雷じゃないネ、だって私は入れ替わってないし、私は私だってキチンと自覚してるアル、あの雷食らった事で変わった事と言えば」

 

自信満々に自分は神楽本人だと言い切ると、彼女は思い出そうとするかのように目を瞑って額に人差し指を当てる。

 

「せいぜい寝てる時に見知らぬ部屋でどっかであったような気がするオバはんと暮らしてる夢見る事ぐらいヨ」

「ふーん奇遇だなチャイナ娘、俺もあの雷食らってたから妙な夢見るようになったんだよな」

 

何やらおかしな夢を見るようになったと言う神楽に沖田が面白くなさそうに頷く。

 

「見知らぬ部屋でどっかであったような気がするおっさんと暮らしてる夢」

「はぁ? んだよそれ、サド野郎と似たような夢見るとか最悪アル」

「そいつはこっちの台詞だチャイナ娘、今すぐ見る夢変えろ、もしくはもう二度と寝るな」

「んなの出来る訳ねぇだろうが! お前が寝なければいいじゃねーか!」

「ざけんな、睡眠不足はお肌の大敵……あれ?」

 

神楽とのいつもの口喧嘩中に沖田はふと自分が言った事に疑問を浮かべて首を傾げる。

 

「なんで俺、肌の手入れなんて気にしてんだ?」

「男のクセになに女々しい事言ってるネ、マジキモイアル。あ、そういえばユッキーどこ行ったアルか? おーいユッキー! 私の目から見えない所に行っちゃダメヨー、お前は私達一族にとって大事な……今私なんか変な事言いかけたアル」

 

何故か自分が言おうとしてない言葉が勝手に出て来る……沖田と神楽は顔を合わせて数秒固まった後、同時に新八の方へ振り向いて

 

「なにか俺達に変な事が起きてるんで」

「すぐに調べてもらっていいアルか?」

「……」

 

新八はそんな二人をジト目で見つめながらしばらく硬直した後、スーッと大きく息を吸い込みそして

 

 

 

 

 

「すんませぇぇぇぇぇぇぇぇん!! さっきいなくなった人もう一度戻ってきてくださぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」

 

悲痛な思いで新八はひたすら叫び声を上げる。

しかしその声に返事する者は無く、ただ空しく地下牢で響くのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新八が様々な衝撃的な事実に追い込まれている頃。

そんな事も露知れず、司馬深雪はリーナと共に中層部をコソコソと動き回っていた。

 

「逆ナン対決でここまで来たが……」

「イケメンとどころか同じ面したバケモンしか見当たらねぇ」

 

同じゴミ箱に身を潜めながら、僅かに隙間を開けてそこから外を見渡す深雪とリーナ。

自分達がいる通路を埋め尽くすがごとく、大量の蓮蓬達がゾロゾロと隊列乱さず行進していた。

恐らく下層部がやられた事を聞きつけ、反乱軍の下へと向かう途中なのであろう。

 

「悪いが深雪さんはこんなレベルじゃ声をかける事さえしねぇぞ、小栗旬か菅田将暉レベルじゃねぇと橋本環奈クラスの美少女である深雪さんは満足出来ねぇんだよ」

「ケッ、誰が橋本環奈だ。小栗旬をテメェが落とせる訳ねぇだろ、俺は柳楽優弥なら余裕で口説けるけど」

「寝言は寝て言えや、テメェが落とせる男なんざせいぜいムロツヨシだ」

「お前だって所詮佐藤二朗ぐらいだ……!」

 

気付かれぬようにしながら二人は小声で口喧嘩をしつつ、蓮蓬達が通り過ぎるのをひたすら待つ、

 

しばらくしてようやく彼等は見えない所にまで消えていったのを確認すると、深雪とリーナはゴミ箱の蓋を開けて姿を現す。

 

「やっと行ったか、どうやら連中も本腰入れて来たって所だな、ってアレ?」

「おいちょっと待て、なんか出られねぇんだけど」

 

入ったはいいが逆に出る事が困難なようで、二人は見事にズッボリ挟まって中々抜けない。

 

「リーナさん、おたく太ってるんじゃありませんのこと?」

「太ってねぇ! こちとら社会の為に働き規則正しく生活してたんだ! それにこの身体になってからは愛用しているマヨネーズも脂質カットの方に切り替えて……ってオイ、マジで抜けねぇぞ!」

「ふざけんな! 敵陣のど真ん中でこんなマヨネーズバカとセットで身動きとれねぇ状態とか笑えねぇんだよ!」

「俺だってテメェみたいなブラコンバカとセットとかごめんだ! クソ! 本当に抜けねぇ!」

 

ガタゴトとゴミ箱を揺らしながらなんとか出ようとするも二人共自分が先に出ようとするせいで一向に抜け出せないでいた。こんな事している間にもまた蓮蓬の隊がこの廊下を通ってくるかもしれない……そんな事を二人が思っていた矢先、蓮蓬達が進んで行った方向とは反対の廊下から奇妙な音が聞こえてくる。

 

「うぇ~……皆さんどこ行っちゃったんですか~……」

「ん? おい今声が聞こえなかったか? なんか泣いてる様な声が」

「泣いてる声?」

 

いち早く気付いたのはリーナだった、すすり泣いてるかのように鼻を鳴らす音と不安そうな小さな声が耳に入り、深雪もまた何かの気配に勘付く。

 

「こんな所で一人にされたら私……私もう怖くて歩けませぇん……」

「誰かがこっちに向かって来てるみたいだな……あれ? この声どっかで聞いたような?」

「とにかく喋る事が出来るって事は蓮蓬じゃねぇって事だろ、つまり味方だ。おいそこの! ちょっと手を貸してくれ!」

「……ふぇ?」

 

リーナの叫びに反応してすすり泣く声がピタッと止まる。しばらくすると廊下の曲がり角から人影が見え……

 

その男が姿を現した。

 

「ったくこんな所で泣きじゃくるとかどんだけの臆病者……っていィィィィィィィィ!!!」

「お、お前はァァァァァァァァァァ!!!!」

 

リーナと深雪は呆れながらやって来た人物の方へ顔を上げると同時に目をひん剥いて驚きの声を上げる。

 

その男は左眼に包帯を巻き

舞う蝶の刺繍が施された着物をはだけたまま着飾り

腰には刀と愛用のキセルをぶら下げている。

 

二人はこの人物をよく知っていた。

 

「……」

 

男は二人の前にゆっくりと歩み寄ると、血走った目でこちらを睨み付ける。

 

その男の名は高杉晋助

 

攘夷志士の中で最も危険と称される程の過激派であり、強者揃いの奇兵隊の頂点に君臨するただ一人の人物。

 

「テ、テメェは高杉晋助……!」

「ウソだろよりにもよってここでお前と……ってアレ?」

 

まさかこんな所で高杉と遭遇するとは思ってもいなかった二人、だが深雪はふと思った。

 

「でも高杉ってもう俺等と同じ入れ替わり組だったよね? 確かウチの学校の生徒会の奴と入れ替わったって……」

「……てことは今目の前にいるのは高杉と入れ替わった……」

 

深雪が悟と同時にリーナもそれに気付く、二人は恐る恐る顔を上げたまま目の前にいる高杉をジッと見つめていると彼はゆっくりと目を閉じて、カッと再び目を開けたかと思いきや

 

 

 

 

「うえぇ~ん! 深雪さぁ~ん! 良かったこんな所でやっと知ってる人と会えました~!!」

「「えェェェェェェェェェェ!?」」

「私奇兵隊のみんなとはぐれちゃって……いつ襲われるんじゃないかとずっと怖かったんです~!!」

 

突然顔面に濃いモザイクがかかり高杉の表情が見えなくなる。しかし声から察するに思いきり泣いているのであろう、モザイク越しとはいえあの高杉の泣き声を聞いて、彼をよく知っている深雪は当然だがリーナも口をあんぐりと開けて我が目を疑う。

 

これが高杉晋助、世界をぶっ壊すという目的で多くの破壊工作を行い幕府にとっての脅威となった存在……

 

それが

 

「会えて嬉しいです深雪さ~ん! 一緒に会長の下へ帰りましょ~!!」

「ギャァァァァァァァァ!! その姿で抱きつかないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

挟まって動けない状態でいる深雪に高杉は感極まって抱きついてしまうと、深雪は悲鳴のような叫び声を上げるのであった。

 

間もなく中層部での戦闘開始。

 

 

 

 

 

 



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第二十四訓 四組&肆組

中層部で反乱軍VS蓮蓬軍が対決間近となっている頃、

司馬深雪とリーナはようやくゴミ箱から脱出できた。

 

「……どうする?」

「いやどうするって、お前が何とかしろよ、知り合いなんだろ……」

「いや俺コイツの事はヅラと風紀委員長から話を聞いただけだし、向こうの世界でコイツに会った時だって……」

 

しかし二人の表情は何処か冴えない。

顔を合わせて小声で会話しつつ、深雪はチラリと目の前にいる男を見た。

 

「中身高杉だったし……」

「はわぁ~、なんだか近くでドタドタと大騒ぎしてるみたいですね~」

 

彼女達の前にいるのは恐るべき攘夷志士、高杉晋助。

そして現在はその身体の中にいるのは本人ではなく中条あずさ、つまり自分達と同じ入れ替わり組だ。

 

「あの、高杉、じゃねぇやあーちゃんだっけ? あんまキョロキョロしながらこの辺うろつこうとすんなよ、危ないから」

「はい、それにしても司波さんも男の人と中身が入れ替わってたなんて私ビックリです」

「今俺の方がビックリしてんだけど、心臓バクバクなって今にも破裂しそうなんだけど」

 

こちらに振り返った高杉の顔にはパッとモザイクが、恐らくいつもの彼が到底しないような表情を作っているのだろう。

そんな彼を前にして深雪はずっと畏怖したまま上手く接する事が出来ないでいた。せいぜい自分達の事情を軽く説明しただけである。

 

「なんなのアレ、何あのモザイク? 高杉今どんな顔してるの? 気になるけど見たくないというこの気持ちはなんなの?」

「だから俺に聞くなよ、直接アイツに聞けばいいだろうが」

「いやいやこれならまだ本物の高杉の方が相手すんの楽だわ、もし高杉と入れ替わった野郎が出てきたら笑ってやろうかと思ってたが、これじゃあ笑えねぇよ……」

 

深雪は頭を抱えながら隣のリーナに助けを求めるも彼女は知らん顔。

すると二人のヒソヒソ声に気付いたのか、高杉はクルリと彼女達の方へ振り返り

 

「えーとあの……銀時さんでいいんですよね?」

「え? あ、はいそうです、私が坂田銀時です」

「なんで敬語使ってんだお前、相手は見た目コレでも中身はガキだぞ」

「うるせぇ! 昔からの知り合いが「はわわ~」とか言いながら顔面モザイクになってるのと直面してみろ! どう対応していいかわかんねぇんだよ!」

「俺は近藤さんとはかなり長い付き合いだが、俺は別にあの人がモザイク付けててもなんとも思わねぇぞ」

「年中股間にモザイク付けてるゴリラと一緒にすんじゃねぇよ!」

 

どこかズレた事を言うリーナにツッコミを入れつつも、深雪は渋々高杉の方へとまた振り返った。

 

「いやあのその……そういやお前、鬼兵隊とはぐれたとか言ってたな。あいつ等も内部に入って来てるの?」

「ううそうなんですよぉ、河上さん達と入れ替わりを直せる機械を探す為にここまで来たんですけどはぐれちゃってぇ……銀時さん達とと会えてなかったら私怖くて泣いてたかもしれません……」

「へ~そう、良かったね俺達と会えて、本当に……じゃあ俺達と一緒に入れ替わり装置を捜しに行くがてらに鬼兵隊の奴等も探しに行こうか」

「は、はい! 良かったぁ銀時さん良い人で、司波さんが羨ましいです、私なんか入れ替わった人が本当に怖い人で……」

「……」

 

まあ相手がアレなら怖がるのも無理はない。大方ここで互いの顔を合わせたのであろうが、相手がどんな顔をしてこの高杉を前にどういった反応をしたのかは深雪も容易に想像できる。

 

「すっごく怖かったんですよぉ、私の顔してるのに目つきが怖くて、私の体なのにキセルとか吸ってたし、私未成年だから吸っちゃいけないのにぃ……うう」

「ご、ごめんねあーちゃん! あのバカには俺がちゃんと厳しく言っておくから! いやアイツって煙吸ってればカッコいいと思ってる典型的な厨二病患者だからね! 俺がぶん殴ってすぐ止めさせるから!」

「わ、私の体を殴るんですかぁ~?」

「ううん殴らない! 銀さん暴力とか大嫌いだからね! しっぺ! しっぺでアイツを懲らしめます!」

 

どんどん濃くなるモザイクの向こうでは高杉の泣いてる声が……

それに頬を引きつらせながら深雪は慌てて彼に向かって叫ぶと、すぐにリーナの方へ振り返り

 

「俺もう無理! リーナさんパス!」

「はぁ? さっきからお前どんだけアイツにビビってんだよ、あんな泣きじゃくってる奴なんざちょっと強く言って黙らせればいいんだよ」

「出来る訳ねぇだろ! そら見た目がただのガキなら俺だって普通に接する事出来るよ!? でも見た目高杉なんだもん! 世界ぶっ壊したい病患者なんだもん! 顔面モザイクなんだもん!」

 

こうも接する事が難しい相手が現れるとは深雪も想像だにしなかった、基本相手が鬼だろうが仏だろうがいつも通りの自分のままでいられるのに、この高杉を相手にすると調子が狂いに狂いまくる。

 

そんな彼女にリーナは呆れつつ、制服のポケットに両手を突っ込んだまま代わりに高杉の方へ一歩足を出す。

 

「お前には悪いがその身体となっちまったからにはお縄につけさせてもらうぞ、高杉晋助は俺達がずっと追い続けてきた過激派攘夷志士だからな」

「ふ、ふえぇ!? どういう事ですかそれ! もしかして私捕まっちゃうんですかぁ!?」

「おい腐れポリ公! 何考えてんだ! この状況であーちゃん捕まえてもなんの意味があんだコラ! 遂に頭の中までマヨネーズに浸食されたかテメェ!」

 

唐突に捕まえようとしゃがみ込んでいる高杉に手を伸ばそうとするリーナの前にすかさず深雪が遮る。

するとリーナはため息交じりに

 

「目の前で弱体化した犯罪者がいる、状況はどうであれこれは俺達にとってはまたとないチャンスなんだよ、邪魔すんな日本人形」

「誰が日本人形だ! 祟り殺されてぇのか!」

「そん時は寺の坊さんにでも頼んでテメェを倉にぶち込んでもらってやるよ」

 

深雪とリーナがまたも顔を合わせて口論を始め、それを高杉が後ろで震えながら見ていると

 

「そこまででござる」

「「!!」」

「あ!」

 

喧嘩を始める彼女達の下へフラリと現れた人物に高杉はすぐに振り返る

 

「その身体に指一本でも触れてみろ、そなたらの華奢な体は跡形もなく肉片と化そう」

「お前は!」

「河上万斉……!」

 

深雪とリーナは突然現れた男、鬼兵隊の幹部、河上万斉の姿に驚いていると、高杉は黄色い声を上げ

 

「河上さぁ~ん!! 会いたかったですぅ~!」

「う……」

 

立ち上がると間髪入れずに彼の方へ駆け寄っていく。

しかし万斉の方はそんな彼の姿に一瞬冷や汗を垂らしつつ

 

「あ、あずさ殿ご無事でござったか、この辺は危険なので迂闊に歩き回るなと念を押して言ったはずでござるよ」

「ごめんなさ~い! どうしても皆さんのお役に立ちたくて~……」

 

少々引き気味の様子で万斉は高杉をなだめていると、今度は彼の背後からタッタッタと走る音

 

「河上せんぱ~い! 見つかりましたか~!? 早くしないとこの辺戦場になるっスよ! 私達も急いで行かないと連中のいざこざに巻き込まれるかもしれないって武市先輩が!」

 

万斉に続いてやって来たのは鬼兵隊の「紅い弾丸」と恐れられ、二丁の拳銃を巧みに操る事に長けた来島また子。

彼女がやってくると高杉は手をブンブンと手を振って

 

「また子さ~ん!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

万斉の傍に高杉がいる事を視覚で確認するや否や、また子はいきなり物凄い声を上げながら彼の方へ駆け寄り

 

「心配したんスよ、”晋助ちゃん”! もう私の目が届かない所に行っちゃったらダメっスよ! 全く晋助ちゃんのお世話役は私なんだからグヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!!!」

「おいその女目つきヤバいって! 完全にイッちゃってるって!! 今にも晋助ちゃん食べそうな勢いだって!」

 

すぐに高杉に抱きつき、血走った目で舌なめずりしながら下卑た笑い声を上げるまた子を見て思わず深雪がツッコミを入れる中、気まずそうにコホンと咳をしながら改まって深雪達の方へ目を向ける万斉。

 

「なるほど、姿が変われど主らの中から奏でられるそのやかましい音色……白夜叉と鬼の副長土方でござるな」

「いや俺達の事よりその女どうにかしろよ! 晋助ちゃん今にも捕食されそうな勢いだよ!?」

「すぐにでもお主らとかつての斬り合いを興じてみたい所ではあるが、今はそんな事してる暇も無し」

 

後ろで高杉が「止めて下さ~い!」と泣きそうな声を上げ、イッったってるまた子に抱きつかれながら頬ずりされている光景を目の当たりにしている深雪にとっては万斉の話も耳に届かない。

 

そんな中、唯一冷静でいられるリーナはケッと呟くと、腰に差す刀の鞘に手を置く。

 

「そちらがやりたいかやりたくねぇかなんざどうでもいい、真撰組の副長が攘夷志士が目の前にいるのにみすみす取り逃がすと思ってんのか? よりにもよってデケェ借りがあるお前を……」

「はて? 伊東の件はそちらで事を済ませたと聞いたでござるが? アレを斬ったのは他でもないぬし本人であろう」

「テメェ……」

 

リーナには色々と元の世界で万斉とは因縁がある。瞳孔が開き、腰に差す刀に手を置き、万斉と一触即発の状態になっていると

 

「おやめなさいお二方、我々攘夷志士と真撰組が戦うのは世の常、ですが今置かれてる立場を今一度思い出して欲しいですな」

 

万斉、また子に続いてやってきたのは気味の悪い目つきをした中年の男。

鬼兵隊の参謀役として数々の謀略を用いて敵味方を巧みに操る事に秀でた策略家、武市変平太だ。

 

「我々がこの場で戦う事こそまさにこの母星の住む種族の狙いです、将軍を奪えば将軍を取り返さんと幕軍が動き、攘夷志士を奪えばそれを慕う者達が動きここに集う。我々がここに集まる事は当然敵も把握していたという事でしょう、本来力を合わせ連中と向き合えばならぬのに、こうして我々は今にも矛を交えそうなぐらい均衡状態なのですから」

「なるほど、真撰組の名だたる者達が体を奪われたのもそいう事でござるか、要するに地球人同士の仲間割れも狙っていると」

「そういう事です」

 

さすが策略家のプロと言った所か、色々とアレな性格ではあるがその辺に関してはキッチリと冷静に分析を行っていたらしい。

そして武市自ら、深雪とリーナの方へ歩み寄る。

 

「お久しぶりです晋助殿のかつての盟友、白夜叉殿。そしてウチの万斉さんがお世話になりました、鬼の副長殿」

「なるほど、俺等が分かるって事はもうとっくに情報収集済みって訳か……」

「こちらも晋助殿が奪われておりますからね、普段より少々頑張らせてもらいました」

 

事前に深雪達を始め他の者達の正体も把握済みなのであろう、さすがは鬼兵隊、幕府を脅し国家転覆を狙うだけあって様々な情報を仕入れる事も容易いと言った所か。

 

「今回ばかりは我々同士でいざこざをやってては連中の思うツボ、故に我々とあなた方が手を結ばぬ限りこの戦は負けるでしょう、我々の星だけでなくもう一つの星も。我々と共に戦ってはくれませんか?」

「まさかテメェ等の方から同盟結ぼうだなんて言い出すとはな、どうすんのリーナさん?」

「……確かにこの現況では勝ち目は相当薄い、手を組めば勝率も僅かなりに上がるかもしれん」

 

鬼兵隊と万事屋、そして真撰組が手を結ぶだなんて想像もできない。

こんなありえない状況に思わず深雪は苦笑しつつリーナの方へ振り向くと。

彼女は難しそうな表情で武市に向かって目を細める。

 

「だがイマイチ信用に足らんテメェ等に背中見せる真似なんざも到底出来ねぇ、現にテメェ等は仲間のフリして俺達の同志を斬った、その事チャラにしてテメェ等と仲良く手を繋ごうと俺が考えるとでも?」

「なるほど、真にごもっともな話です、ならば少しでも我々が今の所敵ではないと証明する為に用意した物をあなた方に献上させてもらいます」

 

小さな少女であるにも関わらずその殺意に満ちた眼光は正に鬼の副長そのもの、こちらを睨みながら威嚇してくる彼女に対し、武市は至って冷静に懐からゴソゴソとある物を取り出そうとする。

 

「コレは現在力の大半を失っているであろうあなた方にお力添えできる為に私が用意した物です、コレを使えばあなた方は入れ替わる前と同等、いやそれ以上の力を手に入れる事が出来ます」

「「!!」」

 

肉体を失い華奢で細身な体つきとなってしまった深雪とリーナにとっては願ってもない事だ。

一体それはどんな物だと二人が目を見開いていると、武市がバッとそれを取り出した。

 

 

 

 

 

「柔らかな生地を使い伸縮自在! どんなスタイルにもジャストフィット! 年頃の女の子が着ればその魅力三倍増し!! お肌にぴっちり張り付いて成長途中の少女の魅力をより鮮明に引き立てる事が出来る事間違いなし! 私が数多の地を巡りに巡って厳選し手に入れた最強宝具!! その名も「スク水」!!!」

「「いるかボケぇ!!!」」

 

ビニール製の袋にキッチリと収納された紺色と水色のスクール水着をなんの抵抗も無く堂々と出してきた武市に向かってすかさず飛び蹴りをかます深雪とリーナであった。

 

「おめぇさっきまで結構カッコいい策士キャラやってたじゃん! どうしてこの期に及んでロリコンキャラに逆戻り!? 結局お前の行く先はそこしかないの!?」

「ロリコンではありません、フェミニストです」

 

指を突き付けながらブチ切れている深雪にに向かって否定しつつ、武市は鼻から出た鼻血を袖で拭きとる。

 

「いいじゃないですか別にあなた方の本当の体ではないんですし、さあ着てください今すぐに、なんならお金出しますから、土下座でもなんなりしますから」

「すげぇなコイツ完全にプライド捨ててるよ! てか頼むなら高杉に頼めよ!!」

「もうとっくに頼みました、けど断られました。いやはやあの時はマジで殺されるかと思いましたよ、目がマジでしたホント」

「ウソだろオイ! 冗談で言ったのにまさかあの高杉にスク水着てくれって言ったの!? すげねぁある意味そこまでいくと本物だよ! 本物のバカだよ!」

 

自分達だけならともかく自分の組織のトップにさえ頼み込んだという武市に深雪は驚きを隠せないでいると、武市の話を聞いていた高杉がモザイク越しに「ひぃぃ~!」と悲鳴を上げ

 

「やっぱりあの人怖いですぅ! 私と入れ替わった高杉さんと会話してた時もすごい呼吸荒かったんですも~ん! 一体私の体を見て何を考えてたんですかあの人~!」

「くおらぁ! 武市変態! 私の晋助ちゃん怖がらせるとかいい加減にしてくださいよこのロリコン!!」

「だからフェミニストだって言ってんじゃん、そういうのじゃないから、別にそういうので見てる訳じゃないから、そういうのでスク水着て欲しいと思ってる訳じゃないから、あくまでフェミ道を貫く為にですよ」

「なにがフェミ道っスか! フェミっつかフェチでしょそれただの!! 死ねスク水フェチ!!」

「誰がスク水フェチですか、私はスク水以外にも好きなモノはあります、バニーとかボンテ―ジとか」

 

 

今度は怯える高杉の頭をなでながら激昂するまた子を武市がなだめようと余計な事を言い続けていると

 

「ほう、鬼兵隊の幹部が統率乱れてこうも大騒ぎしている所から見るに、高杉のカリスマ性も大した事ないという訳か」

 

鬼兵隊とは反対の方角、深雪達がやってきた方から一組の男女がフラリとやって来る。

 

「やはり日の本を変えるカリスマはこの世に一人、この桂小太郎だという事か」

「日本の夜明けよ! 桂さんこそ新しい国を照らす太陽なのよ!」

「ハッハッハ、さすが俺、ビバ俺、ビバ小太郎」

「ヅ、ヅラァ!? それとバカ会長までなんでこんな所に!?」

 

現れたのは鬼兵隊と同じ攘夷志士、その候補の七草真由美と桂小太郎。

どうやら茂茂達から逃げるルートが偶然にも深雪達と同じだったらしい。

 

「全くこの俺が攘夷志士として一世一代の悲願を達したというのに貴様等揃いも揃って一体何を……ん? そこにいるのはもしや……」

「も、もしかして会長さんですかぁ!?」

 

不敵な笑みを浮かべながら自分が何をやったのか言いたげな様子の真由美だが、ふと鬼兵隊の中に一人見知った顔があるのを確認する、高杉だ。

そして高杉もまた真由美の存在に気づき感極まった様子で

 

「来てくれたんですか会長! もしかして私を捜しに!」

「た、高杉!? なんだその喋り方と顔面にかかってるモザイクは!? まるで猥褻物扱いではないか! 一体何があった!」

「違うわ桂さん! 高杉さんは今あーちゃんの体の中に、そして私たち同じ様に入れ替わったという事は今高杉さんの体には……!」

「はえぇ!? もしかして会長も入れ替わってるんですか!?」

 

一瞬高杉とは思えない口調で話しかけてきたのでさすがに真由美も面を食らうが、すぐに桂が彼の正体を看破する。

そして高杉もまた桂の方へ目を向けて

 

「てことは会長はそっちじゃなくてそっちの男の人……」

「ええそうよ! 私が七草真由美よあーちゃん!」

 

互いに相手の中にいる者が誰だと悟った時、二人はバット両手を広げ同じタイミングで駆け寄っていく。

二人の背景には綺麗なバラが映し出される。

 

「か、かいちょぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「あーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

「おいぃぃぃぃぃぃ!! 高杉とヅラが大量のバラをバックにして抱き合おうとしてんだけど!? すっげぇ気持ち悪い絵面で俺もう吐きそ! うえ!」

「何を言う銀時! 長く離れていた二人が遂に感動の再会を遂げて今まさに熱い抱擁を交わすのだぞ! これを見て泣かぬのであればいつ泣くのだお前は!」

「お前なぁ! 昔同じ学び舎にいた二人がいい年して泣きながら抱き合おうとしてんだぞ! こんなの見せられる俺の身にもなってみろ!」

「学び舎か……きっと松陽先生も俺達の抱擁を見て草葉の陰で泣いておるであろうな……」

「別の意味で泣いてるよきっと!!」

 

何故か二人の間の空間だけがスローモーションとなり、ゆっくりと徐々に距離が縮まっていくのを深雪は気持ち悪そうに口を押え、真由美は両目から涙を流しうんうんと頷いている。

そして遂に二人が熱く抱き合おうとしたその瞬間

 

 

 

 

 

「俺の身体で気色悪い事すんじゃねぇ」

「「ごふ!!」」

 

突如天井から小さな影が二人の頭上目掛けて落下。

そして両足の裏で高杉と桂の頭上へ思い切り踏みつける。

哀れ二人は抱き合う前にその場でバタリと倒れてしまうのであった。

 

「俺が見てない間に身の毛もよだつ事しやがって……」

「って高杉ぃ!?」

 

その人影の正体は少女であり、本来の高杉晋助の魂が入っている中条あずさであった。

ずっと別行動をとっていたのでしばらく見ていなかったが、どうやら彼も内部に入って来ていたらしい。

 

「まあいいや俺の代わりにそいつ等やってくれてあんがとよ、危うくトラウマ抱える所だったぜ。今度牛乳奢ってやるよ、もう手遅れかもしれねぇけどもしかしたら背ぇ伸びるかもしれねぇぞ」

「チッ、テメェまだくたばってなかったのか」

「おめぇもまだおっ死んでなかったみたいだな、チビなのを利用してコソコソ隠れてたのか?」

「オメェの方はどうなんだ、その身体でちゃんと得物振れんのか、向こうの世界で俺と会った時みたいに間抜けな醜態晒してたんだろどうせ」

「あァ?」

「あ?」

 

高杉と桂を踏みつけた後、あずさは綺麗に床に着地しつつ、相変わらず癪に障る物言いをしてくる深雪を睨み付けながら歩み寄って行く。

やはりこの二人、どう足掻いても顔を合わせれば喧嘩しないと気がすまない性質らしい。

 

そしてそれを傍観して見ていたリーナは苦々しい表情で奥歯を噛みしめる。

 

(鬼兵隊の次は桂、そして高杉だと……コイツはさすがに今の俺じゃ分が悪すぎる……)

 

攘夷志士が続々と集まり出しているこの状況、あのモザイクまみれになってしまっている高杉一人なら捕まえるのも簡単であったのに、今となってはもう迂闊に近寄る事さえ出来ない。

 

なんとか打開策を……そうリーナが思っているとまたしても

 

「よっしゃぁ逃げ切ったぁ! ってぇぇ!? なんかここ一杯いるんだけど!?」

「おぉぉぉぉぉ!! なんじゃおまん等! わしがいない間に仲良く合流してたんかぁ!? つれない奴等じゃのぉ、ならばここはわし等攘夷組4人でuno大会でも!」

「げぇ! また増えた!」

 

今度は前々回、謎のゴリラと蓮蓬の襲撃に撤退を余儀なくされた千葉エリカと坂本辰馬であった。

ここが騒がしかったのでてっきり味方の本拠地だと思ってやって来たのであろう、そうそうたる面子にビビる坂本に対し、エリカは反面嬉しそうにunoを取り出している。

 

「チ……ここは一度奴等の案を呑んだ方がよさそうだな」

 

この状況ではさすがに手も足も出ない、幸い向こうはやる気はなさそうだしあちらから襲って来る事は無いであろう。

リーナは腰に差す刀からようやく手を離していると、やってきたエリカに早速真由美が話しかけている。

 

「坂本貴様何故ここに! 将軍を護るため、そして蓮蓬との交渉の為に船で待機していたのではなかったのか!」

「アハハハハハ! 実はちょっとウチの組員が敵さんにやられとったみたいでの! 命からがら逃げだしてきたんじゃ! ていうかヅラ、将軍護るも何もおまんのせいでとっくに台無しぜよ」

「台無し? フッフッフそうだな台無しだな、そういえばそうだ、フフフ……」

「どうしたヅラ、気色悪か笑い方しおってからに」

「ヅラじゃない桂だ。坂本お前もきっと驚くぞ、俺が一体何をしたのか」

「まあそれはおいおい聞かせてもらうとするきん、それよりも」

 

何やら様子のおかしい真由美にエリカはグラサン越しにジト目を向けた後、まだ二人で睨み合っている深雪とあずさに向かって手を振る。

 

「おい高杉! 金時! 久しぶりにuno大会でもせんか! 宇宙ルールでやるのは初めてじゃろうからわしが教えちょるばってん! 久しぶりに仲良くゲームするのも悪くないじゃろ!」

「うるせぇ! 世界がやべぇのに呑気にunoなんてやれっか!」

「おい銀時、どちらが先に坂本の奴を斬れるかで勝負つけるか?」

「上等だあんなバカすぐに俺がたた斬ってやらぁ」

「うえぇ!? 世界がヤバいのにどっちがわしを斬るか勝負しようとしちょる!」

 

少なくともエリカにとっては損しかないゲームを始めようとするあずさと深雪。

ジリジリと近づいて来る二人にエリカが額に汗を流しているとすかさず坂本が彼女達の間に躍り出た。

 

「くおらぁアタシの身体傷付けようとしてんじゃないわよ!」

「おお! おまんわしの為に身を挺して!」

「コイツが死んでも全然構わないけど、今コイツの体ごと斬られたらアタシが困るのよ! 斬るなら入れ替わりが戻った後にして!」

「この薄情モンがぁ!」

 

カッコ良く出てきたと思ったら実際は坂本辰馬の魂などいつ消えても全然構わないといった様子。

あんまりな仕打ちにエリカが叫んでいると

 

 

 

 

 

「ったくギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ」

「「「「「!?」」」」」」

 

 

そのあまりにもけだるそうな低い声に、その場にいた全員が反応してしまう。

奥の通路からツカツカと足音を鳴らし、一人の男がこの同窓会気分でワイワイ騒いでいる者達の中へ颯爽と現れる。

 

「お、お前は!」

 

いち早く彼の登場に声を上げたのは深雪、そしてその男。

 

銀髪天然パーマの男は洞爺湖と彫られた木刀を肩にかけ、死んだ魚の様な目をしながら首を傾げこちらに顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

「発情期ですかコノヤロー」

「ぎ、銀さぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「いや銀さんお前だろ」

 

新八や神楽も連れず、たった一人でフラリと現れた坂田銀時を前に驚く深雪に、珍しく真由美がボソッとツッコミを入れるのであった。

 

 

 

 




銀魂実写版の映画観て来ました。
いやはや一年前から実写決定&主演小栗旬&監督はあのヨシヒコで有名な福田監督と聞かされずっとずっと待っていましたのでようやく見れて感激です。
私個人としては大いに楽しめる作品でした、原作沿いではあるが福田監督らしいギャグもあったり、女優陣が心配になるぐらい体張り過ぎてたり、中村勘九郎さんの股間のモザイクがやたら薄くて普通に見えてたりと色んな意味で危ない映画だなぁと思いました。

それと作品に戻りますが感想欄で「もう誰が誰と入れ替わってるのかわからなくなってきた」と書かれていたので、今一度ここで”現時点”の入れ替わり主要メンバーを書いておこうと思います。


坂田銀時≒司波深雪
桂小太郎≒七草真由美
高杉晋助≒中条あずさ
坂本辰馬≒千葉エリカ
徳川茂茂≒司波達也
土方十四郎≒アンジェリーナ
近藤勲≒ゴリラ
十文字克人≒ゴリラ
沖田総悟≒????
神楽≒????

それでは


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第二十五訓 同愛&失恋

「あったぞ、恐らくこの二人はこのケースの部類だな」

「本当ですか!?」

 

さて場所は再び新八達のいるの方へ

沖田と神楽の異変に気付いた新八はどうしたもんかと途方に暮れている所に突如思わぬ助け船が現れた。

司波達也、そして今の名は徳川茂茂。

 

将軍の立場である彼がどうしてこんな所に来ているのかは甚だ疑問ではあるが考えてる時間はない、新八は彼と一通りの出来事を話し合った後(桂と将軍の件は伏せて、余計な騒ぎを起こさぬ為に)、謎の人物から貰ったノート、通称ZAKINOTEを彼に託したのであった。

 

そしてノートを開きながら茂茂は目の前にいる神楽と沖田の方へ目をやる。

 

「入れ替わり現象での失敗するパターンの一つだ、魂が別の体に入る時にその体の潜在能力があまりにも高すぎると、入れ替わった魂を一瞬で飲み込んでそのまま自我をも奪い、果てはその体の記憶を頼りに自己を作成する、とな」

「えーと、つまり今の神楽ちゃんと沖田さんは中身は別の人なんですけど、神楽ちゃん達が強すぎて弱い魂は記憶を失くして、代わりに神楽ちゃん達の記憶を持って成り代わったという事ですね」

「その通りだ」

「凄いですねもうそのノートの書かれた内容を理解しちゃうなんて」

 

パラパラとノートをめくりながら茂茂は頷く。あのノート、実は新八は一人でこっそり読んでみたのだが、あの人物の言う通り複雑な暗号の様な物でびっしりと書かれているのですぐに読むのを諦めていたのだ。

しかし茂茂はあっさりとノートの暗号を看破。彼曰く魔法式に乗っ取ったパズルを組み立てるような感覚だったらしい。

 

「それにしてもこのノート、特に気になるのは誰が書いたのかだ、あまりにも詳し過ぎる」

「そこなんですよ、僕もずっと引っ掛かってまして……結局正体を現さずに姿を消してそれっきりですし」

「まあ今はその事については置いておこう、まず問題なのは」

 

山崎だと偽って新八に幾度も助言をしていた人物の正体はさすがに茂茂もわからない。

こうして役に立つ物を渡してくれるのだから敵ではないと思うのだが……

しかし今はそんな事よりもまずこの二人の事であろう、茂茂はノートから顔を離して神楽と沖田の方へ。

 

「この二人には本来の”自分の記憶”を思い出させないようにする事だな、この二人は戦力になるし今記憶を思い出して面倒な事になったらマズイ」

「入れ替わった人には悪いですけど装置が壊れるまでこのままにしておきましょうか」

「うーむ、そうだったアルか、まさか私もユッキーと同じ世界の人間だったとは、けど全然覚えてないネ」

「そう言われりゃあ俺も何か引っかかるな、例えば」

 

茂茂と新八が現状放置を決める中、当人である神楽達は腕を組みながらなるほどと自分の置かれた状況を理解した様子。

そして沖田はというと、茂茂の方を指差して

 

「お前見てると無性にムカついて来るんだけどなんで?」

「いやそう言われてもな、もしかしたら俺と元の世界で会っていたんだろう、こう見て俺は他人の恨みを買う事も少なくはないし」

「うわなんかすっげぇイライラして来たわ、ごめんちょっと一回だけ斬っていい? 一瞬で済ますから」

「ちょっとぉニセ沖田さん! アンタ将軍の体の達也さんになにする気ですか!」

 

反射的に自分の刀を抜こうとする沖田を慌てて新八が止めていると、今度は神楽もまた小指で鼻をほじりながら茂茂をジーッと眺めて

 

「そういえば私もお兄様を見てるとなんか思い出しそうアル」

「ええ! ニセ神楽ちゃんまで!?」

「なんだろう、学校とかそんなの行かなくていいから早くウチに就職してくんないかなぁと」

「どんな記憶!?」

「きっと本来の私は売上の乏しいしがない工場で働いていた工場長だったんだヨ」

「なんでしがない工場長がこんな大規模な戦争に巻き込まれてんだよ!」

「あーあ、もうガーディアンとかそんなんいいから早くウチ来てくれないかなぁ、ウチで働けばもれなく残業代ゼロで休日ゼロで馬車馬の様にコキ使ってやるのに」

「しかも滅茶苦茶ブラックだよ! 達也さん社畜にする気満々だよ! 最低だよこの漆黒工場長!」

 

ジト目を向けながらブツブツと茂茂に文句を言い始める神楽、茂茂はそんな彼女とこちらにすぐにでも刀を抜こうとしている沖田を交互に見た後アゴに手を当て

 

「……なんか妙に思い当たる節があるんだが」

「え! 達也さん知ってるんですか工場長!?」

「工場長ではないが、もしかしたらこの二人……」

 

どうやら茂茂が司波達也だった頃にこの二人の正体とコンタクトを取った覚えがあるらしい。

新八が驚く中、茂茂は頭の中で推測しながら彼の方へ顔を上げ

 

「めんどくさいから永遠に記憶を思い出してもらわない方がいいかもしれない」

「どういう事それ!?」

「とにかく、この二人の事はそっちに任せた、もしその二人が本来の記憶を思い出したらそうだな……拘束してどこぞの部屋に閉じ込めておいてくれ」

「どんだけイヤなんすかこの人達!」

 

なんだかあの二人を相手にしたくないっと言った感じで新八に丸投げする茂茂、そして彼から受け取ったノートを開きながらどこかにいるであろう深雪(今は銀時)をキョロキョロと探し始める。

 

 

「さて俺はもう行かなければ、深雪を連れて一度銀さんの所へ戻る事にするよ」

「え、銀さんの所にですか?」

「実はこのノートの最後のページに気になる事が書かれていてな」

 

そう言って茂茂はノートの最後のページをめくる。

 

「入れ替わり現象における蓮蓬さえも知りえなかった究極の超常現象」

「あ! それってもしかしてあの人が言ってた入れ替わり現象によるプラスの効果の可能性を持つ事ですか!? 読めたんですか!?」

「読めるには読めたんだが、だがまだ完全には理解していないんだ。どうも他人に読まれても理解できぬ様に複雑な書き方をしていてな」

 

ノートを託した人物が言っていた事を思い出す新八は一体どんな事なのか見当も付かないでいた。

茂茂もまた読む事は出来てもその意味を理解するには至っていなかったようだ。

 

「器を入れ替えし二つの魂、時を重ねて仮の器と同化せん

 双方違わぬ魂となれば、双方違う器は一つとなれる、

 さすれば二つの魂は一つの器に収まり

 魂もまた一つに合わさりその器は強大となるであろう

 しかし注意せよ

 一度魂合わせれば、入れ替えられし元凶を止めぬ限り二つの器と魂には戻らぬ

 更には強大せし器、長き時を重ねるとその器と魂もう永遠に元に戻らず

 その事、決して忘れるべからず」

 

ノートに最後に書かれていた情報を茂茂は口で教えてくれた。

新八はそれを聞き終えると「うーん」と難しそうに顔をしかめる。

 

「確かになんか古文やら現代文やらを混ぜて暗号みたいになってますね……でも何かとんでもなく凄い事が起きるけど、とんでもなくヤバい事だから気を付けろ的な事言ってるみたいですね」

「俺もまだそんな風にしか理解できていない、しかしこれが深雪と銀さんであれば実現出来るかもしれないと、このノートを作った人に言われたんだったな」

「はい、銀さんならきっと出来る筈だって」

「随分とそいつはあの男を信用しているんだな、本当に何者だ……? このように書かれているという事は既にその現象を見た事があるという事、いやもしかしたらこれは自分自身の……」

 

ブツブツとまたもや思慮深く考え込む茂茂だが、すぐに我に返って首を横に振る。

今はこんな事している場合ではない、一刻も早く妹を連れて行かねば

 

「……とにかく深雪と一緒に銀さんの所へ出向こう、ところでさっきから深雪の姿が見えないんだが?」

「……あ、それがですね達也さん、実は……」

 

彼の問いに突然歯切れの悪そうに新八はどう説明しようか迷っている様子。

すると二人の下へタタタタッと誰かが急いで駆け寄って来た。

 

「お兄さん大変! なんか深雪ったら勝手にどっか行っちゃったみたい!」

「妙に馴れ馴れしいゴリラが教えてくれた」

 

やってきたのはついちょっと前に茂茂と同行していた光井ほのかと北山雫。

彼女達の話を聞いて茂茂はすぐ様バッと振り返る。

 

「妙に馴れ馴れしいゴリラとはなんだ?」

「いや気にするところそっちじゃねぇだろ!」

 

ほのかの方でなく雫が言った事に気になってしまう茂茂に新八がツッコミを入れる。

 

「すみません、僕等の不注意でいつの間にか深雪さんが消えちゃったんですよ。それも滅茶苦茶銀さんみたいになってる状態のあの人を」

「銀さんっぽく? そうかやはり深雪も」

「え、深雪もって事はもしかして……」

 

引っかかる言い方に新八は嫌な予感を覚えると茂茂は

 

「そちらが知ってる銀さんもまた徐々に浸食されつつある、たまに自分の存在を忘れるぐらいにな」

「はぁ!? 何やってんですかあの人! まさかおっさんのクセに自分があんな可憐な美少女だとでも思い込んでるんですか!? いよいよもってマジでヤバい事になってるんじゃないですか!」

「しかし、だからこそコレに賭ける意味があるのかもしれない」

 

自分の所のリーダーまでもが既に精神汚染が末期状態であると知らされて焦る新八。

しかし茂茂は至って冷静に、むしろこれが好機なのではと手に持ったノートを見つめる。

 

「未だ解明できていないが二人を合わせれば何かわかるかもしれない」

「それじゃあまずは深雪さんと銀さんを捜しにいかないと、僕はニセ神楽ちゃんとニセ沖田さんを見張ってますから達也さんお願いします」

「妹の面倒を見るのは他でもない兄の役目だ、あの男はついでに見つけておく、任せろ」

「ウチの大将ついで扱い!? いやまぁ別にいいけど、あ! そうだ」

 

さり気ないシスコンアピールをしてくる茂茂に新八は苦笑しつつ一つ思い出す。

 

「そういえばウチの所に土方さんって人がいましてね、でも妙に行動や言動がおかしいんで入れ替わり組だと思うんですよ、本人は頑なに自分が土方だと主張していますけど」

「土方……ああ、そいつはきっとアンジェリーナという奴だな、本物の土方とはついさっき銀さんと一緒に会って来たよ、金髪ツインテになってた」

「やっぱりあの女の子だったのか……じゃあついでといっちゃなんですけどお願いしていいですか?」

「ん?」

 

申し訳なさそうに頬を掻きながら新八は一つ茂茂にお願いをするのであった。

 

 

 

 

 

それから数分後

 

「よっしゃぁ! 行くぞテメェ等! この土方十四郎に続くんだぜェ!!」

 

意気揚々と刀を抜いて叫ぶ土方の姿が、そんな彼の後ろに周りながらほのかはヒソヒソ声で茂茂に話しかける。

 

「お兄さん本当にこの人連れて行くんですか?」

「押し付けられたから仕方ない、ただでさえ二人も増えたのにこれ以上面倒なのはいらないんだと」

「要するに邪魔だから預かってくれって訳ですね……」

 

刀をブンブン振り回してテンション上がりっぱなしの土方を眺めながらほのかは悟った。

確かに何か余計な事をしそうな匂いがプンプンする。

 

「おい! テメェ等についていけばあの忌々しい金髪クソビッチスパイと会えるんだよな!」

「会えますよ土方さん、だからそれまで黙って俺達と一緒に行きましょう」

「おっしゃぁ! たぎって来たぜぇ!! 待ってろあの小娘! 土方十四郎が月に代わって成敗してやるぜ!!」

「本当に大丈夫なんですかお兄さん?」

「心配するな、もしもの時はどこぞに捨てても構わないと言われてる」

 

本物の土方ならここまでオーバーな反応はしないであろう。

見ててますます不安になるほのかを茂茂が問題ないと安心させていると、彼等の下へ雫が戻って来た。

 

「渡辺先輩はここで蓮蓬軍との戦いの為に残るみたい、なんでも知り合いのゴリラがいたからほおっておけないんだって」

「知り合いのゴリラってなんだ? あの人ゴリラの知り合いとかいたのか? ていうかどうやって知り合いになれるんだゴリラと?」

「お兄さんさっきからやたらとゴリラの事について興味津々なのはなんで?」

 

ゴリラと聞いてまたもやすぐに雫の方へ振り返る茂茂にほのかがボソッとツッコんでいると。

雫が戻り全員揃った事を確認した土方が出発の準備を始める。

 

まずどっから出て来たのか、土方は大層立派な黒毛の馬の上にまたがる

 

「よっしゃぁ! 金髪クソビッチ狩りの開始だぁ!」

「ねぇちょっと! あの人馬乗ってんだけど!? 今までいなかったよねあんな馬!?」

「こっから先は蓮蓬達を掻い潜って行くぜぇ! 腹ぁくくるんだぜぇ!」

 

ほのかがヒヒーン!と鳴く馬を指差しながら雫に叫んでいるのをよそに、馬を器用に操りながら土方は上にまたがった状態で腕を組むと

 

「アーユレディィィィィィィィ!?」

「いえー」

「レッツパァァァァァァァァァリィィィィィィ!!!!」

「ぱーりー」

 

土方の叫びに一人だけ乗ってあげる雫。

そしてほのかはというと遠い目で彼を見ながら

 

 

 

「もはやそれ土方さんじゃなくて別の人になってない?」

「ていうか俺達置いてかれたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茂茂一行が蓮蓬達の目を掻い潜りながら捜索開始した頃。

 

探されている人物である坂田銀時と司馬深雪は同じ場所にいた。

 

「……」

「おい小娘、さっきから何無言でジロジロと私の事眺めてんだコラ」

「……俺だ」

 

先程からずっと銀時の周りをグルグル回りながら信じられない表情で彼を観察する深雪。

今現在、このフロアには鬼兵隊や坂本達はいない。何やら話があるとかで移動してしまったらしい。

深雪もまたそれについていこうかとも考えたのだが、色々と調べたい事が出来てしまったのでこの場に残ることにしたのだ。

その調べたい事とは今目の前で死んだ魚の様な目をしながらこっちを見つめ返している坂田銀時の状態だ。

 

「寸分違わぬ俺になってるじゃねえか! しばらく見ない間に何があったのお前に!? いつの間に銀さんデビューしたんだよ!」

「何があったって、なんでそんな事いちいちお前に教えなきゃいけねぇんだよ、彼女気取りですかコノヤロー」

「いや待て! 銀さんはもうちょっと目がキリっとしてて身長も180cmぐらいのストレートパーマだったような!」

「いやそれ誰?」

 

少々自己願望めいた事を呟きだす深雪に銀時は素っ気なく返すと自分の鼻を小指でほじりだす。

 

「男子三日会わざれば刮目して見よとか言うだろ? 色々な出来事を経て私は成長したって事だよ」

「いや三日も経ってねぇし人前でハナクソほじれるようになったのが成長っていうのそれ? つーかお前男子じゃないから、女子だから」

「いちいちうるせぇなぁ、お兄様の妹だからって調子乗ってんじゃねぇぞ」

「ああ?」

 

小指に付いた鼻くそをピンとこちらに向かって弾き飛ばしながらぶっきらぼうに答える銀時に、深雪は歩くのを止めてカチンときた様子で目元をピクリと動かす。

 

その時、深雪の雰囲気が先程までとは変わったような気がした。

 

「なんだお前、俺がお兄様の妹だという不動のポジションに着いている事になんか言いたい訳? ひょっとして羨ましいの? 俺がお兄様の妹として常にお傍に着ける事にジェラシー抱いちゃってる訳?」

 

その返しにまた銀時もしかめっ面を浮かべて深雪を睨み付ける。

 

「は? いや別にそんなん抱いてないんですけど? むしろ哀れみを抱くわお前に。だってお前、お兄様からしたらお前ずっと妹という存在なんだよ」

「だからどうしたんだよ妹でいいじゃねぇか、最近は妹萌えとか流行ってんだろ? ハーレム物の漫画でも妹がヒロインの一人になるとかよくあるじゃねぇか」

「いやいやだからさ、幼馴染とか年上の先輩とかなら月日を重ねていつの間に急接近とかそういう事があんだろ? でもお前はずっと妹なんだよ、永遠にお兄様にとってはお前は妹という存在にしかなれないんだよ、どう足掻こうがお前はお兄様の妹というポジションにずっと置かれる立場なんだよ」

「ふざけんなテメェなんか妹どころかヒロインにすらなれねぇおっさんだろうが!」

「なれます~、この作品のタグにBLって付ければ必然的に銀さんとお兄様で成立します~、このまま銀×達という新たなジャンルを切り開いて見せます~」

「誰が付けるかそんなもん! テメェさっきからずけずけと勝手な事言いやがって……!」

 

腕を組みながら滅茶苦茶な解決方法を見出す銀時に対し、深雪は遂に我慢の限界が来たかのように彼の方へ歩み寄って

 

「司波深雪ナメんじゃねぇぞコラ!」

「そっちこそ坂田銀時ナメんじゃねぇぞゴラァ!」

「いやちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

両者顔を合わせながらメンチの切り合いを始めようとする深雪と銀時の間に、ずっと彼等のいざこざを見物していたリーナが慌てて間に入る。

 

「一旦落ち着けテメェ等! さっきから自分の事を間違えてんだよ! 入れ替わったんだろお前等! だったらこっちの万事屋の姿をしている方が!」

「坂田銀時でーす、万事屋やってまーす」

「こっちの小娘の方が!」

「司波深雪でーす、高校生やってまーす」

「なんでだよ! おい万事屋!」

 

二人揃って自己紹介するのだが明らかに間違えてる、入れ替わっていないのであればこれが普通なのだが、入れ替わり組であるこの二人がまるで本来の自分を忘れてその体の主かの様に振る舞っているのだ。

 

リーナはすぐに先程までずっと行動を共にしていた深雪の方へ振り返る。

 

「テメェまでなにふざけてんだ! こちとらヤベェ状態になってるのに更に混乱させるような真似すんじゃねぇぞ!」

「ああ!? いつ俺がふざけたってんだ! おい銀さん! 俺なんかおかしな事言ったか!?」

「いや、いつもと変わらず何の役にも立たねぇハナクソみてぇな妹のまんまだよ」

「んだと天然パーマブチ殺されてぇのか! ロクに稼ぎもねぇプー太郎が名家のお嬢様に喧嘩売ったらどうなるか教えてやろうか!」

「わぁ怖い、ハナクソぶん投げられそう」

「誰がんな真似するかァァァァァァァ!!! てかハナクソぶん投げるってどんだけデケェハナクソだよ!」

「おい! いい加減目を覚ませ!」

「ごふ!」

 

仏頂面の銀時にまたもや腹の立つ事を言われ身を乗り上げようとする深雪に、遂にリーナが鉄拳でお見舞いする。

軽く後ろに吹っ飛ばされながら深雪は頬をさすりつつすぐに立ち直って

 

「あれ? 何してたんだっけ俺? なんか変な事言ってたような気が……」

「チッ、ようやく正気に戻ったか、一応確認しておくがテメェの名は?」

「はぁ? 深雪さんに決まってんだろうが、寝ぼけてんのかお前?」

「寝ぼけてんのはお前だろうが……ダメだ、ショック療法も通じねぇ」

 

殴られたショックで一時的な記憶が吹っ飛んだだけで深雪は依然変わらず深雪のままであった。

銀時と会ってから彼女の突然の変貌にリーナは眉間にしわを寄せて考え込んでいると、リーナと同じくこの場に残ってるとある二人組が仲良く「ハッハッハ」と笑う声が部屋にこだまする。

 

「おいおいもう少し仲良く出来んのかお前等、そんな事では何時まで経っても俺と真由美殿の様な仲良しコンビにはなれんぞ」

「言っても無駄よ桂さん、銀さんと深雪さんコンビでは到底私達の領域に達する事など不可能なのだから!」

「それもそうか、強いて言うなら俺達は水魚の交わり、俺達を脅かす仲良しコンビはもはやさまぁ~ずだけだ、ハッハッハ!」

「キャイ~ンやよゐこも油断できないわよ桂さん、トリオもありならネプチューンも強敵ねハッハッハ!」

「なんだこいつ等無性に腹立つ! なんでコイツ等だけ普通に仲良いの!? 他の奴等は大体入れ替わった相手といがみ合ってるのに! 俺なんか殺されそうになったのに!」

 

仲良く腰に手を当て高らかに笑い声をあげるのは七草真由美と桂小太郎。

この二人、他の入れ替わり組は喧嘩したり殴り合ったり、果ては片方を抹殺しようとするのに、そんな状況下の中でもここまで仲良くやっていけるのは地味に凄い事なのかもしれないと、リーナが思っていると。

 

彼女がよそ見している内にまたもや深雪と銀時が口論を始めていた。

 

「いいか年中死んだ目をした毛玉野郎、言っておくけどお前が俺のお兄様をお兄様と呼ぶ資格はねぇんだからな、今のテメェはただの底辺に生きる貧乏人、お兄様をお兄様と呼んでいいのはこの世で妹であるただ俺一人なんだよ」

「はん、んだよそんな事かよ、バカだなぁ深雪ちゃんは。お兄様をお兄様と呼んでいいのは自分だけ? なら私がお兄様の弟になればいいだけの話だろ」

「は、それどういう……」

「つまり」

 

いつの間にか深雪を壁に追いやると、不敵な笑みを浮かべながら銀時は深雪の顔のすぐ隣にドン!と壁に強く手を置くとフフッと笑い。

 

「俺と結婚してお兄様の義弟にさせてくれ、お前にはなんの興味も無いけどそれでお兄様と身内になれるなら訳ねぇや」

「未だかつてない最低なプロポーズしてきたぁぁぁぁぁぁぁ!!! 助けてお兄様! 深雪さんの貞操が腐れ外道に奪われる!」

「これから俺は司波銀時と名乗る事にするわ、よろしくなマイハニー」

「しかも一族に食い込もうとする気満々だよ! テメェみたいな寄生虫を一族に迎え入れる訳ねぇだろうが!」

 

大胆かつ酷い求婚宣言してくる銀時、というかもはや別人ではないだろうか……。

深雪は彼の下衆っぷりに困惑しながらも必死に泣き叫ぶ。

 

「おいそこのお前等なんとかしろ! 可愛いヒロインが変なおっさんに無理矢理結婚されそうになってんだぞ!」

「おいおい銀時、お前仲良くなれとは言ったがまさかそこまで……しかしまさかお前が俺や坂本や高杉の中で一番に所帯を持つ事になるとはな、フ、式場にスタンバっておく必要がありそうだな」

「あらイヤだ、元気な子を産んでね銀さん」

「助けを求める相手間違えたぁぁぁぁぁぁぁぁ! 何の役にも立たねぇバカ共だったぁ!」

 

助けに来るどころか見守る様に距離を取って優しく微笑む真由美と桂。正直そのツラぶん殴ってやりたいと思いながらも、今度はリーナの方へ振り向く深雪。

 

「助けてリーナさぁん!」

「ったくどんどんおかしくなりやがって……一生やってろバカコンビ」

「あ、テメェ逃げる気か!」

 

しかしリーナはというと全く関心を持たずにスタスタと部屋の扉の方へと行ってしまう。

深雪が必死に叫ぶと彼女は扉を背に向けたままクルリと振り返って

 

「俺はやる事あんだよ、さっき万斉の野郎が高杉に言っていたのを遠くから聞いていた、入れ替わり装置はこっからちょっと先の通路を進めばあるってな」

「入れ替わり装置!? んだよもう近くにあったのかよ!」

「詳細はわからねぇがあるのは確からしい、とにかく今から俺は鬼兵隊の所へ行って情報を探って来る、テメェ等はそこでずっとバカ騒ぎでもして……」

 

入れ替わり装置を破壊すれば全てが元通りになる、無論おかしくなった深雪と銀時もきっと

鬼兵隊が坂本達はきっと今頃、入れ替わり装置の場所や進行ルートを相談しているのだろう。

リーナもそれに参加していよいよ装置破壊に赴こうとしたその時

 

 

 

 

 

「イエェェェェェェェェェ!!!」

「いえー」

「ぶっほッ!」

 

突如扉が強く開かれ、扉に背を向けて立っていたリーナはいきなりやってきた巨大な物に轢かれて弾き飛ばされてしまう。

 

「だ、誰だコラァ今轢いた奴! っておま!」

「ほう、俺が一体誰かだって……なら教えてやらぁ」

「ひかえおろー」

 

現れたのはなんと馬、そしてその馬の上にまたがっているのは何故かいる雫と、彼女を腰にしがみ付かせている見知った顔……

 

「奥州筆頭、伊達政宗とはこの俺の事だァァァァァァ!!!」

「いやそこは土方十四郎って名乗れよ! なに土方捨てて独眼竜になってんのコイツ!? 人のモン借りパクしておいて何勝手に筆頭名乗ってんだコラ!」

 

こちらに向かって刀を抜きながら名乗りを上げる伊達政宗、もとい土方の登場にリーナは面食らった表情を浮かべながらもすぐに立ち直る。

 

「この野郎人の体で好き勝手しやがって!」

「叫び声が聞こえたと思ったらまさかの大当たりだぜ、ここで邪魔なお前を仕留めて本物の……」

 

思いがけない相手と再会できたリーナはすかさず腰に差す刀を即座抜くと、土方もまた彼女を見下ろしほくそ笑みながら馬に乗ったまま刀を抜く。

 

しかし彼の背後からまたしても別の人物が

 

「余計な騒ぎは起こすな、アンジェリーナ=クドウ=シールズ」

「へ!? い、いや誰の事言ってるのだぜ! 俺はそんな名前じゃないんだぜ!」

「ていうかなんで雫も馬乗ってんの!? 早く下りて!」

「フフフ、お前如きの腕でこの私を同じ地上に立たそうと思ったか、もはやこの私を対等の地に立たせる者などおらぬわ」

「ここでまさかの拳王気取り!?」

 

後ろから声を掛けられて急に取り乱す土方、彼に声を掛けたのは茂茂であった。

彼に続いてほのかも現れ、彼女は急いで雫を無理矢理馬から下ろす。

 

「テメェは……!」

「久しぶりだなもう一人のアンジェリーナ、いや土方十四郎と呼ぶべきだったな」

 

部屋へとやって来た茂茂はリーナを一瞥した後、すぐに銀時と深雪の存在に気づく(桂と真由美の事にも気づいたがあえて無視した)

 

「深雪、それと銀さん、まさか二人が合流して一緒にいたとはな。案外近くにいてくれたから蓮蓬とやり合わずに済んで助かったぞ」

 

すぐに二人に向かって微笑みかけながら話しかける茂茂、すると銀時と深雪は彼が現れた事に一瞬言葉を失うがすぐに

 

「「お兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

「えぇぇぇぇぇ!? なんか二人がかりでお兄さんの下へと駆け寄って来たんだけど!」

「……やはり事はかなり深刻だ、俺の予想をはるかに上回る異常事態だ」

 

歓喜の表情で同時にこっちに向かって駆け寄って来る銀時と深雪。

もはやどっちとも性格も兄に対する愛情も全く同じの状態、これには茂茂も表情には出さないが危機感を覚える。

 

「だからテメェがお兄様の事お兄様って呼ぶんじゃねぇって言ってんだろうが! 俺のお兄様だ!」

「何言ってんだ、さっき結婚の約束しただろ? コレで私も晴れてお兄様の義弟だ、どうもお義兄様、あなたの義弟の司波銀時です」

「んなもん約束した覚えねぇんだよ! 聞いて下さいお兄様! このジャンプの主人公と思えないおっさんがウチの一族に婿入りしようと企んでるんです! 将軍の権力使ってコイツの首刎ねてやってください!」

「おいおいつれない事言うなよハニー」

「誰がハニーだ! ぶち殺すぞ!」

 

足やら肘やらを出して相手を妨害しつつどちらが先に茂茂の下へ行くか揉めながらやってきた二人に。

茂茂と同じくほのかや雫もその異変に気付いた。

 

「……お兄さん、知らぬ間に銀さんと深雪が結婚するみたいだけど……ていうか二人共元の自分を完全に忘れてるよね?」

「まさかの急展開にさすがに私もビックリ」

 

二人を指差しながら頬を引きつらせるほのかと、驚いたとは言いつつも相も変わらず無表情の雫。

そして茂茂もまたどうしたもんかと黙り込んでいると

 

「おいお兄様、前から聞きたかったんだけどさ」

「ん? どうした深雪?」

「いや深雪じゃねぇんだけど私、銀さんなんだけど」

「……」

 

何言ってんのコイツと言った感じで顔をしかませる銀時にもはや茂茂もどう対処すればいいのか困っている模様。

そんな中で銀時は勝手に話を続ける。

 

「お兄様、もうこの際だからこのバカな妹にハッキリ言っちゃってくださいよ、私とコイツどっちがお兄様にとって最も大事な者なのか、そしてそれが私だという真実をコイツに突き付けてやってください」

「おいテメェ! いい加減にしねぇと殺すぞマジで! お兄様にとって大事なのは妹である俺だという事は宇宙が生まれる前から決まっている事なんだよ!! 俺からもお願いしますわお兄様! この野郎にハッキリと死刑宣告しちゃって下さい!」

「やれやれ……」

 

二人揃ってどちらが一番大事にされてるかと詰め寄って来る銀時と深雪に対し、しばしの間を置いた後に茂茂はゆっくりと銀時の方へ手を伸ばし

 

「体や魂が完全に変わろうが関係ない、俺にとって最も大事なのはお前だけだよ深雪」

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 銀さん大勝利ィィィィィィィ!!!」

「ウソだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 深雪さんを選んでくれると信じてたのにお兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「いや選んだのは深雪……」

 

茂茂に手を取られた瞬間ガッツポーズを掲げて勝利宣言する銀時。

そして深雪の方はガクッと両膝を床に着いて。涙声で叫びながら自分が敗北した現実を受け入れられないでいた。

 

「どうた負け犬! これからもうテメェは二度と自分の事をヒロインだなと名乗るんじゃねぇぞ! これからの魔法科高校の劣等生のヒロインは私! 銀さんだ!」

「いやそうなると原作の展開上あまりよろしくないんだが……」

「ご心配なくお兄様! 表紙のカバーにBLって書いておけば受け入れられるんで! 本屋ではちょっと普通の人には目の届かない本棚に置かれるだけなんで!」

「心配しかないんだが、100%ネットで炎上するだろそれ」

 

意気揚々とこれからの事について話す銀時に茂茂はボソリとツッコミを入れる中で、無念にも負けてしまった深雪は一人床を涙で濡らしながら失恋のショックに立ち直れないでいた。

 

「くっそぉ~!  なんでだお兄様! なんで妹である俺を差し置いてあんなおっさんを選びやがったんだぁ~!! まさかおっさんにお兄様寝取られるなんて~!!」

「可哀想な銀さん、お兄さんにフラれてあんなに泣いている……」

「大丈夫だよ」

 

恨めしそうに泣いている深雪を悲痛な表情で見つめる事しか出来ないほのか、しかし雫はというと安心させる為に深雪の頭にそっと手を置いて

 

「いざとなれば愛人ルートもあるから」

「それだ!」

「ナイスフォロー雫!」

 

彼女に頭を撫でられながらすぐにガバッと顔を上げて立ち直る深雪。

名案を思い付いた雫にほのかはよくやったと親指を立てるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

(さて、これはさすがにマズイな)

 

深雪が雫とほのかに慰められているのを見つめながら、茂茂は一人頭の中で整理し始める。

 

(深雪は銀さんの様になり、一方で銀さんは深雪の様になった。これが入れ替わり現象における結末と呼んでいいだろう。装置の破壊前にこうなる事は避けたかったのだが)

 

状況はこの上なく最悪であった。なんとか打開策はないかと茂茂は藁にも縋る思いで新八から託されたノートを開くも、だがやはり最後に書かれている超常現象についてはわからない。

 

(しかしアレだな、二人共妙に似通っている、深雪は性格と言動が荒れて俺に対する親しみを残したまま、銀さんは性格と言動は残したままで俺に対して親しみを持っている)

 

まるで二人の人間が人格を共有して中身が瓜二つの人間になったみたいだ。

そう思いつつ茂茂はフッと笑ってしまう

 

(いっその事この二人を合体でもさせて一つにすれば扱いも簡単になるというのに)

 

そんな現実離れした事を考えてしまう茂茂、だがふと何かに気付いたように静かに目を細める。

 

「合体……?」

 

再びノートの内容を読み直す茂茂、読む場所はもちろん最後のページ

 

「器を入れ替えし二つの魂、時を重ねて仮の器と同化せん……銀さんと深雪は入れ替わり時間が経つにつれて精神を侵食されていった」

 

「双方違わぬ魂となれば……浸食の結果、二人の性格はほとんど一緒になった。違わぬ魂というのは全く同じ色に変化した魂という事か」

 

「双方違う器は一つとなれる、さすれば二つの魂は一つの器に収まり、魂もまた一つに合わさりその器は強大となるであろう……そうかようやくわかったぞ」

 

ノートをはっきりと見ながら茂茂は遂にこれらに書かれている内容を真に理解できた。

しかし

 

「だがこんな事が本当に可能なのか、人と人が、住む世界も違う人間同士でそれが可能なのか……?」

 

解明した本人でさえもそう簡単に受け入れられる事ではなかった。

それはまるで銀時達のいる天人のずば抜けた科学力だけでなく、自分達の世界にある超高等魔法術式も合わせてやっと出来るかもしれない技術……

 

「……魂と肉体を合わせ一つの新たなる生命体となる、これがこの入れ替わり現象における究極の超常現象、その名は……」

 

 

 

 

 

 

 

「融合」

 

 

 

 

 

 

 



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第二十六訓 銀時&深雪

銀時と深雪達が騒いでいる頃。

鬼兵隊と坂本達は別の部屋で今後の事について話を進めていた。

 

これから行う事がこの星に来た中で最もやらなければいけない事なのだから

 

「入れ替わり装置はこの近くにある通路の最深部に置かれています、我々は反乱軍が暴れて蓮蓬の者共が気を取られてる隙に、そこに忍び込み破壊する。これが我々の作戦です」

 

鬼兵隊参謀・武市変平太が事前に練っていた計画を皆に伝えると、その中で一人、千葉エリカが彼に一つ問いかける。

 

「入れ替わり装置の場所なんぞ誰も知らんかったというんに……その情報は一体どこぞで手に入れたモンじゃ?」

「やはり気になりますか、今更隠す必要はありませんね。実は我々は地球にいた頃からとある者から幾度も様々な情報を貰っていたのですよ、万斉殿」

 

武市が促すと河上万斉が前に出て代わりに話を始める。

 

「今起こっている入れ替わり現象の謎、蓮蓬の存在、そして異世界の存在など様々な情報を拙者達に教えてくれる者がおった、その者はここにいる蓮蓬と瓜二つの格好をしておったが、プラカードを使わず声で拙者達と対話したでござる。声からして男性ではあったが口調はまるで女性の様な、しかしそれ以外の事はわからぬ」

「ほう、誰だか知らんが高杉ん所の組織に単身で出向くとは大した肝っ玉じゃ」

 

鬼兵隊など自分達の世界では凶悪なテロリスト集団扱いされているのだが、そこにノコノコとやってくるとは勇気があるというか無謀というか……

 

「しかしその素性も知れぬ情報提供者の言ってる事が本当なら、高杉、わし等はすぐに行かねばならんの」

「ったりめぇだ、こんな所でウダウダと会話してるヒマはねぇ」

 

エリカが不意に話しかけたのは高杉晋助こと中条あずさ、本来なら可愛らしい少女なのであったのだろうが、今はもう見る影もなく、目を細めながらキセルを吸っている。

 

「何より俺の身体がこんなガキに支配されてると思うと腹の中が煮えくり返って今すぐにでも斬ってやりてぇ所だ」

「うう~……やっぱり高杉さん怖いですぅ……」

「大丈夫っスよ晋助ちゃん! 晋助ちゃんが私が一生護ってあげますからウヘヘヘヘヘヘヘヘ!」

 

未だ顔にモザイクかかったままの高杉を睨み付けるあずさ、それに対し怯える高杉を木島また子が嬉しそうに下品な声を漏らしながら介抱する。

その光景をあずさは何とも言えない表情で眺めるだけで何も言わなかった。

 

「ていうかさ、アタシからも一つ聞きたいんだけどいい?」

「ん? なんじゃおまん、珍しく積極的じゃの」

 

あずさと高杉の間に微妙な空気が流れているもにも関わらず、空気も読まずにサッと手を上げて万斉に尋ねようとするのは坂本辰馬

 

「アタシだってさっさとこんな身体おさらばしたいんだからやる気出るわよさすがに……あのさ、入れ替わり装置をぶっ壊せば晴れてアタシ等も元通りって最高のエンディング迎えられるけど、そこに至るまですんなりと事が進む保証はある訳?」

「当然無い、むしろ事がそんなに上手くいくなど絶対にありえぬであろうな」

「ほらやっぱり~……連中だって当然装置を破壊するのを死守するだろうし、装置の周りに護衛がいる事なんて当たり前だしね~……」

「それに敵は蓮蓬だけではござらぬ、宇宙海賊春雨、この者達もこの星の内部に潜伏している筈」

 

やはりそうかとガクッと頭を垂れて落胆する坂本、世の中そう上手くいくものではない、そもそもここに来る事だけでさえ何度も死ぬ様な目に遭っているのだから

項垂れる坂本をよそに万斉は話を進める。

 

「だからこそ白夜叉や桂小太郎を始め、攘夷戦争を生き抜いて来た猛者達が集まったこの瞬間こそ、装置破壊の好機だと拙者は考えている」

「わしと高杉、銀時にヅラか……」

 

かつて同じ戦場で背中を合わせ戦っていた四人の侍が再び手を合わせれば装置破壊も夢ではない。

そう願う万斉に対しエリカもまた三人の名前を呟きながらニッと笑う。

 

「そりゃおもしろか戦が出来そうじゃ、わし等が昔みたいに肩並べて戦うなんて何時振りじゃのぉ。のう高杉、おまんはどうじゃ?」

「フン、テメェ等なんざと行くつもりは毛頭ねぇよ、行くなら俺一人で十分だ。それに……」

 

この様な状況なのに楽しげな様子のエリカに対し、あずさはつまらなそうに返事すると

 

「戦ならもうとっくに始まってるだろ……」

「っておい、なに急に刀ば抜いておるんじゃ?」

 

突然腰に差した刀を鞘から抜き始めたあずさ、いきなり抜刀態勢に入る彼女にエリカが驚くのも束の間

 

「気付いてねぇのか辰馬、俺達はもう”連中”に袋のネズミにされてるぜ」

「なんじゃと!」

 

エリカが叫ぶと同時に、部屋の扉がバーンと勢いよく開かれてしまった。

 

「ヒャッハー! 皆殺しだぁ!! ずぶ!」

 

入ってきたのは蓮蓬とは違い異形な姿をした天人、気性の荒さから見るに数多の星で略奪行為を繰り替えて来た無法者集団、宇宙海賊春雨の一人であろう。

 

彼が入って来た途端、あずさはすぐさま動き出し、手に持った刀をその首に突き刺す。

 

「こんなモンじゃ余興にもなりやしねぇ、万斉、テメェ等は俺の身体を守っておけ。装置の破壊は俺が行く」

「待て晋助! 今の主の身体では満足に戦え……!」

 

春雨の斥候を一撃で絶命させながら刀を屍から抜くあずさに、万斉が言葉を言い終える前にまたもや春雨の奇襲部隊が彼女に向かってドアから襲い掛かって来た。

 

「テメェよくも俺のダチ公を!」

「小娘だからって容赦しねぇぞ!」

「その手と足引き千切ってアクセサリーにしてやるぜ!」

 

いかにも三下が使いそうなセリフをテンション高めに叫びながら彼女目掛けて襲い掛かったのは三人。

そんな彼等をまずあずさはその中の二人に絞って、血が滴り落ちる刀を後ろに構えると一気に飛び掛かり

 

「「ぐへぇ!!」」

「お、弟達よぉ!!」

 

空中で回転しその勢いで二人の首を刎ね飛ばす。あまりにも速いその斬撃に三人目が面食らっていると

 

「うぐお!!」

「狭い通路から奇襲かける時は、声なんぞ出すんじゃなかアホたれ」

 

あずさに気を取られてる隙にエリカが後ろから最初に殺した春雨の斥候が落とした刀を拾って構え、すぐにバッサリと両断。

ほとばしる血飛沫が顔にかかり、嫌そうに袖で拭いながらエリカはあずさの方へ顔を上げ

 

「高杉、おまんや銀時の奇襲戦法に比べればコイツ等全然大したことないの」

「アイツと同等にするな、アイツのみみっちい戦法より俺の戦術の方が遥かに上だ」

「相も変わらず負けず嫌いだのぉ互いに、アハハハハハ!!」

 

あくまで優位なのは自分だと譲らないあずさにエリカは不思議と懐かしさを感じ思わず笑い声をあげた後、彼女は後ろに立っている坂本の方へ振り返る。

 

「そんじゃまぁわしは高杉と一緒にちょっくら出掛けて来るきに、留守番ば任せた」

「はぁ!? ちょっと待ちなさいよ! アタシも連れて行きなさい! アタシだってこんな身体だけどきっと役に……!」

「おまんには鬼兵隊の連中と共に春雨の数ば減らしてもらうっちゅう大事な仕事が残っとる」

 

こんな危機的状況で置いてかれるなんてごめんだと抗議する坂本に対し、エリカは血で汚れたグラサンをポイッとその場に捨てながら、瞳が見える状態、ありのままの千葉エリカの姿で笑みを浮かべた。

 

「おまんにはおまんの戦い、わし等にはわし等の戦いがあるっちゅう事じゃ」

 

そう言うとエリカは奪った刀を肩に駆けながら彼に背を向ける

 

「それと礼を言っておくぜよ、おまんの体のおかげでわしはまた刀握れるようになった。他の三人と違うて剣術を嗜んどるおまんの体と入れ替えられて、わしはほんにラッキーじゃ」

「……」

 

最後にそれだけ言い残すと、無言で固まる坂本をよそにエリカは部屋のドアへと駆け出す。

 

「さぁて久しぶりに刀ば使える戦じゃ! 行くぞ高杉! まずは銀時とヅラの回収じゃ!」

「行くならお前一人で行きやがれ、言っただろ、俺は一人でも行くと」

「アハハハハハ! なら無理矢理にでも引きずっておまんも連れて行くまでじゃ! 力ならわしの体の方がずっとあるからの!」

 

絶対に一緒に行こうとしないあずさの後襟を掴んでズルズルと引きずっていこうとするエリカ。

しかしそんな時、あずさに対してずっと震えていた高杉が思い切って口を開く。

 

「あ、あの高杉さん……!」

「……あ?」

「ひぃ~!」

 

エリカに掴まれたままギロリと血走った目で睨み付けて来るあずさに怯えつつも、高杉は意を決して

 

「高杉さんの体! 私絶対に傷付かないようにしますから! だから無事に帰ってきてください!」

「……」

 

ここまで威嚇してくる相手に対して無事に帰って来いだのとよくもまあそんな心配が出来るものだと。

あずさは内心呆れつつ静かにフンと鼻を鳴らすだけで何も返事する事はせず

 

エリカに引きずられるまま共に行ってしまった。

 

いよいよ入れ替わり装置破壊作戦が開始となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃深雪達は茂茂から入れ替わり現象の説明を聞いていた。

その内容は当然、先程茂茂が謎の人物から託されたノートに記された人と人の魂と肉体を一つにするという秘術。

 

「融合だぁ?」

「ここに書いてる内容が正しければ、そういう事になる」

「おいおいお兄様、入れ替わりだけでもヤベェのによ、さすがにそれは無理なんじゃねぇの?」

 

彼の話を聞き終えた深雪は懐疑的な目で茂茂を見つめる。

融合、言うなれば合体みたいなものであるがそんな事普通出来るのかどうも疑わしい。

そう思っている彼女の下に仲間である北山雫がツカツカと歩み寄るとポケットから一枚のカードを取り出し

 

「私は魔法カード「融合」を発動~」

「いやそれ使っても無理だって、ブルーアイズ三体じゃあるまいし」

「「入れ替わりし魔法師 司波深雪」と「入れ替わりし万事屋 坂田銀時」を墓地に送り、私はエクストラデッキから「超魔法侍 万事屋 坂波銀雪≪さかばぎんゆき≫」を融合召喚~」

「なに坂波銀雪って? 無駄に語呂良いのが逆に腹立つんだけど?」

 

何故そんなカードを手に持っていたのかはいいとして、そんな事で融合されてたまるかと深雪は軽く雫の頭を叩きながらツッコミを入れていると、深雪と共に茂茂の話を聞いていた坂田銀時が不敵に笑い出す。

 

「フッフッフ、私はわかったぜお兄様、このバカな妹なら到底理解出来ねぇようだが、要は合体すればすんげぇ力が手に入るんでしょ、ならちゃっちゃっと済ませようじゃねぇか」

「なに!? お前どうやって出来るのかわかったのか!?」

「簡単な事だ、もうちっとシンプルに物事考えやがれコノヤロー、つまり……」

 

腕を組み壁に背中を傾けながら銀時はキチンと理解した様子、分かっていない深雪に対し彼が導き出した答えとは

 

「お前先にシャワー浴びて来い、後から俺も行くから」

「って合体ってそっちぃぃぃぃぃぃ!?」

 

合体ではあるが全く別の方向、アダルト的な合体だという結論に至っていた銀時に深雪は叫びながら額に青筋を浮かべる。

 

「誰がテメェとこんな所で合体なんざするか! シンプルに物事考えろってシンプル過ぎるんだよ! 原始人の発想レベルだろうが!」

「人は皆愛を求める時原始に帰るのさハニー」

「お前だけ帰れ! 永遠に戻って来るなバカ!」

 

甘え口調でとんでもないアホな事を言い出す銀時に深雪が怒鳴っている中。

 

もう片方の入れ替わり組、七草真由美と桂小太郎も茂茂の話を聞いて驚愕していた。

 

「バカな入れ替わり組による融合だと! そんな事が本当に出来るのか達也殿!」

「まだいたのか裏切り者、今すぐ粛清してやりたい所だが俺達はお前等に構ってる暇などない」

「桂さんちょっと目を離した隙にいつの間にか達也君がすんごく冷たくなってるわ! ゴミを見る様な目で私達を見ているわ!」

「最近の若者はすぐコレだ、ちょっと嫌な事があったからってすぐにへそを曲げおって。だがそんな事はどうだっていい!」

 

将軍の魂を宇宙へ発射させておいてどの口が言うかと、茂茂は前よりも数段真由美達に嫌悪感を示すが。

真由美は彼の事などお構いなしに話を進める。

 

「問題なのはどうして超絶仲良しコンビである俺と真由美殿ペアがその融合とやらが未だ出来ないという事だ!」

「そうよ! 私と桂さんはもはや水魚の交わりと呼んでもいい存在! そちらの険悪コンビより私達の方がずっとその力に相応しい筈だわ!」

「その通りだ! ずっといがみ合いを続けている銀時と深雪殿ではそんな事出来る筈がない!」

 

再び仲良く互いの腰に手を回して仲良しアピールをする真由美と桂、そんな二人を遠目から見ていた光井ほのかが「あの~」っと恐る恐る歩み寄って口を開く。

 

「もしかして二人の間で若干のズレがあるとかそういうのがあるんじゃないですか? だからお兄さんのいう融合が出来ないとか?」

「バカな! 俺と真由美殿にそんなものがある訳ないだろ! 互いに高みを目指し切磋琢磨し! 互いに将軍の首を狙い幕府打倒を願う! そして互いに日本の新たな夜明けを目指している! これ以上の間柄に一体どこにズレなどあるというのだ!」

「フフフ、何を言い出すのかと思いきやほのかさんったら、私と桂さんの仲に限ってそんな事ありえないわ」

 

確かに二人の仲は良好なのは一目瞭然である。断固たる信念でそれを否定する真由美と共に、桂も笑みを浮かべながらほのかの意見を一蹴した。

 

「まあ添い遂げるパートナーのいないほのかさんがそんな事言っちゃうのもわからなくもないわ、昔の私も同じ側だったし。けど私と桂さんの仲慎ましい光景に思わず嫉妬しちゃうのは良くないわね」

「え、嫉妬? 真由美殿それは一体どういう……」

「やあねぇ桂さんったら照れちゃって、今更口に言う事でもないでしょ~」

「?」

 

アゴに手を当てながら意味深な言葉を呟く桂に真由美が怪訝な表情を浮かべるが、彼は笑いながらそれを流す。

桂に対して初めて真由美が疑問を浮かべた頃。

 

リーナ&土方十四郎ペアも茂茂の言っていた融合について部屋のドアの近くで考えていた。

 

「こんな小娘と合体なんてごめんだぜ、土方十四郎は常に俺ただ一人、余計なコブなんざ付けたくないんだぜ」

「誰がコブだ! テメェこそ俺の超ド級の巨大コブだろうが! つーかなんでそんな頑なに土方十四郎に成り代わろうとしてんだテメェは!」

「成り代わる? な、何を言っているのわからないんだぜ……わた、俺は正真正銘この世で唯一無二の土方十四郎であって……」

「おいいい加減にしろよテメェ、もうとっくに周りにバレてんだよ。いい加減正直に……」

 

喋れば喋る程ボロが出始める土方十四郎に対してリーナが段々苛立ちを募らせていると。

 

「あん?」

「どうしたんぜ小娘」

「足音、それもこの数は一人や二人じゃねぇ……」

 

ドア付近に立っていたリーナの耳に怪しい音がドアの向こうから聞こえて来た。

全く気付いていない土方をよそに、リーナは腰に差してる刀に手を伸ばそうとする。

 

すると

 

「地球の猿共の臭いがプンプンするのはこの部屋かぁ!」

「!」

 

突如ドアを蹴破って中へと入ってきたのは先程鬼兵隊と坂本達に襲い掛かった春雨の一人。

 

いきなりの敵襲に一瞬面食らうリーナだがすぐに持っていた刀を抜こうとする、だが

 

「ギャァァァァァァァ!! 化け物ォォォォォォ!!」

「ぐふぅ!」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

いきなり訳のわからない敵が現れパニックになった土方が、自分と敵の間に躍り出て刀でぶった斬ってしまう。

自分が先陣を切ろうと思っていたリーナなのだが、空気も読まずに土方が一手柄取ってしまう。

 

「一体何なのよこのタコみたいな顔した化け物は! 蓮蓬ってみんななんとかのQ太郎みたいな姿してなかった!?」

「おい土方十四郎、完全に女口調になってんぞ」

「思わず斬っちゃったけどいいのよね!? 私は悪くないわよね!? 正当防衛的なアレよね!?」

「もう完全に素になってるじゃねぇか」

 

血を噴き出して倒れる敵からこちらの方にクルリと振り返りながら鬼気迫る表情で同意を求めてくる土方にリーナがボソッとツッコミを入れながら刀をスッと抜く。

 

「まあいい、俺の身体をちゃんと使いこなせてる訳じゃねぇが多少は出来るみたいだな、行くぞガキ」

「この土方十四郎に命令するんじゃないわよ! ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃないわよ! ちょっと世界一の美少女だからって生意気抜かすんじゃないわよ!」

「おいコイツ素になったらなったらでますますめんどくせぇんだけど!? 元の土方十四郎モードの方がまだマシなんだけど!?」

 

自分と同じ姿した者が女口調で叫び出すのを見るのはこんなにもキツイモノなのかと、リーナはほんのちょっぴり深雪に対して同情を感じつつも、とにかく彼を連れて部屋を出て行く。

 

残された深雪達もまた戦いが始まった事を察知して、各々得物を構える。

 

「クソ、これ以上合体だのなんだの考えてる時間はねぇって事か……よしオメェ等、お兄様を全力で御守りしながら敵陣突っ込むぞ」

 

かつて何者かが持って来てくれた木刀を構えながら周りの者に命令する深雪。

そして銀時もまた木刀を肩に駆けながら同じように

 

「死ぬ気でお兄様護れよオメー等、お兄様が斬られそうになったらすかさず盾になれるようにしておけ、安心しろ、ただ死ぬだけだから」

「そうだただ死ぬだけだ、けどお兄様は生きている、それでこの世は救われるんだから心置きなく死んでいけ」

「この二人お兄さんを護る事に関しては意見が一致するんだよねってうわ!」

「ヒィィィィィハァァァァァァァァァ!!!」

 

二人揃って似た様な事かつ酷い事を言いながら戦闘態勢に入る深雪と銀時を交互に観察しながらほのかが呟いているのも束の間、天井から穴を空けて春雨の兵達が入って来るではないか。

 

「なんか天井から落ちて来た! やけに頭の薄い小太りの化け物が!」

「ヒーハー!!」

 

襲われてるにも関わらずやけに冷静に敵の特徴を上手く説明するほのかに対し、敵は奇声を上げながら彼女目掛けて飛び掛かる、だが

 

「丁度いい機会だ」

「ヒハァァァァァァァ!!」

「お兄さん!」

「この身体がどこまで使えるか、試してみよう」

 

ほのかに襲い掛かる敵を背中から刀を垂直に斬り下ろしたのは茂茂。

どうやらこの身体を上手く扱えるかテストしてみようと思っているらしい。

 

「貴様よくも俺の相方を! どうかしてるぜ!」

「やれやれ、今度は顔面ブツブツの妙に饒舌そうな化け物まで出て来たか」

 

両手に持った刀を構えながら茂茂は次々に現れる敵と対峙しつつ深雪達の方へ目をやると

 

「おら死ねぇ! お兄様を殺そうとするクズは今すぐ死ねぇ!」

「ギャァァァ!!!」

「今お兄様を殺そうと狙ってた奴はどこのどいつだ! テメェかぁ!!」

「グヘェェェェェェェ!!!」

 

共に木刀を振りかざし、兄に歯向かう輩を抹殺対象とみなし暴れ始めている。

しかし銀時の方は強靭な身体能力があるも無駄な動きが多く、深雪の方も少々心もとない戦い方であった。

 

「だぁぁぁ!! 全然力出ねぇ! なんか俺もっと力あった筈だよな!? なんかうまい具合に得物振り回せられねぇんだけど!?」

「クソったれ! ワラワラと沸きやがって! 銀さんナメんじゃねぇ!」

 

先程まで随分と長く蓮蓬と戦い過ぎたのが仇になったのか、(銀時の)体にまだ疲労が残っている事に体の持ち主(司波深雪)が気付いていないらしい。次々と押し寄せてくる春雨の海賊団に少しずつ押され気味になっていく。

 

「うお!」

「ゲヘヘヘヘヘ、これでオメェもおしまいだ……」

 

隙を突かれてトカゲみたいな姿をした敵に刀を振り下ろされ、木刀で受け止めるも銀時の顔にみるみる敵の刃が近づいていく。

体に疲れが生じ力のコントールが出来なくなってしまったのだ。このままだと殺される、そう銀時が思ったその時。

 

「深雪!」

「げばぁ!」

「お兄様!」

 

殺されそうになっている銀時の下へ茂茂が颯爽と現れ敵の首を刀で斬り落とす。

間一髪の所で彼に助けられた銀時は歓喜の声を上げた。

 

「さすが私のお兄様です! こんな身体になっても私を助けてくれるのですね!」

「ああ勿論、ん? 深雪お前、もしかして元に……」

 

自分の体が本来の体と違うと認識している様子の銀時を見て茂茂が目を細めている中。

 

「お兄様ァァァァァァァ!! こっちもヘェルプ!!!」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

突如今度は深雪の方が悲鳴を上げ、必死に部屋の中を逃げ回りながら彼に助けを求める。

力が弱くなってしまった上にあずさ(高杉)や真由美(桂)とは違いその体での戦い方を熟知していない。

春雨の斥候相手に半泣きで逃げる深雪、だが

 

「はいどーん」

「あばばばばばばばばば!!!」

「!?」

 

逃げてる深雪を追う敵に対し、手の平から魔法式を作成し放ち助けたのは北山雫。

彼女に手の平を向けられた途端、次第に敵は頭を押さえながら狂ったように叫び声を上げる。

 

「共振破壊、これ人間に使ったらマズイんだけど、人間じゃないならいいよね?」

 

彼女が扱った魔法の名は共振破壊。 

 

対象物に無段階で振動数を上げていく魔法を掛け共鳴点を探し、「振動させる」という事象改変に対する抵抗が差異も小さい共鳴点を発見した時点で、対象を振動破壊する。

本来の用途は別にあるのだが、もし普通の人間相手に使ったら平衡感覚を損失する程の強烈なめまいや吐き気の症状を発し、たちまち気絶してしまうであろう。

 

現にその魔法を浴びせられた相手は口からブクブクと泡を噴き出しながらバタリと倒れてしまった。

 

「ふぃ~」

「ハハハ……ずっと仏頂面しておいてやる時はやるじゃねぇか」

 

見事に敵を倒して見せた雫に対し深雪は内心(おっかねぇ術持ってんだなコイツ……怒らせねぇようにしねぇと)とビビりながらも彼女の方へ歩み寄って行く。

 

「まあ一応礼ぐらいは言っておいてやらぁ、あんがとよ」

「宇治銀時丼1杯」

「は?」

 

素直じゃない言い方でとりあえず礼だけはする深雪に対し、雫は人差し指一本立てて要求する。

 

「食べさせてくれたら貸し借りナシにしておいてあげる」

「……おめぇ俺の宇治銀時丼食えんの?」

「興味はある、だから食べたい」

「へ、そうかい」

 

周りの者からはゲテモノ扱いされている宇治銀時丼を是非食べてみたいと無表情で要求してくる彼女に思わず笑ってしまう深雪。

 

「だったら1杯だけじゃなく好きなだけ食わしてやらぁ、食べればすぐに俺みたいにやみ付きになれるぜ」

「ますます興味深い」

「本当何考えてるよくわかんねぇなお前……、まあいいさ、だったらとっととこんな面倒事片付け……」

 

何やら同じ味を共有できる仲間が出来そうな事に少々喜びを感じつつ深雪はとりあえずこの部屋から出ようと出入口の方へ振り返える

 

だが

 

「がはぁ!」

「げふぅ!」

「!」

 

突如部屋の出入り口からこちらに向かって飛んできたのは、先程部屋を出た筈のリーナと土方。

二人揃って派手にぶっ飛ばされて再びこの部屋に戻って来た事に深雪が驚くのも束の間。

 

部屋の中に彼女達を吹っ飛ばした張本人がゆっくりと入って来た。

 

「こんちわ~、ウチのモンがお世話になってまーす」

「お、お前は神威!」

「へぇお嬢さん俺の事知ってんだ、異世界でも有名になってるのかな俺?」

 

やってきたのはあろう事か、春雨の第七師団の団長、神威。

ちょっと前に真由美達と出会い、その後リーナとやり合い彼女を下層部まで突き落とした程の強者。

ここで彼と会うのは初めてであった深雪は思わず面食らった表情を見せるがすぐにヤバいと認識し

 

「テメェ等、コイツとはまともにやり合うな、今までの雑魚共とは比べモンにならねぇバケモンだ」

「強いの?」

「ああ、お兄様が最強のお兄様だとしたら」

 

隣りに立つ雫の質問に答えつつ深雪は前方の神威を見つめる。

 

「アイツは最凶のお兄ちゃんだ」

「ハハハ、そんなビビらなくてもいいって、今の俺は入れ替わり組には興味無くてね、一つ俺の質問に答えてくれるならここ通してあげるから」

 

ニコニコと微笑みかけそう言いながら神威は

 

 

 

 

 

額から血を流してぐったりして目を瞑っている光井ほのかをこちらに掴み上げ見せて来た。

 

「この弱っちいのって入れ替わり組? 違うなら殺すけどいいよね?」

「「「「「!!!!!」」」」」

 

あまりの出来事に深雪どころか茂茂も言葉を失ってしまった。

神威が笑顔を浮かべながら制服の後ろ襟を掴んでる少女は、紛れも無く先程まで自分達と同じ部屋にいたほのかであった。

この騒ぎに生じて彼女は運悪くこの男の牙にかかってしまったのである。

 

 

「テメェ……よくも!」

 

護ってやれなかった事にショックを隠せないでいる深雪。

しかし彼女が何か言おうとする前に

 

 

北山雫は既にに神威目掛けて駆け出していた。

 

「っておいお前!」

「あり? もしかしてこの子のお友達だったかな?」

 

深雪が手を伸ばして呼び止めようとしても、神威がのほほんとした感じで尋ねても、雫は何も答えずただ目の前の敵を倒さんと無言で突っ込んで行く。

 

そして一気に距離を詰めると、雫は神威目掛けて飛び掛かる。

 

その時の彼女の表情は彼にしか見えず、それを見た神威は目を見開き不敵に笑う。

 

「へぇ~こりゃ驚いた、小さいクセに大した面構えじゃん……!」

「……」

 

雫が友の仇である神威に対してどんな表情を浮かべていたかはわからない。

だが少なくとも血生臭い戦いを欲する彼はその顔を見て満足げだ。

そして手に持っていたほのかをその場にほおり捨てると神威の中でスイッチが入る。

 

「……」

 

そんな彼に対して雫は再び手の平を突き出して、先程の共振破壊を飛び掛かったまま発動。

今度は一切の躊躇も見せずに

 

「あれ?」

 

頭の中を高速でシェイクされた様な奇妙な感覚が彼を襲う

 

 

「おっとこれは結構ヤバい」

 

思わずグラリと頭を揺らして倒れそうになる彼に対し、雫は術式を解除しないままさらに距離を詰めて術の威力を強くさせようとするも……

 

「けどまだ全然だ」

「!」

 

倒れそうな体制の状態から神威は雫が近づいて来た途端、ガバッと体勢を整えると右手の拳を構え

 

「がは!」

「!」

「げほ!げほ!」

 

正拳を彼女のどてっ腹に思いっきり浴びせる。

今まで味わった事ない強烈痛みが雫の腹部を襲い、そのまま勢いで壁にまでぶっ飛ばされてしまう。

壁に打ち付けられた雫は口から血を吐きだし、その場にズルズルと倒れ込んでしまった。

 

「雫!」

「バカ野郎! 柄にも無く無茶しやがって!」

 

一撃とはいえ夜兎の拳をまともに受けて無事で済むとは思えない。彼女の下に銀時だけでなく深雪もすぐに駆け寄ってしゃがみ込む。

 

「雫! 気をしっかり!」

「ハァハァ……」

「夜兎の拳、ましてやあのバカ兄貴のモンをモロに受けちまったんだ、しばらくはロクに立つ事すら出来ねぇだろうさ」

 

銀時の悲痛な訴えに雫は何も言えずお腹を押さえながら荒い息を吐くだけ

そんな彼女診ながら、深雪はゆっくりと彼女の頭に手を置く。

 

「だからそこでちょっと休んでろ、宇治銀時丼食う前に腹壊しちまったら勿体ねぇだろ」

「……うん」

 

優しくそう言いながら深雪が彼女の頭を撫でてやると、雫はやっと返事をしてくれた。

それを聞いて深雪はフッと笑った後、再び真顔に戻って立ち上がる。

 

 

「テメェがあの野郎に届けたかったモンは、俺がキッチリ届けてやるからよ」

 

深雪は手に持った木刀をグッと強く握り前方にいる神威を見据える。

 

まだ頭がクラクラしているのか手で頭を押さえながらも彼女を見てニッコリ微笑んでいた。

 

「へぇなるほど、お嬢ちゃんからはあのお侍さんと同じ匂いがする。てことはそっちのお侍さんの体してる方と中身入れ替わってるって事か」

「どっちがどっちだなんて今更関係ねぇよ」

 

どうやら銀時と深雪の正体に勘付いたらしい、そんな神威に深雪と同じく銀時もまた返事しながら木刀を肩に掛ける。

 

「どの道私とコイツでテメェをぶっ倒すだけだ」

「二人まとめてかかってくるって事? 残念ながら俺は入れ替わってる人たちは相手にしたくないんだ、だって本来の体じゃないと本気なんか出せやしない、そんな相手を殺しても面白くないだろ?」

「「それはどうだろうな」」

「?」

 

神威自身はこの勝負に何の興味もないし理由も無いが、深雪と銀時にはちゃんとした理由がある。

 

ほのかや雫を傷つけられて、二人の中で何かが共鳴し始めた。今までいがみ合っていた二人が共通する敵を前にした瞬間、その意識が混合し始める。

 

「俺の万事屋のモンに手ぇ出した落とし前」

「私の友人に手ぇ出した落とし前」

 

 

 

 

 

 

 

「「ここでキッチリ付けてやらぁ!!!」」

 

 

 

 

 

 

その瞬間、突然深雪と銀時を中心に眩い光が放たれる。

 

「深雪! く! これはまさか!」

「銀時、そうかコレが達也殿が言っていた……」

 

双方違わぬ魂となれば、双方違う器は一つとなれる、

さすれば二つの魂は一つの器に収まり

魂もまた一つに合わさりその器は強大となるであろう

 

茂茂と真由美はその眩しさに腕で目を覆うも、光の中で銀時と深雪の姿が消えていく所が見えた。

 

そして

 

 

 

 

 

(あり? なんだここ、視界が真っ黒だ)

 

目を開ければそこは虚空、何もない暗闇の世界に立っていた自分、そしてふと自分の体を見下ろすと

 

「え、嘘!? これ俺の身体じゃん! よっしゃぁ元に戻ったぁ!!」

 

いつの間にか自分の体が元に戻っていた事に気付いた銀時、嬉しそうにはしゃいでみるがすぐに我に返って立ちすくす。

 

「って戻ったはいいけど一体どこだここ? なんも見えねぇし……」

 

懐かしき天然パーマを掻き毟りながら銀時は辺りを見渡していると

 

「私もとんでもなくアホ面で死んだ目をしたおっさんしか見えません」

「え? うお!」

 

いつの間にか自分の傍に何者かが立っていた事にやっと気付く銀時。

彼の目の前に立っていたのは

 

「互いに元の体でお会いするのは初めてですね、坂田銀時さん」

「……座敷童……」

「司波深雪です、ぶっ飛ばしますよ」

 

暗闇の中でもはっきりと見えるその姿は先程まで自分が借りていた体。

そしてその体本来の持ち主である司波深雪もまた元に戻っているみたいだった。

 

「私達がどうしてこんな空間にいて、どうして互いの体が元に戻っているのかはわかりません、本来なら元に戻れた事に喜びたい所なんですがすぐにでも戻らないと」

「仕事がまだ残ってるからな」

「ええ、私とあなたにはまだやるべき事が残っています」

 

銀時に対し深雪は強く頷くとスッと彼に手を差し伸べる。

 

「お兄様だけじゃなくほのかや雫、他のみんなを護れる強さを欲した時、いつの間にか私はここにいました」

「俺も似たようなモンだ、で? いいのお前? こんなおっさんの俺とで」

「ええ、相手があなただという事に不満はありますが、残念ながら他に選択肢が無いので」

「可愛くねぇガキ」

 

微笑を浮かべる深雪のに不機嫌そうに鼻を鳴らしながら銀時は彼女が差し伸べている手を握り返した。

 

その瞬間、二人の周りが輝き始め、暗闇の世界に光が灯される。

 

「テメェには色々と言いたい事があるんだ、全部片づけても逃げんじゃねぇぞコラ」

「それはこちらの台詞です」

 

光の中で目を合わせながら銀時がフッと笑うと深雪もつられて笑い

 

 

 

 

 

 

「銀時! 無事か!」

「深雪!」

「銀さん! 深雪さん!」

 

 

二人を包み込んでいた光が徐々に消え始め、

真由美と茂茂、桂が心配そうに光っていた中心を見つめる。

 

そしてそこにあった二つの影は一つとなり、シルエットと共にその者は現れた。

 

「ったくうるせぇな、そんな叫ばなくても出てやるっつうの」

「「「!!!」」」

 

その者の登場に一同驚愕の表情を浮かべる。

 

けだるそうに喋るのは少女の声。

腰まで伸びた長い銀髪には所々にクセッ毛が飛び出ており

腰の両側に差すのは「洞爺湖」と彫られた二本の木刀。

服装は国立魔法大学付属第一高等学校の制服ではあるが、その上には空色の着物を袖に通さず羽織っている。

履いてるブーツを踵で合わせながら、彼女は現れた。

 

「へぇなるほど、合体するってこういう感じなのか、へ~なるほどなるほど」

 

顔は本来であれば百人見れば百人見とれてしまうであろうな美少女なのだが、その表情にはしまりがなく目は死んだ魚の様な目をしていた。

 

彼女の登場に周りが驚いて言葉を失ってる中で、敵である神威が笑顔で問いかける。

 

「誰、キミ?」

 

その問いかけに対し、少女は振り返りながらニヤリと笑って返した。

 

 

 

 

 

「坂波銀雪≪さかばぎんゆき≫」

 

 

 

 




今回登場した銀さんと深雪が合体した姿、坂波銀雪。
一体どれ程強くなったのかわかりやすく例えてみます

入れ替わりし魔法師 司波深雪 ☆3 魔法使い族 ATK1500 DEF900

効果モンスター
➀このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「坂田銀時」として扱う。
➁このカードが召喚・リバースした時、デッキから「万事屋」と名のついたカード1枚を手札に加える


入れ替わりし万事屋 坂田銀時 ☆6 戦士族 ATK2300 DEF1800

効果モンスター
➀このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「司波深雪」として扱う。
➁このカードの攻撃力は自分のフィールド・墓地に「司波達也」がある限り500アップする。


超魔法侍 万事屋 坂波銀雪 ☆10 戦士族 ATK3300 DEF3000

融合+効果モンスター
「坂田銀時と名のついたモンスター」+「司波深雪と名のついたモンスター」
➀このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない
➁このカードは自分の場に存在する限り、このカードのコントローラーは「坂田銀時」「司馬深雪」を自分の場に出す事は出来ない。
➂このカードは自分の場に出ている「万事屋」か「司波達也」と書かれているモンスターの種類の数によって以下の効果を得る

1種類 自分の場の「万事屋」か「司波達也」と書かれているモンスターは攻撃力500アップする
2種類 このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない
3種類 このカードの攻撃で相手モンスターを破壊した時に発動できる。このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる
4種類 このカードは相手のカードの効果を受けない
5種類 このカードがフィールドに存在する限り、自分の場のモンスターはこのカードと同じ効果を得る。
6種類 相手フィールドのカードを全て除外する

ね? わかりやすいでしょ? 


