オーバーロード  錬鉄の造物主 (shimito18)
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第1話

そこは何処か埃臭く、決して綺麗と言えるような部屋ではない。部屋の片隅には高温で鉱物を溶かすための炉や様々な工具があり、様々な鉱物が収納されている収納箱(ボックス)がある。そしてそれらをチェックしているのは純白の翼と漆黒の翼を計8枚ずつ生えている一人の美女だった。

 

「え~っとこれで全部かな?」

 

美女はそう呟くと、椅子に腰を落としスクロールを閉じた。

 

「12年続いたけどやっぱりもう無理か~……楽しかったな~ユグドラシル…」

 

ユグドラシル。2126年に発売された「Dive・Massively・Multiplayet・Online・Role・Playing・Game」

その異常なほど高い自由度がプレイヤーを魅了した。ゆうに2000を超える職業(クラス)、別売りのツールを使用することで武器や防具の外見や内包するデータ、自らの外装、保有する住居の詳細な設定などを変化できる外装(ビジュアル)、そしてプレイヤーを待ち構えているのは、9つある広大な世界のマップ。

そうしたことから、日本国内においてDMMO-RPGと言えばユグドラシルを指すほどの評価を得るまでになった。

 

 

 

―――しかし、それも一昔前の事である。

 

 

 

この美女けしてモンスターではなくきちんとしたプレイヤーである。

熾天堕天使の造物主(オーキンフィールクリエーター)―――物質を創造するのに特化した熾天使が、堕天し造物主と呼ばれるまでに創造を極めた姿。

 

 

 

美女は部屋から出ると、扉の両隣には仁王像と思わせる二体のゴーレムが門番をしている。

 

「もうここも今日で見納めなんだよね………そうだ、どうせ今日で最後だしあそこにも行っておかなくちゃ!」

 

そう言って部屋を出ると美女はすぐに転移した。転移先は第六階層だ。

第六階層に転移すると、この階層の特徴の一つでもある闘技場に2人のダークエルフの双子の姉弟が居た。

片方の名は、「アウラ・ベラ・フィオーラ」双子の姉に当たりこの階層を守護する一人である。もう片方の名は「マーレ・ベロ・フィオーレ」見た目はスカートを穿き、どう見ても女の子であるが双子の弟に当たり、所謂男の娘である。彼もこの階層を守護する一人であり、二人でこの第六階層を守護している。

 

「アウラちゃんもマーレちゃんもいつ見ても可愛いけど、マーレちゃんは男の子だし可愛いって言われるのもあんまり好きじゃないだろうから、ここはこのエミーお姉さんがマーレちゃんを一人前の女の子にしてあげよう。この別売りツールを使ってね!」

 

エミーはツールを取り出すと、スクロールのキャラ説明爛に書いてある「男の娘」を「女の子」に変更すると、とても満足気な表情を浮かべた。

 

「よ~し!余は満足満足っと。さてやることもないしモモっちは何処かな~?」

 

エミーはそう言いながらスクロールを開くと、第十階層の玉座の間に「モモンガ」という名前があった。

「モモンガ」それはギルドアインズ・ウール・ゴウンが拠点とする、このナザリック地下大墳墓のギルドマスターである。

アインズ・ウール・ゴウン。かつて、最盛期にはギルドランキング第9位を記録したトップギルドの一つである。そのギルドに参加するには2つの約束事がある。1つは社会人であること、もう1つはプレイヤーキャラが異形種であること。

 

 

エミーは玉座の間に転移すると、丁度モモンガが座っている玉座の真後ろに出た。

 

「なーにやってるのモモっち?」

「うわっ‼エミーさんいつの間に後ろに!?」

 

モモンガはエミーの存在に気づくと、表情は変わらないが顔の横からは驚きを表すアイコンが現れた。

 

「何時ってついさっきだよ~ところで本当に何やってたの?」

「いや~…やる事も無さそうだったので何となくここまで来たのでついでにアルべドの設定でも再確認でもしておこうかな~って」

 

そう言ってモモンガは手元のスクロールを指差した。

モモンガの目の前には、黒い翼と純白のドレスに身を包む美女。彼女こそがナザリック地下大墳墓階層守護者統括、小悪魔(インプ)のアルベド。全部で7人いる階層守護者をまとめ上げるNPCである。

 

「ふ~ん、ところでその一行だけ変に空いてる場所に何か書き加えるの?」

「ええ、アルべドはギャップ萌えのタブラさんが作ったのは知ってますよね?それでラストにビッチ属性と書かれていたのですが、あまりにも酷いと思って変更しようと思ったのですが、何にしようか今考えていたところで…エミーさん何か良い案有りませんか?」

 

モモンガはそう言うとエミーは手を顎つけ考えていた。

 

「う~んそうだね~、無難にモモンガを愛している……いいや、ここは私もいれてモモンガとエミーを愛している設定なんてどうよ!」

「どうよって、何ですかその小学生みたいな設定は」

「いいじゃない、モモっちだって私が居なかったら絶対やってたって。あ~、でももしこれがリアルだったらゲーム内では発言出来ない事をやるのにな~……」

「はぁ~このビッチは……」

「聞こえてるからね童貞髑髏」

 

二人の間に火花が一瞬見えたがそれもすぐになくなった。

モモンガは軽く片手で上から下動かした。

 

「ひれ伏せ」

 

するとアルべドに背バスと呼ばれる執事姿のNPC、そして戦闘メイド「プレアデス」と呼ばれる6人のメイドたちが一斉に片膝を落とし、臣下の礼を取った。

 

「23:55、ギリギリ間に合ったってところね……」

 

恐らく今頃ひっきりなしにゲームマスターの呼びかけがあったり、花火が打ち上げられたりしているのだろう。そういった全てを遮断している2人には分からないが。

モモンガは玉座に背を任せ、エミーは玉座の隣に凭れ掛かる様に座り込み、ゆっくりと天井を見上げた。

2人は待っていた。最終日だからこそ乗り込んでくるパーティーがあるのではないかと。

待っていた。かつての仲間たち全員にメールを送った。来てくれた仲間たちを歓迎するために。

 

「過去の遺物か……」

「………………………」

 

目を動かし、天井から垂れている大きな旗を数える。合計41。ギルドメンバーの数と同じであり、それぞれのサインである。2人はそれぞれの旗に指を向けた。

 

「俺」

「私」

「たっち・みー」

死獣天朱雀(しじゅうてんすざく)

