私のアトリエ〜ネギま世界の錬金術師〜 (只野飯陣)
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導入〜ただの小娘〜
1〜見知らぬ街中の小娘〜


モニカの鎧はやっぱり鎧じゃないと思う。まぁスコップを万能武器扱いするオスカーよりはましだけどさ。

なんて、何回目になるか解らない感想を漏らす。

時刻は夕方、場所は自室、両親は不在、夏休み真っ只中の女子中学生、それが私『天条ノミコ』だ。

現在私は大人気ゲームシリーズ、アトリエシリーズ初のPS4作品である『ソフィーのアトリエ』をプレイしている最中であった。

生産系RPGと分類されるこのゲームは、戦闘よりアイテムの作成に重きをおいた作品である。

材料の吟味から始まり、特性の引き継ぎや融合を駆使し、様々なアイテムを作成する中毒性の高いやり込みゲームソフトだ。

近年ではストーリーを一貫しパーティーキャラクターを固定したりと、割りと戦闘にも比重が傾いて来てはいるが、デビュー作品であるマリーのアトリエからアーシャのアトリエまではキャラクターを雇ってフィールドに材料の採取に出掛けたりしなければならなかった。

その為、街の外に出るのにもパーティーキャラクターへの給金を払わねばならず、うっかりしていれば雑魚な主人公一人で採取の旅に出掛けるなんて苦行も度々発生した。

そんな名作ゲームシリーズを産み出したガストは偉大だ。初志の『世界を救うのはもうやめた』の精神は消えても、しっかり面白いのだから素晴らしい。

 

「あー!!満足したー!!」

 

手足を広げ寝転がる。目の前に流れるエンドロールと切ない旋律に身を委ね、安らかに眠りに…………

 

「あびゃびゃびゃびゃびゃ!?!?!?」

 

つけなかったたたたたたたたた。しびびびびびれるるるるる!!?

 

「死ぬー!?………………あれ?」

 

え?あれ?

何か身体がビリビリしたと思ったら、知らないところに居るんですが。

なぁにこれぇ?

いや?え?マジでなにこれ?

あいた!

ボーッとしてたら人にぶつかってしまった。

 

「おっと、悪いな嬢ちゃん」

 

「いえいえ、此方こフォオ!?」

 

虎!!

ぶつかってしまった人が虎!!

もう何言ってるかわかんねー!!

落ち着けー、落ち着けー。

冷静に辺りを見回すと羽の生えた小さな女の子や、骨だけの人や、下半身虫の人や、腕が沢山の人が。

 

「あばばばばば」

 

はっ!?そうか!!夢か!!

何か感電したっぽいのも夢かー、何だよー、驚いたじゃないのよー。

夢だと思えば怖くないもんねー。

それに何だか本格ファンタジーな世界観に相応しい中世を思わせる街並みだし、これはネット小説で憧れた転生そっくりなシチュエーション。

期待しています。とても。

兎も角、これが夢なら異世界さんの街並みを見て回らないのはもったいないよねー。

夢にしては意識がハッキリし過ぎだとか、気にしない気にしない。

夢以外有り得ないし、有り得ないで有って欲しいし。

ま、まぁあまり悲観的になるのも良くないさ!!所詮夢、夢なんだから!!

とゆー訳で異世界観光だー!!おー!!………はぁ。

 

 

 

異世界観光に胸を高鳴らせていろいろな店を冷やかした。

日用雑貨を販売している店や、現代日本では先ず御目にかかれない武器屋、防具屋、さらには仮契約屋なるいかがわしい名称の店まで。仮契約………奴隷的な奴かなぁ、近付かないようにしよう。

奥にコロッセオみたいな施設も見えるし、それなりに大きな街みたいだ。

街並みは中世ヨーロッパ、というかドイツに近いかもしれない。

等と観察しながら歩いていたら街の外壁まで来ていたみたいだ。

街を囲むように外壁がある事から城壁都市であると察せられる。

ファンタジー世界ではお馴染みの都市構造ではあるが、地球の歴史的には実は珍しい形式である。

日本のように城が町の中に有るのではなく、都市そのものが要塞として機能しているのが特徴だ。

むしろファンタジー小説のように城壁都市の中に別に王宮がある何てのは、王族が権威を示す為だけにやっている自慰行為以外の何物でもないよね。

まぁそんな持論はどーでも良くって問題は此所が城壁都市って所なんだよね。

何せ城壁が有るのなんて戦争時に狙われる重要拠点か日常的に危険に見舞われる立地かだよね。

そしてこの都市で大きな建造物はパッと見、例のコロッセオぐらいだ。

つまりはこの都市に城壁があるのは日常的に危険に見舞われるからだと推測出来る。

うわー、盗賊とか魔物とか、ファンタジー世界ではお馴染みなのが近くにいるのかもなー。

ちょっと怖くなってきた。

でもでも、多分恐らく夢何だし、別に平気だよねー?

ちょーっと、ちょーっと、外を覗くだけー。

そーっと外に通じる門から外を覗く。門番さんに不審者を見るような眼で見られてるけど、好奇心には勝てないよ。

 

「ぷにー」

 

ほぁ!?え!?ぷっぷぷっ………

 

「ぷにぷにだぁー!?ぐぇっ」

 

思わず駆け出しそうになった私の襟首を門番さんが慌てて掴む。

お陰で首が締まり乙女にらしからぬ声が上がってしまった。

 

「通行証も無しに外にでるなよ嬢ちゃん」

 

等と呆れた声音で注意されてしまった。

まって!!ぷにぷに!!ぷにぷにが!!ぷにぷにがぁー!?

ぷにぷには私の気迫に怯えてしまい慌てて街道の脇に逃げていってしまう。

あぁ、愛しの雑魚マスコットよ、アトリエ世界において世界一弱い生命とまで言われた雑魚中の雑魚よ。

今は君の背中が遠い。

 

「ぷにぷに……うっうぅ、ぐすっ」

 

「ちょっ!?泣くなよ!!」

 

だって門番さん、ぷにぷにがぁー、いくら夢だからってこんなのあんまりだよー。

 

「あぁー解った、悪かった、俺が悪かった。だから泣くなよ、な?」

 

「ぐすっ……うん」

 

「通行証見せてくれたら通って良いからよ」

 

………通行証?

無いよね?ツ○ヤカードじゃ……駄目ですか、ですよね。

んとね、それじゃね。

 

「ぐすっ、じゃあ帰る」

 

よし、これで誤魔化し………

 

「待てこら」

 

切れなかった。

 

えぇ?これどーしよ。

異世界、しかもおそらくアトリエ世界に来て、こんなアホな理由で疑い持たれるとか、嘘でしょ?

 

「まぁ嬢ちゃんみたいな盗賊もいないだろうが、あからさまに怪しい自分を恨むんだな」

 

などと言って牢獄に入れられてしまった。

幸い一日で出してもらえるみたいだが、それでも初日に投獄されるとかありですか?

まぁゆっくり腰を据えて考える時間が出来たと、前向きに捉えよう。

先ずは現状について。

認めたくないが夢ではない………かもしれない。

とゆーのも、意識、感覚、認識力が普段と変わらないのだ。

昔見たドキュメンタリーで、夢ではこの三つが低下するとあった。

唯一の例外は明晰夢だが、これは夢だと認識したら現実味が無くなる筈である。

つまり私は自室で遊んでいたら感電、それに伴い転生、ないし転移したという事だ。夢より夢みたいな話だが。明日まだこの牢獄に居たらこの考えを確定としよう。

次にこの世界について。

ぷにぷにが居たから安易にアトリエ世界だと考えたが、これは正直半々だ。

とゆうのも、アトリエ世界に関連するものをぷにぷに以外に見ていないのだ。

冷やかした店にもアトリエ世界に関連する素材はなかった。

もしかしたら見ていない店に有るのかもしれないが、今現在確認のしようがない、だから半々で保留。

最後に、これが現実だった場合はしゃいでばかりもいられない。

ぶっちゃけこの世界の貨幣が無いのだ。

衣食住が揃えられない、アトリエ世界だとしても錬金術云々以前に生きてけない。

どーする?こんな怪しい小娘働かせてくれる場所があるのか?

落ち着いて考えれば考える程に詰んでる。

地に足付かないよー、いやー参った。

うんうん頭を悩ませていても良案は浮かばず。そのまま私は深い眠りに落ちていった。

 



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2〜牢獄から出た小娘〜

翌日、ある意味期待通り、ある意味期待が外れて場所は変わらず牢獄の中。

鉄格子から射し込む朝日の光に目を細めながら、身体を伸ばし欠伸を一つ。

ふぁあー。むにゃむにゃ。

これでこの世界が現実だと確定かー。

何だか思ったよりショックが少ない、両親や友人と二度と会えないかも知れないのに、そこまで衝撃を受けていないのだ。

もしかしたら昨日の考察中に覚悟が完了したのか、それとも私が単に楽観的なだけか。圧倒的に後者だと思う。

しかし釈放されたらどうしよ、結局なんも考え付かなかった。

駄々っ子したらもう一日止めてくれないかな?昨日の門番さん好みのおじ様だったし。

 

「あー君、釈放だよ」

 

チェンジで。

まさかの話し掛けて来たのが昨日のおじ様(渋目)門番さんではなくおじ様(ガチムチ)門番さんでした。

筋肉さんはちょっと………好みじゃないなぁ」

ってまた襟首掴んで!?

 

「自分で!自分で歩けます!!」

 

何でちょっと不機嫌なのよー!ちょっと、引き摺らないで、引き摺らないでってばー!!

 

「二度と来るな!!」

 

「ぎゃふん!?」

 

そのまま放り投げられ、またしても乙女らしからぬ声が漏れてしまった。

お尻で着地しちゃったから若干ヒリヒリする。何て乱暴な門番さんなんだろうか、こんな可憐な乙女にする仕打ちではない、きっと女の子に興味がない人種なんだ。

 

「いたた……はぁ、いよいよ住所不定無職かぁ、先ずは住める所を探さなきゃなぁ」

 

とは言っても、空き家に住み着いて地主に捕まるのは怖いし、暫くはホームレス女子高生かなぁ。

お風呂とかの贅沢は言わないから屋根が欲しい。

でもお金も無いから宿にも止まれないし、どうしよう。

 

「あー、お金かー、日雇いの仕事とかあるかなぁ」

 

それにこの世界が本当にアトリエ世界かも確かめなきゃ、もしアトリエ世界なら酒場で依頼を………

 

「それだー!!」

 

そうだよ!!酒場の依頼ならお金が稼げるし、見知ってるアイテムがあればアトリエ世界だと確定出来る!!

えへー、やはり私、天才じゃったかー。

そうと決まれば善は急げだよね、酒場は昨日は見掛けなかったから、昨日の通りには無いのだろう。

思いきってコロッセオを挟んだ逆側まで脚を運んでみようかなぁ、もしかしたら途中で素材を取り扱ってる店も見付かるかもしれないしね。

それなりに距離がありそうだけどまぁ行けるでしょー。

あー、わくわくしてきたー。

 

 

 

と、遠い………!!

体感だけど一時間は歩いてるよ。

道がいりくんでて一向にコロッセオに着けない、それどころか此所が何処かも解らない、元の場所にも戻れない。

此れってもしかしたら、迷子って奴かな、もしかしなくても迷子って奴だよね、はぁー。

 

「もー疲れたよー、足痛いよー」

 

その場に座り込み思わず愚痴を溢す。

弱気を中々吐かない私が思わずとは言え、こんな事を言うとは、意外と精神的に参ってるのかもなぁ。

空を見上げて見ると雲一つない晴天が広がっている。こんな路地裏にも浮浪者どころか汚い所が見当たらない、良い街何だろう。きっと優秀な領主様が治めてるんだ。願わくば京都みたいな碁盤状の街並みにして欲しかった。

お腹すいたなー、久々にハンバーグ食べたい、すき焼き、お寿司、泥豚ステーキ………泥豚ステーキは食べた事無かったや。

 

クゥ

 

あー、食べ物の事考えてたらお腹鳴っちゃったよ。

錬金術が使えたら絶対アップルパイ作ってやる。ロロナ、エスカ、私に希望を有り難う。

路地の向かいには屋台が見えるのに………

 

「お金が無いのはキツイよー」

 

本日2度目の弱気、アハハ、こりゃアカン、詰んでーる。

こんな異世界で迷子になって孤独死かぁ。

 

「おい」

 

まだぷにぷに抱き締めてないのに。

 

「お前」

 

錬金術だって使いたい。

 

「聞いてねぇのか?」

 

魔法も出来れば使いたい。

 

「しゃーない」

 

あれもしたい、これもしたい。

 

「よっと」

 

「ぎゃあぁあ!?」

 

ちょっ!?いきなり身体が!!身体がフワッて浮いたぁ!?

 

「やっと反応返してきたな」

 

そんな満足気な声色に顔を上げると、鍛え抜かれた肉体の少年と目があった。

褐色の肌に白い髪の毛、腰には手甲が下げられ、首にはチョーカーを巻いている。

単ランのような腰上までしか無い服を前を開けっ広げに来ているせいで、目のやり場に迷い、結果見つめ会う事になってしまった。

 

「だだだ、誰?」

 

「んな事ぁどーでも良い」

 

いや、良くないでしょ、挨拶は大事だよ。

 

「それより、お前金に困ってんのか?」

 

こ、これは!!金をちらつかせやらしい事になる流れ!?

私みたいな平凡クイーンオブ平凡な女子にも飛びかかるとか、見た目15位だし、思春期ですしねー。

しかし、私はそんな軽い女じゃないのよぼーや。

 

「ふふっ、お金じゃ私は抱けないわよぼーや」

 

「いや、何言ってんだあんた?」

 

あ、あれ?

え?だってお金を払うから抱かせろって………

 

「俺はただ午後の拳闘で俺に賭けてみないかってな………」

 

あ、え?

あぁ、勘違い、なぁんだ。

うん………

 

「うぁぁぁぁぁぁ………」

 

恥ずかしいぃぃいいい!!!!

何がお金じゃ私は抱けないわよだぁ!?直前に平凡って自己評価くだしてんのに!!くだしてんのにぃ!!私の阿保ぅ!!自意識過剰みたいじゃないのよぉ!!!!

 

「あんた、その、何だ。愉快な中身してんな」

 

じゃかあしぃ!!慰めにもなってないし!!むしろ貶してるし!!

その後頭部を掻く仕草やめて。居たたまれない。

 

「んでよ、話を戻すが賭けるのか?」

 

マイペースか!?

いや、まぁ勝手に勘違いして勝手に悶えてる私が悪いか。

まぁそれはそれとして。

 

「賭けるお金がないのよ、比喩じゃなくて無一文、財産の一切合切無いわ」

 

胸を張ってみる、おそらくこの街で今現在一番の貧乏人は間違いなく私だ。ナンバーワンだ。嬉しくない。

 

「だったら俺の有り金賭けりゃ良い、その代わり分け前は半々だ。」

 

ん?んぅ?

ちょっと待って、あんたのオッズやレートが解らないから何とも言えないけど、それだとあんたは一方的に損するわよね。

なーんか怪しいのよねー、ヤバい詐欺とかじゃないでしょうね。

 

「言っとくが詐欺とかじゃねぇから」

 

「え?何で……」

 

何この子、怖い、エスパー?

 

「そりゃそんな半目で一歩引いて私、疑っておりますって態度してたら解るだろ」

 

はい、私が正直者なだけでしたー。

 

「あは、アハハ、取り敢えず詳しくはお話を聞いてからでね」

 

「おう!!」

 

……

………

 

なるほど、穴だらけな計画だ。とゆーか計画にすらなってない。

説明に擬音が多過ぎて解り辛かったけど、要点を纏めると。

 

彼が試合に出る

選手は賭けれないので私が彼に賭ける

彼は大穴なので配当金は10倍になる

彼が勝ち残る

大金がっぽり

 

大穴って事は負けてばかりって事だよね?それで何で今回は勝てるとか考えるの?

まぁ、このやり方なら私に損は無いから良いけどさ、釈然としないのよ。

この子もしかして頭悪いのかしら、確かに脳ミソも筋肉で埋まってそうな顔してる。良く見たら全体的に馬鹿っぽいかも。

 

「引き受けてくれねーか?」

 

うぅむ、損は無いし引き受けても構わないんだけど、なーんか嫌な予感もするのよねー。

まぁ、予感は所詮予感、今は兎にも角にもお金がいりようだし。

 

「ん、良いよ。引き受けてあげる」

 

引き受けてあげようじゃないか。

 

「でさ、君に賭けようにも名前が解らなきゃどーしようもないしさ、名前教えてよ」

 

「おう!!俺はジャック!!ジャック・ラカンだ!!」

 

これが私とジャックとの、数奇な縁の始まりだったんだ。



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3〜酒場の依頼と小娘1〜

ジャック少年との作戦会議が終わり同盟を結んだ私は、折角だからと酒場まで案内してもらう事にした。

途中予想通り素材を取り扱ってる店もあったのだが、それも魔法薬の素材やら鍛冶用の鉱石やらばかりで、錬金術のれの字もなかった。

まさかとは思いつつも先導するジャック少年に引き離されないよう、小走りに付いていく。

しばらく歩くとジョッキを掲げた看板が目に入ってきた。

立地はコロッセオの正門の右向かい。そりゃ、こんな冒険者が集まりそうな施設があればその近くに建てるよね、盲点でした。

 

「じゃあ俺はエントリー済ませて旦那さんの所に戻るからよ、トトカルチョは午後一時だからな、忘れんなよ」

 

ジャック少年はそう言い残し手をヒラヒラと振りながらコロッセオに入っていった。

道中聞いた話だが、どうやらジャック少年は奴隷……正しくは拳闘奴隷と言う存在らしい。

戦災孤児だった彼を今の旦那さんが買い取り、自分の身を買い戻すまでの間面倒を見てくれているんだそうだ。

故にジャック少年は旦那さんに多大な恩義を感じ、早く潔白な身の上になって彼の元で恩を返したいのだとか。

もうさー、そんなん聞いたら賭けとか関係無く応援しちゃうでしょ。

頑張れジャック少年、私も安定した生活って目的の為に頑張るから。

ジャック少年と比べて俗っぽくて小さな目的?

そりゃ私、雑魚ですから、身の程を越えた願いは持ちませんとも。

それはそーと、待望の酒場である。

材料の採取とか、そんな依頼でチマチマ稼ぎ、今は衣食住の確保に努めよう。

 

 

 

カランコロンと、乾いた木製のベルが鳴り、店内に若干の緊張感が走る。

店内にいた見るからに荒くれって風貌の男達は、私の姿に小さく安堵の表情を浮かべた。

何だ?今の?