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第二十七訓 融合&四刀

『おれは司波深雪でも坂田銀時でもない、おれはお前を倒すものだ』
とか言ってほしいですねぇ

俺は、坂田銀時でも司波深雪でもねぇ
貴様を倒すものだ‼︎

読者の一部の方達から感想欄に書かれていたこの台詞。

元ネタは知らないけど滅茶苦茶カッコいいんで個人的に大好きです



(あれ? ここは何処だ、俺は一体何を……)

 

暗闇の中でリーナはゆっくりと意識を取り戻した、ほのかに冷たい風が顔に当たりながら彼女が目を覚ましたその先には……

 

「ハァハァ! さようなら過去の私……!」

「ギャァァァァァァァ!!」

 

こちらに対して荒い息を吐きながら刀を振り上げ、この時を待っていたと言わんばかりの愉悦がこもった笑顔で立っている土方十四郎がそこにいた。

 

「こんにちは新しい私土方十四郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「のわぁぁぁ!!」

 

ギラリと光る刀を垂直に振り下ろしてきた土方であったが、間一髪リーナは真横にのけ反りをそれをギリギリのタイミングで避ける。

 

「あっぶね! お前今マジで俺の事殺そうとしただろ! ふざけんなよ! マジ冗談じゃ済まされねぇからなコレ!」

「チッ、私の優秀な身体能力が仇になったか……」

「舌打ちしてんじゃねぇよ! つーか自分殺してなに人の体で人生再スタート決めようとしてんだ! いい加減諦めろ!」

 

一撃で仕留めれなかった事に苦々しい表情で舌打ちする土方にリーナが抗議の声を上げながら立ち上がると、ふと彼の背後で何やら得体の知れない気配を感じる。

 

「おいちょっと待って……おれが寝てる間に一体何があったんだ」

「ああアレ? 私も何がどうなったかわからないけど、どうやらさっき言ってた融合って奴みたいよ」

「融合だと!?」

 

リーナの疑問に土方がごく自然な感じで説明すると、彼女はすぐにそちらに目を見開いて覗かせる。

 

億にいるのは先程自分と土方をぶっ飛ばした張本人である神威。

 

そして彼と対峙しているのは、辺りに漂う白い霧の中に佇む二つの木刀を腰に差した銀髪の少女

 

それこそが坂田銀時と司波深雪が融合した事により生まれた超戦士……

 

「坂波銀雪って名乗ってたわよ確か」

「オイオイマジかよ……! 遂にアイツ等やりやがったのか……! ってちょっと待て」

 

ずば抜けた潜在能力と超越した魔力、そして数多の歴戦を潜り抜けた経験と強さを持つ最強の生命体の誕生にリーナは驚きの声を上げるも、すぐに真顔に戻り土方の方へ振り返る。

 

「坂波銀雪? なんだそのゴテンクスみたいな安直な名前……」

「し、きっと自分たちなりに一生懸命考えたんでしょうからそっとして置いてあげなさいよ」

「いや別に乏すつもりはねぇけどよ、銀と雪ってなんかいい感じに合うのはわかるよ? けど自分達の名前を混ぜて超カッコいい名前にしてみました的な感じがすげぇ伝わってくるんだよ」

「聞こえちゃうから止めなさいよ、融合したもんだからテンション上がってつい一時のノリに身を任せちゃっただけなのよ、悟空とベジータもフィージョンした時は最初凄いノリノリになってたでしょ? きっと同じやつよ」

 

ヒソヒソ声で会話を始めるリーナと土方、しかし彼女達の声は静まり返っている部屋の中だと端にいてもしっかりと聞こえる程であった。故にその声は部屋の中心に立つ銀雪にも聞こえ……

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! 誰がベジットだ! 誰がベジータとカカロットで混ぜました的な一時のノリに任せたネーミング付けるか! コレはただ雫が言ってたから拝借しただけだから! 別に俺達が考えた訳じゃねぇから!」

 

ムキになって否定する彼女の周りからはピキピキと音が鳴りだし床や天井に少しずつ霜の様なモノが出来始める。

どうやら彼女自身の感情の上げ下げによって体内に眠る魔力が自動で動いているらしい。

 

「チッ! あの野郎に軽くやられた程度で気絶してやがったクセに勝手な事言いやがって……」

 

苛立ちを募らせながらも銀雪は向かいに立つ神威を見据える。

戦うべき相手は後ろの二人ではない、光井ほのかや北山雫をその手に掛けた彼ただ一人である。

 

そしてその神威はというと突然変貌した彼女の姿を見て楽し気に笑顔を浮かべていた。

 

「入れ替わった人たち同士による合体……うんコイツは面白い、まさかこういう展開になるとはさすがに俺も予想できなかった」

 

神威にとって銀時と深雪の融合は嬉しい出来事だった、何故なら彼は入れ替わって戦力が著しくダウンしている相手には何も興味を持てなかった。

しかし相手がこんな状態になり、いつも通りどころかいつも以上に力が増幅されている気配を感じては

 

「こんな事されたら俺も本気でやらないと失礼だ」

 

当然全力で戦いたいと思うではないか、目を見開きすぐに拳を構え、神威はダッと床を蹴って彼女の方へ駆け出す。

 

「さあやろうかお侍さん、そして異世界からやって来た魔女っ娘さん……!」

 

一気に間合いを詰めて飛び掛かると、銀雪目掛けて神威は拳を振り上げ叩きつけようとする。

しかしそんな彼に対し銀雪は死んだ魚の様な目をしたまま動こうとしない。そして

 

「!?」

「おい兄ちゃん」

 

突然空中で神威の動きがピタリと止まった。空中に浮いたまま自分の体が動かなくなった事に神威は驚くがすぐに気付いた。

 

いつの間にか部屋の天井から氷で形成された氷柱のようなモノが数十本も張り巡らされており

その中の何本かが自分の背後で集合し、巨大な手の形に変化して自分を後ろから握り締め、拘束していたのだ。

 

「レディーに対していきなり襲い掛かるってのはちと無粋過ぎじゃねぇか?」

「へぇ……」

 

ノーモーションでの魔法式の展開をしながら平然とした様子で神威の下へと一歩前に出ると、

銀雪は腰に差した二本の木刀の内の一本を右手に持って構える。

 

「失せろ発情期! テメェ如き相手に銀雪さんがなびくと思ったら大間違いじゃボケェ!!」

 

身動きが取れない状態の神威に必中の突きをどてっ腹に浴びせた。

その威力は高く、彼を捕まえていた氷の手も一緒に破壊し、そのまま部屋の外へと彼を思いきりぶっ飛ばしてしまう。

 

「これが融合体の力か……深雪の感情によって暴走していた魔力を自由に操り、あの男が持つ剣術を併せ持つだけでここまで圧倒できるとは」

「おのれ銀時! 俺と真由美殿を差し置いて深雪殿と合体した上にあんなカッコよく決めおって!」

「かくなる上は私達も合体よ桂さん! フィージョンよ! フィージョンのポーズをすれば合体できるわ!」

「黙ってろ二人共」

 

その戦いを傍観しつつ坂波銀雪の底知れぬ力の片鱗を冷静に解析する徳川茂茂であるが、傍にいる七草真由美と桂小太郎は彼女を見てギャーギャーとまた喚きだしている。

そんな二人を茂茂が冷たく黙らせようとしている中、激しい音と共に部屋から消えてしまった神威をすぐに追撃する為に、銀雪はもう片方の木刀も左手に携えて部屋から出ようとする。

 

「それじゃあお兄様、ちょっくら行ってくるわ」

「待て深雪、いや銀さんと呼ぶべきか?」

「どっちでもあるがどっちでもねぇよ俺は」

 

彼女が一歩歩くたびにその足元にある床が凍り始める。

どうやらまだ完全には力の掌握が出来ていないらしい、勝手に発動する魔法式を気にも留めずに行ってしまおうとする銀雪をすぐ様茂茂が止めに入る。

 

「その体は俺が思うに長い状態を維持するともう二度と二人に戻る事は出来ない」

「はぁ!? そんなの聞いてねぇんだけど!?」

「ノートに書かれた融合についての記述の最後に、融合体になった後の注意事項が書かれているんだ」

 

長時間融合したままだともう二度と元の体に戻る事は出来ない。

いきなりそんな事を言われて流石に銀雪も大きく口を開けてショックを受けると、茂茂は手に持ったノートを彼女に見せるように開く。

 

 

「一度魂合わせれば、入れ替えられし元凶を止めぬ限り二つの器と魂には戻らぬ、更には強大せし器、長き時を重ねるとその器と魂もう永遠に元に戻らず……つまりそういう事だ」

「そういう事ってどういう事?」

「元々俺達が入れ替わっている原因を断ち切らなければ元に戻る事が出来ないという事だ」

 

説明してもわかってない様子で小首を傾げる銀雪に茂茂は丁寧に教えてあげる。

 

「つまり俺達が入れ替わった原因はこの場所にある入れ替わり装置、それを破壊出来ればまた二人に戻れる筈だ」

「なーんだそんなの簡単じゃねぇか、安心しろよお兄様、あのバカ兄貴も入れ替わり装置もこの銀雪さんが全てぶっ飛ばしてやるから」

「……」

「ま、おたくは気長にソファにくつろいでジャンプでも読んで待っててくれや、全部俺に任せておけばいいんだよ全部」

 

何やら少々小馬鹿にしたような態度を取って来る銀雪に茂茂が無言で固まるが、そんな反応もスルーして銀雪は両手に木刀を持ったままニヤニヤ笑いながら部屋から出て行った。

 

「全部任せろ、か……」

「……達也くん」

「会長?」

 

アレも融合の影響なのか、いつもの深雪であればあそこまで傲慢な態度で接する事は無かった。

銀時という存在が混ざった事によって兄に対する反抗的な部分が芽生えたのであろうか。

妹は果たして何事も無く戻れるのかと心配する茂茂に対し、珍しく神妙な面持ちで桂が彼に話しかけると

 

すぐに頬を膨らませて完全にバカにした態度で

 

「自分を常に慕ってくれていた可愛い妹がちゃらんぽらんのおっさんに寝取られて変貌しちゃって、ねぇ今どんな気持ち? ブフゥ!」

「……」

 

含み笑いをしながら挑発的な物言いをしてくる桂に対し、茂茂はゴミを見る様な目を向けながら沸々と殺意が湧くのをその身で感じ取るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして部屋を出た銀雪は早速両手に片方ずつ木刀を持ったまま、神威をぶっ飛ばした方向に向かって駆け出す。

 

「こちとらテメェの相手なんざしてるヒマねぇんだ」

 

右手に持ってる方の木刀の周りを冷気が包み込み始め、そのまま銀雪は真正面から対峙する。

 

ぶっ飛ばされてもなお余裕の笑顔でコキコキと肩を鳴らしている神威と

 

「残念、こっちは相手する気満々なんだけどなぁ」

「相変わらず化け物だぜコイツ……」

 

先程の一撃を食らってもなおピンピンしている様子の神威目掛けて銀雪は木刀を振りかざす。

木刀に纏わりついていた冷気が急速に凍り始め、木刀に付着すると鋭き氷の刃に形成された。

 

「どりゃあ!!」

 

それはもう木刀というより刀に近い氷の剣、振り下ろされたその剣を神威は頭上で両手を組んでガードしようとする。

 

「!」

 

だが寸でで神威は嫌な予感を覚え、ガードを解いて大きく後ろにのけ反った、

 

なんとか避け切れたが目を見開き笑みを消した顔の頬には僅かに切り傷が出来る。しかしこれしきの傷など夜兎である彼であればすぐに塞がるであろう。

問題なのは避けた自分に対して既に左手の木刀を構え、こちらに対してギラギラとした目つきで笑っている銀雪の方だ。

 

「避け切れると思ってんじゃねぇ!」

 

二本目の木刀が横薙ぎに振るわれ、神威の脇腹にミリミリと食い込む。しかしその程度では神威は怯まない。

左手と右手にそれぞれ得物を持つ二刀流であると力の配分が分断してしまうのは常識。しかし銀雪の振るう二本の木刀はその常識すらも疑ってしまう程強力なモノであった。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

風を切り、漂う冷気を突き抜け、銀雪は二振りの木刀で神威に反撃のチャンスさえ与えず怒涛に攻めていく。

一方神威はというと、その一撃一撃を避け、受け止め、時には直撃を受けつつもその表情にはますます笑みが広がっていく。

戦闘狂である傭兵部族、夜兎からすればこの様な特殊な相手と戦えるだけでテンションも高揚するというものだ。

 

「面白い……! 侍と魔法使いの戦い方ってのは俺の予想をずっと上回る強さを持っている……!」

「!?」

 

だがしかし、いかに強力な相手であろうと負けるという可能性を持たないのもまた夜兎の特徴。

額から血を流しつつもその目は標的である銀雪を射抜き、神威は僅かに見せた隙を突いて片腕を伸ばしと、そのまま銀雪の胸倉を掴み上げ

 

「待っていたんだこういう戦いを……! 血沸き肉躍る本当の殺し合いを……!」

「ぐはッ!」

 

片腕で胸倉を掴んだ事によって銀雪を拘束、そして右手の拳を強く握ると神威は満面の笑みでそれを彼女の腹に思いきり浴びせる。

夜兎の本気の拳を並の人間が思いきり食らっては運が良くて骨が折れる程度、最悪そのまま死ぬ。

苦悶の表情を浮かべ顔から汗を流す銀雪、しかし彼女はすぐにフッと笑うと

 

「へ、殺し合いだぁ? おい兄ちゃん、言っておくが俺は別にテメェと命賭けて戦う程酔狂じゃねぇんだよ」

「おっと……してやられちゃったかな?」

 

彼女の腹に食い込ませた拳に違和感を覚える神威、銀雪のその柔らかい肌にその拳は届いていなかった。

自分の拳と彼女のお腹の間に入るように、氷の壁のようなモノが小さく空中で形成されていたのである。

しかもその壁、形を変えて自分の拳を絡め取り離そうとしない。

 

「俺がやってんのは、おイタが過ぎたテメェを懲らしめるだけだ」

「フフ、そうこなくっちゃ、ね!」

「チッ!」

 

右手が使えないなら左手を使えばいい、神威は左手の拳を構えてそれを彼女の顔面に叩きこもうとする。

銀雪は舌打ちしつつ二本の木刀を十字の構えでガードするも

 

「ぐ! コイツ……!」

 

その一撃を完全に封殺さる事は出来ず、後方に軽く飛ばされてしまった。

 

「さっきよりも拳の強さが増してやがる! コイツ今まで本気じゃなかったのか……!?」

「本気さ、この戦いで本気を出さなかったらいつ出すのさ、けど」

 

右手に絡みついている氷の結晶を砕きながら、神威は余裕と言った感じで腰に手を当て改めて銀雪と対峙する。

 

「俺ってば相手が強ければ強い程もっと強くなっちゃう性質だからさ」

「やっぱコイツ化け物だわ、あの大食い娘のバカ兄貴で、あのハゲ親父のバカ息子なだけあるぜ……」

「その二人と比べられるのいささか不満だなぁ」

 

やはり融合体でも神威はそう簡単に一筋縄でいく相手ではなかった。

夜兎の中の夜兎、その類まれな戦闘スキルに思わず銀雪も少々圧倒されてしまう。

そして神威は再び駆け出し彼女に対して飛び掛かる。

 

「さあまだまだやろうか、俺とアンタ等”二人”の戦いを……!」

「……二人だけじゃねぇよ」

「?」

 

飛び掛かって来た神威に対し、銀雪はそっと左手に持っていた木刀を何故か腰に差し戻す。

その行動をいまいち理解できなかった神威だが次の瞬間、体と頭にグラつきが生じ始めた。

 

「これはあの時の……!」

 

頭の中を何度も揺さぶられてる様な気持ち悪い感覚、思わず地面に着地し額に手を置く神威の耳に

「どうもー、ああやっぱりダメ、思った以上にキツイ……」

「!」

 

呑気ではあるが少し息の荒い様子の少女の声が飛んでくる。

頭に手を置いたまま神威がバッと銀雪の背後へ顔を上げると

 

「休んでたらいきなり氷の床で運ばれて仕事させられた件」

「残念ながら万事屋に入った空には多少の事で簡単に休ませねぇ、入ったら休ませず死ぬまでコキ使うという鉄の掟があるんだよ」

「おーなんというブラック企業」

 

ちょっと前に自分が倒したはずの北山雫が、氷の壁に背を預けながらこちらに手を突き出していた。

恐らく発動しているのは前に食らった奴と同じ魔法式、人体の体や脳に衝撃を与え一時的に体の自由を奪う「共振破壊」だ。

 

「なるほど、俺と戦いながらも氷を操って、その子を部屋からここまで運び込んだのか……」

「魔法も剣術も小細工だって一流の銀雪さんにとっては晩飯前なんだよ」

 

そしてヘラヘラと笑っている銀雪が右手に持つ木刀には凄まじい冷気が集中し始める。

力。否、魔力を溜めて自分を一撃で仕留められる程の強力な魔法式を組み込んでいるのであろう。

しかし周り一帯を氷漬けにしかねない程の魔力を集中して操るという事は、そこに僅かばかりに隙が生まれるというモノ。

神威はそれを見逃す程バカではない。

 

「でも残念だけどこの魔法は俺には通用しない、さっきも見ただろ? こんなの少々怯むだけで全然大した事ないよ」

「あまりウチの優秀な従業員をナメねぇで欲しいな、大した事ないと本気で思ってるんならかかってこいよ」

「ああ、言われなくてもそうさせて……」

 

この程度の精神負荷など彼にとっては少々時間を稼げるだけの事だ、コレだけではまだ銀雪の魔力が貯め終える事は出来ない、それを突いて神威はクラクラする頭を押さえながら前に出ようとする、だがそこで

 

「!?」

 

突如鋭い閃光が彼の両目を眩ませる、その光は未だかつて経験した事のない程の眩しさ、思わず片手で目を覆う前に、神威が僅かにうっすらと見えたモノとは。

 

「これで……少しは時間稼げるよね」

「上出来だ小娘、後で宇治銀時丼奢ってやる」

「ああうん……それは遠慮するよ」

 

床に横になったままこちらに対して手をのひらをかざし、眩い閃光魔法を放つ光井ほのかの姿であった。

神威によって少しの間気絶していた彼女であったが、目を覚ますと共に状況に混乱しつつも銀雪を助ける為に敵の視界を奪う為に使われる魔法式、閃光魔法を神威に向けて放ったのだ。

 

「テメェを倒すのは坂田銀時でも司波深雪でも、ましてや坂波銀雪でもねぇ」

「!!」

 

しばしの間の時間の中で、ようやく目が慣れて銀雪が見れた時にはすでに遅かった。

銀雪の右手にはいつの間にか木刀を覆被さる様に様氷が生成され始め、身の丈2メートルはあるであろう巨大な大剣が出来上がっていた。

 

それを両手で掴み上げると彼女は鋭く眼光を光らせながら、共振破壊と閃光魔法という二重魔法で怯んでいる神威に向かって駆け抜けながら振り被る。

 

そして

 

「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!」

 

振り抜くと共に派手な音を立てながら神威の腹を抉る様に直撃し、そのまま彼を後ろにぶっ飛ばすだけでなく、後ろにある壁さえも次々と突き抜けて見えなくなってしまう程。

 

そして視界から見えなくぐらい彼が飛んで行った事を確認すると、銀雪の手に持っていた大剣が一瞬で溶けて元の木刀に戻った。

 

 

 

 

「俺達”新生万事屋”だ」

 

 

 

皆の力が合わさったその一撃、戦闘狂・神威を制す。

 

 

 

 

 

 

 

 




1話丸々バトルパートになるなんて27話目にして初めてじゃないですかねぇ……

ところで私事ですが今現在連載している3作品の内の1つが完結しました。

それに伴い新作を書きたいと思うのですが

銀魂×SAOか
銀魂×ドラクエ11

どっちを書こうか迷っておりまして現在模索中、お楽しみに


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第二十八訓 道筋&覚悟

前回の前書きで言ってた元ネタを教えて下さってありがとうございました。
いやドラゴンボールは勿論知っていますが映画版には手ぇ出してなかったので知りませんでした。
という事で今度ツタヤ行って元ネタが入ってる映画を借りてきます。

p.S 前回のあとがきでアンケートみたいな感じで尋ねた件については申し訳ありませんでした。以後、次回作は自分なりに考えて書こうと思いますのでお楽しみに


激闘の末、坂田銀時と司波深雪が融合した姿、坂波銀雪と頼もしき新生万事屋のサポートもあって神威を撃退する事が出来た。

 

しかし勝利の余韻に浸る暇もなく、銀雪は彼を倒す為に犠牲となった者を忘れてはいない。

 

「お前はそう、一方的について来ただけでそんな親しくなかったけどいい奴だったと思うよ、だから安心して眠れ」

「ほのか……あなたと友達的な感じになれて私は幸せだった、あなたの遺体は遺言通り灰は宇宙に流してあげる」

 

倒れている光井ほのかに対し銀雪と北山雫は両手を合わせて合掌。

願わくば化けて出ることなく安らかに成仏する事を祈って…… 

 

 

 

 

 

「いやいやいや! 死んでないよ私!? あと誰が宇宙葬にしてくれって頼んだ!? ねぇ!?」

「あ、生きてた」

「意外としぶとい」

「意外とって何!? 死ねば良かったってか!?」

 

突然ガバッと起き上がり早々ほのかは二人に対して抗議の声を上げながら復活する。

どうやら思ったより手酷い傷は負っていなかったらしい。

 

「別に私あの強い人にちょっと軽くやられて気絶しただけで別にそこまで重症じゃないからね!?」

「ちょっと待ってほのか、じゃあ私は軽くノされただけのあなたの為にわざわざあんな凶暴な男に立ち向かったって事? それはちょっと解せない」

「解せないね、これは責任もって春雨の連中をおびき寄せる為の囮として頑張ってもらわないとね」

「気絶じゃなくていっそ半殺しにされてた方がマシだった私!」

 

ほのかが神威にやられた事に柄にも無く雫は彼に立ち向かった。

しかしこうもピンピンしている様子を見せられるとさすがに雫もカチンとくる。

一方銀雪の提案を聞いてほのかもまたすぐに回復できた事に後悔するのであった。

 

「でもまあ確かに体力がヤバいのは本当だから……気が付いたら雫ボロボロだし銀さんと深雪がなんか合体しちゃってるしで精神的にもかなりしんどいんだよね、主にツッコミきれないという意味で……」

「バカ野郎! ここにいるツッコミ役お前しかいねぇんだぞ! お前が倒れたら誰が俺達にツッコミを入れるんだ!」

「いやそんな責任感持ってツッコミしてないから私……」

 

床の冷たさに心地よさも感じながらどうにも起き上がれない様子のほのかに銀雪が必死な顔で叫ぶが、ここまで心に響かない激も珍しい。

するとほのかの代わりに雫が両手を腰に当てながら自慢げに胸を張って答える。

 

「ならば私がやろう、大丈夫適当にオイィィィィィィとかバカ丸出しで叫んでればいいってあの眼鏡の少年を見て学んだ」

「この短時間でウチのツッコミをマスターするとはなんて野郎だ、いっその事新八をそっちの世界に送ってお前とトレードしたいぐらいだぜ」

「てことは私とあの眼鏡は同等の価値という事? そこは納得いかない」

「悪かったな、ならヅラ、坂本、高杉の3バカ攘夷セットも追加だ」

「前から思ってたけど旧万事屋と新生万事屋のツッコミ役の扱い酷くない!? 私妙にその新八さんと仲良くやっていけそうな自信があるよ!?」

 

銀雪と雫の中で闇のトレード契約が決まりかけていると、そのトレード対象の一人である桂小太郎こと七草真由美が彼女達の方に歩み寄る。

 

「全くお前は、人を勝手にトレードしようとするな、どうせするなら彼女と+服部君にしろ」

「バカ野郎、服部君までいったらお前、うちもう将軍出すぐらいしか成立しねぇじゃねぇか」

「服部先輩の価値将軍並なの!?」

 

倒れてる割には律儀にツッコミを忘れないほのか、そんな彼女を尻目に真由美は話を続けた。

 

「銀時、いや銀雪か。障害を一つ取り除いた今俺達の道はもう一つだ、共に入れ替わり装置の破壊に出向くぞ」

「それはいいけどコイツ等はどうすんだ、コイツ等多少は回復してるみてぇだがまだ激戦区に連れていけねぇし」

「案ずるな、少し歩けば鬼兵隊の連中もいるだろうからそこで休息してもおう。何より真由美殿も彼女達の護衛役として付いてもらう」

 

そう言って真由美は背後にいる桂の方へ振り返る。

 

「という事で真由美殿、彼女達を安全な所へ送り届けてくれ、俺と銀雪は装置の破壊に行ってくる」

「イヤです」

「では頼んだ……え?」

 

自分を絶対的に信用している彼の事だ、きっとすぐに了承して立派に仕事を務めてくれるだろうと期待していた真由美だったが、意外にも桂の答えはまさかのノー。思わず真由美は我が耳を疑う。

 

「真由美殿、何ゆえ断るのだ、俺とおぬしは言葉を交わす必要もない程のベストコンビ、おぬしならすぐに俺の気持ちもわかってくれる筈だと思っていたのだが」

「だからこそよ桂さん! 私と桂さんは一心同体! 例え火の中水の中! 何処へ行こうが私達は常に一緒じゃないとダメなのよ!」

「いや離れていても心が繋がっていれば十分であろう」

「それじゃあ追いつけないのよ! 今の私達はそれじゃああの二人に勝てないのよ!」

 

両手を広げながら叫ぶ桂に困惑する真由美だが、桂は突然ビシッと銀雪の方を指差す。

 

「この私達でさえ出来なかった融合を銀さんと深雪さんがやり遂げたのよ! このままだと私達ベストオブコンビイヤーの座から陥落するのも時間の問題だわ! なんなのよあの二人! ずっと仲悪かったのに気が付いたら急にみんなの前で公開合体ってどんな企画物AV!? どんだけ見せびらかしたいのよ! どんだけただれた関係築いてんのよ!」

「いやお前が言ってる合体それ違う、俺等そういうのじゃないんでホント」

「桂さんには私がついてないとダメなの! あの二人が一緒に行くっていうなら私もあなたと一緒に行くわ!」

 

勝手というかワガママというか、銀雪がボソッと反論するも全く話を聞かずに駄々をこねる桂。

遂に真由美は「あー……」と困った様子で呟くと銀雪の方へ振り返る。

 

「すまんが少し待ってくれ、とりあえず俺が真由美殿を説得しておくから」

「手短に済ませろよ、俺時間ないんだから、長い間この体でいるともう一生銀雪さんのままなんだから」

 

銀雪には時間が無い、タイムリミットはわからないが早急に入れ替わり装置を破壊しないと元の体には戻れない。

とりあえず桂の事は真由美に任せつつ、彼女は雫とほのかの方へ振り返る。

 

「お前等何かあったらすぐあのバカ会長を盾にしろよ、嫌がったら思いきりぶん殴って従わせろ、俺が全面的に許す」

「どうしてああなっちゃたんだろ会長、一応アレでも元は人望と才能もあり十師族の血を引く優秀な生徒会長だったんだけどね……」

「そういう人だからこそしがらみのない世界で生きている内に変わっちゃったのかも」

「まあ確かに家でも学校でも優秀でいなければいけないから結構窮屈な人生送ってたのかもね……」

 

ほのかと雫が少々七草真由美という存在に哀れみと同情の気持ちを抱えていると。

 

「だがそんな重荷を一人で背負って生きて行く道こそが魔法師の、十師族の宿命みたいなものだ」

 

二人と銀雪の下へいつの間にか歩み寄って来たのは司波達也こと徳川茂茂。

 

「その重荷から背負う事から逃げ出して、宿命を捨ててただひたすら自分が望んだ道を歩もうとしてるあの人は、もう生徒会長どころか魔法師を名乗る資格すらない」

「へー、言うじゃねぇのお兄様」

 

やって来た彼に対し、銀雪がニヤリと笑って見せると、茂茂は彼女の方へ詰め寄る。

 

「俺はアンタと一緒に行くぞ、何度も言うが妹の身を護るのがガーディアンであり兄である俺の宿命だ」

「あーダメダメそいつは困る、今のアンタはお兄様ではあるが将軍の身だ。傷一つでも付いちまったら俺達の首が全部飛んじまうぐらいデリケートな代物なんだよ、そんな奴を激戦確実な場所においそれと簡単に連れて歩けねぇんですよ」

「ならアンタが俺の代わりをやるとでも言うのか? こんな事にならなければ俺達兄妹とは一切無縁の異世界の者でしかないアンタに、大事な妹を預けろとでも言うのか?」

「いや預けろっつうかもう一体化しちゃってるからね俺達」

 

将軍の体は総大将の体、何より一番護らなければいけないものだ。

それを迂闊に敵地の最前線に連れて行くなど愚策もいい所である。

しかし茂茂はこればかりは譲らないと銀雪に食ってかかる。

それに対して銀雪はまた挑発的に笑みを浮かべるだけ

 

「大事な妹さんとやらが得体の知れねぇ男の下に嫁いだぐらいでガタガタ文句言うなんてみっともねぇぞ、本当の兄貴ならそこは妹の為に黙って泣きながら赤飯炊いてりゃあいいんだよ」

「話を誤魔化そうとするな、確かに今の俺の身体ではアンタの様に満足には戦えない、だが本音を言えば」

 

茶化してくる彼女に冷たく返しつつ茂茂はフッと笑う。

 

「俺にとって将軍の体がどうなろうが知ったこっちゃない、いやアンタ等の世界や自分の世界の事だってどうでもいい。俺がこの世で大事なのは妹の深雪、ただそれだけだ。その為なら例え世界であろうが宇宙であろうが、お前達の世界であろうが喜んで敵に回して……」

 

茂茂が司波達也として初めて心の底で思っていた事を言ったその時……

 

「ぐ!!」

「お兄さん!」

 

ニヤニヤ笑うのを止めた銀雪が突然真顔で彼の顔面を思いきりぶん殴った。

その衝撃で茂茂は派手に後ろに吹っ飛ばされる。

 

「ぎ、銀さんと深雪!? 一体なんでお兄さんを!」

「……付き合ってらんねぇ」

「え?」

 

突然彼を殴りつけた彼女にほのかが思わず上体を起こして叫ぶと。

銀雪はクセッ毛の多い銀髪を掻き毟りながら吐き捨てるように呟く。

 

「これ以上ガキのワガママに付き合ってやる義理はねぇんだよこっちは」

「……俺が言ってる事がただのワガママだと?」

「ああそうだよ、それもわかんねぇからテメェはガキなんだよ」

 

口の中を切ったのか、茂茂は口を手で拭いながら起き上がるとすぐに目の前の銀雪を睨み付けるが。

彼女もまた得物こそ抜かないもののかなり苛立っている様子だ。

 

「大事なのは妹だけで他のモンは知ったこっちゃねぇ? 大したシスコンっぷりだが今のテメェは将軍の体を預かる身だという事忘れんじゃねぇ、テメェにどうでもいいと言われようが俺達にとってその体はテメェにとっての妹と同じぐらい護らなきゃいけねぇモンなんだよ」

「アンタ等の将軍を護ろうとする半端な覚悟と、俺が妹を護ると決めた覚悟を一緒にしないでくれないか?」

「ハン、笑わせんな、どっちが本当の半端野郎だ。言っておくがテメーは妹を護ろうとしてんじゃねぇ」

 

ポケットに両手を突っ込みながらペッと床に唾を吐き捨てながら彼女は茂茂を見下ろす。

 

「ただテメーの「覚悟」とかいうつまらねぇモンを護ってるだけだ」

「……なに?」

「妹の俺から見りゃあそんなただの自己満足にもう付き合ってられるかコノヤロー」

 

明らかに怒っている様子の茂茂にうんざりしながら一瞥して彼女は背を向けた。

 

「今のお前程度に護られる程銀雪さんはか弱くねぇ、誰が相手だろうが負ける気がしねぇんだよ、例え元の体に戻ったテメェだろうがな」

「……その言葉を言っているのは坂田銀時か、それとも深雪の方なのか?」

「どっちもだ、司波深雪はもうテメェの影に隠れて護られるなんざゴメンだ」

「……」

 

銀時が代わりに行っているだけはなく正真正銘深雪の本音、それを聞いて茂茂は遂に言葉を失う。

彼に冷たく言い放った銀雪だが、ふと首を垂れながら静かにボソッと呟いた。

 

「だからもういいだろ、妹を護る為にテメーの体を何度も危機に晒すのは……こんな時ぐらいテメーの身を心配しろよお兄様……」

「深雪……」

「今のお前は将軍だ、将軍にとっての覚悟は何があっても生き抜く事だ。忘れるんじゃねぇぞ」

 

最後にそう言って銀雪は歩き出す、護られる存在でなく、全てを終わらせる存在として。

その背中を追う事も出来ず引き止める事も出来ずに、ただ茂茂は呆然と見送るしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

そのまま銀雪がツカツカと一人で移動して数分後、遅れて真由美も彼女の隣に追いついた。

 

「貴様、待っていろと言ったではないか」

「あそこに長くいるとバカな兄貴のせいでイライラしててしょうがねぇんだよ」

「そんな事を言うな、アレはまだ子供だ、彼も真由美殿も色々考えて己の道を探している最中なのであろう。俺達も似たような経験があったであろう、ああいう年頃は色々と小難しい時期なのだ」

「いや色々考えた結果テロリスト目指すのはさすがにダメだろ、思いきり道間違えてるじゃん」

「テロリストではない攘夷志士だ。今の内に俺の帝王学をキッチリ学ばせていずれ真由美殿は俺達に負けないぐらい立派な侍になる筈だ」

「立派な侍になる前にこの件が済んだら間違いなく打ち首だよねあの子」

 

やや駆け足になりつつ銀雪はツッコミを入れながら話を続ける。

 

「そういやお前ちゃんと打ち首予定のバカ会長説得できたのかよ」

「ああまあ……少々手荒な真似はしてしまったが、きっとわかってくれたと思う……そう信じたい」

 

歯切れの悪い言い方をする真由美にジト目を向けながら銀雪はどうでも良さそうに「ふーん」と呟いた。

 

「まあああいうガキは自尊心を打ち砕いてぶん殴っておけばすぐ折れるもんだからな」

「それは貴様が達也殿にやった事であろう、だがしかし、あの男は貴様程度の拳では折れぬぞ」

 

真由美もまた駆け足になりながら前を見据える。

 

「あの者はまだ子供ではあるが強い、ゆくゆくは俺達など手も足も出ぬ程の強者になる才覚を持っている」

「わかってるよそんぐらい、誰の妹だと思ってんだ」

 

ふと少々離れた場所から何やら騒ぎ声が聞こえて来た、恐らく春雨の者達が誰かと交戦しているのであろう。

 

「だからこそアイツにはここで無駄死にさせたくねぇんだ、司波深雪としても、坂田銀時としてもよ。ああいう一直線に進もうとする信念を持った酔狂な奴は、俺は嫌いじゃねぇよ」

「フ、だからこそあの者にも俺達のような関係を築き上げる者がおれば良かったのにな」

「は? なんだそりゃ?」

「決まっているであろう」

 

喋りながら銀雪と真由美はすぐにその場所に辿りつく、案の定そこは春雨ととある二人組の乱戦と化していた。

 

千葉エリカと中条あずさ、たった二人で次々と敵を倒す彼女達の姿がそこにあった。

 

恐らくここから入れ替わり装置への道はもうすぐであろう。

 

 

 

 

 

「支え合ってくれる友が出来れば、どんな道であろうが突き進めるものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場所は戻り先程銀雪と真由美がいた場所では、慌ただしく人達が動き出していた。

 

「うぉっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!! 土方十四郎は近藤さんと沖田君をお助けに行ってくるぜ!」

「おいもういい加減その口調止めろ! 全然違ぇから! 俺がそんなマヌケな喋り方する訳ねぇだろ!」

 

どうやら体力が回復し終えた土方は近藤達のいる蓮蓬との戦いに戻りに行くらしい。

恐らくすでにもう始まっているであろう、一刻も早く行かねばと土方と、そしてリーナも叫びながらついて行く準備をする。

 

「ったく、総悟はともかく近藤さんの方は心配だ、俺が一瞬見た時は近藤さんが3人に増えてた、アレはきっと良からぬ事が起きる凶兆かもしれねぇ」

「ゴリラ3匹でゴリラゴリラゴリラだぜ」

「学名みたいに言うんじゃねぇ、とにかく早い所合流しねぇと真撰組としての面子が立たねぇ」

 

リーナにとって真撰組という存在は大きい、それを護る為なら命を捨てる覚悟だってある。

彼女にとって真撰組はそれをする価値が十分にある存在であり大事な居場所なのだ。

 

「テメェ等はここで隠れて休んでおけ、本当はあのバカに色々言われて腑抜けちまった将軍も連れて行きたい所だが……」

「うん、お兄さんは私達が見ておくから……」

「私とほのかはまだ魔法式の展開が出来るから問題ない」

 

こちらの方にチラリと横目を向けるリーナにほのかは大丈夫だと頷く。雫もまたとある人物が引っかかっている壁の方へ目を向けながら

 

「問題なのはここで磔にされている生徒会長」

「桂さぁぁぁぁぁん! どうして私を置いて行っちゃうのぉぉぉぉぉ!!」

「そいつはもうほおっておけ」

 

雫の視線の先にはピッタリと氷によって壁に貼り付けられている桂の姿が。

どうやら真由美の言っていた少々手荒な真似とはこの事だったらしい。

涙目で叫ぶ彼を見ながら素っ気なくリーナは呟いた後、背を向けて歩き出す。

 

「準備が整ったら俺達の後を追って来い、恐らく蓮蓬軍の本隊との戦いは入れ替わり装置の破壊に行ったアイツ等と同じぐらいの激戦になる。まともな戦力としては期待してねぇが何か役に立つかもしれねぇ」

「あの戦闘狂を術中にハメてた所から察するに、少なくとも簡単にノされたこの金髪クソビッチよりは役に立ちそうだものねあなた達」

「テメェもアイツにやられてただろうが! つーかさっきから口調ブレブレなんだよ! どっちにするかさっさと決めろ!」

 

ドサクサに乏してくる土方にキレながら、リーナは彼と共に走って行ってしまう。

 

ここに残されたのは未だ回復しきっていないほのかと、なんとか歩く事ぐらいは出来る様になった雫。

歩くどころか身動き一つ取れない状態で壁に貼り付けられている桂。

 

そして

 

「お、お兄さん大丈夫ですか……?」

「……」

 

その場に根を張ったかのように立ち尽くしている茂茂だ。

不安そうに尋ねるほのかではあるが、彼女の言葉も耳に届いていないのか、彼はただ無言でジッと銀雪が進んだ方向を見つめている。

 

「深雪を護るのは俺の役目であり存在する理由だった、しかしあの男は横からそれをかすめ取り、更には深雪そのものと一つとなり俺では選ばせられなかった道へと進ませた……」

 

まるで心にぽっかり穴が開いたかの様に茂茂は虚無感を覚えながら呟く。

 

「俺はそんなアイツに嫉妬していたのかもしれない、そして同時に焦りを覚えていたんだろう。深雪が俺の手を離れ、俺を一人置いて行ってしまうのかもしれないと。だからこそ俺はこの体になってなおがむしゃらに動いてそれなりに働いていたつもりだったんだが……」

 

本来の司波達也には感情というモノは無い、あるとしたらそれは妹に関わる事のみであった。

しかし今は違う、今彼の中にあるのは『劣等感』、そしてそれは妹である深雪ではなく坂田銀時という存在に向けられた感情であった。

 

「結果的に俺は自分の行いに満足して、本当の深雪を見ていなかった、深雪は俺に護られたいんじゃない、共に歩みたかったんだ」

「お兄さん……」

「だからこそ深雪はアイツと一緒になる事を選んだ、俺を護るだけでなく他のモノも護れるほど強くなりたいという信念を持って」

 

一人自暴自棄に陥っている自分にふと嫌気がさしてフッと笑ってしまう。

 

「これでは兵器としても、魔法師としても、そして兄としても失格だな……」

 

 

 

 

 

 

 

「将軍家たるもの、いかなる強固な壁が現れようと決して下を向いてはいけない」

「!?」

「え!?」

 

不意に背後から聞こえたその声に茂茂は思わず表情をハッとさせる。

一緒にいたほのかもまた彼の背後に立っているその人物を見て驚愕していた。

この聞き慣れているが違和感の覚える声、もしや……

 

「将軍とは常に前を見据え民を導く存在となり、いかなる犠牲を払ってでもその歩を止めてはならぬのだ」

「……」

「もっとも余はまだ、そんな風に強く生きていける将軍にはまだなれていないのだがな、余の為に血を流す者など、誰一人いて欲しくないのだから」

 

茂茂はゆっくりとその声がする後ろへ振り返る、なぜあの男がここに?という疑問と共に。

 

そしてそこに立っていたのは

 

「立場というモノは難しいモノだな、生き方も歩き方も誰かに決められ続けるのは辛いであろう? 余もそなたと同じだ、将軍という立場にいてもなお、かつて余は叔父上の傀儡として育てられていた」

「徳川茂茂……!」

 

現れたのは徳川茂茂の魂を納めている司波達也であった。本来の自分の体が今目の前に現れた事に茂茂は困惑している中、達也は真顔でゆっくりと話を進める。

 

「どうやらそなたと余は身分と境遇違えど似た者同士らしい」

「どうしてアンタがここに……桂小太郎にハメられて宇宙へと飛ばされたと聞いたが……」

「やはり桂の奴から何も聞かされていなかったか、ならばその件についての説明ついでに」

 

上手く頭が追い付いていない様子の茂茂に、達也はフッと笑うと彼に向かって優しく問いかける。

 

 

「どうだ? ここで一度互いに腹を割って話してみようではないか、状況も建て前も何もかも捨てて、ただの一人の人間としておぬしと話してみたいのだ」

「将軍……アンタは一体」

「もしそなたと真にわかり合う事が出来たなら、余とそなたで融合が可能となるやもしれん」

「!」

 

融合? それはもしや銀時と深雪が出来たあの事を言っているのだろうか……? 一体どこでそれを……

目を見開いてこっちを見る茂茂へ、達也はスッと手を差し伸べる。

 

 

 

 

 

 

「司波達也、余は願わくばそなたの友として共に歩みたい、その為にまず、この徳川茂茂がおぬしの力になろう」

 

嘘偽りのない言葉を乗せて

 

徳川茂茂と司波達也の心の対話が始まる。

 

 

 

 

 



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第二十九訓 達也&茂茂

コレは今より少し前の出来事

 

そこは無限に広がる大宇宙、左も右も下も上を向いても目に見えるのは真っ暗な闇と微かに遠くで光る星々だけ。

そしてこの宇宙空間特有の存在である次元の狭間という入ったらどこへ飛ばされるかわからないという大変危険なモノも存在する。

しかし、目をよく凝らしてよく見てみるとそれ以外の物が次第に見えて来た。

 

それは徐々に大きくなりゆっくりとこちらへとやってくる。

 

 

宇宙船だ、全長42メートル、全高20、全幅は54といったところか。普通の宇宙船に比べやや小さい。

 

しかしその形状は宇宙船と呼ぶより飛行船に近かった。ボディは宇宙であるというのに皮製にも見え、船体後部には大きな垂直尾翼があり、海賊のシンボルマークである髑髏(ジョリー・ロジャー)が描かれている。船体の大部分は木と布で出来ており固有武装や装甲等は無く、とても宇宙を移動できるとは思えない代物だ。

 

 

そう、それはさながらどこぞのジブリ映画に出てた空賊一家が母船として使用していた飛行船のような見た目……。

 

しばらくそれを眺めていると徐々にその宇宙船らしからぬモノは近づき、底部にあるハッチが開く。

 

中に入れという事か、開いた場所を一瞥すると一切の躊躇を見せずに中へと入る。

 

中へと入って周囲を見渡すと、見た目は飛行船ではあったがやはり中身は普通の宇宙船と大差ない設備であった。むしろ普通の宇宙船よりも整っている。

 

「悪ぃ、遅くなっちまったな。なにせ向こうの世界はおろか元の世界でも宇宙船なんざ造った事ねぇからよ、技術者共と必死に頭振り絞ってようやく完成出来たぜ」

 

しばらくすると背後から気品すら感じるゆったりとした老人の声が

 

振り向くとそこに立っていたのはその声の主だけでなく複数の者達が出迎えてくれた。

 

皆見知った顔ばかりではあるが、実の所その体は本来の体ではない、彼等もまた入れ替わり組なのだ。

 

「しっかしかつては将軍であるアンタを殺そうと騒動起こしたお尋ねモンのジジィが、将軍の役に立つ日が来るとはな」

「まあ今のアンタはお尋ねモンじゃなくてどこぞの一族の執事に過ぎねぇからとっ捕まえる様な真似はしねぇさ、何より今の俺も警察じゃないんでね」

 

老人だけでなく今度は女性が口を開く。

 

「すんません将軍様、本当はもっと早くこれたんですがねぇ、どうも大急ぎで作ったモンだから思ったよりスピードが出なかったんでさぁ」

「でもようやくこれで銀ちゃん達の所へ辿りつけるアルな、将軍、道案内しっかりするヨロシ」

 

女性の隣に立っていた男性もきさくに話しかけて来た。

 

「きっと銀ちゃんや新八も私との再会を今か今かと待ち望んでいる筈アルな、何せ今の今までずっとヒロイン不在という作品としていかがな展開にずっと思い悩んでいた筈だろうし、これは早く行ってメインヒロインである私が登場しないと駄目ネ」

「おいクソバカ旦那、いつからテメェみたいなおっさんがヒロインになったんだ? それにお前将軍相手に何上から目線で命令してやがるんでぃ。目的地辿り着く前にテメェをここからダストシュートしてやろうか?」

「ああん!? やれるモンならやってみろよクソボケ女房! 返り討ちにしてブラックホールに背負い投げしたろかぁ!?」 

 

いきなり口論を始める男女二人はほおっておいて、無事に案内係を回収した事によってこの宇宙船は再び移動を開始する。

 

目的地は蓮蓬の母星、到着の時間は刻々と近づいてくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事があったのだ」

「まさか援軍の誘導役をやっていたとは……」

 

場所と時間は戻りここは蓮蓬の母星、中層部。

司波達也は自分の身に起こっていた話を徳川茂茂にしていた最中である。

聞く所によるとどうやら彼は地球から来た援軍を安全にここまで送り届ける事を目的とし自らを案内役とする為に、蓮蓬から勘付かれぬよう注意を払って脱出ポッドで宇宙を彷徨ったというらしい。

 

「桂はそれを知った上でアンタを宇宙に?」

「うむ、桂にはちゃんと全て伝えていた、直にここら近辺に余があの世界で要請していた援軍が遅れて来るとな」

「あの男……味方である俺達まで欺いていたという訳か」

「敵である蓮蓬達をかく乱させる為にはまず味方であるそなた達も謀ったのであろう、やはり食えぬ男だ」

 

てっきり桂が悲願達成の為に彼を無理矢理脱出ポッドに乗せて宇宙へ吹っ飛ばしたと思っていたのだが、どうやらしてやられてしまったらしい。

彼の策を見抜けなかった事に茂茂がますます落ち込んでいる中、達也は話を続ける。

 

「手筈通り援軍は蓮蓬に悟られず潜入に成功できた、だからこそ余はここに無事舞い戻って来れたのだ」

「援軍か……それは俺達の世界からか? それともアンタ達の世界からか?」

「そなた等の世界からの援軍ではあるが、中身は入れ替わっている、つまり余達と同じ入れ替わり組だ」

「何者だ?」

「そなたが知っている者達だ、と言っても中身は入れ替わっているので少々勝手が違うが」

「俺が知ってる者……?」

 

茂茂が司波達也として知ってる者であり、こんな宇宙まで来れるモノとなるとかなり限られる。

もしかしたら自分が何かと世話になっていた藤林響子も所属している軍事組織、独立魔装大隊ではなかろうか……

しかし宇宙船の確保ともなるといかに軍でも難しい、では一体どこの……

 

「援軍が遅れたのは宇宙船をゼロから造り上げたのも理由の一つだ、そなたの世界では宇宙船の技術に関してはまだまだらしいのでな」

 

何も言わずにいる茂茂に対し達也はいかにして援軍がやって来れたのかという経緯を語り始める。

 

「だが幸運であり皮肉にも、入れ替わり現象により余達の世界から、かつては”江戸一番のからくり技師”と称された技術者がそなたらの世界に現れていたのだ。その者の活躍により準備は短期間で練られ、現にここに来れるまでの宇宙船を開発するまでに至った

「宇宙船をそんなプラモ感覚で造れるとは何者だ?」

「かつて余を一度は手にかけて殺そうとした者だ」

「なに?」

 

無表情で語る達也ではあるが茂茂はそんな輩を信用して良いのかと疑念を抱くが、すぐに達也がフッと彼に笑いかける。

 

「案ずるな、今はもう余をどうにかしようとは考えておらぬらしい。ならばこそ、これを好機としてあの者に宇宙船の設計を頼んだのだからな」

「かつて自分を殺そうとした奴に助けてもらう為に信用としたというのか? とても正気とは思えないな」

「そうだな、歴代の将軍から見ればこれ程愚かな将軍は末代の恥と称するであろう……」

 

半ば自虐的にそう言う達也を茂茂はジッと見つめる。

やはりこの男と自分は相容れない、境遇は近しいかもしれないがやはり考え方が根本的に違うのだ。

こんな誰であろうと信じようとするお人好しと自分が真に理解出来るなど絶対にありえないと茂茂が考えていると、ふとちょっとした疑問が頭に浮かんだ。

 

「そういえばよくその援軍のいる所まで宇宙空間を移動出来たな」

「うむ、水中と違い宇宙を泳いだのは中々の難儀であったぞ」

「それもそうだ、目的地の定まらない宇宙で泳ぐとなると中々……え?」

 

聞き間違えたのか今彼は宇宙を泳いだと言ったような……

途中で茂茂が気付くと達也は至って平静な表情を浮かべたまま

 

「脱出ポッドは簡単な移動は出来たのだがどうも遅くてな、ゆえに急な事態であるから泳いで宇宙船に辿り着いたのだ」

「……脱出ポッドから出たという事は……生身か?」

「うむ、生身でクロールして泳いだ」

 

残念なことにやはり聞き間違いではなかったようだ。

 

見渡す限り広大な大宇宙をクロール一本で制覇……

 

想像して固まる茂茂に達也は話を続ける。

 

「実はそなたとこうして入れ替わってる間に色々と魔法の勉強を独学で学んでいてな、それがキッカケなのかそなたの類稀なる才能のおかげだったのかわからぬが「宇宙遊泳」という魔法式を開発したのだ」

「……ちょっと待て、いやちょっと待ってください……宇宙を生身で泳げる魔法……? 未だかつてそんな狂気じみた魔法式を組み入れられた魔法師は過去一度も存在していないぞ?」

「それもそうであろう、この様な魔法式など普通に暮らしていればなんの役にも立たぬ、やはり余には魔法師としての才能は無いという事だ……この体はやはりそなたが一番相応しい」

「いやむしろ将軍辞めて魔法師として道を進んだ方が良いと、いや進んでくださいお願いしますと全力でおススメ出来るレベルだぞ、アンタ以上にその体を扱える自信が俺には無い、というか今後司波達也として生きる資格すら無いんじゃないかと思って来た」

 

宇宙空間を自由自在に動き回れる魔法など、公式に発表すれば間違いなく世界がひっくり返るのは目に見えている。

今現在自分が技術化させようとしていた「飛行魔法」など吹いて消える様な大偉業だ。

銀雪に悟られブルーに陥っていた茂茂は更なる追い打ちを掛けられ、もはや司波達也としての自信さえ消失しかけるが、そんな彼もまた達也はほおってはおかない。

 

「達也、余が連れてきた援軍はきっとそなたにとって大きな助けとなるであろう、これしきの逆境など難なく跳ね除ける程の強者揃いだ、だから安心してあの者達に背を預けろ」

「……悪いが自分の背負ったモノを誰かに託すような真似は出来ない、そいつ等がどれ程強く頼もしくても、俺にしか出来ない事、俺でしか出来ない事があるんだ」

 

援軍が来た事によってこの戦いも少しは楽になるであろう、しかしだからといってやはり茂茂は考えを改める様な真似をおいそれと簡単には出来ないでいた。

 

彼は生まれながらにしてそういった宿命を背負い続けていたのだ、その荷を簡単に下ろす真似などしては今まで身を粉にして孤独に戦って来た意味が無い

 

「妹である深雪だけはどうしても俺が護らねばならないんだ、例えあの男(銀時)に蔑まれ、深雪に拒絶されても俺の道はやはりこれしかないんだ……」

「それは違う、達也、そなたは一つ大きな勘違いをしている」

「なに?」

「人の道は一つではない、無数にある道を進んで様々な成功や失敗を繰り返してこそ人間なのだ」

 

達也の目は本来の自分の目とは思えない程澄んでまっすぐだった。

茂茂はまるでその目と合わせたくない様に視線を下ろして床を見つめる。

 

「そんな生き方を俺には到底出来ない、俺は普通じゃないんだ。道を変えた俺に何が出来る? 何処に行けば自分に合うのかすらわからない、だからこそ俺はこの道しか進まない」

「進まないのではない、進めないのであろう、ならば余がそなたと共に進もうではないか」

「!」 

「自分に何ができるか?じゃなく、自分に何が合うか?じゃなく……」

 

反射的にハッと顔を上げた茂茂に、達也はスッと手を差し伸べる。

 

 

 

 

「本当に心が一番選びたいモノを選んで行け、達也」

「……」

「もう一度聞こう、そなたが歩みたい道はなんだ、安心しろ、いかなる道であろうが余がどこへでも共に歩いていってやる」

「俺は……」

 

しばし言う事に躊躇する姿勢を取るが、意を決して茂茂は彼に対しゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

「深雪に心配かけられない程強くなりたい、あの坂田銀時よりも強く。そして妹が安心して笑って暮らせる為に、二つの世界をこの手で護る」

 

やはり銀時に対して並々ならぬ対抗心があるのは確かな様だ、決意の内に込められている彼の本当の言葉を聞いて

達也は苦笑しつつ静かに頷いた。

 

「やはりそなたは本当に妹思いなのだな、どこの道を進んでも言ったというのに結局妹絡みか。そこまでいくと正気とは思えぬぞ?」

「お互い様だ茂茂、それでどうだ、俺とも共についてくる気はあるのか?」

 

達也が差し伸べていた手を茂茂が強く握りながら笑い返す。

そして達也もまた彼に笑みを浮かべ

 

「いいだろう、将軍ではなく友として、そなたと共に道を歩もう」

 

互いに握手を交え笑みを浮かべると突然変化が

 

二人の間から突如眩しい光が発生し、二人の姿が見えなくなるのであった。

 

今ここで、それぞれの人生を歩み全く別々の道を歩んでいた二人の男の道が

 

交差して重なり合い、新たな道が作られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、彼等から少し離れた場所で、鬼兵隊や坂本辰馬、そして無事に合流した北山雫と光井ほのかは

 

次第に数を増やして攻めにかかって来る春雨に苦戦していた。

 

「やっぱお兄さんと将軍様をほおっておいて行っちゃったのはマズかったかな……将軍様が先に行っててくれって言ったから来たんだけど……」

「ほのか、後ろ後ろ」

「え? ギャァァァァァァァ!!!」

 

茂茂達を心配しているのも束の間、雫に指を指されて背後に振り返るほのかの目の前にまたしても異形の姿をした天人が。

 

「悲鳴を上げている場合か! 早く退け!」

「あ、はいすみません!」

「モタモタしてるとアンタ等にも流れ弾お見舞いするっスよ!」

 

しかし颯爽と鬼兵隊の河上万斉が現れ、ほのかに襲い掛かろうとした天人は一瞬で斬り伏せられた。

そして来島また子もすかさずフォローに入り、両手の銃で次々と敵の額に風穴を開けながら檄を飛ばす。

 

万斉やまた子が勢いよく数を減らしていくもやはり数の暴力を抑えるには限度がある。

共に戦いたいのは山々だが、今のほのかと雫は神威戦の影響でまだまともに動ける状態ではないのだ。

 

「どうしよ雫、こっちにも敵がわんさかいるしこのままだと……」」

「弱気になっていけませんよお嬢さん」

「うわ! なんかいきなり変質者っぽい人が!」

「変質者ではありません、フェミニストです」

 

力になりたいのではあるが今の自分達では何も……

そんな不安に駆られているほのかの前にいつの間にか鬼兵隊参謀、武市変平太が現れ、ほのかはますます不安に陥る。

 

「あ、あの……なんか用ですか? 何もないなら話しかけて欲しくないんですが……」

「バリアー、ここより先は変態が入ってはいけません」

「ふむ、思春期の少女はどうもおっさんに対しての警戒心が強いですね。ですが安心しなさい、私はフェミ道を究めたフェミニスト、ゆえにあなた達の為にとっておきの秘策を伝授してさしあげましょう」

「秘策?」

「我々には出来ず、あなた達にしか出来ないこの状況を覆す必勝の策です」

 

武市を見て何か危険なモノを察知したのか、他人には基本的に優しいほのかが珍しく警戒心を剥き出しに。

雫もまた両手を出してこれ以上近づくなとアピールしている。

しかし武市はこの程度の拒絶などでへこたれはしない。

彼には彼女達の心を開かせる”とっておき”を持っているのだから。

 

「ささ、お二人共すぐにこのスク水を着て戦場に立ってください、その成熟しきっていない魅力的な成長度具合だからこそ成り立つ抜群のスタイルで我々の士気を、主に私の昂ぶるこの感情を高揚する事に一役……」

 

真顔でスク水取り出す者など変質者以外の何者でもない。

ほのかと雫は残ってる力を振り絞って武市を地面に倒してそのまま容赦なく無言で何度も踏みつけるのであった。

 

一方その頃、鬼兵隊にとって最優先で護衛すべき対象である高杉晋助は現在顔面にモザイクかけながら必死に走っていた。

 

「ひぃ~助けてくださぁ~い!」

「ギャハハハ! モザイクで上手く顔は見えねぇがありゃあ高杉だぁ~! みんな殺っちまえぇ!」

「うえぇ~ん!!」

「高杉……だよな?」

「モザイクかかってるからわかんねぇけど……なんか泣いてね?」

 

高杉は時に春雨と手を結びはしたものの、最終的に手を切り彼等へ甚大なる被害を与えた事があり、春雨にとっては見つけたら即抹殺するべきと称される程のお尋ね者なのだ。

 

顔にモザイク掛けて逃げ惑う彼の姿を見て春雨の隊員は困惑しつつも、三人がかりで彼一人に襲い掛かる。

 

しかし

 

「させるかぁ!」

「どぶるち!」

「会長!」

 

高杉目掛けて斬りかかった一人をすかさず背後から一太刀浴びせたのは桂小太郎。

間一髪の所で高杉を助けると、すかさず彼の前に立って残った二人の隊員に対して血に濡れた刀を突き付ける。

 

「私の所の大事な生徒を手に掛けようものなら生徒会長であるこの私が許しません!」

「わぁ会長カッコいいですぅ~!」

「フ、決まった……ここでカッコよく敵を殲滅すればきっと桂さんも私を置いて行った事を後悔してくれる筈……」

 

察そうと救いに現れた生徒会長に背後で賞賛する高杉、しかし敵は一瞬怯みはしたもののすぐに体勢を立て直し二人に襲い掛かる。

 

「今度はあの桂か! やっちまえ!」

「二人揃って殺してやらぁ!」

「かかって来なさい、桂さんの体を借りてる以上、私は絶対に負ける訳にはいかないのよ」

 

刀の扱いなど元の体で会った時は手に持つ事さえ無かった。しかし大事な生徒がいる以上、何より桂との絆をより深くする為に、攘夷志士・桂小太郎は、否、生徒会長・七草真由美はここで退く訳にはいかないのだ。

 

「奇遇ね生徒会長、私もこんな体でくたばりたくないわ」

 

そしてその心意気に応えるかのように、突如横方から複数の弾丸が桂達に襲い掛かる隊員に浴びせられた。

桂達が振り向くとそこには、銃口から硝煙を放つ坂本辰馬の姿が

 

「どうせ死ぬんだったら自分の体で死ぬわよ、と言ってもこんな連中に殺されるんじゃなくて普通に長生きして畳の上で死にたいって事だけど」

「あのーごめんなさいエリカさん、余計な事しないでくれませんか。今私桂さんからの好感度爆上げの為に頑張ろうとしてるんです、お願いですから邪魔しないでくれません? マジで?」

「何コイツ助けてやったクセに何半ギレしてんの? マジなんなのコイツ? 化け物と一緒にコイツもセットで撃ち殺しておけば良かった」

 

せっかくキメ台詞まで吐いたというのに、桂に水を差されるどころかややキレ気味の口調で責められてカチンとくる坂本ではあるが、すぐに銃を構えながらどこからでも襲われて対処できるように、彼等と円形の陣を組んで立て直す。

 

「ホントこんな奴が生徒会長なんてどうかしてるわよ、アタシ元の世界に戻ったら速攻退学届け出すわ」

「そんな事生徒会長である私が許しません、私が元の世界に戻った暁には、学校を大改革して攘夷志士育成学校を築くつもりなんですから、あなたにはこの戦いを経験した功労者として幕府を討ち滅ぼす為の先陣になってもらわないと」

「ますます学校行く気失せたわ、てかウチの世界に幕府なんて存在しないわよ」

「そうでした、なら代わりに十師族を討ち滅ぼします」

「実家もろ共滅ぼす気!?」

 

桂の恐るべき野望を聞きながらツッコミを入れつつ坂本は引き金を引いてあちらこちらにいる敵に銃口を定めて連射する。

 

「下らない話は置いといて今は敵に集中しなさいよ! 鬼兵隊の連中もなんとかやってるし、あの二人組は変態踏みつけてるしアタシ達も全力で生き残るわよ!」

「無論よ! 私と桂さんの輝かしい未来の為にまだ死ねないのよこっちは!」

「うう~……」

 

遠くにいる敵を坂本が、近づいて来る敵を桂が対処して次々と撃破していく。

そんな二人を近くで眺めながら高杉は歯がゆない様子でうろたえている。

 

(私にも何かできたら……でも今の私なんかに出来る事なんて……)

 

同じ入れ替わり組である二人が慣れない体で奮起している様子を見て高杉は一人落ち込む。

いつも鬼兵隊や他のみんなに護られてばかりいる自分自身に「怯えてないでシャキッとしろ!」と言い聞かせるのだが恐怖で思うように体が動かないでいた。

 

すると春雨の隊員が隙を突いて彼一人目掛けて飛び掛かる。

 

「高杉かくごぉ!!!!」

「しまった! あーちゃん!」

「きゃあ!!」

 

桂の声空しく、その敵の白刃は怯えて片目を伏せる高杉目掛けて振り下ろされる。

 

しかしその刃が高杉の頭部に当たる直前……

 

 

「げっぱぁ!!」

「え!?」

 

突如敵は空中で苦悶の表情を浮かべたかと思いきや一瞬にしてまるで塵と化したかのように消失してしまった。

手に持っていた刀はコロンと高杉の目の前で落ち、突然の出来事に困惑していると

 

「『雲散霧消』を発動してもなんらおかしい所は無いな、むしろ物質への構造情報への干渉が元の体よりも早くなっている気がする、これが俺と茂茂の成せる業という事か」

 

スッと音もなく高杉達の目の前に何者かが現れた。

 

その者は高貴かつ気品あふれる出で立ちをし、橙色の衣を袖を通して着飾する姿はまさに江戸の象徴とも呼ぶべき存在、右手には徳川の家紋が鞘に彫られた刀、左手には拳銃形態の特化型カスタムメイドCAD、『トライデント』が握られている。

 

(あの銃はトーラス・シルバーが設計したCAD……まさか!)

 

数々の功績を次々と上げて魔法界全体の進歩させたことで有名な謎多き存在、トーラス・シルバーがモデルしたとされるそのCADを見て高杉はハッとした表情を浮かべて顔を上げる。

 

それを手に持っていた人物は

 

「無事で何よりです、中条先輩」

「も、もしかして司波君!?」

「いえ、残念ながら今の俺は司波達也ではありません」

 

その顔は自分より一年後輩でありながらも類稀なる才能を秘めているともっぱらの噂の司波達也であった。

しかしその服装や右手に持っている刀など、更に元の世界にいた時とは雰囲気が変わっている事に高杉は気付く。

まるで一国の王であるかのような強いオーラがバックから溢れんばかりに放たれているのだ。

 

「余は江戸幕府第14.5代征夷大将軍」

 

視界に入る敵の数を計算しつつ、その者は刀と銃を手に持ち構える。

 

「”徳川達茂”だ」

 

全員をものの数分で仕留められる計算を完了すると、将軍・徳川達茂が一歩前に出る。

 

「将軍の御前だ、頭が高いぞお前等」

 

口元に僅かな笑みを浮かべ、新たなる融合体が戦場に現る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の将軍の台詞には銀魂実写版の主題歌の歌詞の一部をパク……引用しています。


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第三十訓 大戦&勃発

 

中層部は下層部や上層部よりも広大だ。

ゆえにより多くの人達をその場に招集する事が出来る。

こちらは少数の兵、向こうは数え切れないほどの巨万の兵。

彼等とここで対峙するという事は事実上天下分け目の大戦。

この戦に敗北すれば入れ替わり装置の破壊をしてもすべてが水泡に帰す。

逆に勝利すればまだ束の間の希望を保っていられる。

二つの世界の命運を賭けて、体も奪われてなお抵抗する異世界連合軍と強敵・連蓬本軍が雌雄を決する戦いが始まった。

 

「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」

『迎え撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

『『『『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』』』』』

 

ここは巨大な荷物やら機器やらを保管、配送する為に置かれた広大なフィールド。

かつて、連蓬が地球征服の切り札として作っていたモビルスーツ、『頑侍無』が配置されていた場所だ。

 

大将であるゴリラこと近藤勲が号令をかけると共に連逢の姿をした地球人達が一斉に動き出し。

それに対し連蓬の副将、レフトドラゴンといわれるかつてはもう片方のライトドラゴンと共に連逢軍の双璧を担っていたといわれる連蓬軍生粋の猛将が、巨大なプラカードを一人で持ち上げて戦闘開始を告げる。

 

「ついに始まったな十文字……まさか宇宙人でこんな大戦を体験することになるなんて学校にいた頃は夢にも思わなかったよ」

 

前衛同士が衝突間近なその時、茂茂達と別れて一足早くこちらに赴いていた渡辺摩利は大将のいる本陣からその光景を上から眺めながらボソリと呟く。

 

「この戦いに勝てば全てが終わるというわけではないんだがな、この争いを負わせるには私達の生徒会長とあの男次第……十文字、その為に私達は私達なりに精一杯の尽力をこの戦いに尽くしてあの二人の助けになってやろうじゃないか」

 

そう言って摩利は背後にいるであろう十文字のほうへ微笑を浮かべて振り返るのだが

 

「いや俺近藤なんだけど?」

「え?」

「渡辺、十文字は俺だ。そっちは真撰組の大将・近藤勲だぞ」

 

そこにいたのは十文字と同じくゴリラになってしまっている近藤勲。

いきなり彼女に話しかけられて彼がキョトンとし、これまた摩利もキョトンとしていると、ノシノシと近藤と同じくゴリラになっている十文字克人が歩み寄ってくる。

 

「何度言わせれば済むんだ渡辺、俺と近藤を何度も間違えるとは失礼にも程があるぞ 体調が優れないのなら後方に退いてもらうが」

「あ、ああすまない……私とした事が」

「まあまあ十文字君、俺は別に気にしてないからさそんなに怒らないでやってよ、ほら、彼女もきっと長旅で疲れているんだろうし」

 

怒られて素直に非礼を詫びる摩利を近藤が優しくフォローしてあげると、十文字はハァ~とため息を漏らす。

 

「戦を前にして疲れていては万全の状態で戦えはしないだろう、渡辺、お前が出撃するのは俺と近藤と同じタイミングでいい、俺と近藤の強力タッグの後ろに回って援護射撃に徹しくれるだけでいい」

「後ろ盾がいるのは大いに助かるからな、敵の攻撃は俺たちで食い止める、だから君はなんの心配もせずに俺達をバックアップしてくれ」

「わ、わかった……私も君達に負けぬよう全力で仕事をさせてもらうよ、近藤局長殿……」

 

大将の護衛とはこれまた重要な仕事だ、大将が傷付けば味方の士気に関わり、結果的にそれで戦の勝敗が決まる事だってあるのだ。

大事な任を任されて摩利は戸惑いつつも了承し、信じてくれた近藤の方へ顔を上げた。だが

 

「ウホ」

「……」

「渡辺、そっちは近藤ではない、ただのゴリラだ」

 

これまた人違いならぬゴリラ違い、顔を上げた先にいたのは相手は近藤と入れ替わってなおその体をゴリラと変化させてしまった普通のゴリラ。黒い制服は着ているもののそれは間違いなくただのゴリラである。

 

「近藤、やはり渡辺は少し休ませたほうがいいんではないか? さっきからどうも人の認識が出来ていないようだ。体だけでなく心も憔悴しきっているらしい」

「言われてみれば確かに……そもそも彼女は俺達のように入れ替わってない一般生徒だしな、それにこんな戦いを目の前にすれば精神の身が保てないかもしれん……」

「ウホウホウッホホ」

「いやゴリラ、確かにお前の言うことも一理あるがやはりこうまで人の区別が出来ないとなると戦場に出すのはやはり危険……」

 

三匹のゴリラが顔を合わせてヒソヒソと摩利について話し始めた。

そして話し合っているゴリラを摩利はジト目でしばし眺めた後肩を震わせ……

 

「わかるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 私は別に心身ともに疲れているから人の認識を間違えてるんじゃない! ただお前達ゴリラの区別が出来てないだけだ!!」

「え? 俺達そんな似てるかな十文字君?」

「いや、全く似てないが?」

「言っておくが私だけじゃなくてほかの連中もお前達ゴリラの区別なんて出来ないからな!」

 

そう、別に摩利が疲れているから間違えているわけではない。

全く瓜二つの外見であるからいきなり目の前に現れると近藤だか十文字だか普通のゴリラだかわからないのだ。

ゴリラの事はあまり詳しくない彼女にとって、彼等をキチンと把握するのは無理な話である。

 

それを聞いて近藤達は同時に首を傾げ再び顔を合わせる。

 

「えー俺達そんな似てるかな? だって十文字君の方が俺なんかよりイケメンじゃん」

「そんな事を言うなら近藤だって俺よりもずっと男らしい顔つきをしているぞ」

「ウゴゴ、ウゴ」

「無論、お前も立派な顔付きだゴリラ、きっとジャングルに行けばすぐにスカウトされてモデルに抜擢されるぐらいの逸材を持っている」

「ウホー!」

「ホントホント、ジャニーズにいてもおかしくないものこんなゴリラ、ていうかもういたよねジャニーズにゴリラ顔の」

「だからわかるかって言ってるだろうが! ゴリラ同士で認識できても私達人間には全く区別出来ないんだよ! どっからどう見てもみんなゴリラゴリラゴリラとしか認識できないんだよ!!」

 

勝手に盛り上がっているゴリラ三匹に向かって摩利が指を突きつけて怒声を上げていると、彼女たちの元へタッタッタッと何者かが駆けて来る足音が

 

「土方十四郎! ただいま大将である近藤さんの所に参上仕ったんだぜ!」

「だからオメーは土方じゃねぇだろうが! 土方は俺だ!!」

 

駆けつけて来たのはこの戦いに参加せんと意気揚々と現れた土方と、彼と共にやってきた本物の土方ことリーナであった。

 

「おおトシ! 戻ってきてくれたのか! あれ? そっちのお嬢さんは誰?」

「近藤さんコイツは敵に情報を流していたスパイだ、遠慮せずにスパッと斬ってくれ」

「コイツどんだけ過去を捨てて俺になりたいんだよ……向こうの世界じゃ結構な職に就いてただろうが……」

 

ここで助っ人として彼等が現れるのはデカい、両手を広げて喜ぶ近藤に土方を差し置いてリーナがすぐ様前に出る。

 

「近藤さん、俺が本物の土方だ、すまねぇな来るの遅れちまって……こんな姿になっちまったが俺はどこぞの銀髪バカやブラコンバカと違って決して自分を見失っちゃいねぇ、アンタ達真撰組の事も一度たりとも忘れちゃいねぇよ」

 

そう言ってリーナは自分よりずっと大きな図体相手にフッと笑う。

 

「だからアンタは安心して大将らしくドンと後ろで構えてろ、アンタはそうやって俺達のことを後ろから見守ってくれるだけで俺たちは何者にも負けねぇ組織になるんだよ、近藤さん」

「悪いが俺は近藤ではない、十文字だ」

「……あれ?」

「間違えてる! ほらやっぱ普通に間違えるだろ!?」

 

自分が話しかけていた相手が近藤ではなく十文字だと知って目をぱちくりさせるリーナ。

それを見て摩利がやっぱりそうだと確信していると、土方の方が得意げに

 

「やはりあなたが偽者だったわねリーナさん、本物の土方であれば我らが大将、近藤勲を間違えるわけないわ。これでわかっただろう近藤さん、俺が正真正銘本物の土方君だぜ」

「ウホー」

「お前も間違えてるぞ! それただのゴリラ!!」

 

肩を寄せ合い真撰組の強い絆をアピールするが土方が肩を組んでいる相手は普通のゴリラ。

どうやら二人もやはりどれが近藤なのか十文字なのかわからないらしい。

 

「おいどういう事だ、俺は幻とか思ってたがマジで近藤さん3人に分身したのか? いつの間に影分身覚えたんだあの人」

「もうこの際だからみんな近藤さんでよくない? てかゴリラ=近藤さんでいいような気がしてきたわ」

「バカ野郎、近藤さんはこの世でただ一人だ、もう一回考えて選んでみるぞ」

 

目の前に三匹いるゴリラを二人で目をやりながらしばらく長考した後、「あ」と二人は気づいて、近藤だと思われる者の両肩に手を置く。

 

「悪いな近藤さん、気付くのが遅れちまったよ」

「俺は決して気付いてなかった訳じゃないんだぜ、ちょっとしたジョークだぜ近藤さん」

「私は渡辺摩利だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ポンと自分の両肩にそれぞれ手を置き微笑む土方とリーナに摩利は勢いよく叫び声をあげた。

 

「なんでゴリラの中からじゃなくて私選んだ!? ゴリラってか!? お前達から見れば私もゴリラの1匹と捉えられるってか!?」

「あれよく見たら近藤さん……髪切った!?」

「髪切ったじゃ済まないだろ! 性別もろとも全くの別人だから!」

「あれよく見たら近藤さん……豊胸手術した?」

「コレは元から私のモンだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

リーナに尋ねられ更には土方もセクハラまがいの事を言ってくるので摩利はツッコミつつ否定していると、今度は三匹のゴリラが彼女の元へ近づき

 

「気にするな近藤、彼等もまたお前の急な変化に戸惑っているのだろう、直にお前を認めてくれる」

「いやなんでお前まで私を近藤と認識し始めた十文字!? ゴリラ同士なら認識可能なんだろ!?」

「ま、こういう言われ合いが出来るのも今の内さ、戦が本格的になればアンタも戦いに出向かないといけないしな、近藤君」

「近藤お前だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 自分の存在見失うなゴリラ! お前が本当の真撰組の大将だから!」

「ウホ、ウホホホホ、ウッホーイ」

「………………わかるかぁぁぁぁぁぁぁ!! ちょっとばかり何言ってるか読もうとしたけどやっぱりゴリラの言葉なんかわかるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

皆から近藤勲を認識されつつある摩利は両手を頭に付けながら天井を見上げる。

 

「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 早くこの入れ替わり騒動を止めてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

その必死な叫び声はむなしく、周りの様々な騒音のおかげで微かに響くだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして近藤達本陣から離れた激戦区では、蓮蓬VS地球人&元地球人の蓮蓬の戦いが始まっていた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

『げふ!』

 

そんな中で数少ない入れ替わり組ではない普通の地球人、志村新八が雄たけびを上げながら死に物狂いで蓮蓬相手と戦っていた。

得物の木刀で蓮蓬の一人の頭上に兜割りを決め、次々に襲い掛かる彼等と対峙していく。

 

「ダメだ! やっぱり数の差からして圧倒的にこっちの分が悪すぎる!」

 

やはり兵力の差がここにくると痛い、このままだとジリ貧だ。

荒い息を吐きながら新八はふと周りを見てみると、苦戦している味方が多く見られる。

 

「どうにかして突破口を見つけないと! ニセ沖田さん! ニセ神楽ちゃん! お願いします!」

「へ、突破口なんざいくらでもつけてやるぜ、あのツラ見てるだけでも忌々しいクソ兄貴が出る暇もねぇぐらい仕事してやらぁ」

「あの私の言うこと全然聞いてくれないアホたれお兄様に代わってメインヒロインであるこの私が大活躍してやるアル!!!」

 

入れ替わっているが体によって精神を支配されている沖田と神楽が勢いよく前に出る。

一か八かここはこの二人に先陣を切らせ連中の本陣へと突っ切ろう。二人が危うい状態であるのは確かだが、その剣術と怪力は蓮蓬達を圧倒するには十分だ、ここで使わず腐らせる前に、新八は二人に本陣へ向かえと指示する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ほわちゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

刀と日傘を持ち、二人揃って血気盛んに突っ込んでいく。

その背中を見て新八が心配であるものの心強いと思うことが出来た。

 

だが突如、二人の行進はピタリと止まった。

 

「「……」」

「あ、アレどうしたんですか二人共? 急に足止めちゃって……」

 

戦いの真っ只中で隙を見せるとは即ち死に直結する。

足を止めて固まってしまった二人を新八が何事かと歩み寄ると、二人は同時に彼のほうへ振り返り

 

「「思い……出した……!!」」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! このタイミングでぇぇぇぇぇぇ!?」

 

新八は絶叫した、思い出したというのはつまり本来の自分の記憶が目覚めたという事であろう。

すると沖田は髪を撫でながらいつもとは全く違う雰囲気になり

 

「そう、私は元の世界ではフォア・リーブス・テクノロジーの元研究員で今は管理部門所属として働き、司波龍郎と16年間に渡る長き愛人生活の果てにようやく夫婦となれた司波小百合よ」

「沖田さんの中の人女性だったの!? なんか見た目沖田さんだから余計不気味なんスけど!?」

 

女口調になって自己紹介し始めた沖田に新八があまりにも不気味さに戸惑いを隠せないでいると、今度は神楽のほうが腕を組んだポーズをしたまま仏頂面で

 

「そして私がフォア・リーブス・テクノロジー開発本部長であり小百合の夫である司波龍郎だ」

「ってこっちは旦那の方かいぃぃぃぃぃ!! 夫婦揃って入れ替わった上に入れ替わった先がまさかの険悪コンビの沖田さんと神楽ちゃん!? どんな奇跡だよミラクルにも程があるだろうが!」

 

こちらもまた雰囲気がガラリと変わりいつものチャイナ口調は身を潜めすっかり普通の口調で自己紹介する神楽。

突然の変貌に驚きつつも新八はふと彼等の姓に気付く。

 

「え? 司波小百合さんと司波龍郎さん? 司波って事はもしかして……」

「気付いたようだね新八君、何を隠そう君の知っている司波深雪と司波達也は私と前妻の間に生まれた子供なんだよ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! まさかの一家丸々入れ替わりに巻き込まれたって事ぉ!?」

「そういう事になる、小百合、とんだ災難だったね」

「そうね龍郎さん、まさか別の体になった上に記憶まで失うなんて」

 

まさかの達也と深雪、あの兄妹の両親だと知って新八が驚く中、全てを思い出した事に沖田と神楽は喜びをかみ締めると、二人で互いの腰に手を当てたまま

 

「ということで新八君、我々はこんな血生臭い戦いなど参加したくないので、我々を安全な場所へ避難させてほしい」

「ちょっと待たんかいぃぃぃぃぃ!!! なに戦の最中に逃げ出そうとしてんだコラァ! 体は沖田さんと神楽ちゃんならなんとか戦えるだろ!」

「いや無理よ無理、私まだ死にたくないし、それに龍郎さんが傷付く姿も見たくないんだから」

「そうだね小百合、私達は安全な場所でゆっくりと身を潜めながら事が全部解決するまで待っていようか」

「傍観者気取ってんじゃねぇよ! 安全な場所なんかもうどこにもねーし! ここ戦場のど真ん中だよ! わかってんの!?」

 

懸念していたとおり、二人の記憶が戻った事がやはり仇となってしまった。この二人、戦うどころか戦う意思さえ持っていない様子。

神楽と沖田で仲睦まじい光景を見せてくる彼等に新八は額に青筋を浮かべて怒鳴り声を上げた。

 

「子供二人が頑張ってるのに親のアンタ等が敵前逃亡しようとしてんじゃねぇよ! 根性見せろお前ら! 家族揃って仲良く元の世界に戻りたいんなら死ぬ気で戦えや!」

「いや私別にあの二人とは血が繋がってるわけじゃないし、ぶっちゃけ戸籍上親子でもほぼ他人なのよね私達って、妹のほうには毛嫌いされてるし」

「深雪の事は心配だが達也がいればなんとかなるさきっと、アレはこういう非常事態の為に作られた兵器みたいなモノだからね」

「家族仲最悪だな司波家! いや達也さんの態度から薄々察してはいたけれど!」

 

子供が頑張ってると聞いても全く他人事だといった感じで冷め切っている二人。

そういえば達也こと茂茂は彼等の正体を見抜いていたような節があった、あの時の彼の態度もどこか突き放す感じであったので恐らく家族関係はあまりよろしくない一家なのであろう。

両親は既に他界し、唯一の身内は姉だけである新八にとってはよくわからないが、色々と複雑な家庭らしい。

 

「ということで新八君、早く我々夫婦だけでも生き残れるような安全なシェルターにでも」

「お願いするわね新八君」

「だから今あんた等をんな場所へ案内する余裕なんてある訳……!」

 

夫婦揃って自分の保身を考えている事に新八はイラッときながらビシッと言ってやろうとしたその時

 

『地球人!』

「うわ!」

 

突如蓮蓬の一人が新八に襲い掛かる、喋りに夢中で忘れていた、ここは一寸の油断も出来ない戦場であると。

プラカードを振り下ろされすぐ様木刀でそれを防ぐ新八だが、沖田達のいる方から悲鳴が

 

『覚悟』

『消えろ』

「いやぁ化け物が襲ってきたぁ!」

「ギャァァァァァァァ! 助けてくれ新八君!」

「えぇ! もうこっち交戦中なんですけど!?」

 

こちらもまた蓮蓬の2体が手に槍と刀を持って襲い掛かってきていた、沖田と神楽は抱き合ったまま新八に悲痛に助けを求めるが彼は今戦闘中である。

 

このままだと夫婦共々蓮蓬に……

 

そう思った矢先であった。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、テメェの体に入ってる野郎はとことん情けねぇ野郎みたいだなチャイナ娘」

「そういうお前の体の中に入ってる女もピーピー吠えるしか能のない役立たずみたいアルな」

「!」

 

交戦中でありながら新八の耳にふと声色は違うが聞きなれた口調が聞こえた。

その声が聞こえた方角は上……新八は恐る恐る上を見てみると

 

一組の男女が戦場であるこちらに向かって舞い降りてくるではないか。

 

そして沖田と神楽に襲い掛かっていた蓮蓬二体目掛けて

 

「俺のドSボディに触るんじゃねぇ」

「そのプリチーなボディは私のモンネ!」

『『げふぅ!!』』

 

後ろから飛び蹴りをお見舞いし一撃で地面にひれ伏させ昏倒させてしまった。

予想だにしなかった助っ人に新八が驚いていると、その二人はこちらに振り返って来た。

 

「よう、旦那の所の眼鏡じゃねぇか久しぶりだな、近藤さんとマヨネーズバカは知らねぇか?」

「久しぶりアルな新八、銀ちゃん何処に行ったか知らないアルか?」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

一人はスーツを着た目つきの鋭い女性

もう一人はどこか司波達也と似ている風貌をした中年の男性。

どっからどう見てもこんな戦いに現れるのはいささか場違いである。

しかしこの二人の口調と自分を知った風に話しかける二つの点から、退治していた蓮蓬を退けながら新八はすぐにハッとした表情で気付いて振り返った。

 

「ま、ま、まさか沖田さんと神楽ちゃん!?」

「おう」

「さすがアルな新八、すぐに私の事気付くなんて」

「ウソォォォォォォォ!? ど、どうやってこんな所に!?」

 

入れ替わり組の助教から判断するに、沖田総悟の魂が宿っているのが司波小百合で

神楽の魂が宿っているのは司波龍郎である。

 

恐らく二人共向こうの地球にいるのだろうと思っていたのだがまさかこんな所までやって来てくれたとは……。

しかし一体どうやって? 深雪達が乗って来たあのラピュタにはいなかった筈、ならば別の宇宙船でここまで追いかけて来たというのか? 一体どうやってそんな事が? そもそも何故そういった手段でここに来る事になったのか?