(あん)ころもっちもち」

 

よどみなく、2人はサインの持ち主であるギルドメンバーの名前を交互に挙げていった。

39人の名前を挙げるのにさほど時間はかからなかった。

今なお、2人の脳裏にはしっかりと焼き付いている。その友人たちの名前を、友人たちとの思い出を。

 

「楽しかったですね」

「そうね。本当に楽しかったわね」

「今まで本当にありがとうございました。エミーさん」

 

モモンガは玉座から立ち上がると手を差し出してきた。

 

「ええこちらこそありがとう。もしどこかで会えることがあったらまたよろしくね、モモっち」

 

2人が握手を交わす頃にはサーバー停止まで1分を切っていた。

 

23:59:35,36,37……

 

2人もそれに合わせ数えだす。

 

23:59:48,49,50……

 

2人は目を閉じる。

 

23:59:58,59―――――

 

時計と共に流れる時を数える。幻想の終わりを――

ブラックアウトし――

 

0:0:00……1,2,3

 

なかった。

2人は目を開けると、いつもの部屋ではなくユグドラシル内の玉座の間だった。

 

「どういうことだ?」

「私に聞かないでよ。でも0時は過ぎてるから、サーバーダウンが延期になったとか……?」

「………取り敢えずいろいろやってみましょう」

 

二人はまずは通話回線をONにするため手を動かすが、手が止まった。

コンソールが浮かび上がらない。

二人は慌てつつも冷静に他の機能を呼び出そうとする。コンソールを使わないシステムの強制アクセス、チャット機能、GMコール、強制終了。

どれも一切の感触がない。まるで完全にシステムから除外されたようだ。

 

「どういうことだ!」

「どういうことよ!」

 

2人の憤怒と困惑の声が玉座の間に響き、消えていく。

2人を襲ったのは栄光を綺麗に締めくくれなかったことへの苛立ちと、全ての締めとなる最終日にユーザーを馬鹿にしているのかという思いだった。そんな八つ当たり気味の声に、本来ならば反応が帰ってくるはずもない。

 

だが――――

 

「どうかなさいましたか?モモンガ様?エミー様?」

 

 

初めて聞く女性の綺麗な声。

2人は呆気に取られ声の発生源を探る。そして誰の発した声なのか理解した時、唖然とした。

それは顔を挙げたNPC――――――アルべドだった。




とてもゆっくりですが、少しずつ投稿しようと思います。
感想、お気に入り登録、評価などお待ちしております
これからよろしくお願いします


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第2話

遅くなりすみませんでした!
一応この作品はこんな感じで遅いのでそれでもいいというかたはこれからもどうぞよろしく



少し短め


「何か問題がございましたか?モモンガ様?エミー様?」

 

アルべドは問いを繰り返した。あまりにも多くの不可避な事態の連続に、2人は思考回路が何処かでショートしていた。

 

「何かございましたか?」

 

覗き込むようにその美しい顔をモモンガとエミーに向けるアルべド。

 

「………ん?モモっちユグドラシルは何時から匂いが実装されたっけ?」

「え?」

 

2人の鼻腔に、控えめだが甘い芳しい香りがくすぐった。その香りとエミーの言葉でモモンガのショートした思考回路が修復され、どこかに飛んでいた思考がゆっくりと戻ってくる。

 

「え、あ…いや…何でもないで……いや、何でもない」

 

モモンガは例えばマネキンに敬語で語りかけるほどの、ある種の純粋さは持ち合わせていないが、そのNPCであるはずのアルべドの人間らしさに戸惑いを隠せなかった。

そんなモモンガを呆れてか、エミーは軽くため息をつくと何かを閃いたのか口元を軽く舌なめずりし、アルべドへ向かって行った。

 

「どうかしましたか、エミーさん?」

「ねえモモっち、もしかしたら私たち今とても面白いことが起こっているかもしれないわ」

 

そう言うとエミーはアルべドの前に立った。アルべドは不思議そうに、だが心配そうにエミーに視線を向けた。

 

「今日も綺麗ねアルべド……今すぐに食べちゃいたいくらい綺麗だわ……」

 

エミーは先ほどまでと打って変わって、淫靡な雰囲気を醸し出す声色でアルべドに話しかけると、掌で撫でるようにそっとアルべドの豊満な胸を触った。すると、アルべドは「くっふ~……」と声を押し殺したかのように上げた。だがハアハアと興奮を隠し切れないでいた。

 

「エ、エミー様、もしや私はここで初めてを迎えられるのですね!服はどうしましょうか?」

 

アルべドは顔を赤くし、周りの者の事も忘れ完全に興奮しきっていた。だが、エミーはニヤリと笑うとアルべドの胸からそっと手を離した。

 

「期待させる様な事をしてごめんなさいアルべド。残念だけど、その役割はモモっちにあげるわ。でもありがとう、これで確証が持てたわ」

 

そう言うとエミーはモモンガの前に立ち、セバスとプレアデスに指示を出した。

 

「今、我らが統率者モモンガはこれからの事を思考しているため、今はこの私ナザリック地下大墳墓副統率者エミーが指示を出す。セバス、貴方はプレアデスのそうね…ナーベラル・ガンマを連れ地上に行きここから半径1km以内の偵察を、もし近隣に知的生命体が居るようならば、私やモモンガと同等のもしくはそれ以上の存在と思い、ここへ案内しなさい。もし、敵対行動をとる様であれば最悪の事態を想定しつつ、即座に撤退しなさい。その場合には貴方たちの命を何をおいても最優先事項とし、ナザリックへ帰還すること。そして、ナーベラル以外のプレアデスたちは、九階層へと上り八階層から侵入者が来ないか警戒に当たりなさい。最後にアルべドはここに残りモモンガのサポートに当たりなさい」

 

「承知しました、エミー様」

 

エミーの指示を聞いたセバス、プレアデスは玉座の間から退出していった。それを見送ったエミーは壇上からゆっくりと降りていった。

 

「エミーさん、私の代わりにすまないな」

 

モモンガは状況がある程度理解できたらしく、先ほどまでの喋り方を変えどこか威厳ある声で喋り始めた。

 

「別に気にしなくても良いわよモモっち、それじゃあ悪いけど後のことは任せるから」

「エミーさんはこれからどうなさるので?」

「ちょっとこの身体に異常がないか身体検査をね!」

 

そう言ってエミーは玉座の間から転移し出ていった。

 