少しピリピリとした空気に気にはなるが、私は私の用事の為に、カウンターの向こうでパイプを吹かす男性に話し掛けた。

 

「あの。何か私にも出来そうな依頼とかありますか?」

 

多分酒場のマスターであろう男性は、Tシャツに麻のズボンという服装で、渋いというよりは老練とした雰囲気を感じる人物だった。

威圧感のある鋭い瞳が此方を向き、低く嗄れた声が放たれる。

 

「依頼……ってーと?」

 

その顔には困惑が浮かび、声には隠しきれない面倒臭さが滲んでいた。

大方私みたいな小娘が来たことに困惑し、酒を飲まない客だと面倒臭く感じているってところだろう。

そんなマスターの考えはどーでも良くって、まるでこの人依頼とかやってないみたいな反応何だけど。

えーとさ。

 

「ですから、民間や国から冒険者とか錬金術師に向けて出された依頼です」

 

「それを求めてたんなら何故ここに来たんだ」

 

え?いや、だって、酒場で依頼は御約束………あれー?

 

「無いですか?」

 

「無いな」

 

んぁっ、マジですか。一気に収入源が拳闘での賭けのみになってしまった。

 

「だいたいそれって俺にメリットあるのかよ」

 

メリット?無いんじゃないかな…………いや、本当に無いか?

 

「えーと、例えばこの酒場で依頼を仲介したら仲介両が貰えるし、依頼を求めて来た人で店が賑わいますよね、そうなると様々な情報がマスターに入るし、今度は情報の売り買いも可能になります」

 

「ほう?………続けてみろ」

 

「あっ、はいっ………更にこの店はコロッセオの近くという立地から拳闘見たさの御客さんもいますよね、そーゆー御客さんからも依頼を受け付けると、今度は一般の御客さんも来るようになります。一般の御客さんからの依頼を冒険者さんが受けると言うのは単純に冒険者さんの収入源が増えると言うことで、これまた冒険者さんがこの酒場に集まります」

 

ここまで話し一息、マスターの顔色を伺えば最初の面倒臭そうな顔は消え、愉しげな笑みを浮かべながら私の前にミルクを置いてくれた。

 

「ふんっ………穴は有るが悪か無いな、試しにやってみるか」

 

お?おぉ?!

アトリエ名物依頼酒場の設立の瞬間に立ち会えるなんて、アトリエシリーズのファン冥利に尽きるよ!!

 

「んで、嬢ちゃんはその依頼を受けたいらしいが、悪いが見ての通り準備もしてない」

 

そりゃ、まぁ、そうでしょうね。

 

「つうわけで、俺から依頼を出してやる。まぁ御試しの更に御試しだがな」

 

そう言ってマスターが紙にサラサラと何かを書き込む。

 

 

依頼

街を綺麗に(1)

 

依頼者

クオルク

 

内容

綺麗な街は気持ちが良い、俺も定期的に掃除してるが一人だと限界がある。

だから今後は依頼として出す事にした。

今回は御試しの御試しだから、酒場の周りで雑草でも抜いてくれ。

取り敢えず小さなバケツ一つ渡すからそれが埋まる程度に頼む。

 

報酬

10ドラクマ

いらない雑貨

 

 

あんたかい!!

路地裏までピカピカにしてるとか、威圧感のある怖いおじさんから綺麗好きな主夫おじさんに私の中でジョブが変わったよ。

しかも報酬、ざっくりし過ぎだよー。

まぁアトリエ世界(おそらく)で出る初めての依頼だし、当然受けるけどね。

ヤバい、これはちょっと歴史的な瞬間かも。かんどー!!

柱時計に目を向けると、丁度9時を回った所。

残り四時間、酒場の建物はかなり広いから、急いでもギリギリ間に合わないかもなぁ。

………待てよ、あの依頼書には期限が書いてなかったな。

多分その発想が無かっただけだろうけど、これは無期限扱いでも良いのでは?

うん、うん、一時までやって、また明日続きやれば良いんだよね。

んふー、やっぱり私天才だなー。

まぁジャック少年の試合が終わったら教えてあげよう、何でも無期限にしたらまずいしね。

さてさて、先ずは店の周りの草むしりー。おー。

 

 

 

「お、おー?」

 

ヤバい、草が全く無い、酒場のマスター改めクオルクさんの綺麗好きを舐めていた。

こんなんバケツ満たすのにどんだけかかるのかと。

嫌々、諦めるな、酒場の敷地なら裏の倉庫周りも含まれるべき。

そこまで全部抜けばかなり集まる筈。

それにほら、縁の近くならこんな魔法の草みたいな………え?

うぇ!?トーン!?マジで!?

いやいや、良く見てみなよ、こんな所にトーンが生えてる訳………いや、やっぱりこれトーンだよー!!

あっちにも!あっちにも!!あっちにまでも!!!

いやはや、お金も貰えて素材が集まる、最高ですな。

確かトーンは根っ子を残したら来年また生えるらしいし、全部茎からむしっておこう。

両手が汚れるのも構わず一心不乱にトーンを回収。

 

「ミッドりの調合ー♪ミッドりの調合ー♪中和剤に回復アイテム、色々便利な素敵なざっそー♪」

 

ご機嫌である。もはや他の雑草何て目に入らない、ただでさえ少ない雑草からトーンだけでバケツが半分埋まってしまった。

探せば有るものだ。

時間も押してるし、クオルクさんに途中経過を報告したらジャック少年の試合に行こう。




new魔法の草×14


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4〜奴隷剣闘士とピエロと小娘〜

ジャック少年との約束を果たしにコロッセオに来た。

トトカルチョの胴元はこの施設の出資者の1人らしく、街で大きな商会を開いてる男性らしい、受付のおねーさん曰く無駄に目立つので、直ぐに解るとの事だ。

しばらく客席を歩いてると1人の男性とそれを取り囲む人だかりが見えてきた。

男性の服装はピンクや黄緑等の極彩色に身を包んだ人で、無駄にレースやフリルのついた服装を着込んだ男性だった。

サーカスのピエロを思わせる服装は確かに目立つが、周りの雰囲気や華やかな空気からそこまで不快な感じはしない。

狙ってやってるのだとしたら凄いやり手かも。

 

「さぁさぁ皆様張った張った!!張って悪いは親父の頭!!ハッタリ張るならびっくり全額!!女房張られた左頬!!ここで出さなきゃ男も女も廃れるばっかだ!!一番人気のレッカーか!!二番人気のジークス!!それとも大穴!!最弱伝説ジャック・ラカン!!此処で張らなきゃもう張れない!!這って勝ち取る大金星!!さあさ張って張って!!」

 

「ジャック少年に全額!!」

 

………はっ!?

ジャック少年を扱き下ろされて思わずやってしまった。

不快な感じはしないと言ったが前言撤回、私この人苦手だ。

一方的にだけど、私はジャック少年と友達なつもりだ。そんな彼を侮辱されて黙ってられるものですか。

すると周りにいた人達が一時の間を置いて笑いだした。

 

「嬢ちゃんそりゃ金を溝に捨てるようなもんだぜ!!」

 

「やめときな!!拳闘ドリーム何てな!!」

 

「無理無理、猪ラカンじゃね」

 

こっこここ………このー!!

確かにジャック少年は弱いかも知れない、ついでに頭も悪いだろうし、説明も苦手にしてる。お金だって持ってないし、いきなり女子を担ぎ上げるデリカシーと常識の無さも問題だ。

たけど、此処まで馬鹿にされるような情けない奴じゃない!!奴隷階級から上がる為に、必死に考えて私に頼み込んで、今日を一斉一代の勝負の時だと言っていた。

恩義を感じてるとは言え、誰かの為に頑張る彼は間違いなく強い!!

もはや依頼で稼げなかったから頑張って欲しいとかじゃない、私は彼を全力で応援するよ!!

 

「うるさいあんたら!!私はジャック少年に賭ける!!」

 

自分でも意地になってるとは思うよ。

でも、友達が侮辱されるのを黙って受け入れて後悔するのは嫌だ。

 

「何なら私自身を担保に賭け金上乗せしてあげるわよ!!」

 

「………へぇ?」

 

っ!?

いや、今のは。そこまでする必要無かったかな。なんて………

てゆーかこのピエロ、笑い方がニタリと粘着室で無茶苦茶怖いー!!

これは私の為にもジャック少年には勝ち残って貰わなきゃ!!

 

「ふむ、全体的な容姿は中の下、良い商品にはなりそうにありませんなぁ、精々20万ドラクマですかね?」

 

もはや品定めの段階!?

つーか誰が中の下か、せめて中の上くらい有るわ!!

そりゃ平凡の中の平凡、極まった平凡、平凡の化物とまで言われた私だが、告白された事だってあるんだよ!?

まぁ小学生の甥っ子に「おねーちゃん好き、ハンバーグより好き」とかまったく胸に響かない告白でしたがね。

トミヤ君、何で食べ物と比較したの?おねーちゃん複雑な気持ちになったんだよ?

 

「しかし構わないのですか?言ってしまえばあのジャック・ラカンは才能も無い凡人ですよ?今年デビューしてからこのコロッセオで死にかけたのも一度や二度じゃない、敗けの確定している選手、不様な珍プレイ要因、それが彼だ」

 

こいつ………こう挑発すれば私が降りないと考えてるな?

正解だよ、そこまで言われたら降りられる筈がない。

 

「お気になさらず、ミスター。どうせ勝つのはジャック少年だ。貴方こそ、大損する前に店仕舞いにすればどうですか?」

 

不敵に笑って見せる。

例え負けてしまっても、私はジャック少年を恨んだりしない、覚悟とかは解らないけど、多分これはそんな立派なものじゃない、単なる自己満足だ。

自己満足なら自己完結で終わらせる。ただそれだけの話なんだ。

 

「じゃあねミスター。お互い試合を楽しもう」

 

そのまま背中を向けて歩き出す。

これが、アトリエの主人公なら食って掛かり最後は纏めて大団円何だろうが、私には無理だ。私の心は其処まで広くない。

さて!!暗くなった心をジャック少年との語らいで晴らすとしよう。

彼の太陽みたいな陽気さはこんな時にこそ活かすべきだ。

それに彼も緊張しているかもしれないしね、おねーさんが元気付けてあげよーじゃないの。

 

 

 

 

 

「やっほ、調子はどうかな?」

 

選手控え室を開き中を覗く。

丁度1人だけだったようなので、遠慮なく声を掛けた。

 

「………なんだ、ノミコか」

 

床に座り込み閉じていた瞳を開きそんな呟きを漏らすジャック少年、なんだとはなんだ。

 

「緊張とかはしてないみたいだね」

 

「まぁな、今日勝てたら一気に自由身分に近付く。緊張どころか楽しみで仕方無ぇ、早くやりたい位だぜ」

 

そう言ってギラギラとした瞳を細めニッと笑う。

やはりジャック少年は凄い、不安に思う事なんか無いって思わせてくれる。

まだ弱いかもしれない、まだ敗けるかもしれない、でもそんなの関係無く頼りになる。そんな雰囲気があるんだ。

これは一種のカリスマだろうね、頼もしくて嫌な気持ちが吹き飛んじゃった。

 

『選手の皆さんは、会場に移動してください』

 

ジャック少年の激昂に来たのに、逆に元気を貰っちゃったよ。

 

「んじゃ、軽く片してくるわ」

 

そんな勝ち気な台詞を残し控え室を後にする。

それを笑顔で見送り、私も客席に戻る。

途中ピエロと取り巻き連中と擦れ違ったが、睨み合うだけで言葉を交わすような事は無かった。

ふーんだ。ジャック少年の活躍に度肝抜かせば良いんだ。

 

 

 

 

 

コロッセオの客席に座り、闘技場を見下ろす。

私側の門から十人の選手が入場し、それぞれ散り散りに離れウォーミングアップを始める。

 

『さぁ!!始まりました!!オルスク大剣闘大会!!この試合はモンスターを交えた30の選手によるバトルロワイヤル形式となります!!』

 

上空に浮かんだ女性が、剣闘大会の開催を宣言する。

私の席から一番遠い門が開き、大小様々な魔物が解き放たれる。

アトリエシリーズのアードラ、ゴースト、ウォルフ、マンドラゴラ。

見たことの無い触手生命、ダチョウみたいの、スライム?みたいな男の子。

後半何かおかしいけど、兎に角厄介そうな敵ばかりだ。

 

「ジャック少年!!蹴散らせー!!」

 

声を張り上げ声援を送る。

それに気付いたのかどうかは解らないが、ジャック少年は突然大きな笑いをあげ始めた。

 

『おぉ!?何やら選手が爆笑しています。何があったのか!?音の精霊を彼の近くに寄せてみましょう!!』

 

アナウンサーの女性もジャックの奇行に気付き直ぐに音を拾う処置をしてくれる。

とゆーか精霊とはまたファンタジーだなぁ、マナケミアやイリスのマナみたいなのか、黄昏シリーズの精霊みたいなのか、気になる存在だ。

 

『………………ハハハハハ!!!!やっとだ、やっと旦那に恩を返せる!!』

 

あー、ジャック君テンションバカ高いなぁ、まあ無理も無いかもしれないね、待ちに待った時だもんね。

ジャック君はそのまま魔物の集団に突撃し、縦横無尽に………とゆーか速すぎて消えたようにしか見えないんだけど。

何あれ、あれで最弱とか、この世界の通常レベルは全員ステルクさんやジオさんレベルなのか?

なら最強は完全武装マリーとかエリーとかリリーとか?

地獄ではないか(戦慄)

えっいやいや、私ジャック少年の実力は勝手に初期のメルルぐらいかと………

これで勝ち星無しで死にかけるとか。

怖い世界だ。絶対に採取に出るときは護衛を雇おう。

そんな事を考えていたら、ジャック少年がマンドラゴラとアードラに挟まれてしまった。

空を飛び回るアードラに麻痺毒のあるマンドラゴラ。

かなり厄介なのに挟まれたジャック少年は、先ずは地上にいるマンドラゴラから倒そうと決めたのか、マンドラゴラの元までまた一気に駆け出した。

トテトテ走るマンドラゴラをシールドで弾き飛ばし、追撃に飛び掛かる。

それを反撃しようとマンドラゴラが頭の葉っぱから茎を伸ばし……違う!!反撃じゃない!!

 

『ぐっ!?』

 

案の定マンドラゴラは頭から伸ばした茎を振り回し、ジャック少年に麻痺毒を振りかけた。

体勢を崩し墜落したジャック少年はマンドラゴラを睨みながら、何とか立ち上がろうとする。

だが、それは土を爪先で蹴りあげるだけの行為となり、その姿に観客は笑いに包まれた。

私は悔しくて悲しくて、でも泣くなんてゴメンだと目元を乱暴に拭う。

大丈夫だ、ジャック少年なら負けない。

だって、あんなに必死に頼んできたんだ。

だって、まだ旦那さんに恩を返してないんだ。

だからジャック君は負けない。

そう信じてるのに、いざマンドラゴラがジャック少年に止めを差そうとした瞬間、私は反射的に顔をそらしてしまった。

 

『おおっと!?最弱伝説ジャック・ラカンの窮地を救ったのは、今大会唯一の女性参加者!!旅の聖霊使い見習い事ウィルベル・フォル=エルスリート十四歳だぁー!!』

 

助かった………?

良かったぁ………

……

………

………………はぁ!?

ちょっ!?ジャック少年ばかり気にして気付かなかったが、あれは正しく初期ベルさんじゃないか!?

やはりアトリエ世界だからいるのか?

作品の垣根を越えたキャラは確かに何人もいるし。パメラとかハゲルとか、ロジーとか。

いや、今はそれより試合に集中しよう。

 

『おっと?『ひきょうだー!』ウィルベル選手ジャック選手に何やら飲ませて居ます。薬草でしょうか?『せいせいどうどうやれー!!』どうやら二人は一時のチームを組むようです』

 

って何か五月蝿いと思ったらピエロか。

それなりに離れてるのにこっちまで聞こえるだなんて、よっぽど悔しいんだね。後でからかってやろう。

でも、初期ベルとは言え流石アトリエパーティーキャラ、上手いことジャックに合わせて戦ってるみたいだ。

この混戦の中でも無傷とは言わないけど、しっかり立ち回ってる。

そんなこんなで、気づいたら二人以外立ってない状況に。

肩で息をするジャック少年に、箒を構える初期ベル。

しかし直ぐ様構えを解き、何事か話始める。

しばらくすると初期ベルが箒を置いて降参を宣言、そのまま門の向こうに歩いていってしまった。

取り残されたジャック少年は呆けた表情で初期ベルの背中を見詰めていた。

 




展開急かもですが、ウィルベルは必要になるから出しました


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5〜後悔と決意の小娘〜

剣闘大会が終わり、ジャック少年は何事かを喚きながら、スタッフに引き摺られるように会場から出ていった。

あっけない幕切れに客席からはブーイングの嵐が飛び交い、トトカルチョの券が宙を舞う。

かく言う私も、予想だにしない展開に呆けていた。

 

(えっと………初期ベルが居たって事は此処は黄昏世界?でも砂漠化とかしてないし、それに黄昏シリーズにマンドラゴラは居なかったし)

 

そもそも、黄昏世界なら錬金術はもっと普及している筈だ。

いやいや、自分でアトリエシリーズはキャラを使い回してるって言ったじゃないのよ。でもコスチュームもおんなじなんて有り得るの?

………あーーー!!わからーーーん!!

もう難しい事は考えたくない、この世界はアトリエ、ウィルベル可愛い、これだけ解ってるなら十分だろう。

 

「くっまさか君はこの結果を予想していたなのですか?だとしたらなかなかの」

 

「うっさい邪魔!!」

 

って呑気に考え込んでる場合じゃない!!ジャックのあの荒れようなら最悪スタッフさん殴るかも!?てゆーか殴るねあいつなら!!

あーもー!!仕方無い、たったの一日の付き合いで此処まで情が移るとは、謎のカリスマ………いや、ほっとけないオーラを出してるジャックが全部悪い。

折角優勝したんだから、無駄に逸らないでよ?

 

 

 

 

 

選手控え室前に着いた。

辺りは静寂に包まれ、嫌な予感が膨らんでいく。

最早既に全員殴って追い出された後とか?

いやいや、そんなまさかねー?等と考えながら扉を開く。

扉の隙間からひょっこり顔を入れ中を覗くと、治療を受けたのか無傷なジャックが椅子に座っていた。

最悪の展開には到っていないようで、私は安堵の溜め息を吐き出した。

となれば、取り敢えず大会優勝の御祝いを言おうと口を開き掛け、直ぐ様閉じた。

泣いていたのだ。ジャックが。

一日にも満たない付き合いではあるが、あのジャックが泣きながら「ちくしょう………」と呟く姿は、私に衝撃を与えた。

子供扱いしているつもりは無かった。特別扱いしているつもりも。

だが、私はジャックに甘えてはいたのかもしれない。

敗ける筈がない?たった半日の付き合いで何がわかる。

頼りたくなる?こんな少年に頼りきりで恥ずかしくないのか。

私に損は無いだと?当たり前だ、私には初めから何も無いだろう!!