次から次へと沸き上がる疑問が頭の中に浮かび、どれから尋ねればいいのかと新八が呆然と立ち尽くしていると、抱き合ってた沖田と神楽の方も彼等の存在に気づく。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 龍郎さんあの姿私達じゃないの!」

「おお! まさか私達の体に助けられる事になるとは! おいこっちだ! 早く私達を助け……!」

 

二人に向かって神楽がすぐに手を振って助けを求めようとすると……龍郎の方が突如ダッと彼等の方へ駆け出して

 

「私の体でそいつの体に抱きついてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「こやすッ!!」

「龍郎さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 

 

自分の体であるというのに容赦なく飛び蹴りを噛ます龍郎。モロに顔面に食らった神楽はそのまま蓮蓬達を道連れに後ろにぶっ飛んでしまった。

 

「こちとらただでさえおっさんの体になっちまったから滅茶苦茶イライラしてんだヨ! これ以上気色悪い光景見せるんじゃねぇゴラァァ!!」

「おのれ! あなたよくも龍郎さんを!」

 

ブチ切れた様子で叫びながらぶっ飛ばした神楽を追いかけに行く龍郎、夫を蹴飛ばされた事に腹を立てて沖田がすぐ様身を乗り出そうとするが

 

「おっと、テメェの相手は俺でぃ」

「な!」

 

自分の頭をガシッと鷲掴みにされ沖田は体が恐怖で固まってしまう。

恐る恐る振り返るとそこには見た目は自分の姿をしているが中身は全くの別人だとはっきりとわかる目をしている小百合の姿が。

 

「安心しろぃ、俺は元の世界では至って真面目で善良なるお巡りさんだ。手荒な真似はしねぇよ」

「い、一体私に何する気……!」

「いいからいいから、あんな旦那の事なんか忘れちまうぐらい楽しい事教えてやるよ俺が」

「へ!? い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 助けて龍郎さぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

嫌がる沖田にニヤリと笑いかけながら後ろ襟を掴みながらズルズルと引きずっていく小百合。

悲鳴を上げて必死に助けを求めている沖田を何処かへ連れて行く彼女に対し、味方だけでなく蓮蓬まで恐怖して即座に道を空け始めた。

 

その光景を新八は呆然と眺めている内に、彼等に何故ここにいるのかと尋ねる事さえ忘れてしまっていた。

 

「何これ? 頼もしい戦力二人来たと思ったら一人は自分の体蹴り飛ばして、もう一人は自分の体お持ち帰りしたんだけど……」

『ウォー!』

『よくわかんないのがいたけどとにかく勝つぞ!』

『勝つのは我々蓮蓬だ!』

「うお! ヤバい蓮蓬達がまた動き出した!!」

 

現れた司波夫婦と彼等の奇行にしばし固まっていた蓮蓬達が次々と動き出した事に新八は動揺する。

よくよく考えれば今自分の周りには誰もいない、これでは的が自分だけになってしまう。

 

「クソ! こんな時に銀さんが来てくれれば!!」

 

あの男なら、どんな状況でも覆せる力を持つあの坂田銀時がここにてくれればどれだけ頼りになるか……。

 

 

新八が歯がゆそうにそう呟いた時であった。

 

 

 

 

 

 

「あの男じゃなくて悪かったな」

「え?」

 

その男は音もなく自分の背後に現れた。

気品に満ちたオーラを纏いしその者は、右手に刀を左手に銃を携えて新八の隣にすっと立った。

 

「なるほど、アレが援軍か……あの二人があんな風になるとはな、こんな状況でも思わず笑ってしまいそうだ」

「あ、あなたは……!」

 

隣りに現れた人物に新八は目を見開く、何故ならそこにいたのは

 

「状況はこちらが明らかに劣勢、しかしまだ覆せる余地はあるぞ」

「た、達也さん!? いや将軍様!? 服装は将軍様で見た目は達也さんって一体どっち!?」

「両方だ」

 

現れたのは茂茂の様にも見えるが達也にも見える、彼の登場に新八が驚いていると彼は静かに返事をする。

 

「新八、俺はあのノートの最後のページの謎を解いた」

「ノート!? もしかしてあの!」

「あそこに書かれていた入れ替わり現象におけるイレギュラーは『融合』、入れ替わった者同士が真に心通わせることにより出来る究極の秘術だったんだ」

「融合!? てことはもしかして達也さん! アンタ将軍と!」

「そうだ今の俺は司波達也と徳川茂茂が合体し二人で一つの姿」

 

群がる蓮蓬達の足元に向けて銃口を向けると、その先から光線のようなモノが

 

「徳川達茂だ」

「!」

 

本当の助っ人、徳川達茂により放たれた魔弾は勢いよく飛び出し、蓮蓬達の足元にある床を抉る程の熱量で辺りを派手に吹っ飛ばしてしまう。

その手際の良さと威力に新八が言葉も出ぬ程ビビっている中、達茂は歩き出す。

 

「行くぞ新八、この戦をすぐに終わらせる為に将軍である余自ら敵の本陣へ乗り込む」

「あ、待ってください! 色々起こり過ぎて頭ん中パニクってるんですけどこれだけは教えてください!」

 

敵の本拠地へ向かおうとする達茂を前にして新八はすぐに我に返るとすぐ様呼び止める。

 

「銀さんは! 銀さんと深雪さんは大丈夫なんですか!? 妹さんの事はほおっておいていいんですか!?」

「……実の所本当は今すぐにでも深雪の所に行ってあげたい、だが今俺がやるべき事はアイツの元へ行く事じゃない」

『ぐ!』

『怯むな! 止めろ!』

『その男は危険だ!』

 

達茂は右手に持った刀を強く握り、峰討ちで次々と蓮蓬達を一撃でノシてしまう。

魔法だけでなく剣の腕まで強化されているらしい。

周りにいる敵を蹴散らしながら達茂は背後にいる新八の方へ振り向かずに

 

「俺がやるべき事は深雪が笑っていられる世界を護る事だ、そして深雪は今俺に護られる必要はない、何故なら」

 

団体に銃を構え再び撃ち出すと、命中した敵の一人はグッタリとした様子でその場にガクリと頭を垂れて動かなくなってしまった。

相手の気力を奪うだけの非殺傷魔法、それらも操りながら達茂は本陣へ向けて走り出す。

 

 

「深雪は今あの男と、坂田銀時と共に入れ替わり装置の破壊へ向かっている」

「え、本当ですか!?」

 

走り出した達茂を必死に追いながら新八が驚く。

そして達茂は頭上から落ちて来た蓮蓬の奇襲部隊の方へ顔を上げ

 

「だからこそ俺はあの二人が戻ってくる為に、この戦場を完全に支配する」

『『『ぐぼぉぉ!!!』』』

「この将軍の首、容易く取れると思うでないぞ」

 

足を止めて一体ずつ正確に照準を合わせると、達茂は手の平から魔法式を彼等の背後に展開し、そこから光弾を撃ち発射させ次々と床に落としていく。

 

(す、凄い……蓮蓬達をまるで子供を相手にしてるかのように次々と……)

 

いとも容易く敵を倒していくその姿に新八が呆然としたまま見とれている中。

 

未だに数の多い蓮蓬軍に目をやりながらフッと笑った。

 

 

 

 

 

 

「深雪、銀さん、こっちはなんとかしてみせるからそっちは任せたぞ」

 

例え離れていようが想いは消えない、兄と妹は自分の道を選びそれぞれの戦いを始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




3章はひとまずこれで終わりです、次回から遂に最終章が幕開けです

それでは


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六者面談編
第三十一訓 一丸&一刀


その四人には決して誰も歯が立たなかった。

 

「銀時、上から振ってきたぞ! 迎撃しろ!」

「銀時じゃねぇ銀雪だ!」

 

彼女達が入り込んだのは長い長い通路だった。その先の見えない薄暗い通路の奥には何かがあると察し、いよいよ大詰めの所まで来ていたのだ。

 

「マヒャド!」

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

銀時と深雪の融合体、銀雪が天井に向かって手をささげると立ちどころに天井を覆うほどの氷が展開され、天井から落ちてこようとしていた春雨軍をあっという間に凍らせてしまう。

 

「はい次ぃ!!」

「ていうかお前の魔法それで合ってるのか?」

「ああ? 呪文の名前なんて一時的なノリで決めりゃあいいだろってヒャダルコォ!!」

 

隣を並走している真由美との会話の途中でまたしても銀雪は近づいて来た春雨軍に魔法式を展開。

膨大なる魔力を体に持つ彼女であれば魔法の連発などなんの問題も無い。

 

「そうか、確かに呪文の名前などあっても意味の無いモノ、要はその場に合わせたテンションに身を任せて叫べばいいのだな」

「ヅラ! 後ろから来てるぞ!」

「ヅラじゃない桂だ! そして尻波絶対凍風ォ!!」

「ギャァァァァァァァ!!!」

「お前の場合は魔法も名前もどうなんだよそれ?」

 

銀雪に後ろから迫ってると言われ真由美はすかさず背後に迫る春雨軍に尻の部分から強烈な冷気を発射する、彼女自身が編み出したオリジナル魔法を炸裂。

威力は凄いのだがそのあまりにもカッコ悪さに銀雪の目は冷たい。

 

「ったくよぉ、俺に比べてはるかに格下のテメェ等には十分すぎる相手かもしれねぇけど、この程度の雑魚ばっか相手してちゃ退屈過ぎてヅラみてぇえに屁が出そうだ」

「屁ではない尻波絶対凍風だ! 確かにこの辺は春雨の者達がウヨウヨと沸いて来るな」

「大方なにか大事なモンがあるんだろ、この先に」

 

見渡す限り春雨軍、ここまで警備が厳重なのを察するに、どうやらこの通路の奥には本当に何かがあるらしい。

もしかしたらそれは自分達がずっと探していたある物かもしれない。

二人がそう予感していると、負けじとエリカも両手に持った刀で走りながら次々と春雨軍を蹴散らしていく。

 

「ヅラ! 銀時! 攘夷戦争の時はおまん等に手柄よく譲らせちょったが! 今回はそうはいかんぜよ!」

「なんなんだコイツ等! たった四人でここまで来るとは……ぐわ!」

「久しぶりに刀握れるたぁいい気分じゃのぉ! それに!」

 

本来の体、坂本辰馬の時であれば古傷が元で刀を握る事すら出来なかった。

しかし今の体は自分のではなく千葉エリカの肉体、その体を駆使して彼女はかつての攘夷戦争時代を彷彿とさせる機敏な動きで圧倒していく

 

「おまん等と一緒に戦るのはまっこと久しぶり過ぎて楽しくなるのう! 高杉もそう思わんか!?」

「よせよ、テメェ等バカ共とこうして共闘しているだけでも虫唾が走るってのに」

 

血に濡れた刀を倒した敵の服で拭いながらエリカが前を一人走っている中条あずさに叫ぶと、彼女はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らしながら突然上空へと飛びあがり

 

「互いにこんな体になっちまってんだから笑いすら出ねぇ」

「がはぁ!!」

 

壁側にいた敵を物も言わずに刀で一刀両断、エリカと違い彼女の肉体は本来近接戦闘には向いていない。

しかしそれでもなお春雨に打ち勝つ程の力があるのは、その肉体に宿る魂が持つ狂気にも通じる執念が、肉体に眠っていた力を無理矢理たたき起こしたのだろう。

 

「だからこんなモンさっさとしめぇにするぞテメェ等、全てが片づいたらそっからが本当の戦いだ、そうだろ銀……」

 

目の前に現る敵を倒していきながらあずさは銀雪の方へ微笑を浮かべて振り返ろうとするが

 

「ヒャダイン!!!」

 

それを狙ったかのように銀雪はすかさず彼女目掛けて魔法式は発動。

先程よりも強い冷気であずさを氷漬けにしようとするも、あずさはその行動を予知していたのか、ヒョイッと高くジャンプしてそれを回避する。

 

「チッ! 避けやがった!」

「はん、誰が食らうかテメェのちゃっちい氷なんざ」

「おまん等こんな状況でなに当たり前の様に仲間割れしとるん!?」

 

普通に避けられた事に舌打ちする銀雪をエリカがすぐに彼女達を追ってツッコミを入れる。

 

「わし等みんなで協力して入れ替わり装置の破壊に来とったんじゃなか!? なげに高杉VS銀時の対戦マッチおっ始めちょるんじゃ!」

「おー辰馬さん、とりあえずコレだけはテメェに言っておいてあげマース、俺、アイツ、大嫌い、OK?」

「なんで片言!? いや昔から仲悪いのは知っちょるがここでやらんでもええじゃろが!」

 

エセ外国人みたいな喋り方で高杉に対する率直な感想を言う銀雪にエリカが叫ぶが、その間に真由美が割り込んでフッと笑い

 

「よせ坂本、そもそも俺達が仲良く手を組んで戦うなど攘夷戦争時代も無かったではないか。俺達の戦い方はこれでいいんだ」

「そうかのぉ、わしはこういうシーンは王道じゃといがみ合ってたモン達が結束し合って巨大な敵と対峙するというお約束展開の流れにするべきじゃと思うんじゃが」

「それに見ろ、銀時の背中を」

 

不満げな様子のエリカに対し、真由美は銀時の背中を見ろと指示。

そこにあるのは銀雪の白くてあちこち跳ねッ毛の付いた長い髪……

 

「銀時が勢い付けて走れば走る程、なんか白い毛虫がクネクネしながら蠢いているみたいで気持ち悪いであろう」

「あ、本当だ! 気持ちワル!」

「なに唐突に銀雪さんのヘアスタイルディスりに来てんのお前等!?」

 

緊迫した状況の中でも四人はいつもとなんら変わりない。

そして四人は突き進む、この先にあるかもしれない希望へと……

 

 

 

 

 

 

 

 

春雨第七師団の隊員は皆集まっていた。

隊員は皆傭兵部族・夜兎、そしてそれを率いているのは副団長である阿伏兎。

そして彼等がいる場所こそが入れ替わり装置が置かれた最も厳重に護らなければならない大部屋であった。

 

「ったく団長の奴どこほっつき歩いてんだ? さっきから向こうでドンパチしてる音が聞こえるからもう少しでこっちも動かなきゃならねぇってのに」

 

巨大な入れ替わり装置を背後に構えながら未だ帰って来ない団長である神威に対して愚痴る阿伏兎。

するとしばらくして彼の懐に入れていた通信機から雑音が流れたかと思いきや

 

『もしもーし、こちら団長でーす、阿伏兎生きてますかどうぞー』

「チッ、噂をすればなんとやらってか……こちら副団長、バカ団長どうぞ」

 

相変わらずの気の抜けた声が通信機から聞こえて来た、ため息をこぼしつつ阿伏兎は通信機を手に取って声を当てると、通信相手である神威からすぐに返事が来た。

 

『阿伏兎、やっぱり地球人ってのは面白いね。どんな窮地に追い込まれようとあらゆる場所から可能性を見つけ出そうとするあの執念、俺達夜兎もウカウカしてられないよこれじゃ』

「ああ? いきなりなんの話だ? んな事より早くこっち来てみろよ、アンタが期待してる様な戦いは出来ねぇかもしれねぇが、どうやらその地球人がこっちに近づいて来てるらしい」

 

いきなり意味深な事を口走る神威に首を傾げつつも、阿伏兎は前方にあるたった一つの通路を眺めながら鼻で笑う。

 

「大方体を入れ替えられた地球人達が玉砕覚悟で突っ込んで来てるんだろうがね、雑魚相手になら通用するかもしれねぇが、この通路の奥には夜兎族である俺達がわんさか集まっている事を知ったらどんな反応するかお前さんも見たくねぇか?」

『ああ、きっとその地球人俺を倒した奴だと思うよ、阿伏兎』

「……は?」

『正確にはぶっ飛ばされただけだけど』

 

通信機から聞こえた神威の情報に阿伏兎は耳を疑った。

我等の戦闘狂である団長が地球人にやられただと……

 

「ちょ、ちょっと待て団長! それは一体どういう事だ! つまり今からここに来るって奴はアンタを!」

『そう、俺を倒す程の腕前を持つ二人で一人の地球人……』

「!」

 

慌てて神威に問いかけてる途中でこちらに向かってコツコツと静かに近づいて来る複数の足音に、阿伏兎は通信機を握ったままハッとした表情で顔を上げる。

 

段々と四人の人影がこちらに迫り徐々にその姿を現す。

 

『魔法使いと侍が合体した俺達夜兎を相手にして恐れも抱かない怪物さ』

「おいおい冗談きついぜ団長……てことはアレか? 俺達は今アンタを倒す程のその怪物と戦わなきゃいけねぇって事かい?」

『せいぜい死なない様に気を付けてね、そんじゃ俺しばらく休んでるからあとよろしく』

 

そう言って神威からの通信が切れると同時に、阿伏兎の目の前に一人の可憐な少女が現れこちらにニッコリと笑ったままペコリと頭を下げた。

 

「皆さんごきげんよう、私、坂波銀雪と申します。今日は皆様に特製のかき氷を召し上がってもらおうとはせ参じました、もっとも……」

 

警戒している面持ちで殺気のこもった視線を向けて来る夜兎の精鋭達に。

銀雪はゆっくりと顔を上げるとその笑顔はまるで別人に切り替わったかのように歪な笑みに変わっていた。

 

「材料に使う氷はテメェ等だけどな……!!」

 

それと同時にあちらこちらに発生する氷柱が床から天井へと伸びていく。

目の前が一瞬にして銀幕の世界に、こんな状況を前にし阿伏兎は頬を引きつらせて苦笑するしかない・

 

「おいおい、これが魔法って奴か? 常識から外れた俺達でさえ思わずブルッちまうぐらい非常識じゃねぇか」

「貴様等の奥にあるモノ、それがもしや俺達が今の今まで必死に探していた入れ替わり装置か?」

 

氷柱などただの警告に過ぎないといった表情でこちらに笑って見せる銀雪の隣に、今度は真由美が腕を組んだまま静かに現れる。

 

「それを壊せば、ようやく俺達の体を取り戻せるという訳だな」

「その口ぶりだとおたく等みんな入れ替わり組か? テメーの体じゃねぇってのにここまで来れるたぁ大したもんだな」

「おまん等なんか勘違いしておらんか? 例え体が入れ替わろうがわし等はちぃとも弱くはなっとらん」

 

真由美とは反対方向の位置で、エリカが銀雪の隣に刀を肩に掛けたまま現れる。

 

「同じ地球人の体、同じ所に飯を入れ、同じ所からクソ捻り出せるなら、わし等はそれで十分じゃきん。それだけで十分わし等は一人の侍として戦えるんじゃ」

「フ、蓮蓬はどうやらおたく等地球人を軽く見過ぎてたみてぇだな……いや侍って奴を」

 

こちらに対し三人で現れた銀雪、真由美、エリカ。阿伏兎は入れ替わり装置の破壊に来た彼女等を前に。

自分の得物である大傘をバッと掲げて肩に掛ける。

 

「だがおたく等もちぃと勘違いしてるな、例えどれ程雑魚相手に無双できようが、それが夜兎族にも通じると本気で思い込んでたら笑い話にもならんぜ?」

 

そう言うと共に阿伏兎の周りにいる夜兎の精鋭達が身構える、皆が武器である日傘を持ち、いつでもこちらを仕留めに来そうな殺気を放ちながら。

 

そして阿伏兎は手に持った大傘を掲げて銀雪の方へ突き出す

 

「来な、子兎の皮を被った狼達よ」

 

阿伏兎の周りにいた夜兎は同時にダッ!と身を乗り出してこちらに全員で襲い掛かって来た。

それに対し、銀雪は挑戦的に笑みを浮かべ

 

「ヅラ! テメェの考えた作戦で行くぞ!」

「坂本! 俺に続け!」

「了解!」

 

最初に動くのは銀雪ではなく真由美とエリカの方であった。

彼女達はここに来るまでに事前に打ち合わせをし、こうなる事を予測していたのだ。

 

二人は銀雪の前に立ち、彼女を護る様に陣取ると

 

「いけぇ銀時! 深雪殿! ここは俺達が持ちこたえる!」

「おまん等の魔法で装置を破壊するんじゃ!」

「わーってるよ、形あるモンを壊すのが銀雪さんの専売特許だ」

 

襲い掛かって来た夜兎を刀で受け流しつつ、銀雪には近づかせないようにする真由美とエリカ。

そして彼女達を盾に銀雪は手の平から今まで以上に巨大な魔法式を展開し

 

「マヒャドデス!!!」

 

ノリノリで呪文名を叫ぶ銀雪であるが本当の公式魔法名はニブルヘイム。

液体窒素の霧を含む大規模冷却塊を作り出し、攻撃対象にぶつけるという高難易度魔法。

 

銀雪がバッと手の平を掲げるとたちまち奥に置かれている巨大な入れ替わり装置が一瞬にしてピキピキと音を立てて氷漬けになっていく。

 

「よしこのまま……ってうお!!」

 

根元から徐々に凍り始めて行く入れ替わり装置だがまだ完全には破壊されていない。

ならば凍らせるのではなく砕く魔法を使えばと銀雪は更なる魔法式を行使しようとするが、どうやら時間切れらしい。

自分を護っていた真由美とエリカのガードを弾き飛ばして、夜兎族が一斉に襲い掛かって来た。

 

「チッ! なに簡単に打ち破られてんだテメェ等それでも俺の舎弟か!」

「誰が何時貴様の舎弟になった! 夜兎族相手に数秒持ちこたえたのだぞ! 表彰モンだろこれは!」

「アハハハハ! さすがに相手がコレだと分が悪すぎじゃて!」

 

夜兎に真横に飛ばされつつ、真由美とエリカは未だ余裕の様子。そんな彼女達に銀雪が額に青筋浮かべて怒鳴り声を上げていると、氷漬けになった入れ替わり装置の前で阿伏兎はひとりほくそ笑む。

 

「残念、一手足りなかったな」

「おいおい決めつけはよくねぇな、一手ならここにあるぜ、とっておきのがな」

「なに?」

 

周りにいる夜兎達を全員相手に二つの木刀を振り回しながら銀雪が上に向かって叫ぶ。

 

「いけぇ高杉ィィィィィィィ!!!」

「チ、もう一人隠れていやがったのか」

 

銀雪の真上を飛ぶようにあずさが入れ替わり装置目掛けて刀を両手に持って飛び掛かる。

 

銀雪は入れ替わり装置を凍らせて舌ごしらえ、真由美とエリカは彼女が高難易度魔法を行う為のしばしの護衛。

そしてそれ等を下敷きにしてあずさは一人切り先を入れれば容易に打ち崩す事の出来る入れ替わり装置の破壊にやってきたのだ。

 

しかしそれに対して阿伏兎は別段驚いた表情もせずにすぐ様床を蹴って

 

「んな真似させらせれねぇよ!」

「……」

 

夜兎の精鋭は皆銀雪に集中してあずさに気付くのに遅れてしまったが、一人動かずに状況を観察していた阿伏兎は違った。

 

彼はすぐにあずさがやって来たのを確認し、すかさず飛び上がって正面からあずさの刀に自分の傘をぶつけたのだ。

 

「おいおいもしかしておたくあの高杉かぃ? しばらく見ねぇ内に随分と可愛くなったじゃねぇか、へへ」

「そういうテメェはあのバカのお守り役か、今の俺のツラ見て笑うなんて随分とテメーの命が惜しくねぇみてぇだな」

「よせよ、その体のアンタに何が出来るっていうんだ。現にこうしてアンタ等の会心の一手は簡単に止められちまった」

 

夜兎の一撃と対峙しているのにあずさは笑みを浮かべながらそれに負けじと対抗している。

しかしそれもほんの数秒程度しか持たないであろう、力の差は大人と子供の差とかそんな次元の差ではないのだから。

呆気なく彼女達の奇襲は無駄に……そう思う阿伏兎だったが、あずさは彼と向かい合ったまま床に着地してもまだ笑みを崩さずに顔を上げ

 

 

 

 

 

 

「……いつ俺の登場が会心の一手だと言った?」

「強がりはよせよ、今ここに来たのはおたく等四人だけの筈だぜ?」

「いや、”アイツ”はこの星に来てからずっと俺の傍にいたよ、何故なら俺がそう命令したからな」

「……なに?」

「いつかここぞというタイミングでとっておきの、一手を生み出す為に”アイツ”はずっと俺の影に潜みこの時を待っていたのさ」

 

そう彼女はこの星に来てからずっと”彼”を自分の影に潜ませ行動していた。

決して表に出るなと忠告し、例え自分達が追い込まれようと自分の指示が出るまで決して動くなと

 

全てはこの時の為に

 

「やれ、”桐原”」

「御意!!!」

「な!」

 

あずさの後から一人飛び出して現れたのは桐原武明。

今までずっと隠れて行動していた鬱憤を晴らすがごとく凄まじい形相で、面食らっている阿伏兎を飛び越えて入れ替わり装置の方へ飛んで行く。

 

「見ててやるよここで、テメェが誇る”異世界の剣”って奴よ」

「しかとその目で見ていろ高杉! その為だけに俺はここまで来たんだ!!」

 

両手に持ったCAD搭載の刀を振り上げて、桐原は異世界装置のてっぺんまで昇り詰める。

 

それを夜兎達と戦いながら見ていた真由美は

 

「いけぇぇぇぇぇぇぇ!! えーと……銀時とよく声が似てる人ォォォォォォォォ!!」

 

同じく彼女と共に戦っているエリカも

 

「わし等の思いをその一撃にこめるんじゃあ!!えーと……キョン? いやジョゼフじゃっけ? あ、そうじゃった、ラグナァァァァァァァァ!!!!」

 

そして二つの木刀を振るいながら銀雪も彼の方へ顔を上げて

 

「叩き込めぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 杉田智和ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

皆の叫びと思いを一身に背負い、桐原を目に少々涙を溜めながら

 

「誰も俺の名前覚えてねぇじゃねぇかァァァァァァァァァァ!!!!」

 

体の中から湧き上がる叫びと共に、凍られた入れ替わり装置に今、彼の気合の一刀が突き刺さると同時に一気に振り落とされて、入れ替わり装置は派手な音を鳴らしながら真っ二つになるのであった。

 

 

今まで積み重ねた苦労と旅路、全てはこの一撃の為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダークホース桐原が大手柄を上げたその頃、彼等のいる中層部より遥か高き所にある上層部の頂上にある部屋では不穏なる影が動いていた。

 

真っ暗なその部屋の中で一人宇宙を見つめる頭からローブを被った謎の人物。

その部屋の自動ドアが静かに開き、入ってきたのはこの星でありこの星を統括しているボス、米堕卿だ。

 

『中層部の入れ替わり装置は破壊されました、全てはあなた様の計画通りです』

 

黒づくめの人物に近づくと米堕卿はその者に向かってまるで目上の者に対する態度の様に状況の報告をする。

この星で最も偉いのは他でもない彼自身の筈だ、しかしこの入れ替わり計画にはまだ裏があるのかもしれない。

 

『かの者達をすぐにこちらへ連れてこさせます、そうすればあなた様の計画は全て完遂されるでしょう』

『まだそうと決まった訳ではない』

 

米堕卿に対してその者もまた、背中を向けたままプラカードを取り出して返事をする。

 

『あの二人は元から素質のある者達であったが、以前とは比べ程にもならない強さを感じる。恐らく異世界から来た者となんらかのイレギュラーな現象に見舞われ大いなる力を手に入れたに違いない』

『それはあなた様が欲していた秘術……私以外の蓮蓬達に悟られぬ様ずっと隠していたあの』

『そうだ、そして間もなく私の”片割れ”もここへと来る筈、その時こそ私もまた真の力を手に入れる事が出来る……』

 

どうやら入れ替わり装置を破壊したとしても事は順調に進まぬみたいだ。

二人の会話は所々に怪しい気配がし、未だ出していない切り札をまだ持っている様である。

 

そしてそんな二人にしかいない筈の最上部の部屋で、微かにペタリと足音が聞こえた。

 

『何奴!』

 

米堕卿がすぐに背後に振り返るとそこにいたのは

 

「残念ながらあなたの計画とやらを完遂させませんよ」

『貴様は……』

 

一見蓮蓬と同じ姿をしているがプラカードによる会話方法を使用していない。

着ぐるみの中から女性のような口調で話し出すその人物に米堕卿は警戒していると、ローブ姿の人物がいつの間にか彼の前に現れスッと手を出して制止させる。

 

『我々をコソコソと嗅ぎまわっていたのはお前だったか』

「僕はあの人達の影です、影は影なりにやるべき事があったまで、そして今の私はあなた達を止める鬼となる為にここまでやって来ました」

『ほう、そなた一人で私を仕留められると?』

「一人じゃない、私達は”二人”です、そしてあなたを無傷で倒せるとは思っていない」

 

そう言ってその者は手に持った刀を鞘から一気にに引き抜く。

 

「相打ち覚悟で止めさせてもらいますよ、僕の世界にいる大切な人達と、私の世界にいる大切な人達を護る為に」

『面白い……ならば余興代わりに私が直接手を下してやろう』

 

そう言ってローブを翻し、謎の人物は戦闘態勢に入る様に両手をばっと大きく広げると。

 

 

 

 

 

 

「宇宙一の魔法師となったこの”銀河帝国皇帝・M”の力をを存分に味わうがいい」

 

プラカードではなく自身の低い声で名乗り、真なる強敵が今表舞台に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十二訓 元帰&残留

念願の入れ替わり装置が破壊される数分前。

 

鬼兵隊、坂本辰馬、桂小太郎、そして新生万事屋の寄せ集めチームは中層部の大広場で戦闘を繰り広げている者達へ赴く為に、春雨の戦闘員を各個撃破していきながら突き進んでいた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!! 桂さんボディ! 私に力をぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「ノリノリだね生徒会長……」

 

刀を振るってすっかり慣れてしまったその体で、桂は行く手を阻む春雨に問答無用で斬りかかっていく。

しかしそれ等全ては全く当たらずに避けられていくのが現実。多少体は動かせても本人が全く剣術の基礎さえ学んでいなければ素人となんら変わらないのだ。

 

「く! こうなる事が事前にわかっていたなら! 元の世界で剣術の稽古とか受けておけばよかったわ!」

「いや誰だって気が付いたら侍の体になってたなんて予想できませんから」

「魔法の鍛錬とかそんな事で青春の時代をドブに捨ててた私のバカ! もしまた元の体に戻れたら! ドブに捨てた青春を拾い上げて! 立派な攘夷志士として生きることを誓います!」

「それドブから拾った青春をまたドブに捨ててるだけですよね? ただのキャッチ&リリースですよね?」

 

自分の今までの人生を振り返りつつ、己の未熟さに心折れそうになりながらも桂はグッと拳を握って力強く宣言する。

 

勝手に落ち込んで勝手に盛り上がって、一人で騒ぎ立てる桂にジト目でツッコミを入れる光井のほのかであった。

 

「もうこんな周りが敵だらけの状態で変なテンションになってないで真面目にやって下さいよ生徒会長……」

「生徒会長ではない……」

「いやあなたから生徒会長取ったらただの犯罪者……」

 

桂に対しては結構辛辣な言葉を浴びせるほのかに対し、桂は突如ワナワナと両肩を震わせた後、刀を手に持ったままいきなりバッと彼女の方へ振り向くと

 

 

 

 

 

 

 

 

「桂だァァァァァァァァ!!!」

「えーなんですかいきなり!? あ! もしかして遂に心までどっぷり精神が支配されたとか!?」

「いや違う! 俺は! 俺は!!」

 

いきなり人が変わったかのようにこちらに振り向いて来た桂に驚くほのか、しかし桂は手に刀を握られてる事に気付くと、傍にいた春雨の隊員数人に目掛けて斬りかかり……

 

 

 

 

 

「戻ったぞぉ! 桂小太郎! 遂に本来の姿で推参!!」

「ぎべぇ!!」

「や、やべぇぞ! コイツいきなり剣の腕が上がりやがった!」

「フハハハハハハ! 貴様等随分と手こずらせたな! だがしかし! 元の体に戻れれば貴様等風情相手にもならんわ!」

 

裾の奥から球体型の爆弾を素早く出すと、それを残っている春雨の隊員達に向けて勢い良く投げつける。

 

そして次の瞬間にはその場に爆発音と衝撃波を撒き散らせ、あっという間に彼等を跡形もなく吹っ飛ばしてしまった。

 

その光景をほのかが言葉を失い呆然と見ながら、桂の方へ視線を向ける。

 

「もしかして……会長じゃなくて桂さん本人……ですか?」

「フ、そうだ、長きに渡る魔法少女生活に終止符を打ち! この狂乱の貴公子・桂小太郎が今戻ったぞ!!」

 

刀を持った右腕を掲げ雄叫びを上げる桂の態度を見て、ほのかはすぐにハッとした表情で察した。

 

「つ、遂に体が元に!? てことは銀さんと深雪達が入れ替わり装置の破壊出来たんですか!?」

「そうだ! 先程俺達は入れ替わり装置の場所へ赴き、なんとか破壊する事に成功したのだ!! これで俺達も自由に……!」

 

七草真由美の状態で入れ替わり装置の場所へ赴き、そして破壊した瞬間、いつの間にか彼女の中にあった魂は桂小太郎の体へと戻っていたのだ。

これでようやくひと段落着いたと桂は自分の体に戻れた事に歓喜の声を上げようとするが……

 

すぐに自分の体をジーッと見下ろしながら

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか違う」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「うーむどうもしっくり来んな、コレ本当に俺の体か? なんか関節曲げづらいし体が硬いんだけど?」

「いや正真正銘あなた以外の何者でもないですから!」

 

いきなり自分の体なのかと疑問を浮かべ始める桂、どうやら長い間ずっと七草真由美の体で生きていたのでどうも違和感があるらしい。

自分の体を疑い始める桂はふと自分の下半身を見つめながら顔をしかめ

 

「なんか股間に変なの付いてるせいで歩きづらいんだけど? 俺本当にこんな邪魔なモノをぶら下げていたっけ?」

「な、何に対して疑いを持っているんですかあなたは! それ男として一番大事なモンなんでしょ!? 銀さんが深雪の体になった時に一番ショックを受けたのはそれを失った事って言ってましたもん!」

「いや本当に歩きづらい、ちょっとコレ取ってくれない? なんか引っ張れば案外簡単に取れるかも」

「女子高生相手になんちゅう事を要求してるんですか! 引っ張りませんし取れませんよそもそも!」

 

自分の股間を袴の上からゴソゴソと探りながらお願いしてくる桂に、ほのかが数歩引いて全力で嫌がっていると。

 

「ヅラ、どうやらおまんも元の体に戻れた様じゃな……」

「!」

 

背後からの声に桂は即後ろに振り返ると、そこには腕を組んだ坂本辰馬が不敵に笑っている。そして自分を親指で指すと嬉しそうに

 

「わしもおかげで元通りじゃ、数カ月ぶりに我が家へ帰宅出来たきに」

「おお! お前も元に戻れたか坂本! という事は入れ替わり現象は完全に解決できたという事だな!」

「いや、一つ問題が残っちょる」

「なに?」

 

桂に続き坂本も無事に元の体に戻れた、しかし坂本曰くまだ問題は残っているままらしい。

 

彼はおもむろに自分の股間を掴みだすと

 

「長い間留守にしちょった間に、いつの間にかわしの股間にブラブラすんモンと玉が二つが出来ちょった、これのせいで上手く歩けんのじゃ」

「おお! やはりお前も同じだったか坂本!!」

「やっぱ邪魔じゃろコレ、はよう取らんとわし等まともに動けんぞ?」

「うむ、やはり早急に切除する以外手は無いな!」

「いや久しぶりに元の体で再会出来た時に交わす言葉がそれでいいんですかあなた達!?」

 

どうやら坂本の方も股間に違和感を覚えているらしい。しかも入れ替わり生活が他の三人に比べ、圧倒的に長かったので、股間にある”それ”の存在そのモノさえ忘れてしまっているようだ。

互いに股間の違和感を拭いきれずにいっそ取ってしまおうかと話し合っている二人にほのかが必死に叫んでいると、彼女の傍をタイミング良くスッと一人の少女が通り過ぎて、桂と坂本の方へ近づき

 

「私に任せて、一思いにチンコ引き千切ってあげる」

「おおそれは助かるぜよ!」

「よし! ならば今すぐ俺達のチンコとタマを取ってくれ!!」

「オーケーベイビー」

「雫ぅぅぅぅ!? 早まらないで二人共! せっかく男に戻れたのに今度はオカマに転職する気!?」

 

指を滑らかに動かしながらいつでも来いといった感じで現れた北山雫、彼女に対してすぐに坂本と桂はやってくれと歩み寄るがそれを必死に止めに入るほのか。

 

するとそこに……

 

「ったく揃いも揃って元の体に戻れても相変わらずバカやってんなお前等」

 

血に濡れた刀を手に持ったまま、ふらりと彼等の前に現れたのは高杉晋助。

今しがた元に戻れたと同時にその辺の天人を始末してきたかのように、口元に歪な笑みを浮かべながら

 

ずっと己の顔を隠していたモザイクをひっぺ返して踏み潰すと

 

河上万斉と木島また子を引き連れてやって来たではないか。

 

「晋助……よくぞ元の体に戻ってくれた、拙者はずっとおぬしが帰って来る事を心の底から待っていたぞ」

「戻るのが遅れて悪かったな万斉、これでようやくオメェと心置きなく暴れられるぜ」

「晋助様! 晋助ちゃんじゃなくなるのは悲しいっすけど! やっぱり私には晋助様が一番っす! でももっと晋助ちゃんの頭なでなでしたかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「また子、お前ちょっと休んでろ……」

「晋助ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

ようやく鬼兵隊の大将の帰還に万斉は心から安堵している表情でホッと胸を撫で下ろしているが。

また子の方は以前の中条あずさが入り込んでる状態の高杉の事も忘れられない様子で、血走った目をひん剥かせて悲痛の雄叫びを上げていた。

そんな彼女に高杉は頭を押さえながらどう対処すればいいのかお困りの様子だが、桂と坂本がこちらに歩いて来たので彼は顔を上げる。

 

「高杉、やはりお前も元に戻れたか。これで俺達4人の内3人は無事に元の体に戻れた事が確認できたな」

「後は銀時だけじゃな、しっかしアイツはわし等とはちぃと事情が違うからのぉ、どうなっちょるかは見当もつかん」

「アイツの事なんざどうでもいいさ、俺は俺の身体に戻れただけで満足だよ」

「ところで高杉、お前に一つ聞きたい事がある」

「あ?」

 

愛用しているキセルを吸って煙を吐きながら、ようやく元に戻れて満足している高杉に対し、桂は鋭い目を彼に向けながら真顔で尋ねる。

 

「股間に付いている変なモノのおかげで少々歩きづらくなったと思わんか?」

「……お前入れ替わり先の所に脳みそ置き忘れちまったんじゃねぇか?」

「もしよければ彼女が俺達のチンコを回収してくれるらしいのだが」

 

いきなり訳の分からない事を言って来た桂に彼は表情崩さずにただ固まっていると、雫が近づいていき、あろう事か彼に対して両手の指を高速で動かしながら

 

「さあさあ包帯のお兄さん、さっさと着物とパンツを脱いでナニを出してもらうか、長年共に一緒にいたチンコにお別れを済ませてオカマになる準備はできたかな?」

「……おい、この俺にふざけた態度取ってくるガキは斬っていいのか?……」

「ヘイカモーン」

「雫ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

無言でこちらに殺気のこもった目つきで静かに見下ろしてくる高杉に、雫は得意げに指を動かしながら挑発。

 

それを見てほのかは必死に叫びつつも思った。

 

ああ、私の友人には怖いモノなんてないんだなと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして瓦礫となり果て、音を立てて崩れていく入れ替わり装置を前にし

 

事を済ませた銀雪達一行はというと

 

「コレで俺の役目は十分に果たせたか……」

 

装置丸ごと両断した事で、すっかり体力を使ってしまった桐原が安堵のため息を突くも、この場所にはまだ敵が残っている事を忘れちゃいなかった。

 

「っと思いたいが、次斬られる予定の連中がまだまだ一杯だな」

「おやおやぁ? それは俺達の事かね? 威勢が良いね異世界の魔法使い殿は」

 

パラパラと氷の欠片が降り注ぐ中で、桐原の前に一人の男、阿伏兎がニヒルな笑みを浮かべて現れる。

 

入れ替わり装置を破壊出来ても未だこの男は健在だ、それに他の夜兎の連中も

 

未知なる相手に桐原は果敢にも刀を構えて挑もうとする、しかし阿伏兎はそんな彼を前に静かに目を瞑り

 

「安心しな、もう俺達にはお前さん達と戦う理由はねぇよ」

「何!?」

「元々俺達は蓮蓬の連中からの命令で、この装置を護れと言われていただけだしな」

 

桐原は警戒しつつもそっと構えを解く、確かに今の彼等には敵意や殺気が感じられない。

この場で自分達とやり合うつもりはないのは本当の様だ。

 

「その任務はお前さん達のおかげで失敗だ、連中に責務を問われる前に俺達はここでトンズラさせてもらうぜ」

「装置を破壊した俺達を殺せば名誉挽回のチャンスはあるんじゃないのか?」

「名誉だ? 連中に感謝されても全く嬉しくねぇよ、ぶっちゃけハナっから気に食わなかったからなあいつらの事は」

 

微笑みながらそう言うと阿伏兎は部下の者達の方へ振り返り「行くぞ」と短く指示を飛ばす。

他の夜兎達は誰も異議を唱えず素直に彼の指示に従い踵を返し部屋から出て行ってしまった。

 

「あばよデジタル世代の魔法使い、今度会う時があれば上の命令じゃなくて俺たち自身の意志で戦わせてもらうとするわ。そん時は遠慮なく殺させてもらうからよろしくな」

「殺されるのはどっちだろうな、あまり俺達の世界の者をナメるなよ」

「へ、ナメちゃいねぇさ、お前達の強さは十分身に染みたよ」

 

こちらを睨んで来る桐原に対し、阿伏兎は飄々とした態度で返事すると仲間と共に部屋を後にする。

 

「そうそう、俺達がいなくなったからって安心すんじゃねぇぞ、お前さん達の本当の戦いはこれからなんだぜ」

「?」

 

最後に捨て台詞を吐いた後、その言葉の意味が上手く理解できなかった桐原を残して阿伏兎達は行ってしまった。

 

「本当の戦いはこれから……? どういう事だ……」

「フッフッフ……」

「!」

 

一人考えにふけていると不意に不気味な笑い声が部屋に響き渡る。

桐原はすぐに彼の言っていた本当の戦いが始まったのかと腰に差す刀に手を置いて、声のした方向へ身構えると……

 

 

 

 

「うおっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! アタシの体に戻れたァァァァァァ!! おめでとう千葉エリカ! 長きに渡るモジャモジャの呪いから今あなた解放されたのですキャッホォォォォォォォイ!!!!」

 

そこにいたのは先程共に戦った一人である千葉エリカであった。急にハイテンションになって両手を上げながら絶叫を上げてピョンピョンと何度も跳ね上がる彼女に、桐原はギョッと驚いた様子で目を見開く。

 

「さ、坂本さん!? いやもしかして千葉なのか!?」

「ったりめぇでしょうが! てか誰よアンタ! 馴れ馴れしく呼ぶんじゃないわよ! 地獄の底から這い上がりしみんなのヒロイン、とっても素敵で可愛いJK千葉エリカ様と呼べやコラァ!!」

「誰って! 俺はちゃんとしたお前の一個上の先輩だぞ! そっちこそ桐原先輩と呼べ!」

「知るかボケコラカスゥ! こちとら入学式の日からずっと宇宙放浪の旅に出てたのよ! 誰が先輩だろうが同級生だろうがなんにも知らずに生きて来たのよ! こんな可哀想な女の子に慰めの一つも出来ねぇのかこの杉田智和!」

「誰が杉田智和だ! てか誰だ杉田智和って!?」

 

どうやら無事に坂本の体から解放されて千葉エリカもまた元に戻れたようだ。

そのせいかいつもよりもずっとハイなテンションになって先輩である桐原に対しても粗暴な言葉を浴びせながら部屋中を踊る様に駆け回っている。

 

「遂に体を取り返せたしもう思い残す事は無いわ、さっさとこんな訳の分からない星から脱出して元の世界に帰るのよアタシは!」

「いや待て千葉! 確かに装置は破壊出来たがまだ他にもやる事があってだな!」

「んな事こちとら知らないわよ! 今からアンタのやるべき事はただ一つ! アタシ一人でもいいから安全に元の世界に返す為の準備に勤しむ事よ! おらさっさとやれ! 今すぐやれ! 40秒で支度しな!」

「なんなんだコイツ、まさか入れ替わり現象の反動で脳になんらかの負荷がかかったんじゃ……あるいはただのバカか」

「アハハハハハ! 他の連中なんて知ったこっちゃないのよ! 特に坂本辰馬率いる連中の事なんか心底どうでも……オロロロロロロロロ!!!!」

「ああ、ただのバカの方だった」

 

とち狂ったように叫んでいる途中で急に「うぷ!」と無駄にテンション上げ過ぎて気分が悪くなったのか、突然床に向かって盛大に吐瀉物を撒き散らすエリカ。

とても可愛いJKのやる事ではない行為に、桐原が心底呆れてため息を突いていると

 

「戻った! 遂に元の体に戻れたわ!!」

「か、会長!」

 

エリカと違いぶっ飛んではいないものの、やや興奮したような感じで誰かが喜びの声を上げている。

すぐに桐原が振り返ると、そこには1話目からずっと桂小太郎としての人生を歩んでいた七草真由美の姿が

 

「七草真由美、久方ぶりにこの体に戻る事が出来たわね……ここに来るまで色々大変だったけどこれでどうにか問題を一つ解決できたことで良いのかしら?」

「そうです、とにかく氷山の一角は崩せたと思います」

 

急にキリっとした表情でこちらの状況の確認を取る真由美に、桐原は久しぶりにかつて生徒会長として皆を導いていた時の彼女を思い出し、すぐにピンと直立して返事をした。

 

 

「ただ敵の一人が妙な事を言っていたので今すぐにでも準備を始めた方がいいと思います。こうして会長達も元に戻れたのですから戦力は確実に上がっていますし」

「私もそうするべきだと思うけど迂闊な行動は命取りになるわ、まずは一刻も早く皆に連絡を取るようにするのが先決よ。未だ情報の伝達が出来ていないこの状況で、バラバラになって勝手に動き回るのは危険よ」

「はい! では俺は今から鬼兵隊や快援隊、真撰組の所を駆け巡って情報の伝達に!」

 

さすがは生徒会長、今までずっと奇行に走ってたのがウソの様だ。コレが本来の七草真由美の姿だと桐原は心底頼もしいと思っていると、ふと真由美は真顔で彼に一つ尋ねる。

 

 

「ところで入れ替わり装置を破壊してくれたのって桂さん達だけじゃなくて桐原君も手伝ってくれたの?」

「ええ、連中が敵を上手く誘った所を俺が装置の破壊を行いました。こうして無事に会長達の体を取り戻せたのも彼等のおかげです」

「そうだったのね、でもあなたも立派よ桐原君、桂さん達と共に見事私達の体を取り戻してくれて……」

「会長……」

 

自分の肩に手を置き、クスッと笑い慈愛に満ちた表情を向けてくれる真由美に、桐原はもはや感無量と言った感じで内心喜んでいると

 

真由美はそのままの表情で彼に向かって

 

 

 

 

 

 

 

「これであなたも立派な”攘夷志士”としてやっていけるわね」

「会長ォォォォォォォォォォォ!?」

「情報の伝達ついでに将軍と合体した達也君の首も取って来てね」

「どういう事ですか会長!? アンタまさかまだ!?」

 

かつて攘夷志士として悪名轟かせる凶悪なテロリストにでもなるんじゃないかと危惧するぐらい思考回路が狂った会長はもうここにはいない、そう思っていたのだが

 

元の体に戻っても桂小太郎だった時の様な事を口走る真由美に桐原がパクパクと口を開けながら焦っていると、彼女は笑みを浮かべるのを止め

 

「これより私達は救世主であり皆を導く先導者である桂小太郎をリーダーとし、皆で力を合わせて幕府を討ち滅ぼす戦を仕掛けます、あとついでに蓮蓬にも」

「蓮蓬ついで扱い!? 幕府とか俺達には関係ないでしょ! そっちの事は向こうの世界の人に任せて俺達は俺達の世界を!」

 

この期に及んで将軍を討ち取り国家転覆を狙おうとする真由美に桐原はすぐに説得を試みるが、彼女はやれやれと言った感じでめんどくさそうに髪に指を絡めながら

 

「いやもう私もう元いた世界とかどうでもいいの、生徒会長とかナンバーズとかそういう肩書とかいらないし、私が欲しいのは桂さんの隣、もうそれ以外に何もいらないから」

「何てことだ完全に桂に毒されている……! もはや俺達の生徒会長は完全に死んだというのか……今俺の目の前にいるのはあの狂乱の貴公子・桂小太郎を崇めたてる事に執念を燃やす攘夷志士でしかないというのか!」

「桂? あの人を馴れ馴れしく呼び捨てで呼ばないで、これからは腐った国を撤廃し、天人に負けない新たなる国を築き上げる為に日夜幕府と戦う我等が英雄、桂小太郎様と呼ぶのよ」

「ダメだぁぁぁぁぁぁ!! これもう完全にダメだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ドヤ顔で桂の呼び方を改めるように要求してくる真由美に、遂に桐原は両手で頭を押さえながら絶叫を上げ始める。

てっきり装置を破壊し、元の体に戻れば染まっていた魂も元に戻るのであろうと思っていたのだが……恐るべし桂の攘夷思想、その思想は元の体になってもなお、真由美の魂にしっかりと受け継がれてしまったみたいだ。

 

七草家にどう説明すればいいのだと桐原が一人混乱に陥っていると、ふとまたもや別の少女の声が

 

「はわわ~、どこですかここ~? あれ? これ私の体……」

「中条!?」

「きゃ! 桐原君!? なんでここにー!?」

 

見るとそこには自分と同じように慌てふためく中条あずさの姿が。

元の体に戻れた事に混乱してるらしく、キョロキョロと辺りを見渡している彼女の下へ桐原はすぐに駆け寄る。

 

「中条お前なんともないのか!?」

「え、いや特に何もないですけど……?」

「本当か!? 世界をぶっ壊したいとか企んでないよな!?」

「わ、私そんな事考えてないですよ! 高杉さんじゃないですから! それより私達元の体に戻れたんですか!? 良かった~」

「な、なんだと……そういえば中条は入れ替わっても全く精神を乗っ取られてる感じは無かったな……」

 

司波深雪や七草真由美は次第に精神が浸食されてしまったが、あずさは何故か影響も受けずに高杉の体になってもなお自分を貫き今の今までやってこられたのだ。もしかしたらコレは地味に凄い事なのではないのだろうか……。

 

「とにかくお前だけでも無事で何よりだ中条……お前以外はもうダメだからな」

「ダメって一体……あ、会長!」

「あーちゃん!」

 

諦めたようにため息を突く桐原に首を傾げるあずさだが、ふと傍に頼もしき先輩である真由美がいる事にようやく気付いた。

彼女が声を上げると真由美も嬉しそうに歩み寄って両手を取り

 

「あなたも無事に元の体に戻れたのね!」

「はい! うう~ようやく先輩と元の体で再会出来ました~!」

「そうだったわね、それじゃあ久しぶりの再会を祝って……」

 

互いに本当の体に戻れた事に喜びを噛みしめつつ、あずさが思わず泣きそうになっていると真由美はニコっと笑うと

 

「ちょっくら攘夷活動でも始めてみる?」

「ふぇ!?」

「大丈夫よあーちゃん、まずはあの鬼兵隊とかいう同じ攘夷志士でありながら桂さんに盾突く無法集団を殺しに行ってちょうだい」

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 無理ですよ私! そもそも今までずっと鬼兵隊の皆さんのお世話になってたんですよ!? ていうかどうしたんですか会長!? なんか変です! おかしいです!」

「いいえ少しもおかしくないわ、だってこれが私としてのあるべき姿なんだから! さああーちゃんもこっち側に……!」

「か、会長が壊れちゃいました~!」

 

段々と目が怪しく光り輝き、手を伸ばしてゆっくりと歩み寄って来る真由美に、怯えた様子で涙目になりながら後ずさりするあずさ。

するとそこに先程盛大に胃の中にあったモノをぶちまけていたエリカが気分悪そうに歩いて来る。

 

「ちょっとアンタ達さっきからうるさいんだけど……こちとら吐いたばっかで最悪なのよ……騒ぐんならあっち行ってくんない?」

「丁度よかったわ千葉さん、あなたも攘夷志士に入りましょう」

「いや遠慮しておくわ、アタシこれから魔法師としての人生をリスタートするって決めたから」

「今なら洗剤と野球観戦のチケットも付けるわよ」

「新聞か! いらないわよそんなの! 勧誘するならそこのちっこいのにしなさいよね!」

 

真由美の誘いをキッパリと断ると、うんざりした表情でエリカはあずさに話を振る。

しかし後輩である彼女にちっこいの呼ばわりされてはさすがにあずさも先輩として注意せねばと恐る恐る顔を上げながら

 

「あの~……私、千葉さんの先輩なんですけど……」

「は? だから何? 今のアタシに先輩とかそんなの関係ないから、この世の存在物は全て私を中心に回ってるという結論の域に達してるぐらい怖いモノなしなんだからアタシ」

「うえ~みんな変になっちゃってます~! あれ?」 

 

ジト目を向けながらとんでもない事を言い出すエリカにもはやあずさはどうすればいいのか困っている様子。

すると、そんな時、彼女の方へトボトボとある人物が静かに歩み寄って来た

 

「も、もしかしてえーと……」

 

その人物とは

 

 

 

 

 

 

 

「前に会長から聞いたんですけど、確か坂波銀雪さんでしたっけ? 銀時さんと司波さんが合体した姿……」

「……ご名答」

 

装置を破壊する前も後もなんら変わらず、死んだ魚の様な目をこちらに向けながらすっかり気力を失ってるかの表情で坂波銀雪が現れた。

 

本来であれば入れ替わり装置を破壊すれば、坂田銀時と司波深雪に分離出来る筈だったのだが……

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……なんで俺達だけ戻ってねぇんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ひぃ!」

「あら銀さんと司波さん……ってアレ? なんで元に戻ってないんですか?」

「あーこりゃ完全にやっちまったパターンね、もう一生そのままねアンタ達、お幸せに」

「ふざけんなゴラァ! 誰がテメェ等の体取り返してやったと思ってんだ!」

 

銀髪ロングに強いクセッ毛があちらこちらに飛び出た髪を揺らしながら銀雪は激昂した様子で真由美達に指を突き付ける。

 

「チクショウ! 時間切れにしちゃ早過ぎだろ! なんで俺だけこんな事に! 兄貴の奴は入れ替わった元凶を討てば終わるって言ってたじゃねぇか! 元凶って入れ替わり装置の事なんじゃねぇのかよ!」

 

銀雪はずっと入れ替わり装置さえ破壊すれば、分離出来てそれぞれの体に戻れると思っていたのだが。

どうやらそう上手くはいかないらしい。

何故ならあの入れ替わり現象について書かれていたノートに記されている『入れ替わりし元凶』というのは

 

入れ替わり装置の事ではなかったのだ。

 

「俺を! 俺を返しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

壊れてバラバラになった装置に向かって銀雪は悲痛な声で叫ぶが当然返事は無かった。

 

そんな彼女を少し離れた所から見ていた桐原はふと阿伏兎が言っていた事を思い出した。

 

 

お前さん達の本当の戦いはこれからなんだぜ

 

 

「もしやあの言葉の意味は……おいアンタ! ちょっと話が!」

「返してくださぁぁぁぁぁぁぁい!! なんでもするから銀さんと深雪さんの体カムバァァァァァァァァク!!!」

「なに壊れた装置に向かって土下座してるんだ! いいからちょっと俺の話をだな!」

「うるせぇんだよ杉田智和のクセに! テメェは一生中村悠一と仲良くやってろ!!」

「だから誰なんだよ杉田智和って!!」

 

もはやヤケクソ気味に装置に向かって土下座して懇願し始める銀雪。

彼女に意味深な事を言われながらもとにかく話を聞かせられる様必死に落ち着かせようと奮闘する桐原であった。

 

 

最終決戦開始まであと僅か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更だけど

七草真由美ファンの皆さんにごめんなさいとだけ言っておきます


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第三十三訓 憧望&調教

 入れ替わり装置が破壊により影響を受けたのは攘夷志士達だけではない。

 

中層部で始まっていた地球連合軍VS蓮蓬軍の戦いでも次々とその影響が起こり始めていた。

 

「こ、これは俺の身体……よっしゃぁ! 遂に俺の身体を取り戻せた! 」

「オーマイガァァァァァァァァァ!!! 元に戻ってるぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

蓮蓬との戦いの途中でふと視界がガラリと変わったと思いきや、自分の体が土方十四郎に戻っている事に柄にも無く喜びの声を上げる土方。

 

しかく同じく元の体に戻れたリーナの方はというと、小さくなった両手を見つめたまま絶望の声を上げ始める。

 

「返せそれはもう私の体なのよ! ようやく手に入れられた私の安寧の居場所をよこせ!」

「なに俺の身体自分のモンみたいに主張してんだクソガキ! テメェはテメーの身体で満足しればいいだろ!」

 

周りに敵がいるのも気にせずに突如土方に向かって食ってかかるリーナ。

普通にしていれば美少女なのだが、今の彼女は血走った目を剥き出して土方に襲い掛かる魔物の様に両手を伸ばして掴みかかる。

 

「ふざけんじゃないわよ! もう既に私は土方十四郎の身体でないと満足できない様になってんのよ! 土方十四郎でないと生きていけなくなっちゃったのよ!」

「なんかすっげぇ生々しい言い方になってんだけど!? 誤解を招く発言はよせ!」

「もう嫌なのよリーナに戻るのは! 私はね! いかにもな正義の味方って感じの仕事に憧れてたのよ! それで自分の国を護る事を仕事にする真撰組の土方十四郎になれた事がどれほど嬉しかったことか……」

 

服を掴んで喚きだしたかと思いきや今度は膝から崩れ落ちて、両目からうっすらと涙を溜めて語り始めるリーナ。

 

「だってリーナだったらアレじゃん! 裏切り者の制裁とかそんなんばっかりやらされるのよ! おまけに周りの連中は全然私の事褒めてくれないし! 逆に色々と陰口叩いてるわ近寄りもしないでどんどん離れていくのよ! こちとら仕事してるだけだってのになんなのあの嫌われ様!? イジメ!? そりゃ私の事を心配してくれる人も何人かいたわよ! でもだからといってツライってのは変わりないんだからね! どんだけ足掻いても私がリーナである限りあの苦しみからは逃げられないのよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「うわめんどくせぇ! コイツ元に戻ったら更にめんどくさくなりやがった!」

「という事で……!」

 

心の底から湧き上がる吐露をぶちまけるリーナに土方は早くこの場から去りたい、彼女から離れたいという衝動に駆られていると、彼女は突如目をギラリと怪しく光らせ、手に持っていた刀を鞘から引き抜く。

 

「体が元に戻ってしまった以上……! かくなる上はアンタの皮膚を全て剥いで! それを被って今度こそ私が唯一無二の土方十四郎に成り代わるしかないわ……!」

「オイィィィィィィィ!!! もう発想がサイコパス過ぎるだろ! 猟奇的過ぎてドン引きなんだけど!?」

「グヘヘへ……身体をよこせぇぇぇぇぇぇ!!!! 皮を剥がせろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「どうして俺の入れ替わり対象だけこんなサイコ野郎なんだチクショォォォォォォ!!!!」

 

ついに強硬手段を取って、リーナはすっかり殺人鬼が獲物に向ける目をしながら土方目掛けて刀を持ったまま襲い始めた。

 

真に怖いのは幽霊よりも人間。そのあまりにも恐ろしい迫力に土方は圧倒されてすぐに彼女に背を向けて、目的地も決めずにただひたすら走り出す。

 

しかしリーナも諦めはしない、リーナという生き方に希望を見いだせない少女は、土方十四郎として生まれ変わる事こそが自分の運命だと勝手に悟り、自分自身を見失ってしまった彼女はただただ土方の命を狙う為に追いかけて行く。

 

「土方死ねコノヤロォォォォォォ!! そして私が新たな土方として生まれ変わるのよぉぉぉぉぉぉ!!!」

「うおぉぉぉぉぉぉ!! ダメだコイツ! もはや天人と戦いなんかしてる場合じゃねぇ! 俺にとってこの星で最も恐るべき相手はこのシザーマンレディしかいねぇ!!」

 

刀をブンブン振り回しながら周りの蓮蓬など気にも留めずにただ土方を追うリーナ。

 

そしてなんとか逃げ切ろうと土方が必死に足を動かして悲鳴のような声で叫んでいると……

 

「やはり幕府の犬はこの程度なのね、女の子一人に襲われただけでキャンキャン吠えてるなんて切腹モンだわ」

「仕方ない、このキャイ~ンにも勝る超絶仲良しコンビに比べればあの者達の絆など精々wコロンと同クラスだ」

「!」

 

ふと背後から聞いた事のある男女の声に土方は思わず逃げるのを止めて即座に振り返る。

 

そこにいたのは不敵に笑う一人の男と一人の少女

 

「ランニングは終わりかな、鬼の副長殿。貴殿の相方はこの通りこの攘夷志士、桂小太郎と」

「その右腕、七草真由美が大人しくさせてあげたわよ、有難く思いなさい」

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!! 邪魔をするな攘夷志士風情がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「桂! それと桂と入れ替わっていた電波小娘!!」

 

この様な状況下で助けに来たのはまさかの攘夷志士という本来敵である立場である桂小太郎であった。

そして彼に従う様に七草真由美も現れ、彼女の足下にはリーナが奇声を上げながら踏みつけられている。

 

「惨めったらありゃしないわね。互いの事を理解し合う事こそがこの戦いに置いてもっとも必要な事なのに」

「全くだ、貴様等の醜い争い事は目に余る、敵として情けない」

 

どうやら元土方とリーナのやり取りを傍で見ていたらしい。

 

心底呆れた様子で二人はため息を突くと、桂と真由美はもはやお約束になっているのか、互いの腰に手を回しながら仲良さげに

 

「仮にも俺達攘夷志士の脅威である鬼の副長がこの体たらくでは! もはや幕府打倒も間近と言った所だな真由美殿! フハハハハハハハハ!!!」

「所詮権力にすがる犬っころの絆など所詮その程度なのよ! 大人しく私達ゴールデンペアに敗北を認めてひれ伏しなさい!! フハハハハハハハ!!!」

「ホントなんなのコイツ等!? 仲良すぎて逆に気持ち悪いんだけど! 二人揃って同じ笑い方してすっげぇ腹立つ!!」

 

既に勝ち誇ったように高々に笑い声をあげてきた桂&真由美ペアに、土方はリーナに対する恐怖心も消え失せて、この連中に対して激し苛立ちを覚え始めていると、彼等の下へ何者かが全速力で駆け出す音が聞こえ

 

「笑ってないでさっさと戦えテロコンビ!!」

「「どぅふ!!」」

 

両者の後頭部にそれぞれの両足を飛び蹴りでかましたのは渡辺摩利。

 

先程まで近藤達のいる本陣で待機していたのだが、彼等が戦場にいるのを見て、居ても立っても居られずにここまで走ってやって来たのだ。

 

「さっきから大変な事が起きてるのにどうしてお前等は……あれ? もしかしてお前達元の身体に戻っているのか?」

「フ……随分と手荒い歓迎だな、摩利殿」

「親友の後頭部に蹴りかますなんて随分とアクティブになったわね、しばらく見ない内にツッコミの仕方も覚えたのかしら?」

「真由美の口調が元通りに……い元通りって訳じゃないけど。という事は遂にやったのか! 入れ替わり装置の破壊を!」

 

蹴られた個所をさすりながら振り返って来た二人の反応を見て摩利はすぐに気付いた。

二人の身体と魂は正真正銘、桂小太郎と七草真由美として無事にあるべき場所に戻れたのだ。

 

「まあ将軍の事は達也君……いや達也君と将軍様に聞けたから咎める事はもうしない、それに戻れた事は素直に嬉しいし、とりあえずおめでとうと言いたいんだが、その前にお前達にもこの戦に加わってもらうぞ」

「無論だ、各々が元の身体に帰りし今! 我等攘夷志士トリオでこの戦いを勝利に導いてみせようではないか!」

「おい攘夷志士トリオってなんだ!? まさか私も攘夷志士トリオとしてカウントされているのか!?」

「当然でしょ摩利、私が桂さんの右腕ならあなたは桂さんの右足なんだから」

「なに右足って!? 攘夷志士にとっての右足って主に何をやる役目!? そこは左腕とかでいいだろ!」

「左腕はエリザベスさんですから、それじゃ……」

 

桂、真由美、摩利は互いにボケとツッコミを交えながら蓮蓬相手に構えると、しばしの間を置いておんなじタイミングでそれぞれの方向へと走り

 

「我等攘夷志士の未来の為に!」

「この戦に勝利をあげていざ倒幕ゴー!!」

「攘夷志士じゃなくて二つの地球の為に戦えバカ共!!」

 

蓮蓬達との戦いを始めるのであった。

 

そしてずっと踏みつけられていたリーナはようやく解放されて、踏まれた頭をさすりながらフラフラと立ち上がると

 

「ひ~じ~か~た~く~ん……!」

 

目の前に立っている土方にすぐに恨みがましい目つきを浮かべて殺意を放つリーナ。そしてその背後から

 

『食らえ!』

 

蓮蓬の一人が襲い掛かるが

 

「邪魔すんな!」

『でふッ!』

 

彼女は振り向こうともせずに刀の鞘で襲って来た蓮蓬の顔面に深々と食い込ませて吹っ飛ばす。

 

彼女のターゲットは今目の前にいる土方十四郎、ただ一人だ。

 

「私の目的はただ一つ、アンタを倒して私が真撰組の副長に返り咲く事なのよ、だからその為にアンタには消えてもらうけど別に構わないわよね」

「フゥ~……隣の芝生は青く見えるとはまさにこの事か、滑稽過ぎてビビる気も失せちまったぜ」

「なんですって!?」

 

無表情でタバコを吸い始め、軽く挑発してきた土方に

 

持っていた刀を腰に戻してリーナは片手を土方の方へ突き出す。

 

剣ではなく己の魔法で戦うという事だ、十数年必死に英知を注ぎ磨き上げて来た魔法で

 

「テメー自身がいかに恵まれている事にも目を向けずに、俺という存在に執着しやがって。仕方ねぇ、年上として指導してやる」

「ゴチャゴチャ言ってんじゃないわよ! 観念したならとっととその体寄越しなさいっての!」

「悪いが土方十四郎はこの世でただ俺一人だ、そしてテメェもただ一人の存在でしかねぇ」

 

腰に差す久々の愛刀の鞘をしっかりと握りしめ、群がる蓮蓬達を気にも留めずにただ目の前にいるリーナ一人に集中すると、タバコを咥えたまま目を瞑り、そして次にカッと目を見開いたその瞬間

 

「アンジェリーナ=クドウ=シールズ! いざ尋常に!」

「勝負!!」

 

互いに手を取り合うべき筈の地球人同士が、敵そっちのけで本気の喧嘩をおっ始める。

 

二人が互いに向けて走り出しぶつかった途端に

 

その衝撃で周りにいた蓮蓬達が次々とぶっ飛んで行く程の凄まじい大喧嘩であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方場所は少し変わり戦場の蓮蓬陣地。

 

しかしそこはもはやまともに戦える者達は誰もいなかった。

 

そう、全てはこの徳川達茂の登場によって戦いは茶番と化し、一方的な蹂躙により蓮蓬達はみるみる倒れていき、遂には副将・レフトドラゴンが残されたのみとなってしまったのである。

 

「どうした? 残るはお前だけだぞ」

『ぐ! まさかこの様な隠し種があるとは!』

「あんなにいた蓮蓬軍がこんな一気に総崩れになるなんて……!」

 

魔法を使えば使う程面白いように倒れていく蓮蓬達を辰重の背後から眺めていただけの新八は、この状況を見て愕然とする。

 

「大丈夫なんですかコレ、主に物語的な意味で……一方的にジェノサイドかましてますけど主人公がやっていい事なんですか? 僕等は本当に正しい行いをしているんですか?」

「問題ない、ウチは基本こういうスタイルだ」

 

片膝を突いているレフトドラゴンに銃口を定めながら達茂は平然と新八の問いに答えていると

 

「新八ー!」

「え、神楽ちゃん?」

「とどめだ」

『ぐはー!』

「って人が呼ばれてる時に間髪入れずに最後の一人にトドメ刺すなや!」

 

不意に背後から少女の声がしたので新八が振り返った瞬間には、もう達茂はレフトドラゴンにとどめの一撃を浴びせていた。

容赦が無いというより空気の読まないその戦い方に新八は思わず怒声を上げる。

 

「さっきからテンポ早いんだよアンタは! もうちょっと相手の最後の言葉を聞いてやるとかで尺稼ぎぐらいしろよ!」

「そういえば人気低述により打ち切りになった作品ってのは、終盤は異常なほど展開が猛スピードで早くなるのがよくあるよな。ああいうの見ると、打ち切られた作家は本当はこの辺も長く描きたかったんだろうなとどこか寂しくなるのは俺だけだろうか?」

「なんでこの流れでそれ言った? 切られんの!? もう首飛ばされるの確定したのウチ!?」

 

倒れてピクピクと微かに動いているレフトドラゴン眺めながら何やら不吉な事を呟く辰茂のせいで、新八の頭に暗雲が出来ている中、彼を呼んだ少女、神楽がもうすぐ傍にやって来ていた。

 

「何叫んでるネ新八? てかなんでお兄様までいるアルか? ひょっとしてお前も元に戻ったアルか?」

「え、まさか神楽ちゃん元に戻ったの!? てことは銀さん達が!」

「おうよこの通り元通りネ、私の体に成り代わっていたこのおっさんも」

 

神楽の雰囲気がいつもの様に戻っている、という事は入れ替わり装置は破壊出来たという事だ。

 

正真正銘本物の神楽として帰って来た彼女に新八が驚きつつも素直に喜んでいると。

 

得意げに神楽は手に持っていた古ぼけた汚い雑巾の様なモノを取り上げて

 

「この通り元の身体に戻れて龍郎もバッチリ元通りヨロシ」

「う、うぐおぉ~……」

「龍郎死にかけてるぅぅぅぅぅぅ!!! バッチリ元通りじゃねぇよ! 身体元に戻れたのにほぼほぼ瀕死じゃねぇか龍郎!!!」

 

神楽が手に持っていたのは司波達也と司波深雪の父、司波龍郎。

 

彼もまた元の器に戻れたようだが、しばらく見ない内に随分とボロボロになっていた、うめき声を上げているのでかろうじて生きているのはわかるが、それにしちゃ随分と痛めつけられたような手酷い姿である。

 

「神楽ちゃん何があったの! 達也さんのお父さんに!?」

「大したことねぇヨ、蓮蓬に取り囲まれた時に元に戻ったから、咄嗟に傍にいたコイツを武器にしてしばらく戦っていただけアル」

 

『うおぉぉぉぉぉぉ!!! ゴムゴムの風車ァァァァァァァ!!!!」

『ギャァァァァァァァァァァァ!!!』

 

「瀕死になってる原因10割それだろうが! 何一般人の身体を武器にして振り回してんだ戦闘民族!」

「たまにうるさく叫ぶから何発か顔面にお見舞いして適度に黙らせてたネ」

「た、助けてくれ新八君……この少女の傍にいるととてつもないスピードで寿命が縮んでいる気がするんだ……」

「おいしっかりするアル龍郎! 心臓マッサァァァァァジ!!」

「ぐふッ!」

「縮んでた寿命が遂にここで尽き果てたァァァァァァ!!!」

 

倒れた龍郎にとどめの一撃と言わんばかりに心臓目掛けて夜兎の拳をぶち込む神楽。

 

その瞬間、青くなっていた龍郎の表情は蒼白となり、白目を剥きながらガクリと意識を失った。

 

「達茂さん! アンタの父親がウチのヒロインのせいで危篤状態なんだけど!? 助けられないんですか!?」

「なんだその汚いおっさん、俺は知らないな。その辺に捨てておいてくれ、宇宙にでも」

「どんだけ嫌いなんだよアンタ!!」

 

こちらに振り返り、今初めて龍郎の存在に気づいたかのような素振りをしながら

 

冷たい目で自分の父親を見下ろしながらすっとぼける達茂。

 

本当に仲が悪い親子なんだなと新八が実感していると、今度はジャラジャラと何かを引きずって歩いている様な音が聞こえて来た。

 

「よぉ、どうやらそちらさんも上手くいったみたいじゃねぇか」

「その声は沖田さん! 良かった! 神楽ちゃんと同じく元の身体に戻れたんですねってぇぇぇぇぇ!!!」

「おうよコレで何もかも元通りだ、ようやく大手を振って歩けるぜ」

 

沖田が来た事に気付いて新八が振り返ると一瞬で目を見開き驚愕の声を高々と上げてしまう。

 

一方沖田の方はジャラジャラと音が鳴る鎖を手に持ちながら平然とした様子でこちらに顔を上げると

 

「おら、もっと早く歩け」

「…………」

 

完全服従の意を示す首輪をつけられ、項垂れている司波小百合を引き連れてやってきた

 

「いやどっからどう見ても大手を振って歩けねぇよ! 人妻相手に何やってんだアンタぁ!」

「大した事ねぇよ、ちょいと元に戻る前に色々とお喋りしてただけだから、こうやって」

 

『生々しい表現が長々と含まれてる為文字にする事は出来ません』

 

「本当に何があったんだよ! 説明できない生々しい表現って一体なに!?」

 

得意げに鎖を持ったまま小百合を連れて来た沖田に新八がツッコミを入れていると

 

彼の叫び声がうるさかったのか、それとも小百合の存在に気づいたのか

 

「さ、小百合……」

「おお! 見て下さい達茂さん! 龍郎さんが奥さんの気配に気づいて意識を取り戻しましたよ!」

「…………チッ」

「舌打ちした! 達茂さん思った以上に感情豊か!」

 

先程まで死ぬ一歩手前であったにも関わらず、愛の力が成したのか、ギリギリで蘇り目を見開くとともに立ち上がる龍郎。

 

彼の思わぬ生還に辰茂が小さく舌打ちしてる中で、龍郎は沖田に首輪をはめられている小百合を見てハッとする。

 

「お前私の妻に何を……! 許さん私が相手だ! うおぉー!」

「ええー!? 無茶だ龍郎さん! その体であのドSと称される沖田さんに挑むなんて!」

「返せ私の妻をぉぉぉぉぉぉ!!」

 

妻を奪われて何もしない夫など夫以前に男ですらない、例え勝てない戦いであろうと男としてどんな強敵であろうと立ち向かわねばいけない時があるのだ。

 

拳を振り上げ勇猛果敢に沖田に挑みかかる龍郎。

 

しかしその瞬間、沖田に首輪をつけられていた小百合が項垂れまたまま目をキラリと光らせ

 

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「どうふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

突如、龍郎目掛けて一気に距離を詰めてサマーソルトキック。

 

小百合の予想だにしていない行動力とその俊敏さに、龍郎は驚く暇もなくアゴに食らって宙を飛ぶ

 

「な、なんで……?」

「龍郎ォォォォォォォォォ!! しっかりするアルゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

顎をやられたおかげで意識が朦朧としている龍郎に必死に神楽が叫んでいると。

 

小百合はそんな彼等を気にも留めずに沖田の方へ振り返ると

 

「小汚いウジ虫を駆除しました、ご主人様」

「飼いならされてるぅぅぅぅぅぅ!! 既にもう沖田さんの従順なる飼い犬に躾されてるよあの人妻!! 今旦那の事ウジ虫って言ったよね!?」

 

沖田の前にひれ伏し、完全服従を誓う様に深々と頭を下げながら報告する小百合。

 

その姿を見ても沖田は何事も無かったかのように驚いてる新八の方へ顔を上げ

 

「よーしそれじゃあ蓮蓬達も残り少ないみたいだし、上手い事やっちゃって全員がハッピーになれるエンド目指しに行くか」

「なれるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 夫婦そろってバッドエンドに直行させた奴がどの口でほざいてんだコラァ!!!」

 

人二人不幸にしておいて最高のハッピーエンドって奴を志す沖田に新八がブチ切れながら叫ぶ。

 

ドSここに極まれり、例え女子供相手だろうと異世界の人であろうと一切の躊躇も見せずに調教してしまうその手腕は、敵としても味方としても恐ろしい。

 

「達茂さん! アンタの義理の母親が大変な事に!」

「幸せそうで何よりじゃないか、あの世へ行った親父もきっと草葉の陰で喜んでいるよ」

「どこが幸せ!? あと龍郎さんまだ生きてるから! 体どころか心もボロボロだけどまだかろうじて生きてるから!!」

 

珍しく朗らかな表情を浮かべてみせた達茂に新八はツッコミながらふと彼を見て気付く。

 

神楽と龍郎、沖田と小百合は無事に互いの身体に戻れたのに。達茂だけは以前達茂のままだ。

 

入れ替わり装置を破壊すれば彼もまた司馬達也と徳川茂茂に戻れると思っていたのだが……

 

「そういえば達茂さん、どうしてアンタだけ体に変化が無いんですか? まさか合体したらもう二度と元に戻れないんじゃ……」

「ああ、その辺の事については茂茂と合体してから気付いている」

「え?」

「今の俺は司馬達也であると同時に徳川茂茂、つまり互いの記憶も共有している生命体だ」

 

そう言うと達茂の表情が若干険しくなる。

 

「おかげで茂茂であった時の俺の行動や達也であった時の余の行動は全て把握している。そしてそれを共有した上で、俺はとんでもない過ちを犯していた事に気付いた」

「過ち!?」

「ああ、それは……」

 

どうやら合体すると互いの記憶や思い出の方も合わさってしまうらしい。

 

その結果、達茂は自分の身体が分離されない事にもあらかじめ気付いていた様だ。

 

彼等が元の身体に戻れない、その理由を彼が新八に語ろうとしたその時……

 

 

 

 

 

 

「お兄様ァァァァァァァァァァァ!!!!」

「……来たか、そろそろだと思ってたぞ二人共」

「え? ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

突如冷たい風が流れ込んで来たと思ったら、すかさず雄叫びのような声を上げて銀髪ロングの少女が足元を凍らせながら滑る様にこちら目掛けて突っ込んで来たではないか。

 

口を大きく開けて叫ぶ新八ではあるが達茂は彼女”達”の登場は事前に察していたらしい。

 

「だ、誰ですか一体!? 一見深雪さんにも見えますけどあの髪の色はまるで銀さん!」

「両方だ、あの二人は俺達も先に合体した生命体、坂波銀雪だ」

「銀雪ィィィィィィィ!?」

 

二人が融合する可能性を秘めているのは知っていたがまさかもうとっくに合体済みだったとは……

新八が呆気に取られていると坂波銀雪こと銀雪はこちら目掛けて大きく飛び上がり

 

「戻れねぇぞどうすりゃあいいんだぁコラァ!!」

「へぶんぬ!!」

「っておい銀雪さん! 龍郎踏んでる! 親父さん踏んでるから!」

 

ここまで踏んだり蹴ったりという表現にピッタリな目に遭った者を見るのは早々滅多にないであろう。

 

心身共にボロボロになっている龍郎の腹部目掛けて銀雪は思いっきり両足で着地すると、彼は短い声を上げてガクリと完全に力尽きた。

 

しかしそんな事を気にも留めずに銀雪は達茂の方へ額に青筋を浮かべながらブチ切れた様子で

 

「入れ替わり装置ぶっ壊したのに体が元に戻らねぇだよ! テメェ言ったよな! 入れ替わりの元凶を止めれば俺達の身体は元の身体に戻れるんだって! って、お前まさか……!」

「ああ言った、あのノートが正しければ俺達の身体は元に戻れる筈だとな、だが俺と茂茂もお前達同様何も変化しちゃいない」

「この野郎、随分と前と雰囲気変わったと思ったら……まさか将軍と合体してやがったとは……」

 

辰茂が達也と茂茂の融合体だという事に気付きつつ、銀雪はバツの悪そうな表情を浮かべるも腰に手を当てながらフンと鼻を鳴らし

 

「前よりはマシな面構えになったんじゃねぇか? お兄様よ」

「フ、俺は俺で色々と経験してきたって事さ」

 

互いに融合体である同士で言葉を交えていると、そんな二人の傍へ沖田がフラッと歩み寄って来た。

 

「流石旦那だ、ガキと融合して内部から調教するたぁ俺でも出来ねぇテクニックだ。だが旦那、せっかくの合体プレイだがそいつを終わらせるにはまずはこの事件の黒幕を倒さなきゃならねぇ」

「黒幕? 俺達がこうなった原因は蓮蓬じゃねぇのか?」

「ここにいる連中はみんな”アイツ”の手駒アルよ銀ちゃん」

 

沖田に続いて神楽もやってきた。どうやら二人は異世界で入れ替わっていた時に色々と自分達が知らない情報も掴んでいたらしい。

 

「私とコイツがここに来たのも、ここの連中を影で操って企み事してる奴をぶっ飛ばす為に来たんだヨ」

「おいおい聞いてねぇぞそんな事……つーか神楽? お前もしかして俺が深雪さんやってた世界にいたの?」

「おう、銀ちゃんの親父として陰ながら見守ってたアル」

「言えよ! なんで陰ながら見守ってるだけなんだよ! 俺超心細かったんだぞ! 訳の分からない世界にほおり込まれた上に周りは俺みたいに入れ替わってるバカしかしねぇし!」

「旦那、それにはちゃんと理由があるんでさぁ」

 

神楽もまた異世界に来てた事に今気づいた銀雪、しかしそこで沖田が間に入り、真顔で話を続ける。

 

「俺達も将軍様同様、コッソリと隠れながら独自に行動していたもんでね、ここに援軍としてやってくるのも、全ては”あの女”を倒す為に綿密に練った作戦の一つなんですよ」

「あの女……?」

「この入れ替わり現象は蓮蓬だけで成し遂げた事じゃねぇ、俺達と蓮蓬もあの女の手の平で踊らされてたんですよ、そう 全てを知り、全ての裏で暗躍していた真の黒幕」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”四葉真夜”の手の上で」

 

 

遂に明かされる全ての元凶の正体

 

 




やっとこさラスボスの名前が出てきた……ここまで来るの長かったです本当に。

本当は10話ぐらいで終わる予定だったんですけどね、けどやりたい事書きまくってたらいつの間にかこんな長丁場に……

何はともあれ無事に完結目指して最期まで気を抜かずに頑張ろうと思います。


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第三十四訓 司波&四葉

桂小太郎&七草真由美 蓮蓬VS連合軍が行われてる戦場のど真ん中

 

坂波銀雪 蓮蓬軍の最深部

 

高杉晋作&中条あずさ 行方知れず

 

 

そして坂本辰馬と千葉エリカはというと

 

「……アンタって本当に厄病神かなんかでしょ?」

「何を言うわしは幸運の女神に祝福されし商人ぜよ! せっかく互いに元の身体に戻れたっちゅうのになんたる言い草じゃ!」

「うっさいこの詐欺師、だったら周りにいる連中を見なさいよ」

 

他の者と同じく彼等もまた無事に身体取り戻す事が出来た。

 

エリカの方は独断で逃げ出そうとしたのだが、合流した坂本が彼女を無理矢理この舞台に引きずり込む。

 

その舞台とは

 

「こげな状況を前にしてよくもまあ言えたモンじゃなぁおまんはぁぁぁぁぁ!!」

「アハハハハハ! わしの土佐弁がまだ移ったままじゃぞ娘っ子」

 

エリカは刀を、坂本は銃を持って背中合わせの状態で

 

武装した蓮蓬達に囲まれてる絶体絶命のピンチであった。

 

彼等がいるのは地球人側、つまり味方陣営の筈なのにこの敵の数は一体

 

理由は至極簡単、入れ替わり装置が破壊された事によって皆の身体が元に戻れたのはいいものの……

 

それはつまり、今まで蓮蓬の身体で味方として戦ってくれてた地球人達も皆元の身体のある世界へと戻ってしまい、そして自分達の世界にいた蓮蓬もまた元の身体へと戻った事によって

 

『おのれ地球で好き勝手やっていたらまさかこの様な……』

『我らの計画を妨げるとは許さん』

『せっかくだ、元に戻れたのであれば反乱分子をまとめてここで』

『処刑してくれるわ!』

 

気が付いたら四方八方敵だらけになってしまったのだ。

 

「なーにが味方陣営なら安全よ! おもっくそ敵だらけじゃないのぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「いやーわしとした事がうっかりしちょった、よくよく考えればわし等も元に戻ったという事は、蓮蓬も元に戻った事になるんじゃったな、うん」

「うんじゃねぇ! アタシはもうこんな戦いなんかどうでもいいのよ! アタシが今も止めてるのは平穏なの! 植物の様に静かに暮らしたいのよ!」

「どこの殺人鬼じゃ」

「なのにアンタは最後までアタシの邪魔をしおってからに!」

「おいおい娘っ子、おまんも魔法使いとして今まで頑張って来たんじゃろ? その頑張りの成果は一体何処で使うきなんじゃ?」

 

後ろでガミガミ騒いでいるエリカに対して坂本は至って余裕そうに笑みを浮かべながら

 

「いつやるか!? 今でしょ! アハハのハ~!!」

「うおぉぉぉぉぉ斬りてぇぇぇぇぇぇぇ!!! 例えこんな所でこんなオバQに殺されようとも! せめてコイツだけは道連れにして死んでやる!!」

 

どっかで聞きかじった様な事をほざいて自分で笑い出すこの勝手な男に、エリカは周りにいる蓮蓬よりもこの男に対して強く殺意が芽生え始めていると

 

「あ! 大変じゃ娘っ子! どうやらわし等だけじゃなく他のモンも襲われとるらしいぞ!」

「は? アタシ自分以外の人間がどうなろうが構わないんだけど? こっちが精一杯なのに他の奴等の事なんか気にしてる場合じゃ……」

 

急に向こうを向いて何かを見つけたのか、慌てて叫ぶ坂本に釣られてエリカは睨むようにそちらへ振り向くと

 

「ウホ! ウホ!」

「ウホホ! ウッホ!」

『大人しくしろゴリラ』

『バナナやるから』

「ってなんでゴリラがこんな所にいんのよぉぉぉぉぉぉ!! しかも2頭も!」

 

見るとそこには2頭のゴリラが自分達と同じく蓮蓬達に囲まれているではないか。

 

怯えつつも強気にうなり声を上げるゴリラに警戒しつつもジリジリと歩み寄って行く蓮蓬達、殺すつもりはなく捕まえるだけのつもりらしい。

 

あまりにも訳の分からないその光景にエリカが叫んでいると、坂本はハッとした表情を浮かべ

 

「ダブルか! っちゅう事はつまり……ダブルゴリラか!」

「言い方なんてどうでもいいでしょうが!」

「いかんぜんよ娘っ子! ダブルゴリラがピンチじゃ! はよ助けんと連中に捕まってしまうぞ!」

「こっちが殺されかけてるのにいちいちゴリラの保護なんてやれるかボケェ!」

 

相も変わらずアホな事を抜かす坂本にそろそろエリカが本気でブチギレかけていると……

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、こげな時も相変わらずみたいじゃなダブルアホ」

「!」

 

突如頭上をフッと何者かがこちらに悪態を突きながら飛び越えて通り過ぎていった。

 

エリカが一瞬その者が現れたことに目を大きく見開き

 

「アンタは毒舌冷徹最悪副艦長!」

「陸奥ぅ! 生きとったんかぁワレぇ!」

「待っとれ、今すぐ助けちょる」

 

それは宇宙船待機所にて巨大ゴリラと戦っていた筈の快援隊副艦長・陸奥であった。

 

思わぬ助っ人にエリカが驚き、坂本が喜んでいるのも束の間、すぐに陸奥はヒラリと衣を靡かせながら、大切なモンを護る為に戦場へと舞い降りる。 

 

「ダブルゴリラは貴様等に渡さんぜよ!」

『ぐへぇ!』

『あ、新手か!』

「って助けるのってゴリラの方かいぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

すぐ様2頭のゴリラを捕まえようとしている蓮蓬達を豪快に蹴りで薙ぎ倒してく陸奥。

 

まさかの艦長と自分よりもゴリラを優先するこの冷酷なる副艦長に、さすがにエリカも度肝を抜かれた。

 

「てんめぇ助ける相手間違えてんでしょうがぁ!」

「どうやらゴリラは無事の様じゃの、良かった良かった」

「ウホホーイ!」

「ウホウホ!」

「シカト!? なんなのアンタ!? 副艦長止めて動物愛護団体にでもなったの!?」

「陸奥ぅ! はよ手ぇ貸してくれぇ!!」

 

無事にゴリラを助けて安堵している様子の陸奥にエリカと坂本が必死に叫んでいると

 

「ようお二人さん、元に戻れたっていうのに災難だな」

 

突然周りを囲んでいた蓮蓬の一人が豪快にぶっ飛ばされる、死角無き陣形に一つの穴が開くと、そこから拳を力強く握ってこちらに向けている少年が一人

 

「良かったらこの西城・レオンハルトが助太刀するぜ?」

 

陸奥に続いて現れたのは彼女と共に戦ってい西城・レオンハルト、通称レオであった。

 

晴れ晴れとした笑顔で自分を親指で指す彼に対し、エリカと坂本はジーッとしばらく真顔で眺めた後

 

「「……いやお構いなく」」

「えぇぇぇぇぇぇ!? なんでさ!?」

「……言いたくないんだけどさ」

 

助けに来てくれたというのにそれをやんわりと断った二人の反応にレオが口を大きく開けて叫ぶと

 

エリカは髪を掻きむしりながら申し訳なさそうに

 

「正直、物凄く目立たないアンタが出ても仕事してくれるとは思えないのよね、アンタに出番割くなら他の主要メンバーにスポットライト浴びせた方が作品として面白くなると思うし」

「なにその漫画家の担当みたいな言い方!? 助けに来たんだぞこっちは!」

「まあ助けに来てくれた事はわしも感謝しとるよほんに、けども読者が求めるているのはあくまで何かと濃い個性を持った面子の活躍なのであって」

「という事で、もう少し設定練って色々と補正加えてから出直して来なさい」

「ぬぐおぉぉぉぉぉぉ!!! 俺の存在って一体なんなんだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

先程までに慌てふためいていたクセに、レオの事になった途端冷静にアドバイスを送る坂本とエリカ。

殴られてないのに心臓にグサリと刺された様な鋭い痛みが走り、レオが両手で頭を押さえながら悲痛な声で嘆いていると

 

 

 

 

 

 

「いえいえ、彼はよくやってくれていました。そこにいる彼女と一緒に蓮蓬と巨大ゴリラを引き付けてくれていたおかげで、我々は無事にこちらに入りこめられたのですから」

「「!!」」

 

突如こちらまで繋ぐ通路から聞き覚えの無い声が耳にする坂本とエリカ。

 

そしてその声が聞こえたと同時にキーンと何かやけに耳でしっかりと聞き取れた小さな音。

 

すると周りにいた蓮蓬達がドタバタと無言で倒れていくではないか。

 

「なんじゃ一体! 蓮蓬達がみな何もせずとも倒れおったぞ!」

「いきなりどういう事よコレ!」

「ご安心ください、殺しはしません。彼等に非はあってもそれを責める事は”共犯者”である我々には出来ぬ事ですから」

「共犯者?」

 

倒れていく蓮蓬達の安否を確かめる様に坂本がしゃがみ込んでいると、通路の奥からツカツカとしっかりとした足取りで声の主が静かに現れた。

 

その者はかなり年を食ったような白髪の老人の男性であった。しかし垂直に立って真っ黒な背広を身に纏ったその姿は老人と呼ぶには無礼であるとさえ感じるぐらい紳士的な姿をしている。

 

「お初にお目にかかります、わたくし、四葉家の執事長を務めさせてもらっている葉山忠教と申します」

「四葉家? はて? どこぞで聞いた事があった様な……」

「アンタさぁ、アタシの世界に長い間いたんでしょ? 四葉家って言えば十師族に入ってるとんでもなくヤバい一族じゃないの。それぐらい誰だって知ってるわよ普通」

 

葉山と名乗るその紳士的なご老人に対し坂本が首を傾げているとエリカがすぐに脇で彼の横腹を小突く。

 

「あまり公には出ずに裏でコソコソと怪しげな事やってるって有名なんだから」

「おっしゃる通りです、我々四葉家の者達は秘密主義を第一にとても表には出せない様な事を繰り返して来ました」

 

エリカの失礼な物言いに対しても葉山は表情崩さずに深々とお辞儀し、彼女の言葉を否定せずに受け取るとゆっくりと顔をこちらに上げた。

 

「しかしそれも今までの話、わたくし達がここへ来たのはその四葉家の者がずっと秘蔵していた秘密を自ら暴く為にやって来たのです」

「……どういう事じゃ?」

 

自らが隠し通していた秘密を自らで暴く? その言い方に坂本がグラサン越しに葉山の顔を覗き込んでいると、彼の隣に陸奥が2頭のゴリラを引き連れてやって来た。

 

「この入れ替わり騒動をおっ始めたのは蓮蓬でもSAGIでもない、コイツ等の当主じゃ」

「なに!? っちゅう事は地球人でありながら地球を蓮蓬に売ったっちゅう事か!?」

「おまんも似たような事はやっちょるじゃろうが、ただコイツ等の当主はおまんなんかよりもずっとイカレちょるみたいじゃぞ」

 

どうやら陸奥はもう葉山という男から事情を深く説明させてもらっていたらしい。

そんな彼女を坂本の背後からジト目を向けていたエリカが面白くなさそうに

 

「なんでアンタがそんな事知ってるのよ、もしかしてコイツ等と通じてたスパイなんじゃないでしょうね?」

「俺と陸奥さんはもうこの人達から話は聞いてんだよ、変に勘繰ろうとするなよアホのクセに」

「アンタはここぞという時に出てこようとしないでくんない? 二度とでしゃばらないようその口針で縫い合わすわよ?」

「コイツ元の世界に戻ったら絶対ぼっちにさせてやる……」

 

元の身体になってから更に性格が悪くなったエリカにレオがワナワナと拳を震わせてる中

 

坂本の方へ葉山は静かに歩み寄る。

 

「正確に言うと私も元はあなた方と入れ替わり組です、元の世界で彼女に対して幾度も止めるべきだと進言していた結果、謀反人扱いされ蓮蓬を手を組んだ彼女によって異世界へと飛ばされていました」

「なんとそうじゃったんか!」

「その時は”平賀源外”という男と入れ替わっていましたね、一人暮らしの自由気ままな生活ライフ……正直楽しかったです」

「いやそんな事アタシ等に言われても……」

「いやホントマジでパネェっすわ、誰にも指図されずに生きていける隠居生活とかマジジャスティス」

「なんか急に間違った若者言葉使い始めたわよこのジジィ! なんなのこのアグレッシプなジジィは!」

 

表情は変わってないのに口調が後半から思いっきり変わり始めた葉山

 

何処かで聞きかじったのか、最近の若者の言葉っぽくなった彼にエリカがツッコミを入れていると、葉山は再び深々とこちらに頭を下げる。

 

「私達はあなた方の世界に住む将軍、徳川茂茂公の要請を受けてここまで参ったのです。それは四葉家を護る為と同時に、現当主の彼女にこれまでの過ちを償ってもらう為に」

「ほほう、ならば説明してもらうとするかの、その四葉家の現当主がどうしてこないな事しでかしたのか」

「無論、全て包み隠さず教えます、その為に私と入れ替わっていた平賀源外殿ははるばるあなた方の下へやって来たのでしょう」

 

坂本は銃を下ろして腕を組み、エリカはまだ疑ってるような目つきで話を聞く態勢に入る。

 

そして葉山は教えてくれた

 

四葉真夜が企み実行したその大いなる陰謀を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂本達が葉山から話を聞いている頃、反対方向にいる坂波銀雪は合流した仲間達の一人、沖田総悟の口から放たれた四葉真夜という名前に一際大きく反応していた。

 

「よ、四葉真夜だぁ!? まさかこの事にあの野郎が絡んでやがったのか!?」

「絡んでるも何も、この事件が起きた原因は全てあの女の仕業なんですよ旦那」

「あんの腐れババァァァァァァァァ!!」

 

全ての元凶が彼女だと知った銀雪は怒り狂ったように足元から地面を凍らせ始める。

 

怒りによる感情で体内の魔力が暴走仕掛けているのだろう、新八は慌てて足元を氷漬けにされないよう避けながら

 

一体何のことだと彼女に問いかける。

 

「ぎ、銀雪さん知ってるんですか!? その人の事!?」

「ったりめぇだろうが! 俺の中の司波深雪と! そしてお兄様の実の叔母上だよ!」

「お、叔母ぁ!? てことは達也さんと深雪さんの身内がこんな大騒動やらかしたんですか!? 僕等の世界も巻き込んで!」

「そうだよ! あのババァは昔から一族巻き込んで下らねぇ事ばっかやってんだよ!!」

 

銀雪の口調は銀時そのモノだが、紛れも無く司波深雪の精神も記憶も混合している。

 

だからこそ彼女もまた四葉真夜という存在がいかに厄介なのかをハッキリとわかっているのだ。

 

「腹黒だし! お兄様を利用するし! 年増だし! 企み事ばっかしてるし! 若者に対しての嫉妬心剥き出しだし! 狡猾だし! オセロ滅茶苦茶弱いしでホント俺達に兄妹にとっては目の上のたんこぶなんだよそいつは!」

「いや所々どうでもいい事が含まれてるんだけど? なに!? オセロ弱かったのその人!?」

「弱いのなんの毎回4隅取られるぐらいの雑魚だ、なのに会う度に毎回リベンジしようとしてくるからウンザリしてたわいつも」

 

ラスボスの思わぬ弱点に新八が驚いていると、銀雪の隣に立っていた達茂も軽く頷いてみせる。

 

「俺達にとって伯母上は必ず倒さねばならない相手だった、魔法師としての実力は正にトップクラス、狡猾であり残忍な行いにもなんの躊躇もなく実行するその残虐さは正に裏世界を牛耳る魔女と称される程だ、だが確かにオセロは弱かった」

「やっぱオセロ弱いんだ! 前半の恐ろしさが全てオセロ弱いで消し去ったんだけど!」

「負ける度に「私はオセロよりチェス派だから」と下らん言い訳を毎回して来るんだが、執事長の葉山さんに聞いたら「ぶっちゃけチェスのルールさえ知らない筈ですよ」と正直に答えてくれた」

「そこは答えてやるなよ執事長! テメーの当主の面目丸潰れじゃねぇか!」

 

なんというか随分とスケールが小さくなった気がする……新八は疲れたようにため息を突いて、とりあえずその四葉真夜とは彼等にとっては倒すべき宿敵みたいな人物らしい、オセロは弱いみたいだが

 

「とにかく平気で悪事を働く生粋の悪人って事でいいんですよね」

「それで概ね間違ってないな、ちなみにテーブルゲームは全般的に弱いがテレビゲームだとえげつない程強い、スマブラとか」

「そういやあのババァ、ずっとピーチ姫使って来るんだよなぁ……毎回ここぞという時にキノピオガードでカウンター決めるからマジ腹立つわホント」

「アンタ等本当は仲良いだろ!? 仲悪そうに言ってるけど! 叔母さんと甥っ子と姪っ子がテレビゲームに熱中してる時点で、テレビゲームのCMに使えそうな微笑ましい光景しか想像できねぇよ!」

 

なんで上手くまとめようとしたのにまたこの兄妹は叔母さんの事でまた熱く語り合おうとするのだろうか……。

 

本当は叔母さんの事好きなんじゃないかと?と新八は疑念を抱きながらも

 

二人をスルーして今度は沖田と神楽の方へ振り返った。

 

「とにかく……沖田さんと神楽ちゃんはこの兄妹の両親と入れ替わってからは、ずっとその四葉真夜の事を調べてたって事で良いんだよね」

「当たり前アル、私はコイツと違ってちゃんと真面目に世界を護る為にあちこちオッサンの身体で走り回ってんだヨ」

「テメェだって遊んでただろうが」

 

睨み付けて来る神楽に沖田はすぐに目を細める。

 

「テメーの会社売っぱらって酢こんぶ工場建ててたのはどこのどいつでぃ」

「それは夢だったから仕方ないネ、私は大好きな酢こんぶを製造する為に身を粉にして働くしがない工場長になるのが夢だったんだヨ」

「ちょっとぉ神楽ちゃん!? 人の身体使ってなにとんでもねぇ夢実現させてんのぉ!?」

「元の身体ではお金なかったアルからな、龍郎のおかげで私の悲願が達成できたからその事にだけは感謝してやるヨロシ」

「感謝されても嫁さん寝取られた上に帰る会社も無くなっちまったんだけど龍郎!」

「私の代わりに工場長になればいいアル、私の夢は龍郎に託すネ」

「夢という名の絶望だろそれ!」

 

司波兄妹の実の父親事、司波龍郎。彼の事を本気で不憫に思う新八。

 

ちなみに現在彼は気絶した状態で銀雪に踏まれたままである。

 

「銀雪さん! 薄情な兄貴と違ってせめてアンタだけでも親父さんの心配を!」

「ギャハハハハ! 聞いたかよお兄様! ウチのバカ親父工場長にジョブチェンジだってよ! これでもうお兄様に自分の会社に就職しろとか言わなくなるな!!」

「そうだな、親父には酢こんぶ工場長として一生俺達と関わらない人生を送ってもらおう」

「……あ、やっぱ嫌ってんだ妹の方も」

 

ざまぁみろと言わんばかりに下品な笑い声をあげて達茂の肩をバンバンと強く叩き始める銀雪。

その喜ぶ反応を見て新八はすぐに気付く、彼女もまた父親に対して嫌悪感を持っていた事を

 

「なんか仲良いんだか悪いんだかよくわからない一族ですねアンタ等……」

「名家と称される魔法師の一族なんてそんなもんさ、一族内で争ったり斬り捨てたりするなどどこでもある事だからな」

「なんだかシビアな世界ですね、まるでウチの世界の将軍家みたいじゃないですか」

「そうだな、似たような境遇に置かれてるから司波達也と徳川茂茂も上手く適合出来たのかもしれん」

 

四葉家の一族同様に徳川家もまた血に塗れた一族だ。

 

互いに利用し合い、騙す、捨てる、殺す、陰謀渦巻くその場所は、一般人である新八にとっては別世界にも見えた。

 

しかし達也と茂茂にとってその世界で生きる事が日常であり、彼等にとってはおかしいとは思いつつもその日常でしか生きられなかったのだ。

 

そういう二人だったからこそ、彼等は互いを信じる事ができ、こうして徳川達茂として新たな融合体になれたのかもしれない。

 

「だからこそ四葉真夜を倒すのは同じ一族である俺の役目だと思ってる、元々いずれは倒すつもりだったんだ、この機会を逃す手はない」

 

覚悟を決めた様子でそう宣言する達茂に隣に立っていた銀雪がはぁ~と呆れたようにため息を突く。

 

「まーた俺の役目だのなんだののたまってやがるよこのお兄様は、同じ一族なら俺も一緒だろうがよ、あのババァぶっ倒すなら手ぇ貸すぜ? こっちもずっと鬱憤溜まってたんだ、オセロの時みてぇに伯母様をボコボコにしてやるよ」