「モモンガ様、エミー様は何処か御体に不具合でもあるのでしょうか?」

「さあな。私にも彼女の行動が理解出来ない事もあるからな」

(何をしに行ったかは、まあ何となく分かるけど言わぬが仏ってことなのかな)

 

モモンガはアルべドと二人っきりになった玉座の間を見渡しながら、現在の状況を整理することにした。

先ほどのエミーとアルべドのやり取りやセバスたちの行動を見て、モモンガが立てた仮説は2つ。

1つは新しいDMMORPGの可能性。つまりユグドラシルのサービス終了後、全く別のDMMORPGがサービス開始したという説だ。だが、この説は可能性としては薄いだろう。なぜならば先ほどまでのエミーとアルべドのやり取り、あのような行為は18禁に抵触するからだ。もちろん、これがジャンルがR指定ものになったのであれば話は別かもしれないが、これは基本的に全年齢対象。つまり中高生の未成年者たちも当然のごとく居るわけだ。その様な状況で、いきなり対象年齢の引き上げなんて制作会社に苦情殺到は容易に考えられる。というか基本的に法律でそういう行為を禁止している。

それに、今モモンガ達はゲームからログアウト出来ないでいる。つまりこれはゲーム内ではあるが監禁状態。立派な犯罪である。モモンガやエミー以外のプレイヤーたちも含めれば数時間以内にバレることだろう。そんなすぐにバレる様なことを組織ぐるみで犯すだろうか?確か今から約100年ほど前にナーブギアと言う機種で、似た様な事件を起こしてからはダイブ型VRゲームは審査の規制も年々厳しくなっているという。なので、この仮説は無しだと考えていいだろう。

 

では、もう一つの仮説に切り替えてみることにしよう。

 

それは、仮想現実が現実になった可能性。

ありえない。

モモンガは即座に否定した。そんな理不尽なことがあるわけがない。通常はそんなことがありえるのはアニメやゲーム、漫画やラノベの様なフィクションくらいだ。だが、時間が経てば経つほどこの考えが正しいのではないかと思えてしまう。モモンガは先ほどのアルべドの匂いが、それを確信をもたせる。

ユグドラシルだけでなく全てのVR型DMMORPGでは味覚、嗅覚は削除されている。だがもしそれが実装されたとすれば、通常のデータ容量ではもちろんあり得ない。もともと電脳法でそれらは禁止されており、ユグドラシルには飲食システムがあるがそれはシステム的に消費されるだけでしかない。触覚も制限されており、それは現実(リアル)と混同しないようにとのことだ。

エミーが去ってから幾らか時間が経った。考えれば考えるほど、頭では理解できないが心で理解できてしまった。今は両方の可能性を考え、特に後者を主とし行動しようと決意したモモンガだった。

 

「この後はどうなさいますかモモンガ様?なんなりとお命じください」

 

アルべドは優しく微笑みながらモモンガにこの後の行動について尋ねた。

 

「うむ、アルべドよ各階層守護者に連絡を取れ。第六階層闘技場まで来るように伝えよ。時間は今から一時間後。アウラとマーレには私から伝える」

「畏まりました。復唱いたします。各階層守護者二人を除き、各階層守護者に今より一時間後に第六階層闘技場まで来るように伝えます」

「よし、行け」

「はっ」

 

すこし早足でアルべドは玉座の間を後にした。

その後ろ姿を見ながらモモンガは溜め息一つ漏らした。モモンガはタブラが作ったNPCアルべドの設定を、弄ってしまったことを後悔していた。だが、確かめなければならない事が多く後悔している暇がなかった。

伝言(メッセージ)

それは文字通りプレイヤーがプレイヤーもしくは緊急時にGMに連絡を取るための手段である。

モモンガはまずGMに〈伝言〉を送ってみるが繋がることはなく切れてしまった。次にギルドアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーにかけてみるが、当然のごとく繋がることはなかった。

最後にモモンガはセバスに〈伝言〉を飛ばす。

―――繋がる。

これで〈伝言〉が働くという残念な結果が明らかになった。

 

『これはモモンガ様』

 

頭に響くような声が聞こえる。モモンガは向こうでセバスが現実社会のように、頭を下げているのだろうなどと考える。

 

『……どうかなさいましたか?』

「い、いや何でもない。セバスよ、今から一時間後に第六階層闘技場に集まることになっている。出来うる限りの索敵が出来次第、第六階層まで戻りお前が見たものを皆に伝えよ」

『畏まりました』

 

了解の意を聞くと、モモンガは〈伝言〉を解除した。

エミーにこれからの事を伝えるため〈伝言〉を使用したのだが、

 

『ア、うん…どうか、したの、モモっち?い、っま、取り込み、ちゅうなんだけどっ…!』

 

エミーは喘ぎ声を上げながらモモンガの〈伝言〉に応えた。モモンガはその声を聞いて焦るよりも、予想通り過ぎて呆れていた。

 

「あー……エミーさん?今から一時間後に第六階層闘技場に集まることになっているので、遅れず来てくださいね」

『りょ、りょうか~い…んんんん‼』

 

モモンガは早々に〈伝言〉を解除すると、モモンガはリング・オブ・アインズウールゴウンの力で第六階層に転移した。




次回の投稿日時不明

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第3話

 はい、皆さんお久しぶりです。shimito18です、今回は長期にわたりお待たせして申し訳ございません。

 まあ言い訳としては、今までpixivにてオリジナル作品を書いておりましてそちらに掛かりっきり成ったり、リアルでは部署移動や現場移動があり新しく覚えることが多くててんやわんや!といった感じです。

 まあ、心境的に基本的に私の責任だ。だが私は謝らない。

 といった某所長みたいな感じですね。それでは本編をどうぞ


モモンガが第六階層に着くと最初に驚いたことがあった。

それはもちろんマーレの事である。マーレはもともと女の子の格好をし、いつもオドオドとした感じがあったため初見さんは大抵女の子と勘違いするのだが、実は男、少年だった(・・・)のだ。

だった(・・・)。つまり、今現在は男ではないのだ。今現在モモンガ達が陥っている現状になる前エミーがマーレを男から女へと設定を変更したのだった。それを知らないモモンガは、マーレの姉、アウラの言葉に「私の妹なら……」と言う発言があったためこの事について知ることが出来たのだ。