失う物が無い奴が上から目線に立ちやがって、気持ち悪い!!

………駄目だ、今の私は、今のジャックに話し掛けるべきではない。

この世界に、しっかりと足を付けよう。話はそれからだ。それまではジャックとは会わない!!

私はソッと部屋を後にした。

 

「よしっ!どうせ帰る家は無いんだ。今日は寝ずに草むしりだ」

 

魔法の草を集めて、錬金術を試そう。

失敗しても失敗しても、何度も何度も、いつか錬金術が使えるようになるって信じて。

 

 

 

 

 

それから私は酒場に戻りバケツを受け取り、草を探す作業を続けた。

一心に集め続け、明け方にやっとバケツを満杯に出来た。

フフっジャック、私も一つの死闘をやり遂げたよ、もう寝ても………良いよね?

 

「やっ、やっと見付けた………」

 

感慨に耽っていたら、クタクタな癖にやたらと覇気を纏ったピエロが現れた。

 

「あー?ピエロじゃーん!どったの?自信満々で負けに負けたピエロ君はどーしたの?んー?」

 

「くっ何て品の無い女だ!!二人に増えやがって!!」

 

二人にとか、視界定まってないじゃないか、マジにどーしたの?大丈夫?

さすがに心配するわ。

 

「だいたいどーしたの?だと?………お前が受け取らないから僕が渡しに来たんだろ!?ズボラ女!!アホ!!アホー!!」

 

「あぁー賭けの金かー、あんがと………つーか誰がアホだゴラぁ!?」

 

ピエロの癖に人をアホ呼ばわりとは!!ゆるせん!!

 

「テンション高いな!?落ち着け!!フラフラだぞ君!!」

 

るせー!!徹夜明け舐めんなコラ!!こちとら現代では平均九時間睡眠だバカ野郎!!

まぁ良いや、正直限界だし、自分の分受け取ったらクオルクさんに部屋借りて休もう。

 

「ほら!!350万飛んで187ドラクマ!!ったく………これで勝ったと思うなよ?次は僕が勝つ」

 

あーはいはい、どーぞ御勝手にー。

つーかはよ帰れ、あたしゃさっさと寝たいんじゃ。

 

「じゃあな、ちゃんと寝ろよ!?飯も食えよ!?」

 

解ってるよおかーさん。じゃあね。わざわざすまんね。御休みね。

フリフリと手を振ってフラフラと歩くピエロを見送る。そーいや名前聞いてない……まぁ良いや。

グッと身体を伸ばし、酒場に戻る。

って、閉まっとるやないか、まぁ明け方だしね。仕方無いね。

はぁ………結局野宿………いや、あそこ行こう。

魔法の草を詰め込んだバケツ片手にフラフラと歩き出す。

途中街の人に心配されたけど、「へーきでーす」と返しておいた。

それでもしばらく離してくれなかったけど。

いやー皆優しいなー、日本だったらスルー安定だよ、私もスルーするね、うん。

そうこうしているウチに目的地が見えてきた。

 

「泊まりに来ましたぁ………」

 

ニヘラと笑いながら城壁の門を潜り抜け門番さん(渋目)を探す。

 

「何で戻ってくんだよ………」

 

私の襟首を掴み青筋浮かべた門番さん(筋肉)が話しかけてきた。違う。貴方じゃない。

 

「チェンジで」

 

「舐めてんのか」

 

ガっ!!と音が響く頭突き貰いました。

乙女相手に容赦ないですね、痛いです。とても。

でも、纏まったお金も手に入ったし………明日は部屋を探して、調合道具買って………あぁ、忙しくなるなぁ。

そんな事を考えながら、私の意識は暗闇に薄れていった。



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6〜牢獄の会話と小娘〜

うぅん………

モゾモゾと身体を動かすと独房の硬いベッドがギシギシと悲鳴をあげる。

鉄格子から覗く空は暗黒に染まり、今が夜だと教えてくれる。

寝たのが朝方だから、かれこれおおよそ十二時間寝ていたという事だろうか。

時間の経過を意識すると、グゴギュルルゥと竜のイビキでもまだ主張しないぞと言うような腹の虫がなってしまった。きゃっ、恥ずかしいわ。

 

「おいおい、交尾中のオーガでもまだ静かだぜ」

 

すると、牢獄の外からそんな言葉が飛び込んできた。

乙女に何たる言い草か、否定できない自分が恨めしい。

 

「門番さん酷いよー……あぁ〜身体バッキバキだぁ」

 

身体をお越し軽く伸びをすると背骨が音を鳴らす。

私は熟睡すると寝返りを打たなくなるので、テスト期間とかは毎回こうなってしまうのだ。

 

「悪い悪い……二度目だから今回は長くなるぜ?まぁ明日の朝には出してやるけどよ」

 

「はーい………眠くないからさぁ、ちょっと質問よろしーか?」

 

折角だからこの世界について色々聞いておこう。

先ずは気になる魔法について。

 

「魔法って有るじゃん?あれって私でも使えるの?」

 

この世界皆魔法使うのよ、クオルクさんも杖から火を出してパイプ吸ったりしてたし。

ただウィルベルの攻撃魔法みたいな有り得ない迫力の魔法もある。

サギカ☆マギカだったか?五本の火の線が曲線を描き殺到する様は見事としか言いようがなかった。

使えるなら使いたい。

 

「あー、その質問が来るって事は旧世界からの遭難か?難儀してんな嬢ちゃんも」

 

んぅ?

旧世界とな?

 

「解ってなさそうだな……旧世界ってのはこの魔法世界とは別に存在する世界で、高度な科学技術が発達した魔法の秘匿された世界らしいぜ」

 

ふむ、旧と言う位だからアーランドや黄昏世界みたいな古代文明かな?

おそらく高度な科学技術ってのが錬金術臭いな。

となるとやはり、この世界では錬金術が廃れた説が濃厚か?

手掛かり無しの可能性も視野にいれないと駄目かー。

 

「ふーん、果てしなく遠く限りなく近い世界的な奴でおけ?」

 

「桶?」

 

おkが通じない………だと!?

ネットスラング使えないとか、私の知ってる言語体系とは違う世界は怖いぜ。

ニートの主張とか抜かすな、私は学生だからまだニートじゃない。

 

「まぁ、桶は気にしないで、錬金術には良く有る事だから」

 

たるー。とかね。

 

「それより門番さんも錬金術知らないの?」

 

「錬金術なー、昔は有ったみたいだが、それも結局水銀飲まして嘘だと発覚したしな。今じゃ普通に調薬や鍛治で作ってるし、それで間に合ってるしな」

 

「ああ、うん」

 

にしても錬金術の歴史がまるきり地球と被ってるんだが。

このようすでは痕跡すらも絶望的か?

先駆者のいないスタートかぁ、不安っちゃ不安だけど、それ以上に楽しみだな。

早く錬金術を試したい。

 

「他に聞きたいことは有るか?」

 

なんかゲームのチュートリアルの説明役みたいな事を言い出した。まぁ有るんですが。

 

「あのさー、ぷにぷにっているじゃん?」

 

ここからが本番、交渉の時間だ。

さぁさぁさっきまでの会話で頭はホクホク丸だぜ。やるよー!!

 

「あれを倒したら出る丸いたまと液体いらないよね、ちょーだい」

 

ざっつちょっきゅーしょーぶ!!

私みたいな凡人が出来る最強の交渉カードだ!!

そんで要求するのはぷにぷに玉とぷにの体液の2つね。

あれは店で買うかぷにぷに倒して手にいれるしか無いのに、この世界では売られてないみたいなんだよね。

だから倒して手にいれるしか無いんだけど。

私が戦うビジョンが見えない。

その気になったら子猫にも負ける自信があるからね。どやぁ。

だから兵士の皆さんのゴミ処理を手伝ってあげよーと言う、ボランティア精神なのです。善意ナンデス。そのついでに素材が手に入るのです。自然な流れすぎて悟れちゃうわ。

 

「はぁ!?あれは洗濯や掃除に使うから譲れねーよ、ただでさえ滅多に落とさねーのに」

 

………え?

ぷにぷに玉とぷにの体液だよ?

洗濯や掃除に使うの?あれを?極彩色のあれを?

………アトリエやり込んでたけど、それは知らなかったなぁ。

 

「悪いな。代わりに良い情報教えてやるよ」

 

良い情報?

 

「そんな期待されても……嬢ちゃん顔に出やすいって良く言われるだろ?」

 

いや、この世界に来るまで一回も言われた事が無いよ。これ本当に。

 

「まぁ情報と言っても空き家の何だがな」

 

ほほぅ!!

二回も牢獄に泊まったせいで宿無しがばれたのは恥ずかしいが、それを補って余りある有益な情報だね。

丁度拠点が欲しかった所だし、わたりに船とはこうゆうのを言うのかな。

 

「東区の奥にな、今は誰も使ってない廃墟があるんだが、元は雑貨屋だったのか中は広いし」

 

「広いし………?」

 

ご、ごくり。

期待に思わず生唾を飲み込む音がした。

身体を前のめりにして鉄格子を掴む。

門番さんはそんな私の態度に苦笑しながらも、どこか悪戯小僧のような空気を醸し出しながら口を開いた。

 

「地下室付きだ!!」

 

「ひぁぁあ!?」

 

ちちち地下室付きー!?

頑張れば氷室が出来ちゃうよー!!アトリエ的でグーだよ!!

 

「庭付きだ!!」

 

「あびゃあぁぁあ!?」

 

庭だってー!?

頑張れば家庭菜園出来ちゃうよー!!素材の自給自足だよ!!

 

「二階付き!!」

 

「あっ、そっすか」

 

二階とか独り暮らしには過ぎた代物だよー……寂しくなるからそこまではいらないよー……

 

「二階には巨大な釜戸付きだ!!」

 

「あばばばば」

 

そっそれは……アトリエの大前提のれれれれ、錬金釜を置けると?

 

「買います!!」

 

「さらに同居人が!!……まいどー!!」

 

え?ちょい待ち、廃墟に同居人が……同居人がどうした!?

まいどーじゃないよ!!何だよ同居人って!!

魔物か!?魔物の巣になってるのか!?

私は門番さんに手を伸ばし肩を揺する。

門番さんの頭がガツンガツンと鉄格子にぶつかるが、関係無いよ!!同居人がどーした!?

 

「魔物ではない!!だからやめろ!!」

 

では!?ではって言ったな!?

つまり魔物と同じくらいヤバいの何だろう!?野盗か!?荒くれの冒険者か!?

 

「何が居んのよ!?こんな乙女にナニを売り付けようとした!?」

 

返答遺憾によっては考えがあるよ!?

 

「ゆ……ゆーれーが」

 

シェイクし過ぎて真っ青になった門番さんが、口元を押さえながら答えてくれた。

 

「なら良い」

 

門番さんの肩を離すとフラフラと後ろに下がった。

幽霊?

アトリエ世界で幽霊って言ったら陽気で可愛いあの方ですよね?

ユーディーで登場してからは後のシリーズでも出演し、マナケミアにいたってはパーティーメンバーへの大抜擢を成されたあの方ですよね!?

うわー、うわー!!バイブス上がるわー!!

あの方は人を驚かすのが大好きだし、驚く練習するべきかな!?

 

「悪かったよ騙すような真似して、やっぱりキチンと話して納得した人に買って貰わなきゃな」

 

えっ待って、シェイクしたのは謝るからそんな青筋浮かべて離れないでよ。

てゆうか買うよ!!買う買う!!

だから待って門番さん!!

 

「まっでぇー!!いやだぁー!!わたしがかうー!!その物件わだしががうからぁ!!」

 

「必死になりすぎだろ!?冗談だから落ち着け嬢ちゃん!!」

 

ぐすん、ぐすん。

だってー、折角パメラに会えるのに、門番さんが意地悪するからー!!

私は止めどなく流れる涙を拭いもせず鼻水をすすった。

 

「解った!!悪かった!!俺が悪かった!!だから泣き止め!!な!?」

 

ぐすん、デジャブを感じる台詞だよー。門番さんは女泣かせだー。

 

「取り敢えず空き家自体は土地も含めて五十万ドラクマで良いらしい、改修は買い手の負担で除霊も買い手の負担らしいが」

 

ん、五十万ならジャックにお金渡しても買える………渡しても?

 

「あー!!?」

 

「うおっ!?」

 

ジャックに賭けのお金渡すの忘れてたー!?

地に足を付けるまで、具体的には錬金術で生活出来るレベルになるまで合わないとか誓っといて、明日会う用事が出来てしまった。

何だか恥ずかしい、ジャックはあの誓いを知らないが、兎に角恥ずかしい!!

 

あー!!うー!!どーしよー………




スキル
new遠心分離機(人力)


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7〜酒場の依頼と小娘2〜

ジャックへの配当金引き渡しを思い出した私は、留置所で一晩明かし、翌朝には酒場に足を運んでいた。

門番さんから酒場……竜の飛翔亭に、空き家の地主さんが来ると言われた為だ。

ついでにクオルクさんに依頼の達成報告と、依頼期限について教えておこうと言う考えもあったりする。

 

「とは言っても……」

 

初めて酒場に訪れた時とは比べ物にならない人の数に面食らってしまった。

まだ朝だと言うのに、カウンターには何人も並び、いつの間に用意したのか、コルクボードには更に大量の人が群がっている。

 

「おはよークオルクさん、凄いね」

 

「あぁ、おは……ごくろうさんお嬢ちゃん、あんたのお陰って奴だな」

 

クオルクさんはそー言うが、あんな提案でここまで賑わうとは思えないから、クオルクさんが頑張ったのだろう。

 

「これが依頼の結果、でさ、提案何だけどこの草くれないかな?見返りに良い情報教えるからさ」

 

「俺はいらないから草は欲しいならやるさ、情報は物によるが、別に報酬を出してやる」

 

そう言いながら私の頭をグシャグシャと撫で回すクオルクさん。これは餓鬼がいっちょ前に気を使うなって意味だろうなー。

 

「じゃ、バケツは明日返しに来るとして、情報ってのは期限と依頼の貼り方について」

 

私が話を切り出した瞬間クオルクさんの目付きが変わった。

初めて来たときの印象でやり手だとか思われてるのかな、私なんて平凡な女学生でしか無いのに。

 

「先ず期限を儲けないと、未解決の依頼が増えかねないよね、んで依頼の貼り方だけど、あんな好きに決めるやり方だと実力に沿わない依頼とか受けて失敗が続くかもしれない、どちらも依頼者側から仲介者への信用に関わらないかな?」

 

「くくっ……確かにな、それで?具体的な解決案はもう考えてあるんだろ?」

 

だからそんな期待しないでってば。パッと思い付いたようなのしか出ないんだから。

ミルクを差し出してきたクオルクさんに曖昧な笑みを浮かべながら語り始める

 

「えっとですね、先ず期限に関しては簡単に無期限、短期、長期に分けてみてはどうでしょうか?」

 

ミルクで唇を濡らし、舌を転がす。

 

「無期限は文字通り、今回のような店の依頼に付けましょう。店の依頼なら信用に関わる事も無いですし、依頼を受けた冒険者の実力を計るのにも良い」

 

緊張で汗が吹き出す。

異世界に来てプレゼンするなんて、誰が考えるだろうか、少なくとも私は想像すらしていなかった。

 

「次に短期は、近場で出来る採取の依頼にしましょう。これなら実力の無い若手の方でも安心して任せられます」

 

主に私の為の依頼ですね解ります。

街の近くなら兵士の巡回もあるだろうし、滅多には危険な目には合わないだろう。

 

「最後に長期、これには魔物や盗賊の討伐、危険地域での採取等の危険だったり時間のかかる依頼にして、剣闘大会の実績者やクオルクさん一押しの方に任せてはどうでしょうか?」

 

つまりは上級者向けの依頼。

ジャックや私じゃ絶対に受注出来ないレベルだけど、その分報酬は馬鹿な程に高い。

 

「どーですかね?」

 

クオルクさんに意見を伺う。

心境は現代社会の日常というレポート提出の宿題で日記を提出した時のようだ。

 

「依頼者に決めさせるのはどうなんだ?」

 

「悪くは無いけども、達成不能な依頼を出される可能性を考慮するとあまりお勧め出来ないかな、その場合はクオルクさんが審査して仲介しても良いか判断するのが良いかなって思うんです」

 

例えばドラゴンテイルを短期でとかね、ぶっちゃけ無理だと思うのよ。

 

「解った、今出してる依頼は無理だが、明日からはその方式でやってみるよ」

 

「うん、後依頼の貼り方だけどね、狭くなるけどカウンターの中にコルクボードを入れるのが良いと思うんだ」

 

「あー、やっぱりそうだよなぁ……だけどなぁ」

 

クオルクさんが何事かを言い淀む。

検討はしたけど採用しやかったのかしら?何故に?

 

「いやな、俺も最初はそうしたんだが、あの数だろ?一人で選んで割り振ってだとな、さばききれねぇんだ」

 

あー、確かにあの人混みがまるっとカウンターに来たらそーなるよねー。

 

「となると、冒険者が選ぶって1クッションは不可欠かぁ」

 

とか言いながら右手を差し出す。

直ぐ様察してくれたクオルクさんはカウンターの引き出しから貨幣を取りだし手渡してくれた。

 

「依頼の貼り方は検討済みだったからあれだが、期限はそれなりだからな、こんぐらいだろ、それに依頼の10ドラクマも」

 

渡された貨幣は50ドラクマ飛んで60アス、日本円だと56

00円くらいかな?

うん、こー考えると50万ドラクマの家ってやばいな。日本円だと500万だよ?新車2台は買える値段だ。

今手元にある300万ドラクマは……考えたくない!!

早く家買って、ジャックに150万ドラクマ渡そう!!