「好きにしろ、もうお前は俺の後ろに隠れる必要はないんだからな」

「随分と妹の事をご理解できるようになったモンだな、これも将軍様と合体した影響か?」

「フ、残念ながら将軍との融合の影響じゃない、正真正銘司波達也としての意志だ」

 

銀雪の加勢を達茂が微笑みながら素直に受け入れていると、そこで突然、沖田が人差し指を立てながら口を開いた。

 

「盛り上がってる所悪いんですけど、アンタ等、四葉真夜の奴がどこにいんのかわかってんですかぃ? この星に潜伏してるとは思われてるんですが、一体どこに隠れてんのかさっぱりで」

「あの世界でも”抜け殻”しか残ってなかったアル、全くどこほっつき歩いてるんだか……」

「抜け殻……?」

 

しかめっ面を浮かべ珍しく頭を悩ませている様子の神楽が口走った言葉に銀雪がピクリと反応して片眉を傾けると、彼女に対して達茂がボソリと呟く。

 

「いずれ本人に会えばわかる事だ、それよりまずは伯母上を探さねば」

「……そうだな」

 

達茂は司波達也として短い間向こうの世界で生きていた茂茂の記憶を持っている

 

茂茂はあちらの世界では色々と巡りに巡って様々な情報を入手していたらしい

 

つまりこちらの事情や真夜の企み事もとっくに知っていたのだ。

 

抜け殻とは一体……達茂は知っているのであろうが未だ状況を掴み切れていない銀雪は、数々の疑問が頭に浮かびながらも

 

とにかく四葉真夜の捜索に専念する事が最優先だと決めた。

 

しかし

 

そんな彼女達に静かに忍び寄るは強大なる敵

 

『探す必要はない』

「「「!!!」」」

 

それは唐突に向こうからやって来た。

他の蓮蓬と違い、全身黒づくめの蓮蓬がシュコーと呼吸のような音を放ちながらプラカード片手に現れたのだ。

 

新八と神楽はその姿を見てすぐに彼の正体に気付く。

 

「お前は米堕卿!」

「諦めの悪い奴アル、また私達の前に現れるなんて」

 

 

米堕卿

 

それはこの星に住む蓮蓬の中でトップに君臨する者であると同時にこの星の核であるSAGIそのモノだ。

 

彼の登場にいち早く新八と神楽は戦闘態勢に入ろうとするが、米堕卿は一枚のプラカードをこちらに掲げて見せた。

 

『今は貴様等と戦う暇はない』

「なに!?」

『今の目的はそこにいる愚かな兄妹をあの方の下へ連れて行く為だ』

 

そう書かれているプラカードを裏返すと、米堕卿は達茂と銀雪の方へと振り返る。

 

『余計な手間を省かせて貴様等の望みをかなえてやる』

「おいおいお兄様、どうやら奴さん自ら出迎えてくれるらしいぜ、俺達を」

「そのようだな、探すのに時間を費やす必要が無いのであれば無下に断る必要も無い」

 

銀雪と達茂は軽く目を合わせた後、米堕卿の誘いに乗っかる事を決めた。

 

願っても無いチャンスだ、彼が連れて行こうとしているその場所にこそ、恐らく彼女が……

 

そして二人の思惑に対し、米堕卿は二人が承諾したとわかったのか、踵を返してこちに背を向けたまま、新たなプラカードを取り出すのであった。

 

『では行くとしよう、我等の歴史を塗り替えて蓮蓬の新たな王として君臨成されたあの方』

 

 

 

 

 

 

 

『銀河帝国皇帝・Mの下へ』

 

 

 




この作品のタメになるかなとスターウォーズシリーズをよく見てるんですが

個人的に一番カッコいいのはクワイ=ガン・ジンかなと思う今日この頃です

でも残念ながらウチにはクワイ=ガンみたいな役割できそうな奴はいません。

ジャー・ジャー・ビンクスは一杯いるんですけどね


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第三十五訓 皇帝&奴隷

大変嬉しい事がありました。

詳しくは作者が別に書いている金曜零時投稿予定の竿魂の6話にて


真の黒幕が蓮蓬ではなく四葉真夜だとわかった銀雪と達茂の前に現れたのは、この星そのモノであり最強の蓮蓬・米堕卿が彼女達の前に現れる。

 

『ここから先はそなた達二人で行け、正確には四人と呼ぶべきか』

「上等だ、パチモンベーダ―、なに企んでるか知らねぇが直接本人に聞いてやらぁ」

「あの女狐の事だ、下らん小細工を仕掛けて俺達を待ち伏せにしているんだろうが、果たして今の俺達に通用するかどうか見物だな」

 

二人が上等だという風に身構えていると、米堕卿の背後から突如、天井からゆっくりと階段が下りてくる。

 

コレに乗って上層部の最上階まで行けという事か、銀雪と達茂は互いの顔を合わせて頷くと、二人揃って歩き出す。

 

恐らくこれから上で起こる戦いがこの事件の終着地点、侍として、魔法師としての信念を掛けた最後の戦い。

 

それを理解した志村新八はここで一緒に行こうとするのは無粋な真似だと悟り、ただ言葉だけを投げかける。

 

「銀さん、深雪さんに達也さん、そして将軍様……僕たちの地球、二つの地球をお願いします」

「……新八、あのババァは確かにアホな所はあるが紛れも無く最強の魔法師だ、万が一にも俺がヘマするかもしれねぇ、だから最後にコレだけは言わせてくれ」

「はい」

 

歩みを止めて銀雪は真顔でこちらに振り返って来た。

 

その顔は正に司波深雪そのモノだが、その瞳に灯された光はまさしく坂田銀時が腹をくくった時に灯される魂の光だ。

 

いつになく真剣な表情でこちらを見つめる彼女、侍としての言葉を絶対に頭に留めようと新八が力強く頷くと

 

彼女はジッと彼を見ながらゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

「なんでお前、さっきからずっと全身真っ白でブリーフしか穿いてないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

最後になるかもしれないからと投げかけて来た言葉を聞いて

 

新八は真顔で固まった。

 

全身をくまなく白に染め上げ、身に付けている物はブリーフ一丁というこの上ないマヌケな恰好で

 

「……すみませんもう一度お願いしますか? なんか今凄い事が聞こえたような気がしたんですけど? おかしいな幻聴かな? 僕疲れたんでしょうかね……」

「いやだから、なんで周りの奴等はみんなちゃんと服着てるのに、お前だけそんな超ラフなスタイル貫き通してるの?って言ったの、なにお前、もしかして気づいてなかったの? 気付かぬ間に衣服を捨て去り全身ホワイトコーティングで今までずっと戦ってたの?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

頭の上に「?」を浮かべてこちらに目を細める銀雪の反応を見てやっと新八は己の外見に気付いた。

 

彼の言う通り確かに新八の見た目は新手の露出狂そのものだった。

 

今まで何故ずっと気付かなかったのか、新八は己のあられもない姿に悲鳴のような絶叫を上げるばかり

 

「な、なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なんで僕だけこんな格好のままなの!?」

「俺、というより司波深雪の記憶を辿って見たんだけど、お前17話からずっとそのまんまの姿だよ」

「ウソだろオイ! 17話って確かニセ山崎さんと一緒に反乱軍の所へ向かう回でしたよね! そういえばあん時に蓮蓬にバレない様ニセ山崎さんにこの格好させられたんだった! ていう事はあそこからずっとこの状態だったの僕ぅ!?」

 

銀雪の説明を聞いて己の現状の経緯を知った新八は頭を両手でささえながらショックを受ける

 

そんなあまりにも情けない姿をしている彼を見て銀雪は思わず吹き出しそうになりながらも話を続けた。

 

「まあ、そこから「新八は体に塗られた白いペンキを落とし、脱いでた服を再び着直した」って描写があればよかったんだけど、お前ずっと今自分がどんな状態なのかっていう背景描写なかったら仕方ないんじゃね?」

「それただの作者の書き忘れじゃねぇか!! じゃあなんですか! ボクは今までずっと白ブリーフ一丁で施設を歩き回り! ブリーフ一丁で異世界の人達と交流を交わし! あまつさえブリーフ一丁でずっと戦っていたんですかぁ!?」

「まあそうなるわな、ブフッ!」

「笑うんじゃねぇ自分だって変な見た目してるクセに! なんでずっと黙ってたんだよ!」

 

振り返れば振り返る程恥ずかしくなっていく新八に遂に銀雪は噴き出してしまった。

 

「いやいや現に俺もずっと頭の中で「なんでコイツブリーフしか穿いてないの? 俺が異世界行ってる間になんかに目覚めた?」とか思ってたけどさぁ、それをとやかく探るのは無粋だなと思ってずっと黙ってたんだよ、ほら、人って誰しも聞かれたくない事情の一つや二つあるっていうだろ?」

「なに変に気ぃ使ってんだよ! 探れよ! そこはとことん探って聞かなきゃダメな事だろ! 穴が空くまで探り当てなきゃいけない事だろうが!」

 

噴き出してなお未だ笑いが込み上げてくるのを必死に耐えてる様子の銀雪に新八が素足で地団駄を踏んで抗議していると、背後にいた神楽も含み笑いを浮かべて

 

「実は私もずっと気になってたアル、「あれ、なんで新八あんな格好してるの? 人として恥ずかしくないの!? 眼鏡として恥ずかしくないの?」ってずっと思ってたんだけど、なんかヤバいし関わりたくないからずっと黙ってたネ、ぐひひ」

「ふざけんな! 人が誤った道を歩いてるのを黙って知らんぷりするとかテメェ等の血の色は何色だコラァ! せめて同じ万事屋として汗水流して働いて来たアンタ等ぐらいはツッコんでくれよ!」

 

こちらに対して完全にバカにしてる表情を浮かべて嘲笑している神楽をぶん殴りたい衝動に駆られながら新八が怒鳴り声を上げる。

 

しかし彼がそんな反応をすればするほど、周りにとっては面白く見えるだけ、沖田はおろか彼の持つ鎖に繋がれてる司波小百合まで、こちらに顔を隠しつつ体を小刻みに震わせている。

 

その場で真顔でいられるのは辰茂と、さっきからずっと黙っている米堕卿だけであった。

 

「それじゃあもう行くわ、最後にコレだけ言えてスッキリした。もうこれで思い残すことはねぇわ、そんじゃ」

「オイィィィィィィィ! とんでもない核弾頭落としておいて何勝手に行こうとしてんじゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そう言ってそそくさと銀雪は達茂と共に歩みを再開する。

 

言いたい事だけ言っておいてラスボス戦に挑もうとする彼女に新八がキレながら呼び止めようとすると

 

彼女は最後に口を手で押さえたまま顔だけ振り返り

 

「もしも次に会う時があったら、そんときは真っ当な人間として……せめて真っ白な靴下履いてくれるぐらいには更生してくれているのを願ってるぜ! ぶははッ!」

「最後の最後にまた噴き出しやがったよアイツ! 四葉真夜頑張れ!! 性根の腐ったおっさんと少女をこの世から抹殺してくれ頼むから!!!」

 

親指立ててとても美少女とは思えない笑みを浮かべてゲラゲラ笑うと達茂と共に階段を駆け上がっていく銀雪

 

走りながらもなお「ブハハハハハッ!」と盛大に笑い声を上げている彼女の背中に向かって、新八はラスボスであろう彼女の叔母に熱いエールを送るのであった。

 

「あの野郎今度会った時はとっちめてやる! もう万事屋なんて辞めてやるよチクショウ!」

「ならウチの酢こんぶ工場のマスコットに転職させてやるヨ、だから今後一生その姿でいろよグヒヒ」

「マスコットがブリーフ一丁の全身真っ白男とかどんな酢こんぶ工場だ! どうせマスコットになるなら呪怨のマスコットになってやるよ! テメェ等全員呪い殺してやるよ!」

 

銀雪の次は神楽が面白おかしく茶化してくるので新八がヤケクソ気味に返していると……

 

ずっと傍観役に徹していた米堕卿がゆっくりとプラカードを掲げる。

 

『さて、貴様等をここで始末するのも悪くはないが、どうせいずれ消えゆくのみだ』

 

踵を返して彼もまた、銀雪達が昇った階段を上がっていく。

 

『せめてもの慈悲で最期の時間をゆっくり送らせてやる、死の瀬戸際まで精々足掻いて見せろ』

 

それだけ残すと米堕卿の床下がおもむろに穴が空き

 

 

『さらばだ』

「あ!」

 

そこからスッと彼は真っ逆さまに落ちていく。

 

恐らく四葉真夜と同じく彼も何やら企んでいるのだろう……

 

残された自分達はどう動くべきかと新八が一人悩んでいると……

 

「ハァハァ……不覚……」

「雫! しっかり!」

 

こちらに向かっておぼろげな足取りで歩いて来るのが二人。

 

声がしたので新八達が振り向くと、そこにはどうやら負傷している様子の北山雫と、彼女の肩に手を回して懸命に歩かせている光井ほのかがいた。

 

二人がどうしてここへ来たのかわからないが、どうやらここに来る途中で何かあったらしい。

 

新八は銀雪や神楽への怒りを忘れて慌てて二人の方へ駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですか!? その子なんかヤバそうですけど!」

「ハァハァ……いやそっちの見た目の方がヤバいと思うんだけど、白ブリーフ一丁とか無いわぁ……」

「余計なお世話だコノヤロー! やっぱりみんな気付いてたよ! 気付いてた上でスルーしてたのかよ!!」

 

ほのかに肩を回されてようやく立ち上がってる状態の割にはごもっともな正論を叩く雫に新八がツッコミを入れていると、彼女の代わりにほのかが顔を上げて説明する。

 

「実は……ここに来る途中で高杉さんって人とやり合ったせいで……」

「え!? あの高杉さんが彼女をやったんですか!? まさか体が元に戻れたからもう手を組む必要はないと考えて!」

 

嫌な予感が頭をよぎる。もしやこの状況に置いて内部からの裏切りが……

 

不安で表情をこわ張らせる新八に対し、ほのかは言いずらそうに目を逸らしながら

 

「いやその……どういう経緯かは省略するけど、雫が高杉さんの……」

「チンコ取ってやろうとしたら突然キレられて襲われました……無念」

「100%オメェが悪いんじゃねぇか!」

 

一体どういう経緯でそうなったの?と疑問に思う新八だが

 

きっと彼女の事だからクソ下らない事なんだろうなとすぐに理解し、聞かずにスルーするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリーフ一丁の青年が女子高生に接近して怒声を浴びせるという事案が発生している頃

 

銀雪と辰茂が階段を駆け昇った先には、とてつもなく広い空間がそこにあった。

 

「ここが頂上か、随分と広いがなんもねぇな」

「……」

 

足を床に乗せるとそこは見渡す限り何も置かれてない殺風景な場所であった。

 

ドーム状に作られたその部屋は、天井も壁も全て透明な窓が貼られており

 

まるでプラネタリウムにいるかのように頭上には多くの星々が点々と見える。

 

そしてその部屋のほぼ中心の位置に唯一置かれている豪華な玉座にて

 

「ようやく会えたな、伯母上」

 

達茂が言葉を投げかけた先に、この星の新たなる主が座っていた。

 

その者は全身を灰色のローブで身を包み、顔はすっぽりフードに覆われているせいで何も見えない。

 

銀雪達が来たというのに動じず騒がず何も言わず、ただこちらを優雅に眺めているかのように

 

玉座の上で足を組んだ状態でジッと座っていた。

 

 

「やれやれ元気そうで残念だ」

「久しぶりに甥っ子姪っ子と会えてどんな気分だ伯母上様?」

「……」

 

真ん中にポツンと座る人物に二人が言葉を掛けながら接近していくと、玉座に座りしその者は肘掛けの上に置かれていたプラカードをスッと掲げる。

 

『待ちくたびれちゃったわ、達也さんに深雪さん』

「プラカードだと? どうして蓮蓬と同じ会話手段を使う、地球人のアンタが」

『フフフ、ちょいとしたお遊びよ』

 

プラカードをすぐに裏返して返事するその者に対し、辰茂はあと数メートル程の距離にまで達した時にピタリと足を止めると、銀雪もそれを見て同じく歩くのを止めた。

 

”アレ”に無闇に接近するのはマズい、ここで距離を取り相手の出方を伺おうという考えなのだろう。

 

当然それは玉座に座りし王もわかっている様子で、小刻みに体を震わせながらさもおかしそうに笑っている。

 

『用心深さは相変わらずみたいね、それで? 遥々こんな辺境まで来て何をしに来たのかしら?』

「それを言葉にする必要は無いだろう、長年ずっと伯母上の寝首を掻こうとしていた俺だ。ここでやる事といったらただ一つ」

「スマブラでリベンジだ、ピーチ姫使ってかかってこい。お兄様のマリオと俺のルイージの真骨頂を拝ませてやるぜ」

「いやそっちじゃない」

 

隣りで腕を組みながら真顔で見当違いな事を言う銀雪に短く否定しながら、達茂は前方を見据える。

 

「伯母上、アンタはあらゆる者を翻弄し、破滅させ、それを上から眺めて愉悦に浸る事だけに快楽を見出している様な愚かな人間だった、だがまさか、関係の無い世界まで巻き込んでここまでバカな真似をするとはな、アンタのその下らない人生、悪いがここで終止符を打たせてもらう」

『随分とおしゃべりになったのね達也さん、将軍様の身体をプレゼントしたかいがあったわ、随分とはしゃいじゃって、フフフ』

「おいお兄様、やっぱコイツ気味悪いわ、さっさとぶっ飛ばそうぜ」

『深雪さんの方も上手い具合にパートナーと一つになれたようで安心したわ、なんだかんだで相性ピッタリね』

 

辰茂の些細な変化と銀雪の大きな変化を見て、その者は満足げな反応をしていた。

 

全てこうなる事も計算の内だったという事だろうか

 

『四葉の跡継ぎに良い婿候補が出来たという事かしら?』

「いやぶっ飛ばすんじゃなくてやっぱ殺しましょうかお兄様、ミンチにしましょう、ミンチ、もしくは牛裂きの刑に処しましょう」

「そうだな、俺も義弟が年上となるとどう対応していいか困ってしまう」

「え、その程度の困り具合なの? 俺達が結婚しても困る事はそれだけなの本当に?」

 

茶化された事で一気に殺意が芽生え始めた銀雪だが、達茂は意外にもアッサリとした反応を見せる。

 

それに対し銀雪は軽くショックを受けながらも彼女はスッと指を玉座に座る王に突き付けながら口を開く。

 

「兎にも角にもだ、まずはテメェが一体どうやってこんな真似ができたのか教えてもらおうか、伯母上様、いや四葉真夜」

『あらそんなこと聞きたかったの? まあそんなに長くもならないし、久しぶりにあなた達と喋りたいってのもあるし構わないわよ』

 

意外にもすぐに話をしてくれるらしいが、やはり説明方法は口ではなくプラカードのみである。

 

『最初に彼等、蓮蓬と出会ったのは四葉家が宇宙に秘められた謎を解く為に調査を行っていた時よ』

「宇宙調査だと、テメェ等さてはロクでもない事を企んで……」

『いや私が「宇宙凄ぇー神秘的だからもっと見てみたい」と思って発案しただけなんだけどね』

「それただのテメェの個人的な願望じゃねぇか! 一族巻き込んでじゃねぇよ!」

『そして私達の世界の地球近辺で、僅かに生きてるかのような反応を持っていた破片を見つけたのよ』

 

全ての始まりが思った以上にしょぼい理由で生まれたことに銀雪がツッコむが、その者は話を続ける。

 

『その破片こそがSAGIのコアだった、彼はとある戦いに敗れ、身体がバラバラになってもなお生き延び、異世界に渡る程の執念を持って飛んで来ていたのよ』

「……あの野郎、くたばったと思ってたがまさか生き延びて異世界にまで……」

『コンタクトは向こうからだったわ、宇宙を調査している私達に気付くと、かろうじてまだ備わっていた通信傍受を行って、四葉家の下へハッキングを試みて会話を行い出したの』

 

SAGIが敗れたというのは当然坂田銀時達一行との戦いの事であろう。

 

蓮蓬の母星であるSAGIのまだここで消える訳にはいかないという並々ならぬ執念を感じた。

 

『私は直接彼と対話してい内に色々と教えてもらったわ、異世界の存在、天人という宇宙生命体、土星の輪っかはガスで出来てるという事』

「いや3つ目はちょっと調べればすぐわかる事だから」

『そして私はSAGIと取引を行った、その膨大なる知識を四葉家、いえ私自身に譲渡する代わりに、この星にある技術であなたの身体を復活させると』

 

あろう事かこの者は、SAGIの持つ危険思想と宇宙の奥深くまで知っている人類が到達できない程の高度な知能を求めたのだ。

 

そしてその結果

 

『SAGIの身体は徐々に形成され、遂には自力で自己の身体を修復できるように至った。そしてその途中で私は様々な化学兵器の作り方を学び、独自に研究を重ねた結果、偶発的にあるモノが生まれたのよ、それが……』

「入れ替わり装置……」

『ええ、察しが良いわね深雪さん、アレは元々私が自分の身体から別離する為に生まれたモノだったのよ、私、この世で一番嫌いなのは何よりも己自身だったから』

 

そうプラカードを掲げつつ、玉座に座りし王は己の体をローブの上からそっと触る。

 

『SAGIは私の作った入れ替わり装置に随分と興味を持ったらしくてね、それでこう持ち掛けてきたのよ、「滅ぼしたい星があるからそれを使わせてくれ」とね』

「なるほど、話が見えて来た、で? そっから俺達はSAGIの連中にモルモットとして臨床実験に付き合わされるハメになったのか」

『面白い体験だったでしょ? けど入れ替わったのはあなた達だけではないわ』

「なに?」

 

やはり全ての根源はSAGIを支援し、更には入れ替わり装置を造り上げてそれを連中に譲渡した四葉真夜のせいだったのだ。

 

散々な目に遭った事を思いだし銀雪は煮えたぎる怒りを静かに抑えつけていると

 

『そう、私自身も入れ替わりを望み、新たに生まれ変わったのよ』

「な!」

『SAGIのおかげで異世界の存在を知り、更には向こうの世界と干渉出来る事を知った私は、あなた達の世界で偶然にもとんでもないモノがある事を知った、それは未だかつてない強大で凶悪な魔力を秘めた地球人……』

 

驚く銀雪をよそに、その者は歓喜に満ちたかのように体を震わせながら話を続ける。

 

『深雪さんや達也さんはおろかこの私でさえ太刀打ちできない程の力を秘めた存在……魔法分野に疎いその世界では、その者がどれ程恐ろしい力を持っているのかを誰も気付いていなかったのよ、その者本人でさえ』

「マジかよ……俺達の世界にそんなすげぇ奴が隠れてたなんて……一体どこのどいつだ」

『フフフ、今あなたの目の前にいるわよ深雪さん』

「!」

 

そう言うとずっと玉座に座っていたその者はスクリと立ち上がり、おもむろに自分の顔を覆うフードに左手を掛けた。

 

『そして私は遂にその体を手に入れる事が出来た、私が開発した入れ替わり装置のおかげでね』

「まさかテメェが入れ替わった相手ってのは! その最強の力を秘めた奴だってのか!」

『最初に入れ替わった時はその者の不憫な境遇のせいで長く辛い生活が待っていたわ、しかし耐え抜いた先に私はついに手に入れた、この最強の体を手にした私は晴れてSAGIを統治する新たな当主の座に着く事になったのよ、この……』

 

驚愕する銀雪を前にし

 

遂にその者はずっと身体を覆っていたローブをバッと翻し

 

新たなる己の身体を披露したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このマジでダークな王、略してマダオと呼ばれし”長谷川泰三”の体があれば、私を阻むのはこの世から誰一人いなくなったという事なの」

坂場銀雪の時がしばし止まった。

 

目の前で遂にプラカードではなく自らの口で宣言し、優雅に不敵な笑みを向けて来るその男は

 

あまりにもみずぼらしい格好をした、無精ひげを生やす冴えないグラサンを掛けたオッサンだったからだ。

 

銀雪は真顔でその姿を数秒程眺めると、静かに目を閉じてまた何かを考えるように数秒間置いた後

 

再びパチッと目を開けるや否やすぐに隣に立つ達茂の方へ振り返り

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃもう帰るかお兄様」

「そうだな」

「えぇ!? ちょ! ま! なんでそこで帰ろうとするの!? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

自らの口で大声を上げるまるでダメなオッサン、略してマダオである長谷川泰三を放置して

 

銀雪は達茂と共にこの場から去る事を決めるのであった。

 

最終決戦とかもうどうでもいいやという感じで

 

 

 

 




銀さんたちはもう完全にやる気ゼロみたいですが、ちゃんと戦いますのでご安心を

でも相手があんなオッサンだったらきっと楽勝ですね!


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第三十六訓 魔女&駄男

前回の話の後、感想数がいつもの4倍以上も貰えました

さすがに予想外でした


四葉真夜がこんなにも人気あったキャラだったなんて……


○月×日

 

私がSAGIの力と技術を下に創り出した入れ替わり装置は無事に起動が成功したようだ、こちらの世界の人間と異世界の人間の魂を入れ替えてみたらしい、最初の被検体は達也さんと深雪さんが入学する予定の学校の女子生徒だとか、向こうの世界の誰と入れ替わったかは不明だが、これで私の野望に第一歩近づけた

 

□月△日

 

今度はSAGIにとって最も憎むべき相手を対象に入れ替わりを行ったみたいだ。なんでも向こうからノコノコと出向いて来た所を狙い撃ちしたらしい、現在は千葉家の妾の娘の体になっているとか。

我々の世界に来たその男(今は少女だが)も今頃自分の身に置かれた状況に混乱しパニックになって絶望しているであろう

 

△月□日

 

続いてSAGIはまた自分達を脅威に晒した人物に装置を発動した。名は桂小太郎と言うらしいがどうでもいい。

今度は七草家の長女と入れ替えさせたみたいだ、七草家……あそこの一族はいずれ潰しておこうと思っていた所だ。

自慢の娘の変貌した姿を見てあの男がどんな反応をするか考えるだけで気分が高揚する。

 

×月×日

 

ゴリラの入れ替わりに成功、てかなんでゴリラ?

 

 

○月○日

 

達也さんと深雪さんも入れ替わり装置で向こうの世界に飛ばすよう蓮蓬に指示、二人が向こうの世界でどんな風になってしまうのか個人的に興味があったからだ。近い内に行う予定らしいが、それを実行する頃にはもう私も……

 

○月□日

 

私に歯向かって来た葉山を異世界に送ってやった、これで邪魔する者は誰もいない。

精々向こうの世界で慣れない生活に苦しむがいい

 

β月Ω日

 

この日記を再び書くのは当分先になるであろう、何故なら今日、私は入れ替わり装置の力で向こうの世界へと飛び立つのだ。

失敗するなど微塵も考えていない、今私の中にあるのは一刻も早くこの醜き体から解き放たれて、最強の魔力を秘めている者の体へと宿ろうとする執着心だけだ。

その体と入れ替わる事によって初めて私の野望が動き出す、もはや四葉などどうでもいい、この世界さえも

 

宇宙最強の魔法師となって全て滅ぼしてあげるのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

「そしてその日、私は異世界で長谷川泰三という一人のオッサンに生まれ変わったのよ」

「バカじゃねーの?」

 

四葉真夜という己を捨て去り新たに長谷川泰三となった彼に向かって、とりあえず話だけ聞いてやっていた坂波銀雪が死んだ魚の様な目を向けながらボソリと一蹴した。

 

「お前そのオッサンがどんだけダメな生き物か知らねぇの? 何がマジでダークな王だよ、どっからどう見てもまるでダメなオッサンじゃねーか」

「フッフッフ、知らないのはあなたの方よ、この体に秘めたる恐ろしい力があるの。私は汚らわしい四葉真夜の身体から脱却した事により! この新たな体でありとあらゆる存在を破壊し続けるわ!」

「いやそれ以上に汚らわしい体なんざこの世に存在しねぇよ」

 

胸を張って堂々と宣言する長谷川に対し冷たくツッコミを入れながら、銀雪は隣に立っている達茂の方へチラリと目を向ける。

 

「どうすんのお兄様? 事件の黒幕がこのマダオとかマジやる気出ねぇんだけど? もう帰りたくなってきたわ」

「俺も同じ気持ちだがやはり伯母上の言っている事も少々引っかかる」

 

完全にやる気が削がれた様子でウンザリしている銀雪だが、達茂の方はまだ警戒心を薄めていないみたいだ。

 

「宇宙最強の魔法師、もしあの体が本当にそんな大層なモノになれる器だとしたら、今後野放しにしておくのは非常に危険だ」

「大丈夫だって、あの長谷川さんだぞ? 確かにゴキブリ並の生命力は持っているけどよ、スライム以下だろあんなの」

「確かに今もあの身体から魔力は感じられない、だが用心していつでも動ける準備はしておこう」

「いやもういいですってばもう、ラスボスが長谷川さんとかホントやる気出ないんすよウチ」

 

しっかり油断するなと忠告する達茂ではあるが、銀雪の方はすっかり油断しきっている状態で長谷川の方へ目をやる。

 

「大体よくその体で今まで生きてこれたなアンタ、セレブな一族の伯母上が没落してホームレスになったオッサンに転職したのによく環境に順応出来た事は褒めてやるよ」

「確かに長谷川泰三としての生活は地獄の様だったわ……」

「うわ、急に泣き出しやがったよコイツ、もうラスボスの風格完全に失ってるよ、既に見た目だけで失ってるけど」

 

ふと思ったから尋ねてみただけの銀雪に、長谷川は突然グラサンの奥から一筋の涙を流しながら語り始めた。

 

「職も無いわ家も無いわで公園の中でダンボールで体を包んで夜を過ごす毎日……」

 

『お、お腹減って眠れやしない……屋敷の食事とベッドが恋しい……』

 

「あるのはこのグラサンと膨大に膨れ上がった借金のみ……」

 

『長谷川さ~ん! いい加減ウチの所で借りた金とっとと返してくれやせんかねぇ! こちとらもう我慢の限界なんでさぁ!』

『えぇぇぇぇぇ!? いやそれは私が借りたんじゃ……!』

『ふざけた事言ってんじゃねぇ! お前等この野郎を事務所に連れてけ! 監禁して身ぐるみ剥いでやれ!』

『いやぁぁぁぁ!監禁して身ぐるみ剥ぐとかもう100%犯されるぅぅぅぅぅぅ!!!』

『んな気持ち悪い事誰がするかボケェ!!』

 

「何処へ行っても周りから汚物を見る様な目で見られ、その視線に耐えながら飢えを凌ぐためにゴミ箱を漁る毎日……」

 

『やったぁ! 捨てられた弁当にまだおかずが残ってるわ! このエビフライの尻尾で2日は生き延びられる!』

『銀ちゃん、マダオがゴミ箱漁りながら凄い嬉しそうな顔してるアル』

『またゴミ漁ってんのかよあのおっさん……近寄りたくねぇからそっとしておいてあげようぜ』

 

「なんか普通に俺出て来た! 何それ全然記憶にねぇんだけど!?」

「ひもじい生活を送りながら、場末のスナックで安酒を飲んで知り合いと語り合うだけが唯一の楽しみだったわ……」

 

『辛い! 辛すぎるわこんな生活! ついちょっと前はセレブでリッチな生活だったのに! どうして私がこんな目にィィィィィィィ!!!」

『まあまあ落ち着いてください長谷川さん。生活が大変なのは私も同じです、こんな体になってしまって私も毎日が辛くて仕方ありません……ああ、どうして私が……こんな銀髪天然パーマのクソみたいな男にィィィィィィィ!!』

『うるせぇんだよお前等! 店で喚き散らすなら出て行きな! つーか銀時! オメェはさっさと家賃払え!』

 

「また出て来たよ銀さん! しかも今度は入れ替わってるよね!? コレ体は銀さんだけど中身は深雪さんだよね!? うっそだろ全然覚えてねぇ! 俺達いつの間にかラスボスになった長谷川さんを見たり関わったりしてたの!?」

 

長々と語り出した長谷川の地獄のような生活を聞かされて、銀雪は頭を抱えて叫んでいると。

 

長谷川はまだグラサンの奥から涙を光らせながらズビッと鼻水をすする。

 

「でも私は頑張ったの! この体に宿る力をコントロールする為に必死に頑張ったの! 自動販売機の下から小銭を回収しつつ魔力の解放を出来る様にし! ゴミ置き場の空き缶を拾い集めながら魔法の展開を覚え! スーパーの試食売り場の前で恥も捨てて数時間ずっと立ちっぱなしで待機しながら独自に編み出した魔法式を計算し! 遂に私は正真正銘最強の魔法師になれたの!」

「そんな最底辺の生活送りながら最強の魔法師になれたら今頃河川敷の下は最強だらけだバカヤロー」

 

どっからどう見ても最強とは程遠い存在である長谷川泰三。

 

とても信じられないという表情で銀雪は目を細めながら冷ややかにツッコミを入れるとボリボリと髪を掻きむしる。

 

「なんだよコレ、こんな奴と戦う為に俺達ここまでやって来たのかよ。俺もうやってらんねぇわ、お兄様代わりに倒してくんない? デコピン一発で消し飛ぶと思うからよろしく」

「フッフッフ……」

「あ?」

 

戦う気すら起きない様子で全て辰茂に任せようとしていたその時

 

突如長谷川は不敵な笑みを浮かべて、背後にあった玉座を軽く揺らす。

 

「ならこれを見てまだあなたは戦う気は無いという訳?」

「そ、そいつは!」

 

長谷川が玉座を軽く手で揺すった瞬間、その微かな揺れで玉座の背中に立て掛けてあったモノがバタリと横に倒れて銀雪達の目の前に現れた。

 

それを見てさっきまでやる気の無かった銀雪の目の色が一瞬で変わる。

 

「良かった……無事にここまでやってこれたみたいですね……」

 

現れたのは一見普通の姿をした蓮蓬だった。

 

しかしその蓮蓬はプラカードを用いずに肉声を用いてこちらに話しかけて来た。

 

その姿は所々に穴が空いた状態ですっかりボロボロに。

更に穴からは出血が出ており、かなり消耗しきっている危険な状態であることが明白だった。

 

銀雪は彼を見てその声を聞いた瞬間、ふとどこかで聞いた声だったような気がして表情をこわ張らせた。

 

この声は確か学校にいた時……それに中条あずさを探しに隣町に行った時も……

 

「残念ながら僕達の力では銀河皇帝を倒す事は出来ませんでした……やはりこの者を倒すのは私達が託した希望であるあなた達しかいません……」

「フ、希望という名の下らない妄想ね」

「調子に乗ってるのも今の内ですよ銀河皇帝……私は先輩として、共に生徒会の一員として、司波兄妹の未知数の底力を信じています、そして僕もまたかつて共に戦って来たから知っている、坂田銀時はお前が想像するよりも強いって事を……がはッ!」

 

蓮蓬の言葉を遮って、長谷川は微笑を浮かべながら既に瀕死である彼に向かって深々と食い込む程の蹴りをお見舞いしてぶっ飛ばす。

 

その光景を見て銀雪の目が見開いた瞬間、ぶっ飛ばされた蓮蓬は激しい音を立ててこちらに向かって落ちて来た。

 

「ぐふ……どうやら私達もここまでのようです……最期に謝っておきます銀時さん、司波深雪の住所を教える時に思いきり石ぶつけてすみませんでした……」

「お前が……! まさかお前が俺の事を陰ながら助言していた正体だったのか!?」

「それと会長にも謝っておいてください……共に国家転覆をしようと言って下さったのにこんな道半ばで終わる私を許して下さいと……」

「いやそれはむしろ会長の方がお前に謝った方がいいと思うんだけど、ふざけた事言って誑かしてすみませんでしたとか」

 

この蓮蓬の正体が薄々わかって来た銀雪、恐らく彼は自分や達茂と同じく『融合体』

”あの二人”はずっと今の今まで自分達の助けになる為に影に徹して動き続けてくれていたのだろう。

 

それがわかった銀雪は急いで彼を助けねばと歩み寄ろうとすると、その者は最後の力を振り絞るかのように、こちらに向かってゆっくりと顔を上げる。

 

「あなたが腰に差しているその得物……私達の世界で作ったその木刀は特殊なデバイスが内蔵されたCADです……そいつで銀河皇帝に強烈な一撃を叩き込めば、奴の恐るべき力を封じ込める事が出来るはずです……!」

 

そう言われて銀雪はずっと前に司波家の家の前に差出人不明の状態で置かれていた自分の木刀と瓜二つな得物を右手で握って掲げた。

 

「そうかお前……こうなる事を事前にわかっていやがったのか、そしてその為にこの木刀を俺に託して……」

「わかりますよそりゃ……桂さんに高杉さん、坂本さんに銀時さん……この四人が揃えば、宇宙の果てであろうと辿りつけるって信じてましたから、僕が僕だった時からずっと……」

「……」

「……後は頼みました、私と僕の世界をどうか護ってください……」

 

それだけ言い残し、彼はガクリと再び倒れて動かなくなった。

 

最期の言葉を聞き届けて銀雪は、彼、否、彼と彼女の正体が完全に把握していると、隣に立って一緒に話を聞いていた達茂がスッと前に出て、倒れた蓮蓬の前にしゃがみ込む。

 

「気を失っただけだ、重症の様だが俺の力ですぐに体の修復は可能だ」

「……そうか」

「着ぐるみを脱がして正体を見てみるか?」

「……その必要はねぇ、中身なんざ見なくても、そいつ等がどれだけ俺達の為に戦ってくれたのかわかれば十分だ」

「そうだな」

 

達茂が静かに頷くと、銀雪は目の前でほくそ笑む長谷川を見据えながらスッと二本の木刀を構える。

 

もうやる気が無いとか戦う気が失せたとか、そんな気持ちは微塵も無い。

 

今あるのは二つが一体と化した魂から迸る熱い闘志、それだけだ。

 

「予定変更だ、お望み通りこの場でぶっ倒してやるよ伯母上様」

「あらやっと本気になってくれたみたいね、その無様な融合体を殺さず生かしておいて正解だったわ」

「勘違いすんじゃねぇ、もはや四葉家とか世界を救う為だとか、そんなちっぽけな事なんざどうでもいい、俺は俺の魂に従ってテメェを宇宙の彼方に葬る」

 

彼女から放たれる強い戦意と気迫を肌で感じながら、長谷川は微笑を浮かべたままかかってこいと言わんばかりに両手を横に広げ待ち構えて来た。

 

そして銀雪はキッと鋭い眼光を光らせながら、二本の得物を携えて彼を睨み付ける。

 

 

 

 

 

 

「『俺の先輩』と『私の後輩』、そいつ等をやった落とし前、坂波銀雪がこの場で着けさせて頂く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラストバトルが始まる頃合い、銀雪と達茂を見送った新八達の方は現在進行形で面倒臭い事態に陥っていた。

 

「なんか春雨の奴等が一杯出てきたんですけど!!」

「コイツ等きっと状況が掴めていない下っ端共アルな」

「やれやれ、さっさと逃げねぇとヤベェってのに」

 

新八達を取り囲むのは蓮蓬ではなく春雨の連中を根こそぎ集めたかのような、まさに無法者と呼んでいい粗末な軍団であった。

 

入れ替わり装置が破壊された事も、更には蓮蓬達の大半は全て徳川達茂が倒した事も

 

もはや地球人と戦う理由はこれっぽっちも無い事にすら気付いていない。

 

袋のネズミだと言ってる様にニヤニヤと笑って勝利を確信している表情をしてるのが、もはや哀れみすら感じる。

 

新八が驚く中で神楽と沖田は呆れたように周囲を見渡しつつ、さっさと終わらせようと前に出る。

 

「勝負しようぜチャイナ娘、俺とお前でコイツ等をどれぐらい倒せるか」

「望む所アル、ここいらで私の本気を見せてお前の負け面拝ませてもらうネ」

「へ、そいつは俺の台詞でぃ……行くぜ!」

 

どちらがより多くの敵を倒せるか勝負を仕掛ける沖田に神楽は彼の方へ振り向かないままフンと鼻を鳴らして受けて立つ。

 

そしてそれを合図とするかのように、沖田は前方に群がる敵に向かって高々に……

 

「いっけぇーメス豚2号! 君に決めた!!」

「シャァァァァァァァァァァ!!!!」

「戦うのお前じゃないんかい!!!」

 

沖田の叫び声に応えるかのように、彼に付けられた首輪をはめて永遠の忠誠を誓った司波小百合が奇声を上げて春雨軍団に向かって襲い掛かって行った。

 

まさかの人妻、しかも素手で戦いに来るなど思ってもいなかった敵は一瞬困惑の色を浮かべるが

 

「ニャアァァァァァァァ!!!」

「おぼへぇ!!」

「つ、強いぞこの女!」

「まるで正気を失ってるかのように突っ込んで来たと思ったら! 無茶苦茶暴れて手に負えねぇ!」

 

身近にいた雑魚に向かって引っ掻くわ殴るわ怒涛の連続攻撃をお見舞いする小百合。

 

動きも読めないそのバーサークっぷりに、春雨の連中は手を焼いて迂闊に近づく事が出来ない。

 

それを見て沖田は戦おうとする姿勢すら一切見せずに、静かに傍観しながら人差し指を立てる。

 

「説明しよう、俺のメス豚2号こと司波小百合は、数々の調教により人体の眠らされた力が活性化、人間性が失われたと同時に俺に対する忠誠心と強靭な運動神経、そして全てを破壊しかねない程の凶悪さを手にしたのだ」

「なにその悲しみを背負った殺人マシーンみたいな設定!? アンタ一体どんな事したんだよあの人に!」

「ちなみにメス豚1号は作者の処女作である「3年A組銀八先生!」に出て来る柿崎美砂である、アイツ今頃どうしてるのかな?」

「どうでもいいわ! 向こうはとっくの昔に完結してんだからそっとしておいてやれよ!」

 

どうでもいい補足を説明する沖田に新八がいちいちツッコんであげていると

 

「く! あの人妻中々やるアル! ここは私も奥の手を使わせてもらうネ!」

 

沖田、というより小百合の活躍に負けじと神楽も勢い良く身を乗り上げた。

 

「いっけぇ龍郎ぉぉぉ!! 君に決めたァァァァ!!」

「うわぁぁぁぁぁ! 絶対無理! 私じゃ絶対死ぬ!」

「いやいやいや龍郎さんはダメだよ神楽ちゃん! その人ただの一般人だからね!」

「うるせぇ! 私は龍郎の力を信じるアル! 龍郎! だいばくはつ!」

「その命令の時点で一ミリも信じてねぇだろお前!」

 

前々回に妻と娘にボコボコにされ、やっとこさ復活したばかりの司波達郎に向かって神楽はビシッと敵に指を向けながら命令。

 

しかし龍郎は当然そんな真似出来やしない。狂気化した小百合と違い、生まれつき魔力が多いという才能を持つだけの極々普通の人間なのだ。

 

断固拒否の構えで神楽の背後に引っ込む龍郎、しかし神楽には彼の中にあるやる気を燃えさせる為の秘策があった。

 

「おいおいそれでいいアルか龍郎? 今ならまだ間に合うかもしれねーんだゾ、テメーの女をあのドS野郎から解放出来るチャンスをみすみす捨てるつもりアルか?」

「なに!? 私の小百合が戻って来るチャンスだと!? それは一体なんなんだ!?」

「簡単な事ヨ」

 

息子と娘には冷たくされ、仕事は酢こんぶ工場長にされ、そして何より愛する妻をドSの王子様に寝取られてすっかり精神ボロボロな状態であった龍郎にとってそれは願ってもない朗報であった。

 

藁にもすがる思いで龍郎は必死な形相で神楽に尋ねると、彼女はニヤリと笑ったまま親指で前方の春雨軍団を指差して

 

「連中全員はっ倒して、あの女にイイ格好見せつけてやりゃあいいアル」

 

そんな無茶苦茶な提案を聞いた龍郎は、無言で彼女の背後から離れ

 

スタスタと敵の方へ歩いて行くと

 

「クソッタレェェェェェェェェェェェ!!!!」

「うべるぼッ!」

「龍郎行ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ある意味逝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ヤケクソ気味に気合のストレートを敵の一人にお見舞いする龍郎。

 

新八が絶叫している間に、突然刃向かって来た龍郎目掛けて他の連中が彼に襲い掛かる。

 

「この野郎よくもやりやがったな!」

「囲んで袋にしちまえ!」

「うわぁ! ちょ! ちょっとタイム! 話せばわかる! 私はただ妻を取り戻したい一心で……!」

 

凶悪な面構えに囲まれた事でつい一時のテンションに身を任せて迂闊な行動をしてしまった事を後悔する龍郎。

 

しかしそんな彼の下へ救いの女神が

 

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「「「ぐはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

「さ、小百合ぃ!?」

 

なんという事だ、沖田によってすっかり別人となってしまったと思っていた小百合が、ここでまさかの龍郎の為に周りの敵を飛び蹴りで華麗にぶっ飛ばしてしまう。

 

窮地を脱して龍郎は感動して泣きそうになりながら、敵を倒してくれた小百合に歩み寄ろうとすると

 

「信じていたよ小百合、そうさ、君はやはり私にとってかけがえのない愛する妻……」

「……おい」

「え?」

 

嬉しそうに顔をほころばせる龍郎の方へと振り返った小百合は、地べたを這う虫けらを見るかのような目つきを向けながらガシッと両手を伸ばして彼の腕を取ると

 

「丁度いい時に来たわね、アンタの身体使わせてもらうわ……!」

「へ!? 小百合! それって一体どういう……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「オラオラオラオラオラオラァァァァァァァ!!!!」

 

龍郎の両腕を後ろから持って、そのまま豪快に彼の身体を振り回し始める小百合。

 

その猛烈な回転力は小百合の攻撃力を更に上昇させ、周りにいる敵たちを次々と飲み込んでは天高くぶっ飛ばしていく。

 

「に、逃げろぉ! アレに飲まれたら死……うぶわぁぁぁぁ!!!」

「ギャァァァァァァァァ!!!」

「フハハハハハハハハ!!!!」

「助けて新八くぅぅぅぅん!!!」

 

敵の悲鳴と小百合の笑い声、そして龍郎の助けを呼ぶ声が辺りに木霊する中で

 

原因を作った張本人である沖田と神楽はそれを眺めながら

 

「倒してるのはウチのメス豚2号だから俺の勝ちだな」

「何言ってんだテメェ、私の龍郎を武器として使ってるんだから倒してるのは龍郎アル、だから私の勝ちネ」

「オメェ等この期に及んで何勝負の結果で言い争ってんだよ!!」

 

どちらが勝負に勝ったのかと不毛な議論を展開する二人に、新八は後ろから声を荒げて怒鳴り声を上げるのであった。

 

「あんな夫婦共同作業初めて見たよ! 新手のSMプレイだろこんなの!」

「そう熱くなさんな白ブリーフ、ここは冷静に考えてみて」

「誰が白ブリーフだ! ってアンタいつの間に僕の背後に!」

 

歪んだ夫婦の絆を前にして新八が叫んでいる所に、背後から彼に向かって静かに話しかけてきたのは

 

彼等と一緒に行動している北山雫だった。

 

「こんなにも司波夫婦が大活躍している劣等生二次作品は、後にも先にも私達だけだと自信を持って言える」

「そんな自信いるかボケェ!! それで人気取れると思ってんのかおのれは!」

 

仏頂面なに誇らしげに言ってんだと北山に新八が口調荒めにツッコんでいると、雫と一緒にいたもう一人の少女、光井ほのかもまた前に出る。

 

「ていうかこうやって言い争いしてる間にもあのおじさんヤバいんじゃないかな? さっきまで泣いてたのに今は白目剥いて笑ってんだけど……」

「ハハハ……アハハハハハハハハ…………」

「しっかりしろ龍郎! 自分を見失うな!」

 

上機嫌な様子で振り回してる小百合とは対照的に、振り回されてる側の龍郎はすっかりおかしくなってしまっている。

 

さすがにもう限界だろ、と新八は慌てて彼に向かって檄を飛ばしながら台風の様に辺りをぶっ飛ばしていく司波夫婦に向かって勇気を出して駆け寄ろうとすると……

 

 

 

 

 

 

「待ちな、あんなんでも義理の兄夫婦だ、ここは俺が敵を先に片付けてアイツ等を止めてやる」

「……え?」

 

不意にポンと肩に手を置かれて立ち止まらされる新八。

 

そして同時に背後から聞こえたのは男性の口調ではあるが今まで聞いた事の無い女性の声……

 

一体誰だと新八が振り向こうとする、だがその動作を行う前に、彼の目の前で謎の人物の言う「止める」という行為は既に実行されていた。

 

「あ、がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「か、身体に穴が! ぐふッ!」

「なんなのだ! これは! 天から光が注がれたかと思えば俺達の体中に無数の穴が……な……ぜ……!」

 

突然頭上から数えきれないほどの光の雨が春雨の敵のみを捉えて、次々と降り注がれていくではないか。

 

その光に照らされた敵は体中に無数の穴を作って体で光の道を差した途端、蒸発するかのように体もろ共消滅。

 

敵だけをピンポイントに狙いを定めて次々と消滅していく様を見せつけられ、新八は振り向くのも忘れて呆然と立ち尽くす。

 

「こ、これはもしかして魔法……? 一体何が起きたんだ……」

「魔法だけど、私達とは次元が違い過ぎるレベル」

「凄い……あんなにいた敵が一瞬で……」

 

ものの数十秒程しかかからないあっけない決着。

 

これには新八だけでなく雫も眉をひそめてその凄さに言葉を失い、ほのかもまたあっという間の出来事にどう対応していいのか困惑している様子。

 

程無くして敵がいなくなったことに気付いた小百合は龍郎を振り回すのを止めて、苦々しい表情を浮かべて舌打ちすると、両手に持っていた彼をポイッとゴミの様に捨てた。

 

「終わったみてぇだな」

「!」

 

背後からまた聞こえたその人物の声に新八はハッと思い出して改めて背後に振り返る。

 

そこに立っていたのは優雅に口に咥えたタバコからモクモクと煙を上げながら女性だった。

 

ブリーフ一丁の新八が思うのもなんだが、場違い感半端ない黒いドレスに身を包ませている。

 

その見た目は妖艶な美と呼ぶべきか、とても言葉では現す事が出来ない

 

まるで無理矢理にでも惹きつける程の強烈な美がそこにあった。

 

しかしそんな美しい女性なのであるが難点が一つ

 

 

 

 

 

彼女の美貌には不釣り合いなグラサンだ。

 

「あ、あなたは一体……え? ちょっと待ってください、そのグラサンとタバコを吸う姿を前に何処かで見たような……もしかしてアンタ……」

「新八君、細けぇ話は後にしてくれ、俺は俺のやる事を為す為にここまで来たんだ」

「なんで僕の名前を……えぇ! ひょっとしてアンタ! まさかアンタの正体は!」

 

絶対にあり得ないだろと思いながらも、その姿を見ている内に段々と「とある男」が脳裏に浮かんでくる。

 

口を大きく開けて新八がショックで言葉が出てない内に

 

彼女は口に咥えていたタバコをポイッと床に捨てて前方を見据える。

 

 

 

 

 

「『マダオ』を止めるのは『マダオ』だけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

本作でブリーフ一丁の新八を見た魔法科高校の劣等生キャラの反応

 

司波深雪の場合

 

(……恥ずかしくないんですか?)

 

司波達也の場合

 

(何かの作戦だろうか……とりあえず尋ねるのは止めておくか)

 

渡辺摩利の場合

 

(うわ……真由美がおかしくなるわけだ、やっぱ向こうの世界の住人は頭がおかしい)

 

リーナの場合

 

(こういう輩は抹殺しておくのが世の為ね)

 

十文字克人の場合

 

(ふむ、よく見るとかなり鍛えているな。貴重な戦力になりそうだ)

 

光井ほのかの場合

 

(なんだろう、ストレスかなんか溜まってんのかなあの人……お気の毒に)

 

北山雫の場合

 

(向こうの世界ヤバ過ぎ、永住しよう)

 

司波小百合の場合

 

(恥が眼鏡掛けて歩いてるわ)

 

司波龍郎の場合

 

(完全に変態だけど、言動はこの中で一番まともっぽいし、いざとなった彼に頼ろう……)

 

四葉真夜の場合

 

(監視カメラで覗いてたらいきなり露出狂が現れた件……)

 

???の場合

 

(私達の代わりに銀時さん達をよろしくお願いします)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近DTVでドラゴンボール観てます

なんか悟空がスーパーサイヤ人ゴッドとかいうとんでもないのに進化してました。

いやぁ今もなお進化する悟空さは凄いですね本当に

まあ私が一番心打たれたのは敵役の破壊神ことビルス様だったんですけど、何アレ超かわいい。


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第三十七訓 話戦&魔戦

長谷川泰三vs坂波銀雪&徳川達茂のラストバトルが始まろうとしてるその頃。

 

坂本辰馬達は突如やって来た異世界の住人、葉山から長谷川泰三の身体を奪い、更にはこの騒動の首謀者である四葉真夜の恐るべき実態を聞かされていた。

 

「なるほど、まさか事の発端がそちらさんの世界のモンだったとはの。まっこと驚きじゃ、よもやあの蓮蓬にほんにテメーの星をば売り飛ばすモンがおったとは」

「そういう事です、あなた方の世界にも多大な迷惑を掛けてしまい、なんとお詫びしてよいのやら」

「いやいやお互い様じゃきん、そもそもSAGIはわし等の世界で生まれたモンじゃしの。悪いのはどちらの世界でもなか、真に謝るモンはSAGIとその真夜とかいう女ぜよ」

 

 

深々と当た目を下げて詫びる葉山に坂本は手を横に振って謝罪はいらないと答えると、何やらゴリラの頭を撫でてしつけを行っている陸奥の方へ振り返る。

 

「陸奥、コイツはほんに厄介な事になっとるの。四葉真夜、わしも長い事向こうの世界におったがそげな名前全く知らんかった、毎日充実した学生ライフをエンジョイしておったからの」

「アタシの体で好き勝手やってたみたいね」

「構わん、ハナっから貴様の事なんぞ当てにしておらんかったからの。どうせおなごの身体になれた事を幸いに女風呂でも覗いて夢中になっておったんじゃろ?」

「アハハハハハ! バレた?」

「本当にアタシの体で好き勝手やってたのね、いつか絶対殺すわ」

 

陸奥の鋭い読みに坂本はヘラヘラと笑いながら素直に白状すると、傍で聞いていた千葉エリカは自分の体を利用してすっかりいい思いしていた事を知って額に青筋を浮かべながら頬を引きつらせる。

 

「とりあえず黒幕がわかったんならそいつ倒しに行けば解決なんじゃないの? アタシは絶対に行かないけど、さっさと宇宙船に乗って元の世界に帰る、アタシの目指すエンディングはそれのみよ」

「別に首謀者の正体が分かったからといってわし等が戦いに赴かんでええじゃろ、こっちには金時にヅラ、それに入れ替わり騒動で一番ブチ切れちょる高杉がいるんじゃき。アイツ等に任せちょればええんじゃ」

「面倒事はごめんって訳? 珍しくアンタと気が合ったわね」

「ま、だからといってビビッて宇宙船で待機っちゅうのも性に合わん、ここは当初の目的を済ませるのを優先するべきという事じゃ」

「はぁ? 当初の目的? それってもしかしてアレの事? 無理でしょ流石に」

 

もはや相手がなんであろうがさっさとウチに帰りたい一心であるエリカではあるが、坂本の方はまだここでやる事が残っているらしい。

 

なんだかんだで彼と共に行動する事が多かったエリカはすぐにその彼の目的を察していると、彼女達にいる地球人側の陣営にて、ノシノシと重たい足音を立てて何者かが歩み寄って来た。

 

「こちらも片付いてるみたいだな、せっかく元の体に戻れたはいいが。これでは少々肩すかしといった感じか」

「ああ、おまん等か、おまん等が体借りとったゴリラの方は無事じゃぞ」

「そうか良かった、出来れば長く付き合ったよしみとして十文字家で手厚く飼ってやろうと思っていたのでな」

 

十文字家? 陸奥と何やら話し込んでいる男の方へエリカは気になって振り向くと

 

そこに立っていたのは屈強なで巨体な体つきでありながら、自分達の学校の制服をなんとか着こなしている男がそこにいた。

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし久しぶりに元に戻れたせいか何故であろうな、顔付きが以前と違う様な違和感を覚える。まるで肉体は元に戻っても顔付きはゴリラのままみたいな……」

「…………すみません十文字先輩その通りです、顔、ゴリラのまんまです」

 

恐らくこの男の名は十文字克人、無論エリカは本来の姿である彼とは会った事は無いのでどういった顔付きなのかは知らない。

 

しかしあの紛れも無く100%ゴリラのままになってるフェイスを見れば、彼がまだ完全に元に戻ってない事ぐらい一目瞭然である。

 

「なんだ十文字お前もか、実は俺もちょっと違和感を覚えるんだよ」

「その声は近藤、お前も無事に元に戻れたのか」

 

顔がゴリラのままの十文字に話しかけるのは彼と同じくこちらにやってきた近藤勲。

十文字と同じくゴリラと入れ替わっていた者の一人だ。

 

「元に戻れたのは良いんだが、実は俺も顔付きが多少変わっているような気がするんだ」

 

そう言って近藤は自分の手で、元の体の時となんら変わらない少々ゴリラっぽいだけで至って普通の人間の顔を触る。

 

 

 

 

 

 

ゴワゴワした体毛を生やした握力半端なさそうな手と丸太の様に太い腕をエリカに見せながら

 

「いやアンタは体の方がゴリラのままなんですけど!?」

「なんかこう、もっと二枚目だったような気がするんだよね俺? やっぱ入れ替わりの影響で顔付きが多少ゴリラに近づいちゃったのかな?」

「アンタがおもっくそ影響けてるのは体の方! 顔は人間だから! ていうか何その見た目! 気持ちワル!」

 

身体は人間、顔はゴリラの十文字とは反対で、顔は人間、身体はゴリラのままという極めて珍妙な姿に変化してしまった近藤を指差してすぐ様ツッコミを入れるエリカ。

 

十文字の方はまだ見れるが、顔だけ人間となっている近藤の方はえらく不気味である……。

 

「ていうかなんで誰もツッコまないのよ! 坂本! 陸奥! アンタもあの二人おかしいって気付いてるでしょ!」

「え? 元からのあの二人はあんなじゃっただろ? わしは十文字とは向こうの世界で何度も会っちょるが元々ゴリラみたいなモンじゃったし」

「そげな細かい事なんざどうでもええじゃろ、千葉、おまんはもうちょっと視界ば広くすることを覚えるぜよ」

「いやいやいや! なにアンタ等! もしかしてもうこれ以上面倒事はごめんだと見ない事にしてるの!? 多少イレギュラーが発生してるけど別にいっかという気持ちで流すつもりなの? それでもあのゴリラコンビの仲間かコノヤロー!」

 

明らかにおかしい近藤と十文字を見ても、対してリアクションもせずに流してしまう坂本と陸奥。

 

腕を組みながら目を曇らせて真実を見ようとしない大人にエリカが喝を飛ばしていると

 

『い、いたぞ地球人だ……』

『我々の手で今度こそ……』

『ぐ……しかし消耗しきったこの体では……』

『諦めるな、今こそ我等が本領を銀河皇帝・M様に見せつけるのだ……』

「な! アイツ等まだアタシ達を!」

 

ふと敵陣営からゾロゾロと数十人の蓮蓬達がプラカードを掲げたまま、すっかり傷付いた体のままおぼつかない足取りでやって来たのだ。きっとまだ多少は戦える根気が残っている連中なのであろう。

 

しかし地球人達による大打撃を受けて彼等はもうまともに戦える状態ではない。

 

それでもなお一矢報おうとする彼等を見てエリカは驚くも

ここは一思いにやってしまって彼等に手向けの花を贈るべきなのではと、静かに手に持った刀を抜こうとする。

 

「こうなったら完全にとっちめるしかコイツ等を止める手はないみたいね」

「ほう、蓮蓬の生き残りか、逃げずに戦いに興じようとするのであれば俺は容赦せんぞ。俺も共に戦うぞ千葉」

「素直に降伏すれば命は助けるというのに……仕方ねぇ、これも戦だ、汚い仕事は俺に任せろ」

「ウホホ!」

「ウゴ! ウゴゴ!」

「なんかアタシと一緒にゴリラ4頭が戦おうとしてるんだけど! すっごい嫌なんだけどこのパーティ! 酒場行って総入れ替えしたい!」

 

刀を手に持ったエリカと並ぶようにおかしな体である十文字、近藤、そしてモノホンのゴリラ2頭が共に戦おうと構える。

 

こんなゴリラと協力して戦いたくないという思いで必死に叫ぶエリカ、すると彼女達の前にスッと坂本が横切って蓮蓬達の方へ歩き出す。

 

「引けおまん等、これ以上連中と血を流すのはもうごめんじゃきん。ここはわしに任せちょれ」

「はぁ何言ってんの!? まさかアンタがやろうとしてた当初の目的! 蓮蓬の連中を説得して和解する事をまだ考えてるんじゃないでしょうね!」

「ずっと考えておったよ、その為にわしはここに来たんじゃからの」

「酔狂な奴だとは思ってたけどまさかここまでとはね……」

 

そう言ってこちらにフッと笑いかけながら、坂本はこちらに背を向けて蓮蓬の方へ行ってしまう。

 

もはや彼等に説得なんて通じる筈がない、最後の一兵が尽き果てるまで玉砕覚悟の精神状態でここまでやって来たのだ、そんな彼等がまともに坂本の話を聞いてくれる訳……

 

そう思ったエリカは一瞬躊躇するも、手に持った刀を床にほおり捨て彼の下へと駆け出す。

 

「仕方ないわね、アンタ一人で通じる連中じゃないわ。アタシがサポートしてあげる」

「おまんがか? アハハ、随分と心もとないサポート役じゃの」

「言っとくけど異星の者との外交の仕方は陸奥の奴にみっちり仕込まれてるのよ。とんちんかんな事言って相手を怒らせかねないアンタ一人向かわせちゃ、みすみすアンタを見殺しにするみたいで目覚めが悪いのよ」

「そうかそうか、じゃあ最後に見せてやるか連中にわし等流の戦いを」

 

 

 

 

 

 

「快援隊・艦長コンビによる交渉術で、蓮蓬達の閉ざした心を開いてやるんじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂本辰馬と千葉エリカが彼等なりの戦いをおっ始めようとしている頃。

 

遂に銀雪と銀河皇帝・M、またの名を四葉真夜、そしてその器の名は長谷川泰三の戦いもまたおっ始められていた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「フッフッフ、こうしてあなたと矛を交えるのは初めてね、深雪さん」

「初めてじゃねぇさ! 長谷川さんとは何度も殴り合ってんだよ坂田銀時は!」

 

己の力を振り絞るかのように雄叫びを上げると、銀雪は不敵に笑みを浮かべて玉座に座り直す長谷川に一気に駆け寄って距離を詰める。

 

コレが最後の戦い、相手がグラサン掛けたみずぼらしいオッサンなのでイマイチ緊張感が無いが

 

銀雪は古くから坂田銀時が愛用している木刀と

 

そして自分達の為に影に徹し続けた彼と彼女に託された特殊なデバイスが組み込まれた特注の木刀の二本を持って

 

この戦いを終わらせる為に飛び掛かった。

 

しかしその時、長谷川泰三の長年秘められていた力が紐解かれる。

 

「ぐ! なんだ! この体にまとわりつく嫌な感触は……!」

「感じるわ深雪さん……あなたの持つ強大なる力の片鱗を……」

 

床を蹴ってジャンプして、彼目掛けて木刀を振り下ろそうとしたその時、銀雪は不可思議な気配を覚えた。

 

まるで何かが吸い込まれてる様な奇妙な感覚、しかしその程度で銀雪はためらわずにそのまま木刀を長谷川目掛けて振り下ろす。

 

「どんな小細工使ってるのかは知らねぇが! ここで退く訳にはいかねぇんだよ!!」

「そうよね、あの失敗作の融合体に託されちゃったものね、だけど」

「なに!」

 

ぶち当たれば岩をも簡単にぶっ壊せる銀雪の一撃を前にして、長谷川は玉座から座ったままスッと右手を突き出して。

 

パシッと空しい音が響くと同時に彼女の木刀を手に掴んでいた。

 

「想いとか希望など、所詮私の持つ『絶望の力』には足元にも及ばない」

「!」

 

簡単に木刀を防がれた事で銀雪は動転して一瞬長谷川に対して隙を作ってしまう。

 

その隙を見逃さず、長谷川はもう片方の手の指先を銀雪に突き付けると、人差し指の先が赤く光り。

 

「魔堕砲!」

「うお!」

 

突如長谷川の人差し指から赤い光線の様なモノが飛び出して銀雪の額目掛けて飛んで来たではないか。

 

こんなの食らったら一瞬で脳を貫かれてお陀仏ではないか、銀雪は上体を思いっきりのけ反らしてそれを間一髪で避ける。

 

そして長谷川に掴まれたままの木刀を自ら手離して彼との距離を取ると、もう片方の木刀で再び斬りかかる。

 

「こなくそ! 負けてたまるか!」

「フフ、必死ね、でも無駄よ、絶望には抗えない」

「そいつはどうかな!」

 

ヤケクソ気味な攻撃に見えたが銀雪も無策で再度突っ込んだわけではない。

 

司馬深雪の持つ魔力を操り、神威戦の時の様に辺りに冷気を発生させ、相手がどんな動きをしても対応出来る構えを取って仕掛けてきたのだ。

 

銀雪の持つ木刀が長谷川に当たる直前で、彼の周囲に突如細い氷の管が伸びて、身動きできぬ様拘束する。

 

「これでもう受け止められる心配はねぇ!」

「なるほど、少しは悪知恵を働かせたみたいね、でも……」

「!」

 

何本もの氷の管で拘束されてもなお長谷川は至って余裕の笑みをこちらに浮かべていた。

 

その意図はすぐにわかった、再び自分の体に妙な肌触りを感じたかと思えば

 

(まただ……! まるで何かを吸い取られちまってるように力が……!)

 

突如力を失ったかのように銀雪はその足を止めて遂に長谷川の前で膝を突いてしまう。

 

そして木刀を握る力も無くなり、彼女の手からカランッと得物が滑り落ちていった。

 

「どういう事だ、テメェ一体俺に何を……!」

「わからないのかしら? コレが長谷川泰三が眠されていた最強の魔法よ」

「最強の魔法だと……!?」

「フフ、私の前で跪くその姿、とても可愛らしいわ。けどごめんなさい、刹那で飽きちゃった」

「く!」

 

座ったままこちらを見下ろしながら邪悪に笑う長谷川、そして今度は手の平から黒い球体を形成し、銀雪目掛けて掲げると、すぐ様こちらに振り下ろす。

 

「爆力魔堕!」

「チッ! ぐわぁ!!」

 

強烈なエネルギー波を至近距離からまともに食らい、銀雪は思いっきり後方にぶっ飛ばされる。

 

そのまま宙を舞ってあわや床に墜落、となる前に

 

すかさず後方で謎の融合体の治療を行っていた徳川達茂がジャンプして彼女を抱きとめる。

 

「大丈夫か」

「いつつ……これが大丈夫に見えやがるんですかお兄様?」

「そんな軽口叩けるならまだ余裕そうだな」

 

長谷川の攻撃を直撃したにも関わらず銀雪はまだ軽症みたいだ、どうやら寸での所で魔力を高めて氷の壁を形成し、なんとか体へのダメージを抑えたらしい。

 

銀雪を抱き抱えたまま達茂は立ち上がると、改めて長谷川の方をジッと見つめる。

 

「やはりアンタを倒すのは一筋縄ではいかないみたいだな伯母上」

「あらあら、もしかして本気で私を倒そうと思っていたの達也さん? それは無理な話よ、だって私は銀河一の魔法師なんだもの」

 

肘掛けに頬杖を突きながら長谷川がそう言った途端、今度は達茂自身も銀雪が感じたあの妙な感覚に捉われる。

 

そして達茂は見えた、長谷川の周りの部分だけ、グニャグニャと空間が歪んでいるという奇妙な光景を

 

「これは……もしや俺の魔力を吸い取っているのか……?」

「吸い取るだと!? てことは俺がアイツ目掛けて突っ込んだ時に突然力が抜けたのも!」

「伯母上、まさかアンタが言う最強の魔法の正体とは……」

 

達茂が問いかけようとすると長谷川はニヤリと笑い、グラサンの奥にある狂気に満ちた血走った目をこちらに向けてきた。

 

「『吸収』、それこそがこの世における最強の力の存在よ」

「なるほど、それがアンタが欲したモノだったのか」

「そうよ、この力はね、他者の魔力や力、ありとあらゆる力の源を私の力の糧とする為に吸い取り続けるモノなの、まさしくこれぞ長谷川泰三が持っていた魔法の正体という事ね」

「あのまるでダメなオッサンがこんな力を……?」

 

まるで光をも吸い込む事の出来るブラックホールの様に全ての者を吸収する能力。

 

それこそが長谷川泰三の器に秘められていた力らしいのだが、それを聞いて銀雪は怪訝な表情を浮かべる。

 

「ハッタリかますんじゃねぇ、長谷川さんが俺が知る限り無職・貧乏人・クズ・ホームレス・グラサン・マダオととことんイイ所無しのダメ人間だぞ、そんな力があったら今頃星の一つや二つを支配する事だって出来るじゃねぇか、そんな虫にも劣る生命体に最強の力なんてある訳ねぇだろうが」

「さ、流石に言い過ぎじゃない……? この人も色々と苦労してるんだから少しは優しく……じゃなくて、残念な事に長谷川泰三はこの力の存在に気づけなかった、それによりこの魔法の扱い方も間違って使用し続けていたのよ」

 

酷い言い草だが事実なので仕方ない、確かに長谷川という男はとことんダメで不運を重ねて転落した脱落者だ。

 

しかし彼がそうなった原因も、どうやらその『吸収』の力が関係しているらしい。

 

「彼が常日頃から感覚無しに使っていたこの力によって、彼は周りにいる人物からあるモノだけを吸収してしまっていた、それは人であれば誰もが持つ『不運』という存在」

 

ギュッと力強く手を握り締める長谷川、どうやら彼の器は強大なる力を持ってはいたものの、上手くコントロール出来ていなかったらしい。

 

「彼はそれを周りからたくさん自分の体内に入れてしまい、結果銀河一の魔法師の才能を持っていながら、銀河一の不幸せなおっさんに成り果てていたのよ」

 

そう言うと長谷川は自嘲気味にフッと笑うと、改めて二人の方へ顔を上げる。

 

「この力は確かに協力で扱うのは私でも苦労したわ、けどようやく自由自在に使いこなせるようになった。ゆくゆくはこの力を利用して人、意識、感情、自然、星、そして宇宙をも吸収し我が力の贄として働いてもらい、この世で最も強大な存在として生まれ変わるのよ」

「ナンセンスな夢だな、それだと最終的にこの世に残るのはアンタ一人だけという事じゃないか」

「それでいいのよ達也さん、私はこの世がどうなろうがどうでもいいの。私はね、ただこの世界を滅ぼしたい、その為だけにSAGIを利用したのよ、この復讐に捕らわれた哀れな星は、もはや私にとってはただの傀儡」

 

達茂の冷静な指摘にさえ長谷川はせせら笑みを浮かべながら返すと、手の平を掲げて高々と本音を暴露する。

 

「いえこの世にあるモノ全ては私の傀儡と呼んでも過言ではない、四葉の一族もあなた達兄妹も、ありとあらゆるモノが私をここまで高み上げる為の贄に過ぎないのよ、それがあなた達の運命なのだから」

「イカれてやがる……コイツは殴って正気に戻すってのは無理そうだぜお兄様」

「元より正気とは思えない人物だったが、目先の欲に捕らわれて体はおろか魂まで売ったのか、哀れな人だ」

「なんとでも言いなさい、どう喚こうがもはや私を妨げる者などこの世に存在しないのよ」

 

かつて謀略を尽くし多くの人々を欺き陥れた屈指のカリスマ魔術師の成れの果て、と呼ぶべきか

 

狂気に魅入られその歩みを止めようとしない長谷川を前に銀雪と達茂は、この状況をどう打破するのか考えていると

 

 

 

 

 

 

「いるさここに、それもテメェが二度と見たくないツラをしたとびっきりの天敵がな」

 

突如銀雪達の背後からトーンの低い女性の声が部屋に響き渡る。

 

銀雪は急いで達茂に下ろしてもらってそちらに振り返ると、階段をコツコツ上がりながら黒いドレスを着た謎の女が現れる。

 

グラサンを掛けたその女性は、懐からタバコを取り出し火を点けると、フゥーと煙を吹きながら部屋の中を見渡す。

 

「随分とらしくねぇ真似してるみたいじゃねぇか、いや、空っぽの城で王様気取ってる滑稽な姿はらしいといっちゃらしいな」

「お前は……四葉真夜!」

 

急に現れたのはまさかの四葉真夜の姿をした人物、銀雪が驚いていると達茂が隣でボソリと

 

「四葉真夜と入れ替わった人物だ」

「えぇぇぇ!? て、てことはアンタまさか!」

「そうさ、久しぶりだな銀さん」

 

トントンと煙草の灰を床に落としながら真夜はグラサン越しにフッと笑う。

 

「正真正銘この世で唯一無二のまるでダメなオッサン代表、長谷川泰三だよ」

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? いやまあ入れ替わっていたとはわかっていたけども! なんでアンタがここにいんの!? しかもなんかカッコ良さげに登場してるし!」

 

目の前にいる真夜こそが本物の長谷川泰三その人、それを知ってはいたがまさかここで会うとは思ってもいなかった銀雪が半ば混乱しているのも露知れず

 

真夜はツカツカと歩き出して銀雪達の横を通り過ぎて

 

玉座に座る王、本物の四葉真夜こと長谷川泰三の前でピタリと止まった。

 

「よう、初めましてだな女王様」

「フフフ、貴方が来る事は予感していたわ。むしろ待っていたと言うべきかしら」

「そいつは良かった、念願に会えた女王様に嫌な顔されて門前払いされちまったら男として情けねぇ」

「残念だけど、今のあなたはもはや男ですらないわ、そしてもう私も女王ではない」

 

まるで世間話するかのように静かに語り合う二人ではあるがまるで隙が無い。

 

嵐の前の静けさ、どちらかが先に動けば瞬く間に星一つ消し飛びかねない激しい戦いが始まる。そう予感出来る程二人の間に沸き起こるプレッシャーは凄まじかった。

 

「私は長谷川泰三として、そしてあなたは四葉真夜として生まれ変わった。楽しかったでしょ”元”長谷川さん、四葉家の当主として君臨し、その権力と財産によって溺れ死ぬ程の快楽を一生分堪能したのでしょうから」

「そりゃ最初に入れ替わった時はアンタの言う通り大いに楽しんださ、大豪邸で羽を伸ばし、値段もわからねぇ高い酒を浴びる程飲み続け、自分に指図する者も、命令する者もいないという生活。長谷川泰三の頃にずっと憧れていた人生を味わえて最高の気分だった」

 

長谷川の問いに真夜は淡々と答えながらタバコをポトリと床に捨てるとゆっくりと顔を上げる。

 

「だがな気付いたんだよ、そして同時にアンタを哀れんだ。四葉真夜という女はこんなにも金と権力を持っていながら、人生において一番大事なモンを持っていないって事がな」

「この私が?」

「……かつて俺が長谷川泰三というまるでダメなオッサンだった時、いつも厄介なトラブルを撒き散らすこれまた更にまるでダメなオッサンがいた」

 

『おい長谷川さん、万事屋の仕事でこんなの来たんだけどアンタ代わりにやらねぇ? 船に内緒で乗って白い粉的な奴を外国で売りさばくって仕事なんだけど?』

『おおーやるやる! 白い粉ってよくわかんねぇけど俺なんでもやっちゃうもんね! あれ? でもなんで内緒で船に乗らなきゃいけないの?』

『気にすんな、あ、もし面倒な事になっても俺の名前出すなよ』

 

「テロリストだの反乱分子だのと言われて追われる日々を送ってにも関わらず、バカな事ばかりして革命だのなんだのほざいてるクセにてんでダメダメなおっさんがいた」

 

『長谷川殿、まだ寝床が見つからんのか。ならば俺が仕事を紹介してやろう』

『えーなんだよヅラッち! 仕事を紹介するツテなんかあったの!? で、仕事って何?』

『誰でも出来る簡単なお仕事だ、ちょっとこの刀持ってあそこにいる真撰組の所へ突っ込んでくれ、その隙に俺は逃げるから後は任せた』

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

「そして何より、こんなロクデナシで無職のダメ亭主を、何時までも待ってくれているとことんバカが付く程のお人好しの女がいたんだ」

 

『もしもしアンタ? ちゃんと飯食べてるの? 良い仕事見つかった?』

『え!? あ、ああちゃんと就職したに決まってんだろ! 久しぶりに電話かけたのに関口一番で変な事聞くなよな!」

『フフ、ごめんなさいね。それじゃあ就職祝いに一緒に食事でも……あら? あそこでみずぼらしい格好で電話ボックスの中にいるアゴ髭のおっさんってもしかして……』

『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! 違う違う人違いだから! そんな汚いオッサン俺じゃないから! アレだよアレ! ネルフをクビになった碇ゲンドウだよきっと!』

 

「わかるか?」

「いや、あなたが物凄く不憫な人生送ってるんだなぁという事しか伝わらなかったんだけど?」

 

長々と己の身の上話を語った真夜に長谷川が哀れみの視線を向けていると、真夜は掛けてるグラサンをチャキッと指で押し上げる。

 

「人生ってのはどんだけ金持って様が生まれに恵まれてても、そんなモンじゃ手に入らないもんがある、それが『マダオ』だ」」

「マ、マダオ? え? どゆこと?」

「まるでダメなオッサン、まるでダメなお人好し、まるでダメなお友達、まるでダメな夫を待つお嫁さん。要するにただのバカ野郎さ」

 

理解していない様子で首を傾げる長谷川に真夜はフッと笑う。

 

「世の中楽しく生きるコツは真面目にやる時は真面目にやり、バカをやる時はバカやってバカ騒ぎする事さ、安い酒飲んで同じ底辺の奴等と飲み語り合い、金が無い同士で小銭の為に殴り合い、相手がヤベェ事しでかしたら汚い手ぇだして助け合い」

 

懐からひしゃげたタバコの箱を取り出し、サッと一本取り出して口に咥えると、100円ライターで火を灯す真夜。

 

「俺はそういう人生が情けねぇとは思ってたが、悪くはなかったよ。テメーを肯定するだけの連中ばかりを周りにはべらしたアンタにはわかりもしねぇ事だと思うけどな」

「……要するに何が言いたい訳?」

「長谷川泰三を、一人のマダオをアンタから返してもらいに来た」

 

タバコを咥えたまま真夜は彼に指を突き付ける、グラサンの奥から鋭い眼を光らせて

 

「本音を言えばそんな体なんざ何処へだって捨ててやりてぇさ、俺の身体で世界を滅ぼすんなら好きにすりゃいい」

 

煙を吐きかけながら真夜は目を細める。

 

「だがその体で好き勝手やってもらうと、どうやら俺の大事なモンも無くなっちまうらしいんだわ。それを知っちまったらこうしてテメーの足と拳で止めに来るしかねぇだろ」

「……不器用な男」

「だから俺はここに来たんだよ、豪邸も金も権力を持つ女王の座をアンタに返し、公園住まいの金無し無職のおっさんに戻るというとち狂った馬鹿な行いの為にな」

「ええ、本当に、まるで救いようのないダメな男ですよあなたは……」

 

指を突き付け宣言した真夜に対し、長谷川は嘲笑を浮かべつつ

 

ゆっくりと玉座から立ちあがった。

 

「そろそろ始めましょうか、貴方と私、四葉真夜と長谷川泰三、真の最強の魔法師は誰なのか」

「ああ、そろそろ俺も体がウズウズしてた所だ。お互いに悔いのない戦いをしようぜ」

 

 

二人の強者はゆっくりと相対しながら歩み寄って行く。

 

 

どちらが真の長谷川泰三、真のマダオとなるのか

 

雌雄を決した戦いが今始まる。

 

 

 

 

 

 

「お兄様、俺達すっかり蚊帳の外なんですが? やっぱ帰っていい?」

「そうだな」

 

銀雪と達茂をほったらかしにして

 

果たして主役の彼等に出番は回ってくるのだろうか




この作品もやっと終わりが近づいて来たなぁと思う今日この頃

そろそろ次回作も練らなきゃいけないかなぁとも思うこの頃です


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第三十八訓 絶望&希望

年内には終わらせたい


長谷川泰三VS四葉真夜

 

誰もが予想できなかったであろう異色のカードがぶつかり合う。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

同時に床を蹴り上げ互いに真正面から突っ込むや否や、己が持つ魔力ではなく拳による肉弾戦をおっ始める。

 

一流の格闘家、もしくは辺境の星に住む戦闘民族でしか捉えきれぬほどのスピードでの殴り合い。

 

一歩も譲らぬ両者の戦いによって、周りには衝撃波が生まれ、床や壁には徐々にヒビが割れ始める。

 

「食らいなさい!」

「もらった!」

「!」

 

一手早く動けた長谷川からの拳が当たる直前で、真夜の姿が一瞬にして消えた。

 

そして次に彼女が現れたと思ったらいつの間にか長谷川の背後に、そして両手を合わせながら真夜は間髪入れずにそのまま突き出し

 

「波ァァァァァァァァ!!!!」

「ぐぅぅ!」

 

真夜の両手から強力なエネルギー波が放たれ、隙を突かれた長谷川がそれを真正面から食らってしまい

 

しかしそのまま無様に食らってしまったわけではない、彼女が放ったその一撃を長谷川は歯を食いしばりながら両手で受け止めている。

 

そして立ちどころにそのエネルギー波は彼の両手の中で消滅。

 

「なるほどそれが俺の力か。確かにそいつを操れれば天下も取れるだろうな、今までそいつの存在に気づけなかった事が悔やまれるぜ」

「安心しなさい元長谷川さん、この吸収の力は私がこれからも上手く使わせていただきますので」

 

長谷川泰三の持つ『万物を吸収する力』、その存在の前にいかに真夜の強大な魔力でも対処するのは非常に難儀だ。

 

しかしだからといってここで退くつもりなど毛頭ない。

 

「悪いがその力もその体も全て俺のモンだ、お前さんが引き出してくれたその力、今後本物の長谷川泰三が使わせてもらうぜ」

「フッフッフ、残念ながらあなたはもう二度とこの体を手にする事は無いわ、何故ならこの戦いで勝利するのはこの……!」

 

先程吸収した筈の真夜のエネルギー波を自らの片手に生み出す長谷川、そしてそれをグッと彼が握り締めた瞬間、何十個もの分裂粒子となって長谷川の周りに飛び散る、そして

 

「私なのだから!!」

「チッ!」

 

自分のエネルギー波を再利用して自らの技に組み上げた長谷川、分裂して数十個となった塊を、両手を交互に突き出して連発に真夜目掛けて弾き出す。

 

「消え去りなさい! その醜き体ごと!!」

「フン、テメーの体を醜い呼ばわりか。とことん自分が嫌いみてぇだな、だが」

 

襲い掛かる分裂粒子を真夜は回避動作も必要ないと真っ向から突っ込むと、両手だけを使って次々と弾き飛ばしていく。

 

「この醜い身体に負ける者! それはお前だぁ!」

 

全ての攻撃を弾き飛ばすと真夜は再び右手の拳を固めて思いきり長谷川に振り抜く

 

それを読んでいた彼も負けじと拳を突き出して、真夜の拳に直接ぶつける。

 

両者の拳は激しくぶつかり合い、辺り一面に更なる強力な衝撃波が発生した。

 

「……どうやら私と同じく、あなたも相当鍛え上げたみたいね」

「実力は五分って事か、今の所はな」

「ええ、いずれ決着は着くでしょう、私の勝利で」

「それはねぇな、勝つのはこの俺だ」

 

互いに拳を突き出して押し合いを始めているのだろうが、二人の足下は一向に動く様子がない。

 

両者の力は拮抗し、完全に互角の実力なのであろう。

 

緊迫した状況の中で笑みを浮かべ己の勝利を信じて疑わない二人

 

そしてそんな彼等の下へ

 

 

 

 

「いい加減に!!」

 

長い銀髪を靡かせながら一人の少女が、両手に持った木刀を掲げたままの状態で長谷川掛けて飛び掛かる。

 

「しやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

かつての姪っ子である坂波銀雪の奇襲がこちらに飛んで来たと察した長谷川は、すぐに拳を引いて一歩後ろに下がってそれをヒョイッと避ける。

 

銀雪が降り下ろした木刀はそのまま床に直撃、割れていた床が更に抉られ、辺り一面に氷の結晶が飛び散る。

 

「忘れてんじゃねぇぞ俺達を!」

「あらごめんなさい深雪さん、けどちゃんと忘れてないわ。この男を始末したらすぐに……」

 

こちらに向かってキレた様子で唾を飛ばしてくる銀雪を諭しながら長谷川はスッとその力を吸収してもう一度大人しくさせる為に手をかざそうとする。

 

だがそれを狙っていたのか

 

「悪いがもうその力を使わせる訳にはいかない」

 

長谷川の側面目掛けて徳川達茂が両手に持った拳銃を突きつけながら現れる。

 

しかし狙いは長谷川ではなく、彼が付き出している手の先にある……

 

「忘れたのか伯母上、俺の力は『分解』、例え人体であろうが魔法に用いる術式であろうが……」

 

空中を漂いつつ達茂は冷静に銃の引き金を引いた。

 

「あらゆるモノを消滅させる」

「あら、油断しちゃった」

 

長谷川の手の先に合った何かがガラスの様に割れて破片を撒き散らす。

 

すると銀雪は力を奪われずに済んだのか、以前余裕の様子で長谷川目掛けて駆け出した。

 

「長谷川さんばっかりにいいカッコさせられっかよ!」

 

両手に持った木刀が冷気を帯び始め、あっという間に氷の氷柱となって鋭利な刀へと早変わりする。

 

「テメェを倒すのは主人公の俺だぁ!!」

「それはちょっと難しいわねぇ」

 

二振りの氷の刀をクルリと身を翻して避ける長谷川、だが今度は同じ様に距離を詰めて来た真夜が

 

「いやテメーの体を取り返すのは俺の役目だぁ!!」

「く……」

 

至近距離から白い光線を討ち放ってくる真夜の攻撃を魔力を吸収する事によってなんとか打ち消す。

 

しかしその次は

 

「いやいや、原作に乗っ取って伯母上を倒すべき存在は俺の筈だ」

「!」

 

再び彼が銃口を突き付けたのは長谷川本体、銀雪と真夜の二人相手に苦戦していた所を突かれ、長谷川はグラサン越しに目を見開くと

 

「全く次から次へと!」

 

グッと全身に力を込めると体内の魔力を収束し、それを衝撃波として一気に開放したのだ。

 

ほとばしる波動に三人はあえなく吹き飛ばされてしまい、一気に距離が開いてしまった。

 

「はぁ全く……連係プレイで来られると中々厄介ね、まだこの体は本調子でないというのに」

「悪いが俺の身体はそう簡単に操れるモンじゃねぇんだよ」

 

一瞬ヒヤリとしてしまった事を隠しながら長谷川は安堵のため息。

 

彼に吹き飛ばされた真夜はというと、正面で向き合いながらタバコを咥えたまま呟いた。

 

「まあ俺もこの体には結構難儀してるんだけどな、何せ年が年だから筋力強化系の魔法を積んでもこの程度の動きしか……あうち!」

 

タバコに火を点け優雅に一服を嗜もうとしたその時、突如彼女の後頭部にゴツンとかなり痛い衝撃が

 

涙目で振り返るとそこに立っていたのは仏頂面の銀雪

 

「っていきなり何すんだよ銀さん! 後ろから闇討ちとか卑怯だぞ! これでも俺がラスボス打倒の要なんだからもうちっと丁寧に扱ってくれよ!!」

「そこだよそこ、さっきから俺がずっと引っかかてるの」

「へ?」

 

後頭部をさすりながらすぐ様抗議する真夜に対し、銀雪はジト目で彼女を睨み付ける。

 

「どうしてアンタみたいなぽっと出のオッサンが俺やお兄様よりラスボスと凄まじいバトル繰り広げてんだよ。何さっきの? 勝手に二人でドラゴンボールみてぇな戦いしてんじゃねぇよ、こちとら戦いを見守るだけのウーロンになった気分だよ、蚊帳の外感半端ないんだよ」

 

最初に二人だけで戦い始めた時、銀雪と達茂は同じ場所にいながら全く加われない状況だったのだ。

 

二人がぶつかり合って拮抗した時に、一か八かに賭けてやっと参加できたのである。

 

そんな自分の戦いの外で色々と困っていたと知った真夜は、小馬鹿にしたかのようにニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ああごめんごめん、銀さん達のレベルじゃまだ俺達に追いついてなかったか~、悪かったなウーロンとプーアル~、俺達って言わば神様と悪役時代のピッコロレベルだからさ、まあただのマスコットにしちゃ頑張ってるんじゃないの?」

「ああ!? ウーロンをナメんなよ! 本気になれば黒光りの鎧着た大男に変化できんだぞ!!」

 

ラスボス前にすっかりいつも江戸でやっていた様な喧嘩を始めようとする二人に対し達茂がすぐに二人の間に入る。

 

「下らん喧嘩をするな、神様とウーロン。いい加減にしないとプーアルがヤムチャになるぞ」

「いやお兄様、ヤムチャになっても正直微妙かと思うんすけど? そいつ人間の体借りた神様に負けてますし」

 

天然ボケをかます達茂に銀雪はボソッとツッコミを入れた後、フンと鼻を鳴らして彼の言う通りに真夜に食って掛かるのを止める。

 

「だがお兄様、コイツはもしかしていけんじゃねぇか? どうもアイツ、タイマンでやった時とは強いけど3人がかりでやりゃあもしかしたら……」

「ああ、叔母上の力は大体検討付いた、どうやら一度に吸収する力は一種類のみらしい」

「だから俺から『体力』を吸収しようとした時にお兄様の『魔力』を打ち消す事が出来なかったのか」

 

戦いの中で達茂は長谷川の持つ力の欠点を見抜いていた。

 

吸収できる力は一度に一つまで、つまりこちらが肉弾戦と魔法戦を同時に仕掛ければ、片方に気を取られてる隙にもう片方で責めればいいという事だ。

 

しかもこちらは三人、皆の思考を読んで吸収する力を選ぶとなると中々手こずる筈。

 

「吸収への攻略法は見つかったと思いたいが、果たしてそれが正解なのかどうかわからんがな」

「ったく、長谷川さんのおかげで大迷惑だぜこっちは、お兄様、将軍の権限でコイツ切腹にしてください」

「いや俺のせいじゃないから! 悪いのは俺の体に不法侵入したアイツのせいだから!」

 

さり気なく自分のせいにして将軍でもある達茂に切腹を命じようとする銀雪に真夜が叫ぶと、こちらに不敵な笑みを浮かべる長谷川を警戒する視線を向ける。

 

「確かに勝ち筋が見えたからといってそう簡単にいく相手じゃねぇな、ありゃまだ何か企んでる気配だ、間違いねぇ」

「だからといって引き下がる訳にはいかねぇだろ、ねぇお兄様」

「ああ、ここまで来たら常に警戒を怠らずに奴と戦うという方法でやるしかない」

 

入れ替わった者同士だと相手の考えが読めてしまう事がある、真夜は長谷川がまだ秘策を持っているのではと怪しむが、銀雪と達茂はもう戦う気満々の状態で再び走り出す。

 

「たたみかけるぞ! 速攻で決めて俺達の元の身体を取り戻す!」

「……簡単に言ってくれるわね」

 

銀髪をなびかせ果敢に突っ込んで来る銀雪にボソリと呟く長谷川に達茂がすかさず横に入って手に持った銃の引き金を引く。

 

「でもそう易々と上手くいくとは思わない事ね」

 

当たれば体を消滅しかねない魔弾に向けて長谷川が手を向けると一瞬にして打ち消される。

 

そしてそこに近づいた銀雪が木刀をすかさず叩き込む。

 

「あなた達の戦いは見事だというのは素直に認めてあげるけど」

 

彼女の木刀を左腕でガードして防ぐ長谷川、そしてその隙をついて真夜が飛び掛かり

 

「テメー自身の十八番を食らいな! 流星群!」

 

窓から見えるたくさんの星の光を下に展開した魔法を長谷川目掛けてお見舞いする。

 

それは対象に無数の穴を空けて相手を跡形もなく塵へと変えてしまう程の殺傷力が非常に高い技。

 

殺す気でかからないと勝つ事は出来ないといわんばかりに、真夜も本気で長谷川を仕留めにかかっているのだ。

 

「それだけで勝てると思ったら大間違いよ」

「!」

 

全身に穴が空くどころか立ちどころにその魔法式事吸収し、そっくりそのまま真夜へと反射しようとする。

 

だがそれを達茂は呼んでいたのか、標準が真夜に向けられた時点で既に長谷川目掛けて一気に走り出し

 

あっという間に手の届く範囲にまで近づくと、腰に差した刀を抜いて横一閃。

 

「その台詞はもう聞き飽きた」

「つ……!」

 

なんとか避けようとする長谷川だが振り抜かれた刀の先が、彼の右腕に僅かに届く。

 

初めて血を流した事で長谷川の顔色が変わり出すと、銀雪もまた魔力を解放して、ガードしている左腕をあっという間に氷漬けに

 

「年寄りは同じ事を何度も言いやがる」

「くッ!」

 

兄妹により両腕を封じられ、長谷川が冷や汗を垂らし明らかに冷静さを失っていると

 

その隙をついて真夜もまた拳を振り上げ彼に駆け寄り

 

「終わりだ、これからは年相応に大人しくしてるんだな」

「ぐっはぁ!!」

 

魔力の込められた拳をそのまま長谷川の腹部に思いっきり叩き込んだのだ。

 

初めてまともなダメージを食らい苦悶の表情を浮かべる長谷川。口から血を噴き出し明らかに効いている。

 

「勝負ありだな、マダオの力を思い知ったか」

「へ、ラスボスつってもこの程度かよ」

「年貢の納め時だ、潔く負けを認めろ」

 

これが三人、否、五人の連携によって成り立った必殺の一撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「引っかかったわね……」

「!」

 

しかしその瞬間、彼に拳を叩き込んでいた真夜は背中からゾクリと悪寒を覚える。

 

腹部に食い込む程深々と刺さった拳が、何故か引き抜くことが出来ない。

 

むしろ逆にあっちに引っ張られてる様な……

 

「最初からずっと私の狙いはコレだったのよ」

「おい長谷川さん! アンタの腕! そいつの体に飲み込まれてるぞ!」

「えぇぇぇぇぇ!? 何これ聞いてないんですけど!?」

 

銀雪が叫んでるで真夜は己の腕の先を見ると、みるみるその腕は長谷川の体内に飲み込まれている事に気付いた。

 

「ちょ! まさかお前! 俺を! テメーの本当の体を吸収するつもり!?」

「元よりずっと前からそのつもりでしたよ元長谷川さん……実を言いますと今のままの私ではこの力の真価を発揮できないの、必要なのは……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「あなた自身の『魂』です……!」

 

腕だけでなく体の半分も飲み込まれていく真夜を見て、銀雪と達茂は同時にヤバい!と察知して長谷川に攻撃を仕掛ける。

 

しかし

 

「かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うお!」

「くッ!」

 

使えなくなったと思われていた両腕から衝撃波を放ち二人を反対方向に吹き飛ばす長谷川。

 

苦戦していたのはやはり彼の演技だったのだ。

 

銀雪が氷漬けにされた筈の左腕はすっかり元通りになっている。

 

「可哀想な事しちゃったわね、私ったらつい久しぶりに可愛い甥っ子と姪っ子と遊べるからって手加減しちゃってたわ、ごめんなさいね、達也さんに深雪さん」

「コイツ、ハナっから長谷川さんを狙ってたのか!」

「入れ替わった者同士による魂と魂の融合……しかしそれは互いに理解し合った者同士でしか出来ない筈だ……」

「不可能を可能とするのが王の特権よ、この力にかかれば”出来損ない”の定義など簡単に覆すことが出来るの」

 

出来損ないというのは恐らく”あの二人”の事であろう、影に潜み銀時や達也達を助けるために慣れない世界にいながら手回しを行い続け、更には入れ替わり現象の謎も解明した功績を持つコンビ。

 

それを出来損ないなどと決めつける長谷川に対し、起き上がった銀雪の目の色が変わる。

 

「出来損ないはテメェだ、四葉真夜。借りパクした力と体でどれだけ取り繕っても、結局テメェの本性は醜いのに変わらねぇ、貰ったもんで威張りくさってるテメェよりも、身体を奪われてもなお俺達の為に戦ってくれたアイツ等の方がずっと立派なんだよ」

「フフ、言う様になったわね深雪さん。でもどれだけ吠えようがもう遅い、あなた達の滑稽な物語はここで完結よ」

 

本気でキレている表情で食って掛かる銀雪に長谷川はせせら笑みを浮かべると、そのまま一気に真夜を体内に取り込んでいく。

 

「まだだ! まだ終わっちゃいねぇ!」

 

徐々に体の自由が利かなくなってきた真夜は、薄れゆく意識の中で必死に叫ぶのは命乞いでも悲鳴でもなく。

 

未だここにいる味方へに送る最後のメッセージだった。

 

「銀さん! アンタが持っているその特製の木刀にはコイツの力を鎮める力を持っている! 俺と同じく異世界に来た源外のおっさんと! 達也君が信頼している研究チームが共同で発明した最後の切り札だ!」

「長谷川さん……!」

「そいつには俺達の世界と向こうの世界の願いが重ねられているんだ! やってくれ銀さん! 二つの世界の命運はアンタに託した!」

 

銀雪は通常の木刀より少し軽めの特殊デバイスが装着されている木刀を強く握りしめる。

 

彼女の言う通りであれば、勝機を得るにはもはやコレに頼るしかない。

 

「随分とキツイ役回り押し付けやがって……」

「フ、わかってんだろ、マダオを止めるのはマダオだけだ……」

 

後は任せたと、吸収されていき静かに消えていくなか真夜の口元がニヤリと笑う。

 

 

 

 

 

 

「頼んだぜ、俺と同じくまるでダメなオッサンよ……」

 

最期にそれだけ言い残すと彼女は完全に長谷川の体内へと飲み込まれていった。

 

 

そして彼女を取り込み満足げに笑いながら、長谷川泰三の身体はみるみる黒いオーラを纏いながら光り出す。

 

「感じる……感じるわ……! 見なさい二人共! そしてひれ伏しなさい! 新たな融合生命体の誕生に!」

 

すると邪悪な雰囲気を醸し出しながら長谷川の身体はみるみる変化していく。

 

銀時と深雪、達也と茂茂が用いた方法とは違う一方的に相手を取り組む事によって出来た融合は、とても禍々しいモノであった。

 

全身の肌は真っ黒に染まり、纏っていた服がビリビリと破けて全長三メートルぐらいの大きさへと成り果てる。

 

しかし大きくなって服の方は破けたというのにグラサンだけはちゃんと付けている。

 

股間にもこれまた不気味な黒い球体が現れ、男性のシンボルを死守。360度あらゆる方向から見ようとしても決してその向こう側を覗く事は出来ないという、子供と一緒に見ている保護者も安心出来る仕様。

 

遂に長谷川泰三こと四葉真夜は、この宇宙で最も最強の融合体へと進化することが出来たのだ。

 

「魔堕王≪マダオ≫……これこそ今の私に最もふさわしい名、マジでダークな王であられる私の前に全宇宙にいる生命体は全て怯え、苦しみ、絶望に震えるといいわ……」

「何が魔堕王だ、結局体とチンコがデカくなっただけじゃねぇか、見た目長谷川さんのままだし全然怖くねぇんだけど」

「コレが叔母上がずっと目指していた究極の魔法師の正体とは……無いなこれは、うん絶対に無い」

「あれぇぇぇぇぇぇぇ!? 思ったよりテンション低ッ!? なんなのあなた達!? ラスボス最終形態を前にして驚くどころかだだ下がりって!」

 

予想とは随分と違うリアクションを取る銀雪と達茂に、邪悪なる融合体、魔堕王は長谷川泰三の時と同じ口調で困惑していると、銀雪がそんな巨大な彼に向かって一歩歩きながら二本の木刀を構える。

 

「安心しろ、もう帰るかなんて言わねぇよ。こちとらもう何人もの奴等に色々託されてんだ、だったらもう退く訳にはいかねぇ」

 

真のラスボスを前にして、銀雪は散り際に言っていた魔堕王対策用特製の木刀を突き付ける。

 

 

 

 

 

 

「ただ一撃、ここにいる俺達全員分の魂が込められた一撃を叩き込んで、感動のフィナーレといこうや」

 

 

全身全霊の一撃を込める事に集中し、銀雪は真っ向から魔堕王に勝負を挑む

 

戦いはいよいよクライマックスに

 

果たして勝者は……

 

 

 

 

 

 



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第三十九訓 凋落&決着

銀雪と達茂が邪悪なる融合体・魔堕王と対峙していたその一方で

 

中層部でまさかの仲間割れを始めていた土方十四郎とリーナの戦いもまさに終わろうとしていた。

 

「……く」

「な、なぜ……!」

 

激しい戦いによって周りのモノが崩れ落ち、瓦礫や砂埃を頭や背中に被りながら倒れているのは土方の方であった。

 

リーナは以前無傷の状態ではいるが、その表情は激しい戸惑いを見せている。

 

「どうしてずっと反撃してこないのよ! さっきからアンタ一方的に私の魔法を食らってるだけじゃない!」

「……」

「私の知る土方十四郎であればこの程度で呆気なくやられる訳がないわ! まさかアンタ! 私が女子供だから斬りたくないとかそんなつまらない理由じゃないでしょうね!」

 

仰向けに倒れている土方は何も答えない

 

数十分前に二人は確かに相対する思想の結果、戦うという選択肢を選んだ。

 

しかし始まって見れば土方は一転してこちらに対して斬りかかろうとさえしなかったのだ。

 

ただ黙々とリーナの類稀な秀でた魔法をガードし続け、最終的にその身で直撃を食らい続けていき

 

挙句の果てにはこうして無様にも自分に対して背中を向けて倒れてしまったのだ。

 

この様なモノはとても戦いとは呼べない、こんな勝利をリーナは望んではいなかった。

 

本気の本気でぶつかり合い、その結果の上で土方十四郎の身体を再び我が物にせんと企んでいたのに。

 

このような形で終わってしまった事で彼女は歯がゆそうに拳を震わせて、倒れている土方を見下ろしながら睨み付ける。

 

「答えなさいよ! アンタの答えによってはお望み通りこのままお陀仏にしてやるんだから!」

「……わかったか、コレがテメェの持つ力だ」

「!」

 

沈黙を貫いていた土方が遂に口を開いたと同時に、予想だにしない事を言い出しながらゆっくりと立ち上がったのだ。

 

驚くリーナに対して土方はフラフラとしながら、頭から血を流してる事など気にもせずに静かに語りかけた。

 

「ガキの頃から才能を開花させ、それを買われて軍事組織に入隊。その強さは他の同僚達を軽く追い抜き、早々に出世を続けて暗殺部隊の隊長を任せられる程の組織において重要な要の一つとなった、確かテメェの経歴はそうだったよな?」

「……入れ替わってた時に私の事をちゃんと調べてたみたいね」

「悪いとは思ってたが、テメーと入れ替わった相手の事を知る事も大事だからな」

 

土方の状態は見るからにもう戦える状態ではなかった、力の入らない手を動かしながら懐からタバコの箱を取り出しつつ、こちらを睨み付けたまま動こうとしないリーナに話を続ける。

 

「解せねぇ、どうしてそんなエリートコースを走り続けていたテメェが土方十四郎などというエリートとは程遠い芋侍なんかになろうとするんだ。刀を振り回すしか能のない俺なんかよりも、テメーの身体のままでいた方がずっと多くの可能性を秘めているというのに」

「……あなたにはわからないでしょうね、そうしてエリートと呼ばれ続けて来た私の心の痛みを……成長すればする程周りから疎まれ続け、信用できる同僚や部下も今では片手で数える程度」

「……」

「嫉妬を買う事ぐらい慣れてはいたけども、その嫉妬心が元で、私だけでなく私の数少ない親しい友人の同僚が被害に遭った時からかしら、もう嫌になったのよ、自分も、あの世界も」

 

腕を組んで目を逸らしながら少々寂し気にそう呟くリーナ。

 

「だからこそ私は私の地位を全て捨てて、別人に成り代わろうと思っていたのよ。アンタと入れ替わることが出来た時はそりゃ最高だったわよ、魔法も必要としない異世界は、私にとってまさに理想郷だったのよ」

「……」

「だからもう私の生まれた世界がどうなろうがどうでもいいのよ、魔法も才能もいらない。そしてこんな誰にも受け入れてもらえない私自身さえ……」

「……誰にも受け入れてもらえねぇだと? そいつは一体誰が決めた事だ?」

 

不意に土方が口を開くと同時に、タバコを一本口に咥えながらライターでを火を点ける。

 

「紛れもねぇテメー自身がそう勝手に決めつけた事だろうが、全くの見当違いもいい所だ、ここに”一人”、そんなテメェでも受け入れてやろうって奴がいるってのによ」

「!?」

 

いきなりの発言に驚くリーナは思わず言葉を失って固まる。

それに構わずタバコの先から煙を放ちながら土方は彼女の方へ顔を上げた。

 

「先程テメェが本気で俺の身体を手に入れようとする気合は確かに伝わった、それと同時に未だアンジェリーナという名を捨てきれないという未練のようなモノも感じた」

「は、反撃せずに一方的に私の魔法を食らっていたのは……全て私が本気なのか確かめようとしてたって言うの!?」

「迷う奴の剣は鈍る、そしてそれは魔法も同じだ。テメェはただ他人だけでなく自分も信じられない不安に怯えているだけのガキだってのがお前の力を受けてしかとわかったぜ」

 

タバコの先が灰となりポトリと床に落ちても気にせずに、土方はただ心見透かす様な真っ直ぐな目で

 

困惑しているリーナを見つめる。

 

「周りにどう言われようが気にしてんじゃねぇ、テメーのせいで大切な何かが傷付くなら身を張ってでも護って見せろ。もしも辛くなったら助けになってやる、俺は何時までもテメェの味方だ」

「な、な、な……!」

 

真意の込められた眼差しでそう言われてしまったリーナは突然ワナワナと震えだし

 

混乱に陥りながら彼女は必死に頭をフル回転させた。

 

(なんてこと! ま、まさか今までの振るまいは全て私を正しい道へ導く為の布石だったというの!? 私の魔法をまともに食らい続け! 倒れようが私の為に味方になってくれると言ってくれるなんて! こんなの! こんなの!)