他の守護者達が集まるまで時間があるため、己の力が使えるのかどうか確かめるため、スタッフの力を双子で確かめることにした。モモンガはスタッフの力で呼び出した火の元素精霊(エレメンタル)の中で限りなく最上位に近い存在と呼ばれているモンスターを召喚した。色々とスタッフの力を振るった。しばらくすると、「戦ってみるか?」とモモンガは双子に提案するとアウラは目を輝かせ、マーレは怯えてその場を去ろうとするがアウラに止められ戦闘に参加することになった。

 

「プライマル・ファイヤーエレメンタル、双子を倒せ。ただし倒れたらそこで終わりだ。帰還せよ」

 

炎の巨人は巨大な拳のような炎の塊を作り出し、炎が下生えを燃やしながら進むような速度でアウラに近づきだす。アウラは両手に鞭を取り出し、それを迎撃せんと待ち構える――。

 

 アウラが戦闘を開始するのを横目に、モモンガは物思いにふけっていた。

 

 

 これからどうするか、である。

 問題は少々調子に乗って魔法を使いすぎたことだ。まだまだMPに余裕はあるが、それでも何が起こるかわからない以上、温存する必要がある。できれば回復させたいところだが……。

 

「さてどうするか……」

 

 モモンガのさびしげな独り言が空中に散っていた。

 

「そろそろ皆来そうですよね」

 

 濡れたタオルで顔の汗を拭いながらアウラが話しかけてくる。

 プライマル・ファイヤーエレメンタルとの戦闘結果はアウラの勝利。桁外れの破壊力と耐久力を持つプライマル・ファイヤーエレメンタルだったが、周囲にいるだけでも受ける炎ダメージを完全に無効にし、見事な回避を披露したアウラの前では巨大なマトだったようだ。

 逆に一撃でも当たれば、アウラの体力のかなりを奪っただろうが、複数の防御魔法を発動していたのが上手く働いていた。魔法職のモモンガから評価しても見事な立ち回りだった。

 アインズは手元のバンドに目を落とすと、アルベルトに指示した時間にはまだ余裕があり近くの階段に腰を下ろした。そして、それと同時に黒い楕円形の"何か"が現れた。

 

 「――おや、わたしが一番でありんすか?」

 

 言葉遣いとは裏腹に、とても若い声がその場に響いた。

 "何か"から出てきたのは、まだ10代と言っても疑いようのない少女だった。その少女は全身を柔らかそうな漆黒のボールガウンを纏い、スカート部分は大きく膨らみ、かなりのボリューム感を出している。スカート丈はかなり長く、完全に足を隠してしまっている。フリルとリボンの付いたボレロカーディガンを羽織ることによって、胸元や肩はまるで露出していない。さらにはフィンガーレスグローブをつけていることによって、殆どの体を隠してしまっている。に出ているのは一級の芸術ですら彼女を前にしたのなら恥じるほどの端正な顔ぐらいものだ。白い肌――健康的というのではない白蝋じみた白さ。長い銀色の髪を片方で結び、持ち上げてから流している。

 そんな彼女の名前はシャルティア・ブラッドフォールン。ナザリック大地下墳墓第1階層から第3階層までの守護者であり、全アンデッドの支配者たるトゥルーヴァンパイアだ。

 シャルティアはモモンガを視界に入れると、手に持っていた意味があるのか分からない漆黒の日傘を、放り投げ掛けよるとそのまま抱き着いた。

 

 「ああ、我が君。わたしが唯一支配できぬ愛しの君モモンガ様…」

 

 シャルティアはうっとりとした瞳で、モモンガを見つめて左右の腕は首に回し抱き着いた。さながらこのワンシーンだけを見るならば、遠距離恋愛を行っているカップルの久しぶりの再会と言ったところだろうか。

 

 「ちょっとシャルティア、いい加減にしたら?!」

 「おや、チビ助居たでありんすか?お主も大変でありんすなマーレ、この頭の可笑しい姉を持って」

 「……偽乳」

 

 アウラがぼそっとシャルティアに聞こえるよう呟くと「うぐ!」と奇妙な声を出した。

 

 「図星でしょ〜、何枚も盛り過ぎてて走ってくると胸がどっかに行っちゃうから」

 「…な…なんで知ってるのよー!」

 

 あ、キャラ崩壊した。

 モモンガは誰にも聞こえないように呟いた。

 

 「一目瞭然でしょー、そんな変な盛り方してかつ胸が何処かに行かないように走れないから、〈転移門(ゲート)〉を使って来たんでしょ!それ何枚重ねてるの?」

 「うわー! うわー!」

 

 発せられた言葉をかき消そうとしているのか、ばたばたと手を振るシャルティア。そこにあるのは年相応の表情だ。先ほどまでの異様な雰囲気は一気に消え去った。

 

「あんたなんか無いじゃん。私は少し……結構あるもの!」

 

 シャルティアは何とか意地を張ろうもする。だがその瞬間、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべるアウラに押され、一歩後退するシャルティア。さりげなく胸をかばっている。

 

「……あたしはまだ76歳。いまだ来てない時間があるの。それに対してアンデッドって未来が無いから大変よねー。成長しないもん」

 

 シャルティアはぐっと呻き、さらに後退する。言い返せない。それが表情に思いっきり出ていた。アウラはそれを確認し、亀裂のような笑みをさらに吊り上げた。

 

 「今あるもので満足したら――ぷっ」

 「おんどりゃー! 吐いた唾は飲めんぞー!」

 

 モモンガにはカーン!という金属音の様な音が聞こえた気がした。

 シャルティアのグローブに包まれた手に黒い靄のようなものが揺らめきながら滲み出す。アウラは迎えうたんと先ほど使用していた鞭を手に持つ。その光景は何処か懐かしく流石は姉弟が創ったNPCだとモモンガには思えたが、流石にそろそろと呆れかえりながらも、両者を止めようと息を吸い込んだところで――

 

 「サワガシイナ」

 

 人間以外が無理やり人の声を出している、そんな歪んだ硬質な声が2人の諍いを断ち切った。

 声の飛んできた方、そこには何時からいたのか、冷気を周囲に放つ異形が立っていた。2.5メートルほどの巨体は二足歩行の昆虫を思わせる。悪魔が歪めきった蟷螂と蟻の融合体がいたとしたらこんな感じだろうか。身長の倍以上はあるたくましい尾には鋭いスパイクが無数に飛び出している。力強い下顎は人の腕すらも簡単に断ち切れるだろう。2本の腕で白銀のハルバードを持ち、残りの腕でどす黒いオーラを撒き散らすおぞましいメイスとブロードソードを保持している。白銀に輝く硬質そうな外骨格には冷気が纏わり付き、ダイアモンドダストのようなきらめきが無数に起こっていた。