それでも100万ドラクマは残るんだけどねー。

1億円……怖いぜ、ついつい財布を握る手に力が籠る。

 

「ところでさ、門番さんからここで東区の奥地の地主さんが来るって聞いたんだけど」

 

「東区の奥地っつーとゲヴォルの倅か、まだ来てないな、時間は?いつ来るかとか聞いてないのか?」

 

あー、聞いてない、酒場にいても仕方無いし、酒場の依頼でも見て回るかな。

 

「聞いてないんだよね、酒場にいても仕方無いからさ、何か依頼ある?」

 

ミルクをチビチビと飲みながら訪ねる。

 

「そうだな、草むしりにかかった時間を考えるとこんなもんかな」

 

そう言ってクオルクさんがコルクボードからはずして来た依頼は三つの物だった。

 

 

 

依頼

ぷにぷに進化論

 

依頼者

学者のリーマン

 

内容

緑のぷにぷに、青のぷにぷに、赤のぷにぷに

ぷにぷには何故ぷにぷになのか

我輩の興味は尽きない

ぷにぷにをぷにぷにしたいがために養殖したいが、生態が解らない

故に君にはぷにぷにの落とす玉とぷにぷにの体液の摂取を頼みたい

数は3、頼むぞ

 

報酬

30ドラクマ

 

 

 

依頼

毒薬

 

依頼者

ヤンディレ夫人

 

内容

何も聞かないで毒薬を一つ渡しなさい

 

報酬

5000ドラクマ

 

 

 

依頼

効果を調和する何か

 

依頼者

薬師のレナン

 

内容

魔力を充填するミスティカの葉にガッシュの樹肌を煎じた薬、確かに魔力の回復量は上がったが、代わりに酷い臭いがする。

何かないか?

 

報酬

100ドラクマ

 

 

 

これは………一つ目は私には無理だから除外、二つ目は何か怖いからやりたくない。

んで三つ目、これってあとすこしでミスティカティーになるよね。

ミスティカティーの効力は味方一人のMP+100回復、材料はザームブルグ方式でミスティカの葉にガッシュの木炭、蒸留水に中和剤(青)

ガッシュの枝は強烈な臭いがするからそれが理由かな?

んで、この人が求めてるのは多分中和剤。

中和剤の材料はへーベル湖の水。

中和剤は初期の調合品だし、依頼に期限がついてない今のウチに受けちゃった方が良いよね。

 

「この依頼にして良いかな?」

 

クオルクさんに三つ目の依頼を差し出す。

一瞬本当に受けるべきか迷ったが、私はこの世界で錬金術で生きていくと決めたのだ。ならこれは良い機会だと受け止めよう。

 

「あぁ、出しといて何だが無理そうなら速めに頼むぜ、他の奴に回す関係もあるからよ」

 

クオルクさんはそう言って写しの依頼書を差し出して来た。

 

「へーきへーき、必要な物は多分合ってるから、近い内に出しちゃうよ」

 

自分の中の不安を圧し殺し、軽く返事を返す。

さて、地主さんがいつ来るか解らないし、気は乗らないけどジャックの所に行こうかな。




この小説では1アスを10円1ドラクマを100円とします。
とゆうのも、作中の描写から通貨の計算をしてみたのですが、降り幅が大きすぎてまったく定まらなかったんです

最初計算したら1ドラクマ1000円になったんですが、それだと原作の奴隷解放イベントでかかる額が有り得ない事になり、仕方無く違和感をギリギリ押さえられる額まで落としました。
その為に原作の額に対しての矛盾が発生するとは思いますが、そこは原作は原作、二次は二次と割り切って読んでください。

アトリエで通貨計算しないでやってくのは無理なんや、本当は私だってこんな面倒な作業(泣き言)

赤松先生!!通貨単価教えてくださーい!!


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8〜少年剣士と地主と小娘〜

酒場を後にし、闘技場に来た私は今日の試合内容が張り出された掲示板の前に立っていた。

第一試合にウィルベルの名前が有るが、それ以外には見知った名前は存在しない。

つまりジャックの名前が見当たらない、なんで?

取り敢えず胴元のピエロの所に行こう。あいつなら何か知ってるかもしれない。

掲示板から離れ階段を上がる、人が疎らに座る客席の中で矢鱈と目立つ男が一人。

ピエロは今日も変わらずピエロをしているようだ。解りやすい。

 

「おーい」

 

「ん?………おま………っ!?」

 

友好的に手を振ったら大きな挙動で立ち上がり椅子に足を引っ掛けスッ転ぶピエロ。

何だよそれ、人をまるでオーガかお化けみたいに、こんな平凡な乙女に向かって取る態度ではない。

 

「つーかあんたってデカイ商会の頭何でしょ?朝っぱらから博打の胴元とかどうなん?」

 

ぶっちゃけ仕事してんのかと、嫌よ仕事丸投げの社長とか、それが許されるのはトニー・スタークとハニー・オルソンだけなんだからね。

 

「実に馬鹿だね君は。これも仕事の内だよ、何せこの闘技場には僕の商会の傭兵隊も出てるんだ。彼等の宣伝も兼ねて胴元と呼子をしながら、仕事の依頼を受け付けてるのさ」

 

ピエロは立ち上がり砂を払うと「チッチッ」と指を振り説明してくれた。

 

「それに僕の商会は基本行商で収益を上げている。君が心配するようなサボりや遊びなんてしていないし、悔しいが僕はそれを許されるような人望も持ち合わせていない」

 

お、おぉ。

何だろ、少しからかうだけのつもりが、藪をつついてアナコンダだよ。急なシリアスには対応出来ないのさ。

そんな暗い顔しないでよ、調子が狂うわー。

 

「んと、そー言えばジャックはー?」

 

「露骨に話題を変えたね」

 

そそそ、そんな事は………すいません………

いや、そんな仕方無い奴だ。的な顔しないでよ、メイクで解りにくいけどさー。

 

「良いから教えてよ、200万以外の勝ち金、ジャックの取り分だから渡さなきゃいけないんだよね」

 

「君の金では無かったのか……代理人を立てるのも原則禁止なんだが、アイツは……」

 

やばっ!?

ジャックの奴、そーゆーのは最初に言ってよね!?

 

「あー!!あー!!そーいえぼあれは私のおかねだったかもー!!うっかりだー!!」

 

くそー!!何とか誤魔化さないと、前回の勝ち金を返す程度なら兎も角、ジャックと私が仲良く捕まるなんて事になったら目も当てられない。

 

「そんなに必死にならなくても、別に厳重注意と短期の試合禁止ぐらいしかペナルティは無いよ、だいたい暗黙の了解で皆やってるしね」

 

呆れたと言わんばかりに溜め息を吐き出し、そんな事を宣うピエロ。

くー、ビックリさせてー。

でもまぁ、確かにこの程度の抜け穴気付かない筈がないもんね。共犯者が言わなきゃ良いだけだし。

 

「それよりジャックの居場所だったかい?たしか街外れの湖に鍛練に出掛けた筈だな。徒歩で半日の距離だから行こうと思えば直ぐに行けるし、しばらく籠ると言っていたから行き違いにもならないだろ。」

 

えと、それってつまりは………

 

「街の外って事になる?」

 

「そりゃ、そうなるだろうね」

 

恐る恐る聞いた私に、本日何度目かの呆れ顔を浮かべたピエロが答えた。

しかし街の外かー、ここに来てまで私の足を引っ張るのか通行証……ゆるせん!!

ぷにぷにに抱き着くのを邪魔した挙げ句のこの仕打ちはもはや殺意すら覚えるレベル。

てゆーか通行証って何処で貰えるの?

 

「君、もしかして通行証も無いのかい?」

 

いやー、えへー。

思わず側頭部を掻く。何だか呆れ顔に慣れつつあるわね。

 

「はぁー、通行証は役所で発行して貰える、だがこの街で発行出来るのはこの街と隣街のリンダルムの分だけだ」

 

ふむふむ、つまり江戸時代の通行手形みたいな物かな。

合わせ板だっけ?

まぁ流石にちゃんと紙に書かれた公文書何だろうけど。

 

「はーい、じゃ早速貰ってくるとするよ。わざわざありがとね」

 

ピエロに手を振り闘技場を後にする。

役所の場所を聞くついでに酒場に地主さんが来てないか確かめに行こうっと。

 

 

 

 

 

酒場の中は相変わらず人でごった返していた。

コルクボードに人が群がり、カウンターに列が出来る。

私の知ってる依頼酒場じゃない。

依頼の持ち込みに来たのかスーツを着込んだ犬みたいな人や、ワンピースを着た羽根付きの女の子などが椅子に座り書類に何事かを書いている。

そんな空間で一人浮いている少年が見えた。

しきりに辺りを伺いソワソワと忙しなく体勢を入れかえる。

髪の毛は栗色で、服装は白の着物を羽織っている。

腰に下げたのは明らかに日本刀だろう。

 

「お疲れ様クオルクさん、地主さん来たかな?」

 

「おう嬢ちゃん、ゲヴォルの倅ならあそこだ」

 

件の少年を気に掛けながら、クオルクさんの指差す方を振り向く。

そこにいたのは一目で幸が薄いと解るような影を背負った青年だった。

白い頭髪に青い瞳で、肩を落とし猫背気味で俯いている。

思わず「うわぁ」と呟きそうになるインパクトのある風貌だ。

 

「なんでも、幽霊屋敷の影響であの辺りの売値がどんと下がったらしいな、今回嬢ちゃんが買わなきゃ首を吊ってたかもしれんそうだ」

 

クオルクさんが耳打ちし教えてくれた。

それは何とも、不憫を通り越して不幸の坩堝だ。

正直あそこだけ換気したくなる程澱んでいるが、話し掛けない訳にもいくまい。えぇいままよ!!

 

「あの、東区の奥地の、その、地主さん………ですよヌェ!?」

 

ひぃ!?

グリンて!グリンて首が!!

振り向き方恐すぎだよー!?こんなんホラーじゃないか!!

地主さんの目の下には隈が浮かび、頬は痩せこけていた。

この人が幽霊だと言われても納得するね私は。

 

「君が……あの物件を引き受けてくれるのかい?」

 

ヨロヨロと手を伸ばし私の肩をガッと掴み急接近する地主さん。

眼が手負いの獣のようだ。手負いの獣見たことないけど、そうとしか表現出来ない危うい感じがした。

 

「はっはいぃ……先ずは現地で確認してから除霊するかどうかは決めますぅ……」

 

涙目で何とか答える。

あのですね、指が肩に食い込んで、あの、痛いですぅ………

 

「そうか……そうか!!ならば直ぐに向かおう!!除霊師の方は既に呼んでいる!!料金はあなた様の負担になるが、腕は確かだと聞いている!!さぁ!!早く!!早く行こう!!」

 

私が答えた瞬間立ち上がりテンションの高くなるゲヴォル氏。

肩に置いた手を腕に回し引っ張る。興奮からか加減無く握る力に恐怖を感じ、思わず抵抗してしまう。

 

「ゲヴォル殿、気持ちは解りますが急いてどうなる事も無し、落ち着いて彼女を見てください」

 

すると、突如ゲヴォル氏の背後からそんな声が聞こえた。

ユラリと影のように現れたのは、先程目に入った少年剣士だった。

 

「あっ……あぁ、すいません、すいません……やっとあの屋敷の呪縛から解放されると考えたら……私は……」

 

「いえ、そんな……心中お察し致します」

 

いやー、こんな弱ってる人に当たるのは流石にね、まぁ怖かったし痛かったけど、仕方無いよね、首吊り寸前の弱りっぷりだったんだし。

 

「あの、助かりました」

 

少年剣士君にも礼を言う。

ペコリと頭を下げると向こうもそれに合わせて頭を下げてきた。

この謝罪癖は日本人的で懐かしい。

 

「では改めて、私は天条ノミコです。本日は除霊をお願いします」

 

「私はゲヴォル・クォードルです、私からも頼みます剣士殿」

 

「此方こそよろしくお願いします。私の名は青山詠秋、神鳴流剣士です」

 

腰の低い三人でペコペコ頭を下げながらの自己紹介は周りからどんな風に見えたのか、そんな事をぼんやりと考えながら、二人の後ろに付き例の屋敷に向けて歩き始めた。




調合をザールブルグやグラムナートの機材を用いた物にするか

それ以外の釜を掻き回すだけの方式にするか

悩み中です


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9〜不幸と出会う小娘〜

ゲヴォル氏と青山さんの後をついて歩き一時間程たった頃、現代日本での日常生活では先ず通らないような、整備されいない林道を通った先にその屋敷は有った。

所々壁が崩れ、蔦が絡まり、風雨により内装も傷んだ廃墟だ。

不気味な雰囲気を感じるその廃墟からは、確かに何かの気配を感じる。

 

「邪悪な気配は有りませんね、隠密性の高い霊か、やはりただの噂か」

 

「噂なら噂で構いません、問題は私の物件に悪霊が住み着き放置されていると街中に広まっている事何です」

 

そのせいで土地の借り手が激減したんだね。

また興奮しだしたゲヴォル氏を眺めながらそんな事を推測する。

噂なら噂で証明し、悪霊が居るなら追い出すなりなんなりして、対処したという体裁が欲しいのだろう。

こういった商売事は解らないが、信用は得難く離れやすいとサラリーマン金太郎でも言っていたしね。

 

「落ち着いてくださいゲヴォル殿、私が先ずは中に入り真偽を確かめて来ますので、御二人はここで土地の取引の話でも………」

 

それだけ言って、青山さんは廃墟の中に躊躇無く入っていった。

 

「アハハ、来た意味無さそうですね、私」

 

「いぇいぇそんな、ここらの土地の視察も有りますし、それに除霊が完了次第引き渡せるように書類も持参しましたので」

 

さっさと手放したいだけなんじゃ………鞄から様々な書類を取り出すゲヴォル氏を見詰めながら、そんな事を思う。

まぁでも、この屋敷が直ぐに手に入るのなら、そんな思惑も受け入れられる。

 

「さて、先ずは裏庭から参りましょうか」

 

そう言いながら立ち上がるゲヴォル氏から土地の詳細な情報の書かれた書類を受け取り、内容を確認する。

裏庭は10坪とそれなりに広く、ローズガーデンの跡地である。

実際に目にすると、まぁ荒れてはいるが、飾り柱もひび割れているが倒れてる物は無いし、修復するのにもそれほど時間はかからないだろう。

 

「あちゃー、井戸は枯れてるかー」

 

薔薇の水やりに使われていたであろう井戸は、底が見える程に枯れていた。

それなりに高台にある屋敷なので、差し水が無くなれば井戸も枯れる。この井戸を復活させるには人夫を雇い中を更に掘り周辺の水が差すようにしなければならない。

日当一人70ドラクマだとしても、中で掘る人が一人、上で土を上げる人が一人、井戸を組み立て下げる人が二人、土を運ぶ人が一人、つまり5人雇うとして350ドラクマ、一週間雇うとしたら6日間で2100ドラクマか。

一週間で水が吹くとも限らないし、こればかりは運次第だなぁ。

地下に残り水が有れば、そこが最低ラインだと解るのだが。

 

「何分古い屋敷ですので、大工の他にも土が得意な業者の魔法使いを雇いましょう………全体の費用は全て回ってからとして、次は馬舎跡に向かいましょう!!さぁ!!さぁ早く!!」

 

ちょっまっ!?

またゲヴォル氏のテンションが上がった。

この人手綱握る人が居ないと躁鬱が激しい、かなり面倒な人だ。

青山さん早く!!さぁ早く!!幽霊調査終わらしてー!?

 

「ここが馬舎です!!最大二頭の馬を繋げておけます!!裏には20坪の平地が広がり、馬の他にも山羊や羊の放牧も可能ですが!!」

 

馬舎跡には何もなかった。

建物も無ければ柵もない、あるのは荒れてる地面とへどろで埋まった土側溝のみである。

 

「見るまでも無く改良区域です!!」

 

いや、はい、解ります。

でも、馬を買う予定は無いし、買うなら牛でしょ。それでパナって名付けるのだ。きっと可愛い。

 

「後は屋敷だけですか」

 

「そうなりますね……青山様は無事でしょうか」

 

振り替えり屋敷を視界に入れた瞬間、屋敷の屋根が雷を纏う極光に吹き飛ばされ、数瞬後、壁を巨大な斬撃が切り裂いた。

 

「わひゃあぁあ!?」

 

爆風に転がりながら悲鳴をあげる。

アトリエのキャラはつくづく人間止めてるが、現実にするとこんな事になるのか。これなら確かにジャックのあの動きが弱いと言われるのも納得できる。

だってたった二回の個人技でそれなりに大きな建物が半壊したんだよ?重機を使ってもまだ時間がかかるよ。

 

「ノミコ殿!!ゲヴォル殿!!お下がりください!!」

 

建物からもうもうと立ち込める煙から尾を引きながら、青山さんが飛び出してきた。

美しい青色の着物は煤け、手に握る刀の鞘が半ばから折れている。

振り返らずに叫んだ青山さんは、刀を握る手に力を込めながら煙の奥を見るように睨み付けている。

 

「あいたた……は、話を……」

 

そして煙の中から更に人影が。

ボロボロの外套を纏い、片手には身の丈程もある大剣を握っている。

聞こえた声は男性のもので、どこか困っているような雰囲気を纏っている。

 

「くっ……しぶとい悪鬼め……!!」

 

青山さんは唇を噛みながら刀を腰だめに構えた。瞳を閉じ呼気を一つ。

トッ……と軽い音を鳴らし、気付いた時には外套のお化けの前にいた。

 

「神鳴流奥義」

 

閉じていた瞳を開いた瞬間、風が青山さんに向かい流れるのを感じる。

 

「百烈桜花斬!!斬魔剣二乃太刀!!」

 

瞬間、今度は風が青山さんから解き放たれ暴風となり辺りに飛び散る。

シャリンと音が響いたと思ったら、辺りには桜の花弁が荒れ狂うように舞飛び、地面に落ちた瞬間に崩れるように消え去る。

それを綺麗だとか思う余裕は無かった。

その一撃でお化けの外套が吹き飛び、ついでと言わんばかりに半壊に留まっていた屋敷も吹き飛んだからだ。

 

「ほぁぁーーーー!?!?」

 

あまりにもあまりな出来事に悲鳴だか奇声だか解らない叫びをあげる。

お化けの中の人が渦を巻くように上空に吹き飛び、屋敷の残骸も後を追うように吹き飛ぶ。

ゴシャッと惨い音を鳴らして落ちてきた人と次々と降り注ぐ残骸もに目をやり、その場に座り込む。

リフォームとか改修とかじゃない、完全な建て直しである。

家なんて建てた事無いからどれだけかかるか解らないが、もしかしたら折角の賭けのお金が全部無くなるかもしれない。

そう考えると何だか悲しみよりも、一週回ってどんな新築にしようか考えてしまう。これが現実逃避何だなー。

 

「あっぶ!?あぶない!?」

 

ワタワタとお化けの中の人が此方に逃げてくる。

そもそも、こいつさえ居なければ………

そう思って睨み付けた瞬間に私の動きは固まった。

頭の中では歓喜と不安と疑問と納得が乱れ飛び、目の前の対処に困り過ぎる人物に視線は釘付けになった。

 

「あー、ついてないけど、今回も生き残れたぁ」

 

額の汗を拭いながら幸薄く笑う姿に正気に戻り、慌てて視線を反らす。

 

「はぁ……まさかお化けと間違えられて戦う事になるなんて」

 

呑気にそんな事を言う鎧の男や、その背後から忍び寄る青山さんも気にならない程の驚愕、だってそこにいたのが。

 

「あぶない!?……だから僕は幽霊じゃないってば!?あぁ!!もう!!なんてついてないんだ!?」

 

ユーディーのアトリエに出て来た不幸な男、アデルベルト・ホッカーだったのだから。




神鳴流の技は大味過ぎるのが多いと思う


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10〜不幸と役場と小娘〜

永らくお待たせ致しました………待っててくれていたのでしょうか?(不安)

色々言い訳が有りますが一言………リアル(ネトゲ)が忙しかったのです!!すいません!!