 

なんというフォロー力。

不思議と後光さえ見えて来た土方に対し、リーナは血走った目を剥き出しながら

 

(ほ、惚れてまうやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!)

 

心の中でそう叫びながらリーナはグラリと体を揺らしてその場にへたり込んでしまった。

 

すっかり放心気味の彼女を見下ろしながら、タバコを口に咥えたまま土方はフッと笑う。

 

(フン、こんぐらいフォローしておけばもうコイツも俺を襲ってこようとしないだろ。ったくガキの相手なんてもうゴメンだぜ)

 

リーナに悟られぬ様脳内でそうぶっちゃけながら、土方はタバコをポイッと床にほおり捨てる。

 

(悪く思うな小娘、助けになってやるとは言ったがこの戦いが終わればもうテメェと一生会う事はねぇ、なにせ帰るべき世界は別々だからな。その場しのぎでつい余計な事も言っちまった気がするが、コレでもうコイツに付きまとわれる事はないだろ、ま、せいぜい向こうの世界では達者で暮らせ)

 

我ながら中々の演技だったと思いつつ、土方は勝ち誇ったように再びタバコを取り出そうと懐に手を伸ばそうとする、だが

 

その手を突然、パシッと強く両手で掴まれた。

 

掴んだ者はこちらに半腰状態でかろうじて立ち上がっているリーナだった。

 

「……アンタの言葉、痛いほど伝わったわ。まさか私の為にここまで身を挺したフォローをしてくれるなんて思いもしなかった」

「フン、ようやくわかってくれたか……」

「決めた私、もう二度とあなたの身体を奪おうだなんて考えないわ、だって……」

 

思いの外手を握る力が強かったので、土方は若干驚いて頬を引きつるも、上手くいったみたいだと確信する。

 

両手で彼の手を包み込みながら、リーナはゆっくりと彼の方へと顔を上げた。

 

先程までの殺意が込められた鬼気迫る表情をしていた者とは思えないぐらいの

 

両目をうっとりとさせて羨望の眼差しを向けて来る彼女がそこにいた。

 

「もう私の身も心も、貴方の方が先に奪ってしまったのだから……」

「へ!? え、ちょ! どういう事それ!?」

「でも私はもうアンジェリーナ=クドウ=シールズに戻る気は無いわ、そう今日から私は」

 

マズい、何か嫌な予感がする、それもとてつもなく嫌な予感だ。

 

焦りつつグイッと彼女に握られてる手を抜こうとする土方だが

 

リーナは一生放すもんかというぐらい両手に力を込めて彼を逃がさない。

 

「土方アンジェリーナとしてあなたを支える良き妻になる事を誓います……」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」

「不束者ですが今後よろしくお願いします、旦那様」

「ちょ! ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

嫌な予感が的中した、どうやら彼女には思いの外フォローが利きすぎてしまったみたいだ。

 

その場しのぎで取り繕った彼の言葉を、愛の告白的なモンだと思い込んでそれを受け入れてしまったのである。

 

(や、やりすぎたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! まさか俺のフォローがここまで利く奴がいたなんて!! 味方になるとは確かに言ったがここまで効果があるとは思ってもいなかった! チョロ過ぎるだろコイツ!)

「フフ、もう離さないわよ旦那様……でも私を裏切る真似だけはしないでよね、そうなったら私もう自分自身を抑えつけられなくなるから……! でも心配ないわよね、貴方は私の味方であり続けると言ったんだもの……!」

 

自分の選択ミスに土方は絶句しながらも恐る恐るリーナを見下ろすと

 

その表情はまたもやガラリと大きく変わり、献身的な妻の表情から

 

狂気をはらませた血走った両目でこちらを見上げていた。

 

歪に歪んだ満面の笑みを見せながら

 

「そうよ私達は一生添い遂げるの、絶対に互いを裏切らずありのままをさらけ出しながら……! それでももし貴方が私の前から逃げるような真似をするならば……! その時は貴方の手足を千切り取ってでも……!!」

(しかも根本的な所は変わってねぇんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!? むしろ前よりも更に猟奇的なヤンデレに進化してるよねコレ! む、無理だ! こんな重たい愛なんざ受け入れる気がしねぇ! 重すぎて胃がもたれるどころか輪切りにされちまう! つうかこの先コイツと一緒にいたら絶対いつか殺される! だ、誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)

 

まさかのアンジェリーナルートという名のバッドエンド直行のコースへと迷い込んでしまった土方。

 

必死に頭の中で助けを呼ぶがそれに応える者は誰もいない。

 

 

何故ならここにいるのは土方とリーナ、そして

 

 

「フハハハハハハハ! 良かったではないか鬼の副長殿! 異世界の年下女房を捕まえるとは恐れ入ったぞ!」

「ウフフフ、本当におめでたい事ね。結婚式にはぜひ参加させてもらうわね」

「お前等本当に嬉しそうだな……」

 

土方の宿敵である攘夷志士・桂小太郎と、そして異様に彼と仲の良い七草真由美。

そして二人のお目付け役である渡辺摩利しかここにはいなかった。

 

真由美の方はまだおしとやかに笑ってはいるが、桂の方は「ざまぁみろ」と言わんばかりに下卑た笑いを浮かべて土方に指を突き付けている。

 

「こいつは傑作ではないか! 見ろあの激しく戸惑っている鬼の副長の姿を! まさか真撰組のナンバー2があんな娘っ子を嫁にするなど思ってもいなかったわ! これで真撰組は内部から崩れ落ちるのも時間の問題だな真由美殿!!」

「羨ましいわねぇ……」

「ん?」

 

ゲラゲラ笑いつつ隣に立つ真由美に対していつもの様に共感を求める桂。

 

しかし何故かいつも自分に賛同してノリノリで乗っかって来る彼女が、何故か妙にしんみりした表情で土方とリーナを見つめている。

 

「まあでも私達もすぐに……せめて婚約発表でもみんなの前でやっておくべきかしら……あっちに住む事になるんだから達也君や深雪さん達とも会えなくなるだろうし……そうね、私達の大事な門出をみんなに祝ってもらう為に、最後にお別れ会的なモノを開いてそこで発表しましょうか、まずは将軍をウィンディングケーキ代わりにして……」

「……真由美殿? さっきから何一人でブツブツ呟いているのだ?」

「いやだもう桂さんったら! 盗み聞きしないで下さいね! 私達の事はちゃんとバッチリ私に任せて!」

「私達?」

 

土方達を見つめながら何か延々と呟き出している真由美に首を傾げる桂。

尋ねても笑いながら機嫌良さそうに自分の肩を強く叩く真由美にますます桂は眉をひそめる。

 

しかしそんな二人を背後から見守っていた摩利は一人、後ろからジーッと見つめた後、ゆっくりと目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

(これは最後に一波乱ありそうだな、桂に)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だ気付かぬ桂の後で摩利が一人、真由美の思惑に気付いている頃。

 

ラスボス魔堕王と対峙していた坂波銀雪と徳川達茂が同時のタイミングで真っ向から挑みかかっていた。

 

と言ってもそれは正面から馬鹿正直に突っ込むのではない。

 

「その木刀が邪悪の権現と化したあの全裸男を倒す秘策になるんだな?」

「みたいだな、詳細はわからんが長谷川さんの遺言の通りなら間違いねぇ」

「私を前に無視するんじゃないわよ! 食らいなさい!」

 

二人が会話してる途中で巨大化してる長谷川、魔堕王の口からグロデスクな泥のようなモノがボトボトと大量に落ちて来た。

 

床に落ちたその液体はその瞬間ジューッと音を立てて床を徐々に溶かしながら沈んでいく。

 

もはやただの化学兵器、まともな魔法と呼べる代物ではなかった。

 

銀雪と達茂はそれを反対方向に軽く飛んで避けつつ、二手に別れながらもまだ会話を止めようとしない。

 

「なら木刀を俺に貸してくれ、伯母上を倒すのは俺だ、俺が奴に一撃を加える」

「おいおい性懲りもなくまた自分勝手につっ走るつもりか? どうやらまだ殴られ足りねぇみたいだなお兄様」

「もう一度言うぞ深雪、銀さん。その木刀を貸してくれ」

「ああ? だから……」

 

頑なに銀雪の持つ木刀を貸してくれとせがむ辰茂に、銀雪はウンザリした様子でまた説教でもかまそうかと思ったその時、達茂の表情を見てふと何かを読み取った。

 

(まさかコイツ……)

 

アレは頑なに自分だけで何もかも終わらせている腹くくってる眼ではない、自分を銀時と深雪を信じてる眼だ。

そうだと知った銀雪は手に持っている木刀をググッと力強く握った後

 

「……そこまで言うなら仕方ねぇ、受け取れお兄様」

 

銀雪は思いきり左手に持った木刀を力いっぱい達茂に向かってほおり投げる。

 

「させないわよ!」

 

目の前で宙を回転しながら舞う木刀目掛けて、巨大な腕を振り下ろす魔堕王。

 

しかし寸での所で達茂自らが木刀目掛けて飛び上がると、その手で潰される前にパッと横から掻っ攫う。

 

「まだだぁ!!」

「チッ、往生際の悪い伯母上だ、いい加減しつこいぞ」

 

振り下ろされた魔堕王の腕からブツブツと何かが浮かび上がったと思いきや、それら全てが意思を持ったかのように蠢きながら飛び出てくるのは

 

生首だけの大量の長谷川泰三

 

「幸せになりて~……」

「腹いっぱい食いて~……」

「屋根付きの家に住みて~……」

「ハツ~……」

 

それぞれ長谷川の持つ願望を呟いているのか、弱々しい表情で嘆きながらこちら目掛けて飛んで来た。

 

無表情のまま達茂は木刀を受け取ったままもう片方の手に銃を握り

 

「なら仕事しろ」

「あぁぁぁぁぁ! 私の可愛いファンネルをよくも!」

「アレを本気で可愛いと思ってるのならいよいよ手遅れだな伯母上」

 

なんの抵抗も無く銃口を突き付けて一発で全て消し飛ばす達茂。

 

魔堕王が大声で叫んで何やら起こっているみたいだが

 

そんな事お構いなしに、辰茂は銀雪から受け取った木刀を手に構える。

 

「終わらせるぞこの一撃で、全てを」

「やれるものなら!」

 

決意を込めた表情でそう言うと、達茂は魔堕王目掛けて走り出す。

 

しかしそう簡単にやられようとしないのがラスボスである。

 

「やってみなさい! 魔堕王光殺砲!!」

 

両手を戻して10本の指を全て辰茂に向けると、全ての指の先から回転状の光線が一斉に放たれる。

 

「やってやるさ」

 

それでも達茂は退かずに魔堕王目掛けて走り出す、そして10発の光線は自ら突っ込んで来る彼に……

 

「俺達がな!!」

「く! おのれ深雪さん……!」

 

当たる事は無かった、達茂の方に意識を集中し過ぎていた為か、いつの間にか銀雪は床に両手を当てて氷結魔法を唱えると、魔堕王の両腕目掛けて氷の柱を下から生やして思いきり弾き飛ばしたのだ。

 

両腕が弾かれると同時に光線も上へと飛びあらぬ方向に行ってしまう。

 

「終わりだ伯母上」

 

魔堕王が次なる攻撃を行う前に終わらせる、達茂は彼の目の前へと来ると一気に飛び上がって両手に持った木刀を突き刺さんとする。

 

だが奴は真っ黒なグラサン越しから闇へと染まったこれまた真っ黒な目を覗かせてニヤリと笑う。

 

「忘れちゃったのかしら達也さん、私が得た魔法の力は『吸収』……つまり」

「!」

 

そう、全てはフェイク。

とっておきの秘策、それを確実に行う為にわざと魔堕王はここまで辰茂を誘い込んだのだ。

 

「さああなたと将軍も吸収してさしあげるわ!!」

「く……」

 

大口を開けたその先を見て達茂はさすがに奥歯を噛みしめてキツそうな表情を浮かべる。

 

魔堕王の口の中は何も見えぬ暗黒でしかなかった、ブラックホールのように光さえも吸い込む強烈な吸引力に抵抗しつつも辰茂はそのまま呆気なく

 

「……後は頼んだぞ二人共」

「お兄様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

最期に銀雪に言葉を残してあっという間に口の中へとすっぽり入って消えてしまった。

 

ゴクリと大きく飲み込んだ音を鳴らすと、魔堕王は残された彼女の方へ笑みを浮かべてきた。

 

「こんなにあっさりとあの子が終わるとは思っても無かったわ、深雪さん、あなたにとって最後の希望は私の手によって潰えたわ。あなたが達也さんに渡していた、私を倒せるかもしれないという木刀もね」

「……」

 

うつむきながら無言で魔堕王の言葉を聞く銀雪。

 

三人で戦っていたのに一人が飲まれて、また一人飲まれ、いよいよ一対一となってしまった。

 

残された銀雪は右手に持った木刀を力強く握りながらゆっくりと顔を上げる。

 

「潰えてねぇよまだギリギリ残ってる、テメェがどれだけ周りに絶望を振り撒こうとしても、色んな連中が束ねて編んだこの希望の綱は絶対に切れさせやしねぇ」

「……哀れなモノね深雪さん、大切な兄を失ってなお気丈に振る舞うなんて、でもその気丈さがどれまで持つか見物ね、あなたを消す前にそれをゆっくり堪能するというのも……」

「銀雪だ」

「……え?」

 

後は残った彼女を消せば自分を倒せる可能性を持つ邪魔者はもういない、魔堕王は最後に残った彼女をゆっくりと時間をかけて潰してやろうとか思っている矢先

 

残った彼女は平然とした様子でこちらに目を向ける。

 

「ずっと言おうと思ってたんだけどさ、俺の名前深雪じゃなくて銀雪だから、司馬深雪じゃなくて、坂田銀時も含まれてんの、ずっと深雪深雪って俺の名前を何度も間違えやがっていい加減にしろよコノヤロー」

「……それ今更言う事? あなた今まさに私にやられる所なのよ?」

「いやいや伯母上様、今だからこそ覚えておかないと困るんですよ、だって」

 

突拍子もない訂正を求めて来た銀雪に魔堕王が攻撃するのを止めてキョトンとしていると。

 

彼女はニヤリと笑って見せる。

 

「テメーを倒す相手の本当の名前ぐらい、冥途の土産として覚えて置いた方がいいだろうよ」

「は? 何を言って……うッ!!!」

「それともう一つ訂正だ、達也さんじゃなくて」

 

意味深な事を口走る銀雪に眉を顰める魔堕王だが、突然お腹を両手で押さえて苦悶の表情を浮かべる。

 

電車で突然お腹を壊してしまったサラリーマンの様に苦しそうにしている彼に対し、銀雪は人差し指を立てて更に訂正する。

 

「徳川達茂だ、今正にテメェの身体の中で暴れてる奴の名は将軍であり俺のお兄様だ」

「ぐ! ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! な! 一体どういう事!?」

「忘れておいでなのですか伯母上様~、お兄様が持つ魔法の力は『分解』ですのよ~……つまり」

 

わざとらしく猫撫で声で話しかけてくる銀雪に、魔堕王はハッと気づいた様子で顔をこわ張らせると次の瞬間

 

「この私の身体を内部から分解して消滅させるつもりだというの……! そんな馬鹿な!」

「安心しろ、消滅まではさせねぇと思うぜ、そんな真似したら長谷川さんまでおっ死んじまう」

「だ、だったら達也さんの狙いは……!」

「決まってんだろ」

 

体のあちこちからヒビが割れ始め、その隙間から邪悪の根源たるモノの様なドロドロした液体物質を滲み出てくる。

 

とても宇宙最強の王と名乗るには相応しくないその醜い姿を前に

 

銀雪はチャキッと持っている木刀を水平に構える。

 

「俺等がテメェにトドメ刺すまでの足止めだ」

「な! 何を言っているの! あなたが託した木刀はさっき私が達也さん事……は! ま、まさか!」

「ようやくお兄様の作戦に気付いたか」

 

銀雪の持つ木刀を見て魔堕王は絶句の表情を浮かべる。

 

もしかして彼女が達茂に渡した木刀は……

 

「ありゃあ坂田銀時の愛刀の方だよ、テメェを倒す本命はこっちだ」

 

不敵に笑みを浮かべながら銀雪はネタバラシをしつつ、ゆっくりと彼の方へと歩み寄る。

 

「ったく大した奴だぜ全く、今なら流石はお兄様ですって心の底から言えるよ」

「な! 何故!? どうして!?」

「お兄様はな、テメェを騙す為にわざと囮役になったんだよ」

 

身体の崩壊が始まっている事にも気づいていない様子でパニクる哀れな王に向かって、銀雪は歩み寄りながら説明してあげた。

 

「テメェの事だ、どうせ妹よりも先にあの兄貴の方を先に倒せばそれでケリが着くとタカをくくるだろうよ。だからお兄様はテメェを倒せる木刀を持っている俺に合図を送って、より自分に注意を惹きつけさせる為にわざとああ言ったんだ、「伯母上を倒すのは俺だ、木刀をよこせ」ってな」

「が……!」

「テメーを倒せる木刀を持ったお兄様と何も持たねぇ妹、そら優先するならそらお兄様の方ですよね伯母上」

「ハナっから私が達也さんを吸収するのも算段のウチだったというの……!」

「いやそれは俺達も流石にそこまでするとは予想していなかったんだけどね……ったく無茶しくてくれるぜ全く」

 

今までずっと自分の手の平の上で彼等を躍らせていると思っていた。

 

しかしそれは全て彼女達が仕組んだ幻想に過ぎなかった。

 

ずっと踊らされているのは他でもない、自分自身だ。

 

「という事でネタバラシは終わり、いよいよ大詰めだな伯母上様」

「!」

 

失意に満ちた表情でショックを受けている魔堕王の前に

 

いつの間にか銀雪が嘲笑を浮かべながら自分の目の前に立っているではないか

 

特製の木刀を肩に担ぎながら

 

彼が驚く隙も与える暇もなく、銀雪は床を蹴って一気に飛び掛かる。

 

「四葉真夜!! テメェの身体に塗られているそのメッキを剥がして! お兄様と将軍! ついでに長谷川さんと世界も取り返させてもらうぜ!!!」

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉ!! こんな! こんな所で私が負けるわけにはぁぁぁぁぁぁぁぁ!! がぁ!!」

 

真正面から飛び掛かって来た銀雪に向かって、崩壊されていく身体をありったけの力を振り絞って動かして抵抗しようとする魔堕王。

 

しかしその身体は突然、ピタリと時が止まったかのように固まってしまい動けなくなってしまう。

 

「ど、どうして身体が……!」

『ここでジタバタ足掻くなんて見苦しいぜ、姪っ子の全身全霊の一撃、いっちょ食らってやろうじゃねぇか』

「ま、まさか長谷川さん! あなたもまた私の体内で生き続けて……!」

『ハハハ、言い忘れてたな、俺の生命力はゴキブリ並だ』

 

頭の中で響く声に魔堕王が気を取られていると

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

もう眼前には木刀を振り上げる銀雪の姿があった。

 

身動きとれぬまま硬直した身体を必死に動かそうともがく魔堕王目掛けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりだクソババァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

哀れなる孤高の王への顔面に

 

咆哮と共に銀雪の降り下ろした木刀が食いこむ程重く叩き込まれた。

 

 

ここに至るまでに積み重ねて来た努力と苦労の連続

 

 

全てはただこの一撃の為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で最終章は終わります。

けどもうちょっとだけ続きますのでお楽しみに


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第四十訓 離別&就職

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!」

 

銀雪の降り下ろされた木刀が悲しき魔物、魔堕王の頭部へ刺さると、一気にその巨大な体がピキピキと割れ始め徐々に崩れ落ちていく。

 

銀雪の持つCAD搭載型特殊木刀の力は「中和」

 

分解、吸収とも違い、ありとあらゆる魔法を浄化し、無かった事にする為の魔法。

 

異世界へと渡った平賀源外がその世界の者達と発明したのは

 

魔法が日常的に扱われてる世界に対して冒涜とも呼べる

 

魔法そのものを否定す

 

魔堕王は天を仰いで叫びながら徐々に光に包まれてみるみる小さくなっていく。

 

「この私が、夢半ばで散るなんて……」

「コレで、俺達の戦いは終わり、だ……」

 

決着は着いたと悟った瞬間、銀雪はグラリと前のめりに倒れた。

 

 

 

 

薄れゆく意識の中で体の中にある二つの魂がゆっくりと離れていくのを感じながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他の者達が各々決着をつけている一方で

 

高杉一派もまた一つの戦いを終わらせていた。

 

「コレでこの場にいる蓮蓬は全て捕まえてたでござる」

「フン、所詮は影でコソコソ企むぐらいしか出来ねぇ種族だ、他愛ねぇ」

 

一仕事終えた様子でキセルを咥えながら一服をたしなむ高杉晋助、彼の目の前には数十匹以上の蓮蓬達が

 

皆縄にきつく縛られた状態で拘束されている。

 

そして彼の後方には河上万斉、来嶋また子、武市変平太の幹部勢だけでなく、他の鬼兵隊部隊も全員揃い踏みの状態であった。

 

短期間で無数にいた蓮蓬達を自らの部隊のみで捕まえることに成功した高杉。

 

銀時・桂と互角、もしくはそれ以上の剣術を持つ上に、部下をまとめる統率力は流石と言った所か。

 

「晋助殿、この者達はいったいどうしますかな?」

「んなの決まってるっスよ、武市先輩。コイツ等のせいで晋助様がどんな目に遭ったか考えれば答えは明白っス」

 

武市が晋助に歩み寄り参謀らしく進言すると、また子もまた身動き取れない上でいる蓮蓬の一人に冷徹に銃口を突き付け

 

「貴様等ぁ! 早く入れ替わり装置をもう一回作り直せぇ! そして晋助ちゃんを再び私の下にカムバァァァァァク!!!」

「また子殿、あなた一体どちらの味方なんですか? 反逆罪で粛清しますよ?」

 

血走った目で銃口をグリグリと蓮蓬の顔に押し付けながらとち狂った命令をするまた子に静かにツッコミを入れながら、武市は再度高杉の方へ顔を上げた。

 

「アレはほおっておいて話を続けます。蓮蓬、私としてはあまり生かしておくべきではないと思いますね。あの科学力は是非ともこちらで活用したい所ですが、いかんせん信頼できる相手ではありませんので」

「拙者も同意見でござる、あの者達の思想は危険すぎる。この場でさっさと処断する事が得策」

 

武市に続いて万斉も同じ考えだった様だ。

 

殺さず捕まえたのは改めてどう判断するか考える為、二人の意見に耳を貸しながら高杉は無言でキセルを吸っていると

 

「いや、ここで連中を殺すのは反対だ。それでは坂本さんの望みが果たせない」

 

この緊張感の中で唯一反対派だと訴えたのは、鬼兵隊のメンバーではない桐原武明だった。

幹部勢を相手に対し全く物怖じせず、堂々と高杉に進言する。

 

「坂本さんは蓮蓬達全員を説得し、再び彼等と手を取る事こそが一番の目的だと言っていた。ここで連中を殺したら和解なんて出来る筈がない、それではまた連中から恨みを買うだけで同じ事の繰り返しだ」

「なるほど、戦いをよく知らぬ若者らしい意見ですね桐原殿、ですがそれなら解決策はもう一つあります、それは彼等から恨みを買わねばいいだけの事です」

「どういう事だ……」

 

やたらと不気味な目をした武市が振り返って来たので、桐原が若干顔をこわばらせていると

 

武市はあっさりとした感じで答える。

 

「ここにいる蓮蓬を一人残らず我々の手で排除すれば、遺恨はおろか彼等の存在さえ消えてなくなる」

「な!」

「ぬしは晋助と共に行動していたのであろう? なら自ずとわかっている筈でござる、晋助は白夜叉に桂小太郎、坂本辰馬のような甘い考えは持ち合わせておらぬ」

 

高杉が彼等と行動していたのは、自分に対して刃を向けて来た相手にそれ相応の報復をする。それだけだ。

 

協力関係だろうが一時同盟だろうが知ったこっちゃない、鬼兵隊はあくまで容赦無しの過激派一派。

 

それを桐原にわからせようとしているのか、高杉はキセルを懐に仕舞うとすぐに腰に差す刀に手を置く。

 

「そういう事だ桐原、俺は坂本がなに企んで用が知ったこっちゃねぇ、俺がやるのは壊す事だけだ」

「ま、待ってくれ高杉さん! 連中を一人残らず全員殺すななんて真似したら坂本さん達がアンタ等にどう出るかわからないぞ! 下手すればかつての戦友同士で抗争に発展するかもしれん!」

「そいつはいい、坂本はともかくヅラと銀時とはいい加減決着つけてぇと思ってた所だ。それにコイツ等と和解するなんて到底無理な話だ、見ろ」

 

チャキッと刀を抜きながら高杉は桐原に捕まえてる蓮蓬達を見てみろと促す。

 

言われるがままに桐原は彼等を縄で縛られている見下ろしてみると

 

『おのれ地球人、またしても我等の星を滅ぼす気か……!』

『例えこの命尽きようと決して、この恨み決して忘れぬわ!』

『貴様等の話など聞かん、さっさと斬れ野蛮な猿共め!』

 

全員の蓮蓬がこちらを睨み付けながら、縄の隙間からかろうじてプラカードを出しながら恨みの言葉を漏らす。

 

これ程までの憎しみの感情が一体となっているのを見た事がない、桐原はあまりの異様な光景に思わずゴクリと生唾を飲み込む。

 

「まさかここまでとは……敗北はもう確定しているのに、コイツ等命は惜しくないのか……!?」

「惜しくもなんともねぇよ、コイツ等にとって俺達への復讐を失敗した時点で死んだも同然なのさ。コイツ等は見た目はアレだが中身は俺達侍とそう変わらねぇ、こんな連中を一体どう説得して和解する気なんだ?」

「確かに……だがどうにかして連中に一度落ち着いてもらえればもしかしたら……」

「今にも噛みついて来そうなコイツ等が落ち着くの待ってたら、それこそ俺達の方が寿命で死んじまう、だからその前に俺達が介錯してやろうってこった」

「!」

 

抜いた刀を怪しく光らせ、ほくそ笑みを浮かべてゆっくりと蓮蓬達に歩み寄っていく高杉。

 

間違いなくこの場で処断するつもりだ、彼を評価しているのも事実だが坂本の本願を叶えてやりたいのも本音

 

桐原はどうにかして彼等を止める術、そして蓮蓬達を説得させる策がないかと必死に考えていると……

 

「ま、待ってください高杉さん!」

「中条!」

「……」

 

蓮蓬達を斬ろうとする高杉の前に一人の少女が庇う様に両手を横に広げて現れた。

 

それは彼と入れ替わりを行った人物である中条あずさであった。

 

声を震わせ、こちらをギロリと睨み付ける高杉に対してビビりながらも、自分を奮い立たせ懸命に止めようとしたのだ。

 

彼女が現れた事に驚く桐原を尻目に、高杉の口元から笑みが消え、本気でイラっとした様子で彼女を見下ろす。

 

「おいおい、よりにもよって二度と見たくねぇツラがノコノコと俺の前に出てくるとはな。さっさと消え失せろ、後ろの化け物共と一緒に斬り殺されてぇなら別だが」

「ダ、ダメです! この人達はただ利用されていただけです! 話し合えばきっとわかってくれます!」

「俺達はそんなモン望んじゃいねぇ、二度は言わねぇ、殺すぞ」

「うう……やっぱり物凄く怖いですこの人……!」

 

坂田銀時と司波深雪の相性も最悪であろうが、この二人もまた別の意味で相性最悪である。

 

蓮蓬だけでなく自分に対しても殺気を放ってくる高杉に対し、あずさはすっかり涙目になってその場で縮こまるか逃げたいという衝動に駆られながらも、ここで負けたくないという精一杯の維持を張って耐える。

 

「だ、だったら私の力で高杉さんを止めて見せます!」

「あ?」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」 

 

小リスのような印象を持たれるぐらいの虫も殺せない見た目をしている少女が自分を止めると言った。

 

過激派として江戸全域はおろか天人にも恐れられ、最凶最悪の攘夷志士として君臨する高杉晋助を止めると彼女は言った。

 

これにはさすがに高杉も本気で癪に障ったのか、手に持つ刀を強く握りしめて一層彼女を強く睨み付ける。

 

悲鳴を上げて泣き叫びながらもあずさは両手を頭上に掲げ、首に掛けてるペンダントを光らせながら必死に魔法を展開する。

 

「お、お願い! みんなを! 高杉さん達を止めて!」

「!」

 

祈る様に訴えていたあずさから急に不穏な気配を感じ取った高杉。

 

コイツ本気で俺達を止める気か? そう思った矢先、彼女を中心に円形状の波動が辺り一帯に展開する。

 

その波動は決して人を傷つける為のモノではなかった、そこにいた高杉や鬼兵隊、蓮蓬達もまたその波動に飲み込まれるも衝撃もダメージも無く、依然と何ら変わらない状況であった。

 

しかし何かおかしい、その場にいた全員がザワザワとしている中、参謀の武市がいち早く自分達の中で何かが変わっている事に気付いた。

 

「コレは驚きました……もしやこれは我々の精神を鎮静化させる魔法なのでは?」

「む、言われてみれば確かに拙者も何か急に頭が冷めたような気がするでござる……なんと面妖な……!」

 

武市の説明を聞いて万斉も気付き、珍しく声を少しだけ大きくして驚く。

 

予想だにしなかった現象に鬼兵隊の連中が不思議がっている中、それは蓮蓬もまた同じで

 

『どういう、事だ……』

『我々は地球人を強く憎んでいる……その筈なのに』

『なんで彼等を目の前にしても落ち着いてられるのだ……』

 

先程まで激しい感情に揺さぶられ、怒りを露にしていた蓮蓬達が皆徐々に落ち着き始めて行ったではないか。

 

まさか鬼兵隊だけでなく蓮蓬達の心も大人しくさせたというのか?

 

高杉が眉をひそめて、目の前で震えるあずさを眺めながら固まっていると、桐原がツカツカと彼の方へ歩み寄り進言する。

 

「中条が使った魔法は梓弓≪あずさゆみ≫という彼女だけが使える情動干渉系魔法だ。 プシオンを震わせた波動で、一定のエリア内にいる人間をある種のトランス状態に誘導する効果がある」

「トランス……つまり一種の洗脳か? 俺達は奴にまんまと思考を支配されていると?」

「いや意識を奪ったり意思を乗っ取る訳じゃないからな、相手を無抵抗状態に陥れたり操ることまでは流石に出来ない。しかし」

 

ちゃんと話聞いてくれる態度になった高杉に内心ほっとしながら、桐原は話を続けた。

 

「一度に多人数相手に使う事が出来る上に興奮状態にある集団を沈静化させるぐらいなら出来る、アンタ達や蓮蓬はみんなコイツの魔法にかかって精神が落ち着きを取り戻したのさ」

「……」

「この状況なら説得も上手くいくかもしれん、コイツ等を坂本さんの所へ連れて行こう。落ち着いたコイツ等なら、まともに話を聞いてくれるかもしれないしな」

 

人を傷つけない魔法、それが銀時や高杉の持つ強さとは違う力、中条だけが持つ「強さ」なのかもしれない。

 

彼女の魔法にまんまとかかってしまった高杉もまた自分の中の激情が沈静化され、落ち着きを取り戻している事に気付く。

 

「チッ、俺としてはこの上なく最悪な魔法だな……」

「ひぃ! ご、ごめんなさい……」

「こんなモンを使いやがって、それで俺がコイツ等斬ろうとしないのは大間違いだぜ」

 

だが落ち着いたのは少しだけの間、すぐに蓮蓬にでなくあずさ本人に対して苛立ちを募らせて再び刀を強く握ろうとする高杉、だが

 

「いや晋助、これはもしやあずさ殿のファインプレーかもしれぬぞ」

「おい万斉、まさかテメェ……」

「ここで蓮蓬を斬れば白夜叉と矛を交えるのは必然、その上異世界の魔法師とも戦わねばならぬ、そうなれば我々の犠牲も必要以上に増える筈」

 

ここでまさかのあずさを庇い始める万斉が登場。何か憑き物が落ちたかのような爽やかな表情を浮かべているので、逆に気味が悪い。

 

「なれば拙者達がやる事は一つ、ここは蓮蓬を処断せずに坂本達に突き渡し、再びあずさ殿の魔法で皆を冷静にさせて改めて説得を試みようではないか、そう平和な解決が一番、ラブ&ピースでござるよ晋助」

「……おい小娘、テメェの力はかかった奴の精神を落ち着かせるだけじゃねぇのか? なんかウチの幹部がどえらい事になってるぞ」

「ええ!? い、いや私の魔法にここまでの効果は無い筈なんですけど……」

 

優しく諭しながら自分に微笑む万斉、柄にも無いどころかキャラまで変わってしまっている彼を見て高杉がすっかりドン引きしていると、今度はまた子の方が彼の肩にそっと手を置き

 

「晋助様、私達の力を坂田銀時達に見せるなら今がチャンスっす。ここでまだ残ってる蓮蓬の連中も無力化させて他の攘夷志士共に見せつけてやればきっと奴等も晋助様を見直して……」

 

『す、すげぇ高杉! まさか俺達がやってのけねぇ事を平然とやってのけるなんてマジ高杉様だよ! マジそこにシビれるんだけど!? マジ憧れるんだけど!?』

『高杉、まさか貴様がここまで我等の為を思ってここまで働いてくれるとは思わなかったぞ! 今日からお前を再び友と呼ばせてくれ! いや義兄弟の契りを交わそう! これからもよろしくな、お義兄様!!』

『うおぉぉぉ高杉! おまんがここまでやってくれるたぁわしは感激じゃあ、涙が止まらん! 決めたぜよ! わし等快援隊は皆揃って鬼兵隊に降っちょるきん! 金も物資も全ておまんのモンじゃアハハハハハハ!!』

 

  

「ってなりますから絶対! これで晋助様もお友達ゲットっす! もう誰も晋助様をハブこうとしませんよ! いつも出してもらえなかったギャグ編にも呼んでくれますって絶対!」

「……」

「ご、ごめんなさい高杉さん! どうやら少し調整に失敗してなんかみんなおかしくなってるのかも……!」

 

銀時、桂、坂本がきっと言ってくれるであろう事を代弁して熱を上げるまた子に対し、高杉は頭を押さえて無言になってしまう。

 

「どうやら一部の者は精神が沈静化されたはいいものの、感情がコントロールできずに暴走しているみたいですな」

「武市……テメェは無事だったのか」

「おかげさまで、ところであずさ殿」

「は、はい?」

 

すっかりおかしくなっている万斉やまた子を置いて一人冷静にしていられるのは武市だった。

 

どうやら彼はなんらおかしい点は無い様子、そして武市は自分に対して苦手意識の強いあずさの方へと音もなく近づいて

 

「この状況を打破する秘策をお持ちしました、これは是非あずさ殿のみにしか出来ない方法なので何卒ご協力を」

「ええもう思いついたんですか!? わ、私に出来る事があれば是非!」

「そういって貰えて助かります、それではまずあずさ殿には……」

 

流石は参謀役、もうこんな状況を解決する策を思いつくとは

 

あずさが快く彼の策に協力すると叫ぶと、武市は突然両膝を折って床の上で正座になった。

 

その途端、あずさに向かって頭を床にこすりつけながら

 

「私の頭を罵倒しながら踏みつけて下さい」

「はい!?」

「変態だのロリコンだの叫びながら力の限り私を踏んだり蹴ったりしてください」

「うえぇぇぇぇぇ!? ど、どういう意味があるんですかそれ!?」

「懺悔します、私はフェミニストと謳っておきながら散々あなたやご友人に無礼な真似をしました。どうかせめて私の罪が少しでも消えるのであれば、何卒私を痛ぶってください」

「た、高杉さぁん! やっぱりこの人もおかしくなってますぅ! 正しそうに見えてやっぱりおかしいですぅ!」

 

今までの数々の変態行為に反省し、せめて彼女に罵倒と暴力を真摯に受けながら罪滅ぼしをしたいと嘆く武市。

 

この状況を打破する秘策があると言ったくせに結局は彼自身も感情のコントロールが暴走しているみたいだ。

 

「ど、どうしましょう、皆さんおかしくなっちゃいました……」

「元よりテメェのせいだろうが、俺は何も知らねぇぞ」

 

困惑しているあずさに冷たくそう言い放つと、高杉は腕を組みながら静かに考え

 

「興覚めだ、蓮蓬を斬り殺すのは後回しだ、とりあえずコイツ等全員連れて坂本の所へ移動だ」

「は、はい!」

 

あずさの恐るべし魔法の力に仕方なく屈した高杉。

 

もしかしたら彼も魔法の影響で若干優しくなった、のかもしれない……というのが桐原の見解だ。

 

それから数分間ずっと鬼兵隊はこんな調子が続いて、程無くして皆正気に返ることが出来るのだが。

 

何故か武市だけはずっとあずさに踏んでくれと要求するのであった。

 

「あの、お金あげますから踏みつけてくれませんか? ちょっと興奮……いやフェミニストとしての新たな道が開きそうなんで」

「うわぁ~ん! やっぱこの人が高杉さんよりもずっと怖いです~!」

「おい桐原、ちょっと武市の奴を斬って来い」

「御意」

 

蓮蓬を斬る事に反対する桐原だが、武市を斬る事に関してはなんの文句も無く速やかに実行する桐原であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司波達也はゆっくりと目を覚ます。

 

まず最初に目の前にあったのは透明な天井、そこには満天の星々が光り輝いていた。

 

それをぼんやりと眺めつつ、まだ何とか動ける状態だと確認していると

 

「起きたか、達也」

 

天井に映る光り輝く星々を背中に纏いながら

 

征夷大将軍、徳川茂茂がこちらを見下ろしているではないか

 

何事も無く元の身体に戻っている彼を見て、達也は自分の身体もまた己のモンだと確認する為にむくりと上半身を起こす。

 

「そうか、終わったのか……」

「ああ、余もそなたも気が付いたら分離し、元の身体に魂が収まっていた」

「残念だな、将軍の権力を使って民を苦しめ悪行三昧でもやってみたかったのだが」

「フ、それなら余はそなたの身体を利用して世界の魔王にでも目指すべきであったな」

 

互いに冗談を言い合いつつ笑みを浮かべると、茂茂はスッと達也に手を差し伸べる。

 

「無事で何よりだ、友よ」

「アンタこそな、これでそよ姫に怒られなくて済む」

「どうであろうな、そなたを危険な目に遭わせたという事でが余がそよに怒られるやもしれん」

 

意地を張らずに素直に彼の手を取って立ち上がる達也は、二人無事に生還出来た事にひとまず安堵するが

 

大事な存在がここにいた事ををふと思い出した。

 

「そういえば深雪は?」

「……すまんがわからぬ、実の所余も先程意識が目覚めたばかりでな」

 

二人の周囲は最後の怪物・魔堕王や自分達が暴れ回った事によって大量の砂埃が待っている。

 

妹である深雪と、ついでに銀時の事もほんの少し心配していると、次第に砂埃は消えて視界が良好になってきた。

 

そしてぼんやりと二つのシルエットが浮き出て、達也はそこを一点集中して目を細めて凝視していると

 

 

 

 

 

「ようやく、ようやく取り戻せたぜ俺の身体……」

「私の身体……ちゃんと元の姿に戻ってる……」

 

二人で自分の身体をまじまじと見つめながら、己の本来の身体になれた事を徐々に実感している

 

坂田銀時と司波深雪がそこにいた。

 

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 終盤にして遂に紛れもない坂田銀時として復活だぁぁぁぁぁぁ!!! マジ久しぶりなんだけどこの体の感覚! 久しぶり過ぎて股間になんか付いてる事に違和感覚えるけど何はともあれこれでハッピーエンドだチクショウ!! 野郎共祝杯の準備だ! 銀さん無事に男に戻れました記念だ!」」

「ああこの時が来るのをどれだけ待ち望んだ事か……辛く悲しくひもじい生活を送りながら、なんとかお兄様の存在を心の支えにして耐え忍んだかいがありました、これで私は司波深雪として、公にお兄様の妹として再び生きていける事が出来るのですね……」

 

銀時は狂喜乱舞し、深雪もまたしみじみと喜びを噛みしめている。

 

どうやら無事に二人も元に戻れたらしい、ホッと一息突くと達也は自分の身体を取り戻せたことですっかり舞い上がってる二人の下へ歩みよろうとする、だが

 

「「か~ら~の~!!」」

 

歩み寄ろうとした達也の足がピタリと止まる

 

先程まで喜びを表現していた銀時と深雪が、急に豹変して同時に互いの方へ振り向いて

 

「「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」

 

深雪は元に戻る時にいつの間にか手に持っていたCAD搭載の木刀を

 

銀時は傍に落ちていた自分の愛刀の木刀を即拾い上げて

 

力の限り思いっきり相手に向かって斬りかかったではないか。

 

二本の木刀がぶつかり合い、本気で倒す勢いで両者は鍔迫り合いの状態で睨み合う。

 

「いやぁもうホントこの時が来るのを待っていたんだよ銀さん! やっと人の身体借りパクしたこのガキをテメーの身体で痛めつけてやろうとずっと思っていたからさ!」

「不本意ですが私も同じ考えです……! こちとら乙女の身体を奪われた挙句、あまつさえ不良品のポンコツおっさんを渡されて最悪だったんですから……! 絶対にいつかそのこの手で制裁を加えると枕を涙で濡らしながら誓っていたんですよ私……!」

「ほほう気が合いますなぁ深雪さん……! 最期にお前とこうして仲良く語り合えて良かったよ……!」

「そうですね、こうしてお互いの身体に戻って本音を言い合えて良かったですよ銀さん、だからさっさと私の目の前から消えて下さい……! その銀髪天然パーマを見てるだけで無性にイライラするんです……!」

「オメェが消えろ……!」」

「いやあなたが……!」

 

銀時は持ち前の戦闘力で叩き潰そうとするも、深雪は持ち前の魔法の力を行使して氷結魔法を木刀に付加させて負けじと応戦する。

 

何やら本気で相手をぶっ飛ばそうとしているのではないかと察した達也は

 

「全く、真のラスボスは一番傍にいた人物という訳か……ていうかよく融合が出来たモンだ」

 

やれやれと呆れつつ、互いに罵り合いながら木刀を突き合わせている二人の下へと歩を進めた。

 

「戦いは終わったぞ二人共、いい加減にしないか」

「「お兄様!!」」

「……深雪はともかくなんで坂田銀時にまでお兄様と呼ばれたんだ俺」

 

達也が声を掛けた途端二人は戦いを忘れて同時に彼の方へ振り返り

 

すぐ様得物を引いて彼の方へと深雪の方が嬉しそうに駆け寄って来た。

 

「お兄様、今までの数々の暴言をお許しください……この男と一つとなった時にお兄様に色々と酷い事を……むご!」

 

坂波銀雪となっていた時に達也に対して色々と言い過ぎだったと自覚していた深雪は、ここでようやく謝れると思っていた矢先、そんな彼女の顔を掴んで脇にどかして、いけしゃあしゃあと銀時が達也の前に現れる。

 

「いやぁお互い元の身体に戻れたみたいで良かったですねぇお兄様、でもこんなブラザーコンプレックス娘なんざとまた一緒に住む事になるのはコリゴリでしょう、どうですかお兄様? いっその事ウチの世界に移住して万事屋として俺と一緒に働いてみるというのは? 将軍とも仲の良いアンタならさぞかし金が貰える良い仕事取ってくれるかもしれねぇし」

「は!? 何勝手な事を言ってるんですかあなた! まさか将軍とパイプを持つお兄様を利用して金儲けでも考えて!」

 

明らか何か企んでる気満々の様子でいやらしい笑みを浮かべながら達也を万事屋に勧誘しようとする銀時

 

彼に顔を抑えつけながらも、深雪は必死にもがきながら抗議する。

 

「お兄様は私と同じ世界に帰るんです! あなたみたいな下衆と一緒にさせるなんて私が絶対に許しません!」

「あ? いいよお前一人で帰れ。こっちはお兄様を加入させて最強万事屋としてリニューアルオープンする予定なんだよ、あ、それとお兄様だけじゃなくて雫とほのかも寄越せ」

「お兄様だけじゃ飽き足らずあまつさえ私の友人までも奪うおつもりですか!?」

「優先順位的には雫>お兄様>ほのかだな」

「まさかの雫がトップ!?」

「ああ、なんか見てて面白ぇんだよなアイツ」

「確かに不思議とあなたと気が合ってましたけど……でも彼女もお兄様も渡しません! 連れて行くならほのかだけです!」

「アイツは良いのかよ」

 

こちらの世界から人材を補強して最強万事屋として金儲けを企んでいる銀時に、深雪が絶対にそんな横暴な真似をさせてたまるかと面と向かって怒鳴り声を上げている最中

 

二人の醜い争いを前にどうしたもんかと困り果てていた達也がふとある気配に気づいた。

 

同時に何か嫌な予感も覚えながら

 

「……二人共静かにしてくれ、さっき向こうから誰かがいるのを感じた」

 

鋭い視線を前方に向けながら彼が呟くと、銀時と深雪はビクッと反応して同じ方向へと振り向いた。

 

するとその方向からフラリと人影が一つこちらへとゆっくり近づいて来る。

 

その姿はどこか見覚えのある

 

煌びやかな黒いドレスを着飾った妖艶なる美女

 

 

 

 

 

 

 

 

先程倒した筈の四葉真夜だった。

 

「どうやら伯母上も無事だったらしいな……」

「チッあのババァも元の身体に戻れたのか……テメェまだ俺達と戦う気かコラ!?」

 

突如現れた真夜に対してすぐに戦闘態勢を取ろうとする達也と銀時

 

だが真夜はこちらを静かに見据えてしばしの間を取った後にフンと鼻を鳴らして笑みを浮かべると

 

床に落ちてたヒビ付きのグラサンを掛けながら、懐から慣れた感じでタバコを取り出した。

 

「安心しな銀さん、俺はまるでダメな叔母さんではなく、まるでダメなおっさんの方だ」

「そ、その喋り方は、まさか長谷川さん!?」

 

なんと四葉真夜の身体にはまだ長谷川泰三の精神が居座っていたのだ。

 

思いもよらぬ出来事に銀時が驚いて目を見開く。

 

「どういう事だ一体!? アンタなんでまだ四葉真夜の身体でいるんだ!?」

「俺もよくわからんが、どうやらアンタ等と違って俺達は無理矢理魂を肉体を混ぜ合わせちまったから、おかしな事になっちまったらしい」

 

落ち着いた様子でタバコを吸いながら、真夜に戻った長谷川がみんなに話を始めた。

 

「どうやら俺の本当の身体は四葉真夜の魂と共にこの体の奥底に沈んじまってるみてぇなんだ、こうしているとアイツが俺の中にいるのを感じるのさ、だからアイツは今も俺の中で生きている、俺の身体と一緒にな」

「なるほど、本来意志を通じ合わねば出来ない融合を強引にやってしまった結果の反動という訳か」

「歪な融合体であったからイレギュラーが起こり出し、伯母上様は長谷川さんの身体、もといご自分の身体に封印されたという訳ですか?」

「詳しく調べればわかるかもしれないが、現状を見る限りそう推測するのが妥当だろう」

 

四葉真夜の魂は今、長谷川泰三の身体と共に封印されている状態だという事を理解しながら達也は頷き、深雪もわかった様子で彼に振り向く。

 

だが銀時は一人怪しむ様に真夜を見つめていた。

 

「どうだろうねぇ、もしかしてコイツ長谷川さんじゃなくて、長谷川さんの演技してる四葉真夜なんじゃねぇか? 本当に封印されてるのは長谷川さんの方だったりして」

「いやいや銀さん! 長い付き合いなんだからわかるだろ! 俺が本物の長谷川だから! 元幕府の入国管理局局長でエリートコースを進んでいたのに! 一時のテンションに身を任せて無職になっちまった長谷川泰三だよ!」

「冗談だよ、アンタの演技なんざ誰にもできるわけねぇって。だって別の身体なのにあの長谷川さん特有の洗っても落ちねぇ薄汚ねぇダメ人間の臭いがプンプンするんだよ、マダオの貫禄半端ねェもん」

「それはそれで悲しいんだけど!? 俺いつの間にそんなの周りに振り撒いてたの!? 洗ったら落ちるかな!?」

 

あまり嬉しくない証明の仕方に真夜はひどくショックを受けるが、「まあまあ」と言った張本人である銀時が慰める。

 

「何はともあれ生きてて良かったじゃねぇか長谷川さん、もしかしたらあの女と一緒に死んじまったんじゃないかとヒヤヒヤしてたんだぜ」

「ああそうだな、こうして生き長らえた事には銀さん達に感謝してるよ。ところで感謝するついでにちょっと聞きたいんだけどさ?」

「ん?」

 

吸い終わったタバコを捨ててハイヒールの踵で踏みつけて火を消しながら、真夜はおもむろに銀時達の方へと顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

「俺がどうやったら元の身体に戻れるかってちゃんとみんな考えてくれてるよね? みんなは元の身体に戻れたんだし、俺だけ置いてけぼりとか流石に無いよな?」

「……」

 

ふとした疑問をハハハッと笑いながらぶつけてきた真夜に対し

 

銀時、深雪、達也、茂茂は互いに目を合わせ無言で固まった後

 

しばらくして彼女の方へ顔を戻すと

 

突如四人で一斉にパチパチと拍手し始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「再就職おめでとう、長谷川さん」

「おめでとうございます」

「おめでとう、新伯母上」

「おめでとう、別の世界でも頑張ってくれ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」 

 

 

銀時、深雪、達也、茂茂の順に祝いの言葉を掛ける中、真夜はあまりにも身勝手な連中に頭を抱えて叫ぶ事しか出来なかった。

 

長谷川泰三、念願の就職決定

 

就職先は異世界・四葉家の当主

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




出会いがあれば別れもある

最初は喧嘩もしたり殴り合ったり

最後もやっぱり喧嘩したり殴り合ったり

けれどそういう喧嘩仲間と離れ離れになるというのもそれはそれで寂しいモノ

戦い終われど安心するなかれ、家に帰るまでが修学旅行。

それぞれの居場所へと帰る為に銀時達がもうひと踏ん張り頑張ります。

魔法科高校の攘夷志士・完結編、次回にて開始


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帰りのHR編
第四十一訓 暗躍&脱出


『宇宙皇帝Mが敗れたか……』

 

 

蓮蓬の星、中枢

 

パイプに繋がれた機器の中心にあるのはホルマリン漬けされてるかのように容器に収まった脳

 

プカプカと溜まった液体の中に漂うという禍々しいその物体からは、独り言を呟いているかのように声が発せられている。

 

この声の主にして、中枢に浮かぶ脳こそが、この蓮蓬の母星の正体にして米堕卿を操作していた真の正体。

 

SAGI 全ての蓮蓬達を造り上げた始祖にして四葉真夜と結託して二つの地球を滅ぼそうと企てたもう一人の黒幕である。

 

『人間の身でありながら世界を滅ぼそうとする強い意志と狂気を買っていたのだが、ここで負けてしまったのであれば仕方ない。かくなるう上は我がこの星を操作し、二つの地球に攻め入って自ら滅ぼしに赴こうではないか』

 

基本的に自分の手駒に対して何の愛着を持たないSAGIであったが、四葉真夜が敗れた事に関しては大いなる痛手を感じているらしい。

 

なればと、強大なる要塞であり星そのものでもある自らが地球へと出向こうと動き出す。しかし

 

「残念だけどそうはいかないわ」

『な! 貴様は!』

 

彼が動き出そうとした途端、突如彼の目の前に一人の女性が、この自分以外の者が侵入することが出来ない筈の中枢にツカツカと足音を立てて現れたのだ。

 

『貴様は我の計画を阻止せんと連中と邪魔をしに来た異世界の地球人!』

「フ、まさかまだその程度の認識だったとわね……高性能の知力を持った科学生命体が聞いて呆れるわ」

 

その人物の正体は藤林響子。

司波達也と入れ替わった徳川茂茂の護衛役としてここに来ていた筈の軍部の彼女がどうしてこんな所に……

 

しかも驚くSAGIに対し、彼女は何処か意味深な台詞を呟きながら肩をすくめる。

 

「どうやらまだ私の正体をわかってないみたいだね」

『貴様ぁ! どうして我しか入れぬこの聖域に足を踏み入れられたぁ!』

「何言ってんのさ、私がここに来たのはもう”二度目”だよ? 入り方ぐらいとうに熟知してる」

『な! もしや貴様異世界の地球人ではないな! まさか貴様は……!』

 

どことなく見覚えのある喋り方に彼が勘付いていると、響子はおもむろに自分の頬に手を当て

 

乱暴に掴んだ途端顔の表面がビリリと破け、その中からまた新たな顔が現れたではないか。

 

「もっとも私は、入るより入られる方なんだけど、ね?」

 

新たに現れたのは長いウェーブ上の茶髪を揺らす一人の美女。

その女性を見てSAGIは激しく動揺したかのようにとち狂い出す。

 

『貴様はフミ子! よもや前回の戦いで我と共に心中を図ったと思っていた貴様が!!」

「フン、残念ながらアンタと同じく私もしぶといのよ」

 

フミ子、蓮蓬であり桂の戦友でもあった人物のかつての恋人。

 

彼女は前回、銀時達が蓮蓬達との雌雄を決する最後の戦いで、自らを犠牲にSAGIの弱点を曝け出す事によって

 

結果的に彼女の尊い犠牲のおかげで地球人側は勝利することが出来たのだ。

 

しかし彼女もまた運良く生き延び、こうして同じく生き延びたSAGIと再び対峙する事になる。

 

「アンタが四葉真夜と組んで再び地球を脅威に晒そうとしていたのはずっとお見通しだったのさ」

『まさか異世界に渡って我等の計画を探っていたのか!』

「ええ、協力者がいてくれたおかげで、二つの世界にバッチリ情報流させてもらったよ。やっぱり地球人は優しいね、異世界であろうとさ」

 

フミ子はそう言いながらスーツのシャツをボタンを上から数個外すと、露わになった胸の谷間からボタンの付いた小型携帯機を取り出してフッと彼に笑いかけた。

 

「さあて幕はもう下りたんだ、残念ながらアンタの出番は今回は無し、ここで終わらせてもらうよ」

『貴様一体何をする気……! は!』

 

躊躇なくカチッとボタンを押すと周りに設置されている機械物が次々に爆破されていく。

 

彼女が持っていた小型携帯機の正体はここ等一帯に密集されている

 

自分の生命活動を支える為の機械に密かに仕掛けていた爆弾を爆破する為の装置だったのだ。

 

『まさかここまで早く手が回っていたとは……』

「アンタが死ねばこの星は再び瓦礫と化す、核であるアンタが消えればこの星も時間をかけて崩れ落ちていくだろうさ」

『おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!! 一度だけでは飽き足らず! 二度も我を殺す気か! そうはさせるか!』

 

周りが爆発してる中で冷静に口を開くフミ子に対し、怒りと憎しみの感情の下に彼女だけでも殺そうと動こうとするSAGI

 

だが突然

 

『うッ!!』

 

彼が液体漬けに入っている容器を突き破り、巨大な脳を貫通して刀の先がフミ子の前で光り輝く。

 

「あらSAGI、立派なモンをお持ちのようだね。私の元カレには負けるけど」

『そ、そんな馬鹿な! 貴様だけでなくもう一人ここに紛れ込んでいたとは!」

「言っただろ、私は地球の人達と協力しながらここまではるばるやって来たのさ」

 

SAGIを貫いた刀をグイッと半回転し、更に脳細胞を破壊していきながら一気に引き抜いたのは。

 

SAGIを挟んだ状態でフミ子と向かい合う、蓮蓬の格好をした一人の人物。

 

「私を助けてくれた二人の地球人、そして今は二人で一人の地球人さ」

「コレでようやく片付いたようですね、おかげで僕達も何の未練もありません」

「やっぱり融合の時間が長すぎたせいでそれぞれの身体に戻れなかったんだね……けど大丈夫よ、フミ子姉さんがちゃんとアンタ達が元に戻れる方法探してくるから」

「いえ、コレはコレで快適ですよ私達は。こう見えて入れ替わり組の中では一番通じ合ってる仲だと自負していますので」

「あらそう、仲良くやってるみたいで何よりだわ」

 

やや含みある言葉を呟くその者にフミ子が微笑を浮かべていると、SAGIが収まっている容器の貫かれた箇所から徐々にピキピキとヒビが割れ始め、徐々に容器全身に亀裂が走って中の液体が周りに漏れ始める。

 

このままほおっておけば生命活動できなくなったSAGIは生物としても機械としても死に絶えるであろう。

 

しかし

 

突如、ゴゴゴゴゴゴ!と激しい音を立ててその部屋一帯が大きく揺れ始める。

 

「……何かしらこの揺れは?」

「わかりません、もしかして銀時さん達に何か……」

「いや、これはこの部屋中心から揺れが発生しているわ……」

 

機械の爆発の影響ではない予想外の出来事にフミ子は笑みを忘れて怪訝な表情で周りを見渡していると

 

ふとこの部屋の中核に居座っているSAGIの方へと目をやると

 

『フッフッフ……』と不敵な笑い声が響き渡る

 

『こうなっては止むを得まい……世界を我が手中に収めるという野望を果たせぬというのであれば、せめて我に幾度も刃向かう愚かな貴様等に復讐するという目的でも達成させてくれるわ!』

「あ、あなたまさか……!」

『我が死ぬのであればそれはそれでよし! だがタダでは死なぬ! 我の持つありったけの力を振り絞り!』

 

徐々に激しく揺れ始め、流石に立っていられなくなったフミ子が歯がゆそうにSAGIを睨み付けていると

 

彼はその反応を待っていたんと言わんばかりに狂った様に大声を上げ

 

 

 

『この星にいる我が駒と命を共にし! 貴様等も道連れにしてくれよう!』

 

終わった筈の戦いの果てで待ち構えていたアンコール

 

 

最後の敵はこの星自身

 

 

 

 

 

 

 

星全体が揺れ始めたその頃

 

戦いを終えて脱出せんと船へと向かっていた銀時達もまたその異変に気付いた。

 

「おい、なんか揺れてね?」

「ああ、何か嫌な予感がする……走れる気力は残っているか茂茂」

「無論だ、戦が終わってもまだ油断は出来ぬ。皆全員生きて帰る事こそがこの戦の本当の勝利と言えよう」

 

激しい揺れにグラつきそうになりながらも、司波達也と徳川茂茂を先頭に出口へと走り出す。

 

それに続いて坂田銀時と司馬深雪が後を追う。

 

「全く、この忌々しい男とも離れることが出来たのに喜ぶ暇もありませんね……」

「別にその辺で勝手に喜んでたっていいんだぞ、テメェが喜んで踊り狂ってる間に俺達はお前置いて地球に帰るから、テメェはこのままこの星と命を共にしろ」

「踊り狂う訳ないでしょ、あなたがこの星と共に消えて下さい」

「オメェが消えろ、お兄様、ちょっとコイツパパッと分解してくれません?」

 

一緒に走りながらも顔を合わせてまたもや口喧嘩を始め出す銀時と深雪

 

するとその二人の背後から一人の人物がボソッと口を挟む。

 

「あのさ、喧嘩する前に君達さ。まず俺になんか言う事あるんじゃないの?」

「え? ああゴメン、忘れてたわ」

 

暗く低い声で言葉を投げかけて来たその人物に銀時が死んだ目で振り返る。

 

「とりあえず今後はどう呼べばいいのおたく? 長谷川? 四葉真夜?」

「合体させて長谷川真夜とでも呼べばいいんじゃないですか?」

「名前の呼び方についてじゃねぇよ! 元に戻せなくてごめんなさいだろうが!」

 

二人揃って見当違いな事を言う銀時と深雪に耐えかねて

長谷川の魂が主軸となって蘇った四葉真夜、もとい長谷川真夜が怒鳴り散らした。

 

「ホントどうすればいいんだよ俺! もうお先真っ暗じゃねぇか!」

「グラサン外せばいいんじゃね?」

「そう言う意味じゃないから! グラサン取ったらもう完全に俺じゃなくなるだろ! てかもうこの体そのものが俺の体じゃねぇし!!」

 

グラサン掛けたまま彼女がツッコミを入れると、話を聞いていたのか銀時達の前を走る達也が後ろに振り返り

 

「心配するな新伯母上、これからは四葉家の当主としてセレブ感たっぷりの豪勢な生活が出来ると思えばそう悪くないだろ。職務の事は任せろ、俺が裏で暗躍してアンタは俺の言うがままに操られていればそれでいい……」

「ちょっとぉ! この子思ったより腹黒いんだけど!? 伯母上いなくなったことを好機と捉え四葉家まるまる乗っ取ろうとしてるよ!」

「流石はお兄様です、長谷川さんを名ばかりの傀儡に仕立て上げる事で、これで私達も晴れて自由の身ですね」

「流石はお兄様じゃねぇよ! なんだこの可愛い気のねぇ甥っ子と姪っ子は! 絶対お年玉やらねぇからな!!」

 

顔に影を作り早速何やら思惑のある表情で薄ら笑みを浮かべる達也とそれに賛同して彼を称賛する深雪。

 

長谷川が今後いつか絶対権力使ってこの兄妹に嫌がらせしてやろうかと考えながら銀時と深雪を追い抜いていると

 

先頭を走っていた茂茂に予期せぬハプニングが襲い掛かる。

 

「!?」

「茂茂!」

 

突如、彼が走っていた床が抜け落ちたではないか、驚くのも束の間、そのまま底の見えない真下へと急降下しかける茂茂をすぐ様手を伸ばして間一髪で助ける達也

 

しかし

 

「しまった、もう余力が……」

「お兄様!」

 

普段なら片手で大の男を持ち上げる事ぐらいなんて事無いのだが、ちょっと前に命を賭けた激戦を繰り広げていたばかりの達也にはもうあまり力が残されていなかったのだ。

 

茂茂の手を掴んだままグラリと底の抜けた穴へと傾き、そのまま彼と一緒に落下し掛ける達也。

 

だが

 

「伯母上頼む」

「へ!? うおあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

落ちかける寸前でつい手を伸ばした先にあったのは、長谷川の細っこい足首であった。

 

達也に引っ張られてそのまま共に落下し掛ける長谷川だが、一瞬の間の中で目の前に入ったある物を掴んで

 

「いやだぁぁぁぁ!! 銀さん助けてくれぇ!!!」

「ギャァァァァァァァ!! テメェ何処掴んでやがんだコノヤロォォォォォォォ!!!」

 

あろう事か落ちる寸前で目に入った銀時の腰の部分に手を伸ばし、股の先に付いていた男性のシンボル的なアレをつい掴んでしまう長谷川。

 

思わぬ激痛に悲鳴を上げて耐える事が出来ずに、そのまま彼女達と共に落下し掛ける銀時だったが

 

「いだだだだだだ! 死ぬ死ぬマジで死ぬってコレ!!」

「え? うごッ!」

 

傾いて落ちる前に自分の隣にいた深雪の腰の部分を後ろからガッチリホールドして、半ば道連れにする形で穴へと落ちるも

 

突然の出来事に対しても深雪は彼に腰にしがみつかれたまま床に生えていた突起物に両手を伸ばし。

 

4人を吊るしたままなんとか落下を防いだのであった。

 

「んがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 無理無理無理無理です!! 腰から下が千切れちゃいます!!」

「バカ野郎死に物狂いで耐えろ! 俺なんか股間千切れそうなんだぞ!」

「ヒャッハッハ!! もうどうとでもなりやがれ! テメェ等全員まとめて道連れだチクショウ!!」

「今のアンタなら伯母上とキチンとわかり合えた上で正規の融合が出来そうだな」

「下は完全なる暗闇……下手すれば宇宙空間にほおり出される可能性もあるぞ」

 

涙目でなんとかしがみ付いている深雪

 

彼女の腰を掴んで痛みで泣きながら叫ぶ銀時

 

彼の股間を掴んでヤケクソ気味に高笑いを上げている長谷川

 

彼の足首を掴んだまま冷静にそんな彼女を見ている達也。

 

そして彼と手を繋いでる状態で、茂茂は冷静に宙ぶらりんの状態で真下に向かって目を凝らす。

 

「このままでは皆落ちてしまう……止むを得まい、余が犠牲となれば少しは負担も軽く……」

「ふざけた事を考えてるんじゃないぞ茂茂、アンタにはまだ生きてもらわねば困る」

「誰も生きられやしねぇさ! どうせみんな死ぬんだヒャッハッハッッハ!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 銀さんの竿と玉が! 略して竿玉が持ってかれるぅぅぅぅぅ!!!」

「さっきから私のお尻に顔うずめながら叫ばないで下さい!!」

「うるせぇ! もうここに顔が定着しちゃってるんだから動くに動けねぇんだよ!」

 

下から喚き立てる銀時に深雪が「助かったら絶対殺す!」と固く決意をしながら必死の形相で突起物にしがみ付く。

 

しかしこのままではいずれ深雪の力が尽きて全員真っ逆さまだ。何か、何か助けが来ればいいのだが……

 

「うぎぎぎ……もうダメです両腕の力が……」

「……」

「は!」

 

もはやこれまでかと深雪が諦めかけていたその時だった。

 

ふと彼女の前にフラリト一人の人物が偶然通りがかったかのように現れたのだ。

 

その人物は……

 

「あなたは! 確か真撰組の所の沖田さん!?」

「……」

 

済まし顔でこちらを見下ろしながら無言で見つめて来る沖田がそこにいた。

 

彼の名を深雪が叫ぶのを聞いて銀時は我が耳を疑う。

 

「おいちょっと待って小娘! 今なんつった!? もしかしてお前そこに! よりにもよってドS野郎が現れたとかないよな!」

「あり? そこにいるのは旦那じゃねぇですかぃ? どうやらおたく等も元の体に戻れたようで何よりでさぁ、いやぁお互い無事で何よりだ」

「今この状況のどこが無事だっつうんだよ! 嘘だろオイ! まさかこんな奴がこの状況で来るなんて!!」

 

ヒョイッと穴に向かって顔を出してきた沖田に銀時はツッコミを入れながら悲観に暮れているが

 

彼とはあまり付き合いの長い方ではない深雪は、銀時がどうして嘆いているのかわからず、ただ一心不乱に沖田に言葉を投げかける。

 

「すみませんお手を貸してくれませんか、もしくは今すぐ他の人達に助けを呼んで来て欲しいのですが?」

「……」

「あ、あれ? 聞いてますか沖田さん? ていうかその手に持ってるのって……」

「あ? ああ聞いてる聞いてる、聞いてるけどちょっと後にしてくんない?」

 

深雪のsos信号を受けてなお沖田は仏頂面で取り出している物は自分の携帯電話。

 

慣れた手つきで操作しながら完全にこちらの事よりも携帯の画面の方を眺めている。

 

「知ってやすかぃ旦那、最近のゲームってのは携帯で無料で出来るんですよ。実を言うと俺も最近それを知りましてね。今やってるゲームはとある事務所に配属されているアイドルを自分好みのメス豚に調教できる画期的なゲームで」

「は!? !ちょっと待ってください! 私の助けを無視してまさかの携帯ゲーム!? 何やってんですかあなたは!」

「ごめん、うるさくしないで気が散るから」

「ええ!?」

 

腰から下の感覚が徐々に無くなりかけている深雪を前にしても沖田は彼女の訴えも華麗にスルーして、携帯片手にまたもや彼女の腰にしがみ付いている銀時の方を見下ろす。

 

「あーどうしやしょう旦那、高垣楓と三村かな子、どっちを痛みつけてやろうか迷っちまいました。旦那ならどっちにます?」

「こんな状況で聞く事それ!? よく知らねぇけど高垣楓の方で良いんじゃねぇの!?」

 

この状況下でなに下らない質問しているのだと怒鳴りながら銀時が答える。すると彼の答えを聞いて何故か深雪の方が顔をしかめる。

 

「すみません私もそのゲームについてはよく知りませんけど、その高垣楓という人物に謎の親近感が湧くんですけど……その人に何かしようとするなら許しませんから!!」

「ちょっと待て! 俺もなんかよくわからねぇけどその三村かな子って奴はそっとして置いて欲しいんだよ! かな子に手は出すな! 俺の女に手を出すな!」

「高垣楓のケツに顔うずめたまま言う台詞ですかぃそれ?」

 

物凄く恥ずかしい体制のまま叫んでいる銀時にボソリとツッコミながら、沖田は手に持っていた携帯を懐に仕舞った。

 

「やれやれ、おたく等だけならこのまま落下するのを見下ろすってのも悪くねぇと思ってたが、まさか将軍様まで宙ぶらりんしてたら助けねぇ訳にもいかねぇや。待ってな、近くにいる怪力チャイナ娘でも連れて来てやっ……」

 

散々弄んでおいてどの口が言うかと、深雪は内心そう思いつつ彼を睨んでいると

 

沖田は踵を返して助けを呼びに行こうとする。

 

だが

 

「あ」

「で!」

 

あの沖田がまさかのうっかり足を滑らして自分達のいる穴の方へと背中からダイブしてしまう。

 

目の前の出来事に深雪がギョッとした表情で驚くのも束の間

 

「おっとっと」

「ぐおッ!!」

 

頭から落ちていく状態ですかさず一番下にいた茂茂の足首を手でキャッチ。

 

その途端、またもやズシリと深雪の体にのしかかる男性一人分の体重。

 

「ふー危ねぇ危ねぇ」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

「おいテメェ何してくれてんだ! 助けを呼ぶどころか思いきり足引っ張ってんじゃん! 小娘がすげぇ声で叫んで限界突破してんじゃん!」

「ええ、文字通りこうして足引っ張ってまさぁ」

「うまくねぇんだよ! お前ここで生き延びてもぜってぇ切腹だからな! 将軍様そんな奴蹴落としてください!」 

 

将軍の足にしがみついたままでも、相変わらずの涼しい表情で言ってのける沖田に銀時が罵声を浴びせている中。

 

遂に深雪の両腕の力は完全に無くなり

 

「もう……限界、です……」

「オイィィィィィィィ!! 諦めちゃダメだって! お前はまだやればできる子……」

 

ゼェゼェと荒い息を吐きながら深雪は銀時の応援に応える事出来ずに、力が無くなった彼女の両手はフッと自然としがみ付いていた突起物から離れてしまう。

 

そしてそのまま

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「お許しくださいお兄様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「よっしゃぁコレで全員バッドエンドだざまぁみろ~!!!」

「何か打つ手はないか達也」

「難しいな、少し時間をくれ、しばらく経ったら閃きそうだ」

「いやおたく等なんでそんな冷静に落ちていけるんですかぃ?」

 

銀時は泣きながら

 

深雪は祈るポーズのまま兄に対して許しを請いながら

 

長谷川は一人盛大に爆笑しながら

 

達也と茂茂が頭から真っ逆さまに落ちてる状態で打開策を考えながら

 

そんな二人に沖田はジト目でツッコミを入れながら

 

全員仲良く真っ逆さまに暗闇の空間へとあっという間に落ちていくのであった。

 

床に空いた穴から彼等の姿はみるみる小さくなっていき……

 

やがて一つの点になったと思ったらパッと消えてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

しかし今度は暗闇の穴の底から複数の光がピカッと照らされ徐々に上へと迫っていく。

 

そして

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

人数人分ぐらいの狭い穴を突き破って急浮上してきたのは

 

ついさっき落ちたばかりの銀時と深雪を両肩に掴ませて一体の

 

なんかあの映画に出てた奴と物凄く似ているデザインをした飛行搭載ロボットであった。

 

「す、すげぇぇぇぇぇぇぇ!! 俺達助かったのか!? もしかしてラピュタの民と間違われた!?」

「ど、どうしてこの色々と危ないロボットがここにいるんですか……」

 

両腕に着いた翼を駆使して浮上していくロボットにしがみ付きながら銀時が興奮し、深雪は冷静に呟いていると

 

すぐに突き破った穴から別のロボットが浮上してきた。

 

「皆の者、大事は無いな」

「コレは……どうやら俺達の事態を把握して救助しに来たらしい」

「まさかシータみたいにコイツに助けられるとはな、一生モンの思い出でさぁ」

 

当たり前の様にロボットの両肩に座りながら現れた茂茂と達也、そして背中におんぶされている沖田。

 

ロボットの頭に深雪と一緒にしがみ付きながら銀時は茂茂と達也に「この二人本当表情変わらねぇな……」と小声でボソリと呟いていると

 

「うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あ、長谷川さんだ」

「私達と心中図ろうとした不届き物の長谷川さんですね」

 

三体目のロボットが下から猛スピードで上がって来たので、2体のロボットは僅かに空中で体をずらしてそれを難なく避ける。

 

よく見てみるとロボットの肩には長谷川がグラサンの下から涙を流しながら両手でしがみ付いていた。

 

「なんだよチクショウ! こんな俺を助けるんじゃねぇ! 殺せよ! 殺してくれよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

助けられてもなお自暴自棄になっている長谷川、しかしそんな彼に

 

同じロボットの肩に絶妙なバランスで二本の足で立っている一人の男が静かに言い放つ。

 

「この様な形で幕を閉じるのが貴様の人生なのかね? 下らぬ人生だ」

「えぇ!? ア、アンタは一体!?」

 

冷たく突き飛ばされながら長谷川はそんな彼の方へ顔を上げてポカンとしていると

 

一緒に飛んでいた銀時と深雪も彼を見てギョッと目を大きく見開く。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!? お前が、いやまさかあなた様が助けてくれたのですかぁ!?」

「しばらく見ない内に随分と風格が変わっていたので気付きませんでした……!」

 

ロボットの肩に器用に立つその人物の正体は……

 

 

 

 

 

 

 

「僕、いや私の名は服部・範蔵・ウル・ラピュタ。此度は下々の存在である君達を特別に助けてやったのだ」

「服部くぅぅぅぅぅぅぅん!」

「服部先輩! いやもはや服部大佐ァァァァァァァァァァァ!!!」

「なんなんだよお前! どんだけカッコいいんだよ!」

 

何時の間に着けていた眼鏡をクイッと上げながら得意げにほくそ笑みを浮かべこちらを見下ろすのは

 

ラピュタを操りし者、服部・範蔵・ウル・ラピュタであった。

 

思わぬ援軍を持って来てくれた彼に心の底から感謝し、銀時と深雪は力の限り叫ぶ。

 

次回、全軍一斉の脱出劇が開始される。

 

 

 

 

 




※補足

作中で沖田が言っていた二人のアイドル

高垣楓 うすら寒いダジャレをやたらと連発する人、酒好きの25歳児、中の人が深雪と同じ

三村かな子 ややぽっちゃり気味の人、暇さえあればなんか食ってる。銀さんの中の人が好きなキャラ。 


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第四十二訓 服部&痔鰤

やはり締め切りに間に合わなくなった……という事で他作品で言ってた様に一週間ほど休載します。

次回は11月29日です、申し訳ありません


銀時達が救世主・服部大佐に助けられるちょっと前の話。

 

坂本辰馬と千葉エリカは、高杉によって連れて来られた蓮蓬達も含め、星に住む蓮蓬の代表として、将軍、レフトドラゴンと席を設けて交渉している真っ最中だった。

 

「オボロロロロロロロロ!!」

「うぇ! ドボロシャァァァァァァァ!!」

 

二人並んで正座に座った状態で、ビニール袋にさっきからずっと吐き続ける坂本とエリカを、将軍は無言で見つめ、二人の背後待機している陸奥はジト目で彼等を眺めている。

 

交渉が始まった途端ずっと忘れていた船酔いが再発したのか。二人は青ざめた表情口から言葉を出せず、出るのは吐瀉物だけである。

 

「ウオォボロロロロロロロロ!!」

「あ、なんかアタシ楽になっ……オロロロロロロロロロ!!!」

 

よくもまあそんな吐けるものだと周りが呆れるどころか感心させしていると、延々と彼等が吐く様を見せられていた将軍はおもむろに彼に向かってスッと手を差し伸べた。

 

すると坂本はゼェゼェと荒い息を吐きながら苦しそうな表情で手を伸ばし

 

その指の無い奇妙な手を強く掴む。

 

「よし……交渉成立じゃ」

「長かったわね……」

「え!?」

 

常にポーカーフェイスを崩さない陸奥が思わず驚きの声を上げてしまう。

それもその筈、ずっと吐瀉物を吐き散らしていただけのバカ二人に対し将軍はなんと自ら先に手を差し伸べて彼等との交渉に承諾する動作をしたのだ。

 

何が何やらさっぱりわからない様子の陸奥に、坂本は一旦ビニール袋から顔を離し、ニヤリと笑いながら振り返る。

 

「陸奥、実はおまんが厠行っとる間に色々と話し合おうておったんじゃ。わしのバナナの叩き売りの如く推しに推し進めた結果、ようやく連中の心ばをほんの少し開く事が出来たみたいじゃきん」

 

自画自賛しつつ己の交渉術はまだまだ健在だと称する坂本だが、そんな彼を尻目にエリカもまた得意げに胸を張る。

 

「自分の才能が恐ろしいわ本当に……まさかあそこで機転を利かしてあんなアイディアを閃かせて、半ば後先に考えずに話を進めた結果こうも上手くなるなんて……アタシやっぱ最強だわ」

「いやいやおまんの交渉術はまだまだぜよ、あそこはわしがちょいとした工夫を施して淡々と話を転がしていった結果、連中がようやく重い腰を上げてくれたんじゃ。おまんも良い腕しちょるが、商人としてはまだまだ半人前もいいとこよ」

「フン、悪いけどアタシの潜在能力に嫉妬してるの見え見えだから、あの巧みに論点をズラしつつ、自分のペースに持っていくというアタシの神業を見て、アンタが悔しそうな表情浮かべてるのチラリと見てたのよアタシは」

「なにをぉ! おまんこそわしのユニーク溢れる笑い話を混ぜたテクニックで! みるみる相手に興味を持たせていくというわしの十八番を見て驚いておったじゃろうて!」

 

二人顔を合わせてどちらが蓮蓬の心を動かせたかと口論し始めるも、突如二人揃って「う!」と呟くと頬を膨らませてすぐに持っていたビニール袋を開いて

 

「「オボロロロロロロロロ!!!」」

「……」

 

またもや吐き出す坂本エリカ、こんな状態で本当に交渉できたのか? 疑問に思った陸奥は将軍の方へと振り返る。

 

「将軍、こ奴等の言葉に揺り動かされて交渉に応じたのはそちらのの本心か?」

『いや、ぶっちゃけ最初から最後までずっとゲロ吐き続けていたので何を言っているのかさっぱりわからなかった』

「やっぱり何も通じておらんではないか!! このバカ共が!!」

「「どふッ!」」

 

スッとプラカードを掲げて、実は何を言っているのかよくわかっていないと正直に告白した将軍。

 

その反応を見てすかさず陸奥は二人の頭に拳骨を一発浴びせて吐瀉物まみれのビニール袋に頭を突っ込んでしまう。

 

しかし将軍はまたしてもプラカードを掲げる。

 

『だが苦しそうに顔をゆがめながらも、懸命に我々に何かを訴えようとするその心意気は評価する、ゆえに怨恨の思いをいったん取り下げて、お前達に我々の望みを言ってみようと思う』

「どうだかのぉ、これで評価されても地球人の質が下がったみたいで癪じゃが……とりあえず冷静に話し合おうてくれるなら、それはそれで蓮蓬の心をちょっとばかり開くことが出来たという事かの……」

 

己の吐いた吐瀉物に顔面をうずめた状態でダウンしている二人をほおっておいて、陸奥は改めて将軍の話を聞く事にした。

 

ちなみに彼、そして他の蓮蓬達が心を静かにし冷静になったのは、全てここにいる中条あずさが使用した魔法の賜物である。

 

と言ってもその魔法のおかげで自分達も影響を受けて数分程少々おかしくなったのだが……

 

「色々と面倒な目に遭ったがこうしておまん等とまともに話せるようになったからよしとするか……で? 和平を求む為におまん等が要求するのはどういったものぜよ?」

『その前にまず一つ尋ねよう、我々がどうしてお前達地球人に復讐を行おうとしたのかわかるか?』

「わし等がおまん等の母星、そしてSAGIを破壊したからじゃろ?」

『それは半分正解であり、半分不正解でもある』

 

陸奥の返答に対し随分と意味深な事を言う将軍、続いて彼が掲げたプラカードに書かれていたのは

 

『当然お前達に恨みはあった、だがしかし、それが元で再び地球人を根絶やしにしようという実行に移そうという者は恐らく誰もいなかった筈だ。恨みはすれど、地球人と手を取り合ったかつての同胞達の思いを汲んで、復讐などするのは止めようと悟っていたからだ』

「袂を分かれても同族への思いは変わらなかっという訳か……」

 

かつての同胞というのは桂の盟友、江蓮率いるもう片方の蓮蓬達の事だ。

 

彼等は地球に対して友好的であり、自分達とは思想がまるっきり違う。しかしこのまま恨みに取り憑かれて地球を再び襲うとなると、もしかしたら彼等とも一戦交える可能性も無くはない。

 

その事を懸念し、将軍たちは今までずっと身を潜めて影のように生き続けていたのであろう。

 

「ではなぜ今になっておまん等は剣を取り、わし等地球人に戦いを申し込んだんじゃ」

『我々の先導者がそう決めたからだ、故に我々は従ったまでの事』

「先導者? それはもしや復活したSAGIと、地球人でありながら地球を売ろうとした逆賊、四葉真夜の事か?」

『左様、我々蓮蓬は常に自分達の上に立つリーダーの言われるがままに行動する事を習性付けられている』

 

元々蓮蓬という種族を造り上げたのはSAGIであり、彼等にとっては名実共にに親である。

 

親の言う事を素直に聞き、その指示に対して何の疑いもせずに行動し、実行するというのが蓮蓬の基本習性でもあったのだ。

 

『無論、我等の中にも親に歯向かい、地球人に手を貸したイレギュラーも生まれた、それこそが今もなお自分の母星となる星を探しているであろう江蓮率いるもう一つの蓮蓬軍だ。しかし我々は彼等と違いそう上手く親を見捨てる真似は出来なかった』

「なるほど、ではおまん等はSAGI、そして新たにおまん等のもう一人の親となった四葉真夜に促されて、こうして二つの地球相手に乗っ取り計画を企てたという事か」

『……それこそが蓮蓬として生まれた者の宿命なのだ、逆らう事は許されない。我々に親に歯向かう拒否権など存在しない』

 

蓮蓬という一族はどうやら親に対しての絶対的な忠誠心というモノがあり、そこから脱却し、江蓮達のように自らの足で歩もうとするモノはほとんどいなかったらしい。

 

彼等の真実を聞かされ、陸奥は「難儀な生き方じゃの」と短く呟きながら頷くと。将軍はしばしの間をおいてゆっくりと新たなプラカードを掲げる。

 

『故に今我々が必要なのは宇宙皇帝・MやSAGIに代わる新しきリーダーだ、我々を導き、正しき道を歩ませてくれる真の王。それをお前達が我々に差し出してくれる事こそが、地球人との和平を結ぶ為の交換条件だ』

「蓮蓬達を導く新たなリーダー……これまた難しいモンを要求してくれるの……つまり我々地球人から一人有能な人物を差しだせっちゅう事か」

 

金や物資であればいくらでも調達できるが、有能な人間となるとかなり限られる。

眉間にしわを寄せて陸奥が思考を巡らせていると、ついさっきダウンしていた筈の坂本とエリカが顔を上げる。

 

「有能なリーダー? その言葉に最もふさわしいのは当然わしじゃろ、何を隠そう攘夷戦争時代は周りの連中を引き連れてずっと導いてたのは他でもないこのわしぜよ」

「すぐに嘘だとわかる様な事ほざいてんじゃないわよ。新たなリーダーともなればやっぱり若く可憐な美少女だと最近のラノベ相場で決まってんのよ。という事であたしが最も適任で相応しいリーダーです」

「おまん等はハナっから候補に入っとらん、座っちょれゲロまみれコンビ。顔にモザイクかかってるぞ」

 

到底人前には見せられない吐瀉物で覆い尽くした顔をモザイクで隠しながら、我こそが蓮蓬達の新たなリーダーだと名乗り出る坂本とエリカを、冷たく突き放ちながら陸奥は彼等を無視して再び考え直す。

 

(坂本のかつての戦友であるあの三人が天人であるこ奴等を導く事は難しい、かといって異世界の地球人の中から選ぶというのはさすがに身が引ける、連中は元々わし等の世界とはなんの関わりも持たぬ筈じゃったしの、やはりここは将軍? いや一番ダメじゃ、将軍は江戸におけるもっとも重要な存在、それを連中に差し出すともなればわし等は確実に逆賊扱いじゃなか……)

 

候補はいるもののやはり駄目、出来るわけがない、任せられないと次々と頭の中で適任のリーダー候補を消していく陸奥。

 

コレは流石に難問である、一体どうすればいいのか……

 

上手くまとめることが出来ず、珍しく陸奥が黙り込んだまま悩んでいる様子を見せていると

 

 

 

 

 

 

 

「どうした、こんな緊急事態の時に何かお困り事かね、お嬢さん?」

「!?」

 

背後から聞こえた突然の声に陸奥はバッと後ろに振り返ると、そこにいたのは……

 

 

 

 

 

 

「なれば光栄に思いたまえ、この特別な存在である私が諸君達に力を貸してやろう」

「お、おまんは……」

 

なぜ彼がここにいるのか、なぜ彼がロボットの肩に立ちながらこちらを見下ろしているのか

 

思わず呆然と見上げる陸奥に対し、”彼”は掛けているグラサンをクイッと上げながら不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全てはこのラピュタ王の導きこそが、諸君らを正しき道へと歩ませる運命となるのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして話と時間は戻り、現在銀時達は危機的状況をまさかの服部、もとい服部・範蔵・ウル・ラピュタによって助けられ、星から脱出する道中、異変に困惑していた新八達も無事に見つける事に成功したのだ。

 

「いやぁ銀さんと深雪さんも元に戻れたみたいで良かったですよ」

「銀ちゃんとユッキーが元に戻れたって事はラスボスやっつけられたアルか?」

「まあな、楽勝だったよ」

「でもあそこにラスボスのオバハンいるアルよ?」

「まあな、長谷川さんだよ」

「なんだマダオアルか、それなら安心ネ」

「いやツッコまないの!?」

 

合流した新八と神楽と久方ぶりに元の身体で対面しつつ、銀時は後ろで叫んでいる長谷川真夜を無視しながら話を続ける。

 

「しっかしどうもこの星の揺れが凄まじいな、こりゃもしかしたら崩壊してるんじゃねぇか?」

「してるも何も完全に崩壊してますってコレ、銀さん、僕等も早くここから脱出しないと」

 

徐々に周りの壁やら天井やらがミシミシと音を立ててヒビ割れていく光景を目の当たりにしながら

 

銀時と新八が嫌な予感を覚えていると、銀時の隣にいた深雪もまた同調する様に頷く。

 

「せっかく戦いを終えたのにこのまま星と、もといブリーフ一丁の変態眼鏡と心中なんざごめんこうむります」

「そこはもとい付けなくていいだろ! 好きでブリーフ一丁になってるんじゃねぇよ!」

「心配しなくてもこのまま一気に突っ切ればすぐに出口だ、コレで晴れてこの陰気臭い星、もとい全身白塗り変態ツッコミ男とはおさらばできるってモンだぜ」

「だからもとい付けんな! なに勝手に僕を置いていこうとしてんだよ! ていうか!!」

 

揃って悪意のある発言をする二人に、新八は汗だくになりつつツッコミながら、限界ギリギリの体力を振り絞って

 

 

 

 

 

 

「いい加減その空飛ぶロボット乗せろやテメェ等!!!! こちとらどんだけ走らされてると思ってんだコラァ!」

 

空中で両手を広げて華麗に飛ぶ、アレな見た目のロボットの背中で

 

リラックスしながら座っている銀時と深雪の背中に向かって

 

必死に追いつこうと全速力で疾走しながら新八は喉の奥から叫んでいた。

 

「二人でなにロボットの背中で足伸ばしてゆっくりくつろいでんだ! そんなに余裕あるなら僕も乗れるでしょ!」

「ああごめん新八、俺ちょっとラスボスとの激闘の末に足痛めてんだ、あー足が痛い、痛みを忘れる為にちょっと寝るわ」

「自宅のソファ感覚で横になってんじゃねぇ!! 偉大なるロボットの背中で寝るとか無礼にも程があるだろ!!」

 

ふわぁ~っと大きなあくびをしながら全然痛がって無さそうなけだるい表情で、ロボットの背中でゴロリと横になる銀時。

 

そして隣にいる深雪はというと、銀時同様横になったまま、肘を突いた状態でいつの間にか所持していた少年ジャンプを読み始める。

 

「なんて事でしょう、私が知らぬ間にいぬまるだしの作者が新連載描いてました。アンケート書いておかないと」

「ジャンプ読んでんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! なんなの深雪さん!? もしかして銀さんと合体して分離した後もまだ銀さんの成分体に宿したままなんじゃないの!?」

「あ、お前何勝手に一人でジャンプ読んでやがんだ! よこせ! 俺が先に読む!」

「な! 離しなさいあなたが触れたらジャンプが汚れます! これは私がコンビニで買って来たものです!」

「人を汚物扱いすんじゃねぇよ! ジャンプは少年の為にあるモンなんだよ! 小娘はマーガレットでも読んどけ!!」

「あなた少年じゃないでしょ! 大人しくヤンジャンに鞍替えしなさい!」

「おうい! 今度は喧嘩まで始めやがったよこの二人! どんだけ仲悪いんだよ! つーかコンビニなんかどこにあったんだ!」

 

ロボットの背中の上でギャーギャーとジャンプを取り合いながら揉み合いを始める銀時と深雪。

 

もはや助ける気など全くない様子の二人にキレそうになっている新八、すると反対側から別のロボットが彼の方へ近寄って来る。

 

「新八! こっちに飛ぶアル! こっちはまだ一人分余裕残ってるネ!」

「神楽ちゃん!」

 

ロボットの上から手を伸ばしてきてくれたのは同じ万事屋の一員、神楽。

 

新八はすぐに嬉しそうな声を上げて近寄る。

 

「やっぱり持つべきモンは仲間だよ! あんな奴等もう仲間でもなんでもないよ!」

「待ってろヨ! いまどかすから!」

「え、どかす?」

 

どかすって何を?