 

 ナザリック大地下墳墓第5階層の守護者であり、凍河の支配者――コキュートス。

 

 ハルバードの刀身を地面に叩きつけると、その周辺の大地がゆっくり凍り付いていく。

 

 「御方ノ前デ遊ビスギダ……」

 「……この小娘がわたしに無礼を働いた――」 

 「事実を――」

 

 2人は再び凄まじい眼光でにらみ合う。

 

 「2人ともそろそろお遊びは終わりだ」

 

 モモンガはなるべく威厳がある様に2人に喧嘩をやめるよう促すと、びくりと、2人の体が跳ね上がり、同時に頭をたれるた。

 

 「「申し訳ありません」」

 「ああ」

 

 モモンガは鷹揚に頷くと、コキュートスへと向き直る。

 

 「良く来たな、コキュートス」

 「オ呼ビトアラバ即座ニ、御方」

 

 その後、一言二言モモンガとコキュートスがたわいのない会話をしていると、

 

 「遅れてしまい申し訳ありません」

 

 そこに現れたのは紛れもない悪魔だった。

 身長は2メートルほどもあり、肌は光沢のある赤。刈り揃えられた漆黒の髪は濡れたような輝きを持っていた。赤い瞳は理知的に輝き、無数の邪悪な陰謀を組み立てているのが手に取るように分かった。

 こめかみの辺りから鋭い、ヤギを思わせる角が頭頂部に向けて伸びており、背中から生えた漆黒の巨大な翼が彼の何よりもの象徴だ。

 鋭くとがった爪のはえた手で一本の王錫を握り、真紅の豪華なローブにそのしなやかな身を包む姿はどこかの王を彷彿とさせる威厳に満ちていた。

 周囲に揺らめくような浅黒い炎を撒き散らすその悪魔こそ、デミウルゴス。

 ナザリック大地下墳墓第7階層の守護者であり、防衛時におけるNPC指揮官という設定である。

 

 「さてこれで皆揃ったかな?」

 「相変わらずひどいわね、まだボケが始まる年齢でもないでしょモモンガ?」

 

 そう言って現れたのは、肌をツヤツヤとさせ胸元を見せながらゆっさゆっさとアルベドより大きな胸を上下に揺らし、首元には2体の(アギト)が赤く光る小さな宝石を加えたネックレスをつけ、黒色(こくしょく)でロングのドレスに身を包み、背中には純白の翼と漆黒の翼を計8枚ずつ生えている一人の美女エミーだ。

 エミーはモモンガの隣に並ぶと、その目の前にアルベドを中心に階層守護者達が横に並んでいた。

 

 「それでは皆、至高の御方々に忠誠の儀を」

 

 アルベドの号令に守護者達は片膝を地につけ、自らの忠誠を示した。エミーはニコニコしながら立ちながら守護者達を見下ろしていると、横から何か異様な気配を感じ目だけを隣へ向けるとモモンガが無意識に「絶望のオーラⅠ」を放っており、エミーは内心「やれやれだぜ」と言いながら帽子を深くかぶりたい気分になったが、そこは社会人渾身の笑顔を保っていた。

 

 そして、セバスが戻ると今このナザリック地下大墳墓は毒すら発生する沼地にあったはずが、ただ広い草原に建っていることこれからの方針を話し合う、というより基本的にモモンガが提案し命じた。エミーは少しうつむくと別に難聴系主人公でもないモモンガにも、全く聞き取れないスピードと声でぶつぶつ何かを言っていた。そうしてこれからの方針が多少決まると、エミーは小さく手を挙げた。

 

 「少し構わないかしら?モモンガ、貴方と少しだけ話がしたいのでけどいいかしら?」

 「え、…ええ分かりました」

 「皆は申し訳ないけど、ここで私たちが戻るまでここで待っていてはもらえないかしら?楽な姿勢を取って構わないから」

 「畏まりました。エミー様」

 

 アルベドが深く頭を下げると、エミーとモモンガはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンにて転移した。とは言ってもすぐ近くの通路だ。

 

「何なんですかいきなり!」

 

 モモンガは怒っていた。それも当然だ、少し前まで一人で仕事をしているだけでなくこの緊急時に何をしていたような相手だ。そんな相手が勝手な行動をとったら誰だって激怒するに決まっている。するとモモンガの身体が淡く光ると怒りが一気に引いて行った。

 

 「やっぱりモモっちも強制的に精神が落ち着くみたいね」

 「まさか、そんな事を確認するためにこんな事を?」

 

 モモンガは先ほどでもないが、多少怒りをあらわにしながらなるべく静かに聞くとエミーは「まさか」と言いながら首を横に振った。

 

 「時間が無いから単刀直入に言うけど、彼女たちについて相談があるの」




 はい、今回はここまで。次回は……来月中に投稿できたらいいな~と思っています。

 あ、一つ言い忘れていましたが私のTwitterで現在エミーのイラストを募集しています。興味がある方は良かったら、下記のアカウントまで!
 そこ!露骨なコメ稼ぎしようとしてるとか言わない!
 それでは皆さん次回までお元気で!

感想、お気に入り登録、評価等々お待ちしております。




@A12Oshi


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第4話

 「時間が無いから単刀直入に言うけど、彼女たちについて相談があるの」

 「彼女たちとはアルベドたち階層守護者について、という事ですか?」

 「いいえ違うわ。そうね、言い方が悪かったわね。このギルドアインズ・ウール・ゴウンに、ナザリック地下大墳墓に住まう元NPC達についてよ。これでもしモモっちと意見の対立があったら、私はこのギルドから脱退させてもらうわ」

 

 エミーのその眼は今までのふざけていた態度とは全く違い、このギルドアインズ・ウール・ゴウンが結成されてから5本の指に入るくらいの付き合いの長さを持つモモンガが、ここまで真剣なのは初めてと言ってもよくモモンガも落ち着いてエミーの話を聞くことにした。

 

 「それで、その話とは一体何ですか?」

 「彼女たちに私たちの事について話そうと思うの」

 「……!」

 