アデルベルト・ホッカー。

ユーディーのアトリエに登場する戦士の男性だ。

作中の出会いは、ポーカーで有り金を擦ってしまい、悲鳴をあげるアデルベルトにユーディーが話しかける事から始まる。

技を放とうとすれば転んで失敗し、共に出掛ければ悪天候で素材を駄目にされる。

歩く不幸とも言えるデメリットの多さだが、諦めずに育てきれば作中屈指の最強クラスに強くなるという、かなり灰汁の強いキャラだ。

私は今現在、そんなアデルベルトと共に街の役所に来ている。

通行証を発行して貰う為だ。

本来なら身分を証明できるものが必要なようだが、私には当然そんなものは無いので、ゲヴォル氏とクオルクさんに身元保証書を書いて貰い、住民登録を行う必要がある。

そうして住民票を受け取ってから、初めて通行証の発行となるのだ。

では何故アデルベルトが一緒にいるのか、答えは簡単で、破壊された家屋の修繕費用を護衛としてこき使うことで帳消しにしようと言う話になったからだ。

更に言えば彼は文無し宿無しついでに通行証無しの役満状態らしいのだ。

街道を歩いていたところ親切な行商の馬車に拾われ、珍しくついてると喜んでいると、不思議な事に行商が盗賊にジョブチェンジしたという。

盗賊は危なげ無く殲滅したが、気を抜いた瞬間に褐色肌の少年と三匹のぷにぷにの戦いに巻き込まれ吹き飛ばされる。

その際に通行証と路銀を落としてしまい2日探すも見付からず、仕方無く街に忍び込む事にしたようだ。

日中はフードを深く被り少年を探し、夜の帳が降りてからは廃墟で寝泊まりしていたと。

夜な夜な不幸を嘆き泣いていたら気付いた時には幽霊扱いされてしまい、間の悪い事にインチキ霊媒師に「この屋敷からは邪悪な気配がする」と言われてしまい、出るに出れなくなってしまったというのだ。

そんな中でまともな食事や睡眠を取れる筈も無く、意識が虚ろとなっていた所に青山さんの襲撃、やけくそ気味に迎え撃ち、どちらも思わぬ実力者に本気の戦闘が開幕。

更に青山さんはアデルベルトの実力から高位の亡霊だと思っていた為に確実に殺しにいっていたと。

我が家……となる予定だった廃墟、今は瓦礫の山だが。を半壊する程に暴れたのもそれが理由らしく、この世界の高位の霊は一体で都市を壊滅させる事もあるらしいのだ。

効力に死霊特攻つきのアイテムの作成を心に決めた。

まあそんな訳で、青山氏に関しては依頼内容が除霊だった事。家屋の損害はある程度眼を瞑る契約だった事。更に言えば青山氏の実家がかなりの資産を持ち、修繕費用の半分を捻出してくれるという事で話が纏まった事から、基本的には御咎め無しと相成った訳である。

しかしアデルベルトは前述の通り文無し、無い袖は触れないからと、借金の返済額に見あった期間として五年程無償で護衛に雇えるようになったのである。

通行証発行の為に役所に来た私とアデルベルトは、発行の手続きを待つ間親睦を深める意味合いも込めてお互いに自己紹介をしていた。

 

「ふーん、錬金術ねぇ、なんとも壮大と言うか眉唾と言うか」

 

ユーディーのアトリエにおいてもそうであったが、アデルベルトは錬金術に対して懐疑的だった。

確かにこの世界での錬金術の歴史は、詐欺の歴史と言い換えても良さそうな物だし、この反応も納得できる。

 

「まぁね、出来るかどーかは解らないけどさ、それでもやりたいんだよ」

 

こちとらジャック少年に(一方的に)誓ったんだ。友達としては諦めるような格好悪い真似はしたくない。

幸いこの世界の建築技術は魔法も込みでかなり速い、それこそ一月もしない内にガラクタ同然の廃墟も私の要望にそった屋敷に生まれ変わるだろう。そうなれば本格的に活動を始められる。

 

「そうか、ノミコはその錬金術って夢に真剣に向き合ってるんだな」

 

うん、いや、真剣に、かなぁ?

いやいや、そりゃふざけた気持ちではないけど。私のは単なるミーハーとか、ファン心理とかも込みでの夢だし、そう面と向かって感心されるとなんというか、背中がムズムズする。

それに私から見たらアデルベルトの方が遥かに感心出来る。

聴いた話では、青山氏はこの世界でも上から数えた方が早い程の実力者、そんな氏とやり合って互角とまではいかずとも、それなりに良い勝負が出来ていたというのだから、この男の実力の高さが伺える。

おそらくは未だ未完、だけども確実に最強アデルベルトの階段を登っている。

ユーディーのいない、錬金術師の助けが無くても、どんなに不幸でも腐る事無く頑張って来たのだろう。

本当に頭が下がる思いだ。平和な日本で育った甘ちゃんな私には持てないたぐいの強さだよ。

 

「アデルベルトさーん、アデルベルト・ホッカーさーん、三番窓口にお越しくださーい」

 

一人でアデルベルトの来歴(妄想)に感心し頷いていると、館内をフヨフヨと漂っていた音の精霊が放送を響かせた。どうやらアデルベルトの住民票が交付されるらしい。

 

「じゃあ一足先に、外で待ってるから」

 

それだけを言い残し立ち上がったアデルベルトに頷きを返し、私は自分の名前が呼ばれるまで予定(スケジュール)の確認を心中で行った。

先ずは何より外で戦いの練習に明け暮れているラカンに賭け金を渡す。

ついでにラカンの居るという湖の水が、ヘーベル湖の水の代用となるか調べる。

あぁ、水を持ち帰るなら樽と荷馬車も用意しなくちゃいけないのか、それに前回のお掃除依頼で採取したトーンの保存も考えなきゃ、いまは酒場の地下庫を借りてただ無造作に置いてるけど、氷室があればなー、お金払って魔法で凍らせて貰うのも、維持費が嵩むし。

いや、私が魔法を覚えたらワンチャン有るか?

これはウィルベルを師匠も呼ぶ日も近いかな?

箒を!!武器として使える箒を買わねば!!

………いや、落ち着け私、脱線してる。

思考を元に戻して。湖の水が入手出来たら、次は調合方法の模索。

何せ錬金釜が無いのだ。そもそも錬金釜があってもどうやったら水が中和剤になるのか。

んー!わからん!楽しみ!

行き合ったりばったりと言う事無かれ、技術の進歩とは常に日進月歩、牛歩の如く気長な物何だ。多分。

んで、手探り作業の合間を縫ってアデルベルトと素材採取の旅行やら酒場依頼をこなすと。

うん、一見やっぱり計画性皆無だね、まぁ、まだ調合の方法も確率してないし、効率を気にする段階ではないしね。

 

「ノミコさーん、ノミコ・テンジョウさーん、三番窓口までお越しくださーい」

 

などなど考えていたら名前を呼ばれた。やっと住民票の交付完了である。

 

「よっこらせっと」

 

立ち上がり、座りっぱなしで固まった腰を伸ばす。

名前を呼ばれた三番窓口に向かうと、頭に羊の角を生やした受付嬢さんが、うーむ、ファンタジー。

 

「テンジョウさんはぁー、東区14番街に住民登録されましたー。この住民票はー公共施設における身分を証明するものとなりますのでー、紛失等には十分に留意してくださーい」

 

そんな間延びした言葉と共に手渡された一枚のカード。

見たことの無い言葉で私の名前が書かれ、その下にもなにやらゴチャゴチャと色々書かれている。おそらく住所や年齢、性別等が書かれているのだろう。ファンタジーな世界だし、種族や職業も書かれてるかも。

とゆうかなんぞこの文字、アルファベット?英語ならかろうじて解るのに、この文字はまったく解らない。

まぁ、そこら辺はおいおい調べて行こう。今は通行証だ。

そのまま通行証の発行を依頼し、程なく一枚の紙切れを渡された。

住民票に比べて随分速いが、それは別におかしな事でも何でも無く、単純に住民票のデータを丸々移すだけだからとの事だ。

それは兎も角、随分と掛かったがこれで漸くジャック少年への義理を返せる。

私は意気揚々と役場を後にしたのだった。

 

 

 




アデルベルト ホッカー
契約金 0D

青山 詠秋
契約金5万D(最低特別金額)


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11〜幸先の悪い小娘〜

役場を後にした私は、アデルベルトと合流して街門の前まで来ていた。

なに食わぬ顔(当たり前)で通行証を提示するアデルベルトを見ながら、私も門番さん(渋め)に渾身のドヤ顔を晒しながら通行証を提示する。

 

「通行証一つにどんだけだよ、おら、解ったからさっさと行け」

 

深い溜め息を吐き、頭を押され街の外に出される。乙女に何たる扱いなのか、断固として抗議したい。

貸し馬車屋で借りた馬車と、それを引くクルーマと言うダチョウみたいなチョコ○みたいな動物の手綱を引っ張る。

 

「それじゃ、行こっかアデル」

 

「あぁ、そのジャック君だっけ?会えると良いな」

 

私はアデルを促し馬車によじ登る。因みにアデルとはアデルベルトの愛称だ。

アデルベルトでは長すぎるからと、愛称呼びを許して貰えた。

 

「うん、流石に額が額だしねー、さっさと手放して肩の荷を降ろしたいよ」

 

ジャックの居る湖は徒歩で半日、馬車を借りられたし、多分日が沈むまでには到着出来るだろうという話だ。

その後ジャックのベースキャンプで夜を明かし、翌日には出発する。

行きは時間の関係から諦めるが、帰りには素材採取地を探す為に寄り道をするつもりだ。

馬車の荷台に座り込み、クルーマの手綱を引くアデルと話しながら、初の採取地(かもしれない)ラカンの居る湖に向かうのだった。

 

〜〜〜〜〜

 

うぬぐぐぐぐ。

現在私はアデルから魔力の扱い方を習っている。

ぐぐぐ……ハァァ!!

 

「プラクテ・ビギナル!!火よ灯れ(アール・デスカット)!!」

 

全力で握っていた魔力伝導体と呼ばれる杖を、勢い良く降り下ろす。

すぴー。という情けない音を漏らし、杖の先から生暖かい微風が流れる。疑う余地無く失敗だ。

この火よ灯れの呪文は初心者向けのもので、唱えると体内の魔力が勝手に杖に流れていき、空気中の火の精霊が反応を起こすのだと言う。

出せる火はライターのように小さいが、それでも体内を巡る魔力の流れを感じる事が出来るようになるから、魔法世界の住人は皆この魔法から始めるのだとか。

それに火よ灯れならば視覚的にも成功か否か解りやすいというのも、長く初心者向けの呪文として使われている所以だろう。

 

「こればっかりは回数だからなぁ、リアクションが有るって事は魔力は流れてるし、多分魔力の伝導が中途半端だから火が付かないんだよ」

 

クルーマの手綱を引っ張りながらアデルが説明してくれる。

 

「魔女の一族ならもっと効率的に教えてくれるんだろうけど、知り合いにはいないしなぁ」

 

私が杖をブンブンと振り回すように奮闘していると、アデルから聞き捨てならない台詞が飛び出した。

魔女の一族………何てファンタジー感の溢れる呼び方だ。

これは是非とも詳しい話を聞かなければならないようだ。

 

「あー、アデル君や、その魔女の一族とは如何様な一族なのかね?」

 

「何だいその口調、気持ち悪いな」

 

んな!?

言うに事欠いて気持ち悪いとか、駄目だこの男、女子に対するデリカシーゼロである。

あれ?でも最近は割りと周りから似たような扱いを………

うん!!この話しはおしまい!!

決して私が女子としてカウントされて無い訳ではない。良いね?

 

「んー魔女の一族がどんな一族か、かぁ」

 

アデルは考え込むように唸り視線を空に向けた。

顎に指を添えながら言葉を探しているのか、眉間には皺が寄っている。それ程難しい質問だったのだろうか?

 

「一言で言えばズルい一族、かな?」

 

暫く悩んだ末に出した答えが此れである。いやいやいや、まったく解らないよ、もっと詳しく教えてくれなきゃ。

そんな内面を察したのか、眉尻を下げて困り顔を浮かべる。

 

「魔女の一族は閉鎖的でね、余り詳しい情報は出回って無いんだ。解ってるのは女性しか居ない事、固有術式(オリジナルスペル)を幾つか伝承している事、後族長の魔女が数百年生きてる事、ぐらいかなぁ」

 

捕捉するように付け加えられたが、結局良く解らない一族という事くらいしか解らなかった。

にしても数百年生きてるとか、もしかしたらアメリカ建国より前?

いや、こんなファンタジー世界にアメリカ何て存在しないだろうけども………にしても一つの国より長い歴史を持つ一個人かぁー。

 

「そりゃまた無茶苦茶な人もいるんだねープラクテー、ビギナルー、火よ灯れー」

 

 

世間話の合間に杖をクルリと回すと、杖の先から一瞬ではあるが確かに火が付いた。こうポワッと。

 

「おぉ!?成功?え?成功しちゃった?」

 

「うん、成功だね」

 

私が驚愕と喜びに困惑していると、アデルの冷静な返答が帰って来た。

にしても今の感覚は少し独特だったなぁ、こうゾワワッとする感覚が胸の辺りから腕を通ってビュワッとなる感じ。

あかん、説明力皆無や。これじゃ「ぐるこーん、ぐるこーん」で解るわけないだろとか笑えない。ロロナ先生スイマセンっしたー!!

ちなみにぐるこーん、ぐるこーんとはロロナ先生曰く釜をかき混ぜる音らしい、多分地球儀を回転させる時も同様の擬音が使われる。何の話なのか。

 

「その感覚を忘れない内に反復練習しといた方が良いよ」

 

思考が脇道にそれた私の意識を、アデルが無理矢理に引き戻す。

割かし意識がしっちゃかめっちゃかな私には、アデルの冷静な突っ込みは有り難い。五年も共に働くには申し分ない相手だ。

 

「そうだね、プラクテ・ビギナル・火よ灯れ(アールデスカット)

 

再度の呪文、杖の先から小さな火が灯る。今度は直ぐに消えるような事も無く、杖を左右に揺らしたら、火も後を追うように付いてきてくれた。

 

「もう火よ灯れは完璧だな、思ったより筋が良いよ」

 

思ったよりは余計だけど、褒められて悪い気はしないよ、うん、私は褒められて伸びるタイプの人だからね。

 

「その調子で次は風の初級呪文、ウェンテフレッテを行ってみようか」

 

「うんしゃ!気合い入ってきた!プラクテ・ビギナル・風よ吹け(ウェンテフレッテ)!!」

 

と、アデルに乗せられた勢いのまま杖を振るった瞬間、玩具のような見た目の杖の先端に取り付けられたファンシーなハートがブブブブブとバイブ音を鳴らし、暴風が吹き荒れた。

 

「わひゃあ!?ちょまっ!!………うぎゅす!?」

 

暴風に驚いたクルーマが馬の嘶きのような鳴き声を上げ一気に走り出し、馬車の上に座っていた私を振り落とす。地面に落下した私は呻き声を上げ、私を受け止めようと駆け出したアデルが転倒し、クルーマが走り出す。

当然クルーマに括り付けておいた小樽や籠もクルーマと共に遥か遠くへ。馬車に積んであったテントや食料もだ。

 

「あぁ!?待って!!君のレンタル料金や小樽やらー!!」

 

そんな私の叫びも虚しく、クルーマin馬車は砂埃をあげながら豆粒のように小さくなり、見えなくなった。

どうやら私はアデルの不幸体質を甘く見ていたらしい、出発から二時間立たない内に引き返す事になろうとは………っ!!

ユーディープレイ中の天候が崩れない内に移動しようとしていた苦い記憶が甦る。

それもこれも全部、このあからさまな程に目線そらしてる男が………!!

くの!!くの!!

立ち上がりアデルを睨み付ける。だが直接的な原因は私の呪文なんだよなぁ。

というか過失的には十割私?あれ?戦犯認定?

 

「……………」

 

さ、幸いアデルは不幸な出来事=自分みたいな方程式が出来てるのか、此方の責任問題にする気は無いみたいだし。

うん!!二人が悪い、つまり相殺して誰も悪くない。という事にしておこう!!

 

「さーってと、引き返して、また諸々準備中しなきゃねー」

 

内心冷や汗ダラダラ流しながら、しかして口調は流暢に(だと良いな)。私は一時帰還を申し出たのであった。




自宅でゲームしてて落雷直撃するノミコさんも相応に不幸体質だと思う

newスキル

火の初級呪文(種火的)
風の初級呪文(暴風になる)


風の初級呪文はオリジナルです
暴走した理由は一応あるけど、話に組み込めるかは作者の腕次第、つまりは期待したらだめ


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12〜再出発で野営する小娘〜

今回最後に独自解釈入ります


街に引き返した私たちは荷馬車とクルーマの弁償金を払い、新たに荷車と牛を借りて再度街を出た。

何故荷車と牛にしたのかと言えば、単純に今後も今回のようなトラブルに見舞われると予想したからだ。

何せ行動を共にしているのは自他共に認める不幸体質のアデルと、主観的に見ても客観的に見ても落ち着きの無い私だ。事故や事件の匂いしかしない、巻き込まれ率100%。私達はいつから少年探偵になったのか。

まぁ、そんな理由から、どうせレンタルするなら旅の質が落ちても出費を押さえられる方にしようと、そう相成った訳である。

それにこの牛は黒く角が短く身体が大きい、後もう少し、今の三倍から四倍位の体積になれば、ギリギリ、パナと名付ける事も可能だろう。むしろ此方の理由が本命かもしれない。

 

「暗くなってきたな、どうするんだい?野営だと野盗にに襲われるけど」

 

前回引き返した地点を大きく越えて、アデルが牛に股がった私に話し掛けてきた。街から出立して四時間、確かにアクシデントで引き返さなければそろそろ湖に到着している時間帯だ。

つまりは夜が近いという事である。

にしてもアデルさんや、襲われるのが確定しているみたいに言うが、もしかして野営する度に襲われてるのか?