 

新八が疑問に思ったのも束の間、神楽は共に同乗していた人物の方へ振り返り

 

「青白い顔で気を失って、半ば屍状態となって倒れてる龍郎をどかせば新八の座れるスペースが出来るアル!」

「龍郎ぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 見当たらないと思ってたらまだ死にかけてたの!?」

 

チーンという無常な音が響くぐらいグッタリして白目を剥いて、神楽の横で倒れているのは司波龍郎。

 

同乗者が彼だと知って新八はすぐ様ロボットに飛び乗るのをためらうと、すぐに彼に向かって叫び声を上げた。

 

「諦めるな龍郎! こんな所で死ぬなぁ! もうすぐ故郷に帰れるぞ!!」

「とりあえずロボットの足の部分にでもヒモで括り付けておくアルか、凧みたいに飛びそうで面白そうネ」

「止めてぇ!! これ以上彼を傷つけないで! 何もかも失った龍郎にこれ以上の仕打ちを与えるなら僕は乗らなくていいから!!」

 

出会った時から数々の不遇な目に遭う彼には少々同情心が芽生えている新八、龍郎を邪魔そうにどか相当する神楽を必死に止めていると

 

「やれやれ、さっきからよくもまあそんなに走りながらも大きな声で叫べるモンだ」

「え? うおわ!」

 

突如後ろから何か大きな腕に抱き抱えられた新八、一瞬驚くがその腕はすぐに銀時達や神楽達の乗っているあのロボットの腕だと気付く、そしてすぐにロボットは無機質な表情でポイッと雑に彼を背中の上にほおり捨てた。

 

「いた!」

「すまぬな、全員助けたかと思っていたのだがそなたを見落としていた」

「へ? ってああ!」

 

何とか無事にロボットの背中に乗れて一息付けた所に、詫びつつ寄って来たその人物に新八は驚く。

 

「将軍様! そして達也さん!」

「まだそれだけ叫べる体力が残ってたならもうちょっと走らせても良かったかな?」

「達也、意地の悪い事を言うでない」

「フ、冗談だ」

「おぉ、まさかお二人に助けてもらえるなんて……ありがとうございます!」

 

徳川茂茂と司波達也、権力的にも実力的にも、これ以上頼りになる者はいない。

 

「本当に助かりました、いやぁウチの所のバカ主人公なんかと全然違いますよ達也さんは、ほら、あそこで年下の小娘とずっと喧嘩しっ放しなんですよあの天パ野郎」

「その小娘は俺の妹なんだが……深雪、融合化の影響で坂田銀時の成分を体に宿したままなんじゃないか?」

「……だ、大丈夫ですよきっと……」

 

彼等に助けられ事に新八は感謝しながらすぐに頭を下げつつ、不意に思った疑問を彼等にぶつけてみた。

 

「それにしてもこのロボット達ってやっぱあのラピュタっぽい宇宙船にあったモノですよね? 一体どうして星の中へとこんなに入って来て僕等を助けに来たんですか?」

「ああ、どうやらこの星の異変を外から見て気付いた服部先輩が、俺達の脱出経路を確保するために運び込んで来たらしい」

「え、服部先輩ってもしかしてあの春雨相手に無双かましてたエセムスカ大佐……うおぉ!!」

 

前方を見ながらこちを振り向かずに説明する達也に、新八が怪訝な表情で服部の事を思い出していると突然彼の顔スレスレに赤い光線が飛んで来た。

 

すぐに飛んで来た方向へ顔を上げると

 

そこにはロボットの上で絶妙なバランスを保ちながら二本の足で立った状態で

 

こちらを高圧的な目で見下ろす服部がいた。

 

「少年、言葉をつつしみたまえ。君を助けたのはエセムスカ大佐ではない、ラピュタの真なる王だ」

「あぶねぇ!! 今あの人ロボットのビーム撃って来たよ! 城壁だろうが戦車だろうがドロドロに溶かすビームを人に向かってぶっ放しやがった!!」

 

きっとエセムスカ大佐と言われたのが気に食わなかったのであろうが、だからとって魔法で例えるなら明らかに殺傷能力SSは付くであろう強大な力を即使って来るなんてたまったもんじゃない。

 

「ヤバいですよあの人! 達也さんの世界でもあんなんだったんですか!?」

「いや、入学早々突っかかれたのは覚えてるが。その時は見せ場与えずにパパッと瞬殺で倒したせいかそこまで印象に残らない影の薄いキャラだったな、顔もモブ顔だし」

「……なんかさり気に酷い事言ってね?」

「だが今の服部先輩は以前とは比べものにならない程に別人だ」

 

仏頂面で先輩に対し散々な評価を下していた達也に新八がボソッと呟くのも尻目に、彼は自分達より上を飛んでいる服部の方へ見上げる。

 

「以前は魔法の才能の優劣に強いこだわりを見せる男だったが、今はもうそんなキャラ設定を捨てて、ただ前を見据えて己の思うがままに突き進まんとする強いオーラを感じる。ぶっちゃけて言えばラピュタのムスカみたいになったという事だ」

「……もしかして銀さん達のように服部先輩もムスカと合体してるとか無いですよね?」

「……それは流石にないだろ、と思いたい……」

 

以前とはすっかり別人と化してしまった服部を見上げながら、新八の意見に達也が頷いていると。

 

そんな彼等に再び服部は腕を組んだまま嘲笑を浮かべて見下ろしてくる。

 

「どうやら君達は私を誤解している様だ。私はロムスカ・パロ・ウル・ラピュタではない、彼が掴めなかった大いなる志を引き継ぎし者であり、彼に代わるラピュタの王だフハハハハハ!!!!」

「……すみませんあの人何言ってんですか?」

「地球に戻ったら何よりもまず服部先輩を元に戻す事が先決だな、アレだ、前以上に絡みにくい」

「それと会長の方もお願いますね……アレあのままにしてると絶対ヤバいですから、もうそっち原作通りに進めなくなりますから……」

「なに言ってんだ新八」

 

なんとか矯正して彼を前の状態に戻そうと決めた達也に、新八はふと同じくすっかり変貌している七草真由美の事も思い出しと同時に忠告しておいた。

 

しかし達也はというとフッと笑いかけながら振り返り

 

「七草会長はもう完全にそっちの世界の住人じゃないか、俺は知らん」

「おい押し付けんな! あんなのこっちで引き取る余裕なんかねぇよ!」

「ていうかもうアレはもう元に戻す事は出来ない、そうなったのはそっちの世界の桂小太郎の影響だ、そっちが責任取って引き取ってくれ」

「それ言われたら確かにそうかもしれませんけど! でも100%無理って訳じゃないですってきっと! なんか記憶を消すとかそんな便利な魔法あるでしょきっと!」

「俺の母親が出来たけど今はお星さまだからな、ていうかもう会長は記憶改竄でも治らないと思う」

 

服部を元に戻す事については互いに同意するも、七草真由美をどちらの世界に戻すかについては軽く口論を始める達也と新八。

 

そんな事も露知れず、服部は前方に指を突き付けたまま彼等に向かって声を上げる。

 

「おしゃべりはそこまでにしておけ、見たまえ諸君、我々は遂に出口へと到達したぞ」

 

その言葉を聞いて新八達は前方へと目をやると、ひと際大きく開いた場所、宇宙船を待機させておく入港場へと辿り着いたのだ。

 

ここまで来れば後は船に乗って脱出……ひとまずこの星と共に全滅という危機は免れた

 

っと新八がホッと胸を撫で下ろして安堵していたその時だった。

 

「……どういう事だ?」

「マズい事になったな」

「?」

 

両隣にいた茂茂と達也が何やら不穏な空気を放ちながら呟き出す。

 

新八達が乗る為の宇宙船は見る限りちゃんと配備されている。多少傷付いてる点は見受けられるがあの程度ならすぐに出港出来るはずだ。

 

「将軍様と達也さんもどうしたんですか? このまま脱出すれば無事にそれぞれの地球に帰れる筈ですよね?」

「それはわからぬ……少なくともどちらかの地球は……」

「え?」

「新八、宇宙船じゃなくてその先を見ろ。外が見えるように透明になっている大窓を」

「大窓……な!!」

 

宇宙船を出迎える為の大きく頑丈そうな扉にはいくつもの透明な窓が張られ、そこから外を見ることが出来た。

 

達也に言われるがままに新八はそちらへ視点を傾けると、即座にカッと大きく目を開く。

 

そこには信じられない光景が映っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「地球が……! 地球がこんなにも近くにはっきりと見えているなんて一体どうして!!」

「蓮蓬の星があった場所と地球との距離は船でなら2週間近くかかる距離であった筈、達也、これはもしや……」

「完全にしてやられた、SAGIは俺達よりもずっと先を呼んで計算していたのか。俺とした事が迂闊だった」

 

そこに映るのは青く澄んだ海をベースに、多種の生物が住み交う希少な星・地球。

 

遥か遠くの先にある筈の故郷がこんなにも近くまで来ているなんて一体どういう事だと新八が困惑している中

 

達也は静かに腕を組みながら窓に映る地球を睨み付ける。

 

「SAGIはきっと、ハナっからこの手を使うつもりはなかったんだろう、だが万が一の為にと事前に準備を始めていたんだ、もし自分達が地球人と負ける時があった時は俺達にせめて一矢報いてやろうと……」

 

そう、この揺れは単にこの星が崩壊し続けているのではない。

 

身を切り崩しながら猛スピードで地球へと急接近しているのだ。

 

その理由は一つ

 

 

 

 

 

「奴は俺達の地球へ母星を衝突させて、生き残った俺達の前で護るべき存在を見せしめに破壊するつもりだ」

 

SAGIは知っていた、侍というモノは死を恐れず例えどんな相手であろうとテメーの護るモノの為なら身を挺して戦う生き物だという事を

 

だからこそ彼は自らを犠牲にこの手を使った。

 

生き残ってもなお、護るべき存在を失うという絶望を与えさせるという最悪の展開を、奴等に味合わせるために。

 

 

 

蓮舫の星と地球の衝突はもう間近

 

果たしてここにいる者達に残された最後の手段は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

クライマックス突入記念

 

入れ替わり組メンバーの、それぞれの相手に対する印象調査

 

深雪&銀時ペア

 

深雪「死んでください」

銀時「お前が死ね」

 

真由美&桂ペア

 

真由美 非常に長い為にカット、要約すると桂小太郎こそ世界を救う救世主だと称えている

桂「彼女はもはや非の打ち所の無い立派な攘夷志士だ、共に倒幕を為して新たなる日本の夜明けを目指そう!!」

 

エリカ&坂本ペア

 

エリカ「あー悪い奴じゃないんだけど……やっぱウザいわ」

坂本「面白か娘じゃきん、剣の腕も良いし頭の回りも早い。これからどうなるか楽しみじゃアハハハハ!」

 

あずさ&高杉ペア

 

あずさ「怖いです~!!」

高杉「……」

 

リーナ&土方ペア

 

リーナ「夫」

土方「俺の生涯の中で最も会いたくなかった女」

 

龍郎&神楽ペア

 

龍郎「……彼女が私の体でやらかした所業を聞くのが怖い……」

神楽「龍郎は私が育てたアル」

 

小百合&沖田ペア

 

小百合「ご主人様」

沖田「ごめん、誰だっけ?」

 

ゴリラA&近藤ペア

 

ゴリラA「ウホ」

近藤「え! メスだったの!?」

 

ゴリラB&十文字ペア

 

ゴリラB「ウホホ」

十文字「ほう、クロマティ高校という所の生徒だったのか」

 

葉山&源外ペア

 

葉山「喋る機会はありませんでしたが、いずれ直接お会いできる事を楽しみにしております」

源外「会う事は無かったが、いつか会えたら酒でも飲み交わしてみてぇもんだぜ」

 

真夜&長谷川ペア

 

真夜「私はまだ諦めてませんよ?」

長谷川「いいから俺の体返せよ!」

 

達也&茂茂ペア

 

達也「分かち合える相手がいるのも悪くないモンだ」

茂茂「将軍も一族も関係なく、ただの人間としてこれからも友であり続けよう」

 

??&??ペア

 

??「不束者ですがこれからもよろしくお願いします」

??「彼女とはこれからも上手くやっていけそうです」

 

服部&??ペア

 

服部「後の事は任せたまえ、ハッハッハッハ!」

??「期待しているよ少年、ハッハッハッハ!」

 

 

 

 

 

 

 




おまけを書いた理由としては今後彼等の中の者達に今後大きなイベントが待っているからです。

仲が良い者もいれば、最悪な者もいる、はたしてこの相性度が最後にどう影響するか……

この作品における集大成とも呼べる最後のイベントを頑張って書こうと思います

再来週まで楽しみにお待ちください。

それでは


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第四十三訓 紳士&淑女

年内完結はやっぱ無理そうですな、うん


前回のあらすじ

 

SAGIにより蓮蓬の星は暴走し、遠路はるばる地球まで進めて墜落を開始。

 

星と星の衝突により地球壊滅は確実。

 

それを直面させて自分に二度の刃を向けた地球人達に、更なる絶望を与える事こそがSAGIによる最期の謀略であったのだ。

 

地球落下まで残り少ない時間の中、銀時達に残された手は……

 

「地球の外見上を見る限り、わし等の世界の地球じゃないのは確かじゃ」

 

坂本辰馬の所有する宇宙船、快臨丸は既に蓮蓬の星から脱出し、地球へとどんどん迫っていく蓮蓬の星を少し離れた位置から見ていた。

 

モニターに映るその光景を眺めながら、副艦長である陸奥は地球がこちら側の世界の方ではないと判断した。

 

もしもこちら側の地球であれば、地球にはびこる天人達が宇宙船で我先にへと逃げ出す姿が見える筈だからである。

 

「どうするぜよ艦長、このまま見捨ててもわしらの世界は安泰のままじゃぞ」

「陸奥、そういう問いかけは必要なか。聞かんでもわかるじゃろ? あの地球にはわしの気の知れた友人達が沢山いちょる、それら見捨てて生き延びる事などわしには到底出来ん」

 

艦長である坂本辰馬は腕を組みながらモニターから目を逸らさずにそう返事していると、後ろから一人の人物が駆け足で迫る。

 

血相変えた様子で明らかに焦っている土方十四郎だ。

 

「おいなんとしてでも地球壊滅を阻止しろ!! あの地球が消滅したらここにいる連中は全員俺達の地球に来るって事じゃねぇか! それだけはダメだ! それだけは勘弁してくれ! 俺はもうコイツといるのはゴメンだ!!」

 

そう必死に叫んでいる彼の背後では

 

自称・土方十四郎の妻ことリーナが、真選組の局長・近藤勲に深々と頭を下げている姿が

 

「ウチの夫がお世話になっております、この度十四郎の奥方となりあなた方の世界に永住する事となったアンジェリーナと申します」

「おお、これはこれはどうもご丁寧に、ってトシお前結婚すんの!? おめでとう! 帰ったら真撰組総出で結婚式上げようぜ!!」

「ふざけんなアンタまでなにそいつに乗せられてんだ! しかもなにお祝いムード醸し出してんの!? そこは普通おかしいと思えよ!!」

 

リーナの言葉をありのまま受け入れてすぐに朗らかな表情で祝福する近藤に土方がすぐに振り返ってツッコミを入れた。

 

「ほら見ろ! このままだと俺は地球に戻ったと同時にそのまま役所にゴーって流れになってるんだよ! 頼むから死ぬ気で考えて奴等の星からあの地球を護ってくれ!! もしくはこの世の役所を全て爆破しろ!!」

「そうは言ってもの、考えるには考えてるんじゃが、星の大きさを誇る隕石をどう止めればいいのやら」

「わし等の戦力であの星を破壊するのはどうじゃ?」

「それはまず無理ぜよ、アレはわし等の船で総攻撃しても堕とせる代物じゃなか」

 

坂本の単なる集中砲火を浴びせて落下を防ぐという策を、陸奥はすぐに無理だと判断して首を横に振る。

 

「前回以上にバカでかくなっちょるあの星ば破壊するには、今の数十倍の戦力が必要となるきん。それでも止められるかどうかわからんがの」

「ふうむ、SAGIの巣穴へ出向いて説得なんちゅう事もどうせ無理っぽいし……こりゃあちとマズイ事じゃの」

「ちとマズイってレベルじゃねぇんだよ! 地球が一つ消し飛ぶ程の超ピンチなレベルなんだよ!」

 

武力行使も難しい、かといってSAGIを説得する事も到底無理、二人が頭を抱えているとまたもや土方が叫び声を上げながら後ろを指差し

 

 

「そしてこの俺自身も超ピンチなんだよ!」

「あなたー、式は和式にする? それとも洋式? 引き出物はあなたと私のプリントが入ったお皿でいいわよね?」

「ほらもう式の段取り決めようとしてる流れだよ彼女! 参加者が一番貰っても嬉しくない引き出物を用意しようとしてる真っ最中だよ!! もうどこからどう止めればいいのか俺もう全然わかんねぇよ!」

「落ち着け鬼の副長、確かに地球もお前さんもピンチなのは確かじゃが、わし等が慌てていては助けられる命も助からん」

 

着々と土方が逃げられない様にすでに準部を始めているリーナを指差しながら慌てふためく土方を陸奥が諭していると

 

今度は船の壁側にもたれて体育座りしている一人の少女が、こちらを恨みがましい目つきで睨んできながらブツブツと呟いている。

 

陸奥と坂本とは少々縁の深い異世界の地球人、つまり今自分の故郷である地球が壊滅されかけているのをこの場で黙って見る事しか出来ない一人である千葉エリカだ。

 

「もういいわよ全部諦めなさいよ、今更ジタバタ足掻こうとしても無意味なのよ、どうせみんな消えてなくなるのよ、どうせみんな死ぬのよ、アタシ等がやるべき事はもう一つしかないわ、地球と一緒にアタシ達も死ぬのよ……」

「坂本さん! なんかコイツすっごいネガティブになってんだけど!? いやネガティブっつうか破滅願望的な思想に染まっててめっちゃ怖い!」

 

一人で目を虚ろにしながら不吉な言葉を呟き続けるエリカを心配して見下ろしていたレオが坂本に報告するも。

 

彼は慣れた様子で手を振りながらヘラヘラと

 

「あーほっとけほっとけ、きっと目の前で自分の故郷が破壊される事を知って落ち込んでるだけじゃ」

「誰が落ち込んでるって言うのよ! アタシはもう今更何もしても遅いから潔く諦めろって言ってんの!」

「今度は表情一変してキレやがった! なんなんだコイツ! 地球壊滅の危機よりもコイツの情緒不安定な所が怖い!!」

 

急に立ち上がるや否や、拳を掲げてキレ気味に怒鳴り声を上げながら坂本陸奥の方へと歩み寄るエリカ。

 

一瞬でコロコロと変わる彼女の様子に、レオはもはや自分の地球の存在よりも彼女の存在に怯え始めていた。

 

「アタシだって本当は悔しいし故郷がなくなるのはツライけど! 星一個を止めるなんてもうアタシ達じゃ出来っこないでしょうが!」

「全くおまんはわし等とずっと行動しておいてまだわからんのか、不可能を可能とするのがわし等商人じゃて」

「じゃあどうすんのよ! 今から宇宙の辺境に行って核ミサイルでもショッピングしようって言うの!?」

「アハハハハ! んなもん買っても金の無駄だじゃ、それにそげなモン使わずともわし等にはこれ以上ない最強の武器が揃っちょる」

 

ヤケクソ気味に訴えるエリカを笑い飛ばしながら、坂本は目の前にあるモニターを操作する機械をピッピッと押してみる。

 

すると大画面モニターの右端に別の画像がパッと現れた。

 

そこに現れたのは、坂本のかつての戦友、坂田銀時だった。

 

どうやら服部に助けられた後、既に別の船に乗って脱出していたらしく。真顔でこちらを見つめていた。

 

「おう金時、おまんもなんとか助かっておったみたいじゃの、さっきのわし等の話も全部聞いておったか?」

『テメェ等の話そっちが繋げてくれた音声から大体聞き取れていたぜ、地球が俺達の世界でなく異世界の地球だってのは本当か?』

「陸奥が言うとるんじゃから確かじゃ」

『そうか……』

 

モニター越しで会話しつつ、こちらの情報が事実だと知ると、銀時は短く返事して真顔から徐々にしかめっ面へと変わり……

 

『くそ負けた、ほれ300円』

『ほらやっぱり私が言った通りじゃないですか』

『チクショウ、ぜってぇ俺の所の地球だと思って賭けたのによ』

『少しはご自分の星がどの様な姿だったか覚えておきなさい』

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なにしてんのおまん等!?」

 

モニター画面で銀時の隣に突如、司波深雪が現れたと思ったら、渋々自分の財布から小銭を取り出して渡す銀時の姿が

 

何やらおかしなやり取りをしている二人に坂本が思わず叫んでいると、彼等は同時に振り返って

 

『いや今地球がヤバい事になってんじゃん? そんでここで指咥えて待ってるのもヒマだから、コイツと「あの地球はどちら側の地球なのか賭けようぜ?」って持ち掛けてたんだよ』

『そして私が勝ちました』

「この緊急事態を前になに縁起でもない賭け事してんじゃおまん等! しかもおまん等もしかして自分達の地球だと思って賭けとったんか!? 自分側の地球が滅ぶ筈だと思って300円出し合って!?」

『300円、これで地球に戻って学校の食堂で昼食が買えます、丁度お腹が減った頃だったので』

「その食堂ごとそちらさんの星が消えそうなんですが今!?」

 

はした金を手に取って嬉しそうにしながらも無表情のままの深雪に、坂本が慌ててツッコミを入れていると

 

今度は左端の方からも別の船からの中継画面が

 

『坂本、そちらの状況はどうだ? 話を聞く限りあまり芳しくないみたいだが?』

「おおヅラか! おまんの方も助かったようで何よりじゃ!」

 

右端に銀時が映ったままの状況で、今度は左には同じく元戦友の桂小太郎がドアップで現れた。

 

かつては4人の中でも生粋の知恵者として活躍していた男が無事だと知って、坂本は嬉しそうに声を漏らす。

 

「おまんがいれば百人力じゃ! ここは一緒にあの地球が助かる方法を考えるぜよ!」

『フ、言われなくてもわかっている。例え俺達の地球でないとしても、しばらく世話になっていた恩義は返さねばならん。それこそが侍の務めというものだ、この俺の抜いた刃を使いたくばいくらでも手を貸すぞ』

「アハハハハ! ほんにこういう緊迫した状況だと頼りになる男じゃのおまんは!」

『ドロー4!!』

「え? ドロー4?」

 

いきなり大声で叫ぶ桂に坂本が若干驚いていると、桂サイドのモニターがずれて、床に座っている彼と向かいで対峙する様に七草真由美もまた座っていた。

 

そして彼等の手には複数のカードが

 

『残念、ドロー2×2枚出しです!』

『なに! 待たれよ真由美殿! ドロー4はドロー4でしか打ち消せないのがUNOの基本ルールだぞ!」

『え? ウチの地球ではドロー4が出された場合、ドロー2を2枚所持していれば2+2で疑似的にドロー4として融合出し出来るんですけど?」

『融合出しってなんだ!? おい坂本聞いたか! どうやら向こうの地球のUNOのルールは俺達との地球とは違うらしいぞ!!』

「いやなにこの緊急事態でUNOやっとんのおまん等ぁ!?」

 

互いに床にカードを叩きつけながらタイマンによる熱い対戦を繰り広げている桂と真由美。

 

どうやら坂本達の話を聞いている状況の中、二人はただ普通にUNOで盛り上がっていたらしい。

 

『坂本、俺はいついかなる時であろうと武士としての生き方をまっとうするのみだ。だからこそ挑まれた勝負で逃げる訳にはいかない。それが例えUNOであろうと!!』

「全然カッコよくないんじゃが!? つうかおまんの所の会長はなげに自分の地球破壊されかけてる時におまんにUNO挑んだ!?」

『私が勝ったら洋式、桂さんが勝ったら和式で行うという、これもまた私達の大事な戦いです』

『ん? 洋式? 和式? どういう意味だ真由美殿? 厠の種類の事か? 確かに俺は和式派だな、しゃがみ込む方がよく出る気がするのだ』

「おいヅラ! おまんが気付かぬ間に会長もこっちの金髪嬢ちゃんに負けず劣らず事を進めとるぞ! はよ気付け!!」

 

笑顔で意味深な事を呟いて来た真由美に桂は首を傾げながら理解していない様子。

その二人のやり取りを見て桂よりも先に真由美の思惑に気付いた坂本が慌てて彼に向かって叫んでいると

 

今度は桂達の映る画面の下に更なる中継映像が映り出る。

 

銀時、桂に比べてかなり凶悪な面構えをしている攘夷志士、まさかの高杉晋助だ。

 

『テメェ等の声がやかまくして仕方ねぇ、おい坂本、全艦への音声通話をさっさと切れ』

「って高杉ぃ!? まさかおまんの方から連絡かけて来るたぁ思わんかったぜよ!」

『坂本、かつて同じ釜の飯を食った仲だ、テメェぐらいには別れの挨拶でもしておこうと思ってな』

「わ、別れ?」

 

急に彼から連絡が飛んでくるとは夢にも思わなかった坂本に対し、高杉は口元に微笑を浮かべたままサラリと呟く。

 

『俺はこのままテメーの地球の下へと帰る。あばよ』

「えぇぇぇぇぇぇぇ!? 帰るって何を言うとるんじゃ! わし等の世界のせいでもう一つの地球が大変な事になっとるんじゃぞ! 何一人で勝手に帰ろうとしてるぜよ!」

『俺を屈辱にまみれさせたあんな星なんざさっさと滅んじまえ』

「ですよねぇ! よくよく考えたらそちらはなんも楽しい思い出ないまま過ごしていらっしゃったんですものねぇ!」

 

そういえば銀時や桂、そして坂本とは違い高杉はロクな思い出が無い。

あの天人、幕府にさえ恐れられていた高杉晋助にとって、幼い姿をした少女の姿で短い期間を過ごしていた思い出など、とっとと消し去りたいという思いしかなかった。

 

『俺には関係のねぇ話だ、いやむしろ消滅してくれた方が俺としては都合がいいぐらいだ』

「あ~高杉、確かにおまんにとっては苦い経験ばかりじゃったかもしれんが……」

『長話での説得はごめんだぜ、それよりちょいと待ってろや』

「え?」

 

彼の言い分に坂本が頬を引きつらせながらぎこちない感じでなんとか説得を試みようとしていると

 

高杉が映る画面が突然ガクンと下にズレて、彼の全身が露わになる。

 

右腕には抜かれた刀がしっかりと握られていて

 

その傍で手と足を縛られて猿轡を口にされた状態で、怯えながらこちらに目で助けを訴えている中条あずさの姿が

 

『テメェの話は、俺の過去の汚点である象徴を始末してからいくらでも聞いてやる』

『んー!んー!』

「ギャァァァァァァァ!! 高杉ちょっとタンマァァァァァァ!! それだけはイカン! それだけはやっちゃダメぜよ!! 例えその身体をこの世から消してももうおまんの過去が消える事はなか!」

 

淡々とした口調で高杉が涙目のあずさに向かって刀を振り上げる光景を画面越しに見ながら坂本が叫び声を上げて止めようとする。

 

そして同じくまだ中継が繋がっている銀時と桂もまた

 

「何故にそげな事になっておるんじゃ! しばらく体を交換し合った仲じゃろ!? 仲良くせんか!」

『銀時やヅラじゃあるまいし、ガキと仲良く手ぇ繋ぐ真似なんざ死んでもごめんこうむるぜ』

『おい聞き捨てならねぇな高杉くんよ、俺とコイツがいつ仲良く手ぇ繋いだ? 言っておくが俺達はアレだぞ、ぶっちゃけ互いに死ねばいいのにとしか思ってねぇから』

『フン、お前達は全く成長せんな、相手がおなごだからといって変に興味ないという態度を張りおって、中学二年生か貴様等は』

『中学二年生はテメェの頭だろうが! つーかヅラ! なんでテメェだけそんな仲良くやっていけてんだよ! ずっと年下の娘と仲慎ましくやってるとか気持ち悪いんだよ!』

『そいつは同感だ、ヅラ、テメェまさか武市と同じ性癖持ち合わせてるんじゃねぇか?』

『何を根拠にその様なデタラメを! 貴様等そこに直れ! 武士を侮辱した罪でたたっ斬ってくれるわ!』

『上等だやれるモンならやってみろこのロリコン侍!』

『あ、銀時、それお前にだけには言われたくないから、いやホントマジで』

『なんでいきなり冷静にツッコミ入れてんだよ!』 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!! わしを置いて勝手に喧嘩すんなおまん等!! 喧嘩すんならわしも混ぜろ! 実はわしもおまん等に言いたい事が山程……!」

 

勝手に三人で口論を始め出したので坂本もまた身を乗り上げて負けじと加わろうとする、だがその瞬間

 

背後から彼の後襟をグイッと掴み上げ

 

「おいモジャモジャ頭……! これのどこが核ミサイルよりも強い最終兵器よ……! 揃いも揃ってただのバカ共じゃない……!」

 

頬を引きつらせながら明らかに怒っている様子のエリカがそれを阻止した。

 

「一人は賭け事、もう一人はUNOに夢中、挙句の果てには自分と体を交換し合った仲の相手を始末しようとするサイコパス野郎……!! こんな連中でどうやってアタシの地球を救うって言うのよ!!!」

「い、いやおまんも落ち着け……こんなのいつもの事じゃから気にすんな。コイツ等は昔からこうして互いにいがみ合いながらも幾度も窮地を脱してきたんじゃ……こげな喧嘩もやり続けてる内にすぐに飽きるきに、その時を待っていればきっと……」

「んなもん待ってる間に地球が先に滅ぶわよ!!」

 

彼女に後ろ襟を掴まれたまま坂本は「アハハ……」と力なく苦笑して弁明しようとするも激昂しているエリカには全く通じない。

 

全く持って最悪の雰囲気、このまま仲間割れをしている間にも刻々と蓮蓬の星が地球へと迫っているというのに……

 

しかしそんな時だった。

 

「艦長! 我々の艦ではない所から中継映像が!」

「は? わし等の艦以外から?」

「映像出ます!」

 

乗組員の一人がエリカと揉めている最中の坂本へ叫ぶと、大画面のモニターにブゥンと他の三人よりも大きめに幅を取って現れる新たな映像画面。

 

そしてそこに映るのは

 

『諸君、子供じみた喧嘩はもうその辺にしたらどうかね?』

「お、おまんは!」

『は、服部大佐!』

『服部君だと!?』

 

現れた人物はまさかの複数の名を持つ服部であった。

 

彼が現れた途端驚く銀時と桂、そして坂本もまた彼が何処の艦から通信して来たのかすぐに察する。

 

無論、天空の城からだ。

 

『我々にはもう時間があまり残っていないのでね、ここいらで少し君達に特別な力を授けてあげよう。ラピュタに眠る秘蔵の力を』

「ちょっとあの先輩何言ってんの? 頭おかしくない?」

『おいクソアマ! 服部大佐を侮辱すんじゃねぇ! 服部大佐が本気になればテメェみたいなガキ跡形もなく消し飛ばせるんだぞ!!』

『その通りだ、服部君はやれば出来る子、きっとこの様な状況を打破する策を既に考えているに違いない、流石は我ら生徒会の副会長だ』

「そしてこの二人は何で異様なほどあの先輩を持ち上げようとするのよ?」

 

ほくそ笑みを浮かべながら掛けた眼鏡をクイッと上げる仕草をする服部を眺めて、ついエリカがボソッと呟いた途端、急に銀時が怒りだし、桂の方は満足げに頷きながら服部に対して敬意を示している。

 

よくわからない状況にエリカがジト目で顔をしかめていると、画面に映る服部は話を続ける。

 

『時は来た! 今こそ我々が動く時だと思わんかね! あの歪に創り上げられた巨大な星を止めて見せようではないか!』

『ほう、よその地球を護る事なんざ興味ねぇが、まさか今の戦力だけであの星を止めるって言うのか? 面白ぇ、そいつの方法とやらを是非お聞かせ願おうじゃねぇか』

「げ! あの高杉って人まで服部大佐の話に聞く態度に! あの先輩何者!?」

「わしら四人をまとめて揺さぶるとは大した器じゃ、ラピュタの王と名乗るのもあながちハッタリではないかもしれんぞ、あの坊主」

 

わざとらしい口調で囃し立てて来る服部に高杉もまたニヤリと笑いながら聞く態度に。

 

一癖も二癖もあるこの連中をこうも惹きつけるとは……

 

エリカがますます服部の持つ類稀なるカリスマ性に唖然としていると、彼は高々に両手を掲げ、自分達を見下ろすように

 

『喜べ諸君! かつて体を共有し合った四組の者達よ! 今から君達は私と同じく地球を救う救世主となるのだ!!』

「四組って……それってつまり」

「金時と深雪ちゃん、ヅラに会長、高杉とあのちっこい娘っ子。そんでわしとおまんじゃ」

「はぁ!? アタシまで加わってんの!? 一体あの人何を企んで……!」

『最後の役者が揃った、ではそろそろ見せてあげよう……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『時を経てもなお進化し続けた大いなるラピュタの力を!!!!』

 

 

次回、二つの力が一つに……

 




久しぶりに魔法科高校の劣等生の原作を読み直しました。


不思議と心が痛かったです



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第四十四訓 合体&団結

本作を書き始めてから今までずっと脳内でシュミレートしていたお話が遂に書けました、もう思い残す事はない……


蓮蓬の星落下を防ぐ唯一の手段があると手を伸ばしたのは、あろう事か色々とヤバい状態になっている服部であった。

 

一体彼がどの様にして地球を救おうというのかと、宇宙船に乗り組む者達が固唾を飲んで待っていると

 

大画面モニターに映る服部はスッと自分の目の前に置かれている四角い台座に向かって手を置いた。

 

「流行りの物はお好きかね、お嬢さん?」

「は? 何を言うとるんじゃあの小僧は、ん?」

 

意味深な発言をしながら自分に向かって語りかけて来たように見える服部に

 

副艦長の陸奥が目を細めていると、彼女の眼前に置かれている戦艦操作用のモニターからキーンと不可解なノイズが鳴り、画面上に何かが映り出す。

 

何事かと陸奥はこちらにヘラヘラ笑っている服部から顔を逸らして、画面の方へ目をやるとすぐにカッと見開いた。

 

「コイツは……! まさかこげな真似が出来るというんか……!?」

「どうしたんじゃ陸奥、珍しく驚いて……なんじゃそれは? 何かの設計図か?」

「見てわからんのか、こりゃあ相当凄い事ぜよ。あの服部とかいう小僧、どうやらただのエセムスカ大佐ではないらしい、むしろムスカ以上にラピュタを自由自在に操つっちょる」

 

画面に映る複雑な構図がかかれたそれを見て、坂本は理解していない様だが陸奥はどうやらわかっているみたいだ。

 

急いでその設計図らしきモノに手を触れて詳細が書かれたページを開かせると、テキパキと指を動かして操作を進めていく。

 

「わし等の世界の力だけじゃあの星を堕とす事は容易に出来ん、じゃが向こうの世界の力を借りれられれば……」

「おいおいどういう事じゃ陸奥! 一人だけわかったつもりで一体何しとるんじゃ!」

「どうでもいいけどアタシを巻き込むような真似はしないでよね、もう面倒事はごめんだから」

 

後ろで喚いたり文句を言ったりしてる坂本とエリカを無視して黙々と作業を進めていく陸奥。

 

蓮蓬の星はみるみる地球へと迫っている、一刻一秒を争う事態だ。ミスは決して許されない。

 

すると今度は蓮蓬の星が地球へと落ちていく様が見れる大画面用のモニターに映っていた銀時達もまた、何かが動き始めた事を悟った。

 

『おい辰馬、そっちは一体どういう状況なんだ? なんか俺達の服部大佐からなんか貰ったみたいだけどよ』

『坂本! 星がみるみる地球へと迫っているぞ! このままでは真由美殿の地球が!』

『何をしでかすかは知らねぇが、俺は何かを護るって奴はガラじゃねぇ。手を貸すつもりは毛頭ないぜ』

「おまん等次々に喋るな! 今陸奥の奴が集中して何かの作業をしちょる! そこで黙って待っちょれ!」

 

各々勝手に喋り出す銀時、桂、高杉という昔馴染みに慣れた様子で坂本が叫んでいると、陸奥は一呼吸を整えフゥと小さく息を漏らした。

 

「よし、過程による操作方法はしっかりと頭で理解した。こっからは全て賭けの連続じゃ、一回でも負けたらそれで地球だけでなくわし等もまとめてお陀仏、艦長、一世一代の大博打の覚悟はええか?」

「いやこっちは一体何をやるのかさえ聞いてないんじゃけど……え、失敗したらわし等も死ぬってどういう事?」

「今からおまん等全員にいちいち一から説明する暇はこっちにはなか、いいから覚悟だけ決めちょればええ」

 

そう言うと最後に陸奥はピッと目の前のモニターを指で押すと、新たな別の画面が現れる。

 

赤い文字でWARNING!WARNING!と横に流れながら警告を促してくるモニターに向かって、陸奥は颯爽と拳を構える 

 

「今更言うのもなんじゃが、この成功率はほぼゼロに近い、それでも艦長、おまんは一口この賭けに乗る気はあるか?」 

「あたぼうよ! 成功率なんてものはただの目安じゃ! 後はわし等の勇気で補えればいい!!」

「それでこそウチの船の艦長じゃ、それじゃあ始めるぞ」

「だけどお願いだから一体何をやるのかだけは教えてくれない!? ねぇちょっと!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

坂本からの返事を聞き終えると陸奥は早速モニターに向かって拳を振り下ろす。

 

どういうつもりだと慌てている坂本をよそに彼女は叫び声を上げながら

 

「ファイナルフュージョン!!! 承認!!!」

 

力強く叫ぶと共に陸奥が拳を画面上に叩きつけると

 

突然周りからゴゴゴゴゴ! 不穏な音が

 

この感じもしや……辺りから何かが動き出す音を聞きながら坂本は陸奥が何をやったのか悟った。

 

「ええちょい待て! 陸奥! おまんまさかアレをまた!」

「なになになに!? どゆことコレ!? なんかアタシ等の乗ってる船がおかしくなってんだけど! アンタ一体何をしでかしたのよ!!」

 

”一度経験している”坂本と違い、初めて体験する現象にエリカはとち狂ったように喚いていると

 

大画面モニターに映る銀時と桂も何か大騒ぎしているらしい。

高杉は一人冷静だ、後ろで縛られているあずさは別だが

 

どうやらこちらの船だけでなく、彼等の乗る船もまた何か起きているみたいだ。

 

『オイィィィィィィィ!! お前等まさかまたアレやる気か!? ふざけんなこちとらまだ心の準備が!!」

『何一人でわかったつもりで叫んでるですか、私やお兄様にもちゃんとわかるよう説明して下さい』

『うるせぇいいからさっさとどこかにしがみ付け! さもねぇと体をあちこちぶつけんぞ!』

 

よくわからない深雪に対して目の前にあった椅子にしがみ付きながら叫ぶ銀時

 

『坂本、もしやこれは俺が以前体験できなかったアレをやる気なのか……? フ、面白そうではないか』

『桂さん、さっきからお三方でアレアレ言ってますけどアレってなんですか?』

『アレはアレだ、アレをアレするアレであってアレよアレよとアレになって……要するにアレだ』

『なるほど……アレね!!』

 

この状況になってもなお、電波を放ちまくる桂と真由美

 

『おい坂本、コイツはどういう事だ、俺が乗る船も何かおかしな事が起きてるぞ、オメェの船は一体何を隠して持ってやがったんだ』

『んー! ぷわー! 高杉さん凄く揺れてます! 私達一体どうなっちゃうんですかー!』

『安心しろ、お前は俺の手でキッチリ始末しておいてやらぁ』

『ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!』

 

状況がわからずモニター越しに坂本に問いかける高杉と、その後ろで悲鳴を上げるあずさ。

 

以上、各々のメンバーがそれぞれの反応をし終えた後

 

坂本辰馬率いる、快援隊の船々が

 

坂本が乗っている主船、快臨丸を筆頭に

 

 

今、動き出す。

 

 

【前奏~~~~~♪】

 

「あ、あのーすみません、揺れ激しくなってるんですけど大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

【バルスバルスバルスバルス! 吹き出物~~~クロスゼェェェェェェェト!!】

 

深雪が徐々に何やら不穏な感じに頬を引きつらせながら銀時に尋ねていると

 

彼等が乗っている船が突如ガチャン!と音を立てて激しく変形を始める。

 

【商いあるとこどこへ~でも、異世界飛び越えやってくる~~!!(ポポポポーン!)】

 

「ちょっとぉ! なんかアタシ等の船変形し始めてない!? てかうぷ! 揺れすぎ……」

「陸奥ぅ! おまんまだわしの船にこないなモン搭載させたままだったんかぁ!? おえ!」

 

高速で姿形を変え、坂本達が乗る船は”とあるモノ”の胸部へと変わり出す。

 

その衝撃で思わず吐きかけるエリカと坂本を尻目に、周りに漂う船達も

 

【お金の臭いをかぎ~つけ~て、企画を~立ち上げやってくる~~~!!(締めは打ち上げ~~!)】

 

「ちょっとぉ! 他の船も変形し始めてるんだけどぉ!? アタシ達の船一体どうなっちゃってる訳ぇ!?」

 

【カイエ~~~ン! 未だ奇跡の泣き土下座だ~~!!(鉄板の上でこんがりと!)】

 

「じゃあドロー2とチューナーのスキップ使ってシンクロ出ししますね」

「シンクロ!? 真由美殿本当にそんなのあるのか!? なんか俺達の世界のUNOと色々と次元が!! ていうかもはや別のカードゲームに!」

 

【カイエ~~~ン! 股間のキャノンをぶっ放せ~~~!!(イヤ~~ン!!)】

 

「ヅラァ! お前何この状況でUNOなんてやってんだコラァ!! いい加減マジ殺すぞ!!」

「なんか天と地が逆さまになってるんですけど!? 本当にコレ大丈夫なんですか私達!?」

 

【ふ~た~つの世界が合わさって~~~!! どでかい!! 商談つかみとれ~~!!】

 

「グルグルグルグル……高杉さぁ~ん、どうなってるんですかコレ~……」

「どういうこったこりゃ……なんでこの船、右足みたいになってんだ」

 

あずさと高杉が乗ってる船は巨大な右足となり、銀時と深雪が乗っている船が右腕、桂と真由美が乗っているのが左腕と変形してしまった。

 

【ふ~た~つのアホが合わさって~~~!! 巨大な! 悪も滅ぼせ~~!!】

 

そして左足もまた完成し、5つのパーツとなった船達が徐々に中心に引き寄せられるかのように集まり

 

接続部にしっかりと合わせながら一つ一つ組み合わっていく

 

【カイカイカイカイ!! カイエーン! カイエーン!! カイエーン!!!】

 

全てのパーツがガッチリとハマった途端、一つの集合体となったそれは胸部から頭部らしきものを出すと

 

胸の部分に現れたネクタイをしっかりと首に巻きつけた。

 

【真・宇宙超商船隊!!(ロボ!!) カイエ~ン!!! クロスオーバー!!!】

 

5つの船が変形し合わさった、その真なる姿は

 

まさかの巨大な人型を為した巨大ロボットであったのだ。

 

銀時達が中で大騒ぎしている中で、遂に正体を現したその巨大ロボットに

 

完成するまで中で散々あちらこちらに頭や体を打っていた者達は、モニターから見えるその姿に驚愕を露にする。

 

「「「「「なんなんだこの巨大ロボは!!」」」」」

「驚くのはまだ早か……! 更にここから!!」

 

驚きの声が聞こえる中、陸奥は一人平静の状態で次なるサプライズに待ち構える。

 

すると完成したと思われるロボに対し、難十体ものの複数体が物凄いスピードで急接近していく。

 

それはあの……

 

「おい! ラピュタのロボがこっち向かって飛んで来てるぞ!! どういう事だオイ! 味方の筈だろ!」

「あなただけを敵と見定めて攻撃しに来たんじゃないですか? ロボットさん、敵はここにいますよ」

「誰が敵だコラ!」

 

あの奇抜な見た目をしたラピュタのロボット兵達がワラワラと巨大ロボに集合してきた。

 

一体どういう事だと体を伏せた状態で銀時と深雪は顔を合わせる。

 

「あのロボットが俺を殺しに来る訳ねぇだろ! テレビで放送する度に毎回観てるぐらいラピュタ好きなんだぞこっちは! もう何度も観てるのにいつもラスト間近で「俺を置いてかないでくれ!」って悲しい心境に陥るぐらい感情移入出来んだぞこっちは!!」

「いえそんな事クソどうでもいいので、さっさとあのロボットさんにバルスされて下さい」

 

半ば日常と化している喧嘩腰のやり取りを二人で済ませていると

 

そのロボット兵が巨大ロボに接近した瞬間、彼等は皆、身体を丸めて変形し、また別の姿へと成り代わる。

 

「陸奥ぅ! ラピュタのロボット共が体を変形させてわし等のロボの身体にどんどん装着されとるぞ! あちらさんのロボットでこない真似なんてしたらそろそろ怒られるんじゃなか!? 白髭のおっさんに怒られるぞ!」 

「あのいかにもなヘンテコな見た目のロボットが……アタシ等のロボットに似合う外見をした装着物に変形していってるわ、なんか言っててますます訳わからなくなってきたんだけど……」

 

ロボット兵達は色・姿形を変え、様々な接合部となって次々に巨大ロボへと装着されていき。

 

するとみるみる巨大ロボが膨れ上がる様に大きくなっていき、遂には蓮蓬の星にも負けないぐらい超巨大なロボへと成り代わっていく。

 

そして陸奥が静かに目を瞑り、閉じていた口をゆっくりと開いた。

 

「これぞ二つの地球、いや二つの宇宙の最後に希望……」

 

全身を完全武装し、更なるパワーアップを遂げた超巨大ロボは、地球へと落下を続ける蓮蓬の星の前で静かにたたずみ……

 

 

 

 

 

「真・宇宙超商船隊鉄侍!! 『カイエーン・CO(クロスオーバー)』じゃあ!!!」

「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

珍しく大きな声を上げながら新たなるロボットの名、カイエーン・COと叫ぶ陸奥に背後からエリカが負けじと叫んだ。

 

「なんで商船が合体ロボになるのかはこの際ツッコまないけど! なんでラピュタのロボット兵を普通に取り入れて更なるパワーアップ出来んのよ!!」

「クロスオーバーSSの醍醐味ぜよ、度重なる戦いの果てに二つの世界のモンが結束力を強め、新たなる境地を見出したのじゃ」

 

エリカの正論に対し陸奥は冷静に返しながらカッと目を強く見開く

 

「これぞ『銀魂』と『天空の城ラピュタ』が生み出した究極のコラボレーションじゃ!!!」

「『魔法科高校の劣等生』どこ行ったぁぁぁぁ!? アタシ等の作品じゃなくてなに余所のデカいモンの所に浮気してんだコラァ!!」

 

テンション高めで叫ぶ陸奥であるが、明らか自分達を置いてけぼりにしている事にエリカが異議を唱えだすも

 

陸奥は無視して一人、モニターに映る蓮蓬の星を静かに見据える。

 

「アレを止めるにはもうこの手しかなか、コレが正真正銘最後の戦い、そしておまん等には戦いの終止符を打つ立役者となってもらうぜよ」

「へ? どゆ事?」

「陸奥、おまんまさか……」

「そのまさかぜよ」

 

首を傾げるエリカと、何かを察した坂本に対して振り返ると、意味ありげな視線を送りながら、陸奥はピッと操作画面を人差し指で押す。

 

すると坂本とエリカの立っていた場所の床が突然消失し、代わりにちょうど二人分入るぐらいの穴が出来上がり……

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

二人揃って上に向かって手を伸ばして叫びながら暗闇の底へと落ちていく。

 

それを見届けた後、陸奥は「よし」と呟きながら背後の巨大モニターに映る銀時達の方へ振り返り

 

「それじゃあおまん等も行ってこい」

『は!? まさか私達も穴に落とす気なんですか!?』

『いいって俺達はもう! 四葉真夜倒したの俺達なんだから今回は休みで!』

『なんだか楽しいことが起きそうですね、今こそ革命の時ですね桂さん』

『フッフッフ、機は熟した。コレを機に幕府打倒の鍵を手に入れるのだ』

『あ~あの~……まさか私と高杉さんも……』

『おいいい加減にしろ、何度も言ってるが俺はお前等も地球も助ける気なんざこれっぽっちも……』

 

深雪、銀時。

真由美、桂。

あずさ、高杉。

 

三組のコンビがモニター越しで抗議してきたりほくそ笑みを浮かべて来るものの

 

陸奥は気にせず再度ボタンを押し……

 

「つべこべ言わずに行ってこんかいバカ共」

『『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』』

『あら、思ったより深いわね』

『このままだと落下の衝撃の可能性が、真由美殿、俺の背中に回れ』

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『全部カタ着いたら今度はテメェ等まとめて斬ってやる……』

 

呆気なくそのまま坂本とエリカの時と同様に、深い穴底へとボッシュートさせてしまった。

 

 

するとしばらくして今まで映っていた銀時達が消えると

 

今度はまた別の画像が陸奥の前に現れる。

 

『あだ!』

『ぐえ!』

 

まずは最初に落ちて行ったエリカと坂本が見える視点のモニター

 

『いづ! こ、腰を打ちま……ぐっはぁ!!』

『あ、悪い』

 

続いて落下した衝撃でまた腰を痛めしてしまった深雪の背中に勢い良く落ちる銀時達が見えるモニター

 

『っと、華麗に着地成功ね』

『真由美殿、俺は背中に乗れと合図した筈なのだが? 何故に俺の腕に抱き抱えられる体制に?』

 

上機嫌な様子の真由美と、何故か彼女をお嬢様抱っこの態勢で持ち抱えている桂がストンと落ちてくるのが見えたモニター。

 

『うう~こんな狭い所で高杉さんと二人っきりなんて……』

『こんなガキとセットで落としやがって……後で覚えてろよ』

 

既に着地していた不安そうに周りを見渡すあずさと、こちらに目を細めて殺意を募らせる高杉がいるモニター。

 

新たに現れた4つのモニターをそれぞれ確認しながら、陸奥はコクリと縦に頷いて見せた。

 

「よし、全員問題なくコックピットに搭乗出来たみたいじゃな」

『コ、コックピット……? どういう事ですか?』

 

腰をさすりながら既にダメージを背負ってる状態の深雪に、陸奥はすぐに返事をする。

 

「超巨大ロボ、カイエーン・COはデカくなった分操作性も難しい。左腕、右腕、左足、右足とそれぞれの部位を操作するには、担当のモン同士で上手く結束して動かさないかん」

『てことはなんじゃ? まさか今回はそれぞれバラバラで操作するんでなくて、二人で一つの部位を操らなきゃロボは動かんっちゅう事か?』

「新たな力を得たカイエーンを操作するには、おまん等がいかに強いシンクロ率を持っているかが鍵なんじゃ」

『シンクロ!? 真由美殿がUNOで使っていたシンクロ出しの事か!? そうかアレは伏線だったのか!』

『ヅラ、テメェは黙ってろ、永遠に』

 

坂本が驚いてる中、いつも通りのボケをする桂に銀時がモニター越しで冷たく言い放ちつつ、陸奥の方へと死んだ魚の様な目を向ける。

 

『要するに俺とコイツが上手く連携して動かしゃ良いって事か? 瞬間、心重ねればいいって事か?」

「長く体交換してたおまん等なら楽勝じゃろ? シンジとアスカみたいに決めて来い」

『いや絶対無理なんだけど、俺アスカよりリツコさん派なんで』

『私もこんな男と共闘するのはもうこりごりです、お兄様にチェンジして下さい』

「互いの身体をくまなく知っちょる関係のクセして何を弱音吐いとるんじゃ』

『体はゆだねても心までは売りません』

『俺達肉体だけの関係なんで』

「こないな生々しい主人公とヒロインでええのかほんに」

 

物凄く嫌がりながら互いに目を合わせて早速睨み合う銀時と深雪。

 

そんな二人に対して陸奥はため息を放ちながら重大な話を始める

 

「蓮蓬の星はもう間もなくわし等の方へと落ちてくる、残り時間にするとおよそ5分ぜよ、つまり5分以内に互いの心を重ねてシンクロし、カイエーンCOを動かして落下を防ぐ。それがおまん等の最後の仕事となる」

 

 

 

 

 

 

 

「異世界の相棒との最後の大仕事、ここでキッチリ終わらせて最後ぐらいビシッと綺麗にお別れを済ませるぜよ」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ! ゆっくりと迫って来る蓮蓬の星を見上げながら陸奥はモニターに映る者達にそう呟くのであった。

 

 

蓮蓬の星衝突まで残り5分

 

最後の最後に異世界の者同士の結束力が

 

巨大ロボによって今試される。

 

 

 

 

 

 

 




原作の銀魂の方も終わりそうですね、いざ終わりが近いとわかるとやっぱり寂しいもんです

その寂しさ引きずって原作終わってもまだまだ自分は銀魂SSを書いていくんだなぁと思います。


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第四十五訓 吹出&股間

年末だというのに頼れる先輩が家庭の事情で退職し、あまり頼れない後輩が蒸発しました。

おかげで今年もめっさ多忙な日々を送りながら年末を迎えるでしょう……。




坂田銀時と司波深雪。桂小太郎と七草真由美。坂本辰馬と千葉エリカ。そして高杉晋助と中条あずさが

 

ラピュタのパワーを経て奇跡の超強化を施されたカイエーンのそれぞれの部位の操作を担当する事が決まっていた頃。

 

他の者達それぞれのカイエーンに取り込まれた船に乗って、バラバラになりながらその光景をモニター越しで眺めていた。

 

「うーん私達の星の命運をあんな連中に託すというのか……」

「いきなり私達の乗ってた船が変形したと思ったら……だ、大丈夫かな銀さんと深雪……」

「いいなー、私もこんな巨大ロボ操作してみたかった、ロケットパンチとか撃ってみたい」

 

コックピットに強制的に閉じ込められた四組のメンバーが各モニターで両端に映っている中で、中心には快援隊の陸奥が映っている。

 

それを操舵室にあるメインモニターで眺めているのは、真由美の友人であり風紀委員長である渡辺摩利と

 

一年生の光井ほのかと北川雫である。

 

彼女達三人は、脱出する際に偶然居合わせてそのまま自分達の地球が危ない事を、先程の陸奥の中継で知ったのだ。

 

「でも早くあの隕石と化した蓮蓬の星をなんとかしないと、私達以外の人類滅亡が確定、つまり地球大ピンチ」

「それにしてもまさか巨大ロボに変形して、更にラピュタと合体して迎撃するって聞いた時は私も驚いたよ……」

 

地球滅亡を前に相も変わらずクールな雫に対し、頬を引きつらせながら困惑している様子のほのか。

 

魔利の方はというとモニターに映る桂と真由美を眺めながらはぁ~と深いため息

 

「服部の奴が何を言い出すかと思ったら……ふざけてるのかどうかは知らないが、とにかく何とかしてもらわないと困るんだ。こうしてただじっと待っているのは性に合わないが、今の私達ではどうする事も出来ない」

 

かつては後輩であり有望な生徒会副会長であった服部がすっかり原型が無くなるぐらい変貌してしまった事に対しては魔利も色々とツッコミたい事はあるのだが、地球滅亡が間近に迫っているこの大変な状況の中ではもはやそんな事をしている暇はない。

 

「ここは連中に託すしかない、真由美や桂、そして侍と生徒の結束の力で地球を救ってもらおう」

「やれやれ、まさか最後に最後に侍とJKが世界を救うなんて大イベントが用意されているとは思わなかった」

「心配だなぁ、桂さんと七草会長は問題ないとして、他の人達はあまり仲良さそうじゃないし……やっぱり深雪と相性良いのは銀さんよりもお兄さんの方が……ってアレ?」

 

世界が救われるのであればふざけてようが構わない。

 

摩利は地球の命運を彼等に託し、雫はフゥと小さく息を漏らしながら肩をすくめている中。

 

不安な様子で一緒に乗り合わせた深雪の兄こと司波達也に尋ねてみようと思って後ろの方へ振り返ったほのかなのだが

 

「……ねぇ雫、お兄さん知らない? さっきまでここに将軍と一緒にいた筈だよね?」

「お兄さん? ああ、将軍様と一緒に出て行ったよ」

「出て行ったって……一体何処に?」

「そこまでは知らない」

 

ちょっと前までいた筈の達也と、将軍・徳川茂茂の姿がどこにも無い。

 

急に消えた事に戸惑いを見せるほのかだが、雫は実にあっけらかんとした様子で答えてあげた。

 

「さっきお兄さんたちが床下から現れた穴に真顔のまま飲まれて消えた所は見えたけど。そっから先はどこに行ったかはわからないもの」

「ああそうなんだ、そうだよねいきなり床から空いた穴に飲まれて消えられちゃわかんないよねってどういう事それ!?」

「イリュージョンです」

「いやイリュージョンじゃなくてさ! まさかお兄さん達も銀さん達みたいに!?」

 

思わずノリツッコミしてしまうほのかであったが、達也と茂茂が銀時達同様に穴に飲まれて消えてしまった事に仰天の表情。

 

「あのロボットの操作する役の人って4組で十分だったんじゃないの!?」

「ほのか落ち着いて、それとあの白ブリーフ一丁の変態さんも一緒にいなくなってるよ」

「白ブリーフの変態さん……? もしかして新八さんの事!?」

「白ブリーフの変態で瞬時に彼だと気付くとは流石ほのか」

 

どうやら白ブリーフの変態こと新八も忽然と消えてしまったらしい。

 

いきなり彼等が消えた事にほのかはますます不安を募らせながら、ジト目でメインモニターを眺める。

 

「どうなっちゃうのかな私達の地球も……私達自身も……」

「でぇじょうぶだ、ドラゴンボールさえあればみんな生き返る」

「いやそんなのないから……」

 

 

 

 

 

一方その頃、ほのか達と一緒の船に乗っていた筈なのに。

 

志村新八はいつの間にかどこか見覚えのある密室空間に立ちすくしていた。

 

「……え? なんで僕までここにいんの?」

『おお、ようやくおまんも搭乗出来たみたいじゃな』

「陸奥さん!?」

 

真っ白な空間を見渡しながら新八は急な出来事に困惑していると、向かいにある操作パネル的なモノからブゥンと音を立てて小さなモニター画面が映し出される。

 

そこに映っているのは銀時達をまとめてボッシュートした張本人、陸奥である。

 

「どういう事ですか一体!? まさか僕も銀さん達みたいにカイエーンの操作をしろって事ですか!?」

『その通りじゃ、そこの部分はおまんぐらいしか適任はおらぬでな』

「すみません……そこの部分ってまさか……」

『うむ』

 

 

 

 

 

『吹き出物です』

「やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

新たにパワーアップしたカイエーンCOだが、頭頂部には一際大きな吹き出物が存在する。

 

その位置を担う存在として選ばれたのが、過去の吹き出物担当という実績を持つ新八だったのだ。

 

「なんでまた吹き出物なんだよ! 明らかいらないだろここの部分!」

『パワーアップしたカイエーンをナメるんじゃなか、全身の武装だけでなく吹き出物もパワーアップしとるんじゃぞ。なんと前よりも若干デカくなってます』

「いらねぇよそんなパワーアップ!! 吹き出物が大きくなったってなんの意味も無いだろうが! いい加減皮膚科行け!!」

 

いらん強化を説明する陸奥にモニター越しで新八はツッコミを入れていると、彼女は更に言葉を付け加える。

 

『それとカイエーンCOの操作役は二人一組じゃ、じゃからおまんにも相棒を用意しておる、上手く結束して吹き出物を自由自在に操ってくれ』

「吹き出物を自由自在に操るってどういう事!? ていうか相棒って誰ですか!? 僕と同じ吹き出物役になってしまった哀れな人って一体!」

『さっきからずっとおまんの隣にいるじゃろ』

「……え?」

 

こちらを指差しながら陸奥が答えると、新八は恐る恐るゆっくりと隣へと振り返った。

 

 

ニヒルな笑みを浮かべながらクイッと駆けている伊達眼鏡を上げる服部大佐がいつの間にかそこに立っていた。

 

『服部大佐です』

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁ!! なんで僕とこの人がセットなんだよ! ロクに口効いた覚えもねぇよ! なんでこっち見ながら薄ら笑み浮かべてんだよ! そもそもなんなんだよこの人わけわかんねぇよ!!!」

「君も男なら聞き分けたまえ、同じ眼鏡を掛けた者同士で仲良くしようではないか」

「陸奥さん明らか人選ミスです!! 絶対ヤバいですってこの人! 完全にムスカ大佐に憑りつかれています!」

『ヤバいのはおまんも同じじゃろ白ブリーフ』

 

どうしてラピュタの王(自称)である服部が吹き出物担当になったのかはよくわからないが

 

とにかく新八は彼と上手くやっていける自信が無いみたいで早速チェンジを要求するが陸奥はバッサリと切る。

 

『変人同士で仲良うしちょれ、クラスで二人組作ってと言われてはみ出されたモン同士で組まされる事もあるもんじゃき、それと同じじゃ』

「つまりは僕達はみ出しモン同士って事ですか!? はみ出されまくって吹き出物担当にされたんですか僕等は!?」

「時に天才というのは誰にも理解されず孤独に生きるモノなのだよ」

「いやアンタは天才じゃなくてただのバカだから孤独なの!!」

 

隣りでほくそ笑みながら陸奥の代わりに答える服部に新八がイラッとしながら答えていると、モニターに映る陸奥は何やら操作盤をピッピッと何かを操作している様子。

 

『よし、おい吹き出物、おまんの所のモニターをよく見てみろ、おまん以外のカイエーン操縦組が映っちょるじゃろ』

「吹き出物って呼ばないで下さい! 操縦組が見えるって……あ、本当だ! 銀さん達が映ってます!!」

 

吹き出物単体扱いされながらも新八はモニターをよく見てみると、確かに4隅に銀時や深雪、その他のメンバーが映っている。

 

しかもその画面一つ一つに奇妙な数字が表示されているではないか……この数字は一体……

 

「陸奥さんこの数字は一体銀さん達の何を現しているんですか?」

『シンクロ率じゃ』

「シンクロ!?」

『それが高ければ高い程、その二人は上手く互いに理解し合って絆を深めている証拠じゃ。まずはウチの艦長と艦長代理の所を見てみろ』

 

なんだかいきなりSFチックな機能が搭載されている事に新八は戸惑いつつも、とりあえず陸奥に言われがるがまま

 

艦長と艦長代理、つまり左足担当の坂本とエリカが映っている画面に焦点を当てた。そこに表示されている数字は

 

 

【30%】

 

「低ッ! 坂本さん達の結束力低すぎませんか!?」

『ああ、この程度のシンクロ率では小指一本ぐらいしか動かせん。おまん等もっと仲良くせんか』

『そうは言ってものぉ陸奥、この娘っ子さっきからわしに対してATフィールド張って近づこうとさせんのじゃ』

『こんな狭い部屋におっさんと二人っきりにされて身の危険を感じない女の子がどこにいんのよ、さっさとアタシだけ解放しなさい、監禁罪で訴えるわよ』

「女の子の方凄く嫌がってんだけど! テメーの地球が滅亡の危機なのに協力する気ゼロなんだけど!」

『やれやれ、アホとアホじゃから悪くないコンビだと思っとったんじゃがの』

 

苦笑する坂本と、彼の隣でずっとムスッとした表情浮かべながら腕を組むエリカ。これではシンクロ率が低いのも頷ける。

 

ますます新八は不安感を募らせながら、今度は半ば興味心で右足担当の高杉とあずさの方へと目をやる。

 

現れている数字は

 

 

【0%】

 

「全く同調してねぇぇぇぇぇぇ!!! そりゃそうだよ! だってあの高杉さんだもの! 高杉さんこういうノリ全く慣れてないから! こういうことするキャラじゃないですもん!!」

『……』

『た、高杉さん。私達で何とかしないと地球が……』

『……あ?』

『うえぇ~ん! 会長助けて~!』

「高杉さん血走った目をしながらメッチャキレてるよ!! 絶対機嫌悪いよあの人! あんな人と狭い部屋に取り残されたらそりゃ泣くよ誰だって!!」

『高杉なのに低すぎ』

『雫! ちょっと黙って!』

『おい誰だ俺の名前でつまらねぇ洒落言った奴、出て来い』

 

不機嫌だと一目でわかる高杉に向かって恐る恐る話しかけるだけでも十分凄い事である。

 

両手で顔を塞ぎながら泣きじゃくるあずさに新八は不憫に思いながらまた別の一組の方へ視線をずらす。

 

お次は桂と真由美だ

 

 

【400%】

 

「高ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! いや薄々予想はしてたけどここまで高いとむしろ気持ち悪い!! 半端ねぇんだけどこの二人!!」

『フッフッフ、俺と真由美殿のシンクロ率がまだこの程度だと思ったか? その気になれば更なる段階まで上昇することが出来るぞ』

『私達の本気はまだまだよ、ドラゴンボールで例えるならまだスーパーサイヤ人になったぐらいかしら? こっから更に2や3、ゴッドにブルー、そして身勝手の極意と無限の成長を遂げていくのよ私達は』

「いや力隠す必要とかねぇから最初から本気になってくんない!?」

 

両者腕を組みながらまだまだ余裕綽々といった態度で不敵に笑う桂と真由美。

 

どうやら彼等のコンビネーションの真価を発揮するのはまだこれかららしい。

 

『みよ! 俺と真由美殿が同調した事により! カイエーンの左腕部分は繊細なる動きまで出来る様になったのだぞ!』

『桂さんの考えが手に取るようにわかる……今ならこの左手でちっぽけなハエを掴む事だって出来る自信があるわ!』

「凄い! カイエーンの左腕だけ妙にアクティブに稼働している!! 他三つの部分がうんともすんともしねぇのに左腕だけ動きがヤバい!! ヤバいってか気持ち悪い!!」

 

カイエーンを外側から見てみると、左腕の部分だけが正確に桂と真由美のイメージ通りに動いている。

 

カイエーンの各部位の操作方法はハンドルやボタン、レバーを使う必要は無い

 

二人の脳にあるイメージが全く同じになった時にのみ動かすことが出来るのだ。

 

そしてここまで動かせれば二人のシンクロ率がかなり高いという確固たる証拠。

 

やれとも言ってないのに勝手に操作しながら、桂と真由美はカット目を大きく見開かせ、カイエーンの左手を迫りくる蓮蓬の星に向かって突き付けると、指の部分の小指と中指を折った状態で

 

『『ぐわしッ!!』』

「イメージだけじゃなくバカさも同調してんだけど! 巧みに操作出来ても操作してるのがバカ二人だから全く役に立つ気がしねぇ!!」

 

どんどん向かって来る星に向かってどこぞの漫画のポーズを決める事に成功してドヤ顔を浮かべる桂と真由美。

 

『流石は真由美殿、俺が考えていたイメージを瞬時に見抜くとは、これ程完璧なぐわし!は見た事がない』

『フッフッフ、私達の結束の力があれば天下統一も容易いという事ですね』

『その通りだ、これでますます地球に帰る日が楽しみだ、フハハハハハハ!!』

『ダメだコイツ等……このままじゃ地球を護るどころか僕等まで隕石に飲まれて……』

 

全く意味の成さないその行いに新八は頭を抱えながらツッコミを入れ、こんな奴等が世界を救えるわけがないと途方に暮れる。

 

だがその時

 

『おい新八、戦う前に何諦めてんだテメェ』

『! その声は銀さん!』

 

すぐ様バッと右上の方にある画面を見ると、そこにはこの状況でありながらもまだ諦めていない侍がそこにいた。

 

坂田銀時、数多の困難や苦境をも自らの信念に従い続けて乗り越えて来た男。新八にとってこれ以上頼りになる存在はいやしない。

 

『確かに俺達は仲良く手ぇ繋いで戦う事なんざ出来っこねぇ、てんでバラバラの方向を向いてる連中だ。だが共通の目的が出来ればそいつは別だ。隣に立ってる奴が誰であろうと無理矢理引きずって共に前へと進む、そいつが俺達流の結束の仕方なんじゃねぇのか?』

「銀さん!」

『新八さん、お一人だけで悩まないで下さい。こういった土壇場だからこそ私達個々の存在が強く結びつくキッカケになるんです、焦らず勝機を見出しましょう』

「深雪さん! 流石は僕等の世界の主人公とそっちの世界のメインヒロイン! ビシッと決める時は決めてくれるんですね!!」

 

画面越しにこちらに向かって新八を励ましてくれる銀時と、隣で微笑みかける深雪を見て、新八は思わず泣きそうになりながら諦めていた心が再び立ち直ろうとする。

 

そしてチラリと銀時と深雪の画面に映る数字を眺めてみると

 

【-546%】

 

「って0どころか-になってるぅぅぅぅぅぅ!! 結束とか強く結びつくとか言ってる本人が一番団結してねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! アンタ等何やってんだコラァ!」

『え、何言ってんの新八君? ここにいるのは俺一人だよ? アンタ等ってどういう事?』

『私しかおりませんのに何か勘違いしてませんか?』

「いやいやいやいや!! なにまさかアンタ等! あまりにも仲が険悪になり過ぎて互いの存在を無視する事にしたの!? そんな解決策で地球は救われねぇんだよ!! 救われるのはお前等だけなんだよ!!」

 

互いに隣にいる人物について一切触れない態度でケロッとした表情でこちらを見つめ返してくる銀時と深雪。

 

よく見ると狭い部屋の中でも絶対に相手の肩にさえも触れない様にしながら出来る限り両端に立っている。

 

一切相手に干渉しないと言った感じで、まるでここにいるのは自分一人だと振る舞う二人に、新八はさっきまでの安堵していた気持ちをほおり捨ててすぐに怒声を上げて二人に向かって噛みついた。

 

「いい加減にしろテメェ等! 星の命運がかかってるのにずっと喧嘩ばかりしやがって!! こちとらもう見飽きてんだよ!! さっさと仲直りして一緒に戦え!」

『仲直りって誰と? あーもしかして俺と体が入れ替わっていたガキの事? そういやどこ行ったんだろうな、もう死んでるんじゃねぇの?』

『そういえば私の身体を奪って数多くの愚行を行った男がおりましたね、随分前に宇宙の藻屑となって消えたと聞いたんですけど?』

「口を揃えて似たような否定する辺りお前等本当は息ピッタリなんじゃねぇの!? あーやっぱ駄目だ! こんなバカ共じゃ世界を救うなんて出来っこない!!」

 

すっとぼけた口振りで相手の存在を抹消している銀時と深雪に、新八は再び頭を抱えて大きく叫ぶ。

 

上手く結束しているのは桂と真由美だけ、時点で坂本とエリカだがまだ全然。高杉とあずさに至っては同調する絵面さえ思い浮かべられないのだ。

 

そして極めつけは銀時と深雪……もはや前世で殺し合いでもしていたんじゃないかと思うぐらい相性が抜群に悪い。

 

「どうすりゃいいんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『全く、これは中々の曲者揃いのメンバーが揃ったもんだ』

『だが現状で考えればこの者達が選ばれるのは妥当と考えるべきだ、それにまだ余達の希望は潰えてない』

「え?」

 

喉の奥から一人新八が叫んでいる中、モニターから何やら銀時達ではない声が聞こえて来た。

 

何処かで聞き覚えのある声だったので新八は叫ぶのを一旦止めて、ふと顔を見下ろして画面に目をやる。

 

するとそこには銀時達以外の別の二人組が映し出されている新たなモニターが、しかも……

 

 

【100%】

 

『妥当なのかそうではないのかなんてどうでもいい、役に立たないなら俺達だけでアレをなんとかすればいいだけの話だ、行くぞ茂茂』

『うむ、共に未来を切り開こう、そして達也、友として力を合わせそなたの地球を護り抜くぞ』

「ってえぇえぇぇぇぇぇぇぇ!? 将軍と達也さん!? ど、どうしてそんな所に!」

 

モニターに映って操縦席にいるのはなんと深雪の兄である達也と、こちらの世界の将軍であられる茂茂の姿であった。

 

二人がどうして自分達と同じく操縦席にいるのか新八が驚いていると、陸奥から新たなメッセージが

 

『言い忘れておったが、四つの部位とおまんの所の吹き出物以外にも操作役が必要とする場所があったんでの、最も適材に相応しいもんをそこに用意ばさせたんじゃ』

「もしかしてそれが達也さんと将軍!? ウチのトップと向こうのエースをダブルで必要な場所って一体!」

『無論、この新型カイエーンにとってもっとも大切な要になる場所ぜよ』

「要になるって……」

 

 

 

 

 

 

『局部じゃ』

「トップとエースをとんでもねぇ所に配置させやがったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

まさかのカイエーンの股間の部分に当たる場所の操縦役に抜擢された達也と茂茂。

 

戦略的にも総大将的にも貴重な存在をそんな所に置くという前代未聞の行いに新八は驚愕を露にした。

 

「向こうの主人公とこちらの総大将をなに人体で最も汚らしい部分に置いてんだアンタぁ! いやロボだけど! ロボだけども!!」

『性に興味丸出しの将軍と興味ない振りして実はムンムンの男子高校生を選んだまでの事、適材適所じゃきん』

「どこが適材適所!? 明らか人選ミスだろ! シンクロ率も100%なのにどうして股間にするんだよ!! 股間100%になって何が出来るっていうんだよ!」

『うろたえるな新八、例えどこであろうと俺達が地球を護りに来たのは変わりない』

「た、達也さん!?」

 

陸奥に対して新八がツッコミを連発していると、画面から達也がこちらを見上げながらいつも通りの真顔で腕を組みながら答える。

 

『やるぞ茂茂、地球だけでなく、自分の信念をも護るために』

『剣も魔法もいらぬ、戦いに必要なのは己が持つ諦めない心だ』

「す、凄い! 股間という明らか下ネタ要因ポジションに収まりながら二人の闘志は全く消えていない! むしろ燃え上がっている!!」

 

どうやら二人にとって不遇な扱いを受ける事などさしたる問題ではなかったようだ。

 

達也と茂茂、両者ジッと前方から迫りくる蓮蓬の巨大星目掛けてジッと構え

 

『さあ始めるとしよう、俺達の』

『地球人の底力を』

『カイエェェェェェェェェェェェン!!!!』

 

二人の静かな闘志がカイエーンにも応えたのか、宇宙に轟く程の力強い咆哮を上げる。

 

蓮蓬vs地球連合軍。正真正銘最後の戦いが、遂に始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

『エクスタシィィィィィィィィ!!!』

 

始まりのゴングが鳴った瞬間、カイエーンは叫びながら股間からドゴォォォォン!!と派手な音を鳴らしながら巨大なビーム砲を蓮蓬の星目掛けて発射する。

 

勢いの付いたそのビーム砲は蓮蓬の顔目掛けて見事クリーンヒット。

 

そして

 

『『……』』

 

股間担当の達也と茂茂が無言で同時にバタリと前に倒れて動かなくなってしまった。

 

チーンという悲しい音が聞こえた様な気がしながら、新八は目をパチクリさせながらさっきまで威勢を放ってカッコよく決めていた二人が、10秒も持たずにいきなり必殺技みたいなのを発射した上に、そのまま昇天してしまった現実をゆっくりと受け止めると

 

 

 

 

 

「カイエェェェェェェェン!!! だからイクの早過ぎだろォォォォォォォォォ!!!」

 

パワーアップしても結局カイエーンはカイエーンであった。むしろ前回よりも早漏になってしまっている。

 

恐らく操縦側の二人の体質が影響していたのかもしれない。

 

『将軍家は代々、あっちの方は早撃ち……』

『知識はあっても実戦無経験だといざ本番でヘマをする、なるほど、身に染みて理解した……』

「闘志があっても経験は無いから速攻でフィニッシュかましちゃったよあの二人!! 真っ白な灰になっちゃったよ!!」

 

精魂尽きてた状態で弱々しく呟く茂茂と達也に目をやりながら必死に新八は叫ぶ。

 

頼みの綱がまさかここでダブルノックダウンするとは思っていなかった、もはやここまでかとガックリと肩を落として半ば諦めかけてしまう新八。

 

しかしその一方で

 

 

 

 

 

 

「え、なにお兄様? 弱点無しの最強キャラかと思ったけどあんな弱点あったの?」

「違います! 今日はただちょっとあっちの調子が悪かっただけです! お兄様だって本気になればそりゃあ特命係長並のテクニシャンに!!」

「いやテクニシャン以前の問題だよねあれ? あんなのお店でやられたら嬢も困惑するレベルだよ? 60分コースなのにほぼほぼ無言で終わるのを待つだけの悲しい思い出になっちまうよ?」

「お兄様はそんな店に行きません!」

 

モニター越しで達也のフィニッシュを眺めていた銀時と深雪が、先程まで互いを無視していたにも関わらず

 

あまりの出来事につい会話を始めてしまう。

 

小指で鼻をほじりながら銀時がけだるそうに呟くのに対し、ムキになった様子で深雪は抗議した後

 

顔面にカイエーンの必殺ショットを食らってなお迫りくる怪物を前にキッと睨み付ける。

 

「どうやらお兄様の仇を取るしかないみたいですね……」

「勝手に暴発させちまっただけだけどな」

「不本意ですがあなたの力をまた借りるしかないみたいです」

「……言うと思ったよ、こっちも同じ事考えてた」

 

歯切れの悪そうに深雪が呟いて来たのに対して、隣に立っている銀時はスッと彼女に向かって拳を突き出す。

 

「どうやら俺とオメェの身体は離れてもなお、まだどこかで繋がっているらしい」

「そうみたいですね、理屈はわかりませんがこれもまた融合を行った者同士の特殊な影響という事かもしれません」

 

拳を突き出してきた銀時に対し、深雪は真顔で同じように拳を突き出して合わさる。

 

「出来る事なら今回ばかりだけにしたいです、もうあなたとこういう事になるのは二度とゴメンです」

「同感だ、こちとら同じ女を二度も抱かない主義なんだ、三度目なんざごめんこうむる」

 

悪態を突きつつ二人の拳が付き合わさった瞬間、突然二人の周りがカッと強く光に包まれて、あっという間に二人の姿がその場から忽然と消える。

 

そして代わりに現れたのは一人の

 

 

 

 

 

 

銀髪ロングヘアーであちらこちらにクセッ毛を跳ねらせた、制服の上に着物を羽織った一人の少女が見参した。

 

「やれやれ、原理はわからねぇがやっぱり出来たな、『融合』って奴をよ」

 

坂波銀雪、神威、そして四葉真夜をも倒した銀時と深雪の融合体。

 

どうして入れ替わり装置を破壊し、元凶をも倒した状態にも関わらず、こうして再びこの姿に戻れたのかはわからない。

 

それでも二人はなんとなく出来ると頭の奥底で理解していた、だが理屈や原理はわからないし、正直また分離出来るかさえも知らない……

 

「入れ替わりの謎だけでなくこの融合の仕組みも謎のままって事か……だが好都合だぜ、これで互いにいがみ合わなくて済むってモンよ」

 

銀雪が自分の右手を握ったり開いたりして体の確認をしていると、カイエーンもまた同じように右手を開いたり閉じたりしている。

 

二人で一つの生命体になったので、先程まで最悪だったシンクロ率がケタ違いに上昇していく。

 

「やっぱりここは俺達が出ねぇと締まらねぇよな」

 

そう言って銀雪は向かって来る星に向かってニヤリと笑うと、カイエーンの右手を掲げさせて迎え撃つ覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

「来いよお客様、早漏お兄様に代わって一級テクニシャンの銀雪さんが、見事極楽浄土に連れてってやらぁ」

 

最強融合戦士、再びここに降臨。

 

 

そして彼女に触発されて、他の侍と少女達もまた……

 




私はこれでも下ネタは読むのも見るのも少々苦手ですが、不思議と書く事は出来ます。

ですが今回の話はやはりキツかった、精神的に大分ダメージ入りました……

でもまだこれからなんですよねぇ……


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第四十六訓 同調&純愛

投稿遅れて申し訳ありません、年末は忙しい為、しばらく不定期投稿にさせてもらいます。


再び現れたのは銀時と深雪の融合体、坂波銀雪。

 

彼女の再臨により、困難に思われた新型カイエーンの操作にいよいよ希望の光がもたらされた。

 

「フン、こうなっちまえばこっちのモンだ、さっきまで操れなかった右腕が自由自在に動かせるぜ」

『やりましたね銀さんと深雪さん! いや銀雪さん! まさかこの土壇場でまた融合するなんて!』

「見ろ新八、これが俺達の融合の成果だ」

 

モニター画面には二人から一人となり、別の姿となった銀雪を見て驚いている新八の姿が

 

彼に向かって銀雪が得意げに笑うと、自分の右腕とリンクしたカイエーンの右腕を巧みにそうしながら、グッと右手を掲げると、振り落ちてくる蓮蓬の星に向かって

 

「この細かに動くテクニシャンな指使いで! 星の一個なんざものの数秒で絶頂よ!!」

『ってロボットの右手で何卑猥な動きしてんだぁぁぁぁぁ!!! 右手完全にモザイクになってんじゃねぇか!!」

 

ウネウネと高速に指を動かしていきながらモザイクまみれのやらしい右手となったカイエーン。

 

誰も望んでいないそんな破廉恥なテクニックに新八が叫ぶと、銀雪はフッと笑みを浮かべ

 

「大丈夫だ、本製品を買えばモザイクも薄くなる仕様だ、更に今買えば20%オフというキャンペーン付きさ」

『まずオメェの頭が大丈夫じゃねぇよ!! 本製品なんかねぇしAVの販促みたいな事してねぇでさっさと星を受け止めろや!!』

「はいはい、偉そうだな吹き出物のクセに」

「好きで吹き出物になったわけじゃねぇよ!!」

 

新八の怒鳴り声にやかましそうに片耳に指を突っ込んでしかめっ面を浮かべると

 

銀雪は改めて左手を大きく広げて落下してくる星を受け止める態勢に入った。

 

やはり融合してるだけあってシンクロ率はケタ違いだ、一瞬の誤差も無く正確にカイエーンの右腕を操っている。

 

しかしそんな様子を面白くなさそうに左腕側から見ている者が二人。

 

「何故だ!あの二人がもう一度融合出来たというのにどうして俺達は一回も出来ないのだ!! 一体全体どういう事だ!!」

「銀さんと深雪さん、あの二人の中の悪さは一目瞭然だったのに……水魚の交わりである私と桂さんが合体出来ないなんて絶対におかしいわ!!」

「そうだ! 融合の条件は入れ替わった者同士による精神の同調であった筈であろう! 俺達はこれ以上ない強い結束力なのに出来ないとは納得できん!!」

『二人共落ち着いて下さい! 今はとにかくあの星が地球に衝突するのを防ぐのが先なんですから!!』

 

左腕操縦担当の桂小太郎と七草真由美が抗議する様に声を荒げている。

 

一度だけでなく二度も融合に成功した銀時と深雪に対し、自分達が未だ一度も出来ていない事に納得がいかないみたいだ。

 

確かに何故この二人が融合が出来ないのかは不思議に思う所もあるが、今はそんな事を考えてる暇はない。

 

新八はモニターでキレている二人に向かって即座に指示を飛ばす。

 

『合体なんか使わなくてもお二人は十分シンクロしてるんですから!! 入れ替わり組の中では断トツでトップのベストコンビなのはこっちもわかってるんで!! そのまま銀雪さんと一緒にあの星を受け止める態勢に入って下さい!!』

「く! 納得いかんが確かにあの星を止める事が先決か……! 真由美殿ここはひとまずこの件については置いておこう。いずれ銀時と深雪殿に直接どうやって融合出来たのか問いたださねば」

「きっと何かコツがあるのよ、もしかしたらアレ? フィージョン的なポーズを取るとか? それともポタラ的なアイテムが必要とか……」

 

融合さえ出来れば入れ替わり組の中でこれ以上ないベストコンビだと証明出来るというのに……

 

二人は渋々銀雪と同じくカイエーンの左腕を操作して受け止める態勢に入ると、徐々に迫って来る蓮蓬の星がいよいよ目前と来ていた。

 

すると蓮蓬の星から不快な機械音と共に声が

 

『何が何でも我の邪魔立てをするつもりか! だがこれもまた好都合! 地球もろ共貴様等を道連れにしてくれる!!』

『うおぉ! この野郎最後まで足掻いて見せるってか……! 上等だコノヤロー! 銀雪さんの力はまだこんなモンじゃねぇ!!』

『凄まじい力だ、これぞ地球人に対する執念というべきか……このままでは俺達も危ういぞ』

 

 

巨大な星から聞こえる声の主は間違いなく星の核たるSAGI。

 

自分の身が崩れ行く中でも未だ復讐心だけを燃え滾らせせまってくる巨大な星を、カイエーンは両手でガシッと掴むも徐々に背後にある地球の方へと後退していく。

 

「哀れじゃのぉ、こげな真似をしてももはや何の意味もないというんに……仕方なか、せめてもう一度わし等の手で奴を完全に消してしまうしかない。そしてロクにシンクロが出来んわし等が上手く結束するにはやる事は一つ」

 

両腕が使い物になっても、未だ右足部分と左足部分は操作出来ていない。その事で上手く踏ん張れずに徐々に下がりつつあるカイエーンの左足内部で、坂本辰馬は腕を組みながら一つの活路を見出す。

 

「わし等も融合じゃ! 金時と深雪ちゃんの様にわし等も一つになるんじゃ!! この土壇場で出来るかどうかわからんがわし等と地球が生き残る手段はもうそれしかないわい!! やるぞ娘っ子!!」

 

腹をくくった様子で隣にいるエリカに向かって振り返る坂本、しかし彼女の方は静かに彼から一歩距離を通った後冷めた表情で

 

「いや結構です、私もう諦めましたんで。地球と共に死のうがもうどうでもいいんでほっといて下さい」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!! こげなクライマックスの時になんで冷めちょるんじゃ!?」

「マジで嫌だからそういうの、アタシまだ嫁入り前だし、オッサンと合体とか死んでもごめんだから」

「いやいや合体っちゅうてもそういう事じゃないわ!! そっちの合体だったらわしだっておまんみたいな小娘じゃなくておりょうちゃんとするわ!!」

 

プイッと顔を背けて全く協力する気ゼロのエリカに坂本が必死に呼びかけているとすぐ様キレ気味の銀雪からの通信が

 

『おい坂本テメェ何やってんだ! さっさと操作して踏ん張りやがれ!!』

「ちょ、ちょっと待っちょれ!! 今丁度心を病んで壁を作り出した娘になんとか声を届かせようとしちょる所じゃから!!」

『この状況でなに呑気に引きこもりの娘に説得を試みるお父さんみたいな事やってんだ!! ガキが作った壁なんかとっとと破壊しちまえ! 昔からのテメェの得意技だろうが!!』

「のぉ娘っ子、3万あげるからわしと合体してくんない?」

『誰がそんないかがわしい誘い方で壁を破壊しろつったよ!! 』

 

ヒョイッと懐の財布から紙幣を取り出してヘラヘラ笑いながらエリカに申し込む坂本に銀雪のツッコミが轟いた。

 

的外れな懐柔の仕方にエリカは一層不機嫌な表情になりながらカチンときた様子で

 

「アタシがそんな安い女だと思ってんじゃないわよゴラァ! こちとらただでさえアンタなんかとこんな狭い場所で一緒に死ななきゃいけないってのに!!」

「それを阻止するために協力しろというのがどげんしんてわからんのじゃ!!」

「じゃから諦めろとこっちも何度も言うとるじゃろが! どげな真似しようともう何もかも終わりじゃ! どこぞのバカ艦長とバカ副艦長のせいでみんな仲良くお陀仏するしかないぜよ!!」

『オイなにお前等熱くなってんだ! 二人共土佐訛りになってどっちが喋ってるのかわかんねぇよ!!』

 

遂には互いの胸倉を掴んで土佐弁を用いて喧嘩する始末。

 

『早くしろお前等!! このままだとマジで死ぬぞ俺達!!』

「アンタなんかと合体するとか絶対にゴメン……うぷ」

「じゃからしたくないとか今この状況で言ってる場合じゃ……う!」

 

銀雪が自分を棚に上げてそんな二人の不毛な争いを止めようと叫んでいると

 

二人は急に青白い表情を浮かべて項垂れると、気持ち悪そうに下を向きながら同時に

 

「「オロロロロロロロロロロ!!」」

『いい加減にしろやぁぁぁぁぁぁぁ! お前等どんだけ吐くんだよ!! 作品の中でお前等ほぼほぼ吐いてばっかじゃねぇか!』

 

揺れるロボットの内部で激しく揉み合ったせいか、急に船酔いを起こして吐瀉物を床に撒き散らす坂本とエリカ。

 

そんな二人に銀雪がモニター越しに怒声を浴びせていると、二人の間で変化が

 

『って、アレ? お前等なんか光ってね?』

 

突然、吐瀉物を吐いている二人が金色に光り輝き、何やら見覚えのある現象が起こり始めたのだ。

 

それはまさに銀時と深雪が融合する時の様な眩い光の中で二つのシルエットが一つとなる……

 

『えぇぇぇぇぇぇぇ!! 何それどういう事!? まさか同時にゲロ吐いた結果シンクロ率が上昇したっていうの!? ゲロ吐いて融合ってどんだけだよお前等!!』

 

まさかの出来事に銀雪が坂本とエリカの姿が見えない程眩しいモニターに向かってツッコんでいると

 

しばらくしてその光はおさまっていき

 

最終的にその場に立っていたのは一人の人物であった。

 

艦長の制服に身を包み、ボサボサ頭を無理矢理一つに結った赤髪を後ろに垂らし、腰には一本の刀と銃のホルスターを付け

 

丸いサングラスを付けた少女が腕を組んだ状態でニヤリと笑う。

 

「アハハハハハ!! 坂葉辰香≪さかばたつか≫見参!! これにて融合完了じゃわい!!」

『嘘だろオイ! 俺達が苦労して出来た融合をゲロ吐き散らして成功させやがった!!』

「待たせたのおまん等! 合体したわし等の力を見せたるきん! うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

新たに生まれた融合戦士の登場に銀雪が驚く間にも、彼女は、坂葉辰香は威勢よく大声を上げると

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぼろしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

『って結局吐くんかいぃぃぃぃぃぃぃ!!!』

「す、すまん融合したおかげで酔いの回りも2倍になってしもうたきに……」

『余計役立たずになっただけじゃねぇか!! あれ?』

 

融合体となっても叫びながら口から吐き散らすという醜態を晒す彼女に銀雪が叫んでいると

 

ふとさっきまで後退し続けていたカイエーンが、両手で星を支えながら徐々に落下速度を落とし始めた。

 

「おいちょっと待って、なんかロボットが急に隕石のスピードを抑えていける様になったぞ」

『テメェ等なに遊んでやがる、支えはこっちでやったんだ、後はコイツを投げ飛ばすなり弾き飛ばすなりしてみろ』

「高杉!? いやでも口調はアイツだけどなんか声がどことなく可愛らしくなったような……」

『くだらねぇ余興にこれ以上付き合う義理はねぇ、さっさと終わらせて俺達は元の星に帰らせてもらうぜ』

 

坂葉辰香があの調子なのに足の部分が思いの外バランス良くなりうまく星の落下に耐え切る事が出来ている。

 

銀雪が不思議に思っているとまさかの高杉からの通信が入って来た。

 

すぐに彼女は目の前にあるモニターに目をやるとそこにいたのは

 

 

 

 

 

 

 

蝶の刺繍が入った着物を官能的に着飾り、左眼に包帯を巻いたショートボブの目つきの鋭い少女が、優雅にキセルを吸いながら立っているではないか。

 

『俺達はこれ以上この体のままでいるのはゴメンだ、だからとっとと終わらせろ』

「って高杉ぃぃぃぃぃぃぃなにその姿ぁぁぁぁぁぁぁぁ!? まさかあのチビ娘と!? 嘘でしょ高杉君! 俺達が気付かない間に何時の間にまさか融合してたっていうのか!? お前とあのチビでか!? マジでか!?」

『テメェが坂本とやかましく喋ってる時にはとっくに出来てたぜ、様は互いに同じ様な事を強く思っていりゃあ出来る芸当なんだろ? それなら俺達が一番その条件に合ってるに決まってらぁ』

「はぁ? 端から端までまるっきり違うオメェ等が同じ考えに至るなんてあり得る訳……」

 

新たに現れた、否、既に現れていた三人目の融合体に銀雪が驚き顔をしかめる中、彼女はフンと鼻を鳴らしながら答える。

 

『一刻も早くコイツ(この人)から離れたいってな』

「マイナスとマイナスが合わさってプラスになっちゃったよ! 互いに距離を置きたいと必死に思ってたら逆に一つの身体になるぐらい距離近づいちゃったよ! そんなんで融合出来るの!? 俺達の苦労は一体何だったんだ!!」

『高杉と嬢ちゃんの融合体……名前は高条≪たかじょう≫しずさでどうじゃ?』

「名前なんざどうでもいいだろうが! とにかくこれで不安だったロボの操作が出来るってモンだ……行くぞテメェ等!!」

 

閃いたかのように機嫌良さそうに高杉とあずさの融合体の名前を決めている辰香に銀雪がぶっきらぼうに叫びつつ、全員に向かって声を荒げなら指示を飛ばす。

 

「まずは全力でコイツを止めんぞ!! 止めちまえば後は煮るなり焼くなりし放題だ!!」

『船酔いは十分堪能した、こっからはわし等の踏ん張り所をとくと見せてやるぜよ』

『星の一つや二つが消えようが構いやしねぇ、だがここでテメェ等と仲良く心中なんざごめんだ。今回だけはテメェ等に手ぇ貸してやる』

「侍四人と魔女っ娘四人の力……そして地球人の底力ってモンがどんだけ恐ろしいモンなのかハッキリと証明して、敵の最後の親玉に今度こそ引導を渡す時が来たぜ」

 

口元を裾で拭いながら得意げに笑う辰香に、キセルをしまって鋭い眼光らせながら歪な笑みを浮かべるしずさ。

 

そして掲げた右手をグッと強く握りしめながら銀雪はニヤリと笑いながら眼前に迫る蓮蓬の星に目をやる。

 

三人の融合体、これさえあればあの星の落下もきっと止められる筈、彼女がそう確信して右腕にグッと力を込めて、リンクしているカイエーンの腕で蓮蓬の星を押し上げようとするのだが……

 

「ってあれ? 思った以上に押し返せないんだけど?」

 

カイエーンが足の底からブーストして懸命に両手で星を押し返そうとするのだが、押し返すどころかまだズルズルと後ろに後退していく。

 

「この展開なら普通このまま星を押し返してみんなの力で地球を救いましたー的な展開になるんじゃ……てか右腕に負担がますますかかってるような気もするんだけど?」

『銀雪さん大変です!』

「おい新八! お前何やってんだ! お前もさっさと服部大佐と融合して吹き出物を操作しろや!」

『出来るわけねぇだろうが!! それよりも桂さん達が!!』

「ヅラ?」

 

自分の右腕に何やら負荷が増え始めている事に疑問を覚えていると、銀雪の所に新八からの通信が

 

どうやら桂の方に問題が発生したらしいので、銀雪がモニターに映っているで桂と真由美の方に目をやると

 

『坂本どころかあの高杉までも融合成功だとぉ!! 何故だぁ! どうしてあんな団結力も一かけらも無かったコンビが出来て! ゴールデンペアの俺達が未だ出来ぬのだぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『私達の何が間違っているというの!? もうこんな屈辱に耐えられないわ!』

「オイィィィィィィィ!! なにお前等しゃがみ込んで仕事放棄してんだコラァ!! テメェ等が左腕操ってねぇからこっちに負担がかかってんだよ!!」

 

モニターにはその場にしゃがみ込んで頭を抱える桂と真由美が悲鳴のような声を上げていた。

 

どうやら他の三組は融合出来たというのに、最も団結力が高い自分達が未だ出来ない事で溜まっていた不満が爆発してしまったらしい。

 

『テメェ等はそもそも融合する必要ねぇだろうが!! 元々シンクロ率高ぇんだからそのままでちゃんと操れんだろ!!』

「そういう問題ではない! お前達がこぞって融合している中で! 俺と真由美殿が唯一それが出来ないだなんて断じて認めんぞ!! 何か理由がある筈だ! それさえ解決するればきっと俺達も!!」