 モモンガはエミーの話に驚きを隠せず絶句した。当然だ、自分たちの事について話すという事は自分たちが元は人間であるという事を教えるという事だ。アルベドだけではなくこのナザリック地下大墳墓に住まう(しもべ)たちが、人間の事をどう思っているのか分からないが少なくともモモンガもエミーも人間の事を、数時間前より良い印象を抱いては居ない。彼らですらこんななのに、根っからの異形種であるアルベドたちが人間にどの様な感情を抱いているかなど予想するのは容易なことだ。それでもモモンガは「なぜですか?」と聞いた。

 

 「彼女たちが人間にどんな印象を抱いているか、そんな事は最初から分かっているわ。…ここに来るまで数人のメイドに会ったの。名前すら憶えていないわ、そんな相手に私は聞いたの「私のことをどう思ってる?」って命令で本心を言うようにっとまで言ったわ。そしたら彼女たちはこう言ったわ「エミー様はこの世で一番美しく、私達を見捨てなかった慈悲深く聡明で尊敬していて、出来ることならエミー様の様な女性に生まれたかった」ってね。言い回しは違ったけど、聞いた娘は皆似たようなことを言っていたわ。それを聞いた時に私は彼女たちを騙しているような気持になったわ。それに、あの子たちはユグドラシルの時とは違って思考も魂も無いただのNPCではなく、自分の想いを感情を持った生き物になったの。そんな彼女たちに選択肢を与えるのは主であり親代わりでもある私達の役目だとは思わない?」

 

 エミーの言葉にモモンガは言葉を失った。当然だ、もしそんな事をしたらどんな結末が待っているか、予想すら出来ないほどモモンガはバカではないし、エミーだってバカではない。それでも言わずにはいられなかった。

 アインズ・ウール・ゴウンにはもちろんルールがある。とはいえ別にそこまで難しい物ではない、ゲームを始めたら挨拶してログアウトする時にはもう一度挨拶をする。と言った物ばかりだ、その中の一つにギルド内で攻略に行く際に意見の食い違いがあった際には、ギルド内の投票または当人同士の決闘で決めるという決め事がある。もしここでモモンガとエミーの意見が別れたら、2人は戦って決めるかどちらかが折れるかの二者択一を迫られる。

 エミーの最初の前置き「ギルドから脱退させてもらう」というのはこのことを示していた。もしエミーの考えに賛同してくれたらこれからも一緒に過ごすことに、反対したらエミーはここから出ていく事になる。この未だに自分たちがこの世界で強いのか弱いのかも、そして自分たちの存在は普通なのか異形なのかも分からない状態で。

 そんな状態で自分から出ていくと言い切ったエミーの覚悟は、常人では図ることの出来ない物だろう。そんな事はモモンガにも分かることだ。彼らは他の39人のメンバーが居なくなっても、ここを支えてきたのだ。別に言わなくても互いの事はある程度理解しているつもりだ。そんなモモンガが出した決断とは……

 

 

 

 

 

 

 「すまないな皆、待たせたな」

 

 モモンガとエミーが守護者達の前まで戻ると、そこには誰も立ったりだらけた座り方をした者はおらず、2人が席を外した時と全く変わらずにそこにいた。

 

 「これからエミーさんから話がある。心して聞くように」

 『ハッ!』

 

 モモンガの紹介によりエミーは一歩前へ出ると「コホン」と小さく先払いをした。

 

 「知っての通り私が先ほど紹介されたエミーよ、改めて皆とは初めて会話することになるけどよろしくね。さてまずは話を始める前に投影開始(トレースオン)

 

 エミーが手のひらを横へ振りながら一つ魔法を唱えると、それぞれの後ろにパイプ椅子の様な物が現れた。

 そう、これがエミーの職業(クラス)造物主(クリエーター)の能力、プレイヤーが一度見たものを劣化品とはいえ模造すること。一見ほとんどチートクラスに思えるかもしれないが、このクラスにはメリットよりもデメリットの方が多い不人気職業なのだ。まず最初に述べた通りこの職業はプレイヤーが見た物を模造することが出来るが、欠点としては模造品の価値は何ランクも下がる。それは価値だけではなく能力でもそうだ、例えば回復薬(ポーション)を造り元が回復量50%のところを、40%まで下げるといった具合だ。その様なランクダウンとは言ってもその微妙さから、造物主プレイヤーは他のプレイヤーから嫌われることが多いのもデメリットの一つだ。そしてもう一つのデメリット、これが1番の原因とも言える。それは模造品を作るときの条件である。その条件とは模造する物が誰が何でどうやって創ったのかという事だ。要するに自分の頭の中にその物がどんな人が創ったのかを想像し、どんな物でどうやって造るのか設計図を思い浮かべなければいけないという事だ。

 料理に例えれば少しは分かりやすいだろう。料理を作る時にはその料理のレシピや材料を用意する。そしてその料理は誰が造るのか、そういったことを想像しなければ能力が使えない。もっとシンプルに言うのであれば、この職業はユグドラシル史上最も面倒臭い職業なのである。

 

 「さあ、その椅子に座って話を聞いてもらえると嬉しいわ。安心して私達も座らせてもらうから。それからごめんなさい、こんな貧相な物で」

 「そんな事はございません!エミー様のお造りになった物はどれも一級品の出来だと思っております!その様な貴重な品の上に我々の腰を落とす等出来るはずがありません!」

 

 アルベドの言葉に守護者達は「その通りです!」と頷く者や口にする者がいた。するとコキュートスがスッと手を挙げた。

 

 「恐レナガラエミー様、ワタシハコノ中デイチバン重クエミー様ガオツクリニナッタコノシナヲ、破壊シテシマウ可能性ガ高イカト」

 

 コキュートスの考えはもっとものはずなのだが、エミーは「フフフ」と笑みを浮かべた。

 

 「そうね、確かに貴方の考えは間違っていないわコキュートス。でも安心して、この椅子は別に高価な物ではないから壊れても別に構わないの。そしてこの椅子の耐久性は、私の魔法で例えこの上でガルガンチュアがコサックダンスを踊っても、耐えられるくらいの耐久性を誇っているわ」

 

 エミーがそこまで言うと、ようやく全員が席に着いた。もちろんエミーやモモンガも同じ物に腰を置いた。

 

 「さて、これから貴方達にはとある話を聞いてもらいます。いえ、聞きなさい。そしてその後一つの命令を実行してもらいます。それは『考えなさい』よ」

 

 エミーの命令『考える』それは彼女たちにとって今は意味の良く分からない事だ。なので、その直後、場が多少ざわつくとアルベドが「静かに!」と声を上げた。

 

 「畏まりましたエミー様、我々一同至高の御方のお話しの後に全力で思考いたします」

 