だとしたら青山氏と互角にやりあえた実力も納得出来る。常在戦場(じょうざいせんじょう)という言葉を心構え以外で用いるとは、頼りになるぜ!!………付き合わされなければだけどね。

 

「そーだねぇ、夜道を歩くよりは安全だろうし、アデルなら野盗ぐらいなら対処出来るでしょ?」

 

と言うのも、このアデルベルトなる男はその低い物腰やどこか疲れたような顔立ちからは想像もつかないような、強靭な精神を持っていると私は推察しているからだ。

よく考えて欲しい、普通に生きていていきなり身分の証明が不可能な状況になり、化物剣士に斬りかかられ、あれよあれよと五年の無償奉仕が義務付けられたのだ。常人なら最初の一撃で絶望するでしょう。

それをこの男は翌日には吹っ切れたどころか、住民票が発行して貰えるなんてついてる等と宣ったのだ。

ハッキリ言って異常なメンタルの強さである。

そしてその精神性は事戦闘に置いて遺憾無く発揮される。

様々な不幸を味わった経験は何事にも動じない不動の心となって、盗賊だの山賊だのを蹴散らしてくれるのだ。

 

「一人ならともかく、ノミコも一緒だとキツいかな」

 

蹴散らしてくれるのだ!!

とゆーか正直夜通し移動するとか無理過ぎる。

こちとら平和な日本で安定感抜群な車移動が基本の女子高生だよ?

それがいきなりこんな半日かけた遠出とか、ハハ、無茶言うな。

 

「お尻が膨張しそうな程に痛いんだよー。やーすーもーよー」

 

「………えぇ」

 

牛の上で両手を振り回し駄々をこね始めた私に、アデルが割と本気で迷惑そうな顔で引いている。

やめてくれ、その反応は私に効く。

 

「はぁ………確かにここまで強行軍だったし、ノミコにはこれ以上はきついかもしれないしね」

 

チラチラとアデルの顔色を窺っていたら、小さく溜め息を吐いて私の我儘を聞き入れて貰えた。

私は喜び勇んで牛から飛び降り……れはしないから、ヨタヨタと降りて、荷車に積んでいた野営セットを展開していく。

前世?前世界?地球時代?では割とアウトドアに出掛けていた私は、意外かもしれないがこうゆう設営とかは得意なのだ。

杭を一ヶ所打ち込んでおき、テントの骨組みを組み立てる。

今回使うテントはメジャーなピラミッド型の仮説テントだ。

三角の骨組みに、防水加工を施した動物の皮を………っておっも!?

現代ではテントもビニール素材だったから対して苦労しなかったが、ファンタジー世界ならこんなに大変になろうとは。

ぐぅ………特性「軽い」が付いてたら楽なのにぃ………。

 

「力仕事は俺がやるから、ノミコは休んでなよ」

 

嬉々としてテントを張っていた私を見ていたアデルが見かねて代わりを申し出てくれた。

とゆーか、私は雇用主なのに何故自分でテントを張ろうとしていたのか。雇用主としての自覚が無いからだねきっと、だってアデルは無償奉仕だし。

 

「うん、それじゃ後は任せたよ」

 

私はテントを持ち上げる事をすっぱりと諦め、荷車から離れて地面に腰を降ろした。

空を見上げると黒い鷲のような鳥が悠々と旋回している。

バースが狂ってやがる。あれ、人の2倍の大きさあるわよ?

多分アードラとかだと思う。基本的には羽根と卵くらいしか値打ちの無い、序盤の強敵(雑魚)だ。

アトリエ初心者は序盤で行けるからとアードラの生息する採取地に行って死に戻りするのはもはや様式美である。

格言う私もやらかした。

あとウォルフとかゴーストとか、少なくともフラムを作れるようになるまで待つべきだ。

フラムとは簡単に言えばダイナマイト系の爆弾だ。

炎ダメージを与えるアイテムであり、駆け出し時代の頼れる相棒

後のシリーズではメガフラム、テラフラム、オメガフラムと実に多彩なフラムが登場した。

作品により見た目も変化し、丸い爆弾だったり、ダイナマイト的な棒状だったりする。

共通点を探すなら、その全てに導火線が付いている事だろうか。

これさえあれば、私もそれなりに戦えるようになるだろう。速く造りたいな、とゆうか速く錬金術したい。

アードラから何故かフラム考察に思考が移ってきた所で、視線を前に戻す。

アデルが、最後の杭を打ち終わり、額の汗をぬぐっていた。

 

「お疲れ様ー、もう空も暗くなってきたし焚き火の準備しよーかー」

 

アデルに労いの言葉を送り、荷車から薪を降ろし懐から初心者用の杖を取り出す。

 

「プラクテ・ビギナル・火よ灯れ(アールデスカット)

 

クルンと回した杖の先端から、小さな火が点く。

それを千鳥に積んだ薪と回りに立て掛けた枝に近付ける。

ジジジと薪から水分の飛ぶ音が暫く続き、薪に火が付いた所で杖を離し、懐に仕舞う。

夕暮れが過ぎ、太陽が地平の先に消えるのを眺めながら、テキパキと鍋と食材の用意をする。

鍋を焚き火の上に吊し、水を注ごうとしてふと思い付いた。

 

(そーいえば、錬金釜にいつも満たされてるのって何なんだろ?)

 

アトリエシリーズに置いて、主人公の活動拠点であり工房でもあるアトリエ、そこには錬金術に使う巨大な釜が存在している。

そしてその釜には、作品により白かったり紫だったりとことなるが、常に何かで満たされている。

私はこれを液体だと考えていたが、良く考えてみたら、それは有り得ないのだ。

何故ならそれは、常に釜に液体カテゴリの何かが入ってると言うことなのだから。

マリーのアトリエを筆頭に、ザールブルグ系統なら中和剤(青)のレシピはヘーベル湖の水だ、最近までプレイしていたソフィーのアトリエなら、鉱石カテゴリ×2、水カテゴリ×2となる。アーシャなら花カテゴリと水カテゴリ………当たり前だが、全てに水が使用されている。

ならば釜を満たしているものが液体だとすると、普通に考えたら混ざらないか?

とゆうか、あの釜からパンとかも出来るのに、液体から取り出した時に効力『パサパサしてる』とかつくのか?

そこで私は一つの仮説を立てたのだ。

それはズバリ、あの満たされている物体Xは液体ではなく、それどころか物体ですらなく。もしかしたらもっとスピリチュアルな………ぶっちゃけて言っちゃえば魔力何じゃないのかと。

………やばい、そう考えたら試さずにはいられなくなってきた。

おあつらえ向きにも、目の前には空の鍋と植物カテゴリに分類可能な野菜と水カテゴリに分類可能な飲料水がある。

ソフィーのアトリエにおける中和剤(緑)の材料だ。

 

(………やらざるを得ない!!)

 

私は手に持っていた水を置き、鍋の取っ手に手を伸ばした。

 




次回検証回になります


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13〜失敗と成功の小娘/産業廃棄物〜

長らくお待たせいたしました。
言い訳が許されるのならばただ一言

幼女戦記とか転生したらスライムだった件とか、楽しいラノベが多過ぎて………いや、はい、すいません!!


さて、手に持った鍋を釜に見立てて、魔力を中に貯めるようにイメージする。

瞳を閉じて、ゆっくりと深呼吸。

 

「スウゥーー、ハアァーー」

 

火よ灯れで感じた魔力の移動を意識する。

魔力伝導体の杖も呪文も無く、自分自身の感覚のみを頼りに、胸から腕を通って鍋に向かうとイメージ。

暫く深呼吸を続けていると、胸の奥に暖かい物が広がる感覚を覚えた。

それを今度はゆっくりと動かす。肩から肘に、肘から手のひらに、手のひらから鍋に、鍋から空気に………

 

「………まぁそりゃそうだよね」

 

オレンジ色の、煙のような物が鍋から漂っているのを見ながらも、何とか留める事は出来ないかと試行錯誤を繰り返す。

留めるイメージの為に、魔力に高速回転を加えて、渦を作るイメージ。

結果は鍋が手からぶっ飛んで、興味深そうに見ていたアデルの顔面に直撃。ごごご、ごめん。

 

「痛いなぁ、もぅ………魔力を留めるって言うなら鍋にルーン文字とか刻んだらどうかな?」

 

ルーン文字?それって青タイツの兄貴とかエロタイツの師匠さんとか、もしくは虚無の系統の貴族様とかが使ってた奴だよね?私はそこら辺詳しくないんだけども。

鼻を押さえながらのアデルの助言に従おうにも、知識の不足でソフィーみたいに「閃いたー!!」とはならないよぉ。

 

「でも、渦を作って留めるっていうのは良い着眼点だと思うな、古い話ではあるけど真祖の吸血鬼の奥義に放出する魔力を掌に留めるってのがあったし、昔闘った事のある拳法家は気を貯めて放つような人もいたしね」

 

気とか(笑)

もはや何でもありか。ファンタジーのごった煮じゃないですかー。

そういやジャック少年も気とか使ってたかな?いや、彼のは確か気合いだったか?あれ?

 

「まぁ要練習なのは変わらず、このまま渦を作る路線で頑張るよー」

 

またもや思考が脱線しかけていた。

気を引き締め直し再度鍋の取っ手を掴む。今度は手放さないように力強く握り混み、集中して魔力を流す。

胸から溢れる熱い流れを両腕に通していく。ゆっくり、ゆっくり、揺らめいていた流れを真っ直ぐに整えながら鍋に向かわせる。

取っ手まで来た所で、魔力を鍋の縁をなぞるように右回転に流していく。

放出されずに循環していた魔力が、可視化出来る程に集まっていく。

ここから魔力の循環速度を少しずつ上げていく。

ギュルンギュルンと音を立てる程に鍋の中を魔力が廻る。

それをゆっくりと地面に置いて、慎重に手を離した。

 

「おぉ……」

 

後ろから見ていたアデルの声が聞こえた。

私の手から離れた鍋はオレンジ色の渦を描く何かで満たされていた。

 

「…………ふぇ?」

 

今一実感が沸かない。

こんなにアッサリ出来てしまうものだろうか?

いや、まだだ。まだこれで錬金術が出来るとは限らない。

そうだ。逸るな、落ち着け私、こういう時はあれだ。手のひらに人の字を書いて芋だと思い込め。ちゃうわ、マジで落ち着け。

 

「良く解らないけど、取り敢えず素材とやらを入れてみたらどうだい?」

 

ひっひっふー。ひっひっふー。

え?あぁ、そうだね。

深呼吸とかしてないで試さなきゃ。

 

「まっまま先ずは野菜カテゴリふたちゅ……」

 

震える手でニンジン二つを掴む。

店売りの上に保存状態が悪かったのか、少し萎びている。

それを鍋の中にいれると、次は竹筒に入れていた水を……水を……

 

「水カテゴリ×2の分量って………」

 

わっ………わからん!?ここまできてそんな馬鹿な!!

こんな展開になるとは……!?

いや、落ち着け私、ソフィーのアトリエだと水は桶に入って一つ。つまりそこからおおよその分量を……桶に二杯?多くね?

って!なんか鍋が怪しく光ってるし!?時間掛けすぎた!?

 

「はわわわ、はわっあわっ、ととと取り敢えずおおよそ桶に二杯分の水を……!!」

 

アデル竹筒あるだけ持ってきて!!どばどば入れてぇ!!

 

「わかったけど!!ねぇノミコ!!鍋から何だか煙でてるよ!?これは正常なのかい!?ねぇ!?」

 

竹筒の蓋を開けてどんどん水を注ぎ込みながら、アデルが悲鳴に近い叫びを上げた。

 

「ちょっ待って待って!!ヤバいヤバい!!………あっこれは駄目かも」

 

なんかね?鍋の中からスパークみたいなのが散って鍋自体もガタガタと震えてるんだよね。

こんなん成功とは思えない。

 

「諦めないでよ!?ちょっ!煙がどんど………」

 

アデルが振り返って文句を言おうとした瞬間だった。

鍋が一際強く光ったらと思ったら、大轟音と共に大量の煙が弾けたのだ。

 

「げぇほっ!うぇほ!」

 

女子らしからぬ噎せ方をしながら、煙を掻き分け鍋から離れる。

程なく耳を押さえながらフラフラとアデルも黒煙の中から姿を表した。

 

 

「失敗……」

 

もうもうと立ち込める黒煙を見詰めながらポツリと呟く。

煤のついた頬を拭いながら、アデルが私の隣に並ぶ。

 

「錬金術、出来なかったのか?」

 

此方の顔色を伺うような反応、だが私はそんな態度では無く、アデルの発言した内容にこそハッとした。

 

(錬金術が失敗した?違う、これは調合が……だったら!!)

 

私はアデルに返事を返す余裕も無く、大慌てで煙の中に入り込んだ。

目に沁みる煙を手で払いながら、鍋を掴む。

そのまま中身をお玉で救いあげると、ビニール製品を溶かしたような、不格好な形の何かが鍋からその姿を現した。

 

(やっぱり……『産業廃棄物』だ……!!)

 

産業廃棄物

それはアトリエシリーズにおける調合を失敗(・・・・・)した時に出来上がるアイテムだ。

調合を失敗………つまりは錬金術事態は出来ていたのだ。

確かに初めての調合が失敗したのは悔しい、だけどそれ以上に私が、錬金術を使えた。その事実がとてつもなくうれしいのだ。

 

「ノミコ?」

 

真っ黒い明らかにヤバい物質を見詰めながらニマニマ笑っている私に、アデルが遠慮がちに(引き気味とも言う)声を掛けてきた。

 

「んふー、なにかなー?」

 

上機嫌な私は産業廃棄物を宝物のように両手で抱えながら振り返った。

明らかに異臭がしてるけど、そんな事が気にならないくらい今はこの産業廃棄物がいとおしいのだ。

 

「鍋………亀裂入ってるんだけど?」

 

んふー、鍋に亀裂ー?

…………え?鍋に亀裂?

え!?そんな!?まってよ!!

 

「それじゃ、お試し調合は打ち止め!?ジャック少年の所に行くまでお預け!?てゆうかご飯は!?」

 

まさかの事態に慌ててアデルから鍋を奪い取り、確認する。

見てみれば確かに鍋の側面に大きな亀裂が入っていた。

 

「ご飯は無理だね、出来て炒める程度だよ」

 

溜め息をつきながら此方をジトッと見詰めてくる。

 

「うぐっ……ごめんなさい……」

 

流石にこれは私が全面的に悪いから、素直に謝る。

好奇心に負けて、ご飯を作る前に始めたのが悪かった。これではアデルが呆れるのも無理は無い。

何で私はこうも後先を考えないのか!!私のおバカー!!

 

「まぁ、今更言っても仕方無いし、僕達の関係上余り強くも言えないけどさ、せめて今後はおこりうる可能性は事前に教えてよ?さっきの反応から察するに、あの爆発は事前に起こりうる事が解っていたんだろう?」

 

溜め息混じりに苦笑いを溢し、苦言を挺するアデル。不幸慣れし過ぎた広い心に甘えたくもなるが、流石に今回はそれは駄目だろう。

なんと言っても食料の消失だ。短い旅程だったから良かったものの、これが長期の旅なら私たちは詰んでいた。

しっかり反省し、今後はアデルに相談するように心掛けよう。

………何故かな?自分で言っといてまるで説得力を感じない。

いや、本当に反省してるよ?反省してるけど、私は自己分析の出来る良い女だから、何となく、気を付けててもどこかで大きな失敗をするように思えるんだ。

自分の自身に対する信頼感の低さには自信がある。

 

「落ち込んだと思ったら考え込んで、また落ち込んで、ノミコの顔は飽きないね」

 

やかましいわ、とも言えない。うぐぐ。

 



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14〜再会と説教の小娘〜

不幸な事故により鍋が使用不能になった私たちは、野菜を切っただけのサラダと、鍋(だった物)で炒めたけもの肉を焼いただけの、質素な夕食を食べて就寝した。

思っていたより体力を消耗していたのか、 テントの中で横になった瞬間に睡魔に襲われ、私は直ぐに夢の中へと旅立っていった。

翌朝にアデルに身体を揺すられ、抗いがたい睡魔に打ち克ち、重たい身体を起こしてテントから出る。

朝焼けに照らされた草原街道に小さな感動を覚えながら、テントを片付けていく。

アウトドアが好きだった私も、流石に夜営は経験が無い。見張り何てやった事も無い。そもそも火の番とかも普通はやらない。

一人でそんな事やってて野盗とか魔物とかに襲われないとも限らないし、そんな事態に私が対処出来る筈も無い。

そんな訳で、夜通しの見張り&火の番をしてくれていたアデルは、荷車に座り込みウツラウツラと舟を漕いでいた。

パナ(仮称)の手綱を握りながらゆっくりと街道を進んでいると、程なく大きな湖が見えてきた。

この湖を迂回すると、隣街であるリンダルムに付くと言う。

それはそーと、実はこの湖にはジャック少年以外の目的もあったりする。

それは湖の水だ。

以前話したように、ザールブルグ方式のレシピでは、中和剤(青)の材料にはヘーベル湖の水が使用される。

勿論、他のシリーズのように水カテゴリなら何でも良いというレシピも存在するし、いずれはそれらも試すつもりではあるが、何度も失敗するだろう事を見据えるとコストパフォーマンス的には材料が単一のザールブルグ方式を真っ先に試してみたいのが本音だ。

だがここで問題になるのが、果たしてヘーベル湖の水以外でも、ザールブルグ方式のレシピが適応されるのかどうかだ。

その試しとして、先ずはヘーベル湖ではない湖の水を使おうと思い至ったのだ。

とはいえ、私は八割方大丈夫だとは思っている。

とゆうのも、まさかザールブルグシリーズの錬金術師全てがヘーベル湖の水を使っているとは思えないからだ。

まさか、惑星の真裏に位置する地域にいる錬金術師までもが律儀にヘーベル湖の水を使っている筈も無いし、ザールブルグシリーズと世界観を同一とするユーディーのアトリエではヘーベル湖のへの字も出ない(そもそもユーディーの中和剤は一種のみだが)

まぁ、そんな理由で大丈夫だと思うが、二割程は不安もある。

検証用に樽も三つも積んできたし、ジャック少年に150万ドラクマ渡したら、直ぐ様アデルと湖の沖まで水を採取しに行くつもりだ。

 

「必殺……ギガァ…ラカンゥ…ブレェイクゥゥ!!」

 

未知への探求に心踊らし、ニマニマと笑いながら湖に近寄った瞬間、どこからともなくそんな勇ましい声が響いた。

何ック少年の声だ!?と辺りを慌てて見回していた私の背後、つまりは湖で爆発が起きたかのように水柱が上がった。

 