「という事で私と桂さんはどうすれば融合できるかについて改めて一から考えて行こうと思います! それまではあなた達だけで耐えて下さい!!」

『ふざけんじゃねぇなに自分達で納得できないからってこんな状況で駄々こねんじゃねぇ!! テメェ等がいないとカイエーンはまともに機能しねぇんだよ! 全員揃ってねぇと押し返せねぇんだよ!!』

「よし、それじゃあまずは互いに相手をどう思っているかと腹を割って話してみよう、真由美殿」

「そうですね、聞かなくてもわかっていますがここは根本的な所からゆっくりと時間をかけて整理してみましょう、桂さん」

『おい! 誰でもいいからアイツ等の所へ行ってぶっ殺して来い!!』

 

 

周りが出来て自分達が出来ないという事が余程のショックだったらしく、桂と真由美は銀雪達そっちのけで突然その場に正座して顔を合わせながら、どうすれば互いの身体を一に出来るのかと緊急会議を始めてしまうのであった。

 

「まずは俺から言わせてもらおう、もはや言葉にする必要もないであろうが俺は真由美殿の事を全面的に深く信頼している、別の世界に住み年も離れているにも関わらず、ここまで俺の志に強く共感する者は中々いなかった。今後も付き合うがあるとするならば、ゆくゆくは俺の左腕として立派な攘夷志士になってくれる事を期待している」

 

腕を組みながら淡々とした口調でキチンと評価を付けてくれた桂に真由美がフッと微笑む。

 

「嬉しいわ桂さん、そこまで私の事を評価してくれていたなんて」

「フ、この俺にここまで言わせるのは本当に大したものだぞ真由美殿、それで真由美殿の方は俺の事をどう思っているのだ?」

「もちろん私は桂さんの事はこの世を変える改革者だと信じています」

「無論だ、俺でなければこの世を正す事出来はしないであろう、その辺の事をちゃんとわかっているとは流石は真由美殿」

「だから私はそんな桂さんを……」

 

きっと彼女もまた自分と同じく相手に深い信頼感を持っているのだろうと、桂が薄々わかっている答えを口元に小さく笑みを浮かべながら聞いていると、彼女もまたこちらに微笑みながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心の底から”愛しております”」

「フッフッフ、やはりそう言ってくれると思っていたぞ真由美殿……ってあれ?」

「ゆくゆくは夫婦として共に支え合いながら国家転覆と子作りの両方バランスよく勤しもうと思います」

「……あれ?」

 

澄み切った両目でハッキリと宣言する真由美に対し、桂は突然真顔のまま我が耳を疑う。

 

「ん? すまん真由美殿、どうやら長く戦い続けたせいで疲れたのか幻聴の様なモノが聞こえてしまった。悪いがもう一回いってくれないか?」

「七草真由美は桂小太郎さんを愛してます」

「……」

「この戦いが終わったら桂さんと結婚してそちらの世界に永住しようと決めています。そして私も攘夷志士として、そして桂さんの妻として恥じない戦いを繰り広げて行こうと思います。そしてその間に将来有望になるであろう私達の子供達も立派な侍になるよう育て上げていこうと思っています」

「……」

 

ニコニコ笑いながら恥ずかしげもなく堂々と桂に対してぶっちゃける真由美に対し、桂はずっと真顔で黙り込んだまま聞き終えた後……

 

 

 

 

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」

『あれま、ヅラの奴にとんでもねぇ事実が発覚しちまったよ』

『これで桂さんが会長と融合出来なかった理由がわかりましたね、桂さんは会長さんにLikeだったけど、会長は桂さんにずっとLoveだったって事ですか』

「ちょ! なに冷静に俺に今起こってる出来事を解説しているのだ!!」

 

思いきり口を上げて驚愕の表情を浮かべる桂をよそに銀雪と新八はモニター越しで眺めながら冷静に分析。

 

『そういやバカ会長って、初めて会った時から既にヅラへの好感度高かったっけ?』

『僕等の世界にいて桂さんの身体だった時はまだ憧れだったかもしれないですけど、一緒に戦っている内に徐々に好きになっちゃったのかもしれませんね』

『まあいいんじゃね? 向こうは結構な家柄のお嬢様みたいだし、逆玉だよ逆玉』

『でも桂さんと会長って、年離れ過ぎやしませんか?』

『新八、男女の恋愛に年の差なんてモンを気にすんのは周りの連中だけだけなんだよ、二人にとってはその程度の事なんざ障害にもなりやしねぇ、カトちゃん見てみろよ、若い嫁さん手に入れて毎日ウハウハじゃねぇか』

『いやそこでカトちゃんで例えられるといささか不安感が募るんですけど、本当に幸せなんですかねあの人?』

『幸せに決まってんだろ、よく嫁さんのチャラい友達に囲まれて嬉しそうに笑ってる写真とかあるじゃねぇか、顔は笑ってても目が死んでたけど』

「カトちゃんの結婚話はいいから俺の事を気にしてくれ!!」

 

二人でモニター越しにすっかり他人後の様子で会話を進めている銀雪と新八に

 

必死な形相で桂が顔を近づけて来た。

 

「知らなかった! まさか真由美殿が俺に対してそんな感情を持っていたなんて!! 俺はてっきり素直に尊敬してくれているのかと!!」

『安心しろヅラ、こっちは薄々気づいてたから。多分気付いてなかったのお前だけだ』

「貴様! どうしてこんな大事な事を本人の俺に教えなかったぁ!!」

『泳がせていればその内面白い事になると思って』

「泳がせるなすぐに救助しろ! 人の人生を何だと思っているのだ!」

 

小指で耳をほじりながらけだるそうにぶっちゃける銀雪に桂がモニターに掴みかかってキレ気味に叫んでいると

 

そんな彼の背後には真由美が静かに笑みを浮かべながら立っていた。

 

「どうしたんですか桂さん、そんな血相変えて」

「へ!? い、いや真由美殿……どうやら俺達の間には多少の問題があったらしくてな……」

「多少の問題? もしかして七草家の事情とかですか? 大丈夫ですよ私、家族に会えなくなるのは寂しいですけど桂さんの隣に立てればそれで構いませんから」

「いやそうじゃなくて、その……」

 

隣に立つってそういう意味だったのか……てっきり自分の相棒としてだと思っていた桂は動揺を隠しきれずに頬を引きつらせながら苦笑を浮かべていると、モニターから再び新八と銀雪の声が

 

『桂さんマズいですよ! さっきまで400%あった桂さん達のシンクロ率がごっそり減って40%に!! このままだと僕等地球と一緒に星にペシャンコにされます!!』

『おいヅラ! さっさと覚悟決めろや! オメェが蒔いた種だろうが! 責任取って素直に結婚しろや!!』

「変な言い方をするなぁ!! 貴様他人事だと思って勝手な事を言いおって!」

『テメェがそいつと融合出来なかったのは! テメェがそいつの上っ面だけしか見ずにちゃんと中身の方も見てなかったからだろうが!!』

 

このままだとますます状況が悪くなっていく、桂が真由美の想いに気付いて動揺したおかげで下がるシンクロ率。

 

もはやこうなっては銀雪達同様に融合を試してみるしかない、それを行う為にははただ一つ……

 

 

 

 

 

 

 

『この場ではっきりとバカ会長に結婚すると誓え!! そうしねぇと世界が滅ぶ! 結婚するか滅ぶかここで選びやがれ!!!』

「なんだその選択肢は!! どっちみち俺としては納得のいかんエンディングしか無いではないか!!」

「フフ、もしかして桂さん、私に何か言いたい事があるんですか?」

「うえぇ! いや真由美殿、すまんがしばし時間を……」

『時間なんか残ってねぇんだよ!! さっさと言えボケェ!!』

「ぬおぉぉぉ!! 俺は……俺は一体どうすればいいのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

彼女と結婚するか、世界を滅ぼすか

 

デッドオアデッドの選択肢に頭を抱えながら上に向かって叫ぶ桂。

 

そんな彼に真由美は笑い、背後のモニターからは銀雪がキレる。

 

 

世界の命運は今、桂小太郎にゆだねられたのだ。

 

 

  

 

 




思えばこの作品を作るにあたって、一番最初に出来た組み合わせは桂と会長でした。

そしてこの作品最後の戦いの中の大事な局面で二人が関わるのも決まっていました。

最初の二人で最後の戦いに白黒付けさせてもらいます


次回をお楽しみに


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第四十七訓 契約&起立

遅れながらあけましておめでとうございます。年明け一発目の投稿となりました。

良い年を送りましょう



前回のあらすじ

 

桂小太郎のせいで世界がヤバイ

 

「ううむ非常にマズイ……! まさかこの逃げの小太郎でさえ容易に背を向けられんイベントが最後の最後に待ち構えていたとは非常にマズイ……!!」

 

かつての同志達が戦ってる中で桂は一人顔からダラダラと汗を滴り落としながら焦っている。

彼らが戦ってるのに自分だけが何も出来ない、とかではなくただただ目の前にいる”彼女”への対応に困っていたのだ。

 

「式はどちらで挙げましょうか? やっぱり桂さんのほうの世界かしら? でもそれだと私の家族が来れないから私の方の世界? んーこういう幸せな設計を考えるのってなんか楽しいですねー」

「もう式の段取りを計画している! 何故だ! なんか物凄いデジャヴを感じるぞ!!」

 

頬に指を当てながら楽しげに語りだす真由美に桂の表情にますます焦りの色が見え始めていると

 

この部屋の中央に置かれているモニター画面に、一人の男が映し出される。

 

『いや~良かったじゃねぇか桂、悪名高いテロリストも所帯をもってこれでちっとは大人しくなってくれたら万々歳だぜ』

「き、貴様は鬼の副長!」

 

現れたのは不適に笑みを浮かべながらタバコを吸っている土方であった。

まさかの敵である彼から祝福されて桂は嫌な予感を覚える。

 

『何せ”俺”以外にも俺と同じ境遇を迎える奴が他にもいてくれてたなんて嬉しくて涙が出そうだ……!』

『あなた~ウェディングゲーキは何段重ねがいいかしら~?』

『トシ! 俺花婿の付き添い役に立候補していいかな! やはり真撰組の局長としてここは一肌脱いでやりたくてさ!』

『じゃあ俺は牧師役、土方さんと姐さんの為に俺はいつものドSキャラを捨てて心の底から祝ってやりますぜ、たとえ結婚式から葬式に代わろうが見事にやりきってみせまさぁ』

「もはや地獄絵図!!」

 

目を血走らせた土方の後ろではキャッキャッとはしゃぐリーナと、テンション高めの近藤が叫んでいたり沖田が仏頂面で結婚式の牧師に立候補していたりと自分勝手に物事を着々と進めている真っ最中であった。

 

そう、土方は桂よりも先にこの手の被害者となっていたのだ。その光景に桂も思わずビビる。

 

「近頃のおなごは肉食系が多いとは聞いていたが! これでは血に飢え過ぎであろう! 向こうの世界のおなごがここまで積極的だったとは……!」

『いやその二人がイカれてるだけで私らは違うから』

「摩利殿!?」

 

昨今の結婚願望の強い女性達に桂が心折れそうになっていると、モニターに今度は見知った顔の少女、渡辺摩利がこちらにジト目を向けて映っていた。

 

桂と真由美の両方に長い事振り回されてた実績を持つ彼女の登場に桂は微かな希望の光を感じる。

 

「頼む摩利殿、知恵を貸してくれ! このままでは真由美殿が悪の道に!」

『いや悪の道に進ませたのお前! 私はもう知らん! 勝手に結婚でもなんでもすればいいだろ!』

「だからそれを体よく断る方法を教えて欲しいと言っているのだ! 俺はまだ野望を叶える道半ば! 結婚なんてものをやっている暇などない!」

『元はと言えばお前の自業自得だろ全く……だったら少し時間を置いてから結婚しようとか真由美と口だけの約束をして、上手く引き延ばして有耶無耶にして婚約解消でもするしか無いな』

「上手く引き延ばす……?」

 

最初は関わりたく無さそうだった摩利だったが、どうも彼女は困っている人に泣きつかれるとつい助けたくなってしまう性分なのか、頭を掻きむしりながらちょいとしたアドバイスを桂に贈ってやる。

 

すると桂は何か名案が思い付いたかのように表情をハッとさせ

 

「お手柄だ摩利殿、これならいける……真由美殿!」

「どっちの世界で式をやるか決めて下さいました?」

「まだその事を考えていたのか……いや悪いが式云々の話の前に俺の話を先に聞いて欲しい」

「はいなんでしょう!?」

 

童顔で背丈も小柄な少女が(あずさ程ではないものの)桂のほうへ嬉しそうに振り返る。

こうしてみると確かに一回り年上で長身の桂とセットだと夫婦になるというのは違和感しかない。

 

「結婚という話についてだが実を言うとしばし待ってほしいのだ」

「ホワイ!? 何故ですか!? 私ではまだ桂さんに不釣合いだと!?」

「いや問題は俺のほうにある、俺にはまだやらねばならぬ大義があるのだ、その目的を成す前に結婚などというめでたい舞台に立つ資格はまだ俺にはないということだ」

「その大義とはまさか……!」

「そう、この腐った世を革命し日本の新たなる夜明けに導くという使命だ」

 

腹をくくった様子でそう宣言した後、桂は切羽詰った表情で額から汗を流しつつ、なるべく真由美を刺激させないように注意を払いながらうまく丸め込めるよう話を続ける。

 

「つまりだ、大事を成す前に祝い事など持っての他、ここは俺が見事大きな成果を成し遂げるまでおぬしとの縁談の件は保留という形にさせてもらえないだろうか」

「……確かにこの世の悪の巣窟たる幕府を根絶やしにしない限り、私達の求める本当の平和は永遠に確立されませんものね……」

「国に真の平和を取り戻すまで俺達の戦いは続く。そんな時に婚儀のしきたりについて考えているなど言語道断、そのような体たらくでは真の攘夷志士には程々遠いぞ」

「なんてこと! 私とした事がこんな大事なことを忘れてつい自分の幸せだけを優先して虐げられる民衆の事を失念していたわ! 桂さんに己の左腕と評価されただけで舞い上がってしまっていたのね!」

「フ、やっと気付いてくれたようだな真由美殿」

 

桂の話になれば素直に聞いてくれるし、根は賢く頭の回転も早い。すぐに理解してこの状況下で結婚の話をするなど愚かであったと反省する真由美に桂は満足げに頷く。

 

「という事で結婚の話はまた後日という事で、まあしかし国一つを改革せねばならぬという事は相当の時が必要となるやもしれん、数年か、数十年……」

「フフフ安心してください桂さん、障害の一つや二つあればそれだけ私も燃え上がるというもの、桂さんとの結婚という最高のハッピーエンドを迎えるためであれば、私はより一層攘夷志士として頑張れる気がしました、ですから」

 

ようやく話が上手い具合にまとめられると安堵する桂に対し、真由美は含み笑いを浮かべながら人差し指を立て

 

「桂さんの天下もそんな時間を有する必要もありません、私がこの手で見事幕府を打ち滅ぼし1年も経たぬ内に祝言を挙げさせて頂きますわ」

「い、1年!? それはいささか早過ぎるではないのか!? ガンダムじゃあるまいし!」

「いけます! 桂さんと私達なら絶対にやれます!! という事で正式に結婚の約束をしましょう!」

「く! なんであろうと俺を信じぬくという希望に満ちた純粋無垢な瞳が眩し過ぎる……! そしてその瞳をしながらも結婚の事に関してはひたすら前のめりで攻めて来る姿勢が怖い!」

 

今ここにいる真由美には、軽く受け流してみるとか曖昧に答えてそのままにするとかいうやり方が全く通用しない事がヒシヒシと伝わった。

 

こうなっては仕方ない……桂は言い辛そうにしながらも苦肉の策としてゆっくりと重い口を開き

 

「……そ、それでは将軍の首を取った暁にはお主を迎えに行くという方針で……」

「やったわぁ! ならウェディングケーキの頭頂部に将軍の首を飾り付けしましょう!!」

「発想が猟奇的過ぎて怖い! だ、だがこれならば今すぐにでも結婚するという選択肢は回避できよう……」

『おい、その選択肢で本当にいいのか? 今の真由美はアレだぞ、色々とアレなんだぞ?』

 

嬉しそうにサラリと恐ろし気なアイディアを思いつく真由美に対し軽く引きながらも、納得してくれた彼女を見てようやく安堵する桂

 

だがそれ等をモニター越しで見ていた摩利は冷ややかな視線を桂に向けながら

 

『多分そう遠くない未来でお前は絶対に後悔する事になる、自分の目的を完遂したその時、それは同時に自分の人生に更なる問題が発生するという事なんだからな、果たしてお前はその結末を知ってなお将軍の首を狙う等という馬鹿な目的を今までのモチベーションのまま出来ると本気で思っているのか?』

「えらい俺や真由美殿の事を冷静に分析してくるな摩利殿! いやいや大丈夫だ! 例え俺の未来に何が待ち構えていようと! 俺が目指すべき場所はただ一つのみ!!」

 

意外にも桂小太郎の性格を踏まえて魔利がキチンと分析している事に、当人の桂は驚きつつもすぐに自分を奮い立たせるかのように大きな声を上げながら返事する。

 

すると彼と真由美の身体が青白く発光を始め……

 

「新たなる日本の夜明け、その目的を遂げる為であれば俺はこの身一つを喜んで犠牲にしようではないか!!」

「さすが桂さん! なら私もこの身をあなたに喜んで捧げると誓います! 永遠に!」

「愛が重い!!」

「そうです! 愛とは重ければ重い程強いんです!!」

『なんだろう……ある意味お似合いなのかもしれないお前達』

 

この状況になってなお自分を貫き通せる桂と真由美に呆れつつも少々感心してみせる摩利をよそに

 

二人の身体は一層強く光りそのままゆっくりと重なって一つのシルエットとなる。

 

そしてそこにいた桂と真由美は消えて代わりに現れたのは……

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハハ!!! 待たせたな諸君!!主役というのは最後の最後に登場するのがお決まりなのだ!!」

 

青い着物の上に着た白い羽織を颯爽となびかせ

 

腰の下まで伸びたロングストレートにふんわりとした弾力を持たせた黒髪を掻き流しながら

 

一人の少女が狭い部屋でやかましいぐらい大きく吠えながら登場する。

 

「この最後の融合戦士!! 桂 小由美≪かつらこゆみ≫がこの物語に終止符を打ってくれるわ!!」

『常々思ってたんだけど合体する奴はどうしてこうネーミングがアレなんだろうか……』

「フハハハハハハハ!! 細かい事を気にしてるとハゲるぞ摩利殿!! ん?」

 

腰に差してる刀の柄を握りながら堂々と名乗りを上げる融合体、桂小由美に摩利が一人ボソリとツッコミを入れていると、小由美は高笑いを一通り上げた後、不意に真顔になって顎に手を当て

 

「……念願の融合が出来たのは良いが……何するんだっけ?」

『うおい!! こんだけ長々と尺を取っておいて肝心な事をなに忘れてんだお前はぁ!!』

 

どうやら桂と真由美、あれだけ融合出来なかった事に腹を立てていたというのに、いざ融合成功した後は何をするのか覚えていなかったらしい。

 

そんな小由美に摩利がモニターの向こうでガクッとズッコケそうになりながら叫んでいると

 

『ヅラァァァァァァァァァァァァァ!!! テメェいい加減にしねぇとマジぶっ殺すぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

「おお銀時と深雪殿の融合体! どうやらまだ無事だったみたいだな!」

『うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 融合出来たんならとっとと俺達を手伝いやがれぇ!!!!』

 

今度は無線で聞き覚えのある少女の怒鳴り声が、小由美がモニターの方へ振り向くと必死の表情を浮かべる銀雪が凄い剣幕でこちらに血走った目を剥けている。

 

『もう右手一本じゃ防ぎきれねぇんだよ!! つうかもう限界!!』

「ほう、確かに外を見てみるとすっかり背後にあった地球があんなに大きく……フ、どこの世界の地球もやはり青いな」

『お前に対する殺意を抑えるのもそろそろ限界なんだけど!! マジいい加減にしてくんない!?』

 

蓮蓬の星は落下速度はまだ落ちておらず、このままだといずれカイエーンを押しやりながら地球へと落下してしまう。

 

残り時間も少なくそろそろ地球の大気圏に突入してしまう最中の状況でもなお、呑気に地球の青さにどこか懐かしさを覚えている小由美に、右手を掲げながら銀雪が額に青筋を浮かべる。

 

『バカとバカが融合して更なる使えねぇバカになっただけじゃねぇか!! テメェ等マジで覚えてろよ!! コレが終わったら銀さんと深雪さんは全力でテメェ等を八つ裂きにしてやるからな!!』

「まあ落ち着け、なるほどようやく思い出した。つまりはこの状況を打破するために俺達はこうして巨大ロボの操作をしていたのであったな、ならばやる事はただ一つ」

 

怒り狂う銀雪をよそに小由美はスッと左手を掲げると、それに連動してカイエーンもまた巨大な左腕を動かして、銀雪の操る右手と共にその左手でガシッと蓮蓬の星を強く掴んだ。

 

二つの足が支えとなり、二つの手が食い止める。この土壇場でようやくカイエーンの全力で落下を防ぐ陣形が完成したのだ。

 

「行くぞ貴様等ぁ!! 今こそ俺達攘夷志士と女子高生の力でこの戦いに終止符を打つぞ!!」

『一番出遅れたお前がなに仕切ってんだゴラァ!!』

『全くじゃ、こちとら待ちくたびれてわしの中にいる千葉エリカが怒り狂っちょるぜよ』

『俺はもう限界だ、さっさと終わらせねぇとテメェ等まとめて俺が粛清してやる』

 

団結力など欠片も無い彼女達が各々感想を呟くも、突如カイエーンの目が強く光り、急にググっと蓮蓬の星を押し上げていく。

 

『カイエェェェェェェェェェェン!!!』

『よし! 俺達の力で徐々にだが押し上げる事に成功しているぞ!! もっと全力を振り絞れぇぇぇぇぇ!!!』

『フンゴォォォォォォォォ!!! 自他共に認める超絶美少女の銀雪さんにこんな真似させやがって!! タダで済むと思うなよ鉄くず!!』

『とうに限界はきちょる、わしの足はいつ千切れてもおかしくなか……! じゃがここでやらねば世界は救われん……!』

『散々人様の領地で好き勝手やってくれた礼だ、その滑稽な星事この場で打ち砕いてやらぁ』

 

四人(正確には八人だが)の力が一つとなり、それに応えるかのようにカイエーンが吠える。

 

そして一気にそのまま星を上へ上へと上昇させていき

 

『おのれぇ! どうしてそう何度も我の邪魔をする! 侍!!』

 

遂には星の内部からSAGI本体の憎しみの込められた叫び声が木霊した。

 

自らの命を捨ててまで復讐をしようと腹をくくったにも関わらず、またしても侍、そして魔法師の力が再び立ちはだかる。その事に対してSAGIは冷静さを失い怒りを露にしながら叫んでいた。

 

『大人しく死んでいればいいものを!! 我の力に怯えて絶望に打ちしがれればいいものを!!』

『フ、悪いがそれはこっちの台詞だ』

『なに!?』

 

狂気とかした超高性能コンピューターに対し嘲笑を浮かべながら返事をする者が一人。

 

SAGIがそれに気付くと、カイエーンの股間部分にある操縦室で何者かが立ち上がり、目の前にある巨大な星を見上げる。

 

「惨めに生にしがみ付き、更には世界を道連れに心中を試みようとするなら、その腐った性根を将軍であるこの俺が粉微塵に打ち砕いてやろう」

『き、貴様はちょっと前に勝手に暴発して自滅した!!』

『お兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

そこにいたのは将軍の衣に身を包ませし一人の青年の姿が

 

名は徳川達茂、司波達也と徳川茂茂が融合した事によって生まれた融合体である。

 

ここでまさかの、そしていつの間にか融合して復活していた彼の登場に思わず銀雪が驚き叫ぶ。

 

『流石はお兄様だよ!! 一発撃ってすぐにガス欠でぶっ倒れた時は思わず心の中で「何してんだこの童貞野郎!!」と罵ってたけど! やっぱシメる時はちゃんとシメに来てくれるんですね!!』

「皆が戦ってる中でいつまでも寝ている訳にはいかないんでな、ところでその心の中で俺を罵ったのは坂田銀時の方で良いんだよな? 深雪の方はそんな事思ってないよな?」

『両方です!!』

「そうか両方か、それを聞いて無性に死にたくなってきた」

『いやいや大丈夫! 自分お兄様が童貞だろうが別に気にしちゃいませんから! そもそもお兄様が誰かに汚されるとかイヤだし! むしろ一生童貞であり続けて欲しいと思ってるぐらいだから!!』

「なんのフォローにもなってない、むしろ泣きたい』

 

大事な妹にサラリと童貞野郎と内心思われていた事に結構傷付きながらも、達茂はなんとか踏み止まって頭上にある蓮蓬の星を見上げる。

 

「何はともあれ俺に名誉挽回の機会が残っているのはこれ幸いだな、さて、最後の一撃の準備を始めようか」

『馬鹿め! 貴様は先程己の経験の無さが仇となり! 出会って四秒で即フィニッシュしたばかりではないか!!』

「馬鹿はお前だSAGI、その高性能な頭の中のデータに加えておけ、将軍家と司波家は代々アッチの方は先走りし過ぎて早くなりがちだが……」

 

こちらに向かってわざわざ通信を送りながら嘲り笑うSAGIに達茂は一歩前に出るとカッと目を強く見開き

 

「その分、”復活”するのは早いんだ……!」

『な! 巨大ロボの股間が突如光出した……!』

『おいィィィィィィィィ!! お兄様の股間の部分が急に光ってんだけど!! どゆことぉ!?』

 

達茂の袴の奥で眩く光る股間の部分と同調するか様に、カイエーンの股間もまた力強く輝き始める。

 

その光景にSAGIだけではなくモニターで達茂の様子を見ていた銀雪もまた驚いていると……

 

『カイエェェェェェェェェェェェン!!! バトルモォォォォォォォォォォド(夜の)!!!!』

「カ、カイエーンの股間が!!」

 

突如カイエーンの股間からムクムクと大きな棒状の様なモノが膨らみ始め、それは星そのものを両断しかねない程どんどん大きくなっていき、最終的にはカイエーン自身をも超える程大きく立派にそびえ立ち、そして……

 

 

 

 

 

 

 

「ご立派な将軍サイズに進化しやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

『な、なにぃぃぃぃぃぃぃ!!! 復活どころか以前より更にパワーアップしただとぉぉぉぉ!! 地球人のアッチの方は化け物か!!』

「ま、まさかアレは……!! なんてこったお兄様の野郎、まさかあんなデカ物を隠し持ってやがっていたとは……」

 

カイエーンの股間の先には巨大なモザイクで隠されたこれまたご立派な男性のシンボルが。

 

その衝撃的な光景にSAGIが思わずショックを受けている中で、銀雪は唖然としながらもある事に気付く。

 

その巨大なモザイクの正体は……

 

「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲!!!!」

『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だと! 完成度高ぇーなオイ!!』

 

かつて宇宙にその名を轟かせた大砲を前にして思わずSAGIも面食らったかの様に叫ぶ中で

 

腕を組みながらただ達茂は、股間を光らせ静かに目の前にある星を見上げる。

 

長きに渡るこの戦いに終止符を打つ武器は出揃った

 

ラピュタと合体し超強化されたカイエーン

 

それを操りし4組の融合体

 

彼等をここまで支えて来た仲間達

 

そして長い時を超えて現れし巨大な砲台。

 

 

 

 

 

 

 

「終わりにするぞ、この戦いを」

 

 

 

 

 

次回、完全決着

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

ようやく攘夷志士がまとめて融合出来たので、彼女達の細かな描写をここで書いておきます。

 

まず全員が共通している事は

 

見た目は劣等生世界の住人、性格は銀魂世界の住人。

 

声は劣等生世界の住人、口調は銀魂世界の住人。

 

です

 

『坂波銀雪』

 

服装は魔法科高校の制服の上に空色の着流しを羽織ってる、履いてるのはブーツで腰には木刀が二本差し。

 

銀髪のストレートだけど所々がハネッ毛になっている。目は基本死んでるけどいざという時はキラめく。

 

性格も口調も銀さん寄りだけど達也に対してはブラコン気味なのは深雪の成分、ただし銀さんの性格も入ってるのでややダルデレ&ツンデレ気味。

 

 

『桂 小由美』

 

制服の上に白色の羽織を背にかけている、履いてるのは草鞋、腰には一本の刀

 

黒髪のストレートだけど少々ふんわりとした弾力があり、基本は真顔、いざという時は豹変して表情を大きく変える。

 

口調の方は桂、性格は真由美と噛み合ってより自分勝手で電波でアレな感じになっている。つまりあまり絡みたくないタイプ。

 

『坂葉 辰香』

 

制服は着ておらずまるっきり坂本の服装、腰には光線銃と刀の二つが両端に差している。

 

赤髪のポニーテールだがちょっとボサボサしている、黒丸のサングラスを掛けてるがサイズ小さめで目はハッキリと出ている。 基本はヘラヘラ笑っているけどいざという時はゲラゲラと笑い出す。

 

性格も口調も坂本寄り、ただしテンパるとエリカっぽくなる。船酔い体質の二人が融合した事によって更に悪酔いする体質になってしまった。

 

『高条 しずさ』

 

まるっきり高杉の恰好、その為胸元はややはだけ気味なので色々な意味で危険。履いてるのは草履、腰には一本の刀とキセル。

 

髪型も髪色もあずさ寄り、ただし左眼には包帯が巻かれている、目つきは高杉と全く同じ、いざという時もそのまま

 

性格も口調も高杉、しかし融合しているあずさの影響なのか、ほんの少しだけ協力的にはなった。あくまでほんの少しなので本人に乗り気がなければ即座に帰る。

 

以上です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遂に最後の最後のイベントも終焉間近です。

年が明けて早々完結間近ですが、最後の最後まで読んで下さったら幸いです。

それでは


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第四十八訓 終焉&帰宅

「一発だ」

 

カイエーンの股間がこれまた立派なモノになった所で、融合した徳川達茂が

 

宇宙に漂う蓮舫の星に向かって静かに言い放つ

 

「このロボットの構造は大方把握した、そして貴様を一発で終わらせる方法もな」

『我をここまでコケにした上に一発で終わらせるだと!? 面白い! 出来るものならやってみろ!!』

 

達成の言葉をハッキリと聞き取れたのか、彼の挑発的な物言いを受けて蓮舫の星本体であるSAGIが怒りに満ちた雄叫びを上げて真っ直ぐに星を振り下ろしてきた。

 

その星目掛けて達茂は目を鋭く光らせ

 

「まずは本体に100%命中する為に標準を定め……」

『カイエェェェェェェェェェェン!!!!』

 

腰を屈めるとカイエーンもまた連動して動き始め、巨根をググっと動かして星の真ん中に先っぽを合わせると……

 

「一気に挿入……!」

『グッパイチェリィィィィィィィィィィィ!!!!』

『ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!! 我の口に向かってモザイクの塊を入れてきおっただとぉ! なんて大きさだ! とても我の中には収まりきらん!!」

『ここに来てクソ最低な必殺技をお見舞いしたんだけどお兄様!!』

 

星の見た目は巨大な蓮蓬の顔そのもの

 

その黄色いアヒル口に向かって容赦なく自慢のブツを思いっきりぶち込むカイエーンの姿に、操縦席で見ていた坂波銀雪は流石にドン引きしてしまう。

 

『いやウチは確かに下ネタが売りな所もありますよ確かに!? けどこんな重大局面でそんな堂々と下ネタされるとですね! 流石にこっちも援護できねぇよ! だからこれだけ言わせて欲しい! マジ死んでくださいお兄様!』

「例え妹に罵られようとこの任務は絶対に完遂する、それが兄として、将軍としての俺の役目だ」

『おい! 兄とか将軍とかで誤魔化し切れると思うなよ! コレはもはや立派な犯罪だからね! ロボットで星に×××させるという国際問題通り越して宇宙外交問題の何モノでもないからね!」

 

耳元でギャーギャーと銀雪が声を荒げて叫ぶんでいるが、達茂はそんな事お構いなしにモニターの方へ視線を落とし

 

「こっちは準備完了だ、後はよろしく頼むぞ新八、そして服部先輩」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? まさかのここで僕に振るんですかぁ!?』

 

達茂が最後の一手を振り下ろす為に急遽連絡を入れたのは

 

まさかのずっと何もすることなく暇を持て余していた白ブリーフ一丁の新八であった。

 

それとついでに何故か彼の隣でほくそ笑む服部大佐。  

 

「無理ですよ無理! 大体吹き出物の僕に何が出来るって言うんすか!」

『ここまでお膳立てはしてやったんだ、後は全部わかるだろ。この最後の局面で吹き出物が何をするべきか』

「いやわかるかボケェ!に 吹き出物で何すんだよ! せいぜい痒くなるぐらいしか出来ねぇんだよこっちは!」

 

勝手な事言うなとツッコミを入れながら新八が混乱していると、突如彼の目の前の操作パネルにウィーンと開き、新たな赤いレバーが出現して来た。

 

「こ、これは! まさか前回と同じく! 吹き出物担当に押す事が許された必殺の!」

『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の発射レバーだ』

「本当に重大な仕事任されたんだけど僕ぅ! いいんですか! ラスボス倒すのが僕で良いんですか!? ブリーフしか穿いてないほとんど変質者でしかないボクがトドメ刺していいんですか!?」

 

新八は思い出した、前回もまた吹き出物担当だった時にカイエーンの中に眠る最大出力の必殺技をお見舞いする為にこの赤いレバーを引いた事を

 

そして今回もまた、新八はみんなの思いが乗せられた最後の一撃を叩き込むという最も大事な仕事を任されてしまったのだ。

 

「フン、面白いではないか」

「服部さん! ずっと無言で笑ってて薄気味悪いと思ってたけどようやく喋ったよこの人!」

「しかしこの少年には荷が重い仕事だ、このレバーの使用権はラピュタの王たる私に委ねてもらおう」

「ちょ! 地球の命運を賭けた最後の一撃なんですよ! ミスったりしたらもう僕等終わりなんです! だからここは慎重に!!」

 

トドメの一撃を叩き込むと聞いてテンション上がったのか、早速自らの手でレバーを引こうとする服部大佐であったが、新八がすぐに彼の肩に手を置いて止めに入ると。

 

そこで、口にモザイクを咥えている蓮蓬の星から不気味な笑い声が

 

『クックック……よもや本気で我をこの場で破壊するつもりか……?』 

「!」

『それが己と地球をも滅ぼす結果となる上で! それでも我をこの場で滅ぼそうと出来るのか!』

「い、一体どういう……」

 

完全に罪の状態にも関わらず何故かまだ余裕あり気なSAGIに新八が困惑していると

 

達茂からまた新たな通信が

 

『新八、SAGIは恐らく自分の持つ莫大なエネルギーを己の体内に集中している。今そこに向かって高火力の大砲をかました場合、恐らく周りのモノ全てを破壊しかねない程の大爆発が発生しかねない』

「そんな! まさかSAGIは僕等も道連れに!」

『俺達だけじゃない、爆発の威力は恐らく非常に広範囲だ、地球にも影響を及ぼす程にな』

「!?」

 

ここに来てまさかの最悪のシナリオに新八は絶句する。

 

ここでSAGIを撃てば倒せるであろうが、その時に起こる爆発に巻き込まれれば自分達と地球もタダでは済まない。

 

かといってここで撃たなければそのまま死ぬだけだ。

 

つまりどっちを選んでも自分達と地球は滅亡の一途を辿るという事である。

 

しかし、新八はまだ諦めない

 

「そこまでわかっているんなら解決策はあるって事ですよね? ここに来てそれを言うって事は、こうなる事も見越していたんですよねあなたは」

『ああ、あの往生際の悪いコンピューターの事だからそれぐらいやるだろうとお見通しだ。そして解決方法も当然用意してある』

 

新八と同様達茂も決して諦めてはいなかった、むしろこの最悪のシナリオを打破する策をも思いついている。

 

そしてモニター越しに映る彼はいつもの仏頂面で新八から隣にいる服部の方へ視線をズラすと

 

『太古の昔から伝わるラピュタのエネルギーを全放出させて、高密度のバリアーを地球に張る』

「な、なんだと!?」

『恐らくコレを実行すれば地球は護られる、しかしラピュタの方は残り滓も残さぬ程力を出し切り、動原力を失ってやがて自壊して宇宙の塵へと化すだろう』

「ふ、ふざけるな司波達也! そんな事私が! 僕が許すと思っているのか!!」

 

達茂の提案に服部はすぐさま表情を一変させて、緊迫した表情でダンッ!と力強く操作パネルを拳で叩いた。

 

「僕のラピュタを! 未知なる技術がまだ眠っている太古の王国をこの場で捨てろというのか! 僕は絶対に反対だぞそんな事! 偉大なるムスカ王の名に誓ってそれだけは断固阻止する!!」

『だがそうでもしなければ地球は滅ぶ』

「駄目だ! ラピュタは僕が長年追い求めていた夢そのものなんだ! そして何よりあの圧倒的な力が無ければ僕はまた中途半端な成績しか残せない僕に逆戻り!! 王になるには国が必要! ラピュタが無ければもう僕は二度と王を名乗れ……!!」

 

本音を吐露し断固として達茂の案を拒否しようとして見せる服部、この場がいかに大変な状況だという事も忘れてただラピュタを失いたくないという思いだけで一心不乱に叫んでいると

 

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

服部の隣から新八が怒声が飛ばしたと思いきや、彼の両目にブスリと指を突き刺しそのまま振り抜く。

 

予想だにしなかった隣人の奇襲に服部はその場に仰向けに倒れ、両目を抑えながら悶絶し始めた。

 

「目が! 目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「甘ったれた事言ってんじゃねぇぞゴラァ!! テメーの星が大変な時でもまだラピュタ引きずってのかテメェは!!!」

「だ、だって僕にはラピュタしか……」

「だってもくそもあるかボケェ!!」

 

普段大人しい人がキレると何をしでかすかわからない。

 

倒れたまま弱々しく呟く服部に、こめかみに青筋浮かべながら新八はすっかり喧嘩腰の様子で彼を見下ろしながら怒鳴り散らす。

 

「いい加減目ぇ覚ませ! テメェが護りたいのは本当にラピュタなのかああん!? 違うだろ! テメェが今まで生きて楽しい思いも辛い思いも送って来た本当の場所は! 母なる星・地球だろうが!!」

「ち、地球……」

「ラピュタは何度でも蘇る! けど地球は! アンタの大事な友人や家族のいる地球は滅んだらもう二度と手に入らなくなるぞ! それでもいいのかコノヤロー!!」

「……」

 

ここに至るまで色々と溜めていたストレスを発散するかの如く、新八は唾を飛ばす勢いで服部の胸倉を掴み上げながら彼の心に何度も言葉の拳をぶつけた。

 

鼓膜に響く程やかましい声で叫んでくる新八に、服部はどう答えればいいのか、どうすればいいのかと迷いが生じ始めていると……

 

『了解、ラピュタの全出力を振り絞って高範囲のバリアーを展開します』

「え、ラピュタから通信……? でもここに服部さんがいるのにどうして……」

「ラピュタから通信だって……? まさか!?」

 

服部の胸倉を掴んで上体を起こしてやってる途中で、新八はモニターから通信が入ったのを確認する。

 

思わず怒りを忘れてそちらに振り向くと、別の船からの通信、つまりラピュタ側からの通信が入って来たのだ。

 

彼に掴み上げられていた服部もまたそれに気付いて慌ててそちらに振り返るとそこに映っていたのは

 

『王に代わり我々”蓮蓬”が全責任を持って任務を遂行する』

「はぁぁぁぁ!? なんで!? なんで蓮蓬の奴等がラピュタ乗ってんの!?」

「お前達! 僕の家来でありながらなに勝手な真似をしているんだ!!」

「っておい! 家来ってなんだ一体! アンタいつの間にあの連中を従える様になってんだよ!!」

 

どさくさに服部の事を王と呼称する蓮蓬、そして蓮蓬の事を己の家来と定める服部。

 

自分の知らない所で何やらおかしな主従関係が築き上げられている事に新八は大きく目を見開く。

 

「一体何があったの!? もしかして今星にいた蓮蓬って全員ラピュタにいんの!?」

「そうだ、彼等が自分達を導く先導者が欲しいという事で僕が立候補したんだ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「それで毎日スーファミやらせる上に任天堂のゲームやり放題という交換条件で彼等は僕を王と認めたんだ」

「結局アイツ等ゲームやれればそれでいいんじゃねぇか! つか蓮蓬全員分のスーファミとかどうやって用意するつもりだったんだよアンタ!」

 

新八が胸倉を掴むのを止めると服部はヨロヨロと立ち上がりながら事の経緯を話し出す。

 

ラピュタの王だけでは飽き足らず、よもや蓮蓬の王にまでなっていたとは

 

そしてそんな蓮蓬達が皆ラピュタに乗っているという事は……

 

「止めろお前達! 今ラピュタの力を出し切ったらもうその天空の城が崩れ落ちる可能性があるんだぞ! そうしたら僕はもうラピュタだけでなく家臣も失ってしまうじゃないか!!」

『消えませんよ、我々もラピュタも、そして王も』

「!」

『王が王であり続けるのに必要なのは国じゃない、民です』

 

モニターの画面にはゾロゾロと蓮蓬達が集まり、皆プラカードを持ち上げ掲げていた。

 

この戦いで地球人を滅ぼそうと思っていた蓮蓬、しかし今の彼等は……

 

『例え国が幾度も滅びようとも、王のあなたがいれば我々蓮蓬の民は幾度も国を再建させましょう』

『王!』

『王様万歳!』

『今こそ先代の王を超える時です!!』

「お前達……」

「いや感動してる所悪いんだけど、アンタ等何言ってるの本当に? 先代の王って誰だよ」

 

蓮蓬が次々と服部に対しての応援メッセージが書かれたプラカードを掲げて見せると、服部は思わず目に涙が

 

そしてそれを冷めた表情で新八は静かに見つめていると、袖で涙をぬぐった服部は遂に決心したかのよう顔を上げた。

 

「諸君、我々はたった今を持ってラピュタを捨てるぞ、しかしラピュタは滅びん!何度でも蘇るさ!」

『御意! 全ては我等が新王の為に!』

『この命! あなたの為に使うと誓いましょう!』

『王の為に我々も死ぬ訳にはいかん! 皆知恵を振り絞ってこの逆境を生き残るぞ!』

『オール・ハイル・ブリタニア!!』

「おいなんか一人だけなんか勘違いしてるぞ、ラピュタじゃなくて別の国崇めてるぞ」

 

新八の静かなツッコミも耳に届かず、すっかり元に戻った服部からの号令を聞いて蓮蓬達が慌ただしく動き始める。

 

高い技術力を持つ彼等であればラピュタの全システムを把握する事も容易であろう。

 

地球全体にバリアーを張る事も出来るはずだ、それを信じて服部は目の前にある

 

カイエーンの最初で最後の必殺技をお見舞いする為の赤いレバーに手を置いた。

 

「終わらせようこの戦いを。我々の手で、地球人と蓮蓬、そしてラピュタの手で」

 

もはや迷いも未練も断ち切った顔付きでそう呟く服部と共に、新八もまた彼と共に赤いレバーに手を置く。

 

両者の手を合わせながら服部と新八は前方に浮かぶ

 

民を失い王だけ残った哀れな星を見上げる。

 

『どういう事だ! どうして我が作った者達もが我の邪魔をする!! 我は貴様等の創造主ぞ!! なのになぜ貴様等は皆我から……ぐお!!』

 

コンピュータでありながら悔しがり、そして悲しみの込もった声を漏らし叫ぶSAGIが急に苦しそうな声を上げると

 

続いて聞こえた声は

 

『どうしたんだいSAGI、子供に見離された事がそんなにショックだったのかい?』

「!」

 

新八がどこかで聞いた事のある様な艶の入った女性の声

 

『最期にようやく親としての自覚が芽生え始めたとか言うんじゃないだろうね』

「この声は……もしかして!」

『フフ、こうしてもう一度みんなと会えた上にこんなに立派なモノを突き刺してくれるなんてね、こんなデカいの初めて見るよ、流石に受け止め切れるか不安になっちゃったわ』

 

少々卑猥に聞こえる言い回しに新八は声の主が誰なのかすぐに理解した。

 

「フミ子さん!? あなたまさかまたSAGIを止める為にそこに!!」

『おっとお喋りはもうおしまいだよ坊や、前戯も終わらせこうしてガッチリ合体出来たんだ、後は男としてやるべき事はわかっているだろ?』

 

SAGIと共にいる人物は恐らく前回の戦いでも活躍したフミ子だ。

 

彼女はまたもやSAGIと命運を共にせんと内部から破壊工作をおっ始めていたらしい。

 

『宇宙最高のコンピューターをも昇天させるフィニッシュを、とくとお見舞いしてやりな』

『ケ、しばらくぶりに声を聞いたが相変わらず痴女丸出しの言葉遣いだなコノヤロー』

「銀雪さん!?」

 

フミ子の声に反応したのは新八だけでなかった、彼と同様彼女の事を知る人物はここに何人もいる。

 

その中で一人声を放ったのは、銀時もとい銀雪であった。

 

『大方”アイツ”もそこにいんだろ? なら伝えておいてくれや、「世話になった、ご苦労さん」ってな』

『フフ、アンタの方はしばらく会わない内に随分と可愛らしくなったじゃないか、言伝の事は私が言う必要もないさ、私の隣でちゃんとアンタの声を聞いているからね』

『そうかい、ま、お互い生き延びれたらまた会おうぜ、この戦いの立役者さんよ……』

「銀雪さん、アイツって一体……」

『細けー事はいいんだよ、それより新八、服部君と共にさっさと決めてやれ』

 

フミ子との会話を終えると、銀雪はモニター越しに新八にドヤ顔で笑いかける。

 

『俺達はまあ、このロボットが爆発に耐える為にせいぜい踏ん張っておくからよ』

『盾は俺達が、奴に引導を渡す役目はそちらに譲ろう、頼むぞ新八君に服部君、』

『わし等の思いも乗せていけ、そんで派手にぶっ放してしまうぜよ』

『とっとと何もかも壊しちまえ小僧共、死にかけの獣を楽にしてやんな』

「皆さん……」

 

攘夷志士四人と魔法師四人の言葉を胸に仕舞い込み、新八と服部は握っていたレバーをグッと力強く握る。

 

すると最後の最後に達茂から声だけの通信が

 

『滅びの呪文は、当然知っているよな?』

「全く誰にモノを言っているんだ司波達也の奴は……」

「ホントですよ、全てを終わらせるこの呪文が、この長きに渡る戦いの最後の魔法だというぐらいここにいるみんながわかってるのに」

 

尋ねた本人である達茂もわかってる上で確認してきたのだろう。

 

服部と新八はそれにフッと笑いながら、同時のタイミングでレバーを引く為に深く呼吸をし終えた後…

 

「さあ終わらせよう新八君」

「はい、そして始めましょう服部さん」

『止めろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!』

 

断末魔の様に金切り声を上げるSAGIを静かに見据えながら、二人は遂に

 

 

 

 

 

 

カイエーンの最終奥技をお見舞いするレバーを引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「バルス!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間

 

カイエーンの股間に生えた巨大なモザイクの先から大量のエネルギー波が耳をつんざく発射音と共に炸裂

 

星の内部にいたSAGIに瞬く間に直撃し

 

消えゆく意識と何を何処で間違えたのだと最期に自問自答を繰り返しながら宇宙最高のコンピュータは光に包まれ消えていき……

 

傍にいたフミ子や蓮蓬の着ぐるみを着た”彼女”も微笑みながら光に飲まれる。

 

そして撃った本人であるカイエーンもまたSAGIの最期の抵抗である爆発に飲み込まれ……

 

地球に被害が及ばぬ様全ての力を振り絞ってバリアを展開したラピュタもまた役目を終えたと同時に朽ち果てていく。

 

そして宇宙一面が真っ白な世界になった数十秒後

 

 

 

 

 

そこにはボロボロになっていた星も、巨大ロボットも天空の城も跡形もなく無かった。

 

後に残されたのは

 

何事も無かったかのように青く美しい地球が存在するのみ

 

地球は無事に救われた、しかし彼等は、世界を救った彼等の運命は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おい妹、テメェはどこに落ちたい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四十九訓 卒業

ふとお気に入りに登録してくれた方や感想書いてくれた方の名前を見ると

もう9年も前になる私の処女作に、連載中の時に感想を書いてくれていた方がチラホラといてくれたんですよね。

ああこの人はずっと私の作品読んでくれていたんだなぁと、嬉しく思うと同時に

処女作が9年前って事は……私は9年もこんな作品ばかり書いていたのかと少々自分の頭が心配になって来た今日この頃です。







ここはかつて侍の国と呼ばれていた江戸。

 

天人達に支配された現在、武士は刀を取り上げられ衰退の一途を辿っていた。

 

しかし誇りも主君も失ってなお世に抗い続け

 

天人と天人の傀儡と化した幕府に天誅を下さんとする者は

 

攘夷志士と名乗って日々国家転覆を目論んでいるのであった。

 

「であえであえ! 我等が幕府に抗う攘夷浪士共が襲撃しに来たと情報があった!」

「おのれテロリストめ! よもやこの将軍のおられるお城に侵入してくるとは!!」

 

そして今、将軍である徳川家代々が住み居城としている天下のお城に

 

将軍の寝首を掻こうと賊が侵入してきたと聞いて、家臣の者達が慌ただしく場内を駆け回る。

 

そんな彼等の目を欺き、死角となっている城の裏通路を駆けて行く集団達。

 

しかしそんな彼等の前に、二人の少年少女が待ってましたと言わんばかりにバッと前に現れる。

 

「待っていましたよ、やはり警戒の薄いこのルートを通るだろうってわかってました」

「”アイツ”の言った通りここで待ち伏せしておいて正解だったアル」

 

少年の方は志村新八、少女の方は神楽。

 

言わずと知れたかぶき町を拠点とし万事屋として働いている二人だ。

 

そんな一般人である二人がなぜこの幕府の頂点たる将軍の城の周りをウロついているのだろうか……

 

「おい、今なら謝れば許してやってもいいゾ、いい加減こんなくだらない事やってねぇで私達みたいにまっとうに働くアル」

「本来将軍の住む城に忍び込むなんて即打ち首ですよ、ここは大人しく投降して下さい」

「心配しなくてもヅラの奴もその内捕まるんだから、愛の巣という名のブタ箱で二人仲良くずっと暮らせばいいヨロシ」

 

二人は何も捕まえて即斬り捨てるだなんて思っていなかった、集団に対し大人しく投降するよう呼びかける新八と神楽。

 

だが

 

「ヅラじゃない……!」

 

集団の先頭に立ち、ひと際長い髪を揺らしながら歯を食いしばり

 

後ろの者達を護るかのように腕を組みながら大きく口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「桂よ! そしてこの”七草真由美”もまたいずれはその姓を名乗る事となる! そしてそれが今日この日! 将軍の首を頂戴して私は桂真由美として新たなる日本の夜明けという名のバージンロードを歩く日なのよ!!」

 

誇らしげに城内で堂々と叫び声を上げるのは、本来この世界の住人ではない七草真由美であった。

 

現在彼女は元の世界へ帰るという選択を捨て、攘夷志士として華々しくデビューしていたのである。

 

「あなた達二人だけでこの桂一派を止められると思わない事ね! フハハハハハハハ!!」

「おお! 流石は桂さんのお嫁さん候補だ! 敵の陣地内にも関わらず盛大に高笑い上げてるぞ!!」

「桂夫人! 俺達も全力で二人を祝う為に攘夷活動頑張ります!!」

「エリザベスさんも桂さんとあなたの事を全力でサポートすると!!」

『新たなる日本の夜明けは近い』

 

腕を組みながら下卑た表情で傲慢な高笑いを上げる真由美の背中を見ながら

 

背後の桂一派である攘夷志士達が歓声を上げて一気に士気を高める。

 

その中で一際目立った外見をしている珍妙な生物、エリザベスもまたプラカードを掲げて真由美を影ながら応援している様子だ。

 

そして幕府における本陣の中であろうとお構いなしに騒ぎ始める彼女達を

 

前方で立ち塞がっている新八と神楽はジト目で見つめながらしばしの間を置くと

 

「なに本格的にテロリストの仲間入りしてんだよバカ会長!!」

 

すっかり桂一派の者達に慕われ仲間として認められている真由美に対して、ようやく新八が指を突き出してツッコミを入れるのであった。

 

「普通に桂さんの仲間になって普通に迎え入れられてるよこの人! エリザベスさんにまで気に入られてるし!! アンタ恥ずかしくないのかよ! 達也さんが言うにはアンタ本当に人望もあるカリスマ生徒会長だったんだろ!」

「生徒会長、フ、かつてはそう呼ばれていた事もあったわね……遠い昔の事ですっかり忘れていたわ」

「いやそんな昔の事じゃねぇよ! なに懐かしむような顔してんだ!!」

「でも今はそんな過去なんてどうだっていいわ、今の私は七草家という地位も、生徒会長というプライドも捨てて新たに生まれ変わったの」

 

新八に言われてもなお真由美は全く反省するつもり無しの様子で、かつて元の世界では名門七草家のお嬢様として数々の称賛を浴びていた事さえもゴミ箱に捨ててしまったのか

 

「今の私はそう! 腐ったこの国を正す為に異世界からやって来た魔法師!! そして桂さんとの祝言を執り行う為に日々国家転覆を目論む愛の革命士! 七草真由美は過去を一切捨てて輝く未来の為に、この城もろとも幕府をぶっ壊す事を誓います!!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」

『その時歴史が動いた』

「いい加減目ぇ覚ませぇぇぇぇぇぇ!!! 輝く未来なんてテロリストやってる時点で来るわけねぇだろうが!」

 

桂一派の者達とエリザベスが、真由美の宣言にテンション高めに拳を掲げている状況に

 

負けじと新八もまた声を荒げてそんな彼女に喝を入れる。

 

「会長すっかり桂さんに洗脳されちゃってるよ! もう引き返せないよあのバカ!」

「仕方ないアルな、ヅラと体が入れ替わっていたのが長かったせいですっかり昔の自分を忘れてるみたいネ」

「……どうする神楽ちゃん? 僕等でちょっと痛い目に遭わせれば元に戻るかもしれないよ?」

「いやいやああいう男を振り向かせる為に夢中になっている女は何をしても無駄アル、死んでも治らねぇんだよああいう恋する自分が大好きなバカ女は」

 

すっかり充実した様子で今の生活を謳歌している真由美にすっかり呆れてケッと神楽が唾を吐いていると。

 

「神妙にお縄に付けテロリスト共ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

突然、頭上からキラリと何かが輝き、新八と神楽が同時に見上げたその瞬間

 

「いやもうお縄に付くとかそんなんいいからさっさと死ねゴミクズ共がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」

「っておわ! 上から巨大な火の玉が連中目掛けて落ちて来た!!」

 

上空から怒号を上げながら桂一派目掛けて隕石の如く巨大な炎の塊が降り注がれる。

 

あまりの光景に新八と攘夷志士達が驚く中で、真由美はフンと鼻を鳴らすと腕に付いたCADを起動して

 

「お呼びじゃないのよ!」

 

炎の塊に向かって腕を突き付けると、すぐさま魔方陣を展開して負けじと迸る冷気で対抗し、難なく突然の奇襲を凍らせてしまう。

 

炎であろうと一瞬で凍り付かせる、流石は腐っても名家の魔法師一族だ。

 

そんな彼女の前に、上から新たなる刺客がスタッと舞い降りて来る。

 

「チッ、この程度じゃそう簡単には死んでくれないのね」

「フ、私は大いなる野望と恋の成就の為にここで朽ち果てる訳にはいかないのよ、例え相手があなたでもね……」

 

現れた人物を大方予想付いていた真由美は、警戒心を解かずに腕を突き出したまま目を細める。

 

その人物は幕府を、江戸の治安を護る武装警察の制服を着飾った……

 

「真撰組の副長・土方十四郎の夫人であられるアンジェリーナ=クドウ=シールズ!!」

「狂乱の貴公子・桂小太郎の妻であられる七草真由美! この場でアンタを悪即斬にしてくれるわ!!」

 

真撰組、その制服を身に纏いし少女はリーナであった。

 

彼女もまたこっちの世界に流れ着き、桂一派の所に身を寄せた真由美と同様、真撰組の一員としてこの世界で危険分子の排除に勤しんでいたのだ。

 

「悪即斬? 笑えない冗談ね、幕府の犬の嫁になるという哀れな女などに私が後れを取るとでも思ったのかしら!?」

「ハン! 無様な敗北者を傍で支えるなどという愚かな選択を選んでしまったアンタなんて所詮は敵じゃないのよ! 行くわよ野郎共!!」

 

互いに相手の男を卑下し合って睨み合うと、リーナは腰に差した短剣を掲げて大きく号令をかける。

 

すると彼女の背後に一瞬にして同じ制服を着た真撰組の部隊が綺麗に隊列を築いた状態で現れたではないか。

 

「事前に兵を伏せさせ、相手が油断している所で一気に囲んで討ち取る。名家のお嬢様は戦の定義も知らなかったかしら?」

「く、どうやら旗色が悪いみたいね……」

「マズいですよ桂夫人! ここは一旦退きましょう!」

『突破口はお任せを!』

 

強面の真撰組部隊の先頭に立ちながら勝ち誇った笑みを浮かべるリーナ

 

まさかもう既に兵を周りに配置させていたとは……真由美は悔しそうに奥歯を噛みしめると、桂一派に促されてここは潔く退散する事を決める。

 

「仕方ない、戦いは逃げる事もまた必要な事と私の素敵な旦那様も言っていたし、ここはみんな逃げるわよ!」

「そう簡単に逃げ切れる訳ないでしょうが! やれぇ真撰組ィィィィィィィ!!!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」

 

そそくさと退散し始める真由美の背中目掛けて、逃すまいとリーナは指を突き付けながら後ろにいる真撰組の者達に命令すると、彼等は一瞬の迷いなくその指示を聞いて刀を抜いて叫び声を上げた。

 

「全軍!! 連中を一人残らずたたっ斬れ!! 突撃ィィィィィィィ!!!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

リーナが叫ぶとと同時に真撰組の者達も揃って逃げる真由美達を追いかけようとする

 

だがその時であった。

 

「突撃ィじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「どっふぅッ!!」

 

突如リーナの後頭部目掛けて勢いよく飛び蹴りがかまされる。

 

彼女はそれを綺麗に食らってそのまま地面に顔面から叩き付けられると

 

飛び蹴りした本人である人物が、口にタバコを加えたまま彼女を見下ろす。

 

その人物こそ真撰組の鬼の副長・土方十四郎であった。

 

「なんでテメェが真撰組仕切ってんだよ! 勝手な事してウチの隊士に命令してんじゃねぇぞゴラァ!!」

 

蹴飛ばしたリーナを見下ろしながら土方が怒鳴っていると、すぐ様他の隊士達がリーナの下へと駆け寄って行く

 

「姐さぁぁぁぁぁぁん!!」

「大丈夫ですか姐さん!!」

「何するんすか副長!! 新婚早々ドメスティックバイオレンスとかドン引きですよ俺達!」

「うるせぇ! だから俺はコイツと籍を入れた覚えはねぇつってんだろ!! オメェ等もなにそいつに肩入れしてんだ!!」

 

部下達に非難の目を向けられてなお食って掛かる様子で土方が叫ぶと、倒れていたリーナがヨロヨロとした足取りで立ち上がる。

 

「フフフ、やっぱりまだ認めてくれないようねダーリン……でも私は決して諦めないわ、これしきの事で折れてちゃ真撰組一番隊隊長は務まらないってモンよ」

「いつお前が隊長になったんだよ! 何も聞いてないよ俺!?」

「元アメリカエリート軍人だったキャリアを捨てた今、私の居場所はここだけ……十四郎さんの横で私は妻としてこの世界で一生を送ると決めたのよ!」

「誰が十四郎だ気安く名前の方で呼ぶんじゃねぇ! なんだよコイツ! 発想がさっき逃げた小娘とおんなじじゃねぇか!!」

 

まるで困難に苛まれてもなお挫けずに前を向いて歩くと決心したヒロインの如く、妙に演劇じみた動きをしながら空に浮かぶ太陽を見上げているリーナ。

 

この世界に来てから彼女はずっとこんな感じ、まるで話を聞いてもくれずにずっと自分の所へ嫁ごうとする気満々な彼女に流石に土方もうんざりする。

 

「チッ、最初は俺の事を斬り殺そうとしてきやがったクセに……つーか一番隊の隊長は総悟だろうが」

「でも副長、沖田隊長は今行方不明に……」

「どうせアイツの事だ、その内ひょっこり戻ってくんだろ」

 

今現在、真撰組・一番隊隊長の沖田総悟はここにはいない。

 

その事に心配そうな様子の隊士に対して土方がぶっきらぼうに答えていると、彼の背後から一人の男がヌッと現れる。

 

「副長の言う通りだ、例えバラバラになろうと我々真撰組の絆は永久に不滅だ。今は心配するより先に、我々が出来る事をまずしよう」

 

その男が現れた途端、隊士達は一斉にビシッと彼等の方へと振り向く。

 

その男はひどく大柄で、なおかつ着ている真撰組の制服はサイズギリギリだったのか、かなりパッツンパッツンになっていて今にも引き裂かれそうなぐらいだった。

 

「十文字局長ォォォォォ!!」

「俺達の為にわざわざこっち出向いてたんすね!!」

「見てるだけでここまで頼もしいと思える御方は他にはいねぇ! 局長! 俺達も頑張りやす!!」

「いやだから待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

大男の正体は十文字克人。

 

リーナと同じ異世界組からの来訪者にして、七草真由美と同じ学校の同級生だった男。

 

高校生とは思えない屈強な体つきと図体、そして威圧感ある顔付きのおかげであっという間に真撰組の新たな局長として任命されてしまった彼に、隊士達は欠片も疑いを持たずにこうして日々彼に絶賛を送り続けている。

 

当然その事に対しては土方も我慢ならない。

 

「真撰組の局長は近藤さん唯一人だ! いくら見た目が同じゴリラだからって惑わされんな! そいつはこの娘っ子と同じ別の世界から来た人間だぞ!」

「でも局長、沖田隊長と同じく近藤局長も不在なんですよ、代わりのリーダーがいないと組織的にマズいっすよ」

「だから近藤局長と同じく図体もデカくて懐も大きい、そして何よりこれまた立派なゴリラフェイスをした十文字さんを代理局長として」

「俺等を支えてくれる頭になってもらったんですよ!」

「なってもらったんですよじゃねぇよ! 副長の俺を差し置いてなに自分達で組織のリーダーを仕立て上げてんだ!」

 

どうやら自分の知らない所で隊士達は、近藤勲という真撰組において最も重要な大黒柱を失ったという影響が生じ

 

急遽、自分達のリーダーになりそうな人物に代わりに頭を務めてもらおうと決めてしまっていたらしい。

 

そして選ばれたのがまさかの近藤と微妙に雰囲気が近い十文字克人が選ばれたのだ。

 

「いきなり任命された時は流石に俺も困惑したが、真撰組の者達には寝床と食事を提供されている恩がある。それに何より同じ死線を潜り抜けた近藤の部下達に頼まれてはむげに断る事も出来まい」

「いや断れよ! 恩とか別にいいから! こっちはただ将軍に頼まれてお前等に一時的な仮住まいを与えてやってるだけだから!」 

「まあ近藤の右腕であるお前にとって、異世界出身の俺が頭になるなど認めたくないであろうな、すまんなトシ」

「誰がトシだ! なにちょっと馴れ馴れしい呼び方になってんだよ! なにちょっとフレンドリーに接して来てんだよ!」

 

腕を組みながら事の経緯を話し出すニュー局長こと十文字に、土方が口にタバコを咥えたまま怒声を浴びせていると、彼の背後にいつの間にか復活したリーナが立ち上がってムキになった様子で

 

「ちょっと私をほったらかしにしてなにゴリラとくっちゃべってんのよダーリン!!! 嫁よりペットが大事なのあなたは!」

「この状況でお前まで割り込んで来るんじゃねぇ!! つうか逃げた桂一派を追いかけるんじゃなかったのかお前!」

「あ、そうだった、仕方ないわね……」

 

後ろからギャーギャー叫んでくるリーナに土方がウンザリしながらも振り返ると

 

彼女は急に落ち着きを取り戻してパンパンと両手を叩く

 

すると彼女の前にスタッと一人の男が突然上から降りて来た。

 

真撰組の密偵・山崎退である。リーナにひざまづいた状態で、真顔のまま彼女の方に顔を上げる。

 

「お呼びですか、姐さん」

「逃げたあのバカ女と部下達を尾行しなさい、アジトを突き止め今晩中にリーダーの桂もろとも粛清するわよ」

「御意、仰せのままに」

「お前はお前でなにやってんだ山崎ィィィィィィィィ!!!」

「あはんッ!」

 

忠実なしもべだと言わんばかりに馬鹿丁寧な言葉遣いと態度でリーナの命令に一切の迷いなく従おうとする山崎に

 

遂に土方はキレて拳を一発彼にお見舞いした。

 

「いつの間にそのガキに懐柔されてんだ! 泣く子も黙る真撰組がいきなりしゃしゃり出て来た小娘の言う事を素直に聞いてんじゃねぇ!」

「いてて……な、何言ってんすか副長! 姐さんはアンタが選んだ御方でしょ! 姐さんの言葉は副長の言葉と同じ! なら俺達も姐さんの言う事を聞くのは当然の事! って前に姐さん本人から聞きました! ぶべぇ!!」

「お前もう密偵止めちまえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

彼女の戯言をそのまま鵜呑みにして信じている純粋な山崎に再度拳を振り下ろす土方。

 

そして

 

「揃いも揃ってバカみてぇにこんなガキ共に従いやがって……仕方ねぇ、このまま組織が腐り切る前にいっその事……」

 

もう我慢ならんと腰に帯刀していた鞘から遂に自分の刀を引き抜いた。

 

「テメェ等全員切腹だコラァァァァァァァァ!! おい山崎! お前がまず切腹しろ!! 介錯してやる!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「やべぇ副長がキレた!!」

「十文字局長! 副長を止めて下さい!」

「落ち着け、トシ」

「やだ、子供みたいにすぐに怒っちゃうダーリンも素敵……」

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!! 近藤さん早く戻って来てくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 総悟はどうでもいい!!」

 

刀を振り上げ怯える山崎に刃を向けようとする土方を、他の隊士達が慌てて止めに入る。

 

そんな状況でも十文字は至って冷静で、リーナはどこか恍惚した視線を向けて来て

 

土方はこの状況に耐え切れずに天を仰いで心の底から祈る様に叫ぶのであった。

 

 

そしてそんな状況を最初からずっと後ろから呆然と見ているのは

 

いきなり現れた彼等のおかげですっかり置いてけぼりにされた新八と神楽だ。

 

「一部メンバーが変わっても、真撰組は相変わらず騒がしいね……」

「当たり前アル、あのドS野郎が消えて代わりにヒステリックな小娘が入って、ゴリラの代わりにもっとでっかいゴリラが入っただけネ、私達から見ればあんまり変わらねーよこの税金泥棒共は」

 

よその目から見た感想を呟きながら、新八はふとここから見える城の方へと顔を上げた。

 

「そういえばあの人まだ話し込んでるのかな……随分と経つけど」

 

新八の視線の先にあるのはお城の天守閣、現征夷大将軍、徳川茂茂がおられる場所だ。

 

そこにいるであろう人物の事を考えながら、新八はふと心配になる。

 

「……なんか将軍に無茶な要求とかしてなければいいけど、下手すれば僕等の首も……」

「大丈夫アル、そよちゃんが言ってたネ」

 

不安になっている新八に神楽はケロッとした様子で相槌を打つ。

 

 

 

 

 

「兄上様とNEW兄上様はも立場も世界も関係ない、ただの”お友達”として付き合っていくんだって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やら下の方が随分と騒がしいようですな」

「大方真撰組が内部で揉めているだけだろう、未だにあそこの副長は新体制の真撰組に慣れていないみたいだからな」

 

天守閣から見下ろすのは、神楽の友人であるそよ姫のお付きである六転舞蔵と

 

この世界に転がり込んで徐々に江戸での生活に慣れて来た異世界の漂流者、司波達也であった。

 

「どうやら桂一派と会長を取り逃がしてしまったらしい。連中はアホだが将軍の首を狙う逆賊なのは確かな事、一刻も早く捕まえなければ示しがつかないな」

「しかし達也殿、その会長という方は元々達也殿とは同じ世界の人間と聞いております、ここは達也殿直々に説得すれば彼女も改心する可能性も……」

「即刻捕まえて首を刎ねよう」

「いや首を刎ねるんじゃなくてなんとか説得を……」

「首を刎ねた上で晒し首にしよう、骸は家畜の餌に」

「なんでそんな頑なに首刎ねようとするのですか!? お嫌いなんですか彼女!?」

 

舞蔵としては相手が若いおなごというのもあるし、一時的なテンションに身を任せて桂一派に加わったのだろうと判断してどうにか穏便に済ませたいと思っていたのだが

 

達也は断固として彼女の首を飛ばす事以外考えられぬと、腕を組みながらハッキリと答える。

 

「舞蔵さん、俺達が蓮蓬と戦ってる中で幾度も将軍や俺の首を狙おうとしたのはあの魂をも攘夷志士に売ったあの女だ。改心する可能性など万に一つも存在しない、だから今すぐ殺そう、大筒の用意はまだか?」

「どんだけ殺したいんですか! いやいや待ってくだされ! 城の大筒を使うなど何をお考えなのですか! 将軍様の御前でそのような物騒な言葉を使うのはいけませんぞ!!」

 

天守閣から城の外を見渡し、真由美が何処へ逃げたかと模索しながら城の大筒を使う許可を取ろうとする達也にツッコミを入れながら、慌てて舞蔵は後ろへと振り返った。

 

「茂茂様からも何か言ってやって下さい」

「フ、許してやれ舞蔵」

 

舞蔵の視線の先には、天守閣の部屋で胡坐を掻きながら優雅に茶を飲む一人の姿が

 

徳川茂茂、言わずと知れたこの江戸の征夷大将軍だった。

 

「達也、こっちの世界での生活はどうだ、何か不自由があれば友として余が出来るだけの範囲で応えてやってもよいのだぞ」

「不自由なのは確かだが将軍の手を煩わせる必要は無いさ、一つだけあるとするならば大筒の許可を早くくれ」

「許可与えちゃダメですよ茂茂様ぁ! この人本当に撃ちますぞ! 目がマジですぞ!」

「ハハハ、流石にそればっかりは余でもおいそれと許すわけにはいかぬな」

 

冗談なのかマジなのか、頑なに大筒を使いたがる達也に茂茂は苦笑しながらやんわりと断りながら、別の話題に切り替えた。

 

「それにしてもあれからもう随分と時が経つ、蓮蓬の星による爆発の影響で集いし同志達は散り散りに吹っ飛ばされ……半壊した船で放浪してやっとこさ辿り着いた先がこの世界の地球……」

「あの時は茂茂様が帰って来られてこの舞蔵も安心しましたわい……随分と派手な戦に参加したようですな」

「初代将軍が起こした関ヶ原に負けず劣らずの大戦であった。あの時の体験は一生忘れる事はないであろうな」

 

蓮蓬と完全決着をつけた直後、茂茂達が乗っていた巨大ロボカイエーンはSAGIが行った最後の大爆発によってバラバラに崩壊した。

 

しかし奇跡的にも全壊には至らず、バラバラになった機体は元の宇宙船へと戻りなんとかこっちの世界に流れ着き、地球へと帰還を遂げたのだ。

 

「達也、そなたを元の世界に送る事が出来なくてすまなかったな」

「なに、戻ろうと思えば方法はいくらでもある、元の世界に一生帰れないって訳じゃないんだから気にするな」

 

申し訳なさそうに謝ってきた茂茂に、「将軍がすぐ謝るな」とツッコミを入れながら、達也は彼の方に笑みを浮かべて振り返った。

 

「それにこっちの生活も悪くないといえば悪くない、しがらみから解放されて好き勝手生きていけるというのも、俺としては新鮮味が溢れて楽しい生き方だと思っている」

「それは強がりであろう、そなたの妹はどうなる? 余達は無事だったが他の者達は未だ生死すら掴めないのだぞ、心配ではないのか?」

「確かに心配していないと言えば嘘にはなるが……」

 

こちらの地球には達也の妹、司波深雪はいない。彼女の安否は当然達也も心配しているであろう。

 

彼にとって何よりも大事な存在は唯一無二の妹である彼女なのだから。

 

しかし茂茂の鋭い指摘に対しても達也は微笑みを崩さず、壁に背を預けて腕を組んだ状態で再度口を開いた。

 

「俺は蓮舫の星が爆発したあの瞬間、ふと頭の中で一人の男の声が聞こえた気がした」

 

あの時の事を鮮明に思い出しながら、何故か達也の表情が若干曇る。

 

「絶対に負けられない相手、俺が初めてその背中に追いつき、追い越したいと思ったただ一人の男が、俺に一つ頼みごとをして来たんだ」

 

妹である深雪を除いて他の者とは一線を引いてきた達也であったが、この戦いを経て彼もまた慌ただしく変化していった。

 

様々な変人、奇人共と触れ合っていく中で、彼が最も対抗心を燃やし、負けられないという思いが強く芽生えた人物、ライバルとも呼べる存在が彼の中で生まれていた。

 

「その男はただ一言俺に呟いたんだ、『万事屋を頼む』と」

 

その言葉を再び思い出すように達也は両目を瞑る。

 

「あの男が今までずっと護り続けていた命に代えがたい大切なモノを任された、だから俺もその代わりとして奴に一つ頼みごとをして来た、あの男が大切なモノを俺に託すのであれば、俺もそれ相応のモノをアイツに託そうと思い……」

 

そこで達也は目を開き、話を聞いていた茂茂と舞蔵にただ一言。

 

 

 

 

 

「『妹を頼んだ』と答えておいた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて「超能力」と呼ばれていた先天的に備わっていた能力が「魔法」という名前で認知され、強力な魔法師は国の力と見なされるようになった。20年続いた第三次世界大戦が終結してから35年が経つ西暦2095年

 

地球の存亡を賭けた大いなる戦が終わってしばしの時が流れ

 

休校していた国立魔法大学付属第一高校もまた授業を再開して早数日が経過していた。

 

「コラお前等ァァァァァァァ!! もうHRのチャイム鳴ってんぞ! なにタラタラと歩いてやがんだ!」

 

朝のHR開始前

 

学校の校門前には高校の制服を着た一人の男が朝っぱらからやかましい声で叫んでいた。 

 

泣く子も黙る真撰組の局長、近藤勲である。

 

「もう門閉めるんだからさっさと走れ!! 学生の身で遅刻なんざ繰り返してたら社会に適応できねぇぞ!」

「おはようございますゴリラ先輩!」

「おはよう! でもゴリラじゃないから!」

「おはようゴリラ!」

「せめて先輩は付けてくんない!?」

「おはようございます、ゴリラゴリラゴリラ!」

「学名で呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ギリギリのタイミングで押し寄せてくる生徒達に慕われているのか馬鹿にされているのかよくわからない声を掛けかられながら、大方生徒達が各々の教室に向かっていくのを確認しながら、近藤はふぅとため息を突く。

 

「全く、最近の生徒は魔法学校の中でも屈指の名門の生徒だというのを自覚していない奴等が多すぎる、魔利君もそう思うだろ?」

「いや私はお前がウチの学校の生徒じゃないというのをまず自覚して欲しい」

 

長年この学校を支え続けてきたかのような体を装う近藤に、背後に立っていた風紀委員長・渡辺摩利がジト目で応えた。

 

「どういう事だ一体、蓮蓬に寄生された地球を救ってから数日経ったら、今度は私達の母校にゴリラが寄生し始めたぞ……」

「まあアレはアレで意外と生徒達に慕われてるみたいだから良いんじゃないですか?」

 

頭を抱えてこの現状を理解出来ていない様子の摩利を静かに諭すのは

 

七草真由美が不在の今、なんとか一人で生徒会を支えている市原鈴音であった。

 

「十文字さんがいなくなった事でゴリラマイナス1、その代わりに彼がやって来てゴリラプラス1。結果的にはゴリラプラマイゼロでなんの支障もありませんし」

「いやゴリラが増えたとか減ったとかじゃなくてだな……ていうか市原、私個人的にお前にちょっと聞きたいんだが」

 

いつもの仏頂面で相も変わらずマイペースな彼女に、魔利はふとここ数日の間でずっと疑問に思っていた事を尋ねてみた。

 

「……どうしてお前、何時の間に”黒髪”になっているんだ?」

 

ここ数日で思った疑問、地球に戻ってみるといつの間にか鈴音の長い青髪は、ガラリと黒髪へと変化していたのだ。

 

まさか地球が大変な事が起きていたのに呑気に髪を染めていましたなんて事は流石に彼女でもないと思うのだが……

 

そして摩利の尋ねに対し鈴音はしばしの間を置いた後に小首をかしげてとぼけた感じで

 

「……前から私は黒髪でしたが?」

「嘘つけ! 前はもっと濃い青髪だった筈だぞ!」

「気のせいでしょう、細かい事気にしてるとハゲますよ、ていうか既に頭頂部の方から兆しが……」

「え!? って下らん嘘つくなって言ってるだろうが!」

 

ここ最近何かとストレス溜まる一方なのでもしや髪に影響が?っと鈴音の言葉に一瞬惑わされる摩利だがすぐに嘘だと気付いて怒鳴りつける。

 

そうしていると今度は近藤の方が彼女達の方へ振り返り

 

「おい何やってんだ! 風紀と規律を守る俺達は常に目を光らせていないといけないってのに! ガールズトークで盛り上がってないで今はこの時間ギリギリに滑り込んで来る生徒達にビシッと喝を入れてや……!」

 

自慢げに指定の制服を靡かせてすっかりリーダー気分を味わっている近藤、しかし

 

 

後ろにいた摩利と鈴音に気を取られてる隙にブロロロロロと音を飛んで来たと思いきや

 

「ぐっぼぉ!!!」

「ってゴリラァァァァァァァァァァ!!!」

 

彼の頭部に思いきりスクーターのタイヤがめり込んでそのまま踏みつけて行ったのだ。

 

そのまま薙ぎ倒されて仰向けに倒れてしまった近藤に、魔利が慌てて駆け寄る。

 

「しっかりしろゴリラゴリラゴリラァァァァァァァ!!!」

「大丈夫ですよ、この程度の事でゴリラゴリラゴリラが死ぬタマじゃない筈ですから」

「だから学名で呼ぶの止めて……」

 

薄れゆく意識の中でもツッコミを怠らない近藤、彼は白目を剥いて静かにガクッと気絶したのを見送った後、魔利はすぐに彼をスクーターで轢いていった人物の方へと顔を向け……

 

「おい! 思いっきり人身事故起こした上に校内に原付で突っ込むな! 前にも言っただろうがお前達!」

「言っても無駄ですよ、あの二人、彼を轢いた事にさえ全く気にしてない様子で行っちゃいましたから」

 

彼女の叫びも意味をなさず、スクーターで近藤を轢いた二人組は止める気配無くそのまま学校目掛けて直進して行く。

 

運転してる方はスーツの上に白衣

 

その者の腰に後ろから両手でしがみ付いている方はこの学校の制服を着た女子生徒。

 

「流石ですね彼は、あんなに色々と騒動があったにも関わらず、ガラリと変わったこの世界の中でもたくましく生きてらっしゃる」

「たくましいってか神経が図太いだけだろ……全く、いい加減あの天然パーマはどうにかならんものか……」

「どうにもなりませんよ、だって彼は生まれつきのちゃらんぽらんであり……」

 

みるみる遠くへ行ってしまう彼を見送りながら

 

鈴音は隣で呆れている摩利をよそにフッと小さく口元を和らげていた。

 

 

 

 

 

 

「常に自分が思うがままを突き進んで”僕等”を導く、それが侍・坂田銀時さんなんですから」

 

 

彼の後ろに座っている少女の長い黒髪が半ヘルの隙間から靡くと同時に

 

彼の象徴的な存在である銀髪天然パーマもまたそよそよと小さく靡いでいた。

 

 

 

 




あ、次回で最終回です


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最終訓 入学

銀魂の桂と魔法科高校の劣等生の生徒会長が入れ替わったら面白そう

という安易なアイディアで始まったのがこの作品です。




持てる力を全てだし切り、バラバラとなった快援隊の戦艦、快臨丸はかろうじてとある文明の栄えた惑星へと不時着し、戦艦の補強やら物資の蓄えを終えて何とか無事に出港出来る準備が整った。

 

「やれやれ、宇宙の辺境までぶっ飛ばされた時はどうなるかと思うちょったが、コレもまた日頃の行いのおかげかの」

「安心するのはまだ早いぜよ、坂本」

 

出港前に見納めに世話になった星の地形を眺めながら呑気に呟くのは艦長である坂本辰馬。

 

そんな彼にすっかり慣れた様子で釘を刺すのは副艦長・陸奥。

 

「この星はわし等の船を直す事が出来る程の文明があったのは幸いじゃが、全く持ってこの場所が宇宙のどの辺なのかは皆目見当つかんきに。いざ船を出してもまた漂流する羽目になるのがオチじゃて」

「せめてどっちの世界の地球に辿り着ける事が出来る方法でもあればいいんじゃが」

 

彼等は今この星が銀河のどこに位置するのかさえわかっていなかった。座標を調べてもどこにも自分達が住んでいた地球は存在しない。

 

どうしたもんかと考えながら坂本は不意に後ろの方へ振り向く。

 

「のぉ高杉、おまんはどっちの地球に最初に戻りたい、やっぱりわし等の地球か?」

「……いや、まずはコイツ等の地球へ行くのが先だ」

 

にこやかな表情で彼が振り返った先にいたのは、船を眺めながらキセルを吸う高杉晋助だった。

 

彼の傍には今にも泣きそうな表情で未知なる星をキョロキョロと見渡す中条あずさと、周りの警戒を怠らずにいつでも腰に差してる刀を抜けるよう準備している桐原武明が立っていた。

 

「あうぅ~早くみんなのいる地球に帰りたいです……早く会長に会いたい……」

「中条、残念だがあの会長は多分俺達の地球じゃなくて向こうの地球に行ったんじゃないだろうか……あの人の変貌ぶりを察するにもう元の会長に戻る事はまずないだろうし」

「そんな事ない! わ、私は会長を信じてる!」

 

会長こと七草真由美との再会を心から望んでいるあずさに、桐原は心痛めながら現実的な予想を呟くも、彼女はまだ希望を捨ててはいない様子

 

いつかきっとあのカリスマ性溢れ、生徒達を導く存在であった生徒会長・七草真由美はきっと悪い夢から覚めて戻って来る事を

 

しかし彼女は知らない、七草真由美は現在、そのカリスマ性で生徒ではなく攘夷志士を導いてる事に

 

「会長に会うまで私達も死ねません! ですよね高杉さん!」

「俺はいつでもテメェを殺すつもりだぞ、うっとおしいからさっさと消えろ」

「ひぃぃぃぃぃぃ!!」

 

よせばいいのに自ら高杉に同意を求めようとするあずさだが、案の定ギロッと横目で睨み付けられ、彼女はすぐにその場で震えて萎縮してしまった。

 

「で? テメェはどうするんだ桐原」

「俺?」

 

キセルに溜まった灰を落としながら、高杉は不意に縮こまっているあずさの隣にいる桐原に話しかけた。

 

「テメェがその気になりゃあ、ウチの隊に入れても俺は構わねぇぜ」

「……」

 

最初はこちらの事などまったく眼中になかった筈の高杉が、まさか向こうから仲間になるかと誘って来るとは思いもしなかった桐原。

 

そしてしばし目を見開き無言で驚いて見せた後、桐原はフッと笑いながら首を横に振る。

 

「いやよしておこう、俺は自分の地球でたった一人の存在を護るだけで精一杯だ。世界を相手にするにはまだまだ俺は未熟だ」

「……そうかい、そいつは残念だ」

「様々な経験を学ばせてくれた事には、アンタには感謝している」

「感謝される筋合いはねぇ、俺はただテメーの喧嘩をやってただけなんだからな」

 

桐原に断られても高杉は満更でも無さそうにニヤリと笑いながら再びキセルを咥え始めた。

 

「坂本、俺はもうガキの相手なんざもうゴメンだ。とっととコイツ等送り返しに行くぞ」

「素直じゃないのおまんは、しかしわしもそっちの地球に行くのは賛成じゃ、なにせこっちにもおまんと同じくガキ一人抱え込んでる事じゃしの」

 

高杉の素っ気ない態度を見て思わずアハハハハと笑い声を上げながら彼の意見を肯定しつつ、坂本はサッと後ろの方へ振り返る。

 

「そんじゃ、ま、まずはおまんの星に帰る事にするかの、共にゲロを吐き合ったわが友よ」

「……」

 

彼の後ろにいたのはあずさや桐原と同じく向こうの地球出身の千葉エリカだった。

 

彼女もまた坂本や高杉と共にここまで流れ着いてしまい、その感情の無い表情からかなり疲れ切っているのが窺える。

 

だが彼女からの返答は

 

「……いやアタシはいいから、もうほおっておいて」

「アハハハハ! へ?」

「元の地球に帰るとか今更どうでもいいし、つかむしろ戻りたくないっていうか……もはやアタシの居場所なんかどこにもない所に帰りたくないというか……」

 

何を言い出すのかと思いきやエリカは死んだ目をしながら徐々に声のトーンを落としていく

 

坂本が拍子抜けた様子で彼女の方へ歩み寄ると、エリカは急にバッと顔を上げて

 

「という事でアタシ、もうしばらくこの船で働かせてもらいまーす」

「うえぇぇ!? いきなり何言い出すんじゃこの娘っ子は!」

「うるさい! こちとらアンタのせいで楽しく愉快な学生ライフを一日たりともエンジョイ出来なかったのよ! 実家もぶっちゃけあんま好きじゃないし! 何も取り戻せないのならいっそ新しい人生をエンジョイしてやるわ!」

「アホか! そげな真似をこの船の艦長である坂本辰馬が許すとでも思うたか! のぉ陸奥!」

「好きにさせとけばよか」

「陸奥ぅぅぅぅぅ!?」

 

突然の海援隊への就職宣言をするエリカに流石に坂本も動揺を隠せない。

 

すぐに傍にいた陸奥に助けを求めようとするが、彼女はまさかの彼女の就職を承諾してしまう。

 

「どうせその内故郷が恋しくなって帰りたくなるに決まっちょる、それまでは船の中の掃除でもさせちょれ」

「帰らないわよ! 絶対地球になんか帰らないわよ! 私の故郷はここぜよ!!」

「なに人の足にしがみ付いてんじゃ貴様は、つか勝手にわし等の船を故郷にするな」

 

いつの間にか陸奥の足下にしがみ付きながら断固として帰る気は無いと宣言するエリカ

 

足下にしがみ付かれて無言で振り払おうとする陸奥と、それに必死で抵抗する彼女を眺めながら坂本はハァ~とため息。

 

「……ったく最初から最後までほんにワガママな小娘じゃき、近頃の娘の扱い方はわし等おっさんには難易度高すぎじゃて」

 

そんな事を嘆きながら坂本は顔を上げて頭上の空を眺める。

 

地球とは違った空を眺めながら彼は思っていた言葉をポツリと口に出すのであった

 

「こりゃヅラと金時の奴も相当手こずってるじゃろうて」

 

ここにはいないかつての同志達も大変だろうとしみじみ思いに馳せつつ

 

坂本はふと、目の前のけしきをながめながらポツリとずっと思っていた疑問を陸奥に投げかけた

 

 

 

 

 

 

「そういえばこの星の名前なんていうの?」

「確か、”イスカンダル”っちゅう名前ぜよ」

「アハハハハ!……わし等ほんに地球に帰れるのかの?」

「知らん」

 

地球と大差無い美しい景色ではあるが一面は海ばかり

 

坂本は現状ここから地球までどのぐらい離れているのかますます不安になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、坂本達のいる惑星から遥か遠くの存在にする別の惑星・地球

 

と言ってもここは天人に支配された方の地球ではなく

 

魔法というモノがごく一般的にありふれ、天人ではなく魔法師という存在が支配している地球である。

 

しかし蓮蓬による入れ替わり騒動が起こった事により宇宙人の存在は世に知られる事となり

 

これによりは地球の各国は慌ただしく宇宙人、天人が再び来襲した時にどう対策するかについて日々議論を展開し続けていた。

 

そして政治家や軍人でもないただの学生に過ぎない国立魔法大学付属第一高校でも何やら騒がしくなっていた。

 

「宇宙行ってたせいでTSUTAYAで借りてた「ドラえもんのび太の宇宙漂流記」の延滞料金が凄まじい事になってた、どうしようほのか」

「いや散々前振りで地球が緊急事態だって煽ってたのに、雫の緊急事態はそれでいいの?」

「宇宙のおかげで私がピンチだという事に変わりない、お金貸して」

「いや別に良いけどさ……」

 

ここは1年の中でもとびっきりの才能を持つ者のみが在籍できるA組。

 

教室内ではいつもの様に仏頂面でさして慌ててない様子の北山雫に

 

窓辺に立ちながら彼女の悩みに首を傾げる光井ほのかの姿もあった。

 

「もっとこう大変な話しようよ、ビデオの延滞料金ぐらい深雪に比べれば安いモンだよ」

「安くはない、めっさ高く着いた。今度から二度と生半可な覚悟でドラえもんを借りない事にする」

「ドラえもん借りるのに覚悟が必要なんだって初めて知ったよ私……ってそうじゃなくて」

 

向かいに立ちながら腕を組み、キチンと腹をくくってレンタルをしようと決心する雫をよそに

 

ほのかはふと窓際の席で頬杖を突いたままボーっと座っている少女の方に目をやる

 

「大丈夫、深雪? さっきからずっと上の空だけど」

「……え?」

 

1万人の男がすれ違えば1万人全員が振り向くであろうと思わせるぐらいの黒髪ロングの美少女。

 

司波達也の実妹にして四葉家の跡取り候補・司波深雪に

 

心配した様子でほのかが話しかけると、彼女はハッと我に返ったかのように顔を上げた。

 

「ごめんなさいちょっと考え事してて話聞いてなかったの、何か言った?」

「ドラえもんの声はのぶ代派? わさび派?って話」

「私は富田耕生派です」

「うぇーい、ここでまさかの初代で来るとは思わなかったー、バカボンのパパの人だっけ?」

「いやドラえもんはもういいから! 蓮蓬との騒動が終わっても深雪の所は大変だねって話!」

 

ボケた話に深雪が真面目に答え、雫は妙に変なテンションで声を上げている中で

 

一人常識人であるほのかが急いで訂正した。

 

「だってほら、深雪ってばお父さんがいきなり酢こんぶ工場に転職しちゃったみたいだしこの先の金銭事情とかで大変そうだなーと思って……」

「ああその辺はご心配なく、ぶっちゃけ今の方が前の会社よりも儲かってるらしいの」

「マジでか!? 酢こんぶで!?」

「酢こんぶは今も昔も需要があり、ニーズに合わせて行けば今後より一層あらゆる年齢層の購買者をリピーターとして買い続けてもらえるとかであの人も頑張ってるみたい、今頃きっと泣きながら工場長を務めてる頃かしら」

「お父さん泣いてるの!?」

 

父・司波龍郎の事をあの人呼ばわりしながらあまり興味無さそうに話す深雪にほのかは驚きながら

 

彼女の父は本当に本意で酢こんぶ工場長を務めているのだろうかと、友人よりもその父を心配する。

 

「やっぱ色々と大変そうじゃん深雪の所……それにホラ、私はよく知らないけど叔母さんも騒動に巻き込まれて大変だったとか言ってたじゃない、そっちの方はどうなの?」

「叔母上ならもっと心配ないから、なんか奥さんに逃げられた旦那さんと同棲してるみたい」

「心配しかないんだけど!? それ明らか不倫以外の何物でもないよね!?」

「まあ別に私には関係無い事だし、私は個人で向こうが何やってようが構わないし、今後関わってこなけばどうでもいいって所ね」

「ドライ過ぎる! 深雪はお兄さん以外の身内にはドライ過ぎるよ!」

「え、ドラえもん?」

「雫は黙ってて!」

 

ほのかはあまり知らない事なのだが、どうやらこの蓮蓬の騒動にて深雪の叔母も巻き込まれていたらしい。

 

それがどういった形で巻き込まれたのかは知らないが、とにかく色々と大変だったと前に深雪から聞いていた。

 

奥さんに逃げられた旦那と同棲……その言葉通りの意味であれば明らかに身内が不倫してますと言ってる様なモノだが……

 

えらく冷めた様子であっけらかんとぶっちゃける深雪にほのかは頬を引きつらせつつ、フゥとため息突いてゆっくりとまた口を開いた。

 

「それじゃあその……お兄さんの事はもう大丈夫なの? アレからまだ行方知れずなんでしょ?」

「……」

 

流石に兄・達也の事となると深雪も何処か思いつめた表情で黙り込む

 

事件後、バラバラとなった戦艦から、奇跡的にもこちらの地球に流れ落ち、命からがら助かった自分達と違い

 

今の所達也や一部の他の者達も終息が掴めていない(達也と同じく七草真由美も行方不明だが、こちらは深雪にとってはどうでもいい)

 

深雪も居候の男と共にどこへ消えのか探してはいるのだが一向に所在を掴めず、もしかしたらこの星ではない遠く離れた場所まで飛ばされてしまったのではないかと推測している。

 

そしてしばらくして彼女は頬を緩め、心配そうに見つめるほのかに健気に顔を上げた。

 

「お兄様なら私が心配しようが大丈夫、あの人はきっと生きている筈だから」

 

確固たる自信を持ってそう呟く深雪に向かって

 

”隣りの席”から消しゴムのカスがピンと彼女の黒髪に当たるも、深雪はスルーしながら話を続ける。

 

「きっとお兄様の事だから元気にやってるのはわかっている、だから私も落ち込んでなんかいないでしっかりこの世界で強く生きて行かないと」

「そうだね……お兄さんなら宇宙の果てまで飛ばされても帰って来るよきっと」

 

兄が健在だと事を一切疑わずにそう信じ抜くと決意する深雪にほのかもまた優しく頷く中で

 

 

またもや”隣りの席”から深雪に向かって消しゴムのカス・今度はさっきよりも増えてパラパラと黒髪に降りかかるも

 

深雪は依然スルーしながらほのかに微笑んだ

 

「それに決めたの私、これからはいつもお兄様に護られる妹じゃなくて、護ってくれるお兄様を逆に護ってあげれるぐらい強くなるって、だからもう一人で泣いてなんかいられないの」

「うん、前から深雪は強い人だと思ってたけど、あの騒動が終わってからは一層力強くなった気がするし」

「幸か不幸か、私にとっては数々のトラウマを生んだあの事件は成長の兆しとなったみたい」

「まあ深雪にとっては一生モンのトラウマばっかだよね、向こうの世界でも色々大変だったみたいだし」

「おかげで自分はまだ未熟だというのも自覚できたし、良い人にも沢山会えたから悪い事ばかりじゃなかったけど」

 

心中察するほのかに深雪は苦笑しながらかつて短い間、坂田銀時であった出来事を思い出す。

 

確かに大変ではあったが、今となってはそう悪くない思い出である。

 

しかし深雪がこの数日の間で心の整理はしっかり出来たとほのかに報告する一方で

 

その一方では”隣の席の人物”が両手でコネコネと何かを練って固め、そして……

 

「だからもう心配しなくていいから」

 

最後に深雪は思いやってくれる友人に感謝しながら笑顔を浮かべる

 

彼女のそんな態度にほのかも一安心したかのように胸を撫で下ろそうとした、その瞬間

 

 

「私はもう大丈……ぶぃ!!」

「深雪ッ!?」

 

突然深雪の横顔にソフトボール位の大きさの球体が鈍い音を立てて派手にぶつけられる。

 

会話を終えようとするタイミングを狙ったかのように彼女にぶつけられたその謎の球体は、深雪の机のコロコロと転がり落ちた。

 

ほのかがよく見るとそれは、徹底的に硬くする為に練り込んだ、消しゴムのカスの集合体だった。

 

「……さっきからなんのつもりですか? 氷漬けにしますよ」

「お、やっとこっち振り向いた」

 

赤くなった頬をさすりつつ深雪は痛みに堪えながら、ずっと嫌がらせ行為をして来た隣の席の人物の方へ初めて振り返った。

 

僅かに殺意の込められた彼女の目つきに対して

 

隣りの席に座っている人物・”沖田総悟”は全く怖がる様子無く顔をこちらに向けていた。

 

「えらく無視するからこっちも思わず意地悪しちまったぜ、さっきのが無視されたらコイツをお見舞いしてやろうと思ってたのによ」

「デカ!」

 

沖田の両手にはいつの間にか先程よりもずっと大きなカスの塊が……机に収まりきらない程の大きさに深雪よりも先にほのかが叫ぶ。

 

「そんな巨大な消しゴムのカス玉投げる気だったの!! ていうか製造過程が知りたい!」

「どうでぃこの大きさ……」

 

どれ程の消しゴムを消耗したのか気になる程の大きさにほのかが驚いている中で、沖田は自慢げにニヤリと笑いながらそれを両手に抱えて

 

「ドラえもんの頭みてぇだろ……」

「なんか無理矢理ドラえもん談義を復活させて来た! いいよ無理矢理繋げようとしなくても!」

 

雫と話してたおかげで、丁度あの猫型ロボットの頭位の大きさかなと内心思ってはいたが声には出さない様にしていたが、まさか向こうから持ちかけて来るとは……

 