 アルベドの返事にエミーは「よろしい」とだけ応えコホンと咳払いをすると話し始めた。

 

 「さて、これから貴方達にお話しするのは、貴方達が至高の御方々と呼ぶ私達。いえ、正確には私やアインズ以外の39人の皆さんが何故居なくなったのか、それをお話ししようと思います」

 

 エミーがそう言いきると、守護者達はまたざわつくと思われたがそんな事はなかった。というよりも、エミーが今から話すことは自分たちにとって大事なこと過ぎて、その言葉を一言一句聞き逃すまいといった気迫が感じ取れるほどだった。そんな中エミーは「ですが」と一拍おいて続けた。

 

 「そのことを話す前に、前提条件として貴方達にはもう一つの事を話しておかなければならないわ。それは私達41人のプレイヤーの真の正体についてよ。最初にハッキリと言っておくわ、あのユグドラシルもそして私達のこの姿も造られた物なの。きっと今ので困惑している者も居るでしょうけど、意味は字面(じづら)通りよ。あの世界はとある者たちによって造り出され、私達のこの姿は本当の姿ではないわ。皆は一度くらい見たことあるんじゃあないかしら、私たちがその場から消えて約一日くらい経ったらまた現れる光景を、それが私たちがあの世界の住人ではない証拠よ。私たちには元の肉体があり、その肉体を生かすために元の身体に戻り生活を送っているわ。…ここまで言うと、もしかしたら貴方達は私たちが今よりもすごい存在じゃあないかと思う子もいるかもしれない。けれどそれは全くの間違いよ。私たちの本当の姿は今の身体よりも惰弱で脆弱、弱々しくて薄々しいそして貴女たちにとってきっと最も価値の低い存在。……ここまで言えば気付く子も居るでしょ、そう私もモモンガも勿論貴方達を造った他の人達も、みんな人間よ」

 

 エミーのその言葉には動揺を隠し切れなかった。シャルティアは辺りをきょろきょろし、アウラとマーレは目を丸くしながら互いを見つめ合い、コキュートスは長い荒い息を上げ、アルベドは平静に見えるが只々固まっていた。だが、そんな彼らを落ち着かせたのはデミウルゴスだった。デミウルゴスが「落ち着きなさい!」と声を上げると、全員が落ち着きエミーの話を聞く体勢が出来た。エミーはきっとデミウルゴスのスキルか何かだろうと思い「ありがとう」とだけ言うと話を続けた。

 

 「そう、私もモモンガもその他のプレイヤー達も全てが人間よ。そして私達プレイヤーの半数近くは、会社や企業と言った組織、ギルドに属しているわ。特にこのギルドアインズ・ウール・ゴウンに属していた者たちは全員ね。そしてその中には家庭を持つ者が居るわ。もちろん私やモモンガみたいにそんなのを持っていない者もいたけれど。そしてユグドラシルはとあるゲーム会社が製作したゲーム盤、それに私たちはアクセスすることが出来その中で私たちは思い思いの姿形になり遊んでいたの。でも、遊びとは言っても本気だったわ、決して只の遊びなんかではなくむしろここにいた方が、自分が自分でいられすべてをさらけ出せる。そんなとても一言で言い表せない掛け替えのない場所だった。けれど、人生と言うのはそうそう思う通りには進んでくれないわ。例えどんなに大切な場所でも、家族と喧嘩してまで時間を作っても私たちの本当の肉体も魂もここには無いの。もし一週間も元の肉体へ戻らなかったら、私たちは死んでしまうの。私たちの様な独り身だったらそこまで大したことではないかも知れない、究極的に自己責任で済むのだから。でも彼らみたいに家庭を持つ人達や現実を手放せない人たちは違う。もちろんどちらを選ぶか、それはきっと容易な選択ではなかったと思うしそう願うわ。きっと悩みに悩んだ末の結果なんだと私は思っているわ」

 「なるほどそういう事でしたか」

 デミウルゴスは誰にも聞こえない声で呟くき、エミーはそこまで言いきると「ふぅ~」と一息つき本題へ入った。

 

 「さて、ここからが本題よ。貴方達はそんな私達の下で働きたい?そして私達はここでこれからも過ごしてもいいのかしら?」

 

 

 

 

 エミーのその問いにアルベドはすぐさま答えようとするが、それに待ったをかけたのは何とデミウルゴスだった。デミウルゴスは守護者達とセバスを加えて、コロシアムの隅へ集め防音の魔法を掛けた。だが、その行動にすぐさま怒りを露わにしたのはアルベドだった。

 

 「どういうことデミウルゴス!なぜ止めたの、貴方まさか至高の御方々に反逆しよう等と愚かな考えを持っているのではないでしょうね⁉」

 「まあまあ落ち着いて下さいアルベド。もちろん私はそんな事を微塵も思ってもいませんし、考えてもいませんよ。むしろ至高の御方々の命令に従っているにすぎませんよ」

 

 デミウルゴスは眼鏡をクイッと掛け直しながら少し自慢げに弁明すると、コキュートスが「ドウイウ事ダ?」と質問するとマーレが「あ!」っと声を上げた。

 

 「そ、そういえばエミー様がお話をなさる前に、話を聞いた後によく考えるようにと仰っていましたよね?」

 

 マーレのその言葉で、デミウルゴス以外は「あ…」と声を上げデミウルゴスは周りの反応に表情は特に変わっていないが、自慢げに眼鏡をクイッと上げた。アウラは焦った口調で「さ、流石私の自慢の妹ハハハ…」とマーレの背中を叩きながら誤魔化し、アウラの妹発言に周りの者は「え?」と困惑した声を上げた。

 

 「え、え~っと、そのことについては後で話すとして、デミウルゴス話を続けてくれない?」

 「え、ええもちろんです。良いですか、マーレの言う通りエミー様はお話しをなさる前に私達に対して、考えろと命令を下しました。それはつまり今の肉体は仮初で本当の肉体は別にあり、しかもそれは人間の身体であるそんな自分たちが私達の主でも良いのか、またはこのまま主として続けても良いのか?という問いなされ、私達はそれに応えなければならない義務があります。それともう一つ、この問いには私達を試すための試練が組み込まれているのです」

 「試練トハ一体何ノダデミウルゴス?」

 「そこまで難しい内容ではありませんよコキュートス。その前に念の為に一つ確認しておきますが、セバス貴方が視てモモンガ様達にお伝えしたのは事実で間違いありませんね?」