「っ!?敵襲かい!?」

 

その音と衝撃に跳び跳ねたアデルが、直ぐ様大剣を構え臨戦態勢に入る。

その反応の速さは称賛されてしかるべきなのに、何でだろうジャック少年(このバカ)のせいで滑稽にしか見えない。

 

「ん?おー、ノミコじゃねぇか、どうしたよこんな所に」

 

私の目の前に着地したジャック少年がヘラヘラと笑いながら話し掛けてきた。

ジャックの上げた水柱から大量の水がスコールのように降り注ぎ、私もアデルもビシャビシャに濡れてしまった。何て事をしてくれたんだジャック少年(このバカ)、節約の為に他の服はあと一着しか買ってないのに、とゆうか荷車まで被害をうけてるじゃないか、幸い湖に入る前提で水着を持ってはきたけど、本当に無茶苦茶しおってからに、気まずさやら何やらかんやらが吹き飛んだぞこのバカ(このバカ)………本当にバカだよ。

 

「はぁ〜……何だか一人でモヤモヤしてた私がバカみたいだ」

 

あの控え室でジャック少年の嘆き、それに対する後悔と誓い………の直後のそれを全部台無しにする展開、全部が最早どーでもよろしい。

ジャック少年は変わらずバカだし、私も変わらず楽観的だ。それで良いのだ。

結局、あの一件でジャック少年の直向きさを知ったからといって、ジャック少年と距離を取ろうとする必要は無かったのかもね、それにほら、私ってばそんなキャラじゃないしさ。

 

「ジャック少年!!アンタから持ちかけてきた話なのに受け取らずに出るとかなぁに考えてるのさ!!」

 

私はジャック少年に飛びかかり頭をワシャワシャと撫で回した。

 

「うぉ!?何しやがる!!」

 

私のなでまわしに驚いたジャック少年は、私の右手首を掴み背負い投げ……のように見えるけど良く解らない回転をくわえた投げ技で、私をアデルの方に投げ飛ばした。

移り変わる視界に悲鳴もあげられず、されるがままに宙を舞った私はアデルに受け止められ、地に降ろして貰った。

こ、コイツ、わざわざ届けに来てやった私に何たる仕打ちだ。

紳士的な青山氏を見習うべきだね、まったく。

 

「くぬぬぬ………はぁ、まぁ良いや、はいこれジャック少年の取り分」

 

言いたい事が無いでもないけど、ジャック少年には借りがあるしね。ま、一方的にだけどさ。

私は鞄からドサリと袋を取り出した。

 

「取り敢えず賭けの勝ち分の150万ドラクマ飛んで187アス、ちゃんと渡したからね?足りないとか言わないでよ?………あー重かった。じゃねジャック少年」

 

ジャック少年に借りていたお金を返した事でやっと肩の荷が降りた気分だ。

物理的にも心的にも重かった。本当に。出来ればもう他人の大金を持ち歩くような経験はしたくないものだ。

 

「………いやまてお前ら、何自然に別れようとしてんだ」

 

手を振りながら歩き出した私の肩をジャック少年が掴んだ。

なんだよもぅ、アデルなんか寝ずの番で疲れてるんだから、用事があるなら手短にしてよ?

 

「いやおい、おい!おかしいだろ!?この額!!」

 

しかしジャック少年はそんな私の思いとは裏腹に、袋を掴みあげ焦っているかのように私の眼前に掲げて怒鳴り付けてきた。

 

「俺が貸したのって15万ドラクマだったよな!?取り分半々だよな!?これじゃ全額じゃねぇか!!バカかお前!!」

 

あっあっ……あー、そうゆう事か。

確かにジャック少年に借りたのは15万ドラクマ日本円で1500万、因みにジャック少年の身元買い取りに必要な額は100万ドラクマ、日本円で1億、この内52万ドラクマは返済済みであるらしい。

そしてこの1500万は今回の拳闘大会で賭け金が爆発的に上がる瞬間を見越して貯めた全財産だったらしい。

そんな計画性皆無なジャック少年にバカ呼ばわりされてしまったが、これは私が悪い。

何せジャック少年は、私が賭け金を上乗せした事を知らないのだから。

仕方無い、説明してしんぜよう。計画性皆無なジャック少年に私の華麗なる資金管理術を。

 

「ふっふっふっ、実はカクカクシカジカとゆう……」

 

「いや、わっかんねーから、頼むから普通に説明してくれ」

 

「ノミコ、それは流石に無理があるよ、俺も事情が知りたいし詳しく説明してくれよ」

 

古今東西で伝わる伝達方が通じなかった。当たり前である。

仕方無いから私は闘技場でのピエロとのやり取りを話してあげた。

ジャック少年が扱き下ろされた事。

口論になって自分を担保に賭け金を上乗せした事。

大金が手に入ったから、ジャック少年の取り分は借りた金額分全額にした事。

最初は黙って聞いていた二人も、途中から顔を青ざめさせ、最後の方はあからさまに怒った顔つきで睨んでくるものだから、私の説明も尻すぼみ最後の方はもはや小声である。

ふぇ〜何で怒ってらっしゃるのか。

 

「「バカかお前(君)は!!」」

 

説明を終えた私に対して、二人が同時に叫ぶように怒鳴り付けてきた。

 

「お前女だろ!?俺なんかの為に何してんだ!!」

 

「ジャック君の前評判は聞いていたんだろう?彼が負けていたらどうなってたか解ってるのかい!?」

 

いやぁ、まぁあの時は私も熱くなっちゃって、それにほら、結果的には大金が手に入ってオーライオーライ。

何て言ったら流石にマズイだろう事は私でも解る。

甘んじて説教を受け止めるしかないのかぁ。

 

「「聞いてん(る)のか(い)!!」」

 

「ひゃい!聞いてます!!」

 

蛇足ではあるがその後、説教は日が真上に昇りきるまで続き、正座させられた私の足が回復するのに更に一時間要した。




40年後(原作)のラカン
「考案料は100万(1億円)だ(ニヤッ)」

現在(本作)のジャック少年
「150万!?高いわ!ありえんだろ!?」


ジャック少年とラカンの差を考えながら書くのも楽しいです


本格的にアトリエ始動は後5〜6話かかりそう。
ま、まぁ!主人公の成長は鈍亀っていってあるし!!
何とか20話辺りでアトリエ本格始動
キリの良い所で閑話かキャラクタープロフィール張りたいですね


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15〜不幸と少年と小娘〜

ジャック少年とアデルの二人がかりの説教から解放された私は、昼食を取る為にジャック少年が持ってきていたひよこ豆やウニ、飲料水を使い、三人分の調理に勤しんでいた。

あれ?お気付きですか?そうなんです、何とこの世界にはひよこ豆があったんです。

いやまぁ、ひよこ豆がある事自体は街を散策していた時に、普通に食材として売られていたから知ってはいたんですがね、実際に持ってみるとヤバい、何がヤバいって軽量感、というか単純大きさがヤバい、豆の舟が枝豆の二分の一しかないのだ。ありえない。

それでいて味は完全に枝豆らしいのだ。

更にはウニである。因みにこのウニは海にいるウニではない、陸地にいるウニである。とゆうか、ぶっちゃけ栗である。正しく言うなら、ウニという種類の栗らしいのだ。ややこしい。

ひよこ豆もウニもアトリエシリーズに出てくる素材ではあるが、ウニはシリーズ通してなのに対して、ひよこ豆は一部シリーズにのみ登場した素材アイテムだ。

この二つがある事やアデルの存在からグラムナート世界かとも思うが、そのくせ初期ベルさんとかもいるし、街を散策していた時にソフィーのアトリエの素材であるきまぐれイチゴとかもあったし。結局アトリエシリーズのアイテムと一部キャラが現実として存在している以外の事は、何も解らないのだ。

まぁそれはそれとして、今回私が作る料理はひよこ豆のスープ(擬き)である。

先ずはひよこ豆の舟から種を取り出して擂り潰した物を鍋に入れます。次にアデルに剥いて貰ったウニ(栗)を入れます。水を張って塩を入れます。ゆだつまでにケモノ肉を切っておいて、鍋に入れます。

塩を少々いれ、パナから分けて貰った牛乳を少量入れます。

後は煮込むだけです。肉が崩れてきたら完成、ひよこ豆シチュー。

さぁ、たーんとお食べ欠食童子ども!!

とゆー訳で実食しようかね。

 

「………何か、何だろ、色々足りない」

 

口の中がモソモソするとか肉が硬いとかひよこ豆の形が残ってるとか以前の問題で、そもそも調味料が圧倒的に足りてない。

 

「そうか?生肉よりはいけるだろ」

 

野生児か!?

いや、とゆうかジャック少年、君の普段の食生活が不安になるんだが。

まさか本当に生肉じゃないよね?塩は舐めるだけとか言わないよね?

 

「上手いよノミコ、二週間飲まず食わずに比べたら口に入れて苦しくならない料理は何でもね」

 

やめてよアデル、そんな切なくなる台詞を爽やかに言わないでよ、私の分も食べていいから!好きなだけ作ったげるから!

ダメだこいつら、文明から放れすぎてる。

そんな二人だからか、私的には微妙過ぎるものだったが残さず完食し、今は食休みに寛いでいる所だ。

三人で談笑していると、話題は私の錬金術の話に移っていった。

錬金術の方法として渦を作ると説明すると、ジャック少年は顎に指を添えて考え込んでしまった。

何か悩みでも有るのかと事情を聞いてみると、何でも現在必殺技を考案中にらしいのだ。

言葉にはしなかったが、大会での出来事はやはりかなりショックだったのだろう。悔しげな顔で「今度は見逃されるようなダサい事にはしたくねぇ」とぶっきらぼうに吐き捨てた。

そう言う事なら強力するのも吝かではない!!吝かではない……けど。

 

「ごめん……無理だわ」

 

申し訳なく思い顔を伏せると、ジャック少年が慌てたように言葉をかけてくれた。

 

「い、いや!こっちこそ悪ぃ!そうだよな、錬金術何てどうかんがえても秘伝の技術になりそうな物そう簡単にはみせらんないよな」

 

等とあからさまに落ち込んで頬をかくのだ。

まるで垂れ下がる犬耳尻尾が見えそうな落ち込みようであった。

 

「いや、秘伝の技術にとかはしないよ?」

 

むしろ技術が確立したら、世の中にジャンジャンと広めていくつもりだ。

いくら元ネタを知っていて、材料と出来上がる物を知っていても、結局はそれだけなのだ。

未知の組み合わせはあるし、錬金術を学んだ誰かがまったく新しいレシピを考え付くかもしれないではないか。

閉ざされた学問に発展は無いのだ。開示しない技術何て無様な自慰行為だ。少なくとも私は、錬金術は広く門戸を広げたいと考えている。

 

「まぁ、まだスタートラインにも立ってないんだけどね」

 

そこまで熱く語ってから、急に恥ずかしくなり頭を掻きながら言葉を付け足す。

照れ隠しの意味も込めて、話題を軌道修正して、何故ジャック少年の頼みを聞けないのかを説明する。

 

「秘伝の技術とか門外不出とかじゃなくて単なる素材不足、何せ現状何が原因で失敗したのかも解んないし、失敗したらさっき話したように鍋がまるまる駄目になるからね」

 

両手を肩の高さにやり、やれやれと首を振る。

調合自体は出来ているのだから、魔力を留めるというアプローチは間違いないのだ。

つまり原因はやり方、時間か素材か手順か………それとも

 

「素材があれば良いのかい?」

 

考察に移ろうとしていた私の思考を、アデルの一言が引き上げた。

声のした方を振り向くと、アデルが樽を抱えて湖に入っていこうとしていた。

 

「素材……素材ねぇ……俺も手伝うぜ」

 

そう言うやいなや、ジャック少年まで荷車から樽を抱え湖に歩き出す。

 

「待って、特にアデルは待って………そうだけど、失敗の原因が解らない以上不純物は入れられないのよ?砂も土も藻屑も駄目って事は、湖の沖まで泳いでいかなきゃならない」

 

私は今回の採取の注意点をジャック少年に説明した。

とゆうかこれはアデルには事前に話していた筈なんだが、何でアイツは鎧を着たまま湖に向かったんだ。溺れて死ぬぞ。

 

「成る程な、解った、沖まで汲みに行くぜ」

 

ジャック少年は私の説明に頷き、湖に一歩を踏み出した。

すると何と、膝上まで沈ませながらだが、ジャック少年は湖を歩き出したのだ。

 

「うわっ流石ファンタジー……これならアデル……も……」

 

ジャック少年の技に感心し、少なくとも青山氏レベルに強いアデルならもっと綺麗に立って歩くだろうと思っていたら、あろう事か湖に飛び込み、空の樽をビート板のように使い普通に泳ぎはじめたのだ。

 

「あ、アホー!あんたそれじゃ戻ってこれないでしょうが!!」

 

何せこの男が着ている鎧はフルプレートだ。

そんな物を着込んだまま中身を満杯にした樽を持って泳げる筈が無いだろう。常識的に考えて。

 

「平気だよ、冒険者生活が長いとフル装備でお宝抱えて泳ぐくらいは出来るようになるしね」

 

そんな私の心配等何処吹く風と言わんばかりに、バッシャバッシャと沖の方に泳いでいってしまった。

ジャック少年よりも絶対に強いだろうに、途中で足をつったり、巨大な水生モンスターに襲われたりしそうで不安にしかならない。

しばらくすると、樽を満杯にしたジャック少年が珠のような汗をかきながらもヨタヨタと戻ってきた。

 

「ゼハァ!………はぁ、ふぅ……ら、楽勝………」

 

明らかに満身創痍で大の字に寝転んでおきながらそんな強がりを口にする。

調合に使う分は充分確保出来たが、未だアデルが戻ってこないので、ジャック少年の介抱をしながら待つ事にし、その間の時間潰しに先程までジャック少年が行っていた、何処かのファイアーな国のリーフな里で渦を巻いてる頭装備品の方々がやっていそうな水上歩行について聞いてみた。

ジャック少年曰く、気の放出と反発の応用で出来る技術らしく、しゅんどーだとかいう技の流用何だとか、どうやら渦を巻いてる方々ではなく、波紋の方々らしい。

まだまだ修行不足で、脚が半ば沈んでしまっているが、熟練の戦士なら呼吸をするように容易く水の上に立てるという。

ジャック少年は気の総量はあるのに細かいコントロールや放出が苦手らしく、それを克服する為にもこの技術を納めたいのだとか。

何というか、やはりジャック少年は直向きだ。目標の為にここまで努力出来る人を、私は元の世界を含めても知らないぞ。

そんなジャック少年だからこそ、私は応援したくなるし、その先を見たくなる。

 

「あー、疲れたぁ……」

 

ジャック少年の在り方に感心していると、もう一人、不幸に抗う直向きな男が戻ってきた。

 

「おかえりー……さて、二人の働きに報いる為にも頑張りますか!」

 

私は勢い良く立ち上がり、二人が戻ってくるまでに用意していた炊き出し鍋の前に移動した。




皆様のお陰で評価が黄色になりました。嬉しいです。有難うございます!圧倒的感謝!!


次回考察回あんど調合回です


後々、活動報告に今後の活動に見せかけたアンケートのように見える泣き言書いてます
これが良いよーあれが見たいよー等があれば活動報告の方によろしくお願いいたします


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16〜初めての調合成功の小娘/中和剤(緑)〜

炊き出し用の巨大な鍋の前に立ち腕捲りをする。頭の中に有るのは前回の失敗と、アホ程やり込み、憧れたアトリエシリーズのシステムに関してだ。

前回の反省を生かすなら、行動する前に考えるべきだろうと考えたのだ。

無計画に挑むべきじゃない、考察と検証を繰り返して、初めて結果が伴うんだ。自分で言った言葉じゃないか『錬金術は学問』だと。

それも、この世界では未だ産まれてもいない分野なんだし、無闇な行動は控えるべきだ。

さて、自己暗示的にクールダウンした所で考察に入ろうか。

先ずは前回行わず、アトリエシリーズでは必ず行われている、もしくは起こっている現象についてだ。

 

1、鍋の中身をかき混ぜる

2、魔力を消費する

3、素材を入れる順番(正しシリーズによっては同時に入れる)

 

3はおそらく関係無い。というのも、前回も今回も私が行うのは馴染み深いソフィー式の中和剤(緑)のレシピだからだ。

ソフィーのアトリエでは素材の投下の順番は好きに決める事が出来る。

よって、3はおそらく今回の調合に関して考えるなら関係無い。

となると可能性が高いのは1と2、だろう。

2の魔力の消費はシリーズを通しての共通項だし、1に関しては共通項どころかロロナのアトリエ及びトトリ、メルル、黄昏シリーズでは釜のかき混ぜかたこそが重要だとハッキリ言っている。

よって、今回の注意点を。

1、鍋の中身をかき混ぜる。正し初めての行いなので、鍋からの光等の情報を頼りに速度を調節する事。

2、順次魔力を注ぐ、ただし此方も初の試みなので、慎重にゆっくりと注ぐ事とする。

もしかしたら、錬金術lvが低い時に時間がかかるのは、私みたいに手探りで魔力を注ぐからなんじゃなかろうか。

そう考えたら、何だかアトリエシリーズの錬金術師になれたみたいで凄く嬉しい。

マリーもエリーもリリーもイングリドもヘルミーナもドルニエもハゲルもみんな最初は手探りでだったんだなぁ、そう考えたら感慨深いものである。あっハゲルは違うか。

それはそうと、かき混ぜる何かが必要だ。木の棒だったり、舟のオールだったり、何でも良いのだが何か無いだろうか。

 

「かき混ぜるものなぁ……こんな物しか無いぜ?」

 

ジャック少年に聞いてみたら、訓練用の木製の大剣を見せてくれた。

刃幅は目算250ミリ、長さは1500ミリって所だろうか。

私の身長とほぼ同じ長さで、若干やりにくそうである。

 

「贅沢は言えないしそれでも………重た!?」

 

ちょっ!?