「ナンセンス、そんなモノはドラえもんとは言わない」

「うわヤバい! 雫が早速興味持ち出した!」

「ほうコイツは面白れぇ、一体俺のこのドラえもんヘッドの何が気に食わねぇんだ小娘」

 

さっきまで黙っていた雫が急に沖田に挑戦的な言葉を叩きつけ、彼に対して雫は何時の間に両手に抱えていたある物を見せつける。

 

「頭だけじゃダメ、身体があってこそドラえもん」

「ってうえぇ! いつの間にか消しゴムのカスでドラえもんのボディ作成しちゃってるよこの子! ちょっとの間にどんだけ消しゴム擦りまくったの雫!」 

「やるじゃねぇか、確かに全身あってこそ真のドラえもんだ」

 

そもそもキーボード操作が当たり前のこの学校で消しゴムを使う機会など無いのにどうして所持しているかと色々とツッコミたい所あるのだが

 

その様な事は些細だと思えるぐらいデカデカとしたドラえもんボディを得意げに作り上げていた雫。

 

これにはあのドSの沖田も感心し、自分が持っていた頭を雫の身体にくっ付けさせて

 

見事な等身大ドラえもん人形(消しゴムのカス製)を完成させるのであった。

 

顔も描かれてないし色も消しゴム使ってるおかげで真っ白なので、ぱっと見は雪だるまである。

 

「コイツは力作だ、強度もあるしぶん投げたらさぞかしかなりの威力を誇りそうだ」

「投げちゃダメ、ウチに持って帰って部屋に飾る」

「一回ぐらいやってもいいだろ、司波深雪の顔面に思いっきりドラえもん投げてぇんだよ俺は」

「仕方ない、なら一回だけ」

「いやなに私の許可なく投げて良いことを承諾しているの?」

 

二人で出来上がった傑作を眺めながら何か話し合ってる沖田と雫に、やっとこさえ深雪がジト目を向けながらボソリと冷ややかなツッコミを入れた。

 

「ていうか沖田さん、なんであなたさも当たり前の様にウチの学校の制服を着て私達と同じ教室にいるんですか? しかも私の隣の席に座って」

「近藤さんがこっちで遊んでるって聞いたんでね、俺も暇だからこうして遊んでるって訳よ、いずれはここのメスガキ共を全員調教してやる」

「ウチはゴリラとサドの遊び場ではありません、由緒正しき魔法学校です」

 

よく見ると沖田の格好は真撰組の恰好ではなく、近藤と同様ここの学校の制服を着ていた。

 

入手経路はともかく、一般人、というより異世界の人間が一体どうやってこのセキュリティ万全の学校に潜りこめているのか、深雪は不思議で仕方なかった。

 

「それよりテメェはどうなんだ小娘、もう仲良くやっていけてるのか」

「は? 誰の事を言ってるんですか?」

「とぼけんじゃねぇ」

 

そう考えている彼女をよそに沖田は一つ質問を問いかけて来た。

 

「異世界から遥々とやって来て家に転がり込んで来た”ドラえもん”に決まってんだろ」

「……アレは四次元ポケットも愛嬌あるデザインも無いポンコツです、人の家を我が物顔で住みながら人のどら焼きを貪るだけのただの厄病神ですから」

「その厄病神を自ら家に住ませてやった奴はどこのどいつでぃ?」

「……路頭に迷わせているとその内ロクでもない事やらかしそうだと思ったので」

 

沖田の言っている人物にはかなり心当たりある深雪は顔をしかめながら目を背ける、

 

正直、自分でも何故アレを家に連れ込んでしまったのかよくわからないのだ。

 

ほおっておいてもその内、雫やほのかが家に引き取ってくれるだろうし、どうして忌み嫌う彼をわざわざ自分の家に呼び寄せてしまったのだろうか……

 

「まあ見えない所で迷惑かけられるよりは、自分の手元に置いた方がマシだと判断したのは確かです」

「その辺は私も心配なんだよね……あの人と上手くやっていけてるの?」

「上手くやっていけてるとは到底思えないけど、なんとかやっていけてる気がするって所かしら」

 

悩みながら捻りだすように答える深雪にまたもやほのかが不安そうに声を掛けると、苦笑しながら深雪は曖昧に答えていると

 

 

 

 

 

ガララララッと教室のドアが乱暴に開かれた

 

「チーっす、おいガキ共さっさとテメーの席に着きやがれ」

 

ドアを開けてけだるそうな口調で入って来た人物がやって来た途端

 

教室の空気がガラリと変わった。

 

さっきまでクラスメイト同士で談笑していた生徒達は彼を警戒する様に見つめながら自分の席に着き

 

雫とほのかもまた急いで自分の所に座ったと同時に

 

スーツの上に白衣を着て、足元はサンダルというラフなスタイルで、ポリポリと銀髪天然パーマを掻きながら

 

男は教壇に立ち生徒達を死んだ魚の様な目を伊達眼鏡越しで見下ろすと

 

「よーしそれじゃあ”銀八先生”の朝のホームルーム始めんぞー」

 

銀八先生と名乗るこのふてぶてしくて胡散臭い男。

 

名は坂田銀時

 

少し前のとある事件を機にこの世界に流れ着いた別世界の住人。

 

自分の星に戻れない事に嘆いていた彼は司馬深雪に拾われ新天地での生活を始める。

 

そして未だ未知なる別世界の事をよく知っている銀時を、ここの学校側がなんと教師として採用してしまったのだ。

 

向こうの世界がどういった所なのかを生徒達に教えて欲しいという訳だろうか。

 

という事で銀時はよくわからない世界で路頭に迷う事無く無事に住む家と仕事の両方を手に入れられたのだ。

 

と言っても本人としてはさっさと元の世界に帰りたいというのが心情である。

 

「ていうかホームルームって何やんだっけ? よくわかんねぇからとりあえずエロ崎は廊下に立っとけ」

「森崎です! 生徒に変なあだ名付けたり体罰与えるのは良くない事だと思うのですが!」

「黙れ裏切りエロ崎、テメェが俺達地球人を裏切って蓮蓬に売り飛ばした事は今でもちゃんと覚えてるんだぞコノヤロー」

「いやそれは一時的な洗脳効果を受けていただけですってば! いい加減信じて下さい!」

 

壇上の丁度一番前の席に座っている男子生徒・森崎に早速無茶振りをする銀時。

 

蓮蓬との戦いの中で彼に罠に誘い込まれてまんまとハメられた事を未だに銀時は根に持っているらしい。

 

そのせいなのか知らないが、銀時はここに赴任してから何かと森崎に対して嫌がらせするのが日課となっている。

 

それに対して森崎も毎度の如く席から立ち上がって必死になって弁明をしていると、窓際に座っている深雪がため息交じりに

 

「ハァ……どうでもいいのでさっさとホームルーム終わらせてくれませんか?」

「どうでもいいとか言わないで司波さん! この男のおかげで僕の株はここ数日の間でノンストップ急降下状態なんだ!」

「いやだからどうでもいいですってば、そのまま一生降下し続けて下さい」

 

こちらに振り返りムキになった様子で叫んでくる森崎に、深雪は目すら合わせずに素っ気ない態度で聞き流そうとする。

 

銀時との入れ替わりを行った原因なのか、以前に比べてけだるそうな言動が増えているのがよく見て取れる。

 

「こんな事で時間を潰されるなら、朝一のパチンコの行列並んでた方がよっぽど有意義に感じます」

「深雪、その例えは女子高生が使うにはどうかと思うよ……まさかパチンコとかやってないよね?」

「パチンコと言えばあの時店員に気付かれなければ……あそこで追い出されずに続けていれば勝てたかもしれないのに……」

「うんもう呟くの止めよう深雪、でないと退学になるから」

 

次第に両肩を震わせながら歯がゆそうに愚痴を言い始める深雪を前に座っていたほのかがすかさず黙らせる。

 

やはり入れ替わりの影響で微量ながら銀時の成分が入り込んでしまったらしい……

 

そんな彼女をほのかがジト目で見つめながらそう感じていると

 

壇上に立っている銀時がやれやれと肩に手を置きながら首をコキコキと鳴らす。

 

「ったくよぉどいつもこいつも好き勝手私語を言いやがって、先生の話を聞けよ頼むから」

 

そう言うと銀時は改まった様子でザッと教室にいる生徒達を見渡す。

 

「もうとっくに知ってるだろうがこの地球は俺達の世界にいる天人に一度標的にされた、一度あったつう事は二度目や三度目もあるかもしれねぇ、もしかしたら俺達の地球みたいに連中に支配されちまう可能性だってある」

 

死んだ目でそう呟きながら銀時は掛けている伊達眼鏡をクイッと押し上げながら、現在この世界が未曽有の危機に陥っている事を改めて説明した。

 

「テメェ等の使う魔法とやらがアイツ等にどこまで通用するかは俺もよく知らねぇよ、だが一つわかるとするならば、その魔法だけで連中をどうにかできるとは思うなって事だ」

 

魔法の力だけでは天人には対抗できない、生徒に対し銀時はそう言い放ちながら話を続ける。

 

「これからは魔法だけに頼らずにテメー自身が強くなるよう心掛けろ、大切なモンを護り抜くっていう覚悟と信念がありゃあ、人間ってのは何処までも突き進む事が出来る単純な生き物なんだよ」

 

自分の話を怪訝な様子で聞いている生徒達を、銀時はフンと鼻を鳴らしながら仏頂面で。

 

「そしてその生き方って奴を、この異世界からやって来た侍の坂田銀八先生が教えてやるから覚悟してついて来い」

 

両手を白衣のポケットに入れながらハッキリと言う銀時に、しばし生徒達が真顔で沈黙していると

 

 

 

 

 

 

 

銀時はいきなりポケットから両手を出して強くパンパンと叩き

 

「はーい、と言う事でそれじゃあ転校生を紹介しまーす」

「え!? この流れで転校生ぇ!?」

 

唐突な話題の切り替え方に困惑するクラス、ほのかも慌てて席から立ち上がって声を上げる。

 

「ビシッと締めたと思ったのにここで!?」

「締めた後もグダグダ続くのがウチの世界の常識なんだよ、これもまた俺の教えの一つだ」

「そんな教えはいらないんですけど!? もっと役に立つ事教えて!」

「それは今から現れる転校生が教えてくれるかもな」

「へ?」

 

気になる事を言いつつ銀時は廊下の方へとドア越しに口を開いて

 

「おーいもう入っていいぞー」

 

やる気無さそうに彼がそう言い放ったと同時に

 

 

 

 

 

ドォォォォォン!という衝撃音と共に閉まっていたドアが問答無用に破壊され、その場一帯に破片を撒き散らした。

 

「でぇぇぇぇぇぇ!! 何事!? またテロリストでも襲撃に来たの!? つい先日来たばっかなのに!」

「紹介しまーす、ウチの転校生の……」

 

ドア付近にいたおかげで衝撃に巻き込まれた生徒達がぶっ倒れている中で

 

彼等を踏みつけて行きながらスッと一人の男が入って来た。

 

この学校の制服ではなく一昔前のヤンキー高校にいる様な番長の様な格好で

 

背中に天上天下唯我独尊という刺繍が施された背広を靡かせ

 

唖然とする生徒達に満面の笑みを浮かべながら

 

「どもー春雨高校から転校して来た……」

 

 

 

 

 

「”神威”です」

「ウソだろオイィィィィィィィィィィィ!!!」

「はーいほのかちゃんちょっと口調変わってるよ~、自分のキャラ大切にして~、お前だけが最後の柱なんだから」

「ねぇ先生、俺と一緒に転校して来た阿伏兎知らない?」

「アイツはE組に配属されたよ」

「呑気にそんな事言ってる場合じゃないでしょうが!!」

 

ニコニコと笑うその顔を見て思わず口調が変わってしまう程驚いてしまうほのか。

 

それもその筈、この神威という男。

以前の事件で一度は倒され、二度目は銀時達と協力してなんとか撃退した難敵だったのだ。

 

ほのかとしてはあまりいい思い出がない相手、というか完全に敵である。

 

「なんであの時の敵がノコノコとウチの学校に転校して来てんの!? おかしいでしょ!」

「それじゃあ神威君、軽く自己紹介的なモンを言ってみようか」

「はい先生」

「一度殺り合った仲なのに自然と教師と生徒の関係に!」

 

銀時に促されて神威は素直に頷くと、凍り付いている生徒達に向かってにこやかに

 

「改めまして神威です、最初に言っておくけど俺は強い奴にしか興味ありません。初日でこの学校のトップ目指したいんで、まずはここにいるクラスメイト全員俺がシメるんでよろしくお願いします」

「ちょっとぉ! なんか不吉な事言ってるし完全にウチの学校潰しに来てるよ! 先生早く止めて!」

「コレもお前等を可愛く思ってる上での先生からの試練だ、お前等の力でこの化け物を排除しろ、300円上げるから」

「要するにめんどくせぇからお前等で何とかしろって事でしょうがそれ!」

 

ここでまさかのこの場にいる者全員を標的に見定める事を宣言する神威に、ほのかも即座に銀時に救難信号を送るが彼はいつの間にか取り出したジャンプを読みながらやる気無さそうにこちらに丸投げ

 

「どうしよう深雪……あんなのがウチに転校してきたら、ただでさえ主戦力がいなくなったウチじゃあっという間に崩壊の危機に……」

「大丈夫よほのか、いくら強かろうが一度は私達が負かした相手。向こうから仕掛けてきたらこちらでカウンターかましてまたぶっ飛ばせばいいだけの事でしょ」

「いやいや理屈ではそれで合ってるけども……」

 

こちらに振り返りどうしたもんかと声を潜めて話しかけて来たほのかに、深雪は至って冷静な様子で神威を眺めながらあっけらかんとした感じで答えていると

 

神威は彼女の存在に気付いたのか「あ」っと短く声を出すと指を差しながら銀時の方へ振り返り

 

「とりあえずあの娘が一番強そうだから先に殺していいですか、先生」

「ヤバい! 深雪が早速ターゲットに!」

「バカ野郎今ホームルーム中だ、やるなら休憩時間にやれ」

「はーい」

「そこは止めろ教師!! 仕事放棄にも程があるぞ!」

 

両手で開いて読んでいるジャンプから目を逸らさずに深雪を仕留める事を簡単に許してしまう銀時についほのかもキレた様子で指を突き付けながら叫んでいると

 

「待ちな、テメェみたいな戦闘バカにこのガキを譲るつもりはねぇぜ」

 

そう言いながらガタっと席から立ち上がったのは深雪の隣に席に座っている沖田であった。

 

挑戦的な態度で神威を見下ろしながら、彼は得意げに自分を親指で指し

 

「このガキを最初にシメるのは俺でぃ、こういう反抗的なガキが一番俺の好物なんだよ」

「こっちはこっちで頭おかしいのいたよ!」

「へぇそいつは面白い、じゃあどっちが先にその娘の相手に相応しいか勝負といこうか」

「上等だ、あの大食いゲロ吐き残念ヒロインの兄貴なんざに俺が負けるかってんだ」

「いやちょっと! あなた達二人がこの場で戦ったら本当に学校そのものが崩壊する危険が!!」

 

互いに目を合わせながら不敵に笑い合う沖田と神威、どうやら互いに戦う理由が生まれたらしい。

 

正に一触即発の状態で他の生徒達もザワザワと不安感を募らせていると

 

「待てぇお前等! 何勝手に自分達で司波さんを取り合おうとしてんだぁ!!」

 

この状況下で一人果敢に立ち上がった人物、まさかの森崎が勇ましく神威の方へと得物を取り出して駆け寄っていく。

 

「天人だろうがなんだろうが知った事が! 選ばれし精鋭達が揃うブルームの力を思い知れぇ!! 見ていてください司波さん! あなたを狙う不埒物をこの森崎が見事排除してみせ……」

 

勇ましくそう叫びながらすかさず神威に魔法による一撃をかまそうとするのだが……

 

「えい」

「ぬっほ!」

「森崎弱ッ!」

 

魔法式が展開される前に森崎は一気に距離を詰められ神威の踵落としを食らい、言葉を放つ暇もなく床下に沈められてしまった。

 

床から頭だけを出した状態で白目を剥いて気絶してしまった森崎を見下ろしながら神威は

 

「次邪魔したら……殺しちゃうぞ♪」

「ヤバいよこの人ぉぉぉぉぉぉ!! 次の犠牲者が出る前に銀さんお願いだから止めてぇ!!」

 

小首を傾げながら茶目っ気たっぷりの神威を見てほのかは本格的にヤバいと感じてすぐに銀時に助けを求めると

 

彼はやっとこさジャンプからスッと目を離して顔を上げて

 

「おいおい、転校生といじめっ子が一人のヒロインを取り合うとかどこの少女漫画だよ。コレってなに? まさか教師枠として俺もヒロイン争奪戦に出場しなきゃいけないパターン? でも取り合った先に手に入るのがあのクソガキでしょ? 得るモノが何もねぇじゃん、という事で俺はパスで」

「ふざけた事言ってると頭ねじ切りますよバカ天パ」

 

訳の分からん事を言いながらまたジャンプの方に視線を戻してしまった銀時

 

そんな彼を深雪は冷たく睨み付けながらこの状況に顔をしかめる。

 

「どっちがかかってこようが構わないというのに、どうせいずれは3人まとめて私が血の海に沈めるんだし」

「深雪も挑発しないでよ、ていうかサラッと銀さんの事も含んでるし……」

 

どちらが自分を先に倒すか決めようとしてる時点で不愉快だというのに

 

深雪はおもむろに席から立ち上がると、沖田、神威、ついでに銀時を見まわしながら目を細めながら冷たい口調で

 

「誰が来ようが構いません、私はお兄様に頼られる程の強い妹になる為に、あなた達程度に負けるつもりは毛頭ないので」

「ほーん、やっぱテメェは俺の思った通りシバき甲斐がありそうだ。面白れぇ、そっちから喧嘩売ってくるなら話は早ぇ」

「このまま全員でバトルロワイヤルでもおっ始めるって事? 俺は全然構わないよ、どうせ俺もこの場でやるつもりだったし」

「おいおい若い奴ってのは血気盛んでいけねぇな、ここらで大人の怖さって奴をそのちんけな脳みそに教えてやんのも教師の務めってか?」

「いやなにシレッと銀さんまで戦う姿勢見せてんの!? あーもう誰でもいいからこの4人を止めてぇぇ!!」

 

深雪の誘いに乗ったかのように沖田がニヤリと笑い、神威もまた拳を鳴らし、そして何故か銀時もジャンプを置いて戦闘モードに

 

互いに睨み合いながら今にも誰が先に手を出すか牽制し合ってる四人に

 

遂にほのかは両手で頭を抱えながら半ば泣き叫ぶような声で天井に向かって叫んでいると

 

 

 

 

 

 

「!」

 

突如、床が震え、否、学校全体が大きく揺れ始めた。

 

いきなり立っていられない程の衝撃が学校を襲い、戦闘寸前であった銀時達も突然の出来事に目を見開く。

 

「おいどういう事だこりゃ、いきなり学校が揺れ……」

「銀さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

「ああ?」

 

さっきまでよりも更に大きな声を上げながら

 

ほのかが教室の窓から外を指差しながら銀時に叫ぶ。

 

何事かと銀時も窓から顔を出してみると

 

 

 

 

この学校の敷地内全てが浮上し、真下を見ると住んでた町がみるみる小さくなっていくではないか。

 

「深雪さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

「なんでそこで私の名前叫ぶんですか?」

 

驚きのあまりつい彼女の名を叫んできた銀時に、深雪はジト目で首を傾げると。この突然の現象に顎に手を置きながら思考する。

 

「突然私達の学校が浮かび上がるとは一体……この様な真似が出来る人物はかなり限られます。もしかして”あの人”が?」

『フッフッフ、その通り。君達がそうして下界を見下ろせているのは私の力のおかげだ』

「!」

 

少々心当たりがあった深雪の耳元に不意に聞こえて来た声。

 

すぐに彼女は顔を上げると、いつの間にか教団の背後にある教師が用いる為のモニター画面にパッと一人の

 

 

モブみたいな見た目をした影の薄そうな青年が映し出された。

 

 

 

 

 

『諸君、私の名は服部・範蔵・ウル・ラピュタ。古の歴史に消えていった一族の末裔にして王の血を引くものだ』

「やはりあなたでしたか服部先輩……」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 何してんのあの人!?」

 

現れたのはなんと1年先輩の服部であった。

 

あの事件を機にどこぞの大佐の魂でも乗り移ったのか、異常など程ラピュタに執心していた男であったが

 

事件後はそのラピュタを失い激しい虚無感に襲われ、一日中虚ろな目でずっと空を眺めていた。

 

そんな彼が今、あの時の様に生き生きとした表情で、色素の薄いサングラスを掛けながら得意げに演説を始めている。

 

『驚くのも無理はない、しかし君達は喜ぶべき事なのだ。この地球上で唯一、この天空の城に乗る事を許された選ばれし者達なのだから」

「天空の城ぉ!?」

『諸君達は堕落した地上を捨て、未知なる宇宙へと飛び立つのだ!!」

「宇宙ぅぅぅぅぅぅ!?」

 

服部の突拍子もない発言に生徒達が驚き叫ぶ中で、モニターに映る服部の背後にゾロゾロとどこかで見た様なアヒルだかペンギンだかよくわからない被り物をした集団が

 

『紹介しよう、今回この学校を宇宙へと飛ばす為に素晴らしい力を与えて下さった同志達だ!!』

『服部王万歳!!』

『いざゆかん! 我々の新天地へ!!』

「地球に侵略行為した蓮蓬を連れて来ちゃってるぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

モニターを見つめながらほのかは口をあんぐりと開けて驚いた。

 

何処へ消えたかのかわからなかった蓮蓬達は、なんと服部の所でお世話になっていたのだ。

 

『この学校はただいまを持って、我々の新たなラピュタと成り代わるのだ! フハハハハハハハ!!!』

「いや学校は学校ですから……あなた、もうこの際ボコボコにしてもいいから服部先輩を止めに行って来て下さい」

 

せっかく平和な生活に戻ったというのにこのままでは再び宇宙へと飛び立つ羽目になってしまう。

 

なんとしてでも阻止しようと深雪はすぐに銀時に指示を飛ばすのだが

 

「そうか……ラピュタはここにあったんだな……」

 

一人みるみる小さくなっていく地上を眺めながら静かに微笑を浮かべつつ呟いた後

 

銀時はゆっくりとこちらへと振り返り

 

「はいそれじゃあホームルームの続き始めまーす」

「スルーした! 現実から逃避して何事も無かったように話を進めてこのまま完結させるつもりだ!」

「ホームルームはもういいから……!!」

 

極々自然な態度を装ってホームルームを再開しようとする銀時にほのかがツッコむ中で

 

深雪はずっと隣に置かれていた、沖田&雫の作成した消しゴムのカスドラえもん人形をガシッと両手で掴むと

 

「止めて来なさい!!」

「ばるすッ!!」

 

思いきり銀時に投げつけ、豪快に彼を吹っ飛ばすのであった。

 

 

 

 

 

お兄様、お元気ですか。

 

私はもとても元気です。

 

学校の方は、慌ただしい事もあって毎日がハードで、たまに命狙われたりサドられたりするけど

 

あの事件がキッカケで少し自信が着いたのか挫けずになんとかやっていけてます。

 

いざという時には決めてくれる事はあるけれど

 

 

 

 

 

私、やっぱこの坂田銀時という男は嫌いです。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、もう一つの地球では

 

「はぁ~今日は真撰組が城内で揉めまくって大変でしたね」

「いい加減内輪揉めしてないでさっさと籍入れれば良いアル」

「いずれは俺達で周りから固め、最終的に式を挙げさせるのも手かもしれないな」

 

一仕事終えて城から帰って来た志村新八・神楽、そして代理店主の司波達也が自宅へと続く階段を昇りながら談笑していた。

 

「それにしても会長はどうしましょうか達也さん……今回は逃げられましたけどまたいつか将軍の首狙いに来ますよ絶対」

「その時は今度こそ殺せばいいだけだ」

「曇りのない目でハッキリと言わないで下さい、テロリストに堕ちた先輩を救ってあげるという慈悲の心は無いんですかアンタ」

「俺に出来るのは抹殺と言う名の救済だけだ」

 

どこまでも七草真由美に関しては心底冷たい達也に、新八はジト目で窘めながら家の玄関の戸に手を引っ掛けると

 

「ってアレ? カギ閉めてなかったっけ? 戸が開いてる……」

 

ガララッと開いた戸に新八が不思議に思っていると、ふと玄関に草鞋が綺麗に置かれている事に気付いた。

 

「なんだろう、僕等が留守の間にお客さんでも来てるのかな」

「ひょっとしたら物盗りかもしれないネ、見つけたらボコボコにしてやるアル」

「安心しろ神楽、俺達から盗まれる者など何もない、先日食料が尽きたばかりだからな、フ」

「フじゃねーよ! 盗まれるモンがない程貧乏だという事実に悲しくならねぇのか!」

 

ここん所まともな食事にありつけてない事に対し、さほど危機感を覚えていない達也にツッコミながら新八は玄関へと上がり、居間へと向かってみると

 

 

 

 

 

「ハッハッハッハ!! 待ちくたびれたぞ三人共! 俺はずっと前からここでスタンバっていたというのに!」

「……」

 

お客用のソファに腰着かせていたのは攘夷志士・桂小太郎であった。

 

高笑いを浮かべながらこちらに上機嫌に手を振る桂を見て、一同無言で今へと入っていく。

 

「……何やってんですかアンタ?」

「はて? 俺はまだ何もしていないが」

「とぼけないでください、会長が城に潜り込んで将軍暗殺を謀ろうとしてる情報をくれたのって」

 

小首を傾げながらわかっていない様子の桂に、新八は呆れた様子で問い詰める

 

「桂さんなんでしょ」

「うむ」

「言い訳もせずに即答しやがったよコイツ! コイツ仲間を幕府に売りやがった!!」

「まあまあ落ち着け新八君、俺とて同志を仲間に売ったつもりはない」

 

先日、郵便ポストに七草真由美が桂一派を引き連れて城の周囲を探っているという情報が書かれた便箋が入っていた。

 

あまりにも詳細に書かれていたので、送り主は桂一派の内部に属する者、そしてそれが桂だと達也は察していたのだ。

 

「仲間を売ったかなんてどうでもいい、茂茂の敵であるお前が目の前に現れたとなれば、俺がやるべき事は一つだけだ」

「待て待て落ち着け達也殿! 今日ここに来たのはお主と刃を交える為ではない!!」

 

問答無用で目と鼻の先に銃口を突き付けて来た達也に桂は慌てながら懐から何かを取り出す。

 

出したのは数枚の文字の書かれた紙。

 

「近い内に将軍が江戸で起こる大イベントに観覧しに来るのであろう、その時に俺達の組織が闇討ちを仕掛けようという算段なのだ、はいコレ、闇討ちする為の企画書」

「組織のリーダーが暗殺計画また漏らしに来たよ! 桂さんアンタ本当に倒幕する気あるんですか!?」

「ヅラ、お前何考えてるアルか? 地球に戻ってからずっとおかしいアル」

「俺達にこう何度も自分の組織の内部事情を売りに来るとは、一体何が目的だ」

「く! わかってくれ! これは銀時が信頼している貴殿達にしか頼めんのだ!」

 

まさかの内部告発を二度続けて、しかも今度は本人直々に証拠を持参して来るという始末

 

これには神楽と達也も目を細めて怪しく感じていると、桂は切羽詰った表情を浮かべながらおもむろに席から立ち上がると、目の前の達也の両肩を強く掴み

 

 

 

 

 

「俺と真由美殿の結婚を阻止するために! どうか将軍を護ってくれ!」

「いや将軍殺そうとしてる奴が頼む事じゃねぇだろ!」

「なるほど、会長と結婚するのが嫌だから倒幕を阻止しようとしていたのか」

「実はそうなのだ……つい倒幕出来たら結婚するって約束してしまった為に、真由美殿はもうノリノリで攘夷活動に積極的になってしまって……」

 

彼の思惑が読めた達也は銃口を下ろして素直に話を聞く態勢に

 

桂はガックリと首を垂れながら落ち込んだ様子で吐露を始めた。

 

「ここ最近ではもう俺の同志達は俺よりも真由美殿を慕っている気がするし……おまけに俺にも早く結婚しろだのなんだの言って来るし……なんかこう結婚しようとしない俺が悪い感じの雰囲気になってるし」

「あ、それ完全に周りから囲まれましたね、リーナさんと同じ手口です」

「もはやあそこに俺の居場所は無い! しかしだからといって結婚はせん! 確かに真由美殿は頭も良いし実力も申し分ない! 見た目も美しいし性格も非常に俺と合う! だが!」

 

突然桂は膝から崩れ落ちて両手を床に叩きつける

 

「人妻じゃないんだ!」

「当たり前だろうが! 相手女子高生だぞ!」

「俺にとっておなごをおなごとして見る為の条件は人妻か未亡人だけだ! 真由美殿は確かに素晴らしいおなごだ! しかし俺にとってはあくまで有能なる同志としか見られんのだ!! く! せめてバツイチであれば!」

「おい新八、なんで気持ち悪い性癖を我が家で思いきり叫んでるアルかコイツ」

 

ギリギリ、バツイチだったらいけるかもしれないと言った感じで悔しそうに首を振る桂に神楽が軽蔑の眼差しを向けていると、達也は感情の無い表情でそんな彼を見下ろす。

 

「茂茂を護るのはこの世界に流れ着いた俺にとっては義務みたいなモノだ、お前に言われなくても将軍の身は俺はが護る。お前のフィアンセもいずれ地獄に叩き落とすつもりだから安心しろ」

「何! さては真由美殿を討つつもりか! 我が同志を討つとなれば俺も黙っていられんぞ!」

「アンタ一体どこの立場なんだよ! もうブレブレじゃねぇか! さっさと結婚して丸く収まれ!」

「いやだから結婚は出来んと言っておろう! だって真由美殿は俺にとってはまだ……あ」

 

真由美がやられると聞いてすかさず立ち上がって腰の刀を抜こうとする桂に新八が叫ぶと

 

彼は急に何か閃いたかかのように手をポンと叩くと達也の方へ振り向き

 

「達也殿、ちょっと真由美殿を上手く口説いてそのまま彼女と結婚してくれぬのだろうか、それで2、30年後に俺が横から真由美殿を寝取ればこれで無事に解決……だんぶぅ!!!」

 

いきなりの提案に達也は無言で彼を思いきりぶん殴った。

 

顔に一撃叩きこまれた桂は宙を舞いながら華麗にぶっ飛んで、窓ガラスを割って豪快に家を出て行ってしまう。

 

「……これ程までに怒りを覚えたのは何時振りだろうな、叔母上に桃鉄で破産に追い込まれた以来だ」

「案外軽くないんですかその怒り?」

「とりあえずアレを回収して真撰組の所へ連れて行くぞ、上手く行けばそれを聞いて七草会長が助けに来るからそれを迎えて今度こそ討つ」

「そのまま二人共仲良くあの世で祝言を挙げれるかもしれないアルな」

 

一仕事終えたかのように両手をパンパンと叩くと、達也はフゥーと珍しくため息を漏らす。

 

「全くここの世界の住人はおかしな連中ばかりだ、おかし過ぎて俺達の世界の住人にまで感染する始末だぞ」

「感染した件についてはマジで謝りますけど……僕等の世界の住人はあんなのしかいない訳じゃないですからね、僕等の世界を変に誤解しないで下さいよ」

「それをお前が言うか、新八」

「へ?」

 

自分の愚痴に慌てて弁明しようとしてきた新八に対し、達也はゆっくりと彼の方へ振り返る。

 

「俺からすればこの世界で最もおかしな人間はお前だぞ」

「はぁ!? 何言ってんすか! 僕はこの世界では極めて希少な超常識人ですよ!」

「いやだって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に地球に戻ってもなお全身白塗りのブリーフ一丁というスタイルはマズイだろ」

「アネゴも泣いてたアル、地球から戻ってきた弟が変態になって帰って来たって、あんなのもう私の可愛い弟じゃないって」

「……」

 

二人に言われて新八は頭を下げて初めて自分の姿を省みた。

 

これ以上ない真っ白な素肌に身に着けているのはこれまた真っ白なブリーフのみ……

 

 

 

 

 

 

 

「ってまだ僕服着てなかったんかいィィィィィィィィィィ!!!」

 

 

 

 

 

銀さん、深雪さん、お元気ですか。

 

僕も神楽ちゃんも、達也さんもとても元気です。

 

仕事の方は、相変わらず全然なくて貧乏のままだけど

 

達也さんはそれなりに楽しくこの星でやっていけてるみたいです

 

でも僕はずっと落ち込んでます

 

銀さんに深雪さん

 

 

 

 

 

僕の服は一体何処に行ったんでしょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上で『魔法科高校の攘夷志士』は完結となります

最初は10話ぐらいで終わらせようとしたのに

展開を盛りに盛り過ぎていつの間にか50話になってしまいました。

けれどもここまで長く続けられたのは読者の方達が呼んで下さったおかげです

感想や評価を書いて下さった方々

誤字の訂正を協力してくれた方々

毎話読んでくださった方々

完結まで読んでくださり誠にありがとうございました。

それと実は完結といってもまだ書いてみたい話もありまして……

最終回なのに長谷川さんの出番が無かった事も心残りですし

もしかしたらいずれは後日談的な話を書く事があるかもしれません。


そして最後にもう一度


本当にこんな連中の珍道中を読んでくださりありがとうございました。

たまにはこんな作品があった事を思い出してくれたら幸いです。

それではまたどこかでお会いしましょう



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放課後の談笑編
正月編 完結&未完 


お久しぶりです

完結してからしばらく経ちましたが、新年という事でこちらで特別編を書いてみました。

今年もよろしくお願いします。


侍の国は今、未だかつてない危機に瀕していた。

 

かつて宇宙から飛来した天人と侍が戦い、侍が敗れ時代が大きく変わってから数十年後。

 

今ここで、新たな脅威の波が押し寄せてきたのだ。

 

その脅威とは……

 

「フ、まさかこの私をここまで追い詰める人間がいたとは……」

 

再び宇宙から襲来して来た天人達によって江戸が火の海と化し、刻々と滅びの一途を辿ってる中で

 

江戸の中心に立つターミナルの近くで、今二人の男が最終決戦をおっ始めていた。

 

「いや人間、と呼ぶよりも時の流れから突然生まれた変異種と呼ぶべきか……どちらかというと君はこちら側に近いように見える」

 

静かに退治する相手に向かって語りかけているその正体は「虚」と呼ばれていた。

 

星の生命を糧とし不死身の体である彼は、正に地球、否、宇宙最強の化け物と言っても過言では無い。

 

しかしそんな最強である筈の彼だが、今はどこか苦戦しているようにも見えた。

 

不死身である筈の体には所々に傷を付けられ、片膝をついたままなんとか右手に握る刀で体を支えている様な状態。

 

そしてそんな追い詰められている状況の中でもなお、虚は口元に笑みを浮かべたまま相手に語り掛ける。

 

「聞かせてくれませんか、この化け物をたった一人で追い詰めるほどの強さを持ったあなたの正体を」

 

ゆっくりとした口調で彼が囁くようにそう呟くと、虚と対峙する一人の人物は静かに口を開いた。

 

「生憎だが、俺はアンタと同族でもなんでもない、この世界ではただただごく普通の一般人に過ぎない……」

 

 

 

 

 

「司波達也という一人の人間だ」

「……そうですか、司波達也……」

 

どこにでもいそうな見た目をした若者の口から放たれたその名に

 

虚はフッと笑い目を瞑る

 

「全く聞き覚えないし、ぶっちゃけあなたとは全く因縁の欠片も無いと思いますが、どうやら私とあなたはここで決着をつけるしかないみたいですね」

 

「いや決着ならもうついてるぞ」

 

「え?」

 

今ここで星そのもの力を司る虚と、全く聞き覚えの無い謎の少年の戦いが始まる、かと思っていたのだが

 

虚が一人喋っている間に、いつの間にか達也は右手に持った銃の形をした魔法デバイスを向けていた。

 

「ついさっきお前の体に宿るアルタナを暴走させる魔法術式を撃ち放った、お前の命はあと数秒で尽きる」

 

「え……いや何言ってんですかあなた? ラスボスである私をそんなあっけなく殺すなんて事出来る訳……」

 

まるでどこぞの殺人拳法の伝承者みたいな事を言い出す達也に虚が初めて困惑の色を浮かべた表情をすると

 

ふと自分の身に何か違和感を覚え始めた。

 

「おや、これは……」

 

いつの間にかぽっかり空洞が空いた左胸から、眩い光がカッと強く光ったその瞬間

 

 

 

 

ドォォォォォォン!!と耳をつんざくほどの強い衝撃と共に発生した爆発音と共に

 

虚がなんか爆発して消えてしまった。

 

「よし、一件落着だな」

「さすがアル! お兄様!」

「さすがですね! 達也さん!」

 

あまりにも呆気なく倒してしまった事に対してなんの罪悪感も覚えてない様子で一仕事終えた感を出す達也の下へ

 

彼に戦いを任せて高みの見物をしていた神楽と新八が急いで駆け寄って来た。

 

「お兄様のおかげでこれで地球も護られたネ、でもあの長髪のニヤニヤしてる野郎は一体なんだったんアルか?」

 

「俺もよく知らん、なんかいきなり出て来てドヤ顔でラスボスの風格出して来たから、とりあえず倒しとこうと思って倒した」

 

「なんでいきなり出て来たんでしょうねあの虚って奴、ぽっと出のクセに達也さんに喧嘩売るなんてなに考えてるんでしょうか、達也さんに勝てるわけないのに」

 

達也からすれば、なんか悪そうだったから倒しても良いだろうという安易な考えだったらしい。

 

ほとんどダメージを負わずにあっという間にラスボスを瞬殺してしまった彼に対し、神楽と新八はさほど驚きもせずに自然に彼の無双っぷりを受け入れていた。

 

「いやー、これで何もかも無事に解決ですよ、流石僕等の世界の主人公ですね、達也さん」

 

「なんかモジャモジャ頭のふぬけたツラした奴が前に主人公気取ってたけど、やっぱり真の主人公はお兄様ヨロシ」

 

「そうそう、あんないい年してジャンプ読んでる様なダメなおっさんなんか少年漫画の主人公に相応しくないから、やっぱジャンプの主人公は悟空やルフィみたいなカリスマ溢れるキャラじゃないと」

 

「あんな奴いなくてもお兄様がいればこの世界は安泰アル」

 

モジャモジャ頭の万年死んだ魚のような目をした元主人公を二人してボロクソに叩きながら、それと比例して達也を称賛する神楽と新八。

 

二人の中ではもうこの世界の主人公はこの司波達也以外にいる筈が無いと決めてしまっているみたいだ。

 

「おいおいあまり俺に期待しないでくれ、悪いが俺はこの世界ではよそ者の身、こっちの世界の主人公はあの男一人で十分……ん?」

 

そんな彼等に達也は軽く笑いかけながらこの世界に相応しい主人公は他にいると伝えようとする、だがその時

 

突如上空から先程の虚が爆発した時とは比べ物にならないほどの轟音が迫って来たのだ。

 

「これは……」

 

「うぉぉぉぉい!! ヤバいアルお兄様! 空からデケェ宇宙船がこっちに向かって落ちて来てるネ!」

 

「ギャァァァァァ!! あんなの降って来たらこの国滅びますって絶対! 何とかしてください達也さん!」

 

上空を見上げるとそこには、江戸の街を飲み込みかねないほどの巨大な球体の形をした宇宙船が隕石の様にこちらに向かって落下してきているではないか。

 

これには神楽と新八も大慌てで達也に助けを求めるが、当人はさほど驚いている様子も見せず、静かに腕を組んで宇宙船を見上げる。

 

「心配なら、アレならきっと”アイツ”が止めてくれる」

 

「アイツって誰!? 無理ですよあんな巨大な宇宙船の落下を止めるなんて! 僕等のニュー主人公・達也さん以外に出来るはずがありません!!」

 

「いるさ、本気を出せば俺と五分に戦えるほどの潜在能力を秘めた逸材の男がこの世界にな」

 

「!?」

 

自信をもってそう断言する達也に新八が目を見開いて言葉を失ってると、突然神楽が「あ!」と声を出してターミナルのてっぺんを指さす。

 

「あそこに誰かいるアル! きっとあの宇宙船を止めるつもりネ!」

「えぇぇぇぇぇ!? そんな! 一体誰が!」

 

神楽が指さした方向に新八が遠目を凝らしてよく見てみると確かにポツンと一つの人影が……

 

一体誰が、達也以外の者がそんな無謀な事をやろうとしているのかとジッと目を凝らしてみると……

 

 

 

 

 

「国を護り、民を護り、世を護る、それこそが……」

 

 

 

 

 

「将軍家たるこの徳川茂茂が成すべき事」

「って将軍かよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

なんとターミナルのてっぺんには江戸で最も護らなきゃいけない存在、天下の将軍・徳川茂茂がいるではないか。

 

護衛も付けずにたった一人でこちらに落ちて来る宇宙船を怖れもせずに見つめる茂茂の後ろ姿に、新八は思わず絶叫を上げてしまう。

 

「マズイですよ達也さん! 将軍です将軍! 僕等の国の象徴が今真っ先に滅ぼされようとしてますって! 早く助けに行って下さい!」

 

「フ、甘いな新八、あの天下の14代目将軍・徳川茂茂は、あれしきの事で死ぬ男じゃない」

 

「なに言ってんすかアンタ!? あんな宇宙船が落ちてきたら将軍様100パー死にますって!!」

 

たとえ間に合わずとも、本来ならすぐにでも助けに向かわねば行けないのに達也は以前動こうとはしなかった。

 

そればかりかあの宇宙船の落下を茂茂一人で止めれるだろうとさえ言い切ってしまう。

 

「アイツはここに来るまである大きな試練にぶつかった、将軍暗殺編を覚えているだろ?」

 

「ああ、将軍の命を狙う一橋派が騒ぎに生じて暗殺しようとした事件ですね、達也さんがいたおかげで何事も無く呆気なく終わっちゃいましたが……」

 

「アレを機に茂茂は、誰かに護られる存在ではなく、誰かを護る存在になりたいと腹をくくったらしいんだ」

 

「いや護られて下さい! 腹くくらなくていいんで大人しく護られて下さい!」

 

以前、次期将軍の座を狙って茂茂の命を奪おうとした一橋派と戦った事がある。

 

あの時もまた達也が一方的に相手を殲滅し、一人残った事件の首謀者・一橋喜喜もまたボッコボコにして二度と再起を図らぬよう強いトラウマを植え付けさせて幕を閉じた。

 

しかしどうやらあの事件がキッカケで、茂茂の中で新たな変化が生まれたらしい。

 

「だからちょいと俺が鍛えてやった、すると奴は俺の予想を遥かに凌駕する程の恐ろしい力を秘めていたんだ」

 

「アンタもアンタで将軍を鍛えんなよ! てか恐ろしい力!? なんなんですか一体!?」

 

「それは……」

 

ツッコミながらも将軍が持つその力はなんなのかと新八が問い詰めたその時

 

突如、ターミナルのてっぺんにいる茂茂が力を溜めるかのようにグッと軽く身を丸めると……

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「見るアル新八! 将ちゃん! 突然金色のオーラを纏って光始めたネ! まるでサイヤ人的な感じアル!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なにやってんだあの将軍!」

 

なんかいきなりビリビリと身に纏っていた豪華な着物が破れたと思いきや

 

力強い金色色に光り出し、とてつもないパワーを秘めているかのような肉体美を見せ

 

唯一破れる事の無かったブリーフだけを装備した将軍・茂茂がそこに現れたのだ。

 

「ってなんでブリーフ以外全部破いてんだァァァァァァ!!!」

 

「そう、あれこそ将軍の血を持つ者のみが辿り着ける境地、あの伝説の”スーパー将軍”、奴は遂に達したんだ」

 

「いやそんな伝説知らねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

淡々とした感じで説明する達也だが、そのあまりにもどっかでパクったかのような設定に新八は大きく咆哮を上げる。

 

一方、彼等の会話も全く聞こえていない茂茂はというと

 

「そよが晴れてあの男と祝言を挙げるその日まで……余も、この国も死ぬ訳にはいかぬのだ」

 

戦いの構えを作り、自らの身一つで宇宙船を止める覚悟を決めるのであった。

 

 

 

 

果たして、選ばれし将軍として伝説のスーパー将軍になる事が出来た茂茂は

 

この星に迫る新たな脅威を止める事が出来るのか……?

 

そして新八はいつになったら服を着るようになるのか……?

 

次号に続く。

 

 

 

 

 

 

「え……なにコレ? どうゆう事なのコレ?」

 

そしてここは元々達也がいたもう一人の世界、場所はとある神社。

 

次号に続く、まで読み終えた坂田銀時は、両手にジャンプを持ったまま、背後から鳴り響く除夜の鐘を聞きながら呆然と立ちすくしていた。

 

「俺がいない所でなにやってんのお兄様? 俺がいない所でなにすげぇ俺に深くかかわってそうなボスキャラを瞬殺してるのお兄様?」

 

自分の知ってる人物と物凄く酷似している人物を、あっさりと倒してしまった達也にポツリと銀時が呟いていると、そこへ彼が持っているジャンプを覗き込むかのように

 

「何を今更、お兄様であればこの程度の事など容易いと、先の戦いでまだわかっていなかったんですか?」

 

司波達也の妹である生粋のブラコン、司波深雪がひょっこり横から顔を出して彼の独り言に口を挟んで来た。

 

時刻は現在午前零時、初詣にやって来たという事で、彼女の服装も銀時と同じ着物姿である。

 

「相変わらず元気にやってるようで何よりです」

 

「そうだな、お兄様もあっちの世界で無事にやってるみたいでホントに何より……じゃねぇだろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

兄が向こうの世界でもよろしくやっているみたいで安堵する深雪をよそに

 

自分の世界で好き勝手に暴れ放題の達也にブチ切れた様子で銀時は手に持った少年ジャンプを地面に叩きつけた。

 

「なに俺がいない間に勝手にストーリーガンガン進めてんだよあの野郎! なんだよこの虚って奴! 全く知らねぇけどすげぇ見覚えある顔してるんだけど!? コイツ絶対俺と深いかかわりを持ってるキャラだよ!」

 

「そうなんですか? まあでもお兄様がサクッとやっつけたみたいですし、今更あなたがこのキャラと関わる事はもう二度とないんですから気にしなくて良いんじゃないですか?」

 

「いい訳ねぇだろ! なに主人公の過去と深くつながりのある重要なキャラをパパッとお手軽に瞬殺してんだコラ!」

 

「そんな事お兄様には関係のない事じゃないですか、ただのあなたの下らない都合です」

 

自分の代わりどころか自分以上に大活躍してしまっている達也、そして本来自分が対峙すべき大ボスがあっさりと彼に負かされてしまった事に深く嘆く銀時だが、深雪は目を細めて下らないと一蹴する。

 

「そもそもあなた程度ではお兄様の足元にも及ばないんです、向こうの世界はきっとあなたみたいなダメ主人公がいなくても、お兄様さえいればなんとでもなるんですから」

 

「その通りだよ! 見ろよこの神楽と新八のセリフ! もう完全に俺の事なんか蚊帳の外にしてるよ! 完全にお兄様を主人公に担ぎ上げてるよ!」

 

悔しいが深雪の言ってる事はごもっともだった、銀時は自分で叩きつけたジャンプを拾い上げると、パラパラと後ろの方へページを進めていき

 

「極めつけはこの作者の巻末コメントだよ!」

 

『なんか自分でも気づかない内に主人公替わったみたいだけど、あのモジャモジャよりこっちの方が楽に勝てっからもうこっちで最終回まで描きます(空知)』

 

「ふざけんな腐れゴリラァァァァァァァ!!!」

 

書かれていた原作者のあとがきコメントに再び強い憤りを覚えた銀時は、またもやジャンプを地面に叩きつけた。

 

「原作者までお兄様寄りになっちゃったよ! 佐島先生から主人公強奪してそのまま行く気だよこのゴリラ!! もうこれ元の世界に帰れても俺ぜってぇ上手くやっていけねぇよ! セリフもロクにないただのモブ同然の扱いに格下げされちまうよ絶対!」

 

「そうですか、私としてはどうでもいいし、むしろあなたが不幸になるのであればそれはそれで私としては嬉しく思いますので、ざまぁみろとだけ言っておきます」

 

「おい、言っておくが立ち位置がピンチなのは俺だけじゃねぇんだぞ」

 

「はい?」

 

完全に傍観者を気取ってこちらの不幸を嘲笑う深雪に対して、銀時は辛い現実を彼女に突きつける。

 

「今週号より大分前の話なんだけどよ、どうやらお兄様と将軍の妹・そよ姫にフラグ的なモノが立っているらしいぞ」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ど、どういう事ですかそれ!?」

 

「なんでも、将軍はお兄様と更なる深い繋がりを持とうと思って、是非自分の妹と婚姻を結んで欲しいと思ってるんだとさ、政略結婚ではあるがそよ姫も結構その気らしいし、コレ展開が上手く転がれば最終回ではNARUTOみてぇにファイナルファンタジー決め込む可能性もあるぞ」

 

「いやぁぁぁぁぁ!!! お兄様があんな金と地位しか持ってない都合の良い小娘なんかとファイナルファンタジーなんて絶対にいやぁぁぁぁ!!」

 

周りに他の参拝客がいる中で、その場にしゃがみ込んで絶叫を上げる深雪。

 

どうやら達也が向こうの世界でストーリーを進めれば進めるほど、着々と彼の功績が認められ

 

遂には将軍の義理の弟になる所まで上手く運んでしまっているみたいだ。

 

「そうなったらメインヒロインの私の立場はどうなるんですか!? まさかあんな小娘に奪われると!?」

 

「まあこれからはそよ姫の事を義理の姉として認め、妹でしかないお前はただただお兄様とそよ姫の幸せを見守る事に徹するんだな」

 

「絶対にしません! 全力で邪魔をします! そんなふざけた幻想はぶち殺します!!」

 

マズイ事になった……銀時に反論しながら深雪は事の事実に強いショックを受けていた。

 

このままではヒロインとしての自分の地位をぽっと出の姫に奪われてしまう、どうにかして奪い返さねば……

 

「わかりました……お兄様がよその世界でやり過ぎてしまったのは私も認めましょう、ならばここは一旦私達でいがみ合うのは止めて、協力してこちらも一手決めましょう」

 

「いがみ合う原因は主にオメェにあるんだけどな、で? 俺と協力してなにするんだ?」

 

「お兄様が向こうの世界で勝手にストーリーを進めているのであれば、私達もまた同じ事をして追い付けばいいんです」

 

「は?」

 

周りでヒソヒソと小声で囁かれながら怪しまれているのも気にせずに、深雪は銀時に一つの提案を持ち出した。

 

「私達で、お兄様がいない隙にこっちの世界のラスボスを倒しましょう」

 

「なんでそうなるんだよ!」

 

「お兄様が向こうの世界を完結させるのであれば、私達もこちら側を勝手に完結させるんです、ここは対抗して実力は互角なのだと向こうの世界に知らしめるんです」

 

「おいおいなんかわけわかんなくなったぞ……」

 

ヒロインとしての立場を失いかけている事に焦っているのか、思考能力が低下した様子で突拍子も無いことを言い出す深雪。

 

そんな彼女に銀時は呆れながら後頭部を掻くと、口をへの字しながら首を傾げる。

 

「つかお前等の世界のラスボスって誰だよ、俺はもうこの世界に長くいるけど、戦う連中はテロリストばかりで誰がラスボスなのか全く見当つかねぇよ」

 

「アホですかあなたは? この世界のラスボスと言ったら、お兄様がいずれ自分の手で倒してみせると誓っている相手」

 

魔法学校の教師として働いてる銀時は、定期的に何処からともなくやってくるテロリストを倒すぐらいの事しかしていなかったが、どうやら深雪はこの世界にいるラスボスに覚えがあるらしい、その人物とは……

 

「叔母様です、四波真夜を倒せばこの世界も無事にハッピーエンドです」

「いやそいつ前に倒さなかったけ? てか倒すって簡単に言うけどそいつって今……」

 

四葉家の現当主として君臨する真の黒幕・四葉真夜

 

彼女を倒す事が達也にとって最も叶えたい悲願であるのだが、彼の代わりに自分達がその役目をやってしまおうと深雪は言い出したのだ。

 

しかしそれはちょっと難しいのでは?と銀時が怪訝な様子で口を開こうとした、その時

 

 

 

 

 

突如、先ほどまで鳴り響いていた除夜の鐘がゴーンゴーン!と更に音を大きくして隙間なく鳴り始めた。

 

「あ? どうした急に?」

「どうやら鐘の方でなにかあったみたいですね」

 

何事かと、銀時と深雪が話を中断して鐘がある方へ振り返ると

 

 

 

 

「ちょっとぉぉぉぉぉ!!! なにやってんですかアンタァァァァァァァ!!」

「うるせぇぇぇぇぇぇ!! 俺を誰だと思ってんだ! 四葉家の当主様だぞコノヤロォォォォォォ!!!」

 

見るとそこには沢山のお坊さん達に止められながらも、なおも鐘を鳴らし続けるグラサンを掛けた一人の女性がいた。

 

彼女こそ深雪が先程話していた、四葉家の現当主・四葉真夜である。

 

そして中身はまるでダメなおっさん、略してマダオこと、長谷川泰三である。

 

「俺をこんな体にさせた世界なんて滅んじまえばいんだ! この鐘を鳴らしまくって人間の煩悩を全て消し去り! この世界の人間を全員無気力なまるでダメな男と女! マダオだけの世界にしてやるぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

四葉真夜としての破滅願望と、長谷川泰三としてのダメな部分が見事に合わさった結果、どうやらこの世界の煩悩を消し去り、全人類マダオ計画を起こそうとしている様だ。

 

坊さん達が必死に止めようとするもその度に魔法で撃退して追っ払い、グラサンの下からにじみ出る涙を隠さずに一心不乱に鐘を鳴らし続ける真夜、もはや見ているだけで哀れでこっちまで悲しくなってくる。

 

そしてそこに……

 

「飛んで火にいる夏の虫とはこの事だなオイ」

「またとないチャンスですねこれは」

「ってあれ!? 銀さん達も初詣に来てたのかよ!」

 

ひたすら鐘を鳴らし続ける真夜の下へ、フラリとやって来たのは銀時と深雪。

 

腐れ縁の知り合いと、一応姪っ子である二人の登場に、真夜はふと顔をほころばせた。

 

「丁度いいや! アンタ等も色々あって大変な目に遭ってるだろ! もうこうなったらこっちの世界でとことん暴れてやろうぜ! みんなでこの世界をマダオにし……ぶへぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「「死ねラスボスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」」

 

真夜の言葉が言い終わろうとする寸前で、銀時と深雪が突然のドロップキックを彼女にお見舞い。

 

ぶっ飛ばされた彼女は自分の頭でゴーン!と一際大きな鐘の音を鳴らすのであった。

 

魔法科高校の劣等生、これにて完結……

 

 

 

 

「って終わるかァァァァァァァ!!」

「ちッ! まだ息があんのかこのラスボス!」

「こうなったら徹底的にやりましょう!」

 

と思いきや、ラスボスはまだ全然元気な様子だったので、銀時と深雪は再び戦いを彼女に挑み続ける

 

この世界を無事に完結させるその日まで……

 

「「俺(私)達の戦いはこれからだァァァァァァァ!!」」

 

 

 

 

 

 

「新年からなにバカやってんだろあの二人……」

「見てほのか、おみくじで『激凶』ってのが出た、マジヤバい」

「それはマジでヤバいよ雫……もう今すぐお祓い行かなきゃマズいレベルじゃん……」

 

 

 

 

 

 




完結してもみんな好き勝手にやってるみたいです。

今回の話はこれで終わりですが

もしかしたらまた書きたい話があったらまた復活するかもしれません

それでは、よいお年を


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バレンタイデー編 義理&勲章

お久しぶりです、という事で引き続き番外編です


「今更言うのもアレなんだけどさ、銀魂クロスSSの銀さんって大概周りに女はべらしまくってモテてる描写が多くね?」

 

真っ暗な暗闇の中でポツンとライトが照らされた真下で、足を汲んで椅子に座る銀時が顎に手を当て一人呟いていた。

 

「正直アレってどうなの? 原作の銀さんだってさ、周りに女ばっかな時もあるけど基本はモテないキャラってのがスタンスだよね、自分で言うのもどうかと思うけど、銀魂における坂田銀時って主人公は基本的には女からモテちゃいけないタイプだと思うんだよねぇ」

 

珍しく真面目な表情をしながら目をキリッとさせて、銀時は更にグダグダと独り言を続ける。

 

「いや別に批判してる訳じゃないんだよ、銀さんという主人公がいるのであれば、それを支えるヒロインも必須ってのはわかるし、女キャラばっか出て来る作品とクロスオーバーされたら、必然的に周りが女だらけになるのもなんらおかしい事ではないってのはわかってるから、けどだからと言ってさ、一人ならともかく複数の女から言い寄られる銀さんって違和感あるんだよ」

 

何も見えない真っ暗な空間に向かって話しかけるように呟きながら、銀時は両手を膝に当てて前のめりの体制に

 

「そもそも銀さんつったらアレだよ? ぶっきらぼうでガサツだわ、下ネタばっか言って周りドン引きさせるわ、たまにカッコいい事するけど最終的にチャラにしかねない暴挙に出て好感度がた落ちさせる様なキャラだよ? なんでそれで数話ぐらいでコロッと女が惚れちゃうの? おかしいよねぇ、流石にこれはちょっと不自然過ぎるよねぇ」

 

一旦そこでハァ~とため息して頭を左右に振った後、銀時は再び顔を上げて愚痴を再開

 

「つうかそもそもアレなんだよ、銀魂クロスSSにおける銀さんってなんかこう……優し過ぎない? なんか相手が女キャラだとコロッと甘い事を囁いたり、普通にイチャつきあったり、そんでそのままフラグ立ててはいヒロイン一人ゲットって流れをよく見るんだけど?」

 

「いやいや銀さんだって確かにたまには優しくはなりますよ? でも基本的には相手が女だろうがガキだろうが顔面にドロップキックするようなドSの俺様キャラですよ? なんでそんな暴君が

 

『俺が俺でいられる事が出来るのはお前だけだよ、いつも傍にいてくれてありがとよ』

 

とか全身の肌からサブいぼが吹き上がる様なセリフを恥ずかし気も無く吐いてんの? テメェの事だよ、「竿魂」の銀さん、なんなのお前? 合法ロリヒロインと金髪電波ヒロインを掛け持ちとかどんだけ欲張りなの? 殺すよ? 「三年A組銀八先生」の銀さんの次に殺すよ?」

 

軽く舌打ちしながら名指しで”どこぞの坂田銀時”に投げかけると、腕を組んで思いきりしかめっ面を浮かべる。

 

「つまり結論から言うとだな、銀さんってのは本来モテ過ぎちゃいけないキャラなんだよ、ヒロインがいようがくっつくだなんてあり得ないし、甘い言葉も囁かないしイチャイチャしない、そう、特定の人物のモノじゃなくてみんなのモノなんだよ銀さんは、銀さんは誰にもなびかない、いわばアイドルみたいな存在であるべきなんだよ」

 

自分で言った事にうんうんと頷きながら、銀時は一人で納得したように結論を出すと、突然こちらに向かってビシッと指を突きつける。

 

「よって! 銀さんというのは本来誰ともフラグを立たせずに常に侍らしく女なんざ軽く流して己の信念のままに生きるスタンスであるべきこそが真の正しい姿なんだよ! だから当然!!」

 

 

 

 

 

 

「バレンタインデーだからってヘラヘラしながら女の子にチョコなんか貰う真似なんて絶対しねぇんだよ!!」

 

溜めに溜めて喉の奥から雄叫びを上げかの様に銀時がそうキッパリと宣言すると

 

「はぁそうですか、長々と気持ち悪い自分語りするのは結構ですけど」

 

パチッと生徒会室の照明の電源を付けて、カーテンをシャーッと開きながら司波深雪が素っ気なく呟いた。

 

「お望み通り、私はあなたなんかにチョコを上げる様な愚かな真似はしないのでご安心ください」

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

深雪の感情の込められていないその一言に傷付いたかのように、突然銀時は椅子から転げるように落ちて床に両手を突いた。

 

「なんで!? 本来銀魂クロスSSの銀さんは基本的にモテモテなんだろ!? 全ての女は銀さんの嫁になるモンなんだろ!? なのにどうして俺だけ完結しても誰ともフラグ立ってねぇんだよ! ぜってぇおかしいよコレ! 俺だって銀魂クロスSSの銀さんなんだよ!?」

 

「いや知りませんから」

 

「今日はバレンタインデーだぞ! なのに誰からもチョコ貰えないってふざけんなよチクショウ! 今頃は「禁魂」の銀さんや「銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界」の銀さんはチョコ貰いまくってるよ絶対!」

 

「だから知りませんって、あなたの事も余所の作品の事も」

 

ここにはいない別の次元に坂田銀時に対して激しい憤りを感じながら両手を何度も床に叩きつける銀時を哀れんだ目で見下ろしながら深雪はボソッと呟く。

 

「ていうかあなた、もしかしてバレンタインデーで女性からチョコを貰いたいとか思ってたんですか? その天パと性格をもってして女性にモテたいと考えてるとしたら正気を疑うんですけど」

 

「天パは別によくない!? モテる事はこの際どうでもいいんだよ! バレンタインデーで女子からチョコを貰うというのは正に男として地位が上がる勲章モンなんだ! 俺はただ男の勲章と純粋にタダで食えるチョコが欲しい! 愛などいらぬ!」

 

「名言っぽく言ってるみたいですけどそれあなたが言っても単なる負け犬の遠吠えですから」

 

両手を床についたままガバッと顔を上げてこちらに力強く叫ぶ銀時に、深雪は振り向きもせずに冷たく返すと

 

その時、生徒会室のドアがガチャリと開き何者かが恐る恐る入って来た。

 

生徒会ではないが銀時の雄叫びを聞きつけてやってきた深雪の友人、光井ほのかである。

 

「あの、さっきから銀さんの叫び声が廊下に響き渡ってるけどどうし……?」

「チョコ寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ佐伯伽椰子ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

何事かと慎重にドアを開けて中を覗き込んで来た彼女に向かって、ホラー映画の様に凄まじい形相を浮かべながら床を這いずり近づいて来る銀時に悲鳴を上げるほのか。

 

すると生徒会の書類に目を通しながら深雪が冷静な様子で

 

「その人、バレンタインデーで誰からも好かれないせいでチョコ貰えないの気にしてるんですって」

 

「えぇ!? 銀さんそんなの気にする人だったの!? 基本的に周りからどう思われてようが気にしない傍若無人だと思ってたのに!」

 

「欲しいのは好感度じゃねぇ! 男の勲章とチョコだ! 俺が求めるのは男として名を上げる為の地位と甘いモンだけだ!」

 

「ごめん何言ってんのか全くわかんない……」

 

自分の足元で叫び続ける銀時を困惑した様子で見下ろしながら、ほのかは彼を飛び越えて部屋の中へと入って来た。

 

「そういや今日バレンタインデーだったんだ……残念だね深雪、深雪の事だからお兄さんの為ににチョコを用意するとか考えてたんでしょ」

 

「ええ、勿論そのつもりだったんだけど、お兄様は未だ向こうの世界からご帰還出来ないらしいから、マカオ便行きの飛行機はキャンセルしておいたわ」

 

「マカオ!? 原料から作り上げようと思ってたのチョコ!? 愛が重いッ!」

 

不意にほのかの口から出て来たお兄さんという単語に耳をピクリと動かし反応した深雪は

 

酷く残念そうにため息をつきながらさりげなくとんでもない計画を練っていたことを呟いた。

 

敬愛すべき兄である司波達也ともなれば、これぐらい努力するのは至極当たり前だと考えているのだろう。

 

「という事で私にとっては今年のバレンタインデーは普段と変わらない一日なのよ」

 

「そうだね、お兄さんいたらマカオで現地人からチョコの作り方教わってたんだもんね……」

 

「おい俺を無視してガールズトークしてんじゃねぇぞクソガキ共!」

 

「うわ! まだ床に這いつくばってたの銀さん!?」

 

マカオ行きを諦めた深雪にほのかがハハハと力なく笑っていると、床をゴロゴロと転がりながら銀時がこちらに向かって怒鳴りつつスクッと彼女の目の前で立ち上がった。

 

「バレンタインデーが普段と変わらない一日とか抜かしてんじゃねぇぞ! この日は男にとってモテない野郎供を見下して優越感に浸る事の出来る戦争なんだよ! という事で俺にチョコ下さいお願いします!」

 

「え、絶対やだ」

 

「ええ!?」

 

勢いよくこちらに手を差し出してチョコをくれとせがむ銀時に対し、意外にもほのかはそれをバッサリと断る。

 

「だって義理だとしても銀さんにチョコあげたなんて周りに知られたら、学校で変な噂されるし。私の青春である学園生活に余計な火種は作りたくないからごめんなさい」

 

「お、お前結構ド直球で強烈な火の玉ストレートぶん投げて来るなオイ! てっきり押しに弱いタイプだと! 勢いで言えば普通にくれると思ってたんだけど俺!?」

 

「いやホントに、銀さんの事は嫌いじゃないけど異性としては全く見れないし何より私よりずっと年上だし、だからホントにごめん」

 

「なんか俺が告白してフラれたみたいになってんだけど!? ただのツッコミ要因としか思ってなかった奴に結構なダメージ負わされたんだけど俺!?」

 

真顔で銀時からの催促を丁寧にお断りして、異性としては全く意識した事が無いとぶっちゃけてあえなく銀時は玉砕。

 

銀時自身も彼女に対して別に好かれようとは思っていなかったが、いざ言われると結構胸が痛むものである。

 

「っつうかなんでお前しかいないんだよ! いつも一緒にいるむっつり顔の相方はどうしたんだよ! ボケ担当の! アイツなら頼めばワンチャンある筈なのに!」

 

「雫の事? まあ確かにあの子なら噂とか気にしない性格だし頼めば板チョコぐらい銀さんにあげるかもしれないけど……残念だけど雫は今日学校来てないんだ……」

 

「なに?」

 

 

どうやらよくほのかと一緒に行動している筈の北山雫はそもそも学校にさえ来ていない状況らしい。

 

銀時から視線を逸らしながらボソッと呟くほのかに銀時が怪訝な表情を浮かべると、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「なんか正月用にとっといたお餅が、今頃になって大量に残ってたのがわかって全部一日で食べてみたら、それが全部賞味期限が切れてたとかで……」

 

「なにその古典的なギャグ!? それで腹痛めて学校休んでんのかアイツ!?」

 

「うんまあ……大晦日に引いたくじ引きで激凶引いたみたいだったし……それが当たっちゃったのかな、二つの意味で」

 

「上手くねぇんだよ! なんだそのしたり顔! ムカつくんだよ!」 

 

自分で言ってちょっと頬を引きつらせて笑いかけて来るほのかに声高々にツッコミを入れると、頼みの綱が切れたと銀時は頭を両手で押さえて天井を見上げるしかなかった。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁ!! ふざけんなよチクショウ! 俺ってばお前等以外の女とはロクに絡んでねぇんだぞ!  今から他の女子生徒に向かってチョコねだるとか流石に銀さんでも出来ねぇよ!」

 

「渡辺風紀委員長とか生徒会会計の市原さんとかいるじゃないですか」

 

「もうとっくにチョコくれって言ってるよあの二人には! けど片方は彼氏持ちとかでもう片方は「チョコが貰えずに嘆きながらも奮闘するあなたを見ていたい」とか訳わかんない事言われて断られてんだよ!」

 

「前者はわかるとして後者の考え方がやけに怖いんですけど……あ、ていうか」

 

既にちょっとした知り合い程度の相手からもチョコをねだっていたと告白する銀時に対し

 

ほのかはふとある事に気付いた。

 

「私や雫よりもずっと身近にいてチョコくれそうな子がいるよね、銀さんには」

 

「は? 誰?」

 

「いやほら……」

 

彼女の言葉に顔をしかめて首を傾げ、分かってなさそうな銀時

 

するとほのかは、同じ部屋にいながら、すっかり会話する気など微塵も無い様子で椅子に座って生徒会の仕事を片付けているもう一人の少女を指さした。

 

「深雪とか……ってうぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「おかしいわねほのか、なんで先程の会話の流れで私がいきなり出てくるのかしら」

 

ほのかがこちらに顔すら上げない深雪を指さした瞬間、彼女の眉間に鋭く尖ったボールペンが突き刺さる。

 

それはさっきからずっと深雪が使っていたボールペンであり、当然彼女に投擲した犯人は深雪だ。

 

「ほのか、あなたはもっと賢い人だと思ってたのだけれどそれは間違いだったみたいね、私がこの人にチョコを渡す可能性がある? 冗談でも笑えないわ」

 

「いや私も冗談じゃ済まされない状況になってんだけどぉ!? 全然笑えないんだけどぉ!?」

 

眉間に刺さったボールペンを無理矢理両手で引っこ抜いてブシャー!と血を噴出させながらほのかが叫んでいると

 

重い腰を上げて深雪が死んだ魚のような目をしながらつまらなそうな表情でこちらに向かって立ち上がって見せた。

 

「確かに日頃から世話になっている相手とかになら義理チョコをあげるくらいしたと思うけど、こんなガサツで周りに迷惑を掛けてばかりの足の臭い天然パーマなんかに義理なんかかけるつもりは毛頭ないんで」

 

「おい、足の臭い所と天然パーマな所は仕方ねぇだろ、そういう体質と毛質なんだから」

 

「こんな男に情けを掛けるなんて私は死んでもごめんです」

 

「はん、俺だってテメェみたいなブラコン娘なんざに情けなんざ貰いたくねぇよ、チョコならいくらでも貰うけど」

 

「だからあげないって言ってますよね私、さっきからずっと」

 

 

最も相性が悪い相手である自分であろうともはや恥すら捨ててボソッとチョコを欲しがる銀時に、深雪がジト目を向けながら冷たい言葉を浴びせていると、ほのかが血が吹き出た箇所を手で押さえながら二人の間に入って来た。

 

「い、いやだって二人って前の戦いだと結構良いコンビだったんでしょ? それが引き金となって実はもうフラグが立ってるとか……」

 

「本気で言ってるのほのか? お兄様以外の相手に私がそんなモノを立てるとでも? 以前ハッキリと否定したのにまだわかってないの?」

 

「ったくこれだから小娘はダメなんだ、嫌よ嫌よも好きの内とか、喧嘩ばかりしてるけど本当はとか、そういう少女漫画のお約束的な発想をすぐに現実でもあり得るんじゃないかと錯覚しやがる」

 

恐る恐る呟くほのかの一言に過剰に反応し、深雪と銀時は二人揃って顔をしかめて彼女をたしなめる。

 

「言っておくけど俺達はマジで仲が悪いから、もうぶっちゃけ互いに相手の事を死んでくれと強く願っている様な間柄だから」

 

「そういう事です、どうして私がこんな幼稚で下衆な男と……」

 

「いやそうやって二人で仲悪い仲悪いって言ってるけどさ……」

 

自分達がいかに仲悪いかをアピールする銀時と深雪

 

するとほのかは顎に手を当て眉間にしわを寄せながら二人を交互に見つめた後

 

 

 

 

 

「なら銀さんさ、現在進行形で自分と深雪がどんな関係なのか落ち着いて考えてみてよ」

 

「同じ屋根の下で一緒に住みながら互いの産まれたままの姿をはっきりと見ている程度の関係?」

 

「それもう完全にヤバい関係だよね!? フラグ何本かすっ飛ばした上で作られた関係になっちゃってるよね!?」

 

「いや一緒に住んでるのも俺が住む家ねぇから転がり込んでるだけだし、互いの全裸見たのも入れ替わりのせいだから別に卑猥な事は言ってねぇだろ」

 

「そういう細かな説明を省略するから変な言い方に聞こえちゃうんだよ!」

 

かなり誤解を招くその関係の説明に、ほのかは銀時に指を突き付けながら叫んだ。

 

「ていうか気づいてないみたいだからこの際言うけど! 銀さんが周りに深雪とどんな関係なのか聞かれた時に毎度そういう風に答えるせいで! もうこの学校の生徒達の中ですっかり噂されてるんだからね! 「我が学校に舞い降りた完璧な美貌を持つ女神が、あろう事か天パ教師の毒牙にかかって同棲してる」って!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

思いもよらぬ新事実を突きつけるほのかに、銀時ではなく深雪の方が叫んでしまった。

 

確かに学校には一緒に原付で登校する事が度々あるし、なんだかんだで共に行動する事が多かったが、まさかそんな風に見られていたとは考えすらしなかった深雪は激しく取り乱す。

 

「ど、どういう事ですかあなた!? まさか私が最近クラスで浮き始めているのはあなたのせいだったんですか!? 周りにヒソヒソ言われてる様な気はしてましたけど、よりにもよってあなたとそんな淫らな関係になっていると誤解されていたなんて!」

 

「いやいやいや俺は悪くねぇよ、悪いのは人の言い分を変な風に誤解したガキ共だよ。俺はただ正直に事実だけを言っただけだから、そりゃお前と一緒に原付で登校する度にいちいち男子のガキ共からしつこく聞かれるモンだから何度か適当に言った事はあるけども」

 

「100%あなたが悪いんじゃないですか!! どう落とし前つけてくれるんですかコレ!!」

 

非情にマズイ事になった……銀時が適当に他人に自分達の説明をしたせいで学校中でよからぬ噂が広まりつつあるらしい

 

この事態に深雪は目の前にいるこの男を本気でぶっ飛ばしてやりたいと強い衝動に駆られながらも、今はそれどころではないとすぐに理解する。

 

「とにかく今からでも遅くはありません! 今ここでハッキリと私達の噂をもみ消さねば! さもないとお兄様が晴れてこちらに帰還出来たとしても! あなたとの噂のせいでいらぬ誤解を持たれてしまいます!!」

 

「いやお兄様なら大丈夫だろ、たかが噂程度をあっさり信じるような男じゃねぇよ。例えどんなヤベェ事が起きようが動じずに対処する、それがお兄様の良い所なんだよ、きっと軽く笑って流してくれる筈さ、だってお兄様だもの」

 

「なにわかった風にお兄様の事を! あなたにお兄様の何がわかるんですか! いいから一緒に来て下さい!」

 

やれやれと言った感じで司波達也がこれしきの事で動揺するわけないと自信たっぷりの銀時に怒りを燃やしながら

 

彼の腕を引っ張って深雪は生徒会室を後にしようとする。

 

「今から学校中を駆け巡って生徒達に一から説明し直して誤解をとかないと!」

 

「はぁ? たかが噂程度でなんで俺がそんなめんどくせぇ真似しなきゃいけねぇんだよ。やるならお前一人でやれよアホ臭ぇ」

 

「あなたと一緒に説明しないとはっきりと身の潔白を証明出来ないんです!」

 

「ほーん、それじゃあ……」

 

自分がいてくれないと上手く誤解を解ける自信が無いと言う深雪に対し

 

彼女に腕を掴まれながら銀時はもう片方の手をスッと差し出す。

 

「今日俺が最も欲しいモンをくれるんだったら協力してやるよ、ほれ寄越せ」

 

「……」

 

「別にくれなくてもいいんだぜ? その時は一緒にいかねぇけど、俺は噂なんざ全く気にしねぇからな、誰かと違って」

 

「……」

 

こちらに意地の悪い笑みを浮かべながら取引を持ち掛けて来た銀時をしばし無言で見つめた後

 

「くッ!」

「深雪!?」

 

これ以上なく芽生えて来た強い殺意を無理矢理抑え込むかのように生徒会室の壁を思いきり拳で殴る彼女に驚くほのかを尻目に

 

深雪は苛立ちを覚えながらも平静さを装って再び銀時の方へ振り返り

 

「…………帰りの途中にあるコンビニでチロルチョコでも買ってあげます」

 

「正直ゴディバとか食ってみてぇとは思ってたがまあいいだろ、しばらく食ってなかったしたまにはいいかもな、チロル」

 

「義理ですからね……」

 

「わ~ってるよ、結野アナならともかくオメェなんかに本命なんざ貰いたくねぇ」

 

「……それじゃあ行きますよ」

 

「へいへい」

 

自分の腕をこれでもかと強く握りしめて来る深雪に連れられて銀時は共に生徒会室を後にした。

 

そして去り際に一人残されたほのかに軽く手を振って

 

「オメェのおかげで助かったよ、おかげで一個ゲットだ」

 

そう言って笑いかけると銀時はグイッと深雪に引っ張られて行ってしまった。

 

そして残されたほのかは去っていく銀時の背中を見送りながらはぁ~と深いため息

 

 

 

 

 

「あんなんだからモテないんだよなあの人……」

 

光井ほのかは銀時という男をまた二つ理解した。

 

あの男は狡猾でズル賢く、どんな時でも常に手段を選ばず己の目的の為に行動する様な奴だと

 

そして何より

 

当然そんな下衆な男が女性にモテる訳がないのだと、言葉では無く心で理解するのであった。

 

 

 

 

 




『ホワイトデー編 本命&闘争』は3月に投稿します


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ホワイトデー編 献上&略奪

オチに悩んで気が付いたら半年も経ってしまいました、遅れてしまい申し訳ありません……


ホワイトデー

 

バレンタインデーに女性から贈り物を受け取った男性が、三倍返しにして返す日本のイベントの一つ

 

そんな日に万事屋にはある人物達が来訪。

 

いつもなら顔を合わせただけでも大ごとな筈の二人組が、大人しく同じソファに座っているというなんとも奇妙な光景が居間で展開されていた。

 

「なんとか知恵貸してくれぬか、俺達は世界を救う為に共に戦ったいわば同志ではないか、ここは是非とも若者の意見をお聞かせ願いたいのだ」

 

「相手があの万事屋ならこっちからこんな事頼むなんざ死んでもごめんだが、今じゃすっかり将軍の右腕と称される程に出世したテメェになら俺も素直に頼むことが出来る」

 

一人は攘夷志士・桂小太郎、もう一人は真撰組副長・土方十四郎

 

いかなる時でも互いの命を奪わんと争い続けている両者が、神妙な面持ちでただ向かいに座る人物に教えを乞いにやって来たのだ。

 

そう、彼等がここに来た理由、それは……

 

 

 

 

 

「「あのヤバい娘をどうにかして下さい」」

 

「帰ってくれ」

 

軽く頭を下げてすがり付いて来た桂と土方に

 

彼等の向かいのソファに足を組んで静かに座る司波達也は素っ気なく拒否するのであった。

 

「いくら俺にでも出来ない事はある、アンタ等に今取り憑いている存在はもはや人間の手に負えるモノではない、地獄先生に頼むか水木し〇るにでも聞いてもらうんだな」

 

「水木先生はそんな力持ってねぇから! 鬼太郎の方だから!」

 

「というかそもそも真由美殿は悪霊の類ではないぞ! その程度のレベルであればまだマシだ! 真に恐ろしいのは幽霊ではなく生きた人間! そんなホラーでよくある表現を見事に待遇しているのが彼女なのだ!」

 

「どうでもいいなそんな事、いいから早く帰ってくれ、こっちは忙しいんだ」

 

上手くかわして逃げようとする彼にツッコミを入れながら叫ぶ土方と桂であったが

 

やはり達也は全く乗り気ではない様子で無下に手をシッシッと振って、彼等をここから追い払おうとする始末。

 

「俺は今、バレンタインデーに頂き物をくれたそよ姫に何を贈ればいいのか頭を悩ませてる所なんだ、余所の男女の関係なんかに首を突っ込むほど暇じゃないんでな」

 

「それだ! 異国の悪習をこの国が真似してしまった事により生まれたバレンタインデーとかいうモノ! そしてそこから派生してこの国に誕生したホワイトデーなどというはた迷惑な存在! 俺達が悩んでいるのは正にそれなのだ!」

 

達也の言い分に対して自分達もまた同じ悩みを持っていると、テーブルをバンと叩いて桂は彼の方へ身を乗り上げる。

 

「そこで質問だ達也殿! バレンタインデーというのは本来おなごが好いた男にチョコレートを己の気持ちと称して渡すイベントではないのか!? そちらの世界では違うのか!?」

 

「アンタ、異国の悪習呼ばわりしてる割にはちゃんとバレンタインデーの事理解してるんだな、俺達の世界もバレンタインデーは同じだ、俺も去年は深雪から手作りチョコを貰っていた、叔母からは毒入りチョコだった」

 

「ではここで貴殿に問おう! 1カ月前! 真由美殿が俺に差し出したコレはなんだ!」

 

相も変わらず顔色一つ変えずにさっさと帰ってくれないかと心の中で考えている達也に向かって

 

桂はやや怯えた表情で懐から一枚の紙を取り出す、それは……

 

 

 

 

 

 

「どうしてバレンタインデーにチョコではなく婚姻届が俺の枕下に置かれていたのだァァァァァァ!!!!」

 

先程から桂が恐怖に身を震わせている原因は正にこの一枚の紙きれであった。

 

それは正式に役所に提出する為に必要な二人の男女が婚姻を結ぶ為の書類であり、よく見るとキチンと”妻側”の方が記載されている。

 

「こんな重いチョコレートなんぞ食えんぞ俺は! 胃がただれるわ! しかも数日前から真由美殿に執拗に「ホワイトデーのお返し、待ってますからね」とネチネチ言われ続けてるんだぞこっちは!」

 

「その紙切れに自分の名前を書くだけで済む話だろ、3倍返しもしなくて済む簡単なお返しじゃないか」

 

「そんなお手軽に書けるかぁ! 未だ20も超えてない世間も知らぬ小娘が! そんなあっさりと男と夫婦になって良い筈が無い!」

 

あっけらかんとした感じでさっさと「お返し」すれば良いと答える達也に桂は憤慨した様子でテーブルを再び叩く。

 

「日々この国を変えようと血と汗を流して勤しんでいる彼女の人生をなんだと思っているのだ!」

 

「一時のテンションに身を任せて国を変えようとか抜かして、バカな事ばかりしでかすとことん哀れな人生だと思ってる」

 

「そこまで言う!? 貴様に人の心は無いのか!? 同じ学び舎の先輩と後輩であったのだろ!?」

 

「悪いが俺はテロリストに対しては基本的に殺意と悪意、「あ、また来たのか」という面倒な思いしか持たないんだ」

 

ぶっちゃけ達也としては真由美が彼と結婚しようがどうでもいいのだ、彼にとって彼女という存在は既にテロリストに加担する抹殺対象でしかないし

 

そんな彼女がテロ活動以外の事で何してようが一向に構わないし関わりたくも無い。

 

「そもそもどうして会長と籍を作るのを拒む、中身はアレだが見てくれは悪くないだろ、それにアンタとは随分と相性が合うように見えたんだが?」

 

「確かに真由美殿は気心も知れてる上に凄まじく俺と波長が一致しているのも認める、だがいくらなんでも若過ぎる……せめてあと2、30年、いやいっそ4、50年後、そして未亡人であれば俺も前向きに検討出来るのだが……」

 

「そこまでしないと前向きになれないのかアンタ、50年後ってもう完全に婆さんだろ、アンタに関しては下手すれば土の中だぞ」

 

あまりにもマニアック過ぎる桂の性癖に、流石に達也もちょっとドン引きした様子で声に若干変化が見え始めるも、桂はそれに気づかずただひたすら真由美の事について悩み始める。

 

「それに真由美殿の家はかなりの名家であるからな、そんな所に俺の様な素性の知れぬ男が入るというのもいささか気が引けるというか……」

 

「確かに、アレでも魔術の血が濃い高名な一族だからな、『七草』の長女がテロリストの首領と結婚するなんて知ったら一族総出で反対するのは目に見えている」

 

「いや三女の方は味方についてくれるやも知れんぞ? なにせ元の世界で真由美殿の体でいた時に、この俺が一から攘夷の帝王学を叩きこんでおいたからな、次女からは警戒されたが三女はいつでもこっち側に引き込める」

 

「……アンタ向こうの世界でホント何やってたんだ」

 

「攘夷活動だ」

 

「俺の世界で好き勝手な事しないでくれ、ただでさえ今もあの銀髪天然パーマのせいで世紀末と化してる可能性もあるのに」

 

かつて桂は七草真由美として達也の世界で数カ月ほど行動していた事があった。

 

その時も当然彼女の家にいる時間もあったという訳で、その中で色々と面倒の種をばら撒いていたようだ。

 

こうなると深雪の体を使っていた銀時の方も何をやらかしていたかわかったもんじゃないと、頭に手を押さえて達也が項垂れていると

 

そこへ「けっ」と不機嫌そうに吐き捨てるもう一人の来客、土方が

 

「テメェはまだマシじゃねぇか桂、あの小娘とはなんだかんだ上手くやっていけてんだろ? テロリストのクセに今更相手の家柄だとか気にしてんじゃねぇよ、どうなろうが最終的に俺の手で夫婦共々晒し首になるんだからな」

 

「ほう、それは聞き捨てならんぞ鬼の副長」

 

こちらの話を聞いて全く大したことないと言ってのける土方に、桂は眉をひそめて静かに腕を組む。

 

「言っておくが真由美殿をただの小娘と思ってもらっては困る、国の行く末を見据える俺でさえ予測できない行動ばかりする、末恐ろしい魔性のおなごなのだぞ、ぶっちゃけ俺以上に将軍の首を狙っているしな……時々俺でさえも彼女が怖いと思った事もある、夢に見るほどに」

 

「フン、奇怪な行動はどうあれ結局はお前に選択をゆだねている時点でまだ可愛げがあるじゃねぇか、ウチの所の小娘なんかに比べりゃ全然大した事ねぇ」

 

「なんだと! では貴様はあのパツ金娘からバレンタインデーの贈り物に何を貰ったというのだ! 真由美殿の婚姻届に勝てるのか!?」

 

「良いだろう教えてやるよ、後で聞いて後悔するなよ、俺が当日に早朝いきなりアイツに渡されたのはな……」

 

挑発的な物言いに負けじとこちらを指さして反論して来る桂に、上等だと土方は懐からスッと一枚の封筒を取り出した。

 

 

 

 

 

 

「俺とアイツの結婚式の日程とその段取りが書かれたしおり、更には式に参加する連中の名前が記載された書類、おまけに式の後に向かう銀河系3年間の旅のチケットだ」

 

「なんだその超豪華付録セットはァァァァァ! 少女雑誌か!」

 

「いやその例えは男性の読者わからないから」

 

やや目が死んでる様子で高々と掲げる土方の封筒を見て桂は驚きながらドン引きする。

 

細かな手順を一気にすっ飛ばしていきなり結婚式&新婚旅行とは、流石に真由美でもそこまで酷くはない。

 

「というかもうバレンタインデーとか関係ないではないか! 良いのか鬼の副長! このまま式を挙げたら貴様にもう逃げ道はあの世ぐらいしか残ってないぞ! 自決するのであれば遠慮はいらん! 喜んで介錯してやる!」

 

「なにどさくさに紛れて俺殺そうとしてんだコラ!」

 

すかさず腰の刀を抜いてキラリと刃を光らせる桂にツッコミながら、土方は切羽詰まった様子で彼女、リーナが行った用意周到な計略を話始める。

 

「いいかあの女はな、直接俺を攻める事は止めて、上手い具合に俺の周りにいる連中を懐柔し始めやがったんだ、その結果、本来なら小娘のワガママで済む話が、今ではあの松平のとっつぁんまでもがわざわざウチに祝いに来るほど、自然な流れで着々と事が進み始めてんだよ……」

 

「なんという横暴かつしたたな手段だ……将を射んとする者はまず馬を射よという奴か……いやはや最近の娘は死線をくぐり抜いた俺達以上に戦を知っているな……」

 

「このままだと俺は周りに祝福されながら奴と所帯を持つハメになってしまう、かと言ってここで無下に奴の話を断わりでもしたら、祝ってくれた連中は一気に奴の味方となり俺を袋叩きにするだろうよ」

 

「どう足掻いても絶望という訳か……く、どこまで卑劣なのだあの娘は! まるで国家転覆を裏から暗躍するテロリストではないか!」

 

「いやテロリストはお前」

 

既に自分はリーナの手中にあると素直に認め、このままでどちらを選んでも最悪な結末しか迎えられないと嘆く土方に、敵である筈の桂もつい同情してしまう。

 

「確かに貴様の所の娘に比べれば真由美殿の方がまだ可愛げがあるな、少なくとも彼女は俺に結婚はせがみはするものの、そこまで派手に動き回る真似はせん……」

 

「……まあ俺からの話は以上だ、コレで俺がここに来た要件は分かっただろ、2代目万事屋」

 

「やれやれ、そちらで話を済ませてくれると思ったらまた俺の方に回って来たな」

 

話をまとめ終えてタバコを一服しつつ、土方はスッと達也の方へと振り返る。

 

ここに彼が来た理由は、どうすれば彼女との結婚式を有耶無耶にし、いつも通りの日常を取り戻せるのか達也に相談する為であったのだ。

 

「テメェはいつも余裕ぶってて得体の知れねぇ気味の悪いいけすかねぇ優男だが、その実力と手腕は本物だと認めている、なにせ将軍の懐刀とまで言われてるぐらいだからな」

 

「褒めてるのかけなしてるのかどっちなんだそれは?」

 

「報酬はテメェが望む額を出してやる。だからどうにかしてあの小娘から逃げる手段を教えて下さいホントお願いします」

 

「最終的に敬語になる辺り余程必死なんだな」

 

あの鬼の副長とも呼ばれる人物がこちらに頭を下げながら慣れない丁寧語まで使って来るので、違和感を覚えながら達也は静かに首を横に振った。

 

「何度も言っているがこっちもこっちであんた達と同じようにバレンタインデーのお返しで悩んでいる所なんだ、自分の事でも手一杯なのに他人の事に首突っ込む余裕なんて今の俺には無い」

 

「全く最近の若者というのはここまで他人に対する思いやりを失ってしまったのか、いやはや情けない、俺達が若い頃は皆青春に満ち溢れ、困っている者など決して見過ごさぬキラキラした好青年だったというのに、なあ鬼の副長」

 

「その通りだ、人という生き物は本来助け合いを続けた結果、これまでの長い歴史を築くことが出来たんだ、なのに最近の若い連中はそれが全く出来てねぇ、世の中そんなに甘くねぇんだよ、世界ってのはテメー一人だけの世界なんじゃねぇ、みんなの世界なんだ、みんな手を取り合って互いに助け合う事こそ世界が成り立つんだ」

 

「それならまずアンタ等は隣の人と手を取り合って和解したらどうなんだ、警察とテロリスト」

 

こちらがまだ酒も飲めぬ若者だというのをいい事に、年上だというのを鼻にかけてあれこれグチグチと言い出す桂と土方。こういう大人は本当にめんどくさい。

 

「それにしても婚姻届に結婚式の案内状……その程度のレベルでそこまで悩み苦しむなんてみっともないにも程があるぞ、それでも俺達若者の人生の先輩か?」

 

「なにぃ!? おれたちが受け取ったモノがその程度のレベルだと!? 聞き捨てならんぞ達也殿!」

 

「だったらテメェはそよ姫になに貰ったんだよ! あの天然な姫の事だから肩たたき券とかそういう的外れなモン貰っただけだろどうせ!」

 

呆れた様子で呟く達也の言葉にすかさず反応する桂と土方。

 

そんな彼等の言い分に対し達也は表情変えずに「ああ」と短く返事すると

 

「的外れと言えば確かに少々的外れだな、俺が彼女から受け取ったモノは……」

 

 

 

 

 

 

 

「星だ」

「「……え?」」

 

達也の放った言葉に我が耳を疑う二人。しばし思考を停止させ固まってしまっていると、彼は再び話を続け

 

「実は地球の近辺に偶然、地球人に適した環境が残っている星が見つかってな、未だ手付かずの未開の地という事でプレゼントされたんだ」

 

「いやちょっと待たれよ達也殿!? え、どういう事だそれは!? 星ってあの星!? 宇宙に存在する星!?」

 

「天人との最終決戦を終わらせた功績というのもあるらしいんだが、とにかく俺はそよ姫にバレンタインデープレゼントとして惑星一個貰ったんだが、流石にスケールがデカ過ぎて良いお返しが思いつかないんだ」

 

「だからなんでそんな平然と話せるの達也殿!? 星だよ星!? もっと頭抱えて必死に悩んだ方が良いのではないか!? というかいくら一国の姫だからって仮にも一般人に星をチョコ感覚で渡していいモンなのそれ!?」

 

ここに来て衝撃的な事実が発覚、この司波達也という男がさっきからずっと悩んでいたのは、将軍の妹気味であるそよ姫から惑星一つを頂くというとんでもないプレゼントを頂いてしまったかららしい。

 

さっきまでどちらが相手の愛が重いのか競い合っていた事がアホらしくなる……桂と土方は口をあんぐりと開けて言葉を失ってしまう。

 

「マジかよ星一個って……まだの小娘の方が可愛いもんじゃねぇか……まさか地球圏内に収まり切らない程のプレゼントって……ていうかそれはもうプレゼントと呼べるのか? もはや領星献上じゃね?」

 

「重過ぎる……見た目はおしとやかだし純粋無垢なる性格をしているのかと思っていたのだが……そよ姫の愛はこれ程までに重かったとは……」

 

そよ姫の真心こめたギガント級のバレンタインデープレゼントに絶句の表情を浮かべる土方と桂。

 

来れには二人して参ってしまっていると、「仕方ない……」とずっと悩んでいた達也が決心したかのように重い口を開いた。

 

「やはりここはホワイトデーのルールに従い、三倍返しということで三つの惑星をそよ姫にあげる事にするか」

 

「いやいやいやいやいや!? なに言ってるのお前!? バカなの!?」

 

「しかしここ等近辺にはもう誰も住み着いていない星を探すのは非常に難しい、やむを得ない、ここは既に文明が産まれた星々を巡って手頃な所を征服する事にするか」

 

「それもうやってる事が地球を攻めに来た天人達と変わらねぇんだけど!? なんでホワイトデーのお返しの為だけに星三つ征服しようと企んでるのこの子!? それで支配されるその星の奴等の事考えてみたら!?」

 

顎に手を当て思考を巡らせ、気軽に星を3つ制覇しようと計画を練り始める達也に、土方は彼のバカさ加減に戦慄を覚えた。

 

ふざけてる様子では無いしどうやらマジでそよ姫にお返しする為だけに宇宙を相手に大暴れするつもりらしい……

 

面倒な時は力づくで全部ぶっ飛ばすというのが彼のモットーであり、もはや達也は微塵も迷いはなく、その場からスっと立ち上がった。

 

「候補としては少々遠くなってしまうが……キン肉星、ウルトラの星、ポップスターという所があるみたいだから、まずはそこを攻める事にするか」

 

「オイィィィィィィその星三つだけは止めろぉぉぉぉぉ! いくらお前が無敵だからといってその三つは無理があるから!! ウサミン星とこりん星で我慢しとけ!!」

 

早速他の星の侵略を単独でおっ始めようとする達也に、土方が慌てて立ち上がって彼の肩を掴んで引き留めようとする。

 

このままでは彼のおかげで地球の外交関係が崩壊の一途を辿り、第二次攘夷戦争さえ起こり得るやもしれん。

 

どうやって彼を思い止める事が出来るのかと土方は頭を悩ませていると……

 

 

 

 

その時、玄関の方から不意に「ピンポーン」とチャイムの音が鳴り響いた。

 

「ん?」

 

依頼人でも来たのかと達也が居間から玄関の方へ顔を出すと

 

 

 

 

そこには見知った形をした二人のシルエットが、戸の向こう側にハッキリとあった。

 

一緒に覗いていた土方と桂も、その戸の向こう側にいるであろう”とある彼女達”の影をはっきりと認識する。

 

「お、おい、アレってウソだよね? ここに来るわけないよね?」

 

「俺はちゃんと誰にも悟られずにここに来た筈だぞ! 何故バレた!? まさかエリザベスが密告を!」

 

背筋が凍り付く感覚を覚えながら冷や汗を流し始める土方と桂。一体どうしてここにいる事がバレたのか……

 

そんな事を考えている間も、一向にチャイムの音と戸を手で叩く音がおさまらない、しかも徐々に音が大きくなっているのだ。

 

これには数多の敵と戦い生き延びて来た歴戦の強者である土方と桂も表情に恐怖の色を浮かばせ

 

他人事の様子でシレッとしている達也の方へ振り返り

 

 

 

 

「「急いでキンニク星に逃げよう!!」」

 

「いやついて来ないでくれ」

 

彼女達から逃げる為に星外逃亡を閃く二人であったが、無情にも達也はそれをあっさりと拒否するのであった。

 

それと同時に

 

玄関から勢いよく戸が乱暴に破壊される音が鳴り響いた。

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

 

 

 

その後彼等がどうなったのかは想像にお任せする。

 

一方、達也はというと……

 

 

 

 

 

「どうだ、そよ姫、茂茂、自国から離れて一人の観光客として別の星を旅行するのは」

 

「はい、とても楽しいです、兄上様とニュー兄上様、キンニク星はいい所ですねー」

 

「うむ、妹が楽しければ余も満足だ、将軍という立場を捨てて、異星の地を見ずらかの足で歩む事はなんと新鮮か」

 

よくよく考えれば、星を征服するよりも、ただ彼女の望みを叶えてあげた方が喜ばれるだろうと思い直し

 

達也はそよ姫に、立場上、あまり一緒にいられる時間を作れなかった実兄である茂茂を誘い

 

三人での宇宙観光旅行をしばらく満喫するのであった。

 

地球では、彼等の住む国ではちょっとした騒動が二つほど起こっている事に気にも留めずに……

 

 

 

 

 

 

 

 



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