 「はい勿論でございますデミウルゴス様。この世界は以前我々が居たユグドラシルの世界ではなく、全くの別世界で間違いないかと。周りに木が生えており、その中にはいくつか実をつけている物もございまましたが、私の記憶にはどれも該当する果物はございませんでした」

 

 セバスの言葉にデミウルゴスは「なるほどなるほど…」と一人で納得すると「早くエミー様の試練を教えて欲しいでありんすが」とシャルティアが催促すると、デミウルゴスは「すみませんすみません」と軽く謝ると説明の続きを始めた。

 

 「私が思うにエミー様の試練、それは単純に私たちが御方方の忠義が本当の物なのか、信頼に値する(しもべ)なのかを判断するために話されたのかと思います。もちろん話された事は真実でしょう、この事で私達に噓をついても意味は無いでしょうからね」

 「う~ん、だとしてもどうしてエミー様やモモンガ様はそんな事を?」

 「それもそこまで難しい事ではないでしょうアウラ。例えどんなに力を持っている御方でも、最悪の事態だけは避けなければならないでしょうからね」

 「さ、最悪の事態?」

 「私達守護者、並びに配下の者たちによる裏切り」

 「その通りですアルベド。どんな王でも、配下の者は信用に値する者が好ましい。この新しくなった世界で最も避けなければいけないのは、混乱に乗じてモモンガ様やエミー様へ裏切り行為を行う者たちによる暗殺行為。それを阻止するべく、こうやって裏切り者またはその可能性のある者たちを炙り出し、早々に処刑することだと思われます」

 

 デミウルゴスはそこまで言いきると、またもや表情を一つも変えず眼鏡をクイッと上げながらドヤ顔を行っていた。デミウルゴスの話を聞いていた守護者達はなるほど~と感心していた。ただ一人苦虫を嚙み潰したような悔しい顔をした者がいた。言わずもがなアルベドである。

 アルベドは当初、エミーからの命令を無視して自分の考えをエミーへ示そうとした。そのギリギリでデミウルゴスに止められ、その後そのデミウルゴスに完璧なまでの説明を受け、アルベドの中のプライドはもうボロボロに近かったのだから。

 

 「わ、分かったわ…もう、分かったわ。貴方が正しかったという事はデミウルゴス」

 「それは素直に感謝を言っておきましょうアルベド」

 「さて、ではこれから私達が至高の御方々をどう想っているのか、ここでハッキリさせましょうか」

 

 

 

 

 「モモンガ様エミー様、大変お待たせ致しました。これより私達の想いを告げたいと思います」

 「うにゅ…う、うむアルベドよ話すがいい」

 

 二人の元へ戻った守護者達は、再び椅子へ座らず椅子の前で拝謁の姿勢を取りアルベドが代表してそう言うと、モモンガはやはり緊張している様で最初思いっきり噛んでしまったほどだ。その緊張からか、モモンガはまた出さなくても良い絶望のオーラを放っていた。

 ちなみにモモンガは現実ではもちろん会社員をしており、何度か緊張する場面もあったがここまでの事は一度も無かったという。

 

 「私たち守護者全員、モモンガ様エミー様並びに至高の御方々が例えどんな御姿、どんな真実があろうと絶対なる忠誠を誓います!」

 「「誓います!!」」

 「……なるほど各員の思いは十分に理解した。それでは私たちの仲間が担当していた執務の一部まで、お前たちを信頼し委ねる。今後とも忠義に励め。私からは以上だ。エミーさんは何かあるか?」

 「そうね、私も貴女たちの忠誠を信頼にしましょう。もう貴女達に言う事はありません。ですが貴方達に一つ命令を追加します。守護者各員はそれぞれの部下に先ほど私が話しをきちんと伝えるように、アルベドは自身の部下と第四第八階層、セバスはまずプレアデスに話しその後プレアデスと協力してその他の僕へ話すように!そして、私達の下で働くのに納得いかない者が現れた場合は、決して貴方達が裁くことはせずその場合は私たちのどちらかの前へ連れてくる様に」

 「「はっ!」」

 

 エミーの言葉に守護者達は応えると、モモンガとエミーは互いの顔を見るとリングオブアインズ・ウール・ゴウンの力で適当な場所へ転移したのだった。そこには緊張で気持ち的に参っているモモンガと、その場に座り込んでいるエミーの姿だった。

 

 「「あいつら……本気(マジ)だ……」」




 どうも、前話での約束通り5月中に投稿した作者のshimito18です!いや~本当はGW中に出来るかな~?と思ってたんですけど、やっぱり物事って予定通りに行かないものですね~ww
 さてそろそろ「言い訳するな!」というお叱りの声や「今回の後書きいつもより長くね?」と言った疑問の声も聞こえてきそうなのでお答えしますと、単純に私が好きなラノベ作者の後書きってやたらと長くてその影響ですね(笑)その先生のお名前は伏せさせてもらいますね。注意事項としては、今回の話のネタバレや次回に向けての方針などを書いてしまうので、ネタバレを避けたい人は読まなくておkですので無理に読む必要は皆無です。
 さて今回はアニメでいうところの第2話のAパート辺りを長々と書いてみました。皆さんも読んでもらって感じてもらえれば幸いですが、エミーって部下思いの良い奴でしょ?ただの変態ではないんですよ。まあ、これにはちゃんとした理由?がありますので乞うご期待!
 それからデミウルゴスの深読みはこんな感じで良かったですかね?私は頭良くないんでこのぐらいしか書けなかったので意見がもらえると嬉しいです。あ、感想では規約に引っかかりそうであれば、メッセージに下されば嬉しいです。
 …さて今回の話はこれぐらいかな。で、次回からですが、どうしましょうか?やっぱりアルベドとシャルティアの正妻側室話はやったほうがいいですかね?でも、あそこは話的にほとんど本編と変わりないんですよね~まあ、世界征服話は絶対するとして。

 それでは、話変わって実は読者の皆様へお願いがあります。この「オーバーロード  錬鉄の造物主」の主人公エミーのイラストを私のTwitterにて募集しております。投稿されたイラストは本編中もしくは前書き後書きにて紹介したいと思います。絵に自信がない方でもある方でも下記のURLにてどしどし投稿して下さい。お待ちしております。

 さて、皆さん次回までお元気で!感想、お気に入り登録、評価等々お待ちしております!!

URL:https://twitter.com/A12Oshi


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