なにこれ、ピクリとも動かないじゃないか!?いくら何でもこんなの使えないって。

 

「あー、やっぱ無理か、見るからに貧弱そうだもんなぁ」

 

じゃかぁしぃ、こちとら平均的な日本の女子高生だぞ、そんな重い物持てる筈無いでしょ。

もう良いや、いくら底の深いお鍋でも全高1000ミリ位だし、食べ物作る訳でも無いし、そこらの太めの枝でも使うとしよう。

私は持ち上がらない木剣をジャックに返し、それなりに長さのある枯れ木の枝を広い湖の水で洗った。

隙間などに土が入っていないか入念に確認し、鍋の所に戻る。

昨日と同じように取っ手を掴み、魔力を循環させる。

一回経験したお陰か、今度は弾かれるような事も無く順調に魔力が渦を描き鍋を満たしていく。

それを興味深く観察するジャック少年を尻目に、やはり大きいからか中々たまらない事に先に魔力が枯渇してしまうのではないかとビクビクしながら焦りを押し殺し魔力を込めていく。

体感的に魔力を半分程消費したが、何とか鍋に満たす事が出来た。

オレンジ色の淡い光を放つ魔力に、ひよこ豆を二つと、樽から桶に二杯の湖の水を掬い入れる。

少しすると光が強くなってくる。前回は慌てていて気付かなかったが、増えた光にも水色と緑の色がついている。おそらく素材の属性の色だろう。

丹念に洗った杖を魔力渦の中に突っ込み、ゆっくりとかき混ぜていく。

すると二色の光が揺めき、解け合っていく。

だが光の強さはドンドン強くなっていっている。木の枝を通して魔力を込めると少しだが光が弱くなった。更に込めるとまた少しだが弱くなり、元の光の量になるまでゆっくりと慎重に込めていく。

辺りが夕焼けに赤く染まるまでじっくり丹念にかき回し続ける。

いつ終わるのか、何を基準に終わりだとすれば良いのか、まったく検討がつかない。

そういえば前回の調合はソフィーのアトリエのレシピだったのに、出来上がったのは『失敗作の灰』ではなく『産業廃棄物』だった。

とゆう事は、やはりこの世界の錬金術にはザールブルグ方式の法則も適用されるのだろうか。

そうなると調合の終了時間が一気に解らなくなるぞ、ザールブルグ式の中和剤の作成時間は1日だし、もしレシピに対してそういった方式がザールブルグ方式だった場合、私も丸1日かかると言う事だ。

現に作業開始から三時間はたっているが、未だに光は二色のまま混ざり会わずに揺らめいているし、少し気を抜くと直ぐに光量が安定しなくなる。

込める魔力の量は対して多くないのに、常に一定量流さなきゃいけないから、以外と神経を使う。

ハハッ、LPを消費してるって感じかな?

 

「ととっ、危ない危ない」

 

馬鹿な事を考えていたらまた光量がグンッと増してしまい、慌てて魔力量を調整する。

気付けば夜の帳が降り、鍋からの淡い光が唯一の光源となっていた。

隣で渦の動きを真剣に観察していたジャック少年も、今では離れ湖に立ち、水上歩行の訓練と平行して何やら手をグリグリ回している。

アデルは湖から戻って直ぐは木にもたれかかりながら見守ってくれていたが、今では大剣を抱えて寝てしまっている。

二人の様子を確認した私は気合いを入れ直し、鍋に向き直った。

 

 

翌朝、夜通し何かの練習をしていたジャック少年が切り上げ、欠伸をしながら起き上がったアデルが顔を洗いに湖に向かう中、私は未だに鍋の前に陣取りグールグールとかき混ぜていた。

目の下には隈が浮かんでいる事だろう。

集中力が低下したせいで光量にもムラが出来てしまっている。

おそらくまったくのムラ無くかき混ぜ続ける事が出来れば、その分速く完成するのだろう。

眠いのを我慢しながら、かき混ぜ続けていると、二色の内緑色の光の量が最初より増している事に気が付いた。

中和剤(緑)の属性色は言うまでもなく緑色だ。

この二色が鍋の中にあるアイテムの色だと仮定するのならば、緑色の割合が増えたのは完成が近いという事に他ならないのでは無かろうか。

そう考えると途端にやる気が上がってきた。

木の枝を強く握り締め、何度目かの気合いの入れ直しを行う。

 

「まだやってるのかい?錬金術って大変だね」

 

顔を洗ったアデルが乾かしていた鎧を着込みながら話し掛けてきた。

そりゃ大変さ!!だけど他では得られない充実感を感じてるのは間違いないのさ!!眠いけどね!!

 

「あーでーるー!!お腹すいたからアーンして!!アーン!!」

 

手を放せないから朝御飯を食べられないんだよー。

 

「………何だか不自然にテンション高くて気持ち悪いなぁ」

 

等と言いながらもしっかりと調理器具を取りだし、食材をフライパンに入れて火にかける。

程なく香ばしい肉の焼ける匂いが漂ってきた。

グゴゴルルギュウ〜と盛大に主張するお腹に呆れながらも、私の口元に程よく焼けたお肉を運んでくれる。

それを貪るように口に含み、頬を膨らましながら調合に意識を向ける。

モワモワと煙が出てきたが、前回のような黒煙ではなく白い事等からも気にしなくても良さそうだと判断し作業を続行する。

結果的にその判断は正解だったらしく、光の色はほぼ緑となった。

完成が近いという事を感じた時だった。

 

「ぷにぷにだ!!アデルさん!!手伝ってくれ!!」

 

ジャック少年のそんな言葉が背後から聞こえてきた。

 

「なん………だと………?」

 

今私の背後に、アトリエ界のスーパーマスコットがいる。

 

「解った!!」

 

ジャック少年の呼び掛けに、アデルが飛び出すように駆け出した。

くっ、振り向きたい、振り向きたいのに今は絶対に振り向けない、とゆうか集中しなきゃ………。

 

「くそぅ!二人とはぐれた時にこんな………良かろう!!ぷに1の戦士である俺が!!」

 

え?二人以外の声が……ぷにぷにが喋ったの?え?

ちょ!見たい!見たいよ!てゆうか抱き締めたい!!

あー!でもでも、今は調合がぁ……うぅ。

そんなふうに悶々としていたすいか、光量のムラは更に酷くなり、疲労が溜まり、光が緑一色から更に元のオレンジ色になり煙が出なくなったのを確認する頃には辺りが夕焼けに染まる時間帯になっていた。

徹夜どころではないが、今はそれよりぷにぷにを!もしかしたら……もしかしたら……!!

期待と興奮に鍋からの出した枝を杖変わりに振り向いた私の背後に視線に映ったのは。

 

「いやぁ、ぷにぷにのわりには強かったね」

 

「いや、マジかこの人ら……湖割りやがった……」

 

朗らかに笑うアデルとドン引きしているジャック少年、更にはそんな二人から逃げるかのように走り去る一匹のぷにぷにの背中(?)であった。

 

「うぁ…そんな……そんな……」

 

膝をつき項垂れる私に気付き、ふたりが駆け寄ってくる。

 

「終わったのか!?速く完成品見せてくれよ!実はずっと気になってたんだよなー」

 

「大丈夫かいノミコ……へぇ緑色の液体、これがノミコの作りたかった物か」

 

気遣い無く話し掛けてくるジャック少年に、気遣いながらも鍋の魔力渦に手桶を突っ込み中身を掬い上げるアデル。

ジャック少年もアデルの横に並び、興味深そうに中和剤(緑)を見詰めている。

初めての調合成功なのに、最高に嬉しいのに……何で、何でこんな……もぅ!素直に喜びきれないよー!!

 

「なんでこうなるふわらまー……!」

 

精神的にも肉体的にも疲労がピークに達した私は、両手を突き上げ不満を爆発させようとして後ろに倒れ込み、そのまま意識を落としてしまった。

最後に見えたのは、倒れる私に目を見開き硬直するジャック少年と、私に向かい手を伸ばし駆け寄ってくるアデルの姿だった。




活動報告にて、21話に掲載予定の閑話を乗せています
読みたいもの、書いてみて欲しいものごあればそちらにお願いします

欲張って色々伏線はりましたが
はりましたが………
はったのは構わないが、別にそれを回収しなくても構わないのだろう?

最近ペルソナ5にどはまりしています
『二週目明智の独り(ボッチ)でできるもん』というタイトルだけ思い付きました。



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17〜感謝と鍛冶屋と小娘〜

出したかった人物が登場します。
とゆうか、この御方がいなきゃアトリエに不可欠な『アレ』とか『アレ』とかが……ね?


ガタンゴトンと揺られる振動に眠りから目覚めた私は、微睡みながら身体を起こした。

私が寝ていたのは、パナ(仮称)に引かせている荷車の荷台だった。

 

「あっ、起きたのかい?良く寝てたね、もうすぐ街に到着だよ」

 

「つか寝過ぎだろ、牛になんじゃねぇか?そのうち」

 

未だ眠気を引き摺る重い瞼を擦っていると、二人から話し掛けられる。

アデルは兎も角ジャック少年の台詞には一々デリカシーが無い。私は身体を伸ばしジャック少年の頭をペシリと叩いて、荷台から飛び降りた。

 

「所で何でジャック少年がいるのさ?新技の練習は?」

 

ふと疑問に思い、ジャック少年に聞いてみる。

何だか掌をグリグリ回してたあれはもう良いのか?いや、別にジャック少年に着いてこられると迷惑とかじゃなくてさ、単純に気になったんだよね。

 

「一応は完成の目処は立ったし、何よりノミコのお陰で身元買い取り金が手に入ったからよ、取り敢えず良いだろって事で引き揚げる事にしたんだよ」

 

ふむ?、そういやジャック少年の買い取り金は残り凡そ50万ドラクマだったらしいし、私が届けた150万ドラクマから払っても、100万ドラクマは残るのか。

………日本円で1億かぁ。

10年は豪遊出来るね。慎ましやかに生きれば一生食いっぱぐれる事はなさそうだ。

 

「んでよ、その、何だ、一応ノミコには感謝してるんだぜ?俺の話を聞いて、危ない橋を渡ってくれてよ」

 

ジャック少年が決まり悪そうに頬をかきながら、視線を反らし言葉を口にする。

その後も何かの言葉を続けようとしているのか「あー」だの「えー」だのとまったくもって要領を得ない。

ふっふっふー。無自覚タラシな転生者や鈍感系ラノベ主人公、はたまた乙女ゲー天然女子とは違い、そこら辺の機微に聡い私は直ぐ様ジャック少年の用件に思い当たった。

ずばり!!感謝の印のプレゼントだ!!

しかも初の女性へのプレゼントとあって緊張しているのだろう。ここはお姉さんたる私が広い心で見守ってあげねばなるまい。

 

「あー、だからって訳じゃないが、一応恩人と言えなくもない訳だしな、何もしないのは礼を失するとも思わないでもないし………ノミコにピッタリの武器を選んでやるよ!!」

 

うんうん。そうだね。わかるよー。礼儀大事だよねー。と、ジャック少年の言葉にニマニマ笑いながら相槌を打っていたのだが、最後の台詞で思わずずっこけてしまった。

何でそこで武器をチョイスしたの!?

自慢じゃないけど私戦闘能力はセンスや才能含めて皆無だよ!?

最弱系錬金術師(予定)だよ!?

本気を出せばチワワにだって負けるよ!?

とゆうか、女子に対する感謝の印が武器とか、ないわー、マジないわー、引くわー。

デリカシーゼロ男だとは解ってはいたが、まさかこのレベルとは、私はまだジャック少年を侮っていたらしい。

まぁ、貰う立場でもんくを重ねても失礼だしー、内心はおくびにも出さずに喜んであげますかー。ほら、私はお姉さんな訳だしね!

 

「わーい、うれしいなー、さすがおんなごころ、わかってるー」

 

「………露骨にガッカリしたなこの野郎」

 

「解りやすいのがノミコの良い所だよ。顔に掲示板が付いてそうなレベルだしね」

 

だまらっしゃい。

とゆうか、アデルから遠慮がどんどん消えていくのは気のせい?

最初は女の子との二人旅とあってやや距離があったのに、今ではほぼゼロ距離だよ。むしろめり込んでるよ。ぼでーぶろーだよ。

 

「チッ……いらないんなら別に良いぜ?ただ今回みたいな採取とやらで自衛出来ずに死ぬかもしれないがな」

 

私の反応が余程お気に召さなかったのか、不貞腐れたように舌打ちをし、そっぽを向くジャック少年。

うぁ、ゴメンて、流石に今回は私が悪かったよー。謝るよー。だからそんな冷たくしないでよー。

 

「…………冗談だ冗談。流石に恩人に対する感謝の印を取り下げる程落ちぶれちゃいねーよ」

 

ほっ、何だ冗談だったのか、安心したよ。

いや、でも今回は冗談で済ましてくれたけど、これはちゃんと気を付けなきゃ、どうやら私は私が思っているより解りやすいらしいし、不用意な反応が不興を買うこともあるのだ。

そう考えたらジャック少年は本当に懐が深いな、有難い話である。

良く良く考えたら、私こそジャック少年のおかげで無一文から一気に大金持ちになれたんだし(まぁ住居の修理で大分吹き飛びそうではあるが)しっかり感謝しなければ。

 

「となるとー、うーん……よしっジャック少年には感謝の印に友達価格&恩人価格で依頼を受けて上げる事にするよ!!」

 

名案である。冴え渡る私の脳細胞が恐ろしい、これならお互いに損をしないのでは無かろうか。やはり私、天才じゃなかろうか。戦慄。

 

「………なぁ、アデルさん、何で感謝の印を渡す流れから貰う流れに変わったんだ?」

 

おーいジャック少年ー。何で本人がいるのにアデルに聞いたのー?

 

「うーん、多分思考があっちに行ったりそっちに行ったりを繰り返した結果だと思うよ」

 

アデルも何気に失礼だし、まぁ正解なんだけどさ。

何だか釈然としない気持ちに首を傾げながら歩いていると。街門が見えてきた。

今日の門番さんはガチムチさんかー。

 

「通行証の提示をお願いします」

 

門番さんに言われ、私達はそれぞれ通行証を取り出す。

それに判子を押していき、あくまで事務的にニコリとも笑わずに通してくれる。

街を出るときと負けず劣らずのドヤ顔だったのに、渋目門番さんみたいに反応を返してくれたりはしなかった。何だか微妙な恥ずかしさが………。

 

「うっわスルーされてやんの、はずっ」

 

ううう、うるせーやい!!

間髪いれずに煽ってきたジャック少年に羞恥と怒りで顔を真っ赤にして殴りかかる。

だがジャック少年はそれを『しゅんどー』だか言う歩行術で、まるで瞬間移動のように背後に回り込み避けやがった。

 

「避けるなよ!?甘んじて受け入れろ!!」

 

「いやいや、ノミコみたいなペタん子にじゃれつかれてもなぁ」

 

んなぁ!?

………ふふふ。

ふははっ。

あーっはっはっはっ!!

 

「殺す」

 

私がペタん子だとぉ!?

ちゃーわい!欧米人が育ちすぎなだけだ。日本人は民族的にスレンダーなんだよ!私はむしろ平均的だ!

折角感謝したのに!有り難みを再確認したのに!台無しだよ!

私の反応をヘラヘラと受け流していたジャック少年が、踵を返し走り出す。

私も本能的にそれを追いかけようと足を踏み出した。

 

「アデルは先にゲヴォル氏の所行ってて!私はあの馬鹿に世の慎ましやかな胸の女性に変わって天誅をくだすから!」

 

そう!あくまで世の慎ましやかな胸の女性の為だ。私は平均的だし。私は平均的だし!!

 

 

 

 

 

その後、脚がフラフラになりながらも、何とかジャック少年を見失う事も無く追いかけ続けている。

 

「まてこらアホー!」

 

「待てと言われて待つような停滞した人生は、歩みたくないのさ」

 

何を決め顔で語ってんだ。やってるのは立派なセクハラだろうが。

最近気付いたぞ、やる時はやるのに、それ以外だとふざけ出す。それも全力で。

何度も死にかけても試合に出続けてきた精神力が変な方向に成長してしまった。なげかわし。

 

「良い加減に止まれこのアホ!」

 

真面目にもう限界だから、脚が分離しそうな位だから、本気で止まってくださいお願いします。

 

「あいよ」

 

すると今までどんだけ叫んでも止まる事の無かったジャック少年が急停止し、どこかのドアを開いて横に避けた。

急な停止に疲労の溜まった私の足は対応出来ず縺れさせてしまい、どこかの建物に転がるように入ってしまった。

ゴロゴロガシャンと、けたたましい音を鳴らして侵入してきた私達に、建物の奥から何事かと人が飛び出してくる。

 

「なんだなんだぁ!?何が起きやがった!?」

 

盛大に頭をぶつけクラクラとしながらも謝ろうと顔を上げた私の視界に飛び込んできたのは、逆光により後光が射しているかのような、なんと言うか……不毛な頭の男性だった。

革製のエプロンを首から下げ、腰には多種多様な道具をぶら下げている。

片手には作業中立ったのだろうか、セットハンマを握っている。

どこからどう見ても鍛冶屋の親父、そんな風貌の男性だった。

 

「んだよラカン、まぁたお前か、聞いたぜ?珍しく勝ったらしいな、今日はなんだ?武器の新調か?」

 

「いや、今日はこいつの武器を見繕って欲しくてな」

 

ザッツ鍛冶屋の親父が何事かジャック少年と話しているが、私の耳はその内容を受け止めてはくれなかった。

 

「師匠〜何スか、何かあったんスかい?」

 

更に店の奥から、赤い髪の男が出てきたようだが、正直そちらに意識を割いている余裕はわたしには無い。

神々しいまでに煌めく頭、いかつい顔立ち、それと何故か胸元に装着された猫のピンバッジ。

ここまで条件が揃えば間違いなかろうが、最後の……最後のだめ押しを……。

 

「ジャック少年……ここ、此方の御方は……?」

 

震える声で何とか問いかける。

まさか……まさかまさか!頼れる鍛冶屋のあの御方だとしたら!!

 

「あー?……ったく、おやっさんが血相変えて出てくるから脅えちまったじゃねぇかよ」

 

やれやれと言わんばかりに首をふるジャック少年に誰のせいだと思ってやがると怒鳴る。そんな漫才良いから質問に答えてよジャック少年!

 

「あーあ、また師匠が子供泣かせたよ」

 

「よぉし甚兵衛テメェも喧嘩売ってんだな?」

 

だからそーゆーの良いから御名前教えてくれってば!

 

「悪いな嬢ちゃん、どうせラカンの奴にからかわれたんだろ?ほら、怪我ないか?」

 

うっわ。優しい。

見た目に似合わぬこの性格、やっぱり間違いないでしょこれは。

 

「俺はこの店で鍛冶屋を営んでるハゲルってんだ、よろしくな」

 

やっぱり禿げるの親父でしたー!!やったー!!これで、これで『アレ』が調達出来る……。




少し悩みましたがハゲルの親父はここで登場です。
ロジーと悩んだ。本気で悩んだ。
でも。ロジーはどうせなら原作時間軸に出したかった。

あと三話でいよいよノミコのアトリエが始まります
はい、カウントダウンです

ただノミコのアトリエ始まる前に閑話を入れます
現在票が多いのは40年後の教科書です。

活動報告にてアンケート的に行っておりますので、皆様奮って票を入れてください


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